天才・涅マユリの秘密道具 (筆先文十郎)
しおりを挟む

第一話 物質縮小装置

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。


技術開発局で一人の男が十二番隊隊長・(くろつち)マユリに呼び出されていた。

「涅隊長。お呼びとのことなので参りました」

「ちょーどいい所に来た、クズ」

「あ、いや……俺はクズじゃなくて――」

「何だね!?私が(しゃべ)っているのに口を挟むとは、いい度胸じゃないか?」

「も、申し訳ございません!!」

クズと呼ばれた男は奇怪(きっかい)な顔のドアップを見せられ必死に謝罪の言葉を述べる。

「まあ、いい。私は寛容な男だ。クズが突然私の所を現れた無礼の一つ、水に流そうではないか」

「い、いや……僕、隊長に呼ばれて――」

「なんだネ、クズの分際で!まさか私がクズであるお前を呼んだのを忘れていたとでもいうつもりか!?」

「い、いいい、いいえ!とんでもございません!!この僕が勝手に隊長の部屋に現れただけです!!」

刀を首筋に当てられた男は呼び出されたという事実を飲み込み、先ほど以上に謝罪の言葉を述べる。

「ふう、これだからクズは困る。勝手に事実を()じ曲げ、あろうことか他人のせいにする。それがクズがクズたる所以(ゆえん)なのだろうな」

やれやれと首を横に振るマユリに、男は申し訳なさそうな顔で今にも爆発しそうな怒りを隠す。

「これ以上クズのために私の貴重な時間を()くこともない。これからお前には私の研究に付き合う名誉を与えよう。どうだ嬉しいだろう?」

「はい、もちろんです。涅隊長!」

満面の笑みでそう言うマユリに男は「お前の研究の実験体にされて嬉しいわけがないだろう」という本心を隠して答える。

だったら断ればいいじゃないかと思う人もいるかもしれないが、ここで断ればよりひどい実験と言う名の拷問が待っている。隊長であるマユリの召喚命令を無視すれば文字通り死んだ方がマシの拷問が待っている。

同じ苦しみならより軽い苦しみを。

それが十二番隊に配属された男の処世術(しょせいじゅつ)だった。

「じゃあつい先ほど私が開発したのは、これだ!」

嬉しそうな笑みを浮かべたままマユリが取り出したのは一見どこにでもある懐中電灯だった。

「あ、あの……涅隊長。それは、何なのでしょうか?」

「『何』、だと!?お前はこれを見てもこれが何なのか分からないのかね!?」

「も、申し訳ございません涅隊長!僕はここに来てまだ日が浅いので涅隊長という千年に一度の天才にして最高の科学者の偉業がわからないのであります!!なので詳しく教えて頂いてもよろしいでしょうか!!!」

大きく目を見開き、怒りを露わにするマユリに、男は涙目になりながら額を何度も地面に擦り合わせる。

「そうか、まあ千年はおろか後にも先にも現れない天才の私ではお前のようなクズにかみ砕いて説明してやらなくては理解などできなかったネ。私としたことが思慮が足りなかったヨ」

男の言葉に機嫌をよくしたマユリは「では説明しよう」と懐中電灯を机に置かれた人の頭が入る大きさの箱に向ける。

「これは懐中電灯型の物質縮小装置。この懐中電灯の光を当てると、ほら!」

青い光が箱に当たった瞬間、箱はみるみる内に小さくなり掌ほどの大きさになった。

「このように光を当てた対象物が、どうだ!このように小さくなる。どうだ、すごいだろう!物を小さくするなど凡人どもでは考えつかなかったことだろう?」

「え、これってドラ○もんのス○ールライト――」

男が何かを言おうとしたが、言えなかった。何故ならば目が笑っていない笑みを浮かべながらマユリが刀を抜こうとしていたからだ。

()(むし)れ『疋殺(あしそぎ)――」

「い、いいい、いいえ!凄いです凄いです涅隊長!!物を小さくするなんて僕ら凡人には永久に思いつかない発想を思いつきかつそれを実現してしまうその発想力と実現能力!!涅マユリの前に人はなく、涅マユリの後に人がいる。天才の中の天才とはまさにこのこと!!!」

額を何度も地面にぶつけながら賞賛の言葉を贈る男に、マユリは「そうだろそうだろ」と満足な笑みを浮かべて刀を元に戻す。

「だがまだ生物にはためしてなくてネ。ここはクズで試してみるとしよう。なあに、どうせ生きていてもしょうがない命だ。私の実験に協力して死んだ所で、いやむしろ命を落としても私と言う天才の力になれて光栄だというものだ!」

「は、はい……そうですね」

同じ苦しみならより軽い苦しみを。

その言葉を信条とする男もさすがにこの瞬間は怖かった。今まで何度も目の前のマッドサイエンティストの実験につき合わされ、何度も死にかけ今日まで生きてきた。だがこれまで生きてきたからと言って今回も生きて帰れるとは思えない。

「じゃあ私が十数えたらこの物質縮小装置のスイッチを押す。じゃあ行くぞ」

男はゴクリと喉を鳴らして直立不動の体勢をする。

(逃げるな、逃げるな僕。逃げたら死ぬ、逃げても死ぬ!)

「一から一気に十」

「ギャアアアァァァッッッ!!」

心の準備が整わないまま、男の身体に青い光が当てられる。男の身体はみるみる内に小さくなり。爪の間に入り込めるまでに小さくなる。

「うむ、どうやら実験は成功したようだね。おい、クズどこにいるんだね?」

マユリは地面にいる男を捜す。

はいここですよ。男がそう言うとした瞬間、マユリの足が男のいるスレスレの所に落ち、鞘から抜けてしまった男の斬魄刀がマユリの足に突き刺さる。

「い、痛いヨ!」

マユリは慌てて刺さった箇所を見る。そこは蚊に刺されたように赤くなっていた。

「おのれ、よくもこの私に傷を負わせたな!許さん、許さんぞクズが!!」

マユリの怒りを目の当たりにした男は慌てて机の下に姿を隠す。

「おい、クズ出てこい!今なら超人薬を原液のまま投下し一日放置で水に流してやる!!」

(誰が出るか!そんなことされて!!)

怯えて机の下に隠れ続ける男。男が出ないと分かったマユリは「はぁ~」とため息をつく。

「ここまで譲歩してやって出てこないとは、仕方がないな」

マユリはパチンと指を鳴らす。すると窓という窓、穴という穴が(ふさ)がる。まるで外に空気を逃がさないかのように。

卍解(ばんかい)金色疋殺地蔵(こんじきあしそぎじぞう)!!」

鞘からイモ虫のような身体に赤子のような頭を持つ巨大な生物が現れたかと思うと、口から不気味な紫色の毒ガスを部屋中に撒き散らす。空気を入れ替える穴がない部屋は瞬く間に毒ガスが満たされた。

 

翌日、机の下で男が死んでいるのが確認された。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二話 空間移動扉

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。




技術開発局で一人の男が十二番隊隊長・(くろつち)マユリの部屋を訪れていた。

「涅隊長。おやつをお届けに参りました」

「おお。クズ、良いタイミングで来るじゃないか」

「あ、いや。俺はクズじゃ……いえ、何もありません」

男は言いかけた言葉を飲み込む。ここで「クズじゃない」と言えば怒りを買うと思ったからだ。そしてまずいタイミングで来てしまった自分の不幸を男は呪った。

「と、ところで涅隊長。今回は何が出来たんですか?」

「『何が』、だと?」

奇怪な顔の技術開発局局長は大きく目を見開いて男を見る。

「その口調だとまるでどうしようもないガラクタを作ったみたいじゃないか?クズが私の作品に――」

「ち、違います!涅隊長の実験の実験体にされるのが一番輝いている僕が隊長の作品を『何が』呼ばわりするわけがないじゃないですか!!で、今回はどのような我々凡人どもが想像もつかない物を作られたのです!!!」

言葉尻を捕らえるマユリに、男は必死になって自分を卑下し怒りを顕わにする上司を持ち上げる。

「ふん。まあいいだろう」

「はい、ありがとうございます。涅隊長!」

満面の笑みでそう言うマユリに男は「絶対こいつ殺してやる」という本心を隠して答える。

「クズのせいで私の貴重な時間が幾分か無駄になったわけだが、まあ私は慈悲の心を持つ男だ。水に流してやろう」

そう言ってマユリは何かが被された布を取る。

そこにはピンク色の片開きの戸があった。

「何ですか、これ?」という自分の気持ちを抑えて男はマユリの言葉を待つ。

「見ただけで理解できないクズに、この私がわかりやすく説明してやろう。これは空間移動扉。扉を開くと本人が望む場所に一気にワープできるという前代未聞の画期的な作品だ。しかも音声で目的地をこの機械に伝えていなくても思念を読み取ってその者が望む場所に連れて行くという万能さ!」

「え、これってドラ○もんのどこでも○ア――」

男は慌てて口を押さえるが、遅かった。何故ならば目が笑っていない笑みを浮かべながらマユリが刀を抜こうとしていたからだ。

()(むし)れ『疋殺(あしそぎ)――」

「い、いいい、いいえ!何でもありません涅隊長!!扉を開けるだけで行きたい場所に行けると言う僕ら凡人には永久に思いつかない発想を思いつきかつそれを実現してしまうその発想力と実現能力!!流石は涅隊長です。我々凡人にできない事を平然とやってのけるッ、そこにシビれる!あこがれるゥ!!!」

叫ぶように賞賛の言葉を贈る男に、マユリは「そうだろそうだろ」と満足な笑みを浮かべて刀を元に戻す。

「だが理論上は移動できるはずなのだがまだ生物ではためしてなくてネ。どうだね、今日の私は気分がいい。クズ、好きな場所に行くがいい」

「あ、はい。ありがとうございます……」

同じ苦しみならより軽い苦しみを。

ここで断れば「私の好意を無駄にするつもりかね!?クズの分際で!!」と怒りを買うと感じ取った男は了承する。

男はゴクリと喉を鳴らしてドアに手をかける。

(どこにでも行ける、かぁ)

ふと男の脳裏にある光景が思い浮かぶ。

子どもの頃に行った()熊山(ぐまやま)

空気が美味しくのどかでとてもいい場所だったのを昨日のことのように覚えている。

遠かったので行く気分になれなかったのだが行く機会があれば行きたかった場所だ。

(よし、行こう!間熊山に!!)

間熊山の情景を思い浮かべながら、男は空間移動扉のドアノブを握った。

 

 

 

翌日。瀞霊廷通信。

『昨夜未明。噴火中の間熊山にて十二番隊隊員の死体が発見。厳戒態勢を敷かれていた中でどうやって隊員が禁止区域に入れたのか現在調査中』

 




幽世閉門(かくりよへいもん)
クズと呼ばれている男の斬魄刀。本人が死んだ時のみ効果が発揮される。
死んでから一定時間たつと決まった場所に少しだけ強くなった状態で戻る。
幽世は「永久」を意味する不変の神域/死後の世界を指す。

生還するごとに強くなるが、本人があまりにも弱いため涅マユリを倒すには何千万回死んで生還する必要がある。

前回死んだはずの男が普通に登場しているのは上記の斬魄刀のおかげ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三話 誘惑香水

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

死んだはずの男が何事もなかったかのように復活しているのは幽世閉門(かくりよへいもん)という作者オリジナルの斬魄刀のためです。(第二話 空間移動扉の後書き参照)


この日、男は普通に道を歩いていた。

「はぁ……いいところであったじゃないか、クズ」

「く、涅隊長。どうかされたのですか?」

男が心配そうに声をかける。

男が出会う涅マユリという男は基本(実験と言う名の拷問をしようかを考え)笑っているか怒っているかのどちらかだ。故にこのようにひどく落ち込んでいる姿は見たことがなかったからだ。

「クズ、これをやるよ」

「え?お、っととと!?」

そう言ってマユリがポイッと投げた物を男は何とか落とさずに受け取る。それは吹きかけるタイプの香水だった。怪しい紫色の液体がチャポンと小さく水音を立てる。

「えっと、これは何なのでしょうか。涅隊長……!?」

男は慌てて口を(ふさ)ぐ。再び「『何』だと!?これを見てわからないのか!!」と怒られると思ったからだ。

しかしひどく落ち込んでいるマユリは男の言葉が耳に入っていなかったのか、そのまま続ける。

「それは誘惑香水。よく漫画とかであるだろう。これを吹きかけるとその匂いを()いだ女どもが吹きかけられた者を好きになるという、アレだよ」

「ま、マジっすか!?」

その言葉に男の妄想が膨らむ。

(じゃあさっそくこれを吹きかけて十番隊の松本副隊長に。……そしてあのおっぱいを枕に。いや厳格な八番隊の伊勢副隊長にメイド服を着させて「い、いらっしゃいませ……ご、ご主人様」って恥じらいを持って言わせようか。あ、四番隊の虎徹副隊長とお医者さんプレイってのも……)

「『じゃあさっそくこれを吹きかけて十番隊の松本副隊長に。……そしてあのおっぱいを枕に。いや厳格な八番隊の伊勢副隊長にメイド服を着させて「い、いらっしゃいませ……ご、ご主人様」って恥じらいを持って言わせようか。あ、四番隊の虎徹副隊長とお医者さんプレイってのも……』と考えている所悪いが、それは死神には一切効果がないよ。クズ」

「だ、だだだ、誰がそんな不埒(ふらち)なことを考えているんですか!!そ、そんな失礼なこと、ぼ、ぼぼぼ僕が考えるわけがないじゃないですか!?」

自分が考えていることを一言一句間違えずに言い当てられたことに男は顔を真っ赤にし、顔から滝のように汗を流しながら否定する。

男のことなどどうでもいいと思ったのか、マユリは続ける。

「理論上は雌どもを誘惑する効果があるはずなのだが。どうも死神の女どもには効果がなくてね。そこでだ。お前、現世に行ってその誘惑香水を試してみろ。もしかしたら人間だったら効くかもしれない。なあに、もうお前の義骸は用意してあるしこの空間移動扉を使えばすぐに現世に行ける」

「わ、わかりました」

いつもと違う涅マユリに拍子抜けしながら男は空間移動扉のドアノブに手をかける。

(ん?)

ふと男は気がつく。

(涅隊長って何か作ったものを試す時、大抵実験体(主に僕)を試すよなぁ。でもあれだと作ってすぐに隊長自ら使った感じがある……もしかして涅隊長って……)

「あまり私を怒らせるなよ、クズが!」

背中に伝わる禍々(まがまが)しい怒気。その怒気に、(もしかしてまた心の中を読まれた!?)と考えた男は「い、行ってきます!!」と逃げるように扉を開けた。

 

 

 

黒崎家のリビング。

『次のニュースです。昨日の昼頃。空座町(からくらちょう)の犬、鳥、はたまた動物園から逃げ出した多種多様な動物が一人の男を追いかけ回すという事件が起きました。男を追いかけていたのは全て雌。警察は消えた男の行方を捜索すると共に、男がこのようなことになったのかを知っていると見てこの男の行方を追っています――』

「ふ~ん、変な事件だな」

ニュースを見ながら黒崎一護は味噌汁をすすった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四話 ヘリ蜻蛉(トンボ)

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。


技術開発局で一人の男が十二番隊隊長・(くろつち)マユリの部屋を訪れていた。

「涅隊長。お呼びとのことで参りました」

「おお。クズ、良いタイミングで来るじゃないか」

「あ、いや。俺はクズじゃ……いえ、何もありません」

男は言いかけた言葉を飲み込む。ここで「クズじゃない」と言えば怒りを買うと思ったからだ。そしてまずいタイミングで来てしまった自分の不幸を男は呪った。

「と、ところで涅隊長。今回はどのような世紀の大発明を?」

「世紀の大発明?おぉ、世紀の大発明だとも!」

奇怪な顔の技術開発局局長は大きく目を見開いて男を見る。そして懐から竹とんぼによく似た何かを取り出した。

「見ただけで理解できないクズに、この私がわかりやすく説明してやろう。これはヘリ蜻蛉。体、主に頭頂部に装着すると自由自在に空を飛べる代物だ。使用中も髪は乱れず動作音も軽い。頭頂部に装着して使用しても首を痛める心配もない!」

「え、これってドラ○もんのタ○コプター――」

男は慌てて口を押さえるが、遅かった。何故ならば目が笑っていない笑みを浮かべながらマユリが刀を抜こうとしていたからだ。

()(むし)れ『疋殺(あしそぎ)――」

「い、いいい、いいえ!何でもありません涅隊長!!頭につけるだけで空を飛べるなんて僕ら凡人には永久に思いつかない発想を思いつきかつそれを実現してしまうその発想力と実現能力!!流石は涅隊長です。これぞまさしく最高の人格に最高の頭脳を身につけた唯一無二の死神、涅マユリ!!!」

最悪の事態から逃れるため涙を流しながら賞賛の言葉を贈る男に、マユリは「ほう、少しは言葉を覚えるようになったじゃないか」と満足な笑みを浮かべて刀を元に戻す。

「だがまだ生物ではためしてなくてね。どうだね、今すぐこのヘリ蜻蛉を使ってみる気はないかね?」

「あ、はい。ありがとうございます……」

同じ苦しみならより軽い苦しみを。

口では使ってみるか?と尋ねるマユリだが断れば地獄のような実験という名の拷問がくるのは目に見えている。男は顔で笑って心で泣いてマユリからヘリ蜻蛉を受け取る。

外に出た男はゴクリと喉を鳴らしてヘリ蜻蛉を頭に付ける。

「お、おおぉ、おおおぉぉぉっ!!」

ふと男の身体がふわりと浮き上がったかと思うと見る見るうちに上昇していく。

「おおぉ!スゴイ、僕、僕……空を飛んでるぅ!!……ん?」

男は異変に気づく。先ほどまで勢いよく回っていたヘリ蜻蛉のプロペラが少しずつ回転を落としていたからだ。そして、ぷすぷすぷすっという音と共に回転が止まった。

「……これって、もしかして……アアアアアアァァァァァァッッッッッッ!!!!!!」

男は推定地上8000メートル地点から落下し地面に激突。

ナスカの地上絵を作った男は、即死だった。

男の遺体を見て、マユリはあることに気づいた。

「しまった。稼働時間のことを考えていなかった」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五話 鏡霞水月(きょうかすみすいげつ)

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

あと今回登場する発明品は鏡霞水月(きょうかすみすいげつ)です。藍染惣右介(あいぜんそうすけ)の斬魄刀、鏡花水月(きょうかすいげつ)ではありません。


(くろつち)マユリにクズ呼ばわりされている男はかつて自分が所属していた親しい四番隊の人間と酒を飲んでいた。

「あぁ、何もないって言っても仕事は山積み。休暇なんて(すずめ)の涙。そんな状態で行けるとしたらこうして店で酒を飲むことぐらい。……どうせならどっか遠くに行ってドッ!というような刺激が欲しいぜ」

「ホントホント。俺達いっつも仕事して酒飲むか、家で寝るか、近場で遊ぶか……。その繰り返しだもんなぁ」

「……」

かつての同じ隊にいた二人の愚痴を、男は黙って聞いていた。

 

翌日。

「涅隊長。申し訳ないのですがこちらの書類にサイン……うぉっ!?」

マユリの部屋を訪れた男は目の前の光景に腰を抜かす。なぜならば見慣れたマユリの部屋はまるで毒蛇などの危険生物が生息していそうな密林と化していたからだ。

「おやクズ。どうかしたかね?」

密林の奥からひょこっと見慣れた奇怪な顔の隊長が現れる。そのことに男はホッとため息をついた後尋ねる。

「あ、あのところで、涅隊長……ここは隊長の部屋ですよね?なんでこんな密林に?」

「ああこの風景のことかね?」

「風景?」

男が「どういうことですか?」と聞く前にマユリは机に置かれた鏡に触れる。すると先ほどまで薄暗かった密林はいつものマユリの部屋に戻った。

「狐につままれた、って顔をしているな。まあクズに正解を求めたところで一生かかってもわからんだろうから種明かしをしてやる」

そう言ってマユリは鏡を手に取る。

「これは鏡霞水月(きょうかすみすいげつ)といってな。好きな光だけを集めることが出来、自分の思うような蜃気楼(しんきろう)を生み出すことができる代物だ……何だね、クズ?妙な顔をして」

「い、いえ……」

あ、今日はドラ○もんじゃないんだ。と言えず、男は固まっていた。

「ん?」

男はマユリの言葉を思い出す。

(さっき隊長はこう言っていたよな?『好きな光だけを集めることが出来、自分の思うような蜃気楼を生み出すことができる』って)

男は恐る恐る尋ねる。

「あ、あの……涅隊長。その鏡花水月(きょうかすいげつ)、じゃなかった。鏡霞水月ってさっきの密林以外の風景も出せたりするんですか?」

「ん?まさか……この鏡霞水月がさっきの密林しか風景が出せない……そう言いたいのかぁッ!?」

「ち、違います!そんなことはありません!!涅隊長ともあろうお方がそれしか出来ないなんてあるわけないじゃないですか!!!よ、尸魂界(ソウルソサエティ)(いち)の天才科学者。最強最高の偉人!!!!」

こうして褒めちぎった男は密林以外にも風景は映し出せることの確認と貸してもらえることに成功したのだった。

 

さらに翌日。

「おい。どうしたんだよ突然」

「見せたい物ってなんだよ?」

「まあ見ててよ。これから日常にはない刺激的な光景を見せるから」

マユリから鏡霞水月の使い方を聞いた男は鏡を操作する。

部屋はあっという間に暗くなり、

「ギャアオオオォォォッッッ!!」、「グルルルルッ!!」、「ギギギギガガガッ!!」

「「「ウギャアアアアアアアァァァァァァッッッ!!!!!」」」

異種多様な見る者を恐怖に陥らせるおぞましい容姿の怪獣に三人は囲まれていた。

そして不運なことに鏡霞水月が故障。解除が出来なくなってしまった。

結局三人は鏡霞水月のバッテリーが切れるまで恐怖の光景を見せられることとなった。

 

後に三人はこう言った。

「「「やっぱり普通が一番いい!!!」」」

 




今回の発明品の元ネタは藍染惣右介の斬魄刀、鏡花水月です。

「流水系の斬魄刀で、霧と水流の乱反射により敵を撹乱させ同士討ちにさせる能力を持つ」と偽っていた。→ということは蜃気楼みたいなものか。ということでこの話を思いつきました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六話 知識増量パン

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

今回はとある方のアドバイスを参考に作りました(名前を言うとご本人様にご迷惑がかかるかもしれませんのでお名前は申し上げません)。この場を借りてお礼申し上げます。


「な、なんだと!?」

十二番隊隊長・(くろつち)マユリは一枚の紙を見て震えていた。

その紙には『護廷十三隊隊員対抗クイズ王決定戦』と書かれてあった。隊員はクイズ王決定戦協議会が決めた隊員。そして十二番隊からはマユリがクズと呼ぶ男が代表として選ばれた。

「あ、あのクズが……十二番隊代表だと……!?この『護廷十三隊隊員対抗クイズ王決定戦』というのもふざけているが、よりにもよってあのクズが代表……だとッ!?……あのクズを出したら十二番隊がアホばかりと思われるではないか!!ハッ……こうしてはいられん!!」

いても立ってもいられなくなったマユリは急ぎ研究にとりかかった。

 

 

「涅隊長。お呼びとのことなので参りました」

「呼ばれたらさっさと来ないかぁ!だからお前はクズなんだよ!!」

「も、申し訳ございません!!」

(今日はいつも違って荒れているなぁ、何があったんだ!?)

「おいクズ。これを覚えたい内容の本に押し当てて食べろ!」

そう言ってマユリは男に『護廷十三隊隊員対抗クイズ王決定戦』の十二番隊代表に男が選ばれたことを伝えると何の変哲もない食パンを男に手渡す。

「時間がないから教えてやる。それは知識増量パン。本のページなどにそのパンを押し当てると、合わさった部分が知識増量パン側に転写される。その状態の知識増量パンを食べると、転写した内容をそのまま覚えることが出来てそれは食べられる限り何枚でも効果は重複する」

「はあ……」

「ただし、その内容を暗記していられるのは食べた知識増量パンが体内にある間だけ。排泄すると忘れてしまう。一応それは十二番隊の技術を結集させた独自の成分で作られているため、そんじょそこらのパンと違って消費期限は長いから安心しろ!!さあそれを持って部屋に帰ってそのパンを食べて『護廷十三隊隊員対抗クイズ王決定戦』に備えろ!!」

「わ、わかりました!!」

男は「これってドラ○もんの暗記○ンですよね」と言えないままマユリの部屋を後にした。

 

 

 

数日後。

『護廷十三隊隊員対抗クイズ王決定戦』は十二番隊の最下位で終わった。

「貴様は何をしていた!?知識増量パンはどうした!!」

マユリは男の胸倉を掴み前後に揺らす。

「た、隊長……ちゃんと知識増量パンを食べて、勉強しましたよ……ッ!」

 

『問題。未来の世界からやってきた日本のみならず世界でも人気が高い猫型ロボットの名前は?』

 

正解はドラえもんなのだが男の回答はこうだった。

銅鑼(どら)衛門(えもん)。(正確に言えば猫ではなく狸である。しかし当人が「狸」と言われるとそれを言った人間を半殺しにしかねないため、おもて向き『猫』ということになっている。更に言うとその正体は未来から派遣された特定意志はくじゃく児童かんし指導員であり、テロリストである)』

「よりにもよって嘘八百のアンサ○クロペディアから知識を仕入れるな!……卍解(ばんかい)金色疋殺地蔵(こんじきあしそぎじぞう)!!」

「ギャアアアァァァッッッ!?」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 涅マユリがザエルアポロの貯蔵庫から某漫画に登場するノートに似たノートを拾ったようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

とっさに思いついたネタです。
2014年末の話だと思って見て下さると助かります。

最後に。色々ツッコミ所はあると思いますが、温かい目で見ていただけると幸いです。


 虚園(ウェコムンド)

 十刃(エスパーダ)の第八位。ザエルアポロ・グランツを倒したマユリは彼が隠していた貯蔵庫の扉を開けた。

「おぉ、これは……素晴らしい!素晴らしいじゃないかぁ!!」

 目の前に広がる貯蔵庫の光景に、(くろつち)マユリは歓喜に打ち震えていた。

流石(さすが)は曲がりなりにも科学者を名乗るだけの事はある!こんなに面白い研究素材を持っているとは!実にすばらしいぃ!!」

 マユリの目の前には多種多様な価値のある研究素材がこれでもかと言わんばかりに置かれていた。

 罠がないか用心しつつ、マユリは興奮を隠すことなく探索を続ける。

「ん?」

 ふとマユリが立ち止まる。そこは真新しい本棚だった。

 

『ココに何か面白い物がありそうだネ』

 

 そう踏んだマユリは本棚を物色(ぶっしょく)する。

 数分後。マユリは本棚の中から目新しい真っ黒なノートを発見した。

 開くと暗号らしき文字で書かれていたが、マユリはすぐにその法則を見つけて内容を解読する。

「えぇと、なになに。『このノートに名前を書かれた者は復活できる』……かぁ。こいつは面白い!本当にそうなるか試してみようじゃないか!!」

 満面の笑みを浮かべながらマユリはふと頭の中に思いついた名前を書く。

 

 

『H・K』

 

 

「ん?」

 書いた後、首をかしげながらマユリは思う。

「はて、確かこの男は広島東洋(ひろしまとうよう)カープとかいうチームからロサンゼルス・ドジャーズを経てニューヨークヤンキースというアメリカの超名門チームで先発投手をしている男。そしてまだ生きていたはず……。まあいいか」

 

 

 

 数ヶ月後。黒崎家リビング

『おおっと。メジャーのパドレスや古巣ドジャーズなどから20億円近い年俸のオファーを断り、推定4億円で広島東洋カープに戻ってきた男が復活です!多くのファンに見送られ海を渡った男がここマツダスタジアムに復活しました!』

 テレビでは広島東洋カープの本拠地であるMAZDA Zoom-Zoom スタジアム広島のマウンドに立つ男とその姿に興奮、中には喜びのあまり涙を流すファンの姿が映し出されていた。

「H・Kという男は理解に苦しむ男だネ。単年20億円という高額年俸を蹴って古巣に戻ってくるとは」

「って、なんでアンタが(ウチ)の家でテレビ見てんだよ!」

 ノートに『H・K』という名前を書いたことを忘れたマユリ。そんないつの間にか自宅に侵入していたマユリに黒崎(くろさき)一護(いちご)が突っ込んだ。

 




実在人物名は規約にひっかかるかもしれないというアドバイスを頂いたのでマユリが書いた名前を変更しました。
不快に思われた方がおられましたら、この場を借りてお詫び申し上げます。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 砕蜂が涅マユリの素材保管庫から某漫画に登場するノートに似たノートを盗み出したようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

前回の『番外編 涅マユリがザエルアポロの貯蔵庫から某漫画に登場するノートに似たノートを拾ったようです』の後日談になります。

あと今回のお話は、百合です。本当に百合です!(重要なので二回言います!)
ツッコミどころはいっぱいあると思いますが、温かい目で見ていただけると幸いです。


 昼。

砕蜂(ソイフォン)隊長!どうか、どうか……命、命だけは!!」

 (くろつち)マユリにクズと呼ばれている男は砕蜂の飛苦無によって木にはりつけられた上、最初の一撃で標的の身体に刻まれる死の刻印『蜂紋華(ほうもんか)』を胸につけられていた。

 夜一(よるいち)がこの時間帯に露天風呂で汗を流しているという情報を手に入れ、夜一の肢体を一目でも見ようと露天風呂に近づき、目的果たせず砕蜂に見つかった。

「そうはいかん。夜一様の湯浴(ゆあ)みを(のぞ)いた罪、お前の命で償ってもらう!」

 砕蜂が男の胸に刻まれた蜂紋華を突き刺そうとする。

(ま、まずい。このままでは殺される!何か、何か助かる方法・・・・・・あった!)

 あと数ミリで針状の刃が胸に当たる寸前。男はあることを思い出すと目の前の隊長にしか聞こえない小声で訴える。

(「あ、砕蜂隊長。僕、夜一様と砕蜂隊長がもっといい関係になる方法を知っています!」)

 ピタッ!

 小声で言い放つ男に、砕蜂は突き刺そうとした刃を止める。

(「夜一様と、私が……いい関係になる方法、だと?」)

(「はい。いい関係です!」)

(「詳しく話せ。ただし単なる命乞いだったり時間稼ぎと判断した場合……」)

 私はお前を容赦なく刺すぞ。

 砕蜂の冷たい視線に男は血の引いた顔で何度も頷く。

(「で、いい関係になる方法とは?」)

(「は、はい。それはですね――」)

 

 

 

 男から夜一といい関係になれると聞いた日の深夜。

 砕蜂はマユリが研究資料を収めている部屋に忍び込んでいた。

 マユリをよく思っていない彼女が何の目的もなしにマユリのテリトリーとも言える場所に自ら飛び込むことはしない。それなのにこのような場所に忍び込んだのはとある目的のためだった。

 罠に気をつけながら砕蜂は男の言葉を思い出す。

 

 

(『十刃(エスパーダ)の科学者から研究資料を涅隊長が接収したのですが、その中に変わった物がありまして。ノートに名前を書くとその者が復活するとか』)

(『覚悟はいいな!』)

(『は、話は最後まで聞いてください。その復活させるノートの他にあったんですよ』)

(『何がだ?』)

(『ノートに名前を書いた人間が百合になるノートが!』)

 

 

「確か、その百合になるノートは『ピンクがかった白』と言っていたな。あの男は」

 砕蜂は誰にも聞こえない小声で男が言っていた特徴を(つぶや)く。

「そして、あの男が言っていたノートが収められているというのはこの辺りのはず……!」

 白いノートを探す砕蜂の目の前に様々なノートが納められた本棚が目に付く。

(これだな)

 その中から男が言っていた特徴と酷似したノートを抜き取ると、砕蜂は音もなく研究資料が収められた部屋から抜け出した。

 部屋に戻った砕蜂は盗み出したノートに名前を書く。

 

 

四楓院(しほういん)夜一(よるいち)

 

 

「ああ、これで夜一様と……ッ!」

 名前を書いた砕蜂は夜一との今後の展開を想像する。

『砕蜂。お前が居れば(わし)は何もいらん!儂だけの物となってくれ!!』

「ああぁ、夜一様!私も、私も夜一様がいれば何もいりません!!」

「のぉ、砕蜂。自分の世界に入っている所で悪いのじゃが。ちと頼みを聞いてくれないか?」

「そ、その声は夜一さ、ま……?」

 敬愛する女性の声の方へ砕蜂は振り返り、固まった。

 そこには百合の花束があったからだ。

「え、よ……夜一様?どちらに、どちらに()られるのです!?」

「ここじゃよ、目の前の百合の花が儂、四楓院夜一じゃよ!」

「え?」

 未だ信じられない二番隊隊長は目の前の百合の花束を拾い上げる。

「夜一様、夜一様なのですか!?」

「うむ、にわかに信じられないとは思うが儂が四楓院夜一じゃ。お前の所に行こうと思ったら突然このような姿になってしもうて。砕蜂、何か心辺りはないか?」

「……あります」

 百合の花束になった夜一をゆっくりと地面に置いて、砕蜂はその場から姿を消した。

 

 

 

 数分後。男の部屋。

尽敵螫殺(じんてきじゃくせつ)雀蜂(すずめばち)!」

「ギャアアアァァァッ!砕蜂隊長!?」

 前触れもなく自分を攻撃する隊長に男は目を白黒とさせるだけ。

「な、なんで僕を――」

 男が言い終わる前に

「弐撃目だ!」

「ウガァッ!?そ、砕蜂……たいちょ……――」

 胸を抑えたまま男は崩れ落ちる。

「ゲスめが!」

 敬愛する夜一を百合にした男を、砕蜂はゴミを見るような視線で最期を見届けると風のようにその場から消え去った。

 

 なおノートから『四楓院夜一』の名前を消すと、夜一は百合から元の姿に戻った。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

五.五話 鏡霞水月その後

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

タイトル通り『五話 鏡霞水月(きょうかすみすいげつ』の続きです。


五.五話 鏡霞水月その後

(くろつち)マユリにクズ呼ばわりされている男は自室のパソコンで『天才・涅マユリの秘密道具』の感想に目を通していた。

「ああああああっ!!その手があったかぁぁぁっっっ!!」

 

 

翌日。

「涅隊長。もう一度だけ鏡霞水月を貸してください!」

「何故だ?」

猛烈な勢いで土下座をする男に、技術開発局局長は疑いの眼を向ける。

「覗きをするためです!鏡霞水月があれば鉄格子の彼方先にある女子更衣室だろうが、鬼道で出入り口を閉ざされた女湯だろうが、光が漏れる隙間さえあれば可能だということに気がついたからです!!」

()(むし)疋殺地蔵(あしそぎじぞう)!」

「ギャアアアァァァァァァッッッ!!」

マユリは地面に倒れ動けなくなった男を見ながら言い放つ。

「私の技術の粋を集めた芸術作品をそのようなことに使おうとは!そこで反省でもしてろ」

「く、涅隊長。せめて、動けるくらいには……」

マユリは目ざわりとなった男を外に蹴り飛ばした。

 

 

 

数時間後。

「よし。鏡霞水月をさらに改良したぞ。これでより正確に、より精密に、自分好みの光を意図的に集めることが出来る。ふふふ、はははははは!天才、そう!私は天才だ!!」

「涅隊長。少しよろしいでしょうか?」

「ん?……!!な、何だね。君たちッ!?」

高笑いしていたマユリは思わず後ずさる。そこには八番隊副隊長、伊勢七緒(いせななお)を先頭に数十名の女性死神たちがいたからだ。その集団の中央にはマユリがクズと呼んでいる男がボコボコに殴られ流血し、(はりつけ)にされている。

「涅隊長。あの男から聞きました(というよりあの男が一人でブツクサと言っていたのを聞いただけですが)。その鏡霞水月とやらで覗きを企てようとか?」

「し、失敬だぞ!私の発明品をそんな低俗なことに使うと思うのかね?」

「いいえ。とんでもございません」

七緒は大げさなリアクションでかつ棒読み口調であっさり肯定する。しかし眼鏡をクイッと上げた後、次の言葉でマユリを追い詰める。

「まさか技術開発局の長である涅隊長(・・・)が自らの発明を覗き(・・)などという低俗(・・)なことに使うなど。ありえないことですわ」

「そ、そうだろうとも……」

「では、涅隊長。その鏡霞水月をこちらに渡して下さい」

「な、何でそうなる!これは私が誠心誠意こめて作った――」

「渡してくれないのであれば。死神セクハラ対策本部にこの事を伝え、涅隊長には――」

「わ、わかった!」

七緒の言葉をマユリが止める。

「わかった、わかったよ……。私も身に覚えのないことに詮索され、貴重な時間を奪われるのは我慢ならない。……もって、いきたまえ……」

マユリは涙を堪え、震える手で厳格な副隊長に鏡霞水月を手渡す。

「確かに」

七緒は鏡霞水月を傍にいた女性死神に箱に入れるように指示する。そして女性死神たちはマユリの部屋を後にした。

残されたのはマユリとマユリがクズと呼ぶ磔にされた男のみ。

「……あ、僕は確か鏡霞水月を覗きに使えることを一人呟いていたら女性たちがいつの間にか僕を囲んでいて……!涅隊長、僕を――」

助けてください。男はそう言う事が出来なかった。

「クズ、貴様という奴は!」

怒りに満ちた顔で刀に手をかけていたからだ。

「貴様のようなクズのクズは一度ペシャンコにした方が良さそうだな。卍解(ばんかい)金色疋殺地蔵(こんじきあしそぎじぞう)!!」

「ギャアアアアアアァァァァァァッッッ!!!!」

赤子の頭を持つ巨大なイモムシのような外見の巨体が男を容赦なく押しつぶした。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第七話 妖刀殲滅丸&死守天装

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

あと今回の話はとある方のアドバイスを元に作成しました(言うとご迷惑をかけるかもしれませんのでお名前は差し支えます)。
この場を借りてお礼申し上げます。


技術開発局で一人の男が十二番隊隊長・(くろつち)マユリの部屋を訪れていた。

「涅隊長。お呼びとのことで参りました」

「おお。クズ、良いタイミングで来るじゃないか」

「あ、いや。俺はクズじゃ……いえ、何もありません」

男は言いかけた言葉を飲み込む。ここで「クズじゃない」と言えば怒りを買うと思ったからだ。そしてまずいタイミングで来てしまった自分の不幸を男は呪った。

「じゃあ、これを装着しろ」

そう言ってマユリは男に変哲もない刀と滅却師(クインシー)が着ていそうな白い鎧を投げ渡す。

「おとととっ!あ、あの・・・・・・涅隊長。これは?」

「言葉を発する時間があるならさっさと着ないか!このクズが!!」

「は、はい!!」

男は慌てて投げ渡された物を身につける。装着したのを確認したマユリは口を開く。

「装着しても理解できないだろうクズに、この私がわかりやすく説明してやろう。まず刀の方が妖刀殲滅丸(ようとうせんめつまる)。刀の中に特殊な装置が備えつけられていて、たとえ目を閉じていたり視線を相手から外していたり寝ていたりしても、相手の位置や動き・作戦を察知、その刀が自動的に使用者の腕や身体を動かし、握っているだけで相手との戦うことができる」

「はあ・・・・・・」

「次にその鎧が死守天装(ししゅてんそう)。無数の糸状に縒り合せた霊子によく似た物質の束を動かない箇所に接続し、その物質の力で自分の身体を操り人形のように強制的に動かす超高等技術で作られた鎧だ。この鎧を着続けている限り手足が麻痺しても骨が砕けても鎧の力が続く限り動き続けることができる代物だよ」

「ああ、つまりドラ○もんの名刀電光○と滅却師の乱装天傀(らんそうてんがい)――」

男は慌てて口を押さえるが、遅かった。何故ならば目が笑っていない笑みを浮かべながらマユリが刀を抜こうとしていたからだ。

()(むし)れ『疋殺(あしそぎ)――」

「い、いいい、いいえ!何でもありません涅隊長!!僕のような戦闘能力がカス同様の死神でも身につけるだけで戦えるという僕ら凡人には永久に思いつかない発想を思いつきかつそれを実現してしまうその発想力と実現能力!!流石は涅隊長です。これぞまさしく日本一高い富士山を越える頭脳と日本一深い日本海溝のような慈悲の心を持つ男、涅マユリ!!!」

必死に賞賛の言葉を搾り出す男に、マユリは「もう少し言葉の勉強をするんだな」と言葉に反してまんざら不満ではない顔で刀を元に戻す。

「そうだ、クズ。この書類をあの馬鹿の所に持って行ってくれ」

そう言ってマユリは妖刀殲滅丸と死守天装を装備した男に書類が入った封筒を手渡す。

「あ、あの……涅隊長。あの馬鹿って……?」

「何だって!?」

その一言にマユリは目を大きく見開く。

「あの馬鹿と言ったら十一番隊の更木(ざらき)剣八(けんぱち)に決まっているだろう!私の口からあの(ケダモノ)の名前を言わせるんじゃない!!」

「し、失礼しました!」

男は妖刀殲滅丸と死守天装を装備したまま、書類を持って逃げるようにその場を後にした。

 

 

十一番隊宿舎

(え、何でこの人たち……殺気だってんの?言葉にするなら『本当ならこの場でこいつを八つ裂きにしてやりたいが、ここで俺たちがでしゃばるわけにはいかねえ』という感じが)

そうこう考えているうちに男は十一番隊隊長更木剣八に出会い、マユリから託された書類が入った封筒を手渡す。

剣八は封筒を開けて書類に目を通す。

「あぁ、この件に関しては考えておく。じゃあ、早速殺しあおうか!」

狂喜の笑みを浮かべる十一番隊長に男は慌てふためく。

「え?あ、あの……更木隊長、なんで僕が、戦わないと?」

「とぼけんじゃねぇよ。背中に書いてあるじゃねぇか!カス同然の霊圧の癖に俺にそう言うなんて大した奴だぜ!例え無謀であってもな!!」

「せ、背中?」

男は背中に手を回す。そこには何かが貼りつけられていた。男は貼り付けられていた物を取る。そして、固まる。

 

 

『更木剣八。お前が十二番隊のカスにも劣るということをこの僕が証明してやる。一対一でな!』

 

 

背中に貼り付けられていた紙にはそう書かれてあった。

男は誰がそれをつけたか一瞬で理解した。

(あのバカ隊長!何をしてくれとんじゃあああぁぁぁっ!!)

「あ、あの。更木隊長。これには――ッ!?」

男の弁解の言葉は途切れる。自分自身の身体によって。

男が目にも留まらぬ速さで剣八に斬りつけていたからだ。剣八の頬から一筋の血の液が顎を伝って服に落ちる。

(ぎゃあああぁぁぁっ!?身体がぁ、身体が引きちぎれる!!冗談じゃなくて筋肉の繊維という繊維が今さっきブチッ!って。それも一箇所じゃなくて身体全体で!!)

「何しやがる、平隊士の分際で!」

ち、違うんです。これは何かの間違いです!

全身の激痛に耐えて男はそう言おうとする。しかし口は全く違うことを口走る。

『はぁ?戦いはもうすでに始まってるんだぜ?戦闘専門部隊の異名を持つ十一番隊は敵が不意に後ろから斬りつけても『不意をついて後ろから斬りつけるなんて卑怯だぞ!?』と言うつもりですか?』

「なんだと!?」、「てめぇ、雑魚のくせに言いたいこと言いやがって!!」、「隊長が出るまでもねぇ、俺が殺してやる!!」

「待ちな!!」

男に今にも襲い掛からんとする隊員を斬りつけられた当人が止めた。

「こいつの言うとおりだ。俺達はいつ死ぬかわからない。だったらどんな状態であっても危険に備えておかなければならねぇ」

そう言って剣八は傷口の血を指ですくってペロリと舐め取る。

「それにしても油断していたとはいえ、俺に血を流させるなんてなぁ。それも隊長格でも副隊長でも席官でもない。ただの平隊士によ」

剣八は心で怯え顔では自分を小馬鹿にしている男を楽しそうにジッと見る。

「今さっきの動き、なかなかのものだったぜ。お前なら全力を出してもよさそうだぁ!!」

そう言って戦闘狂の十一番隊長は右目の眼帯を取ると刀を抜いて男と対峙した。

『ふん、流石は十一番隊隊長。だが手加減はしねぇぜ!』

(何を言っているの僕!?手加減してほしいのはこっちだって!というより手加減とかそういうんじゃなくて見逃して!!)

男の必死の祈りは虚しく、男の身体は妖刀殲滅丸を剣八に向けて先ほどよりも速い目にも映らぬ速さで戦闘狂の獣に斬りかかった。もうすでに死へのカウントダウンを始めた身体の悲鳴を無視して。

 

 

 

一時間後。

「おぉ。そういえばクズに伝え忘れていた。妖刀殲滅丸と死守天装は戦闘が始まったら最後、相手を殺すか自分が死ぬまで戦いをやめないということを。例え四肢が吹っ飛び、頭だけになろうとも」

「おい、涅」

「ん、なんだね獣!?」

目の前に現れた剣八に嫌悪感を隠すことなく、マユリは対応する。

「届け物だ」

そう言って十一番隊隊長は何かを地面に放り投げる。

ドサッと重い音と共に投げられた物。それは真っ白に燃え尽きた男だった。頭を除く身体中の骨という骨は砕け散り、まるで軟体生物のようにグニャグニャになっている。

「もう死んでしまったから言いようがねぇけどよ、こいつにはそこそこ楽しめたからなぁ」

そう言うと剣八はマユリの前から姿を消した。

 

「う~む」

マユリは死んだ男をジッと見る。

「妖刀殲滅丸と死守天装。ここまで負荷が強すぎるとはな。まだまだ改良の余地があるみたいだネ」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第八話 時空移動装置

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。


(くろつち)マユリにクズ呼ばわりされている男は子どもの時に起きた出来事を夢で見ていた。

『だ、だれか。だれかたすけてよ!』

男は友達と一緒に流魂街から離れた丘で遊んでいた所を3メートルほどの(ホロウ)に襲われたのだ。

『あ!』

幼少期の男は石に(つまづ)き倒れてしまう。振り返るとそこには今まさに自分を殺そうとする虚が。

『……ッ!』

幼少期の男は恐怖で声が出ず、目を瞑ることを忘れていた。

(あ、僕……殺されるんだ!)

子供心ながらそう諦念(ていねん)した、その時。

茂みから一人の男性が現れると虚めがけて

『ウォアァタタタタタタタタッッッ!!』

独特な叫び声を上げながら史上最強といわれる一子相伝の暗殺拳の伝承者風の男性は拳を繰り出した後、虚に背を向けた。

『お前はもう死んでいる』

その直後、虚の肉体は見る見るうちに破壊され、最後は爆発した。

「ハッ!」

そこで男は目を覚ます。

忘れることのできない、誰かを守るということに生きがいと憧れを抱いた忘れることのできない日。そして男には気がかりなことがあった。

自分を助けてくれた男性が虚を倒した後、自分に何かを訴えていたこと。そしてその男性にきちんとお礼が言えなかったこと。

「おじさんに、会いたいな」

男はかみ締めるようにそう言った。

 

 

 

数時間後。マユリの部屋。

男の目の前には何の変哲もない机。そしてその机の最上段の引き出しを開けると何もない空間の中に絨毯のような青い板、その青い板の上に様々な機械が取り付けられた謎の物体があった。

「見ただけで理解できないクズに、この私がわかりやすく説明してやろう。これは時空移動装置。時間と空間を越えて移動する乗り物だ。理論はクズに言ったところで理解できないだろうから詳しくは言う気はないが。起動後は現実空間の虚空にタイムホールと呼ばれる穴が空き、これが時空間と現実空間の出入口となって過去や未来に移動できるという寸法だ」

「……」

「ん?どうしたクズ。ただでさえアホな面をさらにアホにして?」

「素晴らしい!素晴らしいです涅隊長!!誰もが思いつくけど結局は夢物語と諦めてしまうものを息を吐くように実現してしまう天才的技術!まさに神!神の中の神!これぞまさしく人間国宝!涅マユリ!!」 

男は「あぁ、これってドラ○もんのタイム○シンですね」と言うのを忘れるほどの衝撃を受けていた。

初めて心の奥底から賞賛の言葉を述べる男に、マユリは少し後づさりながら「人間ではなく死神だが」と突っ込みを入れる。

「涅隊長、この発明品。まだ誰にも試していないのですよね?」

「あぁ、確かにまだ試してはないが――」

「でしたらこの僕に、この僕に()えある実験第一号にさせてください!」

男の気迫のこもった願いに引いたマユリは「この実験は阿近(あこん)に」と言いかける。

しかし今日の男は違った。

「何故です!実験には失敗はつきもの。阿近さんに何かあったらどうするのです!!どうなるかわからない実験だからこそ僕のようないなくなっても全体に影響しない人間が選ばれるべきでしょう!!涅隊長の実験体にされることが唯一の生きがいである僕が実験第一号にならなくては僕の存在意義はどうなるのです!!さあ、涅隊長、僕を、この僕を!時空移動装置の実験第一号に指名してください!!!」

「わ、わかった!わかったから服から手を離せ!!」

「ありがとうございます!」

願いを聞き入れられた男はマユリの言う通りに服から手を放す。

時空移動装置に乗り込んだ男に、マユリは重要なことを告げる。

「いいかクズ。その時空移動装置は往復分のエネルギーしかない。機械自体はそうでもないのだがその機械を動かすエネルギーが技術開発局の力を持ってしてもわずかしか手に入れられなかったからな。あと過去を変えるようなことはするな。ヘタをすると未来が変わり今の自分が消滅する可能性があるぞ」

「わかりました」

男は教えられた方法で過去への移動を開始した。

自分を助けてくれた男に会うために。

 

 

 

幼少期の頃にタイムスリップした男は近くの山に時空移動装置を隠すと辺りを見渡す。

「確か僕が襲われたのはちょうどこの時間帯だったような気がする。急ごう」

男は友達と訪れた丘を目指す。

すると早速男の目の前に友達と一緒に訪れていた自分が虚に襲われていた。クモの子を散らすように逃げていく。

虚は逃げ惑う子ども達から幼少期の男に狙いをつけ、追いかけていく。

男も幼少期の自分と虚を追いかける。

「確かこの辺りで転ぶはず」

男の言う通り、幼少期の男は石に躓いて倒れこむ。

「そろそろだ。そろそろあの男の人が出てくるはず」

「だ、だれか……、だれかたすけてよ!」

幼少期の自分が泣きながら助けを呼ぶ。そんな幼少期の自分を助けたい気持ちを抑えて男は見守る。

「安心しろ、そろそろ。そろそろお前を助けてくれる人が現れる!」

しかし待てども待てども幼少期の自分を救ってくれた救世主は現れない。

虚が大きく口を開けた。頭から食べるつもりだ。

「くそっ!」

いても立ってもいられず、男は隠れていた茂みから飛び出した。

「うわあぁああああぁぁぁぁっっっ!!」

ポカポカポカッ!

男は自分よりもはるかに大きい虚に飛びかかり殴り続ける。まだ四番隊にいた頃は並みの虚しか倒すことができなかった男だったが、十二番隊に配属されてからは幽世閉門(かくりよへいもん)の力で何度も死んでその度に少しだけ強くなって生き返ってきた。今では少し強い程度の虚を素手で倒せるほどまでに成長していた(幽世閉門で斬りつけるよりも素手のほうが与えるダメージが大きいため)。

数分の対決後、断末魔のような声をあげ虚は地面に倒れる。

「よし後はこいつを!」

男は虚の口にマユリ特製の爆弾を放りこむ。

「これでもう死んだはず!」

男の言葉通り、虚は爆発し、霧散した。

「ん?」

男は気づく。

(しまった!僕が助けてどうするんだ!?歴史が、歴史が変わってしまう!!)

「……おじさん、ありがと!」

「あ、いえ……ハッ!」

ここで男はようやく全てを理解した。歴史は変わってなどいない。子どもの頃の自分を救ったのは未来の自分自身ということに。

(しかし幼き頃の記憶とは実にいい加減なものだ)

男は思わず呆れてしまう。

自分が思った男性は筋肉隆々の男性だったが自身の身体は筋肉隆々には程遠い。貧弱というほど貧弱ではないが、だからと言って戦闘を得意とする死神と比べたらはるかに細い体型だ。

「いいか、少年。子ども達だけであまり遠くに行くなよ。子どもが何人いたところで虚を倒せないぞ。むしろ向こうから見たらエサが増えただけなんだから」

「えぇ!なんでぼくたちがホロウをたおそうとしたのをしっているの?」

「何で知っているかって?それは――」

男は未来から来たからだ、と言おうとして言い留まる。もし未来から来たことを教えたら歴史が変わる可能性があると思ったからだ。

「大人になったらわかることだよ」

「そ、そうなんだ!おとなってすげぇ!!」

幼少期の男は感動の眼差しを男に向ける。

男は幼少期の自分の両肩に手を置いて語りかえる。

「いいか、お前の人生はものすごく(涅隊長によって)苦労する。(涅隊長のせいで)何度も死にそうになる。それでも生きていればきっといいことがあるはずだ(まあ涅隊長という地獄から抜け出せていない俺が言えるセリフじゃないが)。強くなるんだぞ!」

あの時のおじさんは自分自身……そしてあの時おじさんが語ったのは今日自らが幼き俺に語った内容だった。

全ての謎が解けた男は満足して元の時代に戻った。

 

 

 

「ん?」

元の時代に戻った男は思った。

「子どもの頃の自分を助けたのは未来の自分だということはわかった。でも本当に幼少期の僕を救ってくれた人が、史上最強といわれる一子相伝の暗殺拳の伝承者風の男性だったら。僕が幼少期の僕を助けたことで消えてしまったって可能性は……ない、よね?」

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 虎徹清音が涅マユリの発明品を拾ったようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。


「ふふふ」

 外でぶらついていた(くろつち)マユリは不気味な笑みを浮かべながら歩いていた。そして(おもむろ)に懐から変哲(へんてつ)もない眼鏡を取り出す。

(これは透視眼鏡。よく漫画とかであるかけるだけで服などが透けて見える眼鏡だ。これがあれば誰が何を仕込んでいても一目瞭然だ。敵はもちろん親しき者であっても操られたりして爆弾を持っていたりする可能性も否定できないからな。この眼鏡があればそう言った事態にすぐに対応できる)

「えぇ、やだぁ!」

「いやいや、本当だって!」

「嘘でしょ!」

 マユリの前に可愛らしい女性死神が話しながら歩いている。

(よし、あいつらで試してみるか。おっとこれは私の発明品がちゃんと効果を発揮するか試すだけでそれ以外の目的はないぞ)

 そんなことを思いながらマユリが透視眼鏡をつけようとした時。

「あ、涅隊長。こんなところで何をされているんですか?」

「うわあぁっ!?」

 マユリが普段からクズと呼んでいる男が後ろから声をかけてきた。驚いたマユリは透視眼鏡を落としてしまう。

 その眼鏡を。

「ニャー」

 でぶでぶしい虎猫が地面に落ちる前にキャッチするとそのままどこかに消えてしまった。

「わ、私の……私の発明品が……」

「どうしたんです?涅隊長……ッ!?」

 男は後ずさる。マユリが怒りを露わにして刀に手をかけていたからだ。

「よくも、私の実験を邪魔してくれたな。クズの分際で!」

「え、実験?」

「今日と言う今日は許さん!お前の身体を解剖してホルマリン漬けにしてくれる、そこに直れ!!」

「い、嫌です!」

 男は背中を見せて逃げ出した。必ず捕まると知りながら。一分一秒でも長く生き残るために。

 

 

 

「ニャアー」

「あ、猫だ!」

 十三番隊第三席、虎徹清音(こてつきよね)の前にマユリが持っていた眼鏡を(くわ)えた猫が現れる。

「ニャー」

「くれるの?ありがとう!」

 猫は清音に眼鏡を渡すとどこかに消え去った。

「何だろう、この眼鏡?」

 清音は試しに眼鏡をかけてみる。眼鏡はかけているのを忘れるほど軽く、度が入っていないのか気持ち悪くなることはない。

「あ、そうだ。浮竹(うきたけ)隊長に書類を届けにいく途中だった。寄り道している場合じゃなかった」

 仕事を思い出した清音は眼鏡をかけていることを忘れて急いで宿舎に戻る。

「あぁ。戻ったか」

「あ、……え!?」

 清音は思わず固まった。そこには斬魄刀以外何も身に着けていない小椿(こつばき)仙太郎(せんたろう)の姿があったからだ。

「え、な、ワキクサアゴヒゲ猿!何で服着てないの!?」

「服?着ているじゃないか」

 仙太郎は(すそ)を引っ張る。しかし服が透けて見える眼鏡をかけている清音にはつまんでいる動作をしている仙太郎にしか見えない。

「う、うう、うわああああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!??」

 訳もわからず清音は赤面しながら駆け出した。

「どうしたんだ、アイツ?」

 仙太郎は何故か赤面して走り去る同席の後姿を見ていた。

 

 

 

(どういうこと?どういうことなの!?どうして皆裸なの!!??)

 かけているのを忘れるほど眼鏡が軽くかつ違和感がないため、清音はこの異常が眼鏡のせいとは気づかずにいた。

 見る人全てが裸。

 異常すぎる光景に頭の処理が追いつかず、浮竹に書類を届けると言う任務を忘れ、清音は自室で体操座り顔を隠す。

「おい、どうしたんだ。清音?」

 部下の異常を聞きつけた上司、浮竹が扉を開けて清音に声をかける。

「う、浮竹隊長……ッ!?」

 その時清音は見てしまった。敬愛する浮竹(うきたけ)十四郎(とうしろう)の裸身を。

 そして。

「ぶはああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっっっっ!!」

 天井にも届きそうな大量の鼻血と共に床に倒れ込んだ。

「き、清音!誰か、急いで四番隊に!四番隊に連絡してくれぇ!!」

 出血死しそうなほどの鼻血を噴出した部下を介抱しながら浮竹は様子を見ていた隊員に命令した。

 その際、駆けつけた四番隊の隊員が清音の眼鏡を取った後、誤って踏みつぶしてしまったため、清音は二度とこのようなことになることはなかった。

 

 

 

 一方その頃。マユリがクズと呼んでいる男が瀞霊廷の隅で物言わぬ肉体になっているのが発見された。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第九話 物真似マイク

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

先に申し上げますが、今回は間違いなく迷回になると思われる話です。

BLEACHに出演されている声優さん達がカバーされた曲を聞いてみた方がわかりやすいと思います(というより聞かないと意味がわからないと思います)


技術開発局で一人の男が十二番隊隊長・(くろつち)マユリの部屋を訪れていた。

「涅隊長。お呼びとのことで参りました」

「おお。クズ、良いタイミングで来るじゃないか」

「あ、いや。俺はクズじゃ……いえ、何もありません」

男は言いかけた言葉を飲み込む。ここで「クズじゃない」と言えば怒りを買うと思ったからだ。そしてまずいタイミングで来てしまった自分の不幸を男は呪った。

「と、ところで涅隊長。今回は我々凡人が思わず度肝を抜かす大発明を?」

「度肝を抜かす?うむっ、確かに度肝は抜かすなぁ」

奇怪な顔の技術開発局局長は意味深な笑みを浮かべながら懐から黒い筒状の物を取り出した。

「見ただけで理解できないクズに、この私がわかりやすく説明してやろう。これは物真似マイク。これでこのマイクに搭載された曲を歌うとその者になりきってしまうという代物だ。と言った所でクズにはわからんだろうから私が一曲歌ってやろう」

「(『BLEACH』の初代エンディングテーマ『Life is Like A Boat』を歌ってます)」

「うぉぉぉっ!」

その美声に男は惜しみない拍手を送り、気づく。

「って、涅隊長はネム副隊長と一緒に『Life is Like A Boat』をカバーしているじゃないですか!歌えて当たり前じゃないですか!!」

「いちいち五月蝿い男だな、細かいことをグチグチと。じゃあお前が歌ってみろ」

そう言ってマユリは男に手渡す。

 

 

マイクの底にある自動モードというボタンを押して。

 

 

「じゃあ……え?」

男がマイクを持った瞬間、男の姿が変わる。いつの間にか男の目の前には全身が見える鏡が置かれていた。

「な、なんで俺、藍染隊長になってんの!?」

男の姿は紛れもなく眼鏡を破壊し髪形をオールバックにし『私が天に立つ』と言って尸魂界から消え去った藍染惣右介(あいぜんそうすけ)だった。

「え、えぇ、えええぇぇぇっ!?」

藍染の姿になった男は。

「(藍染惣右介の姿のまま速○奨(はやみしょう)ボイスで『キュティー○ニー』のオープニング曲を歌っています)」

(いや、これ……藍染隊長のイメージ崩れるから!BLEACHファンの藍染隊長のイメージ崩壊するから!)

しかし男が止め様にも、藍染の姿のまま男は速水○ボイスでキューティーハニーを熱唱する。

「はぁはぁはぁ……」

○水奨ボイスでキュー○ィーハニーを歌いきった男は思わずその場に崩れ落ちる。

「どうだいクズ。物真似マイクの性能は?」

「『どうだい」じゃないですよ!?BLEACHファンを敵に回すつもりですか!!・・・・・・え?」

批難する男の身体が勝手に動き出す。同時に姿が元五番隊隊長、藍染惣右介から十番隊隊長の日番谷(ひつがや)冬獅郎(とうしろう)に。

そして。

「(日番谷冬獅郎の姿のまま朴○美(ぱくろみ)ボイスで『○ューティーハニー』のオープニング曲を歌っています)」

(今度は日番谷隊長の声でまた『キューティーハ○ー』かよ!BLEACHファンを敵に回すよ!ホントにマジで!!)

どうにかして止め様とする男だが、先ほどできなかったことが今回もできるはずがなく、またしても日番谷冬獅郎の姿で○ューティーハニーを熱唱する。

「はぁはぁはぁ……」

○璐美ボイスでキュ○ティーハニーを歌いきった男は思わずその場に崩れ落ちる。

「く、涅隊長……」

いい加減にしてください!。元の姿に戻った男はそう言おうとした。が、言えなかった。

「ほらクズ。次の曲が始まるよ」

「次?……な!?」

またしても男の身体が勝手に動き出し、姿を変える。十刃(エスパーダ)の№6、グリムジョー・ジャガージャックに。

(ってまたキューティーハニ○か!!)

男の予想は的中した。

「(グリムジョーの姿のまま諏○部順一(すわべじゅんいち)ボイスで『キュ○ティーハニー』のオープニング曲を歌っています)」

「はぁはぁはぁ……」

○訪部順一ボイスで○ューティーハニーを歌いきった男は思わずその場に崩れ落ちる。

「ううう、あああ……」

男は崩れ落ちる。男にマユリを批難する余裕はなかった。

あるのはBLEACHファンを激怒させたのではないのか、という不安のみ。

「それじゃあどんどん行ってみようか。なあにそのマイクに内臓されている曲はまだまだあるからね」

邪悪な笑みを浮かべる上司を後先考えず殴りかかろうとした男であったが、今度は十刃の№4、ウルキオラ・シファーに変身し『ドラ○もんのうた』や『○の上のポニョ』の主題歌を熱唱。それが終わると元十刃№3、ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンクの姿で『ガッチャ○ン』の主題歌や『Dr.スランプ ア○レちゃん』の主題化『ワイワイワ○ルド』などを熱唱。

その後も姿を変え、よりにもよってBLEACHファンが抱くキャラクターのイメージを崩壊させる歌ばかりを熱唱させられた。

 

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

百曲以上歌わされた男は顔面蒼白な顔で部屋の布団に倒れこみながら思った。

この小説を読んだBLEACHファンの方々が心が広い方ばかりでありますように、と。

 

 

 

 

 

 




今回の話はBLEACHに出演された声優さんがカバーされた曲を聴いていて思いつきました。
あと「あのキャラがあの曲を・・・・・・嘘だろ?」と思われたかと思いますが、本当に歌っています。嘘だと思うでしょうが、本当です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第九.五話 物真似マイクその後 その他1つ

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

第九話 物真似マイクの後日談とおまけが一つがあります。


(く、くそ……かすれ声一つ出せないぞ!)

布団にうつぶせながら(くろつち)マユリにクズと呼ばれている男は小さな声一つ上げられないほど疲労(ひろう)困憊(こんぱい)していた。

(だいたい何であんなもの作るんだよ、あのバカ隊長は!黒崎(くろさき)一護(いちご)なら『アスタリスク』とか『乱舞のメロディ』とかあっただろう!なんで『ドロロンえん○くん』なんだよ!!)

男は疲れすぎて全身が震える身体を無理やり動かして机の上の水筒に手を伸ばす。

(それに阿散井(あばらい)副隊長なら朽木(くちき)隊長とデュエットだけど『千の夜のこえて』があるだろ!何で『とっとこハ○太郎』なんだよ!?)

男は何とか机の近くまで身体を持っていく。

(大体、藍染(あいぜん)隊長なら雛森(ひなもり)副隊長と一緒だけど『一輪の花』があるだろ!グリムジョー・ジャガージャックやウルキオラ・シファーもそうだ。あいつらには『echoes』や『アニマロッサ』があっただろう。ただでさえ容姿がいい連中に変身してキャラ崩壊させる曲を歌わされたこっちの身にもなってくれよ!)

