紅美鈴の現代入り ~東方格闘記~ (suryu-)
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一話 美鈴。現代に立つ

さて、ひっそり始めた新作は、見てくれる人は居るのでしょうか?

初めましての方は初めまして。suryu-と申します。いつも見てくださる方はありがとうございます。

今回書いているものは異色なものながらありそうで無かったものにございます。

ゆっくり御覧になられることを、心待ちにしております。それではどうぞお楽しみください!


「どうしたものかしら、ね」

 

紅魔館の主。レミリア・スカーレットには悩みがある。

というのも、だ。自分の館には門番が居るものの、その門番という役目があるというのに昼寝をしてしまうのだ。とはいえ、持ち前の気を操る程度の能力を使ってギリギリで目を覚ますもののやはり門を突破されてしまう。まあ、低級妖怪等にはそんな事は無いのだが。

とはいえ、だ。人……ではないが、妖怪として一回り程成長して欲しいとは思ってしまうのは悪くないのだろうとメイドが出した紅茶を飲みながらゆっくりと思考する。

ただ、こんな事を考えているとそろそろあの女が来る頃ではなかろうか。と思った矢先にその彼女は空間の裂け目を作り出しそこから現れた。

 

「お困りかしら。紅魔の吸血鬼さん」

 

「予想通り来たわね。八雲紫」

 

八雲紫。幻想郷を管理する一人。正しくは、人間ではなく境界を操るスキマ妖怪と呼ばれる存在だ。

最も。スキマ妖怪というのは周りが付けた通称であり彼女以外に同じ力を持つ存在は誰も見たことがないのだが。

そんな彼女が何をしに来たか。レミリアは大体の予想が出来ている。故に溜め息を吐かずにはいられなかった。

 

「もしかして、現代にでも送る気かしら?」

 

「大正解。まあ、そうすれば少しは変わるんじゃないかしら?」

 

「まあ、貴女の言う事だし意味はあるんじゃないかとは思うけれども」

 

このスキマ妖怪は覚り妖怪でもないのに心を見透かしたような発言をする事から、胡散臭いというような気もするのだが、毎回彼女の言うことには一理ある故にどうにも拒む気にもならない。そんな相手だ。

ともあれ、スキマ妖怪。八雲紫についてはさておき現代に門番を移すという事には、自分も考えていた事から良い案だと認める。

門番には悪いがその方が面白そうだとも笑みを浮かべる。が、ふとそこで思った。

 

「あの美鈴が現代で一人で暮らせるのかしらね」

 

これである。現代は幻想郷とは勝手が違うということから門番一人では暮らせないのだ。

ああ、なんて素晴らしい案なのにそこが。そこだけが! と、大仰に残念がるが、紫はほくそ笑む。

 

「あらあら、何も一人ではありませんわ。現代の青年に任せるの」

 

「あら! それはなんて楽しそうなのかしら……早速お願い出来るかしら?」

 

「ええ、勿論!」

 

今回ばかりは紫に完全同意すると早速寝ている門番に目を向ける。

『さぁ、これから楽しませてもらいましょうか』

楽しそうに笑みを浮かべながら冷めた紅茶を飲む事で、これから起きる事についての想像を膨らませてゆく。紅茶は冷めてもやけに美味しく感じた。

 

 

■■■

 

 

「ふぁあ……今日もよく寝ました」

 

珍しく昼寝を早めに切り上げた件の門番。紅美鈴は、あくびと共に空を見る。今日も良い天気だな。と感想を漏らすと目の前がいきなり真っ暗になる。

 

「え?」

 

次に感じるのは浮遊感。そして宙に浮く感覚は消えず気づけば落ちているということは焦りを覚える。確かなことは今、落ちているという事実のみ。その状態で出来る事は一つ。

 

「なんでこうなるんですかぁぁぁあああ!?」

 

美鈴の悲痛な叫びは、誰の耳に入ることも無かった。

 

 

 

■■■

 

 

 

「ふう、今日の授業も終わった。まあ、こんなものかな」

 

現代日本。とある高校にて勉強を終えた一人の青年はゆっくりと顔を上げると、鞄を手に持ち帰宅の準備を終える。すると彼の友人が目の前に居た。

その友人である女性を見るや彼は要件を理解して苦笑いを浮かべた。

 

「ああ、暁雨。今日は僕は修練の日だから遊べないんだ。ごめんね」

 

「あー。そうだったなぁ。久しぶりに仁も揃うから一緒に遊びたかったんだけど」

 

友人の暁雨との問答は遊べるかということなのだが、生憎青年はやる事がある。という訳で丁重に断ることにした。

友人である暁雨も納得してくれている事から、良かったなぁと内心で呟けば、でも。と付け加える事にする。

 

「ごめんね。でも、暁雨も修練を怠ったら駄目だよ」

 

「分かってるよぉ。シャオだって仁と特訓してるもん! じゃあお疲れ様。羽麗!」

 

暁雨との会話が終われば今度こそ帰ろうと、青年。羽麗は立ち上がる。そういえば今日の夕飯は何にしよう。帰るついでに買い物していこうか。等と有り触れた事を考えながら彼は帰宅を始めた。

 

 

