彼が彼女の弟さん  (kanaumi)
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人物紹介 ※ネタばれ注意


 話しの中で登場した人物を紹介します。
 部活動が判明している者の部活動を追記していきます。
 今まで分けていた物を此方に移動しました。


普通科2年Bクラス

 

 色無 加賀観 いろなし かがみ 男

 三鷹学園高等部普通科2年Bクラス所属

 観察記録部所属

 いつも何かしら考えてるふりをしている高校2年生。一応授業には出ているがそれまでで、まともに受けた試しは無しに寝ていたりする。その態度のせいで彼の授業を担当する先生は、毎回一度は彼を当てて席を立たせている。しかし、テストの成績が悪い訳では無くむしろ良い。最近の趣味は今を楽しくする事。一人暮らしをしている為か、家事は人並みに出来る。

 is学園に姉と妹がいるらしい。

 

 田島 神 たじま じん 男

 三鷹学園高等部普通科2年Bクラス所属

 用務部所属

 加賀観のせいで最近保健室に通うのが日課になりつつ有るのが悩みらしい。保健室に通ってるせいで葵先生に手伝いを頼まれるようになったとかなんとか。ほんとは違う学科に行きたかったが、加賀観が心配で一緒の学科になった。加賀観と初めて関わったのは、中学の体育祭の時。最近の悩みは、お小遣いがすぐに消えて行く事。進路はまだ決めていないが、葵先生からは養護教諭を進められている。

 こいつにも引きこもり予備軍の弟と年の離れた妹がいるらしい。

 

 布枯 礼 ふか れい 女

 三鷹学園高等部普通科2年Bクラス所属

 広報新聞部所属

 フカヒレというあだ名は思ったよりも壺に入ったのかオンラインゲームでのアカウント名にしているらしい。最近の趣味は人間観察。クラスではあまり目立たないようにしているが、別にボッチでは無く弁当なんかは友達と一緒に食べている。加賀観にはそれなりに興味があるらしく、からかっている。

 彼女の姉妹もis学園にいるらしくメールで加賀観の姉と妹の事を教えてくれたりするらしい。 

 

委員長 いいんちょう 女

 私立三鷹学園高等部普通科2年Bクラスの学級委員長

 本名は常葉 千古 ときは(わ) ちこ

 かわいいが良く似合う。背は低くはないが小さく見える。実は大食いで保健室の葵先生主催大食い選手権第3回大会優勝者。着痩せするらしい。

 手芸部所属

 

 槙原 南 まきはら みなみ 女

 私立三鷹学園高等部普通科2年Bクラス

 英語の教科担当。1年時の英語教科のクラス最高得点を出して一躍時の人になった。今では加賀観に抜かされているが、いずれは自分がっと密かに勉強している。

 広報新聞部に所属

 

 高山 裕也 たかやま ゆうや 男

 三鷹学園高等部普通科2年Bクラス所属

 サッカー部所属

 クラスではあまり目立たないが、サッカー界ではそれなりに有名選手。進路は大学を目指している様だが、クラブチームからは今からでも来ないかと言われている。本人はそう思ってないかもしれないが、かなり影が薄い。小学校の時に遠足の点呼の時に気づかれず、置いて行かれた事が有る。

 

 愛田 昭子 あいだ しょうこ 女

 私立三鷹学園高等部普通科2年Bクラス

 普通科のカースト2位集団の頭。話す話題が微妙に流行に外れている。話しているとだんだん主題から外れる。カースト上位だが威張る事はしない、というかカースト上位と知らない。

 

 安達 友子 あだち ともこ 女

 私立三鷹学園高等部普通科2年Bクラス

 愛田のグループに所属している。愛田がカースト上位だと知っているが愛田に伝えていない。理由は愛田がかわいいかららしい。

 

 井戸田 広輝 いとだ ひろき 男

 私立三鷹学園高等部普通科2年Bクラス

 普通科Bクラスのムードメイカーその1。窓拭きが好きで履歴書趣味の欄に書くレベルで好き。席が一番前なので加賀観の次に当てられる。

 

 今谷 鳶 いまたに とび 男

 私立三鷹学園高等部普通科2年Bクラス

 愛田のグル‐プに属している。愛田の舎弟と自称しているが、愛田には言ってない為本当に自称である。

 

その他学生

原田 悠歌 はらだゆうか 女

 私立三鷹学園高等部職業専門科3年Cクラス

 三鷹学園春季運動会実行委員長

 自分の評価が他人より少し高い女の子。同じ3年の黛とは小学校からの仲で黛に遠慮が無い。人をまとめるのが得意と自称している。実際に実力はあるがどうしても自分勝手な感じになる。将来は、自分の会社を設立させる事。また、黛との関係については右腕とコメントしている。

 

 黛 馨 まゆずみ けい 男

 私立三鷹学園高等部職業専門科3年Cクラス

 三鷹学園観察記録部部長

 コミ症の気質がある。原田とは小学生の時からの仲だが、舎弟のような仲だと周りの人は言う。コミュニケーション以外は基本何でも平均以上の働きをする。昔から読書が趣味だがあまり出来たためしが無い、理由は原田のせい。加賀観を誘ったのは、本が読めそうな匂いがしたからだそうだ。将来は、司書を目指している。また、原田との関係についてはポンコツっぽいからとコメントしている。

 

 水谷 勇気 みずたに ゆうき 男

 私立三鷹学園高等部普通科3年Aクラス

 三鷹学園用務部部長

 元クリエイトゲーム部部長。部室確保のために教頭とガチで交渉した。教頭の性格を考えて交渉に必要な札を用意するほどの行動力をもつ。その勇気ある行動はまるで学生運動に燃えていた教頭の学生時代を思いださせた。作っているゲームは、SRPG。

 

 鷹山 大貴 たかやま ひろき 男

 三鷹学園高等部特進科1年Aクラス所属

 三鷹学園観察記録部所属

 観察記録部待望の新入生、まだ記録はさせて貰えないが黛先輩の指導で記録に必要な事を学んでいる。加賀観の弟分を名乗っている。特進科なので頭はとても良い。

 

 番長 ばんちょう 男

 三鷹学園高等部普通科3年Cクラス所属

 本名は大場台 木戸俊 おおばだ きどたか

 学校では番長の名で有名な生徒で、顔が厳ついが本人はいたって普通な青年。昔起こした事件と顔のせいで霰もない噂が飛び交っている。

 

 

 

 教員

 

  紅 葉月 くれない はづき 女

 三鷹学園普通科2年Bクラス担当教員

 生徒会執行部副顧問

 数学と歴史を担当する。is学園の織斑先生に強い憧れを持っている。分量が酷いだけで料理は普通に上手い。

 

 桂木 宗次郎 かつらぎ そうじろう 男

 三鷹学園高等部教員

 園芸部顧問

 愛読本は自称六法全書、他称ジ○ンプ

 趣味はバックホーを乗りまわす事。学校の隣に自分の畑を作り、昼休みにはそこで乗り回している。

 国語を担当する。読書感想文の宿題は月毎に行っている。

 

 葵 翠 あおい みどり 女

 三鷹学園高等部養護教諭

 保健室には週4日でいる。優しいと人気で休み毎に保健室に来る者もいる。最近はストレスが貯まってるのか食堂で大食い大会を開催して、優勝している。医療に関しての横の繋がりが有る為、事故が有った際に融通が利く。

 

 柏崎 道雄 かしわざき みちお 男 35歳

 

 科学の担当教師。最近の悩みは年々科学受講者が減っている事、is登場で受講者は昨年の倍に!と驚き今年もかなと、準備したら2分の1程になってがっかりしていた。さらにis学園設立、isの特別授業開講により、通常時の人数すら下回り鬱になりかけた。減った理由は授業内容が板書9割、残りが実験だからだろう。

 最近の趣味は盆栽だそうだ。

 天文部顧問

 

 多々野 悠生 たたの ゆうせい 男

 

 英語の担当教師。趣味は重機のメンテナンス。桂木先生のバックホーは彼がメンテナンスしている。実家が修理屋なので、その影響かと思われているが実際は同名の彼だろう。

 

 教頭 きょうとう 男

 本名は飯田 茂 いいだ しげる

 常に対価を求める為嫌いな先生ランキングに毎年上位にランクインする。用務部の一軒以降は少し丸くなったが、根本的な部分は変わっていない。

 

 校長 こうちょう 男

 三鷹学園学校長

 あまり多くを語らない性格で、聞く者によっては勘違いを起こしてしまう事もある。教育には自分なりの考えを持っている。霖とは大学の時に出会っている。

 本名は紅 正隆 くれない まさたか

 

 私立藍越学園

 

 間庭 惇 まにわ しゅん 男

 私立藍越学園2年Aクラス

 サッカー部所属

 藍越学園きっての問題児。三鷹学園と藍越学園の交流会で加賀観と出会う。初対面はお互いの状況が悪く、言葉は交わしていないが親近感を感じる。自分の好きなことは優先してしまう為、その場にそぐわない行動を良くしてしまう。速川とは、幼馴染。問題を頻繁に起こすので、いつも速川に追い回されている。

 ポテトサラダが好物。

 

 速川 静流 はやかわ しずる 女

 私立藍越学園2年Aクラス

 サッカー部所属

 藍越サッカー部のマネージャー。間庭とは、幼馴染。加賀観とは、交流会で逃げていた加賀観とたまたま遭遇した。その時に、神とも会っている。間庭に関しては、なかなか過激な事をしていたりする。間庭と一緒に悪ノリする加賀観もたまにお仕置きしたりする。とても力が強く、間庭を引きずったりしている。

 

 村河 忍 むらかわ しのぶ 男

 私立藍越学園Bクラス

 風紀委員会所属

 間庭とは中学が一緒で、クラスが一緒だった事もあり良く話していた。正義感と少しの茶目っ気があると言っている。間庭たちが違うクラスなのをすこしきにしている。リーダーシップを取りたがる癖がある。本人は気にしていないが、偶に靴下の色が違う。

 

 甲 湊 かぶと みなと 男

 私立藍越学園2年Aクラブ

 吹奏楽部所属

 藍越学園で良く名前が挙がる人。加賀観とは、交流会のイベントで二人組になる時一緒になる。馬が合うのか話が進み、連絡先を交換していた。誰かをいじって遊ぶのが好きなようで、間庭や加賀観をいじって遊んでいる。

 熱海に祖母がいる。

 

 岸 未来 きし みらい 女

 私立藍越学園Bクラス

 美術部所属

 交流会で、神とペアになり良くしてもらう。その時は連絡先を交換するだけで、終わっているがその後、神の事が好きになりひそかにアピールしている。甲とは、家が近くなので昔は良く遊んでいた。しかし、中学時代は思春期の甲が少し荒れていた影響で距離を置いていた。今では、甲が神との仲をからかってきたり応援してくれたりするので中学時代ほど離れていない。加賀観とは、甲の紹介で知り合った。

 

 

 

その他

 

 色無 霖 いろなし りん 女

 

 加賀観の実の母親。学生時代はその美貌から沢山の人に告白されていた。しかし、それら全てを断り加賀観の父親と結婚した。3人子供を産んでるのに凄く若々しい。父親が言うには学生時代からほとんど変わっていないらしい。特技で、自分の影を物凄く薄くできるらしい。学生時代はそれを使い父親とデートしてたらしい。デート中よく姿を見失ったそうだ。

 

色無 孝雄 いろなし たかお 男

 加賀観の父親。寡黙な父親はカッコいいと思っている。家族からの評価は微妙だが。仕事関係では、寡黙な感じなのでわざわざ寡黙を目指さなくても良いだろうにとは良く思われている。仕事は、あまり人に言えない事だと言って話さない為、関係者以外には危ない人と思われている。その仕事は加賀観も手伝っている。

 

 常盤 明美 ときわ あけみ 女

 常盤千古の母親。とても優しいと評判の人。ご近所さんという独自の情報網をもっている。夫が単身赴任中なので、家の家事を一人で行っているので大変だと零していた。笑うと笑窪が出来る。

 

 常盤 惇 ときわ じゅん 男

 常盤千古の父親。熱海に単身赴任中。料理が趣味で、常盤家の夕食はだいたい彼が作っている。家族のルールを決めるのに微量の憧れがあり、ルールを作る事にした。ルールは、千古と明美に負担になり過ぎない事にしようと四日くらい考えて決めた。しかし、単身赴任先での生活中にルールを破っていた事に気が付いた。二人は特に気にしていなかったが、二人に謝った。

 

 田島 雛 たじま ひな 女

 

 田島家待望の女の子。小学3年生。

 待望の女の子とあってか多大な愛を受けて育った。勉強を趣味にしているとても偉い子。しかし、外に出る事も好きで良く遊びに出かけてる。兄貴があれだからだろうか。

 

 田島 春 たじま しゅん 男

 三鷹学園中等部2年所属

 自宅警備員を夢見る中学2年生。

 personal computerとスマホがデフォルトの引きこもり予備軍。オンラインゲームの上位ランカーでネット友達は数知れず。最近は匿名兎なるハンドルネームの人物と情報交換している。小遣いをくれる為、曾爺さんにとても懐いている。

 

 田島 勇 たじま いさむ 男

 神の曾爺さん。まだまだ元気な104歳。好きな言葉は唯我独尊。神の名付け親。最近の楽しみは孫と触れ合う事。その為ならお小遣いで孫を釣る。息子が早くに死んだ為に、孫に向ける思いは強い。

 

 

おまけ

 

 紅 葉月 くれない はづき 女

 三鷹学園高等部普通科1年Aクラス担任教師

 初めて担任を任され、緊張して噛みまくりの自己紹介をした。父親から教わった理想の教師像と織斑千冬という憧れを胸に今日も教卓で出席を取る。

 

 色無 加賀観 いろなし かがみ 男

 三鷹学園高等部普通科1年Aクラス所属

 中等部から高等部にかけて校舎が変わるため新しい環境での生活を楽しみにしていた。神と同じクラスだったため密かにホッとした。

 

 田島 神 たじま じん 男

 三鷹学園高等部普通科1年Aクラス所属

 高等部は就職専門科にしようかと思っていたが、加賀観を野放しにするとどうなるかわからないので普通科に決め、進路相談時に加賀観の危険性をアピールし自分が抑える事を宣言した。これにより加賀観は高等部の3年間は神と一緒のクラスが確定した。

 

 

れいちゃん

 加賀観の幼馴染。加賀観の初恋の人。

 

 弾

 藍越学園一年生

 加賀観の後輩。小学校の時に学校行事の班活動時に加賀観と知り合った。加賀観とれいちゃんの様な関係に憧れて、自分もそんな相手を見つけたいと思っていた。加賀観が中学に上がるタイミングで三鷹学園に行った為、中学と高校は別の学校になった。加賀観とは偶に連絡を取っている。

 

 静香

 IS学園一年生

 加賀観の後輩。学校行事でれいちゃんと同じ班になり、れいちゃんに懐く。中学は弾と同じ所に進んだ。先生に進路相談でIS学園を進められた時、弾と加賀観に相談した。悩んだ結果、IS学園に行く事に決めた。その事を報告した時に加賀観から姉妹がIS学園にいる事を伝えられ、困ったら頼ると良いと言われた。

 

 

 




 


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学園説明 ※ネタばれ注意

 学園及びその他についての現在の設定です。別に見なくても問題はありません。


 私立三鷹学園

 

 小中高一貫校で内部受験に合格する事で進学できる。校舎は小学校と中学校は一括りにし高等学校から独立させている。校舎は第1校舎から第4校舎まである。高校は第3校舎になる。1階から6階まであり、3学年3学科4クラスが授業をしている。学校の規模では上位に入る。

 高等部は全部で3つの学科に別れている。

 1.普通科 加賀観達が通ってる学科。基本5教科(国語、数学、歴史、英語、科学or生物)に加えて、体育、道徳の7教科に、選択で音楽、美術、家庭科、書道の内、2つを選んだ9教科が必修科目。入学生の5割がこの学科に所属している。

 2.職業専門科 就職に力を入れている。普通科の7教科とSPIの8教科が必修科目。2年時と3年時の11月からインターンシップに出かける。就職率はほぼ100%。競争倍率は普通科の倍以上で此処に落ちて普通科に行ったという話は毎年の恒例。

 3.特進科 進学に全てを捧げている。基本教科5つに体育の6教科が必修科目。放課後に特別授業が週4日ある。夏休みには夏期講習として8月の始めの一週間と終わりの一週間に行われる。競争倍率は普通科と同じ位だが、受験資格に中学3年時内申点(基本5教科+体育、各学校指定教科1教科の5段階評価を足した数値。最高35点)25以上がある。在学中の中学校によって難易度は変わる。

 

 

 三鷹学園ななふしぎ

 

 1.第4校舎の開かずの間

 2.第2校舎の屋上で告白すると失敗する

 3.第3校舎の問題児には美人の姉妹がいる妬まし羨ましい

 4.保健室に続く渡り廊下では女性は必ずつまずく

 5.第1校舎の4階に消えない汚れがある。

 6.体育館には秘密の梯子がある

 7.夕暮れ時に図書室に行くと妖精が見える。

 

 三鷹学園における部室について。 (「雑用部活故に」にて)

 

 三鷹学園は広い校舎にたくさんの部活動が活動している。部活動に部室が必要な部活は沢山あるが広いとはいえどの部にも渡せるほどの教室が無いため部活動の実績によって部室を与えるかを決めている。神が所属している用務部は元々クリエイトゲーム部という名前だったが、実績が無く活動拠点となる部室をもらえずに空いた時間にコンピュータールームを借りる位しかまともに活動出来なかった。そこで、部長の水谷は部室の管理をしている教頭に学校の役に立つ事をする代わりに部室をくれと交渉して部室を手に入れた。

 

 

 三鷹学園運動会形式について (「運動会と体育祭は~」にて)

 

 三鷹学園の運動会は、高等部、中等部、初等部でそれぞれ行う。高等部は生徒が主に競技の決定や運営をしていく。中等部は、先生と生徒が協力して競技の決定、運営を行う。初等部は、先生が主に運営していく。

 高等部は、3学年3学科3クラスの生徒をクラス単位で分けていき、5チーム作る。2クラス残るので特進科の多いチームに加える。理由は特進科が運動会は単位に入らないのでその日は勉強すると休む人が多い傾向があるためである。

 5チームの配色は赤、青、黄色、緑、紫の5つ。

 

 三鷹学園・藍越学園交流会 (「放課後フレンズ」にて)

 学園同士の連携を高める目的で、毎年行われている。交流会は、食事会とレクリエーションの二つを行っている。食事会はバイキング形式で、三鷹と藍越の生徒が一緒になって食べる。両校の先生も交流している。レクリエーションは年によって違うが、三鷹と藍越の生徒を一緒のグループにして何かしらの事をしている。ちなみに、加賀観達の時はクイズラリーだった。参加するのは、一年生と生徒会メンバー。

 

 

 施設

 

三鷹学園食堂

 食堂は三鷹学園の各校舎にそれぞれ設置されていて、小中学生は食堂で作ったご飯を各教室に持って行き昼食を食べる。高等部からは弁当叉は食堂で購入する形式になるため、高等部の食堂が一番大きい。

 初等部・中等部では、栄養バランスと食べやすさをベースに様々なメニューを作っている。

 高等部では、食券を購入し料理と引き換えるシステムを導入し、少ない労働力で回るようにしている。また、生徒や先生からの提案・企画したイベントも行っている。裏メニューの存在もあり、食堂は毎日賑わっている。

 

 三鷹学園購買部

 高等部食堂の隣にあり、日用品から専門的な物まで取り扱っている。頼めば余所からお取り寄せも出来る。筆記用具の補充や部活動備品の買い替えなどに利用される。トレーニングシャツなども売っている。行事の時は食堂と連携して出張販売も行う。

 

 

 

 リストラ増加のニュース (「ある日この頃」にて)

 女尊男卑が活発な状況化で多発していた男性労働者に対する不当なリストラが、最近また増えて来たと言うニュースである。

 リストラとは本来、組織の経営不振や技術不足何かの理由だったが、この時のリストラは組織から男性を排除する為などの差別的要因が主だった。男性労働者はこのリストラを大きく批判したが、社会の実権を握っていたのは女尊男卑の女性だった。男性労働者の声は、権力を持つ女性に握りつぶされたのだ。そして、沢山の男性放浪者を生み出した。この事件は様々な業種にとても大きな影響を与えた。主に女性が少ない漁業組合や運送業などが大きな打撃を受け、その他今まで男性従業員が行っていた仕事が概ね止まり、社会が回らなくなってしまったのだ。政府はこれを重く見ていたが、女尊男卑はそこにも進出していた為に大きく動く事が出来なかった。だが、ある時転機が訪れた。それは「第2回モンド・グロッソ」だ。そこでの失態がこの女尊男卑の風潮を大きく抑える事になったのだ。それによりここ数年はこの女尊男卑は弱まりつつあり、男性労働者も増えていた。しかし、最近は女尊男卑の再来と言わんばかりに多発していた。ニュースでも大きく取り上げられて、様々な所で議論されている。

 

 女尊男卑及び女性団体 ※この小説内では (「ある日この頃」にて)

 

 女尊男卑の言葉が生まれたのは9年位前だ。原因は篠ノ之束博士の発表したIS≪インフィニット・ストラトス≫のある欠点だ。ISの女性しか操縦できないという欠点は最初こそは男性技術者から残念の声が上がった位だった。しかし、ISの有用性と実用性が世間に伝わって行くに連れて、男女の力の差がハッキリして来たのだ。今までは体格などで優っていた男性だがISに乗ることが出来ない、一方ISに乗る事の出来る女性は男性に劣っている体格差や力の差をISが補って余る程にしてくれる。この逆転がある思想を生んだ。……女尊男卑だ。

 ある女性権力者が唱えだしたこの思想は瞬く間に、規模を拡大して行った。最も盛んだったのは6年前で、その年の女性権力者の人数は全体の7割を超し、さらに増えていた。その年の政党や県知事の大半は女性が務めていた。選挙では、有名な男性議員を押しのけて新人女性議員が当選した事で話題になった。そして、女性議員なども参加した大きな女性主義団体が結成された。結成された団体は権力を盾に様々な改革を行った。その内容は9割方女性の為の改革で、女性の地位を上げる為に男性を虐げる内容がほとんどだった。この改革で、様々な女性が社会に進出し出した。そして、それに比例するように男性離職者が急増していた。この時の団体の動きは様々な女性に影響を与えた。近年で問題視されている女子生徒の増長はこの時の名残だ。小さい時に母親などが与えた影響が今の学生に表れているというのが専門家の意見だ。

 しかし、女性団体の規模は3年前を境に縮小していた。縮小の原因は大きく二つだ。

 一つは3年前に起こった失態だ。その年は、ISを使用した世界大会「モンド・グロッソ」が開催されていた。モンド・グロッソの影響力はとても強く、ISが世界に浸透し、重要視されているこの情勢でトップと言うのは世界を制していると言っても過言では無かった。日本では第1回モンド・グロッソを優勝した事による世界地位の向上が目まぐるしく、発言力もとても高くなっていた。そんな「モンド・グロッソ」の第2回大会にもとても強い関心が寄せられていた。が、此処で日本はとんでも無い事を起こしてしまった。決勝戦にて選手不在の不戦敗だ。それは日本にとってとても大きな打撃となった。裏で事件が起こっていたとしても、不戦敗の事実は変わる事は無い為に日本は地位を大きく落とす事となった。

 もう一つは同じく3年前に起こった出来事で、通称「平成の大恐慌」と呼ばれた日本経済に大きな打撃を与えた事件だ。始まりは女尊男卑が唱えだされた辺りからで、一部の地域で起こっていた株価の低落が3年前を境に一気に暴落したのだ。原因は先に上げた「モンド・グロッソ」と男性労働者の減少に女尊男卑で行われた改革ではないかと言われている。女性団体はこの恐慌の解決に尽力したが動き始めた時には深刻な状態になっていた。誰も女性団体の改革運動の裏で密かに広がっていた株価の低落に気づいていなかった。いや、一部男性労働者は気づいていた。男性権力者も注意はしたが、勢いに乗っていた女性団体は真に受けなかったのだ。そして、積み上がった負責に女性団体は縮小を余儀なくされた。1年後、景気回復の兆しが見え隠れし始めた時には女性団体の力は以前の十分の一程だった。男性議員はこの期に多くの議員が復権した。しかし、元が巨大な為に女性団体の規模は小さくなってもこの後に様々な影響を与えいた。

 

 

 

 

 

 

 



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なつ休みのきろく 

昔に書いて置いていた物です。


7月24日

 あすからたのしいたのしいなつ休みがはじまる。をねえちゃんやかんちゃんとなつ休みのよていおきめるためにをねえちゃんのへやであそびました。

 

 

7月25日

 をとうさんに大きいをみせにつれていってもらいました。水ぎおかいました。

 

 

7月26日

 をかあさんにりょうりおならいました。王やきおつくってたべました。をいしかったです。

 

 

7月27日

 うみにいきました。をかあさんの水ぎにをとうさんはとてもよろこんでいました。

 

 

7月28日

 しゅくだいおやりました。をかあさんにつたえるとほめてくれました。かんちゃんもがんばったとなでました。をねえちゃんはがんばりましょう。

 

 

7月29日

 れいちゃんのいえにいきました。れいちゃんのをねえさんにでむかえられてれいちゃんのへやにいきました。れいちゃんはやさしくてくーるな女の子です。

 

 

7月30日

 をとうさんはをしごとでとをくにいくことになりました。さびしいです。

 

 

7月31日

 なつ休みがはじまって一しゅうかんがたちました。きょうは雨なのでへやであそびます。かんちゃんはえ本お見てました。

 

 

8月1日

 きょうも雨でをそとにいけません。をねえちゃんはしゅくだいおをわらせたみたいです。

 

 

8月2日

 きょうれいちゃんのいえにいったられいちゃんのいもうとちゃんがいた。のほのほしててかわいかったけどれいちゃんにひっぱられてへやであそんだ。

 

 

8月3日

 をとうさんがかえってきた。あしたはどこかにあそびにいくらしいたのしみです。

 

 

8月4日

 きょうはをかあさんにをこされる前にをきました。をねえちゃんもきょうは早かったです。川にいきました。をねえちゃんがはしゃいで川にをちました。よるにほしお見ました。

 

 

8月5日

 れいちゃんにきのうのことをはなしました。よかったねっていってくれました。

 

 

8月6日

 きょうはをじいちゃんのいえにいきました。をじいちゃんのいえはをもしろいゆうぐでいっぱいです。かべがまわったり天じょうからくろいふくの人がおちてきてをたがいをどろきました。

 

 

8月7日

 をじいちゃんのいえはあさからをもしろいです。目おあけたら前に人がいました。目お大きくあけてました。

 

 

8月8日

 をじいちゃんがつりにいこうとあさからちかくの川にいきました。つれなかったけどたのしかったです。

 

 

8月9日

 をねえちゃんとじゃんけんおしました。をねえちゃんがなきました。

 

 

8月10日

 かんちゃんとをねえちゃんがじゃんけんおしました。をねえちゃんがかってはねてました。かんちゃんがなきだしそうでした。

 

 

8月11日

 家であそべることおさがしているときれいな石おひろいました。れいちゃんにぷれぜんとしました。

 

 

8月12日

 かんちゃんとをひるねおしました。きもちよかったです。

 

 

8月13日

 きょうはをとうさとつりにいきました。をさかなたくさんつりました。ゆうしょくはさかなりょうりでした。

 

 

8月14日

 しゅくだいがぜんぶをわりました。をねえちゃんはもうすこしといってました。をねえちゃんがかをおみてくれませんでした。

 

 

8月15日

 をばあちゃんのいえにいきました。おぼんということだからきました。をじいちゃんのはかにをまいりにいきました。

 

 

8月16日

 をばあちゃんのいえにははたけがいっぱいあります。はたけのてつだいおしました。

 

 

8月17日

 なつ休みもあと1しゅうかんくらいになりました。をねえちゃんのへやからひめいがきこえます。をかあさんがきにするなっていったのできにしません。

 

 

8月18日

 をねえちゃんがへやからでてこないので、かんちゃんとふたりであそびました。さいきんをとうさんがしごとがたいへんみたいなのでかたもみおしました。

 

 

8月19日

 をねえちゃんがでてきました。きょうはそとであそびました。てれびがまたおなじことをいってます。

 

 

8月20日

 れいちゃんのいえにいきました。れいちゃんのはやりはをにんぎょうあそびのようです。れいちゃんのたんじょうびのぷれぜんとはをにんぎょうにしようかな?

 

 

8月21日

 をかあさんがきょうはいえにいなさいっていっていたのでいえであそびました。れいちゃんとれいちゃんのいもうとちゃんとをねえさんがいえにあそびにきました。きょうはとまっていくようなのでみんなであそびました。

 

 

8月22日

 きょうもれいちゃんといえであそびました。れいちゃんのいもうとちゃんはほんねちゃんというそうです。とらんぷおしてあそびました。

 

 

8月23日

 きょうでなつ休みがをわります。さびしいかんじがします。きょうもれいちゃんとあそびました。またあしたってわかれました。



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4月 出会い出合い出逢い
授業中寝るんじゃない!自分!


 いつになく書いてたらこうなった。暇じゃなかったのにな、と思いながら書きました。短いですが、忙しい人が読むもんじゃないです。


再構成したら少し長くなりました。


 

 やあ、久しぶり元気だった?いやぁ皆元気そうで良かったよ。・・・・おや?初めましての方かな?初めまして、三鷹学園高等部2年の加賀観です。まあ、10割の人が初めましてだと思うけどね。今は数学の授業の時間なんだけど暇なんだよどうしよう・・・・。いやぁ、今日も暑いねぇ。・・・・。

 

 教科書を縦にし、寝る体勢に入る。前の教師から顔を隠しているので、寝ていても気付かれ難い。この体勢で数々の授業を乗り越えてきた。そう、言わば必殺の体勢。この体勢で、数学だって乗り越えて見せる!

 

「加賀観、これ答えてみろ。」 

 

 しかし、効果が無かった!なぜだ!

 

 顔を上げると見えたのは、黒板の前に立つ黒いスーツを着こなした先生。俺らのクラスの担任、紅先生だ。先生の顔には、青い筋がピクピクとしていた。そして、先生の右手に装備されている数学の教科書。それを確認すると、俺は悟った。あっ、これはまずい奴だと。

 

「加賀観。」

「はい…。」

 

 先生の俺を呼ぶ声は低かった。何か、俺の周りの気温が下がったのを感じる。いやぁ、周りの席の奴の視線が痛い痛い。マシンガンで撃たれたみたいに痛いよ。ほぼ全方位からの精神攻撃に加えて、前からも絶えず先生からの熱い視線が来てるよ。何でこうなったんだろうか?疑問でならないよ、ほんとうに。

 

「おい、加賀観。早くしろ、時間がもったいない。」

 

 俺が、なかなか動かないからか先生の青筋がまたピクってなったよ。しかし、このまま先生の元に行っても面白くないし解きたくない。…仮病を使うか。

 

「先生、俺。今、腹痛なんです「嘘だな。」よ。」

 

 痛そうな顔をしつつ腹部を押さえて言った。しかし、最後まで言い切る前に一蹴されてしまった。あまりの速さに、口を開けて固まってしまった。

 

「い、いや、痛いですよ?」

「そうか、それは都合の良い物だな。」

 

 先生は、体の前で腕を組みながらこちらを見ている。よし、疑ってはいるが、此方の話を聞いてくれている。此処で昨日巻いた種を実らせる。それによって、この仮病は突発的な物じゃなくて持続している物として証明できる!

 

「いやぁ、昨日からずっと痛かったですから。」

「ほう、昨日からか。それは痛いだろうな?」

「はい、痛くてあまり寝れなかったですから。」

 

 先生が何でこんなに食いついてくれるのか、わからないがとりあえずチャンスだ!自分が寝不足だという事をアピールする。

 

「そうか、昨日から腹痛な。」

「ええ、痛いですね。」

「では、頭痛は治ったのだな?」

「えっ?」

 

 先生の言葉に回転していた頭がガンッと壁にぶつかったように、止まってしまった。もう、頭痛?何それ状態で頭が真っ白になってしまった。そして、それが致命傷となり昨日からの嘘が先生にばれてしまった。この後の展開は、想像にお任せする。

 

 

 

 午前中の授業で俺は、本当の腹痛を知ってしまった。これは、仮病で使って良い物じゃない。昼なのに、飯の時間なのに、口にしようとするとぎゅるぎゅると腹が鳴る。…これは、下痢か。ズキンズキンと痛むのだ。せっかく作った弁当もこれでは食べれないじゃないか。くっ、仮病をした対価がこれか。割に合わないぜ。

 

 とりあえず、食えないけど出すだけ出そうと鞄を探る。しかし、探っても探っても弁当箱が見つからない。おかしい、朝鞄に入れていたはずなのに、なんでだ!?

 

「ねえ。」

 

 やっぱり無い。入れる物を間違えたか?…いや、ちゃんとこの鞄に入れた。じゃあ…。

 

「ねえ。」

 

 くっ、何処かに落としたか?どこだ?思い出せ、思い出せ。

 

「ちょっと、聞いてる?」

 

 なんか、雑音が聞こえるがそんな事はどうでもいい。どこだ?

 

「雑って、また酷いね。」

 

 ……。

 

「おっ、やっとこっちを向いたね。」

 

 途中から、あえて無視していたが俺の前には先程から声をかけている女性がいる。彼女が誰なのかはわからないが、彼女は先程俺の心を読んだような発言をしている。偶然かどうか分からないが、注意が必要だろう。もしかしたら、ストーカーかもしれないしな。して、誰だ。

 

「分からない人に対して結構な事を言うね。」

 

 彼女は、呆れたように額に手を乗せた。

 

「まあ、良いけど。それよりも、ほらこれでしょ。」

 

 彼女は、あきらめたように溜息をつく。そして、背後に手を伸ばし小さな包みを取り出した。

 

「これ、きみのだろう?下駄箱に落ちてたよ。」

 

 確かに、俺の弁当の包みだ。しかし、下駄箱?

 

「朝、学校に来る時に下駄箱で鞄の整理してただろう。その時に、忘れて行ってたよ。」

 

 ああっ!そうだ、その時だ!思い出した。何か忘れ物したんじゃないかって、心配になって鞄を探っていたんだ。まあ、結局忘れ物は無かったんだけど。まさか、そこで忘れるなんてな。

 

「でも、何で今になって渡すんだ?朝見たなら朝礼前とかに渡してくれれば良かったのに。」

「渡そうと思っていたさ。教室入って君、寝てたろ?起こすのもあれだったから、休憩時間に渡そうと思っていたのに君といったら。」

「…悪かった。」

 

 今日の休憩時間は、寝ているか、トイレに行ってから寝るのどちらかをしていた。確かに、声を掛けずらい。

 

「まあ、とりあえずありがとう。」

「どういたしまして。…。」 

 

 まあ、なにあれ良かった。俺今腹痛で食べられないけど。…腹痛?…あれ?何か、忘れてる?何を忘れているんだ?

 

 見つかった弁当の事を喜ぼうとした瞬間、正しくは腹痛を思い出した瞬間、記憶から抹消したいと思っていた事を思い出した。思い出してしまった。そして、腹痛が酷くなった。

 

「…。」

「そんな、キミに良い事を教えてあげよう。」

 

 まだいたのか、彼女は後ろの、窓の向こうを指さした。そこにあるのは誰かが開けた窓だけだった。窓の向こう?窓の向こうには、第四校舎があったはずだが。そんな事を思っていた俺は、彼女の指さす方に顔を向けた。

 

「………。」

 

 紅先生、どうしてそこにいる!?職員室にいたんじゃないのか?何で、向かいの校舎からこちらを睨んでいるんだ。駄目じゃないか、先生は職員室にいなくちゃ!待っていてくれなきゃ!………。

 

 彼女の指さした先にいたのは、第四校舎四階廊下の窓を開け、此方を見ている紅先生だった。それを確認すると、いや、目にした瞬間、俺の頭は混乱してしまった。

 

「…フゥ。」

「おや、落ち着いたかい?」

「…、行ってくる。」

「そうかい。」

 

 先生の行動は良く分からないが、どの道行かなければならない。先の彼女が誰かが結局分からなかったが、まあ、問題ないか。同じクラスの様だし。

 

 職員室は、此処第三校舎の一階にある。校舎間を生徒以上に動き回る先生達の部屋が一階にある理由は、分かりやすく移動のしやすさだ。けれど、生徒からすれば少し不便な所にある。上学年の教科担当などは、上の階の教室から此処一階までを往復しなければならず大変な事は係決めの時に毎回騒がれる事案である。

 

 俺らの教室がある四階から降りて来たものの、先生は職員室にいるのだろうか?いまさっき、第四校舎にいたんだからまだと考えるのが普通なんだけど、紅先生ってなんか身体能力が高いんだよな。もしかしたら、もういるかも知れないな。

 

「おっ、ちゃんと来たか。」

 

「…先生、先ほど第四校舎におられませんでした?」

 

「なに、走ればすぐの距離だ。」

 

 そう言って、先生は足を叩く。一応、第四校舎から第三校舎までは十分とかからない。途中に上り坂があるが、そこまで長くないから時間はそれ程掛からない。しかし、先生がいたのは四階で、あれから五分ほどしか経っていない。それなのに、息すら上がってない先生はどうなんだろうか。

 

「まあ良い、中に入れ。」

 

 先生に言われ、職員室に入る。此処の職員室は、主に高等部の先生が使用している。また、中等部の体育教科の先生も使用している。中等部の体育の授業で使う校庭と体育館に向かうのに、中等部の第二校舎より第三校舎の方が近い為だ。

 

 紅先生の席は、入り口の反対側、窓の近くにある。今日は外が晴れているため、先生の机には日差しが当たって輝いていた。

 

「それで、何回目だ?」

 

「さあ、一々数えないですから。」

 

「6回目だ!新学期始まって、一週間で何度問題を起こすんだ?」

 

 そう、俺がこの職員室に呼び出されるのは始業式の日から六回目なのだ。寝てて呼び出されたのは初めてだけど。課題提出の忘れが最初だったかな。

 

「とにかく、これからは気を付ける様にと、各先生からお言葉を貰っている。」

「はい。」

「だが。お前がそれくらいでは効かんという事は、分かっている。」

「…良くお分かりで。」

 

 確かに、それだけじゃ特に気にせずにこれからも過ごすだろうな。そんな事は、昔から言われているし。紅先生にもお世話になったものだ。去年からいる先生は、俺が職員室に入る度に何かしたのか、みたいな視線を送って来るし。

 

「だが、お前が懲りないせいで、新しく行う事が無くなった。」

「おお、コンプリートですか。」

「喜ぶ事じゃない!…という事で、放課後に第三校舎のトイレ掃除をしてこい。」

 

 第三校舎のトイレは、全部で13個ある。一人でやると、一時間位か。ちなみにこの罰は、三回目の時にした。

 

「またですか。」

「分かったな?」

「はい。」

 

 拒否権も何も有ったもんじゃ無いらしい。しかし、めんどくさい物はめんどくさい。どうしようか?ばっくれるか?

 

「なまけたら、第四校舎もな。」

 

 考えている内に釘を刺されてしまった。以前、すっぽかした事を言っているのだろう。くっ、本当にやりずらいな。他の先生ならこうは成らないのに。

 

「分かったなら、さっさと行け。次の授業の時間だ。」

 

 先生は話は終わったと、自分の席に向かい出席簿に何やら記入し出した。気になって覗こうとした時、予鈴が鳴った。仕方ないので、職員室を後にした。

 

 

 

 今日の授業も全て終わり、クラスの皆はお疲れムードになっていた。しかし、俺にはこの後トイレ掃除が有るため、テンションは下がっていた。クラスの奴が帰った後、事務室に掃除用具を借りて、六階の東トイレから掃除を始めた。各階西と東にあるトイレの便器は12個なので、一階分の掃除に掛かる時間は、十分位だ。それを六階分行うので、一時間かかる計算だ。はぁ、一人寂しくトイレ掃除とか…。

 

 

 

 約一時間かけて、トイレ掃除は終わった。事務室に用具を返して外に出ると、夕日は沈んで無い物の、辺りは暗くなり始めていた。まだ部活動の音が聞こえるが、帰宅部や活動のない部の者は帰った後だった。歩道を歩くのは自分だけだ。なんだか優越感を感じながら道を歩いた。

 

「はぁ、今日は何食べようかな…。」

 

 




 知ってる事が少ないのでぼかして知的な事は何一つ言いません。ご了承を

 彼は錯乱している!


