更新が止まってる作品に関して、近日中には絶対に投稿します!
謝罪になってしまいましたが…気を取り直して。
この作品は気休めに書き上げたものですので続きません……多分(笑)
それでもいい方は、どうか最後の一文字まで楽しんで頂ければ幸いです。
さて、俺は今現在一つの異常に巻き込まれている。
俺の周りは見渡す限り、木、木、木。冗談抜きで木しかない。
この場所には全くもって見覚えがないが、ここに俺がいる原因については一つだけ思い当たる節がある。
先程…いや、この表現は正しくないかもしれない。
確かに俺の体感ではあの場面は先程かもしれないが、実際には違うだろう。
まぁこの事に関して考えるのはここで一旦止めよう。終わらない気がする。
まぁ、こんな事を言ってる時点で気づいたかもしれないが俺は一度死んでる。
人間死ぬときはあっけないものだ。俺も生き汚く末期がんという病にかかった状態で生き続けたが、死ぬ瞬間は『今から死ぬんだな』と納得すらしていた。
で、俺は親戚や友人に見守られながらこの世から旅立ったんだが……
『
気づけば素晴らしい棒読みで俺に語り掛ける少女が目の前にいた。
いやまぁ…うん。正直ビビった。だって死んだと思ったら生きて(?)て、更に語り掛けられてるんだぜ。
しかも言ってることも現実的ではない。俺が入院中好んで読んでた小説みたいだ。
さて、異世界転移や転生系の小説が好きな方々に聞きたい。
もし、自分が大好きなシュチエーションに自分自身に遭遇したらどう思うだろうか?
体験したいに決まってる。
そんな俺は一つ返事で受け入れ、冒頭に戻る。
異世界なのか、俺が生きていた世界かどうかはまだ分からない。
まぁ当たり前だ。幾ら森林伐採で木が減ってきているとはいえ、木が密集した場所ぐらい日本にはある。知床とか…いや知床は駄目だ。サバイバル技術なんてない俺が身一つで知床なんかに放り出されたとしたら野垂れ死ぬか、熊かなんかに喰われるかだ。
そんな未開な地じゃないことを祈りながら取り合えず立ち上がろうとし、下に向けた視界の中に変な物が映り込んだ。
地面についた手の横辺りをふさふさのなにかがあった。
よく見たら尻尾み見える。形は昔見た狼の尻尾そっくりだが何故か毛が淡い水色だ。
恐る恐る両手を近づけ一息に握りしめた瞬間、
「ひゃん!!?」
背筋を例えようのない強烈な感覚が駆け巡り、無意識に甲高い声が…声が?
俺の声は高くない。高くしてもこんな綺麗な少女や幼女のような甲高い声はでない。
それに…俺は人間だ。なのに尻尾を握りこんだ瞬間に俺が何かを感じた。
頭を駆け巡る嫌な予感を抑え込み、力の抜けそうになる左手を喉に。右手を俺の
「そん、な…」
両手が体の部位に触れた瞬間思わず暗い声が漏れた。
左手が触れた喉には、有る筈の喉仏がなかった。逆に右手には先程触れた尻尾の感触が。
慌てて喉に触れた左手を俺の大事な息子がある部位に這わせる。
「ない…」
なかった。それはもう綺麗さっぱり消えていた、俺の息子が。
崩れ落ちそうになる体に力を籠め、両手を耳がある筈の部分に当てるが…なかった。
慌てて手を上にスライドさせる。
「あった…」
ふさふさの耳が。
体からついに力が抜け、俗に言うorzの体勢になる。
場所も分からない場所に放り出されるのはまだいい。ある程度は覚悟していた。
だが、だが神様…神様よ…
「TS人外転生とかないだろおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
俺の心の底からの叫びが場所もよく分からない森の中に響き渡った。
ある程度神様への愚痴を叫び罵倒し落ち着いたところで俺は周りを散策することにした。
落ち着いたからということもあるが、出来るだけ早く飲み水を確保しようと思ったからだ。
だから決して叫びすぎて喉が渇いたというわけではない。
散策を始めたのはいいが…正直言ってこの森を一人で散策するのは怖い。
情けない話だが、何かが飛び立つような音がする度に体がビクッとなってしまう。
まさかこんな状況で自分が怖がりだということを初発見することになるとは……はっきり言って全然嬉しくない。
プラスどころかむしろマイナスでしかない。
ビクビクしながら進む。男としては本当に情けない限りだが許してくれ。
この怖さはどうしようもない。
ガサガサと音をたてながら暫く進むと、俺の獣耳に水独特の音が聞こえた。
やった!水だ!
