IS Avenger's Story -復讐が渦巻く世界- (陽夜)
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【プロローグ】

〜本編開始前〜

一夏達が中学二年生、鈴ちゃんが転校前の時系列です。

それでは、どうぞ。


 

 

 

 

 

 ーーーある日、一人の少年が、死んだ。

 

 

【橘 龍也《たちばな りゅうや》】ーー普通の中学に通う、至って普通な男子生徒。

 当時わずか14歳であった、少年が。

 

 

 それは、決して事故などではなく、他人に命を奪われて、死んだ。

 

 

 

 

 

 ISーーインフィニット・ストラトスによって。

 

 女性にしか乗ることのできない、【兵器】となってしまった、篠ノ之束の、夢の結晶によって。

 

 

 

 

 

 罪を犯したわけではない。

 ただ、力を、人々の平和を守る力を持っていた。

 だが、それを一部の者は許さなかった。

 自分達の理想ーーまたは、野望には不必要だと。

 

 

 

 

 

 ISを使い、思うがままに傍若無人を働く人々。

 《女性権利団体》

 女しかISに乗れないのをいい事に、男を見下し、女を優位に立たせようとする人達がいた。

 

 

 

 

 

 何処からやって来たか、何故ISと戦うのか、全てが謎に包まれた仮面の戦士ーーー『仮面ライダー』と呼ばれる存在を。

 

 

 ーー《女性権利団体》は、許さなかった。

 

 

 そして、命を狙われ、戦いの果てに、死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それを知った、とある少年・少女は、嘆き、叫び、悲しみ、

 そして絶望した。

 

 

 

 

 

 ーーそんなの、一つとして知らなかった。

 

 ーー俺たちの知らないところで、そんなことになっていたなんて。

 

 ーーずっと、ずっと戦っていたなんて。

 

 

 

 

 

 ーーどうして自分達の友人が命を奪われなければならないのか。

 

 ーーどうして世界は彼に味方しなかったのか。

 

 ーーどうして誰も、彼を救ってはくれなかったのか。

 

 

 

 

 

 ーー俺たちが見ていないところでも、そうだ。

 

 ーーきっと彼は、今まで何度も平和を守ってきたのではないのか。

 

 ーーそんな彼のために、何かしてやれたのではないのか、と。

 

 

 

 

 

「……強く、ならなきゃいけない。

 

  千冬姉も、鈴も、俺が、守れるように。

 

  もう誰も、失わないように。

 

  力を……」

 

 

 

 少年は決意した。強くなることを。

 

 

 

 

 

 

 

「……私だって」

 

「守られるだけじゃ、ダメなんだ」

 

「私自身の力で、みんなを……」

 

「守れるだけの力を……」

 

 

 

 

 

 少女は覚悟した。力を手に入れることを。

 

 

 

 

 

 

 少年は、彼が残した、ーーーーーの力を受け継いで。

 

 少女は、この世界を変えた、ISを使って。

 

 

 

 

 

 彼を殺した、世界の悪意に対して、抵抗するために。

 

 そしてーー彼を殺した悪意に、復讐するために。

 

 

 

 

 

 後に、IS学園で再び出会うこの二人の、

 

 

 

 

 二人の時間は、今、止まった。

 

 

 

 

 

 もう決して動き出すことは、ないはずだった。

 

 

 

 

 

 

 ーーこれは、死んだ少年の背中を見続ける、過去に囚われた二人の少年・少女の時間を。

 

 

 

 

 

 死んだはずの少年が動かす。

 

 

 

 

 

 救済の、物語である。

 



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キャラ設定 + 時系列設定

10/11、セシリア・オルコット追加。時系列設定を追加。
※時系列設定にはネタバレ要素があります。本編を読んでいない方はお気をつけください。


 

 

 橘 龍也 (たちばな りゅうや) 男/15歳

 

 専用機『黒龍』

 

 今作主人公。仮面ライダー【ダークネス】に変身し、ISではない力だが、ISと同等の力を持つ唯一の人間。

 ※ガイアメモリ【Darkness】で変身。

 ※仮面ライダーは個人を認識するための愛称の様なものであり、同世界に他のライダーが存在することはない。

 

 白騎士事件後に、ISが普及した世の中で悪事を働く人々を裁く、いわばIS闇社会の番人だった。

 本編開始前に女性権利団体のISによって、殺害されている。

 

 一夏、鈴と幼馴染で同い年。一夏とは中学入学と同時に出会い、その後転入してきた鈴と友人になった。

 いつも喧嘩する一夏や鈴達を止める、クラスで仲の良いメンツの中でも一歩引いたお兄さん的ポジション。

 基本的には明るく、誰にでも分け隔てなく接することのできる人間であったが、誰かを傷つけたり悪事を働く人を絶対に許せないという強い信念を持っていた。

 

 

 ISを独自の物にし、世界で女の地位を確立させようとしていた女性権利団体を追いかけていた所、持ち出された複数のISにより追い詰められ、殺害されてしまう。

 その際、自分が助からない事を感じ、織斑千冬に連絡を取り、ガイアメモリ【Darkness】とロストドライバーを託した。

 

 

 →一夏に対しての印象

  真っ直ぐで正義感が強く、誰かのヒーローになれる男。

  フラグ乱立男。

 

 →鈴に対しての印象

  仲良い女友達。気が強く、負けず嫌い。

 

 

 

 

 

 織斑 一夏 (おりむら いちか) 男/15歳

 

 専用機『白式』

 

 原作主人公。今作では、2人目のダークネスになれる人物。死亡した龍也が残したドライバーとガイアメモリ【Darkness】を使用し、変身する。

 

 

 龍也死亡からIS学園入学までの中学三年生の間に、篠ノ之流とは違った独自の剣で剣の道を再開し、身体も鍛え上げた。

  龍也死亡から半年後に、織斑千冬からロストドライバーと【Darkness】を託され、篠ノ之束や織斑千冬を通して知った[ISを利用した社会の悪事]を自分の力でできる範囲で裁いている。

 

 

 普段は友達思いで正義感が強く、困っている人を迷わず助ける優しい人間であるが、龍也を殺した女性権利団体に復讐することを誓っている。

 

 

 →龍也に対しての印象

  友人の中で最も気の合う親友。

 

 

 

 

 

 凰 鈴音 (ふぁん りんいん) 女/15歳

 

 専用機『甲龍』

 

 龍也が殺された直後、両親の離婚により中国へ転校。

 ISを用いて、龍也を殺した女性権利団体へ復讐するため、1年間努力し、代表候補生まで上り詰めた。

 

 当時最も仲が良く親友であった龍也が殺されたことのショックで、自分が信頼できる人間以外との関わりを拒絶するようになってしまった。

 

 

 →龍也に対しての印象

  1番気の合う男友達であり、親友。

  何かと優しくしてくれた龍也を信頼している。

 

 

 

 

 

 セシリア・オルコット 女/15歳

 

 専用機『ブルー・ティアーズ』

 

 本編登場2人目の復讐者。イギリスの代表候補生にして、オルコット家の次期当主。

 幼き頃に両親を列車事故で亡くし、一人で家を支えてきた。

 だが、列車事故は家の財産を狙っての仕組まれた事件だったと分かり、復讐する為にISを利用しようと力を付けた。

 

 

 極めて冷静であり他人の前で負の感情を見せることはなく、周りからの人望は厚い。

 何でもそつなくこなすが、料理の腕は壊滅的。

 メイドのチェルシー曰く「見た目に騙されてはいけない。中身は核兵器である」とのこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《本編以前の時系列》

 

 

【中学一年生】

 

 

 入学後、一夏と龍也が出会う。

 ↓

 数ヶ月後、鈴が転入して来る。

(原作と異なる点の一つ。箒の転校時期は変わらない)

 

 ※この年から、既に龍也は『ダークネス』の力を手に入れています。

 入手した経緯など詳しくは後の第6章で説明をするつもりです。

 

 《その他》

 ・楯無、簪との接触

 ・権利団体の人間の活動を妨害し始める

 

 

【中学二年生】

 

 

 夏、権利団体の人間を追いかけていた龍也はたまたまデュノア夫人の企みを知ることになり、阻止へと動く。

 ↓

 事件前に阻止、その後デュノア夫人が逮捕される。

 ↓

 だが、デュノア社長とシャルロットにダークネスの姿を見られる。

 →知り合い、夏の間世話になる。(番外編になるかも?)

 

 

 冬、3人が進級する前に龍也が権利団体の人間に追い詰められ、死亡する。

 ↓

 1ヶ月後、一夏と鈴に死亡の知らせが。

(二人が絶望、復讐者へ)

 ↓

 後に千冬が束にダークネスを調べて欲しいと手渡す。

 

 《その他》

 ・龍也が束に死の直前で拾われる。

 

 

【中学三年生】

 

 

 春、中学三年生始まりと同時に鈴が中国へ転校する。

 ↓

 夏(8月頃)、一夏がダークネスを受け継ぐ。

 この頃から龍也に代わり一夏が権利団体の人間と戦い始める。

(詳しくは番外編で後ほど)

 ↓

 一夏がダークネスになってから1ヶ月後、千冬がドイツへ行く。

 ※この間、IS学園の教師としては活動していない。

 

 《その他》

 ・鈴が代表候補生になる為に訓練を始める。

 

 

【最後に】

 ここの時系列設定は話数を重ねる度に増えていくと思います。

 

 また、一夏の誘拐事件は起こっていないものにしようと現在考えています。

 第2回モンドグロッソの時一夏が中学二年生ならば、ダークネスである龍也がいるので上手くいくのかという問題があります。

 

 教官歴も半年近くと本来より短いですが、その間にラウラやシュヴァルツェ・ハーゼの隊員を鍛え上げたということで。

 



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第1章 Two of the Avenger 〜side 織斑一夏&セシリア・オルコット〜
第一話 一夏入学、幼馴染との再会


 

 

「(……すごい、視線を感じる)」

 

 

  この教室の中で、織斑一夏は1番前の席に座っていた。普通、前の席であれば視線を浴びるのは仕方ないことではあるのだが、それとはまた別の、品定めのような視線。

  何故ならーー教室に、または学園の中に、男子は1人しかいないのだから。

 

  IS学園。篠ノ之束に呼び出され、ドライバーの正常動作確認をしていた時にたまたま触れてしまったISが反応してしまい、世界で一人目の男性IS起動者として入学する羽目になってしまった。

  その結果、本来入学予定だった藍越学園の合格通知は取り消しとなり、必死で勉強したのが無駄となってしまったわけだが。

 

 

「(あれって箒、だよな?こんなに視線送ってるのに全然こっち見てくれないし……なんで無視するんだよ) はぁ…」

 

 

  そんな彼は今、精神的に疲労していた。

  それもそのはず。女の園に一人で入れられ、好奇の視線に晒された挙句、久しぶりに再会した幼馴染(?)にも助けてくれといった視線を送っても無視されている。男として、なかなかに厳しい状況。

 

 

「ーー君。お、織斑一夏君?」

 

「っ!は、はい!」

 

 

  考え事をしていた一夏は副担任の山田真耶に呼ばれているのに気付かなかった。

  今は、SHRの時間。自己紹介の途中であり、ちょうど『お』に入ったところ。

 

 

「あ、あの、じ、自己紹介をお願いしますね、織斑君」

 

 

  一夏は席を立った。

 

 

「えっと、初めまして。織斑一夏です。趣味は特にありませんが、強いて言えば料理、です。……以上です。」

 

 

  唯一の男性操縦者の簡潔すぎる自己紹介に、クラスメイトがずっこける。

  一夏がどうしていいかわからず立っていると、頭に鋭い痛みが叩き込まれる。

 

 

「お前はまともに自己紹介もできないのか」

 

「ち、千冬ね……「ん?」……織斑先生」

 

「今の失言は、言い直したから不問にしてやる。今回だけだぞ」

 

 

 このクラスの担任の登場にクラス中に黄色い歓声が湧き上がる。

 

 

「(相変わらず、千冬姉は人気者な事で)」

 

「はぁ……。毎年毎年、よくもこれだけ馬鹿を集めてこれたな。

  諸君、私がこのクラスで1年間担任を勤める 織斑千冬だ。

  甘えた教育をする気はない。この1年でお前達を使い物になるまで鍛え上げる。そのつもりでいてくれ」

 

「「「キャー!千冬様ー!」」」

 

 

 歓声が止まない中、誰かが言った。

 

 

「あれ、織斑ってことは一夏君って……」

 

「そうだ、こいつは私の弟だ」

 

「え!?嘘、弟!?いいな〜」

 

「私も千冬様の妹になりたい!」

 

「(……家での千冬姉を見たらどう思うんだろう)」

 

 

 世間のイメージとはかけ離れた、女としてどうかと思う姉を思い出しながら、SHRの時間は終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

  授業は終わり、休み時間。

  教材をまとめている一夏の所に、一人の女生徒が来た。

 

 

「ちょっといいか?」

 

「箒……だよな?」

 

「あ、ああ。久しぶりだな、一夏」

 

「久しぶりだな箒!6年ぶりくらいか?」

 

 

 話しかけてきたのは篠ノ之 箒。

 一夏の小学生時代の幼馴染であり、共に篠ノ之家の道場で剣の道を学んだ古き友人だ。

 

 久しぶりの再会に、自然と嬉しそうな笑みを浮かべる二人。

 

 

「そうだな……それくらい経つな」

 

 

 懐かしむように一人過去を振り返る箒。

 

 

「こんなところで話すのもなんだし、廊下に出ようぜ」

 

「わかった」

 

 

 

 

 

 

 廊下に移動した二人。

 

 

「元気にしてたか?」

 

「ああ。お前こそ、身体は鈍っていないのか?」

 

「一応鍛えてるっていうか身体は作ってるつもりだけどな」

 

 

 他愛もない会話をしながら廊下を歩く。

 

 すると、一夏があることを思い出す。

 

 

「そういや箒、剣道の大会優勝したんだってな」

 

「な、ななな、ど、どうしてそれを知っている!?」

 

 

 思わぬ発言に動揺する箒。

 

 

「いや、どうしてって新聞とかに載ってただろ。それで見たんだよ」

 

「そ、そうか、新聞か。そういう一夏は、剣道は続けているのか?

 

「あー……剣道自体は、辞めちまった」

 

「?どういうことだ?」

 

「剣道はやってないけど、色々あって剣自体には触ってるんだ」

 

「色々って、それってどういう……!?」

 

 

 何故剣道を辞めたのに剣を触っているのか、気になって聞いた瞬間、自分が知っている織斑 一夏とは思えないほど冷たい空気が流れる。

 

 

「(な、なんだ……?本当に一夏なのか!?こんなに殺気立ってるのは、一体……)」

 

「……っ!ああ、ごめん、箒。詳しくは、言えないんだ。すまない」

 

「……わかった、お前が聞いて欲しくないのなら、深くは聞かないでおくとしよう。

  その代わり、いつか話してくれれば、それでいい」

 

「ありがとな、箒」

 

「いいんだ、私達は、その、幼馴染なんだからな///」

 

「!……はは、そうだな。そろそろ次の授業始まるぜ、戻ろう箒」

 

「(……ほんと、いい幼馴染に恵まれてるな、俺は)」

 

 

 箒の気遣いに感謝すると同時に、いい幼馴染を持ったと実感する一夏。

 

 久しぶりの再会を喜んだ二人は、教室へと戻っていった。

 



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第二話 イギリスの代表候補生

 

 

 

「ーーちょっと、よろしくて?」

 

 

「ん?」

 

 

 自分の席に座っている一夏の元に、また一人の女子生徒がやってくる。

 

 

「なんか用か?」

 

 

「ええ、学年に一人の男とはどのような方かと思いまして」

 

 

 

「そうか、俺は織斑 一夏……って、自己紹介はさっきしたか。

  君は、セシリア・オルコットさん、だったっけ?イギリスの代表候補生の」

 

 

 セシリアの目が大きく見開かれる。

 

 

「知っていらしたのですね」

 

 

「ははっ、そんな驚くことでもないだろ?さすがの俺でも、代表候補生くらいは知ってるさ」

 

 

「そうでしたか、失礼しました。それなら自己紹介が楽になりますわね。改めて、わたくしがイギリスの代表候補生、セシリア・オルコットですわ。

  何か分からないことがあれば、いつでも聞いてくださって構いませんからね」

 

 

「ああ、何かあったら頼りにさせてもらうよ」

 

 

 するとセシリアは、満足そうに微笑み、自分の席へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 ーーただその眼は、光を宿しておらず、黒く濁っており、一切笑っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、授業の時間だが、この時間でクラス代表を決める。自他推薦は自由だ。役割としてはまぁ、クラス委員長みたいなものだと認識してくれて構わない」

 

 

「はーい!私、織斑君を推薦しまーす!」

「「「「私もー「うん、織斑君がいいよね〜「せっかくの男子だからねー」」」

 

 

「(げっ、まじかよ……)」

 

 

「ふむ、織斑か。それ以外にいるか?」

 

 

 手を挙げる生徒が一人。

 

 

「はい」

 

 

「オルコット」

 

 

「自他推薦という事は自薦も可能ということですわね。でしたら、わたくしも立候補しますわ」

 

 

「そうか、なら丁度1週間後にアリーナを貸し切ってクラス代表決定戦をやるぞ、いいな?」

 

 

「わたくしは構いませんわ」

 

 

「(ISの操縦にも慣れておいた方がいいし、実戦経験も必要だよな)

  わかりました。俺もそれでいいです」

 

 

「よし、決まりだな。

  アリーナで訓練をする場合、借りる為に申請をしなければならない。

  使いたいのなら早めに取っておくことだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーえっ、アリーナの使用許可が取れない?」

 

 

「は、はい、そうなんです……。

  実は、昨日から多くの生徒が申請していて‥‥1週間の間に空いている時間がないんです。

  入学したてということもあって、みなさん行動が早くて……ごめんなさい!織斑君!」

 

 

 一夏は早速、山田先生の所へアリーナの貸し出し申請をしに来たが、なんと既に全て埋まっているとのこと。しかも、自分とオルコットが対決する1週間後まで全部。

  さすがに借りられないとは思っていなかった為、内心動揺する一夏。

 

 

「い、いえ、山田先生は何も悪くないですから!だから頭を上げてください!ISで訓練できない分は……こっちでなんとかします」

 

 

「うう、優しいですね……ありがとうございます、織斑君。その……頑張ってくださいね」

 

 

「……はい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  廊下を歩きながら考える一夏。

  先ほどの山田先生の会話で、アリーナを借りられないことがわかったので少し焦っている。

 

 

「しかしなぁ、アリーナが借りられないんじゃどうしようもないよなぁ……んー」

 

 

  1週間の間にISに触れないとなると、大きく話が変わってくる。

  こっちは稼働時間1時間にも満たない初心者もいいところ、しかし向こうは、遥かに自分を上回る稼働時間の代表候補生である。あまり世間の情勢に詳しくない一夏でも存在を知っているほどの、代表候補生という存在。戦いというものを知っていても、このまま挑んでは勝つ可能性は薄いだろうと一夏は考えていた。

 

 

「一夏」

 

 

「ん?おー、箒か」

 

 

「どうだったのだ?」

 

 

「あー、それがさ……」

 

 

 一夏は、先ほどの山田先生とのやりとりを箒へ説明した。

 

 

「そうか……1週間の間にアリーナは借りられないのか」

 

 

「そうなんだよ、どうしたもんかなぁ」

 

 

「………」

 

 

 少し間をあけて、考える箒。

 

 

「なあ一夏」

 

 

「ん?なんだよ」

 

 

「久しぶりに、私と剣道しないか」

 

 

「剣道?」

 

 

「ああ、どの道ISを使えないのではできることも限られている。

  それに、今のお前がどれ程の腕なのか私も見ておきたい。私より鈍っているようでは、あのセシリアとかいう女には到底勝てないだろうからな」

 

 

「そうだな………わかった。いいぜ、やるか!」

 

 

「ふっ、そう来なくてはな。それでは、今日の放課後から早速始めるとしよう」

 

 

「ああ」

 

 

 放課後の約束をして互いの席へと戻る二人。ちょうど、次の授業が始まる鐘の音が鳴った。

 



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第三話 一夏の目的

 

 

 

 1日の授業が終わり、放課後になった。

 

 

「……くっ!はあ、はあ、はあ……ッ!!」

 

 

「どうした箒、もう終わりか。」

 

 

 二人がいるのは、剣道場。

 今二人はまさしく試合をしている真っ最中だったが、その様子はーー

 

 

「……っ!はぁぁぁぁっ!!!」

 

 

「……ふっ、はっ!」

 

 

「ぐあっ……!く、っ……」

 

 

 ーーー圧倒的だった。

 試合を始めてわずか数分。

 最初は動かず互いを探る二人であったが、箒から仕掛けた。

 

 

 だが、一夏には一発も当てる事ができなかった。

 面を狙えば全て弾かれ、突きを狙っても躱されてしまう。

 そして、一夏からの鋭い攻撃は受け止めれば力で押し返され、突きであれば避けることもままならない速さ。

 もはや手詰まりであった。

 

 

「(強すぎる……!一体、どうすれば、ここまでの力が……!)」

 

 

 中学生の時、剣道の大会で優勝するほどの実力を持つ箒。

 自惚れではないが、自分の実力に自信を持っていた。

 昔は互いに切磋琢磨し努力していた。

 しかし、そんな箒ですら全くと言っていいほど歯が立たなかった。

 

 

「箒が弱いわけじゃない。俺は、強くなった。これが今の、俺の剣だよ、箒。」

 

 

「一夏、お前は……!どうやってここまでの力を……!」

 

 

「……やらなきゃいけない事が、あるんだ。」

 

 

「ここまでの力を手に入れて、何をするつもりだ。剣の道で、世界でも取るつもりか?」

 

 

「そんな綺麗事じゃない。俺がするのは………復讐だ。」

 

 

「……復讐、だと?それはどういうことだ」

 

 

「詳しくは言えない。箒を巻き込むわけにはいかないから。

 それに、これは……俺の問題だからな。」

 

 

 剣道場を出て行く一夏。

 その後ろ姿を見送る箒。

 

 

「(一夏……私がいない間に何があったのだ。どうして復讐など……)」

 

 

 箒しかいない剣道場は、静寂で包まれ、寂しさを醸し出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わり、再び廊下へ

 これからどうするかを考えていた一夏の元へやってきたのは千冬。

 

 

「織斑」

 

 

「どうかしましたか、織斑先生」

 

 

「お前に専用機が渡されることになった」

 

 

「専用機、ですか」

 

 

「ああ。男性操縦者のデータ収集が目的といったところだろうがな。

 それに、ISを使わずに戦うわけにはいかないだろう?」

 

 

「そう……ですね」

 

 

「お前も分かっているとは思うが、学園内であの力を使うことは禁止にする。万が一にも誰かに見られたりしたら、大事になりかねん」

 

 

「わかってますよ、織斑先生」

 

 

「ふむ。それと……」

 

 

 千冬から一夏に鍵が渡される

 

 

「これは?」

 

 

「お前は今日からここの寮に住んでもらう。男性操縦者を学園内に置いておきたいと、上からの指示でもある」

 

 

「あー……そりゃそうか」

 

 

「まだお前が帰っていなくて助かった。伝えるのを忘れていたからな」

 

 

「はは、しっかりしてくださいよ、織斑先生?」

 

 

「揚げ足を取るんじゃない、全く」

 

 

 軽く出席簿で叩かれる

 

 

「……一夏」

 

 

「?いきなりどうしたの、千冬姉」

 

 

「この学園では、やっていけそうか?」

 

 

「え?……うん。まだ1日目だけど、みんな受け入れてくれた……のかな?まぁなるようになるよ」

 

 

「そうか」

 

 

「……大丈夫だよ。ISだからって、訓練に手を抜いたりしないし、ここにいる人達に何かしようとか、ないから」

 

 

 千冬はIS学園の教師だ。生徒を心配する気持ちを察したのか一夏は姉を気遣う。

 

 

「無理はするなよ、何かあればすぐに私を頼れ。」

 

 

「うん、そうさせてもらう」

 

 

「……よし、もう行け。荷物は生活に必要なものだけ持ってきてある。職員室の私の机に置いてあるから山田先生辺りに取ってもらえ。

 私はこれから理事長に報告書を提出してこなくてはならないからな。」

 

 

「わかった。ありがとう、千冬姉」

 

 

 こうして千冬は理事長の元へ、一夏は職員室へと向かって行った。



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第四話 生徒会長と同居人

 

 

 

 一夏が職員室で荷物を受け取った後。

 渡された鍵の号室と同じ部屋へ向かう途中に、水色の髪の生徒に話しかけられる。

 

 

「ちょっといいかしら?」

 

 

「え?あ、はい」

 

 

「君が噂の織斑一夏君ね?」

 

 

「あはは……噂かどうかは分からないですけど、自分が織斑一夏なのは間違いないですよ。えっと」

 

 

「私は更識楯無《さらしき たてなし》。この学園の生徒会長をしているの」

 

 

 《生徒会長》と書かれた扇子を広げる。

 

 

「(なんだよあの扇子…)それで、生徒会長さんが自分に何か?」

 

 

「いいえ、別に今何か用があるわけじゃないの。ただ、一応生徒会長として挨拶をしておこうと思ってね。」

 

 

「はあ」

 

 

「ふふっ、そんなに怪しまなくてもいいのに。生徒会長とコンタクト持っていれば、何かと役に立つのよ?

 困った時にはお姉さんに頼りに来なさい。」

 

 

 《相談窓口》と今度は書かれていた。

 

 

「じゃあ、何かあれば頼りにさせてもらいますね。更識会長」

 

 

「うん、それでよし!それじゃあまたね、一夏君。」

 

 

 話が終わり一夏は部屋へと歩いていく。

 その後ろ姿をじっと見つめる楯無。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………あれが、今の《ダークネス》、か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部屋に着いた一夏は渡された鍵を使い中へ入る。

 そこまではよかった。

 

 

 

 

「い、いいいいい一夏⁉︎ど、どどどどうしてお前が入ってくるんだ‼︎」

 

 

 

 

 だが、男だから当然のように一人部屋だと思っていたのは、間違いであった。

 

 

 部屋に入って再び再会した幼馴染、篠ノ之箒。そんな彼女は今、髪はしっとりと濡れており、身体にはバスタオルを巻いているだけ。

 つまり、完全にお風呂上がりの状況真っ只中に一夏は入って来てしまったのである。

 

 

「ほ、箒⁉︎な、俺は一人部屋じゃ……「い、いいから出ていけーーーー!!!!」うわっ!ちょっ、落ち着けって箒!わかった!わかったから物を投げるなぁあぁあぁあぁあぁ!!!!」

 

 

 外へ出てドアを閉める一夏。

 

 

「(おいおい、ちょっと待てって。なんで箒が同室なんだ!?いや、確かに千冬姉は一人部屋なんて言ってなかったけどさ‥‥こういうことになったらまずいから、先に言っておくべきじゃないのかよ!?)」

 

 

 そんな一夏をジト目で見る少女が一人。

 

 

「…………………」

 

 

「お、オルコットさん……?」

 

 

「………女子寮の部屋の前で、何をなさってますの?」

 

 

「(やばい、完全に疑われてる!!)い、いや!別に何かしようとかいうわけじゃないんだ!俺にも寮室が与えられたから部屋に入ろうとしたら、ほ……同室の子がその、風呂上がりで……」

 

 

「はぁ……全く、少しはそういう事に気をつけた方がよろしくてよ?この学園に男はあなた一人。何か問題になるようなことがあっては遅いですわ。

 それに、レディの部屋にノックも無しに入るなんてありえませんわ。」

 

 

「うぐっ、それは、ほんと、仰る通りです……」

 

 

 何も言い返せない一夏。

 それもそのはず、今この状況は完全に自分が悪いと分かっているから。

 

 

 すると、ドアの内側から叩く音が。

 

 

「い、一夏?いるか?」

 

 

「っ!あ、ああ!いる、いるぞ!」

 

 

「そ、その、さっきは、悪かった。もう着替えたから、中に入って来い」

 

 

「お、おう。わかった。」

 

 

 そんな二人のやりとりにセシリアは微笑む。

 

 

「ふふっ、同室の方とは大丈夫そうですわね。それじゃあ、私はここら辺で」

 

 

「あ、ああ。オルコットさんも悪かったな、こんなところで足を止めちまって」

 

 

「いえいえ、お気になさらず。それでは、御機嫌よう」

 

 

 歩いて自分の部屋へと向かうセシリア。

 

 

 一夏は入っていいと言われたので箒のいる部屋の中へと入る。

 

 

「……………」

 

 

「……………あー、箒?」

 

 

「………なんだ」

 

 

「ご、ごめん!千冬姉からは、誰かと同室なんて聞いてなかったんだ。まさか女子と一緒なんて思ってなかったからさ……」

 

 

「…………」

 

 

「その、許してくれないか……?」

 

 

「………はぁ。仕方ないか。いつまでも怒ったままでいるわけにもいかないしな」

 

 

「ほ、箒……!」

 

 

「ただし!次また同じようなことがあればその時は……」

 

 

 ゴゴゴゴゴゴと、箒の後ろに般若のような物が見える一夏。

 

 

「わ、わかってる!次からは気をつけるよ!」

 

 

「……なら、いい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、箒はどっちのベッド使ってるんだ?」

 

 

「私は手前のベッドを使っている。お前は奥の方を使ってくれ」

 

 

「はいよ」

 

 

 荷物をベッドに置く一夏。

 

 

「ふふっ」

 

 

「な、なんだよ、いきなり笑って」

 

 

「いや、一夏は変わらないな、と思ってだな」

 

 

「?なんだよそれ、俺は……」

 

 

「確かにお前は強くなった。復讐するというのも、私の知らないところで何かあったのだろう。

 だが、一夏は一夏だ。何も変わってない。……幼馴染なんだ、それくらいわかるさ」

 

 

「箒……ありがとう。お前が俺の幼馴染で、よかったよ」

 

 

「や、やめろ!照れ臭いぞ一夏!」

 

 

「お、箒照れてるのか?可愛いじゃんか〜オマケに美人さんになっちゃって〜」

 

 

「ええい!お前、そんな事言うタイプではなかったではないか!///」

 

 

「ははっ、そういうとこでは、箒が知ってる昔の俺より変わったかもな!」

 

 

「まったく……ふふっ」

 

 

 こうして、夜は更けて行く。

 再会した幼馴染の絆は、確かにここにあった。

 



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第五話 クラスメイトと専用機

 

 

 

 次の日の朝。

 まだ起床時間には少し早い時間に一夏は起きた。

 

 

「……あれ、まだ5時か」

 

 

「(いつもと違う場所だから、ぐっすり寝れなかったかな)」

 

 

 隣を見ると、箒はまだ寝息を立てていた。

 

 

「(箒を起こすわけにはいかないし、少し走るか)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏は走りやすい服装へと着替え、学園の外周を走る。そのまま30分ほど走っていると、途中で女子生徒に声をかけられる。

 

 

 

 

「あ、あれ、織斑君じゃない?」

「ほんとだ〜おりむーだ〜」

「おーい!織斑君ー!」

 

 

 

 

「(ん?彼女達は確か……)

  はぁ……はぁ……ふぅ。えっと、確か同じクラスの…」

 

 

「相川清香《あいかわ きよか》です!」

「布仏本音《のほとけ ほんね》だよ〜よろしくねおりむ〜」

「鷹月静寐《たかつき しずね》だよ、よろしくね織斑君!」

 

 

 それぞれ自己紹介が始まった。

 昨日である程度クラスメイトの顔は見ていた為、すぐに思い出せた。

 

 

「相川さんに布仏さんに、鷹月さんね。覚えたよ。俺は織斑一夏、よろしくな。 それで、えっと、布仏さん?そのおりむーっていうのは一体……」

 

 

「え〜おりむーはおりむーだから、おりむーだよ〜」

 

 

「あ、あはは……(なんじゃそりゃ……)」

 

 

「あはは、ごめんね織斑君。本音はすぐ変なあだ名つけるからさ」

 

 

「む〜変じゃないよ〜」

 

 

「そ、それより織斑君、こんな朝から走ってるなんて、すごいね。」

 

 

「え?ああ、なんか、朝までぐっすり眠れなくて。急にいつもと寝る場所が変わったからかな。」

 

 

「そっか、大変だね、織斑君も」

 

 

「まぁ、すぐに慣れるさ、きっと」

 

 

「……あっ!ごめんね、織斑君!走って疲れてるのに止めちゃって」

 

 

「いや、俺は大丈夫だよ、走るのには慣れてるから」

 

 

「おりむーすぐに呼吸戻ったもんね〜すごい〜」

 

 

「この調子なら、オルコットさんにも勝てるかな?」

 

 

「それはまた別だけどね。向こうは素人の俺と違って、ISの戦闘経験も段違いに多いだろうし。身体を鍛えれば勝てるってわけじゃないだろうからね」

 

 

「そっか。何かあったら、私たちも力になるよ!頑張ってね!織斑君!」

「それじゃあまた後で、織斑君」

「またね〜おりむ〜」

 

 

 こうして、クラスメイトと仲を深めた一夏は汗を流すために部屋へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、クラス代表決定戦当日。

 

 

 ……なのだが。

 

 

「………なあ、一夏」

 

 

「………なんだよ、箒」

 

 

「本当に一度もISを操縦していないが、大丈夫なのか?」

 

 

「………正直、すっげえ不安で仕方ない」

 

 

 そう、仕方ないことなのだが、ISが使用できない以上、基礎知識等を学ぶことしかできないのだ。

 イメージトレーニングも大した操縦をしていないのであまり役に立つとは言えず、結局一夏はこの一週間の間、箒と剣道や自主的に身体が鈍らないようにするしかなかった。

 

 

「(まだ専用機も届いてないみたいだし、本当に大丈夫かよ……って、ん?)」

 

 

 一夏が不安に駆られていると、山田先生が走ってくるのが見える。

 

 

「お、織斑君〜!と、届きました!織斑君の専用機です!こっちへ来てください!」

 

 

「わ、わかりましたから、落ち着いてください!山田先生!」

 

 

 

 

 

 

 山田先生に案内されたピットには、織斑千冬がいた。

 

 

「む、来たか、織斑。これがお前の専用機、【白式】だ。」

 

 

 一夏の前には、白で飾られたISが一機。

 

 

「これが、俺の、IS……」

 

 

「さあ、時間が惜しい。悪いが《初期化》と《最適化》は試合中にやってもらうぞ」

 

 

「えっ、ちょっ、それって大丈夫なn……「大丈夫だ。ほら、早くしろ!」……はい。」

 

 

 有無を言わせない千冬。

 すると、一夏があることに気づく。

 

 

「織斑先生。今日の試合って観客はいないんですか?」

 

 

「ああ。本来ならクラスメイトを含め観客席に人を入れるのは問題ないのだが、オルコットが試合はお前と二人だけにして欲しいと言われてな。私と山田先生以外は観戦できない」

 

 

「そう、ですか。わかりました」

 

 

 その事に、何故か少し不安を覚える一夏。

 

 

「そういう訳だから篠ノ之。お前にも試合開始前にここから出てもらうぞ」

 

 

「わかりました……一夏」

 

 

「ん?」

 

 

「負けるなよ。勝ってこい。」

 

 

 力強く言われる一夏。

 箒の目には、信頼が宿っていた。

 

 

「……ふっ、ああ!任せろ!」

 

 

「ならいい。それじゃあな」

 

 

 ピットを出て行く箒。

 

 

「(箒にも言われたんだ。負けるわけにはいかない。それに、

 

 

 俺の復讐を成し遂げる為にも、こんな所で立ち止まってはいられない)」

 

 

「織斑。そろそろ出撃準備だ。位置につけ」

 

 

「頑張ってくださいね、織斑君!」

 

 

「はい。 織斑一夏、【白式】出ます!」

 

 

 一夏は、フィールドへと降り立った。

 

 

 

 

 その目には、復讐が映っていた。

 



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クラス代表決定戦 一夏vsセシリア

10/23 第六話と第七話、前編と後編をくっつけました。


 

 

『それではこれより、クラス代表を決める織斑一夏VSセシリア・オルコットの試合を始める。両者準備はいいか?』

 

 

  「はい」 「はい」

 

 

『よし、それでは試合……始めッ!』

 

 

「(ISだからって、負けるわけにはいかねぇ……ッ!)」

 

 

 試合開始の合図と共に、斬りかかる一夏。

 その手に持っているのは、自身の機体に唯一備え付けられている武器【雪片弐型《ゆきひらにがた》】

 元より一夏は『ダークネス』の時も剣を主流に戦うので、あまり大差はない為本人は剣だけで十分だと思っていた。何より、《世界最強である姉》と同じスタイルで戦える事に、多少の誇りすら感じていた。

 

 

「なかなかに速いですわね、ですけど、それだけでは擦りもしませんわ」

 

 

「さすが代表候補生、これくらいじゃ当たってもくれないか……!」

 

 

 初撃を当てられず、その後の数発も躱されてしまう一夏。

 

 

「(落ち着け俺。これはISバトルだ。相手のSEを0にすればいい。相手の隙を伺って、そこに斬り込んでいけば……!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先に言っておきますけれど、隙なんて見せるつもりはなくてよ?」

 

 

「なにっ……?ぐあっ!!」

 

 

 一夏の身体に衝撃が伝わり、地面に倒れこむ。

 

 

「(なんだ、一体どこから……!?)」

 

 

 顔を上げた一夏。その視線の先には、

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、織斑 一夏さん。わたくしの、

 《ブルー・ティアーズ》と踊っていただく準備はよろしくて?」

 

 

 

 

 

 

 空中に、セシリアを囲むように4基のBT兵器が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《ブルー・ティアーズ》

 イギリスの第3世代型ISで、射撃をメインとした機体。『スターライトmkIII』といった巨大な特殊ライフルを主力としている。

 遠距離戦闘型の機体だが、『インターセプター』といった近接用の武器もある。もちろん、セシリアは即時に展開し応戦することができる。

 

 

「(おいおい、まじかよ!がっつり遠距離タイプじゃねーか!)」

 

 

 剣しか扱うことのできない一夏では、狙撃や射撃等の一定の距離を取って戦うタイプが苦手なことは自分でも分かっていた。

 《ダークネス》での戦闘においては、多少なりとも慣れがあり尚且つ立ち回りがしっかりと把握できている為苦戦することは少なかったが、ISとなると話が違う。

 初めて乗る機体で思い通りの戦いになるかと言われれば、それは別である。

 

 

 それからおよそ5分ほど、セシリアの精密な射撃に、一夏は避けることしかできなかった。

 

 

「いつまでも逃げていては、試合に勝てませんことよ!」

 

 

「よく言うぜ!近寄せる気なんかないくせに……っ!」

 

 

 大きくSEを削られることはないが、少し擦る度に微量であっても白式のSEは減っていく。

 対して、セシリアには一撃も攻撃を当てることができない。

 このままでは、差が開く一方であった。

 

 

「このままじゃジリ貧になる……どうするか、うわっ⁉︎」

 

 

「………………」

 

 

 射撃が止まる。

 

 

「……………ッ、これだから、男は……!」

 

 

「……なんだよ、何に怒ってんだよ」

 

 

 セシリアは呟く。

 

 

「…………わたくしは」

 

 

 そして、セシリアは叫ぶ。

 

 

 

 

 

「わたくしはッッッ!!!

  貴方のような弱く惨めな男が!!!!

  だいっっっっっきらいですわぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

「ISを使える『男』……ッ!それだけの、ただそれだけの男が………!『大切な人を失うことの辛さを知らない腑抜けた男』が!!!!!この世界に入ってくるんじゃないですわぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

 

 

「…………………ッ」

 

 

 黙る一夏。

 だが、一夏には、許せない一言があった。

 

 

「………確かに、俺は弱い」

 

 

「はあ、はあ……、ふふっ、認めるのですね「ISにおいては、俺は、お前の足元に及ばないかもしれない」……なんですって?」

 

 

「そこに言い訳なんてない。確かに俺は、まだISを動かして数日にも満たない初心者だ。それに対してお前は、代表候補生まで上り詰めた、実力者だ。そんなことはわかってる」

 

 

「でも……それでも……!」

 

 

『大切な人を失うことの辛さを知らない』

 

 

 セシリアからしたら、自分の過去に何があったかなんて、わかるわけがない。それはこっちも同じだ。

 でも、それだけは、一夏は認めるわけにはいかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前だけが!!!!この世界でお前だけが!!!苦しんでると思ってんじゃねぇぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

 

 

 一夏は吠える。

 

 

 そして、

 

 

 機体が、剣が、白く光る。

 

 

 

 

 ーーー【白式】《一次移行》ーーー

 

 

 

 

「(な、んですって……?この男、今まで、初期設定でずっと………!)」

 

 

 

 ーーこれは、復讐者二人の、戦い《殺し合い》でもある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《零落白夜》

 一夏の乗る機体、白式の単一仕様能力。

 対象のエネルギーをすべてを消滅させることができる、当たれば一撃必中の、まさしくチート級の能力。相手のエネルギー兵器による攻撃を無効化したり、シールドバリアーを切り裂いて相手のシールドエネルギーに直接ダメージを与えることができる。自身のシールドエネルギーを消費して稼動するため、使用するほど自身も危機に陥ってしまう諸刃の剣でもあるが、そんなことは今の一夏には知る由もないのだが。

 

 

「(あれは、あの剣にだけは、絶対に触れさせてはなりませんわ!!!!)」

 

 

 セシリアは、戦いの勘からその能力に無意識に気づきつつあった。

 

 

 《一撃でも斬らせたら負ける》

 

 

 根拠はないが、そんな危機感が、頭の中を駆け巡る。

 

 

 

 

 

 

 近寄らせまいと、一夏に照準を合わせ撃つ。

 

 

 だが、当たらない。

 

 

「(くっ、動きが良くなった!?この人、本当に素人なのですか……!?)」

 

 

「うおおおおおおおおおおっ!!!!」

 

 

 一夏が素人なのか、答えはNOだ。

 セシリアが知る由はないが、一夏は、この1年で少なくない数の実戦経験を積んでいる。

 殺らなければ殺られる。そんな状況下で一夏は、戦ってきたのだ。最も、一夏が人殺しをしたことは、なかったが。

 

 

 

 

「…………はっ!」

 

 

 セシリアは、自身の周囲の地面にレーザーを撃ち、砂埃を巻き上げた。

 そして、近接用の武器《インターセプター》を呼び出す。

 

 

 

 

 先ほど言われた言葉が頭の中を巡る。

 

 

「(彼は言った……!《お前だけが苦しんでるわけじゃない》と……!なら………!」

 

 

 砂埃が、晴れる。

 

 

 正面から、一夏は突っ込んでくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたの覚悟を、苦しみを、このわたくしにぶつけてみなさいな!!!!!!織斑一夏ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

 

 

「セシリア………オルコットぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっ!!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 剣が、交差する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数分か、はたまた数時間か。

 立っている人物は、いなかった。

 

 

 地面にひれ伏す二人。

 

 

 一夏にはもう意識はなかった。

 

 

 意識が消えゆくセシリアが最後に聞いたのは

 

 

 

『セシリア・オルコットのSE残量0。よって、勝者 織斑一夏!』

 

 

 

 自身の、敗北の宣告であった。

 

 

「(ああ…………わたくしは、負けたのですね)」

 

 

 そのままセシリアの意識は、ブラックアウトした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 決着を告げるアナウンスをした千冬は眉をひそめながら考えていた。

 

 

「(………友を失った一夏に、両親を失ったオルコット。似た者同士、といったところか。)」

 

 

「あの、織斑先生。二人は……」

 

 

「……山田先生、彼らの事には、触れないであげてください」

 

 

「……わかりました。二人を保健室へ連れて行きますね」

 

 

「ああ、頼んだ」

 

 

 アリーナへと向かう山田先生の背中を見送る。

 そして千冬は、先ほどの試合を思い出す。

 

 

「(オルコットの奴、わざわざ近接武器に変えて、迎え撃つとはな。まだ手詰まりといった場面ではなかったのに。……一夏に、何かを感じたか?)」

 

 

 一年前、千冬もよく知る一夏の親友が死んだ時、彼女は一夏に声をかけてやることができなかった。

 代わりにできたのは、一夏に戦う力を与えることだけ。一夏を、自らの手で闇の世界に落とすことだった。

 

 

「(…………私のしてきたことは、本当に正しかったのか?……龍也)」

 

 

 その問いに答える者は、いなかった。

 



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第八話 2人の復讐者

 

 

 

 セシリアが目を覚ます。

 

 

「…………んっ、ここは……?」

 

 

「起きたか、オルコット」

 

 

「織斑、先生?」

 

 

 保健室のベッドで寝ていたセシリア。

 隣には、織斑千冬がいた。

 

 

「ここは保健室だ。お前はクラス代表決定戦で織斑に負けてそのまま気を失ったんだ。

 全く、あの試合は一般の生徒には見せられないぞ」

 

 

「そう、でしたか。………あの!」

 

 

 セシリアが意を決して千冬に聞こうとする。

 だがその前に、千冬が先に口を開いた。

 

 

 

 

「…………お前の両親が、事故に見せかけて殺されたのは知っている」

 

 

「……ッ!………知って、いらしたのですか」

 

 

「ああ。……一夏と、話してみるといい。」

 

 

「織斑先生は、彼に何があったかご存知で?」

 

 

「…………もちろん、知っているさ」

 

 

「そう、ですか」

 

 

「織斑は先に目を覚ましている。既に部屋に戻ったか、まだどこかをうろついているかはわからないが好きな時に行け」

 

 

「はい、ありがとうございます」

 

 

 病室から出ていった千冬。

 

 

 一人になったセシリアは考える。

 

 

「(わたくしとしたことが、冷静さを欠いてあんな試合を……恥ずかしい限りですわ)」

 

 

 試合での自分の言動、行為を思い出すセシリア。

 

 

「(でも、話さなければいけない。彼と)」

 

 

 今すぐにでも織斑一夏と話さなくてはいけない。

『ただの一般人』だと思っていた彼は、そうではなかった。

 試合中思わず口に出してしまった自分の感情へ、彼は噛み付いてきた。その真意を、知りたい。

 

 

 そう思ったセシリアは、ベッドから立ち上がり、保健室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏は中庭にいた。

 木の下のベンチに座り、自販機で買った炭酸飲料を飲みながら物思いにふけていた。

 

 

「………………」

 

 

「ここに、いらしたのですね」

 

 

 セシリアが、後ろから声をかける。

 

 

「!……オルコットか。怪我は大丈夫か?」

 

 

「ええ、あれぐらいで怪我をするほど、やわではなくてよ」

 

 

「そっか、ならいいんだ」

 

 

 セシリアが、一夏の隣に腰を下ろす。

 

 

「貴方に、聞きたいことがあります」

 

 

「なんだ?」

 

 

「わたくしとの試合中に、苦しんでいるのはわたくしだけではないとおっしゃいました。あれはつまり、貴方にも……何かを失った過去が、あるのですか?」

 

 

「………何かを失った、か。

 あるよ、俺にも。お前と同じ、大事な何かを失ったことが」

 

 

「…………やはり、そうなのですね」

 

 

 

 

 少しの静寂。一夏は、ぽつりと呟くように口を開いた。

 

 

 

 

「今から一年前、俺は親友を亡くした。中学生に上がってからずっと一緒にいた、親友を。色々助けてもらったし、いつもみんなと馬鹿騒ぎしてる俺達を見守っててくれてたんだ。 ……そんな奴が、ある日突然殺された」

 

 

 

 セシリアは黙って聞いている。

 

 

 

「千冬姉から聞いたんだ。その時一緒にいた、幼馴染と。

  最初は千冬姉が何を言ってるのか分からなかった。いや、分かりたくなんかなかった。突然親友と、二度と会えなくなるなんて。そしてそいつは………女性権利団体に、殺されたって」

 

 

「……………なん、ですって?」

 

 

「表向きには女性の為の暮らしやすい生活支援を求める演説とかを街中でしてるけど、裏ではISに乗れないのをいい事に男が仕切る会社を片っ端から潰しに回って、乗っ取ったり。

 他にも、ISの兵力を使って非人道的なこととか、人体実験のモルモットを捕まえてたんだ。どれも詳しく聞いて気分が良くなる話じゃない」

 

 

 セシリアは唖然とする。

 名前は知っていた、日本に来るにあたってIS関連のことを調べている時にちらっと目に入ったからだ。だが、まさか裏でそんなことをしているとは想像も付かなかった。

 

 

「そんな奴らと、あいつは一人で戦ってたんだ」

 

 

「戦っていた、って………IS相手に、一体どうやって……」

 

 

「………戦う方法なら、あったんだ。だから龍也はずっと戦ってた」

 

 

「そんな、生身で人間が戦えるわけ………」

 

 

 セシリアは、はっとする。

 

 

 聞いたことがある。

 自分の住んでいた地域にも伝わっていた、一つの都市伝説を。

 

 

 

「……織斑さん。まさか、まさかとは思いますが、一つ聞いてもよろしいでしょうか?」

 

 

「ん?」

 

 

「ISが世に普及して数年、世界を飛び回り悪事を働く人々を退治する、街の平和を守る為に戦った一人の戦士がいたという噂……いえ、都市伝説のようなものがありましたわ。その戦士の名は《仮面ライダー》と、言われています。もしや……その人は」

 

 

「………ああ。その《仮面ライダー》が、今俺が話した親友のことだ。名前は、『ダークネス』。仮面ライダーダークネスってところか」

 

 

「………本当に、実在していたのですね、そんなヒーローが。それに、わたくし達と同い年だなんて」

 

 

「いつ、どこからその力を手に入れたのかも分からない。どうして戦っているのかも分からない。もしかしたら俺が出会うより前、小学生の頃から戦っていたのかもしれない」

 

 

「何も言ってくれなかったんだ。学校にいる時も、家で遊んでる時も、そんなそぶり一度だって見せやしなかった。だから、悔しかった。悲しかった。辛かった。親友だと思ってた奴に、なんにも頼りにされてなかったことが」

 

 

「だから千冬姉から、龍也が死んだって聞いた時は‥‥絶望した。

  この世界に。救いのない、この残酷な世界に」

 

 

 

 

 そこで、セシリアは気づく。

 

 

 

「(もしや、この人は)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そして、俺は、俺達は、復讐する事に決めた。

  あいつを殺した女性権利団体の奴らに。

  そうしないと、世界の為に戦ってたあいつが報われないだろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(ーーーわたくしと、同じですのね)」

 

 

 

 

 

 復讐に囚われた人間であると、気づいてしまった。

 



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第九話 貴族少女の過去

 

 

 

 少しの間、無言が続いた。

 

 

 重苦しい空気の中、一夏が口を開く。

 

 

「これが俺の過去だ。俺は、復讐者なんだ」

 

 

「………あなたの復讐は、まだ終わってないのですか?」

 

 

「ああ。龍也を殺した女性権利団体、その中でも直接龍也に手を下した奴を探し出して、殺すまでは終われない」

 

 

「……………」

 

 

 セシリアは黙り込む。

 数秒目を閉じ考えた後、口を開く。

 

 

「貴方は、死んだ人間に対して、その報いをして差し上げることがその人の救いになると思いですか?」

 

 

「……どういう意味だ」

 

 

 セシリアは意を決し、この男に、織斑一夏に自分の過去を話すことを決めた。

 

 

「………わたくしには、両親がいました。オルコット家を支えていた立派な両親が」

 

 

「ですが、ある日、突然帰らぬ人となってしまいました」

 

 

「……………」

 

 

 一夏は黙って聞いている。

 

 

「列車事故との事でした。当時、まだ10歳にも満たないわたくしには、受け入れ難い事でした。

 両親が死んだ事が親戚や、色々な方面へ知れ渡ってからは、様々な殿方がオルコット家の財産を狙って、未熟で若輩者のわたくしに取り繕ってご機嫌取りをしに来る毎日でしたわ。

 わたくしは、そんな男達の思い通りにならないようにと、必死だった………そんな、ある日の事です。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おいおい、ったく、いつになったらオルコット家の財産は俺達の物になるんだよ、【話】と違えじゃねえか』

 

 

『そう焦るな。じきにあのガキも観念するさ。

  今はじっくり、時間をかけて親密度を上げるのが先だろ?』

 

 

『あんな小娘にご機嫌取りしなきゃいけねえなんて、やってらんねえよ全く。

  あーあ、せっかく邪魔な二人を消したってのに、肝心の財産が手に入らねえんじゃ意味がねえ………いっそのこと、あのガキでも喰うか?』

 

 

『お前、ロリコンだったのか?いくら美人でも、あんな乳臭いガキはないな。利用価値もない』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな………」

 

 

 一夏は唖然とする。

 

 

「仕組まれたものだったのです。列車事故は。両親を殺すために、関係の無い人も巻き込んで」

 

 

「その事をたまたま聞いてしまったわたくしは、ずっと御付きになってくれていたチェルシーというメイドにすぐに話しました。

 結果として、その二人は他にも何やら悪事をしていたようで、捕まったらしくその後は姿を見せなくなりました。でも、『話と違う』と仰っていた為、裏で操っていた者がいたとわたくしは考えております。………ずっと、ずっと探していますが、未だに見つかりません。もしかしたら、今も刑務所にいるその二人だけの犯行であったのかもしれません。

 ですが、そうだとしてもわたくしは、両親の仇を取らなくてはなりません。それがわたくしにできる、二人へのせめてもの手向けにでもなれば、と……」

 

 

「その二人が出てきたら、どうするんだ?」

 

 

「………殺しますわ。両親を殺した罪を、受けて貰います。牢屋に入ったからといって、消える罪ではありませんわ」

 

 

「………そっか」

 

 

「この時から、わたくしは男というものが大嫌いになりましたわ」

 

 

「弱く惨めでISにも乗れず、女に取り繕って頭を下げることしかできない。それでいて、非道な考え方をする心が腐りきった男がいる。

 ……わたくしには、とても耐えられないことでした」

 

 

「だからこそ、強くならなくてはいけない。強くなって、誰にも指図されることなく、わたくしがわたくしである為に、強者でいなくてはならないのです」

 

 

 

 

「オルコット家の誇りを、守る為に………」

 

 

 

「………だからお前は、ISを使って、代表候補生まで上り詰めたのか?その男達への復讐の道具として、ISを使う為に」

 

 

「ええ。幸い、わたくしのIS適正値はAランクでした。操縦するのにも苦労はありませんでしたわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………そんなの、駄目だ。間違ってる」

 

 

 

「え?」

 

 

 一夏は目を閉じ、考える。

 ISとは何か、篠ノ之束がどの様にして開発し利用しようとしたのか、一夏は知っていた。

 

 

 自身がまだ幼い頃、束から聞いたことがある。

『IS《インフィニット・ストラトス》はね、宇宙へ、大空へと翔ぶ為の翼なんだよ!』と。

 

 

 そして、親友の龍也は言っていた。

 

 

『ふむ、そうなのか。……そっか、ISは、宇宙へ行く為の翼か。

  いいなぁ、俺もいつか空を駆け回ってみたいぜ、な!一夏!鈴!』

 

 

 《ISは誰かを苦しめたり、戦争で利益を生む為の兵器じゃない》と、一夏はずっと思っていた。

 

 

  【二人の想い】を知っているからこそ一夏は、裏の世界で悪事を働く人々や、その力を自分の為に動かす事を許せなかった。

 だから戦っていた。それはきっと、龍也も同じだったのだろう。

 

 

 そんな一夏の前に今、ISを自分の復讐の為に使おうとしている少女がいる。その手を汚そうとする一人の人間がいる。

 

 

「(俺が偉そうに言えることじゃないかもしれない。

  でも、今ここでISを人殺しの道具にさせる事を認めちまったら、俺だけじゃない。死んだ龍也の想いに対しての冒涜にもなる。託されたんだ、俺は。龍也から)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分が手を汚す覚悟は出来ている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 でも、この少女ーーーセシリア・オルコットにはそんなことをさせるわけにはいかない。

 

 

 

 

 

 

「ISは、人々が争い合う為のものじゃない。

  篠ノ之束が、空を、宇宙を飛ぶ為に作った翼なんだ。

  お前に、ISを人殺しの道具にして欲しくない。そんなクズの連中と同類になんか、させたくない」

 

 

 

 

 

 

「………なら」

 

 

 

 

 

「なら、わたくしはどうすればいいのですか!!!!!

 今までずっと、両親を殺した二人を憎んで、わたくしは、ここまで来たのですよ!!!!

 それを、ここまできてやめる?復讐を取り消す?………そんなこと、できるわけないじゃありませんか!!!!」

 

 

 

「お前のことを否定するつもりなんて、ない。

 

 ………でも!!!お前の両親が!!死んじまった二人の両親が!!そんなこと望んでるとでも思ってんのか!!!!!」

 

 

 

 

「……………それ、は……」

 

 

 

 

 

「それに、お前は自分で言ったんだ。《死んでいった人間の報いをすることが、本当に救いになると思っているのか》、って」

 

 

 

 

 二人は叫ぶ。

 同じ復讐者として、互いに譲れないものがあるから。

 

 

 

 

「………俺には、親の記憶がない。俺が物心つく前に、死んじまったらしい。それからずっと、千冬姉と二人きりだ」

 

 

 

「千冬姉は、その時高校生だった。親戚の人が集まって、遺産と俺達の身をどうするかを決めていたらしい。

 でも、誰一人として、俺達を率先して引き取ろうと言ってくれたところはなかった」

 

 

 

「親戚達は遺産が目当てだった。俺達二人は、《必要のない物》だったんだ」

 

 

 

「誰からも必要とされなかった千冬姉と俺だったけど、ずっと俺を育ててくれた千冬姉を、俺は尊敬してる」

 

 

 

 千冬が唯一信頼し、頼りにしていた篠ノ之家にも、一夏は感謝している。

 そのおかげで大事な幼馴染にも出会えた。

 そして、ISを、命を奪える程の力を持つ物の本当の使い方を知れた。

 

 

 

 

「俺には、親の愛なんてわからない。

 でもきっと、君の両親は君のことを、ずっと愛していたんじゃないか?