 11/17 追記しました。
 12/21 内容を再構成し、追記しました。


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おはようからこんばんはまで提供中

おはようございます。私の時間的に挨拶しました。息抜きなので毎回短いと思われます。それでもって良いならどうぞです。




 やあ、今は前回から18時間後の昼休みだ。昨日は、腹痛や呼び出しで碌に弁当が食べられなかったが、今日は特に何もやって無いから安心して食べられる。……はずだった。

 

「………。」

 

 4限目の科学の授業が終わり、やっと休めると気を抜いていたら目の前にいたのだ。一種のホラーかと思った。しかも、仁王立ちのまま何も言わずにそこにいるのだ。表情から何か言いたい事が有るのは読み取れるが、何も言ってこないので恐怖しか感じなかった。これを見ている周りからの反応は、またかという呆れの混じりの視線と今度は何だ?奇異の視線が全方位から送られて来た。他など無くこの2つのみだ。…このクラスは、余所より息が有っているのかもしれない。とっても、悲しいけど。

 

「加賀観。」

「はい。」

 

 ようやく口を開いた先生。此処までに掛かった時間は20分、昼休憩の時間の半分だ。何があった先生と何度思った事か。そりゃぁ、皆から奇異の眼で見られる訳である。

 

「これは何だ?」

 

 先生は懐から紙を取り出した。それには、

 

『カフェインが必要なこの時期ですが、4月12日の朝8時頃。職員室にて、桂木先生のカツラをもらい受ける。 怪盗.k』

 

 と書かれていた。見る人が見れば、犯行予告。見なくても、犯行予告。ザ・犯行予告。違うと言う奴は病院に行くのをお勧めする。

 

「犯行予告ですね。」

「そうだ、内容がとてもしょうもないが犯行予告だ。そして、書かれている用紙はお前の答案用紙だ。」

 

 紙の左上には小テスト(山椒魚)と書かれている。その横の名前欄には『色無 加賀観』書かれている。・・・・うん、俺の字はやっぱり綺麗だ。こう何というか造形美?が良いんだ。はらいは何事もはらい除けるような形、やはり綺麗だ。言葉が出ない。

 

「先生、その綺麗な俺の字が書かれた答案の何が問題何ですか?」

「どうも何も無いと思うが…。」

 

 先生は頭に手を添えて、困ったようで呆れたような感じに言う。

 

「……はぁ。…テスト中に何しているとも思うが、今回の問題は内容だ。」

「内容…、別におかしくないですよ?」

 

 ただ、今日の8時に桂木先生のカツラを盗みます。と書いただけだ。ただ、枕詞がへんな感じになった位だ。この文におかしい要素はないはずだ。因みに、予告通り実行済みだ。有言実行、これ大事だからな。いやぁ、俺が職員室に入ると先生の視線が俺に向いた時はひやひやしたが、すぐに散ったから安心して盗んできたぜ。視線が散る時がなんか危険物を見たみたいだったのが不思議だったが。

 

「問題ばかりだあほう。まあ、予告までだったらいつもの御ふざけで済んだのだが。今朝、予告の通り、桂木先生のカツラが消えた。本人がトイレに行っている間にな。カツラが無くなったのに気づいた時の先生の顔はとても見られるものじゃ無かった。」

 

「先生はカツラをとても大事そうに扱ってましたね。」

 

「私自身この問題は見過せなかった。先生にはいろいろお世話になったからな。」

 

 国語の桂木先生は5年前に此処に来たらしく、それからずっとこの学校で教鞭をふるっていた。その間に様々な困難が有ったらしい。最初の方は茂っていた頭皮も段々と後退していった。広報新聞部の情報では、紅先生が学校に来た頃にはもう後退していた様だ。それを隠そうとカツラをしているがス、先生は何故かスペアを持たないので無くすと後退をさらけ出したくないと自習にするのだ。今回の犯行予告はこれが狙いだった。今日の2時間目は自習だった。……さて、目的は達成したのであとはこれを無事に元の場所に戻すだけだ。カツラはこの鞄の中にある、流石に何処かに隠してしまうのは止めた。と言うか隠してしまったら何かカッコ悪い感じがしたからだ。怪盗を名乗ったのならきっちりと閉めたい物だ。だから、これを守らなければならない。目の前の先生に見つからずにこれを職員室の桂木先生の机に置く方法は…。

 

 この時、俺は小さな、そしてやってはいけないミスを犯した。一瞬、ほんの一瞬見てしまったのだ。一瞬、それだけあればいろいろ出来る。欠伸をしたり、出席簿を投射したり。それらが可能な時間を目の前の者が見過ごす訳も無かった。

 

「・・・・ちょっと、鞄を出せ。」

 

「・・・・」

 

 言葉が出なかった。それ程先生の言葉は唐突だった。固まった俺を他所に先生は俺の鞄を探っていた。

 

「・・・・フム。」

 

 先生の腕が止まった。探し物は見つかった様だ。鞄から挙げられたその手に有るのは、もっさりとしたカツラだった。

 

 そして、俺は目の前が暗くなった。朦朧とする意識の中、最後に見たのは先生の白い拳だった。

 

 

 

 

 おはようからこんばんはまで、皆さん今、どれをお使いですかね?私は只今、おはようと挨拶していました。・・・・えっ、もう一度?・・・・わかりました。では、おはよう、今日の俺!

 

 

 

 

 という夢を見ました。最後の俺は誰だったのでしょうか?わかる方はこちらの三鷹広報放送部所属の布枯礼にお申し付けください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 書いてて手が止まらないように書いてるのでどうしても薄くなったり、こんがらがる事が御座いますが、気にしないでくれると良いと思います。


 11/17 2/28 追記しました。


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提出期限は良く見ましょう

 

 

 よう、同じ挨拶を繰り返すのは何だか面倒くさく感じる時が有るんだ。だから、今日は気分で挨拶を変えてみたんだ。…どうでもいい?まあ、そう言わないでくれ。今日は休日なんだ、だからテンションが低いからそこんとこよろしく。えっ、それもどうでも良いの?…冷たくないか?いや、変なテンションをしているのは分かっているんだ。だから挨拶なんてしてるんだ。…はぁ。

 

「どうした加賀観?急に溜息なんかついて、何か有ったのか?」

「挨拶だよ、始めの挨拶をして凹んでいるんだ。あんまり触れないででくれ。」

「挨拶位で何を凹んでるんだお前は?…と言うか挨拶なら俺にもしろよ。朝いきなり家に来てゲームし出したのお前だからな。」

「…やだね、めんどくさい。お前相手に今更そんなのするかよ。」

「おい、流石に怒るぞ。」

 

 隣の奴は何か言っているが、紹介しよう。こいつは、俺と同じクラスの田島 神だ。こいつとは中学からの腐れ縁何だが、何故かいつも同じクラスにこいつがいるんだ。知り合ってから毎年クラス替えが有ったが、こいつが俺から離れる事が無かったんだ。別にそれが嫌という事は無いんだ、助かる事も多いんだけどこう、変わらないのって時に苦に感じる事も有るんだ。だから、来年は別のクラスにしてください。

 

「で、そこんとこどうなんだ?神さんよ。」

「……。いや、俺がクラス分けしてる訳じゃ無いんだから無茶言うな。」

 

 後、こいつの事で思う事は、こいつの神って名前がこいつの行いを見ていて名前負けしてね?と思う事が有る。この事は学校の奴らも思う事が有ったのか、こいつの名前を見るたびにまず顔を見ていくんだ。この事を本人も気にしているようで、名づけ親に物申した事も有るみたいだ。

 

「で、物申してどうなったんだ?」

「急に何の話だ?……ああ、親父に言ったんだよどうしてジンを神にしたのかって、そしたら…そんなの知るかよって叩かれたな。」

「そうか、親父さん知らないのか。…ん?名前つけたのひい爺さんだって言ってなかったか?」

「…そうだった。ひい爺さんが酒の場での思い付きをそのまま名前にしたのが発端だった。何で止めなかったひい婆さん。」

 

 ガックリと肩を落としたこいつだが、こいつ自身、名前の事は諦めてるが、名前を嫌っている訳では無いらしい。しかし、名前書いた時の相手の表情が嫌いなんだそうな。さぞ、奇異な目をしていたのだろう。想像が付く、俺もこいつと知り合ったのはそんな感じだったし。

 

「そういえば、お前課題終わったのか?」

「・・・・フッ」

「その顔は格好悪いぞ」

「なんで俺だけみんなの3倍なんだ。」

「日頃の行いのせいだろ。」

 

 課題とはカツラ木先生の国語の読書感想文だ。月に一度こうやって課題を出すのだが、前の盗難事件の事を引きずっているのか、みんなは原稿用紙2枚だが俺は6枚書いて来いとホッチキスで止められた物が配られた。お題は、自由のはずなんだが、先生から愛読本だって六法全書を渡された。その分厚さと衝撃に意味が分からずに呆けていると、此処の所は面白いとオススメの所を語っていた。後で確かめたら教えられたページは2桁にも届いていなかった。この時ばかりは声を荒げながらほとんど読んでねーだろ!っと叫んだ。しかし、それは後の祭りで授業は終わってしまった。因みに、阿修羅は100ページ読んだらしい。放課後ばったり会った時に、課題の事を聞いていたのか本人が言っていた。その後、笑いながらオススメの所を教えてくれた。よほど俺が苦労するのが嬉しかったのだろう。因みにそのページは3桁を越していた。彼女は抱えているのを見て、彼女の父親が読むように勧めたようだが、流石に無理だったと懐かしそうに語っていた。

 

「紅先生読んでたのか…意外だな。もっとこう、粗々しいのを読むとばかりおもっていたな。」

「俺も意外だなーと思ったが、それどころではない。」

「それで何ページ読んだんだ?あれから一週間たったが。」

「3ページ」

「提出って、明日の授業中だろ。」

「マジで、終わんねーよ。」

 

 その後、ぐちぐちと言いながら神の家でゲームをしていた。神は頻りに大丈夫なのか?と聞いて来たが、俺は無視してゲームに入って行った。夕方になり、流石に帰るかと神の家を後にして歩いていた。しかし、課題を進める気に起こらず、日は沈んで行った。気が付いたら足が凄く重くなっていた。だけど足を止める気にならなくて、フラフラと、フラフラと歩いていた。その姿は、まるで酔っ払いのそれだったと近くを通ったおばさんは思ったそうな。フラフラと、フラフラと歩くその姿は夜のとばりに包まれて消えて行った。その後、その姿を見た者はいない。

 

 暗い部屋に、カーテンの隙間から朝の日差しが差し込む。その部屋に、人の気配はなかった。机には、数枚の原稿用紙と綺麗な六法全書が置いてあった。

 

 

 

 

「………」

「……大丈夫か?」

「……見える?」

「……いや」

 

 あの後、結局家に帰らずに夜歩きをしていた加賀観。早朝になってやっと家に帰った加賀観を待っていたのは、真っ白な原稿用紙と綺麗な六法全書だった。課題などやってあるはずも無く、真っ白な原稿用紙に膝を落とした。そこから少し記憶が飛んでいた。気が付いたら洗濯機が回っていた。

 

 朝の教室は、ザワザワとしていたのに、二人の周りは静かだった。机に伏せている加賀観、横でそれを見る神。手元に広がるはちぎれた原稿用紙、ヨレヨレの六法全書。伏せたまま動かない加賀観に神はどうする事も出来なかった。そして、授業は始まった。

 

「色無以外は全員提出を確認した。次の授業の時に感想を書いて返却する。・・・・色無は、仕方ないので紅先生との特別実習を行う事で最低評価だが点をやる。良いな?」

「・・・・」

「・・・・では、授業に移る、えーでは、36ページを開け。」

 

 そこから先の記憶はとても曖昧だった。桂木先生のカツラが飛び、神が保健室に駆け込み、紅先生が鉄拳を落としていた。曖昧なわりに良くありそうだった。そして、俺は目を閉じた。

 

 

 

 目が覚めた俺の眼に入って来たのは茜色に染まっていた夕方の空だった。教室を見渡しても神も他の皆もいない。ただ一人、教室に残っていた。ふと、机を探ると何やらメモ用紙が出てきた。

 

『特別実習:紅先生の手伝い』

 

 と、それには書かれていた。神が書いたのだと思えるが、何故書いた時に起こしてくれなかったのだろうか?

 

 

 

「加賀観、大丈夫か?」

「ああ、大丈夫だ問題ない。」

「そうか、けど、服が後ろ前反対だ。」

「・・・・マジだ。」

「あと、鞄持ってないぞ。」

「・・・・あ。」

 




 更新は気分次第なので決まった時間などはありません。




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長距離走はキツスギル!

 前の話で抜かした所です。


「加賀観、遅いぞ!早くしろ。」

「…………」

「この教科書を運んだら終わりだ!急げ!」

「・・・・・・・・(この鬼め!)」

 よう、正直挨拶なんかしている暇なんてないんだが、礼儀だしやってやる。…今まで挨拶ってどんなのだった?まあ、いいや。今、俺は特別実習で紅先生の手伝いをしている。本当は今の時間は授業中なんだが、欠席になっている。紅先生の手伝いはやってる事が雑用ばっかりなのはなんで何だろうな?今だって、1年生の提出課題を運搬している。普通、教科担当とかをクラスで決めて運ばせるんだろうが、この紅先生様が何故か、自分でやるって言って引き受けたんだ。ならなんで俺がやってるかって、その紅先生様の手伝いだからだ。うちの学園は校舎が複数あるから職員室も複数に別れている。だから、俺は朝から校舎中を駆け巡っているんだ。この前小鹿だったが、そんなの比じゃない位震えてんだ。

「次は、3階だな。いくぞ。」

「……(今いるの校舎外の体育館なんだが)」

「その後は、5階だな。」

「……」

 荷物を持って階段を駆け上がる先生について行こうとしたが、とてもじゃないが追い付けそうも無かった。その後も校舎内を駆け巡って行った。普通科Aクラスの課題を運ぼうとした時に、クラス担当がきちんと持って行くそうなのでやらなくて良いとAクラスの担任に言われた。その時の先生の顔はとても残念そうだった。後で聞いた事だが、あの手伝いの時は先生が進んで運ぶ仕事を貰ってきていたようだ。どんだけ俺を苦しめたいんだと思ったな。

 

「ご苦労様だな。加賀観、ほれっ。」

 ようやく、教室の自席に腰かけられた。今日はそのまま寝てしまいたい気分だった。校舎内を駆けまわっている内に午前の授業は終わり、今は昼休みの時間になっていた。神が気をつかってくれたのはフルーツミックスジュースだった。その甘い口当たりにとても癒される。このまま机にダイブしてしまいたくなる。此処まで疲れたのはあの時以来だと、走馬燈の様にいろいろな光景が浮かび上がって来た。段々と瞼が重くなっていった。

 

「…神、今までありがとう。」

 

「何バカなことを言ってんだ。起きろ。」

 

 神の容赦のない平手は俺の肩に直撃した。その平手で俺は起き上がった。とても痛かったが、目が覚めた。危ない所だった、もう少しでいってしまう所だった。

「……ありがとう、神、助かった。」

「……大丈夫か?午後から体育だぞ?」

「……休みたい。切実に。」

「まあ、そうだろうな。」

 午後は二時間とも体育だった。明日は筋肉痛で確定だろう。

 

 

 

 今日の体育は長距離走だった、一周400mの校庭を6周すれば休憩していていいそうだ。いつもだったら喜んで走るのだが、今は死にそうなのでとても走りたくない。まあ、監督が何故か今日は紅先生だから無理だろうけど。なんであの人疲れてないんだ?おれと同じくらいに動いていたはずなのに。

 

 

「………」

「……」

 スタートしてから大分経ったが、疲れているからかいつもの倍以上の時間が掛かっていた。不思議な事に、一度走り出すと何とかなる物で止まる事無く走れていた。しかし、いつもの倍以上に遅いので俺の後ろにいるのは数人だけだった。さっき神にまた抜かされた。あいつはもう、4週目に入っていた。

 

 1000mを越した辺りから、俺の後ろを走る奴の視線を凄く感じ始めた。カーブでチラッと顔を見たが、奴は布枯 礼だった。あの時は名前を名乗らなかったが、あの後神に名前を聞いたのだ。名前で遊ぶとフカヒレっぽくなる奴だ。

「……フカヒレとは失礼な。感謝はされても遊ばれる覚えはないよ。」

「……(あれ?またですか?)」

「……わかりやすいよね、君。」

 何でかこいつの前だと、思った事を口に出してるらしい。理由は不明だ。

「…と言うかお前疲れてないだろ。」

「……失礼な、これでも結構疲れてる。見えない?この滴る汗。」

「……(微妙、かな)」

「……」 

 表情そんなに変わってないけどあいつ何か切れかかってるぞ。何でだ?

 

「おーい、加賀観と布枯。後、走っているのはお前らだけだぞ。」

 ゴール地点から神が大声で言って来るが、後ろのはともかく俺はこれ以上無理だぞ!

「……では、お先に。」

 これ以上無理な俺を他所に、布枯は俺を追い抜いてあっと言う間にゴールした。さっきまでのスピードは何だったのだろうか?と思う位早かった。あいつ、自分から疲れたと言っていたのに自分から余力有るというのは何なんだろうか。その後、ラストでゴールした俺を待っていたのは紅先生曰く愛の鞭だった。死体蹴りであった。

 

 主に身体面で忙しかった一日が終わった。紅先生が放課後に何かさせるほど鬼じゃ無かったが嬉しい所である。しかし、疲れた。今日だけでどれ位動いただろうか?一か月位動かなくても良いのでは無いだろうか。それ程今日は動いていたと思う。

「加賀観、大丈夫か?」

「ああ、大丈夫だ問題ない。」

「そうか、けど、服が後ろ前反対だ。」

「……マジだ。」

「あと、鞄持ってないぞ。」

「……あ。」

 更衣室で体操服から制服に着替える過程でいろいろ忘れ物をしていたようだ。このまま帰る訳には行かないので、更衣室まで戻る事になった。地味に下駄箱から更衣室までが遠いのがだるい所である。神には先に帰っていて良いと言ったが、お前を放って置いたら何が有るかわからんからついて行くと言われた。嬉しいような悲しいような気持ちになった。

 

「えーっと、ここら辺かな?……おっ、見っけ。良々、神見つかったから帰ろうぜ!」

「見つけたか、ああ、帰ろうか。」

 

 鞄も無事に見つけていざ帰ろうとした時、ガラッと、大きい音を立てて更衣室のドアが開かれた。俺も神も咄嗟の事だったので、思わず身構えてしまった。しかし、ドアの方を見てホッとした。ドアの前にいたのは、同じクラスの高山だった。高山は俺達を不思議そうに見つめながら自分のロッカーから荷物を取り出して、俺らにサヨナラを言って出ていった。高山が更衣室を出た後、俺達は同時に噴き出した。互いに悪い事はしていないのになぜか物音に敏感に反応してしまった事がおかしかったのだ。少しの間お互いに笑いあった。

 

「あーおかしかった。何でだろう?危険だった訳じゃないのに凄く警戒した。」

「…ああ、何でだろうな。…確かに、可笑しかったな。」

「高山には何か悪い事した気分だな。」

「確かにな、また明日謝っておくか。」

「おう、そうしよう。じゃあ、帰ろうぜ。」

 

 家に着いた時にはもう、日は沈んでいた。今日は早く寝てしまおう、そう思いながら加賀観は家の中に入って行った。

 

 

 

 

「そう言えばあの時、色無と田島は何をしてたんだ?あの時間だと更衣室は、運動部の連中しか使わないのにな。…あいつらって運動部だったっけ?あの時間だと運動部以外は立ち入り禁止だったはずだけど。…まあ、良いか。あいつらが窃盗なんてしていたとは思えないし。」

「おーい、高山ー!何やってんだー?早く帰ろうぜぇー!あれ、どこだー?」

「ここだー!今行くー!」

 

 




 短い話ばっかりですが、いずれは長くしたいです。その前に資料集めなくてはですが。

 2/28 追記しました


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まだ、夏には早いようだ

 


 

 

「加賀観、今日はこれを運んで貰うぞ」

「先生、補修はこの前ので終わりませんでしたか?頼まれる様な事をした覚えが無いんですが」

「いや、今回は別にそう言う事では無い。ただ、お前が近くにいたからだ。ツベコベ言わずに手伝え」

「そんなのって無いですよ!悪い事してないのなら雑用なんかしたくは無いですよ俺!」

「なら、先行投資だ、これから先にお前がしないとも限らないからな。その時の為に徳は積んで置くものだ」

「そんなこと言って、ていの良い雑用係にしないで下さいよ」

「はぁ、時間が無いというのに。…なら、今度飯でも奢ってやるから手伝え」

「…ほんとですね?…わかりました、手伝いましょう」

 

 紅先生は俺らのクラスの担任の先生で、数学と歴史を担当している先生だ。一応、頭のいい俺には必要ない気もするけど、紅先生を怒らせたくないので授業には参加してる。周りからは鬼だ阿修羅だ言ってるが、優しい所も有る。小テストで0点取ると、右手で頭を撫でながら次は頑張ろうと声をかけてくれる。左手に課題を持って。期末テスト前には、希望者に特別授業をしてくれる。この授業を受けた者は8割方高得点を取っているのでその授業を受ける生徒はとても多い。小テストが悪いと強制だけど。他にもいっぱい有るが、紅先生の為にも今は言わないでおくとしよう。だから、その手を降ろしてください!

 

 

 

「あーと、此処と此処だな。…しかし、加賀観またやったのか」

「痛っ、もう少し優しくしてくれ」

 

 あの後、ちゃんと手伝いをしたのだが、途中でいじって遊んだのがいけなかったのか、俺は保健室にいる。紅先生に殴られた頬を冷やしてるのだ。因みに、保健室の先生は今日は出張だ。

 

「なあ、俺最近こういう軽い怪我の処置になれたんだけど、どうしてくれる?」

「何だ、俺のおかげかな?俺が体を張って経験を積ませているからだろうか」

「慣れたのはお前のせいだっての。・・・・良し、終了だ」

 

 まだひりひりしてるが時間が経てば収まるだろう。まったく、もう少し抑えて欲しい物だ。

 

「そういえば、聞いたか?」

「ん?」

「is学園で事件があったらしいぞ」

「マジかよ?」

「弟のメル友が言っていた」

「・・・・宛てに何の?」

 

 こいつの弟は引きこもり予備軍だ。外じゃほとんど喋らんがネットの中じゃそれなりに有名な奴だ。神の弟の情報網はすごいけどセキュリティーレベルがかなり高いらしいis学園はきついだろ。

 

「大丈夫だ、お前の妹にも聞いたから」

「なら、最初からそっち言えよ…。…お前連絡先を交換してたのか」

「兄が苦労を掛けますがよろしくお願いしますだと」

 

 我が妹は今年の春is学園に入学した。いろいろとハプニングがあったみたいだけど元気なんだそうだ。姉が言ってた。

 

「まあ、噂の男性操縦者がいるから何かは起きるだろう」

「織斑一夏か、噂だとそこそこモテてたそうだぞ」

「まあ、俺たちには関係無いだろう。フラグでも何でも無しにな」

 

 

 

 

 教室に向かう途中、嬉しそうにケータイを見ている布枯が見えた。あんなに嬉しそうなのは珍しい。気になった俺は布枯に声を掛けた。

「なんかいい事でも有ったのか?布枯」

「ああ、君か。妹から無事の連絡が来てね。喜んでた所さ」

「お前の妹どっか行ってるのか?」

「何、君の妹と一緒さ、今年から通ってる」

「へー、案外世界って狭いんだな」

 布枯の妹もIS学園に通っているんだな。まあ、去年と今年は入学生の数も増えているって姉さんから聞いていたし、布枯の妹が入学していたって不思議じゃない。それに、今年は男性操縦者がいるんだしよけい多いんだろうな」

「私の妹はそれ狙いだけで入って訳では無いよ」

「またか、…まあ、家の妹もそうだしな」

「俺の妹もいつかはそうなるのだろうか…」

 やはり、布枯の前だと出しているのか…。神は何か思い悩んだ感じなのでどうだったか聞けないし、何で布枯の前だと出るんだろうか?出した覚えは無いんだけどなぁ。

「っと、二人ともそろそろ授業が始まるぞ」

「もうそんな時間か」

「じゃあ、お先にね」

 布枯はそう言って教室に入って行った。自由だなぁと布枯の行動を見ながら思ったが、授業が始まりそうなので、俺達もそれに続いて教室に入った。次の授業は数学だな。…また紅先生かよ。今日で3回目だぞ、いくら何でも多すぎないか?まあ、最初の物理は仕方ないとしてもなぁ。また、立たされるのかなぁ。

「どうした加賀観、いつもの元気がないぞ?」

「そりゃぁ、無いよ。紅先生の授業だし」

「そうか、それは悲しいな」

「えっ、…なっ、紅先生!!あっと、そのですねぇ」

「まあ、良い。早く入れ、授業を始めるぞ」

「は、はい!」

 いつの間にかいた紅先生になかなかヤバい愚痴を聞かれた。弁解しようとあたふたしていたら、早く入れと言われた。…おかしい、いつもならばここで一発いっていたのに。何か有ったのだろうか?例えば、婚活で失敗したとか…いや、それは無いか。何が有ったのかは分からないが、罰が無かったのは良かった。あれはとっても痛いから出来れば食らいたくなかったからな。

 

 授業中も何処かおかしかった先生の様子を観察していたが、先生は特におかしい事は無かった。よくわからないが、腹の虫が良かったと思っておこうと思う。考えてもきっと、分かんないだろうからな。さあ、帰ろう帰ろうっと。

「おや?色無か、まだ教室にいたのか」

「長谷川先生じゃないですか、どうかしたんですか?」

「いや、偶々ここを通りかかっただけだ」

 教室の」入り口に立っていたのは、長谷川先生だった。彼は三鷹学園高等部の教師で俺が所属している観察記録部の顧問でもある。最近は俺が関わる会議なんかは無かったので、合っていなかった。

「そうだ、色無。近い内に運動会についての会議が有るぞ。日程はまだ決まっていないが、お前たちも参加して貰うから覚えておいてくれ」

「了解で少し」

「じゃあ、気を付けて帰れよ。」

 長谷川先生は、そう言って教室を後にした。方向的に職員室に向かったのではないと分かった。おそらく見回りの途中だったのだろう。

「さて、帰るか」

 

 

 

 

 その夜、2人からメールが来た。

 

『お兄ちゃんへ、最近周りが賑やかになってきました。噂の男性操縦者には会ってないけど、織斑千冬先生には会いました。凛々しかったよ。紅先生といい勝負だよ。一人暮らし大変かもしれないけど頑張ってね』

 

『鏡へ、入学式の雰囲気もだいぶ薄れて来たわ。先輩として1年生にいい見本になるように頑張るわ。あなたもそっちでも頑張りなさい』

 

「そっちも頑張れよ」

 

 




 キャラ崩壊のタグもそのうち入れないとと思います。


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まだ熱射病は早いですよ、先生

 まだまだ、夏は来ない。これは桜が散り始めた4月の半ば位のお昼休みの事だ。

 

「ちょっと待て、加賀観。それは昨日の話か?」

 

 何のことかな?・・・・話を戻して、昼休みの事だ。俺は弁当なんて作らないからいつも学食にお世話になっている。安いしおいしいしな。んで、食堂にむかっていたんだ。そしたら、その時にカツラ木先生がいたんだ。先生は学校近くの畑で重機を動かしていたんだ。この学校の先生はアグレッシブな人が多いからな、その事については特に不思議には思わなかったんだ。いつもおとなしい感じの先生だからギャップはすごかったけどね。…ああ、カツラ木先生で思いだした。前に俺がカツラ木先生のカツラ盗んだ時に気づいたんだけど、どうもカツラ木先生のカツラは皮膚の部分を皮で作ってあったんだ。普通のカツラもそうなのかはわからないけど、とてもびっくりしたね。

 

「ねえ、カツラ木先生ってカツラだったの?」

「なんだ知らなかったのか、布枯?」

「結構有名な話だぞ。サボりたかったらカツラを奪えって。だから、この前の授業が自習になったのは加賀観が先生のカツラを取って隠したからなんだ。一部の男子が加賀観を崇めていたのはそう言う事だ。」

「ああ、あの理由が良く分からなかった自習はそれが原因か。……そう言う手があるなら、今度してみようかな。」

 

 あの後に、高山や井戸田から飯を奢って貰ったからな、いい仕事をしたぜ。…んじゃあ、話を戻して、俺は食堂に向かったんだ。今日はカツカレーを食べるぞって。んで、食堂に入ったんだよ。そしたら、食堂の隅の方で何かパシャパシャ言わせてる集団があってよ。それで気になったから近づいたんだ。そしたら、保健室の葵先生がジャンボフジヤマパフェを食ってたっだ。あれ食ってる人初めて見たからってみんなカメラで撮ってたな。無理もないと思うけどな。あれ食ったら四日は飯いらないもの。

 

「あれ、ジャンボフジヤマパフェって裏メニューじゃ無かった?何か普通に皆知ってるも物みたいに聞こえるけれど。」

「いや、メニュー表載ってるぞ。デザート欄の外の所にちっこい文字で書かれている。」

「まあ、メニューにあっても誰も頼まないからな。一度、チャレンジャーがいたんだけど、その時の量がとんでも無くて皆引いてたんだ。だから生徒で頼む奴なんてめったにいないんだ。まあ、保健室の先生は割と頼んでいるって噂は有ったんだがな。」

「え、そうだったの?…意外だね。」

「何か、引っかかる言い方だな。他に誰か頼んでる人を見たのか?」

「ああ、親友が良く頼むんだ。ただ、頼んだ彼女がこのメニューって、裏メニューなのかなって言ってたからね。そうなのだと思っていたんだけど、そうかメニュー欄に一応有ったのか…。」

「布枯の親友…ああ、彼女か。そうだな、彼女なら食べれるか。」

「おいおい、二人で分かり合ってる所悪いが、俺は知らんぞ。」

「後で見ればわかるだろう。」

 

 そう言う物なのか?…まあ、話を進めようか。葵先生のジャンボフジヤマパフェには驚いたが、無事に俺はカツカレーを買ったんだ。そしたら、前方に紅先生を見つけたんだ。先生は辺りをキョロキョロしながら何かを探している感じだった。その時、俺は何となく先生の視線に入らない様に動こうとしたんだ。嫌な感じがしたからな。でも、動き出すのが少し遅かったのか、先生は俺を見てニアリって笑ったんだ。チョー不気味にな。その時俺は気づいたんだ。先生の左手に持ってる物にね。布枯、紅先生の趣味って知ってるか?

 

「ん?……課題作成?」

「あの人いっぱい出すもんな、課題。」

「わからん事も無いけど今回は違うな。それは料理だ。」

「料理?あの紅先生がかい⁉」

「ああ、あの泣く子も黙る紅先生がな。意外だろ?」

「ああ、いや、先生も女性だし女性らしい趣味を持っていてもおかしい事は無いのだろうが。…駄目だ、今の先生では想像が付かない。」

「そんなに言うほどでもないとは思うが…。」

「いいや、あの先生だしな。今のイメージじゃ無理だな。多分、クラスの奴らに聞いても同じ感じの返答が返って来るだろうよ。」

「…ドンマイだな。」

 

 んで、話を戻すぞ。紅先生は俺にこう言ったんだ。「これ食って感想聞かせろ」ってな、相手が紅先生じゃなかったらめちゃくちゃ嬉しい事だよな。女性の手料理を貰える訳だから。ん?手料理にそんなに魅力があるのかって?…あるだろう、それが好きな人ならもっとグッとだな。で、食べたんだ。物体Ⅹとは言わないが、不穏な雰囲気が料理から溢れてたのはホントだな。まあ、目の前で先生が仁王立ちしてたからってのもあたのかな。食った感想をすぐに貰いたかったのか、俺が食い終わるまで先生ずっと仁王立ちで待ってるんだぜ?何か威圧感やらを感じたから必死に食ったね。…ああ、料理は海鮮風スパゲティだと聞いた。

 

「海鮮風ねえ、味はどうだっただい?」

「……………塩の味がした。」

「料理の感想としてそれはどうなんだ?もっと、此処がこうでおいしかったとか、全体でこうなってとかないのか?」

「しかたないだろ、それしか感じなかったんだから。コメントのしようがない物にコメントを広がす材料は無いんだよ。」

「塩しか感じないって、どういう事なんだい?」

「・・・・麺が塩味なのはまだわかる、普通は麺単体の味って感じない気がするけど。貝から塩の味もまだわかる、塩蒸しとかあるからわかる。でも、合わせて食べたら結果、塩味はおかしくない?貝とかどこ行った?それに、飲み物が食塩水みたいだったんだけど。」

「色無、それ先生に言ったのかい?」

「当たり前だろ?これは塩ですねって言ってやったは。」

「それ言って、先生どう反応したんだ?」

「……塩分は大事だって言ってた。」

「……」

「……」

 

 

 

 

 

 

 

「…ふむ、やはり入れすぎだったか、3キロは。」

「当たり前ですよ、そのせいで食堂から塩が無くなりそうなんですよ。」

「む、それはごめんなさい。熱中症にならない様にと思っていたらドンドンと量が増えてしまってな。…ごめんなさい。」

「まあ、塩に関しては補充が間に合いますから良いんですがね。…はぁ、先生のその残念な感じが変わらないのは良かったのか悪かったのか、私には判断が付きませんよ。」

「これでも色々と頑張ってはいるんですよ。色々と…。」

「はいはい、それが空回りしない事を祈っています。」

 




 先生方を紹介する話でした。


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親の弁当のありがたみは一人暮らしなって初めてわかる物なのかもしれない。

 


 よう、最近はご無沙汰だった気がしたからやっとくわ。しかし、校庭の木々が緑になって行くのを見ると、春よりも夏の感じがしてくるな4月だけど。でも、まだ半そでには少し寒いんだよな。そこの窓から吹き込む風が少しの寒さと共に俺の整えていない髪を揺らすが、俺の髪よりも今一番揺らして欲しいのは目の前の鬼だ。

「加賀観、何呆けている。早く34ページを読め」

「あー、えっと、源頼光は平安時代中期の武将ーーーー」

 

 今は歴史の授業、我らが紅先生の授業だ。今日は平安時代の勉強をしているが、2ページ位しか無く終わり次第に鎌倉時代の勉強に移って行く。今の時代歴史の授業は触りの部分だけを教えて他の教科に時間を使うのが主流になっている。こういう授業体制になったのはisの登場により行われた授業改革によるものだ。Isの登場により日本の体制に大きな改革が必要になった。日本人が開発した超兵器Is、日本で生まれた超兵器はあっと言う間に世界に大きな波紋を呼び、世界の価値観を塗り替えていった。

 そんなIsの発祥の地となった日本としては、これからの時代の最先端を走りたいと考えるのは当然の事だろう。そこで日本はIs研究が進むに連れて、新世代の誕生を望んだのだ。その考えにより、日本のカリキュラムに新しくIsの項目が出来上がったのだ。だが、この改革も簡単にはいかなかった。今までのカリキュラムにIsの授業を入れたとしても授業時間が足りないのだ。そこで政府は今最も重視しているIsを入れ込む為に、その他の授業の時間を削る事で時間を確保しようとしたのだ。そして、削られる授業は国数理以外の授業となった。この決定にその分野からは大きな反対があったのだが、政府はそれを押し切ってこの改革を実行した。それにより、今の学生の学力は酷い偏りがあるとテレビの評論家は口々に言っていた。

 改革の影響はカリキュラムだけでなくその他にも及ぼしていた。特に直接的な影響を受けたのは教科書の作成だ。政府の改革では授業の削られる部分が酷く曖昧になっていた。それによって、教科書に乗せる項目をどれにするかが制作側に一審される影響で、出版社によって習う箇所が変わってしまう結果になった。これによって大きな影響を受けたのは歴史だ。歴史は日本史と世界史があって、授業も半々かどちらかに偏るかだが改革でその匙加減が難しくなっていた。だから、教師達も何が正しいかが分からず酷く困っているらしい。此処ではとりあえず教師が重要だと思う所を飛ばし飛ばしで教えている状況だ。ただ、こういった問題は大人の問題で学生としてはたいして変わらないのだ。習う物は変わるのだが、それに当てる時間は変わらないからだ。…いや、is分授業が難しくなっているのが少し不満か。改革で教科書を使っての授業が難しくなったが、isの登場でインターネットや電子機器が大きく発展した結果、授業をパソコン使って行う学校も増えてきていた。それによって情報の更新がやりやすくなった事でそれようにカリキュラムを考える所もあるようだ。

 

「ーーーで、あったとされている」

「良し、座れ。・・・・では、平安時代はこれで終わる。次は、鎌倉時代だ。教科書は36ページだ」

 

 まあ、此処は教科書なんだが。

 

 

「加賀観、お前何かあったのか?」

 

 午前の授業が終わり、昼休みに入ったタイミングで神が俺に近寄りそう言ってきた。布枯もしれっと寄って来ていた。

 

「何でだ?」

「お前が紅先生の授業以外で起きてるなんて、珍しいからだな」

「そんなにか?他の授業だって当てられた時は起きてるだろ。昨日もその前もそうだっただろ」

「それって起こされてるの間違いじゃないかい?」

 

 まあ、確かにいつもは寝ているカツラ木先生の授業や柏崎先生の授業も今日は起きてたがそれでこの言われようは何だろうか?そんなに俺の態度が悪いと言いたいのだろうか。これでも自分では頑張っているんだけどなあ。

 

「別に何かあった訳じゃねえよ」

「怪しいね」

「ああ」

 

 本当の事言ったのに疑われる、嫌になるね。神達の気持ちもわかるけども。まあ、理由も無い訳では無い。だけど言う事でも無いので言わない。そう言う感じに行くのが今日の俺って感じがするからな。

 

「まあ、俺の事はどうでも良いっての。それより飯食おうぜ、ほら」

「…そうだね。お腹すいたしね。…?」

「ん?加賀観、お前今日は弁当なのか?」

 

 あ、やべえ忘れてた。俺いつも食堂で飯食ってたんだ。…くっ。

 

「おや?何もなかったんじゃなかったっけ?」

「ああ、加賀観が弁当か…」

「……」

 

 布枯の奴がすげえにやけてやがる、弱みを握ったと言わんばかりの顔をしてやがる。神は珍しいものを見たって感じの顔だな。いや、観察しても状況は変わらないんだけども。何で、あそこでミスってんだ。ちきしょう。

 

「ほらほら、早くいいなよ」

「…ちっ、…母さんが泊まりに来てんだよ」

「……へえ」

「加賀観の母親か…、そういえば会った事ないな」

 

 ん?布枯の反応が予想外だが、神とあった時にはもう一人暮らししてたし、母さんめったにこないから会ったことが無いのもうなずける。今回来たのも一年振りだしな。最近は父さんも母さんも忙しいらしいからな。今回来たのに驚いたもんな。

 

「まあ、中学の時は遊ぶ時は基本的にお前ん家だったしな。来てても会う機会は無かったろうさ。」

「そういえば、そうだったな。というか、あの時は飯も俺ん家だったな」

「ああ、あの時はホントに助かったぜ」

「…じゃあ、その弁当はお母さんに?」

「ああ、朝起きたら持って行けってな。まあ、このせいでばれたんだが」

「隠す程でも無かったんだろう?それなら普通に有難いだろう」

 

 朝5時位に起きたのに、弁当は置いてあった。少し温かかったから4時位だろうか?太陽すら上げってないぞ?早起き過ぎるよ。というかあの時母さん寝てたよな。二度寝か?

