ラグナレクストーリー:湘南 (ヨツバ)
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湘南へ

こんにちは。息抜き作品で投稿しました。
物語の内容は史上最強の弟子ケンイチと辻堂さんの純愛ロードのクロス作品です。
時系列としてはラグナレク編ですね。私が勝手にラグナレク視点で新白連合と戦っている間に朝宮龍斗が湘南に訪れていた話になります。
なので主人公は朝宮龍斗です。

残念ながらケンイチの出番はありません。もしかしたらちょこっと出るくらいかもです。


ラグナレク本部。珍しく幹部である『八拳豪』のメンバー全員が集合していた。

第一拳豪オーディーン。第二拳豪バーサーカー。第三拳豪フレイヤ。第四拳豪ロキ。

第五拳豪ジークフリート。第六拳豪ハーミット。第七拳豪トール。第八拳豪バルキリー。

これはまさに錚々たるメンバーだ。並みの不良なんて息もできないだろう。

 

「これは珍しい。八拳豪が全員集合とはな」

「ちょっと前に集合しただろうロキ。キサラが八拳豪入りした時にな」

「それは置いといてだフレイヤ。取りあえず近状報告でもしますか。俺が指揮っていいかいチーフ?」

「構わん」

「んじゃあ始めるか。ってトール、椅子に座れ!!」

「ワシは実践相撲の稽古中じゃあ!!」

「それも構わん。早く始めろ」

「チーフがそう言ってんだ。はじめようじゃないか」

「ったく仕方ねえな」

 

ロキが今のラグナレクの状況を説明する。現在進行形でラグナレクのメンバーは急増中で、ここら一帯の不良は全てラグナレクに吸収されているか潰されている。

なので敵対チームは他の県か町にでも行かなければいないだろう。そもそもラグナレクはただの不良チームでは無い。『武闘派不良集団』なのだ。

 

「バルキリーの昇格によりラグナレクはさらに強大になった。これからもより一層ラグナレクは強化しねえとな」

「まだ強化すんのかい?」

「ああ。お前の八拳豪入りした時に聞かされただろ。俺らラグナレクの最大の敵であるYOMIと戦うためにな」

「YOMIか…」

 

YOMI。実態は分からないがラグナレクにとって最大の敵チームである。しかし分からないのはオーディーンとハーミット以外の者だけだ。

 

(もし戦うことになったらまだ戦力不足…いや、実力不足といったところだな。修業がまだ足りない)

 

オーディーンこと朝宮龍斗は八拳豪のメンバー全員の実力を見定める。彼ら全員とも才能がある。才能の原石とはまさに彼らのことを言うのだろう。

鍛え上げれば化けることが可能な人材たちだ。だからこそ拳聖こと緒方一神斎に人材の宝庫とも言わすほどである。

 

「んでだ。ラグナレクを更に進出させるために徐々に戦力を拡大している。そして新たな人材もスカウトしようとも思ってる」

「新たな人材?」

「ああ。中には俺らのように才能あるやつがいるかもしれねえ。スカウトしないともったいねえだろ」

「まあ確かに人材が多いにこしたことは無い」

「ほれ、チーフも言っている」

(才能ある者か。そういえば『ティターン』に居たな、彼女もいずれ拳聖様に選ばれるだろう)

 

朝宮龍斗は今まで出会った人物で才能ある者を思い出す。

 

「俺がいくつか気になるチームをピックアップしてある。許可があれば今すぐにでもスカウトしにくか、邪魔だったら潰しにいくぜ」

「ああ。許可する」

 

ここで朝宮龍斗は何を思ったのか、自分もスカウトに行ってみようかと考えてしまう。やはりティターンでのことを思い出したからだろうか。

 

「これは珍しい。チーフ自らとは」

「どれでも良い。資料をくれ」

「じゃあコレをお願いしますよっと。誰かつけるか?」

「必要ない。1人で十分だ」

 

資料には3チームの名前が書かれていた。『江乃死魔』、『皆殺し』、『辻堂軍団』。これら総じて『三大天』。

 

(場所は湘南か。少し遠いな…ところでこの『皆殺し』ってチーム名なのか?)

 

第一拳豪オーディーンこと朝宮龍斗。湘南に向かう。

 

 

・・・・・・・

 

 

湘南。神奈川県の相模湾沿岸地方にある場所。観光資源が豊富で観光集客力が高い地域でイメージ的には海や若者などを連想させる。

そして今、最も熱いイメージが『不良』である。補足するが湘南が不良の地域というわけでは無い。今の時期、湘南が何故か不良のスポットになっているだけだ。

それは今までの湘南の歴史の中で不良が今の時期で争いをしてきた。今回は『三大天』という不良チームが覇権を争っているらしい。

 

「ここが湘南か。賑わっている…そして暑いな」

 

『三大天』という3つの不良チームが覇権を争っている割には湘南は平和そうで賑わっている。朝宮龍斗は自動販売機で冷たいジュースを買って喉を潤す。

周囲をもう一度見ると不良らしき者はいない。いるのは元気な一般人だけだ。

 

(ここにはいないか。まあ不良なんて居そうで居ないものだな。だが大体不良のいそうな場所は把握できる)

 

巨大組織である武闘派不良集団ラグナレクをまとめるリーダーである朝宮龍斗は不良の行動くらい読める。

己の勘を頼りに歩きだす。だが有名な不良チームならば誰かに聞けば分かるかもしれない。勘で探すより人に聞いた方が早いだろう。

 

(適当に誰かに聞いてみるか)

 

誰に聞いてみるかと考え、周囲の人を見渡す。すると1人の学生を見つける。そこらの大人に聞くより学生の方が不良の情報を知っているかもしれない。

学生は学生で独自の情報を持っている。ならば、と思って意を決める。初対面なのだから作り笑顔で近づく。

 

「ちょっと、そこの君。良いかな?」

「はい、何でしょう?」

 

黒髪の学生に話しかける。

 

「すまないな。実は聞きたいことがあるんだ。『三大天』という不良チームたちを知っているか?」

「三大天。もしかして辻堂さんたちのこと…」

 

朝宮龍斗は「ビンゴ」と心の中で呟く。さっそく目当てのチームの情報を知っている奴に出会うのだから自分の幸運は高いようだ。

 

「自分は長谷大と言います」

「これは自己紹介が遅れた。僕は朝宮龍斗だ」

「三大天のことですが、自分もあまり詳しくありませんけど…辻堂さん、腰越さん、片瀬さんたちのことですね」

 

長谷大は丁寧に教えてくれた。流石にチームの規模などの情報は分からないようだが、大体何処にいるか、何処の学園の学生かは教えてくれた。

ある程度情報があれば十分だ。ロキが得た情報も照らし合わせれば更に十分すぎる。

 

(しかしこの長谷大という男は何かまだ隠しているな。説明している中で何かところどころ隠している節がある)

 

朝宮龍斗の考えは正解である。長谷大は三大天たちと関わりがありすぎるのだ。彼もまた三大天、特に辻堂愛を知ろうとする朝宮龍斗に怪しさを思っている。

 

(この人も不良なのかな。もしかして辻堂さんたちを潰しに来た他の地域からきた人?)

