ネギまに美遊兄と美遊を放り込んでみるだけの話(仮) (かにかまちゃーはん)
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プロローグ

「―――おや?」

 

 

 

 学園都市・麻帆良にある図書館島の最深部。

 

 そこで優雅に夜のティータイムと洒落込んでいた彼はふと、図書館島から少し離れた場所、学園都市の中央にある世界樹の脈動に気づき、端正な顔を僅かにしかめる。

 

 普段よりも遥かに大きい魔力が世界樹から離れたこの空間にまで満ちる。しかし、それは普通ならあり得ない。いや、無いことはないが時期が違う。

 

 これほどまでに世界樹の魔力が満ちるのは三年に一度、麻帆良祭の時のみ。これは彼のいるここ数年変わらぬ周期であり――また、以前見た記録にある限りその前からほぼ変わらぬ周期でもある。

 

 その周期によるならば世界樹の魔力が満ちるのは今年ではないし、そもそも今は麻帆良祭の時期ですらない。では、まさかこの周期に乱れでも起きたのかとそこまで考えていると、いつの間にか先ほどまで高まっていた魔力が霧散しいつもの世界樹に戻っていることに気づく。

 

 

 

「……ふむ?」

 

 

 

 世界樹の魔力が戻ってしまえばいつもと変わらない夜になる。

 

 先ほどの魔力の高まりは気のせいだったのだろうかと思う。が、何かしらの異常があったのかもしれないし、様子を見に行った方が良いのだろうか。

 そう思いながらも、まあいいかと一度置いたカップをまた手に取った瞬間、再度世界樹が脈動する。そうして高まった魔力もすぐに霧散するが、これはやはり気のせいではない。

 

 間を置かず二度、世界樹の魔力が満ちる。そんな異常が、確かに起きたのだ。

 

 

 

「さて、どうしましょうか」

 

 

 

 独りごち、あまり気の進まない様子で彼はカップを置く。

 

 正直面倒だと思わないでもない。が、おそらく異常があったであろう世界樹の中心に最も早く着く事ができるのは彼だろうし、そもそも世界樹に何かあれば困るのも確か。

であるならば、様子を見に行かないと言う選択肢は……いやまあ無くはない。どうせ放っておいてもこの学園都市の魔法先生の誰かが様子を見にいくだろうし。

 

 しかし、そういった理由とは別にこの季節外れの魔力の高まりに興味がない、とは言い切れない。むしろ興味が惹かれる部分も大いにある。

 

 であれば面倒くさいという否定が一に対し、何かあれば困る、興味が惹かれるという肯定が二。

 

 

 

「……仕方ないですねえ。行きますか」

 

 

 

 そう呟いて、彼――すなわち、大戦の英雄が1人であり紅き翼の一員たる男、アルビレオ=イマは立ち上がる。

 

 向かう先は、世界樹の中心。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――どこか遠くに、剣戟が聞こえる。

 

 ふわりとした意識の中、耳元でなく、頭に響くようなその音。

 

 

 

――我、聖杯に願う

 

 

 

 ああ、そう言ったのは誰だったか。

 

 曖昧な感覚の中に、彼の声だけが何度も繰り返される。

 

 

 

――美遊がもう苦しまなくていい世界になりますように

 

 

 

 あの優しい響きが木霊する。

 

 

 

――やさしい人たちに出会って……

 

 

 

 願うような。

 

 

 

――笑いあえる友達を作って……

 

 

 

 祈るような。

 

 

 

――あたたかで、ささやかな――――

 

 大切な誰かを想う、その。

 

 

 

――幸せをつかめますように

 

 

 

――――誰よりも大切な、兄の声。

 

 どこまでも甘やかで柔らかな、暖かい声でそう言った彼は、今なお私のために戦っている。

 

 その剣戟が、私の幸福を願う想いが、いつの日か無意識に兄と私の間に繋いだパス()を通じて伝わってくる。

 

 

 

――しかしいつしか、剣戟が遠くなる。

 

 

 パス()が薄くなる。兄が遠くなる。

 

 ああ、これはきっと、私がこの世界から居なくなろうとしているから。

 

 兄の願いが、私の幸福がこの世界では叶わないと判断した聖杯が、私をこの世界から逃がそうとしているから。

 

 兄を、置き去りにして。

 

 

 

――あたたかで、ささやかな幸せを――

 

 兄の祈り。

 

 私が幸せであって欲しいという願い。

 

 ……それは、

 

 

 

 それは、兄がいなくても叶うものだろうか。

 

 最愛の兄を置き去りにして、私は幸せを感じられるだろうか。

 

 それは――

 

 

 

「……そんなの、私は――!」

 

 

 

 認められない。

 

 認められるわけがない。

 

 私の幸せに、兄は必要不可欠なのだ。

 

 

 だから。

 

 

 

「――我、聖杯に願う」

 

 

 

 兄と同じ言葉から始まるその祈りを。

 

 

 

「私がどこかへ行くのなら――」

 

 

 

 兄と違い、絞り出すような悲痛なその叫びを。

 

