やはり彼は合理的に生きている……はずである。 (空宮平斗)
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小学生時代
プロローグ 神の悪戯のせいなのか分からないが、彼は生まれた


思いつきで書いてみました。

感想、評価があれば嬉しいです(`・ω・´)


彼はとても合理的だ。

 

 

合理的に生きている…少なくとも周りから、彼はそう見えている。無意識に、そう生きている。

 

 

例えば「勉強」。

勉強とは?と語れば様々だろうが、彼はこう考える。

 

「積み重ね」だと。

言ってしまえば誰もがそうだ、と言うだろう。誰もが考え付く答えであろう。

しかし、それを幼い頃から気付き、やり続けるのはそう容易い事ではない。

 

 

例えば「スポーツ」

彼はこう考える。

 

「反復」だと。

言ってしまえば誰もが……さっきの繰り返しだが考え付くことだ。

しかしそれを幼い頃から成せるか?と言われれば、そう上手くはいかない。そのスポーツに子供自身が心からのめり込んでいたり、天才肌であれば話は変わってくるのだろうが……彼はそのどちらでも無かった。

 

 

()()()は、勉強やスポーツなんて全く出来なかった。興味もまるで湧かなかった。かと言って、やりたい事が出来たとしても上手くいった事は数えるほどしか無く、そしてやり遂げたことは一度もない。それを悔やむ事はあれど、反省したことも次に活かすこともしなかった。

 

言ってしまえば自業自得、持って生まれなかった……そんな戯言で終わるクソな人生。

 

 

しかし、()()()は違う。生まれ変わったのだ。

 

 

「転生」……最近の流行りであるこれが彼の身に起きたのだ。

 

 

前世は病によって35年で幕を閉じ…そして彼は気付くと──幼稚園児になっていた。

 

彼は自分の身に何が起きたのか理解出来なかった。

時刻は20時。場所はベットの上。

しかし、目に写るは病院の天井ではない。

 

見渡せばそこは自分の部屋のようで、そばには名前が入った小さな黄色のカバンがあった。

名前は自分の名前が入っている。

これはもしや過去へ意識がタイムスリップしたのか!と思ったが、過去の自分の家にはこんな部屋は無かったのでその考えは消えた。

 

 

彼は思い切ってその部屋を出た。

ドアノブに手を掛けるのが少し面倒で、身体が小さいと不便だなぁ…と彼は感じながらも、小さな足で廊下を歩いていく。

すると、階段が見えた。どうやらここは2階だったらしい。

幼稚園の子にいきなり2階の部屋ってのは危なくない?階段から落ちたらどうすんのよ…なんて考えるが、頭脳は大人の彼にはあまり関係ない。

 

階段を降りると、灯りが漏れているドアがあった。

多分、リビングだろう。テレビの音が聞こえてくる。

 

そして……両親らしき男と女の笑い声も。

 

彼は迷った。何もわからないこの状況、いきなり身体が小さくなったこの状況で…あのドアを開けてしまっても良いのだろうか?と。

 

しかし考えても無意味だと彼は悟る。こんな非現実的な事が起きてる時点で、まともな答えなんて出るわけが無いのだから。

 

 

 

───勇気を振り絞って、彼はドアを開けた。

 

 

そして彼は唐突に──泣いた。声を上げず静かに泣いた。

 

 

ドアが開いたのに気付いた両親は、座っていたソファから飛び上がるように立ち上がって彼の元へ駆け寄った。

 

 

どうしたの!?怖い夢でも見た!?もしかして…階段から落ちた!?でもそんな音聞こえなかったし!だったらなんだろう?あー、どうしよう!いきなり部屋で1人にしたのがいけなかったのかな?でも電気はつけたままにしておいたわよ?だとしたらどうして…………

 

 

両親の慌てている中、彼は泣きながら笑った。

 

 

突然泣いてしまった理由は2つ。

 

両親の顔は前世の両親とは別人だ。しかし顔を見た瞬間、これまでのこの子の記憶が脳裏に巡り蘇った。

そこにあった思い出は全てが暖かいものだった。愛に溢れていた。

彼はそれに感動し、同時に()()()()()()()

 

こんなにも愛されていたこの子の人生を、いきなり自分が奪ったように覚えてならなかったからだ。

 

しかし…泣き疲れた彼は考えを改める。

 

確かに人生を横取りしたようにも感じだが、この子は奇しくも自分と同じ名前だった。これには何かしら意味があるのだろう。

 

 

───ならば出来る事は1つだけだ。

 

 

悔いのないように生きよう、今度こそ。

前世の過ちを償う為にも、人生を楽しむ為にも。

 

それが互いにとって一番良い選択だと信じて。

 

 

 

さっきまで泣いていた彼がくすっと笑うと、両親はポカンとした顔で見つめ…微笑む。

 

 

「ねぇ…お父さん、お母さん。あのね…聞いてほしいことがあるんだ」

 

 

 

 

こうして──神の悪戯せいかは分からないが彼…鎌ヶ谷 研(かまがや けん)の物語が幕を開ける。

 

 

そして彼は結果を求め──()()()()なっていく。

 

 








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そして悲しみの中で、雪ノ下雪乃は彼と出会う。

 

 

小学2年生の私…雪ノ下 雪乃は姉に憧れていた。

 

それは意識していたのか無意識だったのか分からない。

 

姉、雪ノ下 陽乃はまさしく完璧だった。人間の理想のお手本のような存在だった。だがそれと同時に姉は、雲の上の存在になってしまったとも感じる。

 

私はひたすら手を伸ばした。空を掻いた、少しでも近くへ行きたかったから。勉強もたくさんしたし、運動も体力があまり無かったけど頑張った。

 

 

 

 

 

 

結果、私は勉強で一番になった。

運動も周りの子達よりは上手くなった。

それは私の頑張った証。努力した証だ。

 

嬉しかった。これは私が自分の力で手に入れた確かなモノ。

誰にも言われず、自ら求めて掴んだ結果だ。

 

私は誰かに褒めて欲しかった。認めてもらえると思った。姉の影にいる自分にだって価値がある、私だって少しは姉さんのようになれると。

 

 

なのに……私の両親はそれを「当たり前だ」と切って捨てた。

 

 

私の中で何かが傷ついた。

 

 

 

 

 

 

姉に私の努力を見てもらった。

こんなに勉強をした。全教科で100点を取った。苦手な体育でも大変良いを貰った。私は頑張ったわよね?…と。

 

それを聞いた姉は笑顔で私の頭を撫でてくれた。

 

私は嬉しかった。自分の憧れに認めてもらえた…そう思ったから。

 

 

でも…

 

「流石だね、雪乃ちゃん。凄いねー!……でも良いよね、雪乃ちゃんは。…こんなので喜べるんだもん。何も背負う必要もない、ただ前だけ見ていられる。面倒ごとは全部他の誰かがやってくれるんだもん。雪乃ちゃんは成績のことだけ考えられる……ふふ、やっぱ雪乃ちゃんは幸せ者だね♪」

 

私の中で傷が亀裂に変わった。

 

 

 

 

 

 

 

考えを改めてみた。

 

きっと両親も姉も忙しくて、私に構っていられないのだ。

だから今は我慢しないといけない。

 

でも…やっぱり幼い私は誰かに褒めてもらいたかった。

 

なので次はクラスメートに頑張った証を見せた。

 

すると、みんなは褒めてくれた。

 

「凄いね、雪ノ下ちゃん!」

「良いなぁ、頭良くて」

「羨ましいなぁ」

 

 

……っ!やっと!やっと私は認められた!

 

 

喜びに満たされた。

そうだ。別に家族に認められずとも周りが認めてくれれば、両親も…あの姉だって私を褒めてくれるに違いない…私はいつのまにかそう考えるようになっていた。

 

そうして更に努力を重ねていく。姉に追いつくため、みんなにまた褒めてもらいたくて。認めてもらいたくて。

 

 

 

ただ、この時の私はみんなの顔をしっかりと見ていなかった。自分のことしか頭になく、周りがどう思っているかなんて考えもしなかった。

 

だから…

 

「はぁいつもいつも…何、自慢?そんなに見せびらかして楽しい?」

「ハイハイ、天才は凄いですねー。それに可愛いから男子にもモテるし」

「ホント、羨ましいわー。でもさ……ホントいいがけんにして。マジウザいよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頑張った証を見せる事はもうしなくなった。

 

周りを不快にさせるだけだから。

 

頑張ったってそれが正しい訳じゃない。周りがそれをどう思うかなのだ。

 

認めてもらうのに必要なのは、決して勉学だけじゃない。如何に周りと同調出来て、共感して、共有できるかなのだ。

 

そして今回、私は全部できなかった。

 

ただ独りよがりで成績が一番なら、周りが認めてくれると勝手に考えていた。

 

ああ、なんでもっと早く気付かなかったんだろう。

 

もっと私が大人だったら…こんな事にはならなかったのに。

 

 

 

「……………」

 

 

 

──次の日。学校へ行くと、私の机に落書きがされていた。授業に集中出来なくなるといけないと思って、すぐに消した。

 

 

 

 

 

 

──その次の日。私の机にまた落書きされていた。今回はより強い言葉で。すぐに消した。

 

 

 

 

 

 

──また次の日。私の机はズタズタになっていた。多分図工で使う予定だった彫刻刀でやられたんだろう。はぁ…今度から下敷きが必須になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

──一週間後、私が休み時間にトイレから戻ってくると、机の中に入れていた筈の教科書が無くなっていた。次の授業で使うのに…とても困った。窓際で私を見て笑っているクラスメートがいた。

 

仕方ないので隣に…は見せてもらえそうにもないので、他の教科書を出して持っているフリをした。ひたすら当てられないことを願って授業をうけた。

 

 

 

 

下校時刻を知らせるチャイムが鳴る。

帰ろうと思って玄関を出た時に、ちょうど私のクラスの窓の下に落ちていた──教科書を見つけた。

 

 

 

 

 

 

 

──二週間後、私は昼休みに先生に呼び出された。

本当は行くのがとても嫌だった。

こうしている間にも私の持ち物に何かあるかもしれないから。

でも、先生が呼び出した理由が私の机のことだった。

それを聞いて、もしかしたら先生が助けてくれるかもしれない…そう私は()()()鹿()()()()をした。

 

「雪ノ下。お前が成績優秀なのは分かるぞ。…でもな、学校の物である机を好き勝手してはダメだぞ?」

 

……先生の言っている意味が分からなかった。どうしてそうなるのか?なんで私があんなことをすると思っているのか。

 

「せ、先生。あれは私ではありません」

「何?ではクラスメートにやられたのか?もしかしていじめられているのか?」

「………っ…」

 

コクリと頷いた。

やっと気づいてもらえた。これでこの地獄から解放される…そう期待すると同時に、私は屈辱で唇を噛み締めた。

 

これがいじめられていると認めてしまったこと。その情け無さと不甲斐なさ…そして、私が孤独であることを再確認させられた気分だったから。

 

 

 

先生は「わかった。帰りの会で、話すから教室に戻ってなさい」と優しい声で言ってくれた。

私はまた頷いて教室に戻った。

すると今度は筆箱がゴミ箱に捨てられるのを見つけた。

私はあまり気にせずに、それを拾って席へ戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

下校のチャイムが鳴る。

先に帰りの会が終わったクラスもあるのか、廊下が少し騒がしくなっていた。

 

「帰りの会を終わる前に…先生から1つ、大切な話がある」

 

その言葉に体が少しビクッと跳ねた。

 

「雪ノ下の机が誰かにズタズタされていた。やった奴は誰だー?今正直に言えば怒られずに済むぞー?」

 

そう言って先生は生徒を一人ずつ見渡していく。しかし、名乗り出る者は当然いなかった。

 

当たり前だ。そんなの私でも予想出来る。

 

──なのに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「はぁー、困ったなー……誰もいないわけ無いだろう。ふむ……分かった。じゃあ雪ノ下。お前は先に帰って良し」

「え?」

「他のみんなはダメだ。早く誰がやったのか正直に言わないと、みんな帰れないぞ」

 

……なんでそうなるの?

これでは吊るし上げだ。無論上げられているのは私。

私は再度、いじめられているとみんなに公表されるばかりか…クラス全員の時間までも奪ってしまったのだ。

 

「………」

 

無言で帰りの支度を終え、私は教室を出た。

 

「……先生。さようなら」

「おう、さようなら。気をつけて帰れよ……さぁて、早く言わないと帰れないぞ?」

 

私は先生に挨拶を終え、小走りで玄関へと向かう。

 

「……っ……っ…!」

 

 

私は息を詰まらせたかのように声を殺し、涙を流した。

悲しくて泣いたわけじゃ無い。これは怖かったのだ。

 

 

『お前のせいで…』

 

 

何人かがそんな眼で私を見ていたから。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

小学三年生になった。

 

状況は前よりも酷い。

あの教師の件以降、予想通りいじめはエスカレートした。

 

クラスの中には、私を守ろうとしてくれた人もいた。だがその人もあの教師と同類だった。いや、もっとタチが悪い。

 

その人は()()()()()私の幼馴染みである 葉山 隼人 という男子だ。

私と違って人気者で、クラスにいるのといないとでは皆の明るさも変わってしまうほどに彼はクラスの中心的存在だ。

 

そんな葉山君が、だ。私をいじめるのを止めるよう言い出した。

 

分からないのだろうか…あの男は…と、本気で怒りを覚えた。

 

皆に信頼され、注目されている人がそんな事を言い出したら…いじめはより苛烈になるってなぜ分からないのか?

 

いじめのことを話題にされるだけでも、私は傷を抉られる気持ちになる。

 

なのに葉山くんが「みんなで仲良くしよう!」と言って回れば、私が贔屓されているも同然。それは嫉妬となって、陰でまた私に槍となって突き刺さる。

 

あなたのその押し付けがましい善意が、私にとってどれほどの脅威なのか…正しいことしていると思っているのがなおさら腹立たしい。

 

「………はぁ」

 

この頃にはもう、私の心は錆びていた。

自分でも気付かないくらいに。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

私の学校生活は、普通の生徒よりも疲れる。

 

まず上靴。これは毎日持って行かなければならない。もはやいじめの常識だろう。

 

 

机は先生に一度目をつけられたせいか被害はない。

 

 

それでも私はトイレに行かないし、行けない。

席を離れれば、私物を好き勝手されるからだ。

 

一度、自分の考えは自意識過剰かと思って、席を立って見たが…案の定、ノートが破かれていた。そのノートはダミーなので良かったが、これが本当に使うノートだと考えただけで頭が痛い。

 

せめてこういう時こそ、葉山君がクラスに居てくれればいいのだが、休み時間は大抵クラスに居ない事が多い。

 

葉山くんがいじめをやめさせようと公言したことでストッパーにはなれど、抑止力にはなり得なかった。彼の目につかないところでは、未だに私への嫌がらせは続いている。

 

時折、葉山くんから大丈夫かと聞かれる。

はっきり言って…そう聞かれること自体が大丈夫ではない。なので素早く、周りに気付かれないように大丈夫よ、と返答する。もはやいじめの原因は彼にあるのでは?とすら考えてしまう。

 

更にたちの悪いことに、葉山くんが皆にいじめをやめるように言った後、私が被害を受けているところを見ていない()()()()()()()()()()()()()()らしい。友人がいない私にとっての情報源は、自分の眼だけが頼りなので、予測に近いが…

 

しかし彼が私を見る眼は、何か達成したような自信溢れる瞳をしており、私の考えは間違っていないように思える。あくまで私の主観だけれど。

 

葉山くんは友好関係を守りたいのだ。それは理解出来る。

でもそれは単なる上辺での関係しかない。みんなは葉山くんに気に入られたいが為に必死に良い人を演じている。そんな上っ面だけを見て、葉山くんはその人は良い人なんだと受け入れる。それが良いことだから。

 

でもそんなものは…ただの喋る人形と変わらないように思えてならない。

 

「友達って……なんなのかしらね」

 

その答えが浮かぶわけもなく、返ってくるわけもない。

今の私にとっての学校は、勉強をするか、本を読む事しかできない窮屈な場所だ。

 

私はただ……只々早く卒業したくて…仕方がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

月日が経ち、四年生となった。

 

もう目立つような真似はしていないのだが、女というのは恐ろしい。

男の方から勝手に告白してきただけなのに、何故か矛先が私に向けられる。

 

この頃にはもうある程度の対処は出来ていたので、問題は無かった。だが、この地獄は終わりそうもないのも確かなことだ。

 

 

 

 

 

 

 

そんな四年生が始まって2ヶ月が経った頃、転校生がやってきた。

 

親の都合で転校してきたらしい。名前は……

 

 

鎌ヶ谷 研(かまがや けん)と言います。よろしく」

 

その声はかなり落ち着いており、立ち姿からもかなり大人びているように見える。

 

加えて、彼は……なかなかのイケメンだった。

 

このクラスのイケメンといえば葉山君(また同じクラスになってしまった。そして私はイケメンとは思わない)なのだが、鎌ヶ谷君は葉山君とは真逆だ。

 

葉山君が爽やかで明るいのなら、鎌ヶ谷君はクールで寡黙な感じだ。

 

 

 

 

 

休み時間。

 

当然の如く鎌ヶ谷君の席の周りに生徒が集る。イケメンであれば尚のこと。

 

しかし……誤算だったのが1つ。

 

「ねぇ、鎌ヶ谷君ってどこ出身?」

「この近く」

「え、えーと…誕生日は?」

「12月くらい」

「あ、あはは……そうなんだ」

 

彼は私の前の席だったのだ。

 

本当に鬱陶しい…が、普段私に突っかかってくる女子達が質問しても、鎌ヶ谷君が会話を膨らまさずに会話を断ち切るので困惑している。

 

「……ふふっ」

 

私は誰にも気付かれないくらいの笑みを零した。なんだが少し気持ちがスッキリしたのは……きっと気のせいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

───そして悲しみの中で、雪ノ下雪乃は彼に出会う。

 

 

 

 

 




葉山扱いwwww


雪ノ下雪乃、主人公に対してちょっと好感度。

しかし主人公の現在の内心は…?


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こうして鎌ヶ谷 研の人生が始まった。

少し鬱です。
彼が合理的になるきっかけのお話。


お気に入り、評価、感想ありがとうございます。
初めての評価が星1とか軽く笑えました(`・ω・´)
まあ、所詮思いつきの衝動書きなのでしゃーなしですな。



 

 

 

 

 

うーす。俺は鎌ヶ谷 研。

 

なんかどこかの世界に転生しちまったただの男だ。

 

 

……てかさ、転生ってこんなものだったけ?

 

普通はさ、神様とかが転生先の世界とか選ばせてくれて、その世界で有意義に暮らすための力とか授けてくれたりするもんだと思ってたのよ。

 

でも見てこの状況!俺ただの千葉に住む普通の男の子ですよ!

 

何、千葉って!俺の世界でも普通にある地名だぞ!異世界感微塵も感じねぇ!確かに前世がクソな俺にはお似合いかもしんないけど!せめて神の姿くらい拝ませてくれても良い気がする!

 

そしてなんで幼稚園からやり直しなんだ!?

 

良い両親だから不満は無いし、赤ちゃんからやりなおさなくて良かったっていう考え方もできるけどさ。

でも実質35歳のおっさんが年下にあやされるってどんなプレイだよ……。

 

 

 

まあ、なんて愚痴っちゃいるけど、なんやかんやで人生楽しめちゃってます!

 

まず人生楽しめちゃってる理由。

 

俺は転生したのだと気付いたその日……俺は親にとあるお願い事をしました。

 

 

何かと言うと…小学生の・きょ・う・ざ・い♪

 

 

キモい言い方だったね。すまそ。

いやね?なんかパッと思い浮かんだのが…幼稚園から小学生の勉強解けたら凄くね?なんてかるーい気持ちで考え付いちゃって言ってみた訳なんだどさ。

 

そしたらうちの両親、なかなかの親バカだったらしく「この子は神童かもしれない!」って本気で思っちゃったんだよ。

もう少し常識を疑って欲しかったですねぇ。てか普通何言ってんのってならなかったのかな?

 

ならなかったようですねぇ(他人事)

 

でさ、その時の俺は、それに気分良くしてなんか乗せられるまま試しがてら小学生(一年〜三年生の範囲)の教材をパパッと解いちゃったのよ。伊達に大学は出てないから余裕だったわ(そんな頭良くなくても入れる大学だったけど)

そしたらもう両親は舞い上がっちゃって!「この子は天才だ!」「うちの子として生まれてくれてありがとう!」とか言い始めちゃったんだわ。

 

俺はもう優越感に浸りまくりwww

 

いやぁ、これからこんなふうに天才児 鎌ヶ谷 研として扱ってもらえるとか最高wwwwww

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

すみません。ワロタしてる場合じゃねぇことに気づきました。

 

ベーヤーだわ………やべぇって意味な?

 

ともかく、ワロタがやべぇに気付いたきっかけ……それはこっちの世界でもド○えもんやってたのでたまたま観たことだった。

 

え?何故にそれ?とかは思うな。

 

で、その見たストーリーはの○太君が赤ちゃんからまた生まれ変わって人生をやり直すって感じ。

 

──あれぇ?ほぼまんまの俺やん、とか思いながらも、その話の行く末を黙って観てた。

 

生まれ変わったのび○くんは、赤ちゃんの時から喋ることができて、I.Qは小学二年生レベルあるということが発覚。のび家の両親は「この子は天才だ!」「生まれてきてくれてありがとう!」と喜ぶ。

 

…………。

 

しかし、小学一年生のの○太くんの元にドラえ○んがやってきて、タイムテレビを見せる。

するとそこに映った未来は…努力をしなかったために、成長するにつれてまた0点をとり続けてしまういつも通りののび太く○の姿だっ───

 

 

 

俺はチャンネルを変えた。

 

 

「ん?研、変えてよかったのか?」

「う、うん。良いんだよ父さん。バラエティーの方が面白いし」

「そっか……それにしてもなんか今の研っぽいお話だったな。まあ、ウチの研はあんな風にはならないだろうけどな♪」

「あ、当たり前だよ!僕はのび○くんじゃないんだから!」

 

 

やめれ〜。やめてくれマイファザ〜。そんな軽やかに俺の心に突き刺さること言わんでくれぇ…(泣)

 

あれーこれってやらかした?やらかしたか!?

流石に大学出ても、もう小学生六年生でボロ出す自信あるんだけど。てかその自信しか無いけど基本馬鹿だから!特に理科とか社会がヤヴァイ!

 

流石にマズい…って俺は思った。

これはマジで頑張って天才まではいかなくても秀才くらいにはならなければ!

 

 

そう俺は確固たる決意をし、さっそく努力を始めた。

 

 

とは言っても、小学生レベルの勉強に関しては予習程度で満点は確実だった。それは驕り無く断言できるほどに。

 

 

なのでまず取り掛かったのは肉体に関してだった。

前世の俺はただのデブでブサイクな男だった…しかし今からなら余裕でそんな結末は変えられる!

 

鏡で見た俺……うーん、顔のパーツは悪くない。両親が良いからかな?

今は分からないが、しっかり運動していれば問題なくイケメン(笑)

運動を頑張ればスタイルも運動神経も鍛えられて尚且(なおか)つイケメン……やっべwこれからすっげー楽しみだぜwww

 

という事で、試しにイケメンスマイルをしてみた。

 

「……ニタァ」

 

おっ……………と………

 

どーしよ、洒落にならないくらいキモい。

 

お、可笑しいな…俺口角上げてるつもりなんだけど表情筋がまるで仕事してない。横へ広がってるんですけど…これどゆこと?

 

俺って親二人の前でこんな風に笑ってたの?

 

……やっぱ人生って山あり谷ありなのかね。

 

 

 

 

 

 

結果、人生の課題が増えました。

 

・人生楽しむため勉強頑張る(ガチで)

 

・人生楽しむためスポーツ頑張る(マジで)

 

New・笑顔がキモい理由でいじめられても大丈夫なように色々鍛える(本気で)

 

 

よし。じゃ、明日から頑張ってみようか(`・ω・´)

 

 

 

 

 

あっ、それとうちの両親、実は夜にいろいろ頑張ってたみたいで、妹が生まれました。

 

前世にはいなかった妹。ビバ!妹!

 

ああ。これでテンションが上がらないわけがない!!

 

よぉし!お兄ちゃん頑張っちゃうぞーー!!

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

小学一年生になりました。

 

両親との仲も良好。妹も無事に育ち、幼稚園に入ったよ。

 

んで、大事な事気づきました。

 

勉強とかスポーツ出来ても……コミュニケーションレベル低かったら意味ないやんけ!?

しかも笑顔がキモすぎて出来ないとか……友達100人どころか1人も出来ねぇわ!

 

見てみ?だーれも俺に話しかけてくれない。

まだまだ可愛いピチピチの小学一年なのにだよ?

 

ホント笑えるwwwww

 

 

 

 

 

いや笑えねぇよ(真顔)

 

 

 

俺の唯一の救いは、両親と妹の笑顔だけだ。

 

 

あー、癒される。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

友達、出来ました。

 

 

やったぁぁぁぁああ!!

小学二年にしてようやく友達出来たぁぁああ!!!

 

 

 

……まっ、1人だけね。

 

 

や、別に悲しくねぇし!寂しくねぇし!てか勉強とスポーツは出来るからただの負け組じゃねぇし!もうこれでボッチじゃねぇから良いんだよ!

 

え?なに?友達ってのは複数を指すから、正しくは友人だろうって?

 

 

……………………。

 

 

うるせぇぇええ!!細かいこと気にすんなよ!友達出来ねぇぞ!(友達の人数:1)

 

いいか!友とは数じゃねぇ!質なんだよ!付き合いの深さなんだよ!分かってんのか!!(昨日までぼっち)

 

何はともあれ、これでやっと俺の人生が始まるぞい!やっふぅー!!

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

小学三年が終わった後、転校することになりました。

 

ショックでした。全財産つぎ込んでハズした馬券くらいにショックでした。

いや。そんなとは比べ物にならないくらいショックだ。やっと出来たかけがえのない友いるのだからな!

 

そして友人改め、親友に転校の事を話しました。

 

 

 

 

そしたら──

 

 

 

 

絶交されました。

 

 

 

はは……ははは、解せぬ!親友とは一体!?

 

 

もう絶望したわー。いやー、どうしよ。ボッチでこの先どうやって生きてくんだよー。いや前まではそれで人生過ごしたんだけどさ。

 

 

 

 

はぁ、(つら)っ……。

 

 

 

 

うん決めた。

 

もう面倒だから自分のこと優先でいこ。

てかそれが本来の人の姿だし。今までの俺が間違ってたんだ。

 

なんだよなんだよ。

こんなに新しい人生でめっちゃ努力してんのに、なんなのよ。ふざけるのもいい加減にしろ。

大体さ、なんで超年下の奴と頑張って友達になって浮かれて気分良くなって、かと思ったらこんな仕打ちを受けないといけないわけ?

はぁ…前世だって対して良かったことなくて、生まれ変わったらそこそこのイケメンだったからもっと人生イージーだと思ってたのに………

 

…あっ、そっか。そもそも()()()()()()()()()()()()()()()()

 

それなら納得。

前世の自分があまりにも酷かったもんだから、判断基準値が低すぎて、今のこの顔がイケメンだと思ってたのか。

 

そうだよな。

いくら笑顔がうまく出来ないからって、ホントにイケメンだったら喋んなくなって友達出来るよなフツー。

てかイケメンと可愛いは正義なんだから、もし俺がイケメンならこんな事になんねぇよ、うん。

 

イケメンは黙ってても、友達は増える。

 

イケメンは黙ってても、ちやほやされる。

 

イケメンは黙ってても、なんでも出来る(極論)

 

ほらな?やっぱ俺イケメンじゃねぇわ。

 

友達は出来ない。ちやほやもない。なんでも出来てない。

 

 

 

なんか……もう…ね。

 

 

 

 

 

全てが───無駄だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

親友との絶交から1ヶ月。

 

 

時は転校初日まで進む。

 

その日は、気持ちの良い朝だった。

 

新居での初めて迎える朝にしては、上出来と言えるくらい清々しい。

 

だが、かと言って俺の心は清々しくない。

 

もちろん、両親の前では元気よく演じる。心配をかけるのは徒労を生むに等しい。

 

では、なんで清々しくいられないのか?

理由は…これから新しい学校で学ぶ事になったからだ。

 

「新しい生活ってワクワクしない?」と母親は笑顔で俺に問うが、そんなの俺のような奴には出来ない考え方だ。

 

「いや、どっちかと言えばドキドキかな」と俺は答え、母親は「うふふ。確かにそうかもね♪」と微笑む。

親なのにその笑顔はあまりに眩しい。活き活きとしている。

 

「いってきます」

「いってらっしゃい!車に気をつけてね。あと道に迷わないようにね〜!」

「分かってるよ、母さん」

 

俺は父親が羨ましい。母親が羨ましい。妹が羨ましい。

 

いつも心から楽しく生きている。

 

だから人も寄ってくる。だから他者との絆が生まれる。

 

そんな家族が俺の誇りだ。自慢だ。幸せだ。前世には居なかったから。

 

だが同じくらい、そんな家族が妬ましく、憎らしく、苛立たしい。前世には居なかったから。

 

なんでだ?俺はあんな素晴らしい両親から生まれてきたのに、なぜこんなにも人生は上手くいかない?中身が転生者である他人だから?

 

だったら、今すぐに死にたい。消えてしまいたい。

転生者である中身の俺が消えれば、多分この鎌ヶ谷 研という男の子は両親と妹のように明るく楽しく過ごせるに違いない。

 

 

分かってる。これは無意味で無駄な思考だ。

 

 

最近の俺は毎日こんな事を考えてしまっている。

 

行き場のない怒りの渦を心に抱く。

 

これはもう逆ギレに等しい。

 

 

分かってる。これは無意味で無駄な感情だ。

 

 

 

 

「はじめまして。私が君のクラスの担任だ。これからよろしくね、鎌ヶ谷くん」

「はい。よろしくお願いします」

 

だけど、そんな俺に1つのアイデアが浮かんだのだ。

 

新しい学校生活。これは謂わばリセットなのだ。

俺という存在を知っている奴はいない。

なら、今度こそ失敗せずに「理想」を実現してやれば良い。

 

でも…前の理想はあまりに抽象的でダメだった。

 

しかし、話はもっと簡単だった。

ただ出来る範囲でやればいい…ただそれだけだ。

 

 

「じゃあ、朝の会でみんなに自己紹介…簡単でいいからか頼むな」

「はい、分かりました」

 

 

幸いにも、勉強と運動の努力は積み重ねてきた。

一回分の学校生活を体験してるのだから、他の奴らより要領よくやれている。

 

だからと言って転生初めのような優越感はない。

 

実際には年下だが、それでも初めての親友が出来た。飛び上がるくらい嬉しかった。

あの喜びに勝る感情は未だない。

 

でも絶交された。(がら)にもなく部屋で声を押し殺して泣いた。

あの悲しみに勝る感情は未だない。

 

大人の自由を知ってるが故に、それに触れられない苦しみなんてものはもう無い。

 

 

俺にあるもの。俺が求める理想は──

 

 

「鎌ヶ谷 研と言います。よろしく」

 

 

───誰にも邪魔されない。俺が必要とする人だけが楽しくいれる居場所が欲しい。

 

それを手に入れるためなら、俺は()()()()()()()()

 

 

 

 

 

───こうして鎌ヶ谷 研の人生が始まった。

 

 

あまり望まぬ形で。

 

 

 

 

 




クズが一周回りました。

次にやっと彼が雪ノ下に関わります。



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分かったことは…彼はいつも唐突で、強引だ。

お気に入り、感想、評価、訂正、大変ありがとうございます。

作者のモチベも上がるってもんですよ (ゝω・´★)

感想でも笑わせてもらいましたので、ネタでちょっと加えてみました。
もしかしたら、これが後で活きるかも?

それと訂正で鎌ヶ谷くんの読み方の訂正があったのですが、実はあれ…スマホで「かみがや」って打ったら出てきたのでそのまま名前として使っていました。
でもやっぱりあれは「かまがや」って読むらしいですね。

自分でも調べたら「かまがや」でした。
そこ。先に調べとけ!とか言わない。

でも鎌ヶ谷って千葉にあったんですね。
適度に作ったのに、なんやかんや繋がりが生まれて、驚愕と興奮が起きました。
長くなりましたが、これからも宜しくです(・ω・`=)ゞ


今回でやっと!二人はしっかり話します。

多分、しっかりです。




雪ノ下 雪乃はここ数週間に起こった出来事を深く考えていた。

 

 

 

「………はぁ」

 

 

 

原因は、言うまでもなく彼──鎌ヶ谷 研という男子の存在にある。

 

最初に彼を見て分かったのは、本を読むのが好きなのと───無駄な言動や物事を嫌っているという所だ。

 

例えば…

「なあ、あの子…良いと思わない?」

そう男子が彼に話しかけたとしても…

 

「ごめん、興味ない」

その一言で会話は終わる。

 

 

例え女子が…

「ねぇ、鎌ヶ谷くんって好きな子のタイプとかあるの?」

とあからさまに聞いたとしても…

 

「少なくとも君はタイプではないかな」

そう会話を断ち、好意なんて希望すら持たせない。

 

ハッキリ言ってコミュニケーションを否定しているようにすら見える。

 

私もそんな感じなので人のことは言えないが…それでも彼の態度は最悪だ。

 

それが続けば流石に愛想を尽かされ、嫌われる……少なくとも、私はそう思っていた。

 

 

 

 

 

───しかし彼はそうはならなかった。

 

確かにみんなが彼に話しかける頻度は激減した。

 

しかし彼はルックスが良かったせいもあってか、その態度が「異常」ではなく「()()」として皆から認められてしまったのだ。ファンクラブすら密かに出来たという噂すらある。

 

「……なんでよ」

 

釈然としない。

彼に好感を抱いた自分が腹立たしい。

なぜ彼は受け入れられて、私は受け入れられないのか。

 

彼の態度からして相当自信家なのだろうが、やっていることは過去の私となんら変わらない。ただの独りよがりだ。

 

体の底から憤りが湧くのを感じる。

 

 

 

 

 

……でも良いのだ。もう受け入れられなくても。

 

私には誇りがある。

 

 

───みんなの中で一番であること。

 

 

勉強も、運動も…みんなが私より下。

 

あの葉山君ですら私より下なのだ。

 

だから私は──

 

「……大丈夫」

 

そう。それさえあれば大丈夫。

 

無意識にそう呟いていた。

 

 

 

「みんな、明日はテストあるからしっかり勉強しろよー」

 

「「「ええ〜〜〜」」」

 

「えーじゃない!結構難しいから、本当に頑張れよ」

 

 

 

 

さあ。また私の誇り(生きる意味)が試される時だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺、鎌ヶ谷 研は思う。

 

 

 

 

 

 

 

もうシリアス疲れた。

 

 

 

 

 

いやー、先に謝っとくけどさ、ホントにマジでガチでめんご。

まあ確かにね。絶望はしたよ?

うん、それこそ本気でラスボスにでもなってやろうかと思ったわ!

 

でもさ、もう結構な日が経つと……流石にこの世全てを恨んでますって空気を醸し出すのも疲れんのよ。

 

いやいや、そりゃあ最初はもう激おこぷんぷん丸でしたよぉ〜?

なんで転校するって伝えただけで絶交されなきゃならんのよ!お前の家にピンポンダッシュしに行ってやろうか!とか思ったよ?

 

でもさ、毎日毎日両親や妹の輝かしい笑顔を見るとね?心が洗われるようで……もういいかなって思いました!特に妹!(ここ重要)

それだけ家族とは偉大なのです!

 

よし!じゃあ……新たな学校で新しい出会いを期待しましょうかね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───とはならないんですねぇ〜。もう期待は致しません!

 

確かに絶望ルートからは抜け出しました、うん。

 

でもね…また絶交なんてされたら、今度こそ血だらけシリアスバッドエンドで人生締める自信ある!BGM「悲しみの向こうに」を流す自信しかない!

 

加えて、父親の都合でまた転校しても可笑しくなさそうだから尚更だね!だから俺はもう小学校で友達は作りません!

 

だいたい小学校からの友達が、大人になっても友達でいる可能性なんて全然無いからな!

別にいてもいなくても変わら……なくも無いだろうけど、とりあえず今の俺には必要ない!必要無いんだからな!

 

大事なことなので二回い……あっもう古いか?

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

ふぇ〜(´;ω;`)

 

やべぇ、俺すっごく話しかけられるんだけど。

 

どしよどしよどーしよ?やべぇわやべぇわベーヤーだわ!

 

俺の友達作らない(くだらない)決意がもう水の泡になりそうぉ〜。

 

転校してもう数週間経つのに…()()()()()()()()()だぜ?

 

まあ普通ならあっそ、で済む話なんだろうけど、俺……自分でも引くぐらいみんなを拒絶してるんだよ?

 

なのに…まだ話しかけてくる。いや、きてくれる!

これって俺の時代がキタのか?って勘違いしそうにもなるでしょうよ。

 

え?ならない?

 

………そう思った君はすぐに腹筋10回して反省なさい。腕立てでも可。因みに反省しなきゃいけない理由は特にない。強いて言えば俺の気分(理不尽)そして理不尽を超えなければ成長はない!それが人生!(深い)

 

 

だがしかしクラスメートよ!残念だったな!

 

俺は知っているんだ!

 

俺が!イケメンでは!!ないことをぉぉお!!!

 

つまり妙に女子にキャーキャー言われたりするのも勘違いなんだ!一瞬、俺のファンクラブかと思ったけどそれは違う!

あのキャーキャーは歓声じゃなくて、ギャーギャーっていう悲鳴!

つまり!あれは俺のアンチクラブなんだよ、うん!

 

あっっっぶねぇ、また俺はイケメンなんじゃ無いかと勘違いするところだったぜ。

 

フッ…今の俺に死角はない!

勉強も出来て!運動も出来て!そして何より!いじめを受けても大丈夫なように武術も嗜んでるんだ!

 

さらにぃ!!俺はもう()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!(しつこい)

つまり!自惚れて恥をかくこともない!

 

フフハハハ!!俺もう最強じゃないか!!!

 

 

 

…は?ぼっちが弱点だろうって?

