死んだ私が歩む道 (和多弥)
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0.私が死んだ日
ほぼほぼFGOの冬木の話の一部を、視点変更してお借りした感じになります。
思いつきなので、FGOの背景を理解してないとわかりにくい脆弱仕様。
思いつきを許せる人だけ読んでくださいませ
やっと帰れる。
特異点として指定したこの冬木と呼ばれる地。
聖杯戦争の結果、この地は荒廃し聖杯を手にしたサーヴァントによって支配されている状況であった。
その上この聖杯戦争はどこか狂っていて、遭遇したサーヴァントは皆反転しており、マスターの姿はなかった。
そんな状況の中、実験段階であったデミ・サーヴァント化の成功と、唯一生存していたこの地のサーヴァントであるキャスターの協力のおかげで何とかこの無法地帯を抜け、敵の首領である黒いセイバーを打倒した。
後は聖杯を回収すれば特異点からの脱出は叶うはず、そのはずであったのに。
「れ、レフ?ウソ、よね。戻れないって。わ、わた、わたしがっ...私が死んでるって、ウソよね。ねぇレフ、ウソなんでしょ?冗談なんでしょ?」
「いいや、オルガ。私は嘘など言ってはいないさ。正しくは肉体的にだが、どの道この特異点が崩壊すれば結果はかわらない。後ろにいる彼らと違い、君には帰る身体がないのだからね」
戻れない、帰れない。一番信頼していた相手から伝えられた言葉はあっけなく私の心をへし折った。
「いや....いやあ!!そんなどうしてわたしが、どうして私がこんな所で死なないといけないのっ!やっと、やっとの思いでレイシフトまで漕ぎつけて、やっと認めて....なのにどうして...」
どうして。何で。そんな言葉が頭の中をぐるぐると廻る。思考が定まらない。身体に力が入らない。支えられずによろめいてしまう。
「そう、そうよ、レフ、レフなら何とかしてくれるわよね!だってこうして来てくれたんだからっ!」
そんな縋るものを探して視線を彷徨わせた先には聖杯を手にしたレフの姿があった。彼ならきっと私を助けてくれる。そう思って、そう信じて、ふらふらと彼のいる方へ身体を動かす。
「だめです、所長!その人はもう、私たちの知っている教授ではないです!!私よりもっと、強大な.....!!」
マシュ・キリエライトとそのマスターが後ろで何か言っているが私には聞こえない。いや、聞きたくない。
だって、カルデアでやってこれたのはレフがいたから。彼がいなければ、私の心はとっくの昔に軋轢に耐えられなくなっていた筈だから。
だから、レフの所に行かなくちゃ。私にはレフしか―――
「私が?君を殺した私が君を助ける?オルガ、それこそ何かの冗談かな」
「.......ぇ」
彼は今なんて。彼が私を殺した?そんなでも、なんで。
「爆弾は君の足元に仕掛けたのにこうして目の前に存在されるとどうしてかと疑問におもいそうになったが、実になんてことはない。肉体はもう完全に死んでいて、残った魂がレイシフトに巻き込まれただけのことだ。」
そうして薄く笑う彼は私の知るレフではなかった。いや、私が知っているレフがそもそも紛い物だったのかもしれない。
「だが、よかったじゃないか。肉体を失ったことで念願のレイシフト適性を得られたのだから。最も、マスター適正は得られなかったようだが。」
そう淡々と語る目の前の男の姿から今まで頭の中を廻っていた疑問が解ける。
アレはダメだ。アレは私の死をなんとも思っていない。
いや、実験のモルモットの様に、死をひとつの結果としか見ていない。
彼はきっと私のアニムスフィアの立場を後見人として得てカルデアという組織に取り入って何かを成したかったのだろう。
そしてそれは成された。つまり私は用済みということだ。
「ぅぁ…あぁぁ……!」
ダメだ。わかる。解ってしまう。
私がうまくいかない時に話を聞いてくれたのも、成功したとき良くやったねといってくれた事も全部、事がうまく運ぶための作業。
「あぁぁぁああああっ!!!」
むしろまだ悪意があったほうが良かった。
私が失敗したから、とてつもないミスをして彼の機嫌を損ねたから。だから殺されると言う方がまだマシだ。
でも今の私は違う。飲み終わった缶ジュースが道端のゴミ箱に無造作に捨てられるソレと変わりはない。
その行為はきっと意味はなく、私は結局誰一人にも認められてなどいなかった。
「―――っっ!!!!」
