別の道を目指して (亀さん)
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始まりの始まり

 

「行ってらっしゃいエレン」

ウォール・マリアのシンガシナ区にある病院の一室に置かれているベットの脇に座っていた男は震えながら持ち上げられた、骨が浮き出る程まで弱った女の手をしっかりと掴む。

 

数年前とは見る影もなく肉も落ち、体を動かすのだって普通にはもう動かない。

女、ミカサ・アッカーマンはまだ二十代後半であるのにもかかわらず、その容貌はすでに六十台のものと言ってもおかしくないほどに衰えていた。

そもそもミカサの人一人を片腕で持ち上げる等の化け物じみた力は鍛えられていたとはいえ人間に普通はできない。

あの力はミカサが体を完全にコントロールして人体の安全装置を無理やり取っ払ったことによって出せていたものだった。

 

 

そしてそれは本来生物が本能で抑え込んでいる代物で、それを無理に使い続けていたミカサの体はすでにボロボロでもう一人で立つことも難しくなっていた。

 

 

そんなミカサを悲しげに見つめた男は一度目を伏せてしっかりと頷く。

「行ってくる」

立ち上がり刃を収めているケースを装着して扉から出ていく男はグリップの調子を確かめながら廊下を歩いていると出口付近で待っている小柄の男が目に入った。

 

「エレン」

「アルミン・・・・・。こんなところに居ていいのか?もうそろそろ集合時間だってのに調査兵団長が遅れたなんて信頼にかかわるぞ」

前団長から判断能力を買われ、若くしてその座を受け継いだ今だ少年にも見える程の男は男の顔を見てため息を吐く。

 

「エレン、無理なら今回の調査には同行しなくていい。人類は今やウォール・マリアまで領土を奪還して、無理にでも領土を広げる必要はなくなってる。ミカサが心配なら・・・・」

アルミンの言葉を着るようにエレンは手でアルミンを制して首を振る。

「いいんだアルミン。ミカサがもう兵士として動けないなら俺が巨人を駆逐してあいつが安全に壁外を動けるようにするんだ」

「エレン・・・・・」

 

そこに急いで飛んできた男が流れる汗を拭おうともせずに怒鳴る。

「おいっ、もう集合時間だっ!!団長と兵士長が揃って遅刻なんて新しい入団兵の士気にかかわる」

「あ、ジャンごめん」

「悪いな」

「行くぞ。ミカサにはまた戦勝報告しなけりゃいけないんだからよ」

「わかった。エレン、ジャン急ごう」

アルミンを先頭にエレンとジャンの三人はガチャガチャと装備がぶつかる金属音を鳴らしながら駆け足で街中を駆け抜ける。

 

その三人が駆け抜ける先を人々は道の端に寄って道を開けながら老若男女問わずに声を掛ける。

「頑張れよ調査兵団っ!!」

「今回も期待しているぞ!!」

人々から翼の紋章が描かれた背中に送られる声は数年前の総力戦により知性を持った巨人を何体も討ち取って人類が一気に盛り返した時から希望へと変わってきている。

 

 

広場までかけたエレンとアルミンは分隊長であるジャンと別れ、ずらっと並んでいる兵士たちの前にある壇上の上に上った。

壇のすぐ下には総力戦によってあまりにも多い数の戦死者をだし、世代交代を余儀なくされたためにエレンたち104期生が調査兵団の幹部としてずらっと並んでいた。

 

アルミンが一歩前に出て以前とは何倍もの規模になった調査兵団を見渡しながら声を張り上げる。

「これから我らは壁外へと出陣する!!総力戦以来、巨人との遭遇回数も少なくなったがいまだに被害が出ることもあるだろう。だが恐れるな、人類が一歩でも前に進むために!!」

 

 

 

「心臓を捧げよっ!!」

「「「「「「「「「「はっ!!」」」」」」」」」」

 

 

 

バッと乱れもなく敬礼をした兵士に頷いたアルミンは壇から降りて自分の馬に乗る。

兵士たちもきびきびと馬に乗り、門の前まで進む。

「どうだっ?」

「巨人の姿は確認できません!!」

「よし・・・・・・・」

アルミンが後ろを振り向きエレンと頷き合う。

団長になって以来、習慣となっている儀式のようなものだ。

 

 

 

「出撃っ!!」

「「「「「「「「「「おぉおおおおおおおおおおおっ!!」」」」」」」」」」

 

 

 

門が上に上がるのと同時に馬の腹を蹴り、エレンと一緒に飛び出すとそれに続いてジャンの隊が駆け出し、ドンドンとそれに続いていく。

調査兵団が自由を求めて飛び出した。

 

 



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壁外調査

 

前団長が考案した索敵陣形をアルミンが考えて改良したそれは今まで以上に正確な情報伝達を可能にしていた。

 

しかしこの最低限巨人との接触を避けるための陣形も、運が悪かったのか調査兵団は非常にまずい危機に陥っていた。

 

「三時、十時、十一時の三方向から同時に赤い煙弾を確認っ。囲まれましたっ!!」

馬を走らせながらアルミンは周りにいる部下から次々と上がってくる悲鳴にも似た煙弾の報告に頭を抱え、必死に逆転の一手を打とうとする。

 

 

本当に運が悪いことにどうやら巨人が近くに数体存在していたようだ。

それが多くの兵士、人間の集まりである調査兵団を狙って向かってきたのだ。

 

アルミンは息を吐くと緑の煙弾を用意して一時の方向に放ち、今度は黄色の煙弾を右に放った。

「エレン、頼めるかい?」

「任せろ」

アルミンの問いかけに頷いたエレンは単独で左に馬首を向けて走り出す。

 

黄色の煙弾は緊急時に司令部真後ろに居るジャンが率いる精鋭隊に巨人討伐を目的とした新しく作られた合図だった。

調査兵団最精鋭班と単独で何体もの巨人と戦えるエレンに討伐を任せて調査兵団全体に被害が出ないようにするためだ。

 

とはいってもこの合図は最終手段と言ってもいいほどでそれほどまでに緊迫した状況だったのだ。

 

 

「一時の方向に向かうわっ!!急いでっ!!」

ところ変わって左方索敵班を纏めるクリスタ・レンズ、本名ヒストリア・レイスは向かって来る何体もの巨人に冷や汗を流しながらも、アルミンから伝達されてきた緑の煙弾を同じように一時の方に放ちながら周りの部下を激励して士気を保ち続ける。

しかしながら追ってくる巨人たちは粘り強く、そして予想外に走り続けているためにいつ捕まるか分からなくなってきた。

「駄目ですっ!!どんどん差が縮まってます!!」

「距離はっ!?」

「距離400っ!!」

「くっ・・・・・・。全員抜刀っ!!戦闘準備っ!!」

もうすぐそばまで来ている巨人に覚悟を決めると、グリップに刃を装着して抜き放った。

周りの部下もそれを復唱しながら刃を装着していく。

 

「距離300っ!!」

「くっ・・・・・・!?」

クリスタが巨人に馬首を向けようとした時、黒髪の男がクリスタ達の前方を勢いよく横切ってそのまま前方の巨人目掛けて突撃していく。

一瞬止めようとしたクリスタは男の顔を見た途端、ケースに刃をしまって巨人に背を向けるように一時の方向に駆けだした。

これには部下たちも唖然としながらその背中を追い始める。

「は、班長っ!?あの兵士を見殺しにする気ですか?」

「・・・・全員っ、このまま一時の方向に駆け抜けてっ!!」

「で、ですがレンズ班長っ!!巨人四体は一人では・・・・・・」

自分だけでも助けに行こうとした一人にクリスタは微笑みながらだんだんと離れていく男を見やる。

 

 

「大丈夫、エレンは強いから」

「は?」

部下が意味も解らずに呆然としていると不意に味方から歓声が上がり、部下が振り返ると人類にとって絶対不利な平地であるにも関わらずすでに巨人が二体も地面に倒れ伏せていた。

しかもそれは平地戦でのマニュアルの一つにある足の腱を切り裂いて機動力を奪ったのではなく、倒れている巨人の急所であるうなじ部分が大きく削ぎ取られていて、巨人はその厄介な再生能力を発揮することもできずに即死、体が蒸発して消えていった。

 

彼自身も巨人と戦ったことがある部下は呆然として、目を疑いながら呟く。

「馬鹿な・・・・・・」

部下だって馬鹿じゃない、むしろこの場面はクリスタが率いている兵士たちを犠牲に払ったとしても巨人を撃破するのが最善だったはずだ。

しかしクリスタは男が現れたと同時に抜刀していた刃をしまって駆け出した。

その結果が犠牲も出さずにすでに四体中二体の巨人が絶命している。

やや後方からも巨人は迫っているが、すでにそちらはスタミナ切れのようでこのまま一時の方向に向かえば逃げ切れそうだった。

そしてじっと見つめていた先で、残っていた巨人がぐらりと倒れていくのが見えた。

 

「助かったよエレン」

戻ってきたエレンにクリスタは礼を言う。

それをくすぐったそうに苦笑しながらエレンは周りの兵士たちを見渡す。

 

「それより、ほかの兵士たちは大丈夫だったか?」

「うん。エレンが思ってたより早く来てくれたから損害は出なかったよ」

「そっか・・・・・・」

ほっとした様子のエレンにクリスタは少しだけ何とも言えないような顔をした。

 