 

 

うるせぇぇええ!!

そんなことばっか言ってると友達できねぇぞ!(友達0人)

 

 

まあ、そんなこんなで……最強(自称)たる俺にまた新たな試練が立ち塞がる!

それはテスト!学生みんなの敵であるテストだぁ!

しかぁぁし!今の俺は努力の化身とかしている!

ていうか人生一回経験してるんだから100点取れない方がおかしいんだ!!

 

 

つまり!100点取るのはもはや必然!

 

 

……100点逃すフリじゃないからね?

 

 

じゃないからね?

 

 

よっし!じゃあ明日のテスト、頑張っちゃうぞぉ〜!(鼻ホジ)

 

 

 

 

 

あっ、デカイのとれた(下品)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

テストは当日採点で返ってきた。

 

「じゃあ、返していくぞ」

「「「ええ〜〜〜」」」

「お前らたまには、はいって普通に返事出来ないのか…」

 

私、雪ノ下雪乃は緊張していた。

 

私は未だにテストで100点を逃したことがない。

 

しかし今回のテストは特に難しかった。

こんな中途半端な時期にあんな難問揃いのテストをやるなんて…()()()()の時もそうだったが、やはりあの先生は少し頭がおかしいのではないかしら…

それに転校生だっている。彼はこのクラスになってまだ1ヶ月経っていない。なのにこんな難問のテストをやるなんて…少し理不尽だと思う。

 

「次、葉山くん。…やっぱ今回は難しかったか?」

「あはは…そうですね、難しかったです」

 

先生と葉山くんの感じから察するに、あまり良くなかったらしい。

 

よし……!(小さくガッツポ)

これで私に並ぶ可能性の持つ人はいなくなった。

 

後は、私の点数次第だ。

 

先生は前の席の人から順々に返していく。

私は窓側の一番後ろの席なので、返ってくるのも最後なのだ。

 

「次、鎌ヶ谷くん」

「はい」

 

ああ、そうだ。彼は私の前の席か。

 

気の毒に……転校して早々こんな難問ばかりのテストをやらされるなんて、ついてないわね。

さて、先生はなんていうのかしら?

 

「お前……よく頑張ったな」

 

…え?

 

「……ありがとうございます」

 

それって……

 

「最後、雪ノ下さん」

「………はい」

 

………まあいいわ。私が満点であれば、別に問題はないのだし。

 

「お前もよく頑張ったな」

 

先生は、彼と同じ言葉を私に言った。

 

「ありがとうございます」

 

私は答案用紙を受け取った。

 

スゴくドキドキする。

テストが返ってくるときは毎回緊張するが今回は特別。

難しかったために満点を取れるかわからない不安…その恐怖に負けじと、私は答案用紙を覚悟してみた。

 

 

 

────98点。

 

 

 

私の誇りが──崩れ去った。

 

 

「嘘よ……」

 

誰にも聞こえないくらいの声で、私はそう零していた。

かすかに手は震え、目の前が少し潤んだ。

信じられない。信じたくない。こんな結果……。

 

「今回の難しかったねぇー!」

「お前、もとから勉強してねぇだろ」

「それもそっか!」

「はーい、静かにしろよ。今回のテスト。男子で一番良かったのは鎌ヶ谷くんだ。転校してきたばかりの奴にみんな負けてるぞ、大丈夫か?そして、女子で一番良かったのは雪ノ下だ。みんなも少しは2人を見習えよー」

 

「チッ……またアイツかよ」

「まあいいじゃん。にしても鎌ヶ谷くんすごいねー!後で見せてもらおうよ!」

「うーん、また嫌な顔されるだけだと思うよ?」

「それはそれで良いんだよ!!」

「…えぇ」

 

私は静かに席に戻る。

クラスは少し騒がしかったが、私の耳は満点を逃したショックのせいか静寂に支配されていた。

何を言っているのか全く聞き取れない。どうせ私の悪口なんだろうけれど。

 

その時───ふと、私は思った。

 

(彼は……どうだったんだろう)

 

私は席に戻る時に、彼の答案用紙を盗み見た。

 

 

 

 

 

 

 

────99点。

 

 

 

 

 

私の支えが…今にも消えてしまいそうになった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

「先生…」

「ん?ああ、鎌ヶ谷か。どうした?」

「…今日のテスト。俺より上はいましたか?」

「テスト?いや、いなかったぞ。今回のは難しかったからな」

「そうですか……俺に近い人は?」

「うん?さっきもクラスで言っただろう。雪ノ下だ。鎌ヶ谷が99で、雪ノ下は98だ。俺はこんなにも優秀な奴が2人もいて嬉しいぞ」

「そうですかありがとうございます失礼します」

 

「あっおい……せっかく褒めたのに……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雪ノ下か……確か雪ノ下 雪乃だったかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

「…………はぁ」

 

 

下校時間。

クラスのみんながすぐに荷物をまとめて教室を後にする中、私は未だ席から立てずにいた。

 

「……………」

 

何もかもが嫌になる。

満点を逃したこと。そして…彼に負けたこと。

 

別に彼に何かしらの因縁がある訳ではない。

それこそ、葉山くんには圧勝したんだから喜ぶべきなのかもしれない。

 

それでも……彼に負けるのは、特別悔しく感じた。

 

「雪ノ下」

 

何度も思い返すが、彼は転校してまだ数週間だ。

勉強の範囲だってズレはあるだろうし、環境にだってまだ慣れきっていないはずだ。

 

「……雪ノ下」

 

なのに、あっさりと負けてしまった。

もちろん、勝負してた訳ではない。

でも普段の彼は、誰とも極力話さず、本ばかり読んでいる男子だ。

 

「…?…雪ノ下?」

 

なのに、いざテストをやればほぼ満点。

今回のは普段は満点『だけ』とってる私ですら98だったのだ。

 

それを超えるなんて……ホントに、もう悔しくてたまらな────

 

 

「おい、雪ノ下!」

「はわぁい!」

 

びびびビックリした…!あまりにビックリして返事が変になってしまった。べ、別に全然人に話しかけられないからビックリした訳ではないわ!断じてないわ!それになによハワイって…うぅ…恥ずかしい…!

 

「…って……鎌ヶ谷くん?」

「そうだ。俺を知ってるなら話は早いな」

 

知ってるも何も、席、すぐ近くじゃない。

 

「それで…話って何かしら?」

「ああ、これは雪ノ下にしか言えないんだが……」

「私にしか…?」

 

え……それって…

 

「そう。これから一緒にカフェに行こう」

「……え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────最近、分かったことは…彼はいつも唐突で、強引だ。

 

 

 

 

 

 

 

でもそれは、彼の魅力の一つなんだと…私はのちに気付かされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




鎌ヶ谷くんと雪ノ下よ。

てめぇら、馬鹿じゃないけどアホだよね(作者の感想)

そして、タイトルが息してるか作者も分かってない。

一応、次回は主人公の表向きを書こうと思ってます。

前から言ってますけど、表はイケメンなんです。ちょっとクセがあるだけなんです(泣)


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繋がりを求めない彼は価値を、プライドを捨てた彼女は繋がりを手にいれた。



え…と。お久しぶりです。(´・∀・`)


 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

チラッ………

 

 

テスト「99」

 

 

 

チラッ……………

 

 

テスト「だから99」

 

 

 

 

 

チラッ…チラッ……

 

 

テスト「何度見ても99やで」

 

 

 

 

 

 

 

 

……すぅ

 

 

 

 

 

…嘘だぁぁぁぁあああああああ!!!!

 

 

なんで!なんでさ!いつも通り勉強頑張ったのになんでだよ!

なに?鼻ほじったりとかふざけてたからか?嘘でしょ!嘘だと誰か言ってくれ!

 

あっ…俺友達一人もいねぇんだった。

だいたいコレ心の叫びだから、もし誰か答えてきたら一瞬でホラーに早変わりするわ。

 

え?俺がなに言っているかわからない?

大丈夫、それは正常な証だから問題なし!

 

まあ、んなことはどうでもいい!

 

問題はこのテストよ。何度も何度も他の授業中に見直しても正解にならないんだけど。もちろん間違えてるから正解になるはず無いんだけどさ。今から正解になったら書き直し疑惑が出てくるわ。

 

 

 

……いやだ。いやだよぉ。こんな現実、受け止めたくない。

 

 

なんだ。なにがいけなかったんだ?おふざけで満点逃すフラグ立てたことか?いやあんなのただの冗談だし俺の独り言だし誰も聞いてねぇんだからフラグですら無いだろふざけんなよ愚痴がはち切れんばかりに吐けそうだわチクショー!

 

まあでも、一応学年ではトップだったからそれが唯一の救いといったところかな。

 

はぁ、小学生でもう満点逃すハメになるなんて…せめて高校生まではノーミスで行きたかったのに。

 

……やっぱ前世のクズっぷりが影響してんのかな。

 

いやそんな認められないし、認めたくない。

 

今度こそ薔薇色の人生を送ってやるんだ。

 

「その為にも反省しないとな」

 

まず今回の問題点の1つとして言えるのは、転校早々のテストだったので、直接授業を受けてない範囲があったことだ。

テストでは先生の気分で他校じゃ出ないような問題がたまにある。今回の逃した一点がそれだ。

 

「二の舞はごめんだしな……」

 

悩むものの俺がしなければならないことはすでに分かりきっていた。

でも気が進まない。しかしこれからのことを考えると、今はぐちぐち言ってられない。

 

やっぱ必要だよね。情報って。

 

「…先生のところに行くか」

 

とりあえず俺と同じくらいの学力ある生徒がいるか聞いてみるか。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

あ、いた。

 

でも先生に話しかけんのっていくつになっても緊張するよな。失礼の無いように早く済ませちゃお。

 

まずはワンクッション置いてからの本題、これが会話の基本だよな。うんこれ常識。

(会話のなんたるかを語るぼっち)

 

「先生…」

「ん?ああ、鎌ヶ谷か。どうした?」

「…今日のテスト。俺より上はいましたか?」

「テスト?いや、いなかったぞ。今回のは難しかったからな」

「そうですか……俺に近い人は?」

「うん?さっきもクラスで言っただろう。雪ノ下だ。鎌ヶ谷が99で、雪ノ下は98だ。俺はこんなにも優秀な奴が2人もいて嬉しいぞ」

「そうですかありがとうございます失礼します」

 

「あっおい……せっかく褒めたのに……」

 

 

よし!違和感まったく無く聞いてやったわ!流石やれば出来る子、鎌ヶ谷 研!

 

「雪ノ下か……確か雪ノ下 雪乃だったかな」

 

思うんだけど、他人のフルネームって覚えにくいよな。この子は雪繋がりで覚えやすくて良かったわ。

 

にしても雪ノ下 雪乃……どんな子だっけ?

俺の真後ろの席で、いつも黙ってる優等生って感じなのは分かるけど、それ以外なにもわかんねぇな。

 

「まだ教室にいるよな…?」

 

確か俺が教室に出るときはいたはず。

急いで教室に戻ろ。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

教室に着くと彼女はいた。何か考え込むように席に座っており、他の生徒はほとんど帰っていた。

 

これは絶好のチャンス…!

 

てか、雪ノ下ちゃんってけっこう可愛い子だったのね。まったく顔見てなかったから知らなかったわ。

 

「……………はぁ」

 

なんかため息ついてる?えぇ……声かけ辛いんですけど。やめてくれよそういうの。

…かけるけどさ。

 

 

「雪ノ下」

 

……返事がない。ただの屍のようだ。

いやふざけてる場合じゃねぇから!

 

「……雪ノ下」

 

……返事がない。

 

あれ…?ホントに屍ですか?

 

「…?…雪ノ下?」

 

 

……返事がない。というか微動だにしない。

あの、研くんはね…無視に弱いんだ…なんか泣きたくなってきたよ。

 

いやいや諦めるな俺!多分、そう、声が小さかったんだよ!

 

次は少し大きめにすれば!

 

「おい、雪ノ下!」

「はわぁい!」

 

ええ!そんなに驚くの!?

本当に気づいてなかったのかよ。目の前にずっと立ってたんだけど?

俺ってそんなに影薄いんですかね?

 

「…って……鎌ヶ谷くん?」

 

あ、よかった。一応知っててはくれてるんだ。

 

「そうだ。俺を知ってるなら話は早いな」

 

ここで、前の席の鎌ヶ谷です…なんて自己紹介しなきゃいけないなんて嫌だからな。

 

「それで…話って何かしら?」

 

おお、さっそく本題に行くか。いいね、分かってんじゃん!

 

「ああ、これは雪ノ下にしか言えないんだが……」

「私にしか…?」

 

あ、でも…ここだと場所が悪いか。よし、ここは学生らしく場所を変えるか!

 

「そう。これから一緒にカフェに行こう」

「……え?」

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

カフェに着いて席に座ったまでは良かったものの、俺は思った。

 

そういえば俺って学生は学生でも、小学生だってこと忘れてたわ。

 

やばっ…カフェに一緒に行くのくらい普通かなって思ったけど、小学生だけで店利用するのって違和感しかないんですけど。店員さんが向けてくる目もなんか怪しいんですけど。気のせいだよね?俺の自意識過剰だよね?

 

「…………」

 

ていうか雪ノ下ちゃん道中ずっと無言だったわ。

そりゃそうだよな、いきなりカフェに行こうなんて何言ってんだって感じだよね!いまさら気付いたわ、めんご!

 

「雪ノ下は何飲む?」

「えっ…あ…その…紅茶で…」

「…ダージリンでいいか?」

「ええ、それで」

 

紅茶か。

俺はブラックコーヒーがいいんだけど、小学生にはまだ早いって言われるし、身長伸びないって言われるし俺も同じのにしとこ。

 

呼びボタンを押して、俺は紅茶を二つ注文した。もちろんお金は俺が払うつもりだ。誘ったのは俺だしね。

 

「…その、貴方も紅茶…好きなの?」

「ん…?ああ、まあそうだな」

「そ、そうなの…」

「…………」

「…………」

 

…それだけかいっ!!

なんだよ〜そう言われると続きあると思っちゃうじゃん!

 

いいや、さっさと本題に入ろ。

 

「お前って頭良いんだろ?」

「…なんでそんなこと聞くの?」

 

まあそうなるよね。まあ、それっぽく言えばいいか。

 

「俺って転校したばかりだから、まだ今の学校の勉強の状況が理解しきれてないんだ。先生が聞いたら雪ノ下は勉強出来るって言っていたからな。出来れば教えてもらおうと思って」

「でも鎌ヶ谷くんって、私よりテスト良かったわよね?」

 

は?なんで知っ…ああ、先生から聞いたのかな。

そういえば言ってたな。俺は99で、この子は98って。

 

「ほとんど差なんて無いだろ」

 

一点の差なんて大したことない。満点じゃなければ、俺にとっては意味のないものだ。

だが俺の一言を聞いて、彼女は少し顔をしかめた。

 

「でも私は貴方より下なのよ」

 

もしかして…この子ってめっちゃ負けず嫌いなのか?

 

「俺だって100点取り損ねたんだぞ」

「私だってもちろん100点を取るつもりだったのよ…!いつものように…!」

「いつも?」

「っ…そうよ。私はいつも一番だった。なのに…」

「今回は違ったと?」

「……ええ」

 

おお!この子って、俺と同じくらい勉強頑張ってんだ!すげー、ある意味イカれてんな!いやぁ、声かけて良かったわ。これだけ勉学に勤しむ小学生がいようとは!この子と一緒に勉強すれば、満点とり続けられるんじゃないか?

 

「じゃあさ、俺と一緒に勉強しないか?」

「え……?」

「俺と雪ノ下が一緒にやれば、より確実に満点取れるだろ?」

 

この子なら効率が良いってすぐに察せられるし、これは乗ってくれるだろ。

 

「……嫌よ」

 

……んんんん??

 

「……鎌ヶ谷くんも、葉山くんと同じようなこと言うのね」

 

葉山……?あー、そんな奴がクラスにいたような。

 

「私は…みんなと一緒にって考えが嫌いだわ。完全に否定するつもりもないけれど、なんでも共有することが良いことなんてそんなの間違ってる。一緒に何かをすることは悪ではないけれど正義でもない。だというのに一緒にやることが善いことって思い込んで、押しつけて、取り込もうとして、そこに入ることを拒否すれば、空気を読めないと敵視する。勝手な考えで迫ってきたのはそっちなのに、こちらの考えは都合のいいようにしか受け取らない。そんな偽善者のかたまりよ。貴方の考えもそれと同じようにしか聞こえないわ」

「……………」

「…あっ……鎌ヶ谷くん…その……」

 

 

 

 

 

 

……かつてこれほどまでに語る小学生がいただろうか。

 

いや、いない。はんご。

 

まさか「一緒に勉強しようぜ?」で「集団とは?」みたいな考えを語られるとは思いもよらなかったわ。

なんかホント今日はイベントチックなこと多いな。

 

この子言っていることは言葉足らずだと思うけどすごく理解できる。

でも俺は少し苛立っていた。

自分もその偽善者の一括りにされたことに。

 

「雪ノ下の考えはわかった」

「あ、その、ごめんなさい…勝手なことばかり…」

「いや、雪ノ下の言いたいことも、その気持ちも理解できる。だいたい集団っていうのはエゴの塊。同じ考えを持った集まりなんだから、必然と考え方が偏るだろうし、客観視すればそれは偽善に写るだろう。俺も嫌いだ」

「………」

「だからといって、俺もその偽善者と同類にされるのは我慢ならない」

「…そ、そうよね。ごめんなさい」

「分かってくれればいいんだ。第一、雪ノ下は多分、そういう連中に嫌な目にあわされたんだろう?」

「…わかるの?」

「だって凄い苦しそうな顔してるぞ。誰でも分かる」

「……鎌ヶ谷くん」

 

あ、俺も語りっぽくなった…恥ずかし!

 

「だけど一緒に勉強するの、そんなに嫌だったか?」

「嫌なわけじゃ無いわ」

「理由を聞いても?」

「………強いて言うなら、私のくだらない意地よ」

 

意地ね……。

 

「そうか…」

「ええ。本当に、本当に誘ってくれて嬉しいけれど…」

「意地はすぐに無くせないからな。俺もそうだから仕方ない」

「鎌ヶ谷くんも?」

「ああ。一人で全てやり遂げてやるって考えてた。でも今回しくじって思ったんだ。なにかを犠牲にしないと、我慢しないと今後も同じ失敗をするってな」

 

もう友達なんていらないって思っていた。理由を突き詰めれば、それは俺が傷つきたく無いから。転校すると伝えただけで、一年間の友情が露と消えた。それがトラウマになっていた。

 

それが他人との会話を断ち切っていた理由。簡単に切れる友情なんてむしろ邪魔だ。

 

「犠牲?なにを犠牲にしたの?」

「……俺のくだらない意地だよ」

 

でも人は一人じゃ限界がある。だから俺はもう誰とも関わらないという意地を捨て、傷つく覚悟でこの子に話しかけることにしたんだ。

 

「…そう」

 

そう言って、うつむいて黙り込んでしまった。

 

はぁ、こりゃ失敗かな。

俺に勉強の情報を流してくれるかもって期待したんだけど……そう上手くいかないか。頑張って適当なこといっぱい喋ったのに。なんか気疲れしちゃったなぁ。時間も無駄になったし。

 

お、ちょうど注文した紅茶が来た。

 

コレ飲んだら帰ろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

私が鎌ヶ谷くんに「好意」と「敵意」の両方向けた理由がようやく分かった。

 

私は、私の理想を見ていたのだ。

孤高でありながらも、周囲に認められ、脅かされることのない道を作り出せる彼の生き様に憧れと嫉妬を抱いたのだ。

姉さんとは違う。仮面を巧みに使い分けるのではなく、仮面一つで人を魅了する…それは持って生まれたモノで、私には決して真似できない個性。

 

羨ましい。

私がいくら足掻いても手に入らないもの持っている彼が羨ましい。

 

 

 

だから最初、私は彼を拒絶した。

彼に無理やり「葉山くん」の影を重ねて、溜まっていた怒りとありきたりな言葉を並べて、彼の頼みを断った。そうしなければ私はまた彼に負けたことになるという“意地”で。

 

それがまちがいだった。

彼は私の言い分を非難せず、理解を示してくれた。まるで優しく寄り添うように。

 

私に残ったのは、罪悪感と後悔…そしてくだらない意地だった。

 

素直に「やっぱり一緒に勉強したい」その一言が言えない。

言えば彼は受け入れてくれる。他の連中のように「いまさら何言ってんの」なんてあざ笑ったりしないと分かってるのに。

 

そんな私に、鎌ヶ谷くんは察するかのように言った。

「意地はすぐに無くせないからな。俺もそうだから仕方ない」

彼は続けて言った。変わるためには犠牲が必要だと。

 

そして彼が捨てたのは、私が捨てられない“くだらない意地”だった。

 

「…そう」

 

私の中で衝撃が走った。

今自分は彼に近づける場所にいるんじゃないか、と気付いて。

 

今の彼があるのは意地を捨てたから。

なら私もここで意地を捨てて素直になれれば彼へ一歩踏み出せる…そう思った。

 

「お待たせしました。紅茶になります」

 

気づけば、店員が注文したモノを運んできていた。テーブルに紅茶の香りが漂う。

 

「じゃあ、コレ飲んだら帰るよ」

 

そう言って、鎌ヶ谷くんは紅茶を飲みはじめる。

 

(帰ってしまう…?)

 

ここで話が終われば、多分二度と彼と話す機会は訪れない。それだけははっきりと直感で分かってしまった。

 

「か、鎌ヶ谷くん!」

「っ…!どうした、いきなり声あげて?」

 

言わなくては。

一歩、踏み出さなければ。

 

「私…やっぱり貴方と一緒に勉強したい!」

 

初めて私は…自分の“本音”を見つけてつかみ取った瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

え?この子いきなりどした?

 

やっぱり…一緒に勉強したい?

 

 

 

 

 

 

 

なんだよ〜〜!ならさっさと言えよぉ、もったいぶりやがって〜!

 

「考え、変えてくれたのか?」

「…ええ。私、素直になることしたの。私は鎌ヶ谷くんと一緒に勉強したい」

 

素直……?ああ、まあ素直なのは大事だよね、うん。

 

ちょっと何言ってんのか分かんないけど。

 

「そうか。じゃあ、これからよろしくな」

「…っ!ええ。ええ…!よろしくお願いするわ」

 

すげー都合のいい子だね、雪ノ下ちゃん。うんうん、頑張って喋った甲斐あったよ〜マジで。そんなに勉強したいなんて嬉しいなぁ。

 

ホントに君には“それ”しか求めてないから、気が楽でいいや。

 

こういうのは一人いれば充分だからね。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「今日はもう5時過ぎだし、明日どうするか話そう」

「ええ、鎌ヶ谷くんがそういうなら私はかまわないわ」

「ありがとう。じゃあ、また明日」

「ええ、また明日」

 

私は意地を張るのをやめたことで、やっと手に入れた。

 

 

 

 

 

 

私の本当の気持ちで、勇気で、行動で…

 

 

……本当の“友人”を得たのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………

 

 

 

こうして繋がりを求めない彼は価値を、プライドを捨てた彼女は繋がりを手にいれた。

 

 

 

 

 





結構な間を開けたうえ、駄文で失礼。
機能使うのめんどくて“”とか多用しててすみません。今のスマホだと機能すごい使いづらいんです。許してくだせぇ…。

原作(うろ覚え)で雪乃は姉から「雪乃ちゃんに自分なんてないでしょ?」って言われてたので、なら小学生の時点でそのコンプレックス消してやろって感じです。
雪乃だって本当にやりたいことを見つけられるんだから!みたいな?
でも何かを消したら消したで、また代わりの違うモノが生まれるのが世の摂理ですよね……なにが生まれるかな?ふふふっ。

てか小学生のテストから、こんな話を書くことになろうとは…
話の筋を通そうとはしてるんですけど、これは通ってるのだろうか?と不安だらけですわ。

次回で雪乃編終わり予定です。
その後ちょっと八幡挟んで、やっと原作って感じです。

感想、評価、出来たらお願いします。(`・ω・´)


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こうして彼の大切なものに、雪ノ下 雪乃は救われた。





そういえば主人公に妹いたなとおもって書いたら、雪ノ下編が今回で終わらなくなってしまった。嘘ついて申し訳ない。

会話多めにすると、すぐに長くなっちゃう。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日。

 

俺はいつも通り登校し、いつも通り授業をうけ、いつも通り話しかけられても二言でことを済ませていた。なんの変わりばえのない日常。

 

ただ一つ、変化があったとすれば…下校する時に雪ノ下ちゃんに話しかけるようになったことだ。

 

「雪ノ下、昨日の続きいいか?」

 

帰りの会が終わった途端、俺は振り向いて、そう彼女に話しかける。

 

「え…!も、もちろんいいわ」

 

……なんか戸惑ってる?なぜに?なんだか声も小さいし…。

 

まあ、気にすることでもないか。

 

「そうか。なら校門前で待ってる」

「…分かったわ」

 

よぉし!これで俺の勉学に隙はもうないぞ!

 

 

 

 

 

は?ぼっちが隙だろって?

そのネタにはもう飽きたよ!確かに変わらずぼっちだけどよ!

コミュ障じゃなくなったんだから、俺だって成長してるだろ?そうだろ!なぁ!

 

 

 

 

 

………一人で何考えてんだ。なんか虚しくなってきたわ。早く行こ。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

迂闊だったわ…。

忘れていたとも言えるけれど。

 

鎌ヶ谷くん本人は気づいていないかもしれないが、彼は人気者だ。そして彼は誰とも最低限の会話しかしないと知られている。そんな彼が、いきなり私に話しかけるなんて異常なのだ。

 

加えて私は……。

 

「ねぇ、いまの聞いた?鎌ヶ谷くん、アイツに話しかけてたわよ?」

「なんでアイツなんかに!ただ可愛こぶってるだけの勉強しか能のないやつなのに!」

「…明日、どうしよっか?」

「そうだね。いつもより必要なんじゃない?」

「さんせー!調子のってる罰だよね!」

 

 

はぁ……明日がホントに楽しみよ。頭が痛くなってきたわ。

今日は持って帰る私物が少なくて良かった。

 

かさばる荷物は、上靴くらいかしら…。

 

気にしてもしかたないわね。早く、鎌ヶ谷くんのところへ行きましょう。

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

鎌ヶ谷くんは校門に背もたれて待っていた。

彼は携帯を手にしてた。鎌ヶ谷くん、もう待ってるのね。

 

彼が持ってるなら、私もお願いしてみようかしら。

 

「待たせてしまったかしら?」

「…ん?いや。それより早く行こうか。時間が惜しい」

 

熱心ね。素直に凄いと思うわ。本当に敵わないくらいよ。

 

「そうね。それで、どこで勉強するの?」

 

勉強するにしても場所がまだ決まってない。多分、彼のことだから無難にカフェとかかしら?昨日は奢ってもらったけれど、今回は大丈夫なのようにお小遣い持ってきてるから準備は万端よ。

 

「ああ。雪ノ下が良ければ俺の家でやろうと思うんだが」

「か、鎌ヶ谷くんの…いえ…?」

 

想像を二段超えてきた。

も、もう……私を家に招くの?

 

「そ、それは…早すぎるわ」

「ん?なにが?」

「だって…私は女子よ?」

「そうだな。それが?」

「だって異性をいきなり家に誘うなんて」

「……ああ。そういうことか」

 

ほっ……よかった。分かってくれたのね。

いきなり鎌ヶ谷くん家に行くなんて……すぐに心の準備がすぐに出来ないわ。

 

「心配するな。両親はいないけど、妹はいるから」

「……いや、そういうことじゃないのよ?」

「ん??小学生なら異性とでも普通に遊ぶんじゃないのか?」

「誰がそんなことを?」

「昔はそうだったけど?」

「え?昔…?どういうこと?」

「……あっ、すまん。俺の両親が昔はそうだったって言ってたから」

「そ、そう。なるほどね…」

 

私が気にし過ぎてるのかしら……?

クラスの女子たちはこういう話でよく盛り上がっていたから、男子の家に行くのは特別なものだと思っていたのだけれど。

 

まあ、所詮は下衆達の話…ということなのかしら。

 

それなら鎌ヶ谷くんに賛同するほうがいいわね。

 

「分かったわ。なら行きましょう」

「ああ。場所は結構近いから…」

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

徒歩5分で着くなんて…本当に近かったわね。

 

「ただいまー」

「お、お邪魔します…」

 

緊張する。けれど、それより好奇心が勝る。

鎌ヶ谷くんの家の匂い。いい匂いがする。二階建ての一軒家で、玄関から見渡す限り、掃除も行き届いている清潔感ある感じだ。

 

「おかえりー!お兄ちゃん!」

 

奥から女の子の声がした。彼が言っていた妹さんだろう。

タッタッタッ…とこちらに走ってくるのが分かった。

 

「遅かったね!お兄ちゃ…だれ?」

「ただいま、玲那。この人は俺のクラスメイトで雪ノ下って言うんだ。一緒に勉強しようってことになってな」

 

か、可愛いわ…!

セミロングの黒髪、瞳も大きいし…これは将来すごい女性になるわ。それこそ、見た目なら姉さんと張り合えるくらいに。

 

「…雪ノ下 雪乃です。お邪魔するわね、レナさん」

「う、うん。よろしくお願いします、雪ノ下さん」

「ふふっ…礼儀正しいのね」

「あ、ありがとございます」

「ははっよかったな、玲那」

「うん!」

「っ…!?!?」

 

 

 

鎌ヶ谷くんが……笑った?

喜ぶレナさんも可愛かったが、鎌ヶ谷くんの笑顔はそれを遥かに凌駕していた。なんで普段から笑わないのか分からないくらい。いつも笑顔でいれば、いまの3倍はモテると思うのに。

 

いや、彼のことだから…そういうのが鬱陶しくて会話を二言で済ませてるのかもしれないわね。

 

「それじゃあ、雪ノ下。俺の部屋に案内するよ」

「え、ええ。分かったわ」

 

そうよ。私はあくまで勉強をしにきただけなんだから。

 

彼の部屋は二階のつき当たり、部屋はとても整っていた。ゲーム機や漫画などは見当たらない。もしかしたらクローゼットの中にあるのかもしれないが、勉強熱心な彼だから持っていないのだろう。

 

私は彼に言われるがままクッションの上に座り、机に勉強道具を広げた。

 

ただ、気になることが一つ。

 

「えっと…レナさんも一緒に勉強するのかしら?」

「うん!お兄ちゃんと二人きりにはできないから!」

「えっ…そ、そう。お兄さんのこと、大切に思ってるのね」

「うん!」

 

返事は明るくてこの上ないが、なんだかライバル視のようなものが向けられている気がするわ。

 

「悪いな。俺が勉強するとき、よく一緒にしたがるんだ」

「そうなの。ちなみに学年は?」

「レナは2年生だよ!」

「ふふっ、そう。なら中学や、高校も一緒になるのね」

「うん!お父さんとお母さんがそうなれるように毎晩頑張ったって言ってた!」

「玲那…そういうことは家族以外に言っちゃ駄目だぞ」

「うっ…ごめんなさい」

「…………」

 

大丈夫よ、鎌ヶ谷くん。私は聞かなかったことにしたから。

 

「それじゃあ、鎌ヶ谷くん。何からやりましょうか?」

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

ふぅ…結構頑張ったわね。

 

もう18時だから、三時間くらい経ったのかしら。

 

「かなり進んだわね…」

 

やはり鎌ヶ谷くんはすごい。彼の集中力につられて、私もかなり出来た。初めて友人と一緒に勉強してみたが、教えあうというのはとても効果的のようで、レナさんの宿題を教えてあげるというのもいい学びになった。

 

「そうだな。まあ、あの思い出したくないテストの後だし、勉強やれる範囲もぜんぜん広くないからな」

 

思い出したくもないのは私も同じだけれど、鎌ヶ谷くんはよっぽどなのだろう。顔がとても怖いわ…。

 

「雪ノ下さん、ありがと!お兄ちゃんの次に教え方上手だったよ!」

「そう、よかったわ」

「玲那…そうやって人を比べるな。俺はよく見てやってるから、そんなの当たり前だし、お前だって誰かと比べられて違う子の方が良かった、なんて言われたくないだろう?」

「ぅ…ごめんなさい」

「いえ、良いのよ。鎌ヶ谷くんの方が上手なのは、私も思うから」

「えへへ、そうだよね!雪ノ下さん、わかってる!」

「まったく、調子の良い妹なことで」

「うふふっ……」

 

本当に仲が良いのね。私と姉さんとは比べものにならないわ。

 

「あっ、すまん。こんなに付き合わせたのに、お茶も出してなかったな」

「いえ、いいのよ?そろそろ帰る時間だし」

「紅茶飲むくらいの時間はあるだろう?少し待っててくれ」

 

そういうと、彼は一階のリビングへ降りて行った。まったく強引ね。でも時間があるのは事実だし…悪い気はしないわ。

 

「ねぇ、雪ノ下さん」

「うん?なに、レナさん?」

「雪ノ下さんって……お兄ちゃんのこと好きなの?」

「…………え?」

 

…………え?

 

「お兄ちゃんはカッコいいからモテモテなのは確実だと思っていたけど全然女連れてくることなかったから私少し驚いているのそれなのにいきなり連れてきたと思ったら雪ノ下さんみたいな美人さんでどうしようかと思って…」

「ちょっと待って、レナさん。少し落ち着いて」

「あっ、ごめんなさい。なんでもないわ」

 

……なんでもない、は無理があるわ。口調も気のせいか少し大人びてるし…本当に2年生なの?

 

「お兄さんのこと…大好きなのね」

「当たり前でしょ。たった一人の兄よ。それにあんなに優しくて気遣い完璧でかっこよくて勉強もスポーツも万能なんてまるで漫画みたいなお兄様の下に生まれるなんて、こんな奇跡を無駄にできるわけ無いじゃない!」

「お、お兄様…?」

 

どうしましょう…言っている日本語は理解できるのに、内容があまり頭に入ってこないわ。

 

「それで?雪ノ下さんはお兄ちゃんのこと好きなの?」

「別に…」

「ええ!?あんな素晴らしいお兄ちゃんのこと嫌いなの!?」

「いえ、好きよ。でもゆう…」

「えええ!!好きなの!?」

 

なんでしょう、このお決まり感ある面倒なやりとり…。

 

「落ち着いて、レナさん。私は彼を友人として好きだし、尊敬してるだけよ」

「なんだぁ、それならそうと言ってくれれば…」

「さっきからそう言ってるのだけれど」

「……そんなことより」

 

明らかに誤魔化したわね。

 

「どうして、雪ノ下さんはここに来ることになったの?」

「どうしてって……一緒に勉強しようって誘われたからよ?」

「本当に?お兄ちゃんってそうそう友人は作らないの。前の学校でも、お兄ちゃんから聞いたことある友人って一人だけなのよ」

 

前の学校でも……?

 

「でも、本当に誘われただけよ?」

「……怪しい」

「レナさん…私は成績だけが取り柄の女なの。別に、誰かの為に何かをしてあげたいとか考えたこともないような女よ。レナさんの方がよっぽどいい女の子になるわ」

「いい女…!!そ、それほどでもあるかもだけど……」

 

……別にフォローなんて期待してなかったわ。

そんなことないって言って欲しかった訳じゃないわ。

 

……本当よ。

 

『悪い、玲那。ドア開けてくれ』

 

その時、扉越しに鎌ヶ谷くんの声が聞こえた。紅茶を淹れ終わったのだろう。

 

「うん!わかった!」

 

いつのまにかレナさんも明るい女の子に戻っていた。

別に明るく演じなくても充分魅力的なのに、なぜ明るく振舞ってるのかしら…分からないわ。

 

「ありがとう。待たせたな、雪ノ下」

「いえ、レナさんと楽しくおしゃべりしていたから」

「そうか。よかったな玲那、楽しかったか?」

「うん、楽しかった!」

「そうか。ははっ、それは良かった」

 

っ…やはり彼の笑顔はずるい。普段とのギャップだけでなく、そこには学校では見せない兄としての優しさが、あまりにも眩しく、愛おしく見えた。

 

「……そうか。私にはまだ無いもの」

 

そして気づいた。私が彼に憧れを抱いた理由の一つを。

 

彼はなにより家族を大切にしている。だけど今の私には、そこまで想える存在がいない。

 

もし私が彼のような存在に近付きたいのなら、私は自分の大切な存在に気づいて見つけなければならないのかもしれない。

 

「そうだ。この紅茶、結構良いものらしいぞ」

「あら、それは楽しみね」

 

だが私は、今はこの瞬間を噛みしめたいと思う。

 

「レナ、ミルクティーにしてもいい?」

「……ミルクと砂糖持ってくるよ」

「ありがと、お兄ちゃん!」

「レナさん。ハチミツを砂糖の代わりに入れると、なお美味しいと思うわよ」

「ええ!そうなの!………お兄ちゃん?」

「はぁ……分かったよ」

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「別に、送ってくれなくても大丈夫よ?」

「なに言ってる。夕暮れ時は意外と危ないんだ。それに…送らないと玲那にも面目が立たん」

「レナさんにも?」

「……だってあいつと仲良くしてくれたろう?なら送り迎えくらいしないと、あとで言われるからな」

「うふふっ…鎌ヶ谷くん、本当にレナさんを大切に想ってるのね」

「…当たり前だ。替えの利かないたった一人の妹だ。そりゃ大切にするよ」

 

彼も、レナさんもお互いを大切に想ってる…羨ましいわ。私には想える人も、想ってくれる人もいないから。

 

「そうだ。明日も空いてるか?」

「え…?明日も…?いいのかしら?」

「ああ。玲那も喜ぶだろうし」

「そ、そう?なら明日も」

「うん、そうしてくれると助かる」

 

鎌ヶ谷くんはそういうと少しだけ笑った。

やはり家族の近くだと笑顔をよく見せるのだろうか?