その事実が浮かんだとき、棒立ちになった身体が跳ね、後ろに跳ぶ―――
はずだった。
「おや?どこに行こうとしているのかな」
「「所長!!」」
後方に跳ねる筈だった私の体は、見えない何かに引っ張られるようにして宙に浮く。
「いや…!はっ、はなして!!」
「おいおい、それはないだろう。せっかく私が君が望んでやまなかったモノを与えあげようとしているのに」
「望んでいるもの…?」
「そうだ。君にはカルデアの所長としての座から、今回のレイシフト適性まで、私のおかげで手に入れて来れた筈だ、そうだろう?なのに君ときたら、下手に魔術師として優秀なせいか半端に成果を残したがる。今回もそのお陰で私自ら聖杯を回収しにこなければならなかった。…わかるか?お前は恩を仇で返したのだよ、オルガ」
ここにきてようやくレフは感情を露にしたように思えた。
「お陰で私はあのお方に謁見する貴重な時間を失い、ヤツらには白い目で見られる羽目になった。全部、オルガ、君がきっちりあの場で爆発に巻き込まれ死んでいなかったせいだ。中途半端に生き残ってコソコソと…!」
私を宙吊りにしながら彼は憎憎しげに私を見る。いや、私を、ではない。私を通して彼が今しがた滅し切れなかった存在、ヒトに対して憎悪を一身にぶつけてくる。
「レフっ!お前…!!」
「ダメです、先輩!今飛び出したら、先輩まで!」
後ろで今にも飛び出しそうな48番目のマスターをマシュが懸命にとめている。盾を握る手を震わせながら、泣きそうな声で。
あぁ、見ていなかったのはきっと私のほうであった。
だって彼の名前を知らない。一般募集のマスターで魔術の魔の字も知らない状態で急に爆発事故に巻き込まれ、目を覚ましたら違う時代にいて。
マスターという立場に仕立て上げられたにもかかわらず、文句ばかり言って命令を下す私に付いてきてくれた。
マシュと最後に話をしたのはいつだろう。私は命令ばかりで彼女とした会話が思い出せない。
だが彼女はデミサーヴァントになったことを受け入れて、迷いながらも先頭に立ち、私たちを守るべく闘ってくれた。
自分は認めずに認めてもらおうなど生意気にも程がある。
「何で今になって…気づくのかなぁ…」
涙があふれる。
確かに肩身は狭くつらい毎日であったが、少しくらい立ち止まってあたりを見渡すくらいできたはずだ。
なのにしなかった。望んでやまなかった癖して、どうしようもなく身勝手だった。
だからこうなるのは必然だったのかもしれない。罰が当たったのだとそう思えてしまう。気づけたのは幸運だが、そのタイミングが悪すぎる。だってこれじゃあ報われないし、このままでは意味がなくなる。
「そうだ、マシュ・キリエライト、余計なことはさせるな。今からオルガには私からこれまでの事の礼として、彼女の悲願であったカルデアスを与えてやるのだから」
身体が意思に関係なく動く。赤々と渦巻く球体に吸い寄せられていく。
触れたらダメだとわかっているけど、どうしようも出来ない。出来ることとしたら、叫ぶことだけ。
「いや!いやいやいや!せっかく、せっかく気づけたのに!やっとわかったのにぃ!なんでこんな…!こんなどうしようもない所でしか気づけないの!?」
これからだったのに。どうしようもない後悔が身を蝕む。
だがもう遅い。それでも私は叫び続ける。
「やだ、まだ認めてもらってない!まだ、人に褒めて貰ってない!まだ他人を知ってない!」
だってまだ諦めたくないから。
どうしようもなく絶望的な状況なのに。心なんてとっくに折れているはずなのに。知ってしまったら止められない。
赤が近づいてくる。飲み込まれる。
レフの高笑いが聞こえる。彼らの泣き叫ぶ声が聞こえる。
「だって、だってまだ……!この手は一度も自分の意思で闘ってすらいない!だからっ、まだ、終わりたくなんてない!!」
そうして私は――――
蒼に飲み込まれた。
FGOのアニメをみて
「あれ?このセリフどこかで…」
ってなった人は多いはず
というか、クロス要素一文しかないとか、後から気づいて愕然となりました。
こうなったらいいなぁって書いたので、
どこまで続くかわからないですけれど、週一投稿が出来ればと思っています。
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1.私が踏み出した日
かなりの亀更新ですし、気休め程度に視てください。
できるだけ、出来るだけはやくあげますから...!