「どうした?」

「最近疲れてない?あの戦いからずっとエレンは一番前で巨人と戦ってるんだから休める時はしっかりと休まなきゃ」

「大丈夫だって。それより早く巨人を駆逐してミカサとアルミンと世界を回るんだ。じゃ、またあとで」

そう手を振って中央に戻っていくエレンにクリスタは一部の不安を抱く。

 

エレンはミカサの死期を悟っており、自分に負担をかけてまで巨人の駆逐に急いでいるのが分かったからだ。

ミカサはあのリヴァイ兵長と同じように戦闘で肉体を酷使して、一気に衰弱したのだ。

そしてリヴァイ兵長と同じように死ぬのだろう。

それが分かっているからエレンは焦っているのだ。

 

「エレン、ミカサ・・・・・・。死なないでね・・・・・」

平地を馬で駆けながらクリスタはそう静かに呟いた。

 



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調査兵団vs巨人

 

「巨人多数出現っ!!」

見張りの兵の叫び声が響き渡ったのは突然の事だった。

古い建物が集まった場所で一旦休憩を取っていた調査兵団に響き渡った声は兵士たちに動揺と絶望の雰囲気が広がるのに十分だった。

 

司令部ともいえるテントに飛び込んできた兵士が慌てて報告すると、

アルミンが思考をより効率化するために目を閉じる。

「包囲は?」

「全方位現在距離500、ゆっくりと近づいてきます。おそらく知性を持った巨人はいませんが数が・・・・・・」

「どれくらい?」

「およそ五十体前後です」

アルミンを中心とした調査兵団の上層部から驚きの声が漏れた。

 

「っ・・・・・」

「アルミン、俺が北半分をやる。後の半分を頼む」

「・・・・・わかった。ジャン、エレンと一緒に北から来る巨人の殲滅を。南は残りの調査兵団全員で討伐する。たぶんこの戦いが人類と巨人の最後の戦いだ。勝つぞっ!!」

「「「「おおっ!!」」」」

テントから飛び出したエレンは先行して北に向かう。

 

 

建物の上に立体起動装置で移動して、遠くから歩いてゆっくりと向かってくる巨人の大軍を眺める。

「おいそんなところに立ってどうしたんだ?巨人と見れば駆逐だ駆逐だって騒いでた死に急ぎ野郎がまさかビビッてんじゃねぇだろうな」

「んなわけあるか。・・・・あの時を思い出してな」

「ちっ・・・・・・。嫌なこと思い出させんな」

あの戦いの前もこうやって屋根に上って向かって来る巨人を眺めていた。

その時にはアルミンもミカサも後ろに立っていたが、アルミンはその戦いで多くの昔からの部下を失ったエルヴィンから団長の座を受け継ぎ、ミカサは戦いの最中に超大型巨人を追い詰めた時、肉体が耐えきれないほどの負荷がかかったために動けなくなった。

それを思い出したジャンは苦い顔をしたのだ。

 

「ここで終わらせる」

「テメェと同じなのが気にくわねぇがな」

 

 

「「駆逐してやる。一匹残らず!!」」

 

 

「続けっ!!巨人を突破させるな!!」

ジャンとエレンが真っ先に巨人の群れ目掛けて殺到し、それに続いてジャンの部隊が屋根の上を疾走する。

 

「うぉおおおおおおおおおおっ!!」

エレンは一体の巨人に屋根の上から飛び降りながら襲い掛かる。

 

「イ、 イエーガー兵長!?」

エレンは立体起動装置を使いもせずに飛び降りたために距離が足りず、落ちるしかない。

エレンがミスをしたのかと慌てた新たに配属された新米兵士の前で突然出現した巨人の腕がそこにいた10メートル級を叩き潰した。

 

「なっ!!」

エレンの片腕に突然現れた巨大な腕が豪快に振り下ろされて頭ごとうなじを引きちぎって絶命させると、エレンは腕をその腕から引き抜いて襲い掛かってきた巨人の喉を再度出現させた腕で貫いた。

エレンが負担を減らすために発見した一部分だけ巨人化させて使用する戦闘法だ。

その人外の光景に呆然としていた新兵の背中を先輩が叩く。

「新兵っ!!ボサッとしてんな。俺達も兵長に続くぞっ!!」

次々と巨人を巨人の腕で叩き潰していくエレンと、類稀なる立体起動装置の操作能力で巨人の手を避け続け、兵達との連携で着々とうなじを削っていく

それによってそこらには肉体が蒸発した巨人の骨が転がり、それを踏み越えて新たな巨人が襲い掛かってくるがそれもすぐに骨へと帰る。

 

そして南も持ち運びが簡単になった兵器や、アルミンの指揮で犠牲を出しながらも着々と巨人を討ち取っていった。

「南から緑の煙弾。巨人の駆逐を完了、こちらに援軍を派遣するようです」

「よしっ!!もう少しだ。ここで敵を討つぞ!!」

「ジャンっ!!」

ジャンがそう鼓舞した時、死角から巨人の腕が迫る。

それをエレンがジャンを突き飛ばして軌道からずらしたが、エレンへ代わりに巨人の手が迫る。

 

「くっ・・・・・・!?」

身を捩じってそれを避けるが立体起動装置のグリップを取り損ない、頭から地面に落下していく。

 

「エレンッ!?」

「くそぉっ・・・・・・・。ミ、カサ・・・・・・・・・」

最後の巨人が兵士の手でうなじを削がれたのと同時にエレンは地面に叩き付けられて意識を失った。

 



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845

 

「ん・・・・・」

太陽の光が燦々と降り注ぐ中、木の陰で寝ていた少年は涼しい風が頬を撫でるのを楽しんでいたが肩がゆすられていることに気が付くとゆっくりと目を開く。

寝起きでぼやける視界に見えた人影が呼びかけるので目をこすってもう一度目を開くと、肩をゆすっていたのは少年の家族の少女だった。

 

「エレン、こんなとこで寝てたら風邪をひく」

「ミ、カサ・・・・・?」

「どうしたのエレン?」

少女は少年の顔を覗き込むように顔を近づける。

 

「お前そんなに髪長かったか・・・・?」

「前からこの長さだけど・・・・・。どうしたの?」

「いや、なんかそう思っただけだ」

「そう」

少女は不思議そうな顔をして少年に首を傾げる。

 

 

「・・・・・・エレン、なんで泣いてるの?」

「えっ・・・・・・・」

少女の指摘通り、頬を拭ってみると指がぬれていた。

少年はグシグシと強く涙を拭うと少女の差し出していた手を掴む。

グイッと少女の力とは思えないほどの力で引き揚げられながら立ち上がると少年は服についた草を払って置いてあった薪を背負う。

「さ、帰ろう」

「あ、ああ」

 

家までの帰りを少年がすこし恥ずかしそうに少女の少し後を続くように歩いていると少女が振り返った。

「どうしたの?おなかでも痛い?」

「・・・・・絶対に言うなよ?」

「何を?」

「俺が泣いてたってこと」

「・・・・言わない。でも理由もなく涙が出るなんて、一度おじさんに診て貰ったら?」

「い、言えるかよそんなこと」

そんなことを話しながら自分たちの家があるシンガシナ区と呼ばれる、人類が立て籠もっている超巨大な壁の南に出っ張っている巨人の『より多くの人間を標的とする』という習性を利用した、兵力を集中できるようにわざわざ巨人の標的となるように作られた人々が在住する区域と、人間の最端の領域であるウォール・マリア内の領域との境にある門をくぐっているとそのそばに何人もの兵士たちが座り込んで喋っていた。

背中にはバラの紋章、駐屯兵団だ。

 

その中の一人がエレンたちに気が付いて近くにやってくるとエレンの顔を覗き込む。

「よぉエレン。何泣いてんだ?」

「は、ハンネスさん?」

「またミカサに怒られたのか?」

「はっ!?なんで俺がそんなことで泣くんだ、って酒くさっ!?」

エレンはアルコール独特の刺激臭にむせながら一歩下がると座り込んでいる兵士たちが手に酒瓶を持っているのが見えた。

 

 

「・・・・・また酒飲んでる・・・」

「お前らも一緒にどうだ?」

「・・・・仕事は?」

「おう、今日は門兵だ。一日中ここにいるわけだから喉も乾く。飲み物の中に酒が混ざっているなんてことは些細なことだ」

「そ、そんなことでもしもの時に戦えんのかよっ!!」

「もしもの時ってどんな時だエレン?」

 

 

 

「奴らが壁を壊して街に入ってきた時だよっ!!」

 

 

 

エレンの少年特有の甲高い怒鳴り声はアルコールが入った頭にがんがんと響き、ハンネスは痛みで頭を押さえる。

「わっはっはっは。元気がいいな医者のせがれ」

「奴らが壁を壊すことがあったらちゃんとするさ。だけどな・・・・」

 

「この百年そんなことはおこってねぇし、大きくて十五メートルの奴らが五十メートルの壁を壊すことなんてできねえよ」

「そう思ってる時が一番危ねえって父さんが言ってたっ!!」

「確かにそうなんだがなエレン。俺達兵士がただ飯ぐらいって馬鹿にされている時が一番平和なんだぜ。俺たちが働くときなんて本当に最悪な時だ」

「じゃあ戦うつもりもねぇんだな!?壁ばっか修繕しやがって、もう駐屯兵団から壁工事団に名前を変えろよっ!!」

「ははっ。いいなそれ」

「まったくだ。壁外に出て行って巨人の餌になりに行くような調査兵団の奴らの気がしれねえ」

「勝手に戦争ごっこに興じてろってな」

吐き捨てるように兵士が言った言葉にエレンは頬をピクリと動かした。

 