 

だがそんな疑問よりも、私の心は嬉しくてたまらなかった。

今日限りの関係ではないこと。そして私を必要としてくれたことが、本当に嬉しかった。私の価値が認められた、そんな感じがして。

 

 

「それと、俺のことは名前で呼んでくれ」

「…っ!な、なぜかしら…?!」

「…なぜ食い気味?いや…玲那が言っててな。雪ノ下が俺のことを苗字で呼ぶたびに少しビクッとするから俺のことを名前で呼ぶようにしてほしい…らしい。よく分からんけど。お前が嫌なら呼ばなくてもいいが」

「い、いいえ…呼んでもいいなら、呼ばせて欲しいわ」

「そうか…?」

「ええ……け、研くん」

「おう。なら俺も雪乃って呼ぶよ。玲那もそう呼びたいって言っていたし」

「そ、そうなの。私は全然かまわないわ」

 

むしろ大歓迎よ。もし家にいたら嬉しくてベッドにダイブしたいくらいだけれど。

 

「じゃあそろそろ行くか」

「ええ、そうね。研くん」

 

うふふっ……名前呼びか。なんだか良いわね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雪ノ下…いえ、雪乃さんかぁ……良い人だなぁ」

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

次の日。

 

私は内心、緊張していた。

昨日の楽しかった一件で忘れられていたが、家に帰ればいやでも考えなくてはならない。あの下衆たちがなにをしてくるか、正直不安でならなかった。こればかりは対処できるようになってきても、あまり慣れるものではない。

 

「……もう来てる」

 

下駄箱を見れば、クラスメートの半分以上が来ていた。

 

嘘…まだ8時になったばかりなのに。

 

私は恐る恐る自分の下駄箱を確認する。以前はここにゴミや泥、ひどい時は虫とか入れられていたこともあったが……良かった。問題ないようだ。

持ち帰っていた上靴を履いて、下駄箱に外靴をしまう。

 

……次は教室だ。

急に足取りは重くなった。私が教室に入ったら静まりかえる…みたいなことが多々あった。……はぁ、気分が重いわ。

 

「………?」

 

教室に近づくと、ずいぶん騒がしいことに気づいた。何かあったのかしら?

 

私は静かに教室に入った。

何人かの視線を感じる。だがそれも一瞬のこと。その視線はすぐに別へ向けられる。教室は騒がしいままだ。

 

とりあえず一安心といったところでしょうかね。

 

「おはよう、雪乃」

「え、ええ…おはよう。け、研くん」

 

席に着くと彼が挨拶して来た。

彼が自分から挨拶するの、初めて聞いた気がするわ。彼の声もあまり大きくなかったおかげか周りにも聞こえてないみたいだし…アイツらの話のネタにはならなそうね。

 

……よし。机も異常はないみたいだし、椅子も大丈夫。

 

なんだか……意外と平和に1日を終えられそうな気がするわ。

 

 

……………………

 

……………

 

………

 

 

 

……本当に平和だった。びっくりするぐらい何も無かったわ。

なんだか拍子抜けね…まあ、毎日こうであってくれるなら、私も本意だけれど。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

次の日。その次も、その次の日も。そしてその次の日も、私に何かしてくるものはいなかった。

 

私は学校が終われば研くんの家へ行き、勉強して、レナさんともお喋りして、研くんに送ってもらいながら家へ帰る。休日はたまに玲那さん…いえ、玲那ちゃんに遊びに誘われるようにもなった。

 

 

 

私にとって少し前まではありえないことが、すでに日常に変わりつつあった。

 

 

それと同時に私の心の傷は……研くんと玲那ちゃんに埋められて、癒されていったように思う。

 

 

 

 

私はいつからか、願うようになった。

 

 

 

どうかこの関係がいつまでも続くようにと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

雪ノ下ちゃんと勉強した次の日の朝。

 

俺は珍しく早めの登校をした。別に理由があったわけじゃない。ただなんとなくだ。強いて理由をつけるとすれば、玲那の早起きにつられて俺も早く起きてみたくらいかな。

 

まだ7:30過ぎか……学校開いてないんじゃい?

あれ…?もう開いてる?マジか…先生も暇だなぁ。開けんの早すぎでしょ。前世の俺の小学校なんて開くのはキッカリ8時だったけどなぁ。

 

 

 

ん…?なんか下駄箱…泥臭くね?

 

あれまぁ……俺の上の段の下駄箱に泥入ってるんですけど。うへぇ…汚ねぇ…。

 

ってああ!俺の方にまで泥跳ねてんじゃん!

 

マジかよ!ふざけんてんなぁ〜、誰だよやった奴!

 

とりあえず、近くに用具ロッカーあったから綺麗にしといたけど。ふっ、俺の掃除スキルが無駄に発動しちまったぜ。ついでに上の下駄箱もな。

 

チッ…まあ俺の方に泥が直接入ってた訳じゃねぇし、水に流してやるか。泥だけにな!

 

 

 

 

…………なんにも上手くないや。教室行こ。

 

 

 

 

え……?もう誰か来てんの?

 

「よぉし、泥ぶち込んでやったし。次、どーするぅ?」

「やっぱ、久々に着てない机いじってやろっか?どうせ何したところでアタシたち疑われないし」

「そうだねー!じゃあ油性ペンよーい!」

 

は?おいおいおいおい………お前らかよ、泥詰めたの?

 

それに加えて………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………俺の机に腰掛けるなんて、いい度胸してんなぁ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とりあえず静かに写メっとこ。

 

「なぁ、そこの三人」

「……えっ!?鎌ヶ谷くん!?」

「ど、どうしたの?早いね!」

 

んなこたぁいいんだよ。

 

「俺、座れないんだけど?」

「え…?あ、ああ!!ご、ごめんね!」

「そ、それじゃあ」

「し…失礼しましたぁ〜」

 

 

………。うん、これでよし。

 

 

にしてもアイツらかぁ、泥ぶち込んだの。

 

あれって誰の下駄箱だったんだろう?まあ、誰でもいいや。問題なのは、俺にも被害があったってことだ。

 

………そうだな。せっかくだし、男子どもにこの話流してみるかぁ。いつも話しかけてくるやつらいるし、俺がやられたって言ったら効果あるかな?

 

 

…………………………

 

…………………

 

…………

 

 

 

結果。予想以上に効果的だったようです。笑い。

 

まあ、俺に手を出したのが運の尽きだ。自業自得だよ。

 

キリッ…!

 

 

 

 

 

 

あの三人、めっちゃみんなから色々言われてるけど、やっぱやり過ぎだったかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして彼の大切なものに、雪ノ下 雪乃は救われた。

 

 

 

 

 

 

 








気付かぬうちに事を成す。みたいな。

早起きした妹に感謝だね!



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葉山 隼人はそれでも変わらず、彼女だけが答えを得た。

感想、評価、お気に入り…ホントにありがとうございます!!マジで嬉しいです!!
ええ、頑張りました。止まってた期間の反動かな?
でもすみません。また悪い癖が出ちゃいました。
そういえば葉山くん一回くらいだそっかなって思ったら、葉山がほぼメインになっちまいました。てか葉山くんの「僕」と「俺」の区別が適当なった感あります。

俺、そこまで葉山くんのこと好きでも嫌いでも無いのに……どうしてこうなったんだろうね(白目)




 

研くんと交流するようになって、数ヶ月が過ぎた。

 

 

あの辛かった時期も思い出に変わりつつある。彼と話すようになってからは毎日が楽しい。過ぎていく日々が色鮮やかに見えるようだ。

いや、それは言い過ぎかもしれない。私は研くんに対して少し贔屓しているところがあるのは自覚している。だからこれも無意識に誇張している部分があるのだろう。

 

それでも私の毎日にいてくれるのは研くんと玲那ちゃんだけだ。それが寂しいなんて思わない。だって二人は私を本当の意味で見てくれるからだ。

玲那ちゃんとは何度も遊びに行ったし、私の好きなパンさんを好きになってくれた。研くんとは勉強に励みながらも、たまにゲームだったりもしている。多分、彼と出会ってなければゲームなんてせずに人生を終えたかもしれない。…流石に大げさね。

彼はゲームなんて持ってないと思ってたけれど、クローゼットにかなり数がしまってあったわ。やはり思い込みや印象だけで決めるのは早計ね。

 

 

 

 

ただ一つ、いまだに気がかりなことがある。

最近、私に対していじめが全くなくなったことだ。

もちろん嬉しいことではあるけれど、それにしても急に無くなるなんて…少し不気味に感じる。

 

加えて最近、尊敬されているんじゃないか、と思ってしまうことが多々ある。やたらと勉強や運動のことで褒めてくれたり、教えてほしいなんて言ってくる子もしばしば。

かつて私が求めていたものが、今になって手に入ったような錯覚に陥ってしまいそうだ。

 

これも……彼の影響なのだろうか?

 

「雪乃、そろそろ行こうか」

「そうね、行きましょう。テスト、近いものね」

「ああ、今回は自信しかない。お前のおかげだ」

「それと玲那ちゃんもね」

「フッ、そうだな…」

 

彼は私の前で少しだけ笑ってくれるようになった。それが信頼の証に感じられて、たまらなく嬉しい。

 

もしかすると、私は……いや、それはおこがましい考えね。

 

彼と大切に想いあえる関係なれたら……なんて。

欲張りね、いけないことだわ。

 

さあ、今日はどこまで勉強捗るかしら。

 

 

 

 

 

「なんでアイツが……」

 

葉山くん…?

 

気のせいかしら?

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

3日後のテスト当日。

テストが終了し、放課後になっていた。

 

「うん、我ながら完璧だわ」

 

研くんと勉強した成果は余すことなく発揮されていた。そう自負できるほど、今回のテストは自信がある。

 

「雪乃もそう感じたか?」

「ええ。研くんも?」

「ああ、前回の方が難しかったくらいだ」

「それもそうよね。研くんの場合、前は状況が悪かったわけだしね」

「本当にな。今回は雪辱を果たせたって気分だよ」

「まだ採点すらされてないのに、そんなに自信持って大丈夫なの?」

「見直しする時間はかなりあったからな」

「ふふっ、研くんなら抜かりはないんでしょうね」

 

彼に油断という文字はない。物事を客観的に見て、あらゆる無駄を削ぎ落とし効率よく事を進める彼であれば、文面に起こされた問題など肩慣らしにもならないはずだ。

贔屓目せずにそう思えるのだから、彼は本当に優秀だと思う。

姉さんと張り合えるのは彼くらいでしょうね。もっとも研くんに姉さんをあわせるつもりはないけれど。

 

「うん。テストも終わったことだし、今日は久々に玲那といっしょに遊びに行こうかな。雪乃も来るだろう?玲那のやつ、お前のこと姉のように思ってるからな」

「ふふっ、光栄ね。もちろんご一緒させてもらうわ」

「そうか、ありがとう。じゃあ、俺トイレ行って来るから、戻ってきたら行こうか」

「分かったわ。待ってる」

 

彼はそういって教室から出ていった。

教室にはもうほとんど生徒はいない。みんなテストと終えた開放感でさっさと家に帰ってたか、遊びに行ったのだろう。

 

クラスでは、私と研くんが会話するのを不思議に思う人はもういなかった。加えて彼も、以前よりは会話をするようになったため、彼が話すこと自体、不思議と捉えられなくなっているからだろう。

 

「あら…?」

 

その時、ふと葉山くんの席に目が止まった。

いつもなら気にもしない、したくもないはずなのに…なぜか目を止めてしまった。

 

どうして…?

 

…そうか。葉山くんはいつもならクラスメートたちと帰ってるはずだから、鞄があるのが不自然に感じたのね。他の生徒はもうほとんどいないのに、葉山くんだけいるなんてあまり見ないもの。

だとしたらどこに行ったのかしら?

 

「まさか研くんと…?」

 

でも葉山くんは彼とほとんど面識はない。ただのクラスメート、それだけだ。会話するところだって想像に苦しい。

だが研くんなら、もうそろそろ戻ってきていていても良い頃合いだ。

 

「行ってみましょうか…?」

 

なぜか…心配と不安が私の中で湧き上がっていた。

というのもこの所、葉山くんの様子がいつもと違うように感じていたからだ。

私が葉山くんと話したくないというもあって目を向けないようにしていたが、時折、葉山くんは私を見ている気がした。自意識過剰だと気にしないようにしていたが、今思えばそれは…

 

「研くんを見ていたのかも…」

 

最近の私はずっと研くんの近くにいる。当たり前だ、大切な友人なのだから。そして彼が他人の目を引くのはいつものこと、その程度に思っていた。

だがそれは勘違いで、葉山くんは研くんも見ていたんじゃないか?それじゃあ、私が葉山くんに感じていた違和感はなんなのだろうか?

 

「……葉山くん、まさか怒っていたのかしら」

 

葉山くんが怒ったところを私は見たことがない。

しかし葉山くんが彼を見ていた時の様子は、思えば怒っていたように感じた。

 

『なんでアイツが……』

 

でも温厚な彼が、問題を起こしていない研くんに怒るなんて、辻褄が合わない。けれどなぜか…私は、この考えが間違っているようには思えなかった。

 

「研くん……!」

 

研くんがいる場所へ私は駆け出した。

私が感じていた不安は、今の日常に亀裂が生まれてしまうんじゃないかという恐れだったのだ。

 

葉山くんがなぜ研くんに怒っているかは分からない。

でももし衝突すれば、私と研くんの繋がりに何がが生じるかもしれない。

 

それだけは止めないと!

 

トイレの場所は遠いといっても、遠目で視認できる距離。しかし廊下を曲がったところにあるので、近くまで行かないといるかは分からない。

 

 

 

そして……

 

 

「君はどうして嘘をついたんだい?」

「何の話だ?」

 

近くまで行った私は “時すでに遅し”

 

その言葉が一番似合っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

はぁ〜〜〜スッキリした。

テストに集中し過ぎてトイレ行くの忘れてたわ、危ない危ない…。

にしても雪ノ下ちゃん、本当にいい子だなぁ。妹の相手もしてくれるし、勉強でも役立つし、ゲームでも対戦相手になってくれるし。やっぱ友好関係って大切だな、うん。

 

よし、手も洗ったし…さっさと教室に戻ろっと。

 

「なぁ、鎌ヶ谷」

「…ん?」

 

んーと、この爽やかイケメン風な男子は誰ぞ?

 

「誰?」

「……同じクラスの葉山だ。覚えてないか?」

「葉山……あー、葉山ね」

 

そういえば雪ノ下ちゃんがそんな名前を言っていたような。

 

「覚えてないならかまわないよ。僕も、君のことを覚えていたい訳じゃないしね」

 

おうおう覚えてるって言ってるだろ明言はしてないけどよ、なんだか挑発的だな爽やかイケメンさん。

こちとらアンタくらいイケメンだったらって思ったこと何度もあるんだから、そんなこと言われると妬み嫉みで激おこ二乗しちゃうぞ?

まっ、小学生相手にそこまで怒るわけないけどさ。

 

「…で、何?」

「君はどうして嘘をついたんだい?」

「何の話だ?」

 

主語がねぇだろ、主語が。国語で文章のこと習わなかったか?

 

「ああ、すまない。僕もあまり穏やかじゃいられなくてね。僕が言ってるのは…なぜ自分の下駄箱に泥を入れられていたって嘘をついたんだって聞いたんだ」

「泥…?ああ、それのことか。別に嘘じゃない。証拠もある。見るか?」

 

あの下駄箱うんぬんのことか。実はしっかり現場写メってたんだな、流石俺!

 

ホラ、しかとその目ん玉に焼き付けな!この証拠をよぉ!

 

「……ほら、嘘じゃないか」

「何言ってる?ここ、ちゃんと泥ついてるだろ」

「確かに君の“上の段”のにはね。でも肝心の君の方には言うほどついてないじゃないか。それなのに君が被害者面しているのが理解出来ないんだ。僕は聞いたんだ、君がクラスの何人かに“あの三人に自分の下駄箱に泥を入れられた”って今と同じように写真を何見せて噂を流したんだろう?」

 

お、おう。言ってる意味がよく分からんぞ。俺ガチで被害者なんだけど。

 

「随分と歪曲した考えだな」

「僕の言っていることがまちがってると?」

「ああ、そうだ。泥が多かろうか少なかろうがそのせいで俺の下駄箱は汚れたし、上靴にも汚れがついた。不快に思った。この時点で俺は被害者だ。

そして噂を流したと言ったが、俺はそんなの誰にも頼んだ覚えはない。俺は話の話題を振られたから、振ってきた奴に答えた。そして俺が話したことを勝手に違うところで話した奴がいた…ただそれだけだ」

「そんなの屁理屈だ…!」

 

いやいや、何言ってんの?

 

「馬鹿を言うな。全て事実だ。俺が嘘つく理由がない。それにこれはもう数ヶ月前に終わったことだ」

 

それが現状だ。なのにいきなりこのイケメンくんは今さら、いちゃもんつけて来て…全く何なのかね?文句言うにしたってもっと早く言えよ。

やっぱごめん、それも面倒だからやめて。

 

「ふざけるなよ…!だったらお前はあの三人を前にして同じことが言えるのか!?」

 

おお!?…いきなり大きな声出してどした?

 

「三人?」

「…おい、お前は馬鹿にしているのか!?君が犯人に仕立て上げた女子、三人のことだ!」

 

ああ、アイツらね。んぅ……ダメだなぁ。なんで俺ってどうでもいい奴のことすぐに忘れちゃうんだろうな。

でもさアイツら結構悪どい顔してたよ?自業自得じゃね?

 

「俺は奴らを前にしても同じこと言えるけど、それが?」

「………本気で言ってるのか?」

「二度も言わせるな。なんなら証拠、見せようか?」

「証拠…?」

「そうだよ。その三人が犯人だって証拠」

 

俺、アイツらが俺の机に座ったのが許せなくて写メったけど、実はあの時、間違って録画してたみたいでさ。その時の音声残ってたんだよ。いやー消さないで良かった。

なんだか展開良すぎてご都合主義みたいだけど気にしない、気にしない!

 

だって悪いやつが悪いんだもん。(迷言)

 

「そんな…っ」

 

聴いたか?

この2分23秒の決定的瞬間を!そろそろ分かってくれたかな?

いつも一つの真実ってやつ!

 

「それでも…!度が過ぎたと思わないのか!?」

 

えっ、ちょま、いきなりなんの話?

この決定的瞬間を聞いて言うことがそれ?もしかして会話スキップしたとかじゃないよね?

ていうか度が過ぎたってなにが?

 

「度が過ぎた…?」

「そうだ。あの三人はいじめを受けていたんだ。たまたま俺が見かけて止められたからいいものの、いじめそのものは無くなってない!お前は、彼女たちに申し訳ないと思わないのか!」

 

まったく思わないけど…?

 

「まったく思わないが…?」

「は…?お前に、人間の心はないのか?」

 

その台詞、なんのパクリですか?笑

 

「はぁ……さっきから話を聞いていれば、お前はかなりのお人好しというか、愚か者というか…」

「なんだと…!」

「聞いてる限り、お前はその三人がいじめられてるのが許せない。そしていじめの原因である噂の発端が俺にあるから、お前は俺を問い詰めてる。うん、なるほど…本当に何やってるの、お前は?」

「……どういう意味だ?」

「なんでお前が三人を守ってやらないんだって意味だよ」

「…原因のお前が話して誤解を解いたほうが確実と思ったからだ」

 

こいつ…マジで言ってんのか?

 

「それでいじめが解決するわけないだろ。無限ループだ。いじめの対象が次は俺になるだけ」

「それは僕がさせなければいい!」

「させないって一体何様だよ。こんな手段をとっているようじゃ、お前には無理だ」

「無理じゃない!話せばきっとみんな分かってくれる!」

 

あー……うん。雪ノ下ちゃんが嫌う理由、分かったわ。

 

「しつこいうえに、本当になにも分かってないな。確かにお前のような上位のカーストの存在がやめようと言えばやめるだろうよ…お前の前だけではな」

「…僕の前だけ?」

「まったく呆れるな。気づいてないのか?それとも見ないふりをしてたのか…どっちでもいいけどよ」

 

後で知ったが、前まではあの三人が中心で雪ノ下ちゃんをいじめていたという。そのいじめられ始めた理由も聞いた。

それは彼女から直接聞いた訳じゃないため、多少心が痛む。しかしその話が本当だとすれば初めて彼女とカフェで話したあの言葉の真意がおのずと見えてくる。

 

彼女が「誰かと一緒に」という考えを忌み嫌っていた理由が。

 

「葉山、お前はみんなが全員仲良くなれる方法があるって思ってるだろう?」

「当たり前だ。人はみんな良い心をもっているはずから」

 

ワァオ、こりゃヒドイ。ホントに信じてますよそんな戯言を。

 

「間違ってるよ、みんな良い心を持ってるなんて幻想だ。みんなが持ってるのはそれぞれの心だ。それぞれの心が何が善で、何が悪かを判断する。お前にとっての善意が、誰かにとっては悪意になりうる。それが分かってないんだよ」

 

前世で俺は嫌というほど経験した。だから俺は、葉山のようなやつがどれほど厄介かを理解できる。まさしく偽善者…しかも自覚ないと来た。

 

「でも人の心は一つになれるものだろう!」

「ああ、なれるよ。同じ敵を前にすればな」

「同じ敵…?」

「経験したことないのか?そうだよな…経験していればこんなこと言うはずないか。なら分かりやすく今の現状で教えてやるよ。今のみんなの敵っていうのがあの三人だ。なぜならアイツらは雪乃をいじめていた、さらには俺にも被害を出した。だからあの三人は悪いやつ、だったらみんなで懲らしめてやろう。…これが今のいじめの正体だ」

「どうして…」

「決まってるだろう。悪いことをしたあの三人を懲らしめてやるのが人によっては正義たりうるからだ。お前が人を助けるように、他の連中はアイツらに制裁を加えることが正しいと思うやつがいるってことだ。…まっ遊び半分に参加してるやつのほうが多いと思うがな」

「……っ!」

 

やっと分かってきたか…はぁ、疲れるわ。

 

「もう一つ。例えばお前がボロボロの女の子を助けようと手を伸ばすとする。

だがその行為がお前を好いているキラキラな女の子にとっては羨ましいことこの上ない。なのにその行為を受けたのはボロボロの女の子。

キラキラな女の子は思う。なんで私じゃなくてあの女の子なの?…そしていつしかキラキラな子はボロボロな子に対して嫉妬と敵意を持ってそれは行動へと変わる。これだけ言えば流石に分かるよな、葉山?

これがお前の見てないところで起きるいじめの正体だ」

「……そんな…っ……」

 

打ちひしがれてるねぇ…なぜか無駄にカッコよく!

はぁ、イケメンってホントずるいわ!なにしても絵になるんだからよぉ!

 

「分かったか?分かったよな?…だったら俺はもう行かせてもらうぞ」

 

はぁ、雪ノ下ちゃん…待たせ過ぎちゃったな。

うげっ…もう20分経ってるよ。すごい長ーい大便してるとか勘違いされたらどうしよぉぐっ!?!?

 

………なんだよ葉山くん。手、離してよ。

 

「そこまで言うなら彼女たちを助ける方法教えてくれよ…そんなにも語るんだから、分かるんだろ…!」

 

あ、いやね。お手て震えてらっしゃるところ悪いんですが、俺そんなこと一言も言ったことないんですけど。

 

「…はぁ、俺が言ったのは逆だよ。いじめから完全に助ける手段なんて無いって言ったんだ」

「そんなはずない…!方法は必ずある」

「だったら今頃世界に戦争なんてない。あの三人はまだいいだろう。傷を舐めあえるんだから。

比べて雪乃は一人でその苦しいのに耐えていたんだ。寧ろあの三人は自業自得、因果応報ってことで卒業まであと2年と少し…反省するくらいが丁度いいと思うがな」

「っ!君に人の心は無いのか…!」

 

それさっきも聞いた…。

 

「この世は理不尽なんだよ。正しく測れもないのに善し悪しを判断される。勧善懲悪な世界なら葉山の言うことは実現出来るだろう。でもな…そんなのはヒーローがいる世界だけだ。正しさが悪にされ、嘘つきが善とされる。そんな胸糞悪いのが、この現実なんだ」

「お前は…なんでそんなことを平然と言えるんだ?そんなの、辛いだけだろ…?」

 

なんで平然って…そりゃねぇ…

 

「そういうことばかり見てきたから…だろうな」

 

あー、お前のせいで前世の嫌な記憶を3回くらい巡ったわ。まったく、どうしてくれんだよ。

 

「…そうか。君は、そういう奴なんだな」

 

…あ?今、決めつけた?ねぇ今決めつけた?そういうのが一番ダメって言ったじゃん!ねぇどうしてそういうこと言うの!?(ウザい典型)

 

「分かった。なら僕は…僕なりのやり方で彼女たちを守るよ」

「…まあ、俺の邪魔にならなければ、お好きにどうぞ」

 

なぁんでイケメンってそんな簡単に決意語れるの?言葉に出来るの?関心通り越して恐怖覚えるわ!

 

「いつか君に、僕が間違っていなかったことを証明するよ。じゃあね」

「あっ…そうですか…」

 

って言いたいこと言って帰りやがった!

ええ!?マジでなんなのよ!?時間と精神だけが削られたわ!

 

あっやべ、早く教室戻んないと。

 

「ん……?」

 

あれ…誰かいるのか?

 

………いや、気のせいか。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「雪乃…悪い。遅くなった」

「いえ、良いのよ。お腹痛かったんでしょう?」

「あ、いや…そうじゃなくて、葉山ってやつに話しかけられてな」

「そうなの。けっこうな長話だったのね。もしかして仲良くなれたのかしら」

「いや絶対にないな。アイツとは多分、一生分かり合えなそうだ」

「うふふっ、そうよね。私も同意見よ」

「雪乃もか。俺たち…けっこう似た者同士なのかもな」

「え、そ、そうかしら?それなら…嬉しいわ」

 

ええ、本当に嬉しい。

貴方が私を助けてくれたなんて。偶然だったとしても、私はそれで救われた。でも研くんは決して自分が助けたなんて言わないでしょうね。

でもかまわないわ。それでいいの。私は知ってるから。

次、もしも研くんが困った時は私が必ず助けるわ。それが恩返しですものね。

 

「研くん、そろそろ行きましょうか」

「ああ、そうだな」

 

だから研くん。

私が受けた恩をぜんぶ返すまでは……

 

「今日はどうするの?」

「そうだな。勉強ばかりもあれだし、ゲームするか」

「いいわね、今日は負けないわ」

「雪乃、負けず嫌いだからな…どんな勝負になるか楽しみだよ」

「ええ、私もよ」

 

私の前から、消えないでね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

葉山 隼人はそれでも変わらず、彼女だけが答えを得た。

 

 

 

 

 

 

 




なぜだろう。ゆきのんを書くと、少しでいいから病ませてみたくなるのは。ダメだ。俺の悪い性癖がっ…!

てか主人公コミュ障脱した途端、よぉ喋るなぁ!書いてて引いたぞ!どうしてこうなった!大丈夫なのかこれ!


あと本音言うと、最初はまったくゆきのんとオリ主をくっつける気無かったんですけど……ヤバイ。雲行きが怪しい。

ええいっ!ままよぉ!!(`・ω・´)

あっ、お気に入り、評価、感想あると嬉しいです!


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過ぎゆく日常に、彼女は鎌ヶ谷 研を見つける。

感想、評価、お気に入り、本当にありがとうございます!
感想のおかげで気付いたこともありました。感謝しております!
今回の話は難産でした。1万字超えてしまいすみません。
面白くなっていれば幸いです。






 

 

 

 

時は経ち、五年生になった。

 

私は研くん以外とも友好的に接することが出来るようになっていた。もっとも他の連中は私の表面しか見ていないでしょうから、やはり私が本当に信頼できるのは研くんと玲那ちゃんぐらいのものだけれど。

 

日常に変わりは無い。

奇跡的に研くんとはクラスがずっと一緒だったこともあり、休み時間も毎日が有意義だった。

研くんは私と一緒で読書好きなのもあって、おかげで会話の種は絶えることがない。

前の私では考えられないわね。会話なんてただのコミュニケーションの手段の一つで、苦手なものだと思っていたのに。

 

放課後は一番の楽しみな時間。

特に玲那ちゃんといっしょに料理をするようになったことが最近の一番の楽しみだ。

料理し始めたきっかけは、研くんの両親が帰ってこれない日が続き、彼が「晩御飯のレパートリーに困っている」と言ったのがことの始まり。彼も料理は出来る方ではあったようだが、大まかなものしか作れないらしい。

 

その時は、なんて幸運…そう思った。

自慢ではないが私は料理が得意だ。その得意なことで、彼の役に立てる。まさにうってつけの出来事だった。

 

それからは彼の家で料理を振る舞うのが日課になった。

料理する時は、玲那ちゃんに手伝ってもらいながらお喋りする。話すのはパンさんのこと、研くんのこと、それと…猫のこととか。ほとんどは玲那ちゃんから話を振ってくれる。猫のこと、私から話したことないのに、よく好きだって分かったわね。そんな素振り見せたはず無いわよね…。

 

もし私に妹が出来たとしたら、玲那ちゃんみたいな子が理想よね。率先してお手伝いしてくれるし、お話も上手だし……まあ、無理な話でしょうけど。

 

「悪いな、雪乃」

「いいのよ。私がやりたくてやっているんだから」

「雪姉ちゃん、次はどうすればいいかなぁ?」

「そうね、次は…これを切ってももらえるかしら」

 

研くんに礼を言われるまでもない。むしろこれからずっとしてあげたいと思ってるくらいだわ。

 

「雪姉ちゃん!今日は何作る予定なの?」

「クリームシチューと鮭のムニエルよ」

「豪勢だな…そういえば母さんがいい魚が買えたって言っていたが、それのことか。まったく…最近は特に忙しくて家に帰れていないくせに、食べ物は欠かさず買ってくるんだからな」

「たぶん研くんのお母様は、あなたたちに美味しいものを作ってあげたくて仕方ないんじゃないかしら」

「でも食材があったってな…それを活かせる奴がいないと話にならないだろ。雪乃がいなかったら、今頃ぜんぶ腐ってたかもしれないな」

「そ、そんな…大げさよ。研くんは器用だから、本気でやればすぐに私と同じくらい出来るようになるわ」

「……そうか?」

「そうよ」

「うん、お兄ちゃんなら断言できる!」

「…ま、やるとしても、やらないといけなくなってからでも遅くはないだろう」

「…え、ええ。それでいいと思うわ」

 

少しホッとした。

私が役に立てることが一つ減ってしまうかと思ったから。

でもよく考えればありえなかったわね。やらなくてもいいことを彼はしない。やってくれる私がいるのだから、わざわざ彼が動くことはない。

だいたい…私がやるまでは研くんがやっていたらしいから、その気になれば彼はすぐに料理上手になるわ。

 

「でも雪乃…ご飯作ってくれるのはありがたいけど、家は大丈夫なのか?」

「…ええ。大丈夫よ。理由は言ってあるから」

「そうか。ならいいけど」

 

本当は大丈夫と言い切れない。

研くんと仲良くなって、ほぼ毎日研くんの家に遊びに来ている。

彼の両親がいないこと、彼が毎回誘ってくれること…理由はいろいろあるけれど、本当の理由は私が家にあまりいたくないからだ。

 

私の家も両親がいないことが多い。でも姉さんがいる。

 

かつて憧れていた姉さん。でも今の私にとって姉さんは、厄介な存在でしかない。

研くんの家に通うようになってから、姉さんと話す機会が減った。それ自体が問題なのではない。昔から姉さんは学校から帰ってきた私をよくからかって遊んでいた。その機会が減ったのだから、なにかしらしてきてもおかしくない…そう思っていた。

 

しかし、そう警戒してずいぶん経とうとしている。

なにも言わない、なにも起こさない姉さんに、私は不安を拭いきれない。

 

「……?誰だ?」

 

その時、インターホンの音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

いやーもう五年生ですか。時が経つのは早いなぁ。

 

なんやかんや行事イベントも楽しかったし、人生上手く行ってる感、やっと感じてきたよ。

にしても運動会の時の雪ノ下ちゃんが苦悶する表情…最高だったなぁ。体力無いとは言っていたけど、まさかあそこまでとは。

あれは心配よりも、普段見られない感じへの高揚のほうが勝るわ。一見完璧な人が時々見せる弱点って、ちょっと興奮するよね。あっやべ…その感想は35歳のおっさん感出てるかもな、自重自重…。

 

まあ、そんななんやかんやが終わって…今は雪ノ下ちゃんにご飯作ってもらってる。

 

 

 

……え?状況がつかめない?

 

心配するな、俺もだ。

 

多分俺が、晩御飯どうしよー?って言ったからやってくれてると思うんだけど…にしたってやってくれ過ぎでしょ。

しかもすごいよねぇ、あの子の料理マジで美味いんだもん。ホントに小学生かよ?有能すぎて逆に怖いわ。しかも嫌な顔一つしない。それどころか嬉々としてやってるんだぜ?まさかドえ…む……なんでもないです。(手遅れ)

あっそうか、玲那と話せるのが楽しいのかな?いつも笑ってるし。まあ、玲那も料理が上手になるし、俺は楽できるしいいんだけどさ。

 

あれ?雪ノ下ちゃん、もはや家政婦なのでは?

 

でもご飯作ってくれるせいでいつも帰るの19時過ぎになってるんだよね。送り迎えはしてるけど、大丈夫なのかね?本人は大丈夫って言っていたけど。

前世の俺なんて四、五年生の時は18時には帰れ!ってよく言いつけられてたけどなぁ。ちなみに六年生の時は18時半だった。その30分なによって思ったね。どうせなら19時でいいよなぁ。

 

まあ本人がその時間に帰って大丈夫って言うなら俺は気にしないつもりだ。気にしても何も変わらないんだから、気にするだけ無駄ってやつだね。

 

それで…今日の献立はクリームシチューと鮭のムニエルかぁ。

……レベル高くね?手間暇すごくね?流石にクリームシチューとか学校から帰ってきて作りたいとは思える代物じゃないような気がするけど。いや、任せるけどさ。食材も無くなってるほうが母さんはしっかり食べてるのが分かって嬉しいようだし。

 

ホント、俺の身近には変わり者が多いなぁ…(他人事)

 

ふとキッチンを見れば、相変わらず雪ノ下ちゃんと玲那は楽しそうにお喋りしてる。玲那も雪ノ下ちゃんと料理するの楽しいって言っていたから、なおのことその光景は嬉しい。

だって妹が料理するの楽しいって言ってんだよ?さらにその影響で最終的に家事全般が楽しいとか言い始めてんだよ?すごくね?どこぞの漫画の設定だよ、妹が家事楽しいって言う環境。すごくね?

 

あれ…俺今日すごくね?って言い過ぎじゃね?

 

「……?誰だ?」

 

その時、インターホンが鳴った。

時刻は18:40分。この時間帯に尋ねてくる人なんて覚えはない。えー誰だよ、怖いわー(棒)

 

「研くん。私が出ましょうか?」

「いや、大丈夫。それにまだ作ってる途中だろ」

「…そうね、分かったわ」

 

まあ、うちのカメラ付きだから見てみれば一発だろ。

 

「………は?」

「…?どうしたの、研くん?」

 

台所から疑問に思う雪ノ下ちゃん。

説明してやったほうがいいんだろうけど…いやこれ説明する?

 

カメラに“おでこ”が映ってるって?

いや、これもう新手の悪戯でしょ?無視だよ無視。

 

「どうやら悪戯みたいだ」

「……けれど、また鳴らしてるわ。映ってるんじゃないの?」

 

またまた鳴り響くインターホン。

なんなんだよ!変わらずおでこしか映ってないし!二度も鳴らすなよな!

はぁ、直接会ってみるか。その方が手っ取り早いし。

 

「はぁ…出てくるよ」

「え?でも悪戯なら…」

「まあ、そうなんだけど…これは会ったほうが早く解決しそうだからさ」

「…どういう状況なの?」

 

おでこが映ってる状況です。

 

なんて言いたくねぇ…。

ふざけてるの?って言われるの明白じゃん。

 

「雪姉ちゃん、そろそろお魚出していいのかな?」

 

よし、ナイスだ妹よ!

 

「雪乃、俺の方は大丈夫だから玲那を見ててやってくれ」

「……分かったわ。でも何かあったら」

「大丈夫だ。その時は声上げるから」

「ええ、そうしてちょうだい」

 

ふぅ、乗り切った。

カメラにおでこ映ってるから行ってくるキリッ!

…なんて言いたくないからね。

なんかおでこフェチ見たいじゃん。…いや流石に小学生はそこまで考えないか。

はあ、いらん気苦労したわ。まったく誰だよ、こんなことしてくる奴は…。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

まずはドア越しに正体を確認してやろ…

 

っておい!ドアスコープ指で隠してやがるなコイツ!なんて奴だ!

こうなったらもう早く出てちゃっちゃとお引き取り願おう!

 

「どちら様でしょうか?悪戯ならやめて…」

「こんばんわ〜。あら、あなたが鎌ヶ谷 研くんかな?」

 

は?誰?……中学生?

 

「……はい、俺が鎌ヶ谷 研ですけど」

「やっぱり君が?へー、聞いた通りのイケメンさんね」

 

面白くない冗談だな。

よくいるよね、おばさんとかが大きくなった子供に対して、イケメンさんになって、男前になって…みたいなこと言うけど、やめて欲しいよな。俺そういうの勘違いしやすいタイプだし、対応にも困るし、だいたいイケメンですらないし、もとよりこの人誰だよ!

 

「それで、どちら様ですか」

「あらあら、こういうこと言われるの嫌い?」

「……悪戯でこんなことやってるんだったら早く帰って欲しいんですが」

「あははっ…ごめんね、冗談が過ぎちゃった」

「…………」

 

友達かよ!なんなの、この人!

 

「私ね、妹を迎えに来たの」

 

妹を迎え…?

 

「まさか雪乃ですか?」

「あら、雪乃ちゃんを名前呼びなんて凄いわね」

「ていうことはお姉さん」

「そう、雪乃ちゃんのお姉さん、雪ノ下 陽乃です。宜しくね、鎌ヶ谷くん」

 

…えええええ!?姉ちゃんいたの!?初耳なんですが!!

ていうか綺麗な人だなぁ。さぞかしおモテになられるでしょうな!

てか、あの子とは随分とタイプが違うけど…本当にお姉さん?

