天翼の淑女と不死者の王 (ヤクサノイカヅチ)
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ジブリールに俺はなる!(なりました)

衝動に身を任せ初投稿です。

内容を少し改変しました。
具体的に言えば戦闘シーンの追加と、モモンガさんとの出会いの部分です。
戦闘の表現が難しい。


 おっすおっす、俺の名前は天野使堂。

 ちょっと昔のライトノベルやアニメが大好きなだけの一般的なサラリーマンだ。

 

 一般的とは言え、昔の馬鹿共が散々地球を開発したせいでおちおち外も出歩けないこの時代にそれなりに健康で、かつ比較的残業も少ない会社に就職している俺は恵まれていると言っていい……筈だ、うん。

 彼女?嫁?隣の家に住んでいる可愛い幼馴染?馬鹿野郎、それを言ったら戦争だろうが……!

 

 一応、とあるゲームで知り合った女友達はいたりするんだからな!?

 声優さんで、めっちゃ可愛いロリvoiceを出せる人だ、後素の声は結構怖かったりする。

 

 さて、少し話は変わるが俺はとあるキャラがとっても好きだ、大好きだ、愛している。それは―――

 

 『ジブリール』、百数年程前のライトノベル、『ノーゲーム・ノーライフ』に登場する天翼種(フリューゲル)の可憐な少女で……ああ、天翼種ってのは天使の様な種族だって思えばいい、厳密には違うが詳細な説明をする時ではないしな。

 

 仕事の無い休日に日課である昔のアニメの探索で見つけたこれは、一世紀も前の作品だというのに色褪せることのない面白さがあった。

 アニメ一期二期と休日を潰して徹夜で視聴し、そのまま目の下にクマを作って出社したのはいい思い出だ。

 

 そのアニメに出てきたキャラで一番のお気に入りがそのジブリールだ。

 もーね、超絶可愛い、俺の好みにドンピシャリです、素直に射○です。

 

 アニメでも良かったがライトノベルのカラーイラストだと更にイイ、特にあの七色のグラデーションの髪が素晴らしい。

 特徴的な頭の輪っかもナイスだし、思いっきり露出しているあの腰の括れが何とも言えない。

 

 あまりに入れ込み過ぎてメラニー法等の特訓をした結果、俺はジブリールの声を出せるようにまでなった。

 あの田村ゆ○りvoiceをである。もう一度言う、あの田村ゆ○りvoiceをである。

 自分の口からあの声を出せたその瞬間は忘れられない程の感動があった。

 

 ちなみに、今ではたまに会社の同僚に不意打ちで使うなどのドッキリに使っている。

 

 そう、声は出せるようになった。

 ではその次は容姿の再現だ。

 

 しかし、俺も二次元と三次元を混合する程馬鹿ではないし、コスプレという妥協策を使う気もない。

 さて、どうすればいいかと思い悩んでいた時に、先程ちらと挙げたとあるゲームが目に留まった。

 

 DMMO―RPG 『YGGDRASIL』

 

 なんでもプレイヤーの自由度が他のゲームとは段違いであると有名で、なんとアイテムや武装、自分の外装さえも自由自在に設定することが出来るというのだ。

 

 つまりは、ゲームの中でとは言え、あのジブリールを再現できるということに他ならない!

 声は出せる、外見は作れる、思考は頑張ってロールプレイすればいい。

 どこにも問題は無いな!

 

 というわけで、速攻でゲームを起動してジブリールの外見を作り上げる。

 幸い広大なネットの海にはジブリールの資料もあった為、試行錯誤しながらその肉体を仮想現実で構築することが出来た。

 

 ジブリールの種族は『天翼種(フリューゲル)』、まんま天使なので異形種である『天使(エンジェル)』から始めようと思ったのだが、異形種でのスタートでは最初からジブリールの様な人間に似た姿は出来ないようなので、泣く泣く人間種からのスタートを切った。

 

 どうやらあるアイテムを使用することで後天的に天使になることは出来るらしく、とりあえず強くなりやすいという人間種でアイテム等を集め、それから天使になって完璧なジブリールになるのだ!

 

 ……ゲーム開始から少しして、ギルド、NPC作成、といった単語を聞いたときは自分の苦労は何だったのかと少し泣きたくなったが、自分自身がジブリールになれたのは確かなのでまあ良しとする。

 そもそも事前に情報を収集しなかった自分が悪いのだし。ですしおすし。

 

 そうして、なんやかんやあって無事天使系統の最上級である熾天使(セラフ)の一種にもなり、職業も天使と相性のいい信仰系のものを取得したり、ロールプレイの一環でやらかしてしまった人間種大虐殺で、ある隠し職業を習得してしまったり、一部の掲示板でヤバい天使が居ると小規模ながら騒がれたり、趣味の合うプレイヤーとフレンドになったり、魔導書や貴重な本をダンジョンに潜ってゲットしたりと俺は結構楽しくこのゲームをプレイしていた。

 

 そんなある日、フレンドのピンク肉棒さんから死霊系の素材が欲しいと頼まれたので、ヘルヘイムの森林部にやって来たのだが……

 

 なんというか、ローブを纏った骸骨が複数人の人間種プレイヤーに包囲されて殴られてる。

 骸骨の方はどうやらプレイヤーらしい、つーとアレか、プレイヤーキルってやつ。

 

 うわぁ、人間種共はアンデッド対策してるらしく殆ど一方的だわ、あそこまで露骨なPKは久し振りに見るな。

 ちょっとムカついた。

 

 数で群れ知恵を絞り強者に立ち向かうのが人間の、いや人類種(イマニティ)の戦い方だ。

 それ自体は悪いことじゃあない、だが目の前で行われているソレは、数の暴力で弱者を潰しているだけの浅ましい行為だ。

 

 人類種(ヒト)の誇りを知る俺が、それを貶める行為を認めてはならない。

 あとはどう見ても悪そうなのが人間種のほうだしね。

 かすかに聴こえただけでも、

 

 「そのレアドロップを寄越せ!」だの、

 

 「異形種の骨野郎がしぶといんだよ!」だの、

 

 頭悪そうな台詞を連呼するような奴等だし。

 

 では、<業の開示(カルマ・サーチ)>

 おやおや、随分とカルマ値の低いプレイヤーだな。

 

 一番低いのはあの骸骨さんなんだけどね!

 極悪とか久し振りに()()()()()見たわ。

 

 ともかく、ここは割って入るしかあるまい。相手のカルマ値が全体的に低いので<善なる極撃(ホーリー・スマイト)>ブッパでも良かったが、この際久し振りに人類種(イマニティ)を煽るのも良いだろう。

 

 どんな反応をするのだろうか。ああ、どうか()を楽しませてくれ!

 

 「複数人で一人を囲むとは余程余裕が無いのですね、脆弱な人類種(イマニティ)のお三人方?」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ああ、本当に今日は厄日だ。

 

 今日は特にすることもなかったので、ぶくぶく茶釜さんに頼まれてある死霊系のドロップアイテムを探しにこの森にやってきた。

 

 それは運良くそれほど時間もかからずに入手出来たのだが、かなり粘着質で面倒な高レベルの人間種プレイヤーにレアアイテムがドロップしたのを目撃されてしまい、延々と追い続けられている。

 

 自分もそれなりに高レベルではあるのだが、向こうは死霊系に特に有効な装備で身を固めており、複数人で弱点の炎ダメージの攻撃を連続で放たれてはどうしようもない。

 

 炎に耐性を持っているように演技してはいるが、どうやら無駄な足掻きになりそうだ。

 隠れる木々の少ない場所に出てしまい、後ろからは奴らがニタニタと嘲笑うアイコンを出しながらゆっくりと近づいてくる。

 

 こうなったら目の前で強制ログアウトでもしてやろうか。

 ドロップアイテムも消えるし、再ログイン時に運営から警告が入るが奴らを悔しがらせることは出来るだろう。

 

 そう考えるとなんだか久し振りにワクワクしてきた。

 まだだ、まだ押さえろ。奴らを最高にイラつかせるにはまだ早い。

 

 「よォ、さっきドロップしたアイテムを渡してくれるんなら見逃してやってもいいぜ?」

 

 「さもなくば此処で火葬してやろうか?異形種のカスが!」

 

 「は、何故貴様ら下賤な野盗共に渡さねばならぬ。脳みそまで獣なのか?」

 

 何時もの魔王ムーブで可能な限り相手をおちょくってやる。

 そして最後は手を出せないまま地団駄でも踏んでいろ!このPK野郎が!

 

 こっちはかなりボロボロだが、ヘルヘイムはアンデットにとって相性の良い世界だ。

 世界に漂う負の瘴気を吸収することで、俺の様なアンデッドの異形種やモンスターは僅かな量だがHPの自動回復が出来る。ちなみにこれは人間種のプレイヤーでは何らかの対策を施さない限り逆に体を蝕む毒と化す。

 始めて知ったときは意外とよく考えられてるなと感心したものだ。

 

 「テメェ、今の状況が分かってんのか?こっちは偶然だがお前のようなアンデッドに有効な装備で固めてんだよ。経験値だってレベルを90以上に上げるのは馬鹿にならねぇくらい必要になるんだ、死ぬよかマシだと思うぜ?」

 

 「あーもうめんどくせぇ!とっととぶち殺そうぜ!どうせ奪うんだから問題ねぇしな」

 

 もう少し、あと、あと少しだけ……

 奴らのスキル発動の瞬間を見極めろ、どんな兆候も見逃すな、この一瞬に全てを賭けろ!

 

 相手との距離は僅か5~6メートル、戦場の状態は多少草が生い茂るものの木々は生えていない、よって視界を遮るものは無く、俺の身を守るものもまた存在しない。

 相手プレイヤーは恐らく3から4人。全員が炎ダメージを与える武装、及びアンデッドからのダメージ、魔法の効果を軽減若しくは無効化する防具で身を固めている。

 

 前衛が三人、後衛が一人。前衛三人は俺を包囲しているものの、若干固まっていてその範囲は精々扇形程だろう。

 

 一人は巨大な炎の意匠が彫られているハンマーを両手で持っている、正直今の俺では一撃でHPが全部吹っ飛ぶだろう。

 こいつが主力の男で、殆どの状況で的確に指示を出していた。

 全身の鎧は獣や竜の死骸を組み合わせたような物で、確かアンデッド系モンスターからのダメージを70%も軽減すると豪語していた。それに即死にも抵抗を持っているようで、何度か<(デス)>を唱えてみたがピンピンとしている。

 

 残りの二人は片手にそこそこ大きな盾を装備し、もう片方の手で小型のメイスを握っている。

 この二人が牽制と防御、サポート役を担っており、なかなか手馴れていて強敵だ。

 装備の質は主力の男には劣るものの、それでもこちらにとってはかなり効果的な耐性を持っている。

 

 後衛の一人は森の中で弓矢で援護を行ってきた。

 当たる当たらないではなく、こちらの行動を潰すように矢を放ってくるいやらしいタイプだ。

 こいつも恐らくはアンデッド対策の装備をしているだろうし、なぜこんな奴らと一人きりで戦っているのか泣きたくなる。

 

 そんな事を考えていたその時―――

 

 

 

 

 「複数人で一人を囲むとは余程余裕が無いのですね、脆弱な人類種(イマニティ)のお三人方?」

 

 

 

 

 ―――天使が、空から舞い降りた。

 

 いや、どうやら天使種のプレイヤーの様だ。一般的な天使種モンスターの外見とは全く異なる、しかし天使としか思えないその外見。

 

 桃色の頭髪はその途中から七色のグラデーションが掛かっている。

 腰から生えた一対の白翼には汚れが一切無く、清浄な雰囲気を纏っている。

 そして、頭上に浮遊する天使の輪。

 

 追い詰められた状況だというのに見惚れてしまいそうだ。

 男の夢、とも言うべきか。人の欲望が具現化したかのような、その麗しく美しい姿。

 確かペロロンチーノさんが「二次元の女の子には、人の理想(欲望)が詰め込まれている」と言っていたが、アレがそうなのだろう。

 

 「ああ?何しにきやがった天使のねーちゃんよォ!?」

 

 「邪魔してんじゃねぇぞ、ミンチにしてやろうか!」

 

 「俺たちはそいつとお話があるんだよ、とっとと消えてくれねぇか?それともなんだ、まさかそいつを助けに来たとでも言うのか?」

 

 「いえ、そこのアンデッドとは何の関係も御座いません。ですが……三、いえ四人ですか。多数で一人を、しかも装備からして魔法職を甚振る貴方達が気に食わなかったので」

 

 台詞からすると、どうやら俺を助けに来てくれたのか?いや、これは結果的にそうなっただけでただあの四人と戦いに来ただけか。

 

 なんにせよこちらとしては有難い。今のうちに回復と防御をしておかねば。

 

 「どなたか知らないがありがとうごさいます!<光輝緑の体(ボディ・オブ・イファルジエントベリル)>!」

 

 俺の身体が薄緑色の光に包まれる。これは第10位階の防御魔法で、殴打ダメージの完全無効化と一定時間殴打ダメージを減少する<光輝緑の体(ボディ・オブ・イファルジエントベリル)>。

 

 メイスやハンマーといった殴打系の武器を持っている相手には効果的だろう。まあ、課金アイテムで即座に武器を交換されては意味が無いが……

 

 「けっ、邪魔するならお前から叩き潰すまでよ。オイ!相手は天使だが問題ねぇ、俺たちのコンビネーションでぶっ潰すぞ!」

 

 「はい!兄貴ィ!」

 

 「了解でさぁ!」

 

 「では、どうか私を楽しませて下さいまし?<舞い散る刃羽(ブレイド・フェザー)>」

 

 その闘争の初手を取ったのは天使さんだった。その場で白翼を羽撃かせ、その白い羽根を高速で撃ちだした。それはまるで白い弾幕。攻撃の範囲と数が膨大で、とても回避できるものではなかった。

 

 だが―――

 

 

 

 

 「その程度効かねぇよ!<堅牢なる守護の壁(ガーディアン・ウォール)>」

 

 「まるで痛くねぇな!<堅牢なる守護の壁(ガーディアン・ウォール)>」

 

 

 

 それを双璧が防ぎきる。その大きな盾が大半を受け止め、残る少数は盾を持つ二人に突き刺さるが大した痛手にはなっていなそうだ。

 そして、その後ろからは全くの無傷である男がハンマーを振り上げ、目の前の天使を文字通り叩き潰そうと突進してきていた。

 

 「ぶっ潰れろ!<炎陽の撃墜(プロミネンス・ドロップ)>」

 

 男の頭上に振り上げられたハンマーは炎の様なエフェクトを纏い、目の前に迫った天使さんを叩き潰そうとする。

 二人が攻撃を的確に防ぎ、そうしてできた相手の隙を主格の男が捻じ伏せる。

 かなりの完成度のコンビネーション、余程息が合っているようだ。

 

 「そんな大振りの攻撃に当たるとでも?―――おや、これは」

 

 避けようとした天使さんだったが、回避しようとする動作を止めてしまった。何故だ?それでは命中してしま……アレだ、あの影だ!

 天使さんの影に黒く塗られた矢が突き刺さっている。動こうとしても影の形は変わることが無く、それに影響されて肉体も満足に動かすことが出来ないのだろう。

 恐らくあの弓兵の仕業だ、この様に相手を拘束するスキルで攻撃を補助してくる。攻撃を自分から行うことは殆どないが、これだけでも十分キツイ。

 駄目だ、これではモロに一撃を受けてしまう!今の俺はまだ回復の途中で、目の前の戦いに干渉することなど夢のまた夢だ。

 

 「なるほど、移動不可ですか。確かに今の様な状況なら効果的でしょうね―――

  

 

 

 

                         それが私にでなければ、ですが」

 

 「<光あれ(フィアト・ルクス)>、<空間転移(シフト)>」

 

 一瞬の輝きが目を焼き、それが消えた時にはその姿はハンマーの着弾地点には存在していなかった。

 しかし地面は痛々しく刻まれた罅を残して陥没し、その周囲も含めて炎の海と化していた。

 

 なんてスキルだ、ハンマーでの一撃に炎の追加ダメージ、まさにアンデッド殺しと言っていい程だ。まともに受ければ<光輝緑の体(ボディ・オブ・イファルジエントベリル)>込みでも軽くはないダメージになるだろう。

 

 そして、あの天使さんは一体何処に……?

 周囲を見回してみるが辺りに居るのは三人組だけで、天使さんの姿はない。

 

 「なんだァ、今のでやられたのか?」

 

 「散々大口叩いといてこれかよ!ギャハハハハハ!」

 

 「てめぇら、油断すんな……ログに記録されてねぇ、まだ生きてやがる!」

 

 主格の男は警戒を解かないが、盾役の二人は軽く考えているのか既に構えを解いていた。

 多数で囲んで一方的に殴る戦法を多くとっていたのか、高レベルの割にはプレイヤースキルはそこまでないようだ。敵を倒した確証もなく警戒を簡単に解くなんて、随分と甘い。

 

 「何してんだ!まだ気を抜くには早ぇぞ!」

 

 ほら、そんな甘い考えだから……

 

 「でも兄貴、どうせ逃げ出したんじゃないですかい?」

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 「まずは一人、その首を刈らせていただきますね?<魔法抵抗難度強化(ペネトレートマジック)血塗られた断頭の処刑台(ボア・ドゥ・ジュスティス)>」

 

 唐突に大楯を持った一人が膝を折り、まるで地面に這いつくばる様な姿をとった。

 そして、その首に空から落ちてきた刃が吸い込まれて―――

 

 ―――その頭を胴体から断ち切った。

 

 「な、てめぇ!」

 

 「申し訳ございません。余りにも隙だらけでしたので、つい―――もう一人もこの通りにございます」

 

 男たちのすぐ横にいたにも関わらず、一切気付かれることもなく天使さんは魔法を発動し男の首を刈り取った。戦場全体を確認できていた自分ですら、魔法を発動するまで姿を視認できていなかった。

 

 もう片方の大楯を持った男も、何時の間にか光の杭にその身を貫かれて大地に倒れ伏していた。

 そして、その杭による拘束から解放されることなく―――

 

 「もう少しレベルではなく技量を上げてみてはいかがでしょう?<魔法抵抗難度強化(ペネトレートマジック)血塗られた断頭の処刑台(ボア・ドゥ・ジュスティス)>」

 

 もう一人の男も同じ末路を辿ることとなった。

 

 「クソがッ、こうなったらてめぇだけでもぶっ殺す!<炎弾打連(フレイム・シュート)>!」

 

 男が持つハンマーを掬い上げるように振りまわすと拳大の炎の弾が現れ、それを弾き飛ばし天使さんに命中させようとする。

 

 それを天使さんは片手でなんのスキルも使わずに受け止め、握り潰した。

 

 「まあ、この程度でございますか。コンビネーションは中々のものですが単独での戦闘力はイマイチ、といったところですね。では、<尊き白の拘束(ホワイト・ジェイル)>」

 

 淡い光と共に現れた純白の鎖が男の身体を縛り付け、その場から動けないように拘束する。男はどうにか外そうともがいているが、その戒めが解けることはなかった。

 

 「ちっ、相手が悪かったみたいだな。今度からは、喧嘩売る相手は考える事にするぜ……」

 

 「それなりには楽しめました、とだけ言っておきますわ。<善なる極撃(ホーリー・スマイト)>」

 

 

 光の柱、そうとしか形容することのできない極大の閃光が視界を埋め尽くす。

 確か、このエフェクトは第7位階魔法、対象のカルマ値が低いほど威力が増大する<善なる極撃(ホーリー・スマイト)>。

 

 その光柱は最後の男を容易く呑み込み、その光が途絶えた時には何も残ってはいなかった。

 それを確認すると同時に、森の中に潜んでいた一人の気配が遠ざかっていくのを感じたが、無視することにした。

 

 万全とは言えないが、アイテム等も使ってMPも回復してある。どうにか拠点まで帰れそうだ。

 頭を上げてみると、目の前に天使さんの顔があった。

 

 「んえあ!?」

 

 「おや、思考はナイスですが場を考えた方が良いかと。今のミーが敵でしたらそのままデッドでしたよ?」

 

 急いで一旦距離を取った。なんであんな近くに顔があったのかはともかく、確かに現状あの天使さんが味方である保証はない。

 敵の敵は味方かもしれないが、その敵がいなくなった今味方であるとは限らないのである。

 

 「といっても、ミーも今貴方と戦う気はナッシングですが。ボーンの首というのも中々面白そうではあるのですが、この世界ではコレクション出来ないですし」

 

 なんというか、随分珍妙な話し方をする人だ。なかなかに面白い話し方だと個人的には思う。どこかで聞いたことがあるような、確か……百数年ほど前の日本にそんな話し方をする人がいた気がする。

 

 「ええと、先程はどうも。おかげで助かりました」

 

 取り敢えずは感謝を、どういう考えがあったのかは分からないけど、俺が助けてもらったのは変わりようのない事実だ。

 

 「いえいえ、かまいま―――あ、ノーセンキューですよ。こちらもアレが気に入らなかっただけですので」

 

 あ、これつくってるんだ。だって今誤魔化したし。

 ちょっと和んだが、そういえば目の前にいるのは自分の天敵たる天使だと思いなおし気を引き締める。

 

 「あの、その話し方が地でないのなら無理にしない方がいいと思いますよ?それとも、何かのロールプレイの一環ですか?」

 

 「いえ、正直難しいので助かりました。ついでに言いますと、この流れそのものがお約束なので個人的には大満足でございます」

 

 「そ、そうですか……」

 

 これが、これから()()()()()()長い長い付き合いになるジブリールさんとの始まりの瞬間であった。

 

 




天野使堂……僕らのオリ主。ジブリール好きが極まってゆ○りvoiceが出せるようになった真性の変態。なおすぐに異世界にシュゥゥゥーッ!!されるので名前は覚えなくていいです。

ジブリール……天使、以上。究極に近くなるほど、形容する言葉は陳腐になるものであり、実際その通りである。異論は認めん、断じて認めん、私が法だ黙して従え。

メラニー法……男でも女声が出せるようになる発声法。実際に田村ゆ○りvoiceが出せるとは言っていない。

業の開示……オリジナルスキル。一定時間の間、視認した対象のカルマ値を確認することができる。

光輝の聖印……オリジナルスキル。次に発動する信仰系魔法の威力を強化する。クールタイム六時間。

砕け散る錫杖……オリジナル?スキル。分かりやすく言えばニグンさんが召喚した威光の主天使の持つ一度のみ使用可能な魔法威力強化のスキル。砕いているのが笏だと言ってはいけない。一日に二度まで発動可能。

神聖なる加護……オリジナルスキル。信仰系魔法の威力を強化する。クールタイム十五分。

聖なる極撃……属性が悪に偏った存在に特攻効果を持つ第7位階の魔法。実際異世界でモモンガ様に痛手を与えた唯一の魔法である。

恒星天……恒星天の熾天使のこと。モモンガ様すら警戒する最高位天使。

至高天……至高天の熾天使のこと。モモンガ様でさえアルベドと二人で全力で相手する必要があるやべーやつ。

追加したスキル、魔法は後日で。
ちょっと戦闘があっさり過ぎるかな?でもあまり膨らませるのも辛い。

続き?今頑張ってます。


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双影、天を翔ける (後書きにマテリアルあり)

感想と評価ありがとうごさいます。
次じゃオラァ!

なんで戦闘シーンは苦手と言っておきながら書くのかなぁ。
そして雑で本当に済まない。

ちなみに、シュビィをロールした方が多彩な技を持っているしやりやすかったんじゃね?と思いはしたのですが、逆にあの子のロールが出来ないので没になったりしてます。
後はまあ、Diesのベイ中尉だったり、水銀とかにする案も思い浮かんではいました。

では、どうぞ。


 

 「いえ、正直難しいので助かりました。ついでに言いますと、この流れそのものがお約束なので個人的には大満足でございます」

 

 ふぅ……

 

 大  ★  満  ★  足  である!

 

 いやあ、テンプレ級のチンピラ相手に颯爽と割って入り、相手の策に敢えて嵌ったうえでそれを打ち破る!

 なんという爽快感、なんという満足感。もう気持ち良すぎて頭が沸騰しそうだぜぇ!

 

 おっと、落ち着け落ち着け、今の私はジブリール。そんな男言葉は使わない、いいね?

 もっと、お淑やかに。かつ、その身に狂気を秘めるのだ。周りからはそんな風には見られないけど、少し内面に踏み込めば直ぐにわかる程度の歪みを持て。

 

 「そ、そうですか……」

 

 ……で、問題はこの人だ。

 フラストレーションの解消が目的で介入したのだが、この人とは一切の面識を持っていない。

 異形種が不遇であるこのゲームで異形種を貫いているだけあって、余程の変態とお見受けするのだが如何に。

 

 まあ、取り敢えずは自己紹介といきますか。

 先ずはお互いを知らないとね。それに、未知を既知に変えるのもジブリールとしての本能だ。

 

 「そうでした、自己紹介がまだ済んでいませんでしたね。私、名をジブリールと申します……どうぞ、お見知り置きを」

 

 「ああ、ええと。私はモモンガと言います。異形種をやってます。どうぞよろしく」

 

 ふむふむ……全然分からねぇでごぜーます。

 とは言え、向こうもこちらを警戒しているようですしね。そうほいほいと自分の情報は明かさないだろう。

 

 「それで、何故こんなところに?此処に居るということは少なくとも80レベルには達しているとは思いますが、些かダメージを負い過ぎでは?」

 

 実際、少し気になっていたところではある。

 見た目と装備からして、恐らくはスケルトンメイジ系統、レベルも考慮すると『死の支配者(オーバーロード)』或いは『冥府の大魔導士(ハデス・ソーサラー)』辺りだろうか。

 

 どちらにせよかなり強い種族なので、普通に強力なスキルを取っていれば相性を考えたとしても、もう少し善戦出来ていたと思う。

 今回は相手もガチガチに耐性を固めていたようですけれど。なにせあの装備の外見からして、アンデッド対策の塊だったようだし。

 

 「いえ、私はロールプレイ重視でして。ちょっとスキルとかを考えるとそこまで強い方ではないですし、それに流石に四人に囲まれるとどうしてもキツイですからね。此処に居るのは友人に頼まれたあるアイテムを入手にです。それはもう手に入っているのですが、そのせいであいつらに目を付けられてしまいまして」

 

 「はあ、つまり……()()()()()()()ですね?」

 

 ロールプレイ重視、うん。素晴らしいな!

 分かる、分かりますよ貴方の気持ちが!

 

 確かにこのスキルを取ってしまえば簡単に強くなるし、普通はそうするのが一番。

 それでも自分のロールプレイの為に、大して使い道のないようなスキルに回してしまう。

 弱い?いや、これは弱さではない!拘りだ!自分の選んだ道を貫き通すという、確固たる信念の結晶なのだ!