「一生壁から出られなくても、飯食って寝てられりゃ生きていけるよ。でも・・・・・」

 

 

 

「それじゃまるで家畜じゃないか・・・・・」

 

 

 

エレンの言った一言に兵士たちは言葉を失い、エレンがミカサと一緒に去っていく様を呆然と見送っていた。

「まさかエレン、調査兵団に入るつもりか・・・・・?」

兵士たちはふざけた口調であっても、本心の深くでは子供たちを死なせることを望んでいなかったから調査兵団を馬鹿にするようなことをいっていたのだ。

 

「エレン。調査兵団はダメ」

「なっ、ミカサ。お前も調査兵団を馬鹿にするのかよっ!!」

「違う。でもダメ」

断固として反対されたことにふてくされていたエレンだがカラーンカラーンと鳴り響く鐘の音に目を輝かせる。

 

「行くぞミカサっ!!英雄の凱旋だっ!!」

ミカサの手を引いて一番大きな通りに走っていくとそこにはすでに人だかりができていてエレンは調査兵団を見る為に近くに積んであった木箱に上った。

 

「っ!?」

「おいおい。行くときには百人はいたはずだが・・・・・・。みんな喰われちまったのか?」

民衆の目線はボロボロになった軍服を着た顔を暗くした二十人もいない兵士たちだった。

帰ってきた兵士たちのほとんどは怪我を負っていて、片腕を包帯で吊るしているのはまだいい方で片足を無くして担架で運ばれている兵士やグッタリとして肩を貸してもらって辛うじて歩いている兵士、もう生きているのか死んでいるのか分からない兵士も何人もいる。

 

「ブラウンッ!!ブラウンッ!!」

その幽鬼のように歩いていく兵士たちに慌てて一人の女性が息子の名前を呼びながら駆け寄って息子を探しているが見つからない。

 

「あ、あの・・・・・。息子のブラウンが見つからないのですが、息子はどこでしょうか・・・・?」

「・・・・・ブラウンの母親だ。持ってこい」

女性に尋ねられていた男が部下にそう命じると、布に包まれた物を持ってきて女性に手渡した。

 

それを信じられないといったような目で持ってきた兵士を見て、男を見る。

女性は震える手で布をゆっくりとめくると中からひじのあたりから先の腕が出て来た。

 

「それだけしか・・・・・・。奪い返せませんでした・・・・・」

 

男の無念の呟きに女性は崩れ落ち、声を上げて泣き出した。

嗚咽でまともに喋れもしなかったが、女性は涙を流しながら男を見上げた。

「で、でもっ。息子は、息子の死は役、にたったんですよねっ・・・・・?」

「もちろん・・・・・・」

そう言いかけた男は言葉を切って勢いよく頭を下げる。

「我々は今回も何の成果も得られませんでしたっ!!」

「私が無能なばっかりに悪戯に兵を死なせ・・・・・・」

 

 

 

「奴らの正体を突き止めることが出来ませんでしたっ!!」

 

 

 

男の言葉に周りで見ていた大人たちも溜息を吐き、中には失望から言葉を漏らす者もいた。

「まったく。これじゃあ俺たちの税で奴らに飯を与えて太らせているようなもんじゃねぇか」

そんなことを言った男の頭をエレンは背負っていた薪の一本で思いっきり殴って昏倒させるとミカサが慌ててエレンを引きずって逃げ去る。

 

そのまま人のいない路地裏まで来ると思いっきり腕を振りぬいてエレンを壁に投げつける。

それをエレンは体を反転させて受け身を取ると、ミカサを睨み付ける。

「何すんだミカサッ!!薪が散らばっちまうだろっ!!」

「エレン。調査兵団に入りたいって気持ちは変わった?」

「・・・・・・帰るぞ」

ミカサの問いに答えようともせずにエレンは家に向けて帰っていった。

 



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その日

「ただいま」

「お帰り。遅かったわね?」

家に帰ると皿を拭いていた母、カルラと椅子に座って本を読んでいた父、グリシャが不思議そうな顔をして訪ねてきたのでエレンは言葉を濁すしかなかった。

カルラは調査兵団を認めていなかったからだ。

 

「エレンが調査兵団に入りたいって」

「エレンっ!?」

「み、ミカサそれ言うなって!!」

ミカサがボソッと呟いたのを聞き取ったカルラはエレンをきつい眼差しで睨み付けた。

 

「エレンっ。今までどれだけの人が調査兵団に入って死んだか知ってるでしょっ!?」

「解ってるよっ」

二人の口論が激しくなっていきそうな雰囲気の中で、グリシャが間に割り込んでエレンと視線を合わせる。

 

「エレン。なんで調査兵団に入りたいんだい?」

「俺は一生壁の中で家畜みたいに過ごすなんて嫌だっ。それに・・・・・・」

 

 

 

「ここで誰も続かなかったら、今まで死んでいった人々が無駄になる!!」

 

 

 

「そうか・・・・。そろそろ船の時間だ。行ってくる・・・・」

「ちょっとあなたっ!?エレンを説得してっ!!」

「カルラ。人の探究心とは他人に言われて抑えられるものじゃない」

グリシャはそう言って自分の荷物を持ってドアを開けて外に出ようとすると、ふと思い立ったかのように首に掛けた鍵を見せながらエレンに振り返った。

 

「そうだエレン。帰ってきたら秘密にしていた地下室を見せてやろう」

そう言って仕事に出かけていくグリシャが曲がり角を曲がってから、外に出て見送っていたエレンにカルラが再度調査兵団に入るのはダメだと言うがエレンは反発して飛び出していった。

 

「ミカサ・・・・・」

「おばさん。なに?」

走っていったエレンの背中を見送っていたミカサは自分を呼んだカルラの顔を見上げた。

 

「あの子はだいぶ危なっかしいから・・・・・・。困ったときは助け合うんだよ?」

カルラの言葉に力強くミカサがうなづくとエレンを追いかけはじめた。

 

 

ところ変わって路地裏で小柄な少年が同年代の少年三人に絡まれていた。

よく見ると服に土ぼこりが付着しており、顔にも新しくできたあざが見える。

「どうした異端者。悔しかったら殴り返してみろよ」

三人のうちの一人が小柄な少年の襟をつかんで持ち上げながらそういうが、小柄な少年は睨み付けながらも決して殴らない。

「どうした?ビビッてできねえのか?」

「そ、そんなことするもんか。そんなことしたらそれこそお前たちと同レベルじゃないかっ!!」

「なんだと!?」

「僕が正しいことを言っているから反論できずに殴るしかできないんだろ?」

「それは僕に降参したってことじゃないか!!」

「う、うるせえぞ屁理屈野郎っ!!」

小柄な少年を一人が殴ろうとした時、エレンがその間に割り込んだ。

 

「エレン、今日こそぶちのめしてやる!!」

「今日はミカサがいねぇっ!!やっちまえっ!!」

いつもエレンと一緒に居るミカサがいないことに気が付いた三人が小柄な少年の事をすっかり忘れ、新たに現れたエレンに襲い掛かった。

「エレンッ!?」

その後の光景を予想して小柄な少年の悲鳴が上がるが、その像像を裏切るようにエレンは一番最初に襲い掛かってきた少年のパンチを避けて腕を掴んでもう片手で流れるように顎を押さえると蹴りで足を払った。

「フゲッ!?」

見事に一回転した少年は後頭部を地面に叩き付けて手で押さえたまま地面を転がる。

そしてエレンは一気にしゃがむことによって死角に潜り込むと、もう一人の足を鋭く蹴り飛ばして顔から地面に倒れ込ませると、最後の一人を勢いを使って投げ飛ばす。

 

一瞬の間に地面に転がった三人は目を見開いて立って見下ろしているエレンに驚く。

昨日も喧嘩をしたが、まだ三人でかかればミカサが来ない限り勝てたはずだ。

「な、なんでこいつ強くなってんだよっ!?」

「に、逃げろっ」

驚きで頭が回らなくなった三人は逃げる事しか選択出来ずに涙を浮かべながら逃げて行った。

「え、エレンなのかい?」

「どうしたんだよアルミン?友達の顔を忘れたのか?」

「い、いや・・・・・。あ、それよりじいちゃんの棚からまた新しい外の世界の本を見つけたんだ」

「アルミンッ!!それ俺にも見せてくれっ!!」

エレンが目を輝かせて飛びついてきたのにアルミンが噴き出す。

そのままエレンと一緒にいつも本を読んでいる風通しのいい川のすぐそばまで行くとそこで本を広げて二人でそれを見入る。

そこには炎の山や氷の大陸、塩が混ざったとてつもなく大きな水たまりなど二人の心を高鳴らせることがたくさん書いてあった。

 

「・・・・いつか一緒に見て回ろうな」

「ああ。でもミカサも一緒にね。仲間外れにするのは良くないから」

「わ、わかってるよ・・・・・・・」

「あ、またミカサと喧嘩したんだね」

隣でアルミンが笑いながら言った問いが図星だったにエレンが顔を真っ赤にしてそっぽを向いているとちょうどミカサがやってきた。

 

「エレン、ようやく見つけた」

「遅かったねミカサ。いつもならエレンと一緒なのに」

「エレンがいつもよりも速く走ったから追いつけずにはぐれてしまった。ので、シンガシナ区を一周してきた」

「あ、あはははははは・・・・・・」

おそらく冗談を言っている訳ではない事は長い付き合いでわかっていたのでアルミンは顔を若干引き攣りながらから笑いをこぼす。

 

