逆転無双 (((::X::)))
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逆転無双

夜の森。

開けた場所にある湖の前で服を脱ぎ、水の中に足を踏み入れる。

季節はたぶん春くらい。夜の肌寒さはないが、やはり水に浸かると、ひんやりとした冷たさがあった。

それでも構わず奥へと進み、中央の辺りで俺は肩まで潜らせた。

 

「ふぅー」

 

思わず漏れるため息。

今日も一日、大変であった。やはり生まれ住んだ日本と違い、新しい土地での生活は、慣れがないせいか疲れる。

ましてや過去の中国世紀末の代名詞である、三国志の時代である。

現代人にとっては、かつての人と比べ、息を吸うだけでも、カロリーの消費がダンチであった。

 

「何で俺、こんなところに来ちゃったんだろう」

 

そう改めて口に出してみても、原因は一つしか思い当たらない。

筋肉ダルマに、無理やり連れて来られたからだ。

ご主人様に行かせたくない外史があるから、お前が行け、と。

他人が聞けば、全く持って意味がわからないだろう。大丈夫だ、俺もよくわかんない。

ただハッキリとしているのは、ここは三国志の世界で、男女の立場が微妙に逆転していて、男女の貞操感は完全に入れ替わっていた。

しかも男の数は絶滅種なみに少なく、精力もかなり弱いらしい。

これが判明した時の俺は最初、喜んだ。

だって俺でもモテモテになれると思ったから。

しかしすぐに後悔する。

だって俺でも本気で襲われるから。

女と形容するもはばかれる、北京原人から少しだけ進化の形跡が見られる、サル(雌)に逆レ未遂をかまされた瞬間は、本気で舌を噛んで自害しようかと決意したほどであった。

しかも後になって判明したのだが、俺を襲った雌ザルは、俺を男装した女と信じて疑ってなかったのだから、驚きである。

空恐ろしかった。

要するにこっちの世界の女は、気持ちよければレズも辞さない覚悟があるのだ。

ぶっちゃけ引いた。どんだけ性欲が強いんだ、と。

そうしてその認識が、あながち間違ってもないのがマジで辛い。

俺は今、ここでこうして水浴びをしているのだが、少し離れた場所には、一緒に旅をしている仲間達がいる。

俺を強姦から救ってくれた、女神のような人達なのであるが、悲しいかな。彼女達もやはりこっち側の女だ。

常に性欲を持て余していた。

例えば俺の着替えどころか、トイレまで覗こうとしていたり。

深夜。寝つけずに黙って横になっていると、枕元から一時間くらい、はぁはぁ……と荒い息のミュージックを奏でられたりと。

彼女達が処女であるからためらいがあり、俺の童貞はまだ守られているが、いつ強引に迫られてしうまうのかと、毎日ヒヤヒヤしてる。

だって組み伏せられたら俺、ぜんぜん抵抗できないし。

日増しに過激化する、ストーカーを観察しているようで、すごく落ち着かないのだ。

 

「桃香も愛紗も、顔や体はいいのに……どうしてなのか」

 

もちろん二人にも、いいところはたくさんある。

野宿に不慣れで、足手まといな俺の替わりに、寝床や食料の調達などの、もろもろの仕事を一手に引き受けてくれるし、俺が何かミスをしても笑って済ませてくれる。

優しい人達ではあるのだろう。

けれど、俺が手伝いを買って出て、思いがけないハプニングで、軽いボディタッチが発生したら、顔を赤らめるだけではなく、乳首を突起させるのは、俺が笑えないので止めて欲しい。

 

「はぁ」

 

と、ため息をもう一度。

 

「……帰りてえ」

 

切実にそう願う。でもそれは無理だ。

歴史博物館で割ってはいけない物を俺が割ってしまったらしいので。筋肉ダルマが言ってた。

ここで頭を抱えてもどうにもならないが、そうしたくもなる。

俺が頭に手をやると、不自然なくらいに後ろから、草木が動く音がした。横目で盗み見ると、緑の中に目立つほどピンクが混ざっていた。

ぶるりと体が震える。

 

「すぅう」

 

俺は大きく息を吸い込み、それから限界素潜りのチャレンジを開始した。

 

 

 

 

 

十十十十十

 

 

 

 

 

「うへへへへへへ、今日のご主人様のご主人様は、どんな感じかな」

 

「あ、姉上。そ、その、口からよだれが……」

 

「おっと」

 

愛紗に指摘された桃香は、慌てて袖で口元をぬぐう。

そうして綺麗綺麗にしてから再度、湖に視線を向けた。

 

「さて、ご主人様は――あれ、ご主人様は?」

 

「ついさきほど、潜られました」

 

「ううん、間が悪いな。もう少しだけ、早く来られれば見られたかもしれないのに」

 

そう言って桃香は、頬をぷくっと膨らませる。

 

「愛紗ちゃんが止めるから、出遅れたんだよ」

 

「……覗きを行おうとする者がいれば、止めるのは当然です」

 

「それで結局、一緒に覗こうとしているのに? 説得力ないよ、愛紗ちゃん」

 

「わ、私はただ、桃香様の邪な目から、ご主人様の柔肌を守ろうと」

 

「とか言って、今もちらちらご主人様の方に目がいってるのが、丸わかりだよ」

 

「うぅ……」

 

かあーっと顔を赤くしながら、愛紗は手で顔を覆った。

しかし両手には微かな隙間があり、瞳だけは隠れていなかった。どうやら恥ずかしいながらも、未だ覗きは続行するらしい。

その妹分の性的欲求の深さをかいま見た桃香は、愛紗に警告をする。

 

「普段は関心ない風を装っているけれど、愛紗ちゃんってかなりのむっつり好色だよね」

 

「そ、そのような事など」

 

「あるよ。私、知ってるんだから。たまにご主人様が眠ってから、寝顔覗きに行ってるの。それこそ止めないといけないんじゃないかな」

 

ばれたら大変だし。と、自分を棚に上げて攻める桃香に、愛紗もたまらず反撃をした。

 

「わ、私は近くで、ご主人様の護衛をしていただけです。桃香様こそ、自重して下さい。ご主人様がお花を摘みに行かれる際に、後をつけようとするのはやり過ぎです」

 

「だって男の人のおしっこと精液って、おちんちんから出るんだよね。つまりご主人様のおしっこ姿は、間接的に射精の瞬間と同じなんだよ。だったらすごく見たくない?」

 

「その発想はありませんでしたけど、でも、だからと言ってそこまでは。またやり過ぎて鈴々の時のように、ご主人様と喧嘩別れをしたいのですか、桃香様は」

 

「あー、うん。鈴々ちゃんはね」

 

『こんなはれんちといられないのだ! 鈴々は村に帰るのだ!』

 

ご主人様と出会う前。

かつてそう怒り、本当にいなくなったもう一人の妹分を桃香は思い出す。

 

「何で急にああなっちゃったんだろうね。いきなりで、私もおどろいたよ」

 

「どうやら桃香様が男を見るや否や、字や名も言わず、真名だけを名乗るのが、嫌だったのかと。一度だけ、そう相談を受けた事があります」

 

「うーん、手っ取り早く、男の人に真名を呼んでもらえる機会なのに?」

 

「ですが真名とは、我々にとって、大切な名です。鈴々は、それが軽く扱われているように感じ、不満を持ったのではないでしょうか?」

 

真名を軽視した者が、相手を激怒させ、切り殺される事件は年に数度ある。

桃香のように、距離をつめて仲良くなる為の一歩として使う者もいれば、宗教のごとく神聖視している者もいる。

精神的にまだ未成熟だった鈴々は、どちらかと言えば後者よりの考えが強かったのだろう。

言ってくれれば直したのに。

そう思わずにいられない桃香であったが、そこでふと。気になった疑問が湧き、愛紗に尋ねた。

 

「……愛紗ちゃん。鈴々ちゃんに相談されてたんだよね。何て返したの?」

 

「気持ちはわかる。と、だけ」

 

あれ、これって私も悪いけど、愛紗ちゃんも悪くない?

桃香に不満を持って愛紗に愚痴ったのに、賛同が得られるどころか、話し相手が敵側に立ってしまったのだ。

恐らく鈴々は、かなりの疎外感を感じたであろう。

いつか鈴々と再会したら、愛紗と一緒に謝ろうと桃香は決めた。同時に、今は遠い地にいるであろう妹分が、少し心配になった。

 

「鈴々ちゃん。あと数年もしたら、変なこじらせ方をしそう。ほら、今のご時世って、みんな限りなく処女で死ぬから」

 

男は基本、権力者が集めて侍らせている。

若い男でも一日一回しか射精できないので、数をそろえて世継ぎを作る為であるが、反面。多数の男を従える事で、自らの権力を知らしめる側面もある。

では村の男性事情はどうなっているのかというと、その土地を治める太守が飽きた男を下げ渡し、その男と村の女達は子作りをするのだ。

当然ちんこのたちは悪く、雨乞いのごとくいつかちんこが勃起しますように。と、祈る日々が今の日常であった。

こんな生活が長く続けば、だいたいは処女をこじらせてしまう。

 

「それが嫌で、みんな処女喪失が出来る、優しい世の中を私は目指しているんだけど」

 

「立派な志だと思います。ですが実際、これからどうするのですか? 幸い私達には、天の御遣いである、ご主人様がおられますが」

 

「噂になった占いだと、一晩に何回も勃起できて、精液も白水みたいじゃなくて、どろどろに白く濁ってるんだよね。その辺り、本当なのかな?」

 

「毎朝、お元気ではあるようです」

 

あっ、これは愛紗ちゃん。早朝もご主人様の寝顔を覗きに行ってるな。と桃香は推測したが、ひとまずは大切な会話を進めた。

 

「女性経験はないって言っていたし、私達で経験を積んでもらってから、ご主人様には恵まれない女性達に、おちんちんを差し伸べてもらいたいんだけれど――」

 

「我々が出会う直前に、襲われていましたからね。その頼みはさすがに……」

 

「うーん、やっぱり難しいよね」

 

男に対する強姦。あるいは未遂は、週に一回の頻度で発生する。

そうして事件が起こってしまえば、ちんこが完全に勃起しなくなる話も、桃香達の耳には届いていた。

 

「女性嫌いになり、同じ男性を好きになる事もあるそうですし。こればかりはやはり、ご主人様に確認するしかないと思うのですが」

 

「今度、さり気なく聞いてみようか…………ところで、愛紗ちゃん。ご主人様は?」

 

「ですからさきほど、水中にもぐられ――へっ?」

 

最後に愛紗がご主人様の姿を確認してから、数分は余裕で経過している。

武人の愛紗であれば、まだまだ水の中で息を保っていられるだろうが、男らしく貧弱なご主人様は、そうとう苦しいのではなかろうか。

事実、辛かったらしい。

二人が改めて湖に目を向けて数秒後、ご主人様が水面に浮かび上がった。ただし顔はまだ水に浸かった状態で、背だけがぷかぷか、頼りなさげに揺れていた。

 

「ご、ごごご、ご主人様!」

 

「らめえ、死んじゃうよぉお!」

 

ご主人様が溺れていると察した二人は、着の身着のまま湖へと飛び込み、陸上まで担ぎ上げた。

そうして口内に残る水を唇で吸い出し、呼吸が戻った事に安心する。

それからご主人様の体を拭き、服を着せて二人は火を熾した。

 

「もう大丈夫だと思うけど、ご主人様の事。愛紗ちゃん、お願いね」

 

「……はい」

 

一通りの救出活動を終え、桃香と愛紗はそれぞれの役割を果たそうとしていた。

愛紗は引き続きご主人様の看病。

桃香は一人、山の奥へと。

何をしに、こんな夜更けに山奥へと向かうのかと言えば、自慰をする為だ。

不可抗力ではあるが、ご主人様の裸を見て、口づけまでしてしまったのである。

落ち着いたら、股がむずむずして仕方がなかった。

 

「十回くらいで、戻ってくるから」

 

そう言い残し、桃香は森の中へと消えて行った。

出来れば愛紗も、己の手で遠慮なく体を慰めたかったが、主従関係はこんな時に不利だ。

結局、交代の時間になるまで、喘ぎ声を出すのを我慢するしかない。

 

「はっ……くっ……ぁぁっぁ……」

 

愛紗はご主人様を見守りながら、声を押し殺して自慰った。

目もくらむような快楽に、愛紗はすぐさま虜になった。

だからだろう。

 

「やっぱり帰りてえ」

 

ご主人様が呟いた言葉を聞いた者は、誰もいなかった。

 





書いた本人がいうのも何ですが、この話。頭悪いと思う。


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2話

天の御遣い。

この世界に強制転移された際に得た、俺の称号だ。

大層な名で、その肩書に求められる期待値も、相応に高そうだとうかがえる。

三国の争いを終結させ、平和をもたらす存在。て、筋肉ダルマも言ってた。

まるで勇者詐欺のようなうたい文句であるが、こっちに来た頃。俺はいちおう御遣いをやる気ではいたのだ。

だって俺が桃香や愛紗と一緒なのも、レイプモンスターから救われた後、

 

『あなたが天の御遣い様ですか? 私は桃香で、隣にいるのが愛紗ちゃんです。どうか私達のご主人様になって、一緒に旅をしてもらえませんか?』

 

と、パーティー勧誘された訳だし。

だが、その後の俺は一体なにをしてきただろうか。

成し遂げたのは、山、山、山を旅しただけの緑一色。

まさか現代人から先祖返りにジョブチェンジするとは、誰が予想できようか。

もうこれ、天の御遣いじゃなくて、山の使者だろ。

しかも一週間前に、朽ち果てた小屋を発見してからは、そこを修繕。さらに居心地のいい空間へのリフォームに余念がなく、このまま定住してしまいそうな気配すらある。

違う、そうじゃない。

俺は天の御遣いだし、そろそろそれっぽい行動を起こすべきだ。

昨日に日曜大工を張り切りすぎ、今朝になって筋肉痛で動けなくなった俺は、丸一日。布団の上でずっとごろごろしながら、その結論を導き出した。

 

「ご主人様、ご飯が出来たよー」

 

「……ありがとう」

 

実は最近になって、俺は桃香と愛紗のヒモではなかろうか。とか、そんな考えがよぎって、心に焦りがあったりはしない。

やれることがなさ過ぎて、時間を持て余している?

まっぴら嘘だ。

 

「体、痛いんだよね。私が食べさせてあげようか?」

 

「だいぶマシになったし、食事くらい、一人で摂れるから」

 

「がーん」

 

「…………」

 

「ガーンとか口にする奴、初めて見た。そして愛紗、近い。黙って寄らないでもらえる?」

 

「……がーん」

 

「もうこれ、俺こそガーンって言いたいわ」

 

ただ、俺が湖で溺れて以降、物理的に距離を縮めてこようとする二人に、別のベクトルで視線を明後日の方向に反らしたいという気持ちは、紛れもない真実であった。

二人とも、妙に俺の股間へ興味津々だし、こちとら身の危険をビンビンに感じているのだ。

 

「ガーン」

 

という訳で食後。

俺はさっき決めた覚悟を、桃香と愛紗に喋ってみる。

 

「俺さ、天の御遣いにしか出来ない仕事を始めようと思うんだ」

 

「ご主人様にしか出来ない事ですか? 具体的にはどのようなものでしょう?」

 

「人材発掘」

 

不思議そうに尋ねてくる愛紗に、即答。

体力ザコ。知能ゴミ。カリスマゼロ、の三拍子が欠けている俺が、いずれ崇め奉るには、未来知識を生かし、有能な奴を引っ張って自陣の強化を狙うくらいがせいぜいだ。

我が天の御遣い軍には、桃香と愛紗しか在籍をしておらず、深刻な有名人不足であった。

やはり三国志と言えば、劉備・曹操・周瑜のネームドキャラ登用は必須だろう。この三本柱がそろえば、織田・豊臣・徳川のドリームマッチが突発しても、五分に持ち込めると俺は睨んでいた。

しかしここで、想定外の問題が発生していた。

 

「あの、ご主人様。それは今、ちょっと難しいかな」

 

「ん、何でだ?」

 

「近頃、賊が増えておりまして。旅をするには少々、危険なのです」

 

「この辺りの賊なら、愛紗ちゃんが倒してくれたから安全だし、しばらくは動かない方がいいと思うよ」

 

「ふーん、そうなのか」

 

てか、愛紗つよい。ただの異常性癖な、オナニー狂いの淫乱サイドテールではなかったらしい。

頼もしさを感じると共に、軽く絶望もする。

この非凡であろう愛紗すら歴史の闇に埋もれてしまう、三国志の魔境っぷりよ。

やはりいずれ、人材確保に走らねばなるまい。主に俺の、安全重視の為にも。

 

「なら、募集するのは情勢が落ち着いてからにするか」

 

「それについてだけど、やっぱり人を集める時って、ご主人様が天の御遣いだって宣伝するんだよね?」

 

「そりゃそうだろう。じゃないと、誰も来なさそうだし」

 

筋肉ダルマにたった一つの親切さがあるとすれば、この大陸中に天の御遣いの噂をばらまいた事だろう。

やったのはまた別人みたいだが、そのおかげで俺はただの案山子から、担げる神輿くらいには価値があるのだ。

もし噂がなかったら、桃香や愛紗とも出会ず、逆レで俺の人生はおわってた。

だというのに二人は、あんがい冷たい意見をぶつけてきた。

 

「私は、ご主人様が天の御遣いだと打ち明けるのは、まだ反対です」

 

「私も。やるにしても、こっそりやるべきだと思う」

 

「……理由、教えてもらえる?」

 

納得のいかない俺は、当然の説明を求める。

すると、あんまり聞きたくなかった事実が耳を殴った。

 

「みんな天の御遣いが男の人だって知ってるから、ご主人様の正体がばれると……女の人がたくさん、ね?」

 

「集まっちゃうか」

 

「百――いえ、千の数なら、私が必ずご主人様をお守りしますが、さすがに万を超えますと、自信がありません」

 

「むごいな、それ」

 

「それにたぶん、朝廷や太守の人達も捕まえようとしてくるから、軍の集団にも追い掛け回されるかも」

 

「……俺に安息の地ってあるの?」

 

もはや想像が悪夢を通り越し、地獄絵図と化す。希望を求めるように俺は問いかけた。

愛紗は露骨に目を反らし、桃香は首を傾げて疑問形だった。

 

「人の寄り付かない山の中?」

 

何という事でしょう。俺の自己防衛本能は、無意識ながらにも巧みに、最善解を選んでいたのです。

 

「って、冗談じゃあない!」

 

このままだと俺は、霞を食って仙人に至るしか道は残されていないのだが、どう努力しても途中で挫折する未来がありありと浮かぶ。

だって俺、邪念だらけだし。だから誰か助けて下さい!

 

「ヘルプミー、ヘルプミー!」

 

「え、ええっと、よくわからないけど、おいでご主人様」

 

「およよよよよ」

 

泣きすがる俺に、救いの聖女から手を差し伸べられる。その胸の中へ飛び込もうとすると、性女の乳首は突起していた。

おい。この流れで興奮する要素が、どこにあった?

炎上した感情が急激に冷めてゆく。

冷静さを取り戻した俺は、両手を広げた桃香から反転。さきほどまで座っていた定位置へと戻る。

 

「へっ、あれっ? ご、ご主人様?」

 

「とりあえず俺が、天の御遣いってのは隠す方向で。雇いたい奴だけに、ひっそりばらす流れが一番いいのか?」

 

「がーん」

 

「そういうのいいから、妙案はよ」

 

「ん、んん」

 

仕切りなおして話を戻すと、愛紗が咳払いをする。

いじけて床にのの字を書き出した桃香とさよならして、俺はこんにちは愛紗と顔を向ける。

 

「何かあるのか?」

 

「案といいますか、懸念がございます。ご主人様、一つだけお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 

「おう」

 

「起きておられる間も、ご主人様の……お、おちんちん。かたく、なるのですか?」

 

「おう?」

 

こいつはやばい。

何がって、愛紗の口からチンコの単語が出たのではなく、チンコと言った直後の様子がだ。

酔っぱらったように顔を赤くし、目線は定まらず泳いでいる。

 

「うぅぅぅぅぅぅ」

 

特に言い切った後は羞恥につまされて、腕や手で胸や股を隠し、うつむくのはポイントが高い。

毎日はぁはぁ言ってた愛紗に、こんな女らしい一面があったとは。

見慣れないレアな光景に、俺はついおかわりの要求をする。

 

「もう一回、言ってもらえる?」

 

「で、ですから、ごしゅ、ご主人様のおちんちんが――あ、あの……かたくなったりは、するのでしょうか?」

 

「愛紗はどうだと思う?」

 

「き、聞いているのは、私の方で……」

 

「さあ、どうだったかな」

 

「ご、ご主人様!」

 

からかいながらにじり寄ってみると、反射的に愛紗は腰を浮かし、後ろへと逃げようとした。

しかし力が抜けてしまったのか、その場で尻もちをついてしまう。

広げられた足から、白い下着が丸見えだった。そして恥部を覆うその布に、小さな染みを確認した俺は、愛紗がこの先にあるナニかを期待しているのを感じ取った。

普段ならその浅ましさも余裕でスルーするのだが、この時ばかりはいつもと違う。

だんだんとテンションが上がる自分がいる。

これはあれだ。

日頃から下ネタをがんがん言って、人一倍セックスに興味があった仲の良い友達が、いざ女と二人っきりになり、致す空気になったら、アホみたいに狼狽えだす。

そうした姿を、人事みたいに眺めている楽しさがある。

とは言え、愛紗が友達役であるのなら、俺は当事者の女役でもあるのだが。

さて、どうしようか。と少し悩むが、ひとまずは好奇心を満たす事にした。

愛紗の足の間に膝をつき、押し倒すような姿勢をキープしながら。目に見えて混乱している愛紗に、俺はそっと声をかける。

 

「俺の下半身事情を探って、愛紗はどうするつもりなのかな?」

 

「ご、ご主人様が、新たな者の登用をするとおっしゃられたからです。ですから私は心配をして」

 

「人を増やしたら、不味いのか?」

 

「男性と知られれば、その者は仕える対価として、ご主人様の……か、体を要求してくるはずです。その時にあれが不能ですと、困った事に。もちろん、ご主人様が嫌がられるのでしたら、我々が全力でお守りしますが」

 

「なるほど。そこは元気はつらつだから安心しろ。しかし俺の体をね……どんな事をされるんだろうな」

 

「ぶ、無遠慮に、手でなで回されたり――」

 

「こんな風に?」

 

「――ひあっ!」

 

ありかを主張して教えてくれる愛紗の乳首を、俺はキュッとつねった。

すでに限界ギリギリだったのだろう。たったこれだけの後押しで、愛紗は大きく体をのけ反らせる。

垂れ流れる愛液が床を浸り、俺の膝元を濡らす。

 

「はあっ、はあっ、はあっ」

 

荒い息を吐く愛紗を見下ろし、俺は軽くなじった。

 

「まさか、もう絶頂したのか? 処女だからって、早すぎだろ」

 

「ち、ちが――、急な事で、体が驚いただけです!」

 

「なら、俺にこうされても、ぜんぜん気持ちよくない?」

 

「あっ、くっ……気持ちよくなど」

 

強情だな。

右に左に回し、たまに意表をついて持ち上げてみたりと。愛紗の柔らかな巨乳を堪能しつつ素直な感想を求めると、涙目で愛紗は否定した。

即アヘすると思っていた俺は、ちょっとばかり肩透かしをくらった気分だ。

しかしそれも、愛紗のセックス感を聞いて、さっぱり不満はなくなった。

 

「だ、だいたい、このような行為は、女性の私が主導し、ご主人様を気持ちよくさせるのが当たり前で。んっ、こ、こんな風に、男性が率先して動くのは……」

 

「そういや、そうなるのか」

 

この世界が貞操逆転している自覚はあったつもりだが、俺もまだそこまで頭を回せてなかったらしい。

処女と言えど、男ならぬ女のプライドってのがあるのだろう。

だが俺に対し、その認識は誤りだ。よって愛紗には存分に逆攻めを受け入れてもらおう。

 

「俺はこうした方が性に合ってるし、愛紗にも好きになってもらいたいんだけど」

 

言って、今度は胸の形が変わるくらいに力強く握りしめてみる。

こっちでは俺を含め、男は非力あつかいされるので、女としてはひょっとして刺激が物足りないのでは。と思ったからだ。

すると期待通りの手ごたえが返ってくる。

 

「~~っ!」

 

言葉にならない声を発し、ビクンと愛紗が跳ねた。

それでも次こそは達しまいと、歯をくいしばって耐え忍ぶ愛紗の健気さに感心した俺は、どれだけ我慢できるのか内心で楽しみにしつつ、強めのタッチを続ける。

 

「こんなに気持ちよさそうにして。本当は、こういうのが好き何だろう」

 

「す、好きだなんて、そんな」

 

「いいから言えよ」

 

「あっ、あっ、あぁぁあ」

 

徐々に愛紗の眼差しはうつろとなり、口の端からよだれがこぼれる。

ここが正念場だと告げる勘に従い、俺は愛紗の価値観を壊す為、より深い快楽をその肉体に刻む。

無意識であろう、俺の片膝に押し当てられた愛紗の性器。そこに手をやり、ちぎれるくらい強引にパンツをくいこませた。

 

「イケ」

 

「す、す、す、好きですご主人様ぁぁああああ!」

 

俺の要望に沿った絶叫をし、愛紗は再び果てた。

連続でイッたせいか、床に広がる愛液の量は増し増しとなっており、愛紗自身もぐったりとしている。

そのやりきった成果に俺は満足し、ひとまず水でも飲もうと立ち上がり、後ろにいた桃香と目が合った。

 

「ふふっ」

 

桃香は黙って手拭いを噛みながら、キィーっと悔しそうに俺らを見ていた。

ずっとそうしていたのかと思うと、何だか笑いがこみ上げてきて、俺は桃香に手招きをする。

すると途端に顔をほころばせ、桃香はトコトコ、ピョンッと俺に抱き着いた。

 

「わーい、ご主人様」

 

「はいはい。待たせて悪かったな」

 

「本当だよ。私にもちゃんとしてくれるんだよね」

 

「まぁ、愛紗にはしたし」

 

「えへへ」

 

声は可愛さ満点だが、表情は下心満載な桃香は、ドロドロと欲望に汚れたパンツを脱ぎ捨て、スカートを俺の前でめくった。

これが俺にとって生マンコとの邂逅だが、記憶にある無修正画像よりも卑猥だと思った。

色は濃い桜を連想させるような、色鮮やかで美しさがあるものの、そこから太ももへ垂れる滴が、どうしようもない、いやらしさを演出している。

そんな恥部を片手でさらに広げて見せた桃香は、俺に単刀直入なおねだりをする。

 

「もう我慢できないの。ねぇ、ご主人様。おちんちん、私のここに入れてもいい?」

 

「さすがにそれは無理」

 

「どうして? ご主人様のも、大きくなって辛そうだよ。一緒に気持ちよくなろう」

 

確かに愛紗を弄り倒したおかげで、俺のナニはナニィと驚かんばかりに膨張している。

だが、こいつを桃香とドッキングしてしまうと、新たな生命誕生の可能性を孕んでいる訳で。

コンドームもないし、この年で子供を作るのに抵抗のある俺は、まだしばらく童貞を貫くつもりだった。

 

「ひとまず今回は、互いの物を擦り合って、相性確認までに留めておこうぜ。正式なお突き合いは、その後の発展次第って事で」

 

「擦るだけ? そんなの気持ちいいのかなぁ?」

 

「いいんじゃないか。俺の世界だと、そうした奉仕で金が稼げるし」

 

「ふーん。天の国って、みんなこらえ性があるんだね」

 

お前らがこらえ性ないだけじゃね?

いや。ここで血走った眼をして俺を襲って来ない辺り、桃香や愛紗はだいぶ理性的だとは思うけど。

 

「わかったよ。今日はそれで我慢するけど、いつか、ちゃんとしてねご主人様」

 

「安心して子供が作れる、環境を用意してくれたら考えてやるよ」

 

その地盤が最低でもないと、現状の生活基盤が崩壊してしまうからな。

俺、マジで役立たず。

なのでお荷物はお荷物らしく、桃香に甘えてしまおうと思ったのだが、ここでちょっとした行き違いがあった。

 

「上下の全身運動は正直しんどいし、騎乗位でしようぜ」

 

「体が辛いのに騎乗位でするの。正常位じゃなくて?」

 

「正常位だと、俺から桃香の上に乗って腰を振らないといけないだろ」

 

「ご主人様。それ、正常位じゃなくて騎乗位。女の人が男の人の上に乗るのが、正常位だよ」

 

「はあ?」

 

どうやら女が主導して致すので、正常位と騎乗位の呼び方が逆になっている模様。

さらに後背位は、名称すら変わっていた。

 

「なら、女が四つん這いになって、男にケツを向けたまま挿入されるのは、何ていうんだ?」

 

「屈服位」

 

「……なぜ屈服?」

 

「女の人がかしずいて、男の人に全てをゆだねるから、そう言われているの」

 

「ほーん」

 

と、逆転世界での下ネタ授業を軽く受けた後。ようやく素股プレイのスタートとなるのだが、桃香が俺の太ももに跨り。チャックを開けて俺がチンポを露出させると、桃香の優しい性女な仮面がはがれ落ちた。

 

「うひひ、本物のおちんちんだぁ」

 

「あ、あの、桃香?」

 

「あぁ、熱い。それに硬くて大きいよぉ」

 

舌なめずりをしながら、マンコにチンコを接合させた桃香は、痛いくらいに俺の一物を圧迫し、腰を激しくゆすった。

 

「――っ!」

 

「ふあっ……! 触れただけで達しちゃいそう。あぁ、でも安心して。ご主人様の事も、ちゃんと気持ちよくしてあげるから」

 

「いや、ちょっと待って!」

 

「ここまで来て、止まれる女の子なんていないよ。ふぁっ、しゅっ、しゅごい。擦ってるだけなのに、こんなに気持ちいい……あっ、やっ、はん、んんんんんん!」

 

独善的な快楽の虜になった桃香は、俺の制止も振り切りよがった。

下手な男との性行為は痛い。という女の声が世の中にはあるが、まさかそれを俺が体験するとか夢にも思わなかった。

とにかく桃香を止めなければ。このままでは摩擦熱で、俺の息子がオーバーヒートしてしまう。

 

「ご主人様も気持ちいいでしょ。私もすごくいいよ……くる、くる、きちゃう、あっ、あっ、もう、だめぇえええええ!」

 

髪と汗をまき散らし、勝手に桃香がイッた瞬間。桃香の首にかじりつき、俺は唇を奪った。

このファーストキス攻撃に、桃香の目が大きく見開かれる。だがまだだ。奇襲に成功した俺は、さらなる一手とし、自らの唾を桃香に流し込み飲ませた。

 

「……! ちゅっ、じゅる、ぅん…………」

 

コクッと小さく音が鳴り、桃香が唾を飲んだを見送ってから、俺は口を離し額を小突いた。

 

「痛いわボケ」

 

「ご、ご主人様っ――て、えっ、ええ! 痛かったってどういう事?」

 

「痛いに複数の意味はないだろ。そのまんま、下手くそ何だよお前。チンコがもげるかと思ったわ」

 

「で、でも。偉い人はみんなこうしてるって私は聞いたよ。閨では男の人が、こうして射精するまで腰を振るものだって」

 

おお、もう。

わたわたと言い訳をする桃香に、俺は嘆いた。

男の絶対数が少ない上、性交の歴史も浅いから、熟練度がまるで足りていない。

ならば変態国日本人の代表として、俺がレクチャーせねばなるまい。

仕方がないので俺は、how-to本で得た知識を桃香に語る。

 

「いいか、男ってのは繊細なんだ。壊れ物を扱うように、優しくしてやらないと、次からこういうのをするのが嫌になるんだよ」

 

「そ、そんな。どうすればいいのご主人様!」

 

「ゆっくりと昂らせてやるのが正解だな。自分が気持ちいいから、相手も気持ちいいと思うのは、処女丸出しな考えだ。いいな?」

 

これらは当然、俺がいた世界での女の主張である。

こっちではそのまま男として適応しても問題はないだろうが、なぜ俺が女側に立って気持ちを代弁しなくてはならないのか。どうにも釈然とはしなかった。

しかし桃香はこの話に相当ショックを受けたようで、涙ながらに俺へ謝罪した。

 

「そ、そうだったんだ。ぐす、ごめんね、ご主人様」

 

汚ねえ涙だ。

一見。自らの行いを恥じ入り、反省しているみたいに感じられる桃香の態度であるが、それは上辺にしか過ぎない。

だってこうしている間にも、桃香の下半身は小刻みにチンコを揺らしているんだぜ。

ちょっと、痛いんですけど。

 

「とにかく次は、もっと俺にやさし~くしろよ」

 

「ううう……もう一回、してもいいの?」

 

「おう」

 

本来ならば罰として、ここでお預けにするのが桃香への罪の償いであろう。しいたげられたジュニアの恨みは恐ろしいのだ。

だが俺は、恐怖の大魔王すらも裸足で逃げ出すほど、寛容な心の持ち主。今回ばかりは大目に見てやった。

いい加減、俺も放出したいし。

なのでこのまま二回目に突入するつもりだったが、いきなりストップがかかる。

 

「ま、待って下さい。姉上は一度、達しました。でしたら次は、私の番なのではないでしょうか!」

 

休んで性欲チャージがされたのか。順番制の割り込みを持ち出したのは、誰であろう愛紗であった。

俺に尻を向け、四つん這いになった愛紗は、声たかだかに懇願した。

 

「どうかご主人様。お願いします!」

 

「屈服してんな」

 

「屈服してるね」

 

ポツリと呟いた俺の一言に、桃香も同意する。

けど、俺から動くのなら、ノーダメージで射精は可能だろう。体が少し心配だけど。

 

「なら次は愛紗でいいか」

 

「ありがとうございます!」

 

「その次は私ね、ご主人様」

 

「……今回だけだぞ。こんなカーニバルは」

 

「わーい、かーにばる」

 

「意味を知らない癖に、喜ぶなよ」

 

「てへっ」

 

小さく舌を出して、自分の頭をこつんと叩く桃香を、後で性的な意味でボコボコにしてやろうと計画を企てた俺は、差し出された愛紗のケツへ全力ビンタをする。

 

「ひゃん」

 

そうして始まったカーニバルは、端的に言って酷い有様だった。

まるでバグって無限増殖を繰り返すモンスターのごとく、桃香と愛紗は幾ら絶頂を重ねても、もっともっととせがんでくるのだ。

前から横文字に未対応なバグもあって、俺はこの機会に頑張ってデバック処理を試みたが、必死にやってもメンテナンスは終わらなかった。

数時間にわたる作業に疲弊した俺は、ついに力尽きて布団へ横になり、翌日。目覚めたら体がメチャクチャ悲鳴を上げた。

筋肉痛、二日目である。

そんな俺とは対照的な淫乱姉妹は、ピンピンとしているばかりか、ピンク色の脳みそで平然とこんな事をのたまった。

 

「ご主人様。今晩もしようね」

 

「楽しみにしております」

 

俺は、大正義。聞こえないふりを発動し、布団を頭から被る。

そして、こんなサービスの悪い世界を提供した筋肉ダルマに再会したら、奴の股間を蹴り上げてやろうと心に誓った。




勘違い要素を入れるつもりはなかったのですが、何だか書いててそんな気がしてきました。

タグを追加した方がいいのか、アドバイスを頂けたら嬉しいです。


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3話

タグは追加せず、ひとまずこのままでいようかと思います。
ご意見いただき、ありがとうございました。

そして今回は名前だけ出てくる、オリジナルキャラがいます。
読み方はそれぞれ、

徐李…じょり
龐程…ほうてい

といいます。

適当に三国志の登場人物から名前を作ったのですが、もしいたらすみません。


漆黒の森の中、一人の女が道なき道を走る。

身にまとう服は薄手で、枝をかき分け進む度。肌へ小さな傷跡を作った。

だが女の足は止まらない。止まるはずがない。

そうなれば自分は、化物に捕まり殺されてしまう。極限の恐怖に追い立てられて、女は必至の逃走劇を繰り広げた。

生と死の分水嶺に立たされたせいか、まるで永遠にも感じる一時を女は駆け抜ける。

月明りすらなき、希望の見えない闇。それでも夜目で慣れた視界に、女が暮らす拠点を捉えた。

 

「はひっ」

 

微かに漏れる安堵の吐息。ここまで来れればもう大丈夫。命拾いをしたと確信した女は、近くにあった木に背中を預け、呼吸を整えた。

 

「ひゅっ、ひゅっ、ひゅっ、ひゅっ」

 

全身が汗だくで、鉄を飲み込んだように体も鈍い。その苦しみが、女に命を強く認識させた。しかし胸中へと湧き上がる感情に喜びはなく、ただ理不尽な事柄による怒りだけが支配する。

 

「何なのよ、あいつは何だったのよ!」

 

女は百人の賊を従える、頭だった。

腕っぷしや頭脳に飛び抜けた才はなく、食い詰めた挙句、山賊へと身を落とした過去がある。

普通であれば使い走りの捨て駒として、あえなくその人生に幕を下ろされるのが関の山だが、幸か不幸か。女は他者より遥かに優れていたところがあった。

容姿だ。とにかく彼女は、男のような女だった。ご主人様がここにいれば、こいつもオネエかよ。と言いそうなくらい、女は男の見た目に片足を踏み込んでいた。

その特性を武器に、女は賊の女達を翻弄。時には肉体も用い、姉貴と慕われる事で集団を統べる頭の座へ上り詰めたのだ。

自分よりも強い女を顎で使い、弱者からは金や食い物を奪う日々は、とても楽しかった。

まるで姉貴を中心に、物事が回っていると錯覚するほどであった。

しかし、そんな夢は儚く砕けた。

各地で黄色い頭巾を巻いた賊が流行り、姉貴もそれを真似、さらに活動の幅を広げ欲をかいたのが運の尽き。

それが想像を絶する、化物を呼び寄せてしまったのだ。

 

「こんな時間に、一人でのこのこ歩いていたから襲ったのに、あんなに強いのが出てくる何て卑怯よ!」

 

初見では、旅に慣れていない馬鹿な女のだと侮っていた。

女の身なりはよく、抱えるほど大きな荷物を手にしていたので、金品を巻き上げてから、姉貴はその旅人を慰み者にしよう。と、捕らえてもいないに皮算用を始めるほどだ。

けれどもいざ、手下と獲物を囲んだ瞬間。女の解いた荷物から、青竜刀を持った化物が野に放たれたのだ。

それからはただの一方的な殺戮だった。手下は瞬く間に殺され、蛮勇で立ち向かった者どもも、あっさりと返り討ちにされる。

その光景に怯えた姉貴は残った数少ない手下も見捨て、一目散に拠点へと逃げ帰ったというのが、さっきまでの全容であった。

 

「せっかく今までうまくやれていたのに、どうしてくれるのよ!」

 

顎につけていた毛をむしり取り、姉貴は地面に叩きつける。

男に似せる便利な毛であったが、この時ばかりはむずむずした感触に苛立ちが募り、姉貴は不平不満をぶちまけながら、何度も何度も毛を踏みつける。

 

「くそっ、くそっ、くそっ。ちびやでぶもいないし、最初から一人でやり直せっていうの!」

 

「心配せずとも、貴様はここで終わりだ。再起の機会など、永遠に訪れん」

 

「――ひっ、ひぃいいい、化物!」

 

そうして八つ当たりを続ける姉貴の前に、血の滴る青竜刀を持った化物が再び現れる。

その姿は姉貴に、強力な死を連想させるに十分であった。

 

「化物とは失礼な。私はれっきとした人間だ」

 

「嘘よ、それならどうしてあんなにでたらめな強さがあるのよ!」

 

思い返されるのは、さっきまでのおぞましい戦い。

化物の青竜刀が振るわれる度に、舞い散る手下達。また、それに伴い腰から下に身に着けた衣類がめくれ、ちらりちらりと露わになる恥部。

 

「だいたい、人なら下着をはきなさいよ。なのにあなた丸出しにして、おかしいわ。化物じゃなければ、変態じゃない! ふんどしくらいは――」

 

「死ねぇえええええ!」

 

「いやぁあああああ!」

 

姉貴が化物の異常さを叫ぶと、一刀の元。化物は姉貴を斬り捨てる。

 

「誰が変態だ、誰が!」

 

「はいてないのは私も変態だと思うよ、愛紗ちゃん」

 

かつて姉貴だった屍にそう吐き捨てる、化物で変態だった愛紗は、近くで隠れ事の成り行きを見守っていた主君にも、同様の認定をされてしまう。

 

「と、桃香様までそんな事をいうのですか!」

 

「そもそもどうしてはいてないの?」

 

「私はただ、いつでもご主人様に触られてもいいよう、準備を済ませているだけです」

 

「明らかに空回りばっかりしている気がするけどなぁ、それ」

 

「問題ありません。そのじれったさが最近、よく思えるようになりましたので」

 

大問題だよ、愛紗ちゃん。

桃香はそう思ったが、口にはしなかった。ちゃくちゃくと尖った山道を歩む妹分に見切りをつけ、目先の利益に視線を向ける。

 

「取りあえず、ここが賊達の住処でいいんだよね。ひひひ、どれくらい貯め込んでいるのかな」

 

「わざと一人だけ逃がし、泳がせたので間違いはないでしょう。しかし、こうした盗人のような行いは、あまり気分のよいものではありません。これっきりにしたいのですが……」

 

「しょうがないよ。私達には、お金が必要なんだから」

 

桃香と愛紗がこうして金を稼いでいるのは、ある目的地へ向かう為であった。

 

「三人で幽州まで旅をしようと思ったら、それなりの路銀がないとね」

 

「公孫賛でしたか、桃香様のかつてのご学友は。疑うつもりはないのですが、我々が押しかけて、本当に雇ってもらえるのですか?」

 

「白蓮ちゃん、太守をやってるし平気だよ。いざとなったらご主人様に頼んで、ちょっと胸やお尻を触ってもらえば一発だし」

 

「……太守ならば、男性に不自由をしてないはずでは?」

 

「普通はそうだけど、白蓮ちゃんだからね」

 

眉をひそめる愛紗に、桃香は苦笑いを浮かべた。

そしてひとまずこの話題を打ち切るよう、ぱしっと手を鳴らす。

 

「とにかく。ここでお金を拾って幽州まで行けば、ご主人様の望んだ、安心して子作りの出来る環境が待ってるんだよ」

 

桃香達がこんなところで賊狩りをし、追いはぎをするのも全てはそこに集約された。

昔の伝手を頼りに、白蓮へ将として身内採用してもらえば、衣食住に心配する事もなくなる。

世間ではいま倒した賊の仲間。黄巾党という集団が暴れているので、幽州に行くのも一苦労。着いてからも白蓮の臣下になれば、同様の討伐を命じられてしまうだろうが、非処女の誘惑の前では全て些事である。

夢見る乙女のように、桃香は理想の初体験を思い描いた。すると必然、膣の奥が熱くなり、子宮が下りてしまう。

 

「…………愛紗ちゃん。そこの茂みで二十回くらい、かーにばるしてきてもいい?」

 

「え、ええ……」

 

「ごめんね、なるべくすぐに戻って来るから」

 

だらしなく鼻の下を伸ばし、太ももを擦り合わせる桃香に、愛紗は顔を引き攣らせ頷く。

しばしのお花を弄る許可をもらった桃香は、漏らすのを我慢して庵を目指す足取りで、闇夜の中へと溶けてゆく。

その情けない桃香の背中を見送った愛紗は、肩を落としてぼやいた。

 

「共に歩む覚悟はありましたが、最近の姉上は一人で険しい高みを登り、どうにも着いて行けなくて困る」

 

ご主人様がこれを聞いていたら、こう返しただろう。

お前らすでにイキ過ぎて、崖から落ちて致命傷だから。と。

 

 

 

 

 

十十十十十

 

 

 

 

 

優秀、ではなく幽州。

そんな不知の場所が、三国志にはあったらしい。

どんな産地有名な武将がいるかと桃香に尋ねれば、公孫賛とこれまた馴染みのない名前。

関西圏に修学旅行が決まったら、行先が和歌山になったような感じである。

いや、和歌山は悪くないけど、和歌山の名物って何よ。みかん?

肌と美容にそこまで情熱が湧かない俺は、まだまだ課題が山積みな家の改築を優先させたかったのだが、自分の人生が傾くとなれば話は別。

 

『近頃ぶっそうだし、安全な場所に引っ越そうよご主人様。私の友達がいる、幽州なら安心だよ』

 

『少し前まで、賊が多いからここにいようぜ。みたいな事、言ってなかったか?』

 

『それなのですが、想像以上に増えすぎまして。孤立して生活をする方が、危険が高くなったのです』

 

賊のインフレで、俺の命が買い叩かれそうでやばい。

なので数か月ぶりの旅、再開である。山を放浪していた以前と違い、今回はちゃんとした目的地がある分、軽い旅行気分で俺は出かけたのだが、思ったよりも中国大陸が広くてびびる。

しかも俺が人目に触れ、男だとばれないよう。常にローブを身にまとい、生活圏外な秘境ルートを突破するのが、前提の組み立てをされているし。

道中、愛紗におんぶされてなければ、俺の走破は叶わなかっただろう。

呪いのアイテム扱いですまんな。けど、愛紗がノーパンなのは、俺のせいじゃないよな?

そう信じたい。そしてまだ見ぬ公孫賛とやらは、是非ともまともな人種でいて欲しい。

しかし類は友を呼ぶ。とはよく言ったもので、公孫賛は桃香と仲がいいのである。つまり、この女もやっぱり普通ではなかった。

 

「やっほー、白蓮ちゃん」

 

「桃香、桃香じゃないか! 久しぶりだな、急に訪ねて来てどうしたんだ?」

 

ようやく待ち望んだ幽州の地へたどり着いた俺ら一行は、そこそこ栄えた町にある、そこそこ立派な建物の中へ入り、そこそこ美人な公孫賛と対面を果たした。

そして桃香と公孫賛がお互いの手を取り合い、キャッキャと楽しそうに旧交を温める傍ら。

俺はローブ装備のまま。なぜ桃香が、公孫賛を白蓮と呼ぶのか。その謎に迫っていた。

あだ名でいいのか、あれ?