 千冬姉が‥‥俺を、愛してくれたように」

 

 

 

 

 二人の境遇は似ていた。

 親を亡くし、遺産目当てですり寄って来る人々。

 どんなに辛い状況でも、千冬もセシリアも負けなかった。

 一夏は、そんな姉の背中を見て育ってきた。

 

 

 

 

 ーーー止めなきゃいけない。

 この少女を救えなくなる前に。

 手遅れになってしまう前に。自分が。

 

 

 

 

「だから、復讐なんて駄目だ。

 オルコットさんはオルコットさんらしく、自分の家を、オルコット家を守っていけば、それでいいじゃないか」

 

 

 

「…………っ、わた、くしは、」

 

 

 

 下を向き、俯くセシリアの頭を撫でる一夏

 

 

 

「もう、いいんだ。

  今までずっと、頑張ってきたんだな、オルコットさん」

 

 

 

「…………ッ!う、ううう、うああああああ、あああああっ………」

 

 

 

 泣き崩れるセシリア。

 

 

 

 今まで誰からも、そんな言葉を貰うことはなかった。

 

 

 

 

 セシリアの中で、何かが崩れた音がした。

 

 

 

 

 今までずっと積み上げてきた、復讐の為に積み上げてきたものが。

 




いつも読んでくださってありがとうございます。
よければ感想やお気に入り、評価などいただけると嬉しいです。


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第十話 それぞれの思惑

 

 

 

 泣いているセシリアを慰めること数分、ようやく泣き止んだセシリアは赤くなった目元を恥ずかしそうに隠しながら言った。

 

 

「す、すいません。お見苦しいところをお見せしてしまいましたわ」

 

 

「い、いや、いいんだ。俺もあんなこと言って悪かったな」

 

 

 暫しの気まずい空気。

 だが先ほどまでの重苦しい雰囲気は無くなった。

 

 

「……わたくしも、少し考え直して見ますわ。貴方に言われたことを忘れずに」

 

 

「うん、そうしてくれ。考えた結果、オルコットさんがまだ復讐を続けるって言うんなら、その時はまた俺が止める」

 

 

「ふふっ、それじゃあ結局考える意味がないじゃないですか」

 

 

「え?ああ!いや、別にそういうことじゃなくて!単にISで復讐させるのは止めるけどってことで……」

 

 

「あら、事件の火種は、未然に防いでおいた方がよくてよ?」

 

 

「勘弁してくれオルコットさん……」

 

 

「ふふふっ」

 

 

 笑うセシリア。冗談を言えるくらいには、もう大丈夫なようだ。

 

 

「……そろそろ部屋に戻るか。今日の疲れもまだ取れてないだろ?」

 

 

「そうですわね、保健室のベッドにいたとはいえ、しっかりと身体を休めなくては」

 

 

 ベンチから立ち上がる二人。

 歩き始めようとする前に、セシリアが声をかける。

 

 

「あ!織斑さん!」

 

 

「ん?なんだ?」

 

 

「クラス代表の件ですが、貴方にお譲りしてもよろしいでしょうか?」

 

 

「……どうして?」

 

 

「わたくしがなるより、推薦された貴方の方がクラスの皆さんの期待に応えられますわ。

 それに、試合結果も織斑さんの勝ちでしてよ?」

 

 

「でもなぁ……やっぱり、俺まだ初心者だし、クラス代表は荷が重いっていうか」

 

 

「大丈夫ですわ。近接武器の訓練はわたくしにはできませんが、ISの操縦技術や知識なら教えられます。わたくしは代表候補生でしてよ?」

 

 

「やる気がないのなら、無理に押し付ける気はありませんけど」

 

 

 一夏は考える。

 

 

「(俺の目的のためにも力を付けておく必要がある。それに……クラスのみんなからも、託されてる。その期待に応えないわけにはいかない。

 

 ……何より、まだここにいない《あいつ》も、代表候補生並の力を付けているはずだしな)

 

 わかった。俺がやるよ、クラス代表」

 

 

 一夏が宣言すると同時に、セシリアは安堵の表情を浮かべる。

 

 

「わかりました、それではそういうことで織斑先生の方にはわたくしから直接言っておきますわ」

 

 

「悪いな、頼んだ」

 

 

「いえ、お気になさらず。それではまた会いましょう、織斑さん」

 

 

「ああ、またな。オルコットさん」

 

 

 セシリアは先に部屋へと戻っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがそこへ、狙ったかのようなタイミングで一人の女子生徒が話しかけてくる。

 

 

「随分と長い間話し込んでたみたいね、一夏君?」

 

 

「……生徒会長ですか。盗み聞きとは趣味が悪いですね」

 

 

「えー、こんなところであんな話をしてるあなた達もどうかと思うけどなーお姉さんは」

 

 

「……………」

 

 

 セシリアがいなくなった途端に接触をしてきた更識楯無。

 何かしらの目的があって近づいてきていると一夏は気づいていた。

 

 

「ふふっ、警戒心が強いのね。それぐらいの賢い人の方が私は好きよ?」

 

 

「何か用ですか?」

 

 

「んー、用って程のことじゃないけど、一つ確認したいことがあってね」

 

 

「何ですか」

 

 

 

 

 

 

 

「……君は、今《ダークネス》の力が何処にあるか知っているのかしら?」

 

 

 一夏の心臓が急速に音を立てる。

 

 

「(………ッ!この人、知ってる……!ダークネスを。何より、それで俺に接触してきたってことは、ある程度勘付いているってことか)

 ……さあ、俺には分かりません」

 

 

 面白げに楯無は笑う。

 

 

「ふふっ、嘘は苦手なのね。動揺が隠せてないわよ?一夏くん♪

  ……それに、私の家系は『暗部』なの。しっかりと情報は握ってるわ。

 

 君が、二人目のダークネスだってこともね」

 

 

「………なッ!!」

 

 

 今度こそ驚きを隠せない一夏。

 

 

「ちなみに暗部の中でも、更識は『対暗部用暗部』なの。一応自己紹介のついでに、説明をね」

 

 

 そんなことはどうでもいい。

 この人は俺がダークネスであることを知っていて、何が目的で近づいて来たのか。

 

 

「(この人は女性権利団体側の人間なのか?復讐に来たのもあり得るが、だとしたら組織全体に情報を回して、夜寝てる時にでも襲撃すればいいだけの話だ。一体どうして……)」

 

 

「ふふ、別に君に何かしようって訳じゃないわ。この前と違って、ちゃんと挨拶しておこうとおもってね」

 

 

「……どうして俺がダークネスだと知っているんですか」

 

 

「昔、会ったことがあるのよ。一夏君じゃない、ダークネスにね」

 

 

「……え、それって」

 

 

「……その話はまた今度にしましょう。今日は、知っているわよって伝えに来たかっただけだから。

 それじゃあまたね、一夏君。クラス代表頑張って」

 

 

 言うだけ言って去っていく楯無。

 今まで戦って来た相手、ましてや一般人に素顔を晒すような真似はしないよう厳重な注意を払って来たはずだが、楯無は知っていた。

 

 

「……こりゃあ、千冬姉と束さんに話してみないとダメかなぁ……はぁ」

 

 

 何はともかく、今はもう休みたい気分だ。

 セシリアと怒鳴り散らすような会話もしたし、楯無には精神的に疲れさせられた。身体もまだ全開とは言えない。

 

 

 少し肩を落とした一夏は、そのまま部屋と戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーその頃、とある場所では

 

 

「ん〜やっぱりこれじゃあダメかぁ、ISと上手く《ダークネス》の力が混ざらない。

 白式をプレゼントしたけど、やっぱり『こっち』を使えた方がいっくんも戦いやすいはずだしねぇ」

 

 

 そう言って《Darkness》のメモリを上に掲げるのは、一人の『天災』。

 

 

「それに、いっくんの周りにも面白い子がいたみたいだしね、ふふ、似てる。似てるよ、イギリスの………なんだっけ、えーと」

 

 

 思い出そうと少し悩んでいる天災に、後ろから声をかける男が一人。

 

 

 

 

 

 

 

「ーーセシリア・オルコット。イギリスの代表候補生だよ」

 

 

「ああー!そうそう!セシリアちゃんだよ〜あの子はいっくんと話す前も、話した後もなかなか『いい目』をしてたね〜」

 

 

 後ろから話しかけた男は、怪訝そうな目で天災を見る。

 

 

「相変わらず悪趣味だね、束さんは」

 

 

「えーそんなこと言わないでよ〜。キミだって見ててそう思ったでしょ?

 

 

 

 ね、『りゅーくん』?」

 

 

「………彼女はいい方向に道を選べた。

  間違いなく、一夏のおかげだと思うよ」

 

 

「いっくんも成長したねぇ。『一年前』は、あんなに弱くて、脆い子だったのに」

 

 

「……………」

 

 

 男は黙って聞いている。

 

 

 天災は何かを懐かしむような目で語る。

 

 

「強くなったよ、いっくんは。力だけじゃない、心も、ちゃんとね」

 

 

「らしくないじゃないか束さん。そんなこと言うなんて」

 

 

「ふふふ、昔から知ってる可愛い子が成長するのは嬉しいことなのだよ!

 さーて!箒ちゃんにも早くとびっきりのサプライズプレゼントを贈るぞ〜!」

 

 

 天災はすぐにまた研究に意識を向ける。

 

 

 男はもうここにいる意味はないと判断し、部屋を出た。

 

 

 そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

「………まだ足りない。一夏には。

 

 

  あいつ自身で見つけなければいけない、《強さ》がある」

 

 

 

 一人言を呟き、部屋を後にした。

 



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第十一話 クラス代表決定戦〜その後〜

後日談というか日常パート的なのです
あっさりと短めに


 

 

 

 時間はセシリア、楯無との話を終え、陽が沈む少し前。

 やっと部屋に戻ってきた一夏。

 

 

「ただいま、箒。戻ったぞ」

 

 

「!?い、一夏か。お、おかえり。それで、試合はどうだったのだ?」

 

 

「一応、勝ったぞ」

 

 

 あまり嬉しそうにはしない一夏。

 

 

「?一応とはどういう意味だ」

 

 

「あはは……ちょっと色々あってな、普通の試合にならなかったんだ。勝敗はついたけどな」

 

 

「色々って、お前……まさか」

 

 

 何かを勘付いたように一夏をジト目で見る箒。

 

 

「うっ、いやー、その、な?まぁ、仕方なかったんだよ。オルコットさんにも、色々あったらしいからさぁ………」

 

 

「……私には言ってはくれないのに、オルコットには言ったのか。そうかそうか。ふーん」

 

 

「ほ、箒?」

 

 

「……………」

 

 

 だんまりを決め込む箒。拗ねている。

 自分にはいつか話すと先延ばしにされたのに、ぽっと出のクラスメイトに復讐とやらのことを話したというのだ、拗ねるのも無理はない。

 

 

 ーークラス代表を決めるだけの戦いで何があったのか、箒には知る由もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「昨日行われた織斑君とオルコットさんの試合ですが、織斑君が勝ちました。なのでクラス代表は織斑君で決定します。問題ないですね?」

 

 

「はい」

 

 

 時間は、代表決定戦翌日の朝のSHR。

 副担任の山田先生より、一夏がクラス代表になったことが伝えられた。

 

 

「よし、これでSHRを終わりにする。

 次の授業開始は10分後だ。それまでに教材の用意をして席についておけよ」

 

 

「「「はい!!!」」」

 

 

 だが、一夏は気が気でなかった。

 昨日箒を怒らせたままずっと口を利いてくれなかったのである。

 

 

「(箒は一回怒ると長引くタイプだったからなぁ。なんとかして許して貰えればいいけど……」

 

 

 そもそも言えない過去などがある時点でどうかと思うのだが、この男は他の女にその過去を言ってしまっている。

 一応、千冬の公認(?)ということでセシリアに話す許可はあったのだが、一夏はそれを知らない。

 

 

 と、そんな一夏にクラスメイトが駆け寄ってくる。

 

 

「ねぇねぇ織斑君!オルコットさんに勝ったのって本当なの?」

 

 

「ん?ああ、一応勝ったけど」

 

 

「すごいね織斑君!」

「代表候補生に勝っちゃうなんてやるー!」

「もしかしたらクラス対抗戦も余裕だったりしてー?」

 

 

「い、いや、オルコットさんに勝てたのも結構まぐれというか運が良かったというk「あら、織斑さん。だいぶ余裕を持たれてわたくしに勝っていらしたではないですか。随分謙遜なさるのですね?」か……って、え?」

 

 

 セシリアが割り込んできた。

 しかも一夏の強さを助長する様な発言をする。

 

 

「えーー!ほんとに!?オルコットさんに圧勝したの!?」

「すごーい!代表候補生相手に余裕持ってた、なんて!」

「さすがは千冬様の弟だねー!」

 

 

「俺は圧勝なんてしてな………って、この子たち話聞いてないし(どういうつもりだよ!?オルコットさんんん!?)」

 

 

 女子生徒達は余計に盛り上がってしまい、一夏の話も耳に入ってこないようだ。

 

 

 一方、セシリアはというと、

 

 

「(ふふふ……わたくしに変わってクラス代表になるのですわ。半端な戦いをするようでは許しませんわよ)」

 

 

 ーーこの女、なかなかに鬼畜である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すると、クラス内のまた別のところで話している人達の会話を、一夏が耳に入れた。

 

 

「ねぇねぇ、2組にさ、新しい転入生が来るらしいよー」

 

 

「どんな子なの?知ってる?」

 

 

「なんでも中国から来るって、しかも代表候補生だとか!」

 

 

「中国の代表候補生って、ちょっと前に中国で話題になったスーパールーキー!?」

 

 

「かもしれないよ!」

「大丈夫かな……織斑君」

「織斑君ならやってくれるよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………おいおい、中国からの転入生で『スーパールーキー』ってまさか、《あいつ》じゃないよなぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、ある国の空港では、

 

 

「それでは、お気をつけて行ってらっしゃいませ、『凰鈴音』様」

 

 

「はいはい、行ってくるわよ」

 

 

 飛行機に乗る少女が一人。

 

 

 向かう先は、日本。

 

 

「さて、一夏………待ってなさいよ」

 

 

 思わぬビッグニュース《男性操縦者発見》により、自分もIS学園へ行くことを決めた少女がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーあんたがどれくらいぬるま湯に浸かってるか、確かめてあげる」

 

 

 

 ーーー物語は、ここから動き始める。

 

 



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第2章 Another one of the Avenger 〜side 凰 鈴音〜
第十二話 中国からの転校生


今回から鈴編ということで。



鈴は原作と違い中学1年の始めに転入してきて、その後中学3年の始まりと同時に中国へ帰ったという設定です。
キャラ紹介の方にも、龍也の欄にそう書いてありますので。


 

 

 

 

 

 

「ーーそれでは、今日の授業はここまでにする。先ほど出した課題は、来週までにやって山田先生か私に提出するように。遅れた者には罰を与えるからそのつもりでな」

 

 

「(ああ、やっと終わった………)」

 

 

 昼休み前最後の授業が終わった。

 元々勉強の要領がよくない一夏には、IS学園の授業は非常にレベルが高いためただでさえ厳しい。ついて行くので精一杯だ。

 その為、中学生の時は、テスト前になる度に鈴と合わせて二人でよく龍也から教えを乞うたものだ。

 

 

 勉強以外はなんでも出来る、一夏の珍しい欠点の一つと言ってもいい。

 ちなみに他は、女心をわからないという欠点だ。

 

 

「ふふ、随分お疲れのようですね、織斑さん」

 

 

「全く、だらしないぞ一夏!男なら背筋を伸ばして堂々としていろ!」

 

 

「そんなこと言ったって、ここの授業レベル高すぎて俺には厳しいよ」

 

 

 一夏がクラス代表に決まった日から、この三人はお昼に集まり食事をするメンバーになっていた。

 

 

「オルコットさんは主席入学だったよなぁ。すげえよ、尊敬するわほんと」

 

 

「そんなに敬われることでもありませんわ。貴族として当然のことでしてよ」

 

 

「む、私だって主席とはいかないが上位にはいるんだぞ」

 

 

「え!?そうだったのか!?箒も意外と勉強できるんだな……」

 

 

「い、意外とはなんだ意外とは!」

 

 

「あら、レディに失礼ですわよ織斑さん」

 

 

 いつもと変わらない日常会話をしながら、今日も変わらず食堂へ向かう。

 

 

「今日は何食べようかな。箒はまた和食か?」

 

 

「またとはなんだまたとは。

 ……さすがに毎日同じものを食べていては飽きる。今日は違うのにするさ」

 

 

「わたくしは和食には手をつけたことがありませんわ。美味しいんですの?」

 

 

「ああ、美味しいぞ。日本ならではの食材の風味や味付けがいい。一回食べてみてはどうだ?」

 

 

「そうですわね、今日は和食定食にしてみますわ」

 

 

「ここの学食なら、大体の国の料理はあるし味もしっかりしてるからいいよなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一夏」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふと、後ろから声をかける生徒が一人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 思わず足を止める。

 

 

 聴き覚えのある声。

 絶対に忘れられない、自分と同じ『目的』を持った少女の声ーーーそう、彼女だ。

 

 

「久しぶり、一夏。元気にしてた?」

 

 

「り………ん?お前、鈴か!?」

 

 

「そーよ、あんたのお友達の『凰鈴音』ですよー。

  ふふっ、驚いた顔しちゃって。びっくりしたでしょ」

 

 

「鈴………」

 

 

 目を大きく見開き、言葉が出てこない一夏。

 

 

「お、おい一夏!誰なんだこいつは!」

 

 

「随分と仲の良さそうなお知り合いのようですけれど、彼女さんか何かで?」

 

 

「か、かかかか彼女だと!?どうなんだ一夏!」

 

 

 箒が詰め寄るが、一夏はそれどころではない。

 

 

「ぷっ。あははははは!あたしが一夏の彼女?ないない!こんな唐変木の彼女なんてありえないわよ、まったく」

 

 

 そう言ってひとしきり笑う鈴。

 

 

「で、あんたも。お昼食べに行くっていうのに女の子二人も傍に添えちゃって。隅に置けないわね」

 

 

「し、仕方ないだろ、女子しかいないんだから」

 

 

「あー、それもそっか」

 

 

「………中国から転入して来る代表候補生って、やっぱり鈴だったんだな」

 

 

「あれ、知ってたんだ。

 なーんだサプライズになってなかったのかぁ」

 

 

「い、いや、十分驚いたけど……」

 

 

「と、とりあえず皆さん、食堂の中へ入りませんこと?此処にいては、他の方達の邪魔になってしまいますわ」

 

 

「それもそうね。さっさと食券買って並びましょ」

 

 

「あ、ああ」

 

 

 セシリアの発言により収拾のつかなくなっていた四人は食堂へと入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、各々がお昼ご飯を手に席へと座った。

 

 

「ふぅ、人が多いわねここの学食は」

 

 

「仕方ありませんわ、ちょうどお昼に入ったばかりですもの。もう少し時間を空ければ空いていたかもしませんが」

 

 

「……で、結局お前は誰なんだ。一夏とどういう関係だ?」

 

 

「そんなに敵意むき出しにしなくてもいいじゃない。

 そういうあんたこそ、一夏のなんなのよ?」

 

 

「わ、私は……一夏の『幼馴染』だ!」

 

 

 すると、鈴の目が面白いものを見るような目に変わる。

 

 

「へぇ‥‥あたしも『幼馴染』よ。ね、一夏?」

 

 

「いや、鈴は別に幼馴染ってわけじゃないだろ?中学からの仲なんだし」

 

 

「あら、そうなんですの?」

 

 

「そういえば自己紹介が遅れたわね。

 あたしは凰 鈴音。今日から2組に転入したからよろしく。後、一応『中国の代表候補生』をやってるわ」

 

 

「………!そうですか、貴女が……」

 

 

「彼女を知ってるのかセシリア」

 

 

「ええ。少し前に、僅か一年足らずで代表候補生になった、中国の期待の新人がいると話題になりました。

 もしや、貴女のことでは?凰さん」

 

 

「あーそんな風にも言われてたかな、そういえば。

 それと、凰さんなんて固い呼び方じゃなくていいわよ。『一夏の友達』なんだし。気軽に鈴って呼んで。

 あんたはイギリスのセシリアだったわね代表候補生の……それと、あんたは?」

 

 

「………篠ノ之 箒だ」

 

 

「そ、箒。よろしくね」

 

 

 それぞれの自己紹介が終わった。

 一夏が話しかける。

 

 

「………帰ってきたんだな」

 

 

「……まぁ、ね。

 どの道いつかは日本に来てたから、それが今だっただけよ」

 

 

「なんで、IS学園に来たんだ?」

 

 

「それはこっちのセリフよ。なんで初の男性操縦者になんてなってるのよ?」

 

 

「ははは……ま、まぁ、ついうっかりISに触っちまったというか……」

 

 

「………また、一夏らしいというかなんというかね、ふふ」

 

 

 二人の空気は、久しぶりに会ったとは思えないほど仲が良いのを感じさせるものであった。

 すると、セシリアが鈴に問いかける。

 

 

「あの、鈴さん。鈴さんは織斑さんと中学からのお付き合いだということですが」

 

 

「ん?ああ、そうよ。さっきこいつが言った通り」

 

 

「それで、中学の時の織斑さんはどのような方で?」

 

 

「ちょ、オルコットさん!?」

 

 

「む、それは私も気になるぞ。私がいなくなってからの話は、まだ聞いたことがないからな」

 

 

「えー中学の時の一夏かぁ」

 

 

 鈴は首を上に傾け、目を細める。

 

 

「見た感じ、あんまり今と変わってないんじゃない?

 誰かが困ってるとすぐに助けに行ったり、女の子が重い物持ってると代わりに持つってその子のところに行ったり。街中の裏道でナンパされてる女の子がいた時なんかも、わざわざ助けに行ってたくらいよ」

 

 

「あー……それは……」

 

 

 セシリアが一夏を見る。

 ここ数日、一夏と行動を共にしているセシリアだが、今鈴が言ったこととほぼ同じ状況に全く同じことをしていたからである。

 

 廊下で会ったクラスの子が授業の教材(重めの機材)を先生に頼まれ運んでいる時も、隣の子が授業の教科書を忘れてしまった時も、自分が率先して重い物を持ち、教科書を見せてあげていた。

 

 

「いや、だってそれくらいは俺がやるべきだろ?クラスに男子は俺しかいないんだし」

 

 

「あんたはお節介が過ぎるのよ。昔からね」

 

 

「(その通りだな)」

「(その通りですわね)」

 

 

 お節介が過ぎるという点には、完全同意の二人であった。

 

 

「ったく、なんで持ってたか知らないけど、櫛を女の子に貸してあげるって言った時はさすがにあたしも少し引いたわよ。

 

 

 

 ……龍也にも止められてたしね」

 

 

「(…………ッ!!今、鈴さんは『龍也』とおっしゃいましたか……!?)」

 

 

 まだ一夏と互いのことを話してから日もそんなに経っていない為、話の内容は細かく覚えていたセシリア。

 

 

 確か一夏と、一夏の『もう一人の友人』の殺された友の名前が、『龍也』だったはずでは、と。

 

 

「朝急いで支度してる時に間違って千冬姉のをカバンに入れちゃったんだよ、あれは」

 

 

「そんなことだろうと思ったわよ」

 

 

「あ、あの、織斑さん?鈴さん?今名前が挙がった、龍也さんという方は?」

 

 

「あー……んー、なんて言ったら良いのかな」

 

 

「………オルコットさん、その話詳しくは、また後で良いか?」

 

 

「え?あ、は、はい」

 

 

「……後で、何処かで話そう、鈴」

 

 

「……いいわ。元より、あたしもそのつもりだったからね」

 

 

「……さ、そろそろ食べよう。昼休みの時間が勿体無い。ほら、箒も早く!」

 

 

「あ、ああ」

 

 

 少し長話をしてしまった四人。

 各々が食事を始めた。

 

 

 だが、セシリアは一つの確信を得ていた。

 

 

「(間違いありませんわ、鈴さんは織斑さんがおっしゃっていた、『その場にいたもう一人の友人』、つまり……

 

 

 

 

 ーーーーもう一人の、復讐者ですわね)」

 



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第十三話 相対する思い

 

 

 

 残りの午後の授業を終え放課後に。

 鈴と一夏は二人で話すために誰もいない屋上に来ていた。

 

 

「ここなら誰も来ないわね」

 

 

「なあ、屋上って入っていいのか?俺来たことないから不安なんだけど」

 

 

「そんなのあたしが知るわけないでしょ。今日来たのよ今日」

 

 

「あ、そっか」

 

 

「……あんた、今日変よ?そんなにあたしに会うのが嫌だったの?」

 

 

「そ、そんなわけないだろ!」

 

 

「じゃあどうしたのよ」

 

 

「……なんて言うのかなぁ。色々、あったからさ。鈴もそうだろ?」

 

 

「……そうね。『あの日』から、あたし達の見る世界は変わったもんね」

 

 

「別れの挨拶もないまま中国へ帰っちゃうんだもんな鈴は。

 辛かったんだぞ?俺だけじゃない、弾やみんなだって」

 

 

「あの時は悪かったわよ。まだ完全に立ち直れてたわけじゃないし、いいかなって思ってたからさ」

 

 

「まったく……」

 

 

 一年ぶりに再会したのだ、話すことはたくさんある。

 だが、そんな世間話をするために二人は来たわけではない。

 

 

「鈴は、中国へ行った後すぐISを?」

 

 

「そうよ。とにかく『力』が必要だと思ったから。

 わかりやすいでしょ?この世界で、何を持てば『強く』なれるのか」

 

 

 ISに乗れるというだけで、全く関係のない一般女性も権力を振りかざす時代。

 強さを手に入れるなら手っ取り早い方法であった。

 

 

「戻ってすぐ、色々調べたわ。ISについて。

 代表候補生になるつもりはなかったんだけどね、他人と力を比べ合うことになんて興味無かったし。

 ただ、色々と融通が効くのよ、代表候補生って。今も現にこうして学園に入学できたしね」

 

 

「そう、か」

 

 

 少し複雑な心情になる一夏。

 

 

 セシリアは、ISを使って自分の復讐を成し遂げようとしていた。

 力を付けたという事は、おそらく鈴も同じなのであろう。

 

 

「(……俺に、止められるのか?鈴を。

 いや、そもそも鈴を止めるべきなのか?最終目標《ターゲット》は同じ相手なんだ、俺は……)」

 

 

「一年間ずっとIS漬けだったわ。

 ……どんなに辛くても、死んじゃった龍也のことを考えると、多少の辛さなんてすぐ消えたわ」

 

 

「あんたは何してたのよ。あたしがこんだけやってるのに、何もしてないなんてことないわよね?」

 

 

「俺は……」

 

 

 鈴に話すべきか、否か、悩んでいる。

 同じ復讐者《仲間》である鈴には、今の自分の素性を明かしてもいいのだろうか。

 

 

 そして、一夏はーーー

 

 

 

 

 

 

「ごめん、言えない」

 

 

「………は?言えないって、何よ」

 

 

 急に隠し事をされ、目付きが鋭くなる鈴。

 

 

「何もしてなかったわけじゃない。でも、鈴には……言えない」

 

 

 ーー隠し通すことを決めた。

 

 

「(俺は今、死んだ龍也の力で、『あいつの想いを受け継いでるつもり』で戦ってる。

 鈴には、鈴で出来ることがあるんだ。ならこの力は、龍也の力は鈴には言わないでおくんだ。)」

 

 

「……そう。あんたは、あんたで『あいつの仇』を取るつもりなのね」

 

 

「ああ」

 

 

「じゃあ、あたしとは、組む気はないわけね」

 

 

「そういうことじゃ………!」

 

 

「いや、いいわ。協力しろなんて言わないし、協力するとも言わない。

 あんたがその気なら、あたしもあたしであいつらに『復讐』する」

 

 

「………なあ、鈴。覚えてるか?前に、龍也と三人で話したことを」

 

 

「どれよ。たくさんありすぎてわかんないわよ」

 

 

「俺が、ISの造られた本当の目的を言ったことを。

 そして、龍也が言った『あいつの想い』をだ」

 

 

「………ああ。ISが宇宙に行くためのなんだかって話?」

 

 

「そうだ。ならーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーくだらない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………な、に?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今のあたしは『復讐者』よ。この力を使って、権利団体の奴らに復讐するの。

『そんなこと』に縛られてたら、何も出来ない」

 

 

 

「お前………ッ!!」

 

 

 

 怒りを隠せない一夏。束の夢を、そして何より龍也自身を否定するような言い方を、許せなかった。

 

 

「龍也を、否定するつもりか、鈴」

 

 

「あんたこそ、いつまでそんな子供染みたことに縛られてるのよ」

 

 

「縛られてるとかそういうことじゃない。

 俺たちが、あいつを否定するのか」

 

 

「否定なんかしないわよ。それに、今更そんなことしたって、何にもなりゃしない」

 

 

「ならお前は……!」

 

 

 しつこく言いつけてくる一夏。

 

 

 だが、鈴にもーー譲れないものがある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……龍也はもう!!!死んだのよ!!!!

 

 

 あたしは、先に進むために復讐をする!!!!

 

 

  いつまでも過去に‥‥すがりついてんじゃないわよ!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

「……………」

 

 

 

 

 

「はあ、はあ………あんたは、ずっと昔のまま。『あの日』から何も変わっちゃいない。ずっと過去に縛られてるだけよ」

 

 

 

 

 

「………なんで、」

 

 

 

 

 

「何よ。…………言いたいことがあるなら、さっさと言いなさいよ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

「……ッ!お前は!!!!『あの日』から、龍也が死んだことから逃げてるだけだ!!!!」

 

 

 

 

 

「なん、ですって………!」

 

 

 

 

 一夏の胸倉を掴み柵に押し付ける鈴。

 

 

 

 

「お前は、力を使って、復讐して、それで自分の苦しみを晴らしたいだけだ!!!!!!」

 

 

「それの何が悪いのよ!!!!

 もうあいつはいない!!!! なら、せめてあいつを殺した奴らに復讐するのが、龍也に対するあたし達の出来る『報い』なんじゃないの!?」

 

 

「違う!!!俺は……」

 

 

「……もう、いいわ」

 

 

 手を離す鈴。

 

 

「これ以上あんたと話してても、何も変わらない。

 あたしを止めたければ、力ずくで止めなさい」

 

 

 屋上から去っていく。

 

 

 一人残された一夏。

 

 

「(俺は、復讐するために今まで戦ってきた。それなのに、鈴を、認めることができない。あいつと同じはずなのに)」

 

 

 頭の中に浮かぶ疑問に、答えは出ない。

 

 

 一体自分はどうすればいいのか。

 

 

 今までしたきたことはなんだったのか。

 

 

 

 結局は俺もーーー自分の為に戦っていただけなのか。

 

 

「(俺は……)」

 

 

 陽は落ち、暗闇が押し寄せる。

 

 

 

 

 結局一夏はこの日、自分の中の結論を出すことはできなかった。

 



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第十四話 鈴の覚悟

 

 

 

 

 夜、鈴は自室でシャワーを浴びていた。

 一日で身体を流れた汗を全て落とす為、そして少しの考え事をする為に。

 

 

「………ふぅ」

 

 

 シャワーの栓を止める。

 

 

 今日一日で色々あった。

 まずは、中学時代の同級生との再会。

 別れを言うこともなく去ってしまった大事な友達の一人。

 

 

 そして新しい知り合いもできた。

 

 

「(セシリアに箒、か)」

 

 

『あの日』から自分のプライベートで他人に関わることをやめた鈴。

 そんな鈴も一夏の友達だからと言って関わりを持とうとしたのだ。

 

 

「(あたしもまだ甘いってことなのかな)」

 

 

 別にそこまで徹底していたわけではなかった。

 一人では出来ないこともある、中国では色々と親切にしてくれた人もいたからだ。

 

 少なくとも、鈴はそういった人達を友人だと思っていた。

 

 

「…………一夏」

 

 

 一夏は、自分とは別の考え方をしていた。

 死んだ龍也を見続け、彼を忘れることなく、彼の為に復讐をする。

 

 

 辛くて苦しいこの感情から早く抜け出したい。彼を忘れ、自分が先に進む為に復讐をしようとする鈴とは、対照的だ。

 

 

「龍也、あたしは……」

 

 

 鈴には迷えない。この一年を全てISの為に、全てを復讐の為に注ぎ込んできたのだ。

 

 

 

 

 

「あたしは、必ず成し遂げてみせるからね、復讐を」

 

 

 

 

 

 少し冷えてきた、濡れたままの自分の身体を拭くために鈴はシャワールームを出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日の朝、鈴は教室でクラスメイトに呼び止められる。

 

 

「あ!凰さん!ちょっといい?」

 

 

「……なに?」

 

 

「凰さん、2組のクラス代表になる気はない?」

 

 

 突然告げられた代表への誘いに内心困惑する。

 

 

「なんで?」

 

 

「えっとね、2組ってまだクラス代表がいないんだ。1組と4組は代表候補生がいるけど他のクラスは違うからね。

 でね、うちのクラスの代表を凰さんにお願いできないかなって思って。代表候補生だし、実力も十分だろうって。どう、かな?」

 

 

 言われたことは理解した。

 つまり、一般の生徒では代表候補生に勝てる見込みがないから自分の所に来たのだと。

 

 

 鈴はクラスへ目を向け問いかける。

 

 

「あんた達は、あたしでいいの?まだここに来て一日目だし、代表候補生だからって勝てるほどの力があるとは限らないわよ」

 

 

「うん」「みんなで話し合ったんだよー昨日の放課後に」「鳳さんが嫌なら無理にとは言わないけど」

 

 

「それにね、凰さん。もし他のクラスの人達に力が及ばなくたって、みんなで作戦考えたりすればきっと勝てるよ!」

 

 

 クラスメイトは屈託のない笑顔で言う。

 

 

「……失礼じゃないの、あたしの力が及ばないなんて。まだなんにも見せてないでしょ」

 

 

「あっ、いや、違うんだよ!?そういうことじゃなくて……」

 

 

 あわわ……と目に見えて慌て出すクラスメイトに鈴も苦笑する。

 

 

「わかったわよ。……あんた達がそう言うなら、あたしにやらせてもらえるかしら、クラス代表」

 

 

「えっ、本当に!?」

 

 

「ええ。それに、あたしがクラス代表になるからには、必ず勝利を持ってくることを約束するわ」

 

 

 鈴は不敵に笑う。

 

 

「ーーーあたしは、負けないからね」

 

 

 鈴の発言にみんなが歓喜する。

 

 

「わーい!」「か、かっこいい」「頑張ろうね、凰さん!」

 

 

 各々が盛り上がる中、鈴は密かに思う。

 

 

「(………何よ、暖かい人達ばかりじゃない、このクラスは)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、一夏達は。

 

 

「ーーですから箒さん。織斑さんはもっとISの基本操縦に慣れるべきだとさっきから」

 

 

「いや、一夏にはもっと剣の道を鍛えてもらうべきだ。より鋭く、より一点を狙うことが精密にできればそれで十分だろう」

 

 

「そんなことを言っていても相手のレベルが高ければ寄せ付けてもくれませんわ。

 わたくしでも、今の織斑さんなら近づかれることなく倒すことができましてよ?」

 

 

「一夏は出来る男だ。ISの操縦くらい、自分でなんとかできるだろう!それより剣をだな……」

 

 

「(はははは……はぁ。勘弁してくれ)」

 

 

 揉めていた。

 クラス対抗戦まで日もない。訓練を見るセシリアと箒はその内容を決めているのだが、この有様である。

 

 

「一夏はどうしたいのだ!?」「織斑さん?どうされますか?」

 

 

「えーっと……(正直、今は剣よりIS操縦技術を上達させたいんだけどなぁ)」

 

 

 内心はセシリアの方に賛同しているのだが、この頑固な幼馴染は一向に引く気配がない。

 一夏も一夏で、箒の押しの強さによってセシリアの案に賛同できず困り果てるだけだった。

 

 

「(ああもう!ほんとに大丈夫なのか俺はぁぁぁぁぁ!!!)」

 

 

 悲痛な叫びも、声に出さなければ誰に聞こえないのであった。

 




酢豚のくだりは鈴が一夏に惚れていないので無しで。


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第十五話 戦うことの意味

 

 

 

「一夏」

 

 

「ん?あ……鈴」

 

 

 休み時間に鈴は1組へ来ていた。

 

 

「どうした?何か用か?」

 

 

「あんた、1組のクラス代表なんだって?」

 

 

「お、おう、そうだけど」

 

 

「ふーん、やっぱり」

 

 

 腕を組み目つきを尖らせる。

 

 

「ーーあたし、2組のクラス代表になったから、よろしくね」

 

 

「…………まじで?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 廊下へと出て来た二人。

 壁に寄りかかる鈴へ問いかける。

 

 

「ーーで、何で鈴がクラス代表なんだ?」

 

 

「別に大したことじゃないわ。

  朝クラスに入ったら言われたのよ、みんなにやってみないかってね」

 

 

「……それだけか?」

 

 

「それだけかって何よ。他に何があるわけ?」

 

 

「いや、その……」

 

 

 言い淀む一夏にため息を吐く。

 

 

「あんたとの個人的な戦いもあるけど、今のあたしは2組のクラス代表だから。

 悪いけど、クラスのみんなの為に負けるわけにはいかないわ」

 

 

 その決意は固く、一切の揺るぎを感じさせないのを一夏は感じた。

 

 

「で、クラスの子に聞いたら1組の代表はあんただって言うから。今日は軽く宣戦布告に来たってわけ。それだけよ」

 

 

 背を向け手を背後に振りながら歩いていく鈴。

 

 

 残った一夏はその場に立ち尽くす。

 

 

「鈴がクラス代表、か……

(勝てるのか?俺は……いや、駄目だ、こんな弱気じゃ。勝って、あいつの考えを正すんだ)」

 

 

 

 

「…………………」

 

 

 そんな一夏の様子を背後から見ていた一人の少女がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「織斑さん」

 

 

「オルコットさん?」

 

 

 放課後、いつも通り訓練をしようとしていた一夏をセシリアは呼び止めた。

 

 

「ちょっとよろしいですか?」

 

 

「え?ああ、うん。いいけど」

 

 

「今日の訓練は、わたくしと模擬戦を致しませんか?」

 

 

「いいのか?」

 

 

「ええ。そちらがよければ」

 

 

「じゃあ、お願いするよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 砂埃が舞う。

 

 

 

 

 場所は変わり、アリーナ。

 

 

 

 

 一人は膝を折り、地面を両手に付け息を切らしている。

 

 

 

 

 もう一人はそんな様子を眺めている。

 

 

 

 

「ーーーっ、はぁ、はぁ、はぁっ……」

 

 

 

「………その程度ですか、織斑さん」

 

 

 二人の模擬戦の様子は、セシリアの完封だった。

 

 

 今この試合を観戦している者はいない。もしいたとしたら『なぜ一夏はクラス代表決定戦で勝てたのか?』と誰しもが思うであろう。

 

 

「どうして、いきなり模擬戦なんて」

 

 

「随分と、悩んでいらっしゃるようなので」

 

 

「……なんでそんなこと」

 

 

「大方、鈴さんと何かあったのでしょう?今日の朝からの貴方の様子でわかります」

 

 

「…………」

 

 

 セシリアに完全に見透かされている一夏は何も言えない。

 

 

 セシリアは問いかける。

 

 

「貴方は、何を考えているのですか」

 

 

「俺は、あいつをどうすれば止められる「そうではありません」か…………え?」

 

 

「そんな事は、わたくしの知る範疇ではありません」

 

 

 息を吸い、セシリアは大声で言う。

 

 

 

 

 

 

 

「ーーッ、貴方は!!わたくし達の、1組のクラス代表でしょう!?何を迷っているのですか!!!」

 

 

「皆さんから託されたはずです!!それを貴方は、自分だけの為に戦うおつもりですか!?」

 

 

「……………!」

 

 

 はっとする一夏。

 

 

「わたくしは、貴方達の事情の一部しか知りません。昨日何があった等興味もありませんわ。でも」

 

 

 

 

 

 

「クラスの皆さんの信頼を裏切ると言うのなら、わたくしは許しませんわ」

 

 

 

 

「………戦うことの意味を、履き違えないでくださいまし」

 

 

 そう言い付け、アリーナを出るセシリア。

 

 

「(はは、最近、迷ってばっかだな、俺)」

 

 

「(オルコットさんは強い女だ、本当に。俺とは大違いの)」

 

 

「(俺は………)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピットへ戻ってきたセシリア。

 

 

 今日、放課後になる前に箒に言われたことを思い出す。

 

 

『ーー頼む、セシリア。今の私では、一夏を変えることができない。私では……一夏に遠すぎる。力不足なんだ』

 

 

 悔しそうに自分の手を強く握りしめながら、唐突にそう告げてきた箒。

 だが、大方どういったことなのかセシリアには理解できていた。だからーー

 

 

『わかりましたわ、箒さん。わたくしにお任せください』

 

 

 ーーセシリアは、その役目を引き受けた。

 

 

「(まったく、あんなに貴方を想ってくれる人がいるというのに……)」」

 

 

 少し一夏に呆れるセシリア。

 

 

「後は……貴方が『自分の信じる信念』をどれだけ貫けるかですわ、織斑さん」

 

 

 セシリアは、一夏によって考えを改めると決めた。

 だから今度はーー自分が、彼を救う時だ。

 

 

 

 

 

「ーー任せましたわよ、1組のクラス代表は貴方なのですから」

 

 

 少女は託した。一人の少年に。

 



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第十六話 クラス対抗戦 一夏vs鈴

 

 

 

「へぇ、あいつらが戦うのか」

 

 

 面白いものを見つけた子供のようにモニターを見る一人の男。

 

 

「どっちもお友達だよね〜今りゅーくんのことで言い争ってる」

 

 

 隣には一人の天災が。

 

 

 

 

 

「ーーはは、俺が生きてるって知ったら、あいつらなんて言うのかなぁ」

 

 

 楽しむような、それでいて困っているような声で言う。

 

 

「多分、今は出て行かない方がいいと思う。こっちが落ち着いたとはいっても、まだ二人はーー」

「わかってるよ、束さん」

 

 

 二人を見極めるのは『既に死んだはずの少年』

 

 

 

 

「ーーさて、お前らの言う復讐とやらがどうなるのか、俺に見せてもらおうか?一夏、鈴。」

 

 

 

 

「…………」

 

 

 ーーだが天災も、何かを企んでいるように横で画面を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クラス対抗戦、当日。

 1組《織斑 一夏》vs2組《凰 鈴音》の試合開始までもう時間はない。

 二人はそれぞれのピットに入っていた。

 

 

「ーー頑張ってね、凰さん!」

 

 

「ええ、ありがと。必ず勝ってみせるわ」

 

 

「うん!負けたら一週間学食のパフェ奢りだからね〜」

 

 

「は!?ちょっと「それじゃあ私は観客席で見てるから〜ばいばーい」あ!……ったく」

 

 

 この数日間、何かと世話になったクラスメイト。

 鈴の負けられない気持ちが強くなった日々だった。

 

 

「(……一夏、半端な覚悟で復讐を、そして『クラスを背負う』なんて言うなら、あたしが捻り潰してあげるからね)」

 

 

 今この瞬間、鈴の目に復讐は映っていなかった。

 

 

 

 

「(ーーあたしだって代表候補生。自分を信じてくれる人の信頼に応えるくらいの心得は持ってるわ)」

 

 

 ーーあるのは、2組の為に戦う、覚悟のみ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 反対に、一夏のいる1組側のピット。

 

 

 いつもはうるさいくらいに騒いでいるクラスの人々が、今日はいなかった。

 一夏が一人にしてほしいと言った為だ。

 

 

 いるのは、担当教師の千冬のみ。

 

 

「そろそろだ。行けるな、織斑」

 

 

「はい、先生」

 

 

「よし、それじゃあ「千冬姉」……なんだ、いきなり」

 

 

 

 

「俺、絶対に勝つから。俺を信じてくれた、クラスのみんなの為に。

 期待を裏切るわけにはいかないもんな」

 

 

「お前………ふっ」

 

 

 微かに笑う千冬。

 一夏の目は、ここからは見えないアリーナをまっすぐ見つめていた。

 

 

「わかっているならいい。勝てよ、一夏。

 相手はスーパールーキー《期待の新人》だ。そう甘くはないがな」

 

 

「うん」

 

 

「……そろそろ時間だな。私もここを出る。また後でな」

 

 

 ピットを出る千冬。

 成長した自分の弟の姿に少し『姉』としての笑みを浮かべる。

 

 

「(一夏のやつ、わかっているじゃないか。クラス代表が誰のために戦うべきなのか。

 代表候補生が持つべきものと同じ誇りを、既に持っていたか)」

 

 

 

 

 

 

 

 

「織斑 一夏『白式』でます!」

「凰 鈴音『甲龍』でるわよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、二人はアリーナに降り立った。

 

 

「…………」「…………」

 

 

 交わす言葉はない。

 だが、互いにわかっているであろう。

 

 

「(ふっ、いい目できるじゃない、一夏)」

 

 

「鈴」

 

 

「なに?」

 

 

「負けないからな」

 

 

「……あたしだって、負けるわけにはいかないわよ」

 

 

『それではこれより、1組『織斑 一夏』対2組『凰 鈴音』のクラス対抗戦を始める。

 

 始めッ!!』

 

 

 試合開始のアナウンスが告げられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先に動いたのは、鈴。

 

 

「(あいつの剣、千冬さんの『雪片』に似てる。深く斬られるのは避けた方が良さそうね)」

 

 

 第3世代型IS『甲龍《シェンロン》」

 燃費と安定性を第一に造られた機体であり、近距離または中距離の範囲で戦えるパワータイプ。

 

 

『双天牙月《そうてんがげつ》』

 大型の青龍刀。

 鋭さで切り裂くというより重さで叩き斬るような形をしている『甲龍』の主な武装。

 名前の通り2基装備されており、二つを繋げることでブーメランのように投擲武器として使用することができる。

 

 

 第3世代型兵器『龍咆《りゅうほう》』

 空間自体に圧力をかけ砲身を作り、衝撃を砲弾として打ち出す衝撃砲。

 砲弾だけではなく、砲身すら目に見えないのが特徴である。

 砲身の稼動限界角度はなく、通常の砲撃仕様の他に近距離用の散弾仕様にも変更することができる。

 

 

 鈴は双天牙月を二刀流で構え突撃する。

 低空飛行で一夏に接近すると、そのままの勢いでクロスするように振り上げる。

 

 

「はぁっ!」

 

 

 だが、その攻撃は通ることなく雪片弐型に受け止められる。

 

 

「やるじゃない」

 

 

「まだほんの序の口だろ?」

 

 

「そうね……ふっ!」

 

 

「ぐっ……!」

 

 

 剣同士の競り合いは鈴が押している。

 

 

「(くそ、このままじゃ押し負ける!)」

 

 

 そう思った一夏は後方に下がり距離を取る。

 

 

「距離を取ればいいなんて甘いわよ!」

 

 

「何……?ぐぁっ!!!」

 

 

『見えない何か』からの衝撃を受け吹っ飛ばされる一夏。

 

 

「(なんだ!?何が起きた!?)」」

 

 

「考え事してる時間なんてないわよ!」

 

 

 攻撃の手を休めることのない鈴。

 

 

 一夏と鈴では基本的な技術が違った。

 それもそのはず、いくら一夏が努力して上達したとはいえまだ初心者の域を出ない。

 おまけに相手はこの一年IS漬けだった超天才、一夏ではまだこのレベルは早すぎた。

 

 

「(おそらく一夏に遠距離武装はない。なら、適度に懐に飛び込みつつ、龍咆でダメージを与えればいける!)」

 

 

 鈴にとってこの試合は多くの人の想いを背負った戦い。

 自分を信じてくれた、クラスメイトの為に。

 その一心で鈴は今戦っていた。

 

 

「ふっ、あたしが人の為に戦うなんてね」

 

 

「どうしたんだいきなり」

 

 

「いや……あんたには関係のない話よ!」

 

 

 そう言いながら龍咆を左右の肩から撃ち出す鈴。

 

 

 全てを避けることは出来なくとも『戦いの勘』から被弾を減らしつつあった一夏。

 

 

「(おそらく、これは衝撃咆。あの肩の武装から見えない砲弾が出てるんだ……!)」

 

 

 上下左右に動き回り避ける一夏。

 鈴も一夏の変化に気づきつつあった。

 

 

「(こいつ、龍咆の特性に気付いてるのね。流石と言ったらいいのかしら)

 面白いわね、それくらい出来なきゃあたしの相手にはならないわよ!」

 

 

 だがいつまでも避けるだけではジリ貧になり、いずれSEが0になってしまう。

 そんな状況でも一夏は冷静だった。

 

 

 自分の武装の最大の特徴は『一撃で相手を沈められる』ことにある、そう理解していた一夏にはチャンスを伺うだけのメリットがある。

 相手の鈴はこちらの特性をまだ理解しておらず、自分から近づかずとも向こうから接近し攻撃をしてくるのだ。そこを狙えばいい。

 

 

「(さっきから鈴は、あの剣での切り込みと肩の武装の砲撃を繰り返してる。

 なら、狙い所はーーー)」

 

 

 

 

 

 鈴が、砲撃を放った瞬間。

 

 

 

「(ーーーここだッ!!!!)

 

 

 うおおおおおおおおおおっ!!!!」

 

 

「なにっ!?」

 

 

 瞬時加速《イグニッション・ブースト》

 ISの後部スラスター翼からエネルギーを放出、その内部に一度取り込み、圧縮して放出する。

 その際に得られる慣性エネルギーをして爆発的に加速する。

 使用中は加速に伴う空気抵抗や圧力の関係で軌道を変えることができず、直線的な動きになる。

 

 

 セシリアとの訓練で覚えた、今の一夏の正真正銘『必殺技』になり得る技術。

 

 

『ーー貴方の機体の出力スペックは、わたくしのブルー・ティアーズよりも上。

 そして、その単一仕様能力《零落白夜》はこういった技があってこそ輝く。言うならば、究極の初見殺しというやつですわ』

 

 

「(こいつッ……!)」

 

 

 驚きを隠せない鈴。

 後方に下がろうとするが既に一夏はーー

 

 

「これで………決めるっっっ!!!」

 

 

 ーー鈴の懐に入っている。

 

 

 そして、一夏が剣を振るその瞬間、

 

 

「きゃぁっ!な、何?」

「な、何あれ……!」

 

 

 観客は動揺する。

 

 

 

 

 ーーーアリーナのシールドを突破し、一機のISが乱入してきた。



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Dの戦士 / そして、動き出す時ーーー

通算UAが10,000を突破しました。
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「………………」

 

 

 一言も発することなく佇んでいる一機の乱入者。

 

 

「……なんだ、こいつは」

 

 

「さあね。ただ、こんな所に入ってくるなんて随分と実力に自信があるのは間違いないけど」

 

 

 互いに剣の矛先を乱入者へと向ける二人。

 

 

 すると、

 

 

『二機のISを確認。搭乗者《織斑 一夏》《凰 鈴音》と断定。

 敵対意識を確認。戦闘を開始します』

 

 

「ッ!来るぞ!」

 

 

 乱入者からレーザーが放たれる。

 

 

「(これは……ッ!!)

 一夏!!こいつ、間違いなくあたし達を殺しにきてる!!!」

 

 

 競技用のISにしては出力が高すぎる。

 下手に受ければISごと体を貫かれ、最悪の場合死に至ると鈴は即座に判断した。

 

 

 なんとか避ける二人。だが、続けて乱入者は後ろの装甲を開き『ミサイル』を発射させた。

 

 

「なっ!そんなものまで……!」

 

 

「鈴!このミサイル、追尾型だぞ!!」

 

 

「くっ、そ……!」

 

 

『ロックオンミサイル』

 撃墜するかターゲットに当たるまで追尾するミサイル兵器。

 

 

 射撃武装を持たない一夏では追ってくるミサイルを撃ち落とすことができず逃げるしかない。

 対して鈴は、龍咆で確実に落としていく。

 

 

「絶対に剣で叩き落とそうなんて考えるんじゃないわよ!このミサイルもアホみたいな出力なのは間違いないから!!」

 

 

「わかってるよ!!」

 

 

 既に自分へと向かってきたミサイルを撃ち落とした鈴。続けて一夏へと狙いを定めているミサイルを撃ち落とすべく龍咆を放つ。

 

 

「はっ!」

 

 

「うおっ!……助かったぞ、鈴」

 

 

「いいわよ、これくらい」

 

 

「……………」

 

 

「なんなのよこいつ、さっきから無言で撃ち続けてるだけで」

 

 

「…………まさか、権利団体の奴らが?」

 

 

「何?あんたもう狙われるようなことしてたの?」

 

 

「いや、まぁ、ちょっとな……」

 

 

「……あんたもあんたで無茶苦茶やってるわけね」

 

 

 ため息をつく鈴。

 実はちょっとどころではないぐらいの勢いで悪事を働く権利団体の人間と戦っていたのだが、それを鈴は知らない。

 

 

 そして、こんな状況にも関わらず乱入者は再び何もせず佇んでいる。

 

 

「(なんだ?どうして攻撃してこない。俺たちを殺すのが目的なら、わざわざ出方を待ったり様子見をする必要はないはずだろ)」

 

 

 疑問が浮かぶ一夏。

 すると、千冬から通信が入る。

 

 

『織斑、凰!無事か!』

 

 

「!千冬さん……」

「ああ、無事だぜ千冬姉」

 

 

『織斑先生だと……まぁいい。

 それより、観客の避難が完了した。

 アリーナのドアが警報で閉ざされていたが、更識や他の2.3年生の誘導のおかげでなんとかなった。

 

 ……そいつはアリーナのシールドを突き破って乱入してきた不届き者だ。搭乗者の安否は問わないーーー潰せ』

 

 

 そう言い放って通信を切る。

 

 

「潰せ、って……あんたの姉いかれすぎてない?殺しても構わないって言ってるようなもんよ?」

 

 

「………今の、千冬姉に聞こえてるだろうから後でどうなっても知らないぞ」

 

 

 一気に顔が青ざめていく鈴。

 

 

「さて、ずっと待っててくれてるみたいだけど、何か変だと思わないか?鈴」

 

 

「あんたも気づいてたのね。おかしいとこだらけよ。動きも規則的だしね。

  考えられるとしたら………」

 

 

 

 

 ーーー無人機のISである可能性。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏と鈴が敵対者と戦っている頃、とある場所では。

 

 

 IS学園のアリーナでの戦いを映すモニターの前にいる3人。

 

 

「束さん、これってーー」

 

 

「くーちゃん」

 

 

「はい」

 

 

 

 

「ーーおい、何だよ、それ。何でそんなの持ってくるんだよ」

 

 

 

 

 クロエの手には、『Darkness』のメモリとロストドライバーが。

 

 

 

 

「行って、りゅーくん。これがキミにできる私の、最後の手当て」

 

 

「もう一度、戦ってください『龍也様』。貴方のお友達が、待っています」

 

 

 

 

「束さん、クロエ………俺は………」

 

 

 迷っている一人の少年の手を、天災は優しく自分の手で包み込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーいっくんと、いっくんのお友達を、助けてあげて」

 

 

 

「………!束さん……」

 

 

 

 ーー俺も、覚悟を決めるか。

 

 

 

「クロエ」

 

 

「はい」

 

 

「ドライバーとメモリを」

 

 

「どうぞ、龍也様」

 

 

「ありがとう」

 

 

「調整は完璧。全部りゅーくん用に直してあるよ」

 

 

「ああ、ありがとう束さん」

 

 

「うん」

 

 

「それじゃあーー行ってくる」

 

 

 

 ドライバーを腰に装着する。そして、メモリを指で押し、

 

 

 

 

『Darkness』

 

 

 

 

 

 機械音が告げる。戦士の名を。

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーー変身」

 

 

 

 

 闇が少年の身体を包み込む。

 

 

 

 背中には6枚の翼。

 

 

 

 そして、再びここに誕生した戦士の名はーー

 

 

 

「さて、行くか。あいつらの所へ」

 

 

 

「いってらっしゃい」「お気をつけて」

 

 

 

  仮面ライダー『ダークネス』

 

 

 そして、戦士は飛び立った。

 

 

 

 

 

 

「『橘 龍也』。出るぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………行っちゃったかぁ」

 

 

「………束様」

 

 

「ごめんね、くーちゃん。私のわがままを聞いてもらって」

 

 

「いいえ、いいのです」

 

 

「………はぁー、私の最初で最後の別れ《失恋》かぁ。やっぱりやめとけばよかったかも」

 

 

「倒せるでしょうか、あの無人機《ゴーレム》を」

 

 

「大丈夫だよ、きっと。りゅーくんなら……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私達が信じてる《ヒーロー》ってやつなら、きっとね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、こいつが無人機だとしてどうする。あの出力のレーザーなんて喰らえばひとたまりもないぞ」

 

 

「……正直、きっついわね。一撃であいつを倒せる攻撃手段があればいいんだけど‥‥」

 

 

「……あるぞ。一撃であいつを倒せる攻撃」

 

 

「…………は?」

 

 

「いや、俺の白式の単一仕様能力ってーー」

 

 

 鈴に零落白夜の事を話す一夏。

 すると、とんでもない事を聞いた鈴は唖然とする。

 

 

「……あんた、そんなもん持ってたのね。だからずっと機を伺ってたんだ」

 

 

「あ、ああ。でも、俺じゃあいつに近づく前に撃たれちまうかもしれないぜ」

 

 

「………さっきの試合で手負いのあんたと違って、あたしにはまだSEが十分残ってる。

 あたしが陽動になるわ、あんたが決めなさい一夏」

 

 

「え?……ちょ、おい!鈴!!」

 

 

 敵に向かって駆けていく鈴。

 敵機からレーザーが放たれる。

 

 

 だが、鈴には当たらない。

 紙一重の差で全て避けていく。

 

 

「す、すげえ……」

 

 

「(無人機だか知らないけど、舐めんじゃないわよ!!あたしは中国の代表候補生、凰 鈴音なんだから!!!)

 はぁっ!!!」

 

 

 懐に入り、格闘戦へ持ち込む鈴。

 

 

「ぐっ、何こいつ、硬すぎでしょ……!」

 

 

「鈴!!!」

 

 

「あたしは大丈夫だから!!あんたはチャンスを待ちなさい!!」

 

 

 自分の攻撃が通らないとなると、頼みの綱は一夏の零落白夜しかない。

 

 

「(もう引けないでしょ、あたしは………!!

