グランドヒーローズ (四季永)
しおりを挟む

虚空の下、我は目覚める

 その少年は、暗闇の中を彷徨っている。いつからそうしていたか、自分でも解らない。

 明かり。

 光。

 何でもいい、この暗闇を照らしてくれるものが欲しい。

 

 ふと、肩に何かが触れる。冷たい。振り返ると、頭上が白く染まる。

 冷たさの正体は雪だ。だが、目の前に広がるその白さは、決して光ではない。

 雪よりも寒く、背筋が凍るのを感じる。そうか、これは闇だ。黒でなくとも人を不吉にさせる、白い闇。

 やがて眼前も鮮明になってくる。雪の積もった白い大地に、

 炎。

 血。

 骸。

 「—————!!!」

 

 言葉にならない叫びと共に、少年は目覚めた。周りに見えるその部屋は、さっきまでのものとは違う、無機質な白に覆われている。

 腕に掛けられた手枷を見て、今の自分の立場を理解した。

『お目覚めのようだな、さてどう呼べばいいやら・・・』

「斗真だ、帝宮斗真。おかしなニックネームで呼ばれてたまるかよ」

『こりゃあ驚いた、跳ね返る元気が残ってるとはな。俺の名は門矢士、これだけ憶えとけ』

 アナウンスを通して聞こえてくる、どこか自信に満ちたかのような男の声。不快に感じなくはないが、逆にこの言動であれば信頼しても良いかもしれない。

「あんたここの人・・じゃねえよな流石に。とりあえずどうすりゃ・・・ん?」

 部屋の外から怒声や銃声、果ては爆発音が聞こえる。

『始まったみたいだな。喜べ、もうすぐここを出られるぞ』

「オイどういう事だよ⁉ お前らテロリストか何かか? 人殺し目的で使うならオレは」

 溜息が聞こえる。それも心底呆れている事が伝わる、大きい溜息だった。

『所詮は裏世界知らずのガキか。むしろ犯罪目的で使うのはここの連中なんだが?』

「なっ・・・どういう事だよ⁉ 新薬の実験だって聞いて・・」

『騙されたか、今すぐここを出ろ。ここにいても使い潰されて終わるだけだぞ』

 衝動的に壁を殴り、手枷はその際に容易く外れた。同時に殴った壁のその状態は、とても十代の男子の力ではもたらせないモノだった。

『何をビビってる? 利用されてたとはいえお前の求めた力だ、イジメしか能の無いクソガキは簡単に殴り殺せるぞ。もっともそれに飲み込まれなければ、の話だが』

 頭の中に、思い出したくもない記憶が起こされる。罵倒の言葉を書き殴られた机、四方から聞こえる悪意にまみれた陰口、そしてその悪意の主を徹底的に殴る、傷だらけの自分の拳。

「別にケンカがしたかった訳じゃねえ。オレはただ」

 振り払う様に頬を叩き、姿勢を正して立ち上がる。

「守りたかっただけなんだよ、あの人達を。それじゃあいけねえのか」

『不純じゃなくて一安心だ。俺はモニター室から指示を出している、従って動け。それで出られるぞ』

 

 最初こそ足が冷える程寒く、暗く無機質な通路を辿っていたが、徐々に外の音が近く大きくなるにつれて、通路も熱を帯びてくる。

「一体どこなんだよここは・・・新興宗教とか、テロリストの根城とかじゃないよな」

『なんでそんな的確な答えが、その歳で出るんだ。逆に引くぞ、暗くて』

「・・待てよ、マジなのか?」

『正確にはカルト教団兼悪の秘密結社って奴だ。絵空事みたいだが、事実なんだから仕方ない』

 エレベーターを発見した。現在のフロアは地下3階とある。

「何でそんな連中がオレみたいな底辺小僧をこんな所に。意味ねえだろ、拉致して隔離しても」

『推測は簡単だ。お前が知らないだけで秘めたる素質があった、だから実験台となった。そして恐らく、目論見は当たった・・・屈服させる事は出来なかったみたいだがな』

「聞けば聞く程・・とりあえず押し込められるのはゴメンだ、さっさとこんな所から―――」

 

「おーっと。多少工夫はしたんだろーが、こっちもプロだ。本気で逃げられると思ってんのか?」

 その二人の男は、鎧に覆われどんな人間であるかは判らない。だが彼等からは常人なら背筋を凍らせるかの様な、「殺意」を感じた。

 そう、殺意。「悪意」ならば、数え切れない程見てきた、こいつを傷付けたい、苦しむ顔が見たい、関わりたくない。そんな物は今眼前から迫り来るその冷たい意思からすれば可愛い物だと気付く。

「ほーお、チビるかと思ったが睨んでくるか。大分据わってるガキだな、嫌いじゃないぜ」

「俺達は貴様を見張る仕事を請け負っている。激しく抵抗するようなら殺せ、とも」

「じゃあ尚更やるしかないってか・・・!」

 だがその身体は超人の物では無く、戦士の物では無く、大人の物でも無い。決死の思いで繰り出した拳も、あっさり捕まれ、その無謀の代償として右手に潰されるような激痛が走る。

「があああッ・・・!!」

「なっさけねえ声だなぁ、この年頃の男ってのは何でこう身の程知らずなんだか」

「・・・悪く思うな」

 

「そこまでだ、その少年を放せ」

 斗真は初めて、死を覚悟していた。あっさりとその時が来た、オレはその程度だったんだと心底悔やんだ。だがその瞬間は来なかった。いつの間にかその身体は男の手を離れ、通路の端に打ち捨てられていた。

「もう放してるじゃねぇか、その盾ブーメランが飛んで来たらそうするだろ」

「キャプテン・アメリカ・・か。ここを攻めているのは貴様の部隊か?」

 

「子供を実験台にする連中を見逃す程我々の網は無能じゃない。・・・お前達は傭兵のボーンファイターだったな、なぜ連中に雇われている?」

「そんなん決まっとろーが、生きる為だ。ぬくぬく政府にヘーコラしてるあんた等とは違うんだよ、事情が」

 キャプテン・アメリカ―――キャップとも呼ばれるそれはアメリカ軍が誇る超人兵士の単独コードネーム、スティーブ・ロジャースという軍人のもう一つの名前にして顔である。

「正当なやり方とは思えないな。痛む心は既に死んだか」

「非難するのは勝手だ。だが勝てると思うか?」

 正義に燃える闘争心と冷たい殺意は歩み寄る事無く対立し、ぶつかる。

 キャプテン・アメリカの主武器である円形の盾は、地上最硬も称される合金を使用している。その特性を生かし、打撃及び投擲武器として使用する事も可能だ。

「そうそう近づけはしないか・・・!」

「やるねぇっ、二人掛かりのこっちがハズくなる程っ」

 狼と虎、二人の男は鎧の意匠通りの、獣の如き動きで襲い掛かるものの、仕留めんとするその爪は悉くかわされている。キャップの立ち回りは、素人目に見て無駄や隙が見えない、的確とも思える程だ。