まるでキャシーを、ジェシーというくらい脈絡がなさすぎる。もうそれ、別人じゃん。

ならその関連性のない隙間を埋め、メアリーを選んでも許されそうではあるが、俺は初対面の相手には強気に出られない謙虚な男。

俺の隣にいる愛紗がたびたび口にしていた、公孫賛にならい、公孫賛を公孫賛と呼びかける事にした。

もっとも。桃香と公孫賛の会話を眺めていると、しばらくは自己紹介もなさそうだが。

 

「お金ないからちょうだい」

 

「ええ……会っていきなりそれをいうのか」

 

「ちゃんと働くから。お願い、白蓮ちゃん」

 

「仕方がないな……と言いたいところだが、あいにく私も金欠気味でな。出来れば将として迎え入れてやりたいが、すまない。それも今は苦しいんだ」

 

雲行きが怪しくなってきた。てかこれ、大丈夫なのだろうか。

俺らがここに避難したのは、安全というのもあるが、桃香のコネを使って、仕事にありつけるからだ。

収入の当てがなくなれば、おんぶで来た道を、今度は抱っこで帰らなければならない。

長時間おんぶされると、アホみたいに体が痺れるからな。凄まじく後悔したわ。

だから次は抱っこしかありえないのだが、それはそれで愛紗の涎が垂れてきそうで嫌だと思った俺は、汚されたくない一心で、はらはらと成り行きを見守った。

 

「白蓮ちゃん。ひょっとしてまた、男の人にお金を貢いで逃げられたの?」

 

「み、貢いでいない。母親が病気だというから、貸しただけだ。教えてもらった出身地へ行ったら、そんな男はいないと言われたけど。それはたぶん伝え間違えがあっただけで、母親の容態がよくなれば、徐李は返しに絶対、戻って来るから!」

 

「そう言って、これで何回目? 前にも、誰だっけ。お店を出したいとか言って、女の人と逃げた――」

 

「龐程だ、忘れるなよ! 確かにお金を渡した後、村の幼馴染と一緒にいなくなったけど。それは強引に龐程が連れ去られただけで、あいつはきっと、私の助けのを今でも待っているはずだ!」

 

「こっちの女を騙して金を奪うとか、そいつら、たくましすぎだろう」

 

「だ、だまっ……そこの外套を被った奴、貴様に二人の何がわかるっていうんだ!」

 

むしろ俺でもわかるわ。反対にお前が気づけよ。

 

「色んな意味で大丈夫なのか、こいつ?」

 

「仕方がないよ、ご主人様。白蓮ちゃん、男の人を奪取する勇気もなくて、そこに住んでいる村にお金をばらまいて、気を引くだけしか出来ない、小心者の処女なんだから」

 

「ああ、自分に自信が持てない性格なのか。それで足りない分を、金で補おうとする。典型的な、ダメ女の思考だな」

 

「桃香様が前に言っておられましたが、処女をこじらせてしまうと、こんなにも哀れになるのでしょうか」

 

「お前ら、言いたい放題だな。いい加減、私も泣くぞ!」

 

ここで怒らず悲しむ辺り、公孫賛のネガティブさが透けて見える。

でもどうしよう。仮に泣かれたら、本気で面倒臭い。

ならば友達代表である桃香の出番なのだが、その張本人は、無情なアドバイスを俺に与えてきた。

 

「ご主人様、今だよ。男の人だと明かして、白蓮ちゃんを慰めれば、私達の将来は安泰だから」

 

「えっ、そこをばらすの? しかも俺が慰めるの?」

 

「心配しなくても、白蓮ちゃんなら襲わないし、平気平気」

 

熊を臆病な動物だから。と言われ、なでる奴はいないだろう。

それと同じで、幾ら公孫賛の取り扱いに詳しい桃香に太鼓判を押されても、俺は半信半疑だった。

 

「噛まれたらどうするんだよ?」

 

「その時は、私が噛み返します」

 

「なら安心だな」

 

熊すら屠れそうな、忠犬愛紗の心強い言に励まされた俺は、マントを脱いですねる公孫賛へと近づいた。

 

「私だって、好きで男にお金を渡しているんじゃないんだ。ただ、お金を渡すと男はみんな笑ってくれるから、こうすればいずれ好かれるんじゃないかと思って……」

 

それで失敗つづき何だから、そろそろ学べよ。

しかしその学習能力がないから、俺の世界でキャバクラに通うおっさん共は後を絶たないのであろう。

ならばその手法に則って、俺はホストをイメージし、公孫賛に接した。

 

「わかる、わかるよ。大変だったね」

 

「そうか、わかるかっ――て、誰だお前。やけに男みたいな顔をして!」

 

「俺、男だよ。天の御遣いって聞いた事ないかな。あれ、俺」

 

「えええ! て、天の御遣いって、占いにあったあの? えっ、えっ、本当なのか。どうしてここに?」

 

「そんなの、君に会いに来たからさ」

 

ごっふぉお!

何これ、俺のダメージが半端ないんだけど。ホストっていつもこんな諸刃の剣を振って、接客してたのか。

こんなの、付け焼刃の俺がぶん回していいものじゃない。

可及的速やかに店じまいをしたくなるが、公孫賛がごねるごねる。こいつ、泣いてなくても面倒だ。

 

「う、嘘だ。そんな幸運、私に訪れるはずがない。むしろ私はそれを、いつも指を加えて眺めている立場のはずだ!」

 

「困ったな。どうすれば、信じてもらえるの?」

 

「股間を調べさせろ」

 

「はあっ?」

 

「お前に男の証があるか、確認させてくれたら信じてやるよ!」

 

明らかにホストへ要求するサービスじゃない。これはオーナーに報告だ。

俺は責任者の桃香に目で助けを訴え、公孫賛を顎で指す。このサインに焦った桃香は、一目散にヘルプへ入ってくれた。

 

「ぱ、白蓮ちゃん。さすがにそれは駄目だよ。ご主人様が白蓮ちゃんに触るくらいで、我慢しよう。ね」

 

「もしその男が、実は女だったらどうするんだ。後で感触を思い出して自慰したら、私は間接的な同性愛者になってしまうんだぞ!」

 

自重すれば解決するぞ。

そして桃香。お前も俺が、お触りするのを前提で話すのを止めろ。

このままだとなし崩しに、追加のオプションをさせられそうな予感がしたので、俺は二人に釘を刺しておいた。

 

「申し訳ございませんが、健全で楽しい会話が当方の標語でございまして、性的なご奉仕は禁止させて頂いております」

 

「……なんの冗談だ、これは。桃香のところの御遣いは、私の胸も揉めないのか?」

 

「えっ、そ、そんなはずはないと思うんだけど。ご、ごめん、きっと何かの間違いだから。ほら、ご主人様も、白蓮ちゃんに謝って」

 

「ええ……」

 

何で悪質なクレーマーの言いなりになる、気弱な店長みたいな構図になってるんだよ。

しかも乳タッチを嫌がっていたのに、拒否されたらキレるって、DQN並みに意思疎通が困難だぞ。

こうなると、さすがの俺でもお手上げだ。ホストの道を断念し、ヤクザのようなやり口で全てを終わらせにかかった。

 

「あいしゃあ!」

 

「はっ」

 

おうおうおう。ウチの若い者は、暴れん坊じゃけんのう。覚悟せーや。

 

「目に物を見せてやるんじゃっちゃ!」

 

「はい!」

 

告げられた俺の命令を、愛紗はダイナミックに実行した。

俺の後ろに立ったと思ったら、ベルトの存在意義も無視し、トランクスごとガバッと下ろしたのだ。

俺のチンコは、当然のごとく外気にさらされる。

 

「おお、おおぉぉおおお!」

 

桃香と公孫賛の視線が息子に一点凝視され、約一名が大興奮の中。俺は怒りに震える声で愛紗に問いかけた。

 

「この愚行、どういうつもりだ?」

 

「触れず、ご主人様のおちんちんをご確認する手段を講じたのですが……いけなかったでしょうか?」

 

「誰が俺の、玉を出せと言った。この駄犬が!」

 

「あうっ」

 

二人のタマをとらんかい!

愛紗の頭頂部にチョップをお見舞いし、俺はシッシッと手で追い払う。

 

「ううう……」

 

突き放された愛紗はうつむき、とぼとぼ部屋の隅に移動し、そこからチラッと俺に縋る眼差しを向ける。

しかしそんな捨てられた子犬っぽさを真似ても、俺の保護欲が掻き立てられる事はない。

当分、そこで反省していろ。

 

「ったく」

 

俺は悪態をつきながらズボンをはき直すと、入れ代わり立ち代わり。新たな罪人が足元にしがみつき、懺悔を始めた。

 

「す、すまなかった。本気で疑うつもりはなかったんだ。身の丈を超えた幸運に怖くなって、あんな事を。それだけは信じて欲しい!」

 

嘘つけ。あのクレームっぷりは、絶対に不純な動機が混じっていたはずだ。

でも公孫賛はおざなりに許しちゃう。クレーマーは刺激しないのが一番なのだ。

 

「はいはいはいはい、信じまーす。これでいいか?」

 

「あ、ああ。いや~それにして、本物の天の御遣い様と出会えるとは。まだまだ私の人生も捨てたものではないな」

 

ガッツポーズして喜びを露わにする公孫賛に、俺は口元をひくつかせる。

こいつ、いい空気を吸ってんな。

しかし、そんな幸せ絶頂を味わう公孫賛の元。商売魂のたくましい悪魔がチャンスの臭いを嗅ぎつけ、誘惑という不確かな品と交換に、正規雇用の地位をかすめ取るとしていた。

この時ばかりは心が鬼になった俺は、黙って鴨とネギが切り刻まれ、鍋に煮られるのをただ眺めるに徹する。

 

「よかったね、白蓮ちゃん。でも会うだけで満足なの? さらにここで私を雇ってくれたら、ご主人様と毎日いられるよ」

 

「ま、毎日。そ、それって、あれもこれも思うがままに……いいのか?」

 

「そこは白蓮ちゃんの頑張り次第かな」

 

「よ、よし。私も太守だ。みんなまとめて世話をしてやる」

 

わーい。と契約を結んだ桃香は万歳をする。

くくく。と俺もゲス笑いを浮かべた。

これで公孫賛の期待を煽り、金を引っ張り出せれば、朝昼晩の食後に水ではなく、お茶をつける生活も約束されたようなもの。

全ては俺の手腕にかかっている――って、今度は俺、結婚詐欺師みたいな真似をしないといけないの?

しかもしばらくここで暮らすから、いざとなったら夜逃げも出来ないし。これはギリギリのチキンレースが開催される悪寒。

もうすでにバックレたいんですけど。

だがそれも、ゴールの景品を聞くまでだ。

参加するだけで、将来は安泰な伝手を作られると確信した俺は、アクセルをべた踏みをする決意を秘めた。

 

「桃香達が私の臣下になるのなら、趙雲も紹介した方がよさそうだな。少し待っててくれ」

 

えっ、趙雲がいんの。マジで?

三国志の趙雲と言えば、劉備の子供を救った逸話で有名だ。映画で見た。

でもいつ頃、劉備と一緒になったのかはあまり知らない。映画で説明されなかったし。

だがいずれ、劉備と合流できるきっかけとなる、超大物な英雄の登場に、俺のモチベーションは右肩上がりだった。

そして公孫賛が使いの者をパシらせ、いよいよこちらに来て最初の、三国志らしい一角の人物と対面が果たされた。

趙雲、趙雲、ちょう……うん?

 

「公孫賛殿。先ほど客人とお会いするとうかがっておりましたが、そちらの件はもうよろしいので?」

 

「ああ。それで話し合ってみて、ここで働く事になった。それで、お前達の顔合わせをしようと思ったんだ」

 

「そうでしたか――おや。そこの御仁は……」

 

俺に目を止め、怪訝そうな表情の趙雲。そりゃしかめっ面で俺が腕を組んでたら、趙雲もそうなる。

しかし俺の不機嫌な原因は、何を隠そう趙雲のせいであった。

最初に言っておくが、俺は女体化を反対してない。むしろこっちで男のままだと、産廃になってしまうので、だんぜん奨励派である。

しかしそこは趙雲。TSしても容姿に面影や威圧をほとばしる、歴戦の風格があってしかるべきはずなのに、女の趙雲には色気しかなかった。

せめて愛紗みたいに、厳格な見た目のスポーツ女子枠でいられなかったのかよ。

これ、絶対に誘惑とかしてくる奴だぞ。

俺の趙雲が、ショタやいたいけな童貞をたぶらかす、エッチなお姉さんのはずがない。

趙雲はもっと、ちゃんと趙雲しててくれよ。と俺は不満を募らせるのだが、それはお互いさま。趙雲も、俺に似たような感想を持っていたらしい。

 

「公孫賛殿。また下心で、男装した女性を雇われるおつもりですか」

 

「また? またって、前にもあったのか?」

 

俺にかかるその疑いはもう聞き飽きたが、今回は趙雲から興味深い情報がもたらされる。

 

「ええ。つい先日、天の御遣いを偽った輩がおりました。まぁ、その不届き者は私の機転で正体を暴かれましたが。公孫賛殿は当初、えらく入れ込んでおりましてな。贅の限りを尽くした、もてなしをしておりましたよ」

 

何回、公孫賛はカモられるんだよ。

 

「いや、でも、それはさ……天の御遣い様が私のところに来てくれた。ってなると、普通は感激して舞い上がるよな。な?」

 

「おかしいと思ったんだよね。白蓮ちゃんがさっき、あんなに強引だったの。でもそういう事情があったのなら、納得かな」

 

友人の桃香ですら、この評価。よく今まで生きてこられたな公孫賛。逆に感心するわ。

尻毛すらむしられてもたくましく壮健で、なお王座に君臨する公孫賛に、俺は尊敬の念すら抱いた。

その本人は、すがすがしいまでに小物だけど。

 

「だ、騙されてない。その女は結果的に捕まえて、牢屋に入れておいたから。私もやる時はやる女なんだ」

 

「ですからその切っ掛けは……いえ、もういいです。ですが、あまりにもこのような無様を続けてさらされるのでしたら、私もお暇を頂くのを考えねばなりませんな」

 

「待て待て待て、趙雲がいなくなったら、賊の討伐に手が回らなくなる。お願いだから落ち着くまでは、せめていてくれ」

 

必死に趙雲を引き留めようとする公孫賛の姿に、内心でくすぶる俺のモヤモヤは吹き飛んだ。

やはり趙雲は有能か。さすが器用万能選手の代表格である。

統率・武力、知力の三拍子がそろっているのならば、俺が金魚のフンをするのに相応しい。

これなら多少のエロスも、目をつぶっていられる。

 

「そうおっしゃられるが、股に木の棒がはみ出ていた光景は、二度も拝みたくはないのですが。せっかく高い酒で酔い潰し、鼻息を荒くさせ服を脱がした後の、あの絶望具合と言ったら。筆舌に尽くしがたいものがありましたぞ」

 

やっぱりエロい奴はダメだな。

趙雲の女郎。偽の御遣いを見破った功績を自慢げに語っていたのに、完全に怪我の功名じゃないか。

てか、トリプルスリーのアルハラレイプによる、豪快なスイングスタイルは止めろ。俺がやられたら、一発で童貞を失ってしまう。

桃香と愛紗で、趙雲が防げるとは思えないし。これはしばらく、俺の正体を隠匿しておいた方がいいのでは?

そう俺が検討していると、勝手に公孫賛が失策し、ボロを出してしまう。

 

「安心しろ。今回は一物を肉眼で確認した。この方は本物の御遣い様だ」

 

「何と!」

 

明らかに目の色を輝かせる趙雲に、公孫賛のカバーに回った桃香が、悪送球でさらにエラーを重ねた。

 

「天のおちんちんは凄いんだよ。一晩に5回は勃起するんだから」

 

「ほほう。それはそれは」

 

味方に足を引っ張られ、疑惑の牙城を打ち崩された俺は、流し目を送る趙雲を前に降板。愛紗のいるベンチへと下がろうとするが、ガシッと肩を捕まれた。

誰か俺と交代してくれ。握られた右肩に、微かな痛みがあるんだ。

 

「ふむ……ふむふむ」

 

しかし、心の中で弱音を吐く俺などお構いなしに、趙雲は下から上へと観察してくる。

値踏みのような、ぶしつけな視線だ。

このピンチに俺が震えていると、趙雲はたまらぬように息を漏らし、声たかだかに宣言した。

 

「ふはは、天の御遣い殿は、私がもらい受けた。今日からこの男は、私のちんちんだ」

 

悲報。趙雲、俺をマンコキャップにする。

けどこんなクソスレが認められるはずもなく、この場の管理人が、さっそく規制に乗り出した。

でもこの管理人、対応が下手だった。火消どころか、むしろ炎上させてしまう。

 

「いきなり何を言い出すんだ。そんなの駄目に決まっているじゃないか」

 

「駄目ではありませぬ。だいたい公孫賛殿だけは、私にその台詞をいう資格はないはずです。私が槍を預ける前、閨の条件を尋ねると、あなたは何とおっしゃった。働きに応じて、男を一晩かす。そう言われたではないですか」

 

「白蓮ちゃん、そんな豪語をしちゃったの?」

 

「太守なら、優秀な人材を囲う時の常とう手段だったし、その頃はちゃんと当てがあったんだ。あったはずだったけど、何ていうか……」

 

逃げられたんだな。みなまで言わずとも、すでにわかる。

 

「結局、そのまま私は二年も我慢し働きました。ですがもう限界です。天の御遣い殿が公孫賛殿の情夫になったのであれば、私に一番槍の権利があるはず。そうでしょう」

 

俺、公孫賛の情夫ではないと思うのだが……まぁ、それはいい。

俺がまずすべきなのは、趙雲が俺をマンコキャップにしようとする、その腐った性根を叩き潰す事だ。

趙雲よ。お前は俺の、チンコケースになるのがお似合いだ。

そんなチンコ補完計画を練る俺に、趙雲の魔の手が股間に忍び寄る。

 

「さて、御遣い殿のちんちんは……ほう、これは……ふはは、ここですか。ここがいいのでしょう?」

 

よくねえよ。

誰だ、趙雲がエッチなお姉さんとか言ったバカは。お兄さん、怒って殴るから名乗りを上げなさい。こいつ、完全にスケベなおっさんじゃないか。

俺のチンコを数回つっつき、それからなで回した挙句、ニヤニヤと笑い、気持ちがいいんだろう。とか問いかける趙雲は、生理的に気持ち悪い。

こんな趙雲、見とうなかった。

俺は泣いた。そして愛紗はキレた。

 

「趙雲、貴様ぁあああ!」

 

「やめろ愛紗、勝てるはずがない。こいつは伝説の趙雲なんだぞ!」

 

ずっと壁際で俺を待ち続けていた忠犬は、俺の涙で狂犬へと豹変。俺の心配もどこ吹く風で、趙雲に肉薄し、ぶっ飛ばそうと迫る。

 

「ふっ、怒りに身を任せるとは未熟。武力三十くらいの雑魚と見た」

 

もうダメだ……おしまいだあ……。

このままでは愛紗は軽く趙雲に料理され、チャオズな末路になってしまう。

 

「この、小童が!」

 

殴りかかる愛紗に、趙雲は余裕に構え応戦。

繰り出される拳の軌道を趙雲は読んで、体をひねり必殺のパンチを愛紗に放つ――が、

 

「ば、馬鹿な!」

 

愛紗の攻撃は途中でピタリと止まる。

生粋のカウンターパンチャーでも見抜けぬ、このフェイントに引っかかった趙雲は逆に空振り。それどころか愛紗の本命である膝蹴りに、みぞおちから飛び込んだ。

 

「ぐっ……おぉ……」

 

たまらず腹を押さえ、崩れ落ちる趙雲は、何度も嗚咽を繰り返し、ついに致命的な一言を吐いた。

 

「ぅ……う……うっぷ」

 

「待て、ここは不味い。吐くならせめて室外でやれ!」

 

「ぱ、白蓮ちゃん。私、処理してくれる人を呼んでくるね!」

 

「頼む桃香。ほら、趙雲こっちだ!」

 

趙雲は公孫賛の手によって、強制的に退場。桃香もその後始末に追われ、広間には俺と愛紗だけが残された。

…………趙雲、あんまり大した事ないな。愛紗に負けるとか。

 

「……! ……!」

 

そして趙雲から大金星をあげた愛紗は、少し頬を紅潮させながら、そわそわと落ち着きなく俺を見上げた。尻尾はないが、あればたぶんブンブンと振っていただろう。

 

「よーしよし、よーしよしよし」

 

「くぅ~ん、くぅ~ん」

 

ご褒美に頭をつかみ、髪をくしゃくしゃにしてなでてやると、愛紗はパアァッと顔を輝かせ、俺の肩に鼻を埋めた。

完全に犬へなりきっている。なら、どれだけ犬でいられるのか、実験をしてやろう。

 

「お手」

 

「わんっ!」

 

「おかわり」

 

「わんっ!」

 

「ちんちん」

 

「…………んん。はぁ、はぁ、はぁ」

 

幅広く知られる犬の芸を試してみるが、忘れていた事があった。愛紗、ノーパンだ。

おかげちんちんの体制へと移った愛紗のマンコが、俺の目下で御開帳される。

こうしたのが悦なのか。息をあらげ発情の兆候が見られる愛紗に、俺は飼い主として最低限の義務を果たそうとした。

 

「下着はけよ」

 

「嫌です」

 

「さようか」

 

どうすれば愛紗はパンツをはくようになるのか。俺はその躾に、しばし頭を悩ませるのであった。

 

 




今回はしんどかったです。
当初、予定していた流れを実際に書いてみるとぐちゃぐちゃで、二転三転と。

おかげで白蓮はクレーマーに、愛紗はワンワンへと変貌してしまいました。
二人ともただの貢ぐ女と、ノーパン戦士だったはずなのに、なぜこんな事に。

星のメイン回だった名残が、跡形もない…。


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4話




お待たせいたしました。





 

地平線の先にまで続く広大な野原へ、穏やかな日差しが降り注ぐ。

しばらくすれば蝶がゆうゆうと舞い、この世の平和を謳歌できる穏やかな時間が流れそうなこの地も、今だけは悲鳴が飛び交う地獄へと変貌を遂げていた。

 

「ぎゃああああ!」

 

「ひぁああああ!」

 

「ふはは、弱い。弱すぎるぞ!」

 

この悪夢を作り出した女。星が手にした槍を振るう度、黄巾党の賊の命が次々と散らされる。大地は血でまみれ、一面に飛び広がる赤い模様は、おびただしい花びらの絨毯のようでもあった。

 

「この趙子龍の首を上げようと、名乗り出る骨のある者はおらんのか。早くせねば、全滅をしてしまうぞ!」

 

槍を回し余裕の演技をする星に対し、数えられるほどに減った賊はみな腰が引けていた。

戦わなければ生き残れない。それだけが賊達の助かる選択であるのに、誰しもがその生存本能に従う事はなかった。

穂を突きつけ笑みを浮かべる星を前にし、足がすくむほどの恐怖が体の支配を上回ったからだ。

 

「つまらんな」

 

弱者を虐げる割に、強者には立ち向かおうともしない。何とも愚かな存在であろうか。

そんな賊の歪んだ姿勢に、さきほどまでの高揚感が急激に冷めた星は、作業のごとく槍を操り、最後の命を刈り取った。

 

「はぁ、本当につまらんなぁ」

 

たった一人。野に立ち尽くした星は、ため息をつきながら槍を地面に刺して、死体の山から戦利品を漁る。

しゃがんだまま武器や金には目もくれず、酒と書かれた壺を掘り起こした星は、封を切りその中身を口に含むが――喉が鳴った瞬間。壮大に口外へ噴出した。

 

「ぶぅふううう、けほっ、けほっ。何だこの酒は、安物どころか紛い物ではないか」

 

元々そうであったのか、後からそうされたのか。

答えは死んだ賊だけにしかわからないが、星が飲んだ酒は水で薄められ、酒の味がほとんどしなかったのだ。

酒好きの星にとっては、許しがたい模造品である。

 

「賊に一泡を吹かれたよりも、こちらの方が余計に腹が立つ」

 

「……よくもそんな台詞が言えたものだな、星」

 

「む、愛紗か」

 

背後から影が差し、振り返った星が見上げると、顔をひくつかせた愛紗がそこにはいた。

そんな愛紗に酒壺をちゃぷちゃぷと揺らし、星は問いかける。

 

「飲むか?」

 

「いらん!」

 

「だろうな」

 

断られた酒を星は再び舐めてみるが、二口目もやはり不味い。だが今、手元にある酒はこれだけ。

仕方がなくちびちびと呷っていると、がみがみと愛紗が説教を降り注いできた。

 

「賊の討伐中に酒など飲むな。少しは真面目にしたらどうだ!」

 

「してるであろう。おかげで賊は壊滅したぞ」

 

「斥候を出す前に、貴様が勝手に一騎駆けをしてな……おかげで兵の実践機会が減ったではないか!」

 

「そうはいうがな、愛紗。あの程度の賊に、軍はいらんだろう。一人でやった方が、反って時間の節約になると思わんか」

 

「それで全体の練度が上がれば苦労はしない。訓練しただけで兵は強くならないのだぞ」

 

「それくらいわかっておる」

 

兵を率いて戦った経験は、星にもある。だから愛紗の言い分である、訓練だけでは限界なのも重々承知はしていた。

それでも人間、やりたくない時はやりたくないのだ。

 

「次はお主の計画通りに進めればいいさ。私は後ろで寝転びながら眺めているとしよう」

 

「……どうしてこう、お前は天邪鬼な態度を取りたがるのか」

 

「決まっておるだろうに。お主と一緒に肩を並べたくないからよ」

 

「…………ひょっとして、私に勝てないから拗ねているのか?」

 

「ええい、違うわ!」

 

愛紗の的の外れた憶測に、星は思わず立ち上がって抗議する。

確かに愛紗との試合で、星の勝率は高くない。十を打ち合えば勝ちは二つで、一つは引き分け。それ以外は負けだった。

しかし星とて武人としての矜持がある。いつか完勝してやる。という野望には燃えているが、完敗したから命令は聞かない。などと野暮ったい真似をするつもりはない。

単純に、愛紗と共闘をしたくない理由があるのだ。星はその元凶を指さした。

 

「そんな鉄の枷を首に四六時中つけた、罪人のような変態の隣になぞいられるか。私も同類と思われたらどうしてくれる!」

 

「し、失礼な。これはご主人様から頂いた、大切な絆の証。枷と同じにしてもらっては困る。だから私は変態ではない。訂正しろ」

 

「私が知らぬと思っておるのか? その枷に紐をつけて、愛紗が夜な夜な主に引きずられておる姿を。しかもお主だけ裸で、完全に変態の所業ではないか!」

 

「ひ、人の情事を覗くとは、悪趣味だぞ星!」

 

「たまたま目に入ったのだ。そっちが人目に触れる部屋の外でしていたのに、覗き扱いするでない。私だってあんなものを見たくはなかったし、叶うなら忘れたいわ」

 

そう願わずにはいられない星であったが、あれだけ強烈な光景はなかなか記憶から消し去れるものではない。

それどころか二人が致していた現場を歩く度、きゃんきゃんと尻を踏まれて鳴いている愛紗が脳裏をよぎり、不快な気分になる。

 

「お主、本当におっぱいがついているのか。男を虐めるならばともかく、男に虐められて喜ぶとは。女の風上にも置けぬ軟弱さよ」

 

士官先を探し、各地を放浪していた星だからこそ、様々な王にまつわる性癖の話はよく耳にしていた。

その中でとび抜けて趣味に合わないと思ったのは、金粉やはちみつを男にぶっかけて犯す、袁紹と袁術の二人だろう。誰もが知る名家の生まれである御仁が何をやっているのか。と聞いた当初は呆れていたものだが、それをも上回る間抜けがこんなところにいるとは、よもやの星も驚きだ。

 

「これからは少しくらい、私の女っぷりを勉強し、己を磨くよう精進するのだな。でなくてはその乳、周囲から偽物と侮られるぞ」

 

「余計なお世話だ。だいたい偉そうに私へ説教が出来る立場か。お前が失敗しても懲りずにご主人様へ夜這いをかけるから、こうして黄巾党が暴れる都度、討伐を命じられている癖に」

 

「お主らがまどろっこしいからであろうが。主がやらせてくれると言っておるのに、誰が童貞を喰うかでいつまでも無駄な会合を続けおって」

 

童貞で処女を喪失するのは、女性において悲願と言っても過言ではない。

しかし星達の中からその夢を実現できるのは、たった一人だけ。そうなると、譲り合いならぬ譲れないの精神で互いに引かぬのは必至。

星が武力で解決しようとして愛紗にねじ伏せられたり、白蓮がお金で皆を買収を試すが効果がなかったりと事態が進まず。結局は桃香の説得により、全員が納得するまで話し合おう。という流れになったのだが、未だに終息へは至らず仕舞いだ。

当面の妥協案として、まずはお尻の貫通を先に済ませる形で落ち着つき、主を説得中であるが、どうにも重要な問題を棚上げされた感じは強い。

だから星は、この硬直した状況を打破しようと行動を起こしているのだ。もちろん半分以上は、自分の欲求を満たす為であったが。

 

「私も女だ、尻に童貞のちんちんを突っ込む性交に興味はある。しかしこんな事をいちいち確認して決めていたのでは、いつまでも膜が破られんだろう」

 

「そうか? 私はご主人様とお尻でするのを、とても心待ちにしているのだが。不浄の穴に、ご主人様のおちんちんを入れて頂けると考えただけで私は……はぁ、はぁ、はぁ。ご主人様ー!!!!」

 

「相変わらず気持ち悪い奴よな」

 

尻を叩かれ過ぎたせいで頭がおかしくなったのか。女内で下の話になると、愛紗はこうして稀に極まったような雄たけびを上げる。

しかしこんな変質者が、主に一番きに入られていると思うと、常識人の星からすればやりきれない。

理解はし難いが、贈り物までして愛紗の犬遊びに付き合っている主を見ていると、嫌でも自分との差を感じてしまう。

その不満を本人に直接いうほど星は弱くないが、もやもやは募るばかりだ。

 

「帰ったら、主に誰が一番いい女か知ってもらわねばならんな」

 

幾度となく自分の胸の谷間へ目が行くのだ。主もまるで星に興味がない訳ではなかろう。

それで鼻が高くなり、高笑いをして星が胸を丸出しにすると、主は決まって顔をしかめるが。

男心と秋の空。とはよく言ったもので、異性の移ろいやすい感情は、星にとってまだまだわからぬ事ばかりであった。

 

「互いの理解を進めるには、やはり肌を深く合わせるのが一番。ならばここは、新しい夜這いの方法を練っておくべきか」

 

そう言って酒を飲み干した星は、地面に突き立てた槍を引っこ抜き、はぁはぁしている愛紗の横を通り過ぎ、野営の天幕へと帰った。

 

 

 

 

 

十十十十十

 

 

 

 

 

黄巾党。

そんな呼称の黄色い布をつけた集団の賊が、いま世間ではホットなニュースらしい。

何でも首領の張角は、支配階級が男を独占している現状に憂い、自分らにも男をよこせと武装し、各州へ抗議活動に勤しんでいるそうだ。

これが民衆の心を打ち、各地で賛同の声が相次いだ結果。国が鎮圧に乗り出すほどの勢力に膨れ上がったのが、昨今の騒ぎとなる。

当然、こいつらは幽州にもいる。でも他よりは数が多くないそうなので、桃香・愛紗と最近あだ名で呼ぶようになった白蓮・趙雲。そしてたまに愛紗・趙雲の変則ローテンションでだいたい鎮圧が可能な範囲であった。

ただ、こうした戦が当たり前の毎日になってしまうと、暇になるのが俺だ。

まず前衛戦士の刺激は俺には強すぎる。連れていかれたら、戦うどころか吐いて漏らす自信があるわ。

なら後衛軍師に就職し、策の一つでも披露する知識があればよかったのだが、ぬくぬくと生きてきた若造に実用的な案などあるはずもない。

俺に浮かぶのは、斬首戦術くらいだぞ。

なので戦闘に足手まといな俺は、おとなしく幽州で留守番をしていた。

仮に戦力となったとしても、俺の正体がばれたら果てしなく面倒くさくなるので、もともと参加権はないのだけれど。

やっぱつれぇわ。山の頃から進歩しないのは。

だというのに、生活水準だけは前と比べ物にならないくらいランクアップしているのだから堪らない。

多額の契約金をもらって新しいチームに移籍したのはいいものの、以前のような活躍が出来ない、スポーツ選手もこんな心境なのだろうか。

もっともプロなら痛烈なバッシングをされるが、困った事にここでは俺に厳しい奴が皆無だったりする。

このままではいずれ、俺は飼いならされた豚になる。

ブヒらずにはいられない将来の不安を抱えた俺は、人間として。ギブだけではなく、ちゃんとテイクも返そうとするが、幽州陣営は全員アウトだった。

せっかく俺がマンコセックスを解禁したのに、アナルファックを要求するのだから。

どうにも誰が俺の童貞を奪うかで揉めているみたいで、それに決着がつくまではまず尻で、って事らしい。とんだビチグソ共である。

貞操が逆転すると、こんな汚点があるとは。まさか処女卒業をさせるよりも先に、肛門による裏口入学を体験するとか予想もしなかった。

微妙に尻込みするんですけど。

なので軽く拒否って抵抗していると、アブノーマルな奴らの筆頭白蓮は毎回。俺の部屋で懇ろになる度、取りあえず生中みたいに尻中を注文していたのだが、断られ過ぎたせいか。

ついには自分で考案したメニューを持ち込み、俺に交渉を迫る。

その創作性はとにかく酷いの一言であり、いい加減に俺もキレた。

 

「んふふふふ、ご主人ちゃま~」

 

「桃香と代わってもらえるか。頼むから」

 

「何で!」

 

何にでもだよ。

ケツに四の五の言われたからって、ケツよりディープな内容を持ち出すとか、どんな脳の構造をしてるんだ。

 

「子供になってしたいとか、俺の許容範囲もあっさり超えるわ」

 

しかも俺がガキになるのではなく、白蓮が童心に戻るのである。

ママプレイなぬる、パパプレイとか、マジでこの時代は魔境だ。

そんな平成生まれの一般人に、弥生時代のあばずれは、ジェネレーションギャップを埋めようと、大いに熱弁を振るった。

 

「いや、太守のみんなは結構やってるんだよ。重い立場で疲れているから、たまに甘えたくなる時があってさ。それに将来、私とご主人ちゃまの間に赤ちゃんが生まれれば、育児は必要だし、その練習になると考えれば一石二鳥だろう」

 

「ちゃまは止めろ」

 

長々と喋る白蓮に、俺は端的に拒否項目を告げる。

女の性やら未来の生活など今の俺にはどうでもいい。とにかく現状、背中がむずかゆくなる呼称をつけられるのが、俺にとってとにかく解決したい問題だった。

でもそこが白蓮の言い訳の中で、一番ゆずれぬポイントなのか。頑なにちゃま却下はスルーされる。

 

「こういうのは、出だしが大切だ。だからご主人ちゃまも、私を白蓮ちゃまと呼んでくれ。大丈夫、いずれ慣れるはずだから」

 

「どうしてやる前提で話が進んでいるんだよ。俺、付き合わないって断っているよな?」

 

尻の付き合いもまだなのに、勝手にちゃま仲間へされては困る。

だいたいすでに俺は、はしたないペット枠で愛紗を飼っているのだ。ここへさらに大きい女の介護まで加わると、キャパがオーバーしてしまう。

 

「いつも通りの流れでいいだろう。何も急に変化をつける必要はない」

 

いつものとは、キスしてペッティングして、である。だが白蓮はそのマンネリにいたくご立腹だった。

 

「だってご主人ちゃま、最近おざなりだもん。こっちは四日も待って期待しているのに、すぐに寝ちゃうし」

 

まぁ、白蓮の言い分はわからんでもない。

ここ最近の俺は、相手を一回イかせたら終わりにしている。

なぜか?

それは白蓮にとって俺は四日ぶりの男かもしれないが、俺にとって白蓮は四日目の女だからだ。

今回みたいな遠征イベントが勃発しても、結局は順番が繰り越されるだけで、休みにはならないし、ブラックも真っ青な過酷環境っぷりである。

だからって張角と同じように、物理ストライキをするつもりにはなれないが、多少の手抜きは全力で許せ。というのが俺の本音であった。

 

「男の玉には限りがあるんだよ、出したら疲れるし。節約させろ」

 

「だったらせめて、内容を濃くしてくれっていうのは我儘なのか」

 

「我儘だな」

 

「そんな事いわないでさ。お尻は諦めるから一回だけ、一回だけでいいからお父さんになってくれよ。それで私、満足できる気がするんだ」

 

さきちょっだけ、さきっちょだけ。と、男が女を強引に口説き落とすような台詞を連呼し、懇願してパパ属性を付属させようとする白蓮であるが、これくらいで俺はなびかない。

てか、一回でもやっちまったら最後。次は一回したから、二回も三回も一緒だろ。とか言われ、またせがまれるのは目に見えている。だから応えてはいけないのだ。

愛紗で体験済みだからな、わかってる。

俺はただ、愛紗にパンツをはかせたくて躾をしていただけなのに、あのドMときたら。すっかり虐げられるのがご褒美になって、もう俺の前では黙って四つん這いになり、ケツを向ける始末だ。

無言のおねだりがうっとうしくなって、下着をちゃんとはいたらイジメてやるよ。と言ったらパンツ装着するようになるし、冗談で用意した首輪を渡したら、うっとりした表情で巻くし。何なんだあいつは。

飼い犬でも最低限、獣の本能は残すぞ。人の愛紗は、基本的人間の尊重をちゃんと守れよ。

おかげで俺のご主人様の意味合いが、全くの別物になったじゃないか。

 

「だから俺は、絶対にせんぞ」

 

そんな訳で俺の意思は硬い。ダイヤモンドくらいはたぶんあった。

すると白蓮は金を持ち出し、俺の精神的な支柱である、ぶっとい宝石をどかそうと交渉に挑んだ。

 

「……ご、ご主人ちゃまの言い値を払うから。それでどうにか手を打ってくれないか」

 

「余計にタチが悪いわ」

 

それ、援交じゃん。

ギャルでビッチな風評被害を植え付けるの、よしてもらえる。こちとら、清純派ご主人様でやってんだぞ。

 

「もうそんなに赤ちゃんになりたいのなら、その辺の女に男装してもらって、疑似お父さんになってもらえよ。金がもらえるなら、してくれる奴はいるだろう」

 

「やってもらった事はあるけどさ、根は女だし、男じゃないとやっぱり駄目っていうか……」

 

「愚かだな、白蓮」

 

「あ、あの頃は若かったんだよ。私塾に通っている時に、ちょっと桃香に頼んだだけで、すぐに止めたから」

 

それでも愚者の称号は揺るぎないぞ。そして桃香もナニをやらかしてるんだ。

俺と同じように、金か。金を積まれたのか。桃香もちょいちょい俗物的なところがあるからな。

愛紗は雌犬だし、趙雲はポンコツだし、白蓮はこの様で、まともな人材がいない。

散々だな、天の御遣い軍。

このままでは三国志に突入する前に壊滅させられる、弱小勢力の末路まったなしである。

 

「はぁ、もういい」

 

「へっ、ご主人ちゃま。も、もういいって?」

 

こうなると頼れるのは、趙雲の伝手で出会える劉備とその仲間達だけだ。

それまでは誰も欠けずにいたかったのだが、小国の総理大臣みたいな立場にいる白蓮を含め、皆の各自奮闘を期待するのはどうにも心許ない。

気は進まないけど、遂に俺も国政へ乗り出す時期が来たようである。

 

「俺の願いを叶えてくれたら、譲歩してやってもいいぞ」

 

「ほ、本当か。私はどうすればいいんだ?」

 

「軍備の強化に金をかけろ」

 

群雄割拠の時代には、富国強兵が相場だと決まっている。もちろん、ド素人の俺に、どうすれば富国強兵へと至れるのか。その道しるべがあるはずもない。

しかし俺は未来知識による方針を丸投げすればいいのだ。後は白蓮らが勝手に強くしてくれるはずである。

俺が先導切ってするよりも、確実にまともな形になるだろう。

 

「これをしてくれるってのなら、アナルファックを白蓮とやってやろうじゃないか」

 

「あ、あな?」

 

「尻でやる時にいう、天の国の言葉だよ」

 

マジでファック。

でも赤ちゃんプレイよりはまだこっちの方が、俺からすれば抵抗感は薄い。

 

「軍を強くしてくれると約束すればな。どうだ?」

 

それもこれも、全ては白蓮しだいである。

性格上。フリテンでも多面張ならリーチを打ってきそうな白蓮は、この条件にぶっこむと俺は踏んでいたのだが、意外や意外。白蓮はグラグラと迷いを見せながらも、俺にこんな質問をぶつけてきた。

 

「し、したいけど……その、一つだけ教えてくれ。時期が来ればご主人様は、どこかへ攻め入るつもりなのか?」

 

「特にそう言った希望はないな」

 

そもそも俺が国に対する政策にこれまで関わらずにいたのは、出しゃばってもろくな事にならないのを知っていたのと、迂闊な発言でいらぬ責任を負いたくないからだ。

なので俺としてはこれ以上、拡張性のある話をされても困る。

 

「どっか攻めたいのなら、愛紗か趙雲と相談してくれ。俺としてはちかごろ物騒だし、どこからも攻められないくらい、防衛力を高めてもらえれば満足だから」

 

「……そっか。それならいいかな。軍、強化しておく」

 

かるっ。こんなんでいいの?