男は机の上の水筒を手に取ると中の水を一気に飲み干す。

「たくっ」

喉を(うるお)した男は「ふうぅ」と大きく息を吐く。

「あの隊長に付き合うのは骨が折れる……うぉっ!?」

 

 

ギュルルルッ、ゴロゴロゴロッ!ピーッ!!

 

 

男はすぐに腹を抑える。今にも洩れそうなほど強烈な便意。顔からは大量の脂汗が噴き出す。男はくの字になって強烈な便意に耐える。

「な、なぜっ!?」

男は水筒を落とす。そして、なぜ自分が強烈な便意に襲われたのか気づく。

水筒には二頭身の涅マユリがニカッと笑ったイラストが印刷されていた。そのイラストのふきだしには『涅マユリ特製下剤入り』と書かれてあった。

「あ、あのクソたいちょ……おおおぉぉぉっ!」

男に喋る余裕はなかった。少しでも腹の緊張を緩めると洩れそうなところまで来ていた。「……!…………ッ!!」

男は声にもならない声を漏らし、尻を抑え、疲労でプルプル震える身体を無理やり動かしながらチョコチョコ歩きで厠に向かっていった。

 

 

数時間後。廊下で男の無残な姿が発見された。

 

 

 

 

 

 

涅マユリからクズと呼ばれている男はある漫画を読んだようです

 

 

涅マユリからクズと呼ばれている男は、自室でBLEACHと同じように週刊少年ジャンプの看板になっていた、魔界からやってきた魔人が謎を食べるため現代社会に現れて様々な事件を解決するという漫画を読んでいた。

「ふう」

全巻読み終えた男は、魔人がどのように謎を解決していくかではなく、どのように敵を倒していくかではなく、大切な人達のために悪の道を歩むことになった人への感情移入でもなく。こう思った。

「ヒロインの桂木○子(かつらぎやこ)って親近感()くなぁ。S属性の魔人に殺されかけるところとか。涅隊長に殺されかけている僕だから他人事とは思えないわぁ」

 

 




最後のおまけは松井優征先生の『魔人探偵脳噛ネウロ』を読み返してヒロインの桂木弥子って少しクズと呼ばれている男と似ているなぁ、と思って書いてみました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 砕蜂が再びマユリの保管庫に忍び込んだようです。

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

前回の『番外編 砕蜂が涅マユリの素材保管庫から某漫画に登場するノートに似たノートを盗み出したようです』の後日談になります。




砕蜂(ソイフォン)隊長!どうか、どうか……命、命だけは!!」

(くろつち)マユリにクズと呼ばれている男はまたしても砕蜂に捕まっていた。胸には最初の一撃で標的の身体に刻まれる死の刻印『蜂紋華(ほうもんか)』がつけられていた。

「そうはいかん。一度のみならず二度も夜一様の湯浴(ゆあ)みを(のぞ)こうとした罪、今度こそお前の命で償ってもらう!」

砕蜂が男の胸に刻まれた蜂紋華を突き刺そうとする。

(ま、まずい。このままでは殺される!何か、何か助かる方法・・・・・・あった!)

あと数ミリで針状の刃が胸に当たる寸前。男はあることを思い出すと目の前の隊長にしか聞こえない小声で訴える。

(「あ、砕蜂隊長。僕、夜一様と砕蜂隊長がもっといい関係になる方法を知っています!」)

ピタッ!

小声で言い放つ男に、砕蜂は突き刺そうとした刃を止める。

(「夜一様と、私が……いい関係になる方法、だと?……ハッ!また書いた相手を百合にするノートだろ!今度は騙されんぞ!」)

(「ち、違います!今回のは別のものです!」)

隠密機動総司令は顎に手を置いて一考する。

(「詳しく話せ。ただしまたロクでもないものだと判断した場合……」)

私はお前を容赦なく刺すぞ。

砕蜂の冷たい視線に男は血の引いた顔で何度も頷く。

(「で、前回とは違う夜一様といい関係になる方法とは?」)

(「は、はい。それはですね――」)

 

 

 

再びマユリの保管庫から砕蜂はノートを盗み出した。

保管庫から盗み出したノート。それは『同性が好きなら異性が好きになり、異性が好きなら同性が好きになる』ノートだった。

 

砕蜂は夜一を捜す。

「一護。お主身体が鈍っているのではないか?この程度の攻撃で息を切らすようじゃまだまだじゃの」

「はぁ、はぁ……悔しいが夜一さんの言うとおりだ」

休憩にしようと言う夜一の言葉に、一護は地面に大の字に寝転がる。

夜一は一護の訓練に付き合っていた。

(よし)

砕蜂はノートに名前を書く。

 

 

四楓院(しほういん)夜一(よるいち)

 

 

 

効果はすぐに現れた。

「の、のぉ。一護」

頬を赤らめながら夜一が一護に近寄る。

「ど、どうしたの?夜一さん……」

潤んだ瞳で自分を見る夜一に、一護は若干引きながら尋ねる。

「お、お主。『黒崎』ではのうて『四楓院一護』と名乗るつもりはないか?」

「え、何言ってんの?夜一さん……」

(な、何を言っているのです!?夜一様……ハッ!?)

砕蜂はここに来て真相に気づく。自分が書いたノートは『同性が好きなら異性が好きになり、異性が好きなら同性が好きになる』のではなく『同“姓”が好きなら異“姓”が好きになり、異“姓”が好きなら同“姓”が好きになる』ノートだったことを。

つまり、黒崎一護の苗字は四楓院ではないので同じ苗字にしようとしているのだ。

(よ、夜一さまああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!!)

声を出すのも忘れ、砕蜂は急いでノートに書き加えた名前を消した。

 

 

 

翌日。涅マユリがクズと呼んでいる男が自室で冷たくなっているのが発見された。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十話 旋風陣

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。


「失礼します、(くろつち)隊長。申し訳ないのですがこちらの書類にサインを――」

「おお。クズ、良いタイミングで来るじゃないか」

(やばい、この流れは……)

まずいタイミングで来てしまったと、マユリにクズと呼ばれている男は自分の不幸を呪った。

「クズ。これを見てどう思う?」

マユリは懐から何の変哲もない教鞭のような棒を取り出す。どう答えるべきか返答に困った男はマユリが気に入る言葉を選びながら答えた。

「も、申し訳ございません。僕のような凡人の中の凡人には理解できません。涅隊長の世紀の大発明だということは分かるのですが……」

「ほぉ、流石に絵に描いたような凡人のお前でもこの発明品の素晴らしさは感覚では理解できるか」

満足そうな笑みを浮かべたマユリは「そうか、そうか」と嬉しそうに続ける。

「感覚でしか分からないお前にこの私が説明してやろう。一見ただの棒に見えるだろうがこれは旋風陣(せんぷうじん)というれっきとした武器だ。こいつを持って霊力を持つ者が振れば風を起こせる。お前みたいなクズみたいな霊力しか持っていない奴でも少し力を使えば(かま)(いたち)くらいは起こせる」

「あぁ。形といい性能といい藤○竜版の『封神○義』に登場する打○鞭に似てますね――」

男は慌てて口を押さえるが、遅かった。何故ならば目が笑っていない笑みを浮かべながらマユリが刀を抜こうとしていたからだ。

()(むし)れ『疋殺(あしそぎ)――」

「い、いいい、いいえ!何でもありません涅隊長!!僕みたいなカスでも風を起こせるというそれ系の斬魄刀(ざんぱくとう)を持っていなければできないと諦めてしまう凡人には到底出来ないことをしてしまう実現能力!!流石は涅隊長です。諸葛孔明(しょかつこうめい)司馬仲達(しばちゅうたつ)など多くの智将をかき集めても烏合の衆となってしまう頭脳の持ち主、涅マユリ!!!」

必死の思いで賞賛の言葉を贈る男に、マユリは「言いたいことは分かるが、もう少し勉強するんだな」とまんざらでもない笑みを浮かべて刀を元に戻す。

「計算上だと私のような隊長格が旋風陣を使うと研究所は跡形もなくなるほどの破壊力だからな。その点お前のようなクズ程度ならば全力でやっても服が細切れになるくらいだろう。というわけでやってみろ」

「わ、わかりました……」

男はマユリから旋風陣を受け取る。

男は考える。

(もしこれで研究資料とかやってしまったら、地獄のような実験の被験体にされるからな。場所を考えてこの旋風陣を振らないと)

男は何もない場所。扉方向に狙いを定める。

(扉ならすぐに直せるし一番被害が少ないだろう)

「はぁっ!」

男は旋風陣に霊力を送り、全力で振った。その時、扉が開いた。

「マユリ様。お呼びとのことで――」

扉を開けた人物。十二番隊副隊長・涅ネムだった。男が生み出した風は鎌鼬となり、ネムの服をズタズタに引き裂いていく。

「あ、ああ、あああ……」

男は固まるしかなかった。目の前にいる副隊長の服装が、胸元と腰回りを服だった布がある程度隠す状態になっていたのだから。

娘とも言える副隊長の姿を見て、マユリは命令する。

「ネム。この間の実験の続きをしようと思っていたが、気が変わった。この男を解剖するから手伝ってくれ」

「分かりました。マユリ様」

「うっ!うわあああぁぁぁっっ!!」

(解剖されてたまるかぁっ!!)

脱兎(だっと)のごとく逃げようとした男だったが二人に(かな)うはずもなく、あっさり捕獲された。

 

 

 

その日。マユリの部屋に入っていく姿を最後に、男の姿を見た者はいなかった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 四楓院夜一が某漫画に登場するノートに似たノートを使うようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

前回の『番外編 砕蜂が再びマユリの保管庫に忍び込んだようです。』の後日談になります。



「今日こそ、今日こそは!」

涅マユリにクズと呼ばれている男は夜一の肢体を一目でも見ようと少しずつ露天風呂に近づいていた。

いつもは男を邪魔する砕蜂(ソイフォン)は外せない任務でこの場にはいない。絶好のチャンスだった。

遮蔽物(しゃへいぶつ)から遮蔽物へと素早く移動し、仕掛けられた罠を作動させないよう気をつけながら、男は目標地点である露天風呂へと着実に近づいていく。そして。

(「おおぉ」)

男は感嘆の声を漏らす。

まだ遠めでかつ立ち上る湯気ではっきりとは見えないが、今まで見ようとして見ることができなかった褐色の後姿が見えた。

(「よしっ!」)

男はもっと見たいという欲望を抑えつつ、一歩、また一歩と着実に目標へと近づいていく。

と、褐色の美女がふと立ち上がる。

(お、もしかして!?)

自然と鼻血が出ていることにも気づかず、男は喉をゴクリと鳴らして目標の動きを見つめる。

そして、褐色の美女が男の方へ振り返った。

(ついに!ついに魅惑のバディーが!!)

だが男の願いは打ち砕かれた。

「ぎゃあああぁぁぁっっ!?――ッ!!」

叫び声をあげた後、男はすぐさま口を(ふさ)ぐ。

振り返った褐色の美女の顔はへのへのもへ字で、乳首や局部には『見せられないよ』と書かれた紙が貼られていたからだ。

「お主。ここで何をしている?」

「――ッ!?」

男は一言も発することが出来なかった。何故ならば肢体を覗こうとしていた女性がいつの間にか自分の背後に回り首元に苦無を当てていたからだ。

「あ、いや。その……」

男は恐怖に怯えつつも服装を確認する。裸身やバスタオル一枚ではなく普段着だった。

「ん?お主。確か儂の湯浴(ゆあ)みを(のぞ)こうとしていて砕蜂に二度も捕まっていた男じゃな」

(ば、ばれていた!?)

動揺する男をよそに、褐色の美女は続ける。

「さて、お主をどうしようかのぉ。これが偶然迷い込んで覗いてしまったのならこのまま見逃すところじゃが。お主の場合確信犯でしかもこれが三回目じゃからのぉ。ここは死神セクハラ対策本部にお主を引き渡そうか?」

「そ、それだけはご勘弁を!」

男は思わず叫ぶ。男はすでに女性死神協会から目をつけられている。ここで死神セクハラ対策本部に身柄を引き渡されれば、ただでさえ厳しい目を向けられている女性死神の印象はさらに最悪になり、上司であるマユリから何をされるか分からない。

(どうすれば、どうすれば見逃してもらえる……そうだ!)

男はあることを思い出す。

「そうだ、夜一様!僕、夜一様にとって有益な情報を知っています!!」

「有益?」

男の首に苦無を当てたまま、褐色の美女は聞き返す。

「有益?それはどんな情報じゃ?」

「そ、それはですね――」

 

 

深夜。

「う~む、こんなノートがのぉ」

自分の部屋に戻った夜一の手には深緑のノートがあった。

砕蜂同様、男は夜一にマユリがその人物の名前を書くとその通りになるノートの存在を聞かされた。ちなみに男が夜一に有益な情報だと伝えたノートの能力は。

「本当にこのノートに名前を書くだけで祝ってもらえるのかのぉ……」

夜一はノートを見ながら怪しく思う。

男が夜一に有益な情報だと教えたノート。それは『祝われる』ノートだった。

(ノートに名前を書くだけで、そんなことがおこるものじゃろうか?)

しかし、年末に浦原(うらはら)喜助(きすけ)と共に二人寂しく誕生日を祝った悲しい出来事が頭にちらつく。

「まぁ、嘘だったらあの男を死神セクハラ対策本部に告発すればいいだけじゃ」

そう考えた夜一はノートに名前を書いた。

 

 

四楓院(しほういん)夜一(よるいち)

 

 

「よし、これでどうなるかのぉ。楽しみじゃ!」

 

 

翌日。

「よ、夜一さん!た、大変ですよ!!」

「なんじゃ喜助。朝っぱらから?」

「は、早く!早くテレビを見て下さいよ!!」

そう言って浦原はテレビの前に夜一を連れていくと電源を入れる。

『速報です。日本政府は1月1日を夜一記念日と制定することが先ほど決まりました。これに他の国々も同調し世界では夜一フィーバーが発生しております』

テレビの画面が男性アナウンサーから世界で夜一の恰好や写真を持った人々が隊を作って『ヨルイッチ!ヨルイッチ!』と叫びながら行進している姿が映し出されていた。

「な、なんじゃこれは!?」

「それは私の方が聞きたいですよ!!」

二人は思わず顔を見合わせる。

そして異変はテレビの中だけではなくなっていた。

「よ、夜一さん……何か聞こえません?」

「き、喜助もか……」

二人は外に目をやる。

そこには。

「夜一様!どうか御姿を!一目だけでもいいのでその麗しきお姿を御見せ下さい!!」、「夜一様!愛してますぅっ!!」、「俺と、どうか俺と結婚してください!!」

夜一ラブと化した群衆が夜一を称える言葉を叫んでいた。

そして。

「夜一様!あんな奴らの物になる前に、私と祝言をあげましょう!!」

「ややこしい時に来るでないわぁ!」

「ゴフッ!――――」

いつの間にか現れた信頼する女性、砕蜂を手刀で気絶させると夜一は立ち上がる。

「喜助、砕蜂を頼む。儂はある者の所へ行く!」

そう言い残し、夜一は一瞬でその場から姿を消した。

 

 

 

数時間後。

「貴様のせいで現世はとんでもないことになってしもうたぞ!どうしてくれる!?」

男の自室に現れた夜一は男の胸倉を掴み前後に揺らす。

「お、落ち着いて下さい。夜一様……お、おそらくですが……ノートの名前を消せば……元に戻るかと、ウグッ!」

「名前を消せばいいんじゃな!これで元に戻らなかったら貴様を死神セクハラ対策本部に連行するからな!!」

そう言って夜一は男の前から姿を消した。

数時間後。夜一がノートから名前を消すことで、夜一フィーバーは最初からなかったかのように沈黙した。

 

 

 

翌日。

男はマユリの部屋に呼び出された。

「なあ、クズ。私の保管庫からノートが数冊無くなっているのだが、心当たりはないかい?」

「……ッ!」

『心当たりはないかい?』。そう聞いた上司の目はとてつもなく冷たかった。

 

 

 

その後数日間。男の姿を見た者は誰もいなかった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 朽木白哉は女性死神協会を追い出したいようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

あとこの話はゲーム『BLEACH~ソウル・カーニバル~ MOVIE「わかめ大使」』を見た後の方がより楽しめると思います。


朽木家屋敷。

「……」

朽木(くちき)白哉(びゃくや)は池の鯉にエサをあげていた。

「きゃははは、きゃはははっ!」

草鹿(くさじし)やちるが楽しそうに庭を駆け抜ける。

「ったく京楽隊長ときたら……」

「もう、七緒は気にしすぎよ」

白哉の後ろを歩きながら愚痴を言う伊勢(いせ)七緒(ななお)松本(まつもと)乱菊(らんぎく)が慰める。

「……」

チャポンッ!

池の中から(くろつち)ネムが顔を出すとポチャンッ!と言う音と共に池の中に姿を消した。

「……ッ!」

鯉のエサを池に落とした白哉は思う。

(なぜ奴らが私の屋敷を我が物顔で闊歩(かっぽ)しているのだ!)

「お困りのようだね」

声のする方へ振り返ると、そこには奇怪な顔の隊長格が立っていた。

「涅」

 

 

 

二人は場所を白哉の自室に移した。

「あの女どもに手を焼いているのだろう?そんな君にいい物を持ってきたよ」

正座をする白哉にあぐらをかいて対峙するマユリが懐からある物を取り出す。

それは涅マユリの顔を()した香水だった。

「なんだ、この悪趣味なものは」

「悪趣味とはなんだね!これは女嫌香(じょけんこう)と言ってこれを吹きかけると半径100メートルの女が近寄らないほどの匂いを発する優れものの発明品だ。女が嫌う匂いを発するが男には無臭。無色だから服に吹きかけても大丈夫。肌が荒れるなどの心配もない。あの女どもを追い出したい君にはピッタリのものだと思うがね」

白哉は香水を手に取る。

「これは、信頼できるものなのか?」

「ああ、断言しよう。それを吹きかければ君の屋敷を我が物顔で闊歩する女性死神協会に頭を悩ませることはなくなることを保障しよう」

「……なるほど」

(この男がここまで言うのなら、本物なのだろう)

目の前の男は危険極まりない男だと白哉は認識している。それでもこの男の科学者としての腕は本物だと認めている。

「では、試してみるとしよう」

美形の隊長は奇怪な顔の隊長の自信作をシュッと身体に吹きかけた。

 

 

 

涅マユリの言う通り、女性死神協会のメンバーが屋敷を訪れることはなかった。

だが朽木白哉のストレスは、彼女らが我が物顔で屋敷を闊歩するよりもひどいものになっていた。

「ふ、ふひきはいひょう……。ふぉひらひふぁいんふぉ。ウッ!(く、朽木隊長……。こちらにサインを。ウッ!)」

仕事で白哉の前に現れないといけない女性死神たちは嫌そうな顔で鼻にティッシュを詰め、隊長会議では。

「や、山本総隊長。私、ちょっと用事を思い出したので……」

「……ッ!」

卯ノ花(うのはな)(れつ)砕蜂(ソイフォン)は白哉が現れた瞬間、逃げるように足早に去っていく。

そして白哉が一番ストレスになったのは。

「兄様~!おはようございま~す!」

義妹である朽木ルキアが遠くから叫ぶ。いくら敬愛する義兄といえど、マユリが作った香水の威力はそれすらも拒絶するほどの威力を持っていた。

 

 

 

マユリの自室。

「よくも私にあのような不良品を渡してくれたな」

静かに怒る六番隊隊長は恐怖に震える十二番隊隊長?に刀を向けていた。

「あ、あの……朽木隊長!僕、涅隊長じゃ……」

「聞く耳持たん。卍解、千本桜景厳」

「ギャアアアアアアァァァァァァッッッ!!!!」

目の前にいる涅マユリが、十二番隊隊長の発明品でマユリがクズと呼んでいる男が化けていることに気がつかず、白哉は偽マユリをズタズタに斬り刻んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十一話 模写スール

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。


(くろつち)マユリにクズと呼ばれている男がマユリの部屋を訪れていた。

「涅隊長。分からない所がありまして。どうすればいいかご指示を――」

ふと突然扉が開いた。

「私の戦闘力は53万です」

「ぎゃあああっ!フ○ーザ様ッ!?」

そこには宇宙中の惑星を片っ端から攻撃し占領や破壊を行う、宇宙規模の地上げ屋をしていそうな宇宙人が立っていた。

「き、貴様。何者だ!?」

「私だよ、クズ」

「ま、まさか!?」

「そのまさかだよ」

宇宙人の身体から白い(もや)が立ちのぼり、全身を包み込んでいく。靄が晴れると、そこには見慣れた奇怪な顔の上司が立っていた。

「く、涅隊長!?で、でもさっきは……?ど、どういうことです!?」

混乱する男にマユリは「ククク」と笑いながら種明かしをする。

「鳩が豆鉄砲を、という顔をしているな。特別に教えてやろう。これだ」

そう言ってマユリは懐から(てのひら)に収まる程度の大きさの水晶を取り出す。

「これは模写スールという私の発明品でな。これを握って霊力を込めると自分と異なる姿に変身できる代物だ。他にもこんな変身も出来るぞ」

そう言ってマユリは掌サイズの水晶に霊力を込める。すると全身から靄が現れ、奇怪な顔の技術開発局局長の身体を包み込む。

靄が晴れて現れたのは。

「は~ひふへほ~!」

「うぉ!バイキ○マンだ。まるでドラ○エに出てくる呪文のモ○ャスみたいですね――ッ!」

男は慌てて口を押さえるが、遅かった。何故ならば目が笑っていない笑みを浮かべながらマユリが刀を抜こうとしていたからだ。

()(むし)れ『疋殺(あしそぎ)――」

「い、いいい、いいえ!何でもありません涅隊長!!そのような小さなサイズなのに持つだけで変身できるアイテムを作るなんて僕ら凡人には到底できない発明を簡単に成し遂げてしまう実現能力!!流石は涅隊長です。これぞまさしく神の腕を持つ死神、涅マユリ!!!」

焦る頭で必死に考えながら賞賛の言葉を贈る男に、マユリは「ボキャブラリーが低下したな」と文句を言いつつも決して嫌そうではない笑みを浮かべて刀を元に戻す。

「ただ欠点としてその声優(こえ)でないと変身することができないところかな。あと私しか試していないから本当に変身できるかもまだ確証を得ていないからな。という訳で」

マユリは模写スールを男に手渡す。

「とりあえずクズよ。てっとり早く何かに変身してみろ」

「え?いったい何に変身を?」

「いいからさっさとしないか!私は忙しいんだ!!」

「は、はい!」

奇怪な顔の上司に怒鳴られ、男は掌サイズの水晶を握って考える。

(変身、変身、変身……ん?)

「ん?」

いくら霊力を込めようと水晶は何の反応も示さない。そして男は気づく。

「って、僕はこの小説のオリジナルキャラだから声優(こえ)があるわけないじゃないですか!」

 

 

 

後にマユリが誰でも涅マユリに変身できるように改造。偶然マユリに変身した男が女嫌香(じょけんこう)の件で(いか)朽木(くちき)白夜(びゃくや)に斬り刻まれるのだが、それは別の話である。




ふと思ったのですが。マユリにクズと呼ばれている男って、もし声優さんが声をされるとしたら。皆さんは誰が適切だと思いますか?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十二話 雷光剣

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。


夜。黒崎家リビング

「いやぁ、あと五分で始まる『BLEACH~(くろつち)マユリの活躍、全部見せます~』が始まるよ。楽しみだねぇ」

「いや、何でテレビでそんな特集作ってんの!?ってかアンタ、なんで毎回毎回テレビ見るとき俺ん()で見るんだよ!!」

五月蠅(うるさ)いよ、黒崎(くろさき)一護(いちご)!私の素晴らしい活躍をお前のような愚民にも余すことなく見せてあげるんだ。黙っていなよ!」

「わ、わかったから顔を近づけるな!……ん?」

突然部屋の電気が消えた。窓を見ると他の家の電気も消えている。

「あぁ~、こりゃあ停電だな」

「て、停電だと!?」

マユリは慌てふためく。自分の特番がもうすぐ始まるのに停電では見ることは出来ない。

「残念だな~、見たかったんだけどな、『BLEACH~涅マユリの活躍、全部見せます~』」

明らかな棒読みの一護。

「バカな、バカなバカなバカなっ!」

怒りと焦りで身体を震わせるマユリに一護の言葉は耳に入っていない。

「させんよ、そんなことは!」

奇怪な顔の技術開発局局長は空間移動扉を取り出した。

 

 

 

男の自室。

「はぁ~、今日は良い日だったなぁ。仕事は休みで涅隊長は現世に行っているから突然呼び出されることもない。まぁ、明日になったらまた地獄を見ることになるけれど、それまでこの幸せを享受(きょうじゅ)することにしよう」

「クズ!今すぐ私と共に現世に来い!!」

「どわあぁおっ!?く、涅隊長ッ!!」

突然現れた上司に、クズと呼ばれている男は腰を抜かす。

焦っているマユリは柄の部分が星形の剣を取り出す。柄の中央には丸い球が埋め込まれている。

「これは雷光剣といって電気を作ることが出来る代物だ。さぁこれを持って発電所に行け!」

「え、ええ?うわあああぁっ!?」

「これってYAI○Aの○神剣ですね」と男に言わせる間もなく、マユリは空間移動扉の行先を空座町(からくらちょう)に電力を供給する発電所に指定すると、義骸と共に男を蹴り飛ばした。

 

 

 

四分後。

空座町の停電は復旧し、マユリは一護と共に『BLEACH~涅マユリの活躍、全部見せます~』を観賞した。

「う~む、素晴らしい。素晴らしすぎるよ!」

番組を見てマユリは歓喜の笑みを浮かべる。

「そ、そうか……」

一護は終始呆れ顔だった。

「あ、そうだ」

ポンッと手を叩きながらマユリはあることを思い出す。

「雷光剣は発電したら最期、死ぬまで発電させられることをあのクズに伝えるのを忘れていた。まぁ、いいか」

 

 

 

翌日。発電所で剣を持った男の遺体が発見された。そしてその遺体がどこかに姿を消えたことで空座町の都市伝説に『いつぞかに消えるさえない男の遺体』が加えられた。

 




旋風陣(風)が出たので雷も出さないと思ったのでこの話を作りました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 それでも僕は……

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。


 流魂街(るこんがい)

 (くろつち)マユリは気分転換に流魂街を訪れていた。

「いしやぁああきぃいーーいもぉぉおーー!おいもぉおおおおおおーーーー!!甘くておいしい石焼き芋~石焼き芋はいかがですか~?」

 焼き芋売りの活気のいい声にマユリは振り返る。

「焼き芋か、ちょうど小腹も空いたことだし。あいつらの分も買ってやるか」

 

 

 

 研究所。

「みんな。焼き芋だヨ」

 技術開発局に戻ったマユリは部下達に先ほど買った焼き芋を差し入れした。

「美味しいです、マユリ様」

 副隊長のネムが食べたことで他の隊員たちが続く。

「わあぁ、頂きます!」、「あふ、あふっ。う~ん甘くておいしい」、「やっぱりお店で買う石焼き芋は一味違うぜ!」、「こうなるとお茶が欲しくなるなぁ」

 部下達は焼き芋をおいしそうに頬張る。

「そうだろ、そうだろ。この焼き芋は私が厳選したものだからネ」

 そう言いながらマユリも買って来た焼き芋に手を伸ばす。

「サツマイモは米と違って保存性に劣るために普及しなかったが(広まらなかったのは他にも理由あり)、デンプンが豊富でビタミンCや食物繊維が多く含んでいる優れた食材といえるからネ。ま、もっともそればかり食べるのは良くないが。モグモグ」

「あれ?皆さん何を食べているんですか?」

 マユリにクズと呼ばれている男が書類整理を終わらせて研究所に戻ってきた。

「あ、焼き芋じゃないですか。僕は焼き芋に目がないんですよ。一つもらっていいですか?」

 男の言葉を無視し、マユリ達はモグモグと食べ続ける。

「ちょっと、僕にも一本くらいくださいよ」

 その時だった。

 

 

 ブッ

 

 

「「「……」」」

 その場にいる全員が固まる。

「クズ。行儀が悪いぞ」

「えっ?」

 予想だにしない上司の言葉に、男は固まる。

「そうだぜ、芋を食べたんだからしょうがないけど……仮にも上司の前では、なぁ?」

「正直に言った方が身のためだぜ」

 技術開発局の長の言葉に、他の部下達が続く。

「いやいや、僕は芋を食べてませんよ。さっきのオナラは僕以外の誰かじゃ……」

「ほぉクズ。まさかだとは思うが……この私がオナラをした、なんてバカなことを言うつもりはないだろうネ?」

 そう言ってマユリはいつの間にか抜いていた刀を男の首に当てる。男の答えは一つだった。

「……ハイ、サッキノオナラハボクデス」

 大量の汗を流しながら男は片言のようにそう答えた。

「よろしい」

 男が犯人だと認める言葉を聞いたマユリは満足した様子で刀を納める。

「ネム、もう一本焼き芋を取ってくれ」

「はい、マユリ様」

 そのまま男を除く全員は何事もなかったように焼き芋を食べると仕事を再開させた。

 男は心の底からこう思った。

 

 

 

 それでも僕はこいてない。

 




もう秋なのでこんな話を作りました。

オナラをした犯人は誰か!?

犯人がわかった方に涅マユリから現世に出品したりんご味の毒キャンディ(本物)をプレゼント!(嘘です)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 ザエルアポロは実はノートを使っていたみたいです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

この話は『番外編 涅マユリがザエルアポロの貯蔵庫から某漫画に登場するノートに似たノートを拾ったようです』の前日談にあたります。


読者の皆様は不思議に思わなかっただろうか。

(くろつち)マユリが拾った某漫画に登場するノートによく似たノート。元々はザエルアポロの所有物だった。

当然ある疑問に行き着くだろう。

 

 

彼はノートを使用しなかったのだろうか?

 

 

と。

今回の話は十刃(エスパーダ)の№8。ザエルアポロ・グランツがまだノートの所有者だった時に遡る。

 

 

某日。

「ん、なんだこれは?」

虚園(ウェコムンド)を散歩しているとザエルアポロは(ひも)でくくられたノートを発見した。

怪しいと思ったザエルアポロだったが科学者としての(さが)なのか、気になって持ち帰った。

色々調べていくうちにそれが名前を書けばその通りになるノートだと気づいた。

「なるほど、じゃあ本当にそうなるか試してみようかな」

そう言ってザエルアポロはじっくりとノートを選び、

「これだ!」

とピンク色のノートを選ぶ。

それは『女にモテる』と書かれたノートだった。

「まあ顔がよく最高の研究者というモテる要素しかない僕がこれ以上モテる必要はないがね。まあこれは実験だから、仕方がないよね」

そんなことを言いながらザエルアポロはノートに名前を記す。

 

 

『ザエルアポロ・グランツ』

 

 

「さて、どんな女性が僕に求愛の言葉をかけるんだろうなぁ……ん?」

ザエルアポロの身体が突然光に包まれたかと思うと急に浮き始める。

(な、なんだ!?)

眼鏡をかけた科学者は上を見る。そこには自分が今まで見たことのない形をした銀色の巨大な円盤が宙を漂っていたのだ。そして光はその巨大円盤から放たれている。

「な、なんなんだ!?この僕に、何をする気だ!!下ろせ、下ろせッ!!」

ザエルアポロは懸命に身体を動かして上昇するのを止めようとするが、上へと向かっていく身体は降下する気配も止まる気配もない。光を放つ巨大円盤の方へ吸い込まれていく。

「やめろ、やめろっ!うわあああぁぁぁっっっ!!」

絶叫と共に。ザエルアポロの身体は完全に謎の巨大円盤の中に吸い込まれていった。

(何故だ?なぜこのザエルアポロ・グランツが……このような目に!?)

巨大円盤に吸い込まれたザエルアポロはすぐさま円盤内の診察台に固定された。

すぐ傍にはタコを人間と同じように歩行できるようにした生物と、灰色か青白い肌に大きな頭にアーモンド型の黒く大きな目をした小柄な体格の生物がザエルアポロを見ながら話していた。

「ピロ、ピロロロピロ(ねえ、タコ美姐さん。この男、やっぱりかっこいいわね)」

「タコ、タコタコタコ(えぇ、その通りね。グレ子さん)」

「こら!そこの化け物!!いい加減僕を解放したらどうだ!!」

その言葉に異形の姿をした女性二人は互いを見る。

「ピロ、ピロロロピロ(ねえ、タコ美姐さん。この男、いい男だけど、ちょっとアレじゃない?ここは我々好みに整形しない?)」

「タコ、タコタコタコ(えぇ、その通りね。グレ子さん)」

お互いが頷くと異形の姿の女性二人はザエルアポロが見たこともない器具を持って美形の科学者に近づいた。

嫌な予感しかしなかったザエルアポロは必死の抵抗を試みたが、診察台には帰刃などを妨害する効果があるのか、結局はなす(すべ)もなく二人好みの改造を(ほどこ)されることになった。

 

ザエルアポロは知る(よし)もなかった。

突然自分の頭上に現れ、自分を連れ去ったのは宇宙人のUFO。そして自分の名前を書いたノートが『女にモテる』ではなく『遠女(おんな)にモテる』だったことに。

 

 

 

数日後。虚園。

「藍染サマ。ザエルアポロ・グランツ、タダ今戻リマシタ」

虚夜宮(ラスノーチェス)に戻ったザエルアポロは無機質な肌に機械口調になって藍染の前に姿を現した

「こ、これは……けったいな姿になってもうて」

「……」

市丸(いちまる)ギンと東仙要(とうせんかなめ)はあまりの姿に絶句し。

「こ、これは……困ったことになったね」

ロボット化したザエルアポロに藍染(あいぜん)惣右介(そうすけ)は苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

 

 

その後何とか元の姿に戻ることができたザエルアポロは、ノートを保管庫の奥に封印し、二度と開けることはなかった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 ○○の秋

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。


マユリにクズと呼ばれている男はマユリに呼び出されていた。

「クズ。秋と言えばなんだね?」

「あ、秋と言えば……ですか?」

男は考える。

(涅隊長の真意は何だ?ここはポピュラーに秋刀魚(さんま)とか栗とか言えばいいのか?……いやここは普通に食欲の秋とか芸術の秋、スポーツの秋とかなのかもしれん。……いやここは何の関連性のないことを答えさせようと――)

「いいからさっさと答えんか、このクズが!」

「は、はい……すいません!」

上司に怒鳴られ、男は恐る恐る目の前の上司が望んでいそうな答えを口に出す。

「しょ、食欲の秋……でしょうか?」

「ファ○ナルアンサー?」

「ふぁ、ファイナ○アンサー……」

歳がばれるぞ!と男は心の中で突っ込む。するとどこからかダララーンッ!という音とドラム音が聞こえる。永遠とも思える間とドラム音。そして。

「正解だよ」

マユリの言葉に、男は目の前の上司にばれないようにホッとため息をつく。

「さて」

マユリは男に背を見せて話し出す。

「クズよ。他にはどんな秋がある?」

「他に、ですか……」

男はアゴに手を当てて考える。

「まず秋は、芸術を楽しむのに適していると言われていますから。芸術の秋がありますね」

「確かに。他には?」

「他には……さわやかな気候でスポーツを楽しむのに向いた季節であると言われていますから、スポーツの秋がありますね」

「他にはどうだ?」

「他ですか……あとは、秋は読書に適した時季だと言われていますから、読書の秋ですね」

「他にあるだろう?」

背を向けてまま尋ねるマユリに、男は腕を組んで考え込む。

「他?他にですか……う~ん、申し訳ございません。僕が思いつくのはこれくらいです」

その時だ。マユリは「グフフフフ」と不気味に笑い出す。

「他にもあるだろう、そう……解剖(じっけん)の秋とか」

マユリはメスを持ちながら邪悪な笑みで男の方へ振り返った。

「な、何を言っているんですか!?」

男は慌てふためいたが、すぐに冷静さを取り戻し出口に向かって走り出す。

「逃がさないよ」

マユリがメスを持っている手とは反対の手で指を鳴らすと、ドアや窓にシャッターが下りた。

(こ、このマッドサイエンティスト!何を考えてやがる!!)

逃げ場を失ったことを悟った男はマユリを説得するという一縷(いちる)の望みをかける。

「く、涅隊長!何で秋が実験の秋なんですか!?どう考えてもおかしいでしょ!?」

「おかしい?何がおかしいんだね?」

とんでもないことを言う技術開発局の局長はふくろうのように首をかしげる。

「読書の秋。それは知的好奇心を満たすという意味だろ?知的好奇心を満たすという意味では解剖(じっけん)も間違いではない。……というわけで解剖の秋、改造の秋、人体実験の秋を始めようじゃないか?」

「うわあぁっ!もう実験という当て字を使わず本性表しやがった!」

説得は無理だと悟った男は扉のシャッターを叩く。

「誰か!誰か来てくれ!隊長が、隊長が乱心された!!」

「五月蝿いよ!正気の私を乱心呼ばわりするとは……覚悟しろ!!」

「乱心している状態が正気――」

それ以上男は何も言えなかった。男の腕に何かが投与された瞬間、男は意識を失ったからだ。

 

 

 

その後男が口から破壊光線。腕は前腕部を分離させ、敵にめがけて発射でき、足にはジェットエンジンを搭載するようになるのだが、これはまた別の話。 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 アニメ『BLEACH』の『護廷十三隊侵軍篇』にクズと呼ばれる男が登場していたら

・シリアスです。
・涅マユリ対数え切れないほど生還したクズと呼ばれている男(霊骸)です。
・この話に登場する薬とマユリの考え方はあくまで作者が勝手に想像したものです。
・ツッコミどころしかないかと思われます。
・マユリに戦える余裕はなかっただろう!?というツッコミなどはあるかと思いますが、その辺りはスルーして下さると幸いです。


 瀞霊廷某所でマユリとクズと呼ばれている男が交戦していた。

「どうです涅隊長?今までクズと呼んでいた男にボコボコにされる感想は?」

 マユリがクズと呼んでいる男は小馬鹿にする笑みを浮かべながら片膝をつく十二番隊隊長を見下ろしている。その目は青く輝いている。

「ハァ……ハァ……こ、この……クズの分際で!」

 大量の脂汗を流し、肩で息をしながらマユリは刀を杖代わりにして立ち上がる。

「いい気になるなよ、クズが!卍解(ばんかい)金色疋殺地蔵(こんじきあしそぎじぞう)!!」

 鞘からイモ虫のような身体に赤子のような頭を持つ巨大な生物が現れたかと思うと、口から不気味な紫色の毒ガスを周囲に撒き散らす。

「ふふふっ」

 男は金色疋殺地蔵やすでに自分の周りを漂っている毒ガスを前にしてもただただ笑うばかり。

 その男の態度が、マユリには気に食わなかった。

「貴様、何がおかしい!?」

「おかしい?えぇ、おかしいですね!涅隊長ッ!!」

 ニタッと男はマユリが一度も見たことのない下卑た笑みを見せる。男はすでに毒ガスに触れている。にも関わらず苦しむ様子は一向に見えない。

 そんな自身の身体を見て、男はマユリの方へ視線を向ける。

「涅隊長。僕はね、貴方が恐ろしかった。だから僕は斬魄刀の幽世閉門の力で何度も死んで生還し、強くなった。貴方を殺すために!そしてその強さは金色疋殺地蔵の毒すらも効かない高みまで上り詰めた。あれほど恐ろしかった人間が地面に這いまわる蟻のように見える。それがおかしい以外の何だと言うのです!?」

「ええぃ!その口黙らせてやるッ!!殺せッ、金色疋殺地蔵!!!」

 主の意思に反応して、金色疋殺地蔵が毒を撒き散らしながら男に向かって駆け出す。

「ふふ、ふははははははっ!!」

 本物の男なら背を向けて逃げ出していただろう。しかしすでに何度も死んで生き返ったことで本物よりも強くなっていた男の霊骸は巨大な赤子のような芋虫に向かって跳躍し、殴りかかる。

 それだけだった。金色疋殺地蔵の顔が大きく歪み、男の何十倍はある巨体が地面に崩れ落ちた。

「ば、バカな……クズに、クズなんかに……私の、金色疋殺地蔵が……」

 自らの卍解がなす術もなく倒されたことに、十二番隊隊長はショックのあまり膝から崩れ落ちた。

「おやおや、誇り高い護廷十三隊の隊長を任された涅隊長ともあろうお方が、この程度のことでショックを受けられるとは。まぁ、僕が強くなりすぎたのですから、仕方がないですが」

 本物の男だったらマユリに見せない見下した笑みを見せながら、男は放心するマユリの胸倉を掴む。

「それじゃあ、今まで恨みを晴らさせてもらいましょうか。隊長の身体で!」

 そう言うと男はマユリの顔に拳をねじ込ませた。

 

 

 

 

 数分後。

「ぶぁ、ぶぁかふぁ……ふぉの、ふぁふぁひがぁ。ッ!?(ば、バカな……この、私が。ッ!?)

 顔面をこれでもかと言わんばかりに腫れ上がらせたマユリの胸倉を男が離す。

「まさか、こんな時が来るとは思いもしておりませんでした。涅隊長がこのようにボコボコに顔を殴られ腫れあがらせる時が来るとは。それも、この僕が」

 男は指一本も動かせない上司から一旦距離を取る。

「涅隊長。ありがとうございます。貴方のおかげで僕はここまで強くなった。だから、冥土の土産に見せてあげますよ。僕の卍解を!」

 男は刀を頭上に掲げる。

「それでは隊長。さようならです。また会う機会があるなら会いましょう。卍か――ッ!?」

(何だ、この痛み……そして、脱力感は!?)

 自らの身体に襲い掛かる異変に、男は頭上に掲げていた刀を杖代わりにして胸を抑える。そして気づく。自らの手がひどくやせ細っていることに。

「ど、どういうことだ?……なッ!?」

 手だけはなかった。腕は骨と皮だけと錯覚するほど細くなり、思わず触れた顔は凹凸が感じられるほど皺だらけになっていた。

 肌だけではない。全身の筋肉が急激に減少し立つことすら困難になった男は両ひざを地面につかせ、刀にしがみつくことで崩れるのを防いでいる状態になっていた。

「ククク。ようやく効いてきた……、いや。薬がそこ(・・)まで進行したみたいだネ」

「な……、何を、やった!?……涅マユリ!?」

 男の前には何事もなかったかのように立ち上がる上司の姿があった。

「さすがは自ら何度も殺されて強くなったというだけはある。おかげでこのマスクを作った甲斐があったというもの」

 そう言ってマユリは自分の顔を引っ張る。先ほどまでの腫れ上がった顔ではない、いつも見る奇怪な顔がそこにはあった。

「ぼ、僕に……何をした、と聞いている……答えろ!涅マユリ!」

 しわがれた声で叫ぶ男に、マユリはいつも見る人を小馬鹿にしたような笑みで答える。

「何をされたかわからないクズに、この私が特別に教えてやろう。戦いの中で、私はお前にある薬を投与していた。安心したまえ、毒薬じゃない。それは、そう……超活薬(ちょうかつやく)、とでも言っておこうか」

「ちょ、超活薬?」

「そう、超活薬だ。異常なまでに再生能力を持つ者がいるだろう?その薬は代謝能力を上げることで異常なまでの再生能力を人為的に作ることができる。つまり、お前が毒を苦にしなかったのも、幽世閉門の力で強くなったからではなく、超活薬の力で毒を迅速に処理していたに過ぎない」

「さ、再生……能力、で……処理?」

 息も絶え絶えに男が呟く。

「理解できているか、クズ。この薬を使えば、新陳代謝を数百倍にも数千倍にも、数万倍にも高め今にも死にそうな奴にもすぐに元の状態に再生することができる。そして、その薬は一滴を25万倍に希釈するのが適量なのだが、お前には特別に原液を使っておいた」

「……」

「今のお前には1秒が1年に匹敵するほどの早さで代謝が行われているはずだ。つまりこうして生きている間にも、お前の身体は再生を通り越し、急激なまでに老化しているというわけだ」

「ご、ご解説、ありが、とう……で、でも……僕には――ッ!?」

 男はかすれた声で声にならない声で絶叫する。

 マユリが男から幽世閉門を奪うと、懐から液体が入ったビンを取り出し、男の斬魄刀に垂らした途端、刀が溶け始めたのだ。刀を溶かす液体は瞬く間に斬魄刀を無へと変えていく。

「ぁ……あぁ……」

 絶望に打ちひしがれる男に、マユリは語りかける。

「クズよ。死ぬ前に一つだけ教えておいてやろう。我々科学者が最もしてはいけないこと、それは過信だ」

「か、し……ん?」

「そう、過信だ。科学とは常に発見の連続だ。今まで見たことのない世紀の大発見もあれば、予想だにしない死に直結するような危険もある。だからこそ、科学者は細心の注意を払い最悪の事態に備えなければならない」

「……」

「わかるかい、クズ。科学者にとって過信とは、最も遠ざけなればいけない感情だ。そして私はお前の力を良く知っている。……つまり。幽世閉門の力に驕り、最悪の事態を想定せずに私の前に現れた時点で、お前はすでに私に敗北していたのだヨ」

「……」

 男は涙を流すしかなかった。それは悔しさなのか、それとも死への恐怖なのか。それは男しかわからない。

「もっとも。お前を曲なりにも科学者とするのならの話だがネ」

 そう言ってマユリは辛うじて生きている、今にも死にそうな老人となった男に背を向けて歩き出す。

「では、クズ。また出会える日を、楽しみにしているヨ」

「……――――」

 その場を立ち去るマユリに、男からの返事はなかった。




色々な方の感想を見て、強くなった男がマユリと対戦したらどうなるか。そんな疑問が浮かんだのでこんな話を書いてみました。

お楽しみ頂けたのなら幸いです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十三話 自動料理製造機

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

あと今回化学式が登場します。一応は調べて書きましたが自信がありません。間違っていましたら「この式じゃ○○は作れないぞ」、「これだと別のものができるぞ」というのを言って頂けると幸いです。


マユリにクズと呼ばれている男はマユリに呼び出されていた。

「あ、あの……涅隊長?」

男の前にはピンク色のテーブル掛けがあった。

「はぁ……お前は私の隊に配属されて何ヶ月になるんだ?いいかげん私の素晴らしい作品に気づくくらいしたらどうだい?」

無茶な要求を平気でいう上司に、男はすみませんとしか言えない。

「時間もないからさっさと行くよ。一見ただのテーブル掛けに見えるがこれは自動料理製造機。この機械をテーブルなどの平らな場所に敷いて食べたい料理を言うとその料理が出てくるという画期的な発明品だ!」

「へぇ。ドラ○もんのグルメテーブル○けですね――ッ!!」

男は慌てて口を押さえるが、遅かった。何故ならば目が笑っていない笑みを浮かべながらマユリが刀を抜こうとしていたからだ。

()(むし)れ『疋殺(あしそぎ)――」

「い、いいい、いいえ!何でもありません涅隊長!!注文するだけで料理が出てくるなんて僕ら凡人には永久に思いつかない発想を思いつきかつそれを実現してしまうその発想力と実現能力!!流石は涅隊長です。これぞまさしく尸魂界(ソウルソサエティ)のティロ・フィナーレ、涅マユリ!!!」

必死に頭を働かせて涙を流しながら賞賛の言葉を贈る男に、マユリは「ティロ・フィナーレという言葉を知っているのか?」と言いつつも不満ではない笑みを浮かべて刀を元に戻す。

「じゃあ早速試してみますね。カツ丼!」

しかし待てども待てども目の前のテーブル掛けからカツ丼が出てくる気配はない。

「あぁ。この自動料理製造機はまだ未完成でね。私が作った料理のコピーしか出せないのだ」

「何を作られたのです?」

「他の肉じゃがが食べられなくなるほど舌もとろける肉じゃがとカルパッチョだ」

何でその二つ何ですか。と顔には出さず「へぇ、隊長が作られた料理のコピーですか。楽しみです」と笑顔で答える。

(嫌な予感しかしない)

男の危険察知能力が「今までの流れから絶対注文してはならない」と(ささや)く。

そこで男は苦しい言い訳をすることにした。

「あ、そういえば涅隊長。僕、さっきごはんを食べたばかりでお腹が――」

その直後、口の中に何かを入れられ男は思わず飲み込んでしまう。その瞬間。

 

 

キュル~、グー!

 

 

空腹でお腹が鳴り続ける。

「た、隊長。今さっきのは?」

「強力な消化剤だよ。これでお腹がすいただろ?」

目の前の上司の言うとおりだった。一気に極限の空腹になった男に、注文をしないという選択肢はなくなっていた。

(し、仕方がない。注文しよう。なに、どうせ嫌な予感というのはめちゃくちゃ不味いとかいう感じなはず。そんなの、気合で乗り切ってみせる!!)

覚悟を決めた男は大きな声で「肉じゃがとカルパッチョ!」と注文する。

目の前のテーブル掛けから浮き出るように艶やかな色をした肉じゃがとカルパッチョが現れた。

男は渡された箸を持ち「頂きます!」と口に放り込み、言葉が出ないほどの激痛が口の中で走った。

(なんだ、この料理は!?美味しいとか不味いとかいう次元ではなく、死ぬ!!不味すぎて死ぬとかじゃなくて科学的な何かで、死ぬ!!)

科学的な何か。その答えは間違っていなかった。

目の前のマッドサイエンティストは楽しそうに説明する。

「どうだい、美味いかね?その肉じゃがには隠し味に、濃硫酸を加えたんだ。それにより じゃが芋に含まれるデンプンと濃硫酸が加水分解を起こして単糖類になるので甘味が増します。その後クロロ酢酸を加えてサッパリした酸味を演出。この時一緒に防腐剤として、硝酸カリウムも入れることで美味しさが長持ちする食欲をそそり食べる者の気持ちを考えた私らしい料理だ」

その説明に男は絶句した。

(塩酸に硝酸を加えたら王水!金やプラチナをも溶かすことができる有毒な物を何料理に入れとんのじゃ!!)

口の中を溶かす強力な溶解液に苦しむ男に、マユリは悪魔の料理の解説を続ける。

「ちなみに、こちらのカルパッチョには酸味と塩味と独特のにおいを求めてソースを特別仕様にしているよ。材料を式で表すとCH3 COOHにH C Nだ」

その言葉だけで男は死にそうになった。

(それはやり方次第では塩酸と青酸ソーダが出来るぞ!大量殺人を目論んでいるのか、この人は!!)

「うん?箸が止まっているぞ?私の料理はそんなに美味しくないかい?」

邪悪な笑みで尋ねる上司に、男は首を素早く横に振ると一気に肉じゃがとカルパッチョを腹の中に収めた。

 

 

 

数時間後。男が自室で冷たくなっているのが発見された。

 




今回の料理は『バカとテストと召還獣』のヒロイン、姫路瑞希の女子ごはんを参考に作りました。
間違ってもこのような肉じゃがとカルパッチョを作らないで下さい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 アニメ『BLEACH』の『護廷十三隊侵軍篇』にクズと呼ばれる男が登場していたら0話

・シリアスです。
・クズと呼ばれている男(霊骸)に本物が襲われるだけです。




技術開発局内廊下。

「ウワアアアアアアァァァッッッ!!」

マユリにクズと呼ばれている男は逃げていた。男を追うのは、マユリにクズと呼ばれている男(・・・・・・・・・・・・・・)だった。

「何で僕が僕に追われているんだ!」

(技術開発局のみんなの姿は見えないし!)

「縄道の三十、嘴突三閃(しとつさんせん)!」

「ヒィッ!?」

全力で逃げる男は男の鬼道に身体を器用に()じ曲げながら避ける。

「縄道の六十三、鎖条鎖縛(さじょうさばく)!」

「ギョエェイッ!?」

光る太い鎖が蛇のように巻きつき体の自由を奪おうとするのを、生存本能を発揮させて一時的に超人的な運動能力を得た男は壁を蹴りながらジグザグに走り、光る鎖を避ける。

(って二十番台の鬼道を詠唱破棄で発動しようとして暴発してしまうくらい鬼道が使えない僕が何で六十番台の詠唱しているんだよ!しかも詠唱破棄で!!)

「とりあえず、とりあえず逃げないと!そして外に助けを!!」

男は逃げ道を求め出口に向かう。普段ならいるはずの隊員達の姿はいない。

男が外に通じる扉に手をかける。後ろを振り返ったがもう一人の男の姿はない。

男は扉を開ける。

暗い外の空の下に、もう一人の自分がいた。邪悪な笑みを浮かべるもう一人の男は幽世閉門(かくりよへいもん)に手をかけ、抜いた。

 

 

ブシュウウウゥゥゥッッッ!!

 

 

「な、なぜ……僕が、僕を……!?」

左肩から右ももにかけて大量の血が周囲に飛び散る。崩れ落ちる男は疑問の言葉を呟く。

地面に倒れる男に、もう一人の男が語りかける。

「もう一人の僕。このまま死ぬのは心残りだろうから教えてあげるよ。僕は君の霊骸。君は僕の原種……つまり僕は君のまがい物、って奴だ」

いや、ともう一人の男は呟く。

「僕が!この僕が、本物の僕だ(・・・・・)!!」

霊骸の男は本物の男の斬魄刀を拾い、

 

 

バキッ!

 

 

握りつぶした。

「あ!……あぁ……!?僕の、斬魄刀……――――」

おびただしい出血をした所に自らの斬魄刀が破壊されたことに心が折られた男は、……そっと目を(つむ)った。

「ふふふ!ふははははははっ!!」

目の前で倒れる本物の男の姿を見て、霊骸の男は笑った。

「これで僕が!この僕が……十二番隊隊士・葛原(くずはら)粕人(かすと)だ!!」

高笑いをしながら霊骸の男は本物の男から姿を消した。

 

 

 

「…………、大丈夫かな?」

本物の男はそっと目を開けて周囲を確認する。誰もいないことを確認すると(おもむろ)に立ち上がる。

「ふうっ、霊骸というのはよく分からないが。とりあえず僕が僕と同じように詰めが甘い男でよかった。そもそも幽世閉門ってナマクラだし」

本物の男ははだけた赤く染まった服をビシッと整える。

「ふう、涅隊長には感謝かな?隊長のおかげで死んだふりも上手くなったもんだ」

そう言って本物の男は懐から血のりを入れた袋を取り出す。そして背中に隠していた斬魄刀を取り出す。それは壊されたはずの男の斬魄刀・幽世閉門だった。

「今さっき壊された斬魄刀もレプリカだしな。……本当に『備えあれば憂いなし』だね。隊長のおかげで僕も用心深くなったもんだ」

さて、と男は本物の幽世閉門を腰に差す。

「今の瀞霊廷は僕の力では何にも出来ない最悪な状態にあるみたいだから……どこかに姿を消しておこう。僕が姿を現したところで何にも出来そうにない。足手まといだ」

はぁ~と大きなため息をついた男は全ての決着がつくまで一人静かに身を隠した。

 




『番外編 アニメ『BLEACH』の『護廷十三隊侵軍篇』にクズと呼ばれる男が登場していたら』の感想を見て男と男(霊骸)の違いが書きたくてこんな話を書きました。

お楽しみいただけたのなら幸いです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十四話 結界丸

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。


マユリにクズと呼ばれている男はまたもマユリに呼び出されていた。

「クズ。これを渡しておこう」

そう言ってマユリが渡したのは一見ただのビー玉だった。

「それは結界丸(けっかいがん)と言ってな。『解放!結界丸!!』と叫ぶと半径一メートルに半透明の堅固な結界が半球体で展開される」

「……はぁ」

(何か裏があるな……絶対に)

散々実験台にされていた男は一応聞いてみる。

「ところで涅隊長。これは試されているので?」

「いや、まだない。ただ私の計算が正しければ、隊長格の卍解にも数回くらいは耐えられる耐久力はあるはずだ」

(この流れって……)

男は前回のことを思い出す。

(確か、書類を十一番隊の更木隊長に渡す任務を与えられた時、背中に更木隊長を挑発する内容の紙をいつの間にかつけられ無理やり戦わされたっけ。あの時は何とか命からがら助かったけど……本気になった更木隊長と戦うなんて二度と御免だね!)

幽世閉門の力で何度も生き返っている男ではあったが、絶命する前後の記憶があいまいなため、自分が死んだということに気づいていなかった。

幽世の門(死んだ者が通るとされる死の世界への門)の前で幽世閉門を使っている記憶がない男は、目の前の上司の言葉を待つ。

「そうだ。この書類を」

(まさか。十一番隊に届けろ、とか?)

身構える男に、マユリは続ける。

「七番隊の狛村左陣(こまむらさじん)に届けてくれたまえ」

「な、七番隊?」

男の口から本音が漏れる。

今までの流れからだと、『男の知らない状態で相手を挑発し、自らの発明品を発揮しなければならない状態へと追い込み発動させる』という流れだったからだ。だとすれば、それは好戦的な十一番隊が仕掛けやすい。

されど七番隊は規律の高さで有名だ。ましてや七番隊隊長・狛村左陣は更木剣八と違い、そう簡単に挑発に乗るような男ではない。卍解にも耐えられる実験をしたいのなら一番不向きだと男には思えた。

「ん?何か行きたくない理由でもあるのかい?」

「い、いえ……そのようなことは!」

男は慌てて首を振り、書類を受け取る。

自分の力量以上の仕事を割り振られたのならまだしも、書類を届けるという簡単な仕事で上司の命令を断る理由はない。

怪しく思うも男は書類と渡されたビー玉、結界丸を持って七番隊宿舎に向かった。

 

 

 

七番隊宿舎に着いた男は背中を触る。

(よし、何もない)

背中に何もないことを確認した男は、目の前の宿舎に足を運んだ。

 

 

 

「わかった。涅隊長には『狛村が了解した』と伝えておいてくれ」

書類を受け取った犬顔の巨漢の隊長は使者である男に優しく言った。

「……」

「どうかしたかな?」

え?それだけという顔をする男の顔を見て、犬顔の隊長は尋ねる。

「あ、いえ。狛村隊長。僕、狛村隊長を怒らせることはしてないですよね?」

「ん?別に気に障ることはないが?」

男の質問の意図が分からず首を軽く傾げる狛村左陣。

「あ、そうですか。無礼なことを聞いてしまったこと、お許しください」

男は深々と頭を下げると七番隊宿舎を後にした。

「……何もなかった」

何もなかったことに男は身体を震わせる。

「涅隊長のことだ。絶対に狛村隊長を怒らせて卍解させるように仕向けて結界丸を使うように誘導するはず」

しかし男の予想は外れた。卍解を使わせるどころか、普通に書類を手渡すことが出来た。

そして。男はある結論に至る。

「そうか。結界丸はただ単に作っただけ。そして狛村隊長に書類を届けるのも単なる偶然。僕が気にし過ぎていただけか」

気分が楽になる。ふと空を見る。先ほどまで晴れていた空が一気にどんよりとした雲に覆われる。そして、バケツをひっくり返したような豪雨になった。

「うわ~、マジかぁ。傘持ってないよ……そうだ!」

男はあることを思いつく。

「この結界丸は傘代わりにも使えるかも。よし、解放!結界丸!!」

男がビー玉を握りしめて言い放つと半透明の結界が男を中心に展開される。

半透明の結界は雨を弾いた。

「おぉ、これはいい。これで雨に濡れずに帰れるぞ!」

意気揚々で男は涅マユリに書類を届けたことを報告するため帰路についた。

 

 

 

「マユリ様」

マユリの部屋を副隊長の涅ネムが訪れていた。脇には男の遺体が。

「マユリ様がクズと呼んでいる男が隊舎前で死んでいました」

「わかった。そこに捨てておけ」

「かしこまりました、マユリ様」

そう言って憂い顔の女性は文字通り男の遺体を捨てるように雑に置いて部屋から立ち去った。

「う~む、窒息死だね」

男の遺体を見て、マユリは死因を突き止め、なぜこうなったか思いつく。

「結界丸はどんな攻撃も通さない。すなわち空気の流れも遮断するから徐々に結界内の空気が薄くなり、最後は窒息死に至ったわけか。……穴がないのが穴だったとは……」

マユリは大きなため息をつくと邪魔になった男の死体を外に投げ捨てた。

 

 




最後のオチ。最初は男の想像通り更木剣八を挑発する内容を”頭”につけて発動させようと思っていたのですが、『本当の悪意とは本人がそれと気づいていないこと』というのが頭に浮かんだので、マユリも想定していない死に方にしてみました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 なぜマユリにクズと呼ばれている男が十二番隊に来たのか

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

注意。この話に登場する卯ノ花烈の考えはあくまで筆先文十郎版のものです。読者の皆様の卯ノ花隊長像が崩れる可能性はあるかもしれません。そうなった場合は先にお詫びの言葉を述べさせていただきます。



 数ヶ月前。四番隊隊長、卯ノ花(うのはな)(れつ)の自室。

「……」

「……」

 マユリにクズ呼ばわりされることになる男の目の前には上司である卯ノ花烈がいた。

「考えはまとまりましたか?」

「……」

 優しく問いかける女上司に、男は口を閉ざしたままだった。そして、ゆっくりと口を開く。

「四番隊から十二番隊に異動する、という件ですよね?やっぱり僕は不要ですか?」

 今にも消え入りそうな男の言葉に、女上司ははっきりと言った。

「貴方は人一倍努力をされています。そこは誰もが認めるところではあります。しかし残念ながらここで貴方がいくら努力しても隊の足手まといにならない程度。そう評価せざる得ません」

「こ、これまで以上に努力します!ですから――」

葛原(くずはら)さん」

 口調こそは丁寧なものの、威圧感がにじみ出る女上司の言葉に、男は言いかけた言葉をとめるしかなかった。

「努力を(かろ)んじるつもりはないですが、人がその場で輝くには才能も必要ではあります。もちろん努力は才能を上回る要素ではありますが、それでも人には得手不得手があるのも事実です」

「……」

「葛原さん。貴方は努力家です。それは私を含め隊の皆が認めているところです。しかし貴方はその努力に比例するだけの仕事ができているとは言い(がた)い」

「で、でも!」

 尊敬する女上司の言葉は痛いほど理解できた。そして自分を思ってあえて厳しい言葉を投げつけていることも。それでも男は言わずにはいられなかった。

「でも僕はそれでも、卯ノ花隊長の下で働きたいんです!卯ノ花隊長のように、…多くの人の役に立てる人に、僕はなりたいんです!ですから、僕をここに……四番隊に置かせてください!」

 男は涙を滝のように流し頭を下げる。それでも尊敬する上司は厳しく言う。

「結果の伴わない努力はただの自己満足です。そして貴方は努力に見合うだけの結果を出せていない。結果を出せない者は不要と言われても仕方がない。それが現実です」

「……ッ!」

 尊敬する上司にはっきりと向いていないと言われ、男はショックで顔を上げることができなかった。

 そんな男に卯ノ花烈はそっと肩に手を置く。

「貴方はさっき言いましたよね。私のように誰かの役に立てる人に、と。私の見立てでは貴方は十二番隊でこそ輝けると私は見ています。貴方は努力家です。そして十二番隊という特殊な環境でこそ貴方が輝ける、『誰かの役に立てる才能』があります」

「十二番隊で、『誰かの役に立てる才能』……ですか?」

 そう尋ねる男に女上司は「はい」と笑顔で答える。そして続ける。

「葛原さん。これだけは忘れないで下さい。貴方は四番隊に向いていないから十二番隊に異動になるのではなく、十二番隊で貴方の才能と努力が人のためになるからこそ十二番隊に異動になるのだと。そして、十二番隊に必要な存在になるだけの力を持っていると私が確信を持っていることを」

「……ッ!」

 男は何も言えなかった。それは悔しさではなく、嬉しさからだった。

 尊敬する隊長が自分を(うと)んで異動させるのではなく、葛原(くずはら)粕人(かすと)という人間を認め、かつ葛原粕人という存在を思っての配慮に。

 

 

 卯ノ花隊長がここまで自分を評価して下さっているのに自分がそれに応えなくてどうする!