「サシでやってたら惨敗してた、だろーな」

「・・これは慢心で言うんじゃない。不利だと感じるなら手を引け、この戦況なら追えはしない」

 

「・・・・あれが戦いっていうのか」

 殴り合いのケンカは日常的に経験している、だがそのレベルで自分は止まっていたのだ。ゲームの様にコツや技術を・・・といったレベルで強くなれる程簡単な事じゃない、ケンカの様な幼稚な暴力を経験すれば、となる程甘い事じゃない。

「何も変わらねーじゃねぇかよ・・・」

 

「おっと、センチになってるとこ悪いね。もういいよお二人さん、生け捕りは確保したから」

 突如後ろから向けられたその銃口、それは近づいてくる気配さえ感じず、まるで今そこから現れたかのようだ。

「チッ余計な事を・・・という訳だ一番手さん、目当てのガキはこの通り。抵抗するならこの場でバンだ、でもそれはあんたの人格が許せねえよなぁ、星条旗さんよ」

「所詮は傭兵か・・・卑劣なっ」

 斗真の中で疑念が生まれる。今の自分は命の危機だ、そして目の前の男はそれを助けるだろうか。本当に命を賭して助けるだけの意思が、自分にはその価値があるのだろうか。ここで自分を見捨てて、逃げる事も出来る筈だ。こんな無力な子供を助ける為の危険など―――

 

 冥い思いが、身体の中を駆け抜けていく。

 

 銃声がそこに響いた。

「貴様っ・・・!!」

「取引不成立。君達にとってはこんなモノ些細な事だろう? 実験体とはいえ少年一人助けに軍を動かすなんて非効率の極みだね・・おっと」

「それ以上皮肉を吐きたいなら、相応の場所で聞いてやる!!」

 キャップの盾をかわした銃の主は、カードと思しき物を銃に装填、やがてそこから二人、仮面の戦士を召喚する。そこに更に、

「おーっとご立腹なのは解るが冷静になれや。オレらもいるのを忘れんなよ?」

「この多勢を一人で制圧できると思うのか?」

 

 頭からは異常な熱さ、それ以外の所からは異常な寒さを感じる。狭い視界には血溜まりが映る。そうか、こうやってオレは死ぬのか。

 受け入れなけならないのか。

 恐怖がある。

 未練がある。

 そしてなにより、怒りがある。

 自分がこんな理不尽に害されるのなら、戦ってやる。その為の力を求めているのだろう?

「―――ふざけんな。全部オレが叩き潰してやる」

 

 衝撃が走り、その場にいた者達は吹き飛ばされる。

「っ、この力は!?」

「オイオイ、撃ち殺したんじゃねーのかよ!?」

「完全にその為にやった訳じゃあないんだが・・・もしや」

 血を流した傷口は塞がり、何かに取り憑かれた様に、斗真は立ち上がる。

「そのベルトは・・!?」

「成程。適合は成功していたみたいだね・・・」

 殺気か。怒気か。闘気か。覇気か――――

 黒い波動と共に放たれるそれは、ただの人間の少年が、相応に持つ感覚では無かった。

 

「変身・・・!」

 

「あれが特例聖遺物、クウガの鎧・・・」

 斗真の身体は輝きの無い瞳を持つ仮面と、漆黒の鎧によって纏われた。

「初の覚醒でここまでとは・・・ね。ちょっとどころか、圧倒的に分が悪い」

「確かにな、仕事柄色んな戦場を見てきたつもりだが、初見でビビっちまったのは初めてだぜ。・・オイ星条旗野郎、何臨戦態勢になってる。オレらはもうずらかるぜ、やり合うつもりはねえ」

 だが言い放った瞬間気付いた。キャップが向けた戦意の矛先を。

「チッ勝手にしろ」

 灰色のオーロラが現れ、鎧の男二人と青き銃の男はその中に消えていった。

 

「ここで立ち向かう者が一人でもいなければ、この破壊の意思の矛先は別に向いてしまう・・・すまない少年、手荒だが止まってくれ!!」

 キャップは単身、斗真に立ち向かう。

 拳の一撃が襲い掛かる―――

 瞬間移動か、と捉えかねない速さで間合いに入られたが、防御の体勢は維持できた。

「ぐうっ!!」

 だがその威力は驚異的な物だった。信頼できるこの盾が無ければ、身体に風穴が開いていただろう。壁に強く叩きつけられたが、キャップはすぐさま体勢を直し、冷静に思考を巡らす。

「力も速さも圧倒的・・・! 悔しいが正攻法では先ず勝てない、だが」

「随分苦労してるじゃないか、海の向こうのヒーロー様も」

 

 起こった現象は先程の物と似ている。オーロラが現れ、仮面の男が新たに姿を現した。

「・・・仮面ライダー、ディケイド。噂は真実だったか」

「この世界でも有名人か。その反応を見ると英雄扱いでは無さそうだが、まあいい。口論の前にこいつを押さえるぞ」

「可能なのか?」

「今の状態じゃ説教もままならない、まずは力ずくだ」

 カードを取り出し、ベルトに装填。

『ATTACK RIDE ILLUSION』

「仮面ライダークウガ・・・この世界ではどんな代物か見せてみろ」

 ディケイドの分身体が六人現れ、クウガへと襲い掛かる・・・が、結果は戦闘以前の問題だ。

「ほぼ一発か、まぁこれで止められれば苦労はしない」

 分身体は一瞬で蹴散らされた、次の一手だ。

『KAMEN RIDE BLADE』

 ディケイドは姿を銀色の戦士へと変えた。

「手荒だが、止まってもらうぞ」

 電撃を纏った剣で接近戦を仕掛ける。前後から、二対一の戦いでもまるで差にはなっていない。戦法としてはディケイドの電撃で動きを鈍らせ、キャップが攻撃を打ち込む、のだが、

「まるで止まらない・・! ダメージの内に入っているのか!?」

「直接当てるだけじゃ無駄か・・・」

『KAMEN RIDE HIBIKI』

 鬼の様な姿へと変身し、ディケイドは紋章の様な機器を背中に押し付け、

「俺の考え通りなら」

 更に太鼓の用法で真紅の棍棒をそこに打ちつける。

「動きを止めた!?」

「やはりな、清めの音は効力があったか。属性というのはあまり気にしてはいなかったんだが」

 

「・・・これからどうするつもりだ」

「こいつは俺が預かる。そっちには頭の固い奴や腹のどす黒い連中がうようよしてるからな、『持ち過ぎてる奴』ってのは信用ならん」

「全ての『上に立つ人間』がそんな人格な筈がない。でなければこの世界は」

「議論はまた今度だ。とりあえずここを退く事をお勧めする・・・ん?」

 