気負わずいられるのは精神的に楽だが、生返事で返されるとそれはそれで不安になる。

軽く流されるのならまだマシで、万が一。ダメンズの血が騒いで、アホみたいに白蓮が国に貢ぐかもしれないからな。

釘だけはさしておこう。

 

「限度は考えろよ。失敗して国が傾きました。とかになったら、洒落にならんぞ」

 

「平気だって。任せてくれよ、ご主人ちゃま」

 

信頼できる要素がまるでないんですが、君は。

だがこれが白蓮にとって初めてのおつかいだし、この一時だけは俺の胸中に非難声明は留めておこう。

頭の中までピンクになった白蓮に、難しい話が届くかどうか怪しいしな。

 

「んふ。その代わりあなるふぁいとね」

 

アナルファックな。

それだとケツの戦いになるぞ。まあ、下手をすれば切れるか切れないか。ギリギリの攻防になったりするのだが。

 

「尻は大丈夫なのか?」

 

もし傷を負えば一大事。白蓮はしばらく、女として恥ずかしい日々を過ごさなくてはならないので、一応。やる前に確認はしておく。

 

「指で慣らしたし、準備はしていたさ」

 

「……そうか」

 

こいつら、こういう欲望に関しては本当にそつがなかった。

 

「さすがに桃香みたいに、暇さえあればやってた訳じゃないから、達するまではいかないけど。気持ちよくはなってきたし、十分、十分」

 

そして桃香のケツはすでにマンコの域にあるらしい。

性欲の強い聖職者がしそうな、アナニーを極めやがって。いずれ神も呆れて見放すぞ。

あいつと永遠の愛を誓う男は大変だな。と、最有力候補の自分を除外し、俺は桃香の将来を他人事みたいに憂い、心の中で合掌する。

 

「だからご主人ちゃま、しよう」

 

「…………あい」

 

そうして現実逃避をしていたのだが、残念。ケツからは逃げられない。

すでにやる気まんまんで、服に手をかける白蓮に促され、俺は諦めてベッドに上がった。

それからお互いに真っ裸へとなり、ズブリ。尻体験の為の入念な準備運動を行う。

 

「あ~、ん~」

 

あぐらをかいた俺の一物を見下ろす白蓮は、開けっ放しにした口から唾液を垂らし、ハンドシェイクで混ぜ合わせる。

クチュクチュと奏で与えられる刺激に、半勃ちだったペニスは一気に肥大化し、それに気をよくした白蓮は楽しそうに俺をからかった。

 

「唾をかけられて手で触られただけで、ご主人ちゃまの大きくなった。こんなので気持ちいいの?」

 

そりゃいいに決まっている。

俺が若いってのも当然あるが、全裸の女が股間に顔を埋め、自分の尻穴を弄りながら手コキをしているのである。

普通の男なら興奮するだろう。

 

「ご主人ちゃまの変態」

 

赤ちゃんプレイをしたがっていた、女にだけは言われたくないな。

イラッとした俺は白蓮の頬をつねるが、反省の色は見られなかった。むしろ構ってもらえたのが嬉しいのか、白蓮はだらしなく表情を緩める。

 

「にゅふ」

 

さらに擦るスピードをアップさせ、俺のチンコを容赦なく扱く。

これには俺も堪らず、息を呑んで快楽に備える。このまま続けられるといずれ出してしまいそうだったからだ。

連発も余裕な年代であるが、明日に控える桃香の相手も考えれば、ほいほいと無駄打ちをする訳にもいかない。

亀頭から先走り汁が滲み出した体へのサインを受け、俺は引っ張っていた白蓮の頬から指を離し、その手を頭にやってポンポンとなでる。

 

「白蓮」

 

「気持ちよかった?」

 

動きを中断して意地の悪い問いかけする白蓮に、俺はコクリと頷く。

ここで黙秘権を行使すると、射精するまでやられかねないからな。

 

「だったらいいや。なら次は……」

 

俺のギブアップに満足した白蓮は、竿からいったん離れ、その場で寝転んだままM字に足を広げ誘ってくる。

 

「こっちでもっと気持ちよくしてあげるから、ご主人ちゃま、きて」

 

先ほどの自己申告である、尻の性感帯を開発した。というのに偽りはなく、触れてもいない白蓮のマンコはすでに濡れており、愛液を噴き出してシーツに染みを作った。

これなら遠慮はいらないか。

膣に比べ、未だ不安の残る小ささであるが、俺は臆せずその穴に一物を押し当て、ねじ込んだ。

 

「ふぐうぅ」

 

つぶされたような声を白蓮が上げる。しかしそれも無理はない。

思いの他、挿入はスムーズにいかず、ズッズッ。とミチミチに詰まった肉壁の中を、強引にペニスが侵入しているのだから、圧迫感は相当のものだろう。

 

「はー、はー、はー」

 

ようやく一物が奥まで埋まりきる頃には、精も根も尽き果て、ぐったりと顔を腕で覆う白蓮がそこにはいた。

息も絶え絶えに白蓮が感想を聞いてくる。

 

「ご主人ちゃま……私のお尻、どう?」

 

「いいよ」

 

妄想すらしていなかった尻の中は、とにかく狭くてきつい。

だが痛みよりは快楽の方が勝り、俺のチンコを締め上げながらも、まだ底を感じさせる深さがあった。

 

「……だったらよかった。どう、もう出せそう?」

 

「入れたばかりだぞ。まだ余裕はあるって」

 

「は、はは……だよなぁ。女だと、こういう時に不公平だ」

 

「やっぱりキツイのか」

 

「うん、きつい」

 

そう言って白蓮は、何かに耐えるようにキュッと尻をすぼめる。

しかしそこには俺のジュニアがおり、自爆してきかん棒に反撃された白蓮は、小さくうめいて体をよじらせた。

 

「ひうっ――ご主人ちゃま、早く動いて。でないと私、このまま先に達しそう」

 

そっちの意味で辛いんかい。

つくづくこっちの女は規格外だな。

 

「……俺に射精を促したのは、自分が我慢できそうにないからか?」

 

「だって、入れただけで果てたら、恥ずかしいじゃないか。だ、だから、ご主人ちゃま、はやくぅ」

 

三擦り半いかの早漏とか、確かに童貞でも切腹したくはなりそうだ。

ここはひとまず、白蓮の言う通りにしてやるのが武士としての情けだろう。が、忘れてはいけない。

俺はさっき、白蓮から辱められたのだ。そして恥は上塗りしてお返しをするのが俺のモットー。

なので白蓮には、もっと恥辱にまみれてもらわなくてはならない。

 

「わかったよ。最初はゆっくりした方がいいか?」

 

「そ、それで頼む。あ、後、私が達しそうになったら、一緒に射精してくれたら助かる」

 

「注文が多いな」

 

さっきまで大口を叩いていた白蓮はいずこへ。

すっかりチンコで弱気になった白蓮は、慎重に俺の首元へかじりつき、だいしゅきホールドまで決めて、万全な防御態勢を取った。

 

「さ、さぁ、ご主人ちゃま。私の準備はできたぞっおおおおぉぉ!」

 

ひとまず一突き。それこそズンッ。と音が出そうなほど白蓮のケツ穴を俺はえぐった。

狭い可動範囲内で全力を尽くしてこの一撃は、有り余る戦果を白蓮から獲得する。

 

「ゆっ、ゆっくりっていっひゃのにぃぃいいい!」

 

チロ、チョロチョロ。

予想を裏切られた衝撃からか、白蓮の下の口から明らかに漏れてはいけない液体が垂れ流されてしまう。

微かに鼻につくこのアンモニア臭、限りなくこれは尿だった。

 

「漏らすなよ」

 

俺がその事実を指摘すると、白蓮は顔どころから全身を紅潮させ、呂律の回らない舌で恥の度合いを下げようと叫んだ。

 

「もらしてにゃい、ちびったらけ!」

 

どっちもそう大差ないだろうが。この程度の量なら、誤差かもしれないけど。

それは認めてやってもいい。だが、白蓮が尿漏れをしたのに変わりはない。

俺はネチネチとその事を責め立て、尻穴と共に白蓮をイジメた。

 

「ケツにチンコ入れられて、漏らすほど嬉しかったのか。どっちが変態か、わからないな」

 

「ううぅ、これでおちんちんが小さくならにゃい、ご主人ちゃまもおなじじゃないきゃ」

 

「いや、違うだろう。俺が白蓮の立ち場になっても、漏らさないし、ケツでこんなによがったりしないぞ」

 

「ひっ、ぃぃぃいいい。ご、ごしゅじんちゃま、ひませめるのらめ、ひきょう!」

 

「何を言っているのか、さっぱり伝わらないな」

 

だいたい、ここまでやって中断するとかまずありえない。チンコは出すまで止まれない。という言葉を知らないのか。

未だ硬さの残る白蓮の腸内であったが、腰を打ちつければ打ちつけるだけ、徐々にほぐれ始めたこの穴に、俺はすっかり熱中していた。

 

「ひ、ひ、ひ、ひくにょ、らめてぇええ。それぃ、ひもちよしゅぎりゅ!」

 

「ん、こうすればいいのか?」

 

「あああ、どうしてやめてくりぇないのぉお!」

 

わざわざ教えてくれた弱点を重点的に攻めようと、俺はストロークを長くさせる事で白蓮に快楽を刻み込んだ。

効果は抜群で、膣内がパクパクとマン汁をこぼしながら鳴いて、白蓮は幾度も絶頂に達しているようだった。

初アナルに加えこの白蓮の痴態を前に、いよいよ俺も限界を迎えようとしていた。

 

「ごめんなひゃい、ごしゅじんひゃま、ごめんなひゃぁい!」

 

からかった反省か、それとも気持ちよさが苦痛になってきたのか、あるいは何もわかってないただのうわ言なのか。

白蓮は顔を涙と涎にまみれさせ、俺に謝った。

 

「十二分に、反省しろよ」

 

「ひゃい、ごめんなしゃぁいいいい!」

 

そうして吸い込むように収縮し、奥の奥のさらなる奥へ。貪欲にペニスを咥える白蓮のアナルに、俺は精液を吐き出した。

 

「おおおおおおお、おっお゛!」

 

ここまで長い絶頂は久しぶりだった。何度もチンコが射精で震える。

ようやく収まり白蓮のケツ穴から一物を抜いた時には、外へあふれ出る精液の多さに俺自身がビビったくらいであった。

 

「……ふう」

 

しかし、やり過ぎたかもしれないな。

 

「……はへ……はひゅ……」

 

アヘるとはこんな状態の事をいうのか。

完全にダウンし、白蓮はただ浅く呼吸を繰り返す。

そんな死に体の白蓮は、けっこう新鮮だった。

 

「いつもなら、一回やってもすぐに次を求めてくるのに……」

 

これはこれでアリかもしれない。

ケツでやれば妊娠のリスクはゼロになるし、俺の肉体的な負担も軽減される。

いい事ずくめである。

真面目に明日からアナルファックの検討を考える俺であったが、一方的にセックスで相手をやり込めるのはやはりよくない。

 

「……ぁ……ぁぁ……」

 

チョロチョロチョロチョロ。

脱力し、本気でしょんべんを垂れ流す白蓮を見て、俺は何事もほどほどが一番であると痛感した。

で、こいつの後始末は誰がするのだろう……俺?

シーツに広がる黄ばんだ三国志地図の前で途方に暮れた俺は、腹の内から悪態をついた。

ガッデム!

 








今さらこんな事をいうのも何ですが、逆転モノって書くのが難しい。


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5話

 

休日。

週休二日の制度がないこの時代では、戦いのない日々こそが休みになるのかもしれない。

最初は世間を賑わせていた黄巾党も、戦線を拡大し過ぎてまとまりがとれず、各個撃破され、終息に向かっていると聞く。

おかげでこの幽州ではほとんど賊が湧かなくなり、皆が四人そろって家にいるのも珍しくなくなった。

だが、こっちの女は戦わないと元気が有り余るのか。つかの間の平和を噛みしめていると、誰かしら騒動を起こすのがお約束となっていた。

そんなトラブルメーカー筆頭の、ぶっちぎりでヤバイ奴。ナンバーワンの趙雲は、今日もやらかしてしまったのか。ところどころにほつれた服と、生傷を作った体を引きずり、部屋で桃香とだらだらお茶を飲んでいた俺の元へ、丸い物体を抱えて駆け込んで来た。

 

「主、しばらくかくまって下さい!」

 

「今回は何をやったんだよ、趙雲」

 

「いえ、それが愛紗と鍛錬をし――ぼっこぼこにしてやろうかと思っていたのに、ぼっこぼこにされた挙句、殺されかけましてな。今も追われているのです」

 

「それ、鍛錬じゃなくて私刑だろ」

 

「間違ってはないかも。さっき愛紗ちゃんが、星ちゃんにちょっとお灸をすえるって言っていたし」

 

趙雲、本気でお前なにやったんだ?

俺が疑わし気な視線を向けると、趙雲はそっぽを向いてピーピーと口笛を吹いた。

ダメだこれは。

おおよその話を知っているであろう桃香へ改めで目で問うと、困ったような笑みを浮かべる。

 

「星ちゃん、禁止されているのに夜の出歩きを止めないから、たぶん愛紗ちゃんが怒ったんじゃないかな」

 

「子供か。別にそれくらい許してやれよ。どうせ酒とメンマを買いに行っただけだろうし」

 

「その通り。いや、主はわかっておりますな」

 

「わかってない。わかってないよ、ご主人様は」

 

他に理由があるのかよ。

しかし言えるなら二人とも話すはずだし、俺に聞かれると不味い内容なのだろう。

ならあえて口を割らせる必要もない。

俺に伝えてもどうしようもない事ってあるからな。

例えばさっき桃香から、ケツに指が三本入るようになった。とか自慢げに語られたけど、本当にどうしようもない。

 

「追及はしないけど、俺に迷惑だけはかけるなよ」

 

それさえ守ってくれれば、特に俺からの不満はなしだ。

と、ここでこの話題は終えたかったのだが、部屋に来てから趙雲がずっと手にしている輪っかに見覚えがあり、俺は嫌な予感がしつつも尋ねた。

 

「あー、ところで趙雲。お前の持っているそれって――」

 

「愛紗の首枷ですな。理不尽に殴り蹴られましたので、つい腹が立ち。隙をついて奪ってやりました」

 

「迷惑かけるなって言っただろ!」

 

人には、超えてはいけないボーダーラインがあるというのに。怒髪天を突く愛紗のイメージが今、脳裏をよぎったぞ。誰がなだめると思っているんだ。

なのに愛紗をキレさせた趙雲は、盗んだ首輪をテーブルに置き、駄々っ子のように逆ギレしてわめき散らかした。

 

「私は悪くありませぬ。こんな物を使って、まやかしの力を手に入れた、愛紗が悪いのです」

 

「何をどう考えたら、ただの鉄が身体能力を強化させる便利な品になるんだよ。想像するのは勝手だが、人様にまで押しつけるな」

 

「明らかにおかしいではないですか。愛紗がこの首枷を着ける前は、十に二の勝ちは拾えました。それが現在、引き分けに持ち込むのがやっとで、一つも勝てぬ有様ですぞ!」

 

「その首輪をしてから、色んな意味で手がつけられなくなったよね、愛紗ちゃん」

 

「それはある」

 

けど、どう趙雲が難癖をつけようとも、そいつの原材料はオリハルコンやミスリルではない。純度百パーセント鉄だ。

あえて曰くがあるとすれば、外に出られない俺が、警邏に出かける桃香に首輪の説明をして店に注文を頼んだら、出来上がったのが罪人に着けるような拘束具になってしまったくらいか。

だがそんな鉄の首輪でも着けていれば、パンツを脱いでいた頃よりも、遥かに充実した愛紗の顔があったんだ。だから趙雲は、マッハでそいつを愛紗に戻してこい。

これでまた愛紗が物足りなさを覚え、ノーパンになったらどうしてくれる。

 

「とにかく、首輪は愛紗に返せ。俺も一緒に行ってやるから」

 

「私も行こうか、ご主人様?」

 

「いいのか。だったら助かる」

 

そうすれば趙雲は、半殺しくらいで許されるだろう……たぶん。

全殺しに比べれば、とても魅力的なこの条件。しかしそれに賭けるどころか、趙雲は逆張りして不利へ不利へと自らを追い込もうとする。

 

「お断りします。この首枷さえなくなれば、いずれ愛紗の力は抜け、私より弱くなるはず。この機会、みすみす逃す訳にはいきません」

 

反対にそれ、もっと強くならないか。下手したらいずれ呂布も超えるぞ。

三国志最強が首輪をつけたノーパンとか最悪だ。あかん愛紗が極まってしまう。

 

「落ち着け。仮に趙雲の妄想が現実だったとしても、愛紗が弱くなるまでどうやってしのぐつもりだ。さっき、殺されかけたんだろ」

 

「ふっ、見くびってもらっては困りますぞ主。この趙子龍。逃げに徹すれば、愛紗の追撃をかわす自信がある」

 

「そこまでして、愛紗ちゃんに勝ちたいんだ」

 

「当然ですとも。愛紗ばかり勝ってずるいではないですか。私だって常勝したい。そして主に、ちやほやされたい」

 

別に俺、強いからって愛紗をひいきしているつもりはないんだが。

それに趙雲が愛紗との戦績が悪いのは、別の要因があると俺は思う。例えば最初の出会いとか。

力量や技術を計れない俺でも、あのファーストコンタクトで、格付けが済んでしまった感がする。

そうして趙雲の苦手意識が克服されないまま、愛紗が絶好調期間へ突入したせいで、ますます勝てなくなった。

と、いうのが素人の見解であるが、非戦闘員の俺に、こんな話を趙雲も聞かされたくはないだろう。まず当たっているかどうかすら不明だし。

なのでその意見は横に置き、もっと趙雲が喰いつきそうな、実りのある話題を俺は披露した。

 

「ひとまず愛紗を弱らせるより、趙雲が強くなるのを目指したらどうだ。天の世界では、覚醒というものがあってだな」

 

「かくせい?」

 

「ああ。ふとした拍子に、自分の内に宿る潜在的な力が開放される状態の事をいうんだ。身近な奴で例えると、首輪を盗まれた愛紗が、怒りと悲しみからそうなっていると思っていい」

 

「なかなか興味深い話ですな。しかしそのように緩い条件ですと、私はすでに何回か覚醒をしているのでは?」

 

「そればっかりは俺もわからん。覚醒の仕方も、人それぞれだしな」

 

「そうなんだ。だったら私にも覚醒できるかな、ご主人様?」

 

「桃香はムリじゃね?」

 

だって桃香だし。

 

「まじで?」

 

「マジマジ」

 

と、こんな風に俺が桃香と遊んでいる傍ら、趙雲は俺の言葉を刻み込み一人で真剣に考えていた。

 

「ふむ…覚醒、覚醒、覚醒……」

 

それからしばらくし、手のひらをポンッと拳で叩く。

 

「おお、主。私の覚醒の方法がわかりました」

 

「意外と早かったね」

 

「ああ。期待はしてないけど、言ってみろ」

 

「星。と主に呼んでもらえれば、私はもっと強くなれる気がします」

 

「……すまん、それはムリだ。他の手段を当たってくれ」

 

「何故です。私の真名なのに、どうして頑なに呼んで下されないのです!」

 

だからだろうが。

しんのなまえで、真名。これを趙雲から始めて聞かされた時、俺は悟ったね。

ああ、趙雲は厨二病だと。

だが俺は、人類皆平等な博愛に満ち溢れた男。厨二だからと言って、趙雲を差別したりはしない。

しかしそれは、趙雲が分別をわきまえていればである。ぼくのかんがえたせってい。をごり押しして、相手に強要させるのは、よくないと俺は思う。

その辺りの自覚を趙雲には持ってもらいたいのだが、まだまだ道のりは遠そうであった。

趙雲は今も元気に発症し、こじらせていた。

 

「真名とは心を託した、信頼の証でもあります。それを特に理由もなく呼ばぬのは、失礼に当たるというもの。ですから主も、そろそろ覚悟を決めましょう。よろしいですか?」

 

「落ち着けよ、趙雲」

 

「あるじぃ!」

 

厨二の片棒を担がせようとする趙雲に、俺は常識的な拒否を示す。

すると、滅多に聞かない底冷えするような声で俺の名を呼び、趙雲は両肩をつかんでガックンガックン揺さぶった。

やはり厨二に現実の投薬は拒否反応が強いか。

だがここで治療を行い、少しでも趙雲の病の進行を食い止めておかいないと、のちのち大変になるのは必至。

具体的にはその内、俺は最強だ。とか叫んで敵に突貫し、返り討ちにされたあげく、助けに来てくれた仲間に、邪魔をするな。と殴りつけるくらいに悪化するだろう。

趙雲よ、せめて自己完結型の厨二に治まるのだ。目が、とか、腕が。とか言ってる分に関しては、誰も迷惑にならないから。

 

「私をおちょくって、楽しいですか?」

 

「そんな趣味はないな」

 

「ならば今されているのは何なのです。白蓮殿だけではなく、愛紗や桃香も私と真名の交換は済ませてあるのに。もう残っておられるのは主だけですぞ!」

 

「えーっと、私からもお願いしてもいいかな、ご主人様。ちゃんと星ちゃんの事、読んであげて」

 

桃香ぇ。

お前ら三人がそうやって設定に合わせて趙雲を甘やかすから、こいつは調子に乗ってつけあがるんだぞ。

数年後に星と呼ばれもだえ苦しむのは、趙雲本人だというのがなぜわからん。

 

「大人になったら考えてやるよ」

 

だから俺は延命治療で回復を見越した、模範的な回答に留めておく。

この場合、口にしたのは当然、精神的な面である。しかし趙雲ときたら何を勘違いしたのか、俺のチンコに目をやり、舌舐めずりをした。

 

「それは本当ですかな?」

 

「あ、ああ。だがなぜ俺の股間を見た」

 

「女が大人になるのなど、一つしかありますまい。いやはや、すみませぬ。主のそのようなお考えを察せられぬとは、私もまだまだ未熟というもの」

 

「……ご主人様。私、愛紗ちゃんを呼んでくるね」

 

「頼む」

 

俺の身の危険を感じた桃香が軽い足取りでドアを開ける。

それで命の灯を感じた趙雲は俺からガバッと離れ、片膝をついて首を垂れた。

 

「それだけはご容赦ください」

 

ならするなよ。こうなるの、わかっていただろうに。

 

「桃香、もう愛紗はいいぞ」

 

「う~ん、ちょっと遅かったかも」

 

「ん?」

 

振り向くと、部屋の外に愛紗がいた。

趙雲と喧嘩をした割には愛紗の服や体はまだ身ぎれいだったが、いつもの髪留めがなく、ぼさぼさになった髪が顔を覆い、どうにもホラー映画に出てくる幽霊を連想させられる。

 

「……私の首輪……私の首輪……私の首輪……私の首輪……私の首輪……私の首輪……」

 

しかもぶつぶつと何かを呟いており、ますます愛紗ならぬ幽紗の雰囲気があった。

 

「ぎゃああああああああ!」

 

それに恐怖した趙雲は絶叫し、ドアへと疾走。前にいた桃香を横に突き飛ばし、慌てて愛紗の侵入経路に蓋をする。

 

「ひぐぅっ!」

 

「おい、大丈夫か?」

 

俺は俺で床に倒れた桃香に駆け寄り、優しく抱き上げた。

すると桃香は涙目で俺の胸に顔を埋める。

 

「うえ~ん、ご主人様~」

 

「よしよし、どこか痛いところはあるか。なでてやろう」

 

「お股」

 

「一人でマスをかいてろ」

 

一瞬で手のひらを返した俺は、サッと桃香から体を離した。

そして今度は後頭部を激突させた桃香が、死ぬほど痛そうに頭を抱えて悶える。

 

「うっ、くぅぅ」

 

そんな桃香を俺は無視し、気になっていた趙雲の行方を追うと、愛紗と共に静かな接戦を繰り広げていた。

 

「ぐおおおおお、ぉぉ、ぐぎぎ……」

 

どうやら愛紗とドアの綱引きをしているらしい。

肩口を預け、体重をかけてドアを押す趙雲はとにかく必死だった。それこそ息を止め、顔色を赤くさせながら、愛紗を室内へ入れまいと全力を尽くす。

そのせいで入り口がミシミシと悲痛な音を鳴らした。

おいおいおい、俺の部屋だぞ。

このままではドアが破壊されてしまう。そうなったら俺は、どこで引きこもればいいんだ。

誰かと相部屋だけはしたくなかった。チンコが枯れるから。

不安に駆られる俺の気持ちが届いたのか。ひとまず愛紗側が諦めたようで、不吉な音が止む。

 

「はぁ」

 

これにホッとする俺であったが、一つ大切な事を忘れていた。

ホラー映画であるのならば、ここからが本番というのを。

 

「はっ?」

 

ドガッとでも言いそうな破壊音と同時に、木の板から白い拳が生える。

しかも一度では済まず、すぐさま引っ込んだと思ったら、二度三度とドアを手で突き破った。

 

「ひええぇ!」

 

これは誰だって怖い。

その場に尻餅をついた趙雲が、情けなくも後ずさるが、俺も心境的には似たようなものだ。

そうして固唾を呑んで愛紗が登場する瞬間を注目する。と、ヤクザキックでドアを蹴り飛ばした愛紗が、ダイナミックにお邪魔した。

吹き飛ぶドアは、もろに趙雲の直撃コース。

 

「おわわっ!」

 

ギリギリで転がって趙雲が避けるものの、それで激突の対象が変更された木材の凶器は、テーブルを粉砕し壁へと刺さる。

オデノヘヤハボドボドダ!

人であれば生命維持装置を着けなくてはならないほど荒らされた室内に、俺はショックを受けた。

 

「あ、ああぁあ、あるじぃ、どうすれば!」

 

俺が聞きたいわ。

でもそうだな。趙雲に一言だけ言葉を送るとすら、これしかない。

ほふく前進でにじり寄ろうとする趙雲に、俺は告げた。

 

「諦めろ」

 

「……えっ?」

 

悠然と歩く愛紗が、趙雲の背後にまでたどり着き足を止める。

そして首根っこを掴んでから、ズルズルと趙雲を引きずった。

 

「お、おのれ。は、離せ、化け物め!」

 

そのまま闇夜で葬るのかと観察してみるが、どうやら昇天が愛紗のマイブームらしい。

窓をまた蹴りで広げた愛紗は、無慈悲にも捕まえた趙雲を外へ摘まみ出す。

これには趙雲も焦り、手足をバタつかせて宙で抵抗した。

 

「ま、ままま、待て愛紗。この高さから落とされれば、私でも怪我をするかもしれんぞ!」

 

「死ぬんじゃないのか」

 

「それはほれ、鍛えておりますので」

 

地味にハイスペックだな。

俺の部屋は人目から忍ぶ為に、最上階の角にあるのだが、自分がここから飛び降りたらスクラップになる自信がある。

 

「ですので鍛錬で骨を折っても、己の未熟で済ませられますが、こんな馬鹿げた事で怪我を負いたくはありませぬ」

 

そのバカな中心人物は、主に趙雲で構成されているのだが。

ただ、これで骨折されては困るのは俺も同感である。また賊がいつ出現するかもわからないし、愛紗にはここで矛を収めてもらわなくてはいけない。

 

「……ご主人様、これ」

 

さて、どう愛紗を説得したものか。と頭を悩ませていると、桃香が横から首輪を差し出してくる。

 

「拾っておいてくれたのか」

 

「うん……目と鼻の先に落ちて来て、死ぬかと思った」

 

それは俺も死ねる。桃香は桃香で九死に一生だったようだ。

半べそ状態な桃香の肩を叩き、俺は首輪を受け取った。

 

「サンキュー。後で労ってやるよ」

 

「わーい、さんきゅー」

 

訳せない癖に、やまびこをするなよ。

まぁ、最近の俺はこれを期待してわざと横文字を使ってたりするけど。

ひとまずこいつで愛紗。否、幽紗を沈める準備は整った。俺は手でメガホンを作り呼びかける。

 

「愛紗。聞こえるか、首輪はここにある。だから大人しく趙雲を解放するんだ!」

 

「本当ですか、ご主人様!」

 

「あっ」

 

「あっ」

 

「……ああっ!」

 

あえて事故の顛末を語るのならば、愛紗は素直すぎた。

俺の要求通りに愛紗は趙雲を手放したものの、そこは当然、空の下。支えを失った趙雲は、物理法則の掟に逆らえず落下した。

 

「うぅぇぇぇぇぇぇぃぃぃ!」

 

「……………………」

 

どうすんだよ、この空気。

おも~い沈黙が続く。誰もが次のリアクションを取れないでいた。

そんな最中、窓際からヌッと一本の腕が伸び縁に手をかけると、葉っぱまみれの趙雲が這い上がる。

 

「あ~い~しゃ~」

 

まさにその形相は森に住む鬼。無傷のカムバックを果たした趙雲は、ブラとパンツだけという事もあり、余計に鬼へと近い姿をしていた。

って、服はマジでどうした。

 

「服が木の枝に引っかかっておらねば、受け身も危ない状況だったぞ」

 

それで助かったのか、運がよかったな趙雲。いや、もともと運が悪いから、ああなったのか?

 

「因果応報だろうに」

 

ボソッと愛紗が毒づくが、一理ある。

ただそれで納得するどころか、むしろ業を煮やした趙雲は、荒々しく下着を脱ぎ捨てマッパになった。

 

「……なぜ脱いだ?」

 

「愛紗を倒せば、後はこの布切れも不要になりますので」

 

Q&Aになってないぞ。

 

「それだけは、阻止させてもらう」

 

通じたのか、愛紗?

 

「愛紗ちゃん、頑張って~」

 

「お任せください、桃香様」

 

あれっ、ひょっとして俺だけ。置いてけぼりなのは。

一人だけアウェーな俺であったが、ぼっちな自分にも役割はあった。

 

「ふっ、不完全なお主を倒しても面白くはない。主、愛紗に首枷を」

 

「いいのか?」

 

散々ドーピングアイテム扱いをしていたのに、どういう風の吹き回しだ。

 

「私は憎しみにより覚醒しました。もはや愛紗など、恐れぬに足らず」

 

そう言って、シュババババババ。と葉っぱを散らしながら、パンチとキックを織り交ぜたデモンストレーションをする趙雲。

はええ。けどその覚醒パターンは、負けフラグ臭いぞ。

 

「体が軽い。こんな気分になったのは始めてです。もう何も恐れる者はありません」

 

「さようか……なら愛紗。首輪を着けてやるからこっちに来い」

 

俺は愛紗を手招きする。しかし躊躇いがちに俺を見るだけで、愛紗はなかなか動こうとしなかった。

 

「どうした?」

 

「いえ。不意を突かれたとは言え、大切な首輪を奪われてしまった私が、再び首を通していいものかと」

 

「そんな心配しなくてもいいんだ。無くなったとしても、何度だって作り直して着けてやるよ」

 

「ご、ご主人様。わっ、私は、私は――うう、くっ」

 

「泣くなよ、愛紗」

 

共感できない俺が、悪いみたいじゃないか。

 

「早くして下さいませぬか?」

 

ほら、趙雲も半ギレだし。

 

「着けるぞ」

 

「……はいっ!」

 

目元を拭った愛紗は、髪をかき分け首を晒す。そこに不釣り合いなほどごつい首輪を回した俺は、留め金をはめ装着を完了させる。

ブゥン!

 

「わっふぅうぅううう!」

 

これにてデンジャラスワンコへと変身を果たした愛紗は、肉体のスイッチが切り替わったかのごとく発情した。

傍目に見てもわかるほど内股となり、胸を押さえたまま前のめりにかがむ。

おかげでスカートの中が丸出しとなり、かなりヒモな黒い下着と共に、ケツ穴に挿入されたペンの存在が確認される。

 

「うむ」

 

よし、パンツはあるな。

そしてなぜケツにペンがあるかと言えば、昨夜。俺が愛紗にぶち込んだからだ。

これまでの躾で少しマンネリを感じた俺は、プレイの趣向を変更。しばらくは体ペイントと奉仕で重点的に愛紗をイジメてやろうと思い立ったのだ。許可するまで抜いてはいけない。と最後にペンを入れたのは、何ていうかノリ?

そんな成れの果てがあの愛紗である。

太ももに書いた『俺、専用』やら『調教犬』の文字にまで愛液を垂れ流し、尻尾のようにアナルペンを揺らす愛紗は、一夜明け冷静になると酷い絵面だった。

 

「うわぁあ……」

 

桃香もドン引きだ。

でも桃香にその権利はない。白蓮よりはマシだとは言え、こいつはこいつで、相互オナニーとかせがむからだ。

 

「出たな変態。今日こそ退治してくれる」

 

そりゃ、趙雲もこんな奴に負けっぱなしなのは悔しいよな。自ら全裸になったけど。

この、五十歩百歩感よ。

 

「はぁ、はぁ。き、貴様にだけは言われたくない。ご主人様は、私が守る」

 

「ふはは、お主には無理だ。目覚めた私の力を、思い知るがいい!」

 

調教VS露出。マニアックな性癖をかけた底辺の戦いが、開幕する。

ファイ!

 

「せいぃぃぃいいい!」

 

「あいしゃあぁぁぁあああ!」

 

こうして両者は激突した。したのはいいが、五分も経たない間に、趙雲は愛紗にフルボッコされ、再び窓からぶん投げられた。

 

「こ、今回は私の負けにしておいてやるうぅぅう!」

 

清々しいまでの捨て台詞を吐いた趙雲は退場。後に残されたのは、一方的な諍いで朽ち果てた廃墟のごとく、ズタボロな俺の部屋だけである。

 

「よくやった、愛紗。ご褒美をくれてやろう」

 

「はいぃ、ご主人様。愛紗に、愛紗にご褒美を下さい」

 

俺に土下座屈服し、突き出される愛紗のケツ。そこへ靴を脱いで素足で踏んだ俺は、グリグリと踵でいびりながら、清掃を命じた。

 

「このまま片付けをしろ。元通りになるまで、尻のペンを抜くのはお預けだ。嬉しいだろう?」

 

「ありがとうございます、ありがとうございます!」

 

完全に罰ゲームなのに、これをご褒美に出来るのが愛紗クオリティ。クソゲー並みの仕上がりである。

 

「いいから、早くしろよ」

 

「きゃう、ご主人様。今、不浄の穴を攻めるのはお許しを。愛紗は、力が出なくなってしまいます」

 

足先でアナルペンを突っつくと、愛紗はペタンと床に伏せる。

これだと命令を果たせないと弱気な発言の愛紗であるが、わざわざ俺がそれを聞く必要はない。

 

「俺に口答えをする気か?」

 

「そ、そのような事は決して!」

 

「なら黙って掃除しろ」

 

「はいぃぃぃい、申し訳ございませんでしたぁああ!」

 

のそのそと愛紗はガレキを拾う。

そんな調教ボランティアを行っていると、なし崩し的に俺へ抱き着いた桃香が、しなを作って耳に息を吹きかけた。

 

「ご主人様、私も労ってくれるんだよね」

 

今ここでするのか。

こいつらやっぱり、似た者同士だな。

 

「日が高いし、口づけでいい?」

 

「わーい、ちゅう。ご主人様とちゅう」

 

それ以上の事もしているのに、たかだかキスではしゃげる桃香は、間違いなく純粋だった。ただしじゅんすいで変換をすると、淫乱とトップに表記されるが。

そして桃香とキスをしつつ、適度に愛紗の尻を刺激する。自分でも何者なのかを見失ってしまいそうなアホアホマンの俺は、頭の片隅で趙雲の心配をした。

ぼちぼち愛紗くらいは軽く退けてもらわないと、このご時世。生きていけなくなるんだが。

本格的に趙雲の覚醒が急務だ。

スーパー趙雲、育成計画を俺は密かに練った。

 

「ちゅう、れろ、はむっ。じゅるるる」

 

「ぅぅう、はうっ。あっ、あっ」

 

もちろん、こんな状況でまともな案など浮かぶはずもなく。趙雲計画は、翌日に持ち越された。

なお、夕暮れになり。休憩と食事の為に俺達が桃香の部屋に移動すると、いつからか。廊下でこっそりコッチをうかがっていた白蓮と、バッタリ遭遇する。

 

「いいな、みんな楽しそうで。私も混ぜて欲しいな」

 

これ見よがしに恨み節な白蓮を、俺ら三人は示し合せ、全力で見なかった事にした。

 

「構ってくれよ、ご主人ちゃま。拗ねるぞ!」

 

だから触れたくないと、学習してくれ白蓮。

 

 







実はこの話が、当初の四話想定でした。
しかし書いていて、この話に繋がる説明回がいると思い、この話は五話へと繰り越しに。

ネタを詰め込み過ぎると、まさか話数も増えるとは。
読めなかった、この((::X::))の目をもってしても。


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6話(前編)



星、復活





今日もご主人ちゃまの童貞について話し合う日がやってきた。

通称、女神会。

満足するまで性欲を発散した女は、誰にでも優しくなれる女神の時間がある。

その比喩を用いて、つけられたのが白蓮ら四人の集いであった。

開催場所は謁見の間。女中に聞かせられない内容の為、秘匿性を考えての選択である。

普段であれば開始と同時に、誰それがご主人ちゃまと合体したい。そんな主張がぶつかり、殴り合いに発展するのも珍しくないのだが、この日はいつもと異なり全員が寡黙であった。

やはり先ほどご主人ちゃまに言われた内容が、尾を引いているのは確かだろう。

しかしこのまま、こうしているのでは埒が明かない。意を決して白蓮が喋った。

 

「……まさか、ご主人ちゃまの童貞が複数あった何て」

 

正確には、ある年齢に達すれば増える。であるが。

どうも天の国では、一定のまま童貞でいると、童貞が増えるらしい。

さらにそこから年月を経ると、妖術使いになるとも。

 

「天の国は、摩訶不思議ですな」

 

「うん、本当だよね」

 

困ったように皿へ盛っためんまを箸で突っついていた星に、桃香も同調する。

一人。ずっと口をふさいでいる愛紗は、真っ黒な筆を手に、つづられた紙束に向けて文字を書いて翻した。

 

〈ですがご主人様の童貞がたくさんあるのなら全員、童貞で処女を卒業できるのでは?〉

 

「そうだけど、何で愛紗は口を使わず、わざわざ紙に言葉を書いているんだ?」

 

「おちんちんを舐めて出した精液を、許しが出るまで飲まないよう、ご主人様に命令されているんだって」

 

「それで口の替わりと主に与えられたのが、この筆と紙か」

 

わざわざ墨を塗らずに書ける筆と、良質な紙の束。

こんな者を私物で持っているのだから、つぐづくご主人ちゃまは天の御遣いなのだと白蓮は思った。

だからこそ、童貞が増えるのもあながち嘘ではないとも。

それは三人も似たり寄ったりな考えだろう。

ならば今回の議題はこれしかなかった。

 

「それで、どうする。順番による優劣はなくなった訳だが」

 

「私が先陣を切りましょう。一番槍はお任せあれ」

 

〈星は駄目だ〉

 

「どうしても最後になるよね」

 

「なぜだ!」

 

「星にやらせると、一人でぜんぶ食べてしまいそうだからなぁ」

 

事後。

主の童貞は、この趙子龍が食らいつくした。と、しくしく泣くご主人ちゃまの隣で、高笑いする星の姿が、あまりにも容易に想像できる。

となると、やはりここは――、

 

「普通に考えて、私か」

 

「普通に白蓮ちゃんはありえないよね」

 

〈ご主人様のおちんちんをしゃぶって、お乳の元をちょうだい。と言われるような方は、まともな人ではありません〉

 

「変態になじられておりますぞ、大きな童」

 

「お前らだって似たり寄ったりじゃないか!」

 

桃香はご主人ちゃまにお尻をほじくられ過ぎて血を流すし。

愛紗は言わずもがな。

星に至っては最近。ご主人ちゃまの前をわざわざ裸で通り、性欲を刺激する。などと、よくわからない露出を頻繁に行っている。

それに比べれば、ご主人ちゃまにお父さんとなってもらいたい白蓮の性癖は、まだまともと言えよう。

 

「だいたいおかしいだろう。私、太守でお前ら部下だ。少しは上の人間を敬ったらどうだ!」

 

「白蓮ちゃん。その前に私達は、一人の人間だよ。なのに権力を振りかざすのは、よくないと私は思うな」

 

「そうですな。いやはや、ごもっとも」

 

〈ええ。そして一人の女として、ご主人様と先に出会った者こそ、優先的な配慮を――〉

 

「さあ白蓮殿。聞き分けのない将を躾けるのも、王としての務めですぞ」

 

「ぐぬぬ!」

 

都合のいい時だけ、白蓮を主あつかいをして、こき使おうとする星の魂胆に白蓮は憤慨した。

ついでに言えば、ちゃっかりご主人ちゃまとたまたま最初に出会っただけで、笠に着る桃香と愛紗も憎たらしい。

もしも白蓮がこの四人の中でもっとも強かったら、このふざけた皆を引っ叩いてやれるのに。

愛紗と星に勝てない白蓮は、本気で悔しがった。

 

「ちくしょう!」

 

しかし武人として負けていようとも、女として同性に負けっぱなしではいられない。

一世一代の博打を、白蓮は仕掛ける。

 

「とにかく、ご主人ちゃまの童貞の童貞は、私がもらう。だからあれで勝負をしようじゃないか」

 

「でも白蓮ちゃん。あれは最後の手段だって、ご主人様が」

 

「今回ばかりは、私も白蓮殿に賛成だ。どうせ話し合いでは、平行線のまま決まらぬからな。それに私とて、みすみす主を妖術使いにはしたくない」

 

〈潮時、でしょうか?〉

 

「愛紗ちゃんまで……」

 

賛成三に、反対一。

女神会、初の最多賛同数である。

さらにいうなら、否定している者が桃香の時点で、流れはもう決定したようなものだった。

 

「う~ん。みんなそれでいいのなら私はもう止めないけど、本当にあれでいいの?」

 

「ああ、じゃんけんで白黒つけよう」

 

もしも話がこじれた時にと、ご主人ちゃまから託された決着法。

それが白蓮の口にした、じゃんけんだ。

すでにそのやり方をご主人ちゃまから伝授されていた白蓮達は、四人で円陣になり、最終確認を行う。

 

「約定は一回限りで、待ったとやり直しはなし。それでいいか?」

 

〈構いません〉

 

「ふはは、勝ったな。先に脱いでおこう」

 

「星ちゃん。幸薄いし、いの一番に脱落しそう」

 

大胆不敵に勝利宣言をして裸へなる星に、ぼそっと桃香が呟く。

白蓮の完全な主観になるが、確かにそう言えるだけの恵まれた素養が桃香にはあるような気がした。

桃香はたまに天に愛されたかのごとく、ありえない強運を呼び寄せる何かを持ち合わせているのだ。

ご主人ちゃまを見つけた件など、まさにその典型であろう。

けれども、じゃんけんを純粋な運の戦いとして推薦したご主人ちゃまや、それを何一つ疑っていない桃香は、根本的な思い違いをしている。

実はこのじゃんけんには、運を力でねじ伏せる勝ち筋が存在した。

そしてその必勝手段を知らぬ弱者から排除される、厳しい遊戯なのだ。

 

「じゃあいっくよ~最初はぐー。じゃんけんっっぽっん!」

 

桃香の掛け声に合わせ、白蓮達の手がそれぞれの形で競り合う。

場に現れたのは、ぱー、ちょき、ちょき、ちょきだった。

 

「ほえっ?」

 

唯一、ぱーを出した桃香は、この結果が信じられず、ぱちぱちと瞬きして己と皆の手を見比べた。

辛い現実を受け止める為の、僅かな時間。

その隙間を縫うかのごとく、白蓮と星と愛紗はそっと一歩前へと進み出て、円外へ桃香を弾く。

 

「えっ、待って。おかしい、おかしいよ。どうして私だけ、一人負けなの!」

 

置いてけぼりになった桃香が三人に縋りついて来るが、とうぜん白蓮らは取り合わない。

 

「往生際が悪いぞ、桃香。待ったは駄目だって言ったじゃないか」

 

「そうかもしれないけど、絶対に変だよ。不正……そう、皆きっとずるをしたよね!」

 

「正々堂々と戦ったというのに、その言い草は失礼では」

 

「そうだ。これは真面目にやった結果に過ぎない」

 

嘘ではなかった。

ただ白蓮達は、じゃんけんぽっん。

この間に桃香の指の動きを観察し、直前に勝てる役を作ったのである。

つまり武人としての鍛え上げた動体視力を使った訳であって、決してずるをしたのではないのだ。

 

〈ええ、ずるはありませんでした〉

 

「ほら見ろ。愛紗だってこう書いているぞ」

 

「嘘だよ。私、騙されないからね。というか、愛紗ちゃんまでどうして敵に回っているの。私達、盃を交えた姉妹でしょ?」

 

くるくるとぱーを振り回しながら怒る桃香。

特に主従を超え、妹分の愛紗が完全に敵対したこの状況に、かなりお冠だった。

 

「誓ったよね。みんなが処女喪失できる優しい世界を作るって。そして処女を卒業する時は、一緒にって、私と!」

 

そう言えば昔、私も桃香と似たような約束したなぁ。

蚊帳の外にいながらも、ふと懐かしい記憶を白蓮は思い出した。

だが桃香はわかっていない。

その誓いは近くに男がいないから成立したものであって、いざ卒業を控えた女には、これから破られる処女膜のごとく無価値に等しいのだ。

 

〈記憶にございません〉

 

「びえ~ん、ご主人様。愛紗ちゃんがまじやばい!」

 

最近、よく口にする天の言葉を口にしながら、おいよおいよと悲嘆にくれる桃香。

白蓮達からすれば、それは敗者の泣き言でしかないので、当然のごとく無視。

じゃんけんを再開させる。

 

「続きをしよう」

 

「ですな」

 

「…………」

 

しかし、ここからが難しい。

初戦は所詮、武とは無縁の桃香だから成功した戦法であり、白蓮よりも格上の星と愛紗にはまるで通用しないはずだ。

むしろ二人が白蓮の動きを見て、はめてくる事も十分にありえる。

だからこそ、ここで白蓮はとっておきの秘策を切った。

 

「星、愛紗。私は次にぐーを出そう」

 

「ほう」

 

自分の手の内をさらし、二人を混乱させる作戦だ。

まさか馬鹿正直に信じたりはしないだろう。

ぐーを信じてぱーを選べば、裏をかかれた際にちょきで負ける。

だったらここは裏の裏でぐー?

いや、でも万が一、裏の裏の裏の――と、悩めばきりがない。

 

「いくぞ!」

 

そうして二人の考えがまとまらない内に先手を取れば、白蓮の手を盗み見る余裕もあるまい。

何を出すかで、頭がいっぱいいっぱいなはずだ。

こうしてお膳立てをして、ようやく白蓮は二人と対等になれる。

ここからは完全に運否天賦に身を任せ、白蓮が二人を上回れるかどうかにかかっていた。

頼むぞ私の人生。

 

「最初はぐー。じゃんけんっぽん!」

 

と放り投げた先には、ぐー、ぱー、ぱーの光景が転がっていた。

 

「ちょきを出せ!」

 

ぐーの白蓮が、ぱーの二人に逆上する。

あんなに面倒な仕込みをしてあっさりと負けてしまえば、白蓮とて叫びたくもなる。

 

「おやおや、奇妙な事をおっしゃられますな。私はぐーを出すと言われたので、ぱーにしただけですぞ」

 

〈同じく〉

 

「少しくらい疑ってもいいだろう。私が裏をかいたらどうするつもりだったんだ!」

 

「白蓮殿ならそういうのはなさらないでしょう。そう思ったまででして……結果もごらんの有様でしたし」

 

「ぐふっ」

 

星の推測通り、ぐーを宣言した白蓮は、そのままぐーを出す方針で内心を固めていた。

たぶん、作戦は悪くなかった。

狙いもたぶん、的外れではなかった。

ただ白蓮は、己の生き様に敗北したのだ。

 

「おおおおぉぉぉ、ぁぁぁぁぁぁあああああああああ!」

 

崩れ落ち、慟哭を上げる白蓮に、星が無慈悲な追い打ちをかける。

 

「あわよくば相手の自滅を期待するところが、実に白蓮殿ですな」

 

「そうだね。それで自滅しちゃうのが、とっても白蓮ちゃん」

 

さらにここで、負けてからずっと一人で星が持ち込んだ酒でやけを起こしていた桃香が、ぽんっと白蓮の肩を叩く。

 

「負けちゃったねー、白蓮ちゃん。悔しい? 悔しいよねー、わかるよー…………私も同じ気持ちだから」

 

友好的だったのも数秒だけ。

最後の辺りでは、本当に桃香らしからぬ憎しみがこもった声音に、白蓮はぎょっとした。

 

「と、桃香?」

 

「ん~どうかした、白蓮ちゃん?」

 

「い、いや……」

 

顔を向けるとにこにこな桃香がいたが、いつもと同じような笑顔が、逆に白蓮を震わせた。

怖いって……もう嫌だ。ぜんぶ忘れて、ご主人ちゃまのおちんちんに帰りたい。

命運をかけた勝負に敗れ、不気味な桃香に絡まれた白蓮は、心底そう願った。

子を産むのは女の役割であるが、男がいなければ子を宿せない。

つまり女の子宮より男のおちんちんと金玉こそ、人が最も安らげる憩いの場なのだ。

そこでご主人ちゃまに優しく白蓮は包まれていたかった。

私は精液になりたい。

 

「さて、これが最後の勝負となるが……そうだな、愛紗よ。私はぐーを出すとしよう」

 

そんな退行気味な白蓮だったからこそ、自身の策を盗用する星に対し、何の文句も発しなかった。

むしろ桃香の方から一言あったくらいだ。

 

「白蓮ちゃんを真似るの。失敗するよ?」

 

「ふはは、それはどうかな」

 

桃香の不安をあおる言葉にも、星にはどこ吹く風。

軽やかに受け流す余裕がうかがえた。

 

「策は戦いを有利に導く為にあるが、実行に移すに者には向き不向きがある。白蓮殿には下策な案も、私にとっては上策に成りうるのだ」

 

「そうなの?」

 

「愛紗の様子を見るといい」

 

「…………」

 

星の指摘通り、愛紗は無言のまま表情を歪めていた。

良くも悪くも、根は真っ直ぐな白蓮とは比較にならぬほどひねくれた星がはったりを使えば、否応なしに相手は意識せざる得ない。

ようやく駆け引きの要素が生まれた証左である。

 

「白蓮ちゃんの時と、反応がぜんぜん違う」

 

「何せ私はぐーと言って、ちょきを出す女だからな。しかし気分によって、ぱーになるかもしれない。どうする、愛紗?」

 

「――っ!」

 

「ふっ、腹は決まったか。望むところだ、決着を」

 

静かに突き出される、星と愛紗の握り拳。

それが精液になろうと体を丸めた白蓮の頭上で、高速に上下する。

 

「最初はぐっ、じゃんけんぽん!」

 

目にも止まらぬ速さで繰り出されたのは、ぐーとちょき。

星の一抜け卒業が、確定した瞬間であった。

 

「ぐーだけはない。そう考えたのがお主の敗因よ」

 

候補がぱーとちょきならば、ちょきを出せば絶対に負けはない。

そうした愛紗の安全思考を狙い撃ちにした、星の読み勝ちである。

 

「ぐえっ、ごほっ、あああぁ……」

 

自らの敗北を悟った愛紗は、数刻ぶりに声を漏らした。

計り知れぬ衝撃に心を襲われ、うずくまりえずくばかりか、口に溜めていた精液をぽたぽたと愛紗はこぼした。

 

「愛紗ちゃん……汚い」

 

しかも長らく愛紗の口内で保管されていた精液は、予想以上の生臭さを発揮し、強烈な悪臭を放つ。

これにはつい鼻をつまむ桃香であったが、この匂いに心地よさを感じた白蓮などは、赤子のような寝息を立て、夢の中へと旅立って行った。

 

「すー、すー……」

 

「白蓮ちゃんは何なの?」

 

この期(ご)に及んで、幸せそうに眠る白蓮の神経が、桃香には本気で意味がわからなかった。

 

「さてと、主の部屋に急がねばな。おっと、それより風呂が先か……ふむ。風呂の前に一回、性欲を発散させておくのもいいかもしれんな」

 

その敗者三人衆を置き去りに、星が裸のまま外へと出る。

残された桃香は、愛紗と白蓮の惨状を見下ろし、ひとまず酒に逃避しようと杯を取った。

 

「ここにあるお酒、ぜんぶ飲んじゃおっと」

 

そうしよう、それがいい。

と、酒をぐびぐびあおる桃香は、さっきまでの蓄積された量もあり、すぐに酔いが回り始めた。

だからだろう。

ひっそりと我に返った愛紗の存在に、まるで気が付かなかった。

 

「はっ、私は……ぐっ、何という事だ。ご主人様から恵まれた精液をこぼすとは、不覚。はぁはぁ、はぁはぁ……新しく注いで頂かなくては」

 

そして四つん這いのまま、のそのそと愛紗は進む。

 

「きゃはははははは、はぁっ、おひぃ……………………あ~、お酒がなくなっちゃった。白蓮ちゃん、新しいの持ってきて。白蓮ちゃん、白蓮ちゃん。も~、何で寝てるの――ひゃわっ!」

 

その愛紗の裏で、唾液と精液のぬかるみに足を滑らせ、白蓮に飛び込む桃香の劇的な物語が誕生しようとしていた。

今日も女神会は、惨劇の雨が降りそうである。

 

 

 

 





久しぶりの投稿となりますが、前後編の前編のみとなります。

お待たせをして大変申し訳ございませんが、後編はしばらくお待ち頂きますようお願い致します。


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6話(中編)




9・1・3……投稿!