 

 

 そう考えた男は四番隊への未練を断ち切り、十二番隊への異動を素直に受け止めた。

 その後十二番隊で隊長の(くろつち)マユリに色々(・・)されるわけだが、それはまた別の話である。

 

 




皆様の卯ノ花隊長像が崩れなければ幸いです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 卯ノ花烈が涅マユリの元を訪れるようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

前回投稿させて頂いた『番外編 なぜマユリにクズと呼ばれている男が十二番隊に来たのか』の感想を読んで今回の話を作りました。
前回同様皆様の卯ノ花隊長像が壊れたら先にお詫びいたします。



 某日。

 護廷十三隊で大規模なインフルエンザが発生した。今まで発見されたものではない型のインフルエンザの威力は凄まじく、医療救護専門の四番隊を総動員しても対応できるものではなかった。ましてや四番隊内でも感染者が出ている状況では十分な医療行為ができるはずもなかった。

 感染者は次々と重篤化(じゅうとくか)し、動けた者も次々と感染していく。死者が出るのも時間の問題。その時だった。

 技術開発局の長にして十二番隊隊長、(くろつち)マユリが特効薬を開発。それを服用したところ見る見るうちに感染者が回復に向かったのだ。

 

 救護を専門とする四番隊の隊長、卯ノ花(うのはな)(れつ)はこの危機的状況を救った涅マユリにお礼を言うため、十二番隊隊舎を訪れた。

 

 

 

「涅隊長。この度のインフルエンザに対する特効薬の提供、本当にありがとうございます。おかげでこの危機的状況を回避することはできましたわ」

「そうかい。それは何よりだ」

「ふふふ」「ははは」と笑いあう二人の隊長。その光景を、周りの隊員は胃を抑えながら見ていた。

「ところでよくあんな短時間であのような特効薬ができましたね。流石は涅隊長と言ったところでしょうか(葛原(くずはら)さんを被験者にして何度も殺した結果とはいえ)」

「いやぁ、なに。あの程度の病原菌に対する薬を作ることなど私にとっては朝飯前だヨ(あのクズを何度も殺しただと?あのクズを被験者にしたのは確かだが、殺したのは一回だけだ!)」

 二人は楽しそうに笑顔で話す。しかしお互いの心の声は微妙に漏れていた。それを聞かされた隊員たちは胸を抑えて苦しんでいたり、耳を塞いで聞かないようにしていた。

 その後一言二言話した後、四番隊隊長は「それでは失礼します」とマユリに背を向ける。

「あ、卯ノ花隊長」

 かつての上司に、マユリにクズと呼ばれている男が頭を下げる。

「葛原さん。元気そうで何よりです」

「あ、いえ……」

 元部下の身体から、自分の隊に居たときには見えなかったオーラが見えた。そんな男を見て元上司はニコリと笑う。

「私の言った通りでしょう?十二番隊(ここ)なら貴方の才能と努力が発揮されると」

「あ……はいッ!」

 一瞬何を言われていたのか分からなかった男は一瞬固まったものの、異動の前の話を思い出し、目の前の元上司の言葉通りだったと力強く答えた。

 その後、男は隊舎の前まで元上司を見送った。

 

 

 

「隊長。葛原隊士にそこまで気を配られていたんですね!私てっきり葛原隊士の能力があまりにも低い。だから十二番隊なら被験体として活躍できると考えて十二番隊に異動にさせたのだと思ってました」

 上司の後ろで男とのやりとりを見ていた四番隊副隊長、虎徹(こてつ)勇音(いさね)が感激しながら言葉を発する。

「……」

「……隊長?」

「……ええ。その通りですよ、勇音」

 威圧感を漂わせる優しそうな笑みに、勇音は「さっきの間は何ですか!?」とは言えなかった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十五話 融合装置

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

今回の話は皆様が思う涅マユリ像が崩れるかもしれません。そうなった場合先にお詫びいたします。


十二番隊研究所

「ではこれから融合装置による融合実験を始めるよ」

「はい。マユリ様」

人2~3人分は入れそうな巨大なポリバケツ。その前には

「む~、む~っ!」

「うむ~、む~っ!」

猿轡(さるぐつわ)をされたマユリにクズ呼ばわりされている男と黒崎一護の義骸に入ったコンが縛られて床に転がっていた。

 

 

 

数時間前。

今回の実験のために捕獲したコン(一護の義骸)が研究所に連れて来られた。

「よし、後はこいつに融合素材が入れるだけだ」

マユリは自らの発明品を撫でる。

(くろつち)隊長。このポリ……いや、世紀の大発明は何なのでしょうか?」

「ほお。これが世紀の大発明であるという事はクズでもわかるか」

少し満足した様子でマユリが続ける。

「これは融合装置。この中に融合したい物を入れると中に入った物が融合されるという仕組みだ。これさえあれば無重力でしか作ることが出来なかった重い金属と軽い金属との融合金属などが簡単に作ることが出来る」

自らの発明品にうっとりする上司に、男はとんでもないことを呟いてしまう。

「ふ~ん、こんなポリバケツが――ッ!」

男は慌てて口を抑えたが、遅かった。マユリの方を見ると、そこには目は一切笑っていない上司の見る者を震え上がらせる笑顔があった。

「あいにくこの融合装置は人体実験をしてなくてね。よし決めた。今回の実験の融合素材のもう一つはお前に決めたよ。ネム、そいつを黙らせろ」

「く、涅隊長。待っ、て……ッ!?」

男はそれ以上喋ることが出来なかった。何故ならば副隊長のネムがいつの間にか男の後ろに回り、首を絞めていたからだ。

男は息苦しさと背中に伝わる胸の感触に苦悶と快楽が入り混じった顔で、気絶した。

 

 

 

「では実験を開始する。ネム、始めろ」

「はい。マユリ様」

憂い顔の副隊長は巨大なポリバケツに実験素材二人を放り込むと蓋をして融合装置のスイッチを入れる。

巨大なポリバケツが上下左右に激しく揺れる。

「く、苦しい!誰か助けて!!」、「目が、目が回る!」、「いやぁ!何か、何か白い液体が!!」、「ひぃ!そ、そこは敏感、敏感なのぉ!」、「「出して!ここから出してッ!!」」

ポリバケツの中に入れられた男達が叫ぶが実験素材に同情することはない科学者は、悲痛な叫びを無視する。

数分後。激しく動いていたポリバケツがプシュー!という音と共に動きを止めた。

「現れるがいい!融合装置第一号よ!!」

マユリの歓喜の声に応じるかのように、ポリバケツの蓋をバンッ!という音と共に融合されたものが跳びながらマユリの前に姿を現した。

「ハ~イ、ボク――」

千葉県浦安市にある夢の国にいそうな融合装置第一号が言い終わる前に、マユリは現れた融合装置第一号を巨大ポリバケツの中に入れて急いで蓋を閉めた。

「ネム!急いで分離装置のボタンを押せ!今すぐに!!」

「はい!マユリ様!!」

大量の冷や汗を流すマユリと同じようにネムも焦る気持ちを抑えて分離作業に入った。

 

 

 

その後。二人が元に戻ったことを確認したマユリは、融合装置を処分した。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十六話 仮想空間潜入機

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

作品内の元ネタが後書きにあります。
元ネタが全て分かった人は凄いです。


マユリにクズと呼ばれている男はマユリの部屋にいた。

「あの、(くろつち)隊長。どうかされましたか?」

「……」

目の前の上司はふぅ~と息を吐いてしゃべろうとしない。

「あ、あの……。涅隊長?」

「お前。強くなるつもりはないか?」

「え?」

男は上司の意図が分からなかった。

「強くなりたいのか、なりたくないのか?どっちだ!?」

「そ、そりゃあ強くなりたいですよ!」

「そうか、ではこれで強い者と戦って己を鍛えるといい」

そう言ってマユリはCD型のゲーム機を取り出す。

「これはゲームの中に入って対戦することが出来る機械、その名前も仮想空間潜入機。これで『BLEACH』のゲーム中に飛び込んでその中に登場する人物と戦って己を鍛えるといい」

「はぁ、ところで涅隊長」

男は恐る恐る尋ねる。

「……これを使っている最中、ゲーム内で死んだらゲーム内から出て来られない、ということはないですよね?あと仮想空間潜入機を使っている最中にスイッチ切られたらゲーム内から出られない、ということも」

「なんか言ったか?」

大きく目を見開く上司。その怒りの表情は「私がそのようなミスをすると思っているのか?」と書かれてあった。

「あ、いえ……何でもないです」

マユリの怒りを察して男はあっさり引き下がる。

「おお、そうだ」

マユリは男にゲーム機を手渡すと思い出したのか、再び口を開く。

「いいか、クズ。それはBLEACH専用の体験機だ。BLEACH以外のゲームをするなよ!それ以外のゲームをするとゲーム機が拒絶反応を起こすからな」

「きょ、拒絶反応!?」

そんな危険な物を渡すなよ!と突っ込むのを慌てて口を塞いで止める男。

それに気づいていないのか、マユリは続ける。

「いいか、絶対に別のゲームを入れるんじゃないぞ!絶対に、絶対にだぞ!!」

「わ!わかりました!!」

奇怪な顔の上司のドアップに、男はたじろくしかなかった。

 

 

 

部屋に帰った男は渡されたゲーム機をセットする。

「涅隊長がBLEACH以外のゲームするなって言っていたな……って言われると確かめたくなるのが人の情、ってやつでしょ」

男の顔が邪悪にゆがむ。

「ここに『女子高生極楽大作戦』というゲームがある。これは総勢48人のの女子高生を攻略してエロエロなことをさせるという最大49Pも可能なエロゲー!これでゲーム内の女性全員にいやらしいことをして男の夢、大ハーレム天国を築いてやる!!」

男は己の野望という名の欲望を掲げ、『女子高生極楽大作戦』をセットした。

 

 

 

「ん?」

男は目を覚ます。

そこは見覚えのない不気味な雰囲気が漂う洋館。すぐ傍には。

シャアアアァァァ!ウガアアアァァァ!

大量のゾンビに囲まれていた。

「ぎゃあああぁぁぁっっっ!バイ○ハザード!!」

その後その場にいたゾンビを何とか蹴散らし、洋館を脱出した男だったが。

その後男を待ち受けていたのが、地獄だった。

洋館を脱出したと思ったら別の洋館に連れて来られ巨大なハサミを持った少年に追い掛け回される。

ハサミを持った少年を命からがら撃退したかと思いきや、次はボロボロの校舎に飛ばされ、赤い服を着た不気味な少女に、熱した油をかけられそうになるなどおぞましい方法で殺されかけた。

それが終わったかと思ったら今度は雪が吹き荒れるペンション内で行われる惨劇に巻き込まれた。

「ひぃ、ひぃ、ひぃ……」

ゲーム内で何度も殺され、何度も生き返りゲーム内の敵を撃退、謎解きを行いながら男はゲーム内を彷徨(さまよ)う。

そして。

「あぁ!」

男がペンションに来た犯人を捕まえ、外に出た時。『出口』と書かれた空間が出現した。

「やったぁ!これで帰れる!!」

男は迷わず出口と書かれた空間に飛び込んだ。するとそこは瀞霊廷の街中だった。

「やったぁ!元に戻ってこれた!!」

男が感情のまま喜びを表現する。その時だった。

 

 

『残念。外れだよ』

 

「え?」

聞き覚えのある、否。忘れようとも忘れられないこの事件の張本人、涅マユリの声だった。

男の目の前にはマユリの卍解、金色疋殺地蔵(こんじきあしそぎじぞう)がいた。

男の頭の中にミッションが浮かび上がる。そのミッションに男は固まる。

それは『複数の金色疋殺地蔵から一時間生き延びろ』というものだった。

「ふ、複数!?」

男は周囲を見る。そこには毒を撒き散らし、建物を壊しながら自分の方へやってくる金色疋殺地蔵たちの姿があった。

「ウワアアアァァァァァァッッッ!!」

脳内のミッションを達成するためではなく、男はただ単純に命惜しさに逃走を開始した。しかし毒を撒き散らしかつ建物を壊すことに躊躇がない金色疋殺地蔵に、男が逃れられるわけがなく何度も何度も殺されていった。

 

 

 

男はゲーム内で数え切れないほど殺され、やっとの思いで生還した。

その後男は数日の間エロゲーが出来なくなったのは言うまでもない。




元ネタです。

・女子高生極楽大作戦
→『名探偵コナン』、『闇の男爵(ナイトバロン)殺人事件』に登場した金城(かねしろ)玄一郎(げんいちろう)が作っていたソフトの名前。

・攻略対象が48人。
→AKB48。

・巨大なハサミを持った少年
→『クロックタワー』のシザーマン。
狡猾(こうかつ)で殺害方法も多彩。様々な方法でプレイヤーを恐怖のどん底に突き落としてくる恐怖の殺人鬼。

・赤い服を着た少女
→『コープスパーティー』の篠崎(しのざき)サチコ。
とある事件で死亡&生きた人間を妬むようになり、異界に連れてこられた人間を残忍な方法で殺していく。

・ペンション内で行われる惨劇
→『かまいたちの夜』。
サウンドノベルというジャンルを確立させたサスペンスホラーゲーム。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十七話 招く猫

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。


技術開発局で一人の男が十二番隊隊長・(くろつち)マユリの部屋を訪れていた。

「涅隊長。お呼びとのことで参りました」

「おお。クズ、良いタイミングで来るじゃないか」

「あ、いや。僕はクズじゃ……いえ、何もありません」

男は言いかけた言葉を飲み込む。ここで「クズじゃない」と言えば怒りを買うと思ったからだ。そしてまずいタイミングで来てしまった自分の不幸を男は呪った。

「と、ところで涅隊長。今回はどのような世紀の大発明を?」

「世紀の大発明?おぉ、世紀の大発明だとも!」

奇怪な顔の技術開発局局長は大きく目を見開いて男を見る。そして懐から黒猫を模した置物をを取り出した。

「見ただけで理解できないクズに、この私がわかりやすく説明してやろう。これは招く猫。招きたい人の名前を呼んでスイッチを入れると、招き猫のような仕草をして人を招き寄せるという優れものの発明品だ!」

「ああ、ドラ○もんのカ○カムキャットですね――ッ!?」

男は慌てて口を押さえるが、遅かった。何故ならば目が笑っていない笑みを浮かべながらマユリが刀を抜こうとしていたからだ。

()(むし)れ『疋殺(あしそぎ)――」

「い、いいい、いいえ!何でもありません涅隊長!!招きたい人を招くという僕ら凡人には永久に思いつかない発想を思いつきかつそれを実現してしまうその発想力と実現能力!!流石は涅隊長です。これぞまさしく天下無双の頭脳を持つ天才科学者、涅マユリ!!!」

バクバクとなる心臓の鼓動を感じながら賞賛の言葉を贈る男に、マユリは「まあ、当たり前だがネ」と満足な笑みを浮かべて刀を元に戻す。

「だがまだ生物ではためしてなくてネ。クズ、誰か呼びたい人間はいるか?」

「呼びたい人、ですか?」

男は考える。男が呼びたい人間はいる。しかしその者が仕事中だったりして手が離せない状態なら迷惑をかける。

「いいからさっさと呼べ!」

「は、はい!」

イライラする上司に促され、男は呼びたい人の名前を叫びながらスイッチを押す。

「五番隊の夜野(よるの)朋花(ともか)さん!」

黒い猫が招く仕草をする。すると二人の元にある者が現れた。

「あの~すみません」

二人が振り返るとそこにはツインテールの子どものような女性が立っていた。

「よ、夜野さん!?」

「久しぶりだね、葛原君」

朋花は少しだけ寂しそうな笑みを浮かべる。

「実はいかなければならない所があって。本当は既にいく予定だったのだけど何故かこちらに来なければならない気がして来ちゃったの」

「え、それは……」

悪いことをしてしまったと男は悔やむ。

「いいの。構わないわ……実は一人でいくのは寂しいと思ってたから。葛原君が一緒にいってくれるなら私も嬉しい」

「え?」

突然の誘いに男は上司の顔を見る。

「行ってやれ」

マユリは大きくため息をつくと、部下に彼女についてあげるように促す。

こうしてマユリは二人を見送った。

「ガラにもないなぁ。この私が恋の手助けをするなど……」

そして数分後。

「く、涅隊長!葛原がここにいると聞いて来たのですが!」

息を大きく切らしながら四番隊の男が現れた。

「どうしたんだネ?あのクズなら五番隊の夜野朋花とかいう女と共にどこかに出かけていったが?」

「え?」

マユリの言葉を聞いた瞬間、男は後ずさり壁に倒れこむ。

「どうしたんだ、いったい?」

「夜野さん。昨日の夜、亡くなったんですよ……」

「な、何だと!?」

その言葉にマユリは驚きを隠せなかった。亡くなったとされる彼女をつい先ほどまで見ていたからだ。

「そして。死亡解剖のために四番隊で安置されていた夜野さんの遺体がどこかに消えてしまったんですよ。まるで誰かに呼ばれたかのように!」

「……」

四番隊の男の説明に、マユリは先ほどの彼女の言葉を思い出す。

 

『実は”逝”かなければならない所があって。本当は既に”逝く”予定だったのだけど何故かこちらに来なければならない気がして来ちゃったの』

『いいの。構わないわ……実は一人で”逝く”のは寂しいと思ってたから。葛原君が一緒に”逝って”くれるなら私も嬉しい』

 

「……」

「あ、あの。涅隊長!?」

四番隊の男の言葉は、放心するマユリの耳には届いていなかった。

 

 




夜野朋花(よるの ともか)
筆先文十郎オリジナルキャラ。マユリにクズと呼ばれている男とは同期にあたる。男が密かに憧れていた。
元々身体が丈夫というわけではなく、慣れない仕事で病気がちになり亡くなった。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十八話 忘却ドリンク

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。


技術開発局で一人の男が十二番隊隊長・(くろつち)マユリの部屋を訪れていた。

「涅隊長。お呼びとのことで参りました」

「おお。クズ、良いタイミングで来るじゃないか」

「あ、いや。俺はクズじゃ……いえ、何もありません」

男は言いかけた言葉を飲み込む。ここで「クズじゃない」と言えば怒りを買うと思ったからだ。そしてまずいタイミングで来てしまった自分の不幸を男は呪った。

「ところでクズ。お前、忘れたい記憶というものはあるか?」

「忘れたい記憶、ですか?……ッ!」

男は思わずその場にうずくまる。目の前の上司に色々(・・)とされた記憶が(よみが)ったからだ。

「例えばどんな記憶だ?」

尋ねる上司に思わず、「涅隊長にされたことです」と言おうとする言葉を飲み込んで、立ち上がった男は「す、好きだった女性に振られたことですかね」と嘘をつく。

「なるほど。それは忘れたい記憶だね」

といいながら男に同情する様子もないマユリは、わざとらしく「そんなクズのために私はこのような物を開発した」と懐から何かを取り出す。

「これは忘却ドリンク。これを服用すれば嫌な記憶なんて最初からなかったことに出来るほど記憶がなくなる薬だ」

「はあ・・・・・・」

忘却ドリンクを受け取った男は怪しく光る紫の液体を見る。

(これ飲んだ瞬間、血を吐いて死ぬとか溶けて無くなるとか……ないよね)

「下らんことを考えなくていいからさっさと飲め、このクズがァ!!」

「は、はい!」

上司に怒鳴られ男は忘却ドリンクを一気に飲み干す。

「ゴクゴクゴクッ。あ、意外と美味しいですね。……あれ?」

男は頭を傾げる。

「あれ、涅隊長。僕……なんで隊長の部屋に来ていたんでしたっけ?」

忘却ドリンクによってマユリに呼び出されたことを忘れた男は、目の前の上司に尋ねる。

「おおぉ、早速効いたか」

「効いた?何がです?」

忘却ドリンクを飲んだことすら覚えていない男はさらに頭を傾げる。

「いや、なんでもない。それよりクズ、そのビンは私が捨てておいてやろう」

「あ、ありがとうございます!」

男は空になった忘却ドリンクのビンをマユリに渡し、「失礼します」とマユリの部屋を後にした。

 

 

 

翌日。

「あ~、あぁ~、あはははははっ~」

条件反射で研究所に足を運んだ男は、よだれを垂らしこれ以上ないアホ面をさらしていた。

阿近(あこん)を始めとする研究員達が何を聞こうとも男は意味不明な言葉を繰り返すだけだった。

「う~む」

マユリはアホ面をさらす男を遠くからジッと見る。

「うむ。どうやらあの忘却ドリンク。直後の記憶だけではなく、自分の名前も思い出せず、言葉を話せなくなるほど記憶障害に陥ってしまうみたいだな。改良せねば」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 マユリはクズと呼ぶ男にプレゼントをするようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

あと今回の話は極力抑えてはいますが、悪趣味です。もう一度言います、悪趣味です。


研究所にマユリにクズと呼ばれている男が転がるように入ってきた。

「す、すいません。遅れました!」

「遅れたですむか!仕事を何だと思っている、このクズが!!」

男が研究所に入るなり、研究所の全責任者・(くろつち)マユリの怒号が響く。

「決められた時間内に決まった人材がいない。それは周りの手順をも狂わし終いには全体を狂わしかねない。例え簡単な雑務しか任されていないクズでも、いや……お前のような単純な仕事しか任されていない者だからこそ、時間を守るくらいはきちんとしろ!」

「は、はい!申し訳ありません!!」

頭を下げて謝る男に、マユリはすぐに仕事に就くように指示した。

 

 

 

「はぁ。何とか終わったかぁ~」

任された仕事は何とか終わらせたものの、マユリに叱られたことを未だに引きずっている男は大きくため息をついた。

「あんなに怒らなくたっていいのに。って、まぁ遅刻をした僕が悪いんだし。涅隊長の言うことはもっともだ。だけどなぁ」

自分が悪いと分かっている男だったが、心では消化し切れていない。

ポンッ。

「どうした、クズ?哀愁(あいしゅう)(ただよ)わす背中を見せて」

「く、涅隊長!?」

独り言を言っていて周りに注意が向けていなかった男にとって、突然のマユリの出現は心臓が口から飛び出るほどの衝撃だった。

「あ、あの……涅隊長。ど、どうしたので?」

男は冷静を(よそお)いなかがら肩を叩いた上司に尋ねる。

「……」

尋ねられたにも関わらず、マユリは視線を下におろして話そうともしない。

悲しい表情を浮かべる上司に、男は心配そうに尋ねる。

「……あ、あの。涅隊長?」

「お前は一生懸命やってくれているのになぁ……」

「え?」

男は思わず固まる。目の前の上司は男が十二番隊に配属されてから一度も褒めたことはない。少なくとも本人は褒められた記憶がない。能力はあるものの性格にムラがある涅マユリが男を評価するなど、ありえないことだった。

そんなどう動けばいいのか戸惑っている男に、マユリは続ける。

「それなのに、私はちょっと遅刻しただけの部下のミスを許せず怒鳴り散らすという愚行……あぁ、恥ずかしいことこの上ない!」

奇怪な顔の隊長は頭を抑えて自分がやった行為を嘆く。

「……ッ!?」

男は完全に言葉を失った。

(これは、何だ?隊長は何か怪しい物でも食べたのか?それとも風邪か何かか?……ハッ!もしかして、今日は地球最後の日なのか!?)

パニックになる男にマユリは懐からある物を手渡す。それは目覚まし時計と言ったらこのタイプだろう!という鐘がついた目覚まし時計だった。

「これをプレゼントしてやろう。この目覚まし時計は渡し自らが作ったものだ。これならきっと起きれるはずだ」

「は、はぁ……ありがとうございます」

「じゃ、明日は遅刻するなよ。まぁ、その目覚まし時計を使えば遅刻をするなどありえないことだが」

そう言うと、マユリは男の前から姿を消した。

「……」

男も目覚まし時計をくまなく観察した後、研究所を後にした。

 

 

 

「う~ん」

自室に戻った男はマユリからプレゼントされた目覚まし時計を調べていた。

「怪しいところはないなぁ」

男は汗をぬぐって机の上に目覚まし時計を置く。

「隊長が善意で目覚まし時計(これ)をくれるか?そして遅刻した僕を叱責した自分を()いるなんて……怪しすぎる!それに……」

男はマユリのある言葉が引っかかっていた。

 

『じゃ、明日は遅刻するなよ。まぁ、その目覚まし時計を使えば遅刻をするなどありえないことだが』

 

「なぜこの目覚まし時計を使えば遅刻することなどありえないか、だ」

何かをするとき、決まって裏があることを知っている男はあれこれ想像する。

「絶対に目を覚ますとしたら、爆発?しかし火薬な霊力など爆発する要素はこの目覚まし時計には見つからなかった。だったら大音量?しかし僕が使っている目覚まし時計も結構音量はある。なのに『ありえない』と言うのだから絶対に何かあるはず!」

その後男はくまなく目覚まし時計を調べたが何も見つからず、調べ疲れて机に頭をおいて寝てしまった。

そして、その時がやってきた。

 

ふぬぉおおおおおおおお!!ふぬぉおおおおおおおお!!ふぬぉおおおおおおおお!!ふぬぉおおおおおおおお!!ふぬぉおおおおおおおお!!ふぬぉおおおおおおおお!!ふぬぉおおおおおおおお!!

 

むさくるしいボディビルダーの掛け声のような声が目覚まし時計から大音量で発せられる。

「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」

しかも運悪く、男は目覚まし時計を置いた机で寝ていた。むさくるしい男の声がダイレクトで耳に届く。

「うぎゃああああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」

男は慌てて目覚まし時計のスイッチを切った。

「こ、こんなの聞かされたら誰だって起きるわ!!」

(やはりあの人が何の意味もなく善意で人に物を渡すわけがない!そのことに気づかないとは、不覚だった!!)

 

 

 

翌日。

目覚まし時計の大音量は他の者の耳にも届き、男が自室で筋肉隆々の男といかがわしい行為をしていたという噂が立てられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十九話 戦闘能力増強クリーム

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。


「涅隊長。阿近さんが気になることが――」

「出来た、出来たぞ!」

阿近から指示をあおいでくれと頼まれた男がマユリの元を訪れると、マユリは歓喜の笑いを浮かべていた。そして男はまたまずい所に出くわしたことを悟り、気づかれないように後ずさる。

だが、目の前の悪魔のような上司にはお見通しだった。

「逃げるんじゃないよ!」

振り替えるや否や、ロケットのように発射されたマユリの左腕が男の首を掴む。

「うおぉぇッ!?く、涅隊長……逃げるなんて」

男は左腕を外すと、逃げられなかったという気持ちを隠して冷静を(よそお)う。

「だ、第一……、隊長の実験体になることが唯一の生きがいである僕が、隊長の素晴らしい発明品に立ち会えて喜ばないわけがないじゃないですか」

「……それもそうだな」

マユリは左腕を外し、左腕に注射をして左腕を復元させる。

「では、私の作品の実験体になることが唯一の生きがいであり輝ける人生のクズに、私が華を添えてあげようじゃないか!」

そう言ってマユリは懐から何かを取り出す。それはクリームタイプの化粧品が入っていそうな容器だった。

「当ててみろ、と言ったところでクズだと百年たってもわからんだろうからこの私が説明してやろう。これが戦闘能力増強クリーム。これを顔に塗ってから丸い物を見ると狼男に変身するというものだ。このクリームの凄いところはただ狼になるのではなく、その者が持っている本能を爆発させるため本来眠っている力をフルに出せる。どうだ、素晴らしい発明品だろう?」

「ああぁ、これってちょっと戦闘能力を増強させるという部分は違いますけどドラ○もんのおおかみ男○リーム――ッ!?」

男が何かを言おうとしたが、言えなかった。何故ならば目が笑っていない笑みを浮かべながらマユリが刀を抜こうとしていたからだ。

()(むし)れ『疋殺(あしそぎ)――」

「い、いいい、いいえ!凄いです凄いです涅隊長!!顔に塗っただけで狼になり戦闘能力を増強できるなんて僕ら凡人には永久に思いつかない発想を思いつきかつそれを実現してしまうその発想力と実現能力!!こそれが出来る隊長はまさしくシャーロック・ホームズを超える頭脳を持った科学者です!!!」

涙目で祈るように賞賛の言葉を贈る男に、マユリは「探偵と科学者は違うだろう」と言いながらも不満そうではない笑みを浮かべて刀を元に戻す。

「だがまだ生物にはためしてなくてね。そこでクズ、今すぐこのクリームを塗ってみろ」

そう言ってマユリは男に戦闘能力増強クリームが入った容器を渡す。男の危険察知能力が警報を鳴らす。このクリームを塗るな、と。

しかし。

「いいからさっさと塗らないか!私は忙しいんだよ!!」

目の前の上司が今にも刀を抜きそうなほど怒りのオーラを上げているのだ。男の選択肢は一つだった。

(な、南無三!)

男は覚悟を決めると容器のフタを取って薄緑色のクリームを顔に塗りたくる。

「……」

しかし何も起こらない。

(そうか!確か丸い物を見ないと狼男に変身できないって言っていたっけ)

男が丸い物を見まいと決心したその時だった。

「おい、クズ。いま何時だ?」

「えっと」

男は何時か調べようと時計が置かれた場所を見る。丸い形の時計を。

「し、しまった!……ウッ、ウウッ!ウワオオオオオオォォォォォォォンッッッ!!」

男の体が見る見るうちに体毛が生えていき、耳が生え牙が伸びていく。そして遠吠えをするその姿はまさしく狼そのものだった。

「おぉ!本当に狼になったぞ」

嬉しそうに狼男になった男を見るマユリ。

「クンクン、クンクン……ウワオオオォォォッン!」

男は鼻を鳴らすと一目散にどこかに走り去っていった。

 

 

 

書庫。

副隊長の涅ネムは一人で書類整理をしていた。

「ウウウゥゥゥッ!」

「貴方は……」

うなり声の方を見るとそこには狼男になった男がネムに狙いを定めていた。そして

「ウワオオオオオオォォォォォォォンッッッ!!」

舌なめずりをした男が憂い顔の副隊長めがけてダイブした。

「……」

ネムは襲い掛かろうとする男をただジッと見て

 

 

ズドォォォォォォォンッッッ!!

 

 

ネムの突き上げられるように放たれたパンチが男のアゴを捉え、男の身体を天井に突き刺した。

 

 

 

「え?」

目を覚ますと、男は研究所の外にいた。外にいるだけではない。首には鎖付きの首輪が付けられ斬魄刀以外何も身につけていなかった。

後ろを見るとそこには『クズの小屋』と書かれた犬小屋を模した箱が置かれてあった。

「な、何で僕がこんな犬みたいなことをされているんだ!?」

狼になった自分がネムを襲いかかって見事に撃退されたことを覚えていない男は犬のような扱いをされている状況が理解できずにいた。

その後男は番犬として研究所の庭に放置されることになるのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 マユリにクズと呼ばれる男は涅マユリを倒すようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

今回の話は皆様の感想を見て『男がマユリを倒せるのか?』と考えたのがきっかけです。
皆様のマユリ像が壊れなければ幸いです。


瀞霊廷某所。

マユリにクズと呼ばれている男は上司である(くろつち)マユリと戦っていた。

『クズ。私に刃向う割には随分と臆病じゃないか。そんな距離からではお前は攻撃できまい。それともお前は私が怖いのかい?』

『怖い?えぇ、怖いですけどね』

男はあっさり認める。

『涅隊長と僕の実力の差は歴然。隊長の間合いに入ったら最後、超人薬や思考を停止させる薬をいつの間にか投与させられたり、疋殺地蔵で四肢を封じられたり色々されますからね』

『だったらさっさと降伏したらどうかね?まぁ、私に刃向った時点でお前が八つ裂きに終わるのは目に見えてはいるが』

獲物を狩る満面の笑みを浮かべるマユリに対して、男は冷や汗を流しながら少しだけ微笑む。

流石(さすが)は涅隊長。その自信のたっぷりの笑顔の裏にはいくつ物の策があるのでしょうね。でもね、隊長。僕もただ逃げていたわけではないのですよ』

そう言って男は刀を抜いて頭上に(かか)げる。

『涅隊長。僕がさっきまで逃げていたのは隊長の攻撃範囲がどれほどのものかの最終チェック。そして、その攻撃範囲外ギリギリから隊長を仕留める殺害距離がどこなのか。それを調べていたのですよ』

冷や汗を流しながら話す男に、マユリは楽しそうに笑う。

『ほう、お前が。クズのお前が……この私を殺す?大きく出たものだな』

笑顔の裏にマグマのように怒りが沸き立っていることを知りながら、男ははっきりと言い放つ。

『では隊長。この僕、葛原(くずはら)粕人(かすと)が隊長を死に(いざな)ってみせましょう!卍解、(みちび)け!幽世開門(かくりよかいもん)!!』

男がそう言うと頭上に掲げられていた斬魄刀は男の手から離れてみるみる内に上昇していき、止まる。

そして刀が重々しい城門のような形に変化した。

『!?』

その門に危険を察知したマユリは背を向けて逃げようとする。

『隊長、ムダですよ』

男の言葉が引き金になったのか、重々しい黒い城門は一気に左右に開く。開かれた城門は周囲の物を飲み込み始めた。

『なっ!?』

マユリは自身の斬魄刀を地面に突き刺して踏ん張ろうとする。しかし城門の吸引力は少しずつマユリの身体を引っ張っていく。

『無駄ですよ。隊長。幽世開門は周囲の物を全て吸い込むだけの力があります。そして吸い込まれたら最後、死の世界である幽世に連れて行かれ二度と生きて戻ることはできない』

『お、おの……れ、クズの、分際……でぇ……ッ!?』

もはや憎まれ口を叩く余裕もないほど、奇怪な顔の隊長は追い詰められていた。深々と刺したはずの斬魄刀は今にも抜けそうなほどグラグラしており黒い城門に吸い込まれるのは時間の問題だった。

「わ、わかった……私の負けだ!だから、もう止めろ!」

「騙されませんよ、隊長。僕が隊長を倒す方法はただ一つ。隊長が知らない強力な技で倒す。それしかないのですよ。隊長ほどの頭脳を持つ者なら対処法を考え付くでしょうから」

男に考えを見透かされたマユリは苦虫を潰したような顔で男を睨みつける。

『うぅ、うぅ……も、もう駄目だ……アアアアアアァァァァァァッッッ!!』

そして遂に。刀は地面から完全に抜け、涅マユリは斬魄刀の疋殺地蔵ごと幽世の門に吸い込まれていく。

『バカな、この私が……この、私がアアアアアアァァァァァァッッッ…………!!!!――――』

涅マユリを完全に吸い込むと黒い城門は門を閉め、元の刀に戻って男の手に戻った。

『お別れです、涅隊長』

そう言って男は愛刀・幽世閉門(かくりよへいもん)(さや)(おさ)めた。

……

…………

………………

「ってなんでやねん!!」

男は関西弁で突っ込みながら布団からバッと起き上がった。そして頭を抑える。

「確かに僕は隊長を殺したいと思ったことは何度もあったさ。でも……」

(涅隊長は性格はアレだけど実力もあり、頭もよく……やり方こそまあ、褒められたものではないけれど。護廷十三隊のことを考えている素晴らしい方だ。……そう、僕に生きる道を示してくれた()()(はな)隊長と同じくらい尊敬に(あたい)するほど!)

「はい」

「あ、どうも」

突然横から水の入った水筒を渡され受け取った男は一気に飲み干す。

「ふぅ~美味しかっ……たあぁっ!?」

男が驚愕の表情を浮かべて布団から飛び出る。なぜならば、水を渡した人が先ほど夢で殺した人物、涅マユリその人だったからだ。

「面白いことを言っていたね、クズ。この私を殺す(・・・・・・)、とか?」

不気味な笑みを浮かべながら間合いを詰める上司に、男は大量の汗を流しながら「あはは」と笑うしか出来ない。

「では、どのように私を殺したか私の部屋でもう一度聞こうじゃないか……解剖(じっけん)をしながら!」

ドス黒いオーラを漂わせながら満面の笑みでそう男に言うマユリ。

 

 

 

それから一週間。男の姿を見た者は誰もいなかった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 大激震!十二番隊最後の日

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

涅マユリが壊れます。イメージが壊れるのを嫌う方は読まないことをお勧めします。


黒崎家リビング。

『男には、やらなければならないことがある。皆でお医者さんと禁煙しよう!』

テレビでは禁煙を促すCMが流れていた。

「なるほど。タバコは200種類以上の有害物質があるといわれ発がん性物質も多数あることが分かっている。タバコを吸い続けると余命だけではなく様々な病気や妊娠や出産、美容にも悪影響が出るという。さらにはタバコから出る煙はタバコを吸う人よりも有害と言われている。タバコの害を減らすというのは一考する価値があるものだね」

「いや、だから何でアンタが(ひと)の家でテレビ見てんだよ!」

黒崎(くろさき)一護(いちご)の指摘に気にする様子もなく、(くろつち)マユリは腕を組んで考えていた。

 

 

 

 

「よし、出来たぞ!」

自室に戻ったマユリはある物を完成させていた。その手にはタバコのような物があった。

「これはタバコ型毒吸引機。これをタバコのように火をつけて吸えば体内の毒と周囲の毒をこのタバコ型毒吸引機が吸い込むという画期的な発明品だ!」

ただ、とマユリは一度首を落とす。

「どれほどの威力を発揮するかは分からん。本来ならばクズ辺りを実験体にするべきだが、……まあ実害はないのだし私自身で試してみるとしよう」

そう言ってマユリはタバコ型毒吸引機に火をつけて口に咥えた。

 

 

 

三日後。

「あぁ!く、苦しい!!た、助けてくれ!!」

四番隊の病室のベッドで、マユリにクズと呼ばれている男が胸を抑えて苦しんでいた。

「あぁ!やめて、やめてくれぇ!!」、「苦しい、苦しいよぉ!」、「あ、頭が!頭がぁ!!」

男だけではない。他の十二番隊の人間も同様に苦しんでいた。

「葛原君、大丈夫か!?お前達、しっかりするんだ!!」

涅マユリが隊員のベッドの傍で涙を流しながら励ましていた。そしてマユリが励ませば励ますほど隊員たちが苦しみ、隊員たちが何に苦しんでいるか分からないマユリはさらに涙を流した。

「こ、これは……」

その様子に虎徹(こてつ)勇音(いさね)を始めとする四番隊の面々は引いていた。

十二番隊は涅マユリのワンマン部隊と言っても過言ではない。部下を駒として使うことに抵抗がない男が部下の苦しむ姿に涙を流すというのは西から上ったお日様が東に沈むのと同じくらいありえないことだった。

「十二番隊の皆さんはどうですか?」

病室に入った卯ノ花(うのはな)(れつ)に、マユリは真剣な表情で涙を流しながら(せま)る。

「卯ノ花隊長!彼らはいったいどうなるのでしょうか!?私に出来ることがあるなら何でもやります!だから、彼らを助けて下さい。お願いします!!」

そう言ってマユリは目の前の女性隊長に頭を下げた。

その光景に四番隊隊員はもちろん、普段冷静な女性も冷や汗を流していた。

十二番隊隊長涅マユリは対人関係は良くなく、十一番隊隊長の更木剣八の次に四番隊隊長の卯ノ花烈と仲が悪いと言っても過言ではない。その仲の悪い隊長に演技ではなく心の底から頭を下げるなど悪夢以外何者でもない。

「あ、あの涅隊長。普段のように振舞われてはどうでしょうか?部下を駒のように――」

「何を言っているんですか!!」

女性隊長の言葉を制して、奇怪な顔の隊長は激昂する。

「卯ノ花隊長!我々隊長にとって部下とは家族であり我が肉体と言ってもいい大事な存在!それを駒だと、貴方は部下を何だと思っているのですか!!」

 

 

「「「うぎゃああああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!」」」

 

 

その言葉を聞いた瞬間、十二番隊の隊員たちが一斉に苦しみ出す。

「お、お前達……」

苦しむ部下を前にして、マユリは膝から崩れ落ち、床に拳を埋め込む。

「くっ、何が技術開発局局長だ!何が十二番隊隊長だ!……私は、部下が苦しむ姿に何もすることが出来ない無力な存在だ。……このまま部下達を死なすようなことがあれば……ご家族になんと言えば!!」

 

 

「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!」」」

 

 

歯を食いしばり苦悩する姿に四番隊隊員は発狂する者が続出した。

そんな阿鼻叫喚な状態に、四番隊隊長は冷や汗を流しながらも十二番隊隊長に尋ねる。

「涅隊長。最初に葛原さんが四番隊の病室に運ばれたのは三日前。三日前に何か変わったことはありませんでしたか?」

「三日前、ですか」

マユリは腕を組んで考える。

「体内のみならず周囲の毒をも吸い込むタバコ型毒吸引機を開発して自分の身体で試しましたが。その後ずっと試しに吸っています」

その言葉を聞いて卯ノ花烈はこの悪夢のような出来事の原因を悟った。

 

 

涅マユリはタバコ型毒吸引機で性格の悪い部分も吸収されてしまった。

 

 

と。

「直ちにそのタバコ型毒吸引機の服用をやめて下さい!!」

女性隊長はキッパリと言い放った。

 

 

 

数日後。

「ネム。これよりクズの解剖を始めるよ」

「はい、マユリ様」

「イヤアアアアアアァァァァァァッッッ!!」

十二番隊に普段の日常が戻った。




タイトルの元ネタはウルトラマンレオの『大激震!日本列島最後の日』です。
CMは『いいなCM ファイザー製薬 石原軍団 「軍団禁煙」篇』からお借りしました。

分かった方は滅茶苦茶凄いです。

あとなぜマユリがおかしくなったのかが分からないというご意見を頂いたので修正しました。わかりずらくて申し訳ございません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 涅マユリは戦隊に疑問を覚えるようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

皆様のマユリ像が崩れる可能性があります。そうなった場合先にお詫びいたします。


黒崎家リビング。

魂葬戦隊(こんそうせんたい)カラクレンジャー!』

日曜日の朝から始まる戦隊物を涅マユリは見ていた。

黒崎(くろさき)一護(いちご)。私は前々から思っていたことがあるのだが」

「って、またアンタは(ひと)の家でテレビ見てるんだよ!」

「そんなことはどうでもいいんだよ!」

奇怪な顔の隊長は問答無用で黙らせる。

「さて話は戻そう。私は戦隊物を見ていていくつか疑問に思ったことがある。例えば変身中から名乗る間、敵は何故戦隊ヒーローに攻撃をしないのだね?仮に変身自体が一秒足らずで出来たとしても名乗る間の時間は攻撃するには十分すぎる。これは怠慢ではないのかね?」

「い、いや……そんなこと言われても。……えっと、まあ……お約束ってやつだからそう気にする必要はないんじゃないじゃないか?」

青年は当たり障りのない答えで返す。

「お約束か。そんな逃げで子どもと向き合う番組を作るとは……情けない限りだな」

そう言って吐き捨てるマユリに青年は「俺が作ってるわけじゃないし」と言いたいのを我慢する。何か言えばさらに何かを言ってくると思ったからだ。

「それに何だ、この動きは!」

マユリは画面を指差す。そこには変身した戦隊ヒーロー達が街を破壊する怪人に向かっていた。

『ハハハッ。無駄だ!カラクレンジャー!!』

『『『『『うわあああぁぁぁっっっ!!』』』』』

戦隊ヒーロー達の攻撃を物ともせず怪人は戦隊ヒーローを一蹴する。

「そう、このシーンだ!せっかく五人いるのに一対一で戦うからこのようにやられてしまう。なぜ数の利を生かして5方向から同時攻撃をするなど連携をしない!!」

『『『『『カラクバズーカ、ファイヤー!!』』』』』

『グワアアアアアアァァァッッッ!!』

そうする間にもカラクレンジャー達は連携式の武器で怪人に致命傷を与える。

「そうだ、このカラクバズーカというのもおかしい!私ならこのカラクバズーカを何十倍の威力を持たせ街一つ吹っ飛ばす威力に改造するのに!」

「いや、街を守るヒーローが街を壊したら意味ないだろ……」

『お、おのれ……このままこのホロウネス様が敗れるとは大間違いだぞ!ホロウエキス!!』

そう言うと怪人はドクロの形をした酒ビンを一気に飲み干し巨大化する。

『ホロウ軍団の怪人はホロウエキスを飲むことで巨大化する。だがそれは自らの命を縮める、まさに最後の手段でもあるのだ』

巨大化する怪人とあわせて(しぶ)い声のナレーションが入る。

『行くぞ、魂葬ロボ!』

リーダーのレッドが通信機で呼びかけると基地から五機のメカが主人公達の元へと出撃する。

「これもだ!ヒーローはこのようにメカを基地から発進させている。このように大規模にロボットが出撃していたら本拠地は丸分かりだ!なぜヒーロー側はカモフラージュをしようとしない!?なぜ怪人側は本拠地を真っ先に襲撃しようとしない!?」

激昂するマユリは止まらない。

「さらに言えば最初からこのような強力な戦力を持っているならば何故最初に出さない!この巨大メカを最初に出しておけば踏み潰すだけで終わっていただろう!?」

(いや、それだとヒーローと怪人との戦うという醍醐味(だいごみ)が……)

そう言おうとしたが言うとめんどくさいと思った青年はそのままスルーする。

『『『『『合体!カラクキング!!』』』』』

五つのメカが合体し、一つの巨大メカに変身する。

『説明しよう。五つのメカが合体したカラクキングは五機バラバラで戦う数十倍のパワーを発揮するのだ!』

渋い声のナレーションにマユリがまたしても噛み付く。

「何故だ!何故合体しただけで数十倍のパワーを発揮するのだ!?それなら最初から合体して出ればいいだけの話じゃないか!!」

「知らねぇよ……」

青年は聞こえない程度の声で呟いた。

そうする間にも巨大化した怪人と巨大メカとの攻防は続けられ、カラクキングのけん制攻撃に巨大化した怪人、ホロウネスがバランスを崩す。

『今だ、トドメだ!』

リーダーの声と共に巨大ロボの剣にエネルギーが蓄積されていく。

『『『『『魂葬一文字斬り!!』』』』』

『ぐ、グワアアアアアアァァァァァァッッッ!!!!――――』

剣を頭上に構えたカラクキングは一気に間合いを詰めてホロウネスめがけて剣を振り下ろした。

頭から股まで斬り落とされ、真っ二つになった巨大怪人は爆発した。

『こうして街の平和は保たれた。しかしまだホロウ軍団は地球侵略を諦めてはいない。戦え、カラクレンジャー!地球の平和は君たちの戦いにかかっている!!』

そう渋い声のナレーションが締めて番組が終わった。

「うぅ、いい作品だ!感動した!!」

「さっきまであんなに難癖つけて最後はそれかよ!!」

涙をハンカチで(ぬぐ)うマユリに最後は一護は突っ込まずにはいられなかった。

 

 

 

 

 




元ネタは魂葬刑事カラクライザーです。

『ホロウ軍団の怪人はホロウエキスを飲むことで巨大化する。だがそれは自らの命を縮める、まさに最後の手段でもあるのだ』
これの元ネタは星獣戦隊ギンガマンで敵がバルバエキスという巨大化するアイテムを飲む時のセリフです。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 実はザエルアポロは某漫画に登場するノートを持っていたようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。


ある日。

「クズ、さっさと終わらせろ!」

「クズ、何でこの程度のことも出来ないんだ!」

「クズ、死神がどの程度で死ぬか調べたいから内蔵と血液を死ぬくらいまで抜かせてくれ」

「クズ、ドラマのオファーがあった時のためにリアルな演技が出来るように解剖に付き合え」

 

 

その夜。

「ついに、ついに手に入れた!」

体中ボロボロになりながらもマユリにクズと呼ばれている男の手には一冊の黒いノートがあった。そしてその内容は。

「『ノートに名前を書かれた者は心臓麻痺』。まさしく(くろつち)マユリを殺したいと思う僕にピッタリじゃないか!」

しかし、と男は呟きながら考える。

「このノートはデス○ートと違って死因が指定できない上に、一度使ったら最後だとある」

それに、と男は再び(つぶや)く。

「僕って運ないよな……」

その一言に男の全てが凝縮されていた。

「某漫画のあるキャラクターが言っていたよなぁ。『自分を…信じる…!? きれいごとぬかしてんじゃねーーー!! この世に自分ほど信じられんものがほかにあるかあああっ!』と。まさしく自分より信用できるものがあるのか、だよな」

男は目を(つむ)って考える。

(目の前のノートを使うか、それとも使わないか。もし目の前のノートが本物なら今すぐ殺したい上司を殺すことが出来る。しかし今まで使ったノートはどれも曲解したものばかりだった。曲解したものだった場合、自分にどのような不利益がもたらされるかわかったものではない。使わなければ何もない)

「いや」

男は心の声を否定する。

(僕は保管庫からもうすでにノートを盗み出した。このノートを盗めたのも盗み出した時の保管庫のセキュリティを何日もかけて解読したからだ。そして慎重な隊長のことだから今の保管庫のセキュリティは前回のパターンでは突破できないようにしているはず。ということは元通りにするのは今日明日では不可能。その間に隊長が保管庫を調べたらノートが盗まれたことに気づき、アウトだ)

「だったら」

心の中で男は続きを言う。

(涅隊長の保管庫からノートを盗み出した時点で……僕にはもう後がない。僕が出来るのは前に進むことだけ……!)

男は覚悟を決めた。

「死ねや!涅マユリ!!」

目をカッと開くと、男は力強くノートに名前を書いた。

 

 

『涅マユリ』

 

 

 

同時刻。

「ん?」

技術開発局局長兼十二番隊隊長・涅マユリは自身の心臓が止まっていることに気づいた。

「フンッ!」

奇怪な顔の隊長は迷うことなく右手で自らの胸を突き刺し、止まった心臓に直接マッサージを(ほどこ)す。マッサージをすること数分。止まっていた心臓が正常になると静かに右手を抜いた。

「はて?私は心臓麻痺を起こすようなことはしていないはずだが……」

技術開発局局長はすぐに監視用の菌を見る。そして、止まる。

「あのクズか」

なぜ自分が突然心臓麻痺を起こしたのか。その犯人が分かったマユリは満面の笑み(・・・・・)を浮かべた。

 

 

 

その後数日間。男の姿を見た者は誰もいなかった。

 




『自分を…信じる…!? きれいごとぬかしてんじゃねーーー!! この世に自分ほど信じられんものがほかにあるかあああっ!』
『GS美神 極楽大作戦!!』に登場する横島忠夫の名言(迷言)です。

歳がばれてしまいますね(苦笑)



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十話 蚊破壊爆弾

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。


マユリの部屋。

 

ブーン!

「……」

ブーンブーン!

「…………」

ブーンブーンブーン!

「………………ッ!!」

 

ブチッ!

 

自分の周囲を飛び回る蚊に、マユリはついにキレた。

「五月蝿いんだよッ!たかだか蚊の分際で私の安眠を妨害するなど!!」

 

 

 

「というわけで徹夜で作った」

「何をですか?」

目にクマを作るマユリの前にはマユリにクズと呼ばれている男がいた。

蚊破壊爆弾(かはかいばくだん)~!」

寝不足と疲れているのかいつものとは違うテンションで懐から質量保存の法則を無視した巨大な何かを取り出した。

「……え?」

その何かを見て、男は絶句した。上司が両手で頭上に掲げた物。それは原子核と電子の構造を表す絵が描かれた巨大な爆弾だった。

よだれを垂らして「フヒーッ、ヒ、ヒ、ヒ、ヒ」と奇声を上げながらマユリは続ける。

「これを起動させれば尸魂界(ソウルソサエティ)を焦土にすることができる。これで尸魂界の蚊は全滅だネ!」

「だ、誰か!誰か来て下さい!!」

爆弾のスイッチを押そうとするマユリを男が全力で止める。

「えぇい!離せ!離さんか、このクズが!!」

しかし男は無我夢中でマユリの身体にしがみつく。

「こんなもの起動させたら蚊だけじゃなくて僕達も死にます!ってかこれ原作でも使用されていないドラ○もんの地球○かいばくだんを使用しないで下さい!!」

「おい、何大きな声出し……って涅隊長!!」

男の叫び声に駆けつけた研究員達が次々にマユリを止めようと飛びかかる。

「「「お止めください、涅隊長!!」」」

「な、何だ!お前たちまで!!」

普段なら自分の命令に忠実な部下が、涙を流しながら自分を止めようとする部下の行動にマユリは驚きの表情を浮かべ、すぐに怒りの感情を燃え広がらせる。

「お前達に何が分かる!私という一秒の無駄も許されない天才科学者の安眠を妨害する蚊の無礼を!!そして損失が!!!」

「「「分かります!分かりますがお止め下さい!!」」」

それでも部下達はマユリから離れようとしない。

「ええい、離せ!すぐに離さないとお前らを実験体として恐怖の限りを味合わせるぞ!!」

「「「うわあぁっ!?」」」

マユリは自分をおさえつける部下達を力づくで振り払い、頭上の爆弾のスイッチを押した。

しかし反応がない。

「ん?」

マユリは頭上を見る。見ると蚊破壊爆弾は巨大なチャッピーの形をしたものにすりかえられていた。

「うぅっ、バカにしているのか!早く本当の蚊破壊爆弾を寄越すんだ!!」

「「「考えを、考えをお改め下さい!お願いです、隊長!!」」」

 

 

その後十二番隊の敷地内で大量の蚊取り線香が()かれるまで、この騒動は続くのだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 卯ノ花隊長と葛原粕人が二人きりに・・・

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

今回は少しホラーです。苦手な方は見ないことをお勧めします。


数ヶ月前。

四番隊隊舎の縁側。

十二番隊に配属されることになる男は書類を持って上司である卯ノ花(うのはな)(れつ)を探していた。そして縁側で何かをしている隊長の姿を見つけた。

「そちらにおられましたか、卯ノ花隊長。お忙しいところ申し訳ございません、荻堂(おぎどう)八席からこちらの書類に目を通して頂きたいと。あぁ、すき焼きですか」

書類を持ってきた男の目の前には大人数でも食べられる大きな鍋があった。そこには隊長の卯ノ花烈の他に副隊長の虎徹(こてつ)勇音(いさね)、三席の伊江村(いえむら)八十千和(やそちか)の姿もあった。

「ちょうど良かったです。葛原(くずはら)さんもどうですか?」

「え?僕なんかがいいんですか?」

「えぇ。もちろんです」

優しく微笑む上司に男は「それではお言葉に甘えて」と準備の手伝いを率先して行う。

「材料持ってきました」

そう言ってカゴに大量の荷物を背負って七席の山田(やまだ)花太郎(はなたろう)が現れる。花太郎はカゴの材料を下ろす。

「山田七席。僕が食材を切りますよ」

「あ、そうですか。じゃあお願いします」

男は上官からカゴを受け取ると材料を切り分けるため奥にある台所に向かった。

 

 

数分後。

「じゃあ入れますね」

食材を切り分けた男はグツグツと()き立つ鍋に食材を綺麗に入れていく。

「あら」

鍋を見て女隊長はあることに気づく。

「お肉が見当たりませんね」

「あぁ……」

肉を買い忘れ顔を青ざめる花太郎に女上司はとがめる様子もなく優しい笑みを浮かべる。

「忘れたのですね。でも私がすぐに準備しますので」

そう言って女性隊長は立ち上がる。

「葛原さん。ちょっと来てくれませんか?」

「え?は、はい……」

奥へ向かう女上司に手招きされた男は先を歩く上司と共に奥の部屋へと消えた。

 

 

 

数分後。

「はい、お肉ですよ」

そう言って奥から一人出てきた卯ノ花隊長はどこからか用意した肉を鍋に入れていく。

肉がいい感じに火が通り、四番隊の面々は美味しそうにすき焼きを頬張っていく。

「あれ。そういえば葛原隊士は?」

先ほどまで率先してすき焼きの準備をしていた葛原(くずはら)粕人(かすと)の姿がないことに気づいた眼鏡をかけた真面目な三席が、一緒に奥へと下がった上司に尋ねる。

「ふふっ」

その言葉に女上司はキラキラという効果音がつきそうな微笑で返した。

「「「ま、まさか……」」」

三人は青ざめた顔で(はし)でつまんだ肉を見た。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十一話 ゴム体質変換果実

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。


「さあクズ。これを食え!」

突然呼び出されたマユリにクズと呼ばれている男は、上司が差し出す得体のしれない果実風の何かに警戒心を(あら)わにしていた。

目の前の果実は紫色をしており、何の果実なのかとあえて答えるとすればメロン。しかしメロン特有の網目ではなく唐草模様をしていた。

目の前の果実に見覚えがあった。

(これって。『○NE PIECE』に登場するゴム○ムの実じゃあ……)

「さぁ、食え!」

一向に動こうとしない男に、マユリは更に男の前に謎の果実を近づける。

「あ、いや、その……あ、僕。ちょっと血糖値が引っかかってしまって。果実とか甘い物を控えているんですよ……」

男は苦し紛れの言い訳をつく。

「そうか。それなら止めるとしよう」

そう言ってマユリは謎の果実を机の上に置いた。

(あ、あれ?)

「それでも食うんだよ!」と目の前の上司に食べさせられると思っていた男は拍子抜けをする。しかし食べなくて済んだということに一安心する。

「そうだクズ。これは何と読む?」

そう言ってマユリは『阿』と書かれたフリップを見せる。

「『あ』ですね」

「じゃあこれは?」

マユリは『亜』と書かれたフリップを出す。

「これも『あ』ですね」

「じゃあこれは?」

今度は『あああぁぁぁっっっ!!』と書かれたフリップを見せる。

「『あああぁぁぁっっっ!!』……アァッ!?」

男が口を大きく開けてフリップの言葉を呼んだ瞬間、マユリは先ほどの果実を男の口に無理やり詰め込んだ。男は抵抗しようとするが、それよりもマユリの詰め込もうとする力の方が強く、男は呼吸を確保するため否応なく謎の果実を食べさせられる。

「ウガッ、ウグッ……ゴッックン!……何もないですね」

謎の果実はこの世の物と思えないほど不味かったが、男は呼吸を確保することに必死で味わう余裕なく食べてしまったのでさほど味は口の中に残らなかった。

「そうかそうか」

いつもの裏のある笑みを浮かべながら、マユリは男の頬を引っ張った。すると頬はマユリの力に合わせて伸びていく。

「ふぉ、ふぉれは!?(こ、これは!?)」

「これはゴム体質変換果実。これを食べた人間は全身がゴムのように変化することができる。私の計算が正しければ20㎞離れた小石も拾うことが可能だ」

こう自信満々に話すマユリに対し意味はないのだが「あ、そこは13kmじゃないんだ」と心の中で思う男だった。

 

 

 

翌日。外で居眠りをしていた男が熱で地面とくっついてしまい、身体に亀裂が生じて断裂。その後命を落としたのであった。

「なるほど。全身がゴムだから熱、酸素、オゾン、光、放射線などに弱いということを忘れていた。やはり原作のようにはいかないものだな」

 




20㎞離れた小石の元ネタは『幽☆遊☆白書』に登場する雷禅(らいぜん)北神(ほくしん)です。

分かった方は凄いです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十二話 メスにモテるお守り

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。


マユリの部屋。

いつものように男は上司である(くろつち)マユリに呼び出されていた。

「クズ、これをお前にプレゼントしてやろう」

「へぇ、何を頂けるのでしょうか!」

警戒心を全開にさせながらマユリにクズと呼ばれている男はそんな様子を少しも出さず笑顔で対応する。

「これだ」

マユリは懐から何かを取り出し男に手渡す。

男は手の中の物を見る。それは不気味なほど毒々(どくどく)しい緑色と紫色で構成されたお守りだった。

「それはメスにモテるお守りだ。文字通りメスにモテまくるお守りだ」

「……」

男は渡されたお守りをジッと見たまま動かない。

「何だ?嬉しくないのか?」

「え、いえ……涅隊長。彼女のいない僕のためにこのようなものを作っていただき本当にありがとうございます!」

不審がられるのを誤魔化(ごまか)すようにそう言うと。男はマユリの部屋を後にした。

 

 

 

「う~ん」

男はお守りを入念に上下左右と調べていた。しかし調べても調べてもおかしいところは見当たらない。

男はお守りをジッと見る。

「もし僕が涅隊長という人物を知らなかったら、その場で小躍りしているんだろうな」

しかし涅マユリの好意には基本的に裏があることを、男の経験から理解している。ゆえに何かあると思って入念に調べてみたものの怪しいところは何一つ見当たらなかった。()いて言えばお守りのあまりにも毒々しい色だけ。

「考えすぎなのかな」

調べ疲れて男がウトウトと頭が船を()ぎ出した時だった。

 

ブーン!

パンッ!

 

男は叩いた(てのひら)を見る。そこには自分の血を吸ったばかりの蚊が潰れていた。掌に蚊が吸った自分の血が平がる。

自分の掌を見ながら男は(つぶや)く。

「もう肌寒くなってきたというのにまだ蚊がいるんだな。蚊取り線香出そうかな?……いや、もう時期が時期だしたまたま季節はずれの蚊がここに来ただけだろう」

時計を見るともう日付が変わっていた。

「いけないな。もう寝ないと」

そういうと男は床につく。

 

ブーン!

「……」

ブーンブーン!

「…………」

ブーンブーンブーン!

「………………ッ!」

 

ブチッ!

部屋を飛び交う蚊の大群に男がキレた。

「ゆっくり寝させろや!蚊の分際で!!」

怒りで我を無くした男は蚊取り線香をつけるという選択肢を忘れて飛び回る蚊を追い回す。

こうして男は一晩中部屋を飛ぶ蚊の駆除に追われて寝ることが出来ず、仕事に支障が出たのは言うまでもない。

 

 

 

 

「最後に涅マユリが教える雑学だよ。蚊は人や動物から血を吸う虫だ。通常の餌は、植物の蜜や果汁などの糖分を含む液体だ。だがメスは卵を発達させるために必要なタンパク質を得るために吸血をするんだ。血を吸うのはメスだけというのはちょっと驚きだね。聡明な読者諸君はなぜ私がクズにあのお守りを渡したかもう気づいているんじゃないかな?ではごきげんよう」

 




蚊取り線香たいてねればいいのでは。というご意見を頂いたので『怒りで我を無くした男は蚊取り線香をつけるという選択肢を忘れて飛び回る蚊を追い回す。』という文を付け足しました。

上記のような疑問を持たれた方には大変申し訳なく思っております。この場を借りてお詫びいたします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十三話 エコロジー熱気球

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。


「クズ。今はエコが尊ばれる時代だな」

「えぇ。そうですね」

マユリにクズと呼ばれている男は素直にそう言った。

仕事の都合でマユリの部屋を訪れた男は部屋に入るや否や冒頭のことを尋ねられた。しかし上司の気まぐれに少しは慣れた男は何の抵抗もなく素直に答えることが出来た。

「で、私は考えた。それがあれだ」

そう言ってマユリは部屋の隅に置かれた物体を指差す。

「気球、ですか」

「そう。それもただの気球じゃないぞ!それもエコロジー熱気球。通常の熱気球の何十分の一の火力、そうだな……おおよそライター程度の火力で通常の熱気球と同じくらいの力を発揮することが出来る!!どうだ、素晴らしいだろう!!!」

胸を張るマユリに男はどう反応していいのか困って固まる。

「なんだ、クズ。言いたいことがあるなら言ってみろ」

その態度が気に食わなかったのか、マユリは何か言いたい様子の男に促す。

「え……それじゃあ」

男はコホンと小さく咳をしてから口を開く。

「僕ら死神って空を動くこと出来ますよね。気球は必要ですか?」

「……」

マユリの額から汗がにじみ出る。

「それと空を飛ぶだけならヘリ蜻蛉でも事足りますよね?」

額の汗がツゥーと頬を伝う。

「確かにこの発明は凄いんですけど、それなら気球ではなくもっと身近なところに使うべきだったのではないでしょうか?」

「……」

男に正論を言われ、押し黙る技術開発局局長。

この後男は過ちを犯す。自分に傲慢な態度をとる上司がしおらしくなる姿に気分をよくしてしまったのだ。それはすなわち危機察知能力の低下、自ら地雷を踏むことを意味したことに気がつかず言葉を続ける。

「だいたいこれってドラ○もんのエネルギー節約熱気○ですよね。これは――ッ!?」

男は地面に倒れこんで動けなくなった。なぜならば目の前に立っていた上司が三本の刀身の根元に赤子が浮かび上がる不気味な刀を抜いて男に切りつけていたからだ。

疋殺地蔵(あしそぎじぞう)。相手の四肢の動きを、痛覚のみ残したまま封じ込める能力を持つ涅マユリの斬魄刀である。

「クズよ、知っているか?口は災いの元ということわざを?ベラベラと私の機嫌の悪くなることをピーピーピーピーと。五月蝿(うるさ)いんだよ!」

「え、いや……その…………」

男はこの危機的状況を回避しようと頭をめぐらせる。しかし目の前の恐怖と激痛が邪魔して上手く頭が働かない。

男がもがく間に事態は最悪の状況へと変化していた。

「卍解!金色疋殺地蔵!!」

刀を納めたマユリが再び刀を抜いていた。

刀は赤子の頭を持つ巨大なイモムシのような外見に変化すると、恐怖で顔をゆがめ疋殺地蔵の力で逃げることの出来ない男をその巨体で踏み潰した。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 涅マユリはいつもと調子が違うようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。


「出来た、出来たぞ!」

「何が出来たのですか?マユリ様」

マユリの部屋に入ってきたのは十二番隊副隊長の(くろつち)ネムだった。

「……」

「……どうかされましたか、マユリ様?」

「いや、いつもだったらクズが来ると思ったから。ちょっと調子が外れただけだ」

気を取り直したマユリは懐から何かを取り出す。奇怪な顔の隊長が握っているもの、それはマイクだった。

「これは感動マイク!このマイクを使って歌うと感動周波音波が出て聞く人をジーンと感動させることができる!!」

「素晴らしいです、マユリ様」

「……」

「……どうかされましたか、マユリ様?」

「……いや、調子が崩れただけだ」

そう言ってマユリは感動マイクを使って『バイ○ンマンの歌』を熱唱する。

それを聞いたネムは感激の涙を流す。

「最高です!マユリ様!!」

「……」

「……どうかされましたか?マユリ様?」

「……いや。なんでもない」

 

 

 

翌日。

「出来た、出来たぞ!」

「何が出来たのですか?マユリ様」

マユリの部屋に入ってきたのは十二番隊副隊長の涅ネムだった。

「……」

「……どうかされましたか、マユリ様?」

「いや、クズが来ると思ったから。ちょっと調子が外れただけだ」

そう言ってマユリは気を取り直し部屋の隅に置かれた道具を指差す。

「あれは大人小人トンネル。入口から出口へ抜けると小さくなり、出口から入口へ戻ると元の大きさに戻るというものだ!もちろん人だけでなく物を大きくしたり小さくすることも出来る」

「素晴らしいです、マユリ様!」

「……」

「……マユリ様?」

「……いや、なんでもない」

 

 

 

さらに翌日

「出来た、出来たぞ!」

「今度は何が出来たのですか?マユリ様」

マユリの部屋に入ってきたのはまたしてもネムだった。

「……」

「……どうかされましたか、マユリ様?」

「いや、大丈夫だ」

そう言ってマユリは気を取り直し部屋の隅に置かれた道具を指差す。そこには池の中に神秘的な服装をした女神のような美しい女性の人形があった。

「あれは金の斧銀の斧の泉!あの泉になにかを投げ入れると、それと同じ種類のより良いものを手にしたあの人形が現れて、『あなたが落としたのは、この***ですか』と尋ねてくる。正直に答えるとそれがもらえて、嘘をつくと何ももらえないという画期的な発明品だ!!」

「完璧です、マユリ様!」

「……」

「……マユリ様?」

ガックリと落ち込むマユリに、ネムが心配そうに尋ねた。

「……」

奇怪な顔の技術開発局局長は何も言わず部屋から飛び出た。

 

 

 

「なぜ貴様は肝心なところにいないんだ!おかげで調子が崩れるじゃないか!!」

「ぎゃあああぁぁぁっっっ!!」

書庫で書類整理をしていた男は、いきなり上司に斬りつけられ、疋殺地蔵(あしそぎじぞう)の力で動けなくなった所をこれでもかと足蹴(あしげ)にされるのであった。

 




いつものツッコミをする男がいなかったのでここで元ネタ説明をします。

感動マイク→ドラえもんのジーンマイク。

大人小人トンネル→ドラえもんのガリバートンネル。

金の斧銀の斧の泉→ドラえもんのきこりの泉。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 男は謎の美女と話すようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。


 マユリの部屋。

「よいしょ、と」

 何段にも重ねられた荷物が入った段ボールを落とさないように気をつけながら、マユリにクズと呼ばれている男は

(くろつち)隊長。頼まれたものをお持ちしました」

「待っててくれ」

「はい、え……?」

 扉を開けた人物を見て、男は固まった。

 そこに立っていたのは隊長格だけが身に着けることを許される白い隊長羽織を身に纏った、ショートヘアの青い髪の美女が立っていたからだ。

 クールな大人の女性と印象付ける切れ長い瞳とシャープな顎のライン。くっきりとした二重まぶたに長睫毛と端正な顔立ちに加えて、雪を連想させるようなきめの細かい白い肌。キリっと引き締まった顔立ちからは知的な風格が漂う。

 胸元が大きく開かれ、呼吸をするたびにプルンプルンと柔らかそうに弾む胸。バストだけでなくヒップも相当のサイズがあることが布越しでも分かり、女として脂がのりきった息苦しいほどの色香を感じさせる。それでいて腰は砂時計のようにきゅっとくびれていて神々しさすら感じさせるスタイルの良さだった。

 だが男はその魅力的なスタイルを持つ美女に見惚(みと)れることはなく、目の前の美女が何者なのかに意識を置く。

(護廷十三隊で背中に番号を振られた白い羽織を身に着けている女性は二番隊の砕蜂(ソイフォン)隊長と四番隊の卯ノ花(うのはな)隊長の二人だけ。……にもかかわらず、この人がその羽織を身に着けていることに何の違和感も持たない。……何故だ?)

