Ring Girls (宣伝部長)
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新星(ルーキー)、舞い上がる

『ヴァルキュリア』

 

 

 

 

 

関西では名門とも呼ばれる女子プロレス団体。

技術水準の高い実力派レスラーを多く抱えており、女子プロレスラーが注目する人気団体。

女子プロレスラーを夢見る女は、必ずと言って門を叩く。

そして、春・・・入団を希望する者達がぞろぞろと集まっている。

そう、年に一度しかないと言われている入団テストを受けるべく・・・女達は集ったのだ!!!!

 

 

そんな中現役女子高生でもある・・・佐倉 絢音(さくら あやね)も入団テストを受けるべく会場に辿り着いた1人の女である。

ウォーミングアップをしている女達の中で彼女も上下赤色のジャージ姿で柔軟体操を念入りにしていた。

しかし、今回ココで行われる試験内容すら知らない彼女の心の中では不安が一杯でこの場の空気に押し潰されそうな気もしていた。

 

 

 

「うぅぅ・・・やっぱり凄い人数・・・みんな考えてる事は一緒なんだ。それにしても・・・学生ってもしかして私だけだったりするのかな?」

 

「んっふぅ~♪そうっしょ!若い間は青春しとかないと後々後悔しちゃうぜい♪」

 

「ひぃっ!?!?ど、どちら様ですか、貴女は!?!?」

 

「おいおい・・・そんなに硬くなっちゃってぇ~・・・そんなんじゃこの先の試験で躓いちゃうぜ?」

 

「も、もしかして・・・私の緊張をほぐす為に声を掛けてくれたんですか!?あっ、ありがとうございます!!」

 

「はっ・・・ははっ!くっふふ、お前、気に入った!!アタシは、玖珂 霞(くが かすみ)!!お前は?」

 

「えっと・・・佐倉絢音です!15歳、高校1年生です!!」

 

「わっか!?!?」

 

「そ、そうでしょうか?クルセイダーに在籍されているREINAさんもフェニックスに在籍されている天鳳院ほむらさんも若き頃から腕を磨き強くなったって聞きましたけど、もしかして・・・・・アレは・・・ガセネタ!?!?!?」

 

 

 

挙動不審と言う言葉が似合うぐらいキョロキョロとして彼女に背後からぬるっと現れた玖珂 霞と呼ばれる女性に驚き変な悲鳴をあげてしまった。

しかし、自分の為に声を掛けてくれたと勘違いする絢音は素早くお辞儀をして礼を口にしたのであった。

そんな面白い反応を示した絢音に興味を示したのか霞は自己紹介をしたが、絢音の自己紹介を聞くと今度は霞の口から驚きの声が上がった。

年齢の事に驚かれても自分の知ってる有名選手は自分ぐらいの年齢からデビューしたのを知っていたからか腕を組みぶつぶつと1人で悩んでいた。

 

 

そんな2人をよそになにやら会場内はざわめき始めていた。

しかも、いつの間に現れたのだろうかカメラマンやら記者やらが色んな入団者にインタビューをしているのである。

 

 

 

「どうして取材が行われてるんでしょうか?」

 

「そりゃあ・・・有望なフリー選手とかがヴァルキュリアに入団!!って、なれば大スクープだろ?」

 

「そうですね・・・伊里内 真選手とか甘利 琴羽選手もGaiaに入団する時は大騒ぎでしたもんね」

 

「あぁ・・・ってか、お前って高校生だよな?」

 

「はい!!どうかしましたか?」

 

「いやぁ~・・・すっげぇ詳しいなって思ってよ」

 

「女子プロレスは小さな頃から好きでしたから色々と勉強して来ましたから知ってるんですよ!!」

 

「ははっ!熱心な奴だな!!」

 

「あ、あの!!」

 

 

 

絢音と霞がフリー選手の話題で盛り上がる中一際大きな声が2人に向かって投げ掛けられた。

2人はきょとんとしたように声のした方に視線を向けるとそこにはボサボサ頭の女性がボールペンをマイク変わりのように2人の間に差し出しており、首にはカメラをぶら下げていた。

 

 

 

「んっ?アタシ達になにか用かい?」

 

「イ、インタビューさせてもらって・・・・・良いですか?」

 

「わ、わわ、私達をですか!?!?」

 

「は、はい!!あっ・・・も、申し送れました!わ、わわ、私、ビーナスの高嶺です!!」

 

「ビーナス・・・って、あぁっ!!女子プロレスの事を専門に発行されてるあのビーナスですよね!?!?」

 

「えっ、は、はい!!も、もしかして・・・ご愛読者様ですか!?!?」

 

「むっかしから毎回欠かさずに読ませて貰っています!!前回の特集記事にはテンションが上がりました!!」

 

「で、ですよね!ですよね!!アレは先輩が取材されて来られた内容でして私も色々と話を聞きたかったんですけど・・・「高嶺ぇぇぇ!!!!」ひょわぁぁぁぁ!!せ、先輩!!」

 

 

 

鬼のような怒鳴り声が聞こえたかと思えば、本当に鬼のような形相をした女性が腕を組んで仁王立ちしているのが見えた。

そんな彼女はふらふらっと近付いて来ると高嶺と名乗った女性の耳を引っ張り、2人の元から少し離れた位置まで引き離した。

 

 

 

「なんであんな無名そうなヤツらに声掛けてんだ!!」

 

「い、いや、あの・・・妙に気になったんで・・・・・つい」

 

「つい・・・じゃないでしょう!?他に有名選手はいるのよ!わかってる?」

 

「・・・・・ひぃぃぃぃ」

 

 

 

 

 

「大丈夫ですかね・・・あの人。それにしても・・・・・賑わってますね」

 

「アタシも気になってんだけどなぁ~、こう人だかりがあり過ぎてよくわかんねぇんだよな」

 

「気にしなくていいわ、今から面白い事をしますから♪」

 

「面白い事・・・・・えっ!?!?」

 

「んんっ!?!?」

 

 

 

隅に居た2人の間から割って入るように声が聞こえ人が通り過ぎるの確認すると2人は驚きを隠せずに道をすぐに開けた。

そう・・・姿を現したのは、ヴァルキリアの社長・・・宮永 沙織(みやなが さおり)であった。

まさかの登場に取材班も選手達から離れ今度は沙織の元に集まる。

すると右手に持っていたマイクを口元に当てるとニィッと笑った。

 

 

 

 

 

「これよりぃぃぃぃヴァルキリア入団テストを開催するぅぅぅ!!!!」

 

 

 

 

 

大きな声で宣言したと同時にリングがライトアップされるとそこに目掛けて沙織は嬉しそうに走り出すと勢い良くリングインを成して力強く拳を突き上げて「うおぉぉぉぉ!!!!」と雄叫びをあげた。

 

 

 

「入団テストはいたって簡単!!このリングの上でバトルロイヤルをしてもらいまぁぁぁぁす!!」

 

「えっ・・・ええっ!?い、いきなりの実戦ですか!?!?」

 

「勝ち残った人だけが合格!!って訳じゃないから安心してね!ちゃんと評価はしちゃうから~でもでも!すぐに脱落しちゃったら~アピールポイントがなくなっちゃうから気をつけること!トップロープ越しに転落し場外に足をついた時点でも脱落になるから~入団者のみんなは精一杯頑張ってね♪」

 

「上等だぜぃ・・・絢音も燃えてくるよ・・・なぁ??」

 

「いきなり実戦・・・いきなり実戦・・・いきなり実戦・・・・・」

 

「おいおい、そんな初心者がびびったような顔でそんな事ずっと呟くなよぉ~」

 

「・・・・・初心者です」

 

「・・・へっ?」

 

「・・・・・プロレスは好きですけど、するのは初めてなんです!!」

 

「・・・・・はぁ!?!?」

 

 

 

この世の終わりを悟ったような表情をする絢音。

まさかの展開に鳩が豆鉄砲を受けたような表情をする霞。

その間にも名前を呼ばれる入団者は、リングへと上がって行く。

 

 

 

「玖珂 霞!佐倉 絢音!」

 

「チッ!!おい、名前呼ばれたぞ!諦めてやるしかねぇよ!!」

 

「そんなぁ~・・・・・」

 

 

 

2人のリングインが最後だったのかリングの中には約30人くらいが集まっていた。

動けばすぐに相手とぶつかるぐらいの間合いで全員の緊張感がリング内に張り巡らされていた。

いつの間にか沙織はリングから降りており、嬉しそうにハンマーを持ってはしゃいでいた。

 

 

 

 

 

「それじゃぁぁぁ!!レディィィィ、ファイトォォォ!!!!」

 

 

 

 

 

大声と共に鳴ったゴングに入団者は一気に動き出す。

 

 

 

「先に潰すのは・・・・・!!」

 

「弱そうなヤツからだぁぁぁ!!!!」

 

「えええええっ!?!?な、なんでぇぇぇぇ!?!?」

 

 

 

2人の側に居た入団者がすぐさまジャージ姿である絢音を最初に脱落させようと襲い掛かる。

迫り来る気迫に震えながら頭を押さえしゃがみ込んだ絢音はもう脱落させられると諦めて目を瞑った。

しかし、その考えは次の一瞬で掻き消される。

 

 

 

「チェストォォォォ!!!!」

 

「・・・ぐあっ!?な、なんで・・・この・・・私が・・・・・」

 

 

 

巨体の女性のこめかみに鋭い蹴りが勢いある掛け声と共に放たれ、巨体の女性は一瞬白目を向いたかと思うと膝をついて崩れ落ちた。

絢音は、恐る恐る顔を上げるとそこには先程まで一緒に騒いでいた霞の後姿があった。

 

 

 

「仕方ねぇ・・・これも何かの縁だ・・・アタシがココはなんとしてやるよ」

 

「・・・・・玖珂・・・さん?」

 

「しかぁぁぁし!絶対に離れるな・・・絶対だからな!!」

 

「はいっ!!!!」

 

 

 

長い白髪をゴムで一纏めにすると霞は呼吸を整えてから絢音の手を引き立たせた。

今日会ったばかりの自分にここまでしてくれる目の前の人に涙ぐみそうになるが、霞が再度ファイティングポーズを構えたのを確認すると絢音も心の中でなにかの覚悟を決めた。

 

 

2人は囲まれたら不利だと理解し、コーナーポストを背に1列に並んで陣取った。

先程の一撃を目の当たりにしたからだろうか周りに居た入団者は警戒していた。

しかし、その人混みを掻き分けると言うよりも邪魔者は投げ飛ばしながら1人の女が2人の前に立ちはだかった。

 

 

 

「こそこそとしてないでいっちょ派手にやらないかい!!」

 

「くそっ・・・ガチなヤツに目を付けられたな・・・・・」

 

「シャーク棚岬・・・フリーの選手ではありますが、数々の試合で新人狩りとも言われるぐらい新人を倒している実力者です」

 

「ハンッ!弱いから狩られるんだよ!!アタシに勝ちたいなら掛かって来な!!!!」

 

「へっ、上等!!」

 

「あっ、玖珂さん!あ、あの・・・・・」

 

「んぁ?・・・うんうん・・・・・へぇ~・・・よっしゃ!!」

 

 

 

まさかの現役フリーレスラーとの対峙に霞は軽くジャンプをしてみせる。

対するシャーク棚岬は、自慢の右手をグルングルンと回しエンジンは温まっている様子。

そんな2人を目の前にしてビクビクしていた絢音だったが、そっと霞に耳打ちをする。

その内容を聞いてかニヤッと不敵な笑みを見せたかと思えば、勢い良く走り出した。

シャーク棚岬に目掛けて・・・・・。

 

 

 

「アタシに正面から挑もうなんてとんだ間抜けだなっ!!」

 

「なんの策も無しに普通に正面から挑む訳ねぇだろう・・・がっ!!!!」

 

「うがっ?!?!」

 

 

 

突っ込んでくる目標を掴む為に両手を広げて待ち受けるシャーク棚岬。

しかし、急ブレーキを踏んだ霞は軽やかな跳躍を見せると顔面に目掛けて飛び蹴りをぶっ放す。

機敏な動きに翻弄されてか身動きも取れずにまともに一撃を受けたシャーク棚岬の顔面にはくっきりと靴裏が刻印されている。

 

 

 

「このぉぉぉ・・・もう容赦しない・・・よっ、おっおぉ」

 

「ふぎぃぃぃぃっ!!!!」

 

「なっ!?絢音!!お前、初心者がそんな無茶・・・・・な・・・・・」

 

 

 

一瞬怯んだシャーク棚岬であったが、怒りを全身に纏わせて倍返しにしようとしたが自分の身体が軽く浮いている事に驚いている。

原因は、背後から絢音が強引に持ち上げようと抱きかかえていたからである。

さっきとは正反対の行動をしている相手に歩み寄ろうとするが、徐々にシャーク棚岬の身体が上がっていくのに言葉を失ってしまう。

 

 

 

「・・・やってますね」

 

「ありゃん?VWQ(ヴァルキリア・レスリング・クイーン)王者自らルーキーの偵察?」

 

「・・・それは、そうですね。次期挑戦者が居るかもしれませんから」

 

 

 

スッと沙織の横に現れた女性は、真剣な眼差しでリングの中で戦う入団者を見守っていた。

そんな彼女ににやにやとした様子で声を掛ける沙織だが、女性もフッと鼻で笑うと微笑した。

 

 

リング内の光景に夢中になっていた報道陣だが、沙織の横に現れた選手に気付くとざわざわと騒ぎ始めた。

 

 

 

「先輩・・・どうしたんですか?リングの方はいいんですか?」

 

「御堂選手だ」

 

「えっ!?げ、現在VWQ王者の御堂ヒカル(みどう)選手ですか!?!?」

 

「お前は一々声がデカいんだよっ!!」

 

「ふぎゃっ!!!!」

 

 

 

 

 

「アレは・・・棚岬ですね」

 

「そだねぇ~」

 

「・・・しかし、あの背後に居る女の子はなにを・・・?」

 

「う~ん・・・もしかして・・・投げようとしてるんじゃない?」

 

「・・・あんな小柄な身体で100キロを超える棚岬を投げれるはずは・・・・・っ!?!?」

 

「おっほ~・・・・・ふふ~ん・・・佐倉絢音ちゃんねぇ~♪」

 

 

 

2人もリング上で起きている出来事に釘付けになっていた。

なんと言っても小柄な女の子が必死に倍以上ある身体の相手を持ち上げようとしているのだ。

ヒカルは見てられないと視線を伏せる。

しかし、周りからのどよめく声に顔を上げるとそこには思いもがけない姿があった。

 

 

 

そう・・・シャーク棚岬の身体が完全に浮き上がったのだ。

 

 

 

「んがぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「がっはぁぁ!?!?!?」

 

 

 

それは、一瞬だった。

完全にシャーク棚岬の身体が浮き上がったと思った途端にがくんっと後ろに重力が綺麗に弧を描き後頭部はマットに叩きつけられた。

見事な高速ジャーマンスープレックスがリング上で決まった一瞬である。

物凄い勢いの為に不意の一撃を受けたシャーク棚岬はそのままリングに沈み、絢音はふらふらではあるがなんとか立ち上がっている状態である。

 

 

 

「おいおいおい!!お前、初心者じゃねぇのかよ!?!?」

 

「はぁ・・・っ・・・はぁ・・・実践は初めてですよ?リ、リング上・・・では・・・・・ですけどね」

 

「ははっ・・・頼もしいヤツだなぁ~お前!!」

 

「・・・・・えへへっ・・・で、でも、もう立ってるのも・・・限界・・・・・で・・・す」

 

「よっと、まだまだ止まるんじゃねぇぞ?試合は終わっちゃねぇかんな!!」

 

「・・・・・は、はいぃぃぃ」

 

 

 

倒れそうな絢音に肩を貸してリタイヤさせないようにする霞。

そんな2人を目の前にした他の入団者ではあったが、あまりの気迫の強さに攻めあぐねていた。

 

 

 

「・・・・・今年のルーキーは楽しめそうですね」

 

「んふふっ♪同感♪」

 

 

 

気合を入れられたように引き締まった顔のヒカル。

これからの事を想像をして嬉しそうに笑顔を見せる沙織。

2人は、これからのヴァルキリアに新たな風が吹く事を確信したのであった。

 

 



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実力テスト

入団テストから1週間が過ぎた。

今日から合格者のトレーニングが始まる。

見事合格通知を手にした絢音は、学校終わりにヴァルキリアに駆け足で向かっていた。

 

 

 

「トレーニング前のアップには最適かも・・・・・ふう~・・・はぁ~・・・お、おはようございまぁぁぁす!!!!」

 

 

 

セーラー服で背中には今日から必要になりそうな物を一式詰め込んだリュックを背負った彼女の表情は生き生きとしていた。

入り口の前で落ち着く為に大きく深呼吸をすれば、扉が開いたと同時に大声で挨拶をすると90度を思わせるほどの綺麗なお辞儀を1礼した。

ゆっくりと頭を上げると練習などをされていた選手達は、ぽかんとした感じで固まって絢音に視線が集中していた。

 

 

すると奥の方からこちらに歩み寄って来る人物に絢音の全神経がざわめいた。

そう・・・目の前に現れたのはこのヴァルキリアの看板選手とも名高いランブル美星選手であった。

 

 

 

「やっほ~♪もしかして~今日からうちの団体の一員になる絢音ちゃん?」

 

「は、はい!!本日からヴァルキリアの一員として頑張って・・・・・」

 

「固いっ!固いよ~絢音ちゃ~ん♪もっと落ち着いて、落ち着いてぇ~」

 

「いきなり美星さんに話し掛けられたら普通の方は驚きますよ。私も最初はそうだったんですから」

 

「もぉ~アタシは仲良くなりたいだけなんだよ~?風香ちゃ~ん」

 

 

 

風斬 風香(かざきり ふうか)。

今の女子プロレス界に一迅の風を吹かせる1人と称されている。

女子プロオタクだった絢音からしたら目の前の2人は夢のような存在だった。

しかし、今では目の前にちゃんと存在し、これからは仲間・ライバルとなるのだ。

鼓動は急に早くなり、この瞬間・・・絢音は興奮していた。

 

 

 

「あ~~~や~~~ね~~~ちゃ~~~ん!!!!」

 

「ひぃぃっ!?ふがっ!?!?」

 

 

 

声の正体は、宮永沙織。

両手を広げて突っ込んで来る姿に恐怖を感じたが最後、容赦ないダイブが絢音を襲う。

避ける事すら許されない状況だった。目がマジなんだから。

 

 

 

「沙織さん・・・佐倉さんが怖がってます」

 

「あっ、あははは~♪ごめんごめん!」

 

「しゃっちょー!絢音ちゃんの相手アタシでもい~い?」

 

「OK!けど、手加減してあげなさいよぉ~?初日なんだし」

 

「はいは~い♪」

 

 

 

そう言って美星が奥に行ってしまうが、絢音からしたらなにがなんだかわからず小首を傾げてしまう。

コホンっと咳をすると風香が口を開く。

 

 

 

「実力テスト・・・ヴァルキリアの恒例行事の1つよ。貴女がどの程度の実力を持っているのかをみんなの前でお披露目する訳。それで、美星さんが貴女の相手を申し出た・・・理解出来た?」

 

「うえぇぇぇっ!?!?わ、私の初戦が・・・あ、あのランブル美星さんですか!?!?」

 

「初戦って言っても時間制限ありだし、向こうは手加減してくれる・・・はずだし、たぶん。まぁ、絢音ちゃんの全部あの子に全部ぶつけちゃいなさいな!!」

 

「おっふぅ!?わ、わかりました!!」

 

 

 

沙織に背中を思いっきり叩かれると根性が入ったのか拳をギュッと握り締めてそそくさと荷物を置きに行った。

 

 

 

「昔の自分を見ているみたいですね」

 

「おや、それならあの子も伸び代がありそうだねぇ~♪」

 

「それを見越してあの子を入団させたんじゃないですか?宮永社長」

 

「どうかしら~ん♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「絢音!お前もやっぱ合格してたか!!」

 

「玖珂さん!」

 

 

 

荷物を置く為に入ったロッカールームには、入団テストを共に乗り切った霞の姿があった。

大量の汗をみた所、練習の合間の休憩なのだろうか他にも選手がいた。

 

 

 

「お前・・・今から実力テストだろ?」

 

「えええっ!?な、なんでわかったんですか!?!?」

 

「ハッ!アタシらも入った途端に実力テストだったからな・・・ちなみに風斬さんだったよ」

 

「ホントに!?ど、どど、どうだったの?」

 

「・・・・・はぁ、全然だよ。体格差ではアタシの方が有利なんだけどよ・・・なんて言うか風・・・だな」

 

「やっぱり・・・噂通り擦り抜けるのかな・・・」

 

「んで?お前の相手は誰だよ」

 

「ランブル美星さん!!」

 

「あぁ~・・・それでか」

 

「?????」

 

「スッゴい上機嫌だったんだよ・・・美星さん」

 

 

 

鼻歌混じりにいつものリング衣装に着替えていたと霞が口にした。

その言葉に首を傾げながら絢音もジャージ姿に着替え終わる。

 

 

 

「そろそろいけそう?絢音ちゃ~ん♪」

 

「は、はい!いつでも行けます!!」

 

「じゃあ~いっちょやりますか~」

 

「お願いします!!」

 

「んなぁ~・・・・・カッチカチだねぇ~・・・絢音ちゃ~ん」

 

「・・・・・はい」

 

「いつも通りでいこ~♪」

 

「はい♪」

 

 

 

2人は顔を合わせると自然と笑顔となっていた。

そのおかげが緊張の糸が緩んだのか少し心の中にゆとりが出来た感じがした。

リングに向かう間も美星はずっと話し掛けていた。

まるで今まで友達だったかのように。

 

 

 

 

 

リング内に立つのは・・・、

ランブル美星。

佐倉絢音。

それと審判役として風斬風香がいた。

 

 

リングの周りには所属選手達が集まって観戦していた。

沙織の指示らしく逆にトレーニングをしている者は1人もいなかった。

 

 

 

「制限時間は5分。佐倉さんは全力で挑んで下さい。美星さんは・・・程々にお願いします」

 

「はい!」

 

「あいよ~」

 

「それでは、両者サイドへ」

 

 

 

自分のコーナーに戻って来ると真下には霞が声援を送ってくれているのに力が漲るのが実感出来た。

気合入れに両頬を叩くと大きく息を吸い込むと対峙する美星を睨んだ。

すると視線に気付いたのか美星も嬉しそうに睨み返す。

 

 

その2人の視線に気付いたのか風香は手を挙げると同時に両者に視線を送ってから勢い良く手を振り下ろした。

それを合図に2人は走り出すとリング中央で組み合う形になった。

 

 

力勝負は・・・!

 

 

 

「ふぬぬぬぬっ!!」

 

「(くっ・・・アタシが押し負けちゃってる!?)」

 

 

 

小柄な少女は突き上げるように美星を押し返す。

その現状に対峙している美星も驚きを隠せない。

しかし、それ以上に美星は目の前の小さな戦士に昂っていた。

 

 

力を制した絢音はその勢いのまま美星をロープへ振った。

それに合わせて絢音も反対側のロープに走ると反動を手に入れて、美星の元に走った。

そして、交差するように片腕を出すと相手の首に片腕を巻き付けて空中で旋回。

そしてその遠心力を利用して自分は背中からマットへ倒れ込み同時にその勢いで

相手を背面からマットへ叩き落とした。

 

 

 

「なっ!?!?」

 

「今の・・・ネックブリーカーなのか?」

 

「いや、360度回転してから叩きつけていたから違うんじゃないか?」

 

 

 

まさかの大技に驚いていたのは、美星だった。

急に首が苦しくなったと思ったと同時にいつの間にか視界が揺らぎマットに叩きつけられたのだ。

あまりの速さに目をぱちくりさせていた。

 

すると審判役でもある風香が呆れたような顔で覗かせて来た。

 

 

 

「試合・・・続けますか?」

 

「えへへ~油断しちゃったよ~」

 

「それにしても・・・速い技ですね」

 

「初めての相手だからさ~対処がわかんなくて困っちゃうよねぇ~・・・・・でも」

 

「・・・でも?」

 

「たのし~♪」

 

 

 

大の字になって寝そべっていた美星だったが、勢い良く跳ね起きるとニィッと絢音を見ている。

そんな視線にビクッとする絢音だったが、その隙を美星は見逃さない。

 

 

スッと間合いを詰めてのボディストレート。

単純な攻撃だが、油断していたボディには綺麗にヒットした。

不意の一撃を喰らって前屈みになってしまった絢音に美星は流れるように技を仕掛ける。

両膝や太ももで相手の頭を挟み、相手の胴周りをクラッチし持ち上げ、頭から背中にかけてマットに叩きつける。

美星が手を離すと衝撃のせいか絢音がマットの上を後頭部を押さえながら転げ回り悲痛な声を上げていた。

 

 

 

「しまった~!モ、モロに入っちゃった・・・・・」

 

「美星さん」

 

「お、怒らないでよぉ~・・・風香ちゃ~ん」

 

 

 

つい本能的にやってしまった事に気付く美星。

そんな彼女に審判役の風香はどことなく鬼のような形相に変わっていた気がする。

 

 

転げ回り続けていた絢音だったが、近くのロープを掴むとゆっくりと立ち上がりファイティングポーズを構えた。

それには周りに居た選手達からエールの声が飛び交った。

しかし、足は震えており立っているのもやっとだろう事は見ている全員が見て分かっていた。

だが、誰も止めようとはしない。これが・・・プロレスだから。

 

 

 

「残り1分!絢音ちゃん、イケそうかしら?」

 

「はいっ!!!!」

 

「じゃあ最後に全力をぶつけて来なさい!!」

 

 

 

沙織の声に全力の声で返事を返した絢音は走り出す。

その姿に美星は身構えるように重心を落とした。

絢音は相手の体勢を利用するかのように組んだ。

 

 

がぶりの体勢から、相手の胴を両手をクラッチして相手の背中が肩にくるようにして担ぎ上げたのだ。

体格差もある美星を軽々と・・・。

その光景には周りの選手も呆気に取られていた。

しかし、絢音はそれだけでは治まらず、担ぎ上げたまま一回転するとその勢いのままマットに美星を叩きつけたのだ。

 

 

技を受けた美星も技を放った絢音もリングの中央で大の字に倒れたまま動かなくなった。

それと同時に試合終了の合図もあり、実力テストは終わりを告げた。

 

 

 

「絢音!生きてるか!?」

 

「な、なんとか生きてますよ・・・・・あはは・・・・・」

 

「念の為に医務室に連れて行ってあげなさい」

 

「「「はい!!」」」

 

 

 

沙織の指示を受けると周りの選手達はすぐさま絢音の元に向かうと即座に担架に乗せるとそのまま即座に医務室へと輸送された。

1人リングの中央に残されていた美星だったが、何事もなかったように飛び跳ねて起き上がった。

 

 

 

「美星さん・・・大丈夫ですか?」

 

「かなり効いたよ~・・・特に・・・あたたっ、背中がねぇ~」

 

「面白そうな子でしょ?あの子」

 

「しゃっちょーから聞いてた通り面白くなりそうではありますねぇ~・・・まぁ、まだまだ課題点はありますけどねぇ~」

 

「じゃあ今日は私の奢りで焼肉連れて行ってあげるから絢音ちゃんが帰って来たら出発するよ~!!」

 

「よっ!太っ腹~♪」

 

「わかりました」

 

 

 

その夜、新人歓迎会と言う名目で焼肉パーティーが執り行われた。

会場では、試合の成果なのか先輩達から声を掛けられる絢音ではあったが、人見知りもあるのか終始ガチガチに固まっていたそうな。

 

 



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キャラ紹介『選手編①』

佐倉絢音(さくら あやね)

 

出身地:奈良県

年齢:15歳

誕生日:8月16日

身長:155cm

スリーサイズ:78/57/81

得意技:投げ技

必殺技:ギャラクティカボム

 

 

プロフィール

小さな頃に観戦したプロレスに憧れを覚え、プロレスラーになりたいと決意した少女。

自宅で自分が目にしてきたプロレス技を抱き枕を実験材料にして日々トレーニングをしていた。格闘技経験はほぼゼロ。

しかし、人一倍頑張り屋で人一倍負けず嫌いである。

大の女子プロレスファンで、休日には試合観戦を欠かさず観に行くほどである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

玖珂霞(くが かすみ)

 

出身地:滋賀県

年齢:20歳

誕生日:5月09日

身長:172cm

スリーサイズ:81/56/80

得意技:打撃技

必殺技:延髄蹴り

 

 

プロフィール

元日本空手有段者。人にちょっかいを出すのが好きで良く絢音が餌食になっているとか・・・。

年下の面倒見は良いらしく姉御肌らしいイメージもある。

趣味は、ラーメン巡りらしくかなり詳しいとか・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

御堂ヒカル(みどう ひかる)

 

出身地:香川県

年齢:22歳

誕生日:10月10日

身長:167cm

スリーサイズ:82/57/83

得意技:打撃技

必殺技:デスサイズ

 

 

プロフィール

ヴァルキリアのユニットの爆裂天使のリーダー。ヴァルキリアの頂点に立つVWQ(ヴァルキリア・レスリング・クイーン)王者。

厳しさや優しさ、リーダーシップと言ったエースに必要な要素を兼ね揃えており、お客さんだけではなく選手からの人気もある実力を持った選手である。

必殺技のデスサイズとは、彼女のラリアットを受けて立ち上がった者がいないからそう名付けられたと言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ランブル美星(らんぶる みほし)

 

出身地:???

年齢:???