「教えてくれてありがとう。今日は暑いね。教えてくれたお礼だ。ジュースを奢るよ」

 

ゴトン。

自動販売機からジュースを買って取り出す。そして長谷大に渡す。この行動や雰囲気から不良とは思えない丁寧さだ。

だから長谷大はつい聞いてしまった。彼が不良であるかどうかを。

 

「あの、貴方は不良ですか?」

「え?」

「だって三大天、辻堂さんたちのことを聞いて来たから」

 

彼は「辻堂さんたち」と呼びなれた感じで名前を言った。やはり予想した通り長谷大は三大天に多少は関わりがあるのかもしれない。

 

「…僕は不良じゃないよ」

 

朝宮龍斗は不良では無く、武術家だ。武闘派不良集団のリーダーではあるが。

不良かと言われれば否定する。彼は力を求める生粋の武人だ。不良と間違われるのは不快になる。

 

(本当、武人なのに不良チームのリーダーって可笑しいな。最も人材探しのためのチームだけどな)

「そうでしたかスミマセン」

「いや、構わないよ。不良の情報を知りたい奴を不良と思っても仕方ないし」

「本当にスミマセン。実は辻堂さんとはクラスメイトでして、よく他の地域から不良が来て勝負を仕掛けてくるんですよ。しかも授業中や登校中に」

「なるほど」

 

クラスメイト。それならある程度、情報を知っていてもおかしくない。それでもクラスメイトにしては関わりは深そうな気がする。

長谷大が三大天と関わりがあるのは単純にそのような流れに巻き込まれたからと言う他ない。最も長谷大の決意で関わったというのもある。

 

「それにしても朝から学園に乗り込みとか凄いな」

「それに関しては迷惑ですよ。しかも人質まで取って…でも辻堂さんが助けてくれましたけどね」

「ふーん。そうなんだ」

 

不良が襲撃なんて珍しくも無い。ラグナレクでは当たり前だ。品性が無いのはいただけないが。

不良にも話が分かる者と分からない者がいる。ラグナレクには多種多様の不良がいるので致し方ない。

 

「そう言えば不良でも無いのに何で三大天のことを?」

 

この質問を聞かれるのは当たり前かもしれない。だだ、返す言葉は既に決まっている。

 

「実は観光でこの湘南で訪れていてね。そしたら三大天なんて不良チームが幅を利かせているらしいから気を付けようとね」

「ああ、なるほど」

 

納得がいったのか手をポンと叩く。

 

「辻堂さんは不良だけど良い人だよ。こっちから喧嘩をふっかけなければ」

「ハハハ、しないよ」

「片瀬さん…江乃死魔っていうチームだけど数の多いチームだから情報とか聞きまわっていると狙われるかもしれないから気をつけて」

「数が多い。何人くらいか分かる?」

「確か100人以上はいるって噂です」

 

100人と聞かれて少し関心する。100人もまとめるリーダーならカリスマがあるのだろう。

 

「最後に腰越さんだけど『皆殺し』って呼ばれれて、結構気難しい人だから気を付けて」

「そうなのか?」

「はい。機嫌が悪い時に話しかけるとマズイです。なのであまり関わらない方が良いですよ」

「ふむ」

「でも悪い人じゃないですよ」

「どっちだよ。でもまあ、分かった。ありがとう」

 

お礼を言って朝宮龍斗は長谷大と別れる。

 

「…朝宮龍斗さんか」

 

ポツリと呟くのであった。

 

 

・・・・・・・

 

 

湘南の海が見える通りを歩きながら周囲を見る。長谷大に観光をするなんて言ったが良いかもしれない。

三大天をスカウトがてら観光でもしようと考えるのであった。

 

(ラグナレクもだいぶまとまってきたからな。最近もバルキリーも加わって上々だ。少しの観光くらい良いだろう)

 

ラグナレクの現状は未だに拡大中。そんな中で最近の出来事と言えばバルキリーこと南條キサラの部隊で『技の3人衆』の武田一基の脱会リンチがあるのを思い出す。

彼は左腕が動かないが才能ある人物だ。もし左腕が復活すれば八拳豪入りできたかもしれない。

 

(勿体ないな。それとロキの奴が最近妙な動きをしているが、気に掛けるものでもなさそうだ)

 

テクテクと歩いていると堤防の上で青髪の女学生が寝ているのを発見する。なんとも持ちよさそうに寝ている。

 

(…あの女は才能があるな。でも一般人なら関係無い。また勿体ないな。いや、三大天のスカウトが終われば新たにスカウトしてみるか)

 

素通りする。目指すは七里学園。そこに『江乃死魔』の片瀬恋奈と『皆殺し』の腰越マキがいる。ならばそこで聞き込みすれば更に居場所が分かるかもしれない。

 

(まずはどんな奴らか会わないとな。スカウトはそれからだ)

 

暑いので冷たいジュース飲みながら七里学園に向けて歩く。

 

 

・・・・・・・

 

 

朝宮龍斗は商店街のカフェで一息ついていた。七里学園での聞き込みをしてみたが収穫はゼロ。どうやら不在であったようだ。

最初の段階で良い情報得た反動なのか分からないが、その後は会えそうで会えない。もしかしたら『江乃死魔』の兵とは出会ったかもしれないが向こうから言わなければ分からないだろう。

しかし、出会っていたならば朝宮龍斗が「三大天のことを聞きまわっている」という情報が広まるだろう。白い服にメガネ、青みがかった髪。これだけの目印もあれば大丈夫だ。

 

「ねえねえ、あの人カッコよくない?」

「うんイイカモ」

 

カフェで一息ついていたら女学生から自分のことに関して言われている。だが全然気にしない。

彼が興味があるのは強き者だけだ。自分の噂などどうでもよい。

 

(…カフェで一息もつけないか)

 

無駄な注目を浴びるつもりはない。今日はもう帰ろうと思い、会計を済ませる。

 

「おい、あいつ」

「ああ。やっちまうか」

(何か分からないが変な因縁でもつけられたな。これだから不良は…まあ相手が江乃死魔ならちょうど良い)

