騎士と一角獣 (un)
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一話 一角獣

  宇宙世紀0096年。

 

 赤い彗星の再来が率いる「袖付き」・自らの利権を求める連邦軍達とのラプラスの箱を巡る戦いが終わり、白い角をつけたMSは少年達の手で誰も知らない廃棄されたコロニーの中に隠されていた。

 

 ユニコーンガンダム

 

 貴婦人と一角獣と呼ばれる絵画をモチーフにして作られたこのMSは高度な技術を持つこの宇宙世紀時代でも解明できないサイコフレームと呼ばれる材質で作られ人知を超えた力を持っていた。

 

 その力は、ガンダムの伝説を作りあげた男とたった一機のMSが巨大な隕石を押し返し

 ある時は、人と人の心をつなげ戦いを止めるなど奇跡を起こしてきた。

 

 やがて戦争も終わり月日が流れた。だが、ある日突然ユニコーンが輝き始める。

 操縦者がいないのにも関わらず、ユニコーンの輝きが増していきユニコーンは姿を消してしまう。

 

 そして、後に一角の獣と狂人の趣味人の物語が始まるのであったーー

 

 

 宇宙世紀の世界ではない異世界。高度な科学などないが、その代わり魔法がありさらにザクやジムなどライフルやビームサーベルがなく、どこかの国の紋章を入れた盾を持ち騎士を思わせる機械兵器「幻晶騎士」(シルエットナイト)があった。

 

 この日、フレメヴィーラ王国の学園に通う騎士見習いの生徒達が魔獣の群れに襲われほとんどの生徒達が逃げ惑う中。一つ、小さな影が愛用の杖から魔法を発し次々と魔獣達を撃破していく。

 

 エルネスティ・エチェバルリア

 

 少女のような容姿を持つ彼は、近くにいる幼馴染達と共に魔獣を蹴散らし一段落するとエルは金髪の生徒会長に抱き着かれながら、魔獣の襲撃に思考を走らせるが

 

「っ!?」

 

 突如、エルの頭の中に何かが。一瞬、白い角を持つ何かのイメージが浮かんだ。

 

「ろ、ロボット?」

 

 まぎれもない、自身が前世から愛したロボットだと気づく。エルの様子が変わったことに双子の幼馴染であるキッドとアディが顔を覗き込んだ。

 

「どうしたエル?」

 

「も、もしかして怪我しちゃったの!?」

 

「い、いえ。大丈夫ですが…っ!?」

 

 地響きが起き、その場にいた者達が顔を上げると巨大な何かが動いていた。先ほどまでエル達が撃退していた魔獣達よりはるかに大きい魔獣「陸皇亀」(べへモス)がおり、動くたびに大地を揺らした。

 

「べへモスだと!?」

 

 白い幻晶騎士(シルエットナイト)に乗るエドガーが叫び、他の幻晶騎士(シルエットナイト)たちがベへモスの巨大さと威圧で後ろに下がる。

 

 幻晶騎士に乗る騎士たちが、学生達の避難のためにベヘモスに攻撃を仕掛けた。

 火球や剣でベへモスの足や顔に攻撃するが大したダメージを与えきれない。

 

 そんな様子を遠くから見ていたエルに再び、まるでエルに呼びかけるように「何か」感じエルは馬車から離れ風のように駆けた。

 

「エル!?」

 

「エル君!?」

 

 幼馴染達の静止の声を振り切り、ベへモスの戦闘から離れていく。

 

「誰なんですか? 僕を呼んでいるのは?」

 

 エルはつぶやき、先ほど頭に浮かんだロボットの事を思いながらどんどん加速していく。

 

 もっと、もっと早く!!

 

 風の弾丸と化したエルが木々を抜けると、彼の前に白い何かがあった。

 

「こ、これはっ!!」

 

 まるで、誕生日に欲しかった物をプレゼントされた子供のようなきれいな目と笑顔を浮かべるエル。それは幻晶騎士とは全く違う形をしており、全身がほとんど純白のロボットのだった。

 

 どうしてこんなところにロボットが? 一体、誰が作ったのか? 

 

 気になることが一杯あるがエルはさっそくコックピットを見つけ中に入る。前世からの望みであったロボットに乗ることが叶い歓喜する中、偶然手のひらが何かの機械に触れ画面が動く。

 

「これは...生体認証…なるほど。先ほど触れてしまったのが原因ですか。他は…っ!?」

 

 また頭にビジョンが浮かぶ。エルが今乗っている機体に少年と血を流している男がいた。

 

 男は少年の覚悟を。空から落ちてきた少女を守る覚悟を伝えると男は少年の手を掴み機体の生体認証を登録し自ら火の手が広がる外に出た。

 

「父さん!!」

 

 少年が男に向け叫ぶも男は火に飲まれる。閉じたコックピットの中で少年は男の血で染まった顔を拭く事なく、自分の物になった機体。ユニコーンガンダムを動かした。

 

「ユニコーン、ガンダム…それがこの機体の名前…」

 

 エルは頭に浮かんだビジョンを元に自身の体格にシートを調節し機体を動かしコックピットのハッチを閉め、機体を動かす。

 

「初めて動かすのが幻晶騎士ではないのが残念ですが…それでも、ロボットの中にいて動かせるなんて、僕は、僕は幸せです!!」

 

 これまでに見せたことのない「狂気」を感じさせる笑みを浮かべ、エルはユニコーンのスラスターを吹かせ戦場に向かったーー

 

 

「ひ、ひぃぃ!!」

 

 ベへモスの口から強力なブレスが吐き出され、数機の幻晶騎士が吹き飛ぶ。

 

 紅い装甲を持つグゥエールを操縦者するディーは恐怖で機体の足を止めてしまう。他の仲間たちも賢明に攻撃を続けるが、巨大な魔獣は足を止めない。

 

「機体が、動かない…」

 

「ヘルヴィ!!」

 