 それを身に着けるに相応しい雰囲気を謎の美女から感じ取った男はあることを思い出す。

(そういえば確か。涅隊長の前の前の隊長が女性だったよな?えっと確か……)

「あ、あの……失礼ですが。貴女は曳舟(ひきふね)隊長……ですか?」

 そう言った名前だったよな、と頭に浮かんだ名前を男は呟く。

「いや。私は曳舟という名前ではない」

「し、失礼しました」

 男は持っている荷物が崩れないように気をつけながら頭を下げる。

「それはいいからその荷物は入口近くに置いておいてくれ」

「あ、わかりました」

 謎の美女に命じられるまま、男は段ボールを言われた場所に置く。

「そうだ」

 立ち去ろうとする男に、青い髪の美女が思い出したかのように尋ねる。

「お前は涅マユリをどう思っている?」

「く、涅隊長を……ですか?」

「あの男にクズと呼ばれているお前が、涅マユリをどう思っているか気になってネ」

「そうですね……」

 初対面とは思えない謎の美女の言葉に、男は本音を漏らす。

「隊長はまず偏屈ですね。自分のことしか考えてないし、理不尽なことで僕に暴力振るうし、危険極まりない不気味な男ですよ――」

 

 

 でも。頭がよくて……、冷静で……、「方法は選べよ」って言いたくなりますけど、何だかんだ言って皆のことを考えている……僕に生きる道を示してくれた卯ノ花隊長と同じくらい尊敬できる隊長です。

 

 

 そう言おうとした時だった。

 謎の美女から突然薄いピンクの煙がぼあっ!と吹き出し、あっという間に見えなくなる。その煙が完全に消えた時。男は形容しがたい顔で腰を抜かした。

「く、く、く……涅隊長ォォォォォォッッッ!!??」

 そこに立っていたのは忘れようとも忘れることはない、技術開発局局長で十二番隊隊長を務める奇怪な顔をした人物、涅マユリその人だった。

 この時男は謎の青い髪の美女が隊長だけが許される隊長羽織を身に着けていたことに違和感を覚えなかった理由を悟った。

「クズ。たかがモルモットの分際で言いたい放題言ってくれるじゃないか。たまには自分自身が被験体になってみるのも悪くないものだ」

 そう言ってマユリは『性反転薬』と書かれた薬を机の上に置く。

「さて、これから自分が何者か分かっていないクズに自分が何者かを叩きこんでやろうじゃないか。細胞の一つ一つに染み込むくらいに!」

 獲物を狩る狩人のような笑みを浮かべながら、奇怪な顔の隊長は恐怖に動けなくなった男に歩み寄った。

 

 




素朴な疑問ですが。涅隊長が女性だったら、どんな容姿をしていると思われますか?
私は本文のような女性を想像しましたが。皆様はどうでしょうか?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 男と笑ゥせぇるすまん

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

BLEACHと笑ゥせぇるすまんのクロスオーバーです。
作者の力量不足のためBLEACHと笑ゥせぇるすまんのイメージを損なう可能性があります。
そうなった場合は先にお詫び申し上げます。

最後に。
久保帯人先生、藤子 不二雄Ⓐ先生、藤子・F・不二雄先生。申し訳ございません。


私の名は喪黒(もぐろ)福造(ふくぞう)

ひとよんで、「笑ゥせぇるすまん」

ただのセールスマンじゃ御座(ござ)いません。

私の取り扱う品物はココロ。人間の心で御座います。

オーッホッホッホッホ!!!!!!!

この世は老いも若きも男も女も心の(さび)しい人ばかり。

そんな皆様のココロのスキマを、お埋めします。

いいえ、お金は一銭も頂きません。

お客様が満足されたらそれが何よりの報酬で御座います。

 

さて、今日のお客様は・・・。

 

 

 

現世。

「ぎゃあああぁぁぁっっっ!!」

マユリにクズと呼ばれている男は、右手にドラ○もんのミチビキエン○ルに似た妙な人形をつけて逃げ回っていた。

その人形の言う通りに動けば間違いないというアイテムとのことなので、その通りに行動したのだが結果は散々なものだった。

右の道に行けというので従えば近くを通りかかった車に水たまりの水を掛けられる(左の道を進んでいたら車にひかれて死亡)。

立ち止まれと言われたので立ち止まればカラスの糞やセミのおしっこをかけられる(前に進んでいたら拳銃を持った強盗犯が放った流れ弾が眉間に当たり死亡)。

踏切を急いで渡れというので急いで渡ったら線路に足が(つまず)き顔を強打した(普通に渡っていたら服が線路に絡まり脱出できず電車にはねられ死亡)。

そして今。男は通るなという道を避けたところ野犬の尾を踏んでしまい、怒り狂う狂犬から逃げていた(通るなという道を通っていたら大量の蜂に追い回され死亡)。

「ハァ……ハァ…………、クソッ!」

犬から完全に逃げることに成功した男は人形を地面に叩き付ける。

「クソッ!隊長のせいで散々な目にあった!!」

「だいぶお怒りのようですね」

「だ、誰だ!?」

男は振り返る。そこには笑顔を浮かべ、歯を露出した笑みを浮かべる全身黒づくめの謎の男が立っていた。その怪しい容姿と服装、男の身体から発せられる不気味なオーラに、男は思わず後ずさる。

「いえいえ。怪しい者ではございません。私、こういうものです」

謎の男は男に名刺を差し出す。

「『ココロのスキマお埋めします 喪黒福造』。なんですか?貴方は」

「ホーッホッホッホ。ただのセールスマンでございます。ここではアレなんで、ついてきてくれますか?」

 

 

 

魔の巣という静かなバーに連れてこられた男は、喪黒福造と名乗る男と酒をかわしていた。

「――というわけなんですよ」

「なるほど。それは大変でしたね」

喪黒の見事な受け答えに、男は自分が死神だということを隠した上で愚痴を漏らした。上司である涅マユリがワガママで理不尽なこと。アイテムのテスターを頼まれてそのアイテムの言う通りにしたら散々な目にあったこと。

 

そして。”涅マユリ(上司)”を殺害したいと何度も思ったことを。

 

「それは感心しない上司ですね」

そう言って喪黒は「そんな貴方に」と持っていた鞄からある物を取り出す。

それは多くの漫画家が所有しているデッサン用の人形だった。

「え、これって……」

何なんですか?そう聞く前に「これを持ってさっきの上司の人を思い浮かべて下さい」と言われ、男は言われた通りに人形を握る。するとデッサン用の人形が見る見るうちに男の上司である涅マユリへと変身する。

「それは呪いの人形です。その人形に思いを込めて傷つければその人形そっくりの人物も同じように傷つきます。つまりその人形にひっかき傷をつければ上司にもそのようなひっかき傷が。その人形の間接をありえない風に曲げれば上司の方が骨折する……と言った感じですね」

「ふ~ん」

男は人形を持って上下左右と色々な角度から観察する。手に持つ人形は十数分の一サイズと言っていいほど精巧なものだった。

一寸の狂いもないほど完璧な姿な人形を見ながら、男は喪黒に尋ねる。

「ところで、もし首を折ったり、この人形を両断したりしたら……」

「そんなことを気にしてどうするんですか?」

「え?」

喪黒の返答に男は声を詰まらせる。

「貴方にとってその上司の方は殺したいくらい憎いんでしょう?だったら仮にその人形を両断してその上司の方が真っ二つの謎の変死体になっても……それは貴方にとってどうでもいいことなのでは?」

「え、いや……どうでもいいことないだろう!?」

男は喪黒の言葉を否定する。しかし喪黒は続ける。

「では逆に聞きますが。貴方はその上司の方にそれほど義理立てする必要があるのですか?」

「……どういう意味ですか?」

「言葉通りの意味ですよ。自分のことは棚にあげて暴力を振るう。人の都合は考えない。そんな人に同情とか義理立てとかする必要があるのか……そんな風なことを私はふと考えてしまったわけです」

「……」

喪黒の言葉に、男は反論する言葉が見つからずそのまま黙ってしまう。

そんな男の気持ちを察してか、それとも話すことはなくなったのか。喪黒は残っていたグラスの酒を飲み干す。

「まあ使うのも使わないのも貴方次第です。その商品はタダで結構なので」

そう言ってセールスマンは席を立つ。

「僕は……」

男はマユリの姿をした人形をジッと見る。

「あ、そうだ。最後に一言」

立ち去ろうとしていた喪黒が振り返り、男に言った。

「貴方には復讐する権利があると思いますよ」

そう言い残し、笑うセールスマンは男の前から姿を消した。

「……復讐する、権利…………」

男は目の前の人形を見ながら別れ際に言った喪黒の言葉を呟いた。

 

 

 

「ん?」

マユリが振り返るとそこには今まで見たことがないほど暗い顔をした男が立っていた。

現世から戻った男はトボトボとマユリの前まで近づく。

「おい、クズ。渡したアイテムはどうした!?」

「……」

マユリは目の前の男に怒りを露わにする。

いつもの男ならば泣いて許しを乞うていただろう。しかし予想だにしていなかった男の行動に、マユリは理解できなかった。

「……なんの真似だ?」

土下座をする男にマユリが尋ねる。

「涅隊長!どうか、僕を殴って下さい!!」

「……」

何も言わない上司に、男は続ける。

「僕は、ある男にとあるアイテムを差し出されました。そしてそのアイテムが隊長を殺すことも可能なアイテムだと聞かされました。にも関わらず僕は即座にその男にそのアイテムを返すことができなかった……迷ってしまったんです!……だから、僕を殴って下さい!でないと、僕は……隊長の下にいる資格がないんですッ!!」

「……わかったよ。クズ」

そう言ってマユリは

 

 

グサッ!

 

 

男の背中から心臓を刀で突き刺した。

「え?あ、あの……僕、殴ってと……――――」

大量の血を吹き出した男はそう言い残し、男は絶命した。

 

 

 

「いや~まさかねぇ~」

喪黒は涅マユリを模した人形をナデナデしながら呟いた。すると人形はマユリから最初に男に見せたデッサン用の人形に戻った。

「もしあの方が人形を傷つけていたら、傷つけたあの方も同じような傷が数日後に出来た。つまり上司の方を模した人形を壊せばあの方も同じように死んでいた。そうなるはずだったのですが。いやはや、人も捨てたものではありませんねぇ。オーホッホッホ……」

そう言い残し、笑ゥせぇるすまん喪黒福造は夜のネオン街へと姿を消した。

 

 




今回はとある方のリクエストを元に作ってみました。
(要望とはかなり違う内容でしたが)

リクエストしてくださった方に要望どおりに出来なかったことへの謝罪と感謝の念をここに書かせていただきます。

そして最後に。
久保帯人先生、藤子 不二雄Ⓐ先生、藤子・F・不二雄先生。本当に申し訳ございません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十四話 メスにモテるお守りその2

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。


登場人物紹介
仏宇野(ふつうの)。葛原粕人の四番隊時代の同僚。『第五話 鏡霞水月』に登場していた同僚の一人。



マユリにクズと呼ばれている男の首には毒々しい赤色のお守りがぶら下がっていた。もちろん彼の趣味ではない。そして基本的に彼は信心深くない(死神が神や仏を信じるのもおかしな話だが)。

そんな彼がなぜそのようなものを首からぶら下げているか。それはマユリに「おい、クズ。このメスにホレるお守りを明日まで身につけていろ」と言われたからだ。お守りを体から離したら最後、爆発して木っ端微塵になる爆弾付きで。

「おそらくこのお守りは前回同様、動物や虫のメスに惚れるような仕組みなのだろう。だが、対応策はある!」

そう言って男はスプレーを取り出す。

「これは以前(くろつち)隊長が作った女嫌香を僕が効果を薄くしたもの。効果は薄いがその分微調節が可能になった。もしメスゴリラだろうが来ようともその時にこの女嫌香を吹きかければ大丈夫。これでメスにホレるお守り対策はバッチリだ!」

ふと男はあることを思い出す。

「あ、しまった。今日は親友の仏宇野(ふつうの)の結婚式だった」

不幸を招く上司に気を使いすぎた男は急いで礼服に着替え花屋に向かった。

 

 

 

一時間後。

花屋に向かった男は親友に渡す花を店員に選んでもらっていた。

「これなんていかがでしょう?」

「ありがとうございます。今日はめでたい日なんですよ。友人が結婚する」

「そうですか、おめでとうございます」

その時だった。

「泥棒ぉッ!!」

声のする方へ振り返ると、そこには女性から財布を盗んだひったくり犯の姿が目に入る。

「待ってぇ!」

男は逃げるひったくり犯を追う。幽世閉門の力で強くなった男は瞬く間にひったくり犯に追いつき財布を奪い返す。

取り返した男は花束を持ったままひったくり犯に背を向けた。

その時だった。

「このぉ、ウオオオオオオォォォォォォッッッ!!」

ひったくり犯の声に男が振り返る。

 

グサッ!

 

「え……」

男は膝から崩れ落ちる。腹部を見るとそこにはメスが深々と腹に突き刺さっていた。見る見るうちに赤いシミが広がっていく。

「あ、ああ、……アアアアアアァァァァァァッッッ!!」

自分が取り返しのつかないことをしたことに気づいたひったくり犯は青ざめた顔でその場から逃げて行った。

 

 

 

「う、ウグッ……ウゥッ!」

式がつつがなく進行していく中、男は刺された所を抑えながら結婚式場へ足を運んでいた。

そして。目の先にあったベンチに寄りかかるように座る。

式場での儀式が終わったのか、会場にいた人々が外に出て花婿を胴上げしていた。

「あ、葛原(くずはら)!」

胴上げから解放された佛宇野と視線が合うと、男は親友に向けて笑顔で手を振った。

「葛原。来てくれたんだな。ありがとう」

そう言って花婿は男の隣に座る。

「あぁ」

花婿は元気のない男の様子に気づく。

「どうした。顔色が悪いぞ。ちょっと待ってろ」

立ち上がろうとする親友を男が袖を掴んで止める。

「……なに、例によって涅隊長にな……」

その理由に納得して座った親友と一緒に顔を上げる。

「空が目に染みるなぁ。綺麗な空だ」

「ああ、俺達が守ってきた……青空だ」

二人は互いに視線を合わせる。二人とも前線とは程遠い後方支援が主だったが、それでも全力を尽くし貢献してきた。その自負が混じりけのない純粋な笑顔を作った。

「ありがとう、仏宇野」

「あぁ!」

「集合写真撮ります!皆さん集まって下さい!!」

カメラ係の号令に男を除く全員が集合写真を撮ろうと集まる。

「あれ、葛原くんは?」

花嫁の言葉に、仏宇野が男の方へ視線を向ける。

「疲れているみたいだな、そっとしておいてやろう」

男は刺された所を気づかれないように、さりげなく抑えながら笑顔で手を振ってこたえる。

「はい、撮りますよ!」

 

カシャ!

 

幸せそうに写真に写る皆の姿を見届けると、男は腹部に刺さるメスを見ながら呟いた。

「メスって、刃物の方の、メス……かよ…………」

苦笑した葛原(くずはら)粕人(かすと)はそう呟き……

 

 

「――――」

 

 

静かに目を閉じた。

 

 

 




もうすでに分かっている方はいらっしゃるとは思いますが。本作の元ネタは鳥人戦隊ジェットマンの最終回のシーンです。

映像から文章化の難しさを感じました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 発進せよ!クズロボット!!

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。


男は自室のパソコンでDVDを見ていた。

『お、おのれ……カラクレンジャー!俺がこのまま終わると思ったら大間違いだぞ!ホロウエキス!!』

そう言うと怪人はドクロの形をした酒ビンを一気に飲み干し巨大化する。

『ホロウ軍団の怪人はホロウエキスを飲むことで巨大化する。だがそれは自らの命を縮める、まさに最後の手段でもあるのだ』

巨大化する怪人とあわせて(しぶ)い声のナレーションが入る。

『これ以上やつの好きにさせるわけにはいかない!魂葬(こんそう)戦隊カラクレンジャーの力を見せてやる!いくぞ、皆!!』

『『『『応ッ!』』』』

リーダーの合図で五人が乗るロボットが合体する。

『『『『『合体、カラクキング!!』』』』』

五体のロボットが合体して一つの巨大ロボットに変身した。

「あぁ、僕。こういうの(を操縦するのに)憧れていたなぁ」

マユリにクズと呼ばれている男がそんなことを呟いた。

 

 

 

翌日

「……うぅんっ?」

バキューン!!ダダダダダッッッ!!バゴンッ!!

近くで爆音が聞こえる。それに耳元でバチバチと燃える音に人々の叫び声。

(何だよ、人が気持ちよく寝ているのに……)

眠たい眼を擦りながら男は立ち上がり、絶句した。

男の周りには各隊の死神達が男を見上げて(・・・・)鬼道を打ち出したり、足元を(・・・)斬りつけていた。

 

彼らを見下ろす。

 

この状況に男は言葉を失った。

「ど、どういうことだ!?」

混乱する男にザザッという音の後に聞き覚えのある声が流れる。

『どうだ、クズよ。巨大メカになった気分は?』

「きょ、巨大メカ!?」

男は自分の身体を見る。そこには今まで自分と共に過ごした見覚えのある身体ではなく、涅マユリの言う通り無機質な巨大な機械の身体だった。

『昨日お前が巨大ロボットを見ながら『こういうの憧れていたなぁ』と言っていただろう?だから昨日巨大ロボを作ってお前の脳を移植してみた。突貫工事ながらよく出来ているだろう?大変だったのだぞ。戦車や戦闘機の攻撃にも耐えられるように参考にさせてもらったカラクキングのガンジョニウム合金を作る所から始まり、同時進行で回路なども作るのは。

その甲斐あって寝返りで町を破壊したお前を駆逐しようと出動した並程度の死神の攻撃はかすり傷一つつけられないのだがな』

自画自賛する上司に、男の身体に取り付けられた全身の火器が火を噴いた。

「僕を元に戻せッッッ!!」

(あと僕はロボットを操縦するのに憧れていたのであって、ロボットになることに憧れていたんじゃない!!)

やけくそになった男が発射したミサイルとレーザーが瀞霊廷をさらに燃やすのであった。

 

 

 

後に護廷十三隊の隊長格などの主力も出動。尸魂界(ソウルソサエティ)に現れた巨大ロボットは涅マユリの診断(という名の証拠隠滅)によって新型の虚(・・・・)と分かり、巨大ロボットになった男は虚として処分された。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 涅マユリの敗北

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

今回の話は皆様の涅マユリ像が崩れる可能性があります。そうなった場合先のお詫びもうしあげます。


この日。(くろつち)マユリにクズと呼ばれている男、葛原(くずはら)粕人(かすと)はおかしかった。

「クズ。補肉剤の改良をしたいから貯蔵庫から――」

「涅隊長。そうおっしゃると思いこちらに」

そう言って男は補肉剤の原料が入ったビンをマユリに手渡す。

「ほう、今日は準備がいいじゃないか。では早速――」

改良するための実験を始めよう。そう言おうとした時だ。

「涅隊長。差し出がましいことだとは思ったのですが、自分が補肉剤の改良したものをここに」

そう言って男は先ほどとは別のビンをマユリに手渡す。

「僕の計算が正しければ、隊長がいつも使われている補肉剤の数分の一の量で同等の威力を発揮します。そして注射器も小型化させたものがここにあります。そして作る値段もはるかに安価に。これで補肉剤を大量に所持することになると思います」

男はその液体が入った注射器を技術開発局局長である上司に手渡す。

「ほうぅ、クズのお前が、か?」

自分が開発した発明品のモルモットとしか見ていない男の自信満々な顔に、マユリは試すように笑うとわざと傷をつけたラットに男が手渡した改良型を注射した。

そして男の言うとおり、傷だらけのラットはわずかな量の液体で肉が見る見るうちに盛り上がり、ものの数秒で元の姿へと戻っていった。

「……これは」

男が言った言葉通りの結果に、マユリは感心する。

「ほぉ。クズでも数ヶ月研究所にいれば、一つくらい私を唸らせる研究結果が出せる、と言ったところか。数ヶ月でこんな改良品を作るとは……珍しく褒めてやらねばならないな」

「あ、ありがとうございます」

おそらく十二番隊に配属されて始めての上司の言葉に、男は頭をかいて照れる。

そして男は「お言葉ながら」と口を開く。

「ちなみに。その補肉剤の改良する方法を思いついたのはついさっきです」

「……ッ!」

「ちょ、ちょっと……涅隊長!何で刀を抜いているんですか!?」

いつもの自分を斬る笑顔でゆっくりと刀を抜く上司に、男は腰を抜かす。

「私は嘘を言われるのが大嫌いでね。とくにお前みたいな隊の底辺にいるような男が私に嘘をつくなど……」

「い、いえ!本当です!!だって十二番隊(ここ)に来て数ヶ月、ろくに休みがなく部屋と仕事場を行き来していた僕に、研究する時間なんてあるわけないじゃないですか!!」

 

ピタッ!

 

男の発言にマユリの手が止まる。

マユリは男が休みの日でも事あるごとに男を呼び出し実験を行っていた。その休みのなさは労働基準法に完璧にひっかかるほどだ。

男が普段からこのように結果を出していれば、すぐにそれなりの席に抜擢(ばってき)していたはずだ。

「ん?」

技術開発局局長はあることを思い出す。

(そう言えば昨日男に動物変身キャンディというものを作って食べさせて凍えるような寒さの川に叩き落したなぁ。比較的泳ぎが苦手とされるゴリラの形のキャンディを食べさせ実験は成功。その後高熱を出していたな)

「もしや……」

マユリはある考えにいたる。

「クズ。そのままジッとしていろ」

そう言ってマユリは男の額に手を当てて

 

ボォッ!

 

「ギャアッ!?」

灼熱にも匹敵する額の熱で手が引火。急いで水があるところに走り去った。

「おかしな隊長だな」

自分が風邪によるギャグ補正で頭脳が活性化しかつギャグ補正で耐熱化しているに気づかず、男はマユリが散らかした部屋を綺麗に掃除するのであった。

 

 

 

翌日。

バカは風邪をひかないという俗説通りに男は元に戻ったのであった。

 

 




書いた人間が言うのもアレですが。男は何で生きているのでしょうか?

ちなみに今回のオチに使った発火ネタの元ネタは吉田正紀先生の『イフリート〜断罪の炎人〜』に登場する石刀(いわと) ユウです。(人体改造によって感情が高ぶると体温が1000度ほどに上昇してしまう身体にされたキャラクター)

そしてマユリが作った動物変身キャンディの元ネタはドラえもんの動物ドロップです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 涅マユリはクズに復讐するようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。


「クズ。これを食え」

マユリは自身がクズと呼ぶ男を自室に呼び出すと、メロンの網目を炎にした謎の果実を目の前に差し出した。

「……(くろつち)隊長。お言葉ながら、これは何でしょうか?」

(これって『○NEPIECE』に登場する『メラ○ラの実』だよな)

何となく検討がついていた男だったが「なんだとクズ!これを見てもわからないのか!?」という理不尽な怒りを買うことを覚悟してあえて質問した。

「つべこべ言わずにさっさと食べるんだ!」

有無を言わさず食べさせようとする上司に、男は全てを悟った。目の前の果実は間違いなく『○NEPIECE』に登場する『メ○メラの実』でこれを使って何かを企んでいると。

(何を企んでいるんだこの人は?)

男は考える。

(実は涅隊長はマグマ○の実を食べていて火とマグマ、どちらが強いか試そうとしている?……いや、慎重が服を着たような隊長がそのようなことを僕と言う実験体を使わず食べるはずがない!)

「だったら」

男は自分しか聞こえない大きさの声で続ける。

(焼き芋を作るとか火力発電所に放り込もうと考えている?いや、もし目の前の果実が本当に『○NEPIECE』の『メラメラの○』だったら焼き芋は消し炭になるはず。それに火力発電所にするならむしろ『ゴ○ゴロの実』で直接電気を作った方がいいんじゃないのか?)

「何を考えている!さっさと食べないか!!」

凄まじい剣幕で怒鳴る上司に、男は苦し紛れの言い訳を思いつく。

「く、涅隊長……実は僕、悪魔の実の能力を無効化するナシナシの実を食べた能力者で。それを食べても炎人間にならないんですよ」

「……」

「……」

数秒ともいえる静寂だが男にとっては永遠とも思える時間だった。なぜならば絶対的権力を持つ涅マユリの食えという命令に拒否を示したのだ。何をされてもおかしくなかった。

「それは残念だ」

そういうとマユリはメロンの網目を炎にした謎の果実を机の上に置いた。

「あ、僕。急いで終わらせないといけない仕事があるので。失礼します」

難が逃れた男は適当な理由をつけて部屋から出ようとする。その時扉が開いた。

「マユリ様。昼食をお届けに参りました」

十二番隊副隊長であり男の上司でもある女性、涅ネムだった。ネムの手に持つ皿には大量のサンドイッチがあった。

「クズ。お前はまだ昼ごはんはまだだろう。どうだ、一緒に食べないか?」

「え?」

「何だ。私の誘いを断るのか?クズの分際で!」

「い、いや……そんなことあるわけないじゃないですか!」

あはは、と男は冷汗を流しながら笑ってごまかしながらサンドイッチに手を付ける。

パクッ!

「……ッ!?」

男はあまりのまずさに目を白黒させる。そしてサンドイッチの具を見る。そこには、メロンの網目を炎にした謎の果実が薄切りにされてものが挟まっていた。

「か、身体が!!」

異変はすぐに現れる。男の体温が見る見るうちに上昇。身体の至る所から赤い蒸気が立ち上がる。そして。

 

ボォォッ!

 

「ウゥ、ウゥッ!……ウワアアアアアアァァァァァァッッッ!!」

 

自ら生み出した超高温の熱に体内発火。まるで全身に包帯を巻いた弱肉強食を信条とした某マンガのキャラクターのように、消滅した。

 

 

 

マユリは消し炭となった男の残骸を見下ろす。

「クズの分際で私に火傷を負わせた報いだよ」

そう言ってマユリは前回(『番外編 涅マユリの敗北』の出来事)のことを思い出しながら呟いた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十五話 葛原粕人100%

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。


マユリの部屋。

いつものように男は上司である(くろつち)マユリに呼び出されていた。

「クズ。これを食べろ」

そう言って奇怪な顔の上司は自身がクズと呼ぶ男にピンポン球サイズの筋肉の模様をした丸薬を手渡す。

「涅隊長。これが世紀に残る大発明というのは分かりますが、一般人の底辺にいる自分には何なのか分からないので説明をお願いできないでしょうか?」

本当は世紀に残る大発明どころか自分を不幸にするものとしか見えない男だったが、ここで目の前の丸薬をこれ呼ばわりしたり、全く分からないといったりすれば激怒されることを知っている。ゆえに必要以上にへりくだって説明を求める。

「……たく、しょうがないやつだな。私の貴重な時間を無駄にして」

そう言いながらも満更でもない顔でマユリは説明する。

「それは筋肉調節剤だ。文字通り筋肉を増強したり減少したりと筋肉の量を自分の意思でコントロールすることが出来る発明品だ!」

「……」

マユリの説明を聞いて、男は某マンガのキャラクターを思い出す。

(もしかして。これって『○遊白書』に登場する『○愚呂弟』じゃないか?)

そう思いつつも男はそのまま沈黙を保つ。

「ちなみに筋肉の量30%ほどで改造された巨大生物を片腕で殺し、45%で大男を一突きで腹部を貫通。80%ほどでは拳の風圧で地面をえぐり、100%になれば指で弾いた空気が強力な武器になるほどだ!ちなみに80%になると弱い虚や死神はその筋肉は出す攻撃的な圧力だけで死亡するから注意したまえ」

(間違いなく『幽遊○書』の『戸愚○弟』だ!)

上司の説明に男は確信する。

「というわけで食え。人体実験はまだだが筋肉が増加したところで生命には影響はないはずだ!さぁ、食え!!」

マユリは男の口の前まで筋肉調節剤を押し付ける。

「ちょ、押し付けなくても食べますから!」

受け取った男だったがあることが脳裏に浮かぶ。

(そういえばプロ野球でも話題になったよなぁ、ドーピング。たしか薬を使ったトレーニングの効果として体力や持久力などが異常に強くなったけど副作用で激しい動悸が起きるようになったり、足が異様にむくんだりして……結果的に薬物の使用による副作用で故障がちになって引退を余儀なくされたとか)

自分の将来に悪影響が起こるのではないだろうか。

その不安が受け取った丸薬を口に放り込むのを妨げる。

「クズ……もしかして私の発明品に欠点があるとかそんな無礼なことを考えていないだろうな?」

そういいながら奇怪な顔の上司は不気味な笑みを浮かべながら刀に手を掛ける。

「い、いやだな。涅隊長!『尸魂界(ソウルソサエティ)の至宝』である涅隊長ともあろう方が失敗なんてするわけないじゃないですか!!」

男は笑いながら怪しさしか感じられない丸薬を飲み込んだ。今ここで飲むことを拒めば命がなかったからだ。

効果はすぐに現れた。

男が限界まで筋肉を増強させるように自身の身体に命令すると華奢な男の身体が見る見るうちに筋肉で膨らんでいく。

そしてものの数秒で化け物じみた姿になった。

「おおぉ!これは……えっ?」

男は前触れもなく地面に潰れる。全身に力が入らなくなったのだ。

男の小さな身体に溜めてあったエネルギーや脂肪では筋肉の要塞になった身体を維持できるものではなかった。

男が某マンガのキャラクターじゃないか!と指摘していた人物は生者・死者を問わず、周囲の者の魂を吸収し餌とすることで身体を維持していたが、男にはそのような能力はなかった。

すぐに体内の栄養が枯渇し、枯れ木のようにやせ細った男は……そのまま息を引き取った。

変わり果てた男を見ながらマユリは呟いた。

 

 

 

「なるほど。100%を保つためには膨大なエネルギーをあらかじめ摂取しておく必要がある……失敗は成功の元だな」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 何かを得るにはべつの何かを背負わされる

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。


マユリの部屋。

「ふう出来た」

技術開発局局長兼十二番隊長、(くろつち)マユリの手には水晶玉が握られていた。

「これは有産玉(ゆうさんぎょく)。 出したら出したものに応じて使用した者の大事な人間が何かを背負わされる。そして背負わされる人間を使用した者は選べず、どのようなものを背負わされるか分からない」

普通なら自分の大切な人が何かを背負わされることを恐れ、使用するという選択をしなかったであろう。だがこの人は違った。

「とりあえず北海道産の秋刀魚(さんま)100匹」

マユリは大好物の秋刀魚を自身が作った水晶玉に要求する。

ちなみに秋刀魚は夏の間は北海道の北東の方に北上しており、夏の終わりごろから秋にかけて南下。南下するころの秋刀魚は成熟しているため、北海道は秋刀魚の名産地の一つとされている。

早速目の前に現れた秋刀魚を焼いて食べていくマユリだったが、

「さすがに100匹は食べられないな」

仕方なく奇怪な顔の隊長は食べきれない秋刀魚を冷蔵庫に入れた。

 

 

 

同時刻。

「ふうぅ。やっと仕事が終わったよ」

研究素材の調達に、マユリにクズと呼ばれている男は布団に倒れこんだ。

「今でもきついけど最初十二番隊(ここ)に来た時は本当に地獄だった。配属された初日から一ヶ月無休で働かされたし」

正確に言えば休みはあったのだがマユリの気まぐれともいえる呼び出しで潰されたのだ。

一週間一睡もしなかったこともあった。それでも男は死ぬことはあっても(本人に死んだ記憶がないので死んだという自覚はない)、病気などで休むことはなかった。

「本当に……よく涅隊長(あのひと)の下で頑張ったものだ。まぁ、これからも理不尽なことはあるだろうけど頑張ろう。まぁ、仕事は終わったしミスもしていないから今日はもうひどい目にはあわないだろう」

そう呟いた時だった。

 

ガラッ!

 

前触れもなく男の部屋の扉が開けられた。

「ん?どちら様です……か?」

ノックや声かけも無しに扉を開けるなんて失礼な奴だな。

そんなことを思う男が扉を開けた人物を見て、言葉を失った。

男の視線の先には手枷(てかせ)足枷(あしかせ)をしたスキンヘッドの二人のボディビルダーだった。

100人に「怪しいか怪しくないか?」と尋ねたら間違いなく100人が「怪しい!」というほど怪しい存在に、男は顔を引きつらせ冷や汗を流しながら思わず後ずさる。

ボディビルダー二人はニヤリと意味深な笑いを浮かべながら距離を詰めていく。そして、

 

「…………………………………………ッッッ!!!!」

 

 

 

声にもならない男の絶叫が十二番隊隊舎に木霊(こだま)した。




有産玉(ゆうさんぎょく)の元ネタは安西信行先生の代表作『烈火の炎』の螺閃の魔導具(まどうぐ)『光界玉』です。ただしこちらは消す対象に対して自分が持っている何かが消されますが。

そして男の部屋に現れたボディビルダーの参考キャラはメサイヤが世に送り出した名作(迷作?)『超兄貴』のサムソン&アドンです。
男が何をされたかは・・・皆様の想像にお任せします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 マユリにクズと呼ばれる男は多額の借金を背負わされたようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。


 ドンカンガッシャン!

 

 マユリと男は防音用の幕などが掛けられた建物を見ていた。

「霊子実験用施設の増設は着実に進行しているネ」

 満足そうな顔で工事現場を見るマユリに、マユリにクズと呼ばれている男は口を開く。

「……よくそんなお金がありましたね。まさか(危険薬物を売りさばくなどの)不正なことで得たわけじゃありませんよね……」

 男は「貴様は私がそんな男と思っているのか!」と激昂されることを覚悟で尋ねた。しかし男の予想に反して、奇怪な顔の上司は清々しい笑みで答える。

「安心するがいい、クズ。この施設は正式にとある金融会社から借りたものだ」

 そう言ってマユリは男に借用書を見せる。

 男は受け取った借用書を見る。そこには正式な手続きを踏んでお金が借りられていることが記されていた。そのまま読み進める男に、マユリは続けた。

「お前の名前で」

「え?」

 そこには『葛原(くずはら)粕人(かすと)』と実印が押されていた。

「な、何で僕が借りたことになっているんです!そもそも何で実印が!!」

「その程度の判子など私にかかればいくらでも偽造可能だ」

 男は借用書の金額を見て震える。

 その額は男が平隊士のままでは100年たっても返せない額だったからだ。

「まあ安心しろ。いくら何でも命はとられることはないだろう。ただし……」

 その時男は固まった。いつの間にかサングラスに黒服という怪しい服装の集団が自分を囲んで逃げられないように拘束したからだ。

「どこかに連れて行かれてしまうかもしれないがな。例えば地下帝国と言う名の核シェルターを作るために日の当たらない地下で土方をさせられるとか……おや?」

 振り返るとそこには男はおらず、黒服に連れ去られた後だった。

「くっ。説明の途中で突然いなくなるとは!そんな常識外れの奴にはお仕置きをしないとネ!!」

 自分が無断で男に借金を背負わせたということを棚に上げ、上司はどのような仕置きをするべきか考え愉悦に浸るのであった。

 

 

 

 地下帝国へと連れて行かれた男は境遇を共にした仲間と共に自分たちを(しいた)げた班長からチンチロリン(さいころを使った賭博の一種)で、班長が不正に溜めていた地下帝国専用通貨を巻き上げた。

 その後その巻き上げた専用通貨を使って外に出ることを許されると、一玉4000円という異常なまでのギャンブル性を持つパチンコ台を様々な困難がありながらも攻略。

 その後協力者との分け前で稼いだ大金がごっそり持っていかれたものの、男は背負わされた借金を全額返済することに成功した。

 

 

 

「クズ、この一週間どこをうろついていたんだ!おかげで生死を彷徨(さまよ)う人体実験が出来なかったではないか!!」

「ウギャアアアアアアァァァァァァッッッ!!」

 自分が勝手に背負わせた借金のせいだということを忘れ、マユリは疲れ果てて帰ってきた男を人体実験に使用するのであった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十六話 変身カメラ

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。



「涅隊長。阿近さんが気になることが――」

「出来た、出来たぞ!」

阿近から指示をあおいでくれと頼まれた男がマユリの元を訪れると、マユリは歓喜の笑いを浮かべていた。そして男はまたまずい所に出くわしたことを悟り、気づかれないように後ずさる。

だが、目の前の悪魔のような上司にはお見通しだった。

「逃げるんじゃないよ!」

振り替えるや否や、ロケットのように発射されたマユリの左腕が男の首を掴む。

「うおぉぇッ!?く、涅隊長……逃げるなんて」

男は左腕を外すと、逃げられなかったという気持ちを隠して冷静を(よそお)う。

「だ、第一……、隊長の実験体になることが唯一の生きがいである僕が、隊長の素晴らしい発明品に立ち会えて喜ばないわけがないじゃないですか」

「……それもそうだな」

マユリは左腕を外し、左腕に注射をして左腕を復元させる。

「では、私の作品の実験体になることが唯一の生きがいであり輝ける人生のクズに、私が華を添えてあげようじゃないか!」

そう言ってマユリは懐から何かを取り出す。それは変わった形をしたカメラだった。

「当ててみろ、と言ったところでクズだと一生かかっても正解は出ないだろうからこの私が説明してやる。これは変身カメラ。文字通り服を瞬時に着せかえさせられるカメラだ。服の写真かデザイン画を本体にセットして、ファインダーに表示されたその服を人物に合わせてシャッターを切ると、着ている服がセットした服のデザインに変化するというわけだ。どうだ、素晴らしい発明品だろう?」

「ああぁ、つまりはドラ○もんのきせかえカ○ラですね――ッ!?」

男が何かを言おうとしたが、言えなかった。何故ならば目が笑っていない笑みを浮かべながらマユリが刀を抜こうとしていたからだ。

()(むし)れ『疋殺(あしそぎ)――」

「い、いいい、いいえ!凄いです凄いです涅隊長!!写真で撮っただけで瞬時に着ている服が変化するなんて僕ら凡人には永久に思いつかない発想を思いつきかつそれを実現してしまうその発想力と実現能力!!これぞまさしく尸魂界(ソウルソサエティ)の百科事典、涅マユリ!!!」

涙目で祈るように賞賛の言葉を贈る男に、マユリは「よく知っているという意味なら分かるが」と呟きながらも満更ではない笑みで刀を元に戻す。

「だがまだ生物にはためしてなくてね。そこでクズ、一枚写真に撮られろ」

そう言ってマユリは男にそのままジッとしているように命令する。男の危険察知能力が警報を鳴らす。絶対写真を撮られるな、と。

しかし。

(着せかえらえるだけだ。予想できる最悪といえばセットされた写真は裸で、そこを女性死神に見つかる……と言った所か。それなら急いで隠れればいい)

考えられる最悪を想定し、それによって被るダメージを割り出した男はカメラの前に立つ。

しかし男は知らなかった。男の中で最悪でも、現実ではそれ以上の最悪があることに。

「じゃあ撮るぞ」

 

パシャ!

 

「ん?」

男は自分の服を見る。

そこには『夜露死苦』や『喧嘩上等』などの刺繍が施された暴走族風ファッションだった。

「な、何だこれは……ウッ!」

男が一瞬気を失う。そして

「なんじゃい!ワレェ、頭カチ割るぞ!!」

完全に暴走族に変貌(へんぼう)した。

しかし粗暴な男になってしまった男は忘れていた。恫喝した相手が

「ほう。お前ごときが、この私の頭を解剖する(カチ割る)と?」

尸魂界屈指のマッドサイテンティスト、涅マユリだということに。

「あ、いや!……あれは……言葉の綾で…………ヒィッ!!」

不気味な笑みを浮かべメスを取り出す奇怪な顔の上司に、先ほどまでの勢いを失った男は恐怖で腰を抜かす。

 

 

 

その後数日間、男の姿を見た者はいなかった。

 




今回の変身ネタは鳥人戦隊ジェットマンの着せた相手を変身させるファッションジゲンという怪人が元ネタです(作中では警備員をギャング、警察官を暴走族。その他忍者などにも変身させました)。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 男は人魚姫の世界に飛ばされたようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

この話はアンデルセンの人魚姫の悲しい結末をぶち壊します。
「こんな人魚姫は嫌だ!」と思う方は読まないほうがいいかと思います。



マユリの部屋。

マユリにクズと呼ばれている男の前には公衆電話ボックスがあった。

「クズ。これに入って何か言ってみろ」

「って言いながらあああぁぁぁっ!」

そう言ってマユリは男を電話ボックスに蹴飛ばす。

「うがっ!?痛いなぁ、もう!」

男は蹴られた箇所をさすりながら先ほどまで考えていたことをおさらいする。

(これってドラ○もんのもし○ボックスだよな?だってさっき(くろつち)隊長は『どこかに電話をかけてみろ』とは言わず『何か言ってみろ(・・・・・・・)』と言った。

ということはこれは普通の電話ボックスではないはず!)

そう思った男は『もしも涅隊長が優しい人間だったら?』と言おうとして、やめる。

 

涅隊長がもし○ボックスなんて作るだろうか?

 

男の危機管理能力が(ささや)いたからだ。

(涅隊長は完璧を嫌う方だ。たしかにも○もボックスは『一見万能な道具のように見えて、思い通りの世界にしようとしても結果的にはそれなりに辻褄(つじつま)が合わされてしまう』残念なひみつ道具だ。しかしもし『それなりに辻褄が合わされてしまう』という部分を思い通りにいくようにしたら……それは涅隊長の嫌う完璧になってしまう……もしやッ!)

男はハッと気がつく。

(これは罠、もしくはバッドエンドに繋がるパターンだ!このもしもボッ○スが逆の世界になるものだったら『もしも涅隊長が優しい人間だったら?』は間違いなく地獄。そしてもしもしもボッ○スの形をしたただの電話ボックスだったら『貴様はそんなことを望んでいたのか!?』と激怒は必須!……どうする僕!?)

「いいから何か適当なことは言わないか!」

外では激昂したマユリが電話ボックスごと破壊しかねない顔で怒鳴り散らす。

「は、はい!」

(何か、とりあえず真逆でもただの電話ボックスでもいいようなことを!)

そう思った男が呟いたのは

 

「もしも人魚姫が王子様と結婚したら!」

 

だった。

「……」

「……あ、あの。涅隊長……これで、いいですか?」

何も言わない上司に、不安になった男が恐る恐る尋ねた。

するとマユリはニンマリとした顔で男を見る。

「素晴らしい!素晴らしいよ、クズ!見ただけでそれが何なのか気づくとは。察しの通りそれは受話器に「もしも○○が××だったら?」とそのように話せば、その通りになる発明品だ。童話限定で!」

「ど、童話――――ッ!?」

男はそれ以上続けることが出来なかった。なぜならば電話ボックスの風景がグニャリと(ゆが)み始めたからだ。歪みが激しくなると同時にマユリの声も遠くなる。

その光景に気分を悪くした男が気絶する直前にマユリが言った言葉が男の心に刻まれた。

 

「『もしも”涅隊長()”が優しい人間だったら?』……なんて言ったら。地獄を見せてやったのに――――」

 

その言葉に、男は「言わなくてよかった」と心の中で呟き、気を失った。

 

 

 

「ん?」

男は目を覚ます。夜だったが、目が暗闇に慣れ、大きな窓から差し込む満月の光で部屋は何があるのか分かる。そこは男の自室(一畳)が何個も入るほど広い、西洋の豪華な部屋だった。

男はベッドを見る。そこには男も一瞬見惚れるほどの美形の青年がスースーと寝息を立てていた。そしてその青年の近くには、艶やかな金色の髪にも負けない美しい顔の女性がナイフを持って立っていた。

「な、何をしてるんですか!?」

女性がナイフを振り上げようとする姿に、男は無我夢中で女性からナイフを奪い取った。

「……ッ!」

女性は驚く顔で男を見た。その目には涙の跡が。

(も、もしかして)

その涙が人生最大の決断を迫られた苦悩だと知った男はある童話を思い出す。

(確か人魚姫は助けた王子に一目ぼれして助けるけど『人間に姿を見られてはいけない』という教えで王子を助けた後に身を隠したんだっけ。そしてどこからか娘が現れて王子を抱き上げると王子は同時に目を覚まして、目の前にいる娘を命の恩人だと勘違いした。

それをみた人魚姫は『自分が命の恩人』だと伝えるため、魔女に『美しい声と引替えに、人間にしてくれる』ように頼んで人間になった。だけどその人間になる魔法は、『王子様が他の女性と結婚すると二度と人魚姫には戻れず海の泡になって消えてしまう』というものだった。

その後人間になった人魚姫は色々あって王子と共に城で暮らすことになったが、声が出ないから自分が命の恩人だと伝えることが出来ない。

そしてこのシーンは溺れた時に助けられたと勘違いした娘と結婚する日が近づいたとある夜。王子の心臓を突き刺してその血を使えば海の泡にならなくてすむと聞いて心臓を刺そうとするが、愛する王子の命を奪うことが出来ず最後に海の泡と消えてしまう前のシーンだ!)

「……ッ!」

一瞬の回想に銅像のように固まる男を、言葉が話せない人魚姫は涙を流す目でジッと見る。その瞳には「貴方はなぜ私を止めたの?」と書かれてあった。

「何だ、あの音は?」、「王子の部屋からだぞ!」、「急げ!王子の身に何かあったのかもしれない!」

何人かがこちらに近づく足音にパニックになった男は意味も分からず口走る。

「人魚姫!貴女は王子様に『私が貴方の命の恩人です』と伝えたいのですか!?それとも『王子様のことが好きです』と言いたいのですか!?どっちなのです!?」

「ッ!?」

その言葉に見るだけで幸せな気持ちにさせてくれる容姿を持った女性は、考えてもいなかった男の言葉に大きく目を見開く。

男は心臓をバクバクさせながら続ける。

「王子様は『声が出ない女性(ひと)とは結婚できない』なんて馬鹿馬鹿しい価値観の男性じゃないはずです。貴女がするべきことは、王子様の心臓にナイフを突き刺すことでも海の泡となって消えることでもない!『愛している』と手振り身振りで伝えることです!!」

「ッ!」

でもどうやって?不安になる瞳の声に、男ははっきりと言い放つ。

「声が出ない相手が必死で愛を伝える……これは男の本能を刺激するシュチエーションです。それでときめかない男なんていないんです!だから、貴女が本当にしたかったことをすればいい。貴方なら分かっているはずです!」

その時だった。男の声に『一刻を争う』と思い、駆けつけた衛兵が王子の部屋のドアを蹴破ったのは。

「貴様!王子の部屋で何を?」、「なんだそのナイフは!?」「さてはお前は王子の命を狙う暗殺者だな!」

そう言うと衛兵達は男を取り押さえる。

「ま、待ってください!僕は、僕は王子様の命を奪おうなんてこれっぽっちも――――」

「黙れ!不審な男が王子にナイフを向けて『殺す気はなかった』と誰が信じるんだ!?」

男の訴えは聞き入れてもらえず、男は衛兵達に連行された。

「ん?何だ……騒々しいな」

度重なる疲れで泥のように眠っていた王子が目を覚ます。そこには目に涙を浮かべ自分を見る人魚姫の姿があった。

「お、お前は――――」

王子はそれ以上何も言えなかった。

『貴女が本当にしたかったことをすればいい』。つい先ほど男から助言をもらった人魚姫が、心を込めた熱いキスで王子の唇を(ふさ)いでしまったから。

 

 

 

その後人魚姫は王子様と結婚し、人魚姫に愛の告白をするように助言した男は王子の命を狙った反逆罪でその晩に断頭台の露に消えました。

めでたし、めでたし。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十七話 竹馬棒

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。


マユリにクズと呼ばれている男が普通に研究所の通路を歩いていた時だった。

「貴様!たかだか道具の分際で私に楯突(たてつ)くなど!」

「ん?」

偶然マユリの部屋を通りかかった男が上司のただ事ではない声に部屋を覗き込む。

すると一本の緑の棒が男の方に向かってきた。

「うわぁ!?」

男は自分のみを守るため無我夢中でその棒を握った。

「でかしたぞ、クズ」

男は握った物を見る。それは竹馬の先端を馬面にしたような謎の棒だった。

「それは馬と竹を掛け合わせた竹馬棒というものでな。尖兵計画(スピアヘッド)の代わりになると思って作ったのだがどうも反抗的でね……そうだ」

竹馬棒と男を見比べてマユリはポンッと手を叩く。

「そうだ、クズ。その竹馬棒と一週間ほど暮らしてみろ。貴重な実験データが取れる」

「は?」

突拍子もない上司の提案に男は口をポカンと開ける。

「あ、あの……(くろつち)隊長。僕の部屋、一畳なんでこれを飼うスペースなんて――ッ!?」

男は何も言えなかった。なぜならば目の前の上司が大きく目を見開き刀に手をかけていたからだ。

「何か言ったか?クズ。もしかして私自ら頭を下げて(・・・・・)お願いしているのにそれを断ると?」

「い、いい、いやだなぁ……涅隊長。涅隊長が頭を下げている(・・・・・・)のに断るわけがないじゃないですか!」

一ミクロンも頭を下げていないじゃないか!と突っ込みたかった男だったが、この場でそれを指摘すればどうなるかは分かっていた。

男は手の中で暴れる竹馬棒を持って部屋へと帰っていった。

 

 

 

「ふむ」

竹馬棒を持って立ち去る男の後姿を見ながら、マユリは思った。竹馬棒は尖兵計画の代わりとマユリが考えた竹と馬の合成生物だ。戦闘用の改造魂魄(モッド・ソウル)と比べればその戦闘力は劣るものの、マユリがすぐに捕まえられなかったくらいの能力はある。にも関わらず無我夢中とはいえ自分より二桁ほど劣る男が一瞬で捕まえた。並の隊士なら竹馬棒に踏まれて逃げられるのが関の山の代物を。

「曲がりなりにもあのクズも強くなっているということか。まぁ、クズがいくら強くなったところでクズには違いないがね」

何を馬鹿馬鹿しいことを考えているのだと自分をなじりながら、マユリは自室へと戻っていった。

 

 

 

「とりあえず……にんじん食うか?」

部屋に帰った男はとりあえず人参を与える。

「ヒヒィン!」

「ま、待て!」

嬉しさのあまり飛び跳ねようとする竹馬棒を男がなだめる。

「やめろ。この狭い部屋で飛び跳ねたら部屋が壊れる」

「ヒヒィン……」

男の言葉に竹馬棒はシューンとなる。

「そうガッカリするな。夜になったら散歩に連れて行ってあげるから」

その言葉に竹馬棒は「ブヒィン!」と喜びの声を漏らした。

「可愛いなぁ、こいつ。ドラ○もんのウマタ○を思い出してしまいそうだけど。可愛いな」

頭を撫でると、竹馬棒は嬉しそうに鳴いた。

 

 

 

その夜。ものすごい速さで走り去る一本足の謎の生物が瀞霊廷で確認された。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十八話 どろぼうキャッチハウス

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。


 

「う~む」

(くろつち)マユリは考えていた。

科学者が、自らの研究室を造る時、他のどこよりも堅牢強固に作る場所。それは高価な実験機器の部屋でもなければ、夜通し書いた論文の書庫でもない。

科学者にとって最も壊されたくないのは、世界の縁まで這いまわって集めた、研究材料の保管庫。

ゆえに保管庫の防御システムには自分が持てる全ての技術をつぎ込んである。

ただ高価な実験機器も大事だし、夜通し書いた論文も失いたくない。

そこで技術開発局局長は考えた。それならばもっと安価でかつ取替えが出来て効果のあるものでそれらを守ろう、と。

そうして出来たのは一見家に見える小屋だった。

「これはどろぼうキャッチハウス。思わず誘いこまれそうになるような組み立て式の家で、中に入った人は室内の粘着物によって出られなくなる。 中に入るだけでなく、近くで 『取る』 などという言葉を口にしてもフラフラ~と家に誘い込まれてしまいどろぼうキャッチハウスの餌食になる。 まさに隙のない発明品だ」

マユリは自分の発明品に満足の笑みを浮かべると楽しそうに部屋を後にした。

 

 

数分後。

「涅隊長。いらっしゃいますか?」

マユリにクズと呼ばれている男がマユリの部屋を訪れた。ノックをしても返答がなく、扉に鍵が掛けられていなかったので、男は「失礼します」と扉を開けて用件を伝える。

「涅隊長。九番隊の檜佐木(ひさぎ)副隊長が瀞霊廷(せいれいてい)通信(つうしん)で十二番隊特集をするので何枚か写真を“()らせて”ほしいと……え?」

男は異変に気づく。身体が勝手に家の中に向かっていくのだ。

「あぁ、ああああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!」

抵抗しようにも抵抗らしい抵抗も出来ず、男は部屋の中へと吸い込まれていった。

「な、何だ。この粘着物は!?まるでドラ○もんのド○ボウホイホイのような……うぅ、クソッ、離れない!!だ、誰か……誰か助けて下さいぃぃぃ!!!」

 

 

 

数分後。

「う~ん?何してるんだ、葛原(くずはら)?」

偶然マユリの部屋を通りかかったフグのような顔をした人物が、トリモチのような粘着物で身動きが取れずもがく男を見つけた。

「あ、鵯州(ひよす)さん!お願いです、助けてください!!」

「あぁ、分かった。今“()って”やる……え?」

数分後。

別の隊員がマユリの部屋の近くを歩いていた。

「あぁ。この頃仕事が忙しくて食事が充分に取れてないから栄養が(かたよ)っているなぁ。ちゃんと必要な栄養は“()る”必要があるな……え?」

数分後。

「猛獣ハンター面白いよな。そう言えばオリハルゴンの甲羅ってどうやって“()る”んだっけ?……え?」

そんなことが何度も繰り返された後。一仕事終えて自室に戻ってきたマユリは

 

「……なんだね、これは?」

 

部屋の前で固まった。

「「「涅隊長、助けて下さい!!」」」

自らの発明品、どろぼうキャッチハウスに捕まる十二番隊の面々の姿だった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十九話 高速短縮ガン

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。


マユリにクズと呼ばれている男は例によってマユリに呼び出されていた。

「クズ、これをどう思う?」

奇怪な顔の上司の手には子どもが落書きで書いていそうな銃が握られていた。

「すごい、怖いです」

自分を何度も殺しかけている(男は死んだ前後の記憶がすっぽり抜けているので死んだと気づいていない)マッドサイエンティストが銃を持っている。恐ろしくないわけがなかった。

「なるほど。やはりクズでも、いや……クズだからこそ危険察知能力が特化しているから気づいたか?」

そういいながらマユリは手にする道具の説明を始める。

「これは高速短縮ガン。これを人間に向けて3秒ほど照射すれば猛烈な勢いで歳を取って瞬時に白骨死体になる発明品だ」

(なに息を吐くように第二十刃(セグンダ・エスパーダ)のバラガン・ルイゼンバーンの死の伊吹(レスビラ)を人工的に出来る危険極まりないもの作ってんだ、この人は!?)

普段なら「ドラ○もんの年月○縮ガンですね」と言うところだったが目の前の上司の説明に男は心の中で突っ込む。

(あれを(くろつち)隊長に持たせたままだとマズい!どうにかしないと!?)

その時男にある考えが浮かぶ。

「そういえば涅隊長……」

男は懐に手を入れた後、手を後ろに回して何かをしながら会話を続ける。

「今日はお日柄もよくいい天気ですね~」

「今は夜だぞ?」

マユリは男に呆れながら突っ込みを入れる。

「あ、そうでしたね。はははっ」

後ろに回していた手が止まると男は口を開く。

「そうだ、涅隊長。その年月圧縮……じゃなかった高速短縮ガンを触らせてもらっていいですか?」

「……壊すなよ」

いぶかしむマユリから子どものおもちゃのような銃を受け取った男は「へぇ、すごいな」と漏らしながら色々な角度から銃を眺める。

「なるほど。ありがとうございました」

そう言って男は銃を返すと

「それでは仕事に取り掛からないといけないので失礼します」

と足早に部屋を去っていった。

 

 

 

「ふう、持ってて良かった。いざと言うときのダミー用部品」

夜勤を終えた男の手には高速短縮ガンがあった。

男はマユリが持っていた銃が、自分が服の中に隠しているダミー用部品と形が類似していたことに気づくとすぐに高速短縮ガンとそっくりの物を作ったのだ。

発明品をすり替えることに成功した男は高速短縮ガンを懐に入れたまま流魂街を散歩していた。

「お前バカじゃないの!」、「それは童話の話だけだって!」

「本当だよ!」

声のした方へ歩くと、そこには背の高い少年二人組と背の小さいの少年が言い争っていた。

「お父さんが言っていたよ。ハサミでチョッキンチョッキンしたら柿が驚いて一気に成長して実がなるって!」

少年は柿の種を持ってそう主張する。

「だったら今すぐその種を実のなる木にしてみろよ!」

「い、今はハサミがないから無理だよ……」

「そうか、じゃあ明日お前の家に言ったら柿を食べられるんだな?」、「じゃあ楽しみにしているぜ!」

そういい残し、背の高い少年二人組は少年の前から姿を消した。

「……どうしよう」

少年は困った顔で柿の種をジッと見る。

「どうしたんですか?」

男は少年の目線の高さまで屈んでから少年に尋ねる。

「お、お兄ちゃん。誰?」

「僕は……葛原(くずはら)粕人(かすと)。君は?」

柿ノ木(かきのき)成実(しげざね)

少年はテンションの低いまま男に自己紹介をする。

「……柿の種だね。どうしたんだい?」

先ほどの光景を見ていた男ではあったが、あえて知らない風を装って尋ねる。

「俺、明日までにこの種から柿の実を作らないといけないんだ」

「う~ん、それは無理じゃないのかな?」

「絶対柿なるよぉ!」

男の常識的な意見に、少年は真っ向から否定する。

「父ちゃんが、死んだ父ちゃんが昔言っていたんだ。柿の種は『ハサミでチョッキンチョッキンすると一気に成長して実がなるんだ』って」

涙ぐむ少年に男はなぜ少年の父親がそんな夢物語のようなことを言ったか察する。

(たぶん。それは童話の猿蟹合戦のことを言っていたんだろうな。それをこの少年が本当のことだと勘違いして覚えた。そんなところかな)

「父ちゃんは、父ちゃんは……『どんなに辛くても嘘だけはつくな』って口癖のように言っていた。貧乏で、偉いわけじゃなかったけど……俺にとっては自慢の父ちゃんだった……その父ちゃんが言っていたんだ!間違いなわけがない!!」

そういうと少年はエンエンと声を出しながら泣き始めた。そんな少年をなだめながら男は考える。

(少年はいずれ父親が言っていたことが童話のことを言っていたと気づくだろう。……でももし明日少年の柿の種が柿の実を成らせなかったら……少年の心に父親への不信感が湧くだろう。いずれ勘違いだと気づくとしても……少年の夢を壊したくない。でもどうする?……ッ!!)

その時男の脳内に閃きが走る。

「そうだ!僕がその柿の種を実がなるようにしてあげるよ!!」

 

 

 

翌日。

「「…………」」

少年の庭で少年二人組は唖然としながら実がなる柿の木を見上げていた。二人組は少年の家の庭を何度も見ている。どこからか持ってきて植えたか、本当に一日で実がなるまで成長したか。そのどちらかしかなかった。

だがどこからか持ってきた目撃情報はないため、必然的に一日で成長したと信じるしかなかった。

呆然とする二人組に胸を張る少年。

その光景を男はこっそり見ていた。

「ふう、僕の予想通り高速短縮ガンで種を柿の木にすることに成功できたな」

少年の中の父親像を壊さずにすんだ男は満足した様子でその場から立ち去った。

 

 

 

翌日。

発明品がすり替えられたことを最初から知っていたマユリの雷が男に落ちたのは言うまでもない。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十話 路傍石

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。


「ふふふ」

(くろつち)マユリは自室で笑っていた。マッドサイエンティストの手には、石を模した表面を持つ半球型の帽子があった。

「これは路傍石(ろぼういし)。名前の通り被れば路傍の石の如く、周りから一切認識されなくなり、自身の存在を完全に消すことができる。その効果は絶大でどんなにハデに暴れ回っても誰にも気づかれない。 隠密行動をするにはこれ以上ない発明品だ!」

マユリは自らが作った発明品を自画自賛する。

「さて」

マユリは路傍石に何か仕掛けを(ほどこ)すと、路傍石を机の上に置いて部屋を後にした。

 

 

 

数分後。

「涅隊長。少しお聞きしたいことが……あれ?」

マユリにクズと呼ばれている男がマユリの部屋を訪れたのだがあいにく本人は不在だった。

「参ったな。急いで相談したいことだったのだが……ん?なんだこれは?」

男は机の上に置かれた石を模した表面を持つ半球型の帽子を手に取る。

「なんかドラ○もんの石○ろ帽子みたいな道具だな……ちょっと、被ってみようかな」

好奇心に負けて、男はその帽子をかける。その瞬間。

「――――ッ!?」

男は四肢が麻痺して動けなくなり、その場に倒れた。

(こ、この痛み……覚えがあるぞ。これは疋殺地蔵(あしそぎじぞう)の時の痛み!)

男の指摘どおり、マユリは路傍石のロックを外さず被った場合四肢を動けなくするように施していたのだ。

路傍石は、声はもちろん体臭や足跡すら気づかれない。そのため悪用に使えば完全犯罪のし放題であるが、今回のように帽子を外すことが出来なくなった場合は本当に誰からも気づかれなくなってしまう。

(やばい万が一ここで毒ガスでもまかれて死んだら一生誰にも気づかれず野晒しにされ、踏みにじられ……という考えたくもない!)