「あ、れ…?わたし…」
目を覚ませばそこは赤いわけではなく、むしろ深いアオ。見上げる先は空の青というより海の色であった。
いや、まて。まってほしい。そもそも目を開けるといった動作自体が出来るのがおかしいのだ。予想外のことが起きたが、予想外すぎてむしろ冷静になりつつある。
とにかく現状を確認しなければ。
横たわったままの身体を起こす。未だに身体に力はが旨く入らず動きがぎこちない事が自身でも分かる。だが思い通りにならない苛立ちより、自身の足で地を歩いているという事実から得られる安心感が強い。
その安心感こそが、私が殺されかけたことが事実だと、明確に私に告げている。
「ぅぇ…!っぐぅ……おぇ…!!」
レフの表情や、迫る死の恐怖、何よりこれまで私が行ってきたことが無になる喪失感が一度に襲ってくる。ダメだ、考えてしまえば頭から離れてくれない。
ふらふらと未だ自身のいる場所すら分からず、本当は知りたくなんてないけれど、だけど前には進まないといけない気がして動かしていた足が止まり座り込む。
口を抑えていた手に吐いたものが付着する感覚がある。
この吐いたものはいつのご飯だろうか。そもそもまともなご飯を食べたのはいつだったのか思い出せない。手に付着した嫌悪感よりもそんなことを考えている。
あれだけ魔道一辺倒であった生活をしておきながら、こんなときに普通の日常を脳裏に思い浮かべようとしている。
どこかでまだ死んではいない、と生に縋っているようでひどく滑稽に思えてしまった。
「ほんと、今更になって思い返して無い物ねだりをするなんて...どうしてこう失ってから気づくのかしら、私は」
そう自嘲するように吐き捨てたことを皮切りに、今まで見ようとしなかったものが浮いては沈んでを繰り返す。そんな思考を切り捨て、今こうして意識があるうちに何かしなければならないと思うのだけど、どうにも一度とまった足は動いてくれない。
そんな私はついに体育座りに顔を伏せ止ってしまった。
「ふむ、お目覚めかと思ったのだが。もう足掻くのはやめかね」
「---っ!!だれっ!」
私が視界を塞ぎ、現実から目を逸らそうとしたのと同時。
ふらふらと彷徨っていた道は何処か無機質さを持つ一本道であった。
そこに私以外いなかった事位はしっかりと確認したはずだ。それは覚えている。
伏せていた顔を上げあたりを確認する。
が、しかし声の主は見当たらず、見えるのはひび割れたステンドガラス。
「うそ、さっきまでただの一本道だったはずなのに・・・こんな大きなステンドガラスなんてなかったし、そもそもこんな広くなかった」
姿の見えない声に、空間の変質。
立て続けに起こる変化に軽くパニックになる。
「メンタル面に難ありと。いや、失敬、何分こちらはメンタル面が色々と可笑しい人物との付き合いが長くてね。彼と比べるのも酷な話ではあるが、君は選ばれてしまった。あの場にいた中で一番適正が高かった人物が君であったというのもあるが。」
「しかし、我が主殿の御眼鏡に適ったのは幸運であったと思うがね、私は。でいなければ君の魂は間違いなく燃やし尽くされ、存在ごと消されていたのだから。」
こちらの様子などお構いなし、
いや、口ぶりから知っていてなお声の主は語る。
なんとなくこちらの様子を愉しんでいることだけは分かるが、今の私に抗議するほどの余裕なんてない。
「私が選ばれた?適正が高いって、何の適正よっ!それに声だけが響いている状態でさえ混乱しそうなのに、"我が主殿"っていった!?まだ誰かいるって言うの!?」
入ってくる情報が多すぎる。
姿が見えずに声が響くのは何かしらの魔術だとしても、空間変質までも声の主の仕業だとしたら既に相手の術中に嵌っているとも言える。
さらに声の主が言うには、私を連れてきた主とやらがバックに待機しているときた。
必死に状況を掴もうとしたら、悪い未来しか視えない。
また血の気が引いていくのがわかる。
「...死んだと思ったら生きていて、生きていると思ったら既に囚われの身ってどんな虐めよ...どうすればいいのよぉ」
もう泣きそうだ。というか泣いてる。
「君はどうも落ち着きがないな。---ん?何かね我が主殿?愉しんでないで仕事をしろ、だと?私はただ事実を述べているだけだが、ふむ。口元が歪んでいると、これは失敬。参照元の人格に引っ張られすぎたな。以後気をつけよう。いや、本当だとも。」
どうやら声の主は主殿とやらに叱られたらしい。
声の主は咳払いをすると私に再度語りかけてきた。
「何を勘違いをしているのか、私たちは君を今すぐ始末するつもりなど無い。でなければ、死の直前から魂を無理やり救い上げるなどという無茶をするはずなど無いだろう。他のものに気取られること無くとなると、相当苦労するのだよ。たまたま君たちのシステムが此方のやり方の下位互換であったから無理やりにでもパスを繋げ、霊子化の強制実行を掛けられたのだ。欠損無くこちらに引っ張れたことに感謝すらしてもらいたいものだ。私たちは君の願いを叶えただけなのだから。まあ、実行したのは我が主殿なのだが。」
「...私の願い?」
「言っただろう『この手は一度も自分の意思で闘ってすらいない。だからまだ終わりたくなんてない』と。」
「あ...」
最後。あの燃え盛る球体に吸い込まれる直前私が口にした言葉。