 エドガーが叫び、女性騎士が操縦する機体をアールカンバーが支えているとベへモスは再度ブレスを吐くため大きく息を吸い込み始めた。

 

「あぁ…あぁ…」

 

 ディーだけでなく騎士たちは恐怖で機体が動かせない。もうブレスを防ぐ事ができないと諦めた時、どこからか高速の弾丸が飛びベへモスに直撃してブレスが不発に終わる。

 

「な!?」

 

「なんだあれは!?」

 

 エドガーやディー達が上を見ると、角をつけた白い機体がこめかみの部分から高速の弾丸を発射しながらブースターに火を吹かせてベへモスに向け突進していく。

 

 突如現れた見たことのない幻晶騎士とは違う形の機体を見て驚く中、白い機体。ユニコーンが背中に装備された棒を掴む。

 

「バルカンだけでもこの威力...素晴らしいですよユニコーン!!」

 

 刃のない柄から、エネルギーの刃が出現し魔法や剣で傷つけられなかったベへモスの体を簡単に切り付けると、ベへモスが痛みに大きく吠えた。

 

「すごい!! ビーム兵器を搭載しているとは…」

 

 ベへモスがビームサーベルで切られた痛みで暴れ出し、エルはブースターを使いベへモスから離れた。

 

「武装はバルカン・ビームサーベル…あとはビームマグナムがありますね、しかしこちらは弾が15発しかありませんし…ん?」

 

 エルが装備を確認していると、突然画面が切り替わる。

「NT-D」赤い画面にそう表示された時、コックピットの中で変化が起きた。

 

 コントロールレバーがなくなり、シートが動き後ろから体を固定される。

 さらに、機体が変化し赤い光が生まれ、額にあった角が割れ二つのツインアイが光った。

 

 ユニコーン デストロイモード

 

 ニュータイプと呼ばれる存在を消すために作られたシステムが、ベへモスの中にある純度の高い触媒結晶に反応し真の姿と力を現した。

 

「姿が変わった!?」

 

 エドガーがユニコーンの姿を見て目を大きく開き叫んだ。

 

 エルの意思どうりにユニコーンは素早く腕に装備されたビームトンファーでベへモスの体を次々と切り裂き、反撃するベへモスの角や鼻を素手で砕き最後にはベへモスの脳天に向けビームの刃を突き刺しベへモスは動かなくなった。

 

「な、なんなんだあれは...」

 

 ディーがベへモスを一方的に殺戮するユニコーンを見てつぶやき他の騎士たちは、異形の機体であるユニコーンを見て自分達を助けてくれた敬意と恐怖を感じた。

 

 一方で、操縦者であるエルはユニコーンの真の力に打ち惹かれるが、突如彼の頭の中に多くのビジョンが浮かんだ。

 

 宇宙空間で散っていくMSと命、ベへモスと同等の巨大なMA(モビルアーマ)との闘い、そして、黒いユニコーンーー

 

 「こ、これは...」

 

 ユニコーンのこれまで経験したきた事がエルの中に流れこみ、ユニコーンの記憶の渦に飲まれエルは気絶してしまう。 

 

 その後、王国から来た援軍が現れるが彼らが見たのは既に動かなくなったベへモスと元の一本角に戻った見たことのない異形の白い機体だけだったーー

 



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二話 夢の中の少年

 ユニコーンの記憶に飲み込まれ、気絶したエルは夢を見ていた。

 

 宇宙にて四枚の羽根を持つロボットと操縦者である女性との闘い。

 

 赤い巨大ロボが都市を破壊し、涙を流しながら親から受け継がれた信念を通そうとした女性の最後。

 

 黒いユニコーンとの闘い。そして、巨大な深紅のロボの姿を見て

 

「すごい!! 僕の見たことのないロボットが一杯です!!」

 

「それがあなたの望みなのか?」

 

 興奮して叫ぶエルに誰かが声をかけた。

 

「あなたは...」  

 

 エルは声をかけてきた少年を見て驚いた。目の前には初めてユニコーンを動かした時にユニコーンが見せてくれた少年がいた。

 

「あなたの望みは戦う事なのか?」

 

「いいえ、僕の望みは...」

 

 エルが自らの望みを。前世では潰えた夢を告げた。

 

 少年はどこか納得した顔をしエルに向け指をさすと、光が生まれた。

 

 「人は誰もが自分の中に神を持っている。可能性という神が...もし、あなたがこの世界で自らの可能性を信じ続けるなら...」

 

 やがて光が強くなり、目が覚めたエルはベッドの上に寝かされていた。

 

 「ここは...っ」

 

 エルは気絶する前の戦いを思いだし、傍にあった杖を掴み部屋の窓から身を乗り出すと風魔法で体を浮かせ移動する。

 

「僕の...僕のユニコーンは...」

 

 

 

「くそ!! どうやって調べればいいんだよ!?」

 

 ベへモスとの闘いが終り数時間後。

 幻晶騎士の技術者であるドワーフの一人がユニコーンを見て怒鳴った。

 

 この世界に元から存在しない機体を見て、ドワーフだけでなく戦闘に参加した騎士たちも驚きを隠せないでいた。しかも、幻晶騎士ですら太刀打ちできなかったベへモスを一方的に蹂躙した力を聞き、王や貴族たちもユニコーンに関する情報が欲しいと声が上がっていた。

 

 コックピットは開いておりシートにはベへモスと戦っていた騎士の一人。エドガーが乗り適当にボタンやペダルを踏むが何も起こらない。

 

「どうやって動かせばいいんだ...」

 

 ベへモスが倒れた後、動かなくなったユニコーンにエドガー達が近づくと突然コックピットが開いて、中には意識のないエルの姿がありさらなる衝撃をうけた。

 

 どうして彼がこんな機体に? 

 

 この機体はどこから手に入れたのか? 