誕生日:1月23日

身長:165cm

スリーサイズ:84/56/87

得意技:飛び技

必殺技:ランブルヒップスターダスト

 

 

プロフィール

ヴァルキリアのユニットの綺羅☆(きらぼし)エンジェルスのリーダー。いつものんびりとしていてリング上でものほほんとしている事が多いとか・・・しかし、油断をすれば痛い目を相手は受ける事だろう。

可愛らしい女の子が好きらしく気に入った子にはすぐに抱きつく癖がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風斬風香(かざきり ふうか)

 

出身地:福岡県

年齢:18歳

誕生日:5月15日

身長:160cm

スリーサイズ:78/52/77

得意技:飛び技

必殺技:フランケンシュタイナー

 

 

プロフィール

今の女子プロレス界に一迅の風を吹かせる1人と称されている。現在は無所属。

普段は感情をあまり表に出すことがない冷静沈着な女の子。

機敏な動きを得意とし、相手を翻弄するのを得意とする。

 

 

 



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夢見るリングへ

「プロデビュー・・・ですか?」

 

「そうだよ~♪もう新人ちゃん達が来て随分経つと思うし、それに・・・そろそろプロのリングに立って暴れてみたいでしょ!」

 

 

 

とある休日だった。

いつもの女子プロレス観戦しに行こうとしたら社長さんから電話が入ったのだ。

急いで来て欲しいとの内容に絢音は駆け足で社長室に行き、現在に至る。

 

 

 

「私があのリングに立っていいんですか?」

 

「何言ってんのよ~!その為に今日まで必死になって練習積んで来たんでしょう?それともまだ自信がないのかしらん?」

 

「いえいえ!出たいです!わ、私も皆さんが光り輝くリングの上に立ちたいです!!」

 

「よろしい!!それじゃあ出発しよっか!」

 

「ふぇっ?ど、何処に・・・ですか?」

 

「決まってるでしょう、ヴァルキリアの試合観に行くに決まってるでしょ♪」

 

 

 

 

 

現在移動中のハイエースの中である。

運転しているのは、社長のマネージャー・・・富咲(とみさき)ひばりさん。

助手席には、社長。

後部座席には、自分と玖珂さん。

計4名が今日行われる興行3日目最終日の試合会場に向かっていた。

 

 

 

「やべぇ~・・・生で試合観んの初めてかも」

 

「そうなんですか?」

 

「あぁ・・・いつもテレビか動画でしか観戦してなかったからな。こうして試合会場に足を運んで観に行くのは初めてだな」

 

「そうですか、絢音ちゃんはいつもヴァルキリアの試合を欠かさず観に来てくれる常連様ですけど・・・」

 

「えっ!?富咲さん・・・私の事を知ってるんですか!?!?」

 

「はい、いつもリングの近くで食い入る様に試合を観る姿はハッキリと覚えていますよ」

 

「あははは・・・お恥ずかしいです」

 

「そんな方が私達の一員としてプロレスラーになるのを聞いた時は驚きましたけどね」

 

「大ファンがうちの門を叩いてくれてたなんて嬉しいなぁ~♪沙織、感激♪」

 

 

 

車内では他愛もない話で盛り上がっていた。

しかし、ふと絢音が横にある広告用のチラシに目が行くと手に取り、興奮したように凝視していた。

その異変にミラー越しに気付いた沙織はふとある質問を投げた。

 

 

 

「絢音ちゃ~ん♪今日のタイトルマッチどっちが勝つと思う?」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「お、おい・・・絢音」

 

「VWQ王者の御堂さんの実力は計り知れないです。だから・・・普通に考えたら御堂さんが防衛すると思います。しかし・・・」

 

「しかし・・・?」

 

「今回挑戦されるのは、御堂さんとは逆のタイプの選手・・・愚麗怒婁(くれいどる)の期待の選手、来栖 美紅(くるす みく)さん」

 

「逆っつうと?」

 

「御堂さんは打撃を得意としますが、逆に来栖さんは極め技を得意とするんですよ」

 

「そこまで考察してるのねぇ~感心、感心♪」

 

「いえ、このタイトルマッチ凄く気になってたんで調べただけです」

 

 

 

真っ直ぐな絢音の目には、ココに居る3人が威圧を感じる程の空気を出していた。

しかし、会場が見えると表情はガラッと変わり、ご飯を待ち続けた子犬のように窓の外を食い入るように眺めていた。

 

 

大阪武道館。

関西のシンボルとも名高い武道館。

東京都にある日本武道館に並ぶほどの大きさを誇る。2大大型武道館の1つとも言われている。

武道を心得る者からすれば、聖地と言っても過言ではないだろう。

霞も武道を目にするといつもと違った雰囲気で武道館を見据えていた。

 

 

 

「じゃあ2人はここから自由行動でいいよ~♪試合を観るも良し!選手に会いに行くも良し!」

 

「い、いいんですかぁ~!?!?」

 

「但し、この証明カードはちゃんとぶらさげておきなさいよ~」

 

「は~い♪」

 

 

 

嬉しそうにスキップしながら武道館に入る絢音。

その後を追うように付いていく霞。

そんな姿を見て沙織はにやにやと笑っていた。

 

 

 

「顔がぐちゃぐちゃですよ・・・沙織さん」

 

「失敬な!私はちゃんと凛々しき女ですよ!!」

 

「またなにか企んでいませんか?」

 

「べつに~なんでもないわよ~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろタイトルマッチですよ!!玖珂さん!!」

 

「だぁ~っ!!さっきから顔が近いんだよ!!」

 

「だって、だって!!こんなリングの真横で試合が観戦出来る事なんて滅多にないんですよ!?!?」

 

「だからってそんなに興奮する事じゃねぇだろ!」

 

「うへぇっへぇっへぇ・・・・・生の試合をこの眼前で拝める・・・・・」

 

「・・・・・あっちの世界に行ってる目だ」

 

 

 

タイトルマッチ戦前。

絢音と霞は特別に用意された席に着席して見学する事になったのだが、女子プロレスラー好き女子(通称:レス女)魂がインストールされた絢音は今か今かと食い入る様にリングを見つめていた。

霞も絢音程ではないが、今から始まる一戦に落ち着かないのか貧乏揺すりが目立っていた。

 

 

 

『これより今回のメインイベントを執り行います!!VWQ選手権の開幕だぁぁぁぁ!!!!』

 

 

 

いきなり響き渡るアナウンスに客は雄叫びのように叫び出し、一気に会場は盛り上がりを見せる。

その空気を浴びた2人も心に熱い何かを感じ取った。

 

 

 

『赤コーナー・・・VWQ王者!御堂ヒカァァァルゥゥゥ!!!!』

 

 

 

死神をイメージしたと言うセパレート型のリングコスチュームにフードローブを羽織った姿で現れた。

リングに上がる前に2人の前を横切ったのだが、一瞬だけ絢音は目が合った様な気がしていた。

 

 

 

 

『青コーナー・・・挑戦者!来栖美ィィィ紅ゥゥゥ!!!!』

 

 

 

真っ赤なミニチャイナドレスに孔雀のような色合いの扇子を片手に登場した。

2人がリングに上がったと同時に凄まじい威圧を肌に感じ取れたのは言われるまでもなかった。

2人が試合が始まるのを待ち遠しく見守っていると不意に背後に誰かが居た事にやっと2人は気付く。

するとそこにはランブル美星の姿があった。

 

 

 

「今日の美紅ちゃん・・・やる気マンマンだったよ~」

 

「言われてみればいつもと雰囲気も少し違いますね」

 

「解るのかよ!?!?」

 

「いつも美紅さんならファンに対してセクシーパフォーマンスをするはずなんですが、今回はなにもされずに自陣ポストにいます」

 

「集中してんのさぁ~ヒカルちゃん相手に真剣にやらなきゃ一瞬でリングに沈んじゃうからねぇ~」

 

 

 

3人が賑わっている最中ゴングが鳴り響く。

するとリング中央で組み合おうとする2人。

しかし、掴み合う瞬間に美紅はヒカルの利き腕を掴んで強引にアームロックを仕掛ける。

 

 

 

「やっぱり美紅さんも利き腕を狙いに・・・・・」

 

「定番だねぇ~・・・しっかし、ヒカルは簡単には崩せないんだよねぇ~」

 

 

 

表情を歪める事もなく、柔軟に身体を動かすとアームロックを簡単に外して、得意技であるハイキックを素早く放つ。

迫り来るハイキックを受けるも美紅の身体は衝撃のせいか身をよじらせる。

そんな美紅に2度、3度とヒカルはハイキックを放つ。

 

 

 

「逃げれない・・・上手い攻め方だ」

 

「えっ?」

 

「足元を見てみろ。受け側は両脚が微かにだが浮かされている・・・だから、次の行動に移ろうとした瞬間にはもう一度ハイキックが迫って来る」

 

「振り子・・・みたいだねぇ~」

 

「それじゃあ!もう美紅さんに勝ち目はないんじゃ!?」

 

「そんな簡単に諦める子じゃないよ~」

 

 

 

『うおおぉぉぉ!!』と大きな歓声がしたと同時に試合に動きがあった。

反撃は出来ないと思われていた美紅。

しかし、彼女は自分に迫り来る足を掴んだかと思うと素早く内側にきりもみ状態で倒れこみ、ヒカルを回転力で投げ飛ばしたのだ。

これには、投げ飛ばされたヒカルは掴まれた足を撫でながら苦痛に表情を歪めていた。

 

 

 

「ドラゴンスクリュー!?!?」

 

「利き足を狙うつもりみたいだねぇ~」

 

「この方法ならヒカルさんの得意技を封じられる・・・と言う事ですかね」

 

「普通の選手ならそうなるだろうねぇ~」

 

「えっ?」

 

 

 

論議をしている最中もリング内では激しい攻防が広げられている。

攻守は逆転し、美紅のペースで投げ技が次々にヒカルを襲う。

しかし、その表情は苦痛にではなく不敵な笑みに変わっていた。

 

 

次の瞬間。

勢いに任せて攻め寄ろうとした美紅に痛烈な一撃が炸裂する。

それは・・・力任せのフルスイングのラリアット。

そう・・・『デスサイズ』。

 

 

 

「うっは~モロに受けちゃったねぇ~」

 

「今・・・バウンドした上に一回転しなかったか・・・?」

 

「アレが・・・何人もの選手を刈り取って来た死神の鎌・・・・・その名も、『デスサイズ』」

 

「良い作戦だったんだけど、一瞬の油断が勝敗を決しちゃったねぇ~」

 

 

 

会場に響き渡るゴングの音と共に勝者であるヒカルは高々と拳を上げた。

その姿に会場からは歓声が巻き起こり、絢音と霞も自然と拍手をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全試合が終わった後に絢音と霞は選手控え室にいた。

美星に連れられて近くのソファに2人はぽつんと座っていた。

周りには今日の試合に出ていた選手達がうろうろとしている様子だ。

 

 

 

「なんだか・・・こんな夢の世界のど真ん中にいるの凄く落ち着かないです」

 

「落ち着け・・・アタシも一緒だからな」

 

「お疲れ様・・・2人共」

 

「「風斬さん!お疲れ様です!!」」

 

 

 

2人に気付いて声を掛けて来たのは、帰り支度を済ませて私服姿の風香の姿であった。

少しは話した事のある人物の顔を見て、落ち着いたのか2人は少しホッとしていた。

 

 

 

「風斬さんのタッグマッチ!凄かったですね!!」

 

「そうかしら?まぁでも、パートナーのライオネルさんのおかげかしらね」

 

「ライオネル神威・・・獅子の力を備えた最強の選手・・・ですよね!!」

 

「・・・・・実物を見るの初めてだったけど、あのライオンのような鬣は本物だった事に驚いたわ」

 

「んっ?アタシになにか用かい?」

 

「ラ、ライオネル神威さんっ!?!?」

 

「はっはっはっ!!そんなに怖がらなくたってとって喰っちゃわないさ!!」

 

 

 

噂をすればなんとやらできょとんとした表情でこっちを見る本人の姿があった。

まさかの出来事に絢音は、震えながら本人を指差してあわあわとしていた。

 

 

 

「ライオネルさん・・・まだ帰られてなかったんですか?」

 

「あぁ!今日はこれから焼肉に行くからな!!良かったら風香も行かないかい?」

 

「この後に予定もないので、お付き合いさせて頂きます」

 

「ヨッシャァ!!お前らも行くぞ!!」

 

「ええっ!?いいんですか?」

 

「賑やかな方が楽しいからな!」

 

「けど、社長に許可もなく行くのは・・・・・・」

 

「行ってらっしゃい♪」

 

「「社長!!」」

 

「おしっ!行くぞ!!お前ら!!」

 

「「は、はい!!」」

 

 

ライオネルの両肩に抱かれる2人は社長と一緒に来た事に気付いていたが、いつの間に現れたのか社長の一言で一行はその場を後にする感じとなった。

 

 

残された沙織は、にやにやと笑いながら返事の返って来た携帯の画面を見つめるのであった。



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始まりのリングイン

「一週間後に開かれるTHE NEW BEGININNG VALKYRIAのメインイベントが・・・わ、私のデビュー戦なんですか!?!?」

 

「そうよ、基本的にはヴァルキリアの新人の為に用意された大会だと思ってくれて構わないわよ」

 

「わ、わわ、私がメインイベントを務めるなんて胃に穴が開きそうですよ・・・・・」

 

「そんなに緊張しなくていいわ。誰でも通る道なんだから」

 

「は、はいぃ・・・・・」

 

 

 

急な出来事であった。

練習中に呼び出されたと思えば、いきなりの大役の抜擢に驚かない者はいないだろう。

絢音は頭を抱えて蹲っていたが、ハッと思い出したように顔を上げると気になった事を口にする。

 

 

 

「えっと・・・私の対戦相手は・・・誰なんでしょうか?」

 

「おっ、ちょっとはやる気が出て来たのかしら」

 

「いや・・・その、つい気になってしまいまして・・・・・」

 

「そうよね。あぁ、貴女の相手は・・・大空ゆかなちゃんよ」

 

「大空ゆかなさん・・・」

 

「去年入団した娘だから・・・2年目ね。貴女に解りやすく説明したら風斬とは同期にあたるわね」

 

「あの風斬さんと同期・・・ですか」

 

 

 

プロレスファンとしてのスイッチが入ったのかぶつぶつとなにやら口にする絢音。

そんな彼女の姿を見つめながら沙織は珈琲を楽しんでいた。

しかし、そんな中ノックと共に富咲が部屋に入って来たのだ。

 

 

 

「社長、よろしいですか?」

 

「なにかしら?」

 

「佐倉さんのリング衣装の件で・・・っと、丁度良い所に居ましたね」

 

「ふぇっ・・・?」

 

「そっか!デビュー戦なんだからちゃんとした衣装で挑まないとねぇ~♪」

 

「それなら・・・いつもの練習着で・・・・・」

 

「学校指定のジャージ姿で出場した選手なんて前代未聞です!」

 

「うぅぅ・・・そ、そうですけど・・・・・」

 

「そうと決まれば善は急げね。衣装の料金は私が受け持つからなんでも好きなの作って貰いなさい!」

 

「わかりました!それでは行きましょうか、佐倉さん」

 

「えっ!?ま、まだ・・・心の準備が・・・あ、あの・・・社長さぁぁぁん!!!!」

 

 

 

腕を引っ張られて社長室から強引に連れ出される絢音は、助けを求めるように叫んでいてその声は廊下からでも響いてくる程であった。

そんな状況にも嬉しそうに笑う沙織は、自分のデスクにあるパソコンに目を向けるとある一通のメールに目を細めた。

 

 

 

「はぁ・・・本当に美咲もモノ好きね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合当日

 

 

 

選手控え室には出番を控えた絢音。

そして、サポート役として同期である駿河 燈華(するが とうか)。

 

 

そわそわしながらも入念にウォーミングアップをする絢音。

その横では、じっと動きを観察する燈華の姿があった。

 

 

 

「今日はありがとうございます!私のサポート役を引き受けて下さって」

 

「いや、別にお礼を言われる事じゃないよ。同期の仲間の晴れ舞台だ、協力するのは当たり前だろう?」

 

「えへへっ・・・・・そう言われると少しホッとしました」

 

「絢音ちゃ~ん♪調子はどう?」

 

「美星さんっ!?」

 

 

 

急に扉が開かれるとそこに立っていたのは試合後のランブル美星だった。

まさかの登場にピンッと背筋を立てて姿勢を正すも美星は「リラックス、リラックス♪」と言い絢音の肩を叩く。

 

 

 

「それにしても・・・へぇ~・・・・・それが絢音ちゃんのコスチュームか」

 

「は、はいっ!!に、似合ってますかね?」

 

「いいんじゃな~い?アタシは好きだよ~そう言うの」

 

 

 

黒色の肘当て。

上下共に炎を強調したようなデザインを扱われている。

そして、黒色のブーツ。

絢音が言うには、「紅蓮少女」だと言う。

 

 

などと衣装をお披露目していると出番が迫っているとの報告がやって来た。

その言葉にまたピンッと反応する絢音だったが、ふと頭に温もりを感じるのに頭を上げるとそれは美星の手であった。

 

 

 

「あはは♪最高の晴れ舞台・・・いっちょ暴れてきちゃいなさいなぁ~」

 

「は、はいっ!!」

 

「う~ん・・・アタシも付いて行くわ~」

 

「いっ!?いいんですか!?」

 

「別に構わないわよ~」

 

「こうなったら・・・勝つしかないな?」

 

「はい、勝ちます!!!!」

 

 

 

そう言うと準備していた背に不死鳥を描いた上着を羽織って絢音はリングへと歩みを進めるのであった。

 

 

 

 

 

『それでは、皆様長らくお待たせいたしましたぁぁぁ!!本日のメインイベントの開催です!!!!』

 

 

 

会場を盛り上げるように叫ぶアナウンスに会場は、一気に盛り上がりを見せ始め本日のメインイベントが始まる。

アナウンスのコールにより、呼び出された大空ゆかな。

パーソナルカラーである空色をモチーフにした衣装に包まれて彼女は歓声の中ゆっくりとリングの中へと入って行った。

 

 

 

『赤コーナー・・・期待の新星、此処に現るっ!!佐倉絢ぁぁぁ音ぇぇぇ!!!!』

 

 

 

紹介されたと同時に姿を現した絢音は高々と拳を突き上げてこう叫んだ。

 

 

 

「ファイヤァァァァァ!!!!!」

 

 

 

勢い余って叫んでしまったのだろう。

叫んだ本人がハッとしたように口元に手を当てて顔を真っ赤にしていたが、会場のお客様も真似をするように「ファイヤー!!」のコールが響いた。

その反応には、恥ずかしがっていた絢音も答えるように両手を挙げるとリングへと足を進める。

 

 

そして、2人は対峙した。

身長差は歴然、背の高いゆかなを見上げるように立つ絢音。

審判のボディチェック中も2人の視線は外れる事はなかった。

次の瞬間ゴングが鳴り響き、2人は瞬時に組み合った。

 

 

 

「力勝負は互角っ!?」

 

「いや~彼女には簡単には勝てないわよん♪」

 

 

 

リングサイドに居た燈華と美星は間近で観戦していた。

周りからはゆかなが押しているように見えるのだが、それは身長差があるからそう見えるだけであって本当の所力一杯押し込んでいるのだが、絢音はビクとも動かないのだ。

 

 

 

「ここっ!!」

 

「・・・っ!?ぐぅっ!!」

 

 

 

すると組み合っていたはずの手を急に解いた絢音。

それに対して前屈みになって力を入れていたゆかなは体勢を崩してしまう。

その隙を逃さないようにやって来た相手の頭を左脇に抱えるとそのまま背中から倒れ込み、その勢いで前のめりに倒れ込んだ相手の頭部をリングに打ちつけたのだ。

 

 

新人とは思えない綺麗なDDTに会場は盛り上がる。

そんな観客の中に大きめのサングラスを掛けて深く帽子を被る怪しげな女性が不敵な笑みを浮かべながら観戦をしていた。

 

 

 

「うちの新星はどうかしら?」

 

「彼女経験者なの?」

 

「未経験者よ」

 

「それは・・・面白いわ」

 

 

 

怪しげな女性の横に沙織は堂々と座る。

しかし、女性は見向きもせずにリング上の試合に夢中であった。

沙織も夢中になっている女性を横目に少し嬉しげに笑うと自分も試合の方に目を向ける。

 

 

リング上では掴まれない様に足技で牽制を仕掛けるゆかな。

それを受けながらもじりじりと間合いを詰める絢音。

2人の攻防戦が繰り広げられていた。

 

 

 

「(あの子が力に自信があるのは納得するしかない。それなら時間を掛けてでも相手のスタミナを・・・・・!!)しっ!しっ!!」

 

「とったぁぁぁ!!」

 

「(罠に引っ掛かった!?)それを待っていたのよっ!!」

 

 

 

執拗にローキックをしてくるのを止めるように片足を掴んだ絢音。

しかし、それは予定の範囲内だったのか瞬時に体を捻ったゆかなの反対の足が頭に目掛けて放たれる。

鋭い蹴りが突き刺さる・・・が。

 

 

 

「これを受けて倒れないのっ!?!?」

 

「捕まえ・・・ましたぁぁぁっ!!」

 

 

 

普通の選手なら意識を一瞬でも手放してしまうぐらいの強烈な一撃を貰っているのにもかかわらず、逆にその足さえも捕まえた絢音は食いしばっていたであろう歯を見せると大きな声と共にそのまま円を描くように回りだして最後には勢い良くゆかなを放り投げたのだ。

 

 

 

「あの子・・・・・人間?」

 

「失礼ね、ちゃんとした女子高生よ」

 

「しかも、女子高生?はぁ・・・驚きね」

 

「まぁ、私もこの展開には驚いているわ」

 

「計算違いって事?」

 

「予想以上の原石だって事にね」

 

 

 

遠くから眺めている2人はリングの上で雄々しき戦う絢音の姿に夢中であった。

 

 

 

「いつまでも・・・貴女の出番じゃないわ!」

 

「いぃっ!?」

 

「吹っ飛びなさい!!」

 

 

 

一瞬の隙を突かれてロープに振られた絢音。

走って戻ってくる絢音を、前かがみの姿勢で迎え入れたゆかなは高く跳ね上げるように放り投げた。

体重が軽いせいもあり、絢音は高い位置からリングに落とされてしまう。

 

 

 

「まだまだ!!」

 

「くはぁっ!?!?」

 

 

 

続け様にロープに向かって走り出したゆかな。

助走をつけて帰って来た彼女は前方宙返りすれば、体全体をリングで倒れている絢音に浴びせた。

勢いとゆかなの全体重が乗っかった一撃には、絢音も苦しそうに呻きをあげる。

 

 

ゆかなはすかさずフォールに入る。

素早い連携技を前にしたがカウント2.5で返す事が出来た絢音。

しかし、まだ攻撃の手を緩めないのかゆかなはゆっくりと絢音を起こす。

 

 

 

「足りないのなら・・・・・今度こそっ!!」

 

 

 

軽々と絢音を自らの頭上まで跳ね上げさせてパワーボムの体勢に入った。

しかし、すぐには放とうとはせずにそのまま後退りをし始めたのだ。

 

 

 

 

「絢音ぇぇぇ!!」

 

 

 

燈華の呼び声が響き渡る中でゆかなは助走に入った。

彼女のフィニッシュホールドとも言えるランニングボムに入ろうとしているのである。

勢い良く絢音をリングに叩きつけようとした瞬間だった。

かすかに笑い声が聞こえたのだ。

 

 

 

「なっ!?」

 

「待って・・・いました」

 

「なにをっ!?」

 

「貴女が・・・フィニッシュホールドで決めようとしてくるこの瞬間をっ!!!!」

 

 

 

誰もがゆかなのフィニッシュホールドが決まると信じていた。

しかし、事態は一変したのだ。

予想とは裏腹にリングに沈んでいたのはゆかなだったのだ。

まさかの展開に観客は驚きを隠せずにはいたが、まさかの事に歓声があがっていた。

 

 

 

「ゆかなのフィニッシュホールドをフランケンシュタイナーで返すなんて・・・流石ね」

 

「ねぇ、あの子はこの試合が初の公式戦でしょう?なのにあの動きは、まるで対戦相手のフィニッシュホールドを最初から読んでいたようにも見えるわ」

 

「えぇ・・・初めての公式戦よ。けど、彼女は普通の女の子じゃないのよ」

 

「どう言う意味?」

 

「レス女ちゃんなのよ♪」

 

 

 

などと話している間にリング上では絢音がポストに登って身構えていた。

リング上にはまだ呻くように仰向けで倒れているゆかなの姿があった。

 

 

 

「やぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

 

大声と共に飛び上がった少女の体が舞い上がれば勢い良くゆかなの上に重なった。

その一撃と共に絢音は即座にフォールに入る。

レフェリーがすぐにカウントに入ると会場には緊張に包まれた空気が張り詰める。

3カウントが言い終わった途端に物凄い歓声が勝者である絢音を迎えたのであった。

 

 

勝利した絢音はきょとんとした表情であったが、対戦相手であるゆかながふらつきながらも絢音の片手を持って賞賛を讃えるとやっと実感したのか満面の笑みでガッツポーズを見せた。

 

 

 

 

「勝っちゃったわね」

 

「それで・・・どうなの?美咲、あの件はどうするの」

 

「やりましょう♪私の団体と貴女の団体での交流戦」

 

「はぁ・・・わかったわよ」

 

「楽しみね・・・交流戦が・・・・・」

 

 

 

観客席で嬉しそうに笑顔を見せる・・・豊田 美咲(とよだ みさき)。

女子プロレス団体「ベルセルク」の頂点に立つBWQ(ベルセルク・レスリング・クイーン)王者である。

リング上で喜んでいる絢音を尻目に交わされた約束。

なにが起きるかはこの2人にしかわからないであろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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解説!レス女絢音ちゃん♪

「ヴァルキュリアをもっと知りたい・・・って、なんで私に聞くんですか」

 

「いやぁ~・・・入団したのはいいんだけどさ、内部事情はそんなに詳しくはないからさ絢音に聞けばいいかと思ってさ」

 

「ちなみに聞きますけど、どうして私なんです?」

 

「かなりのレス女だって燈華に聞いたぜ?」

 

「オレは社長さんから聞いた!!」

 

「プロフィールの所に書かなきゃよかった・・・・・」

 

 

 

とある日の休憩時間に同期である3人組は会議室でくつろいでいた。

絢音は大きな溜め息を口にするも近くにあるホワイトボードに近寄ると黒インクのペンで何かを書き始めた。

 

 

 

「最初に説明しないといけないのはうちの団体にあるユニットの数ですね」

 

「・・・ユニット?」

 

「簡単に説明するならヴァルキュリアに所属はしているけど、派閥ごとに分かれているんです」

 

「えっと・・・綺羅☆エンジェルスとか爆裂天使とか愚麗怒婁だったっけ?」

 

「はい!駿河さんの言ったのともう1つBigBang!と言うのもあって計4つのユニットがこの団体には存在しています」

 

 

 

ホワイトボードに4つの名前を記すと確認をするように霞の方を向く。

すると真剣になって聞いている姿に絢音はこの4つのユニットを詳しく説明しようとまた色々と書き始めた。

 

 

 

「まずは『爆裂天使』の簡単な説明をします!リーダーは御堂ヒカルさんです。第一印象で言うなら正々堂々ですかね」

 

「それって・・・正統派って事か?」

 

「簡単に言えばそうですね。それと愚麗怒婁とはいつも敵対しています」

 

「そうなのか?」

 

「あぁ・・・リーダー同士が因縁関係にあるんじゃなかったっけ?」

 

「そうです!お互いに同期なんですが、愚麗怒婁のリーダーさんは御堂さんの事をライバル視しているみたいですね」

 

「御堂さんの方は?」

 

「そこなんですけど、とあるインタビューの時に他の団体の方の事しか話されていなくてそれを火種に愚麗怒婁のリーダーさんが・・・・・」

 

「なんとなくだけど、理解出来たよ」

 

 

 

簡略的に説明を終えるとホワイトボードに書いたのを消した後に次の説明を書き始める。

 

 

 

「次は先程名前が出て来た『愚麗怒婁』の説明に入ります!こちらのリーダーは狭霧千影さん。ヒールレスラーの集まりで結成されています」

 

「・・・ヒールレスラーか」

 

「と言っても選手によって度合いが違ったりしますけどね」

 

「この前の試合の選手は愚麗怒婁のメンバーだったんじゃないか?」

 

「えっと・・・来栖さんの事ですかね?」

 

「そうそう」

 

「あの方は元々爆裂天使のメンバーさんです」

 

「えっ!?じゃあどうして敵対ユニットになんて入ったんだ?」

 

「御堂さんを倒したいから・・・と、あるインタビューでは言ってましたね」

 

「うーん・・・そうか」

 

 

 

次の説明の為に絢音はホワイトボードに書いていた説明を消していた。

すると不意に扉が開くとそこには現在の状況下で一番適任な2人が立っていた。

 

 

 

「ライオネルさん!美星さん!」

 

「うおっ!?なんだなんだ、そんな大声で叫んで」

 

「なはは~いっつも元気だねぇ~絢音ちゃ~ん」

 

「あはは・・・す、すいません、つい」

 

「3人揃ってこんな所でなにしてんだい?」

 

「ヴァルキュリアの事をもっと知りたいと思って絢音に聞いていたんですよ」

 

「丁度ユニットの話をしていたんです!」

 

「そうなんだぁ~」

 

「今は爆裂天使と愚麗怒婁の説明が終わった所なんです」

 

「ほぅ・・・じゃあアタシらが自分のユニットを紹介してやるよ」

 

「いいんですかっ!?!?」

 

「そだねぇ~こう言うのって滅多に説明しないから面白いかもねぇ~」

 

 

 

そう言ってペンを受け取ったライオネルはホワイトボードに書きながら話を始めた。

 

 

 

「アタシらがやってんのは、BigBang!まぁ、力に自信のある奴らなら誰でも大歓迎って所だな」

 

「ココだけの話ヴァルキリア内で一番強いのはライオネルさんだと言われています」

 

「どう言う意味だ?」

 

「ライオネルさんは数多くのタッグマッチのタイトルの保持者なんですっ!!」

 

「そうなんですか?」

 

「まぁね!パートナーあっての代物だからアタシだけのモノじゃねぇけどな」

 

「それと綺羅☆エンジェルスとは友好関係にあります」

 

「そうだねぇ~♪」

 

 

 

嬉しそうにライオネルの腕にしがみつく美星。

そんな光景を目の当たりにした3人は本当に仲が良い事を理解した。

 

 

 

「次にアタシの綺羅☆エンジェルスだけど、簡単に言えばアイドルレスラー・・・かな~?」

 

「・・・・・アイドルレスラー」

 

「そっ!歌も歌うし~!ダンスだって踊るし~!たまにはテレビやらライブもしちゃうよ~ん♪」

 

「今じゃアイドルレスラーは引っ張りダコですね」

 

「けど、アタシ達だってちゃんと試合はするよ~けど、あまり勝率はよくないんだけどねぇ~」

 

 

 

とユニットの説明が終わったのだが、絢音はなにやら色んな事をホワイトボードに書き足している。

その速さには先輩でもある2人も引き攣った笑みをみせていた。

 

 

 

「ヴァルキュリアはこれ程の団体と交流があります!!」

 

「おいおい・・・こんなの両手だけじゃ足りないぐらいの数だぞ!?」

 

「それだけ歴史があるって訳さ!ユニット自体が交流を深めているユニットや選手もあるからな」

 

「そうだねぇ~フリー選手の人でも仲良くさせてもらっている人多いもんねぇ~」

 

「ライオネルさんならW神威で有名なカンナ神威さん。美星さんならビューティクルローズで有名なミシェール滝さんみたいな方々の事ですよね!?!?」

 

「そ、その通りだね」

 

「絢音ちゃ~ん・・・目が怖いよ~」

 

「はっ!?す、すみません!すみません!!すみません!!!」

 

 

 

目がぎらついている絢音を横目に霞はホワイトボードに目を向ける。

 

 

 

「へぇ~・・・・・海外の団体とも提携しているんですね」

 

「そだよ~たまに向こうの団体さんから選手が来る事もあるし~こっちから武者修行みたいに向こうの団体さんで試合をさせてもらったりかな~」

 

「現在は5名程海外に出ているぞ!」

 

「今年には帰って来るんですよねっ!?!?」

 

「そうだねぇ~・・・そろそろ期間も過ぎる頃合いだから帰って来るんじゃな~い?」

 

「やったぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「あいつ・・・・・いつもあんな調子なのかい?」

 

「えぇ、まぁ・・・」

 

 

 

1人で嬉しそうに飛び跳ねる絢音の姿に4人は子供を眺めるようにしていた。

自団体の説明が軽く済んだはずなのに絢音はまだホワイトボードになにかを書いていた。

 

 

 

「なにしてんだい?」

 

「他団体の情報整理です!!」

 

「あっ、それちょっと気になるかも~」

 

「玖珂さん!日本にはいくつの女子プロレスの団体があると思いますか?」

 

「10個・・・くらいか」

 

「違います!大小合わせて約50以上の女子プロレスの団体が日本には存在しています!!」

 

 

 

誇らしげに話す絢音の姿には誰も何も言わずに続きの話題に耳を傾ける。

 

 

 

「関東では新日本女子プロレス!関西ではヴァリュキリア!と言われるほどにこの2大団体を筆頭に女子プロレス界は動いています」

 

「新女か・・・またお呼ばれしたいもんだね~」

 

「そだね~新女との交流戦はいつも楽しいもんねぇ~♪」

 

「新日本女子プロレスは聞いた事あるな」

 

「はい!パンサー理沙子さんとブレード上原さんのお二方が新女のトップ戦線を支えていらっしゃるんですよ!!」

 

 

 

ヒートアップし始めた絢音はスラスラッとホワイトボードにまた新たになにかを書くと今回はホワイトボードを叩いて注目を集めた。

 

 

 

「注目の選手一覧です!!!!」

 

「すげぇな・・・選んだ理由なんてのも細かく書いてやがる」

 

「フリー選手もちゃんとチェックしてるなんて本当に好きなんだねぇ~絢音ちゃ~ん」

 

「アタシの名前もあるんだね」

 

「当たり前じゃないですか!?ライオネル神威さんはいつだって注目してますよ!!」

 

「なぁ、絢音が一番好きな選手って誰なんだ?」

 

 

 

素朴な燈華の質問にマシンガントークだったはずの絢音が黙ってしまったのだ。

いきなりの出来事に質問をした燈華もだが、他の3人もチラッと絢音の方に視線を送る。

 

 

 

「やっぱり・・・天鳳院ほむらさん!?いやいや、『関節のヴィーナス』とも称されているミミ吉原さん!?でも、あの甘利琴羽さんみたいな男気溢れるスタイルに惹かれるのもあるし、サンダー龍子さんのあのクールビューティーで圧倒的に強いのも捨て難い・・・・・でもでも、ソニックキャットさんもマッキー上戸さんも・・・・・」

 

「アレはもう戻って来そうにないんじゃないかい?」

 

「そ、そうかもしれませんね」

 

「燈華ちゃ~ん♪後はよろしくね~♪」

 

「えっ!?オレ1人でですか!?あ、あの・・・待ってくださいよっ!!!!」

 

 

 

壊れたように選手の名前を口にしながら上の空に行ってしまった絢音。

もうどうしようもないと思って当事者である燈華を置いて3人は部屋を後にした。

残された燈華はこの後、約3時間ほど女子プロレスの選手について話を聞かされたのは言うまでもなかった。

 