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張角死す。

これにより黄巾党は壊滅したのだが、トドメを刺したのは曹操らしい。

そこにいたのかよ、曹操。

英傑による断頭に、否応なく俺はこの先に起こるであろう戦の気配を、ビンビンに感じざるおえなかった。

そうはわかっていても、ヒッキーな俺にやれる事は少ない。

だが俺は、ロキに並び立つほどのトリックスター。最小で最大の戦果をもぎ取る最強の秘策が俺にはあった。

それは曹操の居場所も判明したし、手を結んでしまえばいいんじゃない?

という、悪魔のごとく恐ろしい作戦だ。

仮に覇王曹操と同盟を組めれば、大徳劉備とのタッグが完成。地味な呉へ赤壁返しのツープラトンを行える。

そうなれば俺の人生プラン。

劉備に着いて三国志の硬直化時代に突入し、寿命切れで幸せな老衰を迎える。よりも、さらにリアルが充実した生活を送れるようになるだろう。

たまには大手を振って太陽の光を浴びたい。日陰者の俺は、今回の願いをけっこう切実に叶えたがっていた。

もちろん、曹操とは縁もないし伝手もない。白蓮に一度聞いてみたら、本当にないないづくしだった。

しかし幽州には俺がいて、童貞があった。

ここの女はちょろいので、俺の貞操を餌にすれば、ほいほい秘密裏に同盟を結ぶくらい楽勝に思えて仕方がない。

性欲、クッソ強いけど。

そこは将来の俺次第になる訳だが、このアイデアをやるには、どうしても無視できない事柄がある。

桃香ら四人の扱いだ。

童貞を曹操に捧げると宣言しようものなら、四人は地下牢に俺を押し込め、アヘ顔ダブルピースをさせるまでセックス漬けにしたあげく、無関係な曹操に寝取られ報告書を届けかねない。

最低の戦争が勃発するわ。

そうさせない為にも、俺は考えた。

学校の通信簿に、やればできる子ですが、努力の方向性が間違っているなどと書かれた、成績オール三の俺は、必死に悩んだ。

そして閃いた。

俺がずっと童貞でいられれば解決だ、と。

要するにセックスをしても、童貞と言い張るのだ。

女のバージンは一つだが、セカンドバージンという言葉がある。

ならば男も、童貞が増えてもいいのではないか。

さらに都合がよく、女は処女を失うと血を流すが、男にはそんな証明は一切ない。

つまり自己申告しだいで、俺は童貞のまま一生を終えるのも可能なのである。

ここまで思いついてしまえば、後は設定を固めればいける。と確信した俺は、三十歳のまま童貞でいると、魔法使いになるネタを参考に土台を作った。

天の国の男は、童貞のまま成長すると童貞が多くなり、三十を過ぎると妖術使いとなる。

これを軸とし、仮性包茎でずる剥けだったチンコを皮被りチンコに戻し、説得力を滲ませながら桃香らに見せつけると、結果は大受け。

四人は涙ながらに喜んで、万歳三唱をした。

男がほとんどいない世界だから、チンコの構造にも無知だと思っていたが、ちょっとアホ過ぎではないだろうか。

俺も同類かもしれないけどな……うん。

こうして清純派ご主人様として男娼派遣もオッケーになった俺がすべきなのは、やはりセックスの練習になる。

童貞(童貞だとは言っていない)で相手を釣っても、セックスの満足度が低いと、次の指名に繋がらない。

初めてブーストがあろうとも、最低限のテクニックは習得しておくべきだ。

なのでそろそろ、誰が最初に俺とやるか論に、終止符を打つ時が来た。

俺としては桃香か愛紗と一番にすべきだとは思うが、ひいきをしたら絶対面倒になるのはわかっていたので、四人には話し合いで決まらなければジャンケンで順番をつけるよう伝えてある。

ジャンケンにした理由は、誰にもチャンスがある公平性と、これなら桃香か愛紗が勝つ確率で五十%くらいあったからだ。

目に見えない優遇くらいしても、罰は当たらないだろう。

そう悪知恵を働かせてしまったせいか、見事に俺は罰せられた。

自室で待機をしていた俺へ、わんわんスタイルで現れた愛紗の報告から、勝利者は予想もしていなかった趙雲。

 

「趙雲か……見た目は一番好み何だけどな」

 

あれで性格もドンピシャなら、俺からやらせて下さい。と土下座して頼み込むが、ビジュアルがストライクでも性格が大暴投だと、股間のバットも反応に困る。

 

「ご、ごごご、ご主人様は、誰が一番好きなのですか?」

 

「俺、愛紗が好きだよ。みんなも好きだけど?」

 

異性の免疫が低い童貞丸出しな愛紗に対し、あざといオタサーの姫がするような俺の回答だが、こうした処世術が逆ハーレムでのレイプ被害を未然に防ぐのだ。

 

「……ご主人様!」

 

感激する愛紗に、よしよしとお手をしてやる。

そうしながら、今までずっと気になっていたポイントを俺は口にした。

 

「ところで愛紗。普通に喋っているけど、精液はどうした?」

 

「申し訳ございません。じゃんけんに負けた衝撃で、思わず吐いてしまい……」

 

「またかよ」

 

何度目の失態だ。ちょっと、たるみ気味ではないか。

愛紗にはここらで一度、キツイ躾をする時期に差し掛かっているのかもしれない。

なので特大のムチとして、俺は愛紗にある命令を下した。

始めはお仕置きと聞き、発情犬の顔を覗かせる愛紗だったが、俺が内容を伝えると、珍しく渋犬な態度になってしまう。

 

「そ、そのような事……本当にするのですか?」

 

「最近、だらしないからな。そろそろ一度、ビシッとさせたいんだよ」

 

「で、ですがこれは……」

 

「自慰禁止。おしっこ管理。今回の、精液を飲まずに我慢する。どれも失敗したよな?」

 

「……はい」

 

「愛紗からやりたいって言い出したんだぞ。わかっているのか?」

 

「…………はい」

 

「ひょっとして、わざと失敗して、お仕置きしてもらおうと考えていたんじゃないだろうな。正直に答えてみろ」

 

「………………はい、いいえ」

 

どっちだよ、この駄犬。

半ギレの俺が、首輪の金具をカチャカチャ鳴らすと、愛紗がガクガク震える。

首輪が馴染んできて、自分の体の一部になったみたいで嬉しい。みたいな愛紗の忠犬ムーブを聞いてから、落ち度の度にこうして外す素振りをし、野良にするぞと脅すのが俺のマイブームになっていた。

だって尻を叩いても蹴ってもこの変態は快感に変換するし。もう、精神的に追い詰めるしか手段がないのだ。

 

「愛紗ならやれるだろ?」

 

「…………………………」

 

「やれ」

 

「はいっ!」

 

そんな訳で一つ。

愛紗に過酷な試練を施した俺は、しばしの小休憩。

間もなく始まる、童貞&処女の営業セックスに望むべく。俺はベッドで横になり体力を回復させていたのだが、意外に早く元気ハツラツな趙雲が登場した。

 

「あ~るじぃ~、じゃんけん一番乗り。あなたの趙子龍が来ましたぞ。ふはははっ!」

 

テンションが高いな、趙雲。

わかっていたけど。

 

「ずいぶん、ご機嫌じゃないか」

 

「待ち望んだ初めてですからな。しかも相手が天の童貞。誰でもこうなるでしょうに」

 

「気持ちはわからないでもないけど、初めてくらいは優しくしろよ」

 

「心得ておりますとも」

 

心にも思ってない事を、いうんじゃない。

今日まで、本番なしアナルありの童貞として俺はハーレムローテーションを回していたのだが、本番交渉やら偶然を装って素股から挿入しようとした、規約違反なメンバーがいなかった訳ではない。

その筆頭地雷客が、趙雲メンバーだった。

本来ならしばらく出禁になってもおかしくはないやりたい放題っぷりであるが、まだ昨日までは最終的な決定権を、俺に委ねるギリギリのラインを守っていたから、ローテの追放は免れていたのだ。

しかしそれも、本生が解禁された今。遠慮は取り除かれたと言ってもいい。

スケベな顔で手をワキワキさせる趙雲の脳みそは、いっぱいやりたい・やりたがる・やりたがり。と、頭の悪い性欲活用形に支配されていそうであった。

だがここで泣き寝入りするほど、俺は損な性格をしていない。

趙雲のがっつきっぷりを少しでも抑えようと、俺は機先を制す。

 

「すぐにやるのも趣がない。ひとまず座れよ、星」

 

体を起こした俺が趙雲の真名を呼びながらベッドをぽんぽんと叩くと、それだけで星はひるんだ。

 

「あっ、主。いきなり真名を呼ぶのは止めて下されと、何度も言っているではないですか」

 

「どうしてだ。情事の時だけ、呼ぶ約束だろう」

 

「そ、そうですが、私にも準備というものがありまして……」

 

女に飢え、AVの知識こそが教科書。と言わんばかりにダメダメな男と似通った共通点が多い星なのだが、オフェンスならばともかく、ディフェンスがかなりもろいのを、長い付き合いで俺は見抜いていた。

だから厨二病を促進させる真名をこの時ばかりは俺も使うし、慣れないアプローチだってかける。

おずおずと隣に来た星に、俺は背中がむずかゆくなる思いをしながらよいしょした。

 

「その下着。星に似合っているよ」

 

「こ、これは以前。主がいいと言われていたので」

 

「知ってる。だからまた着てくれて嬉しいよ」

 

ははは。と外面で爽やかに笑いながら、内面では、はぁ……。と俺はため息をこぼす。

何回その下着に頼るんだよ、星。

実は下着姿のまま登場した星なのだが、ブラとショーツ共に、黒く刺しゅうされた物を身に着けていた。

布地の面積はごく普通なのだが、刺しゅうの隙間から大事な箇所がやや透けており、扇情的なデザインがなされているのが特徴だ。

そこは全然いいのだが、一度この下着を褒めてからというもの。毎回、これで色事に挑もうとするのはよくない。

何だろう。この女子から半袖の体操服姿が格好いいと言われ、冬でも半袖で体育をしたりする、悲しい男の性を背負ったような生物は。

普段からセックスアピールが強い癖に、変なところで星は初心なのだ。

 

「星って綺麗だよな」

 

「そ、そうですかな?」

 

「ああ。一番いいと思っている」

 

嘘はついていない。

肩を抱き寄せ真っ直ぐに言ってやると、星は視線を逸らす。

ぼちぼちエンジンが暖まってきたな。

だがここで調子に乗ると、それ以上のノリで反撃されるので、コケティッシュなムードで俺は星を押した。

 

「服、脱がせてもらっていいか?」

 

「も、もちろんですとも。え、ええ。脱がせますぞ、主」

 

プチプチと上着のボタンを星に外される。

始めの頃は力任せにやられて、ボタンがぜんぶ吹っ飛んだのが懐かしい。

俺がその事について言及すると、星は不満そうに反論した。

 

「わ、私とて成長します。お、男と触れ合った経験もなかった、未熟な処女ではありませぬ」

 

「そうだな」

 

本気で昔は酷かった。

相手を労おうとする、余裕がまるで皆無だったからな。

フェラで何回、チンコに歯が当たったか。

 

「今の星なら、安心できるよ」

 

「そ、そうですかな。う、うむ。そうでしょうとも」

 

「せっかくだし、今日はぜんぶ星にお任せしようかな」

 

「ほ、ほう……」

 

上半身が終わり、俺の股下にしゃがみベルトに手をかけていた星がピタリと止まる。

ここで一つポイントがあるのだが、この際。むやみに頭を撫でたりしてはいけない。

桃香ら三人なら褒められたと普通に喜ぶが、星の場合はからかわれたと感じるみたいなのだ。

基本的に相手が対等かやや下であると思わせておくのが、星とする上でのコツである。

俺は頬に触れながら、改めて星にお願いした。

 

「さっきも言った通り、優しくしてくれよ」

 

「わ、わかっておりますとも。ふ、ふはは。主は安心して私に任せればよろしい」

 

自信を持って太鼓判を押す星に、そこはかとない不安が覗く。

そう予兆していたら、案の定。素っ裸な俺を前に、星がやや暴走しやがった。

 

「これはこれは……先端が赤黒かった頃と比べて、ずいぶんと変わりましたな」

 

これまで皮を剥いたチンコしか目にしなかったせいか、物珍しさから包茎チンコに星はグッと顔を寄せる。

鼻息が荒い。何でこんなので興奮してんだよ。

これが嫌で手術する日本男児もいるのだから、あえてこの状態まま観察されるのは、さすがに俺も照れた。

 

「あんまり見ないでくれると助かる」

 

「どれどれ、ちんちんの中身は……」

 

「話を聞けよ」

 

とは注意したものの、それで止まる星ではない。

俺を無視した星は両指で皮を広げ、しげしげと亀頭を眺めた。

 

「おおっ、ちゃんと赤黒い部分が」

 

「おーい、星」

 

「ほほお、なるほどな。ふむふむ」

 

「いい加減にしろ!」

 

俺のダイレクトチョップを額で受けた星は、ハッと正気に戻った。

 

「人で遊ぶなよ」

 

「あっ、いや。こう、皮の下に隠れたちんちんを見ていると、みょうに昂りましてな」

 

くぱマンみたいな効果でもあったのだろうか。

それならやってもらうと俺も舞い上がってしまいそうだが、だからと言って逆の立ち位置を甘んじるつもりはない。

ちょっとエッチなお姉さん気分でいても、自分からチンコの皮を剥いて誘惑するとか、想像しただけで死にたくなる。

 

「萎えるわ」

 

「それはいけませぬ。ささ、主……どうぞ」

 

俺をベッドへ仰向けに寝かせた星は、腰を浮かせてその上に跨り下着を脱いだ。

タユンと揺れるとおっぱいと共に、人肌の温もりがあるブラやパンツが、はらりと俺の体に落ちる。

そういうフェチズムはないはずであるが、息子がムクリと目覚めた。

 

「うむ」

 

しかしそこへ星が直にマンコを押し当てたので、俺は慌てて待ったをかける。

 

「おい、初手でそれは不味い。チンコよりも先に、手とか口で準備しておくものだろ」

 

「心配ご無用。主の部屋に来る前に、準備は済ませておきましたゆえ」

 

「何分経っていると思っているんだ。普通に乾くわ」

 

「ふっふっふ、甘いですな。主のちんちんを調べたおかげで、私の膣は再び濡れ濡れになっております」

 

「はえーよ、星」

 

確かにマンコがありえないくらい湿っているけど、淫乱体質を超えているだろ。

そして体がそうなのだから、心も卑猥に違いない。

俺の制止を振り切って、処女にあるまじき潔さで、星が一気にチンポを根元までぶち込んだ。

 

「さらば膜よ、いざゆかん。女としての勝利をこの膣に私はおさめ――ほおおおぉぉおおお、やぶれていきゅうううぅぅぅうううう!!」

 

はえーな、星。

三擦り半どころか、即落ち二秒の世界じゃないか。

もっと普通のセックスをしてみたかった。と俺は、内心で嘆き悲しんだ。

ちゃんと股から血が流れて、紛れもなく処女であるのは間違いなのに、アヘる星を見ていたらそらそうなるわ。

後悔先に立たず。

しかし勃ったチンコから異常なシグナルが俺に送られて、とんでもなく戸惑う。

おおう、何ぞこれ。

このマンコ、やばい。

挿入して皮が剥けたのか、気持ちよさがダイレクトに伝わる。

それはまだいいとしても、星の奥に何かザラザラしたものがあるんですけど。

しかもマンコにはマンコで意思があるのか、パクパクと俺のチンコを咥えて離さず、亀頭を重点的に攻め立てる。

これ、搾取マンコだ!

 

「おおおぉぉ、ほぉ、ひっ、ひいいぃぃいい!」

 

「おい、動くなバカ」

 

その凶悪な武器を持って、これでもかと星が滅茶苦茶に腰を振り出した。

悲鳴とも喘ぎとも判断がつかぬ声を上げながら、パンパンとぶつける。

強すぎる刺激から避難しても、やがては奥へ導かれ、マンコが精をねだり絡みついてくる。

そうしたアクセントがよりいっそう強烈な快楽を演出し、我慢する暇もなく俺は精液を吐き出さされた。

 

「あああああ、でてる……でております!」

 

俺の射精に合わせ、星の膣にも変化が起こる。

出された精を貧欲に求め、吸引するかのごとくすすった。

音が鳴っていたのなら、恐らくとても下品なものになっていただろう。

 

「……とんでもない初体験だった」

 

男が希少な世界の女との性行為は、こうも危険なのか。

尻まで俺がリードしてたのに、マンコで早漏にさせられるとは。

しかも疲労感がすごい。

精液どころか、生命まで持っていかれた気分である。

これは色々と考えなければいけないな。と身の振り方に俺は頭を悩せようとするが、それを星のマンコが遮った。

 

「お、おい」

 

キューキュッと締め続け、俺が萎えるのを許さずにいたチンコの先に、コツコツとした生暖かい感触が増える。

このマンコ、第二形態あんの!

 

「はー、はー、はー……」

 

大口を開け、しまりのない表情で涎を垂らしていた星は、優しくお腹を撫でながら嗤った。

 

「あるじぃ、もっと……ください」

 

子宮が下がったと、自分でもわかるのか。

何度も何度も腹をなぞり、星は緩やかに腰を回した。

 

「足りないのです、これでは。もっと、もっと注いでもらわねば……」

 

先ほどの激しいピストンとは違い、穏やかなグラインドであるが、ずっとマンコの奥へチンコがいるのは、よろしくない。

ザラザラの部分と膣の収縮にずっと亀頭がさらされ、無理やりにでも気持ちよくさせられる。

あげくに子宮が舌なめずりをするかの如く鈴口へ這いずり、二回目の射精を望んでいた。

 

「休みなしとか、辛いんだけど」

 

「そう、ですかな。私はずっと、幸せですが?」

 

ぼやけたまま星は語る。

焦点の定まっていない瞳は、しかし。ハッキリとした何かを見据えている風であった。

 

「昇りっぱなしで、極楽にいるような……」

 

腹にあった手を胸にやり、星はキュッと乳首をひねる。

 

「きっとこの先にある頂が、はぁっ、母になるという事なのでしょうな」

 

違うだろう。

てか、処女喪失のまま妊娠とか、準マリア並のウルトラCはよしてくれ。俺の心臓に響く。

ここまで人体に悪影響を及ぼしそうな実験もあるまい。

星マンコの様子から、成功しそうな性交の悪質さもあるし。

ここは一つ日本男児として、一発かまして止めなくては。

俺は星にガツンと言ってやった。

 

「星、怖いよ。もっとゆっくりして……」

 

そして必殺、上目づかいからのうるうる懇願コンボ。

萌えの王道の一つとし、長年に渡り鉄板として使い古されたこの手法。

普段とは違った一面を見せた俺のギャップにより、免疫のない星はワンパンチで陥落した。さらに追加効果によって、俺のプライドはダウンした。

 

「もっ、申し訳ない。す、少し、舞い上がってしまっていたようです」

 

「ごめん。だけじゃ許さないからな」

 

どうして護身で、可憐な少女にまでならなくてはいけないのか。

清純派でも、こっちの役作りはしたくなかったわ。

キレッキレな俺に、高台から足を滑らせたみたいに星はおたおたする。

 

「ど、どうすれば、許されるので?」

 

「損ねた俺の機嫌を、回復させるんだ」

 

「なっ、なるほど。して、その方法は?」

 

「それは自分で考えろ」

 

俺にわかるはずがないだろう。

ケツまで経験しておいていうのもアレだが、俺もまだ本来の性行為には不慣れなのだ。

こんな酷いセックスをリカバリーするほど、寝技にバリエーションがあると期待するなよ。

無責任にぶん投げる俺に、星は顔を青ざめさせる。

それでもどうにか笑顔はキープし、星が探るように俺へ提案した。

 

「くっ、口づけなどいかがです。男は好むと聞きますが?」

 

いちいち確認をするとか、だいぶへたれているな。

よほど俺の萌えにビビったらしい。

しかしぶっ壊れた雰囲気を再構築するには、ベターなやり口ではなかろうか。

俺は黙って頷いて、星に許可を出す。

 

「し、しるれいしましゅ」

 

カミカミの星がガチガチになりながら、俺にキスをする。

チュッと。

一回、二回、三回。慎重に唇を重ねる。

そうして懸命についばみつつも、俺の胸板をなぞる星は、こんなメッセージを指で送った。

 

ど う で す。

 

これだけでちょっとしおらしいと思った俺は、こっちの女に毒されているかもしれない。

だが簡単に攻略されるほど俺はチョロインではないので、星を真似て腕に返信した。

 

ま だ。

 

もっと頑張りましょう。と舌先で俺が突っつくと、星はおずおずとベロを差し出した。

でもまだその時ではなさそうな気がした俺は、奥に舌を退散させる。

すると行き場のなくした星の舌が、口内でうろうろと往生を始めた。

進むか戻るかの決断で板挟みになっているのだろう。

吹き出しそうになった俺は、笑いをこらえ星を誘導した。

右から突いて寄ってきたら大きく回り、今度は左、次は上と。

 

こ っ ち。

 

ち が う。

 

こ こ。

 

手招きならぬ舌招きで、星のベロをあちらこちらに動かした。

この駆け引きにより徐々に体の硬さがほぐれた星は、次第に俺の舌を追うのに夢中となり、前のめりになって深く唇を重ねた。

星の巨乳がムニュッと、俺の体へ谷間を作って潰れる。

 

「はむ……うむ、ちゅっ、ちゅっ、あむっ」

 

互いの唾液が行き来し合い、俺らの口周りがベタベタになるのは、そう時間がかからなかった。

ただ、星は俺をなかなか捕まえられない。

原因は単純に、星が感じ出したからだ。

星が俺の口へアタックを仕掛ける度に、谷間に埋もれて突起した乳首がグニグニと擦れるのがわかる。

それにより、星の吐息は熱がこもり、甘い声がキスの隙間から漏れた。

 

「はぁあああ、ふぁあ、うんっ」

 

そんな星から、抗議の文字が届く。

 

あ る じ。

 

な ん だ。

 

ず る い。

 

自爆している癖に、俺へ責任を転嫁するなよ。

 

く や し い か。

 

く や し い。

 

可愛いところもあるじゃないか。

そのいじらしさに免じ、俺は星にチャンスを与えた。

どうしても情熱的なキスをしたいのならば、その旨を語るように伝える。

 

む ず か し い。

 

が ん ば れ が ん ば れ。

 

ここで俺を胸キュンさせる台詞を書けば、テストに合格だ。

素直にベロチューを受け入れてやろう。

しかし的の外れた事や、あんまり長い文字数であれば、不合格でキスは終了。

果たして星の回答は――、かなりドストレートだった。

 

   す   き。

 

捻らず、真っ直ぐにぶつかってきたのは褒めよう。

もっとも、それでは俺の心は打ち取れない。

俺は星の吐露した渾身の好意を、豪快に弾き返した。

 

だ い す き。

 

「なっ……」

 

「俺の勝ちだな」

 

唇を離し、ニヤリと。星のお株を奪うような笑みを俺は浮かべる。

してやったぜ。

国語だけではなく、英語すらも義務教育として学ばされていた俺と言葉遊びをするのに、星は二千年くらい未熟だ。

けど星にまだ大好きは早かったかもしれない。

季節の変わり目ならぬ恋の節目を迎えた星の体は、紅葉のごとく真っ赤に染まる。

 

「むううぅぅううう」

 

そんな自分の状態に自覚があるのか、星は熱でうるんだ瞳で恨みがましく俺を睨み、誤魔化すように力なく俺を叩いた。

 

「むっ、むっ、むっ」

 

計らずとも女に特大の恥をかかせたみたいなので、俺は甘んじて星の復讐を受け入れる。

しかし黙ってペチペチされていると、見過ごせない異変を悟り、俺は悪いとは思いつつも星に話しかけた。

 

「……なあ、何か胸の方が湿ってるんだけど」

 

「ふぁっ!」

 

ガバッと星が上半身だけで直立する。

反動で弾む星のおっぱいは、なぜか。不思議と白い液体にまみれていた。

その範囲をたどってゆくと、どうにも原液は乳首から生成されているみたいだった。

 

「母乳?」

 

言って鼻をすませば、ミルクの匂いを微かに拾う。

昨今のアニメやゲームの飽和状態から、孕んでなくとも母乳を流すキャラなど山ほどいるが、いざそれを目撃すると、やはりよくあるよくあるでスルーするなど俺にはできなかった。

てか本当に、何で急に出してんの。

 

「星?」

 

なので心当たりがあるであろう張本人にちょくせつ俺が当たってみると、ガバッと腕で胸を隠した星は、実に要領の得ない言葉を発した。

 

「こ、これは、ちがっ、違うのです!」

 

「違うって、違わないだろ」

 

現在進行形で新しいのが垂れてきてるぞ。

 

「まさか、さっきの一回ですでに妊娠したとか言わないよな?」

 

ないと断言できないのが、星マンコの恐ろしさである。

ちなみにそのマンコであるが、星の赤面に合わせて内温が上昇し、母乳の発覚によりチンコが火傷しそうなくらい熱気がこもっていたりする。

マンコがそんな状態になっているのだから、持ち主である星の肌など完全にゆで上がっていた。

 

「に、妊娠はしてないのですが、お膳立てが整ったと言いますか……」

 

「こっちだと、孕む合図として女は母乳が出るのか?」

 

「そ、そうではなく、女が本気になった――ではなく、心を許した――とも違い。ああっ、もう。わざと聞いているのではないでしょうな!」

 

「何がだよ」

 

ここまで俺に理不尽な星も珍しい。

その傍若無人っぷりで俺から離れ、セックスをいったん中断した星は、腕ブラをして辺りを見回した。

 

「と、とにかく、少し待っていて下され。処置をしますので」

 

「どうするんだよ?」

 

「し、下着で隠します。ぬ、布さえ巻けばどうにでもなるでしょう」

 

あのスケスケなブラじゃ無理じゃないか。

考えればわかりそうなものだが、そこまでの余裕もない星は、俺にケツを向けたまま膝をついて片手で探る。

 

「どこだ、どこにある。もぉおおおおおお!」

 

牛のような怒声を上げる星を尻目に、置いてけぼりにされた俺は、半幅呆れて体を起こす。

あっ、星のブラジャー。俺が踏んでたわ。これじゃあ見つからないよな。

くしゃくしゃになった下着を発掘した俺は、それを星に教えようと口を開き、こっちに振られるケツを前に踏みとどまった。

 

「…………」

 

闘牛でお馴染みの赤いマントであるが、色は牛にとって関係がないらしい。

揺れている布に牛が反応するだけであって、マントが赤いのは観客の興奮の為と、ネットの雑学で知った記憶がある。

つまり星の尻につられ、黙って秘所へ一物を突撃させた俺は、本能的には自然なのである。

 

「主。私の下着が、そちらに――おほぉおおおおお!」

 

振り返ろうとする星の腰をつかみ、こっちではほぼさせてもらえないバックで俺は挿入する。

すでにほぐれていた星の膣は、再び訪れたインサートに、汁をボタボタと垂らしてチンコを受け入れた。

 

「なっ、なっ、なっ。何をしておるのですか?」

 

「や、つい」

 

「ついって何ですか、もぉおおおおおお!」

 

今度は牛のごとく悲鳴を叫んだ星が、尻を突き上げたままクタリとへたった。

意表を突かれた一撃に、力が抜けたみたいだ。

それでも反骨精神が立派な星は、口先を頼りに俺へ脅しをかけてきた。

 

「いいから、今すぐに抜いて下され。さもなくば、あられもない目にあわせますぞ!」

 

「例えば?」

 

「もう二度と他の女で勃起できぬよう、私の膣で主のちんちんを従えます。そうなってもいいのですか!」

 

「それは怖いな」

 

マジでできるのであれば、だが。

相変わらず星マンコは気持ちいいけれど、体位が変わったせいか。さっきまでの腰砕けになりそうな圧力が足りない。

これなら暴発する事もないだろうと安心した俺は、ゆっくりと抽挿する。

 

「こっ、このぉお。私は本気ですからな。口だけだと思ったら、後で大変な事になりますぞ」

 

「具体的には?」

 

「こっ、こんな生温い動きではなく、もっとぉ、激しくて……」

 

「こうか」

 

星の言い分に合わせ、俺はペースを速める。

 

「まだっ、まだです。この程度で主は根を上げますまい」

 

「これくらいか?」

 

「おおおおお、そうです。この速度を維持して、主が泣き叫ぶまで攻め立てて!」

 

不満げにふりふりさせていた星の尻が、ピンッと硬直する。

それを逃しはしないとしっかり捕まえた俺は、愛液がぶちまけられるマンコを執拗にチンコでかき分けた。

そうしながら次のステップに移る。

 

「俺が泣いたらどうなる?」

 

「ど、どうもぉなりませぬぅ。このままぁ、達するまでぇつづけてぇ……たっしても終わらずにぃいいいい!」

 

「ずっとイキッぱなしにするのか」

 

「それだけではぁ、ありませんんん。なんどもぉ、私が孕むまでえぇ、ずっとぉおおおおお!」

 

その言葉で星のおっぱいが気になった俺は、背中から圧し掛かっておっぱいを握りしめる。

強引に絞られた星の胸から、ピュッと母乳が噴き出した。

さらにそこから、親指と人差し指で乳首をグニグニと捻ってやると、どんどんとミルクが溢れる。

むわ~っとした甘い香りが広がり、イヤイヤと星は首を振った。

 

「あっ、あるじぃ。乳だけはごようしゃを……」

 

「さっきも嫌がっていたけど、理由があるのか?」

 

「ううう……男に股だけではなく、心も本気になったらぁ……自然と女は、おっぱいが出るのですぅう。わかりましたか!」

 

「愛おしさの証みたいなものか」

 

「もぉおおおおおお。その言い方は止めて下され!」

 

ようやく母乳の謎が解けた。

搾取マンコといい、こっちの世界の女はかなりセックスにおいて、神秘的な人体の構造をしている。

でもそうした母乳であるのなら、悪影響もないだろう。

俺はべたべたになった手の母乳を舐める。

 

「薄味だけど、飲みやすいな」

 

「あ、あああああ、あっ、あるじぃい!」

 

「俺の分の母乳だろ。なら俺の好きにしてもいいんじゃないのか?」

 

「それがっ、それはっ。そうかもしれませんが、私が恥ずかしいので自重して頂けますと――ひあっ。どうしてちんちんが膨らむのですか!」

 

興奮したからに決まっているだろ。

てか、これで興奮しない男はいないと思うぞ。

 

「そう言えば、孕むまでするんだったな。まだ妊娠はしてないみたいだし、続けないと」

 

「ぐぅううう……このっ……このっ!」

 

抵抗する星が、マンコでチンコを咥えこもうと反撃する。

だがやはり騎乗位もどきの正常位だった頃に比べれば、がっつきっぷりが足りない。

処女とするのにバックが良いと言われているのは、余分な力が体に入らないからだ。

その原理と同じく、星もこの姿勢では思うように搾取が出来ないのだろう。

こちらでは屈服位と呼ばれているが、なるほど。確かに貞操が逆転した女からすれば、これは忌避すべき体位だった。

 

「星」

 

「むっ、何ですか!」

 

お前に言いたい事がある。

 

「もう二度と他の男で膣が濡れないように、俺の一物で躾けてやろう」

 

「…………ひっ――」

 

女としての自尊心からか。

チンコから逃れようと星は尻を引いた。

しかしマンコを一突きでそれを阻止した俺は、全力で蹂躙を開始した。

 

「こっ、こここ、こんなはずではぁああああ!」

 

不意に、ザラザラした箇所が触れる。

ピリッとした快楽が走った。相変わらずここはやばい。

だがすでに自分で退路を断ったので、俺は構わず押し進んだ。

 

「俺に躾けられたら大変だぞ。愛紗を見ればわかるよな」

 

「あああ、あのような。あのような変態に、私をなさるつもりなのですか!」

 

「そうだな。雌犬はいるし、星には乳牛になってもらおうか」

 

言って、俺は星のおっぱいを強調して揉んだ。

 

「毎日毎日、乳が出る体にしてやる」

 

そうしておっぱいが止まらなくなった星を、俺が管理して乳を搾るのだ。

 

「人間家畜になれるぞ。よかったな」

 

「う、嬉しくありませぬぅう。だっ、だいたい。妊娠もしてないのにぃい、そのような事、できるはずがぁああ……」

 

「できるさ」

 

ミルクまみれの指で、星に好意の文字を書き記す。

シンプルな二文字だけを書かれた星は、母乳を噴出させた。

さらに続けてつづってゆくと、シーツに水溜りが作られる。

 

「なっ、簡単だろ?」

 

「私のっ、ぜいじゃくものぉおおおおお!」

 

すき。だけで操られた星は、本当に悔しそうだった。

けれどもそれだけで済むはずもない。

俺に屈した星の肉体は限界にまで身を委ね、マンコの最奥。子宮口でさえ、チンコに侵入を許そうとしていた。

 

「もちろん、子供の母乳だって出させてやる」

 

亀頭が当たる度に、じわっ、じわっ。と子宮口が広がる。

間もなくすれば、本当にそこまでペニスを呑み込みそうだ。

妊娠を控えるならここで留まるべきであろうが、すでに一回。射精していた事が、俺の拒否感を薄めていた。

それに折角の初体験。

とことんまでやりたい気持ちも当然あった。

 

「乳を搾った後は毎回、この体位で種付けだ。ずっと孕ませ続ければ、永遠の乳牛になれるだろう」

 

「それだけはぁ……それだけは後生ですから……お願いします、あるじぃいいいいい!」

 

そこまで行くと、完全にただの家畜である。

飼育された未来を予想した星は、その将来を回避しようと俺に懇願する。

優しい俺は、そんな星の願いを聞き届けた。条件付きで。

 

「それが嫌ならそうだな――――――――って言えるか?」

 

俺はある台詞を星に耳打ちした。

 

「そ、それをぉお……私におっしゃれとぉおお……」

 

「その辺は自由意志だ。でも、いうなら早くしないと、取り返しがつかなくなるぞ」

 

「おおおおおおおっ、ふといまらが、ふかいぃいいい」

 

チンコの壁として立ちはだかっていた、子宮口の陥落も近い。

さらに射精をもよおした俺の亀頭は物言わず震え、静かにその瞬間を待ち望んでいた。

星にはもはや一刻の猶予もなかった。

 

「わたしは………………にしたがえられた……です」

 

「聞こえないぞ」

 

「わたしは、あるじのちんちんに、したがえられた、めすうしです」

 

「もっとちゃんと言え」

 

「私はぁあ、主のちんちんにぃい、従えられたぁ、雌牛ですぅう!」

 

「それだけか?」

 

俺が教えた言葉はここまでだ。

だが星に自覚が生まれれば、その先もあるはずだ。

ギュウギュウに乳首をつねりながら、俺はさらなる高みへ星を引っ張った。

 

「おちちを……」

 

「あっ?」

 

「主に新鮮なぁあお乳をぉお、まいにち提供ぉおします!」

 

「まだだ」

 

もっと、もっと。

欲張りな俺は、子宮口にチンコを叩きつけ、星にさらなる要求する。

我慢はすでに限界だった。

精液が漏れ出ているのが自分でもわかる。

それでも俺は腰を振って、星に搾り出させた。

 

「その後はぁあ、屈服位で種付けをして頂きぃい孕みます!」

 

「復唱」

 

「わたひは主のちんちん、にぃい従えられた、雌牛ですぅうう!」

 

ズルリッと、ついに亀頭が子宮内へと滑り込む。

 

「あるじぃいいにぃい、新鮮なお乳をぉおおお、まいにち提供しましゅぅうう!」

 

星の子宮と俺の一物が濃厚に密接した。

 

「その後はぁ、おっ、くっっっぷくぅいでぇえ、おっ、種付けをぉおっ、して頂き孕みまぁあす!」

 

そこで途方もない充実感を得た俺は、全ての欲望を星に注いだ。

 

「……鳴け!」

 

「もぉおおおぉ、もぉおおおおおおおおおおおおおお!」

 

二回目というのに、精液の量はほとんど減ってないような気がした。

あるいは一回目よりも長く、射精していたかもしれない。

それほど俺にとって今回の絶頂は、深いものであった。

 

「ぉおおおおおお、、おぉぉ、もぉおおおぉおお、もぉおおおおおおおおお……!」

 

正常男子の俺でさえそうなのだから、逆転女子の星は非常にヤバい事になっていた。

ずっとアクメが止まらない。

これは精子キメてますわ。

そのはずなのに、ぜんぜん俺の精液がマンコから逆流してこないのはどういうカラクリになっているのか。

……ぜんぶ赤ちゃんの養分にして、孕んでないだろうな?

賢者タイムになった今だと、けっこう怖いんですけど。

 

「星」

 

とは言え、まずは星の介錯である。

優しく頬をなでて目元を擦ってやると、瞳だけを動かした星がくぐもった声でうめく。

 

「あ……あるじ……しにかけました……」

 

「それで死んだら俺も死ぬから、まだ生きててくれると助かる」

 

「そういわれましても……まだ、つらくて……」

 

本当に大丈夫かよ。

俺の軽口に付き合う体力も残ってないとは。

 

「何か持ってくるか。それとも誰か呼ぶか?」

 

「……でしたら……おこしてくだ……さい」

 

そんなのでいいのか。

やや不安になりつつも、マンコからチンコを抜去し皮を戻した俺が、星のいう通りにした瞬間。

いきなり俊敏な姿を見せた星が、ガッチリ俺をホールドし、眼前でこう口パクをした。

 

「    」

 

「はっ?」

 

「私の勝ちですな」

 

ふふん。と得意げ表情で一方的な勝利を俺に告げた星は、そのままスルリと横を抜け、下着を拾い出す。

 

「何の勝負だよ?」

 

セックスか?

セックスなら俺の勝ちだと思うが。

 

「さてはて、何だったのやら」

 

「星が言い出したんだろう」

 

「私が。私は何を言ったのです?」

 

「厳密には何も言ってないけど」

 

何がしたいんだ、こいつは。

白けた目を俺が向けると、反対にしたブラのホックをおっぱいの前で結び。そこから回して肩に紐をかけ始めた星が、俺にマナー違反を指摘した。

 

「女の着替えを眺める男は、おしとやかとは言えませんな」

 

「はいはい」

 

全裸で俺に会い来ていた奴が、今さら着替えで恥ずかしがるなよ。

や、だとしたら別に恥ずかしくはないのか。

うん、だったらどうして俺は文句を言われたんだ。

おかしくない?

 

「どうしたんだよ、星。らしくないじゃないか?」

 

「それは主も同じでしょう」

 

「俺も?」

 

下着を身につけた星は、それだけでは心許ないのか。

俺がタオルケット替わりにしていた布を一枚とって、即興のバスローブにしてまとう。

それからゆったりベッドに座って、ポンポンと小突いた。

 

「この下にずっと愛紗を控えさえておいて。何を企んでいたのです?」

 

「えっ?」

 

バレていたのか。

確かに俺はベッドの下に、秘蔵のエロ本よろしく愛紗をかくまっていた。

なぜか?

 

「……お仕置きで、ちょっとな」

 

「変態の趣味に巻き込まないでもらえますかな?」

 

「正直、すまんかった」

 

実はそれだけが理由ではなかったりするのだが。

半分くらいは、星が暴走した際の暴力装置として置いたつもりだったのだ。

しかし星は俺に暴行を働いてたりもしていないので、裏目にしかなってない。

なのでその部分に関して俺が謝ると、もう隠れている意味もなくなった愛紗は、ひょっこりベッドから飛び出した。

 

「いつから気が付いていた?」

 

「部屋に入ってすぐにだ。押し殺した気配があったからな、おおかたお主だろうと思っていたが……」

 

「桃香や白蓮の可能性はなかったのか?」

 

「あの二人に、そこまで高等な技術はありませぬ」

 

「さようか」

 

やっぱりあの二人、そんなレベルだったんだ。

 

「やれやれ」

 

オーバーリアクションで呆れて見せた星は、それから立ち上がって愛紗を挑発する。

 

「ところで愛紗よ。私の処女喪失を盗み聞きしていた感想はどうだった。変態とは言え、処女のお主にはちと刺激が強すぎたのではないか?」

 

童貞を捨てた自慢を、童貞の友達にする元童貞みたいなマウントの取り方だ。

明らかにかさどる星にカチンとした愛紗は、皮肉で応戦した。

 

「驚いたのが素直な感想だ。女ならどう。と、大口を叩いていた星が、あんな無様をさらすとは」

 

「ふっ、しょせんは処女か。どうやら私が演技をしていた事すら、愛紗にはわからなかったらしい」

 

ちょっと強がり盛ってない?

どう見栄を張っても、あのセックスを演技と勘違いする奴はいないだろう。

しかしそうした苦しい言い訳が、ここでは通用した。

 

「次はお主の番ゆえ、閨の勉強にと合わせてやったのよ」

 

すげえ力技だけど。

 

「どうだ愛紗よ、参考になったかな。もし悔しいと感じているのであれば、私の情事を超えて見るがいい」

 

こんなしょうもない内容で、愛紗を焚きつけるなよ。

だいたい星とのセックスでさえすでに下品だったのに、これを上回るとなると、愛紗とのセックスは超お下品になるだろうが。

 

「ふはは。同じ家畜同士として、犬が牛に負けられぬよのう。お主も屈服位で処女を散らすのだぞ。いいな、絶対だぞ。わかっておるのか?」

 

まさかこいつ、仲間を作ろうとしてないか。

不憫だとは思ったが性欲が抑えられなかったバックの出来事が、気持ちよさを別にして、星的にはしこりとして残っているのかもれない。

必死に念押しする星であったが、それは無駄に終わる。

すでに愛紗の中では、ペットとしての対抗心が生まれようとしていた。

 

「言われるまでもない。私がご主人様に膜を破って頂くのは、屈服位と決まっている」

 

決めるなよ。

 

「ふっ。ならばその覚悟が本当なのか、その時は私も見届けさせてもらおう」

 

「はっ?」

 

どうしてそうなる。

 

「そんな趣味。俺にはないんだけど」

 

「まあまあ主、よいではありませんか。それにこうでもしないと、私の割が合いません」

 

「嫌だって」

 

俺が割をくってんじゃん。

自分がやられて嫌だったら、人にやってはいけないんだぞ。

 

「愛紗も何か言ってやれ」

 

こうなれば一人よりも二人。

民主主義的な数の力で星を圧倒しようと目論むが、今日のワンコはまさに頭マンコだった。

 

「私は平気です」

 

「脳みそにどんな性癖を積めているんだ」

 

おかしいだろう。

そこまでのチャレンジ精神を、愛紗は持っていなかったはずだ。

 

「いいか、愛紗。よーく考えろ。星がただ眺めているだけで満足する玉か。絶対にこいつはちょっかいをかけて、邪魔をしてくるぞ」

 

そうなればなし崩しに3Pだ。

俺のチンコが保たない。

どこまでも自分の体を気遣う俺に、気後れせずに愛紗は答える。

それはそれは、とてつもなく危険な思想であった。

 

「確かにご主人様のおっしゃる事はわかります。私達が致している最中に、星ならば……交ざるばかりか、私を差し置き、己の快楽を優先させようとするかもしれません」

 

「とんでもない悪評ですな」

 

「的を得てるだろ」

 

「やがてご主人様もそんな星へと本気となり……傍に愛犬がいるにもかかわらず、新しく飼い始めた牛の乳搾りへと夢中に……私が幾らわんわん鳴こうとも無視されたまま、二人はやがて合体し、私はみじめに膣を一人でかき回す羽目に……そう考えただけで、私は……私は、うぅ――」

 

「それだけはよせ!」

 

そろそろと胸と股に伸びた愛紗の腕を両手でつかみ、気を付けい。の姿勢に固定し、俺はそのまま揺さぶった。

 

「どこで寝取られ何て、鬱な属性を身に着けた。言え!」

 

「先ほど二人がなされている間に……私も最初は、悔しさと虚しさがあったのですが……だんだんとその二つの感情が胸中に渦巻き……いつしか、私の膣は濡れていました。そして自慰もせずに、私は昂り絶頂へと……」

 

「これは酷い」

 

ベッドの下を調べた星が、聞いてもない被害を報告する。

 

「ここだけ雨が降ったかのように、びちょびちょですな」

 

それを受け、愛紗のスカートをめくると、白いパンツが張りついて肌の色が少し透けていた。

てか、スカートもしっとりしているし、太ももは汁まみれだし、見抜けよ俺。

 

「主。その変態はもう捨てて置いたらどうです?」

 

「できるか」

 

愛紗がここまで特殊性癖に汚染されたのは、本人による資質が大きいとは思う。

だがそれも、感染源がなければここまで拗らせなかったはずなのである。

 

「俺にも少しだけ。ほんのちょびっとだけ責任があったかもしれないしな」

 

ここで投げ出したら、寝覚めが悪いで済まされんぞ。

愛犬は寝取られ属性持ちとか、もうモンスターじゃん。しかもハーレムだとすくすく育つ土壌もあるし、最悪の環境だ。

 

「しばらく皆と離して、俺と一緒に同棲させるか」

 

ラブがあればピースが訪れる。

星へしたみたいに、好き好き大好き大作戦で愛紗も母乳が出る犬にすれば、母性もついて寝取られの入り込む隙間もなくなるはずだ。

それから想像妊娠くらいは愛紗もやらかしそうだが、本番の予行練習と前向きにとらえればプラスの経験である。

こうして愛紗のリハビリは俺の中で、おおむねまとまりつつあったのだが、問題はこの勝手に作られたハーレムでどうやって成すかだ。

俺が作ったハーレムじゃないから、主導権どころか自由が限られている。

その枷である乳牛は、やはり渋い顔で難色を示した。

 

「愛紗にかまけて、私をおろそかにするのは困りますな。私の採乳と種付けを毎日すると、主はおっしゃられたではないですか」

 

ああ、言った。

しかしそれは閨での綾だとなぜわからん。

ぐへへ、これからまいにち犯してやるぜ。

と豪語したレイプ犯が、また来ると思うか。捕まってもう二度と会わないだろう。

つまりそういう事だ。

 

「性の社交辞令と察しろ」

 

「男の睦言を、女は間に受ける。という格言を主は知らぬのですか?」

 

何だよ、その男女が逆転した世界にあるようなことわざは。

だからここだと、現実にありそうでげんなりする。

 

「はぁ、はぁ、はぁ。ご主人様は一緒にいて下さると約束したはずだったのに……たびたび席を外しては、私に内緒で星のところへ……」

 

「そこまで飛躍させるな」

 

「くぅううううん」

 

ピンッとおっ立てた人差し指で、サクッと愛紗のマンコを刺した。

そうして公然わいせつの愛紗を拘束していると、星が俺の皮膚をつねる傷害事件を発生させる。

 

「いって」

 

「ふんっ」

 

さらに星はつーんとそっぽを向いてむくれる。

拗ねんなよ。

犯罪者を裁判所に搬送したら、そのまま家庭裁判が始まったみたいなプチ修羅場の真っただ中に俺はいた。

おかしい、ハーレムに浮気は適用されないはずだ。

お門違いな星の焼きもちに失望したのは、意外な事に寝取られ好きの愛紗であった。

 

「…………冷めました」

 

「愛紗もとうとつにどうした?」

 

愛紗のマンコから手を外して尋ねる。

飼い主が他の女と恋人チックなやり取りをしていたのだ。慕っていた犬としてはむしろ絶好の寝取られポイントではないのか。

それが俺の寝取られ観だったのだが、愛紗の判定はシビアだった。

 

「ん……私が興奮できていたのは、あくまで星が牛だったからです。同等の相手だからこそ、首輪が奪われる想像が、触れられるほど鮮明に浮かびました。ですがご主人様に嫉妬する姿を見て、わかってしまったのです。星は牛の皮を被ったただの女であると」

 

手厳しくない?