 膝を着き、眠るように硬直していたクウガが動き出す。黒い波動こそ消えているが、行き場の無い敵意はまだ消えていない。

「この攻撃意思はどこまで・・・」

「おっと、言っとくが手出しは無用だ、手懐け方はある程度解る・・・つもりだが」

「・・・! 変身を解除!? そんな事をすれば」

 

「ある程度理性を取り戻したか。生身の顔は簡単に殴れないみたいだな」

 拳を止めたクウガの鎧は霧のように消え失せ、一人の少年の姿へと戻り、そして倒れた。

「さて、もう一度変身するのも面倒だが・・・ここで戦うか?」

「そんな安直な結論を出したくはない。歩み寄る道もある筈だ」

「忠告しておくが・・・こいつはこの力、そんな簡単には手放しはしないだろう。望んだ力だからな」

「だが彼が背負うにはあまりにも重い力だ。導く責任が僕等にはあると思わないか」

 正義感、か。

 教科書通りと馬鹿にするつもりは無い、むしろ貫けば立派な考え方だ。

 そうだとしても、

「それは俺等みたいな大人が、押し付けて学ばせる事じゃない」

 

「・・・撤退だ。保護対象となる特例聖遺物及びその実験体の消失を確認」

*

「――――!!?」

 

「目が覚めたか。追跡が及ばない所までは来た、気は張るな」

 目に映るのは、夜空と、森林と、一人の不愛想な男。

「あんたが門矢士か? あの声の」

「ああ、ここまで連れて来るのは少々面倒だったがな。オーロラによる瞬間移動は、ある程度先のビジョンが見えないと難しいらしい」

 この状況を見て斗真は確信した。

 もうこれは非日常だ。当たり前のように人が殺し合い、理不尽な程に「力」が荒れ狂う、「普通」に生きていれば決して目にする事の無い狂気の世界。

「・・・・・ヘへッ、夢じゃあ、ないんだな」

「笑いたくなるのも無理は無い、な。お前位の歳なら―――」

「ちげぇよ、本当にこんな世界に来れたんだな。確かに、力を手に入れたんだな」

「粋がるのは早いぞ。根っこが無けりゃあさっきみたいに力に呑まれる」

「!!」

 その指摘に斗真は、反射的に自ら顔をはたくことで応えた。

 今の言葉は、自分の意思ではないように感じた。

「まずはその感覚を慣らし、抑えつける事が第一だな。繁華街なんぞに放り込んだら大量虐殺を起こしかねん、しばらく家には帰れないぞ」

「・・・放浪の旅の始まり、ってか。でも、具体的にオレは何をすれば?」

「この世界の情勢は少し齧ってみたが、聖遺物という危険なお宝がゴロゴロ、そしてそれを独占しようという胡散臭い連中が戦いを繰り広げている、そうだが?」

 成程テレビでオカルト番組がやたら多いのも納得だ。あんな物は不要な好奇心を煽るだけの道楽ショーだと思っていたが、思い返してみればあれらでよく報告を募る呼びかけが表現されていた。

「お偉いさんが捜索に一枚噛んでるってのか?」

「有り得るな。・・・大体わかった。まずはそんな連中と接触する事から始めるか」

「何でそうなるんだよ」

「俺はその力に対して、情報は持ってるが専門家じゃない。安心出来なきゃ不安だろ? 行くぞ」

*

「ヴィクトールとグレゴリー・・・で合ってるかな? 傭兵兄弟さん」

「本当に戦力として重用したいなら、手駒の名前ぐらい覚えろ」

「まぁオレらは根に持たねぇけどな。お前さんも怪盗名乗んならそうだろ?」

 暗闇に無数のモニターが浮かぶ異質な空間、そこで行われているのは作戦会議・・・だろうか、それにしてはあまりにも、適当な雰囲気に包まれている。参加者は傭兵を自称する飄々としたスカーフの男と寡黙な眼帯の男、怪盗を自称する胡散臭い青年。

「まぁね。だけどこの世界では戦力は少々頼りない。君達のような実力者は大事にしないとね」

「・・・で、上様は何と仰ったんだ?」

「不完全とはいえ、こうも早く凄まじき戦士へと至ったのは良くも悪くも予想外だったそうだ。だが同行している人物は少々厄介でね。・・・僕の顔見知りさ」

 顔見知り。青年はその言葉を嬉しそうに発した。

「それはさておき、少年の回収は保留、というのが上の判断だ。下手に深手を負わせて核爆弾級の0号君の機嫌を損ねてもマズいしね。当分は・・・正義面の連中を引っ掻き回すのが主な仕事になりそうだ」

*

「まだここに留まってたか。読み通りだが頭の固い奴等だ」

「何でここに来るんだよ、いけ好かない連中なんだろ!?」

 崖の上から見下ろし、そこに見えるのは中規模の野営地。士から聞くには政府の指令を受けて斗真を「保護」する目的の部隊だそうである。

「移動手段が欲しくてな、俺のマシンで二人乗りってのが何時まで続くかも分からん。あれを見てみろ、喜べ。お前のマシンだ」

 斗真は士の指差す場所へ、目を凝らしてみる。こんなに視力は良かっただろうかとさり気なく思ったが―――

「バイクじゃねーか! オレ乗った事なんて無ぇぞ!?」

「乗れば乗れるようになる、意味分からんだろうが信じろ。それにお前ももう仮面ライダーだ、マシンに乗るぐらい覚悟を決めろ」

「何だよ、その仮面ライダーって」

「この世界じゃ定着はしていないか。仮面でその素性を覆い、マシンを駆り戦う超人、つまりヒーローという奴だ。そして望むと望まざると関係なく・・・お前はその存在を負う事になった、まあいずれ分かるだろ」

 ヒーロー。

 オレには柄じゃなく、勿体無く、なりたくなかった存在だ。

 だが、力を欲した故の代償ならば仕方が無いか。

「襲撃をかけるぞ、どうするかはアマダムが告げる筈だ」

「・・・・聞こえた、行ける」

 本当に悪いヤツを叩きのめす。

 本当に優しい奴を守る。

 その為に力を振るう。

 それが出来る力ならば、危うい力でも、代償がある力でも悪くは無い。

 

「変身」

「変身ッ!!」

 

 仮面と鎧、そして力に覆われた少年は、戦いを始める。

 力を背負う、文字通りの戦士として。

 

グランドヒーローズ

第1話

『虚空の下、我は目覚める』

 