 

 

 

 

「う~ん・・・そろそろ約束を守らなきゃね」

 

 

 

社長室でカレンダーを確認しながら今後のスケジュールを考えている沙織。

1人で悩んでいる所にノックと共にひばりが姿を見せた。

 

 

 

「おっ・・・丁度良い所に!今後のスケジュールの件なんだけど・・・・・」

 

「あの・・・その前にこちらの用件から大丈夫でしょうか?」

 

「おっ、なになに?」

 

「愚麗怒婁のメンバーから一通の手紙が届いてまして・・・」

 

「私宛に・・・?」

 

 

 

手紙を受け取る沙織は、興味津々で内容を確認して見終れば嬉しそうに立ち上がる。

 

 

 

「いやぁ~面白い事やってくれるねぇ~♪」

 

「どういった内容だったんですか?」

 

「いつもの挑戦状♪」

 

「では、また王者とですか?」

 

「いんや」

 

「それでは・・・誰と?」

 

「佐倉絢音ちゃんだよ」

 

 

 

そう言って手紙を机の上に音を立てて置くとひばりの目にも入る。

しかし、そこにある内容に目を疑った。

 

 

 

「3VS3・・・ですか」

 

「そっ!こりゃあなんだか面白くなりそうな気分♪」

 

 

 

その時、一瞬だが大きなくしゃみをした絢音だったが彼女は気付いていなかった。

自分がターゲットにロックオンされてしまっていると言う事に・・・・・。

 

 

 

 



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キャラ紹介『選手編②&関係者』

来栖美紅(くるす みく)

 

 

出身地:京都府

 

年齢:19歳

 

誕生日:10月04日

 

身長:164cm

 

スリーサイズ:84/57/87

 

得意技:関節技

 

必殺技:ドラゴンスクリュー

 

 

 

プロフィール

真っ赤なミニチャイナドレスが目印。ポールを使ってのセクシーパフォーマンスがファンの間で人気であり、試合開始前に披露する。

元爆裂天使のメンバーであったが、打倒御堂ヒカルを掲げて愚麗怒婁に移籍した。

実はレズビアンかもしれないと噂されている模様。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライオネル神威(らいおねる かむい)

 

 

出身地:福岡県

 

年齢:22歳

 

誕生日:8月08日

 

身長:179cm

 

スリーサイズ:103/70/98

 

得意技:パワー技

 

必殺技:BBB(Bigbang Beast Buster)

 

 

 

プロフィール

ヴァルキュリアのユニットのBigbang!のリーダー。頼られる存在であり、自団体だけではなく他団体からも過大な評価持つ人物。

タッグのベルトの日本最多保持者でもある。

御堂ヒカルとは同期であり、良きパートナーであり良きライバルとも言われている。

パワフルな一面とは裏腹に意外と甘いモノが大好きであり、練習の時には必ずと言っていいほどにお土産として色んなお菓子が用意されていると言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大空ゆかな(おおぞら ゆかな)

 

 

出身地:愛知県

 

年齢:19歳

 

誕生日:01月11日

 

身長:168cm

 

スリーサイズ:80/53/81

 

得意技:投げ技

 

必殺技:ランニングボム

 

 

 

プロフィール

風斬風香と同期であり、ルームシェアなどもしておりお互いに親友的な関係である。

実力はまだ未熟ではあるが、コツコツと日々努力していると言う。

通販が好きな様子で、毎週やって来る品物に風斬は困ってるらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宮永沙織(みやなが さおり)

 

 

 

プロフィール

ヴァルキリアの社長。元女子プロレスラー。

期待の選手として名高い1人ではあったが、結婚を機に約1年で引退してしまう。

しかし、プロレスの世界には未練があるのか自分の思いを継ぐ選手を作りたいと言うのもあり、ヴァルキリアを設立したと言われている。

お相手の旦那様は、男子プロレス業界を引っ張る宮永 猛(みやなが たける)である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

富咲ひばり(とみさき ひばり)

 

 

 

プロフィール

宮永社長の秘書兼マネージャーを勤めている。

基本的には社長のお手伝いを仕事としているが、他にも選手1人1人のカウンセリングやら衣装チェックやらその他選手に関わる事も進んで取り組んでいる。

他にもマネージャーは存在しているが、それでも彼女が個人的に全選手を把握していると言われている。

 

 

 

 

 

 



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猪鹿蝶VS新星3人組

「かぁぁぁぁっ!!やっぱり試合を間近に感じるとこんなにワクワクすんだな?」

 

「わ、私は緊張してて・・・この前なんてリングに上がるまではビクビクしてましたよ」

 

「まぁ、あんだけ元気があるならなんとかなりそうだな」

 

 

 

新人の3人は選手控え室に集まっていた。

しかも、今回は3人がチームとなって闘うのである。

 

 

 

「おっ!張り切ってるねぇ~3人共♪」

 

「ライオネルさん!それに美星さんに風斬さん!!」

 

「今日は私も同行させて頂くわ」

 

「新人ちゃん達の華々しい舞台だからねぇ~なにかあった時は任せなさ~い♪」

 

「私は何事も起きない事を祈りたいですけど・・・・・」

 

「そんな気持ちじゃ呑み込まれちまうんじゃないかい?もっとガツンとやってやるって気持ちで行きなっ!!」

 

「は、はいっ!!」

 

 

 

今日の対戦相手は、愚麗怒婁の有名グループ『猪鹿蝶』。

絶対に3人一緒に闘いを挑むヴァルキュリアでは有名な3人組である。

パワーの猪莉 美里(いのり みさと)。

関節の鹿忍 清美(かしの きよみ)。

飛びの黒蝶(こくちょう)。

極悪非道な行為が有名で・・・簡単に言えばなんでもありな闘い方をしてくるグループである。。

 

 

そんなメンバーと闘う事になったのは、向こうからの突然の果たし状からだと社長から聞いている。

毎回勢いのある新人を狙う傾向があるので、今回は絢音が標的にされたのと考えている。

他のメンバーは誰でも良いと書かれていたのだが、この果たし状を一緒に目にした2人が加勢してくれると言う事で今回はこの3人がメンバーとなった。

 

 

 

「向こうは猪鹿蝶です。極悪レフェリーは必ず雇っているでしょう。それに凶器や反則行為諸々を平然と使用してきます。私達が付いてはいますが、手を貸す事は出来ません」

 

「それは十分承知の上です!!それでも売られた闘いは正々堂々と迎え撃ちますっ!!」

 

「よっしゃ~!!その心意気っ!いっちょ派手にやってきな!!」

 

「「「はいっ!!!」」」

 

 

 

3人は付き人である3人から気合を入れてもらうように背中を押し出すように叩かれると元気のある返事と共にリングへと向かうのであった。

 

 

 

 

 

試合前の観客席は凄いお客さんで賑わいを見せていた。

そんな中にカメラを手にきょろきょろと周囲を警戒している人物がいた。

ボサボサ頭が特徴的な女の子・・・月刊ヴィーナスの新人の高嶺 智枝(たかみね ともえ)。

しかし、彼女は気付いていた・・・・・明らかにピリピリとしているこの会場の空気に。

 

 

 

「ど、どうして・・・こんなにも有名な選手が居るのぉ~!?!?」

 

 

 

試合会場には、新日本女子プロレスのパンサー理沙子、ブレード上原、マイティ祐希子、ボンバー来島。

フェニックスの天鳳院ほむら。

Gaiaの伊里内 真、甘利 琴羽。

ベルセルクの豊田 美咲。

他にも他団体の選手が次に行われる試合を観る為に集まっているのである。

他団体からの偵察規模が物凄い中でそんな事など関係なくアナウンスが場内に響き渡る。

 

 

 

デスメタルと共に入場して来たの猪鹿蝶の3人組。

猪の如く猛突進でリングインする猪莉。

ファンに投げキッスをしながら優雅にリングへと向かう鹿忍。

そして、真っ黒なボディースーツに蝶の仮面を身に付けた黒蝶はいつの間にかポストの上に立っていた。

 

 

続いては新星3人組の登場である。

姿を見せたのと同時に3人で拳をぶつけ合った後に天に向けて突き上げると意気揚々とリングへと足を進める。

その背後には、セコンドと言う形でライオネル神威、ランブル美星、風斬風香の3人が付いていた。

新星3人組が登場と同時に会場は歓声と共に盛り上がりをみせていた。

 

 

 

「最初は誰が行きますか?」

 

「オレに行かせてくれ!2人の足は引っ張りたくねぇからな!」

 

「はい!それじゃあ駿河さん!お願いします!!」

 

「派手にかましてやれ」

 

「おうよっ!!」

 

 

 

3人はハイタッチをしてから2人は外に出る。

対戦相手は・・・鹿忍がリングに留まった。

ゴングが鳴れば2人は円を描くようにお互いに間合いを取り合っている。

 

 

 

「あの娘を最初に味わいたかったのに・・・残念ね」

 

「オレみたいな選手は眼中に無し・・・ってか!!」

 

「・・・そんな事ないわよ」

 

「なぁっ!?うぐぅっ!!」

 

 

 

先手とばかりにローリングソバットを放った燈華だったが、見事に足を掴まれるとそのままリングに押し倒されてしまう。

だが、それだけではなくその掴まれた足を軸に体勢を変えた鹿忍は逆片エビ固めの姿勢に入ろうとしていた。

しかし、まだ元気な駿河は足掻いていとも簡単に抜け出すと間合いを取るべく距離を離した。

 

 

 

「へぇ~・・・逃げ足には自信があるみたいね」

 

「へっ!!この速さがオレの強さの秘訣さ!そう簡単に取らせねぇっての!!」

 

「まぁ・・・いつまでその元気が残ってるかしらね?」

 

「・・・なにっ?」

 

「駿河さぁぁぁん!!」

 

「・・・・・っ!?!?」

 

 

 

油断でもなく気を取られていた訳でもなく、気付いていなかったのだ・・・・・相手のコーナー側に居た事を・・・。

絢音の声が聞こえた時にはもう後頭部に物凄い衝撃と痛みが押し寄せていた。

苦痛に顔を歪めていると背後からパイプ椅子が燈華の首を締め上げる。

凶器の使用に怒鳴る霞ではあったが、レフェリーはその現場を見ようとはせずに逆に自分に口悪く言う霞に注意を促しているのだ。

その光景を目の当たりにした鹿忍はゆっくりと燈華に近寄って来る。

 

 

 

「油断大敵よ」

 

「おらぁぁぁっ!!」

 

「んぐぅぅぅっ!!!!」

 

 

 

鹿忍は不敵な笑みを浮かべタッチをすると猪莉と交代をする。

しかし、すぐには出て行かずに2人で駿河をブレーンバスターで後方へ投げつけたのであった。

それを受けた駿河は苦痛に歯を食いしばって耐えていた。

 

 

 

「駿河さん!タッチ!タッチです!!」

 

 

 

絢音の声がリングにいる燈華に助け舟を投げ掛ける。

駿河も這いずりながらも差し伸べられる手にタッチしようとしたが、不意に頭を掴まれ立たされたかと思うとそのままロープへと投げられた。

なにかを企むように準備する猪莉。

しかし、ロープに投げられた燈華だったが彼女はそのままロープ飛び越えると向きを変えてエプロンサイドに立った。

 

 

 

「あんまり・・・オレを舐めんじゃねぇよ!!」

 

「ぐわぁぁっ!!」

 

 

 

叫び声と共にトップロープに飛び乗った駿河は高らかに舞い上がってドロップキックを放ったのだ。

その一撃は、今までには見た事もない程に滞空時間と高さがあり、そのあまりにも鋭い一撃に対して観ていた全員から大きな歓声を湧かせた。

受けた猪莉は、顔面にまともにクリーンヒットを受けて巨体は吹っ飛ばされてしまっていた。

その間に駿河は仲間の元へと駆け寄るとすぐさまタッチをした。

 

 

入れ替わった途端にひるんだ猪莉に得意技でもあるキックの連打を放つ霞。

ロー、ミドル、ハイとランダム且つ鋭いキックに受け続けている猪莉の表情は苦痛に歪んでいた。

しかし、一瞬の隙を突いた猪莉は捨て身タックルのようにロープへと霞を連れ込む。

すると控えていた愚麗怒婁のセコンド達が霞の両脚を拘束したのだ。

 

 

 

「なっ!?反則じゃねぇか!!」

 

「反則じゃねえ・・・これがアタシ達のやり方なんだよっ!!」

 

 

 

形勢逆転とばかりにリングの中に放り込まれた竹刀を受け取った猪莉が今後は霞の体中を滅多打ちにし始めたのだ。

その光景には、観客からもブーイングが起きているが猪莉が容赦なく竹刀の殴打を続けていた。

そして、悲劇は起きてしまったのだ。

 

 

 

「おいっ!!アレって血が出てんじゃねぇか!?」

 

「レ、レフェリー!レフェリー!!」

 

 

 

いつの間になったのかわからないが、霞の額から左側にかけて血が垂れ流していたのだ。

それにはさすがにレフェリーも一応止めに入ろうとしたが、それよりも先に動いたのは霞だった。

 

 

 

「チェストォォォ!!!!」

 

「おごふぁっ!?!?」

 

 

 

拘束されていたのは両脚のみ。それが誤算だったのだろう。

大振りの隙を突いての見事な正拳突きが猪莉のボディに突き刺さったのだ。

得意としている1つでもあるその一撃を受けた猪莉はずるっと崩れ落ちてしまったのだ。

すると拘束していたセコンド達も慌てたように手を離した。

 

 

霞は垂れてくる血を拭いながらもゆっくりとポストに登る。

そして、コーナートップに立つとリング内で倒れている猪莉を確認した後に両手を観客にアピールをした後に飛び上がる。

 

 

 

「おとなしく・・・寝てなっ!!!!」

 

「あがぁっ!?!?」

 

 

 

スワントーン・ボムが見事に直撃してガッツポーズを見せる霞。

それに対して会場からは大きな歓声が響き渡る。

すかさずフォールを試みる霞だったが、2カウントで返されると頭を抑えながら霞が立ち上がる。

それもそのはずだ・・・レフェリーのカウントの遅さに苛立ってレフェリーに怒鳴るも霞の意見は聞こうとはせずに逆にドクターストップで試合を終わらせるかと詰め寄られていた。

 

 

 

「アイツはもう弱らせたから気張ってけよ」

 

「・・・はいっ!!」

 

 

 

イライラした雰囲気でタッチをした霞がすれ違いざまに一言助言をすれば、絢音は返事をしてからリングインした。

周りから大きな歓声が響き渡っており、絢音は律儀にも手を挙げたりして答えていた。

だが、そんな事をしている間にリング内に視線を戻してみるといつの間にか猪莉の姿が消えていた。

 

 

 

「猪莉さんが・・・いない?」

 

「隙ありっ!」

 

「うぐぁっ!?」

 

 

 

トップロープから奇襲とばかりに放たれたヒップアタックを受けた絢音は体勢を崩してそのままリングの外に投げ出されてしまった。

あまりの衝撃に頭を左右に振って意識を取り戻そうとしたが、相手がそんな事を許すはずが無かった。

 

 

 

「逃がさない」

 

「・・・っ!?かはっ!!」

 

 

 

ロープを掴んでその反動を利用してジャンプした黒蝶は場外にいる絢音に覆い被さるようにボディアタックを決めたのだ。

スピーディーな攻撃にまだ意識が朦朧としていた絢音には効果的で見事に場外にぶっ倒れる形になってしまった。

するといつの間にやって来ていたのか鹿忍が左足を掴んでおり、覆い被さっていた黒蝶が反対の右足を掴むと双方が同じタイミングに股を裂いたのだ。

 

 

 

「ひぎぃぃぃっ!?!?」

 

「あらあらっ・・・良い声で泣くのね。少し興奮しちゃうわね♪」

 

 

 

悲鳴と共にじたばたと転げ回る絢音の姿に対して鹿忍は高揚した表情で見下していた。

そんな鹿忍は絢音のお腹の上に片足を乗せるとじわじわと体重を乗せて行き相手の苦しむ表情に興奮を覚えつつあった。

しかし、それをずっと実行させる程簡単ではない。

 

 

 

「いつまで調子にノッてんだ!!おらぁぁぁ!!」

 

「・・・があっ!?!?」

 

 

 

弾丸とも言える速さでトップロープを使ってだろうかクロスチョップを放った燈華は鹿忍の喉元辺りに飛来するとそのまま2人は観客席の方へと吹っ飛んで行った。

残った絢音は苦痛に表情を歪めながらも起き上がるが思いもしれない一撃を受けてしまう。

そう・・・・・毒霧である。

 

 

 

「・・・・・っ!?!?!?」

 

「初めて受ける毒霧だ・・・存分に味わえ」

 

 

 

そう言った途端に素早くコーナートップに立った黒蝶。

目が見えない絢音は手探りで黒蝶を探そうとするが、相手を見つけ出すことは出来ずにいた。

両手を大きく広げた黒蝶はその名の通り・・・蝶のように飛び上がるとそのまま闇の中にいる絢音にボディプレスを放ったのだ。

それには為す術もない絢音はまたモロに一撃を受けてしまい場外に倒れてしまう。

 

 

しかし、黒蝶はそのまま寝かす事はせずにすぐさまにリングへと絢音を戻したのだ。

抵抗も出来ずにリングの中で仰向けにダウンしてしまっている絢音。

黒蝶はすかさずフォールに入った。しかし、カウントは2.8のギリギリの所で返す事が出来た。

でも、霞は大声で怒鳴っていた。そう、明らかに自分達のカウントだけがかなり早めだったからだ。

その苦情にも知らないフリを貫くレフェリー。

そんな姿に霞の表情は見る見るうちに怒りに満ち溢れていた。

 

 

 

「まだまだ終わらねぇぜ?」

 

 

 

いつの間にタッチしたのか猪莉がリングの中におり、絢音の頭を掴むと強引に起こした。

するとアイアンクローを決めた猪莉は絢音をそのまま持ち上げるとチョークスラムの様に勢い良く叩きつける。

技を受けた絢音はもう呻き声も上げれずに仰向けに倒れたまま苦痛に表情を浮かべるしか出来ずにいた。

しかし、猪莉はそんな事を気にせずにまた頭を掴んで立たせる。

 

 

 

「これで・・・The Endだぜ!!」

 

 

 

絢音を高らかに持ち上げた猪莉はにやりと不敵な笑みを浮かべると振り下ろすと同時に自ら尻もちを付くようにマットに着地をしシットダウン式パワーボムをお見舞いしたのだ。

がっちりと固められた絢音は身動きも出来ずそのままフォールに入られる。

完全に決まってしまった一撃に一瞬試合は終わってしまうのかと思われた。

 

 

 

「うらぁぁぁっ!!!!」

 

 

 

カウント2.9。

その刹那・・・霞の強烈な蹴りが猪莉の背中を捕らえ、ギリギリで返せたのだ。

レフェリーが霞の乱入に詰め寄って言及しに行こうとしたが、霞はあっかんべぇ~レフェリーに対して行った後に足早にリングの外へと戻った。

 

 

 

「あのくそアマァ・・・舐めやがってっ!!」

 

「・・・ないっ」

 

「んなぁっ!?コ、コイツ・・・まだ立ち上がんかよっ!?」

 

「・・・負けないっ!」

 

「あぁん?もっとハッキリ言いやがれっ!!」

 

「私は負けないっ!!!!」

 

 

 

カッと目を開いた絢音の目にはまだ闘志が燃え滾っていた。

なにを思ったのか勢い良く後ろに走り出す絢音。

それを両手を広げて迎え撃とうとする猪莉。

しかし、予想を超えた技を彼女は放ったのだ。

 

 

 

「だっしゃぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

大声と共に繰り出されたのは、助走からの捻りをくわえたダイビングヘッドバットであった。

懐に放たれた不意を突く一撃に吹っ飛ぶ猪莉。

だが、またしても事件は起きてしまったのだ。

彼女が倒れる先にはレフェリーが立っており、不幸にも猪莉のエルボーが見事に決まってしまいレフェリーはノックアウトしてしまったのだ。

 

 

次の瞬間・・・リング内に向かってトップリングから黒蝶がうつ伏せに倒れる絢音に仕掛けようと飛び掛る。

身動きも出来ない絢音は迫り来る相手に視線を向けていたが、近付くにつれて目を瞑ってしまった。

しかし、自分に対してのダメージが降り注ぐ事はなかった。

それもそのはず、飛び掛ってきた黒蝶はカットに入った霞の上段蹴りを受けて迎撃されていたのだから。

 

 

 

「いつまで寝てんだ?まだ試合は終わってないぞ」

 

「えへへっ・・・・・そ、そうでしたね」

 

 

 

肩を貸してもらって起き上がる絢音。

しかし、リング内にはレフェリーがいなくなったのを良い事に愚麗怒婁のセコンド陣が乱入して来ていた。

2人は覚悟を決めたように身構えるが、そんな2人の間を割り込むように救いの手がやって来た。

 

 

 

「やっぱお前らは面白いっ!!試合を観ていてなんだか血が滾ってくるよっ!」

 

「そだねぇ~♪観てたら体がなんだかうずうずしてくるよねぇ~♪」

 

「・・・ですから、この邪魔者達は私達に任せておいて」

 

 

 

そう言ったライオネル神威。ランブル美星、風斬風子の3人はセコンド陣に対して正当防衛と言う形で乱戦が始まった。

会場はその大乱戦にも歓声を飛ばして全体のボルテージはMAXに近付いていた。

しかし、リング外に下がった選手達6人は休む訳もなく激しい攻防が繰り広げられていた。

 

 

 

「まだだっ!まだ終わらねぇぞ!!」

 

「てめぇは・・・黙ってろっ!!!!」

 

 

 

強がったように咆哮をあげる猪莉。

刹那・・・綺麗なフォームでの延髄蹴りが突き刺さると糸が切れた人形のように猪莉は崩れ落ちてしまった。

 

 

 

「うりゃぁぁぁぁっ!!!!」

 

「かっはぁっ!?!?」

 

 

黒蝶をハイアングルパワーボムの体勢に持ち上げると勢い良く旋回をしてからシットダウンボムで叩きつけた。

力を売りにしている絢音のパワー技にはリング外と言う事もあり、かなりの大ダメージを受けてしまった黒蝶も動けずにいた。

そして・・・残された相手のメンバーは、鹿忍 清美・・・ただ1人。

 

 

 

「・・・・・くっ!!」

 

「終わらせますっ!!」

 

「な、なにをっ!」

 

「はっ!ふっ!!せやぁぁぁっ!!」

 

「・・・・・かっ・・・はっ」

 

 

 

絢音の声と同時に動いたのは霞だった。

ローキックはふくらはぎを刈り取り、ミドルキックは腹部を抉りこみ、ハイキックは頭を揺らした。

コンビネーションキックとも言える素早い技を受けた鹿忍は崩れ落ちそうになるも霞に掴まれるとそのままリングの中に放り込まれる形で戻される。

すると大歓声と共にコーナートップに立つ人影が待ち受けていた。

 

 

 

「これが最後の一撃だぜぇぇぇ!!!!」

 

 

 

大きな弧を描くように跳躍し、体全体で上から叩きつける形ムーンサルトプレスを放つ駿河。

しかし、多くのレスラーのムーンサルトプレスとはやはり彼女の技は滞空時間がやたら長く感じるのだ。

そう、まるで彼女が空を飛んでいるように・・・・・。

リング中央で仰向けに倒れる鹿忍の上に覆い被さるとそのままフォールの体勢に入る。

そして、いつの間にかやって来た新しいレフェリーが3カウントをとったのだ。

 

 

 

次の瞬間には観客席にいたお客さんは立ち上がり、リングに立つ3人に向かって拍手が送られたのだ。

それに対して3人は円になって拳を合わせるとそのまま突き上げると大声で叫んだのだ。

それを見た観客も大声で叫ぶとまたより一層多くの拍手と歓声が3人を包み込んだのであった。

 

 

 

「や、やや、やっぱり!!私の目に間違いはなかったんですっ!!」

 

 

 

試合が終わったと同時に立ち上がってそう叫んだ智枝はすぐさまインタビューをするべく駆け出した。

そして、偵察に来ていた他団体の選手も気付いたのかもしれない。

この3人がいずれベルトを賭けた闘いにチャレンジしに来るであろうと感じ取っただろう。

 

 

 

 

 

『6人タッグマッチ』30分一本勝負

 

佐倉絢音     猪莉美里

 

玖珂霞  VS   鹿忍清美×

 

○駿河燈華     黒蝶

 

 

17分36秒  ムーンサルトプレス

 

 



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交流戦は突然に・・・

「んっ?どうしたんだろう」

 

 

 

いつものように学校を終えてヴァルキリアにやって来た絢音だったが、あまりの人混みに首を傾げて恐る恐る近付こうとする。

するとふと自分に気付いたゆかながジェスチャーで裏口に回るようにと教えてくれた事にお辞儀をすれば、人混みの方には向かわずに裏口へと絢音は駆け足で向かう。

裏口の扉を開けると富咲と鉢合わせしたのである。

 

 

 

「おはようございます、富咲さん!なんだか表が凄い人だかりでしたけどなにかあったんですか?」

 

「全部取材の件ですよ。この時期になるといつもうちのルーキーを取材しに来るんですよ」

 

「そうだったんですね・・・だからこの時期のプロレス週刊誌や月刊誌はルーキーの話題で一杯だったんですね」

 

「今回うちの一番人気は・・・佐倉絢音ですからね」

 

「へぇ~・・・・・って、私なんですかっ!?!?!?」

 

「そうですよ?宮永社長も今後の成長が楽しみだと喜んでいましたからね」

 

「そ、そこまで言われちゃうと嫌な気はしない・・・ですね」

 

 

 

自分の評価が過大評価されている事に驚きを隠せずにいたが、内心はかなり嬉しかった。

憧れとなったプロレスラーの仲間入りを果たして認められているのだからこんなに喜ばしい事はない。

嬉しそうに鞄を抱き締める絢音の姿を見て微笑ましく思う富咲だったが、ふと思い出したように口を開いた。

 

 

 

「そうだ、絢音ちゃん」

 

「どうかしましたか?」

 

「社長が話があるって言っていたから会議室に行ってみてくれませんか?」

 

「会議室・・・ですか?社長室じゃなくていいんですか?」

 

「そっ!今はお客様がいらっしゃっててとある打ち合わせをされている所だから会議室で構わないわ」

 

「でも、それって私が邪魔になるんじゃないですか?」

 

「いえ、貴女には関係する事だから・・・お願いね、私も後で伺うから」

 

 

 

そう言われて学生服のまま絢音は会議室へと足を進める。

内心ちょっと胸騒ぎのような感覚を感じるものの会議室の部屋をノックする。

すると中からは社長の返事があり、失礼します!と一言付けて扉を開けて中に入った。

しかし、絢音は中に居た人物に気付くと満面の笑顔に変わっていた。

 

 

 

「と、とと、豊田美咲選手っ!?それに・・・は、はは、萩原さくら選手じゃないですかっ!?」

 

「ふふっ・・・やっぱり沙織の言う通り面白い子ね」

 

「お、お邪魔しています」

 

「どど、どうしてこのヴァルキュリアにいらっしゃるんですか!?いや、そ、そんな事よりも・・・サインお願いしてもいいですかっ!!」

 

 

 

学校帰りのはずなのにどこから色紙とサインペンを持ち込んだのか2人に手渡すと目をきらきらと輝かせて書いてもらうのをじっと見守っていた。

書き終えれば、2枚とも上に掲げるとうっとりとした表情で眺めていた。

 

 

 

「あの子・・・いつもあんな感じなの?」

 

「そうよ?初日なんて挨拶は手短に済ませたかと思えば、サイン集めにヴァルキュリア内を1日中走り回っていたって選手のみんなが口を揃えて言っていたもの」

 

「本当にレス女ね。しかも、かなり重度の・・・」

 

「でも、それが彼女の強みでもあると思うわ。選手ごとに彼女の中ではすべてが把握されているのよ・・・引退している私の事だって全部覚えていたんだから」

 

「見透かされている・・・って訳ね」

 

「そうなるわね」

 

 

 

さくらを前にして興奮したように対峙している絢音に2人は微笑んでいた。

 

 

 

「萩原選手の試合いっつも観てます!デビューから連敗続きだったのに風間選手とのリベンジマッチで見せたあの『さくらスペシャル』と言う決め技っ!!あの技を筆頭に数々の勝負を制して行き、挙句の果てにはあのジャッカル東条選手と渡り合いすべての技を受けきったんです!!私もあの試合は最前列で観戦していて全員が震え立ちましたっ!!」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「でもでもっ!一番燃えたのは・・・ブルーパンサー・・・いや、宮澤エレナ選手との闘いですっ!!あの試合は今でも忘れませんっ!互いの思いが激しくぶつかり合ってでも譲れなくて・・・・・私は・・・私は観ているだけで・・・・・」

 

「えっ!?ええっ!?ど、どうしたの?大丈夫?」

 

 

 

いきなり激しく語っていたかと思うといきなりボロボロと涙を流し始める絢音に目の前に居るさくらは慌てたようにはわはわとしている事しか出来ずにいた。

そんな2人を尻目に沙織はとある一枚の紙を机の上に出した。

 

 

 

「美咲、一応1週間後に決まったんだけど、内容はこんな感じでいいわよね」

 

「・・・確認するわ」

 

「交流戦と言うのも兼ねてちょっと面白い組み合わせにもしておいたわよ」

 

「この2人も因縁・・・か」

 

「どう?面白いでしょう」

 

 

 

置いてけぼりにされている2人も恐る恐ると紙の内容を確認しようとしたが、美咲はスッと懐に仕舞うと不敵な笑みを浮かべていた。

あまり見せない美咲のそんな表情にきょとんとして2人だが、絢音は手を挙げてから口を開いた。

 

 

 

「交流戦とは・・・ヴァルキュリアのメインイベントの1つで他団体と一緒に試合をする事ですよね」

 

「まぁ、名前の通りそうね」

 

「けど、ヴァルキュリアの交流戦ってメインイベントが特殊ですよね」

 

「・・・・・例えば?」

 

「お互いのエースとお互いのルーキーを組ませたタッグマッチ・・・とか」

 

「大・正・解♪」

 

 

 

オーバーリアクションで回答した沙織を横目にこの部屋にノックの音が響く。

扉が開くとそこにやって来たのは、御堂ヒカルと富咲ひばりが立っていた。

 

 

 

「お待たせしました」

 

「社長、お呼びですか?」

 

「役者が揃った!交流戦は、御堂ヒカル&豊田美咲ペアVS佐倉絢音&萩原さくらペアのタッグマッチで決まりねっ!!」

 

「そう言う訳だからお願いね?御堂さん」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

「「えええええっ!?」」

 

 

 

突然の事にも御堂&豊田ペアは平然と握手を交わしていた。

しかし、挑戦者とも言えるルーキーの2人は驚きと絶望にも聞こえるような声を出して2人で抱き合っていた。

こうして決定した事項は、外に群がる取材陣の前でも同じく宣言してしまった為に確定事項に変わってしまった。

 

 

 

 

 

取材陣も退去し、ベルセルクの2人が去った後にヴァルキュリアのメンバーが集合をかけられていた。

珍しく4つのユニットすべての招集でギスギスとした空気ではあったが、沙織は手を叩いてみせると静まり返っていた。

 

 

 

「1週間後にベルセルクと交流戦をするつもりだったんだけど、『雅』も混ぜろって言って来たからOK出しといたっ!!」

 

「・・・絢音」

 

「おほんっ!雅とは元ベルセルク所属だった真田 朱里(さなだ じゅり)さんが経営されている団体です!ベルセルクとは簡単に言えばライバル団体とも言われています」

 

「じゃあなんでそんな所が今回の件に食い付いて来たんだ?」

 

「社長の仕業よ」

 

「風斬さんっ!?」

 

 

 

霞と絢音がひそひそと話をしていたら割り込むように風香がメガネをくいっと上げてから溜め息をついていた。

 

 

 

「それと今回は特別ゲストとしてあのジャッカル東条さんも試合に出て貰えるのよねぇ~♪」

 

「社長さん・・・めっちゃ楽しそうなんだけど、ってお前もかよっ!?」

 

「そりゃあそうでしょっ!!あのシャングリラの世界チャンプとして名高い人物の1人であるジャッカル東条さんですよっ!?駿河さぁぁぁん!!」

 

「わ、わかったからオレに向かって唾を飛ばすなってのっ!!」

 

 

 

レス女の性質が出てしまって興奮したまま熱弁する絢音に燈華も抑えるのに必死であった。

すると社長はパチンッと指を鳴らすとひばりがとある用紙が貼られたホワイトボードを全員の前に出したのであった。

 

 

 

「ここに当日の対戦カードがあるわ!交流戦だからって気を抜いたらダメよ?胸を借りるつもりで全力勝負よっ!!」

 

 

 

言い終わると選手達はぞろぞろとホワイトボードに群がり始める。

まだ新人でもある3人組は先輩方がいなくなるのを待ってからホワイトボードへと近付いた。

3人がホワイトボードにある用紙を確認するとちゃんと3人の名前があった。

 

 

 

「・・・・・絢音、頑張れよ」

 

「駿河さん!もっと励ますとか応援してくれるとかないんですかっ!?」

 

「今までのお前を観てても相手はオレらん所のエースと向こうん所のエースだろう?・・・・・無理じゃん」

 

「もう!駿河さん!!なんとか言って下さいよ、玖珂さぁぁぁん!!」

 

 

 

2人がわちゃわちゃとしているのに気付かないくらいに真剣な表情でホワイトボードにある対戦相手の名前を見つめる霞。

いつもとは違う雰囲気に顔を見合わせて首を傾げる2人も同じくホワイトボードにある霞の対戦相手の名前を確認した。

 

 

 

「福岡萌・・・私達と同じ新人レスラーさんだったと思います」

 

「霞さん、何か気になるんっすか?」

 

「・・・・・舞幻流空手の高校部門世界チャンピオンだ」

 

「それって・・・玖珂さんよりも実力が上って事ですか?」

 

「それはわからないな・・・年齢も違うから大会でも対峙した事はないからな。しかし、後輩からは名前はよく聞いていたから一度手合わせしたいとは思っていた所だ」

 

「それにしても・・・やばそうなヤツっすね」

 

「これでも歳は絢音と一緒だからな」

 

「えええっ!?す、すごいですね」

 

「いや、オレからしたらお前の方がヤバいと思うよ?普通に」

 

 

 

などと騒いでいたらいつの間にか沙織が笑顔で横に立っていた。

 

 

 

「メインであるタッグマッチも楽しみにしているけれど、元舞幻流空手の世界チャンプと『黒き閃光』と呼ばれていた貴女の闘いにも興味があるから頑張りなさいよ」

 

「・・・黒き閃光?」

 

「アタシの空手時代の通り名だよ。・・・にしてもよく知っていましたね」

 

「自分の経営してる団体の選手の事ぐらいちゃんと把握してるわよぉ~♪それじゃあ頼んだわよぉ~」

 

 

 

霞の背中をバンバンと叩いた後にひらひら~と手を振りながら社長はこの場から去って行った。

 

 

 

「こりゃあ・・・意地でも負けられなくなったな」

 

「頑張って下さいっ!!玖珂さんっ!」

 

「お前も自分の心配した方がいいんじゃないか?絢音」

 

「そうでした・・・・・はぁ~」

 

「オレも個人戦は初だけどやってやるぜっ!!」

 

 

 

各々に気合を入れると1週間後に迎える交流戦に向けて調整と言う名のトレーニングを開始したのであった。



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交流戦開幕!!