1人でいる恐怖など水の前ではどうやら吹けば飛ぶようなものらしい。
あんなに慎重に行動していたのも忘れ、水の音がする方へかけた。
水の音が強くする方へ暫く駆けると、小さい湖に出た。
本当に小さい湖だ。多分…直径100もない。
湖の淵に駆け寄り、顔をつけるように飲む。
ごくごくと一口二口と水を飲むごとに体が満たされるような気がした。
しばらく飲んで満足した後、顔を水から揚げる。
ふーと一息つきながら顔を拭い、ふと気になって湖を覗き込むと…そこには美少女…いや、人によっては美幼女とも呼ぶだろう女の子がいた。
尻尾と同色の狼耳。尻尾や耳と同色の、肩程で切り揃えられた艶のある髪。
キメ細かく、初雪のように白い美しい肌。幼くも、将来を思わずにはいられないプロポーション。
絶世のとしか表現することの出来ない整った端正な顔立ち。
目は怠そうにに少し瞼が下りており、半眼になっているが、これは俺の生前からだ。というか、生前から引き継いだ(?)のはこれだけか…。
訳も分からず内心でパーフェクトと呟いてしまうぐらい綺麗だった。
…よく考えたら…これって俺か……。
ペタペタと顔を触る美少女の俺。一部のマニアが見れば鼻血を噴き出すかも…。
なんて余計なことを考えていた俺に、突如強烈な圧迫感が襲った。
訳も分からず動悸が早くなる。心臓が痛い。心臓がある辺りを左手でギュッと握りしめ落ち着かせようとする。
息が荒い。全然収まらない。恐怖が大きくなる。
恐怖を振り払おうと、周りを見回し、
「ッ!!?」
体が恐怖で跳ねた。咄嗟に空いた右手で声を押し殺そうと口を塞いだ。
いた。湖の反対側に…この圧迫感の正体であろう
ドス黒い、禍々しくすら感じる肌。そこに浮き出した血管のような紫色の肌。大きく裂けた口に長く尖った耳。そして、何よりも目を惹く俺の胴程もある異常に太い両腕に、それを彩り、凶悪さを増幅させている長く鋭利な爪。身長は…周りの風景から考えて2メートル半ぐらいだろうか。大きいか大きくないかは正直微妙だが、小柄になってしまった俺からすれば恐怖でしかない。
こんな場所に何をしに来たのかは分からない。あんな化物が水を飲むためだけにここに来たのかと言われたら首を傾げるしかない。
目尻に涙が浮かぶのが分かる。漏れそうになる声を必死に押し殺す。
逃げないといけないことは分かっている。だけど…だけど、体が全くいうことを聞いてくれない。
逃げようとしても体は震えるばかりだ。
あっちへ、とっととあっちへ行けと内心で祈るしかない。
そんな俺の内心など知ったことはないとばかりに異形がこちらを向き……そらすことが出来ず、見続けることしか出来ない俺と、目が合った。
「あっ…」
恐怖に引き攣った声が漏れた。何故なら、異形が、化物が、俺と目が合った瞬間に、口を釣り上げたからだ。まるで…『ミツケタ』と言わんばかりに……。
「う…うぁぁぁぁぁ!!」
恐怖が体を突き動かした。体の硬直はいつの間にか解けていた。
ただひたすらに、涙すら拭わずに化物のいる位置と反対方向に逃げた。
駆けだす瞬間に見えた化物は、こちらの恐怖を煽るようにゆっくりと動き出していた。
あれから、何時間たったのだろうか?
転生当時から何故か着ていた服は、あちこちに引っ掛け、転んだせいであちこちが破れていた。
息が荒い、体力も限界に近い。だけど…こびりついた恐怖が足を動かし続ける。
更に数十分程たったのだろうか?流石に蒔いただろうと思い止まると、急激に疲労が襲ってきた。
思い体を引きづり、近場の気に背中をもたれさせる。
荒い息を落ち着かせようと必死に呼吸を繰り返す。
取りあえず息も落ち着いてきたからここから離れよう。
と顔を上げた先に奴がいた。こちらを真っ直ぐと見つめる脳裏にこびりついて離れない異形が。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!?」
なんで!どうして!ここはホラーゲームじゃないんだぞ!なんで目の前にッ!