続く



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

裁きの太陽

「いいか、誰も殺さずに手に入れろ! 今それはこちらが不利になる手だ」

「分かってる! ・・・つもりだけどっ」

 意識が保っていられる分、初めての「黒」の時よりは遥かにマシだ。だが、今の「赤」の状態でさえ、闘争心を煽るかのような不快な感覚が、思考を潰しに来る。

「生身の人間相手は調子が狂うな・・・隊長格がいないのもおかしな感じだが」

 戦場慣れしたであろう門矢士/仮面ライダーディケイドの戦い方は実に的確だ。武装を封じ、敢えて急所以外の部分を狙い行動不能にする。

「何であんな風に戦えんだよ・・!?」

 帝宮斗真/仮面ライダークウガはがむしゃらに目標へと進む。前進しているのか後退しているのか分からないが、頭には導かんとする声が響いている。

 

 

「――――っ」

「生きてるか? 上出来だ、退くぞ」

 

グランドヒーローズ

第2話

『裁きの太陽』

 

「俺の情報が正しければ、そのアマダムという霊石は適合した存在の経験を記憶する事が出来る。そして・・・意思にも似た考えを持ち適合者に対して導きを与える。どうやら『この世界のクウガ』もこれに乗ってた事があるみたいだな、読み通りだ」

 こっちは息が荒いのに、悠々と語りやがる。

「疲れてる所悪いが少し急ぐぞ。次は接触すべき組織だが・・・」

「オイ!! ガキだからって使い潰すなよ!! 少しは状態ってのも察しろ!!」

 士は呆れたように、小さく溜息を吐く。

「子供として丁重に扱って欲しいか? それとも重要人物だから優遇して欲しいか? 生憎礼儀や優しさとは縁が無いモンでな。許せとは言わんが疲れたからって止まってる訳にもいかない、今はな」

 返す言葉は思いつかなかったが、それでも大声不満を言った分、少しは頭が冷えた。

「だが気を失わない分はマシな根性だ。それにその眼、追い求めている者の眼だ。虚無でも無ければ純粋でも無い、だがそのハングリーさがここで生きるには重要だ、長生きするぞ」

「・・・褒めてんのかよ。で、次はどこに向かうんだ?」

 

「そこの悩める少年! 何とか石について調べるなら―――」

「うってつけの場所がありますよ!!」

 

「誰だよ、テメーら」

「見た感じただのガキ二人だな。菓子なら買ってやらんぞ」

「ってそーじゃなくて!!」

 

 その少年は竜神翔悟と名乗り、少女は立花響と名乗った。

「使いの者だって?」

「えへへ。頼り無さげに見えるかもですけど、まあそういう事です」

「それが何でその辺にいそうな高校生二人なんだよ、闇バイトか何かか?」

「失礼な! 外見で人を判断すんなよ、はい名刺」

 

「行くぞ」

 顔色を変えた士は、それだけ言って行動を起こす。名刺に書かれた『サージェス財団』という組織、それに向かうと決めたのだ。

「使者として俺達と接触したんだ、当然場所も聞かされてる筈だが」

「場所は確かに教えてもらったんですけど。実はそこの人達とは、まだ会って無いんです」

「はぁ!? 見ず知らずの連中なのかよ、信用出来るかそんなん」

「熱くなるな、全く知らなかったらこうして急いでいない。そこは確か、世界各地に存在する、らしい古代遺物を保護する口実で動いてる科学組織・・・だ。連中は保護しているブツをプレシャスと呼んでいる」

「何か色々知ってますね! 私達の所じゃ聖遺物って言うんですよ、お宝の呼び方もそれぞれなんですね」

 今の自分が何をしているのか、斗真の中に一抹の不安があった。戦う相手も自分の中の力も、何を善き行いとすべきなのか。自分の存在さえも、何か大きな流れの手中にあるのだろうか。

「心ここにあらず、って感じだなあ」

「・・・何で顔も見ずに言えんだよ」

「えっ図星!? ごめんっ! 何かいきなり黙って悶々オーラ放ってるモンだからつい・・・」

 今の状況はバイクで走行中、二人乗りの背中越しにその感性を察した。偶々なのだろうか。

「翔梧つったか」

「何か言いたげ?」

「お前見た感じオレと同じ位だろ。どうなんだよ、学校では」

「どうって・・・普通だよ。自分で言うのもアレだけど、成績は可もなく不可も無し、トラブルも起こしてないし。そこら辺の平凡な男子その物、かな」

「普通、平凡・・か」

 どうして自分と比較して思い出すのか、本当に嫌になる。

「雑談も自己嫌悪も結構だが、そこで止めておけ。回し者が来たようだ」

 

「お前達について深くは知らないんだが・・・太陽戦隊と言ったか」

 走行を止めた斗真達の前に待ち受けるかの様に立っていたのは、赤・青・黄の色、そして獣の意匠の装備を纏った三人の男だった。

「ひょひょーう。その名前が出てくる時点で、大分深い部分まで知ってるみたいだねえ」

「世界の破壊者、マークされている理由は戦闘能力だけでは無いという事か」

「単刀直入に告げる。我々は政府直属の地球平和守備隊、太陽戦隊サンバルカン。本国政府の要請により、帝宮斗真の保護の為この場に来た。交渉によっては戦闘の意思は無い」

「断る」

「即答か、門矢士」

「・・と言いたい所だが、これは俺の意思だ、あいつのでは無い。で、どうするんだ斗真。こいつらと行くか? 連中は血の気の多いタイプじゃない、猶予はあるみたいだから考えろ、自分の頭で」

 選択を迫られている。恐らく自分は元より、ここにいる者達にも関わる選択だ。

 太陽戦隊と名乗る三人の男、彼等は政府の者である。

「・・・アンタ等、オレを知っているのか」

「アマダム計画の被験者、その最初の成功例。・・本来ならこの実験は凍結された筈の計画だ」

「凍結? それじゃあ成功も何も無いじゃないか、こうして今斗真は」

「非人道的な連中に関しては、そうじゃないんだよね。奴等は経緯不明ながら技術を奪い、兵器利用の為にこの計画を推し進め、そして・・・」

「世界各地で多発した不可解な失踪事件『ヘルズ・ロード事件』、お前達も知っているだろう」

「・・・俺達の耳にも入ってたよ。警戒するのも当たり前な、おかしな事件だった」

「初耳だな、通りすがりの俺には関心が無いだけかもしれんが」

 それは翔梧や響には記憶に新しい事件だ。年齢、性別、職種問わず無作為に人が消える。それもケースの多くは攫われるといった強制的な形ではな無く、自発的な動機で姿を消した場合がほとんどだった。