誰に届くことも無く消える叶うはずのない言葉だったソレを、彼らは形はどうあれ、すくってくれていた。
その事実に気づく。
「君を救い上げることは、身動きの取れない私たちにとって分の悪い賭けだと思っていた。無駄にリソースを食う必要はないと。しかし我が主殿は違ったらしい。君のソレを叶えるに足る願いとして入力し『奇跡』を起こした。お陰でこちらはさらに魔力を失い、窮地に立たされている。」
状況を語る声に私がこうしてまだ活動できていることが、どれほどの奇跡であるか痛感する。
「そう、そうよ...魂の転移って言っていたけど、あの崩壊寸前の空間をこじ開けて引っ張ってきたって事でしょう?いや、空間だけじゃないのかも、きっと時間軸も変わってる。それに転移させたものにダメージを与えずに、ソレを意図的にやった。もうソレって魔法の領域なんじゃ...それほどのことを、そっちの状況を悪くしてまで行っていったい何を考えているの...?」
さっきまで悪い方向にしか考えられなかった頭が再起する。
陰で泣こうと、歯を食いしばりながら培ってきた魔術師としての私が帰りつつある。
分からないことは怖いことだから、自身の身を守るために情報を集め一人で生きてきたソレが、どうにか自身の命を繋ごうと必死で考える。
だって彼らは少なくとも今は始末しないといった。形はどうアレ私の存在が保証されているということだ。
「魂の空間転移をやってのけた力はあったけれど、それより前から立場は怪しかった...なら元々その力だけでは事態は解決しないということ。それに私を救い上げた所で身動きの取れない状況が完全な詰みになるのなら、それこそ無駄。何かしらの手段がまだあるということで、きっと私が何かをすることでそれが完成するということをみこしていたとしたら...」
お先が真っ暗であった未来が微かに光を見せる。
問題はきっと私にそれが勤まりきるか、ということ。
これが彼らの言う分の悪い賭けなのだろう。
「等価交換...魔術の大原則ね...私は何をすれば...ううん、違う。何を成功させる必要があるの...?」
俯いていた顔をあげ問いかける。
ここでしくじれば私の道は消える。
彼らの都合もあるのだろうが、我が主様とやらは私に機会をくれたのだ。
いつも奪われてばかりであった私に、再起する機会を。
「ほう?先ほどまでの泣き顔とは違いずいぶん頭が回るようになったようだ。等価交換、おおむね正解だ。我が主としては苦笑いモノだろうがね」
くくっと喉を鳴らし嗤う声が聞こえる。
利害関係を優先する魔術師としては交渉ごとはやりやすいが、個人的には好きになれない。
というか、嫌いだ、この声の主。
...ん?彼の言葉に引っかかりを覚える。彼の言葉通りならあの回答だと声の主の主様は微妙なところだったということだろうか。
「まあいいだろう。時間はそれ程残されていないのでね。」
私の思考は未だ姿の見せない声の主にさえぎられる。
「まず此方の状況だが、私たちは君たちの世界で起きた事象の影響を多大に受けている。人理が破壊され書き換えられたことで此方のリソースの大部分が変質し、ロックが掛けられている。何とか死守している領域がここだ。」
彼の声を合図にひび割れたステンドグラスしかなかった空間に、ぼうっ...と8つの扉が出現する。
どれも私の身長よりも2周りも大きいが、その中でもより大きい扉が1つ。
ちょうどステンドグラスの対面に位置している。
「それらの扉の先は『特異点』と呼ばれる時代から派生する、人類の記録世界。現在の地上は2017年より先が無いだけでなく、過去の人類史が変質してしまっている。過去が変われば、未来も保証はされない。君が最後にいた世界と同様に魔術的な改変により本来の人類史から逸脱した世界であり、人類史において大きな転換点となる時代が変質してしまっている為だ。故に私たちの記録していたものと変質した過去の世界が現在競合してしまい、扉の先の記憶領域も変質し非常に不安定になっている。」
「しかし、その記録こそ私たちの力の源、それをなんとしても奪還する必要がある」
「ちょ、ちょっと待って...!!」
『特異点』については分かる。未来が消失したのは分かっていた。だが、過去の時代変質?それが8つも?それでは未来どころか現在も危ない。
「ああ、なぜ、現在私たちが存在を保っていられるのか言うことかね。簡単なことだ、ここは時間軸に縛られない。意図的に固定することは可能だが、基本的にそういうものだ、でなければIFの世界を含む人類史の記録観測など不可能だ。」
「カルデアと同じ...いや、そうよ、そもそも此処はどういうものなの...?さっきから記録だとか観測だとか言っていたけれど」
「どう?言葉変わらず観測し記録する、それがここの本来の機能だ。」
「でも、記録世界や時間軸に縛られないって言うのは明らかにその範疇を超えているわ。」
「本来の機能といったがそれがすべてではない。観測し記録する。君は『経験則』というのを聞いたことはないかね。それと同じだ。度重なる観測と記録の反復は現象の発生理由やパターン、結末そういったものを含む。『歴史は繰り返す』とは言いえて妙で、実際そのとおりなのだ。」