俺はそれでもいいけど、愛紗はそれでいいのか。

 

「自分の都合に合わせ、言いたい放題いってくれるな」

 

「これでも足りないくらいだ。星、本気で牛になりたいのか。このままではお前に、ご主人様の首輪は相応しくないぞ?」

 

「いらぬは、そんな物!」

 

「……やはり贋作動物か」

 

がっかりした風に息を吐きつつも、愛紗は星にこう忠告する。

 

「ご主人様に飼われるつもりがないのなら、二度と牛を出汁にして迫らぬ事だ。飼われている犬からすると、不愉快きわまりない」

 

ずいぶんずれたワンコルールである、俺には理解できそうにもない。

もちろん愛紗の認定で人間だと判明した星も、これには反発した。

 

「余計なお世話だ。だいたい、お主の決まりを私に押し付けるな!」

 

肩を怒らせ大股で愛紗の元まで歩んだ星は、勢いのままに胸倉をつかみ上げた。

愛紗もそれに対抗すると、頭突いてにらみ合った両者は、お互いを威嚇した。

 

「ぐ る る る る る る !」

 

「もぉお゛お゛お゛お゛お゛お゛!」

 

「待て、ここでやろうとするな!」

 

激突すんぜんの犬牛合戦の間に入った俺は、慌てて二人を離す。

また暴れられたら、部屋がボドボドになるだろうが。

 

「やるならせめて、壊してもいい場所でやれ!」

 

「……今の私は気が立っている。半端な手傷だけで許されるとは思わない事だ」

 

「ぬかせ。久方ぶりに負け犬の鳴き声を思い出させてやる」

 

それぞれをそう罵り、一触即発の空気をかもしながら愛紗と星は部屋を後にした。

嵐のような二人がいなくなり一人残された俺は、自然とこわばっていた体をほぐし、その場へとへたり込む。

 

「……あいつら、仲良くなれんのか」

 

犬と猿ならぬ、犬と牛ならまだ喧嘩になりそうにないというのに。

ちょっとは本物の動物を見習え。

まあ、俺の声が届くだけ野生よりかはマシだけど、諍いの理由が下らなさすぎる。

 

「曹操をこますの、よそうかな」

 

もともとオール三の浅知恵だったけど、劣情のこじれによる二国間同盟破棄からの開戦がマジでありえそう。

だってどいつもこいつも、性欲に素直な癖に意固地だし。

傾国の男になるつもりのない俺には、軽率な野望だったのかもしれなかった。

 

 

 

 







次は後編と言っておきながら、中編を投稿する駄目な奴がいるらしい。

申し訳ございません。
これだけで二万字ちかくいくとは、予想もしてなかったのです。


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6話(後編)



今回の話では、地味に独自設定で歴史の改変があります。
とは言え、それほど重要でもありませんので、軽く流して頂けましたら幸いです。






一分三秒の土下座負け。

それが桃香と白蓮の喧嘩における、短い記録であった。

 

「私が悪かったから、許して白蓮ちゃん!」

 

そもそもの発端は、桃香が転んで寝ていた白蓮に倒れた事にある。

それで目を覚まし痛みで機嫌の悪い白蓮に、酔っぱらった桃香が挑み、戦いの火ぶたは切って落とされたのだった。

両手をぐるぐると回して殴りにかかる桃香であったが、白蓮に頭を取られたせいで攻撃が届かず。

三十秒ほどで体力が底をつき、千鳥足でいったん距離を置こうと二、三歩ほど下がった瞬間。

足首をもつれさせ転んだ桃香は、自らの敗北を悟り白蓮に詫びをいれたのだ。

 

「いや、そこまで怒ってないけどさ。警邏に出すのが心配になるくらい、弱いな桃香は」

 

「今日は酔ってて調子が万全じゃなかっただけだよ。普段の私は凄いんだから。町に行くと子供に遊んでってせがまれるし、おばあちゃんはお小遣いを渡してくれるし、お店のおばさんは肉まんをただでおごってくれるんだよ」

 

「ただの人気者になっているだけじゃないか……あれっ。でも桃香が一番、犯罪者を捕まえていたような」

 

「仲良くなった人の中に、物取りや詐欺師の人がいたから、やり直すように説得して連れて来てたせいかな?」

 

「桃香が安心なのが、よくわかったよ」

 

人望で諍いまでに発展しないのか。と白蓮はうめいた。

 

「いいよな、その才能。どうせ私なんか……」

 

なぜか拗ねて飲み残しで一杯やり始めた白蓮に、桃香は首を傾げる。

 

「これくらい、みんなしてるんじゃないの?」

 

「でたよ、無自覚」

 

やだやだと言わんばかりに酒をあおった白蓮は、桃香へ返杯をする。

 

「……ほら」

 

「私はいいや。しばらくお酒、控えようと思う」

 

酔っていたとは言え、自分から暴力を振るおうとした事に桃香は少なからず衝撃を受けていた。

だから頭の冷えた今、白蓮の誘いを断り禁酒を誓う。

 

「そうか。ところでさ、どうするつもりだ?」

 

「何が?」

 

「ご主人ちゃまだよ」

 

「どうって。私、四番目だし」

 

「……私も三番――って、違う」

 

手酌で酒を杯に注いだ白蓮は、音を鳴らして壺を叩きつける。

 

「そっちじゃなくて、桃香の夢。みんなが処女じゃなくなるように、とか言っていたじゃないか」

 

「あ~、うん。そっちかぁ」

 

あまりその話題をする気が乗らなかった桃香は、適当に流そうと口を開いた。

 

「するにしても、私が終わってからじゃないと。ね?」

 

わかるでしょう。と言外に桃香は含みを持たせる。

事前慈悲の活動をするにしても、まずは自分があやかってから。

誰かの為に動ける桃香にも、人並みの欲望はあった。

処女喪失な世の中を謳っている桃香であるが、自身がそうなりたいから声に出している部分もある。

なのでまだ、願いを叶える時期ではないと桃香は思っている。

そう思いたかったから、桃香は夢を語りたくはなかったのだ。

 

「本当にそれだけか?」

 

だからこそ、迷いを見せる心へ投じられた白蓮の一石に、桃香はどきりとした。

 

「私もさ、男がいない頃には素直に感心したよ。桃香はとてつもない考えをするなって」

 

「え、えへへ。そ、そうかな」

 

「でもな、ご主人ちゃまと一緒に暮らして思い知らされたよ。最初は男がいれば満足だったのに、それだけだと足りなくなるんだ。あれもこれもしてもらいたい望みが増えて。私は自分で高望みのしない人間だと信じていたんだが、そうでもなかったみたいだ」

 

「でもそれで、ご主人様にお父さんへなってってせがむのは、業が深くない?」

 

「真面目な話をしてるんだ。茶化さないでくれ」

 

私も一度やらされたし、からかってないよ。

よほど桃香の方が真剣で深刻に受け止めていたのだが、ひとまずは真摯らしい白蓮の顔を立てて黙る。

 

「男で身持ちを崩した例なんて山ほどある。男に入れ込んで貢ぎに走り国を傾けたり、一目ぼれした男が欲しくて攻め込んだり。太守なんかやってると、よく耳にするよ」

 

白蓮ちゃんの自己紹介かな。

白蓮のいう自称太守は、桃香のよく知る友達の太守と酷似していた。

ご主人様に渡そうと趣向品をかき集めようとして叱られたり、そうかと思えばご主人様に何かを吹き込まれて募兵と訓練に精を出したり。

ご主人様と白蓮の性格上。こちらから宣戦布告をしたりはしなさそうなので桃香は黙認しているが、愛紗と星の見立てでは数年。

このまま軍備を強化すれば、防衛に限り袁紹と戦ってもどうにか痛み分けにできるらしい。

やったら総力戦になるので息が続かず、どのみち滅びる可能性は高いみたいだが。

その自覚がまるっきりない白蓮は、ぐさぐさと言葉の剣で己を刺しながら桃香へ熱弁を振るう。

 

「男が出来れば女は変わる、これは一つの真理だ。良いか悪いかは別にして」

 

女であれば、誰もが知っている言い回しだ。

しかしそれを知っていたつもりになっていた桃香には、耳が痛い。

自傷する白蓮が何を言わんとするのか。ここでようやく桃香はわかってきた。

 

「普通の男でそうなんだから、天の御遣いたるご主人ちゃまの影響は強いだろうさ。ましてや桃香は私より長くご主人ちゃまと一緒にいたんだし――くそう、どうして私の所へ一番に来てくれなかったんだよ、ご主人ちゃま!」

 

「白蓮ちゃん、真面目にやって」

 

「やってるよ!」

 

ほぞを噛み、床へだんっだんっと握り拳をぶつける不真面目な白蓮に、桃香は半眼で注意する。

その返答があれである。

友達の心遣いにお礼をいう気が失せた桃香は、白けたまま白蓮に問いかけた。

 

「でも私が夢に躊躇っているって、よくわかったね白蓮ちゃん」

 

「じゃんけんで負けて、静かに怒ってただろ。いつもの桃香なら笑って済ませそうなのに」

 

それに、と白蓮は手慰めに杯を回した。

 

「女神会で、みんなでの話し合いを決め、じゃんけんに最後まで渋っていたのも桃香だ。桃香らしいと言えばそれまでだけど、処女にしてはちぐはぐだ。本当は少しでも、先延ばしにしたかったんじゃないか?」

 

「……うん」

 

白蓮の推察通りである。

桃香はこれまでに一度も、ご主人様へ自らの夢を語った事がなかった。

最初は女性に襲われていたご主人様への配慮だった。

けれどもご主人様が、女性を怖がっていないと判明しても、桃香の口から願いが零れる事はなかった。

断られるのを、桃香が心配したのではない。

受け入れられると、桃香が困るようになったからだ。

 

「私……ご主人様とする時間が減るのが嫌で。後、ご主人様が他の女性を抱いていると思うと、もやっとするし」

 

「わかる!」

 

桃香の手を取り、白蓮は握る。

そうして、うんうん。とお互いに頷き合う。

しばしの友情を深めてから、白蓮はあぐらで座り直し桃香に言った。

 

「まぁ、慣れればそんな気もなくなるはずさ。桃香の夢がどうなるのか、私にはわからないけど、ゆっくり悩めばいい」

 

「そうだね」

 

黄巾の乱が終わった今、時間はたっぷりとある。

朗報はそれだけではない。

ご主人様いがいの天の御遣いが、現れそうなのだ。

というのも、ちかぢか皇帝が天の御遣いと婚姻するのではないかという噂が、洛陽から各地へと駆け巡っていた。

ご主人様との穏やかな生活を守る為、積極的に警邏に出て治安の維持に務めて桃香は、その話をしつこく幽州の民から聞かされている。

とうとつに湧いたこのお目出度がここまで早く浸透しているのは、やはり最近。血生臭い話題ばかりだったからであろう。

そもそも張角がなぜ黄巾の乱を引き起こしたのかと言えば、ひとえに朝廷の男遊びが酷かったからだ。

先帝がお隠れになり、後継者争いが勃発した際。それぞれの擁立者達が相手の陣営を切り崩す一角として、男性を使った取り込み合戦を行ったのだ。

こうして新たな皇帝は決まったが、限界までに不満が膨れ上がった処女の怨嗟が、骨肉の争いへと繋がった。

乱は鎮火したものの、元をたどれば原因の一因である新帝の支持が上がるはずもなく。

朝廷は嘘の御遣いを立て皇帝と結ばせる事で、権威を回復し世間へ威光を知らしめるつもりなのだ。と、桃香ら四人は睨んでいた。

噂話はその前準備という訳だ。

もっともそれが必ずしも悪い事ではない。

仮初とは言え皇帝に箔がつけば、世の太平に一歩近づくだろう。

もしもばれればとんでもない事になりそうだが、白蓮を騙した一個人とは違うのだ。

朝廷は総力を挙げてこの嘘を永劫の真実として語り継ぐであろうし、危険は少ないと予想できる。

だから四人は、現状の推移を見守る見方で一致していた。

もちろん皇帝の平和維持に手伝える事があれば、臣下として陰ながら助力をするつもりである。

もともと桃香が全ての女性の処女喪失を掲げていたのも、荒れ果てた時代を嘆いての行動だ。

膜が無くなれば余裕が生まれ、争いの種が減るのではないかと軽く考えていた。

だが自らが処女であったせいもあり、桃香が当初予定していた喪失の方法は、町の中心で女性を一人ずつ並べ、勃起したおちんちんに跨りながら、流れ作業で性交をさせるものだ。

今ならわかる、これは絶対に失敗すると。

たった一回の絶頂だけで自分が満足するはずがないのに、他の人達がこの約束にどうして従ってくれようか。

逆に性欲へ火が点いた女性達は、気が済むまで男性を襲おうとするだろう。

その男性役をご主人様に当てはめて想像すると、現在の桃香ならば、まず実行者へ愛紗をけしかけ制裁する自信があった。

それくらい無謀で浅はかな夢だったのだ。

なればこそ、もっと現実的で有用性に即し、なるべく桃香とご主人様はやらしく過ごしていられるような、完璧な夢を描くべきなのだろうが、これがなかなか難しい。

だらだらと酒を飲む白蓮を尻目に、まったりした空間でゆったり桃香が思考を巡らせる。

 

「う~ん、うう~ん」

 

なかなか妙案が着陸せずに、時間だけが無駄に経つ中。

剣呑な雰囲気をまとい、武器を手にした愛紗と星が謁見の間へ訪れた為、桃香の着想はひとまず停止された。

 

「白蓮殿。鍛錬場の使用許可を頂きたい」

 

「これからっ。明日でいいだろう?」

 

「今からでなくてはいけないのです」

 

何で二人がそうしたいのか。桃香にはまるで意味がわからなかったが、やる気のほどだけは伝わった。

愛紗はともかく、星までもいつもの服に着替えていたからだ。

でも一汗流して鍛錬をしようとする正々とした心意気ではなさそうだったので、ひとまず桃香は仲裁に入る。

 

「理由は。話してみて?」

 

「愛紗が悪い」

 

「星の責任です」

 

「話にならないなぁ」

 

互いに指をさし合い、決裂して見せた二人の態度に、どうするの。と桃香は白蓮に視線を投げた。

するとすでに匙を投げていた白蓮は、普通に二人へ戦闘許可を与えた。

 

「許す。でも夜も更けて皆に迷惑がかかるから、やるならここでするんだ」

 

「まじで?」

 

あまり本来の使用回数は多くないとは言え、おいそれと使っていい場所でもない。

愛紗と星が暴れて傷がついたら、それだけで一大事だ。

 

「ここならそう、無茶もしないと思うんだ……たぶん」

 

「そうかな?」

 

ご主人様の部屋を半壊させた前科があるので、桃香には二人の戦いに無害な想像がなかった。

だからこそいっそ。愛紗と星を外へと走らせ、どちらが多く山で賊を討伐できるか競わせた方が、桃香としてはまだましである気がした。

しかしこんな時にだけ息を合わせた二人は、それぞれに口をそろえる。

 

「その辺りは抑えます」

 

「ですな。何、殺し合いをする訳ではないのです。心配なさるな」

 

「本当だな、信じるぞ。裏切るなよ、信じたからな!」

 

とても頼りないお墨付きである。

それを信じる信じると連呼する白蓮が、最も二人を信じていなさそうではあったが、いちど自分で言い出したからにはもう後に引けない。

酒壺やらめんまが盛られた皿を抱え、桃香と並んで白蓮は安全な場所まで避難する。

そこで酒盛りを再開しながら、青竜刀を握る利き腕をぐるぐる回す愛紗と、両手で槍を掴んだまま屈伸する星を眺め、白蓮は桃香と勝負の行方を占った。

 

「どっちが勝つと思う?」

 

「愛紗ちゃん」

 

「……もぐもぐ、賭けにならないか」

 

これまでに及ぶ二人の戦歴を知れば、自ずと結果もわかっているようなものだ。

しかし負けを決定づけられたはずの星は、酷評した桃香と白蓮を鼻で笑った。

 

「ふっ」

 

そしておもむろに胸元をはだけ、むき出しになった乳房を揉みしだく。

すると星のおっぱいから、みるみると母乳が溢れたではないか。

 

「「!!!!!」」

 

男性との愛が究極まで高まると、女性はお乳を出す事があるらしい。

そうした閨での話は、桃香と白蓮もとうぜん耳にはしていた。

さらにその母乳を男性に飲ませて交われば、女性は確実に孕むとも言い伝わっている。

乳で父にするのだ。

ご主人様がここにいれば、駄洒落じゃないか。と呆れて馬鹿にするだろうが、桃香らにとって験担ぎとは大切なのである。

これをご主人様に力説すれば、賽銭箱に五円を入れるみたいなものか。と一定の理解を得られるだろうが、そこはあまり重要ではない。

大切なのは、ご主人様が星の母乳を飲んだかどうかだ。

もし少しでも舐めていたのであれば、ご主人様の童貞の童貞を奪われたばかりか、星に妊娠まで先を越されてしまう。

そんな未来図を予想すれば、あっさりと桃香の堪忍袋の緒は切れた。

 

「むきー!」

 

桃香は激怒した。

必ずかの、処女喪失を果たした星を除かねばならぬと決意した。

桃香には性交がわからぬ、桃香は処女である。

けれども胸とお尻の感度は、人一倍敏感だった。

竹馬の友である白蓮もまた、同じ気持ちであった。

だが桃香と白蓮が協力しても、星には届かぬ。

故に二人は、星を除ける唯一の存在を頼りに声援を送った。

殴れ、愛紗!

 

「いいか、愛紗。参ったと言わなければ、試合は続行だ。それを利用し、隙をついて馬乗りになったら、星の顔面をしこたま殴ってやれ!」

 

「駄目だよ白蓮ちゃん、それだとご主人様が心配しちゃう。愛紗ちゃん、顔は避けてお腹にするんだよ!」

 

「……弱い者を虐める趣味はないのですが」

 

「同感だな」

 

殺意のこもった応援に戸惑う愛紗を余所に、服を戻した星は悠々と槍を構えた。

 

「負け越しの割には、先ほどからずいぶんと余裕がある。秘策でもあるのか?」

 

慎重に青竜刀を握りしめる愛紗に、星はうそぶいた。

 

「……これが大人の女というものだ。処女とは違うのだよ、処女とは」

 

「ほざけっ!」

 

気合い一直線。

早々に距離を潰そうと飛びかかる愛紗へ、星は槍で迎撃する。

これを躱し愛紗の得意な間合いで戦うのが、いつもの必勝型であった。

こうして優位から有利へと勝負を傾け、勝利を掴むのがほぼお約束となっていたのだが、今日ばかりは勝手が違っていたようだ。

 

「なにっ!」

 

星の槍に捕まった愛紗を見て、白蓮が腰を浮かせる。

それほど異常事態なのである。

突進を阻まれた愛紗は、さらに星の降り注ぐ槍の連撃にその場で釘付けにされた。

 

「はいはいはいはいはいはいはい!」

 

防御を余儀なくされた愛紗を軽快な槍さばきで突いた星は、調子を確かめるよう足を運び、緩急を交える。

 

「ちっ!」

 

二人の獲物の差から、どうしても中遠での差し合いは星に分がある。

愛紗とてそれは身に染みて経験しているので、いい加減。槍の引き戻しに合わせ接近戦へと挑みたいのだが、いやらしい星の動きで取っ掛かりがつかめない。

そのせいでなかなか詰め寄れず、愛紗が不利を覆す手立てが未だ見つからぬ状況だ。

 

「遅い!」

 

反対に一方的な戦いを愛紗に敷いていた星は、完全に体が温まったのか。

一段と槍の鋭さが増し、華麗に繰り出された早業が愛紗の頬を裂いた。

ぴりっとした痛みが走り、血しぶきが飛翔する。

傷自体は浅く、戦闘に支障をきたすほどでもない。

しかし久方ぶりにもらった刃物の味に、己から狭めねばならぬ間合いを広げ、愛紗は仕切り直しをする。

 

「ど、どうなっているんだ。どうして急に、こんな……」

 

そんな現実に全く着いて行けない白蓮は、おろおろと言葉をこぼす。

凡人には及ばぬ領域へ舞い降りた星は、にやりと笑い白蓮へ教授する。

 

「覚醒を知っておりますかな、白蓮殿?」

 

「こ、言葉は知っているけど」

 

「天では武人が成長する際などにも、用いられるそうです」

 

「あ~、あった。そんな話も」

 

ご主人様が前に言っていた気がする。

桃香には無理な奴だ。

 

「えっ。じゃあ星は、天の意味で覚醒したのか?」

 

「ええ。主のちんちんで膜が破られ、私の肉体は重しを外したかのように身軽な物へと変貌を遂げたのです」

 

「性長したんだ……愛紗ちゃんを倒せるくらいに!」

 

「と、いうのは嘘でしてな」

 

「嘘かよ!」

 

ちょっと信じかけたじゃないか。と白蓮は叫ぶ。

その白蓮の様子に、白蓮ちゃんは白蓮ちゃんだと、桃香はほっこりした。

 

「本当はもっと別の要因があります。私が強くなったのではなく、愛紗が弱くなっただけかと」

 

「私が弱くなっただと……?」

 

「いつもより反応が悪い。初陣を恐れる新兵のごとくぎこちなさが残っておる。それで勝てる道理があるはずなかろう」

 

「そのような臆した気持ちなど、ないっ!」

 

逆上した愛紗が星に斬り込む。

しかし愛紗の青竜刀を避けず、太刀打ちで受け止めた星は、そのまま腰を入れて柄で胴を殴った。

 

「がっ!」

 

「そう言って、本当は怖いのだろう。悔しいのだろう」

 

槍を反対に持つ星は石づきで愛紗を追撃した。

たたらを踏んだ愛紗は、大きく上半身を反らす事でそれを見送る。が、槍を回した星は警戒されていなかった足を払い、愛紗を宙に浮かせる。

 

「ぐっ……」

 

かろうじて片手が床に届いた愛紗は、手首の力で体をひねりどうにか着地を成功させる。

だがそこにはすでに星の新たなる一手が迫っており、受け止めようとした愛紗の青竜刀を、器用に槍で絡めて弾き飛ばした。

 

「例えその身を奮い立たせようとも……処女の引け目は隠せんぞ!」

 

「しまっ――」

 

両腕を跳ね上げられた愛紗。

そんな絶好の機会を星が逃すはずもなく、服にある長い袖を活かして振るい、愛紗を巻き付けてから、己の元へと手繰り寄せる。

そして無防備に向かってくる愛紗の腹へ、星は曲げた足から蹴りを放った。

 

「い つ ぞ や の、恨みぃいいい!」

 

「――っ!」

 

まともにその蹴りをもらった愛紗の唇から、か細い呼吸が漏れる。

それでも底力を絞り、どうにか星の脚を捕らえた愛紗であったが、抵抗もそこまでだった。

 

「愛紗、上だ!」

 

白蓮の声にはっとし、面を上げた愛紗の目には、槍を支えに飛翔した星がさらなる蹴りの体勢を整えていた。

 

「ふあんっ!」

 

咄嗟に愛紗は首を横にしようとする。が――間に合わない。星の変則的な回し蹴りは、無情にも愛紗を刈り取った。

吹き飛ばされ壁に激突する愛紗は、そのままずるずると体を滑らせ倒れてしまう。

 

「…………」

 

物を言わなくなった愛紗を油断なく観察していた星は、十。二十と経っても立ち上がる気配のがない事でようやく構えを解き、槍を掲げて勝どきを上げた。

 

「ふはははははは。趙 子 龍  完  全  勝  利!」

 

久しぶりに降って湧いた勝ちが嬉しいのか。

上機嫌でぐるぐると槍を回す星は、それをびしっと突きつけて、無言の愛紗に言葉の鞭を打った。

 

「思い知ったか犬ころが。さんざん偉そうにしておきながら、しょせんはこの様よ。じゃんけんで仰いだニ君の一人を見捨て、挙句に負けた現実を寝取られに逃避するお主こそ、紛い物だ!」

 

星のいう紛い物とは何なのか。

桃香にはまるで不明だが、二人の奇妙な関係に割り込むつもりはなかった。

会話の前後からろくでもなさを感じ、桃香は聞いて聞かぬふりをする。

 

「これに懲りたら、二度と私に変態な趣味を垂れるな。そして大人の女である私に敬意を払い、真名の後にさんを付け、まいにち酒とめんまを買ってこい!」

 

「そうとう、調子に乗ってるな」

 

「うん。でもどうしよっか」

 

愛紗が敗れた今、星を止められる人材がいない。

これは不味いのでは。

愛紗の封印から放たれた星は、煽りに興奮してのぼせたのか。だんだんとそこへ邪悪な意思を交え、かつぜずが怪しくなり始めていた。

 

「私は最強だ。あるぢのぢんぢんはおりのものだー!」

 

「ぱんつはわたさん!」

 

「星ちゃんも白蓮ちゃんも、何を言ってるのか、ちょっとわかんないかな~」

 

一人だけ感染しなかった桃香が、冷静に意見を述べる。

それで我に返った白蓮は、誤魔化すように咳ばらいをした。

 

「んんっ。とにかく、星は落ち着け。嬉しいのわかるけど、はしゃぎすぎだって」

 

「……おや、白蓮殿。何かおっしゃりましたかな。すみません、どうにも処女の声が聴きづらくなりまして」

 

「こいつ腹立つなぁあ!」

 

「ほう。ではどうなさります?」

 

「聞こえているじゃないか、ちくしょう!」

 

にやにやとげす笑いを浮かべる星に、白蓮は落ちていた愛紗の愛刀を拾って対峙する。

 

「やってやる、やってやるぞ。私もそこそこの武人だ。ここまで舐められて、引き下がれるか!」

 

闘志を漲らせ星に青竜刀を向ける白蓮だが、どこか腰が引けている。これだけで桃香は、結末を察せられた。

きっとそう遠くない未来で、白蓮も床を転がるのは確定事項であろう。

そんな絶望的な戦いを前に、不思議な事が起こった。

余裕を崩さなかった星が、苦悶の表情に歪む。

そうして槍を手放したと思えば、両手で股間を押さえ、その場をぴょんぴょん飛び跳ねたのだ。

 

「ぐおお、何だこれは。死ぬほど、膣が、痛い!」

 

「……ああ、そうか」

 

「心当たりがあるの、白蓮ちゃん?」

 

桃香にはまるで見当もつかないが、腑に落ちた。と言わんばかりに顎をなでる白蓮は、星を襲った症状を教えてくれた。

 

「ほら、処女を失うと血がでるじゃないか。あれってたぶん、膣が傷ついて出るものだと思うんだよ」

 

「でも初めてが痛いって、みんな言わないよ」

 

「それ以上に気持ちいいみたいだしな。ただご主人ちゃまとやった後、休みもせずに星は愛紗とやり合っただろう」

 

「そ、それって……」

 

「激しい運動で傷口が開いて、星の膣はずたずたになっているんじゃないか」

 

「ひぃい!」

 

思わず桃香も股間を押さえる。

考えただけでも痛そうだ。

それを実際に受けている星は、まさに地獄の苦しみであろう。

 

「うん。ひょっとして、今なら私でも星に勝てる…………よしっ」

 

「その必要はありません」

 

千載一遇の好機に恵まれた白蓮は、いけると確信する。

するとどうだろう。

臆病風に吹かれていた体に、溢れるほどの力が満ちた。

これをそのまま星にぶつけてやろうとした白蓮は、そこで声を掛けられ邪魔された。

しかし苛立ちはない。むしろ驚きの方が勝ったくらいだ。

 

「愛紗、無事だったのか?」

 

「ええ、ご主人様が守って下さいました」

 

そう言って首枷をなでる愛紗は、どこか誇らしげであった。

どうやら星の放った最後の蹴りは、枷に当たって威力が相殺されたみたいだ。

そのおかげで愛紗はこうして立っていられる。

 

「後はお任せ下さい。私が責任を持って、星にお灸をすえますので」

 

「確かまだ、参ったと愛紗は口にしてなかったか。だったら、私の出る幕ではないな」

 

勝負はまだ着いていないと判断した白蓮は、愛紗に青竜刀を返して下がった。

 

「さて、続けようか。星」

 

「ぐぬぬぬぬぬぬ!」

 

武将交代。

ずっと股間を押さえて跳ねていた星は、口惜しそうに愛紗をうるんだ瞳で睨む。

だが未だ股から手が離せない星の姿は、どこか弱弱しい。

それに比べ、堂々と伸ばされた愛紗の背は頼もしさがあった。

しかしその後姿を見ていられなくなった桃香は、静かに目を反らした。

愛紗の佇まいに、犬の耳と尻尾を幻視したからだ。

義理とは言え、妹の心境を正確に見抜いた桃香は、ほろりと涙を流した。

愛紗ちゃん……とうとう身も心も、ご主人様の犬になっちゃったんだね。

 

「おのれ……おのれっ、おのれぇえええ!」

 

悪あがきとはわかっていようとも、ここで負けを認める星ではない。

槍をつかみ取った星は、自分ごと愛紗に突貫するが、その動きは桃香でも避けられそうであった。

つまり愛紗からすれば、蹴り足を見てから裏に回るなど楽勝である。

そこからさらに腰を踏み抜かれて潰された星は、手も足も出ずに悲鳴を上げた。

 

「ぴぎゅっ!」

 

「さて、と。貴様には色々と語りたい事があるが、その前に……そうだな。まずは全員分の酒とめんまを買って来てもらおうか。説教はその後だ」

 

「ふざけるなっ。どうして私が、お主らにわざわざ酒とめんまを。だいたい、この時間に開いておる店など――ひっ!」

 

星を踏みにじる足を折り曲げ、そこへ肘をかけた愛紗が星教育を始める。

さすがの星も、ここから逆転するのはどうあがいても不可能だ。

それでも愛紗の要求に反発しようとするが、首筋に青竜刀を突き立てれば、素直に従うしか道は残されていなかった。

 

「私は頼んでいるのではない。それをはき違えるなよ」

 

「わかった。酒とめんまを買ってこよう。そうすればいいのだな?」

 

「……ひとまずは、合格だ」

 

ようやく足蹴にされていた状態から解放された星は、死にかけた動物のようにふらついた足取りで出入り口へと向かう。

そしていざ謁見の間から出ようと寸前に、桃香らへと振り返り大声で罵倒した。

 

「こ、こここ、この、処女どもがっ。覚えておれよ!」

 

それから目を見張るほどの速度で、股をかばいつつも星は走り去って行った。

こうして過去最長の女神会は、終了したのだ。

その後で星が愛紗からどんな折檻をされたのか、桃香には不明だ。

ただ桃香が翌日に自室で目を覚ますと、寝具の元に酒とめんまが置かれており、愛紗をさん付けで呼ぶ星が目撃された。

 

「愛紗さん、おはようございます。本日も一日、ご指導をよろしくお願いします」

 

しばらくはこんな違和感の大きな態度であったが、そこは星。

三日も続かぬ内に、何食わぬ顔で元の星へと戻ってしまう。

 

「ふははははははは、ははははははは、はーっはっはっはっはっは――う゛っ、けほっ、けほっ!」

 

ちょっとは懲りようよ、星ちゃん。

 

「桃香様……お願いがあるのですがよろしいでしょうか……ご主人様との順番を代わって頂きたく……その時には是非ともこの首輪を身に着けて……はぁ、はぁ、はぁ。うぅ……」

 

そして愛紗ちゃんは、どこへ行きたいの?

 

 

 

 




三話でできなかった、メイン星回もようやく終わりました。

もともと蜀では一番好きなキャラでしたので、贔屓をするのは決めていましたが、長くなり過ぎました。
反省です。

でも次も長くなりそう……。


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最終話




満を持して登場





 

反公孫賛連合。

天の御遣い、つまり俺をかくまっていた白蓮を殺そうぜ。と息を巻いた狂人共の集いだ。

こしゃくにも袁紹という女郎は、白蓮が俺をチンコ奴隷にし、欲望のままにセックスでなぶっている。だから可哀想な俺を救ってやろうなどと、張りぼての大義を掲げて音頭を取ったのだ。

あながち間違ってない。

しかし、どうしてこんな事になったのかと言えば、至極単純に俺の存在が世間にばれたからである。

そんな身バレの元は、二年半くらい前に起こったある重大な事件が引き金となった。

桃香ら四人が全員、妊娠したのだ。

しかも月日を逆算すると、どうにも一発目のセックスで孕んだとしか思えないタイムスケジュールである。

おかげで独身貴族だった俺の人生はボッシュートされ、人生の墓場に投獄されてしまった。

これから没落主夫な毎日だと、マジでブルーになる俺に、桃香らはさらに一年半前。とんでもない出産で世に混乱を招いたのであった。

何で全員、男児を出産するんだよ。

こちらでは雄が希少価値な生物となる。

するとそれを種付けした男って、天の御遣いじゃない。と勝手に真相をついた流言が随所に出回った訳だ。

この時点で世界中の女が幽州に殺到するイメージが浮かんだ俺は、二度目の死を覚悟した。

一度目? こっちに来て開幕レイプをされかけた時だよ。

それでも四子の誕生に、俺のシマじゃ今のノーカンだから。偶然だから、本当にたまたまだったと言い張って、どうにかけむに巻いたのだ。

なのにあいつら、出産してすぐに妊娠しやがる。

まただよ(笑)。

とか笑って済まされないので、今度は事前に対策を打った。

次の赤ちゃんが全員女児ならばよし。よしんば仮に全員男児だったとしても、今回は女だったと発表して周囲を騙し凌ぐ戦法だ。

場当たり感が強い。

だとしても世界一位の御遣いになるよりはましと思い、極秘裏に桃香らは二回目の出産をしたのだが、結果は五人の男児。

三と四はどこにいった。

一発必中で双子を産んだドヤ顔の趙雲に、一年間の避妊休暇を与えた俺は悪くないだろう。

二年目で九人の息子だぞ。四人でひーひー言ってたのに、さらに倍でプラスワンとか、もう俺もびーびー泣くわ。

当然、子育ての手が足りない。

これだけ増えると、ちょっと目を離すと一人くらいさらわれそうで怖いし、子守りを手伝ってくれる人材の確保は急務だった。

新生児五人の秘密をばらさず、なおかつ育児に明るく、俺に色目を使ってこない。

そんな聖母を求めて人を募ったが、やはりこの世界に実装しているはずもなく。

妥協で回した雇用ガチャで、そこそこ優秀なメイドの素質を持つ女を引き当てただけでも、俺の運はいい方であろう。

そのメイド見習いは子育ての経験はなく、月一で不幸になるという、緑髪のメガネをかけたドジっ子ではあったが、真面目によく働いてくれた。

何よりINTが高い。

彼女はみるみると頭角を現し、少しだけ時間に余裕が出てきた俺は、異様に妊娠しやすい桃香らについて、あれこれと聞き取り調査を開始するのであった。

これ以上、ぽこじゃか赤ちゃんを作られても困るからだ。

それで手に入れた情報をくみ上げ、俺は一つの仮説を打ち立てた。

まずこちらの男は、俺がいた世界の男よりもチンコが貧弱で、出がらしみたいに精液もあっさりとしているらしい。

一日一回セックスが出来れば、性豪を通り越して奇跡とまで呼ばれるそうだ。

そんな男と子作りに励んでも、排卵日とかの知識が伝わっていないこの時代では、完全に物欲センサーとの戦いになってしまう。

しかも、かなり部の悪い賭けだ。

ブサチンで弱いのね、嫌いじゃないわ。とか言って喜ぶゲテモノがいるかもしれないが、種として全体がそうでは人類の存続が危うい。

そこで退化を続ける男とは逆に、ここの女は過剰な進化をして、バランスを取っているのではないかと俺は分析する。

それがあの、搾取マンコだ。

さらに愛を囁くと女は母乳が出るのが当たり前とされているが、現代日本にそんな常識はありえない。

俺が国内に在住の頃。若さに任せて色んなエロ系統の話題をネットで調べていたが、基本的に母乳は出産とセットになっているのだ。もっとも、妊娠中に似たような液が垂れたりするみたいだが。

つまりこれらを総括すると、桃香らはセックス中に懐妊している可能性もありうるのだ。

そこで実際に、愛紗と白蓮はラブラブセックス。

桃香と趙雲はラブラブアナルファックのグループに分けて検証をすると、愛紗と白蓮は母乳を噴き出してまた身ごもり。桃香と趙雲には母乳が確認されず避妊にも成功した。

医学的に俺の考えが証明された瞬間だ。

でも搾取マンコの受精率を計る為に、愛紗と白蓮には外だしで観測中だったのに、どうして妊娠しているのやら。

先走り汁でも百パーセントアウトとか、ちょっとマンコの審判は厳しくないですかね。

たぶんこれは俺だけに適用される、例外の産物だとは思うのだが、三年目で十一人の父親になるのは辛い。

二十四時間ねなくても、愛紗や趙雲みたいにケロリとしていられるほど、俺は頑丈な肉体じゃないんだぞ。

それでも子供たちの第一声がパパになるのを楽しみに、まいにち睡眠時間を削って世話をする事、一年半。

そろそろ愛紗と白蓮が三回目の安定期に差し掛かりそうなタイミングで、反公孫賛連合が組まれた訳だ。

どうやら卑劣にも誰かが幽州に間諜を送り、隠していた五児の性別をすっぱ抜きやがったみたいだ。

汚いなさすが忍者きたない。

これで疑惑の御遣いから確定の御遣いへと悲しくもランクアップした俺は、ご近所付き合いもなかった国々へ狙われる豪華報酬となったのだ。

ちなみにスパイの正体は割れている、あのドジっ子メイドだ。だって彼女がしばらく無断欠勤してこうなったら、俺でもわかる。

優秀だったから裏切られないように、三年経ったらセックスしよう。と、未来に棚上げした約束も結んだはずなのに、やはり幼馴染でもない緑はダメだな。

こうなると一日でも早く劉備に、はやくきて~はやくきて~と俺は泣き叫ぶしかないのだが、きょうきょ窮地に陥った幽州へ救いを差し伸べてくれる奴がいた。

董卓である。

 

「誰だよそいつ?」

 

「ご主人様、知らないの?」

 

まっったく身に覚えのない俺に、桃香が優しく教えてくれた。

まず初めて聞いたのだが、ちょうど桃香ら一回目の妊娠が発覚した時くらいに、俺のエセと皇帝が結婚したそうだ。

そうして国人総出で世継ぎを待ち望んでいたら、俺のファインプレーが飛び出したのである。

俺的にはオウンゴールだけどな。

でだ、エセはやっぱり偽物じゃない。みたいな疑念が日増しに膨れ上がって、不穏な空気にビビった朝廷が、皇帝の身辺を護衛するのに招集されたのが件の董卓となる。

しかし董卓はかなり野心が強かったみたいで、エセが皇帝を孕ませられないどころか、俺がさらに五人の男児を作ったの嗅ぎ付け。あろう事か皇帝を追い出し、あげくには占拠した首都の洛陽に重税を課し、左団扇で暮らしているらしい。

 

「って、いうのが噂だったんだけどね」

 

こっそり送られてきた董卓からの密書には、いよいよ身の危険を感じた皇帝ご一行が、ひとまず後方の長安へと避難したそうだが、なぜか自分が洛陽に圧政を敷いている悪評が流れて、涙目になっている模様。

だから俺に洛陽まで来てもらって、天の御遣いの名で皇帝と渡りをつけ、呪われた称号を消し去りたいと希望していた。

その交換条件として、洛陽に進路を変える反公孫賛連合の連中は、董卓が責任を持って追い返すと断言している。

困った俺にはまさに渡りに船。このまま董卓さん家に引っ越しするのもよさそうだと判断するが、桃香は微妙な反応だった。

 

「密書にはこう書かれているけど……どうしよっか、ご主人様?」

 

「行くの一択じゃないのか。俺が洛陽に向かえば、少なくとも幽州は安全だろ」

 

「ご主人様が連合の題目だからね。留守の間に息子を奪って人質にするとか、恥知らずな真似もしないはずだし……」

 

ああ、男が貴重だからあまり乱暴な手段は使えないのか。

 

「でもこの密書が本当なら、董卓さんの悪評って朝廷の人達が流していると思うよ」

 

「真っ黒だな」

 

ドロドロ過ぎて、鼻水が出そうになったわ。

 

「でないとご主人様を引っ張ろうとしないしね。たぶん董卓さんだけだと会ってもらえない感じなのかな」

 

「ええ……何でそんな事に」

 

「ご主人様の偽物の失敗をなくすのに。って気がする」

 

桃香の見解では、俺らが董卓の庇護下に入れば、朝廷としてはそこから色々と交渉がしやすいのだとか。

これが董卓でなく、反公孫賛連合が相手でも一緒で、あいつらが俺を手にしただけでは片手落ち。皇帝に天の御遣いと認められる事で、実質的な天下人になれるっぽい。

だから長安の壁になっている洛陽の董卓は絶対に潰すだろうし、そこからやっぱり朝廷は話を持ち掛ければいい。

どう転ぼうとも美味しいのだ。

そしてどちらも向こうが俺に望む内容は、きっと皇帝の新しい旦那さん。

はよ皇帝と子供を作れってか。

 

「政治の道具まっしぐらじゃん、俺。それは困る」

 

だって俺、言いなりになるしかないし。

そんな腹黒いところで、腹芸する度胸も技量もないわ。

もちろん今さら、バツイチの新しい奥さんも不要だ。

 

「それに董卓さんの密書が真実の証拠もないしね。これが嘘で、噂通りに暴君だったら大変だよ。こういうの、何だっけ。くそげーで当たってる?」

 

「合ってる」

 

「わーい、くそげー」

 

「楽しめる要素が一つもないんですけど」

 

まさにクソゲー。

むかし桃香から、俺が天の御遣いだとばれたらヤバいと話されたが、あれって脅しでもなくマジだったんだな。

 

「どうするんだよ、この四面楚歌」

 

しかもご丁寧な地雷付き。身動きのとりようがないし、クリアできるのか。

半分、諦めムードになってコントローラーを投げ出す俺に、もう一つのコントローラーを繋げた桃香が、協力プレイを申し出た。

 

「逆転する一手が私にあるんだけど、ご主人様。する?」

 

「あったのか。やるやる、やっちまえ桃香」

 

「じゃあこれから、私と反公孫賛連合の人達を蹴散らしに行こう」

 

「……はっ?」

 

そんなこんなで、数週間後。やってきました幽州の砦。

この時代だと関と呼ぶのだが、砦の方がまだ馴染みがあるので、俺はずっと砦って言ってる。

そしていよいよ反公孫賛連合の屑共と対峙したのだが、いるわいるわうじゃうじゃと。

その数、連合発表で十五万。

 

「我が幽州軍の総数は?」

 

「八万五千。無理してかき集めたよ」

 

「比率だいたい一対二か。籠城で勝てなくね?」

 

あれだろ。籠城って三倍の兵力がないと落とせないって有名じゃん。

そう思って提案した俺は、実に短慮だった。

 

「補給や援軍の当てがない籠城って、じり貧だよ。それにあっちはまだ余力を残しているし。減った分だけその内、補充されるんじゃないかな」

 

ボスが全快の回復魔法を唱えるとか、チートだろ。

 

「ずるくないか。それやられたら、どうやっても俺らに勝ち目ないって」

 

「だからこそ、ここで勝利したらご主人様の格が上がるね。天の御遣いはおちんちんだけでなく、戦上手ってみんなに褒めてもらえるよ」

 

「チンコだけの床上手でいいから、平和に家族と暮らしていたかった……」

 