内心で何かも分からない何かを罵倒しながら再び背中を向け、全速力で逃げようとした瞬間、
何か、力のようなものが背後で膨れ上がり、
「がッ!!!??」
背中に強烈な衝撃と痛みが走り、木っ端のように吹き飛ばされた。
痛い痛い痛い痛い!!?
強烈な痛みに蹲る。今まで一度も感じたことのない強烈な痛みに化物のことも何もかも頭の中から吹き飛んでいた。
それが悪かったのだろう。
「鬼ゴッコハオワリカ?」
いつの間にか化物が目の前にいた。もう喉が引き攣って声すら出ない。
声は聞こえるが、奴の顔は見えない。辛うじて視界に映り込むドス黒い足が否が応にも俺の恐怖を煽る。
恐怖で震えるしかない俺の髪が引っ張られ痛みを与えると共に俺の体が宙に浮く。
「弱小妖怪ガテマヲカケサセヤガッテ」
涙で歪む視界の中で化物の顔だけがドアップで映し出される。
「うぁ…あぅ…うぅ……」
恐怖で言葉も出ない俺を見て、何が面白いのか化物が口を吊り上げ、強烈な力で木に体を叩きつけられた。
「がはッ‼!!」
自分の口から血が吐き出されるのが痛みで歪む視界の中で見えた。
地面にズルズルと落ちそうになる俺の体を、化物の蹴りが木に縫い留めた。
また自分の口から血が吐き出されたのが分かった。だけどもう、体が満足に動かない。
もう一度強烈な力で俺の体を蹴り抜き、吐血させた化物はとうとう俺の首に手をかけ、絞め上げ始めた。
「ぅ……ぅぐぅぁ……ぁぁ」
俺は…こんなところで死ぬのかな…
悔しい…こんなところで死ぬのも…それに対してなにも出来ない俺自身がみっともない。
こんなところでゲームオーバーなんて…と自重気味に吐いても状況は好転することはなく、徐々に意識に霞がかかりだす。
俺の意識が完全にブラックアウトする瞬間、赤色の髪が見えた気がした…。
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生存と能力
現実の方で、いろいろありまして…。
次話は今回の投稿よりも絶対に早く投稿します。
前回楽しんでくれた方は今回も、前回楽しめなかった方は今回こそは楽しんでくれたら幸いです。
※次は出来れば、番外を入れたいと思います。ですのでエロ、残酷な描写注意です。
薄暗い森の中を一人駆けていた…何かから逃げるかのように。
「はぁはぁ…ッ!」
怖い…何かに見られてるような感覚が離れない。
ただひたすら走る。
確認しようとして、後ろを向いた。そして転けた。
全力で走りながら後ろを向いたからだろうか、いや今はそんなことはどうでもいい…早く逃げなければ、と顔を上げる。
そして目があった。
「うっ…あっ…あぁ…」
喉が引き攣る。怖い…目の前にいる異形がどうしようもなく怖い。
足が震え、動かない俺を嘲笑うかのように腕が振り上げられる。
逃れられない恐怖から逃れようと目をキツく閉じる。
そしてーーーー
目が覚めた。
柔らかい何かに包み込まれるような感覚を受けながら、荒い息を整えようと深呼吸を繰り返す。
体中が汗でびっしょりで、気持ち悪い。
荒い呼吸を落ち着かせたところで、今自身が森の中ではないことに気付く。
見たこともない異形から逃げ回り、嬲られたという体験が夢ではないことを、先程まで見ていた悪夢と、今も震え続ける体が教えてくる。
ただ、あれほどまでに俺の内側を荒らした、粘着くような恐怖が消えていた。
それに、今俺が寝ていたのは土ではない、しっかりとしたベッドだ。
夥しい木々が立ち並ぶあおの場所で寝たならば感じる筈の硬い感触ではない、柔らかい感触。
それが俺に助かったという事を実感させる。
「う…うぅ…う」
助かったという安心からか、あれほどまでに恐怖を感じていた死の逃走劇では一切流れることのなかった雫が、瞳から溢れ落ちる。
拭っても拭っても溢れ、溢れおちる雫が枯れるまでに暫くの時間がかかった。
泣き終わった俺は、周りを見回していた。目が赤いのは…まぁ見逃してくれ。