 

 

「お兄ちゃんも、一緒に――――!」

 

 

 

 ただの、私の我儘を、叫ぶ。

 

 

 

 瞬間、剣戟が途絶える。

 

 いや、剣戟だけではなく、兄との繋がりも途絶え、元より曖昧だった私自身の意識もまた、闇に飲まれる。

 

 そうして、全てが暗転するその直前。

 

 次に眼が覚める時は、兄がその場に居ますようにと。

 

 そう、祈った。

 

 

 

 

 

 

 その夜。

 

 世界樹の中心で、かの大戦の英雄が1人であるアルビレオ=イマは、不可思議な魔力を放つ少女と、その少女を守るように折り重なる傷だらけの少年と出会う。

 

 それは、運命の風の吹く少年が麻帆良に訪れる、四年前の話――



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1

 オーブントースターから、じゅうじゅうと鮭が焼ける音が鳴る。

 チチチチチという音を奏でながらタイマーが回るのを横目で見つつ、鍋に入った味噌汁……になる前の出し汁を少し小皿に取り、味をみる。

 

「……うん、こんなものかな」

 

 誰にということもなく呟き、脇に置いておいた味噌——ちなみにうちで使うのは白味噌である--を軽くおたまにとり、カカカカカ、という小気味好い音と共に手早く出し汁に溶かす。出し汁と味噌が混ぜられたその汁は、おたまから鍋に落とすと鍋全体を白味噌の淡い色に染めた。

 そうすれば、ふわりと味噌の良い香りがキッチンに広がり

 ――刹那。

 ドタドタと慌ただしい音が部屋の外から響き、その騒々しさのままスパーンとキッチンとつながった居間の障子扉が開かれる。

そこに立っていたのは、長い黒髪の少女で――

 

「やっぱり、お兄ちゃんまた先に作ってる!今日は私が朝ごはん作るはずでしょ!?」

 

 ――つまり、我が妹だった。

 

「いや、先に起きたからさ。せっかくだしと思って。美遊も気持ち良さそうに寝てたし」

「だから、起こしてっていつもいってるじゃない……!もう、私が作ってあげたいのに」

 

 妹――美遊は、不機嫌そうにぼやきながら目尻を吊り上げ頬を膨らませる。

 いかにも「不機嫌ですよー!」と言いたげなその表情は、しかしその端正な顔立ちも相まって非常に愛らしい事になっていた。起き抜けでまだ整えられていないボサボサの髪だって、今ならチャームポイントになるだろう。

 だから個人的にはこのままでもまあ良いかなと思わないでもないが……しかし、不機嫌な顔よりもやはり笑顔の方が見たいので。

 

「悪い悪い。でも、お弁当はまだ作ってないからさ。美遊はそっちを作ってくれないか?」

「……むー」

 

 機嫌を取るようにそう言うと、膨れっ面が少し和らぐ。このまま調理に入ってしまえば勝手に機嫌も上向いて行くだろう。誰に似たのかは知らないが、美遊はたいがい料理好きだ。

 そうして、ブツブツと何事かをぼやきながらエプロンを準備しだした美遊を横目に見つつ調理を再開しようとして……ふと、思ったことを口にしてみる。

 

「そういや、美遊」

「……なに、お兄ちゃん」

「髪、整えなくて良いのか?」

 

 瞬間。

 一瞬キョトンとした美遊の顔が、茹でた蛸のように真っ赤に染まる。

 そしてそのまま美遊はわたわたと髪を手櫛で梳かして――

 

「ちょっと直してくる!」

 

 手櫛では直らないと気付いたのか、そう言い残して居間に入る時と負けず劣らずの慌ただしさで部屋を飛び出した。

 それは騒がしくも、確かに平和な一日の始まりで――

 

「……うん、よし。弁当も作ってやるか」

 

 ――俺は知らずのうちに口元を緩めながら。

 そんなことを、呟いていた。

 

 

 始まりは四年前。

 妹である美遊を助けるために戦い抜いた聖杯戦争の終わり、エインズワースからの刺客との戦いに敗れ、しかし勝利した俺――衛宮士郎は気を失い、次に目が覚めた時にはもうこの街に来ていた。

 そのときは何が起こったのかわからず酷く混乱したし、またエインズワースが何かしたのかと警戒もしたが、どうやら美遊が聖杯に何事かを願った結果らしいというのを聞いたのは後の話。具体的に何を願ったかは、美遊が顔を真っ赤にして黙秘したためわからなかったが。

 それはともかくとして、目覚めた直後の、混乱と警戒の入り混じった俺がいた部屋――おそらくはどこかの保健室だったのだろう――に入ってきたのは、若いように見えたがどこか老獪で年齢の読めない男と、人かどうか少し怪しい骨格の老人だった。

 彼らによると俺たちはこの街にある世界樹……と呼ばれる超大な木の、基幹となる根の部分――すなわち、世界樹の中心に突如として現れたらしい。

 

「……ふむ、なるほど。中々面白い人生ですねこれは」

 