帰り道、である。買い物も終わり帰路をのんびりと羽麗は歩く。今の時期は八月。暑さは相当なものだが羽麗は暑さを気にしない。汗はかくものの動じないのは、おそらく慣れている。からなのであろう。

さて。もうそろそろ家だな。今日はどんな修練をしようか。そんな事が脳内を過ぎる。彼の日課である修練とは彼自身を鍛え上げるもので、羽麗はそれを欠かすことがない。

そしてとうとう家へと着くと買い物袋片手に家の鍵を開ける。すると、ふと違和感に気付く。中に気配を感じるのだ。

 

「泥棒? それにしては鍛えられた気配だけど……」

 

とはいえ、だ。泥棒であれば見逃す訳にはいかない。気を整えるとその気配へと向かう。その場所は 関家道場 だった。

 

 

■■■

 

 

「いたた……ここは何処でしょうか?」

 

あれから。というものの。美鈴は自分の能力を使い自分は今何処に居るのかという事を探るが、一向に答えは出てこない。

結論としては幻想郷ではないというものだろう。落ちた事や空気や気そのものが違うのだから世界すら違うと考えるのは至極当然だった。

 

「ッ!?」

 

 

その時だった。自分の感じたことのない人間の気。いや、正しくは幻想郷ではあまり感じることのないタイプの気配。まさしく、格闘家のそれだ。

強い気配は自分へと向かってくる。まるでここに居る事が分かっているかのように。単なる強さに惹かれて来た訳でないことも分かることから、自分はどれ程説明出来るかという部分にも不安を感じる。

と、そこで美鈴自身の中に熱い何かが滾る感覚を覚える。

 

「……格闘家、か」

 

自身の中にある想いについては答えは出ていた。紅魔館の門番となってしばらく、格闘で戦ったことはもうかなりの事無いということだ。

熱く滾る物は、自分の中の格闘欲。幻想郷では感じる事の無かった無用の長物と化していたもの。だが、それは今の体を迸っている。

 

「久々に、気分が高揚してきましたね」

 

恐らくは来るであろう相手に対して久方振りに拳を鳴らし、美鈴は扉を見据える。

その先から現れたのは、一人の青年。だが、見るからにワイシャツと制服のズボンに隠された身体は鍛えられており、顔立ちは爽やかな優しげ物ながら闘志に満ちている。

求めていたのはこれだ。言葉も発さずに構えをとると、青年は納得がいった顔をした。

 

「泥棒……ではありませんね。ですが関係ありません。貴女は私と戦いを求めている。ならば拳で語るまでです」

 

青年は律儀に構える。美鈴は気付く。その立ち姿と動きから跆拳道(テコンドー)ではないかと。

刹那、青年は動いた。彼は一瞬にして自分との距離を詰めてきたと美鈴が感じた頃には青年は飛んでまず左足での蹴り。そこから右足で美鈴を踏み台にするように飛び蹴りをした後に左足でかかと落とし。

紛うことなきの連撃に、美鈴は腕でガードをするがその一撃の重さを感じて驚く。

 

「人間なのにこれですか……っ!」

 

だが、やられたままでいないのは美鈴だ。上にかち上げるように掌底を繰り出すと、その手を青年は足で踏むように飛ぶ。

その次の着地を見越した美鈴は双掌打を打ち込むと青年は後ろに吹っ飛ぶ。が、すぐに体制を立て直し起き上がる。

そこからの動きも青年は速い。おそらくは縮地法を巧みに使っているのだと、美鈴は気づいた。

 

”この青年、只者ではない! ”

 

妖怪である自分が一人の人間に対等な戦いをされている。格闘家としても。

その事実は、胸に宿していた遠い記憶を思い出すのに十分。次の蹴りを放とうとした時には青年は不可思議な動きを始めた。回転。そのままソバットかと思った時には既に遅し。駒のように回転しながら行われる蹴りは足元を救うように熾烈に攻める。

 

「っ、これで……!?」

 

「シッ!」

 

飛んで躱した事で避けきったと美鈴は確信する。だが、その油断が隙を生んだ。回転からのアッパー。思わぬ一撃をくらうと、体が宙に浮かぶ感覚で自分の認識が甘かったと痛感する。

久しく格闘から離れていた為鍛錬が足りないなという自嘲は胸の奥に一度仕舞った。自然と顔には笑みが宿る。

 

「はッ!」

 

「なんの!」

 

美鈴は最初にみた跆拳道の構えから繰り出された上段蹴りに乗ると、足を踏み台にしてかかと落とし。あまり考えたくはないが体重を乗せた一撃に、青年は腕で受けきる。

 

”これで折れないんですか!? ”

 

骨が折れるかもしれない一撃を放ったはずなのに、青年の腕は折れるどころか強靭な肉体ががっしりと足を受け止める。

その次には構えが変わり空中で一回転するサマーソルトキックを繰り出した青年に、これは截拳道(ジークンドー)とかわるがわるに出てくる武術に美鈴は更なる興奮を覚えた。

 

「これほどの相手、久しぶりだからこそ胸踊ります!」

 

「それは光栄ですね!」

 