 

何故か因縁を吹っ掛けられた朝宮龍斗。後ろからバレバレの尾行をしてくる不良を寧ろ人気の少ない場所へと案内する。

 

(数は5人か。店には2人で、途中で3人加わったようだな)

 

闘わなくても分かる。相手はただの雑魚にすぎない不良だ。正直に言うと戦うのも面倒だが相手が『江乃死魔』ならちょうど良い。

 

「おい。ボクに何か用か?」

 

人気の無い場所に到着してバレバレの尾行をしてくる不良たちに声をかける。

 

「っへへ、なーに。お前が金持ってそうでな」

「そして女にモテてんのが気に入らねえ!!」

「そうか」

 

なんとも頭が痛くなる理由で、因縁を吹っ掛けられた方としてはたまったものではない。

これが一般人なら理不尽すぎるだろう。しかし彼にとってはどうでもよいのだ。相手が『江乃死魔』かどうかが重要である。

 

「お前らは?」

「俺たちは湘南で天下を取りに来た『デッドボーン』だ!!」

 

ハズレであった。これには朝宮龍斗も一瞬で興味を失ってしまう。ため息すら吐いてしまう。

 

「何ため息吐いてんだああああ!!」

「おとなしく金だせやああああ!!」

「五月蠅い雑魚どもが」

「あん、何だって?」

「五月蠅い雑魚って言ったんだ。聞こえもしないか?」

「死刑決定だあああああ!!」

 

不良たちが凶器を持って一斉に襲い掛かってくる。

 

「ふん」

 

制空圏発動。

彼の制空圏に入って来た全ての不良たちは何が起こった分からずに殴り飛ばされた。

 

「あ、あが…痛てえ」

「な、何が起こったんだ!?」

 

ジャリっと音を立てて倒れた不良に近づく。

 

「ひいいっ!?」

「さっさと消えろ雑魚ども!!」

 

鋭い気当たり、殺気を不良たちにぶつける。すると勝手に吹き飛んだ。

これは超能力でもなんでもない。不良たちが朝宮龍斗の気当たりに押し負けて勝手に、無意識に自分から後退したのだ。

 

「ハズレか。今日はもう帰るかな」

 

定期券を取り出して駅へと向かう。また湘南へと来ることを思いながら。

 

 

・・・・・・・

 

 

ドサッと不良たちが倒れる。

 

「いっちょあがりだってーの!!」

「シシシ。こいつらも大したことないね。こんなんで湘南を取りに来たとか笑うしかないシ」

「5人っすね。これでまたメンバーが集まりましたね恋奈様」

「ええ、これで江乃死魔はまた大きくなったわ。このまま江乃死魔はもっと大きくなる」

 

彼女たちは『江乃死魔』の主要メンバー。

リーダーの片瀬恋奈を筆頭に幹部の一条宝冠、田中花子、乾梓である。今は『江乃死魔』の戦力拡大のために様々な不良チームを潰して吸収しているのだ。

既にメンバーは3桁は越しているチームとなっている。これをまとめる片瀬恋奈はカリスマに優れているだろう。

 

「それにしてもこいつらぶっ飛ばす前からボロボロだったけどどっかとヤリあったんすかね?」

「そうなのよね。おい、てめえらどっかのチーム潰しあったのか?」

「じ、実はさっき白い服にメガネをかけた男にやられたんだ」

「白い服に眼鏡?」

 

ハテナマークを浮かべる彼女たち。流石に白い服に眼鏡なんて探せばどこにでも居そうだ。

 

「あ、もしかしてソレってあれじゃないすか?」

「あれ?」

「さっき部下から連絡があったじゃないですか。白い服を着た青みかかった髪の眼鏡男がうちらや辻堂、皆殺しを探し回ってるって」

「ああ、それか」

 

『江乃死魔』は大人数から構成されているチームだ。湘南で三大天の情報を聞きまわっていれば、その情報はすぐにでも回る。

朝宮龍斗の考えはまさに的中していた。

 

「へえ。たった1人で5人をね。だがそんなんじゃ驚くことはないわね」

「そっすね。まあちょっとはできるって感じくらいっすねー」

「れんにゃ。そいつを探すの?」

「お、それなら任せてくれよ」

「面白そうだから探すわ。もし不良なら戦力強化としてチームに勧誘する」

 

ニヤリと口元が歪む。

 

「湘南の天辺にいくのはアタシよ」

 

湘南はまだ静かであった。




読んでくれてありがとうございました。
息抜き作品なんで続きがあるか分かりません。なので期待しないでください。
気分が乗れば書いて投稿していきます

では、期待しないで待っていてください


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『皆殺し』との接触

こんにちは。
また気分が乗ったので書きました。
短いですがどうぞ生暖かい目で読んでってください。


後日。朝宮龍斗はまた湘南へと来ていた。前回訪れて、次の日も来ようとしていたが第八拳豪のバルキリーがやられたという結果を聞いてすぐに湘南にへと訪れなかったのだ。

武田一基の脱退リンチを任せていたはずだが謎の助っ人である『新白連合』というチームが助力して逆に負けたと言うのだ。

 

(バルキリーを倒す奴がいるとは面白い。今度会ってみたいものだ)

 

何故か分からないが昔出会った金髪の少女を思い出す。そしてバッジを賭けて決闘をしようとした親友も思い出した。

 

(…ケンちゃん)

 

駅の改札を出て湘南の空を浴びる。理由は分からないがここはいつも暑い気がするのだ。

 

(新白連合とやらは気になるがロキに一任している。潰されればそれで終わり。生き残れば、それはそれで面白い)

 

武人の勘が訴えている。『新白連合』は面白いチームになるだろうと。

 

「ま、今は三大天だな」

 

『三大天』を探しながら湘南へと歩き出す。目指すは七里学園だ。今度こそ『江乃死魔』と『皆殺し』に出会えると思いながら。

 

「ねえ、あれって例の奴じゃないかしら?」

「それっぽいな。よし、尾行すっぞ」

 

朝宮龍斗は後ろから尾行している不良を最初から気付いている。もしや『江乃死魔』かと予想する。

もちろん正解であり、後ろにいる2人は『江乃死魔』の部下だ。流石に大通りで戦うはめになったら面倒なので一旦無視をする。

最初の目的である七里学園を向かう。相手から話しかけてくればそれで良し。七里学園でリーダーの片瀬恋奈に会えればなお良し。

 

「さっさと行くか」

 