「大金持ちになれる、楽な生活になる、誰にも負けない力が手に入る・・・」

「失踪した人の多くは、いなくなる前にそう言い残していたり、手紙に書き留めていたそうです。私達も何度か捜索に駆り出されたりもしました」

 周囲の者達の言葉一つ一つに、得体の知れない寒気を斗真は感じる。まるでそれは、崩れてぐちゃぐちゃになった積み木が、一つの「何か」に組み上がっていく様で――――

「ほーお、読めたな。要はこの帝宮斗真少年は大事な大事な成功例様、確かに棚ボタで強大兵器が出来れば上様は欲しがるだろうな」

「・・・オレが兵器・・!?」

「非人道的な扱い方はしたくない。これは俺達の本音だ」

「だが官僚共はそうは思っちゃいない。前線の軍人たった三人が穏健を唱えた所で」

「オイ」

 

「どした、そんなドスの効いた声で。結論は出たか?」

「ああ。オレはこいつらとサージェスに行く」

 

「真っ直ぐで眩しい目をしているな・・・太陽、か」

「あんたらが語ってる事は本当かもしれねえ・・・けどオレを連れ出しに来た士、コイツがどんな形であれオレを助け出した恩がある、切り捨ててあんたらについて行くのは違う気がする」

 滅茶苦茶だな、だがガキらしいじゃないか。士の口元が少し笑みに緩んだ。

「それが応えか。・・・・ならば我々は壁だ。突き破るに相応しい力が備わっているか、試させてもらう!!」

 

「おい、お前等は戦力ぐらいあるんだろうな」

「何の為にここ迄来たと思ってんだよ!」

「戦いなんて、覚悟以前です!」

 

「変身!」

「着装っ!!」

「Balwisyall nescell gungnir tron・・・」

 

 竜神翔悟は竜を模した白い鎧を纏い、立花響は明るき天使の如き戦衣を纏った。

「仮面ライダーが二人、ボーンファイターにシンフォギア装者か・・・」

「子供だらけだけど油断は出来ないねえ。戦績があるんだから」

「そうでなければ壁である意味が無い、行くぞ!!」

 

「あんたの相手は俺だ! 理由は簡単、鮫相手なら経験あるから!」

「成程な、だがその発想だけで俺と渡り合えると思うな!」

 翔梧/ドラゴンボーンが戦うは、サンバルカン海の戦士、バルシャーク。両者共にその名を冠した生物の力を宿している。

「・・・っく! 届かない、経験の違い!?」

「基礎と経験は積んでいるな、それは分かる。だが防戦を重視し過ぎている、それでは拳は届かない!」

 

「女の子相手だけどそれはそれ! 手加減はしない!」

「逆に安心しましたッ、全力で行きます!!」

 響に立ちはだかるは、サンバルカン陸の戦士、バルパンサー。彼の俊敏な動きは、響の格闘術を上回る。

「掠りもしない程の速さだなんてッ!?」

(だけど大したもんだ、この娘を戦士たらしめてるのは装備の力だけじゃない、明確な戦う意思と修練がある・・・もっともそれがまだ成長途中にあるんだけど)

 

「二対一か」

「悪いが武の心得とか正々堂々とかいうのは持ってないんでな。急いでるからこれでやらせてもらう。・・・で斗真」

「何だよ!?」

「考えなかったのか? 俺達が抑えてる間に先に行く事も」

「言ったろ、お前達と行くって。これ以上言わせんな。それにそれを許す程抜けてる連中とも思わねぇし」

「・・大体分かった」

 クウガとディケイドが挑むは、サンバルカンのリーダーたる空の戦士、バルイーグル。

「なるほど剣術か。確かに俺より出来るな」

 バルイーグルの装備である刀、それを用いた剣術が彼を象徴する戦法だ。その剣圧と剣速はディケイドを早くも押し始める。

「加勢のしようがねえっ・・・! あの戦いに割り込むにはパワーよりもスピード、今のオレにはそれが」

 青の力。長きモノ。

 斗真の頭にそんな言葉が流れ込んでくる。

「またナビ機能か!? 武器の情報までご丁寧に・・・っても長いモン? つったら・・」

 今の周囲の戦場を見渡す。ここは人気の少ない車道、長い物体を見つけるには容易い事では―――

 あった。

「これで良いんだよな!?」

 クウガが道路のガードパイプを手に取った瞬間、装甲の色が青く変わると同時に、手に握られたそれも、棒状の武器へと変化した。

「身体が、軽い・・・! これならッ!!」

*

「接触に関しては先手を取られたか・・・」

「良いのかよ、加勢しなくて」

「それをしてしまったら意味が無い。少なくともこの程度の苦難は序の口に過ぎない。あの少年にとっては」

「厳しいのか甘いのか分かんねぇ奴だなお前。あれが危険物だとしたらやるべき手段は保護や管理よりも破壊だろーが」

「それの可能性を探り信じるのも僕等の役目さ。そうだろう?」

「ああ、それもまた冒険だ」

*

「力の一片を引き出したか・・・!」

「あまり見下すなよ、一応はアレが見込んで・・この俺が目を掛けてやってるヤツだ、俺には遠く及ばんがな!」

「そこまで貶すな!!」

 

 強い。

 斗真は感じる。

 それは身に着けた装備の性能でも、生まれつき手に入れた突出した才能に頼ったものでは無い。

 日々の過酷な鍛錬、冷静かつ的確な思考、幾多の戦いを経た経験―――

 今戦っている目の前の男は、自分自身の強さを確かに持っている者だ。

(食らいつくつもりで行かないと捉えられないっ、気を抜いちまったら斬り飛ばされる・・・っ)

「成程凄まじい剣術だ、こっちも特化しないと並べすらしないな!」

『KAMEN RIDE BLADE』

 一瞬の隙を見抜いたディケイドは銀の騎士の如き姿へと変わる。

「口だけの男では無いようだな。まだ戦いを続ける余裕があるか」

「当たり前だ、お前程度の強敵なんぞ何度やり合ったと思ってる!!」

 

「結果的にはタイマンよりも二対二か・・・まぁそうなるよね」

「だってあんたらとはサシじゃあ勝てなさそうだから!」

「不本意ですけどッ! 出来るかも分からないけどチームプレイですッ!!」

 交わされる戦法はほぼ格闘戦。響とドラゴンボーンが目指す作戦は各個撃破。一人に集中して戦わなければ明らかに押されるのが身をもって解ったからだ。

「二人がかりなのはその為か・・・」

「お見通し! でも中々やるねっ」

 徐々にだが響の攻撃はバルパンサーに届きつつある。正々堂々の戦法でないのは承知だが、その手で勝って進まなければならないのだ。

 

「受けてかわさなくなったな!」

「その剣捌きで解る。受けさせようとしているとな!」

 剣技に特化した姿になったつもりだが、差はそうそう埋まらない。こちらの策も見抜いていると来た。

「まるで勝てねえじゃねぇか・・・!」

「そうでも無いさ、そのビビりを捨てさえすればな」

 そう思われているのか。

 この力を手に入れれば、そんな事は無いと思っていた。だが思い直せば、オレはどこか一歩引いて戦っている、それに気づいてしまった。

 今まで殴り合ってきたヤツらより強く、怖い。だから勝てないのか。

 