先程の跆拳道とはうってかわり、截拳道の拳の連撃は正に見事。美鈴も躱しながら太極拳というスタイルを変えることにする。

八極拳。美鈴が覚える武術の一つにそれはある。曰く、極めて近距離で行う武術流派で、人間ながらに大砲の威力。もしくは大爆発を起こすと言われるものだ。

それを妖怪の彼女が行うということは、莫大な力を生むという事になる。八極拳に構えを変えた事により青年が一時離れたのはその為だ。

その瞬間を彼女は見過ごすはずかない。震脚を最小限までに動作を簡略化したその踏み込みは縮地法に劣らず距離を詰める事が出来る。

それには青年も驚きを隠さない。だが、笑みも絶やさなかった。真っ向勝負を受けたのだ。

 

「せいやァ!」

 

「っ!」

 

靠撃(こうげき)と呼ばれるその形へと移る彼女の動きは滑らかなもので、美鈴がどれ程の鍛錬を積んだかが分かる。

その上で、彼女はしっかりと青年にもたれかかるかのように背中から体当たりをぶつける。その技を、人はこう呼ぶ。

 

「鉄山靠ッ!」

 

「っ!?」

 

その効力は防御を崩す事にあり、青年の固いガードを一気に崩壊させる事を成功させる。その先にさらに震脚で踏み込むと、次の一撃を叩き込む。

次は必殺の一撃。その名を身に刻ませる一打。

 

「頂肘!」

 

「ぐぅっ……!」

 

その威力たるや、正に述べた通りの爆発といっても過言ではない一撃に、青年も宙に吹き飛ぶ。美鈴もこれで決まったと信じた。

だが、青年は笑う。この状況であろうとも、笑みを絶やさないのだ。彼は空中で体制を立て直し着地すると、本気の技を使う事にする。

 

「行くぞッ!」

 

「!?」

 

美鈴は未だ技の反動で隙がある。そこに叩き込むのは体を反転して左足から繰り出される蹴り上げ。美鈴は宙に再び浮かび、彼は地を蹴るとかかと落としでたたき落とす。そこから中段ほどに浮かんだ美鈴に拳を的確に叩き込んだあと、足を大きく振りかぶる。

 

「ヒールエクスプロージョン!」

 

「痛ぅっ!?」

 

振り下ろされた足は美鈴の腹部にクリーンヒットする。さしもの美鈴はこればかりは効いたが、少ししたあと立ち上がった。やはり、妖怪で良かったと微笑む。

 

「いやぁ、降参です。ここまでやられたら流石に負けを認めます」

 

正直というものの、未だに闘志は尽きない。けれども、素直にこれだけの戦いができたことは嬉しかった。幻想郷ではこれほどの格闘戦は出来ない為に久しぶりの高揚感を得られた事にも感謝している。

青年は一礼すると、先程までの精悍な顔付きと打って変わって優しい笑顔を見せた。

 

「中々の手練ですね。道場破りかと思いましたが、拳を合わせて分かりました。貴女はお困りのようです。良ければ話してくれますか?」

 

「……いいんですか? 私を信じて」

 

美鈴は念のためにと青年に問いかけると「勿論です」と返してくる。

心はまだ戦いたいという欲望はあるが、今はこの場所について知る方が先だと認識すると、相手に向かって中国式の礼。胸の前で固めた右手の拳に左手の掌を添える。

 

「私は紅美鈴。一応門番をしております」

 

 

 

■■■

 

 

 

「紅美鈴さん。ですね」

 

これ程の武道家なら、自分の耳には入って来るはずだ。と羽麗は考えるが、今はともかく相手の事情を聞く方が先決だと思うと羽麗自身も手と拳を合わせる。

 

「私は姓は関。名は羽。字は麗。関羽麗です。美鈴さん」

 

「関羽麗……どことなく彷彿させる人物が居ますが……」

 

羽麗が名乗ると女性。美鈴は何かを思い出しているように見えるが今そこは置いておく。

さて、と羽麗は美鈴を観察するとまず服装はチャイナドレスに星の付いた帽子。そして発達も良く健康的な肢体が目に入る。顔立ちもはっきり言うと美少女に値する部類だ。

だが、女性をあまり長く見ている事は失礼になると考えると話を切り出す事にする。

 

「美鈴さんは何処から来たんですか?」

 

「私、ですか。信じていただけるか分かりませんが、私は妖怪や神様等忘れ去られた物が辿り着く、幻想郷という場所にある紅魔館からやってきました。一応、私も妖怪なんですよね」

 

「……なるほど」

 

幻想郷。その単語に聞き覚えはある。知り合いや友人に見せてもらった文献にはそのような事が書いてあった為に理解は早い。

その後も幻想郷についての説明はされるものの、本当にそんな魔境はあったのだな。と羽麗は驚きと共に彼女の強さには納得した。

まさか幻想郷が実在するとはという事を考えるも、一旦それは隅に置きもう一つの疑問を相手に問いかける。

 

「貴女は住む所、あるんですか?」

 

「……ないですね」

 

案の定、やっぱりかということでやれやれといった様子で手振りをすると美鈴に微笑む。

 

「それでは、この家で暮らしませんか?」

 

「宜しいんですか!?」

 

美鈴からしてみれば驚愕でしかないのだろう。やはりというか得体の知れない妖怪である事は自覚しているらしい。と羽麗は様子で察すると、「困っている女性を放ってはおけませんから」と告げる。