 そう言ったのは男の方。

 彼……アルビレオ=イマ、アルと呼んでほしいと名乗ったその男は、俺の人生を読んだ感想としてそんなことを言った。

 人生を読む、というと中々にエキセントリックだし、それに付け加え彼の趣味は人生の蒐集だと言っていた。それだけだと何が何やらと言った感じだが、彼の持つ魔術礼装……いや、こちらだと魔法道具(アーティファクト)だったか。彼の持つそれは、人の人生を本にする力を持つ。その本を使って他者の能力や人格をコピーすることもできるそうだが、彼にとってメインになる機能は他者の人生を読むことができること、ということらしい。

 そうして本にした他者の人生を蒐集、閲覧することを好むと言った彼に対し、俺は自分の人生を差し出し、その見返りとしてすぐ横でまだ眠っていた美遊の身の安全を約束させた。

 そして、俺とアルの話をずっと静観していた老人はそこで一言――

 

「それならお主ら、麻帆良で学校に通わんか?」

 

 ――そんなことを、言った。

 子供が自分の命を賭けねばならないようなのは悲しいことだとか、ここまで苦労して来たのだからこれからは幸福に生きるべきだとか、そんなことを理由として述べた老人の真意はわからない。何か目論んでいたのか、もしくは案外それが本音だったのかもしれない。

 だが、それは実際ありがたい申し出ではあった。

 俺のことはいい。しかし、美遊は――美遊を、学校に通わせてやる事ができるというのは。

 学校に通って。友達を作って。勉強をして。友達と遊んで、喧嘩して、仲直りして――そんな、普通の子供のような生活を送らせてやれるかもしれないというのは。

 それは、俺がどれほど望んだ事だったろうか。

 結論としては。

 少し悩んで、俺はかの老人の言葉に頷いた。

 こうして俺と美遊は、老人――この学園都市・麻帆良の総責任者である近衛近右衛門と、その場に居合わせたアルビレオ=イマの保護の下、学校に通うこととなった――

 

 

 あれから、四年。

 当時高校生だった俺は高校卒業後、美遊の通う事になった小学校……というか小中高一貫校である麻帆良学園本校の近くに、美遊の薦めもあって定食屋を開いている。

 自宅も兼ねているそれは、体力と食欲の有り余っている学生向けの値段設定やメニューになっており評判も悪くない。

 さらに言うのであれば、今では中学生になった美遊も開いた時から手伝ってくれているし――というより俺と一緒に店ができるから料理屋をやるように言った節がある――それに、やっていて多くの学生と話せるのは自分にとっても楽しみになっている。

 また、高校を出てからは実は少しだけコンプレックスを感じていた俺の背も伸びたし、美遊も元からかわいらしい少女だったけれども小学校を卒業し中学校に入るにつれ背も手足もすらりと伸びて美人になった。兄としては鼻が高い。美遊が通っているのは女子校だからまだ恋愛の話は聞かないが、共学だったならさぞかし人気者だっただろう。

 こちらでの知り合いに関しても、俺はまあ高校にいたのが短い間だったからあまり友人はできなかったが、定食屋に来る客のうちの何人かとは親しく話すようになったし――美遊は、クラスの中に仲の良い友人が何人かできたみたいで……安心した、と言えばいいのだろうか。最初に友達を連れてきたときは思わず涙をこぼしてしまったことを覚えている。

 そんな色々を総合して言うのであれば、今の俺は幸せと言っても良いのだと思う。――たまに胸の内に去来する、空虚な疼きを無視すれば。

 

「……お兄ちゃん?どうかしたの?」

 

 そんなことを思い返していたらいつの間にか食事の手が止まっていたのか、美遊が怪訝そうな顔でこちらを覗き込んでいた。

 先ほど朝食と、それから俺に弁当まで作らせまいと大急ぎで髪を整えてきた美遊も加わってお弁当も作り終え。今は俺の作った朝食を食べている最中である。

 

「……いや、なんていうかさ。昨日も泊まっていったなって思って」

「今更でしょ」

 

 誤魔化すように言った俺に、美遊はツンと澄ましてそんな風に答える。

 確かに今更と言えば今更だが……そもそもの問題として、美遊の通う麻帆良学園本校は全寮制の学校である。特別な事情のない普通の生徒は皆寮暮らしをしている。

 そして美遊も、特別といえば特別であるかもしれないが……しかし、俺は美遊に普通の子供として生活してほしかったし、そうなるように配慮もしてもらった。その結果、美遊も寮に部屋があるし、普通ならそこで暮らすべきだ。

が。

 美遊は当然の権利のように大体の日はこの家に泊まりに来る。もはや寮暮らしの中でこちらに泊まりに来るというより、この家で暮らしててたまに寮に泊まりに行くと言った方が良いレベルだ。

 別段寮暮らしに不満があるとは聞いていないし、寮の部屋にはルームメイトもいるようだがその子たちと仲が悪いというわけでもない。むしろたまに連れて来てうちに全員で泊まっていくので仲が良いと言ってもいいはずだ。