「そうだ、煙で散布する殺虫剤をまくのを忘れていたヨ」

(「ま、待ってください……涅隊長!」)

路傍石で声が聞こえない状態になっている男の声が届くはずもなく、マユリはマユリ印のバル○ンをいくつも部屋にしかけて部屋を後にする。

マユリ印のバ○サンはジワリジワリと部屋にいるダニなどの動きを止め、緩やかに死へといざなっていく。

虫よりもはるかに大きい=効きが遅い男にとっては真綿で首を絞められるようなものだった。

 

 

 

こうして男はゆっくりと死に、幽世(かくりよ)閉門(へいもん)によって自室で復活するまで、誰一人男の行方を知らずにいた。

もっとも。ちょうど死んでいた期間が男の休みだったため誰も男がいなくなったことに気づかなかったわけだが。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 涅マユリは葛原粕人に突っ込まれるようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

涅マユリが少々ポンコツ化します。みなさんのマユリ像が崩れたら先にお詫びします。


マユリにクズと呼ばれている男は例によってマユリに呼び出されていた。

「クズ。これをどう思う?」

そういうマユリの手には紙コップのような物を二つ持っていた。

(なんかドラ○もんの糸なし○話っぽい物だな)

と思ったのは微塵(みじん)も出さず、男は「これはどうやって使うのですか?」と尋ねる。

マユリは気分よく説明する。

「これは無線電話。片方の電話機を取ると、もう一方の電話機に電話がかかるという画期的な発明品だ」

「ようは携帯電話ですよね?」

 

ピキッ!

 

技術開発局局長の心にヒビが入る。

「ふっ、私がもう実現されている物を自慢げにお前のようなクズに見せると思ったのかね」

汗を拭ってマユリは机の引き出しからチョンマゲのついた禿(はげ)カツラを取り出す。

(もしかして、ドラ○もんの○人の知り合いか?知り合いの人の、そのまた知り合いの人の、さらにそのまた知り合いの人の……と、人脈をたどっていくと世界中のどんな人へも7人以内でたどり着けるという)

マユリは意気揚々に説明をする。

「これは六次(ろくじ)(へだ)たりカツラ。この道具を頭に被ると、自分が望む人と知り合いになることができるという発明品だ。世界の人々は間にだいたい6人の知り合いをはさめばつながっているといわれている。そこで1人目が2人目を紹介し、2人目が3人目を紹介し……という感じで、7人目でたどりつくことができるという寸法だ!」

「つまりFacebook(フェイスブック)ですよね」

 

ピキピキッ!!

 

技術開発局局長のヒビが入った心に更にヒビが入る。

「ふふっ。クズにしてはよく気がつくじゃないか……」

身体を小刻みに震わせると、マユリは郵政はがきを模したはがきを取り出す。

(もしかしてドラ○もんの○ンタメールじゃないよな。希望するプレゼントを書いてポストに入れると、クリスマス・イヴにサンタクロースがプレゼントを届けてくれるという。まあネタバレすると、22世紀のデパートにおもちゃを注文するハガキなのだが。あとサ○タ切手というアイテムもつけないと効果が発揮されなかったなぁ)

男がそんなことを考えているとは知らず、マユリは自慢げに説明する。

「これはクリスマスプレゼントはがきという発明品だ。これに住所・氏名・年齢・希望するプレゼントを記入して郵便ポストへ投函(とうかん)すると、クリスマス・イヴの夜にサンタクロースがトナカイのソリでやってきて、プレゼントを届けてくれるという発明品だ。ちなみに専用の切手を貼らないと効果がない」

(やっぱりドラ○もんのサンタメー○じゃないか!)

というツッコミを抑えるのに必死で、男はマユリに止めを刺してしまう。

「つまりAmazon(アマゾン)――――ッ!」

男は慌てて口を押さえたが、遅かった。そこには目も口も笑っていない上司が刀を静かに抜いていたからだ。

 

 

 

卍解(ばんかい)金色疋殺地蔵(こんじきあしそぎじぞう)!!」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 涅ネムは葛原粕人に頼みごとをするようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。


マユリにクズと呼ばれている男の自室。

「えっと……どうしたんですか。……(くろつち)副隊長」

一畳という狭い部屋で正座する男の前には十二番隊隊長・涅マユリの娘であり副隊長の

涅ネムが正座をしていた。

「貴方に相談したいことがあります」

そう言うと憂いた顔の女性は男の元を訪れた理由を話した。

 

 

 

「……つまり。涅隊長が本当に自分を愛しているかという実感が欲しい、と」

要約した男の説明にネムはコクリと頷く。

「マユリ様は私を大事にしていることは分かります。それでも愛されているという実感は欲しい時だってあります。なので(マユリ様の逆鱗に触れても生き返ることが出来る)貴方の力をお借りしたいと思って貴方の元を訪れました」

悪い意味で男でないといけないという理由を伏せて、ネムは男に説明する。

「涅副隊長!」

男は感激する。

十二番隊の最下層である男にとって頼られることは皆無に等しい。そんな男に№2である副隊長が協力を求める。

 

誰かのためになりたい。頼りにされたい。

 

その欲求が強い男にとって副隊長であるネムに頼られるというのは天にも昇る快感だった。

「わかりました!この葛原(くずはら)粕人(かすと)、涅隊長から全力で涅副隊長を愛しているかという実感を引き出して見せます!!」

 

 

 

翌日。マユリの部屋。

「何だね、これは?」

仕事を終えたマユリは机の上の置かれたビデオテープを手に取った。

タイトルには『葛原粕人編集セクシーボディなお姉さま特集』を二重抹線で消し、新たに『涅マユリへ』と書かれてあった。

「……」

マユリはビデオデッキを取り出し、ビデオテープを入れた。

 

 

 

最初に映し出された映像は十二番隊隊舎の廊下だった。壁には『葛原粕人』という名札がある。

『も、もう撮ってる?』

椅子に座ったXと書かれた紙袋を被った男が尋ねる。

『もう撮っているぞ、葛原』

『これ、おかしくない?』

そう言ってXと書かれた紙袋を被った男がカメラを持っているだろう男に確認を取る。

『うん、大丈夫だ』

『そう?それじゃあ仏宇野(ふつうの)。撮影始めて』

そう言ってXと書かれた紙袋を被った男は咳払いした。

『くくく、涅マユリよ。私は……そう仮にミスターXとしておこうか。涅マユリよ!この人質が見えるかな?』

映像がミスターXから一畳の部屋で座っている涅ネムの背中に変わる。

『昇○拳!○龍拳!波○拳!○動拳!竜巻旋風○!』

『涅副隊長、涅副隊長!』

ミスターXの小声に、格闘ゲームをしていたネムはカメラの方へ振り返る。

『た、助けて~、マユリ様~!(棒読み)』

その後再びミスターXに画面が切り替わる。

『ご、ごらんの通り我々は貴様の娘を誘拐させてもらった。この異常な状況下で体力と精神力がいつまで持つかな?涅マユリよ。娘の命を救いたいのであれば今夜19時に1丁目の広場にこい』

その後ザザッと画面が乱れた後、胸を大きく揺らした水着ギャルが楽しそうにビーチバレーをしている映像に変わった。

 

 

 

19時。1丁目の広場。

マユリにクズと呼ばれている男は広場の中央にある大木の裏でネムと一緒に隠れていた。

「こんなことで大丈夫なのでしょうか?」

「大丈夫ですよ、涅副隊長!どこぞの者とも分からない男に最高傑作とも言える娘を攫われたのです!その怒りは尋常じゃないはず!その男を殺すため、隊長は必ず来るはずです!!」

自分が殺されるということに気づかず、男は自信満々に副隊長の顔を見ながら伝える。

「あ!」

ネムの声に男は振り返る。そこには立ち止まる涅マユリの姿があった。

「約束どおり来たぞ!ミスターX。出て来い!」

マユリが叫ぶ。

「行きますよ、涅副隊長!」

ミスターXと書かれた紙袋を被ると、男はネムと共に大木の裏から姿を現した。

「ミスターX。ネムを返してもらおうか?」

「よかろう」

男はネムの身体をポンッと前に押す。

「マユリ様」

マユリの傍に立つとネムは頭を下げた。

「ご心配をかけてしまい、申し訳ございませんでした」

「ふんっ!」

マユリは不機嫌そうに鼻で言う。

「まったくだ。これからやることがいっぱいあったのに。……まぁ、いい。この近くに美味しい秋刀魚(さんま)を焼く店がある。日ごろの苦労を(ねぎら)う意味で特別に連れて行ってやろう」

「あ、ありがとうございます。マユリ様」

『日ごろの苦労を労う』。その言葉にネムは顔を(ほころ)ばせ、礼を言う。

「ふふっ。その美しい親子愛に免じてこの場は立ち去ろう。さらばだ、涅マユリ!」

ミスターXはそう言って二人の前から立ち去ろうとする。

「まあ待ちたまえミスターX」

不気味な笑みを浮かべて、マユリはパチンと指を鳴らした。

「え、うわあああぁぁぁっ!?」

地中から突然網が飛び出し、男は抵抗する間もなく大木に吊るされた。

「いやぁ~、ミスターXが場所と時間を予め設定してくれたおかげで罠を仕掛けることができた。というわけで君には私の実験に付き合ってもらうよ」

そう言ってマユリは懐から大量の虫が入ったビンを取り出して、開けた。

放たれた虫は迷うことなく網に閉じ込められた男に向かっていく。

「な、何ですか!涅隊長!?」

ミスターXの演技を忘れ、男はマユリに向かって叫ぶ。

「それは通常の蚊の何万倍の(かゆ)みを引き起こす蚊だ。まあ安心したまえ。それは我が十二番隊にいる葛原粕人(・・・・)という男にしか吸血しないように遺伝子を操作している。だから”ミスターX(きみ)”が葛原粕人(・・・・)と同じ遺伝子でない限り……刺されることはない」

「え、う……嘘でしょ!?い、嫌……痒い、痒過ぎる!!」

吸血された箇所が痛いほど痒い。蚊から逃れようと男はもがくが網で動きを制限されている状況ではなす術もなく、男は体中を刺されていく。

「じゃあネム。行くとしよう」

「はい、マユリ様」

二人は男の断末魔の叫びにも似た苦痛の叫びを背に、美味しい秋刀魚を提供する店へと足を進めた。

 

 

 

その後。網から脱出した男が部屋に戻ると『葛原粕人編集セクシーボディなお姉さま特集』一式が無くなっていたが、それはまた別の話である。

 




脅迫ビデオのシーンは「なんか見たことあるぞ」と思った方はいると思いますが、くぼたまこと先生の『天体戦士サンレッド』の『恐怖!フロシャイム作戦第一号』が元ネタです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 葛原粕人はフランダースの犬の世界に行くようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

この話は『フランダースの犬』の悲しい結末を破壊します。
「こんなフランダースの犬は嫌だ!」と思われるかもしれません。そうなった場合はこの場を借りて先にお詫びの言葉を述べさせていただきます。


マユリにクズと呼ばれる男が仕事から戻ると、そこにはドラ○もんに登場する通り抜けフー○によく似た黄色いフラフープをかたどった道具が壁に取り付けられていた。

ただドラ○もんに登場する通り抜け○―プは通り抜ける壁の原子をゆらして穴を開け、そのままフープをくぐってその壁の向こうへ抜けることができる。つまり向こう側が見えるはずなのだが、壁に取り付けられているフープの向こう側は暗くて何も見えない。

そして男が気になったのは

 

『クズ。このフラフープを通り抜けるんじゃないよ』

 

という張り紙が。

「誰が通り抜けるものか。こんな怪しげなもの」

そう言って男は布団を敷いて読書をする。

「『()(いわ)(あやま)ちて改めざる、(これ)を過ちと()う』かぁ。過ちを犯したことが真の過ちではない。真の過ちとは過ちを犯したことを知っていながらも改めようとしないこと……孔子はいい言葉を残してくれたなぁ」

何度も読む論語を置き、今度は福沢諭吉の学問のすゝめを手に取る。

「多くの人は『天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず』という部分から人間とは平等であるべきと教えていると思っているけど、これには続きがあって勉強しないと貧しい人間になるよ、と書かれているんだよな。僕もそんな人間にならないように勉強しないと」

そうして堅苦しい本からやドラえもんを読み進めていく。

だが時がたつにつれ、男の視線は本ではなく壁のフラフープと張り紙に奪われていく。

男の部屋は一畳という布団を敷けばそれだけで部屋が占領されてしまう狭い部屋。どうしても壁にかけられたフラフープと『クズ。このフラフープを通り抜けるんじゃないよ』と書かれた張り紙が目に付いてしまう。

最初は気にせず本に集中していた男も、次第にフラフープが気になり始めていく。

さらには『クズ。このフラフープを通り抜けるんじゃないよ』というカリギュア効果により(『やめろ!』とにより言われるとやってみたくなり、『やれ!』と言われるとやる気がなくなる事)、男はフラフープを通りたい欲求を抑えきれなくなり始めていた。

「あああ!もうダメだ!!」

頭や身体をかきむしり、何とか飛び込もうとする欲求を抑えていた男だったが遂に耐え切れず、フラフープに飛び込んだ。

 

 

 

「ふがっ!?」

尻餅をついた男は「いたたっ」と尻をさすりながら辺りを見渡す。

「どこだ。ここは?」

そこはどこかの大きな教会の中だった。

そしてしばらくして男は二つの絵に目を奪われた。

着ている服をはがされていく一人の男が十字架にかけられた絵とかけられた男の胸に槍が刺さる絵だった。その絵は男達の筋肉と筋肉、表情や背景など細部にわたって描かれていた。

「パトラッシュ。僕、何だかとても眠いんだ……」

今にも消え入りそうな声が男の耳に聞こえた。

視線を下に下げると、そこにはみすぼらしい身なりの金髪の少年とやせ細った犬が横たわっていた。

その光景で男は全てを察する。

(これはあの有名なフランダースの犬で、主人公のネロとパトラッシュが天国に行く前の最後のシーンだ!

貧しい祖父と2人で暮らすネロが同郷のルーベンスに憧れ、画家への道を夢みていた。しかし、仲の良いアロアと遊ぶことを禁じられ、理解者だったおじいさんが亡くなる。

そして放火の疑いをかけられて仕事も失って住んでいた小屋を追い出され、すべての望みを託した絵のコンクールにも落選。

失意に沈む道中、アロアのお父さんの全財産が入った財布を拾ったがネコババすることなくアロアに届け、大聖堂で飾られているルーベンスの絵を見た後、愛犬のパトラッシュと共に天に()される……ッ!)

このままでは目の前の少年と犬が死んでしまう。そう思った男の身体は考えるよりも先に動き出していた。

「死ぬな、死んだらダメだ!」

男は今にも眠りそうな一人と一匹に声をかけて身体を触る。少年と犬の身体は氷のように冷たかった。

「あ、貴方は?」

消え入りそうな声で少年は尋ねる。

「ネロ君。君はここで死んではいけない!今君はルーベルスの絵を見る以上の幸せな未来が待っているんだ!!」

ネロはわずかに開いた目で男を見る。その目には「貴方は何を言っているんですか?」と書かれていた。

男は少年の目を見ながらはっきりと言い放つ。

「君を邪険にしたアロアのお父さんは君がお金を届けたことを知って、アロアとつき合うことも認め、『わしはあの子に償いをしなければならん』と、これまでの仕打ちを深く反省しているんだ!」

その言葉にネロは大きく目を見開く。だがその目も「で、でも……」という言葉と共に小さくなっていく。

「……僕は、風車小屋の放火の疑いを……」

「それも大丈夫だ!風車小屋が燃えた原因は君が放火したからではなく、風車小屋の管理を任されていた男が注油(ちゅうゆ)や掃除を怠ったまま風車を使い続けたため、溜まったホコリが軸の摩擦熱により発火し、それが小麦袋に燃え移ったことによるものだと風車職人が立証してくれた」

「そう……ですか、でも……僕は自信があった絵の才能が、なかったんです……こんな僕が生きていたって……」

「違う!」

男は全力で否定する。

「君には才能があったんだ!コンクールの審査員の一人が、『私はこれを描いたネロという少年に、アントワープが世界に誇る大画家・ルーベンスの跡継ぎになり得る、恐るべき素質を見出しているのです』と絶賛したんだ。そして『彼を引き取って、できる限り絵の才能を伸ばしてやりたい』とも言っている」

「……」

「その言葉にアロアのお父さんも『ネロが戻ってきたらわしのうちに迎えて、アロアと同じようにどんな勉強でもさせてやるつもりだ。それがせめてもの、わしの償いなんだ』と言っている!」

「……」

少年は信じられないという目で男の言葉を聞く。そんなネロに男は一番言いたいことを伝える。

「君は何も後ろめたいことはしていないし絵の才能がある。そして君が死ねば悲しむ人間が大勢いる!だから君は絶対に生きるんだ!!皆のために、そして君と愛犬パトラッシュのために!!!」

「あ、ありがとうございます……」

その言葉に少年は静かに笑う。

「でも、もう……僕には力が…………え?」

ネロは男の突然の行動に目を疑う。男は着ていた服を脱ぐと自分とパトラッシュに被せたのだ。そして少年と犬を脇に挟んで歩き出す。

「あ、あの――」

何で僕のために。そう聞く前に男は答える。

「目の前で死のうとしている人間に手を差し伸べない人間なんているものか!君とパトラッシュは死なせはしない!!」

自分が死神ということを忘れ男は少年と犬を眠らせないように励ましながら大聖堂を出た。

 

 

 

「ネロ!」

先ほどまで外で出てネロを探していたアロアは失意の内に家に戻ると、窓から外の様子を見ながら少年の無事を祈っていた。その時だった。

コンコン、コンコン……

今にも消え入りそうなドアを叩く音が聞こえた。

「!」

少女は急いで扉を開けた。そこには

 

「ネロ!パトラッシュ!」

 

玄関には親友の少年とその愛犬が、和風の死神が着ていそうな黒い服の上で横たわっていた。少女は急いで両親を呼ぶと、二人は少年と犬を暖炉に運んだ。

一向に目を覚まさないネロとパトラッシュ。誰もが死を覚悟した、その時だった。

「……ん、んんっ。……あれ?……ここは?」

少年がゆっくりと目を開けた。その少年と合わせるように愛犬のパトラッシュもゆっくりと目を開けて「クゥ~ン」と小さく鳴いた。

「ネロ!!パトラッシュ!!」

目を覚ました少年と犬に、少女は涙を流しながら抱きついた。後ろで見守っていた両親もうれし涙を流す。

「良かった」

窓からその様子を見ていた男はそこからゆっくりと立ち去り、

 

「……ッ!?」

 

崩れ落ちた。

氷のように冷たい風と雪が吹く中、下着一枚で少年と犬を励ましながら歩いたのだ。体力は(いちじる)しく消耗し、男の体は今まで立てていたのが不思議なほど冷たくなっていた。

「……し、死神が……死んでいく者の代わりに死ぬなんて……笑い話にもならないな…………」

葛原粕人はそう言って苦笑すると、

 

「――――」

 

ゆっくり目を閉じた。

雪は最初から男がいないことにしたかったかのように横たわる男の身体を覆い尽くした。

 

 

 

その後。アロアとの親交を許され、放火の疑いが晴れ、絵の才能を認められたネロは豊かになっても心優しい気持ちを持ったまま成長し、多くの人と共に幸せに暮らしましたとさ。

めでたしめでたし。

 

 




自分の中で「何でネロとパトラッシュが死なないといけないんだよ!」という怒りが湧いてきたのでこんな話を書いてしまいました。
なんだかな、とは思いましたが後悔はしてないです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 涅マユリは激怒したようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

前作の『番外編 葛原粕人はフランダースの犬の世界に行くようです』の後日談的な話です。


マユリの自室。

「ふふっ。そろそろ死んだ頃かな?」

児童文学世界通り抜けフープで『フランダースの犬』に行くように設定した(くろつち)マユリは時計を見ながら用意したお茶をすする。

「『クズ。このフラフープを通り抜けるんじゃないよ』という張り紙を否応なく見ざる位置に置いたんだ。最近智恵をつけてきたクズだがクズはクズ。禁止されるとつい行動したくなるカリギュア効果で間違いなくフープを通る。そして時間は主人公とその愛犬が大聖堂で死ぬ直前に設定しておいた。あのクズの性格からして見殺しには出来ないはず」

あいつか帰ったらどんな実験をしようか。そんなことを考えた時だった。

「ンンッ!!」

マユリの頭に100万ボルトの閃きが走る。画期的な発明を思いついたのだ。

奇怪な顔の隊長は忘れる前にそのことを紙に記した。

「よしっ、誰か!クズを――」

と自身がクズと呼ぶ男を呼ぼうとして、止まる。

「そうだ。あのクズは児童文学世界通り抜けフープの向こう側にいるんだった。しょうがない。どうせあと数時間だ」

そう言って余裕の表情で残りのお茶を飲むマユリ。しかし、

「あのクズめ!いつになったら戻ってくるんだ!!」

その余裕の表情は5秒で崩れた。

「だからあの男はクズなんだ!人が今すぐにでも人体実験をしたいのに近くにいないなど。あいつは自分の存在価値を何だと思っているのだ!!」

いても立ってもいられなくなったマユリは部屋を飛び出した。

 

 

 

ネロとパトラッシュが元気を取り戻した所を見届けた男は地面に倒れこんでいた。

「……し、死神が……死んでいく者の代わりに死ぬなんて……笑い話にもならないな…………」

葛原(くずはら)粕人(かすと)はそう言って苦笑すると、

 

「――――」

 

ゆっくり目を閉じた。

雪は最初から男がいないことにしたかったかのように横たわる男の身体を覆い尽くした。

その時だった。

男の身体を包み込むように光が振り注いだのは。

(ふ、死神の僕が今度は天使に誘われるのか?)

原作の最後を思い出し、男がゆっくりと目を開いた時だった。

「クズ、貴様はこんなところで何をしている?」

男は口を開いたまま絶句する。そこにいたのは

「く、く、く……涅隊長ォォォォォォッッッ!!」

天使ではなく奇怪な顔をした男の上司、涅マユリ本人だった。

「クズ。これからお前を私がさきほど思いついた発明品の実験体になってもらう。グズグズするな!」

そう言ってマユリは男を移動式の牢屋に放り込む。

「痛い!な、何を……!?」

「ワオオオォォォォォォンンンッッッ!!」

二つの首を持つ犬が男を閉じ込めた牢屋を引っ張って空に向かって走り出した。

 

 

 

こうして男は自分を迎えに来てくれた隊長と共に、実験室という名の天国へと旅立っていきました。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十一話 愛染煙

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。


「出来た、出来たぞ!」

自信が作った発明品に(くろつち)マユリは小躍(こおど)りした。マユリの手にはハート型の匂い袋が握られていた。

「これは愛染煙(あいぜんえん)!この匂い袋に火をつけて煙を吸うと最初に目に入った者を好きになってしまう()れ薬だ!!」

誰に嗅がせようか、と考えたマユリの動きが止まる。

「待てよ。このような今すぐ試してみたい物だからこそ実験は必要だな」

そう言った奇怪な顔の隊長は不気味な笑みを浮かべた。

 

 

 

「涅隊長?いないんですか?」

マユリにクズと呼ばれている男はマユリの部屋にいた。

『急いで私の部屋に来い!』と言われ、大急ぎでマユリの部屋に来たのだが当人がいない。

よほどのことがあるのだろう。そう思った男が部屋の中心まで歩いた時だ。

「ん?」

男は床にハート型の匂い袋があることに気がついた。その匂い袋に男は見覚えがあった。

「確か空知(そらち)○秋(ひであき)先生の『銀○(ぎんたま)』に匂いを嗅いで最初に見た者を好きになってしまうというお香があったよな。たしか『○染香(あいぜんこう)』って言ったっけ」

その時、そのハート型の匂い袋がいきなり燃え出した。たちまち桃色の煙が立ちのぼる。

「ま、まさか!」

男は気づいたが、遅かった。

 

ガシャッ!ガシャッ!ガシャッ!

 

扉や窓。外に出る通り道が全て閉ざされる。この時男は自分が罠にかかったことを悟った。

(しまった!涅隊長はこの愛○香に似た発明品が本当に効果を発揮するのか僕で実験する気なんだ!!)

そして男はあることを思い出す。

(確か『○魂』の主人公の坂田(さかた)○時(ぎんとき)は愛染○を嗅がされてゆりかごから墓場まで手当たり次第口説(くど)く好色・無節操・酒池肉林のすけこましになったっけ……!!)

「嫌だ!僕は清楚な同級生タイプか松本(まつもと)副隊長や虎徹(こてつ)副隊長みたいなむっちんぷりんの年上女性が好きなんだ!伊勢(いせ)副隊長みたいな厳しい系の年上女性も好きだけど!!」

そんなことを言いながら男はハンカチで口元を隠し、煙を吸わないようにして助けを求める。しかし呼べども助けが来る素振りはない。

「いやだ!ゆりかごから墓場まで全ての女性を口説く男になりたくない!!恩人である卯ノ花(うのはな)隊長を口説くなんてもってのほかだ!!そしてあの人のことだ!“ブリーフの両端を持ち上げながら宙に浮いて隠し切れない如意棒の迫力を見せつける完全なR指定の猿”みたいな怪しい物を見せるに違いない!!」

そうする間にも男の周りに怪しい煙が近づいてくる。

「お願い!誰か、誰か……助けてぇぇぇぇぇぇっっっ!!!!…………――――」

 

 

 

「そろそろ時間かな?」

男がたっぷりと愛染煙の煙を吸っただろうと確信したマユリは男の想像通り『ブリーフの両端を持ち上げながら宙に浮いて隠し切れない如意棒の迫力を見せつける完全なR指定の猿』が入った(かご)を持って自室に入った。

「……え?」

部屋にいた人物を見た瞬間。……マユリは固まった。

「どうしたんですか、涅隊長?」

そう言ってマユリに尋ねたのは。真央地下大監獄最下層・第8監獄「無間」にて2万年の投獄刑に処されたはずの男、藍染(あいぜん)惣右介(そうすけ)だった。

「あ、藍染!何故貴様がここにいる!?」

「藍染?僕は葛原(くずはら)粕人(かすと)ですが」

この時、技術開発局局長は藍染惣右介がここにいる理由を理解した。愛染煙の力で自身がクズと呼ぶ男が藍染惣右介に変わったのだと。

「そうだ。涅隊長。隊長が留守の間、机に置かれた作成途中の資料、完成しておきました。後で確認してください。それと霊子実験で無駄なロスがあったのでこのようにすればより効果的な――――」

藍染化した男の手際の良さと的確な説明に、マユリは満足な笑みを浮かべた。

「そうだ、クズ。急で悪いんだがこの資料を五番隊の雛森(ひなもり)(もも)に渡してくれ」

そう言ってマユリは机の引き出しに入っていた資料を藍染惣右介そっくりになった葛原粕人に手渡す。

「分かりました。では行ってきます」

そう言って藍染惣右介そっくりになった葛原粕人は部屋を後にした。

 

 

 

……その日。五番隊に書類を届けに行った男が帰ってくることはなかった。

 

 

 

 




今回登場した愛染煙の元ネタは空知英秋先生の『銀魂』の愛染香です。
”ブリーフの両端を持ち上げながら宙に浮いて隠し切れない如意棒の迫力を見せつける完全なR指定の猿”の元ネタは古賀亮一先生の『ニニンがシノブ伝』です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 我輩は竹馬棒である

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。


我輩は竹馬棒である。名前はまだ無い。

我輩は技術開発局というところで尖兵計画(スペアヘッド)の代わりに作られた馬と竹との交配種(ハイブリッド)として生まれた。あの薄気味悪い化粧をした顔の男、(くろつち)マユリという男に作られた。一目見ただけで凶悪な男だと感じた我輩は男の部屋から逃げ出した。その直後、我輩は運命の出会いをする。

逃げ出した我輩を掴んだ男、葛原(くずはら)粕人(かすと)。これが我輩の主との出会いだった。

我輩は驚いた。我輩は跳躍力やスピードにそれなりの自信を持っていた。にも関わらず主は全力で逃げ出した我輩を初見で掴んだのだ。まぐれかもしれないが、その時の我輩は驚きを隠せなかった。

凶悪な男の部下だった主。凶悪な男は我輩のデータを取るために主が責任を持って我輩を管理するようにと我輩を押し付けた。

主はしぶしぶながら了承し、我輩を迎えてくれた。

 

始めて主の部屋に来た我輩はあまりの狭さに驚くしかなかった。部屋の広さは畳一つ分。布団を敷けばそれだけで畳は見えなくなってしまう。部屋の高さは2mほど。天井に取り付けられた本棚には数冊の書物。様々な器具が置かれた凶悪な男の部屋と比べればその差は歴然だった。

主は我輩に何かを命令するわけでもなく人参をくれた。凶悪な男は我輩を生み出すとすぐに色々と命令した。仕方がなく命令どおりのことをしてやったら「何だそれは!?」と怒り出す。

思い出すだけで腹立たしい男であった。

その点主は心優しい男だった。まだ何もしていない我輩に人参をくれたばかりか、我輩の立場を考えて夜に散歩に連れて行ってくれた。

主を乗せて夜風を切った感触は今も忘れず我輩の心に刻まれている。

そんな楽しい夜が終わり、朝が来た。

「じゃあ行ってくるよ。おとなしくしていてくれよ」

そういい残し、主は部屋を後にした。

主がいなくなった部屋で、我輩は部屋を物色する。部屋にあるのは綺麗に畳まれた布団に天井に取り付けられた本棚と書物が数冊。そして壁にかけられた服。これしかない。

我輩は鼻を鳴らす。

匂いは天井と床下から漂う。我輩は天井を覗く。そこには胸の大きな女の裸がたくさんある書物だった。

次は床下を見る。そこには今は懐かしいテレビとビデオデッキ、ビデオテープがあった。ビデオテープを入れると天井の本同様胸の大きな女が動く映像が映し出されていた。

馬と竹の交配種である我輩には理解できない代物だった。

後片付けが終わるのとほぼ時間に主が帰ってきた。

「すまない。ちょっと寄り道をしていたから遅れた」

そう言って主は人参を我輩の前に置く。

「お前もただの人参だけだと飽きるだろう。数種類買ってきたから食べてくれ」

我輩は残らず食べる。人参にも色々あるのだと知った。

あぁ、主に引き取られてよかった。

 

 

 

我輩はそう思わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 




竹馬棒のその後と葛原粕人の部屋の様子を書きたくてこんな話を書きました。

男を見ていると、「あぁ自分って幸せなんだ」と思わずにはいられないです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 我輩は竹馬棒であるその2

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。


我輩は竹馬棒である。名前はまだ無い。

今日は我輩の一日を振り返ろうと思う。

 

朝 6:00

「あぁ、よく寝た。おはよう」

主と共に起床。

 

6:30 朝食&昼食用のお弁当作り

「今日の朝ごはんはキャベツと人参の韓国風お好み焼きだ!お昼は人参の味噌きんぴらだぞ!」

「ブヒィン!」

 

7:00 主の見送り

「じゃあ行ってくるよ」

「ブヒィン!」

そう言って部屋を後にする主を我輩は笑顔で見送った。

 

7:00~12:00 家事(掃除・洗濯・読書など)

家事や掃除をササッと済ませると、我輩は主のことを知るため天井の本や床下のビデオを見る。

「ブヒィン……(論語や孫子の兵法ならいざ知らず。相変わらず主の趣味はよく分からん。これなら若々しい竹や馬の尻を見ていた方がよほど健全だと思うのだが……)

 

12:30 買い物

「あ!竹馬棒ちゃん、いらっしゃい!いつもお買い上げありがとね」

部屋を出て街に出かけると八百屋のおばちゃんが声をかけてきた。

始め来たときは「新種の(ホロウ)だ!」と騒がれていた我輩であったが親交を深めていくうちにこうして挨拶をされるほど仲良くなっていた。

「ブヒィン?(ん?)」

我輩は気づく。いつもは笑顔で接してくれる八百屋のおばちゃんが今日はなんだか暗い。

「ブヒィン?(どうしたの、おばちゃん?)」

我輩の問いにおばちゃんは心の内を打ち明けた。

 

13:00 おばちゃんの悩みを聞く

「最近、地上げ屋さんの嫌がらせがひどいんだよ……。父ちゃんもノイローゼで倒れてねぇ……」

「ブヒィン(おばちゃん、悲しむことはない。貴女に涙は似合わない)」

そう言って我輩は持っていたハンカチをおばちゃんに手渡した。

 

14:00 殴りこみ

「ブヒィン!(おい!ヤクザはいるか!?)」

ヤクザの屋敷を訪れた我輩は扉をぶち破った。

「ひいいい!?何だお前は!?」

巣穴から出た蟻のように人相の悪い男達が屋敷の奥から現れる。

「ブヒィン!(お前らみたいな雑魚(ざこ)には用はねぇ!)」

我輩は近寄る雑魚を蹴飛ばし、雑魚の集団を自慢の脚力で飛び越え奥へと向かう。

そこには欲深そうな老人が震えていた。

「な、なんじゃ貴様!王であるワシに手を出そうなぞ……!」

「ブヒィン(お前みたいな井戸の中が全世界と思っている(かえる)が馬鹿げたことを)」

 

14:05 ヤクザの屋敷壊滅

「ブヒィン!(これに()りたら二度とカタギに迷惑かけんじゃねぇぞ!)」

そういい残し、ボロボロに横たわるヤクザを尻目に我輩は屋敷の前から姿を消した。

 

 

14:30 おばちゃん、ヤクザが壊滅したことを知る

「これで安心して店が出来るよ。しかしヤクザどもは何か竹馬みたいな奴にやられたって言ってんだけど――」

 

20:00 主を出迎える

「ブヒィン!」

「あぁ、いい子にしていたか?」

「ブヒィン!」

我輩は大きくうなずいた。

 

20:30~22:00

洗い物や洗濯物を済ませると主と共に方丈記や仕事の資料で勉強。

その後就寝。

 

 

 

こうして我輩の何気ない日常が終わった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十二話 突発性誘惑電子麻薬

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。


マユリの自室

「出来た、出来たぞ!」

奇怪な顔の技術開発局局長は自身がパソコンで作り出した発明に狂喜乱舞した。

「これは突発性誘惑電子麻薬。このプログラムを見た人間は何らかの願望を達成するためならば躊躇なく犯罪に手を染めてしまう。今は犯罪だけだが上手くいけば他人を意のままに動かすことも可能!……さてと。ではこの実験に協力(・・)してくれる人物を召還(しょうかん)するとしよう」

 

 

 

数分後。

「クズ。何も言わず黙ってここに座ってパソコンを凝視しろ」

「え、何を言っているんですか(くろつち)た――」

「誰が発言を許可した?」

言い訳一つ許さない上司の静かに言い放つ怒りの言葉に、マユリにクズと呼ばれている男は慌てて口を塞ぐ。

男は覚悟を決め、黙ってパソコン画面を凝視する。

流れる映像は男の好みの色っぽい女性達のいやらしい画像だった。

もしこれが周囲に誰も居ない状況ならば男は安心して目の前の女性達を眺めていたかもしれない。しかしこれは石橋を叩いた後でも安心できない危険な上司、涅マユリが用意したものだ。その警戒心がじっくりと女性を見ようとする男の欲望を抑える。

「……ん?」

その時だった。

 

オンナ犯シタイ、オンナ犯セ!コンナ女ヲ欲望ノ(おもむ)クママ犯シタイ!!

 

心の奥底から脳内に直接何かが(ささや)いてきた。

「お、女……女…………」

理性や倫理という壁は役に立たなかった。その声に侵された男の目はせわしなく泳ぎ、口からは(よだれ)がとめどなくあふれ出る。

「ウウゥ!女ッ!オンナァッ!!」

男はパソコンを掴み、画面にこれでもかと顔を近づける。その様子はまるで一週間以上何も食べていない猛獣が極上のエサを見つけて飛びかかるようであった。

その時だった。

ガチャッ!

「マユリ様。少し相談したいことが」

その声に完全に理性を失った男が振り返る。

そこに立っていたのは憂い顔でほっそりとした体格に不釣合いなほどふくよかな胸を持った女性、涅ネム。

「オンナ、オンナオンナッ!オンナァァァァァァッッッ!!」

目を血ばらせて、男はネムを犯そうと跳びかかった。その時だった。

 

(待テ、僕。ココハ涅隊長ノ部屋。隊長ハ近クニイル。目ノ前ノ女性ハ涅副隊長……副隊長ヲ犯ス→……涅隊長に殺される!!)

 

目の前の女性に手を出せば殺される。

 

生存本能の囁きで理性を取り戻した男はネムの目の前で着地する。

「あぁ、涅副隊長。肩にゴミがついてますよ~」

男はそう言って肩についた埃を取ってごまかす。

その様子を見たマユリは男に尋ねる。

「クズ。何か変わったことにならなかったか?」

「え?……あ、いや!何もなかったですよ!!えぇ、本当に!!!」

映像を見た瞬間理性が飛んでもうちょっとのところで副隊長を犯すところでした、とは言えずに男は笑ってごまかした。

「そうか……じゃあ用は済んだからさっさと帰れ。ネム、私は忙しいから用件は後にしろ」

そう言ってマユリは男と娘のネムを下がらせた。

「う~む。あのクズの様子からして電子麻薬の効果はかなり低い、ということか?」

マユリに散々刷り込まれた男の恐怖心が電子麻薬の誘惑に打ち克ったとは夢にも思っていないマユリはそう結論づける。

「じゃあ試しに私が被験体になってみようか」

そう言ってマユリは電子麻薬が流れているパソコンの前に座った。

 

 

 

数分後。

「何も変わりはしない。どうやらこの実験は失敗だったようだな」

そう言ってマユリは突発性誘惑電子麻薬を処分した。

 

 

 

実は突発性誘惑電子麻薬はその者が持つ“悪意”を強制的に引き出すものなのだがその者が強烈な“悪意”を持っている場合は最初から効果がなかった。

効果がないと処分し、自身がそんな強烈な“悪意”の持ち主だと気づいていないマユリはその真実に気づくことはなかった。

 

 




今回の突発性誘惑電子麻薬の元ネタは松井優征先生の『魔人探偵脳噛ネウロ』であった電子ドラックです。

涅マユリが電子麻薬に侵されなかったのは上記の作品に登場するシックスと同じく、常人には耐えられない悪意にも耐えられる悪意を持っていたからです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 阿近は葛原粕人の給料明細を拾ったようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。


「ん?」

額に角が生えている不良のような顔の眉毛がない三席、阿近は一枚の紙を拾った。何なのかと思い拾うとそれは給料明細書だった。

「誰のだ?」

名前の所を見ると、それは十二番隊平隊士の葛原粕人の物だった。

阿近はその明細書を綺麗に折りたたむとポケットに入れた。

 

 

 

夜。十二番隊隊舎。

阿近は葛原粕人と名札が掲げられた部屋のドアをノックした。

「あ、はい!あ、阿近さん。こんな夜遅くにどうかされたんですか?」

「葛原、これ。昨日落ちていたぞ」

扉を開けた男に、阿近は昨日拾った給料明細書を手渡した。

「あ、すみません。ありがとうございます!」

男はペコリと頭を下げてそれを受け取る。

「葛原。その給料明細書なんだが。持ち主が誰か調べるためにちょっと、な……」

歯切れの悪い言葉に、男は察する。

「良いんですよ。僕が薄給だなんて皆が知っていることですから」

はははっ!と穏やかに笑う男に、阿近は切り込む。

「それ何だが、俺が思うにお前はもう少しもらっていいと思うぞ」

その言葉に男はキョトンとした顔をする。そのキョトンとする顔に、阿近もどうすればいいか困り果てる。

「やだなぁ、阿近さん。僕みたいなまだ右も左も分からない技術者と名乗るのもおこがましい人間がお給料をもらっていい訳がないじゃないですか!」

目の前の上司が冗談を言っているのだと思い、男は顔を(ほころ)ばせる。

「い、いや!お前色々死にそうな(というか死んでる)体験をしているじゃないか。だからそう言った手当てがついてもいいと思うのだが」

「まあそりゃあそうですけど……」

と、腕を組んでしみじみと男は呟く。

(くろつち)隊長はパワハラモラハラのオンパレードで卯ノ花(うのはな)隊長と同じくらい敵に回したくない上司すけど、何だかんだ言って見習う所は多い上司ではありますし。まあ何だかんだ言って死にそうな目には何度か遭いいましたけど実際死んでいない(・・・・・・)ので」

「え?」

 

死んでいない。

 

その一言に阿近は言葉を失う。

目の前の男がマユリに何度も殺されているのは十二番隊では誰もが知っている。にも関わらず殺された当人が”殺されていない”という。

何かの冗談かと思った阿近だが、目の前の男の顔を見ると嘘や冗談を言っているようには見えなかった。

頭を抑えること数秒。目つきの悪い三席は目の前の男に確認する。

「葛原。お前はまぁ”危険な目には遭っているが命をとられるような危険な目には逢っていない”。そう言うんだな?」

「え、ええ……そうですけど?」

目の前の上司の意図が分からず、男は不安そうに答える。

「いや。だったらいいんだ。下らないことを聞いたな」

そう言って阿近はその場を後にした。

 

 

 

「はぁ~」

男の部屋から去った阿近は思わず重いため息を漏らした。

「あいつ。死んだ前後の記憶がないのか」

(本来ならば危険手当が有りえないほど溜まっているはずなのに。……いや、記憶がない方が精神崩壊しなくてよかったかもしれないな)

阿近は心の中で同情した。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十三話 不幸紙

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。


「出来た、出来たぞ!」

机に汚らしいお札を見て、(くろつち)マユリは不気味な笑みを浮かべた。

「これは不幸紙。これを身につけた者はあらゆる方法で災厄(さいやく)を招くという誰得な発明品だ。逆に考えれば不幸にしたい人物に取り付ければその人物が不幸になるというわけだ。さて、この発明品がどれほどの効果を発揮するか試してみるとするか」

 

 

 

数分後。

「あ、あの……どうかしたんですか?涅隊長……」

マユリにクズと呼ばれている男が不安な顔でマユリに尋ねる。なぜならば男の前にはお茶とまんじゅうが置かれていたからだ。

「なぁに。お前には色々苦労をかけているからな。その(ねぎら)いだ」

「……」

もしこれが普通の上司なら感激しているだろう。しかし目の前の上司は尸魂界(ソウルソサエティ)(いち)のマッドサイエンティストだ。鵜呑(うの)みにすることはできなかった。

(何だ、何をしたんだ?この人は!?)

男は適当に「そうなんですか~」と相槌(あいづち)を打ちつつ慎重にお茶をすすり、まんじゅうを食べる。

「じゃあ涅隊長。そろそろ僕、仕事があるんでこれで失礼します」

(何もなかったな)

そんなことを考えながら、男は上司の部屋を後にした。

……男は気づかなかった。奇怪な顔の上司が男に気づかれないように意味深な笑みを浮かべていたことに。

そして。目の前のお茶とまんじゅうに何か仕込まれていると警戒しすぎて背中に不幸紙が貼られていたことに。

 

その後の男は不幸としか言いようがなかった。研究所に戻れば高圧電流の電線コードが千切(ちぎ)れたため千切れた端を掴まされ、電流の繋ぎにされ真っ黒こげになった。

その後適量の超活薬(ちょうかつやく)で無理やり回復させられた後(『番外編 アニメ『BLEACH』の『護廷十三隊侵軍篇』にクズと呼ばれる男が登場していたら』を参照)、仕事が終わった男は明日の食事の材料を買うため街に出た。そこでも不幸紙に気づいていない男は更なる不幸に襲われた。

買い物途中、蝿を追い回していた店の人に頭を思い切り叩かれた(ちなみに男がいなければ店の人は足を滑らし大怪我をしていた)。

帰り道を歩いていくと居酒屋で大喧嘩していた男達の皿が男の頭に直撃した(ちなみに男がいなければ男の近くを歩いていた子どもに当たり大怪我をしていた)。

隊舎に戻れば腐った床を踏んでしまい床下に転落した(ちなみに男が踏んでいなければ他の隊員が転落し大怪我をしていた)。

最後は給湯室で調理をしていたら火の元が爆発。男は慌てて服を脱いで事なきを得た(ちなみに男がいなければ別の隊員が火だるまになって亡くなっていた)。

こうして男は気づかぬまま不幸紙から逃れることができた。

 

 

「ふう、何か今日は少し(・・)運がなかった日だったな」

そんなことを呟きながら男はペットの竹馬棒と食事をすると(とこ)についた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 阿近は涅マユリに葛原粕人の給料についての相談をするようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

涅マユリのイメージが大きく崩れる可能性があります。そうなった場合先にお詫びいたします。


 

「隊長。一つ相談したいことが」

「何だね?」

額に角を生やしているような強面(こわもて)の男が奇怪な顔の上司に声をかけた。

「いえ、たいしたことではないのですが。この間葛原の給料明細を見る機会がありまして……葛原は隊長の実験(・・)に付き合っているわけじゃないですか。にも関わらず給料があまりにも低いような……そんな気がしたので」

「あぁ、そのことか」

さほど興味のなさそうにマユリは続けた。

「あいつはさほど危険なことをせず定時で帰っているように私が改ざんしているからな。給料が並の平隊士なのは当たり前だ」

「……」

(おい、今この人とんでもないこと言っているよ!)

部下の労働を上司が不当に改ざんしている。その衝撃的な真実を耳にして、十二番隊三席は思わず固まりその場に立ち尽くす。

(いや、ここで引く訳にはいかん!)

上司の愚行を止めるのも自分の務め。強面の三席は今すぐ逃げ出したい衝動を抑えつけながら、言葉を選びながら上司に苦言を(てい)する。

「いや、葛原にしていることって労働基本法などに引っかかるでしょう。それでなくとも危険手当くらいはつけてあげないと他の者にも示しがつきません。山本総隊長や他の隊長の耳に入ったらただではすみませんよ」

「私がそんなミスをすると思っているのか、お前は」

真剣な顔で部下を諭すマユリの言葉に、阿近は「この人に反省とか思いやりいう文字はないのか」という言葉を呑み込む。

(考えろ、俺!どうしたら葛原のためになる……)

下手に目の前の上司を刺激すれば自分にも被害が出る。

「阿近。私は忙しいからもう話はいいか?あぁ、誰か私に『マユリ様のファンです!どうかこれ食べてください!!』という従順な信者はいないものか」

(信者……それだ!)

説得する方法を思いついた阿近は一度心を落ち着かせて話しかける。

「涅隊長。『隗より始めよ』ですよ。《昔の中国で、郭隗(かくかい)という男が(えん))昭王(しょうおう)に『どうすれば賢者が集まってくるか?』と求められた際、『賢者を招きたければ、まず凡庸な私を重く用いれば私よりすぐれた人物が自然に集まってきます』と答えたと伝えられています。葛原の給与を見直せば我々凡人が隊長を見る目も変わり隊長に心酔する者も現れるはずです!》

「ふむっ」

阿近の言葉にマユリは一考する。

「なるほど。確かに人気投票を見ても凡人どもは私の素晴らしさを理解していない。まぁ、天才とは凡人には理解されない生物だ。それは自明の理と言えよう。ならば天才が凡人に理解させるために努力することも必要だろう。わかった。クズの給料については考えておこう」

 

 

 

後日。葛原粕人の給料が少しだけ増えた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 葛原粕人と涅ネムが涅マユリに衝撃の告白をするようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。


 マユリの部屋

 

(くろつち)隊長」

「マユリ様」

「「今日は涅隊長(マユリ様)にお伝えしないといけない話があります」」

「なんだ?二人して改まって」

 技術開発局局長と十二番隊を兼任する隊長、涅マユリの前には自身がクズと呼ぶ男と娘であり副隊長の涅ネムが立っていた。

「……」

「……」

 しかし二人は時折視線を合わせてはまた外すを繰り返し語ろうとしない。その頬は若干紅潮している。

「なんだ!さっさと言ったらどうだ!!」

 煮え切らない二人の態度に、マユリは怒鳴りながら(うなが)した。

「は、はい!」

 緊張した様子で、男は口を開いた。

「涅隊長!不肖(ふしょう)ながらこの葛原(くずはら)粕人(かすと)、涅ネムさんとお付き合いしていることをご報告させていただきます!!」

「……………………はっ?」

 男の発言に、マユリはついていけなかった。何かの冗談だと思い娘のネムに尋ねようとして、止めた。男が衝撃の発言をした途端、愛娘の視線がせわしなく動き、紅潮していた頬をさらに真っ赤に染め、身体をモジモジとさせていたからだ。

 愛娘の急変する態度に男の言葉が真実だと知ったマユリは腰の力が抜け、後ろにあった机に身体を預けることで倒れるのをこらえていた。

 娘であり最高傑作であるネムが結婚するということを考えていなかったマユリは、混乱しながら今ある状況を整理する。

(とりあえず何故だか分からんが、ネムとクズが私の知らない所で愛を(はぐく)みこうして私に付き合っていることを報告するくらいに進展した。だったらここは『お父さんは結婚なんて認めませんよ!』って言うべきか!?いや、それより聞くことあるだろう!!どうして付き合うようになったのか、とか。ネムに『この男のどこに()れたんだ!』とか。あと――)

 マユリがそんなことを考えていた時だった。

「実は……ネムさんのお腹には僕の子どもがいます!責任は取らせてもらいます。ですので。ネムさんとの結婚を認めて下さい、涅隊長……いえ、お義父(とう)さん!!」

「ちなみに予定だと……ら、来年にはマユリ様……あ、あの……お爺ちゃんになります」

「……………………ッ!?」

 

 ネムのお腹に子どもがいる。しかもその父親は自分がクズと呼ぶ平隊士。

 

「ば、バカな……。嘘だ、嘘だと言ってくれ!!!!」

 突然突きつけられた真実にマユリは顔面蒼白でその場に崩れ落ちた。

 

 

 

「う、嘘だ……こんなの嘘だ…………ハッ!?」

 布団を跳ね除け、マユリは立ち上がる。布団を見ると背中の部分がグッショリと塗れていた。

「……そ、そうか。さっきのは夢だったか」

 先ほどの光景は夢だと気づき、マユリは「ふぅ~」と大きく息を吐いた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

千年血戦篇にクズと呼ばれる男が出ていたら

・シリアスです。
・ギャグ&コメディ回ではないです。
・ツッコミどころしかないかと思われます。
・時間的に無理がある(四番隊の平隊士である仏宇野が卯ノ花隊長が死んだことを知っているなど)所があります。
・楽しんでいただければ幸いです。


「――――え?」

四番隊時代の同僚で親友、仏宇野(ふつうの)の言葉に、マユリにクズと呼ばれている男は絶句した。

「……………………、俺だって信じたくはないさ。だけど!」

親友の反応を仏宇野は痛いほど理解できた。自身も信じられなかったからだ。自分自身嘘だと思いたい。しかし。だからこそ仏宇野は目の前の男にもう一度言った。

卯ノ花(うのはな)隊長が……亡くなられた」

「――――ッ!」

 

ガクンッ!

 

男は放心したまま音もなく膝から崩れ落ちた。

男にとって卯ノ花烈という女性は自分の進むべき道を指し進めてくれた大恩人だった。

 

その大恩人と、二度と会うことができない。

 

認めたくない真実が、男の気力を根こそぎ奪い取った。

「……………………」

「……………………」

二人の間で永遠とも思える空白がその場を支配する。

「!そうだ、何でだ!?何で卯ノ花隊長が亡くなられたんだよ!!??」

放心から立ち直った男は目の前の親友の胸を掴んで尋ねる。

言っていいのか悪いのか悩むこと数秒、仏宇野は言葉をつむぐ。

「無間にて“更木(ざらき)隊長に剣術を教える”という指示で……うぅっ、うううっ……」

言葉を詰まらせ仏宇野は涙をポロポロと流す。

「そうか。更木(・・)剣八(・・)にかぁ……」

余所(よそ)とはいえ上司である隊長を呼び捨てにした男は出口に向かう。その行動に違和感を覚えた親友は男の肩を掴む。

「まさか、葛原。お前、更木隊長とやりあおうと考えてな――!?」

仏宇野は言葉を続けることが出来なかった。四番隊時代には持っていなかった、全身から立ち上る男の凶悪な気に当てられたからだ。

恐怖で固まる仏宇野は部屋を出る元同僚を止めることが出来なかった。

 

 

 

卯ノ花(うのはな)八千流(やちる)から“剣八”の名前を譲り受けた更木(ざらき)剣八(けんぱち)は自室で休んでいた。部屋の光源はわずかに入る月明かりのみ。

「……おい。出てきたらどうだ?」

『……やはり僕程度の技術者に毛が生えた程度では本物(・・)とは程遠いというところか。それとも貴方が凄いのかな?』

剣八が語りかけると語りかけられた者、霊圧を遮断する外套(がいとう)に似た物を着た男が突然姿を現した。

「更木隊長。お疲れの所申し訳ございません」

男は膝をついて頭を下げる。

「……用件は何だ?」

「……」

眼帯の隊長を前に。男は立ち上がって静かに愛刀・幽世閉門(かくりよへいもん)(つか)に右手を置き、左手で(さや)の部分を握った。

「用件は……貴方の命です!」

その瞬間。男の目がカッと見開き、一気に間合いを詰め、刀を抜いた。

「……」

避けることも受け止めることも反撃することもなく……瞬き一つしない剣八の目前で刀は止まった。

「……小僧。何で刀を止めた?俺を殺すんじゃなかったのか?」

「……」

男は目を見たまま、尋ねる。

「更木剣八、お前に一つ聞きたい。……卯ノ花隊長……いや。……卯ノ花烈(・・・・)は最期、どんな顔をしていた?」

「……笑っていたぜ」

男の目をみたまま、剣八は瞬き一つせず言った。

男は静かに刀を下ろす。

「……そう、ですか。失礼しました。数々の無礼、お許し下さい……どのような処分も甘んじて受け入れます」

「あん?いかんなぁ、疲れているみてぇだ。幻覚が見える」

「……ありがとうございます、更木隊長(・・・・)

刀を納めた男は再び霊圧を遮断する外套を被り、剣八の部屋を後にした。

剣八はこのことを誰にも言わなかった。

 

 

 

「竹馬棒。ちょっと……散歩に行ってきてくれないか?一人にして欲しい」

自室に戻った男は、出迎えたペットに外に出るよう促した。

主の心中を察した竹馬に似た生物は扉を閉め、男の部屋を後にした。

「……」

男は布団に顔を(うず)めると

 

「…………………………………………ッッッ!!!!」

 

布団の中で、声にもならない声で号泣した。そうでもしなければ周囲に聞かれてしまうからだ。

 

男は知らない。元上司であり自分の生きる道を示してくれた女性が元は尸魂界(ソウルソサエティ)の空前絶後の大悪人で初代『剣八』であったことを。

 

男は知らない。恩人である女性がかつて卯ノ花八千流と名乗り、更木剣八と戦ったことを。

 

男は知らない。恩返しをしたいと思っていた女性が、“自分自身の弱さのために更木剣八の力を封じさせてしまった”ことを()いていたことを。

 

だが男は知っていた。更木剣八を殺しても卯ノ花烈が笑わないことを。

そして。怒りの矛先を自分ではなく他人に向ける、……すなわち“逃げ”だということを。

男は布団から顔を上げる。その目には殺意も、怒りも、迷いもなかった。

男は静かに目を閉じ、(まぶた)の中にいる卯ノ花烈に語りかけた。

「卯ノ花隊長。貴女がどういう心境で()かれたのかは分かりません。貴女は僕にとって大事な人でした。そんな貴女が生きている間に、僕は恩返しをすることは出来ませんでした。ですが見ていて下さい。葛原粕人の生き様を。貴女に救われた男が、貴女が生きていたことを証明する姿を」

『……』

瞼の中の女性は、優しい笑みを浮かべていた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クズと呼ばれる男は一人でバンビーズ(-1)に挑むようです

・シリアスです。
・ギャグ&コメディ回ではないです(たぶん)。
・ツッコミどころしかないかと思われます。
・時間的に戦闘シーンは単行本BLEACHの64巻、187~188ページの間です。
・残虐な描写があります。

・楽しんでいただければ幸いです。


「ラァ~~ッキィ☆バカが一か所に集まってくれたから一網打尽じゃね!?」

「ちっ、それにしても・・・はらへったな~~~っ」

「ダメですよぅ、隊長さんはもう死ぬんですぅ。かけつけたってムダですよ~~~~><」

「ハイッ。みんな切腹ゥ──」

 バンビーズの四人は、グレミィ・トゥミューとの戦いで傷ついた更木剣八の周囲にいた隊士達を片付ける。

 

 さて。更木剣八(あの男)を殺すとしよう。

 

 四人が倒れている更木剣八(特記戦力)の方へ振り返った。その時だった。

「おい、そこのドブスども!」

 その声にバンビーズは振り返る。そこにはただの死覇装を来た小柄で華奢な男が立っていた。

「あぁん? だれだよ、おめぇはよ!」

 キャンディス・キャットニップが声を荒らげる。

 その言動に男は侮蔑にも見える微笑を浮かべる。

「僕の名前は葛原(くずはら)粕人(かすと)。貴女方が殺した隊士と変わらない、覚えている価値もない……十二番隊の平隊士です」

 カス同然の霊圧の雑魚が自分たちに喧嘩を吹っかける。その姿にある者は苦笑し、ある者は憤怒の表情を濃くする。

 そんな彼女達に、男は笑みを崩さず対峙し続けた。

 

 

 

(くろつち)隊長。お願いがあります』

 数時間前。男は何らかの作業をしているマユリの元を訪れていた。

『今お前のようなクズを相手にしている時間はない。さっさと持ち場に戻れ』

 背を向けたまま邪険の言葉を放つ上司の言葉を気にすることなく、男は衝撃的な発言を口にする。

『更木隊長を監視させてください』

『!? ……、理由を聞こうか』

 マユリは手を止め、男の方へ振り返る。

『更木隊長は強くなりました。更木隊長が死ねば戦局が大きく傾くほどに。それはつまり更木隊長を殺すためより強大な敵が集まっていくということです』

『お前程度では犬死だよ』

 手助けをする気なら無意味どころか邪魔にしかならない。そう切り捨てる上司に男は微笑む。

『だから監視なのですよ、涅隊長。更木隊長を殺そうと多くの敵が集まる。集まった敵は更木隊長を殺すために“手の内を見せる”。涅隊長の元に一つでも多くの情報が集まれば涅隊長は“より確実でより最小限の被害ですむ対応策を思いつく”』

『……』

 男の言葉から感じられる自分への信頼に、マユリは言葉が紡ぐことが出来なかった。そんなマユリを見ながら男は続ける。

『涅隊長。僕は涅マユリという男はそれだけの頭脳を持っている男だと信じております。僕の人を見る目は間違っているでしょうか?』

 言葉こそ丁寧なものの言っていることは“涅マユリは情報が集まって何の対応策も取れないバカじゃないでしょう”ということだった。

『ほう、言ってくれるじゃないか?』

 不気味な笑みを浮かべる奇怪な顔の隊長に、男も釣られて不気味な笑みを浮かべる。

『そこまで言うんだ。“敵と遭遇してすぐに死にました”は許さんぞ』

『安心してください。『僕は涅隊長の実験の実験体にされるのが一番輝いている』存在ですよ。有益な情報を持ち帰り、必ずや涅隊長の元へ帰ってきます(・・・・・・・・・・・・)

『……そうか』

 マユリは見逃さなかった。男が一瞬だけ悲しい目をしていたのを。

『クズ。お前の斬魄刀を貸せ』

 男から斬魄刀を受け取るとマユリは男に背を向けて何かをする。

『ほら、受け取れ』

 背を向けたままマユリは男の斬魄刀を放り投げる。

『おっとととっ!?』

 慌てて受け取った男は気づく。(つか)の先に涅隊長の顔をした太陽のストラップが付けられたことに。

『それは盗聴器と監視カメラが内蔵されたものだ。無くすなヨ』

『行ってきます』

(涅隊長。今までありがとうございました)

 男は上司に頭を下げると部屋を後にした。

 

 

 

「てめぇ、怖くないのかよ!」

 ライム色の髪をした少女が睨みつけながら男に言い放つ。猛獣すら恐怖でショック死しそうな視線に男は笑いながら答える。

「怖いですよ。“護廷十三隊四番隊隊長の卯ノ花(うのはな)隊長と十二番隊隊長の涅隊長を同時に敵に回す”。その次くらいに」

「「「「……ッ!!」」」」

 その発言は彼女達の(かん)(さわ)った。

 カス同然の霊圧しか持たない男が。自分達よりも、自分達が格下と思っている隊長の方が恐ろしいと笑顔で語る姿に。

 彼女達の頭の中に『弱いからさっさと殺してしまおう』という考えは無くなった。

 代わりに湧き出たのは『どうしたらこの男を一番苦しんで殺すことが出来るか』。

「じゃあ死んでくださいぃ」

 ピンク色の髪をした少女、ミニーニャ・マカロンが地盤ごと近くにあった巨大な柱を引き抜くと男に向けて投げつける。直撃と思われたが男は平隊士とは思えない跳躍力で横に跳んでそれを避ける。

「バカじゃねぇの!? ガルヴァノブラスト!!」

 一撃で殺せなかった仲間を罵りながらライム色の長髪の少女が矢を(つが)えると男に向けて放つ。

「……ッ!?」

 雷の矢は男の心臓を貫く。

 

 殺った。

 

 誰もがそう思った時だった。

 

 パアァンッ! 

 

 男の身体が風船のように弾け飛んだ。

「「「「!?」」」」

 男の形を模した携帯用義骸が破裂する光景に、バンビーズは釘付けになる。

「ど、どうなっているの!?」

 小さな軍帽を被り、長髪の黒髪を触覚のように結んだ少女が目をこする。その時だった。

「戦場で一瞬でも目を閉じるなんて自殺行為だと思いますが?」

「!?」

 ジゼル・ジュエルは視線を背後に向ける。そこには(つか)に右手を置き、左手で(さや)を持ち、左足を半歩下げて屈みこんだ男の姿があった。

「血を浴びた者を自分の言いなりにしてしまう死体にする貴女の能力は見させてもらいました。同時に深手を負ってもすぐに治してしまう貴女の再生能力も」

でも、と男は続ける。

「首を落とされても貴女は生きていられますか?」

 言い終わると同時に男は刀を抜いた。目にも止まらぬ速さで抜かれた刀が狙うのは目の前の少女の細首。

 しかし男の刀は少女の首に届くことはなかった。

「遅いよ」

 少女は男に背を向けたまま、迫り来る刃を掴むと刀ごと男を投げ飛ばした。

「グアッ!?」

 投げられた男は地面に叩きつけられる。

「ボクを殺すんだったらさっさと殺しなよ。もっともそんな刀でボクの首が落ちるとは思えないけど。ッ!」

「ウガァッ!」

 地面に倒れる男の腹を少女はグリグリと踏みにじる。

「アンタもボクの死体になってね」

 そう言うと少女はまだ乾ききっていない、手についた血を男の身体に落とした。

「や、やめろッ!!」

 先ほど切腹させられた隊士たちの姿を見ていた男は絶叫した。

「じゃあ君は自分で自分の首をチョンパ♪」

 少女は男から離れる。男は立ち上がると持っていた刀を自分の首に当てた。

「い、嫌だ……死にたくない!! うわああああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!?? …………なんてね」

 人を小馬鹿にするような笑みと共に男は刀を下ろす。

「貴女さっき言ってましたよね? 『そんな刀でボクの首が落ちるとは思えないけど』って。その通りですよ。僕の斬魄刀・幽世(かくりよ)閉門(へいもん)尸魂界(ソウル・ソサエティ)で一、二位を争う切れ味の悪さでしてね。ただ力を入れて押し当てただけでは皮膚一枚切れないほどに」

「……」

 苦虫を潰したような顔で“死者(ザ・ゾンビ)”の能力を持つジゼル・ジュエルは男を見る。

「……それに貴女は気づいているんじゃないですか? 僕が操られていない(・・・・・・・・・)ことに」

 その言葉にジゼルは大きく目を見開く。

「貴女は貴女の返り血を浴びた死神に言ってましたよね? 『ボクの血を浴びるとね。ボクの言うことしか聞けない死体になっちゃうんだよね────ッ』って。ということは相手が何らかの力で死体にならない死神(・・・・・・・・・)だったら? その死神はゾンビになるでしょうか?」

「……ッ!」

 その答えは男の身体が証明していた。

「つまりその何らかの力(・・・・・)がその刀の力だったら。お前は死ぬ、ってことだよな?」

 様子を見ていた金髪の少女、リルトット・ランパードの指摘に男の顔から笑みが消えた。

 男は無意識に不利な情報を漏らした自分の浅はかさを呪った。

(涅隊長なら巧妙にこちらに不利な情報は隠していただろうに。……どうやら僕は涅隊長の足元にも及ばなかったようだ。これじゃあ時間稼ぎにもなりゃしない)

 男は黒焦げで地面に倒れる更木剣八に目を向け、覚悟を決めた。

(涅隊長。申し訳ございません。僕は、ここまでのようです)

 弱点を発見したバンビーズの行動は早かった。

 ミニーニャが男の背後に立つと刀を持つ腕を引き千切った。

「……ッ!? ……………………!!!!」

 血しぶきを上げる腕。

 男は歯を食いしばり今にも口から出そうな断末魔の叫びを力づくで抑え込む。

 怪力の少女は引き千切った男の手から斬魄刀・幽世閉門を奪うと、原型がなくなるほどに粉砕した。

「死ねや、雑魚が!」

 ピンク髪の少女が男から離れたのを確認したキャンディスの雷が男に直撃する。

「……………………ッ!!!!」

 全身が一瞬で黒こげになるほど焼かれる痛みにも歯を食いしばったまま、男はその場に崩れ落ちる。

 まだ死んでいない、虫の息の男を。リルトットは観察するように見た。

「カス同然の死神がオレ達の前に一人で立ち向かった勇気を(たた)えて。ゆっくり(・・・・)味わって食ってやるよ」

 金髪の少女は口をもちのように伸ばすと真っ黒こげの男に向けて大きく口を開けた。

(……卯ノ花隊長。貴女は涅隊長の策を確実にする情報収集のために捨石(すていし)になった僕をどう思うでしょうか……涅隊長の元へ必ず戻るという約束を破った、この僕を)

 そんなことを考えた男は苦笑し、死を目前に心の中で呟いた。

(卯ノ花隊長。今そちらに────)

 

 バシュッ! ガリッ! バキィッ! 