すると美鈴は安堵した表情で「良かった……」と呟く。

その仕草には少しばかりドキッと反応してしまう羽麗は、視線をほんの少しだけずらした。何せ、大きな胸が揺れているのだから。

と、そこで美鈴は羽麗に少しばかり疑問を持った目を向ける。

 

「一つお聞きしたいのですが、貴方はもしかして関羽という武人の末裔では?」

 

その質問を投げかけられた羽麗は美鈴にそういえばと思い出して頷く。

 

「はい。僕は八十七代目関羽雲長です。よく分かりましたね」

 

「これでも今で言う中国出身なので。まさかそんな名家の方と出会えるとは……」

 

美鈴の言葉は確かに昔に覚えがあるため羽麗は苦笑いする。自分をその肩書きで見られるのはあまり慣れていないのだ。

ともかく、だ。何の因果か美鈴は目の前にいる。羽麗は優しく微笑んで美鈴の手を取った。

 

「何はともあれ、これから宜しくお願いしますね、美鈴さん」

 

「はい、羽麗さん!」

 

かくして、紅美鈴は現代入りしたのである。その胸に新たなる闘士を宿し、これから辿る道を知らないまま。



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二話 買い物の新宿fightTime

鉄拳世界を知る人だからこそ分かるこの感じ。真面目に平和です。

今回見た人は多分あの人達が生きている事にびっくりするかもしれません。ではお楽しみを!


「それにしても、幻想郷。か」

 

”先程美鈴さんと戦った自分としては、あの言葉が嘘に見えない。”

 

羽麗は心の中で呟きながらも少し前に雑談しながら友人の仁に見せてもらった文献を思い出す。

 

八条家の血を浄化するもの。幻想よりその存在は現れる。鬼悪魔を祓うと共に、世界を平和にと分岐させる。

その者が暮らすは幻想郷。神々や魑魅魍魎など忘れ去られし者が過ごす楽園は、今も我らの隣にある。

 

その言葉は今も鮮明に覚えている。妖怪や幽霊に神々など、普通なら信じ難いが仁は言っていた。

 

『一美お祖母様や父は幻想郷からの来訪者に救われたらしい』

 

仁は何か遠いものを見るかのようにその事実だけを告げていた。

そんな情景を思い出しながらも今自分の家に現れた紅美鈴の生活用品を買うために、出かける用意をしたかと思えば彼女の下へと向かうことにした。

 

「美鈴さん。それでは買い物に行きましょうか」

 

「いやぁ、すいません。私の為に修練の日に……」

 

「構いませんよ。では、向かうとしましょうか。ショッピングのお時間です」

 

実は、高三ではある羽麗は一応十八歳を迎えている為に免許を持っている。それゆえ美鈴のエスコートをしつつ家の鍵を閉めて車へと案内した。

その車はRX-8という所謂スポーツカー……というよりかは、スポーツカー風と呼ばれているその車なのだが羽麗はかなり気に入っている。

何故ならば峠であろうと首都高であろうと、この車は本当に走れるのだ。スポーツカー風とは呼ばれているのだが、それは先代のFDRX-7が改造によりより速さを求めることが出来るからと言うだけであって、ノーマル同士ならばサーキット等ではエイトの方が速いのだ。

普段は格闘技に力を入れていることから車に手を出したのは息抜きでもある為、実はきっちり弄ったりもしてるのだがそれは別の話。

 

「これが車ですか。初めて見ますが、本当に鉄の塊なんですね」

 

「なるほど。あなた達で言う外の世界の知識は無い訳ではないのですね。まぁ、乗れば良さは分かりますよ」

 

羽麗は車の知識がある事に驚きを感じつつも、全く文献がないわけではないのだな。という事実を頭に刻みつつ美鈴を隣に乗せて車を走らせる。

車が動き出すと「おお……」と美鈴が漏らした感嘆の声に可愛らしいなという感想を抱きながら、ショッピング街へと向かい始めた。

 

「それにしても、車とはかなり速度が出るんですね。空を飛ばない代わりに地面を走るものが発達してるんでしょうか?」

 

「空を飛ぶ? ……まぁ、妖怪でしたよね。それなら有り得なくもないし知り合いにもそんな存在が居るから納得出来ますけど。まぁ、確かにそういう事になりますね」

 

美鈴の空を飛ぶという発言には余り驚きはない。というのも知り合いには忍者やらなんやらが既に存在しているから、改めて考えるとそこまで不思議にはならないのだ。

ただ、一般論からするとずれてないかと言われたりしても仕方ない話ではあるが。

 

 

 

■■■

 

 

 

とにかく、買い物の場所に選んだのは新宿。パーキングに車を止めると美鈴と共に羽麗は車を降りた。

 

「凄いですね。高い建物がこうも多く鎮座するとは……」

 

「まぁ、ここは都市ですからね。美鈴さん。田舎になるとそうでもないですよ」

 

新宿。色んな意味で羽麗には思い出がある場所なのだが、その話は今はせずに美鈴の手をとる。

「え、え?」と混乱しながらも赤面する美鈴に「はぐれない為ですよ」と優しげな笑みを向けたあとに歩き出す。

羽麗としては女性の手を引く事に不慣れな為若干の緊張はあるものの、相手である美鈴も同じなのか緊張を感じるため少し安心しながら彼女を連れる。

 