七里学園までの道のりを歩く。ここでふと思い出して、堤防の方を見る。前回、堤防の上で青髪の女学生が寝ているのを思い出したのだ。

彼女は見ただけで才能があるのが分かった。だからスカウトでもしようと思っていたのだ。だが今回は居ないようである。そもそも堤防の上で寝る女学生は珍しすぎると思うのだが。

 

(居ないか。まあいい)

 

特に気にせずに歩く。そしてすぐにでも七里学園に到着した。そして道ゆく人に『江乃死魔』の片瀬恋奈と『皆殺し』の腰越マキについて聞き始める。

そんな中で急に後ろから声を掛けられた。

 

「おい。私を探してるのはお前か?」

 

いきなり背後から良い殺気を醸し出しながら近づいてくる少女。久しぶりの殺気に武者震いをしてしまう。

つい潰してしまいたくなる衝動が出るが抑える。しかし「私を探している」と言って来たなら間違いなく目的の人物だ。

 

「お前誰だ。恋奈の差し金か、それとも辻堂のもんか?」

 

どうやら『江乃死魔』か『辻堂軍団』かと勘違いされているらしい。しかし、後ろ向きの会話はいただけないので顔を向けようとする。

 

「待ちな。顔を向けたらぶっとばす。お前は答えるだけでいい」

「人と話す時は顔を合わせるものだろう?」

 

殺気の醸し出す少女の言葉を無視して顔を向ける。すると目の前には拳がいきなり映った。

 

「顔を向けたらぶっとばすって言っただろうが」

「良い突きだ。だが素人だな」

「なにっ!?」

 

朝宮龍斗の顔面の前で拳は止められていた。

 

「チッ…」

 

間合いを取る少女。

 

「君がもしかして『皆殺し』の腰越マキか?」

「てめえは誰だ?」

 

正解。そもそも彼女の言葉から『江乃死魔』か『辻堂軍団』と聞いてきたなら三大天の残りである『皆殺し』のはずだ。

 

「質問を質問で返されてもな?」

「先に質問したのはこっちだ」

「そうだな。僕はラグナレクの第一拳豪。オーディーンだ。だから江乃死魔でも辻堂軍団でもない」

「ラグナレク? オーディーン?」

「知らないのか。これでも強大なチームなんだがな」

「知らねえな。で、何か用か?」

「君が皆殺しで間違いないようだね」

「そうだ。で、さっきも言ったが何の用だ?」

「スカウトさ」

 

今回の彼の目的は『三大天』のスカウトである。ロキの提案でラグナレクの戦力強化をするからだ。

彼女の実力は突きを受けてもう分かった。実力的に合格でもっと鍛えれば間違いなく拳豪入りできるだろう。

 

「君の実力は十分だ。ラグナレクに入らないか?」

「…知らねえチームに入るつもりは無い。そもそも私は一匹狼だ!!」

 

またも拳が朝宮龍斗に近づく。しかし、制空圏を発動している彼には届かない。

 

「この!!」

 

連続で突きを繰り出すが全て受け止められ、弾かれる。

 

「良い突きだ、鋭さだ、速さだ。しかし僕には当たらないよ。なぜなら僕の制空圏は破れないから」

「せ、制空圏?」

「知らないか」

「知らねえよ!!」

 

今度は鋭い蹴りが繰り出される。だが避けられる。

 

「悪いが戦いに来たわけではない。話にきたんだがな」

「うるせえな。てめえと話すことは無い。今は機嫌が悪いんだ!!」

 

彼女が機嫌が悪いのは腹が減っているから。そして更に朝宮龍斗を簡単に殴り飛ばせると思っていたが実践できていない事実も追加される。

 

(な、なんでだ。なんでこいつに拳が届かないんだ?)

 

腰越マキの攻撃は全て受け止められ、弾かれ、避けられる。こんな経験は彼女の中で絶対に無かったことだ。

今まで一発でも殴れば終わりだったはずだ。なのに終わらない。その結果が彼女の機嫌を更に悪くし、冷静さも削られていく。

 

「このお!!」

「冷静さが欠けているぞ」

「五月蠅い!!」

「全く、今日はスカウトの話にきたのにこれでもは話にならんな」

「私はさっき断ったはずだ!!」

「せめて少しくらい話を聞いてからでも良いだろう?」

「聞くことは無い!!」

「では、どうすれば話を聞いてくれるんだ?」

「だから聞くことは無い!!」

 

この否定っぷりにため息を吐きたくなる。これではスカウトの話どころではない。さっそく『三大天』の一角である『皆殺し』はスカウト失敗であった。

仕方ないと思って次の『三大天』である『江乃死魔』と『辻堂軍団』と接触するかと考えを改める。

 

「分かった。一旦この話は止めよう。だけどもう一度スカウトの話をしに来る。その時までに詳しく話を聞くかどうか考えてくれ」

「必要ない。今ここでてめえは殴り飛ばされるからな!!」

「そうか。ではまた」

 

朝宮龍斗が気当たりを放つ。その一瞬で彼女は隙を作ってしまった。自分に気当たりをぶつける奴なんて辻堂愛か片瀬恋奈くらいだが、その2人よりも上の気当たりをくらってつい手を止めてしまったのだ。

 

(こいつ…な!?)

 

気が付いたら彼女に朝宮龍斗の突きが届いていた。

 

「グングニル」

 

百発百中の突きが全て命中し、腰越マキを海へと突き飛ばした。

 

「冷静さを欠けていたからな。海で頭を冷やすといい」

 

腰越マキが海に落ちたの確認して、その場から去るのであった。

 

「う、嘘だろ…あの皆殺しを!?」

「恋奈様に報告を!!」

 

 

・・・・・・・

 

 

2人の江乃死魔の者が本拠地に急いで戻って来た。

 

「「恋奈様ぁぁぁぁ!!」

「どうしたお前たち。静かにしろ。今はカップラーメンを作ってるところだぞ」

「それどころじゃないっすよ!! 緊急事態っす!!」

「何だ。まさか辻堂でも攻めてきたか?」

「それはヤバイっすね~」

「んなもんアタイがガツンと潰してやるっての!!」

「3分たったシ」

 

片瀬恋奈たちはカップラーメンを食べながらノンビリしている。部下たちとは反応の差がすごく正反対だ。

説明も何もなければ当たり前の差ではある。何も知らない者とビックなニュースを知った者ならば尚更である。

 

「で、何があった?」

 

ズルズルとカップラーメンを食べながら説明を求める。

 

「あ、あの皆殺しがやられました!!!!」

「ブバッ!!」

「うわ、きたねえ!?」

 

麺が口から噴出された。だが片瀬恋奈たちはそれどころでは無い。なにせ『三大天』の一角が崩されたとなれば当たり前の反応である。

 