 

 

 これ以上『友達』を失わせないんだから!!!!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鈴が戦う様子を、一夏は見ていることしかできない。

 

 

 自分がトドメを刺すためにそのチャンスを作ろうとしてくれている。

 

 

「(ーーッ、何が仮面ライダーだ。何が世界で一人目の男性操縦者だ。結局俺は、護られてるだけじゃねぇか)」

 

 

 《世界最強の姉》に、《中国で代表候補生にまでなった友達》に、そして、《死んだ龍也》にも護られているばかりだった。

 

 

「(俺は………)」

 

 

「きゃ……あああああああああっっ!!!」

 

 

「!鈴ッ!!!」

 

 

 徐々に押され始めた鈴。

 遂には倒れ、地にひれ伏してしまった。

 

 

 無人機のSEは半永久的に自己供給できる。

 僅かにしか削ることのできない鈴では、足止めは出来ても決定打にはならない。

 これこそまさにジリ貧となってしまい鈴のSEが一方的に減るだけであった。

 

 

「くっ!うおおおおおおっ!!」

 

 

「一夏!?」

 

 

「はぁぁぁっっ!!」

 

 

 敵に向かって突撃し、剣を振る一夏。

 だが無人機は、その剣に斬られることがまずいのをわかっているのか回避する。

 

 

 そしてーー横薙ぎに殴り飛ばされる。

 

 

「ごっ、がぁぁぁぁっ!!!」

 

 

「一夏ぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 アリーナの壁に思いっきり衝突する一夏。

 

 

 壁は崩落し、瓦礫の中に埋もれる。

 

 

 

 

 

 ーーそんな一夏に狙いを定める。

 

 

「ちょっと、やめてよ、ねえ…………まって」

 

 

「……………」

 

 

『無人機』は何も発さない。

 

 

「にげて、にげてよ、いちかぁ……

 

 

  お願いだから、逃げてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

 泣き叫ぶ鈴。

 

 

 だが、瓦礫から出てくる者はいない。

 

 

 そしてーーー

 

 

「…………」

 

 

 ーーー無慈悲な一撃は放たれた。

 

 

「あ、ああ、ああああああああっ………」

 

 

 砂煙が、舞う。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ、ひっく、ぐすっ」

 

 

「……………」

 

 

 今度は、泣いている鈴に向けて、射出口が向けられる。

 

 

「いちかを………一夏を返してよおおおおおおおお!!!!!!」

 

 

 叫びは、届かない。

 

 

 ーー2発目のレーザーが、放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ!一夏……!」

 

 

 管制室で見ていた千冬。

 隣には箒とセシリアが。

 

 

「そ、そんな、一夏……」

 

 

 膝から崩れ落ちてしまう箒。

 

 

「…………くっ!」

 

 

 拳を思い切り壁に叩きつけるセシリア。

 

 

 既に突入を試みていた。

 だが、『どの壁も全て壊せなかった。ブルー・ティアーズを持ってしてもだ』

 

 

「(わたくしは、肝心な時に何もできない……!クラスメイトが助けを求めているというのに……!!)」

 

 

「逃げろ、逃げてくれ、凰」

 

 

 千冬の呟きも届かない。意味をなさない。

 

 

 そしてーー2発目のレーザーは放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがーーーそのレーザーは鈴には届かなかった。

 

 

「…………な、にが起きた」

 

 

 再び大量の砂煙が舞い、アリーナの様子が見えなくなる。

 だが、千冬は確かに見た。

 

 

 

『何者かが凰の前に立ち、レーザーを叩き落としたのを』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリーナでは、砂煙が舞っていた。

 

 

「(…………なんで私、まだ生きてるの?)」

 

 

 レーザーが当たらなかった。

 

 

 狙いを外したのか?いや、そんなわけない。

 

 

 じゃあ何故ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『無事か、鈴』

 

 

 

 

「…………え?」

 

 

 

 

 

 

 声がする。

 

 

 

 

 自分の前方、砂煙の中心から。

 

 

 

 

 

 

『一夏にレーザーは当たってない。俺が斬り落とした』

 

 

 

 

 

 黒い鎧を纏い、背中から6枚の鋭く尖った翼を出している目の前の何者かは言う。

 

 

 

 

「………!そう、なんだ……よかった、よかったよぉ………!!」

 

 

 

 

『……泣いているところ悪いが、あいつを連れて下がってろ』

 

 

 

 

「………あなたは、誰なの?」

 

 

 

 

『俺は……』

 

 

 

 

 

 何者かは言うーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺は、仮面ライダー……ダークネス』

 

 



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Dの戦士 / その力、誰の為に振るうのか

 

 

 

 

 

 

 突如現れたもう一人の乱入者に、目を見開く千冬。

 

 

「なっ、全身装甲《フルスキン》のISだと!?」

 

 

「いいえ、織斑先生!IS反応ではありません!!」

 

 

「何だと!?では一体……」

 

 

 はっとする千冬。

 

 

「まさか、いやそんなことは………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………』「…………」

 

 

 睨み合う乱入者同士。

 いや、睨んでいるのは後から来た者だけか。

 

 

『(……鈴は、一夏を助け出したか)』

 

 

 こちらが何かしら行動《アクション》を踏まなければこの無人機は行動を起こさないと知っている。

 

 

『(束さんめ……後でお説教だぞ、まったく)』

 

 

「…………」

 

 

『さて、無人機さんよ』

 

 

 剣を向ける。狙いはもう一人の乱入者。

 

 

 

 

 

 

『ーーー俺のダチを傷つけたのは、許さないぜ?』

 

 

 無人機からレーザーが放たれる。

 だが、それを剣で叩き落とす。

 

 

『ふっ、はぁぁぁっ!』

 

 

 急接近からの急旋回、そして下から剣を振り上げる。

 だが鈴同様、大したダメージは入らない。

 

 

「…………」

 

 

 無人機から放たれたレーザーを躱す。

 

 

『おっと、危ねえな、ったく。

 

 

  ……こんな距離で当たったら死んじまうだろ?』

 

 

【ダークネス】は剣を捨て無人機を殴りつけ吹き飛ばす。

 

 

『パンチ力には自信あるんだよ、悪いな』

 

 

 だが、すぐに起き上がる無人機。

 

 

 次にハンドガンと同じサイズの銃を二丁呼び出す。

 

 

『ーーーほらよ!』

 

 

 銃から放たれるのはエネルギー弾。

 

 

 しかし当たりはしてもやはり目立ったダメージにはならない。

 

 

『(やっぱり、こいつを倒すなら一撃でケリをつけるしかないか)』

 

 

【ダークネス】は腰のベルトに刺さっているメモリを、横にあるスロットに入れる。

 

 

『さっさと、終わらせるッ!』

 

 

 

 

 

 

『『Darkness,Maximum Drive !!』』

 

 

 

 

 

 

 

 6枚の羽が、開いた。

 

 

 

 

 

 

『ライダー……キック!』

 

 

 

 

 宙に舞い上がり、足に闇の瘴気を纏い無人機へと一直線に蹴りを放つ。

 

 

 無人機はそれを拳で受け止める。

 

 

「……………」

 

 

『うおおおおおおおおっ!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

『負けるわけには、いかねえッッ!!!!』

 

 

 蹴りが、拳を押し退ける。

 

 

 そしてーーー

 

 

 

 

 

『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!』

 

 

 

 

 

 ーーー無人機を、貫通した。

 

 

 

 

 

 

 勢い余り、地表を削りながら地面を足で滑る。

 

 

 

 

 

 

『……………俺の、勝ちだ』

 

 

 無人機は、音を立て爆散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「や、やった!やりましたよ織斑先生!」

 

 

 そう喜んでいるのは、管制室に来た山田真耶。

 

 

「………ああ」

 

 

「……なんなんだ、あいつは」

 

 

「(……ッ!黒い全身装甲《フルスキン》……!まさか、あれが?)」

 

 

 突如現れ乱入者を倒してしまうもう一人の乱入者。

 箒は疑問を浮かべ、セシリアは推測を立て、そして千冬は何とも言えない表情をする。

 

 

「(本当に、生きていてくれたのか?お前は)」

 

 

 答えの出ない考えをしている千冬は、アリーナを見つめるだけ。

 

 

 そしてーーー

 

 

「なっ……!」

 

 

 ーーー再び、その目が見開かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………』

 

 

「なんなのよ、あんた」

 

 

 気を失っている一夏を抱える鈴の元へと無言で歩いてくる全身装甲《フルスキン》。

 

 

「…………え、っ?」

 

 

「………鈴」

 

 

 ーーー男は『変身』を解いた。

 

 

 鈴は、この男を知っている。

 

 

 かつて共に笑い、決して短くない時を過ごした、『今は亡き少年』。

 

 

 『橘 龍也』本人だと、すぐにわかってしまった。

 

 

「怪我はないか、鈴」

 

 

「だ、れなのよ。あんた」

 

 

「……俺の顔を忘れたか?同級生だろ」

 

 

 

 

 

「違うッッッッ!!!!!」

 

 

 叫ぶ鈴。

 

 

「龍也は、もう死んだの!!」

 

 

 認めては、いけない気がしたから。

 

 

 もしここで龍也が生きていると認めてしまえば、一夏の、鈴の今まではなんだったのか。

 

 

 

 

 

 そして何より、死んだと決めつけ忘れようとしていた自分を許せないから。

 

 

「もう、ぐすっ、楽にしてあげてよぉ、龍也を………」

 

 

「…………ッ」

 

 

 ーー鈴は、ここまで俺を想ってくれていたのか。

 

 

 ーーこんなになるまで鈴を、一夏を苦しめていたのか、俺は。

 

 

「鈴」

 

 

 龍也は鈴の前に膝を下ろし、身体を自分の胸へと寄せ、手で頭を優しく撫でる。

 

 

「ごめん。ずっと、黙ってて。俺はここにいる。

  俺は………今ここで生きてるよ、鈴」

 

 

 命の音を感じる。

 

 

 暖かくて落ち着く心臓の鼓動の音が。

 

 

「だからもういいんだ。今は、ゆっくり休め」

 

 

「(ああ、龍也……よかった。本当に、生きてて、くれたんだ………)」」

 

 

 安堵の涙を流し、鈴は龍也の腕の中で意識を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ははっ……ったく、二人揃って呑気な顔して寝やがって」

 

 

 悪態をつきつつも、その顔は笑顔であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーー扉のロック、解除できました!織斑先生!」

 

 

「ご苦労、山田先生」

 

 

 ロックが解除されたアリーナへと続く扉を開ける千冬。

 

 

「き、危険です!織斑先生!」

 

 

「大丈夫だ。君はここで待っていろ」

 

 

「あっ!ちょっと……もうっ」

 

 

 アリーナへと到達する千冬。

 二人を優しい目をして見つめている少年へ、声をかける。

 

 

「………龍也、なのか?」

 

 

「おっと、もう来たんだ千冬さん」

 

 

 驚いた様子の少年。

 

 

「そうだよ、正真正銘本物の『橘 龍也』です」

 

 

 いえーい、とこちらに向けてピースをする少年。

 どこぞの天災を思い出させるその動作。

 

 

「……………」

 

 

「あ、あれ、面白くなかったですかね……ってうわぁっ!?ち、千冬さん!?」

 

 

「………ッ!よかった……!お前が生きててくれて……!」

 

 

「………千冬さんも、忘れないでくれてたんですね」

 

 

「当たり前だ……!一瞬たりとも、お前のことを忘れたりなんてしなかったさ……」

 

 

 少年の元へ駆け寄り、抱きしめる千冬。

 

 

 強く、もう離さないと言わんばかりに力強く。

 

 

「あの時は、すいません。いきなりあんな状況で電話して」

 

 

「本当だ、全く。突然意味のわからないことを言われ、挙げ句の果てに『ある場所』に『ある物』を置いておくから取りに来てくれだの………そのまま、死んだことになってしまうし」

 

 

「すいません、すぐに出てくるわけにはいかなかったんです。

  だから、束さんに一役買ってもらいました」

 

 

「やはり束か。だが、どうしてお前が束と接点を持っている?知り合いではなかったはずだろう」

 

 

「その話も、詳しくは後ほど。今は、立派に戦った二人を保健室へ運んであげましょう」

 

 

「ああ、そうだな。じっくり聞かせてもらうぞ、今までのこと」

 

 

「はは……お手柔らかに頼みますよ」

 

 

 二人は一夏と鈴を担ぎ、アリーナを後にした。

 

 




龍也が消えた『あの日』や、束とクロエとの1年間の生活の様子などは番外編にして投稿したいと思います。




IFで絶望胸糞鬱ルートも書こうかな‥‥?


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番外編1 〜少年が死んだ日〜

 

 

 

 

 

 《1年前》

 

 

『ーーーっ、ぐっ、はぁっ、はぁっ、はぁ………』

 

 

『探せ!相当な量の血を流している!まだ近くにいるはずだ!』

 

 

『(こいつは……ちとやべえかもな)』

 

 

 土砂降りの雨の中、男はISに追われていた。

 顔を晒し、身体には黒い鎧を纏っている。

 

 

『くそっ、血が止まらねえ……ごぼっ』

 

 

 座り込んで壁に寄りかかり、口から血を吐く男。自身の足を汚してしまった。

 

 

『まだ見つからないの!?』

『すいません、ここら一帯には……』

『ちっ、探せ!絶対に逃すな!』

 

 

『(見つからねえよ、ダークネスはステルス中だからな……)』

 

 

 男は腹を抉られていた。

 今は、自身の姿ごと『見えない様にしており』他人に血が見えることはない。

 

 

 だが、もう時間がない。

 このままでは自分は死んでしまうと分かっていた。

 

 

『(………鈴、一夏)』

 

 

 特に親しかった、二人の親友を思い出す。

 

 

『………もう、俺に出来るのはここまでか』

 

 

 ステルスを解く。そして、ポケットから携帯電話を取り出す。

 

 

 そして、連絡先の『お』の所にある人物へとコールを鳴らす。

 

 

 

 prrrrrrrr prrrrrrrr

 

 

 

『ーーーなんだ、龍也。こんな時間にいきなり』

 

 

『千冬………さん』

 

 

 ーーよかった、繋がった。

 

 

『千冬、さん。今から言うことを、忘れないで、ください』

 

 

『……おい、どうしたんだ、外にいるのか?雨の音が凄いぞ』

 

 

『はぁ、はぁ……ッ、◯◯地区にある、倉庫場の、左から二番目、そこに、ベルトと、メモリを、置いておきます』

 

 

『お前は一体、何を言ってるんだ。それより、どこにいる?お前は何をしているんだ!』

 

 

 龍也が普通でない状況にいることは、電話越しでも千冬にすぐ伝わった。

 

 

『後は、全てを、貴女に、託します。きっと、この力で、人々を、救ってくれる人が、現れることを、信じて………。後、』

 

 

 もう手に力が入らない。

 ダークネスの保護機能も機能していない。

 この大雨の中、出血死をするのは時間の問題であった。

 

 

 最後に、龍也は想いを千冬に伝えた。

 

 

 

 

『ーーーー鈴と、一夏に、ごめんなって、言っておいてください』

 

 

 

『おい!龍也!今どこにいる!!………返事をしろ!!!』

 

 

 通話が切られる。

 

 

『なっ………くそっ!!!』

 

 

 千冬は急いで家を飛び出る。

 

 

『(一体何が起きているというんだ……!?)』

 

 

 弟の親友が、突然自分が死ぬ前の遺言の様な電話をしてきた。

 

 

 千冬自身もよく話していたし、もう一人の弟の様に可愛がっていた。

 

 

『………お前に何かあったら、一夏達に顔向けできないではないか、馬鹿が』

 

 

 雨の中、千冬は龍也が言っていた倉庫の場所へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ダークネス】は、変身を解いた。

 

 

 もうここに追っ手はいない。

 

 

 そして、千冬に告げた左から二番目の倉庫へと入る。

 

 

『ーーここで、いいか』

 

 

 すぐ来るであろう、あの織斑千冬だ。

 

 

『ーーーーあ』

 

 

 意識が保てなくなり、地面に倒れ込んでしまう。

 

 

 視界が暗くなる。

 

 

『もう、ダメか。はは、まだ鈴の、手作り中華、食べて、ないってのに』

 

 

 親友に今度手作り料理の味見をしてほしいと言われていた。

 自慢の中華を食べさせてくれるとのことだ。

 

 

 もう一人の親友にも、今度クラスメイトの誕生日プレゼントを選ぶのを手伝って欲しいと、最近よく話しかけて来る女子のことで相談があると色々言われていることも思い出す。

 

 

 

『ーーー約束、守れそうに、ないな。

 

 

 

  ……すまねえ、鈴。一夏』

 

 

 

 そのままーーー男の意識は闇へと沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こいつが、仮面ライダー。そして、いっくんのお友達、か』

 

 

『どうされますか、束様。ここに置いてある物『も』回収されますか?』

 

 

『……いいや、それは置いておいて。

 こいつはちーちゃんにそれを渡す為にここに残したんだから』

 

 

『わかりました、それでは、運びますね』

 

 

『うん、急いでね』

 

 

 クロエは瀕死の男を担ぎ、自分達が乗ってきた『船』へと向かう。

 

 

 残った束は、何かを思いつめる様に考える。

 

 

『まだ、死なないでもらうよ。君には。

 

 

  ーー聞きたいことが山ほどあるからね』

 

 

 そして、雨の中二人は去っていった。

 



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第十九話 少年と真実

 

 

 

「…………んっ、あれ……ここは?」

 

 

 保健室のベッドで寝ていた鈴が起きる。

 あれから3時間ほど経ち、もう夕暮れ時だ。

 

 

「あ、一夏……」

 

 

 隣には一夏が安らかな顔で眠っていた。

 

 

「(そうだあたしは……ッ!!)」

 

 

 すぐに思い出す。

 無人機と思われる機体が来てからの事を。

 

 

 そして、一人の少年がいた事を。

 

 

「(龍也は……どこに!?

  いや、そもそもあれは本当に現実なの?実は夢を見てたりしたとかーーー)」

 

 

 焦り始める鈴。

 だがそこに、保健室の扉を開け千冬が入って来る。

 

 

「起きたか、凰」

 

 

「千冬さん……」

 

 

「織斑先生だ」

 

 

 

 

 

「ーーまぁまぁ、そんな固い事言わなくてもいいじゃないですか千冬さん」

 

 

 

 保健室に二人目が入ってくる。

 

 

 鈴の目が驚きで見開かれる。

 

 

「よっ、鈴。怪我は、大丈夫か?」

 

 

「りゅう、や……?」

 

 

「……久しぶりだな、ってもう二回目か」

 

 

「ほん、とうに、龍也なの?」

 

 

「ああ。『橘 龍也』本人ですよーっと」

 

 

 そう言って鈴に向けてピースをする龍也。

 

 

「……そのピース、やめた方がいいぞ」

 

 

「ええ……なんでそんな不評なのかなぁ」

 

 

 千冬に苦言を言われ、頭を落としわかりやすく落ち込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ゆめじゃ、なかった。

  よかった、よかった…………本当に」

 

 

 今目の前の現実に龍也がいる。

 それを確認できた鈴は、泣き出してしまう。

 

 

「鈴……」

 

 

 鈴のベッドへ近づき手前の椅子に腰を下ろす。

 そして、泣いている鈴の頭を撫でる。

 

 

「ああもう、泣くなって。せっかくの感動の再会が台無しだろ?」

 

 

「ぐすっ……ふふっ、何が感動の再会よ、全くもう」

 

 

「ははっ、そうやって笑ってる鈴の方が、俺は好きだぜ?」

 

 

「ふぇっ!?あ、あんた何言って……」

 

 

 ぼふん、と頭から湯気を発するが如く顔を赤くする鈴。

 

 

「え?いや、思ったこと言っただけなんだけど……」

 

 

「そ、そう……ありがと」

 

 

「お、おう」

 

 

 なんだか気まずい雰囲気になる二人。

 

 

「……お前達、そういちゃいちゃするのはいいが、一夏を忘れてないか?」

 

 

「ち、千冬さん!何言ってるんですか!」「そ、そうですよ!なんでこんな奴と!」

「あ、お前言ったな!大体鈴こそ顔は綺麗になっても胸はペチャパイだろお前!」「きーっ!言ってはいけない事を!!!!殺してやる!!!」「わ、馬鹿やめろ!生きてたのにお前が殺すつもりかー!!」

 

 

「はぁ‥‥勘弁してくれ」

 

 

 すると、あまりに大声を出したので隣で寝ていた一夏が起きる。

 

 

「ん、なんだよ……。

 

 あれ、千冬姉に鈴、と…………!?」

 

 

 視界に映るありえないものに飛び起きる。

 

 

「……よっ、一夏。一年と、ちょっと振りだな」

 

 

「な、なななななななっ……!!」

 

 

 驚きのあまり言葉も出ない一夏。

 

 

「ーーゆ、幽霊だな!?」

 

 

「はあ?」「一夏?」「お前は何を言ってるんだ……」

 

 

 左から龍也、鈴、千冬の順番。

 完全に全員に呆れられている。

 

 

「だって、こんなところに、龍也が、いる、はずが……」

 

 

 

 口に出して言ってしまえば、目の前にいるのが誰かすぐに理解した。

 

 

「……どうして」

 

 

「まぁ、簡単に言えば、生きてたってことかな」

 

 

「……そっか、そうかそうか、生きてた、かぁ」

 

 

 

 

 

 布団の上で拳を握りしめ静かに涙をこぼす一夏。

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーよかった、お前が生きていてくれて」

 

 

 

 

「……ったく、お前も泣くんじゃねえよ、一夏」

 

 

 

 よしよしと泣いている一夏の頭を撫でる龍也。

 

 

「へへ、やめろよ、気色悪りぃなぁ」

 

 

「なっ、気色悪いとはなんだ!慰めてやってんのに……!」

 

 

「誰も慰めくれなんて言ってないだろ、大体昔から龍也はお節介が過ぎるんだよ」

 

 

「お、ま、え、が!散々俺達を困らせるような事をしたんだろうが……!」

 

 

「なんだと?」「やんのか?ああ?」

 

 

 睨み合う二人。それを見て鈴が笑う。

 

 

「ーーあははっ、やめなさいって二人とも!一夏は一応怪我人なんだし、ほら」

 

 

「別にこれくらいの怪我……いっつつ……」

 

 

「無理すんなよ。あのゴーレム《無人機》に思いっきり殴られたんだ、無理もない」

 

 

「龍也、お前はあれが何か知っているのか?」

 

 

 千冬が問いかける。

 

 

「ええ、そこらへんの話も含めて詳しくーーー」

 

 

 

『ちょーーっとまったぁ!』

 

 

 

 廊下から声が割り込んでくる。

 そして、声の主は部屋に入ってくる。

 

 

 

 

「やっほー!遅くなっちゃった!色々と準備してたらちょっとね〜」

 

 

「……束」

 

 

「ちーちゃんも久しぶりだねっ!相変わらず物騒な顔は変わってないことで……い、いたい!痛いよちーちゃん!離してぇぇぇぇ!!」

 

 

 アイアンクローで束の頭を締め付ける。

 このままじゃ拉致があかないと踏んだ龍也が助け舟を出す。

 

 

「千冬さん千冬さん、束さんが話せる状況じゃないと話が進みませんよ?」

 

 

「む、それもそうか」

 

 

「いたぁい!……ちょっと!いきなり落とさないでよ!ちーちゃん!」

 

 

 もうっ!とぷんすこ怒っている束。

 

 

 だが、すぐに平常心を取り戻す。

 

 

「ーーーそれで、あの無人機の事と、龍也が生きていること。お前に説明できるんだろうな?束」

 

 

「うん、もちろん。じゃあ何から話そうかなーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ******

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーまず、さっきのは正真正銘の無人機だよ。キミ達の試合途中に乱入するようにプログラムを設定してあったんだ」

 

 

「どうしてそんなこと……」

 

 

「一つは、私自身で白式のデータを取る為。

 

 もう一つは……」

 

 

「俺の為、ですか?」

 

 

 龍也が問いかける。

 

 

「うん。そうだよ。りゅーくんに動いてもらう為に、本来通常通り行われるべきだったクラス対抗戦の試合を潰したの。ごめんね2人とも」

 

 

 束が頭を下げる。

 

 

「いえ、いいんですよ束さん。

 それに、そのお陰でまた龍也にも会えましたし」

 

 

 一夏が束にそう言い、龍也の方をチラッと見る。

 

 

 少し照れくさくなった龍也は目を背けてしまう。

 

 

「それで、龍也のあの『IS』は何なんですか?もしかして専用機とか?」

 

 

 鈴が問いかける。

 

 

 だが、答えはNoだ。

 普通の人間ならばその解釈、考え方で間違いないだろう。しかし、ここにいる他の面々はそうじゃない事を知っている。

 

 

「いや、違うんだ。俺の『力』は正確に言えばISじゃない」

 

 

「え?それってどういうーー」

 

 

『2代目』ダークネスの一夏がすぐに疑問を生じる。

 自分が使っている時は純粋なダークネスの力であったはずだ、と。

 

 

「いっくんが入学したての頃、ドライバーとメモリを預けてもらったよね。

 その時から実は、この『Darkness Sistem』と束さんの『Infinite Stratos』を合体させちゃおうと密かに研究していたのだ!えっへん!」

 

 

 胸を張る束。よく見る光景だが、揺れる胸にまだ慣れない龍也は再び目を背ける。

 

 

「だーくねす……しすてむ?何ですか、それって」

 

 

 鈴の疑問に、束の代わりに一夏が答える。

 

 

「簡単に言えば、ISとは全く無関係ながらISと戦えるくらいの力を持ったモノ、かな。

 龍也が死んだ中学2年の時、この力を持ってた。だから命を落とすようなことになったってことだ」

 

 

「ま、その後は死んだ俺の代わりにお前が『2代目』になったけどな」

 

 

「そう、だったんだ……そんな物があったなんて」

 

 

 やっと過去がつながった。

 

 

 あの日、詳しく聞けないまま日本を去ってしまった鈴。

 何故命を落とすことになったのかの理由、一夏が今まで何をして来たのかなど、疑問が少しずつ解消していく。

 

 

 次に、千冬が声をかける。

 

 

「だがいいのか?ISと混ぜてしまえば色々と不便が生じてしまうのではないか?」

 

 

 ISとしてダークネスがあってしまっては、センサーに引っかかったりやIS反応が出てしまうのではないか。

 これから戦っていく上で不利が生じてしまうのでは、と千冬は考えた。

 

 

「……実はね」

 

 

「束さん、ここからは俺が」

 

 

「……いいの?」

 

 

「はい。俺が話さなくてはいけない事なので」

 

 

 他の三人の方へ身体を向け話始める。

 

 

「まず、鈴以外は俺が権利団体の人間を追っかけてISを潰しに回ってたのは知ってるな?」

 

 

「ああ」「もちろん」「え、なにそれ」

 

 

「龍也はダークネスの力を使って、ISで色々と悪い事をしていた女性達と戦ってたんだ」

 

 

「そのうちの大きな組織の一つが、女性権利団体だ。それを追っかけてた俺は、ヘマをしてやられちまったってわけさ」

 

 

「何してんのよ……まったく」

 

 

「心配かけたな、悪い」

 

 

「だ、誰が心配なんて……///」

 

 

「………それで、結局どうなんだ」

 

 

 千冬が話を戻す。

 

 

「あの後俺は、束さんに拾われた。まぁ助けたってよりは『興味』があったってだけかな。ISを潰しに回ってたから。

 結果から言えば死ぬ事はなくなって、そのまま身を隠す為に束さんの所にいた感じだ」

 

 

「そういうことだからりゅーくんが生きてるんだよ。見つけた時はひどい状態だったけどね〜もう少し遅かったら手遅れだったよ」

 

 

 さらっととんでもないことを言う。

 龍也もあれ、そうだったんだ……といった顔をしている。

 

 

「……そんなこんなで死んじまった俺の後は、ダークネスとなった一夏が俺と同じ事をしていた。

 だが、あの日の夜死んだと思ったはずの俺《ダークネス》がもう一度出てきたと知れば、確実に中の俺を探して殺しに来るはずだ。中身が一夏とも知らずにな」

 

 

「でも素性はバレないはずではないのか?全身装甲だろう?」

 

 

「……実は、数人に顔を見られていたんですよ。あの日の夜、頭の面が割れてしまった時にいた数人に」

 

 

「なっ、大丈夫なのかそれは!?」

 

 

「それが、つい先日の事です。

 

 

 俺の事を嗅ぎ回っていた権利団体の人間達が、全員死にました」

 

 

「………………は?」

 

 

 全員の顔が驚愕に染まる。

 

 

「権利団体の中には、派閥が分かれていたらしい。同じ目的を持つ者同士が色々なところから集まって出来た集合体が、女性権利団体だったんだ」

 

 

「ちなみに私が調べたよ〜。ちょーっとデータを覗いてみたらすぐにわかったからね」

 

 

「俺が敵対していたのは中でも過激派の奴らでね……他の組の人間からしたら大分派手に色々やってて、邪魔に思われたんだろう。

 

 飛行機事故に見せかけて殺された」

 

 

「……ッ」

 

 

 セシリアの両親の列車事故を思い出してしまう一夏。

 

 

「こう言っちゃなんだが、これでようやく俺は身を隠す生活から解放されたってわけだ……。

 最も、表に出て来るのはもう少し後にしようって言ったんだけどな」

 

 

 じーっとジト目で束を見続ける龍也。

 それに対し、吹けていない口笛を吹きながら明後日の方向を向く束。

 

 

「そうか、そうだったのか……」

 

 

 納得する千冬。

 

 

「ちなみに、ちーちゃんの質問に答えるとISの技術を応用することによって戦い方に幅が出るんだよ!試合中に見せた『6枚羽』がそれかな。

 元々ダークネスは、地上格闘戦をメインとして戦うように出来てるっぽいからね。IS相手だと空の上とかに飛ばれちゃうと何も出来ないんだよー

 

 そ、れ、に!ダークネスをISにしたのはちゃんと理由があるんだよねっ!」

 

 

「そこの所は俺も聞いてないけど、なんでなんだ?」

 

 

「むふふーそれは後のお楽しみってことで!」

 

 

「なんだよそれ、ここまできて今更隠すのか……」

 

 

 げんなりしてしまう龍也。

 今回の襲撃だけで十分驚いたのに、まだ何かあるのかと思う。

 

 

「……なら、これで龍也は普通の生活に戻れるのか?」

 

 

「うん。りゅーくんもそろそろ社会復帰してもらうのだ!」

 

 

「お前達が、俺の為に復讐をしようとしてくれたのは、わかってる。でも、もういいんだ。今まで悪かったな」

 

 

 頭を下げる。

 自分の1人の存在が2人の人生を大きく変えてしまったのだ。取り返しのつかないことをしたのはわかっていた。

 

 

「……いや、いいんだ。俺もダークネスになれたおかげで、色々なものを得られた。

 それに、また鈴とも出会えた」

 

 

「あたしも一緖。結局あんたが生きてたんなら、もう復讐なんてする必要ないしね」

 

 

 なんか疲れちゃったぁ、とベッドに横になる鈴。

 

 

「お前ら………もう少しなんかあるだろ」

 

 

 苦笑する龍也。

 自分も2人を試すなどと言っておいて結局はこうして出て来てしまっているのだ。格好もついたものじゃない。

 

 

「それで、今後の龍也はどうするのだ。学校に通わせるにも、何処にーー」

 

 

「心配はいらないよちーちゃん!

 この『大天災』束さんが、既に手を回しているのだ!」

 

 

「え?それってどこですか?」

 

 

 まだ話を聞いていない龍也。

 自分が日常に戻る為の第一歩はどこなのか。

 

 

「んふふ、それはねーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ朝のSHRを始めますね。

  織斑君、号令をお願いします」

 

 

「はい。起立!……礼!」

 

 

 クラス代表兼委員の一夏が声をかけるとおはようございまーすとクラスから朝の挨拶の声が上がる。

 そのままそれぞれ席へ着く。

 

 

 そして担任の千冬から告げられる。

 

 

「今日は朝の連絡は無いが、一つ重大発表がある。

 

 

 

 橘、入って来い」

 

 

 前の扉が開く。

 入って来たのは『男子用の制服を着た人物』

 

 

 教壇の前に立ち生徒達へと顔を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日からこの1組に入ることになった、『橘 龍也』です。『2人目の男性操縦者』ということでここに来ました。

 ………仲良くしてくれると嬉しいです、はい」

 

 

「そして、今この瞬間から橘の存在が世界に発表されることになった。

 ちなみにこいつは『篠ノ之束のお気に入り』だ。下手に手を出すようなら消されかねないからな、注意しておくように」

 

 

 クラスが静まり返る。

 何も反応がないことに不安になる龍也。

 

 

「(あ、あれ!?なんかマズったか!?何、もしかして俺顔になんか付いてる!?)」

 

 

 目の前には一夏以外全員女子しかいない。

 慣れない環境への焦りから意味のわからないことを思い浮かべ自分の顔をペタペタ触り確認する。

 

 

 すると……

 

 

「き、」

 

 

「き?」

 

 

「「「きゃぁぁぁぁぁ!!!!」」」

 

 

「う、うがぁあっ!み、耳が……」

 

 

「2人目!?2人目の男の子!?」「織斑君と違ったタイプのイケメンきたー!」「ちょっと可愛いかも……」

 

 

「な、なんだぁ!?いきなり!?」

 

 

「……馬鹿どもが騒いでるだけだ、気にするな橘」

 

 

 何度目かわからないため息をつく千冬。

 

 

「は、はは……そうですか」

 

 

 これからの学園生活大丈夫かなぁ、と不安になる龍也だった。

 



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第二十話 龍也、入学

 

 

「橘の席は織斑の隣だ」

 

 

「わかりました」

 

 

 一夏の隣の席に座る。

 

 

「まさか、また龍也と同じ教室で学生生活を送れるなんてな」

 

 

「こっちのセリフだよ。まぁよろしく頼むぜ?」

 

 

「あいよ」

 

 

「橘に色々と聞きたいこともあるだろうから、朝はこれで終わりにする。1限の開始までに授業の準備をしっかりしておけよ小娘ども」

 

 

「えっ!?ちょ、千冬さ……「はい!」……まじですか」

 

 

「はは、まぁ頑張れよ龍也」

 

 

「お前も大変だったんだな……一夏」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえねえ、橘君って織斑君と知り合いなの?」

「仲良さげだよねー」

 

 

「おう、俺と一夏は中学が一緒なんだ」

 

 

 休み時間に案の定女子生徒から詰め寄られる龍也。

 

 

「それと、篠ノ之博士のお気に入りって言われてたけど……」

 

 

「あー、いや、お気に入りというかなんていうのかな……知り合い?」

 

 

「知り合いじゃないだろ、もっと深い関係だろ」

 

 

「ええ!?それって……」

「どういう事なの織斑君!?」

「橘×篠ノ之博士キター!」

 

 

「ふ、深い関係って、変な言い回しすんなよ!ちょっと色々あって世話になってた程度だって!」

 

 

「なんだー」「つまんないのー」

 

 

 ガヤに文句を言われる。理不尽である。

 それと、決して龍也の言っている事は間違ってはいないのだが、それをこっそり見ていた(監視していた)束は頬を膨らませていた。

 

 

「ーーーちょっといいか」

 

 

「ん?えっと」

 

 

「ああ、そいつは篠ノ之 箒。俺の幼馴染なんだ」

 

 

「そうなのか。……ん?篠ノ之?」

 

 

「単刀直入に聞く。何故貴様が姉さんと知り合いなのだ!?」

 

 

「…………え?束さんの妹?」

 

 

「え、龍也知らなかったのか?」

 

 

「あ、ああ。妹がIS学園にいるなんて一言も……」

 

 

 いや、そういえば束さんが製作してたISがあったな。あれはこの子に渡す為だったのか、と今更気づいた龍也。

 

 

「質問に答えてもらおうか、橘」

 

 

「あー、えっと、なんて言ったらいいのかなぁ」

 

 

 すぐに答えられるような内容ではない為言い淀んでしまう。

 すると、そんな龍也を見かねた一夏が助け舟を出す。

 

 

「箒。実は、前に箒に話すって言ってたことと関係あるんだ」

 

 

「!そうなのか……?」

 

 

「一夏、この子に話してたのか」

 

 

「詳しくはまだ、な。でももう話しても大丈夫だろ」

 

 

「そっか。じゃあ、篠ノ之さん?そこの所も含めてあとで3人で話せないかな?」

 

 

「……いいだろう。一夏も、話してくれるという事でいいんだな?」

 

 

「ああ。と言っても龍也が話す事で大体片付いちゃうような気もするけどな」

 

 

「わかった。そういう事なら私は席に戻る。また後でな」

 

 

 納得した様子で席に戻る箒。

 ちなみにセシリアはーーー

 

 

「(あ、あの方、龍也さんといいますの?織斑さんと親しいはずでしたが、確か死んでしまわれたはずでは……も、もしかして、幽霊!?)」

 

 

 ーーーと、自分の席で聞き耳を立てながら内心貴族らしからぬビビり方をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、また次の休み時間。

 今度は別の女子生徒が席を立ち上がった龍也の元へ。

 

 

「ねぇねぇ〜ちょっといいかな〜」

 

 

「ん?」

 

 

「私のことおぼえてる〜?」

 

 

「え?えっと……」

 

 

 じーーっと凝視する。

 どこかで……と思い出す一歩手前までは来ているのだが、肝心なところが思い出せない。

 

 

「そんなにみられたらてれちゃうよ〜///」

 

 

「…………あっ!?」

 

 

 恥じらう少女。

 

 

 それを見て思い出した、この子はーーー

 

 

「ーーーもしかして、本音ちゃん!?」

 

 

「やっと思い出してくれた〜そうだよ〜」

 

 

「まさかこんなところで会えるなんて思わなかったよ!久しぶりだね、本音ちゃん!」

 

 

 そんなやりとりを見ていた一夏が2人に声をかける。

 

 

「龍也、のほほんさんと知り合いだったのか?」

 

 

「おう、まぁちょっとな」

 

 

「どこで知り合ったんだ?」

 

 

「確かーー」

 

 

 だが、龍也の声に割り込んで本音が喋り始める。

 

 

「えっとね〜私が中学2年生の時に〜」

 

 

 そして、龍也の右腕に抱きつく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーナンパされちゃったんだぁ///えへへ〜///」

 

 

 ピキッ、とクラス中の空気が固まる。

 

 

「ちょ、本音さん!?ナンパなんてしてないよね、俺!?」

 

 

「え、あの本音が……」「橘君って意外とチャラいのかな?」「本音をあそこまで骨抜きにさせるなんて、意外とやるんじゃない!?」と好き勝手に噂される始末。

 

 

「龍也、お前……」

 

 

「一夏まで!?俺そんなことしないってわかってるよね!?」

 

 

 すると、左肩を掴まれる龍也。

 

 

 恐る恐る振り返る。

 

 

「よ、よお、鈴、なんで1組にいるんだよ……?」

 

 

「休み時間になってなんかいやーな予感がしたから来てみれば……どういうことか説明してもらえるかしら?」

 

 

 後ろには般若《鈴》

 

 

 右横には小悪魔《本音》

 

 

「(な、なんでこうなったぁぁぁぁ!!)」

 

 

 ーー男の叫びは、誰にも届かない。

 

 

 だって口に出してないんだもん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 廊下を駆け足で歩く鈴。

 あの後、ナンパは誤解だということがわかり、事なきを得たのだが鈴の内心は穏やかではなかった。

 

 

「(もう!なんなのよ!あんなに龍也にベタベタして‥‥龍也も龍也でデレデレしてるし!)」

 

 

 イライラしているが、自分が何故そうなっているのかわからない。

 

 

 そして少しずつ歩くペースが落ちていく。

 

 

「(………龍也が帰って来たんだから、それでいいじゃない。何を悩んでるのよあたしは!)」

 

 

 頭をむしり掻く鈴。

 

 

 

 

 結局この日、鈴はもやもやする自分の気持ちを落ち着かせることはできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜、自室でベッドに寝っ転がり気分を良さそうにしている1人の少女。

 布団の気持ち良さもあるがそれとはまた別の理由で頬を緩めていた。

 

 

「(えへへ〜またりゅ〜くんに会えたよ〜///)」

 

 

 かつて自分を助けてくれた恩人。

 1日の間彼と一緒に色々なところを歩き回った思い出が蘇る。

 それは、本音にとって大切な記憶だった。

 

 結局その日は、どこに住んでいるか、どこの学校に通っているかもわからないまま別れてしまった。

 

 

 つい教室では変なことを口走ってしまったが、それに慌てふためく彼を見れたのは貴重な経験だった。

 

 

「(ん〜〜ん〜〜)」

 

 

 言葉にならない感情を隠すこともないまま枕に顔をぐりぐりと押し付ける。

 

 

「(ーー仲良くなれるかなぁ)」

 

 

 

 

 ーー少女の夜は更けていく。

 




⇒『布仏 本音』がログインしました。かわいいよのほほんさん。


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第3章 束の間の休息、安息の日々
第二十一話


第3章では回収していない伏線、説明事などを一通り消化した後にのんびりとした話を。
それでは、どうぞ。


 

 

 

「それでは、今日の授業を始める。

 橘、織斑、オルコット、前に出ろ」

 

 

「「「はい」」」

 

 

「まずは橘のISを展開してもらう」

 

 

「わかりました」

 

 

 何もない空間からドライバーとメモリが現れる。

 そして、腰に装着、メモリを挿入する。

 

 

 

「ーー変身」

 

 

 

 声を出すと同時にメモリを横に倒す。

 すると、脚部から漆黒の鎧が装着されていく。

 

 

「おおー」「か、かっこいい」「全身装甲《フルスキン》のIS……」

 

 

「ふむ、自分で説明してみろ橘」

 

 

『わかりました。このISの名前は、「黒龍《こくりゅう》」、第3世代の機体にあたります』

 

 

 第3世代の様なものではあるが、束が龍也を学園に入れるためにダークネスにISへの改造を施したせいでパワーアップしている。

 よって、現世代のISより少し強さが優っていると言ってもいい。

 とは言っても、実力者を相手にすればあまり大差はでないが。

 

 

「ねえねえ橘君、なんでISを展開する時にそのベルト?とおもちゃみたいなのを使ったの?」

 

 

 女子生徒の一人から質問が出る。

 

 

『ああ、これは黒龍に乗るために必要なものなんだ。

 さっきは手で持ってから腰に付けたけど、直接装着した状態で呼び出すこともできるよ』

 

 

「へぇー」「なんか特撮のヒーローみたいだね」「男のロマンってやつなのかな?」

 

 

『ちなみに、普段はISの技術の応用で量子化してしまってある。これが便利なんだよ、持ち運びがなくて楽だから……』

 

 

 顔部分の鎧の中で遠い目をし昔を思い出す龍也。

 時代は進化したものだ、と感慨深くなっている。

 

 

「よし、次は武装を展開してみろ」

 

 

『はい』

 

 

 返事をすると、手元には一本の剣が。

 

 

『これが黒龍の基本武器、「黒龍刀=斬魔《こくりゅうとう=ざんま》」です。

 この剣は少し特殊で、切った相手の減らしたSE《シールドエネルギー》を吸収して自分のものにしてしまうらしいんです』

 

 

 生徒達からざわめきがでる。

 吸収《ドレイン》の効果があると分かれば、驚くのも無理はない。

 

 

「他にはあるのか?」

 

 

『はい、もう一つは普通のハンドガンと同じサイズの銃が二丁。射出させるのはもちろん実弾じゃなくエネルギー弾です』

 

 

 武装の説明を一通りしたところで、別の質問が女子生徒から出る。

 

 

「橘君、そのISって飛べるの?そういう装備が付いてないように見えるけど」

 

 

『ん?ああ、それなら問題ないよ』

 

 

 と、次には背中から先端が鋭く尖った6枚の翼が展開される。

 

 

『これがあるからね。名前はそのまんま、「6枚羽《ろくまいばね》」。ほとんどISと同じ要領で飛べるんだ。

 あ、ちなみにこれ指で触るとスパッと切れちゃうから生身じゃ触らないようにしてね』

 

 

 はーい、と声が上がる。

 また、この『羽』は形態を変化させ内側に曲げたり若干だが伸びさせることもできるので、背中からの攻撃を防御し、反撃に転じることもできる。

 

 

 次に別の生徒がまた疑問を掲げる。

 

 

「なんか、橘君のISって特殊だね。他の機体に比べてコンパクトっていうかシュッとしてるっていうか」

 

 

『量産化の目処とかない、最新機種だからね。実験体も兼ねて俺が篠ノ之博士から貰ったんだ』

 

 

 束にも全ては解析できない【ダークネス】だ。

 量産化などしては堪ったものではないだろう。

 

 

「よし、それぐらいでいいだろう。

 織斑、オルコット、お前達もISを展開しろ」

 

 

「はい」「はい!」

 

 

「まずはオルコットからだ」

 

 

「わかりましたわ」

 

 

 返事をするとほぼ同時にセシリアはすぐブルー・ティアーズを纏っていた。手元には武装である銃のおまけ付きだ。

 

 

「武器の展開に0.5秒、流石だな代表候補生。構え方にも問題がない」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

「次は織斑だ」

 

 

「はい!……ッ」

 

 

 一夏も呼ばれ白式を展開、及び真似をして武装も展開するがセシリアよりは遅くなってしまう。

 

 

「初心者にしては悪くない早さだが、実戦では遅すぎる。精進しろよ」

 

 

「………はい」

 

 

『(うわぁ、千冬さんきっつー)』

 

 

 内心一夏に同情していると千冬から睨まれる。

 顔の隠れている鎧の下では冷や汗をかいてしまう龍也であった。

 

 

「全員ISを纏ったなら次は基本的な飛行操縦をしてもらう。飛んでみせろ」

 

 

 千冬から合図が出ると同時に飛び立つ三人。

 セシリアと龍也は先に上空へ着いたのだが、一夏は少し遅れてしまう。

 

 

 すると通信で千冬からきつい一言。

 

 

「どうした織斑、機体スペックはブルー・ティアーズより上のはずだぞ」

 

 

「そうは言っても、空を飛ぶのってなんかなぁ」

 

 

「織斑さん、大事なのはイメージですわ」

 

 

「そうだぞ、そんな気難しく考えんな」

 

 

「んーそっか、わかった」

 

 

 再び通信が入る。

 

 

「よし、次は急下降と完全停止だ。目標は地表から10cmとする」

 

 

「了解です。それではお二人とも、お先に失礼しますわ」

 

 

 セシリアは二人に声をかけると下へと加速し降りていく。

 そして地面から3m程の距離になると身体の向きをスラスターを使い上へと向け、停止する。

 

 

「5cm。上出来だ」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

「さあ、次はどっちが来るんだ」

 

 

「俺から先に行くぞ、一夏」

 

 

「ああ」

 

 

 一夏に声をかけると翼を一度大きくはためかせ、そのまま地面へと落ちるように一直線で降りて行く。

 地表から5m程で翼を広げ、勢いを羽を羽ばたかせ殺す。そして、停止する。

 

 

「よし、問題ないな。織斑も降りてこい」

 

 

「はい!……よし」

 

 

「(あ、やばそう)」

 

 

 意気込んだ一夏を見て嫌な予感を感じる龍也。

 すると次にはーーー

 

 

 

 ズドォォォンッ!!

 

 

 

 ーーーという音と共に、地面に大きなクレーターが。

 

 

「馬鹿者。誰が激突してグラウンドに穴を開けろと言った」

 

 

「………すいません」

 

 

 呆れてしまう千冬と、くすくす笑う生徒達に居心地が悪そうになる一夏。

 

 

「ドンマイだぞ一夏。初心者でいきなりやれって言われても難しい話だ」

 

 

 一夏を慰めるつもりで言うと、クラスメイトにつっこまれる。

 

 

「そう言う割には、橘君は完璧に出来てたよね」

 

 

「え?あー……うん」

 

 

「龍也……」

 

 

 ジト目で龍也を見る一夏。

 慰めは失敗したようだ。

 

 

「そろそろ時間か、今日の授業はここまでにする。

 穴はしっかり埋めておけよ織斑。夜までかかっても構わん」

 

 

「う………はい」

 

 

「(……強くあれよ、一夏)」

 

 

 結局、一人でこの穴を埋めるのは厳しいだろうと手伝ってあげた龍也。

 なんとか陽が沈むになる前に終わったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして時間は夕暮れ前、龍也は一夏と箒の部屋へと足を運んでいた。

 自分が何故篠ノ之束と知り合いなのか、一夏の復讐についての過去の二点を話す為だ。

 

 

「さて、とりあえず軽く自己紹介をしようか。

 俺は橘 龍也。龍也って呼んでくれ。一夏とは中学生の時に出会った、ついでに鈴もな」

 

 

「私は篠ノ之 箒。箒でいい。もう知っているとは思うが篠ノ之 束の妹だ。後、一夏とは幼馴染だ」

 

 

「……まさか、学園の中に妹さんがいたなんてなぁ」

 

 

「なんだ、知らなかったのか?龍也」

 

 

「ああ。妹はいるって話は聞いてたけどな」

 

 

 はぁ、と軽くため息をつく龍也。

 それだけで箒は、龍也が束の元で苦労していたのだろうと察してしまう。

 

 

「…………お前も苦労しているのだな」

 

 

「…………わかってくれるか」

 

 

 今にも手を取り合いそうなぐらい見えない何かを共感する二人を、少し困ったような表情で見る一夏。

 

 

「だいたい姉さんはいつもいつも突拍子もなく行動してーーー」「そうだそうだ、急に出かけるから用意してって言われて来てみれば海外に飛ばされたこともーーー」「あの人はーーー」「束さんはーーー」

 

 

 愚痴の言い合いが始まってしまった。

 

 

「な、なあ二人とも、そろそろ本題に入らないか?」

 

 

 本来の目的と違う状況が出来上がってしまったため、話を戻そうとする一夏。

 

 

「え?ああ、そういやそうだったな」

 

 

「す、すまない、柄にもなく騒いでしまった」

 

 

「いや、気にするな。俺も同じだから。

 それで、まずは俺の話からするか?」

 

 

「……俺から話すよ、そうすれば龍也の話にも繋がるしな」

 

 

「そうか。じゃあ任せた」

 

 

 話し手の役目を貰った一夏は、箒へ説明する。

 

 

 復讐を語る上で、龍也の死についての話は無視できない。

『ダークネス』という未知の力があること、その力があるばかりに狙われて殺されてしまったこと、殺された龍也の報いとして自分が復讐を志したことを話した。女性権利団体という存在は伏せたが。

 

 

「ーーーだから俺は、力をつけたんだ。箒が俺に剣で勝てなかったのはそんな感じかな」

 

 

「そうか、そうだったのか……」

 

 

 一つ一つをしっかりと理解する箒。

 すると、必然的に分かることがもう一つ。

 

 

「ーーーそうなるとお前は、姉さんに救われたということか?」

 

 

「察しがいいな、その通りだ。

 本来死ぬはずだった俺は、命を失う前に束さんに拾われた。まぁ、助けるためってよりは研究材料って感じだったけどな、最初は」

 

 

「そして、生きていた龍也は一年経った今、この前のクラス対抗戦の日に俺達の前に姿を現したってわけだ」

 

 

「本当は来るつもりなんかなかったんだけどな。あの人に嵌められたよ」

 

 

 苦笑するしかない龍也。

 

 

「龍也が生きていてくれたなら、もう復讐なんてする必要はないからな。箒に話す前だったから悪いけど、もう終わったことなんだ」

 

 

「まぁよかったんじゃないの?人殺しにならなくて済んだんだし。

 そんな重い気持ちのままじゃ存分に箒ちゃんといちゃいちゃ同棲生活できないだろ」

 

 

「な、なななななな何を言っている貴様!!!」

「そ、そそそそそそそうだぞ!い、いちゃいちゃなんてしてない!!!」

 

 

 同棲なのは否定しないのね、と思ったのは心の中に押さえておくのであった。

 

 

「さ、こんなもんで話はいいだろ。夜飯食いに行こうぜ。俺もう腹減ったわ」

 

 

「あ、その前にちょっといいか?」

 

 

「ん?なんだよ一夏」

 

 

「えっと、前にな?お前のことを話しちまった奴がいるんだよ。セシリア・オルコットっていう金髪の子なんだけど」

 

 

「ああー、それね。知ってるよ」

 

 

「え?なんで知ってるんだ?」

 

 

「………束さんとこのモニターで見てたからな、お前達が話しているのを一部始終」

 

 

 唖然とする一夏と箒。

 

 

「……別にいつも監視してるわけじゃないぞ?

 クラス代表決める時の戦いとかこの前の対抗戦とかイベント事の時しか見てないから………多分」

 

 

「そ、そうか……。でも知ってくれてるなら話は早い、オルコットさんと会ってくれないか?一応事情を説明した方がいいと思うんだ」

 

 

「おう、いいぜ。なら、今から一緒に食わないかって誘ってみるか。食堂で話そう」

 

 

「……いいのか?食堂でそんな話をして」

 

 

 箒が尋ねる。

 

 

「別に大丈夫だろ。一から全部説明するわけじゃないしな」

 

 

「……お前がそういうならいいのだが」

 

 

「鈴は誘わないのか?」

 

 

「あー……あいつなんか怒っててさ、誘いにくいんだよ」

 

 

「何したんだよ」

 

 

「わからん」

 

 

「………はぁ」

 

 

 龍也と本音と鈴の修羅場(?)を見ていた箒は鈴の気持ちを察し軽く同情する。

 目の前にいるのは鈍感という言葉が最も似合う二人なのだから。

 

 

「と、とりあえず行こうぜ。オルコットさんはどこの部屋なんだよ?」

 

 

「確かーーー」

 

 

 こうして、セシリアの部屋へと向かう三人であった

 




一夏側のヒロインとして箒が確定しています。
この後の展開で一夏がメインになる話があればそこでヒロインを増やすかもしれませんし、このまま一夏×箒になるかもしれません。


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第二十二話

 

 

 

 

 ドアをノックする一夏。

 

 

「ーーーオルコットさん?いる?」

 

 

 数秒待つとドアが開き、中からセシリアが顔を出す。

 

 

「はい?どうされましたか……って貴方は……!」

 

 

「ど、どうも橘です……何をそんなに驚いてるの?」

 

 

「い、いえ、何でもありませんわ、こちらの話です。(び、びっくりしましたわ、幽霊ではありませんわよね)

 それで、何かご用でしょうか?」

 

 

「オルコットさんに、龍也の事話さなきゃなって思って。一緒に食事でもどうかな?」

 

 

「……わかりましたわ、少々お待ちになってください」

 

 

 扉を閉め一旦部屋の奥へ戻るセシリア。

 

 

 数分待つと軽く身支度を終えたセシリアが再び出てくる。

 

 

「お待たせしました、行きましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここでいいか」

 

 

 各自食事を持ち、食堂の端の方へ座る四人。

 

 

「改めて、橘 龍也だ。一夏とは中学からの仲なんだ」

 

 

「セシリア・オルコットですわ。イギリスの代表候補生をしております。

 そ、それで、あの……その」

 

 

 聞き辛そうに躊躇う。

 どう話を切り出していいのか迷っているのだ。

 

 

 だが、そんな事を一切気にしない龍也はすぐに、

 

 

「一夏から話を聞いているんだろう?」

 

 

「ッ……はい」

 

 

「その話に出てきた『龍也』ってのは、俺のことで間違いないぞ」

 

 

「では、今生きていらしているのは、死んではいなかったと?」

 

 

「そりゃ死んでたら今ここにいないだろうよ」

 

 

「そう、でしたか……」

 

 

 死んだはずの人間が生きていた。

 気になることが多少あるが、自分が全てを知る立場ではないと判断し聞くことを選別する。

 

 

「では、一つよろしいですか?」

 

 

「ああ、いいぞ」

 

 

「今日の授業で使用していたIS、あれは織斑さんの話していた『ダークネス』と呼ばれる力ではありませんか?それと『仮面ライダー』と世に広まり伝わる噂も。

 先日のクラス対抗戦の日の乱入者とも、形状が似ていたもので」

 

 

「んー」

 

 

 少し返答を考える龍也。

 だが、セシリアはダークネスの存在を知っている。クラス対抗戦の日も自分の姿を認識していた。話しても問題ないだろうと判断する。

 

 

「そうだ、あの日試合に割り込んだのは俺だし、『黒龍』は正式にはISじゃない。

『仮面ライダー』って数年前から噂になってるのも、多分俺だろうな」

 

 

「やはり……」

 

 

「クラスのみんなを騙して悪いとは思うけど、話すわけにはいかないんだ。

 変に『ダークネス』っていう異質な存在が広まると、それだけで危険に晒される可能性もある」

 

 

 世界では都市伝説と言われているが、一部の悪質な人間たちはその存在が現実であると知っている。

 学園内部から情報が漏れ、知れ渡ってしまえば、無関係な一般生徒が狙われる可能性もあることはセシリアも即座に理解できた。

 

 

「わかりましたわ、では、他言無用と言うことで」

 

 

「そうしてくれると助かる。箒もな」

 

 

「ああ、わかっているさ」

 

 

「あら、箒さんをファーストネームでお呼びしているのでしたら、わたくしもセシリアで構いませんわ」

 

 

「そうか?ならそうさせてもらおうかな。俺も龍也でいい」

 

 

「はい、龍也さん」

 

 

 友好が深まり、少し笑みを浮かべ合う2人。

 セシリアと龍也、互いに名前で呼ぶことを許したが、そうなるとここにいるもう1人はーー

 

 

「…………ああ、味噌汁は美味しいなぁ」

 

 

「ど、どうしたんだよ一夏、そんな死んだ目して味噌汁啜って」

 

 

「いや、俺はオルコットさん呼びなのに龍也は打ち解けるのが早いなって思ってさ……はは」

 

 

「ふふ、『一夏さん』もファーストネームで呼んで差し上げてもよろしくてよ。

 ですが、それだと……」

 

 

「な、なんだ、何故私を見るセシリア」

 

 

「……いえ、なんでもありませんわ」

 

 

 言い終えると同時に紅茶を口に含む。

 何かを暗示していたような視線で箒をチラッと見たが、どういう意味だったのかはセシリアにしかわからないだろう。特にこの場の人達では。

 

 

「じゃあ、セシリア?」

 

 

「ええ、それで構いませんわ」

 

 

「なんかむず痒いな、改めてよろしく」

 

 

 少しの気恥ずかしさを感じつつも、セシリアと一夏も名前を呼び合う。

 

 

 

 

 

 

 話が一旦落ち着いた所で、セシリアが別の話題を振る。

 

 

「それと、龍也さんにもう一つ聞きたいことがありましたわ」

 

 

「ん?まだ何かあったか?」

 

 

 食事をするのを再開した龍也は、水を口に含む。

 

 

「一夏さんや鈴さん達との事ではないのですが、そうですね、

 

 

 

 ーーー本音さんとのことについて、お聞きしたいなと」

 

 

 

「ぶほぉっ!!」「うわっ!お前汚ねえぞ!」「げほっ、す、すまん一夏……ちょ、ちょっと!?セシリアさん!?」「何をやっているんだお前達!?これで拭け!」「あ、ありがとう箒……」

 

 

「そ、そこまで動揺されると此方としても少し困ってしまいますわ……」

 

 

 グラスを傾け、上を向いている時にむせてしまい水を吹き出してしまう。

 その為、隣に座っていた一夏に被害がかかった。

 

 

「わ、悪い、つい。それで……本音ちゃんのことだったか?」

 

 

「俺も気になってたんだよ。中学の頃に会ったって言ってたけど、まさか『ダークネス』絡みか?」

 

 

「い、いや、そうじゃないんだ。その、えっと……」

 

 

「なんだ」「早く言えよ」「言い辛い事でしたら別に無理にとは言いませんわ」

 

 

 優柔不断な龍也に多少イラっとしてしまったり、久しぶりに友人を揶揄うチャンスだと急かしたり、気遣うような発言をしたりと三者三様。

 

 

 

 

 

 

「…………あー、簡単に言えば、本音ちゃんがナンパされてるのを、俺が割り込んでナンパした、ってことになるのかな?」

 

 

 

「「「…………え?」」」

 

 

「あはは……」

 

 

「……お前、ナンパはしてないって言ってただろ」

 

 

「い、いや!そう言う目的で声かけたわけじゃないんだって!本当に!」

 

 

「じゃあ何故そうなった」

 

 

「………本音ちゃんが嫌がってそうだったから助けようとしたら、絡んでたヤンキーに『おい、この子は今俺達がお誘いしてんだから中坊は引っ込んでな』って言われてつい、な?手が出ちゃって……てへ☆」

 

 

「「「…………」」」

 

 

「な、なんだよ、別にいいだろ!俺だって若かったんだしよ!今じゃ手は出さねえよ!」

 

 

「そ、それで、結局その後はどうなったのだ、布仏とは」

 

 

「確か……本音ちゃんは落としたキーホルダーを探してたはずなんだ、大事に持ってたっていう。

 その場所が公園の中で、必死に探してる時に声かけられたって言ってた」

 

 

「結局俺も手伝って探して、ちょっとしたら見つかったから帰ろうとしたんだけど、お礼するって言われてそのまま街をぶらぶらしただけだよ」

 

 

「なんだよ、結局ただのナンパじゃねえか」

「意外と策士ですのね、龍也さんは」

「ふん、姑息な手を使いおって。男ならもっと堂々と誘うべきだろう」

 

 

「ああ……もうそれでいいよ、うん」

 

 

 ボロクソに言われげっそりしてしまう龍也。

 

 

 しかし、勘のいいセシリアは一つ思う事があった。

 

 

「(本音さんがあの様子では、鈴さんは苦労しそうですわね。最も、本人は気づいていないようでしたが)」

 

 

 他人の感情に敏感なセシリア。

 本音も鈴もまだ『好意』にはなっていないが、互いに気づくのも時間の問題ではないかと推測を立てる。

 鈴に至ってはあの場で怒りを撒き散らし、教室を後にしたのだ。そういう事ではないのかと予想はできる。

 

 

「(龍也さんとは一年近く一夏さんや鈴さんは会わず、さらに本音さんはそれ以上も会っていないと。

 それでしたら、まだ気持ちの整理はまだついていないのでしょう)」

 

 

 そういえば、朝のSHRで篠ノ之博士のお気に入りであるとも言われていた。きっと何かしらの理由で世話になっていたのだろう。

 

 

 もし、博士にそういう感情があればお二人にとってこのブランクのある数年間は厳しいものにーーーと、謎の三角関係が出来上がる構図を勝手に妄想するのだが、それが後々間違いではなくなることをまだセシリアは知らない。

 



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第二十三話

箒、セシリア、一夏と夜ご飯を食べた後の話です。


 

 

 

 

「橘」

 

 

「はい?なんですか千冬さ……「織斑先生だ」痛いっ!?」

 

 

 頭を出席簿で叩かれる。

 

 

「次は手加減無しでいくからな」

 

 

「(冗談だろ、まだ上があんのかよ……)」

 

 

 まだこの出席簿アタック(命名:橘 龍也)に更に上のレベルがあるのかと恐怖する。

 

 

「で、俺に何か用ですか?」

 

 

「ああ、これをお前にな」

 

 

「おっと。……これは?」

 

 

 千冬から鍵が投げ渡される。

 

 

「お前の寮室の部屋の鍵だ。今日からここに住んでもらう」

 

 

「早いですね、初日からとは。わざわざ帰る必要がなくて助かります。

 荷物はどうなってますか?」

 

 

「安心しろ、束の奴がお前の身の回りの物を全て纏めて送ってきている」

 

 

 だが、そこで千冬は思うことが一つ。

 

 

「…………私としては、あいつに物の整理整頓が出来たことの方が驚きだがな」

 

 

「最初は酷かったですよ、研究道具から下着まで、そこら中に散らかってましたし。

 結局半年近くかけて一般女性並みのスキルにはなったと思います。料理以外は」

 

 

「そうか……」

 

 

 少し考え込む千冬。

 

 

 人の事を言えたものではないが、あのズボラな束の生活面を変えたのだ、あの束の。

 もしかしたら龍也ならーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なあ、束を貰ってやってくれないか?