 

 「と、言いますと……貴女もですか!」

 

 「ええ、そうでございます!この身は昔のとある小説の天使を模したものでして、周りからは何度も何度ももったいないだのなんだのと口うるさく言われて……楽しみ方は人それぞれなので勝手にさせて欲しいと思うこともあります」

 

 「本当にそれです。こっちは勝手にやってるのに横から口を挟んでほしくはないですよね!」

 

 それから少しの間、お互いに愚痴を思う存分語りあった。

 話が途切れることはなく、骸骨と天使が死霊蔓延る森の中で和気藹々と話し合う奇妙な光景がそこにはあった。

 

 互いの愚痴が終わりスッキリすると、どちらからともなく右手を差し出し固く握りしめ合った。

 

 「ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』がギルドマスター、死すら支配せし魔術師、モモンガ」

 

 「【十六種族(イクシード)】位階序列第六位天翼種(フリューゲル)、十八翼議会が一対、ジブリール」

 

 「此処に我ら友誼の誓いを交わす」

 

 「歩む道こそ違えど、この契りを違う事無し」

 

 「……では」

 

 すっ(フレンドの申請が送られる音)

 

 「……ええ」

 

 すっ(それを承諾する音)

 

 「急に始めたのに乗っていただけてありがとうございます」

 

 「いえ、こちらも楽しませていただいたので」

 

 まあ、同じ趣味の同輩であったということも分かり、その勢いでフレンドにまでなりました。

 モモンガさんも死を司る大魔法使い?でしたっけ。中々に業が深いというか、私も創作物のキャラになりきってはいますけれども。個人的にはもう一歩欲しいところではあります。例えば、意思持つ死そのもの、とか即興で考えましたけど、そういえば『具現化した死の神(グリムリーパー・タナトス)』なんて設定駄々被りのモンスターなんていましたね。素人考えでは甘いという事ですか。

 

 ついさっきの茶番は、なんというか。こう、お互いに昂った結果、と言いますか、偶にはこうやって厨二だか高二ムーブするのも浪漫回路に必要ですしお寿司。私は合成鮪とか好きです。ああ、最近はこのゲームにすっかち入れ込んでいて寿司なんて食べていなかったなぁ、久し振りに合成モノだけど食べに行こうかな。流石に天然モノなんてアーコロジーのお偉さん方ぐらいしか食べられないし、なんだかんだ言ってあの薄っぺらい合成肉の味が癖になってたりはする。

 

 さて、そろそろ目的に移らないとな。此処に来たのはお願いされた素材を狩る為であるし、別に手に入らなくてもあのピンクロリ声肉棒姉貴は笑って許してくれるだろうけど、数の少ないフレンドさんだし出来る限り頼み事は解決したいところだ。

 

 「では、私も欲しい素材がありますのでこれで」

 

 「ええ、今日はいろいろとありがとうございました」

 

 そんな感じで別れた、いや別れようとしたその時……空を翔ける一条の光が私たちに向かって落ちてきた。

 即座に私たちは戦闘態勢をとる。モモンガさんは黒い骨で組み上げられた杖を取り出し構え、私もスキルによる防御を試みる。

 

 「私がアレを防ぎます。モモンガさんは反撃の用意を!<久遠第四加護(クー・リ・アンセ)>」

 

 「分かりました。ですが全力はもう出せないので牽制程度にしかなりません!<魔法二重最強化(ツインマキシマイズマジック)千本骨槍(サウザンドボーンランス)>」

 

 エメラルドグリーンの粒子が半透明の球体の形をした防壁を造り出し、その中に白骨の魔導士と白翼の天使が収まった。

 これが私ですら一日に2回しか使うことのできない、最強最大の封印術式―――という名目のスキル、<久遠第四加護(クー・リ・アンセ)>。文字通り次元が異なる、例えばワールドアイテムによる攻撃やワールドチャンピオンの<次元断切(ワールドブレイク)>等でもなければあらゆる攻撃を防ぎきる。

 

 そして、周囲の大地からは先端が鋭利に尖った骨の槍が数え切れないほど生み出され、次々と天空へと撃ち出されていった。

 空は一面が骨の槍で埋め尽くされる。最早回避は不可能、槍を砕くなり止めるなりして我が身を防がなければならないが、そうすれば異変が起きて居場所はまるっとお見通しになる。受けても同上。

 

 さて、どう出てくる?少なくとも光矢が頭上に振ってくるような地形ではない事は決定的に明らかだし、此処に居るモンスターはそもそもこんな攻撃は行わない筈。と、すると相手はプレイヤーだな。

 もしやさっき逃げていたあの弓兵か?いや、あれは精々補助程度でこんな破壊力のある一撃を放てるのは……まあ、おかしくはないけど違和感がある。

 

 光の矢が<久遠第四加護(クー・リ・アンセ)>に着弾する。しかし、微塵も揺らぐことなく碧の障壁が受け止め、光は散り去った。それを確認した後に碧の壁は空間に溶けるように薄れ消えていった。

 一方空では、一部の槍が砕け散り、そこに翼の生えた人影があった。間違いない、アレがこちらを狙撃してきた奴だ。

 ふふふ、喧嘩を売られたのなら買ってやらねばなるまいて。それに、この私に飛行戦を挑むとは愚かな。翼持つ天使の恐ろしさをとくとその身に刻んで地に落ちるがいい。

 

 「ふふふ、なるほどなるほど。そんなにも私に首を献上したいと言うのですね?」

 

 精霊回廊の撃鉄を起こす。指先の末端にまで熱を回し、されど脳内は氷河の如く冷ややかに。

 戦の空気が鼻腔を擽る。吹きもしない風が全身を撫で、瞳は未だ碌に分かりもしていない敵の影を見据えている。

 意識が混ざり合う。(ジブリール)と俺、境界が歪んで互いが互いに溶けていくかのように錯覚する。

 

 翼を広げ、天空へと舞い踊る。

 ヘルヘイムに相応しき毒々しい紫色の空、空の中ほどというのも変な表現だがその中ほどにソレはいた。

 

 背中には雄々しき二対の翼を持ち、鳥の顔を模した黄金の仮面を被り、発光する絢爛な装飾の施された鎧で全身を包んでいる。

 巨大な弓を携え、その双眸は揺らぐことなく真っ直ぐにこちらを視認していた。

 

 「語ることは無い、この場から失せろ」

 

 「お断りします、と言ったら?」

 

 返答に対し鎧の鳥人は弓を構え、矢を番えることもなく弦を引き絞りだした。それと同時に光が矢を形どるように集い光の矢が形成された。先程の矢も同じように作り出されたのだろう、特に疲弊する程の消費も見えないという事は、あれで通常攻撃という事か。

 

 

 「貴様が地に墜ちるだけだ!」

 

 限界まで引き絞られた弦がその手より放たれ、光の矢が私目掛けて射出された。瞬く間にその矢は私の眼前にまで迫ってきた。想像以上に速い、それに下手に避けたところで追尾性能が付いていないとも限らないし撃ち落とすのが良いだろう。

 

 「<魔法最強化(マキシマイズマジック)魔法の矢(マジックアロー)>」

 

 掌を迫りくる矢に突き出し、魔法の矢(マジックアロー)を詠唱する。

 繰り出される光球は九つ、内三つで迎撃にかかり、残りの六つは鳥人へと向かう。

 

 光球と光矢が接触、ぶつかり合い小規模の爆発を巻き起こす。互いに消滅したようだ。

 六つの光弾は真っ直ぐに鳥人に向かうも、あっさりと回避され空の彼方へと消えていった。

 

 再び鳥人は弦を引き絞る。しかし集うその光は以前のモノより圧倒的に多く、破壊力を持っていることは容易に想像できた。

 仮面の内よりスキルが宣告され、その一撃が放たれる。大空を裂く一条の光。否、それは一条等ではなく、幾つもの光矢が束ねられたモノ。それが空中で別たれ、その真の姿たる光の豪雨へと姿を変える。

 

 「<レインアロー「天河の一射」>」

 

 天の河、今は最早観測などできず文献やネットの情報にしか残っていない星の大海。その名を冠する光矢の雨が私に容赦無く襲い掛かる。

 回避は不可能、出来ないとは言わないが全ては無理で何発かはどうやっても受けるだろう。ならば最初から迎撃と防御に回す方がよっぽど被害を少なくできる。

 威力があり、かつ広範囲に分散する魔法を瞬時に脳内で選択する。該当する魔法はあったが、威力に少々不安があるので魔法最強化を併用してその穴を埋めることにする。

 

 「<魔法最強化(マキシマイズマジック)輝光の五月雨(レイン・オブ・ブライトネス)>」

 

 煌めく小さな光の群を雨の如く前方に撃ち出される。最強化によってその威力も数も最大値になっており、それは容易く光の雨に衝突し物量を以って対抗した。

 如何に小さな光の粒であってもその量は光の雨を上回り、消し去ることは出来なくとも、その矢を弾き飛ばすことや撃ち落とすことは可能であった。

 しかし量はあってもそれでカバー仕切れないのも事実であり、幾つかは私の身体を穿ち抜けていった。

 痛覚は仮想現実のこの世界では存在しないが、それでも質量あるモノが身体に衝突する衝撃はあるわけでバランスを崩し飛行が若干乱れてしまった。

 

 「くっ、油断していたようですね……反省しましょう。貴方は本気で打ち砕くべき敵です」

 

 「そのまま撃墜すれば良いものを、これ以上俺の手を煩わせるな!」

 

 飛行を持ち直し、自身に<飛行(フライ)>を重ね掛けすることで更に飛行性能を上昇させる。種として飛行能力は持っているが、魔法を上乗せすることで更にその能力を向上させ一気に接近する。

 

 職業のおかげで攻撃力は高い分防御がいまいちである私には、接近戦で相手に攻撃をさせる暇もなくスキルや魔法で圧倒するのが一番合っている。今迄何故それをしなかったか?

 

 距離が離れていた、近づく前に撃ち落とされる、自分の手を汚すのは嫌、なんだその理由は、総じて馬鹿馬鹿しい。

 舐めていた、甘く見ていた、油断していた、慢心していた。

 捨てよう、棄てよう。あれは敵だ、全身全霊をもってこの手で刈り取るべき首だ。

 

 急接近したことでこちらの得意なレンジに相手を収めた。即ち、超近距離だ。

 鳥人の反応は鈍い、反応が追い付いていないのだろう。この距離ならもう逃がさない。

 

 「<破城一掌>」

 

 それはジェノサイダーのスキル、城すら一撃で粉砕する人知を超えた剛拳が打ち上げる様に鳥人の腹部を殴り飛ばした。拳は鳥人の鍛えられた腹筋にめり込み、その肉体をくの字に折り曲げた。

 

 「<飛鳥落し>」

 

 流れるように次のスキルを放つ。空中で身体を一回転し、その勢いを殺すことなく踵落しを鳥人の背に決め空から大地にへと撃ち落とす。スキルの恩恵からか、こんな無理な動きですら負担がかかることなく行うことが出来る。

 

 「<魔法最強化(マキシマイズマジック)万雷の撃滅(コール・グレーター・サンダー)>」

 

 今ので倒せる訳が無い、追撃の魔法でダメージを更に加速させる。

 魔法の詠唱が終了すると同時に、雷が容赦なく大地にへと降り注ぐ。当然目標はあの鳥人だ、あの体制からの回避は恐らく不可能。

 今の魔法で大地には砂埃が舞い、こちらからは向こうを見通すことは出来ない。故に、それが晴れれば即座に攻撃を放つ。

 

 「うおおぉぉぉおお!!」

 

 砂塵の中から閃光が走る。二三発の光矢が私目掛けて放たれ、それに追従するように鳥人が飛翔した。

 光矢はスキルを併用した拳で弾き飛ばすことで対処する。そうしてできた少ない隙を狙い、鳥人は自身が持つ巨大な弓で殴り掛かってきた。

 

 それをなんとか抑え込む、ガードは出来たが元々守備力の少ない私では軽減したダメージですら馬鹿にならない。がっぷりよつで組み合い、睨み合い、大声で宣告し合う。

 

 「お前は!」

 

 「貴方は!」

 

 『俺(私)が殺す!』

 

 弾かれるようにして上空に舞い上がる。同じように鳥人は大地にへと勢いよく降り立ち、私に弓を向け構える。

 共に、この一撃で勝負は決まると確信した。それは最早一種の信頼でさえあった。

 

 右手を空に掲げる、左手を大地の鳥人に向ける。光芒が複雑怪奇な紋様の光輪を描き、膨大な量のエネルギーが圧縮され、濃縮され、凝縮され、黒い閃光となって迸り、掌の先に不定形ながら槍の様な形となって此処に顕現する。

 これぞ、我が最強の矛。これが、天翼種最大の一撃。

 この瞬間のみ、自身の肉体構造その全てを精霊回廊接続神経に変換し、星の源流より力を汲み上げ撃ち込むそれは―――

 

 「<天撃>」

 

 鳥人は地を深く踏みしめる。

 弦がこれまで以上に力強く引き絞られ、今迄より遥かに眩しく輝く黒い光が矢の代わりに弓に装填される。

 彼の持つ最大の一撃、天を穿ち貫く一筋の黒き閃光が放たれようとしていた。

 レインアロー、その極致に位置する至上の一射。それは―――

 

 「<レインアロー「天穿の一射」>」

 

 双撃が衝突する、天地開闢とも錯覚する程の衝撃がヘルヘイムの全域に拡散した。

 それはまるでウロボロス、自らの尾を喰らう蛇の如く互いを互いが滅ぼしあった。

 幾星霜かのようにも思える数瞬が過ぎ去り、そこには二人が満身創痍であるが辛うじて立っていた。

 

 肉体が何故か幼女化した天使()と、翼は一対が燃え尽き全身はボロボロの鳥人。

 私の方は特に傷を負っていないように見えるが、ステータスは全てが減少し外見に出ていないだけでHPもかなり削れている。

 向こうもかなりダメージは負ったはずだが、どうだ……?

 

 この緊迫した状態は、あっさりと破壊された。

 肉体がピンクの触手で拘束される。抵抗する暇もなく、抵抗しようとしても現状では敵わなかっただろうが。

 

 「はーい、そこまで。いやあ、随分暴れたねぇジブリちゃん。あと愚弟」

 

 ……この声はピンク肉棒さん、いや『ぶくぶく茶釜』さんか。何故此処に居るのだろうか、そして愚弟とは一体。

 触手の根本に視線を向けると、そこには本当にピンク色の卑猥な存在がいた。

 向こうを見ると鳥人も同じく拘束されているが、心なしか雑というか、きつく縛り上げられているし、上下が逆転している。

 

 「ねねね姉ちゃん!?な、なんでこんなところに居るのさ!」

 

 「お前が急に襲い掛かって来て、連れの天使と戦ってるってモモンガさんから連絡が来たんだよ」

 

 モモンガさん、つまり茶釜さんはモモンガさんとお知り合いという事か。んで、あの鳥人は茶釜さんの弟ってことか。姉弟で同じゲームをやっているとは、結構仲が良いのでは……?

 

 「いや、これには深い事情があってですね!?」

 

 「問答無用、一方的に攻撃されたって証言もあるんだ小僧!」

 

 ギチギチと鳥人が触手に締め付けられる音をBGMに、取り敢えずはひと時の休息につくのだった。

 

 

 




残りでナザリック入りして、異世界転移あたりで終わりの予定です。
正直言うと作者が結構限界、いつも読ませていただいていた小説を自分で書くとこんなにも大変なんだなぁ。
途中で一人称視点と三人称視点がごっちゃに見えるところがありますが、一応ジブリールの主観で書いています。書いているつもりです。こんなんでも書いているつもりなんです。

マテリアルです。現状開示できる範囲ではこんなもんだと思ってください。
多少のネタバレも含みますのでご了承を。

ジブリール《Jibril》
異形種
邪悪なる熾天使

役職:■■の41■
   ■■■■■■■■■■

住居:ナ■■■ク■■■■墓

アライアメント
属性:極悪 [カルマ値:-500]

種族レベル
天使(エンジェル):15Lv
大天使(アークエンジェル):10Lv
栄光の主天使(ドミニオン・グローリー):10Lv
etc

職業レベル
セイント:10Lv
クレリック:10Lv
ジェノサイダー:5Lv
etc

[種族レベル]+[職業レベル]:計100レベル
種族レベル 取得総計45レベル
職業レベル 取得総計55レベル

能力表
HP:70
MP:90
物理攻撃:100オーバー
物理防御:50
素早さ:70
魔法攻撃:90
魔法防御:50
総合耐性:80
特殊:90



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斯くて天翼は墳墓へ到る

遅くなって申し訳ない。
シンフォギアに浮気してましたァ!!!
いや、きりしらコンビが可愛すぎるのが悪い。俺は悪くねぇ!

評価感想お気に入りと本当にありがとうございます。もっと下さい(図々しい)
今回は対して話が進みませんがお許しください。ネタが浮かんでこなかったんです。




 結局のところ、あのときに取るに足らないと逃がした弓兵。アレが今回の惨事の引き金だったのである。

 逆さ磔の状態でHPが減らない程度の締め付けを延々と受けるという姉からの愛の鞭(拷問)を満喫した鳥人―――後から聞くとバードマンという種族らしい―――のペロ、ロロ?何だったか、ペロペロロリ?しっくりこないな。喉元まで出かかっていると言うか、中らずと雖も遠からずと言うか、むむむ……

 

 あ、茶釜さん。弟さんの名前ってペロロリチーノでしたっけ?え、確かに性癖はあってるけど少し違う?ネカマしてる自分が言うのもなんですけど結構なHENTAIですね。ええ、はい。ペロロンチーノさんですね、はい。

 そのペロロンチーノさんから聞いたのだが、モモンガさんに用事があってこの森に向かっていたところに森から怯えるようにして逃げ出していた人間種のプレイヤーに呼び止められ、

 

 「あちらで骸骨の異形種プレイヤーが天使に襲われていた」

 

 「自分は助けようとしていたがそいつに仲間をキルされ逃げているところだ」

 

 「自分はもう戦えないが、どうかあの天使を倒してくれないか」

 

等と都合のいいことを吹き込まれていたのだ。ふぁっきゅーでございます。

 モモンガさんがスケルトン系統の異形種だと知っていたペロロンチーノさんは急いでその弓兵から教えられた場所に向かい、そこで俺がモモンガさんの近くにいたのを追い詰められていると勘違い。その場からスキルを使って射撃を行い、目論見通り俺からモモンガさんを引き離して戦闘を開始。最善は撃破してモモンガさんを保護、次善でも手傷を負わせて撤退させるという考えだったようだ。

 

 つまるところ、全部私のせいだ!……いや、冗談ではなく割と本気でだ。何故ペロロンチーノさんは騙された?弓兵の男が逃げ出せたからだ。何故逃げることが出来た?俺がどうせ何も出来ないと高を括って追わなかったからだ。はあ、身から出た錆とはまさにこの事。完全無欠に自業自得である。

 

 「そんな気にすることないんじゃない?なんにせよジブリちゃんはモモンガお兄ちゃんを助けられたんだしさ」

 

 「そうですよ。そもそもジブリールさんがいなかったら私はキルされるか強制ログアウトしていたでしょうし」

 

 慰めてくれる茶釜さんとモモンガさんがとてもありがたい。この失敗を糧とし同じ轍を踏まないように精進していかねば。

 

 「あ、あの……そろそろ許してもらえませんかね?」

 

 「―――はぁ、今回はアンタの行動理由がモモンガさんの救助だったからこのくらいで勘弁してあげる。ジブリちゃんも構わない?」

 

 「ええ、戦闘も楽しめましたし。次は100%の『天撃』でお相手させていただきますね」

 

 「ひぇっ、アレ以上とか嘘だrってちょっと待って姉ちゃん降ろし方ゆっくりなんで空中で解くのさぁぁぁあああああ!!」

 

 ガイン!といういい音を響かせてペロロンチーノさんは大地と熱烈なキスを交わすことになった。空間に表示されるダメージ表記が妙に虚しい。とは言え、それ程高さがあった訳でもないのですんなりと立ち上がりアイテムを使用してHPを回復し始めた。

 

 そういえば、今の俺は『天撃』の反動で一時的にステータスダウンと肉体の幼女化という誰得のバッドステータス状態なんだった。幼女化は時間経過でしか解除されないが、ステータスダウンはアイテムで緩和可能なのでアイテム欄からポーションを取り出し口に運ぶ。これが現実ならば真っ赤なポーションをんぐんぐと喉を上下させながら飲み干す可憐な幼女の姿を目撃できたのだろうが、電脳上の仮想現実でしかないこの世界ではただアイテムを消費しただけで終わってしまう。なんと悲しきことか。

 

 「ねージブリちゃん。この後は暇?」

 

 「まあ、貴女からの頼み事もモモンガさんの入手分で事足りる様ですので、特に予定らしき予定はありませんが」

 

 茶釜さんに唐突に話しかけられる。確かに暇っちゃあ暇だが、何もすることが無いということではないんですよ?別に構いませんけども。

 

 「ならさ、うちのギルドこの近くにあんだけど……よってかない?」

 

 「茶釜さんのギルド……ですか。急にお邪魔して大丈夫なんですか?一応私はギルドやクランには所属してませんけども、部外者であることに変わりは無いですよ」

 

 結構面白そうな提案だった。茶釜さんのギルドか、本人から色々と聞いたこともあるので行ってみたい気持ちは山々なのだが、流石に他のメンバーからすれば俺は赤の他人なのだ。それに、今ユグドラシルでは『燃え上がる三眼』という情報すっぱ抜き糞野郎共が多くのギルドに喧嘩を売っている。こいつらは他のギルドにスパイを送り込んでメンバーの情報やそのギルドの所有する拠点の情報、更にワールドアイテムの有無等の様々な情報を収集して有料サイトで公開し金を稼ぐという悪辣非道なギルドで、軽々しくギルドに入ってしまうとそいつらのスパイと思われるかもしれない。

 

 「大丈夫ですよ。何かあれば私が責任を取りますから」

 

 「さっすがモモンガお兄ちゃん!骸骨なのに太っ腹!」

 

 「そんな軽々しく責任なんて……え、まさかモモンガさんが?」

 

 今の言い方、本当に責任を取れるほどの地位に居る様な感じだったし、茶釜さんもそれを否定してなかった。もしかして、茶釜さんのギルドの長は―――

 

 「あれ、さっき言いませんでしたっけ? 

 

 

 

 

 

             ―――ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』がギルドマスター、と」

 

 モモンガさんが明るい口調から一転して低く威厳のある声で俺に答える。まさしく人を束ねる王の風格、間違いない。この人がギルドの長たる者か!腰の低い所しか見てなく失念していたが、モモンガさんもロールプレイヤ―の一人。なんかちゃっかり旅人の様な茶色のローブから豪奢絢爛な漆黒のローブに装備を変更している。確か装備を即座に変更出来る課金アイテムがあったはずだが、まさかこのためだけに使ったのでは……いや、考えるのはやめておこう。不毛でしかない。

 

 「安心せよ、もしお前が密偵の身であるのならば―――天使の屍が我がギルドにて転がるだけの事だ」

 

 「ま、そういう訳よ。ジブリちゃんのこと前々から誘ってみたかったんだよね。流石にキャラが濃いうちのメンバーでも自分で声まで作ってネカマプレイしてる奴はいないからさ、良い反応がありそうだし」

 

 「え゛、ねねね姉ちゃん、あんた今なんとおっしゃりましたか!?」

 

 あ、超気軽にネカマをばらしおったぞこのピンク肉棒。声まで女性だからって近づいてくる男性プレイヤーの目の前でばらしてやるのが最高に楽しいってのに。いくら何でもそれを茶釜さんのフレンドにまではする気は無いが、ばらすタイミングというものを少しは考えて、でも後々まで引きずってからばらすと傷も深くなりそうだしいいか。

 

 「ああもう、こういう話はタイミングが重要なのに―――悪いな、俺は男なんだわ」

 

 かなり、かーなーり久し振りにユグドラシルで地の声で会話する。ゆ○り声はそれなりに疲れるからやっぱり元の自分の声だと楽だ。おお、すっげぇ。前からリアルでもちょくちょく会ってた茶釜さん以外の二人が驚き顔のアイコンをポコポコ上げてら。つーか元気になってた筈のペロロンチーノさんが『orz』って体勢になってるし、モモンガさんもさっきまでの威勢が吹き飛んでほんわかしたふいんき(←なぜか変換できない)に戻ってる。

 やっぱり女だと思ってた相手が男だった時の衝撃は半端ないな、これが性別逆だったのならラブコメの波動を感じることになったが俺は男だ。

 

 「あばばばばばばばばばbbbbbbbbbbbbb」

 

 「くぁwせdrftgyふじこlp;@:」

 

 「あっははははははははははははははは!!!ねえねえ、今どんな気持ち?こんな可愛いアバターで声まできっちり女の子の中身が男だって気付いて今どんな気持ち?ねえ、教えてよ弟よ!あっはははははははははははははははははははは!!!!!」

 

 「あああ姉貴ィィイイイイイイ!!!」

 

 あーあ、案の定姉弟喧嘩になってら。純正タンクである茶釜さんに真っ向から一対一で挑んだって良くて千日手なのになぁ、とか考えてたらもう触手で雁字搦めにされてるよ。俺との戦闘で結構消耗してるから仕方ないけどね。うわー、弟相手だってのに容赦の欠片もないなオイ。そこからのぶん回しで地面に激突。一応死なないように手加減はしているようなので、温かい目で見守っておこう。

 

 「ほ、本当に男なんですか?どうやって女性の声を、というか何故出せるんですか!?」

 

 「気合です」

 

 「気合」

 

 「後は努力です」

 

 「努力」

 

 「そらそらそらァ!万全でない状態でこの近距離だというのに私に敵うと思ったか弟よ!未熟未熟、私に勝ちたいなら不意打ちで超遠距離から爆撃でも繰り返すんだなァ!!!」

 

 「ぐわあああああああああああああああああ!!??」

 

 背景でどったんばったん大騒ぎしているなか、モモンガさんとのほほんと会話。何故出せるのかって、人工声帯ぶち込みでもすりゃそれこそ七色の声を出せるだろうけど、そんな高額なものに出せる金の余裕はないからね。ひたむきに努力努力努力。一に努力二に努力、三に休息四に努力、五に仕事って感じで毎日欠かさず発声練習してれば意外と何とかなるもんですよ猿渡さん!

 最後にズンと重い物が地面に沈むような音を残して姉弟喧嘩は姉の勝利で幕を閉じた。なんだかんだと喧嘩してるけど、随分楽しそうな声出してるんだよね。茶釜さんも素直じゃないというか、ひねくれてるなぁ。

 

 「じゃあ、行こうかジブリちゃん。モモンガお兄ちゃーん、<転移門(ゲート)>の準備お願いね。私はギルドに連絡しておくから」

 

 「ええと、ゴホン。本当に宜しいので?私がスパイである可能性だってあるんですよ?」

 

 「正直、貴女がそういうことをするようには見えないんですよ。そんなまどろっこしい事するなら真正面から殴りこむようなタイプでしょう?」

 

 なんか、会って一時間ほども経たない相手に自分の性格を見透かされるとモヤモヤする。その推測大当たりなんですけどね!そんなに分かりやすいだろうか。よく知り合いからは脳筋だよなと馬鹿にされるが。

 

 「それに、茶釜さんのフレンドにそんな人居ないって信頼してますから」

 

 「ああ、彼女結構そういうのを判別する目が良いですしね」

 

 うん、俺じゃなくて茶釜さんを信頼してるってのを聞いて安心した。いくら助けてもらったとは言え、初対面の相手をそこまで信じられるのは絶対におかしい。そんなものは精々物語の主人公といった存在か、極度のお人よし位だろう。ましてやモモンガさんはギルドマスターなのだから。

 

 「連絡終わりました、皆地表の霊廟で待ってるそうです。ではしゅっぱーつ!」

 

 「では開きますね、<転移門(ゲート)>」

 

 「うう、この世界は残酷なんだ」

 

 モモンガさんの唱えた<転移門(ゲート)>に足を踏み入れる。俺の前に茶釜さんが、そして俺の後ろからペロロンチーノさんと最後にモモンガさんが。さて、一体どんな拠点なのか、どんなメンバーが待っているのか、実に楽しみだ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 「いやぁ、我ら総勢28名が立ち並ぶと壮観ですな」

 

 「なに爺臭い事言ってんだ。まだまだこれからだっつうの」

 

 「モモンガさんとあの姉弟抜かしてるから本来は31人だけどな」

 

 「まだナザリックの改築が終わっただけですよ?次はお待ちかねのNPC作成のお時間です」

 

 「どんなNPC作っかなー、ゴキブリなんてどうよ?」

 

 「てめぇは少し自重しろ駄天使!」

 

 「そういえばどんな人が来るんですか?茶釜さんの知り合いってだけは聞きましたけど」

 

 「さーね、何でも天使種らしいぜ?俺もそれだけしか分かんねぇけどよ」

 

 「天使種だと?悪の象徴たるこのギルドには相応しくないな」

 

 「そんなことで文句を言うの貴方だけですよ、少しは大人になったらどうですか」

 

 「あ?拘りを持って何が悪い。悪が胸を張って何が悪い!」

 

 「話の論点をずらさないでください」

 

 「いいぜ、前々からお前は気に食わなかったんだ」

 

 「奇遇ですね、私もいい加減うんざりしていました」

 

 『どっちが正しいか白黒ハッキリつけてやる!』

 

 「またやってるよあの二人、実は仲いいよね」

 

 「あ、来るみたいだよ。<転移門(ゲート)>のエフェクトが見えた」

 

 「おーい二人共、客人が来るぞ!喧嘩は後にしろ」

 

 「ちっ、次は止めねぇ」

 

 「前にも聞きましたよ、その台詞」

 

 「急だったが準備しといて正解だったな、皆クラッカーの用意は出来てるか?」

 

 「OK!(ズドン)」

 

 「誰だ先走った馬鹿は」

 

 「私だ」

 

 「ちくわ大明神」

 

 「お前だったのか」

 

 「なんだ今の」

 

 「ええい、ぐだぐだはそこまでだ。きっちり決めるぞ!」

 

 「せーの!」

 

 『Welcome to ナザリック!』

 




独自設定
・作中時間軸は現在ナザリックの改築が終わったところです。そしてまだNPCを作成していないという設定。ちなみに作中でも言及されてる通り、燃え上がる三眼が大暴れしてます。件の1500人討伐隊はもう少し後の話。

・現在ナザリックメンバーは31人です。人数に理由は無いです。このまま行けばジブリールは32人目になる予定。

・モモンガさんに『ジブリールさん』、茶釜さんに『ジブリちゃん』、ペロロンチーノさんに『兄貴』と呼ばれる。

・何気にリアルで茶釜さんと親交を持っている。実は微かにフラグらしきものが立っていたりするかもしれない。

追記:ふいんき(←なぜか変換できない)はネタです。雰囲気は分かってやってます……よ?ホントダヨ?
   よし、これで問題無いな!