 

「…ねえ、今日さ、君の家に行って良いかい?単純に興味がある」

「はっ?何でだよ、嫌だぞ。なんでわざわざ親がいるのに人招くんだよ」

「加賀観の家か、そうだな俺も行きたいな。中学の時は何だかんだで行った事が無かったし」

「神までもかよ……、いやー、うーん…」

「頼むよ」

「あーわかったわかった、ちょっと待ってろ。母さんに連絡してみる」

 ため息をつきながらスマホをいじる。電話帳の履歴欄の一番上に母さんの名前が載っていた。昨日連絡を取り合ったのだから当然だった。

「あー、母さんか?今ーーでーーーあーーうん」

 

「あー、母さんからOKが出たからきていいぞ」

「それは良かった。…何だかわくわくして来たな」

「中学時じゃないんだから、そんなにわくわくとかされても困るんだが」

「こういう感じで訪問するのは初めてだからな。いやー、楽しみだな」

「うん」

「何か、凄い後悔してんだけど」

 はぁ、とため息が漏れた。何もなきゃ良いけど。

 




 ポケモンxyのブティックって曲がなかなか良かった。ただそれだけ。


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懐かしい味と匂い

 


 よう、同じ日にまた挨拶する事になるとは思っても見なかったぜ。今は学校も終わって、布枯と神を連れて俺の家に向かっている所だ。ホントに気が進まないのだが、母さんの許可も出てしまったし、俺だけでは断る理由が出てこないんだ。だから、仕方なく二人を案内しているんだ。

 

「その様子だと、挨拶は終わったのかい?」

「ん、何の話だ?」

 

 どうやら布枯には聞こえていたらしい。ホントに何なんだこいつは・・・・。

 

 

「加賀観はマンション暮らしだったのか」

「ああ、アパートでも良かったんだけど、母さんがこっちの方が便利だってマンション借りたんだ」

「掃除の事をふまえるとどっちもどっちだと思うが」

「まあ、そうなんだが、母さんなんかが泊まりに来る事があるからだろう」

「とりあえず、行こうよ。ここで止まっていても仕方ないだろう?」

「それもそうだな、入るか」

 

 セキュリティーを解除して、階段で部屋のある階までやって来た。途中、神が景色を眺めたり、布枯が深呼吸したりといろいろあったが、俺の部屋は6階なのでゆっくり歩いてた。部屋の前まで来て、電子ロックと錠前の二重ロック解除して中に入った。

 

「母さん、ただいま」

 

 中まで聞こえる位の声で俺は中に帰宅を伝えた。

 

 

 

 

 

「あら、おかえりなさい。早かったじゃない。それで、その子たちが友達かしら?」

 

 リビングで俺らを迎えたのが、俺の母さんである色無霖だ。母さんは息子の俺から見てもとても若々しくて、30超えているのに10代後半とよく言われる人だ。保護者参観の時は周りの保護者と比べて母さんが若く見えるからか、母さんと言っても信じてもらえなかった。この人、三人産んでるんだけどなぁ。

 

「うん、そうだ!こっちが中学から一緒の神」

「初めまして、田島神です」

「それで、こっちが布枯」

「…初めまして、布枯礼です」

「はい、神君と礼ちゃんね。私は色無霖よ、よろしくね」

 

 緊張してんのか?神と布枯が硬い感じがする。…いや、神は母さんが若い層にみえるから驚いているように見えるな。まあ、母さんと話してれば治るだろう。何か母さんって、不思議な雰囲気を出してるのかとても落ち着くんだよな。

 

「それで、何するんだ?家でできる物はそう多くはないぞ?」

「ねえねえ、やることがないなら加賀観や学校の事を教えてくれないかしら?」

「加賀観と学校…そうですね、良いですよ」 

「うん」

「待って、それは止めよう。俺がとても楽しくない。というか、母さんが普通に混じってるのは可笑しくないか」

「えー、良いじゃない。母さんも息子が学校でどんな事してるのか気になるわよ」

 

 学校生活の事を親に言われるとかよろしい物じゃないぞ。特に、俺ってあんまり良くないんだし。いかんな、ホントに止めねば。

 

「なぁに、お母さんに言って欲しく無いことでも有るのかしら?怪しいわねぇ」

「いや、別に無いけどさ!こう、なんていうか……」

「なら、良いじゃないの。ねえ、神君?」

「え、あ、はい。そうですね、加賀観は普段学校で元気に寝てますね」

「おおい!神、何言ってんだ!止めれー!」

「…諦めた?この人にかないそうにないよ?」

「どうしようもないってか、くそぉぉぉ!!」

 

 俺は必死に抵抗した。しかし、母さんの雰囲気に飲まれた神は俺の静止で止まる事は無かった。俺の抵抗も虚しく、始まってしまった。

 

「じゃあ、この子は学校でちゃんとしているの?さっき、寝ているとか聞こえたけども」

「加賀観は、学校にはちゃんと通ってますよ。ただ、一部の先生の授業では当てられるまで机に突っ伏してますね」

 

 じーん!少しはぼかせよー!なんで、そのままを言っちゃう?お前は友達が窮地に立たされてるのを見たら突き落とすのか⁉少しは何か良さげな事を言えよ!

 

「あら、駄目じゃない加賀観。学校では、ちゃんと授業を受けなさいって、よく言ってたでしょう?あなた、頭だけは良いんだからそれに奢って色々な事を蔑ろにするのは悪い癖よ。そんなのだからお姉ちゃんに勝てないのよ?」

 

 姉ちゃんは今関係ないだろ⁉説教の為に姉と対立してますみたいなの言わなくて良いから!姉ちゃんなら乗りそうだけど、今は本当に関係ないだろ⁉

 

「礼ちゃんは何かあるかしら?加賀観がもっと有るみたいな反応をしているし、ドンドン言ってちょうだい!」

「そうですね、彼は基本的な不真面目なタイプですので、先生のカツラを弄ったり先生の私物に手を出したりと割と多いですね」

 

 布枯、そんなのを俺はお前に臨んじゃいなかったぞ!というか、先生の私物に云々はお前もその場にいただろう、何自分は関わってないみたいに言ってんだよ!

 

「もう、なんとなくわかったわ。……加賀観、あなた働く?」

 

 いやです!まだ、働きたくありません!学生をしていたいです!

 

「なら、もう少し頑張りなさい。貴方はやらなくても出来る子だけど、そんな様子ならやる前に切られるわよ?そうなったら困るのは貴方でしょう?」

 

 はい、おっしゃる通りです…。

 

 

 

「あら、もうこんな時間ね。もうすぐ、日が暮れるわね」

 

 あの後、学校や趣味なんかの事をはなしていた。時間が経つのは早くて、あっという間でもう夕方だ。

 

「もうか、あっという間だったな」

「そうだね、霖さんとのおしゃべりはとても楽しかったです」

「うふふ、ありがとう。あっ、そうだわ、二人共時間まだは大丈夫かしら?」

「え、はい、大丈夫ですよ」

「なら、夕食を一緒に食べましょう?もう少し、おしゃべりしたいし」

「加賀観、良いのか?」

「ああ、母さんが良いって言ってるからな食べて行けよ」

「なら決まりね、礼ちゃん、手伝ってくれないかしら?」

「はい、わかりました」

 

 そう言って、母さんと布枯は台所に向かって行った。

 

「はぁ」

「大分お疲れのようだな?」

「誰かさんがべらべらと母さんに話すからだろ?こっちは説教もされたし、言われたくない事も言うから疲れたぞ」

「悪いな、でも、お前の学校での事は先生達も言ってたからな。そろそろ直さないと、霖さんの言っていた通りになりかねんぞ?」

「う、そうなのかもしれないけどなぁ。」

「これを機会に少しは直しても良いと思うがな。まあ、お前の事だし頑張れ」

「はぁ」

 

 その後、料理が出来たのか母さんと布枯が作った料理を運ぶようにと俺達に言って来た。まあ、作って貰ったので素直に皿等を運んで行った。

 

「いただきます!」

 

 美味しそうな料理達を四人で囲う。いただきますの合図で箸を伸ばしていった。どれもおいしくて、正直話なんて後に回して食べてた気がする。神もそうだったから気にしないのだけど。ただ、端に置いてあった卵焼きは何故かとても懐かしく感じた。なぜなのだろうか?母さんの味って訳でもなかった。不思議なものだ。

 




 この小説の終着点が見えてこないがとりあえず、書いて行きます。


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委員長は頑張ります!

 


 

よう、今日は雨がザンザン降ってるぞ!

 

「何だい、挨拶はそんなので良いのかい?」

「何だ、また挨拶してたのか?」

 

 良いの良いの、これも挨拶と呼べる物だよ。そんな頻繁に長ったらしい挨拶何て考えられないからな。短くても別に問題は無いんだよ。俺もあんまり気にしない様にしているしな。というか、今まで挨拶を真剣に見てる人いないだろうしな。

 

「加賀観、挨拶もいいが課題もちゃんとして来るようにな」

「はぁい」

 

 今は、科学の柏崎先生の授業だ。今日は先週の授業終わりに配られた、実験レポートの提出日だった。実験内容は寝ててあんまり覚えてなかったからレポート何か書けるわけがなくて、神に泣きついて書かせて貰っている。柏崎先生がそこらへんは寛容な方なので、放課後に提出出来ればそれでいいと期限を延ばしてくれたのだ。まあ、それでも時間が掛かるので急いでいるんだが。

 

「それじゃあ、授業を終わります。学級委員長」

「はい、起立、礼!」

 

 委員長の号令で授業が終わった。まあ、そんなのそこまで重要じゃなく、重要なのはこのレポートだ。この学校は科学と生物が選択なのだが、奇跡的に神が一緒だったので神のを移せているのだが、布枯は生物だから役に立たなくて困っていた。

 

「あ、色無君、科学のレポートだけど、明日までに延ばすって先生が言ってたよ」

 お、マジでか!流石先生だ、俺の状況を見て今日中は厳しいと分かってらっしゃる。よっし、これで明日までになったからには、ちゃっちゃと終わらせてしまおう。しかし、神のだけでは丸写しになるしなぁ。圧倒的に資料が足りない。どうしたものか…。

「ん、どうしたの?」

「あ、そういえば委員長って科学だったよな?」

「うん、そうだよ。それがどうかしたの?」

「ああ、できたら教えてくれない?手元に今回の資料とかが無くてな」

「あっ、そうなんだ、うん良いよ。えっとね、ーーー」

 

 委員長の協力のお陰で無事レポート期限に間に合った。本当に委員長には感謝である。

 

 

「あれ?どうしたの田島君?」

「委員長か、良い所に来てくれた!ちょっと保健室に来てくれ!」

「え、う、うん。」

「最近、保健室の先生が失踪気味で困ってたんだ。けが人が何でか多いいこの学校で治療できる人がいないと大変な事になるからな!」

「え、先生いないの?もしかして、田島君がケガの治療をしてるの?」

「先生がいないからな!今は紅先生に要請して、探して貰っている。だが、いつ戻って来るかわからないからな。野球部の連中が大量のけが人を運んで来やがったから手が足りないんだ」

「わ、わかったよ」

 

 

 

「すまんな、委員長。無理やり手伝わせる形になってしまって」

「うんん、それは良いけど、何があったの?こんなに怪我人が出るなんて」

「ああ、また加賀観が腕相撲大会(乱闘可)を開いたらしい。俺は現場にいなかったが、実際に見ていた野球部の連中から聞いた情報では、その大会で我した者もいれば、話を聞きつけた紅先生が暴れてそこで怪我した者もいるらしい。どっちも幸いな事に軽傷だったが」

「そうなんだ、委員長として注意しようかな?」

「頼む」

 

 

「あれ?委員長何やってんの?」

「あっ、礼ちゃん!そっちこそ何やってるの、もしかして怪我したの?」

「いいや、違うよ。田島を呼ぼうと思ったんだけど、忙しいみたいだから教室に帰ろうとしてたんだよ」

「そうなんだ、じゃあ、一緒に上がろう?」

「良いよ、行こうか」

 

 

「あっ、色無君」

「委員長じゃないか、どうしたんだ?」

「聞いたよ?危ない事したって、怪我人も出たんだよ?そう言う事をやるなとは言わないけど、もうちょっと注意してよ。田島君も保健室に呼び出されていたんだよ!私も手伝ってやっと終わったんだからね」

「あー、いや、最初は普通に腕相撲大会だったんだが…、誰かがくすぐりをやり始めてから何でもありみたいになってな、悪かった。」

「本当に?気をつけてよ?」

「ああ、…神は今どこにいるかわかる?」

「保健室だと思うよ、謝るならちゃんと言った方が良いよ」

「わかった、ありがとうな」

 

 

「あ、紅先生!」

「ん?…ああ、常葉か。どうかしたか?」

「先生、田島君から聞きましたよ。暴れたって、何でそうなったんですか!」

「え、あー、そのだな、何と言うか…。加賀観達が余りにも騒がしくてな、抑えようとしたんだがどうも力加減を間違えてしまってな?こう、けが人が出たわけでな……」

「先生、そういうのは程ほどにするべきって前から言ってるじゃないですか!今日だって田島君が保健室に呼ばれてて大変だったんですよ!」

「ああ、知っている。田島には先程礼を言って置いた。そう言えば、常葉も手伝ったのだったな。改めてすまない、そしてありがとう」

「気を付けてくださいよ」

「ああ」

 

 

 




 委員長紹介回


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キーイベント

 

 

 よう、前はいつの間にか委員長に持ってかれた気がする今日この時。まあ、委員長には感謝してるんだけどな。あの後、神にも謝ってスッキリした気分のまま帰れたからな。今日も委員長にはお世話になったからあんまり頭が上がんないんだよね。俺の他にもクラスの奴らの中には委員長に頭が上がんない奴が沢山いる。委員長の身体は小さいがとても頼られてるのがわかるだろう。

「あれ、色無君何か用事でもあった?」

「いや、委員長に感謝してた」

「……何かしたっけ?」

 本当にな、何やったらこう育つんだろうか?不思議でならんわ。

 委員長はその後、用事があると教室を後にした。そして、時間は放課後まで進んだ。

 

「ん?」

 おかしい、……やっぱりおかしいな。

 何時ものように教室も机の上で寝ていた俺は、ふと、自分のズボンに違和感を覚えた。そして、違和感を元にポケットをまさぐる。何も無かった。鞄の中を探る。何も無かった。

「加賀観、急にどうしたんだ?ポケットや鞄を引っ張り出して何やってんだ?」

 ここにあったはずなんだが……どこ行ったんだ?

 もう一度探る。無い、無い、無い。

「…おい、マジで何やってんだ?」

 どこに行ってしまったんだ。

 

 

 

「あれ?何だろうこれ?鍵、だよね。落とし物かな?」

「ん、どうしたんだい?委員長、困った顔して」

「あっ、礼ちゃん、これが落ちてたんだ、落とし物かな?」

「鍵か、落とし物だろうね。鍵を落とすなんて持ち主はとてもおっちょこちょい何だろうね。…ん?そういえば、この鍵どこかで見たような」

 

 

 

「はぁ?鍵を落とした?」

「ああ、探したけどなかった。いつも入れてる場所はだいたい探したから無いのなら、どっかに落としたんだろうな」

 その後もひっくり返した鞄にもポケットにも入っていなかった。鍵を落とすなんてこれまでした事が無かったから警戒して無くて、結構雑な入れ方をしていたと今になって思う。

「なんか覚えてないのか?探すにしても範囲が広すぎるぞ」

 うーん、家を出る時はあった。学校は…あった。それからは………。

「学校までは有ったと思うから、学校に来てから落としたんだろうと思う」

「……学校に来てからか、それならばある程度絞れそうだな。学校来てからは何をしてたんだ?」

 うーん、学校来て、屋上行って、委員長にあって、教室に来たな。

「屋上か。…屋上?あそこで何してたんだ?」

「黄昏てた」

「…まあ、ひとまず行くか。」

「何か馬鹿を見る目だな」

「実際馬鹿だろ。屋上で黄昏て、鍵を無くす。馬鹿だろ?」

 うん、馬鹿だったごめん。

「そういえば、布枯はどうした、あいつこういう時はいつもお前を笑いに来るだろ」

「ん、そういえばいないな。…まあ、委員長と一緒なんだろ」

「まあ、そうか。…そういえば、委員長にもあったんだったな」

 そうだった、課題の手伝いを委員長にお願いしたんだった。その時は、鍵を持ってたかな?

「もしかしたら、委員長が拾ってたりしないかな?」

「さあな、ひとまず屋上に行くか」

 仕方なさそうな、神を連れて俺は教室を後にした。

 

 

 

「あっ、委員長!それに布枯さんも良いところにいたよ。ちょっと頼みたい事が有るんだけど、今良いかな?」

「ん?槙原さんか、どうしたんだい?」

「今ね、今日が提出日の課題をチェックしてたんだけど、色無君の物が見当たらないのよ。それで彼にその事を聞こうとしたんだけど、彼って神出鬼没みたいな所があって私じゃあ捕まえれないのよ。だから提出物の事を本人に出したか聞いておいて貰える?」

「そういうことなら良いよ、私達も少し校舎内を歩き廻る予定があるからついでに見ておくね」

「本当に?とても助かるわ、ありがとう。彼から話を聞けたら、彼に職員室の多々野先生に伝えるように言っておいて。じゃあごめんね、彼の件をよろしくね」

 

「色無君への伝言を先にした方が良いよね?」

「まあ、先生を待たせる事になりそうだからね。彼ならさっき教室にいたはずだから行くならば寄ってからにした方が良いかな」

「教室か、ここから近いから先に行こうか」

「委員長に任せるよ」

 

 

 

 

 

「で、来たがありそうか?」

「……いや、無さそうかな」

 だいたい、ここの辺りだからここにないのなら他の場所だろう。

 黄昏時に座っていた場所を確認するも、鍵は無かった。

「じゃあ、次は委員長を探すか?」

「それが良いかもしれない」

 そう言って、俺達は屋上を後にした。

 

 

「…いないみたいだね、帰っちゃったのかな?」

「……おかしいな、彼の今日の予定ではこの時間はまだ教室で田島と話しているはずだけど、…委員長、下駄箱へ行ってみよう。それをみてからでも間違いは無いから」

「そうだね、それが確実かな。色無君、帰って無きゃ良いけど」

 

 

 

「しかし、委員長はどこだろうな?」

「流石にそんな事は知らんぞ」

 あの後、俺達は当ても無くてきとうに廊下を歩いていた。偶にクラスの奴とすれ違うのでその時に委員長の事を聞いたが、知らない奴らばかりだった。

「あれ?色無君と田島君じゃない」

「ん?」

「…ああ、槙原さんじゃないかどうかしたか?」

 へー槙原さんね、良し覚えた。……危なかったな、神が言わなかったら思い出せなかったけど。

「あっ、色無君、委員長にあった?」

「へっ、委員長?いや、あってないぞ?…というか、こっちが探してる」

「あちゃーすれ違いだったかぁ。…でも、折角あったしなぁ」

 こちらの返事に槇原さんは、やっちゃったと頭に手を当てるポーズを取る。彼女はその仕草を良くするのか何とも様になっていた。

「委員長がどうかしたのか?」

「うん、君を探すのを手伝って貰ってたんだよ。君っていつもどっかに行っちゃうから捕まらないんだよ、だから委員長達に君の捜索を手伝って貰ってたの!…なのに、何で頼んですぐに私が見つけちゃうのよ」

「え、それって俺のせいなのか?」

「どうも、原因はお前っぽいな」

 急に槇原さんが怒涛の愚痴を吐き出し始めた為、俺はたまらずたじろいた。神は冷静に原因を突き止めたようだが、俺はちっとも記憶に無いんだが?だが、それでは解決しないのは明白だ。

「あー、ごめんな槇原さん。それで用事って、何だったの?」

「…うん、君に多々野先生から伝言を預かってるの面倒だからぱっと、言っちゃうね。……色無加賀観問題児君へ、君もおそらく記憶している事と思うが、本日は私の担当する英語の課題問題集の提出日なのだ。だが、君の問題集が探しても見つからないようだ。よって君に出頭命令を出す。本日午後4時までに私の机に問題集と遅れた理由を用意して来るように。なお、4時を過ぎた場合は君の担任に措置を依頼するので悪しからず。…だってさ」

「………ああ、わかった。ありがとう」

 槇原さんから長い長い伝言は、どうやら今日が期日の提出物が提出されて無いから早く出せって事か。…英語って今日の時間割にあったんだ。科学の課題で頭が一杯だったから聞き逃してたのか?わからん、わからんが時間が無い事は良く分かった。多分やって無いから無記入で提出かな?これは紅先生行きかな。まずい。

「うん、それじゃあ伝えたからね?ちゃんと行ってよね。じゃーね!」

 そう言って、彼女はこちらに手を振りながら来た道を戻って行った。

「なんだ、お前、また課題貯めたのか?」

「安心しろ、提出はすぐに終わる」

 

 

 

「あっ、靴があったよ!まだ校内にいるみたいだね」

「…田島の靴も有るからもしかしたら、二人で行動してるかもね。校舎内なら彼らの行動範囲を考えれば、それ程時間はかからないかもね。」

「うん、そうだね!」

 

 



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キーパーソン

セリフだけの所は委員長の視点になります


 前回は、俺がカギを何処かで落としてしまった事で、神と共に校内を歩き回っていたんだ。そしたら、途中に出会った槇原さんから英語の課題が出てないから早く提出しろって言う伝言をいただいてしまったんだ。もちろんそんな課題はやっていないので今から先生に頭を下げに行かなければならないが、その前に課題プリントを教室で発掘しているのが今だ。

 

「見つかったか?なら、早く職員室に行くぞ。午後4時まであと数十分しかないからな」

「ああ、よっと、良し見つかった。気は乗らないが行こうか」

 

 今の時間は午後3時半頃になろうとしている。おそらく説教されるので、それを考えると鍵を探す時間が足りなくなってしまうので早く行った方が良いのだが、説教されに行くなんて喜ぶ事でも無いので、なかなか行く気にならないから何からかの理由を考えながら時間を引き延ばしているのが現状だった

 

「お前が忘れたからだろ。甘んじてお叱りを受けておけ。多少は待って置いてやるから」

「そこは一緒に受けてくれる所じゃないのかよ?」

「いいかげんお前の忘れ癖が治ったら良いなと思っている。沢山叱られたらいやでも治るだろう」

「荒治療は身体に悪そうだぞ、考えなおすんだ!」

「お前の日頃の行いだ。お前も明日からは真面目に生きる事だ」

「そんなのつまらないだろ」

「説教に時間を潰すよりかは面白いと思うぞ。…ここで、時間を潰しても何もならんと思うがどうなんだ?」

「もう少し付き合って、お願いします」

「断る、俺もそんなに暇じゃないからな。ほら、いくぞ」

 神は引き延ばしに協力してくれないみたいだ。それどころか、喜んで受けに行ってこいと言ってくる。こいつは親友の事が大事では無いのか?親友ならばそこは分かち合うとかする所だろ?ああ、俺の襟を引っ張るなぁぁぁ……。

 

 

 

「あ、委員長、ごめんちょっと用事を思い出したから一回離れるね」

「え、あ、うん。行ってらっしゃい」

「ちょっと時間かかるかもしれないから何処か集合場所を決めようか」

「そうなの?だったら下駄箱近くのベンチにいるから終わったら来てね」

「ああ、了解した」

 

 

 

「ん?あれって布枯じゃないか?あいつ図書館に何の用なんだろうな」

「ああ、そうだな、布枯だな。だが、お前が今行くべきは職員室だな。止まってないで行くぞ」

「ああっ、だから、引張るなって!」

 2階の図書館に入ろうとする布枯をみつけた。何やら周りを気にするように入っていったので、少し気になったが俺にはやるべき大儀が有るので泣く泣く諦めた。…そういえば、あいつってリボンとかするんだな、初めて知ったなぁ。

 

 

 

「まだかなぁ、礼ちゃん。…もう少し時間が掛かりそうなら私一人で探そうかな?」

「あれ、委員長じゃん、何してんだ?」

「うん?…ああ、高山君だね。どうかしたの?」

「……委員長、俺の名前忘れてたの?」

「えっ、そうじゃないよ⁉…ただ、いきなりでびっくりしただけで…」

「うん、別に良いよ、俺って影が薄いって良く言われるし。それよりも、委員長此処で何してんの?」

「礼ちゃんを待ってるの」

「ああ、布枯を待ってるのか、てっきり男を待ってるのかと思ったよ」

「えっ、男?ないない、そんなのいないよ!私に彼氏なんかにできないよ!」

「あ、ご、ごめん。委員長がそんな反応を見せるとは思わなくてな。えーと、何か奢るから許してくれ!」

「え、本当に!」

「あ、ああ、あんまり高いのは無理だが出来る物なら…」

「じゃあ、明日の昼ご飯を奢って!」

「…うん、委員長はそのままでいてくれ」

 

 

 

「あー、終わったよ……。俺の明日の昼休み…」

「むしろそれで終わって良かったじゃないか。今までの事を考えると、昼休みの清掃だけなんて軽い方だぞ」

「課題も再提出…」

「それは妥当だろ」

 あの後、重い腰を引きずられながら職員室に向かったが、そこで俺を待っていたのは椅子でコーヒーを嗜む多々野先生と此方を睨んでいる紅先生だった。そこからは、多々野先生の溜息と紅先生の叱咤が俺の耳にガンガンとダメージを与えて来た。全てが終わったのはそれから30分後だった。

「あー、今でも耳が痛い」

「紅先生のは殆ど耳元だったものな。まあ何であれ、終わったしお前の鍵探しを再開しようか」

「そうだった、それが一番だった、今まで忘れてたぞ」

 あんなの説教より拷問って言われた方が楽だぞ。最後の方なんか多々野先生が引いていたほどだぞ。30分で終わったのも多々野先生が止めたからだしな。てか、それらのせいで大事な鍵探しを忘れてたしな。

「じゃあ、次は何処を探そうか?」

「とりあえず、委員長探しで良いんじゃないか?結局まだ見つかって無いし」

「そうだったな、なら移動しよう」

 

 

「おや、高山じゃないか、どうしたんだい?」

「お、やっと戻って来たか、遅かったな布枯」

「ああ、それで委員長はどうしたんだい?うずくまったりして、もしかして君が何かしたのかい?」

「ああ、俺が軽い気持ちで言った事で委員長に嫌な思いをさせてしまった。だから、許して貰おうと何かを奢るって言ったら、元気になって今、明日の昼食を考えてる」

「なるほど、委員長が今は気にしていないなら僕が蒸し返す事も無いか。君も何を言ったのかは聞かないけど、女性に対しての発言には気を付けると良い、今回はいい経験になっただろう」

「ああ、そうだな。…所で、俺これから用事があるんだが、委員長を任せても良いか?」

「…致し方ない、明日はちゃんと委員長に奢る様に、僕からはそれでいいさ」

「悪い」

 

「あれ、高山君は?」

「彼なら用事があるそうだ。ちゃんと言っておいたから委員長は安心して明日の昼食を考えると良いよ」

「うん、何にしようかなぁ」

「さて、僕も明日の部活の事でも考えようかな?…何か忘れているような…あっ、思い出した。委員長が拾った鍵だ、そうだ、あれの持ち主を探していたんだ。僕とした事が、最初の目的を忘れるとはね、委員長」

「…礼ちゃん?」

「鍵だ」

「鍵?……ああ、思い出した!これの持ち主を探してたんだった!」

「やはり忘れていたか。まあ、僕もなんだけど」

「えっと、じゃあ、何処を探す?」

「そうだね、この調子ではだいぶ遅い時間になりそうだから、ある程度山を貼って行きたい所だね。」

「そうだね~、日が暮れちゃうもんね。」

「そういえば、彼にも用があったね」

「彼って、色無君?ああ、槇原さんの伝言だね」

「ああ、行く当ても無いしそれを伝えるついでに彼から何か情報が無いか聞いてみよう」

「そうだね、じゃあ色無君を探しに行こう」

 

 

 

「あれ?布枯の奴いないなぁ」

「移動したんじゃないか?あれから時間も経っている事だし」

 あの後、とりあえず目撃した布枯に会う為に奴が入って行った図書館に来たのだが、そこには布枯の姿は無かった。

「どうしようか、目撃情報とか他に有ったか?」

「……俺は聴いていないな」

「だよな、どうすっかなぁ」

「そうだな、とりあえず下駄箱に行こうか」

「何でだ?」

「誰かいるかもしれないだろ?」

 

 

 

「うーん、何処にいるんだろうね?」

「こればかりは僕でもわからないなあ」

「ここの校舎内ってそんなに大きかったっけ?」

「全体よりは小さいね」

「うーん、そこの角に色無君がいてくれないかなあ」

「はは、そうだったら嬉しいね」

「そうだよねぇ」

「あ、委員長だ!」

「え」

 

 

「…もう、だいぶ日が傾いてるな」

「そうだな、出来ればその日が沈む前に見つけたいが」

「望み薄だな」

「まあ、その時はその時だな」

 俺達は下駄箱を目指して歩いていた。外は夕日が沈みそうで、外の部活もちらほら終わろうとしているのが目に映る様になって来ていた。

「あー、そこの角に委員長でもいたらなぁ」

「まあ、そうだったら俺は早く帰れるからそうであったら良いな」

「はは、俺も家に帰れるからそうであってほしいぜ」

 普通は無いだろう事だが、こんな時は少しでもそう望んでしまう。でも、そんな事ないだろうと角を曲がる。

「あ、委員長だ!」

「え」

「は」

「おや」

 やっと見つけた委員長に喜ぶ俺とそれぞれ唖然としてる神達、そこに産まれた微妙な温度差を感じる余裕がある者はいなかった。

 

 

 

 

 あの後、とりあえず俺達はお互いの状況を話し合った。その後、俺は委員長が鍵を拾ってくれていた事に感謝した。

「委員長、ありがとう助かったよ。」

「どういたしまして、私も持ち主が見つかってスッキリしたよ。」

「だが、半日授業だったにしては遅い時間になったな」

「なかなか会えなかったもんね」

「大本の原因は君だけどね」

「うっ」

「まあまあ、布枯もそういじめてやるなって」

「うん、とりあえず帰ろうよ」

「おっ、おう!」

 原因だとしても素直にいじられてやるものか。

「はいはい」

「?」

「わかったわかった」

 

 

 

 



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雑用係部活故に

よう、今日はまだまだ肌寒い風のせいで外に出るのがとても億劫だったぜ。そんな、日だが、学校はそんな事では休ませてくれないので今日も俺は机に沈むんだ。

 

「加賀観、そういえばお前部活ってどうしたんだ?」

「やってるぞ?観察記録部」

 

 この学校は部活動を特進学科以外は強制入部しなければならないという校則がある。そのせいで部活動なんてしたくなくても何かしらの部活に入らなければならない。俺も例外では無くてきとうに部活を探していた。そんな時、3年の黛先輩に誘われたのだ。黛先輩とはこの学校に入学してから知り合ったのだが、どうもお互いの家族が知り合いみたいでその付き合いで、俺も先輩の弟みたいな関係になっていた。そんな感じで、先輩にはお世話になっているので観察記録部に入部した。基本的な仕事は生徒間の会議に呼ばれて書記の仕事をしている。だから、内の学校の生徒会に書記はいない。最近はバタバタと忙しいからか俺たちが出られる会議はされていなかった。だからだろう、神が勘違いをするのもうなずける。

「……ああ、あの部活か。そういえば黛先輩と仲が良かったもんな」

「まあ、先輩には良くしてもらってるよ」

「良かったよな、お前って先輩からあんまり好かれないから虐めとかあって、中学の時は苦労してたからな。その点、黛先輩なら心配ないし」

「ああ、良い先輩だよ。ただな…」

「ただ?」

 神からは見えてないかも知れないが、教室の扉に貼りついて此方を覗いてる人がいる。…話題の黛先輩だ。黛先輩は端から見たらかっこいい先輩なんだが、ちょっと関係を持つと、良くわかるがこの人、所謂コミュ障なのだ。俺だけなら普通に話かけて来ると思うけど、神がいるので話かけれないから扉で待機してるのだ。

「うん、まあ良いや。そういえば、神は何部だ?」

「用務部だ」

「ああ、あれか、別名雑用部。」

「まあ、やってることがそうだからな。」

 用務部。去年の夏に名前が変更された部活で3年の水谷先輩が教頭先生と交渉して認められた部活。変更前はクリエイトゲーム部。部として活動は認められているが、実績が無い為部室と言う物を今まで持っていなかった。そんな時、水谷先輩は用務員の人件費の事情を知ったそうでそれを餌に部室を勝ち取ったそうだ。此処三鷹学園は行事毎に用務員を一時的に沢山雇う。学園がとても大きいからだ。ただ、毎年なので費用も馬鹿にはならない。そこで、水谷先輩はそれを部活動として手伝うから、部室を一つ下さいと教頭先生に交渉したのだ。最初は駄目と突っ張ていた教頭も水谷先輩の熱意に負けて認めてくれた。認めた理由はやはり経費が浮く、という事を水谷先輩が一番大きく主張したかららしい。

 先輩がそこまでして部活を欲しかった理由としては、これからの活動の為に腰を置ける場所が欲しかったそうだ。今までの活動は空き教室を転々としていた。しかし、作業が捗らなかったから専用の部室が欲しいと思ったらしい。だが、クリエイトゲーム部は実績が無いに等しいので厳しかった。そこで、水谷先輩が目を付けたのは、ある事務会計員が零した、「行事毎に臨時で用務員を雇うと人権費が馬鹿にならない」という話だ。更に、クリエイトゲーム部は部室の無い部活だが部員は10人を超していた事。これが、1人や2人だったら無理だったと本人が語っていた。まあ、なので用務部は学校、教頭先生の要請があれば用務員の仕事をして、それ以外はゲームを作っている部活だ。因みにこの話は広報新聞部から月に一度発行される新聞に書いてあった。問題はなかったのかは知らないけど今も普通に活動しているので大丈夫だったのだろう。

 

「うちの部活って何かしらのネタになるから布枯がネタに困らないって言ってたな」

「そうか、布枯は広報新聞部だったのか」

「ああ、この前黛先輩に話を聞いてたの見て、聞いたら広報新聞部の部活動だって言ってた」

 あの時も、やはり水谷先輩の武勇伝を知人からも聴きたいと言っていたな。

「そういえば、委員長はなに部だ?」

「布枯の話だと、手芸部」

「なんか、委員長らしいな」

「ああ、そうだよな。……黛先輩、そろそろ良いですよ?」

「え、あ、失礼します。」

 入るか入るまいかで、悩んでるのか扉の前を行ったり来たりしていたので此方から呼んでみた。すると、おずおずと先輩は俺達に近づいて来た。それで、先輩に気が付いた神が先輩に会釈をしていた。先輩もそれに続いて神に会釈をした。

「黛先輩おはようございます」

「う、うん。おはよう」

「部活動ですか?」

「うん、そう、明後日の放課後に5月の春の運動会の会議がされるからその書記をしてくれって」

「わかりました。会場は第何ですか?」

「第3でするって、授業が終わったら部室に来てね」

「わかりました」

「それじゃあ、明後日で」

「はい」

 そう言って、黛先輩は教室を後にした。先輩が教室を出てすぐに先輩の悲鳴が聞こえた。どうやら先輩の帰りが遅かったのか迎えが来たようだ。

 

「そういえばもう春の運動会の時期になったのか」

「ああ、と言っても準備期間だけどな。まあ、その時は用務部にも仕事が有るだろうね」

「まあ、それが部室の条件だしな」

 部室を貸してもらう時に、仕事を怠った場合には部室没収という約束がなされたらしい。だから教頭や先生方が出す仕事には断れないのだ。雑用部の所以はそこから来ている。

「まあ、お互いに部活を頑張ろうぜ」

「ああ」

 

 



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こちらにも時と場合が有るんですよ?