コンクリートのような石の素材で出来た壁に、それを彩る様々な家具。
そこには生活感があった。あそこでは感じられなかった人がいるであろう雰囲気も。
と、そこまで考えたところで、部屋に規則正しいノックの音が響いた。
体が硬直する。この世界で初めて遭遇した生命体があれだったからだろうか、やはり不安を感じる。
意味もなく息を殺し、扉を見つめる。
そんな中、扉が外側から内側にゆっくり開いていく。
半開きになった扉の隙間から、
「お邪魔するよ」
と、いう言葉と共に、猫の耳を持った、赤色の髪の少女の顔が出てきた。
人…ではないようだが、あの異形のように襲われる気配を感じなかった為、体から自然と力が抜けていった。
「おや、目が覚めたようだね…魘されていたようだけど、気分はどうだい?」
こちらを心配するような気持ちが籠められた声に、反射的に言葉が出た。
「大丈夫です…むしろ寝る前よりも随分楽です」
「…それもそうだね」
デリカシーがなかったね、と言いながらバツが悪そうに笑う少女は…こんな場面で思い浮かべる感想としてどうかと俺自身思うが、とても綺麗だった。
三つ編みにした髪を左右でお下げにした髪型、綺麗な赤色の髪に映える、淡い緑と深い緑で彩られたワンピース。
「ん?どうしたんだい?」
見つめ過ぎたのだろうか、不思議そうに掛けられた声に慌てて声を出す。
「…いえ…あ、ふと思ったのですが、ここは?」
心の声と口調が合っていない?
まぁその…余り人と話すのは苦手でな…ある程度親しくならないと敬語でしか話せないんだ。ちなみに男限定。
女性?敬語が抜けないどころか、さん付けでしか呼べません。
まぁこんなどうでもいいことは脳内から消し飛ばし、少女の言葉に耳を傾ける。
「ここかい、ここはね…この地底を収める古明地 さとり様の館…地霊殿さ」
誇らしそうに、他人に自慢するように、少女は告げた。
部屋から「起きたようだし、さとり様のところに行こうか」と連れ出され、そのさとりさんの部屋へ行く道中、様々なことについて教えてくれた。
まず少女の名前は、火焔猫 燐と言うらしい。あの後教えてくれた。
次に、この地霊殿が建つ地底について少し教えて貰った。
この地底には、何らかの事情で地上が嫌になった妖怪や、危険な妖怪が住まう旧都と呼ばれる場所があるらしいこと。地底に住まう妖怪は、地上に住む妖怪なんて相手にならないぐらい強いのしかいないということだ。
これを聞いて、絶対に旧都には行かないと心に誓った。
あの俺をボコボコにした異形が簡単に殺られるような奴がたくさんいるなんて場所に俺が行けば、死にに行くようなものでしかない。
これが守られない気がするのは何でだろうか…。
最後に、ここにはさとりさんと燐さんの他に、何人かの妖怪の人が住んでいることが分かった。
名前などは会った時に、と教えてくれなかったが、全員優しい人(?)らしい。
楽しみ半分、怖さ半分ってところだ。
あ、俺を助けてくれたのは燐さんだったらしい。
助けてくれてありがとうございます、て言ったら、『たまたま通りかかっただけだし、それほど強くもなかったからね…だから余り恩を感じなくてもいいよ』と言われた。凄いイケメンだった。
「奏、着いたよ、ここがさとり様の部屋だよ」
思い返している間に着いたらしい。
中から「どうぞ」という、入室を促す声が聞こえた。
躊躇いなく扉を開けた燐さんに促され、恐る恐る部屋に入る。
「…失礼します」
どんな人なのかな?まぁ燐さんを見る限り大丈夫だとは思うが…大丈夫かな…。
「……な…」
「?」
目が会うといきなり目を見開いて驚かれた。訳が分からず首を傾げるが、まぁいいかと首を傾げた状態から普通の状態に戻す。
てか…今見て思ったが、さとりさん、燐さんに負けず劣らず綺麗で可愛い。
この世界には可愛い人しかいないのか!まだよく分からない生命体含め三人(?)にしか会ったことないけど。