顔は…似てなくもないけど、それだけって感じるな。

 

「そうですか、それはご丁寧に。なら雪乃を呼んできますよ」

「いえ、それはまだいいわ。それよりお姉さん、あなたとお話ししたいの」

 

えぇ……なんでだろうか、綺麗でいい人そうなのに、この人とはあまり話したくないと思ってしまうのは。

 

「そうですか。でもすみませんがら俺から話すことはないので」

「ええ〜そう言わずに、ね?なんでお姉さんが鎌ヶ谷くんのこと知ってるんだろう?とか思わない?」

「雪乃から聞いたのでは?」

「あの子から聞いたんじゃないわ。第一、絶対にバレたくなかっただろうからね…鎌ヶ谷くんとのこと」

 

バレたくない?どゆこと?隠れんぼとかスパイごっことかでもしてんの?

だって家族に理由は話してるって言ってたけどなぁ。

 

「まあ、そんなことはどうでもいいのよ。それより、鎌ヶ谷くんは雪乃ちゃんのこと…どう思ってるの?」

「どう…とは?」

「やあね、分からない?あなたは雪乃ちゃんより頭良いって聞いたのに」

 

うん、この人苦手だわ。

 

「とりあえず…貴女は俺のこと、他人から聞いたんですね」

「あ、流石にバレちゃった?」

「だって聞いた通りって言ってましたよね?それで雪乃から何も聞いてないなら、それしか考えられない」

「ふぅん……なるほどね」

 

なにが…なるほど、なのでしょうか?

 

「それで、貴女は何が目的で俺と話したいんですか?」

「あれ?貴方から話すことは無かったんじゃないの?」

 

あっ…この人、他人の揚げ足取るの大好きだな。

 

「だったら、なおさら話した方が良いのでは?俺の質問に貴女が答えれば、俺も貴女の質問に答えないといけなくなるんですから」

「…やっぱり君って面白いね」

 

こんなので面白かったら俺お笑い芸人になってますよ、こんちくしょう!

 

「そんなに俺は面白い人間ではないですよ。はい、今俺は貴女に一回答えたんですから、さっさと俺の質問に答えてください」

「ええ〜、それはズルいんじゃないの」

「ズルくないですよ。はい、これで俺は二回答えたことになりますね」

 

どうだぁ、ウザいだろうウザいだろう?ほぉら、さっさと帰んなぁ!

 

「もう、しょうがないわね。……好奇心が湧いたのよ」

 

答えるんかい!でも今の答えるまでの間を俺は見逃さないぞ!

 

「それは答えになってません。好奇心が湧いたというなら、俺の質問への答えはその好奇心が湧いた理由ですよ」

「あははっ…抜かりないなぁ君は。分かったわよ。……本音を言うと、雪乃ちゃんが変わった理由を知りたかったの」

 

変わった?え、なにが変わったまったく分からないんだけど。

 

「それでその原因を調べてみたら鎌ヶ谷くんのことだって分かった。だから、私の雪乃ちゃんが心を許している人は誰なのかって気になって…ここに来ちゃった、てへっ」

 

来ちゃった…ってなにてへぺろみたいに可愛く言ってんですかこの人は。まあ可愛いけどね。

 

「じゃあ、もう一つ…どうして俺の家が分かったんですか?」

「簡単よ。前に雪乃ちゃんをつけて来て、場所を確認したことがあるから」

 

いや、なんか胸張って答えてますけどね?それただのストーカーじゃないですか。

 

「さあ、私は答えたんだから、次は君の番。君は雪乃ちゃんのこと、どう思ってるの?」

 

んー、彼女のことねぇ…。

 

「雪乃のことは良い子だと思ってますよ」

「……良い子、ね。それじゃあ答えになってないわ。その良い子の意味を答えてくれないと」

 

うわニヤニヤして、さっきの俺の言い分そのまま言ってきやがった。さては根に持ってたな。

 

「意味も何もそのままですよ。俺に対して良い子…それだけです」

「…ちょっといい?それってそのままの意味で捉えていいの?」

 

ん?なにを驚いてんの?

 

「だからそう言ってるじゃないですか」

「つまり、雪乃ちゃんは君にとって道具ってこと?」

 

は?おいおい、そんな酷いこと言ってないぞ。

 

「違います。雪乃は人間です、道具扱いなんてしてません。“俺にとっていい子”と言ってるんです」

「…ぷっ、あはははははっ聞いてはいたけど…まさかここまでとはね。あ〜、おっかしいー」

 

いきなり何笑ってんだよ。怖い怖い…。

 

「そんなに可笑しなこと言いましたか?」

「可笑しい…いえ、すごいとも言えるわね。君みたいな子、世界中どこ探したってそうそういないわよ」

「冗談言わないでください。俺のような一般人、どこにだっていますよ」

「あははっ、そうね。君のような性格の人は探せば見つかるかもしれない。でも君のような人間はいないわよ」

 

……?つまり何が言いたいの?

 

「どういう意味ですか?」

「まあ、今の君に言っても理解出来ないわよ。それよりもう一つ質問よ、これはさっきより大切なこと」

「……なんですか」

「雪乃ちゃんは、君にとって大切な存在?」

 

なんだよ、大切なことっていうから何かと思えば、すごい当たり前なこと書いてくるんだな。

 

「大切ですよ。だって“彼女の代わり”はいない」

「うふふっ…凄いね、君は。本当にブレないわね」

 

この人、さっきから俺のことめっちゃすごいすごい言ってくるなんで?褒めるのが趣味なの?それとも何か買って欲しいの?あいにくそんなお金はないんだけど。

 

「研くん、ご飯出来たけど……何してるの、姉さん?」

 

あれ、雪ノ下ちゃん。いつのまにこっちに?

 

「研くんを呼ぼうと思ってきてみれば…なんで姉さんがいるのよ」

「やっほー、雪乃ちゃん。迎えに来たわよ」

「放っておいて貰えるかしら。姉さんに迎えに来て貰わなくても、私は研くんに送ってもらうから」

「それじゃあ、彼に悪いでしょう?」

「いえ、俺がするべきと思ってしているだけなので」

「…ほら、彼もこう言ってるのだし。姉さんは先に帰ってて」

「ふふっ、彼が取られるの…そんなに嫌?」

「…姉さんには関係ないと言っているの」

「関係なくはないわ、だって私たち姉妹じゃない」

「それと姉さんがここに来ることは関係ないでしょ。私が何時に帰ろうと、私の勝手よ。早く帰って来るよう注意された覚えもないわ」

「じゃあ私が母さんたちに何言ってもいいのね?」

「そ、それは……」

「…………」

 

なにこれ修羅場?それとも姉妹喧嘩?

どっちでもいいけどやめてよねぇ、そういうの俺苦手なんだよ。

 

「うふふっ嘘よ。私が雪乃ちゃんが困るようなこと、したいと思う?」

「…何をぬけぬけと。姉さんはいつもそうやって私をからかって」

「はいはい、ごめんね雪乃ちゃん。でも…雪乃ちゃんだって悪いのよ?お姉ちゃんを一人ぼっちにして…寂しかったんだから」

「姉さんにはたくさん友達がいるでしょう。その人たちに相手してもらえばいいんじゃないかしら?」

 

ごめんね、雪ノ下ちゃん。その言い方だと、おじさんとても不謹慎な想像しちゃうだけど。ホントごめんね不謹慎で!

 

「ううっ、酷いわ雪乃ちゃん…お姉ちゃんこんなに心配してるのに」

「嘘泣きしたって無駄よ。だいたい姉さんが本気で私の心配をしたことなんてあったかしら」

「……もう。姉離れ、早くないかしら?」

 

ええい、もういい加減にせい!

 

「すみませんが、早く結論出してくれませんか?特に問題ないのなら俺が送りますよ。例え姉であろうと雪乃に強制するのは間違ってると思うんですので」

「…研くん」

「へぇ……君なら口は出さないと思っていたんだけど」

「姉さんに研くんの何が分かるのよ…!」

「私は彼に言ってるの。雪乃ちゃんは黙ってて」

「…っ」

 

おお、雪ノ下ちゃんがビビってる。やっぱお姉ちゃんってのは怖いものなのかな?

 

「それで鎌ヶ谷くん。なんで君が姉妹の問題に口を出したのかしら」

 

は?決まってんだろ。

 

「こっちは夕食の時間、それにここは俺の家です。玄関でとはいえ、騒がれるのは迷惑なんですよ。雪乃だって、別に貴女に迷惑をかけてはいないのでしょう?」

「そうよ、姉さん。研くんの言う通りだわ」

 

あの……ちゃっかり俺の背に隠れるのやめようか、雪ノ下ちゃん。

 

「まあ、そうね。私は被害を受けてないし…分かった。今日は大人しく帰るわ」

「今日は?…姉さん、それはどういう意味かしら?」

「ねぇ、鎌ヶ谷くん。私も頭は良いのよ、学年では一位だし。私に勉強を教わった方が良いと思わない?」

「ね、姉さん!」

 

……おお、なるほど。魅力的だ。だが…

 

「お断りします」

「研くん…!流石ね!」

「えー、どうしてよー」

 

だって同学年で互いの勉強の穴を埋められる奴が良いんだもん。年上に教わったって意味ねぇわ。それなら一人でやったって同じだし。

 

「さあ、姉さん。分かったなら帰ってくれるかしら。大人しく帰るって言ったのだから」

「ぶぅ〜、お姉さんに教えてもらえるなんてかなり光栄なのよ?」

 

おお、雪ノ下ちゃん。さっきとは打って変わって胸張って勝ち誇ってらっしゃる!……なんか単純で可愛いな。

こういうの母性っていうの?それとも男だから父性(ちちせい)って言うのか?

…ちちせいってなんだよ、おっぱいの星みたいに聞こえるぞ!

 

あっ、ふせいって読んで父性か。あぶね、思い出せて良かったわ。

 

「むぅ、悔しい……あっ、それなら鎌ヶ谷くん。お掃除で困ってないかしら?」

 

………ほう。掃除とな?

 

「君の家は見たところ共働きなんでしょう?だったら掃除してくれる人がいたら楽なんじゃないかしら?」

「だ、ダメよ…!掃除なら私でも…」

「掃除って結構体力いるのよ?それに雪乃ちゃんの身長じゃ届かないところも多いだろうし、大変なんじゃないかしら?」

 

なるほど…魅力的だ。だが…

 

「有難い話ではあります」

「け、研くん……」

「そうでしょう。良い話でしょう?こんな綺麗なお姉さんがお掃除してあげるんだもの」

 

じ、自分で言うんだ…まあ事実だけどさ。

 

「でも、それで雪乃が不快に感じてしまうのでは、一緒に勉強してもらう上で支障をきたすと思います。なので、それもお断りします」

「研くん…!ありがとう…!」

 

そんなに喜んでいいの、雪ノ下ちゃん。一応お姉ちゃんなんだから少しくらい味方してあげたら?

 

「…っ!じゃあ、雪乃ちゃんが納得すればいいのね?」

 

え…?なんか今、スパロボの閃きとか直感みたいな効果音が聞こえたんですが?

 

「まあ、結論的にはそうですね」

「ふふっ無理よ、姉さん。私が首を縦に振ることは無いわ」

「雪乃ちゃん、携帯欲しがってたわよね?」

「っ……!そ、それは…」

「私が頼めば、少しは早く貰えるようになるんじゃ無いかしら?」

「で、でも……確証が無いわ」

「じゃあ、父さんが私に借りがあるって言ったら?」

「…う、嘘よ。ありえないわ」

「最近、父さんの仕事をちょっと手伝ってね〜、その借りはまだ返して貰ってないの。それを使ってあげても良いんだけどなぁ。だってこのままだと携帯買って貰えるの、早くても中学になってからじゃなかった?」

「……………」

 

分かる…分かるぞぉ…!俺には分かるぞぉ!

 

今、彼女の中で葛藤が起きている。苦手な姉が俺の家に来る、それは嫌だ。

しかぁぁし!持っていない携帯が手に入るかもしれない!それは魅惑の果実!だがそれを手にとってしまえば…それは敗北と同義!

 

どうする…!どうするの、私ぃ…!?

 

 

みたいな?

 

「……分かったわ。姉さんの話に乗りましょう」

 

果実を手に取ったぁぁああ!!

 

って俺は何を思ってるんだろう……。

 

「ふふふっ、ありがと!雪乃ちゃん!」

「た、ただしあまり好き勝手な行動はしないこと。それと研くんたちに迷惑をかけないこと。私の邪魔はしないこと。私がやめてと言ったらやめること。それが条件よ」

「分かった分かった。そんなに必死ならなくてもいいのに、可愛いんだから。あっ、でも雪乃ちゃんにやめてって言われても全部が全部、それに従えないからね?だってそれを認めちゃったら、私の自由の権利を無視していることになるもの」

「……分かったわ。でも、さっきの話のこと…本当に頼むわよ」

「はいはい、分かってるわよ。それじゃあ、鎌ヶ谷くん!これから宜しくね!」

「……ええ。程々に宜しくお願いします」

「もう、君までそんな嫌な顔しなくていいのに…でも、私の掃除の腕は期待してくれて良いわよ?必ず私のこと見直すはずだから、ね」

 

まあ、助かるには助かるんだけど…なんか苦手なんだよなぁ、この人。

 

「じゃあ、私もご飯一緒にしていいかな?」

「調子に乗らないで。あいにく姉さんの分は無いわ。それに今日は大人しく帰るんでしょう?」

「ちぇ〜、でも仕方ないか。それじゃあ、鎌ヶ谷くん。雪乃ちゃんのこと宜しくね」

「……はい、分かりました」

「うん!それじゃあね〜」

 

ふぅ、やっと帰った。まったく。

 

「研くん…ごめんなさい。姉さんが…」

「いや、別に気にしてない。それより…玲那がお腹空かしてるんじゃないか?」

「そ、そうね…早く戻りましょう」

「ああ」

 

雪ノ下 陽乃ね……まっ、俺の邪魔さえしなければいいか。役には立ちそうだし。

 

にしても玲那のやつ、怒ってないといいけど。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「雪乃ちゃんが私に隠してた理由…分かるなぁ」

 

鎌ヶ谷 研。

他者との会話はほとんどせず、する時は最低限の会話のみ。成績優秀、態度は真面目。普通であれば忌み嫌われるような感じだが、そのルックスと大人びた口調、そこから出る雰囲気に、彼を嫌う者はほとんどいない。

 

いるとすれば、隼人くらいか。

 

隼人と、それと鎌ヶ谷くんのクラスの子達から聞いた情報を私なりに彼を分析してみたけど……実際に会ってみれば、その情報はまったく役に立たなかった。

 

「あんな面白い子に出会えるなんて…ね」

 

その情報は正しくあり、間違ってもいた。

 

彼のような人間は、人間である限りその感情と自己矛盾、罪悪感、周囲の悪意などによって死んでしまうもの。

しかし彼は人でありながら、その人として異常なものを処理し切っている。

 

多分彼は、私が一生かけても克服できないものを無意識に克服している。だからあそこまで素直に生きられる。

私には眩しすぎるわね。

あれは手が届かないとかそういうのじゃない。彼が生きているのは別の領域だ。人として異常なソレは、彼の持つ個性が異常であると周囲に思わせないし、感じさせない。

 

実際、雪乃ちゃんは彼の異常性にまったく気づいてないしね。

 

「早く、明日にならないかなぁ…」

 

私をそう思わせる人は今まで一人としていなかった。

本当にすごい。

 

凄くて醜くて羨ましくて憎たらしくて鮮やかで禍々しくて…

 

…そして美しい。

 

「言うなら…合理性の怪物ね」

 

化け物よりも恐ろしい怪物。

自分にとっての利益だけを優先し、それを邪魔するものはどんな手を使っても捩じ伏せる。

 

とっても単純明解。

それ故に扱いやすくて、扱い難い。少しでも間違えば、彼は私も敵だと認識する。

そうなったら彼は私を完璧なまでに消し去り、私は二度と彼と話せなくなるでしょうね。

 

そして彼の本心を理解するのは…多分、誰もが不可能。

 

でも私は理解したい。私の牙でも彼には傷一つつかないなら、彼の周囲に溶け込めばそれが分かるかもしれない。

 

そして見たいのだ。彼のような人間の限界を。

 

「これから宜しくね、研くん。私の“理想”はどこまで揺らぐことなくこの世界で生きていけるのか……私に教えてね?」

 

 

空を見上げれば、月光が私の道を照らしているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………

 

 

 

 

そして過ぎゆく日常に、彼女は……

 

 

雪ノ下 陽乃は鎌ヶ谷 研を見つける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




タイトルを一瞬、魔王降臨。にしたいと思った。

陽乃がオリ主の本性の片鱗気づく、そんな話だと読み取ってもらえたら嬉しいです。あと考えることが姉妹だね、とか。
かなり長かったので後で加筆などの手直しがあるかもしれません。

実はこれ書く前に運動会の話を書こうと思って、主人公が「俺のことはゴウリキー師匠と呼べ」って言い出して雪乃を鍛える、そんなクソくだらないギャグ回書いてやめました。あれはダメだ。

お気に入り、感想、評価、あると嬉しいです。

いつになったら八幡を出せるのやら…出せても雪ノ下と違って1、2話で終わる予定ですけど。だって八幡もぼっちだからね。主人公と絡むシーンとか全然想像出来ないもん。





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踏みだした一歩は大きく、されどそれは恐れを知らない。




感想、お気に入り、評価、誤字修正、本当にありがとうございます!
ランキングに入ってて本当に嬉しかったです!嬉しくてアニメ見直しました。
みんな俺ガイル本当に好きですねぇ、俺も大好きですけど(`・ω・´)

今回の話、上手くまとまらなくて時間がかかってしまいました。(まとまったとは言っていない)
読んでて少し重いかもしれません。なにせウチのボケ&ツッコミ担当が今回、内心語らないので。

あっ、逆に静かでいっか。

それと、この作品はハーレムにはなりません。




 

 

 

 

 

 

静寂の中で鉛が紙に擦れる音が心地よい。

この雰囲気が私にとってのいつもで、特別な時間……なのはもう遠い記憶だ。

 

「姉さんまで一緒にやる必要はないんじゃないかしら?」

「だってー、もう私のやることこれくらいしか無いんだもん」

 

研くんの家に姉さんが通うようになって二週間が過ぎた。

姉さんの見直させる宣言どおり、研くんの家は一片の隙間なく綺麗になっていた。それこそ掃除のプロがやったと思わせるほどに。

 

「やることないのは、姉さんが本気出し過ぎたのが悪いんじゃない?」

「えー、私のせい?あんだけ言いきっちゃったら本気でやるしかないでしょう」

「だからって……毎日昼休みに早退して本格的な掃除しに来るなんて誰が想像できると思うの?」

「ふっふっふ…驚いた?」

「呆れたのよ」

 

姉さんはこの二週間、何かと理由をつけて昼休みに早退し、玄関近くに隠してある鍵を使い侵入、そして研くん家を大掃除していたのだ。元からたまに授業をサボったりしていることは聞いていたが…まさかその力をこんなことに発揮するなんて。いえ、これは力と言っていいのかしら?というよりやっていることが泥棒の一歩手前なのだけれど。

ちなみに日曜だけは掃除せずだらけていた…研くんの家で。

だらけるだけならうちでも出来るでしょうに…。

 

「雪乃ちゃんひっどいなぁ〜。あっでも、君は驚いてくれたわよね?」

「……………」

「もう無視しないでよぉ〜」

「姉さんがしつこいのがいけないんでしょ」

「えー、でも小学生の勉強なんてたかが知れてるでしょ?そんな真面目にやらなくても、鎌ヶ谷くんなら満点間違い無しじゃない」

「前にテストでケアレスミスしたことがあるから、研くん抜かりないのよ」

「それに雪乃ちゃんが確認も兼ねて一緒に勉強してると……ふぅん、お姉さんはそれが理解出来ないのよねぇ」

「理解出来ない?」

「別に雪乃ちゃんじゃなくたっていいじゃない。ここにもう一人いるでしょ、勉強出来るお姉さんが♪」

 

そう言ってウインクする姉さんに、とうとう彼が口を開いた。

 

「…はぁ…言いませんでしたっけ?うちの先生が作るテストって予想してない問題を出すことが多いんです。教科書にも、ノートにもとってないような問題。例えば口答で言った豆知識とかね。だから同じクラスの雪乃が適任なんです」

「おお、やっと喋ってくれたぁ〜」

「……姉さん」

 

そろそろ面倒になるって研くんが思ったから話したの分かってるくせに、白々しい。

研くんも別に無視し続けていいと思うけれど。

 

「でも鎌ヶ谷くん、それだったら雪乃ちゃんじゃなくても良いでしょう?ほら、隼人とか」

「冗談言うの好きですね、雪ノ下さん。アイツが俺をどう思ってるかくらい知ってますよ」

「例えよ、例え。そんな先生の授業なら他の子だって身構えて授業聞いてるはずでしょ?」

「その先生の授業…催眠授業って言われてるんですよ」

「ぷっ、あはははっ一人はいるわよねぇ、そんな先生」

「…もういいでしょう、姉さん。研くんの邪魔になるわ」

 

それに私のこと研くんから引き離そうとしてない?

 

「えぇ〜、そんなことないわよ。ねぇ?」

「邪魔です」

 

ふふっ即答なんて。

 

「ありゃりゃ…手厳しいなぁ。仕方ない。なら飲み物持ってきてあげるわ」

「…それなら私がやるわ」

「いいわよ、雪乃ちゃん。勉強頑張ってるんだし…それに、これくらいのポイント稼ぎじゃ鎌ヶ谷くんはどうとも思わないものね?」

「何のポイントかは知りませんが、飲み物はありがたいです。紅茶でお願いします」

 

研くん、姉さんの扱いにまったく迷いがないわ。

姉さんって学校では男女問わず人気者なのに…姉さんの周りの人がこのこと知ったらどう反応するのかしらね。

 

「雪乃ちゃんも紅茶でいい?」

「ええ」

「おっけー、任せといて!」

「…あら?そういえば玲那ちゃんは?」

「玲那なら遊びに行ってるよ。あいつは俺と違って、友達作るの上手いからな」

「そうなの。なんか…寂しいわね」

「大丈夫だ。どうせ今日も早く帰ってくる。雪乃に…それと雪ノ下さんにも懐いてるからな、玲那」

「ホントに玲那ちゃんいい子よねぇ〜。あの子、私の掃除の腕見てコツを教えて欲しいって頼み込んで来たのよ?まだ三年生なのにしっかりしてるわ。それにお兄ちゃん想いだし。それに比べて雪乃ちゃんはお姉ちゃんに対してもう少し優しくしてくれても…」

 

結局、そういう話に持っていくのね。

 

「姉さん?紅茶淹れてくれるんでしょう楽しみだから早く行ってくれないかしら?」

「聞いた鎌ヶ谷くん!私、お姉ちゃんなのにまるで召使いのように…」

「姉さんが行くって言ったんじゃない」

「言い方ってもんがあるでしょー。ねえねえ、酷いと思わない?」

「俺も紅茶楽しみということにしてるのでさっさと行ってください」

 

ということにしてる……ふふっ…。

 

「うわーん!二人とも意地悪ぅ!後で玲那ちゃんに慰めてもらうんだから!」

 

そう捨て台詞を吐いて、嘘泣きしながら姉さんは部屋から出て行った。

まったく姉さんったら、研くんの邪魔をしないって条件なのに…許される限りかまってもらおうしてるわね。

 

「はぁ、ごめんなさいね研くん。姉さんが邪魔ばかりして」

「別にいいよ。確かに雪ノ下さんのおかげで家は見違えるほど綺麗になったし、家族も喜んでる。玲那も雪ノ下さんのこと好きらしいし…。俺にはメリットしか無いんだから、特に不満はない」

 

まったく研くんらしい。

彼は家族のことを第一に考えてる。ホントに貴方みたいな兄を持ってる玲那ちゃんが羨ましいわ。

 

「それに…凄い人だと素直に尊敬しているよ。俺にはあんな生き方は出来ない」

 

…………。

 

「…そうね」

 

本当に姉さんは凄い。私よりなんでも出来るし、誰に対しても笑顔で人当たりが良い。

正直、敵う気がしない。私はいつも姉さんのお下がりで、ただ後をついていくだけの人形のような存在。

 

研くんも、私より姉さんの方が……

 

「本当に凄いよ。あんな厚い仮面みたいな笑顔浮かべて、人に好印象を与えながら話すことなんて出来ない」

 

……え?

 

「気付いてたの?普通の人なら分からないのに」

「流石に気付くよ、あの外面をずっと見ていれば」

 

その外面にほとんどの人は騙される。明るくて優しくて気兼ねなく話しかけてくれる人のように見えてしまうものだ。

それでも研くんは騙されないみたいね。あの姉さんでさえも魂胆が見破られるなんて…。だから研くん、姉さんと話すの少し苦手そうだったのね。

 

「ねぇ、研くん…」

「ん?なんだ?」

 

なら貴方から見て、私はどう見えて、どう思われてるのだろう?

 

知り合ってからもう少しで一年。私は研くんとの関係性を直接聞いたことがない。私は勝手に友人だと思っている。でもそれは私の判断であって、彼がそう思っているわけではないかもしれない。

 

もしかしたら私は彼にとって……

 

「その……いえ、ここの問題なんだけれど…」

 

いや、聞けるわけがない。もし答えが望まない、求めていないものだとしたら、私はまた虚勢を張っていた弱い昔の私に戻ってしまう。強がっているだけなのはもう嫌だ。

今のように研くんがそばにいるだけで、私は強くいられる。そしていつか、彼のように自分に素直に生きられるようになる。そうなれるなるはずだ。

 

それに研くんは、私が姉さんより近い存在として見てくれている。

まだ大丈夫だ。姉さんには追いつかれない。

 

今、彼の隣にいるのは…私なんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

扉越しに聞いていた彼女の答えに、私は失望した。

彼女が妹だからその結論に至った過程が分かってしまう。それ故に苛立つ。

 

「素直に聞けば彼の本心に気づけたかもしれないのに…つまんない。何を臆病になってるのよ…」

 

そっと扉から離れ、キッチンへ向かう。

 

「私が少し手を引いてあげてるのに、馬鹿ね」

 

私はお姉ちゃんだから、尊重してこうしてあげてるだけ。

 

「なのに“欲張り”だよ、雪乃ちゃん。救われたのが嬉しかったことは分かるけど、だからってたまには彼にぶつかって聞かなきゃ。それくらいしないと弱い繋がりで終わっちゃうわよ」

 

雪乃ちゃんは彼とずっと平和でいたいんでしょうね。だからいつも彼に異論も反論もしない。その心がけは嫌いじゃないけど、それじゃあ何も進歩しないわよ。彼は言葉にしないと信じないから。

 

「いけない。そろそろ紅茶用意しないと…」

 

彼に怪しまれるのは望ましくない。けっこう鋭いからねぇ。まあ、どうでもいいって思われれば気にもとめないでしょうけど。

 

さてと…紅茶セットは確かここに……。

 

それにしても……。

 

「…本当にご両親は二人を愛してるのね。私のお母さんも、少しは見習って欲しいものだわ」

 

二人が困らないようにほとんどのものは揃っていたし、料理器具なんてけっこうな数があった。本当はご飯作ってあげたいのね。

でも……こんなに色々揃えられるくらい裕福なら、なんで共働きしてるのかしら?

 

「あっ、陽姉ちゃんだ」

「あら玲那ちゃん、帰ってきてたの?」

「うん、二人がいるんだもん!早く帰ってくるのは当然だよ!」

「ふふっ嬉しいこと言ってくれるわね〜。友達と遊んできたんだって?」

「……うん。そうだよ」

 

あら?

 

「どーしたの?表情は暗いわよ」

「……そのね。陽姉ちゃん…相談があるの」

「…なに?お姉さんはこれでもいろいろ知っているから、力になれるわよ?」

「あははっ…ありがとう。実は私ね……」

「いいのよ。ゆっくり話してくれて」

「うん……あのね…私、友達いないの」

「あれ?玲那ちゃんは友達作るの上手って聞いたけど?」

「それは…嘘なの。お兄ちゃんを心配させたく無くて…」

「心配?」

「うん。…前まではお兄ちゃんも全然友達いないって言ってたから、私もそれで良いやって思っていたの。でも今は雪姉ちゃんとか、陽姉ちゃんみたいな、とても良い人と一緒にいるようになって。だから私も、お姉ちゃん達みたいな友達が欲しいと思って頑張ってるんだけど…私、転校生なのもあって、今もみんなから距離を置かれてて…話しかけてもなんだか遠慮されてるの」

「そっか…」

「そう。どうしたらいいかな?」

 

思ったより深刻みたい。まったく…雪乃ちゃんもこれくらい素直ならもっと可愛いのに。

 

「あのね、玲那ちゃん。無理に友達を作る必要はないのよ?」

「だってそうしたら兄さんに…!」

「彼はそんな心配しないわ。むしろそこまで悩んで話してくれないことに心配しちゃうわよ?それにね、友達は作るものじゃないわ」

「…そうなの?」

 

常に仮面で話している私がこんなことを語る資格は無い。それは嫌というほど分かってる。

でもとっても素直でまっすぐで正直な玲那ちゃんを悪意と自己嫌悪で歪ませてしまうのは忍びない。

せっかく頼ってくれたんだしね。

 

「作ろうと思ってそれで出来る器用な人もいる。でもね、それは少なからず自分が我慢しないといけなくなるの。その我慢は優しい人ほど辛いものに感じる。玲那ちゃんの場合はこれなの。貴女は優しいから、自分に我慢するのは辛くないって嘘をついちゃう。でもそれは玲那ちゃんに合わない」

「じゃあ、私はどうしたら友達ができるの?」

「玲那ちゃんは別にどうしても友達が欲しいわけじゃないんでしょ?貴女が友達を求めるのは、彼を安心させたいから…だよね?」

「……そう」

「だったら今は彼や私たちと一緒にいる、それでいいじゃない?無理する必要ないわ。それに玲那ちゃんが遠慮されてるように感じるのは多分転校生ってこと以外にもあるのよ」

「え…?」

「玲那ちゃんはね、眩しいくらい綺麗なのよ。だから同年代から見れば可愛いというよりクールに見られる。クールに思われてるのは気付いてるんだよね?だから貴女はいつも明るく可愛いく思われるように振る舞ってるんでしょ」

「っ……!」

 

彼とは状況が逆なのね。人気者は人が集まってくるか、畏敬で視線の的になるか…そのどちらだもんね。

 

「でもね、その振る舞いが相手に違和感を与えてる。貴女が無理してるのが伝わっちゃってるのよ。だから少しずつでいい。素直に自分の言葉で話してごらんなさい、私と話してるみたいに。玲那ちゃんは彼に似てとても魅力的だから、貴女らしく素直に生きていれば、すぐに友達が出来るわよ。本当の友達がね」

「陽姉ちゃん……」

 

ホント、偉そうに何を言ってるんだろう、私は。ちょっと語り過ぎね。

 

「でもね、これだけ覚えておいて。アドバイスしたけど、それが全てじゃない。我慢だってたまには必要だし、大人になれば自分らしくない振る舞いが必要になるわ。だから大切なのは玲那ちゃんの意思よ」

「意思…?」

「何をどうしたいかをしっかり決めること。それだけで玲那ちゃんは大丈夫よ」

 

だって彼の妹なんだから。

 

「…ぅうっ…陽姉ぢゃん。ぁ、ありがどぅ……」

「そんな泣くことでもないでしょう?ホントにもう…可愛いんだから」

 

雪乃ちゃんにもこうしてあげればもっと仲良く……いや、無いわね。

そうなる道は、多分どれだけ人生を繰り返しても起きない。私が雪ノ下 陽乃で、彼女が雪ノ下 雪乃である限り。

 

「玲那ちゃんに言ったようにすれば…私も変わるのかな…」

 

なにあり得ない小言を言っているのかしら。

 

私が重ねてきた仮面はその程度じゃ剥がせない。

 

さ、早く紅茶作らないと。彼がもしここで来たら…

 

「玲那、どうしたんだ?」

 

最悪……

 

「か、鎌ヶ谷くん!?」

 

…なんだけど。流石に参ったなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

玲那ちゃんを落ち着かせてリビングで休ませてから…私は場所を外へ移動し、事情を説明した。

場所を変えたのは、私が想定している最悪の事態になった時を考えてだ。だが彼は別に怒りもせず、ただ黙って外で待ってくれて、私の話を聴いてくれた。

 

「………そうですか」

「分かってくれるの?」

「ええ。玲那が悩んでいたのは知っていました。ただ…俺が声かけるのは違うと思って見守っていたんです。玲那は素直ですから、パンクしそうになれば雪乃あたりに相談すると思ってたんですが、その相手がたまたま雪ノ下さんだったというだけです。もしもの時は俺がなんとかしようと思っていました」

 

なんだ……全部分かってたのね。

 

「よかった……本気で怒られたらどうしようかと思ったよ」

「怒る?…俺が雪ノ下さんに怒ったところで、貴女は何も思わないでしょう」

「なんで、そう思うの?」

「貴女にとって俺は歳下です。立場とかそういった些事なことを考えなければ、少なくとも俺は歳下に怒られてショックを受けるとは思えない。あくまで俺は、ですが」

「でも私は、君に怒られたくないよ」

 

だって君の歩みを見ていたい。私の理想が地に足をつけて、どこまで行けるのかを。

 

「理由を聞いても?まさか俺に嫌われたくないとか、そんなことじゃ」

「そうだよ」

「は?」

 

そんな驚いた顔するんだね。君みたいな人でも。

 

「私はね、君に嫌われたくない。君のそばに居たい。君を…ずっと見ていたいの」

「何言ってるんですか?それじゃあまるで…」

 

ごめんね。雪乃ちゃん。やっぱり姉妹だからかな?

 

私も…ちょっと“欲張り”みたい。

だいたい雪乃ちゃんも悪いのよ。お姉ちゃんがせっかく手を引いてたのに、それを良いことに何も進歩しないから。

 

だから恨みっこなしだよ。

たとえ手が届かないとしても、私は彼に歩み寄って、彼の手を握りしめる。

 

「ねぇ、鎌ヶ谷くん。私とさ……付き合ってみない?」

「…本気ですか」

 

最初は彼の本心を知りたいだけだったけど…彼のような人はもうこの先、二度と会うことはないだろう。なら臆病になってる雪乃ちゃんには…もう譲ってあげなくても良いかな?見ているだけでもどかしいし、私なら雪乃ちゃんより彼のことを理解してあげられる。

 

 

「うん。私は、鎌ヶ谷 研の恋人になりたいの♪」

 

 

それに彼の行く末を見るなら…その隣が一番だもんね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

踏み出した一歩は大きく、されどそれは恐れを知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 




中間部分の修正に手間取ったので、そこらへんで色々間違っていたらすみません。

オリ主の在り方に疑問を持つ人が多かったので言っておきますが、彼の合理性…というのは道理を通すとかそんな良いことは考えてません。
いわば悪魔の合理性に近く、自分の目的や衝動を叶えるために一番効率の良いと考えた手段を選ぶ、という一点のみです。正義うんぬんは二の次。
つまり超正直者ですね(強引)
タイトルに…はずである。とついてるのはそういうことです。
陽乃も原作読んでるとある意味そういった部分がありますが、オリ主は他人の顔色とかそういったこと全く気にしてないのに、陽乃以上に自分に正直に人生謳歌してる…ように見えるって感じです。そう見えてるだけ。

…これで伝わるでしょうか?

まだまだ書ききれてないので、あんまり説明したらアレですけどね。
ていうか説明しちゃうって俺の文才が無いことの証明じゃないか!

……とにかく励みます。次回はこの時のオリ主の内心パートです。うるさいと思います。
被ってる内容が多いのですぐに更新できる…かもしれません。

長くなってすみません。ではまた!


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無知が罪であったとしても、問えばかならず彼は応える。



感想、評価、お気に入りありがとうございます!(恒例)

さて、今回もしっかりまとまったかは分からないですが、楽しんで頂ければ幸いです!

今回はオリ主視点からです。







 

 

 

 

 

俺の家は、ごく一般的な普通の家庭だ。

 

人によっては、もしかしたら普通より少し裕福に思えるかもしれないし、共働きをしているってことを考えれば貧乏と言えるかもしれない。

 

だがそんなのはどうでもいい。

 

 

 

 

 

問題なのは………二週間前ほど前から、家政婦(みたいなの)が二人に増えたことだ。

 

 

 

は?何言ってるか分からない。

 

そうだろうな俺もだ、わけわからん!

 

いや俺は悪くないよ?本当にこれっぽっちも悪くない。だって俺は話が流れるままに任せていただけなんだ!

そうしたらいつのまにかあの人、勝手に隠してる鍵をみつけて家に入って大掃除し始めて…やってること下手したら空き巣じゃん!結果的に空き巣防止になってるから何も言えないけど!

しかも掃除プロ級だし!なんなの?雪ノ下家ってハイスペック製造家なの?あー、俺もハイスペックになりたい!

 

あっ…そういえば笑顔が終わってる時点で無理でした。

 

 

にしても雪ノ下も相当色々出来る子だと思ってたけど、雪ノ下さんそれ超えてくるな!やべーわ!

 

はぁ……雪ノ下さん、すっごい苦手だと思ってたけど、正直…完璧超人って言ってもいいくらいだわ。きっと見直すわよ、的なこと言ってたけど…うん、こりゃ見直さざるをえない。

 

だってもう家事全般、二人がやってくれてるわけだしね!

でもさ…一つ言いたい。

やってくれるのは良いんだけど…ダラける時まで俺の家じゃなくても良いと思うんだ。

 

「姉さんまで一緒にやる必要はないんじゃないかしら?」

「だってー、もう私のやることこれくらいしか無いんだもん」

 

ああ、たしかに。おかげで家はピッカピカ、輝いてるのが分かるくらい。でも掃除終わったら帰っていいんだよ?ほら、自分の家の方が落ち着くっていうし!わざわざここで一緒に勉強やら遊びやらしなくていいと思う!

 

しかも部屋着まで持参して!地味にエロティックなんだよ!意識しないようにしてるけどそう思っちゃうんだよ!