 気がつけば、みっともない位叫んでいた。策を講じた訳でも、勝利の光明を見つけた訳でも無い。

 頭の中に渦巻いている物。

 

 コイツに、食らわす。

「無謀な戦い方だな・・・!!」

「それが良いんじゃねぇか!!」

 

 それは策と言うには余りにも幼稚な物だ。だが恐らく、様々な負の激情を剥き出した一人の少年の姿に気を取られた・・・・のだろう。

「これで一本取ったな。お前の危惧通り、この剣には電流が流れていた。そりゃあ受け止めようとはしないだろうな、感電すれば隙が出来る」

「情が勝ってしまった・・・な。あんな気迫で向かって来る子供はそうそういない」

「情があってこそのヒーローだろうが。むしろそこは誇れ」

 リーダーの危機を察したシャークとパンサーも戦いの構えを解く。

「さて、このまま追って来られないレベルに深手を負わせる事も可能な訳だが・・・」

「そこまでする必要無いんじゃないのか」

「解ってる、そう噛みつくな。・・とまあ件の主役がこう言ってる、下手に曇らす訳にもいかん。ので今回はさっさとご退場願おうか」

「・・騙し討ちの可能性は考慮しないのか」

「そんな卑怯者が栄誉ある太陽戦隊様のリーダーになれると思うか?」

 ディケイドとバルイーグルは互いに苦笑いを浮かべる。それは仮面越しで目を通して判りはしないのだが、二人にはそれが伝わっている様子だった。

「だがこれだけは心に留めておけ。今その少年に宿る力を狙う者は多い。手遅れになる前に、その力とどう向き合うかはしっかりと決めておけ、力に飲み込まれないように」

 

「ホントに去ってったよ、あの人達」

「何か安心しました、上手く言葉に出来ないけど」

「クソ真面目な戦士というのは敵でも味方でも面倒だな・・・ん、どうした斗真」

 当面の危機は去ったにも拘らず、斗真の表情は浮かない。それどころか曇り具合は戦いの前よりも深くなったようにも見える。

「解んねえ、望んで手に入れた力だぞ、何で狙われるんだよ・・・オレは生きたい為にこの力を望んだ、なのに何で」

「それはこれから判る事だ、今迷ってもどうにかはならん。・・・で、そろそろ見物は止めてもらおーか」

 

「どの時点から気付いていた、門矢士」

 太陽戦隊とは別の、三人の男が別々の茂みから姿を現した。

「気付いたのは一本取ったあたりだな、何分相手が面倒だった。だがそこから少し考えれば・・・観戦してたろ、あの一部始終を」

「危険物を見極めるのは基本だぜ。本部に連れてった時に暴れると大迷惑だからな」

 オレは違う・・・とは確信を持って口には出来なかった。自分ですら得体の知れないモノが中にある、その認識を思い返すと遅ればせながら恐怖にも似た感覚が生まれてくる。

「顔が曇っているね。でもそれは適合者になった人間ならば抱き得る反応、君のような子供なら尚更だ」

「その顔にむしろ、俺は希望を見た。予定通り、お前達をサージェスに招待しよう」

*

「『sheath project』だと・・? あれは国際会議において放棄された筈だが」

「僕がその計画を受け継いだ。無論独断に近いが、幸いな事に同志達もいる」

「・・・そのようだな」

 この人気の無い場所に立っているのは、地球平和守備隊管轄・太陽戦隊サンバルカン隊長、飛羽高之。会話の相手はスティーブ・ロジャース。お互いの背後には、彼等が「同志」と呼ぶ者達が構えている。

「確かに器となった彼は人間の少年、抹殺するのは我々としても本意ではない。だが中途半端に黙認すれば多くの犠牲者が出るかもしれない」

「相容れない・・のか。上から命令されている、だけではないのか」

「政府の犬をしているつもりは無い。だが向こう見ずに保護する事だけが彼を救うとは思えない」

 静かな交渉決裂。だが互いに背を向けて別れる彼等には、敵意を示す言葉は無かった。

 

続く

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む



「ここに来るまで2日とかかったが・・・襲撃を受けないのは奇跡だった、か?」

「サージェスの深部は、言うのもナンだけど機密はしっかりしてる組織だ。政府規模の諜報ならともかく、アウトローみたいな連中には尻尾すら掴めないさ」

「とはいえ先の聖遺物抗争で大分痛手を食らったがな」

「財団なのに殺風景な部屋なのはその為か・・・」

 轟轟戦隊ボウケンジャー。

 それはプレシャスと呼称された超常的遺物の保護を目的とした『サージェス財団』所属の特殊部隊である。

「俺の認識が正しければ、5人、いや6人いた筈だが?」

「今前線に出張ってるのは俺達3人だ。あいつらは別の任務にあたってる」

「赤、黒、青・・・いかにもなヒーローカラーですね」

 基地と称せる位の設備は整っていそうではある。翔梧が殺風景と部屋を評したが、単に必要要素では無いからだ、少なくとも今は。

「さて、黙っているところ悪いが・・・帝宮斗真、早速身体検査をやらせてもらう。お前の力が早急に危険かそうでないか、100%とは行かないだろうが大半は判るだろう。その為のサージェスだ」

 

グランドヒーローズ

第3話

『鞘』

 

「3時間お疲れ様。さて、綿密な検査の結果、という訳だが・・・ハッキリ言ってしまえば本人次第、という事だ」

 斗真達四人は何とも晴れ難い表情だ。無害でも無ければ有害と断定しきれない、言わば灰色の結論に安堵は出ず、落胆も起こらない。

「ある意味拍子抜けかもしれねえが、天下のサージェスでもこれが限界なんだとよ」

「でもっ! ・・・ニュースでもあった未確認生命体事件、ですよね? ・・クウガの力がそれの解決に使われたのも知ってます。前例があったのにそんな曖昧な答えしか出ないんですか?」