 よう、こうやって何話とやって来たが、だんだん飽きて来た今回だけかもしれないけどな。だからどうでもいい情報を投下しよう。この話一本分ははこっちじゃ1日位だぜ。例外はあるけどな。

「ねえ色無君、話聞いてる?」

「ん、聞いてる聞いてる。明日の会議だろ?」

「いや、違うよ!?」

「…違うの?」

「ああ、やっぱり聞いてなかったでしょう!」

「はは、悪い悪い、でなんだっけ?」

「もう、色無君、今日は掃除登板の日だよ?」

「あっ、ごめん忘れてた」

 このクラスの掃除登板は出席番号1番から5組を作って1日交代制になっている。都合が悪い場合は他の日の者と交代し、交代した者の日に掃除を行う。クラスは40人で1クラスなので、約1週間に一回掃除する事になる。今日は俺の登板の日だ、忘れてたがな。

「そんな事じゃないかと思ってたよ」

「悪かったって、言ってくれてありがとな」

「よろしくね」

「ああ」

 

 

「さてと、愛田、何からする?」

「そうね、ひとまずは机を下げましょう。安達さんと井戸田君、それと今谷君手伝って」

「わかりました」

「おう!」

「へい!」

 掃除は、床掃き、床拭き、黒板消し、窓拭き、ゴミ捨ての5つだ。一番楽なのは、ゴミ捨てだ。一番大変なのは、窓拭きだ。その内訳には当番など無く自分がしたいものしていく感じだ。

「色無君、そっちの角を持って」

「ああ、よいしょっと!」

 教卓なんかも有るので、机をみんなで先に下げて置く。

「さて、誰がどれやる?」

 さて、できればゴミ捨てに行きたいが、どうなるか。

「はい!」

「はい、井戸田君」

 誰かが決めたら残り物をするそんな考えの奴がこのグループには3人いる。そう、俺もだ。そんな奴らの中、目立つように手を上げた男子は、

「俺、窓拭き!」

「前もしてなかった?」

「ダメか?」

「いえ、ダメでは無いけど」

「なら、やりたい」

「わかった、なら、後は誰がどれをやる?」

 井戸田だ。奴はこのグループの中で何故か窓ふきを率先としたがる奴だ。だが、奴が一番大変ナノを選んでくれたお陰で、後はどれでも良くなった。

「なら、黒板消しを」

「安達さんが黒板消しね、なら、私は床掃きをするわ。今谷君と色無君どっちがゴミ捨て行く?」

「どうする?」

「ジャンケンするか?」

「ん、じゃあ」

「「ジャンケ~ン、ポンッ!」」

 俺は、パー、今谷は、グー、よって俺がゴミ捨てだ。図らずも目的の役職になってしまった。まあ、やりたかった仕事だから良いが。

「じゃあ、行って来るよ」

 

 

 ゴミ捨て場は校舎毎に設けてあり、此処、第3校舎にも1階渡り廊下に存在する。俺たちのクラスは3階に在るから走れば5分程だろう。

「まあ、歩くけど」

「いや、走りなよ」

「おゎっ!・・・・なんだ、布枯かよ、びっくりさせんなよ」

 一人脳内で説明していると、突然奴が声を掛けて来た。そう、布枯だ。

「ふふっ、君の驚いた時の反応が面白そうだったからね。つい、ね」

 そう、こいつはこんな感じでネタになりそうなのを探して放課後は委員長に誘われない限り校舎を廻っているのだ。

「…たくっ、…というかなんでいるんだ?」

「なに、君を待っていたのさ」

「俺を?何でだ?」

 ムカつくような笑みを浮かべる布枯を見て、俺は自分の腕を抑えた。俺の腕は今にでもこいつの顔面を殴ろうとしていたのだ。まあ、止めなくてもこいつなら避けそうなんだが。でも、こいつを殴るとこいつに似ている俺の幼馴染を殴る様でとても嫌だった。

「明日は運動会の会議だろ?書記として黛先輩と出るんだろ?会議が終わった後内容を君に聞きたいからその予約さ」

「予約?別にしなくても教えるぞ?」

「まあ、理由は明日わかるさ。黛先輩にも言って置いてくれ」

「ああ、良くわからんがわかった」

 

 会議の事ってそんなに聞きたいか?まあ、こいつの考えはようわからんから考えるだけ無駄か。

 

「じゃあ、要件は以上だから。・・・・あ、そういえば、大丈夫かい?ゴミ捨ての途中だろ?」

「あ、マズい!」

「なに、走れば良いと思うよ?」

「……お前まさか」

「何だいそんな怖い顔して?要件は本当だよ。じゃあ、頼んだよ。」

「はあ、要件は分かったがタイミングをもう少し見計らって来て欲しかったぜ」

 布枯はそう言って、反対の廊下へ歩いて行った。それを見送った俺は仕方なく目的地へ走り出した。

 

「遅いわよ!なにをしていたの⁉」

「いや、途中で布枯が話しかけてきてな、それで遅れたんだよ」

「あら、そうなの?可笑しいわね、さっき布枯さんが教室にやってきて色無君が歩いて休憩していたって、教えてくれたけど」

「はいっ⁉…あの野郎、半分は嘘じゃねえか!」

「あら?半分なの、ならもう半分はホントなのね」

「あっ」

「色無君」

 布枯のいらんお節介のせいで俺はグループの皆から説教を貰った。その時、愛田に正座を強要された為に終わった後、俺はしばらくその場から動く事が出来なかった。

 

 

~少し前~

 

「あれ、布枯さん教室に何か用事かしら?」

「ああ、愛田さんか。いや、偶々此処を通りかかっただけだよ」

「何かのネタ探しかしら?」

「そんな所だね。そうだ、先程そこで色無に出会ってよ」

「ああ、彼に今ゴミ出しを頼んだのよ」

「おや、そうなのかい?だったら彼は何であそこにいたんだろうね?」

「え、何処にいたの?」

「ほら、一階の玄関近くにベンチが置いてあるだろ?あそこで彼がくつろいでいるのを見かけたんだよ」

「…何ですって?」

「それで僕は彼に個人的な用事があったから声を掛けたんだけど、話終わった後歩いて何処かに行っちゃったね」

「あいつ、帰ってきたら説教ね!」

 




 危なかった。


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運動会と体育祭は此処ではやる気の違い

 少し、わかりにくいかもしれません。
 あと、作者はこういうのは詳しく無いので妄想が多く入っています。


「それでは、これより5月12日に予定している春の運動会についての会議を始めます。司会は、運動会実行委員長の私、原田悠歌が行います。それでは、初めにいくつかの禁止事項を確認いたします。資料の2ページをご覧下さい。」

 4月21日、今日は前から言われていた運動会の事前会議の日だ。うちの学校は春と秋に運動会と体育祭を行う。違いは特に無いのだが、あえて言うのならば本気度の違いだろう。今回の運動会は、主にクラスの人を知る、見る、ふれあう事が目的だ。勿論、本気を出して取り組んで欲しいと校長先生は言うが、あまり知らない人といきなり協力なんて難しいので、相手を知って交流を深めるのが一番の目的だという事が共通認識となっている。なので、運動会での種目もそれらの事に意識した物が選ばれる。今回の会議では、その種目や各種の運営についての打ち合わせだ。予算や日程、今実行委員長が話そうとしている禁止事項は先生や理事長などで、事前に会議がされている。なので、今回は全体の構想を決めるのが目的とされている。

「ではまず、1つ目の禁止事項です。この運動会開催中の校舎の立ち入りを制限、また、禁止する事、理由はやはり防犯対策上の問題です。質問はありますか?」

「はい。」

「では、競技などで、借り物競争をした場合もその制限の対象になりますか?」

「そうですね、仮に、借り物競争を行う場合は校庭内でのみが行動範囲でしょう。…他には、ありますか?……では、次の禁止事項に移ります。2つ目は、個人所有の電子機器の持ち込みを禁止する事、理由は昨年の運動会で起きた盗撮事件への対策です。盗撮は個人所有の電子機器で撮影され、インターネットにばらまかれた事件です。運動会当日は此方で撮影部隊を編成し、撮影部隊のみが競技等の撮影を行えるものとなります。質問は有りますか?……では、次に移ります。…次の事項で最後になります。3つ目は、服装についてです。今年度は、学校指定の体操服及び運動靴のみとして、その他の装飾品の着用を禁止します。ただし、例外もあります。髪留めなどの一部の物は着用可になっています。以上を今年度の禁止事項になります。質問は有りますか?……では、続いて競技の運営に辺り放送室を使用し、進行などを放送伝達部にお願いしたいのですがどうですか?」

「はい、承りました。」 

「では、次にーーーーー」

 その後、各種部活動及び実行委員を中心に次々と当日または準備期間の役割を決めていかれた。そして、打ち合わせの時間も決めていった。

「では、用務部の皆さんは、5月5日に陸上競技部、新体操部と合同で、器具倉庫の点検及び当日の打ち合わせを行いますのでよろしくお願いします。」

「わかりました。」

 また、決まった内容の書かれた冊子の作成に、布枯のいる広報新聞部が選ばれた。

「では、続いて種目についてです。春の運動会は交流会の側面も持っているので、全員参加可能の競技を選びたいと思います。事前に私が良さそうと判断した競技をピックアップしました。…観察記録部の皆さん書き出すのを手伝って下さい。」

「はい、色無君も手伝ってね。」

「ああ、はい、わかりました。」

「では、この紙に書かれている物を箇条書きでお願いします。」

 早速、渡された紙を見ながら俺と先輩はせっせと黒板に書いていった。

「はい、ありがとうございました。…では、この競技はあくまで一候補と考えて下さい。今回、行える競技は七つです。さらに、先生方からの要望でリレーと玉入れは確定しています。ので、残りの五つを決めたいと思います。…良い時間ですね。少し、休憩時間を取りましょう。…十分後、改めてこの形に戻っていて下さい。では、失礼します。」

 そう言って、実行委員長は会議室を出ていった。

 

 

「色無君も休憩をしてくると良いよ、僕はこれを少し纏めておくから。それに会議はまだまだ続くからね。」

「ではお言葉に甘えますね。休憩に行って来ます。」

「うん、遅れないようにね。」

 そう言うと、黛先輩は会議の記録を纏める作業を行い始めた。俺はそれを邪魔してはいけないので早足で会議室を後にした。

 

 

「トイレトイレっと、いやぁ結構我慢してたから漏れそうだったんだよな。…あっ、そうだった。…あー、此処からトイレって割と離れてるの忘れてたな。これじゃあ大きいのには行けないか」

 

 会議中から感じていた便意を解放しようとしていた俺は、会議室を出た所である事を思い出した。思わずその場で立ち止まり、頭を振りながら大きめの溜息を吐き出した。此処、第三会議室は第三校舎の二階の端に設けられている。別に端だからと言って交通に難が有る訳では無いが、トイレが非常に遠いのだ。他の教室や職員室に配慮しての配置何だろうが、それらから少し離れた所にあった会議室はどうしても遠くなってしまうのだ。いつも使う訳で無いのでその優先順位が下の方だったのだろう。それを先に知っていたはずなのだが、うっかりしていた。

 

「…加賀観、どうかしたのか?」

「……神か、いや、トイレが遠いなって落ち込んでた。」

「ああ、会議室からは遠いからな。でも、走れば間に合うんじゃないのか?」

「…何か、トイレの為に走るのも馬鹿らしくて。」

「ハァ、…それで漏らして困るのはお前だろうに…。」

「…大丈夫大丈夫、我慢するさ、がまんがまん。」

 

 神にはそう言ったが、この込み上げてくる便意がヤバくなって来た。やっぱりさっさとトイレに行けば良かった。でもなぁ…トイレの為に走るのはなんかカッコ悪いしなぁ。うう、考えてたらまた便意が。…あ、そろそろ時間だ。トイレ、結局行けなかったな。

 

 

 

 




 書くのが難しい話でした。


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競技説明ただそれだけ

 しばらく開いてしまいすみませんでした。少し忙しくなったりストックを作りたいと思い時間が空きました。しばらく不定期です。早かったり遅かったりします。


 

「それでは、会議を再開します。先ほど観察記録部に書いて貰った十個の競技について説明します。また、競技名は仮決定です。また、先生方が希望していたリレー競技は色別対抗リレーです。」

 十分間の休憩が終わり、実行委員長の言葉で会議が再開した。実行委員長は俺らが書き出した物を指さしながら説明を始めた。実行委員長に渡された紙にかかれていた競技は、綱引きなど良く見る物から女装リレーなどあまり見ない競技なんかもあった。競技の案を考えたのは先輩の話しによれば実行委員長本人らしいのだが、実行委員長は何を判断して決めたのかが少し気になる所だ。そんな事を思いながら俺は実行委員長の話を聞いていた。

 にしても良く女装リレーなんて通ったよな、この中ではいの一番に消されそうなのに。ここに来るまでに男子生徒は居なかったのだろうか?もしも、いたのなら止めていたはずだ。

 

「では、競技の説明に移ります。1つ目の競技は、綱引きです。運動会では、お馴染みの競技ですので詳細は省きます。

 2つ目の競技は、先ほども出ました借り物競争です。こちらは、先ほど申したように競技範囲に制限がでます。

 3つ目の競技は、部活別対抗リレーです。三鷹学園は部活動が非常に盛んで数が多い学校です。ので、毎年部活動紹介などは行えず参加人数が少ない部活もあります。そこで、このリレーを紹介の代わりにすることもできます。

 4つ目の競技は、学科別対抗リレーです。三鷹学園では、クラス別リレーを行うことが非常に困難なので学科別を行います。また、先に上げた部活別対抗リレーは外部の観客に学校を紹介する面もあるのでこの二つに限ってはどちらかを確実に行います。

 5つ目の競技は、騎馬戦です。組別けは色別対抗にします。各組10騎用意し、一対一のトーナメント形式で行います。安全対策にジャージ着用が必須になります。

 6つ目の競技は、〇×クイズです。色やクラスは関係なく全生徒参加の競技です。問題などは決定後決めます。

 7つ目の競技は、パン食い競争です。パンは食堂の方に作って貰います。

 8つ目の競技は、障害物競争です。二人一組で行います。内容についてはいくつか案は有りますが、競技採用後に決めます。

 9つ目の競技は、女装リレーです。こちらは、男子生徒のみ参加可能の競技です。候補に入った理由は面白そうだからです。

 10つ目の競技は、ムカデリレーです。5人一組の組を各組9つ作って行います。

 以上、10競技を候補として、競技を決めたいと思います。何か質問等がありましたら挙手をお願いします。」

 

 一息ですべてを言い終えた実行委員長は少し満足そうに周りを見渡した。だが、そんな実行委員長とは裏腹に部屋の空気は先程とは沈んでいた。部屋から聞こえるのは挙手する声では無く、各部の代表達の溜息だった。実行委員長はそうと思っていないようだが、話し始めてから20分が立っていた。観察記録部として、こういう会議には良く出席するし実行委員長とも会話する事も有ったのだが、この人は一度言い切ると決めると休憩を挟まない癖があるのだ。慣れていない人は疲れてしまうのはしかたのない事だった。

 

「…えーと、質問は有りますか?」

 実行委員長の悲しそうな声が部屋に響いた。

 

「…んんっ、実行委員長、よろしいですか?」

「えっ、ええ、発言を許可します!」

「では、失礼して」

 そんな空気に耐えかねたのか、手を挙げたのは我らが黛先輩だった。先輩のピシッと挙げた右腕がこんなたくましく見えたのは何時ぶりだろうか、思わず場所も考えずに先輩を凄く褒めたくなった。実行委員長も少し嬉しそうに聞き返した。

 

 先輩の発言を皮切りに各代表からも発言が飛ぶようになり漸く会議の形をとり始めたのだった。

「では、この競技は止めた方が良いという競技はありますか?

「はい、この騎馬戦は今回見送るべきだと思います。この競技はある程度クラスの関係がしっかりしていないと怪我の元になりかねないと思います。また、秋の体育祭が有るのでそちらに回した方が良いと思います。」

「そうですね、確かに新入生には危険な事も有るかも知れませんね。」

「はい、学科対抗リレーは除いてもいいと思います。紹介とはいえ学科間の力の差が少し広い気がします。それに規模が大きいので時間がかかります。」

「あまり公平ではないうえ時間がかかると。そうですね、力の差はともかく時間はかかりますね。…これ位ですか?では、投票で決めましょう。紙を配布しますので5つを選んで、競技の番号を書いてください。観察記録部の皆さんお願いします。」

 配る様に言われた紙には5つの線が引かれていた。ここに番号を書いて行くのだろう。しかし、この実行委員長は本当に良く観察記録部を使うな。俺らって記録するだけが仕事だったような…。まあ、これが初めてではないのだけど。

 

「では、記入をお願いします。」

 実行委員長の言葉を合図に各々は紙に記入し始めた。俺も記入するように言われているので女装リレー以外から候補選んでいった。

 

 

 

「集計も終わりましたので、結果を発表します。」

 各自が記入を終えたのを確認して、回収をして実行委員長と共に集計をした。数は多くないので直ぐに終わったのだが、この仕事は実行委員がするのでは?と考えたが、黛先輩が黙々としているので黙っていた。本当にこの二人の関係性が謎なんだよな。

「まず始めに行う競技を発表します。1つ目は、綱引き、2つ目は部活対抗リレー、3つ目はパン食い競争、4つ目は障害物競争、5つ目は女装リレー、以上5競技に加えて色別対抗リレーと玉入れを加えた7競技を行います。では次に、決まった競技の各種ルールの決定に移ります。」

 書かれていた内容はどれも大きな違いは無かった。だいたいが綱引き+パン食い競争+女装リレーで他2つだった。元々の競技数が少ないのも有ったのだろうが、何なんだろうかこの女装リレーの人気は…。いや、傍から見た面白さは一番あると思うけどね、俺ら男子は実際行うんだよ?それで良いのか、先輩とか用務部とかさ。

「まず、綱引きにかんしてです。何か意見はありますか?」

「はい、やはりジャージなどで肌が出るのを防いだ方がいいと思います。」

「競技人数は各チーム20人ほどが良いと思います。」

「男女の比立を決めた方がいいと思います。」

 

 あちこちから様々な意見が出てきた。この時間の観察記録係の仕事はそれらを記録して、実行委員長に渡す事だ。実行委員長がそれらをまとめて、ルールを作り、それで納得が行けば皆に伝える。それを繰り返して行き、決まった物を記録して行った。

 

 

 

「では、5つの競技のルールが決まりました。次に競技順を決めますが、競技は午前に4競技、午後に3競技行います。色別リレーについては最後に行う事が先生方から言われています。ので、色別リレーを最後にして決めていきます。意見はありますか?」

 色別リレーを最後に持ってくるのは盛り上がると思われるからだろう。部活対抗も盛り上がると思うけどな。

「色別リレーが最後ならリレーは、少し離した方がいいと思います。連続ですと疲れますし。」

「最初はパン食いか玉入れが良いと思います。」

「女装リレーは食事前が良いと思う。食後だとどうなるかわからないので。」

「綱引きは午後からで良いと思います。」

「色別リレーの前に部活対抗でも面白いと思います。」

 

 最後が色別と決まっているからかそれを元にした順番が言われている。しかし、女装リレーは早めに終わらせてしまいたいな。意見としては、玉入れかパン食いが最初で否定は無いっぽいな。昼食前が女装か障害物で別れてるらしい。午後は綱引きが有力候補のようだ。

 

「……では、あらかた意見が出たようなのでこちらで意見をまとめて、当てはめて決めていきます。まず、最初の競技はあまり疲れない競技と言う事で、パン食いか玉入れですね。パン食い競争は昼にやるよりかは朝のうちにやる方が良いという意見が出たので、最初の競技はパン食い競争ですね。では、次ですが、パン食い競争か玉入れが多いので、玉入れですね。」

 そんな感じにどんどん決まって行き。1.パン食い競争 2.玉入れ 3.障害物競走 4.女装リレー 5.綱引き 6.部活対抗リレー 7.色別対抗リレーとなった。競技順が決まった後は、細かい事を決めて会議は終了した。

 

「では、これにて本会議は終了です。役割のある部活動には後日、当日の動きを記した紙を配布します。当日は基本的にそれを見て行っていきますので、よろしくお願いします。」

 

 

 

 






 諸事情により一部変更しました。


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不可解な対談

 ストックが少しできたので投稿します。相変わらずの文ですがよろしくお願いします。


 

 会議も無事に終わって、各クラブへの個別の話し合いも終わり、漸く肩の荷が下りた気持ちだった。ああただ、会議中は必死にペンを動かしていたので腱鞘炎にならないかが心配かな。そんな事を考えながら会議の片づけを終えて、俺と黛先輩は帰路に着こうとしていた。今日の事を軽く話ながら歩いていると、廊下の窓からす~と、夕日が沈んで行くのが見えた。その時だった、頭の片隅にあった記憶を呼び戻した。

「あ、そうだった。」

「ん、色無君どうしたんだい?」

「あ、えっと、先輩、今からって時間ありますか?」

「え、時間?…大丈夫だけど、何か用事かい?」

 そこで、俺は布枯に頼まれてインタビューがしたいと言っていた旨を伝えた。先輩は最初こそ、インタビューの言葉に顔を顰めていたが、言葉を重ねて何とか了承を得た。そんな黛先輩と俺は布枯が待っているという広報新聞部に出向いた。

 

「やあ、やっと来たのかい。僕でもなかなか待ちくたびれたよ。」

「ああ、悪かったって、会議の中で忘れてたんだ。なんか思い出したから来たが、要件ってなんなんだ?黛先輩まで読んで聞く事ってなんだよ。」

「まあ、入りなよ、立ったままで話す者では無いだろう。黛先輩もどうぞ。」

「あ、うん、えっと、失礼します。」

 則されるまま部屋の中に入った。新聞部の部室は、参考書が本棚にぎっしり詰まっていたり、メモ用紙の山が点在していたり、と沢山の資料があるようだ。だが、細かい所が雑なのか、一瞬ごみ屋敷の様に見えた。とはいえ、掃除はしている様で、ほこりなんかは少なかった。

「何か飲むかい?」

「いや、俺は良いよ。」

「うん、僕もお構いなく。」

「そうかい、じゃあ、さっそく本題に入ろうかな?君はさっきから呼んだ理由を聞きたそうにしていたから先に話そうか。別に待ったいぶる必要も無い事だし。呼び出した理由を話すと、今回の会議の内容がいち早く知りたかったんだ。校内のどこよりも早くね。」

 席に着いた俺と先輩に向けて、布枯は流れるように話し出した。と言うか、勿体ぶる必要無いのかよ。俺が聞いた時は、悉くはぐらかしたくせに。……さてと、俺としては聞きたい事を聞けたしそろそろ良いかな。

「聞きたい事はそれだけか?」

「ああ、僕が聞きたい事はそれだよ。」

「よし、帰りましょう、先輩!何となくこいつの用事が大した事は無いのだろうなって、感じてたんですが、一応連れてきたらこれですよ。先輩、これ以上時間を無駄にしない為にもかえりましょう。」

 うん、これは先輩の時間を取ってまで聞かせる事では無いな。俺も疲れているし、家に帰りたい。

「え、えっと色無君、そんな急に帰るって失礼だよ。」

「大丈夫です。こいつがそれ位で失礼とか思わない出すって。」

 さっさと、部室から出よう。まったく、先輩にお願いしてまで来たのにこんな内容ならば、別に思い出さなくても問題無いと思うわ。先輩は優しいから渋ってるけど、俺としてはさっさと帰りたいんだ。

「まあまあ、落ち着きたまえ。」

「お前が理由は今日分かるみたいな事を言ってたからどんなのかなって、思ったけどこれならば帰るわ。」

「ああ、ここで話す理由はあるよ。ほら、そこの窓を覗いてみると良い。」

 言う通りに覗いて見ると、タイミングが良かったのか此方を見つめる人物と目線があった。なるほど、学園の情報屋か。

「此処なら防音とかしっかりしているからね。」

「とは、言ってもこれらは明後日あたりには広まるし、新聞書くのはお前らだろ。」

「それでもさ、聞かれない方がこっちも助かるからね。ほら、独占インタビューってあるだろう?」

 独占かぁ、まあ俺らも発表される事だから自分たちから発信する事は無いなあ。

「それに、資料だけを貰うよりも資料を作成した側の話を聞いた方が良い物出来るだろ?」

「まあ、そうだろうけどなぁ、…断り難いなぁ。……まあ、そう言う事ならば、俺は問題無い。けど、先輩が良いかは知らないぞ。」

「ん?僕は別に良いよ。僕が人前で話す訳では無いんだろう?それなら別に問題無いよ。」

 先輩の許可が下りたという事で、布枯によるインタビューが始まった。

 

 

 インタビューの内容自体は会議の事を話すだけだった為に早くに終わった。その後は、布枯が個人的に気になった所を聞いて来た位でインタビューは終了した。全部が終わった頃には辺りも大分暗くなっていた。終了後は校門前で解散になった。

「もう、こんな時間か結構話したな。」

 布枯が黛先輩も呼んだのは、漏洩を防ぐためだろう。話を聞くだけなら俺だけでも良かったからな。というか、終始俺と布枯が話していて、黛先輩が話した事は原田実行委員長の事くらいだった。

「まあ、情報は大事だな、学園で警戒が必要かはともかくとして。」

 まあ、あっちにはあっちの事情があったのだろう。俺は関わる気が無いので気にしなくてもいいだろう。さて、暗いし早く帰ろう。

「……あ、そういえば今日じゃなかったか?えっと携帯携帯と、…うわぁ、母さん来てるじゃん。やっば、急いで帰らないと。」

 前々から今日来る事の連絡を貰っていたが、色々あって忘れていた。正直、布枯の事を思い出すついでにこの事も想い出して欲しかった。そんな事を思いながら、俺は暗い道を駆けって行った。

 

 

 

「あら、やっと帰って来たわね。事前に連絡を貰っていたから分かっていたけれど、母親としてはあんまり遅い帰りっていうのはして欲しく無いもねぇ。久しぶりにお灸でも据えてあげようかしら?」

 家のドアを慌ただしく開けて入って来る物音を聞きながら、一人そう零した。

 




 


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昨日は肉じゃが、明日は青椒肉絲

 こういうのならまだ早く書けるのに


「先日運動会の生徒会議が行われた。もう見たものもいるだろうが1階の掲示板に行う競技一覧が張り出された。見たい者は休憩時間にでも見に行け。…では、授業を行う。運動会気分だろうが授業は通常通り行う、気持ちを切り替えろ。では、42ページを開け。」

 

 会議も無事終わり、布枯の頼みを聞いた後素直に家に帰った俺は次の日、紅先生の授業を受けていた。別に時間割が変わった訳では無く普通時定なのだが、気分的になんとなく嫌だったそれだけだ。

 

「……加賀観、答えてみろ。」

「……わかり、ません。」

「考え事は後でしろ、布枯答えろ。」

「源頼朝」

「正解だ。ーーー」

 

 

 こんな感じで時間は進み、昼休みになった。今日は食堂で飯を食うつもりなのか神を呼びに言った。

「神、飯に行こうぜ!」

「ああ、ちょっと待ってくれ、これを片付ける。」

 神が片付けていたのは教科書だけでなくいろいろ書かれた紙だった。

「神、それなんだ?」

「ん?…ああ、これか、これは用務部の運動会の動きを書いたメモだ。」

「へぇー、見ていいか?」

「別にいいが、面白い物でも無いだろう。」

 そう言って、神は紙を加賀観に渡す。

「結構びっしり書かれてるな。」

 10分単位にやることが書いてあり、用具運搬以外の仕事も書かれていた。

「これ、用務部の仕事だったのか。」

「何がだ?」

「この得点記入。俺らの仕事っぽいのに無かったからどこがすんだろうと思ってたんだよ。」

「ああ、それか。それは俺らが用具運搬のついでにやった方が良いって事になったんだよ。それに観察記録部は人手が少ないだろう?」

「まあ、確かに少ないがそれくらいならできそうな気もするけどな。」 

 観察記録部は加賀観と黛先輩と1年生の鷹山の3人が所属している。基本活動は会議の記録係だが、会議が無い時は記録の整理をしている。書いた記録の要点の割り出しなんかもしている。

「まあ、運搬のついででやることだから問題は無いから良いんだろう。さて、食堂に行こうか。」

「おう、今日は何にしようか?日替わりは何だっけ?」

「カレー定食だったろ。」

「げっ、あれかよ。あれって定食って付いてるけどただのカレーだよな?美味しいけど定食価格だから損した気分になるよな?」

「まあ、美味しいなら良いんじゃないか?」

「昨日は肉じゃが、今日はカレーで明日はなんだ?」

「青椒肉絲だったろ。」

「魚料理が食べたい。」

「来週だな。」

 2人は、片方が、肩を落としてとぼとぼと歩いて行った。

「魚料理か。君も好きだねぇ?喉に詰まらせたのに。」

 

 

 

 

 

 

 




 途中視点が入れ替わってます。


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漂うタダの誘惑

 よう、すごい久しぶりな感じがするが挨拶しとくぜ。

「加賀観、此処はどうするんだ?」

「ああ、そこはかいりきで岩を落とすんだ。」

「ねえ、これ何?」

「ん?…ああ、シャイニング○ムだよ。倒すと美味しい奴だよ。」

「色無君、これどうなってるの!?」

「あー、フリーズしてるな、電源を切ろう。もしくは初期化だな。」

「ええっ!そんなぁー。」

 今日は休日なので俺の家で皆にゲームを教えている。皆何故か違うゲームをしているが、各々楽しんでる用である。

「そういえば布枯、お前部活は良いのか?」

「ん?ああ、此処の所ずっと忙しかったからね、今日は休みさ。」

 運動会が近づいて来た事により、広報新聞部は会議で決定した内容や競技の説明なんかをまとめたり、書いたりと忙しいようだ。

「まあ、運動会が終わるまではどこもそんなものだよ。君の所もだろう?」

「まあ、そうだな。」

「ふたりともの部活は大変そうだよね?私の所なんかお茶飲んだり喋ったりしてあんまり活動しないんだよ。そのせいで、また体重が増えたよんだよ!どうしよう?……どうしたの?」

「委員長は気にしなくても良い事だ。ほっといてやれ。」

 どうして委員長はこう、可愛らしいんだ。妹に久し振りに会いたくなる。

「同感。」

 

「そういえば、知ってるかい?」

「何をだ?」

「今度の運動会の抽選会に食堂の日替わり定食の年間無料パスポートが景品として有るようだよ。」

「なに!あのパスポートか?」

「マジか!ヤバいな。」

「ねえ、礼ちゃん、それどういうのなの?」

「ん?委員長はあの事件を知らないのかい?」

「あの事件?」

「ああ、食堂で起こった事件だったな?」

 あれは酷い事件だった。負傷者出たしな。

「まあ、発端は小競り合いだったんだけどね。」

「去年の6月だったか、食堂である企画が提案されたんだ。」

「それが、日替わり定食年間無料パスポート。」

「遊園地とかであるあれだな。」

「is学園でも似たような事をしてるみたいだね。」

 あっちは別の物みたいだけどな。

「それで?」

「最初は、電子マネーみたいに会計を楽にする目的があったんだ。まあ、毎日食堂を利用する人向けに作られた物だね。機械があってそれにかざすと注文出来るんだ。」

「だけど、ある日普通に利用使用と注文したんだが、エラーが出まくってな。注文出来なくなったんだ。」

「理由は、まあ良くある不具合だな。」

 新しく導入したばっかで手探り状態だったしな。

「まあ、それは職員が機械の近くに立って対応したんだけど、その時に職員がカウンターに入った時に来た客が知らずにカードをかざしたんだ。」

「案の定、エラーが出た。」

「そしたらその客が癇癪を起こしたんだ。どうも、勉強につまずいていたらしい。」

「暴れ出した客を職員は止めようとしたんだけど、抑えきれずに吹き飛ばされたんだ。」

「飛ばされた所が運悪く番長の所だったんだよ。そしたら番長が切れて乱闘になったんだ。番長が圧倒的だったけど。」

「まあ、その後は先生達が来て乱闘は終わったんだが、乱闘が起きたのが大きかったのかパスポートは払い戻しで廃止されたんだ。」

「それから今までパスポートは復活しなかったんだけど、今回復活すると。」

「うん、確定では無いけどかなり有力な情報だね。」

「なんか、それで一悶着起きそうだね。」

「出すんなら対策を用意してるだろうから大丈夫だと思うけどな。」

「まあ、頭の隅に置いとく位で大丈夫だろう。」

「そうだな、今から深く考えても仕方ないしな。」

「じゃあ、続きをしようか。」

「そうだね。」

 その後、日が沈む前に解散となった。



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憧れに憧れて

 何でこうなったのか自分でもわかりません。


 昔やってた事を最近またやりだすってどういう感じ何だろうな?・・・いやね、昔住宅街で自転車レースをしていたんだ。その時は怖い物知らずでさ、坂とか関係なく飛ばしてたんだ。まあ、親にすっごく起こられたんだけどね。それをふと、思いだしたんだ。あん時は楽しかったな、坂をブレーキかけずに降ったりして相手より早く行こうとやった物だ。良く転けて血出してたけど止められなかったな。やりすぎて、住宅街で一時期自転車走行禁止になったけど。いい思い出ではあるんだ。

「ーー観!ー賀観!おいっ、加賀観!」

「…ん?」

 神が呼ぶ声に気づいて顔を上げた瞬間、目の間には真っ黒の影が迫ってたんだ。

 

「…はっ!………なんだ、夢か。」

 目が覚めると真っ白な天井が目に入った。…知っている天井だ。どういう事だ、あれは夢だったんだろうか。…うん、そうだ、そうに違い無い!じゃなかったらバインダーが目の前に飛んで来る事は無いはずだ!

 

「何を言っている、そんな訳無いだろう。」

「だね。」

「大丈夫?」

 

 おかしいな、夢でベッドなら自宅にいるはずなのに、何で神達がいるんだ?もしかして、これも夢?

 

「君はどれだけ、現実逃避したいんだい?」

「加賀観だしな。」

「起きてる~?」

 

 なんだか、夢じゃ無い気もしてきた。委員長がスッゴい跳ねてるもん。かわいい。それによく思い出したらあの天井は家の天井じゃないや、家の天井は茶色だった。

 

「かわいいには同感だけど、早く起きなよ。」

「よくわからんが委員長、落ち着け。」

「?」

 

 仕方ない、委員長に免じて起きてやろう。ヨイショ、…あれ?体あがんない起きれないや。そうか、なら寝よう。

 

「……」

「加賀観、何また寝ようとしている、起きろ。」

「色無君、起きて。」

 

 起きれないんだから仕方ないじゃないか。これでも、今日一番の力を使ったんだぜ?これで無理なら諦めるぜ。

 

「絶句…いや、呆れるね。」

「そろそろ、昼が終わるな。」

「えっ、ご飯食べてないよ?」

 

 えっ、今昼休みなの?さっき1時間目だったんだけど?えっ?俺、そんなに寝てたの?マジで?

 

「そうだね、ほら。」

「なんだ、委員長飯食ってなかったのか?」

「えっ、田島君は、食べたの?」

 

 …12時半。げっ、マジじゃねえか、2、3、4、寝てたのかよ。…いや、気絶か。マジかー、何かテンション下がるー。

 

「まあ、君もともと出席率だけは良いからね。」

「ああ、布枯と俺は食ったぞ。」

「えっ、礼ちゃんも!?」

 

 まあ、出席率は、単位落とさなければ良いんだけど、…そういや、バインダーってどこから飛んで来たんだ?

 

「紅先生からだね。」

「経験則的に加賀観が簡単に起きるとも思わなかったからな。」

「えー、私にも言ってよ…。」

 

 やっぱり?今度は何に影響されたの?あの人、すげー影響されやすいからな!

 

「……織斑千冬?」

「悪かった、悪かった、まさか食って無いとは思わなくてな。」

「む~。」

 

 何?誰?織斑千冬?……ああ…。なんか納得した気がするよ。

 

「噂じゃあ、そうみたいだからね?」

「まあ、落ち着け、委員長。」

「ぬ~。」

 

 あの人のキャラって、織斑千冬に似せてるって、噂だもんな。なあ、バインダーのどこに当たった?痛みとかは無かったと思うけど。

 

「角」

「じゃあ、後で食いに行こう、な?」

「ぶ~。」

 

 角って、そりゃあ気絶、…気絶で済んで良かった?額から血とか出てない?

 

「音が凄かったね。鈍いのに、響いたよ。」

「じゃ、じゃあ、何か奢る、どうだ!?」

「う゛~。」

 

 で、本人は?

 

「校長室」

「………良し、ならば、裏メニューのフジヤマBックパフェ(4,000円)を奢る。…どうだ?」

「本当に!」

 

 まあ、そうだわな。お咎めなしって事にはならないわな。

 

「授業中だったけど、なかなかの騒ぎになったからね。隣のクラスにも広まっていたはずだよ。」

「……………ああ。」

「わ~、楽しみだなぁ♪」

 

 謹慎減給、じゃあすまないか?

 

「さあ、どうなるかは、わからないね。まあ、減給は決定だね。学校側もこればっかりは庇うとかは無いと思うよ。」

「………ハァ」

「♪」

 

 悪い先生じゃ無いんだがなぁ、……うん。こう、影響を受けやすいというかな。

 

「そこは、自信持とうよ。僕より付き合い長いだろ。」

「なあ、委員長、やっぱり………何でも無い。」

「♪」

 

「失礼します。…あら、思ったより元気そうね?」

 

 突然、ドアが開き入って来る影…母さんだ。呼ばれたのだろうか?

 

「ええ、電話が来て飛んで来たのよ。でも、おもってたよりも元気そうで良かったわ。加賀観頑丈だったのね。」

「ええ、起きた時から元気そうでしたよ。それで、霖さん、どうでしたか?」

「……そうね、校長先生の話では、謹慎、もしくは退職、で済ませて警察事は避けたいようね。」

 

 …なるほど。……母さんはどう思っているんだ?

 

「そうね、私としても警察はごめんね。面倒くさいというのもあるけど、何よりも誰も良い事にはならないでしょうしね。」

 …やっぱり?

「ええ、警察には知り合いもいるし悪いことにはならないでしょうけど、頼りたくもないのよね。本当に手続きが面倒くさいのよ。」

 …あ、そうなんだ。ぶっちゃけるね。

「ふふっ、私は人間よ?そう思ったりもするわよ。………でもね、母親でもあるのよ。」

 ……母親。

「そう、母親。あなたを産んで育てた片割れよ。……母親としては、正式に罰を与えたいのよ。息子を傷つけられたんだから。たとえ、あなたが元気でもね。」

 …罰。

「…そう、裁判とかをね、そうしないと気が収まらないのよ。………でも、その判断は加賀観に任せたいわね、私としては。」

 …何で?

「あの先生の事を私は良く知らないもの。」

 ……。

「私は、加賀観達のように先生の授業を受けた訳じゃないし、先生の趣味なんかを知っている訳じゃないわ。」

 …だから、先生を、母さんより知っている俺に任せたい、と。

「ええ、…知りもしないのに私の判断で先生をどうにかしてしまうのは、違うと思うのよ。…本音を言ってしまえば、警察事にしてしまいたいけど、それをしてしまうと加賀観が傷ついただけで、何にもならないのよ。…だから、加賀観に任せたい、加賀観が決めなきゃ、と思ったのよ。元気そうだし。……もう、子供じゃあないんでしょ?」

 ………ああ。

「…先生は校長室にいるわ。」

 

 

 

 

「ねえ、礼ちゃん。」

「はい、何ですか?」

「私って、親失格かしら?」

「それは、……彼が決める事です。」

「…そうね。」

 

 

 

 

 校長室は三鷹学園に第1から第3まで有り、初等部、中等部、高等部にそれぞれ割り振られ存在している。それぞれに権限があり、この第3校長室の校長は高等部を統括する権限を持っている。高等部の問題はこの校長室で全て処理される。今回の案件もここで処理される。母さんの話を聞くに先生の処遇は俺が決れる事になる。……。

 

「……失礼します。普通科、2-B、色無加賀観です。」

 扉の前で少し待つと、中から声が聞こえた。

「…入りなさい。」

「…失礼します。」

 扉を開けると、真ん中に校長先生、その手前にこちらに背を向けた、紅先生がいた。

 

「さて、早速だが色無君、お母さんから話は聞いたかい?」

「はい、聞きました。」

「決めたかい?」

 ……。

「そうか…なら、先に紅先生の話を聞いてやってくれないか?」

「?…はい。」

「では、紅先生。」

「………」

 ようやく、此方を向いた先生はいつものオーラなんかは無く、青ざめた表情はまるで刑を待つ囚人のようだった。

「………加賀観…。」

「……。」

 先生は、顔を歪ませながら、言葉を探しながら、途切れ途切れに喋りだした。

「…こ、…この度は、本当に、すまな、…すみません、でした…。」

 先生が最初に行ったのは、謝罪だった。その謝罪はいつもの対等な感じでする謝罪では無く、子供、そう悪いことをしたと感じた子供が行う物だった。

「…あの時、…私…は、お前、…色無が、いつものように、授業を、聞いてない…なって、思って、…思った、んだ。……それで、声を、かけた…んだけど、や、やっぱり、聞いて、なくて、…き、昨日、ネットで、千冬様の、その、……注意の、仕方…が、……帳簿を投げるって、書いて…あった、から…。」

 先生は、途切れ途切れになりながらも話すのを止めなかった。言葉の間に手や体を揺らすその姿は俺には痛ましく見えた。

 ……にしても、やっぱりか、影響されやすすぎだよ、先生ぇ。

「軽く、投げたんだ、……軽く。」

 ……そこは自信持って言ってくれ。

「そしたら、…ス、スナップが…聞い…てて…回転が、か、掛かってて、」

 えっ、回転かかってたの!?

「えっと…鈍い音が、して……色無が、起き…なくて、…ほ、保健室に、急いで運んだんだ。」

 …………。

「本当、に、すみません、でした。」

 膝をついて、腰を曲げた先生は地面に頭を打ちつけた。

「すみません、すみません、ごめんなさい、ごめんなさい、すみません、ーー」

 壊れた機械のように、先生は謝りだした。

 …観てられなかった。ああ、見たくなかった。

「ごめんなさい、すみません、ごめーー」

「先生、ああもう、良いって、先生!やめてくれ‼」

「ごめんなさい、みすてないで、ごめんなさいーー」

 止めようとしても止まらない。先生は謝り続けた。

「ちょっと、校長先生、止めて、くださいよ。」

 たまらず、この場のもう一人の人物に助けを求めた。

「……。」

「校長!」

「………。」

 しかし、校長は動かなかった。厳しい目で先生を見ていた。

「ごめんなさい、すみません、すみませんーー」

 変わらず、先生は謝り続けた。これしか出来ない、そんな感じだった。

「先生!先生!もういいから、俺、元気だから!もう誤んなくていいから。」

「すいません、すみま、ゴホッゴホッ、ご、ゴホッ、めんなさい、すみませんーー」

 呼んでも、咳き込んでも、先生は止まらない。

「すいません、すみません、ごめんなさい、すい……」

「先生?…気を失ったのか?」

 ようやく、止まった先生は頭を地面につけたまま動かなくなった。

「…やっとか。」

 今更、喋りだした校長は、目を細めた。

「……なあ?何で、先生を止め無かったんだ?」

「なに、……必要だったからだ。」

「気絶する事がか?」

「そうだ。」

 何かが切れる音がした。

「あんたは!あれを見て、何を思った!」

「何を、か、漸くか、っと思ったかな。」

「漸く?どういうことだよ。」

「漸く目が覚める。自分が憧れに憧れて何をして来たかに気づき、目覚める。そう、思った。」

 憧れに憧れて…?