再追記:ナザリック攻略時点でナインズ・オウン・ゴールは27人だったらしいので人数を急遽変更。総勢は37人から31人になりました。これで多少は人数の違和感も抑えられる筈……


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ようこそナザリパークへ

待たせたな!(蛇)

今回も難産だったぜ……
感想評価本当にありがとうございます。

お気に入り1600人にランキングにも載ったなんて信じられん。
これからもこの作品を是非ともよろしくお願いします。

では、どうぞ。

レベルの矛盾を修正しました。


 <転移門(ゲート)>を抜けるとそこは沼地であった。というか地形ダメージが半端ないなこのフィールド。マップを確認してみるとグレンデラ沼地って名前なのか。

 常時発動(パッシブ)の<リジェネート>やら<主天使の抱擁(エンブレイス・オブ・ドミニオン)>やらで何とか相殺出来ているけど、ちょっと洒落にならないよ。

 

 俺の現状レベルは89だったよな、少し防御面も考えて職業を取った方が良いか。まあ先ずは原動天の熾天使(セラフ・ジオセントリック)を最大レベルに上げる必要が……でもなぁ、正直もうジブリールとしては殆ど完成してるし、ゆっくり上げていけばいいかな。

 

 そして此処に拠点があるってことは、元々あったダンジョンを攻略したっていうわけでしょ?開いた口が塞がらないとはまさにこの事。

 

 そして眼前に広がる神殿の様な建築物がギルド拠点なのであろう。一見した感想では、どうも貧相過ぎるというか拠点にしては小さすぎる様な気がする。と言っても、大抵こういうのは地下に超広大なダンジョンとしての本来の姿を隠しているものだが。

 

 一部ネタに走ってはいるものの、俺はレベル80台後半の天使種プレイヤーだ。

 地形、環境、デバフ等への対策はバッチリ………とは言いがたいが、それなりの用意は出来ているし生半可なものなど歯牙にかける必要すらない。それに加えて最小限であるものの常時回復の効果を持つスキルだって取得している。

 それで漸くダメージを相殺するのが精一杯だというのに、その上ダンジョンまで突破したとなると驚嘆を隠し切れない。

 

 『Welcome to ナザリック!』

 

 その神殿(仮)の端から端にかけて掛けられている『アインズ・ウール・ゴウンへようこそ!』とでっかく書かれている横断幕と、ざっと数えただけで少なくとも三十人ほどは居ると分かる異形種のプレイヤー達がクラッカーの爆音と共に俺たちを出迎えてくれた。

 

 「おお、急な連絡だったのに案外ちゃんとしてんじゃん。さては前から用意してたなー?」

 

 「へっへっへ、さっきまで散々騒いでた二人が率先して設置してくれてたんだよ」

 

 「いつも喧嘩してるのにこういう時だけは息が合うんだから、仲裁する俺の身にもなってくださいよ」

 

 「まあ、モモンガさんもそう言わないで」

 

 茶釜さんの言葉に鎧武者の巨人が反応する。

 続くモモンガさんの愚痴には俺の背後に立つペロロンチーノさんが宥めるようにして答えた。

 

 「んで、そこのお嬢さんがお客さんってことで良いのかい?」

 

 「そ、私の友達のジブリールちゃんです。ほら、皆拍手!」

 

 「ど、どうも。ジブリールと申します。どうぞよしなに」

 

 天撃の反動で幼女化してしまった身体でペコリと頭を下げる。

 大勢の目の前で自己紹介などユグドラシルでは碌にしたことなど無かったので緊張したが、反応はどうだろうか。

 

 「かわええ……」

 

 「てんすや、てんすがおる……」

 

 「ハイエースしなきゃ(使命感)」

 

 成功したと言って良いのだろうか、なんか途轍もない悪寒を感じたのだが。

 

 「ふむ、ジブリールというと四大天使ガブリエルのアラビア語読み。神の叡智と天啓を管理する天の使い、か」

 

 「貴方は?」

 

 「私はタブラ・スマラグディナ。なに、しがないブレインイーターだよ。神話を少々嗜んでいるだけの、な」

 

 蛸頭のプレイヤーが俺の名前について何か呟いていたので話しかけてみた。

 タブラさんという名で、なにやら含みがあるというか……忘れ去った過去(厨二病)を思い起こすような言動をしている人だ。

 

 しかし、()をたかが天使呼ばわりとはちと頭に来るな。外見で見れば確かに天使としか思えないだろうし、天翼種と前もって言っていなかった()に非はあるのですが。

 

 「ではタブラさん。私をあのような()()()()と同じにしないでいただけますか?」

 

 「ほう?」

 

 <漆黒の殺意>を発動する。どす黒くタールの様に粘り付く可視化された殺意(エフェクト)()を包み込む。

 周囲のメンバーは即座に散開し戦闘態勢に移行するが、そんな事はどうでもいい。

 

 「私は天翼種(フリューゲル)が一翼ジブリール。我が身を創造せしは戦神アルトシュだとしても、我が意志我が思想我が想いは全て私のモノだ!神に仕え神に同意し神の為朽ちる事に一切の疑問すら抱かない天の使いなどとは違う!」

 

 「……これは失礼した。非礼を詫びよう天翼種(ジブリール)

 

 やや大袈裟に儀礼がかった、されど確かに謝罪の念を含んだ動作でタブラさんが()に向けて一礼する。

 

 「いえ、先に説明していなかった私が悪かったので。こちらこそ唐突に怒りをぶつけてしまい申し訳ありません」

 

 ……さて、今の状況を説明しよう。俺と向き合った状態のタブラさん、そして円形に包囲して俺を警戒しているナザリックの皆様方。

 うん、やらかした。どうすんだよコレ、歓迎ムードを一気に台無しにした挙句敵対行動まで取っちゃったよ。

 

 だが、そこに救いの手が差し伸べられた。……随分と棘のある、的確な一言が。

 

 

 

 

 

 「ああ、そんなに警戒しなくて良いですよ。この人今デメリットで解除不能のステータス減少が掛かってるので此処に居る誰も傷つけられませんし」

 

 

 

 

 

 異形の輪を引き裂いて現れた死の支配者(モモンガさん)が、ひょいと俺を片手で掴み上げて宙吊りにする。弱体している俺がそれに抗うことなど出来る訳もなく、せめてもの足掻きでジタバタともがいてみるが一切の効き目も無い。

 

 「なっ、離してくださいモモンガさん!?ちょっ、ま、やめっ、振り回すのはやめ、やめっ…ヤメロォー!」

 

 「はっはっは、目の前で危なっかしいスキルを発動した人になんで容赦する必要があるんです、かっ!」

 

 そのままぐるんぐるんと空中で平衡感覚がズタボロになるまで回転を繰り返され、結局モモンガさんに掴まれたままナザリック見学ツアーが幕を開けたのだった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 「いやぁ、あそこで切れるとは思ってもみなかったわ。まさかここまで『ジブリール』って娘に愛着を持っていたとはね」

 

 「けけけ、これまた一癖ありそうな客だなぁぶくぶくの姉さんよ」

 

 「まあねー、モモンガさんの同類って言えば分かるかな?」

 

 「うひゃひゃ!そりゃあいいな、思ったより仲良くなれそうだぜ」

 

 「モモンガさんには感謝しないとな。今の寸劇で無害アピールと何かあっても直ぐに鎮圧できるってのを証明してくれた」

 

 「モモンガちゃんのステでも抑えられるって、どんな状態よソレ」

 

 「なんでも、時間経過でしか解除できない強烈なデバフが何個かあるらしいよ。それと幼女化」

 

 「幼女化だぁ?オイオイ、俺ちゃんの事を笑い殺す気かよ!」

 

 「本当は凄い美人の天使なんだよなぁ、今は今で可愛いけどさ」

 

 「それに喧嘩売ったのは誰だっけ?弟よ」

 

 「ハイハイ、その件はもう十分に反省してますから……」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 「―――どう見る?」

 

 「タブラが虎の尾を踏んだだけだろ。今のはどっちかと言えば警告の無い地雷みたいなもんだがな」

 

 「そもそもこのギルドになんの目的があって潜伏するんだ?言っちゃなんだが俺らはまだ拠点の仮組みが済んだだけのギルド初心者だぜ?」

 

 「それもそうだな。現状は最低限の警戒で構わないか?」

 

 「異議なし」

 

 「右に同じく」

 

 「しかしあの幼女ほんと可愛いな!是非ともうちの華になって頂きたいものだ」

 

 「禿同」

 

 「ロリよりメイドのお姉さんだろjk」

 

 「待てよ、ロリメイドというのは……?」

 

 「なんということだ。私は今、新たな光を得た!」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ぞろぞろと大人数で霊廟の中へと入り、俺たちが先ず目にしたのは地表とさして変わらないエリアだった。違うのは、そこら中に多種多様なアンデッドモンスターが動き回っている事だ。

 

 「第一階層『墳墓』。見ての通りアンデッド達が闊歩するまさに墳墓といったエリアです。第三階層までは全て墳墓ですが、階層ごとに仕掛けてある罠やエリアエフェクトが若干異なります」

 

 モモンガさんが自慢げにこの階層の事を説明してくれている。それはまるでお気に入りの玩具を友達に見せびらかすかのようで、なんだかとても眩しく見えた。ああ、彼は本当にこのユグドラシルを、そしてこのギルドに居る事を楽しんでいるのだと、そう思った。

 

 「二階層には女性の外装をしたプレイヤーを苦しめるとある策を考えていましてね、いずれ数多の怨嗟の声をこのナザリックの地に轟かせることでしょう」

 

 「……それ、女性キャラの彼女の前で言うの?モモンガさん」

 

 各々がかなり好き勝手に喋り合いながら墳墓を進んで行き、第三階層から何故か第二階層に一旦上りそこにある半ば風化しているように見える吊り橋の先にある巨大な聖堂の前に到着した。

 

 「ここが地下聖堂です。このなかに第四階層への転移門が設置されていますが、第四階層こと地底湖は名前の通り地底湖しか存在しないのでとっとと先に進みましょう」

 

 「一転して随分雑になりましたね」

 

 「それだけ語ることも無いので、何か置くべきでしょうかね?」

 

 「なら、巨大ロボットでも置こうぜ!」

 

 「ロボットこそ男の浪漫よ。ドリルは必須」

 

 「変形合体出来ると尚良いですね」

 

 「おお、アンタ男の浪漫が分かるのか!」

 

 「ほら、そろそろ行きますよ」

 

 地底湖を早々に通り過ぎてその先へ。あ、第四階層は本当に地底湖以外何も無かった。殺風景ここに極まれりって感じで、精々白い蝙蝠の様なモンスターが飛び回っている程度でした。

 

 第五階層は一面銀世界の雪原と聳え立つ氷河がお出迎えをしてくれた。極寒の冷気と荒れ狂う吹雪が合わさって視界まで遮られるというオマケ付きでだったが。

 

 無駄なところまで細かく再現するユグドラシルの運営は頭可笑しいんじゃないだろうか。顔を存分に叩きつけてくる猛吹雪の感触を堪能しながらそんなことを考えていた。

 

 「ここが第五階層の『氷河』です。……誰ですか、わざわざ何時もは使っていないフィールドエフェクトを作動させたのは」

 

 「はーい、俺ちゃんでっす☆」

 

 「誰か、そこの愉悦駄天使を拘束してください。今すぐ」

 

 「また貴方ですか、本当に問題児なんですか、らっと!」

 

 「あーっ!困ります!!警察官さま困ります!流れるように合気道で拘束するのは困りまアーッ!」

 

 「あの、何ですかアレ」

 

 「うちの名物ギャグです。気にしないでください」

 

 銀色の鎧を身に纏い赤いマントをはためかせた騎士が道化師の様な外装の男をいとも容易く捻じ伏せて白色の大地に叩きつけていたが、これが良くある光景らしい。アインズ・ウール・ゴウンというギルドはどんな魔境なのだろうか。

 

 フィールドエフェクトが解除されただ吹雪が舞うだけとなった雪原をモモンガさんに吊るされながら先に進んで行く。

 

 「少ししたら合流しますねー」

 

 「分かりました、よろしくお願いしますねたっち・みーさん」

 

 説教を開始した二人と別れ、転移門を使って第六階層へと足を踏み入れた。いや、俺は地に足を付けている訳ではないのだが。

 

 鬱蒼と茂る樹海、極太の巨大樹、青く澄み渡る空、燦々と照らす太陽、そして古代ローマの剣闘士が互いの命を懸けて戦い合ったと言われる円形闘技場(アンフィテアトルム)

 今までの階層とは一線を画す程の圧倒的な存在感。

 

 「ええ、素晴らしいでしょう?言わなくてもわかりますよ。流石はブルー・プラネットさん、何度見ても色褪せない感動を与えてくれる」

 

 「―――天国は、現実世界ではなくユグドラシルにあったんですね」

 

 「此処が第六階層『大森林』。ある一人の男が夢想し、そして実現した理想の世界です。ちょっと休憩にでもしましょうか、少しすれば良いものが見れますよ」

 

 モモンガさんが歩くのを止めてその場に留まる。他のメンバーも適度に散ってはいるものの、次の階層に向かおうとする人は誰一人として居なかった。

 

 時間の経過と共に、辺りがゆっくりと暗くなっていく。空を見上げると太陽が大地の淵に沈み始めていた。やがて太陽はその姿を完全に消し去り、大森林は闇夜の帳に包まれ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――そして、満天の星が夜空を彩る。

 

 天蓋を埋め尽くす無数の星々。空が公害排気によって覆い尽くされ日の光すら射さない現実では最早見ることなど出来ず、広大なネットの海に画像としてしか残っていない星空がそこにはあった。

 

 襤褸切れのみを身に纏う変態が延々とループを繰り返す原作がR-18のアニメの台詞に『究極に近くなるほど、形容する言葉は陳腐になるもの』というものがあったが、正にその通りだ。

 

 この星空を飾る言葉など、長くなるほど不粋にしかならないだろう。故に、俺が口に出すのはほんの一言で良い。

 

 「なんて綺麗な」

 

 「うちのギルド自慢の星空です。ブルー・プラネットさんが一切の妥協を許すことなく、丸々一月は掛けて作り上げました。凄いでしょう?」

 

 「ええ、夜空はこんなにも美しいものだったのですね」

 

 日が沈み夜が来るのなら、夜が明け日が昇るのも道理である。

 沈んだのとは反対側の淵からゆっくりと太陽がその姿を現し、それと時を同じくして明るくなってゆく空に溶けるように星達は消えていった。

 

 「行きましょうか」

 

 「ええ、少し名残惜しいですが」

 

 「どうせ何時でも見れるようになりますよ」

 

 

 んんん?何時でも見れるようになる、だと。それはどういう事だ。俺はこの先もここに自由に来れる……訳は無いか、ギルドの安全面から考えてもそれは絶対に無い。なら茶釜さんに頼めば連れてきて貰えるといった程度の事なのだろう。

 

 次なるは第七階層『溶岩』、灼熱の溶岩と紅蓮の大地が地獄のような光景を作り出している。実際にこんなところに居たら全身火傷では済まないだろう。最早空気が仄かに赤く染まっているかのようだ。遠くに見える神殿は無残に破壊されており、乱立する白い柱と砕かれた人型の像らしき欠片だけがその姿を残している。

 

 「流石にここのエフェクトまでは起動していませんか、少しだけ安心しました」

 

 「赫灼たる大地、滅び去った神殿、まさしく地獄よ。この光景こそ我らがギルドに相応しい。どうかね?」

 

 「私は九層のアレも好きですけどね。ゲーム上では無意味な食堂やら美容院やら、確かスパリゾートなんかも作る予定なんでしたっけ」

 

 「自由に生きてますねぇ……ああ、こういう退廃とした雰囲気は嫌いではないですよ」

 

 先程一悶着あったタブラさんと、スーツにマントを着用した山羊頭の悪魔が話しかけてきた。

 

 「そうか、趣味が合うな。俺はウルベルト。ウルベルト・アレイン・オードル。よろしく頼むぞ、()()()()()()()

 

 「ええ、こちらこそ。……ん?」

 

 なんか今、変な言葉が聞こえたような。気のせいか、一応今日は見学に来てるんだよな……?ちょっと茶釜さんを近くに呼んで話しかけてみる。なにかお互いに勘違いをしている気がしてならない。

 

 「あの、私の今の立場ってどうなんですか?私はただ誘われて見学しに来た程度なんですけど」

 

 「え、私としてはほぼ新規メンバーって感じで考えてるよ?さっき話聞いたときに誘われてるギルドも入ろうかと考えてるところも無いって言ってたからさ、だったらウチのギルドに入ってほしいかなーって」

 

 「ああ、そうでしたね。貴女はそういう人でしたね……弟君が苦労するのも分かります」

 

 今の一言が聞こえたのかその場に居る男勢三人が小さく頷く。まあ、茶釜さんの強引な部分に引っ張ってもらう事も多々あるのであまり強くは言えないのだが。

 

 「ええ、これも何かの縁です。宜しければ皆様のギルドに入れさせてはいただけませんか?」

 

 その瞬間に目の前の景色が切り替わった。灼熱の地獄は白亜の宮殿の如き一室に変貌し、ギルドの紋章らしきものが中央に刻まれた巨大な円卓の一席に私は座っていた。他の席には全てのギルドメンバーが集結し、私の向かいの席にはモモンガさんが鎮座している。今までは各々が好きなように和気藹々と話していた筈だというのに、そこはただ静寂が支配するのみだった。

 

 「円卓議決開始(デシジョン・スタート)

 

 「汝、我らが同胞となることを望むか」

 

 モモンガさんの骸骨の赤い眼光が私を見定めていた。即座に理解する。この時この場において、一切の嘘偽りは許されないと。

 

 「―――ええ、私はこのギルドに入団することを望みます」

 

 たかがゲーム、その筈だというのに現実の俺は喉が渇きを訴え冷や汗をかくほどに緊張していた。これ程緊張したのは今の会社に入社するときの面接試験以来ではないだろうか。

 変わらぬ静寂が数秒の時を刻み、遂に停滞を打ち砕く一石が投じられる。

 

 「承認27名、否認4名。過半数の賛成を持って可決とする。―――歓迎しよう。32人目たる新たなる同胞よ」

 

 パァンと鳴り響くクラッカーの音と色とりどりの紙吹雪が舞い散る中、私はアインズ・ウール・ゴウンの一員となった。なんか無理矢理な感じが否めないが良しとしよう。第一部完ッ!

 

 「やったああああああああ!良かったねジブリちゃん!!!これでやっとボッチ解消だよ!」

 

 「ギルド長、あのピンク肉棒女膾切りにしてやりたいんですけど構いませんか?」

 

 「入団早々に内部分裂はよしてください」

 

 「……(スッ」(無言で嫉妬のマスクを被る)

 

 「……(スッ」(同じく嫉妬のマスクを被る)

 

 

 

 

 




本当は今回でアインズ・ウール・ゴウンの一員にまでする予定だったんですよ。
でも途中で加入の理由が弱すぎるってことに気付き、なんとかしようとぶくぶく姉貴を動かしたら主人公に精神ダメージをクリティカルしちゃってました。
キャラが勝手に動くとはこういう事か。(多分違う)

約二万七千字書いて未だに異世界どころかギルド入りすらしてない作品があるそうですよ?信じられねぇよな!この作品なんだわ。

あ、天使とジブリールを一緒にすんなってのはこの主人公の意見です。ノゲノラのジブリールとは一切関係していない一ジブリールファンの考えに過ぎません。

一番書いてて楽しかったのはるし★ふぁーさん。キャラは完全に愉悦型。
独自設定でピエロというか道化師みたいな外見にしました。許して。

2017/12/31
ジブリールがアインズ・ウール・ゴウンの一員になるように変更しました。
途中からかなりの変更、しかも雑な作りになってしまい申し訳ございません。


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輝ける至高達の軌跡/二度と届かぬ理想郷

っつっしゃあ!年内セーフっ!

えー、お待たせいたしました。ちゃんと十二月以内に投稿したからセーフッ……圧倒的セーフッ……

あ、お年玉の用意はさすがにできていません。
では、また来年にお会いできればいいなぁ……

いつも閲覧感想評価誤字報告とありがとうございます!もっと下さい!
皆様の温かいお言葉が私の燃料となる……筈です。多分。



 「さて、まずは自己紹介といきましょうか。ジブリールさん、どうぞ」

 

 割と唐突にモモンガさんから自己紹介をしろと命じられる。いや、命じるなんて堅苦しいものではないのは分かっているが、先程までの空気と現状が乖離しすぎていてなんとも。というか皆さんの視線が私に集中して自信のジブリールボディを誇らしく思ったりでもやっぱりそんなに見られると羞恥が少なからずあったり。

 ええい、あまり待たせるのも良くないし一度落ち着くんだ。息を大きく吸って、ゆっくり吐き出す。何も問題は無い。

 

 円卓の席から立ち上がり、宙に軽く浮いて静止する。本来の姿なら格好がついたのだろうが、正直幼女が背伸びをしているようにしか見えない。

 

 「私はジブリール。戦神アルトシュに創造されし天翼種(神殺しの兵器)の末端、……という設定を演じている者だ。趣味は知識と首級の収集。好きなものは未知、嫌いなものは無知。ああ、言い忘れていたが……俺は男だ。以後、どうぞよろしく。そうそう、基本はジブリールとして行動するので、その辺は考慮していただけると助かります♪」

 

 一気に円卓の間の空気が死に絶える。事情を知っていたモモンガさんに茶釜さんとペロロンチーノさんは問題ないが、その他の皆様方は動揺を隠しきれていない。実はネカマであることをカミングアウトした時の、この衝撃を受けた姿がそれなりに好きだったりする。大抵の友人からは性格悪いなと苦笑されるのだが、実害がある訳でもないし後に引く訳でもないならいいと思うんだけどなぁ。

 

 ガタリと音を立てて鎧武者の巨人が崛起し驚きを隠さぬままに私に怒鳴り立てる。とは言えその声音からは悪感情は感じられず、只々目の前の現実が信じられないだけの様だ。

 

 「どういうことだ!?外見はともかく、中身が男なのに何故違和感のない女性の声を出せる!三人目の女性プレイヤーだと期待してたんだぞ!」

 

 「そうだそうだ!俺たちの純情を返せ!ぷーくすくす」

 

 「そんな事を言われましても……ああ、この声は多少作っていますが人工声帯等のものではありませんよ?ちょっとした発声法と努力の賜物です」

 

 途中に一部男性プレイヤーからの野次が飛んできたが、華麗にスルーする。どうせ向こうも冗談で言っているのだろうし、というか最後には笑いを噴き出していた。

 

 「……まあいい、俺も男か女かだけで入団を認めたわけではないしな。そういえば名乗っていなかったな、俺は武人建御雷だ。よろしく頼むぞ、ジブリール」

 

 「そう、それです。何故に私は入団を許されたので?」

 

 インパクトが大きく流されがちではあるが、私はこのギルドと知り合ってまだ一日と経っていない。電撃入団にも程があるのだが、何か理由でもあるのだろうか。個人的にそこが気になった。

 

 「まあ、身内の知り合いって点も大きいな。茶釜さんとそれなりに長い付き合いなんだって?彼女のお墨付きならそこまで悪い輩では無いだろうってな」

 

 「……瞳。我々が丹精込めて造り上げたこのギルドを見た時の反応。実に曇りなき澄んだ瞳であった。俺が推すにはそれだけで充分だ」

 

 「天使種だって異形種には変わりねぇよ。それと、あのクソ『セラフィム』の奴らにも意趣返しになるかと思ってな!」

 

 「なんにでも理由を求めるのは疲れるぜ?もう少し気楽に考えようや、俺たちがアンタを気に入った。その程度の話だろ?」

 

 ……うん、暖かい。近年稀にみる超絶良ギルドなのではないだろうか。リアルでの自分の涙腺が緩むのを感じる。こんなに暖かい空気に包まれたのは両親がいた頃以来ではないだろうか。

 

 「では自己紹介の続きを。戦闘スタイルは素手と魔法での近接戦を主体としています。古いRPGで言うところの『魔法剣士』に近いところがありますね。基本は『ジェノサイダー』のスキルで畳みかけますが……」

 

 ゴトリ、と音を立てて虚空から私の背後にある椅子に処刑人の剣(Richtschwert)がその姿を現す。

 

 刃渡りは私の身長と大差なく、一切の歪みもない刀身の幅は一般的な大剣程にもある。柄の頭には洋ナシ状であり、刀身の切っ先は丸く潰されている。幾多の罪人の血を吸い続け、刃が錆ついて尚斬首刑に使われたギロチンを素材として鍛えられた自慢の処刑刀。()()()()への攻撃時にダメージを増大させるデータクリスタルをふんだんに注ぎ込み作成した、首を刈り取る為だけの剣。その銘を―――

 

 「『黒円卓の(ヴェヴェルスブルグ)―――ではなく、『死命目録(メメント・モリ)』。私が『首を刈り取るべき相手』と見做した者にのみ振るう一抜絶殺の処刑大剣。これを用いた近、中距離戦が私の本領です」

 

 「あとは一応天使なので、基本的な信仰系魔法は習得しています。一人で回復もこなせるアタッカーと考えていただければ」

 

 さて、皆様の反応は如何に……?

 

 モモンガさんは……うわ、すっげえ目キラキラさせてるよあの人。ユグドラシルのアバターは表情も変化しない筈なのに分かってしまう程だ。ギルドの纏め役でしっかり者ではあるけど、中二病を患っていたり妙に子供っぽいところがあったりと面白い人だ。

 

 他は、面白い反応をしてるのは数人か。ペロロンチーノさんはまた色物が増えたか……という目をしている。誰が色物じゃコラ、それを言ったらこのギルドそのものが最大級の色物だっての。異形種も入団を認めているギルドならいざ知らず、異形種オンリーのギルドは聞いたことが無いわ。

 

 コテコテの忍者装束に覆面と忍者以外の何者でもない人(弐式炎雷)はうんうんと頷いている。なにか共感できるような要素があったのだろうか。後で話しかけてみよう、仲良くなれると嬉しいのだが。

 

 水蛸が頭の水死体みたいなタブラさんはぶつぶつと何かを呟いている。耳を澄ますと「天使……アズラー……死を司る……生者の名を記す……」といったワードが微かに聞こえてくる。成程、神話についての造詣が深いのだろう。ジブリールの名を聞いて即座に天使と結びつけてくるだけのことはある。

 

 後は、山羊頭の悪魔であるウルベルトさん位かな。この人はこの人でモモンガさんと負けず劣らずの反応だ。特に反応しているのはこの大剣の銘にだろうか。なんだかこのギルドは中二病患者が多い気がする。かく言う私も中二病と言われれば否定できないのだが。そも異形種をわざわざ選んでいる時点で中二病なのでは?