 

「やることないのは、姉さんが本気出し過ぎたのが悪いんじゃない?」

「えー、私のせい?あんだけ言いきっちゃったら本気でやるしかないでしょう」

 

だからって加減を考えろ(マジトーン)

やるペースも、出来の具合もホントに一人でやったとは思えないんだよ。むしろ業者呼んでますって言ってくれた方が納得できる出来なんだ。もう化け物かよ。

 

「だからって……毎日昼休みに早退して本格的な掃除しに来るなんて誰が想像できると思うの?」

「ふっふっふ…驚いた?」

「呆れたのよ」

 

ホントだよ(マジトーン)

驚いたし呆れたよ。ていうかアンタ学校サボってたんかいっ!

 

「雪乃ちゃんひっどいなぁ〜。あっでも、君は驚いてくれたわよね?」

「……………」

「もう無視しないでよぉ〜」

 

無視じゃなくて…言葉が出ないってやつです、はい。

 

「姉さんがしつこいのがいけないんでしょ」

「えー、でも小学生の勉強なんてたかが知れてるでしょ?そんな真面目にやらなくても、鎌ヶ谷くんなら満点間違い無しじゃない」

 

あ、あざっす…。

 

………。

 

べ、別に照れてねぇからな!

 

「前にテストでケアレスミスしたことがあるから、研くん抜かりないのよ」

 

あー、あー、そんなの研くん知らなーい。

 

「それに雪乃ちゃんが確認も兼ねて一緒に勉強してると……ふぅん、お姉さんはそれが理解出来ないのよねぇ」

「理解出来ない?」

「別に雪乃ちゃんじゃなくたっていいじゃない。ここにもう一人いるでしょ、勉強出来るお姉さんが♪」

 

そっか…でもそれじゃあダメなんだよなぁ。

 

「…はぁ…言いませんでしたっけ?うちの先生が作るテストって予想してない問題を出すことが多いんです。教科書にも、ノートにもとってないような問題。例えば口答で言った豆知識とかね。だから同じクラスの雪乃が適任なんです」

「おお、やっと喋ってくれたぁ〜」

 

そのレアものみたいな反応やめい。

 

「……姉さん」

「でも鎌ヶ谷くん、それだったら雪乃ちゃんじゃなくても良いでしょう?ほら、隼人とか」

「冗談言うの好きですね、雪ノ下さん。アイツが俺をどう思ってるかくらい知ってますよ」

 

実はもう存在忘れかけていたけど!誰だっけその葉っぱ?

 

「例えよ、例え。そんな先生の授業なら他の子だって身構えて授業聞いてるはずでしょ?」

「その先生の授業…催眠授業って言われてるんですよ」

 

俺もたまに負けて眠くなる。

その点、雪乃ちゃんスゲーよな。あの授業受けて目が刮目してんだもん。(トッポ感)

 

「ぷっ、あはははっ一人はいるわよねぇ、そんな先生」

 

マジで困ったもんですよ。あの催眠教師の授業、始まって5分も経たないうちにクラスの三分の二が寝てるんだぜ?15分後にはほぼ全滅。あり得ないだろ…くそ、あの教師さえいなけりゃ、こんなに勉強しなくたっていいのに。

満点逃したテストもそのクソ教師のせいだから尚更腹立つ!

 

「…もういいでしょう、姉さん。研くんの邪魔になるわ」

「えぇ〜、そんなことないわよ。ねぇ?」

「邪魔です」

 

あ、サーセン。あのクソ教師への苛立ちが言葉に出ちった。

 

「ありゃりゃ…手厳しいなぁ。仕方ない。なら飲み物持ってきてあげるわ」

「…それなら私がやるわ」

「いいわよ、雪乃ちゃん。勉強頑張ってるんだし…それに、これくらいのポイント稼ぎじゃ鎌ヶ谷くんはどうとも思わないものね?」

 

ポイントって…まさかそういう意味じゃないよね?

 

「何のポイントかは知りませんが、飲み物はありがたいです。紅茶でお願いします」

「雪乃ちゃんは?紅茶でいい?」

「ええ」

「おっけー、任せといて!」

「…あら?そういえば玲那ちゃんは?」

「玲那なら遊びに行ってるよ。あいつは俺と違って、友達作るの上手いからな」

 

まあ、本人いわく…だけど。

 

「そうなの。なんか…寂しいわね」

「大丈夫だ。どうせ今日も早く帰ってくる。雪乃に…それと雪ノ下さんにも懐いてるからな、玲那」

「ホントに玲那ちゃんいい子よねぇ〜。あの子、私の掃除の腕見てコツを教えて欲しいって頼み込んで来たのよ?まだ三年生なのにしっかりしてるわ。それにお兄ちゃん想いだし。それに比べて雪乃ちゃんはお姉ちゃんに対してもう少し優しくしてくれても…」

「姉さん?紅茶淹れてくれるんでしょう楽しみだから早く行ってくれないかしら?」

「聞いた鎌ヶ谷くん!私、お姉ちゃんなのにまるで召使いのように…」

「姉さんが行くって言ったんじゃない」

「言い方ってもんがあるでしょー。ねえねえ、酷いと思わない?」

「俺も紅茶楽しみということにしてるのでさっさと行ってください」

 

雪ノ下さん行く気ねぇだろ。紅茶、紅茶はよ。

 

「うわーん!二人とも意地悪ぅ!後で玲那ちゃんに慰めてもらうんだから!」

 

嘘泣きしながら出て行く人って…ホントにいるんだ。

言っちゃ悪いけど、クサい演技感すげーな。ホントは真剣な顔もちでなんかしてたりして………ねぇな。

 

「はぁ、ごめんなさいね研くん。姉さんが邪魔ばかりして」

「別にいいよ。確かに雪ノ下さんのおかげで家は見違えるほど綺麗になったし、家族も喜んでる。玲那も雪ノ下さんこと好きらしいし…。俺にはメリットしか無いんだから、特に不満はない」

 

もう半分くらい君のお姉ちゃんってより家政婦って思えてきてるくらいだし。

 

「それに…凄い人だと素直に尊敬しているよ。俺にはあんな生き方は出来ない」

「…そうね」

 

あっ、やっぱ雪ノ下ちゃんもそう思う?

 

「本当に凄いよ。あんな厚い仮面みたいな笑顔浮かべて、人に好印象を与えてながら話すことなんて出来ない」

「気付いてたの?普通の人なら分からないのに」

 

分からない?…いやいや!

 

「流石に気付くよ、あの外面をずっと見ていれば」

 

でもマジ怖い、マジ苦手。

雪ノ下さんみたいな本心語らない系ってマジなんなんだろうね?やっぱ心と心がぶつかり合うのが大切だよなぁ。

 

…?今誰か、お前が言うな、とか言った?

 

「ねぇ、研くん…」

「ん?なんだ?」

 

…?どうしてそんなに目をキョロキョロしてるの?え、なに?俺の社会の窓でも開いてた?

 

いやまずチャック無いタイプだったわ。

 

「その……いえ、ここの問題なんだけれど…」

 

……スゲー間が気になるけど、まあいいや。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

こ、紅茶まだですかぁ〜?

あの完璧超人が紅茶淹れるのに15分もかかるなんておかしくないですかね?

もう俺の口は紅茶の口だから、飲みたくて仕方ないんだけど…。うずうずが止まらないんだけど!

 

「雪ノ下さん、遅くないか?」

「…姉さんの事だから、またなにかくだらないことでもしてるんじゃないかしら?」

 

んーあの雪ノ下さんがやるって言っておいて、くだらないことに時間割くかなぁ?

雪ノ下ちゃん…もしかしてお姉さんのこと気にして欲しくないのかな?

 

だかしかし…それでも俺は!紅茶が飲みたい!(明日が欲しい的な)

 

「俺、行ってくるよ。喉乾いたし…」

「わ、わざわざ研くんが行かなくても良いと思うのだけれど?それなら私が行ってきましょうか?」

 

雪ノ下ちゃん、いつもやってくれようとするよね。

 

「いや、いいよ。すぐに戻ってくるし、雪乃は待っててくれ」

「でも……いえ、分かったわ」

 

おお、ホント雪ノ下ちゃん、物分かり良過ぎ。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

「玲那ちゃんは彼に似てとても魅力的だから、貴女らしく素直に生きていれば、すぐに友達が出来るわよ。本当の友達がね」

「陽姉ちゃん……」

 

あれ、玲那帰ってたの?

てか……なんか空気重い…?

 

「でもね、これだけ覚えておいて。アドバイスしたけど、それが全てじゃない。我慢だってたまには必要だし、大人になれば自分らしくない振る舞いが必要になるわ。だから大切なのは玲那ちゃんの意思よ」

「意思…?」

「何をどうしたいかをしっかり決めること。それだけで玲那ちゃんは大丈夫よ」

 

あれぇ?よく状況が分かるような分かんないような感じだけどこれだけは分かるぞ!

 

雪ノ下さんがお姉さんやってる!

 

嘘だろ。しかもすごい良いこと言ってんじゃん!

 

「…ぅうっ…陽姉ぢゃん。ぁ、ありがどぅ……」

「そんな泣くことでもないでしょう?ホントにもう…可愛いんだから」

 

くそぉ、玲那をあそこまで懐柔するとは…!兄として悔しい…けど悩みを聞いてあげてたんだろうから、なにも文句は言えねぇ…。

 

とりあえず話しかけますか。

 

「玲那、どうしたんだ?」

「か、鎌ヶ谷くん?!」

 

なにその浮気現場見られたみたいな反応は。

 

「これはその…私が悪いわけじゃないのよ?」

「…………」

 

そんなあたふたしなくていいじゃん。知ってるよ、アンタが悪いことしてないのは。

 

「そ、その…事情は説明するから…いったん外にでましょう?玲那ちゃんはリビングで座らせておくから」

 

別に外でなくてもいいよ?

いや、雪ノ下さんが外がいいなら出るけどさ。

 

「…先行ってますね」

「ええ。すぐ行くから」

 

………なに焦ってんだろう、あの人。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

雪ノ下さんは懇切丁寧に説明してくれた。玲那が泣いた経緯(いきさつ)を。

 

「………そうですか」

 

俺はそれしか言うことがなかった。

 

だってほとんど分かってたもん。なんも反応しようないもん。

 

「分かってくれるの?」

「ええ。玲那が悩んでいたのは知っていました。ただ…俺が声かけるのは違うと思って見守っていたんです。玲那は素直ですから、パンクしそうになれば雪乃あたりに相談すると思ってたんですが、その相手がたまたま雪ノ下さんだったというだけです。もしもの時は俺がなんとかしよう思っていました」

 

なんとかしようと思ってました…って言ったけど、玲那が悩んでたの友達が出来ないことだったのかぁ。

喧嘩しちゃった、テヘッ☆くらいだ思ってたのに…友達の作り方とか、それはなんとか出来ねぇわ。だって俺に友達って言えるやついないし。

 

あっでも、雪ノ下ちゃんは……あれ、あの子はどう言う扱いになるんだろうか……。

 

「よかった……本気で怒られたらどうしようかと思ったよ」

 

え?そんなこと思ってたの?だから焦ってたのか。

 

でも怒る…ねぇ?

 

「怒る?…俺が雪ノ下さんに怒ったところで、貴女は何も思わないでしょう」

「なんで、そう思うの?」

「貴女にとって俺は歳下です。立場とかそういった些事なことを考えなければ、少なくとも俺は歳下に怒られてショックを受けるとは思えない。あくまで俺は、ですが」

 

俺は、そう思うよ?俺はね?

 

「でも私は、君に怒られたくないよ」

 

なぜに?まさか……いや、ね。

 

「理由を聞いても?まさか俺に嫌われたくないとか、そんなことじゃ」

「そうだよ」

 

…は?

 

「は?」

「私はね、君に嫌われたくない。君のそばに居たい。君を…ずっと見ていたいの」

 

ん?んん?んんん?ちょい待ち。

 

「何言ってるんですか?それじゃあまるで…」

 

告白に聞こえてくるんですが?

 

「ねぇ、鎌ヶ谷くん。私とさ……付き合ってみない?」

 

…マジですか。

 

「…本気ですか」

「うん。私は、鎌ヶ谷 研の恋人になりたいの♪」

 

 

 

えんだぁぁぁぁああああああああ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

いや〜〜。

 

 

 

まいったねこりゃ。

 

 

 

 

うん、いったん落ちけつ。

 

どうしよ…なんかいきなり俺に春が来たようだ。陽乃さんだけに。

 

いや、ふざけていい場合じゃねぇ。俺はまだ小学生だぞ!流石に無理だろ!中身は……まあ、アレだけどさ!

 

こういうのは即決即断!

 

「えーと、それはお断り…」

「理由はなぁに?」

 

あれま怖いわよ、貴女。

なぁーんでそんな人を殺せる目をしてるの?本当に怖くてたまら……いやホント怖いですマジでごめんなさい理由言いますから殺さないで!!

 

「……雪ノ下さん、俺が小学五年って分かって言ってるんですか?3つも離れてるんですよ?」

 

大人であればたった3つと言えるけれど、小学生と中学生の3つの差はあまりに大きい。そうだろう!

 

「分かってるわよ」

 

あっ絶対分かってないやつだ。でもこれじゃあ言って聞かせても無理っぽいな。

 

「はぁ…なら一つ良いですか。どうして俺なんですか?こんなガキじゃなくても、雪ノ下さんほどの美人ならもっと良い男が寄ってくると…」

「び、美人なんて…君に言われると照れるね♪」

 

照れるね♪…じゃねーよ!なに惚けてるんだ!こっちは久々に真剣なんじゃ!

 

「ふざけないでください。真剣に聞いてるんですよ」

「私だって真剣だよ。君の隣にずっといたい、そう思って告白したんだから」

 

……言葉の重みがヤバい。

 

「それともなぁに?私みたいなお姉さんじゃ不満?」

 

え?いや…不満どころか……あれ、考えてみればこの人ほど優良物件いなくね?スタイル容姿スペック将来性…どれとっても最高峰では?

 

んー、でもなぁ。

 

「不満ではないです。雪ノ下さんほど優秀で綺麗な人なら」

「っ!?じゃ、じゃあ…」

「でも、それだけじゃダメなんですよ」

「…なにがダメなの?私ならなんでもしてあげるよ?私には出来ないことの方が少ないんだから。ねぇ、なにがダメなの?」

 

こ、怖い。怖いよ怖い!さっきから怖いしか思ってない!普通こういう時ってもっとアレじゃない?キュンキュンとかズッキュンとかそんな感じにときめくはずでしょ!?

 

なんで恐怖しか感じてないの俺!?

 

「いや、ダメというか……」

 

あまり恥ずかしくて言いたくないんだけど…。

 

「俺は…その、付き合うのなら…結婚することまで考えてしまうんですよ。そう考えた時、雪ノ下さんと恋人から家族になるって考えた時、今の貴女じゃ、たぶんうまくいかない」

「…………」

「雪ノ下さん。俺のことを別に心から好きって思ってませんよね?だいたい、たった二週間の付き合いで俺に好意を抱くとは考えにくいですし」

「鎌ヶ谷くん…君、かなりカッコいい方だと思うけれど?一目惚れってこともあるんじゃない?」

「世辞はいいです。俺が言いたいのは、俺のことが好きで付き合いたいわけじゃないですよね?」

 

やっぱ付き合うなら愛がないと、ね?

え、クサイこと言うなって?馬鹿野郎、女と付き合うなら愛しあってこそだろ!

 

「鎌ヶ谷くん。随分と……つまんないこと言うんだね」

 

ぐふっ!つまんないですと!?しかもなんて冷たい目!

 

「いつもの貴方らしくない。貴方は自分のメリットだけを求める怪物でしょ?なのに好きとか、そんなこと貴方は考えないでしょう?」

 

俺らしくない…?メリットだけ求める怪物…?

 

え、俺って変身できる系の能力持ってたっけ?

 

「意味がよく分からないんですが?」

「鎌ヶ谷くんは合理的で、自分の望むことはどんな手を使っても達成する。邪魔なものは排除する。そういう子でしょ?」

「いや、俺…そんな風に思われてたんですか?」

「実際そうじゃない。雪乃ちゃんも私も役に立ってるからそばに置いているだけ。もし価値がなくなれば追い払うんでしょう?役立たずならいるだけ無駄…そう考えるんでしょう?」

 

ひでぇ…なんだそのクズ野郎は…。サテライトの住人ですか?俺、マーカー無いですけど?

 

「いや、言っている意味が分かりません。俺はそんな非情な性格ではないと思いますけど」

「じゃあ、もし雪乃ちゃんが勉強出来なくなったら、貴方はどうするの?」

 

雪ノ下ちゃんが勉強出来なくなったら?

 

「……別にどうもしませんけど?」

 

逆にどうしろと?

 

「…貴方が雪乃ちゃんに求めてるのは学力だけだよね?」

「よく分かりましたね」

 

まあ、それだけしか求めてなかったし。

 

「なら、勉強出来なくなった雪乃ちゃんは要らなくなるってことじゃない?」

 

要らなく?

 

「まあ、必要はなくなりますね」

 

“それ”が無いならね。

 

「っ!そうよね!それでこそ…」

「でも、俺は別に捨てませんよ?」

「…え?」

「だって俺の物じゃないですもん。捨てるもなにもないじゃないですか」

 

だいたい雪ノ下ちゃんは、両親や玲那とも仲良いんだし。

 

「…そんなの、私が望んだ君じゃない」

 

望んだ?

 

「それは、貴方が押し付けた幻想なのでは?」

「……そっか。そうかもね。貴方には私と似たものを感じただけ…かもね。はぁ…私としたことが目が曇ちゃったのかな」

 

なんか…納得してくれた?

 

「はぁーあ。一気に冷めちゃった。やっぱり告白は無かったことにして」

「はい。それが良いと思います!」

 

よっしゃぁぁああ!!

喜んで良いのか微妙だけど、とりあえず良かった!

 

「最後に聞かせて。もし今の私が貴方のモノになったとして、使えなくなったら…どうするの?」

 

は?雪ノ下さんが俺のモノだとして…か……

 

「当然、決まってるじゃないですか」

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「はぁーあ。一気に冷めちゃった。やっぱり告白は無かったことにして」

「はい。それが良いと思います!」

 

はぁ…この二週間、無駄に終わっちゃった。

 

合理性の怪物なんて…私が見たかった幻想。

自分の思うがままに、邪魔なものは全て排除して強欲に強引に生きる人を見てみたかった。そしてその姿を見てとれば、自分もそうなれる方法が見つかるはず。そうなれば今抱えている苦痛や重み、責任なんて忘れて自由に生きられる。

 

そんな夢を、理想を、幻を見ていた。

 

彼はそれに近かっただけのただの優秀な子。その言動が、私が見たいと思ったものと重なっていただけ。

期待外れ…いえ、勘違いだったのね。

 

彼が、雪乃ちゃんは自分にとって良い子って言った時、その言い回しがまるで都合が良い“いつでも切り捨てられるモノ”って勝手にそう思っていた。彼は雪乃ちゃんをモノじゃなくて、しっかり一人の女の子だと認識していた。

 

つまり全て…私の思い込み。

 

はぁ…私もまだまだ人を見る目が無いなぁ。

 

あ、そうだ。聞くの忘れてたわ。

 

「最後に聞かせて。もし今の私が貴方のモノになったとして、使えなくなったら…どうするの?」

 

たぶん雪乃ちゃんと同じ答えが返ってくるでしょうけど。

 

「当然、決まってるじゃないですか」

 

 

ほら、やっぱり…。

 

 

「“捨てますよ”。俺が必要だと思って手に入れた所有物が機能を果たせないなら捨てます。だってただのゴミじゃないですか?」

 

…ああ…そうだった。

 

「…ふふっ。あはははははは…そうだったわ。やっぱり私の目は曇ってるどころか、節穴ね。あはは…!」

 

一度、気付いていたじゃない。

なんで忘れていたの?……いや、彼の在り方があまりに自然で忘れていたのかも。

 

人間の狂気なんてまだ見たこともないはずなのに、彼はこれほどまでに狂気じみている。でも普通の感情も感受性もあるから異常だと誰も気付かない。そして彼は家族を大切にしている、愛している…優しい男の子の面もある。

 

彼は人をゴミだと思ってない。

 

でも彼は人をゴミのように捨てられる。

 

それは普通の人なら罪の意識で潰れるもの。

 

もし人間が自分のモノになるということがあって、そのモノが使えなくなれば、躊躇なく無情に彼は捨てることが出来る。奴隷制度なんてあったら、彼の狂気はたやすく目に見えるでしょう。

 

その合理性は倫理も道理も考えてない。まるで悪魔のように、目的に、欲望に忠実。

 

彼のようなありえない表裏一体の二面をもつ人間を私は知りたい。そして叶うならその表裏一体の在り方になりたい。

人生を謳歌しながら、面倒なこと、苦痛に感じるものはその狂気が何も感じずに全て解決する。

それだけの容姿を、能力を、その全てを彼は待っている。そして私も。

 

彼が恋人に好きという感情を求めてるのは、家族想いの人間性が。

彼が時折見せる冷徹な言動は、その悪魔のような合理性が。

 

「ねぇ、やっぱり告白の取り消しを取り消しにしてくれない?」

「え?無理です。ややこしい言い方しても無理ですよ」

 

だよね。

 

「じゃあさ、その代わりにお願いがあるんだけど…」

「……なんですか。内容によりますけど」

「うん。別に大変なことじゃないよ」

 

やっぱり私は君を見ていたい。そばにいたい。隣に立ちたい。

 

「私のことを陽乃って呼んで?私は研って呼ぶから」

「え?それだけ?…別に良いですよ、陽乃さん」

「ダメよ?陽乃って呼んで。話し方もタメ語にして」

「……どうしてですか?」

「私は研と対等でいたいの、ダメ?」

「…まあ、それがいいなら…断る理由もないし。分かったよ、陽乃……んー、呼びづらいな」

「え〜〜」

「なあ?一ついいか?」

「なに?」

「陽乃って雪乃と被るから、陽(ハル)って呼んでいい?」

「あら、いいわね。特別感出てて」

 

なんだか雪乃ちゃんと差をつけられたみたいで嬉しいし。

 

「特別感は別に出してないけど…」

「あっ、あと一つだけ覚えておいて?」

「…なんですか?」

 

もう、そんな嫌そうな顔しないで。

 

「私は必ず、研と家族になって見せるから」

「無理です」

「…そんな風に言われたら私だって傷付くのよ?大丈夫、別に今すぐってわけじゃない」

 

そう、私は焦りすぎていた。だからもう同じ失敗はしない。

 

「研が、いつになったら付き合ってくれる?中学生?高校生?」

「…諦めないのかよ」

「あったり前じゃない!一回で諦めるわけないでしょ。だって今回は本気で好きになったんだもん」

「……高校生、を卒業したらかな」

 

うわぁ、すごく待たせる気ね。

 

「期間長いねぇ…君ってドS?かなりもったいぶるね」

「まあ。正直、諦めてくれって思ってる」

「あはは…正直過ぎるよ。でも…諦めないから」

「……へえ」

 

研に認められるまではね。

 

「研が高校生になったら誘惑しまくって、一刻も早く付き合いたいって思わせてやるからねぇ〜」

「うわぁ…」

「そんな顔しなくてもいいでしょう…研、いつも以上に顔に出してるでしょ」

「……気のせいだろ」

「ホントにぃ〜?」

 

まあ、いっか。待ってなよ。

私を本気にさせたら、研でも大変なんだからね。

 

「覚悟しててね。研でもそう簡単に逃さないから」

「…怖っ」

「私は怖くないよ?可愛いって言いなさい。綺麗でもいいぞ♪」

「怖い怖い。さっきとは別人かよ」

「うーん、あながち間違いじゃないかもね」

 

心が決まったからね。こんなのは初めてだよ。

 

「私は必ず、研を虜にしてやるから♪」

「あっはい……もうどうにでもなれ…」

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

くそぉ、諦めると思ったのに…なんかまた告られた!

 

しかも今回本気度が桁違いなんですけど!怖いんですけど!さっきの落胆からどうしてそんな本気の恋する乙女みたいになってんの?おかしいでしょ!どこでフラグ立てた?もう最近の子はよう分からん!

 

……俺も最近の子だったわ。

 

 

にしても…こんな俺が好きなんてねぇ。本当に変わってる人だ。

 

……はぁ。

ったく、面倒なことになったなぁ。高校生になるのが怖いよ。

 

「はぁ……じゃあ、改めてよろしく、ハル」

「ため息はいらないでしょ?…よろしく、研♪」

 

気付けば、彼女の笑顔から仮面が消えたように思える。あの分厚い仮面がかすかにだが、剥がれていたように見えた。

 

まっ、少しだけ。

 

少しだけなら…認めても、信じてもいいかなっとは…思ったかな。

 

 

雪ノ……いや、ハルならな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無知が罪であったとしても、問えばかならず彼は応える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ハルと陽…書くならどっちが良いのだろうか。

なんだか陽乃ルートぽいですが、ぽいだけです。そうなるかもしれないし、ならないかもしれない…流れ次第ですね。エンドを複数ってのも良いかもしれない。

まだ高校生編にも入ってないので気が早いですけど。

ていうか、オリ主の説明こっちで書くんなら、前回書かなきゃよかった。あとオリ主のツンデレなんて誰得なんだよベジータを真似るんじゃない。


次回でやっと小学生編終わりかなぁ…(´・ω・`)


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季節が移りゆく前に、雪ノ下 雪乃は覚悟を決める。

感想、評価、お気に入り、ありあとあす!(*´ω`*)

早速ですが嘘ついてすみません。今回で終わりませんでした!たぶん最後まで書いてたら、この二倍以上になると思って分けました。
本当は6/15の千葉県民の日に投稿したかったけど、投稿したいがために中途半端はいけないと思って諦めた。くそぅ。

ただそのくせ自信ないですが、楽しんで頂ければ嬉しいです!





 

 

 

 

 

時は少し戻り……

 

 

 

 

「研くん…遅いわね」

 

彼が出てからもう少しで10分が経とうとしている。すぐに戻ると言っていたのに…。

 

「待っててとは言われたけど…」

 

姉さんも戻ってこない。そのことに私は不安を抱いていた。

研くんは間違いなく姉さんと話しているはず…だとすればこの時間のかかりようは何かあるに違いない。

だが彼は、待っててくれ、と言った。それに逆らいたくないはない。

 

「でも………」

 

私は立ち上がって、部屋から出た。

 

姉さんに負けたくない。その一心で。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

最初にキッチンを覗いてみた。

 

お湯は沸いていたが、肝心の茶葉の方は手付かずの状態だった。姉さんは用意していたのに、まだ淹れていなかったのね…なぜかしら?

 

「雪姉ちゃん?」

「っ!…あ、あら、玲那ちゃん。帰っていたの?」

 

背後から声かけられて少しびっくりしてしまった。

考えごとをしていたということもあるけれど…研くんにしても玲那ちゃんにしても気配消すの上手よね。それとも私が気づかなすぎるのかしら?

研くんに初めて話しかけられた時もこんな感じだったわね、懐かしいわ。

 

……?なんだか玲那ちゃんの顔、いつもと少し違う?

 

「…玲那ちゃん、もしかして泣いてた?」

「え…どうして?」

「目元が少し赤いから…そうかと思って…」

「…その。うん。…陽姉ちゃんに相談したときに」

「え?姉さんに泣かされたの?」

「ち、違うよ?ちょっと、嬉しくて泣いた…というか…」

「そうなの…ならいいのだけれど」

 

姉さん、なに言ったのよ…!

 

「そうだ玲那ちゃん。研くん、知らない?」

「お兄ちゃんなら外にいると思うけど…」

「外?どうして…」

「その…私が泣いちゃった時、ちょうどお兄ちゃんが来て…それで陽姉ちゃんがなんか慌てて、外で話そう…みたいなことになって」

 

……どういう状況よ。

 

「でも今日の陽姉ちゃん、なんか面白かったなぁ」

「面白かった?」

「うん。泣いてた私をリビングで休ませようとしてくれた時、陽姉ちゃんが…どうしよう、鎌ヶ谷くんに怒られたら…ってすごい焦ってしかもちょっと涙目だったの。お兄ちゃん、別に怒っていなかったのに陽姉ちゃんが慌ててたから、なんだか面白くて…ふふっ…」

「そ、そうなの……」

 

だからどうしたらそんな状況になるの…?

 

「とりあえず外にいるのね…ありがとう」

「え…行くの?」

「ええ。姉さんが研くんにまた変なこと言ったら大変だもの」

 

負けたくないから。

 

「陽姉ちゃんは別に変なこと言わないと思うよ」

「…どうして言い切れるの?」

「確かにいつも冗談ばかり言ってふざけてるけど…でも、さっきの陽姉ちゃんは変なこと言うようには見えなかった。だから大丈夫。私は信じてもいいと思うよ」

「玲那ちゃん…貴女……」

 

彼女の言葉は綺麗だ。

素直で、まっすぐで、それでいて聡明な雰囲気を醸し出している。将来は研くんに負けないくらい輝ける人物になることでしょうね。

 

でもだからこそ…貴女の言葉は私の心に突き刺さる。

 

「ねぇ…一つ、質問してもいいかしら?」

「え、なに?」

「玲那ちゃんは、私と姉さん…どっちの方が好き?」

「え?そ、そんなの選べないよ」

「じゃあ質問を変えるわ。貴女は私と姉さんのこと、お姉ちゃんって呼ぶわよね?」

「う、うん」

「なら、どっちがお姉ちゃんとしてふさわしい?」

「ゆ、雪姉ちゃん…なんか怖いよ」

「そんなことないわ。さあ、貴女なら正直に答えてくれるでしょう?」

「で、でも…ほら、お兄ちゃんに簡単に人を比べるなって言われてるし…」

「彼には言わないから大丈夫よ。私が個人的に知りたいの。それで、どっちなの?」

 

貴女は彼と一緒で虚言を吐かない。

だから教えてほしい。

 

私が姉さんと比べてどう見えてるのか。

 

「……お姉ちゃんとしてなら…陽姉ちゃんかな」

 

……。

 

「…そう。ありがとう、答えてくれて」

「う、うん。でもね、雪姉ちゃん…」

 

彼女が何か言おうとした時、玄関のドアが開いた。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

突然の告白をなんとか対処した俺の心はとても穏やかだった。

 

本当に穏やかだ。まるで広大な森の中にいるよう。

 

耳を澄ませば、鳥のようなハルの喜ぶ声が聞こえ………はい?

 

目を閉じれば、川のせせらぎのようなハルの騒ぐ声が聞こえて………なんだそれ。

 

随分と変なこと言ってるなぁ、俺。疲れてるのかな疲れてるだね。

 

よし、現実に帰ろ。

 

「ありがとう、研!!」

「はぁ……なあ、うるっっっさいんだけど!」

「えー、だって嬉しいんだもん」

「もう分かったから!なに?改めて宜しくってことで握手しただけなのになんでそんな盛り上がれるの?馬鹿なの?」

「私、研の為なら馬鹿になれるよ?」

 

キリッとして言うな馬鹿が!

 

「オッケー、馬鹿は取り消すからこれ以上馬鹿になるな。もう黙ってくれない?家に入れないんだけど」

「私が黙るのと、家に入れないのは関係ないでしょ?」

「そんな仁王立ちで目の前に立ってるくせによく言えるな」

「だって〜、せっかくの二人っきりだし?私と研の大切な記念すべき日なんだからこの時間を大事にしたいじゃない?」

「そうですか良かったですねでも俺にとってはそうでも無いのでどいてくださいませんか?」

「研って面倒になるとそうやってまくしたたて話すわよね?無駄にカッコ良く」

「世辞はいいから、はやくどけ」

「もう、い・け・ず♪」

 

どーしよ、この人の調子の乗りかたがいつにも増してヤバいウザいキショい。

よし、ここは一発本気で言おう。重低音の声で脅してやる。

 

「おい、聞こえなかったか?どけよ」(ド迫力)

「……カッコいい」

 

あああああああああああ、怖い!お前なんなの怖すぎる!どうしてそんな感想に繋がるの!?こっちは怒ってるってアピールしたのに、なんでそんな感想が出てくるの!?

 

「ね、ね、もう一回言って!」

「しつこい。雪乃待たせてるんだから。ハルだってまだ紅茶淹れて無いんだろ」

「あ、そういえばやるって言ったんだった」

「本当に大丈夫かよ」

 

まさか頭イかれた訳じゃ……

 

いや、すでにアウトでしたね。俺もだけど。

 

 

早く家に入ろ。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「う、うん。でもね、雪姉ちゃん…」

 

ん、玲那に雪乃か。

 

「二人とも、どうした?」

「あ、お兄ちゃん…」

「研くん…それに姉さん。なにしていたの?」

「え?な、なにって?えーと……」

 

そりゃ言いづらいわな。俺に告白してフラれました、なんてよ。

 

「ハルが玲那を泣かしたことで話してたんだよ」

 

嘘は言ってない。

 

「そ、そうなのよ。研の言う通り。ホントにお姉さん怖かったわぁ〜。歳下なのに迫力あるし」

 

なぁにが怖かったわぁ〜、だよ。白々しい。

 

「研……ハル……」

 

あれ?雪ノ下ちゃんの目が刮目してらっしゃる。どうした?今の会話で眠くなりそうなところあった?

 

「どうした、雪乃?」

「い、いえ……なんでもないわ。それより姉さん。もう夕食の時間になるからご飯を作ろうと思うのだけれど…誰かさんが中途半端にしている紅茶のセットがあるのよ。姉さん、掃除担当でしょ。片付けて」

 

……いつもの雪ノ下ちゃんに戻った、のか?

 

「あら、いけない。ごめんね♪今からでも淹れるけど飲む?」

「……私はいいわ。研くんと玲那ちゃんに淹れてあげたら。その間、私はご飯作ってるから」

「ゆ、雪姉ちゃん。私も手伝うよ」

「………今日はいいわ。どこかの人が外でお説教を受けているせいで、時間も遅くなりそうだし」

「お説教ではなかったけどね…」

「はぁ…なんでもいいから、はやく紅茶淹れて片付けてちょうだい」

「あ、あいあいさー」

 

あいあいさー…?さてはテンパってるな。初めて聞いたよ、ハルのそんな返事。

 

それにしても玲那と雪乃……なんかあったのか?いつもならご飯用意する時が二人の楽しみなのに。

 

「あとで……それとなく聞いてみるか」

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

夕食を終え、時間は20時近くになろうとしていた。

 

ハルがいることもあり、二人がこの時間に帰っても一緒であれば両親には何も言われないらしいのだが、俺はそれでも二人を送り迎えしていた。

 

いつもなら…

 

「…送らなくていいのか?」

 

だが今日、送り迎えはいらないと言われたのだ。

もう一年の付き合いになろうとしているが、これは初めての出来事だった。

 

「ええ。今日はいいわ。姉さんと二人で話したいことがあるから」

「へー、珍しい。雪乃ちゃんが一番楽しみに…」

「…姉さん、少し黙ってもらえるかしら?」

「はいはい」

 

…………。

 

「わかった。それじゃあ気をつけて」

「じゃあね。陽姉ちゃん、雪姉ちゃん…」

「ええ、また明日」

「じゃあね〜」

 

玄関がゆっくりと閉まる。

俺の目はずっと雪乃を追っていた。扉が閉まる瞬間まで。

 

「玲那……雪乃と何かあったのか?」

「え……?」

「今日のお前たち、いつもと少し違うような感じがしてな」

 

ご飯を一緒に作らない、雪乃はいつもと違って愛想笑いばかりして、玲那の声には喜びが無かった。毎日の当たり前に少しヒビが入ったように感じたのだ。

 

「あ、あのね…実は…」

 

 

 

………………………………。

 

 

 

「そうか。分かった」

 

俺は事の顛末を聞いて……覚悟を決めた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

私と姉さんは静かな帰路を歩く。

辺りは暗く、月明かりも雲で遮られていた。人の気配もない、静寂な世界だった。

 

「それで、話ってなぁに?ま…予想はつくけどね」

「…研くんの、姉さんの呼び方が変わっていた。ねえ、何を言ったの?」

 

私の頭の中はその事でいっぱいになっていた。

明らかに関係が変わっていて、でもそれは悪い事じゃ無く、むしろ良くなっていて…それは私が“目指しているような関係”に見えて…いえ、そんなはず……

 

「私ね……研くんに告白したの」

「……ぇ…」

 

こく…はく…

 

「でもフラれちゃったぁ。あっさりとね。でもその代わり名前で呼びあいたいって言ったの。そしたら承諾はしてくれたんだけど、でも彼が陽乃は雪乃と名前が少し被るからハルって呼ぶって言って…今に至るって感じ……これで満足?」

 

告はく………告白……?

 

「ふざけないでよ…!」

「なに怒ってるの?」

「そうやって私の嫌なことをしてそんなに楽しい?私があれほど大切にしている時間に、壊れないよう必死で守っていたあの空間にいきなり割って入ってきて、しかも奪うなんて……貴女に、私の姉を名乗る資格は無いわ!研くんや玲那ちゃんだって…妹の唯一の宝物を奪うなんて人としても最低よ!悪魔よ!外道よ!」

 

自分の言っていることがよく分からない。

ただ汚い言葉を並べた。この人を否定したい。間違っている。貴女は人としてやってはいけないことをした。謝って済む問題じゃない。許せない。許したくない。

 

目の前が涙で歪む。それはまるで、私の心を見ているような感覚だった。

 

「雪乃ちゃん…見苦しいよ」

「な、何を言ってるのよ…」

「雪乃ちゃんの言いたいこと、嫌だけど分かっちゃうのよ。お姉ちゃんだから。でもだからこそ、そんな姿を見ているだけでイライラする」

「なっ…」

「私が研に近づいたのが嫌なんでしょう?しかも、自分より距離が縮まっているから、なおさら嫌で嫌で仕方がない。でも私から言わせれば…そんなのただの甘えよ」

「違うわ!」

「現実から目を背けてもなにも変わらないわよ。私は雪乃ちゃんが欲しかったものを先に手に取った。奪ったんじゃない。私が雪乃ちゃんよりも近づけたから手が届いた。雪乃ちゃんはそもそも手の届かないところでただ見ていただけでしょ。

さっき、壊れないように必死で守っていたって言ったわよね。それは違うわ。雪乃ちゃんが勝手に臆病になって、彼に近づけなかっただけ。もし触れてしまって今の関係が壊れたら嫌だから傍観していた」

「違う…私が研くんの隣に立っていたのよ!それを…」

「あはははっ、その時点で間違ってるわ。雪乃ちゃんも、そして私も…彼の隣にはいない。そうありたいと思っているだけで、私たちはまだまだ彼には届いてない。私の手が届いたのは、ほんの少し彼が振り向いてくれたおかげってだけ」

 

彼には届かない……。

 

「……姉さんに研くんの何が分かるっていうのよ」

「少なくとも、雪乃ちゃんの知らない研を私は知ってるわ」

「嘘よ……」

 

そんなの、姉さんが言ってるだけの……。

 

「雪乃ちゃんさ…いつまでも我儘言っていられる訳じゃないんだよ」

「我儘ですって?私はそんなこと…!」

「いい加減にしなさい。私は欲しいと思ったから行動した。でも雪乃ちゃんは一年近くもいるのに、ただ臆病になって自分からは何も言わず、動こうともしなかった。それだけよ。それが結果なの」

 

分かっていた。それが原因だってことくらい。

 

「……っ………」

 

頰に暖かいものが流れた。でもそれはすぐに冷たいものへと変わる。

 

「だって仕方ないじゃない…初めてのことばかりで、もし私がなにか間違ったら、また研くんや玲那ちゃんと一緒にいられなくなるんじゃないかって思って…そう思ったらなにも言えないじゃない!怖いに決まってるじゃない!姉さんはいいわよ、人付き合いが得意なんだから!