「君には、すまない事をしたが、丁度良かったので利用した。その事に謝罪しよう。」

「なら、先生に話をさせたのは、わざとなのか。ああなるとわかっていて。」

「恐らくは、が付くがな。」

 瞬間だった。俺の拳が校長の右頬に入ったのは。

「殴った。」

「…事後報告か、だが、君にはその資格が有る。」

「…そういえば、此処に来たのは、先生の処遇についてだったな。」

「ああ、君の好きにするが良い。」

 校長は、一息付いてそうに言う。

「…ちっ、……謹慎処分だ!期間は1週間、5月の頭までだ!」

「…それで、良いのか?」

「もともとこれにする気だった。あんたの話で余計に思った。」

「ふむ、ならそうしよう。」

「なら、もう良いよな?」

「君の自由にするが良い。」

「ちっ、…失礼します。」

 俺は、先生を抱えて部屋を出た。

 

 

 

「あいつも、良い生徒を持ったな。」

「失礼します。」

「…ん?…なんだね?息子の仕返しかい?」

「いえ?…相変わらずね、あなたも。」

「お互い様だろう。」

「あっ、殴られたんだ。」

「ふっ、なかなかのパンチだったよ。しかし、甘いな。」

「そこがかわいいんじゃない。…まあ、まだ、子供なのよ、少し、成長したみたいだけど。」

「まあ、今回の事は君にも謝罪と感謝を言おう。」

「いらないわよ、感謝はあの子に言いなさい。」

「それは、いずれな。」

 

 

 

 先生を抱えて、来た道を控えして保健室に向かう。時間が立ったのか空も赤く、校舎に残ってるのは活動が終わるのが遅い部活位になっていた。保健室に着くと、鍵はして無かったが、中には誰もいなかった。神達も帰った後だった。

「よいしょっと、……。結構乱暴に来たのに全然起きないな。」

 静かな保健室に寂しく零した声を返す者はいなかった。

「なあ、先生、あんたにとって織斑千冬って何なんだ?ただの憧れか?…校長に、…あんたを見てると、確かに、憧れに憧れて…なろうとしてたんじゃないかって、思えるんだよな。別に憧れは良いと思うが、俺にも憧れはいるし。」

 聞いてないかもしれない、そう思っても止めなかった。

「けど、なろうとしたってなれる訳じゃない。現に先生は失敗してる。先生、憧れは憧れだと思うだ。自分もこういう風になりたい、そんなのが憧れだと思う。」

 自分でも何言ってるんだと思う。俺が言うのも違うんじゃないかとも思う。でも、先生にはそれを言いたいと思った。

「一年の頃から先生失敗しまくってたけど、誰も先生を見捨てたりしてなかっただろ?前に言ってたよな、皆に頼られる人になりたいって。先生、もう一度思い出せよ。憧れにただ憧れて、頼られる人になりたいって頑張っていた頃を。あの頃の先生は輝いていたぜ。先生は焦りすぎたんだ。それで失敗しまくったって誰も見捨てたりしないぜ?だから、憧れになりきろうとするなよ…先生は先生なんだから。」

 

 言い終えて、しばらくすると、葵先生と母さんが来た。葵先生は事情を知っているらしく、先生を葵先生に預けて、母さんと帰路に就いた。

「なあ、母さんは憧れっていた?」

 先生の事もあったからか、無性に聞きたくなった。

「憧れ?…ええ、1人いたわね。」

「その憧れになろうと思った?」

「うーん、思わなかったかな。」

「何で?」

「異性だし。」

 そうゆう理由!?

「まあ、母さんの場合は、憧れと並んじゃったからね、良くは、わからないね。でも、憧れは憧れてるうちが一番輝いてるからね。なっても、虚しいだけじゃないかな?」

 ……虚しいだけ、か。

「まあ、加賀観が何に憧れてるかは知らないけど、良い付き合い方をしなさいね。」

「うん。」

 帰路はどんどん暗くなり、街灯の灯りが明るくなっていく。街灯の灯りに虫が集る。憧れに寄る人々のように、憧れは憧れてるうちが一番輝いている。母さんの言う通りだ、虫の集る街灯は、輝いていない。これを知っているのは、憧れから覚めた人だけかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、委員長、もう止めにしないか?」

「うーん♪美味しい~」

「君が言ったのだろう?諦めなよ。」

「おばちゃん、これで何円だ?」

「そうだね、3杯目だから、12000円だね。」

「1、12000円!委員長、ストップだ!」

「う~ん♪お・か・わ・り♪」

「委員長~。」

「やれやれだね。」

 

 

 




 これは、自分が思った考えです。なんかずれてそうですが、そういう事です。


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元気だせって、このカレーパンで

 前回から時間が空きました。すみません。


 次の日、学校に行くとクラスの皆に心配された。額大丈夫?や気絶しとったけど無事か?といつもとは違い皆が俺を心配してくれていた。先生については、また何かに影響されたのか、そこがかわいいんだけどね、などだった。先生は俺が宣言した通り謹慎1週間が言い渡されたらしい。けれど、このクラスの雰囲気なら謹慎が開けても大丈夫だと、言えると思う。1週間で足りるかは、わからないけど、先生には入学当初位に戻って欲しいな。あの頃の先生が好きだったしな。

 

 

 

 

「で、神は何でそんなに落ち込んでんだ?」

「ああ、勢いで委員長に奢るなんて言った末路さ。哀れだね。」

「…俺の財布が軽いんだ、野口がいっぱいあったんだ、諭吉が、パタパタと、逝ってしまった。」

「おいしかった~♪フジヤマBックパフェ、あまりの美味しさに5杯食べちゃった♪また食べたいね、今度は皆で行けると良いね。」

 

 神は、手に持った財布を見て項垂れて、その横で委員長は小躍りしていた。かわいい。委員長の頭の中は昨日のフジヤマBックパフェでいっぱいみたいだ。かわいい。

 

「で、何円だったんだ?」

「食堂のおばちゃんが哀れんで負けてくれたけど、5杯で、19000円だね。」

「うわー、さすが裏メニュー高え。」

「彼のお小遣いはいかほどになったのやら。想像は容易そうだけどね。」

 

 

 

 神が復活したのは、昼休みを迎えてからだった。

「なあ、神。これから食堂に行くが、来るか?」

「……すまない、今日は止めとこう。食堂に行くと思い出すんだ。」

「そうか、………。(かける言葉がねぇ…)」

 

 訂正、まだだった。神の家は月に貰える小遣いが5000円だから、約4か月分吹っ飛んだ計算になる。神のショックは計り知れないだろう。

 

「どうだったんだい?」

「まだだ、ありゃあ長いぜ。トラウマになってるぜ。」

「フウ、委員長の大食いは知っていたのに、何で奢るなんてしたんだろうか?僕にはさっぱりなんだが。」

「さあ、あいつが委員長になんかするとも思えんからなあ。」

 

 いつも笑顔で過ごしている委員長が怒った事なんて見た事ないから想像もつかない。聞いた話だと過去に一度、そんな場面があったと聞いた。そいつの話だと、なんかの教科担当の先生が委員長の食事量に注意をしたらしい。なんで注意したかは解らないが、その事に委員長が怒ったそうだ。

 

「彼はバイトはしてないのか?」

「神の家はバイト禁止だからな。」

「おや、珍しい。」

「神の弟が昔ネットでバイトしてたらしいんだが、なんかよくわからん勧誘が家に沢山来たんだと。原因が弟のバイトだったから親父さんがバイト禁止令をだしたんだ。」

「…それは、気の毒だね。」

「全くだ。」

 とりあえず神を置いて食堂に向かった。あのままあそこにいても昼休みが消費されるだけだからな。…何か買って行ってやるか。

 

 

「それで、どうだったんだい?」

「ああ。…先生に事情を聞いて、謝られて、俺が謹慎処分にした。」

 食堂に向かう途中布枯に昨日の事を聞かれて、端折って説明した。あんまり人に言っても良い内容でも無いと思ったからだ。

「なるほど…。」

「何か気になったか?」

「…いや、そうじゃないよ。とりあえず食堂に入ろう。」

 

 

 

 

 

 

 昼食を食い終わり、俺たちはカレーパンを買って教室に戻った。

 

 

「神、起きてるか?」

「…ん?…加賀観か。どうした?」

「お前にこれを買って来たんだよ。それで、元気出せよ?」

「おお、ありがとう。流石に昼無しはきつかった。これなら、まあ頑張れる。」

「そいつは良かった。」

 

 神はよほど腹が減ってたのか数秒程で食べきった。ちなみにこのカレーパン、食堂一辛いって有名な奴何だけど、神が問題なく食べてるのを見るにそこまでなのだろうか?…いや、やっぱり辛かったみたいだ、神がこっちを睨んでいる。

 

 

 

 

 

「……まだ舌が痛いんだが?」

「悪かったって、出来心だ。」

「お前の出来心で舌が痛い、……なんでもない。」

「どうした?まあ、元気だせっていう俺らからのメッセージと思ってくれ。」

「……ああ。」

 

 

 




 前回がちょっと例外的な奴でこれが正常かと思います。


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暴食の妖精の特別ステージ

 妖精はかわいいだけじゃない。


 窓から流れる涼しい風、誰かが咳き込む音、クラスメイトの顔にはマスク。この状況から分かる事、それはこのクラスで風邪が流行したという事。昨日までは何とも無かったのにな。症状自体は軽い物らしいが何故何だろうな?授業では、数分に一回はゴホゴホと誰かの咳が聞こえる。まあ、クラスメイトと言っても、風邪を引いてるのは男子だけなんだがな。

 

「加賀観、ティッシュがあったら貸してくれ。」

「ああ、ほい。」

「…なあ加賀観、俺にも貸してくれないか?」

「ああ。」

「加賀観、僕にも貸してくれない?」

「…ああ。」

 

 俺がティッシュを持っていると分かると奴らはありの様に群がって来た。そして、俺が持って来た物はどんどん無くなって行った。…俺の分も無くなったんだが?

 

「いやぁ、人気者だねぇ。」

「こんな事で人気者になりたくなかった。」

「だろうね、僕もこんな人気は願い下げだ。でも、なんだってこんな風邪が流行っているんだい?原因さん。」

「分かって言ってるだろお前。」

「そりゃね、僕も見ていたからね。」

 

 この風邪の流行の原因は、ほぼ確実に俺だろう。事件が起こったのは昨日だ。その日は、体育が最後の授業だった為に、男子皆でサッカーをしたんだ。だいぶ楽しんだから皆、多汗をかいてたんだ。だから、俺は気を使って帰り際に俺が水道水を雨のように降らせたんだ。シャワー替わりにな。そしたら威力が強かったのか皆が怒り出してな。そこからろくに乾かさずに鬼ごっこが開始して、その場にいたほとんどが風邪を引いた。これがこの流行の正体(仮)だ。

 

「うん、それよりも色無君、とりあえず鼻噛んだら?垂れてるよ。」

「ああ、そうする。…委員長、テッシュある?」

「え、無くなったの?ボックスで持ってたよね?」

「…秒だったね。」

 

 まあ、当然だが、当事者な俺も風邪を引いた。さっき俺のティッシュを取って行った奴らには私怨が有ったに違いない。だが、当事者でも例外がいたのを俺は今日の朝知った。

 

「なあ神、お前もあそこにいたよな?」

「ん?一緒に帰っただろ、それがどうした?」

 

 こいつだ。何故だか神は風邪を引いていない、あの場で一緒にかかっていたはずなのに。

 

「いや、お前風邪引いてないし、なんでだろうと思ってな。」

「ああ、あの後直ぐに吹いたし風邪薬飲んだからだろう。」

「…そっか。」

 これがバカと頭の良い奴の違いか。…バカは風邪を引かないとは何だったのか。

 

「まあ、風邪を酷くしない為にも今日は大人しくしている事だな。」

「…おう。」

 カッコ悪く風邪を引いてしまった俺はその言葉に頷くしかなかった。そして、自然な動きで俺は眠りの体制に入って行った。

 

「……お…い……加…賀観、……加賀観、起きろ、昼だぞ?」

「…んぁ?………昼か、…よし飯だな。神、食堂行こうぜ。」

「ああ。」

 起きたら授業が終わっていた。いつもの事だな。…後で呼び出されねぇよな?

 

「そういえばさ、あの蛇口って、直ったのか?」

「…ああ、昨日お前が壊した奴か、確か多々野先生がやってくれたみたいだぞ。」

「壊したとは失礼な、俺ただは捻っただけだぞ?」

「あれは捻ったじゃすまないだろ、蛇口取れてたぞ、あれ。…いや、仮にそうだったとして、力を入れ過ぎだな。」

 いやね、水の威力を強くしようと回したら、ぽろっと、錆び付いていたけど簡単に取れて俺もびっくりしたんだぜ?それで止めようとしたんだけど、取れてて水止めれなくて大騒ぎだったもんな。

 

「ちょっとは反省しとかないと後が怖いぞ?」

「…大丈夫だろ。」

「そうだと良いがな。…井戸田や今谷何かは大分お前に腹を立ててたっぽいけどな。」

「いや、彼奴らはむしろこっち側だろ。水の威力が弱いって言ったの彼奴らだぞ。」

「…そうだったか?」

 あーだこーだとだべりながら歩いていると、食堂の文字が見えて来た。あっという間についた感じだった。そんな事を思っていると、神がどうかしたのかと聞かれた。どうやら突然立ち止まった事を不思議に思って聞いて来たようだ。何故か気恥ずかしく思った俺は神を急かして食堂のドアを開いた。神はその様子を見て、呆れた風に俺を見ていた。

 

 昼休憩が始まってから大分経っていたが、食券を持った生徒の列が出来ていた。

 

「今日の列は特別長く感じるな。」

「今日は別に何も無かったと思うけどなぁ?」

「ん?君達は知らないのか?」

 食券機の列を並んでいると、前の男子生徒が振り向き、声をかけてきた。

「今、あそこで葵先生が大食い大会を開催してるのさ。」

 

 そう言って、男子生徒は集団の一角を指さした。そこを良く見ると、集団の中央で保健室の葵先生らしき人物が大振りの丼を前にして、何かを宣言しているように見えた。大食い大会「葵杯」、それは学校内でも大食いで知られている葵先生が自費で開催している大会だ。勝者には食堂から無料の食券を先生が購入した者が与えられる。最近は参加者が揃わないからと、行われていなかったが今日は人数が集まったようだ。

 

「ああ、だからこの込みようか。納得が行った。」

「それで、今回の参加者は誰なんだ?」

「今回の参加者は2名で、1人は2年の常葉さん。もう一人の名前はわからない。今回初参加らしいけど…」

 初参加か、珍しいな。葵杯は大会と銘打っているだけに出て来る量は大量で、なかなか食べれた物じゃ無いはずなんだがな。俺も一度挑戦したが半分位でリタイアした程だ。

 

 その後、そんな大会を横目に食券を料理に引き換えて席についた。

「やはり委員長が参加していたな。」

「ああ、…そういえば教室を出る時とてもニコニコしてたな。」

「委員長は相変わらず食べるの好きなんだな。」

「しかし、初参加とは珍しいよな。」

「そうだな、委員長が参加して以来なんじゃないか?」

「…そうだな。皆、委員長を見て参加諦めていたからな。」

 話しながら箸を進めていると、会場の方から一際大きな歓声が聞こえた。どうやら、決着がついたようだ。

 

 

「勝者!常葉千古!」

「いえーい!」

 審判の葵先生の宣告に周りから大きな歓声が上がった。勝者の委員長は元気に立ち上がって喜んでいる。その隣で謎の初参加者は苦笑いで拍手している。

 

「勝ったか、流石委員長だな。」

「ああ、委員長位食べるのはなかなか居ないだろうしな。」

「あの参加者も善戦したみたいだな。」

「あの委員長に善戦出来たんだ、強いのだろう。」

 

 委員長の胃袋はちょっとやそっとでは倒せる物じゃないからな。あの大会は先に完食した人が優勝なルールだから、委員長を倒すには委員長よりも早く食べるしかない。あの参加者は、話では前半は委員長よりも早く食べていたようだがどんどん追いつかれて負けたようだ。前半勝ってた分悔しいんだろう。負けた参加者は、参加賞を貰い早々と食堂を後にした。勝った委員長は葵先生から優勝商品の食券を貰っていた。あの様子ではこの後貰った食券を引き換えに行くのだろう。なにあれ勝利を祝いに行こう。神と目を合わせ委員長の所に向かった。

 

「よう、委員長。」

「あっ!二人共、やったよ!商品の食券、デラックス定食だったの!」

「お、おう、良かったな。」

「おめでとう、委員長。」

「うん、おいしそうだよ。さっそく頂こうかな?」

 

 委員長が凄い目をキラキラさせて見ているのは、今回の商品、デラックス定食だ。量良し、味良し、見た目良しな、一品だ。普通は朝飯を抜いて食べる物で、間違っても大食い大会の後に食う物ではない。価格はデラックスにふさわしい価格だが、2食分より安いので朝飯を抜くとお得になるのだ。運動部の連中が朝飯をおにぎりだけにして、このデラックス定食を頼むのを良く見かける。

 

「もぐもぐ、ん~♪おいしい!」

「……幸せなのは委員長だけかな?」

「ああ、周りの奴らは腹を抱える者や口に手を置く者でいっぱいだ。」

 食べている量を考えて胃もたれでも起こしているのだろう。…まあ、仕方ない事だ。

「ん~♪おいしいよ、止まらないよ~♪」

 美味しそうに食べ続ける委員長。そこはまるで委員長にスポットライトが当たったような光景が広がっていた。

 




 


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新風の終わり、気持ち改め

 4月最終話、長い春の風は新たな風に


 最近の学校はとても賑やかだと思う。運動会にやる気を出す者、行事という響きが嬉しい者、運動会の準備で駆け回る者、特集号を作成する者など運動会に向けて皆思い思いに過ごしている。そんな中、些細な問題があちこちで起こっていたりする。体育会系の対立や賭事など様々だ。生徒指導室は連日賑わっている。それでも静まらないのはどこからでも出てくるからだろう。

 

「あっ、またやってる。」

 

 窓の下では、確か普通科2年のAクラスの奴らとCクラスの奴らがにらみ合っていた。声は良く聞こえないが運動会でやるような雰囲気ではないようだった。にらみ合っていた両グループの代表者なのか一人前に出た。両者は何かを話し合うとグループに戻り、解散して行った。

 

「……こんなのが多いな、最近…」

「三鷹学園は来る者拒まず、その方針だからいろいろな人が此処にはいるのだ。真面目な人から柄の悪い人までな。」

 溜め息混じりの独り言は漂わずにどこかの誰かに拾われた。こんな独り言を拾う者好きは誰だと振り返ると、そこにはいるはずの無い人物の登場に言葉を無くした。

「何を驚いている?」

「…いや、驚くでしょうよ。」

 独り言を拾ったのは、俺らの担任の紅先生だった。

「先生、出勤は明日からだろ?」

「でも、謹慎は今日までだ。」

「良いの、それ?」

「さあ、どうなんだろうな?」

 先生は微笑みながら言う。その微笑みは、謹慎前の先生からは見られなかった表情だった。

「校長先生には言付けてあるが、あまり大っぴらに出歩いては行けないんだろうけどな。」

 あの校長まだ何かするつもりかよ。

「まあ、自分の教室位はと足を運んで来たらお前がいた、それだけだ。」

 

 で、俺の独り言を拾ったと。…恥ずかしっ!……。

 

「なあ、加賀観。」

「……なんだよ。」

「…私は織斑千冬になれてたか?」

 

 ……なるほど。

 

「いや、先生は織斑千冬にはなれてなかったぜ。」

「…そうか。やはり、私ではなれなかったか。」

「ああ、まるで織斑千冬を書いた紙を貼った紅葉月だったぜ?」

 

「それは、もう私だろ!……お前、やっぱりあの時謝りたり無かったのか?」

「いや、もう謝んなくて良いから。…先生の言った通り俺らから見たら先生は先生としか見えてなかったのさ。」

「…」

「俺らは、1年から先生を見てたんだ。2年から先生が何か変になったって良く話してたんだぜ?」

「そうだった、のか。」

 

「先生が好んでそうなったなら皆、先生の事そんな風に思わなかったんだぜ?遅い高校デビュー位に思ったと思う。」

「…遅い高校デビュー…」

 

 何か先生が落ち込んだが、まあ続けよう。

 

「でも、先生が無理してそうに見えたから、わかったから皆は変だって思ったんだ。先生は、織斑千冬みたいに立派な先生になってたんだろうけど、俺らからは無理した先生にしか見えなかった。そこをわかってくれよ。」

 

 先生は深く考え込むような顔をした。

 

「……お前がくれた謹慎期間、お前があの時言った事を考えていた。私にとっての織斑千冬は何なのかと。お前に言われるまで心の中では、私は織斑千冬になっていると思っていた。織斑千冬みたいに立派な先生をやっていたと、思っていた。だが、お前の話を聞いて思ったよ。私にとって織斑千冬は何なのか。私は織斑千冬に何を思っていたと。だから、考えた。そして、答えをみつけた。私にとって織斑千冬は憧れの存在で、織斑千冬みたいにかっこいい先生になりたいと。そう思っていたのを思い出した。」

 

 先生にとって織斑千冬は憧れで目標だった。いつかあんな風にと思っていたんだろう。

 

「けど、憧れが変化していたんだな。今、思うとムチャクチャやったと思う。ネットで織斑千冬がこうやってたと書いてあった物をとことん行ってしまい、怒鳴ったり、…お前にも怪我をさせたな。…ああ、やっと自分がしてきた事がわかった。…遅かった、か。」

 先生は、窓を見て最後にポツリと言った。

「いんや、まだ間に合うぜ。まだ、4月何だからな。」

「…4月…」

「高校デビューは、4月までなら簡単に治せるんだぜ?」

「フフッ…そうか。そうだな。」

 

 その後、先生と他愛もない話をしていた。

 

「…さて、そろそろ時間だろう。」

 窓から見える夕日はその形を変えていた。もうすぐ、夜がやってくるだろう。

 

「じゃあ、気を付けて帰れよ。寝坊するなよ?」

「高校生にそれ言うかよ。」

「寝坊に年は関係無いと思うがな。」

「だいたい、俺は寝坊したこと無いよ。」

「居眠りする奴が威張るな。…じゃあね。」

 

 

 

 

 

 




 人物紹介を挟み、次の章になります。


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5月 動き出す心と身体
歩くように流れて


 少し空きましたができました。


 

 5月1日。4月に新しく入学して来た新入生にとって、新たな環境での生活が始まってから1ヶ月が経った頃だ。新生活で慌ただしい時間を過ごした者達は、此処で一息入れて行く。新生活に目を輝かせ満喫した者達は、これからを考え。新生活に新しいスタートを切ろうとした者達は、此処で選択していた。学校が平常通りに動き始めるこの月に他のクラスでは、授業が本格的に始まると勉強に力をいれる。しかし、俺達Bクラスでは少し違う。新しいスタートを切ろうとした先生、紅先生の謹慎処分が解ける日。紅先生が学校に来る日なのだ。皆、そわそわしながら朝礼を待った。

 

 

「……」

 そして、朝礼の時間。教室に入って来た先生は物凄く緊張してなかなか酷い事になっていた。目の焦点が定まっていないし手がピクピクと震えている。今にも倒れそうな様子にクラスが2つに別れた。

「み、皆さん。ご迷惑をお、かけしましたぁ。」

 1つは先生の姿に心配する者達。主に1年の時に他クラスだった生徒だ。もう1つは先生の様子に安堵なり喜ぶ者達。主に先生のクラスだった生徒だ。去年の先生も最初こんな感じで自己紹介をしていた。それを知っている俺らからすると戻った、帰って来たと喜んだ。

「初心に、を、思い出して、がんばり、ます。」

 先生は、言い終わると皆に向かってお辞儀をした。それを見た他クラスだった者は拍手を俺らは歓声を先生に送った。

 

 

 朝礼は先生が顔を真っ赤にして終了し、1時間目が始まろうとしている。今日の1時間目は自習だ。本当は違う授業だが、急遽時間割が変更になった。俺らの中では、様々な説が言われているが、おそらくだが校長が1枚噛んでいると思う。ムカつくが、そういう配慮も出来る奴だ。なんか知り合いらしい母さんから聞いた話では、母さん達の恋のキューピットは校長らしいからな。今回は素直に感謝しようと思う。

 

「先生!」

「先生、もう大丈夫なのね!」

「先生!」

「先生、良かった!直ったんだね!」

「おかえりー!」

 

 

 この状況で勉強とか無理だと思うしな。

 

 

「しかし、1週間で良く戻れたな?」

「先生が強かったんだろう。」

「…ああ、先生強いもんな。」

 結局の所、自習時間に自習した者はおらず、先生を中心に去年の自己紹介の事などの先生の武勇伝に花を咲かせていった。先生は話される武勇伝もとい黒歴史の数々に表情を忙しなく変えていた。

 

「ねえ。」

「何だ?」

 先生の黒歴史に耳を傾けていると、布枯が声をかけて来た。表情は何時もと変わらないが布枯が纏う雰囲気が何時もよりも冷たく感じた。

「先生が昨日、学校に来ていた事知ってるかい?」

「そうなのか?」

 ちょっと反応したがあれは皆には秘密の事だ。布枯だろうと知られない方が良いだろう。

「……うん、昨日先生の姿を見た子がいてね、その子が校舎をゆっくりと歩いているのを見たってね。」

 …先生、バレないようにとか言ってなかった?普通にバレてるじゃんか。

「まあ、それ自体は別に良いんだけどね。問題は、先生が誰かと教室で喋っていたって事さ。」

 ほとんどバレてんじゃねぇかよ。誰だよその生徒って。

「ん?ああ、その生徒が気になるんだ?」

「まあ、先生と話したいって奴はこのクラスにいっぱいいるしな。」

「私は質問しただけだけどねぇ。」

 そうだな、質問しただけだな。…やべー、何か自爆した~!

「まあ、根ほり葉ほり聞くのは今度にしておこうか。今は素直に喜ぼうか。」

 布枯は一人結論を出し、頷き微笑んだ。布枯が納得したのならば、気にする必要も無いと改めて先生を見た。皆に囲まれて、微笑んだり困ったような顔をしたりと忙しそうだが楽しそうに様々な話しをしている。朝礼の時の緊張はもう解けたようだ。相槌や返事の声は震えていなかった。休憩時間からずっと喋っているが、話のネタは尽きていないようだ。今年度に入ってからはああして話す事が減っていたので、その分話す事が多い様子だ。先生の事だから生徒の話を最後まで聞くのだろう。言葉はあれど、時間が足りない。そうなりそうだ。

 

「先生、もう前みたいにならないでよ?」

「…ああ、わかっている。愛田にも皆にも、迷惑をかけた。すまなかった。」

 先生は愛田の言葉に、深く頷き答えた。1ヶ月、その時間は皆にとって長くきつい時間だった事をわかっている先生は、もう一度、深く頭を下げた。その行動に口を挟む者はおらず、誰もが先生の姿を見ていた。そこには今まで見れなかった先生の姿が、また一つ現れた。それはけして凛々しい姿ではなかった。けれども、俺達は不思議とかっこいいと思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……フッ」

 ドアの外から此方を覗く視線に気づく者は誰もいなかった。…いや、危険などない温かい視線だったからかもしれない。

 

 

 



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晴天の下で天を思うのは

 時間が開きましたができました


 

 

 カーテンの隙間から射し込む眩しい朝日に当てられ、俺は目を覚ました。まだ、ボーとしている意識を時間をかけて覚醒させる。敷き布団の温かみを惜しんで身体を起こす。今日を穏やかな1日にするために、起床時の状態を良いものにする事を最近心掛けている。名残惜しいが、布団から足を出す。冷たい空気が足を触れ、微かな眠気を覚まして行く。全体を布団から出して立ち上がると、スッキリした気持ちにる。カーテンを解放し、全身に朝日を当てる。すると、朝日を浴びた身体が熱を作り始める。軽く身体を捻り、部屋を出た。

 

「最近は、気持ち良く眠れて良いな。授業も何時もより集中出来てる気がするしな。」

 

 午前5時、今の時間はまだ寝ている人も多く、とても静かだった。日の出からすぐの時間だが、辺りは明るかった。外には、ジョギングなどしている人がちらほら見かける。ジョギングと言えば、神も最近ジョギングを始めたようだ。神は見た目はアウトドアだが、中身はインドアで、ジョギングなどはしなかったが水谷先輩に進められて始めたらしい。最初は少し嫌だったらしいがやってるうちにちょっとした趣味になったそうだ。理由を聞くと、朝のジョギングはとても気持ち良かったらしい。

 

「まあ、俺は走らないけどな。」

「あら、そんな所で立ち止まってどうしたの?」

 

 …そういえば、母さんが泊まりに来ていた事を忘れていた。昨日、突然電話がかかって来た。今日泊まるからと言って、夜遅くに家にやって来た。夕食は一緒にしなかったが、お休みを言い合って眠ったのだ。しかし、明日は朝早くにでると言ってたような?

 

「母さん、今日早いって言ってなかったか?」

「早いと言ってももう少し後よ。今、何時だと思ってるのよ。」

 

 今は5時過ぎか、起きた時は良く見てなかったな。けど、前にこの位の時間には出ていた気がするのだが。

 

「まあ、良いわ。朝ご飯食べる?」

「あ、うん。食べる。」

 

 母さんとの朝食には何時も、玉子焼きがある。理由は母さんの得意料理の一つだからだ。昔、何個も何個も作り続けた事があったようで、そこらの玉子焼きに負けない物が作れると豪語していた。実際、美味しい。父さんはこの玉子焼きの味を世界一と言っていた。まあ、良く舌に馴染んだ味なのかも知れない。

 

「準備が出来たわ。」

「いただきます。」

 

 さて、今日の朝飯は玉子焼きに焼き魚、ご飯だ。母さんが買って来たと思われる魚、アジは良い匂いで食欲を誘ってくれる。大根のすりおろし何かがあれば更に良いのだが、家の冷蔵庫に大根などは無いので付いていないのだろう。怠けず買って置けば良かったな。一人暮らしでアジなんてほとんど食べないのに。……まあ、美味しいに変わりは無いから良いか。あー、ご飯が進む。パリって言う音と程良い塩気が本当にご飯を進めさせる。時間も有るのでゆっくりと食べたい気も有るけど、箸が止まんないな。実家じゃあ良く食べてたんだけどなあ…。

 

「ねぇ、加賀観。あなた、れいちゃんのお墓参りまだ行ってないの?」

「……うん。」

「……そう…。」

 

 ……そうだな、もうすぐ命日か。…ああ、行かないとな。れいちゃんにまた、言わないとな。伝えないとな。あの日の事。これまでの事。

 

「……。」

「…加賀観、あの日の事は-」

「大丈夫。ちゃんと行くさ。」

「っ……。わかったわ。」

 

 朝食の片付けに向かう、母さんの後ろ姿を見つつ俺は右目を抑える。あの日を思い出す度に右目がズキンと痛む。…後遺症は残っていないはずなんだけどな。あの日の記憶は忘れられない。忘れてはならない。そう決めた時から、この右目の痛みは続いている。最近は、片隅に合った。しかし、命日が近くなり痛み出した。やはり、俺には忘れられない。忘れない。けれども、墓に行く事が出来ないでいた。

 

 

 

「それじゃあ、行くわね?」

「うん、いってらっしゃい。」

「行ってきます。」

 

 午前6時過ぎ。母さんは仕事場に向かった。俺も今日は、学校に早く行こうと準備を始めた。

 

「あーっと、英語と数学と歴史で、後は置いてるから良いか。」

 

 リュックに教科書を入れて、家を出た。今は7時前だが、道を歩く人は多かった。ランニングウェアだったりスーツだったりと何時もとそう変わらないけど、何故か新鮮に感じる。朝だからだろうか?何にしても気持ちいい。

 

「さて、学校に向かうか。」

 

 俺の家から学校へは15分ほどだ。まだ静かな並木道をゆっくりと歩く。今日はどんな事が有るかを思い、道を歩いた。

 

 

 

 

 

 晴天の下で、天を思う。あの日を思い、彼女の来世に祝福を。

 

 

 

 

 

 

 




 


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鏡界零度一二一二地点

 


 

 

 ……此処は、どこだ?暗いな。…いや、何も無いのか?

 

 

「れいちゃん、こっちだよ!」

「待ってよ、かーくん!」

 

 頭を周囲に向けていると、どこからか声が聞こえた。その声は甲高く、子供のような声だった。声の聞こえた方を向くと、光る物が見えた。何だろうか?そう思い、光る物の方に向かった。

 

「これは…。」

 

 光る物は、少し汚れた猫の人形だった。デパートで1000円ほどで買える物だ。猫の種類はわからないけど、全身が白い毛で覆われた猫だ。首に赤い首輪が付けていた。そして、尻尾には濁った赤い何かが染み付いていた。

 

「これは、れいちゃんの猫だ。…何で此処に。」

 

 れいちゃんの猫を見ていると、辺りが明るくなりだした。そして、声が聞こえた。

 

「れいちゃん、こっちだね?」

「うん、こっちだよ!」

 

 小さい男の子と小さい女の子が地図を片手に歩いていた。……あれは、小さい時のれいちゃんと俺だ。それに此処は、小学校の修学旅行で行った神社近くの森だ。レクリエーションで決められたコースを探検する事になって、れいちゃんと一緒に行動したんだったな。

 

「かーくん、そっちは違うよ。こっちだよ!」

「えっ、そっち?…わかった!」

 

 たくさんある分かれ道で良く迷ったな。しかし、何でこんなの見てるんだろうか。確か、この後は……。

 

「待ってよ~!」

「れいちゃん、遅いよー!はやくー!」

「かーくん、早いよ~!わっ!」

 

 走っていた、れいちゃんは生えていた木の根に足を取られ転んだ。

 

「あっ!れいちゃん、大丈夫か!」

「…いたい、いたいよ。ひっく、ひっく!」

「わわっ!れいちゃん!泣いちゃだめだよ!えーと、あっ!れいちゃん、ちょっと待ってて!」

 

 俺は何かを見つけたのか、れいちゃんから離れた。

 そう、楽しくて早く歩いた俺に追いつこうとしたれいちゃんが、生えてた木の根に転んだんだ。あの時は凄く慌てたな、れいちゃんが泣きそうだったし。

 

「れいちゃん、背中に捕まって!」

 

 戻って来た俺は、れいちゃんをおぶって歩き出した。

 

「ひっく、どこに、行くの?」

「この先に、川があったんだ!そこで足を洗おう。」

「…わかった。」

 

 その川は、森の風景にふさわしい川だった。透明で、小魚が泳ぐのが見られるような川だった。

 

「うわー!凄いよかーくん!凄くきれいだよ!」

 

 れいちゃんは川を見て、目を凄く輝かせた。足の痛みは気にもしていない。俺はれいちゃんを川の近くで下ろした。その時でもれいちゃんは、凄いと目を輝かせていた。

 

「れいちゃん、ごめんね。」

「うんん、川がきれいだから良いよ。」

「うん、きれいだよね。」

 

 れいちゃんの足は、石や砂が付いて痛そうだった。幸いにも血は軽く垂れる位だった。川の水で流して、持っていたハンカチを巻いた。それしか出来なかったけど、れいちゃんは楽になったと言ってくれた。

 

「ありがとう、かーくん!」

「どういたしまして?でも、原因は僕何だけど。」

「良いのよ!」

 

 れいちゃんは、まだ痛いだろうに笑顔を浮かべる。そんなれいちゃんにつられて俺も笑顔になった。昔かられいちゃんにはかなわないと、今でも思う。

 

「れいちゃん、大丈夫?」

「かーくんのおかげで大丈夫だよ。」

「何かあったら言ってね。」

「うん。」

 

 再び、俺がれいちゃんをおぶって歩いた。れいちゃんの足に無理させないためだけど、れいちゃんの痛みは俺が原因だからその懺悔の気持ちからかもしれない。ゴールを目指して歩いていた。

 

「おーい、かがみさーん!れいさーん!」

「鏡くーん!零ちゃーん!どこにいるのー!」

 

 遠くから俺らを呼ぶ声が聞こえる。声からして弾と清香ちゃんだと思ったが、二人は別のグループだから違うかと思っていたな。2人だったが。

 

「あっ!かがみさんとれいさん!」

「見つけました!」

 

 俺らに気づいた弾と清香ちゃんは俺らの方に来た。俺らを見つけて嬉しそうだが、弾と清香ちゃんは俺らと別のグループで学年も違う訳で、出発は2人の方が先だから会うのは少しおかしいのだ。

 

「2人共何でいるの?」

「弾達は先に出たよね?」

「待ってました!」

「同じく~!」

 

 2人はなんという事も無く言い放つが、俺は開いた口が塞がらない。一方、れいちゃんは嬉しそうだった。仲が良い子たちで歩くのは楽しい、れいちゃんが思っているのはそんな所だろう。

 

「あれ?れいさん、怪我したんですか?」

「あっ!ほんとだ!大丈夫ですか?」

「うん。かーくんがハンカチくれたから。」

「……」

 

 れいちゃんの足に気づいて、清香ちゃんと弾は心配するが、れいちゃんは大丈夫と言う。俺は、羞恥心と罪悪感で黙っていた。

 

「かがみさん。」

「何?弾。」

「れいさんおぶって良く歩けますね。」

「かーくんは凄いからね!」

「そうですよ!普通に歩くのも大変なのに!」

「何でれいちゃんが威張ってるのさ?」

 

 何でもない話をしながら俺らは歩いていた。ゴールはもうすぐだ。

 

 

 

「」

「ー」

「ーー」

「おーーー」

 

 どこからか、俺を呼ぶような声が聞こえる。だんだん大きくなっている。

 

「起きなよーー」

 

 そして、周りが明るくなり体が重たく感じて来た。

 

「やっとか、授業中だよ。」

「…………布枯か。」

「ああ、布枯だよ。」

 

 目が覚めると、目の前には布枯がいた。…今は、体育の授業で自由時間だった。目が覚めた時に、一瞬れいちゃんに見えたが気のせいだろう。死人がいる訳が無いからな。生きてるなら、会いに来るだろうし。

 

「加賀観、起きたか。向こうでバスケするらしいが来るか?」

「おお!行くぜ!」

 

 神に呼ばれ、バスケをしに行く。この時には、もう薄れかけていた。

 



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動き始める光

 

 ある休日の日。俺は、電車に揺られていた。母さんに言った通り、俺はれいちゃんの墓参りに行く。俺がれいちゃんの墓参りをしたのは、墓ができてみんなで参りに行った時だけだ。それ以外は行っていない。行ってしまうと、れいちゃんの事で先に進め無くなるんじゃ無いかと思ってしまったからだ。れいちゃんだって、自分のせいで俺が止まるのを許すとも思えない。それが、例え建て前でも、強がりでも俺はれいちゃんの墓に行きたくなかった。今回は、れいちゃんが死んで5回目の命日だ。休日の関係で、命日は明日だが今日行く。

 

「………」

 

 れいちゃんの墓参りに向かうのに、れいちゃんの墓が出来て皆で墓参りに行って以来になる。どうしても、行く気になれなかったからだ。それが罪悪感なのかどうかはわからない。けど、れいちゃんが死んだのは俺が原因だ。それに、れいちゃんの妹ちゃんに言った「お姉ちゃんはどこ?」が心に刺さったままなのかもしれない。だから、行かないと決めていた。しかし、今回行くと決めた理由は月日が経ったからかもしれない。自分でもはっきりと理由がわからない。自然に行かないとという気持ちになっていた。これは月日が経った事で知らない間に心の奥では、そうだったのかもしれない。あるいは……流石に無いか。

 

「ん?もうこんな時間か。」

 