 

 「そういえば、さっき信仰系魔法を修めていると言っていましたけど俺との戦闘で使っていた〈万雷の撃滅(コール・グレーター・サンダー)〉は魔力系の魔法じゃないですか。信仰系を修めたうえで魔力系の魔法を、しかも第7位階のものを使えるなんてどういうことなんですか?今の説明だとゴリゴリの戦闘職で魔法職をそこまで取得していないようだったので」

 

 ペロロンチーノさんが疑問を問いかけてきた。何故信仰系と魔力系を、しかも純粋な魔法職以外が高い水準で両立できているのか、といったところか。

 中々にお目が高い。そうだよなぁ、そういった職業選択をしていないか、或いは装備を変更でもしない限りはそんなこと出来ない。それは間違っちゃあいない。だが、俺が得た職業はその不可能を可能に変えたのさ。

 

 「ふふ、『唸る獣(Questing beast)』をご存知ですか?私が取得した職業の一つなのですが、それには数種類のみと限られますが、異なる系列の高位魔法を使用可能になるという特性があります。それを利用して幾つかの魔法を習得しました。回答はこんなものでしょうか」

 

 唸り吼える魔性の獣、それは異なる獣の特性を身体に持ち、その唸り声は数多の動物の鳴き声を混ぜ合わせたものだと言う。異なる系列の魔法を扱えるようになるという特性には正にうってつけの職業だ。

 しかし、同時に弱点もまた存在する。この職業によって習得した魔法は一律燃費が本来の魔法よりも悪化しており、更に本職のものと比べると幾分か威力も弱体化している。

 

 「そうそう、天使種なのは見ればわかるんだけどさ、どの天使種の種族を取ったの?特に最高位の三つの熾天使はどれを取得したかで使えるスキルや対応できる範囲が変わるからなるべくなら頭に入れておきたいかな」

 

 「ああ、私は栄光の主天使(ドミニオン・グローリー)原動天の熾天使(セラフ・ジオセントリック)、それと―――」

 

 

 

 

 

 この日、アインズ・ウール・ゴウンに新たな一員が誕生した。

 ジブリール。後にユグドラシルにて最も邪悪にして悪辣なる天使と謳われる事となる、至高の四十一人の一角である。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 とまあ、次回に続くなんて感じのモノローグが入った訳だが、そんなことは知ったこっちゃないとばかりに話は進むのである、まる。

 

 あれから少し経ち、何人かの新メンバーが加入してから。

 遂に待望(私はそれほどでもないが)のNPC作成について話し合うことになったのである。因みに司会はギルド長のモモンガさんが担当。どことなく威厳が出てきたように感じたり感じなかったり。

 

 「えー、皆さんちゃんと集まってますね?前々から告知していた通り、今迄の簡略としたものでは無く、しっかりとしたNPCの作成について話し合おうと思います!」

 

 場所は何時ぞやの円卓の間にて。なんと41人にもなったアインズ・ウール・ゴウン全員がこの円卓に腰を預け並んでいる。いや、ここまでくると壮観である。途中から参加した私ですらこう感じるのだから、話に聞いたクラン時代からのメンバーはどれ程の感銘を受けたのやら。

 

 「まず、全員から少しづつ徴収した金額で仮決めのNPCを全てリセットしました。私たちにはナザリック初見攻略等も合わせて2750レベル分の作成権限があります。今日は誰がどれだけNPCを作成するか、そのレベルはどうするかについて決めようと考えています。最低でも一人一体は必ず作成してもらいます。それと、話し合いで決まったことは後で蒸し返さない事、最悪はこのくじで公平に決定しますからね」

 

 モモンガさんが左手に籤箱を持って高く掲げる。

 殆どの人は興奮しているのだが、私はNPC作成にそこまで興味を抱いていない。

 というのも、私がユグドラシルをプレイしている理由がジブリールの為だけであり、正直他者であるNPCなど、人が作ったものを見るのならまだしも自分で作ることに必要性を感じていないのである。

 

 必ず一人一体、とモモンガさんは言っていたが、どうしようか……

 脳内に空白たちをNPCとして作成するのはどうかと一瞬よぎったが、即座に掻き消した。

 あの空白コンビだぞ?幾ら同じような設定を組み立て、職業を与えたとしても模造品にしかならないだろう。というか、あれを再現できる気がしないしあの二人に失礼だ。

 最悪、適当にロリリールでも作ろうかと考えている中、茶釜さんに話しかけられる。

 

 「どーしたのジブリちゃん。なんかだかぼーっとしてるけど」

 

 「いや、NPCをどうしようかと」

 

 「あー、悩むよねぇ。私はもう決めてるんだけどさ。双子の闇妖精(ダークエルフ)でね、アウラとマーレって名前にしようと思うんだけど……」

 

 と、そんな感じの茶釜さんを右から左に受け流しつつ話は進んで行き、とうとうモモンガさんから聞かれる順番になった。

 

 「ジブリールさんはどうします?幸いまだレベルには全然余裕がありますから、100レベルでも問題ないですよ?流石に複数体で全員100レベルだと皆さんからストップがかかると思いますけどね」

 

 むむむ、本当に本っっっ当にどうしよう。

 そう考えていたその時、ふと頭に彼女の姿が浮かんできた。

 そうか、確かにあまり頭が良いキャラでもないから設定上でも上手く再現出来そうだし、かつ私との関係も少なからずあって好都合だ。レベルも、30かそこらあれば足りるだろう。アホの子可愛い要素も美味しいしね。

 

 「では、一人作成させていただけますか?レベルは30位もらえればそれで十分ですので」

 

 「もちろん問題ないですけど、本当にそれだけで大丈夫ですか?ジブリールさんはこのギルドにちゃんと貢献していますし、もう少し我儘を言っても許してもらえると思いますよ」

 

 「いえ、彼女にそこまでレベルを与えると強くなりすぎてしまうのでこれぐらいが丁度いいんです。お気持ちだけ頂きます」

 

 ふっふっふ、ようこそ()()()()()。この素晴らしき世界へと、ね。

 

 では種族はどうしようか。単純に人間種で創ってもいいが、どうせなら人犬(ワードッグ)にしてあげても面白いかもしれない。職業は課金が必要だがプリンセスに、一レベルだけギャンブラーを与えてあげようか。でも彼女もそれなりにゲームの腕はあるのだし……ああ、内政面に強い子にしてあげよう。お菓子作りが上手かった筈だから、コック辺りの職も必要になりそうだ。

 

 なんだ、思ったよりも楽しくなりそうじゃないか。

 多分その時の私の笑みは、ユグドラシルの表情固定が無かったのならきっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と て も 邪 悪 な も の だ っ た の だ ろ う 。




感想での悪ノリからステフがナザリック入りすることが決定しました。拍手!

ほら、ね?ステフが何でもするって言っちゃったからね?

クエスティング・ビースト、ジェノサイダー、栄光の主天使、原動天の熾天使などオリジナルが山盛りの今回ですが、大目に見てください。

え?何でジブリールに大剣持たせたのかって?その方が恰好いいやん。

大剣の見た目は、黒円卓の聖槍とシャルル君の持つ剣辺りを上手い事合体させたイメージです。
ほら、やっぱり首を刈るんだからその為の道具は必須だよね。ちかたないね。


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終わるセカイと至高の残滓

オーバーロードⅡなんてやるからついつい書いちまったぜ……
ちょっといつもより短いですが、何も言わんといてください。

今度は本当に2~3月頃だからね?割とマジで忙しいからね?

では、どうぞ。


 「え、これって……!」

 

 「おお、若い嬢ちゃん。いい目をしておるの、それはワールドアイテムの―――」

 

 「これ、くださいな。料金はこれで足りますの?」

 

 「ああ、十分すぎるくらいだ。ところで、残り数時間のこの世界で何を成すのかね?どうせ消えてなくなるというのに。」

 

 「『たとえ明日、世界が滅亡しようとも今日私はリンゴの木を植える。』、それ自体に価値は無くともその意味は確かにあるのだと、私はそう思いますので」

 

 「……そうかい。じゃあな、儂もそろそろ店をたたむとしよう。」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 「はぁ……、『どこかでお会いしましょう』ねぇ。一体何処で、何時なら会えるんだろうな……」

 

 モモンガの双肩は諦観の念をありありと表していた。結局、モモンガは今さっきこのギルドから去って行った漆黒の粘体生物(ヘロヘロ)に引き留めの言葉を伝えることは無かった。

 

 結局のところ、彼らには彼らの道があり、その先が自分の道の行き先とは違う方向だったのだろう。

 寂寥感と虚無感にモモンガが打ちひしがれているその時に。

 

 「―――モモンガさんモモンガさんモォモンガさぁん!!!」

 

 「うわぁ何ですか人が黄昏ている最中に!?」

 

 円卓の間に一発の弾丸が躍り込む。彼女―――とは言っても、その中身は彼と表現すべきだが―――はこのギルド最後の二人の片割れ、『最凶の天使』『ナザリックの斬首人』『最大ダメージ量更新者』『天使狩りの天使』『処刑人』『あの黒いのなんなの』等、数多くの異名を与えられた天使種プレイヤー。

 

 プレイヤー名『ジブリール』。一世紀程前に出版されていたとあるライトノベルのキャラクターを再現した、所謂『変態に技術を与えた結果がこれだよ!』を地で行く()である。

 

 「そんなことよりちょっと第六階層に来てくださいな!時間も押していますし早く早く!!さあさあ、ハリーハリーハリー!!!」

 

 「分かりました分かりましたからああもう急かすのをやめてくださいって……」

 

 椅子に腰かけていたモモンガをジブリールは無理矢理に立たせ円卓の間の出入り口にへと押し出していく。細身の腕は外見とは異なる尋常ではない力を発揮し、モモンガの巨体はそれに逆らうことも出来ずになすがままにされている。

 

 モモンガが十指に嵌めている指輪のうちの一つ、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの効力が発揮される。

 それはモモンガを即座に第六階層の大森林、その円形闘技場へと転移させた。

 

 モモンガが軽く空を見上げると、そこには変わらぬ何時もの星空があり―――

 

 「な、なんじゃあれはーーー!!?」

 

 

 

 

 

 

 ―――それは、モンスターというにはあまりにも大きすぎた。

 大きく

 分厚く

 重く

 そして大雑把すぎた。

 それはまさに島だった。

 

 

 

 

 

 

 第六階層の上空約100m付近に浮遊する、圧倒的なまでの巨体を持つ岩で出来た鯨。

 それがモモンガの平静を悉く奪い去っていた。

 

 「どうです、凄いでしょう。むふーむふー」

 

 驚愕を隠せないモモンガの隣にはいつの間にかジブリールが並んでいた。

 表情は変化しないものの、僅かに聞こえてくる鼻息は荒く、胸を張って腰の翼をパタパタとまでさせて興奮している。

 その首元には今までに見たことの無い、虹色に輝く宝玉の填められた首飾りが鎮座していた。

 

 「い、一体あれはどうしたんです!?NPCレベルなんてとっくの昔に使い切ってますし、あんなものワールドアイテムでもない限りは……まさか」

 

 「そうです、その通りに御座いますとも!これなるはワールドアイテム『百獣孕む女神の母胎(ポトニア・テローン)』にて作成した超々巨大モンスター!その名も『アヴァント・ヘイム』!!通称アヴちゃんです」

 

 アヴァント・ヘイム。

 それがこの島の冠する名称。ジブリールしか知らない事だが、上から見ることが出来るのなら背中部分に生えるようにして存在している都市群を目にするだろう。なにせこの島、幻想種(ファンタズマ)という独立した一つの世界は天翼種が空中都市にしているという設定で作成されたのだから。

 ……当然、このユグドラシルでは只の一NPCに過ぎないのだが。

 

 「……ま、まあ。別に今日で最後なんですし、多少の事なら俺だって目を瞑りますよ。それでも事前に連絡位は欲しかったんですけれど」

 

 内心で浅く溜息をつく。この突拍子も無く唐突にやらかす彼女の癖は最後の最後まで直らなかったなあと、モモンガは脳裏によぎる懐かしい記憶に思いを馳せようとして―――

 

 ―――視界の片隅に設置されたタイマーに表示される現在の時刻が、ユグドラシル終了の十分前であることを認識した。

 いかん、ゆっくりしている時間すら今の自分たちには無いのだとモモンガは再認識した。常に時間を確認するという悲しき社畜の性のせいでもある。

 

 「ジブリールさん!もう時間が本当に無いんですけどどうしますか!?俺はこれから玉座の間に行こうと思うんですけど」

 

 「私は最古図書館(アッシュールバニパル)で過ごさせてもらいます。やはり最後まで未知を追い求めることがこの『ジブリール』であると思うので」

 

 モモンガの問いにジブリールはそう答えた。女性の声だったそれは、最後の一言だけは男性の声に変わって、いや戻っていた。

 ジブリールであろうとする男の素の声。それはこの世界では禁忌の様なモノであり、余程の事が無ければ使わない声だとモモンガは知っていた。

 

 「モモンガさん、ありがとうございました。貴方に出会えて本当に良かったと、心から感謝しています」

 

 「……いえ、俺もジブリールさんと一緒にこのゲームを出来て良かったと思っています」

 

 第十階層、ナザリックの最下層にして心臓部に二人は転移する。モモンガが向かう先である玉座の間へは、たとえリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンであっても直接転移することは出来ない。故にその一歩手前にの地点にやってきたのだった。

 

 二人の間に会話は無かった。しかしその静寂は決して心苦しいものでは無く、共に苦労を、喜びを分かち合ってきた者達の一種の共感がそこにあった。

 

 ユグドラシルは、ナザリックは、アインズ・ウール・ゴウンは。

 名残惜しくも、後数分の時をもってゲームの終了という終焉を迎える―――

 

 

 

 

 ―――その筈だった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ナザリック地下大墳墓、その最深層たる第十階層に位置する最古図書館(アッシュールバニパル)

 私を筆頭に古今東西の魔導書に古書や禁書を見境なく蒐集した結果、この図書室そのものが一種のダンジョンなのではないかと言えるほどの規模になってしまった。

 ここの小部屋の中の一つ、私専用の読書室に足を踏み入れた。当然、そこら辺の本棚から何冊か本を持ち寄ってきている。

 

 天井にある小さな照明を点け、背もたれのある一人用の椅子に腰かけてゆっくりと背を預ける。

 椅子の横にある机に備え付けられているコーヒーメーカーにマグカップを置くと、温かなコーヒーで満たされていく。嗅覚も味覚もユグドラシルでは存在しないが、まあ雰囲気作りの為でしかないから気にはしない。

 

 さて、本を開いて読み進めていこう―――としたのだが、無情にも視界の隅の時計はサーバー停止の刻限の30秒前を指し示していた。

 

 「ああ、遂に終わってしまうというのか……」

 

 23:59:36、37、38……

 

 溜息を一つ、明日も仕事が待っている。そう考えてしまうと胸が重くなった。

 自然と口がそれに合わせて数えだしていた。

 

 23:59:44、45、46……

 

 瞼を落とす。

 

 23:59:57、58、59……

 

 意識がブラックアウトするその瞬間を惜しみながら―――

 

 

 0:00:00……01、02、03

 

 ―――そして、アインズ・ウール・ゴウンは世界樹(ユグドラシル)から零れ落ちた。

 

 




アヴァント・ヘイムは一応予定してました。
特に物語上の意味は無いに等しいのですけどね。

今回で何とかユグドラシル終了のお知らせです。
結構無理矢理かつ飛ばしたので雑。
実は転移時にアルトシュの干渉を受けるなんて構想もあったのですが、それやると多分バッドエンド行きになるような気がしたので『無かったことにした』。

……キリが良いし完結にしちゃダメ?


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自作NPCが子供ならジブリールに母親属性が追加される可能性が微レ存?

お久し振りです皆さま。
なんとか事情は済ませて時間が出来たのでこの三日間で結構急いで作りました。
感想評価閲覧本当にありがとうございます!とっても嬉しいです。

あ、今回は守護者勢ぞろいまでです。
眠気がひどいぜ……


 

 珈琲の豊かな香りに鼻腔を擽られ、私の意識が再び覚醒する。

 ……珈琲の香り?それは可笑しい。あまり信用できない体感というあやふやな感覚でだが、既に24時は過ぎている筈。ならばユグドラシルのサーバーから切り離され現実の自室に居なければならない。

 

 そして、現実の世界では珈琲などという高級品は滅多に飲むことは出来ない。数年前に上司に付き合わされて飲んだのが最後だ。

 当然、今の自分の家にそんな物がある訳が無い。珈琲に金を使うなら現物のノゲノラ小説を購入したいものだ。あれは本というだけで貴重なのに更に一世紀も前の古書、手に入れようなどとすれば優に6桁は下らないだろう。

 

 つまるところ、此処は現実の自室では無いという事だ。

 瞼をゆっくりと抉じ開ける。異様な程鮮明に周囲が認識できるのはどういう事なのだろうか、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ……視界に映るのは先程と何も変わらない、私専用の読書室が広がっている。左に首を回せば口を付けたマグカップの中にまだ微かに湯気の立つ珈琲が注がれている。

 カップを両手で持ち、中身を口に近づける。そして、それを恐る恐る口の中に含み―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――まず感じたのは『苦味』、求めしものは『砂糖』

    

 次いで口内を熱が満たし、黒いマグマが私の口を容赦なく蹂躙する。堪らず飲み込むと、それは喉へと流れ細い首がこくこくと動いて嚥下しようとしているのが実感できる。食道を灼熱が通り抜けるのを感じ、最後には舌に僅かな酸味が後味として残る。

 

 「何故、ユグドラシルで味覚が適用されてい……」

 

 つい口に出てしまった疑問を、正確に言うとその声を認識した瞬間に()は驚愕した。何故なら、今まで意識して出していたジブリールの声が自分の素の声になっていたのだ。

 

 「あー、あー、あっしぇんて。くおえうえーーーるえうおおおwwwwwwwwwwwwww」

 

 そして、その逆に自分の地声はどれだけ意図しようとも出ることは無かった。今の言葉も完全に現実の会社で出すような男の声で言った感覚だったのだが、実際にはただのゆ○りvoiceである。

 

 「これはこれは、どういった次第でしょうか。ユグドラシルは終わらないばかりか盛大に電脳法に喧嘩を売る始末。これで逮捕されたら本当にクソ運営待ったなしでございますが」

 

 自己確認の意味も込めて再び口に出して呟いてみるも、今のが夢で実際はコンソールに座ったまま眠りこけているだけ……ではないことが分かっただけだった。

 

 取り敢えず椅子から立ち上がって読書室を出ようとし、扉のノブに手を掛けようとして―――

 

 

 

 ≪ジブリールさん!私の声が通じていますか!?≫

 

 

 

 <伝言(メッセージ)>で飛んできたモモンガさんの大声にびっくりしてその場ですっころんだのだった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 此処は第六階層『大森林』、その円形闘技場(コロッセウム)に君臨するは死の支配者(モモンガ)双子の(アウラ)闇妖精(マーレ)

 つい先ほどまでモモンガが持つギルド武器『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』の試運転と、それに伴い『根源の火精霊(プライマル・ファイアーエレメンタル)』とアウラ・マーレの戦闘をしていたところであり、モモンガは二人への労いとして無限の水差しの水を注いでやっていた。

 

 「そういえばモモンガ様、先程〈伝言(メッセージ)〉を使っていた様に見えたのですが誰に連絡を?」

 

 「ああ、柄でもなく大きな声を出してしまったからな。戦闘中でも聞こえていたか?」

 

 「何を話しているかは聞こえなかったんですけど、大声だった位は、はい」

 

 双子の姉の方であるアウラがモモンガに質問を問いかけた。心なしかモモンガの雰囲気が柔らかく、どこか安堵というか喜んでいるように感じられたからである。

 モモンガはそれに快く返答をする。それに続くように弟のマーレもたどたどしくながら話し出した。

 

 「何、大したことではないが……そうだな、直ぐに分かるとも。ふふふ」

 

 言葉とは裏腹に重要なことであるというのは二人には即座に理解できた。

 なにせここまで分かりやすく喜色を浮かべているのである。骸骨の顔でどうやって喜色を表しているのかを追求してはいけないが。

 こんな顔をここ最近は、特に自らの創造主たるぶくぶく茶釜がお隠れになってからは滅多にしていなかった。

 

 何がモモンガ様をそうさせたのか。そう二人が内心で疑問を抱いたその時に、突如第六階層上空に浮遊していたアヴァント・ヘイムが消失した。

 なんの予兆も無く、ただ淡い光に包まれたと認識する間もなく光の粒子となって上空の一点に吸い込まれるようにして居なくなったのだ。

 

 粒子が最後に吸い込まれていった場所から、白い流星が円形闘技場に落下していく。

 モモンガを含めた三人の反応速度を遥かに超えたそれは一瞬で第六階層の地表へと降り立った。

 

 土埃が視界を茶色く染め上げる中、類稀なる視力を備えるアウラとマーレは確かに見たのだった。

 白の流星、その正体を。

 

 「お、お姉ちゃん。あああれって、もし、もしかしたら……」

 

 「マーレ、今のってもしかしたら……!」

 

 「はぁ、もう少し大人しい登場の仕方は無いんですか?―――ジブリールさん」

 

 コロッセウムの地面に出来た衝突によるクレーターの中心部、そこから突風が巻き起こされ砂塵によるヴェールが剥がされる。

 果たしてそこにはアインズ・ウール・ゴウンが一角、嘗て円卓を占めた41の至高の存在。その一員たる白翼の天使(ジブリール)が堂々たる姿を示していた。

 

 「いえ、やはり古今東西登場シーンというものにはインパクトが必要不可欠なモノなのですよモモンガさん。なので私が上空から急降下して来るのは至極当然であって何も可笑しくない訳です」

 

 「今の言葉から可笑しい点を探すことはたとえ小卒のサラリーマンにだって出来ますって」

 

 互いに親し気に軽口を叩き合うナザリックの主達。つい先ほどまで<伝言(メッセージ)>で現状を報告し情報交換をしていた二人だが、実際に姿を確認したことで両者共に一応の安心感が生まれていた。

 

 「本当に骨だけの身体ですのね……関節とか普通ならポロリとしちゃいそうなものですがどうなんですか?」

 

 「いきなり夢も希望も無い事を言い出しますね貴女は。ほら、アウラとマーレが話したそうに見てますから、構ってあげて下さい」

 

 骨だけの手を掴んで手首をプラプラとさせているジブリールをモモンガが窘め、頭を掴んで顔を強引に二人の方に向けさせる。

 アウラとマーレを視認したジブリールは、軽く浮遊した状態のまま二人の下へと移動した。

 そして、唐突にアウラの脇の下辺りを掴むやいなや上に放り投げ、優しくキャッチしてその場でぐるぐると回転をして遊びだすのだった。アウラは最初はポカンとしていたが、キャッチされた辺りで察したのかキャッキャと楽しそうに笑い出す。

 

 マーレが若干涙目になってきたところでアウラが地面に降ろされ、今度はマーレが同じ事を体験することになった。マーレも嬉しそうにしていた。

 

 それが一通り済んだところで、二人は並んで挨拶を行った。

 

 「改めて、お久し振りですジブリール様。私の守護階層にようこそ!」

 

 「私の、じゃなくて僕たちのだよぉ、お姉ちゃん。お、お久し振りです、ジブリール様」

 

 「ええ、久し振りですねアウラ、そしてマーレ。良い子にしていましたか?」

 

 「そりゃあもう!ばっちりですよばっちり、ぶいぶい!」

 

 アウラは両手でピースを作り元気いっぱいに返答する。

 にっこりとした満面の笑みは、見る者に太陽の様な印象を与える事だろう。

 緑と青のオッドアイに、闇妖精(ダークエルフ)特有の浅黒い肌。金髪を肩口で揃え、赤い軽装鎧をぴっちりと装備し、その上から胸にアインズ・ウール・ゴウンのギルドサインが入った白いベストと長ズボンを着用している。

 ぶくぶく茶釜が創造した姉弟の姉の方、それが彼女ことアウラ・ベラ・フィオーラ。

 

 「ぼ、僕も良い子にしてました。最近は侵入者もいないので少し暇でしたけど……」

 

 マーレはおどおどとした表情でそう告げる。

 アウラとは反対に、こちらは月を思い浮かばせる雰囲気だ。

 姉とは逆の青と緑のオッドアイに、姉と同じ浅黒い肌と金髪のおかっぱ頭。

 青の軽装鎧の上には白のベストとスカートを着用しており、ベストの胸部分にはアインズ・ウール・ゴウンのギルドサインが入っている。

 ぶくぶく茶釜が創造した姉弟の弟の方、それが彼ことマーレ・ベロ・フィオーレ。

 

 次第にモモンガも近くに寄って来て、話の輪に混ざりだした。

 流石に独りぼっちは堪えるのだろう。

 

 そうして暫しの間会話が続いていると、誰のものでもない声がどこからか掛けられた。

 

 「おや、私が一番でありんすか?」

 

 その声と同時に、黒い影が大地から吹き出し、空間に渦巻く扉の様なモノを創り出す。

 そこから現れたのは、スカートが大きく膨らんだ漆黒のドレスに、フリルとリボンが特徴的なカーディガンを羽織った白蝋じみた白い肌の少女。

 艶やかな長い銀色の髪に、妖しげな輝きを宿す深紅の双眸。幼い外見とは釣り合わない程の大きな胸が見る者全てを惹きつけるであろう。

 

 「つったく、転移を阻害してるナザリックでわざわざ<転移門(ゲート)>で移動して来るなんて。どうせ闘技場までは普通に来たんだから、そのまま来ればよかったでしょうが、シャルティア」

 

 シャルティアと呼ばれたその少女は、明らかに厭味ったらしく言ったアウラの敵愾心に満ちた言葉に反応を一切返すことも無くモモンガとジブリールの前に立つ。

 

 シャルティアから香る上品な香水が鼻を擽る。

 割と二人は幸せな気持ちになっているのだが、アウラはボソリとこう呟く。

 

 「……なにこの匂いは、くさっ」

 

 「ああ?香水の香りも理解出来ないお子ちゃまなのでありんしょうね?」

 

 売り言葉に買い言葉。二人の間に険悪なムードが漂うも、シャルティアがそれを無視してモモンガの首に手を伸ばし抱きつこうとする。

 

 本人は精一杯妖艶な美女の仕草を行ったのだろうが、少女の容姿であるシャルティアでは決定的に『色気』とも呼ぶべき何かが足りず、どちらかと言えば父親に娘がぶら下がろうとしているような微笑ましさが先に来てしまっている。

 

 「ああ、至高の君よ。私が支配したくとも支配できぬ唯一の御方」

 

 女性経験が碌にないモモンガにはこれでも十分効果があったのか、足が後退しかけるがなんとかその場に踏みとどまる。

 ちなみにジブリールは散々ペロロンチーノから話を聞かされていたので、可愛いなとしか感想を抱いていない。

 

 エロゲ―イズマイライフ、ジブリール的に表現を変えるのなら、ノーエロゲ―ノーライフ、といったところだろうか。案外空なら順応しそうではある。

 それを自身のテーマとする、ある意味アインズ・ウール・ゴウン一の問題児。それがペロロンチーノであり、その男に『ぼくのかんがえたさいきょうのエロゲ―キャラ』としての設定を与えられた彼女こそ、吸血鬼が真祖(トゥルーヴァンパイア)

 その名をシャルティア・ブラッドフォールン。ナザリック地下大墳墓の第一から第三階層までを守護する階層守護者である。

 

 シャルティアは一旦モモンガから名残惜しそうに離れると、ジブリールの方を向いて丁寧に一礼する。

 

 「お久し振りでありんす。輝きそのものとも言うべき美貌の君、我が創造主のご親友であらせられるジブリール様」

 

 「大袈裟ですわね、もっと気軽に呼んでも良いのですよ?例えばそう、ジブにゃん、なんてどうでしょうか」

 

 ジブリールがくすりと笑いながら冗談じみた発想を口にすると、びくりとシャルティアが反応を返した。

 

 「そんな、至高の御方であるジブリール様にそのような事など!」

 

 このとき、ジブリールとモモンガからは確認できなかったがアウラとマーレの瞳からハイライトが消え去り、スキルでも併用しているのではないかという程強力な視線がシャルティアを襲っていたのである。