「此処は記録から未来を演算する。そしてそれは1つとは限らない。幾重の可能性をもはじき出す。そして多くのIFの中から適切解をはじき出すことが可能なのだ。『望む未来への道筋を得られる』、それはいつしか人の中でこう呼ばれるようになった」
「『セブンスヘブン・アートグラフ』...『七天の聖杯』と」
「聖杯...」
私が最後にいた燃えた街で相対したサーヴァントも聖杯を手にしていた。
だが、此方のは違う。願えば叶う。そしてそれは結果のみでなく過程までが保証されている。
もはや未来構築を自由に行える。それがどれだけ恐ろしいものであるか、想像にたやすい。
「しかし現在は願望器としての機能は制限されている。かつてはこの機能の所有を求めた魔術師たちが多くいたが、所有者が決まり、その所有者が争いを望まなかったことから、求められた機能自体を封じ、魔術師同士の争いの場は開かれることはなくなったのだが、まあその詳細は今はいい。後々分かることだ。」
「話を戻すが、ここの力の源が、これまでの"記録"であることは理解できたであろう。故に此方の機能を回復するにはロックの掛けられたこの扉の先を開放する必要がある。」
「で、それを私にやれと...」
「そうだ」
「8つとも?」
「無論。ただし8つ目に関しては他の7つが開放条件であるため。まずは7つだが」
「んぐ...うぅ....」
無理だ、そういいたい。
特異点と呼んだということは、あれら全てが冬木の街と同じ規模で同じような惨状なのだろう。
そもそも達成条件は?此処は彼らの言葉が本当なら『聖杯』なのだろう。冬木では原因が聖杯であったからその回収ですんだ...はずだ。
だが、『聖杯』の中で「聖杯」が存在するの?記録世界であるのなら、此方を開放したところで私たちの世界が変わらなければまた元に戻ってしまうのではないか。
それとも記録が世界を書き換える、とでも言うのだろうか。
だめだ。まだ状況が整理しきれない。
こんな何も分からない状況で突っ込んだ所で、自殺に等しい。
それは、もう私の身体で既に体験済みだ。
二度は無いだろう。
それに私には選択肢など無い。
たぶんこれは私たちの世界がどうとか言うより、ただ機械がダウンしたときに自動復旧するときと同じでそういう機能を実行しているだけなのだろう。たぶんそこに理由なんて無い。
やらなければ、私に未来が無いことには変わりは無いのだから。
だから少しでも自身の身を守るために情報を、ここで"生き残る"術を引きださなければならない。
生き残る。ただそれだけを今は求めて行動するしかない。
「臆したかね。まあ無理も無いが、それでは困る。しかし、何も君一人とは-----む?これは...!!」
「ん、な、なに?」
私の困惑顔をみて愉しんでいたのか、声に喜色が混じっていたモノが急に切羽詰ったものに変化する。
そして急に鳴り出すアラート音。
『警告。警告。第一の扉、「邪竜百年戦争オルレアン」の記憶領域に異常発生。「人理継続保証機関フェニス・カルデア」所属の魔術師による「特異点」の修復を確認。これより記憶領域の更新に入ります。』
「うそ、カルデアの!?」
先ほどまで私に対していた声の主とは違う、無機質な音声が思わぬ朗報を告げる。
既にカルデアのメンバーが活動していたのは驚いたが、ここまで活動が進んでいるとは思っていなかった。
だが何か変だ。あの声の主の慌てようはこの内容とはかみ合わない。
その疑問を裏付けるように新たなアラート音が響く。
『警告警告。重ねて警告いたします。「特異点」より不正アクセスを確認。「特異点」の起因物を解してのアクセスのため、残存防衛プログラムでは対処しきれません。防衛ラインAを突破、アクセス者を敵対個体として認識。緊急ファイアウォール構築。構築に失敗。---敵、防衛ラインBを突破。続けてCを突破。あと30秒で接敵いたします。直ちに封印指定プログラム"SS"を解除し"例外処理"の実行をしてください』
明らかに危険が迫っていた。
あと30秒?それだけの時間でその危険の原型がこちらに来るってこと?
「っ!!ちょっとっ!!いきなりすぎじゃない!!私はどうすればいいか、まだ聞いていないんだけど!!!」
声の主に向かって問いかける。
急激に迫る危機に冷や汗がでる。
「まて、此方にくるだと...!---ザ、ざ--く、聖杯カ。チり際に無理やりに発動させ---か!!これだから結果のみの願望器は!!」
だが返ってくる声はノイズまみれで聞き取りにくい。
あの声の主のこれまでの会話からは想像しにくい、余裕のない声であった。
「君に掛ける時がきてしまったようだ...」
「ま、まって。まってよ!!待ってってば!!」
次第に小さくなっていく声。
それにあわせて私の身体は不安に震える。
「君は選ばれた...のだ。魔術師として、担い--手と----て----よ---のだ-------」
「まって!!!ちゃんと教えて!じゃないとわた、わたしまた---」
扉が破壊される音と、激しく鳴り響くアラート音に私の叫びは掻き消える。
そう、"敵"がきたのだ。
そして私はこの気配を、この圧力を知っている。
「サーヴァント...!!」
砕けた扉の破片をはね姿を現したのは濃密な魔力をまとう黒い英霊。
その手には不釣合いな輝きを見せる黄金の杯がある。
怖い、怖い、怖い----!!!