交流戦、当日。

 

 

15000人も納まるはずの大和ドームは満員御礼。

交流戦と言うのもあり、ヴァルキュリアのお客層だけではなくベルセルクや雅に合わせてジャッカル東条を一目観たいというお客様が集まったのか会場はいつも以上に盛り上がっていた。

今回はダイジェストとばかりに少しばかり他の試合も紹介して行こうと思う。

 

 

 

 

 

この交流戦の初戦を飾ったのは・・・なんと。

 

 

ジャッカル東条 VS 狭霧千影。

 

 

しょっぱなからの好カードに会場は大いに盛り上がりを見せた。

世界チャンピオン対愚麗怒婁のリーダーと言う事もあり、試合は拮抗する程にもつれていた。

だが、その拮抗する試合を終わらせたのは意外な必殺技であった。

 

 

 

「これなら・・・どうっ!?」

 

「うあっ・・・ああぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

 

それは一瞬の出来事であった。

フォールを返したばかりの千影を捕らえた東条は、流れるようにボー・アンド・アローを綺麗に完成させたのだ。

それには流石の千影も苦しさと痛みが同時に押し寄せてくる事に悲鳴を出してしまう。

それでも意地とばかりにギブアップを言わない千影。

そんな彼女を試すように揺する様に持ち上げるたびに千影の悲鳴が会場全体に響き渡っていた。

 

 

 

「まだぁぁ・・・私は・・・負けられないぃぃぃ・・・」

 

「そう・・・これならどうかしら?」

 

 

 

有利だったはずなのに技を解いてしまう東条。

しかし、長時間拘束されていた千影に蓄積されていたダメージはデカく立ち上がる事は出来なかった。

 

 

 

「Go to Heaven!!!!」

 

「・・・・・かはっ!?」

 

 

 

倒れていた千影を軽々と持ち上げる東条の表情には嬉しそうな笑みがあった。

容赦なく放たれたジャッカルスーパーギャラクシーを受けた千影は脱力したように崩れ落ちた。

そのままフォールに入って見事に勝利をもぎ取ったのは、ジャッカル東条だった。

初戦とは思えない名勝負に会場からは両者を讃えるように拍手が耐えなかったのは言うまでもない。

 

 

 

「今日は良い試合だったわ!また機会があったら闘いましょう」

 

「次は・・・負けねぇから」

 

 

 

○ジャッカル東条 VS 狭霧千影×

 

 

26分42秒  ジャッカルスーパーギャラクシー

 

 

 

 

 

第2戦目。

 

 

駿河燈華 VS 鈴元千夏

 

 

初めての個人戦と言う事もあり、序盤は動きの硬さは目に見えていたとも言われている。

自分の行動が空回りする事も多く、千夏はそこを見逃さずに技を仕掛けていく。

ずっと千夏のターンで終わるかと思われた瞬間だった。

 

 

 

「駿河さぁぁぁん!!」

 

 

 

会場に響いたのはなんと絢音の声援であった。

騒がしいはずだったのに燈華の耳にはちゃんと仲間の声が聞こえて来たのだ。

同期の送ってくれた声援が・・・・・。

 

 

 

「うっしゃぁぁぁぁ!!!!」

 

「なんだコイツっ!?」

 

「吹っ切れたぜ、おらぁぁぁっ!!!!」

 

「なっ!?」

 

 

 

大声と共に先程までとは違う俊敏な動きに千夏は驚きを隠せずにいた。

得意とする空中殺法を前に千夏は対応出来ずに流れは一気に燈華にやって来た。

 

 

 

「これで最後だぁぁぁっ!!」

 

「ぐぅあぁ・・・!?」

 

 

最後の決め手は大技とも言えるトップロープからの雪崩式フランケンシュタイナー。

後半から息を吹き返した燈華を前に為す術もなく千夏はリングに沈んでしまう。

そのままフォールを決めて3カウントを手にして初勝利をゲットした燈華は嬉しそうに声援を飛ばしてくれた絢音に向かってVサインを送った。

それに対して満面の笑みで大きく手を振って返す絢音の姿があった。

 

 

 

○駿河燈華 VS 鈴元千夏×

 

 

12分23秒  雪崩式フランケンシュタイナー

 

 

 

 

 

第3戦目。

 

 

ライオネル神威&ブルーパンサー VS 真田朱里&ランブル美星

 

 

ベストパートナーを変えてのタッグマッチとなったこの試合。

会場のファン達はあまり見ないタッグの結成に盛り上がっていた。

力のライオネルと速(スピード)のブルーパンサーのペアは、即席にも関わらずに連携プレイを披露していた。

逆に真田&美星ペアは個人の特性を生かしてファンを奮い立たせていた。

 

 

 

「とりゃぁぁぁ~!!」

 

「んぶっ!?」

 

 

 

トップロープから顔面に目掛けて放たれたヒップアタックに成す術もなく直撃を受けたブルーパンサーはリングに倒れてしまう。

しかし、この攻撃はこれで終わりではなかった。

 

 

 

「すかさずの・・・ランブルヒップスターダスト~♪」

 

「かはっ・・・!?!?」

 

 

 

流れるようにコーナートップから華麗に飛び上がった美星は、仰向けに倒れているブルーパンサーの腹の上に尻を突き落とした。

高い位置からのかなりの衝撃に身体が少し浮くぐらいのダメージをもらったブルーパンサーはだらんと力が抜けてしまう。

チャンスとばかりにフォールに入ろうとしたが、カウント2辺りでライオネルのカットが入る。

だが、カットに来たライオネルを簡単には逃がさないとばかりに朱里がやって来るとツープラトン・ブレーンバスターを仕掛けようとしていた。

 

 

 

「ウガァァァァ!!!!」

 

「ヤバい・・・」

 

「嘘・・・でしょ?」

 

 

 

2人で持ち上げようとした瞬間だった。

ライオネルが吠えたのだ。

次の瞬間に浮かび上がっていたのは、仕掛けた2人の方だった。

強引に放り投げられた2人は、マットの上に倒れていた。

 

 

 

「ブルーパンサァァァ!!」

 

「は・・・はいっ!!」

 

 

 

ライオネルが名前を呼んだ瞬間にブルーパンサーは力強い返事と共に起き上がる。

すると2人は倒れている対戦相手2人を起こしたと思えば、アイコンタクトでもしたかのように2人同時にジャーマンスープレックスを放ったのだ。

息の合ったツープラトンに放った2人は笑っていた。

 

 

 

「決めろっ!」

 

「はいっ!!」

 

「・・・・・・っ!?!?」

 

 

 

倒れている朱里起こしてパワーボムで持ち上げたライオネル。

だが、これはツープラトン・・・コーナートップに現れたブルーパンサーはその持ち上げられている朱里に対して不知火を放ったのだ。

不知火とパワーボムでマットへの激突ダメージを増加させるツープラトンを受けた朱里は目を見開きあまりの衝撃に声すらも出せずにいた。

それが決めてとなり、3カウントを取ったライオネル神威&ブルーパンサーが勝利を飾った。

 

 

 

「ランブルよりも飲み込みが早いからこのコンビもいいかもなっ!!」

 

「浮気はよくないよ~」

 

「あははは・・・・・」

 

 

 

ライオネル神威      真田朱里×

         VS

○ブルーパンサー      ランブル美星

 

 

33分14秒   不知火パワーボム

 

 

 

 

 

そして、第4戦目。

格闘技界の2人がぶつかり合う。

 

 

玖珂霞  VS  福岡萌

 

 

真っ黒な胴着を羽織った霞と黄緑色の胴着を羽織った萌が対峙した。

つい最近まで空手と言う舞台にいた2人の闘いに観客は盛り上がりを見せていた。

 

 

 

「本日はよろしくお願いします!玖珂さん」

 

「手加減はしないぞ?」

 

「はい!私も全力で行きますっ!!」

 

「・・・上等」

 

 

 

開始のゴングと同時に2人は間合いを詰める。

それと同時に突き出される拳。

両者共に拳が頬をかすめると一旦様子見のように距離をあけた。

しかし、すかさずまた間合いを詰めると交互に正拳突きをボディに打ち合い始めたのだ。

根競べとも言えるぶつかり合いだったが、その均衡を破ったのは萌であった。

 

 

 

「ふんっ!たあぁぁぁっ!!」

 

「ぐっ!?」

 

「やあぁぁぁっ!!」

 

「がぁっ!?!?」

 

 

 

見えない速度の右ストレート。

それを顔面に見事に受けてしまった霞は蹲ってしまうが、そこに容赦なく蹴りが炸裂。

顔面に受けてしまった霞はリング上に仰向けに倒れてしまう。

そこにすかさずロープへと走った萌は、助走の力を借りてサンセットフリップをお見舞いしたのだ。

 

 

流れるようなコンビネーション技にされるがままだったが、霞はゆっくりと立ち上がると目の前で身構える萌に睨みをきかせた。

 

 

 

「倍にして・・・っ!!」

 

「うっ!?」

 

「返して・・・っ!!」

 

「あはっ!?」

 

「やるよぉぉぉっ!!」

 

「ぐうぅぅぅっ!?!?」

 

 

 

お返しとばかりに高速ローリングソバットをお腹に目掛けて放った。

萌は苦痛に表情を歪ませるが、その頭をがっちりと片脇で捕らえるとそのまま後ろに倒れこんでDDTをお見舞いしていた。

続け様にくる衝撃に落ち着く隙もなく、トップロープから飛んできた霞のダイビング・ボディプレスを受けてそのままフォールをされてしまう。

 

 

しかし、カウント2で返されると2人は立ち上がるとお互いに睨み合っている様にも見えたが、どことなくこの試合を楽しんでいるようにも見えた。

 

 

 

「やりますねぇ・・・玖珂さん」

 

「お互い様だろ」

 

「そうです・・・ねっ!!」

 

 

 

隙ありとばかりに飛び出した萌は得意技でもある卍固めを仕掛けようと間合いを詰める。

しかし、萌は気付いていなかったのだ。

この時に霞の利き足でもある右足が後ろに下がっていた事を・・・。

 

 

 

「チェストォォォッ!!!!」

 

「かはっ!?!?」

 

 

 

迎撃とばかりに放たれた延髄蹴りをまともに受けてしまった萌。

近寄ろうとしていた身体は糸が切れた人形のように崩れ落ちてしまいリングの上に沈んでしまった。

そのままフォールを決めた霞の勝利となり、夢の闘いに幕を閉じたのだった。

 

 

 

「大丈夫か?」

 

「平気っすよ・・・けど、私にはまた新しい目標が出来ました」

 

「なんだ?」

 

「玖珂さんにリベンジマッチで勝つ事っす!」

 

「返り討ちにしてやるよ!」

 

 

 

○玖珂霞  VS  福岡萌×

 

 

14分47秒  延髄蹴り

 

 

 

 

 

ここまでがメインイベントまでの試合となる。

しかし、まだ終わりではない。

今から始まるメインイベントに観客は今か今かと首を長くして待っているのであった。



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新星 VS 王者

リングの上にはメインイベントを迎えようとする4人の選手が向かい合っていた。

 

 

 

新星タッグVSエースタッグ 45分一本勝負

 

 

 

赤コーナーにはエースの2人・・・御堂ヒカル&豊田美咲ペア。

王者の風格とも言える雰囲気を漂わせている。

登場の際には大きな声援が会場を盛り上げていた。

演出なのか御堂が黒のマント、豊田が紫のマントを羽織って登場していた。

 

 

青コーナーにはルーキーの2人・・・佐倉絢音&萩原さくらペア。

緊張している雰囲気は滲み出ているが、2人共強い意思を持った目をしていた。

新人ではあるものの実力のある2人は人気もあり、声援が送られていた。

こちらは佐倉が赤のマント、萩原が白のマントを羽織っていた。

 

 

 

「本日はよろしくお願いします!!」

 

「元気があっていいわね。けど、手加減はなしだからね」

 

「望むところです!絢音ちゃん、頑張ろう♪」

 

「・・・楽しませてもらおう」

 

 

 

4人は試合前に握手を交わすとお互いのコーナーへと下がる。

マントを観客席の方に放り投げれば、4人の目には火が宿る。

最初にリングに残ったのは、絢音と美咲であった。

試合開始のゴングと共に2人は駆け寄り組み合った。

 

 

 

「この子・・・なんて子なのっ!?」

 

「うわぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

力比べのように押し合っていたのだが、美咲は気付いたのだ。

彼女・・・佐倉絢音は気付いていないのだ。

微動だにしない自分の姿に・・・。

 

 

力じゃ勝てないと察した美咲はフッと力を抜くと力を込めていた絢音はそのまま前のめりになって倒れ込んでしまう。

美咲はそのまま相手の上に座り込むとそのまま逆エビ固めを決めた。

 

 

 

「くうぅぅぅっ!!」

 

「動かないと・・・って、えええっ!?」

 

「なあぁっ!!」

 

 

 

小柄な身体から何処に力を秘めているのだろう。

上に美咲が乗っているのもお構いなしに匍匐前進でロープまで行くと一瞬にしてロープブレイクされてしまったのだ。

レフェリーから離された美咲は一度タッチをして入れ替わるとその間にルーキー達も入れ替わっており、今度はさくらとヒカルが円を描くようにお互いに警戒し合っていた。

 

 

 

「凄いプレッシャー!容易に近付けないっ!!」

 

「来ないなら・・・こっちから行かせてもらうっ!」

 

「うっ!?」

 

 

 

先手を打ったのは、ヒカル。

間合いを詰めて放った得意とするハイキック。

しかし、それを反射的なのだろうか腕で防いださくらは、その受けた攻撃の威力をつかい背後に跳んでいた。

だが、防いだその腕はいつの間にか掴まれてしまっており、さくらはそのままロープへと放り投げられた。

 

 

 

「速いっ!?で、でも・・・まだっ!!」

 

「シッ!!」

 

「あっ・・・かはっ!?!?」

 

 

 

ロープの勢いを使って技を仕掛けようとしたさくら。

しかし、待ち受けていたのは・・・キチンシンク。

見事に膝蹴りはさくらのボディを突き刺さった。

これには腹を抱えて悶えるしか出来ないさくら。

序盤にも関わらず容赦ないヒカルに絢音は生唾を飲み込んだ。

 

 

追い討ちを仕掛けないヒカルはそのままタッチをして美咲がさくらに歩み寄る。

まだ悶えるさくらの髪を掴んでゆっくりと起こす。

しかし、まだ先程のダメージが残っているのかふるふるとしているさくら。

大声で名前を叫び続ける絢音が背後にはみえる。

 

 

 

「貴女は休んでなさい」

 

「・・・えっ?」

 

「フンッ!!」

 

 

 

不意に聞こえた美咲の声に反応をした時には、さくらは青コーナーへと放り出されていた。

絢音は気付いておらずにすかさずタッチをするとさくらのお腹を撫でた後に笑顔でリングに飛び出す。

しかし、リング内に入った途端に全力で走り出した絢音は容赦なく突っ込んだ。

 

 

 

「ダアァァァァッ!!」

 

「んぷっ!?!?」

 

 

 

猪のように突進した絢音は肩口から相手の腹部目掛けてスピアーを放った。

かなりの衝撃だったのか吹っ飛ばされた美咲は腹部もだが後頭部から背中にかけてダメージを受けてしまった。

技を放った本人はリングに顔面から落ちてしまっており、受身の取り方もわからなかった所を見ると今の技はぶっつけ本番と言った所だろう。

 

 

2人は同時に起き上がると美咲が逆水平チョップを繰り出したのだ。

それを受けた絢音は歯を食いしばるように痛みに耐えるとお返しとばかりに逆水平チョップを返したのだ。

しかし、絢音の逆水平チョップの方がバッシーーーン!!と凄まじい音に会場が沸いた。

だが、美咲は歯を食いしばりながらも打ち返すと我慢比べのように意地の張り合いが始まった。

 

 

 

「・・・かはっ!?」

 

「もらいましたぁぁぁっ!!」

 

 

 

先に膝をついてしまったのは美咲だった。

その様子をチャンスと捉えた絢音はすぐさま間合いを詰めると軽々と美咲を持ち上げてそのままパワーボムに入ったのだ。

綺麗に決まったがカウントは2で返されてしまい、2人は仰向けになったまま動けずにいた。

 

 

しかし、2人とも自分達のコーナーに向かう。

先にタッチをしたのはベテランペア。

ヒカルがリングに戻って相手のコーナーの方に目をやるがそこに立つのは、絢音の姿であった。

察したように口元が緩むヒカルではあったが、一気に間合いを詰めていく。

 

 

 

「ふんっ!」

 

「あっ!?」

 

「はぁっ!」

 

「かはっ・・・!?」

 

「まだ終わらないよ・・・・・やあぁっ!!」

 

「・・・・・がはっ!?!?」

 

 

 

カチあげるように何度も放つエルボースマッシュ。

ロープを背に受ける絢音は逃げ場もなく、エルボースマッシュを受けてはロープに押し出されてまたエルボースマッシュを受け続けてしまい力尽きるように倒れ込みそうになる。

しかし、それをさせようとはせずにヒカルは絢音を担ぐとそのままコーナーポストに座らせた。

自身はセカンドロープに立つと雪崩式ブレーンバスターをお見舞いした。

 

 

無防備にマットの上に放り投げられた絢音はバウンドをするほどの威力を身体全体に受けてしまいぐだっとしてしまっていた。

しかし、それでもまだ決めようとしないヒカルは絢音を無理矢理起こした。

そのままの流れでブレーンバスターを仕掛けようとしたが・・・・・。

 

 

 

「なっ・・・・・!?」

 

「ふんっ!なぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

ヒカルは驚きを隠せなかった。

あんなにもダメージを受けていたはずなのに技を仕掛けようとしたヒカルは大木を相手にしているかのように微動だにしない絢音に固まってしまった。

その隙をつくようにブレーンバスターを返した絢音はすがる思いでさくらにタッチした。

 

 

リングに舞い戻ったさくらを待ち受けるのは、ヒカルの得意とするデスサイズが迫る。

しかし、それをしゃがんで回避したさくらは覚悟を決めたように得意技を放つ。

 

 

 

「さくらっ!・・・・・スペシャルッ!!」

 

「ぐっ・・・かはっ!?!?」

 

 

 

華麗な二段蹴り式のサマーソルトのさくらスペシャルを受けたヒカルはクリーンヒットを受けてしまい放物線を描くようにマットに大の字に倒れてしまう。

体調が戻ったのかさくらは素早い動きでトップコーナーに立つとすかさずフライング・ボディ・プレスを決める。

そのままフォールに入ったが、カウントは2.5で返されてしまう。

 

 

すぐに起き上がった2人は睨み合う。

先に動いたのは・・・さくら。

デスサイズのお返しとばかりさくらは、ダッシュからのジャンプで相手の胸元に脛を打ち込むレッグラリアットを放つ。

しかし、咄嗟にガードを成功させたヒカルではあるが勢いのある一撃にロープに押し飛ばされてしまう。

 

 

 

「やあぁぁぁっ!!」

 

「・・・・・っ!?!?」

 

「・・・しゃあっ!!」

 

 

 

ロープから返って来たヒカルを待っていたのは、打点の高いドロップキックが胸元を貫いた。

それをまともに受けたヒカルは目を見開くもそのまま衝撃と共に吹っ飛ばされてしまった。

今の技の感触に手ごたえを感じていたのか放ったさくらは大きな雄叫びをあげていた。

しかし、ダメージが蓄積されていたのか膝をついてしまう。

その間にタッチをしたヒカルはすかさず走り出すと待機していた絢音を吹き飛ばしたのだ。

そっちに注意が向いた瞬間に懐には美咲が潜り込んでいた。

 

 

 

「しまったっ!?」

 

「油断大敵よ」

 

 

 

すると反対側にはヒカルが潜り込むとそのまま高速ツープラトン・ブレーンバスターが決まった。

背中から腰に与えるダメージは相当なもので、痛みにもがくさくらだが美咲にフォールされてしまう。

カウント2.8でギリギリ返すことが出来たが、さくらは起き上がれそうもないのか美咲が髪を掴んでゆっくりと引き起こす。

 

 

 

「そろそろ後がないんじゃないかしら?」

 

「まだ・・・」

 

「その意気は認めるわっ!!」

 

「んぐっ!?・・・かはっ」

 

 

 

流れるように放たれたミサキスペシャル。

マットに叩きつけられたさくらはもう身動き出来ないぐらいになってしまっており、大の字で天を仰ぐ事しか出来ずにいた。

美咲は無防備に倒れ込む相手に一撃を放つべくトップロープ上から跳躍してダイビング・ボディプレスを決行した。

身動きもとれないさくらは成す術もない・・・そう思った刹那・・・。

 

 

 

「さくらさぁぁぁんっ!!!!」

 

「・・・・・っ!!」

 

「・・・あがっ!?」

 

 

 

絢音の名前を呼ぶ声に反応して膝を曲げた。

まさかの反応に膝が腹部にめり込んだ美咲は、身動きも出来ないのか蹲ってしまう。

そのチャンスにさくらは歯を食いしばってロープに手を伸ばすとふらふらになりながらも立ち上がる。

すると目の前には必死に手を伸ばす絢音の姿が迎える。

 

 

 

「・・・お願いします」

 

「はいっ!!」

 

 

 

気合のスイッチが入ったのか両頬をパンッと叩いた後に勢いよくリングの中へとやって来ると中には苦痛に表情を歪ませる美咲がいた。

 

 

 

「うんりゃぁぁぁっ!!」

 

「あっ!・・・あぁ・・・・・んんっ」

 

「せいっ!!」

 

「ぶふっ・・・!?」

 

 

 

すかさず美咲をアルゼンチン・バックブリーカーで苦しめるのかと思ったが、そこから相手を空中反転させるとパワーボムで勢い良く叩きつけたのだ。

その豪快な力技には会場からも歓声があがるほどであった。

そのままフォールに入るが、カウントは2.8で返されてしまう。

ゆらりと起き上がる2人はいがみ合うように間合いを取る。

 

 

しかし、その空気を破るように鳴り響いたのはゴングであった。

このゴングは試合終了の合図であり、結果は引き分けと言う形での幕引きになってしまった。

しかし、会場からは鳴り止まぬほどの拍手と歓声が続いていた。

 

 

「終わっ・・・た?」

 

「大丈夫?」

 

「は、はい・・・・・」

 

 

 

 

緊張の糸が切れたのかへたれこむ絢音。

それを見た美咲は前屈みになって手を差し伸べる。

その手を取った絢音はその手を掴むとゆっくりと立ち上がる。

 

 

するとさくらとヒカルもリング中央に集まると4人は手を繋ぐと観客に答えていた。

 

 

 

「豊田さん・・・あの2人はもしかして・・・・・」

 

「気付いてないと思うわ・・・自分達の持つ本当の力を・・・」

 

「うかうかしていられないですね」

 

「そうね・・・今後の成長に期待・・・かしらね」

 

 

 

先にリングを降りたエース2人組は今回の試合で気付いたのかどことなく嬉しそうに話し合っていた。

しかし、なにも知らない新星2人組は、リングの上でずっと来てくれた観客に手を振り続けていたのであった。



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夏休みの1コマ

季節は夏。

 

 

ヴァルキュリアのメンバーも夏休みと言う名の1週間の休暇をもらっていた。

帰省する者、休暇を満喫する者、トレーニングに励む者・・・色々である。

そんなヴァルキュリアの入り口の前に1人の女性が立っていた。

月刊ヴィーナスの新人の高嶺智枝だ。

 

 

 

「先輩から行って来いって言われたけど、1人で大丈夫なのかな?」

 

 

 

額の上を流れる汗をハンカチで拭いながら腕時計を確認する。

予定時刻より10分も早く到着した智枝は恐る恐るノックをした後にヴァルキュリアの扉を開ける。

するとトレーニングをしていた選手達は手を止めて急に現れた来訪者に視線を向ける。

慣れていないのか自分に向けられる視線に挙動不審になる智枝であったが、そんな彼女に1人の選手が近寄って来た。

大空ゆかなであった。

 

 

 

「どちら様ですか?」

 

「え、えっと・・・月刊ヴィーナスの高嶺智枝と申します!宮永社長はいらっしゃいますか?」

 

「あっ!!その件なら聞いてます。社長なら社長室に居ると思いますのでご案内しますね」

 

「は、はい!ありがとうございます!!」

 

 

 

名刺を受け取ったゆかなは思い出したようにぽんっと手を叩いてみせると自分のタオルと飲料ボトルを手に取ると小休憩をはさんだ後に2人は社長室へと歩き出した。

初めての訪問なのかそわそわと周りを見ていた。

 

 

 

「高嶺さんは今回が初めてですか?」

 

「はい!今回からヴァルキュリアの担当になったんで、これからは何度もお邪魔するかもしれませんので・・・」

 

「そうなんですね、うちの社長はお優しい方なので緊張なさらずとも大丈夫だと思いますよ?」

 

「あはは・・・そう言って頂けるとちょっと安心します」

 

「ここに社長がいらっしゃいます・・・社長、よろしいですか?」

 

「は~い、どうぞ~」

 

 

 

ノックをしたら部屋の中から返事が返って来たので部屋の扉を開けるとそこには2人の女性がいた。

椅子に腰を掛けている女性はにやにやとした雰囲気で笑っていた。

その横に立つ女性はお辞儀をして入ってきた高嶺を歓迎する。

 

 

 

「いらっしゃい!貴女が月刊ヴィーナスの新人さんね?」

 

「あっ、はい!本日から担当になりました、高嶺智枝と申します!!」

 

「硬いっ!!すっごく硬いよl!!もうリラックスしちゃいなよぉ~♪」

 

「社長、初見での激しいスキンシップはどうかと思いますが・・・・・」

 

「そ、そうだよねぇ~・・・・・」

 

 

 

飛びつこうとした沙織の手をがしっと掴んだひばりが念を押すように忠告すると沙織は引きつった笑みを浮かべてからソファに座った。

その2人のやり取りに苦笑いを浮かべているとひばりが対面のソファを勧めた。

 

 

 

「あ、あの・・・本題に入らせてもらっても大丈夫ですか?」

 

「仕事熱心だねぇ~・・・なんでもどうぞ♪」

 

「それでは・・・今回のSummerVenusWestの出場選手に関してです」

 

 

 

SummerVenusWest・・・通称SVW。

夏の定番となっている西日本の女子プロレスラーが集まっての祭典。

今回で5回目となるのだが、色んな選手が集合すると言う事もあり世間は出場選手に注目しているのだ。

それをいち早く掲載させているのが毎回月刊ヴィーナスの仕事である為に今回やって来た理由である。

 

 

 

「そうね・・・今の所予定しているのは、ライオネル神威・ランブル美星・風斬風香・セイレーン・歌彩優奈の5人かな?」

 

「御堂選手は参加されないんでしょうか?」

 

「ヒカルはとある事情で参加出来ないからそこは内密にお願いね?」

 

「か、畏まりました・・・・・」

 

「あと、特別枠には佐倉絢音を予定してるわね」

 

「あっ!そうなんですねっ!!」

 

 

 

急に大声を出して前のめりになった自分にハッとしたように顔を真っ赤にする俯く智枝。

そんな反応に2人は顔を見合わせるも沙織は腕を組んでから口を開く。

 

 

 

「彼女は一番の注目株ね!まだ1年目なのに面白い娘なのよね~♪」

 

「・・・あの、その佐倉選手はいらっしゃいますか?」

 

「絢音ちゃんは夏休みを与えたらすぐに帰省されていて実家にある農業をお手伝いされています」

 

「農業・・・ですか?」

 

「そっ!いつもこの時期は実家のお手伝いをしている偉い娘なの。私も久し振りに帰ってみようかしら」

 

 

 

などと話が脱線してしまったが、智枝は質問を口にする。

 

 

 

「私、まだあまりSVWの内容を詳しく聞かされていなくて教えて貰っても大丈夫ですか?」

 

「もう・・・ちゃんと内容も把握してから仕事を受けなさいよ?そんなんじゃ一人前の記者になれないわよ」

 

「・・・恐縮です」

 

「まぁいいわ・・・基本的にみんなタッグ戦で戦い続けてもらうんだけど、1つだけ特殊なルールがあって毎回パートナーはチェンジして戦うの」

 

「毎回・・・ですか?」

 

「だから一緒に戦ったタッグパートナーが敵になる事もあるわね・・・まぁ、決勝戦は確実にそうなってしまうわね」

 

「ドリームタッグ戦ですか・・・楽しいイベントですね♪」

 

「後は、試合以外にファンイベントがあったりする3日間のお祭りね」

 

 

 

と話が終わったと同時にひばりがとある大きめの封筒を手渡す。

 

 

 

「コレは・・・?」

 

「今回の詳しい内容をまとめた資料です。本日はこれを受け取るのは聞いてませんでしたか?」

 

「・・・・・あっ」

 

「ふふっ・・・やっぱ面白いねっ!智枝ちゃ~ん♪また機会があったら存分に語り合おう♪」

 

「はいっ!!本日はありがとうございます!!」

 

 

 

大きめの封筒を受け取ったと同時に満面の笑顔でお辞儀をした智枝は社長室を後にしたのであった。

そして、残された2人はひばりが淹れたコーヒーを口にしていた。

 

 

 

「社長・・・この件は伝えているんですか?」

 

「んっ?誰に?」

 

「絢音ちゃんにです」

 

「・・・・・まだ」

 

「はぁ・・・・・早急にお願いします」

 

「わ、わかってるよっ!!」

 