 お前なら信頼関係もあるし、あいつもずっとあのままでは婚期に乗り遅れてしまうだろう」

 

 

「な、ななな何をいきなりぃ!?」

 

 

 唐突な爆弾発言。あの天災を嫁に貰えとのこと。

 

 

「軽い花嫁修行もお前が仕込んでいるんだ。悪い話だとは思わないが、どうだ?」

 

 

「じょ、冗談はやめてくださいよ!織斑先生!」

 

 

「冗談を言っているつもりはないのだがな。お前は束をどう思っているんだ」

 

 

「どうって…………ま、まぁ、美人な人だとは思いますけど……」

 

 

 顔を赤くしながら返答する龍也に、思わずニヤけが出てしまう千冬。

 

 

「ほう、そうかそうか。

 まぁ、今すぐにとは言わん。その気になったら私に言え、束に伝えといてやる」

 

 

「も、もう!俺部屋行きますよ!まったく……」

 

 

 少し駆け足気味にこの場を離れていく。

 

 

「ふふ、少しからかいすぎたか」

 

 

 1年以上会っていない弟の親友も、あまり性格は変わっていなかった。

 多少どこぞの天災に影響されている部分はあるが、根本的な部分はそのままだ。

 

 

 龍也も去り、自分も職員室へ戻ろうとしたその時、一つミスを犯したことに気づく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……しまった、一夏の時と同じで同居人がいるのを伝え忘れた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は同じく、とある場所の一室での会話。

 

 

「束様、今の会話は全て録音しておきました」

 

 

「…………そんなことしなくていいよ、くーちゃん………///」

 

 

 龍也の入学初日の様子はどうかと、モニターを眺めていた2人。

 思わぬ『美人』発言に言われ慣れない束は机に顔を伏せ、照れてしまう。

 

 

 ーーーちなみに、それが男に言われたからなのか、それとも『龍也』に言われたからなのかは、誰にもわからない。

 

 

 

 

 

 

 

「龍也様がお父様ですか、あまり想像できませんね」

 

 

「もうやめてぇ……///」

 

 

 此処ぞとばかりに束を揶揄う、クロエであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っと、ここか」

 

 

 鍵に書かれている号室の部屋の前に着く。

 そのまま『どうせ一人部屋だろう、男だし』というどこぞの世界最強の弟と同じ安易な考えを持って部屋の中に入ると、

 

 

 

 

「お帰りなさい♪ご飯にします?お風呂にします?それとも、わ、た、sーーー」

 

 

 

 

 少女が言い終える前にドアを閉める。

 

 

「(おいぃぃぃ!?なんで裸にエプロン着た水色の髪の女の子がいるんですかぁぁぁ!?)」

 

 

 戸惑いを隠せない。

 こうなると気づくのは、

 

 

「(千冬さんめ……一人部屋じゃないならないで、先に言ってくれればいいのに!)」

 

 

 ダークネスは企業秘密なんだぞ、と文句を言いたくなるが口には出さずしまっておく。

 それと、千冬は伝えようとはしていたのだが、別の話題に気を取られうっかりしてしまったことは龍也の知る由ではなかった。

 

 

 このままでは拉致があかないと判断した龍也。もう一度ドアを開けるとーーー

 

 

「お帰りなさい♪わたしにします?わたしにします?それともわ、た、s「いや全部わたしになってるし!?」……もうっ、最後まで言わせてよ」

 

 

 ぷんすこ怒り始めた少女。

 

 

「す、すいません……(あれ、俺何も悪くないよねこれ)」

 

 

「もういいわよ、別に。

 それと、とりあえず部屋に入ったら?私こんな格好だけど……♪」

 

 

 そう言って少女がニヤッと笑いながらエプロンの裾を掴み、上にチラリと上げようとしたその時ーーー

 

 

「し、失礼しましたぁ!!」

 

 

 勢いよくドアが閉められた。

 

 

「…………そんなに拒否されちゃうと、お姉さん悲しいなぁ」

 

 

 しょぼん、とうさ耳でも付いていれば垂れ下がってしまいそうなくらい落ち込んでしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーそれで、貴女が自分のルームメイトということでいいんですね?」

 

 

「ええ、そうよ。私は更識 楯無《さらしき たてなし》、このIS学園の生徒会長をしているの」

 

 

 楯無が着替え、龍也も部屋の中に入り椅子に座って話を始める。

 いつの間にか楯無は手に扇子を持ち、開いた扇子には『生徒会長』と書かれている。

 

 

「どうして自分は一人部屋じゃないんですか?もしくは、一夏と同じ部屋でもよかったと思うんですけど」

 

 

「それはね、私が織斑先生に直接お願いしたからなの」

 

 

「……理由をお聞かせ願いますか?」

 

 

「二人目の男性操縦者の護衛よ。この学園において生徒会長というのは、『最強』を意味するの」

 

 

 そう言って淹れてあった紅茶を啜るが、龍也は別の目的があることに気づいていた。

 

 

「ーーーそれと、俺の監視ですか?」

 

 

「あら、察しがいいのね君は。

 そういうことよ、篠ノ之博士のお気に入りとは言っても、まだ危険因子の可能性がないわけじゃないからね」

 

 

「俺を見張ってても何もありませんよ。

 それに、俺に何かしようとする輩がいれば、束さんが黙ってません」

 

 

「随分と信頼しているのね」

 

 

「いえ、信頼もそうですが、俺のISは『博士特製のオーバーテクノロジー』なんでね。誰かに盗られたりしたら大変ですから」

 

 

 解析はできなくとも力を振るうことはできる。

 もしダークネスの力が他人の手に渡り、悪用でもされた暁には大変な事になるであろう。

 

 

「そうならない為にも私が側にいるのよ。

 私の家系は少し特殊でね、裏の事情にも精通しているの。だから安心して?

 

 

 ーーー『仮面ライダー』の橘 龍也君?」

 

 

「…………へぇ、知ってるんですね」

 

 

「動揺しないのね、一夏君とは大違い」

 

 

「あいつと一緒にしないでくださいよ。

 それで、まさか中の俺を知ってる人がいるとは思いませんでしたが……どうして知っているんですか?」

 

 

 そう言い放ち、殺気を出す龍也。

 だが楯無も伊達に次期更識家当主ではない、それくらいでは動じない。

 

 

「私と会ったことあるの、覚えてない?」

 

 

「え?…………あ」

 

 

 そう言えば昔、ダークネスに成り立ての頃に『たまたま』姿を見られてしまった2人の水色の髪の少女達がいた。もしやーーー

 

 

「えっと、ビルの隣の路地裏の………?」

 

 

「そうよ、昔貴方がビルの横で武装を解除してるところに出くわしたのは私と私の妹」

 

 

「まじですか……」

 

 

 やっちまった、と言わんばかりに頭を抱える。

 思わぬ再会、しかもたまたま姿を見られたのが学園で最強の人間だとは想像も付かなかった。

 やらかした事の内でも印象に残っていたので、本人もよく覚えていた。

 

 

「あの後気になって少し調べたのよ。そしたら『黒い鎧のIS』がいるなんて噂があるから、まさかと思ってね。

 一夏君で初めて存在をちゃんと認識したけど、龍也君の時も解除前をチラッと見てたから」

 

 

「あいつ……」

 

 

 人のことを言えたことではないが、きっと自分と同じヘマをしたであろう一夏を恨めしく思う。

 

 

「貴方は何をしていたの?その力は一体何?」

 

 

 目を厳しくし問いかけてくる。

 

 

「詳しくは言えません、無関係な人間を関わらせるわけにはいかないので」

 

 

「セシリアちゃんには話してたのに?」

 

 

「彼女は一夏から概要を聞いているので仕方ありません。それを貴女が聞いていたのなら、それはそれでいいでしょう。

 ですが、俺自身が何をしていたか、行っていたかを喋る必要はないので。すいません」

 

 

「もうっ、ケチなんだから龍也君は」

 

 

「いやいや、そういう問題じゃないでしょうよ」

 

 

「自分の間抜けで正体もばれちゃうような人なのに」

「うっ、痛いところを……」

 

 

 拗ねた(?)楯無の言葉に傷を抉られる龍也。

 

 

「ふふっ、まぁ今はいいわ。でもいつかは話してちょうだいね?」

 

 

「そんな日がくればいいですけどね」

 

 

「えーそこは約束してよ」

 

 

「はいはい、わかりましたよ」

 

 

「むぅ、返事が適当……いいわよ、後で龍也君がお風呂に入ってる時に侵入しちゃうから」

 

 

「や、やめてくださいよ!仮にも護衛の立場の人が!」

 

 

「冗談よ、そんなに照れなくてもいいじゃない」

 

 

 ニヤニヤと揶揄われる。

 女性関係に弱すぎるではないのかと思うが、龍也はこういう人間だ。自分が攻められることに慣れていない。

 

 

「まったく……それじゃあ先にお風呂はどうぞ、俺は少し荷物の確認をしたいので」

 

 

「あら、いいの?それじゃあお言葉に甘えちゃおうかな〜」

 

 

 上機嫌で風呂場へ向かう楯無。お湯を溜めてはいないので、今晩はシャワーだけで済ますのだろうか。

 

 

 姿が見えなくなる寸前で楯無は振り返り、

 

 

「ーーー覗かないでよ?」

 

「覗きませんよ!!!」

 

「ふふふっ」

 

 

 また揶揄っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみにこの後、

 

 

「あ、それと、盗聴器と監視カメラは全部撤去しておいてあげたから感謝してね?龍也君?」

 

「助かります、自分でゴミ袋に放り込む必要がなくなりました」

 

 

 こんな有能な会話があったとか。

 




ルームメイトは楯無さんでした。
今後の話の為に接触させる必要があっただけなので、出会い方はあまり気にしないでください。



‥‥‥ビルの横で変身解除して見られた次の日から龍也は人前で変身を解くことはなくなりました←


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第二十四話

 

 

 

 

「ふぅ、これはここでいいか」

 

 

「本当にありがとね橘君、助かったよー」

 

 

「これぐらいお安い御用だよ、また何かあったら遠慮なく言って」

 

 

「うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここってどうするの?」

 

 

「これはね、この公式を応用してーー」

 

 

「わ、すごいこんな簡単に解けるんだ」

 

 

「よくこっちを使おうとして引っかかるタイプの問題だね、似たような問題もこれから出てくるだろうから気をつけて」

 

 

「わかった、ありがとう橘君!」

 

 

「どういたしまして」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えいっ」

 

 

「わ、ちょっと本音ちゃん!?」

 

 

「出発進行〜」

 

 

「しょ、食堂に行くのにわざわざ背中に乗る必要はあるの?(ぐ、背中に柔らかい感触が……!)」

 

 

「ほら、早く行くぞ龍也(顔真っ赤だな)」

 

 

「何をしている、もたもたするな」

 

 

「ああ、もう!わかったよ!」

 

 

「んふふ〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………ッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう!なんなのよ!」

 

 

「……またですか?鈴さん」

 

 

 ここ数日、セシリアと鈴は二人で昼食を摂っている。

 その理由もーーー

 

 

「いいじゃない別に!あーもうムカつく!」

 

 

「そんなにイライラなさるなら直接文句の一つでも言ったらどうです」

 

 

「それとこれとは別よ!」

 

 

「……はぁ」

 

 

 龍也は、学園に来て以来一夏と箒と本音を含めた四人で昼食を食べている。

 何故かというのは簡単で、本音が龍也を誘い(ほぼ連行の様なもの)、それに一夏と箒がついて行く為だ。

 

 

 それを見ていて面白くない鈴。

 また、昼の間だけでなく様々な時間で龍也を見かけるのだが、その度に誰かしら女の子が横にいるのだ。

 少しずつ溜まる鬱憤を晴らすため、要は愚痴を聞く相手としてセシリアがここ数日は同伴している。

 

 

「(これは確定ですわね。難儀な性格をしていらっしゃる、鈴さんは)」

 

 

 セシリアは鈴が怒る理由に気づいている。

 決まって龍也が女の子といる場面を目撃する鈴が、その後から眉間に皺を寄せるからだ。

 

 

「(しかも自覚無しときましたか、中学時代からずっとなのでしょうか)」

 

 

 憤慨している鈴を他所に優雅に紅茶を飲んでいる。

 大人の女性の落ち着きとはまさにこのことだろう。

 

 

「きっとあたしが見てないところでもそうなのよ!他の女といちゃいちゃしてんのよ!」

 

 

「龍也さんは一夏さんと同じタイプのようですしね、お節介焼きというか根が善人というか」

 

 

「…………あんたも、あいつのこと下の名前で呼んでるのね」

 

 

「え?……はい」

 

 

「ふーん、そっかぁ……」

 

 

 地雷を踏んだか、と思うセシリア。

 自分にも何か文句が飛んでくる前にこちらから手を打とう、と先手を取る。

 

 

「鈴さんは、龍也さんが女の子に囲まれているのを見て何が気に入らないのですか?

 ここは二人を除いて全員女子生徒、仕方のないことではあると思うのですけれど」

 

 

「………わかんないわよ。久しぶりに会ったあいつが、取られるのが怖いのかも」

 

 

「(そこは自覚があるのですね。ですが、『取られる』とは私のものであるという言い回しにも聞こえますけれど)」

 

 

「あたし、どうしたらいいんだろ」

 

 

「龍也さんと一度お話してみては如何でしょうか?」

 

 

「それが出来たら苦労しないわよ」

 

 

 はぁ、とため息をつく鈴。

 

 

「いつまで経っても行動を起こさなければ状況は変わりませんことよ」

 

 

「…………うん、そうだね」

 

 

「まぁ何かあればわたくしがお手伝いして差し上げますわ」

 

 

「ありがとね、セシリア」

 

 

「いいえ、友人の為ですもの、これくらいは」

 

 

「………あたしが男だったら、あんたに惚れてるわ、きっと」

 

 

「歯の浮くような言葉はもう聞き飽きてますわ、わたくしはそう簡単には落ちませんことよ」

 

 

 それでは、と先に席を立つ。

 

 

 その後、残された鈴は昼休みの時間終了ギリギリまで考え込んでいたが、結局心のもやもやは取れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「セシリア、ちょっといいか?」

 

 

「はい?如何されましたか、龍也さん」

 

 

「鈴のことで、聞きたいことがあるんだけど」

 

 

「……鈴さんが、何か?」

 

 

 時間は変わり教室、授業が終わると同時にセシリアに話しかける龍也。

 

 

「それがな、クラスに来た初日から、なんでか俺に対して怒ってるっぽいんだよ。入学前に話した時はそんなことなかったのに。

 だからこっちからも話しかけ辛くて………心当たりもないし、困ってるんだ。何か知らないか?セシリアは」

 

 

「何故わたくしに?一夏さんや2組の方に聞いてもよろしいのでは?」

 

 

「最近セシリアと鈴が一緒に行動してるのを見かけるからさ、もしかしたらって思って。なあ、何か知ってたら頼むよ」

 

 

「そうですわね……」

 

 

 どの程度掻い摘んで話すかを模索する。

 まさか、貴方が女にちやほやされているのが気に入らないからとは言えないからである。

 

 

 そして、出した結論は、

 

 

「わたくしからは、全ては言えませんわ。

 ただ、貴方のことが嫌いになったからとか、そういうわけではございません」

 

 

「じゃあなんで……」

 

 

「……一度、鈴さんと話してみてください。そうすればきっと、解決しますわ」

 

 

「んー、そっか、そうだな。こっちから行かないと何も解決しないよな」

 

 

「ええ」

 

 

「とりあえず嫌われてないってことがわかってよかったよ、ありがとな」

 

 

 感謝されるが、セシリアは龍也に聞きたいことが一つあった。

 

 

「龍也さんは、鈴さんに嫌われてしまうのが、嫌ですか?」

 

 

「え?……ああ、当たり前だろ。昔からの大事な友達なんだ、嫌に決まってる」

 

 

「そう、ですか。ありがとうございます、もう結構ですわ」

 

 

「おう、それじゃあ」

 

 

 セシリアの元から離れていく。

 きっと龍也は次の休み時間にでも鈴の元へ行き、話し合う予定を決めたりでもするだろう。

 

 

「(あの様子ならすぐに解決、すればよろしいのですが)」

 

 

 このままでは終わらない予感がする、そんな不安を抱えるセシリアであった。

 



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龍也と鈴

 

 

 

 

「(あー、なんか入りづらいわ)」

 

 

 1組の教室の前へ来た鈴。

 だが、他クラスということもあり気が引けたのか少し躊躇う。

 

 

「(気持ちの問題かしらね………よし)」

 

 

 普段であればそんなこと気にしないのだが、状況が状況である為か。

 

 

 そして、ドアを開けようとした瞬間、

 

 

「鈴?」

 

 

「ひぃっ!?い、一夏!?」

 

 

 後ろから飛んできた声の主は、旧友である織斑 一夏。

 

 

「な、なんだよ、そんなに驚くことでもないだろ」

 

 

「急に声かけてこないでよ!びっくりするじゃない!」

 

 

 もうっ!と顔を赤くして怒る鈴。

 何で怒られなきゃいけないんだ?と疑問に思う一夏。

 

 

「で、1組の前で何やってるんだよ。誰かに用事か?」

 

 

「そんなところ。ちょっとあいつにね」

 

 

 視線を教室の中へ向ける。

 そこには龍也の姿が。

 

 

「龍也か。呼んできてやろうか?」

 

 

「いいわよ、自分で行くから」

 

 

 一夏と会話して少し落ち着きを取り戻す。

 

 

 そのまま1組へ入り、龍也の席の近くへ歩いて行く。

 

 

「龍也、ちょっといい?」

 

 

「ん?あ……鈴」

 

 

「(な、なんでちょっと気まずそうな顔するのよ)」

「(やべっ、しかめっ面してるし怒られんのかな)」

 

 

 話しかけたのはいいが、互いに黙り込んでしまい空気が重くなる。

 そんな2人を見かねた近くの席のクラスメイトが助け舟を出す。

 

 

「凰さん、橘君に用があるんじゃないの?」

 

 

「へ?あ、ああ、そうよ。龍也今日放課後空いてる?」

 

 

「放課後は、空いてるけど」

 

 

「えっと、じゃあ、その……」

 

 

 言い淀んでいたが、覚悟を決めた顔になる鈴。

 そしてーーー

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー話したいことがあるの、時間ちょうだい」

 

 

 

「……ああ、いいぞ。俺も鈴と話したいことがあったんだ」

 

 

「そう、ならちょうどいいわね。場所は屋上でいい?」

 

 

「おう」

 

 

「ん、それじゃまた後で」

 

 

 言い終えたら終えたですぐ教室を去る鈴。

 

 

 放課後何言われるんだろうなぁ、と少し暗めな思考で1人考えていた龍也だが、気づけば周りのクラスメイトが静かになっていることに、そしてこっちを見ていることに気づく。

 

 

「な、なんだよみんな、どうしたんだ?」

 

 

「た、橘君………」

 

 

「?」

 

 

 なかなか言わないクラスメイトに疑問符を浮かべる。

 すると、1人のクラスメイトがーー

 

 

 

 

 

「橘君さ、凰さんのこと好きなのー?」

 

 

 

 

 ピシッ、と空気が固まる。

 

 

「な、ななななななに言ってんだよいきなり!?」

 

 

「えーだってねー」

「さ、さっきの会話って、その、放課後の呼び出しじゃないの?」

「橘君も話したいことあるってことは、もう既に両思いだったりして!」

 

 

【放課後の呼び出し→話したいことある→両思いか?→→→告白される】

 

 

 いくら鈍い龍也でも、これだけヒントがあればすぐに答えにたどり着いた。

 

 

「ち、違うって!告白とかじゃなくて、普通に鈴に話があるだけで……」

 

 

「橘君が違くても、凰さんはわからないよー?」

「ねー」

 

 

「…………え?」

 

 

「もしかしたら本当に告白されるかもしれないよ」

「さっきの凰さんの感じだったら尚更ね」

 

 

「い、いや、鈴に限って、そんな事は……」

 

 

 中学時代に毎日を共に過ごしていた鈴がまさか、とは思う。

 しかし今はもう世間的には高校生である年齢、中国から帰ってきた鈴は女性らしくなっていたし、そういう年頃であるのは間違いない。

 

 

「(お、落ち着け俺。俺の早とちりだ。大体あの鈴が俺に告白なんてあるわけーー「りゅ〜くん?」ーーは、はい?」

 

 

 後ろから届く威圧感を含んだ声。

 振り返ればそこには顔は笑っているが目が笑っていない布仏 本音が。

 

 

「りゅ〜くんは告白なんてしないよねぇ?」

「え、いやだから……「しないよねぇ?」は、はい!しませんっ!」

 

 

「そうだと思ったよ〜私の勘違いかぁ」

 

 

「(こ、こえええええ今の本音ちゃん!)」

 

 

 後に龍也は語った。のほほんとした面影は実は偽りの姿で、本当は人間の仮面を被った(小)悪魔なのではないのか、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………」

 

 

「……………………」

 

 

 あれから全ての授業を終え、時間は放課後。

 屋上にいる龍也と鈴だが、外を眺めるだけで会話が始まらない。

 

 

「(ど、どうすればいいんだ俺は。やっぱり謝るべきか?いや、でも何のことで怒ってるかもわからないのに謝るのはーー)」

 

 

「ねえ、龍也」

 

 

「お、おう!どうした?」

 

 

 普通に声をかけられただけなのだが、思案していた為驚いてしまう。

 すると、異変を感じたのか鈴は、

 

 

「………あんたさ、昼間からなんかよそよそしくない?」

 

 

 ジト目で龍也に問いかける。

 

 

「い、いや、そんなことないぞ?」

 

 

「じゃあなんで焦ってるのよ」

 

 

「別に焦ってなんてねえよ」

 

 

 視線を逸らし、冷や汗をかいているのを見れば焦っていることは一目瞭然なのだが。

 

 

「………そっか、あんたも変わったのよね」

 

 

「え?何をーー」

 

 

 

 

 

「ごめんね龍也、もう関わらないようにするから」

 

 

 

 

 

「……は?お前何言ってーーー」

 

 

 そう言って横を通り抜けようとする鈴の腕を掴み引き止める。

 

 

「待てよ」

 

 

「ッ、離してよ!」

 

 

「訳の分からねえこと言って立ち去る奴を、そのままにしておくわけないだろ」

 

 

「……………………」

 

 

 俯き黙り込んでしまう鈴。

 

 

「なあ、なんでそんなこと言うんだよ」

 

 

「だって、あんたが……」

 

 

「やっぱり、俺が悪いことしたのか」

 

 

「違うッ!!」

 

 

「え?………じゃあ、なんで」

 

 

 自分の推測が外れていたことに内心驚く龍也。

 

 

「……一つ聞いてもいい?」

 

 

「ああ、いいぞ」

 

 

「あんたにとって、あたしはどんな存在?」

 

 

「俺にとっての、鈴?」

 

 

「真剣に答えて」

 

 

 真っ直ぐ目を見て問いかけてくる。

 そんな鈴に向き合うために目を閉じ考える。

 

 

「んーそうだなぁ」

 

 

「………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー帰るべき場所、かな?」

 

 

「…………は?」

 

 

 思わぬ返答に気の抜けた返事がでてしまう鈴。

 

 

「お前と一夏は、俺が『ダークネスになる前から』の友達だったんだ」

 

 

「力を手に入れる覚悟をした時、真っ先にお前らの顔が浮かんだ。

 俺が悪事を働く人間と戦って、平和を守れば、そこにはお前達がいてくれる。それを壊したくなくて、ダークネスになった」

 

 

「だから勝手にだけど、2人には俺が生きて戻ってきた時に、笑って、馬鹿なことをできる日常になってもらってた」

 

 

「何よ、それ」

 

 

「はは、ちょっとキザ過ぎたかな、わるーーー」

 

 

 

 

 

「ーーーあんたはそんなこと言って、あの日帰って来なかった!!!!!」

 

 

「………………ッ」

 

 

「あたしと一夏が、どれだけ、どれだけ辛かったか……!」

 

 

 まだ溶けきっていなかった想いが、溢れる。

 1年以上溜め込んだ辛さを、一夏の時とは違って本人へぶつける。

 

 

「争いなんてあたし達には関係のないことだった!あのままずっと毎日を楽しく過ごせてたら、それでよかったじゃない!!」

 

 

「…………それも、よかったのかもしれないな」

 

 

「だったら……「でも」……え?」

 

 

 

 

「俺は、後悔はしてない」

 

 

 

 

 

「……どう、して?」

 

 

「この世界には、権利団体からの迫害を受けて苦しんでる人達が少なからずいる。それはもう鈴も知ってることだろう。

 それなのに誰からも処罰されることなく、のうのうと人々を苦しめ続けて生きてる奴らがいる。それが俺には、放っておけなかったんだ」

 

 

「確かに、誰かがやればそれでいいのかもしれない。

 でも、俺は自分の意思で『仮面ライダー』になった。世界の悪意に、抵抗するために」

 

 

 

 

 

 

 

「…………そんなの、自分勝手よ」

「他人に左右されることじゃないからな」

 

 

「あたし達の気持ちなんて、ちっとも考えてないじゃない」

「ごめん」

 

 

「約束だって、守ってくれなかったし」

「忘れた事なんてなかったけどな、中華だろ?」

 

 

 

 

 

 段々と下を向いていき、声と身体が震え始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………も、う、いなくなったり、しない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーああ。絶対にもう、勝手にどっか行ったりしないよ。今度こそ、約束だ」

 

 

 

 

「う、ん……!約束、して……!」

 

 

 

 

 瞳から涙が溢れる。

 そんな鈴の頭を撫でる龍也。

 

 

 

 鈴が落ち着くまでは、数分必要とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「恥ずかしいところを、見せたわね」

 

 

「気にすんなって、そんなの今更だろ?」

 

 

「ふふ、それもそうね」

 

 

 穏やかな笑みを浮かべる鈴。

 何か憑き物が落ちたような、そんな顔をしている。

 

 

「あー、それでさ、俺の話なんだけど」

 

 

「ん、何?」

 

 

「その、勘違いだったらいいんだけど、なんか最近鈴に避けられてたのかなー、って思ったからさ」

 

 

 少女のように視線を逸らしながら聞いてくる龍也に、苦笑を浮かべる。

 

 

「あんたが女の子に囲まれてるから、声かけ辛かったのよ。それだけ」

 

 

「なんだよそれ、そんなの気にしなくていいのに」

 

 

「(そんなこと言ったって、ズカズカと踏み込んでいくだけの勇気なんてないわよ)」

 

 

 内心少し呆れる鈴。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は他の人達より、鈴と一緒にいたいけどな」

 

 

 

「ーーーーーーーーッ」

 

 

 

「1年も会えなかったんだ、失った分の時間を取り戻さなきゃな」

 

 

 

 優しい笑顔で、手を差し出す龍也。

 少し呆気にとられるが、すぐに意識を現実に戻す。

 そして、差し出された手を取りーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーそうね。この先ずっと、一緒にいましょう?」

 

 

 

 

 花が咲くような満面の笑みで、鈴はそう言った。

 










プロポーズですか?いいえ、違います()


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第二十六話

あっさりと残り2人のヒロインとの回を。


 

 

 

 

 龍也と鈴が話している頃、とある部屋での出来事。

 

 

「む〜」

 

 

「どうされましたか、束様」

 

 

 会話をしているのは、篠ノ之束と娘のクロエ・クロニクル。

 

 

「むむむむ〜」

 

 

「唸るだけではわかりませんよ」

 

 

「束さんレーダーにね、いやーな反応がある気がするよー」

 

 

 びびびび、と触角のように毛を見立て何処かも分からぬ方向を示す。

 レーダーと言っても要はただの直感なのだが、この天災の直感が外れるかと言われればそれもまた怪しいものである。

 

 

「……気の所為では?」

 

 

「いーや、これは絶対何かあるよクーちゃん!という訳で……」

 

 

「(ああ、これはおそらく何かしらの理由をこじつけてーーー)」

 

 

 

 

 

 

 

「りゅーくんに会いに行くのだ!待ってろよー!むふふー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(とりあえず、部屋に戻ったらシャワーでも入ってから飯行くか)」

 

 

 鈴との話を終え、1人で寮室へと戻る龍也。

 

 

「(楯無さんもう帰って来てるかな、一緒に食べるか誘ってみるか)」

 

 

 これからの予定を決める。

 そして、自室のドアの前に着き、軽くノックをしてから部屋へ入ると、

 

 

 

 

「やあやありゅーくん、久しぶりだね。元気にしてたかなーー」

 

 

 

 

 本来であれば見ることのない、ありえない光景に思わず扉を閉める。

 前にも同じ部屋で同じようなことがあった気がするが、それは置いておこう。

 

 

「(………なんでいる?楯無さんはいないのか?)」

 

 

 意外にも冷静に考えることができるのは、1年の間での慣れがあるのだろう。

 

 

「(次開けたらいないなんてことはーーー)」

 

 

 ドアを再び開ける。

 

 

「もう!なんで閉めるのさ!束さん怒っちゃうよ!」

 

 

「ないですよねー、はぁぁぁ」

 

 

 そこには、腰に手を当て叱るように此方を見る『天災』が。

 

 

「そんなに大きくため息を吐かれると束さんも悲しくなっちゃうよ?」

 

 

「何を今更、毎度の事じゃないですか」

 

 

「……りゅーくんの愛が厳しいよぉ」

 

 

 およよ、と涙を拭くようなそぶりまで見せ悲しんだフリをする束。

 そんな束を無視し本題へ入る。

 

 

「で、今日は一体何しに来たんですか?直接会いに来るってことは、それなりに厄介な話になってるとは思いますが」

 

 

 何かしらの面倒事を抱えてやって来たのだろうと推測する龍也。

 これでも1年も天災の付き人をやっていたのだ、それくらいはわかると踏んでいたのだがーーー

 

 

「え?何もないけど?」

 

 

「………………は?」

 

 

 思わぬ返答に呆気にとられてしまう。

 

 

「いっくんとりゅーくんのお陰で世の中も少しは平穏になったし、束さんとクーちゃんはのんびりする毎日だよ〜」

 

 

「えっと、じゃあどうして……」

 

 

「ただ会いに来るだけじゃだめなの?」

 

 

「そんな事はないですけど」

 

 

「なら問題ないよねっ!」

 

 

 胸を張って自信満々に言う束。

 すると、奥からもう1人出てくる。

 

 

「お帰りなさいませ、龍也様」

 

 

「クロエ!?君も来てたのか!?」

 

 

「はい、束様に連れられて。お久しぶりですね」

 

 

「そうだな、俺がラボを出てった時以来か」

 

 

「体調は崩されていませんか?」

 

 

「元気にやってるよ、心配すんな」

 

 

「そうですか、ならよかったです」

 

 

 まるで彼氏と彼女か、もしくは夫婦のような空気を出し再会を喜ぶ2人に、束が憤慨する。

 

 

「ちょっとぉー!束さんもクーちゃんとおんなじくらい久しぶりなんだけど!?」

 

 

「普段の行いの差ですよ、束さん」

 

 

「申し訳ありません束様、こればかりはなんとも」

 

 

「うわぁーん!クーちゃんまで敵に!味方がいないっ!」

 

 

「ははっ」「ふふふっ」「笑うなー!」

 

 

 こんなやり取りも、全員が楽しそうな顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、数十分かはたまた1時間程度か、話を楽しんだところで龍也は当初の目的を思い出す。

 

 

「あ、そういえば俺、これから風呂と夜飯に行く予定だったんだ」

 

 

「おや、そうでしたか。長い事滞在しましたし、そろそろですかね束様」

 

 

「えーまだいいよー」

 

 

「これ以上居ては、迷惑になってしまいますよ」

 

 

「んーそれもそうだね。仕方ないか」

 

 

「(思ったよりあっさり引き下がったな、珍しい)」

 

 

 内心多少驚く中、立ち上がった2人のうちクロエが龍也の元へ寄ってくる。

 

 

「そうです、龍也様。最後に一つお聞きしたいことがあります」

 

 

「お、なんだなんだ」

 

 

 

 

 

「龍也様がIS学園に入学された日の、織斑千冬との話の内容についてなのですが」

 

 

 

 

 

「な、なんですとぉ!?」「ちょ、ちょっとクーちゃん!」

 

 

 急に慌て出す龍也と束。

 束に至っては顔を真っ赤にする始末。

 

 

「な、なんで2人が知ってるんだよ!?……って、ま、まさか……!」

 

 

「これから上手くやっていけるかが心配とのことで、束様と『見させて』いただきました」

「やっぱりかーーー!!!」

 

 

「ううう、その話はもういいよぉ……///」

 

 

「いえ、束様。本人の口からしっかりと聞かなくてはなりませんよ。

 それで、龍也様。『あの言葉』は本心ということでよろしいのですか?」

 

 

「ち、ちなみに、あの言葉とは……?」

 

 

「それは龍也様自身がご理解のはずです」

 

 

「い、いや、でも、本人を目の前にしてはちょっと……」

 

 

「ほう、ではあの発言は嘘だったということでよろしいでしょうか?」

「え、りゅーくん………」

 

 

「(なんで束さんそんなに悲しそうな声出すんですかー!?勘弁してくれ!)」

 

 

 クロエに追い詰められ困り果てる龍也。

 

 

 

 

 だが、ほんの数秒悩んだ後、男は覚悟を決めた。

 

 

 

 

 

 

「ーーーいや、俺は束さんを、立派な美人だと思ってるぞ!!」

 

 

 

 

「おお……」「ちょ、ちょっとりゅーくん!?」

 

 

「(自分に嘘をつく事は許されねえ!そして何より、女性を悲しませるなんてもってのほかだぜ!)」

 

 

 謎の男気を見せ、堂々と仁王立ちするかのように宣言した龍也。

 

 

「具体的には、どの部分が美人と思いですか?」

 

 

「へ?そ、それはだな、その、なんだ……」

 

 

 今度はどう伝えればいいか迷い始める。

 結果、龍也が放った言葉はーーー

 

 

 

 

「全部、かな?」

 

 

 

「ーーーーーーーッッ!!!!」

 

 

 

「ほう……全てときましたか、そうですか」

 

 

 

 思わぬ返答にニヤニヤが隠しきれないクロエ。

 もう勘弁してくれ、と言わんばかりにげんなりしつつも頬を赤くする龍也。

 

 

 そして、束はーーー

 

 

 

 

「りゅーくんのばかぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

「あ、ちょっと、束さん!?……行っちゃった」

 

 

「許容範囲を超えてしまいましたか、仕方ありませんね」

 

 

 顔をトマトのように赤く染めながら、捨て台詞を吐き部屋を物凄い勢いで飛び出して行った。

 

 

「おいおい、大丈夫か。ここIS学園の中だぞ」

 

 

「安心してください、束様なら見つかる心配はないかと」

 

 

「そこの信頼はあるのな。……まぁ俺もそう思うけどさ」

 

 

「さて、それでは私もそろそろお暇させていただきます」

 

 

「1人で平気か?送って行こうか?」

 

 

「いえ、ご心配なく。問題ありません」

 

 

「そっか、じゃあまたなクロエ」

 

 

「はい」

 

 

 ドアの方へと向かって歩いて行くクロエ。

 すると、ドアの前で振り返りーー

 

 

「あ、そうです」

 

 

「ん?まだ何かあるのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーお父様とお呼びしたほうがよろしいでしょうか?」

「やめてください!!!」

 

 

 

 この日は、珍しく存分にクロエに揶揄われた2人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「げぇっ!?ちーちゃん!?」

 

 

「な、ん、で、お前がここにいるんだ……!!」

 

 

「いや、ちょっ、アイアンクローだけは!アイアンクローだけはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 

 ーーーちなみに、結局部屋を飛び出した天災は世界最強に見つかりこってり絞られたとのこと。

 





この作品の束さんはピュア設定でお送りしておりますが、後は本来の束さんとなんら変わりありませんよ。天災ですからね。


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第二十七話

 

 

 

「ん〜♪」

 

 

「相変わらず朝からご機嫌だね、本音は」

「最近ずっとだね」

 

 

「え〜そんなことないよ〜」

 

 

「嘘」「嘘だ」

 

 

 朝、教室へと向かうために廊下を歩くのは本音と清香と静寐の3人。

 その様子は、軽くスキップをしながら先頭を歩く本音を後ろから2人が眺めているというもの。それがここ数日の日常である。

 

 

「あ、橘君いたよ」

 

 

「毎日眠そうだよね、朝弱いのかな」

 

 

「ふんふんふーん………りゅ〜くん?」

 

 

 龍也の名前に反応する本音。

 2人の気の所為か、その姿にピクッと反応する猫の耳のようなものが見えたとか。

 

 

「(あーねみぃ)」

 

 

 本音達の少し前をゆっくりと歩く龍也。

 あくびをしながら気だるそうにしており、歩くスピードは3人が追いついてしまいそうなほど遅い。

 

 

「橘君おはよー」「おはよ」

 

 

「ん?ああ、鷹月さん、相川さん、と……本音ちゃんも、おはよう」

 

 

 少し遠くから大きめの声で龍也に朝の挨拶をする。

 もう龍也が学園に来てから日が経った為か、声だけで2人を認識したが、挨拶を返そうと振り返るまで2人の先を歩いている本音には気づかなかった。

 

 

「りゅ〜くんおはよ〜」

 

 

 そう言って龍也の側に駆け寄り、腕を組む。

 

 

「ちょ、本音ちゃんまたですか……」

 

 

「いいでしょ〜だめ?」

 

 

「……ダメ、じゃないけどさぁ」

 

 

 上目遣いで問いかけられてしまえば龍也は断れない。男とは悲しいものである。

 

 それと、普段であれば身体を密着させられれば驚きの声を上げたりする龍也なのだが、朝のせいか口調に覇気が感じられず、あまり動じなかった。

 

 

「早くいこ〜」「はいはい」

 

 

「なんか、熟年の夫婦みたいだね」

「朝だけね。お昼にあれになったらまた顔真っ赤にするんだよきっと」

 

 

 最早恒例となった『龍也パニック(本音にのみ)』もクラスの皆は見慣れたものである。

 むしろ、普段は誰とでも気兼ねなく親身になって女の子と話す龍也が、慌てふためく様子はギャップで可愛いとかなんとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「橘君、本音、おはよー」「おはー!」

 

 

「おいっす」「みんなおはよ〜」

 

 

 教室へ入れば、クラスメイトに声をかけられる。

 

 

「あの、本音ちゃん、そろそろ離れて?」

 

 

「ん〜わかった〜また後でね〜」

 

 

 ちなみに、この『また後でね』というのは再び引っ付くという意味である。

 主には昼休みに。

 

 

「(昼の俺、頑張れよ)」

 

 

 未来の自分へエールを送る。

 後々テンパることをわかってのことだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 本音が離れれば、次は旧友のうちの1人が近寄ってくる。

 

 

「よ、龍也。相変わらず朝は弱いのな」

 

 

「ああ、一夏か。まぁな」

 

 

「ルームメイトの人に迷惑かけてないか?なかなか起きないだろお前」

 

 

「かけてねえよ。どっちかって言ったら俺がかけられてる」

 

 

 ため息を吐く龍也。

 布団の中に違和感を感じて起きてみれば裸に近しい格好で忍び込んでいたり、風呂上がりにはバスタオル1枚の際どい格好だったりと、心拍数が上がることが頻繁に起きるからだ。

 

 

「一夏はどうなんだよ。箒と一緒に寝てんのか?」

 

 

「そ、そんな訳ないだろ!何言ってんだ!」

 

 

「試しに一緒に寝るか?って聞いてみろよ。喜んでOKしてくれるかもしれないぞ」

 

 

「ビンタされるか、下手したら竹刀でボコボコにされるのがオチだよ……」

 

 

「(お前の方が生身なら強いし、箒ならワンチャンあるだろうに)」

 

 

 とは思うが、口には出さずあえて内にしまっておく。

 箒の一夏を見る視線には気づいている龍也。

 他人の事情には、中学の時から敏感だったからだ。

 

 

「(ま、幼馴染ってアドバンテージもあるし、あの様子ならそのうちくっつくか?)」

 

 

 問題はこの超鈍感のモテ男をどう意識させるかだな、と考え始める。

 少し黙って視線を向けているままにしていると、

 

 

「?なんだよ龍也」

 

 

「いや、別に。(一夏が箒を少なからず女として見てれば、箒から告白すれば可能性はありそうだけど)」

 

 

 ちなみに、明確な好意ではないが、たった数日で龍也の評判はうなぎ登りである。

 男子2人は共に女子生徒、はたまた女教師にまで優しいという旗立て名人コンビであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お昼の時間、いつものように食堂へと向かおうとする龍也と本音。

 

 

「りゅ〜くんいこ〜」

 

 

「(よかった、今日は手か)」

 

 

 腕を組まれなかったことに安心する龍也。

 以外と女性関係の免疫がついているのか、手を繋ぐぐらいでは動じなくなっているように見えるが、本音に慣れただけである。

 

 

 と、引っ張られるようにクラスを出るが、声をかけられ立ち止まる。

 

 

「ちょっと、待ちなさいよ」

 

 

「ん?……って、鈴じゃないか」

 

 

「あんた何やってんのよ」

 

 

 ジト目で問いかけてくるのは、教室の外に立っていた鈴。

 

 

「いや、食堂に行こうとしてたんだけど」

 

 

「女と手繋いで、か。ふーん、いい度胸ね、あたしがいるのに」

 

 

 ピキピキと青筋を立てる鈴。

 鬼のようなオーラを感じ思わず一歩下がってしまいそうになる。

 すると、隣にいる本音が今度は力強く龍也を引っ張る。

 

 

「ーーーりゅ〜くん、早くいこっ」

 

 

「おわっ!ちょ、ちょっと!」

 

 

「だから、待ちなさいってば」

 

 

 龍也の空いている腕を掴み進行を止める。

 そして、龍也を挟んで本音に問いかける。

 

 

 

 

 

「あんた、龍也のなんなのよ」

 

 

「そういう貴女こそ、りゅ〜くんのなんなのかな〜?」

 

 

 

 

 

 バチバチバチと、交わされる視線の間に火花が散る。

 

 

「あたしは龍也の中学の時からの同級生よ」

 

 

「私だって、中学生の時からの友達だもん。ね?りゅ〜くん!」

 

 

 そう言って本音は、繋いでいる手を腕組みへと持っていく。

 

 

「ーーーちょっと龍也、どういうこと?」

 

 

「へ?い、いや、その……痛っ!」

 

 

 掴まれている腕の肉を思いっきり摘まれ激痛が走る。

 

 

「ふーん答えられないんだ。そっかぁ……」

 

 

「あ、あの、鈴さん?」

 

 

「…………なら、こうしてあげる」

 

 

「お、おい、鈴!?」「ーーーーむっ」

 

 

 摘んでいた指と掴んでいた腕を離し、本音と同じように腕を組む。

 

 

「別にいいでしょ、その子だって腕組んでるんだから。

 それとも、その子は良くてあたしはダメなわけ?」

 

 

「そうじゃないけど……」

 

 

「じゃあ問題ないわね。早く行きましょ」

 

 

「………………ふん、りゅ〜くんのばか」

 

 

「(ああ、もう!どうしたらいいんだ俺はぁぁぁぁ!!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーちなみに、この3人の昼食が終始非常に微妙な空気であったことは、一夏と箒とセシリアしか知らなかったとの事。

 




ヒロイン2人の対面回でした。





‥‥‥あれ、本音と龍也いちゃいちゃしてないっ(絶望)


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第二十八話

 

 

 

「あ」「あっ」

 

 

 放課後、廊下を歩いていた鈴と本音は偶然出くわした。

 

 

「……あんた、この後暇?」

 

 

「え?……うん、特に何もないよー」

 

 

「じゃあちょっと『お話』しましょ」

 

 

「いいよ〜」

 

 

 あっさりと行動を共にし始める2人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所を鈴の部屋に移し、互いに椅子に腰掛ける。

 ルームメイトであるティナ・ハミルトンは今出払っており、部屋には2人しかいない。

 

 

「まずは自己紹介からね。

 あたしは凰 鈴音。2組のクラス代表兼中国の代表候補生をやってるわ」

 

 

「私は布仏 本音、お姉ちゃんが生徒会のメンバーなんだ〜」

 

 

「呼び方は本音でいいかしら。あたしは鈴でいいから」

 

 

「うん、よろしくねーりんちゃん」

 

 

 笑みを浮かべ、友好の印として握手をする。

 

 

「それで、早速本題なんだけど」

 

 

「うん」

 

 

 少し鋭い目付きになる鈴。

 

 

 

 

 

 

「ーー本音、あんた龍也のことどう思ってるの?」

 

 

 

 

 

 

「………………えっ?」

 

 

 

 

 

 

「…………いやいや、えっ?じゃないわよ!」

 

 

 思わず立ち上がる鈴。

 まさかここで相手が呆気にとられるとは思わなかった為だ。

 

 

「私が、りゅ〜くんを?」

 

 

「そうよ。あんなにベタベタしておいて、今更何もないなんて言わないでよ?」

 

 

「そ、そんなこと言われても〜」

 

 

 もじもじと照れてしまう本音。

 

 

「……ああ、もう!まどろっこしいわね!

 

 

 好きなんじゃないの!?龍也のこと!」

 

 

「ーーーーーーーッッ!!」

 

 

 噴火したかのように顔を真っ赤に染める。

 それを見ただけで鈴は察した。

 

 

「ほら、その反応が答えじゃない」

 

 

「だ、だって〜」

 

 

「だって何よ」

 

 

「う、うう〜」

 

 

 落ち着きを見せない指をモジモジさせること数秒して、本音は答える。

 

 

 

 

「は、恥ずかしいんだもん……」

 

 

 

 

 視線を下に向け、少し体を縮こまらせて言う本音に鈴はーー

 

 

 

「(か、可愛い……!

 

 はっ!危ない、なんて恐ろしい子!)」

 

 

 

 ーー内心、既にやられかけていた。

 

 

「ま、まぁいいわ。あんたの事はわかったから」

 

 

「……そういうりんちゃんは、りゅ〜くんのことすきなの?」

 

 

「へぇっ!?」

 

 

 今度は鈴が素っ頓狂な声を上げる。

 

 

 

 

「あ、あたしは………ま、まぁ、好き、かな?」

 

 

 

 

「お〜」

 

 

「そ、その反応やめなさいよ!」

 

 

「えへへーそっかぁ。りんちゃんも私とおんなじかぁ〜」

 

 

「…………なんで嬉しそうなの?普通、嫌がるもんでしょ」

 

 

 自分の想像と異なった展開に、疑問が浮かぶ。

 

 

「ううん。私はりゅ〜くんと一緒にいられるだけで幸せだからー」

 

 

 えへへーと笑う本音が天使に見えたとかなんとか(鈴視点)

 

 

「そっか。あんたいい子ね」

 

 

「そんなことないよー、私だって嫉妬するもん」

 

 

 昼間のケースがそうだし、それ以外にも些細なことでやきもちを焼くことだってある。

 

 

「……うん。本音ならいいかな」

 

 

 小声で何かを決心する。

 

 

「?」

 

 

「ねえ、一つ提案があるんだけど」

 

 

「え?」

 

 

「ふふん、それはねーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、セシリア」

 

 

「なんですの、一夏さん」

 

 

「なんだよあれ」

 

 

「……わたくしが聞きたいですわ」

 

 

「「はぁ……」」

 

 

 2人が見ているものはーー

 

 

 

 

 

 

 

「はい、りゅ〜くん、あーん♪」

 

 

「あむ。……うん、美味しいよ本音ちゃん」

 

 

「ソースが付いてるわよ、まったく」

 

 

「悪い、ありがとな鈴」

 

 

「いいわよこれくらい。ほら、まだまだあるんだからたくさん食べなさい!」

 

 

 

 

 

 

 ーー地獄のように甘い空間。

 つい先日修羅場だった3人が、1日経てばあら不思議、カップル(3人)のようになっているではないか。

 

 

「あいつら、昨日は修羅場みたいな雰囲気だったよな?」

 

 

「ええ、ですがどうやら、仲は良くなったようですわね」

 

 

「……彼女達公認の二股になるのかなぁ」

 

 

「……そうですわね、おそらく」

 

 

 そう、昨日本音と鈴が結んだ協定は、『龍也は2人の共有財産』であるということだ。

 最も、龍也本人はそれを知らないが。

 

 

 そして今は、2人が手作りした昼食を、俗に言うあーんで食べさせている最中だ。

 

 

「(それにしても鈴のやつ、中学の時とはえらい違いだな)」

 

 

 親友2人がイチャイチャしている様は、なんだか気恥ずかしいものがある。

 

 

「ふふ、まるで夫婦ですわね。2人いますけど」

 

 

「完全に新婚だな。2人いるけど」

 

 

 疑問や違和感を捨て諦め、暖かい目で(無理矢理)3人を見るセシリアと一夏。

 そこに、箒がやって来る。

 

 

「遅れてすまない、ってどうしたのだ?………な、なななななんだあれは!!」

 

 

「あ、やべっ」「あら、箒さん」

 

 

 

 

 

 

「ほら、鈴。あーん」

 

 

「あーん、っと……んん〜美味しい♪」

 

 

「お前らが作ったんだろうが……」

 

 

「りゅ〜くんりゅ〜くん、私にもちょーだい?」

 

 

「おう、ほら、あーん」

 

 

「あーん♪」

 

 

 

 

 

 

「は、破廉恥だ!!!」

 

 

「破廉恥って……いつの時代ですの箒さん」

 

 

「箒はこういう奴だよ、セシリア」

 

 

「ふむ、そうですか」

 

 

 何かを考え出すセシリア。

 そっと箒に近寄り、耳元で小声で言う。

 

 

「(箒さん、そんな様子では一夏さんとイチャイチャするのは厳しくてよ?)」

 

 

「(な、何を言うんだお前は!?何故私が一夏と……)」

 

 

「(あら、そういうことでしたらわたくしの勘違いでしたわね。申し訳ありません♪)」

 

 

「(くっ、セシリア……!)」

 

 

「なんだよ、2人で俺を除け者にするなって」

 

 

「ふふっ、早くわたくしたちも食事を済ませましょうか」

 

 

「………ふん!行くぞ!」

 

 

「お、おい!ちょっと!」

 

 

 3人は速やかに食事を済ませ、すぐに異色のオーラを放つ食堂から出たとか。

 

 




『鈴ちゃん』という呼び方は、簪に対する『簪ちゃん』と同じ感じでお願いします。
りんりんにさせるのはちょっと‥‥ねぇ?



いい子×いい子=ハーレム になるんですね。


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番外編2 〜失われた命、2人の親友〜

番外編1の続きです。
時系列が度々変化します、ご理解の上読んでいただければと。


 

 

 

 

「(……ッ、なん、だ?)」

 

 

「ーー経過は良好、もう時期目を覚ますかと思います」

 

 

「了解。ありがとねクーちゃん」

 

 

「いえ。それより彼は、一体……」

 

 

「結局この束さんの頭脳でも『アレ』は解析できなかった。こいつに直接聞くしかないだろうねー」

 

 

「危険要素がなければ良いのですが」

 

 

「IS相手に瀕死まで追い込まれてるから、そこは大丈夫だと思うよ」

 

 

「(だ、れかの、声が、する)」

 

 

 少年は目を覚まさない。

 意識は朦朧としていて、自身が置かれている状況は理解できない。

 

 

「ーーそれと、織斑 千冬の方にはどうされるのですか?」

 

 

「黙っておくよ、ちーちゃんには。こいつを拾っておいたことはね」

 

 

「よろしいのですか?」

 

 

「うん。別に善意で助けたわけじゃないからね。もし用済みだと判断したら、すぐ処分する」

 

 

「そうですか」

 

 

 淡々とした会話。

 そこには情など一切なく、あくまで都合のいい道具のようでしかない。

 

 

「(ち、ふゆ、さん……?)」

 

 

「……ごめんね、いっくん。お友達をすぐに返してあげられなくて」

 

 

「束様……」

 

 

「……行こっか、クーちゃん。束さんお腹空いちゃったなぁ」

 

 

「はい。それではお夕食にしましょう」

 

 

「うん」

 

 

「(いち、か……り、ん……)」

 

 

 2人が部屋を出ると同時に、少年の意識も再び闇へと沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ******

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、千冬姉、どこ行ってたんだよ!?」

 

 

「…………いち、か」

 

 

「その、手に持ってるおもちゃみたいなのは?」

 

 

「……わからない」

 

 

「千冬姉……」

 

 

 家を急に飛び出したかと思えば、土砂降りの雨の中傘もささずに帰ってきた千冬。

 

 

「……とりあえず、お風呂沸かしておくから。風邪引くといけないから身体だけ拭いて」

 

 

「……ああ、すまないな一夏」

 

 

 風呂を沸かしに向かう一夏。

 玄関先に立っている千冬は濡れた髪を乾かす事もなく考える。

 

 

「(何処に行ってしまったんだ、龍也……)」

 

 

 ギリッ、と歯をくいしばる。

 指定された場所へ行ったのはいいが、橘 龍也本人はおらず、あったのは今手に持つおもちゃのような物だけ。

 そしてーー

 

 

「(…………あの血は、一体)」

 

 

 ーー引き摺られるように続いていた、何者かの血痕と思われるもの。

 考えたくはない。だが、状況が状況だけに嫌な想像をしてしまう。

 

 

「(何に、追い詰められていたんだ、お前は。世界最強の私であってさえも、頼りにならなかったというのか)」

 

 

 力には自信があった。

 生身、IS問わずそれこそ世界最強を張れる程には、と。

 それでも彼には頼られる事すらなかった。

 

 

「(私は…………)」

 

 

 何が起きていたか把握はしていない。

 もしかしたら思い過ごしなのかもしれない。

 だが、千冬の中に渦巻く虚無感は、一晩を越しても消えることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ******

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………知らない天井だ」

 

 

 スッと目を覚ました少年。

 意識は寝起き(?)だと言うのに完全に覚醒している。

 周りを見渡せば、見慣れぬ機械や装置が山程。

 

 

「此処は……それに、俺は……ッ!!」

 

 

 少し考えて思い出す。

 自分が何をしていたか、そして意識を失う前にどんな状況に置かれていたか。

 

 

「(どうして生きてる……!?出血量的に、もう助からなかったはずだ)」

 

 

 抉れていたであろう、腹の辺りを触るが、特に痕も残っていない。

 

 

「(俺の身体、人間のままだよな?)」

 

 

 改造されてサイボーグにでもされたか、そう解釈せざるを得ない。

 

 

 身体中の痛みに我慢しながら、立ち上がろうとしたその時、

 

 

 

 

 

 

「ーーーまだ起き上がっちゃダメだよ。傷は完全に治っていないから」

 

 

「ぐっ…………え?」

 

 

「聞こえなかった?傷はまだーー」

 

 

「い、いえ、それはわかりました」

 

 

 目の前に突如現れた女性に驚く。

 

 

「あの、貴女は?」

 

 

「『篠ノ之 束』って言えば、わかるかな?」

 

 

「なっ……!!」

 

 

 テレビやニュース、そして友人から聞いたことがある。

 iS開発者にして『天災』、篠ノ之束。

 

 

「物事の理解はできるようだね。

 後遺症は残っていないはずだけど、どうかな?」

 

 

「あ、はい。痛み以外は特に感じないですけど」

 

 

「そう」

 

 

 淡々とした返事、すると次には、

 

 

「早速だけど」

 

 

「え?」

 

 

 拳銃を突きつけられる。

 

 

「ーーお前は、何者かな?」

 

 

「……俺、ですか?」

 

 

「男なのに『ISらしき物に乗って戦っていた』。これを嘘だと言わせないよ?」

 

 

「……さすが篠ノ之博士、ご存知でしたか」

 

 

「あれだけ派手にぶっ壊してくれればね。

 まぁ、世間一般的に悪人と言われる人達のだけだったけど」

 

 

 最初は疑問でしかなかった。

 だが、軽く調べを進めると破壊されたIS搭乗者の特徴は、ほぼ全員が女性権利団体の人間であったり、裏では名の知れた悪名高い人物であった。

 

 

「俺は……」

 

 

 天災の目を見て、はっきりと答える。

 

 

 

 

 

 

「俺は、『ダークネス』。

 この世界の悪を裁くために戦っている、ただの戦士です」

 

 

 

 

 

 

『橘 龍也』は言った。

 

 

 ISが普及したこの世界での、異物の名を。

 

 

 そして自分をーーー戦士と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ******

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜1ヶ月後〜

 

 

 

「千冬さん、こんな場所に来てくれなんていきなりどうしたんですか?」

 

 

「……来たか、凰、一夏」

 

 

 人気のない場所、千冬に呼び出され一夏と鈴はいた。

 

 

「なあ、千冬姉。何か進展があったのか?龍也の事について」

 

 

「ッ!本当ですか!?」

 

 

 突如行方を眩ませた2人の親友。

 街での聞き込みや自分達の足での捜索など、できる限りのことはしていたが成果はなかった。

 

 

「………………今からお前達に言うことは、全てが事実だ」

 

 

「千冬姉?」「千冬さん?」

 

 

 明らかに様子がおかしいのは一目瞭然だった。

 そう、まるでーーー何かに苦しんでいるような。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……橘 龍也は、死んだ。現場の血痕からDNA鑑定で判明した。遺体の存在は、不明だそうだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「……………………は?」」

 

 

 

「………………」

 

 

 

「は、はは、何の冗談だよ、千冬姉」

 

 

「そ、そうですよ!何を、いきなり……」

 

 

 声が震える。

 脳が理解を拒否する。

 

 

 だが、無理にでも理解をせざるを得なくなる。

 

 

 

 

 

 

 

「………………っ、うっ、くっ…………」

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー織斑 千冬が、泣いている。

 

 

 

「ち、ふゆねえ……」

 

 

「すまない、すまない2人とも……」

 

 

 決して人に弱みを見せることのないあの世界最強が。

 今、2人の少年少女の前で、涙を流している。

 

 

 

「う、そよ」

 

 

「嘘じゃない」

 

 

「そんなこと、あるわけ……」

 

 

「全て、真実だ」

 

 

「……ッ、うそだうそだうそだ!!!!

 だって、龍也は、あたしの、料理を、食べて、くれるって‥‥」

 

 

「鈴……」

 

 

「あ、あああ、ああああああああっ……」

 

 

 膝から崩れ落ちてしまう鈴。

 

 

「そんな……どうして………」

 

 

 一夏は、唇を強く噛み、手を血が滲むほど握りしめ、下を向き顔を震わせる。

 

 

 

 

 

「ーーーどうしてだよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!龍也ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 

 

 少年少女は、絶望した。

 

 

 

 

 親友の死という、避けられない現実によって。

 



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第4章 復讐者に堕ちる時 〜side シャルロット・デュノア&ラウラ・ボーデヴィッヒ〜
第二十九話


今回から第4章になります。
2人の名前が長すぎて章タイトルを日本語にせざるを得なかったのですが(笑)、【Avenger and Revenger】がサブタイトルということで。


 

 

「皆さん、席に着いてください。朝のSHRを始めますよー」

 

 

 副担任、山田 真耶の呼びかけによりいつも通りの1組の朝が始まる。

 

 

「それでは織斑君、お願いします」

 

 

「はい、起立!……礼!おはようございます!」

 

 

「「「「おはようございます!!」」」」

 

 

「……おはようございまーす」

 

 

「橘、朝はしっかりと挨拶をしろ」

 

 

「……うぃーす」

 

 

「返事はハイだ」

 

 

「Ja《ヤー》」

 

 

 ドイツ語で返事をする龍也。

 早朝の為、寝ぼけておりボケをかますほどである。

 

 

 普段なら出席簿アタックが飛んでくる場面だが、千冬の頬をヒクつかせるだけで今日は違った。

 

 

「……まぁいい。

 それより、今日はお前達に一つ朗報だぞ。さあ、山田先生」

 

 

「はいっ、今日はなんと転校生を紹介します!しかも2人ですよー」

 

 

「「「えぇっ!?」」」

 

 

 にこにこと笑いながら言う山田先生。

 千冬と正反対である。

 

 

 ざわざわと騒ぎ出す生徒達を、千冬が手を叩いて静かにする。

 

 

「騒ぐな小娘共。ーーおい、入ってこい」

 

 

 廊下へと声をかけると、2人の生徒が教室へ入ってくる。

 

 

「失礼します」「………………」

 

 

 片方は金髪。優しい笑顔を保っており、友好的な意思が見て取れる。

 もう片方は対照的に銀髪であり、顔は無愛想。目には眼帯を着用している。

 

 

 そして、もう一つ決定的に異なる部分があった。それはーーー

 

 

 

 

「初めまして、シャルル・デュノアです。

 この度は、僕と同じ境遇の方が此方にいると聞いて入学しました。よろしくお願いします」

 

 

 

 

 綺麗なお辞儀をする。

 シャルルが挨拶を終えると、生徒から声が上がる。

 

 

「お、男…………?」

 

 

「はい」

 

 

 ーー男子用の制服を着ているという点。

 

 

「き、」

 

 

「き?」

 

 

「(あっ、これは……)」「(あー眠い……)」

 

 

「「「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」

 

 

「え、ええっ!?な、何!?」

 

 

「(ぐっ、耳を塞いでいても鼓膜に響く……!)」

「おわぁっ!?な、なんだぁ!?地震か!?」

 

 

 急に黄色い歓声を上げ始めた生徒たちに、困惑するシャルル。

 一夏はもう3回目の為回避できたのだが、寝ぼけていた龍也は驚きのあまり飛び上がりそうになってしまった。

 

 

「さ、3人目の男性操縦者!?」

「金髪男子キター!」

「正統派イケメン、お兄さんキャラに加えて守ってあげたくなるタイプだと……?たまらん、たまらんぞ!!」

 

 

「……気にするなデュノア。馬鹿どもが騒いでいるだけだ」

 

 

「は、はは、賑やかで何よりです」

 

 

 苦笑いをするしかないシャルル。

 

 

「(3人目……?俺と龍也以外に、男でISを動かせる奴なんていたのか?)」

 

 

 一夏が疑問に思っていると、

 

 

 

 

「あ、ああっ!?お、お前、シャルか!?」

 

 

 

 

 声をあげ席を立ち上がったのは、橘 龍也。

 そんな龍也にシャルルはーー

 

 

 

 

「あっ、お兄ちゃん!」

 

 

 

 

 ーー喜びが見て取れる満面の笑みで、お兄ちゃんと呼び反応した。

 

 

 そして、龍也の元に近づいていく。

 

 

「久しぶりだね、お兄ちゃん」

 

 

「おいおい、お兄ちゃんはやめろって。学園の中なんだから龍也にしてくれ」

 

 

「んー、じゃあみんなの前ではね」

 

 

「おう、それならいいぞ……って、いやいや、そうじゃない!?