「う、羽麗さん。なんだか視線を感じるんですが……」

 

「此処には恋人同士の人が来ることもありますし、それに美鈴さんは美人でその上チャイナドレスを着ているからではないでしょうか?」

 

「……やけに冷静ですね。他にこんなことをしたことがあるんですか?」

 

「いえ、まさか。ありませんよ」

 

視線を浴びる事で美鈴は羞恥心を覚えているのだが、羽麗はこの際だとその視線を流して楽しむことにした。

でなければ、自分も雰囲気に飲まれてしまうということになるのだから、意識から外すのは当然の事。

対して美鈴は美人という言葉を受けて内心嬉しさを覚えるのだが、羽麗が手慣れている様子に見えてジト目を向けてしまう。

そもそも自分は恋人なんていた事がないのだ。と彼女は自嘲しながらも手を引かれることを良しとしているから自分も大概だな。と少しだけ笑ってしまった。

そんな様子を眺めた羽麗も微笑むのだが、その様子を見ていた周りが羨ましそうに呪詛を呟く阿鼻叫喚な絵面となる。

そして、今回の最初の買い物は服。やはりチャイナドレスは目立つ為に羽麗はそこからどうにかしようと思っていた。故に服屋に美鈴と共に入ると、ふむ。と悩む。

 

「美鈴さんに、似合う服はなんでしょうか……」

 

「私は動き安ければそれで……」

 

「ダメですよ。美鈴さんは女性ですし、美しい。着こなせばさらに美貌を高めることが出来る。そう思います」

 

「び、美貌ですか」

 

正直な話、美鈴はこの手の言葉には慣れてない。男性経験など修行や門番に費やしていた為にあるはずがないのだ。

それにも関わらず羽麗からはこうも女性を揺るがす言葉を向けられるのだから自分ばかりが赤面してばかりで納得はあまりいかない。

こういうのを女たらしと言うのではないか。と素直に脳内に浮かんだ言葉を小声でつぶやく。が、羽麗には幸いにも聞こえることは無かったようだ。

羽麗も羽麗で自分からさらりとこんな言葉が流れ出るとはと思うのだが、知り合いの社長の影響だと思う事にする。

エクセレントが口癖のその社長は二枚目としても有名な人物で、格闘技も強い事から何度か手合わせもしている。だから移ったのではないかと勝手に思う事にした。

 

「さて、これなんかどうでしょう。これもいいですね……」

 

「あ、あの?」

 

「さて、美鈴さん。これを着て見てください。試着室と言って着替える場所は此処ですよ」

 

「えっと……はい」

 

美鈴は羽麗から手渡された服を着てみる事になるのだが、こうして異性から勧められた服を着ることも当然初めて。

とはいえ、これが現代の服なんだと思えばその服を着てみるのだが、普段チャイナドレスばかりの美鈴からすると新鮮なものである。

鏡に写った自分を見ては、「これが私?」と疑問に思うくらいには衝撃的。

そしてこれを羽麗に見せるのかということに恥ずかしさを少なからずに感じると躊躇うのだが、意を決してカーテンを開いた。

 

「ど、どうでしょう?」

 

「……凄く、綺麗です」

 

羽麗は開いたカーテンから現れた美鈴を見て、息を呑む。

純白のワンピースに麦わら帽子。そしてサンダルという有り触れたシンプルな組み合わせではあるのだが、彼女が着ると何もかもが違うと思えた。

赤がかかった長髪に、端正な顔立ち。ワンピースの下にある肢体はグラマラスで妖艶な雰囲気を匂わせつつ、麦わら帽子のあどけなさが少女である事も決定づける。

清楚でありながら女性の魅力と色香がたっぷりのその立ち姿には、流石の羽麗も惚けることしか出来なかった。

 

「あ、あの。羽麗さん?」

 

「……」

 

「羽麗さんっ。何か言ってください……恥ずかしいです」

 

「あ、あぁ。すいません。店員さん。これ。買いますね」

 

「畏まりました。レジにてお受けします」

 

綺麗ですと一言述べたあとから羽麗はその美しさに見惚れていたのだが、美鈴から肩を叩かれてはっとする。

天使にも見えたな。と内心舌を巻きながら即座に購入を決めると店員に告げた。

これでも彼は稼いでいる事から懐には余裕がある。この程度の出費等。と考えながら彼女にいくつかの服を買うと良い物が見られた。そう思って店から出るとそこには思いがけない人物が居た。

 

「あれ、羽麗?」

 

「……どうした。鍛錬の日ではないのか?」

 

「あ、仁に暁雨。色々あるんだ」

 

その人物とは学校にて一緒の二人。風間仁と凌暁雨という人物だ。

仁は炎の柄の入ったパーカーとズボンを纏い、鍛えられた肉体を隠している好青年である。羽麗とはよく鍛錬をする仲でもある。

暁雨も同じく学校の仲間で、その見た目はツインテールにチャイナドレスとスパッツという組み合わせ。彼女も仁や羽麗と修行をする中国拳法家の卵だったりする。

そんな二人を見て美鈴は少しばかり気が揺らいだ。

 

「羽麗さん。その二人は?」

 