 

 そこからはアウラとシャルティアの壮絶なキャットファイトが幕を上げたのだったが、全くもって不毛かつ意味の無い争いであったとだけ述べておく。争いは同じレベルの者同士でしか発生しないというのにも頷ける。

 なお、その間にマーレには手持無沙汰のジブリールに後ろから抱きしめられる幸運が起きていたのだが、それはまた別の話。

 

 「なんだー!もう絶対に成長しない永年貧乳がー!」

 

 「おどりゃんにゃろー!言って良い事と悪い事があるだろうがー!」

 

 どったんばったん大騒ぎが起こらんとする中、モモンガはその二人に時たま喧嘩をしていたペロロンチーノとぶくぶく茶釜の姿を重ね、ジブリールはインベントリから椅子を取り出して座り、マーレを膝の上にのせてほっこりしていた。マーレもほっこりした。

 

 「サワガシイナ」

 

 無理矢理に音の塊を言葉の形に歪めて絞り出したような硬質な声が争う二人を断ち切るかのように紡がれる。

 声のする方に目を向けると、そこにはアリとカマキリを足し合わせた様な蟲の魔人が立っていた。

 

 背中からは鋭い氷柱が何本も生えており、その周囲は常に冷気が放たれている。ライトブルーの鎧武者を思わせる外骨格に、四本の腕はそれぞれハルバードにメイス、ブロードソードといった近接戦主体の武器を持っている。

 誇り高き凍河の支配者、第五階層の守護者ことコキュートス。

 

 「御方々ノ前デ遊ビガ過ギルゾ……」

 

 「しかし!」

 

 「こいつが!」

 

 コキュートスの制止にも構わず、寧ろヒートアップして再び眼光がぶつかり合う。

 マーレはいつの間にか椅子を仕舞ったジブリールの横に避難している。

 

 「じゃれ合うのは構わないが、今はその辺にしておけ」

 

 モモンガが意図的に出した威厳たっぷりの低い声が二人を叱咤する。

 びくりとした二人は即座に頭を垂れ、謝罪の言葉を述べた。

 

 『申し訳ありません!』

 

 モモンガはその謝罪を受け入れるように一度頷き、そしてコキュートスの方へ体を向ける。

 

 「久しいなコキュートスよ、息災だったか?」

 

 「オ呼ビトアラバ何時デアロウト御身ノ前ニ」

 

 昆虫に特有の下顎からは白い息が漏れ、空気中の水分が凍結して軋むような音を立てている。

 コキュートスが周囲に漏らす冷気はかなりのものであり、付近に居るだけで常時低温によるダメージを受ける程だが、この場に居る全員はその程度のものではビクともしない。

 

 「コノ身ハタダ一振リノ剣トシテ、如何ナル時ニモオ役ニ立テルヨウ」

 

 「良い心構えだ、ご苦労」

 

 「ナント有難キオ言葉、感謝致シマス。オヤ、デミウルゴスニアルベドモ到着シタヨウデスナ」

 

 闘技場の入口から二つの人影が歩いてくる。前に居るのは純白のドレスを纏う美しき淫魔(サキュバス)、守護者統括の地位に就くアルベド。

 

 それに付き従うように後ろから歩いてくるのは東洋風の外見に黒髪のオールバック。丸眼鏡で目を隠しており、赤いストライプ柄のスーツを着こなしている。これだけならば異形には見えないのだが、銀のプレートに包まれた棘の生えた尾が彼の悪魔たる姿の証明になっている。

 

 「済まないね皆さん、お待たせしたようだ」

 

 彼が第七階層守護者、炎獄の造物主ことデミウルゴス。ナザリック防衛時においてNPC指揮権を一任されている大悪魔である。

 

 「これで全員揃ったようだな」

 

 「失礼します、モモンガ様。まだ二人程階層守護者は残っておりますが?」

 

 「ああ、ガルガンチュアはそもそも攻城戦用のゴーレムだから今回は呼ぶ必要が無い。ヴィクティムは役割が死亡による足止めが主なものなので同じく必要ない」

 

 「左様でしたか」

 

 デミウルゴスからの質問もモモンガによって回答され、守護者一同は統括であるアルベドを先頭にしてモモンガとジブリールに向き合う。

 

 「では皆、至高の御方々に忠誠の儀を」

 

 守護者全員が一斉に頷き、なにか反応を返す隙も無く隊列が組みあがる。

 アルベドが先頭なのは先程と変わらないが、他の守護者は少し後ろ辺りで一列に整列をしている。

 全員が真剣な表情を例外なく浮かべており、おちゃらけた雰囲気などはひとかけらも無くなっていた。

 

 「第一、第二、第三階層守護者、シャルティア・ブラッドフォールン。御身の前に」

 

 列の端にいたシャルティアが一歩前に歩み出て、片手を胸の前に置いて跪き頭を深く下げる臣下の礼を執り行う。

 

 「第五階層守護者、コキュートス。御身ノ前ニ」

 

 コキュートスもシャルティアと同じく臣下の礼を行い、二人に頭を下げる。

 

 「第六階層守護者、アウラ・ベラ・フィオーラ。御身の前に」

 

 「お、同じく第六階層守護者、マーレ・ベロ・フィオーレ。お、御身の前に」

 

 闇妖精の二人もまた同じ臣下の礼を行う。進んだ位置は二人共どころかシャルティアとコキュートスまで同じ並びになるように調整されている。

 

 「第七階層守護者、デミウルゴス。御身の前に」

 

 そしてデミウルゴスが優雅な姿勢を崩すことも無く臣下の礼を行った。

 

 「守護者統括、アルベド。御身の前に」

 

 最後にアルベドが僅かな微笑みをモモンガへと向け、他の階層守護者と同じように行い、されどその礼は終わることは無く最後の報告を頭を下げたままで行った。

 

 「第四階層守護者ガルガンチュア及び第八階層守護者ヴィクティムを除き、各階層守護者、御身の前に平伏し奉る。……ご命令を、至高なる御身よ。我らの忠義その全てを御身に捧げます」

 

 

 

 

 

 




やたらマーレが良い思いしてるのは何故かって?そりゃあ俺がマーレ好きだからよ。アウラも好きです。

すごい失速してる?気にしなさんな。


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降り立つは死と白翼

某淫夢兄貴に触発されて書いていたらその兄貴が消えてしまいましたので初投稿です。

3月中に投稿できなくてすいませんでした。やる気がげっそりと削られてて……
ま、4/1も三月みたいなものだからセーフ。


 

 階層守護者達との顔合わせを済ませ、その後周囲の探索から帰還したセバスとの現状確認と何か予想以上の高評価を捧げられた私たちは転移を行いレメゲトン──第十階層、王座の間が手前に存在するナザリックの最終防衛地点――へと移動した。

 周囲を軽く見回し、ついでに索敵スキルも使って私とモモンガさんしか居ないことを確認するとモモンガさんは深いため息をついた。

 

 「はあ……疲れた」

 

 「ですねぇ……評価を聞いたときは一体誰の事なのかと」

 

 心なしかモモンガさんの肩は重荷が載っているかのように下がっている。私も頭を抱えたくなったが寸前で堪える。

 

 「取り敢えず私は自室に戻ろうと思います。久し振りにあの娘に会いたいですし。……いえ、会わなければなりません」

 

 「分かりました。何かあったら直ぐに<伝言(メッセージ)>で連絡してくださいね、では」

 

 モモンガさんからの返答に無言で頷き、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの効果を発動して第九階層の自室前に転移する。

 私のサインが刻印された扉を開けて中に入る。

 

 暇なときは基本的に最古図書館(アッシュールバニパル)の専用閲覧室で過ごしていたから、私室にはほとんど手を入れていない。精々が戦利品である首級数個と大きめのベッド位だろうか。

 

 いつだったか資料で見たロイヤルスイートとかいう、()の様な一般市民では何年かかっても一泊分の金額にすら届かない超々高額でなまらすげー高級な部屋が元になっており、豪華すぎて肌に合わずあまり使っていなかったのだ。

 リビングの意匠に惚れ惚れとし、軽く見て回り目を楽しませてから彼女(・・)を待機させていた主寝室へと足を運んだ。

 

 ギルドメンバー総勢41名のあらゆる要望が兼ね備えられたマイルームの主寝室、部屋の中央奥にはキングサイズの天蓋付きベッドが置かれている。清潔な白の天蓋は過度な装飾では無く、されどさり気なく気品を感じる一品であり、ベッドもシーツに皴一つ無くピンと張られておりメイドの完璧な仕事振りが見て取れる。

 私が翼を伸ばして寝たとしても有り余る程大きいベッドの手前にて、石像のようにピクリとも身体を動かすこと無く無表情のまま待機している一人のNPC。彼女こそが―――

 

 「長らく待たせましたね……ただいま、ドラちゃん」

 

 その一言が彼女の、ステファニー・ドーラのトリガーだった。

 みるみるうちにステフの両の瞳と鼻が決壊しダバダバと液体が溢れ出る。表情も感情を感じさせない無表情から一変して、うるうると絶え間なく涙が流れ落ちる瞳からは計り知れない悲しみとそれに勝るとも劣らぬ歓喜が伝わってくる。

 ステフを放置していた罪悪感から目を合わせるのがとてもつらく視線を下の方に移動させるが、小刻みにプルプルと子犬のように震える身体と血が流れ出る程に固く握り締められた両手を見てしまい尚の事いたたまれなくなってしまった。

 

 ドッという衝撃をこの五体を以て優しく受け止め、ぐちゃぐちゃになってしまったステフの顔を胸と両の手で抱きしめてやる。うわっ、たゆんって揺れたよ胸が。ステフのと(ジブリール)の。

 こんな可愛い少女を抱きしめているというのに、()の中の獣性は一切反応を示さない。それどころか胸の内から暖かいなにかが込み上げてくるのを感じる。こんな状況なら抱くだろうと予想していた荒々しい性欲とは全く異なる、包み込むような優しい気持ち。

 

 「えぐっ、ひっぐ、お゛か゛え゛り゛ぃ、な゛さ゛い゛ま゛せ゛し゛ふ゛り゛ぃる゛、さ゛ま゛ぁあああああ!!」

 

 おんおんと泣き喚くステフを只々抱きしめ続ける。並行して片手で艶やかな赤髪をゆっくりと、そんな経験など無かったから不器用だろうが赤子をあやす様に撫でてあげた。さらさらの赤髪が指と指の隙間をすうっと通り抜けていく。

 その間にもステフの言葉にならない声が絶え間無く続いている。

 「ずっと会いに来てくれず捨てられたと思っていた」、「自分は要らないのだと思っていた」、「必要とされず悲しかった」

 どれもこれも、自分がどれだけ彼女を乱雑に扱ってきたかを痛感させられるものばかりだった。

 

 床に敷かれたカーペットがびちょぬれになって尚嗚咽に変化した泣き声は止むことが無く、それから暫くの時間をステフを泣き止ますことに費やすことになった。

 

 うん、こういうのも。なんというか、その。

 悪くは、ないんじゃないかな。ジブリールがこんな事をする訳は無いのだろうけれども。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 「申し訳ありませんジブリール様!この失態は命を以て償わせていただき―――

 

 はい、ストップ。

 護身用に持たせた小刀を何処からか取り出し、切っ先を自分に向けて突き刺そうとしていたステフの行動を力づくで止める。

 

 ふふふ、完全に非戦闘職オンリーで構築した上にそもそものレベルも36に抑えたステフの渾身の力なぞ、私の前では全くの非力よ。

 例えるなら、蟻が恐竜と相撲して勝てるか?ということである。

 

 「ドラちゃん、聞きなさい」

 

 このまま拘束し続けることは容易極まりないのだが、目を離した隙に自害などされれば堪ったものでは無い。

 手首に軽い衝撃を与えて武器を取り落とさせ、拾いこもうとさせない為に顔をぐいと近づけて私の瞳とステフの瞳を強制的に合わせる。さっきまでは自分が視線を合わせないようにしていたというのに、まったく節操が無いものだと心中で独り言ちた。

 

 「あなたの全ては私のモノです。私の許し無くその命を捨て去ることは認めません。いいですね?」

 

 「は、はひ……」

 

 んん?なんだかステフの頬が赤くなっているような……?

 いかんな、少し説教臭かったか。いや、それともこれは異世界に転移してしまった際の不調なのか!?

 

 「ドラちゃん、何か身体に異常はありませんか?隠すことなく正直に話しなさい」

 

 「い、いえ。特にはありませんですわ」

 

 「そうですか、では情報の共有を行いましょう」

 

 ステフにセバスの報告によって得られた情報を余さず伝える。どうせモモンガさんが後にナザリックの僕達には通達するだろうが、現状なんてものは刻一刻と移り変わるもの。知るなら出来るだけ早くの方が良いに決まっている。

 

 「───というわけです。把握出来ましたか?」

 

 「はい、問題なく現状は理解出来ましたわ。それで、これからジブリール様はどの様に動くのですか?」

 

 「そうですね……取り敢えずは外の世界の調査が主になるでしょうね。向こうの環境、生物、敵性存在の有無、いるのならばその強さ等。我々はこの世界の事を何も知りませんから、調べたい事、調べなければならない事は山の様にあります」

 

 そして、それはジブリール(わたし)存在意義(レゾンテートル)に直結する。即ち『未知の探求』である。かつてユグドラシルで幾度となく行った探求、この世界で実行しない訳が無いでしょう。

 

 「一先ずドラちゃん、あなたは基本自由にしていて構いません。但し、他のナザリックのNPC……ああ、シモベ達の迷惑になるようなことは控えなさい。必ず一日一回はあなたに連絡を行いますし、もし私から何もなかったならあなたから連絡をしなさい。<伝言(メッセージ)>は使えましたね?それも繋がらなければモモンガさんに連絡をしなさい」

 

 「分かりましたわ。そのように致します。我が創造主ジブリール様!」

 

 ステフの()()()()()()()()()()()()()()()がピコピコと嬉しそうに振られている。

 それと同じく()()()()()()()()も心なしかピクピクしているようにも見えた。

 

 そう、彼女『ステファニー・ドーラ』は人間種ではなく―――亜人種『人犬(ワードック)』なのである。わんわんお。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 「何をしているんですかモモンガさん。鏡に向かってパントマイムだなんて、実は道化師(ピエロ)の職でも取得していましたので?」

 

 リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの効果を使いモモンガさんの許に転移すると、椅子に腰かけたモモンガさんが直径にして1メートルはある鏡の前で手を動かしては元に戻し、また円を描くように回してはその手を顎に当て思慮に耽るのを幾度となく繰り返している。

 

 背後には執事服を着たセバスが控えている。視線を向けるとセバスはその場から動かずに軽い礼を返してきた。

 というか、先程の言葉にモモンガさんは何も返答してくれていない。それほど集中しているという事なのだろうか。

 

 「おおっ!出来たぞセバス!」

 

 驚きに自慢、喜びの入り混じった声をモモンガさんが上げた。それにすぐさまセバスが拍手を起こし答える。

 

 「おめでとうございます、モモンガ様。」

 

 「ありがとう、セバス。付き合わせて悪かったな」

 

 その言葉を素直に受け入れたのか、上機嫌でモモンガさんはセバスに話しかける。

 

 「いえ、主の御傍に控え、ご命令に従う。それこそがたっち・みー様によって執事として創り出された私の存在意義です。……モモンガ様、ジブリール様がお見えになられておりますが」

 

 「ん?ああ、ジブリールさんか。済まないな、少し熱中していて気が付かなかった。申し訳ない」

 

 セバスに教えられて漸く私に気が付いたのか、モモンガさんは済まなさそうに、しかしセバスの前だからか威厳を持って私に謝罪してきた。

 

 「別に構いませんが、一体何をしていたのですか。鏡の前でポーズをとるなんて、ナルシストの気でもありましたかっと」

 

 ひらりと脚力のみで宙に飛び上がり、腰の翼を軽く広げて身体の向きを調整しセバスの反対側に着地するとモモンガさんの背後から机の上に設置されている鏡を覗き込む。

 鏡に映りこんでいたのはフードを被った顎の鋭い骸骨ではなく、緑一色の草原であった。

 

 「遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)。少々不用心ではあるが、人間を含めた知的生命体の有無を探るだけならば問題ないだろうと思ってな。今さっき操作方法を把握していたところだ」

 

 にやりと不敵に笑いを浮かべたモモンガさんだったが、それから俯瞰の高度調整にまた時間をかける事となっていた。割と威厳というものが足りない気がするがセバスは何も言ってこないのだし、いっその事支配者としての皮を無理して被る必要はないんじゃないかとも私は考えている。

 

 そうして本腰を入れて探ること少し、遂に村らしき光景を発見する。

 位置関係はナザリックからおよそ南西に10キロメートル程。付近には森があり、村の周囲には麦畑が広がっている。家もコンクリートなどが使われているようでは無く、このような建築物が一般的ならば文明レベルもそう高くは無いだろう。

 

 村の風景を拡大していくにつれて、雰囲気がおかしいことに気が付く。モモンガさんも違和感を覚えているようだ。

 

 「……祭り、か?」

 

 「随分と悪趣味な祭りですこと」

 

 鏡に映る村の風景は殺伐としており、逃げ惑う村人らしき粗末な服装の人々を全身鎧を装備した騎士風の者達が手に持った剣で斬り殺している。村人たちは抵抗する手段を持たないのか逃げ惑うばかりであり、それを追いかけては嬲り殺しにする騎士達。

 いつの間にかセバスが私の隣について鏡の中の光景を鋭い目つきで見ている。

 

 ああ、本当に()()()()な。折角現地の情報が手に入るかと思っていたのに。

 そして、実に()()()()()()

 村人共が無残に殺されるのは()()()()()()()だが、自分たちが絶対強者であるかのように弱者を甚振っているのが気に食わない。

 

 頭に手を当てたモモンガさんの片方の手が滑り、鏡の映し出す光景が切り替わる。そこでは騎士にしがみつく一人の男を二人の騎士が強引に引き剥がしていた。

 無理矢理に取り押さえられた村人の背中に騎士の持つ剣が突き立てられる。肉を容易く貫通したそれは一度では終わらずに二度三度と怒りをぶつける様に繰り返される。

 

 止めとばかりに胴を強かに蹴飛ばされ、血反吐を吐き散らし身体から血を溢れさせて大地に転がる。

 最早私の中の怒りは限界に近かった。

 

 「どう致しますか?」

 

 タイミングを見計らっていたように、静かで落ち着いた声でセバスが尋ねてきた。

 答えなど一つしかあるまい。内心の怒りなどおくびも出さずに答えを返す。

 

 「見捨てる。助けに行く理由も価値も無いからな」

 

 「介入します。人類種(イマニティ)如きが同種を滅ぼすなど、思い上がりも甚だしい」

 

 私とモモンガさんが同時に声を上げた。

 ……おおん?

 

 「ジブリールさん、何を言って……」

 

 モモンガさんが私の方を……いや、私を通り越してセバスの事を見ているのか?明らかに焦点が私に合っていない。

 

 「たっちさん……」

 

 たっち、さん。

 モモンガさんの口から零れ落ちたその名は、セバスの作成者にしてアインズ・ウール・ゴウン最強の男のものだった。

 『誰かが困っていたら助けるのは当たり前』

 よくその言葉と共にPKされかけている異形種を助けるなどの行為を行っていた。私も何度か助けられた覚えがある。彼の背中に浮かんだ正義降臨の四文字が妙に懐かしく感じられた。

 

 「恩は返します。どちらにせよ、この世界での自分の戦闘能力を何時かは調べなくてはいけない訳ですしね」

 

 何かを呟いたモモンガさんは鏡を操作して何かを探そうと高度を上昇させ村全体を上空から確認する。

 

 「セバス、私とジブリールさんでこの村に行く。ナザリックの警備レベルを最大限引き上げろ。アルベドに完全武装で来るように伝えろ。次に後詰の準備をする。この村に隠密能力に長けるか透明能力を持つものを複数体送り込め」

 

 「―――畏まりました」

 

 宙に伸ばしたモモンガさんの手に金色の杖、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン―――の、製作段階で試作されたレプリカ版―――が握られる。

 

 <転移門(ゲート)>

 

 私とモモンガさんの身体が一瞬にして暗黒の渦に呑まれ、ナザリックからその姿を消失する。

 転移距離無限、転移失敗率0%を誇る最高位の転移魔法によって、村へと移動を試みる。

 

 眼前に広がるのは先程まで見ていた村の光景。

 目の前で互いに抱きしめ合う姉妹。どちらも怯えた様子で、こちらを向いて妹を守ろうとしている姉の方は背中から血を流している。そう浅い傷ではないが、直ぐに命の危機がある程でもないだろう。

 

 そんな少女達に相対するのは二人の騎士。突然現れた私たちに動揺しているのか、視線を只向けるばかりであった。

 

 当然、それは致命的な隙を晒していることと同義である。

 モモンガさんが何も持っていない手を広げて騎士に向け、魔法を発動する。

 

 <心臓掌握(グラスプ・ハート)>

 

 ぶちゅり、と肉の塊が握り潰される音と共に騎士の一人が膝から崩れ落ちる。何も言い残すことも無く、即死だったのだろう。

 

 モモンガさんが二度と目覚めぬ騎士の亡骸を見下しているうちに、私も魔法を発動する。

 

 <清浄なる蒼炎(サファイア・バーン)>

 

 全身鎧の内側から燃え上がる蒼い炎が騎士の肉体を無情にも焼き尽くす。

 こちらも悲鳴を上げることさえ無く、慣性に従って地面に転がるも炭と化したその人だったモノは衝撃に耐えきれず、鎧を残してバラバラに砕け散った。

 

 「そうか、やはり肉体のみならず精神までも人間を止めたという訳か……」

 

 どうでも良さそうにモモンガさんがそう吐き捨てる。

 モモンガさんが歩き出したその行き先は、か弱い二人の姉妹の元であった。

 

 「これを飲むといい、傷が治る」

 

 目線を姉に合わせ、モモンガさんは懐から低位のポーションを取り出して渡した。

 明らかに二人共モモンガさんに怯えているのだが、当の本人は気が付いていないようだ。そりゃあ、騎士を一瞬で殺した骸骨面が近づいてきたら怖いだろうな。

 

 「どうした?飲まないのか」

 

 「の、飲みます!飲みますから、どうか妹だけは―――」

 

 「お姉ちゃん!」

 

 あー、うん。気持ちはわかるが今はお涙頂戴を見たい気分じゃないんだがな……

 姉を止めようと泣きじゃくる妹、妹を抑えて取ろうとする姉。傍から見れば一種の喜劇だろうが、此方からすれば堪ったものでは無い。

 

 なんとか姉が赤い下級治癒薬(マイナー・ヒーリング・ポーション)を飲み干すと、背中の傷は元から無かったように治癒された。

 驚きを隠せない様子だった。信じられないのだろうか、何度か身体を捻ったり背中を触って確かめている。

 この世界には『治癒薬(ヒーリング・ポーション)』に値する物が存在しないのか?それとも、私たちがそう呼ぶ代物とは異なる物なのか。はたまた、治癒の魔法が一般的でポーションという物が希少なのだろうか。

 

 さて、面白くなってきたぞ。そう心の中で呟くと、私は騎士たちが来た方向―――村の中心部を見据えるのだった。




ドラちゃんにジブリールの服で鼻かみさせるネタを思い浮かんだんですが、流石にそれをやるとなんか違うと思ってやめました、まる

ステファニー・ドーラ 《Stephanie dola》
亜人種
弄られ役の犬姫

役職:なし

住居:ナザリック地下大墳墓第九階層のジブリールの私室

アライアメント
属性:中立~善 [カルマ値:+100]

種族レベル
人犬(ワードック):5Lv

職業レベル
プリンセス(課金職):5Lv
アルケミスト:8Lv
コック:8Lv
セージ:6Lv
スレイブ:3Lv
ギャンブラー:1Lv

[種族レベル]+[職業レベル]:計36レベル
種族レベル 取得総計5レベル
職業レベル 取得総計31レベル


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真(チェンジ!!)アインズ・ウール・ゴウン カルネ村最後の日

※サブタイトルと内容は一切関係がございません。この作品は丸山くがね様のオーバーロードを原作とした二次創作です。決して『ドワォ』もしなければ『虚無る』こともありません。




だからゲッペラー様は因果の果てで大人しくしててください(震え)

よ ん だ ?