「お嬢さんの言う事ももっともだ。不甲斐ない返しになるが、それだけアマダムは難しく、訳が分かんない存在なんだよ」

 簡単に楽になれる、そうは思っていなかった。確かに受けた答えは曖昧だ、だが悟れた事もある。

「要は逃げ道は無ぇ、つー事だな」

 その目に宿っているのは、苦難を避けられぬ絶望や恐怖をも受け止めようとする、僅かながらの覚悟に満ちた目だ。

 ボウケンジャーのリーダーである赤き衣の男が、沈黙を破り口を開く。

「この有様を酷と思うか」

「思わねーよ。オレが強くなりゃ良い話じゃねーか」

「ふ、子供だな。だがその向こう見ずな冒険心、悪くは無い。・・・俺は明石暁。二人は伊能真墨、最上蒼太だ」

*

「後悔は無いんだな、キャップ」

「苦しむ弱者を救う。そんな当たり前の事が出来ないなら、この力を与えられた資格は僕には無いよ」

 その部隊に与えられた名は『sheath』。キャプテン・アメリカが同名の計画を基に結成した、私設部隊である。

「罠かもしれないだろう? 今まで政府に捕まるまいと逃げていたんだ、俺達が所謂穏健派であると言っても容易く受け入れるか」

「サム、疑念を抱いて身構えるのは簡単な事だ。安全策ではあるかもしれないが変化を恐れていては、戦いも平和も訪れない」

 サム・ウィルソン―――ファルコンというコードネームを持つ彼は、スティーブの戦友、理解者だ。sheathの設立に対して真っ先に危惧の意見を挙げたのも彼であるが、感情論だけで動く男では無い事も知っている。だからこそスティーブと同じ道を進むと決めた。

 

「本当にこの場所で待ち合わせ? 何だかすっごい殺風景なんだけど・・・」

「この渓谷は、かつてプレシャス及び秘匿資源発掘の際にサージェスが買い取った土地さ。管理下にある以上、僕等と通信を交わした『彼等』しか座標を知る者はいないよ」

「で、どうすんだよこんな所まで来て。訓練じゃねえのか」

「その前に整理しておきたい状況がある、という事だ。斗真、お前がその力と向き合う考えがあるのなら、『彼等』とは話し合う必要がある」

「面倒な事しやがって・・・」

 自分が力を制御できれば、という安易な話では無い、という事か。

 

「こちらの報を受けてくれた事は、素直に感謝する」

「我々こそ・・・この様な形でしか合流できなかった事は済まなく思う」

「・・・あんたはっ!!」

 斗真は疑いと苛立ちと、そして恐れを宿した眼差しで、わが身を守る獣の様に身構える。

「無理も無い反応だな。こいつはまだガキだ、言葉で弁解しても政府の連中ってイメージを拭える程狡賢くは無い」

「・・・それ以上は言うなよ。・・・・解ってんだよ士。目の前にいるそいつは何をした訳でもねぇ、だけど思い出しちまったんだ・・・腕を潰されそうになったあの時の痛みが、あの時力が抑えられなかったオレ自身のどうしようもなさが」

「・・その歳で命の取り合いを見てしまえば、恐怖や後悔を抱く事は無理も無い」

 サムの呟きに斗真は反発したくなったが、あの場面で自分に沸いた感情は彼の言葉通りであった事を、認めざるを得ない。故に返す言葉は無い。

「・・・我々はどうすれば良い」

「共同戦線を張って欲しい、という事に変わりは無い」

「あんたらと組めって事か」

 話し合いというからには、その流れになる事は予想出来た。納得はしきれないが。

「知識不足でごめんなんだけど、あんた達一応政府の人なんだろ? この前戦った太陽戦隊みたいに、斗真を狙ってここに来たんじゃないのか?」

「我々のやっている事は独断の行動だ。我々は『sheath』の名義で活動し、アマダムの適合者・・・帝宮斗真の保護を目的として動いている。・・・・信用は簡単にはしてもらえない、かもしれないが」

「その言い分だと、お偉いさんの中でもアマダムの処遇は意見が割れているようだな」

「未確認生命体事件を解決に導いた強大な力だ、加えて未だに全容も掴めていない存在・・・排除や研究対象として狙いを定めている者も少なくない」

「聖遺物目当てで争いだなんて・・・そんな場合じゃ無いじゃないですか」

 今話している彼等は所謂穏健派、上の者達は一枚岩では無いという事か。

「・・分かったよ。信用はまだ出来ねえが、文句ばっかり言ってても事は進まない。あんたらの言葉は呑む事にする」

「・・・当事者がそう言ってくれると、僕等も安心して戦えるよ、ありがとう」

*

「いくらこちらが人員不足とはいえ、使い潰しにも程があるぜ。傭兵だからって軽く見過ぎじゃねえのか?」

「それが傭兵というものだ」

 兄弟であるという事、それは獣のような生き方をしてきた彼等にとって数少ない接点だが、寡黙な弟というのはたまに息が詰まる時がある。つまりは言葉を流されるという事だ。

 昼食を口にしながらグレゴリーは、半ば呆れたような目つきで街の雑踏を眺める。

「しっかしお上様は何を考えているのやら・・・肝心のクウガのガキは4日ぐらい前に政府の奴等とやりあってから音沙汰無し、捜索の方法はどうしたモンかと思えば淡々と街巡りときた。旅行は趣味でもねえんだが」

「この方法で未だ見つからないという事は、厳重な場所に隠れている・・・可能性の一つだが」

「要するに引き籠ってるって事かあ? だったら出て来るように燻り出さなきゃずっとこのまんまだろーよ」

 彼等は冗談交じりで現在の状況を疑っていた・・・が、この語らいの中に冗談では無い事態が含まれていた事は、当人たちにも知る由も無い。

*

「あなた達が・・・同志の方々?」

「マシュ・キリエライトです。今後よろしくお願いします」

 一人は眼鏡と白衣が目立つ、少しばかり戦場には不釣り合いな少女。

「クリント・バートンだ。広くはホークアイの名で通ってる」

 もう一人は伸びやかな体躯を持った男。

「組織の事情で少し訳ありの者も多いんだが、優秀な戦士である事には変わりは無い」

「サインもらった方が良いかな!?」

「翔梧・・有名人って訳じゃねえんだぞ」

「ともかく上司に評されてんなら不安は無えな。・・・士は?」

「別室でキャップと明石との三人で作戦会議さ。仲間は増えるのは良いが、今後の事が解決した訳じゃ無いからね」

 

「勝手ながら俺の優先事項を述べさせてもらうが・・・まずはこうやってコソコソやるのは色々と落ち着かん、フットワークを軽くしたい」

「確かに、正規軍と『愚論儀』の双方から追われながら戦い続けるには限界がある。火の粉を払いながら、よりは誤解は早急に解き、戦うべき存在は定めるのが大事だと思う」

「ん? ちょっと待て。今『グロンギ』と言ったか? 連中はここじゃあ前のクウガによって殲滅された筈だが」

 グロンギ―――表向きには未確認生命体と称されるそれは過去、日本を中心に殺戮を中心文化とし、数多の犠牲者を出した異形の戦闘民族である。かつてそれらは『クウガ』と呼ばれる存在によって一年に亘って全ての個体が殲滅されている、のだが。