 

 

ひばりの鬼のような形相を目にした沙織はすぐさま絢音に今回の件を話した。

それを受けた絢音の反応は、大声を出して驚いた模様で沙織は受話器を一度離して苦笑いを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

そして・・・SVW開催の日は始まりを告げる。

 



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開催!SummerVenusWest♪

「夏と言えば・・・・・」

 

「「海っ!!」」

 

「強き乙女は・・・・・」

 

「「私達っ!!」」

 

「サマーっ!」

 

「ヴィィィナス!!」

 

「ウェストォォォォォ!!!!」

 

 

 

会場前で騒ぐランブル美星、歌彩優奈、佐倉絢音。

それをスマホで動画に収めているライオネル神威。

そんな光景を目の前に風斬風香は呆れた素振りを見せていた。

よく見れば、絢音の体はこんがりと日焼けで小麦肌になっていた。

 

 

SVW1日目。

まだ開演より早い段階で今回参加するメンバーだけ準備もある為にやって来ていた。

他にもぞくぞくと選手は会場に入っていた。

関西での大きなイベントと言う事もあり、若手からベテランまでよりどりみどりである。

 

 

 

「あぁぁっ!?!?」

 

「どったの?絢音ちゃ~ん」

 

「て、てて、天鳳院ほむらさんですよっ!!」

 

「んっ?ほむほむちゃ~ん♪」

 

「いぃっ!?!?」

 

 

 

自然とあだ名を口にして手を振る美星。

そんな彼女の姿に絢音は、はわはわしたように震えていた。

しかし、向こうも気付いたのか笑顔で返したのだ。

そのやり取りに驚愕した絢音は固まってしまう。

 

 

 

「神威さん!絢音ちゃん固まっちゃいましたよ?」

 

「あっはっはっ!駿河の言う通りだねぇ~♪レス女のあの子には衝撃が強そうだねぇ~」

 

「本当に絢音ちゃんは女子プロレスラーが大好きなんですね」

 

 

 

などと会話していたライオネルと優奈だったが、固まってしまっている絢音の元にとある人物がやって来た。

 

 

 

「お前、もしかして・・・・・佐倉絢音か?」

 

「・・・はい・・・・・って、うえぇっ!?」

 

「おぉい、驚き過ぎだぜ?あたいは化け物かなにかか?」

 

 

 

名前を呼ばれて振り返ったが、目の前に居る相手を確認した瞬間に心臓が飛び出そうな声が出てしまった。

そんな反応に対して笑いながら絢音の背中をバンバンと叩いてくる人物。

そう・・・彼女こそ注目選手でもある伊里内 真選手であったのだ。

 

 

 

「ち、違いますっ!伊里内選手に会えるのが嬉しくてですね・・・・・」

 

「そう言う事か!あたいもお前に会うの楽しみにしてたんだぜ?」

 

「ど、どど、どうしてですか?」

 

「それは・・・闘う為に決まってるだろう」

 

「・・・・・すみません、私・・・特別枠なんです」

 

「・・・マジかよ」

 

 

 

特別枠・・・それは本戦ではなく、会場で開催されているイベントやらを盛り上げたりする言わば、イベントコンパニオンみたいな枠なのである。

基本的に新人が選ばれる事が多い為に今回は絢音が選ばれてしまったと言う事である。

 

 

 

「お~い!ライオネル!!どうにかなんねぇのか?」

 

「アタシに言われても知らねぇさ!」

 

「かあぁぁぁっ!!お前ん所の社長はなに考えてんだよっ!こんなに面白いヤツを本戦に出さないなんてよ」

 

「最近あの娘試合出っぱなしだったから息抜きだって聞いたよ~ん♪」

 

「それでも最終日にあるエキシビジョンマッチならチャンスがあるんじゃないかい?アレは確かファン投票で6人選ばれるんじゃなかったかい?」

 

「それだっ!!」

 

 

 

と叫んだ真は嬉しそうに絢音の頭をくしゃくしゃと撫で回した後に少し上機嫌になって走っていった。

 

 

 

「まこっちゃんっていつも風のように来ては風のように去って行くよねぇ~」

 

「あのバカ・・・本戦があるの忘れてないかね」

 

「・・・大丈夫だと思いますよ」

 

「じゃっ!絢音ちゃ~ん♪行ってくるよ~ん!!」

 

「はい!皆さん、頑張って来て下さい♪」

 

 

 

本戦に出場する選手達とは控え室が違うのか絢音は大きく手を振って見送った。

ぽつんと残された絢音。

よく考えると1人で行動をするのはプロになってから初めてのような気がする。

 

 

きょろきょろ見渡しながらも展示されている進路を信じて進んで行くとたくさんの選手が集まっているのが見えた。

絢音もこそこそと奥に進んで行くと1日目の日程が提示されていた。

だが、絢音は今日の仕事内容に嬉しい気持ち反面、ド緊張の半分で心臓が高鳴っていた。

その内容が・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

『対決!覆面レスラーVS正義レスラー』

 

 

 

と言う題名のイベントなのだが、絢音は用意された衣装とマスクを装着していたのだ。

なんと覆面レスラー側に抜擢されてしまった絢音だったのだが、それだけではなくこの試合は3VS3。

横では同じ陣営の選手が2名控えていた。

 

 

 

「なに?私になにか用?」

 

「いやいや!本日は一緒に戦える事に・・・う、嬉しく思っていまして・・・・・」

 

「そう・・・変わった娘だ。私と一緒に試合したいなんて娘はかなり珍しい」

 

 

 

十六夜 美響(いざよい ひびき)。

偶然なのかどうかは不明だが、居るだけで周囲に災厄を振りまいてしまうという不思議な体質を持つと言われている。

試合においては、その災厄を相手に叩き付けるというパワーファイトを得意とするヒールレスラーとして活躍されている。

 

 

 

「まぁ、そんなに緊張しぃなや!佐倉ちゃ~ん♪うちがズバっとかっこようやってズババっと決めたるさかいに!なっ?」

 

「は、はいっ!!」

 

 

 

洌崎 薫子(すざき かおるこ)。

浪速のスピードスターとしてスピードを得意とするレスラーである。

あの風斬風香を降して関西Jrチャンピオンの称号を手にした人物。

浪速道!に所属するレスラーである。

 

 

 

「貴女達・・・準備はどう?」

 

「まかせとけやっ!災厄のねぇちゃん!!うちがおったら百人力やで!!」

 

「そうみたいだけど、もう一人は大丈夫かしら」

 

「・・・・・っ!!いけますっ!!」

 

「・・・頼もしい顔立ちね」

 

 

 

そんな2人とチームを組めるだけでも嬉しくて緊張で死にそうな絢音だったが、顔を思いっきり引っ叩いて気合を入れると対戦相手の待つリングへと歩いて行った。

するとリング上には、やる気マンマンのように見える3人が待ち構えていた。

 

 

 

 

 

「・・・・・来たか」

 

 

 

中森 あずみ。

リング上での闘いを仕事と割り切るその態度は、「リングの仕事人」と称される。

ワールド女子プロレスに所属するベテランレスラーである。

 

 

 

「特別枠と聞いていたが、よもやこのような余興に参加出来るとは・・・」

 

 

 

ロイヤル 北条。

元フェンシングの選手で、さらなる強敵を求めてプロレスに転向して来たと言う実績の持ち主。

あずみとも交流があり、良きタッグパートナーである。

 

 

 

「・・・・・大先輩の2人の足を引っ張らないようにしなくちゃ」

 

 

 

一文字 倖兎(いちもんじ ゆきと)。

元・自衛隊出身でオールラウンダーを得意とする。

レスラーとしてはデビュー仕立てで、絢音とは同期にあたる。

Dream☆Paradiseに所属するレスラーである。

 

 

 

両者3人同士が対峙するのだが、絢音側陣営は全員覆面を装備していて素顔はわからない状態ではある。

レフェリーがこの試合の内容を説明するが、試合ルールは無制限の1本勝負。

どちらが勝とうが問題ないと言う事だ。

すると美響はマイクを手にしたかと思うとこう口にしたのだ。

 

 

 

「正義レスラーの皆様に本日は敗北を献上しましょう♪」

 

 

 

その言葉に相手の3人の鋭い目つきが美響に集まる。

しかし、ヒールレスラーでもある彼女はその視線に対してもいやらしく手招きをして挑発を続けた。

自コーナーに戻って来た美響は、2人の頭を撫でると口端を上げる。

 

 

 

「こう言う盛り上げ方は嫌いだった?」

 

「かまへん、かまへん!向こうの方が実力的に上なんわ解ってたんや!アレぐらいかましたって大丈夫やっ!!」

 

「・・・・・大丈夫です」

 

「一番手・・・任せるわ」

 

「いっちょ派手にかましたれっ!!佐倉ちゃ~ん♪」

 

「全力で行きますっ!!」

 

 

 

ゴングが鳴ったと同時に絢音は走り出した。

向こうの一番手はあずみだ。

リング中央で2人は捨て身のタックルがぶつかり合う。

 

 

 

「なっ!?」

 

 

 

尻餅をついたのは、あずみだった。

呆気にとられている間にも絢音はロープに向かって反動を使って加速すれば、尻餅をしているあずみに低空ドロップキックを放ったのだ。

それを受けて転がるようにリングの外に出されたあずみ。

しかし、まだ絢音の攻撃が終わりを告げた訳ではなかったのだ。

 

 

 

「りゃあぁぁぁっ!!」

 

「んぐっ!?」

 

 

 

リング下にいるあずみが落とした相手の方を見た途端にその人物はロープを掴み、反動を利用してジャンプし

てくると場外にいるあずみにボディアタックを仕掛けてきたのだ。

このスピーディーな展開に翻弄されて下敷きになるあずみ。

しかし、あずみはすぐに抜け出すとまだ横たわる絢音を引き起こす。

 

 

 

「やって・・・くれたなっ!」

 

「かはっ!!」

 

 

 

お返しとばかりにリング下で軽々とキャプチュードをお見舞いされた絢音。

マットが1枚敷かれているだけという事もあるのかかなりの衝撃を受けたのが表情を見ただけでもわかる。

技を仕掛けたあずみは追い討ちをする事はせずにリングに絢音を転がすように戻すと自分はタッチした。

すると今度リングに入って来たのは、倖兎だった。

 

 

 

「敵ながら見事な動きだが、手加減はしないっ!!」

 

「私も・・・ですっ!!」

 

「んんっ!!」

 

 

 

ロープに振られた絢音ではあったが、反動で加速をつけるとそのままJネックブリーカーを綺麗に倖兎に放った。

急な一撃に防御も間に合わなかった倖兎はモロに直撃を受けてリング中央に倒れてしまう。

その隙にタッチをした絢音だったが、もう交代相手はトップコーナーに立っていた。

 

 

 

「スカァァァイ!ハァァァァイ!!!!」

 

「がはっ!!」

 

 

 

大声と共に飛び出した薫子の体は起き上がろうとした倖兎をプレスするように綺麗に決まった。

絢音は同期の飛び技を目にした事は数多かったが、他の団体の技を目にして胸が躍っていた。

そのワクワクした表情の彼女を横目に美響は少し嬉しげな感情が出ていた。

 

 

 

「おらおら!いつまで寝とんねんっ!次、行くでぇ~!!」

 

「そう・・・何度もっ!!」

 

「遅いでぇ~!!」

 

 

 

倖兎を無理矢理起こしてロープに走らせるが、倖兎も絢音のようにラリアットを狙いに行くも下を潜り抜けた薫子はそのままエプロンサイドに飛び出るとすぐさまトップロープに飛び乗りロープの反動を使って倖兎に飛び掛るのであった。

 

 

 

「スワンダイブ式フランケンシュタイナーやぁ~!!」

 

「あはぁっ!!」

 

 

 

目で追うのも難しい早業に成す術もなく放り投げられた倖兎はリング中央で仰向けになって倒れたまま動けずにいた。

技を決めた薫子はと言うと観客からの歓声を浴びるように両手を広げてアピールをしていた。

しかし、不意に手を出す美響に気付いたのか心地良くタッチすると今度は美響がリングの中へと出向く。

リングに入るも身動きしない美響にチャンスとばかり陣営に戻った倖兎は北条とタッチをした。

 

 

 

「随分と余裕だな」

 

「弱い者いじめは興味ないから」

 

「・・・フンッ!」

 

「くっ・・・力比べなら受けて立ちます!」

 

 

 

リング中央で睨み合う2人。

先に攻撃を仕掛けたのは、掌底を放った北条。

一瞬衝撃で後退る美響だが、お返しとばかりに逆水平チョップを放つ。

 

 

 

「うっ・・・らあっ!」

 

「ぐっ!・・・しぃっ!!」

 

「がぁっ!・・・はぁぁっ!」

 

「かはっ!?」

 

「たあぁぁっ!!」

 

「うぅっ!!」

 

 

北条のエルボー、美響のJ・ニーパッド。

互いの攻撃がぶつかり合う最中北条はここぞとばかりに美響の腹部に下から突き上げるような膝蹴り・・・ニーリフトを放ったのだ。

突如とした一撃に崩れそうになる美響だが、北条はそのまま畳み掛けるようにダブルアーム・スープレックスで美響を放り投げたのだ。

 

 

 

「まだっ!」

 

「続けては・・・受けないっ!」

 

「あぁっ・・・」

 

 

 

休ませないように畳み掛けようと駆け寄る北条。

しかし、美響はもう臨戦態勢に入っていて鋭い延髄蹴りが迎撃とばかりに炸裂する。

油断はしていなかったものの素早い対応に攻撃を受けた北条は崩れ落ちる。

うつ伏せに倒れる相手を仰向けにしてフォールに入る美響だが、カウント2.5であずさがカットに入る。

 

 

 

「簡単に・・・逃がすかいなっ!!」

 

「うっ!!」

 

 

 

自陣へ戻ろうとしていたあずさの背中に強烈なミサイルキックを放つ薫子。

自陣から相手陣までかなりあると言うのに軽々とトップロープの反動を使い、あずさをリング下へと吹っ飛ばす事に成功する。

すると薫子は美響の方を見てからグッドサインをすれば、絢音に向かって急かす様に手招きをする。

 

 

 

「派手に行けやぁ~佐倉ちゃ~ん♪」

 

「い、いい、いきまぁぁぁぁす!!」

 

 

 

そう言った2人は勢い良くエプロンを疾走するとリング下にいる相手の2人に目掛けてトペ・コンヒーロを放ったのだ。

まさかのユニゾンアタックに会場は盛り上がりを見せるとリング上でも動きがあった。

 

 

 

「災厄の恐ろしさ味わいなさいっ!!」

 

「かはっ!?!?」

 

 

 

北条の喉元を片手で正面からつかみ、もう片方の腕を添えてそのまま相手を上方へ持ち上げていた美響は勢い良く北条を背面からマットに落とした・・・これが彼女の得意とする必殺技『災厄降臨』である。

いつもより長く持ち上げられていたのか苦しんでいる間にもまだ攻撃は終わらない。

 

 

 

「これで落ちなさいっ!!」

 

「・・・・・・・・・・っ!?!?」

 

 

 

まだ意識もはっきりとしない相手を持ち上げると仕上げとばかりにライガーボムをリング中央で放った。

そのままレフェリーがカウントに入るも北条は身動きすら出来ずに3カウントを取られてしまう。

美響が解放すれば、倒れたまま動けずにいた。

試合終了のアナウンスが鳴れば、歓声と共にリング下に居た2人も嬉しそうにやって来た。

 

 

 

「早い決着やったのぉ~まぁ今日はあんさんらに会えたから良かったわ!」

 

「私も楽しめたわ。また一緒に遊びましょうね?」

 

「は、はい!!あのサイン貰ってもいいですか!!」

 

「ええでぇ~♪うちのサインで良かったらバンバン書いたるわ!」

 

「別に構わないわ」

 

「あ、ありがとうございますぅぅぅ!!」

 

 

 

試合後記念写真と言う事で覆面を外した姿で舞台裏で撮影会があった。

美響を真ん中に2人を両脇に抱くように撮ったのだが、絢音は嬉しさのあまりずっと号泣してたとかしてないとか・・・・・。

しかし、まだ絢音は気付いていなかったのだ。このイベントがまだ第1部と書かれている事に・・・・・。

 

 

 

 



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水着で闘う女神達

「もぐもぐ・・・ふがっふがっ!!」

 

「佐倉さん、そんなに食べると後々しんどくなりますよ?」

 

「それよりもセイレーンさんはどうしたんですか?」

 

「アイツならどっかにいるんじゃないかい?昔から集団行動はしない人間だからねぇ~」

 

「そぼぉ・・・なぼがおぉいどごろがいいんでふよっ!!」

 

「絢音ちゃ~ん食べながらだとなに言ってるかわからないよ~」

 

 

 

焼きそば、焼き鳥、焼きとうもろこしと色々なモノを頬張る絢音。

そんな姿にヴァルキュリアのメンバーは屋台ではしゃぐ子供を連想していたとかないとか。

 

 

 

「にしても、息抜きと聞いていたのに特別枠は試合の形式はバラバラですが多忙ですね」

 

「そうだね~まぁ、当の本人は嬉しそうだけどねぇ~」

 

「さっき参加したイベントの選手の皆様からサインを貰えたんですよっ!!凄くないですかっ!?」

 

「絢音ちゃん!目が怖いから落ち着いてっ!ねっ!ねっ!!」

 

「・・・・・そのようですね」

 

 

 

必死になってサインの書かれた色紙を優奈に披露する絢音。

グイグイと迫り来る絢音に対してたじたじになる優奈だが、周りはあえて止めずに見守っていた。

しかし、絢音はハッとしたように我に返ると思い出したように口を開く。

 

 

 

「皆さん、本戦はどうだったんですか?」

 

「アタシはちゃんと一回戦は通過さね!」

 

「毎回タッグが別々なのは辛いのよね~アタシも通過出来たよ~」

 

「即席タッグなのでコンビネーションを組むのも容易ではないですからね、私も通過してます」

 

「本当に・・・私もギリギリでした」

 

「セイレーンは言わずとも通過だからみんな一回戦は通過だねぇ~」

 

 

 

その言葉を聞いてホッとしたような表情を浮かべる絢音。

 

 

 

「でも、次の組み合わせもタッグパートナーもわかってないんですよね?」

 

「いや、タッグパートナーはもう伝えられているんだけど組み合わせは今頃決まってるんじゃないかしら?」

 

「本当にこのSVWのバトルシステムは凄いですよね!毎回違うパートナーだし、次にどのタッグと当たるのかもわからないランダム性!観てる分ならワクワクします!!」

 

「まぁね・・・それを狙って開催されてるみたいなもんだからねぇ~5回目でもあるから慣れちまったさ!」

 

「でも~特別枠も色々とやってるよねぇ~午後からはなにやるの~?」

 

「えっと・・・水着でハラハラ水上リングバトル!!だそうです」

 

 

 

絢音の口から聞こえたフレーズにピクっと反応した風香。

それに気付いてにやっと笑うライオネルと美星。

いつもSVWしか観戦していなかった絢音は首を傾げて不思議そうにしていたが、午後のイベント会場に辿り着くと色んな意味で気付かされた。

 

 

 

 

 

「こう言うことだったんだ・・・・・」

 

 

 

炎天下の日差しを浴びる海の上に特設リングが用意されていた。

絢音は4つあるコーナーポストの1つの前に立っていた。

しかし、服装はリング衣装などではなくて白色のスクール水着である。

噂ではあるが、去年は風香が社長に騙されて出場させられたとか・・・。

 

 

 

「それにしても・・・・・」

 

 

 

絢音はチラッと他のコーナーポストに居る選手に目をやる。

 

 

幹島 早苗(みきしま さなえ)。

鰐淵 キアラ(わにぶち きあら)。

神童寺 司(しんどうじ つかさ)。

 

 

他の3人も絢音と同じく同期となるルーキー。

実力も未知数である雰囲気に唾を飲み込む。

しかし、試合が始まろうとする中で1人の女性が手を挙げる。

 

 

 

「あの・・・水着が小さいのか・・・かなり苦しいんですけど・・・・・」

 

 

 

そう言ったのは早苗である。

確かにずっともじもじしているからあまり確認は出来なかったが、高身長でボンッ!キュッ!ボンッ!!とナイスボディの彼女にはサイズが合ってないような気がした。

あの『生物災害』で有名な大空みぎりさんを意識させる気配を感じる。

絢音はスタイルを目にした後に自分の胸を撫でるが悲しくなりそうだったのでそれ以上はなにも考えずにいた。

 

 

女性スタッフがやって来て待ちぼうけをくらう3人。

絢音はその間に素足での感触や水飛沫で滑りやすくなっているリングの確認をしていた。

女性スタッフがいなくなったが、水着が変わってない事に気付くとアレが一番大きいサイズなのだと絢音は理解する。

そして、試合開始のゴングが鳴り響く。

 

 

 

「こう言う試合慣れてないからどうしたらいいんだろう」

 

 

 

今回の試合は3カウントを勝ち取る闘いではなく、リング外の海に落として行き最後に残った者が勝者になるシステムである。

だから上手く立ち回りが思いつかない絢音はあたふたするしかなかった。

だが、最初に動いたのはキアラだった。

 

 

 

「図体がデカいからっていい気になるなよっ!!」

 

 

勢いに任せてのドロップキック。

しかし、両腕でガードしていた早苗は仕掛けて来ていたキアラを逃がさない。

 

 

 

「掴まえました」

 

「なぁっ!?」

 

「えいっ!!」

 

「かはっ!?!?」

 

 

 

デカい図体だからと油断していたのかキアラは軽々と持ち上げられる。

そして、驚くよりも早くに投げ捨てるように叩きつけられるとキアラは苦痛と共にリングの上で悶える。

などと繰り広げられる試合展開にうつつを抜かしていると絢音の体に衝撃が走るのが伝わる。

 

 

 

「油断は駄目よ」

 

「ぐっ!?!?」

 

「しばらく寝てなさい」

 

「がぁっ!!」

 

 

 

胸の中心を貫くような掌底。

その一撃で一瞬呼吸が止まりそうになったが、フロントヘッドロックで固められた絢音は動けずにいた。

司は素早い動きでコーナーポストを利用したスイング式DDTを放った。

絢音はあまりの衝撃に青空を仰ぐように仰向けで動けずにいた。

 

 

 

「先に倒すのは・・・あの女」

 

「んんっ!!」

 

 

 

不意打ちとばかりに横から飛びつく司。

いきなりの出来事に反応出来なかったが、即座に引き離そうとした。

しかし・・・・・。

 

 

 

「もらった」

 

「ぐぅっ!!」

 

 

 

引き剥がそうと手を出した瞬間、司はそれを見逃さずに捕らえた。

そのまま片手を掴んだまま腕と首を巻き込んでいき三角絞めを繰り出す。

これには早苗も膝を付いて苦しそうに耐えていた。

じわじわと締め上げていく流れだったが、不意にその拘束が外れてしまった。

 

 

 

「(汗と水飛沫のせいで・・・滑ったっ!?!?)」

 

「逃がさ・・・ないっ!!」

 

「あぁっ!がぁぁぁっ!?!?」

 

 

 

早苗は拘束状態が解けた瞬間に司を捕まえるとそのまま持ち上げる。

軽々とアルゼンチン・バックブリーカーを極める。

それには司も苦しさのあまり叫んでしまう。

 

 

 

「アイツが囮になってる間にアタシはもう一人のヤツを・・・・・」

 

「そうは行きませんっ!!」

 

「なっ!?!?がぁぁぁっ!!」

 

 

 

一瞬だった。

視界が揺らいだ時にはキアラは投げられていた。

いつの間にか背後に待機していたのか低空式ジャーマン・スープレックスを放ったのだ。

スピードのある一撃に受けたキアラは衝撃にのたうち回る。

 

 

すると横では早苗がアルゼンチン・バックブリーカーからそのまま地面に投げつけたのだ。

ギブアップも許されずに苦痛を耐え続けていた司の表情は涎や涙で崩れてしまっており、横たわってしまっていた。

そして、リング上に立つ2人は視線が合った。

 

 

 

「やあぁぁぁっ!!」

 

「はあぁぁぁっ!!」

 

 

 

2人は組み合い力比べが始まる。

体格差的に見て圧倒的に早苗の方が有利なのは明らかなのだが、押されているのは早苗の方であった。

 

 

 

「いっ!!やあぁぁぁっ!!」

 

「ぐうっ!?」

 

 

 

勢いを味方につけてそのまま手を相手の股間から差し入れるようにして体を掴み、もう片方の手は相手の肩口や首元を掴んだ。

その状態から相手をひっくり返すようにして抱え上げて前方へと投げ落としボディスラムを放った。

 

 

 

「あの体格差で投げんのかよっ!!」

 

 

 

先程の光景を目の当たりにしていキアラは驚きを隠せずにいた。

だが、まだ試合の最中で攻防は続く。

 

 

 

「まだまだ行きま・・・・・ふっ!?!?」

 

 

 

トップロープから引き続き攻撃を仕掛けようとしたが、裸足と水飛沫で濡れたロープも合わさり見事にリング外に落ちてしまった絢音。

どぼんっと言う着水と共に脱落してしまった為に絢音はぽかーん口を開けて青空を眺めていた。

 

 

すると司、キアラと次々に放り投げられてしまったのかリング外に飛んで来るのが見えてしまった。

と言う事でこの試合は早苗の1人勝ちで幕を閉じたのであった。

 

 

 

 

 

1日目の全工程が終わりを迎えた。

絢音は先に終わっていたので、他のみんながやって来るのをじっと待っていた。

するとそんな彼女の元に1人の女性がやって来た。

 

 

 

「よっ!また会ったな!!」

 

「い、伊里内選手っ!?!?」

 

「堅っ苦しいな!あたいの事は真って呼べよ!!」

 

「は、はいっ!!真さん!!」

 

「お前、肉は好きか?」

 

「えっと・・・好きですけど・・・・・」

 

 

 

真は絢音の一言に嬉しそうな表情を浮かべると急に絢音の手を引いたのだ。

 

 

 

「みんなで焼肉行くからお前も来いよっ!!」

 

「えええええっ!?いいんですか!?!?」

 

「元からお前の所の全員連れてくつもりだから遠慮すんなよっ!!」

 

「わ、わかりました!!僭越ながらお供させて頂きます!!」

 

「よっしゃ~!!」

 

 

 

ノリノリの2人を見かけたヴァルキュリアのメンバーは色々と察したのか苦笑いを浮かべていたと言う。

しかし、焼肉会場はたくさんの女子プロレスラーが集まっていた。

その中に入った絢音は限界オタクのように騒いだり、泣きながら写真を撮ってもらったり、たくさんの色紙にサインをもらったりと一番楽しんでいたと全員が口を揃えて呟いていたと言う。

 



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オールスターバトルロワイヤル

2日目のイベント。

 

 

『バトルロワイヤル』

 

 

主に10人以上で行われる事が多い試合形式である。

敗北、リングアウトしたものから退場して最後に残った者が勝利すると言った感じである。

参加選手が開始時に全員リング上にいる場合や時間差で入場する形式などがあるが、今回は時間差形式である。

順番にリングインするのだが・・・・・。

 

 

 

「久し振りだねぇ~・・・あんた」

 

「・・・・・ど、どうも」

 

 

 

最初にリング上に立つの絢音と入団テストで一戦交えたシャーク棚岬であった。

前回の件もあり、ビクビクしていた絢音ではあったが試合開始のゴングが鳴ればバンッと頬をはたいた後に走り出した。

最初から自慢の右腕をぐるんぐるんと回すと豪腕のラリアットが迫る。

 

 

 

「おらぁぁぁっ!!」

 

「・・・ふぁっ!?!?」

 

 

 

威圧感の凄まじい豪腕が迫るが、その腕に手を掛けて滑り込むように潜り抜けるとロープへと逃げる。

躱された棚岬はすぐに振り返ったが、強烈なレッグトマホークが胸に刺さる。

 

 

 

「・・・ったく、ちょこまかと動きやがるな」

 

「・・・・・もう次の人が来るんですかっ!?」

 

 

 

すばしっこい絢音に苛立ちを見せるが冷静に身構える棚岬。

しかし、急な入場曲に2人が視線を向けるとそこには新たな挑戦者が立っていた。

そのシルエットは昨日会ったばかりの洌崎薫子であった。

 

 

 

「うちが・・・・・きたぁぁぁっ!!!!」

 

「うがぁっ!?!?」

 

 

 

全速力で走ってきた薫子はその勢いのままトップロープから飛び上がるとかなりの体重差があるはずの棚岬をスワンダイブ式フランケンシュタイナーで投げ飛ばしたのだ。

その光景にぽかんとしていた絢音ではあったが、油断は出来ない。

そのまま次のターゲットとばかりに薫子は向かってくる。

 

 

 

「昨日の友は今日の仇やっ!!」

 

「ぐぅっ!!」

 

 

 

得意技でもある2回転ローリングソバットを食らう絢音。

ちゃんと防御をしたにも関わらずかなりの衝撃に表情を歪ませる。

しかし、これはバトルロワイアルなにが起きるか予想出来ない。

 

 

 

「言いようにやられて・・・」

 

「なっ!?」

 

「・・・・・たまるかいっ!!」

 

「あぁっ!!」

 

 

 

隙をついたように棚岬が薫子をアルゼンチン・バックブリーカーの体勢で担ぎ上げるとそこから勢い良く前方へ放り投げたのだ。

それには受け身をとった薫子でも衝撃に身を捩らせて声をあげていた。

追撃しようと倒れている薫子に手を掛けるが無防備な背中に痛みが走る。

 

 

 

「ぐうぅっ・・・」

 

「せやぁっ!!」

 

「がぁっ!!」

 

 

 

ミドルキックの連発にはさすがの棚岬も追撃を中止すると怒りにも思える叫びと共に振り返る。

目の前には最初のおどおどしていた少女の姿はなく、1人の戦士の目を滾らせていた。

睨み合う両者の空気を裂くように新たな挑戦者が姿を見せる。

 

 

 

「今日は・・・負けない」

 

 

 

颯爽とリングインしてきたのは、神童寺司であった。

昨日の水着姿ではなくちゃんとしたコスチュームでの登場であった。

チラッと絢音に視線を向けたが、ターゲットは棚岬のようだ。

 

 

 

「まずは・・・この人から壊す」

 

「な、なんだっ・・・!?」

 

「・・・壊れろ」

 

「・・・・・っ!?!?」

 

 

 

ランニングからコルバタの要領で相手の首元に両脚で飛びつき、旋回しながら相手の左腕を捉えた司。

小声で囁いたと同時に脇固めの様な形で相手の肩口から勢いよくマットに叩きつける。

その一撃には、仕掛けられた棚岬は苦痛に耐えていた。

技を仕掛けた司は次の相手を探そうとしたが、彼女を狙う人影は空に居た。

 

 

 

「くらえぇぇぇっ!!」

 

「がっ!?!?」

 

 

 

不意を衝く薫子のスワンダイブ式飛びつきDDT。

それを受けた司はリングの上に大の字に倒れると技を仕掛けた薫子も同じく大の字に倒れていた。

残された絢音はここぞとばかりに棚岬をゆっくりと起こす。

するとあの時のように背後に回り込む。

 

 

 

「せやぁぁぁっ!!」

 

「ぐあぁっ!?!?」

 

 

 

素早い低空式ジャーマン・スープレックスを見事にお見舞いされた棚岬は転がるように移動すれば、自ら離脱するようにリングから降りて行った。

1人が減って安堵する中で新たなレスラーが登場していた。

 

 

 

「レインボォォォォォ!!!!」

 

 

 

会場に響き渡る聞き覚えのある大きな声に絢音は固まってしまう。

まさかの覆面レスラーレインボーミカの登場に会場が盛り上がっていた。

出演選手の情報も教えられていなかった絢音には衝撃的であった。

しかし、今は試合中であり、誰も待ってはくれないのだ。

 

 

 

「チェイサァァァ!!」

 

「にゃぁっ!?」

 

 

 

鋭いスワンダイブ式ドロップキックが背中に突き刺さるとリング外に飛び出そうになるがギリギリでロープを掴むと危機一髪耐えることが出来ていた。

このチャンスを逃す手はないと司が追い打ちを仕掛けようとした。

 

 

 

「行かせないッス!!」

 

「かはっ!!」

 

 

 

阻止するように放たれたフライングピーチを受けた司は軽々と吹っ飛ばされてしまう。

するとリング中央に立つレインボーミカは拳を突き上げてアピールをすると会場はまた一段と盛り上がりをみせた。

と同時に即座に動いたのは薫子。

 