「・・・・アルミン。頬に擦り傷が出来てる」

「あ・・・・。さっき殴られてね。でもエレンが助けてくれたんだ」

「そう・・・・・・」

ミカサはエレンを見ると頭を両手でしっかりと掴んで顔を寄せる。

 

「何すんだミカサ!?」

「エレン。弱いんだから無理しちゃダメ」

「今回は全員なぎ倒したんだからいいだろ」

エレンがミカサの手を払いのけて顔を逸らすとミカサがすぐさま頭を掴んで引き寄せる。

するとエレンがそれをまた払いのけたがミカサがまた頭を掴もうと手を伸ばす。

その二人だけの戦いがどんどんヒートアップしていき、すでにアルミンの動体視力では付いて行けないほどの速度で繰り返されるその戦いにアルミンは苦笑いをするしかなかった。

 

「あれ。もういいの?」

「いい。私は十分エレニウム(ミカサ曰く、エレンと触れ合うことで補給できる栄養素で、ミカサはこれが不足してくると能力値が三分の一程に低下するらしい)を補給した。ので今からアルミンを殴った奴らをのしてこようと思う」

「いいって・・・・・・」

若干汗ばんでいるがツヤツヤとしているミカサが意気揚々と突撃しようとしたのをアルミンが何とか説得し、ミカサも腰を下ろして小川を眺める。

 

「なぁアルミン。今回はなんで殴られてたんだ?」

「壁の中に引きこもっているだけじゃいずれ人類は滅亡する、だから外に目を向けるべきだって言ったら異端者だって・・・・。それで殴られた」

「ったく、いつまで平和ボケしてんだ人類は。自分の命を懸けるのなんか個人の勝手だろ」

「エレン。調査兵団はダメ」

「でも・・・・・・。なんで彼らは平然としていられるんだろう」

 

 

 

「今日、今だって壁が破られない保証なんてないのに・・・・・・」

 

 

 

アルミンの呟きは一瞬エレンたちの周りの空気を凍てつかせた。

しかし次の瞬間、雷が落ちたかのような爆音が響き渡り、突風で店の看板が揺れた。

 

「・・・・・・なんだ・・・・?」

アルミンは大通りに出て音のした方を見ると、そこら中の人は顔を恐怖で引き攣らせ、門の上の方を指差して固まっている。

あとから来たエレンとミカサもそれを見て目を見開き驚きで口が閉じれずに呆然とそれを見つめていた。

 

50メートルある筈の壁には赤い色をした大きな手が掛けられている。

その向こうからはモクモクと蒸気が立ち上っている。

「き、巨人だ・・・・・・・」

「お、おいっ・・・・。嘘だろ?あの壁は50メートルあるんだぞ・・・。それをなんで15メートルしかない巨人が手を・・・・・・・」

半狂乱になっていた男の口からあふれ出した皆が思っていた恐怖の答えはすぐに現れた。

50メートルもある壁の向こうから頭を付きだしている巨人はおそらく60メートルほどもあった。

その超大型巨人がゆっくりと動いて足を後ろに持ち上げる。

 

 

この日、人類は思い出した

    ヤツラに支配されていた恐怖を

鳥籠に囚われていた屈辱を

 

 

轟音を響かせて蹴り砕かれた門だった岩石がバラバラに砕け散り、建物を破壊しながらシンガシナ区に降り注ぐ。

 

「か、壁に穴を開けられた・・・・・・・?」

 

「・・・・・・奴らが・・・・、巨人が入ってくる・・・・・っ」

暫らく呆然としていた住人は一歩二歩と後ずさり、やがて悲鳴を上げながら背を向けて逃げ出した。

区画内に悲鳴が響き渡る中、アルミンは絶望でしゃがみ込んで頭を抱える。

「もうだめだ・・・・・・。この街は無数の巨人に支配される・・・・」

「アルミン。家族と一緒にウォール・マリア内に逃げるんだ。俺も母さんとミカサを連れて逃げるから」

「わ、わかった。エレンたちもすぐに来てねっ」

「ああ」

アルミンと別れ、エレンはミカサと共に家を目指す。

 

道には運悪く岩の下敷きになってしまった人や、壁が完全に突き破られた建物が幾度も見える。

最後の曲がり角を曲がって見えた光景にエレンが奥歯を噛みしめたのはそのすぐあとの事だった。

 



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その日 その2

 

曲がり角を曲がったエレンの目に入ってきたのは巨大な岩で潰れた家だった。

エレンとミカサは二人で懸命に瓦や砕けた柱などをどかしてカルラを探す。

しばらくすると人の手が見えたので最悪な想像の恐怖に抗いながらどかし続けようやくカルラを見つけ出した。

「母さんっ!!」

岩に押しつぶされることは免れたが倒れた太い柱にカルラが挟まれていたのだ。

「・・・え、エレンかい・・・・?」

「ミカサ、そっちを持て。急いで柱をどけるぞっ!!」

エレンとミカサが力を合わせて持ち上げようとするが、それだけでは太い柱を持ち上げることはできずびくともしない。

先ほどから続く巨人の足音と咆哮を聞いたカルラは一瞬目を閉じて覚悟を決めた。

 

「巨人が・・・・・入って来たんだろ・・・・・?」

「ああ。だから早く逃げようっ!!」

「エレン。ミカサを連れて逃げなさい。私の足は怪我して出れたとしても走れない。だから・・・・・」

「俺が担いで走るよっ!!」

「っ・・・・・・。なんで最後ぐらいいう事を聞いてくれないのっ!!ミカサッ!!」

カルラがミカサを見るがミカサも逃げようとせずに歯を食いしばって動かない柱を持ち上げようとしていた。

「っ・・・・・・・」

そして一生懸命カルラを助け出そうとしていた二人をあざ笑うかのようにそれは近づいてきた。

 

ズシン、ズシンと腹の底に響くような足音がドンドン近くに寄ってきて、三人がそっちを振り返ったと同時にヌッと巨人が角を曲がって現れた。

巨人はどっちへ行こうかと迷うようなそぶりをして、ふとエレンたちの方を見る。

そしてにやっと巨人はわらい、エレンたちの方にゆっくりと歩んでくる。

「しまった・・・・・・・」

巨人が三人を見つけたときそこへアルミンに頼まれて来たハンネスが汗を額に浮かばせながら走ってきた。

 

「お前ら大丈夫か!?」

「母さんがっ!!」

「ちっ・・・・・。

 

「待ってハンネスさんっ、戦ってはダメッ!!エレンとミカサを連れて逃げてっ!!」

「見くびってもらっちゃ困るぜカルラ。こいつをぶっ殺して三人を助けるっ!!恩人の家族を救ってようやく恩返しを・・・・・・・」

 

 

 

「お願いっ!!」

 

 

 

カルラの必死の願いは一瞬ハンネスを冷静にさせた。

それは幸か不幸かハンネスの勢いを削ぎ、ハンネスに自分の未来を客観的に見つめさせるのに十分だった。

「ッ・・・・・・・・」

そして見えたのは確実な死。

頭から齧られる、その驚異的な握力で握りつぶされるなどの明確な死のイメージはハンネスの手を震えさせ、脚がまるで重りが引っ付いたかのように動かず、全身から冷たく不快な汗が噴き出した。

そしてハンネスは逃げるように踵を返すと抜いていた刃をケースに差し込んでミカサとエレンを抱えて逃げ出す。

 

「お、おいハンネスさんッ!!母さんがっ!!」

「無理だ・・・・・。俺一人じゃあいつを殺せない・・・・・。

一歩二歩と遠のいていくカルラに必死に手を伸ばそうとしながらエレンが下せとわめくがハンネスはエレンをしっかりと掴んでどんどん歩いていく。

 

「エレン、ミカサ・・・・・・。生きて・・・・・・」

カルラはすでに数メートル先に離れている二人に聞こえるはずもないほどの大きさで呟く。

それはわが子の先を祈るものだった。

それに反応したように巨人はエレンたちには目を向けず、カルラの上にある瓦礫をどかしてカルラを掴もうとする。

「あ・・・・・・・」

「やめろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

エレンが強引にハンネスが掴んでいた服を破って抜け出すとカルラに向かって走りだした。

 

「「「エレンッ!?」」」

 

「ぶっ殺してやるっ!!一匹残らずっ!!」

エレンは走りながら無意識の中、手を口に持っていき思いっきり噛み千切る。

いきなり暴風と呼べる強さの蒸気が吹き溢れ、カルラを掴もうとしていた巨人さえも吹き飛んで地面を転がった。

 

「・・・・・・・どうなってんだ、こりゃ・・・・・・・」

ハンネスは目を見開き、呆然と目の前の光景を見て呟く。

それはほかの二人も同じことだった。

一瞬真っ白に染め上げた湯気のカーテンから現れたのは筋肉質の15メートル巨人。

さっきまでそこにはエレンがいたはずだ。

そして突然現れた巨人はミカサやハンネス、すぐそばに居たカルラさえも無視してゆっくりと立ち上がった巨人に向かって歩いていく。

思い切り腕を引き、巨人はゴォッと音を立てて振りぬいた拳は口を大きく開けて走ってきた巨人の喉と一緒にうなじ部分を貫いた。

 