 

 様々な疑問があるが、当の本人は意識が戻らず聞ける人間などいない。

 ため息をつきながらエドガーはコックピットから出た。

 

「それにしてもあの子、どこからこんな物を...」

 

「...」

 

 エドガーの仲間であるヘルヴィーがユニコーンを見つめディーは何も言わずユニコーンをにらむ。 

 

「いた!! 僕のユニコーン!!」

 

 突然風が吹き。気づけばユニコーンのそばに銀色の髪をした人物が着地しコックピットを除いた。

 

「え、エルネスティ!?」

 

「あぁ、エドガー先輩、こんにちは!! 先輩もユニコーンに乗られたのですか!? 乗られた感想はどうでしたか!?」

 

「あ、いや...」

 

「僕も一度しか操縦してなくて、まだまだ足りないくらいです!! 魔法ではなくビーム兵器を使った機体をこの手で触れる事なんて感激です!! では、さっそく僕も操縦を...」

 

 エドガーの静止を無視しコックピットに乗り込むエル。すると、さっきまで反応がなかった機器類が動きだしエルはパネルを操作する。

 

「推進剤や弾薬には十分余裕がありますね...一度慣らし運転を...」

 

「エル!!」

 

「エル君!!」

 

 外から二人分の声が聞こえ、近づいてきた。エルの幼馴染であるキッドとアディがコックピットまで近づき、シートに座るエルを見て。

 

 

「何やってんだよ!?」

 

「突然いなくなって、心配したんだからね!!」

 

 二人の真剣な顔を見てエルは「すみません」と謝り、コックピットから降り電源が切れる。

 

 双子の説教を受けしばらくしてから、エルはユニコーンについて話した。

 

 さすがに森に落ちていたと正直に言って誰もが最初は信じなかったが、未知なる機体は確かに目の前にあり信じるしかなかった。

 

 それから周りにいたドワーフや騎士たちから質問攻めを受けるが、突如一人の老人がエルに声をかける。

 

 老人の名はラウリと言いエルの祖父であり学園の長でもあった。

 

 ラウリから話を聞き、エルは名残押しそうにユニコーンを見た後。用意された馬車に乗り城に向かうのであったーー

 

 

 

 

 

 

 

 




 今回は戦闘も何もなく短めです。


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三話 可能性

 前回と同じく、今回も戦闘はありません。

 できれば次回ぐらいには、戦闘シーンを入れたいなと思ってます。


 エル達を乗せた馬車が城に到着した頃、一人の初老の男性が玉座にて手元の資料をにらんでいた。

 

「幻晶騎士ではない謎の機体か…」

 

男性はアンブロシウスと言い、このフレメヴィーラ王国の国王でありこれまで国を導いてきた大いなる王は今、未知なる存在。ユニコーンガンダムに興味を示していた。

 

「聞けば、その白いのを操りベへモスを討伐したのはラウリの孫と聞くが…さて、どうしたものか…」

 

 アンブロシウスがつぶやくと、玉座の扉が開かれエルとラウリの二人が入り膝をついた。

 

「わざわざすまぬな、してその子供が…」

 

 労いの言葉をかけられエルが自己紹介をし、アンブロシウスはエルの容姿を見て女子だったかと問い、エルは自分を男子であると訂正しそれからエルからの報告に入る。

 

 ユニコーンをどこで手に入れたのか?

 

 報告にあった、光る剣と姿が変わった現象は一体何なのか?

 

 ラウリだけでなく、控えている騎士や貴族たちの視線が集中する中。エルは頭の中に浮かんだビジョンからユニコーンを見つけ乗り戦闘を行った経緯を説明しビームサーベルやNT-Dについてはエルもまだ分からないとだけ答えた。

 

 だが、エルの話を信じていないのか貴族の一人、公爵の地位を持つクヌートの目が厳しくなる。

 

「…と、それが僕がユニコーンを見つけた経緯になります」

 

「ユニコーン? あの白いのには名があるのか?」

 

「はい。正確にはユニコーンガンダムと言う名前らしいのですが」

 

「ユニコーン…ほぉ、一角獣の名を持つか…その機体の調査はすぐに行うとして、もう一つおぬしに話がある」

 

 ユニコーンについての話が終り、今度はエルについての話になる。ベへモスを倒した褒美がまだだと言う事で王直々にエルに願いを聞き始めた。だが、アンブロシウスの表情こそ穏やかだが瞳の奥には何か別の物を感じエルは顔を伏せる。

 

(これは、試されてますね…下手な事を言えば完全に相手のペースですし、さてどうしたものか…)

 

 エルの考えは当たっており、アンブロシウスはまだ幼いエルが強大な力を持つユニコーンを持つのは危険だと感じ、褒美を与えユニコーンから意識をそらす考えを持っていた。

 

(恐らく僕からユニコーンを引き離そうと考えているのでしょうね。ですが、せっかくのチャンスですのでここは…)

 

 王からの褒美と、ユニコーンの二つをどうにか結びつける方法を考え、エルは

 

「陛下にお願いいたします、僕の願いはーー」

 

 

 

 王との謁見が終り、空に夕日が昇る城内にてクヌートは難しい顔をしていた。

 

 原因はエルが王に頼んだ褒美の内容が幻晶騎士の心臓部分である「魔力転換炉」の製造方法とユニコーンの調査に参加する事だった。

  

 実際にエル以外の者が動かそうとしてもユニコーンは反応しなかったためエルを加えるのは仕方ないが、国の宝となる炉となるとこれには流石に王の首が立てに振られなかった。

 

 そこで、炉の知識を手に入れる条件が出された。

 

 一つはエルが知識を求める理由である「一から自分だけの機体」を作ることから

「新たなる機体の製造」とユニコーンの調査報告で大きな成果を出すことの二つだった。

 

 エルは特に気にした様子もなく、その二つの条件を受け入れその後は問題なく終わったがクヌートの表情が晴れない。

 

 アンブロシウスの昔からの遊び心と、巨大な力を秘めるユニコーンに対しての危機の二つのストレスから大きなため息が漏れる。もし、エルがユニコーンを使い反乱を起こしたら止められるのか? あの機体はどこかの国から差し向けられた罠ではないか?