お前じゃねえよ座ってろ終焉の魔神


 モモンガさんがデスナイトを作成して騎士を虐殺するように命令するという些細な事の後、合流したアルベドと会話してNPC達との認識の違いっぷりを痛感し、助けた二人の少女にキメ顔で

 

「我らが、いや……()()()を知る栄光をくれてやろう。我こそが――アインズ・ウール・ゴウン」

 

等とのたまった骸骨に内心呆れながらも――ちなみにアルベドはほぼイキかけたような顔をしていた――村の中心部へと移動を始める私たちでしたが、流石に人間達の前に異形丸出しの姿で赴くのは如何なものだろうかと思い至り、全身鎧『ヘルメス・トリスメギストス』を装備しているアルベド以外は明らかにマズイ部分を隠す変装を行うのでした。

 

 モモ……アインズさん(仮称)はアイテムボックスから取り出した嫉妬マスクと無骨な鉄製のガントレットで自身の露出を完全に抑え、私は頭上の輪を非アクティブに変更し腰から生えた一対の翼は身体ごと茶色の適当なローブで覆い隠します。ローブにかけられた隠蔽の効果で外からはローブの内部が闇で見通せなくなるので、下から覗かれても構うまいと全員<飛行(フライ)>で向かうことになりました。

 私は自前の翼で飛行出来ますが、ローブを被っている現状で羽撃くのは余り宜しくありません。出来ないことは無いのですが、ローブの内側でわさわさと何かが蠢く人物など怪しい以外の何者でもないでしょう。……全身鎧に謎の仮面を被った魔法詠唱者とローブを纏う超絶美少女(自称)の集団が既に怪しいと?それを言ってはお終いでございます。

 

 村の上空には直ぐに到着した。のどかな広場は一部が血が酸化した様な黒で埋め尽くされ、僅かな生き残りの騎士と複数の死体。それと直立した死の騎士(デス・ナイト)のみが残っている。

 

死の騎士(デス・ナイト)よ、そこまでだ」

 

 なんとも気軽な声色が広場に響き渡る。目の前の惨状に一切感情を抱いていないと分かる、一歩間違えればゾッとする程の冷酷な声に感じるだろう。

 アインズさん(仮)がアルベドを伴ってゆっくりと地上に着地した。私もそれに合わせてアインズさん(仮)の斜め後ろに降り立ち、無言で佇む。仮にも戦士職でありながら死の騎士(デス・ナイト)程度とすらまともに戦えない弱者と言葉を交わす趣味などありませんし。

 

 それから暫くして。

 騎士に脅しをかけてから見逃がすという強者特有の余裕を見せつけた我々一行は村人達へと歩みを進めます。しかし両者の距離が縮まっていくにつれて、村人達の顔が青白く変貌していき……ああ、なんだかんだ言って私もユグドラシルの気分が抜け切れていなかった、ということですね。

 彼らは紛れもない弱者で、私達は全員がLv100の猛者。まさしく生きた心地もしなかったのでしょう、それに配慮する気などこれっぽちもありませんが。

 

 アインズさん(仮)も空気を感じ取ったのか、ある程度の距離を取って村人の生き残りと対話を試みていた。ある程度、というよりかなり警戒されていたのは確かではあったが、少なくともこちらに危害を加える気は無いと信じて貰えたようだった。彼らはこの世界の重要な情報源、しかも恩で縛り上げるという最も遺恨の少ない関係でいられる可能性があるという、ね。

 

≪―――という訳で、ジブリールさんは少しの間彼らの護衛をお願いします。アルベドは此処に置いていくと何をするか分からないので、私に同行させます≫

 

≪了解致しました。アインズさん(仮)≫

 

≪……あの、その(仮)ってなんですか。プレイヤーネームとはいえ安易に晒すのは危険だという判断は間違ってました?≫

 

≪ユグドラシルで悪名轟く私達のギルド名を名前に使う方が危険だと思いますよアインズさん(仮)≫

 

≪わ、分かりましたからせめて普通に呼んでください……≫

 

 なんて話の後、二人は徒歩で村の外れの方に歩いて行った。……アルベド、途中で暴走とかしないといいんだけどなぁ。

 ちなみに護衛自体は、そもそも彼らはまだ恐怖が抜けきっていないようで勝手な行動をしようともせず、この状態の村に攻め込んでくるような生物がいる訳でもない訳で。実に簡単な仕事でございますねぇ。

 余りの暇に耐え切れずふわぁと欠伸を吐き出して、そういえばこの身体の生理活動はどうなのでしょうかと取り留めのない事を考えるのでした。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 例の二人姉妹――姉のエンリ・エモットと妹のネム・エモット――を回収してきたモモンガは村長宅での話し合いを終え、ジブリールと合流して村の墓場での遺体の埋葬を少し離れたところから観察している。

 ジブリールがモモンガの手元をちらりと覗き見ると、ローブの中に隠し持たれていたのは蘇生の短杖(ワンド・オブ・リザレクション)。第七位階の蘇生魔法が込められた短杖(ワンド)アイテムの一種だ。

 確かに、それを使用すれば村の死者を蘇らせることは可能ではあるだろう。しかし……

 

≪……モモンガさん≫

 

≪ええ、分かっています。死を与える魔法詠唱者(マジックキャスター)と死者を蘇らせることの出来る魔法詠唱者(マジックキャスター)では、どちらがより問題事を生む火種になり得るかは理解しているつもりです≫

 

≪いつかは蘇生魔法の効果やデメリット確認も必要ですけど、今すべきではないですしね≫

 

≪今回は村を救ったことで十分でしょう≫

 

 葬儀も恙なく終わり、村人が瓦礫等を撤去しているのを横目で見ながら夕焼けの照らす村の中を歩いていく。

 取り敢えず『アインズ・ウール・ゴウンなる人物が村人を救った』という情報を作ることに成功した。情報なんてものはいつかは流出するもの、変な噂なりが流れる前にこちらにとって都合の良い情報を事前に広めてしまう方が良いに決まっている。それがモモンガとジブリールの結論だった。

 それに彼ら二人という前例がある以上、同じユグドラシルのプレイヤーがこの世界に存在している……あるいはユグドラシルプレイヤーが存在して()()。そして、

 

「既にユグドラシルプレイヤーの影響を受けた国が存在するかもしれない……か?」

 

 村長の話によると、この村が属する『リ・エスティーゼ王国』と『バハルス帝国』、それと南方に位置する『スレイン法国』が周辺の国家である。リ・エスティーゼ王国とバハルス帝国は山脈を挟んで国土を分けており、両者の仲は非常に悪いとのこと。

 どの国の国力が優れているなどの情報は得ることが出来なかったが、現時点ではかなり重要な情報であることに変わりは無い。

 

 この世界の人間のレベル、そして『死の騎士(デス・ナイト)』に手も足も出ずに虐殺された兵士の質を鑑みるにモモンガ達の脅威になり得る存在はそれほど多くはないと考えられる。

 しかし、ユグドラシル製の強力な装備やアイテム、現代人の発想などがあるのなら話は別。特に、レベル100のプレイヤーやワールドアイテムなんかが相手となるとアインズ・ウール・ゴウンの総力を挙げて対抗しなければならなくなるだろう。

 

「さて、この村ですべきことは終わった。ナザリックに帰還するぞ」

 

「承知いたしました」

 

 どことなくだが、アルベドが不機嫌そうな雰囲気を漂わせている。特段彼女の気に障るようなものが此処にある訳ではないとモモンガは考えているが、それは人間としての感性を一応は持ち合わせているからそう感じただけである。異形種オンリーの、そしてプレイヤーキラーキラーを主な目的とするギルドで作成され、しかもカルマ値を-500に設定されたアルベドにとっては人間と言う下等生物がただそこに居るだけで不愉快になり得るのである。

 

「アルベド、人間は嫌いか?」

 

「好きではありませんね。脆弱な生物、虫けらの様なモノ。五体を引き千切りばら撒けばさぞかし見物になるでしょう」

 

「……そうか、私はお前の嗜好を否定するつもりは無い。だがここでは冷静に振舞え。演技という物は存外重要なことだぞ」

 

「はいはい、どうせもう帰るんですしそんなにピリピリしてはいけませんよ? モモンガさんは優しい女の子が好みなんですから」

 

「その話後で詳しく教えていただいてもよろしいですか?」

 

「おいコラジブリール、何勝手なことを――ん?」

 

 馬鹿話へとシフトしかけた会話をモモンガが中断し、微かに聞こえた困惑する村人達の声に耳を傾ける。

 広場の片隅で村長と村人数人が集まって真剣に相談をしているようだった。心なしかその顔には緊張感が浮かんでおり、厄介事が起きたのだと理解できる。

 

「残業確定ですね」

 

「はあ、仕方が無い。……どうかされましたか、村長殿」

 

 そう苦虫を噛み潰したようにして、モモンガは村長の許に近づいて話しかけた。

 

「おお、アインズ様。実はこの村に騎士風の者達が近づいているようでして……」

 

「なるほど……」

 

 村人達が助けを求める様にモモンガに目を向け、彼はそれに応えるように返答する。

 

「分かりました。村長殿の家に生き残った村人達を至急集めてください。村長殿は私達と共に広場に」

 

 死の騎士(デス・ナイト)を村長宅の前に、ジブリール達は広場の中央で待ち構える。モモンガの隣に立つ村長も覚悟を決めたのか身体の震えは弱まっており、皴の入り始めた顔には苦笑が浮かんでいた。

 

 やがて村の中央を縦断するようにして、騎兵らしき集団が隊列を組んで広場へ進んでくる。各々がバラバラの、統一性の無い装備で姿を固めており、騎士ではなく歴戦の戦士といった印象だ。悪く言えば纏まりの無い傭兵集団である。

 

 装備を統一していないという事は、彼らは正規軍ではないという事だろうか。若しくは、何かしらの理由から疎まれていて装備を回して貰えていないというのもあるかもしれない。先頭に立つ黒髪黒眼の屈強な男は今までの兵士より数段上の強者――あくまでこの世界のという注釈は付くが――であるのは一目で分かる程であるため、彼クラスがゴロゴロ居るのでなければ後者が正しいのだろうとジブリールは心中でそう結論付けた。

 

 そうこうしているうちに騎兵隊は広場に乗り込んできた。数はざっと見て20人程、村長宅前の死の騎士(デス・ナイト)を警戒しつつもジブリール達の前で綺麗に整列を行う。

 

 先頭の男が前に進み出、鋭い視線がジブリールを射抜く。

 

 他の兵士達より強いとはいえ、レベル100というこの世界では神に等しい程の力量を持つジブリールにとっては彼の威圧など暖簾に腕押し以外の何物でもなかった。

 ジブリールが平静を貫いたことに満足したのか、男はハッキリとした口調で話し出す。

 

「私は、リ・エスティーゼ王国、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ。この近隣を荒らしまわっている帝国の騎士達を討伐する為、王のご命令を受け村々を回っている者である」

 

「王国戦士長……」

 

(ビーフ・ストロガノフ?そんな料理が何処かにあったような……)

 

 ジブリールがアホの塊のような連想をしている間にも話は進んで行く。

 

「この村の村長だな? 横に居る者達は一体誰なのか教えてもらいたい」

 

 ガゼフの重々しい声音が有無を言わさんとばかりに村長へと投げかけられる。が、それに村長が反応を返そうとした所を押し止め、モモンガが一歩前に踏み出し軽く一礼をした。

 

「それには及びません。はじめまして、王国戦士長殿。私はアインズ・ウール・ゴウン。この村が襲われておりましたので助けに入ったしがない魔法詠唱者(マジックキャスター)です。どうぞよろしく」

 

 それを聞いたガゼフは馬から降り、モモンガの前に立つと重々しく頭を下げた。

 

「この村を救っていただき、感謝の言葉も無い」

 

 ザワリという動揺が村人と騎士の中で起こる。王国戦士長という明確な地位に就く男が、見ず知らずの身分さえ明らかではない怪しい人物であるモモンガに頭を下げるという行為に驚愕を隠せないのだろう。

 人権のじの字すら碌に存在しないこの世界で、このようなことを躊躇すらせずに行うことが出来る。それだけでモモンガとジブリールはガゼフという男の度量の広さを理解したのだった。

 

「いえ、私達はちょっとした魔法の失敗で飛ばされて来た者でして。何分この辺りの地理にも疎いのでこの村を救うことで恩を売ろうと考えたまでです」

 

 モモンガの口からスラスラとでっち上げの嘘が語られる。流石にここまでは話が伝わっていなかったのか、ジブリールが思わずギョッとして目を向けたがそれに反応を返すことは無かった。

 

「ふむ、心中お察しするが、二つ、いや三つだけお聞かせ願えますかな?」

 

「構いません」

 

「ではまず、アレは一体?」

 

 そう言って、ガゼフは村長宅前に鎮座する死の騎士(デス・ナイト)へと視線を向ける。王国戦士長の位に就くだけあって、死の騎士(デス・ナイト)に漂う微かな血の匂いを感じ取ったのだろう。

 

「アレは私の生み出したシモベです。騎士達の()()はソレに任せました」

 

 ほうと感心するような声を溢しつつも、ガゼフのモモンガに向ける視線は段々と強いものになっていく。

 

「では……その仮面は?」

 

「これ自体が一種のマジックアイテムでしてね、魔法詠唱者(マジックキャスター)としての理由と魔法効果の強化の為に被っています」

 

「外していただいても構わないか?」

 

「お断りします。私一人ならどうとでもなりますが――」

 

 ガゼフを見据えたまま、死の騎士(デス・ナイト)を指差して

 

「アレが暴走すれば間違いなく村人達にも被害が出てしまいますから」

 

 死の騎士(デス・ナイト)が騎士達を虐殺していたのを目の前で目撃していた村人達と村長は顔色が一気に悪化する。その雰囲気の変化を感じ取ったのか、ガゼフがそれ以上の追及を行う事は無かった。

 

「では最後に――そこのローブの人物は何者なのかね?」

 

 そう言って、ガゼフが視線を向けたのは頭にフードを掛けて顔を隠したローブ姿の人物。そう、ジブリールであった。

 

「あら、私の事でしょうか?」

 

 ローブの隙間から伸びた腕がフードを払いのけ、頭部のみ隠蔽の効果が解除される。グラデーションの掛かった桃色の髪と芸術品のように整った顔がその姿を現した。

 正面から彼女の顔を見てしまった騎士たちは思わず見惚れてしまい、ガゼフはその強靭な精神力で耐え抜いたがそれでも一度は目を奪われたのは確かだった。

 

「ごめんあそばせ。私は()()()()()、アインズの友人です」

 

「そ、そうか……協力感謝する」

 

 素性も何も伝えること無く、ただ顔と名前を明かしただけで話は途切れてしまった。それでもモモンガと違い顔を見せた事で血の通った人間であると認識されたのか、或いはこれ以上会話が続くことに危機感を抱いたのか、蒸し返したりせずに別の話題へと話は変わろうとしていた。

 

 しかし、そこに一人の騎兵が広場へと駆け込んできたことで状況は移り変わる。

 息を切らせた騎兵は大声で緊急事態の報告をガゼフに行う。

 

「周囲に複数の人影。村を囲むような形で接近しつつあります!」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

≪で、殺すのですか?捕らえるのですか?徹底的に心を圧し折ってみます?≫

 

≪この機に乗じてただ暴れたいだけでしょうにアンタは。とはいえ、王国戦士長に恩を売りつつ別方面の情報源を確保できるのは渡りに船です≫

 

≪相手の主力が天使の時点で余程の事が無い限りは私一人で封殺出来ますから≫

 

≪ああ、確か一定レベル以下の天使種モンスターを支配するスキルがありましたね≫

 

≪<天畏隷属>は正確には50レベル以下は完全支配、それ以上のものになると効きが悪くなるのでそこまで万能ではありませんが、まあ問題ないでしょう≫

 

 恐らくこの村を包囲せんとする集団こそが、今回の村を襲撃した者達の主力なのだろう。ユグドラシルにも存在していた『炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)』に酷似した天使を引き連れ、ゆっくりと村へ近づいている。何の価値も無いこの村にここまでの襲撃をかける狙いはガゼフにあるとモモンガとガゼフ両名は至った。

 

 ガゼフら王国戦士団は既に村を出て囮の役割を果たさんとしている。モモンガはガゼフに村の人々を守ってほしいと願われ、それに『アインズ・ウール・ゴウン』の名をかけて誓いを立てた。最後にガゼフに掌サイズの小さな変わった彫刻を手渡し、その背が小さくなり消えるまで黙って見送っていた。ジブリールもガゼフの死をも覚悟した気高き意志を感じたのか、冗談の一つも言う事は無かった。

 

「しかし……なんだ。初対面の人間になどそこらの虫に向ける程の親しみしか出てこないが……どうも会話をしてしまうと小動物に向ける程度の愛着が湧くな。まさか自分にまだこの様な思いが残っているとは」

 

「……別に、良いのでは? 彼は確かに私達と比べれば紛れもない弱者でしたが、その内面は私が認めるべき戦士足り得ました。今後も修練を重ね装備を万全なものにすれば、もしかしたら私達に傷を付けることが出来るかもしれません」

 

「まさか、ジブリール様がそこまでおっしゃられるとは。ですからアインズ様もあの尊きお名前にかけてまでお約束をされたのですか?」

 

「ああ、かもしれん。……目前にある避け得ぬ死、それを見据えて尚進み続ける人の――」

 

 ――その強い意志に、俺は憧れたのだ。

 

「……アルベド。周囲のシモベに伏兵がいないか索敵させろ。もしいた場合は意識を奪え」

 

「直ちに行います。……アインズ様、村長達です」

 

 アルベドが離れると殆ど同時に、村長が息を切らせ走り寄ってきた。到着すると息を整えようともせずにすぐさま口を開いた。

 

「アインズ様。我々は一体どうすれば良いのでしょう。何故、王国戦士長は我々を守って下さらずに村を出ていかれたのですか?」

 

 村長の言葉からは不安と恐怖が、そして自分たちは見捨てられたのではないかという思いが憤怒へと変化しようとしていた。

 

「いえ、あの対応は間違いではないですよ。推測になりますが、敵の目的はガゼフ殿にあります。彼は自分がこの村にいると皆さんを戦いに巻き込んでしまう。そう考えたからこそ出ていったのです」

 

「おお、戦士長殿が外に向かわれたのはそういう意味が……自分勝手な思い込みで私は何を……」

 

「申し訳ありませんが村長殿。今は時間がありません。ガゼフ殿の覚悟を無駄にしない為にも迅速な行動を」

 

「そ、そうでしたな。……アインズ様は如何するおつもりでしょうか」

 

「……私は一先ずは状況の変化を見届けようと思います。そして、機を見て皆さんを守りつつこの村を脱出するつもりです」

 

「何から何までありがとうございます。幾度となくご迷惑を……」

 

「なに、気にしないで下さい。ガゼフ殿とお約束もしましたので。……では、村人の皆さんを大きめの家屋に集めましょう。私の魔法でちょっとした防御を掛けておきます」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「……何者だ、貴様ら」

 

 先程まで死闘を繰り広げていた筈の王国戦士団は、その悉くが草原から姿を消していた。

 入れ替わるように草原に現れたのは三名。

 ガゼフを追い詰めていたスレイン法国特殊工作部隊、陽光聖典隊長であるニグンは三人を冷静に見据える。

 

 一人は怪しげな仮面で顔を隠し、高価そうな漆黒のローブを身に纏う魔力系魔法詠唱者(マジックキャスター)風の者。

 一人は茶色のローブで身を隠した桃髪の女。鎧も武器も持っていないことから、何らかの魔法詠唱者(マジックキャスター)であるか踊り子(ダンサー)、またはモンク系の職に就いているのだろうと推測できる。

 一人は漆黒の全身鎧に身を包んだ者。これも高価そうな鎧であり、そんじょそこらでは手に入らない物だろう。見た目だけで考えても一級品のマジックアイテムだと考えられる。

 

 転移魔法なのか、それともマジックアイテムか。謎の手段でガゼフと戦士団を転移させた謎の三人。少なくともそんな魔法をニグンは知っておらず、未知の魔法を使う正体不明の人物を前に警戒の度合いを引き上げる。

 

 ニグンは周囲に散開させていた天使を自分と部隊員たちの前方に固めて配置し、距離を取って出方を窺おうとする。

 前に立つ魔法詠唱者(マジックキャスター)が一歩前に踏み出す。

 

「はじめまして、スレイン法国の皆さん。私の名はアインズ・ウール・ゴウン。どうかアインズ、と親しみを込めて呼んでいただければ幸いです」

 

 本来大声でもなければ届く筈もない距離があるというのに、その声は風によって運ばれているのか問題なく耳に入ってくる。

 

 ()()()()()()()。ニグンという男の心境はこの一言に過ぎた。ふと頬の古傷を手でそっとなぞると、ピリピリとした痛みを帯びていることが分かる。

 

「あの村とは少々縁がありましてね」

 

 首筋から背中にかけて冷たい汗が伝う中、ニグンはなんとか平静を保ちつつ言い返す。

 

「村人の命乞いにでも来たのか?」

 

「いえいえ、実は――」

 

 太陽が沈まんとし、夜闇に夕焼けの名残が混ざり黄昏色に空が変わる中、アインズと名乗る者のローブが吹いてきた風によって煽られ大きくはためき、

 

「――お前と戦士長の会話を聞いていたのだが、本当に良い度胸をしている」

 

 それまで丁寧な口調だったアインズの声色と雰囲気が唐突に変貌する。

 

「お前たちはこの私が、手間をかけてまで救った村人たちを殺すと公言していたな。これ程不快なことがあるものか」

 

 草原を走る風がアインズの方からニグンたちに向かって吹いてきた、それだけの筈なのにニグンは自分でも信じられない程の精神的疲弊を感じた。

 

「……ふ、不快とは大きく出たな魔法詠唱者(マジックキャスター)。で、だからどうした?」

 

「私はこれでも慈悲深いのでね。貴様らに一度だけチャンスをくれてやる。今すぐ頭を垂れ、命乞いをしろ。さすれば苦痛なく命を摘み取ってやろう。だが――」

 

 アインズが差し出した鋼の籠手で覆われた手が上向きにグッと固く握られる。

 

「――拒絶するというのなら、その愚劣さの対価として絶望と苦痛の中で死に絶えることになるだろう」

 

 ニグン自身も信じがたい程の強者の威圧。ビリビリとする衝撃波まであるのではないかと誤認してしまう今まで受けたどの威圧よりも強いソレは部隊員たちから容易く冷静さを削り取っていった。それが怯えに変わる前にニグンは命令を下す。

 

「天使たちを突撃させよ!」

 

 壁としていた一部の炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)をアインズにへと襲い掛からせる。光の翼を羽撃かせながら、風を切り裂いて両手に持った炎の剣をアインズに突き刺さんとし――

 

 〈天畏隷属:停止せよ

 

 剣がアインズを貫く直前で二体の炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)はピタリと静止した。召喚主である部隊員が焦りを隠さずに命令を与えるが、それに炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)が反応を返すことは無かった。

 

「馬鹿な!どういう事だ。何故天使が命令を聞かない!?」

 

 理解出来ないことが目の前で起きていることに困惑するニグンらであったが、それはアインズの次なる行動で更に加速することとなった。

 眼前に突き出された炎の剣にへと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 アインズへの恐怖は一瞬で嘲笑にへと変わる。天使の異変は何事かと心底驚いたが、何のことは無い。天使がアインズの自ら裁かれたいという最期の願いを汲み取ってやったに過ぎなかったのだと。要するにアインズは最期に一花咲かせようとした哀れな魔法詠唱者(マジックキャスター)だったということだ。

 

 部隊員と共に安堵の息をほうと吐き出す。偽りの威圧に押され、あまつさえ死のイメージまで浮かべてしまった自分を恥じつつ、残りの二人にへと視線を向けようとした。

 

「は、ははははははははは!! 面白い余興だったぞ魔法詠唱者(マジックキャスター)! 自ら天使の剣に裁かれる事を……」

 

 ……おかしい。何故いつまで経ってもアインズとやらの死体は大地に倒れない?

 天使も慈悲をくれてやった以上、その場に留まり続ける必要などない筈だ。

 

「おい、何をしている。剣が刺さっていては倒れないではないか。さっさと天使を下がらせろ」

 

「い、いえそう命じているのですが……」

 

 部下の戸惑いを隠せていない声に、ニグンは弾かれるようにしてアインズを再び注視する。

 

「……言った筈だ。抵抗することなく命を差し出せ、と」

 

 二体の炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)の頭部がそれぞれ鉄の籠手で掴まれ、ゆっくりと強引に左右に押し開かれてその姿が現れる。

 

 明らかに胸部と腹部を剣で貫かれているというのに、全くダメージを負った雰囲気すらないアインズの姿が。

 

 はったりでもトリックでも無い、しかし現実に起きている理解不可能な現象の前に彼ら全員は思考が停止した。

 その間にアインズは地面に拳ごと炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)を凄まじい速度と力で叩き付ける。これにより天使の生命は完全に尽き果てた。

 

「人の忠告は素直に聞き入れるものだぞ?」

 

 天使の成れの果てである光り輝く粒子がキラキラと舞い散り空気に溶けてゆき、ニグンからは恐怖の擦れ声が漏れ部隊員からは慌てふためき混乱する叫び声があがる。

 

「上位物理無効化。データ量の少ない武器や低位のモンスターの攻撃を完全に無効化するパッシブスキルなんだが……」

 

 天使をいとも容易く捻じ伏せたアインズはゆっくりと立ち上がりながらニグンたちにとっては意味不明なことを口走る。

 

「やはり、ユグドラシルの炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)と同じということか」

 

 姿勢を正しながら両の手を大きく、そしてゆっくりと広げるその姿は、お前たちを殺すのに武器など何も必要ないと言っているようなもので。

 

「お前たちが何故ユグドラシルと同じ魔法を使い、同じモンスターを召喚出来るのか知りたかったんだが……まあ、それは一先ず置いておくとしよう」

 

 気持ち悪いぐらいの静寂の中、アインズの大きな声が草原に響き渡る。

 

「いくぞ?──鏖殺だ」

 

 今すぐ撤退するべきだ。この化物は必殺の策なくしては戦闘行為すら行ってはならない!

 肛門から氷柱をぶち込まれたかのような吐き気に催され、数多の亜人異形を屠ってきた歴戦の勇士であるニグンでさえ得体の知れない何かを感じ取った。

 

「全天使を突撃させよ!急げ!」

 

 その悲鳴にも似た叫び声に反応し、全ての炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)がアインズに迫りくる。

 しかし、その決死の突撃でさえも――

 

 〈天畏隷属:自害せよ

 

「……は?」

 

 鈴の音の様な軽やかな女の声が何かを呟くと同時に、全ての炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)は持っていた炎の剣で自らの身体を刺し貫いて消滅した。目の前で行われた天使の自死は余りにも素早く、ニグンはただ呆然とそれを見ているだけだった。

 

「……あ、あり、ありえない……」

 

「どうした? たかが炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)の数十体が倒されただけではないか。それとも……貴様らの力はこの程度という事か」

 

 自分の中に浮かんだ最悪の想像を頭から振り払い、ニグンは落ち着くために懐に手を当て、そこにある最高位の天使召喚魔法の封じ込められた水晶に触れる。

 そうだ、自分にはまだこれが残っている。これさえ使えば如何なる状況だとしても打開できると信じて。

 

 しかし、ニグンの様に心の支えがない部隊員たちは別の手段でそれを作ろうとした。

 

「化物め!」

 

「消えやがれ!」

 

「ふざけるなぁ!」

 

 最早悲鳴でしかない声を上げながら、天使が駄目ならば自分たちが信じる魔法を使うまでと立て続けに詠唱を始めたのだった。

 

 〈人間種魅了(チャームパーソン)〉、〈正義の鉄槌(アイアンハンマー・オブ・ライチャスネス)〉、〈束縛(ホールド)〉、〈炎の雨(ファイヤーレイン)〉、〈緑玉の石棺(エメラルド・サルコファガス)〉、〈聖なる光線(ホーリーレイ)〉、〈衝撃波(ショック・ウェーブ)〉、〈混乱(コンフュージョン)〉、〈石筍の突撃(チャージ・オブ・スタラグマイト)〉、〈傷開き(オープン・ウーンズ)〉、〈(ポイズン)〉、〈恐怖(フィアー)〉、〈呪詛(ワード・オブ・カース)〉、〈盲目化(ブラインドネス)〉、etc……

 

 様々な種類効果の魔法の雨あられがアインズに打ち付けられるが、その悉くが上位魔法無効化によって触れることさえできずに消失していく。

 

「やはり知っている魔法ばかりだ。……これは誰から教えられたのだ?スレイン法国の人間か? それとももっと別の人物か? ううむ、聞きたいことがどんどん増えていくな。実に楽しみだ」

 

 陽光聖典の彼らに降りかかる悪夢は、まだ始まったばかりだ。




……これ、ぶっちゃけジブリールが主人公の必要性あるのだろうか。
ノゲノラ要素もぶっちゃけ少ない上にオリジナルのスキルばっか使ってるし。

いやね、現地でバンバンスキル使われたら大陸消滅の危機だから……うん。

まーた暫く時間空くと思いますけど、戦闘中を長引かせる気は無いのでちゃっちゃとかいて早く投稿したいです。出来ればねー


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天翼種〈ジブリール〉

失踪したかと思ったかい?

生きてるよ!