 

 肉がそぎ落とされ骨が砕かれる。痛覚だけでなく視覚や聴覚でも肉体が食べられていることを実感させられる。それでも男は最期まで叫ぶことなく

 

「────」

 

 絶命した。

 

 

 

 

「……クズ。お前の死はムダにはしないヨ」

 柄に取り付けたストラップから部下の最期を見届けたマユリは作業を止めることなく呟いた。

 命を賭して得た部下の情報を無駄にはしないと言わんばかりに。

「まぁ、あのクズの斬魄刀はあの時すり替えておいたのだがネ」

 そう言ってマユリは満面の笑みで男の斬魄刀を取り出した。

 




戦闘描写って難しいですね。

負けると分かっていても情報収集と更木剣八を助ける時間稼ぎのために死んだ男には書いていた本人も少し感動しました。

そして悲しい結末、男の覚悟と最期をぶち壊す涅マユリ・・・。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

葛原粕人と卯ノ花烈の出会い

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

注意。この話に登場する卯ノ花烈の考えはあくまで筆先文十郎版のものです。読者の皆様の卯ノ花隊長像が崩れる可能性はあるかもしれません。そうなった場合は先にお詫びの言葉を述べさせていただきます。


 卯ノ花(うのはな)(れつ)が後にマユリにクズと呼ばれる男を意識する出会いをしたのは、まだ外の空気が冷たい朝のことだった。

 四番隊隊長はまだ眠い自分を起こすため外気に当たろうと廊下に出た時だった。

 サッ、サッ、サッ

 まだ肌寒い季節。日が完全に昇っていないこの時間は好き好んで外に出る時間ではない。にも関わらず庭を掃く音。

 音のする方へ足を運ぶと、そこには小柄で華奢な男が竹ぼうきを持って落ち葉を集めていた。

「おはようございます、随分早いのですね」

 そう笑顔で語りかけると背を向けていた男はあたふたしながら頭を下げる。

「あ、いや……お、おはようございます、卯ノ花隊長!」

 着任式で目の前の男が自分の隊に入ってきたのは知っていた。しかし事務的なこと以外で声をかける機会はなかった。

 

 これが卯ノ花烈と葛原粕人の本当の意味での最初の出会いだった。

 

 その後も彼女は日が昇るか昇らないかの時間帯から庭や隊舎の掃除を進んで行っている姿を目撃した。

 彼女は気になっていた。多くの者がまだ休んでいる時間に男がなぜ進んで掃除を行っているのかを。

 その答えはこうだった。

 

「だって綺麗な方が皆さんの心がスッキリするじゃないですか」

 

 その言葉に卯ノ花烈は少々驚いた。

 仕事があるにも関わらず、自らの時間を削ってまで他人のためにと自ら掃除をする男の姿に。

 男に興味を覚えた彼女はそれとなく男の動向に気にかけた。

 ……仕事は良いとは言えなかった。

 男は率先して仕事に取り組む。しかし何かしらのミスを犯していた。何をするにも詰めが甘いのだ。その詰めの甘さがミスを起こし周囲の足を引っ張る。

 もちろん他の者がそのことを指摘するが直ることはなかった。

 本人も自覚はある。やることメモなどを作って詰めを誤らないようにする努力は見せている。しかしそのメモ以外のことが起きるとその内容を忘れてしまう。

 これは本人の変えられない資質と割り切るしかなかった。

 仕事でミスをし、周囲に怒鳴られ自信を失う。

 そんな状態でも男は朝早くから掃除をすることを忘れなかった。

 

 

 

 ある日のこと。

 庭の雑草取りをする男にあいさつをした卯ノ花烈は作業を止めてついてくるように言った。

 男を連れて行った場所。それは四番隊の道場だった。

「え、っと……卯ノ花隊長?」

 どうしてここに連れて来られたか分からない男に、彼女は質問する。

「葛原隊士。人を助けるというのはどれだけ大変なことか分かりますか?」

「え?」

「そして。人を助けるということは自分もそれ相応の力を持っていなければならない」

「……」

 何が言いたいのか男は理解できていない。しかし男は上司の言葉に一言も聞き漏らさぬよう耳を傾ける。

「ですので。これから私は貴方にあったそれ相応の力(・・・・・・)をみせてあげます」

 そう言って卯ノ花烈は刀を鞘に収めた状態で柄に手を置く。

「よく見ていて下さいね」

「!?」

 一瞬の出来事だった。

 男が見たのはいつの間にか刀を抜き、いつの間にか抜いた刀をゆっくりと鞘に戻す姿だった。

「居合、ですか?」

「その通りです。居合は突然の敵の攻撃にも反応できるように生み出された護身の術。特に貴方のように小柄な男性にはとてもあっている力だと思います。そして居合の極致は“相手を制し刀を抜かずに戦いに勝つ”。それは即ち不用意に血を流すことを避けるということ。自分の時間を犠牲にしてでも人の事を考え行動する貴方にはピッタリと思いますが」

「……あ、ありがとうございます!」

 雲の上の人から直々に自分に合った力を教わった男は掃除や勉強の時間と平行しつつ居合の練習に取り組んだ。

 

 

 

 そして。卯ノ花烈に教えてもらった居合は男を守り、卯ノ花烈から『剣八』の名を譲り受けた更木剣八を助ける時間稼ぎのため使われることになった。

 




男が何故更木剣八やジゼル・ジュエルを斬ろうとしたとき居合をしていたか気になったので、こんな話を作ってみました。(流派によって『立合』など違いますが)

あと前回殺された男と卯ノ花烈との結びつきを書きたかったのもあります。

お楽しみいただけたのであれば幸いです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

今更ながら筆先文十郎版『BLEACH』の登場人物

タイトル通りです。
今のところ涅マユリ&筆先文十郎オリジナルキャラだけです。
まだ説明しきれていないところはあるので改変する予定です。

この部分はどうなの?など不審な点や矛盾など指摘、この部分の説明が欲しいという意見があると助かります。


・涅マユリ(くろつち――)

護廷十三隊十二番隊隊長と技術開発局局長を兼任している男。

本作の主人公。さまざまな発明品を作り出すがドラ○もんを始めとする他作品と似通った発明品が多い。

クズと呼んでいる男が“斬魄刀が無事なら何度でも生き返る”ことをいいことに発明品の実験体にして何度も殺している。

 

 

 

・葛原粕人(くずはら かすと)

護廷十三隊十二番隊の平隊士。技術開発局では雑用係(兼マユリ専用モルモット)。

マユリからは『クズ』と呼ばれている小柄な男で本作のもう一人の主人公。

 

粕人の由来は本来ゴミとされている粕でも色々な用途で使われることから“他人に理解されず低い評価であっても人のために頑張れる人間になるように”という両親の願いから。

元は四番隊に所属していたがミスが多く十二番隊に異動。その時に卯ノ花烈から受けた“十二番隊なら才能が発揮できる”という道を示されたことに恩義を感じており、卯ノ花烈が更木剣八と戦い命を落としたことを知ると剣八に刃を向けたほど。

 

十二番隊に配属されてからはマユリの発明品に警戒するなど慎重さを見せるようになったが、涅ネムを誘拐したというビデオを撮影した際はラベルに『葛原粕人編集』とバッチリ証拠を残すなど詰めが甘い所は直っていない。

 

性欲は旺盛で好みのタイプは年上女性。特に胸が大きい女性が好みで四楓院夜一の湯浴みを覗こうとしたり、松本乱菊や虎徹勇音といかがわしいことをする想像をしたほど。また伊勢七緒のような厳しい系の女性や清楚な同級生タイプも好み。

 

生き返るとほんの少しだけ強くなる能力を持つ斬魄刀・幽世閉門とマユリの解剖などの実験のおかげで身体能力(特に耐久力)は平隊士の中では突出している。

しかし愛刀の幽世閉門が斬魄刀で一、二位を争う切れ味の悪さを誇り、鬼道の才はあまりにもないので白打以外の攻撃力はないに等しい。

千年血戦篇・訣別譚では情報収集と更木剣八を助ける人間が来るまでの時間を稼ぐためバンビーズ(バンビエッタ・バスターバインを除く)とたった一人で交戦。ジゼル・ジュエルの背後を取り、首を落とそうとするも失敗。幽世(かくりよ)閉門(へいもん)の力でゾンビ化を防ぐも不用意な発言でリルトット・ランパードにゾンビ化しなかった理由が看破される。

その後はミニーニャ・マカロンに刀ごと右腕を引き千切られ、幽世閉門を破壊された後キャンディス・キャットニップの雷で黒焦げにされる。

かろうじて生きている所でリルトットによってじわじわと食べられるのを実感させられながら死亡した。(ただし幽世閉門はマユリがすり替えていたため時間がたてば復活すると思われる)。

ジゼル・ジュエルが男であることには気づいていなかった。

 

霊圧を遮断する外套と似た物を作ったり、浦原喜助曰く『入れ替わるのが難しいため使いこなすのが難しく、他の人物では使えないだろう』という携帯用義骸を自らの手で作り使用するなど限定的ながら技術者としての能力は高い。

また愛染煙で藍染惣右介になった時はマユリの仕事を代わりに片付け、霊子実験で無駄なロスの改善案をマユリに提出した。

 

自分に生きる道を示してくれた卯ノ花烈と同じくらいに、やり方は同意できないが皆のためを思い自分が出来る最善の手を尽くす涅マユリを尊敬している。

 

斬魄刀は幽世閉門。

本人が死んだ時のみ効果が発揮され、死んでから一定時間たつと決まった場所(基本的に自室)に少しだけ強くなった状態で戻る。

幽世は「永久」を意味する不変の神域/死後の世界を指す。

生還するごとに強くなるが、本人があまりにも弱いため涅マユリを倒すには何千万回死んで生還する必要がある。

夢の中では卍解を披露し涅マユリを幽世の世界へ飛ばしたが、幽世閉門の卍解が本当にそうなのかは不明。

何度も死んでいるが、死んだ前後の記憶がないため粕人は自分自身が死んだことにきづいていない。

 

 

 

 

・マユリにクズと呼ばれている男(霊骸)

因幡影狼佐が作った葛原粕人の霊骸。涅マユリのけん制用に作られた。

邪魔になると思われる葛原粕人を殺害した(ただし死んだふりをしたことに気がつかず)。

影狼佐によって死んでから復活する時間を一瞬にしてもらい何度も自殺。短時間で隊長格に匹敵する力を身につけた。

(鬼道も使いこなせるようになっており、粕人が出来ない六十番台の鎖条鎖縛(さじょうさばく)を詠唱破棄できるほど)

 

偽護廷十三隊対護廷十三隊が本格化した時には涅マユリと直接戦い圧倒。顔をこれでもかというほどボコボコに殴りつけた(ただし演技)。

卍解を会得していたが発動する前に超活薬によって急激に老化したため詳細は不明。

最期は斬魄刀を溶かされ“科学者にとって一番危険なのは過信”ということを教えられた後消滅。

 

ちなみに『マユリにクズと呼ばれている男』としか情報がなかった粕人の本名が『葛原粕人』だと公表した人物。

 

 

・仏宇野段士(ふつうの だんし)

四番隊に所属する葛原粕人の同期で元同僚。月に一、二度ほど居酒屋で飲む仲。同期の女性と結婚。

千年血戦篇では強くなった男の凶気に負け、粕人を止めることが出来なかった。

 

 

 

・夜野朋花(よるの ともか)

葛原粕人とは同期にあたる女性。粕人が密かに憧れていた。

元々身体が丈夫というわけではなく、慣れない仕事で病気がちになり藍染離脱で仕事が増加した影響で亡くなった。死因は過度のストレスと過労。

マユリが開発した招く猫の力で一時的に復活。粕人を連れて死後の世界へ逝った。

 

 

 

・竹馬棒(ちくばぼう)

尖兵計画(スピアヘッド)の代わりにマユリに作られた竹と馬との交配種。

自身に対するマユリの対応に怒りを覚え部屋を出たときに粕人に捕まり、その後粕人と同居することになる。

マユリと違って自分を優しくしてくれた粕人に恩義を感じ、以後粕人を主と認めるようになる。

自身を我輩と呼ぶなどプライドの高いところはあるが、困っている人を見ると助けずにはいられなかったりするなど優しいところがある。

竹と馬との交配種のため、粕人の趣味(女性への好み)は理解できていない。

 

実はメスだった。

 




10月26日。
竹馬棒を追加。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

千年血戦篇・訣別譚その後

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

『クズと呼ばれる男は一人でバンビーズ(-1)に挑むようです』の後日談です。


我輩は竹馬棒である。名前はまだない。

見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)という滅却師(クインシー)達との戦いが終わってもう数年がたった。

それは我輩が主と認めた男がいなくなってから数年を意味した。

数年前。

あの凶悪な顔の男が何も言わず部屋に主の斬魄刀を置いた。

朝がきて夜になり、また朝が来る。しかし主が部屋に戻ってくることはなかった。

主が帰ってこなかったことは何度もあった。それでも長くても一週間で主は帰ってきた。

長い間帰ってこない場合は大抵死んでいる。その場合いつの間にか主の刀が部屋に現れうっすらと主が現れる。

まるで無から出てくるかのように。

しかし一週間、一ヶ月、一年。いくら待てども主が帰ってくることはなかった。

刀は主の部屋にあるにも関わらず。

それでも我輩は主がいつ帰ってきてもいいように部屋を綺麗している。

食費も自分で稼ぐため運送業を始めた。元々尖兵計画(スピアヘッド)という対虚用の戦闘用改造魂魄(モッド・ソウル)の代わりに作られた我輩である。脚力には自信があった。街の人にも覚えられていたので街の人はすぐに我輩に仕事を頼んでくれた。そう時間がたたないお金は貯まった。

山のように好物の人参を買えるほどに。

しかしどんな高価な人参でも我輩の心を満たすことは出来なかった。

 

一番美味い料理。主と共に食べる食事を知っていたから。

 

本来ならば部屋の持ち主である主が戦死ということで部屋を追い出されるかと思ったが、元々倉庫だった部屋を改造しただけの部屋に住もうと考える者はおらず結局あの時のままだった。

もちろん主無き部屋は知らない者から見れば我輩のような化け物が占拠しているようにしか見えない。事情の知らない者が無断でこの部屋を潰そうとしたことがあったが、そうはならなかった。

意外なことにあの凶悪な顔の隊長がそうしようとした者を無理やり黙らせたからだ。そのためこうして我輩は主がいた時と同じようにここにいる。

「ブヒィン(ふう、疲れた)」

仕事が終わり行水(ぎょうずい)してから帰る。

「ブフィン(まだ主は帰らぬか)」

もう何百回と感じた寂しい感情。何百回と体験したのに慣れることがない。

 

「ただいま。竹馬棒、いい子にしてたかい?」

 

そう言いながら主が帰ってきそうで。

(……え?)

我輩は振り返る。

そこには部屋の隅に置かれていた斬魄刀・幽世(かくりよ)閉門(へいもん)を腰に(たずさ)えた小柄な男が立っていた。

一日たりとも忘れもしない我輩の主、葛原(くずはら)粕人(かすと)だった。

「ぶ、ブヒィン?(これは、夢か?)」

 

主のことを思うこと我輩を不憫(ひびん)に思った何かが我輩にせめての(なぐさ)めに幻をみせているのか?

 

そう思う我輩に、目の前の男はそっと我輩の頭に手を置き、優しく撫でた。

我輩を(いつく)しむ手の動き。忘れもしない感触だった。

「ぶ、ブヒィィィンッ!(あ、主ィィィッ!)」

我輩は両眼から前が見えなくなるほどの涙を流しながら主の胸へ飛びついた。

そんな我輩を抱きしめながら、主はにっこりと微笑みながら言った。

 

 

 

「ただいま、今帰ったよ」




男がすぐに帰ってこれなかったのはバンビーズに殺されたとき手元に幽世閉門がなかったからです。
(死んだ時に幽世閉門と離れていたらその分だけ復活するのが遅れる)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

今更ながら筆先文十郎版『BLEACH』の登場人物その2

タイトル通りです。
まだ説明しきれていないところはあるので改変する予定です。
ここでは護廷十三隊&破面を紹介します。

この部分はどうなの?など不審な点や矛盾など指摘、この部分の説明が欲しいという意見があると助かります。


涅ネム(くろつち――)

護廷十三隊の十二番隊副隊長。マユリの娘。

本能を全開にした粕人を一発で倒すほどの戦闘能力を持つ。

マユリの夢の中では粕人と結婚の承諾をマユリに求め、さらには粕人の子どもを宿していた(マユリ本人は悪夢でしかなかった)。

 

女性死神の中でも上位に入るほどにスタイルが良い彼女を粕人が襲わないのは、襲う→マユリに逆鱗に触れると認識しているから。

 

 

 

阿近(あこん)

護廷十三隊十二番隊第三席・技術開発局副局長。

粕人の給料の低さを知った時は改善要求をしにマユリに直談判した。

自分に不利益がかからない程度に粕人のことを気遣っている。

 

 

 

鵯州(ひよす)

技術開発局通信技術研究科霊波計測研究所研究科長。

どろぼうキャッチハウスに捕まった粕人を助けようとして自分も捕まってしまった。

 

 

 

卯ノ花烈(うのはな れつ)

護廷十三隊四番隊隊長。

四番隊の仕事が上手くいっていなかった粕人に十二番隊に行くように勧めた恩人。

スタイルの良い年上女性が好きな粕人だが、卯ノ花烈が自分の進むべき道を示してくれた大恩人ということもあり性的対象には見ていない。

 

 

 

虎徹勇音(こてつ いさね)

護廷十三隊四番隊副隊長。

粕人が十二番隊に異動になったのは能力が低いからと誤解していた(ただし卯ノ花烈本人が明確に否定していないので真相は謎)。

『番外編 卯ノ花隊長と葛原粕人が二人きりに・・・』で卯ノ花烈が持ってきた肉が葛原粕人ではないか?という疑いを持った。

 

 

 

伊江村八十千和(いそむら やそちか)

護廷十三隊四番隊第三席。

『番外編 卯ノ花隊長と葛原粕人が二人きりに・・・』で卯ノ花烈が持ってきた肉が葛原粕人ではないか?という疑いを持った。

 

 

 

山田花太郎(やまだ はなたろう)

護廷十三隊四番隊第七席。

『番外編 卯ノ花隊長と葛原粕人が二人きりに・・・』で卯ノ花烈が持ってきた肉が葛原粕人ではないか?という疑いを持った。

 

 

 

砕蜂(ソイフォン)

護廷十三隊二番隊隊長。

夜一と仲良くなりたいために粕人から教わったノートを使い、一騒動を起こした。

 

 

 

朽木白哉(くちき びゃくや)

護廷十三隊六番隊隊長。

自宅を我が物顔でのし歩いている女性死神協会を追い出すアイテム、女嫌香をマユリから受け取り使用。

女性死神協会は遠ざかったものの日常に支障を受けたため涅マユリに化けていた粕人を斬殺した。

 

 

 

狛村左陣(こまむら さじん)

護廷十三隊七番隊隊長。

粕人から書類を受け取った。

 

 

 

伊勢七緒(いせ ななお)

護廷十三隊八番隊副隊長。

覗きに使用する疑いが強かった鏡霞水月をマユリから没収した。

粕人の好みのタイプの女性の一人。

 

 

 

日番谷冬獅郎(ひつがや とうしろう)

護廷十三隊十番隊隊長。

物真似マイクで粕人が化けた。本人は登場していない。

 

 

 

松本乱菊(まつもと らんぎく)

護廷十三隊十番隊副隊長。

彼女の豊満な胸を枕にして寝るのが粕人の夢の一つらしい。

 

 

 

更木剣八(ざらき けんぱち)

護廷十三隊十一番隊隊長。

初登場では(妖刀殲滅丸&死守天装という戦闘能力増強アイテムを身につけた)粕人の実力を認めて眼帯を外して戦った。

 

千年血戦篇では卯ノ花烈の敵討ちをしにきた粕人を見逃した。

 

 

 

草鹿やちる(くさじし――)

護廷十三隊十一番隊副隊長。

朽木邸を走り回っていた。

 

 

 

藍染惣右介(あいぜん そうすけ)

元護廷十三隊五番隊隊長。

ザエルアポロがロボットになったときは冷や汗を流していた。

物真似マイクでは粕人が藍染の姿で『キュー○ィハニー』を歌った。

愛染煙を吸った粕人が藍染並の頭脳になった。

 

 

 

市丸ギン(いちまる――)

元護廷十三隊三番隊隊長。

ザエルアポロがロボットになったときは冷や汗を流していた。

 

 

 

東仙要(とうせん かなめ)

元護廷十三隊九番隊隊長。

ザエルアポロがロボットになったときは冷や汗を流していた。

 

 

 

 

ウルキオラ・シファー

破面・No.4。物真似マイクで粕人が化けた。本人は登場していない。

 

 

 

グリムジョー・ジャガージャック

破面・No.6。物真似マイクで粕人が化けた。本人は登場していない。

 

 

 

ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンク

前代 破面・No.3。物真似マイクで粕人が化けた。本人は登場していない。

 

 

 

ザエルアポロ・グランツ

破面・No.8。後に一騒動を起こすノートを持っていた張本人。『女にモてる』(ではなく『遠女にモてる』)ノートを使ったため宇宙人に拉致されてロボットになって帰ってきた。これには藍染達が冷や汗を流すしかなかった。なお自力で戻った模様。

 




個人的な質問で申し訳ないのですが、マユリ屍部隊(砕面メンバー)って千年血戦篇以降何をしているのでしょうか?
やはりマユリの管理下に置かれているのでしょうか?

ふと砕面メンバーと葛原粕人が話すストーリーが思いついたので。

あとひみつ道具ネタが思いつかないので『声カタマリン』以外で「こんなひみつ道具はやらないのですか?」という案があるとありがたいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十四話 ヘリ蜻蛉改良型

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。


流魂街(るこんがい)から遠く離れた荒野。

 

マユリにクズと呼ばれている男はマユリと共に空間移動扉(くうかんいどうとびら)人一人(ひとひとり)見当たらない荒野に移動していた。

「クズ。これを頭に付けろ」

上司である(くろつち)マユリから見覚えがあるものが男の手に置かれる。

「涅隊長。これって……」

手渡された物。それは以前、男の目の前に立つ奇怪な顔をした技術開発局局長が作ったヘリ蜻蛉(とんぼ)だった。

「クズのお前はもう忘れているだろうからもう一度説明しておこう。これは以前私が開発したヘリ蜻蛉の改良型だ。体、主に頭頂部に装着すると自由自在に空を飛べる代物だ。使用中も髪は乱れず動作音も軽い。頭頂部に装着して使用しても首を痛める心配もない!」

(これって以前使って高度8千メートルでバッテリーが切れたやつだよな……)

「結局のところドラ○もんのタ○コプターですよね」と言えば火に油を注ぐことになることを充分把握している男はその指摘をすることはしなかった。不用意な発言をすれば疋殺(あしそぎ)地蔵(じぞう)で斬られた上で無理やり付けられるのを予想したからだ。

(でもこれって……)

マユリの説明を聞いた男は悩む。

(以前のヘリ蜻蛉の改良型ということはパワーや持続性が改良されたということだよな。でもあまりのパワーで頭につけたら今度は宇宙に飛ばされるんじゃないのか?それともあまりにもパワーが強すぎて頭が胴体と離れ離れになって――)

「おい、クズ。『これって以前のヘリ蜻蛉の改良型ということはパワーや持続性が改良されたということだよな。でもあまりのパワーで頭につけたら今度は宇宙に飛ばされるんじゃないのか?それともあまりにもパワーが強すぎて頭が胴体と離れ離れになって――』という馬鹿馬鹿しいことを考えている暇があるならさっさとつけろ!」

「は、はいッ!?」

男は上司の怒鳴り声に慌てて急いで頭に竹とんぼに似た物を頭に付けた。

 

 

 

翌日の瀞霊廷(せいれいてい)通信(つうしん)

昨日昼頃。流魂街から遠く離れた荒野で巨大な竜巻が発生。

現場近くに十二番隊平隊士、葛原(くずはら)粕人(かすと)の斬魄刀・幽世(かくりよ)閉門(へいもん)が発見され、細切れになった死覇装が見つかったことから葛原隊士はこの謎の竜巻に巻き込まれ死亡した者と思われる。

この突然発生した謎の竜巻が何故発生したかを調査するため、護廷十三隊は十二番隊の調査を命じ現在調査中。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 葛原粕人はモテるようです

この小説はBLEACHの二次創作です。


「ふう、こんなものかな」

マユリにクズと呼ばれている男は山中を歩きまわっていた。男の背中には様々な草や鉱石が入った篭がある。

「いくら命令とはいえ、鬼梅(おにうめ)尸魂界(ソウルソサエティ)で使用が禁止されている強い幻覚性のある梅)を始めとするものを採取させられるとは……ん?」

 

バサバサッ!!

 

遠くから鳥の羽ばたく音が聞こえる。それを飛び立つためではなく苦しんでいるような、切羽詰まった羽ばたき。

「なんだ?」

男が音の方へ歩いていく。そこには湿原の中に一羽の鶴がいた。その鶴の足元には金属製の罠が鶴の足を挟んでいた。

男の姿に殺されると思った鶴は最後の力を振り絞って逃げ出そうとする。しかし激しく動いたため足からは更に血が流れ、鶴の体力を奪っていく。そして鶴はその場に崩れ落ちた。

「……」

男は濡れるのも気にする様子もなく、ゆっくりと鶴に近づく。

「心配しないで、僕は君を傷つけることはしない」

そう言って男は鶴の足を捕まえていた罠を外すと懐から塗り薬を取り出す。

「これは血止め薬だ。これで血は止まったはずだ。あとはこれで……」

鶴の足に薄く包帯を巻いた。

「ほら、今度は捕まるんじゃないよ」

鶴はペコリと頭を下げると空に向かって飛び立った。

 

 

 

数分後。

次の場所に向かおうと歩いていた男は道中で倒れている地蔵を発見した。

「大変だ、すぐに元に戻さないと」

男は地蔵を起こす。そして地蔵が汚れていることに気づくと持っていたハンカチで地蔵の身体を拭いた。

「よし、これで綺麗になったな。あ、そうだ!」

男は懐からみかんを取り出すと地蔵の手に乗せた後に拝むと地蔵の元を後にした。

 

 

 

一時間後。

海を訪れた男は白い砂浜に立っていた。

「次は大王イカ。さてどう取ろうか……ん?」

目の前の大海原を前に考えていた男の視界に数人の子供達が見えた。その足元には一匹の亀がいた。

「おい、もっと早く動けよ!」、「さっさと動かないとまたひっくり返すぞ!」、「じゃなかったら殺しちゃうぞ!」

「こら君たち、何をしているんだ!?」

男は子ども達の間に割って入ると中にいた亀を救出する。

「おい、お前!何をすんだよ!!」

男よりも背の高い一人の少年が男の顔に拳をめり込まそうとした。しかしその拳は亀を持った手とは反対の手で遮られた。

「て、てめぇ!放せよ!!」

「はい」

「う、うわあぁ!?」

いきなり手を離され、男に殴りかかった少年は砂浜に尻もちをつく。

「か、カンちゃん!?」、「大丈夫かよ!!」

尻もちをついた子供を心配した二人が慌てて起こす。

「おい、その亀は俺達のおもちゃなんだよ!さっさと返――」

カンちゃんと呼ばれた子どもは言葉を詰まらせた。自分よりも小さい男から発せられるオーラに気圧(けお)されたからだ。

「「――」」

それはカンちゃんの後ろに立つ二人も同様だった。

彼らの本能は悟った。

 

目の前の男には勝てない、怒らせてはいけない。

 

と。

何千回と死の淵に立たされ生還してきた男の強さを感じ取った少年達は固まってしまう。

小刻みに震えだす少年達を前に男は懐から小さな石を取り出す。

「これは翡翠だ。これでこの亀を買い取らせてもらいたいのだが、どうだろう?」

男の顔は穏やかだった。しかしその穏やかな顔と先ほど感じた恐怖でより一層少年達の恐怖心を駆り立てる。

「し、しかたないな。その石で売ってやるよ」

カンちゃんは震える手で男から翡翠を受け取ると足早に去って行った。

「ま、待ってよ!カンちゃん!!」、「置いていかないで!」

二人の少年もカンちゃんの後を追って男の前から走り去った。

「……行っていいよ」

男は亀を砂浜にそっと下ろした。

亀は男の顔を少しだけ見た後、海に向かって身体を動かし、海へと姿を消した。

その様子を男は笑顔で見送った。

その後男は大王イカを釣り上げるとマユリの待つ技術開発局へと足を進めた。

 

 

 

夜。

「ふう、今日も疲れた」

マユリに頼まれた物を渡した男は一畳の部屋で窮屈な大の字になって寝ていた。

コンコン

「ん?」

扉を叩く音に、男は立ち上がると扉を開けた。

「今日は罠にかかったところを助けていただき、ありがとうございました」

そこには雪のように真っ白な振袖に身を通した、艶やかな黒髪の女性が立っていた。

「え、貴女は?」

「今朝方助けて頂いた鶴でございます。いきなりで失礼なのは百も承知なのですが、私と結婚して下さい!!」

「のえぇぇぇっっっ!?」

両手を挙げて驚く男。しかし彼が本格的に驚くのはこれからだった。

「貴様!何をしている!!」

部屋の天井から灰色の浴衣にウェーブする灰色がかった黒髪のショートヘア女性が降り立った。

「私は今日助けてもらった地蔵だ!葛原粕人、そんな女から離れて私の夫となるがいい!!」

「お待ちなさい!!」

今度は男の部屋の床から勢いよく何者かが現れる。

そこには翡翠のような煌く髪を背中まで伸ばし、フリルのたくさんついた水着を着た女性姿が。

「私は海で助けられた亀でございます。これから竜宮城へ行き乙姫様の前で永遠の愛を誓いましょう!!」

「ちょっと待ったぁぁぁっっっ!!」

黒髪をポニーテールにまとめた緑色の忍び装束を着た女性が廊下から現れた。

「我輩は主とずっといたのだぞ!貴様らよりも我輩の方が妻に相応(ふさわ)しい!!」

「誰だよ、お前!!」

マユリの擬人化薬で人間に変身した竹馬棒だと知らず、男は突っ込みを入れた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

今更ながら筆先文十郎版『BLEACH』の登場人物その3

タイトル通りです。
まだ説明しきれていないところはあるので改変する予定です。
護廷十三隊以外と見えざる帝国のメンバーです。

この部分はどうなの?など不審な点や矛盾など指摘、この部分の説明が欲しいという意見があると助かります。



四楓院夜一(しほういん よるいち)

元護廷十三隊二番隊隊長兼隠密機動総司令官。

粕人に『祝われる』ノートの存在を教えられ使用した結果、夜一フィーバーを引き起こした。

 

 

 

浦原喜助(うらはら きすけ)

元護廷十三隊十二番隊隊長兼技術開発局局長。

『祝われる』ノートを使用した夜一に世界がとんでもないことになったことを伝えた。

 

 

 

コン

尸魂界で作られた尖兵計画の一環として作られた、対虚用の戦闘用改造魂魄。

技術開発局に捕われた後、粕人と共に融合装置に入れられて融合した。なお融合装置第一号は・・・。

 

 

 

マユリの部屋で十二番隊の隊首羽織を着ていた謎の美女

青髪ショートヘアでスタイル抜群のクールな美女。粕人の好みの女性だったが、粕人が十二番隊の羽織を着ているのに違和感がないことに疑念を持っていたため口説かれることはなかった。

正体は性反転薬を使用して女性になった涅マユリ。

 

 

 

人魚姫(にんぎょひめ)

アンデルセンの『人魚姫』のヒロイン。本来ならば愛する王子の命を奪うことが出来ず最後に海の泡と消えてしまうはずだったのだが、粕人の助言によって王子と結婚した。

(なお粕人は王子の命を狙った暗殺者ということでその日の夜に処刑された)

 

 

 

ネロ&パトラッシュ

フランダースの犬の主人公とその愛犬。ルーベンスの絵を見た後に天に向かうはずだったのだが粕人がヒロインのアロアの家に連れて行ったので死ぬことはなかった。その後絵の才能を認められて幸せに暮らしたという。

 

 

 

ジゼル・ジュエル

見えざる帝国の星十字騎士団のメンバー。バンビーズの一人。

自分の血液を浴びた者を死体にして自由に操る『死者(The (ザ・)Zombie(ゾンビ))』能力を持つ。

更木剣八救出の時間稼ぎのために自分たちの前に現れた粕人に背後を取られたが、振り返ることなく粕人の居合いを素手で受け止め投げ飛ばした。

粕人の斬魄刀・幽世閉門の能力で粕人がゾンビにならなかったことに驚きを隠せなかった。

男の娘だが粕人に気づかれることはなかった。

 

 

 

リルトット・ランパード

見えざる帝国の星十字騎士団のメンバー。バンビーズの一人。

口を巨大化させ相手を食い殺す能力『食いしんぼう(THE(ザ・) GLUTTON(グラタン))』を持ち、自分たちをイラつかせた粕人が一番苦しむように殺す方法としてゆっくり食べることを選択。キャンディスの雷で黒焦げになった粕人を味わって食べて殺した。

粕人の何気ない一言から、粕人がジゼルの能力が効かなかったのは幽世閉門の力だと見抜いた。

 

 

キャンディス・キャットニップ

見えざる帝国の星十字騎士団のメンバー。バンビーズの一人。

能力は『雷霆(The(ザ・) Thunderbolt(サンダーボルト))』。粕人の携帯用偽骸を射抜いた。ミニーニャに右腕を引き千切られた粕人に雷を浴びせて黒焦げにした。

 

 

 

ミニーニャ・マカロン

見えざる帝国の星十字騎士団のメンバー。バンビーズの一人。

The(ザ・) Power(パワー)』の能力を持ち、その怪力で粕人の右腕を引き千切り幽世閉門(マユリがすり替えたレプリカ)を破壊した。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 葛原粕人はコンのラジオ番組に呼ばれたようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

あとこの話はゲームは
『RADIO-KON Play station2』
『RADIO-KON ラジコンベイビー』
『Radio Kon Golden』
を見た後の方がより楽しめると思います。


とあるラジオ局。

「よぉ!元気かてめぇら!今日も元気にお届けするぜ、ラジコンゴールデン!!今日のゲストはこの男、十二番隊平隊士・葛原(くずはら)粕人(かすと)ッ!!」

「ど、どうも葛原粕人で~す。よろしくお願いしま~す」

ペコペコと頭を下げながらマユリにクズと呼ばれている男が部屋に入った。

「いやぁ、今日はよろしくお願いしますよ~」

そう言って手を差し出すコン。差し出された手を、男は「こちらこそ」と言って握る。

「ところでこのコーナーって市丸(いちまる)隊長と吉良(きら)副隊長、阿散井(あばらい)副隊長や朽木(くちき)隊長とその妹のルキアさん。日番谷(ひつがや)隊長と松本(まつもと)副隊長。仮面の軍勢(ヴァイザード)だった平子(ひらこ)隊長と猿柿(さるがき)ひよ()さん。破面(アランカル)のウルキオラとグリムジョー。そしてウチの(くろつち)隊長と涅ネム前副隊長という豪華メンバーが出演してると聞いてます。僕なんかが呼ばれていいんですか?京楽(きょうらく)総隊長とか呼ばないといけない人がいるような……まぁ、京楽総隊長はお忙しい方ですから出られないかもしれませんけど」

最後の方は小さく言う男に、コンは「いいんですよ~」と笑顔で続ける。

「葛原さんのご活躍は聞き及んでいますよ。その活躍はあの技術開発局局長殿の右腕と言っても過言ではないですから」

「えぇ!いやぁ……僕なんかまだまだですよ。それを言ったら涅前副隊長や阿近副隊長の方が……」

「いえいえ~」

そう言いながらコンの心の声は違うことを言っていた。

(別にお前の活躍なんか興味はないんだよ。俺が知りたいのはあの技術開発局という悪魔の巣窟に住む親玉、涅マユリの情報が知りたいんだよ。それさえ知れればお前なんてどーでもいいんだよ)

「それじゃあリスナーからのハガキを読んでいきますね」

そんなことを思っていることを露にも出さず、コンは手紙を無作為に取り出し読み上げる。

「『葛原さんへ。復活おめでとうございます。これからも涅隊長の腹心として活躍されることだと思います。ところで葛原さんに聞きたいことがあります。僕は将来十二番隊に入隊しようと思っているのですが、涅隊長のことを知りたいので何かとっておきの情報を下さい』だそうですが、どうなんですか?」

「隊長の、とっておきの情報ですか~」

「う~ん」と腕を組みながら考える。

「まあ涅マユリは技術開発局局長で十二番隊の隊長ですね」

んなこと誰だって知っているだろうが!とは顔に出さずコンは「それで?」と撫で声で尋ねる。

「好物は秋刀魚。あと今でこそ丸くなった所はありますが、昔は隊士に爆弾を仕込んでいたとか。まあその時の僕は四番隊の荻堂八席の班にいたので真相はわかりませんが」

(だ・か・ら!あいつが恐ろしいっていうのは百も承知なんだよ!!俺が欲しいのはあいつの弱点なんだよ!!)

「あれ?僕なんか悪い事言いました?」

コンの顔が物凄いことに変わったことに気づいた男は、ぬいぐるみに確認する。

「いえいえ。そんなことないですよぉ。ところで、この十二番隊入隊希望者さんもやっぱり上司になる隊長の弱点とかも知りたいと思うので。どうか教えてくれませんかねぇ」

「弱点ですか!?……う~ん、弱点ではないですが。涅ネム前副隊長の後継にあたるネムリさんは手を出すとヤバイです。マジでヤバい。僕は眠さんの成長日記をつけるように言われているんですが、『石につまずいて泣いていました』って書いたら『なぜお前は眠八號(ネムリはちごう)がつまずく前に石をどけなかったんだネ!!』って激怒されて……。給料が……」

シクシクと泣く男に今にもブチ切れそうになるのを我慢してコンは尋ねる。

「わかります、わかりますよ葛原さん。ですからこの十二番隊に入りたい人のために弱点を教えてあげてください」

涅マユリには色々不利益を(こうむ)っているという共感部分に好感を覚えた男は、同情してくれるコンのため、そして十二番隊に入りたいという(コンが男からマユリの弱点を聞き出すために作り上げた存在しない)人のために必死に記憶の糸を探る。

「あ、そうだ!隊長の弱点!!」

あることを思い出した男はポンッ!と手を叩く。

「な、なんですか!?それは!!」

「あ、でも……これって全国に伝わるんでしょう?これを不特定多数に伝わる状況でいう訳には……」

と言いつつも男は話したいのだろう。チラチラとライオンのぬいぐるみを見ていた。

それを察したコンは男に囁いた。

「だったら俺に。俺にだけ教えて下さい。誰にも言いませんから」

「えぇ、本当ですかぁ~?」

「本当ですよぉ~」

(誰が言うもんか!あのマッドサイエンティストの弱点を!!)

「じゃあ……コショコショコショ」

大きく頷くコンに、男は満面の笑みを浮かべながら耳元で話した。

「!!!」

(よっしゃあ!これは良いことを聞いたぜ!!これがあればあの化け物にビクビクしないで――)

男からもらった情報でどう行動に移そうか考え、コンは男に背を向ける。その時だった。

 

ドサッ!

 

その音にコンが振り返る。そして驚愕する。

「く、く、く……涅マユリッ!!??」

気絶した男を足蹴にしながら、コンが恐れる技術開発局局長の涅マユリが立っていた。

「やあ改造魂魄(モッドソウル)。久しぶりだねぇ~」

「ど、ど、ど……どうもで~す」

ドアップになるマユリに、コンは震える声で答える。

「今さっきこのクズが何を言ったか知らないが、このクズが言ったことはデマだ。本気にしないでくれたまえ」

「あ、は……はい。もちろんですよ」

(ふう、これで何とかこの場は乗り切ったぜ)

「と思ったかい?」

「フギャアアアァッ!?」

更に顔を寄せる奇怪な顔の隊長に、コンは恐怖で涙を流す。

「あぁ、そんなに恐怖に震えなくていい。ただ――」

マユリは懐から栄養ドリンクのようなものを取り出す。

「これを私が足蹴にしている男と一緒に飲んでくれればそれでいい。安心したまえ、毒薬じゃないから!」

「フガァッ!?」

そう言ってマユリはぬいぐるみの頭を掴むと、以前自身がクズと呼ぶ男に飲ませた忘却ドリンクをぬいぐるみの口に突っ込んだ。

 

 

 

数分後。

「あ~、あぁ~、あはははははっ~」

「うへ~、ふふ、あはははははっ~」

コンと男はよだれを垂らしこれ以上ないアホ面をさらしていた。

「それじゃあまた会う日まで、ご機嫌ヨウ!ラジコンゴールデン!!」

会話すら出来なくなった二人に代わり、涅マユリが締めくくった。

 

 

 

「そうだ。前回瀞霊廷(せいれいてい)通信(つうしん)で死亡記事が載るならクズが目を通してしまうことは無いのだろうか?というリスナーからの質問があったから私が説明しよう。

私はあの男が死んだことを勘付かれないように”あのクズが死んだことに関する記事は何も見えないように洗脳してある。例えば見出しに『葛原粕人死亡!!』と書かれていたとしよう。しかしあのクズには『      !!』と見えるわけだ。答えになっているかネ?」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章 涅マユリの秘密道具
新章第零話 葛原粕人は特記戦力を決めるようです


この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。


「う~ん」

マユリにクズと呼ばれている男は一畳という狭い部屋で腕を組んで考えていた。

見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)は死神代行の黒崎(くろさき)一護(いちご)。十一番隊隊長の更木(ざらき)剣八(けんぱち)。前五番隊隊長の藍染(あいぜん)惣右介(そうすけ)。零番隊の兵主部(ひょうすべ)一兵衛(いちべえ)。前十二番隊兼技術開発局局長の浦原(うらはら)喜助(きすけ)の五人を特記戦力という「見つけ次第優先して倒すべし」と言う主要人物に上げたという」

なら、と男は続ける。

「僕なら誰を特記戦力にあげるだろうか?」

男は考える。

「まず十番隊の松本(まつもと)乱菊(らんぎく)副隊長は入れたいな。あの胸は狂喜、じゃなくて凶器だ。あと四番隊隊長の虎徹(こてつ)勇音(いさね)隊長。10年前と大きく髪型を変えられたがあのでっかいおっぱいと上手く調和が取れている。伊勢(いせ)七緒(ななお)副隊長も素晴らしい。僕も京楽(きょうらく)総隊長のようにビシッとしかられてみたい。おっと元二番隊隊長兼隠密機動総司令官だった四楓院(しほういん)夜一(よるいち)も忘れてはいけない。あのおっぱいに褐色肌はいいアクセントになっている。あと一人は誰にしようか?」

鼻の下を伸ばし、鼻血を流しながら男は引き続き考える。

井上(いのうえ)織姫(おりひめ)も年上女性が持つ色香を持っていたら特記戦力入りなのだが。あと(くろつち)ネム前副隊長は隊長が怖いし、卯ノ花(うのはな)隊長は特記戦力にいれるなんて恐れ多い」

その時だった。

「貴方は何を考えているのですか!!」

いきなり扉を開けたのは雪のように真っ白な振袖に身を通した、艶やかな黒髪の女性だった。女性は鶴のくちばしのように鋭い手刀を男の胸に直撃させる。

「グフッ!?」

鋭い手刀に息を詰まらせる。

だが攻撃はこれで終わりではなかった。

「私と言う女がいながら!!」

「ガアッ!?」

部屋の天井から灰色の浴衣にウェーブする灰色がかった黒髪のショートヘア女性が男の頭頂部に地蔵のように固い肘鉄を食らわせる。

「そんなに人間の女がいいか!!」

「ンガッ!!」

後ろの壁を破壊しながら、翡翠のような煌く髪を背中まで伸ばし、フリルのたくさんついた水着を着た女性姿が亀のように重量感ある体当たりを男に浴びせる。

「主の浮気者!!」

「ウギャアァッ!!」

トドメとばかりに男が座っていた部分を、下から擬人化した竹馬棒が男の尻を蹴り上げた。

 




皆様の特記戦力はどうですか?

ちなみに10月30日時点で特記戦力を選ぶとしたら
井上織姫
涅ネム
ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンク
九条 望実
ジゼル・ジュエル
ですかね。

リルトット・ランパード、バンビエッタ・バスターバイン、フランチェスカ・ミラ・ローズ、黒崎姉妹・・・あげていけばキリがありませんが汗


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章 涅マユリの秘密道具登場人物

見えざる帝国との戦いが終わった10年後の世界です。
何か間違いがありましたらご指摘お願いします。(例。すでに二十席に別の人間がいる)

まだ増える予定です。



葛原粕人(くずはら かすと)

十二番隊に所属する小柄な男。技術開発局雑用係→技術開発局雑用係総責任者兼眠八號(ネムリはちごう)護衛総責任者。

席次として二十席を与えられたが、これはマユリが粕人に色々仕事を押し付けるには平隊士のままでは不都合なため。

 

鬼道の腕と愛刀・幽世閉門(かくりよへいもん)の切れ味は相変わらずだが、卯ノ花烈に教わった居合いの腕は上位席官レベルまで成長した。また隠密機動第三分隊・檻理隊(かんりたい)の部隊長の絶対条件をクリアするほどの身体能力&白打の腕を持つ{部隊長は地下特別監理棟(蛆虫(うじむし)の巣)に収容されている人物の暴走を素手で制圧できる事が絶対条件}。

 

性欲は相変わらずで『全年齢では出来ないことをしたい』特記戦力として

①松本乱菊

②虎徹勇音

③伊勢七緒

④四楓院夜一

の名前を挙げている。(あと一人は後述の嫁候補達に邪魔されて不明)

 

人物データ

誕生日/9月14日

身長/146㎝

体重/39㎏

斬魄刀/幽世閉門

趣味/読書

特技/居合

食べ物/

好き:薄味

嫌い:濃い味

休日の過ごし方/●各隊の図書館に足を運ぶ●眠八號に読み聞かせ

師と仰ぐ人物/●涅マユリ●卯ノ花烈

得意料理/関西風お好み焼き(新章第三話以降)

特記事項

各隊の図書館に足を運んでいるため、伊勢七緒や雛森桃、矢胴丸リサなど図書館に出入りが多い人物とは面識がある。

マユリに研究素材の採取を命じられ遠出をすることがあるためサバイバル知識も豊富。

白打や罠の知識はその時得たもの。

 

 

涅マユリ(くろつち――)

十二番隊隊長兼技術開発局局長。

粕人に色々仕事を押し付けるために二十席に昇進させた。

 

 

涅眠八號(くろつちねむりはちごう)

涅マユリが作り出した人造死神にして愛娘。

粕人を「クズさん」と慕っている。

 

 

竹馬棒(ちくばぼう)

尖兵計画(スペアヘッド)の代わりにマユリに作られた竹と馬との交配種。

粕人を主と言って慕う。

後からやってきた嫁候補と火花を散らす。

朽木兄妹のセンスが分かる。

ちっぱい。

 

 

千寿(せんじゅ)

数年前粕人に助けられた鶴。

粕人の妻になろうと他の嫁候補と火花を散らす。

朽木兄妹のセンスが分かる。

ちっぱい。

 

 

護国(みくに)

数年前粕人に助けられた地蔵。

粕人の妻になろうと他の嫁候補と火花を散らす。

朽木兄妹のセンスが分かる。

ちっぱい。

 

 

万耶(まや)

数年前粕人に助けられた亀。

粕人の妻になろうと他の嫁候補と火花を散らす。

朽木兄妹のセンスが分かる。

ちっぱい。

 

 

阿近(あこん)

十二番隊副隊長兼技術開発局副局長。

粕人に色々仕事を背負わせようとするマユリに、「それなら席官につけないと」とマユリに進言した。

 

 

ドルドーニ・アレッサンドロ・デル・ソカッチオ

破面。涅骸部隊の一人。

粕人を『小さい坊や(ニーニョ)』と呼ぶ。

 

 

 

チルッチ・サンダーウィッチ

破面。涅骸部隊の一人。

粕人を『ゴミ』と呼ぶ。

 

 

 

ルピ・アンテノール

破面。涅骸部隊の一人。

粕人を『クズくん』と呼ぶ。

 

 

シャルロッテ・クールホーン

破面。涅骸部隊の一人。

ブサイクは名前を覚えられないので粕人を『カスなんとか』と呼ぶ。

 

 

兵間少輔次郎義昭(ひょうま しょうゆうじろう よしあき)

今年十二番隊に配属された隊員。下級貴族兵間家の次男。優秀な人材が集まる五番隊を薦められるほどの実力者。雑用係として走り回る粕人をバカにしていた。

鬼道を使う間もなく粕人の仕掛けた罠に引っかかった。

他人が「自分が思っている以上に葛原粕人を必要だと感じている」ことに怒りを覚えている。

斬魄刀は強力な結界を生み出すことの出来る玄武陣。解号は『囲め、玄武陣』。

筆先文十郎オリジナルキャラ。

 

 

京楽春水(きょうらく しゅんすい)

一番隊隊長兼護廷十三隊総隊長。

暴力事件まで発展した二番隊と十二番隊の対策として一週間だけ席官クラスの人間を一人

交換する命令を下した。

 

 

伊勢七緒(いせ ななお)

一番隊副隊長・八番隊副隊長代行。

秘書的存在。

葛原粕人が選ぶ特記戦力の一人(選考理由は京楽総隊長のようにビシッとされたい)。

 

 

砕蜂(ソイフォン)

二番隊隊長・隠密機動総司令官及び同第一分隊「刑軍」総括軍団長。

粕人を毛嫌いしている。

 

 

大前田希千代(おおまえだ まれちよ)

二番隊副隊長・隠密機動第二分隊「警邏隊」隊長。

十二番隊に一時的に異動になった際マユリに解剖されそうになった。

選ばれた理由は「いてもいなくても関係ない」から。

 

 

犬飼(いぬかい)

砕蜂の側近で老年の隠密機動。粕人を蛆虫の巣に案内した。また粕人が蛆虫の巣の囚人達を圧倒的実力差と猥談で掌握したことを(口を濁しながら)砕蜂に伝えた。

筆先文十郎オリジナルキャラ。

 

 

鬼塚(おにつか)

隠密機動第三分隊・檻理隊(かんりたい)を任されている男。

粕人が蛆虫の巣を任されている間は大前田の代わりに警邏隊を指揮していた。

筆先文十郎オリジナルキャラ。

 

 

隠密機動第四分隊・裏見隊

護廷十三隊、隠密機動、鬼道衆の中に入り込み異分子を探すのが主任務。

 

 

月光(げっこう)

筆先文十郎が考えた部隊、隠密機動第四分隊・裏見隊の一員。

筆先文十郎オリジナルキャラ。

 

 

水城(みずき)

筆先文十郎が考えた部隊、隠密機動第四分隊・裏見隊の一員。月光の妻。

筆先文十郎オリジナルキャラ。

 

 

松永(まつなが)

十二番隊に所属している隠密機動第四分隊・裏見隊の隊員。名前だけの登場。

筆先文十郎オリジナルキャラ。

 

 

両角(りょうかく)

蛆虫の巣に収容されていた囚人。粕人にいの一番に殴りかかった。怪力自慢だが粕人には一発も当たらなかった。

筆先文十郎オリジナルキャラ。

 

 

吉良イヅル(きら――)

三番隊副隊長。

お化け屋敷に入った女性死神を驚かせた。

 

 

仏宇野段士(ふつうの だんし)

粕人の親友で四番隊所属の平隊士。

筆先文十郎オリジナルキャラ。

 

 

仏宇野音芽(ふつうの おとめ)

仏宇野の妻。四番隊所属で十五席。仕事中は旧名の一葉(いちよう)を名乗る。怪我をしていたとはいえ十一番隊隊員に『じゃーまんすーぷれっくすほーるど』をかける力を持つ。

筆先文十郎オリジナルキャラ。

 

 

朽木白哉(くちき びゃくや)

六番隊隊長。

自分の作品をバカにした粕人に始解を放った。

 

 

阿散井恋次(あばらい れんじ)

六番隊副隊長。

苺花がキズモノにされたと勘違いして部屋で横たわる粕人を強襲した。

 

 

射場鉄左衛門(いば てつざえもん)

七番隊隊長。男性死神協会会長。

予算獲得のためお化け屋敷を提案した粕人の案にのっかり場所の確保&客引きを行った。

 

 

山崎信吾朗(やまさき しんごろう)

七番隊隊士。東空座町に赴任する予定だった男。

名前だけの登場。

筆先文十郎オリジナルキャラクター。

 

檜佐木修兵(ひさぎ しゅうへい)

九番隊副隊長。男性死神協会理事。

お化け屋敷に入った女性死神を特殊メイクで驚かせた。

 

 

朽木ルキア(くちき――)

十三番隊隊長。朽木白哉の義妹。

自分の作品をバカにした粕人に始解を放った。

 

 

阿散井苺花(あばらい いちか)

阿散井恋次と朽木ルキアの娘。上官である粕人をあんた、おっさん呼ばわりしていた。

斬魄刀は水を武器にする青龍丸。

 

 

黒崎一護(くろさき いちご)

BLEACHの主人公。ブラットヴァイブとの戦いで負傷した粕人を介抱するためクロサキ医院に運んだ。

 

 

黒崎織姫(くろさき おりひめ)

一護の妻。旧姓井上。粕人を治療した。兄からの伝言を預かった粕人に『妹は幸せに暮らしている』という言伝を頼む。

 

 

黒崎一勇(くろさき いちい)

一護と織姫の子ども。名前だけの登場。

 

 

茶渡泰虎(さど やすとら)

通称チャド。プロボクサー。

最終話での王者決定戦では勝利してヘビー級チャンピオンになった(筆先文十郎独自設定)

 

黒崎一心(くろさき いっしん)

一護の父。粕人の頭を打ち抜こうとしたデスバズーカを一刀両断にした。

 

 

石田竜弦(いしだ りゅうげん)

雨竜の父。一心と共に粕人を食おうとしていた鳥、蝙蝠、モモンガの虚を射殺した。

 

 

本匠千鶴(ほんじょう ちづる)

元一護達のクラスメイト。現在は一部のコアな人に喜ばれる漫画を描いている。一時的に記憶を失った粕人から聞いた色々な女性の情報を元に漫画を書いた。

 

 

ドン観音寺(――かんおんじ)

カリスマ霊媒師(れいばいし)にして、日本の25パーセントが認める正義のヒーロー。粕人をマイ三番弟子兼東空座防衛隊イーストカラクラブラックに任命する。

 

 

ロカ・パラミア

ドン観音寺の別宅に遊びに来ていた女性破面。事情を知らずに倒そうとやってきた粕人を気絶させる。

 

 

ピカロ

群体の破面。粕人と遊ぶ。

 

 

 

猿柿ひよ里(さるがき ひより)

元十二番隊副隊長。

粕人に関西風お好み焼きの焼き方を伝授する。お好み焼きを焼けない者は戦いも研究も出来ないという理論は酒を飲んだ時の発言のため、真相は不明。

 

 

愛川羅武(あいかわ らぶ)

元七番隊隊長。

酒によって滅茶苦茶な理論を展開するひよ里に呆れていた。

 

 

有昭田鉢玄(うしょうだ はちげん)

元鬼道衆・副鬼道長。

酒によって滅茶苦茶な理論を展開するひよ里に呆れていた。

 

 

浦原喜助(うらはら きすけ)

浦原商店の店主。元十二番隊隊長兼技術開発局局長。手持ち不足の粕人に武器を販売。

 

 

莉子(りこ)

金髪の女性死神。

男性死神協会が作ったお化け屋敷を侮り、最後気絶した。

筆先文十郎オリジナルキャラ。

 

 

葛原粕人(コピー)

写した者をコピーする鏡で生み出された粕人のコピー。一人称は僕ではなく俺。オリジナルと違い野心家で粕人を含む十二番隊隊員を殺害し技術開発局を拠点に瀞霊廷を乗っ取ろうとした。

粕人と涅骸部隊と粕人嫁候補達によってその野望は打ち砕かれた。

 

 

葛原粕子(くずはら かすこ)

葛原粕人の女体化した姿。マユリの想像上の人物。

 

 

パラサイトイーター

瀞霊廷に忍び込んでいた両手をカマキリのような手をした虚。

中年死神に寄生し内側から根こそぎ食い散らかすと、新たな寄生主を求めて粕人達を襲った。粕人の居合いの前に敗れる。

筆先文十郎オリジナルキャラ。

 

 

ボーンホース

西流魂街から離れた丘でユウイチと夕姫を襲ったユニコーンに似た虚。粕人に角を斬られ、痺れ薬が塗られた針で動けなくなったところで首を刎ねられた。

筆先文十郎オリジナルキャラ。

 

 

ブラットヴァイブ

蚊のような姿をした女性の虚。遠距離からの武器を所持していなかった粕人を一方的に追い込んだ。

筆先文十郎オリジナルキャラ。

 

 

ダダ・サルバドール

破面№78の中級大虚。解号は『覆いつくせ影法師(ソンブラ)』。

オールバックで西洋の男性モデルか貴族を漂わせる破面。覆われた影に変身することができる(本作では擬人化した隼と狼に化けた)。格上以上に変身する場合自分の能力以上の能力が出来ない。

粕人がしかけた罠によって一瞬身動きが取れなくなった所で首を刎ねられた。

名前の由来はダダイズムとサルバドール・ダリから。ソンブラはスペイン語で影から。

筆先文十郎オリジナルキャラクター。

 

 

デスバズーカ

鳥、蝙蝠、モモンガの虚と共に死神狩りを行っていた虚。腕の大砲で粕人の右腕を打ちぬいた。偶然通りかかった黒埼一心に一刀両断される。

筆先文十郎オリジナルキャラクター。

 

 

ベルデ・アルアッワーム

粕人達の前に姿を現した緑色の髪をした少女姿の下級大虚の破面。植物を操る能力を持つ。無口で名前を名乗るように言われても告げることはなかった。

帰刃は『息吹(いぶ)け、大樹王女(プランタプリンセサ)

名前の由来はスペイン語で緑とスペインで活躍した植物学者イブン・アルアッワームから。

 

 

柴田ユウイチ(しばた――)

チャドに助けられた少年。

高校生くらいの青年に成長し、母親と再会を果たした(筆先文十郎オリジナル設定)。

 

 

井上昊(いのうえ そら)

井上織姫の兄。東雲夕姫と兄妹になって幸せに暮らしている(筆先文十郎オリジナル設定)。

 

 

東雲夕姫(しののめ ゆうき)

井上昊の妹。井上織姫のような暖かさを感じさせる髪色をした少女。兄のためにプレゼントになる石を探していたところをボーンホースに襲われる。

筆先文十郎オリジナルキャラ。

 

 

セッカマ・サコー

チャドに挑んだ挑戦者。身長2m10cm体重120㎏とチャドを超える巨躯。

『かませ』と『雑魚』を組み合わせたような名前だが気のせいです。

筆先文十郎オリジナルキャラ。

 

 

東空座町(ひがしからくらちょう)

粕人が赴任することになった町。

筆先文十郎オリジナル地名。




11月1日
涅骸部隊、犬塚、鬼塚、両角追加。

11月2日
射場鉄左衛門、檜佐木修兵、吉良イヅル、莉子、葛原粕人(コピー)追加。

11月3日
朽木白哉、朽木ルキア追加。

11月4日
パラサイトイーター追加。

11月5日
葛原粕子、東空座町追加。

11月6日
ボーンホース、柴田ユウイチ、井上昊、東雲夕姫追加。

11月7日
ブラットヴァイブ追加。

11月8日
黒崎一護、黒崎織姫、黒崎一勇、葛原粕人人物データ追加。

11月9日
猿柿ひよ里、愛川羅武、有昭田鉢玄追加。

11月10日
兵間追加。

11月11日
浦原喜助、葛原粕人得意料理追加。

11月12日(日)
仏宇野段士、仏宇野音芽、月光、水城追加。

11月13日(月)
茶渡泰虎、セッカマ・サコー、松永追加。

11月16日(木)
ダダ・サルバドール追加。

11月19日(日)
本匠千鶴、黒崎一心、石田竜弦、ドン観音寺、ロカ・パラミア、ピカロ、、デスバズーカ追加。

11月23日(木)
阿散井恋次、阿散井苺花、ベルデ・アルアッワーム追加。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第一話 葛原粕人、二番隊に異動される

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


とある夜。

技術開発局では一仕事が終わり、その慰労と祝杯を兼ねて居酒屋で飲んでいた。

そのふすま一つ挟んだところでは二番隊がいた。

 

隣はコソコソ人殺しなんかやっている二番隊かよ。

隣は安全なところでのほほんと実験やってる十二番隊かよ。

 

自分たちの酒を楽しむ十二番隊と二番隊だったが酒が入っていることもあり、楽しい酒の会から面と向き合わないものの互いの悪口合戦へと発展していく。

 

隠密起動みたいな後ろめたい奴らが近くにいると酒がまずくなる。

技術開発局みたいな部屋で実験ばかりでカビ臭い奴らがいると楽しい酒も楽しめないな。

 

「「「なんだとコラッ!!」」」

お互いの悪口を聞かされた両者は襖をあけて対峙する。

この事態を収拾させようと粕人が「僕のために争わないで!」と言ったのをきっかけに、隠密起動と技術開発局が力を合わせて葛原粕人をボコボコにするという暴力事件に発展した。

 

 

 

翌日。

京楽春水の自室。

「いやいや、これは困ったことになったねぇ~」

「……ッ!」

「フンッ!」

椅子に座る京楽総隊長の前には二番隊隊長の砕蜂と十二番隊隊長の涅マユリが立っていた。

二人はお互いの顔を見ようとせず、不機嫌な顔を隠そうとしない。

呼び出された用件は昨夜二人の部下達が居酒屋で起こした暴力事件だった。

「さて、二人には腹を割って話し合って……と言いたいけど。二人を見ると話し合いで禍根が残らないようにするなんて無理だろうから。総隊長命令を伝えるよ」

二人の隊長の反応に「予想通りだな」と心の中で思った京楽は考えていた案を口にした。

「これから一週間、君たちの部下を交換してもらいたい」

「「!?」」

突拍子もない眼帯の男の説明に二人の隊長は目を大きく見開く。それも予想通りだったのか京楽は続ける。

「ボクは思うんだ。“こういう風なお互いの組織を(ののし)りあうというのはお互いを知らないから”って。隠密機動も技術開発局もどちらも重要な組織なのに」

「「……」」

「そういうわけでボクは考えた。“それならばお互いの仕事を実際やってみたらどうか”って。もちろん全員が仕事を入れ替えたんじゃ支障が出るところじゃ済まないからね。だから、七緒ちゃん」

京楽の傍に立っていた伊勢七緒は両隊長に『総隊長命令』と書かれた折りたたまれた紙を渡す。

二人は紙を広げて、数秒ほど驚く顔の驚きを隠せずにいた。

 

 

 

「というわけでクズ。お前には二番隊に一週間ほど異動してもらう」

「……はあっ!?」

十二番隊隊長・涅マユリは突拍子もないことを言う。しかし今日の突拍子は今まで以上だった。

京楽春水が二人の隊に出した総隊長命令。それは“それなりの地位がある互いの隊一名を一週間ほど交代させる”というものだった。

「で、その人選は各隊長に任せるとの総隊長殿のご命令ということ。そこで私はお前を二番隊に異動させることにした」

「なんで!僕は平隊士じゃないです――」

「十二番隊第二十席で技術開発局雑用総責任者兼眠八號(ネムリはちごう)護衛役総責任者という我が十二番隊に欠かすことの出来ない人材じゃないか。もしかしてお前は“お前が別にいなくても問題ないから異動させる人材に選んだ”とか言うつもりはないよな?それなら先に言っておく。慈愛に脊髄が生えて動き回っている私がそんなことをするわけがない、と」

「うわ~、そこまで僕のことを思ってくれるなんて本当に嬉しいなぁ。嬉しくて涙が出そうですぅ(棒読み)」

思ってもないことを口にする上司に、逃げられないことを悟った粕人はやけくそになっていた。

 

 

 

翌日。二番隊隊舎。

「砕蜂隊長。十二番隊から来ました葛原粕人です。今日から一週間よろしくお願いします!」

「ふん!」

目の前で頭を下げる粕人に小柄な隊長は不機嫌な顔を隠さなかった。

「ところで葛原殿にはどこで働いてもらいましょう?」

「そうだな……そうだ、葛原。お前には地下特別監理棟(ちかとくべつかんりとう)の仕事をしてもらおう。なに、そう難しい仕事ではない。犬飼(いぬかい)、案内してやれ」

「ハッ!」

渋い声をした黒装束の部下の言葉に、砕蜂は一瞬ニヤリと笑って粕人の配属先を伝えた。

 

 

 

30分後。

斬魄刀・幽世閉門を「私が預かっておく」と砕蜂に手渡した後、粕人はどこに配属させるかを砕蜂に尋ねた犬飼に連れられ、巨大な堀の上に架けられた橋を渡った。その先には周囲を高い壁に囲まれた施設があった。その施設の門をくぐり更に奥へと行くと、そこには重々しい黒い扉があった。その脇を黒装束の男が立っている。

「今日から一週間、隠密機動第三分隊・檻理隊(かんりたい)隊長代理を務めていただく葛原粕人殿を連れてきた」

「「どうぞ」」

脇を固めていた二人が扉を開ける。

「あ、ありがとうございます」

粕人は扉を開けた二人に頭を下げて、引率する犬飼についていく。

長く暗い階段を下りながら粕人は周囲を見渡していた。

「中は完全な洞窟なのですね。まるで地下牢みたいな」

「地下牢ですから」

古株の隠密機動は会談を下り終えた所にある扉を開ける。そこは綺麗にされた床に白い囚人服に実を包んだ男達の姿があった。男達の視線が犬飼と粕人に集中する。

「あ、あの……犬飼さん?」

「今日からここ地下特別監理棟、通称『蛆虫(うじむし)の巣』の管理をされることになった十二番隊隊士・葛原粕人殿だ。葛原殿が鬼塚(おにつか)檻理隊長の代理だからと言って脱獄など考えるんじゃないぞ!!」

「え、ええっ!?う、蛆虫の巣!!??」

蛆虫の巣。その言葉に粕人は驚愕を露わにする。

(『蛆虫の巣』って噂で聞いたことがあるぞ。確か護廷十三隊で危険因子とされた人達を収容する場所じゃないか!?涅隊長もここに居たことがあるとか!!)