 

 消えない不安を抱えながら、気苦労の多いクヌートは空を仰いだーー

 

 

 

 翌日。王都中がベへモスの討伐を祝いお祭り騒ぎだった。町では飲み屋で人が騒ぎ、多くの学生が出店などで楽しむ中、学園の格納庫にて

 

 「さぁて、忙しくなりましたねぇ!!」

 

 朝日が昇る前から学園にいたエルはユニコーンのコックピットの中で張り切り機器類を操作していた。画面に映る文字は全て英語だが、前世でプログラマーの経験と知識を持つエルにとっては特に問題なく操作していく。

 

(新型機の開発と同時に調査もしなければなりませんし。時間はありません…できればユニコーンの装備とかで何か役に立てればいいのですが…)

 

 高速でキーボードをタイピングしながら、新型機の事を考えていると二つの影がユニコーンに近づいていることにエルは気づいてない。

 

「サイコミュ? 聞いたことのない言葉ですね、これが機体の中にあるということは何か重要な役割が? それに、ベへモスと戦った時に出たNT―Dとは一体…」

 

「エル君、こんなところにいたの?」

 

「ダメですね、どこを操作してもNT-Dの起動コードはありませんし。何か特別な状況でないとダメなのでしょうか…」

 

「おーい、エル?」

 

「やはり、一度動かしてみない事には…ん? これは、MS? あぁ!! なんてことでしょう!! こ、これは夢で見たロボットたちのデーターでは「「エル君!! エル!!」」 「は、はいっ?」

 

 二人分の大声でやっと気づいたエルはコックピットから出て、頬を膨らませ不機嫌なアディと、ため息をついたキッドがいた。

 

「もう!! さっき家に行ったらもういなかったから、もしかしてと思ってきたら…」

 

「家の人達、心配してたぞ?」

 

「あぁ、すみません…ユニコーンの事が気になってつい眠れなかったもので…」

 

 エルはすぐに謝り、三人は一度格納庫から離れ外に出ると学園の中でも周りから祭りの声や音が聞こえていた。

 

「なぁ、エル。あの白い奴について何かわかったのか?」

 

「まだ少しだけですが、先ほど面白い物を見つけました」

 

「面白い物?」

 

「それはまた今度教えますので…ふぁ…」

 

「大丈夫かよ…」

 

 一睡もせず作業をしていたせいか大きなあくびをして目をこするエルを見てアディは、近くのベンチを見て「あっちで少し休もうか?」とエルを連れベンチに座るが、アディは自分の膝にエルの頭を乗せ当たり前のように膝枕をした。

 

 眠たかったエルは特に何も言わず、アディの膝に頭を乗せすぐに夢の中に落ちるのであったーー

 

 

 

「これが、ラプラスの箱…」

 

 二人の少年と少女が、老人の前に立ち一つの石碑を見ていた。エルは三人の話から、この石碑を「ラプラスの箱」と言い、宇宙世紀憲章のオリジナルだと分かった。

 

 この石碑には、未来に向けての祈りでありメッセージが込められていたのだが、いつしか人々の間で強大な力を持つ禁忌とされてしまった。しかし、この日一人の少女が箱の存在を世界に広めた。

 

 彼女もまた、己の生まれと宿命に苦悩する者だったがユニコーンに乗る少年達と共に歩み続けたことで、答えを得て地上や宇宙に住む人々に告げた。

 

「ニュータイプに全ての救いを求めるのではなく。自分達の中にある可能性と言う名の内なる神を信じて欲しい」

 

 多くの犠牲を出してしまった一つの戦いは終わり、それでも人類の戦いの歴史は終わらない。だが、少年と少女は人々の中にわずかな希望が生まれたのを感じ二人には負の感情はなかった。

 

「なるほど、ラプラスの箱と言う物を探して戦ってきたのですね…」

 

 エルが三人から離れた場所から、石碑を見ていると。一人の赤いパイロットスーツを着た男が姿を現した。仮面を被った彼はラプラスの箱を奪うつもりだったが、防衛システムが働き逃げていく。

 

 そして、戦いが起き深紅の巨大なロボが姿を現し次々と敵を倒していきユニコーンと、ユニコーンに似た黒い機体が対峙した所でーー

 

「エル君、エル君!!」

 

 アディに起こされ、エルが目を覚ました。傍にいたキッドが格納庫の方を見て「何かあったみたいだ」と言い、三人が格納庫に入ると

 

「くっ!! 何故動かない!!」

 

 コックピットのシートにディーが座り、動かないユニコーンに対して叫んでいた。いつの間にか倉庫にはドワーフ達も集まり、その中でエル達は知り合いを見つけ声をかけた。

 

「バトソン、どうしたんですか?」

 

「あ、エル!! ちょうどよかった!! 今、騎士の人が勝手にアレに乗って…」

 

「事情は分かりました、要するに誰かがユニコーンを動かそうとしているのですね?」

 

 エルは慌てる事なく言い、バトソンは頷く。ユニコーンには登録された人間以外には操作できないようになっており、勝手に動かすことはできないので問題はない。

 

「おらっ!! どこのどいつだ!? 調査中の機体を勝手にいじりやがって!!」

 

 エルやバトソンよりも体格がしっかりしたドワーフの一人。周りから「親方」の通称で呼ばれている彼が、ユニコーンのコックピットに手を伸ばし、中にいたディーを掴んで放り投げ床に叩きつけられた。

 

「ぐっ!! 」

 

「たく、壊しちまったらどうすんだ…ん?」

 

 親方は、エルの姿を見つけるや声を上げてエルに近づいた。

 

「坊主、こんなところで何してんだ!?」

 

「何って、機体の調査をしてましたけど?」

 

 エルは当たり前にように告げると

 