「近年、諜報や探索を行っていれば一度は耳にする研究組織の名だ。半ばテロに近い行為で世界中の聖遺物を掻き集め、それを用いた非人道実験を行っていると聞く」

「既に正規軍でもマークされている。我々が斗真を救出する為に突入した研究施設も連中の傘下だった」

 大体分かった・・・と断言は出来ない。むしろ面倒臭い事になった。士としてはアマダムが目当てで「ここ」に立ち寄ったのだが、当て字を使ってまでグロンギを名乗る人間達までもが、その力を欲している。

「馬鹿な奴等もいたもんだ。ズルをしてまで異形の力を手に入れてもロクな目にあわんというに」

 突然、通信を知らせるアラームが鳴った。

「サージェス司令室だ。何があった」

*

「この手を取ったか・・・」

「確かに放っておくワケがないからな、俺達なら」

「ひどい・・・誘き出す為だけにここまでやるなんて」

「ふざけやがって・・・!!」

 

「ハハっ、イカレてやがるな。街を焼けばヒーローが来る・・・確かにな」

「俺達悪党なら見向きもしないだろうがな。人命だけを重んじる連中にとっては最適な寄せ餌という訳か。・・・どうした、何をするつもりだ」

「この作戦とやらには乗り気じゃあねえが・・・オレらは雇われモンだ、報酬に見合った働きはせんとだろ」

 

 建物は火を放ち、人々は逃げ回る。中には血を流し、手遅れの状態になった人間も。

「どこから!? どんな規模でこんな襲撃を!?」

「やり口は単純な無差別テロだな・・・標的も恐らく決めていないんだろう」

「目的はオレだから・・・・か!!」

 逃げ惑う人々を掻き分けながら、斗真は走り出す。制止する声も聞こえたが、耳を傾けるのは後回しだ。

 自分一人の存在で、ここにいる力無き人達が助かるのなら――――

「変身ッ!!」

 

「オイ来てやったぞクソ野郎共ッ!! 目当てのオレが来てやったぞかかって来やがれ!!」

 

 一筋の光弾が、クウガの顔を掠める。

「子供だねぇ。悪の組織が律儀に取引なんかすると思うかい?」

「士から聞いてるぜ、コソ泥野郎。それが本音なら、テメエらをブン殴らなきゃ気が済まねえ」

「やってみるかい? 袋叩きにするけどね」

『KAMEN RIDE Scissors』

『KAMEN RIDE TheBee』

 青き銃の戦士、仮面ライダーディエンド。彼の力は『仮面ライダー』と呼称される存在の召喚能力。ただし、

「抜け殻野郎を呼んだかよ!」

「随分吹き込まれたんだねえ。甘いな? こういう少年には」

 そう、それは魂の無い再現体を生み出しているに過ぎない。故に戦闘ポテンシャルはオリジナルを大きく下回る。

「拳が通ってる・・! やれるぜ、素人のオレでも」

 それらは顔を砕かれてもお構いなしだ。人間としては不自然な、それこそゾンビの様な痛みを感じない挙動で戦いを続ける。

「少しは見れる戦い方だね、喧嘩殺法同然だけど。じゃあプロの戦士とやらを呼ぶとしようか」

「んだとっ、舐めてんのか・・・ぐあッ!?」

 背後を貫かれたかの様な鋭い痛みを感じる。これは針なんて生易しい攻撃じゃ無い、受けた体験は初めてだが・・・恐らく銃弾だ。

「紹介しよう、彼は・・・ウィンター・ソルジャーとでも呼ばせてもらおうか。通り名がコロコロ変わるのは面倒だねぇ」

 虚ろな目をしている、何らかの方法で操られているのだろうか。左腕は鋼鉄製に見える、義手なのだろう。その男は銃を構え、冷徹な空気を漂わせながらクウガに近づいてくる。

「撃たれ続けたらヤバいっ」

「逃がしはしないよ」

 躊躇い無く放たれる銃撃をかわし・・たいところだが、回避を再現体達が妨害してくる。蹴散らす間に急所を狙われたら尚の事窮地だ。

「君が矢面に立つからこんな感じで詰む。ヒーロー気取りの子供はこれだから」

「くそっ・・・!」

 

「ヒーロー気取りでは無いよ、海東大樹。彼は言わば・・ヒーローの卵だ」

 頭上から飛んで来た星条旗の如き盾が、銃撃を遮り、再現体を蹴散らし、そして所持者の手に戻る。

「あんたは!」

「味な助太刀をするじゃないか、キャプテンアメリカ」

「今彼と共に戦うのは僕であるべきだ。・・・門矢士がそう言った。帝宮斗真、今は驚いている場合では無いだろう」

「・・そうだったな、今オレは戦ってるんだった」

 キャプテン・アメリカはクウガの側に立つ。クウガも駆けつけた彼の戦意に応えるべく構えを改めてとった。

*

「お前らはっ・・・何でこんな奴等と一緒にっ」

「傭兵である、それ以上に何か理由があるかあ!? てめえらと違って糧にならん事はやらねえんだよ!!」

 翔梧/ドラゴンボーンと響、クリント/ホークアイはグレゴリー/ウルフボーン、ヴィクトール/タイガーボーンと対峙している。

「だからってこんな・・・人間の敵になるような物じゃないですかッ!?」

 兄弟二人の戦闘スタイルは格闘戦。だが戦闘経験とコンビネーションは翔梧や響を上回っている。

「少年少女、今は敵と問答をしている時間じゃ無い。戦うぞ、言葉をぶつけるのは勝ってからだ!」

 だが完全に戦力差がある訳では無い。

「随分厄介な後方支援がいるようだな・・!」

 ホークアイ、彼は弓の名手である。それも超人的と言える程の。彼にとっては獣同然の素早さであるボーンファイターでも直撃させる事は容易い。

「これで素早さ勝負は出来ないな! 正面勝負だ、柄じゃ無いけど!」

「ハッ、イキるなよガキの癖に。すぐに根を上げさせてやるぜ!」

*

「これだけの破壊活動、少数でどんな方法を使ったかと考えたが・・・こいつを投下したのか」

「知っているのか?」

「ネオ生命体と呼称される怪人兵器だ。ドラスというコードネームも与えられていたが・・・何にせよ厄介な奴を所持していたな」

 士と明石を中心とした彼等は、この破壊を引き起こした一つの脅威を目にしていた。

 その異形は言葉を話さず、低い唸り声を発しながら不気味な光を放ち、街を、人を焼いている。

「勝てる見込みは? ・・・聞くまでも無いか」

「そもそも退く訳にはいかんだろうが。・・・変身!」

「そうだな、ここで奴を止める、道は他には無い。レディ! ボウケンジャー、スタートアップ!」

 

 戦士達は戦いに赴く。理由は言わずもがな、人に仇なす悪を倒す為。

 だが彼らが対する者達は、世界を覆う悪意のほんの一角に過ぎない。

 それを証明するかの様に、一つの白き厄災がこの地に訪れつつあった。

 

続く



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。