 つまり、美遊があまり寮に帰らないのは何か問題があるからではなく……ただの我儘、というわけだ。しかもその我儘を通しておきながら何事もなかったかのように澄まし顔でいる。

 無論、俺としても妹と会えるのは嬉しいことではあるし、我儘を言うのも可愛い物ではあるが――

 

「……寮監さんが嘆いてたぞ。衛宮さんの外泊が多すぎるって」

「うっ」

 

 電話で美遊が泊まると連絡するたびに、またですかと心底疲れた声で答える寮監さんは可哀想だと思う。昔は怒っていたが今はもう諦めの境地に達してしまっているのだろう。

 美遊も罪悪感はあるのか、俺の言葉に気まずそうに目をそらす。

 まあそうは言ってみたものの、そもそもが話を逸らすために出した話題ではあるしあまり追及する気もない。そのままなおも小声でちまちまと言い訳をする美遊にハイハイと返しつつ、かちゃかちゃと食器を動かし――

 

「ごちそうさまでした」

「……ごちそうさまでした」

 

 完食。

 綺麗に食べ終えた朝食の食器の片付けも手早く済ませてしまい、俺は店の準備を、美遊は学校の支度をする。

 制服に着替え、鞄を持ってきた美遊は家を出る――前にこちらに夕焼け色の組み紐を差し出し一言。

 

「髪、やって」

 

 その言葉に、苦笑する。

 もう自分で髪を結うこともできるだろうに、美遊は毎朝俺に髪を任せてくれる。

 それは、きっと美遊にとっては兄に甘える行為で……そして、俺にとっては自らの幸福を確認する儀式のようなものになっている。

 

「仕方ないな……今日はどんな髪型がいいんだ?」

「ん……なんでも。お兄ちゃんに任せる」

 

 そう言って甘えるようにこてんと後ろ頭を俺に預ける美遊の髪を軽く撫ぜ、さて今日はどんな髪型にしてやろうかと思案する。

 さらりと流れる髪に櫛を通し、なんとなく今日は軽く耳から上の部分を後ろで束ねハーフアップスタイルにする。……が、これではシンプルすぎるか。それじゃあ後ろに回した髪を軽くねじり、それをゴムで止め組み紐を手に取り――そこでふと、最近聞いた話を思い出した。

 

「そう言えば美遊、今日は新しい先生が来るんだって?」

「うん。そう聞いてる」

「どんな先生かっていうのは聞いてるのか?」

「ううん。高畑先生も、来てからのお楽しみだって」

「そっか。……いい先生だと良いな」

「うん」

 

 そんな会話しながらも手は止めず、組み紐を結び終える。美遊の黒い髪に夕焼け色の赤がよく映え、シンプルな結び方ではあるが品のある出来に仕上がった。

 と、そこで表から「美遊ー!」と呼ぶ少女の声が聞こえてくる。いつも美遊がともに登校しているクラスメイトかつルームメイトの声だ。

 

「ほら、美遊。終わったぞ」

「うん」

 

 そう言って肩をたたくと、一つ頷いた美遊は髪の出来を軽く鏡で確認し、満足そうにまた頷いてそのまま立ち上がる。

 そして、鞄を手に取り玄関まで歩いて靴を履き……

 

「それじゃあお兄ちゃん。行ってきます」

 

 そう、緩やかに微笑み言って家を出る。

 あの頃は、美遊が衛宮の武家屋敷にいた頃ずっとあったのはこの逆の光景だった。その立場が逆になることなどなく美遊を犠牲にするものだと思っていたときもあり、美遊と世界とどちらを取るべきか悩んだ日々もあり。そうして俺が美遊を選び、美遊が初めて衛宮の家の外に出たその日は――美遊を一度、失った日で。

 だから、今のこの光景は、たとえ毎朝のように見るものであっても、俺にとっては奇跡にも等しいものであり――

 

「……行ってらっしゃい、美遊」

 

 ――今日も一日、君が幸福でありますように、と。

 毎朝と同じようにそう祈りながら、朝の眩い日差しの中学校に行く美遊を見送った。




どうでもいい話だけどなんでネギまに突っ込んだのかってそれは昔やたら流行ってたネギまに衛宮士郎を突っ込む二次創作呼んでた頃の熱が再燃したからさ!
でも設定とか曖昧になってたり間違ってたりすることあったらごめんね!