「だったら、さっさと分かった事を報告しろ!! こっちは国から直々に命令受けてんだ!! それに、他の機体の修理やらなんやらでこっちは忙しいんだよ!!」

 

と言うことで、そのままユニコーンの調査を再開する事になった。先ほどディーが乗って何も起きなかったコックピットは、エルが乗ると電源が入り周りの者たちが声をあげて驚く中、エルは現状で分かっているユニコーンの情報を伝え、騎士やドワーフ達が必死にメモを取る。

 

「こいつは、もはや幻晶騎士じゃねぇな…どう報告すればいいんだが…」

 

「まぁ、そこは僕もお手伝いしますので…それと、親方」

 

「ん? なんだ?」

 

 エルはユニコーンのコックピットから降り、親方含め周りの者に声をかける。

 

「機体の調査も重要ですが、それと同じく今改修中の機体を強化していきましょう」

 

「強化だと?」

 

「はい、まずは…」

 

 エルがまず行ったのは今改修中の機体の内部構造の強化からだった。結晶筋肉と呼ばれる部分を改良・増加し耐久を上げる事から背部に装備を増やす背面装備など、これまでにないシステムを伝えると、

 

「おめぇは、一体なんなんだ?」

 

 見たことも聞いたこともない改造に親方だけでなく、アディやキッド。さらに、先ほど親方に投げ飛ばされたディーもエルに注目し

 

「僕ですか、僕はただ趣味で「創り」たいのと…」

 

言葉を一度切り、エルは口を開く。

 

「自分の中にある可能性を信じてみたい。それだけですね」

 

 エルの言葉を聞き、親方が納得したように笑い。双子や何人かが頭の上に ? を浮かべる中一人、ディーは「自分の中にある可能、性…」とつぶやいた。

 

 それから、改修作業が始まりエルや親方の指示の元、格納庫にあった機体が改修され以前よりも確実に強化された。さらに、作業の効率とさらなる開発のため幻晶騎士をより小型にした幻晶甲冑(シルエット・ギア)が開発され関わった者たちの中には不満を口にする者はおらず、エルが言った「可能性」の灯が宿っていた。

 

「ふむ、この幻晶甲冑も少しは慣れてきたか…」

 

 特に、可能性の灯が大きく宿ったのはディーらしく。エルの可能性の話を聞いてから毎日、格納庫に来てはエル達の手伝いを真面目にしており、そんな彼を見て

 

「ディーの奴、変わったな…」

 

「えぇ、そうね」

 

 遠くから見つめるエドガーとヘルヴィーの二人が頷いた。二人もエルの言う「可能性」の話を聞いており、たった一言で不真面目だった仲間の性格が変わったのには大きく驚いていた。

 

「そういえば、あの子が乗ってた白い機体。ユニコーンって名前だって?」

 

「あぁ、確かユニコーン、ガンダム? と言ったな…ん?」

 

 エドガーが視線をそらすと、格納庫からユニコーンが起動し外に出ていた。

 

「さて、今日は各種装備の調査からしましょうか。」

 

 エルがペダルを踏むと背中のバーニアに火が入りユニコーンが飛び、近くで観察していたアデイたちが衝撃で転びそうになるがなんとか踏みとどまり、空を飛ぶユニコーンを見る。

 

「うわぁ、本当に飛ぶんだ…」

 

 アディがつぶやきユニコーンは格納庫の周りを一周して飛び、エルも少しづつであるが操縦のコツをつかみ着地は転ぶことなくうまくできた。

 

「空中には長くいられませんか、では次は武器の方を」

 

 ユニコーンは背部にあるサーベルの柄を取り出すとベへモスの強固な皮膚を切り裂いたピンク色の刃が出る。試しに、用意していた幻晶騎士の盾や剣に試し切りをして問題なく切断した。

 

「す、すげぇ…あの剣一体どんな仕組みなんだよ…?」

 

「確かに武器は強力だが…あの時の姿にはなれないのか?」

 

 バドソンがビームサーベルの威力に驚く中、エドガーがつぶやいた。ユニコーンのもう一つの姿とその力を目の当たりした者たちにとってはそっちの方に興味があるのだが、何かしらの条件でないと姿が変わらないらしいとエルから聞かされ少し残念でもあった。

 

「さて、今度は射撃武器の方を使いますか…」

 

 エルは傍に置いてあったビームマグナムをユニコーンに装備し、銃口を上空に向けた。

 

「さぁ、始めてのビーム兵器の威力!! 僕に見せてください!!」

 

 エルが満面の笑みを浮かべ引き金を引くと。銃口から赤と紫が混じった強力なビームを発射し、一筋のビームが上空の雲を消し去りながら遥かかなたへと飛んでいき、地上では強力な熱と衝撃で建物が大きく揺れた。

 

「エル君…」

 

「エル…」

 

「…エルネスティ…」

 

 ビームマグナムの衝撃の被害を受け体中、砂と土まみれになった幼馴染と先輩騎士たちがエルの名をつぶやく中、突如空に出現した謎の光を見て国中で大騒ぎになってしまったのであったーー

 

 



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四話 水面下の思惑

「えーと、本当にすみませんでした…」

 

 アディに強く抱きしめられているエルが深く頭を下げ謝った。

 ビームマグナムの試し打ちによる事件から数時間後、強力なビームの被害を受けた建物の修繕や駆けつけた野次馬達に説明をしたりと全員で事の対処にあたり皆顔に疲れが現れていた。

 

 幸いにも今日はお祭りの最中だったため大半の者が大きな花火だと勘違いし、これ以上に被害はなかったが、今回の事でユニコーンの調査は慎重に行うのと、ビームマグナムの使用は禁止の方針が固まった。

 

「ちくしょう、あんな強力なモン。一体どこのどいつが作りやがった? 国でも滅ぼす気かよ? しかも、あんなのがまだ14個も残ってんだぞ?」

 