ちょっと時期の都合が合わなくてこのような遅れとなってしまいました。
許しを請う気は無いがな……


「はあ……呆れて物も言えませんこと」

 

 落胆した表情のジブリールはそう吐き捨てると、目の前の塵屑(最高位天使(笑))にどこからともなく取り出した無骨な大剣を無造作に突き刺し消滅させた。

 

 追い詰められたニグンは懐から魔法封じの水晶――これはユグドラシルにも存在していたアイテムである――を取り出し、彼曰く最高位の天使を召喚しようとした。そんな前評判にモモンガは一応の警戒を、ジブリールはどの天使が来るのかと内心うきうきしながら待ち構えていたが、召喚されたのは第七位階相当の『威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)』であった。

 自信満々のニグンは威光の主天使に攻撃を命令。二人へと放たれた第7位階魔法〈善なる極撃(ホーリー・スマイト)〉は見事に命中、清浄なる光柱に包まれ跡形もなく消滅―――など、当然する筈も無く。

 返しの〈天畏隷属〉でその威光は余りにも呆気なく地に墜ち、今ここにその命運を絶たれたのであった。

 とは言え、Lv100のユグドラシルプレイヤーに僅かなりともダメージを与えられたのはこの世界では間違いなく偉業ではあったが、何分それを理解できるものはこの場には居合わせていなかった。

 

「最高位天使等と言うから少しは期待したのに、高々主天使(ドミニオン)級とは……もしかして私達、馬鹿にされているのでは?」

 

「いえ、これがこの世界の最高クラスという可能性もあり得ます。まあ、熾天使(セラフ)級を想定していたので少々拍子抜けですけど」

 

 ニグンは目の前の二人にまさしく恐怖を覚えた。最高位天使を片手間で捻じ伏せ、あまつさえ談笑までしているコイツらは何者なんだ、と。

 無意識のうちに後退りした足が、死神の手に握られている。そう錯覚するように感じられる。

 

「ああ、そういえばあなたが居ましたね」

 

 首だけを向けて話をしていたジブリールの瞳だけがニグンの方を向き、その特徴的な十字型の瞳孔がニグンを貫いた。

 

「私を期待させておきながら、この様な雑魚を呼んだのは余りにも不快……ではありますが、それでもこの身にダメージを与えたのは見事」

 

 射抜く視線は一切揺らぐことなく、そのまま眼球を軸にするようにジブリールの顔がニグンに向けられる。その顔は怒りを思わせない笑みに包まれており、それが一層のこと恐ろしさを際立てていた。

 

「よって、私が貴方の願いを叶えて見せましょう。そう―――()()()()使()の召喚を!〈第10位階天使召喚(サモン・エンジェル・10th)恒星天の熾天使(セラフ・エイススフィア)〉」

 

「え、ちょジブリールさん!? そんなの予定にな―――」

 

 辺り一面が眩い光に包まれる。ニグンの視界が一瞬で白に染まり、思わず両手で瞼を塞ぐも暫くの間は動くことが出来なかった。それは戦場においては紛うこと無き隙であり、しかしその間に何かされることは全くなかった。

 ニグンの視界がようやく正常に戻ると、中空に神々しき存在があった。

 

 背から生えた三対六の穢れ無き白翼、頭部は存在せずそこには光の輪があり、背後にはそれぞれ色の異なる八つの光球が浮かんでいる。人の様な姿をしてはいるが腰から下は無く、背と比べて巨大な一対の翼がそこを覆い隠している。自分が先程召喚した威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)等とは比べ物にならない程の至高の光、究極の善。まさに最高位の天使であった。

 

 その姿を一目見たその瞬間、ニグンは思わず膝を突き地面に頭を垂れた。疑いや逆らおうなどという思いはその天使を見たときに余さず光に焼かれるようにして消え失せた。アレこそはこの世を救済する唯一の光であると、そうニグンは確信した。それと殆ど同時に陽光聖典の隊員は意識を失って崩れ落ちた。

 

「ああ……久しぶりに見るな。まったく、いつ見ても忌々しい程の輝きだ」

 

「チカチカしててあんまり好みじゃないんですよね、正直使い勝手なら座天使(スローンズ)智天使(ケルビム)のほうが上ですし」

 

 のほほんとした会話をする二人は、目の前に佇む熾天使をまるで脅威と見做していない。自分で召喚したのだから当然だが、仮に何らかの能力で洗脳されたとしても容易く、或いは多少の警戒と消耗で倒しきることが可能であるからだろう。

 そして、自身も天使を召喚する信仰系魔法詠唱者のニグンは二人との実力がどれほど隔絶しているかを身をもって理解した。

 平伏した身体をそのままに、震えた声で二グンは言葉を放つ。

 

「お、御三方は、も、もしや……『ぷれいやー』様にあらせられますでしょうか?」

 

 その一言でモモンガの警戒度は最大まで膨れ上がった。外見上は特に変化したようには見えなかったが、瞬時に目の前の虫けら(ニグン)を抹殺できるよう幾つかの魔法を準備し、尚且つ即座に撤退できるようリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンに意識を巡らせた。

 

「ほう、今お前は『ぷれいやー』と、そう、確かに言ったな……? 予定変更だ、お前達を殺すのはやめにしよう」

 

≪デミウルゴス、こちらの世界の情報を持つ人物と接触した。今からそちらに送るが、決して傷つけること無く牢獄に入れておけ。尋問も万全を期すために私とジブリールさんで行う≫

 

≪承知いたしました。ナザリックのシモベ達にもそう言い伝えておきます≫

 

≪ああ、頼んだぞ≫

 

「……()()()()()()()

 

「ああ、そのようだな……」

 

 ピシリ、と硝子が罅割れるような音が辺りに木霊する。それはジブリールとモモンガには慣れ親しんだ音であり、二人の傍にいたアルベドと跪いているニグンには聞き覚えが無いものであった。

 

「何らかの情報系魔法を使って、お前を監視しようとした者が居たみたいだな。私とジブリールさんの攻性防壁が起動したから大して覗かれていない筈だが……」

 

「私は確か〈光滅の超新星(シャイニング・ノヴァ)〉辺りだった筈ですが……まともに発動したのがかなり前なので確証は持てませんね」

 

 平伏した体勢から頭だけを上げ、呆然とした顔つきでニグンはうわ言の様に呟く。

 

「本国が、俺を……?」

 

「では、行くとしようか。アルベド、奴を気絶させろ。決して殺すなよ? 情報漏洩を防ぐ為に死体を蘇生不可にしていることもありえるからな。」

 

「承知いたしました」

 

 瞬き一つのうちにアルベドはニグンの傍に移動し、反応しきれていないニグンの首元に手刀を放つ。それは吸い込まれるようにして命中し、ニグンの意識を容易く刈り取った。彼らは後詰めの八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)達によって丁重に捕縛され、ナザリックの牢獄へと招待されるだろう。少なくとも情報を引き出されるまで死ぬことは無いのだから、モモンガ達に喧嘩を売った者の末路としては破格である。

 

「思わぬ手土産が出来たな。で……この恒星天の熾天使(セラフ・エイススフィア)はどうするつもりですか?」

 

「別に必要でも無いですし、殺しちゃいますか」

 

 そういったジブリールはひょいと気軽に恒星天の熾天使(セラフ・エイススフィア)へ飛び掛かり、その途中で幾つかのバフを自身にかける。そして無抵抗なソレをアイテムボックスから取り出した大鎌で数回斬り付けてあっさりと消し去った。そのまま地面に着地すると、再び跳躍して空を駆け、元の場所に戻った。

 帰還したジブリールはつまらなそうな顔をしており、抵抗さえ行わない人形を倒しても全く楽しくも何ともないのだと伝わってくる。

 

「流石は『天使殺しの天使』、無抵抗とは言えこれ程早く倒せるとは」

 

「天使特攻の武器にバフまで掛けてスキルも使えばこのくらいは。それに棒立ちだったので」

 

 モモンガは気が抜けたのか、被っていた嫉妬マスクを外していた。辺りは既に夜の闇に包まれており、誰の目も無いと安心したからだろう。それを見たジブリールも、隠蔽効果を持つローブを脱ぎ捨ててアイテムボックスに収納した。アルベドもいつの間にかヘルムを脱いでモモンガの後ろに付き従って歩いている。

 

「やっべ、アインズ様かっけ。くふふふふ……あ、ちょっと濡れ」

 

「ん?どうした、アルベド」

 

 先程のモモンガの絶対者としての振舞いを見て軽くトリップしていたアルベドに気付いたのかそうでないのか、ともかくモモンガはアルベドに反応した。そういうところに細かい反応を出来るからモモンガさんは上位者としては向いてないよなとジブリールは心の中で呟いていた。係長ぐらいのちょっとしたリーダーは務まるが、社長などには絶対に向いていないタイプである。

 

「い、いえ何も……コホン。ところでアインズ様、何故あの人間(ガゼフ)を助けたのですか?貴重なアイテムまで授けられて……」

 

(アレは500円ガチャの外れアイテムだしな……)

 

 ガゼフに渡したのはユグドラシルでの課金アイテムの一種である。500円ガチャという数多のプレイヤーを沼に引きずり込んだ悪夢、それから高い確率で排出されるハズレアイテムの一種がそれだった。確かに、今ではガチャは出来ない為貴重であることは確かだが、ジブリールも合わせてそれこそ山の様に所持しているため大した損失にもなっていない。尚、引退するメンバーから譲り受けたアイテムの中にも多く含まれていた。一人から十数個渡されるのはザラで、もっとも酷い時には百以上のハズレアイテムを受け取ることもあった。今思うと立派な黒歴史ではないだろうか、モモンガも自分がいくらガチャに費やしたかを朧気にしか覚えていないことを考えると頭が痛くなってくる。

 

 そんな内心をおくびにも出さず、モモンガはアルベドの話に耳を傾ける。

 

「私が掃討してくればよろしかったのでは? 何もアインズ様にジブリール様まで直接下等生物を助けに行かれなくとも……」

 

「アルベドの強さは知っているし、信頼している。しかし、この世界の知識が常に敵が己を上回る可能性を考慮する必要がある」

 

「だからあの男を捨て駒として扱ったのですね。まさに人間(ムシケラ)の使い方として正しいかと」

 

 そうモモンガに答えたアルベドの声は喜色に満ちていた。ほんの一欠けらも人間を捨て駒(サクリファイス)として使用したことに疑問を抱かない。それは人間から見れば大いに間違っていて、異形種ギルドたるアインズ・ウール・ゴウンから見ると大いに正しい。

 

「そうねぇ、いつかのアップデートで追加されたダンジョンに碌に情報も仕入れずに挑んで敗走した、なんて失敗もありましたからね。我ながら若気の至りでした」

 

「至高の御方であるジブリール様にもそのような失敗があったのですか?」

 

 驚いた様子のアルベドの質問に、ジブリールは軽く笑って返す。

 

「ええ、我々も成功ばかりではありません。寧ろ失敗したことの方が多いかもしれませんね。大事なのは、失敗を失敗のままにせず次に活かせるようにすることです」

 

 幸いあの世界では死は一時の、しかも取り返しが容易な損失の一つに過ぎませんでしたから。と遠い目をしたジブリールが独り言ちる。モモンガもそれに感化されたのか、歩みを止めて暫しその場に佇む。

 

「ジブリールさんの言う通り、私とて常に正解を選び続けることは容易い事ではない。そうだ、私は……()は、お前たちの考えるような絶対者などではない、ないのだ」

 

 モモンガの声が次第に弱くか細いものになっていく。心中の不安、不満、重圧、困惑、それらが一斉に溢れだしたかのようにモモンガは叫んだ。

 

「俺は、俺は!俺は、支配者の器でも、強者でも、賢明でも無い。只のギルドマスターを任命されただけの、お前たちに忠誠を誓われるほどの男じゃ、ないんだ」

 

 塞き止められていた川が崩壊するかの如く、モモンガの弱音は濁流となって空っぽの胸中から流れ出した。途中で詰まる様に精神が沈静されるも、次の瞬間には再び爆発し沈静される。その繰り返しが暫くの間続いた。

 それをジブリールとアルベドは一言も発することなく、黙って聞いていたのだった。

 

「……すまなかったな。はは、笑うといい。この様な心の弱い男がお前たちの最後の主人の片割れなのだと」

 

「いえ、笑うなどありえません。アインズ様……いえ、()()()()()

 

 モモンガの正面に立ったアルベドがモモンガの手を取り、自分の胸の前に持っていく。

 

「たとえモモンガ様がどのような人物であったとしても、去り行く至高の御方とは違いこのギルドに残って下さった。それだけで我々が忠義を尽くすべき存在なのです。どうか、どうか御傍に居させてもらえませんでしょうか。私、我々ナザリックのシモベ達はただモモンガ様とジブリール様が居てくださるだけで満足なのです」

 

「そんなに卑下するものではないですよモモンガさん。私だって頭はデミウルゴスにもアルベドにも、ひょっとしたらステフにさえ劣るかもしれませんし……あれ、本当に大丈夫か? ステフだぞ?」

 

「そうか……なあ、アルベドよ」

 

「何でございますか?」

 

「俺は、まだまだ未熟なんだ。それでも、お前たちの、ナザリックの皆の為に全力を持って尽くそうと思う。こんな俺でも、お前は共に歩いてくれるか?」

 

「……ええ! モモンガ様と一緒なら何処まででも!」

 

 夜闇の空に輝く数多の星々が、モモンガ達の行く末を祝福しているようだった。

 

「帰るか。我が家へ」

 

「はい!」

 

「……あの、途中から私の存在消えてませんでした? ねえ、ちょっと、聞いてますモモンガさん!? おーい!」

 

 




Q なーんでモモンガ様こんなにメンタル糞雑魚になったの?

A 二人で転移したからそこまで気負わなくて済む→原作より心の耐久力が低い。
  ジブリールが突然昔の話をしたせいで更にメンタルが弱体化。
  その上で『失敗』のネガティブワードが鈴木悟の心にクリティカルヒット!
  心の限界に到達して爆発

……てな感じです。割と無理矢理かつ急でびっくりしたと思います。
書いた私もびっくりしてます。なんでこんな重い話を序盤でぶち込んだんだろうか。
筆が滑ったからです。

【祝】ニグンさん生存ルート【まだ死なない訳じゃない】
あ、土の巫女姫は爆発と光でこの世からログアウトしました。仕方ないね。

熾天使の外見?めっちゃ豪華になって翼もデカくなった威光の主天使みたいな感じで。


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EX.01 天剣(つるぎ)乱れ、氷刃(やいば)舞う

活動報告で告知していた通り、今回は番外編となります。
時系列は特に考えていません。
いつか、どこかのタイミングで起こった馬鹿話の一つです。

「ちょっとフラストレーション溜まってるのでコキュートスと闘ってきます」

「またなんか言い出したぞコイツ。……え、待ってください本気なんですかちょっと、誰かデミウルゴス呼んで来い!」

大体こんなノリですので。


オオオオオオオォッッ!!!

 

ハアアアアアアァッッ!!!

 

 ―――剣戟一閃、初手は共に愚直なまでの袈裟切りが衝突する。白翼の天使(ジブリール)はその身に似合わぬほどの大剣をいとも容易く振り回し、蒼氷の蟲王(コキュートス)は二対四腕の異形と携えた武具を以ってそれを迎え撃つ。

 一瞬の空白、コキュートスの空いた腕に握られたメイスががら空きの左横腹を薙ぎ払わんとするも、力を抜いて鍔競り合いからわざと弾かれた逃れたジブリールは押し出される力を利用して後方へと飛ぶ事で回避する。

 

 とん、と軽やかに着地するやいなや白翼を迫りくるコキュートスに向けて羽撃かせ〈舞い散る刃羽(ブレイド・フェザー)〉を発動。ジブリールから射出された数多の翼羽は白銀の如き光沢持つ鋭利な刃となってコキュートスへと襲い来るも、両の手で振るう断頭牙(ハルバード)とそれに伴って巻き起こされた旋風がその悉くを軽々と蹴散らした。

 ジブリールへと駆けつつも振るわれた断頭牙を引き戻し構えるが、その時には正面に見据えていた筈の姿は消失していた。六つの瞳がギョロリと周囲を索敵するも見当たらず、背後に気配を感じる訳でもない。即ち―――

 

 

 

 

 

 ―――上ッ!

 

 コキュートスが全ての武器を頭上でクロスさせ防御態勢をとるとほぼ同時に、上空からの大剣の振り下ろしが炸裂する。その衝撃でコキュートスの足元はクレーターの様に凹み、鳴り響いた剣音は円形闘技場(アンティフィアトルム)で観戦していたモモンガや多くのシモベ達の鼓膜を震わせた。

 あとコンマ数秒反応が遅れていればその刃は間違いなくコキュートスの外皮鎧に決して軽くない傷を残していただろう。火花を散らしながらぶつかり合う武具を挟んで、ジブリールの狂乱の笑みとコキュートスの沈着な眼差しが交錯する。

 

 膠着が長く続く筈も無く、交差させた武器が一斉に解き放たれ、大剣ごとジブリールは上空にへとカチ上げられる。翼持つ天使にとって開けた空は庭の様な物、すぐさま体勢を整えて再び突貫しようとするも……

 

「流レヲ作ラセテ戴キマス。〈不動明王撃(アチャラナータ)〉」

 

 コキュートスの背後に忿怒相を浮かべた不動明王が空のジブリールを迎え撃つように出現する。片手に握り締められた利剣がゆっくりと振り被られ―――

 

「〈俱利伽羅剣〉」

 

 コキュートスの宣告と共に、三毒を打ち破る智恵の利剣が放たれる。敵のカルマ値が低いほどその破壊力を増す特性上、底辺値の-500であるジブリールがまともに喰らえばそれだけで重傷は免れないだろう。

それ程のものを容赦なく放ったのは、偏にこの程度は彼女にとって前座にしかならないと信じ切っているからだった。かつてユグドラシルにて悪鬼羅刹の如く恐れられたアインズ・ウール・ゴウン。そこに君臨する偉大なる41人の一人が自分の一撃で倒れる訳が無いという、本人が聞けば真っ向から否定するような信仰に裏打ちされた斬撃は果たして。

 

「〈久遠第四加護(クー・リ・アンセ)〉 ……やれやれ、アレが当たったら死んでいたかもしれません」

 

 不動明王が一撃はしかし、ジブリールを包み込む翡翠色の封印術式によって完全に防がれた。時間、空間を断絶することで一切の攻撃を封殺する『霊壊術式』が一つ、ユグドラシルとは異なる理論の大魔術。

本来は森精種(エルフ)のみが、それも基本は使用しなくともよい触媒と造物主の加護を必要とするそれをジブリールが『スキル』として発動できるのは運営の賜物であろう。本人は釈然としていないのだが。

 

「ゴ謙遜ヲ。多少ハダメージヲ与エラレルト考エテイマシタガ、マサカ無傷デ耐エラレルトハ」

 

「うーん、信頼が重い。私だって斬られれば痛いし最悪死ぬんですけどねえ……」

 

 〈久遠第四加護(クー・リ・アンセ)〉が効力を失い、光の粒子となって空に溶けてゆく。互いに無傷に近い状況だが、実際は〈久遠第四加護(クー・リ・アンセ)〉を使用しているジブリールが一手負けている。強力なスキルは大抵一定時間での回数制限がついており、〈久遠第四加護(クー・リ・アンセ)〉の場合は一日に最大で2回までしか発動が出来ない。つまり貴重な一回を既に消費してしまっているということ。

 

 対して、コキュートスは〈不動明王撃(アチャラナータ)〉を使用しただけの消費で済んでいるが、流れを作るという当初の目的は達成できていない。先程ジブリールの方が一手負けていると言ったが、痛み分けの形に近い。

 

「でもまあ、少しは期待に応えるとしましょう―――かッ!

 

 轟ッ、と風を断ち切る撃音を響かせて大剣がコキュートスにへと投擲される。身体を大きく捻り槍投げの様にして投げられたその鉄塊は、凄まじい速度でコキュートスに迫り―――

 

「重ねて―――〈激旋流槍(ヴォーテクス・スピア)〉」

 

 その上に螺旋状に回転する水の槍がコキュートスを襲う。大剣は装備に備わった飛び道具への耐性に加え、ハルバードを振るうことで弾き飛ばすことが出来たが、それが隙となり二発目の魔法攻撃を防ぐことは叶わなかった。直撃こそ辛うじて避けたものの、肩の外皮鎧は一部が削れ罅も入る程のダメージを負い、地に片膝を突く結果に終わる。

 

 久方ぶりの苦痛に軋むような微かな呻き声が上がり、それによってコキュートスの闘志が今まで以上に燃え盛る。

 なんだこの醜態は。相手が例え至高の御方であったとしても、そう易々と倒されても良いのか。このようなザマでは武人建御雷様の名を穢してしまうぞ。

 

 

立て

 

 

立て

 

 

立つのだコキュートス!

 

 

お前は何だ、誰に創造され、どう在れと定められた!!

 

―――ォ

 

―――ォオオ

 

―――ォオオオオオオオオオォッッ!!!!!

 

 第六階層の全域に響き渡る大咆哮と共に、コキュートスが立ち上がる。物理的な影響を及ぼすほどの衝撃波が地表の小石や土埃を吹き飛ばし、その四腕を広げた威容はまさしく鬼神の如し。

それを見た全ての存在が、コキュートスがいつもより数段巨大であるように錯覚した。

 

 

 

 

 我が身は、一振りの刃。

 

 武人武御雷に創造されし、ナザリックの剣。

 

 刮目せよ、凍河の蟲将が此処に真なる剣を示す。

 

 

 

 

 空中に佇んで様子を窺っていたジブリールは歓喜の笑みに耐え切れず……と言うより、そもそも耐えることをせずに牙を剥いて笑う。より強大となった敵を真っ向から歓迎し、それを打ち破ることこそを至上の悦楽とする。それこそが彼女であるが故に。

 

 その狂戦士とも言うべきジブリールに向かってコキュートスは大地を蹴り上げ前進する。蒼い風となって疾走する最中、即時に武器を交換するスキルを使用してブロードソードと取り換えたのは―――

 

 ―――刃渡りにして六尺(約180cm)超、三界の悉くを両断せしめる大業物。

嘗てコキュートスの創造主が振るい、今彼に受け継がれしその刀の銘は―――

 

斬神刀皇ッ!!

 

「これは、うかうかしていられませんね……〈剛身堅体(リインフォース)〉〈戦神の加護〉〈生命の諸天:基礎の活動〉〈生命の諸天:王冠の活動〉」

 

 警戒を高めたジブリールは自身に身体能力強化系統のバフを複数種類掛け、コキュートスの出方を見るためか空中に漂ったままで新たにアイテムボックスから取り出した大剣を構える。完全に後の手、それに全く武術武道のぶの字すら浮かんでこないような構えだが、その守りを抜くのは容易くなどない。

 

「〈一点集中〉〈四方八方〉ッ!」

 

 だがしかし、今この瞬間においてはその防御も紙同然でしかない。武器を使用した戦闘においてはナザリックでも随一を誇るコキュートスが、神器級というワールドアイテムを除いては最上級の刀を持ち、数多の斬撃を広範囲に渡って放つ〈四方八方〉を複数対象を取る武器戦闘スキルに作用し一点に収束させる〈一点集中〉と併用して放つはまさに斬撃の牢獄。

 前後左右上下の全方向から鈍色の刃嵐が天使の肉体を斬り刻まんと襲い掛かる。

 

「あ、マズ―――〈暴獣の乱撃〉ッッ!」

 

 スキルの宣告と同時に、ジブリールの四肢が半ば程まで漆黒に染まり仄かに光る紅の脈茎が張り巡らされる。それは握られている大剣にまで侵食し全体が同じようにして覆われた。その状態で自身を空中で回転させつつ、四肢を獣が暴れるかのようにして乱雑かつ無造作に振り回して剣刃を迎撃する。

 

 斬撃が黒い四肢に衝突するだけで獣に食い破られる様に砕け散るが、如何に暴れたとしても全方位からの攻撃を全て捌き切ることは出来ない。前方の殆どは薙ぎ払った大剣が楯となり防がれたが、防御の足りていない後方では幾つかの斬撃がジブリールの柔肌と翼を斬り裂いた。

ダメージに耐え切れずジブリールは大剣を支えにして地に足を付け荒い息を吐く。背中の斬痕からは少なくない量の鮮血が滴り落ち、地面に真っ赤な水溜まりを作り出す。翼も辛うじて切断はされていないものの、何ヶ所かが圧し曲がり痛々しい血の色に濡れている。

 

「ハァ……ハァ……〈大治癒(ヒール)〉〈再生(リジェネレイト)〉」

 

 ジブリールの詠唱した治癒魔法によって、負ったダメージが回復する。足元に展開された魔法陣の輝きと共に裂傷が逆再生の様に癒えていくが、完全な回復ではなく少なくないダメージが残っている。とは言え、翼の負傷は殆どが消えてなくなり問題なく飛行出来るようになった。

 

 だが、回復の隙は決して小さいものではなかった。ジブリールへと駆けるコキュートスを妨害するものは無く、最早その距離は詰められ刀の間合いにまで達しようとしている。

そして、今から大剣を構える動作を挟むだけの余裕も存在しない。ジブリールは全くの無防備な状態でコキュートスを迎え撃たねばならず、無論の事だがそのような抵抗は無駄でしかない。

 

 ジブリールの眼前にまで到達したコキュートスはメイスを投げ捨て、空いた手と既に握っていた手の二つで火の構え―――いわゆる上段の構え。刀を振り下ろすただそれだけの攻撃のみに限定すれば最速を誇る。―――を取る。

 

 直撃すれば間違いなく死に至るソレを見たシモベ達は制止の声を掛けようとし、実際コキュートスを止めようと動きかけた者も居たが行動に移すのが余りにも遅すぎた。

 

 斬神刀皇が無情にも振り下ろされる。その斬撃は凄まじい衝撃波を生み、周囲は巻き上がる土埃が覆い隠して与り知れず。

更に斬撃は円形闘技場(アンティフィアトルム)の外壁にまで到達し、大地には細く深い一筋の斬撃痕が刻み込まれた。

 

 観戦していたシモベ達とモモンガが固唾を飲んで見守り、一部のシモベは殺気交じりの視線を土煙へと向ける中遂にその時は訪れる。

 

 不意に、何かに切り裂かれるようにして土煙が吹き飛ばされる。そこに立っていたのは―――

 

 

 

 

 

「引き分け、ですね」

 

「ソノヨウデスナ、ジブリール様」

 

 

 互いの首元に刃を添え、向かい合うジブリールとコキュートスだった。

 

 ジブリールは斬神刀皇が振り下ろされるその瞬間、〈空間転移(シフト)〉を使用してコキュートスの背後に転移していた。そのまま無防備な背中に大剣を叩き込もうとしていたが、手応えの無さに違和感を覚えたコキュートスは武人としての勘でジブリールを感知。残心を解いていなかったこともありすぐさま反応し、互いが互いに王手を掛け合う結果に終わった。

 

「二人とも実に見事だった。これからも研鑽に努め更なる高みを目指して欲しい!そして、この闘いを見ていたシモベ達にも期待している。あ、ジブリールさんは後で話があります。逃げるなよ?

 

 最後にモモンガが〆の挨拶を行い、今回の模擬戦は終幕となったのである。尚、その後―――

 

 

 

 

 

「なあジブリールさん確かに今回は貴方の要望を叶えるべく例え死亡しても即座に身代わりとなって代わりに破壊されるアイテムをコキュートスと貴方に持たせていたとはいえあそこまでダメージを負うような闘い方をするとはどういうことだそもそも実際の戦闘であんなやりかたをしていたら命がいくつあっても足りないでしょうがここはもうゲームの世界ではなく現実なんですからもう少し危機感というものを抱くようにしてください本当に死んだらどうするんですかそもそも一度死んだあと蘇生したとしてもそれが本当のジブリールさんである保証はどこにも存在しないんですよ分かってますか分かってませんよね分かってないからあんなことしたんですからねちゃんと話聞いてますかまったく貴方は昔から勝手に行動した結果死にかけたり罠だと分かって突撃して死にかけたりるし★ふぁーさんと一緒になってふざけて死にかけたりと余計なことに首を突っ込んで碌な目にあった試しがないんですよ少しは自重することを考えてくださいそれに天使種の貴方には飛行能力が備わっているというのに何で上空に陣取って攻めないんですか空から魔法なりスキルなりで戦っていれば少なくともそこまで怪我をすることはなかったですよね前々から思ってましたけど安全策ってものをもっと重要視すべきですよ私は大抵の状態異常は無効化出来ますけど生身のジブリールさんにそんなスキルは無いんですから慎重すぎるくらいが丁度いいというのにおい私の目を見て話を聞きなさいこっちを見てさあ早く目を逸らすなこれはジブリールさんへのおしおきを兼ねているんですからねまだまだ終わりませんよこの際貴方への鬱憤もついでに晴らさせてもらいますから足を崩そうとするなよ正座は罰の一環なんだから維持しなきゃ罰にならないだろ足がしびれてきたかなるほどそういった痛覚も感じられるという訳だまた一つ勉強になったなああそうだ話を戻しましょうどうしてもっとバフを掛けなかったんですかバフに過剰なんて言葉は無いんですよむしろバフこそが本体ですよ私だってPvPのときにしこたまバフを掛けられればどれ程良いかとユグドラシルで何回考えた事かそれに魔法攻撃のときに必ず一拍子程度つまりますよねそういうの良くないと思いますよ下手に残してると隙になりますし高レベル同士の戦闘だとそういった小さなものほど―――」

 

「コキュートス貴方はなんということをしたのか分かっているのですか至高の御方の一人であるジブリール様を殺しかけたのですよ百歩いや億歩譲ってジブリール様に傷を付けたまでは全力で戦いたいというジブリール様の願いを考慮して許さないことも無くも無いですがいくら事前に致死ダメージを受けたときそれを転写して代わりに破壊される超レアアイテムをアインズ様より賜っていたとはいえあのような戦闘は目に余りますそもそもナザリックのシモベが最後に残って下さった至高の御方に刃を向けるという行為自体が不敬極まりないのです例えそれが至高の御方に命令されたことであってもです最早我々ナザリックには御二人しか残っていないのですその二人の命を傷つけかねない行為などあってはなりません我々が死んでも防ぐべき特一級の緊急事態だというのにそれをナザリックのシモベたるコキュートス貴方が行うなどこれがどれ程の不敬か理解しているのですかいくら武人であるといえども限度というものがあるでしょう反省しているのですかコキュートスこの説教はまだまだ始まったばかりなのですからね貴方が真に至高の御方への対応を理解するまで終わることは―――」

 

 ナザリックの王座の間にて、若干二名がナザリックの主人(モモンガ)赤スーツの悪魔(デミウルゴス)にひたすら説教を食らう光景が見られたとか、見られなかったとか。




くう疲。

真面目に戦闘シーン書いてみましたけど、どうですかね。
やっぱ表現が少し薄いかな……もっと上手く表現できるようになりたいです。

ちょくちょくアイテムボックスから武器を取り出すってやってますが、コンソールを出して行う必要がある為戦闘中だとかなりの隙になります。だから武器換装のスキル然り、課金アイテムの木の棒然りがあるわけですね。

ちなみに、ガチでジブリールとコキュートスが戦うと3:7でコキュートスが有利です。
ジブリールはカルマ値が-500で、五大明王コンボがぶっささりするからです。今回は始動を〈久遠第四加護〉で強引に潰してうやむやに出来ましたが、一発でもまともに喰らうとかなり辛いんじゃないでしょうか。

では、また次回。


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EX.02 もし彼女のNPCがいづなだったら

あ、どうも。
今回も本編を進めること無く番外編となっております。本当に申し訳ない(メタルマン並感)

スランプに苦しみながらギル祭回ったりドルフロやったり転スラ見たりゴブスレ見たりトネガワ見たりオバロ見たりしてました。
何時ぞやの感想に会ったいづなは出ないの?という声にお応えしました。本編にはでねーけどな。これ以上キャラ増やしたら死ぬゥ!