なんてどうでもいいことを考えている内に、燐さんとさとりさんの会話が終わったらしく、燐さんにこっちに来いとばかりに手招きされたので取り敢えず移動し、さとりさんの正面に立つ。
綺麗な瞳と、人ならざるものであることを表すような、さとりさんの体と細い管のようなもので繋がった大きな瞳の合計3つの目が俺一人を捉える。
「横溝 奏さんですね?話はお燐から聞きました…災難でしたね」
どうやら優しい人のようだ。安心した。
ただ、その端正な顔に、ありえないものをみたような驚愕と、探していたものに思わない場所で会ってしまったような表情が気になるが。
「先程まで寝ていたようですが…体は大丈夫ですか?」
「あ、はい…大丈夫です」
あの顔は気のせいだったのだろうか…一瞬しか見えなかったから気のせいなのかもしれない。
「今から昼食なのですが…一緒に食べますか、奏さん」
ぐぅぅ〜。
昼食…その単語に反応したのか、それともお腹のすきが限界で、偶然そのタイミングでなってしまったのかは分からないが、さとりさんが苦笑しているのを見て顔が赤くなるのを感じる。
「えっと…その…」
「どうやら待ちきれない人もいるようですし、急ぎましょうか」
顔を俯かせているためどんな表情をしているかははっきりとは分からないが、感じる生暖かい視線から微笑ましいものを見る目で見られていることはなんとなく察した俺は、「……はいぃ」と返すしか出来なかった。
顔を真っ赤にさせた俺には、
「まさか、求めていたものがこんな形で現れるとは…正直想像もつきませんでした……これだけでも手放さない理由としては十分ですが…」
俺から目を離さずに見つめるさとりさんは勿論、さとりさんが何かを呟いていたことすら気づかなかった。
さとりさんと初めて会ってから数時間後…俺はベッドに寝転がって天井を見上げていた。
昼食を取った後、燐さんやさとりさん以外のこの地霊殿の住人の人に会った。
鴉に似た羽を生やした霊烏路 空さんに会った。
余り頭が良さそうな感じじゃなく、元気一杯の子だったが、この子も例に漏れず美人だった。
あ、後、紹介されなかったが、さとりさんと色違いの第三の目を持った女の子を見かけたが…あの子は一体何だったのだろうか?
案内してくれた燐さんはまるで気づいていなかったが。
そんなことを思い返しながらごろごろする。そして横を向いた時、こちらを覗き込む誰かと目が会った。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉」
突然のことに思考が追いつかず、悲鳴を上げながらベッドの上を移動し壁際まで後ずさる。
下がった分広がった視界に、こちらを覗き込んだ下手人の全身が写り込んだ。
「あっ……」
思わず声が漏れた。
淡い黄緑の美しい髪に、こちらを引き込むように深いエメラルドグリーンの瞳。
そして、一度見たら忘れることなんて出来ない、さとりさんと色違いの青色の第三の目。
間違いなく、案内して貰っている途中に見かけた女の子だった。
ベッドの上で黙り込んだ俺と、首を傾げた状態で固まっている女の子。
もとの姿ならばこの状態になったが最後、事案発生でお縄だろうが、生憎今の俺は悲しいことに、この女の子よりも小柄だ。
「……見えてるの?」
「…?」
首を傾げたまま問いかける少女の言葉に、訳が分からず首を傾げる俺。そんな俺を見て更に首を傾げる女の子。
互いに無言。正直気まずい。
無音で固まる俺と少女をよそに。扉がひとりでに開いた。
「奏さん入りますよ…何をしているんですか?」
まぁ勿論勝手に開くわけでもなく、さとりさんが外から開けただけなのだが。
開いた先に固まる俺と少女の二人。勿論ツッコまれた。
「…ちょっと待ってください…まさか
答えようと口を開こうとした瞬間、さとりさんの驚愕したような声色の呟きに口を閉ざした。
視えている…何がだろうか?