 親方の目先には、ビームマグナムとユニコーンの背部の腰につけられたパックがあった。ビームマグナムの弾はEパックと呼ばれるエネルギーが蓄えられたパックを一つ消費することで一発撃つことができ、銃本体に取り付けてある4発と腰にある10発がまだ残っており親方がため息を出す。

 

「とにかくだ、あの白いのを動かすな。まだ騒ぎが起きたら面倒だからな、分かったな坊主!?」

 

 親方の怒声まじりの忠告をうけ仕方なく頷くエル。その後、親方や騎士たちは解散しエル達もそれぞれ自宅に戻った。

 

 屋敷に戻ったエルは父であるマティアスと、母であるセレスティナ。ラウリらと今日起きた事を話しながら夕食を摂る。学園の教官である父は昼間に起きた謎の光の正体がユニコーンだと息子から聞き手が止まるが、ティナはにこやかな表情を浮かべる。

 

「あらあら、エルはすっかり夢中みたいね?」

 

「はい!! とっても楽しみにしています!!」

 

「けど、無理はダメよ? 急に家にいなくて驚いたのよ?」

 

 

 エルはうなずき、やんわりとした会話する母と子を見て祖父と父は頭を悩ますのであった。その後、自室に戻ったエルは白紙とペンを取り出し何かを書いていく。

 

「まずは、緑色の機体…ザクと言いましたか? こちらはジオン系統の機体で、ジムやガンダムは連邦制でしたね」

 

 エルはユニコーンの中で見つけた「面白い物」を次々と紙に書いていく。

 

 エルが見つけた物とはUC(宇宙世紀)に作られたMSのデータであり、連邦・ジオン系統のMSのデータからさらに、ユニコーンを含めたガンダムタイプのデータまでありエルにとってはまさに「宝箱」でもあった。

 

 記憶に留めておいた機体の情報を紙に書き、分析をしていく。例えデータがあったとしてもUC世界のMSを、魔法世界であるこの世界で製造することはできないが、王に報告する価値があり後で報告の資料を作成しようと考えながら手を動かし続けること数時間。

 

「ジム・ネモ・ゲルググ・ドム…あぁ量産期も素晴らしいですが、やはりガンダムタイプは美しい。ワンオフ機体だけでも魅力的なのに、数々の伝説を作り人々から「白い悪魔」と呼ばれるなんて…」

 

 机の上がMSの情報が書かれた紙で一杯になる中。エルはユニコーンに似た額に二本のアンテナを付けた「ガンダムタイプ」が気に入ったらしくガンダムタイプの資料を丁重に机の中にしまう。

 

 何時間も作業した疲れと、あまり寝ていなかったため強い眠気が襲いかかりエルは手にペンを持ったまま寝落ちしたーー

 

 同時刻。オルター家の子供部屋にて、キッドは夢の中にいた。

 

「ここどこだ?」

 

 キッドは暗い宇宙空間を一人で立って呆然としていた。キッド自身「これは夢だな」としばらくして気づき、いつ覚めるのかと考えていると、遠くの方で何かが光った。キッドは光の方が気になり近づくと、二つの白と黒がぶつかりあっていた。

 

 一つはエルが乗っていたユニコーンだが、盾を複数持ち背部には白く長い物をつけた重武装の姿だった。さらにもう一つ、ユニコーンに似た黒い機体がまるで憎しみを抱いているかのようにユニコーンを攻撃していた。

 

「なんだ? ユニコーンが二ついる?」

 

 不思議な夢だな とキッドが思っていると黒いユニコーンに異変が起きる。額の角が割れ金色の光を放ちながらまるで獅子を思わせるような姿に変形した。そして、ユニコーンも黄金の光に答えるように赤い光を放ちながら同じく角が割れ変形した。

 

 これにはキッドが驚いていると、視界が徐徐に薄れていく。どうやら夢から覚めるみたいでキッドは二体のユニコーンを少しでも長く見ようと目を凝らすと、不意に黒い方のユニコーンがキッドの方を向き目が合いそこでベッドの上で目を覚ました。

 

「何だよ、アレは…」

 

 変な夢を見て汗をかき、キッドは小さくため息をついたーー

 

 

 ビームマグナムの事件から翌日。エルの指示の元、新型幻想騎士の作業にドワーフ達や騎士達の活気があった。機体の背中に腕をつけ背面に装備をつけるシステムや性能の大幅な改良など次々とこの世界にこれまでになかった技術を開発する中、ユニコーンの調査も同時に行われていた。

 

 時折、城から来た調査団達は、子供では無理だろうと言う理由でエルを抜いて自分達だけでユニコーンを調べるが、やはりエル以外には反応しないためエルがコックピットに入り起動させてからコックピットを調べるが英語で書かれ画面を見て調査団たちが顔を歪ませた。

 

 調査団の表情を見て内心苦笑するエルだが、英語ができるのはこの世界で恐らく自分だけでこの世界にはない単語を知る自分はどうやって彼らや王に報告したらいいのか悩んでいた。まさか、自分が転生した者です など言う訳にはいかない。何か方法を考える必要があると思いながらパネルを操作する。

 

 

 

 やがて月日が三日から一週間。さらに一か月と進んでいき新型の幻晶騎士

「テレスターレ」もだいぶ形になり、さらにユニコーンの調査で一つ新しい事が起きた。

 

「ハロ、ハロ!!」

 

「まってよ!! ハロ!!」

 

 格納庫内で、機械声を放つ緑の玉をアディが追いかけていた。周りの人間は「またか」と言わんばかりにため息をつき、ハロと呼ばれた機械の玉はユニコーンの傍にいたエルの所まで床を転がり移動した。

 

「アディ、ハロは調査で必要なのですから大切にしてくださいよ」

 

「うん、わかってる!!」

 

 エルは自身に抱き着くアディにため息をつき、足元にいるハロを両手で持つ。

 