いつもより字数が少ないですが、これは二本立てにする予定だったものの名残です。それはまた次回になるのかねー

……いい加減本編進めろって?俺もそう思うわ。


 

 バハルス帝国の南東、スレイン法国の東に位置するは竜王国。

 真なる竜王『七彩の竜王(ブライトネス・ドラゴンロード)』が血を引く女王、ドラウディロン・オーリウクルスの治めるこの国は今幾度となく侵攻を重ねるビーストマンの脅威に晒されている。

 

 彼らは竜王国を都合の良い餌場としか見ていない。

 人の軍?そんなものは障害にすらならない。むしろ率先して向かってくる分探す必要も無い家畜だ。

 何人かの英雄級、アダマンタイト級冒険者を中心にして撃退は出来ているものの、それは戦場での一時的な勝利に過ぎない。圧倒的兵力差の前では侵略を食い止めることすら出来ず、じわりじわりとビーストマンの魔の手は竜王国の首を締め上げている。

 

「ビーストマン共の侵攻だと……!馬鹿な、何故この時期に!?いや、今はそんな事を考えている場合では無いな。損害はどれ程だ!」

 

「そ、それが……現時点で都市が二つ落とされました。住民らの生存は例によって絶望的です。また、その都市から大平原を挟んだもう一つの都市に向けてビーストマンの大群が侵攻中です。数は推定で……」

 

「どうした、早く申さぬか。数が分からなくては対策も碌に打てぬ」 

 

 たった今息も絶え絶えの状態で走り込んできた伝令の男に童女の如き姿の女王が先を話す様に急かす。急いできた疲れも当然あろうが、それ以上に見たくない何かを直視してしまったかのようにその顔は青ざめてしまっている。

 

「す、推定……五万。都市の占領に幾分か割いているとしても、侵攻軍の総勢は三万は下りません……!」

 

 その言葉をこの場の誰もが信じることが出来なかった。

 

「……さ、三万……?それに加えて、各都市に一万以上のビーストマンが……?」

 

 何かの冗談ではないか。これは悪い夢なのだと。そんな無意味極まりない思考に逃げられるほどドラウディロンの頭脳は悪くなかった。……この場合では、現実を直視出来ない方が幸せだったかもしれないが。

 現実を正しく認識してしまったドラウディロンの全身からは激しい怒威が溢れ出していく。いくら曾孫の代にまで薄れてしまったとは言え、竜王の血脈にある彼女のソレは並の人間に耐えきれるものでは無い。

 

 伝令の男はその意識を容易く手放し、白目を剥いて膝から崩れ落ちる。人間としてのレベルが違うためなんとか耐えることの出来た一部の近衛兵は、彼が王座の間で粗相をしないうちに退出させた。

 

「どうすればいいのだ……スレイン法国からは何もないのか!どれだけの額を寄進していると……ええい!」

 

 既に都市に住んでいた人々は殆どがビーストマンの胃の中に収まっているだろう。その他にも兵士たちが決死の抵抗を行い、その上で未だ三万が侵攻を続けているのである。

 今までは一度で精々が5000程度、多くて一万に届くかどうかといった量だったのに今回はそれを遥かに越えている。

 

 ……竜王の子孫であるドラウディロンは、その身に持つ異能(タレント)によってドラゴンロードの秘奥たる始原の魔法(ワイルド・マジック)を行使することが可能である。しかし、その代償は民の犠牲。竜王として未熟な彼女では、数多の人の魂を対価としなければ発動出来ない。

 

 三万、三万のビーストマンの軍勢ならば殲滅できよう。たとえ引き換えに王都の人命の大半を失ったとしても。

 それでも都市を占領しているビーストマンらまでは手が届かないのだが。

 

「アダマンタイト、奴らを向かわせろ。この際ワーカーだろうと招集させる。軍を至急揃えてビーストマンを迎え撃つ!今回は私も出るぞ。始原の魔法(ワイルド・マジック)が使えずとも戦力にはなる」

 

 決死の覚悟を決めたドラウディロン。その姿はか弱い童女のものから妖艶な美女である本来のものに変貌する。

 

 

 竜王国の徹底抗戦が、今ここに幕を切って落とされた──!

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 所変わって、ここは件の大草原。

 既に三万以上のビーストマンの軍勢が平原の六割ほどを埋め尽くしている。このままでは間もなくもう一つの都市に差し掛かるだろう。

 ビーストマンの巣窟と化した都市に向かうものなど誰も居ない。その筈だというのに、ビーストマンの行く手を遮るようにして二つの影が直立している。

 

 一つは腰の辺りに一対の白翼を持ち、先に向かうにつれて七色のグラデーションが掛かる桃色の頭髪と頭上に浮遊する幾何学的模様の円環が特徴的な少女。

 

 一つは黒髪黒目に大きく長い獣の耳と尾、それらの身を和装に包んだ先の少女よりも幼く見える童女。

 

「さて、今回の私達の目的について再確認しましょう。何をする為に私達はここにいますか?」

 

「目の前の獣くせぇ連中をぶっ殺してこの国に恩を売る為だ……です。それと、この世界でのいづな達の能力を確かめる、です」

 

「はい、正解です。いづなちゃんは偉いですねー。ご褒美にわしゃわしゃしてあげましょう」

 

 白翼の少女が獣耳の童女に後ろから近寄り、腰を屈めて頭を文字通りわっしゃわっしゃと撫でまわす。最初はまんざらでもない表情をしていた童女だったが、直ぐに頭を振って拘束を外し前に歩み始めた。

 

「ジブリール様はそんなに撫でるの上手くねーからここまでだ、です。もっと精進しやがれ……です」

 

 そういう彼女だが、尻尾は犬の様にぱたぱたと振られており、本人の言とは異なっていることが見て取れる。

 当然そのことはいづなの主人であるジブリールも理解しており、微笑ましい目線で見守っているのだが。

 

 ビーストマンの大軍が迫りくる中日常の様な振る舞いを続ける二人だが、気が触れた訳でも現実を直視していない訳でもない。無知でも蛮勇でもなく、事実この程度の敵勢力なら容易く捻り潰せると確信しているからだ。

 

 なにせ、既にはぐれビーストマンを数体捕らえて実験を行い、ユグドラシル換算で20から30程度のレベルであるという結果が出ている。レベル100の前衛職二人の前ではその程度の畜生が幾ら集まろうと塵に等しい。

 

「さあ、蹂躙を始めましょう。私は右翼から攻めるので、いづなは左翼から」

 

「りょーかいだ、です。鬱憤晴らしにはちょーどいい、です」

 

「ああ、そうでした……性能確認も兼ねていますからね。『血壊』の発動を三秒まで許可します」

 

「一秒もいらねー、です」

 

 そんな軽口を叩き合いながら、二人は迫りくるビーストマンらを視界に収める。距離は間近とは言えない物の、接敵には最早間もなくであろう。

 揃ってジブリールは右前方を、いづなは左前方に向き直り戦闘態勢をとる。

 

「では」

 

「やるぞ、です」

 

鏖だ

 

 大地を踏みしめた爆音がビーストマンの最前線にまで届いた時には、既に数十匹の個体の命が奪われていた。ある者は首を圧し折られ。ある者は頭部を粉砕され。ある者は胴体を吹き飛ばされ。そしてある者は縦に叩き潰された。

 

 目の前で同胞が肉塊と化したビーストマンは目の前の光景を認識したその直後に、更なる踏み込みを以って突撃したいづなの手によって肉体を腕の一振りで両断されその意識を消失させた。

 

 小さな童女が腕を振るう。ただそれだけの行為で何体ものビーストマンがまるで紙を引き裂くが如く、容易く切断される。強引に引き千切られた断面から鮮血と内臓が噴き出すも、その瞬間にはいづなの姿はそこには無い。

 

 ビーストマンのいわゆる逆関節の足を背後に回り込んだいづなが蹴飛ばすと、べぎりと鈍い音を立てて強引に正関節の形になるもその衝撃に耐えきることなく、膝の部分が消し飛んで崩れ落ちた。その個体は自身に何があったかを理解する間もなくいづなに頭部を踏み潰され、真っ赤な華を大地に咲かせて命を散らせた。

 

 無造作に背中へと貫手を放つと、肉に腕が埋まるどころか周囲ごと弾け飛んでビーストマンの胸に大穴が空く。

 

 肩を踏み台にして空に飛び上がれば、そのビーストマンは腹の辺りにまで自分の筋肉がめり込み、先の腕も僅かな皮で辛うじて繋がっている状態に。

 

 この辺りで惨劇にビーストマン達がようやく対応を始めだす。差し当たって周囲のビーストマンが一斉に空中にいるいづなへと飛び掛からんとするが──

 

 

 

血壊

 

 

 

 ぱぁん、という破裂音が戦場に鳴り響く。

 いづなの周りにいた数百体が瞬き一つにも満たない間に血煙と化した。恐らくどのビーストマンも自分が死んだという認識すら出来なかっただろう。

 

 死滅したビーストマンらが円形の空白痕、その中心に降り立ったいづなは頭髪と瞳が真っ赤に染まり、全身には燃え立つような緋色の紋様が浮かんでいた。だがそれも直ぐに掻き消えて元の黒髪黒目の姿に戻る。

 身体の調子を確かめるかのようにその小さな拳をぐっぐっと握り締め、血飛沫の一切も付着していない和服の袖がはたはたと彼女の呼吸に合わせてひらめいている。

 

「せーぜーこんなもんか……です。事前に分かってたとはいえ、ここまで弱いとつまんねぇ、です」

 

 一体目のビーストマンが死んでから、未だ二十秒すら経過していない。正しく蹂躙、正しく鏖殺と呼ぶに相応しい光景であった。一面の緑が広がっていた平原は今や、夥しい量の獣の血が塗りたくられ赤く染まっている。

 

「キルスコア600飛んで49、まだまだたんねー、です。ジブリール様より多く殺して、ご褒美に毛繕いしてもらう、です」

 

 ビーストマンにとっての悪魔が、再び大地を蹴りつける。

 軍の左翼ではいづなが、右翼ではジブリールが地獄もかくやと言わんばかりの惨劇を繰り広げていた。

 最早ビーストマンに出来ることは無く、ただ痛みなく死ねることを祈るだけであった。

 

 この日、竜王国に侵攻した全てのビーストマンは一体の例外も無く死に絶えた。

 

 




ビーストマンのレベルは、ソウルイーター(難度100~150)三体に十万人が殺害されている。成人した人間の十倍の力を持つ。辺りから推測してユグドラシル換算で20~30としました。

いづなたんきゃわわ。いづなたんのレベルは作中にもあった通り前衛職のレベル100です。修行僧(モンク)系統とか、無手での戦闘に特化したクラス編成になってます。
血壊はまあ、そういうスキルって扱いにしてくだせえ。
所詮は番外編ですからね、そこら辺はふんわりでね。

今回の話ではナザリックは竜王国の近くに転移しています。カルネ村は犠牲になったのだ、人類の犠牲にな……
今回被害に遭ってもらった竜王国。原作であった三万の侵攻にちょっと色を付けさせてもらいました。
多分この後はいづなとジブリールを通してナザリックと取引して、最終的にはアインズ・ウール・ゴウン魔導国に吸収合併されるんじゃないですかね。あんま考えてませんけど。


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エターのお知らせ

 皆様お久しぶりです。

 タイトルにもある通り、今作はエターとさせていただきます。

 すまんかった。

 

 理由としては、二つほどあります。

 一つはストーリーの着地点を考えられなくなったことです。

 例を挙げますと、作中の流れとして今後は原作通りモモンガとナーベがエ・ランテルに移動、冒険者活動を始める。それと同時にジブリールが法国に接触、復活したスルシャーナ(=転移してきたモモンガ)の存在を匂わせつつ暗躍。といった展開を考えておりました。しかし、そこから先の流れを考えられずどうにもならないと感じたためです。

 

 もう一つは、単純にオーバーロードへの熱が無くなってしまったからです。

 この小説を書き始めた二年前のような情熱がどうにも無くなってしまい、原作も読まなくなりました。オーバーロードという作品を嫌いになったわけではないのですが、恐らくもうこの小説の続きを書くことはないだろうと判断しました。

 続きを待っていただいている読者様をいつまでも待たせるのも忍びないですし、自分もこのサイトで数年前から全く更新されなくなった小説をごまんと見ていますので、せめてきっちり終わりだけは宣言したいと思います。

 

 良かれと思って追加したステフだったり、アヴァントヘイムの活用方法を何も思いつかなかったあたり適当すぎる自分が嫌になりますね。追加する事自体はまだしも、居ても居なくても良いキャラにしてしまったのは駄目でした。あと良くわからん設定を追加したりとかも。

 

 今後は新しい小説を書くかどうかは分かりませんが、もし新しい駄文を書き始めた時は温かい目で見守っていただけると幸いです。

 

 

 

 せっかくなので、以下に作中のスキルや種族情報などの設定を考えていた分だけ載せておきます。こういう設定集って何か知らんけどあると嬉しいよね。

 

ジブリール《Jibril》

異形種

邪悪なる熾天使

 

役職:至高の41人。

   大図書館「アッシュールバニパル」管理者。

 

住居:ナザリック地下大墳墓

   大図書館内の専用読書室。

   (一応第九階層に自室は存在する)

 

アライアメント

属性:極悪 [カルマ値:-500]

 

種族レベル

天使(エンジェル):15Lv

大天使(アークエンジェル):10Lv

栄光の主天使(ドミニオン・グローリー):10Lv

―――非公開設定―――

原動天の熾天使(セラフ・ジオセントリック):5Lv

星天翼の熾天使(セラフ・ザ・フリューゲル):5Lv

 

職業レベル

セイント:10Lv

クレリック:10Lv

ジェノサイダー:5Lv

―――非公開設定―――

セイントロード:5Lv

エクスキューター:10Lv

ホリー・バニッシャー:5Lv

クエスティング・ビースト:5Lv

アズライール:5Lv

 

[種族レベル]+[職業レベル]:計100レベル

種族レベル 取得総計45レベル

職業レベル 取得総計55レベル

 

能力表

HP:70

MP:90

物理攻撃:100オーバー

物理防御:50

素早さ:70

魔法攻撃:90

魔法防御:50

総合耐性:80

特殊:90

 

原動天の熾天使

 セラフ・ジオセントリック

 オリジナル種族で、恒星天の熾天使に成ったことのあるプレイヤーが特定のクエストをクリアして得られるアイテムを使うことで恒星天の熾天使の代わりに進化できるようになる。恒星天の熾天使と比較すると物理攻撃や特殊に高い適性を持つ。

 

星天翼の熾天使

 セラフ・ザ・フリューゲル

 オリジナル種族。ユグドラシルにて行われた1世紀復刻キャンペーンというコラボ企画で実装された種族の一つ。ノーゲーム・ノーライフに登場する天翼種が作中で使用していたスキル、能力を習得できる。進化にはイベントクエストで手に入るアイテムを使用する必要がある。尚、こういったイベントクエストは一度コラボしたものはユグドラシル内の通貨を支払うことでいつでも受けられるようになっていた。

 

ジェノサイダー

 割と最初の方に取得してしまった職業。取得可能条件は『一日で合計百人のプレイヤーを単独でキルする』こと。

 対象と自分とのレベル差の制限が一切無いため、取得難易度はそこまで難しい訳ではない。

 攻撃面の能力値が大幅に上昇し、更に速度も向上する。その代わり防御面は殆ど成長しない。また、この職業を取得しているだけでカルマ値が-100を上回らなくなる。

 虐殺者の名の通り、一対多の状況下で強力なスキルを多数取得出来る。その反面、自分より圧倒的に強い個との戦闘は不得手。

 見過ごせないデメリットとして、武術系統に属するスキルを使用できなくなるというものがある。一部の物理攻撃は武術系のスキルを使用することで回避や反射が可能であり、それを無効化するには同じ武術系のスキルが必要不可避のため、ガチガチのモンク系が相手だと最悪近距離では一切手が出せない事にもなりかねない。

 

エクスキューター

 当初は取得していなかったが、アインズ・ウール・ゴウン入団後にビルドを見直し取得する流れに。

 彼女が振るう処刑剣の動作は全てこの職業からきている。剣を振るうのに何故ジェノサイダーのデメリットの対象ではないのかというと、そもそも処刑剣は戦闘で使うものでは無いから。咎人の命をその罪と共に切り捨てる事が処刑人の仕事であり命題でもある。

 まあ、それを戦場で扱うのは如何なものなのか……

 信仰系魔法詠唱者の中でも、肉弾戦に長けたクレリック等の職から派生する。

 何故か自己回復のスキルや戦闘向けのスキルが多く、まともに処刑を行うようなスキルは数が少ない。

 

クエスティング・ビースト

 何故信仰系魔法詠唱者が高位の魔力系魔法を行使できるのかという問いへのアンサー。

 智慧持つ獣の唸り声は幾重にも重なった詠唱そのもの。

 レベルが上がるごとに三つ、計15の魔力系魔法を取得することが出来る。

 のだが、当然正規のものよりも弱体化しており威力の減少、消費MPの増大、効果範囲の縮小、使用後リキャストタイムの増加、が挙げられる。

 また、魔法威力の向上や獣の身体能力に関係するスキルを取得出来る。

 

アズライール

 死の霊廟に住まう天使。穢れ無き筈の天使が数多の死を重ねたうえに至る極致。

 天使系統の種族を最大まで成長させ、更に戦闘に特化した職業を重ねることで取得が可能となる最上級職。

 反則級のスキルに加え、索敵防御もなんのその。その性能はモモンガが割と本気で羨ましがる程。

 主にDead by Daylightを元ネタにするスキルを取得する。この辺は完全に趣味でした。

 

<天撃>

 天使系種族『星天翼の熾天使』を5Lvにすると習得可能。一度使うと再発動には100時間を要する。デメリットの量と質を操作でき、多く重いものであるほど威力上昇と特殊効果が追加される。判明しているのは能力値○%減少、HP減少、外見を強制的に変更(幼く)する、一定時間行動不可、フィールド内の全てのプレイヤーに位置情報公開、飛行能力封印、レベルダウン、無効系能力を無効化、デバフ解除不可、キル時全アイテム譲渡、キル時レベルダウン量増加、バフ無効化、デメリット時間延長等。

 全てのデメリットを最大に設定して放つ天撃はユグドラシルでの実験時に、下から数えた方が早いとは言えワールドエネミーの一角を、多数のバフが乗った状態ではあるものの一撃で体力の半分を削り飛ばしアインズ・ウール・ゴウンの伝説の一つになった。ちなみにその後落下ダメージで本人は死亡した。

 

血塗られた断頭の処刑台

 ボア・ドゥ・ジュスティス。

 第9位階魔法。信仰系に属する。

 対象に不可視の枷を嵌め拘束する第一段階と、頭上より落とされるギロチンの刃が斬首を執り行う第二段階に分かれる。

 

 第一段階でも若干のダメージと動作速度を一時的に低下させる追加効果が発生する。拘束を解除した、若しくは拘束されなかった時点で魔法は終了する。

 

 第二段階のダメージは即死。

 ジブリールが好んで使用する魔法だが、MPの消費は軽くは無く魔法職一本ではない職業構成のため、多少ならまだしも延々と撃つと直ぐにMPが枯渇する。支障の無いようにするため基本的には一戦闘に二十回が限度。

 元ネタは神座万象シリーズの聖遺物『罪姫・正義の柱(マルグリット・ボワ・ジュスティス)』

 

光あれ

 フィアト・ルクス

 天使系統の中級、権天使程度なら基本習得できるスキル。

 眩い光を短時間発生させ、周囲の敵性エネミー、プレイヤーに極短時間盲目状態とスタンを付与する。

 信仰系の職業を修めているプレイヤー、天使系統のエネミーには若干効果が薄くなる。

 クールタイムは30秒だが、短時間に同じ相手に複数回使用すると次第に効きが悪くなる。

 

空間転移

 シフト

 星天翼の熾天使が習得できるスキル。

 一度行ったことのある場所か視界の範囲にある場所に即座に転移する。

 転移中の状態は維持される。

 1日に30回使用可能。

 

尊き白の束縛

 ホワイトジェイル

 第6位階魔法。信仰系に属する。

 淡い光と共に周囲の空間から純白の鎖が現れ対象を拘束する。

 カルマ値によって拘束を解除する難易度が変化する。

 +500程にもなれば20レベル戦士職の筋力で振り払うことも可能だが、-500では80レベル戦士職ですら単独では解除できない。

 

業の開示

 カルマ・サーチ

 第3位階魔法。信仰系に属する。

 対象のカルマ値を確認できる。

 対象のレベルが自身より高くなるほど曖昧にしか分からなくなる。

 例えば、レベル100がレベル50に使用するのなら相手の現在のカルマ値が詳細に確認できるが、その逆なら自分より上か下か程度にしか判別できない。

 

光輝の聖印

 ホーリー・スティグマ

 天使系統の上級、主天使程度なら習得できるスキル。

 次に行う信仰系魔法の威力を大幅に上昇させる。

 クールタイムは6時間。

 

砕け散る錫杖

 ブロークン・スタッフ

 天使系統の一部が習得できるスキル。

 次に行う魔法の威力を強化する。

 1日に2回使用可能。スキルによって召喚される天使は一度使用すると再使用はできない。

 

神聖なる加護

 ブレス・オブ・ホーリー

 天使系統の下級から習得できるスキル。

 一定時間自分の行う信仰系魔法を強化する。

 クールタイムは16分。

 

久遠第四加護

 クー・リ・アンセ

 星天翼の熾天使が習得できるスキル。

 ワールドクラスの一撃でも無ければほぼ全ての攻撃を無効化する翡翠色の防壁を展開する。

 周囲の複数人を中に入れることが出来る。

 1日に2回使用可能。

 

輝光の五月雨

 レイン・オブ・ブライトネス

 第6位階魔法。信仰系に属する。

 光の散弾を雨のように対象に放つ。

 一撃一撃のダメージは少ないが、多段ヒットする性質と硬直の追加効果があり、飛び道具に衝突させ弾き飛ばすのが有効な使用法。

 

破城一掌

 ジェノサイダーが習得できるスキル。

 名の通り城すら破壊せしめる一撃を放つ。

 威力の割に隙が短く、直ぐに次の行動につなげることが出来る。

 拳で殴り掛かるだけなので、武術系統のスキルによってはカウンターを受ける危険もある。

 

飛鳥落し

 ジェノサイダーの習得できるスキル。

 空中で前に回転しその勢いのまま踵落しを打つ。

 シンプルかつ高威力のスキル。

 ジブリールは破城一掌で上空にカチ上げ飛鳥落しで下に叩き落とし、何かしらの追撃を撃つコンボを多用する。

 

No One Escapes Death

 何者も死から逃れる事能わず

 アズライールが取得出来るスキル。

 戦闘中に特定の条件を満たした上で死亡すると発動するスキル。モモンガにとってのThe goal of all life is death(あらゆる生ある者の目指すところは死である)に相当し、同じく100時間に一回しか使用できない。

 発動するとペナルティ無しで即座に蘇生し、更に以降あらゆる攻撃に耐性無視の即死属性が付与され、行動速度が上昇する。この効果は戦闘終了か発動から10分経過するまで継続する。

 モモンガ曰く、天使が持っていいスキルではない。

 

Brutal Strength

 残忍な力

 アズライールが取得出来るスキル。

 オブジェクトへの与えるダメージを増加させる。実は無機物系の異形種へのダメージも増加する。

 設置される罠や敵の装備を破壊するために使用される。

 

Bloodhound

 血痕の追跡者

 アズライールが取得出来るスキル。

 一度でもダメージを与えた相手の位置を暫くの間捕捉する。

 流血しない種族には発動しない。

 

Lightborn

 光誕者

 アズライールが取得出来るスキル。

 光、清浄によるダメージ及び視界への不調を軽減する。

 種族的に元から光には耐性を持っている為そこまで重要ではない。

 

Dying Ligh

 消えゆく灯

 アズライールが取得出来るスキル。

 発動時に対象を一体選択する。選択した対象は行動速度が強化されるが、その対象が殺害されると他の敵対エネミー全てに永続的な行動速度低下のデバフが掛かる。あくまで永続的というだけで解除は可能。

 

Devour Hope

 貪られる希望

 アズライールが取得出来るスキル。

 本人曰く「奥の手の一つ」。発動自体に加えて効果の開放にも一定の条件が必要。ユグドラシルで使用した際には大抵のプレイヤーからチートだと疑われた。

 

Remember me

 私を忘れるな

 アズライールが取得出来るスキル。

 敵性エネミーは一定範囲から逃走が出来なくなる。直ぐ逃げるレアエネミーを狩る時に重宝された。

 

ヤコブの証明

 天使系のレベルを一時的に失い、人間種に変化する。職業レベルに、失った種族レベルの合計と同等の『聖人』が追加される。

 

生命の諸天

 ワールドエネミーであるセフィラーの十天使を天使が討伐すると得ることの出来るスキル。これをコンプリートするためにアインズ・ウール・ゴウンは百回近くセフィラーの十天使に挑むことになった。

 

 展開予定

 ジブリール法国に接触、自分は転生したスルシャーナの僕であると宣告する。数度の会談を経てスレイン法国とナザリック地下大墳墓間で消極的な協力関係を結ぶ。消極的になったのはお互いに信用がなかったため。

 ここで繋がりが出来たのでシャルティア洗脳は無くなる。良いか悪いかで言うと将来的にはギリギリマイナス。

 物語の〆はモモンガと戦闘をさせる気でいた。そこまでの話の持って行き方が作れなかったが。

 

ジブリールの戦闘能力

 前衛信仰系職で、シャルティアを更に攻撃性能に特化させたようなビルド(正確には、ジブリールを元にガチクラスを選択して総合的な性能をとったのがシャルティア)。その分防御性能には難があり、耐性も若干穴があるため存外脆い。

 大鎌、処刑剣といった大型の武器を存分に振るい敵を蹂躙する。

 取得した職業の影響で一部魔力系の魔法を使えるほか、信仰系の魔法を広く修めており特にアンデッドには無類の強さを誇る。

 本人のプレイヤースキルは上の下程度。気分が上がってくると防御や回避よりも攻撃を選びがちだが、対人の戦績はそれなりに良い。事前の情報収集などはあまり気にしないタイプで、何度かギルドメンバーに注意を受けている。

 モモンガとは直接PvPをしたことは無いが、相性は圧倒的に有利で、モモンガ本人も初手で封殺しに掛からないとどうあがいても勝てないしそれが成功する確率も低いと考えている。

 仮にお互いが初見の状態でガチでやり合うとすると、一戦目は高い確率でジブリールが勝ち、二戦目以降ではモモンガに若干の勝ち目が出る。といっても精々3:7程度にまで持って行けるだけで、敗北の可能性は高い。

 ナザリックの守護者と仮に戦うとすると、シャルティアには相性差で有利、ガルガンチュアには単独では勝てないが負けもしない、コキュートスには不利、アウラには有利でマーレには不利、デミウルゴスには有利、ビクティムは論外、セバスには不利、アルベドには五分である。

 

 



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