「美鈴さん。私の鍛錬仲間で友人ですよ」

 

「わぁっ、羽麗。その人凄い美人だね!」

 

「お前が女連れなど珍しいな。何があった」

 

暁雨は無邪気に笑いながら美鈴を褒めるのだが、仁の様子は何か訝しげなものを見る目で美鈴を見る。

やはり、仁も羽麗と拳を合わせる仲だからこそか美鈴の格闘家としての気に気づいたのだろう。

更には妖怪という事もあり常人とは違う気もある筈。その気の違いを比べた結果の目線なのだ。

 

「仁。前に見せてくれた文献関係。といえば分かるかな?」

 

「……まさか、幻想の。とでも言うのか?」

 

「その通り。まぁ詳しく話すとなると後でかな」

 

仁は頭の回転が早く羽麗の言葉からその関連したワードを引き出すと同時に理解までする。

暁雨は首を傾げるが、仁は何も言わずに構えた。その立ち姿にまさかなとは思うがその通りだった。

 

「構えろ。その美鈴という女性かお前が拳で語れ」

 

「やれやれ。ここ、新宿のど真ん中だよ」

 

「構わん。丁度ストリートファイトが出来る時間だろう」

 

「平八さん……まだそれを辞めてなかったのか」

 

全くだ。と遺憾の意を込めると同時に羽麗が構えようとした時、美鈴が遮った。

羽麗はなるほど。と頷くと一歩下がる。暁雨は「ち、ちょっと仁!?」と止めようとするも仁は構えを解かない。

 

『ストリートファイト。許可時間になりました』

 

アナウンスが鳴ると同時にどこからかレフェリーが現れる。

 

”新宿ストリートファイト許可時間”

 

三島財閥という日本や世界の政界と繋がりのあるその財閥は、格闘一家ということでも有名な存在である。

当主と会長である三島平八と三島仁八が特定の時間特定の場所で、ストリートファイトを許可する事を決定づけた時には世に震撼が走った。

というのも、定期的に The King Of Iron Fist Tournament という大会が開かれるために、それに出場する選手達が日々精進するための場を作ったのである。

勿論ストリートファイトとは言うものの、レフェリーは現れる。三島平八と三島仁八が用意したのだ。

ともあれ、そんな事情からストリートファイトは推奨され、格闘技界には以前よりも熱が入るようになったのだ。

 

そして今レフェリーが眺める中、仁と美鈴は構えをとった。仁の構えの流派は正統派空手。拳を顔と胴の近くに構えている。対して美鈴は羽麗と戦った時と同じ、左手を前に出し右手を拳に固め腰あたりに据えるもの。

 

「それでは、やりましょうか」

 

「……そうするか」

 

”fight!”

 

仁と美鈴は合図と共にお互いに拳を繰り出しお互いに紙一重で避ける。最初からの攻防にギャラリーは沸き立ち始めた。

二人共後方に飛ぶと、ニヤリと笑う。この初手にて相手が相当の手合だということを感じるのだ。

 

「ふふ、楽しめそうですね」

 

「ああ、お互いにな」

 

仁と美鈴はじりじりとにじり寄るようにゆっくりと動く。まるでタイミングを推し量るように。

そして、好奇と見たのか美鈴が仕掛ける。素早い動きから繰り出される蹴りは仁のガードに阻まれる。

返すように仁はカウンターとして中段突きを繰り出すものの美鈴はそれを後ろに飛んで回避した。

 

「なかなかに素早いな。どれ程修練を積んだか」

 

「それはどうも。貴方も力がありますね」

 

「ふっ、伊達で鍛錬を行っている訳じゃないからな」

 

二人はそんな会話をするのだが、お互い技を繰り出す中での会話。普通ならば有り得ない状態なのだが訓練を積んでいるからこその妙技なのである。

だが、時間はそこまでない。レフェリーが時計を見ているということは残り時間が少ないということ。

美鈴はここで確実にということで仁の防御を崩すために急速に構えを変えて、力を溜め込む震脚で踏み込み一気に背中をぶつける。

 

「鉄山靠っ!」

 

「なっ!?」

 

さらに震脚で懐に踏み入ると頂肘ではなく二つの手を開き内部に力を送るように叩きつけるその技を放つ。その名も。

 

「双掌打ぁっ!」

 

「ぐぅっ!?」

 

そしてその双掌打が決まった所でカウントはゼロになる。レフェリーがストップの合図をかけると勝負は終わった。仁は完全に耐えきり引き分けである。

 

「……久々になかなかの手合いに会えた。拳を合わせた今ならわかる。信じよう」

 

「こちらこそ、楽しかったです。ありがとうございます」

 

二人が手をとる事で、この試合は終わる。その様子を見ていた羽麗は笑みを浮かべ、暁雨は動くことが出来るまでに少しかかった。



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三話 買い物同時に一美さん

なかなかどうして最近忙しくて何も出来ないsuryu-です。そんなこんなで三話目。見てくださいなっ


「しかし……本当に妖怪なのだな。こうして拳を合わせないと気付かん」

 

「あぁ、いやまぁよく言われますよ」

 