「エ、レン・・・・・?」

巨人を殺した謎の巨人は丁寧に瓦礫を退けてカルラを抓んでハンネスの横にゆっくりと下すとハンネス達に背を向けてどこかへ歩いて行った。

 

「何がどうなってんだ・・・・・・・」

「ハンネスさんエレンが・・・・・・」

「とりあえず助かってからだ。急ぐぞっ!!」

ハンネスはカルラを背負いながら門に急ぐ。

その道には今朝まで一緒に酒を飲んでいた仲間の上半身だけの死体が転がっていた。

それに悔しげに歯を食いしばり、生きるために先を急ぐ。

「っく・・・・・」

ようやくウォール・マリアへの門にたどり着いた三人が見た物は完全に穴が開いた門だった。

 

その少し前、エレンたちと別れたアルミンは必要な分だけの荷物を持って家族とそろってウォール・マリア内に避難してエレンたちを門付近の船着き場で待っていたのだが門が音を立てて下りはじめた。

 

「これ以上は危険だっ!!閉門しろ」

「おいっ!!まだ避難していない住民がいるんだぞっ!!」

「この壁が破られたら街の一つが巨人に占領されただけじゃないっ!!次の壁まで人類の活動領域が後退するんだぞっ!!」

「だが目の前の人々を見捨てる理由にはならないっ!!」

兵士たちが門の前で口論しているのを聞いたアルミンは不安そうに立ち上がってそちらを見ていたが不意に門の向こうが騒がしくなった。

一体の巨人が門目掛けて突っ込んできたのだ。

 

「な、なんだコイツ・・・・・。武器が効かないっ!?」

「食い止めろっ!!」

兵士たちが懸命に白兵戦、砲撃による撃退を試みるが全身が固いその巨人の勢いを止めることはできずに石でできた門が巨人の体当たりによって突き破られた。

突き破った巨人はこちら側の建物の陰に入り込んでいくとそのまま姿を消した。

 

 

「駄目だ・・・・・。また人類は巨人に食い尽くされる・・・・・」

誰かが呟いた言葉はその場にいた人々の顔を一層暗くするに十分すぎる程に絶望を感じさせる一言だった。

 

 

そこへミカサがハンネスとカルラを連れてやってきた。

ハンネスはカルラをアルミンの父親に任せるとまた戦うために門の向こうに飛んで行った。

「アルミンッ!!」

「あ、ミカサとおばさん。無事だったんだね・・・・・。でもエレンは・・・・・?」

「落ち着いたら話をしよう」

「そうね・・・・・・」

アルミン達は船に乗り込み、その船はゆっくりと川をさかのぼっていく。

さすがに巨人はいないのかようやく一時的に危機から脱出した人々は疲れから次々と眠りに落ちて行った。

 

「エ、レン・・・・・」

ミカサも疲れ果て、脚に添え木をして包帯を巻くだけの応急処置をしたカルラにもたれかかって寝ながら目の淵に涙を浮かべていた。

「大丈夫よミカサ。エレンは生きてまた会えるわ」

そのミカサの頭を優しく撫でながらカルラも眠りについた。

 

 



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訓練生
出立


 

昔、建設されたばかりの調査兵団のメンバーたちが内地に建てられた城を改造して作った旧調査兵団本部の前で旅立つ少年を見送るために数人の大人たちが集まっていた。

その中で一番小柄な男が少年の最後の荷物を馬に括り付けたあと少年の肩に手を置く。

「おいエレン。忘れ物はねえな」

「はいっ」

「飯食った後は絶対歯を磨けよ」

「はいっ」

「あまり遅くまで夜更かしすんじゃねぇぞ」

「はいっ」

今日から訓練所に向かい、訓練兵団に合流することになるエレンにその小柄な男はまるで幼子に言い聞かせるように次々と言う。

 

「まぁリヴァイ、そろそろエレンも出発しなければいけないからな。それぐらいにしておこう」

金髪の長身の男性がそう言うとしぶしぶといった感じで男は最後にと少年に言う。

 

 

「エレン、もしいじめられでもしたらすぐにでも連絡を寄越せ。俺が削ぐ」

「ぶふっ!?ちょ、リヴァイが、まじオカンッ!!は、腹いてぇ!!」

 

 

ついに腹筋を崩壊させた眼鏡をかけた女?が膝を着いてバンバンと地面をたたく。

「黙れクソメガネ」

それに青筋を立てた男は地面を転げまわって爆笑していた同僚を思いっきり蹴とばした。

その同僚は顔面を強かに蹴り上げられ、眼鏡のガラスがキラキラと太陽光に反射する中を弧を描いて宙を舞った。

 

その二人の様子に呆れたように男性が苦笑する。

「ほらリヴァイ、ハンジ、エレンをちゃんと見送らなければならないんだからはやく立ちなさい」

「チッ・・・・・・」

「ふぅ。じゃあねエレン。また実験しに訪ねるかもしれないけどね」

「エレン。手紙を送ってね?」

「しばらくの間は俺達が何とかするからさ」

「チッ・・・・・・。兵長に少しだけ可愛がってもらっているからって調子に乗りやがって・・・・」

「オルオもこう言っているが実はさみしがってるからな」

「てめぇグンタッ!!余計なことをshッ!?」

実はとても仲がいい四人のいつもの光景にエレンは笑みを漏らしながら着ていた緑色のマントを丁寧に畳んでエレンの上官を苦笑して説得し続けている長身の上官に渡す。

 

「しばらく預かっといてもらえますか。エルヴィン団長」

「了解したエレン。君がちゃんとした兵士として帰ってくる時を心から待っているよ。まあその他にもせっかく同年代と過ごすのだから楽しんできなさい」

 

 

「はいっ。行ってきますっ!!」

 

 

馬を駆けさせながら離れていくエレンの背中を見送りながらリヴァイはふと何かを思い出したかのように目を見開く。

 

「どうしたんだいリヴァイ?」

先ほどまで眼鏡が粉々に砕け、顔が陥没していたのにもかかわらずいつの間にか復活していたハンジが不思議そうな顔をしてリヴァイの顔を覗き込んだ。

 

「部屋の掃除を毎日しろって言うのを忘れた」

「だ・か・らっお前はエレンのオカンかよwwwww!!」

同僚がまた宙を舞うのは数秒後の事だった。

 



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初日

それから数時間後、ウォール・ローゼの南側に位置するトロスト区の訓練兵団に入隊した104期新兵たちは等間隔に直立させられ、『通過儀礼』と呼ばれる習慣の様なものを受けていた。

 

「お前は誰だっ!!」

「し、シガンシナ区出身、アルミン・アルレルトです!!」

「そうか、馬鹿みてぇな名前だなっ!!誰が付けたんだ」

「私の祖父に名付けてもらいました」

「アルレルト。どうしてここに来た!!」

「人類の勝利に貢献するためです!!」

あれから二年、兵士に志願したアルミンが敬礼したままそう答えると教官はアルミンの頭をガシッと掴むと顔を近づける。

 

「そうか。お前には巨人の餌にでもなってもらおう・・・・・。三列目後ろを向けっ!!」

その教官の怒鳴り声に三列目に並んでいた訓練兵たちが一斉に後ろを向いた。

アルミンも教官に頭を掴まれて無理やり首を回され後ろを向かされた時、一人の少年が走ってこちらに向かってきていた。

それに教官も気が付き、一瞬だけ優しげな顔をしたがすぐにしかめ面を戻して少年の前に歩いていく。

「貴様は誰だ?」

「すみません、私用で遅れました!!」

少年は並んでいる訓練兵達の後ろで見事な敬礼をして教官の顔を見上げる。

 

「本日付で訓練兵団に所属となりましたエレン・イェーガーです!!」

「「っ!?」」

アルミンとミカサは驚きで目を見開いて少年を見た。

記憶よりも背も伸び、筋肉が付いてガッシリとした印象に変わった幼馴染は周りの訓練兵たちの目線を集めながらも堂々と立っていた。

 

「そうか、話は聞いている。だがどんな事情があろうとも貴様が遅刻したことには変わりは無い。今から俺が許可するまでずっと走ってこい」

「はっ!!」

エレンはくるりと背を向けるとそのまま走っていく。

エレンが走り始めたのを確認した教官は勝手にエレンの方を向いていた訓練兵たちを叱り飛ばそうとしたが、ふと手に持った芋を食べている少女と目があった。

 

「おい貴様・・・・。貴様がもっているそれはなんだ?」

「えっと・・・・・。調理場に蒸かされた芋があったので」

「盗んだのか・・・・・・?何故貴様は芋を食べている?」

「それはどうして人類は芋を食べるのか、と聞いているのですか?」

教官が少女を睨み付けるが少女はそれこそ不思議だとでも言うような顔で教官を見返す。

すると何かに気が付いたように芋を半分にして小さい方を教官に差し出した。

「・・・・・・・?」

訳が分からないといった顔の教官に少女が呆れたような溜息をこぼした。

 

 

日が暮れはじめ、夕日によって長く伸びた二つの影の持ち主たちを訓練兵たちは興味津々で眺めていた。

「あの遅刻野郎、まだ余裕で走ってんぞ」

色味の薄い金髪を側頭部で刈り上げた少年は呆れたように隣にいた少年に呟く。

「サシャ・・・・・、だったっけ?あの芋を食べてた子ももう五時間走ってるよ」

「つーかあの芋女。死ぬ直前まで走ってろと言われた時より、今日は飯抜きと言われた時の方が悲壮そうな顔をしてたな」

少年の隣にいた少年と、そのすぐ横に立っていた訓練兵たちの中でも長身だろう少女が少年と喋りながらふと離れた場所でじっと走っている少年を見つめている珍しい肌の色の少女に気が付いた。