でもここまで事態が煮詰まると、どうあがいても開戦は避けられまい。

なら一度、お互いの戦力を分析しよう。

幽州軍からの主だったメンツは俺と桃香のみ。

趙雲には身重(みおも)な愛紗と白蓮。そして九人の息子の護衛にと、万が一の保険で残して来た。

劉備の子供を救った趙雲ならば、必ずや任務を果たしてくれるだろう。

対する反公孫賛連合のDQNは、元凶である号令をかけた袁紹。

袁術と子飼いの孫策。

さらに曹操もいれば馬超に、他もろもろといた。

誰なんだよ、こいつら。

曹操はもちろん知っており、馬超も朧げに名前だけ聞いた事があるような。

袁紹と袁術は血の繋がりがあって名前が似ているので、孫策ってのは、孫権の親戚か何かでいいのか。

そんなレベルだ。

そうしてここでもハブられる劉備。お前、マジでどこにもいないよな。

早く登場して、俺を大徳してくれ。

 

「これほど戦力差で正面から攻めるならば、俺と桃香の力をパワーにして乗り切るしかない。桃香ならあいつらと、どうやって勝負する?」

 

「私。私なら突撃かな。ご主人様は?」

 

「斬首戦術」

 

「だったら、突撃して斬首だね」

 

「負けたな」

 

それやって勝ち切れるの、桶狭間の織田信長だけだから。

 

「だから、とっておきの秘策を使うよ。ご主人様、耳かして」

 

「おう……おう。おうっ!」

 

それで伝授された内容は、第六天の魔王もたまげる物であった。

 

「すげえよ桃香は」

 

「えへへ。そうかな」

 

「とでも、いうと思ったか!」

 

「うあうあ、あうわっ!」

 

俺は桃香の頭を鷲掴みにして、ぐわんぐわん揺さぶった。

バエルがあれば全てが成功すると信じた、アグニカ・カイエルを信仰する信者みたいな奇策を言い渡しよって。

やべえよ桃香は。

 

「気でもふれたか」

 

「ひどーい。私はまともだよ、ご主人様」

 

「まともなら、あんな事は口が裂けても言わない」

 

「そうかな、とても効果はあるはずだよ。一回だけしてみようよ。ね、ね、お願い」

 

「……しょうがないな」

 

まさか代案があるはずもなく、俺は桃香に押し切られる形で、アグニカ・カイエルごっこをやる羽目になった。

まぁ成功すれば儲けものだし、失敗してもまだ命は保証される。

確実に俺のプライドは殺されるが、可愛い息子達を思えば、こんくれぇなんてこたぁねぇ。家族を守んのは俺の仕事だ。

なので久しぶりにローブへと着替え、俺は原稿をチェックする。

そしてこれが最初で最後の戦場参戦になるよう祈り、俺は砦の屋上に出撃した。

 

「……人。えっ、あれってひょっとして……」

 

モブの声が騒がしい。

ポッとすっぽり全身をローブで覆った俺が姿を現せると、下にいる反公孫賛連合のカス共がざわついた。

俺は空気を目一杯すい込んで腹に溜めてから、ガバッとローブを脱ぎ去って叫んだ。

 

「聞けい、反公孫賛連合ども!!!」

 

「きゃああああ、男よ男。それも全裸。眼福だわぁああ!」

 

「ちょっとあんた、しゃがみなさいよ。見えないでしょ!」

 

「俺こそが貴様らの求めている、天の御遣いと称される男だ!!!」

 

「……あれが御遣い様……そのおちんちん……ありがたや、ありがたや」

 

一目で男と判別できるよう、ローブの下はマッパだった俺は、利き腕を隠しつつも、余すところなくフルチンで一世一代の大演説を行う。

 

「貴様らが口にする、不当な扱いを俺は公孫賛より受けてない。このように、不自由なく暮らしている。故にこの争いに大義はなく、早々に軍を引き下げるといい!!!」

 

「よかった。おちんちん奴隷にされる、可愛そうな天の御遣い様はいなかったんだね」

 

「わからないわよ。公孫賛が天の御遣い様を脅して、言わせているだけかも」

 

「そんな事より、天の御遣い様と早く性交したい」

 

まぁ、そうなるな。

信じようと信じまいと、ここはごめんなさいで終われないだろう。

ならばこそ、奴らにとって最大の急所をつく。

後ろ手に握っていた短剣をチンコに突きつけ、俺は連合を脅迫する。

 

「もしも引かぬのであれば、いいだろう。義のなき欲望のままに、幽州へと進撃するといい。しかしその時が最後。俺の第二の故郷である幽州に貴様らが害を成すというのであれば、俺はこのチンコを切り落とす!!!」

 

桃香の練った台本で、ハッタリはここまでだった。

だが俺は、レッドカーペットを歩くハリウッドスターも顔負けな主演男優。

アカデミー賞も真っ青なアドリブで、チンコの根元を軽く刺した。

こう、サクッとな。

 

「ぎょえええ、御遣い様の御遣いちゃんがあああああああ!」

 

なんだよ、結構いてえじゃねぇか。

やっぱり自重すればよかった。

 

「ぐう、ぐすっ……しかし、幽州へと攻め込まないのであれば、チンコは無事だ。さらに俺の願いを聞き届けてくれる者がいれば、率先してこのチンコを味わう権利を与えよう!!!」

 

本気で泣いてふさぎ込みたいたいけど、この作戦はここからが肝だ。

俺は血が滴るチンコの痛みを振り切って、八つ当たり気味に反公孫賛連合のボケ共を扇動する。

何もかもこうなったのは、袁紹が悪い。ついでに袁術も。

 

「この度の不当な幽州への侵略は、元をただせば己の私欲を満たさんと画策した、袁紹に責がある。同じ血筋の袁術も同罪だ。諸君らの胸に正しき心が宿るというのであれば、俺にその心意気を示して見せよ!!!」

 

どうしてこの二人を名指しにしたのかと言えば、勢力がどちらも大きいからだ。

ここで潰してしまえば、こんなふざけた連合は二度と組めなくなる確率は高い。

と、カンペに書いてあった。

いよいよ正念場である。

 

「さあ、選ぶがいい。チンコを切断し、血まみれになって泣きわめく俺と無理やり口づけをするのか。あるいはチンコを勃起させ、俺に愛を囁かれながら口づけをされるのか。決めるのは諸君らだ!!!」

 

途中から静まり返って、俺の演説に耳を傾けていた反公孫賛連合のバカ共は、この特典で明らかに戸惑っていた。

 

「こっ、これ。どうすればいいの。教えて痴女の人!」

 

「そんなのわかるはずないじゃない!」

 

「どうしよう、二粒とも美味しそう。じゅるり」

 

こいこいこいこい、こっちに来い。

やべー奴が混ざっているけど、ひとまずは俺に着け。

後はその後の俺が何とかするはずだから。

どちらに転んでもおかしくない戦況を、俺は自分の絶対有利を念じて見守った。

そうしてざわめきが収まらぬ中で、運命を決定づけたょぅι゛ょの声が響き渡る。

 

「りっ、鈴々は袁紹と袁術をやっつけて、お兄ちゃんとちゅっちゅするのだ!!」

 

そんな気合いのこもった性癖を暴露し、クルリと旗が翻る。

するとどうだろう。

パタパタパタパタっと、次々に袁紹と袁術に手の平を返す軍が続々と出てくる。

これに最も慌てふためいたのは、とうぜん諸悪の根源である袁紹その本人だった。

 

「ちょっ、ちょっと。これは一体、どうなっていますの!」

 

「あれっ。ひょっとしてここであたいが姫を倒したら、一番の手柄が立てられる?」

 

「さすが文ちゃん。あったまいい!」

 

「へへへ、そうかな」

 

「きぃいいい、何をお馬鹿な事を言ってますの。いいからあのお馬鹿さんらを、華麗に倒してしまいなさい!」

 

「いや、姫。あれはさすがに数が多いって。むり」

 

何を言っているのかわからないけど、混乱のほどは眺めているだけでも伝わった。

とばっちりな袁術も、同様である。

 

「ひっ、ひぃいいい。な、七乃。どうすればいいのじゃ!」

 

「大丈夫ですよ、お嬢様。孫策さん達がいるじゃないですか」

 

「お、おお。そうじゃ。ここは孫策らに任せて、妾は逃げるのじゃ!」

 

「さすがお嬢様。よっ、鬼、悪魔、ちひろ」

 

「うむ、もっと褒めてたも~」

 

「それで私達が素直に肉壁へなると思っているのかしら。相変わらず、めでたい頭をしてるわね」

 

「なっ、お嬢様に剣を。まさか孫策さん、私達に刃向かうつもりですか!」

 

「元よりその予定だ、少し早まったがな。どうせ最後になるだろうから言っておこう。貴様らの趣味は、吐き気を催すほど最低だった」

 

「あんたたちねぇ、どうして男にはつみつをかけるのよ。男は酒をぶっかけて犯すものでしょ!」

 

袁術のところ、もうすでに内輪で揉めてない?

や、俺にとってはそっちの方が都合がいいんだけどさ。

そうこうしている間に、袁紹と袁術いがいの軍が、俺側に回る。

形成は完全に覆ったのだ。

これって、反袁紹袁術連合にでもなるのだろうか。それとも真・幽州連合。

語感がよければどっちでもいいか。

とにかく俺は、仮初の大将として号令をかけた。

 

「全軍、突撃。袁紹と袁術の首を上げよ!!!」

 

雄々しい掛け声で走り出した真・幽州連合は袁紹と袁術の軍に殺到する。

その先に俺がいると信じて。

 

「だからよ、止まるんじゃねぇぞ……!」

 

そうやってフルチンのままポーズを決めていると、控えていた桃香が駆け寄ってローブを被せてくれた。

 

「お疲れ様、ご主人様。成功したね」

 

「し過ぎというか。終わってから、酷いぞこれ」

 

大盤振る舞いで白紙の手形をばらまいたせいで、俺のチンコが赤玉かくごの自己破産しそうだ。

 

「平気へいき。袁紹さんも袁術さんも、自国まで敗走して、寸前までは降伏を突っぱねるだろうし、時間は稼げるよ」

 

「ここで打ち取られるんじゃないのか。さっきそんな勢いだっただろ」

 

「二人とも名家だからね。男の人もいっぱいいるし、下手に殺して後を追われるのはみんな嫌だと思うよ。たぶん、限界まで締め上げてから絞ろうとするんじゃないかな。きっと分配で荒れるね~」

 

「そ、そうか」

 

「でね、その間に私達が董卓さんと同盟を組めば、戦力的に誰も逆らえなくなるよ。ご主人様が矢面に出たらどうなのか、みんな身に染みたはずだし。楽しみだね、董卓さんや朝廷とのお話合い」

 

「……えぐくない?」

 

「ひひひひひひ」

 

家の嫁さんが一番腹黒だった件について。

ううん、だから袁紹と袁術を排除しようとしたんだな。

二大勢力としての軍備があり、それを支える財源と潤った人材が詰まっている。

完璧に宝箱だな、鍵が開いたらもぎ取り放題だ。

 

「なら別に、俺からの報酬は渡さなくても済むのか」

 

「ううん。それは絶対に必要」

 

「どうしてだよ。袁紹と袁術から男も仕入れるのなら、俺はもういらないだろう」

 

「ご主人様。それはそれ、これはこれだよ」

 

やっぱりチンコにがめついな、こっちの女は。

 

「それに私の夢の為にも、ご主人様には他国の人と、ちょっとくらいは交わって欲しいかな」

 

「夢。そんなのあったのかよ?」

 

「うん。みんな処女喪失が出来る、優しい世の中を作りたかったんだ」

 

「ムリだろ」

 

女の絶対数に対して、男の割合が少なすぎる。

ついでにチンコも貧弱だし、まずお話にならない。

 

「何年……否、何十年かけても厳しいって」

 

「……そうだね。だからこの夢は、子供達に託そうと思う」

 

本気でその気概があるのか。

桃香は両腕を広げ、壮大な計画を自信満々に語った。

 

「私達とご主人様との間に出来た子供は、みんな男の子。それならご主人様の息子と結ばれた女性の孫は。これも全員、男の子だったら――そうしていずれ男性の数が女性より多くなれば、処女の人はいなくなるよね」

 

「ぶっ飛んだ思考してんな……」

 

しかし、ただの夢物語として流すには、桃香の言葉は俺に重かった。

これまでの出産経歴から、マジでありえそうなのが。や、でもさすがにそこまで……うーん。

三国志で生き抜く為の、必須のスキルが皆無な俺の、たった一つの才能が男児を孕ませるものだとすれば、あまりにも悲しい。

だってそんな才能だったら、いずれ世界を滅ぼすし。

 

「仮に桃香の夢が叶ったとしても、ずっと先の時代はどうする。今度は男が溢れて、女が足りなくなるぞ」

 

誰にもわかる算数に、桃香は天文学で対抗する。

 

「大丈夫だよ、ご主人様」

 

そう言ってニコッと俺に笑いかけながら、桃香は空を指さした。

 

「その時はまた、天の御遣い様が降ってきてくれるから」

 

「他人まかせかよ」

 

「てへっ」

 

ベロを出しながら、コツンと自分の頭部を桃香は叩く。

俺も裏拳で軽く額を小突いてやってから、その手を桃香へ差し出した。

 

「バカやってないで、そろそろ帰ろうぜ。子供達のおしめを替えなきゃならないし」

 

ついでにここ、わーわーうるさくてバイオレンスだし。ぶっちゃけ長居したくないんだよ。

正直、ちびりそう。

 

「ご主人様、本当に育児が好きだよね。私達に任せて、何日か休んでもいいんだよ」

 

「お断りだ」

 

お前らに任せて、取り返しのつかないド助に息子らが成長したらどうするんだ。

絶対に俺の息子達は、真面目な好青年に育ててみせる。

その教育方針を胸に、俺ら夫婦が手を繋いでそろって歩くと、チラチラと桃香がローブの下にある俺の股間に目をやった。

 

「ご主人様がそれでいいなら、私はもう言わないけど……ところでおちんちんに異常はない。演説中に気にしていたみたいだけど」

 

「至って正常だ」

 

こっそりまだ、痛みで疼いたりするのだが、それを口にすれば最後。

チンコに過保護な手当てをされるのが丸わかりなので、俺は強がって何でもない風を装う。

けどこの判断が、完全に裏目った。

翌日になり。発熱でダウンした俺は、放置すべきではなかったと後悔する。

風邪の線はなさそうなので、たぶん刃物に付着していた細菌で、感染症でも引き起こしたのだろう。

そうだよな。このご時世、品質管理はおろか、衛生面もあんまり重要視してないよな。

だから再び健康を取り戻し、予定よりも遅れて幽州へと帰還した俺は、真っ先に刀狩りを開始した。

好奇心から子供達が触れたら、本気で危ないからだ。

だが誘拐を目論む気合いの入った犯罪者から子供達を守る為にも、護衛にはある程度の武器は必要とする白蓮と意見が対立し、俺らは家族会議で熱い議論をぶつける。

それからしばらくは互いの妥協点を探り、ようやくすり合わせから妥当な線引きが見つかった頃には、まもなく俺が洛陽へと旅立つ日時が差し迫っていた。

桃香が新しい仲間として、三人のロリを連れてきたのも、ちょうどそんな時期だった。

元気なロリ。

はわわなロリ。

あわわなロリ。

一気に家の女性陣によるスリーサイズが、一般的な平均値へされてしまいそうな幼さ具合であるが、何気なくそのロリロリロリズの名前を尋ねて俺は仰天した。

 

「張飛、孔明、ホウ統……」

 

さらに俺の驚きは止まらない。加速する。

この流れから導き出される答えに従い、まさかと思って桃香らにも確認したら、そのまさか。

嘘だろう。と信じられない俺は、もういちど指差し確認を行った。

 

「劉備?」

 

「そうだよ」

 

「関羽(せきは)?」

 

「関羽(かんう)です」

 

「私は趙雲です」

 

「知ってる」

 

「ご主人ちゃま。私は、私は?」

 

「悪いな。公孫賛は本気でわからない」

 

「何で!」

 

それとすまない、ホウ統も実はわかってなかったんだ。見栄を張った。

てか、真名って趙雲の設定とかではなく、風習としてあったのかよ。だったら学校の授業で教えてくれ。

おかげで桃香と愛紗は劉備と関羽じゃなくて、俺の中で完全に桃香と愛紗で独立されてしまったぞ。

趙雲?

あいつは自分を趙雲だと思い込んでいる、趙雲だから。

なので張飛と孔明には、その愚を犯してはならない。

君らそんななりでも、張飛と孔明なんだろ。なら張飛さんに孔明さんだよ。

ああ、ホウ統だけはこっちに来なさい。お菓子を上げよう。

愛でるロリはホウ統だけと決めた俺は、彼女に子供達の遊び相手になって欲しいと頼み込んでから、桃香と二人で董卓と同盟を結びに洛陽を目指した。

そうして新天地で、俺は新たな騒動にまき込まれるのだけど、それはまた別の話。

さらに数十年後。俺は増えすぎた嫁と、その倍以上の息子と男の孫に見守られ、天に召すのは、もっと別の話。

ただ死ぬ前に、これだけは俺も言っておきたい。

 

「三国志、いつやるの?」

 

三国志の世界に住んでいるはずなのに、俺の三国志は、一向に始まらないんですけど。

赤壁の生ライブが拝めないのは、地味にショックだった。

 

 

 

 







次回。感動しない、真・最終回に続きます




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真・最終話

謎な空間にいた。

どこもかしこも真っ暗で、宇宙のごとく何もないのだが、地に足のついた感触はしっかりとあり、視界もハッキリとしてる。

俺の輪郭を自分で視認できるのだ。

そんな静かで不気味さのある場所で、俺が手持ち無沙汰でぼんやり佇んでいると、とうとつに後ろから声をかけられた。

 

「お久しぶりねん」

 

この、特徴的な無駄にいい声は。

俺は臨戦態勢を取ってガバッと反応すると、そこには案の定。予想を結びつける形で出現した筋肉ダルマがいた。

 

「きっ――」

 

「き?」

 

「金玉クラッシャアァアアア!」

 

「ぶるぁあああああああああ!」

 

ここで会ったら百年目。

のっけから全力で筋肉ダルマの股間を蹴り上げた俺は、奴を悶絶させる。

急所を押さえて内股になる筋肉ダルマは、半泣きになって俺を非難した。

 

「ひどい、ひどいわっ。乙女のハートを足蹴にする何て」

 

「お前の心臓、そこかよ!」

 

毛が生えて図太そうなだけではなく、欲望まみれで卑しい心だ。

去勢した方が、世の為になるのでは。

 

「てか、今更なにしに出やがった。俺はこれから帰って、子供達の世話をしなくちゃいけないんだよ。お前に構っている暇は、一秒たりともないんだ。わかっているのか?」

 

ああん。と睨み付けると、もう痛みから回復したのか。

姿勢を正した筋肉ダルマは、悠然と俺を見下ろして語る。

 

「残念だけど、そのお話の続きはないわよん。貴方のいた外史は閉じてしまったから」

 

「どういう意味だ?」

 

「映画と同じ。敵と戦って倒した後の人生まで、詳細に描かれない。反公孫賛連合に勝った時点で、貴方の役目は終わったの。それでハッピーエンド。帰ってからのエピローグは残ってないわよ」

 

「勝手に人様を見世物にして、完結させるなよ。こちとら、遊び感覚でゲームソフトをやってるんじゃないんだぞ」

 

「そう言われてもね、私達も困ってはいるのよん。三国志の武将は女だったのかもしれない。元はその妄想で外史は作られたのだけど、近年は様々なジャンルが乱立して、色物な外史が増えて大変なの」

 

「俺が知るか」

 

俺達にお前が振り回されたからって、お前が俺を振り回していい理由にはならないだろうが。

だってのにこの筋肉ダルマは、片足を上げてキモイポージングを取りながら、俺を殺しにかかった。

 

「だから、貴方には次の外史へ行って欲しいの。お・ね・が・い」

 

「嫌に決まっているだろ!」

 

むしろ俺がお願いして、この筋肉ダルマに死んでもらいたい。

出来うる限り悲惨で、絶望の淵でもがき苦しむ感じがお勧めだ。

 

「あらん、残念ね。もしやってくれるのだったら、貴方を元の外史に戻してあげようと思っていたのだけれど」

 

「おい、何をちんたらやっているんだ。いいからその外史ってとこへ、早く俺を連れていけ」

 

「いやん、せっかちな男は嫌われるわよん」

 

「お前が言い出したんだろうが」

 

このハゲー!

 

「で、俺はちゃんと家に帰れるんだろうな。行った後でやっぱり無理でした。ってなると、片玉くらいは覚悟をしておけよ」

 

「その辺りは問題ないはずよん。少しだけ、貴方のいた外史とは違っているかもしれないけどね」

 

「……内容にもよるな。どれくらい変化がありそう何だ?」

 

「並行世界は知っているかしら?」

 

「多少は」

 

天気予報の降水確率を見て、傘を持って行ったり行かなかったり。いつもの帰り道で、違う道を通ったり。

そのちょっとした差異の積み重ねで構成される、ある種もしもの世界だ。

 

「貴方が貞操逆転の外史に降り立ってから、その平行世界が幾つも生まれた。例えばそうね……最初の賊に犯されて自殺した貴方もいれば、賊から逃げ一人で迷子になりのたれ死んだ貴方もいるし、逃げた先でまた別の賊に捕まって、犯され自殺をした貴方もいたわ」

 

「ろくな俺がいないな」

 

よかった俺は俺で。

しかし桃香と愛紗に拾われていなければ、もれなく悲惨な運命になるのな、俺。

その辺りは雑魚だし、しゃーない。

 

「それだけ同じ外史があるのだから、貴方と似たような行いをして、未だに続いている外史もあるの」

 

「そこに俺を送ると。ドッペルゲンガー現象が起こったりしないだろうな?」

 

同じ自分に会えば死ぬという、あれである。

 

「向こうの貴方と、ここにいる貴方を統合する形にするから、大丈夫よん。最初は記憶が混濁するかもしれないけど、同じ人間だもの。しばらくしてからは、どちらの記憶もある貴方になるわ」

 

そこはちょっと不安が残るな。

統合されて新人格になるならまだしも、二つの俺が混ざって主導権の奪い合いにでもならなければいいのだが。

まぁ、そうなったら俺は大人しく身を引いて、消えるか。

もう一度、家族と再会して暮らしたいけど、そこにいた俺を蹴落とすのはさすがに悪い。

とにかく今は、このチャンスに賭ける事だけを考える。

 

「概要はわかった。ただ、俺が弱いのはお前も承知しているはずだ。次の外史に行くのなら、桃香らに護衛をしてもらいたい」

 

なんせ、かなりの俺が死んでいるみたいだからな。

無駄死にはご免だ。さらに自殺はもっと勘弁。

俺がそう口にするのは読んでいたのか。筋肉ダルマの癖に、妙な寛容さを奴は見せた。

 

「安心してちょうだい。すでにこちらの外史の娘を待機させているわ」

 

「そうか」

 

となると、桃香・愛紗・白蓮・趙雲の四人。誰ともはぐれず、一緒にいられそうだ。

うん、最近はみんな忙しかったからな。遅い新婚旅行と思えば、ちょっとは楽しみも出るというものだ。

 

「オッケー。で、次の外史に行くにはどうすればいいんだ?」

 

「そのまま後ろを見れば、わかるわよん」

 

「あん?」

 

筋肉ダルマの言葉につられて振り返ると、遠くから白い光がこちらへと迫っていた。

その光は新しい世界を構築するかのごとく、黒い風景をガラスの破片のように砕き、間もなく俺を飲み込もうとしていた。

タイムリミットが短いな、手順くらいは踏ませてもらいたかったわ。

あのスピードだと、もう残り時間が僅かもないぞ。

 

「おい」

 

なので俺は、最後に筋肉ダルマへ一声かける。

当然、別れを惜しんでいるのではない。

俺とこいつは友達どころか、知人や恩人なんて生易しいカテゴリーには属さない。

せいぜい、利用する者と、される者の立場だ。

だから俺が筋肉ダルマに宛てる言葉は、どこまでも自分の為のものであった。

 

「聞き忘れていたけど、今度はどんな外史に飛ばされるんだ?」

 

また貞操がおかしな世界じゃないだろうな。

そう思っていたら、予想にかすりもしない正解がぶつけられた。

 

「美醜逆転の世界」

 

「……はっ?」

 

理解が及ばず、聞き返そうとする俺であったが、そこで眩い光に包まれた。

思わず腕で顔を庇い目を閉じるが、それでもまぶたの裏に強い光源が入り込む。

ちょっ、まぶしいって。ひかりつよっ。

このまま網膜が焼き切れそうで焦るが、徐々にその明るさも落ち着つく。

そうして俺が目を開けられるようになる頃には、辺り一面に平地が広がっていた。

 

「……まーたここからか」

 

一回目も、こんな景色からスタートさせられた記憶がある。

しかし今回は、強くてニューゲーム。

俺はさっそくクリア特典の嫁達を探すが、おかしい。どこにもいやしない。

桃香らはどこだ。

何かドクロの髪留めをして、大鎌を担いだゴスロリ少女がいるけど、あいつ一人だけが俺の仲間とか言わないよな。

俺と同じものを見たり、聞いたりしてないこいつは、真の仲間に足り得ないぞ。それはわかっているんだろうな、筋肉ダルマ。

 

「さっきからおろおろして、どうしたのよ。気分でも悪いのかしら?」

 

「……質問するが、お前が俺の同行者か?」

 

「そうよ。こちらに来る前に、説明は受けなかったの?」

 

わかってなかったよ、あのハゲ!

 

「誰がとか、聞いてなかった……」

 

「呆れた。しっかりしなさいよ、貂蝉」

 

「その、貂蝉ってのは誰だ?」

 

「そこから?」

 

大鎌を持った少女は、ペチッと自分の額を叩いて眉間を揉んだ。

 

「筋骨隆々で下着だけをはいた、嬉しくない男……男? とにかくそれが貂蝉よ」

 

「あいつにそんな名前があったのか」

 

筋肉ダルマじゃなかったんだな。

でもあの筋肉ダルマに貂蝉なんて小難しい字は似合わないので、これからも俺は筋肉ダルマを筋肉ダルマと呼ぶ事にした。

まぁ、出来ればもう会いたくもないのだが。

 

「で、お前は何者なんだ?」

 

「あらっ、私を知らないのかしら。これでもそれなりには、名が知れ渡っていたと自負しているのだけれど」

 

名前だけ伝わっていても、ネットやテレビのない時代で、当人だけ見て有名人と一致させるのは難しいだろう。

なのにその自覚がない少女は、勘違いをした芸能人のごとく上から目線で自己解決する。

 

「ああ、貴方。幽州なんて田舎に住んでいたのだったわね。なら私を知らなくても、おかしくはないのかしら」

 

お前が例え洛陽にいたとしても、俺からすればド田舎だぞ。

現代日本人の俺には、三国志は発展途上国未満だ。

それでも自分が都会っ子だと信じ疑わない悲しい少女は、俺に左手を突き出して名乗りを挙げた。

 

「我が名は曹孟徳。人は私を――」

 

「生まれる前から、ずっとファンでした!」

 

曹操、曹操じゃないか!

俺は曹操の手を取り、ブンブンと上下に振った。

マジかこれ、もうゲームクリアでいいんじゃない。

でかした、筋肉ダルマさん。

ひゃっほーい。と喜びまくる俺に、曹操は怪訝な表情をする。

 

「ふぁんってなに?」

 

「あー。まぁ、好感の持てる人。みたいな意味でいいのか?」

 

好きじゃないと、応援しようと思わないだろうし。

 

「なるほど。貴方は私に好意があると」

 

いうや否や。大鎌を地面に刺した曹操は、俺が握っていた手をそのまま自分の方へと引き寄せた。

 

「それなら話は早いわね。いいわ、一発やりましょう」

 

そうして血走った眼をして、放たれる失言の威力たるや。

俺の偶像な曹操を、一発で粉砕するのには十分であった。

 

「幻滅しました。曹操のファンやめます」

 

「残念だけれど、私のふぁんは、私の許可なくやめられないわ」

 

「お前が俺をファン認定するのかよ」

 

ファンの定義が壊れる。

 

「いいからやらせないよ。貴方が御遣いだとわかってから、私はずっと目を付けていたのよ」

 

最終的に巡り巡って、お前が俺のファンになってないか。

しかも過激で面倒くさいぞ、このファン。

だいたい俺は天の御遣いなだけで、キュートでクールなパッションのアイドル性を、売りにはしてないんだよ。

だからファンサービスもなしだ。

 

「落ち着け。優秀な曹操なら、自国にたんまり男がいるはずだろ。なのにわざわざ俺に盛るな」

 

「いないわよ。男なんて、一人も」

 

「本気で言ってる?」

 

「嘘をついても仕方がないでしょ。女としか経験がないわよ、私は」

 

「ええ……」

 

マジかこいつ、レズか。

 

「ええ。私が女と寝ると、ほとんどの人間は、貴方のような視線を向けてきたわ。でも自慰では満たされなかったの。それなら女を抱いて気持ちよくなるのの、何がいけないのかしら」

 

「開き直るなよ」

 

「そう割り切っていたのだけれどね。ふふっ、どうしてなのかしら。私が抱いた娘は、やがて私を敬愛するようになったの。そして皆、口をそろえてこういうようになったわ。もう、男はいりませんよね、って……なぜ、こんな事に……」

 

「後悔するなよ」

 

いきなりそんな、自虐をされても困る。

子供のあやし方ならともかく、傷心したレズの慰め方とか、俺の経験にないぞ。

なのに悲劇のヒロインぶった曹操は、自分語りに熱が入ったのか。

赤裸々に、自身の過去を暴露した。

 

「それでも私は諦めなかった。この曹孟徳が、処女で終わるのはありえない。自国の発展と戦場での活躍で名声を高めた私は、少しずつ配下を増やし、男に否定的な空気から、男に肯定的な場へと整えようとしたわ」

 

やる事が、みみっちいな。

 

「でもね……女を抱くと知れ渡ってしまった私の元には、その趣向を持つ者ばかりが集まってしまったわ。ねえ、どうして!」

 

「答えが出てるだろ」

 

自業自得だ、バカ。

 

「男が素直に欲しいって、もう言えばよかったのに」

 

「言えるはずがないでしょ。私が認めた娘は皆、基本的に能力が高く男嫌いなの。ここで無理に男を迎え入れて、亀裂が走ったら政がなりたたなくなるわよ!」

 

「もう完全に、男子禁制な女の花園と化してるな」

 

いい匂いがしそうだけど、近づきたくはない。

 

「終わったな」

 

「いいえ、まだよ。天は私を見放さなかったわ。御遣いの貴方がようやく見つかったから。私はこれを最大の好機と捉えたわ。幾ら男を嫌っていても、天の御遣いである貴方なら、皆もそう無下にはしないと考えたのよ」

 

「それで曹操も反公孫賛連合に加わったのか」

 

てか、そんな事情があったのなら、どうにか曹操に連絡を取って、同盟を結んでおくべきだった。

でも、子育てに忙しかったからな。初めてのベイビーで、かなり切羽詰まっていたし。

当時をそう顧みる俺であったが、曹操の爆弾発言に、しんそこ育児に忙殺されてよかったと胸をなでおろした。

こいつ、俺が制御できるタマじゃないわ。

 

「万が一にでも貴方に何かがあれば、私の名誉も地に落ちるでしょうから、気を回したけれどね。大変だったのよ、袁紹を焚きつけて連合を結成させるの」

 

「黒幕はお前だったのかよ!」

 

「何を言っているのかしら。総大将は袁紹だったでしょ?」

 

こいつ、しれっと惚けやがって。

しかし得意な顔もつかの間。曹操はすぐにどんよりと表情を曇らせた。

 

「それでも勝てなかったのだけれどね……あんなの卑怯よ。全裸の男にお願いされて、聞かない女はいないわよ。ならばせめて、私が一番の手柄を上げ貴方を頂こうとしたのに、あそこで寸止めって……」

 

「ちょっとくらいは不憫だと思う」

 

でも、ちょっとだけだ。

俺の家族を危険にさらした罪は重い。

 

「ふふっ、貂蝉もそうだったのかしら。私を可哀想な女扱いして、こちらへ誘ったわ。同情なんて、私が最も忌避すべきものだけれど……貴方もそうであるのなら、抱いてくれてもいいのよ?」

 

「歓迎しているじゃないか」

 

何なんだ、こいつは一体。

 

「やる以前の問題に、まず改心が先だろ。自分だけの為に、幽州を襲いやがって」

 

「しょうがなかったのよ。こうでもしないと、私ずっと処女だったし。もう女の膣に手を入れて、膜を破る生活は嫌だったの。私も男に膜を破られたかったの!」

 

そうわめいて、わんわんと曹操は涙を流した。

大の曹操が泣くなよ。

すっかり子供達の相手で、あやすのが板についた俺は、しょうがなく曹操を抱いて頭をなでてやる。

 

「ごめんなさいは?」

 

「ごめんなさい。もうしないから、許して!」

 

「……今回だけだからな。二度とないぞ」

 

まぁ、幸いにも被害はゼロだったので、恨みも軽微だ。

目を赤くはらしながら、曹操は俺に問いかける。

 

「私……許された?」

 

「許された」

 

「あ、ありがとう……ぐすぐす」

 

ポフッと胸板に顔を埋める曹操は、しばらくぐずるかと思いきや、不意打ちで俺の足をかけて地面に倒した。

 

「ぃって」

 

そのまま俺に馬乗りとなり、鳴き顔を嬉々として晴らした曹操が、服に手をかけてくる。

 

「女の涙にほだされる何て、可愛いところもあるじゃない」

 

「おまっ――、騙しやがったな」

 

「いいえ。私が泣いて、貴方は慰めた。それで私が発情しただけだから、これは自然な性交の流れよ」

 

「不自然だらけだ。お前もう、捕まれよ」

 

「こんな荒野の真ん中で、誰が私を束縛するというのかしら」

 

「あっちにいるぞ」

 

「うそっ!」

 

目には目を、嘘には嘘を。

適当に指をさして曹操をどかした俺は、乱れた服装を正し、土ぼこりを払って立ち上がる。

さて、ここからどうするかな。

逃げたいけど逃げた後、一人で生きられる自信のない俺は、曹操と離れる訳にはいかないのだが、こいつはこいつで危険だ。

また、桃香と愛紗が来てくれないかな。

そう願っていたらこちらへ向け、遠くの方から二頭の馬が走っている光景が見えた。

マジで誰かいたのかよ。

桃香と愛紗は徒歩だったので、これは新パターンだ。

 

「私の情事を邪魔する不届き者は――」

 

そんな敵味方の判別がつかないどこぞの馬の骨に、曹操は大鎌で迎え撃とうとした。

 

「私に斬られて死になさい!」

 

くの字に刺さった柄に手をやり、レバーのように強く押し引く。

それで下がった大鎌が地面に激突する前に、足を差し込んだ曹操が、リフティングのごとく蹴り飛ばす。

そしておっかなく空中を旋回する大鎌へ、ビビッて下がる俺とは逆に、自ら腕を伸ばして柄を掴み取った曹操は、ビュンッ。と風切り音を鳴らし大げさに構えた。

 

「……格好良かったけど、今のいる?」

 

「いるわね。こうしないと、戦う気になれないの」

 

スポーツ選手のルーチンみないなものか。

かの有名な野球選手は打席に入って、バックスクリーンのポールかピッチャーへバットを合わせるが、その直前までは素振りや屈伸運動で体をほぐしている。

そうして勝負時に抜群のパフォーマンスを行えるようにしているのだが、曹操の場合は今の厨二っぽい動きがそれとなるのだろう。

趙雲みたいなにわかじゃなくて、ガチだな曹操。

もっとも、歴史に名を残す英雄というのは、往々にそういう面があるのかもしれない。

これであの馬に乗っている奴らが、ただの賊なら即死だな。と、楽観視して俺は眺めるのだ、ふと大変な事に気が付いた。

そう言えば曹操って、強いのか?

赤壁での負けがなければ、たぶん魏は三国を統一していたと思う。

しかし、その国力的な物と個人の資質はまた別である。

戦国時代の徳川家康は、武田に追い詰められてミソを漏らした何て話もあるし、曹操が弱くても不思議ではないのだ。

あれ、これって場合によってはヤバくない。

仮に馬上にいるのが賊として、エンカウントでゲマみたいなのが現れたら殺されてしまう。

だから、ざーこ。ざーこ。と、相手があばれうしどりラインくらいで留まるように乱数へ祈るが、無情にも奴らはジャミとゴンズだった。

 

「……駄目ね。あの二人と戦えば、私でも勝てないわ」

 

困った風に構えを解いた曹操がぼやく。

ぬわーーっ!

 

「あれだけ見得を切って、それはないだろ」

 

「一対一なら負けないわよ。けれど、貴方を守りながら二人同時は厳しいわ」

 

「じゃあ、どうするんだよ?」

 

「戦うだけが能ではなくて。人ならば、話し合って矛を収める事もできるでしょ」

 

切り替えが早い。

もっと俺にも着いて行けるスピードに抑えてくれ。

だってのに、曹操はガンガンと容赦なく俺を置いてけぼりにした。

 

「ひとまず貴方、私と駆け落ちした伴侶になりなさい」

 

「凄まじく飛躍したな。何が何やら……」

 

「いい、ここでは私達の身元を証明する人も物もないの。それなら駆け落ちした夫婦にしておけば、その辺りはどうとでも誤魔化せるわ」

 

「なるほど」

 

「納得したのなら、これから私の事は華琳と呼びなさい」

 

また、脈絡のない偽名だな。

ただ、仮面夫婦を演じるのなら、それなりの心構えが必要になる。

俺は了承の返事と共に、一つ頼みごとをした。

 

「はいよ、華琳。それなら俺は、ハニーとでも呼んでくれ」

 

なぜハニーをチョイスしたのかと言えば、呼ばれる度に華琳とのやり取りを演技だと忘れずにいられるからだ。

それでいて、俺が嫁であれば絶対に口にさせないであろう呼び名がこれだ。

ご主人様も大概だけど、あれを使うのはさすがにな。

そんな俺の心をどこまでくみ取ったのかは知れないが、華琳は腕を絡めてウインクする。

 

「よろしくね、はにー」

 

パーフェクトだ、華琳。

だけどその、突起した乳首は隠せ。

 

「貴様ら、ここで何をしている?」

 

こうして仮初の夫婦になった俺達の前に、馬に跨った奴らが立ちふさがった。

褐色肌の二人だけど、ここは本当に三国志の世界でいいのか?

しかも一人は下乳どころかへそまでパックリと服が開いているし、もう一人はパンツが丸出しだ。

痴女じゃん。

その露出狂にも、突起乳首は一歩も引かなかった。組んだ腕をこれ見よがしにアピールする。

 

「わからないのかしら。夫婦の逢引をしていたのよ」

 

「その割には、物騒な獲物を持ち歩いているようだが。それを一度、私達に向けようとしていたな。遠目にも映ったぞ」

 

「ごめんなさいね。駆け落ちしたばかりで、少し神経質になっていたの」

 

「どうだか。その話が本当だったとしてもだ……」

 

鋭い目つきで華琳を追及していたパンツ女は、そこでギロリと俺を睨んだ。

 

「貴様、どうして妻に任せて前に出ない。女に守ってもらうのが、貴様の仕事なのか?」

 

「あら、男を守るのは女の仕事ではなくて?」

 

「ふざけるのもいい加減にしろ。そのように臆病な夫の話など、聞いた事がない」

 

しまった。

そう言えばここ、貞操逆転じゃなくて、美醜が逆転しているんだったか。

となると、男女関係はあんがい普通なのか。

やべっ、どうしよう。

焦って俺は言い訳を探そうとするが、その前に華琳がとんでもない言葉を放った。

 

「ふーん、ここではそうなの。実は私達、天から駆け落ちしたから、あまりこちらの常識がわかってないのよ」

 

「えええっ、天の御遣い――って、きゃわっ!」

 

馬に乗っているのが頭から抜け落ちたのか。

下乳女は身を乗り出し、前に手をつこうして失敗。そのままグラグラとバランスが取れず、尻から落馬した。

 

「いたぃ……ううう」

 

「れ、蓮華様。大丈夫ですか!」

 

「え、ええ。問題はないわ、思春。つい手綱を離しちゃって」

 

パンツ女が馬から降りて下乳女へ駆け寄る隙に、俺はぼそぼそと華琳を問い詰めた。

 

「おい、天の御遣いって……ばらしてもいいのか?」

 

「向こうで伝わっていたもの。どうせ、こちらでも噂になっているわよ。だったら早い者勝ちでしょ。また帝に先を越されると効力がなくなるし、はにーは本物。問題はないわ」

 

「そういうものなのか。けど、俺らが御遣いを名乗るのなら、夫婦の役はいらなくないか?」

 

「こちらではたった二人っきりの女と男が、結ばれて夫婦になる。素敵だと思わない?」

 

「お前……」

 

夢見る乙女みたいな感情を、女のしたたかさでコーティングするなよ。

完全に俺、手のひらで転がされているじゃん。

今更あの二人に撤回しようとしても、余計に怪しまれるだけだろうし、はめられた。

性欲は丸出しの癖に、頭でアプローチをかけてくる分、桃香らよりもやりづらいわ。

何だろう。結婚して子供もたくさんいるのに、気が付けば華琳が内縁の妻ぐらいになってそうで、恐ろしい。

どうするんだよ、こいつ。

と内心で冷や汗をかいていたら、尻をさする下乳女が俺に御遣い証拠提出を迫った。

 

「ねっ、ねえ。貴方、本当に天の御遣い。醜女な私達でも、美しく感じるって噂で聞いていたのだけど?」

 

こっちではそう出回っているのか。

つくづくその世界に都合よく作られてるな、天の御遣いは。

おおむね間違ってはないけど。

 

「本物じゃないのか。俺には君が、綺麗に見えるし」

 

「きゃあああああ、私、綺麗? 綺麗って言われちゃった!」

 

「貴様。蓮華様が綺麗などと、正気か!」

 

「お前こそ大丈夫か?」

 

パンツ女って、下乳女の家来みたいな者だよな。

無礼で首をはねられても知らんぞ。と心配してやったのに、失礼にもパンツ女が俺の首をはねようとする。

 

「天の御遣いよりは、精神異常者の類か。ここで首を落としてやるのが、せめてもの情けか?」

 

「誰の為にもならないから、止めておけ」

 

剣を抜くパンツ女と俺の間に、嬉しそうな下乳女が割り込む。

そうして呂律の回らない口で、何かを話そうとしていた。

 

「あのっ、私はね。名は、ええっと、そ、その――」

 

「ああ、蓮華でいいんだろ?」

 

「はうっ!」

 

まごつきつつも、蓮華の言いたい台詞を察した俺が先回りをして答えてやる。

すると蓮華は胸を押さえてうずくまってしまった。

不整脈か?

ひとまず蓮華を起こしてやろうと屈んだ俺に、華琳が叱咤を飛ばしながら引きはがす。

 

「っ、馬鹿!」

 

人をバカとは――って、うおい。

一閃、首元に涼し気な風が通り抜けた。

それはパンツ女が俺を斬りつけようとした剣先であると理解するのは、数秒してからだった。

すでに剣を振り切っていたパンツ女は、ゆらりと剣を構え直し、俺に殺気を浴びせる。

 

「貴様。認められてもいないのに、蓮華様の真名を口にしたな!」

 

またその設定かよ。

それで人殺しとか、穏やかではないな。

心が凍り付いたぞ。

 

「……真名くらいで怒るなよ」

 

てか、ここでも真名とか……流行ってるのか?

 

「はにーこそ、真名を何だと思っているのよ。許されてもいないのに、勝手に真名を呼んだら、殺されても文句は言えないのよ」

 

「……昔、趙雲に大切だと説明を受けたような。あれ、マジだったのか?」

 

「まじがわからないけど、たぶんまじよ。公孫賛は、はにーにどんな教育をしていたのよ。あの田舎者」

 

白蓮を軽くディスって、頭を抱える華琳。

マジかー、マジで。だったら曹操の真名は華琳?

すると桃香や愛紗にも真名があった?

でも趙雲は信頼の証とかそんな感じだと言っていたし、ひょっとして桃香と愛紗が真名?