でも私にはあそこしかないの!私を救ってくれた、私が本当に笑っていられる場所はあそこしかないの!

お父さんもお母さんも姉さんもクラスの他の連中も、みんな私の努力を、私を否定した!拒絶した!傷付けた!

でもそんな時、彼は……何食わぬ顔で私を救ってくれて、必要だと言ってくれた。笑顔をくれた。心の傷を埋めてくれた。そうしたら、必死になって壊れないようにするしかないじゃない!」

「……雪乃ちゃん」

 

頬に暖かいものが流れた。でもそれはすぐに冷たいものへ変わらなかった。次から次へと暖かいものが流れて、止めどなく溢れて、それはコンクリートの上にとてもとても小さな水たまりを作っていく。

 

「……私にね、雪乃ちゃんに負けちゃったところが一つだけあるの」

「…ぅ……え?」

「私、人見る目には誰も負けない自信がある。だから研を初めて見た時、彼がいかに特別なのかすぐに分かった。ただの優等生なら隼人みたいに器用になんでもこなせるだけのつまらない人間だけど、研は少し違った。でも雪乃ちゃんは研のその特別なところに気付いてなくて、心の中で一歩リードしてるように思っていたけど、そんなことなかった。

私も見えていなかったの。彼の奥底を覗こうとし過ぎて、目の前にあるものが見えてなかった。でも雪乃ちゃんは、その目の前にあるものをしっかりと見つめていた」

「……それって?」

 

姉さんは空を見上げて、小さく笑った。まるで懐かしむように。

 

「研はどうしようもなく家族を愛しているってところ。雪乃ちゃんは彼のその優しさを見つめていた。それは私には出来なかったこと。

だって私は、そんなのは上っ面なものだと吐き捨ててた。だけど、さっきフラれた後に気づいたの。彼は、優しさとその特別なモノの二つで出来てるって。そのどちらもが彼を形作っているものでなんだって。」

「……特別なって、何が特別なの?」

 

私は自然と、素直にそう聞いていた。答えに姉さんは、いつものように笑っていった。

 

「それは内緒。でも雪乃ちゃんなら気づけるはずだよ」

「…ふふっ、なにそれ。本当にズルいわ」

「そーだね。抜け駆けして告白しちゃうぐらいだもんね」

「フラれたら意味ないけれど」

「あっ、言ってなかったけ?高校生卒業したら付き合ってくれるって、研、約束してくれたのよ?」

「な、なんですって?……いえ、でもその前に私が」

「雪乃ちゃんにできるのぉ?今だって研は友人ですって言い切れないくせにぃ〜」

「なんでわかるのよ…!」

「言ったでしょ?お姉ちゃんだからよ!」

 

いつもの、姉さんが言い訳とかでよく使う台詞。でもその言葉を口にした時に浮かべた笑顔。それは見慣れた仮面ではなく、本当の姉さんが見えたような気がした。

 

「姉さん…ごめんなさい。それと……ぁ、ありがとう」

「………。うん。どういたしまして」

「ええ」

 

時刻は20時を回っていた。流石に家に帰らなければ、姉さんもマズイだろう。

辺りは未だ静寂で暗い世界。しかし、頬の涙を拭った時…月を隠していた雲がはれていった。

静寂で暗いだけの世界が月明かりによって、少し神秘的に感じる。

 

「ねぇ、姉さん」

「…ん?なに?」

「どうして私の話を聞いてくれたの?姉さんなら断ることも出来たでしょう?」

「まあね。断ったら、今も雪乃ちゃんは路頭に迷って困っていたでしょうね」

「…残念だけど、否定出来ないわ。話したお陰で迷いが吹っ切れたと感じているもの」

 

でしょう?と姉さんはニヤニヤしている。

 

「そうね。たしかに雪乃ちゃんを放っておくのも一つの手だと思った。でもやっぱり……私は雪乃ちゃんのお姉ちゃんだからね。先駆者としてハンデをあげようかなってね。」

「……姉さん、前まではそんな風に考えなかったわよね?」

「正直に言えばそうね。私の後を追ってくるだけの可愛い妹って思っていたわ。でも…もう少し信頼してみよっかなって思ったの」

「…どうして?」

 

少しの沈黙。

姉さんはゆっくり振り返って、呟くように言った。

 

「たぶん…研に影響されたんじゃないかなぁ。本当に怪物よ、彼は。人の心なんて深く知ろうともしてないくせに、理解して、隙をついてくるんだから」

「研くんは別に怪物じゃないわ」

「例えよ。私の心なんて動かされないと思っていたのに、こうも簡単に動かされて、変わっちゃったんだもの。ある意味、研は怪物ってわけ」

「……そう言われると納得出来るのが不思議よね」

「雪乃ちゃん、それって私の心が普通と違うって言ってるように聞こえるけど?」

「自分でそう言ったんじゃない」

「そーだけど、自分で言うのと周りが言うのじゃ意味が変わってくるでしょ?」

「…周りで言ってあげられる人なんて、わ、私くらいなものでしょう?」

「……。うふふっそうね。あと研くんと玲那ちゃんとそのご両親も♪」

「………やっぱり調子に乗せすぎたかしら?」

「えー。私だってお姉ちゃんとして助言してあげたじゃない。もっと優しくしてくれてもいいでしょ?」

「もうサービス期間は終わったのよ」

「なんか強そうな台詞で返された…」

 

夜は更けていく。

 

私も一歩踏み出さないといけない。ただ怯えてないで、勇気を持ってぶつからなければいけない。

 

「……明日、玲那ちゃんにも謝らないと」

 

街灯と月明かりが照らす道は、明日に待つ希望のように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

季節が移りゆく前に、雪ノ下 雪乃は覚悟を決める。

 

 

 

 

 

 

 

 








俺は雪乃と陽乃を幸せにしたいんだ。どっちも幸せにしたいんだ。大事なことなんで二回ってやつです。この一言にフラグとかないんだからね!

次回はもう!流石に!終わらせて!八幡や!!

小学生編終わりに向けて一言。
小学生編の終わり方は作ろうと思った時から決めていた。(作ろうと思ったのが去年)



感評気の3セット、どれも待ってます(`・ω・´)




6/27
追記:結局、一万字超えたので2話に分けることになりそうです。いっぺんに投稿しようかと思います。いっぺんに投稿すれば嘘じゃないよね?:(;゙゚'ω゚'):


目次 感想へのリンク しおりを挟む


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過去を辿った 鎌ヶ谷 研 はわずかに前進し、二人はカタチを見つけた。



お気に入り、感想、評価、本当にありがとうございます!すごい活力になっておりますぜ!

連続投稿で小学生編は終わります。
だから嘘つきじゃないよ?いいね?:(;゙゚'ω゚'):









 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

いつも通り登校し、いつも通り授業を受け、いつも通りの放課後を迎えた。

 

俺は先に校門前で雪ノ下を待っていた。なんでも、先生に話さなければならないことがあるらしい。特に気にはならないが。

 

こうして一人の時間が出来ると、ふと昨日のことを考えてしまう。ハルの告白と玲那と雪ノ下の衝突についてだ。

 

ハルの告白によって、俺は他者を信じるということを悪くないと再び思い始めていた。

 

そして玲那と雪ノ下の衝突。この衝突自体はあまり問題ではない。今日中に解決する程度のものだ。

 

しかし、この二つの問題から俺は疑問に思ったことがある。

 

玲那にとって雪ノ下 雪乃は姉のような存在。

 

なら俺にとって雪ノ下 雪乃とはなんなのだろうか?

 

以前であれば、自分に都合のいい子で済ませていた。

しかし、雪ノ下の姉であるハルの言葉を思い出すと本当にそれでいいのか?と思う。雪ノ下はハル以上に時間を過ごした存在だ。であれば彼女に対して俺は“何か”を思っているはずなのだ。

 

玲那が大切な家族であると思っているように。

ハルを厄介でありながらも信頼できると思っているように。

 

俺は、彼女に対して何を抱いているんだろう?

 

もしそれが……過去に否定したものであるとするなら、俺はどうすればいい?目を瞑ぶるのか、耳を塞ぐのか…それとも。

 

いや…これは無駄な思考だ。

 

「研くん」

「……おう。もう済んだのか」

「ええ」

 

彼女は微笑み、そう答えた。

 

なんとなくだが彼女の足取りがいつもより早いような気がする。多分、急いで玲那に謝りたいという気持ちの表れだろう。

 

しかしそんな彼女には悪いが…

 

「なあ、雪乃…」

「ん?なにかしら?」

 

 

俺はこの無駄な思考に答えを出したい。

 

 

 

そう覚悟を決めていたから。

 

 

 

「これから一緒にカフェに行こう」

 

 

 

俺はあの日と同じ言葉を口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

喫茶店独特の落ち着いた雰囲気と紅茶の香り。まるで初めて研くんと話したあの日のようだ。

 

だけど、あの日と違うことが一つある。

 

それは…彼から緊張感が伝わってくることだ。

 

「なあ、雪乃…」

「な、なにかしら?」

 

普段の彼とは違うせいか、思わず言い詰まってしまう。

 

「お前は……俺をどう思ってる?」

「……え?」

 

それはつまり…いや、違うわね。

彼はそういうことは求めてないはずだから。

 

「私にとって、研くんは友人よ」

 

無難でありながらも、今まで言葉に出来なかったことを勢いで言ってしまった。思わず反応が怖くて俯いてしまうが、彼は変わらない声のトーンで、そうか…と呟く。

 

「なら……話したいことがあるんだ」

 

その表情はいつもより堅いように思えた。それほど大切なことなんだろうか?

 

「俺さ、前の学校で“親友”って呼べるやつがいたんだ」

「……それって」

 

 

私は初めて彼の家に行った時の会話をふと思い出す。

 

 

『どうして、雪ノ下さんはここに来ることになったの?』

『どうしてって……一緒に勉強しようって誘われたからよ?』

『本当に?お兄ちゃんってそうそう友人は作らないの。前の学校でも、お兄ちゃんから聞いたことある友人って一人だけなのよ』

 

 

玲那ちゃんが話してくれたことだ。

 

しかし彼はそう呼べるやつがいた、と言った。

 

つまり今は…

 

「それで転校するって決まった時、真っ先に親友に告げに行ったら………絶交されてな」

 

渇いた笑いとともにそう彼は言った。

 

告げただけで…?

 

「研くんはなにも悪く無いじゃない!転校なんて、研くんにどうこうできるわけじゃないのに」

 

自分のことにように怒りがフツフツと湧き上がってくる。

家庭の事情なのだから、彼には何も出来ないことくらい誰でも理解出来るはずだ。

なのにそれを彼の罪だと、そう押し付けるかのように絶交するなんて…。

 

「ああ、だから思ったんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“そんな絆ならもう要らない”って」

 

「……ぇ」

 

「簡単に消えるような繋がりならもう要らない。だから俺は、友人というものを求めなくなった。手に入れる苦労と、それが壊れた時の苦悩の釣り合いがあまりにとれないから」

 

彼が言うことには共感できる部分があった。

弱い繋がりはいらない。そんなのはあっても無駄だと私も思うから。

 

でも…。

 

「それなら…なんで私に声をかけたの?」

 

繋がりを必要ないと言うのなら…私は一体なんなのだろうか?

 

彼は表情を変えず、淡々と話していった。

 

「人は一人きりで生きていけない。一人だけで何かを成すことが出来ても、生きていくことは出来ない。だから俺は…自分に役立ってくれる“能力”だけを求めた。その結果が、“雪ノ下 雪乃との始まり”だ」

「…利用するため、だけ」

「そうだ」

 

詫びるような様子は一切なく、彼は私をまっすぐ見つめた。

 

「でもいつからか、俺は雪乃になら頼って良いと心を許していたことに気づいた」

 

「………」

 

「だから言おうと思ったんだ。本当に頼りたいなら、その前に信じようと。俺の言いたくない過去を、本音を言うことで…それが“信頼の証”になる…そう思ったんだ」

 

「…そう」

 

 

 

研くんの話を聞いて、別にショックはなかった。

 

むしろ納得した…実に彼らしいと。

 

人の繋がりの脆さに落胆した彼は、信じるのをやめ、価値のみを求めた。しかしまた彼は他人を信じてみようと思い始めた。

 

だがそれはあまりに都合が良すぎる。だから次は信頼の証として、自身の過去、それと最初は私を利用するためだけに接触したこと…その二つを“信頼の証”として晒したのだ。

隠し続けることに罪悪感を感じたのかもしれない。

 

でもそんな素直で誠実な彼だからこそ、私は憧憬を抱いた。

 

「研くん。別に私は貴方に利用されるだけの存在でも良かったのよ」

「………は?」

「私は貴方に必要とされて嬉しかった。それに…救ってくれたじゃない」

 

彼は目を見開いた。

 

「なんで知って…いや、それよりもあれは偶ぜ…」

「それでもよ。私は研くんに人生を変えてもらえたの。だから貴方にとって、友人だろうと利用するだけの存在であったって私はかまわない。貴方の役に立てて、そばに居られるなら…なんだっていいの。

 

でも、研くんが許してくれるなら……

 

私は…いえ、私が貴方の親友になりたい」

 

吐き出すように、懸命に伝えた。

 

少しだけ本音を言えて、なんだか身体が軽くなった気がする。

 

「……ははっ。まったく、姉妹揃ってなんで俺なんかにそう言えるんだよ」

 

そう呆れた笑いを浮かべる。

でもそれは仕方のないことだ。彼はそれだけ私と姉さんに影響を与えたのだから。

 

「…じゃあ、これからも宜しくな。親友」

 

彼は右手を差し出した。

 

「ええ、研くん!」

 

彼の手を握ると少し冷たかった。けれど、その冷たさが心地よかった。

 

私はこの瞬間、この感触、この匂いを忘れない。

 

私にとって…本当の親友が出来た瞬間なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

雪乃への話を終えると、カフェを出てそのまま俺の家へと向かうことになった。

 

 

 

 

 

 

いやぁ……緊張したわ!!

 

 

でも…ふふふ……ふふふふふ……

 

 

 

 

俺にまた親友が出来たぞぉぉおお!!

 

 

Fuuu!!これでもうぼっちは卒業だ!やったぜ!!

 

俺さ、ずっと思ってたんだよ………雪乃って万能じゃね?

 

勉強も出来て、玲那や両親にも仲良くて、なおかつ家事全般なんでも出来る。

 

そして!!!

 

ここ重要な?

 

あの!うるさいハルに!対抗できる唯一の人材なんだよ!!(うるさいのは貴様)

 

いやぁそう考えたら、こんな子と信頼し合える関係なら嬉しいなって思って、俺への印象を聞いたら、友人と思ってくれていたらしいじゃん!

 

なら、これはもう腹割って話すしか無い!異論反論の余地もなし!

 

だから俺も雪乃への最初の印象を話して……ついでに黒歴史も話し、そして信頼出来る関係になりたいと、そう伝えたわけ!

 

そうしたら、ふふふ…俺と親友になりたいと!雪乃が言ったわけよ!もうあの時は涙止まらなかったわ!……心の中でだけど。

 

でも俺の黒歴史を語った時はマジで緊張したね!

引かれないかな?ってずっとヒヤヒヤしてたもん。だけどそんなこと無くしっかり聞いてくれて本当に良かった!

 

あー、でも雪乃が『利用されるだけの存在でも良かった』とか言い始めた時はビビったね。なに言ってんのこの子大丈夫?ってなったわ。

 

だって怖いでしょ?そんなこと自分から言い始める子とか。

 

雪乃も実はハルとはまた違った怖さがあったりして……いや、もう親友なんだかあまり疑っちゃいけないよね。うん、信じよ信じよ。信じる心は世界を救うんだから!多分!

 

 

おっと、そんなこと考えてるうちに家に着いた。

 

「すぅ…ふぅ…」

 

うん?なんで家入る前に深呼吸してるんですかね、雪乃さん?

 

あっ…そっか。玲那に会うのが緊張するのか!

 

「雪乃…玲那のことなら大丈夫だぞ」

「え…!知ってるの?」

「まあ、アイツの兄だからな」

「ふふっ姉さんと同じこと言うのね」

「え、ハルも同じようなこと言ったのか…」

 

もう言わないようにしようかな…割とマジで。

 

「あら、姉さんのこと嫌い?」

「いや…そうじゃないんだけどな……」

「昨日は仲良さそうだったのに」

 

あれはアイツがしつこく絡んでくるだけなんだけどね…。

 

「まあ、そんなことは良いんだよ。玲那は別に怒ってるわけじゃないから、少し話せば解決するさ」

「……そうかしら?」

「ああ。俺の言うことは信用出来ないか?」

「い、いえ!そんなわけないじゃない!」

「お、おう…そうか。なら良かった」

 

そんな強く言わなくても良いんだぞ、雪乃。

 

びっくりするから…ホントに。

 

俺はドアノブに手をかけた。いつもなら隠してある鍵で開けるのだが、もう17時になりそうな時間だ。どうせハルもいるんだろうし、開いてるだろう。やはり扉はすんなりと開いた。

 

「ただいま」

「お邪魔します」

 

いつものように入ると、リビングから顔を出したのは玲那だった。

 

「お、おかえりなさい…」

 

玲那は雪乃の顔を見ると、気まずそうに目を逸らした。

一応、俺の方でフォローぽいことは言ってあげたから…二人きりにしてあげれば解決するだろう。

 

「じゃあ、俺は先に部屋に行ってるぞ」

「え、研くん…?」

「お、お兄ちゃん?!」

 

決して面倒だから任せようとか…そういったことない!断じて!

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「あっ!おかえり〜。遅かったじゃなーい」

 

………な?

 

アイツら二人きりにするってことは、俺はハルと二人きりになっちゃうんだよ。

 

うるさいよ怖いよめんどいよぉー!

 

「ちょっと雪乃に話があってな、カフェに寄ってた」

「えっ、ずるーい!私も連れてってよ」

「いや、ハルがいると色々とうるさいから」

「流石に騒がないわよ、私をなんだと思ってるの!」

「そうだな、じゃあ言い方を変える。ハルがいると鬱陶しいから」

「なんで悪い方向に行くの?!もー、そんな風に言われると私も泣いちゃうよ?」

 

ほらめんどい!

しかも泣いちゃうよ?とか言っておいてめっちゃニヤニヤしてるし!

 

まあ、でも……たしかに言い過ぎたかもしれないし?

泣かれるのめんどいだろうから…なんかフォローしとくか。

 

ああ、そういえば……

 

「悪かったよ。ほら、これあげるから」

 

俺は自分の机の引き出しから一つのキーホルダーをあげた。

 

「……白いキツネ?」

 

俺がだいぶ前にディスティニーランド行った時に何故か売っていた、幸せの象徴のキーホルダーの動物シリーズの一つだ。犬、猫、虎、馬、象、キツネ、蛇、オオカミ、豚、フクロウ、イルカ、ワシの十二種類セット。それぞれ他にも虫シリーズとか、水に住む生物シリーズとかもあった。

俺、意外とこういうの好きなんだよね。ていうかなんであんなところにこれ売ってたんだろう?普通こういうのってファミレスとかで売ってるものだと思ってたんだけど。

 

ちなみに父親には象、母親にはフクロウ、玲那にはイルカをあげた。

 

「白いキツネって幸福を呼ぶ象徴らしいぞ」

 

あと人間関係が良くなるとか!

 

あっ、この人に一番不要なものだった!

 

「くれるの?私に…?」

「ああ」

 

まっ、あげちゃったから…いっか!

 

「そっか……ありがとう、研」

「…どういたしまして」

 

……あれ?思った反応と違う。

もっとこう騒ぐ感じに喜ぶと思ってたのに…。

 

「幸福か……」

 

ていうかハルさん?その白いキツネのキーホルダーじっと見つめなくて良いんじゃないかな?そういう姿見ると、なんかこっちが恥ずかしくなってくるんですが!ね、やめよ?!

 

「もしかして、余計だったか?」

「……え?いやいや、そんなことないよ?ただこういうの貰えて嬉しく感じるのって初めてで…」

 

え、なにその反応。

 

「…………あ」

 

そうでした…ハルって俺に告白してきた人だったわ!!!

なんかこういうのあげるのってそういう感じのこと意識してるって思われるかもしれないというか思われてるに違いないぞおい!!そんなのホントに微塵も思ってないのに!いや、分子レベルではあるかもだけど!!

 

「その、ハル…それは別に」

「大丈夫、分かってるよ。気遣いでくれたんでしょ?」

「…よく分かったな」

「まあね。研の考えること、少しは分かるから」

「そうか……」

 

え、俺ってそんな分かりやすいですかね?

 

「でも嬉しいのは本心よ。大切にする」

「まあ、なら良かった」

 

よし、これで面倒な場面も減ってくれると嬉しいなぁ……。

 

「それで?雪乃ちゃんとなに話してたの?」

 

あれぇ?さっそく面倒な質問がきたぞぉ?本当にご利益働いてますかぁ?

あ、ご利益をハルにあげただけで、俺にご利益あるわけじゃなかったぁ…。

 

「はぁ……まあ要約すると、雪乃が親友になったってことくらいかな」

「そう、親友ね。……え、なにそれズルい!」

 

あーはぁん?

 

「ズルいって何が?」

「だって私は友人止まりなのに、雪乃ちゃんが親友なんてズルいでしょ!」

「何言ってんだハル。お前がただの友人なわけないだろ」

「え?そ、そうなの…じゃあ私は研にとって…」

「決まってる。俺にフラれた人だろ?」

「うわーん、すごい傷えぐってきたー!」

「嘘泣きやめい」

「じゃあ私も親友って認めてくれる?」

「いや…そんな親しくないし…」

「……今、素で言った?素で言ったよね?」

 

あれ?面倒に怖さが加わった気が……

 

「いや、冗談だよ。あれだ、信頼の裏返しってヤツだ」

「……後付け感がすごいんだけど?」

 

おっと、笑顔なのに怖いぞぉ?可笑しいな!

 

いや可笑しくねぇよ!早く逃げ道を探さねば!

 

「そろそろ夕食になるな。下に降りようか」

「あっ誤魔化した」

 

フッ、馬鹿め…逃げるが勝ちって知ってるか?お前なんて逃げてしまえばこっちのもんよ!

 

「なら、私も行くよ」

 

あ、逃げられないようですね…。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

下に降りると、キッチンから雪乃と玲那の声が聞こえてきた。

 

察するに仲直りは出来たようだな。

 

「あら、研くん。それに姉さん。もう少しで出来るから待ってて頂戴」

「分かった」

 

俺は素直にリビングで待つことにしよう。玲那も鍋見てるし、ここにいちゃ邪魔になる。

 

「雪乃ちゃん、研の親友になれたんだって?」

 

って思ったそばから雪乃に絡むなよ!!

 

「姉さん、研くんを問い詰めたの?」

 

目を鋭くしてそう雪乃は言った。

 

「問い詰めた訳じゃないわよ?ただ泣く振りしたら教えてくれただけ」

「はぁ…研くん、さぞかし面倒だったでしょうね」

「えー、そんなことないわよ。ねぇ研?」

 

うわぁ…自覚ないフリしやがってる。

 

「いや面倒でしたよ?」

「うぅっ…そんなこと言わないで…」

「それだよ、その嘘泣きだよ。ていうか泣きすぎだし」

「ありゃ、そうだったか…」

「姉さん、白々しいわよ」

 

ナイスだ雪乃!流石だぞ、親友!!

 

「まあ、別にいいのよ。戦果はあったしね」

「戦果?」

「そう、コ・レ♪」

 

ハルは雪乃に見せびらかすようにあの白いキツネのキーホルダーを出した。

 

「なにそれ…」

 

やめてー!なんか恥ずかしいからやめてー!

 

「研がくれたの♪幸福を呼ぶものなんだって」

「あ、それ玲那も貰ったやつだ!私はイルカだったよ」

 

玲那、余計なこと言うんじゃない!

雪乃だけにあげてない状態なんだから、下手したら仲間外れにしてるとか思われちゃうじゃん。ホントにそんなこと無いからな?

それに…ほら、ね?残るプレゼントって少し恥ずかしいじゃん!

 

「姉さん…ズルいわ……」

 

なんか似たようなことさっきも聞いたなぁ…遺伝かなぁ?

 

はい。遺伝とかそんな大層なことでもなかったですね分かってます!

 

「大丈夫だ、あとで雪乃の用にやるよ」

「え、でもそんなの悪いわ…」

「遠慮するな」

 

もうこうなったらあげたほうが俺の心すっきりするし!

 

「えー、じゃあ研。私も親友って認めてよー」

「なんだよ、じゃあって。あー分かった分かった。いいよいいよ」

「え、本当に?適当に言うと後で後悔するよ?」

 

怖いよ!その言い方!

 

「もう少し静かにしてくれたら認めるよ」

「そんなことでいいの?」

「研くん、正気に戻って!認めても面倒には変わらないわ!」

「…雪乃ちゃ〜ん?」

「……じ、事実じゃない」

 

あの…雪乃?

強気なこと言いながら、そっと俺の後ろに隠れるのやめようか?なんか小ちゃくなって可愛いけどさ。

 

「分かったわよ、もう少し大人しくするわよ」

 

おお、ハルが少し引いた!流石だぜ、雪乃!

 

「じゃあ、キーホルダーは帰るときに渡すよ」

「ええ、楽しみにしてるわ」

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

そんなこんなで夕食後。

後片付けを終えてみんなが一息ついているときに、ハルがおもむろに口を開いた。

 

「そういえば雪乃ちゃん。海外に行くことは担任の先生に言ってきたの?」

「ええ、問題ないわ」

 

初耳の単語が耳に入った。

 

「海外…?旅行でも行くのか?」

「え、雪乃ちゃん言ってないの?」

「ごめんなさい、玲那ちゃんもいる時に言った方がいいと思って…」

「なるほどね。まあ海外に行くのは、旅行もなんだけど…留学の下見って感じかな」

「留学の下見?」

 

ずいぶん金持ちだなぁ…留学の下見兼ねての旅行とか。

 

「ハルが行くのは分かるんですけど、雪乃も行くんですか?」

「ええ…私も中学に入ったら行く予定なのよ。だからついでに行くことになって」

「そうなのか…」

「なにぃ〜?私と雪乃ちゃんがいなくなって寂しいの?いないって言っても今回は旅行だから1週間くらいだよ?」

 

何言ってんだこの人は。

 

「寂しいに決まってるだろ。いつもいる奴がいないんだから」

 

部屋のポジションに空きが出来るんだから寂しいに決まってるだろうが!

ほら、コレクションとかでほんの数個空きがあると寂しいのと一緒だよ。

 

「そ、そう…寂しいのね…」

「…研って女たらしなのかな?」

 

…なんでお二人さん顔赤くしてんの?

 

まさか…いやでも…寂しいって言っただけなのに?

 

女ってよく分からないなぁ…。

 

「それで?いつから行くんだよ?」

 

こう言う時は話題チェンジで。

 

「その、来週からなのよ…」

 

雪乃が申し訳なさそうに言った。

 

「来週ってことは、今日が金曜日だから……明後日か」

 

日曜日って結構すぐだな…。

 

「ちょっと急だけど、お土産楽しみにしててね!」

「そうか。というかお土産って…どこに行く予定なんだ?」

「確か、アメリカのどこか…」

「どこか…って自分のことなのに適当だな」

「仕方ないでしょ、あまり行く気になれてないんだし。雪乃ちゃん、分かる?」

「姉さんが行き先決めたら教えてくれるって言ったから、私まだ聞いてないわよ?」

「あら、そうだったかも…」

 

ホントに大丈夫なの、この人。

前にハルって完璧超人だよなぁ、なんて思ってたけど…今そんな面影全く感じないぞ。

 

「でも仕方ないじゃない…今の私は、研に夢中なんだから♪」

「はいありがとうー」

「あのね、研。お姉さんこれでも結構モテるのよ?私から告白はしたけど、そんなぞんざいに扱ってると、あとで泣くことになるぞ?」

「え?俺を諦めるんですか?なら早めにお願いします」

「うわーん、酷ーい!少しも振り向いてくれなーい!」

「お前が泣いてどうするんだよ…ていうか雪乃と玲那いるのに言っていいのか?」

 

あまりにサラッと言っていたけどさ。

 

「私は姉さんから直接聞いたから大丈夫よ」

「玲那もお兄ちゃんたちがいない時に聞いた」

 

マジか……こういう恥を余裕でバラせる所は素直に凄いって思うわ。

 

「うふふっお姉さんをナメないでよね?」

 

…………これ話終わらねぇな。

 

あれま、もうこんな時間か…。

 

「もう夜遅いし、そろそろ送るよ」

 

それと、雪乃用のキーホルダーも取ってくるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、無視は酷くない?」

 

かすかな怒気を帯びたその一言を、俺は全力で聞かなかったことにする。大丈夫。聞いてなければ罪ではない。バレなければ犯罪じゃない原理と同じだ。だってよく言うでしょ、無視が一番だって!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……いざとなれば雪乃を盾にしよう。うん。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、玲那。送ってくるよ」

「うん、行ってらっしゃーい」

 

玲那に見送られて俺は玄関を出た。

 

「それじゃあ、行こっか」

「そうね」

「……ああ」

 

よかった…先ほどのハルの怒りは消えているようだ。

 

「それで、その…研くん……」

「ああ、大丈夫。忘れてないよ」

 

家出た途端言ってくるとは思ってなかったが、流石に忘れてはいない。

そして、彼女にあげる動物も決まってる。という一択しか無いだろう。

 

「ほら、猫だ」

「っ…ぁ…ありがとう、研くん」

 

おお、流石生粋の猫好き。目の輝きが尋常じゃない。

 

因みにあげたのは招き猫とかではなく、普通の猫の形をしたものだ。

 

猫は厄を退け、福を呼ぶものとして知られる。また女性のシンボルであり、繊細さや隠し事なども指すらしい。

 

まあ雪乃の場合、隠し事というのはあまり合わないが…これだけ喜んでくれるなら、渡して正解だろう。

 

「ねぇ、研って雪乃ちゃんに甘いよね?」

「そうか?」

「甘いよ。甘々だよ。だから!少しくらい私にも甘くして欲しいなぁ、なんて♪」

 

結局そういう方向に持っていきたかっただけだか。

昨日と比べて二割り増しなくらい鬱陶しかった人が何言ってんだよ。

 

まあ、でも…確かに可哀想に思えなくも無いか…

 

「分かった。じゃあ何して欲しい?」

「え?……本当にいいの?」

「そんな呆気にとられた顔しなくてもいいだろう?それとも、やっぱ無し…」

「そんなわけないじゃ無い!」

 

お、おお…あまり強く言わないでよ。びっくりするだろ。

……ていうか雪乃が歩きながらも、ずっとキーホルダーに向かってにゃあにゃあ言ってて、こちらに全く反応が無いんですが?

 

「じゃあ…そうだなぁ…………キスとかは無理そうだし」

 

ちょっと?小声で何言ってるの?

 

「うーん。明日まで考えておく…じゃあダメ?」

 

まあ、それくらいならいっか。

 

「分かったよ」

 

そう言うと、ハルは満足そうにうなづいた。

 

……よく考えると、余計なこと言っちゃったかもな。

 

「にゃあ……にゃあ………」

 

あの雪乃さーん?

 

そろそろ戻ってきてくれていいんだよ?

 

 

 

 

…ていうか戻って!!

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

「またね。研くん」

「じゃあねー、研」

「ああ。また明日」

 

いけない。気付いたらもう家の近くまで着いていたようね。

 

恐ろしいわ、この猫の魔力。

 

「ねぇ、雪乃ちゃん」

「なにかしら?この猫なら触らせてあげることは出来ないわ」

「すごい気に入ったんだね…。違うよ、聞きたいことがあるの」

「姉さんが私に?」

 

珍しいわね…。

 

「研が一つ頼みを聞いてくれるんだけど、なにを頼もうかなぁって…」

「ちょっと待って。一体いつからそんな話になったの?」

「ついさっきよ。あ、そっか。ずっとにゃあにゃあ言ってたから…」

「姉さん?…それで私になにを聞きたいの?」

 

それ以上口にするのは許さないと、私は目で訴える。

 

「…はいはい。まあ、要するに雪乃ちゃんだったら、研くんになに頼むって聞いたかったの」

「私なら…?」

「そう。私が思いつくの全部研にダメって言われそうだから…」

「逆に訊いてみたいわ、姉さんの考え。まあ言いたいことは分かったわ。でも珍しいわね、姉さんがそんな気遣いするなんて」

 

前までの姉さんならこんなことはしなかった。いくら彼のことが好きだからって、ここまで変わるのかしら…?

 

「私もらしくないって思うよ。でも研には本気で嫌われたくないんだ」

「あんなにちょっかいかけておいて?」

「だって…こんな純粋な気持ちなんて持ったことなかったから。私もどうすればいいのか分かってないの」

「……………」

 

姉さんの言っていることが、少し分かる気がした。

 

要するに不安なのね。

 

未知とは、初めてとは…冒険のようにワクワクするものだけれど、それと同じくらい怖いもの。姉さんはそんな物事にも対処出来ていたはずなのに、彼だけは特別だから失敗したくない…それが私にすら意見を求める理由なのだろう。

 

「まあ、それくらいの質問なら答えてあげる」

「…ふふっ。ありがと」

 

だけど、私もすぐには思いつかない。

彼に頼みたいことなんて……あ、そうだわ。

 

「私なら…研くんの連絡先を教えてもらいたい、かしら」

「おお、それいいかも!雪乃ちゃんも旅行帰りに買って貰えることになったからね♪」

「ええ。それに関しては姉さんの力もあるから感謝してるわ」

「私も買って貰えるしちょうどいいわ」

 

そう、私もとうとう携帯を買って貰えるのだ。もちろん、真っ先に連絡先に入れたいのは研くんだ。

それにしても本当にお父さんに借りがあったなんて驚きだわ。

 

って……え?

 

「姉さん、持ってなかったの?」

「うん。別に高校生からでいいかなぁって思ってたから。でも、研が持ってるなら私も欲しくなっちゃって」

「まったく…勝手ね。姉さんらしいけれど…」

 

いけない。長話が過ぎたわね。

 

「そろそろ行きましょう。旅行の準備あるだろうし」

「そーだね。研へのお願いも決まったし♪あっ…そういえば今日はお母さんいたかもしれないしね…」

「それ先に言いなさいよ、姉さん……」

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

次の日。

 

今日は土曜日ということで、午前授業。

 

普段であれば、授業を終えた後は研くんの家へ行くのだけれど…。

 

「ごめんなさい、研くん。実は昨日、少しお母さんに言われて…今日は真っ直ぐ帰らなきゃいけないのよ」

 

案の定というべきか…昨日の夜、旅行の準備をしなければならないという事情が絡み、お母さんから今日はすぐ帰ってくるように言われたのだ。姉さんも同じく、相当悔しがっていた。

 

「そうか…じゃあ次に会うのは、旅行から帰ってきた時か」

「ごめんなさい」

「まあ、仕方ないよ。こんな付き合い方が許されているのが凄いことだから」

「そうね。そう言った意味では姉さんの存在は大きいわね」

「……なんだか、前より姉に対して敵対心みたいなの無くなったよな」

「それは……研くんのおかげでもあるんだけれど」

「は?そんな大層なことしてないと思うけどな」

 

彼がそう言うなら、そういうことにしておきましょう。

 

「じゃあ、俺もこのまま帰るよ」

「それじゃあ…また今度ね」

「ああ、楽しんでこいよ」

「……ええ、そうね」

 

 

本当は貴方も、玲那ちゃんもいて欲しい…それを知っていて欲しかった。

 

 

考えてみれば、私は今まで研くんに言えなかったこと、伝えられなかったことが多かった気がする。

 

だから私は、かならず後悔する日が来るような気がしてならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

さてと、ちゃっちゃと帰るかぁ。

 

にしても雪乃とハルがいない……柄にもなく寂しく感じる。

 

でもまあ、たった一週間の辛抱だ。

あのうるさいハルがいないんだから、逆に言えば静かな一週間を過ごせるということ。

雪乃がいないのは少し大変なところあるだろうが、まあ玲那も色々できるようになったし大丈夫だろう。

 

「だだいまー」

 

あれ…?

 

なんかいつもと違う?

 

「靴が…2人分多い?」

 

でも見覚えはあるものだ。

 

「もしかして…父さんと母さんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

過去を辿った 鎌ヶ谷 研 はわずかに前進し、二人はカタチを見つけた。

 

 

 

 

 

 






よくよく考えたら、やはりオリ主は前世のクズな部分が治ってないのかもね。言っていいことと悪いことがあるでしょ(他人事)

書き直しまくったせいで、頭が少しクルクルパー化状態。
もし変なところあったらすみません。にしても終わり方が想像についちゃうね…(゚ω゚)

エピローグは明日までには投稿してるはずです(それは連続なのか?)