自分に向けられていた視線が「なんだ、こいつは?」という疑問から「なんだ、こいつは!」という怒りに変わっていく。

その視線にうろたえている間に犬飼は扉を閉めた。

「ちょ、犬飼さん!何しているんですか!?開けて、開けて下さい!!」

粕人が扉に手をかけるが押しても引いてもビクともしなかった。

「おいおい、檻理隊長代理さんよ。そうそうに帰るなんて言わないでくれよ」

腕をコキコキと鳴らしながら粕人が見上げるほど高い大柄の男が背後に立っていた。

「あ、いや、その~」

「殴り殺してやるぜ!」

大男のスイカ大の拳が粕人めがけて振り落とされた。

 

あ~あ、あいつ。お陀仏だわ。

 

周りで二人のやりとりを見ていた囚人達は誰もが粕人の死を想像した。しかしそれは間違いだとすぐに気づかされる。

「な、なん……だと……」

殴りかかった大男は言葉を失った。なぜならば地面がえぐられた場所に小柄な男の姿はなかったからだ。

「危ないなぁ。初対面で殴りかかるなんて」

大男は首を右に動かす。そこには先ほどまで殴った場所に立っていた小柄な男の姿が。

「おい、両角(りょうかく)!何外してんだよ!!」、「そんなチビ、さっさとひねり潰してしまえよ!!」、「自慢の怪力はそんなもんかよ!!」

「う、うるせぇ!今のは小手調べだ!!こっからが本気よ!!」

両角と呼ばれた大男は粕人の方へ振り返って腕を振り上げた。

「おらあぁっ!!」

振り上げた拳を小柄な男の顔めがけて振り落とし、動けなくなった。

「あの、お互いよくわかんないので……話し合いませんか?」

汗を流し、気弱な声で粕人は提案する。自分よりはるかに大きい男の拳を手のひら一つで受け止めながら。

「てめぇっ!」

横から足の長い男が回転のかかった回し蹴りを仕掛ける。

「あ、あの。どうか話を……」

困った顔をしながら粕人は勢いのある蹴りを空いた手で難なく受け止める。

「えい、袋にするぞ!」

その様子を見ていた男の言葉に他の様子を見ていた囚人達が粕人に向かっていく。

「あ、あの――」

ブンッ!

「どうか――」

バンッ!

「話を――」

ゴーンッ!

「聞いてください!」

ダーンッ!

次々と襲い掛かる囚人達の攻撃を避けながら、小柄な男は訴え続けた。

10分後。

「あ、あの……お話を聞いてもらいたいのですが」

息をゼイゼイと切らす囚人達に、粕人は困った顔で問いかけた。その間粕人の身体に一発も当たっていない。

 

この男はただ者ではない。

 

力量の差を思い知らされた囚人達は腰の低い男の言葉に耳を傾けざるを得なかった。

 

 

 

数日後。

「どうだ、あの男は?」

「え、あ、その……」

年配の黒装束の歯切れの悪い言葉に小柄な女隊長は切り込む。

「何かあったのか?」

「あ、それは……見ていただいた方が早いかと」

 

 

 

10分後。

「こ、これは……」

囚人達が収容されている扉を開けた女隊長は、固まった。

昔々(むかしむかし)。あるところに村人から尊敬の眼差しを向けられる、見る者の心を奪う絶世の巫女がいました。ただその巫女には誰にも言えない秘密がありました。それは夜な夜な一人、神殿でこっそり自らの裸体を眺めるという趣味があったのです。そんなある夜。一人の若い村人がいつも通り裸体を眺める巫女がいる神殿に足を運び――」

「で、葛原さん。巫女はどうなるのです!?」、「早く続きを!」、「やっぱり、R18が貼られる展開に!?」

そこには中央に本を読む小柄な男の周囲に囚人達が熱心に耳を傾けていた。

「貴様、何を考えている!」

「え?そ、砕蜂隊長ォォォッッッ!!」

音を上げていると思った男が囚人達を手なずけている。その上いかがわしいと思われる本を朗読している。

その姿に隠密機動の頂点に立つ女性の怒りは頂点に達した。

「この馬鹿者がァァァッ!!」

その光景に怒りが頂点に達した隠密機動総司令は目にも止まらない速さで小柄な男を蹴り飛ばした。

 

ドゴーーーーーーーーンッ!!

 

「そ、砕蜂隊長……――――」

壁にめり込んだ粕人はカクッと頭を落として気絶した。

 

 

 

その頃。技術開発局。

「それでは二番隊副隊長、大前田(おおまえだ)希千代(まれちよ)の解剖を始めるとしようかネ」

「いやあああぁぁぁっっっ!!誰か、誰か助けて下さいぃぃぃ!!!!」

診察台にくくりつけられた、でっぷりとした太め大男の悲鳴が技術開発局に木霊(こだま)した。

その後悲鳴を聞きつけた阿近を始めとする技術開発局局員によって解剖は中断された。

交換期間が終わり、『解剖されそうになったことを話したら殺す』とマユリに脅された大前田は解剖のことは伏せて技術開発局は大変な所だと自分の体験談を話したという。




お詫び。
間違えて『新章第一話 葛原粕人、二番隊に異動される』を『奥さん、貸した金が払えないなら身体で払ってもらおうか!』の方に投稿していました。

この場を借りてお詫びします。

大前田がどうなったのか?というコメントを頂いたので最後を少し加筆しました。
コメントしてくださった回答者様にはこの場を借りて感謝申し上げます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第二話 粕人達の反乱。そして鎮圧

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


昼頃。技術開発局。

「何ですか、涅隊長。これ?」

何かの作業をして背を向けている上司に、マユリにクズと呼ばれている男、葛原(くずはら)粕人(かすと)は布が被せられた立ち鏡を指差した。

「それは写した者をコピーする鏡だ。まだ実験段階だから本当にコピーできるか分からんから、触るなヨ」

その時だった。

「チュー」

どこからか入ってきたネズミが布を引っ張った。

「あ」

粕人は見てしまった。鏡に写る自分の姿を。

(「うわああああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!」)

小声で慌てながら小柄な男は地面に落ちた布を被せ、前後左右と色々な角度から鏡を見る。

(「前ヨシ!右ヨシ!左ヨシ!後ろヨシ!」)

小声で指を指しながら異常がないか確認する。

「ヨシッ!」

異常がないことを確認した粕人はゆっくりと布を被せた立ち鏡から離れた。

その後立ち鏡は保管庫に移された。

そして夕方。布を被せられた立ち鏡がカタカタと動き出した。

 

ポトッ

 

鏡から卵が転がり落ちる。鏡から生み出された卵は細かく震えるとピキピキッ!とひび割れパカッ!と割れる。

現れたのは手のひらサイズの葛原粕人だった。手のひらに乗りそうなほどの大きさだった粕人を模した何かは見る見るうちに大きくなっていく。そして数秒で本物の葛原粕人と変わらない大きさに成長した。

「さて、もっと仲間を作らないとな」

邪悪な笑みを浮かべながら卵から生まれた粕人は立ち鏡に被せてあった布を取り外し、自身の姿を写した。

普段から誰も来ない保管室。異変に気づく者は誰もいなかった。

 

 

 

夜。葛原粕人の自室。

「――こうしてシンデレラは王子様と無事結婚し幸せに暮らしました。……お終い。ん?」

「すーすー」

シンデレラを持った粕人の膝の上では可愛い寝息を立てる少女、眠八號(ネムリはちごう)の姿があった。

「ふふっ、疲れて寝てしまいましたか」

微笑を浮かべながら粕人は膝の上で寝る少女の黒髪を優しく撫でる。自分の頭を撫でられたのが気持ちよかったのか、眠八號は小さな笑みをこぼした。

「……!」

その時小柄な男は異変に気づいた。十数人の何者か分からない者が静かにこちらに近づいてくる気配。

「……」

粕人は懐から何かを取り出した。

 

 

 

十数人の何者か分からない者、鏡から生まれた葛原粕人の集団はゆっくりと物音一つ立てず隊舎を移動していた。

(「いいか、これから俺達は俺達のオリジナルにあたる本物の葛原粕人を殺害する」)

最初に生まれた粕人一号が後ろに続くコピーたちに言い聞かせる。

(「葛原粕人殺害後、他の隊員達も殺害し技術開発局を乗っ取る。他の隊が動き出す前に技術開発局を掌握する。その後破面と手を組めば俺達がこの瀞霊廷の支配者だ!!」)

後ろに続くコピー達が力強く頷いた。

そうする内に目的の部屋にたどり着く。そこは自分達の創造主となった男、葛原粕人の部屋だった。

粕人一号がゆっくり音を立てずに扉を開ける。そこには布団に包まる姿があった。

粕人一号はゆっくり音を立てずに布団に近づき、保管庫に収められていた刀を抜いた。数ある斬魄刀の中で一、二位の切れ味の悪さを誇る幽世閉門(かくりよへいもん)では殺せないと踏んだからだ。

(死ねぇ!)

粕人一号は凶悪な笑みを浮かべながら布団の中心めがけて刀を突き刺した。

 

ぱらっ

 

その拍子に布団がめくれる。そこには目を大きく見開く粕人の姿があった。それはまるで何が起きたのか分かっていない表情だった。

(「よし、本物の葛原粕人は殺した!次は他の隊員を殺す。俺達が天下を取れるかどうかは他の隊に気づかれる前に技術開発局を掌握するかにかかっている。行くぞ!!」)

廊下に戻った粕人一号が背後のコピー達にそう言った、その時だった。

 

パンッ!

 

粕人一号が振り返る。そこには破裂した風船のようにペチャンコになった粕人の姿が。

「ど、どうなっている!?」

「どうしたんだい、小さい坊や(ニーニョ)?」

「!?」

突然声をかけられた粕人一号が汗を噴き出しながら振り返る。

そこには顔に手術後のような線をつけたラテン系ダンサーのような男が立っていた。

「き、貴様は!ドルドーニ!!」

ドルドーニ・アレッサンドロ・デル・ソカッチオ。

十刃落ち(プリバロン・エスパーダ)の一人で、葬討部隊に討たれて消息不明になった後、(くろつち)(むくろ)部隊として復活した男。ゾンビとして復活させられた実力は衰えるどころか生前よりもさらに増し、その証拠にドルドーニの足元にはすでに息絶えた粕人コピーが数人倒れている。

「ちょっとドルドーニ。私の獲物とらないでよ」

ボトボト、と粕人コピー達の残骸が天井から落ちる。

チャクラムに似た投擲武器を持った、ゴスロリを思わせる妙な服を着ている女が降り立つ。

「チルッチ・サンダーウィッチ!!」

「ア・ごめーん。驚いているところ悪いんだけど残りのクズくんのコピーは僕が殺しちゃったから」

人を馬鹿にした笑い声と共に、背中に八本の足を生やして棘の餌食になったコピー達をドタドタッ!と地面に落としていく。

「ルピ・アンテノール!!」

そこには帰刃(レスレクシオン)で姿を変えたルピが、驚く粕人一号を楽しそうに見ていた。

「ば、バカな……あの一瞬で!?」

廊下にいた十数人のコピーは自分を除いて自分を囲むようにして立つ破面(アランカル)に殺されていた。

「どうした小さい坊や(ニーニョ)?さっきまで瀞霊廷を支配すると言っていたのは嘘だったのかな?」

「……ふふっ、フハハハハハハッッッ!!」

追い詰められているのにも関わらず高笑いする小柄な男の姿に三人が(いぶか)しむ。

「これで終わりと思うなよ、破面ども!例え俺を殺したとしても保管庫には俺達のコピーを作る鏡がある。それが無事なら俺達は何度でも作られるのだ!!思い知ったか、破面ッ!!!」

「だ、そうだ。クールホーン」

どこからか以前マユリが作った紙コップのような物、無線電話を取り出し通信相手に伝える。

『はぁ~~~~~~い、皆のアイドル。シャルロッテ・クールホーンちゃんで~~~~~~す♪私は現在カスなんとかの嫁さん達と一緒に保管庫に来ていま~~~~~~す♥』

『『『『誰がカスなんとかよ!!私の夫には葛原粕人って名前があるのよ、って誰がアンタ達の夫よ!!!!』』』』

電話の向こうではマッチョのオカマでナルシスト、シャルロッテ・クールホーンと言い争いをしている竹馬棒(ちくばぼう)千寿(せんじゅ)護国(みくに)万耶(まや)の声が響いた。

『何かカスなんとかちゃんがいっぱい出てきたけど私とカスなんとかの嫁さんの四人で倒しちゃいました。彼女達強かったわ。まあぁ、私の方が美しくて強いからより多くのカスなんとかのコピーを殺したわけだけど』

『『『『誰がお前よりブスで弱いだぁぁぁっ!!』』』』

電話の向こうでは無意味な戦いが始まっていた。

「クールホーン!そんなのは後にして我輩たちの目的を達成するぞ。我輩たちの故郷、虚園に帰るために……そうだよな、小さい坊や(ニーニョ)?」

「ええ、ここでこの一騒動が終わった暁には、涅隊長に貴方方の虚園の帰還を伺う。絶対に守りましょう」

そう言って廊下の向こうから一人の男が現れる。

コピー達の元になった男、葛原粕人だった。

「クールホーンさん。今すぐその鏡を破壊してください」

『わかったぁじゃあ、いくわよぉ。必殺!ビューティフル・シャルロッテ・クールホーン's・ミラクル・スウィート・ウルトラ・ファンキー・ファンタスティック・ドラマティック・ロマンティック・サディスティック・エロティック・エキゾチック・アスレチック・ギロチン・アタックッ!!』

電話の向こうで鏡が飛び散る音が紙コップから響く。

その音に、コピー粕人は言葉を失った。

「クソ、クソクソクソッ!!卑怯だぞ、てめぇ!仲間を使いやがって!!俺の方が、俺の方がはるかに上だ!!一対一だったら俺はお前に勝っていた!!」

「そうか。だったら試してみよう」

「何ッ!?」

「僕と貴方、僕が強いかを。一対一で」

「……」

粕人一号は周囲を見る。

「大丈夫。ドルドーニさん達には手出しはさせませんから。そして貴方が僕に勝ったら貴方の命は保障します」

「小さい坊や(ニーニョ)。君が死ぬのは構わないが、ここまで我輩たちをこき使ったんだ。約束だけは死んでも守ってもらうぞ」

「安心してください。負けることなんてありえないですから」

「そうか」

その言葉に安心したドルドーニ達は二人の邪魔にならずにかつ二人が見える距離まで離れた。

「『負けることなんてありえない』、だと!!」

その言葉に粕人のコピーが怒りを露わにした。

「俺はお前のコピーだぞ!つまり能力も同じ。それがどうして勝てるというんだ!!」

「やってみればわかります」

そう言って粕人は幽世閉門に手を置く。

「フン、死ねや!!」

コピーが幽世閉門とは別の刀を掲げながら突進しながら懐から何かを取り出すと

「うりゃあっ!」

何かを地面に叩きつけた。その瞬間、周囲が黒煙に包まれる。

「ど、どこに行った!?」

うろたえる男を背後に回ったコピーが刀を振り下ろす。

粕人は微動だにしない。

 

勝った。

 

コピーは勝利を確信した。その時だった。

 

シャキンッ!

 

粕人は背後に迫る敵を振り向きざまの遠心力を利用して刀を抜いた。

「ウギャアアアァァァッッッ!!」

絶叫が廊下に響く。刀を持つ両手首が切断されて地面に転がる。血しぶきを上げながら、コピーは狂ったように地べたを転がる。

コピーは忘れていた。居合いの真意は不意打ちなどに対応するための護身の技であることを。そして自分達コピーの元になった男が恩人である卯ノ花(うのはな)(れつ)から教わった居合いを徹底的に磨き上げたことを。

激痛と恐怖に、コピーは脂汗を流し、粕人を見上げた。

「た、頼む!た、助けてくれ!俺は死にたくないぃ!」

「十二番隊隊花は(あざみ)

「はっ?」

「薊の花言葉は復讐。かつて(たいらの)清盛(きよもり)平治(へいじ)の乱で敵であった(みなもとの)義朝(よしとも)の息子、(みなもとの)頼朝(よりとも)を伊豆に流しただけで命まではとらなかった。その後頼朝は平氏討伐のため兵を挙げ、結果平氏は大敗してかつての栄光は地に落ちた。もし清盛が頼朝を殺していれば。平氏の世はもっと長かったかもしれない」

「ま、まさか!ヒ、ヒィッ!?」

男が何を言いたいのか悟ったコピーは手首の痛みを忘れ、背を向けて逃げ出した。

「僕は平氏のようになりたくない。ゆえに!」

粕人は刀を鞘に戻し、逃げるコピーを追った。

いつの間にか抜かれた刀が再び鞘に戻った時、コピーの首が体から離れゴトンッ!地面についた瞬間、コピー達は砂のような細かな粒子になって消えていった。

「見事だったよ、小さい坊や(ニーニョ)。じつに素晴らしい剣技だったよ」

「ありがとうございます。ドルドーニさん」

「それじゃあ我輩達はこれにて――――」

「待ってください」

小柄な男の声に、この場を立ち去ろうとした三人が振り返る。

「休むのはこれらを直してからにして下さい」

三人が暴れた結果、隊舎の天井や床、壁は穴だらけになっていた。

「やって……くださいますよね?」

そう言いながら粕人は脳に直接苦痛を与える電撃状刺激を与えるスイッチを持ちながら三人に尋ねた。

「「「……」」」

三人に拒否権はなかった。

 

 

 

後日。

「涅隊長」

「なんだネ?」

「破面の人達を虚園に戻すわけにはいかないですか?」

「ダメに決まっているだろう」

「ですよね~」

 

 

 

「というわけでダメだったよ」

「「「「この役立たず!!!!」」」」

ダメだったという報告をする粕人に、破面の四人は突っ込みを入れた。

 




涅骸部隊(破面)はマユリの元にいると仮定してこの話を作りました。
ドルトーニ達がどうなっているか詳細を知っている方がいましたら、情報お願いします。

あと10年後の男性死神協会のメンバーは誰がいるか、と言う情報もあればお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第三話 男性死神協会は資金獲得に乗り出すようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。

あと今回の話はホラーです。猟奇的なシーンがあります。苦手な方は読まないことをお勧めします。


男性死神協会の理事だった浮竹(うきたけ)十四郎(じゅうしろう)が亡くなり、また他の男性死神が死亡・引退したこともあり、その穴を埋める形で会員だった葛原(くずはら)粕人(かすと)が理事に昇進した。

 

 

 

男性死神協会集会所となっている男子トイレ。

「ないんじゃ、ないんじゃ……ないんじゃあ!」

男性死神協会会長、射場(いば)鉄左衛門(てつざえもん)は苛立ちに任せて机を叩いた。

「どうしたんですか、射場会長?」

頭を抱えて悩むサングラスに極道風の男に、粕人が声をかける。

「あぁ、葛原かぁ。実は男性死神協会の予算が削られてのぉ……」

頭を落とす会長に、粕人は考えていた案を伝える。

「射場会長。僕に一ついい考えがありまして……」

いい考えを伝えた粕人は射場に許可と手続きをお願いすると、すぐさまいい考えを実行するべく上司である涅マユリの元へ足を運んだ。

 

 

 

「え~、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!瀞霊廷(せいれいてい)(いち)怖いお化け屋敷じゃけん!」

数日後。瀞霊廷の一角に造られたおどろおどろしい建物の前で射場が一人客引きをしていた。

「ねぇ、『男性死神協会プロデュース。瀞霊廷一怖いお化け屋敷』だって」

「どうする?」

「どうしようか?」

通りかかった三人の女性死神がコソコソと話をする。その視線は男性死神協会が作ったという侮蔑が込められていた。

(が、我慢じゃ!資金獲得のため、そして葛原を始めとする男性死神達の尽力を無駄にするわけにはいかんのじゃ!)

女性死神の侮りに怒りを覚えながらも、目的遂行のために射場は我慢して笑顔で客引きをする。

「どうじゃあ、今なら安くしとくよ。怖くなかったら入場料は返却するよ!」

「ふ~ん、そこまで言うんなら」

そう言って金髪の女性が射場に入場料を渡す。

「え、莉子(りこ)。本当に入るの?」

「大丈夫だって。男性死神協会が作ったものだもの。怖くないって」

リーダー格らしい彼女の言葉に、他の二人もしぶしぶ射場に入場料を渡す。

「ありがとうございます」

(皆。こいつらに男性死神協会の恐ろしさを骨の髄まで教えてやれぃ)

お化け屋敷に入る三人の女性死神を見ながら、射場は心の中で中にいる男性死神を鼓舞した。

 

 

 

入り口を進むすぐに部屋があった。その部屋に入るとすぐに背の高い、ウニのように見える黒髪の男が背を向けて立っていた。

「よう、いらっしゃい。楽しんでいってくれ」

男は振り返った。次の瞬間、

 

「「「ギャアアアアアアァァァァァァッッッ!!!!」」」

 

三人が悲鳴を上げた。振り返った男の顔は左頬辺りに69と数字が刻まれ、右頬に三本の傷跡が走った骸骨だったからだ。

眼球辺りの(くぼ)みからは百足(むかで)などの女性が嫌がりそうな虫が女性達の方へ向かって次々と現れる。

その光景にしぶしぶ入った女性の一人が失神。入ってきた入り口はいつの間にか扉が現れ出ることが出来ない。恐怖に怯えながら失神していない二人は逃げ道を求めて奥の通路へと走っていった。

「「はあ……はぁ……はぁ……」」

迷路のような構造を走ること三分。どこが出口なのか分からない彼女達が途方にくれていた時だ。

「どうしたんですか?何かお困りですか?」

左目を金色の髪で隠した男が声をかけてきた。その男を見て再び

 

「「ギャアアアアアアァァァァァァッッッ!!!!」」

 

彼女達の悲鳴が木霊する。なぜならばそこには男の右胸がぽっかりと空いていたからだ。

「あう~」という力が抜ける声と共にしぶしぶ入った女性がその場に倒れこむ。

「ひ、ヒィ!」

残った女性死神、莉子は右胸がぽっかり空いた男から逃れようと奥へと進んでいく。

 

もうお化け屋敷(ここ)から抜け出したい。

 

無我夢中で出口を探す莉子はついに見つける。『出口』と書かれた看板を。

(やった!これで出られる!)

莉子は出口と書かれた扉を開けた。

「え?」

扉を開けた莉子は固まる。なぜならばそこは部屋だったからだ。

「おめでとうございます。貴方がこのお化け屋敷脱出成功第一号です」

中にいた男、葛原粕人が笑顔で拍手をする。次の瞬間だった。

 

バシュッ!

 

目の前の小柄な男の首が、見えない刀で斬られたかのように地面に転がったのだ。首からは噴水のように血が噴き出す。

「え、ああぁ……あああ!?」

入るまではどうせ男性死神協会の作ったものとバカにしていた女性はその場に崩れ落ちる。しかし彼女は更なる恐怖を味わうことになる。

「あ、すいません。首を、身体にくっつけてくれませんか?」

転がった男の首が。笑顔で、恐怖で動けなくなる女性に声をかけた。まるでボールを拾ってくださいというかのように。

 

「……………………――――ッ!!??」

 

声にもならない絶叫を上げ、金髪の女性は気を失った。

 

 

 

その後この幽霊屋敷は「本当に怖い!」と評判を呼び、あまりの怖さに撤去を命じられるまで賑わう事となった。

そして本来の目的である男性死神協会の予算もめどがついた。

 

 

 




右胸がぽっかり空いた男以外は全て演出です。

ネタバレ
左頬辺りに69と数字が刻まれ、右頬に三本の傷跡が走った骸骨→特殊メイクをした檜佐木修兵。
右胸がぽっかり空いた男→吉良イヅル。
首が切り落とされた粕人→粕人のCG。
です。
特殊メイクやCGはマユリ特製です。

ネタが枯渇しているので「こんな話はどう?」と言うのがあると助かります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

劇場版 粕人・トリガー ~時の引鉄(ひきがね)を引く者~

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。

1995年にスクウェア(現在のスクウェアエニックス)から発売されたゲーム『クロノ・トリガー』と『BLEACH』のクロスオーバーです。

内容はあまり期待してもらわないで頂けると幸いです。
映画の番宣のようなものと思ってくださると助かります。

今回の話はこの小説を読んでくださったある方のコメントをヒントに作りました。この場を借りてお礼申し上げます。




起きて

 

起きてください

 

葛原さん

 

「ん?」

粕人は目を覚ます。そこには今はいないはずの十二番隊前副隊長、涅ネムが立っていた。

「え、涅ネム副隊長?……何で生きているのです?」

粕人が聞いた話では上司である涅マユリの愛娘にして被造死神計画の七番目に当たる眠七號、通称涅ネムはペルニダと言う滅却師(クインシー)に殺されたと聞いていた。にも関わらず、彼女は目の前にいる。

「寝ぼけてないでいいかげんに起きて下さい。今日はガルディア王国の千年祭。幼馴染のマユリ様の手伝いをする約束でしょう?」

(……涅隊長が幼馴染?……千年祭(せんねんさい)?)

一瞬「どういうことですか!?」と聞こうとした粕人だったが、すぐに涅マユリが自分の幼馴染で千年祭という祭りに出ないといけないという認識に変わる。自分が寝ていたベッドも、部屋も。十二番隊隊舎とは全く違う西洋風にも関わらずすぐに違和感がなくなる。

 

この時粕人は知らなかった。

今この瞬間から星を救う旅が始まろうとしていた事を……

 

 

 

その後粕人は千年祭会場で町からやってきたと言って眠八號と名乗る女の子と行動を共にする。

「私は眠八號(ネムリはちごう)ディア……ゴホン、じゃなくて眠八號っていいます。よかったら千年祭を案内してくれませんか?」

「えぇ、別に構いませんよ」

 

眠八號と名乗った少女と共に、幼馴染のマユリが発明した転送装置の公開実験に向かった粕人。転送装置の実験台として名乗りを上げた眠八號だったが、転送中に異常事態が発生。身に着けていたペンダントだけを残して姿を消してしまう。

 

「クズ!そのペンダントを持ってさっさと過去に行け!!」

「ちょ、ちょっと涅隊長!?」

 

転送装置に入れられた粕人は400年前に到着。

後を追ってきたマユリと合流後、魔王藍染(あいぜん)の呪いによって(ホロウ)化した姿に変えられてしまった騎士、黒崎(くろさき)一護(いちご)と共に魔王軍に誘拐されていた眠八號を救出。

 

その後未来世界で生み出された故障していたロボット、剣八はマユリの手により心を持つ状態で復活し

「十一番隊隊長。更木(ざらき)剣八(けんぱち)だ。てめえと殺し合いに来た」

 

人類の祖先である首長(しゅちょう)山本(やまもと)元柳斎(げんりゅうさい)重國(しげくに)と出会い

「拳骨だけでは済まさんぞ!」

 

「……もうすぐ貴方達の誰かが死ぬよ」

フードで顔を隠した男の不吉な予言。

 

そして粕人達は巨大なウニのような化け物と対峙する。

 

 

 

これは星を喰らうモノと守る者達との戦い。

 

 

 

劇場版粕人・トリガー 時の引鉄を引く者。

 

 

 

 

 

公開予定無し!!

 




粕人・トリガー登場人物紹介
粕人(かすと)
本作の主人公。後述の眠八號との出会いによって時を越える旅に出ることになる。母親のネムからは何故か葛原さんと呼ばれている。
クロノ・トリガーの主人公、クロノ役。

眠八號(ネムリはちごう)
ガルディア王国の王女。本名は眠八號(ネムリはちごう)ディア。
クロノ・トリガーのヒロイン、マール役。

マユリ
粕人の幼馴染で発明好き。眠八號が持っていたペンダントが自身の開発した転送装置と反応したことで眠八號は中世に飛ばされてしまった。時空を旅する物語のきっかけを作った人物。粕人は何故か涅隊長と呼んでいる。
クロノ・トリガーのクロノの幼馴染、ルッカ役。

黒崎一護(くろさき いちご)
中世ガルディア王国の騎士。魔王藍染の呪いによって虚化した姿に変えられてしまった。
クロノ・トリガーの王国騎士、カエル役。

更木剣八(ざらき けんぱち)
未来世界で生み出されたロボット。故障したところを粕人達が発見し、マユリの修理によって心を持つ状態で復活した。
クロノ・トリガーのロボット、ロボ役。

山本元柳斎重國(やまもと げんりゅうさい しげくに)
原始時代の集落の首長。パワフルな老人。
クロノ・トリガーの女戦士、エイラ役。

魔王藍染(まおうあいぜん)
中世ガルディア王国の平和を脅かす魔族を統率する存在。
クロノ・トリガーの魔王役。

巨大なウニのような化け物
粕人・トリガーのラスボス。突如として地下から出現して一瞬で世界を滅ぼした。
クロノ・トリガーの架空の鉱物生命体、ラヴォス。

涅ネム(くろつち――)
粕人の母。マユリと血縁関係はない。卯ノ花烈でもよかったような気がします。
クロノ・トリガーのクロノの母親役。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第四話 粕人は嫁候補達と朽木個展に行くようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


数日前に起きた自分のコピーの反乱鎮圧に尽力してくれたお礼として、粕人は自分を慕っている四人の女性、擬人化した竹馬棒(ちくばぼう)、鶴の千寿(せんじゅ)、地蔵の護国(みくに)、亀の万耶(まや)を誘った。

 

朽木(くちき)白哉(びゃくや)、朽木ルキア兄妹主催の個展に。

 

なぜ朽木兄妹の個展なのか。

まず一つは粕人が第二十席という決して軽くない役職で、かつ技術開発局雑用総責任者兼眠八號(ネムリはちごう)護衛役総責任者という“権限はそれほどないがいざと言うとき責任だけは追及される”という踏んだり蹴ったりの役職のため時間を取ることが出来ないことがあった。

そして朽木白哉が隊長を務める六番隊と朽木ルキアが隊長を務める十三番隊に、真央霊術院(しんおうれいじゅついん)時代にお世話になった先輩がいてその二人から「ぜひ来てくれ!」と頼まれたからだ。

朽木兄妹の作品を見たことがある粕人は行きたくなかった。しかし彼女達へのお礼とお世話になった先輩二人の誘いを無下に断るほどの理由がなかった。

 

 

 

朽木邸個展会場

「相変わらずでかいな」

粕人は四人の女性を連れて風格ある門をくぐり個展会場に向かう。

「……」

(相変わらずだな、あの六番隊の朽木隊長のセンスは……)

粕人は入り口近くに掲げられた置物に唖然としていた。入り口近くに置かれていた物、それは幼稚園児が描いたようなわかめに手足と目、鉢巻をつけた謎の海草。

 

ワカメ大使

 

クール系の眉目秀麗(びもくしゅうれい)の朽木白哉が作ったとは思えない常人には理解できないキャラクターだった。

(こんな意味不明なものの人形焼を作らされた火村(ほむら)先輩に同情するよ)

現世での出店で各隊が売り出した売り物を思い出した粕人はそんなことを思いながら足を進めて、止める。

「……」

(あぁ、あの兄にしてあの妹ありかぁ……)

目の前にあったイラストを見て、粕人は苦笑する。

そこには幼稚園児が描いたウサギをより人間に近づけたようなウサギのようなもの。

 

チャッピー

 

可愛らしい容姿をした才色兼備の女性、朽木ルキアのお気に入りの謎のマスコットだった。

そのまま歩を進めて、粕人は見上げた。それは自分が今まで酷評してきたワカメとウサギの甘く見積もっても20メートルはある巨大彫刻があった。

(こんなアホらしい物をこんな大きさで作るなんて……四大貴族っていうのはこんなヘンテコなものを美と感じるセンスばかりなのか?)

「ん?」

唖然として見上げていた粕人は気品のある足音に気づく。

「これは朽木両隊長!」

声をかける前に粕人は頭を下げる。

先ほどまでボロカスに言っていた朽木白哉とルキアだった。

「ん?」

粕人は気づく。後ろにいる四人の女性が固まっていたことに。

おい、六番隊の朽木白哉隊長と十三番隊の朽木ルキア隊長だぞ。挨拶して!

そう言おうとした粕人だったが、彼女らの次のセリフにその言葉は霧散した。

「あ、あなた方が。こ、このような素晴らしい物を作った方ですか!?」

(……何を言ってんだ、竹馬棒?)

「確かに。これらの作品を作ったのは私と隣にいる義妹のルキアだが?」

その言葉に竹馬棒だけではなく他の三人の女性も涙を流した。まるで今まで会いたくて仕方がなかった有名人に会えたことを喜ぶファンのように。

その後の朽木兄妹に駆け寄りあれこれ尋ねる彼女達の行動は理解できなかった。

 

どのようにすればあのような素晴らしい美が集約された作品を作ることができるのか。あのワカメ大使という力強さと凛々しさが両立する作品を生み出せるのですか?あの歓声が研ぎ澄まされた可愛らしいウサギはどのようなに作られているのですか?

 

彼女達の質問に、気持ちよさそうに答える朽木兄妹。

自分には理解できない物を絶賛する女性達に、粕人は突っ込みを入れた。

「お前ら正気か!?あんなへんちくりんなものをべた褒めするなんて――――ッ!!??」

粕人は急いで口を塞いだが、遅かった。目の前には

 

()千本桜(せんぼんざくら)!」

()袖白雪(そでのしらゆき)!」

 

自分に向けて刀を抜く兄妹の姿があった。

 

 

 

その後粕人はルキアに氷付けにされた後、白哉に窒息死するかしないかの直前まで薄く削られた彫像にされた。

 

 




朽木兄妹は殺す気はなかったのに卍解を使ったのはおかしいと思ったので始解に直しました。

ご指摘してくださった方にこの場を借りて感謝の言葉を述べさせていただきます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第五話 眠八號誘拐事件。犯人・葛原粕人を捕縛せよ!

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


(くろつち)隊長へ。(ネムリ)さんと一緒に近くの裏山に行っています。ちゃんと無事に帰りますので心配しないで下さい。葛原(くずはら)粕人(かすと)より』

「おのれぇ、クズの分際で私の娘を誘拐するとは!ただで済むと思うなヨ!」

マユリは机に置かれた手紙を握りつぶした。

 

 

 

「捕われてる?(ネムリ)八號(はちごう)が、ですか?」

「そうだ、間違いない!急いで救出しなければ眠八號の身が危ない!」

数分後。マユリは粕人が眠八號を連れて裏山に行ったという手紙を残していることを副隊長の阿近(あこん)に伝えた。

「葛原がそんなことをするとは思えませんが」

「何を言う!あのクズに私がやったことを考えれば……ハッ!?」

マユリの頭の中にモザイク無しでは放送できない内容が脳裏を(かす)める。

 

『イ、イヤアアアァァァッ!クズさん、止めて下さいィッ!!』

『グヘヘッ、そんなことを言ってここはそうは言っていないようだが?』

 

「おのれ、あのクズがぁ!」

嫌がる愛娘に児童ポルノ禁止法に当たる行為を想像し(いきどお)りが隠せなくなっているマユリ。

そんな上司に「隊長。何かとんでもないゲスなこと考えていませんか?」と突っ込む阿近だったが、怒り狂う奇怪な顔の隊長にその言葉が届くことはなかった。

「阿近。直ちに私の大事な眠八號を(けが)すあのクズを捕まえてくるんだ!」

 

 

 

十二番隊隊長である涅マユリの命令に、阿近率いる眠八號救出兼葛原粕人捕縛部隊三十名が粕人と眠八號がいると思われる近くの裏山のふもとに集結していた。指揮官の阿近を含め、全員が武装をしている。

「これより眠八號の保護と葛原の身柄を拘束する。相手は一人とはいえ地の利は向こうにある。油断はするなよ」

(ったく。うちの局長も過保護だよな。大体あの臆病者の葛原が眠八號を誘拐したとも思えねぇ)

とはいえ我を忘れて怒り狂う上司を止める(すべ)を、角の生えたような強面の副隊長は知らなかった。逆らえばひどい目にあっていることを百年以上の付き合いのある副隊長は知っていた。

こうして乗り気ではない十二番隊副隊長の指揮下の元、眠八號奪還作戦が開始された。

さほど大きな山ではないとはいえ山は山。自分を含めた三十名を六で分けた阿近は、自分の班を除く五つの班を五方向に分けて探索させた。

 

 

 

裏山北側。

技術開発局通信技術研究科霊波計測研究所研究科長、鵯州(ひよす)率いる二班は『ここからは罠が張られて危険なので入らないで下さい』と侵入防止用の縄を切って山を登っていた。

「しかし葛原二十席一人捕まえるのにこんなに人数が要りますかね?」

十二番隊に配属されて間もない隊員が馬鹿にするかのように呟いた。

「だってあの人。涅隊長に顎で使われているじゃないですか。技術開発局にもほとんどいないし。実験とかしているところほとんど見たことないし」

「確かにな」

前を歩くフグのようなギョッとした目の男が含みのある相槌を打つ。

「鵯州さん。まさか、あの人が実は凄い人、なんていう気じゃないですよね?」

科学者(・・・)としてはな」

科学者としては。その言葉に隊員は反応する。

「ということは、鵯州さんはあの人を凄いと思っているのですか?」

「すげえよ、あいつは」

間髪入れずに返答する男に、隊員は言葉を失った。

十二番隊で鵯州と葛原粕人、どちらが重要かと問われればほぼ全員が鵯州と答えるだろう。そんな人物が技術開発局で雑用をやらされている男を『すごい』と言い切る。

粕人をよく知らない隊員には信じられなかった。

兵間(ひょうま)、一つ覚えておけ。葛原粕人(あいつ)は技術開発局という組織では能力は決して高くはない。義骸一つ作るのに俺らの倍はかかる。十年以上技術開発局にいるのに未だにその程度の腕しかない。しかしあいつは涅隊長の嫌がらせとも言える要求に我が身を削って応え続けた。そしてあいつは自分が弱いことを知っている。だからこそ敵に回すとやっかいな奴だ。隊長には負けるけどな」

「……」

尊敬する上司の言葉だったが、兵間と呼ばれた新入りは納得しなかった。

(鵯州さんが言うとおり、あの男はバカで弱いんだろう?なのに敵に回すとやっかいな奴?意味が分からない。俺はこれでも文武両道に努めてきた。研究に興味があったから十二番隊に志願したが、所属隊士の能力が高いのが特徴の五番隊を薦められたほどだ。はっきり言って斬拳走鬼(ざんけんそうき)、そして頭。全てにおいて俺の方が上だ)

自分が下に見ている男がすごいと評価されていることに怒りを抑えられない兵間。その時だった。

 

「「うわあああぁぁぁっ!?」」

 

後ろを歩いていた隊員の悲鳴に鵯州を始めとする隊員が振り返る。そこには隊員二名が片足程度の浅い落とし穴にはまっていた。

「く、くそっ!接着剤か?」、「ぬ、抜けない!」

「大丈夫か?」、「今助けるぞ!」

落とし穴から抜け出せなくなった隊員を救おうと別の隊員二名が近寄る。

「ま、待て!迂闊(うかつ)に動くな!」

鵯州の止める言葉は遅かった。

 

バサッ!

 

低い位置に張られた細い糸を踏んだ瞬間、上から網が落ちてきたのだ。

「な、何だこの網!?」、「く、クソ。網が身体に絡みついて!」

「兵間、迂闊に動くなよ!周りをよく見て――」

上司が言葉を失ったことに疑問を覚えた新入隊員。彼はバカにしていた男の本当の恐ろしさを知ることとなる。

(な、なんじゃこりゃあ!?)

再び前を見ると、そこには坂道を転がり落ちる大量の丸太があった。敵対する者は容赦なく叩きつぶすと言わんばかりの罠の応酬。

後ろで身動きを取れなくなる隊員の姿を見ている兵間は罠にはまることを恐れて満足な動きが出来ず、前に立つ鵯州と共に丸太に押しつぶされた。

 

 

 

裏山ふもとに設置された眠八號救出兼葛原粕人捕縛隊の野営地は騒然としていた。

「阿近副隊長、鵯州研究科長率いる第二班が全滅。救援要請を求めています!」

「第三班。罠にはまって身動きが取れないと」

「四班が助けて欲しいと」

「第五班もやられました!」

「第六班、以下同文です!」

指揮と情報伝達をする自分の班を除く全ての班が全滅したという報告に、阿近は頭を抱えた。

(そうだ。あいつは普段のほほんとした顔をしているから忘れていたが。あいつは涅隊長に虐めに虐められてきたから色々と智恵を振り絞るようになったんだ。一人で大王イカを釣ったり、(ホロウ)が出る危険区域に研究素材を採取するくらいに。しかしほとんどの奴らが油断していたとはいえ、二十四人もの隊員を全滅させるとは……)

知らない所で着実に実力をつけていた男の力を見せつけられて、阿近はおもわず(ひたい)に手で押さえた。

「あれ、皆さん。こんな所でどうしたんです?」

どうすればいいのか思案に暮れる隊員達の前に、一人の男が陣幕を手でどけて入ってきた。

男の背には可愛らしい寝息を立てている少女の姿が。

「く、葛原!お前今までどこに行っていたんだ!?」

「え、今日は僕、休日なので眠さんに頼まれて一緒に秘密基地を作っていたんですよ」

強い口調で尋ねる阿近の声に、粕人は一瞬だけ驚く。

「いやぁ、秘密基地なんて作るのは百年ぶりでして。頂上に眠さんとそのご親友の阿散井(あばらい)苺花(いちか)さんの秘密基地は作ったのはよかったのですが。『これじゃあ味気ないな』と思って周囲に罠を仕掛けてみたんですよ。……え、皆さんどうしたんです?」

怒りのオーラをゆらゆらと漂わせる阿近達に、背中で寝ている眠八號を地面に優しく置いた粕人は思わず後ずさる。

「全員、葛原を捕まえろ!」

阿近の命令に隊員達が襲い掛かる。

何が何なのか分からない粕人はあっという間に取り押さえられ、怒り狂うマユリの元に送られた。

 

 

 

その後罠にかかった鵯州以下二十三名は無事救出されたものの、数日ほど葛原粕人の姿を見た者はいなかった。




兵間(ひょうま)
今年十二番隊に配属された隊員。優秀な人材が集まる五番隊を薦められるほどの実力者。雑用係として走り回る粕人をバカにしていた。
鬼道を使う間もなく粕人の仕掛けた罠に引っかかった。
筆先文十郎オリジナルキャラ。

阿散井苺花(あばらい いちか)
朽木ルキアと阿散井恋次の間に生まれた娘。名前だけの登場。
筆先文十郎設定では彼女と眠八號は親友関係。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第六話 葛原粕人、虚に襲われる

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。

皆様の思う阿近像が壊れるかもしれません。そうなった場合先にお詫び申し上げます。


瀞霊廷大衆居酒屋の個室。

「葛原。この間は本当に申し訳なかった」

十二番隊副隊長にして技術開発局副局長、阿近は目の前の男に頭を下げた。

「あ、阿近さん。頭を上げて下さい!」

十二番隊二十席で技術開発局雑用総責任者兼眠八號(ネムリはちごう)護衛役総責任者という技術開発局でも偉いのか偉くないのかよく分からない立ち位置にいる男、葛原(くずはら)粕人(かすと)は頭を下げる上司に頭を上げるように(うなが)す。

「あれは僕がちゃんと『眠さんと一緒に秘密基地を作るために裏山に行っています。夕方までには帰ります。』と書いていればあんな事態にはならなかったのですから」

「……そうか、そう言ってくれると助かる」

目の前の男に促され、頭を上げた阿近の心は軽くなった。

言葉足らずの手紙という落ち度はあったものの、眠八號のために動いた男を労うどころか怒りに感情を任せた挙句、愛娘に性的虐待をされたと怒り狂う上司に身柄を差し出した自分達を。そして誤解のまま数日間様々(・・)なことをした上司を許す男の姿に。

「よし、葛原。ここは俺が奢ろう。好きな物を頼め!」

「あ、じゃあお言葉に甘えて」

そう言いながらも粕人は高い物を頼まず、様々な物を頼んで食い散らかすこともなかった。

逆に粕人に罪悪感を持っていた阿近の方が酒を飲むほどだった。

 

 

 

数時間後。

「いやぁ、すまなかった。本当にすまなかった」

「あ、はい……」

完全に酔っ払う上司を支えながら、粕人は居酒屋を後にした。

「本当に、本当にすまなかった……」

「もう謝らなくていいですよ。僕もこうして阿近さんとサシで飲めた上、奢ってもらって。本当に嬉しかったんで」

日ごろの感謝の言葉を述べながら、ふらつく上司を支える粕人。

隊舎に戻ろうと道中を進む二人。と、粕人が突然立ち止まった。

「あ、阿近さん。ちょっと……」

肩を貸していた上司を壁にもたれかからせると、粕人は後ろを振り向いた。

そこには中年の死神が立っていた。

「何か御用ですか?」

「いえいえ。大した用じゃない」

笑顔で尋ねる小柄な男の問いかけに、中年男も答える。獲物を食い殺そうとする笑顔(・・・・・・・・・・・・・)で。

その瞬間。中年死神の身体が真っ二つに割れ、そこから蟷螂(カマキリ)のような腕をした(ホロウ)が目の前の小柄な男めがけて突進した。

「死神、食ッテヤル!食ッテ――」

 

シャキンッ!……ザクッ!

 

目の前の小柄めがけて振り下ろした鎌が宙を舞い、地面に突き刺さった。

地面に突き刺さる自分自身の鎌を見て、虚は自分の手首を見る。そこにあるはずの手首はなかった。黒い液体がブシュー!と噴き出す。

「アアァ!ウゥ……ウワアアァァァッ……!?」

残った鎌の手を普通の手に変えて黒い液体が流れ出る手首を押さえる。

「ナ、ナンダ。コイツ……ハッ!?」

体内に寄生し内側から対象者を喰らう虚、パラサイトイーターが見た最期に見た光景。それは氷のようにも愛する者を失ったかのようにも見える哀しい目で、自分の首を閃光のような居合いで斬り落とした男の顔だった。

 

 

 

「うぅ、葛原。俺はもう飲めんぞ……」

「いや、もう店出たので飲めませんよ……」

虚が消滅したのを見届けた粕人は、再び泥酔する上司に肩を貸して何事もなかったかのように隊舎に戻っていった。

 




ふと葛原粕人が虚と戦ったどうなるのだろう、と思ってこんな話を書いてみました。

阿近さんって深酒するんですかね?

登場人物
パラサイトイーター
瀞霊廷に忍び込んでいた両手をカマキリのような手をした虚。
中年死神に寄生し内側から根こそぎ食い散らかすと、新たな寄生主を求めて粕人達を襲った。粕人の居合いの前に敗れる。

11月8日
とある方に『メノスでもない虚に瀞霊廷への侵入許すとか、門番とかの皆様ハラキリ案件』というコメントを頂きました。
パラサイトイーターの潜伏能力が凄かった、・・・ということにしていただけると幸いです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第七話 葛原粕人、ママになる

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


 

マユリの部屋。

十二番隊隊長兼技術開発局局長である(くろつち)マユリは最高傑作である人造死神であり愛娘である(ネムリ)八號(はちごう)と床を共にしていた。

「……眠八號。お前に一つ聞きたいことがある」

「はい!何でしょうか。マユリ様!」

大きい声を我慢しつつマユリは続ける。

「お前はあのクズ……葛原(くずはら)粕人(かすと)は好きか?」

「はい!好きです。マユリ様!」

「なぜ好きなのだ?」

「なぜ、ですか……?」

少しばかり考えて、若干恥ずかしそうに眠八號は答える。

苺花(いちか)ちゃんが言ってました!お母さんと一緒にいると落ち着くと!眠八號もクズさんと一緒にいると……マユリ様と同じくらい落ち着きます!」

「……」

「眠八號にはお母さんはいませんが……クズさんといるとお母さんがいないという寂しさを感じないんです、マユリ様!」

「あのクズが……眠八號の母?」

奇怪な顔の父親はふと考えてしまう。自身がクズと呼んでいる男が自分の妻だったら、と。

髪を伸ばし、胸を膨らせた葛原粕人が語りかける。

 

『おはようございます、あなた。朝食が出来てますのでしっかりと食べて下さいね』

『あなた、今日はお仕事大変でしょうが頑張って下さいね』

『あなた、今日は眠八號が阿散井さんの娘さんの苺花ちゃんといっぱい遊んだんですって』

『あなた、お風呂になさいます?それともごはんになさいます?それとも……わ・た・し♥』

 

「うぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!!」

自身が想像したマユリの妻、葛原(くずはら)粕子(かすこ)にマユリは恐怖におののきガクガクと全身を細かく震わせる。

「あああ、悪夢だ!あああっ、悪夢以外何者でもない!!」

「マユリ様、どうしたんです!?……マユリ様!?」

突然の異変に尋ねる眠八號の心配する声は恐怖に震えるマユリには届いていなかった。

 

 

 

翌日。

『十二番隊第二十席 葛原粕人。現世駐在任務として東空座町(ひがしからくらちょう)に無期限の単独赴任を命じる』

「……………………」

「「「……………………」」」

十二番隊の掲示板に掲示された辞令に粕人本人はもちろん阿近を始めとする十二番隊面々も言葉を失った。

そして。

「ええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっっ!!??」

「「「ええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっっ!!??」」」

粕人の突然の現世駐在任務という青天(せいてん)霹靂(へきれき)に十二番隊舎に絶叫が響き渡った。

 

後に知られることになるのだが、東空座町には別の死神がその日現世に出立する予定だった。しかし突如前触れもなく急変。偶然(・・)通りかかった涅マユリによって一命は取り留められたものの一週間以上の安静は必要と判断された。

突然空いてしまった東空座町の駐在任務にマユリは葛原粕人を推挙。十二番隊隊長涅マユリの推薦といつ何時(なんどき)(ホロウ)が現れるか分からない状況に、葛原粕人の現世駐在任務はその日の午前中に決定した。

 

 

 

こうして粕人は何の準備も出来ぬまま東空座町に赴任されることとなった。

 




登場人物&地名紹介
葛原粕子(くずはら かすこ)
マユリが想像した葛原粕人の女体化。献身的な女性に見えるがマユリには悪夢でしかなかった模様。

東空座町(ひがしからくらちょう)
空座町の東にある町。
筆先文十郎が勝手に作った地名。
本来ならば別の死神が赴任する予定だったが出立するその日に急病で倒れる。その死神は偶然(・・)通りかかったマユリによって一命は取り留める。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第八話 東空座町赴任前日談

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。

筆先文十郎オリジナル設定が入ります。BLEACH本編と混合しないように気をつけて頂けると幸いです。



 

 

話は粕人が東空座町に赴任する一か月前に遡る。

 

西流魂街から少し離れた丘。

「キャアッ!?」

「ウワァッ!?」

小学生高学年ほどの、暖かい髪の色をした女の子と高校生くらいの青年が宙に舞った。

「ククク、鬼ごっこももう終いにしようか」

地面に叩き付けられた二人を、ユニコーンに骸骨に見える仮面をつけた胸に穴が開いた虚が見下ろす。

「まあ、ワシが本気になれば二本足のお前らなどいくらでも額の角で貫けたのだがな」

そう言って馬のような虚は器用にも前足で自身の額にある細く尖った角を指さす。

「うぅ……」

青年は少女を見る。

 

彼女だけは助けなければ。

 

しかし目の前の虚から逃げ回った恐怖と疲労、そして地面に強く叩きつけられた痛みで青年の身体は指一本動かせなかった。

「それじゃあ、どちらから食べようか?」

ユニコーンのような姿をした虚、ボーンホースは青年と少女を何度も見る。

「よし。決めた」

虚の口が大きく歪む。視線の先には頭から血を流し気絶している少女の姿が。

「……や、やめろ!」

青年は残った力を振り絞って叫ぶ。

「安心しろ。少女(こいつ)を食ったら次はお前だ」

やめろっ!と叫ぶ青年の声を気持ちよさそうに聞きながら、ボーンホースは少女の身体に狙いを定めた。

「ッ!?」

額の角を少女の身体に向けていた虚が大きく後ろに跳んだ。

その直後。黒い鉄の物体、黒々と光る苦無が地面に突き刺さる。もしボーンホースが後ろに下がっていなければ虚の頭を地面に刺さる苦無が突き刺さっていただろう。

「だ、誰だ!?」

苦無が飛んできた方向をボーンホースが見る。そこには死神だけが着ることを許される黒い衣服、死覇装を身に着けた145センチ前後の小柄な男がこちらを見ながらたっていた。男の足元には大量の荷物が入った篭があった。

「僕はただの死神です。そして貴方を狩ろうとは思っていません。ですので彼を見逃してくれたら貴方を斬ろうとは思いません。ここは退いてはもらえないでしょうか?(くろつち)隊長に届けないといけない物がたくさんあるので」

「舐めるな、死神!」

生きるか死ぬかの決定権が突然現れた死神にあるような言い方に、ボーンホースの怒りは頂点に達した。

 

死神(こいつ)からは霊力はほとんど感じられない。

 

突然現れた死神に狙いを定め、ユニコーンにも似た虚、ボーンホースは小柄な男めがけて突進した。

自分より大きい虚が突進する姿に、男は怯えることなく右手を腰にぶら下げる刀の上に置いた。

 

シャキンッ!

 

突進をかわし、いつの間にか刀を抜いていた男がゴーンホースの方へ振り返って、ゆっくりと刀を鞘に戻す。

「よくぞかわした。だが次はお前の身体は我が角に突き刺さる」

「……その角で、ですか?」

「え?」

ボーンホースは視線を額に向ける。そこにはあるはずのもの、鋭く長い自慢の角が根元を残して切断されていた。

「わ、ワシの角!?ど、どこだ!?」

「これのことですか?」

焦ったボーンホースが目の前の光景を見て愕然とする。

そこには先ほどまであった角が男の手の中にあったからだ。

男は持っていた角をこちらに投げつけた。

ボーンホースが反応する前に角は馬の虚の足に深々と突き刺さっていた。

「う、ウアアアァァァッ、ッ!?」

信じられない状況に恐れおののいた虚は男に背を向けて逃げようとして身体が動かないことに気づいた。よく見ると前足に数本細い針が刺さっていた。

「痺れ薬を塗った針を打ち込みました。これで数分の間、貴方は動けない」

そう言って男は馬型の虚の前に立つと再び刀に右手を置いた。

「ま、――――」

待ってくれ。男の目にも止まらぬ早業で抜かれた刀によって首を刎ねられたボーンホースはその言葉を紡ぐことは出来なかった。

 

 

 

「大丈夫ですか?」

小柄な死神は頭から血を流す少女を介抱した後、(いま)だ痛みと疲労で動くことが出来ない青年に手を差し伸べた。

「あ、ありがとうございます」

青年は自分よりも小さい死神の力を借りて立ち上がる。

「助けて下さって本当にありがとうございました。ボクは柴田ユウイチです。貴方は?」

「護廷十三隊十二番隊二十席、葛原粕人です」

自分より少し背の高い青年に、小柄な死神は隣にいる者を(なご)ませるような微笑を浮かべた。

 

 

 

粕人は背中に調達した荷物を背負い両方の二の腕に籠の持ち手をくぐらせながら助けた暖かい髪の色をした少女、東雲(しののめ)夕姫(ゆうき)をお姫様抱っこで運びながら歩いていた。

「大丈夫ですか?柴田さん」

隣でズキズキと痛む箇所を抑えながら歩く青年を粕人は気遣う。

「い、いえ……それよりも粕人さんの方が大変じゃないですか。そんな大荷物に夕姫ちゃんを抱きかかえて」

「大丈夫ですよ、こう見えて僕は力持ちですから」

満面の笑みで答える粕人に釣られて青年も笑う。

その後二人はスースーと寝息を立てる少女を気遣いながら帰り道を歩いた。

そして話は青年がなぜ流魂街に来たのかに変わる。

青年は答えた。

母親を生前連続殺人犯だった虚・シュリーカーに殺されたこと。シュリーカーの『母親を生き返らせる』という口車に乗せられ、生きたまま魂魄をインコに入れられ、シュリーカーから逃げ回っていたこと。インコに魂が入っている間、周囲の人を不幸にしてしまったこと。

その後、現世で助けられた茶渡泰虎(おじちゃん)と流魂街で再び出会い、『探していればいつか会える』と励まされたこと。そして探していた母親と再会できたことを。

そうこうする内に西流魂街についた二人は少女の家に足を運んだ。

(そら)さ~ん」

「あぁ、ユウイチ君。ちょっと待って――!?」

奥から顔を出した優しそうな顔をした男性が粕人の腕で眠る少女を見るなり、顔面蒼白で駆け寄った。

「ユウイチ君!?これは、これはどういうことだい!?なぜ夕姫が怪我をしているんだ!?」

粕人の存在を忘れて、男性は頭に包帯を巻く少女を震えながら見る。

粕人は少女を優しく床に置き、心配するあまり興奮する男性をなだめた。

男性が落ち着きを取り戻したことを確認した後、青年は事の詳細を話した。

丘に行きたいという夕姫の懇願に負けて、青年は少女と共に丘に向かったこと。その丘で馬のような虚に襲われたこと。今にも殺されそうになった所を少女をここまで運んでくれた死神に助けられ、介抱されたこと。

事の経緯(いきさつ)を聞いた男性は小柄な死神の方へ振り返り、頭を下げた。

「この度は()の夕姫がご迷惑をおかけしました」

「いえ、いいんですよ。僕はたまたま通りかかっただけですから」

「う~ん?」

その時少女が目を覚ました。

「あれ、ここ……うち?」

「夕姫!」

目を覚ました少女の肩を目を大きく見開いた男性が掴む。普段見ない()の姿に動揺した妹はビクッと震える。

「何であの丘に行ったんだ!?『あの丘は虚が度々目撃されるから行ったらダメだ!』と言ったじゃないか!!」

「ご、ごめんなさい!」

少女は涙を流し、男性に頭を下げる。

「お兄ちゃんに言われたのは覚えているよ。でも、今日は……お兄ちゃんの誕生日だから……」

そう言って少女は腰につけた巾着の中身を男性に手渡した。

それは、白く透明な六つの花びらのようにも見える石だった。

「……そうか、これを。俺のために」

男性は「ごめんなさい、ごめんなさい」と頭を伏せて泣いている少女を優しく抱きしめる。

「ありがとう、夕姫。とっても嬉しいよ。でももう二度と危ない所にいくようなことをしないでくれ。お兄ちゃんにとって一番嬉しいのは、元気なお前が傍にいることだから」

「う、うわああああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!」

その言葉に少女は嬉しさのあまり泣き出してしまった。

 

 

 

泣いていた少女が泣き止み、鳴きつかれた少女が床につく。

「この度はウチの夕姫を助けていただき、本当にありがとうございました」

男性は改めて粕人に頭を下げた。

「いえいえ。妹さんが無事で何よりです」

粕人は荷物を持って外へと歩き出した。

「あ、待って下さい!」

「ん?」

振り返るとそこには先ほどの優しそうな顔つきの男性が思いつめた顔で粕人を呼び止めた。

「あ、あの……助けてもらった上に、こんなことを言うのは失礼かもしれませんが。ここで会ったのも何かの縁ということで、聞いてもらえないでしょうか?」

「ええ、構いませんよ」

粕人は玄関で呼び止めた男性の元に戻って話を伺う。

「俺は井上(いのうえ)(そら)と申します。俺には井上(いのうえ)織姫(おりひめ)という妹がいて……。……家で寝ている夕姫とは数か月前に兄妹(・・)になりました」

「……」

顔を少し下に傾け、言葉を詰まらせる男性の言葉を粕人は待った。

「もし現世にいる妹、井上織姫と出会うことがありましたら。『井上昊は幸せに暮らしている』。そう伝えてくれないでしょうか?」

「……」

粕人はすぐには返事が出来なかった。十二番隊の二十席という重要か重要でないかと問われれば重要で、忙しいか忙しくないかと問われれば忙しい自分が現世に行くと考えにくかったからだ。

「……あ、いえ。やっぱり忘れて――」

「会うことがあれば、お伝えします。十二番隊、葛原粕人の名に()けて」

「あ、ありがとうございます!」

粕人の言葉に、男性は目に涙を浮かべながら再び頭を下げた。

 

 

 

この一ヶ月後に現世行きを通達されることになると、この時の粕人は知る由もなかった。

 

 




筆先文十郎オリジナル設定で
①柴田ユウイチは高校生くらいの青年に成長し、母親と再会した
②井上昊は妹の織姫と似た髪色をした少女、夕姫の兄となって暮らしている
という設定にしてます。
本作が二次創作でこんな未来もありかな、と寛大な心で読んでいただけると幸いです。

ボーンホース
西流魂街から離れた丘でユウイチと夕姫を襲ったユニコーンに似た虚。粕人に角を斬られ、痺れ薬が塗られた針で動けなくなったところで首を刎ねられた。

柴田ユウイチ
チャドに助けられた少年。
高校生くらいの青年に成長し、母親と再会を果たした(筆先文十郎オリジナル設定)。

井上昊
井上織姫の兄。東雲夕姫と兄妹になって幸せに暮らしている(筆先文十郎オリジナル設定)。

東雲夕姫
井上昊の妹。兄のためにプレゼントになる石を探していたところをボーンホースに襲われる。

「実は柴田ユウイチと井上昊はこういう設定だよ」と公式の後日談があるなど設定が食い違うことがありましたら教えていただけると幸いです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

東空座町編第一話 粕人絶体絶命

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


義骸と義魂丸など最低限の装備だけで東空座町(ひがしからくらちょう)に赴任されられた葛原(くずはら)粕人(かすと)

そして着任当日の深夜。粕人は追い込まれていた。

 

 

 

「はぁ、はぁ……く、クソッ……」

公園の中央で、死神化した粕人はドクドクと血が流れる左肩を抑えていた。

「フフフ、どうしたのかしら死神?」

空から片膝をつく粕人を見下ろす蚊の姿をした(ホロウ)、ブラットヴァイブは鋭く尖った口器(こうき)を次々と男に向けて放つ。

「クッ!」

立ち上がった粕人は矢のように降り注ぐブラットヴァイブを避ける。しかしその動きは鈍い。

「ち、力が入らない……!何故だ?」

「苦しそうね、死神。教えてあげるわ」

見た目からでは考えられないほどの女性らしい美声で、哀れむような目で虚は続ける。

「アタイの口器には対象物を衰弱させる液体が出ているの。刺さるのはもちろん(かす)るだけでも効果があるほどに強力なほど」

宙高く自分を見る蚊の虚を睨む粕人。

(くそっ。急な赴任だったから遠距離用の針も苦無も用意していない。罠を張るには時間がなさ過ぎる。鬼道も縄道ならまだしも破道はからっきし……まだ使える縄道ですらあの蚊の虚を捕まえるのは難しい。……直接攻撃系の幽世閉門ではあそこまで距離を取られては意味がない。元々遠距離の攻撃手段は乏しい上に手持ちの道具が不足しているという悪条件だ)

「ならば!」

粕人は心の中で言い聞かせる。

(タイミングは一度きり。タイミングがずれたら命は……ッ!?)