 そもそも、このハロと言う機械がどうしてここにいるかと言うと。ユニコーンを見つけた場所を調査していた騎士が鉄のコンテナを見つけ格納庫に持ち帰ったのが始まりだった。コンテナの中には、いくつもの銃口を持った「ビームガトリング」やバズーカなど武器があり、さらにコンテナの端にあったこがこのハロだった。

 

 試しにエルが緑色の玉に触れると、突然動きだし周りにいた騎士達は剣を手にした。が、緑の玉は「ハロ、ハロ。バナージどこだ?」と言い地面を飛び跳ねるだけで危害がなく、さらにハロを見たアディが「可愛い」と抱きついた。

 

 しばらくして、この緑の玉は「ハロ」と名付けられた。そして、ハロを時折ユニコーンのコックピットに入れ、画面に映る英語を音読してもらう「翻訳機」の役割をしてもらっているがこの世界の者にとって聞きなれない単語が多くあり作業はあまり進んでいない。

 

 だが、ユニコーンとテレスターレは王国にとっては。いや、この世界にとっては未知の存在であり、二機の情報は王族だけでなく「不穏な影」達にも既に知られていた。

 

 

 夜。人気のない酒場にてフードを深くかぶった集団が、工房にいた学生の一人に金貨を渡し学生は静かにその場から去った。

 

「新型と言い、おかしな白い機体…どっちも手に入れれば、いい土産になるだろさ」

 

 怪しい瞳をした女性がつぶやき、怪しい空気が流れる。

 

 一方で、貴族達もエル達にから上げられた情報に苦悶を浮かべていた。

 

 新型機の性能は明らかにこれまでの物を超えていた。だが、ユニコーン関係で新たに発見された「ハロ」や新たな武装についてもどう扱えばいいのか判断がつかない。

 

 さらに、エルの動向も気になる者もおり。そうした経緯から、直接確認したいと声があがって雨風の強いとある日。

 

 新型とユニコーンの調査に関わった者達がテレスターレとユニコーンを連れ学園から離れて行く。

 

 そして、再び戦いが始まろうとしていたーー

 

 

 

 

 

 

 



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五話 白き力

 だいぶ遅くなりってすみませんでした。

 他の二次の修正とかしていくつもりです。


 

 この日、王国の門から豪雨の中を進む一団がいた。

 

 何台もの馬車が走り、新しく開発した試作の幻晶騎士テレスターレがコンテナを引いて歩く中、ユニコーンも交じって進む。

 

「さて、これからどうしたものか…」

 

 コックピットに座るエルがつぶやいた。悪天候の中、彼らがここにいる理由は公爵から「新型とユニコーン」が見たい、と呼び出されたからだ。

王の次に、大きな権力と力を持つ公爵の命に逆らうこともできず新型開発とユニコーンの調査に関わった者達は公爵のいる砦まで進む。

 

「やはり、ユニコーンは取られてしまうのでしょうかね…」

 

「エル、ゲンキナイ。ダイジョウブカ?」

 

「大丈夫ですよ、ハロ」

 

 コックピットの端に縄で留めているハロが声をかけ、エルは返事を返す。

 

 ベへモスを一機で倒し、異世界の兵器を持つユニコーンはやはり危険としか思われていない可能性が高い。国の安全を考える者からすれば、最悪の場合破壊した方が無難かもしれないが、エルとしてはなんとしても阻止したい。

 

「そうなれば、ハロも取られるんですよね…ん?」

 

しばらく進んでいると天気が回復し、太陽が見えてきた。だが、突如地面が揺れ一団が構えていると、地中から巨大な何かが現れた。

 

「ま、魔獣だ!!」

 

 巨大で硬い皮膚を持ったミミズ。シェイカーワームが一段に襲いかかる。

 

 エドガー達は互いにカバーし合い、背中にあるバックウェポンから火球が発射

され魔獣たちを狙う。彼らは地中を移動する音を頼りに、攻撃を回避して反撃し魔獣の数を減らしていく。

 

「!? そこですか!!」

 

エルは何故かバルカンをあさっての方向に撃つ。味方から「何をしている!?」と声が

あがるが、バルカンを放った所にちょうどシェイカーワームが出てバルカンによりハチの巣になり倒れた。

 

「ビームマグナムは味方を巻き込む危険がありますね、なら!!」

 

エルは、コンテナからハイパーバズーカを取り出し近くに出現した魔獣に向け引き金を引き弾頭が着弾し一体を仕留める。

 

「一応、コンテナにはエネルギーの予備がありますが。なるべくなら節約したいですね」

 

実弾でエネルギーを使わないバズーカーを使い、次々と一撃で仕留めていく。

エルの、まるで先読みしているかのような動きに味方が驚く。が、すぐに大きな地響きが起き、彼らの目の前には

 

「な、なんだ!!」

 

「お、おい!! アレは!!」

 

 地中から大きな土煙をあげ、先ほど倒したシェイカーワームよりもさらに巨大な

シェイカーワームが現れる。

 

「くっ!! 放て!!」

 

 エドガーの声にディーやヘルヴィーが一斉に火球を放つ。巨大シェイカーワームに向け集中攻撃するが、皮膚がとてつもなく硬いせいで剣や火球の攻撃では効き目がなく、

巨大シェイカーワームがエドガー達に襲いかかる。

 

 「させません!!」

 

 仲間と、自身が手掛けた新型を守るため、エルはブースターを使い一気に接近する。

そして、エルの戦う意思に応じたのか、額の角が割れ、赤い光を放つ「デストロイモード」へと姿を変えた。

 

「なっ!?」

 

「あれは!!」

 

 ベへモスを倒した時の姿になり、騎士達が声を上げ驚く中。ユニコーンは腕にある

ビームトンファーで剣や魔法で傷つけられなかった巨大シェイカーワームの体を焼き切った。

 

「これが、NT-D…すごい、機体が思いのままに動く!!」

 