にしてもゲームのイベントの遅れを3日で取り戻すのって大変だね。






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エピローグ そしてまた悲しみの中で、彼と彼女らは元に戻る。







 

 

 

 

 

 

「……そう、分かった」

 

俺は両親との話を終えると、静かに自室に戻った。

 

「はぁ……転校ね。そろそろかも…なんて思ってたけど」

 

前世で色々経験してる分、転校に関して別にショックはない。最近、両親が忙しいのは知っていたから、少し予感はあったのだ。

 

「でもなぁ…」

 

これからが楽しくなりそう…なんて思っていたから。

 

「せめて…タイミングが……」

 

俺は彼女たちの家に行ったこともないし、連絡先も知らない。そして教えてもいない。俺がもう少し気を回していれば状況は少し変わったのかもしれない。

 

久々に…本気の後悔をした。

 

「親友認定…したばっかなんだけど…」

 

前の時と…少し似てるよなぁ…

 

……ああ。そっか。そういうことか。

 

 

「欲に溺れるな…ってやつか」

 

 

なるほど。俺は神様とやらに、とことん嫌われてるらしい。

 

 

「だったらもう…」

 

 

原点に帰るしかない。努力し続けてやる。

 

大事なのは結果だけだ。目的を果たすことだけだ。

 

それさえあれば、二度目の人生を失敗することないはずだから。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

8日後。

 

私は姉さんと朝の挨拶を交わし、学校へ登校した。

 

久しぶりに私の親友に会える。それだけが私の心の中でいっぱいだった。だからだろうか、進む足は自然と早くなる。

 

結局、いつもより数十分早く到着した。

 

 

 

 

クラスの雰囲気はいつもと変わらなかった。

 

そのはずなのに、私には違和感が残った。

 

教室を見渡した時、なにかが足りないのだ。

 

 

 

その違和感の正体に気づいた時…最悪な予感がした。

 

 

 

だがまだ確証はない。私はすぐにそばにいた人に確認した。

 

彼はどうしたの…と。

 

「あ、雪…いや雪ノ下さん。アイツなら一昨日転校したよ」

 

それを聞いた時、私は携帯につけていた猫をぎゅっと握りしめた。

 

 

私は初めて学校を早退した。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「そ。情報ありがと隼人…それじゃあね」

 

雪乃ちゃんの言ってた事は嘘じゃなかったようね。

 

「姉さん……なにか分かったの?」

「ええ、研は北海道に転校したらしいわ。明確な学校とかは分からないって…」

「…そう」

 

とても弱々しい返事。

でも仕方ないと思ってしまう。本当なら私もこうだったかもしれない。それでも私が強く在れるのは、姉としての責任感ゆえだと思う。

 

「姉さん…研くんの家に行ったのよね?なにか無かったの?置き手紙とか…」

「残念ながらなかったわ。まず入れなかったし。周りも何かないか探してみたけど…」

「そう」

 

もう諦めたように俯いてしまった。

どこかで分かっていた。もし彼がいなくなればこうなるんじゃないかって。私よりも雪乃ちゃんは研の存在を大切にし過ぎていたから。

 

「なんで…こうなったのかしらね。私は別になにも悪いことしてないのに…」

「雪乃ちゃん……」

 

そう呼びかけるも、慰める言葉を私は持ち合わせていない。

 

研なら…なんて言ったのかしらね。

 

「こんなことになるなら…留学の話なんて断っちゃえば良かったかなぁ…」

 

そう私が呟いた時、雪乃ちゃんが私を見た。

 

「そうね。ええ、そうよ。姉さんが日程を変えていてくれたら、こんな事にはならなかったもの」

 

それには怒りがあった。

 

「雪乃ちゃん…それって私が悪いってこと?」

「そう言ったのよ。分からなかったかしら?」

 

明らかな責任転嫁だ。

 

「そう、よく言えたわね。前まで足踏みしかできなかったくせに」

「姉さんだって変わらないでしょ。冗談ばかり言って、真剣に彼と向き合えずにいたんだから」

 

怒りが底から燃えるような感覚が脳を支配した。

 

「だいたい雪乃ちゃんがもう少し早く研と打ち解けていたら、こんなことにはならなかったんじゃない?」

「そんなこと言ったら姉さんだって同じことが言えるじゃない…!」

「私よりも長い付き合いなのに、ほとんど進歩してない貴女の方が悪いわよ」

 

それを言い切った時、私は激しく後悔した。

 

一番それを分かってるのは、彼女なのに。

 

「……確かにそうよね。ごめんなさい」

「雪乃ちゃん…私」

「いえ、良いのよ…事実だもの。私から踏み込めたことなんてほとんどない。それが一番の原因。私がもっと行動していれば…結果は違った。姉さんの留学の話が来たとしても、もう少しいい結末だった。ええ……全部、私の力不足が原因よ」

 

そう言って、彼女は自分の部屋へ逃げるように走って行った。

 

「これは…多分長い喧嘩になりそうね……」

 

醜い姉妹喧嘩。

 

これだけ醜いと、せっかくもらった白いキツネも力にはなってくれないようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

全部、私が悪い。力が、勇気が、行動力が…それこそ、研くんとは違ったから。何もなくて、何も出来なかったから。だから私はこんなにも、後悔ばかりが残ったのだ。

 

結局、私は最初から変わってなかった。何も進歩していなかった。

 

 

 

 

なら次こそ、変わらなきゃいけない。

 

 

研くんのように努力家で、素直で誠実な…強い人になる。

 

 

そうすればいつかまた彼に出会った時…胸を張って歩み寄れるはずだから。

 

 

「かならずまた出会って、その時は…」

 

 

その時は…今度こそ、彼の隣に立ってみせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてまた悲しみの中で、彼と彼女らは元に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





雪乃の憧れが陽乃から研へ変わり、結局姉妹喧嘩継続になった陽乃の興味が八幡と研の二人になり、研は結局合理的に戻ると。

決めていたこととは言え、サーセン( ˘ω˘ )


終わりに急いだ感じになりました。
このまま書いてるとずっとののほんな三人を書き続けそうだったので。

でも書いてて思った。俺、バットエンド下手だわ。高校編での布石として書いたからバットエンドじゃないけど、にしたって下手だわ。
いいの思いついたら修正を静かに加えるつもりです。






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中学生時代
プロローグ だから比企谷 八幡 は、友達というものに未練がある。





お気に入り、感想、評価、いつもありがとうございます!!

今回の話は、中学生の八幡がまだぼっちの道を歩き始めていないという前提で始まります。






 

 

 

 

 

季節は秋の終わる頃。

そろそろストーブやミカンとの組み合わせが魅惑の炬燵の出番が近づく一方で、俺の心中はそんな明るくなかった。むしろ沈んでいく一方である。

数々のトラウマ、不幸、恥をかいて…心は傷つくばかり。もっとも全ては自業自得、勘違い、想像の先走りのどれかのことが多いので、誰かを恨むことはない。いや、恨んでいることが多すぎて何を恨んでいたのかすら忘れているだけなのかもしれないが…もはやそんなことはどうでもいい。

 

俺は、ただこの暗黒のような中学校生活に終止符を打ちたい。そればかり望んでいる。

 

時刻は12:56。昼休みだ。

普通であれば楽しい時間。でも俺にとっては苦痛この上ない。

今も机に突っ伏して寝たフリをしているが、そのせいで耳が研ぎ澄まされちょくちょく聞こえてくる。

 

隠そうとしない俺の悪口が。

 

もう慣れてたものだが、それは悪口にではなくアイツらの言動に対してだ。やはり悪口は言われて続けて慣れるものではない。本当に嫌になる。

 

じゃあこの現状を変えるために、俺はどうすればいいか?

 

答えは……変えれないので何もしないが正解だ。

俺を嘲笑う奴らにとって何か行動を起こすのは愚策。言うこと成すこと全てがネタへと変わるだろう。本当にすごい才能だ。もういっそ、その才能をお笑い芸人の才能に変換したら世界はもっと平和になるに違いない。もちろん、この世界とは俺一人のことを指す。

 

そんなずっと寝たフリをしている俺だが、楽しみがないわけでもない。鋼のメンタルを持ってる流石の俺も、楽しみの一つもなければ死んでしまう。

もしそれで死んだら、恨みで悪霊になってアイツらに取り憑いてやろう。そしてアイツらが大きい方のトイレに入るたび紙が足りなくなる呪いをかけてやる。やだ八幡、悪霊になっても雑魚過ぎぃ。しかも紙が無くなるんじゃなくて足りなくなるってのがまた地味だ。流石、俺。

 

いや、そんな自画自賛(?)をしたいわけじゃない。話を戻そう。

 

俺の最近の楽しみというのはライトノベルだ。

一時期は勉強も兼ねて、芥川龍之介やら夏目漱石とか、名だたる小説家の本に手を出していたが、やはり中二病心を持っている俺にとってラノベは戻ってくるべき運命の場所だったようだ。

 

あれ…なんだこのカッコいい言い方!

 

……絶対口に出さないようにしよう。もう黒歴史を増やしたくないし。

 

とにかく、今はアイツらが俺を放っておいてくれるまで待つことに徹する。落ち着け、チャンスは来る。アイツらが教室からいなくなった瞬間、俺は机の中にある『はが○い』に手を伸ばす。そうなればもはや昼休みが終わるまでは俺の独壇場。一度、本を読み始めてしまえばこちらのものだ。

 

え?そんなに読みたいなら早く読めばいいじゃん…とか言う人がいたなら言いたい。甘いぞ。奴らは本を読み始めようとすると、それを周りに宣伝するかのように悪口を言う。そうなればどうなるか?どうでもいい奴らの目線を集めることになる。しかし、本をもう読んでる状態であれば、宣伝悪口を言われる可能性が少なくなるのだ。それに読み始めてしまえば、俺のことを気持ち悪がる奴らは本の中身までは覗きに来ないし。……なんか宣伝悪口って、業界用語でありそうだな。悪口をあえて使って宣伝する。いやないな、手口としてはありそうだけど。

 

なんてどうでもいいこと考えてるうちに、アイツらは教室から出ていったようだ。

 

よし、読むぞー。

にしてもこのラノベの主人公、マジで羨ましい。友達が少ないとか、俺のこと見て言えるかって聞いてやりたくなる。くそぉ、友達よりもハーレム作る方が早いとかおかしいだろ。ふざけんな。

なら、なんで読んでるんだって話になるけど…面白いんだから仕方がない。他にも色々と読んでいるが…そのラノベ語りはネット方でするとしよう。

 

SNS…俺は絶対にやらない思っていたが、妹の小町の言葉をキッカケにやってみることになったのだ。

経緯を語ればそんなに長くならない。

友達マジ欲しーとかボヤいていたら、小町に“ならSNSとかやってみたら?もう現実のほうは高校生まで諦めてるんでしょ?ネットだけでも友達作ってみたら良いじゃん”となかなか痛い所を突くことを言われて、渋々やってみたら意外と俺の性に合っていたのだ。会話を文字だけでするとか気が楽でいいし、俺の話に乗ってくれるヤツは意外と常識人が多かったようで、ちょっとハマり気味である。

もしこれで常識ない奴が話し相手だったら即座にやめていた。

しかし中二病のときに手をつけていなくて本当に良かった。もし手をつけていたら、俺の黒歴史は世界に拡散されていただろう。禁断の書とかあげていたに違いないやりかねないネットって怖い。

 

ちなみに俺がSNSでよく語り合う奴らが何人かいるのだが、剣豪将軍とかいうやつは色々とヤバい。常識はあるのだが、戦国系ラノベの話になるとおかしくなる。文字から伝わるくらいうるさいし、名前の通りかなり中二病気味である。なんか同情して話してあげたくなるレベル。もし現実で出会ったなら友人の一歩手前の関係で止まるに違いない。というか会いたくねぇな。

 

……そろそろ昼休みも終わるか。

 

あと2時間…面倒くさいなぁ。しかも数学とか……はぁ、寝ようかな。それはそれでまたネタにされるんだろうけど。

 

 

「ねぇ聞いた!明日、転校生が来るんだって!」

「え?それって男子?女子?」

「男子!しかもイケメンらしいよ!」

「マジ!?それウケるんだけどぉ〜!」

 

いや声大きいし、ウケ無いから…。

 

ていうかこんな時期に転校とは、大変だな。

 

イケメンと聞いた時点でもう天敵のようなものだけど。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「あ、お兄ちゃん。お帰りぃ〜」

「おう、小町。早かったんだな」

「うん」

 

学校が終われば即帰宅。それが俺の信条である。

そんな俺よりも早く帰宅するとは、5時間授業が多い中一は羨ましい。

 

「それよりお兄ちゃん、勉強しなくて良いの?」

「もちろんやるよ。ただその前にコーヒーを淹れようかと思ってな」

「あ、小町も飲むー」

「了解…」

 

まったく、兄使いの荒い妹である。一応受験生なんだけど。

 

「そういえば、小町のクラスに転校生来るんだって!明日!女の子!」

 

コンボみたいに言うな。

 

「へぇー、そりゃよかったな」

「まあね!友達が増えるチャンスだし!」

 

言ってみたい、そんな台詞!

友達を普通に作れるなんて、本当に俺に似なくてよかった。

 

そういえば…

 

「俺のクラスにも転校生が来るって聞いたな」

「え?そうなの?」

「ああ。確かイケメンの男子ってクラスの女子が…」

「うわぁ、盗み聞きなんて…小町的にポイント低い」

「いや違うから。声が大きくて聞こえてきたんだよ」

 

あといつも思うんだけど、そのポイントはなんなんだ?

 

「えぇー、本当にぃ?」

「本当だ。お兄ちゃんを信じられないか?」

「お兄ちゃんだから信じられないの」

「ひどい」

 

冗談だとわかっていても酷い。これが兄離れか…。

 

「にしてもイケメンさんかぁ…お兄ちゃんに勝てる要素、勉強しかないね」

「そうだな。しかも現代文だけな」

「ああ…認めちゃうんだ…」

「自己認識はしっかりしてるからな」

「うわぁ…卑屈っぽい」

「事実なんだから仕方ないだろ。ほら、コーヒー出来たぞ」

「ありがとぉ〜お兄ちゃん♪やっぱり持つべきものは役に立つ兄だね!」

「そうだな。そんな調子のいいこと言ってる妹に優しく出来る、これ八幡的にポイント高い」

「いやお兄ちゃん何言ってるの?」

なんて冷たい反応。小町の真似しただけなのに…。

 

「でも、お兄ちゃんのクラスと小町のクラス。同時に転校してくるってことは、私たちみたいな兄妹なのかもね」

「そんな偶然……まあ、ありえるかもな」

 

同時なんだからその可能性は高い。

 

「そうだとしたら、お兄ちゃん。そのイケメンさんと頑張って友達になって欲しいなぁ。小町は小町で転校生と友達になるから!」

「無理を言うな。お兄ちゃん、友達出来なくて柄にもなく小町に言われたSNSにハマってるんだぞ」

「え?本当にやり始めたの?気持ち悪い」

「ちょっと…小町ちゃんが言い始めたんでしょ」

「あ〜そうだよね。ごめんね、お兄ちゃん!」

 

わぁ〜すごい。全然謝る気ないこの子。お兄ちゃん、小町ちゃんの将来が心配だよ。

 

いや、もっと心配なのは俺でしたね。

 

「ともかく、俺は受験生だからそんな友達作ってる暇ないんだよ」

「作れないの間違いでしょ?」

 

速攻でツッコむのやめてね?的確で痛いんだから。電光石火かな?

 

「じゃあ、俺。部屋で勉強するから。メシになったら呼んで」

「うん、分かったー」

 

適当な返事を背に、俺はコーヒー片手に部屋へと向かった。

 

 

「友達ねぇ……」

 

小町の言う通り、もし兄妹であったなら…友達になってみたいと思う。同じ兄として気があうかもしれない。

 

「いや…無理だな」

 

だいたいイケメンというステータスがある時点で、住む世界が違う。まあどれほどのイケメンかは知らないが、クラスの女子が騒ぐ程度にはカッコいいのだろう。

あれ?なんで俺こんなこと考えてるの?ホモなの?

 

「勉強しよ……」

 

今は見たこともない奴より、自分のことを優先だ。妹の頼みは、今はお休みとさせてもらおう。

 

だいたい抱えてる問題が多すぎる。それが解決しない限り…今の俺には友達は出来ないだろう。

 

せいぜいネットでラノベの話をする程度が関の山だ。

 

 

はぁ……早く高校生になって、リセットしたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時…比企谷 八幡、中学3年生。

 

卒業まであと4ヶ月と少し。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だから比企谷 八幡 は、友達というものに未練がある。

 

 

 

 

 

 

 

 






戻って来やがるのか、奴ら(`・ω・´)

前回の話は結構簡略化して書いたので唐突な所が多かったと思いますが…詳細は高校生の話に入れば色々明らかになってくると思います。気長にお待ちいただきたい。別に書くのが面倒だとかそんなのじゃないですよ?




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寒空の下で重なる出来事に、誰もが振り返る。



お久しぶりです。
やっと投稿できました。色々吟味しまくってたらかなり時間かかりました。感想、評価、お気に入りもいつもありがとうございます。お気に入り2000いってめっちゃ驚きました。

中学編の細かな全体像がだいたい出来たので、これからはもう少し早く出せたらいいなと思います。




 

 

 

 

 

 

翌日。

 

朝の始まりを告げるかのように鳥たちの鳴き声が辺りに響き、いつもの日常が始まる。曇りではあるものの、陽の光は雲から溢れていた。天気としては最高と言えよう。

 

そんな上手くもない日常の始まりを脳内で語る、俺、比企谷 八幡は……

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

完璧なまでに寝坊した。

 

ただいま全力疾走中である。

 

「最悪だ……」

 

最高の天気とは真逆の心境を無意識に口にしてしまう。

別に夜更かししたとかそういった理由で寝坊したわけじゃない。全ての原因は寒さだ。なんと本日の千葉の気温はマイナス5度。雪が降ってないのが不思議なくらいの寒さだ。こんだけ寒いんだから、ベッドから出られず二度寝してしまった俺は悪くない。悪いのは暖房が効いてない俺の部屋。でも寒いからって重装備で来るんじゃなかったな。走るって分かってたはずのに…汗かいてきた。

 

今日は転校生が来る面倒なイベントがある日。そんな中で遅刻なんてしたら、悪目立ちにもほどがある。

 

「休みてぇ……」

 

ポロっと本音をこぼすが足を止めるわけはいかない。

もし休んでしまえば、後日、俺は転校生から「昨日いなかったよね?」みたいに少なからず注目されるだろう。それだけは避けたい。

 

それに小町との理不尽な約束もある。まあ、守れる訳ないんだが。

 

「友達……か…」

 

かつては憧れ、今は諦めたもの。

 

でも、もしかしたら……。

 

 

「はっ…ねぇな…」

 

 

脳裏をよぎる微かな希望を戯言と笑って、俺は足を急がせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

あ……チャリ使えば良かった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久しぶりの千葉の空気だ。

 

 

今日は寒波が来ているらしく、冷え込んでいる。もっとも伊達に北海道に住んでいたわけではない。この程度の寒さなら制服だけでも余裕だ。

 

 

 

 

いや、ウソ。制服だけだと流石にキツい。マフラーは欲しい。

 

たしかに北国と比べればなんのそのって寒さだが、肌感的にはこちらの方が乾燥しているためか刺さるような寒さを感じるのだ。というか気温マイナスいってる時点で普通に寒い。

 

つまり結論、寒い。

 

……じゃあなんで寒さに慣れた感だしたんだ俺。

 

しかし、両親にも困ったものだ。せめて中学卒業まであっちにいられれば楽だったのに、仕事のせいでまたこんな中途半端な時期に転校する羽目になるとは。ま、両親がすげー謝ってたし、別に良いけどな。

 

でもなぁ、中学って人間関係ホント面倒だからなぁ。

 

少し憂鬱だ。

これからの数ヶ月と、そして今もだ。

 

「鎌ヶ谷くんって、前はこっちにいたんだね」

「あ、はい。そうです」

「今、住んでる場所は前住んでた場所と変わらないんだって?」

「はい、そうです」

「なら環境の変化も少なくていいね」

「そうですね」

 

慣れない緊張感のある職員室にて、俺は担任の言葉を流すように返事する。はぁ…職業面接じゃないんだから、履歴書見ながら質問するのやめてほしい。

 

「そっかそっかぁ。なら、うちの学校に顔見知りがいるといいね」

「…っ…あ…はい。そうですね」

 

一瞬、息が詰まったが、なんでもないように振る舞う。先生は社交辞令の感覚で言ったんだろうが、俺にとっては心臓に悪い一言だ。

 

まったく、後悔先に立たずってのはこのことか。

 

「よし。そろそろ時間だし、教室へ行こうか。自己紹介は簡単でいいから」

「分かりました」

 

そう答えて、俺は先生の後に続いた。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

先生と教室へ入ると、生徒らは欠席なく全員着席していた。

 

多少騒ついてはいるものの、特に変わりない普通の印象を受けるクラスだ。

 

「はーい。知っている人もいると思うけど、今日からクラスメートが1人増えまーす。それじゃ、自己紹介よろしくね」

 

言われて俺は壇上からクラスをまじまじと見渡す。

 

…とりあえず知ってる奴はいないようだ。

 

「鎌ヶ谷 研です。よろしく」

 

簡潔に自己紹介を済ませる。

どうせ数ヶ月の付き合いだ。邪険にされなければそれでいい。

 

そう考えている最中、視界の隅で女子の何人かが小さくざわついていた。

 

何故だろうか…嫌な予感がする。

 

「やっぱり!あの鎌ヶ谷くんよ!」

「昔よりも良い感じになってる!」

「あらあら大きくなって…」

 

どうやら俺のことを知っている奴らがいたらしい。嫌な予感的中だ。てか結構いるな…それと最後の親戚目線やめてね。

 

「おや、知ってるヤツがいたのか。なら席もあの子達の近くにしてあげようか」

 

おやじゃねぇよ何言ってんだ親しくないし面倒なので御免被る…

 

「「「キャーッ!キタコレ!」」」

 

…こう、むる。

 

「マジですか先生ナイスぅ!」

「アタシ信じてましたよ!」

「話せば分かるじゃないか」

「お、おお、君らテンション急に高くなったね。とは言っても本人の希望次第だけど。鎌ヶ谷くん、どうする?」

 

………は、フリーズしてた。

えっと、どうするって何が?生徒にとって席の場所って結構重要だと思うんだけどそんな簡単に替えられるの?ていうかあの三人なんだよ誰だよ。まったく覚えが……ありました。

 

「いえ、全力で遠慮します」

 

さてはテメーら、アンチだな。あのアンチクラブだな。

そっか…昔、冗談混じりでそんなこと考えた記憶があったけど、お前らのことだったか。あぶねぇ、思い出せて良かった。ていうか実在してたのか。

 

「そうか。というわけだ、三人とも。いいかい?」

 

「クッ…悲しい…でも鎌ヶ谷くんが言うのであれば…」

「だけどあの言いよう、言葉の切れ味は健在どころか増してるようね」

「加えてあの目つき、やっぱりたまらない……そうか!なら結果的に来なくて良かったと言える!」

「「確かに…!」」

 

「「「先生、こちらは問題ありません」」」

 

「そ、そう?なんか軍隊にいるような返事だけど。納得したならよかった」

 

いや良いけど良くないでしょあの三人!ヒソヒソ言っててほとんど聞き取れなかったけど、なんか「そうか!来なくて良かった!」とか言ってたよ!?誘っておいてその言い分はヤバいだろ、どんなトラップだ!謎の団結力半端ねぇな!冗談抜きでアイツら何者よ!?オレなにかしたったけ!?

 

「じゃあ、鎌ヶ谷くん。君の席だけど…」

 

先生は話を戻して、左奥を指差した。

いや、俺まだ三人のこと消化しきれないんですが…。

 

「あの子達とは反対の…あそこ。あの後ろの席だから」

「…分かりました」

 

あのアンチ共とは反対側の後ろの席か。ドアがすぐ近くなので寒いが、あの三人の近くよりかはマシか。ホント、関わらないようにしよあの三人。

 

さてと、ちゃっちゃと席につこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

一時間目の授業が終わった後の10分休み。いわゆる中休みだ。

 

クラスに居場所がない俺にとって、この時間は苦痛だ。本を読むには短い時間だし、トイレに行けば、戻って来た時には誰かに座られてる。しかもチャイムが鳴ったと思えば「うわ、ここ比企谷菌ついる席じゃん!最悪!」みたいな捨て台詞を吐いていくのだからタチが悪い。あれ、昨日も似たようなこと考えた気が…まあいい。

 

であれば、この状況において俺に残された選択肢はただ一つなわけで、本を読むくらいしかすることがないのだ。宿題も無いし、予習とかするのも嫌だし。

 

 

 

 

そう……つまり……だから…。

 

 

 

 

 

 

「「「鎌ヶ谷くーん!」」」

 

俺の後ろの席に転校生が座ってしまいその周りに人だかりが出来るなんてそんなシュチュエーションはまったくもって嬉しくない。むしろふざけんな神様と大声で血反吐吐きながら叫びたいまである。しかもなんだよ、噂通りクソイケメンじゃねえか。

 

あーあ、後ろいなくてすげぇ気が楽だったのに。

だがそんな心情の俺をよそに、後ろでは女子三人組が転校生の囲んでいる。

 

チッ、イケメンが…砕け散れ。

因みにその女子三人は、けっこう可愛い部類に入るやつらで、学年内では有名な仲良し三人組だったりする。なるほど、これがイケメンのなせる技か砕け散れ。まあ、知り合いだったぽいし、イケメンはあまり関係ないかもしれないけど砕け散れいいから砕け散れ。

 

「久しぶりだね、元気だった?」

 

有名人の一人から元気いっぱいの挨拶。これでもかとばかりに輝く笑顔だ。

 

ふっ…そんな顔向けられたら、俺なら余裕でキョドるね。(ドヤッ)

 

さて、転校生の反応はいかに。

 

「あのさ…君ら、だれ?」

 

「………」

「………」

「………」

 

 

 

 

……その返答に、全俺が驚愕した。

友好的な挨拶を一言で一刀両断…しかも声に温かみがまるでない。やばいだろ…流石のイケメンと言えどその反応はやばいだろ。ていうか三人のこと覚えてなくても、あんな公に色々言われたら、ちょっとは覚えてるフリしません?俺ですらそれくらいの気遣い分かるよ?分かるだけで出来ないんだけどさ!あーあ、これはもうぼっちの世界へようこそしちゃうだろうな。

 

「大丈夫!そうだろうと思ったから!全然気にしないよ!」

「それでこそ鎌ヶ谷くんだしね!」

 

ほら見ろ、それでこそって笑って…それでこそってなに!?それになんで笑顔なの!?あれか、イケメンに対する贔屓か?怖いわぁ…ある意味狂気じゃん。

 

「…………」

 

ん?イケメンさんドン引きしてる?

 

…もしかしてあの三人と関わりたくないのか?

 

「ごめん。色々と忙しいから、もういいかな?」

 

どうやらそうみたいデスネ。

あー、イケメンの余裕って贅沢だなぁ。ていうか会話断る理由が雑っ。まだそれぞれ一言しか話してないのに、そんなんで三人が分かってくれるわけないだろ。

 

「「「分かったよ!」」」

 

……はーい、そうなるかもって薄々気づいてました。流れで分かってました。しかもあの三人笑って席に戻っていったんですけど。

 

御三方はそんなぞんざいな扱いでいいの?

 

「やった!鎌ヶ谷くんと話せたね!」

「うん、小学生の頃なんてほぼ無視だっし!」

「会話成立しなかったし!」

「でも今回は…」

「うん。あの鎌ヶ谷くんが会話を終わらせてくれた!」

「断ち切るんじゃなくて、会話として終わらせてくれたんだ!」

「「「これはもう勝ちと言っても過言じゃないよね!」」」

 

過言です。そしてぞんざいな扱いで充分なようです。

ていうかテンション上がって声大きいんですけど御三方さん。

俺にまで声届いてるよ?クラス全員に聞かれてるよ?話の中心のイケメンさんは本読んでて聞いてないようだけども……。

 

あれ…その本って…。

 

「はーい、授業始めるぞー」

 

お?そうこうしているうちにチャイムが鳴ったようだ。先生も同時に到着か。よかった、やっと落ち着ける。授業が始まってこんなに安心したの初めてだわ。はぁ…無駄に疲れた。

 

 

 

 

 

 

なあ小町。お兄ちゃん分かったよ。

 

多分この転校生、絶対に友達になれないわ。

 

だって明らかに難易度MAXだもん。魔界村の難易度と一緒だもん。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「それで…そのまま帰ってきたと」

「あの、小町さん…なんで俺説教されてるみたいになってるの?お兄ちゃん、ただでさえ学校行くの億劫なのに今日は朝の全力疾走からの転校生イベントのせいで身体精神ともに疲労困憊なんだけど」

「シャラップ!今のお兄ちゃんに弁解の余地はないの!」

「…さ、さいですか」

 

おかしい。この扱いはおかしい。

帰った途端、俺は小町に数十分かけて今日の経緯を語らさせられ…そして今に至るほらおかしい。

経緯を言うのだって疲れるのに、その後に追い打ちをかけるように説教されるなんておかしい。だいたい兄が妹に説教されること自体おかしい。全部おかしい世の中おかしい。

 

「おかしいのはお兄ちゃんだよ」

「…ねえ?ナチュラルに心読むのやめてくれない?」

「いや、声に出てたから」

 

どうやら疲れで心の扉全開だったようだ。

 

「今のお兄ちゃんの話を聞く限り、そのイケメン転校生さんが少し気難しいのは分かったよ」

 

いや、少しどころじゃないけどね。

 

「でもさ、明らかに話すキッカケあったよね?」

「はぁ?そんなの無かったぞ」

「いやいや、兄ちゃんと同じ本読んでたんでしょ?なんだっけ…ライトノベルだっけ?明らかに話しかけるキッカケじゃん」

 

いや、まあ確かにそうなんだけど。同じ「はが○い」だったけども。

 

「小町。お前は初対面でラノベを話題として出せばどうなるか分かってない。ラノベはいわゆるオタク趣味、女の子にキャーキャー言われてるイケメンにオタク話で近づくなんて無謀もいいところだ」

 

しかも今読んでるラノベ的にさらに無謀度が上がる。

 

「でもお兄ちゃん、それより無謀なことたくさんしてきたでしょ?」

「うぐっ…胸が痛い」

 

兄のトラウマを「いつものことでしょ?」みたいに抉るのやめないか、妹よ。

 

「ならさ、今更ちょっっっと話しかけるくらい訳ないじゃん。まだイケメンさんだってクラスに馴染めてない今しかないんだよ、このチャンスは!大丈夫!『いきなり話しかけないでくれる?』なんて言われないから!」

 

いや、言いそう。すっごく言いそう。

 

「だからさ、お兄ちゃん。明日また…」

 

……明日また、ねぇ?

 

「…あのなあ小町。なんでそう俺に構うんだよ。ハッキリ言って迷惑だし、そこまで無理強いされると文句の一つも言いたくなる。だいたい、明日は今日とは違う。もうアイツにだって友人の一人や二人出来ているかもしれないし、それに既に知り合いがいるんだ。もし俺みたいなヤツがあんな勝ち組と友達になれたとしたら、それはもう…施しみたいなもんだろ。俺は、そんな関係なら無い方がマシだ」

 

そうだ。アイツのような奴とは相容れない。住む世界が違う。

…だというのに友達になれだと?小町は分かってない。俺だって友達を作る努力をしていた時期が確かにあったのだ。だが報われなかった。何が間違っていたのかは俺には分からない。だがこれだけは言える。

 

俺は諦めたくて諦めた訳じゃない。可能性が全て消えたから、今は身を引いたのだ。逃げだと言われてもいい。逃げてなにが悪い。無謀を繰り返すことほど哀れで無様なことはない。

 

無意味に傷つくことに、価値などありはしないのだから。

 

 

「…小町のクラスに転校してきた子。鎌ヶ谷 玲那ちゃんって言うんだ」

 

鎌ヶ谷って…それは…。

 

「そうだよ。小町の読み通り、やっぱり兄妹だったんだ。だから知ってた。お兄ちゃんのクラスに玲那ちゃんのお兄さんが転校したことと、そのお兄さんがどういう人なのかも」

「だったらなんなんだ?」

「だから小町が…小町と玲那ちゃんが保証するよ。お兄ちゃんなら、玲那ちゃんのお兄さんと友達になれるって」

 

保証って…。

 

「いや、俺の話聞いてなかったのかよ。その玲那ちゃんとかが口裏合わせれば、確かにあの転校生も表面上じゃ仲良くしてくれるだろうよ。だけどそれじゃあただの偽善。一方的な施しだ。そんなの友達じゃない」

「そんなことしないよ」

「じゃあ、どう仲良くなるって言うだよ」

「それこそ言ったでしょ。話しかけてみればいいんだよ。それだけでいいの」

「いいのって……なあ、さっきからなにが言いたいんだよ」

 

小町がここまでしつこいのは初めてだった。

しかも内容は俺に友達を作って欲しいなんて小町にはまったく関係のない話。俺には小町の真意が理解出来なかった。

 

そんな俺を見てだろうか、小町は先ほどより柔らかい口調で言った。

 

「お兄ちゃんは言ってくれないけど…小町は少しだけ知ってるんだ。お兄ちゃんが…毎日学校で辛い思いをして過ごしてるの。

だから、お節介だって分かってるけど、やっぱり友達は誰にだって必要だから、お兄ちゃんには一人でいいから友達を作って欲しい。

確かにお兄ちゃんは無愛想で捻くれてるけど、でも誰よりも優しくて他人を想ってあげられる人だから。玲那ちゃんにお兄ちゃんのこと相談したら、言ってくれたよ。そんな人なら、私の兄さんと仲良くなれるって…だから…」

「だから話しかけてみろって?」

「うん」

「それがたとえ施しでも?」

「うん。だって初めは薄っぺらい関係だとしても、分かりあおうとするだけで、そんな関係はいくらでも変わるよ?」

「………そういうものか?」

「そういうものだって。それに、分からないなら分かるために近づいてみるのだって、小町はアリだと思うよ?」

「そっか…そういうもの、か」

 

もしかしたら、そもそも俺は間違っていなかったのかもしれない。

 

結果だけ見れば間違いと言われよう。でも目指そうとした行動は間違いじゃなかった。友達が欲しいと足掻いたのは間違いじゃなかった。

なら、その心を否定するのは今まで積み重ねた俺自身を殺すことになる。

 

小町の言葉がなければ、俺は繰り返したはずだ。この心の屈折を。

 

なら小町から、そしてまだ会ったこともない彼女の言葉を無駄にしないためにも…俺はもう一度、無謀に挑むとしよう。

 

それが間違いだとしても…俺はもう一度だけ他者を信じる。

 

「妹に諭されるなんて、お兄ちゃん失格だな。おまけに学校の苦労まで知られてよ」

「大丈夫!そんなお兄ちゃんでも、小町は変わらず妹としていてあげるし!それに…さっき言ったことの半分は玲那ちゃんの受け売りだしね」

「マジか…最近の中一は、下手な中三より大人だな」

「ホント、玲那ちゃん大人だよ…あ、言い忘れてだけど、今日家に遊びに来るから♪」

「へぇ、そうか遊びに……」

 

は……?

 

「え、なにそれ、俺超恥ずかしいじゃん。俺の恥晒しを知ってるんだろ、その玲那ちゃんって子。嘘だろ、俺今から死んだほうが楽なんじゃないか?」

「なに馬鹿言ってるの、お兄ちゃん。大丈夫だよ。それに玲那ちゃん、お兄ちゃんの話聞いて、カッコよくて可愛い人ですねって褒めてたんだから」

「なに馬鹿言ってるの、小町ちゃん。カッコイイは建前で、可愛いってのが嘲笑い混じりの本音なんだよ。あー、もうダメだ。明日学校休もうかなぁ」

「そんなことしたら、小町…もう一生、お兄ちゃんと口聞かないから♪」

「……前言撤回」

「よろしい!」

 

そう小町が傍若無人を発揮した時、家のインターホンが鳴り響いた。

 

「あ、来たっぽい!小町の描いてあげた地図で無事辿り着けたみたい!」

「スマホあるのになんで原始回帰してんだよ。住所教えてやれば…」

「お兄ちゃん、さっきからうるさいよ?」

「ひどくね?さっきから酷くね?」

「ごめんごめん。ほら、一緒に出迎えしよ?」

「えー…って言っても俺に選択肢は無いんですよね?」

「うん。だって玲那ちゃんの言葉のおかげでお兄ちゃんも気分晴れたでしょ?」

「いや、まあ…あながち間違いじゃないけど色々間違ってると思うんだよなぁ…」

「いいから、ほら!お礼も兼ねて、一緒に行こ!」

 

そうして小町に半ば強引に腕を引っ張られ玄関へと顔を出す。

 

「待ってねー、いま開けるから!」

 

小町がドアを開くと、静かに彼女が入ってきた。

 

「お邪魔致します」

 

鎌ヶ谷 玲那。

一目見て思ったことは『無駄がない』という言葉の体現したような女の子ということだ。可愛いよりも綺麗が先に出る容姿。艶のある黒髪ロングに凛とした瞳。ふと思い出したのはあの転校生だ。なるほど、確かに兄妹だ。容姿のレベルが完璧に受け継がれている。

加えて中一にしては色々と発育がいい。制服でなければ大人に見えても不思議はない。嫉妬なんておこがましく感じる。多分、理想の妹像を描くとすればこんな感じになるはずだ。

 

無論、俺にとっての理想の妹は小町から揺らがないけど。

 

「小町さん、誘ってくれてありがとうございます。そちらが、小町さんのお兄さんですか?はじめまして、鎌ヶ谷 玲那です」

 

さて、ここで問題です。

 

こんなラノベから出てきたような美少女が、とても輝かしい笑顔で俺に話しかけてくれました。この後の俺がとる行動は何でしょうか?

