不老不死は自分の存在の在り方を探したい。 (名無しさん)
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不死というものは辛いものだ。
家族の死を、友の死を、愛するものの死を、永遠と見ることになるのだから。





 

 

 

 あれは雨が降っていた時のことだったか。

 随分前のことだから忘れてしまったが、恐らく豪雨が降っていた時のことだった。

 

 その日、私は人知れず死んだ。

 とても呆気のない死だった。英雄的な死でもなければ、残酷な死でもない。ただの事故による死。

 

 

 

 

 

 だった筈だった。

 

 

 私には死んだ筈なのに何故か意識があったのだ。身体の感覚もあるし、脳も正常、とまではいかないがある程度は動いていた。

 

 何かがおかしい。

 

 そう思い、微かに動く目を開いてみると、そこには先程まで自分が情けなく転がっていた地面があった。

 余りにも衝撃的な出来事で少しの間、呆然としてしまうが、それと同時に頭に疑問が浮かんで来た。

 

 

 どうして私はここにいる?

 

 確かに先程までは、私は死んでいた。それなのに、今こうして私は生きている。

 

 うんうん唸り、思考していると突然首筋に痛みが走った。

 

 ポケットに入れていた携帯電話を出し、痛みの正体が何かを調べてみる。

 生憎と事故にあったせいで携帯電話は壊れていたが、画面の反射で見にくいが少しだけ見ることができた。

 

 

 それは、痣だった。

 黒い、黒い痣。

 今までの人生でこんな痣見たことが無かった。所々に鎖のような物が描かれている歪な痣。これじゃあまるで痣、というよりタトゥーや刺青のように見える。

 

 これが原因なのか…?

 

 自分自身の震える声が、身体を揺らした。こんなタトゥー入れた覚えがない。というかタトゥーを入れようと思ったことすらない。

 そんな中で突然現れた黒い痣。これは、この痣が原因でこうなっていることの可能性は高いだろう。

 

 取り敢えず…帰るか。

 

 何ともお気楽か。けれど、そんなことを考えていてもどうせ埒があかない。そう私は思い、ボロボロの洋服のままヨロヨロと歩いて帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

 あれから数年の時がたった。

 私はその時高校生だったのだが、大人になって色々とこの痣の正体が掴めてきた。

 

 まず一つは黒い痣が消えない限り『不老不死』であることだ。

 平和な日本では使うことなどないが、不老不死というのは予想以上に辛いものだった。周りがどんどん大人の雰囲気を纏い始めているのに、私だけは高校生の時の容姿から全く変わらない。勿論、クラスメイトたちからそのことを聞かれたが、流石に不老不死だから。と言っても信じられるはずもなく、若いだろう?と言って誤魔化した。

 

 そして、もう一つ。この黒い痣に描かれている『鎖』のことだ。これら恐らく、『不老不死』という概念を縛っているのだと思う。この黒い痣が出てきたということは、何かしら為せば成らないことがある。ということだ。これは、自論だが、その使命を果たした時に私はようやく死ねるのだと思う。いつになるかは分からないが。

 

 これまで死んだ回数【三回】。あれから二回増えているが、どちらも事故による死亡だった。一回目の時には偶然死ななかったのか、なんて思っていたが三回目になると、流石にこの黒い痣の正体にたどり着いていた。

 

 と、そこまで考えたところで私の耳を女性が震わせた。

 

「ナナシさん。またここにいたんですか」

 

 笑顔でそう言いながら近づいてきたのは、私の同僚のハルカだ。

 唯一私の異常さを理解してくれる女性だ。不老不死のことを教えたわけではないが、私の身体の異変については勘付いた。女性の勘っていうのは案外あてになるのかもしれない。

 

 ハルカは私の隣に座り、はふぅと息を漏らす。そんなハルカを見ながら、私は空を見上げた。

 

「あぁ。私はここの風景が好きなんだ」

 

 ここから見える風景は、自分自身の異常さを忘れてしまうくらい虜になってしまう美しさがある。生い茂る沢山の木々に、それを見守るように聳え立つ大きな山々。雲一つない快晴なことも相まってか今日はより一層綺麗に見えた。

 

「そうですか……ふふっ。私もここの風景好きなんですよ」

 

「そうか…ここの良さを分かる人が私以外にいるなんてな」

 

「あ、あのう…それで良かったらなんですが…」

 

 ハルカが突然口をもごもごとさせて、頬を紅潮させながら俯いたのを見て、何だ?と身構える。

 

「もし良かったら…今日の夜、ここに…………へ?」

 

 ハルカの言葉は最後まで続かなかった。何故か、それは…ハルカと私を囲むように謎の魔法陣が出てきたからだ。

 いきなり魔法陣なんて言っても、信じられないと思うが私はこれまで三回も死んでいる。それなのに生きているのだから魔法陣くらいあるだろう。

 

 そこまで驚かず、紫色の魔法陣を見つめていると、腰を抜かしたハルカが、私の腕に抱きついてきた。

 

「あ、あの!これどうなってるんですかぁ!?」

 

「さあな。私も知らん」

 

「じゃ、じゃあ何でそんなに落ち着いてるんですか!?」

 

「あぁ…うん。まあ魔法陣くらいはあるんじゃないか?」

 

「えええええぇぇ!?」

 

 ハルカが絶叫したところで、魔法陣は動きを見せ始める。取り囲むようにあった魔法陣は私達を包み、強力な光で照らした。

 

「わっ!?」

 

 ハルカのそんな声と同時に私の意識は刈り取られる。

 恐らくハルカもそうだっただろう。

 

「また死ぬのか」

 

 そんな言葉を言い残し、私は暗い海の底へと沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

 

 君の望む力は?

 

 私は……普通に過ごせればいい。普通に生き、泣いて、怒って、笑って。そんな人生が送れればそれでいい。

 

 ふうん。……つまらないなぁ。あっ、そうだ!いいこと考えた!君のその黒い痣を強化してあげるよ!

 

 ………必要ないことだ。やめてくれ。

 

 嫌だよ。君はやっと見つけた玩具(おもちゃ)なんだ。精一杯踠き苦しんでね!

 

 何を言って…………

 

 

 

 

 

 火はやがて消える。

 それと同じだ。

 人間の命はやがて消えていく。その時に自分自身の在るべき理由を知るものは少ない。自分が何のために生まれたか、何を成すために生まれてきたのか。

 分からないまま、命のという花は散っていく。

 

 それじゃあ私は。不老不死である私は何を成せばいいのだろう。

 

 そんな疑問は泡となり、消えていく。

 

 

 まるで人間のように。

 

 

 

 

 



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