 何で此処にシャルがいるんだ!?それに、その格好……」

 

 

 シャルルを見て疑問を浮かべる龍也。

 そんな龍也を見兼ねて千冬が声をかける。

 

 

「橘、今はHR中だ。話は後にしろ」

 

 

「え?あ、は、はい」

 

 

「ふふ、また後でね龍也」

 

 

 教卓の前に戻るシャルル。

 クラスからはヒソヒソと声が聞こえる。

 

 

「ねえ、さっきお兄ちゃんって呼んでたよね」

「うん、間違いなく」

「知り合いなのかな?」

「多分ね」

 

 

「し、静かにしてください!

 そ、それではボーデヴィッヒさん、お願いします」

 

 

「………………」

 

 

「ボーデヴィッヒさん?」

 

 

「……ボーデヴィッヒ、自己紹介をしろ」

 

 

「はっ!教官!

 

 私はドイツから来た、ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

 

 千冬に言われ、名前を言うだけの簡潔な自己紹介をするが、教室の空気がシーンとする。

 

 

「い、以上ですか?」

 

 

「ああ。……アレか」

 

 

 教室を見渡し、一夏を見つけるとそっちの方へと歩いて行く。

 

 

「おい」

 

 

「……なんだよ」

 

 

 ラウラが友好的な態度ではない為、一夏の対応も棘がある。

 

 

「貴様が織斑 一夏か?」

 

 

「そうだけど」

 

 

「そうか、ならーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー死ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーーッッ!!」

 

 

「何してんだよテメェ」

 

 

 一夏に振り払われようとしていた手は、隣の席の龍也によって止められた。

 

 

「貴様……ッ!」

 

 

「初対面の人間のやる事じゃねえな」

 

 

「す、すまねえ龍也」

 

 

「気にすんな」

 

 

 掴まれている手を振りほどくラウラ。

 

 

「ちっ。…………私は認めないぞ!貴様があの人の家族であるなど!!」

 

 

「な、に………?」

 

 

「ボーデヴィッヒ、その辺にしておけ」

 

 

「…………はっ」

 

 

 シャルル同様、教卓の前に戻って行く。

 

 

 そんなラウラを見て、龍也と一夏は其々思うことがあった。

 

 

「(袖の下に、刃物らしき物が仕込んであった)」

 

 

 ビンタかと思って見ていたが、キラリと光ったのを見てすぐに手を伸ばした。

 

 

「(ラウラ・ボーデヴィッヒだったか、要注意だな)」

 

 

 龍也の人物リストの危険欄に、ラウラの名前が追加された。

 

 

 そしてーー

 

 

「(…………俺の聞き間違いじゃなければ、あいつは確かに『死ね』って言ってた)」

 

 

 周りの人物には聞こえていない、一夏に向けられた憎悪の言葉。

 

 

「(俺が千冬姉の家族であることを認めない、とも言ってたか。ドイツから来たって事は軍の人間か?)」

 

 

 織斑 千冬は、ドイツの軍隊で教官をしていたことがある。それは一夏も知っていた。

 

 

「(…………俺、生きて学園生活送れるのかなぁ)」

 

 

 幸先が不安になる、一夏だった。

 



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第三十話

 

 

 

「今日のSHRはここまでにする。織斑、橘はデュノアの面倒を見てやれ。

 次の授業は2組と合同でIS実習を行う!各自着替えてグラウンドに集合しろ、以上だ」

 

 

「「はい」」

 

 

「遅れた者には罰を与えるから、そのつもりでな」

 

 

 SHRを終え千冬と山田先生は教室から出て行く。

 ラウラは直ぐ教室を出たが、シャルルは一夏と龍也の元へ歩み寄る。

 

 

「君が織斑君だね?僕はーー」

 

 

「悪い、シャル。自己紹介は後にしてくれ。急ぐぞ、一夏」

 

 

「ああ」

 

 

「えっ、ちょ、ちょっと2人とも!?」

 

 

 シャルルの手を引いて教室を出る男子3人。

 だが、外には既に各クラスのホームルームで1組に男子が増えたことを知らされていたため、女子がびっちり張っていた。

 

 

「いた!あれがデュノア君!」

「橘君とデュノア君、手繋いでるよ!?」

「早い、早すぎるわよ!それに一夏×龍也はどこにいったの!?」

 

 

 身の毛がよだつほどゾッとする一夏と龍也。

 詳しく聞いてはいけないと脳が拒否する。

 

 

「(マズイな、もう来てたか)」

 

 

 このまま彼女達の相手をしていては授業に遅れてしまい、鬼教官からの説教が待ち受けてしまうと即座に判断した龍也。

 一夏に目配せをし、無言で互いに頷く。

 

 

「シャル、ちょっと失礼するぞ!」

 

 

「え?え?ええ?」

 

 

「龍也、こっちだ!」

 

 

 龍也がシャルルを横抱きに抱えて、一夏が横の窓を開ける。

 その際に、女子生徒達から黄色い歓声が上がった気がしたが、聞かなかったことにした。

 

 

「ーーしっかり掴まってろよ、シャル!」

 

 

「わ、わぁぁぁぁ!?」

 

 

 そして、2人は二階の窓から飛び降りた。

 

 

「よっと」「よし」

 

 

 一夏は持ち前の身体能力で地面と接触する瞬間に前転の要領で勢いを殺し、龍也はベルトとメモリを装着して脚部のみの展開を行なった。

 

 

「ああー!逃げられたー!」

 

 

「悪いね皆さん。こっちは遅れるわけにはいかないんでね」

 

 

 捨て台詞を残しその場を去る。

 その様子を見ていた生徒達は、まるで映画のスタントのようだと語った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  道中でシャルルを降ろし(本人は降りたがっていなかったが)、そのまま更衣室へと辿り着く。

 着替えるためにISスーツを取り出すと、シャルルがーー

 

 

「あ、あの、僕別の場所で着替えるね」

 

 

 ーーと言って2人から距離をとる。

 

 

「なんで離れるんだ?同じ男なんだから気にすることないだろうに」

 

 

「……しゃ、シャルは恥ずかしがり屋なんだよ。男でも裸を見られるのは嫌なんだろ」

 

 

 少し誤魔化し下手な感じではあるのだが、一夏は龍也の様子に気づいていない。

 

 

「ふーん……って、違う違う。

 龍也、お前デュノアと知り合いだったのか?」

 

 

「あー、まぁな」

 

 

「…………もしかして、またダークネス絡みか?」

 

 

「そんなところだ。まぁ後で詳しく話してやるよ」

 

 

「そっか、待ってるよ」

 

 

 物分かりのいい一夏。決してこの場では催促せず、後で話すのを待つというイケメンぶりを発揮する。

 

 

 そんなこんなで2人が着替え終えると、シャルルもやってくる。

 

 

「着替え終わったよ………って、お兄ちゃんそれは?」

 

 

「俺はこれがISスーツ代わりだよ」

 

 

 龍也の格好は従来のISスーツとは異なっており、普通の衣服のように上下別々で衣装がある。

 その為、全身を晒す必要がなく普通に着替えられるのだ。

 

 

「普通の服に見えなくもないけど、ぴっちりしてるし、デザインはぱっと見何処かの戦闘員みたいだよな。最初に見た時は俺も驚いたぜ」

 

 

「仕方ないだろ、束さんが用意したのがこれだったんだから」

 

 

「僕は格好良いと思うけどな、お兄ちゃんに似合ってるよ」

 

 

「おお……お前は良い子だな〜シャル」

 

 

「ん〜やめてよ〜」

 

 

「(はは、本物の兄弟みたいだな)」

 

 

 シャルルの頭をわしゃわしゃ撫で回す。

 笑顔な2人に、一夏も釣られて笑顔になる。

 

 

「って、こんな悠長にしてる場合じゃないぞ!早く行こうぜ」

 

 

「ああ、そうだったな。行くぞ、シャル」

 

 

「うん」

 

 

 折角余裕を持って更衣室に着いたのに、遅刻しては意味がない。

 3人は少し速足で、アリーナへと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 既にアリーナには1組と2組の生徒が整列し、先生からの指示を待っている。

 龍也達は列に入り、これで全員が揃った。

 

 

「よし、これで揃ったな。

 今日は戦闘を実演してもらう。そうだな……凰、オルコット、前に出ろ」

 

 

「えー」「はいっ」

 

 

 やる気のない鈴と反対に真面目なセシリアはしっかりと返事をし、すぐに前に出る。

 

 

「凰、不満があるなら授業終了まで延々とランニングでもいいんだぞ?」

 

 

「この凰 鈴音、全力で授業に取り組ませていただきます!」

 

 

 ビシッ!と素早く敬礼の真似をする鈴にセシリアは呆れる。

 

 

「(全く、相当な努力をしてきたはずですのにこういう時は緩んでいるのですね)」

 

 

 まぁこれが本来の鈴なのかとセシリアは思う。

 力を付けたのは復讐の為、そこに対して甘えはなかったのだろう。

 

 

「それで、お相手はどちらですか?わたくしは鈴さんとでも構いませんが」

 

 

「へぇ、いいわよ。一回あんたとはやってみたいと思ってたのよね」

 

 

「落ち着け馬鹿者。お前達の相手はーー来たか」

 

 

 千冬が言い終えると同時に上を向く。

 生徒達も釣られて上を見ると、

 

 

 

 

 

「ーーーお待たせしました、織斑先生」

 

 

 

 

「遅いぞ、山田先生」

 

 

「すいませんっ、少し準備に手間取ってしまいまして」

 

 

 降臨するように降りてきたのは、一瞬本物の天使かと思わせるような雰囲気を感じさせる山田 真耶。

 

 

「さて、2人には彼女と戦ってもらう」

 

 

「2対1でよろしいのですか?」

 

 

「山田先生は元日本代表候補生だ。現役時代の実力は、私の次と言ってもいいだろう」

 

 

 千冬の発言に驚く生徒一同。

 

 

「えへへ。それでも、相性の問題で色々な人に負けちゃいましたけどね」

 

 

「肝心な所で油断する癖だ、君の悪い所だぞ山田君」

 

 

「も、もう昔の話ですよ〜」

 

 

 普段はおっとりしている彼女が、世界最強に実力者と言わせたのだ。鈴とセシリアも戸惑いを隠せない。

 そんな2人に、千冬から一言が。

 

 

「それと、今のお前達なら山田先生に手も足も出ないだろう」

 

 

「……ふぅん、そんな事言っちゃっていいんですか?織斑先生」

 

 

「余りナメられるのも、代表候補生の誇りに関わりますわ。やりますわよ鈴さん」

 

 

「おっけー、ボッコボコにしましょ」

 

 

 挑発に簡単に乗った鈴はともかく、セシリアも今回は闘気に満ちている。

 

 

「ふふっ、2人ともやる気は十分ですね。

 

 

 

 ーーーさあ、何処からでも来てください」

 

 

「行くわよ!」「お覚悟を、山田先生」

 

 

「(あいつら、大丈夫かなぁ……)」

 

 

 余裕綽々な山田先生を見て、心配になる龍也。

 そのまま3人は、上空へと上がっていった。

 




まさかの強化山田先生vs強化鈴&セシリアです。
さあどうなるのか。


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第三十一話

 

 

 

 第2世代型IS 『ラファール・リファイブ』

 フランスのデュノア社製IS。

 第2世代の機体だが、スペックは初期第3世代型にも劣らないもので、安定した性能と高い汎用性、豊富な後付武装が特徴の機体。

 中でも特筆すべきはその操縦の簡易性で、それによって操縦者を選ばない事と多様性役割切り替えを両立している。

 また、装備によって格闘・射撃・防御といった全タイプに切り替えが可能である。

 

 

 今、山田 真耶が搭乗している機体がこのラファール。専用機×2との対決という一見不利かと思われるようなこの戦いだが、本人は極めて冷静だった。

 

 

「(凰さんは、間合いの詰め方と攻撃間隔、そして武装の扱いが非常に上手です。一撃一撃でジリジリと相手のスタイルを崩して追い詰めて行くタイプですね)」

 

 

 二人に攻められる状況でも、分析を欠かさない。

 

 

「(衝撃砲は砲身が見えず回避し辛いですが、撃つ時に凰さんの目が此方を厳しく見つめてきますね。それに気付ければ避ける事も可能でしょうか)」

 

 

 そう、鈴は龍砲を発射させる時に僅かだが相手を目で睨む癖があった。

 最も本人は気づいておらず、今まで対戦してきた人や、一夏でさえも気づいてはいなかった。それほど些細な癖なのだ。

 

 

「(そして、オルコットさん。私の一番苦手なタイプです。状況分析によく長けている、射撃は絶対に外さない、暗殺者《スナイパー》の様な人ですね)」

 

 

 鈴が前衛なら、セシリアは後衛。

 だが、決してサポートに回るのではなくいつでも遠距離から相手を仕留められるように構えている。

 

 

「(此方が手を出そうとすると良い所に射撃を撃ち込んできますね。厄介ですが……それだけでは甘いです)」

 

 

「ちっ……!」

 

 

「鈴さん!?」

 

 

 セシリアのレーザーを鈴が食らった。

 その様子を見て下から見る龍也は感心した。

 

 

「(上手く誘導したのか、セシリアの射撃の線上に)」

 

 

「あたしは大丈夫だから!あんたは撃ち続けなさい!」

 

 

「わかっていますわ!」

 

 

「そうはいかないですよ」

 

 

「ぐっ!」「これでは撃てませんわ……!」

 

 

 セシリアへはアサルトライフルでの行動の抑止になる射撃を、鈴には確実にSEを削る射撃を行う。

 逃げ道を塞がれた二人は徐々に近付いてしまい、固まってしまう。そしてーー

 

 

「ーーーーーーふっ」

 

 

 山田 真耶の銃身の下部に付いたグレネードランチャーから、グレネード弾が発射され二人に叩き込まれる。

 

 

「(……勝負あったな)」

 

 

 決着を確信する龍也。

 爆発の中から出てきた二人は、地面に落下し衝突する。

 

 

「あっ、だ、大丈夫ですか、二人とも!?」

 

 

「いたたた……だ、大丈夫ですよ」

「お強いですのね……山田先生」

 

 

 墜落した二人に駆け寄る。

 

 

「お二人も、非常に良いコンビネーションでしたよ。今の代表候補生はレベルが高いですね」

 

 

「お前達が負けたのは、実力不足もあるが相手が格上だったからだ。これからも精進するように」

 

 

「「はい」」

 

 

「そして、これでIS学園に所属する教師の実力の高さがわかっただろう。

 これからは教師に敬意を払うように、いいな!」

 

 

「「「「はい!」」」」

 

 

「よし、それではこれから簡単な操縦訓練を行う。各自専用機持ちの所に班として振り分けるから、よく聞いておけ」

 

 

 各クラスの生徒が均等に振り分けられる。

 龍也の班には、本音や清香達など見覚えのある生徒が何人か。

 

 

「やったーりゅ〜くんとおんなじ班だ〜」

「橘君、よろしくね」

 

 

「おう、それじゃあ早速始めるか」

 

 

 今回の訓練は搭乗から歩行、そして機体から降りるまでを一通り行うものだ。

 元々人に教えることが上手な龍也の説明は特に問題がなく、順調に進んだ。

 

 

 他の班はというと、一夏は四苦八苦しながらも一生懸命教えているのだがそのせいで班の女子達との距離の密着度がえらいことになっている。

 セシリアはまるで高度な授業のようで、説明の言葉が難しいのだが班員は真面目に聞いており、問題はなさそうだ。

 シャルルも言わずもがな、持ち前の人当たりの良さも加えて楽しく和気藹々とやっている。

 鈴は感覚的すぎて、班員に伝わり辛く苦労していた。

 

 

 そして、ラウラはーー

 

 

「安心しろ、私が見ているんだ。背中を預けるようにして乗れ」

 

 

「う、うん。ありがとうボーデヴィッヒさん」

 

 

「(……意外と上手くいってるんだな)」

 

 

 シャルルや龍也に引けを取らないほど、順調に授業が進んでいた。

 その姿はまるで、指導をする軍人。つまり、

 

 

「(千冬さんの教え方に、似てるな)」

 

 

 織斑 千冬のようであった。

 

 

「(真似事のつもりか知らないけど、何もないならそれに越したことはないか。まぁ千冬さんも見てるしな)」

 

 

 一夏の件もあったので、少し気を張っていた龍也だが、授業中にその必要はないかと判断した。

 

 

「ボーデヴィッヒ」

 

 

「はい!如何されましたか、教官」

 

 

「教官はやめろ、ここでは先生だ。

 お前の班は順調に進んでいるか?」

 

 

「はっ、滞りなく進んでおります!」

 

 

「……そう、か。ならいい」

 

 

 立ち去っていく千冬。

 

 

 その後ろ姿をじーっと眺めるラウラ。

 

 

「(ふふ、ああ教官……もう少しで、もう少しで『貴女』をーー)」

 

 

 内なる考えは誰にも悟られない。

 表情では分かることもなく、周りの空気に変化も感じられない。しかし、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(ーーー貴女を私だけのものに、邪魔者を消しさって……ふ、ふふっ)」

 

 

 その目は確実に、殺意を秘めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、誰もいないな」

 

 

 時間は昼、転校生のシャルルを連れて龍也、一夏、鈴、本音、セシリア、箒が来たのは屋上だ。

 ラウラは一夏の事があるから、誘うことはなかった。

 

 

 食事を始める前に、改めてシャルルの自己紹介が始まる。

 

 

「えっと、シャルル・デュノアです。デュノア社のテストパイロットと、この度フランスの代表候補生になれたのでこの学園に編入することになりました。よろしくお願いします」

 

 

「デュノア社長の御子息というわけですか」

 

 

「うん、そういうこと」

 

 

「それにしてはあんた、随分女っぽいわね」

「そうですわね、中性的といいますかなんというか…」

 

 

 鈴とセシリアに食い入るように見られ困惑するシャルル。

 

 

「そ、それより早く食べようぜ!俺お腹減ったな〜」

 

 

 あからさまな話題逸らし。

 箒とセシリアからは怪訝な目で見られたが、それ以外には通用したので効果はあったようだ。

 

 

 ちなみに、この日の龍也の昼食は鈴の手作りである。交代制となっており、明日は本音のようだ。

 

 

「はい、龍也。今日は酢豚にしたから」

 

 

「サンキュー。やっぱ酢豚は鈴のじゃなきゃな」

 

 

「そ、そう?そっか……えへへ」

 

 

「りゅ〜くんりゅ〜くん、明日は何食べたいー?」

 

 

「本音ちゃんが作るのなら何でもいいよ。俺、本音ちゃんの料理の味好きだから」

 

 

「んーじゃあ考えとくね〜♪」

 

 

「(あ、甘い、甘すぎますわぁぁ!)」

 

 

 胃もたれがとまらないセシリア。

 チラリと反対に視線を移せば、

 

 

「一夏。ほら」「ありがとな箒」「別にいい」

 

 

「(何しれっとお弁当を作ってきていますの、箒さん!?)」

 

 

 いつの間にか一夏の胃袋を掴もうとしている箒、意外とデキる女である。

 

 

「(……デュノアさんは、特に気にしていないようですわね)」

 

 

 微笑ましいものを見るようにしながら自分の食事を摂るシャルル。

 だが、その内心は、

 

 

「(何なのあの二人お兄ちゃんにベタベタして!僕だってお兄ちゃんにお昼くらい作ってあげるし、なんなら一緒に住んでそのままお世話だってできるのに。大体お兄ちゃんは無自覚で女の子と距離縮めちゃうんだからあんまり近寄らないで欲しーーー)」

 

 

 表情とは真逆に荒れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、龍也が自室へと戻るとルームメイトの楯無が何やら物の整理をしていた。

 

 

「何してるんです?楯無さん」

 

 

「んー、お引越しの準備をね」

 

 

「え?楯無さん此処を出て行くんですか?」

 

 

「………何でちょっと嬉しそうなの?」

 

 

「い、いや、そんな事ないですよ?はい」

 

 

「うう、龍也君の対応が厳しくてお姉さんショックだなー」

 

 

 シクシク、と泣く演技をする楯無。

 そんな楯無を無視して質問をする。

 

 

「それで、どうしてお引越しなんですか?まさか監視が終わりとか」

 

 

「それは別よ。まだ本音ちゃんと親しいことぐらいしか分かっていないもの」

 

 

「いやまぁ間違ってはないですけど……」

 

 

「それは置いておいて、理由としては二つかしら」

 

 

「二つ?」

 

 

「ええ。一つは織斑先生が代わるように言ったから。もう一つはこれから同居人になる人の事を考えてのことよ、面識がある方がいいでしょ?」

 

 

「それって、どういうーー」

 

 

 コンコンコン

 

 

『あ、あの、すいません』

 

 

「あら、来たみたいね」

 

 

「え、今の声ってーーー」

 

 

 楯無が部屋のドアを開ける。するとそこに居たのは、

 

 

「えっと、ここの部屋が今日から僕の寮室になると聞いて……って、お、お兄ちゃん!?」

「シャル!?」

 

 

「ふふっ、こういうことよ♪」

 

 

 今日何度目かの再会に驚く二人と、ドッキリ大成功といった感じの楯無だった。

 




この為に同居人を楯無さんにしておいたのさ!はっはっは!


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第三十二話

活動報告を二つ更新しました。
この小説の今後の展開についてのアンケートなので宜しければ是非閲覧下さい。

それでは、どうぞ。


 

 

 

「と、とりあえず荷物置けよシャル。奥のベッドが空いたからさ」

 

 

「う、うん。そうさせてもらうね」

 

 

 楯無が出払い、部屋に二人だけになる。

 突然の事だったので互いに少し驚きが残っているが、すぐにたわいもない会話が始まる。

 

 

「今日一日どうだった?一組は」

 

 

「いい人達ばかりだよ、みんな優しいし」

 

 

「まぁ『男の子』のお前には優しくて当然だよな〜」

 

 

「むぅ、意地悪言わないでよお兄ちゃん」

 

 

 冗談混じりに言う龍也。

 だが、真面目な雰囲気を作る。

 

 

「………で、なんで『男のフリ』なんてしてるんだよ、シャル」

 

 

「…………………」

 

 

 重苦しい空気に。

 シャルルは俯き、龍也は心配そうに見つめる。

 

 

「俺にも頼れない事なのか?」

 

 

「ううん、そうじゃないよ」

 

 

「じゃあどうして言ってくれない」

 

 

「……………それ、は」

 

 

「……俺はお前の力になりたい。デュノア社の、お前の親父と母親の時みたいに」

 

 

 以前、権利団体の人間を追いかけていた時に、デュノア社長夫人が会社を乗っ取ろうとしている情報を手に入れたことがある。

 それを見過ごせなかった龍也は、ダークネスで直接出向き企みを阻止したのだ。

 夫人はその後裏での様々な工作がバレて警察に捕まり、流れでシャルルと知り合ってしまった龍也はデュノア社長にも気に入られたというわけだ。

 

 

「お兄ちゃん……」

 

 

 龍也の思いに応えようとしたのか、シャルルは話すことを決心する。

 

 

「実はね……」

 

 

「おう」

 

 

 一体どんな内容なのか、緊張が出てきて唾を飲み込む。

 そしてーー

 

 

 

 

「…………お父さんに、入学する時は男装しろって言われたんだ」

 

 

「……いや、それはそうだと思ってたよ。今のシャルを見ればわかるしな。

 そうじゃなくてさ、他のことだよ他の」

 

 

「……………………」

 

 

「え?ちょ、まさか」

 

 

「それだけだよ。その方が面白いから、って」

 

 

「嘘だろ……」

 

 

 どんな問題が起きているのかを考えていた龍也には、床に手と膝をつき愕然とするしかなかった。

 まさか『ただ男のフリをさせている』だけだとは、想像も付かなかった。

 

 

「お兄ちゃんが入学したって情報を聞いて、その後僕をここに編入させるのは確定だったんだって。

 でも、何処でどういう風に道を間違えたのか、社内会議で僕を男として送るって話になっちゃって……」

 

 

 あはは、と笑うシャルル。

 

 

「あそこはアホしかいないのかよ……」

 

 

「あ、お父さんがお兄ちゃんによろしくって言ってたよ」

 

 

「ああ、うん、そっかぁ」

 

 

 もう遠い目をするしかない龍也。

 

 

「だ、大丈夫?お兄ちゃん」

 

 

「……まぁ、お前に何もなくてよかったよ、シャル」

 

 

 頭を撫でる。撫でられて嬉しそうに笑うシャルルは、到底男には見えなかった。

 

 

「えへへ、お兄ちゃんとまた会えたし、一緒に住めるなんていい事だらけだよ」

 

 

「(可愛いやつだな、全く)」

 

 

 あくまで妹としか見ていない龍也。

 シャルルもそれは同じで、血は繋がっていないが大切な兄といった感じだ。

 

 

「というかシャル、お前そんなにすらっとしてたか?」

 

 

「……え?どういうこと?」

 

 

「いや、その、胸とか……」

 

 

「………お兄ちゃん?」

 

 

 余計な失言《セクハラ》により、妹に睨まれてしまう龍也。

 

 

「わ、悪い!気になったからつい……」

 

 

「お兄ちゃんの、えっち」

 

 

「ぐっ」

 

 

「……サラシ巻いて胸は潰してるの。それくらい察してよ」

 

 

「あ、ああ!そうだよな、あははー」

 

 

 他人の感情には敏感なのだが、自分の周りのことになるとどうにもポンコツな龍也だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(とりあえず、一夏には話しておかないとマズイよな。後女性陣からも一人、シャルのことを知ってる奴がいた方がいい)」

 

 

 今後の事を考えながら廊下を歩く龍也。

 すると、何処からともなく声が聞こえてくる。

 

 

「ーー教官、是非ともドイツにお戻りください。我々『シュヴァルツェ・ハーゼ』は貴女の指導をお待ちしています」

 

 

「それは出来ない。

 私はここの教師だ。今の教え子達を一人前にするのが役目なのでな」

 

 

「(あれは、千冬さんとボーデヴィッヒ?)」

 

 

 職員室の近くで話していたのは千冬とラウラ。

 

 

「……何が貴女をここに縛るのですか?」

 

 

「縛られているつもりはないのだがな。意外にも、教師という仕事が似合っているのかもしれない」

 

 

「…………………」

 

 

「(俺は教師より軍人の教官の方が似合ってるとは思うけどな)」

 

 

「……そうですか、なら仕方ありませんね」

 

 

「?ラウラーーッッ!!」

 

 

「(ーーーーッ!)」

 

 

 

 

 

 

「ーー此処にいる生徒達を殺してでも、貴女をドイツへ連れて行くとしますか」

 

 

「な、にを言って」

 

 

「ああ、そうだ。織斑 一夏もいました。彼も消さなくては……」

 

 

「ふざけるな、ラウラ」

 

 

「(ッ、おいおい、千冬さんマジギレじゃねーか)」

 

 

 本気で怒っているのが、離れたところからでも空気を通してピリピリ伝わってくる。

 

 

「そんな事が、許されると思っているのか」

 

 

「関係ありませんよ。何故なら私はーー」

 

 

 

 

「私は、貴女の代わりに邪魔者共を消し去る、復讐者ですから。

 ふふ……あは、あははははは!!!!」

 

 

「復讐、だと?」

 

 

「(どういう事だ、代わりに復讐?)」

 

 

「その為なら手段は選びません。必ずや、織斑 一夏の首を……」

 

 

 千冬の元から離れていくラウラ。

 残された千冬は、歯をくいしばるように苦い顔をし悲痛な顔を浮かべる。

 

 

「ラウラ……お前に、一体何があったんだ」

 

 

「千冬さん」

 

 

「ッ!?……橘か。何度も言わせるな、ここでは織斑先生だとーー」

 

 

「今の話は、どういう事ですか?」

 

 

「……盗み聞きとは趣味が悪いな」

 

 

「すいません、たまたま通りがかったものですから」

 

 

「…………………」

 

 

「ボーデヴィッヒが、貴女の教え子なのはわかります。束さんからドイツで教官をしていた話は聞いていたので。

 ですが、復讐とは何ですか?千冬さんに恨んでいる相手が?」

 

 

「……分からない。恨んでいる相手など、私の記憶にない」

 

 

「じゃあなんで……」

 

 

「……龍也、お前に頼みたい事がある」

 

 

「何でしょうか」

 

 

「ラウラをーーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日の放課後。

 一夏や龍也達はアリーナに集まり練習をしていた。

 主には一夏に対する指導がメインなのだが、箒、鈴、セシリアの教え方では一夏に伝わり辛かった。

 

 

 しかしそこはシャルルの出番。

 初心者にもわかりやすく且つ理論的に教えてくれ、更には進歩度合で適切な実地が行われる様子は、一夏からすればまさに天使の降臨と言ってもよかったであろう。

 シャルルに付きっきりになってしまった一夏に他の三人の不満が上がった為、ストレス解消的な意味も兼ねて龍也と鈴は軽い組み手のようなことをしていた。

 すると、そこに、

 

 

「ねえ、アレってドイツの……」

「うん、第3世代IS。肩に大口径レールカノンなんて随分ずっしりしてるね」

 

 

 他の訓練をしている人達から上がる声の方を見てみれば、そこにはラウラの姿が。

 徐々に此方に歩いて来て、一夏をじーっと見ている。

 

 

「おい、織斑 一夏」

 

 

「なんだよ」

 

 

「私と戦え」

 

 

「断る。今はみんなと訓練してるし、お前と戦う理由がない」

 

 

 ラウラを見ていると初対面での対応を思い出す。必然的に好意を抱けないのは仕方のないことか。

 

 

「……なら仕方ないか、やむを得まい」

 

 

「は?何言ってーーーッッ!!」

 

 

 ラウラの肩部のレールカノンから弾丸が一夏へと射出される。

 だが、その弾丸は横から割り込んできた漆黒の鎧の振るう剣に叩き落される。

 

 

『またか、ボーデヴィッヒ。挨拶が下手くそすぎないか』

 

 

「そう言うな。私は、こういったやり方しか知らないのでな」

 

 

 敵意を剥き出しにする龍也とは対照的に、何食わぬ顔で龍也を見つめるラウラ。

 

 

「わざわざ巻き込まれに来るとは。……殺す順番が変わるだけだというのに」

 

 

『お前が何を考えているのかは知らないが、好き勝手やらせるわけにはいかない』

 

 

 右手の剣を下げ、左手に持つ銃をいつでも撃てるように構える。

 ラウラも戦闘態勢に構えプラズマブレードを展開する。

 両者が動き出そうとしたその時、

 

 

『そこの生徒!何をしている!学年、クラス、出席番号は!』

 

 

 アリーナの管理担当の教員から声がかかる。

 

 

「……ちっ、興ざめだな」

 

 

 振り返りアリーナを後にしようとするラウラ。

 

 

「次また私の邪魔をするならば、その時は……覚悟しておけ」

 

 

 そのままラウラの姿が見えなくなると、ふぅと息を吐き変身を解く。

 その後、一夏が龍也の肩を叩く。

 

 

「悪い、龍也。助かった」

 

 

「気にすんな。友達だろ?」

 

 

「何なのよ、あいつ。一夏を目の敵にして」

 

 

「心当たりはありますの?一夏さん」

 

 

「…………わからない」

 

 

「一夏……」

 

 

 心配そうに一夏を見つめる箒。

 そんな箒の内心を察したのか、龍也が声をかける。

 

 

「大丈夫だよ箒。一夏はやらせないし、こいつもそう簡単にくたばるような柔な鍛え方してないさ」

 

 

「おう。負けるつもりなんてないしな」

 

 

「………ああ、わかってる」

 

 

「それじゃあ、そろそろ練習を再開しようよ。時間も勿体無いよ?」

 

 

「そうだな、やるぞ一夏」

 

 

「ああ」

 

 

 シャルルの呼びかけにより練習を再開する全員。

 だが、頭の中には先ほどの出来事が住み着いており完全に気持ちを切り替えることはできなかった。

 




ラウラは落ち着きすぎていて怖いタイプです。


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第三十三話

アンケートの方はもう2.3日程お待ちしています。
詳しくは活動報告を見ていただければ。

既に書き込んでいただいた方々、ありがとうございます。
それでは、どうぞ。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー単刀直入に言うぞ、一夏。シャルル・デュノアは女だ」

 

 

「…………え?」

 

 

「あはは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は龍也とシャルルの寮室、一夏を話があると言って呼び出した。

 

 

「何言ってるんだよ龍也」

 

 

「いきなりで悪いとは思ってる。でも他に伝えようがないんだ」

 

 

「………本当なのか?」

 

 

 シャルルの方を見て問いかける。

 

 

「うん。僕は正真正銘の女だよ」

 

 

「そ、そうか」

 

 

 男と認識していた人物が女の子だと分かれば、動揺するのは無理もない。

 だがそこは一夏、すぐに冷静さを取り戻す。

 

 

「この事を他に知ってる人は?」

 

 

「今のところ楯無さんと、後は千冬さんと山田先生も知ってるだろうな」

 

 

「此処に来る前に、身体検査を受けたんだ。

 だから、担任の先生なら知ってると思うよ」

 

 

「どうして男のフリなんてして入学したんだ?」

 

 

「そ、それは、その……」「わ、訳があるんだ!別に重い話じゃないから、大丈夫だぞ!」

 

 

「お、おう、そっか。ならいいんだけど」

 

 

 くだらない理由を言える訳もなく、必死に誤魔化す龍也はまさしく苦労人であった。

 

 

「で、本題はシャルのサポートだ。男子としている間は俺達が色々と融通利かせないといけないだろ?」

 

 

 授業中でのISスーツへの着替えをする時もそうだったが、他にもトイレやお風呂など日常生活では男と女では異なる部分が数多くある。

 龍也一人では何かと限界がある為、一夏にシャルルの事を話すついでに協力を仰ごうといった所だ。

 

 

「わかった。俺は何をすればいいんだ?」

 

 

「別に何もしなくていい。強いて言うなら、シャルが女の子って事を頭に入れておいてくれればな」

 

 

「ごめんね、迷惑掛けちゃうと思うけど……」

 

 

「そんな、気にしなくていいんだぜデュノア。せっかく同じクラスで出会ったんだ、仲良くしてくれよ」

 

 

 持ち前のイケメンスマイルを発揮する一夏。

 此処でシャルルが落ちないのは、龍也がいるからなのか。

 

 

 シャルルも安心したように柔な笑みを浮かべる。

 

 

「ふふ、ありがとね。

 後、僕のことはシャルルでいいよ。僕も一夏って呼ぶから」

 

 

「おう、よろしくなシャルル」

 

 

「(……ふっ、やっぱ一夏だな。こいつに任せて正解だった)」

 

 

 親友への信頼、それをここで龍也は再確認した。

 すると、一夏から声が上がる。

 

 

「それにしても、まさか女の子だったなんてな。多分俺じゃずっと気付かないままだったかもしれないぜ」

 

 

「そんなに上手くできてるかな?」

 

 

「ぱっと見なら男にしか見えないぞ。よく言う中性的って感じの」

 

 

「一応、男の人っぽい振る舞いも教えられたんだけどね……僕にはちょっと難しくて」

 

 

「いや、十分なくらいだ。クラスのみんなも疑ってる様子はなかったしな」

 

 

「………………んー」

 

 

 二人の会話を黙って聞いている龍也は、何かを唸るように考える。

 

 

 そして、

 

 

 

 

「シャルはどう見ても女の子にしか見えないけどなぁ。こんなに可愛いんだし」

 

 

「お、お兄ちゃん!?何言って……」

 

 

「ん?どうした、シャル」

 

 

「ふぇっ!?い、いや、ナンデモナイデス……」

 

 

 徐々に小声になり顔を赤くしながら縮こまってしまうシャルルを見ながら一夏は思った。

 

 

 

 

「(あー、はいはい出ました、いつもの女誑しタイムですね)」

 

 

 

 

 ……お前が言うな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 別の日の放課後。

 アリーナで訓練をしているのは、セシリアと鈴。

 

 

「ふぅ、やっぱりキツイわね」

 

 

「鈴さんが相手だと疲れますわ……はぁ」

 

 

 模擬戦の結果はセシリアの方が勝率は高い。

 だが、相性の問題もあってか疲労は大きい。

 

 

「当分は、打倒あんたが目標かな」

 

 

「そう簡単には勝ちを譲りませんことよ。代表候補生の先輩として、見栄が張れませんもの」

 

 

「あんたそういうの気にするタイプだったんだ……」

 

 

 代表候補生として、そして貴族としてもプライドが高いのがセシリア・オルコットという人間だ。

 最も感情的になる事は少なく、大人っぽい少女なのだが。

 

 

 

 

 そんな二人の元へ、一人の少女がやってくる。

 

 

「ーーイギリスと、中国の代表候補生か」

 

 

「ボーデヴィッヒ……」

 

 

「何の用ですか?」

 

 

 招かれざる客に、雰囲気が最底辺へと落ちる。

 

 

「お前達は、織斑一夏と親しかったな」

 

 

「だったら何よ」

 

 

 ラウラが問いかけてきたのは一夏のこと。

 必然的に鈴達の警戒度も上がる。

 

 

「(この人、不気味ですわ。何を考えているのかが読み取れません)」

 

 

「何、簡単な話だ」

 

 

 正面から殺気を露わにするラウラ。

 

 

「お前達には、彼奴をおびき出す餌になって貰う」

 

 

 だが、その程度では二人は動じない。

 

 

「……何度も言うようだけど、あたし達はそんな事の為に戦うつもりはないわ」

 

 

「ええ。それに、それが煽りだと言うならドイツもたかが知れていますわね」

 

 

「ふむ、そうか……それは困った」

 

 

 いきなり年相応なぐらいのきょとんとした顔、そして発言通り困り顔になる。

 そして、次にはーー

 

 

 

 

「所詮は、種馬に跨るメスだったというわけか。

 彼奴らがくだらん愚民であるなら、貴様らもそうなるのは仕方ないか、すまなかったな」

 

 

「ーーーーーーあ?」「……なん、ですって?」

 

 

「事実だろう?否定する要素があるのか?メス共よ」

 

 

「ッッッ!!!………セシリア、あたしの今からする事を、止めないでよ」

 

 

「いいえ、鈴さん。わたくしも、今回ばかりは抑えられそうにありませんわ」

 

 

 挑発に乗り、戦闘態勢に入る鈴とセシリア。

 

 

 

 

 

 

「自分のことは、いくら侮辱されても我慢できる。でも、友達を侮辱することだけは……あたしは絶対に許さないから」

 

 

 

 

「友人の侮辱を黙って見過ごせる程、わたくしは出来た人間ではないのです。ボーデヴィッヒさん、お覚悟を」

 

 

 

 

 

「ふふっ……そうだ、それでいい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーさあ、このシュヴァルツェア・レーゲンの前に、ひれ伏せ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーねえねえ、今アリーナで代表候補生達の模擬戦がやってるらしいよー」

 

 

「(ん?)」

 

 

 廊下を歩いていると、横を通り過ぎていく女子生徒の話す情報に思わず足を止める。

 

 

「確か、イギリスと中国と……後どこだっけ」

 

 

「ドイツだね」

 

 

「(ッ、なんだと?)」

 

 

「すごい三ヶ国だね、レベルの高い国同士で」

 

 

「やっぱり訓練も同じくらいの力じゃないとってことなのかな〜」

 

 

 話していた二人の女子生徒に、後ろから声がかかる。

 

 

「ーーなあ、それって本当なのか!?」

 

 

「え、ええっ!?」「た、橘君!?」

 

 

 突然話しかけられたこと、そしてそれが男子生徒だったことに驚くが、龍也はそれどころではない。

 

 

「今、アリーナで代表候補生が模擬戦してるって本当なのか!?」

 

 

「え?うん……」

 

 

「……っ!」

 

 

 振り返り、アリーナの方へと走り出して行く。

 

 

「ど、どうしたんだろ橘君」

「さ、さあ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはり、素晴らしい……!

 この『停止結界』の前では、何人たりとも無力だ……!くくっ!」

 

 

「う、ぐっ……」「り、んさん……」

 

 

「いや、貴様達はよくやった方だ。褒めてやろう」

 

 

「な、めてんじゃないわよ……!」

 

 

 鈴の甲龍は既にボロボロ、とても戦えるような状態ではなかった。

 セシリアも似たような状況で、此方は立つことも出来ず地面にひれ伏している。

 鈴も立つのがやっとだ。

 

 

「死に急ぐか。良いだろう、貴様から殺してやる」

 

 

 鈴に向けてブレードが向けられる。

 息絶え絶えの鈴には、回避するだけの力すらもう無い。

 そして、

 

 

「無様に死ね。自身の力の弱さを実感しながらな」

 

 

「ッ、鈴さん!!!!」

 

 

「あ………………」

 

 

 振り下ろされる。

 

 

 

 

 

 

 だが、そのブレードを受け止める剣が一つ。

 

 

「……また、貴様か……!」

 

 

「龍、也……」

 

 

「よかった、龍也さん……」

 

 

 二人の前に現れたのは、漆黒の鎧。

 

 

『鈴、セシリア、お前らは待ってろ。すぐにこいつを片付ける』

 

 

「ふん、やってみろ。その減らず口と共に、貴様の身体をズタズタに切り裂いてやろう」

 

 

 戦いの火蓋が、切って降ろされた。

 




やばい、このラウラのキャラの口調が難しすぎる。


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第三十四話

 

 

 

『シュヴァルツェア・レーゲン』

 ドイツの第3世代型IS。通称「schwarzer regen:黒い雨」

 大型レールカノン、ワイヤーブレード、プラズマ手刀等の武装により近接から遠距離射撃までこなす万能型の機体。

 

 

 そして、

 

 

『ッ……なん、だこれは……!』

 

 

「そうだ、それでいい。身動きも取れないだろう」

 

 

『AIC(アクティヴ・イナーシャル・キャンセラー』

 ラウラ自身が「停止結界」と呼称する、元々ISに搭載されていたPIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)を発展させたもの。

 対象を任意に停止させることができるが、使用するには相当な集中力が必要であり、複数相手やエネルギー兵器との対面では効果が薄い。

 

 

『面倒な物積みやがって……!』

 

 

「貴様の機体は、見たことのないタイプだな。全身装甲《フルスキン》のISとは」

 

 

『お前には、関係のないことだ……!』

 

 

「それもそうか。

 ……どうせ今から貴様は死ぬのだから、そんなことも関係なくなるしな」

 

 

 口元を大きく歪ませるラウラ。

 その姿はまるで、歴史的な書物に記された悪魔と呼ばれる存在を具現化した様な表情だった。

 

 

『ぐっ……がぁぁぁぁ!!』

 

 

「ほう、力尽くでAICを破るか。面白い」

 

 

 黒龍の性能は、並大抵のISを凌駕する。

 篠ノ之束が手をかけたのだ、半端な力ではないし、橘 龍也個人の実力も高い部分に位置している。

 

 

『ーーーーッ!』

 

 

「ちっ、目障りな……!」

 

 

『羽』を巧みに利用し、縦横無尽に駆け回り斬撃を叩き込んでいく。

 ISの動きというよりは空を飛ぶ兵器のような相手に、ラウラは苛立ちを隠せなかった。

 

 

「(なんだ……?レーゲンのSEの減りが早い。痛手になるような攻撃は食らっていないはずだが)」

 

 

 龍也は、戦法を攻めに取るより慎重に行動することに決めていた。

『斬魔』はまさしく攻守一体の武器、se奪取により持久戦になっても戦えるからだ。

 

 

『(千冬さん、俺は……)』

 

 

 千冬から託された言葉を思い出す龍也。

 

 

 

 

 

『ーーーラウラを、止めてくれ。手遅れになってしまう前に』

 

 

 

 

 

『俺はお前を止めるぞ、ラウラ・ボーデヴィッヒ。間違った道に進ませない為にもな』

 

 

「ほざけ。私の目的を、貴様如きが歪めるな」

 

 

 二人は、正面からぶつかり合う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ーー私が今日から、ここの部隊で教官を務める織斑 千冬だ。よろしく頼む』

 

 

 

 

『おい、お前。こんな所で何をしている』

 

 

 

 

『ラウラと言ったな。お前、強くなりたいか?』

 

 

 

 

『良くやったぞ、ラウラ。その調子だ』

 

 

 

 

『隊長就任おめでとう。ハーゼのみんなも、お前なら適任だと言っていたぞ』

 

 

 

 

 

 

 

 

『ーー私が教える事は、もう無い。今までご苦労だった』

 

 

 

 

『後は頼んだぞ、ラウラ』

 

 

 

 

 いやだ、嫌だ嫌だ。私は、貴女と、

 

 

 

 

 

 

 ずっと一緒に居られれば、それだけでいいのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(もう少し……後、ほんの少しで辿り着く。私の……)」

 

 

『ッ、ふっ!』

 

 

「!ぐっ……」

 

 

『戦闘中に他所事を考える暇があるのかよ!』

 

 

「ぐうっ……ぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

『しまっ……!』

 

 

 ラウラの停止結界に掛かってしまう。

 動きを止められ、宙に浮く的となる。

 

 

「捕まえたぞ……!」

 

 

『くそっ!』

 

 

 AICから抜け出せず、身動きの取れない龍也。

 

 

『(やばい、もうSEが……!)』

 

 

 危機を感じる龍也。

 

 

 だが、続く攻撃はない。代わりに、

 

 

 

 

「ぐっ、ぁぁぁ……わ、たしは……っ!」

 

 

『ボーデヴィッヒ……?』

 

 

 

 

 ラウラがその場にうずくまり、頭を抱え何かに苦しんでいる姿がそこにはあった。

 

 

「私は……ただ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー教官、貴女に『家族』と認められたかった。それだけなのに。

 

 

『ッ、ボーデヴィッヒ……』

 

 

「はぁ、はぁ、ふふっ……二度目はないぞ。確実に貴様を切り裂いてやる」

 

 

『!マズい……』

 

 

 ゆっくりと近づいてくるラウラ。

 

 

『(こいつは、多分……)』

 

 

 こんな状況だが、推測を自分の中で立てる。

 

 

『……ボーデヴィッヒ。一つ聞きたいことがある』

 

 

「ほう。貴様こそ、戦闘中に他所事とは」

 

 

『お前にとって、復讐とはなんだ。千冬さんに代わってとはどういう意味だ』

 

 

 質問と同時に足を止めるラウラ。

 

 

「……聞いていたのか」

 

 

『答えろ』

 

 

 

 

「……私にとって、織斑 一夏は邪魔でしかないのだよ」

 

 

「教官の歴に、弟の存在は不要だ」

 

 

「彼奴の存在が教官を弱くする。迷わせる。心に居続け、他を寄せ付けなくなる」

 

 

「それでは駄目なのだ。私が……」

 

 

 

 

「私が、あの人に認められる為には」

 

 

『お前は……』

 

 

「代わって復讐など、ただの戯言に過ぎない。もっと言えば、私個人の織斑 一夏に対する逆恨み……復讐でしかないのさ」

 

 

『ッ、そこまで分かってて、どうして!?』

 

 

「…………余計な口を開き過ぎたか。そろそろ終わらせる」

 

 

 危機がピークに迫る。

 しかし、龍也の中では、ある考えが浮かぶ。

 

 

『(…………一夏)』

 

 

 今のあいつなら、きっと。

 

 

『(信じてるぞ。こいつを、ボーデヴィッヒを)』

 

 

 俺の親友なら、きっと。

 

 

 

 

 

『(ーーーーボーデヴィッヒを、復讐者から引き摺り下ろしてくれるって)』

 

 

 少年は託した。

 

 

 これから先の運命を、決めるのは自分ではないと判断して。

 

 

 

 

「ーーーー死ね」『ッッ!!!』

 

 

 

 

 ブレードは、今度こそ振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、織斑君!デュノア君!」

 

 

「ん?相川さんに、鷹月さん?」

 

 

「ど、どうしたの?」

 

 

「はぁはぁ……た、大変だよ!橘君が……!」

 

 

「ッ、お兄ちゃんが、どうしたの!?」

 

 

「アリーナで、ボーデヴィッヒさんと……」

 

 

「なっ!…………くそっ!」

 

 

「あっ、ちょ、ちょっと二人とも!?」

 

 

 ラウラの名を聞いてすぐに駆け出していく一夏。

 シャルルも後を追う。

 

 

「(嫌な予感がする……龍也……!)」

 

 

 胸騒ぎが止まらない二人。

 

 

「無事でいてくれ……!」「お兄ちゃん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………………』

 

 

「りゅ、うや……」「うそ、ですわよね」

 

 

「ふん、こんなものか」

 

 

 首元を掴み、宙に吊り上げる。

 龍也は意識もなく、顔の装甲は半分が砕け素の顔がさらけ出されてしまっている。

 そこから見える半面には、額から血が滴っていた。

 

 

「呆気なかったな。もう貴様は用済みだ」

 

 

 横に龍也を捨てるように投げる。

 

 

「所詮、ここの生徒もこんなものか」

 

 

「待ちなさいよ……!」

 

 

 鈴の制止に耳を傾けることもなく、アリーナを去ろうとしたその時ーー

 

 

 

 

「おにい、ちゃん……?」

 

 

 

 

「ッ、デュノアさん!?」

 

 

「貴様は確か、フランスの……」

 

 

「な、に、やってるの?」

 

 

「見てわからないか?ーー私が潰したのだ。完膚なきまでにな」

 

 

「ーーーーーーッッッッ」

 

 

 シャルルの顔が悲痛に歪む。

 しかし、そこにーー

 

 

 

「シャルル、龍也達を連れて保健室へ」

 

 

「………!くっくっくっ、来たか……!」

 

 

「一夏……」

 

 

 

 

「テメェだけは、絶対に許さねえ……!!」

 

 

「織斑……一夏ァ!!!」

 

 

 復讐者と、狙われる獲物。

 互いに引けを取る気はなく、ぶつかり合う闘気だけがそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん!しっかりして!お兄ちゃん!!」

 

 

「デュノア、龍也を先に連れて行って……」

「わたくし達は、後で構いません。今は龍也さんを……!」

 

 

「ッ、うん!」

 

 

 龍也を抱え、アリーナを後にするシャルル。

 

 

「…………どうして」

 

 

「なんだ?」

 

 

「どうして龍也や、鈴達を狙ったんだ」

 

 

「貴様をおびき出すためだ。その為の餌でしかない」

 

 

「ッ、お前は、腐りきってる……!」

 

 

「好きに言え。どの道、私に此処で殺される運命だ。貴様はな」

 

 

「そんな運命なんてない。俺の未来は、自分で決める」

 

 

 白式を展開し、構える。

 応戦体制に入った一夏を見てニヤリと笑うラウラ。

 

 

「ーーー来い」「はぁぁぁぁっ!!!」

 




小説名を変更させていただきました。
活動報告のタイトル案に書き込んでいただいたお二人の意見を見て思いつきました。アルファささみ様、izu様、ありがとうございます。
ヒロインアンケートの方は随時募集しているので、気軽に書き込んでください!

いつも見ていただいてる方には、変わらず応援していただけると嬉しいです。


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第三十五話

戦うにはまだ早いよね?
いいステージがこの後待ってるんだから。


 

 

 

 

「ーーー何をしている、お前達」

 

 

「千冬姉!?」「教官!?」

 

 

 剣とブレードの間に割り込むようにして入って来たのは、織斑 千冬。

 手には一本の剣を持ってはいるが、生身で双方の剣を受け止めていた。

 

 

「……ラウラ」

 

 

 ゾワッ、と背筋が冷たくなるラウラ。

 自身を呼ぶ声は低く、千冬の持てる威圧感が最大限に出ていた。

 

 

「こ、これは、その……」

 

 

「……………………」

 

 

「あ、あ、ああ……」

 

 

「退がれ、ラウラ」

 

 

「!……くっ」

 

 

 逃げるようにして去って行くラウラ。

 

 

「どうして止めたんだ千冬姉!?あいつは、龍也を……」

 

 

「一夏!」

 

 

「ッ、鈴……」

 

 

「千冬さんの気持ちがわからない、あんたじゃないでしょ」

 

 

「………………くそっ」

 

 

 一夏もアリーナを後にする。

 

 

「申し訳ありません、織斑先生」

 

 

 セシリアが謝る。

 その謝罪に込められているのはこの戦いの原因を作ったことか、あるいは龍也を深く傷つけてしまったことに対してか。

 

 

「全くだ。後で罰を与えるからそのつもりでな」

 

 

「勘弁してくれませんかねぇ……いっつつ」

 

 

 龍也が来た時に安心感から自分も倒れこんでしまったため、そこから疲労で起き上がれなくなっていた。

 

 

「保健室へ連れて行くぞ。それと、お前達の専用機も此方で預かる」

 

 

「はい。……と言っても、この状態じゃあ当分は使えそうにありませんわね」

 

 

「あーあ、楽しみにしてたのになぁーーー学年別トーナメント」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は保健室。

 セシリアと鈴は怪我人のためベッドの上、一夏、シャルルは椅子に座り千冬は立って話をしている。

 

 

「橘は別の部屋で治療中だ。一応、頭から流血していたから異常がないか検査をする」

 

 

「束さんのところじゃないんですか?」

 

 

「橘はIS学園の生徒だ。部外者の人間に渡すわけにはいかない」

 

 

「そう、ですか」

 

 

「……………………」

 

 

 酷く疲れた顔で俯くシャルル。

 龍也を運んだのは紛れもないシャルル本人である。傷ついた龍也を見るのは、どれだけ辛いことであったか。

 

 

「……大丈夫よ、デュノア。あいつはすぐに目を覚ますわよ」

 

 

「ッ、なんでそんな事が言えるの!?根拠もないのに!!」

 

 

「んー」

 

 

 真っ直ぐな瞳でシャルルを見る鈴。

 

 

 

 

 

「ーー約束したから、龍也と。もう何処にも行かないって。

 だから、あいつは死なないし、此処に戻ってくる」

 

 

「……っ、そんなの……」

 

 

「ま、あんたがあいつを信じられないようじゃ、それこそ一生帰ってこないかもね」

 

 

「ーーー-ーー」

 

 

 保健室を飛び出して行くシャルル。

 

 

「あっ、おいシャルル!……鈴、言い過ぎだぞ!」

 

 

「悪かったわよ。でも、ああでも言わないとうじうじしっぱなしでしょあいつ」

 

 

「……すまないな、凰」

 

 

「……千冬さん、ボーデヴィッヒは何者なんですか?どうしてあそこまで一夏を……」

 

 

 少し黙る千冬。

 しかし、すぐに顔を上げ口を開く。

 

 

「ラウラは、私の教え子だ。ドイツ軍の教官をしていた時のな」

 

 

「織斑先生が、ドイツで?一体どうして……」

 

 

 セシリアが疑問を浮かべる。

 それもそのはず、千冬は日本国籍の日本人だ。何故ドイツで教官などする必要があったのか。

 

 

「……今から一年くらい前か。ドイツから私個人に、IS部隊での戦闘教育をして欲しいと依頼が来た」

 

 

「最初は受ける気など更々なかったさ。……だが、その意図を伝えた次の日のことだ」

 

 

 

 

『ブリュンヒルデ、貴女には弟がいらっしゃるようですね。さぞかし大事な事でしょう』

 

 

 

 

「ッ、それって……!?」

 

 

 

 

「……脅されたんだ、私は。一夏の身の安全と引き換えにな」

 

 

 

 

 全員が驚愕する。

 

 

「な、ど、どういうことだよ千冬姉!?」

 

 

「お前がダークネスになって間もない頃の話だ。

 自衛の手段があるとはいえ、相手は一国。私には、従うしかなかった」

 

 

「だが、やり方は汚いが要は軍で教官をして欲しいということ。私はその依頼を引き受けた」

 

 

「……誰かに相談することはできなかったのですか?それこそ、織斑先生の旧友である篠ノ之博士に」

 

 

「当時の私は、龍也や一夏のこともあって少し荒れていただろう。あまり周りが見えていなかったんだ」

 

 

「千冬姉……」

 

 

 椅子から立ち上がり、千冬に大きく頭を下げる。

 

 

「ッ、ごめん千冬姉!俺、そんな事になってるとも知らないで、ずっと自分の事ばかり考えて……」

 

 

「一夏、頭を上げろ」

 

 

 頭を下げる一夏の元へ歩み寄り、笑みを浮かべ頭を撫でる。

 

 

「お前が気にすることはないんだ。何もかも無理に背負う必要はない。まだ子供なんだからな。

 それに、ドイツへ行ったのも無駄じゃなかった」

 

 

「そこの軍隊に、ボーデヴィッヒさんが?」

 

 

「ああ。……最も、影に埋もれていて、当時は軍内最弱だったがな」

 

 

「あ、あんなに強いのに!?」

 

 

「あいつは苦しんでいた。上手く力を使えないことに。

 だから私は、それの手助けをしてやった」

 

 

「じゃあ、それがなんで一夏への復讐に繋がるんですか?」

 

 

「…………………」

 

 

 分からないのは、千冬も同じなのだ。

 自分の知っているラウラは、世間体に疎いながらも決して悪人の考えをするような人間ではなかった。

 軍の人間と共に切磋琢磨してきたはずだ。

 自分のいない数ヶ月で、何が変わってしまったのか。

 

 

 そんな千冬を見兼ねた一夏が、

 

 

「……俺、ボーデヴィッヒと話してみるよ」

 

 

「なっ、お前……!」

 

 

「危険よ、一夏!」「そうです。一対一で顔を合わせるなど、また同じことの繰り返しですわ」

 

 

「でも、ずっとこのまま、あいつに狙われ続けるだけじゃダメなんだ」

 

 

 目を閉じる一夏。

 一夏は幼きながらも色々な人間を見てきた。

 

 

 私利私欲の為に他人を平気で利用する者、仲間と言いながらいざとなったら見捨てる者、権力を振りかざし弱者を痛ぶる者。

 

 

 そして、自分は復讐者だった。

 亡き親友の報いになればと、権利団体の人間を殺そうと半年の間戦った。

 

 

「(それでも、この世界はまだ腐りきってなかった)」

 

 

 箒と再会できた。セシリアを説得できた。鈴とぶつかり合って、また親友に戻れた。そして何よりーーー龍也が生きていてくれた。

 

 

「(きっと、ボーデヴィッヒとも分かり合える)」

 

 

 一夏は、彼女のことを何も知らない。

 何処で生まれ、何処で育ち、どんな風に育ってきたか。

 

 

「(戦うことだけが俺に出来ることじゃない。……力だけが、全てじゃないんだ)」

 

 

 力に囚われ、復讐に取り憑かれていた自分はもういない。

 

 

 

 

 

 

「(ーー千冬姉を悲しませるわけにはいかない。だから、お前を止めてみせる。ボーデヴィッヒ)」

 

 

「あいつのターゲットが俺だっていうなら、この復讐劇にケリをつけるのは俺の役目だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 龍也が未だ目を覚まさないまま夜を迎える。

 同室であるシャルルは、実質一人部屋となっていた。

 

 

「……………………」

 

 

 一人シャワーを浴びる。

 同居人不在のため、気を使う必要もない。

 

 

「……………………ッ」

 

 

 昼間の出来事を思い出し、歯を強く噛み口を震わせる。

 

 

「(あいつが……お兄ちゃんを……)」

 

 

 シャルルにはどうする事もできなかった。

 気付いた時には既に最愛の兄は傷つき、血を流していた。

 

 

「あ、れ。はは、どうしてだろ……」

 

 

 シャルルは涙を流さない。

 備え付けの鏡に映る自分の顔には、濡れた髪の毛が張り付いているだけ。

 

 

 

 

 

 

 お兄ちゃんが傷つけられたのに、どうして涙も出ないんだろう。

 

 

 悲しくないのかな?僕は。

 

 

 ううん違う。そうじゃないんだ。

 

 

 わかってる、僕は……

 

 

 

 

 

 

「………………憎いんだ、お兄ちゃんを傷つけたあいつが……」

 

 

 口に出した言葉を、シャルルの耳を通して脳が理解する。

 

 

 

 

 

 

 僕からお兄ちゃんを奪わないでよ。

 

 

 折角また会えたのに。

 

 

 ……ッ、ああ、憎い。憎い憎い憎い憎い!!!