試合も終わり呆然としている暁雨と笑顔の羽麗の前でそんな会話を交わす二人。それにしてもだと強さの秘訣を問おうとしている所でもあったりする。

仁もやはり、求道者であり闘士を持つ者。美鈴のような才覚もあり強さを従える武を見れば、それは話が聞きたくなるものだろう。

が。それをしようにも気になっている様子の暁雨はついに仁の方へと向かってきた。

 

「じ、仁! いきなり戦ったり引き分けたり、どうしたの!?」

 

「どうもこうもない。俺もまだまだという事だ。それにこの人は強いぞ」

 

「いや、私もまだまだですよ。腕も随分鈍ってます」

 

「うんうん。感じあってくれたようで何よりだよ」

 

暁雨の問いかけをすぐに返答した仁は、美鈴を褒め称える。対して美鈴はまだまだだと苦笑いしているのだが、羽麗はそれを楽しそうに見ている。

因みに、だが。仁と暁雨は仲が悪い訳では無い。むしろ仁が不器用過ぎるのだが、それは仕方ないのかもしれない。何せ父に祖父は不器用の塊なのだ。

それはともかくとして、そんな二人を眺める羽麗はどことなく保護者のような雰囲気を出しつつも美鈴の手を取る。

 

「それでは服と下着も揃えましたし、格闘も終わり。そろそろ買い物を再開しましょうか」

 

「あ、えっと。はい。わかりました。羽麗さん」

 

こうして手を取られることにはやはりまだ慣れていない。そんな感想を抱く美鈴だが、不思議と悪い心地ではないから受け入れている。

羽麗もその様子により案外こういうのも悪くないなぁと内心思いながらも彼女を連れ歩くことにした。

 

「あ、羽麗。買い物に戻るの?」

 

「なんだ、もう行くのか」

 

「ええ、まぁ。まだまだ揃えたいものがありますからね」

 

羽麗の言葉は最もで、まだ買い物が終わっていない必要不可欠な物がある。携帯等がそれだ。

と。そこでどこからかの視線を感じた羽麗は振り返る。するとそこには。

 

「あら、では私もご一緒して宜しいでしょうか? 羽麗」

 

「……一美さん!?」

 

なんと、和服美人な幼女がそこにはいた。目は憂いと鋭さをどこか感じるのだが、幼い体型がなんとも言えない。そんな幼女である。

だが、驚くことなかれ。この人物は羽麗よりも遥かに歳上である。

 

「一美お祖母様。何故ここに?」

 

「仁。お姉さんと呼んでと何回言えば……」

 

「お、お祖母様ですか!? この幼い人が!」

 

美鈴はなんとも如何わしいものを見た気分になる。それもそうだ。この幼女が子供を産めるのか等という感想である。

勿論その答えも彼女が持っている。何故か?と言われれば直ぐにそれは分かった。

 

「平八さんの作った新薬をちょっと飲みすぎたんです。若返りの薬……これは良いですね」

 

「なんですかそれ!? 永琳さんですら作るかどうか……」

 

美鈴の驚きは至極当然である。というか、普通なら作りようがない代物なのだが、軽く作られているあたり技術力の高さが伺われる。

因みに彼女が言う永琳というのは幻想郷に置ける随一の薬師で、あらゆる薬を作る程度の能力というものを持っているのだが、大体新薬を作っては弟子である鈴仙・優曇華院・イナバという玉兎が大体犠牲になっているのだ。

ともあれ、そんなマッドサイエンティストのような薬師ですら作っていない薬だからか美鈴は頭を抱える。外の世界の本にはこんなものは、載っていない……そんな呟きを心の中でした後、一美に向き直る。

 

「と、取り敢えずその。一美さんも来られるのですか?」

 

「ええ、行きます。平八さんの名前を使えば簡単に物が手に入りますね。さぁ、羽麗。準備しなさい」

 

「うわぁ……わ、分かりましたけど、相変わらずの三島財閥っぷりですね。まぁ良いんですが」

 

羽麗。ドン引きである。これが良くあることだからと納得しなければならないのは目下悩みの種だ。

そう、一美は三島財閥の当主夫人。八条家というとある特殊な家から嫁入りした女性なのだ。

改めて説明するのだが、三島財閥というのはこの世界の政界すらも操れるような財閥で、施設軍隊もあるという噂があるがそれは事実。鉄拳集という存在が警察や軍に協力していて日本の平和は守られている。

そして、その三島財閥はThe King Of Iron First Tournament.通称鉄拳トーナメントを開き、異種格闘大戦を広めていることから人気も高いのだ。

その社長夫人である一美は美貌やらなんやらで有名なのだが、その実年齢は言わない方が身のためだ。

 

「さて、それでは行きましょう。羽麗。店はあそこですよ」

 

「分かりましたよ一美さん……はぁ。相変わらず三島家は自由だ」

 

「な、なんだか大変そうですね。羽麗さん」

 

「これがいつもの事だから。もう慣れた。行こう、美鈴さん」

 

なんとなく哀愁漂う羽麗に美鈴は苦笑いを隠せない。一美に連れられていく羽麗を見ては、仁ははぁ。と溜め息を吐く。そして、一言。

 

「羽麗。頑張るといい」

 

「仁。それ、見捨てたと同じだよね?」

 

「言うな」

 

 

■■■

 

 

「羽麗さん。ここは何を売っている場所なんですか?」

 