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2

『学園生徒のみなさん。こちらは生活指導委員会です。今週は遅刻者ゼロ週間。始業ベルまで10分を切りました。急ぎましょう。今週遅刻した人には当委員会よりイエローカードが進呈されます。くれぐれも余裕を持った登校を……』

 

 お兄ちゃんに見送られてから少しして、通学中。

 

「やばいやばいー!今日は早く行かなきゃいけなかったのに!」

 

 そんなことを横で喚く赤毛を見ながら、私は通学路を全力疾走していた。

 いつもならもう少し余裕を持った登校をしているはずなのだけど、今朝はこの二人が少し遅れてしまったのもあって急がなければいけなくなっている。……理由はそれだけではないけれど。

 まあ、遅れそうになっているという事実は置いておいて、とりあえず。

 

「口を閉じて足を動かして」

「ひーん、美遊が怖いー!」

「やー、今日も美遊はいつも通りやなぁ」

 

 私が言った言葉に対する反応がひどい。

 というか、これは私がいつも怖いということだろうか。ほわほわした喋り方で言われたその言葉にちょっと納得がいかない。

 そう思いあえてむっとした顔をしてそれを言った黒髪の少女--私の友達である近衛木乃香を睨むと、木乃香はほにゃっとした笑顔で「なにー?」なんて言っている。待ちなさい、可愛らしく首を傾げても私は騙されない。……騙されないけどやっぱり可愛い。

 そんな私たちのやり取りを知ってか知らずか、横でまだ赤毛の少女--もう一人の友達である神楽坂明日菜が「むきー!」と喚いている。

 

「そもそも!なんで学園長の孫ってだけで木乃香が新しい先生を迎えに行かなきゃいけないのよ!」

「やースマンスマン」

「木乃香が謝る事じゃないでしょ」

 

 さっき置いておいたもう一つの理由がこれ。

 普段ならこのくらいの時間でもまあ間に合わなくは無いのだけど、今日は新任の教師が来るから早く来て欲しい、と学園長に言われていたのだ。

 生徒にさせるかとも思うけど、まあ学園長の無茶振りはいつものことだ。お兄ちゃんもあの人には中々手を焼いているらしいとは聞いている。

 個人的には愉快な人だとは思うけど、たまにこうして変なお願い事をするのはちょっと面倒くさい。

 

「でも、この時期に新任の先生なんて珍しい。どんな人なんだろう」

 

 ふと思ったことをポツリと呟く。

 今は新年明けてすぐの冬だ。新任の教師が来るなら普通は進級の時期、つまり春だろう。それをわざわざこの時期に来るなんていうのはなかなか珍しいと思う。

 そんな私の呟きに、明日菜が疲れたようにため息をつく。

 

「学園長の友人ならどーせそいつもじじいに決まってるじゃん」

「まあそれは……そうかも」

 

 明日菜の言葉に頷く。

 確かに、知り合いと言うのなら年齢層の幅も広がるだろうが友人と言うということはそれなりに親しいだろうし、それなら年齢が近いというのはおかしくないだろう。

 しかし横で走る木乃香は「そうかなー?」と言って首を捻っている。

 

「木乃香、何か知ってるの?」

「いやまあ知らんけど」

「って知らんのかい!」

 

 あっけらかんと言った木乃香にずっこける明日菜。うん、今日も二人は中々にコメディチックだ。

 そんなずっこけた明日菜をスルーしつつ、木乃香は「えっとなー」なんて言いながらいつの間にやら鞄から取り出した雑誌をパラパラとめくりそれを私たちに差し出す。

 

「ほら、ここ。今日は運命の出会いありやって」

「マジで!?」

 

 そう言って木乃香の指差した先には確かに「運命の出会いあり」と書いてある。彼女が新任の教師が年寄りではないのではと思った理由はそれか。

 木乃香は占いが非常に好きで、占い研究会に属しているし自分でも色々な占いをすることもある。的中率は……まあ普通の占いくらいといったところだけど。

 ともかくその記事に食いついた明日菜に、木乃香はひょいと雑誌を戻しさらに続ける。

 

「しかもー……あ、あった。好きな人の名前を10回言って『ワン』と鳴くと効果ありやって」

「高畑先生高畑先生高畑先生高畑先生高畑先生高畑先生高畑先生高畑先生高畑先生高畑先生、ワン!」

「……まさかノータイムで、しかも本当にやるとは思わんかったわ」

「明日菜は高畑先生の事となると割となんでもするから」

「せやなぁ」

「……ってちょっと、からかったの!?」

「ややわそんなまさか。あ、ところでもう一個、逆立ちして開脚の上全力疾走50mして『ニャー』と鳴くっていうのが……」

「やらないからね!?」

「……やらないの?」

「なんで美遊もそんな期待した目でこっちを見るの!?」

 

 そんな風に騒ぎながら走っていると、そのうちに校舎が見えて来る。新任の先生は--どうやらまだ来ていないようだ。

 よかった、間に合った--そう思った瞬間、横から明日菜とは別の赤毛の人物が走って来ており--

 

「あのー……あなた、失恋の相が出てますよ」

 

 --そんなことをのたまった。

 その言葉に、私と明日菜が固まる。

 失恋。

 失恋と言っただろうか。

 ちょっと私にはわからない言葉だ……と思ったけれど、よく見るとそれを言った対象は私ではないらしい。見ているのがこちらではない。

 それに気づいて安心したのか、私にも相手を観察する余裕が生まれる。よく見ると相手は赤毛の少年であり……年は、10歳になるかならないかくらいだろうか。日本人ではなく西欧系の……イギリスとか、あの辺りの人の顔立ちをしている。おそらくは小等部の生徒か、そうでなければ観光客か何かか……どちらにせよ、女子中等部の校舎には似つかわしくない子だ。