 電車に乗って、1時間程経っていた。れいちゃんの墓は、実家の近くに作られた。しかし、実家が駅からだいぶ離れた所に有るために電車で行き途中でバスなどに乗っても2時間程かかる。最寄り駅は後40分位だ。降りてからもだいぶ有るため、母さんに迎えに来て欲しいと思うが今日は仕事だと断られた。今回の墓参りは、家族には母さんにしか伝えていない。なので、迎えは零だろう。

 

「もうすぐか、…大丈夫…だな。」

 

 電車が駅のフラットフォームに入るのを見て、荷物の準備をし始めた。日帰りだからリュックだけだが、墓参りに持って行く物は着いてから買おうと思っていた。花などは持ったままで来るのが大変だからと、街を少し歩こうと思っていたから買わなかった。

 

「この駅も久しぶりだな。前は正月か。」

 

 三鷹学園が在る街から実家が在る街に行くにはこの駅を通る事になる。正月に一度戻ってからなので半年位だが久しぶりと感じた。

 

「さて、この近くの花屋はっと。」

 

 記憶を頼りに歩き出した。なかなか大きい街だけど、12年間住んでいた上にちょくちょく帰っていたから行けるはずだ。歩いていると、街にマンションやアパートが増えたなと感じる。前からビルとかは沢山あったが、更に増えた気がするな。

 

「おっ、此処だ。」

 

 駅から徒歩15分程の所に在る、ちょっとした花屋にたどり着く。此処は昔に一度来て花を買った事がある。その時何を買ったかは、覚えていないけど母さんと来たのを覚えている。中はショーケースに入った花やカラフルな鉢が飾られている。奥にはカウンターが有り、受付の女性が此方を見ていた。

 

「いらっしゃいませ。」

「花を注文したいんですけど。」

「はい、どのような花ですか?」

「カンパニュラって有りますか?」

「カンパニュラですね、……。」

 

 女性はパソコンを叩き、在庫でも調べてるのか画面を見つめた。

 

「はい、ありますよ。」

「じゃあ、お願いします。」

「では、少々お待ちください。」

 

 女性は、奥に入って行った。カンパニュラを調べたら「感謝」とか「誠実」など良さげな花言葉が書いてあったからこのカンパニュラにした。時間がなかったからあまり調べなかったけど、写真だと良さそうだった。そういえば、種類は特に言わなかったな。まあ、大丈夫だろう。

 

「では、此方になります。」

「はい。」

 

 その後会計を済ませて店を出た。少し持つのが大変だったが、何とか抱えた。そのままの足で実家に向かった。店からは少し遠いが、その分街を見て回った。家は、街の外れの坂の上なので少し汗が出た。時間がかったが家に着いた。

 

「……。」

「……。」

 

 何故か家の前にいた父さんとお互いを見合った。父さんは今日仕事がないとは聞いてはいたけど、何で家の前にいるんだ。

 

「……。」

「……いや、何で何もしゃべんないの!何か喋ってよ!?」

「…寡黙の方がかっこいいと思ってな。」

「寡黙って黙ってる事だっけ?」

「……恐らくは…。」

 

 確かに、寡黙な父さんはかっこいいと思う。黙っていればかっこいいと評判の父さんが、寡黙な感じになるのは良い事だろう。なれるなら。

 

「ま、まあ、お帰り。」

「うん、ただいま。」

 

 何とも言えない感じだが、いつもの父さんに少し安心した。この雰囲気が仕事ではキリッとした感じになるのでびっくりした物だ。

 

「鏡、すぐに墓に行くのか?」

「ああ、あんまり時間は無いからね。」

「そうか、場所は分かるか?」

「大丈夫。」

「そうか、ならしっかり話して来い。」

「ああ?行って来る。」

 

 父さんの言葉に少し違和感を感じたけど、墓に向け歩き出した。墓は、家の裏から続く道を行った所に在る。

 

「…」

 

 不思議と足取りが遅くなったと感じた。れいちゃんの墓は何もしていない。俺が勝ってに重く感じているだけだ。そう考えても、そう考えても、どうしても軽くはできなかった。あの事件、れいちゃんの事が俺の中の大部分を占めているのだろう。

 

「…此処か。」

 

 此処は、先祖達の家臣達が眠る所だ。れいちゃんも此処に入れて貰った。

 

「れいちゃん。」

 

 「れいちゃん、ここに眠る」俺が書いた字を、職人に頼んで彫って貰ったのだ。これは姉ちゃんが発案して、了承した物だ。れいちゃんの死を乗り越えようとしていた時に、姉ちゃんからこれを書くように言われた。最初は断ろうとしたが、姉ちゃんに書かせる位と書いた。これで、れいちゃんの墓が完成した。れいちゃんの死が確定したのだ。何を思うが涙は頬をつたう。姉ちゃんの案は結果的にれいちゃんの一連の事を一段落させた。

 

「ふう、……。」

 

れいちゃんの墓は定期的に綺麗にされているのか、周りの墓に比べて表面が光っていた。母さんかな?まあ、綺麗にしてくれる人がいるのなら安心かな。流石に寂れたりしていたら少し悲しく思う。綺麗な花が飾られている所に先程買った、花を飾る。この花は、感謝の花言葉が有るらしいのでこれに決めた。れいちゃんには、感謝してもしきれない程の物を貰っている。更に、墓参りも来ていないんだ。これで少し返せたとは思えないけど、喜んでくれると嬉しいと思ってこの花を選んだ。

 

「れいちゃん、俺さ。れいちゃんが亡くなってからいろいろ経験したぜ?成長もしたんだ。でも、君に会いに来る事が出来なかった。君が亡くなった事は認めていた。けど、君に合わせる顔が無かった。母さんや姉ちゃんはもう大丈夫と言っていたけど、俺自身が認めれなかった。成長したって、君の事は変わらないそんな事を考えていた。だから、5年も君に会わなかった。今回来たのは、君に聞いて欲しい思ったからなんだ。5年間考えてきた事。」

 

 これは、自己満足なのかもしれない。ただ、何も言わない墓に言って気持ちを軽くしたいだけかもしれない。でも、それでも、言いたかった。伝えたかった。そうすれば、先が見えるかも知れないと。そうしないと、先が見えないと。思って、自分は最低何だろうと思う。前に、いっちょ前に説教した自分が、と思う。もう、有るのは吐き出したい欲求だけだった。

 

「……最初、君の、れいちゃんの最後の事を思い出した。れいちゃんが見せた笑った表情が頭からしばらく抜け無かった。何で君は笑ったのか。想像だけならできる。けど、俺にはそれを認められなかった。何故と、解答がない問題を解こうと考えた。だけど。見つからないまま曖昧な解釈で納得使用としていた。俺にはもうわからない。君は、何を思ってたんだ?かんがえてもわからないんだ。」

 

 返事はない。それでも、俺は問いかけ続けた。無駄かもしれない。そう思っても、問いかけ、問いかけ、問いかけ続けた。原因は俺なのに、君は笑った。自分が無事じゃあすまないとわかっていただろうに、君は笑った。その答えを君は教えてくれない。この終わらない問いを5年間考えて、今に至る。俺はれいちゃんに言葉を吐き出し続けた。いままでに思った事も感じた事も吐ける限り吐き出してた。もう、半分はうめき声に近かった。

 

「…ハア…ハア…。」

 

 息が上がっても、止めようと思わなかった。顔が酷かろうが、吐こうとした。

 

「……鏡、やめなさい。」

 

 声を聞くまで、そこに誰かいた事に気付かなかった。いや、気づいてもやめる気が無かった。

 

「鏡、こんな事をしても貴方も、れいちゃんも救われないわ。」

「姉ちゃんには、わかるのか?」

「ええ、貴方達の為にならない事がね。」

「……。」

「鏡、れいちゃんが何で貴方を助けたか、わかっているわね?」

「……。」

「鏡、認めなさい。鏡が大切だったからよ。家とか関係なくね。鏡、れいちゃんにとって、貴方は自分よりも大切な人だったのよ?…本当にね。」

 

 わかっていた。けど、認めたく無かった。俺が大切だから守ったと。そのために自分が犠牲になったとしても。れいちゃんは、そういう人だ。…だから、認めたくなかった。れいちゃんが思うように、俺もれいちゃんが大切だった。守ろうと思った。けど、守ろうと思った人が俺の為に自分を犠牲にした。それが悔しくて、虚しくて、やるせなくて、何よりも悲しくて。

 

「鏡、れいちゃんは貴方に足を止めて欲しく無いから貴方を守ったのよ。それなのに、貴方は止まるの?」

「…。」

「足を止めた先に、貴方は何を求めるの?」

「……っ!」

「貴方は、れいちゃんの思いを無駄にしたいの?」

「そんな事は…」

「なら、立ちなさい。地べたに座ったままでは始まらないわよ。」

 

 姉ちゃんの言葉は、俺の思考の渦を止めた。そして、停止していた俺の足を動かした。姉ちゃんの言葉、れいちゃんの思いを理解した。

 

「…姉ちゃん。」

「なぁに?」

「ありがとな。やっと行ける気がする。」

「そこはビシッと言いなさい。」

 

 姉ちゃんは、呆れたように言う。けど、5年間止まっていた俺が、歩き出したのだ。不安も恐怖も有る、何が起こるのか心配にもなるさ。

 

「もう、大丈夫ね。」

「ああ、ありがとう。」

「どういたしまして。」

 

 姉ちゃんには、頼ってばっかりな気がする。双子なのに、本当に頼もしいよ。

 

「さて、鏡の件も終わったし、私は帰るわね。」

「ああ、本当にありがとう。」

「どういたしまして。感謝は、何度でも受け取るわ。」

 

 そう言って、姉ちゃんは墓地を後にした。姉ちゃんが見えなくなるのを見て、れいちゃんの墓を見た。俺が書いた文字が、真っ直ぐこちらを見返す。今まで、此処までハッキリと見なかった。やっと、見れた。

 

「れいちゃん、俺は行くよ。止まらずに、行ける所まで。見ていてくれ。」

 

 此処で、俺は新たな誓いを建てた。これまでの屈折した誓いでは無く、真っ直ぐに建てた誓いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良かったの?鏡に会わなくて。」

「大丈夫です。言いたい事は言って貰いましたから。」

「…恨んでる?一応、この状態を作ったのは私だけど。」

「貴方様は良くやっています。感謝はあれど恨みはありません。彼もそう言うと思います。」

「そう言ってくれると助かるわ。」

 

 




 自己満足で書いているので意味がわからないかも知れません。


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常葉千古の1日

 
 委員長視点です。


 

 

 5月5日木曜日の朝。カーテンから零れた日差しで目を覚ました。包まっている布団はまだ暖かく、少しはみ出た足が外の冷気に当てられる。はみ出た足を布団の中に入れる。暖かい布団は冷たい足を瞬時に温め始めた。布団の中で、その温かさを感じる事十数分。ぼーっとしている頭を振って、上半身を布団から出す。すると先程、足で感じていた冷気を上半身で感じる。熱気を冷まそうとする冷気にベッドに戻されそうになるが、耐えて下半身を布団から出す。下半身の熱気を冷まそうと冷気が下半身に当たる。全身が冷気に当てられて、まだ少し放心していた頭が回り始めた。ベッドから降り、目の前にあるクローゼットを開ける。温もりがまだ残っているパジャマを脱いで、冷たい制服に着替える。寝ぼけていた体が目覚め始めた。目覚めた嗅覚が、魚の焼ける匂いを感じ取る。朝ご飯の匂いだと判断し、鞄を手に持ち部屋のドアを開け放った。素早い足取りで、廊下を行く。彼女の優れた嗅覚は、焼き魚は鯵だと匂いで判断した。階段を駆け下りて、リビングに駆け込んだ。

 

「お母さん!朝ご飯!」

 

「あら千古、おはよう。いつも言うけど、もう少しゆっくり来なさい?」

 

「おはよう!お母さん!朝ご飯!」

 

 この時の私は、飯の前にした犬だったとお母さんが言っていた。少し溜息を吐いたお母さんは、焼いた鯵と卵焼きが乗ったお皿を持ってきた。それを机に向い合せになる様に置いた。その後、ご飯の入ったお茶碗とお茶の入ったコップを持ってきて席に着いた。

 

「いただきます!」

 

「いただきます。」

 

 手を合わせて、合掌する。家のルールであり、マナーだ。まず手に取るのは、お茶碗だ。ご飯を一掬いし、口に含む。それをよく噛んで、飲み込む。それから、鯵や卵焼きに手を伸ばす。お父さんが決めたこのルールは、私もお母さんも破った事は無い。ただ、決めた本人はちょくちょく破っているもよう。だからと言って、何か思う訳じゃない。単身赴任先の食事は、手短な物ばかり食べているから仕方ないって思ってる。その事はお父さんも思っていたみたいで、私とお母さんに頭を下げて謝ってくれた。そんなことをしなくても許したと思うけどね。お父さんが守れなくなったこのルールだけど、私とお母さんは変わらず続けている。止めようかという話も出たけど、癖みたいに成っていて自然に行っていたから良いかなと続けている。前に田島君が聞いて来たけど、他所ではあんまり無いようなルールみたい。他所ではやって無いって聞いて、今では謎の特別感が沸いて続ける気になったんだよね。

 

「千古、頬にご飯粒が付いているわよ?」

 

「えっ、……取れた?」

 

 右頬を指され、確かめると確かにそこには米粒らしき物があった。慌てて右頬を拭うように擦った。取れたと思える感じはしてはいるけど確かめでお母さんに聞くと、お母さんは微妙な顔でこちらを見ていた。

 

「あなたの手、何処か汚れているんじゃない?頬に付いているわよ。…ほら。」

 

「…あっ、付いてる。」

 

 お母さんに鏡を渡され、見てみると茶色の物がついていた。手を確認して見ると、袖口の辺りに同じような物がついていた。これがさっき擦った時に付いたようだ。理由は分からないけど、とりあえず袖口を洗いに行った。幸いこびり付いている訳じゃなかったから、水洗いですぐに落ちていった。他の場所にも付いてないかを確かめて、机に座った。

 

「すぐに気づいて良かったかな?」

 

「そうね、制服に付いたら大変だったわね。」

 

「あー、そうだね。」

 

 服の汚れは落ち難いから大変だよね。この制服に付いたら、クリーニングに持って行かないとだし。前にカレーが付いた時は、大騒ぎだったから余計にそう思うよ。

 

 一段落したので、改めて食べ始めた。今度は、袖口に気を付けながらご飯を食べ進めた。魚の身を摘まんで、ご飯と一緒に食べる。魚の塩辛さにご飯の甘みが良い感じにマッチしていて、おいしくて箸がよく進む。魚とご飯の間に卵焼きを挟む事によって、卵焼きの甘さで魚の塩辛さが際立つのでさらに箸が進むようになる。しかしそれだけでは喉が渇いたりするので、お茶を卵焼きと魚の間に入れる事により万全の態勢で箸を進める事が出来る。この繰り返しが、食事を美味しく食べるコツだと思う。

 

 おいしく、さらに気持ちよく食事するために、用意された品を用途に合わせて当てはめながら食事して行く。これが彼女を大食い選手権優勝に導いた食事法だった。最も、大食い選手権は一品を何食食べるかで競われる為、この食事法ではなく彼女の胃袋が導いたと言っても良いが。

 

「そろそろ、時間じゃない?」

 

「あっ、うん。そうだね、そろそろ行かなくちゃ。」

 

 壁に掛けられた時計は、7時40分を指していた。学校までは、歩いて40分程なのでいつもは8時前に出るようにしている。自転車に乗れたらもっと早くなるけど。何故か自転車に乗ると、何かしらのトラブルに巻き込まれるのであまり乗る気になれない。バスなどの公共機関は、立地が悪いのか近くの駅だと学校まで行ってくれない。仕方ないので、徒歩で登校しているけど正直大変で困っている。住んでいる町の小学校や中学校は近くにあったから気にならなかったけど、高校は隣町だから交通の便が悪い事をまざまざと感じるようになった。町に言ってみた所で、私一人の為にバスを一路線作ってとも言えないのでどうしようかといつもはなしている。お父さんは引っ越しも検討しているみたい。引っ越しについては、してくれたら嬉しいけど無理してまでしなくて良いとは話している。お母さんとお父さんの職場はここからの方が近いのだから。私の意見も有り、とりあえずこの話は保留になった。何かしらの支障はあるかも知れないが、良い形で解決することを願っている。

 

 7時50分、準備を整えてお母さんに行ってきますと言って家を出た。此処は住宅街だけど、車道と歩道はガードレールで仕切られている。此処の道は、町の中心に行く為に良く使われるので交通量がとても多い。その為、ガードレールなどで仕切らないと事故が起きる危険性が高いと判断され付けられたと聞いている。今も車道には多くの車が行きかっている。一方、歩道を歩く人は少ない。通勤ラッシュの時間だけど、この辺りの人はこの時間より凄く早いか凄く遅く家を出る人がほとんどだ。だから、この時間に人とすれ違う事はほとんど無い。混雑する事は無いけど、いつも少し寂しいものを感じていた。

 

 学校に近づくにつれて、歩行者の数も増えて行き賑やかになって行く。何個かの集団を尻目に学校へ歩いて行く。もし、引っ越してこの近くになったらああいう集団の一員になれたかも知れない、そんな事を思ってしまう。そんな自分を厭わしく思いつつ、学校に向かう。しかし、賑やかな集団は目の付く様々な所にいて嫌でもそんな考えが浮かんでしまう。嫌になり走りだそうと足に力を入れようとした時、後方から自分を呼ぶ声が聞こえた。

 

「委員長、なにやっているんだ?」

 

「…田島君?…うんん、何もしてないよ?」

 

「そうか?…まあ、良いか。委員長、一緒に行こうぜ。」

 

「うん、良いよ。」

 

 その後、礼ちゃんも合流して三人で教室に向かった。

 

 

 一時間目と二時間目は、桂木先生の国語。先週出された課題の提出日でいそいそと取り出す人もいれば、嫌々取り出す人もいる。そんな皆の反応なんか気にもしないのか、早く出せと急かせる先生。私も今回の課題は上手く出来た気がしないから嫌々取り出していたけど、先生にぱっと回収されてしまった。周りを見ると、先生を見て嘆く人や机に伏せている人、開き直って堂々としている人など様々だった。田島君の方を見ると、首を横に振られた。田島君でも駄目だったようだ。礼ちゃんの方を見ると、こちらに手を振っていた。あれは、出来たのサイン?それとも、開き直り?色無君は、机に伏せていた。課題はやって来たのだろうか?

 

「…よし、全員の提出を確認した。次の時間に感想を書いて返却する。……では、授業に移る。教科書は56ページだ。」

 

 桂木先生の授業はまず、本文を読ませてそこから読み取れる事をノートに書かせる。そして、何名かの代表生徒に読み取れた事を黒板に書かせる。そこに先生が読み取ったことを追加していき、それを生徒はノートに書きこんでいく。また、時系列が読み取れたらそれを表にして書いていく。この時間は、この様に進んでいく。

 

「では、先ほど読んで貰った所までで分かった所をノートに書きなさい。」

 

 テストの時は、先生が書いた所を中心に生徒から出た解釈も出される事が有るため、この時間はなかなか大事な時間なのだ。此処で、自分の解釈が採用されればテストの時に解きやすくなるからだ。

 

「では、この場面で読み取れた事を書いて貰おうか。…安達、キミだ。」

 

「はい。」

 

 選ばれた安達さんは、ノートを片手に黒板に向かった。その足取りは軽いものだった。安達さんの書いた事は、言い方は違うけど私も感じたことだった。ただの裏通りなのに、不思議と感じる視線。昨夜のうめき声から、続く怪現象。この物語は、表通りの明るい街並みの裏に広がる裏通りの暗い部分が主に書かれている。先生は、安達さんの解釈を見て自分の解釈を書き出した。それをノートに書き加えて行く。次の場面も同じように進めていった。

 

「では、次の時間は続きから始める。委員長。」

 

「はい。起立、礼。ありがとうございました。」

 

 

 

 授業が終わり、教室は解放感に満ちていた。桂木先生の授業は頭をよく使うので、私も少し放心している。次は、移動教室なのでそろそろ行かないといけない。何とか、頭を切り替えて準備を始めた。

 

「おや?委員長、お疲れかい?」

 

「…礼ちゃん。あー、うん。疲れたよ。」

 

「大丈夫そうかい?」

 

「うん、大丈夫。礼ちゃんは、何か余裕そうだね。」

 

「いや、これでも疲れているよ。ただ、委員長を心配する位は疲れてもできるからね。」

 

 礼ちゃんは、微笑みながらそう言う。礼ちゃんをよく見ると、少し朝見た時よりも疲れが見えていた。けれど、まるで疲れていないように接して来るから初めは気づかなかった。

 

「次は、音楽だったね。」

 

「うん、頑張ろう!」

 

 

 

 

 

「では、授業を終わります。」

 

「起立、礼。ありがとうございました。」

 

 チャイムの音と同時に先生は、授業を切り上げた。これから多くの人が待ち望んだ、昼休憩が始まる。45分をどう過ごすかは、人それぞれだけど今日は教室を出ると皆同じ方向に向かって歩き出した。今日は昼休憩の時間に各クラス教室で、来週の運動会の色分けが発表されるのからだ。礼ちゃん達広報新聞部の皆は、情報網を駆使して全クラスの組別けを明日の新聞に載せるそうだ。だから、礼ちゃんや槇原ちゃんも授業が終わったらすぐに出ていった。

 

 

 

 皆が教室に集まった頃、スピーカーからノイズが走ったような音が聞こえた。スピーカーに視線を動かすと、放送が始まった。

 

『これから、各クラスに色の付いた紙を配布します。係員が来ましたら、代表者は係員からクジ』の箱を出されるので一枚引いてください。そこに、色付きの紙が入っています。クジで引いた紙に付いている色が、そのクラスが所属する組になります。また、色ごとにこれからの動きが変わります。』

 

 しばらくして、一人の男子生徒が入って来た。

 

「このクラスの代表者は、こちらに来てください。」

 

「はい。」

 

 入って来たのは、さっきの放送で言われた係員の人だった。このクラスの代表者、学級委員長の私が該当する。男子生徒に近づくと、係の生徒はこちらを見て箱を差し出した。

 

「この中にから一枚お引きください。」

 

 私は箱に手を入れて中を探った。二つ折りの紙がたくさん入っているのが、感触で分かった。ガサガサと軽く回して、一枚を掴んだ。箱から恐る恐る取り出すと、紙は紫色だった。それを係の生徒に見せた。

 

「では、普通科二年Bクラスは紫組に決定しました。」

 

 

 

 係の生徒は、組の発表後すぐに教室を後にした。色が発表されてしばらくは、クラス中が色の話でいっぱいだった。広報新聞部が取材していた為か、賑やかだった。

 

『これから、明日の集合場所を言います。まず、赤組です。赤組は、体育館に集合してください。次に、青組です。青組は、第5音楽室に集合して下さい。次に、黄色組です。黄色組は、図書室に集合してください。次に、緑組です。緑組は、多目的ホールに集合して下さい。次に、紫組です。紫組は、総合準備室に集合して下さい。』

 

 騒ぎかったクラスも放送が流れ始めると静かになった。私たちのクラスは紫なので、総合準備室に集合するようだ。総合準備室は、第4校舎に有る特別科目の準備室だ。第4校舎に教室を置く特別科目の資料が入っているため、とても広い部屋になっている。

 

「委員長、後方新聞部として質問いいかい?」

 

「いいよ、礼ちゃん。」

 

 礼ちゃんの質問は、色が決まったがどう思っているかなどの質問だった。色は、別に何とも思っていなかった。一番はどこと一緒かだと思う。礼ちゃんは情報を集め中だって、他のクラスの事はまだわかっていないみたい。

 

 

 

 放課後、クラスの皆は殆どが部活に行ったりしていて、教室に残っているのは私だけになった。ちょっと教室でゆっくりしたいと思って、ここに残っていた。窓を開けると、涼しい風が教室に入って来た。5月に入って、徐々に気温も上がってきている。寒いと感じていた風も涼しげに感じるようになって行く。季節の変わり目はもう近い、そう感じさせる。そんな事をぼんやりと考えていたからか、教室に入ってきている人物に気が付かなかった。

 

「委員長、何してんだ?」

 

「わっ!…なんだ、色無君か。びっくりさせないでよ、もう。」

 

「悪い、悪い。ちょっと、黄昏てる委員長が見えたもんでね。」

 

 色無君の登場に、心臓が飛び出るかと思った。いたずら心が何か分からないけど、あまりして欲しくないな。

 

「色無君は何で教室に?」

 

「忘れ物だよ。」

 

 色無君の手をよく見ると、ノートが見えた。

 

「いやー、いらないかな?とか思ってたいら、課題で必要だって気づいてね、取りに来たんだ。」

 

 いつもの色無君の軽さに思わず笑みがこぼれた。いきなり笑みをこぼした私を色無君は不思議そうに見つめてくる。

 

「委員長どうしたんが?」

 

「うんん、何でもないよ。」

 

「じゃあ、帰ろうぜ!委員長、用事終わったんだろ?」

 

 色無君は、私の手を引いて言う。

 

「えっ?」

 

「今日は部活無いんだろ?布枯が言ってたぞ。」

 

「えーと、確かに部活は無いけど。」

 

 色無君の提案はうれしく感じた。朝の道を一人で帰るよりも誰かと一緒の方が良いに決まっている。けれど、なぜか申し訳なく感じる。なぜだろうか。

 

「…まあ、もう少しゆっくりしたいなら無理には言わないけど。」

 

「えっ?」

 

 回答に困っていた私は色無君の言った事に、つい呆けてしまった。

 

「なんか、今日の委員長は疲れてると言うか、体調が悪い感じに見えたからな。」

 

「…」

 

 言葉がでなかった。今日もいつもの通りに過ごしていたはずだった。そう言い切れるはずだった。けれど、隠せれて無かったみたい。色無君の言う通り、今日は朝から気分が良くは無かった。教室に残ったのは、少し休む目的もあった。

 

「神の奴も、心配してたぜ?」

 

「…そっか。」

 

 田島君にも、心配をかけていたみたいだ。皆には心配かけないようにしてたのに、心配させるなんてね…。

 

「体調が悪いなら言ってくれてよかったんだぜ?」

 

「うん、ごめんね。」

 

 出来るだけの笑顔で答えた。それに色無君も嬉しそうに頷いた。

 

「それで、どうする?」

 

「お願いするね。」

 

 

 

 朝と同じ道を歩く、周りの風景に変化はない。しかし、今は隣に一緒に歩く友達がいる。それだけで、この道で朝とは違う事を思う。

 

「委員長、いつもこんなに遠くから来てたんだな。」

 

「…うん、隣町だからね。」

 

「隣町は遠いなぁ。」

 

 何気ない会話をしながら歩く帰り道、それに嬉しさを感じる。

 

「…ふふっ♪」

 

「ん、どうした?」

 

「うんん、何でもないよ。」

 

 

 

 

 夕暮れ時の帰り道、赤く染まった空は楽し気に話し合う二人を見ていた。

 

 

 



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放課後フレンズ

 時間が開きましたがかけたので投稿します。


 

 今日の外は暖かい風がせせらぎ合う穏やかな一日だった。今日は午後から先生達と藍越学園の方との会議という事で短縮授業になり午前中には授業が終わってしまった。いつもより早いとはいえ授業が終わった事で、生徒たちは少なくない解放感に浸っていた。授業中の静けさが嘘の様にガヤガヤと騒がしい教室は、さっさと家に帰る者と部活がある者以外の人で賑わっていた。その中の一名、田島神も教科書をしまいながら今からの時間をどうしようかと考えていた。そんな神に近づく者がいた。

 

「神、今日って部活はあるか?」

 

 鞄を肩に掛けた加賀観だった。そんな加賀観だが、彼の髪には寝癖が堂々と居座っていた。本人は気がついていないのか、ニコニコとこちらを見ているが。

 

「いや、今日は休みで無いぞ。それがどうかしたか?」

「おっ!じゃあさ、一緒に遊びに行こうぜ」

「遊びか、わかった行こう。俺もこの後どうしようか悩んでいたからな」

 にやりと笑う加賀観に俺は頷き、鞄の準備を進めた。

 

 

 

 

 運動会の組別けが終わって、いよいよ迫って来た運動会。それの準備で学校を走り回ったり、記録を確認したりと忙しい日々が続いている。そのせいか、最近神達と遊べていなかったりする。今日は、その準備が休みなのだ。さらに学校も午前中に終わるので、遊ぶには好都合の日だった。神の他に最近疎遠だった奴らにも声をかけて、この休み日を満喫してやる。

 

「よし、ならさっそく行こうぜ。あいつ等にも連絡したからな」

「そうなのか、なら早く行かないとな」

 

 呼んだ奴らとは、1年の時に集会で知り合った奴らだ。奴らとは、学校は違うが良く集まって騒ぎあう仲だ。最近はお互い忙しくて集まっていなかった。だから今日はお互いに午前で授業が終わると知っていたので、声をかけたのだ。奴らとは近くの公園を待ち合わせ場所にしている。

 

「そういえば、何人呼んだんだ?」

「…5人かな。自信ないけど」

 

 そんな神の質問に加賀観はどう答えようかと考えたが、不確定な要素が有ったので断言する事は出来なかった。前回、加賀観が招集をかけた時は予定していた人数の倍の人数が集まっていた。まあ、今回は直前に連絡したのでほぼ確定だろうと加賀観は思っている。

 

「変に曖昧な返事だな?」

「前回同様に奴が、増やす可能性も有るからな。断言できん」

 

 そうして神と話しているうちに、待ち合わせの公園にたどり着いた。学校からそんなに離れていないので、それほど話していないが。

 

「さてと、奴らは来ているかな?」

「……あれじゃないか?」

 

 神が指した方向には、四人ほどの集団がいた。いや、近くにいるが半々に分かれていた。片方は、どうもトランプをしているようだ。もう片方は、二人で向かい合って腕をしきりに動かしている。ゲームにしても距離が近くて、判断できなかった。とりあえず、集団に近づいた。

 

「おーい!」

 

 

 

 「ん?…なんだ加賀観か、遅かったな」

 

 加賀観の呼びかけに最初に反応したのは、トランプをしていたボサボサ頭の間庭だった。間庭は手元のトランプに向けていた視線をこちらに向けた。

 

「いや、連絡してからすぐに来たんだが。それに時間もそんなにかかってないぞ」

 

 連絡してからこっちに来るまでは15分ほどだ。それでほとんど集合していて、あまつさえ遅いと言われるとは思わなかった。こいつらの集合が早すぎなだけだ。暇人多すぎだろ。

 

「そう言う間庭たちはどれくらいに来たんだ?」

「俺は、10分前だな。連絡貰ってすぐに来た。暇だったからな」

「俺は、5分前」

 

 間庭と一緒にトランプをしていた村河がそれぞれ答えてくれるが、間庭は近くにでもいたのかと思うレベルだな。村河位が普通だと思う。村河や間庭の学校は此処から十分程バスで移動した先にある。だから、村河は分かるのだが、間庭に関しては全然わからない。どうやったらそんな早く来れるんだ?そんなこんなと話していると、不思議な事をしていた奴らがこちらに気づいたのかやって来た。

 

「なんだ、加賀観達もあいつに呼ばれたの?」

「いや、初めに招集を掛けたのは俺だ。甲たちを呼んだのは間庭で間違いないけどな」

 

 始めに声をかけてきたのは不思議な事をしていた長身の甲だった。手に持った棒で何をしていたのかを聞くのは止めておいた。どうせ碌なことでは無いと思うからだ。…やはり、甲も間庭が発案し皆を呼んだと思っていたようだ。口にはしていなかったが、村河もそう思っていた様だし。まあ、いつもこういうのを発案するのは間庭だったからだけど。逆に俺はこう言う遊びに関しては、そこまで決めたりしなかったからな。

 

「神君、久しぶり」

「ああ、岸もな。今年の二月以来か」

「うん」

 

 甲と共にいた岸が神に挨拶する。今いるメンバーの中で、唯一の女性の岸。彼女もこいつらとつるんでいるからにかなりの変わり者だ。甲と同じく何をしようとしていたかは聞かない方が良いと思った。そんな岸は神に少し寄りながら話していた。彼女が神に対して思う事が有るのは周知の事だった。まあ、神が気が付いて無いっぽいから先に進むのかは謎なんだが。それでも微笑ましいので、俺と甲は暖かく見守っていた。間庭と村河は再びトランプをしていたが。

 

「…?……!なあ、加賀観」

「なんだ?何か有ったのか神」

「間庭が呼んだのだろうが、彼女が来たみたいだ」

 

 急に何かを感じ取ったのか頻りに辺りを見渡した神はある方向を向いて指をさして言った。神の指した方を向くと見覚えの有る人影が見えた。その影はこちらにまっすぐ歩いてきた。大方間庭が面白半分で呼んだのだろう。そいつは、手を振ってはいるがその顔はとてもにこやかでとても恐ろしかった。

 

「間庭」

「…ん?おお、やっと来たのか。遅かったな速川」

 

 にこやかに歩いてきた速川は、此方に来るなり間庭に詰め寄った。心なしか、その姿を視て寒気がした。詰め寄られた方は、そんなのお構いなしって感じだったが。その返事に速川は眉間にしわを寄せた。しかし、間庭は気づいていないのかこちらに話を振って来た。

 

「なあ加賀観、そろったしこっからする事決めようぜ!」

「お、おう。速川、お前も、な?」

「…ええ」

 

 何だかんだであったが、予定は決まった。…尊い生贄と貧乏くじがいたが。…なんで俺まで怒られなきゃいけなかったんだ。

 

 話し合いの結果、俺らは近くのゲーセンに行く事になった。他の候補としては、ファミレスとかが有ったが村河があんまり腹が減ってないという意見を聞いて、後に回す事になった。

 

「それじゃあ、行こうか」

「ああ」

「ええ」

 

 公園からゲーセンは歩いてすぐの所に有る。何故か仕切りだした村河を先頭に、俺らは皆マイペースに歩き出した。因みに返事をしたのは、神と速川の二人だ。この中じゃ、真面目な二人だから村河の何か頼りない号令に律義に返事をしたのだろう。間庭とかはきいてもいないだろう。同じく聞いてないだろう岸は、神の後ろを付いて歩いていた。甲と俺は、駄弁りながら少し離れてついていく。…間庭は、速川に首元を掴まれ、引きずられている。あいつの後頭部が剥げない事を頭の中で祈って置いた。

 

 公園を出て、すぐの歩道橋を渡る。先頭を歩く村河は、後ろから聞こえる呻き声にちらちらと目を向けながら進む。神と速川は、何やら溜息交じりに話している。岸は、その2人の話に混ざろうと頑張っていた。甲と俺は、たまに足元を見つつ最近の出来事を話していた。間庭は、相変わらず引きずられていた。階段に当たる度に、うぎゃっとか呻き声をあげている。

 

 道沿いを歩いて、ゲーセンに辿り着いた。入口では引きずられて砂や落ち葉の付いた間庭を速川が素早く叩き落としていた。村河は、そんな間庭を横目に財布を覗いていた。神と岸は、どのゲームを遊ぶかを話していた。甲は、速川に叩かれている間庭を面白そうに写メっていた。俺はそれを横で見ていた。

 

「加賀観は何からする?」

「俺は何でも良いかな、甲の好きなのからで良いぞ?」

「そうか?…じゃあ、あれにしようぜ!」

「音ゲーか、良いぜ」

 

 ゲーセン内では各自自由行動にしている。皆やりたいゲームが違うし、神と岸を2人にしたいっていう狙いも有るからだ。自由行動とは言え、なんだかんだグル‐プ行動で動くのが殆どだった。グループは村河と速川と間庭、神と岸、俺と甲に分かれた。村河達は、格ゲーをしに行くと言っていた。神と岸は、クレーンゲームをしに行くようだ。俺達は、まず音ゲーをする事に決めた。

 

「よし、どの曲ににする?今度は加賀観が決めてよ」

「そーだな、まあ、てきとうにこの曲にするか。」

「この曲かあ、本当に好きだねぇ、加賀観は」

「ははっ、別に良いだろう?小学校位の時とかは、学校でも人気だったろ?」

 

 ニヤニヤしてる甲を横目に俺は金を入れる。あのアニメの新曲もあったが、甲が知らないだろうと選ばなかった。難易度を選び、演奏を開始した。ああ、懐かしいな。結果は甲の方が良かったが。

 

「神君、これにしよう」

「…これは、犬?…小さくて難しそうだが、行けるのか?」

「頑張る」

「なあ岸、そろそろ諦めないか?だいぶ金を使っているが」

「でも、まだ取れてない」

「…一回、俺がやろう」

 

「速川、店内では流石に放そうよ」

「私だって放したいのよ?でもね村河君、こいつが逃げるから駄目よ」

「逃げねぇから!」

「だ、そうだぞ?」

「前もそう言って、逃げたわよね?」

「放せぇー」

 

 

 自由行動を始めてから1時間位が経った。そろそろ時間だなぁと、入り口に向かうと1時間前から更にボロボロになった間庭が寝転がっていた。その光景は、余りにも惨めな感じで周りからは憐れに思われている事だろう。だが、それを見た俺達の感想は、こいつも懲りないなぁという物だった。地面に寝転がる間庭なんて俺らの間では日常茶飯事だ。そして、原因がこいつ自信だって事も判りきっている。そんな光景を今更憐れむ事も無かった。そんな俺達を見つけた村河は、苦笑いで手を振っている。それを見て、俺達はやはりなと自分の想像が当たった事を確認したので合流しても特に言わなかった。その後にやって来た神達も間庭を見て悟っていた。ちなみにその時、岸は小さなぬいぐるみを抱いていた。

 

 次はどこに行くかの話になり、ショッピングモールや水族館などが出てきた。そんな中、寝転がっている間庭の腹がぐーーと鳴った。本人も出したかった訳じゃ無いだろうが、それを速川に注意されて「それは、あんまりだろ」と嘆いていた。甲や村河はそんな一幕は知らんと、2人で話し合っていた。岸は神にショッピングに行くならば、行きたい場所があると話していた。俺はそれらを見ながらどこに行こうかと考えていた。話し合いの結果はファミレスになった。決め手は間庭の腹の音がうるさかったからだそうだ。

 

「いらっしゃいませ。何名様ですか?」

「7名です」

「7名様ですね、…では、ご案内します」

 

 店員さんに連れられ8人位が机を囲んで座れる席に案内された。席はそれぞれが思い思いの場所に座った。俺と甲が机の右側に座り、神は岸と壁側に座った。村河と速川、それと間庭が俺らの正面に座った。机に3つあるメニューをそれぞれで見て、あーだこーだ言いながら決めて行った。

 

「では、注文をお伺いします」

「私は、Aランチで」

「俺も、Aランチで」

 

 神と岸は、Aランチ。ハンバーグが主菜のランチだ。

 

「俺は、唐揚げと海鮮丼」

「俺も、唐揚げかな。それから牛丼で」

「僕も、唐揚げ。それとドリア」

 

 俺は、唐揚げと海鮮丼。甲も唐揚げと牛丼。村河が唐揚げとドリア。

 

「なら私は、Bランチで。それと、彼に肉焼きそばで」

「なんで速川がおれのも頼むんだよ」

「あら、違った?」

「…あってます」

 

 速川は、Bランチ。野菜と魚が中心のランチだ。間庭は、肉焼きそば。本人も選ぶ気だったようなので、別に良いのだろう。

 

 しばらく皆で次の場所を決めていると、店員さんが誰かの物を運んできた。

 

「こちら、Bランチになります」

 

 速川の分が一番だった。速川は皆に断りを入れてから食べだした。Bランチは、ポテトサラダにキャベツと人参の千切りサラダなどが乗っていた。ポテトサラダが好きな間庭が横から手を出して、速川に叩かれるというのを何回かやっていると、また誰かの物が運ばれてきた。

 

「こちら、Aランチになります」

 