冬木でのセイバーのサーヴァントを思い出す。
あの圧倒的な力と同じ存在が目の前にいる。
あの時との違いは、今は私一人しかいないということ。
守ってくれる人はいない、周りには誰もいないのだ。
「い、いや...!もう、独りはいやなのに...こんなのっ、どうすれば...!!」
「Aaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!」
「きゃっ------っぐ!!」
扉を破壊してから静止していたサーヴァントの視線が私を捕らえた瞬間黒い暴風が吹き荒れ、私は背後のステンドグラスに叩きつけられる。
「はぁはぁ...んっぐ、うぇ...んぁ」
叩き付けられた衝撃で一瞬息が詰まる。
乱れた呼吸を整えようとするが、衝撃による嘔吐感がそれの邪魔をする。
朦朧とする意識を何とか繋ぎ、視線を前方へ。
サーヴァントとの距離は開いたが、元々広くない上に遮蔽物の無い円形状のこの場所では、きっと直ぐに距離をつめられてしまう。
「ジャ....んぬぅ」
しかし、その距離をつめてこない。ボソボソと何かをつぶやき続けている。
恐らく手で顔を覆っているのだろう。殆ど聞き取れないが唯一聞こえた単語が
「『ジャンヌ・ダルク』...?」
であった。しかし思わず呟いしまったそれが引き金になってしまった。
「じゃんぬぅ...ジャンヌ、ジャンヌジャンヌじゃ、じゃんジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌ...!!」
頭を掻き毟り、今度は此方に聞こえる声で叫ぶ。
そして振り向きざまに腕を振るうと、おぞましい姿を生物が姿を現し此方に触手を伸ばし迫ってきた。
「こ、こないでっ!!」
咄嗟にガンドを発動する。
ありったけの呪いを込めて放ったソレは黒い弾丸となり、伸びてくる触手に飛来する。
だが仕留められた触手は僅かでまだ数本残っている。
「あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
魔力残量なんて気にしない、そんな余裕なんて微塵も無い。
今は迫る死の恐怖を払うように無我夢中にガンドを放つ。
黒い弾丸と触手の接触により煙が上がる。
姿が見えない敵になお、攻撃を続ける。
やがて煙が晴れると身体を穴だらけにした生物が見て取れた。
「はぁはぁはぁ...」
何とか凌いだ。今のは恐らく海魔の一種だろう。
比較的もろい種類なのか、なんとかなったが本命はそうは行かない。
「ううぅ、んぐ、ぇぐ...」
確実に迫っている死の恐怖に涙があふれてとまらない。
サーヴァントが戦っていたのを背後でみていた時とは比べ物にならない恐怖。
「うううぁあああ、んぐ、ぅっぅう...」
涙は止まらない。身体に力は入らない。
だけど。
だけど、だけど...!
「か、かんがえ、考えなきゃ...まだ、何か、きっと何か、んぐ...っ..」
諦めたくない。まだ自分を諦めたくない。
だってやっと知ったから。この恐怖を。彼女が必死に盾を振るい戦っていたときの心をやっと知ったから。
「こんなに。泣くほどつらいのに、それでも戦ってくれて。ごめんね、マシュ...ごめん。わたし、やっと知ったよ。だから、謝らなきゃ、『ごめんね』って。『ありがとう』って伝えなきゃ。だから。あきらめたら、ダメだよ」
一度死んで、死に際に他人を知りたいと思った。
ここで下を向いたままはダメだ。また、闘わないで終わるのはダメだ。
「前を見なさい、私っ!!怖くても、前を!!」
俯いた顔を上げる、まだ身体は動かない。
だけど、この心は、魂はまだ死んでいないと。
眼前に迫る敵を見る。
考えろ、考えろ、考えろ!!
手段、手段があるはず。それも私が、私にしか出来ないものが!!
何か、これまでの会話の中にあったはずだ、ヒントが。
だって、私とこの場所の未来を話していたのだから無いはずがない!
思い出せ、思い出せ、思い出せ!!
此処は願望器だ----既に所有者がいる、魔術同士の争いで決まった所有者が。
所有者なしで、今出来る機能は何だ----"例外処理"を実行すること。
その名前とは----封印指定プログラム"SS"
ソレを実行して今倒す敵は----サーヴァント
「---っ!!サーヴァントシステム!!」
魔術師同士の争いは"聖杯戦争"。
それに声の主は『担い手』と最後に言った。
もし仮に"SS"がサーヴァントシステムだとしたら、『担い手』とはマスターのこと。
保証なんかない。
封印されたシステムが解除されているか分からない。
だけど、はなから使うつもりであった、手段がこれだとしたら可能性はまだある。
カルデアではマスター適正は無かった。
でも身体が死んだことでレイシフト適正を得た事実がある。
なら------!!!
「----きいて!!!七天の聖杯の守り手よ!!」
目は逸らさない。
敵が迫る。直ぐそこまで来ている。
涙で視界がにじむけど、想いは止めない!