「私の能力だけでなく、こいしの能力も
どうやらこの女の子はこいしさんと言うらしい。
首を傾げる俺とこいしさんに、考え込むさとりさん。カオス度はます一方だ。
数時間後ーー
「そうなんですか…」
さとりさんに、能力のことやこいしさん、さとりさんのことを説明された俺は納得の声を上げ、こちらを見つめるこいしさんをチラリと見る。
首をもう傾げていないが、こちらを先程からずっと凝視している。
能力上、存在感が道端の石ころように小さく、結果的に認識されない筈の自分を的確に認識した俺が余程珍しいのか…。
しかし、人に認識されないか…さとりさんの『心を読む』能力とは違い、後天的に獲得したものらしいが…なにか過去にあったのだろうか?一瞬悲しそうな表情になったさとりさんの顔が俺にそう思わせる。
「それで…その『能力』というのは、俺にもあるものなんですか?」
「絶対にある…とは言えませんが、私とこいしの能力を防いだ、或いは無効化した以上、ある可能性が高いです」
俺は心の中で思わずガッツポーズした。
物語の登場人物ぐらいしか持つことの出来ない特殊な能力が俺にあるかもしれない。それだけで転生してよかったと思う俺は現金なのだろうか。
転生だけでなく特殊な能力まである。本格的にあの神に感謝してもいいかもしれない。まぁ転生してすぐに死にかけたことに関しては忘れないが。
「どうやったら自分の能力が分かるんですか?」
さとりさんの能力や、こいしさんの能力を把握している以上、何かしらの方法で能力が分かると思って聞いたが、どうやら当たりらしく、『心の中で自分自身の能力を強くイメージする』ことによって能力が分かるらしい。
「早速やってみますね!」
興奮したように告げ、言われたように心の中で強く、強くイメージする。
イメージする俺の脳内に一つの文が浮かんだ。
『外す程度の能力』
この能力が、望んだように特別な力を与えるだけでなく、様々な受難を俺に持ち込むことになるとは、浮かれている俺には全く持って想像などしていなかった。
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番外 内情とBAD END1
ぎりぎりです!
あたいが相手するには、どうしようもなく弱い妖怪を軽く薙ぎ払い、図らずとも助けた形となった、嬲られ気絶した恐ろしく可燐で美しい水色の人狼を見下ろしながらあたい、火焔猫 燐は思考する。
あたいがその日その時間に、その場所に居たのは全く持って偶然だった。
気が向いたから、それ以外の…それ以上の理由はなく、森にいたのは本当に偶然。
地底で過ごしてる身の上状、簡単に地上に出るわけにもいかないけど、時たま地上に気晴らしの散歩に出かけるのだ。
本来、地上と地底での取り決めがあって、地上の妖怪も地底の妖怪も簡単に出入りすることは出来ないのだけれど、あたいの立場上、ある程度、他の奴らと違い容易に出入り出来るのだが…この際関係ないことではあるのでこれ以上語るのはやめておくとしようかね。
久しぶりに外に出て散歩している途中でこの人狼が襲われているところに遭遇してしまったので、成行きで助けてしまったのだけれど……。
チラリともう一度人狼である少女を見、あたいは息を飲んだ。
何故息を呑んだのか?決して嬲られていた少女の状態が酷かった訳ではない。
では何故か?答えは簡単だ。その少女が余りにも美しかったからだ。
寝ているから、正確な身長は分からないが…あたいよりも頭一つか二つ分小さい身長。土で汚れてしまってもなお、美しさを損なうことがない色鮮やかな髪に、きめ細やかで、シミ一つない白く美しい肌。
すべてのパーツがまるで一流の人形師に造り込まれたように完璧であり、整った端正な顔。
同性である筈の少女に、あたいはその瞬間確かに見惚れていた。
無防備に地面に横たわる少女に、妖怪というよりも前に獣として襲いたいという欲求が生まれるが、頭を大きく左右に振り、その思考を振り払う。
助けた少女を襲ってどうするんだと、自分自身にツッコミを入れる。
取り敢えず地霊殿に運ぼうかね
邪な考えを振り払った頭でやるべき事を模索し、あたいの住む地霊殿に運ぼうという意見を即座に採用し、傷に触れないように慎重に背中と膝裏に腕を通し抱え上げる。
気をつけはしたが、痛がっていないか心配し顔を覗き込んだところでもう一度あたいは息を飲んだ。
決して淫美な表情を浮かべている訳じゃない…だが、その完成された美である人狼の少女の口から溢れ落ちる血に魅せられた。
美味しそう……
その感情以外思い浮かばず、あたいはあたいを止められなかった。
気づけば抱え上げた体勢のまま、首筋に着いた血を舐めあげていた。
舐めあげると同時に口の中に広がる芳醇な香りに絶品といっても足りない程に洗練された味に口内が支配される。
脳が蕩けるかのような多幸感。
その香りに、味に犯された思考が溶け出し抑圧された本能が滲み出そうになる。
食べたい…食べたい、食べたいたべたいタベタイ!!