 

 

「とりゃぁぁぁっ!!」

 

「はあぁぁぁっ!!」

 

「・・・っ!逃がさないッス!!」

 

「くっ!!」

 

 

 

2人のローリングソバットが相殺し合うようにぶつかると反応が早かったのは、レインボーミカ。

側転しながら相手に近づいて脚で挟み、地面に叩きつけるパラダイスホールドを放ったのだ。

薫子はあまりの流れの速さに驚きつつもすぐに起き上がると呼吸を整えようとしていた。

 

 

 

「・・・・・させない」

 

「お前っ!!」

 

「・・・飛べっ!!」

 

「ぐあぁぁぁ!?!?」

 

 

 

急に飛びついて来た司に怒鳴り散らす薫子。

しかし、勢い良く後方へ倒れ込みながら相手を巴投げのように薫子を放り投げたのだ。

その衝撃には流石に我慢出来ないのかじたばたと痛みを紛らわせるように騒いでいた。

そんな激しい闘いが繰り広げられている中でもまだ選手はやって来る。

 

 

 

「私の美技をとくとご覧いただきましょう!!」

 

 

 

一輪の薔薇と共にコーナートップに降臨したのは、ミシェール滝。

優雅な姿に観客からは黄色い声援が飛び交っていた。

 

 

 

「油断大敵ッス!!」

 

「かはっ!!」

 

 

 

登場シーンに見とれていた絢音は強引にレインボーミカにブレーンバスターをお見舞いされた。

その一撃を受けて苦痛に表情を歪ませていたが、休ませないのか今度は司がゆっくりと起こす。

 

 

 

「・・・終わらせます」

 

「まだまだぁぁぁっ!!」

 

「がぁっ!?そん・・・な・・・・・」

 

 

 

ここぞとばかりに仕掛けようとした司だったが、絢音は強引に司をバックドロップで放り投げたのだ。

あまりにも急角度で落とされてしまった司は、昨日のように目を見開いてぐったりとしてしまったのだ。

試合続行不能とされたのか外に居た係員が司をリング外に出していた。

 

 

次々に挑戦者がやって来るが最初からリングに居る絢音の表情には疲労が見え隠れしていた。

それでも気合を入れるように頬を叩くとそれと同時にまた新たな選手が姿を見せる。

だが、先程とは違った感じで会場は盛り上がっていた。

『零』と書かれた日の丸の上着を羽織った女性は走り出す。

その名は・・・日ノ本零子。

 

 

 

「なんで日本のトップスターがこんな所にっ!?!?」

 

「それは・・・試合が終わってから教えてあげるっ!!」

 

「こんな所で会えて光栄ッス!!」

 

「私もよ、ミカっ!!」

 

 

 

絢音の問い掛けにウィンクで答える零子。

しかし、言い終わると同時にレインボーミカとの力比べが始まる。

 

 

とそんな最中に薫子がなにやら悪そうな笑みを浮かべながら絢音に声をかけていた。

 

 

 

「スーパースターがこんだけおるんやっ!!ココが勝負所やでっ!!」

 

「ど、どう言う事・・・ですか?」

 

「あの2人に勝つってわけやっ!!」

 

「また面白い事・・・考えてるみたいね」

 

「災厄のねぇちゃんか!ちょいと手貸してくれへんか?」

 

「滝を相手すればいいんでしょ?お安い御用よ」

 

「おっしゃぁぁぁ!!こっからは共同戦線やっ!いくでぇぇぇ!!」

 

「はいっ!!!!」

 

 

 

2人が密談をしているといつの間にかリングインしていたのか十六夜美響が背後に立っていた。

美響は話の内容を理解していたのか邪魔が入らないように駆け出す。

その後ろ姿を見送りながらも2人は気合を入れるとスーパースターに挑みに向かった。

 

 

 

「うあぁぁぁっ!!」

 

「なっ!?」

 

「ぐっ!!」

 

 

 

不意を突いた絢音のスピアー。

零子とミカの間に割って入るように刺さった一撃に2人は見事に体制を崩してしまう。

2人が倒れている間に絢音は次の行動に移る。

 

 

 

「覚悟ぉぉぉっ!!」

 

「かはっ!?」

 

 

 

薫子の決め技とも言えるダブルスピンサルトが炸裂したのだ。

空中で見事2回転してからの一撃には、さすがのミカも苦痛に表情を歪ませる。

 

 

 

「やあぁぁぁっ!!」

 

「遅いっ!!」

 

「かはっ!?!?」

 

 

 

続こうとフロッグスプラッシュを放つ絢音。

しかし、待ち受けていたのは零子の折りたたまれた脚であった。

腹部に突き刺さる膝には崩れ落ちるように動けなくなってしまった。

 

 

 

「佐倉ちゃ~んっ!!げぇ・・・」

 

「よそ見は・・・いけないッス!!」

 

「がぁぁっ!?!?」

 

 

 

ヤバいと思って助けに行こうとした薫子だったが、その一瞬にミカが背後から両手を掴んだのだ。

そのまま強引に引き寄せると両腕をロックをして勢い良くタイガー・スープレックスを放ったのだ。

受け身をとれなくされている衝撃をまともに受けてしまいこちらも動けずにいた。

 

 

意識が遠のく中で絢音は薫子と同時にリングアウトさせられるのが理解出来た。

しかし、絢音は満足そうに笑みを浮かべるとそのまま気を失ったのである。

 

 

最終的に優勝を飾ったのは、十六夜美響であった。

漁夫の利で勝てたと本人は口にしていたが、本当かどうかはリング上に居た選手しかわからないことである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・んんっ」

 

「お、起きたかい?」

 

「へっ?ライオネルさん?」

 

 

 

目の前に居る見知った顔に驚きもしたが、ライオネルの膝枕から上体を起こして辺りを見渡す。

いつの間にか2日目の日程もすべて終わったのだろう他のメンバーもくつろいでいた。

しかし、その中にはまさかの人物も集まっていた。

 

 

 

「えっと・・・ここって何処ですか?」

 

「大広間さ、今から明日の決勝の組み合わせとエキシビジョンの組み合わせ発表さね」

 

「それと・・・私はどうしてライオネルさんの膝の上に居たんでしょうか?」

 

「アンタが爆睡してたから連れて来たんだよ!気持ち良さそうに寝ていたからねぇ~」

 

「は、はうぅ~・・・・・」

 

 

 

と話していると役員の人達が大きな紙を貼り出したのだ。

そこには明日のスケジュールも書いていたが、気になったのは組み合わせである。

 

 

 

『SummerVenusWest本戦 決勝戦』

 

 

ライオネル神威     天鳳院ほむら

         VS

伊里内 真        セイレーン

 

 

『SummerVenusWest エキシビジョンマッチ』

 

 

ランブル美星      ナイトメアガール

 

佐倉 絢音   VS   フレイア鏡

 

近藤 真琴       キャシィ・ワイルド

 

 

 

「選ばれてしまいました・・・・・」

 

「良かったじゃないかい?」

 

「本当に人気投票上位なんでしょうか・・・・・」

 

「今回からは抽選で選出されたみたいよ?あやちゃん♪」

 

「ひょえっ!?!?て、てて、天鳳院選手っ!?!?」

 

 

 

不意に後ろから抱きつかれたのに驚いていたが、聞き覚えのない声に口をパクパクとさせてしまう絢音。

反応に面白がって頬擦りをすると絢音はカチンと固まるがほむらは気にせずに話を進めた。

 

 

 

「まこちゃんが怒っていたわ。この子と対戦出来ないから・・・・・もう明日はセイちゃんにすべて任せようかな・・・」

 

「それこそアイツの機嫌が悪くなるからちゃんとやるんだねぇ~・・・」

 

「・・・わかってるわよ。今日はこの子に会いに来ただけだからまた明日頼んだわ」

 

「あいよ~」

 

 

 

そう言って去り際に絢音の頬にキスをすると優しく頭を撫でた後にほむらは会場を後にした。

残されたライオネルは念の為に絢音の前で手を振ってみたが完全に反応がないのに苦笑いを浮かべていた。

こうして、2日目が終わりを迎えたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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波乱のエキシビジョン

「心臓が飛び出そうです・・・」

 

「大丈夫ですよ、佐倉さん。ちゃんとサポートするからドンと構えていていいから」

 

「絢音ちゃ~ん♪リラックス、リラックス~そんな顔じゃ勝てないぞぉ~」

 

「ふぁっ、ふぁわかってまふゅって!!」

 

 

 

リング上で対峙しているのにも関わらず和やかな雰囲気。

大型イベントの最終戦ともある為に本戦の決勝戦と並行して執り行われているが、お客様は満員の様子。

対戦相手も準備が出来たのかレフェリーが両者を下がらせる。

 

 

 

「初戦は誰が行きます?」

 

「とりま、アタシに任せて~」

 

「頑張ってください!!美星さん!!」

 

 

 

リングに残った美星は2人にウィンクを残すとリング中央でフレイア鏡と対峙する。

 

 

 

「本戦では仲間だったのに・・・運命とは皮肉なものですわ」

 

「アタシはなんとも思っちゃないけどねぇ~」

 

 

 

ゴングが鳴ったと同時に2人は飛び出す。

しかし、お互いにロープを使って戻ってくると同時にヒップアタックを放つ。

お互いの尻と尻がぶつかり合って2人共座り込むが会場はその光景に大盛り上がりをみせる。

2人は即座に立ち上がるとそのままお互いにタッチをしたのだ。

 

 

リングインしたのは、佐倉絢音とキャシィ・ワイルド。

いつものように力比べが始まるが、今日の絢音は冴えていた。

 

 

 

「せいやぁぁぁっ!?」

 

「Woh!?!?」

 

 

 

力を一気に脱力した絢音。

それにより態勢を崩したキャシィはそのまま一本背負いで放り投げられてしまう。

この技には驚きの声をあげてしまうキャシィではあるが嬉しそうにまた身構える。

 

 

 

「今の技は柔道のやねぇ~くぅぅぅ・・・・・いくでぇぇぇ!!」

 

「はいっ!!」

 

 

 

お互いに間合いを詰めると手の届く距離まで2人が向き合う。

すると始まったのはエルボースマッシュの応酬。

 

 

 

「やぁぁぁぁっ!!」

 

「はぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

パワータイプ同士のプライドと意地にも似たぶつかり合いに会場は応援の声で盛り上がりをみせる。

そして、何度もぶつかり合う2人だったが・・・先に動いたのは、絢音である。

 

 

 

「一・掌・入・魂!!!!」

 

「がぁぁっ!?」

 

 

 

力一杯の掌底アッパーがキャシィを捉える。

見事に鋭い一撃を受けたキャシィは倒れてしまい、そのままフォールを狙われるがカウント2で返した。

 

 

すると絢音は真琴とタッチをしキャシィはナイトメアガールとタッチをした。

長い髪を靡かせながら様子を伺う真琴とは違い、ナイトメアガールはマスク越しにもわかるようにいやらしく舌なめずりをしていた。

 

 

 

「ぐぅっ・・・・・!?!?」

 

 

 

ミッドナイトブレス。

ナイトメアガールの口からピンク色の霧状のモノを噴出する得意技。

まともに正面から浴びてしまった真琴は苦しそうに両目を瞑りしゃがみ込んでしまう。

その姿を確認したナイトメアガールはロープへと走り出すと反動を使って技を仕掛けようとした刹那。

 

 

 

「そこだぁぁぁっ!!」

 

「・・・・・くっ!?」

 

 

 

無造作なミドルキックが空を切ったのだ。

しかし、それはもう半歩前に進んでいれば直撃コースだったナイトメアガールからすれば間一髪である。

それでもこのチャンスに一撃を入れようと試みるナイトメアガールはじりじりと距離を縮めようとする。

 

 

 

「真琴さぁぁぁん!!」

 

「気が利くみたいだな・・・あの子」

 

 

 

いきなりこだまする絢音の声に位置を把握すれば、一目散に走り出す真琴。

無防備な背中ではあるが、ナイトメアガールはまだ序盤だと言うのも考え深追いはせずに自陣のコーナーへと戻るのであった。

 

 

するとリングを照らしていたライトが消えてしまったのだ。

急な展開にざわつく会場ではあったが、再びライトがリングを照らすとリング中央には3人の選手が立っていた。

 

 

ライオネル神威。

伊里内 真。

天鳳院ほむら。

 

 

3人は堂々と腕を組んだまま真がマイクを受け取るとこう叫んだのであった。

 

 

 

「飛び入りだぁぁぁっ!!!!」

 

 

 

その言葉と同時に湧き上がる歓声。

いきなりの事に理解出来ない両チームではあったが、試合中止の合図もない為に続行する流れとなった。

 

 

 

「なんか凄い事になってきちゃいましたね・・・・・決勝戦はどうしたんでしょうか・・・・・」

 

「あははっ・・・アレは、まこちゃんの仕業だと思うよ~あの子はいつも自分がやりたい事は曲げないからねぇ~・・・・・」

 

「・・・と言いますと?」

 

「絢音ちゃんとやりたかったからじゃな~い?」

 

「いぃっ!?私ですかっ!?!?」

 

 

 

チラッとリング中央に目をやると目の合った真が手招きしている事に気付いた絢音。

 

 

 

「よっしゃぁぁぁっ!!アイツとやるのはあたいだからなっ!!お前らは邪魔しに来るヤツら止めてろよなっ!!」

 

「あっ!私だってあやちゃんとやりたいんだから程々にしなさいよ」

 

 

 

嬉しそうに笑う真と真剣な表情の絢音。

力比べをする2人ではあったが、ピクリとも動かない光景に会場からは驚きの声が上がる。

 

 

 

「うおっ!?ライオネル・・・いや、それ以上の力かぁぁぁっ!?」

 

「うあぁぁぁっ!!!!」

 

 

 

急に力が強くなった感覚を感じた真は力比べから離れる。

未だに握られていた手が痺れている事に嬉しさからか笑顔がこぼれる。

 

 

 

「上等ぉぉぉっ!!」

 

「ぐうっ!」

 

「だりゃぁぁぁっ!!」

 

「があっ!?!?」

 

 

 

絢音の胸板を鋭いミドルキックが突き刺さる。

瞬時に反応し両腕で受け止めた絢音。

しかし、流れるように仕掛けられたフライング・ニールキックはまともに受けてしまい倒れてしまう。

 

 

興奮のあまり容赦なく仕掛けてしまった事にハッとなる真。

しかし、待ち望んでいた相手はゆっくりと立ち上がり身構える。

その姿勢に真はまた嬉しそうに仕掛けようとする。

 

 

 

「そうこなくっちゃなっ!!」

 

「・・・・・させないよ~ん♪」

 

「なっ!?・・・かはっ!!」

 

 

 

不意に絢音の背後からトップロープを使い姿を見せた美星。

絢音を軽々と飛び越えるようといたずらっ子のようにウインクをした後、スワンダイブ式フランケンシュタイナーをお見舞いしたのだ。

驚くのもままならない程素早い技に真はマットの上で大の字になってしまっていた。

 

 

 

「横槍なんて卑怯だぞっ!!ランブルッ!!」

 

「そんなのチームマッチなんだから無理言わな~い」

 

「うちも混ぜてもらうでぇ~!!」

 

「まこちゃ~ん」

 

「わぁ~ってるっての!!」

 

「WHAT!?!?」

 

 

 

喧嘩するように言い争う2人の間に割り込もうと飛び込むキャシィ。

しかし、シンクロするようにダブルドロップキックを放つ2人にキャシィは吹っ飛ばされる。

だが、技を2人は互いに反対方向のロープへと走る。

 

 

 

「やあぁぁぁっ!!」

 

「はいっ!!」

 

 

 

同タイミングでの跳躍。

同タイミングでの高い位置でのドロップキック。

互いの足の裏が見事にぶつかり合うとその衝撃を使い2人は見事に着地する。

その見事な技のぶつかり合いには大きな拍手と歓声が全体を包み込む。

 

 

 

「かあぁぁぁっ!!燃えて来たぁぁぁっ!!!!」

 

「はいはい・・・選手交代ね♪」

 

「なっ!?あたいの出番はまだ終わってねぇっての!!」

 

「私だって楽しみたいの。独り占めはよくないんじゃない?」

 

「はあ・・・・・わかったよ」

 

 

不意に現れたほむらが真の肩に手を置くと交代なのか大きく背伸びをする。

これからだと言うのに急に現れたほむらに吠える真だが、ガクッと大きな溜息と共に従うのであった。

 

 

 

「・・・・・寝てろ」

 

「んんっ!?」

 

 

しかし、そんなやり取りを待たずに仕掛けたのはナイトメアガールであった。

隙を伺っていたのだろうトップロープからスワンダイブ式飛びつきDDTをほむらに放ったのだ。

 

 

その光景にあちゃ~とばかりに顔を手で覆う美星。

ナイトメアガールは気にせずに次の行動に移ろうとするが、殺気を感じ動きを止めてしまう。

 

 

 

「私に不意打ちなんて・・・いい度胸ねっ!!」

 

「がっはぁぁっ!?」

 

 

 

怒りに震えるほむらはロープに走り出すと勢い良く飛び上がるとナイトメアガールの顔面に容赦なくライダーキックをお見舞いしたのだ。

あまりの一撃に受けたナイトメアガールは簡単に吹っ飛ばされてしまう。

その光景に固唾を呑む美星だったが、間を裂くように真琴がやって来た。

 

 

 

「もう目は大丈夫なの~?」

 

「あぁ、あの子のおかげで」

 

「今のほむほむちゃ~ん、怒ってるから気をつけてねぇ~」

 

「任されましたよ」

 

 

 

交代して真剣な表情で身構える真琴。

そんな姿に大きく深呼吸したほむらはさらっと前髪を掻き上げる。

 

 

 

「少々乱してしまったみたいね・・・」

 

「あの時の借りを・・・返させてもらいます」

 

「それは・・・どうかしらね♪」

 

 

 

向き合う2人。

先に行動をしたのは、真琴のトラースキック。

 

 

 

「それは・・・もう効かないわっ!」

 

「くっ!?」

 

 

 

見切っていたように水面蹴りを仕掛けるほむら。

その技には体勢を崩しながらも側転をして回避した真琴。

だが、それも読んでいたのかほむらは走り出す。

 

 

 

「シッ!!」

 

「そこっ!!」

 

「くぁっ!?」

 

 

 

追撃とばかりに繰り出されたローリングソバット。

しかし、その一撃を待っていたかのように受け止めた真琴はそのまま勢い良くドラゴンスクリューを見舞ったのだ。

その返し技に仕掛けたほむらも脚を掴んで痛みに表情を歪ませていた。

 

 

 

「私も居ましてよっ!!」

 

「あぁっ!?」

 

 

 

鏡は油断しているであろう真琴にキャプチュードを放つ。

見事に技が決まると鏡はファンサービスとばかりに観客に投げキッスを行う。

しかし、真琴はすぐさま飛び起きるとアイコンタクトをすかさず誰かに送ったのだ。

 

 

鏡は警戒するように身構える。

しかし、その動きは完全に囮であった。

 

 

 

「てやぁぁぁっ!!」

 

「なっ!?!?」

 

 

 

見事なスワンダイブ式ミサイルキックが炸裂して吹っ飛ばされる鏡。

してやったとばかり決めポーズをするほむら。

 

 

 

「倍返しっ!!」

 

「かはっ!?!?」

 

 

 

いつの間にコーナートップに居た真琴は、屈伸した上でボディプレスを倒れていた鏡にお見舞いしたのだ。

あまりの衝撃に目を見開いて苦しむ姿からかなりの威力だった事が手に取るようにわかる。

するとほむらと真琴はお互いに手で拳銃を作れば、お互いに打ち合う素振りを見せて笑顔を見せる。

 

 

 

「ほむら!そろそろアタシにもやらせてくれないかい?」

 

「そうねぇ~・・・楽しめたから変わってあげる」

 

「そうこなくっちゃな!!」

 

 

 

ライオネルが交代してリングに上がっただけなのに観客は大きな声援を送ったのだ。

それだけでライオネルがファンの間でかなりの人気を集めているのが理解出来る。

 

 

そして、対峙するのは絢音である。

緊張した雰囲気ではあったが、不意に近寄って来たキャシィが肩を組んできたのである。

 

 

 

「共闘・・・行くでぇ~」

 

「・・・・・はいっ!!」

 

「んんんっ!!!!」

 

 

キャシィの提案に両頬を叩いて気合を入れる絢音。

2人は勢い良く走り出してショルダータックルを決める。

その一撃を受けても倒れないライオネルに2人は、次とばかりにツープラトン・ブレンバスターを狙う。

 

 

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

「へぇっ!?」

 

「Wow!?」

 

 

 

いきなりの咆哮。

2人は驚きの声を出していたが、次の瞬間には2人は放り投げられていた。

まさかの出来事に2人はきょとんとしていた。

 

 

だが、とある事件がこの時発生してしまっていたのだ。

そう・・・レフェリーのダウンである。

放り投げられたキャシィが見事にレフェリーに直撃してしまっていたのだ。

 

 

普通だったら一時中断なのであるが、それを遮ったのは真である。

 

 

 

「こっからは・・・大・乱・闘だぁぁぁっ!!」

 

 

 

控えているはずの真がリングに飛び出してきたのを皮切りになんでもありのような乱闘騒ぎに変わってしまったエキシビジョンマッチ。

なんでもありとなってしまったリング上はヒートアップして行き収拾のつかない状態となっていく。

その光景に観客は大盛り上がり、ハチャメチャな祭りになった事で会場も賑わいを見せていた。

 

 

最終的にはゴングの音と共に試合は強制的に終了となった。

この試合に勝敗はつかなかったもののSNS上では、「世紀の大乱闘」やら「ハチャメチャ祭」などと話題になっていたと言う。

 

 

 

こうして、SummerVenusWestは幕を閉じたのであった・・・。

 



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キャラ紹介『選手編③&関係者②』

駿河 燈華(するが とうか)

 

 

出身地:兵庫県

 

年齢:17歳

 

誕生日:6月26日

 

身長:161cm

 

スリーサイズ:82/55/85

 

得意技:飛び技

 

必殺技:スワンダイブ式フランケンシュタイナー

 

 

 

プロフィール

運動神経が抜群でスワンダイブ式を得意とするトリッキーな少女。

佐倉とは同じ学校の先輩後輩である。

朝練と言う名目で新聞配達を走って行っているらしい。

いつもオレンジ色のハチマキを身に付けているが、試合の時には付けずに大事にしているみたいである。

 

 

 

 

 

猪莉 美里(いのり みさと)

 

 

出身地:鹿児島

 

年齢:24歳

 

誕生日:9月11日

 

身長:171cm

 

スリーサイズ:96/71/96

 

得意技:パワー技

 

必殺技:DDT

 

 

 

プロフィール

愚麗怒婁の有名グループ『猪鹿蝶』の1人でリーダー。

凶器攻撃を主体に闘う為に危険視されている人物。

卑怯な事をしても勝ちをつかみ取ろうとする為に使えるモノはなんでも利用する。

 

 

 

 

 

鹿忍 清美(かしの きよみ)

 

 

出身地:岡山県

 

年齢:22歳

 

誕生日:4月25日

 

身長:165cm

 

スリーサイズ:89/60/92

 

得意技:関節技

 

必殺技:ロメロ・スペシャル

 

 

 

プロフィール

愚麗怒婁の有名グループ『猪鹿蝶』の1人。

対戦相手が苦しむ姿が好きと言う程のS気質であり、試合中に発情してしまうとかしないとか・・・。

ちなみにランブル美星の事が気になっていて何度か告白したものの撃沈している。

 

 

 

 

 

 

黒蝶(こくちょう)

 

 

出身地:???

 

年齢:???

 

誕生日:???

 

身長:???

 

スリーサイズ:???

 

得意技:飛び技

 

必殺技:夜叉刈り

 

 

 

プロフィール

愚麗怒婁の有名グループ『猪鹿蝶』の1人。

すべてが謎に包まれている選手であり、謎を知っているのはオーナー、宮永沙織だけだと言われている。

 

 

 

 

 

狭霧 千影(さぎり ちかげ)

 

 

出身地:熊本県

 

年齢:22歳

 

誕生日:3月5日

 

身長:168cm

 

スリーサイズ:88/66/89

 

得意技:パワー技

 

必殺技:DEAD OR ALIVE

 

 

 

プロフィール

ヴァルキリアのユニットの愚麗怒婁のリーダー。

同期であり、ライバルでもある御堂ヒカルをいっつも敵対視しているが、逆に捉えると一番の理解者。

愚麗怒婁はヒールの軍団のように認識されているが、千影は正々堂々とやり合うスタイルである。

 

 

 

 

 

高嶺智枝(たかみね ちえ)

 

 

 

 

 

プロフィール

月刊ヴィーナスの女性記者。

新人ではあるものの熱意があるとの先輩の言葉により、ヴァルキュリア専属の記者として任命された。

最初の取材で声を掛けた『佐倉絢音』の存在が気になってしまい、現在では1ファンとして応援もしつつプライベートでも仲良くしているとかいないとか・・・・・。



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歴史は動き出す

いつもとは違う控室に絢音は目を瞑って集中していた。

同じ控室に待機しているのは、今回のパートナーであるランブル美星。

2人はとあるタイトルを奪取する為に新日本女子プロレスのリングに殴り込みに来たのだ。

 

 

そのタイトルの名前は、

 

 

『新日本タッグ王座』

 

 

新日本女子プロレスが認定していたタッグマッチのタイトルの名称である。

現在は、マイティ祐希子&菊池 理宇ペアが3度の防衛に成功しており、第72代王者である。

いきなりのタイトルマッチには理由がある・・・・・。

 

 

 

 

 

「タイトル争奪戦・・・ですか?」

 

「そっ♪新女とうちの殴り合い・・・まぁ、友好関係でもあるけどライバル的な面もあるからこの時期はタイトルの変動が多くなるのよ。絢音ちゃんもレス女なら理解出来てるんじゃないかしら?」

 

「そうですね・・・夏休み明けはいつもタイトル戦を観戦しに行ってたのは覚えていますので納得しました」

 

「まぁ・・・新女からしたらWWWGP(World Women's Wrestling Grand Prix)シングル王座のタイトルを是が非でも奪い取りたいんだと思うんだけどねぇ~」

 

 

 

これは数日前のお話。

社長室に呼び出されて絢音は急にタイトル関連の話を聞かされていたのだ。

 

 

 

「えっと・・・それよりも今日呼ばれた理由はなんですか?」

 

「貴女にもベルトを狙ってもらおうと思ってね♪」

 

「わ、私が・・・ですが!?そ、そりゃ・・・ベルトを手にしたいとは思いますが、まだ1年も経ってないんですよ!?」

 

「甘いよ、絢音ちゃん。君は普通の選手よりも優れたモノを持っているんだ。経験は何よりも自分を強くしてくれるんだ・・・どう、チャレンジしてみるかい?」

 

「・・・・・っ、はいっ!!」

 

 

 

 

 

と言う経緯が重なり合って現在に至る。

社長曰く実力があるモノは惜しまず、実戦で学べとの方針らしい。

 

 

 

「絢音ちゃ~ん♪調子はいいカンジ~?」

 

「は、はい!!ちゃんとこの日の為にベストコンディションで迎えられました!!」

 

「上出来、上出来♪初めてのタイトルマッチだけど、緊張はしてる?」

 

「最初は緊張してましたが、今は何も感じないです。と言うか・・・体に力が漲ってくる感じです!!」

 

「オッケ~♪その調子ならやれるねぇ~それじゃあ~行きますか~」

 

「はいっ!!!!」

 

「今日はアイドルじゃなく・・・アタシをパートナーに選んでくれたこの子の為に頑張りますかねぇ~♪」

 

「・・・・・へっ?美星さん、何か言いましたか?」

 

「なんでもないよ~ん♪ほらほら、行きましょ~♪」

 

 

 

 

 

『それではこれより新日本タッグ選手権試合を執り行いますっ!!!!』

 

 

 

そのアナウンスと共に歓声が会場を揺れ動かし、熱気が盛り上がっていくのが伝わってくる。

リング上では4人が睨み合うように対峙していた。

 

 

 

『青コーナー・・・挑戦者、煌めく流れ星(シューティングスター)!ランブルゥゥゥミホォォォシィィィ!!!!』

 

 

美星は大きく手を広げると観客に投げキッスをしてからウィンクをしてみせた。

 

 

『同じく、紅蓮少女!佐倉ぁぁぁあやぁぁぁねぇぇぇっ!!!!』

 

 

もう定番と化してきた絢音の「ファイヤー!!」の叫び声の後に観客が「ファイヤー!!」と叫ぶのはお決まりのようになっており、それを聞いた絢音は礼を込めて4方向にお辞儀をする。

 

 

 

『赤コーナー・・・新日本タッグ王座チャンピオンチーム、炎の戦士!マイティィィィ裕希子ぉぉぉっ!!!!』

 

 

紹介が終わったと同時に紙テープがリングを覆いつくすように飛び交う中でも裕希子は嬉しそうに観客席に向かって拳を突き上げてみせていた。

 

 

『プロレス界の神風ファイター!菊池ぃぃぃりぃぃぃうぅぅぅっ!!!!』

 

 

白きハチマキがトレードマークの理宇は裕希子と同じく拳をあげると大きく深呼吸をしたのであった。

 

 

 

4人は固い握手を交わしてお互いのコーナーに戻ると会場の空気は張りつめていた。

 

 

 

「悔いのないように行っておいでぇ~♪」

 

「はいっ!!」

 

 

 

美星の言葉を胸にゴングが鳴れば、リング中央では理宇と絢音が力比べを開始する。

 

 

 

「ふんっ!」「くっ!!」

 

「いけぇぇぇっ!!」

 

 

 

しかし、圧倒的力の差に絢音は優位をつかむとそのままロープへと放り投げる。

返って来た理宇にラリアットを放つ絢音。

 

 

「甘いっ!!」

 

「させないっ!!」

 

 

だが、潜り抜けるように避けた理宇は今度は絢音をロープに振る。

戻って来る絢音に逆水平チョップが迫るが、絢音はその腕を掴むとそのままアームホイップを仕掛けた。

軽々と放り投げられる理宇ではあったが、見事に着地すると歓声があがると2人はかすかに笑ったように見えた。

 

 

理宇は小さく深呼吸し、裕希子にタッチを交わす。

すると大歓声が会場にこだまする。

絢音も美星にタッチをしたのだが、いつもと雰囲気の違う美星に生唾を吞んだ。

 

 

 

「先手必勝~♪」

 

「ぐぅっ!!」

 

「えぇっ!?!?」

 

 

 

電光石火の速さの如く仕掛けた美星の流星レッグラリアットに裕希子は防御する暇もなく鋭い一撃をもらい倒されてしまう。

あまりの速さに共に練習した事のある絢音さえ驚いたように口を開けていた。

 

 

 

「・・・シッ!!」

 

「かはっ!?」

 

 

 

裕希子が膝を付いて起き上がろうとする中でロープの反動をつかって戻ってきた美星は、一瞬の躊躇もなくシャイニングウィザードをお見舞いしたのだ。

それを受けた裕希子はたまらずリング外へと逃げ出す。

 

 

 

「まだまぁぁだぁぁぁぁっ!!!!」

 

「なっ!?」「くっ!?」

 

 

しかし、それを美星は見逃さない。

相手をロックオンするように見据えると低姿勢から走り出し、ノータッチ式トぺ・コンヒーロを繰り出したのだ。

それには傍らにいた理宇も吹っ飛ばされて相手チームは2人共倒れてしまう。

いつもと違うランブル美星の存在に会場は大盛り上がりしていた。

 

 

 

「す、凄い・・・」

 

「絢音ちゃ~ん♪」

 

「は、はいっ!!」

 

 

 

呆気にとられている絢音。

だが、いつの間にかリング中央で裕希子を抱えながら手招きするいつもの美星に絢音は駆け寄る。

 

 

 

「行くよ~♪」「はいっ!!」

 

「「シューティング・バスタァァァ!!!!」」

 

「がはっ!?!?」

 

 

 

流れ星のような高速のツープラトン・ブレーンバスターを受けた裕希子。

立て続けに攻撃を受けている為か苦しそうな表情になっているのが手に取るように解る。

美星がすかさずフォールに入るが、カウント2.5で返されてしまう。

 

 

悔しいと感情的にマットを叩く美星。

しかし、なんだか嬉しそうに絢音とタッチする。

リングに残った絢音は、気合いとばかりに自分の頬をバチンと響くぐらいに叩くと裕希子を立ち上がらせた。

 

 

 

「はあぁぁぁっ!!」

 

「いぃっ!?」

 

 

 

 

逆水平チョップ。

バッシーーーン!という、すさまじい破裂音に客席が沸く。

すると今度は歯を食いしばり絢音が身構える。

 

 

「そう言う訳ね・・・・・やあぁぁぁっ!!」

 

「ぐっ!!」

 

 

 

お返しの逆水平チョップ。

絢音の定番ともなった根性比べのやり取り。

小柄なのにその力強い姿にファンが一番好きだと口をそろえて豪語する名勝負。

未だに負けなしの絢音は、誰であろうと胸を借りるつもりで行う。

それが、このベルトの掛かった試合でも・・・・・。

 

 

 

「うらぁぁぁっ!!!!」

 

「かはっ!?!?」

 

 

 

渾身の一撃。

それを受けた裕希子は崩れ落ちるように倒れてしまう。

それに対して勝ち誇るように拳を突き上げた絢音はそのまま技を仕掛けようとする。

しかし・・・っ。

 

 

 

「はぁっ!!」

 

「なっ!?」

 

 

 

隙を突くような巴投げ。

技を仕掛けようとしてくる絢音をそのまま放り投げたのだ。

虚を突いた技に驚いたような声を出して絢音は仰向けに倒れていた。

ハッとしたように起き上がるが、裕希子はふらつきながらも理宇とタッチしたのであった。

 

 

最初の雰囲気とは違う空気に絢音は深呼吸する。

理宇も感じ取ったの同じように深呼吸すると間合いを詰めて来た。

 

 

 

「はっ!!」

 

「なんのっ!!」

 

「まだっ!!」

 

「ぐふっ!?」

 

 

 

刈り取るように繰り出されたラリアットをしゃがむように回避する絢音。

しかし、それはフェイクであり、理宇はそのままの勢いで背後に回り込み投げっぱなしジャーマンを仕掛けたのだ。

いきなりの衝撃に表情を歪ませる絢音。

だが、理宇はもう次の動きに転じていた。

 

 

 

「行きますっ!!」

 

「ぐぅっ!!!!」

 

「・・・嘘」

 

「えっ!?」

 

「うそ~ん♪」

 

 

 

ふらつきながら起き上がろうとしている絢音にスワンダイブ式フランケンシュタイナーが見事に捉えた。

・・・かに見えたのだが、絢音は瞬時に相手の両太ももをがっしりと掴むと耐えたのだ。

それには技を仕掛けた理宇、そしてペアの2人も驚きの声をあげていた。

 

 

 

「へやぁっ!!」

 

「ぐっ!?!?」

 

 

 

渾身の倒れ込み式ジャンピング・パワーボムが炸裂。

まさかのパワーのごり押しに理宇もまともに受けてしまう。

絢音はすかさずフォールに入るのだが、カウント2で裕希子がカットに入った。

 

 

 

「邪魔はさせない・・・よっと♪」

 

「・・・・・んんっ!?」

 

 

 

しかし、そのカットを済ませた裕希子を追い出すように美星がリングに入ればヒップアタックでリング外に吹き飛ばしたのであった。

すると美星は耳打ちで絢音になにかを伝えるとタッチをした絢音は、「行くぞぉぉぉっ!!」と叫ぶと理宇を起き上がらせるとそのまま肩車をしてとある瞬間を待つのであった。

 

 

 

「見せてあげる~♪アタシの一番星♪ランブルゥゥゥヒップスタァァァダストッ!!!!」

 

「・・・・・ぶぅっ!?!?」

 

 

 

軽々とコーナートップに陣取るといつものように人差し指を掲げると空高く舞い上がり相手の顔面に目掛けてヒップアタックを直撃させた。

続けざまの大技に理宇も動けずにいた。

そして、美星は滑り込むようにフォールに入る。

 

 

1、2、3!!!