コックピットの中で喜々としたエルは、操作レバーなど使わず機体を動かす。

大きな悲痛の声を上げながら巨大シェイカーワームは地中に逃げようとするが、ユニコーンに片手で頭部を掴まれてしまい、逃げようと抵抗するがビームトンファーで頭部を串刺しにされ絶命した。

 

「ば、化け物だ…」

 

 初めてユニコーンの真の姿を見た騎士の誰かがつぶやき、ユニコーンは巨大な死骸を放りなげ、元の姿に戻っていく。

 

「なんなんだ、ありゃ…」

 

 一方で戦闘をしていたエル達からだいぶ離れた場所に、フードを被った一団が変形したユニコーンを見て驚いていた。見たことにない武器もそうだが、突然変形し、大型魔獣を容赦なく倒した姿に恐怖をも感じていた。

 

「ははっ!! こりゃ土産になりそうだ!!」

 

 顔に傷がある女性が元の姿に戻っていくユニコーンを見て笑った。ベへモスをたった一機で倒した噂を聞きいてはいたが、今目の前で新型の幻晶騎士ですら、傷つけられなかった大型魔獣を一方的に倒した力を見て噂が本当だったと確信した。

 

「連中にはもったいない…アレは絶対に手に入れる」

 

 部下達が野心の目と笑みを浮かべ、ユニコーンしか見えていない女性を見て不安になる中、エル達は準備を整え先に進んだ。

 

 

 

 

 



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番外編 1 ガンプラ作成

 深夜、エチェバルリア邸にて。

 

 「ガンダム…ガンダム…」

 

 怪しげな呪文をつぶやきながら、銀色の髪をした少年がひたすら筆を走らせる。彼の周りには、紙が山のように積まれ「連合」「ジオン」と一応分けられていた。

 

 これらの紙に書かれているものはユニコーンの中にあったMSのデータであり、エルはこのデータをもとに幻晶騎士の装備の参考にしていた。そして、彼はこのデータをもとに、この世界にはない、ある物を作ろうとしていた。

 

 翌日。紙束を抱えたエルは学園の工房にて、職人たちを集め何かを説明する。エルの説明を聞き、職人たちは木工に使う道具を持ち作業に入り、一方で騎士達は頭に?を浮かべていた。

 

 「なぁ、エルネスティ…」

 

 エドガ―がエルに声をかけた。今から作ろうとしている物について質問し、エルは「できあがりまでお待ちください」とだけ、言い背後から抱き着くアディをなだめながら彼も作業に入る。

 

 木材 鉄 塗料 いくつかの材料が集まり、外が夕日に染まる頃。

 大きなテーブルの上に置かれていたユニコーンを見てエルが目を輝かせた。他にも、緑色のザクや、ジム。数体のガンダムタイプがきちんと色を塗られ完成していた。

 

 「ついに完成しました…ガンプラ。プラスチックではないのが残念ですが、これはこれで素晴らしい…」

 

 エルがつぶやくなか、完成したガンプラ。いや、フィギュアと言うべきか、職人たちが作品を眺め、手に持ってみる。武器を持たせ、ポーズを変えてなど夢中になっていた。

 

「なぁ、エル。この一つ目の奴ってなんでこんなにあるんだ? どれも同じだろ?」

 

「そうじゃないんですよキッド!! この緑色のザクは量産型で、赤いのは専用機!! そして、背中に装備がついたのはサイコ・ザクとそれぞれ違うんです!!」

 

「…どれも、同じにしか見えないんだけど。しかも、可愛くない…」

 

 アディが、ザクの説明に夢中になるエルを見てつぶやく。ザク一つにしても、いくつもの種類があるのだが、そんな事を言い出したらエルの説明は今日一日では終わらない。

 

「この紅い機体は、グゥエールに似ているが…シナンジュと言うのか」

 

 ディーが、自分の機体に似たMSを手に取り、紅と金で装飾されたのを手に取る。他にも、ヘルヴィ達女性陣は丸いボディをしたアッガイが気に入ったのか手足を動かす。

 

 やがて、鑑賞会が落ち着き、ほとんどの者が量産機よりガンダム系が気に入ったらしく、エルの用意した資料片手に次の制作について話が進んでいた。

 

「このぜーた? ってやつは、変化するのか? 」

 

「角とか、細かい部分が折れそうだし、どうにかならないか?」

 

 など、いくつか問題点を洗いだし異世界のガンプラ制作が着実に進む。

 

 そして、数日が経つ頃にはーー

 

 「おい!! 騎士団長が乗ってるやつはもうないのか!?」

 

 「白い奴!! 角のついたのは次いつ出る!?」

 

 「くそ!! また、ガンダムが売りきれかよ!!」

 

 学生が作った謎の人形を求め、あらゆる店で行列ができていた。職人たちが徹夜し、量産した物が予想以上に売れ、エル達が作ったものは今、かなりの流行になっていた。が、そのせいで地獄を味わう者達が裏にいた。

 

 「ユニコーンの在庫がもうないだと!? 昨日まで100体作ったのに、もうないのか!?」

 

 「くぅ!! ユニコーンだけでなく、他のガンダムまで在庫がもう切れただと!!」

 

 「畜生!! ガンダム作るの難しいんだぞ!!」

 

 工房はまさしく地獄そのものだった。確かに大量に売れ、自分達の懐が豊かになった。

だが、生産しても、生産してもガンダムは大量に売れ、在庫がなくなるほどだった(主にユニコーンが)

 

 「いや~~この修羅場の感覚は懐かしいですね…」

 

前世で、プログラマーと言う戦場を思いだしながら報告書を読むエル。内容は、売れ行きや、利益。さらに、転売行為について書かれており、文章を確認しながらサインをする。

 

 「…さて、こう売れるのはうれしいですが。できれば次も作りたいかと…」

 

 エルが一枚の紙を取り出す。紙には、今作られているサイズより大きめのユニコーンの絵があり、後に職人たちが泣く羽目になるとはこの時、誰も予想できなかったーー

 

 

 



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