「携帯さ。遠くの人と話せるような機械を売っている場所なんだ」

 

「そういう事です。美鈴さんでしたね。好きなものを選んでください」

 

そんなこんなで、彼彼女達は携帯ショップへとやって来ている。スマホがメインのこの時代。色々なものを見るが一際目を引くなんてものはそうそうないと言おうとしたいのだが、やはりというか三島財閥製の物はなんとも多機能で目を引く。

多機能でありながらもハイスペック性能。本当に三島財閥は何処を目指しているのか本当に気になるものである。

という訳で、一美は当然のように三島財閥製造のスマートフォンを手に取った。因みにそのスマホ。値段は安めの割に対ショックガラスだったりマイクロSDが使えたりダウンロード出来たりUSB変換機能のコードが付いていたり、イヤホンマイクは無駄に高性能だったり本当になんでもありだったりする。

そんなスマホを店員に少し話してから、その店員が慌ただしい様子でドタバタしつつもすぐに契約を終えている様子を見て羽麗は思う。

 

「一美さん。ああ見えてたまにぶっ飛んだことするよなぁ」

 

実際その通りなのか、すぐにスマホを受け取りにこやかに美鈴と羽麗のもとに歩いてくる彼女は、嬉々としたものなのだが、おそらく他人を驚かせてしてやったりの顔なのだろう。お茶目だ。

対して羽麗は悩ましそうに頭を抱える。ああ、またか。的な感覚で。

店の方はてんやわんや。一美の表情は完全に嬉しそう。そしてそれを見て悩ましげな羽麗。その三セットの間にいる美鈴はなんとも言えない顔で笑った。

 

「え、えっと。買ってきてくれたんでしょうか? ありがとうございます」

 

「ふふ、良いのですよ。羽麗のお知り合いですから」

 

美鈴に一美はスマートフォンを手渡しする。その質感はなんとなく初めてのもので、美鈴はちょっとした戸惑いを感じるが、それでも悪いものではないと思った。

そしてその後、一美はにこやかに微笑む。理由はただ一つだった。

 

「気でわかります。貴方は幻想郷からお出でになられたのですね。ならば、お手伝いする事は当然です」

 

「っ、か、一美さん。幻想郷を知ってるんですか!?」

 

「ええ、勿論。私達八条家の言い伝えと、三島家のとある理由から友好的でありたい場所ですから」

 

そう、一美は幻想郷を知っている。それはどういう事なのだろうか。美鈴は理由がわからない。

対して彼、羽麗はそういう事か。と今更に理解する。以前仁と話した文献の一件から、そういう事だったのかという記憶の繋がりを得て納得した。

 

「ふふ、一八も平八さんも私も。幻想郷の人のおかげで助かったのですから」

 

「そう、なんですか。初めて知りました」

 

美鈴は自分の知識の無さを少し恥じた。幻想郷にも外の繋がりがある存在が居たなんて。

従来幻想郷は、外界との繋がりが希薄なことしか聞かされていない。幻想郷は妖怪などが集まるからだ。妖怪を信じない人間ばかりが増えれば、それはもう、大変なことになる。

それ故に、未だに繋がりのある人が存在するのか。そんな驚きは彼女を震え上がらせた。

 

「それにしても、美鈴さん。貴方は相当の手練ですよね。私、見たらわかるんです。ベースは太極拳ですが八極拳も使うみたいですし」

 

「そうでしょうか? まだまだ修行の身分ですよ」

 

「いえ、それでも強さを感じますよ」

 

ふふ。と美鈴の謙遜する姿に美徳を見た一美は、それでも。と付け加える。久方ぶりに心が踊っているのだ。

何しろ、前に来た幻想郷の住民も 相当強かった のだ。

そんな相手を見ていたらどんな闘いができるかと気になるのが格闘家の性。一美は今、久しぶりに燃えていた。

 

「……美鈴さん。何れお手合わせをしましょう。私は楽しみです」

 

「え? は、はい」

 

一美の一言はそれなりに驚きを感じる。この人は何を考えているのか。美鈴にはわからない。だが一つ、感じる事がある。

 

「この人、強い……!」

 

思わず口から出た一言は、彼女が感じた一美の強さを見ての事だった。尋常じゃない気に押されそうになりつつも笑が零れる。

ああ、本当にこの場所は飽きない。私が求めていたものなんだ。

伝えようのない感動は美鈴の体を駆け巡る。格闘家としての血は、今もこうして騒いでいる。

 

「取り敢えず、帰りますよ。美鈴さん」

 

「羽麗さん。分かりました」

 

「もう帰るのですね、それではまた」

 

一美に見送られ、羽麗と美鈴はその場を後にする。美鈴は本当に感動していた。これが自分の求めていたものだと、信じて。

その時、くぅう~。と音が鳴る。美鈴は顔を瞬時に赤くした。

 

「ふふ。帰ったらご飯にしましょうね」

 

「……ありがとうございます。羽麗さん」

 

こうして、三島一美と紅美鈴の最初の出会いは終わる。お互いに、胸に熱いものを灯しながら。

 

 

 

「ふふ……良い人に出会えました。平八さんに報告したら喜ぶ筈。その時は、きっと、すぐに来るでしょう。そう。The King Of Iron First Tournamentは」



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