 だけどまあ、それはいい。とりあえずは置いておこう。今重要なのはそれじゃない。

 今重要なのは--

 

「いきなり失恋とかなんだとこのガキャー!」

 

 --こっちだ。

 いきなり失恋の相が出ているなんて言われて激昂している明日菜を宥めないといけない。放っておくと何をするかわからないし。

 というわけで早速明日菜を止めるべく彼女の肩に手を置く。当然文句があるであろう彼女は私の方を振り返り……

 

「ちょっと美遊、止めない--ぴえっ」

 

 ……なぜか私の顔を見た瞬間泣きそうな顔になった。

 なんでだろう、私はこの上なく穏やかな顔をしているはずだ。

 そう思い木乃香の方もチラッと見てみると、彼女も青ざめた顔をしている。その顔に浮かぶのは、恐怖。……どういうことだろう。

 しかし、あまりそのことばかりを気にしていても仕方ないだろう。それよりもこの少年にきちんと礼儀を教えてあげなければ。

 

「あの、少しいい?」

「ぴゃいっ!?」

 

 少年の肩に手を置く。

 こちらを見たその少年は何故かとても怯えた目をしているが、何か勘違いをしているのだろう。私はこんなにも穏やかに微笑んでいるのだ、さぞ優しそうに見えるに違いない。

 しかし、注意すべきことはきちんと注意してあげなければいけない。

 だから、私は。

 

「女の子に」

「ひゃ、ひゃい」

「失恋とかいったら--駄目」

 

 ニッコリと優しく笑い、そう言った。

 その言葉に、少年はガクガクガクと壊れた人形のように激しく首を縦に振る。どうやら言いたいことをわかってもらえたらしい。

 満足して手を離すと、止まっていた時間が動き出したかのように、少年とそれから後ろの二人がへなへなとへたり込む。はて、どうしてこの三人は突然腰を抜かしたのだろうか。

 首を捻って三人を眺める私と、腰を抜かしながらも怯えたように私を見る三人。

 そんな、傍目から見たらよく分からない光景の中。

 

「おーい、ネギ君!……ネギ君、それから木乃香君に明日菜君、大丈夫かーい……?」

 

 窓から身を乗り出して、どこか困惑したように声をかけてきた高畑先生が、なんだか印象的だった。

 

 

 

 

 

 

「えー、というわけで、この子が新しい先生のネギ・スプリングフィールド君じゃ」

「え、えっと、よろしくお願いします」

 

 所変わって学園長室。

 さきほどの少年--ネギ君と一緒にここに来てすぐ、そんな風に紹介された。

 さらに学園長は、明日菜が横で「えーっ!?」と驚いているのを無視して、

 

「ちなみに2-Aの担任になってもらうからそのつもりでの」

 

 と、そう続けた。

 その言葉に木乃香は「ほんまかー」なんてほわほわした感想を言ってて、明日菜の方は……

 

「はーーーーー!!?!!?!??!?」

 

 なんて叫んでいる。

 すぐ隣で叫ばれるとちょっと耳が痛い。が、まあ気持ちは分からなくはない。

 明日菜は現担任の高畑先生に恋しているのだから担任が変わるなんていう話は受け入れがたいだろう。……担任に恋とかちょっとマズイなーとは思うけれどそこはまあ、私もちょっと人のことは言いにくいので何も言わない。

 とりあえずそんな感じで「子供が先生なんておかしいじゃないですか!?」とか「なんでよりによってうちの担任なんですか!?」と言って喚いている明日菜をスルーしながら、学園長はネギ君……ネギ先生に教師になるにあたりの心構えや予定なんかの話をしている。それはまあ胆力がすごいなとは思いはするけど必要なことだし、いい。

 ……いいんだけれど、やっぱりこの歳の子供が先生なんていうのはどうなんだろう。修行がどうとか聞こえてきたからなにかの事情はあるんだろうけど……

 そう思いながら学園長を見ていると、おお、と手を叩き、そうじゃそうじゃなんて言いながら、

 

「このか、アスナちゃん、美遊ちゃん。しばらくネギ君をお前たちの部屋に泊めてもらえんかの」

 

 --学園町は、さらなる爆弾の投下を敢行した。

 木乃香は即答で「この子かわええし、ええよ」なんて言っているけど明日菜は案の定「ガキは嫌いなのよ!」なんて言いながら嫌そうな顔をしている。

 さらに、明日菜の文句はそこでは終わらず学園長に詰め寄った。

 

「そもそもなんで私たちがそんなことしなきゃいけないんですか!」

「いやー、ネギ君の住むところがまだ決まってなくてのー」

「だからって、なんで私たちの部屋に!」

「そこはほれ」

 

 詰め寄る明日菜と、それを受け流す学園長。その会話を見ていたら、突然学園長は私を指差した。何事かと見ると、したり顔で私を見ながら学園長はおもむろに口を開く。

 

「美遊ちゃんが部屋にほとんどおらんせいでお前たちの部屋は三人部屋なのにほぼ二人部屋みたいになっとるじゃろ。それならそこにネギ君を放り込んでも良いかなと思ったんじゃが」