響く敵の声より大きく、絶対に届けて見せると叫ぶ。
私の願いを救ってくれた者にもう一度。
「私は、いま、やっと前に進み始められたの!とっても小さいけれど、それでも先を見たいと前を向けたの!!」
「まだ怖いし、身体も動かない。弱音を吐くかもしれない。」
「だけど、進むことを諦めないから!何度立ち止まろうと、決してっ!!」
迫る黒い影は既に目の前。
止めとばかりに手を振り上げる。
だけど、とめない、止められてたまるか。
「だから!」
「だから、私と一緒に闘って!!!」
「来てっ!!お願い!!!」
力の限り叫ぶ。
振り下ろされる腕の気配がするのと同時に海魔の叫びが呼応する。
うごめく触手。
あと僅かでそれらは私を串刺しにする。その瞬間。
響く雷鳴と、炸裂音。
目の前には濃密な黒はかすみ、
変わりに青いきらめきが辺りを覆う。
青から現れたのは、私を守る用に立つ白い衣を纏った男性の姿であった。
尻切れトンボ感....
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2.私が一人じゃなくなった日
ダンゴムシ程度になるように頑張ります。
息抜き程度にお読みください
どこか神官とも見える装いの男性は、私を背に迫る海魔の群れに静かに対峙している。
その白い衣が振るわれると、青いエフェクトが煌めき雷が走る。
一時的に停止した海魔に対し今度は先ほど振るった方と逆の手に握られた、あれは極東の刀だろうか、波紋が浮かぶ刃を一閃し、両断する。
私の時の抵抗など比べ物にならないほどあっけない、そう思えるほどあっさりと海魔の群れを倒していく。
「―――うん、とりあえず本命を除いて片付いたかな」
聞こえた声に顔を上げる。
「大丈夫?立てる?」
振り向いた男性はそう言って私に手を差し出す。
へたり込んだ私を心配そうにみる彼は先程まで憮然と敵を屠っていたとは思えない、私自身と年のかわらない程の青年であった。
茶髪で長くも短くもない長さで軽く整えてあるような髪型。顔つきは整ってはいるが一番といわれるとそうではない。聞こえた声は落ち着いているとも平坦とも言えるような声音。そんな平凡さ素朴さを併せ持ったような青年は、いつまでも動かない私を見て、眉根を少し寄せ困った顔になっていた。
「あ、ご、ごめ…」
自分が青年の顔を見つめてしまっていた事実に恥ずかしくなり、反射的に顔を反らしてしまう。だがそれが功を奏した。反らした視線の先、彼の背後に迫る黒々とした魔弾が目に飛び込んできたからだ。
「っ!!よけてっ!」
反射的に叫んでその後に気付く。
彼は避けられない。なぜなら避けた先には私がいるからだ。
私がもたもたしていたせいで、彼は、避けることができないのだ。
自然と目線が落ちる。
あの濃密な魔力では、彼の刃に対魔力効果でも乗っていない限り無効化は難しいだろう。
例えその効果があっても全て無力化は難しいだろう。何せあの悍ましい魔力を漏らす聖杯の魔力が練りこまれている。
せっかく前を向いた顔が下がる。
目も瞑ってしまいそうで、まるで諦めてしまうみたいに謝罪の言葉が口から洩れそうになる。
ダメだ、それを口に出したら私はまた心が折れてしまう。
それを言ってしまったら目の前の彼を無にしてしまいそうで。
「ご、め――――「怖いままでいい」――あ」
聞こえてきた声に漏れ出そうになっていた言葉が止まる。
「痛いままでいい」
下がっていた顔も自然と上がる。
「大丈夫、その上で一緒に考えよう。君が自分の意志で戦うことを選んだから、自分は君の所に来たんだ」
その言葉は私自身が言い放った言葉で、一人消えていく言葉であった。
だけど、彼には届いていた。
その事実が私に熱を入れる。
伸ばされていた手を取る。その手を強く握る。今度こそ諦めない。
とっさに手を取れなかったのは、きっと他人を信じれられない気持ちが心のどこかにあったから。
裏切られるのは怖いことだと、痛く苦しいことだと、文字通り身を持って知らされたからだ。
だけど間違いでなければ、彼は二回手を指し伸ばしてくれた。
なら、きっと私はその機会を無駄にする理由はない。この手を取ったからには、私は戦い続ける。立ち止まることはあるだろう。泣き言も言うかもしれない、だけど自分を諦めたりはしない。生きながらに死んでいる苦しみはもういらない。
私は私として生きる為に戦う。
そしてその為には、私に手を差し伸べてくれていいる彼を信じることから始めよう。
彼には彼の都合があるのだろう。だけどそれがどうした。
裏切られたくないのなら、信じてもらえるように行動をしよう。言葉を尽くそう。
既に、それだけの事をしてもらっている事は事実なのだ。
それに、さっきの彼の言葉は偽りではないように思えたから。
今はそれだけで十分。