「ほ、本当か!?」

「は、はい!! マジです!!」

「どこのどいつだ!! まさか辻堂か!?」

 

片瀬恋奈は焦る。まさかあの化け物である腰越マキが誰かに負けるなんて思えなかった。もしもの可能性があったとして辻堂愛くらいしか思えない。彼女の知らぬ間にあの2人が決着でもつけたのだろうかと考える。

 

「あ、相手は前にうちらや辻堂軍団、皆殺しを嗅ぎまわってた白服眼鏡の男です!!」

「何だと!?」

 

これもまた驚いてしまう。あの彼女が辻堂愛以外に負けたのは本当に信じられないのだ。

そもそも腰越マキが負けるなんて想像ができない。湘南の天下を取るためにいずれは倒す相手ではあるが片瀬恋奈はまだどう倒すかまでの道筋はできていない。

そういう意味では倒す羽目が無くなって良かったと思うが、それどころではない。今まで彼女が他の奴らに負けるわけがないと、ある意味信頼にも似た確信があったからこそこの報告は心底驚く。

 

「どんな状況だったんだ!?」

「え、えっと、皆殺しの攻撃がまったく当たらずに一方的に攻撃されてました」

「マジかよ。それも信じられないってーの!!」

「嘘じゃないっすよね」

「嘘じゃないっす。こんなこと嘘ついてどうするんですか!!」

 

確かにそうだ。こんな嘘ついたところで意味はない。だがそれではよく分からない奴に『三大天』の一角である腰越マキが負けたことになる。

 

「そいつの名は!?」

「えっと…たぶんコードネームか二つ名だと思いますがオーディーンと名乗ってました」

「オーディーン?」

「それって北欧神話に出てくる神様っすね」

「どこかのチームか?」

「確かラグナレクっていうチームに所属しているみたいです」

「ナグナレク? きいたことないシ」

「そいつが言っているのが本当なら大きいチームらしいですよ」

「うーん。聞いたことが無い。まあいい、ソイツは今どこにいる!?」

「稲学の方に向かったんで辻堂に会いにいったかと思われます」

「そうか。ならすぐに向かうぞ!! 腰越の奴を倒した男だ。兵を集めろ。リョウにも連絡しろ!!」




戦いはこんな感じで書きました。


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辻堂軍団

ぬるりと投稿していきます。
また次の投稿はゆっくりとお待ちくださいね。


朝宮龍斗の目の前には青髪の不良女性を筆頭に何人も不良が集まっていた。この不良たちは辻堂軍団だ。

腰越マキの次は辻堂軍団の頭である辻堂愛を探していたがちょうど関係者である軍団が現れてくれて助かる。

これならリーダーである辻堂愛がどこにいるか分かるはずだ。

 

「これはこれは辻堂軍団の皆さん。まさかこうも大勢で迎えてくれるとは」

「てめーが最近うちらを嗅ぎまわってる奴か。何が目的だ。愛さんか、愛さんか、愛さんかぁ!!!!」

 

確かに辻堂愛をスカウトしたいから来たわけだが、青髪の女性の謎の迫力が微妙に怖いが気にしないことにした。

彼女は葛西久美子。辻堂軍団のナンバー2とも言える存在であり、辻堂愛を猛進的に尊敬している舎弟だ。妄信的では無く猛進的だ。

辻堂愛に関して言えば彼女は話が通じない時があるので注意である。だが朝宮龍斗は気にもしない。

 

「てめーは何者だ!!」

「そうだな。自己紹介をするか。ラグナレクのオーディーンだ。よろしく」

 

普通に自己紹介をする。ごく普通に。

 

「らぐなれく? おい知ってっか?」

「いや、しらへんな」

「ああ。どこのチームだ?」

「オーディーンって名前はカッコイイな」

 

自己紹介をしたら様々な反応が入ってくるが、特にラグナレクを知らないというのが多い。

腰越マキの時もそうだったが知名度はやはり湘南までくると低いのかもしれない。だがラグナレクは十分に人材を集めている。

特に『八拳豪』はラグナレクの中でも最高の人材だ。全員がマスタークラスになる可能性を持った人物たち。

 

(まあ十分だが、才能ある者がいると欲が出る。腰越は合格だ。辻堂はどうだろうな)

「おい聞いてんのか!!」

「聞いているよ。で、辻堂愛はいるかな?」

「てめーに合わせるつもりはねえ。コソコソと嗅ぎまわってねえで堂々と来やがれ!!」

「こそこそしないで辻堂軍団を探していたんだが」

「う…」

「まあこそこそ情報を集めていたって噂はなかったすね。堂々とうちらのことを探してたみたいっす」

「え、と。と、ともかく。てめーみたいな怪しい奴に愛さんを会わせるかよ!!!!」

 

何故か会話がおかしいと思う。原因は葛西久美子の言葉のキャッチボールだろう。そもそもまともな言葉というボールを投げていないので仕方ない。

そういうわけか彼女の苦手としているのが頭に良い人や常識人が当てはまる。

 

「…取りあえずこちらの話くらい聞いてくれないだろうか?」

「いいだろう!!」

「単純にスカウトしに来ただけだ」

「スカウトだと!?」

 

全員が予想外だという反応をしている。

 

「てめー馬鹿か。愛さんがオレらを置いて他のチームに行くわけねーだろ!!」

「何なら辻堂軍団全員を傘下にしても良いが?」

「なんだと!?」

 

すごい剣幕で睨んでくる葛西久美子や他の不良たち。それはそうだろう。

彼女たちは辻堂愛を尊敬し、集まった軍団だ。それを他のチームの傘下に入るなんてことはない。逆ならいざ知らず、そもそも『三大天』の一角が名も知らないチームに下るなんてことはないだろう。

 

「調子にのってんな。今の言葉は宣戦布告として捉えて良いよな?」

 

辻堂軍団の不良たちの目がギラリとする。やはり『三大天』の一角となれば傘下に入れイコール敵対になるらしい。

湘南で一番天下に近いチームなら尚更だろう。

 

「争いに来たつもりはないんだがな。そもそもこちらそちらのリーダーと会話したいんだが?」

「愛さんならそんなスカウト蹴るに決まってんだろーが!!」

「だが本人の承諾無しに決められないだろう?」

「ぐぬぬ…ああ言えばこう言う」

「それはそっちだ」

 

正論なので葛西久美子は言葉に詰まる。

 

「クミはん。いいからぶっ飛ばしちゃいましょうよ」

「そーそー。こういう奴は力で黙らせるのが一番ですわ。不良なら尚更」

「そうだな。シメて二度と馬鹿気たことを言わせねえようにしてやるぜ。おらー!!」

 