 神と岸の頼んだ物が来たようだ。二人そろって、いただきますと言って食べ始めた。Aランチにも、ハンバーグの付け合わせでポテトサラダが付いていた。それを間庭が懲りずに狙っているようだが、速川が自分のポテトサラダを与えて黙らせた。すると、店員さんが片手ずつお盆を持って来た。

 

「こちら、唐揚げ3つに牛丼になります」

 

 次は、俺らの唐揚げと甲の牛丼だった。一皿に3つ乗っている唐揚げと紅生姜がまぶしてある牛丼を、甲はゆっくり食べだした。

 

「こちら、ドリアと海鮮丼になります」

 

 俺と村河の物も運ばれてきた。ドリアのチーズの幕がぷくぷくとおいしそうにアピールしている。海鮮丼は、タレの掛けられた刺身とその上のイクラがとてもおいしそうだった。俺らもいただきますを言って食べ始めた。間庭のはまだのようだ。

 

「ごちそうさまでした」

 

 間庭のが来る前に、速川が食べ終わってしまった。客も増え始めて大変なんだろう。結局、間庭のが運ばれて来たのは神達が食べ終わった後だった。

 

 

 間庭も食べ終わったので、次の場所を決める事にした。とりあえず、先に出ていたショッピングモールと水族館を候補にして、他に無いか意見を募った。

 

「何か他の案は無いかしら?」

「うーん、…無いかなぁ」

「そうだな、無いな」

 

 と、言う事でショッピングモールと水族館で多数決を取った。

 

 

 俺たちは、今ショッピングモールに向かっている。多数決は、5:2で、ショッピングモールとなった。少なかった水族館には、俺と村河が投票した。俺の理由は、素直に魚が見たかったからだ。

 

 ショッピングモールはレストランから10分の所にある。今度も村河を先頭に皆で歩いて行った。

 

「村河、お前はショッピングモールで何する?」

「適当にぶらぶらする気だけど」

「なら、何か映画見に行かないか?」

「…ああ、良いよ」

 

 ショッピングモール内は、映画館やゲームコーナーなども有り様々な事が出来るようになっている。店内は各階にそれぞれテーマを持たせ、それに見合った店を設置している。一階は食品やお土産、エントランス。二階は服やアクセサリーなどのファッション関係。三階は映画館やゲーセンなどの娯楽施設や玩具、家庭用ゲーム機の販売所も三階にある。四階は、催し物などを行う場所になっている。ゲーセンに引き続き、それぞれのグループで行動することになった。神達の為でもあるが、速川が間庭を見張る為でもあるらしい。

グループは神と岸、間庭と速川、村川と甲、俺のグル‐プに別れた。神達は、アクセサリー等のコーナーに行くと言っていた。速川たちは、よく分からない。おそらく買い物だと思うが。俺たちが向かう映画館はショッピングモールの三階に有る。今回は村河の要望で、アクション物を見る予定だ。甲は恋愛物が見たかったらしいが、近くでいつでも見られるからと止められていた。

 俺達は映画館のある三階を目指しているが、そこに着くためにエスカレーターを何個か乗り継いでいかなければならないのは少しめんどくさかった。此処のショッピングモールはここら周辺の建物の中で一番大きい為、モール内もとても広いのだ。だから、移動するだけでも大変なのだ。その分、商品の品揃え等はとても良いのだが。

 

「よし、着いたな。じゃあ、どれ見る?」

「これで良いんじゃないか?」

「ん?『フェーティング・トポロジック』?」

 

 三階に着いた俺たちは、劇場前に張り出されているポスターを見て、見たい映画を決めようとしていた。どれを見ようかと甲が一つのポスターを指さした。『フェーティング・トポロジック』最近公開された映画で、賛否両論の映画だとネットでは言われている。あらすじは、機械の町「フェルト」で生まれた男の子、アイルの生涯を描いた物語。ポスターには最後の瞬間を君はどう思う?と書かれていた。俺はまだ見ていないのだが全体を通して賛否が分かれている様だ。

 

「でもこれって、そんなに評価良くないよな?」

「うん、でもそういうのって逆に見たくならない?」

「まあ、そんな長い物じゃないし良いんじゃないか?」

 

 『フェーティング・トポロジック』は、上映時間が一時間と短いので丁度良いだろうという事でこれに決まった。この時間はそれほど混んでおらず、スムーズに場内に入れた。

 

「あんまり人がいないな」

「やっぱり、人気無いのか?」

「…まあ、見たらわかるだろ」

 

 それから映画開始まで場内に入ってくる人は微々たるものだった。席はガラガラだったがそんなの関係無いと映画は始まった。村河と甲はどんなものかを見定めるように映画を見ていた。そして、映画は最後のシーンを迎えていた。主人公が、敵に捕まった旅の仲間を解放するために自らのエネルギーを解き放つ。そのエネルギーは光となって敵諸共仲間に降り注いだ。光を浴びた敵の体は段々と崩れていった。そして、光を受けた仲間の体も段々と白くなっていった。そして、光を放った主人公も笑みを浮かべながら白くなって行き、そのまま画面もホワイトアウトしていった。そして、エンドロールが流れ始めた。エンドロールが終わると、他の映画の告知が流れ画面はブラックアウトした。

 

 映画が終わり、俺たちは5分ほどその場で留まり劇場を後にした。その間映画のラストの唐突の終わりに驚いて、言葉が出なかった。甲も村河も何も言わなかった。賛否の別れる映画、その意味が分かり俺はどっちだろうと考える。ラストの主人公の行動は、劇中でも最後の手段だと説明がなされていた。しかし、あのまま問題が解決したのかわからない終わり方に何とも言えない感じになる。おそらく二人も同じ感じなのだろう。

 

「…前評価をあんまり裏切らなかったな」

「…そうだね。少し俺としてはがっかりな感じだな」

 

 とりあえず、俺たちは近くのフードコートに向かった。予定している時間までは少しあるから何か食べて過ごそうと意見が一致したからだ。各々が軽食を買ってきて席に着いた。

 

「面白かったとかの話以前に釈然としない終わり方だった」

「…そうだね。あの映画のあらすじに書いてあったのを見ると意図してああいう終わりにしたのだろうけどね」

「その後は想像でって事か」

 

 その後も、買った物を摘まみながら映画について話し続けた。買った物もなくなり、良い時間になったので神達との待ち合わせ場所に向かった。待ち合わせ場所は、一階の噴水広場だ。

 

 

 一階の噴水広場は、ショッピングモールの中央にある休憩場で上は吹き抜けになっていて各階から覗く事が出来る設計になっている。なので、休憩場であると同時に集合場所としても良く使われる。迷子センターもこの近くにあるので、迷子センターに向かう場合にこの噴水広場を目印にすれば迷う事は少なくなるので、アナウンスの時に場所の説明に噴水広場近くと流れる。

 

 さっきの映画の話や学校の事を話しながら歩いていると、噴水広場近くのベンチに神達の姿を発見した。何やら楽しそうに話しているが遠くてよく聞こえなかった。

 

「じーん!」

「ん?…おお、やっと来たか」

 

 神の名を呼ぶと、何故か地面に寝ていた間庭が反応した。当の本人は、間庭が気づいた後にこちらに気が付いた。岸と話していて、俺の声が届かなかったようだ。速川は、こちらを向いて早く来いと手を縦に振っていた。

 

「遅かったか?一応、時間通りだが」

「こっちが早かったのよ。こいつがどっかに行くからあんまり買い物出来なかったし」

 

 そう言って速川は、間庭の頭を小突く。よく見ると、速川の隣に小さいビニール袋が何個か置いてあった。どれほど買う気だったかは、知らないけど速川の言っていた事を聞くに早い段階で間庭が逃げ出したのがなんとなく分かった。間庭の腕にゲーセンの袋が架かっているので、どこに逃げたのかが想像しやすかった。岸と神の方は、神が大きい紙袋を持っていて岸が小さい紙袋を抱えていた。こちらは楽しそうに買い物出来たようだ。神がこちらに気づかない程話に集中していたのだから。何かしらの進展があったのだろう。

 

「それで、この後どうする?」

「時間的に夕飯の時間か」

「そうね、ここで解散でも良いけどみんなで食たべるのもいいわね。大丈夫の人は手を挙げて」

 

 手を挙げたのは、速川、間庭、甲、俺の四人だった。

 

「家族に夕食はいらないと言ってなかったからな」

「私も」

「俺も」

 

 手を挙げなかった神と岸、村河だった。今日の遊びも急に決まったので、家族に連絡なんて出来てなくても仕方ない所であった。手を挙げた組は、加賀観と甲が一人暮らしで、速川と間庭は親が帰るのが遅い為に急の事にも対応出来たのだ。

 

「あー、突然だったもんな」

「そういう事なら仕方無いわね。…解散にする?」

「まあ、それならあんまり遅くなったらいけないだろうしな」

 

 神達が参加できないのなら別に夕食を外で食べる必要も無く、食べないのならここでやる事も無い。解散の方向に話が行くのも仕方ない。

 

「それじゃあ、解散にしましょうか」

「ああ、そうしようか」

 

 結果、解散する事に決まった。急だった事による神達が参加できない事が一番の決めてだろうな。

 

「…ごめんね」

「ん?別に大丈夫だぞ。今日の集まりは、加賀観が急に言い出した事だしな」

「まあ、俺が唐突に言った事だしな。俺のせいと言えるか」

 

 申し訳なさそうな岸に、間庭が俺を使って許した。その通りなのだが、何とも言えない感じだった。

 

「それじゃあ、私たちはこっちね。また、遊びましょう」

「またなー」

 

 ショッピングモールを出ると。家が反対方向の間庭と速川は此処で別れた。

 

「それじゃあ、私はこっちだから」

「俺もついて行くから此処でお別れだな。甲また、遊ぼう」

「そうだね、神もまたね」

「岸もまたな」

 

 公園近くで、岸とも別れる。流石にこの時間に岸を一人で帰らせる訳に行かないので、神が一緒に帰る事になったようだ。

 

 

「じゃあ、此処でだね」

「ああ、またな」

 

 公園の二つ先の交差点で甲と別れた。

 

 

「今日は、楽しかったな。流石に急すぎたから次は事前にメールしないとな」

 

 マンションの前に着いた頃には、日は沈んで辺りは暗くなっていた。マンションのロックを解除して、エレベーターに乗る。そして、部屋の前に着くと部屋の電気がついていることに気が付いた。

 

「ん?消し忘れたか?」

 

 とりあえずカギを開けて部屋の中に入った。入ると、キッチンの方から水が流れる音がした。疑問に思いながらも、キッチンに向かった。

 

「あら、加賀観お帰りなさい」

 

 エプロンを付けた母親が料理していた。作っているのは、ミネストローネだろうか。しかし、今日は来ないと聞いていたのだが。

 

「ああ、仕事が思ったより早く終わったのよ。家に帰っても良かったんだけど、荷物が多かったのよ」

「なるほど、ならメールでもしてくれれば良かったのに。電気ついててびっくりしたよ」

「あら、メールならしたわよ?」

「え?」

 

 慌てて確かめると、スマホの電源が落ちていた。映画を見てから電源を入れていなかったのだ。電源を入れると、メールが送られて来たと通知が来た。メールの内容は、今から家に来るという内容だった。

 

「電源切ってた」

「何してるのよ」

 

 映画を見る時は電源を切る様にしていたが、今日は映画の内容のせいで忘れていた様だ。映画を見終わった後は、スマホを使う機会が無かったから気が付かなかったのだ。

 

「まあ、良いわ。風呂に入って来なさい」

「はーい」

 

 

 

 

 

 




 誰が何を喋っているかがわかりにくいかもしれません。


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ある日この頃

暫く時間が空きましたが漸く出来たので投稿します。
今、この作品の各話を随時更新しています。


 今日の天気予報は雨だった。この天気予報を見て、俺は洗濯物を干すのを止めてコインランドリーに走った。しかし、天気予報は俺を裏切った。朝起きると、カーテンから眩しい光が入って来ていた。天気予報のバカヤロー。

 

 何気ない通学路を男は不機嫌そうに歩いていた。襟の寄れた制服に少し湿っているズボンを履き、ぼさぼさの頭をしてポケットに手を入れて歩く男は、トボトボと歩いていた。それを見た人は、目を背けながら道を譲っていた。誰も男のロードを邪魔しなかった。偶に、男は不気味に前触れも無く笑う。それを見た人は、違う道を歩む。次第に男を歩く人はいなくなっていった。そして、男は不気味に笑う。それが何を意味しているのかは、男だけが知っているかもしれない。

 

 

 

「なあ、加賀観。お前の通学路って、向こうの道じゃなかったか?」

「ああ、いつもは向こうの道を使うぞ。」

 神と加賀観は基本的に、通学路で一緒になる事は無い。神の通学路と加賀観の通学路が違う為だ。しかし、今日はその通学路に加賀観がいた。それを神が不思議に思うのも仕方なかった。神は加賀観がなんとなくで通学路を変える事も想像できたが、今回は何となく違う気がしたのだ。たとえ、その理由がしょうも無くても聞きたいと思ってしまった。

「じゃあ、何で今日は違うんだ?」

「最近、あの道に出るらしいんだよ。」

「何が出るんだ?」

「変出者だよ。」

 

 

 

 男の道は歪んでいた。もし、他人がその道を歩こうものならば、どれだけ真っすぐ歩こうと意識しても3歩歩いた時には自然と体の向きが変わる事だろう。男の道が歪みだしたのは最近の事だ。男は何処にでもいる会社員だった。上司に理不尽に叱られ、後輩からは蔑まされながら、朝早くから夜遅くまで働くそんな毎日だった。そんな生活を続けて早くも6年目になろうとしていた。世界から見て6年の月日は長かったのかも知れない、でも、男にとってはこの6年はとても早く感じていた。なぜなら、男はその生活に慣れてしまったからだ。一度慣れてしまえば後は簡単とはよく言った物だ。男にとってこの生活は、もはや日常の出来事でしかない。どんなに過酷でも、どんなに理不尽でも、男にとってこれは日常だった。しかし、それは別段珍しい事では無い。

 世界は広い、それは誰もが口にした事の有る言葉だろう。それに比べれば日本は狭い、そう考える人も沢山いるだろう。しかし、実際はどうだろうか?面積と考えれば、確かに日本は小さいかもしれない。しかし、人一人が両手を広げても大きくても約2m位だろう。それに比べて日本はとても大きい。世界はさらに広い、そんなものは誰もが知っている。しかし、日本も広いのだ。どんなに人一人が手を伸ばしたって届くことはないそんな広さを人は実感しないで過ごしている。最近の若者の眼が中より外に向いているのはそんな広さを実感していないからだ。そんな中にいくつかは男と同じ日常を歩むもの五万といるのがこのご時世だ。だから男がいくら声を上げようが、対応はそれらの人と変わらない。男にとっての一番の薬と万物の薬は違うのだ。定例、凡例のそろったこの時代は男をそれらに押し込める。男の道が歪みだしたのはそれを意識してからだ。

 歪んだ道を男は歩く。しかし、男の生活は変わらなかった。ただ、心体が歪み続けるのみだった。その歪みは時間が経つに連れて大きく、深くなって行った。1週間が過ぎた頃の男の心体は限界を迎えていた。そして、歪みはとうとう男の思考能力をも削り始めた。

 現在の男は、会社に向かおうという事のみを考えていた。だから、会社に行くまでに交通事故に合おうが、誰かに助けを求められようが、男の眼には映らない。その姿を道行く人は嫌悪気味に見ていた。

 

 

 

「…なるほどな。確かに変出者っぽいな。」

「まあ、何か有る訳じゃ無いからあっちの道を通っても良いんだけどな。」

「…あれか、最近また話題になりだしたリストラ増加のニュースの奴か?」

「…さあな、詳しくは知らんしな。でも、危険そうな雰囲気だったな。……。」 

 その男の話を聞いて、神は最近のニュースとの関連性を聞いたが加賀観は呆気らかんに言った。しかし、何か気にしているような物言いだった。

 

 

「まあ、その事は別にどうでもいいかなとも思うがな。」

「そうなのか?結構危険だと思うが。女子とかはうかつにあの道を通れないだろう。」

「まあ、しばらくはそうだろうよ。実際の所危ないしな、相手が何するかわからないんだし。けど、俺らにとってはそこまで脅威では無いだろうよ。」

 今日のホームルームとかで注意喚起がされるだろうけどな。でもまあ、気にするほどじゃないだろう。

「おっと、神!急ごうぜ、朝礼が始まっちまう!」

「っ!…もうそんな時間か、ああ急ごう。」

 ふと見た腕時計は8時半を指していた。朝礼は45分からなのでのんきに歩いている時間は無かった。あるいていた歩道には学生の姿は無く、まわりを気にする必要も無くトップスピードで学校までを走りぬいた。しかし、神は気づいたかは知らないが走っている途中に異様な雰囲気の男を見かけた。おそらく奴がそうだろうなと、不思議とそう感じた。そして、心の中で男の幸運を祈った。

 

 

 朝の時間から大分経った昼休み。

「加賀観、今日は食堂に行こう。弁当を用意していなかった。」

「おう、行こうぜ!今日の日替わりは何だったかなぁ。魚料理が良いんだけどなぁ。」

「今日は、炒飯と生姜焼きだったな。」

「おお、それでもおいしそうだな。楽しみにしていよう。」

 あの後、どうにか朝礼に間に合った。だけど、教科書を入れ間違えた為に、先生ににらまれる羽目になった。まさか数学と古文を間違えるとは、どっちの教科書も緑を基調にした配色だ。朝は何だかんだと急いでいたから見間違えたみたいだ。まあ、今日の授業ではそこまで教科書を使わなかったので、少し隣に座っていた小西さんに見せて貰って対応した。最近、日頃の態度が悪いせいか、先生達からは何か在ると睨まれる様に成ったんだよな。悪いのは俺だって事は分かってはいるんだが、何か眠たくなるんだよな。どっかでちゃんとしなくちゃとは思っているんだがなぁ。

 

 神と話しながら食堂に向かっていると、前の方から目立つ集団が歩いて来た。茶髪の女子生徒を先頭に歩く集団は、廊下の真中を堂々と歩いていた。周りの男子生徒は迷惑そうに道を開けていた。その女子生徒は開いた道を当たり前の様に歩いていた。

「…あいつ誰だ?」

「知らないのか?ここ等で有名な資産家、高無家の一人娘だよ。確か名前は高無霞だったか。」

「……高無…ああ、分かった。で、何であんなに偉そうに歩いてんだ?」

「…大方、貴族と平民みたいな関係だと思っているのだろう。」

「…マジでか、今時そんなのやる奴いるんだな。」

「ああ、そうだな。…さて、食堂に行こうか。」

「おう、腹が減ってるしな。」

 あの集団には近づかない様に避けて食堂に向かった。

 

「なあ、これってどうしたらいい?」

「他の物を選べばいいだろう。」

「Aランチ食いたかったんだが。」

「売りきれているんだ、仕方ないだろう。諦めて他の物を早く頼め。」

 今日の食堂はいつもよりも人が多いなぁと楽観視していた俺だが、いつも楽しみにしていたランチが食べられないとなったらそんな楽観視なんてしないのに。売り切れるなんて、今まで無かったのに。

「……おい、加賀観、早くしろ。後ろがつっかえているぞ。」

「げっ、…ええと、…これかな?よし、行こう神。」

 何だかんだと考えていたら大分後ろに人が並んでいた。急いだから特に考えずに選んだが大丈夫だろうか?…あ、これおむすび二個セットだ。

 

 

 

 

 



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選手決めのお時間

 運動会まであと二週間を切った頃の話だ。

 

 今日はクラスで運動会の選手決めだ。運動会までは時間があるが選手名簿を作成するために運動会一週間前までに提出と実行委員から言われていた。そんな訳で選手決めだが、クラスの運動部の連中を中心に何に出るかどうするかを相談している様子だった。この運動会は良くある応援合戦などは無いので事前準備は運営だけだ。しかし、のちに控えている体育祭に向けてクラスの実力を測る事ができる為、この運動会は体育祭を勝ちに行くクラスにとっては大事な行事だった。その為、運動部などの身体能力が高い者の確認や逆に低い者を見つける為に事前練習などで臨むクラスも去年はあった。俺らがそれをするかと言われるとどうとも言えないがな。

 

 

「さて、この時間は前から連絡していた運動会の選手決めを行う。…とは言っても、決めるのは貴方たちですが。委員長にこの競技説明書とメンバー表を渡すので、この時間と放課後を使って決めてください。私は端で見てますので。」

 そう言って紅先生は教卓から離れた。委員長は紅先生から物を受け取って、教卓に小走りで向かった。

「それじゃあ、選手決めを行いたいと思います。始めに、知っている人もいると思うけど行う競技名を書いてくね。」

 委員長は背後の黒板に向かい、説明書を見ながら箇条書きに競技名を書き連ねていった。が、委員長では書くのが遅かったので席が近かった井戸田が代わりに書いて行った。書き終えたのを確認して、委員長はこちらを向いて一つ一つの競技説明を行っていった。

「以上が、今回の競技だよ。それじゃあ、少し時間を置くからこれを踏まえて自分が出てみたい競技を第1候補から第3候補まで決めてね。この後、それを見て出る競技を決めて行くから。あ、あと、出来るだけなくしたいけど、候補外から選ばれる可能性も有るかも知れないって事も分かっていてね。」

 そう言って、委員長は教卓から離れた。それを合図に皆は各々集まって相談し始めた。俺も神達と相談するために皆の所に向かった。

 

 

「それで、神は気になる競技とかあるのか?」

「いや、これと言って決まって無いぞ。まあ出たくない物は決まっているが。」

 神は黒板を見ながらそう言った。神の目線の先にあったのはあの女装リレーだった。さっき、委員長が黒板に書いていて、一番反応が有ったのが女装リレーだった。誰かの悪乗りに大勢が乗っかって決まった色物競技。反応が多かったのは男子達だった。彼ら(俺も)が被害を受けるからだろうが。

「ああ、女装リレーは出たくないな。あれは会議の時に謎の人気が有ったからな。何だったんだろうなあれは。」

「あれは、女性が出る場合はどうなるんだ?」

「そりゃあ、女装だし女装するだろ。あの競技、別に男性だけが参加のリレーじゃないし。」

「女性が有利過ぎないか?女性に女装って普段着だろ。」

「まあ、男女比はちゃんとしているから。犠牲者も各々から排出されるから。」

 女装リレーの男女比は6対3だ。うちからは男子4人と女子1人が出場する。最初は男子だけにする話だったが、男子から反発が有り今の形になった。男子だけだと絵面が汚いとか出た時はさすがに女子も考えていた。一部はだからと食い下がっていたが。

「犠牲者って、そうかもしれないが…。」

「運営陣も当日にならんとどうなるかが分かんないのが難点だな。」

「…まあ、綱引きにでも出るかな。」

 神は改めて黒板を見つめ、どうでも良さげにつぶやいた。

「おお、神は体格も良いし持ってこいだろ。…俺は玉入れにしようかね。」

「ん、何故だ?お前ならリレーでも良いだろう。」

「…リレーは良いや。うん。」

 曖昧な回答に神は眉を歪めたが、それ以上聞いてこなかった。そんなこんなで、時間は経ち委員長が教卓に立ち集計すると呼びかけた。後ろの席の奴から回収した用紙を前に回す。一番前の席の奴から用紙を受け取った委員長は此方を向いた。

「……よし、全員分有るね。それじゃあこれを見て決めて行くからね。何か有ったら私の所に来てね。…それじゃあ、後の時間は…先生。」

「もう良いの?なら、この時間は自習にします。あまり騒がしくしないようにね。」

 そう言って紅先生は教室を後にした。他の先生からの情報によると、最近紅先生は他の先生の仕事を多く手伝っているそうだ。手伝う理由はあの時から大分優しくなった先生はそれまでの事で思う事が有ったからと、本人は言っていた。

 

 

「…おや、リレーには出ないのかい?」

 自習中に何をしていようかと考えていた時だ、突然頭上から声が聞こえたと思ったら布枯が俺を見下ろしていた。

「…ああ、出ないが?それがどうかしたか?」

「いや、君は本気を出したら速いだろう?だからリレーに出るのだろうと思っていただけさ。」

「……。」

「……?何だい、その沈黙は。」

 こいつには関係無い事だろうに、なんか今日は自棄に聞いてくるな。なにがこいつの感性に触れたんだ?

「…いや、何でもない。…ともかく、俺はリレーには出んぞ。」

「…僕は何も言ってないのだがね。…まあ、僕に確かにそこまで関係無いね。でも、疑問に思ったら気になる物だろう?だから聞いたのさ、おわかりかい?」

「…ああ、分かった。」

 こっちこそ何も言って無かったと思うのだが…。

「細かい事は良いから。」

 はい。

 

 

「あ、そうだわ。おーい、色無君!」

「ん?安達か、何かようか。」

 それは自習も終わって、今日はもう家に帰るだけだと鞄の準備をしていた時だった。いつもは余り話さない安達が俺に話掛けて来て、何事だと俺は身構えながら安達に要件を聞いた。

「ええ、今日の掃除当番の事なんだけどね、色無君は今日黒板ね。」

「あー、今日だったか。…ん、了解だ。」

「じゃあ、よろしくね。今日は愛田さんと今谷君が用事で掃除に参加できないみたいだから。あなたと井戸田くんに働いて貰わないとね。」

 ああ、今日は厄日か。

 



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不可思議な

特に実の無い話


 俺には最近、良く見る夢がある。遠い昔に起こった事故の夢。俺が救えなかった、救いたかった夢。そして、俺が忘れてしまいたいと思っている夢。

 あれは事故だったと、――の父親は俺の頭を撫でる。あなたが悪いんじゃないと、――の母親は口を押えていた。お姉ちゃんは?と、――の妹は首を傾げた。――の事は、私にも責任があるわと、――の姉は下を向いていた。そうかと、父は言った。母は何も口にしなかった。それはあなたが背負っていく物よと、姉は俺を見て言う。最近、――さん遊びに来ないねと、妹は不思議そうに言う。皆が俺を見ていた。……いや、――だけは見て無かったな。もう、見てくれないんだなって、俺はあの時初めて実感したんだ。

 

 

 

「…ん、……夢…か…。」

 気怠さとかすかな頭痛が俺を嫌でも夢から遠ざける。そんなどうしようも無くて仕方ない事を俺は身体を起こしながら考えていた。またあの夢を見たんだ、次に考えたのはそれだった。珍しい事の無いそんな結論はいつもの様に浮かんで来る。そして最後は、やるせなさが俺の頭を過るのだ。あの夢を見るといつもこうだ。この一連の思考を俺はあの時から繰り返している。負の連鎖、そう言えるのかも知れない。ナーバスになるのだからそうなのかも知れない。でも、俺はこの思考を大切にしていたかった。――の事を忘れていない証拠だから。

 

 

 

「なあ加賀観、お前は知っているか?」

 午前9時、学生の本分の勉学をする為に俺は学園にいた。今は科学の先生が遅刻している為、自習の時間だ。んで、する事の無い奴はだべっている訳だ。

「何をだ?」

「この学園に伝わる七不思議だよ。」

「七不思議だ?…まあ、知ってるぞ。」

「そうか、知ってたのか…。いや、先程布枯がこんなのがあると教えてくれてな。」

 七不思議、それはこの学園で目撃されたとされる怪現象の事だ。場所によっては七以上あるそうだが、概ね七つで伝わっている。三鷹学園にもちゃんと七つあって、内容は以下の通りだ。

 三鷹学園 七不思議

 1.第4校舎の開かずの間

 2.第2校舎の屋上で告白すると失敗する

 3.第3校舎の問題児には美人の姉妹がいる妬まし羨ましい

 4.保健室に続く渡り廊下では女性は必ずつまずく

 5.第1校舎の4階に消えない汚れがある。

 6.体育館には秘密の梯子がある

 7.夕暮れ時に図書室に行くと妖精が見える。以上の七つだ。

 

 まあ、七不思議何て物は大体は見間違いや勘違い、デマだ。三鷹のだって、1・5・6・7は勘違いや見間違いだ。

 まず、1の開かずの扉だが、あれは開けようとした教師が扉の引く方向を間違えただけだ。多分、その時大分急いでいたんだろうな。それで何で七不思議になったかは、その教師がその後にあそこは開かずの間だと言いまわったからだ。それを聞きつけた新聞部がだいだい的に取り上げたから噂される様になったの物だ。

 で、5については簡単だ。あれは打ちっぱなしで処理し忘れたコンクリートだ。業者が忘れていたんだろうな、見事に残ってる。ああ、あと、そのコンクリートに乗った埃や塵が余計に汚れっぽく見せてたんだろうな。

 次は6だな、秘密の梯子っていかにもな感じで言ってるが、三鷹の生徒は皆あれの存在と用途を知っているから秘密何て外部の人位な物だ。ただ、秘密ってしている方が聞こえが良いからそうしているだけだな。

 最後の7だが、妖精ってのは嘘で、いるのは図書館の主だな。本出真央っていう図書委員長でいつも図書館にいて、一日で何十冊も本を読んでる奴だな。これの目撃者は夕方位に目撃したんだろうな。本出って、小柄で本を読んでる時に体を揺らす傾向があるみたいでさ、夕方で少し見えにくい時間に見るとそれっぽく見える事が有るみたいだな。目撃者はそれを見て妖精だって言っていたんだろうな。

 残りの奴もそんな感じで、実際に怪奇現象を示している物は一つも無いんだ。しかも、それを学園の奴なら全員が知ってる物だと思っていたから、神が七不思議について聞いて来る事に地味に驚いてるんだ。そうか、お前知らなかったのか。

「それで、何で布枯から七不思議何て聞いたんだ?」

「ああ、布枯が面白い話を仕入れたって言っていてな。どんな物なのか気になって聞いたんだ。」

「あいつが、七不思議で面白い?……なあ、神。俺もその七不思議が気になったは、聞かせてくれないか?」

「ああっ、教えよう!」

 神は遠めから見ても分かる程の笑顔を浮かべて、うきうきで話し始めた。

 

「まず、俺が教わったのは七不思議の内の3つだ。」

「3つ?何で全部じゃ無かったんだ?」

「ああ、俺も気になって聞いたんだ。そしたら、布枯も又聞きだったみたいで、それしか情報が手に入らなかったみたいだ。」

「そうなのか、……(あいつがそんな中途半端な情報を嬉々として流すだろうか?)。それじゃあ、その3つを教えてくれ。」

 俺の知っている奴の姿を想像しても、どうも噛み合わない様なもどかしさを感じながら俺は続きを即した。

「ああ、1つ目は、第2校舎4階にある古い水道が有るんだ。それでその水道を朝早くに捻ると、なんと、ラム酒が出て来るそうだ。」

「…は?…ラム酒っ!?えっ、ジュースじゃなくてっ!?」

「ああ、ラム酒だ。俺も聴いた時は驚いた物だ。」

 驚きの余り神に詰め寄った俺を誰が咎めるだろうか、いや、無理だろう。途中までは良くある水道から変わった物が流れて来る奴だなとか、高を括っていたが、酒は予想外だぞ。あ、いや、ある意味予想道理だったのか…。なんか釈然としねえ。…それにしても、学校の七不思議に酒っていいのか?私立とはいえ国の教育機関だろ?そんなの流していいのかよ?

「次は2つ目だな。」

「え?あ、ああ、そうだな。」

 そうだった、あれでまだ1つ目だった。なに、これからもっと凄いの来ちゃうの?期待しちゃうよ?

「これは第3校舎の裏にある小さい畑での話だな。加賀観も知っていると思うが、第3校舎の裏には課外授業用の小さい畑がある。中学の時はあそこで田植えをしていたな。その畑で夜になったら、聞こえるようなんだ。……こう、説明するのが難しい音が。」

「ちょっとまて、神、そこは大事な所だろ!!いい感じに雰囲気出してたのに、何でそんなふわってする説明するんだよ!!」

「いや、布枯からもこう教えられたんだ。だから、少し思う所もあったがそのまま言ったんだ。」

 思わず吼えてしまった。折角いい感じの雰囲気だったのに、何か先を想像するの面白そうだったのに、全部持って行かれた。幽霊とかがいたのとか、いくらでも行けそうなのに何でふわっと言ったんだ。教えてくれ。

「ま、まあ、続きが有るからな。」

「…続き?ここからなんかあんの?」

「ああ、続きだ。…それで聞こえた音がどこから聞こえたのかを気になった奴が入てな、調べたらしいんだ。まずは下から聞こえたから地面に耳を付けただと、でも、下からなっている事しか会っていなかったようだ。だから、奴は植えてある稲を抜いたそうだ。そうすると、あの音の正体が判明したみたいだ。そう、正体は稲に化けていたマンドラゴラだったんだ。」

「…え、それが落ちなの?…いや、七不思議なのに解決しちゃってるよね?…いや、何でマンドラゴラが存在しているんだ?…ああっ、言いたい事が渋滞して来た。」

「だ、大丈夫か?すまん、そんな混乱させるとは思わなかった。」

 神が謝罪しているが、混乱している加賀観には残念ながら届かなかった。その様子を見て、神はどうすればいいかわからなくなってしまった。頭を押さえてムンムン言っている加賀観とそれを見てあたふたしている神、2人を救ってくれる救世主が現れたのは大分後の話しだった。

 

 

 

「ねえ、礼ちゃん。礼ちゃんが朝礼の時に言ってた七不思議って何だったの?」

「おや、委員長はそういうのにも興味があるのかい?」

「うん、礼ちゃんがとても面白いって思った話なんでしょう?なら、私も興味があるよ。」

「ふふ、嬉しい事を言ってくれるじゃないか。なら、委員長にも教えてあげよう。」

「ワクワク。」

「…あー、目が凄くキラキラしてるよ。……コホンッ、では、この学園に伝える新しい七不思議「それで良いのか」をご清聴願おうか。」

 

 

 



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普通科2年Aクラスの僕
宇宙を夢見る僕



 別にしていましたがする意味が無かったと思い此方に移しました。
 


 春の夜風が木々を揺らす。周りの明かりは、道に連なる街頭のみ。僕は家の近くの公園を歩いていた。周りに人の気配は無く、この公園には僕だけがいた。僕が溜息を吐こうが反応する人はいない。まだ肌寒い夜の公園。そこはとても静かな時間が流れていた。この静かな公園の中、僕はただ上を見ていた。上、上空に広がる星空を僕は見ていた。煌く星々に目を輝かせる。僕は毎日この星空を眺めている。人知れずに消えていく星々を眺め、自分の終末はと思いに浸るのだ。僕はこの星空を眺めるのが大好きなのだ。僕にはちょっとした夢が有る。誰にも言っていない夢。この星空を飛んでみたい。自分の体で飛んでみたい。そんな夢だ。10年前、篠ノ之束博士が世界に発表した『インフィニット・ストラトス』それはまさに僕の夢、星空飛行を叶えられる代物だった。僕はその事を理解する頃には『インフィニット・ストラトス』の欠陥が発見されていた。女性しか乗れない夢の兵器。それが僕の周りの評価だった。僕は理解した時、夢の群像は僕の上空で儚く弾けて僕の身体に降り注いだ。震える身体を僕はどうする事も出来なかった。やがて、それは僕の身体に染み渡った。そして、理解した。僕はあの星を下からしか見られないと言う事を。はぁ、と口から零れた溜息は行く当ても無く漂う。一時的に此処の空気は僕の吐いた二酸化炭素が覆った。この漂う僕の溜息がやがて雲になりあの星々を隠してしまう、そう考えると僕は虚しい気持ちになる。自分の行動が周りに何の影響を与えないという事は、楽であるがとても悲しい事だ。はぁ、とまた一つ溜息が夜風に煽られて行く。今日も輝くその星を、今日も煌く星々を僕は見上げる事しか出来ない。

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、何でISって女性しか乗れないんだろうな?」

 

「さあな、製作者が女だからじゃないか?」

 

「そんな理由だったら、笑えるな。」

 

 此処は、普通科2年Aクラスの教室。第3校舎の3階の端にある教室だ。このクラスの生徒は、弁当持ちが多く食堂では無く教室で食べる人が多い。僕もその一人だ、この教室から食堂までが遠いのが主な理由だ。

 

「橘、お前なんて顔で食べていんだよ。」

 

「…結城、お前はISに乗れたら何がしたい?」

 

「なんだよ急に。…そうだなぁ、戦闘してみたいな!かっこいいし!」

 

 結城は楽しそうに、ISに装備できる武器で何がかっこいいかを話し始めた。刀や槍なんかもかっこいいと話したり、ミサイル打ったりもしてみたいと話したり。結城がISに向ける思いが思っていたよりも強くてびっくりした。確かに、結城はロボットや機械は大好きだ。けれど、こんなに楽しそうに話す事が無かった為にとても驚いた。

 

「そういう、橘はどうなんだ?」

 

「……宇宙を飛びたいかな。」

 

「…空ね。…確かに、鳥のように飛べたら気持ちいいよな。」

 

「…ああ。」

 

 結城の考える「空(そら)」と僕の「宇宙(そら)」。同じそらなのに何処かずれを感じた。結城の「空」は青く広がるこの「空」だ。僕の「宇宙」は星々が煌く遥か先の「宇宙」だ。この違いに何処か寂しい物を感じた。

 

「まあ、こんな話をしても乗れないけどな。」

 

 何処まで思っても届かない。いくら憧れても届かない。それがISだ。女性にしか乗れない兵器。性別という括りから抜けない限り、ISはただの機械だ。浪漫(夢)が目の前にあるのに届かない。これが現実だった。

 

「しかし、例外も有るんだな。」

 

「織斑一夏…か。」

 

 織斑一夏、今年の春受験シーズンに突如として現れた男だ。彼はIS学園の入学試験会場でISに触れて体に纏ったという。その事実は、IS学園の職員と会場で試験を行っていた学生によって瞬く間に広がった。その日の夕方には、ニュースでやっていた。『世界で唯一ISを使える男』とニュースで報じられて、織斑一夏の情報拡散はさらに加速していった。このニュースは、男に希望を与え。女には、嫌悪感を与えた。その後、国は全国で新たな男性適合者を探した。この学校でも検査が行われた。しかし、発見される事は無かった。その結果に男性は更なるショックを受けた。織斑一夏のニュースは男性に希望を与え、更なる絶望を与える結果となった。それもあり、織斑一夏は世間ではあまりいい顔をされてない。

 

「羨ましいよな?」

 

「…ああ。」

 

 織斑一夏は自由に空を飛ぶ権利を手に入れたんだ。全世界中唯一の権利だ、羨ましいに決まっている。

 

「あーあ、俺も動かせたら良かったのにな。」

 

 結城の呟きに僕も同意した。学園で行われた検査では、一人ずつ触れていくのだが。反応しないばっかりで、全員を測り終えるのに時間はかからなかった。僕が触れた時は、ただ冷たいだけだった。他の皆もそうだったようだ。

 

「まあ、乗れない物の話は止めて飯を食おう。次は桂木の授業だ。」

 

「ああ、そうだな。」

 

 ISという翼は無くとも宇宙(そら)を飛ぶ物はある。俺は、宇宙飛行士を目指す。あの宇宙(そら)を飛ぶために。

 



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甘い玉子焼

久しぶりに投稿しました。予定や書く意欲が足りなくて遅くなりました。本編がなかなかできないのでこちらを投稿しました。

今回の話はオリジナル設定がほとんどです。


 4月20日

 

 4月の中旬になると新年度や新学年などの新鮮な気持ちは薄れていく物だ。僕たちは二年生なので余計にそう感じるのかも知れない。去年の気持ちはあまり思い出せないけど、もう少し新入生気分でいた気がする。クラスの方も新しいクラスメイトとの交流も盛んになって行き、派閥やらグループはもう出来ていた。社交性の高い奴らは4月の初旬の頃に作り始めていたが。結城も社交性が高いので様々なグループに渡り歩いていた。それでも昼は僕と一緒に食べている。理由を聞くと、僕が一人で食べているのを見たくないからだとか。意味が分からないが、こっちは助かるからそう言う事にしている。でも、友人からボッチ認定で心配されている状況に悲しくもある。クラスの中でボッチなのは僕だけではない。席が隣の塩崎野々花もボッチである。まあ彼女は孤高な存在に慣れている様だけども。彼女は英語などの授業で行う二人組の活動の時にお世話になる。お互いに声をかける友達が近くにいないので結果的に余って組むことになる。彼女のお陰で恥ずかしい思いをする必要が無いのだ。とても助かっている。そんなこんなで、僕の学校生活は充実しているのだ。

 

 

 

「ふぅ、こんなものかな?」

 

 さっきまで書いていた日記を閉じ、ハァと一息ついた。今年から続けているこの日記ももうすぐ3冊目に突入しようとしていた。最初は新年だから新しい事を始めようとして、悩んで決めたのが日記を書くことだけど、なかなか続いていると嬉しく思う。偶に姉が見ようとするのが困りごとだけども。それで感想を言ってくるのが本当に困るのだが。人の日記に感想を言うって何だよと少し思うが、姉だから仕方ないと思う自分がいる事に溜息が出る。しかし、姉はこの日記をどうやって見つけているのだろうか?毎回隠し場所を変えているのに必ず見つけて報告して来るのだ。ほんとに姉は不思議な人である。偶に忍者みたいな動きをしてくるし、読唇術やら読心術やらを活用して僕の秘密を看破して来るし。ちょっと目を離したら日記帳が消えていたりするのだ、ほんとに姉には困ったものだ。…………日記帳は何処だ?