3カウントと同時にゴングが鳴り響くと美星は嬉しそうにガッツポーズをしていた。

絢音はと言うと・・・・・。

 

 

 

「へぇっ?私達・・・勝ったの?」

 

「勝った!勝ったぁ~♪大勝利だよ~ん♪」

 

 

 

キョトンとしている絢音に勝利を喜ぶように絢音の手を掴んで高々と挙げる美星。

そんな2人の姿に大歓声が送られた。

そして、ベルトを手渡された2人はお互いの腰に巻き合った。

すると美星はマイクを受け取るとリング中央に立った。

 

 

 

「本日は後輩である絢音ちゃんにベルトをプレゼント出来てほんっっとうにサイコーで~す♪」

 

 

 

本当に嬉しそうに笑顔で叫ぶ美星に観客からはたくさんの拍手が送られた。

一礼した美星は、そのままニィッと笑い絢音にマイクを手渡す。

いきなりの事にあたふたしてしまうが、大きな深呼吸をして絢音は落ち着こうとした。

 

 

 

「み、皆さんの応援のおかげで勝つ事が出来ました!!本当に・・・あ、ありがとうございました!!」

 

 

 

そう言って深々とお辞儀をすると会場のお客様が立ち上がり、絢音に対してお褒めの言葉とたくさんの拍手が浴びせられた。

 

 

 

『新日本タッグ王座』

 

 

 

佐倉絢音        マイティ裕希子

 

         VS

 

〇ランブル美星     菊池理宇×

 

 

 

24分41秒   ランブルヒップスターダスト  

 

 

 

こうして第73代王者となった2人は、『AngelStars』と言うタッグ名で今後活躍して行こうと約束を交わしたのであった。

その内容は、次の日の新聞やメディアで取り上げられる程に全国に報道された。

とある大きな出来事と共に・・・・・。

 

 

 

 

 

それは、女子プロレス界の歴史に佐倉絢音は偉業を成し遂げたのだ・・・。

 

 

 

女子プロレスラーで

 

 

最年少の

 

 

王者だと言う事に・・・・・。

 

 

 



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JAPAN TEAM QUEENS CUP

「招待状・・・ですか?」

 

「あぁ、洌崎 薫子って人かららしいぜ」

 

「あっ!SVWの時にお世話になった方です!!」

 

 

 

とある日に一通の招待状が絢音の元にやって来た。

差出人は、浪速のスピードスターこと洌崎選手からであった。

内容はと言うと・・・・・。

 

 

 

「こ、これって!?!?JAPAN TEAM QUEENS CUPのチーム勧誘じゃないですか!?!?」

 

 

 

その叫び声には練習していた他の選手達も気になるのかぞろぞろと集まって来た。

しかし、手紙を手渡した霞は事の重大さに気付いていないのか腕を組んで首を傾げていた。

 

 

 

「それってそんなに凄いモノなのか?」

 

「な、なな、なにを言っているんですか!!女子プロレスラーのビッグイベントの1つとも言われているJAPAN TEAM QUEENS CUPを知らないんですか!?!?」

 

「お、おう」

 

「この大会は毎回出場選手が変わるんですけど、その選手の選出方法が特別でして運営にリーダーとして選ばれた選手の元に招待状が届くんですよ。そして、リーダーに選ばれてしまった選手は共に闘ってくれる選手を5人選ばないといけないんです!」

 

「んっ?どうして6人も必要なんだ?」

 

「それもこの大会の特殊なルールでして、トリプル、タッグ、シングルと対戦形式がありまして先に2勝したら勝ち!と言うのがこの大会のルールです」

 

「へぇ~・・・でもよ?どうして自団体の連中を誘わずにお前が誘われたんだ?」

 

「この大会自団体の選手の勧誘は禁止されているんです。なので、他団体の知り合いを勧誘しての大会になるのでオールスターのようなモノになります!」

 

「お前、ほんっっとうに詳しいな」

 

 

 

熱弁して満足したような顔を見せる絢音に霞は驚きを隠せずにいた。

 

 

 

「・・・と言う事は今回は敵になっちゃうかもしれないねぇ~絢音ちゃ~ん♪」

 

「美星さんっ!?」

 

「こんな大舞台でやり合えるなら盛り上がりそうさねっ!!」

 

「ライオネルさんっ!?」

 

 

 

にやにやと笑いながら肩を組んでくる2人に引き攣った笑みをみせる絢音。

 

 

 

「むふふっ、今年のJAPAN TEAM QUEENS CUPは面白くなりそうねぇ~♪」

 

 

 

遠くからすべてを聞いていた社長・宮永沙織は嬉しそうに笑っていた。

 

 

 

 

 

JAPAN TEAM QUEENS CUPまで・・・あと一週間。

絢音はとある場所に呼び出されていた。

その内容は、薫子からのLINEであった。

 

 

 

【JAPAN TEAM QUEENS CUPに参加してくれるメンバーの顔合わせしたいからうちの店に来てくれへんか?】

 

 

 

と言う事で薫子から指定のあった店の前に立っていた。

看板に目を向けるとそこには『浪速や』と書かれており、恐る恐る絢音はガラガラッと開ける。

 

 

 

「いらっしゃいませ~!!って、佐倉ちゃんやないか!?待っとったでぇ~♪にしてもうちの招待状受け取ってくれてありがとうなぁ~♪」

 

「い、いえ!!私なんかを呼んでもらえたのは感謝していますっ!!他にも優秀な選手がいらっしゃるのに・・・・・」

 

「なにを言うとんねやっ!!佐倉ちゃんはもう大注目株なんやでぇ~?他団体も無視は出来へん存在なんやで!!」

 

「・・・・・未だに実感出来てなくて、あの一戦も夢だったんじゃないかって・・・・・」

 

「何を言っているの、アレは・・・貴女の力でもあるのよ」

 

「い、十六夜 美響さん!?」

 

 

 

入口付近で話し合って絢音の背後から聞き覚えのある声に振り返ろうとするとポンと頭に手を置かれた。

そして、一言掛けた十六夜 美響は横をすり抜けて店内へと足を運んだ。

 

 

まさかの出会いに驚いていたが、美響の後に続いて入って来た人物の名を叫んでしまった。

 

 

 

「大空 みぎりさんっ!?」

 

「は、はい~なんですか~・・・」

 

「お、大きい・・・・・」

 

 

 

目の前に現れたのは、『生物災害』と言うキャッチコピーで有名な大空みぎり選手であった。

美響よりも遥かにデカい存在に口をあんぐりと開けていた絢音。

 

 

 

「おっ!災厄のねぇちゃんもみーちゃんもありがとうなぁ~!!」

 

「楽しい宴への招待なんだから素直に受けたまでよ」

 

「かおるんからのお誘いなんだから来たんだよ~」

 

 

 

嬉しそうに笑う薫子。

それと同じように笑顔を見せるみぎりとは逆に美響は少し冷たい雰囲気にみえた。

しかし、絢音は美響の口端が少し上がっていたのを見逃さずに何故か喜んでいた。

 

 

 

「にしても・・・ココはどういう店なのかしら?」

 

「基本的にはなんでも作れるでぇ~♪たこ焼きにお好み焼き!焼きそばに焼き鳥に天ぷら・・・あっ!!ラーメンもイケるし、串カツなんかも・・・・・」

 

「本当になんでも売ってるみたいですね」

 

「本当だねぇ~」

 

「なんでも注文してくれてええんやで?うちがパパッと作ってあげるさかい」

 

 

 

3人はメニュー表を確認したが、そこには数多くの品々が載っており、チラッと薫子の表情を伺うと腕を組んで誇らしげな顔でふんぞり返っていた。

絢音は目を輝かせながらラーメンを頼むと薫子は「任せときっ!!」と言うと目の前で料理を作り始めた。

 

 

 

「あの・・・大空選手は洌崎選手とどういったご関係なんですか?」

 

「う~ん・・・・・去年の東西戦で闘った時だったかな~?」

 

「毎年恒例の大晦日にやってる関西VS関東のヤツですよね!!」

 

「そやっ!!うちが成瀬 唯とペア組んでてみーちゃんは甘利 琴羽と組んでたんやったな!!」

 

「はい!!体格差もあって一方的な試合になるかと思いましたが、あのリング上を縦横無尽に使いこなす洌崎選手には驚きました!!」

 

「はっはっはっ!!佐倉ちゃんは初めて逢うた時からそないな事言ってくれとったなぁ~♪まぁ、最後は負けてもうたからかっこ悪いんやけどなぁ~」

 

「なっ!何を言ってるんですかっ!!あの一戦は素晴らしいモノでしたよ!!」

 

「あの子・・・よく喋るわね」

 

「・・・・・そうだねぇ~」

 

 

 

ワイワイガヤガヤと賑わう店内。

そんな中扉が勢い良く開く音がするとそこには2人の女性が立っていた。

 

 

 

「お邪魔しマース♪」

 

「ユーリ、そんな強くしたらダメじゃないかな?」

 

「NonNon!!こう言うのはインパクトが大事とカオルが言ってました!!」

 

「おぉ~ユーリ!ロメオ!!いらっしゃ~い♪」

 

 

 

2人の名前を耳にした途端に絢音の中でなにかのスイッチが入った気がした。

 

 

 

「ユーリ・クロムハート選手・・・・・通り名は『稲妻ガール』。通り名の通り目に留まらぬスピードで翻弄をし、アメリカのジュニアベルトを数多く所有し、現在ではロメオ・バファロット選手と『Angel Thors』としてタッグチームを結成。パートナーのロメオ・バファロット選手・・・・・通り名は『黒き鉄槌』。彼女の繰り出す打撃は重量差を感じさせない威力を発揮し、ユーリ選手とのライバル兼パートナーとして活躍中・・・・・でしたよね?」

 

「カオルっ!?こ、この子は何者デース!?!?」

 

「この前LINEした面白いチームメイトや♪」

 

「ある意味凄い威圧感だね、驚いたよ」

 

 

 

レス女モードになった絢音に驚く海外勢の2人。

 

 

 

「面白い人脈を持っているのね」

 

「あの2人は遠征で知り合ったんや!ベルトを賭けた試合もなんぼかしたけど、うちは勝った事なかったなぁ~」

 

「・・・となると出場メンバーは揃った訳ね」

 

「その通りや!!みんな集まってくれてホンマにありがとうなっ!!今日は顔合わせと同時に親睦会も兼ねてるからじゃんじゃん楽しんでってやぁ~♪」

 

 

 

薫子は嬉しそうにジュースの入ったジョッキを人数分手渡すと高らかに叫んだ。

 

 

 

「洌崎薫子、十六夜美響、大空みぎり、佐倉絢音、ユーリ・クロムハート、ロメオ・バファロット、我々6人は今日から『StrongGirls』やぁ~!!かんぱぁぁぁい!!!!」

 

 

「かんぱぁぁぁい!!!!」「乾杯」「乾杯ですぅ~♪」「Cheers!!」「3а нашу встречу!」

 

 

 

こうしてJAPAN TEAM QUEENS CUPに参加する為に『StrongGirls』が結成した。

この出会いは運命かはたまた偶然か・・・・・。

彼女達の闘いが始まろうとしていた。

 

 



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キャラ紹介『選手編④』

歌彩 優奈(かさい ゆうな)

 

 

出身地:石川県

 

年齢:20歳

 

誕生日:6月27日

 

身長:158cm

 

スリーサイズ:80/52/83

 

得意技:パワー技

 

必殺技:シャイニングボム

 

 

 

プロフィール

ヴァルキリアのユニットの綺羅☆(きらぼし)エンジェルスのボーカル担当。

アイドルとして活躍もしており、CDも発売していたり、ライブを開催したりとアイドルレスラー。

プロレスラーとしての実力もちゃんと備わっており、ランブル美星と肩を並べて試合を繰り広げるレベルではある。

 

 

 

 

 

 

セイレーン

 

 

出身地:三重県

 

年齢:21歳

 

誕生日:8月4日

 

身長:170cm

 

スリーサイズ:84/54/81

 

得意技:飛び技

 

必殺技:忍法・飯綱落とし

 

 

 

プロフィール

伊賀流忍術の正統後継者・・・らしい。

リング上で魅せる動きは、観るモノを魅了するとも言われている。

ヴァルキュリアでは唯一フリー選手の一角である。

中立的な存在であり、ヴァルキュリアの仲裁役としても有名である。

 

 

 

 

 

 

洌崎 薫子(すざき かおるこ)

 

 

出身地:大阪府

 

年齢:19歳

 

誕生日:8月11日

 

身長:159cm

 

スリーサイズ:78/54/78

 

得意技:飛び技

 

必殺技:浪速式DDT

 

 

 

プロフィール

浪速のスピードスターとしてスピードを得意とするレスラーである。

スピードを活かした戦法が得意であり、小柄だからと油断は出来ない相手である。

実家は【浪速や】と言うなんでも屋を経営している。

現在では浪速道!の看板選手の1人である。

 

 

 

 

 

一文字 倖兎(いちもんじ ゆきと)

 

 

出身地:和歌山県

 

年齢:21歳

 

誕生日:11月11日

 

身長:168cm

 

スリーサイズ:83/58/81

 

得意技:打撃技

 

必殺技:連牙散弾(コンビネーションパンチ)

 

 

 

プロフィール

元・自衛隊出身でオールラウンダーを得意とする。

レスラーとしてはデビュー仕立てで、絢音とは同期にあたる。

Dream☆Paradiseに所属するレスラーである。

格闘ゲームが好きらしく必殺技はそれを真似ているとかいないとか・・・。

 

 

 

 

 

幹島 早苗(みきしま さなえ)

 

 

出身地:島根県

 

年齢:20歳

 

誕生日:1月3日

 

身長:191cm

 

スリーサイズ:120/80/118

 

得意技:パワー技

 

必殺技:アルゼンチン・バックブリーカー

 

 

 

プロフィール

普段は天然のような素振りを見せるのだが、リング上では別人のようにアグレッシブな性格を持つ。

クルセイダーに所属するレスラーである。

最近の悩みは自分に合う服がなくて困っているらしい。

 

 

 

 

 

鰐淵 キアラ(わにぶち きあら)

 

 

出身地:宮崎県

 

年齢:19歳

 

誕生日:7月12日

 

身長:164cm

 

スリーサイズ:80/57/82

 

得意技:打撃技

 

必殺技:スマッシュシュート

 

 

 

プロフィール

蹴りを中心とした立ち回りを得意とする。

サッカー経験もあり、威力はかなりのモノだと噂されている。

自宅では大きなワニを飼っているらしいが、穏やかな性格で人懐こいらしい。

 

 

 

 

 

 

神童寺 司(しんどうじ つかさ)

 

 

出身地:徳島県

 

年齢:19歳

 

誕生日:5月22日

 

身長:157cm

 

スリーサイズ:86/54/90

 

得意技:極め技

 

必殺技:飛びつき三角締め

 

 

 

プロフィール

父親にプロレスラー、母親に柔道家の間に生まれた努力家。

両親に憧れてGaiaに所属するレスラーとなった。

両親が得意とする技を会得しているスーパールーキーとも言えるだろう。

現在でもご両親から色々と教わっているとか。

 

 

 

 

 

天鳳院 ほむら(てんおういん ほむら)

 

 

出身地:長崎県

 

年齢:21歳

 

誕生日:10月10日

 

身長:169cm

 

スリーサイズ:90/59/88

 

得意技:関節技

 

必殺技:サキュバス♡ロック

 

 

 

プロフィール

フェニックスのエース級として活躍している選手。

必殺技なのだが、アナコンダバイス中に長いキスで相手を虜にしてしまうと言う魔性の技である。

悪ふざけのような技が多いのだが、実力は筋金入りで人気のある選手である。

サキュバス♡ロックを受けたいと女性ファンからのコメントもあるとの噂があるらしい。

 

 

 

 

 

 

伊里内 真(いりうち まこと)

 

 

出身地:鹿児島県

 

年齢:21歳

 

誕生日:3月11日

 

身長:163cm

 

スリーサイズ:85/56/85

 

得意技:パワー技

 

必殺技:ランニングボンバー

 

 

 

プロフィール

Gaiaのエース級として活躍している選手。

入場時には絶対に真っ赤な鬼の仮面を付けて登場するのが彼女のスタイルである。

自団体だけでは収まらずに他団体にも自分から勝手に殴り込みに行くのでよくトラブルが発生するらしい。

左頬に十字傷があるのだが、昔に通り魔を撃退した際に出来たモノとか違うとか・・・。



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JAPAN TEAM QUEENS CUP 開幕

JAPAN TEAM QUEENS CUP 一回戦

 

 

トリプルの枠として参戦する絢音はいつもの衣装で控え室に待機していた。

その傍らにはサポート役として玖珂 霞と駿河 燈華がいた。

 

 

 

「今日も調子良さそうだな?」

 

「はい!!・・・ですが、今回はこんなサポート役をお願いしちゃって本当にごめんなさい」

 

「どうして謝るんだよ、アタシ達同期を頼ってくれるのは嬉しい事だ。それにアタシ達の分まで活躍してくれるんだろう?なぁ?」

 

「そそっ!!オレ達の分も頑張れよ!!」

 

「はいっ!!!!!」

 

 

「普通なら悔しいはずなんじゃないかしら・・・不思議ね」

 

「佐倉ちゃんだからじゃ・・・ないのかなぁ~?」

 

「ふふっ・・・私にはわからないわね」

 

 

 

そうして試合開始の時間がやって来た。

大事な初陣ではあるが、対戦相手も精鋭ばかり油断は出来ないだろう。

 

 

 

『StrongGirls』

十六夜美響・大空みぎり・佐倉絢音

     VS

『Genesis』

南 利美・神童寺 司・ラッキー内田

 

 

 

両者の顔合わせが終わるとリング内にはラッキー内田と大空みぎりが残った。

そして、ゴングが鳴ったと同時に会場が揺れるような歓声も同時に響き渡った。

 

 

 

先手を取ったのは、みぎりだった。

 

 

 

「はあぁぁぁっ!!」

 

「くぅっ!?」

 

 

 

掴み合わず強引に仕掛けたボディスラム。

初手からの力任せの技には内田も背中を叩きつけられることしか出来ずにいた。

しかし、まだ序盤・・・体制を整えた内田も仕掛ける。

 

 

 

「はっ!はぁっ!!」

 

「・・・んんっ!!」

 

 

 

掌底からの掌底と突き上げるような鋭いコンビネーション。

相手を離れさせようと前蹴りを放とうとしたが、それを内田は見逃さない。

 

 

 

「りゃあぁぁぁっ!!」

 

「・・・ぐっ!」

 

 

 

待っていたかのようなドラゴンスクリュー。

高速で放たれたスピンにみぎりは苦痛に表情を歪ませる。

平気とばかりに地面を力強く踏み込んでみせると2人はまたじりじりと間合い取り合う。

 

 

痺れを切らせたみぎりが駆け出したのを目にしてラリアットだと判断した内田は身構える。

しかし、みぎりは横をすり抜けるのと同タイミングに横から胴を捕まえたのだ。

 

 

 

「ふんっ!!」

 

「がぁっ!?」

 

 

 

不意をつく捻り式バックドロップ。

みぎりのパワーでスピードも加わり、キツい一撃が突き刺さる。

これには内田も首元を抑えながら苦痛の表情を浮かべる。

 

 

だが、すぐに起こしたみぎりは軽々と内田を持ち上げる。

内田は必死に抵抗をするのだが、みぎりは容赦なくそのままアルゼンチン・バックブリーカーに入る。

 

 

 

「ふっ!ふんっ!!」

 

「あっ・・・はぁぁっ・・・!?」

 

 

 

揺さぶるみぎりと悲痛に喘ぐ内田。

逃げる事の難しいこの状況に動いたのは、利美であった。

 

 

利美はカットをする為にリングへと入った。

しかし、みぎりはそれを待っていたように内田を利美の方に放り投げたのだ。

いきなりの事に抱きとめる利美。

 

 

 

「ご、ごめんなさい」

 

「いえ、大丈夫ですか?うーん・・・やはりあの子・・・わからないわね」

 

 

 

優勢だった状況を自ら手放したみぎりの行動に呟く利美。

内田と代わってリングインした利美は警戒する。

だが、みぎりは自陣に戻ると絢音とタッチをする。

 

 

 

「がんばってぇ~♪」

 

「はいっ!!」

 

 

 

いつもとは違うリング内の空気に身体が震える。

しかし、いきなりパンッと両頬を叩いた絢音の目はスイッチが入ったように切り替わっていた。

 

 

 

「裕希子や恵理みたいな目・・・・・面白い」

 

 

 

同世代のメンバーの名前を口にすると目の前の対戦相手に高揚していた。

 

 

腕を軽く回してから走り出した利美。

その行動に身構える絢音だが、横をすり抜ける利美に気を抜いた瞬間、ロープの反動で戻って来た利美の低空ドロップキックが突き刺さる。

 

 

 

「ぎゃんっ!?」

 

「ほらほら、逃げなきゃキツいわよ」

 

「んんっ!?!?」

 

 

 

倒れた相手に流れるように忍び寄る利美はすぐさまアンクルホールドを決める。

見事な関節技に目を見開くほどの激痛が走るが、絢音は歯を食いしばって耐える。

レフェリーが絢音にギブアップかと尋ねるも絢音は首を横に振る。

それを見てもう一段階締めようとした瞬間だった。

 

 

 

「やあぁぁぁっ!!」

 

「くっ!!一筋縄じゃいかないか・・・・・」

 

 

 

一瞬の緩みを狙ったのだろう身体を捻って反対側の足で利美の横腹を蹴飛ばしたのだ。

それ程威力のあるモノではないにしろ態勢を崩した時に絢音は拘束から逃れたのだ。

相手の行動に少し嬉しそうに笑みを浮かべる。

逆に絢音は利き足だったのか表情は歪んでいるが、それでも臨戦態勢をとっていた。

 

 

 

「いけっ!!」

 

「くっ!!どりゃぁぁぁっ!!」

 

「かはっ!?!?」

 

 

 

絢音をロープに振った利美ではあったが、絢音はそのロープの勢いを逆手に使って全力のラリアットを相手の胸元目掛けて放った。

利美はちゃんと両手で防御したにもかかわらず、膝を付くと驚いたように絢音を見ていた。

 

 

 

「(このパワー・・・恵理と同等、いや・・・それ以上かもしれない。この娘、相当化けるわね)神童寺さん、任せていいかしら?」

 

「・・・・・任せてください」

 

 

 

冷静に相手の腕を判断する利美は深呼吸をするとゆっくりと立ち上がる。

まだ闘っていたいと言う気持ちはあるが、まだ控えている女の子に手を差し伸べる。

司は、無表情でタッチするも横を通り抜ける時にポツリと一言残した。

 

 

ルーキー同士の睨み合い。

先に動いたのは、司だったが思わぬ行動に出た。

 

 

 

「はあぁぁぁっ!!」

 

「ぐっ!?」

 

「・・・まだ」

 

「ぐぅぅっ!!かはっ・・・は・・ひぃ」

 

 

 

あまり見せないランニング・エルボー。

その不意をつく一撃で体勢を崩される絢音。

すかさずストレッチプラム式フェイスロックを仕掛ける司。

完成度の高い関節技に絢音は窮地に立たされる。

 

 

 

「絢音ぇぇぇっ!!」

「諦めるんじゃねぇぇぇ!!」

 

 

 

意識が遠のきそうになった瞬間、霞と燈華の声援だけがすっと頭に入って来たのだ。

 

 

 

「・・・・・やぁぁっ!!」

 

「がはっ!?」

 

 

 

脱力していた体に力が漲ったように頭を突き上げた。

技に夢中になっていた司はまさかの一撃を顔面に受けてしまうと技を解いてしまった。

間一髪だった絢音は自陣のポストに戻って来るとなんとかタッチする事が出来た。

 

 

リングに出てきたのは、みぎり。

相手の威圧感に動けないのか司は身構えた状態で距離をおいていた。

 

 

 

「来ないなら・・・こっちから行きま~す」

 

「・・・はやっ・・・かはっ!?!?」

 

 

 

想像以上の速さで間合いを詰めたみぎりは軽々と片手で司の喉元を掴むと勢い良くチョークスラムを放ったのだ。

その一連の動作に驚く事すら許されずにマットに叩きつけられた司は衝撃に目を見開き大の字になってしまっていた。

みぎりはそんな彼女を見るとそのまま両足を掴んだ。

 

 

 

「まだまだ寝てる場合じゃないよ~」

 

「うぅぅぅ!!!!」

 

 

 

力任せとも言える強引なジャイアントスイング。

見事に放り投げられた司は起き上がろうとするも平衡感覚が狂っているのかふらふらとしていた。

みぎりは彼女を軽々と抱き上げてコーナーポスト上に座らせた。

 

 

 

「これで・・・・・ダウンッ!!」

 

「ぐあっ!?!?」

 

 

 

かなり高い場所からの雪崩式ブレーンバスター。

何も出来ずにされるがままの司は何も出来ずにそのままフォールに入られる。

だが、カウント2.8で返す司。

 

 

みぎりはギリギリで返された事に驚いていた。

しかし、起き上がる事の出来ない司は顔を隠すように腕を重ねて呼吸を整える事しか出来ずにいた。

そんな彼女をゆっくりと起こすとまた敵陣営に歩かせたのだ。

 

 

 

「あの子・・・闘いに飢えてる」

 

 

 

返って来た司とタッチすると利美はリングインする。

みぎりは今度は交代はせずに待ち構えていると利美は目の前の相手に集中する。

 

 

 

「貴女・・・強い相手探しているでしょう」

 

「どうでしょうか~」

 

「やっぱり貴女・・・変わった人、ねっ!!」

 

「・・・ぐっ!!」

 

 

 

対峙して話し合う2人。

しかし、利美は先手とばかりに見事なハイキックを決めた。

鋭い一撃に巨体は片膝を付いて体勢を崩す。

 

 

 

「せいやぁぁぁっ!!」

 

「がぁっ!?」

 

 

 

その一瞬を待ち構えていたかのようにその片脚を踏み台にしてシャイニング・ウィザードを炸裂させた。

素早い連携に防御も間に合わず蹴飛ばされてしまうみぎり。

流れに乗るように利美はアキレス腱固めの体勢に入った。

 

 

 

「私の関節技どうかしら?」

 

「ぐぅぅっ・・・・・」

 

「逃がさないっ!!」

 

「あぁぁっ!!」

 

 

 

リング中央で絞り上げる利美。

強引にロープに向かおうとするみぎりだが、年季の入った利美の技。

苦痛に表情を歪ませるも一歩一歩匍匐前進でロープまで辿り着くとなんとか解放された。

ゆっくりとみぎりを起こして次の技を仕掛けようとした瞬間にみぎりが抱きついて来たのだ。

 

 

 

「なぁっ!?」

 

「もらったっ!!」

 

「かはっ・・・あぁぁっ!!!!」

 

 

 

パワーに絶対の自信を持つみぎりのベアハッグ。

優勢になるはずだった攻勢はこの不意打ちにより打ち砕かれてしまう。

押し寄せる圧迫感に目を見開き口端からは涎が垂れるほどにダメージを受けていた。

解放された時には糸の切れた人形のように崩れ落ちた。

 

 

みぎりはそんな彼女を無理矢理起こすと自分が得意とする必殺技に入った。

 

 

 

「コレで・・・おしまいっ!!」

 

「・・・・・っ!?!?」

 

 

 

容赦のない超高層ボディスラム。

その一撃は途轍もない破壊力で利美は声も出ない程にリングに沈んでしまった。

みぎりはそのままフォールに入る。

仲間の2人もカットに行きたいが、ダメージが蓄積されていて助けにいけずゴングが鳴り響いた。

 

 

 

「やりましたぁぁぁ!!!!」

 

「頑張ったわね、お疲れ様」

 

「2人共おつかれさま~♪」

 

「みぎりさん!美響さん!お疲れ様でした!!」

 

 

 

3人はお互いに褒め称え合うと初戦を勝利で終えたのであった。

 

 

 

 

 

JAPAN TEAM QUEENS CUP 一回戦

 

トリプルマッチ

 

 

『StrongGirls』    『Genesis』

 

十六夜美響       ●南 利美

 

〇大空みぎり   VS  神童寺 司

 

佐倉絢音        ラッキー内田

 

 

21分23秒   超高層ボディスラム

 

 

 

 



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JAPAN TEAM QUEENS CUP 二回戦

JAPAN TEAM QUEENS CUP 二回戦

 

 

十六夜美響とタッグ枠として参戦する絢音だったのだが、リング上では険悪なムードが立ち昇っていた。

リング中央でぶつかり合いそうな距離まで近付く十六夜美響と草薙みこと。

その雰囲気に固唾を吞んで見守るパートナーの佐倉絢音と神楽さやね。

 

 

 

「まさかこんな場所で貴女とやり合うなんてね」

 

「そのお言葉・・・そっくりそのままお返しします」

 