辻堂愛と会話がしたかっただけなのだが何故か辻堂軍団と戦うはめになった。話を聞かない不良は困る。

 

「はあ…」

 

ため息しか出ない。片手で顔を覆うが目は辻堂軍団を見通す。数を数えて十数名で辻堂軍団の一部だろうと推測。

どう潰すかはすぐに頭に浮かぶ。掛かる時間は2分もかからないだろう。

 

「仕方ない。お前たちを潰せば嫌でもリーダーは出て来るだろう」

 

眼光を鋭く、拳を握る。ここから起こる争いは一方的にしかならないだろう。朝宮龍斗の一方的な戦いに。

 



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辻堂軍団と江ノ死魔

短いですがぬるりと投稿です。


辻堂愛は長谷大と買い物をしていた。この前に里親に出した子猫に会いたくなったので子猫用品を買って行こうとしているのだ。

子猫の様子を定期的に聞くととても可愛がってもらってるそうだ。これを聞いて心から安心する。

 

「そうか。あの子が可愛がってもらって良かったぜ」

「うん。あのおばあさんは優しいから」

 

本当に良かったと思える。あの子猫はきっと幸せに育つだろう。

 

「そういえば辻堂さん。最近白い服で眼鏡の男性の人に会いませんでした?」

「ん? それってあの噂の男か」

「やっぱり知ってるんだ」

「ああ。会ってはいないが三大天を嗅ぎまわってるって噂だ。何でも今日も来ているらしいからクミたちが何人か連れて探してるみたいだ」

「会いにいかないの辻堂さん?」

「どうせ湘南で天下でも取りに来た奴だろ。面倒だ。まあヤバかったらすぐにで行くがな」

「最近多いみたいだよね」

「ったく面倒だよ。本当に最近多くて仕方ない」

 

本当にうんざりだと思う。つい最近なんて学校にまで来た不良までいるのだから。しかも関係無い者まで巻き込むのは本当に止めてもらいたい。

今回は今の所ないが、心の何処かで何か不安が燻る。今までにない何かが起こりそうだという小さく確定できない不安がだ。

今日は後で連絡でもして報告を聞こうとしよう。できれば何事も無かったという報告が聞きたいものだ。しかしその思いは簡単に崩された。

プルルルルルルルっと電話が鳴る。電話に出ると弱弱しい声が聞こえてきた。

 

『あ、愛さん。スンマセン…やられました』

「クミか!? 大丈夫か!? 何があった!?」

 

ここで急に男の声に変わる。

 

『もしもし辻堂軍団の辻堂愛で間違いないかな?』

「てめー誰だ?」

『僕はラグナレクのオーディーン。たぶんそっちで噂になってる人物だよ』

 

白服で眼鏡の男かとすぐに思いつく。

 

「てめえ。クミたちに何をした」

『襲い掛かって来たから抵抗しただけだ。僕は元々、君と話がしたかっただけでね』

「クミたちは無事なんだろーな!!」

『無事だよ。少し痛めつけたくらいさ。潰しに来たわけじゃなくて話にきただけだからね』

「…いいだろ。話ぐらいしてやるさ。どこにいる?」

『じゃあ海岸の方に来てくれるかな。そっちの方が見つけやすいと思うし』

 

辻堂愛は詳細な場所を聞く。

 

『人質なんて真似はしたくないけどこの青髪の女性を連れてく。ああ、安心してよ。この子が襲い掛からない限り何もしないから』

 

ピッと電話が切れる。せっかく何も無ければ良いと思っている矢先にこれだ。すぐに向かわなければならない。

 

「悪い大。急用ができた」

「辻堂さん!?」

 

辻堂愛は走り出す。

 

 

・・・・・・・

 

 

片瀬恋奈は信頼する幹部と50人の部下を連れて連絡があった場所へと向かう。その場所には件の男であるオーディーンがいるからだ。

そして新たな情報が入ってきた。それはオーディーンが辻堂軍団の不良十数名を叩きのめしたと言う。

この情報を聞いて「マジか」と呟く。辻堂軍団に手を出せば辻堂愛が黙っているはずがない。彼女もすぐにでもオーディーンの元に来るだろう。

 

「辻堂は皆殺しがやられたことを知ってんのか?」

「さあ分からないっすね。でもそのうち情報は確実に耳に入るはずっすよ」

 

その通りだろう。辻堂愛と腰越マキの関係は犬猿の仲。それでも互いのことで何かあれば情報はすぐにでも耳に入る。

それは嫌いな奴ほど無駄に情報が耳に入るというやつだ。

 

「辻堂の奴どんな顔をするんだろうね」

「ねー。ウチラでもメッチャ驚いたシ」

 

あの化け物と称される腰越マキがやられたなんて今でも信じられない。もしかしたら何かの間違いじゃないのかと思ってしまうほどだ。

しかし情報を短時間でも調べると確かにオーディーンが腰越マキを倒したという情報で持ち切りである。

 

「どんな男っすかねー?」

「会えば分かるっしょ」

「おい。急な呼び出しで何かと思えば…皆殺しがやられたのは本当か?」

「リョウ、来たか!!」

 

合流したのは『総災天』のリョウ。彼女も江乃死魔の幹部の1人だ。

 

「その噂は確かだ。ウチらの部下が確かに見たと言っている」

「し、信じられん」

「アタシだって信じられねえよ。あの『皆殺し』がやられるなんて」

「どこのどいつがやったんだ?」

「聞いたことの無いチームの奴だ。確かラグナレクのオーディーンって奴」

「ラグナレクだと!?」

 

リョウがここ一番の反応を見せる。その反応はまさに知っている、だ。

 

「知っているのかリョウ!?」

「ああ、ラグナレクは大型の不良チームだ。湘南をナワバリにしていなく、他所のチーム。そしてオーディーンは第一拳豪でラグナレクのリーダーだ」

「第一拳豪って何だシ?」

「ラグナレクにはリーダーを含めて合計8人の幹部がいる。それが『八拳豪』と呼ばれいていて実力が全員抜き出ているんだ」

「よく知っているなー」

「これでも湘南は他所からのチームが攻めてきている。ならば調べるのは当たり前だ。だが特に一番の危険なチームがそのラグナレクだ」

「マジかよ…」

「正直に言って規模が江乃死島より上だぞ」

 

リョウから出てくる情報に絶句するしかない。

 

「ウチらより上!?」

「ああ。特に第一拳豪のオーディーンは絶大な強さとカリスマでチームをまとめているという。恋奈、おそらくお前と同じ…それ以上だ」

「えー…れんにゃより上って信じられないし」

 