 

 その言葉に。

 ギン!と言わんばかりに目を吊り上げた明日菜と、あらあらーと相変わらずほにゃっとした顔の木乃香が私の方を見る。

 ……うん、なにが言いたいかはわかったから。ごめん。

 そうして目を吊り上げた明日菜がこちらに迫ってくるのを見つつ。

 私は、思いっきり目を逸らした。



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3話

 学園長室での出来事から少しして、私はいま教室に向かって歩いている。

 隣を一緒に歩くのは木乃香と明日菜。そして、先ほど新しい先生だと紹介されたネギ君と、あと、ネギ君の指導教員として呼ばれたしずな先生だ。女子生徒三人に10歳くらいの少年1人、そして女性教員というちょっと目立ちそうな組み合わせであるが、現在どのクラスもホームルーム中なのでこちらに視線を向ける生徒はいない。

 しかし、もしもこの集団を見る人がいたらほぼ確実にこう思うだろうと思われるものはある。

 空気が悪い。

 そう、現在私たちは一言も喋らず若干ピリピリとした雰囲気の中歩いているのだ。さらに正しく言うのであれば、ピリピリした雰囲気を出しているのはネギ先生と明日菜である、と言うことも付け加えておこう。

 なぜこんなにも2人がピリピリしているかと言うと……まあ語るまでもなく、担任交代とネギ先生の部屋の件を明日菜が気にしているからだ。そのせいで明日菜はネギ先生を睨んでいるし、ネギ先生は明日菜に怯えつつもちょっとむくれている。

 この空気の中で話をする気にはならないのか木乃香は困ったように笑いながら2人を見ているだけだし、しずな先生も何を考えているかわからない笑顔でニコニコとしているだけである。

 そんな中、私はなんとはなしにネギ先生を見ていたわけだが……ふと、気付く。

 

 ネギ先生は、魔法使いだ。それもかなり魔力が高い。

 

 魔法使い。

 その単語だけ見ると、絵本かそれともゲームか漫画の話、つまりはフィクションだろうと思う人が多いだろう。一般的に魔法使いはいないということになっているし、魔法ももちろん無いと言われている。だが実際は、魔法も、魔法使いも実在しているのだ。

 彼らは世界各地で活動、生活しているし、中には魔法使い達の作った集落や街も存在する。この麻帆良だってその一つだ。まあ麻帆良には魔法使い以外の、今目の前にいる明日菜や木乃香のような魔法を知らない人もいるわけではあるが。

 そういうわけだから、この珍しい時期に先生として来た彼が魔法使いなのはまあ納得する。修行がどうとかいう話を学園長が言ってた気もするしそういうことなのだろう。いや、魔法使いの修行だからといってこの年齢の少年に教師をさせるというのはどうかと思うが。

 しかし問題は、そうと知ってから見ると割合魔法使い関連のことがわかりやすいことだ。会った時から魔力を垂れ流しているしおそらくその魔力で身体強化もしているし、さっきから地味にクシャミをしそうになるたびに魔力が乱れているしで、彼は魔法を隠す気はあるのだろうかとちょっと思う。神秘の秘匿義務は全ての魔法使いが知るところであると聞いているし、当然ネギ先生もその辺りは分かっていると思うのだけど。それとも一応まだ魔法とわかる現象は起こしていないから良いのだろうか。それとも彼の魔力コントロールが甘いだけか。

 

「……あー、もう!やってらんない!」

 

 そんな風にネギ先生のことについてつらつらと考えていたら、ついに明日菜が我慢の限界を迎えたのだろう。突然大声を出した。

 そしてネギ先生の方に向き直り……

 

「あんたなんかと暮らすなんてお断りよ!!寝袋ででも暮らせばいいでしょ!じゃあ私先に行きますから、先生!!」

 

 ……そう言い切った明日菜は、ぽかんとしているネギ先生を尻目にずんずんと教室に向かって歩いていく。

 私は変わらず困った顔をしている木乃香と顔を見合わせると、2人で軽く苦笑しながら先生達にぺこりと会釈をして後を追いかけるのであった。

 

 

「むうううぅぅぅ……」

 

 喉の奥から思わずそんな唸り声が出てしまう。

 それほどまでに、今の僕は不機嫌だった。

 なぜって、学園長室での一件から教室について授業をしている間も、あの神楽坂明日菜さんっていう人がずーーーーっと僕の方を怖い目で見ていたんだ。

 そのせい……とは関係ないかもしれないけど、授業は失敗しちゃうし……

 

「はぁ……そりゃまぁ、ぼくも最初に失恋がどうとか言ったの悪かったのかもしれないけどさ……」

 

 でも、あれだって占いの話をしていたから、良かれと思って言ったことだったんだ。女の人は占いが好きだっていうし。まああんまりいい結果ではなかったんだけど……

でもやっぱり思い出してみてもあんなに怒るほどじゃないと思う。失恋がどうとかは実はまだあんまりよく分からないけど、悪いことでも先に知ってたら頑張って避けられるかもしれないじゃないか!