ゴシャッ!!
純然たる食欲に染め上げられそうになる思考を、殴り飛ばした。あたいの左頬と同時に。
口内に出来た傷から滲み出た血が舌の上に染み、錆鉄の味が口の中に広がると共に幾分か思考が冷静な部分を取り戻す。
人狼の少女と比べたら天と地程のあたい自身の血の味が今はありがたい。
食べたい…余計な思考が浮かぶ前にあたいは妖力を用いて森の木々よりも高く飛び上がり空を飛翔する。
さとり様の住む、あたいにとっての家に帰るために。
――――――――――【BAD END】―――――――――――
※大丈夫だとは思いますが、酷く残酷な描写がこの先あります。
外伝の為、読まなくてもストーリーに支障が出るわけではありません。
ご了承下さい。では、どうぞ。
人狼の少女の首筋に付いた血を舐め上げたあたいは、気付けば助けた筈の少女を押し倒していた。
はぁ…はぁ…と意思とは関係なく大きく乱れ、荒くなる息。ドクドクと少女に聞かれ、起きてしまうのではないかと思ってしまう程に激しくなっていく心音。
押し倒した少女を見つめるあたいの顔は鏡が無くても赤くなっているのだろうなぁと分かってしまう。だってそれ程に顔が熱い。
あぁ…瞳孔が広がっていくのが本能的に分かってしまう。
熱を逃がす為に右手で襟を広げる。
あぁ……もう何もかもが正常じゃない。
永遠に高まり続ける熱が視界を、思考を極端なまでに狭めてしまうのが分かる。
最早視界には人狼の少女しか映らず、あたいがこの少女を助けたことなんて、どうでもよくなっていた。
それでも…それでもなお、正常な思考を取り戻そうと残された一部の思考が抵抗した。
だが、それも長くは続かなかった。何故なら…目に入ってしまったからだ。
人狼の少女の手首に微かに付いた血を。
――――――――――【Side.奏】―――――――――――
背中に走った痛みで徐々に意識が覚醒していく。
ぼんやりとした視界に徐々に色が現れていく。
緑と茶色に記憶が呼び起こされる。あの時の恐———
「づあぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
喉から絶叫が漏れた。恐怖じゃない。痛みでだ。
喉から止めどなく声と共に空気が出る。痛みで体が痙攣し僅かに跳ねる。
色の付いた水滴が垂れたキャンパスの様だった視界が痛みによって鮮明な色を取り戻した。
認識出来たのはあの化け物に嬲られ気絶した森で見上げたのと同じように空を覆う枝葉。
そこまで認識した瞬間に再び鋭い激痛が走った。
背中を浮かせ、仰け反らせ、絶叫を上げながらでも覚醒した今の状態ならすぐに激痛が発生した元が理解出来た。
大きな波が引き、痛みの軽くなった俺は、断続的に発生する痛みに歯を食いしばって耐えながら元凶に目を向けた。
そこには、
「っ!」
恐怖で喉が引き絞られ、痛みで呼吸が上手くいかない。
元の体ならば軽く跳ね上げられそうな少女に跨られたまま、必死で身を捩る。
体は動く、動く…だけど、少女が乗った腰部分だけがどうしても動かない。
少女の体が決して重い訳ではない。今の俺よりも重いかもしれないが……
そこまで思考して、背筋を這った寒気に体を震わせ、少女の顔を見上げた。
不快気に細められた、縦長の瞳孔を内包する瞳と目が合った。
まるで、捕らえたはずの獲物に予想外の反撃を受けた肉食動物かのような―――
ミシメキッ!!