 

 

その後睨み合いが続いたものの乱闘騒ぎにはならず、両者自陣リングへと戻って来たのであった。

しかし、いつもとは違う美響の雰囲気に絢音は声を掛けずにいそいそとリングの外へと出て行った。

そうしてゴングが鳴り響き、試合は開始される。

 

 

 

「先手必勝ね」

 

「くっ・・・!その程度っ!!」

 

「・・・ふんっ!!」

 

 

 

初手からラリアットで仕掛ける美響。

それを防御してからのカウンターの突き上げ掌底。

それに反応して膝を突き出して相殺した2人は少しばかり距離が離れた。

 

 

 

「隙ありですっ!」

 

「んんっ!はぁっ!!」

 

「かはっ!?」

 

 

 

素早いみことのローリングソバットが突き刺さる。

しかし、お返しとばかりに放った見事な美響の延髄蹴り。

防御したみことではあったが、重い一撃のためかぐらっと体勢を崩してしまう。

 

 

 

「・・・沈めっ!」

 

「がぁっ!?」

 

 

 

正面から相手の首に自らの片腕を巻き付け、カッと目を見開くとそのまま自らの体を背中からマットへ倒し、その勢いを利用して相手の体を背面からマットへ押し倒すネックブリーカー・ドロップを決めた。

鋭い一撃に首を気にする素振りを見せるみことではあったが、美響は髪を掴むと無理矢理立ち上がらせた。

 

 

 

「まだ始まった・・・ばかりよっ!!」

 

「あぁっ!!」

 

 

 

素早い動きで完全に頭上に持ち上げて脳天から垂直に叩き落とす角度のきついエクスプロイダーが炸裂。

この速い技のチョイスにみことも身体に響いたのかふらふらっと自力で立ち上がる。

その状況に追い打ちを畳み掛けようとするに美響。

 

 

 

「もう一度寝かせてあげ「させませんっ!」・・・うっ・・・」

 

 

 

またラリアットを仕掛けようとしたと同時に美響に胸元にトラース・キックが突き刺さる。

不意を突いた一撃に胸元を抑えて立ち止まってしまう。

流れるように美響の横を擦り抜けてロープへ走ったみこと。

 

 

 

「貴女が眠りなさいっ!!」

 

「・・・・・ぐぅっ」

 

 

 

ロープの反動を使ってのフェイスクラッシャー。

連携技に倒される美響。

その間にみことはタッチをし、さやねが入れ替わる。

 

 

倒れていた美響を何事もなかったように立ち上がると絢音とタッチする。

いつものように両頬を叩いて気合を入れる絢音。

2人はお互いに近付くと自然と組み合った。

 

 

 

「ぐぅぅっ・・・・・」

 

「はぁぁっ!!」

 

「しまっ・・・!?」

 

「たあぁぁっ!!」

 

「くぅっ!!」

 

 

 

力比べと言っても差は歴然であり、絢音は一瞬にして相手の背後を取ったと同時に投げっぱなしジャーマン・スープレックスをお見舞いする。

放り出されたさやねではあったが、すぐさま立ち上がる。

 

 

距離が開いてしまい、さやねが近付かせないようにミドルキックを牽制代わりに放つ。

絢音はそれを受けつつも視線はずっと相手を捉えており、ピリッとした空気が強まっていた。

 

 

 

「今だっ!!」

 

「・・・・・っ!?」

 

 

 

ほんの一瞬気の緩みを狙ったように絢音は目を見開くと脇腹を狙う足を掴んでドラゴン・スクリューを放つ。

熟練されたような綺麗な技に苦痛に表情を歪ませていたさやねだが、目の前にはもう絢音が詰め寄っていた。

 

 

 

「んっ!!らあぁぁっ!!」

 

「・・・んぐっ」

 

 

 

ボディスラムで抱え上げている体勢から声を出すとそのまま自ら体を捻りながら横方向へ倒れ込み、同時に相手を頭部から叩きつけ、見事にノーザンライトボムを炸裂させた。

続けざまに技を受けたさやねは仰向けで動けずにいた。

それを確認した絢音は拳を突き上げると急ぎ足でコーナートップに登った。

 

 

 

「ダイビィィィングアタァァァック!!!!」

 

「・・・・・っ!!」

 

「・・・ぐふっ」

 

 

 

格好良くダイビングアタックを決めようとしたのだが、ギリギリのところで躱される。

無惨にもなにもない場所に着地した絢音は技の失敗と羞恥心に顔を真っ赤にしていた。

すると背後から声を掛けられて絢音は逃げるようにタッチをして美響と交代。

しかし、さやねは交代する素振りは見せずに手で三角形を作り、呼吸を整えていたのだ。

 

 

 

「・・・面白そうね」

 

 

 

そう呟いた美響は口端を上げるとじりじりと距離を詰める。

そんな姿にさやねはじっと美響の顔を見て身構えていた。

何かを企んでるようにも思えるが美響は歩み寄る。

だが、次の瞬間視界からさやねの姿が消えたのだ。

 

 

 

「しまっ・・・!?」

 

「はっ!!」

 

「・・・くっ」

 

「お覚悟っ!!」

 

「・・・・・ぅんんっ!!」

 

 

 

死角を突くような水面蹴り。

その一撃によって態勢を崩された美響にさやねのサソリ固めが締め上げる。

背中、腰に加え、両足の関節に痛みを感じる美響は自然と声が漏れてしまう。

レフェリーがギブアップかと尋ねるも美響は汗を滴らせながらも笑みを浮かべていた。

 

 

そんな彼女の姿にサソリ固めを解いたさやねは美響と起き上がらせると引き連れたまま自陣リングに向かう。

そして、みこととタッチを交わすと2人は美響を取り囲む。

 

 

 

「「落ちろっ!!」」

 

「かっは!?!?」

 

 

 

さやねが美響をパワーボムの体勢で持ち上げたかと思うとみことが全体重を乗せるように頭を掴み、ツープラトンパワーボムを放ったのだ。

仰向けに倒れる美響にフォールするみことではあるが、カウント2で返されるとゆっくりと美響を起こさせた。

 

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

「もうスタミナ切れなの?だらしないんじゃない?」

 

「抜かせっ!!」

 

「・・・ふふっ、弱ってる証拠・・・ねっ!!」

 

「かはっ!?!?」

 

 

 

美響の挑発に対してみことはフランケンシュタイナーをすかさず狙った。

しかし、美響は微動だにせず逆にそのままパワーボムで技を返したのであった。

苦しむみことを横目に美響はとある技を仕掛ける。

 

 

 

「なっ・・・あ、貴女なにを・・・!!」

 

「こう言うのもたまには・・・ねっ?」

 

「くっ・・・!は、離せ!離せぇぇぇっ!!」

 

「そんなに照れなくてもいいのに・・・貴女って案外ウブなのね」

 

「・・・・・ふぅんっ!」

 

 

 

はずかし固めの一つでもある・・・花一輪。

股関節を開脚させられているみことは顔を真っ赤にしながら暴れ回る。

そんな必死な彼女の姿にお尻を撫でたりしていると時折体をねじらせる姿に美響は微笑んでいた。

 

 

しかし、そんな技をずっとさせる訳もなくさやねがカットに入る。

妨害もあり解放されるみことではあるが苦痛と羞恥心が交わり動けずにいた。

そんな事情など関係なくカットに来たさやねをリング外に吹っ飛ばすと頭を掴んで起き上がらせる。

 

 

 

「コンビネーション・・・行くわよ」

 

「はいっ!!」

 

 

 

力強くタッチした2人。

美響は軽々とみことを肩車で担ぎ上げるとコーナー上には絢音が腕をぐるんぐるんと回していた。

 

 

 

「・・・決めなさい」

 

「インパクトォォォォッ!!!!」

 

「・・・・・っっ!?!?」

 

 

 

絢音のダイビング・ラリアットと同時に後方へと投げ捨てられた。

あまりの衝撃に声すらも出せずに倒れるみこと。

絢音は勝ちを確信ようにフォールに入るが、カウント2.9で返される。

 

 

自力では起きれる様子もないみことを絢音はゆっくりと起こす。

相手が弱っていると言う心の油断を突いたようにみことは動く。

 

 

 

「シッ!!!!」

 

「・・・がっ!?」

 

「ふうぅぅんっ!!」

 

「がはっ!!」

 

 

 

裏拳が見事に絢音の頭部を捉えたのだ。

その意表を突いた一撃にひるんだ絢音。

みことはすかさず組み付くと全力で垂直落下式キャプチュードをぶちかましたのだ。

その衝撃に絢音は頭を抱え込むようにして悶えていた。

 

 

間一髪逃れたみことはさやねと交代する事に成功する。

リングに入ったさやねは起き上がろうとする絢音に技を仕掛ける。

 

 

 

「てやぁぁぁっ!!」

 

「ぐはぅっ!!」

 

 

 

躊躇のないシャイニング・ウィザードに絢音は吹っ飛ばされてしまう。

まだ余裕のある絢音はすぐに後転して起き上がると目の前にはさやねが迫っていた。

 

 

 

「もう一撃!!」

 

「させるかぁぁぁっ!!」

 

「・・・うぐっ」

 

 

 

次の一手を仕掛けようとした矢先に猪のような鋭いスピアーにさやねは腹部を貫かれてしまった。

今までの威勢がなくなったさやねの頭を掴んで絢音は気合を入れる。

 

 

 

「うおぉぉぉっ!!」

 

「・・・・・っ!?」

 

「ギャラクティカ・・・ボォォォム!!!!」

 

「・・・・・ぐふっ!?!?!?」

 

 

 

パワーボムで頭上まで担ぎ上げたと同時に1回転したと思えば、大声の掛け声と共にタッチダウンするように相手をマットに叩きつけた。

その小さな身体から繰り出される必殺技にさやねは何も出来ずにそのままフォールされて3カウント奪われてしまうのであった。

 

 

 

「か、勝てました・・・・・」

 

「良い試合だったわ、貴女を観てると心が躍るわね」

 

「えへへっ・・・わ、私もご一緒出来て嬉しいです♪」

 

 

 

2人は拳を突き当て合うと微笑んで勝利を分かち合ったのだ。

 

 

 

 

 

JAPAN TEAM QUEENS CUP 二回戦

 

 

 

タッグマッチ

 

 

 

 

 

『StrongGirls』    『風林火山』

 

 

 

十六夜 美響       ●神楽 さやね

 

         VS

 

〇佐倉 絢音        草薙 みこと

 

 

 

 

 

 

29分49秒   ギャラクティカボム



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JAPAN TEAM QUEENS CUP 準々決勝

JAPAN TEAM QUEENS CUP 準々決勝

 

 

洌崎 薫子とのタッグ戦。

しかし、対戦カードとリング中央で対峙すると絢音は震えていた。

そんな彼女を横目に大きな溜息をつくと薫子が口を開く。

 

 

 

「こりゃまたえげつない組み合わせやな、お二人さん」

 

 

 

目の前に立ちはだかるのは、パンサー理沙子と豊田 美咲のペアであった。

 

 

 

「そんな事ないんじゃないかしら?」

 

「どの口がそないな事言うとんねん!ベルセルクと新女のトップレスラーが揃ってなに抜かしとんねんっ!!」

 

「そんなに吠えてると子供っぽく見えるわよ」

 

「だ~れ~がぁ~!!子供じゃい!!えぇ加減にせぇよ!!」

 

 

 

バチンッ!!と乾いた音が3人のやり取りを止めるように鳴り響く。

音がした方に視線を向けると両頬を勢い良く叩いたのか手の跡がくっきりと残った絢音が涙目ながらに立っていた。

 

 

 

「本日はっ!!よろしくっ!!お願いしますっ!!!!」

 

 

 

大声と共に深々とお辞儀した絢音はそそくさと自陣コーナーへと走って行く。

 

 

「・・・ったく、ホンマおもろいやっちゃなぁ~」

 

 

頭をくしゃくしゃと掻くと薫子も会釈をすれば、絢音の待つコーナーへと向かう。

 

 

 

 

「あの子が最年少王者なのね」

 

「えぇ・・・しかも、実力は未知数なの」

 

「それは・・・侮れないわね」

 

 

 

美咲の言葉にギュッと拳を握りしめた理沙子は対面でストレッチをする2人を見据えていた。

 

 

ゴングが鳴って試合が開始すれば、リング中央で組み合うのは絢音と美咲であった。

 

 

 

「交流戦・・・以来じゃない」

 

「・・・・・はいっ!!」

 

「今日は負けないわ」

 

「負けませんっ!!」

 

「・・・ぐぅっ!?」

 

 

 

組み合っていた2人ではあったが、先に仕掛けたのは絢音。

相手を突き放したと同時に逆水平チョップを豪快に決めたのだ。

その全力の一振りに美咲は胸を押さえ蹲る。

 

 

 

「まだまだぁぁぁっ!!」

 

「うっ・・・がはっ!?!?」

 

「逃がさないっ!!」

 

「くぅ・・・うぅっ!!」

 

 

 

小柄なんて関係ないと思わせるように軽々と相手を逆さまに抱え上げると後方へ投げ、相手の背面をマットへ叩き付けたのだ。

見事なブレーンバスターに美咲はダメージを受ける。

しかし、絢音の攻めは終わる素振りはなく倒れた相手に対して逆エビ固めを繰り出したのだ。

流れるような連携技に美咲は苦痛な声を漏らす。

 

 

中央辺りでの攻防ではあるが、美咲は力任せに匍匐前進でロープに逃げ延びる。

ロープブレイクで解放された美咲ではあったが、絢音はそんな彼女を無理矢理起こしたのだ。

 

 

 

「次ぃぃぃっ!!!!」

 

「させないわよ!!」

 

「・・・・・がぁっ!?」

 

「思い通りに・・・させないわ!!」

 

「・・・・・ぐぅっ!!」

 

 

 

優勢な絢音ではあったが、美咲も半身を捻るとキレのあるローリング・エルボーをお見舞いする。

この不意を突く一撃で絢音の体勢を崩した美咲はすかさずノーザンライト・スープレックスを見舞った。

見事な連続技に翻弄される絢音だが、すぐに起き上がると2人はじっと睨み合う。

 

 

 

「佐倉ちゃ~ん♪交代しよかぁ~!!」

 

「は、はい!!」

 

 

 

不意に聞こえる明るい声に反応した絢音はすかさず薫子とタッチを交わす。

すると美咲もチラッと理沙子を見ると頷く彼女とタッチを交わす。

 

 

交代した2人は何も言わずにリング中央にて対峙する。

組み合う訳でもなく言葉を交わす訳でもない2人の空気に会場は固唾を呑んで眺める事しか出来ずにいた。

 

 

 

「シッ!!」

 

「・・・・・っ!?!?」

 

「遅過ぎるでぇぇぇ!!!!」

 

「・・・ぐっ!!」

 

 

 

目にも止まらない縦回転式ドロップキック。

受けた理沙子は驚いているのも束の間最速のリバース・フランケンシュタイナーに後頭部を叩きつけられたのである。

速過ぎる連携技に翻弄される理沙子だが、まだ浪速のスピードスターは止まらない。

 

 

 

「シューティングブレェェェド!!!!」

 

「・・・がぁっ!?!?」

 

「どないやっ!!」

 

 

 

起き上がろうと片膝を付いたタイミング。

そこを狙いすましていたかのようにその片脚を踏み台にして相手の膝上に乗り上がり、すぐさま相手の頭部に膝蹴りを繰り出したのだ。

その鋭い一撃にはリングの女王と呼ばれた彼女もダメージを受けてしまった様子である。

渾身の一撃を見舞った薫子はグッと親指を立てて自慢げである。

 

 

先程の一撃がまだ残っているのかふらつきながら起き上がった理沙子。

畳み掛けるチャンスと薫子はロープに走り出す。

 

 

 

「こいつもおまけやっ!!」

 

「・・・ぐぅっ!?」

 

「喰らっと・・・けっ!!」

 

「かはっ!?」

 

 

 

一回転してからのレッグラリアットが理沙子に突き刺さりロープに飛ばされると薫子はすぐに態勢を整える。

ロープの勢いをそのままに戻って来た理沙子にジャンピング・ネックブリーカー・ドロップが炸裂。

見事な技のコンビネーションにガッツポーズを決めると薫子は調子に乗ってコーナー最上段に駆け登る。

 

 

 

「このまま仕舞いやでぇぇぇっ!!!!」

 

「・・・・・っ!!」

 

「ぎゃんっ!?」

 

 

 

かなり高いフライング・ボディ・プレスであったが、理沙子が素早く転がって回避すると薫子は潰されたカエルのようにリング上に無惨な姿を晒してしまったのであった。

そんな薫子を起こすと側面から相手の脇下へ頭を潜り込ませるようにして組み付き、片腕で首の付け根あたりを、もう片方の腕で腰を抱えた。

 

 

 

「反撃・・・開始っ!!」

 

「・・・なぁぁぁっ!?!?」

 

 

 

見事な裏投げが薫子を襲う。

あまりの衝撃に叫ぶ相手を尻目に理沙子はまた薫子をゆっくりと起こす。

 

 

 

「まだ終わらないわよ」

 

「いぎぃぃぃっ!!!!!」

 

「洌崎さんっ!!」

 

 

 

巻きつくように絡みつくコブラツイストに薫子は目を見開き悲鳴をあげる。

ギチギチと締め付けられていく姿にカットに入ろうとした絢音。

しかし、薫子は人差し指を振りまだ自分が大丈夫だとアピールをしたのだ。

薫子と絢音の目が合った・・・次の瞬間・・・。

 

 

 

「ウチを舐めたらアカンでぇぇぇぇ!!」

 

「なっ!?・・・くぅっ」

 

 

 

素早い対応で相手の足のフックを外し、そのままアームホイップで理沙子を前方に投げ捨てたのだ。

その見事な対応力に驚きながらも返された事に悔しそうにマットを叩く理沙子。

 

 

 

「えげつないやっちゃなぁ~・・・一歩判断ミスしとったら危なかったわ」

 

「初めてのタイプね。・・・やりにくいわ」

 

「それは褒め言葉として・・・受け取っといたるわっ!!」

 

「ぐぅっ!?嫌味で言ったつもりだったのに・・・・・」

 

 

 

鋭いフライング・ニールキックだが理沙子はなんなくガードをするとそのまま距離を取ると交代をする。

薫子は軽いステップを踏み、臨戦態勢に入っていた。

 

 

 

「先手必勝っ!!」

 

「・・・っ!甘いわっ!!」

 

「甘いのは・・・アンタやでぇぇぇ!!」

 

「・・・がぁっ!?!?」

 

 

 

素早い水面蹴り。

しかし、それに反応をして回避した美咲は攻撃の態勢に入ろうとしていた。

次の瞬間・・・美咲の側面に見事な後ろ回し蹴りが突き刺さったのだ。

このトリッキーな一撃には想定外だったのか吹っ飛ばされると痛みに脇腹を押さえていた。

 

 

 

「決めるっ!!」

 

「・・・・・・・・・・っ!?!?」

 

 

 

ウラカン・ラナ・インベルティダ。

目にも止まらぬ早業に美咲は2.5のカウントで返す事に成功する。

だが、薫子はまだ止まらない。

すぐさま美咲を起き上がらせると自陣のコーナーへと連れて行く。

 

 

 

「絢音ちゃ~ん♪」

 

「は、はい!!」

 

「よっしゃー!!邪魔者は退散じゃ~!!」

 

「うっ!!??」

 

 

 

美咲を絢音に託した薫子は飛び出すように相手のパートナー理沙子を吹っ飛ばした。

その間にも絢音は美咲をパワーボムの体勢で身構えていた。

すると帰って来た薫子は美咲の頭を掴んで2人は大きく叫ぶ。

 

 

 

「「ツイン・パワーボム!!!!」」

 

 

 

2人の力が合わさった一撃が炸裂。

それを受けた美咲に対してフォールする絢音。

しかし、2.8で返される展開に会場の歓声が響き渡る。

 

 

絢音はすぐに美咲を起き上がらせると自分の得意技に移行する。

さっきとは違い高らかに持ち上げた・・・次の瞬間。

 

 

 

「りゃぁぁぁっ!!」

 

「・・・・・えっ!?!?」

 

 

 

投げようとしていた絢音が逆に返し技のヘッドシザーズ・ホイップで放り投げられたのであった。

まさかの返しに呆気にとられた絢音。

そんな展開に美咲は攻勢に転じた。

 

 

 

「まだ終わらないわっ!!」

 

「・・・がぁっ!?!?」

 

 

 

見事なタイガー・スープレックスが絢音を襲う。

あまりの衝撃に苦痛の表情を浮かべたが、2.5で返す事に成功する。

だが、美咲はゆっくりと絢音の頭を掴んで起こすと自分のオリジナル技を仕掛ける。

 

 

 

「これで・・・決めるっ!!!!」

 

「・・・あぁぁっ!?!?」

 

 

 

会心のミサキスペシャルが絢音を捉えた。

連続での大技に絢音は大の字になって身動きを取れずにいた。

美咲もダメージがあるのかふらつきながらもフォールに入るが、今度は薫子のカットで邪魔が入る。

その薫子を追い出す為に理沙子もリングに入り込む。

 

 

 

「貴女の出番は・・・」

 

「・・・もうないわっ!!」

 

 

 

2人のクロス・ボンバーが薫子を襲う。

 

 

 

「遅過ぎるんじゃっ!!」

 

「「・・・・・・・・・・っ!?!?」」

 

 

 

とっさにしゃがみ込んで避けた薫子はロープに向かって走り出してエプロンサイドに移動するとトップロープに飛び乗り2人目掛けて飛びついた。

 

 

 

「ボケがぁぁぁっ!!!!」

 

「なぁっ!?」「かはっ!?」

 

 

 

こちらを向いた2人の首を手慣れた様に小脇に挟み込んでの浪速式DDT。

まさかの一撃に2人は大ダメージなのか起き上がれないのか理沙子はリング外へと落ちていく。

その間に大の字だった絢音は起き上がっていた。

 

 

 

「いっちょデカいのかましたりっ!!」

 

「・・・・・はぁ”い!!」

 

 

 

リング外に戻る薫子に言われた一言に苦しそうな声ながらも絢音は力強く返事をした。

ゆっくりとだがコーナートップに立つとグッと拳を突き上げた後に飛び込んだ。

 

 

 

「だあぁぁぁぁっ!!!!」

 

「・・・・・・・・・・っ!?!?!?」

 

 

 

小柄なりにも気合のこもったボディ・プレスが美咲のボディに突き刺さる。

攻勢に転じて勝機を掴み取る作戦は若き戦士によって打ち砕かれたのである。

勝負が決まったのを確認したと同時に絢音の意識はプツンと消えてしまった。

 

 

 

 

 

JAPAN TEAM QUEENS CUP 準々決勝

 

 

 

 

 

タッグマッチ

 

 

 

『StrongGirls』    『God of destruction』

 

 

 

洌崎 薫子       ●豊田 美咲

 

         VS

 

〇佐倉 絢音      パンサー理沙子

 

 

 

 

 

38分22秒   ダイビング・ボディ・プレス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「乾杯っ!!!!」」」」」」

 

 

 

場所は・・・浪速や。

JAPAN TEAM QUEENS CUPを終わり、チーム:StrongGirlsのメンバーが集まって反省会兼お疲れ様会を開催していた。

たくさんの料理が並び、絢音以外はお酒を片手に談笑しているのであった。

 

 

 

「いやぁ~なんやかんやでベスト16まで行けたんは凄いこっちゃなぁ~♪」

 

「でも、でも!!あのオールスターチームは何だったんデース!?!?」

 

「ジャッカル東条、ジェナ・メガライト、豊田 美咲、パンサー理沙子、クリス・モーガン、真田 朱里・・・・・ふふっ、タイトル戦でなきゃ中々お目にかかれないメンバーね」

 

「ジャッカルの奴がエンターテイメントが必要とかぬかしよってあの2人をそそのかして連れて来たみたいなんやっ!!ホンマけったいな話やでっ!!」

 

「う~ん・・・でも~久し振りに全力で闘えたから私は満足したかなぁ~・・・・・」

 

「大空選手とクリス選手のパワー対決は迫力ありましたもんねっ!!」

 

「NonNon!!アレはT-REXとT-REXのバトルだったデース!!!!」

 

 

 

などと盛り上がっていたのだが、薫子が急に絢音に肩を組むととある話題に変わった。

 

 

 

「・・・・・にしても、佐倉ちゃんだけやないか全勝しとるんわ。ホンマにヴァルキュリアは今後安泰やなぁ~♪」

 

「えっ!?!?そ、そんな皆さんのサポートもあったおかげですし、私はまだ1年も経っていない新人ですから・・・・・」

 

「What!?アヤネェェェ!!それは本当デスか!?!?」

 

「うぇっ!?な、なにがですか!?!?」

 

「まだ1年も経っていないと言う事です」

 

「あっ・・・・・はい」

 

「Oh!!VeryGood!!」

 

「великолепный(素晴らしい)。そうなればボク達のベルトも狙いに来るかい?」

 

「えええええっ!?!?!?」

 

「おぉっ!?面白い話になって来たなぁ~!?佐倉ちゃんは早くも世界進出かぁ~???」

 

「それも良いじゃないかしら?」

 

「ふぇ~・・・十六夜さんまでぇ~・・・・・」

 

 

 

大きな笑い声が浪速やに響き渡る。

しかし、この出会いがこの先なにを生み出すのかなど誰も知りもしないのであった。

 

 

 



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激闘への道しるべ

「「「「「メリークリスマァァァス♪」」」」」

 

 

 

12月24日。

世間ではクリスマスイヴの日。

ヴァルキュリアの宿舎でも選手が集まってのクリスマスパーティーが行われていたのであった。

 

 

宿舎で暮らす選手だけではなく他の選手達も集まる毎年恒例の行事みたいである。

たくさんの選手が賑わう中で絢音はフライドポテトをケチャップに付けたり、マヨネーズに付けたりして嬉しそうに食べていた。

 

 

 

「うぅ~うまうま~♪」

 

「おっ!!楽しんでるみたいだねぇ~♪若いうちはちゃんと楽しまないとねぇ~♪ほら、ケーキもあるよ」

 

「ライオネルさん!!ありがとうございます♪」

 

「はっはっはっ!!その食べっぷり姿いいね!今度アタシ特製のちゃんこでも食べるかい?」

 

「是非っ!!お願いしますっ!!」

 

「ふふっ・・・楽しんでいるかな?佐倉さん」

 

「・・・へぇ?み、みみ、御堂さん!?!?」

 

 

 

いきなりのVWQ王者からの声掛けにいつもの発作みたいな症状が出る絢音。

しかし、そんな彼女を横目にライオネルとヒカルの間にはピリッとした空気が張りつめていた。

 

 

 

「大晦日が楽しみだねぇ~ヒカル♪」

 

「・・・・・えぇ、私も大晦日を待ち遠しく思います」

 

「もしかして・・・・・VWQ(ヴァルキリア・レスリング・クイーン)シングル王座の件ですか?」

 

「そうさね!今年はアタシがあのベルトを腰に巻いて年を越すのさ!!あのベルトはアタシに似合ってるからねぇ~♪」

 

「それはどうでしょうか・・・今年もあのベルトは私の腰がふさわしいと思いますが・・・・・」

 

「言うじゃないか・・・ヒカル」

 

 

 

睨み合う2人の間で蛇に睨まれた蛙状態の絢音。

どうしていいのか解らずあたふたしていると風香がやって来た。

 

 

 

「お2人とも・・・佐倉さんが怯えていますから程々にお願いしますよ?」

 

「今日は折角のクリスマスイヴ・・・大晦日の事は忘れましょうか」

 

「それもそうだな!美味しいモノが美味しくなくなっちまう!!アタシは酒でも飲んで来るかねぇ~♪」

 

 

 

ハッと絢音の顔を見た2人はやっと困らせてしまっている事に気付いた。

2人を止めた風香は絢音の横に座った。

 

 

 

「あの2人・・・ライバル同士だからたまに闘志がぶつかり合うケースが多いのよ。乱闘までは行かないんだけど、熱くなられたら私達でも止めるのは一苦労だからこうやって先手を打つと効果的よ?」

 

「な、慣れてらっしゃるんですね」

 

「慣れてる訳じゃないの・・・ほら、手が震えているでしょ?大先輩相手でも後輩が困ってるなら頑張らないとね?」

 

「あ、ありがとうございます♪」

 

 

 

2人は和やかな雰囲気でクリスマスパーティーを楽しんでいた。

だが、そんな2人の前に珍しい人物がやって来た。

 

 

 

「お2人共楽しんでますか?」

 

「あっ!富咲さん!お疲れ様です!!」

 

「えぇ、富咲さんは今日のお仕事はお休みなんですか?」

 

「この日ぐらいは休みなさいって社長さんが・・・ねっ?でも、佐倉さんにはちょっとした話が来ているの」

 

「私に・・・ですか?」

 

 

 

そう言うとひばりは左手に持っていたバインダーを絢音に手渡した。

そこにはとある内容が記された紙が挟まれていた。

 

 

 

「さっき届いたのよ・・・新日本女子プロレスからの挑戦状がね」

 

「WWWGPシングル王座の件でしょうか・・・・・ですが、日付的に大晦日は御堂ヒカル選手とライオネル神威選手のVWQシングル王座戦でしたよね?でもでも、挑戦状って事は私達・・・ヴァルキュリアが持ってる新日本女子プロレスのベルト狙いですよね?う~ん・・・他にベルトって・・・・・」

 

「何を寝ぼけた事を言っているの?佐倉さんと美星さんが持ってる新日本タッグ王座のベルトを取り返しに来るんでしょ」

 

「・・・・・っ!?!?わ、忘れてましたぁぁぁっ!!??」

 

 

 

あの激闘の一戦から音沙汰もなかったので完全に忘れていたが、現新日本タッグ王座のベルトを絢音は持っているのであった。

完全に忘れていた反応を見た2人は呆れた様に苦笑いを浮かべていた。

 

 

 

「この件は社長にご報告済みです。試合は大晦日に行われるセミファイナルで開催予定です。対戦相手は・・・マイティ裕希子選手とボンバー来島選手のペアが予定されてるみたいね」

 

「あの黄金ペアと名高い2人が相手なんですか!?か、考えるだけでも力が漲ってきますっ!!!!」

 

「ふふっ・・・佐倉さん、初めて会った時とは別人みたいになったわね」

 

「・・・そうですか?」

 

「えぇ・・・昔の貴女は本当に怯えた子犬のような目をしていたけど、今は闘志に満ち溢れた目を持ってるんだから私もうかうかしていられないわね」

 

「そうね、今ではウチの看板選手だもんね?どんどん頑張ってもらわないとね!佐倉さん!!」

 

「が、頑張りますっ!!」

 

「その意気や良し♪じゃあ・・・この事を美星さんにも伝えないといけないから・・・じゃあ楽しんでね」

 

 

 

そう一言残すとひばりは美星を探しにこの場を離れた。

 

 

 

「風香!お久しぶり」

 

「あっ!乱童さん、遠征お疲れ様でした!!」

 

 

 

聞き慣れた名前に振り返るとそこには乱童 聖羅選手であった。

 

 

 

「は、はは、初めまして!!佐倉 絢音と言います!!遠征お疲れ様でした!!」

 

「おっ!!沙織さんから聞いてるぜ?面白い新人ちゃんってのはお前の事だろ?」

 

「・・・はぁ、あまり怖がらせたらダメですよ」

 

「いやぁ~・・・沙織さんがかなり自慢げに話してたら気になってたんだよ!今度の大晦日の試合観させてもらうぜ!!」

 

「・・・は、はい!!」

 

「どうして佐倉さんの試合の事知ってるんですか?」

 

「沙織さんからさっき聞いたんだよ!残りの遠征組も知ってるはずだぜ?」

 

「もう皆さん帰国されてるんですか?」

 

「結城とキャットはさっき見かけたぜ?佳織と七海は大晦日前には帰国するはずだ」

 

「神坂 結城選手!!とエンジェルキャット選手!!と出雲 佳織選手!!と七森 七海選手!!の事ですか!?!?」

 

「・・・お、おぅ。なんか迫力すげぇのな」

 

「彼女、あぁ見えてかなりのレス女なのでかなり詳しいんですよ。すべての選手のデータが頭に入ってるって噂ですから」

 

「ふ~ん・・・やっぱおもしれぇ~奴だな」

 

 

 

聖羅は鼻息荒くして興奮している絢音を横目に何かを感じ取った様子であった。

そして、クリスマスパーティーはこの後何事もなく終わりを告げた。



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