次に再会したら確認しよう。とか、気楽に考えられる空気じゃないね、これは。

パンツ女に、死刑宣告されているからな、俺。

 

「そこを動かなければ、痛い思いをせずに首をはねてやる」

 

「もし動いたら?」

 

「手元が狂い、もがき苦しんでから首がはねられる」

 

結局、首が刈られるのか。

 

「大変、申し訳ありませんでした」

 

首と胴体が真っ二つになる前に、俺は最敬礼をして素直に詫びた。

これでダメならもう土下座しかないが、そんな俺らへ正気に戻った蓮華が、やけに低姿勢な態度で仲裁に入った。

 

「はっ……い、いいのよ。そ、それよりも、頭を上げて。私、気にしてないから、ね。もう一度、蓮華って呼んでもらえる?」

 

「……蓮華」

 

「も、もう一回」

 

「蓮華」

 

「し、思春、どうしましょう。私、男の人に初めて真名で呼ばれたわ、呼ばれちゃったわ。それもたくさん。綺麗って言ってもらえるし、今日は幸せな一日ね!」

 

満足するまで俺に真名を連呼された蓮華が、イエーイ。と喜び露わに飛び跳ねる。

きっと君は、世界で一番の幸せ者だよ。

そんな蓮華に俺は優しい眼差しを向け、華琳は完全に呆れていた。

やり場のない怒りだけを抱えたパンツ女は、俺に強烈なガンつけをし、剣を突きつけた。と思ったら、半回転させて俺に柄を取らせようとする。

 

「おい、貴様」

 

「な、何だよ」

 

「蓮華様を真名で呼んだ礼だ。私の首をはねてもいいぞ」

 

「やるかっ!」

 

だいたいそんな腕前がまず俺にはないし、切り落としたとしても後の扱いに困るわ。

どんだけ首に、並々ならぬ情熱を注いでいるんだよ。

 

「帰りてえ……」

 

もう子供達の顔を見て、眠りたい気分だ。

ここでも変人奇人のダブルパンチは、ガチで疲れるって。

 

「弱音を吐いては駄目よ、はにー。私達にはもう、帰る場所なんてないの」

 

「…………そうだな」

 

一応、俺は帰還の目途が立っているけど、華琳には黙っておこう。

こいつ、俺と一緒に戻って来そうだし。

 

「とにかく、はにーが限界みたいだから、どこかで休ませてもらえないかしら。こんな自然に囲まれた場所ではなくて、人の文化が息づいた所へ案内してちょうだい」

 

「だ、そうですが。いかがなさいますか、蓮華様」

 

「えっ、あっ……そ、そうね。移動しましょう。格好いい男の御遣い様は私の馬に――」

 

「ちょっと待て。いま俺をカッコいいと言ったか!」

 

「え、ええ。そうだけど」

 

それじゃあ俺って、日本だとだとブサメンだったのか。

嘘だろ、自分ではフツメンだと信じていたのに。

 

「ぐおおおおおお!」

 

「安心しなさい、はにーは酷くないわよ。よくもないけど、普通くらい?」

 

落ち込む俺の肩を、華琳が叩いて慰める。

さらにこっそり、耳寄りな情報が伝えられた。

 

「こちらだと、女は美女か醜女しかいなくて、中間がないそうよ。男も同じらしいわ」

 

「そうなのか?」

 

「ええ。だからはにーを格好いいと思う人もいれば、醜いと思う人も出てくるでしょうね」

 

「詳しいな」

 

「初めて行く土地だもの、貂蝉に色々と聞いておいたのよ。むしろはにーは、どうして知らないのかしら。また貂蝉のせい?」

 

時間がなかったんだ。

あったとしても、俺のおつむがそこまで回ったか。

つまり俺が悪い。けど筋肉ダルマはもっと悪い。

そんな感じだ。

そうやって華琳と内緒話をしていると、オドオドとした蓮華が俺の顔色をうかがう。

 

「あ、あの……私、変な事を言っちゃったかしら。わ、悪気はなかったのよ。もし気分を害したのであれば、謝ろうと……」

 

「天にいると、たまに叫びたくなるんだ。気にしないでくれ」

 

「はにーだけで、私はしないわよ」

 

軽く天に責任を擦り付ける俺と、自分の領分はきっちりと守る華琳。

息の合わない御遣いコンビの道中は、ここから始まった。

 

「じゃっ、じゃあ男の御遣い様の馬は――」

 

「貴様は私の馬に乗れ」

 

「貴方たちが相乗りしなさいよ。私は、はにーと乗るから」

 

「それで盗まれても困るのでな。いいから貴様らは、いう通りにしろ」

 

「はいはい」

 

別に我儘をいうつもりない俺は、パンツ女の馬に乗せてもらう。

そして出発前に、パンツ女が呟いた。

 

「思春だ」

 

「……いいのか。それ、お前の真名だろ?」

 

「蓮華様が許されたのだ。私が教えぬ訳にもいくまい」

 

「おう、よろしくな。思春」

 

「ふんっ。振り落とされぬよう、しっかりと掴まっておくんだな」

 

オーライ。

俺が腰に腕を回すと、思春は何を血迷ったのか。

馬の前足を上げさせ、俺ごと二人を地面に落とした。

落下の衝撃+思春の体重によるサンドイッチに、俺の息が詰まる。

 

「ぐふっ」

 

「ばっ、馬鹿者。いきなり肌に触れる者がいるか。手元が狂ったではないか!」

 

「何をしているのかしら。馬が逃げたわよ」

 

「や、やっぱり男の御遣い様は、私の馬に――」

 

「貴方は追いかけなさい。ぐずぐずするな、急げ!」

 

「は、はぃいいいいい!」

 

強くてニューゲームのはずなのに、何だこのグダグダ感は。

今度は楽にクリア出来るのか、それは俺が一番わからなかった。

 

 

 

 

 

 







ここまでお読み頂き、ありがとうございます。
この話はこれにて完結となります。
どちらも続きが書けるようにしてありますが、続くのかどうかは未定です。

これまで感想や評価を頂いた皆様、ありがとうございます。
私が予想していたものより反響いただき、大変励みになりました。
並びに、誤字報告を頂いた皆様もありがとうございます。
たくさん頂き、私の誤字、多過ぎ。と思いました。
ご苦労をおかけして、申し訳ございませんでした。

察せられる方もおられるかと思いますが、エロはこれが初めてでした。
また、三国志の知識は乏しく、軍事や政治の知識はスカスカでございます。
それでも恋姫でエロに挑戦しましたのは、天下統一伝で恋姫熱が再燃したからです。
投稿が止まったのも、やっぱり天下統一伝だったりします。
あのゲームのガチャは、プレイヤーの心を真っ二つに折る、鬼畜な排出をするのです。
それを除けば、キャラゲーとしての出来は一番いいと思うのですが……。

活動報告に裏話的なものや軽い設定などを公開しますので、そういうのがお好きな方は見て頂ければ幸いです。

長くなりましたが、あとがきは以上となります。
誠にありがとうございました。




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その後の話




美醜逆転はネタの幅が狭く、華琳・蓮華・思春の三人は、コメディにあまり向いていない。
だからこの続きだけは書かないだろう。

そんな風に考えていた時期が私にもありました。






酷い目に合った。

盗んでもいない馬が爆走し、それを追いかけたのはいいが、なかなか捕まらず。

遂には山の中にまで馬はその健脚で駆け抜け、足を滑らせた俺がプチ遭難したりと、とにかく災難に見舞われた一日であった。

それでも苦労して馬の再捕縛に成功し、俺ら四人が近くの村にたどり着いた頃には、すでに夜が更けていた。

本日はここで一泊する事となり、どうにか宿を手配したが、そこは酒場。

酒に酔った客が寝泊りするだけの簡単な就寝所であり、まともな食事にはありつけそうもない。

なので食事は外の屋台で済ませようと、馬を預けてラーメン屋のカウンターで四人。並んで座ってみたものの、不幸の出がらしがまだ余っていた。

出されたラーメンが、ぐちゃぐちゃでとにかく汚い。

 

「これはどうなんだ?」

 

「……商売を舐めているのかしら?」

 

地雷店に当たっちまったぜ。

と、俺と華琳が不満をこぼせば、困った顔をした店主がペコペコと謝ってきた。

 

「すいやせんね。四人分なんて、あんまり作った事がありやせんでして」

 

悲しいな。

店主のおっちゃんは時代劇をするなら、配役で柳生十兵衛くらいやれそうなナイスミドルなのに、仕事っぷりはうっかり八兵衛らしい。

てか、四人分でアップアップなら、この店のピークはどうなるんだよ。

常にプーピー閑古鳥が、ラッパを鳴らしているのではなかろか。

 

「まぁまぁ、冷めちゃうと美味しくなくなるし、早く食べてしまいましょう」

 

そう言って俺らをなだめる蓮華は、あろう事かハシとレンゲでさらにラーメンをかき混ぜ、ぐしゃぐしゃにする。

 

「これくらいはせめて、見た目に気を使ってもらいたかったのだけれどね」

 

「どれくらいだよ」

 

もっと混沌としたじゃないか。

何だろう。某山盛りラーメンで有名な店に初チャレンジしたけど、結局ギブアップしてハシを置いた、食べ残しのごとく有様である。

 

「余計に食欲が失せそうだわ。その醜いの、どうにかしなさいよ」

 

それとは対照的に、ハシで一本一本。ラーメンの具材を摘まみ、せっせと見た目を整える華琳が蓮華に文句をつけるが、どうにも世界基準でおかしいのは俺らだったみたいだ。

 

「華琳の方が変よ。子供のように具材を積み上げて、はしたないわよ」

 

すでに真名の交換をしていた蓮華が、華琳の名を呼びながら美醜逆転ならではのルールを口にした。

 

「麺と具が合わさっているのが美しいんじゃない」

 

それにこうすれば、一緒に食べられるしね。

と、ちゅるんっと麺をすすった。

美醜ならではの、あるあるなのだろうか。

浅いのやら、深いのやら。

どうでもいいけど、この麺。かてぇえ。

 

「固いよ、おっちゃん」

 

大事なので心と言葉で二回。

俺がこのラーメンのダメさを訴えると、やっぱり店主はペコペコと謝った。

 

「すいやせんね。四人分なんて、あんまり作った事がありやせんでして」

 

コピペか。そうじゃなければ雑なロボットか。

寸分たがわぬ台詞を投げかけられて、温厚な俺でもイラッとしそうだ。

疲れているから怒らないけど。

 

「はにー、私のと交換する?」

 

「……や、いい」

 

華琳から勧められたトレードであるが、売り物レベルに作り直されたパーフェクトジオングなラーメンと、足どころか手や頭が飛び散った俺のジオングなラーメンは、どう贔屓目に見ても成立しそうにない。

ましてや蓮華の褐色な悪魔に全壊させられた、ジオングラーメンなど論外であった。

 

「そ、それなら御遣い様は私のと――」

 

「それはもっといい」

 

偉い人にはそれがわからんのです。

 

「そ、そう……そうよね」

 

「気持ちは嬉しいんだけどな。ありがとう」

 

「う、うんっ!」

 

でも、ショボーンとした蓮華にフォローはしておく。

まだ出会って一日だけであるが、蓮華はどうにも感情の浮き沈みが激しい所があるからだ。

それでいて、イケメン認定な俺と仲良くなりたいのか。ちょくちょくこうしては気を回し、空振りをしては気を落とす。

俺からすると気を揉まされる困ったちゃんだ。

たぶん人付き合いの経験があまりないのだと思う。あるいは自分で醜女とか言っていたし、意図的に避けていたかだ。

もっともただのコミュ下手なぞ、淫乱・駄犬・幼児・趙雲の四暗刻に比べれば、まだ可愛い者。

これから先の、裏ドラ次第ではあるが、まだ慌てるような時間ではない。

 

「店主、替え玉をくれ」

 

そして何をテンパっているのやら今一つ不明な思春は、会話にも参加せず、黙々とラーメンを食しおかわりを追加する。

 

「はいよ」

 

次なる麺を器に入れた思春であるが、それをハシで掴むと、一玉まるまると持ち上がった。

 

「……麺が切れてないぞ」

 

「すいやせんね。四人分なんて、あんまり作った事がありやせんでして」

 

「もう四人分とか関係ないだろ」

 

仕込みの段階でミスってんじゃねえか。

 

「いい加減、キレるぞ」

 

「お代は勉強させて頂きやす」

 

「なら許す」

 

そんなつもりはなかったけれど、それくらいはしてもらわないと割に合わない。

こうして不幸のラーメンを完食した俺達は、きっと相場よりも安いであろう勘定を支払い、宿屋に戻るのであった。

そんな今晩の就寝所は、一言でいうなら狭い。

せいぜい二人で寝泊りする室内に、四人がいるのでそれも当然であるのだが。

 

「や、何で二人部屋を一室しか取ってないんだよ。三つ部屋をとればよかったのに」

 

「それで貴様を一人にするのか、無理な相談だな。二人部屋を二つにすると、今度は貴様と誰を泊めるかで問題がある。ならばこれが妥当だ」

 

一緒にお馬さんを追いかけた仲なのに、まだ信用されてないのか。

まぁ、俺は足を滑らせて迷惑をかけた記憶しかないけどさ。

 

「でもこれはしんどいだろう。あの布団、どう見ても一人用の奴だぞ」

 

二人で入ったら、寝返りも打てなさそう。

少しくらい体がはみ出しても、この時期に風邪はひかないであろうが、快適さからは程遠い。

 

「しかもどっちにせよ、男女混合になるし。俺、床で寝ないといけないのか?」

 

手厚く保護されていた御遣いだから、こうした捕虜扱いにはまるで慣れてないんだけど。

こんな板の下で横になると、俺の貧弱なボディが悲鳴を上げちゃう。

嫌だわぁ。

などと内心でオネエっぽく愚痴っていると、先に布団へ潜り込んだ華琳が、下心を秘めた間男のごとく満面な笑みで俺を招いた。

 

「私は一緒でも抵抗はないわよ。さ、はにー。」

 

「華琳……」

 

ポンポンと布団を広げて叩く華琳に、胸ギュッンする俺。

ここで甘えたら最後、俺の貞操が危ないと本能が告げている。

 

「じゃあ、遠慮なく」

 

それでも突っ込んだのは、床に寝るのが嫌だったに他ならない。

そもそも蓮華と思春の監視をかいくぐり、華琳も馬鹿な真似はしてこないだろう。と、高を括っていたのもある。

しかし相手の欲望が上回っていた。

俺に布団をかぶせると、華琳は二人から見えないのをいい事に、すかさず下半身をまさぐる。

 

「ふっふっふ、旦那さん。いいあそこしているじゃない」

 

だ、ダメ。俺には妻と子供が。

とか、ふざけていられるほどの余裕はない。

この女郎、躊躇いもなくズボンに手を侵入させ、直に俺のチンコを触ってきやがった。

ラーメンを喰って、ベルトを緩めたのがここで仇となるとは。

 

「……貴様ら、何をしている」

 

遊んでいると勘違いした思春にため息をつかれるが、俺は何もやっていない。

むしろナニかされているのだ。

つねってもどかそうとしても、華琳の手は離れない。

この処女痴漢、俺が出会った中で一番強い。

 

「無駄な抵抗はしないの。大人しくしていたら、極楽へ導いてあげるわよ」

 

「その自信はどこから溢れているんだよ」

 

お前、未経験だよな。

 

「いいな、楽しそう」

 

「……そう見えるか?」

 

まさに満員布団添い寝で、違法なタッチをされているというのに、呑気な感想だ。

蓮華の目は腐っているのではなかろうか?

 

「蓮華もする?」

 

「いいの?」

 

「ええ、構わないわよ」

 

「やった!」

 

腐ってすでに節穴だったよ、ちくしょうが。

もう一名様、ご案内でーす。

痴漢の提案に犯罪の片棒を担ぐとも知らぬ無垢な痴女が、おずおずと仲間入りを果たした。

 

「……はぁ。私は先に休ませてもらうぞ」

 

テンションの低い思春だけは俺らに無関心を決め、一人用の布団を独り占めにする。

いいな、あっちは。自由そうで。

こちとら質量的にもパンパンだけど、蓮華のパッツンパッツンな胸やら太ももやらを押しつけられて、窮屈でしかない。

 

「え、えへへへへへへ。お、奥さん。いい体しているじゃない」

 

奥さんちゃうわ。

 

「誰が奥さんだ」

 

「そうよ。こんな立派なのがあるのに、女性あつかいは失礼でしょ」

 

そういうや否や、華琳は蓮華の腕を俺の股間へと導いた。

おいおいおいおい、それはシャレにならんぞ。

 

「えっ、あ……こ、これって……」

 

華琳に悪戯され、カッチンコッチンになった俺のチンコを前に、蓮華が戸惑った声を上げる。

純粋に培養された処女らしい反応である。卑猥に加工された処女とはウブ度が違いますよ。

手コキ一つにも躊躇いがにじみ出て、ツンツンと突っついていた指先がスッと型を取るように下へ滑り、優しく根元を掴んだ。

って、いつまでしているんだよ。

 

「ねえ、御遣い様。ここ、どうしたの。私に教えてもらえる?」

 

何か変なスイッチが入っちゃったよ。

 

「思春」

 

いきなりエッチなお姉さんに変貌する蓮華に、悪い意味で心臓がバクバクしてきた俺は、思春バリアーを発動した。

あいつならこの淫気を吹き飛ばしてくれる。

しかし呼んでも、思春からのインターセプトはなかった。

 

「…………」

 

「お、おい。思春。思春さん?」

 

「すやぁ」

 

「寝るな!」

 

「はっ!」

 

目を覚ませ、寝たら俺の貞操が死ぬぞ。

俺の魂の叫びで覚醒した思春は、嫌そうに表情をしかめてから、ごろんと反対側に寝転ぶ。

 

「……明日も早いんだ。静かにしろ」

 

そんな仕事に疲れた親みたいに、塩対応をしないでくれ。

この二人、とんだエロガキなんだよ。

思春が起きた瞬間に、華琳はビシッと不自然なまでに背筋を伸ばして後ろ手を組んでいるし、蓮華は下手くそな狸寝入りをするし、やはり思春ガードは必要だ。

 

「急に体をほぐしたくなったわね」

 

「う、う~ん。むにゃむにゃ」

 

「……華琳と蓮華が怖いから、そっちに行ってもいいか?」

 

「お化けにおびえる、童か貴様は……仕方がない、好きにしろ」

 

「わーい」

 

やったぜ。

お許しの出た俺は、すぐさま思春のいる布団へと移った。

 

「お邪魔するわよ」

 

そうして横になろうとして、背後から華琳の声がしてギョッとする。

 

「何でお前までこっちに来ているんだよ」

 

「何事も共用するのが夫婦でなくて?」

 

病める時も健やかな時も、誓い合った仲ならな。

でも俺ら仮面で、マジもんの夫婦とはほど遠いだろう。

だから俺は適当に華琳を追い払った。

 

「悪いな華琳、この布団は二人用なんだ」

 

「それなら戻る。あっちの布団は三人用よ?」

 

ジャイアンとスネ夫がいるじゃん。

こんなに心が躍らない誘いも珍しい。

 

「すやぁ」

 

のび太もいたから、満員だな。てか蓮華、寝るのはやっ。

思春といい、似たもの主従か。

とにかく君らは、劇場版仕様になって出直してくれ。

 

「ね、はにー?」

 

「もうしょうがないな、華琳君は」

 

しなだれる華琳に、例のSEを口ずさみ服を脱いだ俺は、優しく肩に羽織らせてやる。

 

「てってけてってって~僕の上着~」

 

「これは?」

 

「今日一日。俺の汗と匂いが凝縮された一品だ。こいつを貸してやるから、思うがままに楽しみなさい」

 

「少し畑に水を撒いて来るわ」

 

そう言って俺の上着をなびかせて華琳は退室し、思春がポツリと呟く。

 

「貴様ら。天から来たばかりなのに、耕す畑などあるのか?」

 

「あれは便所に行く時の方便だ」

 

日本で例えるなら、花を摘まみに行くと同等の言葉である。

貞操逆転の世界は女ばかりで、盛んな農業も女の仕事であるから、こんな言い回しが生まれたそうだ。

まぁ華琳は、十中八九オナニーしに行ったのだろうが。

しかしこれが畑でよかったな。

田んぼなら死んでた。

 

「天にも色々とあるのだな。こちらとはえらい違いだ」

 

「こっちだと、どういうんだ?」

 

「花をむしりに行く」

 

「物騒」

 

どうしてそう陰湿なんだよ。

 

「このような顔であれば、恨み節の一つや二つはあるものだ。昔はそれこそ、本当に花をむしっていたみたいだが、今ではその手の隠語になったと聞いている」

 

闇が深くない、この美醜逆転の世界。

 

「男とか女が少なくて、結婚できないとか、そんなのはないんだよな?」

 

だったらこの後ろ向きな思考もわかるけど、それはないと思春は言い切った。

 

「だとすれば、国として成り立つはずがあるまい。大抵の男女は普通に結婚をする」

 

よかった。

独り婚期から取り逃される、可哀想な思春はいないんだ。

 

「もっとも、結婚をして幸せになれるかはまた別だ。若い身空で一緒になっても、お互いの容姿に不満を持って、喧嘩ばかりの家庭も多い。それでも時間をかけて夫婦になるが、子が授からないのもよくある話だ」

 

ここも大概、末期だな。

そしてまたこのパターンかい。

 

「子供が出来ないの、流行っているのか?」

 

「天にもそのような問題があったのか?」

 

「あった。男が少なく、妊娠しにくい。で、女を孕ませられる俺を取り合って、戦争にまで発展した」

 

正確にはチンコであるが、そこは明かさなくともいいだろう。

喋ったとしても、バカな冗談だと思われそうだし。

 

「気の抜けた空気をしていると思えば、貴様も苦労したんだな」

 

「雰囲気は放っておけ」

 

元々こちとら、争いとは無縁の世界の住人だ。

 

「それでだ。貴様はそんな天の国が嫌になって、華琳とこちらへ駆け落ちした。と認識していのか?」

 

「ご想像にお任せします」

 

その辺りに言及して、華琳の話と矛盾が出ても困るしな。

ならぼかして、受け取りてのイメージに任せるに限る。

 

「腑に落ちんがいいだろう。ところで貴様、どれくらいの子を作ったのだ?」

 

「産まれたのが九人で、さらに二人が妊娠していた」

 

「はっ?」

 

多いかな、多いよな。

うん、クッソ多いわやっぱ。

それでもマイサンに憎らしさはなく、可愛さしかない。

九人いるから九倍で、十一人になったら十一倍になるはすだ。

凄いぞマイサン。

苦労も十一倍であるが。

 

「俺とやれば確実に孕んだからな。ついでにいうなら、華琳とはしてない。だからあいつとの子供はいないぞ」

 

「それはそれで、どうなのだ。しかし本当であれば、蓮華様などのお世継ぎ問題が解決……いや、だが……」

 

俺の大家族っぷりに面を食らった思春が、ぶつぶつと不穏な単語を漏らす。

世継ぎとか、蓮華ってやっぱりいい所のお嬢さんなのか。

 

「私……綺麗、醜い……綺麗、醜い……綺麗……うふふふふふふ」

 

夢中で花占いをしていそうな蓮華は、眠っている癖に、だらしなく頬を緩ませている。

この姿を見るに、とてもそれなりの地位にいると感じられんな。

俺の人間関係から近い対象を上げるとするなら、白蓮と華琳でいいのか?

……何もおかしくなかった。

 

「ひとまず貴様の話した内容は、どうにも信じ難い」

 

「おっ、そうだな」

 

眺めていた蓮華から視点を思春に戻した俺は、素直に頷いた。

別にこちとら、信じてもらいたかった訳でもない。

聞かれたから喋っただけである。

 

「仮に本当であったとしてもだ。貴様をどのように扱うかは、私の判断する所ではない」

 

「そうか」

 

ここで蓮華の名がないという事は、蓮華よりまだ偉い奴でもいるのか。

うん……やっべ。今の俺、冴えてない?

 

「ただ、検証はするべきであろう。貴様、私を孕ませてみろ」

 

「どうしてそうなった」

 

訳がわからないよ。

人がこっそりかしこさを上げていたら、隣で頭の悪い台詞を吐きやがって。

 

「……やはり私のような不美人は抱けんか?」

 

「余裕で抱けるわ」

 

舐めるなよ。と睨んでやると、思春はマフラーに顔を埋める。

 

「そ、即答か……」

 

動揺するなよ。

純粋に初心い反応とか久しぶりだから、俺が揺れるだろ。

 

「あ、ああ。き、貴様は、下手物な趣味があるのだったな」

 

だが俺以上に不安定な精神状態になっている思春は、カチコチ。と立ち上がってからぎこちなく壁に手をやり、俺に尻を突き出す。

パンツが丸出しにって、あれふんどしだったのか。

変な所で男らしい思春は、潔く俺を誘った。

 

「ならば好きに使え。さあ」

 

さあじゃないが。

そもそも俺の妊娠率百パーセントは、あの搾取マンコのせいでもある。

しかしその人体構造を理由に説明しても、伝達率は五パーセントにも満たないであろうから、俺はもっともらしい理屈をこねくり回した。

 

「妊娠させるのなら、華琳が順当だろうが」

 

俺、あいつと夫婦ぞ。

仮初だけど。そして華琳は紛れもなく一発必中勢だから、絶対にやらないけど。

 

「私の方が、周囲からの信ぴょう性と説得力が得られる」

 

そりゃそうだ、俺らよそ者だしな。

これについては、ぐうの音もでない。

 

「それに貴様の有用性を証明できれば、それなりの安泰は保証されよう。なのにその機会をみすみす逃すつもりなのか?」

 

えっ、今回も引きこもりをやるんじゃないの?

天の御遣いだけで、また飯にありつけるポジションだと思っていたのに。

桃香達より思春が厳しい。

 

「孕ませないと、食べていけないのか」

 

「貴様の役に立つところなど、今はせいぜい天の御遣いなだけくらいだ。それでいて見てくれは悪くなく、子作りに自信があるのなら、そこを訴えるしかあるまい。他に秀でている部分があるのならまた別だが、貴様にあるのか?」

 

「ないな」

 

あったらもっと、歴史に名を残すような偉業を成している。

伊達にネットの掲示板にこれまでの半生を書き込んだら、草をはやされる人生を送ってはいないのだ。

 

「でも、それはちょっとさ……」

 

女を妊娠させて稼いだ金で食べるご飯は、美味しくなさそうっていうか。

 

「妻以外の女を孕ませたあげく、子供を置き去りに駆け落ちした人間が、何を悩む?」

 

アカン。

設定だけで語ると、俺はとんでもないクズだった。

けれどここで新しい赤ちゃんをこさえて、パパをやるつもりはないのだ。

 

「……蓮華が起きるかもしれないし、やってる最中に華琳が戻っても困るだろう」

 

桃香のオナニーとか、半端なく長かったから、華琳もかなりのロングソロプレイヤーかもしれんが、まさか思春も蓮華の存在は無視できまい。

重箱の隅をこれでもかと突っつき抵抗する俺に、思春が蹴っ飛ばすかのごとく暴論を発した。

 

「情事など、私のあそこに貴様のあれを擦り、膨らんで濡れたら入れて出すだけだろう。なに、蓮華様はお休みになると滅多な事では起きんし、そんなに時間はかからんし、すぐに済む」

 

「済まねえよ!」

 

カップラーメン感覚か。

セックスって、そんなパパっとやるものじゃないだろ。

 

「せめて女の体はちゃんとほぐせ。下手をしたらそれ、どっちも痛いぞ」

 

「しかしこれが普通だと、私は耳にしたのだが……」

 

耳なし芳一もビックリだよ。

これには怨霊も苦笑いして、与一の耳を持って帰るのを忘れるレベルだ。

つまりお話にならない。

 

「詳しく知りたいから、こっちの性事情を一から俺に教えてくれ」

 

「あ、ああ」

 

ついでに思春も、ずっと壁に手をついてないで、戻って来い。

俺が手招きすると、困惑しつつも思春は布団の上で正座になり、本当に厳しい美醜逆転世界のエッチを語った。

 

「まず行為中、顔で男の気分を萎えさせないよう、女は常に後ろ向きとなる」

 

こっちでは、バックが正常位かよ。

 

「そして男は、そのまま女の尻やあそこに性器を押し当てる。確か、ここで濡れやすい女は、醜女でもいい女として評判が高いのだとか」

 

「すぐに終わるからか?」

 

「ではないのか。そして男のあれが硬くなれば、しぼむ前に射精するのが、性交の手順となる」

 

「それ、女が気持ちよくなる時間ってある?」

 

「たまに、痛いとは聞いたりする。初めてほどではないみたいだがな」

 

ですよねー。

ちょっと淡白すぎではなかろうか。

五分のカップ麺を待ちきれず、三分で蓋を開けるみたいな事をしやがって。

ラーメンは固めんが好きって派もいるかもしれないが、基本マンコはぐつぐつに仕込んでどろどろにさせるだろう。

 

「いちおう確認するけど、嘘ではないんだよな?」

 

「嘘をついてどうする」

 

思春は冗談をいう奴ではなさそうだが、ここはマジで冗談であって欲しかった。

 

「どこが楽しいんだよ、その性行為」

 

「全くだ。しかし子を成すのに、必要不可欠でもある」

 

「だったら少しくらい、歩み寄る姿勢を見せろ。もっと男女の触れ合いを増やして。それだけでもだいぶ違うぞ」

 

「誰が私のような女を触りたがる。それに私だって触られたくもない」

 

人として、好みがあるのはわかる。わかるけど、えり好みし過ぎだ。

嫌いな物でも食べましょう。と、小さい頃に習わなかったのかよ。

 

「これだと口づけだけでも、かなり難しそうな位置付けになっていそうだな」

 

「いや、口づけはまだ軽い部類だ。互いの体が当たらなければ、さほど嫌悪感もあるまい」

 

「えっ、何。触られるのがダメなの?」

 

「誰かに触れられると、くすぐったくなるような、落ち着かない気分になるだろ」

 

敏感肌か。

これはあれだな。極端にボディタッチとかのコミュニケーションが進んでなくて、肉体が外部からの刺激に弱くなっているんじゃないのか?

利き手と逆の手でそれぞれチンコを握ると、感じ方が違う。あの原理と根っこは同じである。

セックスが淡白なのは、それが原因かい。

 

「なら俺に接吻したりチンコ舐めたりするのは、抵抗がないんだな?」

 

だったら存分にペロペロすればいいじゃない。と思ったが、イージーだからと言ってハードにならない訳ではなく、こいつはわかってないな。てな感じで、思春に呆れられた。

 

「……はぁああ」

 

うん、これもNGなのか。

 

「すまんな。バカな事を聞いた」

 

「全くだ。その手の愛情表現は、長い年月で培われた夫婦の間でする行為だ。出会って一日足らずの女に求めるのは、我儘な子供と変わらん。なのに貴様ときたら……さっきのお化けの件といい、図体しか成長していないのか?」

 

まさかの、作法もわからぬクソガキ扱いですよ。

チッ、うるせぇな。

 

「反省してまーす」

 

「本当に貴様ときたら……仕方のない奴だな」

 

そう言って拗ねる俺の頬に手を添えた思春は、不意打ち気味に唇を重ねてきた。

だが俺は、精神的には未熟でも性的要因ではすでに悟りを開いたチンコの仏。

たかだかキスごときで、いまさら狼狽えたりはしない。

すぐさま受け身に転じ、思春のテクニックを配点する余裕すらあった。

ただ、口を押し当てているだけ×。

目を閉じていない×。

何より、鼻呼吸が皆無×。

採点、死ぬぞ。

 

「ふう……はぁ、はぁ、はぁああ」

 

長いキスが終わってから、忙しく息を吸う思春に俺は大切なアドバイスを送った。

 

「どうだ?」

 

「口づけの最中は、鼻で息をするといいぞ」

 

「は、はな?」

 

「ずっと息を止めていると苦しいだろ」

 

「し、しようがないから……そ、それで息を鼻でするのか」

 

「正解」

 

さっきの会話から、何となく処女だとは察していたが、ここまで不器用だとはな。

なのにその自覚がまるでない思春は、なぜか上から目線になって、経験豊富な俺の頭をなでた。

 

「よしよし、よく教えてくれた。偉いぞ」

 

「何で俺が下に見られているんですかね?」

 

「大きい童のような者ではないか、貴様は。そう拗ねるな、もう一回してやるからな……んっ」

 

そう言って二回目のキスをする思春は、しかし即行で俺から離れた。

 

「よくよく考えれば、私が鼻で息をすると貴様にかかる。これは恥ずかしくてかなわん。止めだ止めだ」

 

「えっ、もう終わり?」

 

「誰もそうは言っていない。つまりは……ちゅっ、ちゅっ……こうすればいい。完璧だな」

 

自画自賛して小刻みなキスを俺に繰り返す思春は、慣れが出てきたのか。

次第に内に秘めた本性を、暴き始めた。

 

「ちゅっ……うぬ……ちゅっ――ん。位置取りが悪い……そうそう、その位置だな……はむ……うむ、よしよし。よくやった……んんっ、ちゅる。ふあっ」

 

もっと己に適した形を追及し、俺に指示を飛ばす。

そうして素直にこちらが従い、自分的に満足のゆくキスを達成すると、とにかく俺をなでる。

決まってその後の接吻は、心なしか長い。

何だかんだ理由をつけて甘えたいのか。

これまで人肌恋しい生活をしていそうだし、その願望が潜在的にあったとしても不思議ではない。

遂には俺へ抱き着き、チューチューする思春をそう分析するのだが、実におしい。

思春は甘えるのではなく、甘やかしたいタイプであった。

 

「こらっ。どうしてここは、こんなになっている?」

 

密着した事によりチンコの勃起に気が付いた思春が、下を向いて俺に問うた。

特に羞恥心のない俺は、正直に吐く。

 

「男なら、普通の生理現象だ」

 

「性欲はあるかもしれんが、ここまで旺盛ではない。私のような女に口づけされて膨らませるとは、貴様もたいがい変態だな」

 

俺の言葉尻を捕らえ、こちらの常識で物を語る思春は、それでもどこか柔らかい声音で語った。

 

「そう言えばさきほど、私に舐めてもらいたいと頼んでいたか。仕方がないな」

 

だんだん俺もわかってきた、仕方のないの合言葉。

これが飛び出ると、悪態をつきつつも思春は必ずやってくれるのだ。

オカン気質か。

それを本人がまんざらでもなさそうなので、もう何もいうまい。

頭を下げて若干、気分良くズボンを手にかける思春を俺はただ見守った。

もっともチンコのでっぱりにつっかえて苦戦し、すぐに思春から乞う眼差しを向けられたが。

 

「脱がせんぞ、どうなっている?」

 

黙ってチャックを開きチンコを放出すると、おおっと思春は感心する。

 

「便利な構造の服だな」

 

しかしそれもチンコを観察するまでの話。

チンコの根元を握った思春は、誰が見ても顔をしかめ、大きさを確かめる風に軽くシコッた。

 

「でかいし臭いもきつい。よくぞこれを、私に舐めさせようと思ったものだ」

 

「嫌ならしなくてもいいぞ」

 

まともな女ならチンコは不潔でグロテスクと感じるだろうし、処女ならなおさらその傾向は強いはずだ。

そんなおぼこにムリをさせるほど、俺も鬼畜ではない

しかしそのジュニアに対し、ギブアップという発想は思春お母さんに存在しないらしい。

あくまで俺の下世話にこだわった。

 

「全く……貴様だけ、特別だぞ」

 

そうして亀頭を舌で突っつく思春は、それからまんべんなくチンコへ這わせた。

 

「あむ……うぇ……糸くずがついていたぞ。綺麗にしておけ……ふぅ~……ここひゃ、どうだ……よしよし、ではこひら側わ……」

 

先端から竿元まで。また奥から先まで。

フェラよりも口内洗浄をしているようなやり方は、気持ちよさよりも、もどかしさが募る。

俺は失礼を承知で、思春に頼んだ。

 

「もっと手や口を、強めにしてもらってもいいか?」

 

「ん、こうか?」

 

「っ!」

 

指導によって動きを変えた思春の攻めに、俺は意表をつかれた。

力加減は絶妙なまま、いきなりトップスピードで俺の一物を扱いたのだ。

 

「ふむ、とうとつに跳ね上がったな。貴様、これがいいのか?」

 

唾液まみれな俺のチンコは、ジュブジュブと思春によって卑しい水音を奏でながら、ビクリと反応してしまう。

それに気をよくした思春が、亀頭へむしゃぶりついた。

目指すは手と口の連携だろうか。

しかし狙い通りにうまくやれない。

 

「はむっ……こりゃ、動くと舐められないだろう。だったら、こうひてやる」

 

激しい手淫で左右にぶれるチンコに業を煮やした思春が、大口を開けて先っぽを咥え込んだ。

そしてそのままこちらを見上げ、俺の顔色を探りつつ、あの手この口で刺激を与えてくる。

 

「ここの、くぼみがいいのひゃ……なら、いっぱいひてやりゅ……んっ、んっ、んっ、じゅるるるるるるる」

 

カリ首付近を舐め回された時に、下唇を噛んだのが不味かった。

その辺り一帯が弱点だと悟った思春は、強烈に吸い込んだあげく、手で執拗にそのポイントを擦る。

どうして俺の周りの処女は、こうゼロか百しかいないんだ。

強引にこみ上げられされた射精感に、竿が限界だと言わんばかりに痙攣した。

それを合図に口をチンコから離した思春は、さらに手コキを速めるものの、処女らしい無知さで俺に語りかけた。

 

「貴様のが私の手の中で、暴れているぞ。これはかなり気持ちいいのではないか。ああ、もっと気持ちよくしてやるから、安心しろ。ただ、出そうになったら教えてくれ。男は一度だすと、戻るのに時間がかかると聞く――へっ……はぁ?」

 

もうダメです。

豪快にチンコから吐き出された俺の精液は、思春の顔に飛び散って、褐色の肌を白く染め上げてゆく。

最初。それを茫然と眺めていた思春は、頬から垂れた精子が口に付着した瞬間。我に返った。

 

「に、にがっ……てっ、貴様。何を勝手に出している」

 

無茶だろ、加減しろバカ。

 

「我慢する暇もなかったし」

 

「ならばちゃんと報告しろ。どうするつもりだ。最後は中に出させる予定だったのに、台無しではないか」

 

そういやこれ、元は思春を妊娠させるのが切っ掛けだった。

俺、セーフ。

 

「これだけ出せば、孕んだのかもしれないのに、貴様ときたら。苦いし汚れるしで、最悪だ」

 

もっとも思春的には腹の虫が収まらない結果でもある。

ぶちぶちと文句をちぎっては俺に投げ、顔にべったりと着いた精液を指ですくい、己の股に運んだ。

 

「……何をやっているんだ?」

 

「こうすれば、万が一。孕むかもしれんだろう」

 

ここまで妊娠に執念じみた女は、お目にかかった事がない。

何度も何度も。俺が外に出した精をマンコに迎え入れた思春は、さらにかき混ぜ受精を目論む。

間接的な精子オナニーを目撃した俺の一物が、首をもたげる。

ただ、当の本人である思春は自身の快楽を度外視している節があり、お掃除フェラを優先させた。

 

「ここも処置してやらないとな……うぐっ……けほっ……不味い。もっと美味しくは出せなかったのか?」

 

「ムリするな。自分でするって」

 

俺のペニスをしゃぶって咳き込む思春を止めさせようとするが、あえなく断られた。

 

「……いい。これは全部、私がする。貴様は汚れるから、何もするな」

 

こう一方的に言いつけて、思春は精子清掃に乗り出した。

するなら徹底的にがモットーなのか。俺のチンコに残った精液すらもすすって綺麗にさせる思春。

けれど、そこまでされてしまうとな。

 

「……?」

 

デデーン、俺アウト。

まーたチンコが勃起したよ。

 

「一度なえれば、なかなか男は回復しないのではないのか?」

 

「男なら、連戦も普通だ」

 

「貴様だけではないのか。こんな短時間でそうなるのは、疎い私でも、常識から外れていると理解できるぞ」

 

さすがは天の御遣いだ。

と思春は感心して、俺のチンコに自身の下腹部を押しつけた。

 

「これならもう一度できそうだな。仕方がない。孕んでやるから、遠慮せずに出せ」

 

ぶっちゃけ、遠慮はしたい。

これで思春が妊娠したら、俺の家系図が世界を超えたカオスになってしまうからだ。

ならばこのタイミングで拒めるかと言われれば……ねえ。俺はブッダではないのだ。

だからせめてやりたい盛りの若者らしく、神に祈るしかない。

中には出しませんので、どうか的中しませんように、と。

こうして俺は覚悟を決めたが、心残りはあった。

 

「俺、ぜんぜん思春を感じさせてないけど、濡れているのか?」

 

「少しはな、ありがたく思え」

 

自分で弄っていたし、何だかんだで、奉仕するのが好きなのだろう。

申告された思春のマンコは、愛液と精液のブレンドでなかなかの蜜具合であった。

本来ならここでもう一押し。俺の愛撫も加えてやりたいが、他人が触ったらくすぐったいみたいだし、自分が主導でないと納得しなさそうなので、もう思春にぜんぶお任せする。

メイドほど献身ではないけど、完全に干渉の強いツンデレ気味の母親だわ、これ。

 

「私がまた気持ちよくさせてやるから、貴様は動くなよ」

 

俺の頭をなでる思春が、座ったままの体位でゆっくりと挿入する。

 

「うぐ……う、うう……はぁっ」

 

入り口の狭さに難儀をしていた思春だが、辛いのはそこだけであった。

最初さえ突破してしまえば、後は順調に奥まで到達する。

しかし痛みが皆無ではない。

股から血を流し、明らかに目元をうるませた思春は、それでもやせ我慢を口にした。

 

「初めては……痛いらしいが、大した事はない、な……」

 

「別に強がらなくても、いいんだぞ」

 

「強がってなど、いない……どうだ。私は、気持ちいいか?」

 

俺の一物で広がった分を戻そうとしているのか。

思春のマンコは初物らしく、俺のチンコを締めつける。

男の俺には当然、快楽でしかなかった。

 

「ああ」

 

「そうか……私もな、気持ち、いいぞ……」

 

微笑みまで浮かべ嘘をつく思春であったが、やはり体からの訴えには逆らえない。

薄っすら開いた瞳から、小粒の涙が溢れた。

たぶん、自分が泣くほど痛がっている。と、思春は知られなくいと考えた俺は、舌ですくい涙を消した。

 

「……ふっ、何だそれは。貴様は、本当に……」

 

吹き出した思春は、俺の頬を手の平で数度おうふくさせてから、優しくつねる。

 

「どうしてくれる。胸が、苦しいではないか……私を、傷つけた罰だ……」

 

いうや否や、思春は自分の服を握り、下からまくり上げて脱ぎ去った。

ほどよいサイズのおわん型な胸がさらされ、張りのある弾力の間に俺を抱き込む。

 

「治まるまで、舐めて直せ……当然、優しくだぞ……」

 

「はいはい」

 

「はい、は一回だ……全く……よしよし」

 

瑞々しい思春の胸は舐め上げると、舌が滑りそうだ。

小刻みに吸いついて、舌先で思春の女としての象徴を楽しむ事にした俺は、右の端からジワリジワリと中央へと寄り、いよいよその頂に口をつける。

 

「おいしいか?」

 

あいにく今の俺は喋れないので、愛撫によって伝えた。

一度、強く吸い立ててから、口内で幾度も乳首を弄ぶ。

それだけで身をよじり、熱い吐息を俺の耳に吹きかける思春は、どこか艶の含んだ声を上げる。

 

「はぁっ……そんなに吸っても、母乳は出んぞ……残念ながらな……」

 

痛みはまだ残るであろうが、それ以上に思春は俺におっぱいを与える事に酔っていた。

明らかに上昇した体温と共に、思春のマンコは新しい愛液によって濡らされる。

 

「しかし、だ……貴様しだいでは、私の母乳も……んっ、楽しめるように、なるぞ」

 

わかるか?

ゴクリと、思春が生々しく喉を鳴らす音が俺の鼓膜を震えさす。

 

「だから、いっぱい……ここに出せ……私が全部、受け止めてやる……」

 

それは思春の願望にも似た強制であった。

数秒かけてペニスをヴァギナから引きずり出す思春は、その倍の十数秒をかけて、また飲み込んでゆく。

 

「ふぅうぅ……ああああぁぁぁ…………」

 

拙いながらに腰を使い、俺に射精を催促する。

せめて思春の痛みくらいは軽減しようと、俺も気合いを入れて胸を攻めた。

思春が俺をなでる手の平に、力がこもる。

 

「……はっ、はっ……私の胸は平凡だが……これならっ……赤子に嫌われず……済みそうだ……」

 

確かに思春は手ごろのサイズであるが、肌とは違うピンク色の乳輪はエロいと思う。

しかも舌で舐めてやれば、もっと吸ってもらおうと先端が肥大化し、従順に俺の動きに合わせてグニグニと曲がる。

赤ちゃんもきっと大喜びだ。

 

「貴様のは、でかいからな……きっと、丈夫な子が……産まれるぞ……楽しみだ……」

 

気の早い未来を描く思春は待ちきれないのか、俺のチンコをマンコで締めた。

 

「……んくっ……こ、興奮したのか……さっきよりも膨らんだぞ……」

 

それは絶対、思春の仕業なのだが、そこまでの経験がないからか。俺のせいにされてしまう。

俺は軽く乳首を噛んで、思春の間違いを咎めた。

 

「くあっ――」

 

俺の口撃で背筋をしならせた思春は、ムッとした様子でゴチン。とおでこをぶつけ叱る。

 

「もう……貴様は、いたずらっ子だな……今度したら、私も、怒るぞ……」

 

具体的にどうなるのやら。

ちょっとばかし俺が興味を持つと、母性本能を剥き出しにした思春が、俺の手首を取ってお尻にリードする。

さらにそこから、成敗ならぬ性敗な脅しを俺にかけた。

 

「私が怒ると……怖いぞ……ここに触った指を、舐めさせてやる……どうだ、ばっちいだろう……それが嫌なら、いい子に戻るんだ……」

 

まるで俺が良い子だったような口ぶりである。

しかし美醜の価値が反転しても、ここの考えは共通の認識で助かった。

スカトロをありがたむ気はないからな。

もっとも俺は、美人のケツなら抵抗なくほじるのだけれど。

 

「て、手つきが怪しいぞ……ひっ、く、くすぐったい……よ、よせっ。あっ――ば、ばばば、馬鹿か貴様は……!」

 

もったいぶって尻をなぞると、思春がビクッと引っ込めたので、指先で追いかけて穴だけを集中的に狙う。

思春のアナルは強固に俺を拒んでおり、小指すら侵入させるのに苦労しそうだ。

本来の用途とは逆の使い方をしているせいか。くすぐったよりも違和感が先に来た思春は、俺の魔の手から逃げようとケツを揺らした。

当然、チンコはマンコに収まっているので、その動きに吸い寄せられる。

図らずとも本気のグラインドへとなった思春の腰つきは、肛門を閉じる力も作用して、グイグイと俺のペニスを絞った。

 

「ま、またぁ……太くして。こ、この……ひんっ」

 

またもやさっきと同じ勘違いをやらかす思春であったが、この肉体に対する無知によって、勝手に退路を断たれてしまった。

キツくなった膣圧により俺の一物から我慢汁が滲み出てて、それを射精と誤認したのである。

 

「こ、こんな時に……こ、こらっ……頑張れ……さっきよりも、子種が少ないぞ……ああ、もう……!」

 

なりふり構っていられなくなった思春は、俺にアナル攻めをされたまま、ヴァギナを躍動させてペニスを奮い立たせる。

いっぱい気持ちよくすれば、もっと精液が出ると考えたのだろう。

過程は違うが結論としては正しい。

だけどその、処女の身の丈に合わぬ大胆さが、思春の体温上昇に拍車をかけた。

 

「も、もっと、出せるだろ……ぐっ……これは、恥ずかしいぞ……わっ、私が……好き者みたいだ……」

 

熱いほど体を火照らせる思春は、弱音を零しつつも投げようとはしない。

快楽はまだでも、痛みはほぼなくなったからであろう。律義に俺の竿を出し入れして射精を目指す。

辛いセックスにならず、何よりだ。

思春のケツ穴にちょっかいをかけるのを中断した俺は、安心して胸に専念した。

次のセックスの為にも後は可能な限り長引かせ、思春の性感帯を開発しておこうと思ったからだ。

 

「いっ……待て……待て、待て……そこっ……不味いぃい……!」

 

そのつもりだったに、思春がとんでもない大当たりを掘り起こした。

 

「あぁあああああ……ひっ、ふっ、ふっ、深いぃいいいぃ……!」

 

Gスポットの奥にある、Aスポットだ。

ここはポルチオの手前にあるポイントなのだが、Gスポットと同様に、Aスポットは女性の前立腺を刺激する。

そして潮を吹くGスポットのごとく派手さはないが、Aスポットはちょくせつ子宮に快楽が響く。

孕みた願望満載な思春にとって、とんでもない弱点が眠っていたらしい。

 

「はんっ、やんっ、くあっ……ほっ、本気でやめろ……動くな……とっ、止まれ……はあんっ……」

 

ここがヤバいのは思春もうすうす気が付いているみたいで、繰り返し思春は警告を発する。

なのになぜか思春本人がストップしない。

未知の快感にどっぷりはまって、抜けられなくなったようだ。

グリグリと自らAスポットにチンコを擦り、ジュブジュブと溢れる愛液を泡立たせ、思春の知らない快楽へと体が導こうとしていた。

 

「はぁ、ふぅ、はぁ、ああっ……しっ、死ぬ……死んでしまう……ううぅううぅうう……・!」

 

「思春が死んだら、俺も一緒に死んでやる」

 

だから怯える必要はない。

この時ばかりは胸から唇を離し、思春をなだめる為。思春の目を見据えながら、俺は手放さぬよう抱擁した。

 

「あっ――」

 

キュゥウウウウと思春の膣が俺の一物に絡みつき、精を強請る。

色んな意味で限界が近い。

俺も今は我慢する事を忘れ、このままセックスの流れに全てを委ねた。

そして終わりを迎える寸前。思春は噛みつくような乱暴なキスで俺の唇を奪い、涙を流して罵倒した。

 

「お前はやはり、ばかものだっ」

 

そうかもな。

思春の言葉を受け入れた俺は、膣中へ精を放った。

ペニスがしきりに震え、二度、三度と止まらぬ射精が思春のヴァギナを満たす。

 

「んんっ、くっ……やっといっぱい、中で……」

 

やってもうた。

神様、仏様、俺様。中に出しても大丈夫なのでしょうか?