 

「よ、よぉ。アンタはどこ出身なんだ?あの時アンタは聞かれなかっただろ?」

「私は・・・・。エレンやアルミンと同じシガンシナ区・・・・・」

「「「「っ!?」」」」

ミカサの答えは小さい声だったがそれでもそれを聞き取った少年少女たちの表情が固まった。

それに気が付いた周りの少年たちも続々とやってくる。

「おい・・・・・。て、てことはいたんだよな『あの日』に・・・・?」

坊主頭の少年が興味深そうに聞いてくるのでミカサは首を少し縦に振った。

そんな時、鐘が鳴り響き皆が夕食の準備に取り掛かった時、エレンがシャワーを浴びてから食堂に現れた。

 

 

「お、おいっ。お前もシガンシナ区出身なのか?」

「ああ」

自分の分のパンとお湯を飲んだ方がましと言うほど薄い塩味だけのスープを取って空いていた席に座ったエレンの周りに訓練兵が群がって話を聞きたがった。

その訓練兵たちを弾き飛ばしながらミカサがエレンの横の席を強引に奪取して座ると訓練兵たちが吹き飛んで道のように空いた場所をアルミンが苦笑しながらミカサと自分の分を持ってきた。

アルミンが座ってからまたエレンに対する質問攻めが始まった。

ちなみに何故エレンに質問が集中するのかというとミカサは訓練兵たちに見向きもせずにエレンを構おうと隙をうかがっているし、アルミンは二人をほほえましそうに見ながら自分の分を食べていているので話しかけるのを躊躇したのだ。

 

「超大型巨人を見たのか?」

「どんなんだった?俺は壁を跨いで越えたって聞いたんだ」

「そんなに大きくねえ。せいぜい壁から頭を出すぐらいだったぜ」

「鎧の巨人は?」

「あんなんただ体が硬いだけだ。攻略法は必ずある」

「じゃ、じゃあ・・・・・・。普通の巨人は・・・・?」

誰かが唇を震わせながら小さくつぶやく。

誰もが聞きたく、誰もが口にできなかった質問にしんと食堂が静まり返り、誰もが耳を澄ましてエレンの話を聞こうとする。

「あんな奴ら、俺達が立体起動装置を操れるようになればどうってことない」

 

 

 

「今度は俺があいつらを駆逐してやるんだ」

 

 

 

エレンの意志を感じる言葉に訓練兵たちは無意識に息をのんだ。

そばで聞いていた小柄な坊主頭の少年は目を輝かせてエレンに詰め寄る。

「す、すげぇ・・・・・。じゃあお前は調査兵団に入るのか?」

 

「おいおい正気かよ?調査兵団に入りたいのかお前」

 

エレンが答えようとした時、エレンの座ってるテーブルから通路を挟んだテーブルに座っていた少年が不思議そうに口をはさむ。

 

「ああ。俺は調査兵団を目指して兵士になったんだ」

「俺はあんな自殺願望者の集まりになんか行きたくないね、っと、悪いな。正直なのは俺の悪い癖なんだ。気を悪くさせるつもりは無かった」

ふと少年は周りの訓練兵たちの雰囲気を感じ取り、苦笑しながら謝った。

 

「そうか。お前は憲兵団を目指してんのか」

「ああ。十番以内に入って内地に行くんだ」

そう少年が言ったとき、夕食終了の鐘が鳴り響き、担当の訓練兵たちは片付け始めた。

「目標なんて人それぞれだしな。一緒に頑張ろうぜ」

「俺も言い過ぎたよ、これで手打ちにしてくれねえか?」

「ああ」

使用した木製の食器を当番に手渡したエレンは差し出された少年の手に自分の手をポンと合わせて外に出ていく。

アルミンも一緒に立ち上がってエレンの横を歩いていく。

少年も兵舎に向かおうとした時、エレンたちを追いかけようとしたミカサが目にとまった。

 

「な、なぁアンタ」

「・・・・・・・?」

「あ、いや・・・・。見慣れない顔立ちだったからさ。その・・・・。きれいな黒髪だなって・・・・」

「そう。ありがと・・・・」

ミカサはそういうと先に出て行ったエレンたちを追いかける為に小走りで去っていった。

その後ろ姿を目で追っていた少年はミカサがエレンに近寄っていくのを見て目を見開いて唖然としていた。

 

先に空気を読んで帰ったアルミンにおいて行かれ、ミカサを待っていたエレンは久しぶりの再会であるのにもかかわらず昔のように説教されていた。

「エレン。また喧嘩しそうだった」

「昔だったらな。でも今はそんなことしねえよ」

エレンは苦笑してミカサの説教を躱し続けているとふとミカサの髪に目がとまる。

 

「そんな事より、お前髪長すぎねえか?立体起動装置に絡まったら大変だから切るか縛るかしとけよ?」

エレンはミカサのサラサラとした黒髪に指を通しながら言うとミカサはコクっと首を縦に振った。

「わかった。でもどこまで切るといいと思う?」

「こんぐらいか?」

「エレンが言うならそうしよう」

そんなやり取りを入口で見ていた少年は坊主頭の少年の背中に思いっきり先ほどエレンと合わせた手の平をこすりつけた。

「おいっ!?おまえ今人の服で何拭いたんだ!!」

 

 

「人との信頼だ」

 

 

「はぁ・・・・?」

坊主頭の少年はその言葉を理解できずに、去っていく少年を見送るしかできなかった。

 



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初日 就寝前

 

「や、やっと終わった・・・・・・」

そのころようやく走り終えた少女、サシャがフラフラとしながら兵舎の前までたどり着くがついに力尽きて糸が切れた操り人形のように倒れ込んだ。

 

「(故郷の森を出れば・・・、旨いものが食べれると思ったのに・・・・・。たぶん朝には飢えて死んでる・・・。もっと、いろんなものを、食べ、たかった、な・・・・・・・)」

 

「やっぱり動けなくなったか」

 

日が落ちて冷たくなった地面に倒れて動けなくなったサシャのすぐそばに少年がやってきて、どさりと顔の前に革製の袋を置いた。

 

それから香る小麦の香ばしい香りに目を見開きバッと飛び起きるとその袋の紐を解き、中に入っていたパンをまるで珍しい鉱石を発掘したかのように両手で大事に持った。

「っ!!こ、これはパァンッ!?」

「まず水をゆっくりと飲んでからにしろよ?いきなりガッツクと胃がおかしくなるからな」

その飢えた獣のような反応のサシャに少年は苦笑しながらも後ろで憮然としているミカサを無視して手に持った皮の水筒を差し出す。

 

「あれっ?」

そこに鈴を思わせるような声が聞こえてきたのでエレンたちが振り向くとそこには小柄な少女が手に水筒とパンを持って歩いてきていた。

少女はそのまま近寄ってくるとパンをサシャに手渡した。

 

「神様ですかあなた達!?」

 

すでにエレンの渡したパンを食べ終えていたサシャはそれも受け取るとエレンと少女をまるで拝むように頭を勢いよく下げながら手に持ったパンを貪る。

「おいっ。何やってんだ?」

突然低い声が割り込んできてエレンと少女が振り向くと臨戦態勢のミカサの視線の先に同期の中でも長身の少女が立っていた。

 

「何の用?」

「アンタじゃない。お前ら二人だ」

「エレンが含まれてる。よって私も関係してる」

「・・・・・・まぁいい。お前ら、『いいこと』しようとしてるだろ?」

その少女の言葉にエレンの横に居た少女がピクリと反応する。

 

「お前が飯ん時にこっそりとパンを隠していたのは知ってた。まるで親にばれないように犬や猫に餌をやろうとするような感じでな。で、どうだった?お前の得た達成感や高揚感はその労力に見合ったか?」

「わ、わたしが『いいこと』しようとするのは、役に立つ人間だって思われたかった・・・・のかな?」

「はぁっ?」

予想外の答えを返された長身の少女は空いた口がふさがらずにいるとエレンがその顔に噴き出してしまう。

 

「っ、テメェッ、笑うんじゃねぇ!!」

「悪い。じゃミカサ、こいつを運んでやってくれるか?俺は女子寮には入れないしな」

「そこの女がやればいい」

「ヒ、クリスタじゃ体格が違い過ぎて無理だろ?人一人を担いでいくなんてお前以外じゃできねぇんだよ。頼むミカサ」

「・・・・・エレンが言うならそうしよう。・・・。また明日・・・・」

じゃっかんムスッとしたままミカサは軽々とサシャを担ぐとグラつきもせず女子寮に向かって真っすぐ歩いていく。

その背中に長身の女が呆れながら付いて行き、残ったサシャにパンと水をやっていた少女は周りに人がいないのを確認すると突然エレンに飛びついた。

 

「久しぶりエレン!!」

「おう、久しぶりだな。またヒストリアも重くなったんじゃねぇか?」

「そ、それは女の子に言う言葉じゃないよエレン・・・・・」

少女を抱きかかえているエレンが悪意を持って言ったのでは無いとわかっているが、それでも少女は苦笑いを隠せない。

 