リョウの言葉に信じられないが、腰越マキを倒したという事実とリョウの確かな情報で大きなチームをまとめているというのなら、力とカリスマを兼ね備えた人物ということになる。

さらに部下には7人も強力な人物たちがいるらしい。

 

「どうやら幹部たちは北欧神話をコードネームにしているらしい」

「北欧神話?」

「ああ、だからオーディーンなんすね」

 

幹部たちの名前は上からバーサーカー、フレイヤ、ロキ、ジークフリート、ハーミット、トール。

 

「最近だとバルキリーという奴が拳豪入りして八拳豪になったらしい」

 

ラグナレクの組織図はトップがオーディーンで残りの八拳豪が下にいる。そして各八拳豪に認められた部下がいる。残りが末端で有象無象の不良たち。

これがラグナレクの大まかな組織図である。

 

「聞いた話だと八拳豪3人で50人はいるチームを潰したらしい。皆殺しや辻堂ほどではないかもしれないが八拳豪も相当の実力者だ」

「マジかよ」

「…油断していると八拳豪だけで江ノ死魔が潰されるぞ」

 

まさかの大型チームが湘南に来ているとは予想外。しかもそのリーダーが湘南に何の用なのか。

 

「やはり湘南のてっぺんを取りに来たのか?」

「可能性はあるじゃん」

「オーディーン…何者だ?」

 

その真実は海岸に行けば分かる。行けば三大天とラグナレクが会合する。

 

 

・・・・・・・

 

 

海岸にて。

 

「来たか…」

「愛さぁん!!」

「それに江乃死魔までいるとはな。ちょうど良い」

 

海岸には三大天の1人である辻堂愛。そして江ノ死魔の恋奈および幹部たち、部下一同。

まさかここまで大勢集まるとは一般人からすれば「何事か!?」と思うだろう。知らない人たちはそそくさと退散していく。

そして全員の目は朝宮龍斗に集まるのであった。

 

「じゃあ、話をしようか」

 




読んでくれてありがとうございました。
次回も気長にゆっくりとお待ちください。


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スカウト

本当にお久しぶりです。
久しぶり過ぎる更新です。まだエタらないので頑張ります。


朝宮龍斗の前に立つのは辻堂軍団の辻堂愛に江乃死魔の恋奈。

まず何故ラグナレクのリーダーである朝宮龍斗が湘南に来て2大不良チームに顔を合わせているかというと勢力拡大のためのスカウトだ。

スカウトと言うが要は傘下になれということ。しかし、本当の目的は拳豪入りできる人材を探すことだ。

この中で拳豪入りできそうな才能持ちを一瞬のうちに予想する。

 

(ふむ…辻堂という奴は拳豪入りできそうだな)

「おい、てめえ」

「何かな?」

「さっさと何が目的か話せよ」

「そうだったね。悪い悪い」

 

朝宮龍斗は何故、自分が彼女たちを探していたかの理由を淡々と説明する。

スカウトと言う名の傘下にならないかというものだ。だが湘南の2大不良チームがそんなのを首を縦に振るはずがない。

 

「ふざけてんのか?」

「真面目だよ。それに僕としては君はラグナレクの拳豪入りできるだろう」

「拳豪?」

「ラグナレクの幹部さ」

 

拳豪入りすればラグナレクでの地位は確定される。そうすれば自分だけのチームを持つことができる。

第三拳豪のフレイヤは自分だけのチームである『ワルキューレ』を持っている。ワルキューレはラグナレクの中でも上位にあたるチームだ。

そのためラグナレクに所属する不良たちに比べれば扱いは上である。

もし、辻堂愛や片瀬恋奈がラグナレクに入って拳豪入りすれば自分のチームもラグナレクでは扱いは上になる。

 

「辻堂愛。君なら拳豪入りできるだろう」

 

戦ってはいないが分かる。彼女は強い。

きっと他の八拳豪も拳入りするのに反対しないだろう。

 

(もしかしたら師匠…拳聖様も気に入るかもしれないな)

 

そして次に片瀬恋奈の方を見る。彼女のチームは辻堂軍団と違って数が多い。そしてその数をまとめるということはリーダーである片瀬恋奈にはカリスマがあるということだ。

それに彼女の周りには幹部クラスが4人いる。何故か全員女だが、フレイヤのように女性構成員が多いのだろうか。

 

(筋肉質の彼女は力がありそうだ。あの青髪の小さい子は…ダメだな。緑の長髪の女はまあまあ。最後の彼女は身軽そうだな。アタランテのようにスピードがありそうだ)

 

朝宮龍斗は人材を見る目はある。そのせいあって今のラグナレクが出来ているのだから。

 

「で、アタシたちに簡単に言うと傘下になれと?」

「さっきからそう言ってる」

「なら返事を返すぜ。断る」

「それはアタシもな」

 

それは想定していた。どの不良チームも参加になれと言って簡単に首を振る者は少ない。

だから不良チームとの抗争が多いのだ。

 

「傘下になったからと言って雑用をさせるつもりではないさ。無茶な命令もさせるつもりはないんだがね」

「何故そこまで吸収しようとしてくる」

「ラグナレクにはある敵対チームがいてね。来るべき時のための戦力強化さ」

「なんて奴だよ」

「それは教えられない。仲間になってくれれば教えよう」

 

ラグナレクの本当の目的はそうではないが、表の目的としてはそうなっている。ある敵対チームとの決着。

 

「それに私たちの力が欲しいと?」

「まあね」

 

そこは適当。

ラグナレクとしてまだまだ始まったばかりなのだ。いずれは拳聖についていき、どうなるか分からない。

今はできるだけ力を手に入れたいのだ。そして親友との約束を果たす時が近いかもしれない。

 

「ふーん、だが断る。帰りな」

 

やはり辻堂愛は断るの一転張り。彼女にとって不良の抗争や勢力争いなんて興味はないのだろう。

おそらく彼女の力や人柄に集まってきたのが不良たちでチームが構成されていたというものだろう。

 

「アタシも断る。今ここでお前をつぶしても構わないんだぜ」

 

片瀬恋奈も断られる。

彼女はこの湘南でトップを手に入れることを目的としている。なのに今からラグナレクの参加に入るなんてするわけはないだろう。

力を貸すと言っても参加に入ることはない。自分の江乃死魔のチームに下るというのなら彼女は首を縦に振るかもしれないが。

 

「スカウト失敗か」

 

予想はしていた。なかなかラグナレクに傘下として入るのはそうそういない。

ここが地元ならばすでにラグナレクの権威が広まっているから弱小チームならすぐにでも傘下になるだろうが、ここは湘南。

まだラグナレクの権威は届いていないようだ。こればかりはしょうがないだろう。ラグナレクもまだまだというわけだ。

 