大丈夫だ、問題ない。そう信じるしかない。じゃなきゃもう、やってられない。

あたしって、ほんとバカ。

だから都合の悪い記憶は、消去してしまおう。

ひとまず思春の安否確認が大事。オッケー?

 

「おーい、生きてるか?」

 

「……はぁ……ふぅ……ふ~……死ぬかと、思った……」

 

「その台詞が吐けるのなら、ちゃんと生きてるな」

 

まぁキメセクでもしなければ、セックスで死ぬってほぼないと思うけどな。

あんまり大事にならず何よりだ。

 

「そうでもない。出産だけかと思ったが……性交がここまで大変だったとは……疲れた」

 

「乱れたからな」

 

「それは天の御遣いである……お前が原因ではないのか。まったく……」

 

グデーっともたれる思春がかなりしんどそうなので、俺は抱いたまま横にさせた。

でもどこが気に入らなかったのか、舌打ちされる。

 

「ちっ…………くすぐったい」

 

「ああ、そうだったな。離れるからちょっと待て」

 

「いい……今日くらいは、辛抱してやる。寛大な私に感謝しておけ」

 

「何でだよ?」

 

「それくらいは、自分で考えろ」

 

そう言って俺の頭をなでた思春は、ポンポン。と叩いて言いつける。

 

「童はもう、寝ている時間だ。私も休むから、お前も眠れ」

 

それはそれで困るのだが。

俺と思春は裸のまま、横向きでくっついている訳で、さらにチンコがマンコに入ったままな訳で。

 

「……どうしてまた、膨らんでいる?」

 

うん、こうなるわな。

 

「自分、天の御遣いですから」

 

「…………仕方のない奴だな。私の体を好きに使え、満足するまで付き合ってやる」

 

やったぜ。

ついでに一回。中に出しているし、もう外とかにこだわらなくてもいいだろう。

一回やれば、二回も三回も変わらない。

俺はお疲れ気味な思春の体力も考慮し、上になってセックスを再開するのであった。

 

 

 

 

 

おまけ

 

 

 

 

 

「すー……すー……」

 

慣れないセックスの連続で疲弊した思春は、俺がまた射精するとそのまま落ちるように眠った。

そしてまだ起きている俺が一人で何をしているのかと言えば、後始末である。

いっぱい出したり飛んだりしたからな。

酒場に降りて、店長からいらない布と水が注がれた桶を用意してもらい、それを片手にあれこれと掃除する。

身綺麗にした思春には服も着せてやりたいけど、そのせいでまた目を覚ますかもしれないし、ひとまず布団をかけてエッチの証拠を隠匿しておく。

これで華琳が戻っても平気だな。

 

「で、あいつはいつ戻って来るんだ」

 

セックス二回分でも未だ帰らぬ華琳は、ひょっとして円環の理に導かれ、逝ってしまわれたのかもしれない。

イッちゃって、イッちまってるだけだと思うけど。

だが華琳よりも剛の者が、すぐ傍にいた。

 

「蓮華も相当だけどな」

 

思春が言った通り、本気で蓮華の眠りは深い。

隣でギシアンして、さらにドタバタと清掃作業を行っているのに、一度も起きずにスヤスヤしていられるとか。

 

「私……醜い……嘘、醜い……やだ、醜い……何で、醜い……うっ、うっうっうっ……ぐすっ」

 

さらに蓮華は、まだ夢の中で花占いを継続している模様。

絶賛、悪夢中みたいだけど。

 

「ふぁ~あ」

 

俺も疲れた。

片付けもやっと済んで、俺も思春と同じ布団に入ると、あくびが出る。

そのまままぶたを閉じれば、スムーズに睡魔が俺の意識をさらった。

そんなこんなで翌日。

小鳥のさえずりで俺が覚醒すると、いるはずだった思春分のスペースがぽっかり空いている。

さすがに華琳は帰還していたみたいだが、俺の上着を羽織ったままかけ布団を全部。自分の所有物にしてくるまり、蓮華が素の状態で放置されていた。

華琳の寝相に性格が表れているな。

俺は使っていた布団を蓮華にかけてから、散歩を兼ねて思春を探してみる。

と、考えていたら、階下に思春を発見。

朝の酒場はやはり閑散としており、そこにポツンと佇む思春は、イスにも座らず朝食らしき物を立ち食いしていた。

おはよう。とテーブルに着席しながら挨拶をして、俺は思春に聞いた。

 

「座ればいいのに、どうして立ったまま何だ?」

 

「……腰かけると、あそこが痛い」

 

「あー……」

 

膜が破れたしな。

ついでに二回も、ムリさせたし。

言外に、俺のせいだぞ。と言わんばかりに鼻を鳴らした思春は、レンゲをすくって食事を摂る。

 

「ふんっ……それにしても意外だ。お前が最後に起きると思っていたが」

 

「朝になると、自然とこうなるんだ」

 

育児があったし、短時間の睡眠にすっかり体が馴染んだ感じだ。

おしめを替えないってのは楽でいいが、少しばかりしんみりする。

パパは寂しい。

 

「ところで、何を喰っているんだ?」

 

その隙間を埋めようと思春お母さんに絡むと、レンゲを突きつけ思春は答えた。

 

「お粥だ。いるか?」

 

「じゃあちょっとだけ」

 

「仕方がないな。では、口を開けろ」

 

あーん。を仕掛ける思春に、俺は目頭を揉んだ。

サン扱いをしてもらいたかったのではないんだけど。

 

「や、自分でするから」

 

「あーん」

 

「だから、自分で――」

 

「あーん」

 

すると決めたら梃子でも譲らない思春は、喰い気味に俺の言葉を封じ、あーん攻勢に回った。

根負けした俺は、素直に口を広げ、思春にお粥を運んでもらう。

 

「どうだ?」

 

これがお粥?

新触感な味わいに、俺の顔が引きつる。

お粥というのは、ドロドロだけどサラサラというか。とにかく口当たりは悪くないはずなのだが、ここのお粥はかなり特殊だ。

まず口内に入れても分離せず、飲み込むには米の塊を細かく噛みちぎる必要がある。

水片栗粉でも混ぜて調理したのかよ。病人食の味方がどこで裏切った。

 

「…………」

 

時間をかけて一口分のお粥を食した俺は、やっとの事で感想を語った。

 

「薄い」

 

「それを私に言われてもな。作ったのは店主だ」

 

「後、ちょっと熱い」

 

「我儘な奴め……ふー、ふー……」

 

もういらないんだけど。

次なるあーんの準備を始める思春が、レンゲに盛られたお粥を冷ます。

さて、どうやって断ろうか。

 

「ほらっ、あーん……」

 

再びお粥らしき物体を思春が俺に差し出すと、そこでバットタイミングな事故が発生した。

 

「ふぁあああ~おはよう。二人とも、早いのね」

 

「ぶっ!」

 

起床し階段を下りた蓮華が俺らの前に現れ、驚いた思春がお粥ボールを吹き飛ばす。

それが見事、俺の顔面にヒット。俺は熱さに叫んだ。

 

「あづいっ!」

 

「えっ……えっ?」

 

「ああ、もう。お前は何をやっているのだ」

 

お前が俺にデッドボールをぶつけたんだろうが。

 

「少し赤くなっているな。店主、水をくれ」

 

しかし俺の症状を確認してからの対処は素早く、テキパキと思春は治療にあたった。

店長が用意した水の器に手を浸し、俺の火傷した箇所を手当てする。

 

「思春……いつの間に御遣い様と仲良くなったの?」

 

この光景を驚いたまま、ずっと眺めていた蓮華がそんな疑問を呟いた。

 

「はっ――い、いえ。これは、違うのです」

 

これでようやく、誰が来てこうなったのか。誰の前で何をしたのか。

全てを思い出した思春が、ワタワタを水を切って蓮華に言い訳をする。

 

「わ、私はこ奴の心配をして、水を準備させたのではないのです。私の喉が渇きましたので……んぐっ、ごくごく……ふう。つまり、そういう事です」

 

「つまり、どういう事?」

 

わからないよな、傍から聞いたら意味不明だもん。

照れ隠しをしているのだと読み取れるかもしれないけど、その理由と経緯まで把握していないと、どうして思春が焦っているのかサッパリである。

 

「ですから、その……~っ!」

 

苦しい建前なのは自覚があったのか、思春は拳を強く握りしめ――、

 

「う、馬の様子を見てまいります」

 

強引に逃げだした。

ポカーンと思春を見送った蓮華は、眉を寄せ、改めて俺に尋ねる。

 

「思春と何かあったの?」

 

「さあな」

 

思春が蓮華に黙っておきたいのなら、俺が喋る訳にもいかない。

呆けてお粥を食べようとし、蓮華にレンゲを向ける。

 

「いる?」

 

「お粥? うーん……少しだけ頂くわ」

 

思春の態度が謎のまま放置され、しっくりしない蓮華は少し悩んだみたいだが、それを飲み込んで俺との席を囲んだ。

 

「はい、あーん」

 

「えっ……い、いいの?」

 

「悪いのか?」

 

「悪くない!」

 

「お、おう」

 

バンッ。とテーブルを叩いて身を乗り出した蓮華に、俺はビクつきつつも、お粥を与えた。

ちょっと垂れたが、指でそれを拭った蓮華は、モニュモニュと口元を覆って咀嚼する。

嬉し恥ずかし。素敵なあーんのイベントに最初、蓮華はニコニコだったものの、お粥を噛みしめる度に、ドヨドヨとした表情となる。

これは、ひょっとするとひょっとするのか。

このお粥のおかしさの同士を見つけた俺は、期待して蓮華の言葉を待った。

 

「薄いわね、このお粥」

 

「そうだよな」

 

「それに粘り気も足りないわ」

 

「そうなのか……」

 

美醜逆転の世界における最大の敵は、この食事情かもしれんな。

食通を気取るつもりはないけど、毎日ゲテモノグルメだと俺の胃が小さくなりそうだ。

どうするかな。

深刻な問題に俺が危機感を募らせていると、外から思春の悲鳴が店内にも届く。

 

『いたいっ!』

 

続けざま、馬の鳴き声も木霊する。

何をしているんだ、思春は。

 

『あっ、暴れるな……あれに障る……お、落ち着つけ!』

 

声から判断するに、まーた馬を暴走させたのか。

たぶん、股の痛みにどれだけ耐えられるか。試しに乗馬してみたらって感じなのだろう。

そんなじゃじゃ馬なBGMをバックに、上の部屋から誰かが床ドンをした。

 

『あーもう、うるさい!』

 

犯人は華琳だった。

 

『朝っぱらひひーんひひーんと、発情した馬みたいに。これだから田舎は嫌いなのよ!』

 

そこは田舎、関係ないだろ。

 

『空気が澄んで、声が響く。私は昨日おそかったのよ。もっと静かにしないと、寝られないじゃない!』

 

華琳が寝不足なのは、確実にオナニーのせいだと思う。

つまり自業自得だ。

 

「今日も楽しい一日になりそうね」

 

それを耳にしていた蓮華は、笑顔で俺にそう言った。

騒がしいだけではないのか。

何とも言えない俺は、すっとお粥の皿を蓮華の方へ移動させるのであった。

 

 

 

 







設定はおおむね出来上がったので、美醜逆転編を投稿させて頂きました。
続きはまったり速度になると思いますが、よろしくお願い致します。

そして気が付けば、思春がお母さんに。
似たような性癖なのに、白蓮とのこの差はいったい。

世界観の違いって、怖いな。と思いました。




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その後の話2





今回はこの話を書く決め手となった、キャラクター達の登場回です。

皆様。
暖かい拍手と共に、お出迎えをお願い致します。






 

美醜逆転。

それがこの世の常識であるらしい。

しかし前とは違い、男女の数はほぼ均等。あげくに男性ですら戦場に出陣するのであれば、性差の逆転も感じる。

と、桃香は貂蝉の説明を聞いて思ったりした。

気になる事実があるとすれば、こちら側だと桃香ら四人は顔の悪い女性になるそうだ。

私達って、絶望的に男の人と縁がないんだね。

自分はどこにいても、もてない人種であると悟った桃香の目は、仄かに濁ったりもした。

すでに桃香は夫と子供のいる身。

だから別にいいんだもん。何て強がれるほど高潔ではいられない。

一回でよかったら他の男にきゃーきゃーとちやほやされ、ご主人様に嫉妬されてみたかったのに、その機会は永遠に訪れなさそうである。

また一つ、桃香の小さな夢が潰えてしまった。

そうして心の中でさめざめと泣き、桃香は皆と美醜逆転の世へと降り立つ。

愛紗と白蓮は身ごもっていたが、そこは貂蝉の不思議なぱぅわーで解決。

ここ数年はなかった。全員、子宮の空いた身軽となった桃香達は、この現象に騒ぎ回った。

だから気が付くのが遅れた。

ご主人様がいない事実に。

ちょっと遠くにいるのかなぁ。と皆で手分けをして捜索してみるものの、ご主人様の影も形もない。

次第に不安は募ってゆき、桃香らは慌てた。

自分達と一緒にこの世で冒険すると疑ってなかったので、冷や汗がだらだらと流れる。

不味い、不味い。まじで不味い。

ご主人様はか弱い男性だ。桃香らが傍にいて、守るべき大切な夫である。

もし自分達と同じようにこの世へ一人、放り出されているのであれば、速やかに守護らねばならない。

さもなくば、ご主人様の命と貞操は無事では済まないだろう。

最悪の想像が頭をよぎった四人は、それこそ死に物狂いになった。

走って、走って、走って。白蓮が転んで、桃香の体力が尽き愛紗が背負って、ときおり星が倒した槍の方角へ全力の疾走をした。

その姿が不憫に映ったのか。

音もなく現れた貂蝉から、ご主人様は天の御遣いとして保護された情報が桃香達にもたらされる。

それじゃあどこにいるの?

という問いは教えてくれず、また貂蝉は忽然と消えたが。

ひとまず最低限。ご主人様の安否がわかった四人は安心し、平地で失った体力の回復に努めていたのだが、休んでいる間に異変が起こった。

それは当初。見過ごすほど小さな物で、気のせいかと思っていた。

しかしやがて何度も目につき、遂には無視できぬほどの問題となり、とうとう桃香達の障害として立ちふさがったのである。

 

「がるるるるる!」

 

愛紗が発狂したのだ。

 

「おお、何という事だ。主の安全が判明したのに、しばし会えぬと悟ってしまったのか。先ほどからしきりに首元へ手をやり、時折わんわんと吠えていた愛紗が、胸を押さえてうずくまったかと思えば……こんな有様になるとは」

 

「こうなるの、読めていたよね」

 

くっ。と泣くふりをする星に、途中で止めてよ。と桃香は非難の眼差しを向ける。

もっともそれなら、桃香も同罪であるのだが。

しかし桃香と星を責めたりは出来ない。

こうなった愛紗には、あんまり関わりたくないのだ。

ご主人様に誰が一番、執着しているのかと言えば満場一致で愛紗の名が上がる。

人の身でありながら犬となったのであるから、当然だ。

それは赤子を授かってからも変わらず、首輪を着けたまま授乳する愛紗に、ご主人様はたびたび渋い顔をしていた。

そうしてあくる日。痺れを切らしたご主人様から、もう親になったらどうだ。と暗に犬の卒業を迫られた愛紗は、こうご主人様に答える。

 

『雌親ではいけないのでしょうか?』

 

それからの事については、あまり思い出したくはない。ご主人様があんなに怒っているのを見たのは……結構、あったかもしれない。

とにかく、その件により愛紗の首輪は没収。後の家族会議により、子供の前で首輪をしないのを約束に、愛紗の元に犬の証は戻ったのであった。

そんな愛紗の魂にも等しい愛用の首輪も今は、残念ながら手元にない。

妊娠中で愛紗は首輪を外しており、そのまま慌ててこちらに来たので、自分達の世に置きっぱなしになっているのだ。

せめて子供がここにいれば、愛紗も親としての面目を保ったかもしれないが、現状。子供なし、首輪なし、ご主人様との再開はいつになるのかわからない。

愛紗は自らの安定を図る為、犬になるしか道は残されておらず、無力な桃香と星はその変貌を眺めるしかなかった。

 

「どうしよっか?」

 

「主を探すしかないのでは?」

 

「そうなんだけどね……」

 

「おい、よせよ愛紗。そんな姿を見せられたら、私も悲しくなるだろ。ううう――びえぇぇん、ぱぱ。どこへ行ったの、ぱぱぁあ!」

 

「きゃんきゃんきゃんきゃん!」

 

これでやれるの?

愛紗の犬化に感化され、白蓮の幼児退行すら現れる始末。

息子達の子育てで、しきりにしつこくご主人様が、ぱぱなる言葉を告げていたせいか。たまに白蓮はご主人様をそう呼んだ。

用途は色々で、寂しかったり甘えたかったり。後は抱っこをされてあやされる息子達を羨ましがり、自分も赤子になったりと、幅は広い。

子供を産んで、どうして白蓮は大人になれないんだ。

そう言ってご主人様に叱られる度。嬉しそうに正座をする白蓮の様子に、ご主人様が頭を抱えたのは一度や二度では済まない。

 

「親指までくわえ、しゃぶり始めたぞ」

 

「これはもう、駄目かもわからないね」

 

まだ一日も経過してないのに、この惨状である。

桃香と星も、もらい泣きしそうだ。

もともと愛紗と白蓮は妊娠中であり、精神的に不安定な面もあっただろうが、崩壊が早すぎる。

貂蝉が危ないからと、こちらを旅する間だけ愛紗と白蓮の体を元に戻してくれたのだが、あまり意味はなかったのかもしれない。

これで長期に渡ってご主人様と会えなければ、どうなるのか想像するのも嫌だった。

ううう……そう考えると、私もあそこがむずむずしてきた。

母親になったとは言え、桃香もまだまだ女盛り。

こんな時は体を動かせば性欲は発散されると、反公孫賛連合で学んだ桃香は、またひとっ走りしようかと腰を浮かす。

 

「んっ、あれっ?」

 

するとそこで、こちらに忍び寄る不穏な者達の存在を察知した。

 

「兄貴、見て下さいよ。あんなところに不細工な女共がいますぜ」

 

「み、みにくい。みにくいんだな」

 

「おええ、化け物じゃねえか。こんな女、初めてだぜ」

 

こんな人気のない地でもたもたしていたせいか、どうにも人相の悪い者達と遭遇したようだ。

それぞれ長身・短身・太っていると、三者三様の体躯をしているが、各々に武器を用意しており、どうにもまともな民でないのは明らかであった。

 

「野盗?」

 

「これで官軍に見えるかよ。顔もそうなら、目もおめでたい女共だぜ」

 

「いちおう聞いておくが、不細工やら化け物は、私達をさしての台詞か?」

 

「わーお、頭までおめでたいですぜ兄貴。こいつら、自分が醜い自覚がねぇ」

 

「め、めでたい。でも、おでたちは、めでたくないんだな」

 

「いい獲物がいたと思ったら、こんな人外な容姿だからな」

 

事前情報があったとは言え、散々な罵られようである。

これが本当に男性から言われているのであれば、それだけで自殺をしてもおかしくはない責め苦だ。

 

「おい、そこの砂利共」

 

もっともある程度は覚悟していたつもりだ。

ここまで酷いとは想定を超えていたりするけど。

それでも賊らの悪口を飄々と受け流した星は、地面の小石を拾い軽く握りつぶした。

 

「口の聞き方に気を付けろ。私は今、非常に機嫌が悪い」

 

ぐしゃっ。と手で砕いた石が粉になったのを見せつけから、息を吹きかけ賊達に飛ばす。

次はお前達がこうなる番だ。

そんな脅しである。

星の強さの一端をかいま見た賊達は、情けないほどすくみ上った。

 

「ひえっ!」

 

荒事だと、星は頼りになる。

そしてそれ以外で、星はあんまり頼りにならない。

ご主人様いわく、星は生粋のとらぶるめーかーだそうだ。

ただ、やり過ぎである。

 

「星ちゃん。相手、男の人だよ男の人」

 

「おお、そうであったな」

 

両手をはたきながら、いま思い出したと言わんばかりに星は頷いた。

桃香らにとって男性は、暴力を振るうなど論外な対象である。しかし女性ばかりの世で暮らしていた弊害で、まだ異性と対峙している認識が薄いのだ。

そもそもこんな感じの女性も、処女を持て余すほど向こうでは徘徊していたし、ちゃんと意識しておかないと、男であると忘れてしまいそうになる。

乱暴、駄目、絶対。

しかしその桃香と星の情けは、賊達に顰蹙を買った。

 

「あ、ああん。女が舐め腐った事を言いやがって。お、俺達がそんな脅しに屈すると思うなよ」

 

「そ、そうだ。へへへ、わかるんだぜ。実は怖いんだろう。後ろにいる女共なんて、泣いて命乞いをしてやがる」

 

「くぅうん、ううぅん」

 

「ぱぱ……助けて、ぱぱ」

 

それ、違うんだけどなぁ。

たぶん愛紗と白蓮の内面を知ったら、賊達もそんな事は言えなくなるはずだ。

だが、ここでは基本的に男性は女性に勝る者。

だから男性は女性よりも優位であるし、もし力で劣っていようとも、やりようは幾らでもある。

それでこの賊達は今日までを生き延びてきたのだ。

だから今回もうまくいくと、根拠もなく信じる長身の賊は、四人に太った手下をけしかけた。

 

「でぶ、お前の恐ろしさを教えてやれ!」

 

「武力たったの五ではないか。塵め」

 

「へっ、強がっていられるの今の内だ。でぶはやばいぜ、超やばいぜ」

 

「……………………」

 

ぬっと大きな体で桃香らの前に立ちはだかる太った賊は、眼を凝らして見つめてくる。

 

「どうだ、でぶの瞳は。つぶらでまさに、子犬のようだろう!」

 

「こいつはこれで、不細工な女共を、何人も骨抜きにしたんだ。おらっ、犬のでぶを殴れるものなら殴ってみやがれっ!」

 

「いぬっ……はっ!」

 

そんな中で、犬という単語に反応した愛紗が我に返った。

同じ犬属性。

どこか通じ合うものがあったのか。

その愛紗に狙いを定め、太った賊はその愛くるしい眼差しを降り注ぐ。

 

「……こ、これは!」

 

「こいつであの黒髪の不細工はお終いだ。一生、でぶのいいなりになって――」

 

死ぬまで貢ぐ。

という、長身の賊による、お決まりの文句は最後まで続かなかった。

狼狽えた体で動揺する愛紗に勝利を確信していたのだが、一閃。

垂直に伸びあがった愛紗の足により、つぶらなでぶは空を舞った。

 

「この贋作動物がぁあああ!」

 

「で、でぶぅううう!」

 

人間の急所の一つ。

顎をつま先で綺麗にとらえたその蹴りは、愛紗よりも数倍はあろう肉体の重さも何のその。

豪快にぐるりと一回転させてから、太った賊を顔面から激突さる。

跳ねるのに失敗した無様な蛙のごとく倒れた賊は、びくびくと四肢を痙攣させた。

 

「お、ごごご……」

 

「あっ、よかった。殺してない」

 

それでもまだ息があるのは確認できたので、桃香は心底安堵する。

もし愛紗があの太った賊に全力を出していたなら、首から上だけちぎれて天高くまで昇っていた可能性が高い。

どうやら男性向けに、ちゃんと手加減はしたみたいだ。

男の人に足を振るったのは、だいぶ減点だけど。

これは後でお話合いだね。とか桃香は厳しく採点するが、さらに愛紗は女性失格な烙印を押されかねない蛮行に出ようとしていた。

 

「こ奴が犬だと、ふざけるな。犬真似をしただけの、狡猾な人間ではないか。この畜生め、私が制裁してやる!」

 

「ほえっ!」

 

蹴りだけでは飽き足らず、拳を固めて男性虐待すらも愛紗は視野に入れていた。

いけない、今度こそあの人の頭が果実みたいに潰れちゃう。

慌てて愛紗に抱き着いた桃香は、惨劇を回避させるべく必死になってなだめる。

 

「愛紗ちゃん、落ち着いて。あの人、おちんちんがついているんだよ!」

 

「このような粗暴な男など、いるはずがありません。離して下さい、桃香様。私はご主人様に躾けられた犬として――はっ、そう言えばご主人様は。そもそもここはどこだ!」

 

「愛紗ちゃん、まじでしっかりして!」

 

どうやら人か犬かもあやふやな愛紗は、記憶すら混濁していたらしい。

桃香にしがみつかれたまま訳もわからず、愛紗はいるはずもないご主人様を呼び掛けた。

 

「ご主人様、ご主人さまぁああ、ごしゅ……わんわんわんわん!」

 

人語で駄目なら、犬語なの?

愛紗ちゃん、私にはわからないよ。

 

「やばいよ、兄貴。あいつら絶対にやばいよ」

 

「う、うろたえるんじゃねえ!」

 

そんな桃香と愛紗のやり取りを、余すところなく目撃した二人の賊は、恐怖から体を震わせた。

比喩的な太った賊と違い、完全なる人犬一体な存在がいたのだ。

こうして現実にいる分、不確かな幽霊よりもよっぽどおぞましい。

長身の賊は強がっていたが、さり気なく愛紗から離れ逃げ腰になっている。

しかし悲しいかな。

この四人の間では、一線さえ守れば、愛紗はまだ良識がある方だったりする。

 

「ろくな物を持っておらんな……おっ」

 

もっとも自分本位な星は、早くも太った賊の追いはぎを始め、目当ての物を入手した。

男も女も関係なく、賊であれば平等に扱うその姿勢は、ある種の潔さがあった。

 

「めんまはなしか。やむをえまい」

 

欲しかった酒壺を探り当てた星は、封を切って臭いを嗅いだ。

一度これで痛い目をみたので、当然の措置だ。

 

「すんすん……賊にしては上等な酒があるではないか。ふはは、貴様らにこの酒はもったいない。これは私がもらってゆくぞ」

 

そう言って爽やかに酒の所有権を主張し、勝手に星は一杯やり出す。

以前に引っかかった水で薄めた安物ではなく、味は売り物としてまともな物だった。

その背景には、太った賊がつぶらさを武器に不細工な女から金をせしめ、奮発していい酒を買ったのであるが、そこには弱者は強者に巻き上げられ、強者はより強者に搾取される、世知辛いこの世の掟が透けて見えた。

 

「いや、それはやっちゃいけないだろう。男相手に盗みとか、女が廃るぞ」

 

愛紗が鳴き止むと共に立ち直った白蓮は、星の酒をひったくりたしなめた。

しかしその程度でへこたれない悪びれない星は、自らの正当性を主張する。

 

「男とか女以前に、賊は賊でしょう。だいたい、ここでは男が普通にいるらしいではないですか。ならば私の行いは称賛こそされ、非難するのは誤りでは?」

 

「そういう見方もできるのか。でもぶっ飛ばしたのが愛紗で、星はその戦利品をかすめ取っただけじゃないのか」

 

「果たしてあれを正義と呼べるので?」

 

「ふー、ふー、ふー、ふー!」

 

「愛紗ちゃん。そっちに行ってもたぶん、ご主人様はいないから。私のいう事を聞いて……うくく、助けてご主人様!」

 

星の指さす方角には、四つん這いになって駆け出そうとする愛紗と、その横髪を引っ張って抵抗する桃香の姿が目撃された。

お互いの体勢のせいでどうにも、大型の犬に振り回される飼い主の構図に見えなくもない。

 

「……愛紗はもう、人間ではないな」

 

「主と離れ、野生が芽生えたのでしょう。ですのでその酒の権利は、人である私に委ねられても問題はありますまい」

 

「だったら私は主君として、この酒を預かって管理する。趙雲よ、みだりに酒を飲んではならない」

 

「そう嘘をついて、後でこっそり一人で楽しむつもりなのでしょう。感心しませんな、伯珪殿」

 

「そんなずる、私がするはずないだろ。私はご主人ちゃまと約束したんだ、もう酒は飲まないって!」

 

白蓮がここまでお酒に拒否反応を示しているのは、かつての大失敗があるからだ。

何を隠そう。最初に男児を出産したお祝いで、白蓮は宴を開き酒を出してしまったのである。

母親の食事が、母乳としての栄養になる。とはご主人様の言であるが、それを知らずに酒盛りをした桃香達が翌日。赤子に母乳を与えると、それぞれの我が子の顔が赤くなり、目をぐるぐると回し酔っぱらった。

母体が丈夫なおかげか。息子達にそれ以上の症状はなかったが、あの時のご主人様の怒りようは未だ全員の目に焼き付いていた。

さすがの白蓮も、ご主人様の雷が落ちればびびる。

もっとも、そうした白蓮の内心など丸っとお見通しな星は、手立てならぬ口を立てて酒を奪取しようとした。

 

「主が怒られたのは、我々が赤子に乳を与えるのに酒を飲んだ故。今であれば、主もとやかく言いますまい」

 

「た、確かに貂蝉の妖術みたいな力で、私や愛紗のお腹の膨らみは消えたけどさ……帰ったらどうなるかわからないだろう?」

 

「心配無用。貂蝉も言っておったではないですか、ここは胡蝶の夢のようなものだと。夢で飲み食いをして、太ったり酔っぱらう者などおりません」

 

「う、うーん。そうなのかな?」

 

「ええ」

 

ここが勝負どころと睨んだ星は、白蓮に畳みかける。

 

「それにこの場で私が飲んでも、主に叱られるのは私だけです。もし白蓮殿にまで類が及ぶのであれば、私が責任を持って庇い立て致しますので。どうかその酒を、私の元に」

 

「よっ、よし。そこまでいうのであれば、酒は返そう。でも悪いのは星だけだからな。私を巻き込むなよ」

 

「勿論ですとも」

 

そうなったら当然。星はご主人様にある事ない事を吹き込み、白蓮も道連れにするつもりである。

酒の恨みは恐ろしいのだ。

こうしてやっと満足して酒を堪能できるようになった星であったが、ゆったり舌で味わっていると、白蓮が人差し指を咥えてじっ~と羨ましそうに眺めてくる。

 

「…………」

 

「飲みますか?」

 

「……うん。飲む!」

 

やはり大きな童よな。

人が飲んでいると飲みたくなった白蓮は、星から渡された酒壺にあっさり口をつける。

あの苦労は何だったのか。

とてつもない徒労感に悩まされる星だが、前向きに考えれば最低限。怒られる仲間を確保したと思えなくもない。

なお。白蓮が心の奥底で、これでまたご主人ちゃまにいっぱい叱ってもらえるかも。とか、微かに期待を膨らませているのを星は知らない。

予測するのが土台無理な話であるが。

踏んだり蹴ったりとは正にこれであり、たまったものではないのが、ずっとここまで放置されていた二人の賊だ。

 

「あ、兄貴。あいつらでぶの私物を物色したばかりか、酒まで飲み始めましたよ」

 

「ゆ、許せねえ。俺らを馬鹿にしやがって」

 

何て不届きな不細工共だと、賊達は憤った。

賊とは本来、奪う側だ。

それが奪われる側になるなど、我慢が出来るはずもない。

広い世の中。その手の話はごまんとあるのだが、そこまでの危険を理解しているなら、この三人は賊などやってはいまい。

例え半端であろうとも、これで生活していた自負もあり、ここで尻尾を巻いて逃げるにはいかないのだ。

その無謀さが破滅に続く道とは知る由もなく、二人の賊は再び桃香達に威勢よく恫喝をし、注目を集める。

 

「こ、この醜い女共が。でぶはやられたみたいだが、ここからそうはいかねえぞ。ちび、やってやれっ!」

 

「へいっ。おい、てめえら。覚悟しろよ!」

 

太った賊は確かに不細工な女性に好かれたが、全員が全員。同じ手口にかかった訳ではない。

生意気にも犬が嫌いな不細工もいる。

その取りこぼした女性を落とす、魔性の魅力が短身の賊には備わっていた。

短身の賊は険しく睨んでいた表情を一変させ、柔らかで舌足らずな声音で桃香らへ媚びる。

 

「ねっ、お姉ちゃん」

 

これぞ小さな身長を最大限に生かした戦法。

ちびにしか不可能な女心をくすぐるこの芸当。しかもこの短身な賊は立派な大人。

まさに合法ちびなのである。

これで財布の紐を緩めた不細工は数多いる。

しかしどうにも、子持ちである人妻には効果がいまひとつのようだ。

 

「私よりも年上の癖に、童の真似をするな。気色が悪い」

 

「それにしてもあの男。ちんちんが小さそうだな」

 

「これくらいか?」

 

「ぐぉおおおおおお!」

 

「ち、ちびぃいいいい!」

 

愛紗・星・白蓮の容赦の欠片もない言葉によって、短身な賊は雄たけびを上げて埋まった。

効果はばつぐんだ。

単純ではあるが、不細工な愛紗の気持ち悪い発言が地味に効いた。さらに密かな劣等感を星に言い当てられたあげく、白蓮が親指と人差し指で想定した一物の小ささが、短身な賊を過呼吸に追い詰める。

短身な賊のあれは、それよりも小さかったのである。

 

「違うんだ、これはまだ勃起じゃないんだって。えっ、そんな。気持ちよくなかったって、俺は、俺は……うがぁあああああ!」

 

「ちび、しっかりしろ。ちびっ!」

 

「え、ええっと。大丈夫」

 

「うっせえ、不細工は黙ってろ。俺に近づくな、臭いんだよっ!」

 

涙どころか涎や鼻水で顔をぐちゃぐちゃにして暴れ始めた短身の賊を案じ、桃香が駆け寄ると、汚物のごとく払いのけられる。

 

「ふーん」

 

だが、それが桃香の逆鱗に触れた。

かつて閨の後、桃香はご主人様にふと言われた事がある。

 

『桃香ってたまに、ビッチ臭がするよな』

 

聞けば性交が好きな女性という意味らしい。

しかし桃香は深読みをする。

ひょっとして私、遠回しに臭いって言われているのかも。

そうでなければわざわざ、臭い。などとつけたりはしないはずだ。

ご主人様は違うとはっきり口にしたが、女性としては死活問題な内容も手伝い、桃香は一抹の不安を抱える羽目になった。

それから桃香の入浴時間が激増したりするのだが、そんな桃香に臭いの二文字は、完全に禁句である。

禁を破った者は、相応の刑が執行される。

 

「ぎるてい」

 

星が砕いた小石よりもでかい。手の平くらいの大きさはある石を拾った桃香は、短身の賊をそれでぶん殴った。

ごつん。と石で殴打された全てが小さいちびは、ぴゅーっと側頭部から血を噴き出して大地へと沈む。

 

「おごっ……ぐへぇ……」

 

「……ねえ、私って臭う?」

 

「ひぃいい!」

 

返り血を拭いにっこりと笑いかける桃香に、長身の賊は腰が砕ける。

ここで強気に暴言を吐けば、その何倍以上の暴力で返されると短身の賊が証明している。

だから長身の賊は、尻餅を着いたまま首をぶんぶんと横に振った。

 

「い、いいえ。貴方様は、とてもいい香りがします!」

 

「ほ ん と う?」

 

「は、はぃいい。まるで美人が傍にいるような、心地よさすらあります!」

 

とにかくおかっべで身の保身に全力な長身の賊は、しかし。痛恨の失態をやらかし、自らの首を絞めた。

 

「……それじゃあ、私って綺麗なの?」

 

「うええ!」

 

世辞だってわかれよ、この不細工。

よいしょで言った美人発言を真に受け、とんでもなく罪作りな台詞が生み出されてしまった。

産まれてこの方、長身の賊はこんな図々しい醜女を見かけた事がない。

普通であればぼこぼこにしている。

だが実際は、自分の命が粉々に砕け散るので、長身の賊は自らの価値観に背き桃香へ命乞いをした。

 

「き、ききききききき、綺麗です。とっても!」

 

「…………これでも?」

 

そう言って桃香がにこにこと微笑む。

その姿はまるで世に太平をもたらさんとする、天から下りた女神。

おちんちん何て言わなそうな、清楚さと可憐さと優雅さが兼ね備わっていた。

ご主人様が見れば、ずっとそのままの君でいてくれ。と、土下座をして頼み込んだであろう。

それほどまでの威光が桃香にあった。

けれどもこれが通用するのは美醜が逆転していない地であり、長身の賊からすれば、おだてられてどぶに突っ込んだ、醜い塊でしかなかった。

死ぬほど不細工だと、叫びたい。

でもまだ、本気で死にたくはない。

そうした相反する感情が長身の賊を緊張させ、その肉体に強い拒絶反応を示した。

 

「ぐぉおおおおおお……!」

 

口元を両手で覆った賊は、こみ上げる嗚咽を必死になって抑えた。

ここで吐いたら、殺される。早く、美人だと言わないと。

そう思い、わかっていても。奮い立たせようとした気持ちが空回りとなり、嘔吐感を刺激する。

 

「ひゅっ、ひゅっ、ひゅっ」

 

満足に呼吸もできない。

瞳には涙が溢れ、視界が歪む。

俺はこんな所で、みじめに終わってしまうのか。

賊の脳裏にこれまでの半生がゆっくりと流れ、最後になって無様に転がる二人の手下が浮かんだ瞬間。

長身の賊に審判が下された。

 

「かっ!」

 

どすん。と前方で石が叩きつけられる音がする。

怖くて目が開けられず、がくがくと震える長身の賊を尻目に、振り返った桃香が三人に告げた。

 

「決めた……私、顔が悪い人でも笑顔で暮らせる世を作る。きっと私達みたいに、虐げられている人がいっぱいいるはずだから!」

 

「あの、ご主人様は……さらに言えば、我々はどうしてこのような場所へいるのでしょうか?」

 

「落ち着いたら説明するから、愛紗ちゃんはそれまで待ってくれない?」

 

「は、はぁ……桃香様がそう言われるのであれば」

 

「うん、ご主人様は探すから安心してね。でもそのついでに、世直しもしたいなって。それで私達の名が広まれば、ご主人様が保護している人と、会いに来てくれるかもしれないし」

 

「ふむ、やみくもに探すよりはいいのでは。ただ、ここにはここで、私達と対になる者がいるのだろう。名を広めるのは果たして、よいのかどうか」

 

「私や桃香や、星や愛紗もいるんだったか。ややこしい事になりそうだな」

 

「う~ん。偽名を名乗るべきなのかな……けどそうしちゃうと、ご主人様に気づいてくれるか……難しいね」

 

そっちの問題があったか。と桃香は悩む。

噂になってもこちらの自分に影響がなく、でもご主人様が聞いたら桃香達だとわかってくるような偽名。

そんな都合のいいものあるかと己の頭に問いかけると、ぼわっと。蠟燭に火が点いたように桃香が閃いた。

 

「そうだ、皆。ちょっと耳を貸して」

 

そして内緒話で自らの着想を伝える。

 

「私、張角になる」

 

それはかつて黄巾党を作り上げ、民にも男をよこせと各地で暴れた首領の名である。

掲げた題目からか、規模は瞬く間に全土へと広がり、外を出歩かないご主人様でもその存在を知っているほどであった。

よって知名度は十分。

桃香が張角として、ここでも黄巾党を結成すれば、自然とご主人様にも話が届くはずだ。

もっともこれだけでは片手落ち。美醜が逆転した張角がまた断頭をしたと、ご主人様には済まされてしまう。

だからこそ黄巾党として動く大義で、ご主人様にだけ理解できる声明を発表するつもりだ。

ご主人様が稀に口にする、天の言葉を当てれば、簡単に桃香達が張角をやっていると気づいてくれるだろう。

こっちの黄巾党がもう出来ていれば計画がおじゃんとなるが、まだであるのならば、確実に流れへ乗れるのは大きい。

それで数に任せた武力決起ではなく、声を上げる平和的な運動に収めれば、悪戯に無駄な命も失われまい。

これが成功すれば、張角に名を返した時に彼女は一角の英雄。

失敗しても、張角による大規模な逆賊犯罪を未然に防げるなど、いい事ずくめである。

まぶたをつぶればその裏で、全ての民が仲良くお花畑で手を繋いでいる未来が浮かびそうだ。

うんうん、いいんじゃない。

こう桃香が自画自賛する考えは、三人からも特に拒否されず認められた。

ならば後は、愛紗と白蓮と星が誰になるのかであるが、ここで少しいざこざが発生する。

 

「桃香が張角ならば、張宝は私がもらった」

 

「となると、私が張梁か? しかし死者の真似事をするのも、変な気分だ」

 

「じゃあ私は――ううん……誰だっ!」

 

張角一味は三姉妹。

必然的に一人あぶれる。

完全に余り者となった白蓮に、桃香と愛紗と星はにべもなく突き放した。

 

「白蓮ちゃんは、白蓮ちゃん?」

 

「好きになさればよろしいかと」

 

「白蓮殿じたい、そこまで影響力があると思えませんからな」

 

「びえ~ん、ぱぱ。皆が虐める!」

 

「嘘うそ嘘、冗談だから!」

 

地の彼方へ走り出そうとする白蓮を、桃香が抱き着いて止める。

ようやくまとまってきたのに、ここでまたこじれると収集がつかなくなる。

 

「それも後で一緒に考えよう。やる事たくさんあるし」

 

「おざなりみたいで、冷たく感じるなぁ……」

 

「一生懸命やるから、ね。ねっ?」

 

「絶対だぞ!」

 

「はーい……」

 

ご主人様って大変だったんだ。と今更ながらに、桃香は身に染みた。

子育てと白蓮を同時に相手をしていたとか、頭が下がる。

 

「ひとまず人と物資を集めて、こっちの情勢も調べたいから、付近の賊はぜんぶ掃除しちゃおっか?」

 

仮に男性が含まれていたとしても、やると決まれば桃香は迷わない。

この手の平返しの具合は、美醜逆転の男の人は、桃香らに排他的だと初対面の印象で刷り込まれた部分も多分にあった。

殺さないし手荒に扱うつもりも皆無だが、やはり自分達に好意的な男性がいると知っているだけ、無自覚に線が引かれたのだ。

 

「だから案内はよろしくね」

 

「え゛っ?」

 

こそこそと、手下を起こそうとしていた長身の賊は、そこで桃香に話を振られ驚く。

桃香らが賊に見向きもせず、何やら相談しているのをこれ幸いと、長身の賊は逃げる準備を進めていたのだが、間に合わなかったのが運の尽き。

彼とその手下の運命は、ここでぐるりとおかしな方向へと歪められる。

 

「聞いてなかった。賊を討伐したいから、いる所へ連れて行ってもらいたいんだけど?」

 

「お、俺がですか?」

 

「嫌なのか?」

 

聞き返す愛紗の背後で、黙って星が血の付着した石を踏み割る。

ばごっと、砕かれた石に自分の末路を幻視した長身の賊は、引き攣った笑みを浮かべて手を揉んだ。

 

「い、いえ。へ、へへへ。それくらい、お安い御用ですよ。俺に任せて下さい」

 

「頼んだぞ。それにしても、賊退治とか久しぶりだな。腕が――、鈍っていたらどうしよう」

 

「ずっとこもっていましたからね。少し不安ではあります」

 

「殺しちゃ駄目だよ、愛紗ちゃん」

 

「あ、あの、その前に。ちびとでぶを起こしても構わないですか?」

 

「好きにしろ」

 

「へっ、へい!」

 

急いで二人を覚醒させた長身の賊は、自らの厳しい状況を手早く説明し、桃香達の案内役として先頭を歩く。

 

「こ、こっちですぜ、皆様!」

 

「ど、どうぞ!」

 

「で、です……なんだな」

 

しかしへりくだった言葉遣いとは裏腹に、腹の奥では煮えくり返るほどの恨みが賊らには渦巻いていた。

どうして俺らが、こんな事をしなくちゃいけないんだ。この不細工共、調子に乗りやがって。

桃香達から表情がばれないのをいい事に、にやりと賊は邪悪に嗤う。

くっくっく、覚悟しやがれ。

賊らは桃香達の希望通り、まとまった同類の集団へ導こうとはしていた。

だがそこをねぐらにする賊どもは、一筋縄ではいかない奴らだ。

近頃、急速に勢力を拡大した新参者で、前からいた賊を次々に吸収。今やこの一帯を我が物顔で支配している。

噂では太平要術なる書を常に手放さない、変わり者が頭領であるらしいが、その手腕と実力に疑いはない。

けれども、三人からすれば目の上のたんこぶ。いけ好かない存在だ。

だからこの化け物どもをぶつける。そうすれば奴らも混乱は必至。

最後は奴らが勝つだろうが、その隙に貯め込んだ財宝をちょろまかしてやれば、様々な溜飲も下がるというものだ。

見てやがれ。俺らを舐めた事、後悔させてやる。

長身の賊がこんな絵図を描いているとも知らぬ桃香ら四人は、後ろについてゆきながら、黄巾党を発足してからご主人様にあてる声明を、呑気に掲げていた。

 

「それじゃあ皆。きゃっちふれーずんは、さんきゅーかにばる!」

 

「「「おー。さんきゅーかにばん!!!」」」

 

「いえーい、さんきゅうーかにぱん!」

 

「……さっきと変わりませんでしたか?」

 

「うん。何か間違えたかな?」

 

本物と張角と桃香。

このあやがどのような差となって現れるのか。

この時はまだ、誰にも先行きが不透明であった。

 

 

 

 








美醜が逆転した世界の美男美女がマウント取って殴ってきたら、反撃できるキャラ何ておらんやろう。

おったわ。





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