「エレンはどうして訓練兵団に入ったの?もう実戦にでてるんでしょ?」

「俺はまだ兵士じゃないからな。さすがにリヴァイさんみたいな特例が通じる人材じゃないしエルヴィン団長が訓練兵としてもう一度丁寧に基礎から学んで来いって言われてさ」

「へぇ・・・・。でもエレンはさみしくないの?」

「・・・・・・リヴァイさんが暴走しないかどうかが心配でそれどころじゃなかった」

「あ、あははははははは・・・・・・・・」

一回、エレンと少女が巨大樹の森で迷った時に鬼の形相で立体起動装置を操りながら二人を探していたエレンの親代わりを思い出して少女は今にでも飛んできそうな兵長を幻視してしまう。

 

「ヒストリアは・・・・・そうか・・・・」

「ううん。むしろあそこの家を出れて私はうれしいの。それにエレンにも会えたしね」

「ま、これから一緒に頑張っていこうぜ」

「じゃ、おやすみ」

「おう」

少女と別れたエレンはそのまま自分の部屋まで行き、就寝準備と荷物の片づけを終えるとアルミンの横に用意されたベットに座る。

 

「ただいまアルミン」

「うん。おかえりエレン」

「悪かったな。さっきは言いそびれて」

「大丈夫だよ。それよりもエレンがこうやって帰ってきてくれたことの方がうれしいよ」

「母さんは?」

「エレンのお母さんは大丈夫。あの時、幸か不幸か足を怪我してて四年前の奪還作戦には参加しなかったから」

「・・・・・・・・・」

アルミンの言い方と、アルミンの表情からおそらくアルミンの両親とあのおじいさんは奪還作戦の末、かえって来なかったのだろうことを察したエレンは言葉を紡げないでいるとアルミンは「気にしないで」と言って笑う。

しかしそれが無理やり作ったものだと分かったエレンが表情を暗くしていると味方するようにちょうど消灯の合図が鳴り響いた。

 

「・・・・・じゃあ、もう寝ようか?」

「あ、ああ。お休みアルミン」

「お休み」

 

エレンは自分のベットに横になると意識をできるだけ早く放り捨てる為に目を閉じた。

 



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適性審査

 

次の日の朝、起床の鐘の少し前に起きたアルミンは周りを起こさないように起きると寝間着から自分の制服に着替えると余裕をもって食堂にたどり着いた。

「あれ?いつの間に起きていたんだい?」

「お、アルミンおはよう。日課でな、少し前に起きて鍛錬してたんだ」

アルミンは食堂にずらりと並べられた木製のテーブルの一角に腰を下ろしていたエレンの姿を見つけるとその横に腰を下ろした。

アルミンとエレンが時間まで喋っているとゾロゾロと訓練兵たちが入ってきて、その中にいた少女がキョロキョロとあたりを見回してエレンを見つけたかと思うと人ごみの中を流れるようにすり抜けてエレンの横の席に勢いよく座る。

「エッレーン!!今日もパン貰っていいですか!?」

「ダメ。パンは一人1つって決まっているはず。貴方の分を食べればいい。そしてそこをどけ」

そしていつの間にか現れたミカサがおねだりする様にエレンに出された手をグイグイと引っ張り椅子から引きずり落とそうとしている。

 

「エレン、いつの間にあの子と知り合ったの?」

「昨日な、あんまり腹減ってなかったから俺の分のパンをあげたら懐いたんだ」

エレンはアルミンに説明しながら目の前で行われている一向に終わりそうにないミカサと少女の戦いを終わらせるべく、自分のパンを掴むと三分の一程をちぎり取って少女に手渡す。

それを防ごうとするミカサの手を掻い潜りエレンの手にあるパンを受け取ると口に放り込んで食べてしまった。

「エレンッ!!」

「ありがとうございますエレン様~っ!!」

「サシャ、あと二人から三分の一ほど分けて貰えば二つ分パンが食べれるぞ」

「はっ!?そんな手があったとは・・・・・・・・。今から回って分けてもらってきますっ!!」

いつの間にか自分の分を食べ終え、なお食料を求める少女によってパンを強奪された男どもの悲鳴が上がる中、自分の分をさっさと食べてしまったエレンとアルミンは今日の訓練予定が貼られている掲示板を見に行った。

 

「今日は立体起動装置の適性審査をするらしいね」

「巨人を相手にするにはどれだけ立体起動装置を使いこなせるかだからな」

「じゃあいつ集合がかけられてもいいように先に準備をしておこう」

アルミンと一緒に部屋に戻ったエレンは支給された立体起動装置を補助するためのベルトを装着している時にふと違和感を感じた。

 

「どうしたんだいエレン?」

「なんか変なんだよ。どこかがおかしいかもしれないから背中側を探してくれねえか?」

エレンは先に装着し終えたアルミンに頼んで見て貰うが先に渡された紙に書いてあった場所をチェックしても破損はしていない。

 

「どこにもおかしい所はないけど・・・・・・・・。あったっ!!」

アルミンが指した場所の金具にひびが入っていていたのをベルトを外して見たエレンは試験をやる前で助かったと呟いて訓練生用の軍服だけを着なおして教官室に向かう。

「入れ」

「エレン=イェーガー、アルミン=アルレルト入ります」

エレンとアルミンは返ってきた教官の声に応えて木製のドアを押して中に入る。

 

「どうした?」

「自分のベルトに損傷が見られたため、教官に報告に参りました」

「なに?」

教官は手渡されたベルトを見て軽く首を傾げる。

 

「ここが破損するとは聞いたことが無いが・・・・・・・・。分かった、別のベルトを用意しよう。後で報告書をまとめねばな」

教官は事務員を呼び新しいベルトを持って来させるとエレンに渡す。

「ではな。遅刻するんじゃないぞ」

エレンにジロリと厳しい視線を向けると、教官はその横を通って今日の訓練のために教官たちとのミーティングに向かう。

 

間もなく集合を掛けられた訓練兵たちは広場の端にある立体起動装置の適性試験のために四本の木材を組み合わせて作られた器具がいくつも並んでいる前に集まった。

「まずは貴様らの適性を見るっ!!両側の腰にロープを繋いでぶら下がるだけの簡単な作業だっ。全身のベルトでバランスをとれ。それができないのなら即刻開拓地に移ってもらう」

この教官の言葉にアルミンは唾を無意識に飲み込む。

アルミンは元々運動が得意ではなく、もしかするとここで落とされるかも知れなかったからだ。

やはり皆兵士を目指すだけあって初めてだったがふらつきながらも体勢をたもち、訓練生たちが合格していく中、アルミンの番が回ってきた。

 

「次、アルミン・アルレルトっ!!」

「はっ!!」

アルミンは体が震えるのを感じながらも前に出てベルトを着けながら頭の中で何度も教科書に書いてあったことを何度も繰り返す。

 

「いきます」

「よし、上げろっ!!」

教官の声に訓練兵がロープを引きアルミンの足が地面から離れる。

 

 

「く・・・・っ・・」

アルミンは必死にバランスを取り、ふらつきながらも何とか体勢を保つ。

教官が時計に目を落とし、秒針を見つめる。

教官の視線の先で秒針がゆっくりと動き、既定の時間を越えた。

 

「合格だ。下せ」

「はっ」

訓練兵がゆっくりロープを送り、アルミンを地面に下すとアルミンはベルトについていたロープを外して列に戻る。

 

列に戻るとそこでようやくエレンとミカサのことを思い出して辺りを見回すとミカサがちょうど吊り上げられていた。

 

「すげぇーっ!!全然揺れてねえぜあの女!!」

坊主の少年の声に反応した訓練兵たちがミカサを見て驚きの声を上げる中、教官が次の順番の訓練生を呼ぶ。

 

 

「エレン=イェーガーッ!!」

「はっ!!」

 

 

「あいつだ」

「ああ・・・・・」

観客と化した訓練兵たちにジロジロとみられながらエレンは堂々と前に出る。

エレンの順番を見逃すまいと自分の番を終えたミカサが急いでアルミンの横まで来たとき、ちょうどエレンのロープが引き上げられた。

 

 

「すげぇ・・・・・」

「うむ・・・・・・・。合格だ、降ろせ」

 

 

訓練兵たちからは感嘆の声が漏れるほど、エレンは宙に浮いているとは思えないほどゆったりとしてまっすぐに姿勢を保っていた。

地面に降り立ったエレンの姿を食い入るように見ている訓練兵たちに気が付いたエレンは驚いたような顔をしてから笑みを浮かべる。

「どうやったらそんなにぶれないんだ?」

「エレン、教えてっ!!」

エレンを取り囲むように訓練兵たちが質問攻めする中をエレンは何とか抜け出すとアルミンとミカサの前にたどり着く。

 

「合格したぜ」

「おめでとうエレン」

「あの、おめ「おめでとうっ!!」っ!?」

ミカサがエレンの前で緊張しながらおめでとうと言おうとしていたが、エレンの背中に小柄な影が飛びついた。

 

「って、クリスタ!?」

「エレンその子誰?」

「ああ、アルミンはいなかったっけ。こいつはクリスタ。俺がお前たちや母さんとはぐれてから別の開拓所で出会ったんだ。で、こいつはアルミンとミカサ。俺の家族と幼馴染だ」

「よろしくアルミン、ミカサ」

「よろしく」

クリスタとアルミンが握手する中、ミカサはまるで時間が止まったかのように動いていなかった。

 

「ミカサ、お前大丈夫か?」

「え、れん・・・・・」

「どうした?」

 

 

「その女、エレンの何・・・・・・?」

 

 