さあ、猶予はない。始めよう、過去の私は死んだ。
今の私の戦いを、彼と一緒に。
「ありがとう。私と一緒に戦ってくれますか」
じっと待つ彼に告げる。
私の決意を込め告げた短い言葉。彼は何を感じ取ったのだろうか。
ふっと息を吐く音が聞こえる。
「もちろん」
今の私にとって、そういって柔らかく微笑む彼の姿が最高の答えだった。
長いようで、やり取り自体は短いこの間に敵の脅威は既に回避不可能な時点まで足していた。
彼は素早く振り返ると同時に、詠唱を行う。
「Code:add_invalid();」
シングルアクションにも思える短い詠唱で、黒い魔弾は青いエフェクトに包まれ、まるで分解されたかのように胡散する。
「まだだ。『Code:hack(16);』」
胡散した魔力の残滓の合間から見えたサーヴァントに向け再度詠唱を行い、攻撃系の魔術を放つ。
まさか反撃されると思っていなかったのか、すでにそこまで思考できる状態ではない程汚染されているのかわからないが、その攻撃は敵サーヴァントに直撃し、ダメージとスタン効果を与える。
戦うと決めてから彼の戦いに目をくべる余裕ができた。サーヴァント同士の戦闘のスピード感に目を奪われながらも、彼の詠唱の短さとそれに見合わぬ強大な結果に関心と興味がわく。
「すごい。あんな短い詠唱で、防御と攻撃を行うなんて。」
「いや、短いと言っても色々制約があってね。万能ではないし、ましてやサーヴァント相手に何回も通じるような技じゃないよ」
「え、でも、あなたもサーヴァントなんだからそんなことはないんじゃないの」
「あー…そうなんだけどね」
純粋な疑問だったのだが、どうやら彼を困らせてしまったようだ。気まずそうな顔をする彼に慌てて声をかける。
「あっ、えっと、困らせるつもりではなかったの。ただ、不思議に思っただけで、あなたを責めている訳ではないのよ」
自身の言い方がきつくなる事は自覚している。だからこそそうフォローしたのだが、彼の気まずそうな顔は晴れない。
「ああ、君が悪いわけではないよ。当然疑問に思うだろうし、それを解消しようと行動するのはいいことだ。悪いのは自分の性能がサーヴァントとして見合っていないという図星を突かれた点があってでね…」
「ご、ごめんなさい、えっとその」
ダメだ、こういう時どうフォローをすればいいか分からない。相手のことを考えることを放棄していた過去の私が恨めしい。
「…くっふふ、ははは、慌てすぎだろう、君」
おろおろする私を見かねたのだろう。戦闘中だというのに緊張感のない状況に充てられたのかもしれない。さっきの気まずそうな顔から笑顔に変わる彼。
さっきの気まずい状況を脱せたのはよかったが、なんだか納得できない。
「ごめんごめん、そう睨まないで。君があまりにも必死だから。でも、うん、そうして表情を変えてくれて一生懸命な姿は活力があっていい。」
「……それ、褒めてるの?」
「ああ、褒めているとも。少なくとも自分の時よりはずっと立ち直りが早いし生き生きしている」
「自分の時?」
「ああ。まぁ、さっきの魔術についての質問やその疑問はまた後で話すとして…みごと図星を突かれたように、自分は性能的にお世辞にもいいとは言えない、何かと制約だらけのピーキーサーヴァントだ。」
「そんな弱小サーヴァントにはパートナーの助けが必要でね。頼りきりにはならないつもりだけど、一蓮托生な関係のパートナーが必要なんだ。さて―――」
静かに微笑みながらこちらを見据える彼。
弛緩した空気はどこへ行ったのか、彼の服装も相まって、厳かな空気に変わる。
「――――問おう。君が自分のマスターか」
じっと見据える彼の視線からそらさず、私は答える。
「ええ、私が、マスターです。私、オルガマリー・アニムスフィアが貴方を呼びました」
「私がもう一度生きなおす為に。私と共に戦って下さい」
「契約はここに完了した――――サーヴァント、ムーンチューナー、今より君の剣となり盾となり、共に歩むことをここに誓う」
手の甲に紅い輝きが刻まれる。
彼との繋がりを感じる。
「まずは、あのサーヴァントからね…やれる?」
「あぁ任せてくれ。2対1だ、聖杯がなんだ、あんな狂った願望器を相棒に選んだ奴に後れを取るわけがないだろう。現に奴は敗北してここにいる。ならやれない理由なんてない」
二人してスタンが解けたサーヴァントに向き合う。
こうして肩を並べて何かに取り組むなどいつぶりだろう。
あぁ、気持ちが軽い、気分が高揚しているのが分かる。
隣に誰かいるのがこんなにも頼もしいなんて知らなかった。
「マスター、来るぞ」
「ええ、行きましょう」
さぁ、行こう。彼と一緒に。
私たちの戦いはこれからだ!!!!
※続くよ、ダンゴムシ更新で
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