 

 

 

 

 

 

 

 もういいや。

 

 

 この感情に身を委ねよう。

 

 

 僕のするべきことはーー

 

 

 

 

 

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ…………!!」

 

 

 目から光が消える。

 

 

 鏡に映る自分の目は、ここにない何かを睨んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 ーー少女は堕ちてしまった。愛が強すぎる故に、その思いを歪めて。

 




これで役者は全て揃いました。




実は最初、龍也を病院送りにしていました。
どんだけ外傷酷いんだって話ですね、ごめんよ龍也←


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第三十六話

 

 

 

『千冬さん』

 

 

 やめろ。

 

 

『ねえ、千冬さん』

 

 

 やめてくれ。

 

 

『どうしてこっちを見てくれないの?』

 

 

 やめろやめろやめろ。

 

 

『ねぇ……貴女が傷ツけタのニ、目ヲ背けルの?』

 

 

 もうやめてくれ、龍也。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーッ!!はぁっ、はぁっ、はぁっ…………夢、か」

 

 

 

 

 夜中、寝ていた千冬は夢に魘され目が覚めた。

 

 

 あの後、篠ノ之束に連絡を取った千冬は事情を説明した。

 千冬としてはてっきりラウラに危害を加えるのではないかと危惧していたが、そんな様子は一切なく、束曰く『私がそんなことしても、りゅーくんは喜ばないから』とのこと。

 親友が大人の人間に成長したのを実感した。

 

 

 後日、龍也のお見舞いと一緒にダークネスを回収するためにこっそり来ると言っていた。

 今回ばかりは、千冬も黙認の上だ。

 

 

「……ああ、くそっ」

 

 

 千冬も人間だ。ブリュンヒルデなどと呼ばれていても結局は女性、内心に不安を抱くこともある。

 しかし、それが普通のケースならの話だ。

 

 

「(私を恨んでいるか、龍也)」

 

 

 一度目、あの日の夜も助けることができず、今回も間に合わなかった。

 

 

 怖いのだ千冬は。彼に恨みを持たれることが。

 

 

「何がブリュンヒルデだ。結局、教え子一人守れないで……」

 

 

 責任感の強い部分が裏目に出てしまう。

 どんなに辛くてもそれを隠し、周りには悟られることないように生きてきた。

 

 

 そんな生き方しか知らないのだ、千冬は。

 

 

 

 

「誰か、教えてくれ。私はどうすればいい」

 

 

 

 

 闇に呟いた言葉に、返答を返す者はいない。

 暗闇の中千冬は、再び眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これって、学年別トーナメントの申し込み用紙?」

 

 

「うん!お願いします!」

「織斑君一緒に組んでー」

「ちょっと、抜け駆けは禁止よ!」

 

 

「あはは……えっと」

 

 

 朝の教室、生徒達は席に座った一夏を取り囲む。

 今度行われる学年別トーナメント、二人一組のペアでの出場ということもあり女子生徒達は数少ない男子とのコンビを待ち望んでいた。

 

 

「あれ、そういえば橘君とデュノア君は?」

「まだ来てないねー」

「織斑君知ってる?」

 

 

「あいつらは、その」

 

 

「一夏」

 

 

「ん?あ……シャルル」

 

 

「あっ、デュノア君!」

「タイミングがいい〜!あのね、今度の学年別トーナメントで……って、ちょ、ちょっと!?」

 

 

 シャルルは話しかけてきた生徒二人を無視し、一夏の前へ立つ。

 

 

「……シャルル?」

 

 

「一夏。僕と組んで」

 

 

 机の上に置かれたのは先ほどまで女子生徒達が持っていたのと同じ紙。

 

 

「これって……」

 

 

「僕の目的を果たすためには、一夏と組むのが最善だと思ったから」

 

 

「目的?どういうことだ」

 

 

「良いの?ダメなの?」

 

 

「……………………」

 

 

 こちらの質問に答えず押しの強いシャルルに、少し考える一夏。

 

 

「……わかった。俺と組もう、シャルル」

 

 

「名前書いて。後で僕が出しに行くから」

 

 

「ああ。……よし、っと。これでいいな」

 

 

 空いている欄に自分の名前を書き込むと、シャルルはすぐに用紙を奪い去るように持って席へ戻ってしまう。

 

 

「えっ、あっ、ちょっ、二人とも……」

「男子で組んじゃうんだ……」

 

 

「あー、ごめんな?シャルルもまだ来て日が浅いしペアは男子の方が気が楽だろうからさ」

 

 

「まぁ、一理あるけど……」

「というかさ、デュノア君なんか様子おかしくなかった?」

「うんうん、随分暗いというかなんか、ねぇ」

 

 

「……少しゆっくりさせてあげてくれ。あいつも疲れてるんだ」

 

 

「んーそっか。それなら仕方ないか」

「デュノア君、眉間にしわ寄った顔も素敵だな〜」

 

 

 先日までと様子が違うシャルルに懸念を抱いていると、話を終えた女子生徒とは別から一夏に声がかかる。

 

 

「ねぇ、おりむ〜」

 

 

「のほほんさん?」

 

 

「りゅ〜くん、大丈夫かなぁ」

 

 

 元気のない様子の本音。

 それもそのはず、相川清香や鷹月静寐から聞いたのだろう。龍也の状態を。

 

 

「大丈夫だよ、あいつはすぐに怪我なんて治して戻ってくるさ。そういう奴だろ?龍也は」

 

 

「……うんっ、そうだね。私とりんちゃんでりゅ〜くんを待っててあげないとね〜」

 

 

 少しは気が晴れたのか、多少笑顔を取り戻し席へと戻る。もうSHRまで時間がないからだろう。

 

 

「(龍也、お前を心配してる人はたくさんいるんだ。早く戻ってこいよ)」

 

 

 今も病室のベッドの上であろう親友に、心の中でメッセージを送る。

 

 

 そしてチャイムが鳴り、千冬と山田先生が入室した。

 

 

「全員座れ、朝のSHRを始める」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んんっ……ふわぁぁぁ……あぁ、ねみぃ……」

 

 

 目を覚ます龍也。

 

 

「朝から寝ぼけてんじゃないわよ」

 

 

「んぇっ?…………鈴!?ッ、いてててて……」

 

 

「お怪我をなさっているのですから、飛び起きては身体に毒ですわよ」

 

 

「セシリア、も……いたた……どうして、っていうかここは……」

 

 

「学内の病人用ベッドのとこよ。あたし達全員怪我人だから放り込まれたわけ」

 

 

「もう平気ですのに……大袈裟なんですから」

 

 

「だって一回寝てみたかったんだもん。気持ちいいじゃないこの布団!」

 

 

「……まぁ、否定はしませんけど」

 

 

「……布団抱えてモフるなんて、意外と可愛いとこあるんだなセシリア」

 

 

「な、ななななっ!?」「ちょ、ちょっと龍也!!」「あ、いや、わ、悪いっ!つい、な?」

 

 

 怪我の具合は深刻に見えるが、一晩様子を見た学校の保健医が問題なかろうと判断した為、部屋を移された。

 龍也は男だ、頑丈な身体もしているし治療が効いたのだろう。

 

 

 とは言っても頭には包帯を巻いていて、病人服の中の身体は白くグルグル巻きにされているし、龍也本人は激痛を感じているが。

 

 

「……って、こんな話してる場合じゃない。早速だけど、あの後どうなったんだ?」

 

 

「一夏とデュノアが来たわよ。その後に千冬さんも突入したわね」

 

 

「デュノアさんが龍也さんを運んでくださったのですよ」

 

 

「そっか、シャルが……」

 

 

「随分と落ち込んでたわよ。あんたがズタボロな姿見てね」

 

 

 他人事のように言うが、隣のベッドの少女は気付いていた。

 

 

「鈴さんだって、夜一人で泣いていたではありませんか」

 

 

「わ、わぁぁぁぁぁ!あ、あんた起きてたの!?」

 

 

「ええ。小さくすすり泣く声が聞こえたので」

 

 

「鈴、お前……」

 

 

「っ、何よ!別にいいじゃない。あたしだって心配だったんだから……」

 

 

 ふんっ、と顔を赤くしながらそっぽを向く鈴に龍也とセシリアは苦笑する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 龍也の意識もしっかりと覚醒してきたところで本題へ入る。

 

 

「……ボーデヴィッヒは、一夏に嫉妬してるんだ」

 

 

「え?」

 

 

「最後に斬られる前に、あいつが言ってた。自分が教官に、千冬さんに認められるためには一夏の存在が邪魔だって」

 

 

「……何よそれ」

 

 

「織斑先生が仰っていましたが、ボーデヴィッヒさんはドイツ軍のIS部隊所属のようです。そこで力を付ける経緯に、織斑先生が深く関わっていたと昨日言っていましたわ」

 

 

 この話を知らない龍也に、セシリアが説明する。

 しかし、龍也は束から既に千冬が教官を勤めたことを聞いていたので知っている。

 

 

「ボーデヴィッヒの中では千冬さんの存在が大きくて、肉親に恨みを持ってしまうほどなんだろう。

 そして、俺達はラウラ・ボーデヴィッヒという人間を知らなさすぎる。もしかしたら、何か特別な理由があるのかもしれない」

 

 

「そうは言ってもどうするのよ?つい最近知り合った人間の詳しい過去を、あたし達がほいほい知れるわけないでしょ」

 

 

「どうしましょうか……」

 

 

「……………いや、一つだけ方法がある」

 

 

「「え?」」

 

 

「ドイツ軍のIS部隊、そこの人間に聞けばわかるかもしれない」

 

 

「ですが、連絡を取る手段がありませんわ。

 それに、軍内の個人情報を簡単に喋る事もないはずです」

 

 

「なら千冬さんに聞けばいいんじゃない?」

 

 

「いや、千冬さんには頼れない。あの人にこれ以上心労と迷惑をかけるのはダメだ」

 

 

「じゃあどうするのよ」「そうですわ」

 

 

「んー、どうすっかなぁ……」

 

 

 現状は進まない。停滞してしまったその時、

 

 

 

 

 

 

『ふっふっふっ、話は聞かせてもらったよっ!』

 

 

 

 

 

 

「………………え?」

 

 

 バタンッ!と扉が大きな音を立てて開く。

 そして入ってきた人物はーー

 

 

「やあやあ、久しぶりだねぇ。元気にしてたかい少年よ」

 

 

「た、束さん!?」「ええっ!?」

 

 

「なっ、し、篠ノ之博士!?」

 

 

 

 

「ちーちゃん《親友》にこれ以上苦労はかけさせないよ。ここからは私の出番だね」

 

 

 

 

『天災』は唯一無二の親友の為に、動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あの、初めまして!わたくし、セシリア・オルコットと申しますわ!」

 

 

「ああ、君がセシリアちゃんかぁ。

 んーじゃあせっちゃん!よろしくねー」

 

 

「せ、せっちゃん?」

 

 

「お、お久しぶりです篠ノ之博士」

 

 

「うんうん、鈴ちゃんもりゅーくんがここに来た日以来だねぇ」

 

 

 突如現れた天災に驚く二人。

 軽く萎縮しながらも挨拶を交わす。

 

 

「二人とも気遣いすぎだろ。俺もいるんだしもっと楽にしろよ」

 

 

「ふふっ、りゅーくんのお友達だから束さんも出血大サービスで心を開いちゃうよー」

 

 

「そうは言ったって緊張するもんはするのよ」

「本当、その通りですわ……」

 

 

「まぁ、こんなんでも天才で天災だからなぁ……」

 

 

「ちょっとりゅーくん?こんなんでもってどういうことかなぁ……?」

 

 

 バチンッ

 

 

「いっ、いでぇぇぇぇぇ!!!せ、背中を叩くんじゃ「んー?」ぐぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

「し、篠ノ之博士!龍也の顔が凄いことになってますから、その辺にしておいた方が……」

 

 

「博士なんて他人行儀な呼び方はやめておくれよ二人とも。気軽に束さんって呼んでいいんだよ」

 

 

「は、はぁ……」

 

 

「うぐっ……身体、動かさなきゃ、痛みも我慢できるのに……」

 

 

「りゅーくんはやっぱり傷の治りが早いねぇ。ちーちゃんから聞いた感じじゃ1日で治ると思えなかったけど」

 

 

 怪我人の龍也をバチンバチン叩くあたり遠慮の無さが伺える。それも信頼関係があるからなのだろうか。

 

 

「そ、それで、しの……束さんがいらしたのは?」

 

 

「りゅーくんのお見舞いに来たんだけど、なにやらお困りのようだからねぇ。私が手伝ってあげるよ」

 

 

「いいんですか?」

 

 

「おうよ、束さんに任せなさい!」

 

 

 胸を張って答える束。

 何度目かわからないが、揺れる胸を見て目を背ける龍也。

 だが今回はそんな龍也を見て睨む鈴もいるオマケ付きだ。

 

 

「あ、その前にダークネスは貰ってくね。装甲もボロボロらしいから修理しておかないと」

 

 

「すいません……俺が不甲斐ないばっかりに」

 

 

「……もうっ、いいんだよそんなこと気にしなくて」

 

 

「わっ、ちょ、束さん!?」

 

 

 束に寄せられ、抱きしめながら頭を撫でられる。

 

 

「りゅーくんが無事なら、それだけで私は十分だから」

 

 

「束さん……」

 

 

 優しい声で、優しい目をしているであろう束にこのままでもいいか、と思った龍也。

 しかし、ここにはもう二人いることを忘れてはいけない。

 

 

「(くぅぅ、胸なのか!?結局は母性なのか!?)」

「(こ、これは、わたくしの想像が当たっていたのでは!?)」

 

 

 状況はどうあれ、やはり天災は場をかき乱していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、IS部隊の人間の連絡先が欲しいってことでいいんだね?」

 

 

「あ、出来ればそれなりに階級が高い人がいいです。例えば副隊長とか」

 

 

「おっけー、それくらい束さんにかかればお茶の子さいさいだよ」

 

 

「本当に、ありがとうございます束さん」

 

 

「ううん。じゃあまたねりゅーくん、せっちゃんに鈴ちゃんも。後で連絡するからねー」

 

 

「はい」

 

 

 ドアを開け外で出ようとしたのだが、何かを思い出したように立ち止まる。

 

 

「あ、そうだ。最近箒ちゃんはどうかな?」

 

 

「箒ですか?特に変わった様子はありませんけど……」

 

 

「そっか。あの子は色々と一人で溜め込んじゃう子だから、見てあげてね。

 ……私が一緒にいてあげられたらよかったんだけど」

 

 

 篠ノ之束がISを発明したことにより、箒は転校続きを余儀なくされた。

 束は家族と、妹と向き合わなかったことを後悔しているのだ。

 

 

「大丈夫ですよ。俺達、箒の友達ですから」

 

 

「ええ、箒さんは大事なお友達ですもの」

 

 

「あいつがうじうじしてたら引っ叩いてやりますよ」

 

 

「みんな……うん、お願いね」

 

 

 今度こそ部屋を出ていく。

 

 

「お優しい方ですのね、束さん」

 

 

「不器用なだけなんだよ、あの人は」

 




千冬さんの精神的苦痛が凄いことになってますが後ほど必ず救済します。
それと、千冬を介さずラウラのことを知る流れにしました。



あのオタク被れ軍人が早々に登場するかも……?


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第三十七話

あまり重要なことではないのですが、私から質問のようなものがあります。
気になる人はちらっと活動報告を見ていただきたいです。


 

 

 

 

「ただいま、箒」

 

 

 放課後、自室へと帰ってきた一夏は同居人の箒へ声をかける。

 がしかし、返事はない。

 

 

「…………箒?いないのか?」

 

 

 洗面所の方も軽く確認をするが、見当たらない。

 

 

「あれ、先に戻ってると思ったんだけどな」

 

 

 鞄を置きベッドにダイブする。

 そのまま仰向けになり頭の下で手を組む。

 

 

「(どうするかなぁ、ボーデヴィッヒのこと)」

 

 

 もし本当に人気のない場所で一対一にでもなろうものなら、それこそセシリアの言う通り話にもならずそのまま殺されかねない。

 何かしら対策を練る必要があるのだ。

 

 

「(……ていうか、俺寝込みとか襲われないよな?ど、どうする。考えてなかった。

 そうだよ、わざわざ正面からヤる必要なくないか?)」

 

 

 今更気付いたのか、現状に焦る一夏。

 すると、扉の鍵が外された音がして部屋の中に人が入ってくる。

 

 

 一夏は飛び起きる。

 

 

「ッ……!?」

 

 

「……なんだ、そんな驚いた顔をして」

 

 

「あ、ああ、箒か。悪い」

 

 

 入って来たのはルームメイトである箒。

 その様子は顔から見て取れる通り疲れており、一夏同様部屋に入って来てすぐにベッドへうつ伏せに寝転んでしまった。

 

 

「どうした箒?大丈夫か?」

 

 

「……ああ。少し疲れているんだ、気にしないでくれ」

 

 

「何してたんだよ、剣道部は行ってないんだろ?」

 

 

「……ISの訓練だ」

 

 

 箒は放課後、打鉄を借りてアリーナで訓練をしていた。

 

 

「そういや、俺達と一緒にやらないで別にやってるよな箒は」

 

 

「お前達専用機持ちのところにいたところで、私は邪魔でしかない」

 

 

「そんな事ないさ。専用機だとか訓練機だとか、そんなの関係ないだろ」

 

 

「……………」

 

 

 捻くれた言い方をする箒に一夏は疑問を抱く。

 

 

「(どうしたんだ箒、なんか悩んでるみたいだけど)」

 

 

「なあ、一夏」

 

 

「おう。なんだ?」

 

 

 箒が顔を上げ一夏の目を見る。

 

 

「もうすぐ学年別トーナメントがあるな」

 

 

「ああ」

 

 

「もし、私が優勝したら、一つだけお願いを聞いてくれないか?」

 

 

「なんだよ改まって。別にいつでも聞くけど」

 

 

「……それじゃ、ダメなんだ。私は……」

 

 

「箒……」

 

 

 いつに無く真剣な顔で言う箒に、一夏も真剣になる。

 

 

「わかった。でも俺だって負ける気はないぜ」

 

 

「ああ。わかっているさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少女は恋をしていた。

 一度は離れてしまった、幼馴染に。

 

 

 少女は一般家庭とは程遠い生活を送っていた。

 名を偽り、地方を周り、家族とも別れを余儀なくされた。

 

 

 少女は悩んでいた。

 自分では、恋をしている者に程遠いと。

 

 

 それは力か、或いはもっと別のものか。

 "復讐"という概念を体感していない自分は、彼と同じラインに立てないのか、と。

 

 

「(一夏に想いを告げるためには、私は強くならなくてはならない)」

 

 

 後ろ姿を追いかけることしか出来ない自分に、情けなくなっていた。

 他人から見れば何を悩んでいるのか、と一蹴されるかもしれない。

 

 

「(それでも私は……)」

 

 

 彼を、隣で支えたい。

 身勝手な願いかもしれないけれど。

 

 

「ーーー手段は選べないな、行くか」

 

 

 少女は動き出す。

 

 

 先日転入してきた二人のうちの一人、『銀髪で眼帯をした少女』の元へ。

 彼女が自分の愛する少年へと憎悪を向ける、復讐者とも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーー後にこの行動が少年少女達の運命を大きく変えることになるとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ど、どうする鈴。お前がかけるか?」

 

 

「嫌よ。あんたがやりなさい」

 

 

「……はい」

 

 

 今病室には鈴と龍也の二人しかいない。

 そして、束からドイツ軍の連絡先が送られてきたので早速電話をかけようという状況である。

 

 

「(ボーデヴィッヒんとこの部隊の副隊長の連絡先とか、有能すぎんだろ束さん)」

 

 

 元より手に入らない心配はしていなかった。

 寧ろこれだけの事、束からしてみれば朝飯前だろう。

 

 

「ふぅー……よし。かけるぞ」

 

 

「って、ちょっと待った」

 

 

 思わぬ横入りストップに電話を落としそうになる龍也。

 

 

「おいぃぃぃ!?せっかくいいタイミングでいけそうだったのになんで邪魔するんですか!?」

 

 

「あんた、ドイツ語喋れるの?」

 

 

「……日本語通用するだろ?千冬さんもいたとこなんだし、全世界共通語なんだから」

 

 

「……大丈夫かなぁ」

 

 

「そ、そんな事言ってたら始まらねえよ!いいからいくぞ!」

 

 

 入力した番号先に発信する。

 

 

 prrrrrrr prrrrrrr

 

 

「……出ねえな」

 

 

「なんかやってるんじゃない?それとも知らない番号からは取らないようにしてるとか」

 

 

「あり得そうだな」

 

 

 prrrrrrr prrrrrrr

 

 

 ガチャッ

 

 

「ッ!」

 

 

 

 

『こちらIS部隊、シュヴァルツェ・ハーゼのハルフォーフ大尉だ』

 

 

 

 

「もしもし」

 

 

『……日本人?』

 

 

「突然のお電話すいません。IS学園に在籍している橘と申します」

 

 

 電話を取った相手は、『クラリッサ・ハルフォーフ』。

 シュヴァルツェ・ハーゼでラウラの下についていた、副隊長だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『これはどういう事でしょうか。軍内でしかこの番号は明かしていないはずですが』

 

 

「緊急で其方に聞きたいことがあったので、とある人物に連絡先を調べてもらいました。

 安心して下さい、軍内の情報等は一切持ち出していません」

 

 

『IS学園の生徒が、随分と思い切った行動をしますね。何をしているのかわかってのことですか?』

 

 

 クラリッサの言い方には棘があった。

 それもそのはず、一生徒が軍の機密番号に電話をかけるなどあってはならない。

 

 

「……承知の上です」

 

 

『……そうですか。それで、どんな要件でしょうか』

 

 

「(ん……?思ったよりあっさりしてるな。助かるけど)

 先日学園に転入して来た、ラウラ・ボーデヴィッヒさんの事についてです」

 

 

『ッ……ラウラ隊長、ですか。隊長が何か?』

 

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒという人間について、分かることを教えていただきたいと思いまして」

 

 

『……………………』

 

 

 ラウラの名前を出すと、何か心当たりがあるように黙るクラリッサ。

 少し返答に迷うようなそぶりを電話越しに見せる。

 

 

『何故ラウラ隊長のことを、ドイツ軍に直接聞くのですか?わざわざ機密番号を入手してまで』

 

 

「……今、学園では自分の親友とボーデヴィッヒさんが一悶着あって、揉めています。

 その一悶着を収めるためには、彼女を知る必要があると思ったからです」

 

 

「そして、織斑先生から教えてもらいました。先生は元ドイツ軍の教官で、ボーデヴィッヒさんはそこの隊長だと」

 

 

『教官が……?』

 

 

「お願いします、ほんの些細なことでもいいんです。何か彼女について教えていただけることがあるなら」

 

 

「龍也……」

 

 

 頭を下げる勢いの龍也を見て、鈴は気を遣ったのか部屋から出て行く。

 

 

『……橘さんと言いましたね、貴方は織斑教官と親しいのですか?』

 

 

「え?は、はい。中学生の頃からお世話になってますけど……」

 

 

『……わかりました。その言葉を信じます。

 私からは、話せる範囲でラウラ隊長の事をお教えしましょう』

 

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 

『まず、いきなりですが重要なことを一つ。

 

 

 ラウラ隊長はーー』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーはいっ、確かに受けとりましたよ。織斑君とデュノア"さん"のタッグペアの申請書」

 

 

「ありがとうございます。失礼しました」

 

 

「あ、デュノアさん。学園生活は大丈夫そうですか?」

 

 

「……特に問題はありません」

 

 

 ほっと胸を撫で下ろす山田先生。

 

 

「そうですか、なら良かったです」

 

 

「…………では」

 

 

 職員室へ学年別トーナメントのペア申請書を提出しに来たシャルル。

 無事に山田先生を用紙を出し終えたシャルルは廊下へと出る。

 

 

 すると、

 

 

「ん?貴様は……」

 

 

「……ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

 

 通りすがったラウラと対面した。

 

 

「………………」

 

 

「待ちなよ」

 

 

 顔を見合わせたが、特に気にもとめず横を通ろうとするラウラをシャルルが止める。

 

 

「なんだ。貴様に用は無いぞ」

 

 

「お前になくても僕にはある。今度の学年別トーナメント、出るんでしょ」

 

 

「ああ。観衆の面前で奴を殺す、いい機会だからな」

 

 

「…………そう。それならいい」

 

 

 質問に返答すると興味を無くしたように歩き始めようとするシャルルにラウラが疑問を抱く。

 

 

「止めないのか?貴様の友人が殺されようとしているのだぞ」

 

 

「『関係ないね』。それに、僕には僕でやることがある」

 

 

「やること?」

 

 

「ああ。

 

 ……君を、殺すことだ」

 

 

「………………ほう」

 

 

 面白いものを見つけたように口を歪めるラウラ。

 

 

「私を殺すだと?」

 

 

「僕は一夏とペアを組んだ。君が一夏を殺そうとするなら、その時は僕が一緒にいる」

 

 

「つまり、織斑 一夏を狙う前に貴様と戦えと?」

 

 

「そういう事だね」

 

 

「……くっくっくっ、あはははは!この前の奴の敵討ちというわけか、面白い!」

 

 

 高笑いをするラウラを睨み続けるシャルル。

 

 

「いいだろう。そこまで言うのならば、私を退屈させてくれるなよ」

 

 

「退屈なんてする間も無く、殺してあげるよ」

 

 

「ふん。抜かせ」

 

 

 今度こそラウラは歩き始める。

 その表情には、獰猛な笑みが浮かべられていた。

 

 

 ーーそして、シャルルは去っていくラウラを、殺意の篭った目で見ていた。

 




ラウラについて一歩龍也が先に行きましたね。
箒が何をするかは次の話で。


感想お待ちしています。


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第三十八話

 

 

 

「………………」

 

 

 シャリシャリシャリ

 

 

「……よし、これでいいか」

 

 

 ラウラは自室で椅子に座り、所持しているアーミーナイフを研いでいた。

 

 

「ふふ、教官に教わったからな。しっかり毎日手入れをしておけと」

 

 

 年相応の純粋な笑顔を浮かべて一人過去を振り返る。

 わずか半年足らずではあったが、織斑 千冬が教官としてドイツ軍に来てからラウラの見る世界に色が灯った。

 彼女に力の使い方を、そして笑うことの楽しさを教わった。

 

 

「……まだ、夜は続くか」

 

 

 トーナメント本番までは一週間以上ある。

 ラウラ個人の復讐を果たす場所にふさわしいとして、そこで見せしめに一夏を殺すことを決意していた。

 

 

「長いな。退屈だ……骨のある遊び相手はいないのか」

 

 

 ラウラはIS部隊隊長であり、ドイツの代表候補生だ。

 その実力は群を抜いて高く、他を寄せ付けない。

 

 

 コンコンコン

 

 

「む、私の部屋にノックだと?」

 

 

 千冬ならば声で呼びかけて居るか居ないかを確認するだろう。

 ラウラに学園で親しいと言える人物はいないので、誰かが部屋を訪ねてくるなど想像もしていなかった。

 

 

 ガチャッ

 

 

「誰だ?」

 

 

「突然すまない、ボーデヴィッヒ。私は同じクラスの篠ノ之 箒だ」

 

 

「貴様は……」

 

 

 以前、箒の顔はアリーナで一度見ている。

 襲撃を先生の呼びかけにより止められた時だ。

 

 

「何の用だ」

 

 

 温厚な態度で迎え入れる気はない。敵意と警戒心を入り混ぜて対応する。

 

 

「お前に頼みたいことがあるんだ」

 

 

「……私に頼み事だと?」

 

 

「ああ」

 

 

 話が長くなると踏んだラウラは箒を部屋に入れる。

 

 

「……此処ではなんだ、部屋に入れ」

 

 

「すまない、お邪魔する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 客人ではあるため、茶を淹れ椅子に座る箒の前のテーブルに置く。

 箒が茶を一口含んだ所で話を始める。

 

 

「それで、どういう用件だ」

 

 

「お前はドイツの代表候補生だったな」

 

 

「ああ、そうだが」

 

 

「……私を、鍛えてくれないか」

 

 

「…………なんだと?」

 

 

 思わぬ発言に目をしかめ疑問を浮かべるラウラ。

 

 

「何故だ」

 

 

「強くなりたいんだ」

 

 

「力が欲しいなら、私ではなく他の国の代表候補生達もいるだろう」

 

 

 自身を殺すと宣言してきたのは、フランスの代表候補生。先日叩きのめした二人もイギリスと中国の代表候補生、それも世間で話題になるほどの実力者だ。指導を受けるには十分であろう。

 友好的な雰囲気を放っているとは自分でも思わないラウラは、自分の元へ来るのが単純に疑問であった。

 

 

「彼女達には……頼れない」

 

 

「………………」

 

 

 個人的な人間関係の拗れでもあるのだろうか、そう推測を立てる。

 だが、そんな事はラウラの知った事ではない。

 

 

「私はお前の友を襲った人物だぞ」

 

 

「それでも、今頼れるのはボーデヴィッヒしかいないんだ」

 

 

 箒は、事の重さを知らない。

 一夏に対し悪意を持つ彼女にいい気がしないのは確かだが、それも事情があってのことなのだろうくらいの認識でしかなかった。

 

 

「帰れ。私には関係ないことだ」

 

 

「ッ……どうしても駄目か?」

 

 

「私にはやるべきことがある。それに、お前に指導を振るう義務もない」

 

 

「…………そうか、時間を取らせてすまなかった」

 

 

 ほんの数分で箒は望みを断たれ拒絶されてしまった。

 

 

 暗い顔をして部屋を出て行く箒に、ラウラは目もくれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はぁぁっ!!』

 

 

 違う。

 

 

『面ッ!!』

 

 

 違うんだ。

 

 

『胴ッ!!』

 

 

 私が手に入れたいのは、名誉や称号なんかじゃない。

 

 

『おめでとう、ーーーさん!優勝しちゃうなんて凄いね』

『かっこよかったよ!』

 

 

 みんな、やめてくれ。

 

 

 私の汚れた感情が篭った剣を、褒めないでくれ。

 

 

 

 

『ーーーこれが、今の俺の剣だよ。箒』

 

 

 ああ、一夏、お前は私より先へ行ったのか。

 

 

 

 

 どうすれば追いつける。

 

 

 どうすれば私は一夏と並び立てる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーッ、はぁっ、はぁっ……」

 

 

 一人アリーナの端で打鉄に乗り訓練する箒。

 その様子はとても激しく、目に見えて苦労しているのがわかった。

 

 

 彼女のIS適性値はC、セシリアや鈴達とは値から差がついている。

 ISにおいて適性は非常に重要だ。操縦するにもして、思うように動かせるかが大きく変わってくる。

 

 

「これでは、駄目だ。セシリアや鈴には追いつけない……!」

 

 

 以前のIS実習の授業、山田先生と戦った二人は完全とは言えないが十分に実力を発揮した。

 その時箒は理解せざるを得なかった。彼女達と、自分との間に広がる大きな差を。

 

 

「もう一度だ……!」

 

 

 箒は剣を振るう。

 

 

 彼女の最大の武器、それは持ち前の剣の技術である。

 才能もあるが、長年積み上げてきた努力が生み出した力。

 

 

「(私には、剣しかない。ならばこの道を極めるのみ……!)」

 

 

 迷う事なく己が信じる道を行く。

 その姿は、まさしく日本の武士道であった。

 

 

「ふっ、はっ!」

 

 

 箒は訓練を続ける。

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

 

 そんな箒の様子を、少し離れたところから眺める一人の少女がいたことを箒は知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コンコンコン

 

 

『はーい』

 

 

「入るぞ龍也」

 

 

 ガチャッ

 

 

「一夏か。どうした?」

 

 

「どうしたじゃねぇよ。お見舞いくらい来たっていいだろ」

 

 

 後日、先に回復したセシリアと鈴と別れ一人病室になった龍也。

 とは言っても本人の傷も癒えてきており、もうすぐでこの空間ともおさらばだろう。

 

 

「そっか、ありがとな」

 

 

「怪我の具合は?」

 

 

「もう大丈夫だ。身体の痛みも引いてるしな」

 

 

「よかった。みんな心配してるぞ?」

 

 

「何人かは来てくれたよ。本音ちゃんとかな」

 

 

「……シャルルは来たのか?」

 

 

「え?……いや。シャルの奴は来てないな。

 なんかあったのか?」

 

 

「少し様子が変なんだ。お前がボーデヴィッヒにやられた日から」

 

 

 一夏だけでなくクラスのみんなも異変には気付いていたが、あまり触れずにいた。

 

 

「んーあいつ寂しがりやだからなぁ。俺がいなくていじけてんだろ」

 

 

 あはは、と冗談交じりに言う龍也に苦笑する一夏。

 

 

「だからお前が気にかけてやってくれよ、一夏」

 

 

「今更言われなくてもそうするさ、任せとけよ」

 

 

「ふっ、ああ。

 

 ……それで、ボーデヴィッヒの件はどうなってる?」

 

 

「……特には、何も。あれから向こうからの動きはないな」

 

 

「…………そっか」

 

 

 何やら暗い顔をする龍也。

 

 

「龍也?」

 

 

「……なあ、一夏」

 

 

「ん?」

 

 

「………………」

 

 

 何かを言うべきか言わないべきか迷っているのを感じさせる。

 そして、

 

 

「……いや、やっぱなんでもない」

 

 

「おいおい、なんだなんだ」

 

 

 濁す龍也に疑問が湧いてくる。

 

 

「なんでもないっての。

 じゃ、早いけど今日はもう戻れ。もうすぐ先生が診に来る」

 

 

「お、おう。わかった。それじゃあまたな」

 

 

 追い出されるように部屋を出て行く一夏。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……頼んだぞ、一夏。ボーデヴィッヒのこと」

 

 

 人のいなくなった病室で一人、何かを親友に託す姿がそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふっ、はっ、はっ、はっ」

 

 

 早朝、学園の外周を走る箒。

 かれこれ30分前後は走っているだろうか。

 

 

 そんな箒の姿を遠くから見つけた生徒が一人。

 

 

「あれは……箒さん?」

 

 

 セシリア・オルコットだ。

 彼女は箒が訓練に明け暮れているのを以前から何度か見かけていた。

 

 

「(しかし、朝からとは精が出ますわね。お身体を崩さなければ良いのですが……)」

 

 

 箒が体調を崩してしまえば、彼は心配するだろう。

 すると、箒が立ち止まり呼吸を整え始めた。

 

 

「(あら、丁度いいですわね。少しわたくしから抑えるように言っておきましょう)」

 

 

 トレーニングのし過ぎではないかと心配ついでに注意をしようとしたその時、

 

 

「(なっ…………!?)」

 

 

 セシリアが見たもの、それはーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……ふぅ。あれ、飲み物はどこに……」

 

 

 スタートした場所に帰ってきて走るのを中断する。

 近くに置いたドリンクを飲もうと思い探すと、

 

 

 

 

「ーーー探し物はこれか?」

 

 

「ん?……な、ボーデヴィッヒ!?」

 

 

「………………」

 

 

 手に自らが持ってきたドリンクを持った、ラウラが壁に寄りかかり立っていた。

 

 

「受け取れ」

 

 

「わっ……あ、ありがとう」

 

 

「ふん」

 

 

 ドリンクを投げ渡される。

 キャップを開けゴクゴクゴクと飲み干す姿を、ラウラはじーっと見ている。

 

 

「…………なんだ?」

 

 

 視線に気を取られた箒はラウラに疑問を投げかける。

 

 

「…………何故」

 

 

「ん?」

 

 

「貴様は、何故そこまでして力を欲するのだ」

 

 

「…………え?」

 

 

「私に指導を断られながらも、貴様はISだけでなく心体の訓練も欠かさない。この学園のぬるい生徒達より目に見えて努力の量が違う。

 何故だ?どうしてそこまでして己を磨く」

 

 

 ラウラは、望んで自分から箒の姿を見ていたわけではない。

 だが、たった一度アリーナで箒を見かけた時、周りの人間達とは比べられない程の気迫で訓練をしているのを見た。

 

 

 決してレベルの高い訓練とは言えない。

 しかし、元落ちこぼれだったラウラにはわかった。

 目的のために一心不乱に努力をする、箒はそんな人間であると。

 

 

 そこから度々色々な場所で箒を見ていた。

 剣道場、学校の外周を走る時、何処にいても箒は変わらず努力を怠ることはなかった。

 

 

 

 

 

 

「篠ノ之 箒、貴様が力を欲する理由はなんだ」

 

 

 

 

 

 

 ラウラは問う。目の前の少女を突き動かす原因は何なのか。

 

 

 ラウラの真剣な表情から伝わったのか、箒も真面目な顔になる。

 そして、語る。

 

 

「……私は」

 

 

 

 

 

 

「愛する者を自らの手で守れるようになる為に、強くなりたいんだ」

 

 

「ーーーーーーッ」

 

 

「今の私では力不足だ、だから鍛えるしかない。強くなれば私も同じステージに立てるからな」

 

 

 何かを諦めたような、でもそれでいて希望をまだ捨てていない目を見せる箒。

 その姿はまるでーー

 

 

「(半年前の、私より強い女ではないか)」

 

 

 千冬に会う前、ラウラは諦めていた。

 いや、努力を怠っていたわけではない。ただ未来に希望を見出せず心は既に死んでいた。

 

 

 でも箒は違う。今の自分を理解しながらも、前に進むために自分を変えようと努力をしている。

 

 

「す、すまない。柄にもなく恥ずかしいことを言ってしまった。忘れてくれ」

 

 

 ふと我に返り顔を赤くしその場を去ろうとする箒。

 

 

「ーー待て」

 

 

「ん?」

 

 

「………………」

 

 

 箒を呼び止めるラウラ。

 その目は、箒を射抜くように見ている。

 

 

 

 

 

 

「気が変わった。私がお前を鍛えてやる、篠ノ之 箒」

 

 

「…………え?」

 

 

 

 

 

 

「ーーーー箒さんッ!!!」

 

 

「せ、セシリア?」

 

 

「イギリスの……」

 

 

「ご無事ですか、箒さん」

 

 

「え?あ、ああ。

 どうしたんだセシリア、いきなり」

 

 

 会話に割り込んできたのはセシリア。

 

 

「…………先程の言葉、忘れるなよ」

 

 

「あっ、ボーデヴィッヒ……」

 

 

 先に去っていくラウラ。

 

 

「……箒さん、ボーデヴィッヒさんと何を話していらしたのですか?」

 

 

「…………い、いやぁ、た、大した話はしてないぞ?うん」

 

 

「…………本当ですわね?」

 

 

「な、なんだ、疑り深いな。本当だ」

 

 

「そう、ですか。なら良いのです」

 

 

 セシリアは箒の身を心配しての発言だったが、本人はーー

 

 

「(き、聞かれてないな?さっきの会話。

 愛する者がなんだとかセシリアに聞かれたのでは今後からかわれ続けてしまうからな……!)」

 

 

 違った意味で、焦っていた。

 




ラウラは箒に対して、自分と似た何かを感じ取るものがあったと認識してくだされば問題ありません。




さあ、箒の教官になったラウラはどうなるのか?


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ラウラの過去、一夏の決意

 

 

「……来たか」

 

「これはどういう事だ、ボーデヴィッヒ」

 

「鍛えてやると言っただろう」

 

 箒とラウラ、二人がいるのはアリーナのグラウンドではなく剣道場。

 手に竹刀を持っているわけではない、服装を動きやすいのに替えただけだ。

 

「ISでの訓練ではないのか?」

 

「お前は既に十分な程鍛錬をして身体を作っているようだから、まず私からは生身での戦闘体術を教える。

 戦いにおいての基本能力だ、ISを操縦するに至っても軍仕込みの動きが伴えばそれだけ自由に立ち回れる。ISでの実地訓練はその後だ」

 

「そうか……わかった。宜しく頼む」

 

「ああ。それでは早速だが……始めるぞ」

 

「ーーーーッッ!!」

 

 箒がゾワッ!と身の毛のよだつ威圧感を感じた次にはもう、ラウラの手によって身体を地にねじ伏せられていた。

 

「ぐっ……!」

 

「今、反応できなかったな。

 お前には最初に相手の動きを見極める"目"の力を養ってもらう」

 

「目……?」

 

「観察眼というやつだ。戦いにおいて、相手の動きを見るという行為は戦況をコントロールする鍵になる」

 

 箒の腕を放し立ち上がらせる。

 

「お前には1分間、私の攻撃をかわし続けてもらうぞ。

 避けても受け流しても構わない。一発も貰わなくなったら次のステップに進む」

 

「避けるだけだと?」

 

「嫌なら構わん。その時は私の役目はこれまでだったという事だ」

 

「………………」

 

 箒にもプライドがある。

 だが、今はそんなことに構っている時間はない。

 

「……始めよう。時間が勿体無い」

 

「ふっ、そうでなくてはな。いくぞ」

 

「来いッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コンコンコン

 

『はーい』

 

 ガチャッ

 

「調子はどうなのよ、龍也」

 

「りゅ〜くん元気にしてるー?」

 

「お、鈴に本音ちゃん。また来てくれたのか」

 

「あんたが暇を持て余してるんじゃないかと思ってね」

 

「きちゃったのだー」

 

 龍也の元へ来た鈴と本音。

 もう何度目かもわからないくらいなので、お見舞いというよりはただの話相手であろう。

 

「ははっ、もう傷は完治してるからな。今日で此処も最後だけど」

 

「……なんだかんだあんたが一番居座ったじゃないの」

 

「りゅ〜くんサボり魔だね〜」

 

「うっ、何も言い返せない……」

 

 未だに病室のベッドの上にいるのは一応怪我として一番重症だったせいか、保健の先生に甘えを許してもらいずっと居座っているからだ。

 

「その様子だと、だいぶ身体が鈍ってるんじゃない?学年別トーナメントまでもう日も無いけど大丈夫なの?」

 

「え?俺出ないけど?」

 

「「えっ」」

 

 思わぬ発言に二人が驚く。

 

「鈴とセシリアと同じでISぶっ壊されちまったからな。

 それに、今から申し込むのも先生方の仕事増やすだけだし迷惑だろ」

 

 今から用紙を貰い、ペアを決めるには時間がないのは事実だ。

 

「えーりゅ〜くんのかっこいい姿みたかったなー」

 

「そ、そうか?

 どうしよっかなー今から申し込んじゃおうかなぁー」

 

「……単純ね」

 

「そんなところも好きだけどねー」

 

 この3人の空間には他を寄せ付けない謎のオーラが出ているらしい。

 食堂では当然、鈴が一組へ来た時の教室で始まった時には周りの生徒は少しやめて欲しいと思っているとかなんとか。

 

 と、他愛もない話をしていると龍也があることを思い出す。

 

「あっ、俺今日までに山田先生に提出しないといけないプリントあったんだ!」

 

「そうなの?」

 

「ああ。俺が怪我してる間に期限が来てた、数学のな」

 

「あぁーあれかぁ」

 

 本音は先日授業で提出した課題を思い出す。

 龍也はその日病室にいたので間に合わなかったのだが、先生のご厚意により期限を延長してもらったのだ。

 

「そういうわけだから、ちょっと行ってくるわ」

 

「はいはい、行ってらっしゃい」

 

「いってらー」

 

 二人に見送られ、部屋を出る。

 プリントは自分の鞄の中にあるため、向かう先は寮室だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(早めに思い出してよかった、急がないと)

 って、あれは……おーい!シャルー!」

 

「ッ!?」

 

「な、なんだよ、そんな顔して」

 

「おにい、ちゃん?」

 

「お、おう。お兄ちゃんですよー」

 

 龍也の呼びかけに凄い形相で振り返ったシャルル。

 その次には猛スピードで近づいてくる。

 

「怪我は大丈夫なの!?お兄ちゃん!」

 

「ああ、もうピンピンしてるよ。ていうか、なんでお見舞い来てくれなかったんだよ、寂しかったんだぜ」

 

「……ごめんね、僕もやらなきゃいけない事があるから」

 

「?そうか。まぁいいんだけど」

 

「……じゃあ、これで。お兄ちゃん」

 

「おう。明日から部屋に戻るから、またな」

 

 龍也は異変に気づかない、ほんの少しの会話では去って行くシャルルの内に秘めた感情に気づくことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 龍也とシャルルが出会った頃、別の場所でも対面する二人の姿があった。

 

「………………」

 

「………………」

 

 一夏とラウラ、向かい合って互いを見合う。

 

「何の用だ、織斑 一夏」

 

「お前と話がしたい、ボーデヴィッヒ」

 

「私と話だと……?」

 

「ついて来い」

 

「……ふん、いいだろう」

 

 

 

 

 

 場所を中庭に移す。周りに人はいない、二人だけの状況だ。

 

「いい度胸だな。人気のない場所で私と対面するなど」

 

「俺は戦いに来たんじゃない。聞きたいことがあるだけだ」

 

「甘いな。そんな事が通用すると思うーーー」

 

「千冬姉とは、どういう関係なんだ」

 

 ピタッ

 

「……何だと?」

 

「聞かせてくれよ、お前のこと。お前が知ってる織斑 千冬って人間のことを」

 

「…………」

 

 立ったままその場で止まるラウラ。

 少し考えるようなそぶりの後、口を開く。

 

「……私にとって、あの人は恩人という言葉では語りきれないほど大きな存在だ」

 

 一夏は黙って耳を傾ける。

 

「今から半年と少し前、周りに比べて身体も小さく、戦闘能力も皆無な私はドイツ軍でも落ちこぼれの存在だった」

 

「努力していたつもりだった。しかし、成果は出ず思うように力を振るえない。全てに絶望しかけていたある日……」

 

「千冬姉が、ドイツに来たのか」

 

「そうだ。あの人が教官として、我がドイツ軍に来たのだ。最初は誰が来るなど興味無かったし何かが変わるとは思えなかった」

 

「だが、私が訓練に嫌気がさし、軍内の人気のない場所で一人佇んでいた……そんな時だった」

 

 

『ここで何をしている。ラウラ・ボーデヴィッヒ』

 

 

「あの人が、私を見つけてくれた。

 普通ならば怒る所を、どうしたんだと話を聞いてくれた。……なんだろうな、その時から不思議と惹かれていたのだろう。すんなりと身の回りを話してしまったよ」

 

「……はは、一番に怒らないなんて千冬姉とは思えないな」

 

 一夏の知らない千冬の姿を聞き、驚きと笑みが出る。

 

「……そこから教官は、私をよく気にかけてくださった。居残り訓練にも付き合っていただいたし、食事や風呂も私と行動を共にしてくれたんだ」

 

「私には家族がいない。だから、あの人から貰った暖かみは、私の宝物なんだ」

 

「家族がいない?それって……」

 

 

 

「ボーデヴィッヒは、普通の人間じゃないんだ」

 

 

 

「え?」「貴様は……!」

 

 会話に横入りしたのは、通りすがった橘 龍也。

 

「悪いな。お前んとこの部隊の副隊長さんから、全て話を聞かせてもらった」

 

「ッ、クラリッサの奴が……?」

 

「どういう事だよ、龍也。ボーデヴィッヒが普通の人間じゃないって」

 

 

 

「……ボーデヴィッヒは、遺伝子強化試験体として生み出された試験管ベイビー。要は"人造人間"ってやつだ」

 

 

 

「なっ……!」

 

 一夏の顔が驚愕に染まる。ラウラの方へと思わず振り返る。

 

「……そこまで喋ったか。ならば、この"眼"の事も知っているのだろう?」

 

「ISとの適合率を上げるための、ヴォーダンオージェの不適合による後遺症、だろ?」

 

「その通りだ」

 

「……ッ」

 

 ラウラが眼帯を取る。

 その下の目は金色に光り輝いていた。

 

「私は失敗作だ。この目に適合することができず、力を制御することもままならなかった」

 

「そんな……」

 

「同情などするなよ。無駄なことだ」

 

 眼帯を付け直す。

 

「その目を制御するために千冬さんはお前に力の使い方を教えた。そうだろ?」

 

「ああ、そうだ」

 

「……ッ、ならどうして一夏に復讐なんてするんだ!そんな事しても、千冬さんは喜ばないんだぞ!?」

 

「…………」

 

 一度目を閉じたラウラは、再度目を開け龍也を睨みつける。

 

「私はただ、"あの人とずっと一緒に居られればそれだけで他には何もいらない"。

 だから織斑 一夏、お前を消して私があの人の中の一番の存在になる」

 

 一夏の目を見て、はっきりと言い伝える。

 

 

「私の都合で、お前を殺すぞ」

 

 

 言い終えると同時に、歩き始め二人の元から去ろうとするラウラを呼び止める男が一人。

 

「待てよ、ボーデヴィッヒ」

 

「まだ何かあるのか、織斑 一夏」

 

「お前がどういう人間でどんな人生を送ってきたのか、少しだけだけどわかった気がするよ」

 

「…………」

 

 

 

 

「ーー俺はお前を否定しない。本気で殺しにこい」

 

 

 

 

「は?」「一夏、お前何言って……」

 

 一夏は、ラウラにとっての心の拠り所が千冬なのだと分かっていた。

 幼き頃から両親の存在を亡くした自分と同じだったのだ。

 

「でも俺はまだ死ねない。やらなきゃいけない事もたくさんあるし、千冬姉を取られるわけにもいかないからな。

 だから全力で来い。俺はお前を受け止めてやる」

 

 

 

「お前の想いを、俺に全部ぶつけてみろ」

 

 

 

 一夏は、ラウラの覚悟を正面から受け止めると決めた。

 それが例え自分に対して不都合でしかない事でも、向き合わなければならないと信じて。

 

「一夏……お前ってやつは」

 

「……いいだろう。そこまで言うのなら、正々堂々と殺してやる。

 学年別トーナメント、貴様の死に場所にふさわしい舞台だ。そこで待っていろ」

 

「ああ。望むところだ」

 

「………………」

 

 今度こそ去っていくラウラ。

 

「頑張れよ一夏。親友が無様に負けて殺される所なんて、見たくねえからな」

 

「おう。絶対あいつを人殺しになんてさせねえよ」

 

 

 全ての準備は整った。後は物語を、進めるだけだ。

 




決してラウラは悪人ではありません。
ただ、自分の欲しいもの『家族』を手に入れたいという純粋な気持ちで行動しているだけなのです。



さて、次で学年別トーナメント前最後になるかな。


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第四十話

もう四十話かぁ。まだ書き始めてから1ヶ月ちょっとしか経ってないというのが驚きです(笑)


 

 

「明日はトーナメント本番、今日で最後の訓練だ」

 

「ああ」

 

 ラウラと箒はISを纏い、アリーナで向かい合うように立っていた。

 

「私からはお前に最低限の攻撃しかしない。思う存分に斬り込んで来い」

 

「いいのか?それで」

 

「構わないさ。実感したいだろう?己が強くなった事を」

 

「……それもそうだな、今の自分がどの程度戦えるか把握しておこう」

 

「よし、それでは……始めるぞ」

 

 操縦訓練や箒個人の能力アップは既に済ませてある。

 後は、どれだけ本人が力を発揮できるかだ。

 

「はぁぁぁっ!!」「来い、篠ノ之」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うん、これで修復完了だね」

 

「なんとか間に合いましたね」

 

 ダークネスの装甲の修復を行なっていた束。

 細かい微調整を加えていたらトーナメント前日までかかってしまった。

 

「やっぱり、防御面に問題があるかなぁ。お腹部分の鎧だけじゃなくて、頭部まで破損しちゃうなんて」

 

 一度目は龍也が死にかけたあの日の夜、二度目は今回のラウラによるものだ。

 

「では早速、龍也様の元へ送りましょうか?」

 

「んーいいや。りゅーくん今回のイベント出ないっぽいんだよねー」

 

「そうですか……残念ですね、龍也様のかっこいい姿が見られなくて」

 

「へっ?い、いや、べ、別にそんなの期待してないし……第一、ボコボコにやられちゃうようなりゅーくんなんてかっこよくないもんっ」

 

 頬を染めそっぽを向く束を見てクロエは思う。

 

「(学園から帰って来た日はとてつもない程安心しきった顔をされていたのに……肝心な所で素直ではないんですから、まったく)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガラガラガラッ

 

「失礼します、織斑先生はいらっしゃいますか?」

 

「ん?なんだ織斑」

 

 職員室の入り口から声を出し千冬を呼ぶ一夏。

 すぐさま反応し一夏の元へ。

 

「……ちょっと、話がしたいんだ」

 

「……わかった。少し待て」

 

 一度教員席へ戻った千冬は、軽く机の上を整理して近くの席の山田先生へ声をかけてから再びドアの前に。

 

「屋上でいいな」「うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 屋上へ場所を移した二人。

 

「それで、話とはなんだ」

 

「ボーデヴィッヒと話をしたんだ。あいつの過去の事とか、千冬姉がドイツにいた時の事を」

 

「な、に?ラウラが自分の事を?」

 

 千冬はラウラを誰よりもよく知っているだろう。

 そんな自分の知るラウラが、他人に自身の事情を話すとは思えなかった。

 

「あいつはあいつなりに向き合ってくれたんだ。だから話してくれたんだと思う」

 

「そうか……」

 

 千冬の家族であり、ラウラのターゲットであるからこそ一夏は過去を知る権利があった。

 

「明日のトーナメントで、ボーデヴィッヒは俺を殺すって言ってた」

 

「ッ……」

 

「ーーそして、俺はそれに正面から立ち向かうって決めたんだ」

 

 覚悟を決めた顔をする。

 

「ボーデヴィッヒにとって、千冬姉は血が繋がってなくても大事な『家族』なんだ。でもそれは俺も同じ、だから譲れない。

 本当は戦わないで解決できたらよかったんだけど……今回ばかりは、無理そうかな」

 

「ラウラ……」

 

 自分に対するラウラの思い入れや愛情があったのは自覚しているし、千冬もそれは同じだった。

 しかし、その独占欲は歪んでしまい、弟の友へと手をかけ挙げ句の果てには殺してしまおうとしている。

 

 複雑な内情をしているであろう千冬に、一夏はさらに声をかける。

 

「もし俺が死んだとしても、ボーデヴィッヒを見捨てたり、憎んだりしないであげてくれよ、千冬姉」

 

「馬鹿者、ふざけた事を言うな」

 

「……うん、ごめん。俺らしくなかったね。

 負けるつもりはないから、安心して」

 

「……すまない一夏。お前に任せきりになってしまって」

 

「はは、今更でしょそんなの。ろくに家事もできないんだから俺がやるしか「余計な事を喋るな」……いったぁ!?」

 

「全くお前と言う奴は……」

 

 出席簿は手元にない。よって代わりにチョップが繰り出された。

 

「頼んだぞ一夏。ラウラを、止めてくれ」

 

「ああ。やってやるさ」

 

 龍也に続いて、千冬も一夏に全てを託した。

 今自分がラウラと向き合うべきではないと、ステージに上がるにはまだ早いと信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……やっと寮室に戻ってきた」

 

「おかえりなさい、お兄ちゃん」

 

「おう、長い間一人にさせちまったな。悪い悪い」

 

 シャルルを自分の近くへ引き寄せ、頭を撫でる龍也。

 気付いているのだろうか、今の二人の容姿は互いに男であるということを。

 

 他人に見られたら完全に誤解ものである。

 

「むぅ、なでなですればなんでも丸く収まると思ってるでしょ」

 

「ぎくっ」

 

 普段であれば嬉しそうに頬を緩めるのだが、今日のシャルルはふんっ、と簡単には受け入れない姿勢を取っていた。

 

「ゆ、許してくれよシャル。この通り!な?」

 

「……じゃあ、今日の夜一緒に寝てくれる?」

 

「え?い、いやぁ、それはちょっと問題があるんじゃ……」

 

「……ふーん、お兄ちゃんは僕の事なんてどうでもいいんだ」

 

「わ、わかったよ!今日だけな、な!」

 

「仕方ないなぁ。じゃあその代わり夜ご飯の学食も奢ってね、お兄ちゃん♪」

 

「ははは……はい。仰せのままに」

 

 策士シャルル・デュノアの尻に敷かれる龍也であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜、一人シャワーを浴びるシャルル。

 普段は隠された本当の姿を露わにし、男にしては長い髪の毛から水を滴らせる。

 

「(よかった、お兄ちゃんが帰ってきて)」

 

 久しぶりの龍也との時間を存分に楽しんだ一日だった。

 

「(明日はトーナメント本番か……ふふっ)」

 

 憎き相手を許すつもりはない。宣言通り、公の場でラウラを潰すと心に誓っている。

 

「(あいつをヤるのは一夏、君じゃない。この僕だ)」

 

 染み付いた負の感情は、愛しき人が帰ってきても消えることはない。

 復讐を成し遂げること、それだけが今のシャルルの目に見えているものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜学年別トーナメント当日〜

 

 

「よう、シャルル。今日は宜しく頼むぜ」

 

「うん、頑張ろうね一夏」

 

 ペアである二人は試合開始前に顔を合わせる。

 互いのコンディションを確認し、最善の策を練るだろう。

 

「あんたらはもう準備万端って感じね」

 

「お、鈴にセシリア」

 

「今日はわたくし達は観客席から閲覧していますわ。頑張ってくださいな一夏さん、デュノアさん」

 

「おう」

 

「…………」

 

「シャルル?……あ」

 

 セシリアからの応援の声に反応しないシャルルの見ている方向には、ラウラが一人で座っていた。

 

「気にすんなよ、シャルル。あいつとは俺がやるから」

 

「……僕がやるんだ、邪魔しないでよ一夏」

 

「……え?それってどういうーー「あ、箒さん。此方ですわ」

 

「ここにいたか、みんな」

 

 シャルルとの会話を遮るように、箒が合流する。

 

「あんた最近見なかったけどちゃんと特訓してたんでしょうね?生半可なままじゃ一夏達には勝てないわよ」

 

「ちょっと、鈴さん」

 

「いいんだセシリア。それに、今回は誰にも負けるつもりはないしな」

 

 専用機持ちではない箒に少しきつめの態度で告げる鈴に、制止をかけるセシリア。

 しかしその程度で今の箒は動じたりしない。

 

「……へぇ、いい目するじゃない」「ふふっ、頑張ってくださいね、箒さん」

 

「ああ」

 

「そういや、龍也は何処にいるんだ?」

 

 一夏が近くに姿の見えない親友を探す。

 

「あいつなら先に本音と観客席行ってるわよ。……いつの間にかね」

 

 協定を結んでいるとはいえ、ちょっとしたところで独占する意外とずる賢い本音であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろわたくし達は観客席に行きますわ。もうすぐ抽選のペアの発表ですので」

 

「もうそんな時間?じゃ、またね。みんな頑張って」

 

 他愛もない会話をしていると、時間は立ちトーナメント開始時刻に近づく。

 去っていくセシリアと鈴、残った三人はモニターに移る多くの生徒達を見ながら待機する。

 

「そういや箒はタッグの申請してないんだよな」

 

「ああ。私は余り交友関係も深くないしな、運に任せることにしたよ」

 

 誰がペアであっても負ける気はないのが箒だが。

 

 すると、教師から放送を通して生徒達に声がかかる。

 

『それではこれより、学年別トーナメント1年生ペアマッチを始めます。第一試合はーー』

 

 モニターに、初戦を戦う四人の名前が映し出される。

 

「…………え?」

 

 声をあげたのは箒。

 

 

 

『織斑 一夏&シャルル・デュノア VS ラウラ・ボーデヴィッヒ&篠ノ之 箒』

 

 

 

「……早速か、よし」

 

 

 一夏は意気込み、

 

 

「(……余計な手間が省けたね。まさかいきなりとは)」

 

 

 シャルルは内心で組み合わせの運を喜び、

 

 

「……篠ノ之、か」

 

 

 ラウラは『対戦相手の一夏とシャルルの名前ではなく』箒の名前を呟き、

 

 

「ボーデヴィッヒが、私のペア……」

 

 

 箒は、少し呆然とするのだった。

 




やっとここまできた……。
私が書きたかった、一夏シャルラウラ箒の決戦開幕です。


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第四十一話

 

 

 試合開始までもうまもなく。

 観客席では鈴と本音が龍也を挟むように横に座り、その隣にセシリアが座っている。

 

 四人は今から始まる友人達の試合の展開を予想し話し合っていた。

 

「あんたはどう思うのよ、龍也」

 

「んー……まず、戦況をどっちがコントロールするかだな。ボーデヴィッヒと一対一でやるのはあまり得策じゃないから、箒を先に落とせれば一夏達に勝ち目が回ってくるかもしれない」

 

「ですが、ボーデヴィッヒさんもそれは分かりきってのこと。箒さんの元へ来る前に分断、下手したら二人まとめてお相手になりそうですわね」

 

「らうらんすごいねーそんなに強いんだ〜」

 

「ま、今回はタッグ戦だからな。個人の時と違って、パートナーとの連携があれば幾らでも戦況は覆せるだろう」

 

「そうは言っても、あたしとセシリアで歯が立たなかった相手よ?そう上手くいくかしら」

 

「……デュノアさんがどれ程の実力なのかが、鍵になりますわね」

 

「そうだな……」

 

 シャルルの力量は龍也も見たことが無い。

 しかし、シャルルはフランスの代表候補生でありデュノア社のテストパイロットだ。期待するには十分であろう。

 

「(頼んだぞ、シャル。お前なら一夏をサポートしてやれるはずだ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラウラ・箒が控えるピットでは、二人はISスーツに身を纏い既に出撃準備可能な状態だった。

 

 立ったまま腕を組み、目を瞑って瞑想しているラウラに箒が後ろから声をかける。

 

「ボーデヴィッヒ」

 

「……なんだ」

 

「今日はよろしく頼む。まさか、お前と一緒になるとは思わなかったがな」

 

「……ああ」

 

 パートナーへの挨拶を交わした後、箒は一人考える。

 

「(一夏とも初戦から当たってしまうか……いや、弱気になってはダメだ。今の私なら戦える)」

 