 

「へー実鈴ちゃんって、クラスでボッチなんだ~♪ほー、ふーん。おっ、塩崎ちゃんに会ったんだ。ああ、やっぱりボッチになってたかぁ。」

 

「……」 

 

 …………ハッ!…いけない、いけない。放心状態になっていた。いきなり現れた?姉に驚いてしまった。とっ、それに今見られているのは僕の日記じゃないか!

 

「姉さん僕の日記を返してくれ!」

 

「え~今面白い所なのに~。」

 

「僕の日記は小説じゃないんだから、面白がらないでくれ!」

 

「面白いから仕方ないよ。…うん、面白いよ。」

 

「同じことを二回言ったって許さないからな!」

 

 姉さんが持っている日記を無理やり奪って、きつく言うと姉さんは少ししょんぼりした。

 

「ちぇ、仕方ないなぁ。あっ、そうだ実鈴ちゃんは塩崎ちゃんと仲が良いんだよね?塩崎ちゃんはちょっと暗いけどいい子だから仲良くしてあげてね♪」

 

 かに見えたが、そんな事は無かった。しかし、姉さんは塩崎の事を知っている様だ。塩崎とは別に仲良くはしていない事は日記にも書いてあるのだが、姉さんからは仲良くしている風に見えたようだ。そりゃあ、お世話にはなってるけど。

 

「姉さんは塩崎の事を知ってたのか?」

 

「うん、彼女は代表候補生だものよく話していたから知っているわよ。」

 

 マジかよ、塩崎って代表候補生だったのかよ。そういやぁ、運動得意そうだったな。体育の時に男女混成サッカーで、ハットトリックかましてたの彼奴だったな。代表候補生なら納得できるな、候補生って厳しい審査で選ばれるエリートだって言うし。運動神経も凄く良いんだろう。

 

「でも、代表候補生ならIS学園に通うんじゃないの?何で三鷹にいるんだ?」

 

「……実鈴ちゃん、この事は誰にも言わないでね。言ったら彼女がとても傷つく事だから。実鈴ちゃんは口が堅いし、彼女と仲いいみたいだからね。」

 

「…わかった。」

 

 

「塩崎ちゃんが代表候補生になったのは中学1年の春だった。その時期は、織斑千冬がいたから国家代表の席は埋まっていのだけど、日本政府がどんどん候補生を選抜していった時期だったのよね。ほんとに何を考えていたのかねぇ。それで、彼女も代表候補生に選ばれたのよ。けれど、同期の子が大量にいた為かISの訓練はあまり出来ていなかったのよね。一日の訓練は座学と身体強化がメインだった。ISも一週間に一度触られるかどうかだったみたい。まあ、あの時期は彼女以外にも沢山いたけどね。彼女の場合は、適性が同期の中じゃ一番低かったのよ。…代表候補生の選抜基準ぎりぎりだったわね。訓練機の貸し出しが高い適性の子から順に貸していくシステムだったから彼女は特に出来なかった。それで、どんどん他の子との差が開いちゃったの。彼女も必死だったし、私も教えたりしたのだけど、出来る事が少なすぎたの。」

 

 姉さんは、少し顔を歪ませながら話しを続けた。

 

「そして、代表候補生は皆IS学園に行くのだけれどその時も人数が多すぎた事により問題が発生した。代表候補生は入学試験をある程度パスできるのだけど、人数が人数だったから全員を入学させる事が出来なかった。そこで政府は候補生の中から行く子を選抜したの。…彼女はその選抜で落ちたのよ。まあ、仕方ない部分もあったのよね。選抜の内容がISによる実技だったし。…落ちた彼女は一般入学も考えたようだけど、一般だと政府からの資金援助が受けられない事と彼女の家族の収入では入学金と授業料を払う事が出来なかったそうなの。彼女が三鷹を選んだのは特待生制度が充実しているからだと思うわ。…ハァ。」

 

 姉さんは一度深呼吸をした。

 

 …塩崎の事をいろいろ聞いてしまうとどうも放って置けなくなってしまう。代表候補生は宙を飛べる羨ましい人たちとだけしか思っていなかったけれど、考えを改めなくてはいけないな。

 

「……彼女が一番ショックを受けたのはIS学園を逃した事もだけど、代表候補生の資格剥奪、それが彼女を一番気づ付けたの。増やし過ぎた候補生をIS学園入学を期に整理したのよ。対象は入学出来なかった子よ。この条件には、彼女の他にも沢山の子がこの対象に当てはまってしまった。こんな身勝手な事をしでかした政府にはすぐさま各所から抗議の声が届いた。しかし、政府は聞き入れなかった。対象者は12名。政府はその12名の候補生の資格をはく奪したわ。」

 

「……」

 

 

 その後、少し話して姉さんは部屋を出ていった。伝えたいことを全部伝えきったからなのか少し雰囲気は軽かった。姉さんが話した塩崎の事は誰にも話す気は無いけども、塩崎との距離感が狂いそうな情報ではあった。関係を変える気は無いが、細かい部分でボロが出そうな感じだった。明日、塩崎との活動は有っただろうか?誤魔化すように何か作業をしていた。あまり眠れなかったかもしてない。相変わらず姉さんは爆弾ばかり運んでくる人だと心の中で愚痴った。

 

 

 

 翌日、弟の八重に叩き起こされた。あの後、ベットに横になった後の記憶が無かった。寝落ちたのだろうと思うが、不思議と気分はスッキリとしていた。姉さんが作った朝食を食べていつもの通り学校に登校した。そこに変わった事は何も無かった。

 

 

「どうした、寝不足か?目の下に分かりやすい隈が見えるぞ。」

 

「…そんなにか?最近はそれでも早く寝ているんだけどな。」

 

「まあ、お前に隈が有ろうが無かろうがどうでも良いのだが、気にする奴もいるしなぁ。」

 

「ん、そんな奴がいるのか?物好きだな。」

 

「お前位だろう、あれで気づかないのは。」

 

 結城の言っている事は偶に良くわからなくなる。難解な事を口走るのが此奴の欠点だと思う。八重に話したら結城の連絡先を聞かれたが。あれは何だったのだろうか、偶に話しているのを見るし。話しながら歩いていると教室が見えて来た。結城は疲れたような顔をしていたが朝から何が有ったのだろうか?

 

「……あっ、橘君。」

 

「お、おお。おはよう塩崎。」

 

「うん、おはよう。…夜ふかしでもしたの?」

 

急に声を掛けて来た塩崎につい、どもった返事をしたが塩崎は気にした様子は無かった。

 

「ああ、そんなところだ。」

 

「そう、夜ふかしはあんまりしない方が良いよ。体にも悪いし。」

 

「ああ、気を付けるよ。」 

 

 塩崎はとてもいい子だと思う。俺なんかの心配もしてくれるとても優しくていい子だ。代表候補生って最初聞いた時は少し塩崎に羨望の眼を向けようとしていたが、そんな優しさを見せられるとそんなのどうでも良くなるな。塩崎が俺以上に厳しい所にいたのは昨日の話からでも分かる。そんな子に俺がISが乗れるからって羨望の眼差しで見て良いはずがないよな。俺は詫びの気持ちを彼女に持とうと決めた。

 

 

「橘君、ごめんだけど一緒になってくれないかな?」

「ああ、良いぞ。俺も困っていた所だ。」

 今日の英語はグループ活動だった。2人から3人で組んで行うのだが、俺の周りは早々に組を決めてしまった。まるで何かを狙っているかのようだった。そんな感じで、俺と塩崎は今日も同じ組で活動する。幸い塩崎も俺も英語は得意だったので2人だろうが問題は無かった。塩崎も嫌な顔をする事は無かった。2人でいつもの通り活動して、英語の授業は終わった。

 

「いつもありがとうな、塩崎。」

「えっ?」

「英語とか体育とかの時に組んでもらって。」

「…良いよ、私も助かっているんだし。」

 

 お礼を言うと、塩崎は少し嬉しそうな顔をした。まあ、お礼を言われたら嬉しいだろう。僕も言われたら嬉しいからな。

 

「はぁ、お前は相も変わらずだな。」

「何だ、急にどうした?」

「お前の考えに呆れてたの。何でこいつはこう、わかんないかなぁ?」

「お前、心が読めるのか?」

「お前が分かりやすいだけだ。……ハァ、塩崎がいくら頑張ってもこいつが気ず付かなきゃ意味がないのになぁ。」

 

 結城が何かに嘆いているがいつもの事なので気にしない。しかし、結城は疲れているのだろうか、溜息が最近増えてきたが…。

 

「まあ、いいや。橘、偶には食堂で飯食おうぜ。塩崎さんも一緒にどう?」

「えっ、あ、その。」

「おい、塩崎を困らすなよ。…ごめんな?悪い奴じゃあ無いんだ。ただ、配慮が足りないだけなんだ。」

 

 こいつとの付き合いも大分長くなってきたが、女性を誘うのに配慮が足りていないと思う時が何度かあった。その時は、女性の方が困ったような顔をしながら許してくれていた。今度の事も、少し足りていないと思いフォローしたが、そう何度も出来る物じゃないから気を付けて欲しい。

 

「ちょっ、それは聞き捨てられないぞ!俺はだなぁ…。」

「結城君!あ、ありがとう、ご一緒させてもらうね。」

 

 塩崎は、結城の言葉を遮る様に割り込んできた。焦ったのかどもっていたが何に焦ったのだろうか?

 

「お、おお。とりあえず食堂に行こうか。橘は弁当持って来たか?」

「ああ、姉が朝食の片手間に作ってくれた。」

「そうか、朱莉さんの弁当はおいしいから羨ましいぜ。塩崎さんはどうだ?」

「大丈夫、私も持って来てる。」

「なら、行こうか。」

 

 三人並んで、一階の食堂に向かった。結城が食堂を提案したのは自分が弁当を忘れたからなのがのちに判明したが、偶にはこういうのも良いなと感じた。塩崎の弁当は自分で作った物だったそうだ。結城が訪ねたら恥ずかしそうにそう言っていた。塩崎が僕の弁当を物欲しそうに見ていたので、物々交換で塩崎の弁当から一品と弁当の品を交換した。塩崎は最初は驚いていたが、落ち着いたのか真剣な顔をしながら頷いた。姉さんが作った卵焼きを勢いよく頬張った。もぐもぐとおいしそうに食べる姿はとても可愛かった。その後塩崎の卵焼きを食べたが、砂糖を入れたのか甘い味がした。僕的には塩味が強いのが良いが、これもこれでおいしかった。塩崎が味を聞いて来たので素直に言うと、そっかと、少し落ち込んだ様に見えた。しかし、おいしいと言ったのが良かったのか嬉しそうにしていた。結城は、やれやれと言った感じで顔を横に振っていた。

 



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人物紹介

 

 橘 実鈴 たちばな みすず 男

 

 私立三鷹学園普通科2年Aクラス

 

 天文部所属

 

 小さい頃から宇宙を夢見ている。ISという兵器の登場に人一倍歓喜し、失望した。趣味は家の近くの公園での天体観測。上を向く癖があり、授業中も頭上を見ながら眠っていたりする。一人称は、「僕」。本人は特に気にしていないが、よく名前が女性みたいだねと言われる。将来は宇宙飛行士。宇宙飛行士になるために、体作りや勉強を頑張っている。家族構成は、母、父、姉、弟がいる。

 

 

 

 

 結城 勝江 ゆうき しょうえ 男

 

 私立三鷹学園普通科2年Aクラス

 

 広報新聞部所属

 

 物事は広く浅くが一番いいと考えている。橘とは、1年の時の特別研修で同じ班になってからの友達。昼は一緒にご飯を食べている。兄弟に姉が一人いるが、仲はあまりよくないらしい。ISには何かしらの思いがある模様。Bクラスに幼馴染がいる模様。

 

 

塩崎 李恵 しおざき りえ 女

 

 三鷹学園高等部2年普通科Aクラス

 

 料理研究部所属

 

 中学校は他所の学校だった。三鷹に来たのは特待生制度が充実していたから。代表候補生だったが、高校入学を期に剥奪された。それが影響でか、ISの話をしたがらなくなった。ニュースなどでISの報道がなされるとチャンネルを替えるほどだ。本人の性格も以前までは落ち着きもあって元気そうだったが、暗くなり落ち着きが無くなっていた。高校入学後は知人がいない状況でおびえながら過ごしていたが、ある出会いから少しずつ元気になりだした。得意教科は、体育と家庭科 

 

 

 

 

 三鷹学園の教室の配分

 

 高校部

 

 第3校舎の高校部は、6階と5階が3年生。3階と4階は2年生。1階と2階は1年生が使っている。また、1階には職員室と事務室と食堂が増設されている。一つの階に六つの教室があり、クラスを半分に分けて配置している。2年生ならば、3階に職業専門科の三クラスと普通科Aクラスが入っている。4階は普通科B・Cクラスと特進科の三クラスが入っている残った教室は部室にしたり更衣室にしたりしている。

 

 

 

 

 

 天文部

 

 第4校舎3階の端の教室を部室として使っている。部員は橘を入れて6人で顧問は柏崎先生。過去の天文部員が残した物で教室の3分の1が埋まっている。週に3日の活動で、月に一回程度柏崎先生監修の元深夜の天体観測を行う。

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

 

 

 橘 朱莉 たちばな あかり 女

 

 IS学園職員

 

 IS学園で事務の仕事をしている。また、ISに搭乗し警備の仕事をする。上司が変わり者で、変な仕事ばかりを回してくると愚痴っている。操縦の腕は、国家代表を少しの間足止め出来る程度はある。ブラコンで実鈴と弟の八重にはとことんあまい。基本は、寮暮らしだが休みの度に家に帰ってきている。最近の悩みは、八重が思春期に入ったためにコミュニケーションが減って来たのが悩み。

 

 

 

 橘 八重 たちばな やえ 男

 

 三鷹学園中等部1年

 野球部所属

 橘家の末っ子。思春期真っただ中の時期。野球部では外野手として、ベンチに座っている。肩の強さには、ちょっとした自信がある。最近は、先輩にスコアの書き方を習っている。監督の指示だそうだ。最近の悩みは姉との距離感である。嫌いという分けではないが近すぎる為に離れようとしているが、離れると姉が悲しむので離れるに離れられないことに悩んでいる。

 

 

 



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私の日常
私の日常


暫く読専をしていました。
本編とは少し違います。


 私の朝は、部屋に侵入してくる猫のシノンによって始まる。シノンは私が小さい頃に家の前で弟が拾った猫だ。いつもは一階のリビングで過ごすのだが、何故か朝の決まった時間になると私の部屋にやって来て私の睡眠を邪魔するのだ。今日もシノンが飛び乗ったのか腹部が少し痛い。シノンが飛び乗ると布団に大量の毛を付けていくので勘弁して貰いたいと思っているのだがシノンは関係ないと繰り返すのだった。まあ、シノンの事はいつもの事とだしいい加減に慣れてきている自分に私は目を背けるのが最近の日課に成りつつある。とまあ考えていると良い時間になったので私は身体を起こした。もちろん、起こす時にシノンを抱くのは忘れない。以前、気にせずに起きてシノンを腹で挟んでしまった事が有った。その時は、しばらくシノンの機嫌が悪くなって、構おうにもそっぽを向かれるなんて事も有った。さすがにそっぽを向かれるのは困るので、こうやって注意をしている。別に、私が太っている訳じゃ無い。シノンがくつろぐ場所が私の腹の上だから挟んでしまうのだ。何度も言うけど。

 

 シノンをベッドの上に置いて、伸びをする。降ろされたシノンも同じく伸びをする。カーテンの隙間から零れる日差しが今日の天気を教えてくれる。そして、昨日の天気予報が当たった事に笑みを零した。昨日行った、友人との賭けは私の勝ちのようだ。後で笑ってやろう。気分の良くなった私は、鼻歌を歌いながら制服に着替えた。お母さんにクリーニングに出して貰っていたシャツを着て、紺のスカートをはく。黒と青の線の入ったリボンを結び、青みがかった黒いブレザーを羽織る。この作業も一年も続ければ慣れた物である。ブレザーは高校からで中学校の時は、セーラー服だった。驚くほどに変わる事は無かったけれど、セーラー服に慣れていた為に最初の頃は少し着替えに時間が掛かっていた。鏡を眺めて、可笑しい所が無いかを探す。…よし。床でこちらを見ているシノンを呼んで私は部屋を後にした。

 

 家の朝食では、主食がパンの事が多い。理由は、私の両親がパン屋を営んでいるからだ。朝早くから仕込みをする関係上、お母さんが店に出すパンを作るついでに朝食分のパンも作るから家の朝食はパンである事が多い。しかし、種類は毎日違うけれど、パンには変わりなくて、続けて何日もパンを食っていると飽きが来るのも当然だ。だから、偶にはご飯も食べたいというのが私の主張だ。まあ、それを言うと自分で作ってと言われるから言わないけど。早起きはしたくないし。ちなみに今日のパンはメロンパンだった。表面の生地がサクッとしていて美味でした。私の好物はコロネパンだがメロンパンも好きだ。だから、中にメロンクリームが入った物をメロンパンと、好きな者として認めるわけにはいかない。そこの所をちゃんとわかっているとは流石、お母さん達だ。

 

 机の上に4個用意されていたメロンパンが、残り1個になった所で我が家のお寝坊さんが降りてきた。よろよろと歩き、寝ぼけ眼な中学生。我が家の長男で、私の弟だ。眠い目を擦りながらやって来た弟の姿は、頭に寝癖を残したままで、服装もパジャマのままだ。以前、その事でお母さんに注意されていたがやはり直ぐには治らないか。まあ、弟がそんな直ぐに治せる何て家族の誰もが思っていない事である。それでも中学生ならもう少しは頑張って欲しいのが正直な所だけど。

「おはよう、姉貴。……ほぁぁ。」

「はぁ、…おはよう。…あんた、もう少し早く起きなさいよ。そんなだらしない姿をあの子に見られても良いの。」

「ほぁぁ…。…今更じゃね?」

「だから、言ってるんでしょうが!」

「はいはい。」

 ホントにこの弟の情けない姿には呆れるばかりである。これでも学校では、きっちりしていて人気も有るのだ。どういう訳か弟は外と家ではキャラが違う。外では真面目な優等生をやっているが、家では呆けた天然小僧だ。家に来る弟の友人は、弟のキャラに驚いていた。まあ、学校では真面目な弟が、家に入ったらいきなり人が変わった様な事をしでかすからなのだが。オン・オフが上手いと言うべきなのか、呆れるばかりである。家にやって来たその友人は今でも家に遊びに来る。弟の変化にはもう慣れたのか、特に驚かなくなったと言うか、仕方ないみたいに思っている様だ。この友人のおかげで、弟の部屋はぎりぎりごみ屋敷を回避しているのだ。今日もその友人と登校する様だけど、弟の格好から準備が出来ている感じはしない。また、友人に助けて貰う気か。弟の友人は、弟の家での様子を見てから度々朝、家に迎えに来てくれる様になった。弟を迎えに来てくれるのはうれしいが、弟がそれに頼りだした為に起きるのが遅くなったのだ。彼方の好意だからやめてとも言えないのでどうしようかと、お母さんに相談した事も有る。その友人に迎えに来てくれる訳を聞くと、どうも弟は稀に遅刻ギリギリで登校していた様である。友人はそれを心配していたらしく、家での弟を見て訳が分かりほっとけないからだと。その理由を聞いて、弟を問い詰めた私は悪くない。結果、弟の迎えを此方から頼む形で落ち着いた。弟よ、私はお前の友人に足を向けて寝られないぞ。

 

 朝食を食べ終わった私は、片づけを弟に頼みリビングを後にした。二階建ての家は玄関から入ってすぐの所に階段がある。二階は、私と弟の部屋の他にお父さんの書斎もある。玄関近くの階段を登り、弟の部屋の前を通り過ぎて私の部屋にたどり着いた。部屋に置いてある鞄を手に取り、部屋に立てかけてある時計を眺めた。時間は午前7時30分過ぎだった。学校へは、8時30分頃に着けばいいので少し余裕がある。とりあえず、リビングでテレビでも見ようと鞄を持って部屋を後にした。

 

 階段を降りていると、玄関からチャイムが聞こえてきた。この時間に来る来客は彼女だろうと思い、私は玄関のドアを開けた。

 開けたドアの先には、黒いセーラー服を着て、鞄を両手で持った女の子がいた。

「あっ、先輩おはようございます!!」

「うん、おはよう。今日も家のを宜しくね。」

「はい!任せてください!」

 元気よく返事をしたのは、先ほどから話していた弟の友人の高尾未来ちゃんだ。今日も弟の為に、朝早くに起きてきたのだろう。未来ちゃんの家からうちへは、うちから学校に行ける位遠いのだ。未来ちゃんはその距離をほぼ毎日弟の為に歩いてきてくれるのだから頭が上がらない。本当に弟にはもったいない人である。未来ちゃんが弟に献身的過ぎて、友人?とも思える時も有るのだけれど、2人から恋仲という感じは余りしない。弟がだらしなくて未来ちゃんがお姉さんに見えるからだろう。まあ、二人の事は二人が解決する事なので深くは言わない。私としては未来ちゃんとの関係が近くなるなら嬉しいけどね。

「…?どうかしましたか?」

「…ううん、何でもないよ。じゃあ、弟はリビングにいるから行きましょうか。」

「はいっ!おじゃまします!」

 未来ちゃんを連れて、リビングへ足を動かす。そして、リビングに弟がいるのを確認してリビングのドアを押し開けた。リビングに入ると弟は先程部屋を出る前と同じようにパンを齧っていた。私に続く未来ちゃんは、そんな弟の姿を確認すると弟に歩み寄った。弟は、リビングのドアの音に反応して此方に顔を向けた。そして、未来ちゃんを確認したのか露骨に顔を顰める。その顔にイラっとしたが、未来ちゃんの手前顔に出す事は無かった。

「明人、未来ちゃんがあんたの為に来てくれたよ。さっさと身支度しなさい。」

「明人君、おはようございます!早速ですけど、朝早くても服とかきちんとしなくちゃいけないですよ!」

「…俺は頼んで無いんだけど。…いや、何でも無い。」

 未来ちゃんはさっそく弟の服装に注意を投げ、直すように進言する。弟はそれに小さく

何か発するが、すぐに訂正した。そして、未来ちゃんのされるままとなった。なされるままの弟に頷いた未来ちゃんは、手早く寝癖を整えていった。軽く2人の上下関係が垣間見えるが、いつもの事なので私は何とも思わない。弟に情けないとか思っていない、あれは未来ちゃんの押しが強いんだ。私でも抵抗出来ないから。その後、明人は未来ちゃんに連れられて二階の自分の部屋に戻って行った。

 

 明人たちを見送った後、私は時計を確認した。2人を見ていたら思いの他時間が経っていた様で、7時50分を過ぎていた。まだ、テレビを見る位の余裕も有ったのだが、今から見るのも何だったので、このまま学校に向かう事にした。持っている鞄の中身を軽く確かめて、家の裏口に向かった。うちの裏には、私の両親が経営している『御橋麺麭屋』が在る。うちとはお互いの裏口から行き来が出来る。両親は朝の作業でだいたいそこにいるので、学校に行く前に寄り行ってきますと言ってから学校に行くようにしている。麺麭屋に入ると、お父さんとお母さんは生地を練っていた。麺麭屋のパンは、基本二人で作っているのでお父さんたちは朝早くから作業をしている。アルバイトさんもいるのだがまだ1人で作れるに至っていないので、お父さんたち2人で作っている。彼が早く作れるように成ってくれるとお父さん達も朝ゆっくり出来るのに。

「お母さん、お父さん、時間だから学校に行ってきます。」

「ん?おお、そんな時間か。行ってらっしゃい、気を付けてな。」

「あら、そうなの?…うん、身嗜みも大丈夫そうね、行ってらっしゃい。」

 作業の手を止めてこちらを向いたお父さんとお母さんは、時計を見ていなかったのか驚いた様子で答えた。お母さんが私をじーと見つめたて私の身嗜みを確かめたのか頷いた。2人から行ってらっしゃいを貰った私は、改めていってきますと言って麺麭屋の正面入口に向かった。麺麭屋の正面の通りは、家の通りより学校に近いので両親へのあいさつも兼ねていつも麺麭屋を経由して学校に向かっている。ちなみに中学校の頃は、家からの方が近かったので麺麭屋に寄って行くのが面倒に思っていた事も有った。

 

 私の家がある地域は、住宅街の外れ方に在る。だからか、道路に歩道が無く道もあまり広くない。車2台分と人が一人通れる位の広さだ。しかし、車の通りが少ないため今まで大きな事故は起きていなかった。だが、いずれ事故が起きるかもしれないと、この辺りの住民は対策を立てようと会議を偶に開くのだが、話し合いはあまり進んでいないようだ…。とはいえ、何もしない訳にも行かないので学生の登校時間には少ないながらも大人が立って見張る様にしている。それで安心とは言い難いが、抑制位にはなってくれるだろうとはお父さんの談だ。

 私が通う高校は、住宅街から歩いて30分程の所にある。だからか、自転車で通う人がとても多い。学校もそれを推奨している。私は持っていないが、自転車で着ている友達は学校前の坂がきついと話していた。学校前の坂は歩いてもきつい坂なので、自転車だととても大変そうだった。その坂のせいで自転車通学を諦めた子もいる。まあ、男子どもは関係なしに上っていくが。学校の男子どもが本当に元気なのよね。

 

 何時もよりも早い時間に家を出た事で時間にかなりの余裕が出来ていた。だから、何時もよりも歩くスピードを下げているのだが、どうも思っているよりも遅かったようだ。普通に歩いていたら追い抜かされないウォーイング中の御婆さんに抜かされてしまった。そんなに遅いとは自覚してなかったから、小さくショックを受けてしまった。まあ、そこでむきになる事は無いのだが。

「あれ?詩織、ずいぶん遅い歩行ね、何かの訓練なのかしら?」

「違うわよ、これは余裕を持った人の歩きよ。時間を持て余してしまう人類に許された行動です。」

「何それ、意味わかんないですわ!でも、何かとても楽しそうですわね。」

 突然声を掛けて来たのは、私の同級生の原田尚古だ。先程、彼女は私の歩行に難癖をつけて来たが、だいたい私に構って欲しいだけの難癖だ。彼女は一応、私の友人なのだが何故かこういう構ってくれアピールをしてくる事が有る。別段、迷惑とかは無いのだが反応をするのが少しめんどくさかったりする。だからと言って、無視すると拗ねるので適度に答えてあげなければならない。そういう性格なので彼女も友達作りに苦労していた時があった。まあ、彼女が自分の性格を理解して、自重し始めてからは話せる友達も増えていったのだが。そんな彼女であったが、何故か私に関してはその自重が機能しないのか構ってアピールを沢山して来る。私が適当にあしらっても再度アピールして来る。何が彼女を突き動かしているのだろうか?もしや、私に対して好き的な思いが有るのだろうか?もし、そうならば早い内に言って措かなければならない。私はノーマルだ、だから普通に恋がしたい。だが、彼女を悲しませたくないの気持ちもあってなかなか言い出せないでいた。

「ねえ、詩織。貴方更に遅くなっているわよ?このままでは学校に遅れるわよ、少し速くしないかしら?」

「うーん~~~~。」

「ねえ、聞いているのかしら、詩織?」

「うーん~~~~~~~。」

「詩織、詩織っ!!」

「ん、何か言った?」

「貴方、このままですと遅刻しますわよ⁉」

 尚古に言われて腕時計で時間を確認した。そこには、8時20分と長針と短針が指し示していた。朝礼は30分だ。不味い、完璧に余裕をこき過ぎた。

「い、急ごう!余裕をこき過ぎたよ!」

「はい、これも詩織が唸るからですわよ!」

「ごめんなさい!許して!」

「良いですから、急ぎましょう!」

 

 

 

 朝礼には何とか間に合った。

 

 

 



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彼女と

 私の友人はとても困った子だった。

 

 最初は上から目線で構ってちゃんな彼女に、クラスメイトもその時は友達ではなかった私もうんざりとしていた。ただ、時折見せる彼女の優しい様子を見ていた為、皆は彼女の側を離れる事は無かった。しかし、1年の後期に彼女が他のクラスの人とトラブルを起こしまった。

 原因は彼女が相手の彼女を無視する態度に対して怒鳴った事だ。彼女はそれまで無視される事や邪険にされる事が無かった。親はもちろん、クラスメイトもなんだかんだと付き合っていたからだ。だからか、皆が自分の話に喜んでいると感じていたようだ。だから、彼女は自分の話を無視した相手に我慢がならず怒鳴ったのだ。それに相手側も怒鳴り出して喧嘩に発展した。更に、それまで彼女にイラついていた周囲の人間も加担し始めた。それにより、彼女は大勢から罵倒を受けてしまった。それが、彼女の自尊心やプライドを強く傷つけてしまったのだ。そして、彼女は引きこもった。

 

 

 

 その時の詩織は、そんな彼女がとても可愛そうに見えていた。そして、偽善だとは理解しているが、彼女の優しさを知っている自分は、彼女がこのまま勘違いされたままで引きこもるのが許せなかったのだ。

 

 それからの行動は早かった。決意した日の放課後に彼女の家に突撃したのだ。

 

 突撃した詩織を見た彼女は自分に構うなと追い返す。しかし、詩織は頑固だった。何度も彼女の家のインターホンを鳴らした。そして、追い返された。しかし、詩織は諦めずに鳴らした。そこに周りの迷惑という言葉は無かった。ただ、彼女を引きずり出す、それだけだった。何度も鳴らした。何度も何度も鳴らした。彼女が出て来るまで何度も。その時に幸いだったのは彼女の家族が夜遅くに帰って来る事だった。詩織は鳴らし続けた。詩織の一刺し指が真っ赤に化膿し、中指に交代した頃だ。開かなかったドアが開いた。ようやく彼女を引きずり出したのだ。詩織は出て来た彼女を見つめた。彼女の第一声は「近所迷惑ですわ!!」だった。詩織の粘り勝ちだった。

 

 

 彼女と無理やり向かい合わせた詩織は彼女に学校に来るように説得した。しかし、彼女の傷ついた心は外に出る事を拒んだ。

 

 -私は悪くないのに、何故あんな罵倒を受けなくてはならないのよ?そんな罵倒される学校に何故行かなければならないの?どうせ皆私に苛立っていたはずです。私がいなくて清々しているはでしょう。ならば、何故私が傷つかなくてはいけないの?悪いのは彼方の方でしょう?何故私が立たなくてはならないの?-

 

 彼女の訴えは、大人から見たらただの子供の我がままだ。先生に言ったって我がままを言うな、社会に出たらそんな事は沢山ある。駄々を捏ねるな、大人になれ。偏見もあるがこういうのだろう。だが、子供の詩織にはそれが理解できた、共感も持てた。だから、彼女に語った。

 

 -貴方が傷つく?大丈夫よ、皆は分かってないだけ。貴方が言い争った子も周りの子もね。貴方は確かに言い方が厳しいし、上からの物言いだよ?それが反感を買った事は紛れもない事実だね。それは貴方が直さないといけない事。でも、貴方はそれだけでは終わる女じゃない。貴方優しいじゃない?私だって貴方のお陰で何度か助かった。それは確かな事だよ。優しいって簡単な事の様に見えるけど、実際行うのは難しい事なんだ。でも、貴方はいとも容易く行うの。それは凄い事なんだよ。だから、貴方は自信を持って良いね。自分は優しい人なんだってね。-

 

 -…自信。-

 

 -そう、自信。貴方は人の為に行動したのよ、それは誇っていい物よ。でも、今のままではまた勘違いされるの。わかる?今の優しさは押し付ける優しさなの。-

 

 -押し付ける、優しさ。-

 

 -そう、人って、押し付けられると内容がどうであれ、むっとしてしまうの。貴方が相手の為を思った事が相手にとっての思った通りで無いの。それを貴方は沢山行った。それが反感を買ったのね。自分がいらない者を押し付けられたら嫌な気持ちになる物でしょ?-

 

 -………そうですわね。-

 

 -だから、貴方は理解しないといけないわ。何が押し付けなのかを。-

 

 -……難しいですわ。-

 

 -うん、私も難しいもの。だから、直ぐに出来る事では無いわ。でも、その練習は出来ると思うわ。-

 

 -練習ですの?でも、やり方がわからないわ。-

 

 -貴方の場合は、他人と対等に話合えば、いずれは分かってくるはずよ。貴方、頭が良いんだもの。理解力は人一倍あるはず。-

 

 -そうですの?…でも、会話なんて繋げられないわ。あの時だって、続かなかったのですもの。-

 

 -それは、貴方が畳掛けるからよ。ゆっくりと相手の話を聞けば、おのずと会話が続くはずよ。貴方は会話のレパートリーを沢山持っているのだし。-

 

 -相手の、聞く。-

 

 -出来るでしょ?-

 

 -ええ、そうですわね。…いえ、出来なくてもやりますわ。貴方は私を見捨てなかった。私の間違いを教えてくれた。ならば、私も答えたいですわ。-

 

 -うん、ありがとうで、良いのかな?-

 

 -いえ、私がお礼を言う側ですわ。…フフッ、貴方はお人好しなのね。-

 

 -あれ、今思えばこれも押し付けになるのかな?-

 

 -そうかも知れないですわね。でも、私はその優しさを嬉しく思っていますわ。…相手次第、なのですね。-

 

 

 彼女はそう言って、嬉しそうに笑みを浮かべた。詩織は言いたい事を言っただけだったと、今になって思い始めていた。言っている事もあやくちゃだっただろうと、でも、彼女がそれでいいと言った。これで、良かったのだと詩織は思う事にしたのだった。

 

 

 

 

 

 翌日の事だ。学校に出て来た彼女は教卓台の上で此方を見ていた。

 翌日の事だ。頭を下げる彼女をよく見かける。

 翌日の事だ。顔を強張らせて話す彼女を見つめた。

 翌日の事だ。話を真剣に聞く彼女を見ていた。

 

 

 

 

 翌日の事だ。柔らかい笑みを浮かべる彼女を見かけた。

 翌日の事だ。柔らかい笑みを浮かべる彼女を見つめた。

 彼女は、もうちゃんと会話する事が出来ている。私の助けはもういらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の事だ。家の前で彼女が待っていた。

 翌日の事だ。家の前で彼女が待っていた。

 翌日の事だ。雨が降っていた。彼女が待っていた。

 翌日の事だ。今日も雨だ。彼女が待っていた。

 翌日の事だ。今日もいる。

 翌日の事だ。今日もいた。

 翌日の事だ。翌日の事だ。翌日の事だ。翌日の事だ。

 今日も彼女は家の前で私を待っていた。私が何をしたって言うんだ。

 

 

 

 

 

「あら、詩織さん、おはようございます。」

「あ、うん、おはよう。今日も早いね。」

「ええ、貴方が遅刻しない様に気を付けていますからね。」

「私が遅刻したのって、そんな注意する程じゃ無いはずなんだけど?」

「あら、一度やってしまうとなかなか抜けない物ですわよ?」

「なら、続いて無いから大丈夫だよね?」

「私がいたからでしょう?詩織さんだけではやはり心配ですわ。」

「大丈夫なんだけどなぁ。」

「ほら、こうしている内に時間は過ぎていきますわよ?遅刻してしまいますわね。」

「貴方がいるからでしょう?まあ、いいです、早く行きましょう。」

「はい、そうですわね。」

 駆けだした私に彼女は涼しい顔で追い付いていた。彼女は身体能力も高いようだった。

 

 




時系列は前話の前です。


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人物紹介

 

 私

 御橋詩織 みはし しおり 女 (17)

 高校2年生

 何処にでも良そうな姉と町の人から言われている。めんどくさがり屋で、自分がしないで良いのなら妥協を辞さない事を公言している。パン屋を営む両親の影響かパンを中心に料理が得意で、本人の気が向いたら料理している。彼女の料理を食べた事の有る人物は少ないが、概ね好評である。最近、手を焼いているのは弟で、はっきり言っても聞かない弟に手が出そうで抑えるのに苦労している。好物はコロネとメロンパン

 

 シノン メス (3)

 小さい頃に家の前に置き去りにされていた所を拾われた。普段はリビングで寛いでいるが、早朝になると2階に上がって各部屋に突撃して行き、ベッドを占領して行くのが日課の様だ。弟には余り懐いていないのか、弟の部屋には突撃しない。好物は南島スーパーに売っている特売品上級猫缶。

 

 父 御橋 孝明  みはし たかあき  男(46)

 母 御橋 沙織  みはし さおり   女(43)

 パン屋『御橋麺麭屋』を経営している。朝は早くから仕込みをしている為、朝は子供達に会う事が出来ない。両親的には仕方ないと諦めているが詩織的にはそれはどうか思い、学校に行く時に寄る様にしている。母親は余り怒るような性格では無いが、弟が余りにもだらしないのでどうにかしようと画策している。

 

 弟

 御橋 明人  みはし あきと  男(14)

 中学3年生

 外面ばかりが整ってしまったが為に中身が杜撰になってしまった。学校での評価は高いのだが、少しでも内面に踏み入れると途端にダメな部分が露呈してしまう。そのせいで余り親しい仲になる友人を作ろうとしないのだが、余りにも攻めが強いと流れのままにしてしまう。姉に対しては正直にめんどうくさいと思っている。進学は勉強で楽を出来る為、詩織と同じ所に行くと言っている。好物は偶に豪華になる朝食。

 

 高尾 未来  たかお みらい  女(14)

 中学3年生

 元気が取り柄のお人よし。一度見たら距離を置きたくなる弟の正体を見ても傍にいて公正させようとしている唯一の存在。弟との関係は手の掛かる弟と世話を焼く姉。姉より姉らしいとは御橋家一同(弟を除く)の談。進学は弟が詩織の学校を望んでいる為に自分も行こうと勉強している。好物はメロンパン。

 

 原田 尚古  はらだ しょうこ 女(17)

 高校2年生

 詩織の同級生。1年の頃に詩織と席が近かった為に話すようになった。学校では詩織の一番の友人で、活動も良く一緒にしている。成績は詩織よりも良い。その為、詩織がテストで詰まったりするといの一番で彼女の元に飛んでいく。昔は彼女の性格で周囲からうざがられていたが、自分の事を理解し、自重するようになってからは持ち前の頭の良さで周りの勉強を見る事がある。好物は抹茶ソフト

 

 

 

 

 



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