 そう思うとやっぱりムカムカしてきて。

 クラス名簿を取り出して明日菜さんのところにツノを書いて「オニ!」なんて書き込んでみると、すこしスッキリした感じがした。

 そうしてラクガキした名簿を眺めてみると、幾人か印象に残ってる人の中にも、特によく覚えている人のうちの1人が目に入る。

 長い綺麗な黒髪に鳶色の目をした、笑顔の怖いあの人。名前は……

 

「えっと……衛宮美遊さん、かぁ」

 

 衛宮美遊さん。ぼくが泊まる予定の明日菜さん達の部屋のルームメイト……らしい。けど、なんだか話を横で聞いていた感じだとあんまり部屋に戻ってないように聞こえた。

名簿の写真とか、あと実際に見てみた感じだと真面目そうな人だなと思ったんだけど、もしかして不良さんなんだろうか?

 もしそうなら先生としてお話をしないといけないけど……

 

「むぅ……やっぱりちょっと怖いなぁ……」

 

 脳裏に浮かぶのは、あの後ろに鬼か悪魔でも見えそうな真っ黒な笑顔。あれは怖い。本当に怖い。

 あの時以外は立ち姿なんかも凛としてかっこよくて、すごい綺麗な人だなって感じがしたんだけど。やっぱり、最初に見たあの笑顔は強烈だった。あの人は怒らせちゃいけない人だ。

 うーむと唸りながら再度名簿に視線を落とす。このクラス名簿はしずな先生から受け取ったもので、これにはクラス全員の顔と名前、そしてところどころ一言コメントがついている。このコメントを書いたのはタカミチ……高畑先生らしいからきっとぼくに対するアドバイスとか、その生徒について覚えておくべきことなんだろう。

で。

 そのコメント、衛宮美遊さんのところには「困ったときはエヴァか彼女の兄に相談してみなさい」と書いてある。同じようなことがエヴァンジェリンさんという人のところにも書いてあるので、エヴァって人はエヴァンジェリンさんのことなんだろう。

つまり、困ったときはエヴァンジェリンさんという人か、もしくは衛宮美遊さんのお兄さんに相談してみたら良い、ということなんだろう。

 でも。

 

「相談……かぁ……」

 

 ぶっちゃけ怖い。

 いや、美遊さん本人にではないんだけど、それでもその関係者の人に相談するっていうのは怖い。

 しかしタカミチがこう書くということはそうした方が良いのだろう。

 いやでもやっぱり怖いし……

 そんなことをずっとうんうんと唸りながら考えていると。

 目の前を、本の山が歩いていた。

 

「えっ」

 

 思わずそんな声が漏れる。

 本の山が動くなんて、魔法だろうか。

 しかし、この麻帆良に魔法使いがいるというのはなんとなく聞いてるけど、同時に一般人も多くいると聞いているし、一般人に魔法がバレちゃいけないなんてのは常識だ。

だったらあんなすぐにバレそうな魔法を使うものなのだろうか。

 そう思いながらもよく見てみると、本の山ではなく、本の山を持った人だ。それも、ウチのクラスの生徒。名簿で確認してみたところ名前は宮崎のどかさん。

 気づいてから改めて見てみると、宮崎さんは本を山のように持って歩いているわけだけど、でもその動きはどうもスムーズっていうわけじゃなくて、どこかふらついていて危なっかしい。すぐにでも転げてしまいそうな感じがある。

 ここは英国紳士としてあんなに大変そうなものを放っておくことはできないし、そもそもそうでなくてもあれは手伝った方が良さそうだなぁとぼくは急いで立ち上がって、近寄ろうとする。

 した、そのとき。

 

「きゃっ!」

 

 本の山が、崩れた。

 

「--危ない!!!」

 

 声に出した瞬間には、体が動き出していた。杖を封じた布を急いでほどき、風の魔法で宮崎さんが転げた下にクッションを作る。

 でも、それは一瞬しか保たないから、魔力での身体強化を最大にして、走る。

 

--間に合え!

 

 思いながら飛び込んで。

 ドン、と、伸ばした腕に何かが落ちてくる衝撃の直後。スザザザザ、という音と一緒に、体が地面を思いっきり擦る。痛い。

 

「っつう〜〜〜……」

 

 その痛みを呻くことで我慢しながら、腕の中を見る。そこには、目を回した宮崎さんがいた。

 どうやら、間に合ったみたいだ。

 

「ほっ……えっと、大丈夫?宮崎さ……」

 

 良かったと安堵のため息を吐いて、目を回す宮崎さんに声をかけようと視線を上げた、そのとき。

 

「あ……あんた……」

 

 目の前に。

 先程の光景を見たのだろう。呆然と目を丸くした、明日菜さんと。

 

「……はぁ〜〜〜〜〜……」

 

 何故か思いっきり頭を抑える、美遊さんがいた。




遅くなってすみません!
筆が乗るときと乗らないときの差が激しいんです許してください何でもしますから!


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