 ラウラに鍛えてもらった己を信じて。

 

 そして、教員から声がかかる。

 

「二人とも、そろそろ出撃用意をお願いします」

 

「はい」

 

 箒もラウラに並び立ち、準備を完了するとラウラから試合開始前最後の一言が告げられる。

 

「篠ノ之」

 

「ん?」

 

 

 

 

「この試合は私一人で片をつける。お前は手を出すな」

 

 

 

 

「…………え?それってどういうーー」

 

 

 

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ、『シュヴァルツェア・レーゲン』出るぞ」

 

 

 

 

 有無を言わせないラウラ。

 告げられたのは、拒絶の言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 反対に一夏とシャルルが待機するピットでは、いつもの温和な雰囲気は感じられず少し険悪になっていた。

 

「なあ、どうしたんだよシャルル」

 

「別にどうもしないから、放っておいてよ」

 

「そういうわけにはいかない。俺はお前のパートナーだ」

 

「……だったら、僕の邪魔をしないで大人しくしてて」

 

「なんでだよ、どうして一人で全部やろうとするんだ!」

 

「君には分からないさ。僕の気持ちなんて」

 

「……何を企んでるんだ、シャルル」

 

 一夏も今のシャルルを見て異変を感じないわけがない。

 そして、何かを企んでいることも予想が付く。

 

 

 

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ、彼奴への復讐だよ。僕の大好きなお兄ちゃんを傷つけたことへの、ね……」

 

 

 

 

「ーーーッ、シャルル、お前……」

 

「君達がどんな事情を抱えてるかは知らないけど、もう一度言うよ。僕の邪魔をしないで」

 

 そう言い放つと一夏より前に並び、出撃準備を完了する。

 

「……そんな事しても、龍也がお前を褒めてくれるとでも思ってるのか?」

 

「…………」

 

 問いかけにシャルルは応えない。

 

 

 

 

「シャルル・デュノア、『ラファール・リファイブ・カスタムⅡ』出ます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それではこれより、織斑 一夏&シャルル・デュノアペア対ラウラ・ボーデヴィッヒ&篠ノ之 箒ペアの第一試合を始めます。

 ……試合、開始ッ!』

 

 

 

「…………」

 

 試合開始の合図と同時にラウラが一夏をAICで止める。

 

「よそ見しないでよ、お前の相手は僕だ」

 

「ちぃっ……!」

 

 一夏の頭上を飛び越して出てきたシャルルの六一口径アサルトカノン《ガルム》の砲撃により意識を逸らされ、AICが解除させられる。

 

「さあ、始めようか」

 

「仕方ない。二人まとめて潰してやる」

 

 ラウラはプラズマ手刀を展開し、シャルルへ突撃する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ、取り敢えずシャルルに任せるしかないのか」

 

 対戦相手は一人じゃない、もう一人いる。箒の方へと視線を向けると、

 

「……箒?」

 

 試合が始まったにも関わらず動き出そうとしない、箒の姿がそこにはあった。

 異変を感じ取った一夏は声をかける。

 

「なあ、箒」

 

「一夏……」

 

「このトーナメントで優勝して、俺に一つお願いするんだろ?」

 

「ッ、それは」

 

「来いよ。それとも、こんな所で意気消沈しちまうくらいのもんだったのか?お前の覚悟は」

 

 箒が並ならぬ努力をしていたことは、ルームメイトである一夏から見れば一目瞭然だ。

 

「一夏……ああ、そうだな。私達も始めるとするか」

 

 箒が剣を構えると、一夏も雪片弐型を構える。

 

「ふっ、それでこそ箒だ。手加減はしないぜ」

 

「お前こそ、油断などしては命取りになるぞ」

 

 箒から一夏へと突撃し、斬りかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「舐められたものだな。私相手に単騎で挑むとは」

 

「お前なんて僕一人で十分だよ」

 

 

『ラファール・リファイブ・カスタムⅡ』

 シャルル・デュノアの専用機、第2世代型IS。

 基本装備《プリセット》をいくつか外した上で拡張領域を倍にしてある、フランスのデュノア社が開発したラファール・リファイブのカスタム機。

 数多く収納している装備によって多様性役割切り替え《マルチロール・チェンジ》可能な汎用型である。

 

 

 シャルルは先ほど放ったアサルトカノンからアサルトライフル《ヴェント》へと武器を切り替え素早く連続射撃を行う。

 

「ちっ、高速切替《ラピッドスイッチ》か……!」

 

 射撃を避けるラウラに突撃し、近接ブレードを展開して斬りかかる。

 

「はぁっ!……ッ!」

 

「甘いぞ」

 

 ラウラは突っ込んでくるシャルルを大口径レールカノンで砲撃し迎え撃つ。

 少し怯んだシャルルを見てすぐさまAICを発動させようとするが、武装をショットガンに切り替え射撃してきたので一度キャンセルする。

 

「面倒な奴だ……!」

 

「お前に言われたくないよ」

 

 ラウラはワイヤーブレードとプラズマ手刀、大口径レールカノンの三つの自身の装備を見直す。そして、宣言する。

 

 

 

「貴様などに手こずるような私ではない。本気で潰す」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁっ!!」「うぉぉぉっ!!」

 

 剣がぶつかり合う。

 

「おらぁっ!」「……ッ!」

 

 一夏の振りかざす雪片弐型を受け止めることなく避ける。

 

「隙が出来ているぞ、一夏!」

 

「ぐっ……!」

 

 零落白夜がある一夏と違い箒には、ましてや搭乗している訓練機の打鉄にはそんな能力はない。しかし、確実に斬ってダメージを稼いでいく。

 

 観客席にいる四人もその様子を見て語る。

 

「すごいですわね、箒さん。一歩も引けを取っていませんわ」

 

「むしろあのままだと、一夏の防戦一方になってジリ貧で負けるんじゃない?」

 

「箒の集中力が切れなければ、可能性は全然ある。どうやら俺達は箒の実力を甘く見過ぎていたみたいだな」

 

「すごいねー、しののん」

 

 戦っている箒は、ある事を考えていた。

 

「(届いている、確実に。私の剣が、一夏に……!)」

 

 ラウラとの訓練の成果が出ている。

 振り下ろされる剣筋を瞬時に判断し避けたり、一手一手の攻撃に無駄がない。機体の操縦も申し分ないほどの技術だ。

 

「どうした、そんなものか一夏!!」

 

「ま、だこれからだろ!!」

 

「ふっ、はぁっ!」「らぁっ!」

 

 二人の戦う様を見て、観客席の生徒達からも声が上がる。

 

「すごいよあの子。専用機相手に負けてない」

「一年であそこまで強いなんて。代表候補生でもないんでしょ?」

「頑張れー!打鉄の子ー!」

 

「(流れは完全に箒にあるな。ははっ、すげえ。彼奴が専用機なんて手にしたらどうなっちまうんだよ)」

 

 龍也は束が箒に専用機を作製していたのを思い出すと同時に、少し恐怖する。どこまで彼女は強くなるのかと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(……訓練の成果が出ている。それに、良い太刀筋だ)」

 

 箒に剣の技術は教えていない。それは本人が長い経験の中で培ってきたものだろう。

 

「よそ見するなって言ったでしょ!」

 

「いつまでもちょこまかと鬱陶しい……!」

 

「しまっ……」

 

 ラウラはシャルルにできた一瞬の隙を見逃さず、右手をかざしてAICを発動させる。

 

「ようやくこれで捕まえた」

 

「く、そっ……」

 

 大口径レールカノンをシャルルに向けて構える。

 

「さあ……じっくり痛ぶってやる」

 

 砲撃を放とうとしたその瞬間、

 

『警告。背後より敵IS一機が接近中』

 

「なにっ!?」

 

 振り返るラウラ。そこにはーー

 

 

 

「うおおおおおおおおっ!!」

 

 

 

 零落白夜で斬りかかってくる一夏の姿があった。

 

「ぐっ……!」

 

 紙一重で斬撃をかわす。それと同時にシャルルにかかっていたAICも解除され地に倒れこむ。

 

「大丈夫か、シャルル」

 

「……助けなんていらない。僕一人でなんとかなったよ」

 

「お前……ッ」

 

 一夏が怒りを露わにする。

 

「馬鹿野郎!!」

 

「……え?」

 

 

 

「お前が一人で傷つく姿を見る事を、ボーデヴィッヒに復讐するなんて事を、龍也が望んでると思ってんのか!!」

 

 

 

「ッ……」

 

「心配してたんだぞ、あいつは。部屋に戻れなかった間ずっと、お前のことを」

 

「お兄ちゃんが……」

 

 寮室に戻ってきた時も、龍也はまず先にシャルルへ謝っていた。一人にして悪かった、と。

 

 すると、観客席から声を上げる者が一人。

 

「おーい、シャルー!!」

 

「ちょ、あんた何して……」「龍也さん?」「りゅ〜くん?」

 

「……お兄ちゃん?」

 

「さっきからお前らしくないぞー!そんな思い詰めた顔してないで、もっと楽しめよー!」

 

「ッ、おにい、ちゃん……」

 

「……ほら、龍也の奴はちゃんとお前を見てくれてるじゃないか」

 

「そんな声出しても聞こえないわよ!」「えー、ハイパーセンサーあるんだしこんだけ声張れば聞こえるだろ?」

 

「どうやら、聞こえてはいるみたいですわよ?此方を見ているので」

 

 龍也の声は、しっかりとシャルルへ届いている。

 

「あいつが見たいのは、復讐に囚われたお前なんかじゃない。この試合に勝つシャルル・デュノアが見たいのさ。

 だから、俺と一緒に戦ってくれ。龍也の願いを叶えるためにもな」

 

 一夏が手を差し伸ばす。

 

「…………僕は」

 

 その手を掴み、立ち上がる。

 

 

 

「まだ、復讐を止めるって決めたわけじゃない。でも、今は一緒に、この試合に勝つために戦ってあげるよ一夏」

 

 

 

「……ふっ、ああ!勝とうぜシャルル!」

 

 そう言ったシャルルの顔は、憑き物の取れた清々しい顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 反対に、少し離れたもう二人の方では。

 

「無事か、ボーデヴィッヒ!」

 

「ああ、問題ない」

 

「すまない。隙を突かれて一夏にこっちへ来させてしまった」

 

「それより、お前は大人しくしていろと言ったはずだ」

 

「ッ……ボーデヴィッヒ……」

 

 試合前にラウラに言われたことを思い出す。

 しかし、箒は決心する。

 

「嫌だ」

 

「……何だと?」

 

 ラウラの目つきが鋭くなり、箒を睨む。

 だが、箒は怯まない。

 

「私だって戦える、お前に鍛えてもらったからな。それに、これはペアマッチだ。一人では勝ち抜くことはできないぞ?」

 

「……そんな事関係ない、私ならーー」

 

「……もしお前が一人で全ての生徒を倒せるとしても、わたしはお前と共に戦いたい」

 

「ッ、篠ノ之……」

 

 ラウラが目を見開き驚く。

 

 

 

「お前の隣に立って、一夏達と戦いたいんだ」

 

 

 

 真っ直ぐラウラの目を見て、箒は言う。

 

「お前からしてみれば私はまだまだ足手まといかもしれない。

 でも、頼む。お前のペアとして、私を認めてくれ」

 

 箒一人では勝ち抜く事は厳しいだろう。

 しかし今はラウラがいる。自分を鍛えてくれた、ラウラが。

 

 頭を下げる箒をじっと見るラウラ。

 そして、

 

「……頭を上げろ、篠ノ之」

 

「…………」

 

 ラウラは一夏とシャルルの方を向いている。向こうは既に応戦準備完了といったところだ。

 

 その様子を見て、ラウラも武装を構える。

 

「(ッ、駄目か……)」

 

 

 

 

「……行くぞ、篠ノ之。私と共に戦うのだろう」

 

 

 

 

 突如告げられた言葉に、一瞬呆気にとられる箒。

 

「ボーデヴィッヒ……ああ、行くぞ!」

 

「思う存分戦え。私が鍛えたんだ、お前なら十分に戦えるはずだ」

 

『二人で』一夏達へと向き合い、構える。

 

 

 

 此処からが、この四人の戦いの始まりだ。

 




二人から復讐という決意が消えたわけではありません。
それでも今は、互いに他人の為に戦うことを決めました。




……箒ちゃん頑張るなぁ←


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Dの戦士 / 闇、少女を包む時

 

 

 

「俺(私)から行く、援護してくれ(を頼む)」

 

「うん」「ああ」

 

 一夏と箒が同時に駆け出す。後ろではシャルルがアサルトライフルを構え、ラウラがレールカノンを一夏へ向けていた。

 

「そのまま突っ込め、篠ノ之。狙撃への警戒意識も怠るなよ」

 

「わかった!」

 

「一夏、ボーデヴィッヒからの攻撃に注意して。篠ノ之さんは僕が足止めする」

 

「おう!」

 

 まずはシャルルが箒めがけてアサルトライフルを乱射する。

 降り注ぐ銃弾を回避しようと一夏へ向かっていた足はその場で立ち止まるが、被弾は免れない。

 

「はぁぁぁっ!!」

 

「甘いぞ」

 

「しまっ……!」

 

 隙のできた箒を斬ろうと接近してきた一夏を、近づいていたラウラがワイヤーブレードで捕獲しそのままレールカノンで砲撃しようとするが、

 

「ッ!」「ちいっ!」

 

 シャルルが武装をショットガンへと変え自身へ放とうとしてきたのを見て一夏を離し後ろへ下がる。

 

「(いけるッッ!!)」

 

 箒はシャルルの横に回り込み、剣を振り下ろす。

 

 

 ガキィンッ!!

 

 

「ふぅ、危ないねもう」

 

「防がれたか……しかし厄介だな、その高速切替は」

 

「そう言ってもらえると僕冥利に尽きるね」

 

 間一髪、シールドで防いだシャルル。

 

「シャルル!」

 

「貴様は私とだ!織斑 一夏!」

 

「くっ、うおおおおっ!」

 

 一夏を援護へ行かせず一対一へと持ち込む。

 

「(私は必ず貴様を殺してみせる!私の存在が、あの人に必要とされる為に!!)」

 

 プラズマブレードで一夏と競り合う。

 執念により重みを増した剣は、一夏を防戦に回らせる。

 

「ここで散れ!私はお前を越えていく!!」

 

「ーーーーッッ!!」

 

 一夏が体制を大きく崩したところに、プラズマブレードが振り下ろされた。

 

 しかし、それに合わせて一夏は、

 

「負けるわけには、いかねえだろうが!!!」

 

「貴様……!」

 

 相手の攻撃を受けることを厭わず、雪片弐型を横一線に振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 えっと、シャルロットちゃん?

 

 

 ……お兄ちゃん、誰?

 

 

 あー、俺は龍也って言うんだ。色々あって君のお父さんと知り合いになっちゃってな、ははっ

 

 

 ふぅーん

 

 

 えー、なんか反応冷たいんですけど

 

 

 シャルロット、この人はお前と遊んでくれるらしいぞ

 

 

 え!?本当!?

 

 

 ちょ、デュノア社長!?

 

 

 いいじゃないか。この子もあまり世に馴染んだ遊びをしていないんだ、君が連れ出してあげてくれ

 

 

 ねえねえ!私お外に行きたい!

 

 

 まじっすか……よっしゃ、こうなったらとことん遊んでやるか。

 行くぞ、『シャル』!

 

 

 うんっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(お兄ちゃんの前で、無様な姿は見せられない!)」

 

「ぐっ、くそっ!」

 

 巧みな武装扱いをするシャルルに箒は押され気味だった。

 致命傷となる痛手を受けていないのが不幸中の幸いだが、このままでは時間の問題だった。

 

「(この銃弾の雨の中、デュノアに接近するのは無理か……!ボーデヴィッヒは……!)」

 

 ハイパーセンサーでもう二人の様子を確認した箒は驚く。

 

「「はぁ、はぁ、はぁっ……!」」

 

 そこには互いに膝をつき、隠せぬ疲労した姿を晒す二人がいた。

 

「(まずい、ボーデヴィッヒのSEが……!)」

 

 一夏の斬撃を受けたラウラのSEは残量を大きく減らしていた。

 しかし、それは一夏も同じこと。ただでさえSE消費の激しい零落白夜を使用していて且つ敵からの攻撃も多くもらっている。

 

「(まだだ……!)」

 

 先に立ち上がったラウラは一夏をワイヤーブレードで再び捕獲し、レールカノンを射出する構えをする。

 

「これで、終わり……「させるかぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 ラウラ目がけて突撃してくるシャルル。

 その手には、この試合ではまだ見ていない武装。

 それは、

 

「なんだとッ!?」

 

「はぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 盾の中に隠してあったシャルルの切り札。

 六九口径パイルバンカー、灰色の鱗殻《グレースケール》。

 通称ーー

 

 

 

 

 

 

「『盾殺し《シールド・ピアース》』!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 その名を叫びながら、ラウラを叩き潰そうとする。

 

「(これを食らえば、私はーー)」

 

 

 

 

 

 負ける。

 

 

 

 

 

 

「ボーデヴィッヒィィィィ!!!」

 

「ッ、篠ノ之!?」

 

「撃て!一夏をやるんだ!!!」

 

「なっ、君……!」

 

 シャルルとラウラの間に入るように、ラウラを庇うようにして入ってきたのは箒。

 その位置では、箒を潰せてもラウラには当たらない。

 

「君だけでも……潰すッッ!!」「ぐ、っ……」

 

 パイルバンカーは、箒に吸い込まれるようにして当たっていった。

 

「ッ、うおおおおおっ!!」「ぐぁぁっ!!」

 

 そしてラウラは、箒に言われた通り一夏をレールカノンで砲撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一夏、大丈夫!?」

 

「悪い、ほとんどSEを持っていかれちまった……これじゃ、零落白夜は出せない」

 

「……わかった。篠ノ之さんももう動けないと思うから、後は僕がやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「し、ののの……」

 

「ぐ、っ、お前は無事だな、ボーデヴィッヒ……」

 

 直撃した箒の打鉄はもう、SEは残っていなかった。

 

「どう、して」

 

 

 

 私を庇った。

 

 

 

「何、この試合に勝つにはお前の力がないと駄目だと判断しただけだ。……いい仕事をしただろう?」

 

「お前……」

 

 ラウラはこの試合に、このトーナメントにかける箒の想いを知っていた。

 だから、その覚悟をペアである自分に託したと、分かってしまった。

 

「もっとお前と共に、戦っていたかったのだがな……この機体と、私の実力ではここまでか」

 

「ッ」

 

 

 そんなことない。

 

 

 お前は十分立派に戦士として戦っていた。

 

 

 それに、私だって……

 

 

 

「……私も、お前と共にもっと戦っていたかった」

 

「え、ボーデヴィッヒ……」

 

「後は任せろ。私がや……ル!?」

 

 

 

 ーー願うか?

 

 

 

「(っ、なんだ!?この声は……!?)」

 

 

 

 汝、力を欲するか?

 

 

 

「(力……?)」

 

「おい、ボーデヴィッヒ……?」

 

 

 

 より強い力を、誰にも負けない力を欲するか?

 

 

 

「(誰にも、負けない力……それが、あれ、ば)」

 

 

 

 ーーーーまだ、篠ノ之と共に戦えるのか?

 

 

 

「!?……っ、ぐ、ぅぅ、ぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「な、なんだ!?どうしたボーデ……!?」

 

 ラウラの様子に異変を感じた箒は声をかけるが、途中で呻き出したラウラを心配し駆け寄る。が、

 

「(ボーデヴィッヒの機体から、黒い『ナニカ』が溢れてきてる……?)

 これは何だ、ボーデヴィッヒ!お前の機体の仕様なのか!!」

 

 

 

 ーーーよカろウ、くレてヤル。キさまにチかラヲな。

 

 

 

「私から……」

 

 

「なんだ!?」

 

 

「わ、たしから、離れろッッッッ!!!!」

 

 

「きゃぁっ!」

 

 

 ラウラに突き飛ばされる。

 

 

 そして、シュヴァルツェア・レーゲンがドロドロと溶け始め、ラウラを飲み込んだ。

 

 

「ッ、ボーデヴィッヒ!!!!」

 

 

 明らかにおかしい。だが、今の箒にどうにかする手立てはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、何が起きてんだよ……あれ」

 

「わからないよ。でも、何やら只事じゃなさそうだね」

 

 ラウラと箒に一番近い位置にいる二人は、すぐに異変に気がついた。

 そして、ラウラのISが溶けたと思えば次には、

 

「……何、あれ?」

 

『………………』

 

「ボーデ、ヴィッヒ……?」

 

 箒の前に『レーゲンとは違ったフォルムのISが君臨した』。

 

『………………』

 

 謎のISが箒を見る。

 

 そして、剣を振り下ろす。

 

「ッ、篠ノ之さん!!!!」

 

 シャルルは瞬時加速で箒の元へ飛び、箒の体を抱えその場から離れる。

 それと同時にISが振りかざした剣は空を切った。

 

「す、すまない、デュノア」

 

「これくらい気にしないで。それより、あれは……」

 

 一夏の元へ箒と共に戻ってくる。

 

「わからない。突然ボーデヴィッヒが呻き始めたと思ったら次にはISが溶けて……」

 

「やっぱり、溶けてたんだ……一夏?」

 

「な、んだよそれ」

 

「ッ、一夏!!」

 

 シャルルが一夏の手を掴む。

 今、一夏はラウラを飲み込んだISへと向かおうとしていた為だ。

 

「離せ、シャルル!!あれは、あれは……!!」

 

「落ち着いて一夏!!どうしたの!?それに、あれは何!!」

 

「間違いない……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれは『暮桜』、千冬姉の機体だ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういう事?どうして織斑先生の機体を、ボーデヴィッヒが?」

 

「そんなの知るか、俺は……!」

 

「待ってくれ一夏!!」

 

「ッ、箒?」

 

 再び駆け出そうとする一夏を止める。

 

「ボーデヴィッヒは、何かに苦しんでいた。きっと理由があって、あのISに乗せられているんだ!」

 

「僕もそうだと思う。ISが溶けて別のISに変化するなんて、聞いた事ないし」

 

「……じゃあ、あいつを引っ張り出して問いただすしかない」

 

 箒の必死の説得、シャルルの冷静な判断で一夏も多少落ち着きを取り戻す。

 

 そんな一夏の様子を見てシャルルは一つ決心する。

 

「一夏、僕のISに残ってるSEをあげるね。君の零落白夜なら、あのISを斬り裂いて中からボーデヴィッヒを引っ張り出せるかもしれない」

 

 素早く白式とコアを同期させ、エネルギーバイパスを構築しSEを渡す。

 

「飲み込まれたってことは、暴走かまた別のことが原因だと思う。早くしないと、手遅れになっちゃうかも」

 

「シャルル……ああ、わかった!」

 

「チャンスは一回。頼んだよ」

 

「頼む一夏。ボーデヴィッヒを、助けてくれ」

 

 ただならぬ状況。推測でしかないが三人はこのままでは自分たちも、ラウラも危険だと判断し行動を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『緊急事態、今すぐアリーナから避難してください!

 繰り返します。アリーナから離れて、避難をしてください!』

 

「なんですの……あれ」

 

「千冬さんの、暮桜……なのか?」

 

「どういう事よ。なんであいつが千冬さんの機体を持ってるの!?」

 

「うぅ〜、なんか怖いよー、あれ」

 

「ッ、お前らは先に避難してろ!」

 

 駆け出す龍也。

 

「ちょ、龍也!?」「どこへ行かれるのです!?」「りゅ〜くん!?」

 

「束さんに連絡を取る!!」

 

 場合によっては、ダークネスが必要であると判断した龍也は自身の荷物の元へと走る。

 

 そして、携帯で束に電話をかける。

 

 prrrrrrrr prrrrrrrr

 

 ピッ

 

「ッ、もしもし束さん!?聞こえるか、すぐにダークネスをーー」

 

『りゅーくん!!た、大変だよ!!』

 

「!?……今度は何が起きているんです!?」

 

『だ、ダークネスが……』

 

 

 

 

 

 

『ダークネスのドライバーとメモリが、突然消えちゃったの!!』

 

 

 

 

 

 

「……なん、だって?」

 

 予期せぬ事態。それは、誰にも予測することは不可能だった。

 





ラウラ救出作戦は果たして上手くいくのか?
そして、ダークネスの行方は如何に。



感想お待ちしております。


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Dの戦士 / 少年は再び手を伸ばす

 

 

 

「どういう事だよ!?ダークネスが消えたって……」

 

『わかんないよ!束さんのデスクの上で保管してたはずなのに、気づいたらなくなってるの!』

 

「(まさか、盗られたとでもいうのか?束さんのラボだぞ。侵入どころか見つけるのも不可能なはずじゃ……)」

 

『とりあえず私はラボの中を探すから!りゅーくんもそっちの周り探して!』

 

「あ、ちょっと!こっちはそれどころじゃ【プツッ ツー ツー】……くそっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(もうSEも残りはない……外したら、アウトだ)」

 

 一撃必中。二発目の零落白夜は発動できない。

 ラウラを飲み込んだ『暮桜』を模したISは、織斑 千冬の乗る機体より一回り大きく黒い。手には一夏の持つ武装の元になった『雪片』がある。

 

「一気に……終わらせるッ!!」

 

 瞬時加速で正面から一気に突っ込む。

 

『…………』

 

「ーーぐぅっ!?」

 

 だが、黒い暮桜からのカウンターを貰い後ろに吹っ飛ぶ一夏。

 

「一夏!?」「大丈夫か!!」

 

「あ、ああ!まだ行ける!」

 

 再び剣を構え直す。

 

「(神経を研ぎ澄ませ。相手の動きを見極めろ!千冬姉の紛い物なんかに、負けるわけにはいかねぇ!!)」

 

「おおおおおおっ!」

 

 再び突撃する。

 

『…………』

 

「ッ」

 

 敵の振りかざした剣を躱す。そして、

 

「はぁぁぁっ!!」

 

「よし!」「決まったか!?」

 

 相手を正面から、斬り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それじゃダメだな。

 

 

 こっちのエネルギー不足もそうだが、何より敵さんがタフすぎる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそ、どうして……」

 

 ラウラの姿が中から現れることはない。

 

「一夏でも、あの巨大なISを完全に斬り裂くのは無理か……!」「そんな……」

 

 全てのエネルギーを消滅させるには、至らなかった。

 

『…………』

 

「や、べぇっ……!!」

 

「一夏!!」「逃げろ、一夏ぁぁ!!」

 

 雪片の剣先が一夏へと向けられる。

 

 そして、剣が振り降ろされたその瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーさて、もう二代目も限界っぽいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏の意識は斬撃を食らう前にすっ、と消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何もない真っ白な空間。

 

 そこで一夏は、うつ伏せに倒れこんでいた。

 

「…………ぐっ、此処は……?」

 

 意識を取り戻し、身体を起こす。

 

「俺は死んだのか……?」

 

 

 

 

 

 

 

「いや、まだお前さんは斬られちゃいねえよ」

 

 

 

 

 

 

 

 背後から一夏に声がかかる。

 

「ッ、誰だ……って、龍也!?」

 

 振り返った一夏の視線の先には、見慣れた親友の姿が。

 だが格好は学園の制服でもISスーツでもなく、黒いマントのような服を着ていた。

 

「違う。俺は『橘 龍也』じゃない」

 

「は?じゃあ一体……」

 

「自己紹介が必要か?『半年近くも俺を使ってた』ってのに、気づかないなんて薄情だな」

 

「使ってた……?どういう……ッ!?」

 

 龍也の姿をした誰かの手元に、一夏も見慣れた『ドライバーとメモリ』が現れる。

 

「こういう事だ」

 

「ダーク、ネス……?」

 

「正解。それじゃ改めてーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺はダークネス。『元』俺使いの二代目さん、何卒よろしく頼むぜ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「束様!!」

 

「いっくんから、ダークネス反応……!?」

 

「これは一体……」

 

 IS学園内部アリーナの位置から、ダークネスを発動した通知がモニターに映し出される。

 

「(……どういう事?いっくんが持ち出した?いや、それは無い。

 あーもうわけわかんないよ!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い、いやいや、メモリが何で人間の姿してんだよ!?」

 

「借り物に決まってんだろ。お前と話すためにマスターの姿を模してるだけだっての」

 

「……じゃあ、ダークネスには個人としての意識があるって事か?」

 

「んー、正確には違うな。簡単に言えば俺とくっついたISとやらのせいで俺の意識が誕生した。

 お前達の世界風に言うならば、ISコアと認識してもらって構わない」

 

 突発的な展開。不思議な事が起きているのだが、今一夏が知りたいのは別の事だ。

 

「……それで、どうして俺を此処に呼んだんだ?」

 

「少し話がしたかった、それだけだ」

 

「話?」

 

「ああ。今のお前が、何の為に戦っているのかを知りたくてな」

 

「今の、俺が?」

 

「人々を救いながらも、以前のお前の戦う理由の根底は復讐にあった。復讐を成し遂げる為に力を、俺を手にする覚悟を決めた」

 

「ッ」

 

「答えろ、織斑一夏。ISを動かしたから、今お前は戦っているに過ぎないのか?お前にとって戦いとは何だ?」

 

「…………」

 

 質問は単純。今の一夏を動かす原動力は何か。

 

「……俺は」

 

 一夏は語る。

 

 

 

 

 

 

「俺にとって戦うことは、自分の中のわがままを満たすことだ」

 

 

 

 

 

 

「……へぇ、わがままねぇ」

 

「俺は龍也が戻ってきた後、気づいたんだ。復讐なんて物の先には何も無いって」

 

「…………」

 

 ダークネスは黙って聞いている。

 

「人の報いをする為に人を殺した所で、それは結局同じ事の繰り返しなんだ。復讐が渦巻く、負の循環みたいなもんだ」

 

「誰かを妬み、憎み、恨んでも何も変わらない。何かを失うだけだ」

 

「だから復讐するなんて言う奴がいるなら、俺が止める。今はもう一人じゃない。みんながいて、戦える力《IS》もある」

 

 

 

 

 

 

 

「ーー俺の手で救えたり、変えられる人がいるならISでもなんでも戦い続けてやる。

 感謝なんてされなくてもいい。だって救うとか守るっていうのは、俺のわがままだからな」

 

 

 

 

 

 

 

「(……感謝なんてされなくてもいい、か)」

 

 

 

 

 

 

 

『ーー英雄になんてなるつもりはないさ。陰ながら苦しんでる人を救えるきっかけになれれば、それで十分だ。俺は』

 

 

 

 

 

 

 

「(……マスター。あんたと同じなんだな、こいつも)」

 

「だから今はボーデヴィッヒを救いたい。敵だとかそんなのは関係ない。目の前で命が危険に晒されてるのを、見過ごすわけにはいかない」

 

「……じゃあどうする?今のお前さんは、大ピンチ真っ只中だぜ」

 

「そうなんだよなぁ……どうしたもんか」

 

「…………ふっ」

 

 うーん、と頭を悩ませ始める一夏を見て笑うダークネス。

 

「な、なんだよ」

 

「手を貸してやる、二代目」

 

「……え?」

 

 一夏の前へ、ドライバーとメモリが差し出される。

 

 

 

 

 

 

 

「もう一度だけ、お前と一緒に戦ってやる。あの少女を救う為にな」

 

 

 

 

 

 

 

「ダークネス……いいのか?」

 

「おいおい、そこ渋るとこなのかよ。素直に受け取っておけよ」

 

「でも今の俺が乗れるのか?専用機の黒龍は、龍也のもんだろ?」

 

「『そんなの知るか』。俺が乗せるって言ったら乗せられんだよ」

 

「はは……束さんが聞いたら泣きそうなセリフだな」

 

 どこぞの天災を哀れに思いながら差し出されたドライバーとメモリを受け取る。

 

「よし。それでいい。

 向こうに戻ったら俺を呼び出せ。念じれば手元に現れてやる」

 

「ああ」

 

「じゃあそろそろ意識を戻す」

 

 パチンッ、と指を鳴らすと一夏の意識が朦朧としてくる。

 

「あ、一つ言い忘れてたけど」

 

「な、ん、だよ?」

 

 ふらふらする感覚のまま一夏は尋ねる。

 

「意識が戻ったからと言って攻撃がキャンセルされてるわけじゃねぇ。ちゃんと避けろよ?出ないと死んじまうからな」

 

「な、ちょっーー」

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあまたな、二代目」

 

 

 

 

 

 

 

 地面に倒れこむような感覚と共に、再び一夏の意識は失われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッッ!!」

 

 一夏が目を見開く。眼前には、振り下ろされている剣が。

 

「う、おおおおっ!!」

 

 咄嗟の判断。剣を捨てると同時に残されたエネルギーを使い後方に急バックしたため、振り下ろされた剣は宙を斬った。

 

「あ、危ねえ……!」

 

「よかった……」「冷や冷やさせるんじゃない……!」

 

 黒いISから離れた一夏は先ほどまでの状況を思い出す。

 

「(夢じゃねえよな?これで万事休すなんて事になったら洒落にならねえぞ)」

 

 と、少し考えていた一夏はある事に気づく。

 

『…………』

 

「(……なんだ?前の無人機の時と同じで、こっちが行動しなきゃ攻撃してこないのか?)」

 

 正確には剣や銃などの武器を所持している交戦意識がある者に攻撃を開始するのだが、そんな事一夏の知る由ではなかった。

 

「ま、それならそれで好都合だな」

 

 一夏がISを解除する。

 

「ちょっと、一夏!?」「何をしている!死にたいのか!」

 

「シャルル、箒、ここから離れてろ」

 

「一夏……?」

 

 二人に声をかけた一夏は一歩前へ出る。

 

「なあ、ボーデヴィッヒ」

 

 黒いISの方へ、声をかける。

 

「お前はまだ、千冬姉と向き合ってないだろ」

 

 中にいるラウラへ。

 

「俺を殺すとか言う前にやらなきゃいけないことがあるよな」

 

 千冬とラウラを話し合わせること。

 今の当人達に一番必要な事だ。

 

 

 

 

 

 

 

「そんな偽りの力で俺を殺そうとするな。お前自身の力で俺を殺してみろ」

 

 

 

 

 

 

 

 手元にドライバーと『Darkness』のメモリが現れる。

 

「え、あれって……!?」「龍也のISの待機状態の物か……?」

 

 

 

 

「ふぅ……よし、いくか」

 

 

 

 

 腰にドライバーを装着する。

 

 

 

『『Darkness』』

 

 

 

 押したメモリから機械音が鳴り響く。

 

 

 

 

「ーー変身」

 

 

 

 

 掛け声と共にメモリをドライバーに差し込み、横に倒す。

 

 

 

 

『『Darkness』』

 

 

 

 

 再び機械音が鳴る。

 

 

 黒い鎧が、足元から頭部にかけて展開されていく。

 

 

「なっ、一夏!?」「まさか……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は仮面ライダー……ダークネス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少年は少女を救うために、再び黒い鎧を身に纏った。

 



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少女の孤独を取り払う時

 

 

 

『(……この感覚、久しぶりだ)』

 

 黒い鎧に身を包んだ一夏は少しばかり懐かしさに浸る。

 しかし、悠長にしている時間はない。すぐに頭の中で作戦を立てる。

 

『(零落白夜の分のダメージは確かに入ってる。もう一度正面から斬れば、中からボーデヴィッヒを取り出せるだけの穴ができるはずだ)』

 

 手持ちの武装を確認する。

 白式が装備は刀しか無いため、一夏は銃火器の扱いには慣れていない。

 

『結局は刀一本か……上等だぜ、やってやる』

 

 黒龍刀=斬魔を手に持ち、背中の6枚の羽を羽ばたかせ地から空へと浮かぶ。

 

『俺の戦い方は今も昔もあんまり長期戦向きじゃないんだ。だから今回もーー』

 

 剣先を敵へ向ける。

 

『すぐに終わらせる』

 

『…………!』

 

 交戦意識を確認したのか、黒い暮桜は自ら一夏の方へと突撃してくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いた!龍也!」

 

「はぁ、はぁ……ん?どうした、鈴!」

 

 校内を駆け回っていた龍也の元に鈴が走ってくる。どうやら探し回っていたようだ。

 

「い、一夏が……」

 

「ッ、なんかあったのか!?」

 

 鈴の肩を掴み問いかける。

 手遅れになってしまったか、そう嫌な予感が脳裏をよぎる。

 

 

 

「一夏が、ダークネスになったのよ!!」

 

 

 

「…………な、なにぃぃぃぃ!?」

 

 

 

 思わずコメディ的なリアクションを取ってしまう龍也。

 まさか親友が使っているとは、思わなかった為だ。

 

「ほ、本当か!?それって!」

 

「こんな時にくだらない嘘つくわけないでしょ!いいから早く来なさい!」

 

「あ、ああ!」

 

 二人でアリーナの方へと戻る。

 

「(おいおい、とんだサプライズしてくれるじゃねぇか一夏。見せてもらうぜ、二代目ダークネスの実力を)」

 

 何故一夏がダークネスを使用しているのかはわからないが、きっとあの男ならばなんとかしてくれると龍也には確信があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガキィンッ、ガキィンッ!

 

『(あんまり違和感は感じないな。これなら、いける!)』

 

 白式の時より更に空を自由自在に素早く飛び回り、敵を翻弄しながら斬撃を与えていく。

 

 と、戦いの最中の一夏の搭乗するダークネスに『通信』が入る。

 

 

 

 

『ちょっと、いっくーーーーーん!?!?!?』

 

 

 

 

『ええっ!?た、束さ……【ブンッ!】うぉっ、危ねぇ!?』

 

『なんでいっくんがダークネスに乗ってるのー!説明してもらうよー!』

 

『ちょ【ブンッ!】ぐっ、今それどころじゃないんですけど……!』

 

 突如聞こえてきた篠ノ之束の声。敵からの攻撃中に驚いてしまった一夏は回避が甘くなり焦る。

 

『ん?あれ……ッ、ちーちゃんの暮桜!?いや、違う。そいつは……!』

 

 束も今の一夏の状況が確認できたのか冷静になり、同時に驚く。

 

『た、ばねさん!これがなんだか分かりますか!?』

 

『Valkyrie Trace System(ヴァルキリー・トレース・システム)。名前の通り過去のモンド・グロッソから部門優勝者(ヴァルキリー)の動きをコピーして再現、実行するっていう「不細工なシロモノ」だよ。

 今はアラスカ条約で全面的に禁止されてるはずだけど……』

 

『なるほど、だから千冬姉を……!』

 

 シュヴァルツェア・レーゲンを飲み込んだドロドロが暮桜に変化したのもこれで納得がいく。

 

『で、どうしていっくんがそんな物と戦ってるのさ!?』

 

『詳しい話は後です!今は、此奴に飲まれたクラスメイトを助けなきゃいけません!』

 

『ッ……おーけいおーけい。なんとなく把握できてきたよ。

 それじゃ、久しぶりのいっくんダークネスを私がサポートしてあげますか!』

 

『え?』

 

『今から新武装を一つ転送するから、データが送られてきたら展開してねー』

 

 耳元で聞こえる通信先でカタカタカタと凄いスピードでクリック音が響いている。

 

 ガキィンッ!ブゥンッ!

 

『そ、れと、何で俺と通信が取れるんですか!?』

 

『んー?それはね、この前りゅーくんからダークネスを回収した時に色々いじったからだよー。

 主には緊急時の私との連絡手段と、今から送る後付武装のセッティングの為……ポチッとな!』

 

『これは……』

 

『ちゃんと転送されたみたいだね、よかった。それじゃあ早速いってみよー!』

 

『あんまり大差ない気がしますけどね……行きますか!』

 

 一夏が新しい武装を展開する。

 その形状は斬魔より大きく、黒い。

 

『黒龍刀=斬月(こくりゅうとう=ざんげつ)。チビチビ稼いでく斬魔と違って思いっきりぶった斬れるよ!やっちゃえ!』

 

『二刀流か。よし、いくぜ!』

 

 二本の剣を持ち、改めて敵へ突撃していく一夏。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗い。寒い。怖い。

 

 

 嫌だ。もう独りは嫌なんだ。

 

 

 誰か、誰か私を。

 

 

 殺してくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うおおおおおおおっ!!』

 

 確実に一夏が押している状況。

 

『ボーデヴィッヒ!!』

 

 この声が届いているかは分からない。でも一夏は叫ぶ。

 

 

 

『今、助けてやる!!』

 

 

 

 メモリをドライバーから抜き、横のホルダーに挿す。

 

 

 

『『Darkness,Maximum Drive !!』』

 

 

 

 剣にエネルギーが収束し、光り輝く。

 

 

 

『ーー黒龍、一閃!!』

 

 

 

 掛け声と共に剣を縦に振る。

 

 

 

『…………!』『よしっ!』

 

 

 

 敵は受け止める事ができずに、正面から食らった。

 

 

 

『ッ、いた……!』

 

 斬り裂いた傷口が裂け中に意識を失っているラウラが見える。

 

 引っ張り出そうと手を伸ばすが、

 

『ぐっ、抜けねえ……!』

 

 ラウラが敵の内部から離れない。

 

『っ、いっくん!!』

 

『なっ!』

 

 少しの間引っ張り出そうと格闘していると、ラウラを飲み込んだのと同じドロドロが一夏の身体を覆う。

 

『くっ、そぉ……!』

 

 そのまま抵抗できず、一夏の意識も闇の中へと沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何も無い真っ黒な空間。

 そこで一夏は再び目を覚ます。

 

「……また、か」

 

 ダークネスの時と同じ状況。だが今回は見えるものが真反対に不気味な空間。

 

「そうだ、ボーデヴィッヒは……」

 

 恐らくこの場所の何処かにいる。ラウラを探すために一夏は歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ、ボーデヴィッヒ!」

 

 少ししてから、倒れこんでいるラウラを発見する。

 

「おい!しっかりしろ!」

 

「ん……此処、は?」

 

「よかった、意識が戻った」

 

 ラウラの身体を抱え、起こす。

 

「織斑 一夏……?私は……」

 

「お前は箒と話してる最中に、ISから出てきたドロドロに飲み込まれたんだ」

 

「ッ、そうだ、篠ノ之……!」

 

「大丈夫だ。箒はお前が突き飛ばしたから飲み込まれてないし、傷ついてない」

 

「……そうか」

 

「早く此処を出よう。なんとかして脱出する方法を見つけないと」

 

 立ち上がる一夏。だがラウラは、

 

 

 

 

 

「……私は、いい」

 

 

 

 

 

「……え?」

 

「私は、此処に残る」

 

「何言ってんだよ」

 

「私は多くの人を傷つけた。それに、今更戻ったところで私を必要としている人など、いないさ」

 

 自虐的に言うラウラ。その目は何かを諦めていて、絶望が垣間見える。

 

「なんだよ、それ」

 

「…………」

 

「……ッ、お前は、そんな簡単に諦められる覚悟で俺を殺すなんて言ったのか!!」

 

「すまなかったな。もうそんな気はない」

 

「ちげえだろ!そんな気はないとか、そういう事じゃねえ!!」

 

 胸倉を掴み上げる勢いの一夏。

 そんな一夏とは対照的にラウラは俯いている。

 

 

 

「ーー千冬姉に認められたいんだろ!?」

 

 

 

「…………ッ」

 

「一緒にいたいんだろ?お前は」

 

「……でも」

 

「あーもう!急にうじうじしやがって!ほら、シャキッとしろ!」

 

 ラウラの頬をパチンッ、と軽く押さえつけるように叩く一夏。

 

「むぎゅっ、な、なにをしゅる!」

 

「千冬姉はお前を受け入れてくれる」

 

「ッ、そんなの……」

 

「俺にはわかる。千冬姉は、教え子をそんな簡単に見捨てるような人間じゃない。

 それにずっと心配してたんだぜ?お前の事を」

 

「教官が……?」

 

「血は繋がってないかもしれない。でもきっと千冬姉は、お前を家族だと思ってる」

 

 

 

 

『ドイツ軍の皆は暖かいな、まるで家族を迎え入れてくれるようだ』

 

 

 

 

「か、ぞく……」

 

「だからまだ諦めるには早いぜ。これから先は長い、色んな事がこの学園で待ってる」

 

 一夏がラウラに手を伸ばす。

 

「千冬姉だけじゃない。俺達もお前を受け入れるさ、ボーデヴィッヒ」

 

「……いいのか?私は、また光を浴びて」

 

「ああ」

 

「…………」

 

 まだ手を取るか迷っているラウラ。

 

「……ったく、往生際の悪い奴だな」

 

「な、何を……!」

 

 中途半端に差し出された手を一夏が掴み引っ張る。

 そのまま駆け出す。

 

 

 

 

「行こうぜ『ラウラ』。千冬姉が、みんなが待ってる」

 

「ッ……ああ。行こう『一夏』」

 

 

 

 

 暗闇しかない空間に、一筋の光が射した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい、どうなってる?」

 

 アリーナへ辿り着いた龍也達。

 

「あの中に、一夏が……?」

 

 各々心配しながら、動かない巨大なISを見る。

 

 そして、

 

 

 バキバキバキッ!

 

 

『……ふぅ、出てこれたか』

 

「う、私は……」

 

 ヒビが入るように砕け散ったISの中から、ラウラをお姫様抱っこで抱えたダークネス姿の一夏が出てくる。

 

『今はゆっくり寝てろ、ラウラ』

 

「……ああ。そうさせてもらおう」

 

 疲労した様子のラウラは、一夏の声を聞いて安心したのか再び目を閉じる。

 

「一夏!」

 

 龍也達が駆け寄る。

 

「本当に一夏なのか?」

 

『おう』

 

 変身を解除する。

 

「お前……何勝手にダークネス使ってんだよ」

 

「悪いな、ちょいと借りた。後で詳しく話す」

 

「そうしてくれ。とりあえず今は……」

 

 龍也の視線がラウラへ。

 

「ふっ、いい顔して寝てんじゃねえか」

 

「保健室へ連れて行こう。疲労が溜まってる」

 

 一夏の腕で眠るラウラは、年相応の純粋な顔をしていた。

 




そろそろ救済の時間です。
ちーちゃんに早く笑顔を……!


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『家族』

 

 

「ん……」

 

 保健室のベッドでラウラは目を覚ます。

 

「起きたか」

 

「きょう、かん?」

 

 ラウラが横たわるベッドの隣では、椅子に座っている千冬が。

 

 ゆっくりと身体を起こすラウラ。

 

「身体の調子はどうだ」

 

「問題ありません」

 

「そうか。当分の間は絶対安静だ。わかったな」

 

「はい」

 

 短いやり取り。

 

 少しの沈黙の後、ラウラが口を開く。

 

「あの……私は、どうなっていたのですか?」

 

「……今は、気にするな。お前の体力がしっかりと回復してから全てを話す。それより」

 

 椅子から立ち上がる千冬。

 

 

 

 

「すまなかった、ラウラ」

 

 

 

 

「きょ、教官!?何を……」

 

 謝罪の言葉と共にラウラに頭を下げる。

 

「一夏から聞いた。お前が私を必要としているから、弟の存在を消そうとしていたと」

 

「ッ、それは……」

 

「独りにしてすまなかった。許してくれとは言わない、ただ謝らせて欲しい」

 

「…………」

 

 顔を背けるラウラ。その姿はまるで、見られたくない自分の一面を見られたかの様だった。

 

「頭を上げてください、教官」

 

「…………」

 

 千冬が頭を上げると、下を向いたままラウラはぽつりぽつりと語り始める。

 

「私は貴女に感謝しています」

 

「私に生き方を教えてくれた。力を、笑顔を与えて頂いた」

 

「貴女と過ごした半年は、私にとってかけがえのない宝物です」

 

 徐々に声が震えていく。

 

「……私だけを、見て欲しかった。ハーゼの皆や、ましてや弟でもなく、私だけを」

 

「貴女とずっと一緒にいられれば、それだけで私は他には何もいらない。でもそれは、私のエゴだとあの黒いナニカに飲まれた後気づきました」

 

 肩が震えだす。

 

 自身の足にかかっている布団を、強く握りしめる。

 

 

 

 

「私は、貴女の心情のことを何も考えていなかった。自分のことばかりで、勝手な行動を取ってしまいました。ごめん、なさい……」

 

 

 

 

 涙が瞳から溢れ出る。

 

 手の甲の上に、涙が零れ落ちる。

 

「ラウラ……ッ、馬鹿者」

 

 千冬は泣いているラウラを強く抱きしめる。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

「もういい、いいんだラウラ。お前が苦しむ必要なんてないんだ」

 

 抱きしめているラウラの頭を撫でながら優しい声で声をかける。

 

「お前は過ちを犯す前に気づくことができた。それだけで十分立派さ」

 

「ひっく、ぐすっ、う、ううう」

 

「ほら、泣くなラウラ。IS部隊の隊長の名まで泣いてしまうぞ。

 ……はぁ。まったく、仕方のないやつだ」

 

 泣き止ますのを諦め、しばらくはラウラが落ち着くまでこのままにしておこうと決めた。

 

 その時の千冬の顔は、本人も無意識に優しい笑顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう大丈夫だな、ラウラ」

 

「は、はい。申し訳ありません、教官」

 

「私とお前と仲だ、気にするな。それと此処では私のことは織斑先生と呼べ」

 

 数分後、泣き止んだラウラを離し再び椅子に座る。

 

「先生、ですか。ふふ、なんだか不思議ですね」

 

「何もおかしいことはないぞ。ドイツに行く前から既に私は此処で教師だったのだからな」

 

「……これからは、教師と生徒、か」

 

 自分と千冬の関係を再確認するように小さく呟く。

 

 だが、千冬はその発言を聞き逃さない。

 

「おいラウラ」

 

「は、はいっ!」

 

「教師と生徒などと他人事の関係で満足か?」

 

「……え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前は今日から私の妹にする。決定事項だ、異論は認めない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………え、ええっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、ううぅ……」

 

「お、おい龍也。そろそろその辺にしといた方が……」

 

「お前は黙ってろ一夏」

 

「は、はいぃぃ!(こ、こええよ!こんな怒った龍也初めて見たわ!!)」

 

 場所はとある教室。中には龍也、一夏、シャルルの三人しかいない。

 

 だがその様子は、

 

「お、お兄ちゃん、僕もう足の感覚が……」

 

「なんだ?反省より自分の足が大事か?」

 

 シャルルが床に正座していて、それを龍也が威圧感MAXな態度で見下していた。

 

「復讐なんてアホなこと考えやがって全く」

 

 あの後、一夏から詳しく事の顛末を聞いた龍也はシャルルが自分の敵討ちをしようと企んでいた事を知った。

 驚愕と言っていいほど驚いた龍也はしばらくの間自分に落ち込んでいたが、急に立ち上がったと思えばシャルルを呼び出し説教を始めた。

 

「俺が心配してたってのに!この!この!」

 

「い、いふぁいよおふぃふぁん、やめふぇ〜(い、痛いよお兄ちゃん、やめてぇ〜)」

 

 シャルルのほっぺをそこそこの力でむにーっと引っ張る龍也。

 

「ふんっ」「あうっ」

 

 ピッ、と指を離す。赤くなった頬を摩るシャルル。

 

「……ったく、お前に人殺しなんかさせたら、俺はお前の親父に顔向け出来ねえだろうが」

 

「お兄ちゃん……ごめんなさい」

 

 先ほどまでの怒った様子は消え、少し寂しそうな顔でシャルルの頭を撫でる。

 

「もうそんなくだらない事考えるなよ」

 

「うん」

 

「(よかった、こっちは大丈夫そうだな)」

 

 龍也とシャルルのわだかまりは完全に消え去ったと安心する一夏。

 

 すると、そこに、

 

 

 

 

 

 

 ガラガラガラッ

 

「此処にいたかお前達」

 

「千冬姉?に、ラウラ……」

 

 一夏達のいる教室に新たに入って来たのは千冬とラウラ。

 

「もう歩いて平気なのか?」

 

「あ、ああ。問題ない」

 

「そっか、よかった」

 

「…………ッ、織斑 一夏!橘 龍也!」

 

「な、なんだよいきなり大声出してーーって、ちょっ、何してんだ!?」

「お、おい、ボーデヴィッヒ!?」

 

 名前を呼んだ二人の前で、土下座をし始めるラウラ。

 

「すまなかった!お前達には、多大な迷惑をかけてしまった。謝って許されることではないと思うが、どうか謝罪を受け入れて欲しい」

 

「……そんな事するなよ、顔を上げてくれ」

 

「…………」

 

 顔を上げるラウラ。

 

「俺も龍也も、もうお前に敵意なんてないよ。な?龍也」

 

「おう。お前の境遇を聞いといて、お前の気持ちもわからないような薄情な考えはしてねえよ」

 

「一夏……橘……」

 

「これからはクラスメイトとして頼むぜ、ラウラ」

 

 一夏から友好の印として手が差し伸べられる。

 

「……ああ。よろしく頼む」

 

 二度目は自分から、その手を掴み立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そ、それと、もう一つお前達に頼みがあるのだが」

 

「ん?なんだ?」

 

「(……千冬さん、何ニヤニヤしてんだ?)」

 

 突然もじもじし始めるラウラ。その後ろで急にニヤついた笑みを浮かべ始めた千冬に龍也は疑問を抱く。

 

「すぅー、ふぅー……そ、そのだな!」

 

 一息吐いて意気込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わ、私の家族になってくれないか!?(兄になって欲しい)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「か、家族ぅ!?(夫になってくれと勘違い)」」

 

 

 

 

「ちょ、ちょっと君!いきなり何言ってッ、あ、いたたた、足がまだ……」

 

「くっくっくっ、そうだ家族だぞ。どうなんだ二人とも?」

 

「い、いや、そんな唐突に言われても、なあ?」

 

「あ、ああ」

 

「ッ……だめなのか?(兄になるのが)」

 

「え、ええっと……(夫になってしまうのかと勘違い)」

 

「おい、ラウラを泣かせたらどうなるか……わかっているな?織斑、橘」

 

 ゴゴゴゴ、と一夏と龍也が人生で見た中で最も迫力のある鬼が現れる。

 

「わ、わかりましたぁ!!俺たち二人、家族になりまぁす!!」

「ちょ、一夏お前!?」

「そんな……お兄ちゃん……」

「ほ、本当か!」

 

 四者四様の反応である。

 

 

 

 

 

 

 

「ふふ、よかったなラウラ」

 

「はい!『お姉様』に続いて『お兄様』が二人も増えるなんて……!」

 

 

 

 

 

 

 

「「「…………え?」」」

 

「どうしたお前達、家族(妹)が増えたんだぞ。喜べ」

 

「は、ちょっ、ええ?」

 

「……なるほどな、家族ってそういうことかよ。騙された」

 

 千冬を睨む龍也。

 

「なーんだ、そういうことかよかった……って、良くないよ!?お兄ちゃんの『妹』は僕だけなんだよ!?」

 

「む?お前は『男』ではなかったのか?」

 

「ぎくっ。い、いや、その……」

 

 わーわーわーと三人は騒ぎ出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 未だ口うるさく会話している三人を他所に少し離れる龍也。

 

 そのまま空いている窓枠に腕を乗せ風を浴びる。

 

「(これで一件落着だな。一時はどうなるかと思ったぜ)」

 

「何を黄昏ているんだ龍也」

 

「いや、なんかここ数日は大変だったな……って、ちょっ、千冬さん!?」

 

「大人しくしろ」

 

 近づいてきた千冬は、突如龍也を後ろから抱きしめる。

 

「ふふ、顔が赤くなっているのが此方からでもわかるぞ。どうした」

 

「こ、こっちのセリフですよ!どうしちゃったんですか!?」

 

「あまり大きな声を出すな。皆に気付かれる」

 

 三人は盛り上がっていて、二人の様子に気づいていない。

 

「……ありがとう、龍也。ラウラのことを知るためにクラリッサへ電話をかけたと一夏から聞いたよ」

 

「別に感謝されるようなことでもないですよ。俺がしなくちゃいけないと思っただけなんで。束さんにも手伝ってもらいましたし」

 

「素直に受け取れ。……それと」

 

 より強く抱きしめ、体を近寄せる千冬。

 

 耳元でそっと囁く。

 

 

 

 

 

 

 

「お前も私の家族になってもらうぞ。勿論、異論は認めない」

 

 

 

 

 

 

 

 言い終えると何事もなかったかのようにすっ、と離れて一夏達の方へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

「……はは、それってまさか夫の方じゃねえよな?」

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーその真意は、龍也には知る術はなかった。

 




⇒『らうらがかぞくになったよ!やったね!』

最近真面目な話続きだったので可愛いヒロインズを書きたくてうずうずしてます。いちゃいちゃ需要はあるのかな?
感想、お気に入り、評価等お待ちしています。


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第四十六話

 

 

「それでは、こっちのベッドは私が使わせてもらうぞ」

 

「うん」

 

 ラウラがベッドに荷物を置く。

 場所はシャルルと龍也の寮室なのだが、龍也の姿はない。

 

「しかし驚いたぞ。まさかお前が『女』だったなんてな『シャルロット』」

 

「はは……まぁね」

 

 朝のSHRで入学手続きミスで男になってしまったと担任から告げられた事によりシャルロットは女の子として学園に再び入学という形になった。

 

 本人としてもそれは非常に助かることで、これからの日常生活で気を張る必要がなく楽なのだがシャルロットは違う部分に意識は向いていた。

 

「(ああ……お兄ちゃんいなくなっちゃった……)」

 

 部屋の相方である龍也は出て行き同じ男である一夏と同じになってしまった。その為、一夏と同室であった箒も移動せざるを得なくなったのだが本人は寂しそうにしていた。

 

「(ずっと男でいたら一緒の寮室でいられたのかなぁ。はぁ」

 

「どうした?ため息などついて」

 

「な、なんでもないよ。うん」

 

 思わず口に出してしまったシャルロット。

 

 ふとベッドに寝転ぶ。

 

 すんすんすん

 

「(あ、お兄ちゃんの匂い)」

 

 シャルロットが現在使用しているベッドは元は龍也が使用していたもの。ラウラは自分が使っていた方へと誘導し見事ゲットしたのだ。

 

「(うぅ、お兄ちゃん……)」

 

 枕に顔を埋めながら内心唸るように顔をぐりぐりと擦り付ける。

 その際に強く感じる龍也の匂いに寂しさを他所に笑顔になる。

 

「おい、シャルロット」

 

「なに」

 

「お前も兄さんを『兄』と慕っていたな」

 

「……僕の方がずっと前からお兄ちゃんの妹だからね」

 

 先日よりラウラの兄となった某世界最強の弟と天災のお気に入り。

 シャルロットとしてはラウラが『妹』という存在になるのは少し複雑であった。

 

「ふむ、そうか。ならば私に兄さんの事を教えてくれないか?」

 

「えっ?」

 

 ちなみにラウラは一夏を『お兄様』、龍也を『兄さん』と呼ぶ事に決めたようだ。千冬をお姉様と慕っているために弟の一夏は同様の呼び方だとか。

 

「私はほんの数日前に妹になったばかりだからな。まだ何もお兄様と兄さんの事を知らない。

 兄さんだけでも構わない、人物像がわかるような話を聞かせてくれ」

 

「(……そんなキラキラした目で見られたら断れないよ、もう)」

 

 良くも悪くも何事においても純粋なラウラはシャルロットを困らせるには十分だった。

 

 ベッドから身体を起こしラウラの方を向く。

 

「まずお兄ちゃんはとっても優しい人です」

 

「そうだな、私がボコボコにしたにも関わらず快く許してくれたからな」

 

「……う、うん。そうだね」

 

 無自覚なキツい発言に少し引くシャルロット。

 

「困ってる人がいたら女子供問わず助けに行っちゃうようなヒーローみたいな人です。まぁ、女の人のところに行くのはやめて欲しいんだけど」

 

「おお、ヒーローか!流石兄さんだ!」

 

「ふふん、そうでしょ。お兄ちゃんは凄いんだから」

 

 大好きな兄を褒められ少し機嫌がよくなってくる。

 

「でも女の人に近寄られるとすぐにデレデレします。直して欲しいところ第一です」

 

「ふむふむ、そうか。ハニートラップには要注意だな」

 

「んーそういうところはしっかりしてるんだよねお兄ちゃん。篠ノ之博士のところに1年間いたからか公私の使い分けみたいなのがあるみたい」

 

「おお、素晴らしいぞ兄さん。優秀ではないか」

 

「後はねーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっとお前とルームメイトだよ。楯無さんじゃなくてよかった」

 

「そんなにあの人キツいのか?」

 

「少なくとも俺らにとっちゃな。護衛とか言ってるけどもうあの人が敵だ」

 

 反対にこちらは男子サイド。一夏の寮室に新しくルームメイトとなった龍也が荷物を持ってやって来た。

 

「はは、まぁ色々と計算高い人そうだったからな」

 

「能力面とか仕事柄は優秀なのには違いないんだけどな、ちょっと抜けてるところが目立つ」

 

「そういうところがある人の方がギャップがあるって言うだろ?」

 