「ぐぁあぁぁぁぁぁぁぁあぁぁ!!?」
万力かのような力で腰を挟み込まれ、余りの力に腰骨が悲鳴を上げた。
痛みで明滅する視界の中で、少女の唇が歪な弧を描く。
なんで、どうして、なんて思考は最早なく、ただこの痛みから解放されたいという欲求だけが思考を支配する。
「ごめんなさい……ごめんなさい…ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい――――――」
何に対して俺自身では判断出来ない。それほどまでに思考は散り散りで、曖昧で。
多分、酷い顔をしているだろう。だけど、そんなことはどうでもよかった。
涙で滲む視界の中で、壊れたボイスレコーダーのように同じ言葉を繰り返す俺を見下ろしながら、少女の笑みが深まったのが見えた。
それが、許しの笑顔に見えた俺は、安堵の気持ちと共に泣き笑いを浮かべる。
なんとか話しかけようと思い口を開け――――――
バキッ‼
凄惨な音が体の内側から響いた。
「えっ?」という間抜けな声が思わず喉を突いて出た。その一瞬全てを忘れた。痛みも思考も何もかも。
思わず漏れたその声が、体が吐き出したエラーでSOSであることなんて、分かる筈もなかった。
「———————————————!?!?」
次の瞬間押し寄せてきた激痛に、言語化出来ない悲鳴を吐き出した。
脳が激痛で支配され、思考が真っ白に染まる。
思考と完全に切り離された体が跳ね、仰け反り、痙攣する。
足の付け根を起点に、決壊したかのように広がり続ける水溜まりが体と衝突し、パシャパシャという音が響く。
上向きに向いた視界は何も映してはくれない。そもそも、今の俺に何かを認識することが出来るかは定かではないが。
何も知ることの出来ないまま、俺の意識は暗闇に呑み込まれた。
再び目を覚ました時、腰骨の痛みを感じることは出来なかった。
多分、痛覚が麻痺したのだろうが、もう激痛を味合わなくていいと思うとありがたかった。
首を動かし、咀嚼音のする足元に目を向ければ、血の染みの範囲を大きくした少女と、足だったものが視界に映った。
右、左と傾けて見ると、骨すら最早存在しなかった。
やけに落ち着いた思考で、出血多量のせいでもあったのかな、と戯れにとぼけてみる。
やがて、思考にも霞がかかりだし、猛烈な眠気が襲いだした。
その眠気に従ったが最後、もう戻って来れないことは理解出来ていた。だけど、もし生きていたとしてもまともに生活を送ることが出来ないことも理解していた。
決心なんてする必要もなく決まっていた。
ただ、瞼を閉じる瞬間に、無意識に涙混じりの声で呟いていた。
「あ、あぁ…もっと……生きて…いたかった、なぁ…」
直後に「えっ?」という言葉が聞こえた気がしたが、既に思考する時間も、まともな思考も残ってはいなかった。
意識が永遠の暗闇に落ちる。
酷く恐ろしい筈なのに、何故かとても……暖かかった。
――――――――――【Side.燐】―――――――――――
正気を取り戻したあたしは、目の前に広がる光景に絶句した。
助けた筈の少女の四肢は既に失く、夥しい量の血が地面を赤く、紅く、朱く染めていた。
少女の顔は涙のせいで濡れているのに、苦痛に歪んではいなくて――――――
「あ…あぁ…あぁぁあぁぁぁあぁ!!」
気付けば頭を抱えて蹲り、認めたくない現実から目を背けるかのように絶叫していた。
文字通り身を啄む激痛から解放されたからこそ少女が浮かべた筈の笑顔を、自身への許しと解釈しようとするあたし自身に嫌悪する。
なにより……”もっと生きたかった”という言葉を聞いた、聞いてしまっていた。
強い者が弱い者を喰らい、弱い者は強い者に見咎められないように必死で身を隠す。
あたしはそうしてきた。鬼や天狗を除く幻想郷に住む全ての人妖も例外なくそうしている。
目の前の少女はそれが出来なかった。出来なかったが故に、下級妖怪に追い詰められ、そしてあたしに喰われた。
ただそれだけ…それだけの筈なのに、酷く心が痛い。
「ごめんなさい」と思わず呟いたあたしの前で、不思議なことが起きた。
突然少女の体が崩れ、地面に万遍なく広がり、血の円が作り出された。
呆然とその様を見つめるあたしが感情は”勿体無い”なのだから、本当に救えない。
やがて円が中心に集まりだし、集まりきったその時、強く発光した。
思わず手で目を覆う。強いわけじゃないが、見させてもくれない不思議な光。
やがて、10秒も続かずに光が消え、手を退けたおかげで正常に戻った視界に、2輪の花が映った。
狼の少女を連想させる淡い青色の花弁を持つ1輪のアザミに、光沢すらも発する漆黒の黒を持つ1輪のアザミ。
『……やれやれ…失敗失敗、と…』
何故か、黒色のアザミから、そう言って嘆息する声が聞こえた…気がした。
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