(まあ、そこまで勢力を拡大する気はないがな。ロキの奴はラグナレクの勢力拡大に力を入れているようだがな)

 

ロキの最近の動きは怪しいものがある。どうせラグナレクの乗っ取りでも考えているのだろうと予想できる。

目を一瞬だけ閉じてすぐに目を開ける。

相手が断ると言っているのならばしょうがない。それに無理にスカウトする理由もない。

 

「そうか。ならしょうがないな」

「やけに引きが良いな」

「無理と言っているのだから頼んでも変わらないだろう。それにお前たちが傘下に入らなくともいいさ」

「あん?」

 

挑発のつもりで言ったつもりは無いが片瀬恋奈にとっては挑発として受け取ったらしい。

ラグナレクは江乃死魔なんて傘下に入っても入らなくても変わらない。そう受け取ったようだ。

 

「それはアタシたちが弱いってのか、ああんっ!?」

 

スッと眼鏡のズレを直しながら思ったことを言う。

 

「弱いな」

「このっ!?」

 

江乃死魔はこの湘南で一番大きい組織だが朝宮龍斗にとっては脅威ではない。雑兵クラスは同じだが上に立つ幹部レベルは違う。

今、ラグナレクと江乃死魔と全面抗争になったとしても勝てるラグナレクが勝つ自信がある。そもそも朝宮龍斗1人でも勝てそうだ。

 

(僕だけってのは自分の過大評価すぎるかな?)

 

だが腰越マキと辻堂愛の相手をするとなると少し厳しいかもしれない。

腰越マキはあの時、冷静ではなかった。だから冷静に制空圏を発動していればいくらでも対処できる。

だけど辻堂愛は腰越マキ並みに才能がある。今もよく見れば彼女は冷静だ。ならば、もし戦ったら苦戦するかもしれない。

 

「…ラグナレクだか何だが知らないが今、ここで潰したって構わないんだぜ」

 

そう片瀬恋奈が言うと不良たちが囲んでくる。だがこの程度は問題ではない。その手に凶器を持っていようが怖くとも何ともない。

その凶器はただの威嚇させてるようなもの。そんなものは彼にとってみれば木の枝にしか見えない。

 

「やっちまいますか恋奈様!!」

「いつでもいけますぜ!!」

「ヒャッハー。何が皆殺しを倒しただぁ!!」

 

まるでテンプレのような不良だ。しかし、こういうのはラグナレクにもいるのだから不思議なものだ。

息を吐き、静の気を体の内側に練り始める。目をギラめつけさせていつでも襲ってきてもよいように対応準備完了。

 

「悪いがこの湘南に来た恐ろしさを…江乃死魔の恐ろしさを味合わせてやる。やれ、お前たち!!」

 

江乃死魔の不良たちが朝宮龍斗にいっせいに襲い掛かる。

 

「死ねやー!!」

「おらああああ!!」

「ぶっ殺す!!」

「ふん、雑魚どもが」

 

片瀬恋奈は何が起きたか分からなかった。確か部下が囲んでいっせいに攻撃したまでは見えた。

だけど、そのあとにいきなり部下の不良が後方に吹き飛んだのだ。まるで勝手に吹き飛んだようだ。

 

「何をしたんだ?」

「何も見えなかったシ」

「おいおい…これはオレっちが出ないマズイか?」

 

一条宝冠が片瀬恋奈の前に出る。同じように良子も木刀を構える。

2人はすぐさま彼が危険だと判断した。そもそも腰越マキを倒したという情報が入ってきた時点で危険という認識はある。

江乃死魔の人らは見えていなかったが、辻堂愛は見えていた。

それはもの凄く早く、鋭い突きであった。あんな突きを出すのは腰越マキ以外見たことがない。

 

(あいつ、ヤベエな…いかにリョウでも厳しいだろ)

 

辻堂愛もいつでも出れるように拳を握る。仲間である葛西久美子の身柄はもう無事だ。

 

(辻堂め…殺気が漏れてるな)

 

もう会話は成り立たない。これではスカウトなんてものはどうしようもなく出来ない。

だが、一応ラグナレクのリーダーとして何もしないわけにはいかない。ここで潰すのもいいが、ただ潰すのは勿体ない。

せっかくの才能ある人材だ。できれば欲しいものだ。

ならばここは、はるか昔から続く戦いで決着をつけるべきだ。敗者は勝者の言うことを聞くものなのだから。

 

「潰されるのはどちらかな?」

 

朝宮龍斗も構えるが戦いは起きない。懐から電話のコール音が鳴った。

一触即発の時に電話のコール音とは似つかわしくない。せっかくの殺気も薄まってしまうものだ。しかも案外、コール音がポップな感じだ。

 

「ちょっと失礼」

 

こんな状況だが電話を取るのであった。

 

「ハーミットが消えた?」

(ハーミット?)

「そう…そうか。分かった、すぐに戻ろう」

 

電話を切ると殺気が消える。

 

「悪いね。急用が入った。決着はまた今度にしようじゃないか」

「あんだと!?」

 

急用。電話からの情報によると第六拳豪のハーミットが新しく出来たチームである新白連合の切り込み隊長とかいう何処ぞの知らない馬の骨と引き分けになって行方を晦ましたらしい。

この前は第八拳豪のバルキリーが負けたとあって新白連合とかいうチームも無視できなくなってきたかもしれない。

 

(その件はロキにでも任せてみせるか…それでダメなら敵として認めてやろうじゃないか新拍連合)

「おい待て、逃げるのか!?」

「急用だと言ったじゃないか。では、また」

 

そのまま戻ろうした所に新たな乱入者が飛び込んできた。

 

「この眼鏡ええええええええ!!」

「む、お前は」

 

飛び込んできた人影はついさっき見た人物であり、辻堂愛たちもよく知っている人物である。

 

「皆殺し!?」

「あいつ…!!」

 

いきなり飛び込んできた腰越マキは怒りを爆発させて拳を振るう。その全てを避けて、受け流す。

 

「もう君のテンポ、リズムは覚えた。僕の制空圏は破れない」

「この野郎!!」

「君との再戦も良いが、急いでいるんでね」

 

そのまま朝宮龍斗と腰越マキは走り去っていくのであった。

 

「…なんだっていうんだ」

 

『三大天』とのスカウトは失敗。だがこれで終わったわけではない。

ラグナレクと三大天の物語はこれで終わりではないのだから。

 




久しぶりに読んでくださってありがとうございました。
また次回も気長にお待ちください。


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