光を感じさせない瞳がエレンを見つめる。

その眼をジッとエレンが見つめ返す。

 

「嫉妬してんのか?」

 

「ち、ちが・・・・・・」

エレンの言葉に顔を赤くしながら離れようとしたミカサの頭をエレンが無造作に撫でた。

 

「大丈夫だミカサ。俺はお前の家族だし、絶対に戻ってくるからさ」

「・・・・・うん。わかった・・・・・」

コクリと頷いたミカサは片手をクリスタに差し出す。

「よろしく・・・」

「よろしくねミカサ」

差し出された手を握ったクリスタはスッと顔を近づけてニコリと笑う。

 

 

「私、エレンのことが大好きだから」

「・・・・・負けない」

「どうしたんだ二人とも・・・・・・・・?」

「変わったと思ったけど、そこは変わってないんだねエレン」

 

不思議そうな顔をして二人を眺めているエレンにアルミンは胃薬を持ち歩く自分の姿を幻視することになった。

 



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格闘訓練

 

巨体が宙を舞い、地面に叩き付けられると観客から感嘆の声が漏れる。

もっとも格闘技の試合などを見ているわけではなく、訓練の最中なので観客であった訓練兵たちも格闘訓練をしているふりをしながらそちらを見ていた。

 

地面に転がったガッチリとした体格の少年が強く打った腰をさすりながら上体を起こすと、投げた本人であるエレンが手を差し伸べる。

「大丈夫か?」

「いてててて。もっと加減をしてくれエレン。いくら俺でも体が持たん」

「全力でやってくれていいんだって。俺もその方が訓練になるし」

「十分本気だよ俺は」

少年を立たせたエレンは周りで訓練をしている他の兵士たちを見て僅かにため息を吐く。

それに気が付いた少年も周りを見回してみると確かにエレンがため息を吐く気持ちが分かった。

 

人類が目下最大の敵である巨人と戦うにはそれぞれの兵士たちに支給された立体起動装置を使った白兵戦が一番効果があるとされている。

ゆえに訓練の中でも特に立体起動術の配点が高いのは明白であり、こうした格闘訓練ははっきりと言ってしまえば頑張ったところでもらえる点数は比べものにならないくらいに低い。

よって成績優秀者がなることができる憲兵を目指す者たちのほとんどが格闘訓練を日頃のハードな訓練の休みと思っていて、目に見えて手を抜いている者が多すぎて目を覆いたくなるほどのありさまだったのだ。

 

「こうした格闘訓練が憲兵には一番必要だと思うんだけどな」

「同感だ。犯罪者を取り締まるのに立体起動術なんざせいぜい地上を逃げる奴を追いかけるぐらいしか出来ねえしな」

「まぁ俺は調査兵団にしか興味ねえし、あんな奴らは関係ねえ。どうせほとんどが憲兵か無理なら駐屯兵団だろっと」

エレンは手の上で遊んでいた木を削って造られたナイフの模型を逆手に掴むと躊躇なく少年に向けて振るう。

少年も警戒していたのか模型を持った方の手首を掴んでひねり上げようとするが、途中で模型を手放したエレンの手はそのまま少年の襟首を掴んで引きづり倒した。

少年が上に乗ったエレンを除けようと力を込めるがすでに少年の首には模型の先が突き付けられていた。

「参った。俺じゃあエレンにゃ勝てん」

「突然仕掛けて悪かったなライナー。こうでもすりゃお前も本気出してくれるかと思ったんだ。結局また出さなかったけどな」

エレンにジト目を向けられライナーと呼ばれた少年は慌てて視線をそらし、ふといいことを思いついたかのようにニヤリと笑う。

 

「エレン。俺じゃあお前には勝てんが、アイツはどうだ?」

「ん・・・・?あれは、アニだったか?」

ライナーが指す方には訓練をしている兵士たちの中に隠れて教官の目をやり過ごしている金髪の小柄な少女がいた。

 

「アイツはああやってサボってるがメチャクチャ強いぜ。俺なんか一度吹っかけて見事に蹴り飛ばされたからな」

「あ~。そういえばそうだったな」

初めての格闘訓練で同じようにサボっていた少女にライナーが絡んで盛大に宙を舞ったことを思い出してエレンは頷く。

「暇そうだし誘ってみたらどうだ?俺はすまんが少し休ませてもらいたい」

「分かった。そうだ、アルミンに格闘術を教えてくれよ。ミカサじゃ感覚すぎてアルミンが分からないらしいんだ」

エレンの言うとおり、アルミンと組んでいるミカサが熱心に教えているがアルミンにはいまいちよく理解できないらしく首を傾げていたのが見えた。

ライナーが頷き教えに向かってくれた後、エレンはちょうどこちらにやってきた少女に声を掛ける。

 

「よぉアニ」

「アンタは・・・・・・。ああ、調査兵団に入りたいとか言ってた奴か」

「アンタ強いんだってな。ちょっと訓練手伝ってくれよ」

「嫌だ。どう頑張ったってこの訓練は点数にならないし、私はこんなことで疲れたくないんだ」

「そこを頼む」

「嫌。あの怪物にでもたのんでれば?」

「ミカサじゃいつも訓練後にやってるから面白くねえんだ」

「私には関係ない。じゃあね」

「一度だけでいいからさ。頼むって。ライナーを蹴り飛ばせる奴なんざ他にいねえんだって」

「ちっ・・・・・・」

そう言い捨てて去ろうとした少女にエレンが食い下がるので嫌気がさしたのか少女は数歩エレンから離れて構えを取る。

 

「一度だけだよ」

「ああ」

 

エレンが構えたと同時、早めに終わらせようと少女が勢いよく飛び出すと下から掌底でエレンの顎を狙う。

「うおっ!?」

「ふっ!!」

何とか仰け反ることで躱したエレンに少女は鋭いローキックでバランスを崩すと腕とエレンの顎を押さえた。

少女が足をしならせてエレンに足払いを掛ける寸前、エレンの片手が顎を押さえていた少女の手を払って逆に少女の顎と腕を捉えようとエレンの手が伸びる。

「くっ!?」

体格差で不利を悟ったのか少女は慌てて抜け出すとエレンから距離を取りエレンの顔を怪訝そうに見つめる。

 

「あんた。なんで同じ技を私に掛けようとしたんだい?」

「いや、なんとなく、気が付いたら体が動いてた。それよりどうだった今の?」

「あれじゃあ今みたいに簡単に逃げられるよ」

「そうか・・・・・・。なぁ俺にお前の格闘術教えてくれよ」

キラキラと目を輝かせるエレンの顔に教えてくれと書いてあるようにも思えた少女は呆れたようにエレンを見る。

「まったく・・・・・・・。しょうがないね。気が向いたら」

諦めた少女が全てを言い切る前に、エレンと少女の間に割り込むように何か大きな物が落ちてきた。

 

「なんだ・・・・?ってライナー!?どうしたんだよ」

エレンの驚きの声にライナーは最後の力を振り絞って震える先である方を指差した。

 

 

「エレン。なんで私以外の女と一緒に訓練してるの?」

 

 

そこには視覚化できそうなほどドス黒いオーラを纏いながらミカサがこちらに歩いてきていた。

「ミカサ。なんでライナーをこっちに投げんだよ。危ないだろ」

「エレン。いいから答えて」

「そうだよエレン。ライナーと訓練するって言ってたから私も諦めてたのに。なんでアニと訓練してるの?」

いつの間にかやってきたクリスタも一緒になってエレンに詰め寄る中、アルミンは近くにいた長身の男の子や坊主の子、人相が悪い少年に助けを求めてぐったりと動かないライナーを安全な場所に非難させた。

 

「俺が誰と訓練してもいいだろ」     「ライナー、死ぬんじゃないぞっ」

「ダメ。エレンに教えるのは私がやる」  「おいアルミン。ライナーの心臓の音が聞こえねえぞ?」

「お前じゃ俺が上達しねえんだって」   「コニー。心臓は左側だからね」

「そういうことらしいからさっさと戻りな」「おい。だんだんライナーの血の気が無くなってるぞ」

「私が教える。こんな奴に頼らなくてもいい」「大変だ。早くライナーを医務室に運ぼうっ」

「エレン。私も教えて。代わりに馬術の時に手伝うから」

「いいぞ」

一足先に約束したクリスタにミカサが悔しそうに呻く。

「クリスタ。それはズルいと思う」

「ミカサ。お前は俺のことに構ってないで自分のことをやれって」

「なぜ?」

意味が分からないと言った感じで首を傾けるミカサにエレンはニッと笑う。

 

 

「お前は目標なんだからこんな事で勝っても面白くないんだ」

 

 

「分かった。じゃあ私も頑張る」

エレンがそう言うと、先ほどとはうって変ってやる気にあふれるミカサは獲物を探す肉食獣の様に目を光らせて、先ほどライナーを運んで行った団体を見つけ猛然と走り去っていった。

 

 

 

「じゃあ頼むぜアニ」

「それよりあれを止めなくていいのかい?」

「ちょ、待てってミカッぐふぉあっ!?」

「ちょ、ジャンっ!?ミカサ、なんでジャンをっ!?」

 

 

「ジャンの次はコニー、その次はベルトルト。そしたらまたジャン。私は強くならなければならない。エレンのために」

 

 

ミカサの進撃は留まるところを知らず、復活したライナーをも巻き込んで訓練が終わるころには医務室に包帯でグルグル巻きにされたミイラが4つ並んでいたという。

 

 



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