 

正解は……。

 

 

「あ、え…と、その、はい……小町の兄…です」

 

 

ふっ…そんな顔向けられたら、俺なら余裕でキョドるね。(ドヤッ)

 

 

…でした。はぁ…黒歴史また増えたなぁ…。

 

「もう、お兄ちゃん…」

「仕方ないだろ。こんな美人だと、緊張するんだよ」

「私が美人ですか?ふふっ、ありがとうございます。そう言って頂けて嬉しいです」

「あ…そ、そうですか?」

 

ってなに敬語使っちゃってんの?

いや仕方ないんだよ。だって俺の観察眼を持ってしても嫌味とかなく言ってるって見えたんだもん。めっちゃ性格良いんだもん。仮面とかないだもん。ここまで完璧だともはや神に見えてくる。因みに天使枠はもちろん小町。

 

「はい。そう言われるということは、私の憧れの人に近づけてるって証ですから、とても嬉しいです」

 

憧れ?こんな完璧な子に憧れられる人がいるのか?

 

「まあまあ、話すなら中に入ってもらお?ささ、玲那ちゃん。どうぞ中へ」

「ありがとうございます。では失礼して…」

 

 

この流れだと、話の輪に加えられそうだなぁ。

 

ため息が呼吸のように出ていく…これはもう深呼吸の扱いになるんじゃないか?

 

 

 

……………もう、色々とねぇわ。

 

 

 

小町よ、お前のコミュ力をオラに少し分けてくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………………

 

………………………

 

……………

 

 

 

 

 

 

 

 

寒空の下で重なる出来事に、誰もが振り返る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま…」

 

学校から帰宅した途端、真っ先に俺を襲ったのは憂鬱感だった。

 

本当に、初日から幸先が思い悩まれる。まさかクラスに俺を覚えている奴がいるなんて…しかも俺のことよく思ってないアンチクラブだし。

いや、そもそもアンチクラブってなんだよ。そんなのただのいじめ集団だろ。

…ってことはなに、俺いじめられてたの!?嘘だろそんな感じまったく…無かったとは言えないわ。

 

くそ…ただでさえ“あの二人”のことで頭がいっぱいなのに、悩み多過ぎだろ俺。

 

はぁ…また千葉に帰ってくるって分かってたならもっと違う行動したのにな。

 

「ん……?」

 

この靴、玲那のじゃない。

いや、鍵は開いていた。今日は両親も絶対に早く帰ってくることはないはずだ。

 

なら、誰が?

 

「まさか…」

 

こんなことをする奴に、俺は一人だけ覚えがあった。

 

でもありえない。引っ越して来たばかりで、しかも月日が経っているんだ。もし逆の立場なら俺のことなど忘れているはずだ。いや、俺は“そうなってほしい”と願っていた。そうなるような行動をしたはずだ。

 

なのに……。

 

「ひ・さ・し・ぶ・り♪約4年ぶりかしら?随分とカッコよくなったわね、研」

 

いつもの天使のような笑顔で、いつもの軽口でそう冗談を言ってきたのは…。

 

「ハル……」

 

 

俺の目を通せば悪魔にしか見えない、雪ノ下 陽乃だった。

 

 

「やっと会えた。…この時を、ずっと待ってたのよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






妹有能説が生まれた原因はだいたい小町だと思えてくるこの頃(`・ω・´)

この話考えてたら、頭が八幡と小町のことばかりになったせいで、オリ主とオリ妹の名前をド忘れしました。別に期間が空いたから忘れたわけじゃない……はず。

今回の話でなんとか八幡に友人ゲットフラグっぽいもの建てられたかな?ぽいものだけど。

てかフラグなげーよ。




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雪は降り積もらず、されどまだ春は遠き理想郷。




アヴァロン!!!(今回限りの挨拶)

久々に会話繰り返す系です。





 

 

 

鎌ヶ谷 研が嫌うもの…それは“後悔”だ。

 

 

彼女たちともう会えなくなると知ったあの日。

俺は消えることのない大きな喪失感を覚え、思考を掻き乱される感覚に襲われた。目の前ががどんどん黒く染まり、暗闇に落ちていくようだった。

 

このままではいけない。

そう考えて俺は決意したのだ。もう失敗しないために、さらに努力を積み重ねていくと。

 

だが結局のところ、その決意は彼女たちを忘れるための口実。

 

そしてそんな決意だけで忘れるなんて無理な話だ。なにせ別れも告げず、言葉の一片すら残さなかった。終わらせることも、繋ぎ止めることもをしなかったのだ。なにもかもが中途半端のまま自己矛盾してばかり。

 

これが「後悔」だと気づいた時には全てが遅かった。

 

どうすればいいのか。どうすれば良かったのか。そう自問自答を何度も繰り返した。

 

その時、ある考えが脳裏をふと過ぎったのだ。

 

もう会えない繋がりなんて無意味で無価値なモノ。

そんな『絆』のせいで苦悩するくらいなら捨ててしまったほうが良い。そんな枷をひき摺って生きるのは効率が悪い。

 

断ち斬って捨てるべきだ。その枷を繋ぐ鎖を、首輪を。

中途半端な希望は“鎖”を長くしただけに過ぎない。ただ闇雲に悩んでいるだけでは“首輪”を締めているだけに過ぎない。

 

だから全てを切り捨ててリセットするべきだ。以前のように。

 

それが最も“合理的”だ。

 

直感的に思いついたものだが、これが最善の解だと思った。

 

我ながら最低だと感じる考え。

だがもう二度と会うことはないのだから、これでいいと納得した。そう納得させた、己の心を。

 

 

これが再び千葉に戻ることが決まるまでの俺の考え。

 

 

 

 

 

 

そして、千葉へ戻ることが決まった時……俺はこの考えを良しとした自分を酷く憎んだ。殺してしまいたかったほどに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと会えた。…この時を、ずっと待ってたのよ?」

 

彼女は妖艶に微笑んだ。まったく本当に心臓に悪い。

会いたくない2人のうちの、しかも一番会いたくないヤツにあってしまうなんて。

 

「なによ、ちょっとは喜んでくれたっていいじゃない。表情が暗いぞ♪」

「……ああ」

 

答えられなかった。

いつもならもっと明るく適当に冗談を返せたはずなのに。

 

「ええー、それだけ?もっと色々言うことがあるでしょう?」

「…………」

 

言いたかったことはたくさんある…この現状は唐突とはいえ、いつかの俺はこんな場面を夢見ていたこともあった。雪乃はここにはいないが、また2人に会えれば…そう願ったことは確かにあった。

 

だがそんなifより現実を見つめ、否定し、選択して、そして今に至る。

 

だから俺から言えるのは、これだけ。

 

「ハル…もう帰ってくれないか?」

 

冷たい言葉だけだ。

 

「…なんでよ」

 

俺は雪乃とハルを切り捨てた。

記憶も、想いも、全てを忘れようとした。あれだけ大切だったもの簡単に捨ててしまったのだ。

 

「研は…私や雪乃ちゃんのこと、あれだけ大切に想ってくれていたじゃない。なのに、なんで…そうなるの?」

「…………」

 

心は捨てたくないと訴えていた。でも大切だからこそ、手が届かないのはとても辛く苦くて…ならば、と俺は心を殺して理性に全てを委ねることにした。

 

「俺はもう、お前たちのことを忘れることにしたんだよ」

 

一度選んだからには、それを通さなくてはいけない。

 

自分に嘘を残したくないから。

 

「研、そんなのって!」

 

罵声が飛んでくると身を構えた。だが彼女はそうはせずに、ただ呟いた。

 

「……いえ。そっか…やっぱ怪物は手強いなぁ」

 

怪物か…まあ、そう思われても仕方ない。

 

彼女には、俺がどうしようもないほど醜く見えてるだろうか?それとももっと別の…いや、考えるだけ無駄だ。どうせ忘れるのだから。

 

「でもね、研。雪乃ちゃんのことはどうするの?」

「どうするって……?」

「雪乃ちゃんは親友でしょ」

 

それはハルもだけどな。

 

「だからなんだよ?」

「…だから、そう簡単に忘れられるの?会ってあげようとは思わないの?」

 

確かに会って話したいとも思う。

だが一方的に俺は2人を切り捨てた。そんな俺に話す資格があるのだろうか?

こうやってハルと話してるのだって、彼女が押しかけてきたから仕方なく…という所が大きい。もしこの出会いが無ければ、自分から2人を探すことなんてしなかっただろう。

 

つまり答えは…。

 

「会うつもりはない」

「………そう」

 

その声は震えていた。いつもの明るさも、破天荒な感じも一切なく、ただただ小さい。しかし、それだけでは終わるつもりはない覚悟を感じさせた。

 

「でも研、私は諦めないから」

「………」

 

分からない。どうして彼女はそう言えるのか?

俺のやったことは卑下されて当然だ。自分勝手で、押し付けてるだけのもの。悔やむ様子も見せていない。

 

俺はもう、ハルと雪乃に忘れて欲しいと思っているくらいなのに…。

 

「言ったはずよ。研に告白したときから、私は研と家族になってみせるって」

「……そうだったな」

 

頭を抱えた。

彼女がかつてそう言ったことを忘れていた自分に怒りが湧いた。しかし同時に、理性はそれでいいと認めてしまっている。忘れようしてるのだからこれでいいはずなのに、なぜ怒りが湧いたのか?

 

分からない。

こんな救いようのない俺は…どうしたら良いのだろうか。

 

どうしたら…俺の心は納得するのだろうか。

 

嘘はついてない。正直に生きている。悪いことなんてしていない。

 

そんな二度目の人生なのに、なぜこうも後悔をしているのだろうか。

 

この問いに…答えはあるのだろうか。

 

俺の目の前は、いまだ真っ暗なままだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

本当に待ち焦がれていた。

 

この瞬間をどれだけ待ったことか。

 

しかし、浮かれすぎないよう自制する。舞い上がってるのは言うまでもない。しかしそれも全面に出してしまってはいけない気がしたから。

 

「やっと会えた。…この時を、ずっと待ってたのよ?」

 

いつも通りの雪ノ下 陽乃を懸命に演じる。昔と変わっていないんだよ、という意味も込めて。自分が久しぶりで照れそうになるのを抑える役割も含めて。

 

「なによ、ちょっとは喜んでくれたっていいじゃない。表情が暗いぞ♪」

 

だが、研は何も反応を示さなかった。

高校3年生。来年で大学一年生だ。

魅力は遥かに上がったはず。学校でだって男女共に仲は良いし、告白だって数えきれないほどされてきた。しかし全部断った、好きな人がいると言って。自分には忘れちゃいけない決意があると、告白される度に思い返した。そして、次に研と会えたときには見返してやろうとさえ思っていた。

 

しかし何故か……だんだん嫌な予感がしてくる。

 

「……ああ」

 

短く答えた。研らしくない。前ならもっと色々言ってくれたのに。

 

「ええー、それだけ?もっと色々言うことがあるでしょう?」

「…………」

 

しかし彼は答えない。

だが表情に変化はあった。静かで冷たくて、最後に見たあの笑顔とは真逆の表情。必死に気のせいだと自分に言い聞かせる。

何故ならこの表情を知っていたからだ。

この表情は、私が初めて研と出会った時と同じ顔。他者に一切興味を示してない時の顔なのだから。

 

「ハル…もう帰ってくれないか?」

 

冷え切った声に、身体の奥底が跳ね上がった。

 

「…なんでよ。研は…私や雪乃ちゃんのこと、あれだけ大切に想ってくれていたじゃない」

 

思考を冷静に保つので精一杯。

彼は私と雪乃ちゃんを大切だと言葉にして伝えてくれたはず、なのに…

 

「なのに、なんで…そうなるの?」

 

聞くのが怖いという感覚は久々だった。しかし、聞かなければ終わらない。彼は長い間を置いて答えた。

 

「…………俺はもう、お前たちのことを忘れることにしたんだよ」

「研、そんなのって!」

 

そう声を上げようとした時、ある質問をした時のことをふと思い出した。

 

 

 

 

『もし今の私が貴方のモノになったとして、使えなくなったら…どうするの?』

 

『当然、決まってるじゃないですか。“捨てますよ”。俺が必要だと思って手に入れた所有物が機能を果たせないなら捨てます。だってただのゴミじゃないですか?』

 

 

 

 

 

まさか。

いや、それじゃあ辻褄が合わない。彼の言ったことが矛盾することになる。

けれども、この数年でなにかが変わってしまったのだとしたら…可能性ある。

 

「……いえ」

 

そして合理性に磨きがかかっていたとしたら…?

 

「そっか…やっぱ怪物は手強いなぁ」

 

どうしようもない。その変化は見ていていもすぐに気付くことは出来ないだろうから。

 

だが、まだ打つ手はある。

 

「でもね、研。雪乃ちゃんのことはどうするの?」

「どうするって……?」

「雪乃ちゃんは親友でしょ」

 

私は結局、研に親友と認められていなかったのだろう。悔しいけれど、それは今は飲み込む。

ここは雪乃ちゃんという本当の親友を材料に繫ぎ止めるしかない。

 

「だからなんだよ?」

 

その一言で、息が詰まりそうになる。まるで、もうなにも思っていないような気がして。

 

「…だから、そう簡単に忘れられるの?会ってあげようとは思わないの?」

 

情に訴えてみた。私ではダメでも、雪乃ちゃんになら躊躇ってくれると考えて…しかし、その冷たい表情はなにも変わらず、ただ平然とこう口にした。

 

「会うつもりはない」

 

手が震えそうになる。涙が出そうになる。足が崩れそうになる。

 

かつて私は彼の、その合理性の怪物に魅力された。

確かにその怪物っぷりは、私が望んでいたものだ。それがさらに飛躍したのは嬉しいことかもしれない。けれど、いざそれを見せつけられ敵対して分かった。

この数年で積み重ねて磨き上げてきたもの、大切にしまっておいたもの全てが消え去ってしまったと感じるくらい…それは非情で残酷なもの。心が折れそうになる。

 

「………そう。でも研、私は諦めないから」

 

そう、ここで屈するわけにはいかない。

私はその怪物以上に、彼の優しさに惹かれたのだ。あの時々しか見せない笑顔を見たいと思ったのだ。あの4人の空間に本当の価値を見出したのだ。

 

「………」

「言ったはずよ。研に告白したときから、私は研と家族になってみせるって」

 

そして最後には、それ以上のモノを手にする。

だって私の元には、純白で、嘘のない絆と確かな幸福のカタチがあるのだから。

 

「……そうだったな」

 

呆れた言い草。しかし、あの冷たい表情が崩れたように見えた。

 

やはりまだ…希望は残っている。

 

「ねぇ、連絡先…交換してくれない?」

「だから帰れと…」

「…約束、したでしょ?何年も待たせたんだから、それくらいね?」

「………分かった」

 

ああ、そうだよね。

これだけ年数も経てば、携帯も変わるよね。なんだかそういった部分を見るだけで、色々思っちゃうなぁ…。

 

「交換し終わったな」

「うん。じゃあ、帰るね」

「ああ」

「…またね」

「…………」

 

研の横を通って、玄関の扉を開いた。

もう夕暮れ時が終わろうとしている。季節は冬、白い吐息が出るほど寒い…けれど雪はまだ見れないか。クリスマスだって近づいてきてる。

 

これでもし…すぐにでも前の関係に戻れていたなら…。

 

「ねぇ、研。連絡、いつでも待ってるから」

 

研は何も答えない。そりゃそうだ、忘れようとしてるんだから。

 

もう彼にとって、私は要らないモノなのかもしれない。

 

さっきだって無理矢理自分を奮い立たせただけ。本当はもう泣き崩れてしまいたいくらい…でもまだだ。まだ諦めないと決めたんだから。

 

家から出る間際、彼の声が少しだけ聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

「…………で、ごめんな」

 

 

 

 

 

扉閉まる寸前だったため、その声は半分途切れてしまった。

けれども研は…自らなにかを話してくれた。それだけ私はもう少し立っていられる、そう思えた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

帰路の途中、色々なことを思い返していた。

 

彼の言っていたことや、今までのこと。

 

私がそもそも研が戻ってきたのを知れたのは、父のコネだ。

 

父のコネと人脈を使い、不動産や研の両親の勤め先に連絡網を張り巡らせていた。父にとっても私の知識やコミュニケーション能力の高さは貴重だったことも幸いし、仕事を積極的に手伝うことでそれは叶わないお願いではなかった。そもそも来たら連絡をくれるだけなのだから、そう難しいことではない。父には探してる人物との関係を聞かれたりしたが、そこは玲那ちゃんを話しに出して事なきを得た。

 

そうだ。そういえば今日のことだって…。

 

「あ、陽姉さん」

「玲那ちゃん…偶然ね。友達の家に行ってきたんでしょ?楽しかった?」

「ええ、それはもう。やっぱり色々な人がいるものですね」

 

今日だって玲那ちゃんが居てくれなかったら、家の中で待っていられなかった。ずっと玄関前で待ってることになっただろう。

 

「そっか…なら良かった。それにしても今日はありがとうね」

「いえ、気にしないでください。私もたまたま家で準備してただけなので。それより…兄さんはうまくいきましたか?」

「……あんまり」

「そうですか…まあ、仕方ないですね。兄さんもどうしたらいいか、まだ整理がついてないんですよ」

「そっか…玲那ちゃんがそう言うなら、そうなんでしょうね」

 

彼女は本当に大人になった感じがする。まだ中一だというのに…多分、研の影響なのかしら?

 

「陽姉さん、雪姉さんは今はどうしてるんですか?」

「雪乃ちゃんは……海外に留学中よ。帰ってきたら、2人のこと報せるつもり。いま教えたら、あっちの勉強に集中出来ないでしょうから」

「そうですか…残念です」

「ええ、私もよ。ところで…玲那ちゃん、喋り方変わったよね。どうして?」

「あ、これはですね。雪姉さんみたいに凛と喋れたらいいなぁ、と思って勉強しました」

「へぇ、そうなんだ」

「あと、兄さんが最近読んでるライトノベルも参考にしましたよ」

「へぇ、そ…なんですって?」

 

ライトノベルって…あのラノベってやつだよね?結構絵が…その、破廉恥なやつがあったりするやつ…え、玲那ちゃん読んでるの?

 

「兄さんが本屋に行くときに、一緒について行って…私も読みたいって言ったら色々とオススメを教えてもらいまして。「魔○科高校の○等生」と言うやつなんですけど、そこに出てくる妹のキャラがとっても雪姉さんぽくて!それはもう声もいっしょ…」

「それ以上は言わなくていいわよ…!というか言っちゃダメ!」

「そ、そうなんですか?」

 

まったく研たら、何読ませてるのよ。

 

「でもあの作品は細部なところも結構作り込まれていて、読み応えもあるので結構好きなんです」

「そ、そっか…」

「ええ。兄の興味あること、全て知ってこそですよね?」

 

ああ…だから研教える羽目になったのかなぁ?

 

「う〜〜〜〜〜〜ん、それはどうかなぁ〜?研も困るところが無きにしも非ずって感じがあると思うよ?というかもう少しだけそっとしておいてあげたほうがいいかも…なんて」

 

とりあえず、玲那ちゃんがまともなようでまともじゃないのはよく分かったわ。兄想いもここまでくれば病ね。雪乃ちゃんにも真似しないよう注意を……いや、私に対してあれば別に問題ないかもしれない…というか寧ろ…うん。

 

「でも近くにいようとしないと…兄さん離れてってちゃうから」

「……あぁ…そうね。今日、それは実感したわ」

 

やり方はあれだけど、玲那ちゃんの言うことには一理ある。

 

「あ、そろそろ私帰らないと。陽姉さん…また今度」

「ええ、何かあれば連絡頂戴。待ってるから」

「はい、私も待ってますから!」

 

彼女は手を振って帰っていった。本当にいい子だ。

 

「はぁ……今日は冷えるなぁ」

 

見上げれば、夜月は雲に隠れて少し暗い。

月といえば…雪乃ちゃんと一緒にこの道を歩いたことを思い出す。

 

「そうね……問題は研だけじゃないものね」

 

気が重くなる…けれどもこれはチャンスとも言える。

だが今は、ただ待って機会を伺うしかない。今の研は、相手にすれば私が参ってしまう。それに悪いことばかりじゃない。約束だって果たせた。

 

「ふふふっ…♪」

 

雪乃ちゃんもまだ知らない研の番号。

ただの数字の羅列だというのに、見るだけで期待が膨らむ。例え掛かってこない番号だとしても、今は手の届くところにいる。次はもう逃がさない。

 

あんな思いはもうたくさんだから…かならずまた元の関係に。

 

いえ、雪乃ちゃんよりも先に進んでやるつもりだ。

 

 

 

 

 

 

 

………………………………………

 

 

…………………………

 

 

……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雪は降り積もらず、されどまだ春は遠き理想郷。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

「あら、おかえり姉さん。遅かったわね」

「まあね。雪乃ちゃんは何してたの?」

「いつも通り勉強よ」

「ふぅん、あっそ」

「姉さんこそ、大学受験があるのに勉強しなくていいの?私よりも残り期間少ないでしょ?」

「大丈夫よ。私よりも自分の心配しなさい」

「…それもそうね。研くんならそうするでしょうし」

「……………そうかもね」

 

今の雪乃ちゃんを見て、研や玲那ちゃんはどう思うだろうか?

私はガッカリすると思っている。こんな研の真似事ばかりしている子なんてつまらないから。それに、その真似事はどれもこれも中途半端。飾るにしたってもう少しやれることはあるはずだ。まったく見ているだけでイライラする。

 

けれどももういいのだ。

今は確実に私が先を行っているのだから、もうイライラしなくて済む。

 

そのばすなのに、未だ治まる気配がない。

 

「姉さん。今日のご飯、どうする?」

「食べるわ。出来たら呼んで」

「……そう、珍しいわね。分かったわ」

 

多分……そう、このイラつきは嫉妬なのだ。

こんな雪乃ちゃんでも、もし今日の私と立場が逆だったら…もっといい結果だったかもしれないという予感が胸の奥にあるから。

 

こんなつまらない子でも、研の最初の親友だから…私と同じように忘れられそうになっているとしても……多分、私より……まだ……。

 

 

「だから私…嘘ついちゃったんだね。ごめんなさい。でも今は、我儘だと思って許して…」

 

 

そういって、私は白いアクセサリーを優しく握った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








お気に入り、評価、感想ありがとうございます。
早く投稿とかほざいてた奴誰でしょうねそうです俺ですごめんなさい!書いてる最中にまた色々と思いついて今回みたいに五回書き直してこうなってしまいました!

あとぶっちゃけると、実家が北海道でして少しドタバタしてました。俺はいないんで被害はなかったんですけどマジ焦りました。一日停電だけで済んだみたいです。

北海道が落ち着いたら観光とか応援してね!活力になるから!

最後に今回のおさらい。

研くん瞑想中、玲那爆走中、雪乃迷走中、陽乃待機中、八幡小町ずっとスタンバってました。
こんな感じです。
主人公ヤバめですねどうしたんだろう支離滅裂だぁ(他人事)


次回は八幡メイン。頑張って支離滅裂な研と話そう回。

深夜テンションなんです、すみません!
次はテンションのノリがよければ来週とかに完成しそうです。

ではまたアヴァロン!!




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『病は気から』なら『気は友から』 〜前編〜

これだけ待たせて前編という有様。






 

 

 

 

 

翌朝、頭上で目覚まし時計が耳に鳴り響き、うっすらと目を開いた。

 

「んぅ……るさ…」

 

重い腕を伸ばしアラームを止める、たったこれだけの行動で謎の疲労感を感じるのは朝の特徴と言えよう。

 

「…………」

 

ゆっくりと上半身を起こして、ワンクッション置くがてらボーッとする。人によってはすぐに行動できる人もいるんだろうが、朝は弱い方だ。このボーッとする瞬間がないと起きられない。だが時間は止まってくれる訳もなく、もうそろそろ準備を始めないと遅刻してしまう頃合いだ。

 

「起きよ…」

 

そう意を決して立ち上がった時だった。

 

「おっ…と」

 

バランスを崩して、ベットに尻餅をついた。ただの立ちくらみかと思ったが違う。これは……あれだ。

 

 

 

 

 

 

 

そして俺、鎌ヶ谷 研はこれまでの人生から得た様々な経験から、この事態の全てを察した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「風邪だな、これ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

登校時の空には、うっすらと雪が降り始めていた。

 

息は白く染まり、道にはわずかにだが足跡が残る。まだ氷が張ってないということは、降り始めてまだそんな時間が経ってないということなのだろう。大事をとって自転車は使わなかったが、行きくらいなら使っても良かったかもしれないと少し後悔する。

 

「あー……」

 

無意味な声が溢れ、ふと昨日のことを思い出していた。

昨日、俺は久しぶり…………たぶん始めて女の子と会話をした。しかも美少女。少し前までの俺なら内心ウキウキしていたであろうが…実際のところ、女の子と話してみれば楽しいより緊張が勝るというを身をもって感じる羽目になった。ホント…疲れたわ。

 

「にしてもねぇ……」

 

そして、その美少女こと鎌ヶ谷 玲那と話しをした内容とは、彼女の兄である鎌ヶ谷 研と友達になるための方法についてだ。言わずもがな、この会話がいかにクレイジーかは分かっているつもりでいる。というか順序的に普通逆じゃね?お兄さんの方から仲良くなってから、妹さんに恋したからお兄さんどうすればいい?と聞く方がまだ自然じゃね?

…いや、それはそれでなんだけども。もし俺がそのお兄さんの立場なら殴りかかるけども。てかまず恋すらしてないわ。

 

 

…………話を戻そう。

彼女曰く『兄さんなら話しかけるだけで友人になってくれると思いますよ』という。それはどうなんだろうと俺は思ったが、彼女はしっかりと理由を述べた。

 

彼女の兄は非常に優秀な人らしく、故にあまり人が寄り付かない。だから話しかければ喜んで友人になってくれるというのだ。

 

「嘘を言っているようには見えなかった」

 

つまり彼女は本気でそう言ったのだ。そんな単純な方法で友達になってくれると。正直、信じきれない話だ。だが彼女ことは信頼できる。

 

しかしだ、いくら信頼出来ると言えど盲目に従えばいいというものでもない。そう考え、ひとまず彼がどんな人物かを詳しく聞いてみた。

 

まさか、それで3時間ほど彼女が語るとは思っていなかったが……

 

曰く、彼女の兄はいつもテスト全教科満点、運動神経抜群でセンスもあるためスポーツ、格闘技etc…何をやらせても大体はやってのける。それにご近所付き合いも良いらしく、挨拶しか交わしてないものの評判は驚くほど高いという(超簡略)。なにそのチート。

 

「持ってる奴はホントなんでも持ってんだな」

 

ここまでくれば羨ましいとか妬ましいを通り越して尊敬の念を覚える。でも友達はいないんだよな、俺と同じで。

 

「変な共通点だけはあるんだよなぁ…」

 

ラノベが好きとか、兄思いの妹がいるとかね!

はい、後者はそう思ってくれたらという俺の勝手な願望ですサーセン。小町はどちらかと言えば、兄使いが上手いって感じだし。

 

………あれ?兄使いってエロく聞こえね?しまった、これが思春期の罪か。

 

「おい、さっきからアイツなにブツブツ言ってんだ?」

「ほっとけよ、比企谷なんて」

「今アイツに構ってやる暇ねぇしさ」

 

やべ……登校中にアイツらと出くわすなんて。しかし俺にちょっかいをかけてこないとは幸運だ。なにか理由でもあるのか?まあ、俺には関係無いし、面倒にならないうちに気配消してさっさと学校へ行こ。

 

 

 

 

 

 

 

「くそ、鎌ヶ谷め……チヤホヤされやがって、マジムカつく」

「だよなぁ〜。でもなかなか隙ねぇし」

「それな。いつも女子はべらせてやがる。調子こきやがって…」

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

時刻は8:17。

 

いつも通りの時間だ。あとは授業が始まるまで読書と洒落込もう…といきたいが、そうも行かない。

 

俺は今日、後ろの席の転校生と友達になるのだ。のんびりとはしていられない。

 

 

 

 

 

 

 

待って……なにこの決意。なんか超恥ずかしくなってきたぞ、おい。

 

「いや……もうそういうのいいから……」

 

思わず小声で己の心にツッコミを入れる。なんかもう1人の僕がいるみたいだ。

 

とりあえず、まず俺がやることは観察だ。てかそれしかない。妹さんと面識がある…ということから会話を始めればいいのかもしれないが、生憎とそこから会話を膨らませられるほどのコミュ力はないし、もし逆の立場なら友好より警戒心が先に来る。小町は誰にも渡さん。

 

ひとまず俺は本を手に取り読んでるフリをする。そして耳にはイヤホンを軽くつけ、音楽はかけない。これで後ろの会話を怪しまれずに聴き取れる。

 

(まあ…まだ来てないんだけど…)

 

しかし準備万端しておくに越した事はない。時間は8:20を過ぎたところ、もう来ても良い頃合いだ。

 

「鎌ヶ谷くん来ないねぇ〜」

「「ねぇ〜」」

 

……ちょっと、御三方さん?転校生の席でスタンバるのやめてもらって良いですかね?本人引いて来なくなっちゃうでしょ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冗談だったのだが、本当に転校生は来なかった。なんでも風邪を引いたらしい。

はぁ、マジかぁくそう俺の決意が水の泡になるなんてホント残念(棒読み)。いやぁもう話しかけたくて仕方なかったんだけど、俺にはどうにも出来ないから今回はパスということになるな。うん、ホント仕方ない!小町も納得せざるをえないだろう。いやー残念無念また来年……いや来年じゃダメだろ。

 

「鎌ヶ谷くんが……風邪……」

「もうダメ……世界が暗闇と茶色に染まって見えるわ、もう世界の終わりよ」

「アンタ…それ机だから……」

 

あと御三方のダメージが深刻なようで鬱陶しいです。

おかしいな、席すごく離れてるのに会話が聞こえてくるなんておかしいな、かまってちゃんかな?ていうか昨日転校してきたばかりだよね?なんかその反応、だいぶ前からクラスにいる人みたいな扱いじゃん。おかしいだろ、俺なんて3年経とうとしてるのに未だ認知されてるかすら怪しいのに。

くそ、友達になりたいと思っている相手でもやはり砕け散れと思ってしまう。いや俺は悪くない。全ては奴がイケメンなのが悪いのだ。

 

「……君達。ホームルーム中なんだから静かにしなさい」

 

御三方に先生はそうなだめる。またお前達か、と顔をしかめて。

 

「先生、そんなのは些細なことです」

「いや朝のホームルームって大切だからね。そんなこと言っちゃいけないよ」

「先生は鎌ヶ谷くんのことが心配じゃないんですか!」

「してるけど今一番心配されるべきは君達だと先生は思うよ。ホームルーム中に大きな声で私語しすぎ」

「大きな声で……私語…しすぎ……プッ…」

「なにワロてんねん」

 

あ、三人のペースに先生やられたな。

 

「んんっ……ともかく、君達に任せられないのは理解出来た」

 

仕切り直した先生の言葉に、三人がピクッと反応する。

 

「「「任せられない……とは?」」」

「………鎌ヶ谷くんの家にプリントを届けr」

「「「先生、優秀で真面目な生徒ならここにいますよ(キリッ」」」

「そうだねえ、一昨日までなら信じてたんだけどね」

 

なんだこの茶番。

 

「という事で、君達はうるさいからまた別の人にこっそりと頼むよ」

「「「誰ですか、別の人って?」」」

「……言うわけないでしょうが。ほら、もうこの話は終わり。1時間目の準備しろよー」

 

呆れる先生。まさか朝のホームルームでこんな事態になるなんて誰が想像しただろうか?

 

……転校生が休んだ時点でみんな割と予想してたか。

 

「あーあ。せっかく鎌ヶ谷くんの家に理由つけて行けると思ったのに〜」

「まあ、仕方ないでしょ。家に入れてもらえるわけ無いだろうし」

「でもさ、家の香りくらい堪能できてかもしんないじゃん?」

「「あー、それな!」」

 

 

……俺は今日、ひとつ大きなことを学んだ。

 

 

 

 

モテるって、恐怖と隣り合わせなんだね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして放課後。

 

 

「えっと……比企谷?くん?ちょっとお願いがあるんだけど」

 

「あ……はい」

 

その様子から先生が何を言いたいのかはすぐに予想がついた。

 

まあそれは良いとしてだ先生…なんで名前呼ぶ時に疑問系なの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は17時になろうとしている。

 

「ここか……」

 

先生から教えられた彼の住所は、俺の家と学校のほぼ中間というなんとも絶妙な場所だった。なるほど…案外プリントを預けられたのは、ただ俺の影の薄いからというわけではないようだ。

 

……そうだと信じたい。

 

「で、なんで小町がここにいるわけ?オシャレしちゃって」

「それはコッチのセリフだよ。なんでごみぃちゃんがここにいるの?」

「俺はプリントを届けに…ちょっと待ってなんか俺のランクが悪い方へランクアップしてない?」

「あ、なんだプリントを届けに来ただけなんだ。そっか、うんうんよかった。ついにストーカー紛いのことに手を出したのかと勘違いしちゃった。許してね、お兄ちゃん!」

 

ここ最近、会話が罵倒から始まってる気がしてならない。そろそろ俺本気で泣いちゃうからね?いや声音とかで本気じゃないって分かるから許しちゃうけどさ。

 

「それで?小町の方は何用で?」

「まー、お兄ちゃんと似たようなもんだね。玲那ちゃんも今日休んだから、プリントを届けるついでに遊びに来たんだよ」

 

休んだって……

 

「あの子まで?なら遊びにきちゃダメだろ」

 

流石にそれは失礼というもの。

だが俺からそう言われるのはお見通しだったようで、「ちっちっちっ〜」と指をふる。可愛い。ピッピより断然可愛い。

 

「学校には風邪って言ったらしいんだけど…その実は!お兄さんの看病するという重大な使命の為に休んだのです!はぁ…玲那ちゃんホント健気でお兄さん想いなんでしょーう!と小町はたいへん感動しました!な・の・で、もうここは直接会っていろいろ話したいなぁ〜と思って連絡とったら『兄さんの具合も良くなったので来ていいですのよ』と言われて、小町ここに参上!って感じ☆」

 

我が妹ながらどうしてこう壮大な感じでそんな小さな出来事を語れるのだろうか?

あと彼女の真似はそれほど上手くない。ですのよって、のよってなんだよそんな口調じゃなかったろ。

 

「あら、お二人共…来てくれたんですか?」

 

家の前でだからか、流石に聞こえたらしい。

 

「玲那ちゃーん!」

「お、おっす」

 

あ、相変わらずまともな挨拶すらサラッとでてこない。

 

「わざわざ家まで…ありがとうございます」

「いいんだよ、別に。はいコレ」

「まあ、すみません。プリントと今日の授業分のノートまで」

「いえいえ困った時はお互い様だよぉ」

 

くっ、あれがコミュ力MAXの領域!今日のノートなんて俺、考えつかなかったぞ。いや正常な俺なら気付いたかもし…正常ってなんだっけ……?

べ、別にいいし!ノートなんて先生に見せようが何しようが最終的に自分一人が分かれば良いものなんだからな。

 

………あれ?今のは比較的まともな考えの筈なのに、俺がこう考えるとぼっち感がものすごく増すとはいったいどういう七不思議なんだろうかていうか七つもあるとか怖い。

 

「あれ?お兄ちゃんもあったよね」

「あ、ああ、そうだった。その、悪いんだが…」

 

そう言ってカバンからプリントを取り出そうと、チャックに手を掛ける直前だった。

 

「そうだ、八幡さん。丁度いいですから、ぜひ直接、兄に渡しては貰えませんか?」

「……マジですか」

 

いやまあ、そう言われるかもとは薄々思っていた。しかしなあ、心の準備というものが……。

 

「でも玲那ちゃん。お兄さん風邪引いてるんじゃないの?」

 

ッ!ナイス援護だ、小町!なんか若干棒読み感あるけど!

 

「そ、そうだぞ。流石にうつされるのは…」

「ふふん、心配ありません!私の看病もあって、既に風邪は完治しています!」

「おお!なら大丈夫だね!よっしゃあ、お兄ちゃん!もう乗るっきゃないっしょ、このビッグウェーブに!」

 

小町切り替え早すぎ。まるで仕組まれてると疑いたくなるくらいだ。

 

「お、おい、なんでお前が燃えてるんだよ…」

「いいからいいから。ちっちゃいことは気にしないのが長生きの秘訣だよ。玲那ちゃん、お邪魔しまーす」

「ええ、どうぞ」

 

俺の返答も待たずに小町に背中を押され、鎌ヶ谷家にお邪魔することとなった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

人の家とはどうしてこう表現できない香りがするのだろう。めったに他人の家に行かない俺はそんなこと少し考えてしまう。

 

「兄の部屋は二階へ行ってすぐのところです。それじゃあ、八幡さん。ファイトです!後押しはバッチリですから!」

「お兄ちゃん、朗報以外きく気はないからね!」

 

二人とも気合いを入れ、そう後押しをしてくれる。一方の俺は感謝はあれど、すこし困惑していた。

 

「あ、ああ……ありがとな」

 

そう………めっっっちゃ恥ずかしいからだ。この応援の意味は突き詰めれば『友達作り頑張ってね♪』なのだ。なんて特殊な状況、なんて情けない俺。しかも応援してくれる内の一人が当事者の妹ととか、俺どんな顔すればいいの?笑えばいいの?キモいの一言で両断されるのがオチですね分かります。

 

「ここがアイツの部屋……」

 

だがひがんではいられない。

ここまでお膳立てしてもらったのだ。

 

せめて事を上手く運んで、ドヤ顔してやるくらいがいいだろう。

 

そのためには出だしが肝心。

 

俺は覚悟を決めて、ドアをノックした。

 

 

 

 

「あ、あにょ……クラスメートの比企ぎゃやなんだけど…」

 

 

 

 

 

どうしようもう消えたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





感想、評価、お気に入り、ありがとうございます。

書き直すとキリがねぇ……マジでスピード上げなきゃ。クリスマスまでに陽乃の問題まで解決したい。

まだ書いてないですけど、二人を繋げるためにシスターズが奮闘しております。次回でその事もまとめる予定です。

1/7/11 追加。
読み返して足してもいいかなってところほんのちょっと足しました。内容に変更はないです。


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