「お、なんだお前。楯無さん気に入ってるのか?」

 

「ち、ちげえよ!」

 

 思わず強めの否定をしてしまう一夏。

 

「まぁそうだよな。(箒いるし)」

 

「ったく……」

 

 ぽりぽりと頭を掻くと、一夏はある事を思い出す。

 

「あ、そうだ。お前にダークネスの事を話さなきゃいけなかったな」

 

「ん?ああ。そういやそうだったな」

 

「今聞くか?」「あいよ」

 

 立っていた龍也も新しく自分の物となったベッドに腰をかける。

 

「まずだなーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど。ダークネスが個人意識として存在してる、か」

 

「ああ。話が聞きたいって呼び出されたんだ」

 

 ラウラとの戦闘中の出来事を話した一夏。

 

「ふぅん。ここ最近使ってる俺には微塵もそんな気配なかったけどな」

 

 

 

『Darkness,Darkness,Darkness,Darkness』

 

 

 

「連打すんなよ。怒るかもしれないぞ」

 

 メモリを手に持ち音声を連続で鳴らす龍也。

 

「で、話が終わって現実に戻って来た後はダークネスを呼び出して変身したと」

 

「お前がいつもやってるみたいにな。まさかとは思ったけど、念じたらちゃんと出てきた」

 

 

 

 

「ふむふむ、それでそれでー?」

 

 

 

 

「その後はラウラを助けるために束さんと協力してーーって、束さん!?」

 

「はぁーい!みんなのアイドル、篠ノ之束だよ☆」

 

「い、いつから居たんですか!?」

 

「さっきからずっと居たよ?」「気付いてなかったのかお前」

 

「いや、気づく方がおかしいと思うんだけど……」

 

 部屋に侵入していた束。龍也の方は最初から気づいていたようだ。

 

「大体の話は聞かせてもらったよ。まさか、そんな不思議なことがあるなんてねー」

 

「新しいISコアの誕生って事になるんですか?ダークネスは」

 

 龍也が質問する。

 

「どうだろうねぇ。厳密には違うし細かい事を言えば違くないかもしれない。やっぱりまだまだ解析する必要があるね」

 

 束が龍也の手元のメモリを見る。視線に気づいた龍也はそっと手渡す。

 

「また当分の間預かるね。それといっくん、新武装の使い心地はどうだったかな?」

 

「いい感じでしたよ。大きい割に使い易い刀でした」

 

「おっけー。それじゃこのまま採用かなー」

 

「俺はまだ使ってないけどな……」

 

 ダークネスの話をし終える三人。すると、部屋の外からもう一人扉を開けて入ってくる。

 

「もういたのか、束」

 

「遅いよちーちゃん。待ちくたびれちゃったよー」

 

「千冬姉?どうしたんだ?」

 

「ラウラの後処理の話をしておきたくてな。VTシステムのことがある」

 

 壁寄りかかりすぐに話を始める。

 

「結論から言えば、あれはドイツの上層部がラウラの機体に仕込んだものだった」

 

「ちょっとこればかりは私も見逃せないね。あんな紛い物で束さんのISを侮辱するなんて許せないよ」

 

「……ラウラは、大丈夫なんですか?」

 

「私達に任せろ。普段と変わらない日常生活を送れるようにするさ」

 

「ちーちゃんのお気に入りの子らしいからね。まぁそこの所も含めてアフターケアは済ませるよー」

 

「そっか、よかった」

 

 心配事はこれで無くなった。ラウラが無事に学園生活を送れるとわかった二人は安堵する。

 

「ドイツには痛い目も見てもらわなくてな。私の大事な家族に手を出したらどうなるか……ふふふふ」

 

「(うっわ、ドイツ終わったな)」「(千冬さんが怒ったか……まぁ仕方ないよな)」「(ちーちゃんこわっ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それと言い忘れていたが、数日前からお前達男子にも大浴場が解禁された」

 

「まじで!?」「よっしゃキター!」

 

「ふふ、よかったねー」

 

「時間帯はまた後で伝えるから焦って行くなよ。女子と鉢合わせにでもなったら知らんぞ」

 

「私でよかったらいつでも一緒に入ってあげ「ふんっ」い、いだいいいいい!!やめてちーちゃん、冗談ですぅぅぅぅ!!!」

 

「はは……」

 

 少ししてから束を解放し、部屋を出て行く旨を伝える。

 

「それではそろそろ私は失礼する。束、お前もすぐに帰れよ」

 

「はーいっ」

 

「ちゃんと洗濯した洋服は仕舞ってよ、千冬姉」

 

「わかってるさ。……それと」

 

「な、なんですか?」

 

 龍也の前に移動して来た千冬。

 

「ふふ、またな龍也」

 

「え?あ、はい」

 

 龍也の頭を撫でてから部屋を出て行く。

 

「ちょ、ちょっとりゅーくん!?今のどういうこと!?」

 

「龍也……お前、年上趣味だったのか」

 

「お、落ち着いて束さん!それと一夏、俺は別に年上好きってわけじゃ……「まさか、ちーちゃんに手を出したの!?私がいるのに、どうしてぇ!?」ああもう!話を聞けぇぇぇぇぇ!!!」

 

「(……部屋出よう。面倒くさいことになりそうだ)」

 

 いち早く心労の危険を感じた一夏は、そっと部屋を出て行った。

 










くっ、ちーちゃんがヒロインみたいになってるぜ……!←


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家族になろうよ

世界はラウラを中心に回っていたのさ!そんな回です。


あ、話のタイトルは福◯雅治さんの曲から来てるわけじゃないですよ?ええ。断じて違います。


 

 

「やっと伸び伸びとして風呂に入れるのか」

 

「俺ら男子は肩身狭いからな、仕方ねえよ」

 

 一夏と龍也は解禁された大浴場を使用すべく向かっている最中だった。

 

「中学の時はたまに銭湯とか行ったよな」

 

「たまにじゃなくて結構な頻度でだよ。お前と弾がやたらと行きたがってたからな。

 流石に昼間からは勘弁して欲しかった……ん?誰かいるな」

 

 他愛もない会話をしながら歩いていると、曲がり角の向こうから声が聞こえてくる。

 

 

 

 

 

 

 

「身体の方は大丈夫なのか、ボーデヴィッヒ」

 

「ああ。問題ない」

 

「そうか。なら良かった」

 

「お前にも迷惑をかけたな篠ノ之、すまなかった」

 

 そこにいたのは箒とラウラ。この前のトーナメント以来話す機会がなかったのでこの時間に初めて会っていた。

 

「気にするな。私も力になれず申し訳なく思っていた」

 

「そんな事はない。専用機持ちを相手に十分と言っていいほど戦っていたんだ、もう少し自分を誇れ」

 

「(なんか武士と軍人の会話って感じだな)」「(わかる)」

 

 一夏達はこっそり角からバレないように覗いている。特に隠れる理由はない。

 

「……お前に鍛えてもらわなかったらあそこまで戦い抜くことは出来なかっただろう。本当に感謝している」

 

「ふん。私が教官を務めたのだ、あれくらいの戦いが出来ないようでは困る」

 

「ふふ、そうだな」「ぬっ、師を笑うとはいい度胸だな」「すまない。つい、な?」

 

「(ラウラが鍛えてたのか……道理であそこまで強くなったわけだ)」

「(それもそうだけど結構友好的な雰囲気じゃないか。あんまり合いそうにないタイプの二人だけど)」

 

 意外な事実と意外に相性が合うことを確認した二人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、少しの間普通に会話をしていた箒とラウラの話が突然止まる。

 

「…………ふむ」

 

「な、なんだ。此方をじっと見て」

 

 ラウラは箒を一直線に見つめる。

 

「お前は確か姉がいたな」

 

「え?あ、ああ。愚姉だがな」

 

 愚姉こと天災がこの場にいれば灰にでもなって消え去っているであろう。

 

「よし、それならばーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

「私も今日からお前の『姉』になってやろう。『師』でもあるし丁度いい、よろしく頼むぞ『妹』よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………は?」「「(はぁぁ!?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょ、ちょっと待て!いきなり何を言いだすんだお前は!?」

 

「言った通りの意味だが?分かりやすいようにもう一度言ってやろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前は私の妹にする!決定事項だ、異論は認めん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふんすっ!と堂々すぎるくらい胸を張るラウラ。

 

「な、何故妹なんだ!?百歩譲って師匠と弟子ならわかる!しかし、姉妹は意味がわからない!」

 

 焦りと動揺が爆発する箒。

 

「そうか、お前は知らなかったな。私には家族がいないんだ」

 

「ッ……家族が、いない?」

 

「生まれが少し特殊でな。詳しくは話せんが血の繋がりというものがある者はこの世に一人もいない。だから今は『家族』を増やしている最中だ!」

 

 勿論箒はまだ愛する幼馴染ともう一人の男性操縦者が、更には世界最強がラウラの家族(仮)になった事は知らない。

 

「弟か妹が欲しかったので丁度いい。シャルロットはあまり乗り気では無さそうだったからな」

 

「い、いや、しかしだな……」

 

 ラウラの中ではもう箒が自分の妹認定なのは決定らしい。

 

 すると、急変した状況の中盗み聞きをしていた二人が出てくる。

 

「なってやれよ箒、妹に」

 

「い、一夏!?それに、龍也まで……」

 

「おお!兄達よ!」

 

「…………ん?兄達?」

 

「どーも篠ノ之妹さん、兄一号と兄二号です。よろしくぅ!」

 

「!?な、なななななな……!」

 

 龍也のとんでも自己紹介に再び驚愕する箒。

 

「ラウラに家族がいないのは本当なんだ。だから、俺達でよかったら帰るべき場所になってやろうぜ」

 

「(……帰るべき場所、か。部屋に戻ったらハーゼの皆にも連絡して謝らなくてはな)」

 

 一夏の発言を聞いて自分の部隊を思い出すラウラ。

 

「う、うう、しかしだな……」

 

 渋る箒。本人としても色々と思うところがあるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーー頼む『箒』、よかったら私の妹になってくれないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ…………」

 

 箒に頭を下げるラウラ。

 

「(……っ、そんな真剣に頼まれては、断れないではないか)」

 

 此処で我を通し断固拒否をする程箒は思いやりのない人間ではない。

 

 そして、

 

「わ、わかった。私でよければ別に構わんぞ」

 

「ほ、本当か!?」

 

 ぱあっ!と花が開いたような笑顔を見せるラウラ。

 

「よかったなラウラ。でもお前家族増やしすぎじゃないか?」

 

「いいではないか兄さん。多くて困る事など何もない!」

 

「ま、まぁそうだけどさ」

 

 喜びを隠しきれないラウラを構う龍也を他所に一夏が箒の隣へ。

 

「ありがとな、箒。ラウラの為に家族になってもらって」

 

「要は姉妹ごっこのようなものだと思えばいいのさ。……私が妹だというのは少々気に入らんが」

 

「はは、二人目の姉が出来てよかったじゃないか」

 

「あの人のような駄姉にならないようしっかりとしてもらわなくてはな……」

 

 結局は苦労するのは箒本人である。早速これから先の事を考える。

 

「む、そうだ我が妹よ」

 

「……なんだ?」

 

 自信満々な様子で且つドヤ顔のラウラを見て嫌な予感を感じる箒。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私のことは『お姉ちゃん』と呼ぶようにーー「断るッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんか凄い嫌な予感がするよ」

 

「突然如何されましたか束様」

 

 立ち上がる束。

 

「私の直感が告げてる。何か取り返しのつかない状況になってるって……!」

 

「……はあ」

 

 余り関心を示さないクロエ。

 それもそうだ、隣の天災はよくわからない突拍子も無い事を言い始めたのだから。

 

「そんな事言って時間を無駄にしてる暇があったら早く下着を仕舞ってください。その龍也様に見せる用に買った大胆な下着を」

 

「ふぇ!?い、いや、べべべ別にそういう訳じゃ……」

 

「ああ、失礼しました。脱がされるのを見据えてのことでしたね」

 

「ーーッッ!!く、クーちゃん!!!!」

 

「(顔を真っ赤にされては否定になりませんよ。まぁ、家事を覚えてからご自身の身の回りに気を遣うようになったのはいい事ですが)」

 

 母の女としての成長を感じた娘であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 prrrrrrrr prrrrrrrr

 

 ガチャッ

 

『此方ドイツ軍IS部隊、シュヴァルツェ・ハーゼのハルフォーフだ』

 

「クラリッサ、私だ」

 

『ッ、ら、ラウラ隊長!?』

 

「声を聞くのも久しい気がするな。部隊の様子は変わりないか?」

 

『は、はい!特に問題ありません!』

 

「そうか。それならいい」

 

 箒達と別れたラウラは部屋に戻り、早速ドイツへ電話をかけていた。

 

『あ、あの、隊長?』

 

「ん?何だ?」

 

『その、何と言いますか、お、お元気でしょうか?』

 

「?如何したクラリッサ。何か様子が変だぞ……ははぁ、成る程な。そういうことか」

 

 心当たりを思い出したラウラは悪い顔になる。

 

「おい」

 

『は、はいぃ!?』

 

「お前、私の過去をペラペラと喋ったな。IS学園の生徒に」

 

『あ、ああああ……』

 

 電話越しに恐怖に染まった声が聞こえる。

 

 

 

 

 

「ーー帰ったらお仕置きだ、覚悟しておけよ副隊長」

 

 

 

 

 

『せ、せめて命だけは!命だけは勘弁を!!!』

 

 追い討ちをかけるラウラ。悪い女である。

 

「……ふふっ、あはははっ!冗談だよ、クラリッサ。そんなに怯えるな」

 

『……え?』

 

「むしろ、感謝している。お前が話した相手とその友人のお陰で私は大事なものを得て知ることができた」

 

『た、隊長?』

 

 

 

 

「すまなかったなクラリッサ。今までの軍での態度や非礼を詫びよう」

 

 

 

 

『……変わりましたね、隊長。まさか謝罪の言葉が聞けるとは』

 

「何、少し自分の身勝手さに気づいただけさ」

 

『いい学友をお作りになられたのですね、きっと』

 

「友、か。それは違うぞクラリッサ」

 

『え?』

 

 

 

 

 

 

「私に出来たのは『家族』だ。ちなみにさっき一人増えて四人になった」

 

 

 

 

 

 

 年相応の笑顔を浮かべ、嬉しそうに告げるラウラだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁぁぁ……最高……」

 

「ジジ臭えぞ一夏」

 

「そんな格好で言われても説得力ないな……ふぅ、あったけえ」

 

 入浴中の男子達。目に見えてくつろぐ一夏と、口では一夏に苦言を呈しながらも身体は浴槽でしっかりリラックスしている龍也。

 

「やっぱ広いっていうのはいいな」

 

「それは同感だ。ま、たまに来るからこういうのはいいってのもあるけどお前は違うか」

 

「……なんだよ、文句でも言いたいのか?」

 

「いーや、別に」

 

 険悪な雰囲気ではない。これが二人のスタイルであり、やり取りの中に不快感などは一切ない。

 

「まさか箒がラウラの妹になるなんてな」

 

「一応形式上は俺らも箒の家族になるのか?」

 

「さあ……もうよくわからん」

 

「まぁ、気にしたら負けか」

 

 和解した日からラウラの行動力には少し困らされている。はしゃぐ子供というよりは、自分の欲しいものは何がなんでも手に入れる暴君の様。

 

「家族、ねぇ……」

 

「どうした龍也」

 

「いや、親父達今何処ふらついてんのかなぁって」

 

「……ああ、一年に一回見るか見ないかのお前の両親か」

 

「放任主義もここまで来ると捨てられたんじゃないかって思うな。下手したら俺が二人目としてIS学園に入学したのも知らないんじゃないか」

 

「どうだろうな、流石に耳には入ってきそうだけど」

 

 ゆっくりと湯に浸かりながら他愛もない会話で時間が流れる。

 

 

 

 

 

 

 

 だが、この二人に平穏は訪れない。

 

 ドタドタドタ

 

「ん?なんか走ってる音が聞こえるな」

「風呂場から聞こえるなんてどんだけ足音立ててんだよ」

 

 ドタドタドタ

 

「……音が大きくなった」

「……近づいてきてねえか?これ」

 

 ドタドタドタ ガラッ!

 

「ーー失礼するぞ兄達、背中を流しに来た!」

 

「「ぶふぉっ!!!ら、ラウラ!?」」

 

 今は女子禁制の大浴場に堂々と侵入してきたのはラウラ。

 

「お、お前何して……!」

 

「先程クラリッサの奴から『裸の付き合い』というものがあると聞いてな。それに、兄にご奉仕するのは妹の役目だ。遠慮しないで背中を流されろ」

 

「その前にタオルを巻け!前を隠せー!!」

 

「そんなに気にすることでもないだろ「「早く!!」」う……もう、仕方のない兄達だな」

 

 急かされたラウラは身体にタオルを巻く。

 

「さあ、お兄様と兄さんどちらからだ?」

 

「……じゃんけんするか」「そうしよう」

 

 ラウラに押し切られ順番を決めることにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあラウラ、家族とは言っても異性なんだから少しは恥じらいを持とうな?」

 

「む?そうか?なら今後は気をつけよう」

 

「(……意味あるのかなぁ、本当に)」

 

 背中を流され途中の龍也の発言が本当に届いたのか、これから先の不安が隠せない二人だった。

 




⇒『妹(箒)争奪戦勃発(!?)』『龍也の両親登場』『束、龍也に脱がされる』の三つのフラグを今回は建築しました。

ちなみにシャルロットはお風呂には来ませんでした。まぁ龍也と同室の頃に毎日侵入していたということでいいでしょう()



束さんが脱がされる回は当分来ないです←


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第四十八話

シャルは四人目のヒロインですよ。妹と兼ねてます。
それではどうぞ。


 

 

「「Zzz……」」

 

寝ているのは龍也と一夏。

布団を被り気持ち良さそうに寝息を立てる二人だが、その布団はよく見ると両方とも少し足の辺りが膨らんでいる。

 

「……ん、もう朝か……」

 

先に起床したのは一夏だ。

 

「(……なんか暑いな。気温が高いのか?今日は)」

 

寝起きの顔をスッキリさせるために洗面所へ顔を洗いに行こうと自分に被っている布団をどかそうとしたその時

 

「…………ッ!?!?」

 

目を見開き驚く一夏。その視線の先にはーー

 

 

 

 

「Zzz、Zzz……」

 

 

 

 

全裸で気持ち良さそうに丸まって寝ているラウラがいた。

 

「(あっぶねぇ、思わず叫ぶところだった……!)」

 

瞬時に意識が覚醒する。

 

「(なんで俺のベッドにラウラがいるんだよ!?それに、また裸だし!?)」

 

声にならない程驚いていると、布団をどけられて違和感を感じたのかラウラがゆっくりと起床する。

 

「ん……あ、おにいさま……おはよう……」

 

「お、おはようじゃねえ!なんで俺のベッドにいる!?」

 

「何故って、昨日の夜に侵入したからな。もう二人とも就寝していたから寂しかったぞ……ふわぁぁ」

 

まだ少し寝ぼけているラウラは軽く目を擦る。

 

「む、まだ時間があるではないか。もう少し寝ようお兄様」

 

「だーめーだー!起きろ!服を着ろ!そして部屋に戻れー!!」

 

「?……おや、私の服があんな所に……何故だ?まさか、お兄様が脱がしたのか?」

 

「そんな訳ないだろ!」

 

「おかしいな、ベッドに入った時は着ていたはずだが」

 

兄達からの言いつけをしっかり守っているラウラだが、『寝相で服を脱いでしまっては仕方ない』。本人にもどうしようもない事である。

 

 

 

 

 

すると、寝起きの妹を相手に格闘していた一夏が多少声を張ってしまったことにより隣で寝ていた龍也も起きる。

 

「……なんだよ。朝からうるせ「ん、なに……」えぞ一夏……え?」

 

三人以外の声が聞こえる。その発生源は、龍也にかかっている布団の中。

 

バサッ

 

膨れ上がった布団から金髪の少女がのそっと身体を起こし出てくる。その様子は目は開いておらず、頭はガクンガクンと落ちておりまだ意識が覚醒していない。

 

そんな少女にラウラが声をかける。

 

「起きたかシャルロット」

 

「んぇ?……あっ、お、お兄ちゃん!?」

 

「しゃ、シャル!?お前、何して……」

 

近距離で驚き合う二人。

 

「ら、ラウラ!お兄ちゃん達が起きる前には部屋に戻ろうって言ったよね!?」

 

「仕方ないではないか。お兄様の暖かさが気持ち良くてつい深く寝入ってしまった。それより、お前も中々に寝相が悪いのだな」

 

「え?……きゃぁっ!」

 

「おい一夏!こっち見んな!!」

 

「わかったからとりあえず早く服を着ろって!」

 

シャルロットも全裸とまではいかないが上下下着と際どい格好をしている。そして、ベッドの下にはラウラ同様着ていたと思われる寝間着が。

 

「(あ、暑くなって脱いじゃったんだ……!)」

 

ラウラと違い此方は自分から眠る前に服を脱ぎ捨てたようだ。

 

「ったく、ほら。布団被ってろ」

 

「あ、ありがとうお兄ちゃん」

 

身体に巻くように布団を被り姿を隠す。

 

「で、何でお前ら二人は俺達の部屋で寝てたんですかねぇ?」

 

「クラリッサの奴に聞いたのだ。今時の兄妹は夫婦のように一緒にベッドで睡眠を取るとな」

 

「なんだよそれ!?」

 

反応したのは一夏。それもそうだ、一夏は千冬と同じ布団で寝ることなど一切ない。

 

「ぼ、僕はラウラに連れられて……ね?「乗り気だったくせに何を言うか」ちょ、ちょっと!余計なこと言わなくていいよ!」

 

「ん?シャル、お前まだ男口調が抜けてないのか?」

 

「えっ?」

 

「今一人称が僕のままだったぞ」

 

「あ、つい……」

 

「まぁ別にどっちでもいいけどな。可愛いシャルなのには変わりないし」

 

シャルロットの頭を撫でる。

 

「そ、そう?えへへ」

 

笑顔になる二人。そんな状況を見て一夏は

 

 

 

 

「って、ちがーーう!!!早くお前ら部屋に戻れーーー!!!」

 

 

 

 

感情が爆発し、叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふっ、兄さんの背中は私が頂いたぞ!」

 

「俺の背中は俺のものじゃないんですかねぇ」

 

「細かい事を言うな。さあ出発進行だ」

 

「早く行こう?遅刻しちゃうよお兄ちゃん」

 

「……はい」

 

「あははは……」「全く、朝から騒がしい奴らだ」

 

制服へと着替えた四人は合流した箒を含めて教室へ向かう。

龍也の背中にはラウラがぴたっと張り付くようにおんぶされており、シャルロットは龍也の服の裾をちょこっと摘んでいる。

そんな三人の後ろを歩く一夏と箒。二人とも少し呆れた表情をしている。

 

 

 

すると、この中々に濃いメンバーが揃う家族の前に二人の少女が現れる。

 

「な、何よこれ!?」「……りゅ〜くん?」

 

「おはよう、鈴、本音ちゃん。……どうした?そんな所で突っ立って」

 

「(あ、やばっ)」「(……面倒事になりそうな気しかしないな)」

 

いち早く危険を察知する一夏と箒。

 

「あ、あんた達なにしてんのよ!」

 

「む?その声は中国のスーパールーキーか。何をしているかと言われれば見ての通りだ」

 

顔を首元に埋めているラウラは目ではなく耳で判断する。

 

「シャルロット!」

 

「えっと、これは、その……あはは」

 

困ったような声を出しているが離れる気は無い。

 

「む〜そこは私の場所なのにー!」

 

珍しく怒りを露わにする本音。ラウラが背中に張り付いていることに怒っているようだ。

それもそのはず、いつもならそこにいるのは自分なのだから。

 

「ふん、残念だったな。今この場所は私のものだ」

 

「いや、だから俺の背中は俺のもの「おーりーてー!」「断る!」……って聞いてねえし」

 

「……先に行くか、箒」「ああ」

 

「おい待てって!お前らこの状況の俺を見捨てるのか!?」

 

「俺達には関係ない事だからな」「そういうわけだ、恨むなよ龍也」

 

「おはようございます一夏さん、箒さん……あら?」

 

「おはようセシリア。早く教室行こうぜ」

 

「え、ええ……」

 

立ち止まる龍也達の元に合流したセシリアを連れて颯爽とこの場を離れようとする一夏。

一夏達の背後を見て察したのかセシリアもすんなりとついて行く。

 

「こ、この裏切り者ーー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

prrrrrrrr prrrrrrrr

 

「…………」

 

prrrrrrrr prrrrrrrr

 

ピッ

 

『もすもすひねもすーみんなのアイドル篠ノ之束だよー!』

 

「私だ」

 

『おや、その声は愛しきちーちゃん!どうしたんだい?やっと束さんと愛を深める気になったのかな?』

 

「そんな日は一生来ないな。それより、早速だが今日はお前に一つ報告しておかなければならない事がある」

 

『んー?なになに?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先日から私は龍也の『家族』になった。それを伝えておこうと思ってな」

 

 

 

『…………は?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『じょ、冗談きついぜちーちゃん。束さんがそんな事信じると思ってるの?』

 

「私が昔から冗談を言うのは苦手だと知っているだろう。何なら、本人に確認でもしてみればいい」

 

『…………』

 

プツッ

 

〜数分後〜

 

prrrrrrrr prrrrrrrr

 

ピッ

 

「もしもし」

 

『ふ、ふふふっ、そっかそっか家族かぁー』

 

「確認が取れたようで何よりだ」

 

『……で』

 

 

 

 

 

 

『そ れ を わ た し に い っ て ど う し た い の か な ?』

 

 

 

 

 

 

「ッッ!!!」

 

千冬の全身が震え上がる。

 

「(ッ、久しぶりに本気の束の威圧を食らったな。電話越しだというのに大した奴だ)」

 

『ねぇ答えてよ。早く。早くッッ!!!!』

 

「落ち着け。別に家族といってもお前の想像しているような関係ではない」

 

『……えっ?』

 

「私の教え子が兄が欲しいと言っていてな。龍也がそいつの家族になったついでに私も家族になったというだけだ」

 

『な、なにそれぇ!?』

 

VTシステム後の出来事を知らない束からしてみれば十分に衝撃的な事実。

 

「詳しく聞かなかったのか?まぁ、お前の事だから確認だけしてすぐに電話を切ったんだろう」

 

『うっ、あ、あははー』

 

「というわけだ。忠告ではないが余りうじうじしてると乗り遅れるぞ。彼奴を好く女は多い」

 

『な、何の事かな「好きなんだろう、龍也が」……うぅ』

 

「何年お前と親友なんてやっていると思っているんだ。普段からの態度を見ればわかる」

 

龍也の前では無意識に雰囲気を柔らかくしていたり、笑顔が優しかったりするのだろう。長年の付き合いがある千冬だから気づけたことだ。

 

数秒考え込むように黙り込んだ後、束は

 

 

 

 

 

『……そ、そうだよ!りゅーくんの事が好きだけど何か文句あるの!?』

 

 

 

 

 

「逆ギレするな。文句などないさ」

 

『ふんっ!もういいよ、ちーちゃんなんて知らないから』

 

「……ほう?いいんだな?」

 

『え?』

 

「私が味方にいれば何かと有利に立てるよう手助けしてやってもいいんだがな。そうかそうか、余計なお世話だったか」

 

『えっ、ちょっ、あの「それじゃあまたな束。頑張れよ」ごめんなさい千冬様ぁぁぁ!!どうかこの哀れな束さんに慈悲を!!!』

 

「ふっ、仕方ないな。私は優しいから協力してやる」

 

『…………うぅ、ちーちゃんの鬼ぃ(ボソッ)」

 

「な に か い っ た か ?」

 

『なんでもありませぇん!!』

 

「そうか。それではこれで切るぞ。またな」

 

ピッ

 

「……ふぅ」

 

親友への電話を終えた千冬は一息つく。

 

「相変わらず面倒な性格してるなあいつは」

 

束が何かと不器用なのは知っている。家族、妹、そして今回は男。

 

「……まぁ、少しくらいいいか」

 

龍也へのアタックの手伝いを宣言した千冬。その裏にはある考えがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーー私は既に家族だからな。あまり贅沢を言ってはいけないだろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

誰にも見せたことのない優しい顔をする。

 

 

自らの想いをそっと胸を奥にしまって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……しまった、箒のことを伝えるのを忘れた」

 

何かと抜けているのは世界最強も同じだったようだ。




ら、ラウラと束さんの妹争奪戦が起きたらちーちゃんのせいだからねっ!←


千冬に『大人の恋愛』を匂わせるような雰囲気を出したかったんです。ヒロイン疑惑ですからね?ヒロインじゃないのよ?()


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動き出す悪意

この話で第4章は終わりです。ちょうど次から五十話だからキリがいいね。


 

 

「行くぞ我が妹よ!」

 

「ま、待て!走る必要はないだろう!」

 

「仲良いねぇ箒とボーデヴィッヒさん」

 

「まぁ、姉妹だしな…はは」

 

お昼の時間になり早々に食堂へ駆けていくラウラと箒を眺めるのは今の授業で使用した教科書を片付ける途中の龍也と鷹月静寐。

 

「でもあの調子ならすぐに皆と仲良くなれそうだね」

 

「ラウラも箒の部屋に結構な頻度で行くだろうからその時は鷹月さんも仲良くしてあげてくれよな」

 

鷹月静寐は部屋を移動した箒の新しいルームメイトになったのだ。

 

「ふふっ、橘君もいいお兄ちゃんしてるね?」

 

「…アイツを放っておくと色々と面倒事を起こしかねんならな」

 

悩みの種が一つ増えてしまった龍也。

と、そこに近づいて来る本音と鈴とシャルロット。

 

「龍也、行くわよ」

 

「へいへい」

 

「どうしたのお兄ちゃん?大丈夫?」

 

のそっと立ち上がる龍也を見て心配になるシャルロット。

 

「ん?ああ、なんか身体が重い気がしてな」

 

「りゅ〜くん風邪引いたのー?」

 

「体調管理はしてるはずなんだけどな、咳とか鼻水は出ないしただ怠いだけかな」

 

「ここ最近色々あったから疲れてるのよ。今日一日終わったら部屋でゆっくり休んでなさい」

 

「ああ、そうさせてもらう。それじゃあまたな鷹月さん」

 

「ん、またねー」

 

別れの挨拶を交わし横並びに歩く三人に後ろからついて行く龍也。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廊下に出て暫く歩いていたその時、

 

 

 

ドクンッッ‼︎

 

 

 

「(ッ、な、んだ?)」

 

突然の目眩に意識を失いかける龍也は、地面に倒れこむ。

 

バタンッ‼︎

 

「どうしたの…って、龍也!?」「お、お兄ちゃん!?」「りゅ〜くん!?」

 

倒れた龍也の元に駆け寄る三人。

 

「しっかりしなさい!龍也!」

 

「あ、あれ、俺…」

 

「大丈夫お兄ちゃん!?」「りゅ〜くんそんなに体調悪いの…?」

 

「し、心配すんなって。急にちょっと目眩がきただけだ」

 

鈴の肩を借りて立ち上がる龍也。その様子を見た三人は目配せする。

 

「シャルロット、本音」「うん」「はーいっ」

 

「は?ーーって、ちょっ!?皆さん!?」

 

「いいから来なさい。今あんたに必要なのは十分な休息よ」

 

本音とシャルロットが龍也の手を取り、鈴が先導する。

 

「さぁ、保健室へれっつごー」「行くよお兄ちゃん」

 

「ああもうわかったよ!大人しくついていきますから手を離せー!」

 

「やだっ」「やだ」「あんたに拒否権はないわよ」

 

三対一では勝ち目のない龍也だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……こいつは、少しマズイかもな」

 

一人、何もない白い空間で呟くダークネス。

 

「(マスターの身体への負荷が大きくなっている。力の制御が出来ていないのか、あるいは…)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カタカタカタカタ

 

「……ふぅ」

 

モニターの前で何かを打ち込む研究者のような男が一人。

 

「(いいデータが取れている。"少年"は相変わらず戦い続けているようだな、ふふっ)」

 

思案を巡らせる男の元に後ろから近づく女が一人。

 

「ーー何をしているのかしら?"ドラゴン"」

 

「ん?おやスコール、君か。見ての通りだが?」

 

モニターの前から離れ、画面を見せる。

 

「なっ、これは…!?」

 

「ふふ、私の趣味だ。観察日記とでも思ってくれればいい」

 

モニターに映し出されているのは、一つの"IS"の詳細データ。

 

「君達は手を出すなよ。私が"三年近く"の月日をかけてじっくりと熟成させた大切な物だからな」

 

「…貴方、何を考えているの?」

 

「ふむ、そうだな。その質問に答えるとすればーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この腐りきった世界を壊すのさ。私が開発した"Darkness"の力を使ってな」

 

 

 

"回収"の時は近い。少年に託した力を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

龍也が鈴達に強制連行されている頃、食堂では、

 

「箒、あーん」

 

「ら、ラウ「お姉ちゃんだ」…ね、姉さん?これは?」

 

「クラリッサの奴に仲のいい姉妹は互いに食べさせ合うものだと聞いた。ほら」

 

「う、うぅ、なんだその無茶苦茶な話は…!」

 

「早くしろ。そろそろ腕が疲れる」

 

「…あむっ」

 

「ふふ、美味いか?」

 

「…おいしい」

 

「(なんですのこれ)」

 

テーブルを囲むのは箒、ラウラ、セシリアの三人。

一夏は別件で職員室へ行っているため不在だ。

 

「どうしたセシリア、お前も早く食え。食を欠かすのは一日の行動に支障をきたすぞ」

 

「(あ、な、た、の、せいですわぁぁぁぁぁ!!)」

 

居心地の悪さを感じているセシリア。今此処にいない少年に恨みの念を送る。

 

「悪い、遅くなった…って、なんだこの状況」

 

「むっ、やっと来たかお兄様!」

 

「ごめんな、千冬姉と少し話してたんだ」

 

「お姉様と?なら仕方ないな」

 

合流した一夏は手に持つ料理をテーブルに置きセシリアの前に座る。

 

「あれ、セシリア食わないのか?冷めるぞ」

 

「え、ええ。今食べますわ」

 

「食欲が湧かないのなら無理をするな。食事は楽しむものだとお姉様に教わった」

 

「(誰のせいだと思って…あら、美味しいですわね)」

 

「そういや朝に千冬姉が言ってたけど、臨海学校の準備もしなきゃいけないよな」

 

一夏が話を変える。SHRで千冬から告げられた7月の頭から行われる臨海学校のことについてだ。

 

「ラウラさんは水着はお持ちですの?」

 

「ふっふっふっ、既にクラリッサに夏を迎えるにあたっての必須事項として水着の事は聞いてある。胸に『らうら』と書かれたスクール水着を着ればいいのだろ「よし、買いに行くぞラウラ。お兄様が選んでやる」ほ、本当か!ありがとうお兄様!」

 

「(まぁ妥当だな)」「(ラウラさんの体型だとより危ない感じが増しますわね)」

 

「それならば箒よ。お前も着いてこい」

 

「…えっ?わ、私か?」

 

「お前以外に箒という名の人物はいないだろう。家族なのだから遠慮などするな」

 

「そ、そうか。家族か。うん、私も行こう」

 

「(ふふっ、なんだかんだ嬉しそうですわね箒さん。妹というのも悪くなさそうで何よりですわ)」

 

「セシリアも一緒に来るか?」

 

「お前も来い。家族以外の人間とも交友を深めたい」

 

「い、いえ、わたくしは遠慮させていただきますわ」

 

丁重に断るセシリア。何故かと言うと、

 

「(この人達と一日中一緒に居ては頭がおかしくなってしまいますわ)」

 

自分の身を案じてのことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

prrrrrrrr prrrrrrrr

 

ピッ

 

「私だ」

 

『今日は何用だい?ちーちゃん』

 

「来週からうちの学校は臨海学校へ行くのだが…来るなよ?」

 

『ふっふっふっ、それは無理な話だね』

 

「ほう?理由を聞かせてもらおうか」

 

あいつのことだからどうせ突如現れるだろうと予測した千冬だが先手を取るのは無理だったようだ。

 

『やっと完成したからね、箒ちゃんへのプレゼントが!』

 

「篠ノ之に…?ッ、お前まさか!?」

 

 

 

 

 

 

 

『第4世代型IS『紅椿』。私から箒ちゃんへ送る専用機《愛の結晶》ってやつさ☆』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガラガラガラッ

 

「調子はどうかしら?龍也君」

 

「問題ないですよ。って、またサボりですか?」

 

「ちょっと酷くない?その言い方。…まぁ正解だけど」

 

保健室で暇を持て余す龍也の元に楯無がやって来る。

 

「で、何の用ですか?」

 

「相変わらず察しの良さは抜群ね。一つ君の耳に入れておいて欲しいことがあるの」

 

椅子には座らず壁に寄りかかり話を始める。

 

「『亡国機業《ファントム・タスク》』」

 

「ッッ!…彼奴らに、動きが?」

 

「いえ、その逆よ。ここ最近は全くの音沙汰なし。もしかしたら何か企んでいるのかと思ってね」

 

「そうですか。でも、どうしてそれを俺に?」

 

「一年生はこれから臨海学校でしょう?伝えるなら今かなと思ってね。此処なら他の人もいないし」

 

ダークネスの存在を知る楯無だからこそ、龍也には警戒をしておいて欲しいとの考えだ。

 

「わかりました。少し気を張っておきますね」

 

「もうっ、それじゃダメよ?疲労が溜まってるから倒れちゃったってお姉さん聞いたんだから」

 

「え?ーーう、うわっ、ちょっ「静かに。大きい声出したらバレるわよ?」

 

龍也の元へ歩いてきた楯無はそのまま龍也に跨るようにベットの上に。そのまま前のめりになり顔を近づける。

 

「か、揶揄うのはやめてくださいって何回言えばわかるんですか!?」

 

「ふふっ、可愛いなぁ龍也君は。お姉さん本気になっちゃうかも」

 

チラリと胸元を開けるような仕草。思わず龍也は目を逸らす。

 

「見てもいいのよ?男の子なんだから我慢しないの」

 

「ぱ、バカなこと言ってないで降りてください!」「いーやー!」

 

ぐぐぐっ、とベットの上で取っ組み合いを始める二人。すると、

 

 

 

ガラガラガラッ

 

「調子はどう?りゅう、や…」

 

「あら」「げっ、鈴!?」

 

手に持った飲み物を思わず落とす鈴。

 

「あ、あんたって奴は…!あたし達が心配してる時にぃぃ!!!」

 

「ち、違うんだ!これは楯無さんが…「龍也君ったら『上に乗れよ、楯無(イケボ』だなんて王様プレイが好きなのねー」あんたはいい加減黙ってくれぇぇぇぇ!!!」

 

楯無の発言を聞いた鈴の中の何かがブチィッ‼︎と切れる音がする。

 

「ふ、ふふふっ、そうかそうかー。龍也ってば意外にもSなんだぁ…」

 

「り、鈴?」

 

「ーーーばかっ、あんたなんて知らないっ!!死んじゃえー!!」

 

「あ、お、おい!…行っちまった」

 

保健室を飛び出して行く鈴。

 

「…ごめんね?龍也君」「もういいですよ。わかりましたからそんなに落ち込んでないで早くどいてください」

 

流石の楯無も申し訳なく思ったのかしょんぼりしてしまう。

 

「鈴のことはこっちでなんとかします。楯無さんは早く生徒会室に戻ってください」

 

「うん…」

 

肩を落としたまま楯無も保健室を出て行く。

 

「(ったく、肝心なところで面倒な性格してる人だなほんと)」

 

自身もベッドから降りて鈴を探しに行く。

 

 

 

 

 

 

 

結局この後、日が暮れるまで鈴のご機嫌取りをした龍也はより疲労が溜まったのであった。




活動報告の方でアンケートを取らせていただきます。
龍也が臨海学校前の買い出し休日デートを誰とするか?というものです。ご協力いただけると嬉しいです。


それと、本当は臨海学校前に簪と楯無の話をねじ込みたかったのですが流石に時系列的に空きがなさすぎるかなと思ったので飛ばします。第6章までお楽しみに!


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第5章 少年はやがて闇へと堕ちる 〜side 橘 龍也〜
波乱の予感!?休日デート! その1


今回から第5章、福音編になります。
前回の途中に登場した"ドラゴン"というキャラはオリジナルになります。詳細は後ほどストーリで分かります!

それではどうぞ。


 

 

授業もなく生徒達が自由に一日を使える休日の二日間。

そのうちの一日を使って龍也や鈴達は臨海学校に必要な物を揃えるべく近くのショッピングモール『レゾナンス』へ買い物に行こうとしていたのだが、

 

「ーーなあ、いいだろ?俺達と遊ぼうぜ嬢ちゃん!」

 

「ですから、何度も言っている通りわたくしはーー」

 

「(…なんでこうなったかなぁ)」

 

時間は昼前。場所は世間一般によく目印として使われるであろう大きい街灯の下。

龍也は三人の少女と約束した待ち合わせの時間より1時間程早く着いたのだが、そこには見慣れたブリティッシュガールが風貌の悪い男達三人に絡まれていた。

 

「(本音ちゃんの時もそうだけど日本も案外平和じゃないねぇ。このご時世にナンパなんてする度胸のある男がいるなんて)」

 

なんて考えながら足は既に少女の方へ向かって歩き出している。本来であれば一人で少し中を探索しようと考えていたのだが仕方ない。

 

「悪い、待ったかセシリア」

 

「えっ?あっ、龍也さん…」

 

「行くぞ」

 

三人の間から無理やりセシリアの手を取り引っ張り出す。が、

 

ガシッ

 

「痛っ…!」

 

「おいおいいきなり何すんだよガキ。この子は今から俺達とお楽しみなんだけど??」

 

男はセシリアの腕を掴み行かせないようにする。

 

「誰があんたらとお楽しみだって?それより、その手離せよ」

 

「お前がどっか行くってんなら離してやるよ!」「ひひひっ」「大人しく帰れよ坊主」

 

「(あーめんどくせえ。あんまり手荒な真似はしたくないんだけどなぁ)」

 

中学生の時より考えが少し大人になった龍也だが、男に強く腕を掴まれ苦痛に顔を歪ませているセシリアを見て即断即決。行動を開始する。

 

「ーーだから、離せって言ってんだろうがクソお兄さん達よ」

 

「なっ、ごはぁっ!?」

 

瞬時にセシリアと男の間に割り込んだ龍也はまずセシリアの手を掴んでいる男の懐に入り顎に掌底を打ち込む。そのままよろけた影響で力の抜けた男の手をセシリアから離す。

 

「あ、兄貴!?このっ…!」

 

「(ちっ、大人しく引いてはくれねぇか…!)」

 

仕方なく応戦態勢に入ったその時、

 

ピーッ‼︎

 

「こら!そこの君達何してる!」

 

「げっ、警備員!」「ま、マジかよ!誰かチクったな!」「逃げるぞ!」

 

笛を吹き龍也達の元へ駆け寄ってきた警備員を見て男達はすぐさま退散した。

 

「(周りで見てる誰かが知らせてくれたのか)」

 

もう大丈夫か、と判断し肩の力を抜く。

 

「大丈夫かい?さっき近くにいた僕に此処で揉め事が起きていると教えてくれた人がいてね」

 

「そうでしたか。助かりました、ありがとうございます」

 

「うん。特に問題はなさそうだね。彼女さんも怪我はないみたいだし、それじゃあ二人ともデート楽しんで」

 

「でっ…!?」「あははは…はい」

 

無事を確認した警備員はすぐにその場を離れる。

残ったのは、顔を赤くするセシリアと頬を掻く龍也の二人。

 

「…とりあえず中入るか?」

 

「は、はいっ!!」

 

上擦った返事をしてしまうセシリア。動揺は隠せなかったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「助かりました龍也さん。あの方々がしつこく迫ってくるものでしたから困っておりました」

 

「気にすんな。まぁセシリアぐらいの美人なら迫る気持ちもわからんでもないけどな」

 

「(……先程助けていただいたのに加えてこの無自覚タラシっぷり、鈴さん達がいなかったらわたくしが落ちていたかもしれませんわ)」

 

レゾナンスの中を歩く二人。龍也がセシリアに着いて行く形になっている。

 

「それで一人で何しに来たんだよ。買い物か?」

 

「ええ。水着やその他の必要な物は本国から取り寄せたのですが一つだけ忘れていた物が…ありましたわ。これです」

 

「日焼け止めのクリームか。女の子には大事だな」

 

目的の物はすぐに見つかったようだ。

 

「龍也さんこそお一人なのですか?」

 

「いや、1時間後に鈴達と合流する予定だ。ちょっと暇だったから中をぶらぶらしようかと思ってな」

 

「ふふっ、デートの下調べとは男性として素晴らしい心掛けですわね」

 

「そのデートの前に今はセシリアとデート中だけど「龍也さんっ!!!」ははっ、悪い悪い」

 

「もうっ、わたくしはこれを買って来ますわ!全く…」

 

会計を済ませるためにレジへと向かうセシリア。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この後はどうするんだ?」

 

「寮へ戻りますわ。一人でショッピングモールを歩いても楽しくありませんもの」

 

「(…なんか悲しくなってきた)」

 

無意識に少しだけディスられる龍也。

 

「じゃ、じゃあさ!俺に少し付き合ってくれよ!」

 

「…ナンパというやつですの?本音さんの時といいやはり「いや、そういうんじゃなくてね!?」

 

「セシリアにこの後予定がないなら鈴達が来るまでの間でも話相手になってもらえないかと思っただけだよ」

 

「わたくしは都合のいい女ですのね…「いやもう勘弁してくださいセシリアさん!!」ふふっ、冗談です。少しだけでしたら付き合って上げてもよろしくてよ」

 

「おおっ、心の広い女よ!流石は英国淑女だな!」

 

「や、やめてくださいまし!恥ずかしいですわ!…それで、何方へ行かれるのです?」

 

「そうだなーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁ…!か、可愛い…!」

 

「(俺が連れて来たのに俺より楽しそうで何よりだよ英国淑女さん)」

 

龍也がまず向かったのはペットショップ。

 

「あら、此方にも愛らしい目をした子が…ふふっ、愛おしいですわぁ」

 

普段のセシリアでは絶対に見せないような蕩けた目をする。

 

「セシリアは動物好きなのか?」

 

「え?あ、はい。大きい犬よりは小さいの犬の方が好きですわ」

 

横並びになってショーケースの中のちっちゃい犬を眺める。

 

「しかし可愛いなこいつ」「同意しかありませんわ」

 

食い入るように見つめる二人。テコでも動きそうにない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっ、と!セシリアも中々上手いじゃないか」

 

「このレーザーポインターは高性能ですのね。しっかりと狙った場所を撃ち抜いてくれますわ」

 

「時代の進化ってやつだな…お、最終ステージか」

 

「ふふふ、このままゲームクリアといきますわ!」

 

ゲームセンターで迫り来るゾンビを撃ち抜く射撃ゲームをやる二人。

周りの人々は足を止めその様子を見ている。

 

ザワザワ

 

「お、おい、あの二人ノーダメージで最終ステージ入ったぞ!」

「あの嬢ちゃん只者じゃねぇ、上手すぎだろ!?」

「すごーい…」

 

「(ん?なんかギャラリーが出来てるな)」

 

バァン‼︎

 

【FINISH‼︎】

 

「「「お、おおおっ!史上最高得点!!」」」

 

「もう終わりか」「随分と呆気なかったですわね」

 

「「「(なんだよこいつら、化物か…!?)」」」

 

周りの客が軽く引くほどあっさりとした様子の二人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次は何方へ行かれるのです?」

 

「そうだな、あっちの「きゃぁっ!」ん?どうしたセシリ…おっと」

 

移動の途中に龍也の後ろを歩いていたセシリアはこけてしまう。

すると、そのまま前に倒れるので、

 

ぽふんっ

 

「大丈夫か?」

 

「は、はい…」

 

振り返った龍也の胸に飛び込んでしまう形になる。

 

「気をつけろよ。お前の顔に傷が付くのは見たくないからな」

 

「あ、あの、その」

 

「なんだ?」

 

「ち、近いといいますかなんというか「わ、わぁっ!?す、すまん!」い、いえ…」

 

密着している距離に気づき慌てて飛び退く龍也。

 

「(龍也さんの匂いを感じましたわ…はっ!?わたくしは何を…!)」

 

一人悶々とする少女。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、このネックレスとかセシリアに似合いそうだな」

 

お手洗いに行っているセシリアを待っている間、近くのアクセサリーショップで物色をしている龍也。

 

「(まぁ貴族からしたらこういう所の安物じゃあんまり喜ばないのかな。彼氏とかなら別なんだろうけど)」

 

次はイヤリングでも見に行くか、とその場を離れようとした時、

 

トントン

 

肩を叩かれる。

 

「ん?戻ってきたのか「ねぇ」セシリ…えっ?」

 

聞こえてきたのは先程まで一緒に居た少女と別の女の声。

思わず振り返るとそこには、

 

「り、鈴…?」

 

「あんたは約束の時間すっぽかしてこんな所でなぁにしてるのかなぁ…?」

 

「…げっ、マジか!?」

 

時計を見た龍也は驚く。鈴達と約束をした時間より30分過ぎていたからだ。

 

「どういう事か説明しなさい」

 

「い、いや、これは、そのぉ…」

 

冷や汗を垂らしながら言い訳を考えていると、

 

「お待たせしました龍也さ……なっ、り、鈴さん!?」

 

お手洗いから戻ってきたセシリアが合流する。

 

「…………ふぅん。なるほどねぇ」

 

「り、鈴?」

 

「ふ、ふふふ…」

 

下を向き意味ありげに笑う鈴。

そんな鈴の背中から鬼のようなものが浮かび上がる。

 

「あんたって奴は!!あたし達との約束より他の女と遊ぶ方が大事かー!!!」

 

「ち、違うんだ!話を聞いてくれ…「問答無用!!」へぶしっ!?」

 

全力のグーパンを顔に受け吹っ飛ぶ龍也。時間も忘れてデートを楽しんでいた罰だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、やっと来たおにい…ちゃん?」

 

鈴から龍也を見つけたとの連絡を受けて待ち合わせ場所で待機していたシャルロットと本音。そこに龍也達が"三人"で現れる。

 

「な、なんでセシリーがいるのー!?」

 

「セシリアとデートしてたのよ此奴。あたし達との約束時間も忘れるくらい楽しそうにね」

 

「違うって何回も言って「ふんっ」いってぇぇぇ!?」

 

「申し訳ありません二人とも。偶然ここで出会ってわたくしの買い物の護衛をしていただいてたのです」

 

「ふーん」「うそだー」

 

全く信じていない様子。それもそうだ、時間も忘れるようなら護衛ではなくそれはもうデートだろう。

 

「当初の予定とは違うけどセシリアも連れて五人で行くわよ。このまま帰すってのも可哀想だしね」

 

「…まぁいいよ。私もセシリアとも仲良くなりたかったから」「私も賛成ー」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「さ、行くわよ」

 

四人で再び中へ入って行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、俺の事は無視ですか?見えてないフリですか?そうですか。…帰ろうかな「早く来なさい荷物持ち」…はーい」

 

すぐに後を追いかける龍也だった。

 




アンケートにコメントを書き込んで頂いた方々ありがとうございます。



セシリアに出番をあげたかったので書きました。ヒロインにするつもりはない…と思われる()


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波乱の予感!?休日デート! その2

 

 

「ねえ龍也、これとこれなら?」

 

「右」「んー、おっけー」

 

 

 

「りゅ〜くんこの水着どうかなー?」

 

「ぶふぉっ!?な、なんだよその紐!?大人しく普通の水着を買いなさい!」「えー」

 

 

 

「シャルロットさんにはやはり此方の水着がよろしいかと。わたくしと同じ金髪ですのできっと似合いますわ」

 

「でもセシリア大人っぽいからなぁ。僕に似合うかな?」

 

「大丈夫ですわ。わたくしが保証します!」

 

「んーじゃあこれにしよ♪」

 

「(ああ、これが兄離れってやつか…)」

 

 

 

当初の予定通り龍也と鈴達の水着を買いに来た一行。

鈴は色々な水着を2着ずつ持ってきては龍也の意見を取り入れ、本音は少し特殊な水着しか選ばず龍也を困らせる。対してシャルロットはセシリアと2人っきりでじっくりと選んでいる。

 

「ふふふ、シャルも友達と楽しそうで何よりだなぁ」

 

「…そんな寂しそうな顔して言っても説得力ないわよこのシスコン。それよりちょっと来なさい」

 

「はーい」

 

鈴に連れられて龍也が辿り着いたのは試着室の前。

 

「此処で待ってて」

 

「は、おい…って、入っちゃったよ。しょうがねぇなぁ」

 

手に持った水着と一緒に中へ入る鈴。

龍也は一人少し離れて待っていると声をかけられる。

 

「ちょっと」

 

「(あんまり女性用水着売り場とかで一人にされたくないんだけどなぁ)」

 

「そこの男!聞いてるの!?」

 

「…え?俺?」

 

「アンタしかいないでしょ。これ元の場所戻しておいて」

 

女はそう言うとカゴに入った服を押し付けるように地面に置く。

 

「(あぁそっか。最近は学園の中にしかいないから忘れてたけど外だとこういう"男を下に見てる"やつがいたな)」

 

学園の中にも女尊男卑の考えを持った生徒や教師がいない訳ではないが、わざわざ自分からそんな人間に絡みに行くわけもない。

 

「悪いけどお断りします。自分で漁った物くらい自分で片付けて下さい」

 

「…は?男のくせに何楯突いてるのよ」

 

「俺は自分で片付けをしろって言っただけですよ?男とか女だとかは知りませんね」

 

「ッ、こいつ…!」

 

思うように言うことを聞かない龍也に苛々してきた女の顔が怒りに染まっていく。

 

「私は女性権利団体の人間なのよ。アンタ一人くらいすぐに痴漢に仕立て上げることくらい容易いわ」

 

「(…へぇ、権利団体ねぇ)"やれるもんならやってみろよ"」

 

「ーーーッッッッ!」

 

龍也の煽りにわかりやすく激情した女は電話を取り出し何処かへ電話をかけようとする。

 

「(あーやべっ、学生証出すしかねえかなこれは)」

 

世界で二人目である肩書きを見せようと財布に手を伸ばしたその時、

 

ガシッ

 

「おい」

 

「な、何よ!離しなさい!」

 

何者かが後ろから女の腕を掴む。

 

「頭冷やせよ。恥かくのはテメェの方になるぜ?」

 

「は?アンタ何言って…「見てみろ」

 

龍也の方を顎で指し示す。女が振り返ると既に手には学生証が。

 

「あんまりこういうのは好きじゃないんですけどね。お互い面倒事になる前に引きましょうよ」

 

「なっ、それって…!?」

 

IS学園の学生証。そして男。

この二つだけで女は龍也がどういった人間なのか察しがつく。

 

「分かったら大人しく自分でそこの衣類は片付けるんだな」

 

「くぅぅぅ、覚えてなさいよ!」

 

「(誰が覚えとくかバーカ)」

 

逃げるようにカゴを持って去って行く女。

 

「助かりました、ありがとうございます」

 

「気にすんな。随分とうざってぇ客がいたから追い払おうとしただけど」

 

「えっと、貴女は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「"オータム"だ。こんな所で会えるなんて光栄だぜ二人目」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あはは…まぁ知ってる人もいるか」

 

「逆に此処に来るまで声かけられなかったのかよ?」

 

「全く。俺は一夏と違って目立つような情報はありませんからね」

 

「(…ふぅん。目立つような情報がないねぇ?よく言うぜ)」

 

龍也は何と言ってもあの"篠ノ之束のお気に入り"である。周りの親しい人間はそんな肩書き覚えているか怪しいくらいだが、世間一般の科学者や研究者達はこれだけで思うように龍也に手を出せなくなる。

 

と、オータムと会話をしていると着替え中の鈴から声が上がる。

 

「龍也?」

 

「ん?あ、ああ!どうした鈴!」

 

「ごめん、もうちょっと待っててねー」

 

「焦んなくていいぞ」「ありがとー」

 

少し遠くから声を張って更衣室の鈴とやりとりを交わす。

 

「彼女とデートか。ったく二人目も隅に置けねぇなぁ」

 

「あはは…そ、そろそろ"友達"のところに戻りますね?」

 

友達の部分を強調する龍也。

 

「おう。それじゃあな」

 

オータムは歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、龍也の横を通り過ぎたその時、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーー"銀"には関わるな。お前が動けば思う壺になる」

 

「……えっ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後ろから聞こえてきた呟きに思わず振り返る龍也。しかし、そこには悠然と歩くオータムがいるだけ。

 

「(今のはオータムさんが?銀って何だ、それに思う壺って一体…)」

 

「もういいわよー」

 

「あ、ああ!」

 

鈴の元へ小走りで駆け寄る。すると、試着室のカーテンが開く。

 

「ふふん、どう?」

 

「おお…」

 

思わず見惚れる龍也。

 

「明るい色なのが鈴に合ってるし胸元のフリルは可愛いな。似合ってるぞ」

 

「そ、そう?じゃあこれにしようかなー」

 

嬉しそうに頬を緩ませる鈴。

 

「着替えたら一緒にレジ行くぞ。俺が払う」

 

「えっ、いいわよ!お金ならあるし」

 

「朝のお詫びも兼ねて、な?それにこういう時は男にカッコつけさせてくれよ」

 

「…じゃあ甘えちゃおうかな。ありがと龍也」

 

「ん」

 

カーテンを閉めて試着した水着を脱ぐ鈴。

 

待っている龍也は一人考える。

 

「(ま、今は鈴達が優先だな。もしかしたら俺の思い過ごしか聞き間違いかもしれないし)」

 

少し経つと着替え終わった鈴が出てくる。

 

「行くわよ」「あいよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

龍也の元から去ったオータムは一人路地裏を歩いていると、背後から声がかかる。

 

「どういうつもりだ、オータム」

 

「ッ、来てたのかよ"M(エム)"」

 

「手助けでもするつもりか?」

 

「ドラゴンの奴は何か企んでやがる。このままじゃ亡国機業は手遅れになっちまうぜ」

 

「…………」

 

思案するMと呼ばれた少女。

 

「別に表立って手を貸すわけじゃねえ。彼奴が思惑に乗っかってくたばるようならそれまでの話さ」

 

「"Darkness"か。一体何者なんだ橘 龍也という男は」

 

闇に消えて行く二人。風が吹き抜けた路地裏には、何も残ってはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「♪〜♪〜」

 

「随分とご機嫌だなラウラ」

 

「む?ああ。今日はお兄様と箒と"デート"だからな!」

 

「でっ…!?」「(ラウラの中の家族の概念やっぱり無茶苦茶だな…はは)」

 

真ん中にラウラを挟んで横並びに歩く箒と一夏。

三人は手を繋いでおりスキップでもしそうな勢いのラウラに引っ張られる形になっている。

 

「まずは私服から選ぶぞ。水着はその後だ」

 

「別に制服でも問題はないだが…まぁ、お兄様が選んでくれるなら甘んじて受け入れよう」

 

「箒もそれでいいか?」

 

「ああ。構わない」

 

レゾナンスの中を歩く三人。

 

「此処がショッピングモールか。中々に人が多いのだな」

 

「ここら辺の地域でも大きいところだからな。それに今日は休日だから多いのは仕方ない」

 

「勝手に何処かへ行って迷子にはならないでくれよ姉さん」

 

「そんなヘマをするわけないだろう妹よ。私を甘く見てもらっては困る」

 

「(…なんだろう、面倒事が起きそうな予感しかしねえ)」

 

と、一夏が不安を抱えていると服屋の前に辿り着く。

 

「ラウラはどういうのが着たいんだ?」

 

「ファッションというやつは私には分からん。お兄様に全て任せる」

 

「そうか…よし箒、行くぞ」

 

「わ、私もか?」

 

「当たり前だろ。女物の服を俺が一人で選んでたら変人にしか見えないし」

 

「…そ、そうだな。うん。私も一緒に選ぶとするか」

 

「?おう」

 

「それでは、私は適当に此処の中を歩き回っているぞ」

 

「店からは出るなよー」「ああ」

 

ラウラは一人で店内を探索し始める。

 

 

 

 

 

「そうだ、お兄様に一つ言い忘れていた」

 

「ん、なんだ?」

 

「下着は派手なのでも構わn「ね、姉さん!?」

 

「あはは…流石に下着は俺の管轄外かな」

 

「…ふんっ、まぁいい。私は行くぞ」

 

少し拗ねたラウラは、颯爽とその場を離れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?俺が悪いの?これって」「選んでやればいいではないか。お前がな」「勘弁してくれよ箒さん…」

 

肩を落とす一夏だった。




その3では箒と一夏もちょいと二人きりでいちゃいちゃさせたいなと考えております。ええ。


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