「ウッ!ゲホゲホッ……!!」

粕人は口を抑えて()き込む。口を抑えた右の掌には血がベットリと張り付いていた。

「ウッ……!?」

急激な脱力感。粕人は思わず倒れそうになるのを、気力を振り絞り立ち続ける。しかしその姿はあまりにも弱々しく、今にもその身を食いちぎらんと考える敵には恰好の獲物でしかなかった。

「フフフ、どうやら毒が回ってきたようだね。だったら貴様の血、このブラットヴァイブ様が一滴残らず飲み干してやろう!」

空で粕人を見下ろしていた蚊の虚がブーンという羽音を立てながら旋回。かろうじて立っている獲物の背後に回ると、細く尖った口器を右肩に突き刺した。

「う、ウワアアアァァァッ!?」

突き刺した口器からチューチューと血を吸い取っていく。

「く、クソッ!」

紙のように真っ白になりながら、粕人は気合と共に血を吸うブラットヴァイブの顔に裏拳を与えた。

「ウグッ!?」

粕人の予想外の反撃に怯んだ蚊の虚は男から離れて再び空へと逃げる。

「ググッ、まだそんな力があったか……しかしアタイに血を吸われては……ッ!?ウウッ、ウワアアアアアアァァァァァァッッッ!!??」

突然苦しみ出したブラットヴァイブが地面に落ちていく。

「ウウッ!身体が、体中の血管という血管が熱い!痛い!……何故だ、ウワアアアアアアァァァァァァッッッ!!??」

あまりの激痛に蚊の虚は身体を抑えながら地面を転がりながら悶絶する。

「僕の、血のせい……ですよ」

腰に差した刀を杖代わりにして、今にも倒れそうになりながら種明かしをする。

「僕は……貴方が蚊と同じく、血を吸うものだと、推測しました……だから、貴女は……僕の血を吸いにくる。だから僕は……飲んだんです。耐性がない者が、体内に取り込んだら、内側から溶かす……猛毒を」

「も、猛毒……だったら吐血したのは!?」

「お察しの、通り……僕が飲んだ毒薬、ですよ……」

フラフラになりながら、粕人は懐から白い丸薬を取り出し口に放り込んだ。

「これは解毒剤。……もし貴女が血を吸わなければ、自分が飲んだ毒で死に――――」

粕人は懐からスプレーのような物を吹きかけたのと同時に気を失い、その場に倒れこんだ。

「ウゥ……ウゥッ!」

ブラットヴァイブは内側から溶けていく激痛と恐怖に耐えながら地面に倒れる男めがけて前進する。

目の前の男の体内には解毒剤が入った血が流れているということ。その血を吸えばまだ助かるのでは。その一縷の望みにかけた行動だった。しかし彼女は近づくことが出来なかった。

「ウゥ、なんだこれは!?」

粕人に近づけば近づくほど、吐き気を催す臭気に身体が動かなくなる。

 

ブラットヴァイブは体内の猛毒を解毒しようと再び自分の血を吸おうとする。

 

それを見抜いた粕人が倒れる直前に自身に吹きかけた女が嫌う臭いを発する香水、女嫌香によって。

粕人が所持している女嫌香は半径100メートル以上の女性にも影響を与えるオリジナルよりも効果を薄めているとはいえ、激臭には変わらない。

近づけば激臭が威力を増し、離れれば解毒剤から遠ざかる。

「ウ、ウウッ……ウワアアアアアアァァァァァァッッッ!!??…………――――」

進むことも退くことも出来なくなった蚊の虚、ブラットヴァイブは内側から溶かす猛毒にやられ液状になって消滅した。

耐性がありかつ解毒剤を飲んだとはいえ、身体を溶かすほどの猛毒を摂取した粕人もただでは済まなかった。その上ブラットヴァイブに大量の血を吸われている。ブラットヴァイブの後を追うのは時間の問題だった。

 

 

 

「ん?誰かが倒れてる?」

一人の男が。公園で倒れている霊力が強くなければ見ることの出来ない死神の粕人が倒れているのを発見した。

 




ブラットヴァイブ
蚊のような姿をした女性の虚。遠距離からの武器を所持していなかった粕人を一方的に追い込んだ。
筆先文十郎オリジナルキャラ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

東空座町編第二話 粕人は織姫に伝えるようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


「ん……ここは?」

粕人は目を覚ます。目の前に飛び込んできたのは見慣れない天井だった。鼻に届く薬品の匂いが、ここが病院だと粕人に気づかせた。自分の身体に目を移すと、死神の着る黒い衣服、死覇装(しはくしょう)ではなく義骸が着ていた普通の衣服だった。

「目が覚めたか?」

粕人が目を覚ますのを見計らったかのようにオレンジの髪をした部屋に男が入ってきた。そしてそのまま粕人が寝るベッドに歩く。

粕人はその男を知っていた。身体を起こしてその男の名を呟く。

「あ、貴方は黒崎(くろさき)一護(いちご)さん!?」

直接会ったことはなかったものの、黒崎一護は尸魂界(ソウルソサエティ)を幾度も救ってきた英雄とも言える存在。また遠くからではあったが粕人は一護の姿を何度も見ていた。知らないわけがなかった。

見知らぬ相手が自分を知っていることに慣れているのだろう。一護は粕人が何故自分の名前を知っているかは聞かなかった。

「ところで東空座町で行われた勉強会の帰りにアンタとアンタの義骸を見つけて今に至るわけだが。アンタは誰だ?」

「し、失礼しました。僕は本日東空座町に赴任しました十二番隊第ニ十席、葛原(くずはら)粕人(かすと)と申します!」

そう言って頭を下げる粕人はあることに気づく。

(あれ、確か僕はブラットヴァイブとの戦いで激しく消耗したはず。にも関わらず来た時と同じ状態まで回復している……どういうことだ?)

「あ、あの……僕、すごい怪我をしていたはずですが……。黒崎さんが治してくださったのですか?」

「いや、治したのは俺じゃない。お~い、織姫(おりひめ)!」

「は~い!」

奥から明るい声の女性が返事をする。そしてトタトタトタッ!と走ってくる音が聞こえた。

「呼んだ?」

部屋に入ってきたのは暖かさを感じられる腰近くまである髪を首の後ろで留めた、胸の大きな女性だった。

「こいつは女房の織姫。知っているかもしれねぇが、こいつには破壊を受ける前の状態に戻す力があるんだ。アンタの傷はこいつの力で治したんだ」

「はじめまして、黒崎(くろさき)織姫(おりひめ)です」

暖かさを感じられる女性が頭を下げる。

「あ、葛原粕人です。こちらこそよろしくお願いします」

そう言って頭を下げながら、粕人は頭の中でひっかかっていたあることを目の前の女性に尋ねる。

「あの、失礼ですが。貴女は井上(いのうえ)織姫(おりひめ)さんで、間違いないでしょうか?」

「はい、確かに黒崎一護(このひと)と結婚する前は井上でしたけど」

キョトンとした顔で答える女性に、粕人は間を取り、真剣な表情で口を開く。

「黒崎織姫さん。……実は、貴方の兄……井上(いのうえ)(そら)より言伝(ことづて)を預かっております」

気を使ってか一護は「一勇(かずい)の様子を見てくる」と言って部屋を後にした。

「…………」

「…………」

残された二人の間に、永遠とも思える無の時間が過ぎていく。

「あ、あの……兄は、井上昊は元気ですか?」

「はい」

粕人は織姫に自分が知る限りの情報を伝えた。兄の昊が西流魂街にいること、東雲夕姫という織姫のような暖かい髪をした少女を妹として一緒に暮らしていることを。

「そうですか。……兄は、葛原さんに何を伝えてほしいと言ったのですか?」

「……『井上昊は幸せに暮らしている』と」

「……ッ!」

その言葉に織姫は顔を覆った。顔を下に向けたまま。

「どうぞ」

粕人はポケットに入れていたハンカチを目の前の女性に渡した。

数分が経ち、織姫はゆっくりと顔を上げる。瞳は赤くなっていた。「お借りしたハンカチは洗って返します。今日はゆっくり休んで下さい」と言って出口へ向かう。

「あ、あの……葛原さん」

ドアノブに手を掛けそうになった時、織姫は振り返る。

「兄に。井上昊に伝えて下さい。『私も幸せに暮らしている』と」

「はい」

 

 

 

一点の曇りもない笑みで言伝を頼む女性に、粕人は同じような笑みで返した。

 

 




現世で誰が出て欲しいか要望があれば感想にお願いします。

新章 涅マユリの秘密道具登場人物
葛原粕人人物データ追加。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

東空座町編第三話 粕人は十二番隊の先輩に会うようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


東空座町某居酒屋。

「ったく、うちが出てこんかったらあんたはどうなったのかわかってへんやろ?」

「いえいえ。猿柿さんがいなかったら僕は死んでいたかも――」

「かもじゃないわぁ!死んどったわ、このハゲェ!」

「あ、はい……」

東空座町を担当する小柄な男、葛原(くずはら)粕人(かすと)は苦笑いを浮かべながら話を聞いていた。

数時間前。粕人は交差点で車を衝突させていた虚を発見、すぐさま魂葬を行った。しかし粕人は気づいていなかった。実はその虚が、双子が一体の虚となったもので魂葬したのはその片方だということに。

殺気に振り返った時、片割れの虚は粕人の目前まで迫っていた。そのような状態であっても粕人は右手を柄に置いた。得意の居合で切り払うつもりだった。しかしそれは未遂に終わった。

「おんどりゃあっ!」

その掛け声とともに大きなギザギザの刃をした大剣の形をした斬魄刀、馘大蛇(くびきりおろち)を振り下ろした金髪ツインテールの小柄な女性、猿柿(さるがき)ひよ()によって倒されたからだ。

その後自力で何とかなったとはいえ助けられた粕人は突然現れたひよ里に自分が十二番隊第二十席であることを自己紹介した瞬間、「十二番隊が何あんな雑魚に苦戦しとんねん!十二番隊もうちが()った時と比べて質が落ちたなぁ!」と激怒された。

数分の罵声の後、粕人は「ここじゃあアレやから近くの店で話しよか!」と近くの居酒屋に連れて行かれて今に(いた)る。

「ったく。お前みたいなハゲが席官なんて……ほんま十二番隊は大丈夫なんかぁ?」

「あ、はい。そうですね……」

酒で顔を真っ赤にさせたひよ里に粕人は苦笑いを浮かべながら相槌を打つ。

「だいたいうちが副隊長だった時も大概だったけどな。喜助(きすけ)は色んな仕事をうちに押し付けるし、あの(ハゲ虫)も自分が技術開発局の副局長だからって副隊長のうちを顎で使いよってからに!」

そう言って八重歯とそばかすが特徴的な赤いジャージ姿の女性は目の前の焼き鳥をごっそり掴んで食いちぎる。

「おい、クズ!お前も飲まんかい!」

「あ、はい……」

徳利(とっくり)を持ったひよ里の前に、粕人はお猪口(ちょこ)を出して酒をついでもらうと一気に飲み干す。

元とは言え目の前の女性は十二番隊前隊長の浦原喜助、現隊長の(くろつち)マユリ、現副隊長の阿近らと共に技術開発局を立ち上げた大先輩である。

技術開発局の(いしずえ)を築いた女性ということもあり、粕人は言いたいことを抑えて黙って話を聞いていた。

 

 

 

一時間後。

「ヒック、えぇか!お好み焼きはたこ焼きと並んで関西料理の定番中の定番や!ヒィックッ!お好み焼きを上手く焼けん奴はなぁ、戦いも研究も出来へん!分かったかぁ、粕人!」

「は、ふぁい……わはひはふぅは、ひほひふぁん!(は、はい……わかりました、ひよ里さん!)」

ベロンベロンに酔っ払ったひよ里は意味不明な精神論を教え込み、同じように酔っ払った粕人は涙と鼻水まみれになりながら偉大な先輩の言葉をメモする。

「なぁ、お好み焼きを上手く焼けることと戦いと研究。これってどう関係するんだ?」

「そ、そんなの私に聞かれても分からないデス……」

サングラスにさまざまな方向に分かれたアフロヘアの愛川(あいかわ)羅武(らぶ)と、大柄で寸銅な有昭田(うしょうだ)鉢玄(はちげん)はそんな二人を離れた位置で見ていた。

 

 

 

その後粕人は現地駐在の間猿柿ひよ里の指導の(もと)、お好み焼きを教わり現地駐在任務が終わる頃には本場関西人の舌も(うな)らせる関西風(・・・)お好み焼きを習得した。

後日行われた男性死神協会の昼食で粕人はひよ里に教わった関西風(・・・)お好み焼きを披露。広島風(・・・)お好み焼きが好きな射場(いば)鉄左衛門(てつざえもん)の逆鱗に触れたという。

 




タイトルが新章になっていました。この場を借りてお詫び申し上げます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 粕人は一方的に恨みを買ってしまったようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


「俺は、俺はあの男に負けているのか!」

がっしりとした体格の長身の黒髪男が自室の机を感情に任せて叩いた。

眠八號誘拐事件で自分より下だと思っていた男がお遊びで作った罠に太刀打ちできなかったことを、今年十二番隊に入った兵間は引きずっていた。

葛原粕人が東空座町に赴任した後、兵間が粕人の仕事のほとんどを請け負うことになった。

最初は不満だったが「あの男よりも素早く丁寧に確実に行い俺の方が実力が上だと証明してやる」と望んだ。

 

その考えはもろくも打ち砕かれた。

 

マユリに研究素材を現地調達してこいと言われたがそれらがマンドラゴラの根やオリハルゴンの鱗などどこに行けば取れるのか分からない物ばかりだった。

100kg以上はある実験機器の運搬や掃除、清掃、提出書類の作成、調査任務、結果報告書の作成と多岐にわたった。

なにより大変だったのは眠八號のお守りだった。「どうせ子どもだから適当にやっておけばいいだろう」と考えていたが、そうはならなかった。

粕人は夜など空いた時間があれば眠八號に本の読み聞かせをしていた。あの男でも出来たのだからとやってみると「面白くない!つまらない!」とへそを曲げられてしまった。

 

あの男にも出来て俺には出来ない。

 

その事実に兵間はショックを隠せなかった。

そして兵間の止めを刺したのは技術開発局の人間だった

とある夜。

兵間は阿近を始めとする十二番隊の隊員達と居酒屋で酒を飲んでいた。

「ん?兵間。どうした?酒が進んでないじゃないか」

眉毛のない上司に、男は愚痴を漏らす。

「阿近さん。あいつ……いえ、葛原さんは十二番隊に必要な存在なんですかね?」

 

ピキッ!

 

その言葉に十二番隊の面々は氷のように固まり、

「「「そんなことない!」」」

と否定する。

「葛原はよくやっている!!(涅隊長の実験体という任務を!!!)」

技術開発局№2の阿近(あこん)がそう言えば

「そうだ!あいつが十二番隊(ここ)に来てくれたおかげでどれだけ俺達が楽になったか(涅隊長の怪しい実験の実験体になる不安から開放されて!!)」

鵯州(ひよす)も続く。

「あいつがいない十二番隊なんて考えられないぜ(涅隊長への生贄的な意味で!!)」、「葛原さんのおかげで僕らがどんなに楽になっているか(涅隊長のストレスのはけ口が僕らにいかなくなったから)」、「あいつは本当によくやっているぜ(涅隊長の実験のモルモット的な意味で!!)」

次々と感謝や賞賛の言葉を送る技術開発局の面々に、兵間の心はズタズタに切り裂かれた。

 

 

 

後にこの出来事をきっかけに兵間の粕人への対抗意識が増加。現世から戻った粕人に刃を向ける事件に発展するのだがそれはまた別の話である。

 




粕人対兵間は東空座町編が終わったら投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

東空座町第四話 粕人は駄菓子屋の店主と会うようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


「ふ~う、たまには朝早く起きて掃除をするっていうのも悪くないですね~」

浦原商店の玄関では深緑の下駄に甚平、目深に帽子を被った浦原商店の店長を務める浦原(うらはら)喜助(きすけ)が玄関を掃いていた。

その様子を浦原商店が見える電柱柱(でんちゅうばしら)でこっそり見ている男がいた。

「い、いくぞ!」

行くぞという覚悟に反してその身体は小刻みに震えている。

(う、浦原前隊長は(くろつち)隊長達と一緒に今僕が所属する技術開発局を築き上げたお方。失礼のないようにしないと……)

粕人は最低限の準備しか出来ないまま東空座町(ひがしからくらちょう)に赴任させられた。今までの倒した(ホロウ)は粕人の攻撃範囲である近接攻撃を仕掛けてきた。故にここまで上手くいっていたが赴任初日のブラットヴァイブのように遠距離から攻撃手段を持つ敵には対抗手段が何一つなかった。

そう考えた粕人は技術開発局の前局長である浦原喜助が商いをする浦原商店に足を運んだ。

「よ、よし……行くぞ!……いや身だしなみをもう一度チェックだ」

そう言って粕人(かすと)は10回目となる身だしなみチェックをする。

「よし、今度こそ行くぞ!……あ、口臭もチェックして――」

「そんなにチェックをするのはいいですけど、そうやって何度もやっていると日が暮れちゃいますよ」

「ふぎゃああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!!??」

突然背後から肩をポンポンと叩かれ、粕人は心臓が口から飛び出そうなほど驚いた。

なぜならば肩を叩いた人物はつい先ほどまで玄関先で清掃活動をしていた浦原喜助本人だったからだ。

緊張して注意が散漫になっていたとはいえ、気配すら感じられなかった。

粕人が目標とする涅マユリが嫉妬するほどの実力者である浦原喜助と二十席の自分。分かりきったとはいえ浦原喜助と自分の圧倒的な実力差を思い知らせる。

「あ、いえ……浦原前隊長!僕……いえ自分は護廷十三隊十二番隊第二十席、葛原(くずはら)粕人(かすと)と申します。以後お見知りおきを!」

見事なまでに敬礼をする粕人を浦原商店の店主は「ふぅ~」と苦笑いを浮かべる。

「葛原さん、と言いましたね」

「あ、はい!」

「私はこの空座町でほそぼそと商いをしております駄菓子屋の店長、浦原喜助です。普通に『浦原さん』と呼んでくださって結構ですよ~」

「あ、失礼しました。浦原さん」

緊張する者の心もほぐしてしまいそうな笑顔に粕人は釣られて笑った。

こうして粕人は苦無や針など粕人が遠距離用の武器だけではなく爆薬などの知識も教わった。

 




紬屋雨や花刈ジン太も出そうと思ったのですが、
①二人が10年後何歳なのかわからない
②私は二人は普通の人間だと思っているのですがネットを調べると二人は浦原喜助が作った改造魂魄ではないか?という情報を見つけた
などありまして出せませんでした。

二人の詳細を知っている方がいらっしゃいましたら二人はどうしているか推測でもいいのでお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 砕蜂は粕人について調べているようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。

隠密機動第四分隊が私が調べた限りでは不明となっていたので「こんな組織では?」と想像して作ってみました。
BLRACH本編と混合しないよう気をつけて下さると幸いです。


隠密機動第四分隊・裏見(りけん)(たい)

彼らの部屋は隠密機動及び二番隊隊舎にはない。なぜならば本来の姿である裏見隊ではなく仮の姿(・・・)が彼らの部屋だからだ。

裏見隊の目的。それは護廷十三隊、鬼道衆、そして隠密機動と瀞霊廷に存在する主たる実力行使部隊の異分子を探すことである。

故に彼らは隠密機動第四分隊裏見隊でありながら各隊に配置されている。

内部調査を行う裏見隊という顔を隠して。

 

 

砕蜂(ソイフォン)の執務室。

一人の男が二番隊隊長兼隠密機動総司令官である砕蜂に報告をしていた。

「というわけで十二番隊第二十席、葛原(くずはら)粕人(かすと)を調べましたが特に変わった様子はありませんね」

上司の砕蜂にまるで気軽に話せる先輩に話しかけるような軽い口調に、目の前に座る小柄な女性はこめかみをピクピクとさせながら我慢して尋ねる。

「本当に間違いないだろうな?」

「あれ、俺のことお疑いですか?」

「お前は葛原粕人(あの男)とは同期でかつ同隊に所属していたからな。そう思うのは仕方がないだろう」

「う~ん」

男は困った風に頬をかく。

「砕蜂隊長。同期なんていくらでもいますよ。それに同期で四番隊に所属されたと言っても妻の音芽(おとめ)も同期で同隊ですし」

「お前と水城(みずき)は裏見隊だろうが!」

上司の強い口調にも男は「あ、これは一本取られたな!」と楽しそうに笑う。

「しかし……」

「……」

先ほどまでの軽薄な物言いとは一変、真剣な表情になる部下の言葉を女上司は黙って待つ。

「俺は四番隊。葛原(あいつ)は十二番隊。十二番隊なら松永がいるじゃないですか。あいつに聞いた方が良いんじゃないです?」

「……」

女上司はすぐに答えなかった。お前以外の者では無理だと言うのを強調するかのように。

「お前は葛原粕人(あの男)とは真央霊術院(しんおうれいじゅついん)からの付き合いだ。つまりお前が葛原粕人という男を隠密機動の中で分かる人材と言える」

「……なるほど。確かに葛原(あいつ)をよく知っているのは俺で間違いないでしょうね。六年間ずっと二組で苦楽を共にしましたからね」

その時を思い出したのか、男はふと視線を逸らす。

真央霊術院では成績優秀者のみで構成される特進学級第一組とそれ以外の二組に分けられる。阿散井恋次、吉良イヅル、雛森桃など第一組にいた人物達の多くが若くして隊長、副隊長に就いていることからその優秀さは一目瞭然だ。

「今の葛原(あいつ)は隊長が気にするような男とも思えませんが」

「それを判断するのは私だ。お前はいつも通り葛原粕人と接触し、怪しいところはないか調べろ。仏宇野(ふつうの)段士(だんし)……いや月光」

「了解ですよ~。砕蜂隊長」

砕蜂の命令に四番隊の平隊士で、鏡霞(きょうかすみ)水月(すいげつ)(くろつち)ネム誘拐事件に協力した粕人の同期、仏宇野段士は陽気な笑みを浮かべた。

 




筆先文十郎が勝手に作った裏見隊の元は平家物語に登場する平家方の密偵、禿(かぶろ、かむろ)です。
瀞霊廷を主な担当区域とする諜報を担当する警邏隊と被るような気がしますが、裏見隊はより各隊の対象人物の情報を得ることに特化した部隊と考えて下さると幸いです。

あと本当の隠密機動第四分隊の情報がありましたら、教えてくださると嬉しいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

東空座町第五話 粕人はチャンピオンに会ったようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


 空座町(からくらちょう)墓地

 茶渡(さど)泰虎(やすとら)。通称チャド。ヘビー級王者として初の防衛戦を前に、彼はとある墓地を訪れていた。

「……」

 線香と花を供え、目を(つむ)って祈る。

 墓には『柴田(しばた)優一(ゆういち)』という名前があった。かつて自分の母親を殺した虚、シュリーカーに騙されインコに魂魄を封じられた少年の名前だった。

「シバタ。俺は明日、ボクシングのヘビー級王者として初めての防戦戦をする。……正直言うと心臓がバクバクだ。挑戦者だった時は『俺は挑戦者。負けても失うモノはない』という気持ちで臨んで、なんとか勝ってチャンピオンになれた。だが今は王者……負けたら失うモノが出来てしまった……王者というのは、怖いものだ……ッ!?」

 チャドはバッと背後を振り向く。そこにはどこにでも溶け込みそうな普通の恰好をした小柄な男が驚いていた。

「アンタは……」

 死神か?

 微かに感じる霊圧にチャドがそう聞こうとする前に男は自らの正体を明かした。

「初めまして茶渡泰虎さん。僕は(ひがし)空座町(からくらちょう)を担当している十二番隊第二十席、葛原(くずはら)粕人(かすと)と申します。もしかしたら柴田優一の墓(こちら)に来ると思いお待ちしておりました。少しお話を聞いてもらえませんか?」

 

 

 

 翌日 日本武道館。

 テレビでは正方形のリングに立つ二人の闘いの様子を映していた。万を越す観衆が二人の一挙一動に歓声を上げる。その様子を熱くなりつつも冷静に実況が伝える。

『チャンピオン茶渡、このラウンドも苦戦しています!初の防衛戦と減量失敗による影響が出ているのか?』

 実況の言う通りチャドはモヒカン頭の挑戦者の猛攻に防戦一方になっていた。挑戦者は己の拳の威力を誇示するかのようにガードの上から強烈なパンチを放ち続ける。

『チャンピオン茶渡。初の防衛戦という精神的にキツイものがあるか?おっと、カードを無理やり突き破るようなパンチがチャンピオンの顔に直撃!茶渡泰虎後退!危ない!チャンピオン茶渡ピンチだ!!」

 顔に喰らった強烈な一撃にふらつくチャド。ロープを背にするチャドを挑戦者は逃がすかと言わんばかりに間合いを詰めていく。

『挑戦者セッカマ・サコー!バランスを崩すチャンピオンにフックフックフックの連打!!チャンピオン茶渡に反撃はおろかバランスを整える時間も与えません!!』

 挑戦者の怒涛の攻撃に血を流すチャド。しかし彼の目には挑戦者の猛攻への恐怖も自分が負けるのではという不安もなかった。あるのは勝つという明白な意志。そしてそれは現実になる。

 トドメとばかりに大きく腕を大きく振りかぶる挑戦者。少しだけ身体を屈ませていた王者の右腕が宇宙へ飛び立つロケットのように振り上げられた。勝利を確信した挑戦者が振り下ろすよりも先に思い切り振り上げられたチャドの右腕が捉えた。

『おっと!全体重を乗せたかのようなチャンピオンの強烈なアッパーがサコーの顎を捉えたっ!!身長2m10cm体重120㎏のセッカマ・サコーの巨体が重力が逆転したかのように浮き上がる!!そして長い長い空中散歩を終えてサコーの巨体がリングの外に叩き付けられた!!!』

 100kgを越す人間が宙を浮くという普通では考えられない光景に一瞬会場が沈黙した。

 二人の戦いを間近で見ていたレフェリーが一瞬の沈黙の後すぐさまリングの外へ降りてカウントを始める。

『ワン!……ツゥー!……スリィー!……』

 レフェリーがカウントを進めていくが顔を大きく歪んだ上、白目をむいている挑戦者が動く気配はまったくなかった。

 レフェリーのテンッ!という声と共にカンカンカンッ!と試合終了の鐘が鳴る。その声に観客が防衛に成功したチャンピオン茶渡泰虎に祝福するかのように歓声を上げる。

(見ているか、シバタ!)

 

 

 

 チャドはキズだらけになりながらもしっかりと立って観客の歓声に応えながら、心の中で尸魂界(ソウルソサエティ)にいる少年を思い浮かべた。

 




茶渡泰虎(さど やすとら)
通称チャド。プロボクサー。
最終話での王者決定戦では勝利してヘビー級チャンピオンになった(筆先文十郎独自設定)

セッカマ・サコー
チャドに挑んだ挑戦者。身長2m10cm体重120㎏とチャドを超える巨躯。
『かませ』と『雑魚』を組み合わせたような名前だが気のせいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

東空座町編第六話 粕人対破面

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


東空座町上空。

「ハァ……ハァ……」

死神になって上空に立つ粕人は追い詰められていた。

目の前の男は人間に近い姿をしていた。オールバックにキリッと長い眉毛に鷹のような鋭い目。すらりと高い鼻立ち。白いタクシード風の衣装にスラリとした体格と容姿は西洋のモデルか貴族と言われれば信じるほどだ。顎の部分に人間の顎の骨を思わせる仮面がなければ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

破面(アランカル)

 

(ホロウ)の限界を超えた戦闘能力を体得する事を可能した虚。

霊圧と差と危機管理能力が粕人に告げる。

 

逃げろ。

 

と。

しかし粕人は震える手で落ち着かせて右手を柄に置く。目の前の男が周囲にいた人々の魂魄を吸い込む所を見たからだ。ここで逃げれば多くの人が目の前の男の餌食になる。

東空座町駐在任務を負かされた自分が逃げるわけにはいかないという責任感が粕人に逃走という選択肢を消して対峙する道を選ばせた。

「ほお。破面№78ダダ・サルバドールを前にしても逃げないとは」

サルバドールは顎の仮面をまるで髭を撫でるように握る。

「君と私の差は歴然。このままでも勝てると思うが、一刻も早く魂魄が食いたい。だから一気にケリをつけるとしよう」

そう言うと仮面の男は(おもむろ)に刀に手を置いた。

「覆いつくせ影法師(ソンブラ)

刀を抜いた瞬間、サルバドールの仮面が壊れると同時に男の体が影に包まれる。

「なっ!?」

粕人は目を見開く。そこには隼を擬人化した男が立っていた。

「私の能力は影。影に変身した姿に我が身を変えることが出来る。こういう風に!」

鳥人間となった男が粕人の前から消えた。

「!グアッ!?」

反射的に横に跳んだ粕人は右わき腹を見る。死覇装と肉がわずかだが(えぐ)り取られていた。

「よく避けたな。お前の(はらわた)を抉り取ろうと思っていたのだが」

鳥人間となったサルバドールの口には粕人の死覇装の切れ端が咥えられていた。

(目で追うことが出来なかった、これが破面の力か……!)

今まで倒した虚とは明らかに違う実力さに粕人は唇を噛む。それでも粕人に諦めて殺されるという選択肢も逃げるという選択肢もなかった。あるのは目の前の敵を倒す。それだけ。

後ろに雑木林を見つけた粕人は行動に出た。

「縛道の二十一、赤煙遁(せきえんとん)!」

粕人の手から赤い煙が数メートルの範囲に立ち上る。

「そんなことをしても無駄だ!」

再びサルバドールが先ほどと同じように赤い煙の中に突っ込む。

「……」

サルバドールの嘴が驚愕の表情で固まる粕人の心臓を貫いた。

 

 

 

殺した。隼形態になったサルバドールが勝利の余韻に頬をゆがめた時だ。

 

パンッ!

 

粕人の携帯用義骸の風船が割れるような音にサルバドールは一瞬ドキッとする。そして本物の粕人を探す。

「ん?」

サルバドールの目に地上に血が転々としているのが見えた。地をたどるとそこは雑木林だった。

「なるほど。確かに隼形態では雑木林には入れない。考えたものだ。だが、甘い!」

鳥人間は笑うと雑木林に向けて急降下する。そして地面にぶつかるスレスレのところで再び影がサルバドールの全身を覆う。隼から狼に変身したサルバドールは地面に落ちる血の匂いを嗅ぐ。

「こちらに逃げたか。フッ、無駄なことだ」

狼になった破面は雑木林の奥に逃げる獲物に向かって駆け出した。乱雑する木々を器用に飛び越える。

「ハァハァハァ……」

すぐに獲物は見つかった。クズ同然の霊圧しか持たない死神は大木を背にえぐられた箇所の消毒を行っているところだった。木々に姿を隠しているとはいえ距離にして10メートルほど。狼の姿になったサルバドールにとっては机の上に置かれた鉛筆を手に取るような距離。にも関わらず粕人は治療を続けている。

死神(獲物)が気づいていないと確信したサルバドールは姿勢を低くし、飛び出した。勢いよく飛び出した狼は牙をむき出しにする。大きく開かれた口が粕人の首を噛み切ろうとした。

その時だった。

「!?」

ロケットのように飛び出した身体が宙で止まる。見ると近くに寄らなければ見えないほど細い糸が何本も自分の身体に絡み付いていた。

サルバドールは知らなかった。それが技術開発局の技術の(すい)を集めて開発した対破面用の捕縛用の糸だということに。

しかし中級大虚(アジューカス)のダダ・サルバドールにとって捕縛用の糸は強度が無さ過ぎた。力を込めると一本、また一本と千切れていく。脱出は時間の問題だった。だが戦いではその一瞬が致命的なことをサルバドールは忘れていた。

「グアアアッ!?」

前足に痺れ薬が練りこまれた毒針が幾本も刺さった。

それでもサルバドールの戦闘意識は途切れない。すぐに痺れを無視して力で捕縛用糸から抜け出した。

そして獲物の首を噛み切ろうとした時、自分の首がクルクルと宙に浮いていた。

(なん……だと……!?)

サルバドールが最期に見たのはいつの間にか間合いを詰め、刀を抜いた粕人が刀を収める姿だった。

 

 

 

か、勝ったのか……

ピクリと動かなくなった破面を見て、緊張の糸が切れた粕人はその場に倒れこんだ。

 




こんな破面が出したらいいのでは?というアイディアがありましたら感想の方にかいていただけると嬉しいです。

予定ではとあるレズビアンが気絶する粕人を回収する予定です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

東空座長編第七話 粕人はレズビアンな漫画家と会ったようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


「う~ん、どうしようかなぁ」

少し派手な柄のワンピースに身を包んだ、艶やかな茶色の髪を背中まで伸ばした眼鏡の女性は腕を組みながら考えていた。

本匠(ほんじょう)千鶴(ちづる)

空座第一高校卒業後は漫画家デビュー。とある社会的少数派(マイノリティ)が好む漫画を描いている。

次のネタ探しのため彼女は隣町にある古本屋で資料探しに出かけ、良い物がなく肩を落として家へ戻ろうとした時だった。

ふと空を見上げると赤い煙がモクモクと漂っていた。その煙から人らしき物体が下にある雑木林へと突っ込み、赤い煙が晴れた後に見えた鳥を人間にしたような物体が先に雑木林に降りた物体を追うように雑木林に急降下した。

 

これは何かネタになる(おもしろい)予感!

 

その直感に千鶴は雑木林に向かって駆け出した。

 

 

 

数分後。

千鶴が見たのは。義骸の中に入り戦いの隠ぺい作業をしていた葛原粕人だった。

「貴方、そこで何を?」

「え?ウガッ!」

突然声をかけられたことで驚いた粕人が足を滑らせ転倒。運悪く頭を打てば記憶喪失になってしまいそうな硬い石に頭をぶつけてしまい、気絶した。

「あっちゃ~、私。まずいことしたかも……。どこかに運ばないと……でもいくらこの人が小柄とはいえ私一人では。……何か道具があれば……!」

何か運ぶ物がないかダメ元で探す千鶴の目に一台のリヤカーが。

千鶴はそのリヤカーに粕人を乗せると自宅へ向かって引っ張っていった。

ちなみに“この男はネタになるに違いない”と考えている彼女の頭の中に警察に届ける、病院に連れて行くという考えはなかった。

 

 

 

「ん?ここは……」

目を覚ました男は、ここが見知らぬ場所だと気づかされる。

「あ、目が覚めた?」

「えっと……貴女は?」

「私は本匠千鶴。漫画家をしてます。貴方が倒れているところを私が連れてきたの。ところで貴方は?」

「あ、僕ですか?僕の名前は……………………ッ!?」

男は頭を抑えてうずくまる。

「ど、どうしたの!?大丈夫!?」

目の前でうずくまる男が尋常ではないことに千鶴は慌てて声をかける。

「ぼ、僕は……僕は…………誰なんですか!?」

男の衝撃的な発言に千鶴は目を丸くする。

「え、もしかして貴方。記憶喪失?……え、何か。何か思い出せないの?名前がダメなら住所とか電話番号とか」

それでも男は「わからない、思い出せない」と頭を抑えたまま首を振る。

「僕は、僕は誰なんだ……」

顔面蒼白でうずくまる男を心配しつつも、千鶴は別のことを考える。

 

やばい。ネタ作って原稿描かないと締め切り切っちゃう。

 

と。

だからと言って目の前の男を無視することは出来ない。そこで彼女は一挙両得の手に打って出る。

「そうだ、何か思いつく女性を上げていってくれない?」

「女性、ですか?」

キョトンとした顔で聞き返す男に千鶴は「そう」と大きく頷く。

「もしかしたら女性という全く関係ないことを思い出していたら、フッと自分のことを思い出すかもしれない。だから何か女性のことを考えてみて」

原稿のネタになるかもしれない、という本心を伏せて、千鶴は当たり障りの無い解決案を提案する。

そんな千鶴の思惑を知る由もない男は助言に従い思いついた女性を上げる。

「そうですね。まず砕蜂という小柄で隠密機動の女性ですかね」

「隠密機動?」

「あぁ、忍者みたいなものです」

千鶴の疑問に男は答える。

「その女性は自分を連れて行ってくれなかった夜一(よるいち)という先代を恨んで殺そうとしたことがありまして――」

その時千鶴の頭に閃光が走る。

(そうだ!抜け忍となった先代を捕まえた現頭領の女性が“アニメ規制”や“アニメ規制”なことをして先代くの一を“アニメ規制”にする展開はどうだ!?)

「いい、良いじゃないの!」

「え、何がですか?」

「あ、ごめん。こっちの話」

ペコリと頭を下げた千鶴はその後も男に様々な女性のことを聞きだす。

胸が大きく背の高い優しい四番隊隊長(ナースのような人)

胸元が大きく開き、首にアクセサリーでお洒落な性格の十番隊副隊長(グラマラス女性)

死覇装(せいふく)をミニスカートにした自称『スケベではなく、興味津々なだけ』なだけの八番隊隊長(余所の偉い人)

しごかれてみたい一番隊副隊長(秘書のような人)。など……。

男が上げる女性に、千鶴の頭のネタ帳がみるみる内に埋まっていく。

(いい、良いわ……これであと10年は戦える!)

某ロボットアニメで出てきそうなセリフを心の中で言い放つと、と千鶴は「今日はこちらに泊まってください。もう夜は遅いので」と男を家に泊めさせた。

その後。仕事部屋に閉じこもった千鶴は奇声を上げながら頭のネタ帳が消え去る前に原稿にペンを走らせた。

 

 

 

翌日。砕蜂の執務室。

現世にいた隠密機動が渡すべきか渡さぬべきか迷いに迷った上で渡すことに決めた資料を砕蜂に手渡した。

渡された資料を見て隠密機動総司令官は怒りで体が震えていた。

そこにあった資料には自分と思われるくの一が敬愛する四楓院夜一と思われる女性を縛りつけ、性的な拷問をしている描写が描かれていたのだ。

「何故私が!夜一様にこのようなことをしなければいけないのだ!逆ならばいざ知らず!……ッ!!」

どうすればいいか分からず困った顔をする部下に、ギッと睨みつけながら「今さっき言ったことは忘れろ!」と言い放つ砕蜂。

その後。その漫画を描いた漫画家と葛原粕人が接触したことを知ると、「あの男か」と言い捨てた。

その瞳には部下達が思わずのけぞるほどの憤怒の炎を灯した砕蜂の姿があった。

 

 

 

ちなみに粕人は次の日には自分のことを思い出し、再び仕事に戻っていった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

東空座町編第八話 破面現世に行く

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


 十二番隊に組み込まれた破面(アランカル)、通称(くろつち)(むくろ)部隊(ぶたい)は現状に飽き飽きしていた。

 十二番隊に組み込まれたとはいえ、彼らは死神とは敵対関係である破面。行動は制限され自由に動けるのも十二番隊が管理する敷地内。

 中でも一番ストレスが貯まっていたのは。

「なんであのチビがいる場所が分かっているのに殺しにいけないのさ!」

 現世で日番谷(ひつがや)冬獅郎(とうしろう)千年(せんねん)氷牢(ひょうろう)に閉じ込められズタボロにされたルピ・アンテノールだった。

 同じ骸部隊であるドルドーニとチルッチが執心する一護と雨竜は現世。現世に行く術がない彼らには諦めることが出来る。しかしルピが『次に会ったらゼッタイキミのその小っこいアタマ ネジり切って潰してやるからさ!』言った相手は尸魂界(ソウルソサエティ)。二人と違って手に届く距離にいる。

 何度脱出を試みたがそのすべてが涅マユリや彼らと接触する機会が多い粕人によって阻止され続けた。ちなみにクールボーンは自分を殺した相手は忘れたらしいので執心する相手と戦えないストレスはない(らしい)。

 そんな彼らのストレスを感じとり、かつ東空座町に赴任することとなった粕人は上司のマユリに「現世ならどうでしょう?」とダメ元で聞いた。

 意外にも答えは是だった。

 その際設けられた条件は二つ。

 一つ目は彼らが人間とほぼ変わらないマユリが作った特別義骸に入ること。

 二つ目は、葛原粕人が彼らを管理すること。

 こうして現世で行動する際の必要最低限の知識を教えられたドルドーニ達は当たり障りのない服装に着替え、葛原粕人のいる東空座町に降り立った。

 

 

 

「じゃあこれに乗って下さい」

 五人が乗っても余裕のある大型の車に、粕人は四人を招待した。

「で、小さいぼうや(ニーニョ)。我々をどこに連れて行ってくれるのだね?」

 助手席に座るドルドーニが運転席の粕人に声をかける。

「そうやぁ、ボクも聞いてないけど」

「まあ、ゴミが連れて行くところなんて大したことないだろうけど」

「美しくて余裕のあるあたしは逆にどんな所に連れて行ってくれるのか楽しみだけど」

 後ろのルピ、チルッチ、クールホーンが好き勝手なことを言う。

「まあ、それは行ってからのお楽しみですって」

 そう言って粕人はエンジンを入れて発進する。

 車は快調に道を進んでいく。

「ねぇ、おっさん。さっきから何読んでるの?」

「ん?現世の運転マニュアルというやつだ」

 後ろから覗き込みながら尋ねるルピにドルドーニが答える。

「ところで小さいぼうや(ニーニョ)。現世では『自動車』というものを運転するには『運転免許証』というものが必要らしく、それを取得するには『教習所』というところで運転と勉強をしないといけないようだが。よく駐在任務をしながら運転免許証とやらを持てたな」

「やだなぁ、ドルドーニさん」

 感心するドルドーニに、粕人は運転に集中しつつ満面の笑みで答える。

「駐在任務で忙しい僕が運転免許証(・・・・・)なんて(・・・)持っている(・・・・・)わけがない(・・・・・)じゃないですか(・・・・・・・)

「「「「……………………」」」」

 その言葉に車に長い沈黙が流れる。

「……小さいぼうや(ニーニョ)。とりあえずそこの路肩(ろかた)に車を止めよう」

 赤信号で止まるや否や、ドルドーニは車が止められる場所を指さしながら提案する。

「え、路肩(・・)って何ですか?」

「「「「……………………ッ!!」」」」

 ガチャガチャガチャ!!バンバンバンッ!!ダンダンダンッ!!

「嫌だ!こんな所にいては命がいくつあっても足りん!吾輩はここで降ろさせてもらう!!」

「ルピ!クールホーン!何やってんのよ!!さっさとドアを開けなさいよ!!」

「さ、さっきから開けようとしてるんだけど!!」

「ドアが開かないのよ!!」

 ドアが手元にある三人はドアを開けようとするがうんともすんとも言わない。これが本来の身体ならば力づくでドアを破壊して外に出ることも出来ただろうが、今の彼らは人間並みの力しか出せない。

「あ、この車は見た目は普通の車ですが防弾ガラスなどを使って並の兵器では壊すことが出来ない頑丈な造りになってます。あと運転中はロックがかかってますからエンジンを切らないと外に出られませんよ。それから」

 そう言ってどこから取り出したのか粕人はガスマスクをつける。

 何故ガスマスクを?

 その疑問はすぐに解けた。なぜならば天井から怪しい突起が出現すると禍々しいまでに緑色のガスが噴出した。

 窓が開いていない車内という密閉した空間に、緑色のガスはあっという間に充満する。

 そして。

「「「「……………………ッ!!」」」」

 ガスを吸い込んでしまった四人は口をパクパクさせながら動けなくなっていた。

「このガスは痺れ薬です。安心してください。一時間くらいしたら元に戻りますから」

 そういう問題じゃない!!

 そう言いたい四人だったが痺れ薬で舌も動かせない彼らにその言葉は粕人には届かない。

 その後車は高速道路に入りビュンビュンスピードを出す粕人を見て、恐怖に震えることも出来ない四人は思った。

 

 頼むから、無事に帰らせて。

 

 と。

 その後温泉に連れて行ってもらった四人は存分に温泉を楽しんだのだが、その楽しさは帰りの車で一気に吹っ飛んだのは言うまでもない。

 

 

 

 こうして破面の現世での息抜きは無事終了し、四人は尸魂界に帰って行った。

 彼らにトラウマを残して。

 




この小説はフィクションです。良い大人も悪い大人も自動車を運転する際は免許証を取得してから運転して下さい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

東空座町編第九話 粕人、偶然通りかかった親父二人に命を救われる

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


 東空座町上空。

「くっ!?」

 死神になった粕人は虚に包囲されていた。

「どうしたどうした?」

「逃げてばかりではなく攻撃したらどうだ?」

「もっとも攻撃する余裕があればの話だがな」

 鳥、蝙蝠、モモンガを模した虚が避けるのに精いっぱいの粕人をせせら笑う。

(落ち着け葛原粕人。敵の挑発に乗るな!機会を見るんだ……)

 正気を失い攻撃に転じようとする自分をなだめる粕人。

 浦原商店から針や苦無などの飛道具を入手した粕人は攻撃に転じようと思えば出来た。

 しかし針や苦無も一つの目標()に集中しなければならない。一対一ならまだしも今は複数の敵に囲まれている状態。一体の敵に集中すれば他の敵にガラ空きなったところを攻撃される。

 粕人の弱点。それは多方向の攻撃に弱いことだった。

 前回倒した破面のように隙と十分な罠と粕人の居合で斬れる相手ならば格上の相手も倒せる。しかし今回のように罠や遠距離用の攻撃も使う暇がないほど多方面から攻撃されれば、遠距離の攻撃力が乏しい粕人には苦戦を強いられるのは必然と言えた。

 機動力が高い者ならば瞬時に間合いを詰めて各個撃破も可能だろうが、霊力がカス同然の粕人には瞬歩で間合いを詰めることは不可能だった。

(どうする、どうする葛原粕人!?)

 粕人は猛攻を避けながら考える。

(逃げるというのは可能だ。しかしここは住宅地。今ここで僕が離れたら多くの人が被害に。……それは出来ない)

「ならどうする?」

 猛スピードで遥か上空から急降下してきたモモンガの体当たりを避け、鳥と蝙蝠が口から放つ塊を上下に飛んで回避する。

(だったらここは赤煙遁(せきえんとん)と携帯用義骸で敵の隙を作り一体を仕留める。仲間がやられたことに動揺する間にもう一体を撃破。そして一対一に持ち込む。それしかない)

 自分が導き出したわずかな可能性にかけ、粕人は実行に移す。

「縛道の二十一、赤煙――」

 ドゴオオオオオオォォォンッッッ!!

「え?」

 赤煙遁を発動させることに集中していた粕人は一瞬何が起きたのか理解できなかった。

 上空にいる粕人の耳に届く轟音が届いたのとほぼ同時に右腕が焼けるような強烈な痛み。見ると先ほどまではあった右腕が吹き飛んでいた。

「――――――――ッ!!??」

 大量に血が噴き出す激痛に耐えながら粕人は轟音が聞こえた方向を見る。そこには大砲のような腕をした巨大な虚がニヤリと笑っていた。

(しまった……敵はこいつらだけじゃなかったのか!?)

 他にも敵がいたことに気がつかなかったという動揺が生み出した隙を見逃さず、モモンガ虚がはるか上空からの急降下し粕人めがけて突進する。

「ウワアアアアアアァァァァァァッッッ!!??」

 体当たりをもろに受けた粕人はそのまま地面に激突する。

「ゴホッ!ゲホッ!……うっ、ちくしょう……!?」

 立ち上がろうとする粕人が、止まった。

「終わりだな、死神」

 先ほど右腕を吹き飛ばした大砲虚が粕人の顔に大砲を押し当てていたからだ。

(く、利き腕が吹き飛ばされ顔の前に砲口を向けられては……何かしようにも目の前の大砲の方が早い!)

 もう自分の生死は敵の思うがまま。

 恐怖で固まる粕人に虚は喜悦の表情を浮かべる。

「死神っていうのは単純な奴だな。空を飛んでる奴らで全員だと思い込んで俺のことを忘れているんだからよ。ま、だからこうして俺はお前ら死神を狙い撃つことができるんだけどよ。じゃあ、お前も他の死神達と同じく俺達が骨の髄まで食べてやるよ」

 そう言って大砲を発射させようとした、その時だった。

「俺からも言わせてもらえば。戦場では新たな敵が出ることもあるってことを教えておいてやるよ」

 背後からの声に粕人を射殺そうとした虚が振り向こうとしたがその機会は永遠に失われた。なぜならば彼は振り向く前に頭から股下まで斬られていたからだ。

 泡のように消えた後、粕人の前に斬魄刀を肩に担いだ死覇装を着た、がっしりとした体格の髭面の男の姿が映る。

 突然大砲の虚を一刀両断にした死神の出現に空を飛ぶ虚たちは右往左往する。

 ここから逃げるべきか、それとも戦うべきか。しかしその迷いは一瞬にしてなくなった。何百という矢がもたらした死によって。

「ふん」

 その矢を放った、眼鏡をかけた銀髪の脆弱さは感じられない細身の男は一瞥するとさっさと弓を片づけた。

「あ、ありが――」

「じゃあ、坊主。風邪ひくなよ」

 携帯していた補肉剤で右腕を再生させると突然現れた死神と滅却師(クインシー)にお礼を言おうとする粕人に、二人は颯爽と立ち去っていった。

 まるで近所で悪戯をしていた悪ガキに一言注意してからその場を立ち去るおじさんのように。

「……やはり遠距離でかつ多方面から戦える方法も考えなければならないか」

 名前の知らない男、黒崎(くろさき)一心(いっしん)石田(いしだ)竜弦(りゅうげん)に助けられたことを恥と思うでもなく虚に殺されそうになったことに怯えることでもなく、粕人は今回のようなケースへの対応策を模索するのであった。

 




そろそろ現世のネタが尽きたので尸魂界に戻ろうと考えてます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

東空座町編第十話 粕人はヒーローと会うようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。

この話は成田良悟先生が書かれた小説『BLEACH Spirits Are Forever With You』を元に作っています。
上記の小説を読んでいない、もしくは謎の子どもや謎の女性が知りたい方は後書きを読んでから読んだ方がいいかもしれません。(筆先文十郎が間違った&説明不十分な記載をしているかもしれないので『BLEACH Spirits Are Forever With You』を読んだことのある方がいましたら、この説明であっているか足りないところはないかなどの感想下さると助かります)


 東空座町郊外。

 一昔前の携帯電話を模した伝令神機(でんれいしんき)が表示する、大量の虚が一か所に集まっている場所から100mほどある森に、東空座町担当死神・葛原(くずはら)粕人(かすと)はいた。

 粕人は伝令神機で虚がまだ動いていないことを確認しながら作業を進める。

「数は約100。離散してこちら向かってきたら終わりだ」

 粕人の脳裏に先日空を飛ぶ三体の虚と自身の右腕を大砲のような腕をした虚に吹き飛ばされた苦い記憶がよみがえる。

 自分は遠距離からの多方面から攻撃に弱いと思い知らされることになった粕人は、同じ(てつ)は踏まないと浦原商店からあるものを注文した。

 それは粕人の身長を上回るバズーカ砲、対虚用追跡砲撃砲だった。

 店主の浦原喜助曰く、その砲撃砲は百発もの追跡機能を持つ砲弾が射程内にいる虚に反応し撃破する代物とのこと。

 欠点としては射程距離が100m弱と距離が短いこと。そして一度放ったら最後、砲身が持たず一回限りということ。そして、大王イカを釣り上げ持って帰ったことのある粕人ですら重いと感じるほど重量があること。

 粕人はずっしりと重い砲撃砲を肩に担ぎ、大量の虚が集まる広い屋敷に狙いを定める。

「機会は一度のみ。一応この周辺にも罠は仕掛けたが残った数次第ではこの罠も時間稼ぎくらいしかならないだろう。苦無や針には痺れ薬は塗ってあるからそれで生き残った虚に放ち各個撃破するしかない」

 これが更木隊長なら意気揚々と大量の虚がいる所に乗り込むんだろうな。そんなことを一瞬考えてから粕人は引き金に指をかける。

 大量の虚への対策に意識が向いていた粕人は気づいていなかった。霊力がない人間には見ることが出来ない糸が自分の身体に触れていることに。

「よし、……ッ!?」

 引き金を引こうとした瞬間、顔の右半分を髑髏の仮面で覆った破面と思われる女性が粕人の視界に一瞬入り、消えた。

 それが破面の高速移動、響転(ソニード)だと気づいた時には、

「ッ!?――――」

 粕人は持っていた砲撃砲を叩き落とされ後頭部を襲った強い衝撃に気を失った。

 

 

 

「こ、ここは?」

 目を覚ますとそこは十字架に張り付けられた男を中心とした絵が描かれた天井だった。粕人は以前見た絵であったことを思い出す。

 周囲を見渡すとそこは年季の入った甲冑やチャイナ服など統一感のない高そうな衣装が並べられていた。

 フカフカのベッドから出た粕人は自身の身体を確かめる。そこには先ほど森にいた時と同じ、死覇装の衣装に包まれていた。隠している針や苦無、毒薬、罠の道具もちゃんとあった。そして、自分の分身とも言える斬魄刀・幽世閉門も腰に携えてあった。

「ボハハハハハーッ!」

 両腕をクロスさせながら粕人と変わらないほどの霊圧を身に纏った一人の男が部屋に入ってきた。

「何者だッ!?」

 粕人は愛刀の柄に右手を置いていつでも抜けるように構える。突然部屋に入ってきた者を警戒しての行動だったが、それ以上にその男の恰好が粕人には理解しがたいものだったからだ。

 ドレッドヘアにピッチリとまとめられた口髭。キラリと輝くサングラスに、ド派手な真っ赤なマント。そのマントに負けないほどの煌びやかな衣装。彼の正体を知らない者に怪しいか怪しくないかと尋ねれば9割9分9厘が『怪しい!』と言うだろう。

「私が何者か?ならば説明しよう!私はドン・観音寺(かんおんじ)!迷えるソウルの声に耳を傾けるカリスマ霊媒師(れいばいし)にして、日本の25パーセントが認める正義のヒーローさ!」

「ドン・観音寺……」

 粕人はその名前を確かめるように呟く。

 

 ドン・観音寺

 

 粕人はその名前に聞き覚えがあった。

 粕人が敬愛する上司、(くろつち)マユリが隊士を爆弾として使用した件について四十六室に召喚されていた頃のことだ。

 ある罪(・・・)で無間にて禁固19500年の刑を言い渡された八代目十一番隊隊長、痣城(あざしろ)剣八(けんぱち)とマユリに殺されたはずのザエルアポロ(・・・・・・)グランツ(・・・・)と共に

 顔の右半分を髑髏の仮面で覆った女性破面(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)を追う命令を下された更木(ざらき)剣八(けんぱち)率いる十一番隊を妨害した(・・・・)、自称黒崎(くろさき)一護(いちご)の師匠。

 目の前の不審な男を敵と判断するべきか否か悩む粕人に老若男女からヒーローと慕われる男が指摘する。

「ボーイ、敵意がない相手に刀を抜こうとするのは失礼ではないかね?ユーは私のマイ一番弟子の一護と同じバトルスーツを着ているがもしやあのスキンヘッドのヤクザ・スピリッツの仲間なのかね!?」

 観音寺は持っていた杖をクルクルと回すとピタッ!と粕人に向ける。

(スキンヘッド?もしかしてそれは十一番隊副隊長、斑目(まだらめ)副隊長のことか?)

「確かに、失礼でしたね。無礼を―――」

 お許しください。そう言って刀から手を離し、頭を下げようとした時だ。

「あの先ほどの方は?」

 顔の右半分を髑髏の仮面で覆った女性破面(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)が部屋に入ってきた。

「破面!!」

 粕人は観音寺を守るように前に出ると幽世閉門を抜いた。突然の粕人の行動に意表を疲れた女性破面は辛うじて避けたものの頬に一筋の赤い液体が流れていた。

「あ、あの……」

 何が何なのか分かっていない女性破面に粕人は叫ぶ。

「死神として、ここでお前を倒す!覚悟しろ!!」

 抜いた刀を鞘に戻し、粕人は女性破面と対峙する。不審な男を守るために。しかしそれを止めたのは意外なことに自分が守ろうとしている男だった。

「ユーは何をしているんだね!敵意のないレディに刃を向けた上にロカ嬢の人形のように美しい肌を傷つけるなど……言語道断だ!!」

「え、貴方は何を言っているんです!?」

 レディという女性は死神と人間に敵対する破面。その破面に攻撃をしたことを責められるとは思っても見なかったからだ。

「あ、観音寺さん。私は気にしてませんから」

 傷が塞がった女性破面が激昂するドレッドヘアの落ち着かせようと声をかける。

 何が何なのか分からなくなっていた粕人をさらに追い込む出来事が起きた。

「ねえねえ、何してんの?」「さっきのお兄ちゃんが起きたの?」「遊ぼうよ遊ぼうよ」「俺 あ そび たい」「ハラヘッタ」「RRRRRRRRRRR……」

 少年少女人外の姿をした大勢の破面が部屋に入ってきたからだ。

「ギャアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァッッッッッッ!!??」

 

 敵である破面が自分の前に一気に現れる。

 

 その絶望的な状態に粕人は恐怖の悲鳴を上げた。

 

 

 数分後。

 万に一つも勝ち目も無いという状況によって諦めることで逆に冷静になることが出来た粕人に観音寺が説明した。

 女性破面がロカ・パラミア、子ども達がピカロという群体の破面で、町の平和を守る空座(からくら)防衛隊(ぼうえいたい)の一員だということ。普段は虚園にいる彼らだが今日はドン観音寺の別宅に遊びに来たこと。

 そうとは知らず倒しにやって来た粕人を女性破面のロカが帰刃『絡新妖婦(テイルレニア)』の力で第7十刃(セプティマ・エスパーダ)ゾマリ・ルルーの『双児響転(ヘメロス・ソニード)』をコピーして粕人をかく乱させた後気絶させたこと。

 説明を聞いても粕人は疑心暗鬼だったが敵である死神(自分)に一向に攻撃をしようとしない破面達に『目の前の男の言うことが本当ではないか』と思い始めていた。罠にはめるにしろその理由が見当たらなかった。

「貴女に一つお聞きします」

 粕人はキョトンとするロカの目をジッと見る。

「貴女と後ろの破面達は、この男に危害を加えるつもりはないのでしょうか?」

「はい」

 静かに、それでいて力強く答えるロカの言葉に、粕人は膝を折り頭を下げた。

「貴女達を疑った上数々の無礼、お許し下さい」

 彼女の言葉に嘘はないと悟った粕人は謝罪の言葉を述べた。

「おぉ!自分が間違っていると気づいたらすぐに謝る。そのスピリッツは大変素晴らしい!そんなユーを認めて私は君を黒崎一護(マイ一番弟子)石田雨竜(マイ二番弟子)に次ぐマイ三番弟子と認めよう。同時にユーを空座防衛隊と並ぶグレイトフルにしてマーヴェラス、そしてパーフェクトなヒーローチームの東空座防衛隊のイーストカラクラブラックに任命しよう!リーダーは無論この私、カラクラゴールド兼イーストカラクラゴールドの私だ!!」

 その後ドン観音寺のマイ三番弟子兼イーストカラクラブラックとなった葛原粕人は観音寺に命じられてピカロ達の相手をすることになった。

 贖罪と割り切った粕人はロカとピカロ達に猿柿(さるがき)ひよ()直伝の関西風お好み焼きを振舞った。その後ピカロ達に桃太郎やかぐや姫、人魚姫、フランダースの犬などの物語を語り聞かせた。

 日が昇り始め、ピカロ達と一緒に疲れて寝てしまった時には粕人の中にロカやピカロ達に対する敵対心はなかった。

 

 

 

「ドン・観音寺。感じる霊圧は僕同様カス同然だったがあの男とは別の力が感じられた。あの男は自らをヒーローと呼んでいた。敵である破面をも魅了する確かに彼はヒーローだ」

 そんなことを考えながら歩いていた粕人は忘れていた。今現在歩いている森が、対破面用に自らが幾重にも仕掛けた罠地帯だということに。

 

 

『spirits are forever with you(私はいつでも貴方と共に)』

 そんなことを呟きながら歩いていた粕人は地面からヒョコッと出た突起物を踏んだ。

 

 

 




『BLEACH Spirits Are Forever With You』のドン・観音寺
ザエロアポロ?の口車に乗りロカを殺そうとしたピカロとロカを探すゲームをし、廃病院で立っていたロカを記憶を失った自縛霊と勘違いした。
彼の優しさと弱者でありながらヒーローであろうとする姿が世界を救った。

ロカ・パラミア
26巻でヤミーの腕の治療をしていた女性。ザエルアポロによって人工的に生み出された蜘蛛型の中級大虚でザエルアポロの従属官。
成田良悟先生が書かれた『BLEACH Spirits Are Forever With You』のヒロイン。観音寺と接することで心を取り戻していく。

ヤミーに頭を潰されたが石などに自らの情報を残していたため復活。
帰刃『絡新妖婦(テイルレニア)』。反膜(ネガシオン)の糸で共有した情報をコピーし再現することができる。ただしあくまで糸・自身の身体能力による再現なのでバラガンの老いの呪いや愛染の崩玉の力など特殊過ぎる能力は再現できない。
また強大過ぎる能力はコピーに時間がかかり代償も大きい等限界も存在する。
虚園に帰った後はハリベルからピカロ達の面倒を見るように言われる。

ピカロ
群体の破面。特異な生まれを持っており、100を超える少年少女人外の姿をした存在。
子供特有の無邪気かつ残酷な性分で、遊び相手を見つけると己らや相手の死に頓着することなく壊れるまで遊び倒す。
観音寺とロカを探すゲームをして負けた。その罰ゲームとして空座防衛隊の一員となる。
ピカロの能力については涅マユリ曰く、『奴らは命を共有している(・・・・・・・・)。個体の一つが死にかければ、他の連中が微量に自らの霊圧を分け与えるのだヨ』。

ザエルアポロ(・・・・・・)グランツ(・・・・)
ザエルアポロ本人ではなく、ロカのバックアップによって生み出されたザエルアポロの知識と記憶を持った霊子の塊。後にそのことを自覚してシエン・グランツと名乗る。
第0刃だったザエルアポロが科学者として一度は十刃落ちしてまで切り捨てた戦士である兄の部分を持ち合わせている為、 ザエルアポロには無くなっていた闘争心と実力を持ち合わせている。
自分の存在を否定しかねない存在になりえたロカを破壊した上で彼女の能力を奪おうとした。
草鹿やちる曰く『剣ちゃんの新しいお友達』。

痣城剣八(あざしろ けんぱち)
ある罪で無間にて禁固19500年の刑を言い渡された八代目剣八。ザエルアポロ?の襲撃に便乗し無間から脱出。ロカの能力を得ようと彼女をつき狙う。
魂魄を改造し虚殲滅の尖兵しようと考えていた。
作中のある罪とは四十六室の許可の下、罪人の魂魄を改造して虚殲滅の尖兵を作り出したこと。その力に恐怖した四十六室は”痣城剣八が勝手に(・・・)罪人の魂魄を改造した”ことにした。
流魂街の住人の魂魄を改造しようとしたが零番隊が出ることを知ると自分を捕らえに来た京楽と浮竹に投降した。
更木剣八と一騎打ちで敗れた後は無間に帰る。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 粕人、尸魂界に帰還する

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


「あ~、一滴でマッコクジラ100頭を殺す猛毒が死神にはどれくらいが適量か人体実験したい!」

十二番隊隊長にして技術開発局のトップに立つ男、(くろつち)マユリは身体を小刻みに震わせていた。目は大きく見開かれ、ハァハァという口からは涎が流れている。

その症状は人体に詳しくない者でもわかるものだった。

 

禁断症状。

 

殺しても生き返りかつ殺された前後の記憶が飛ぶため後腐れない男、葛原(くずはら)粕人(かすと)。この男がいないばかりマユリは死ぬことを前提にした人体実験が出来ずにいた。むろん無断で人体実験をしてもいいのだが、マユリはかつて事情を知らない隊士を爆弾にした件で四十六室に呼び出されたことがある。尸魂界の最高司法機関である四十六室に呼び出されることに関しては何とも思っていないマユリだったが、すぐに結論を出さず無意味な時間ばかり食いつぶすのだけは我慢できなかった。故に危険度が低い人体実験で我慢していたのだがそれも我慢の限界だった。

「あ~、解剖がしたい!こうなったら空気中に無味無臭の毒ガスをまこうか~、それとも川に毒薬を落とそうか~」

そんな危険なことを局内で呟くようになっていた。

阿近を始めとする技術開発局員はそんなことをするとは思っていなかったが、過去に蚊を全滅させるために瀞霊廷を破壊する爆弾を使用しようしたこともあったため油断が出来なかった。

そうなった場合真っ先に被害を受ける可能性が高いのは自分達技術開発局員なのだ。仮に自分達に被害が起きなかったとしても上司の凶行を止めなかったとして処罰される。

また技術者としての実力はなくとも技術開発局雑用総責任者兼眠八號(ネムリはちごう)護衛役総責任者という雑用に特化した男の穴はあまりにも大きかった。

実験機器の運搬や掃除、清掃、提出書類の作成、調査任務、結果報告書の作成。

その大半をやらされていた粕人がいなくなったことで技術開発局全体の仕事が円滑に進まなくなっていた。

そして技術開発局で一番の被害者を受けていたのは粕人の仕事の大半を引き継いだ粕人を敵視する男、兵間(ひょうま)義昭(よしあき)だった。雑用で実験の時間が大きく削られた上、数多くの雑用をこなしていた粕人と比べられる。眠八號に読み聞かせをすれば泣かれる。

兵間のストレスは限界まで来ていた。

技術開発局の心は一つだった。

 

葛原粕人、早く帰ってきて!

 

その願いが届いたのか朗報が飛び込んだ。本来東空座町に赴任する予定だった七番隊隊士、山崎(やまさき)信吾朗(しんごろう)が現場復帰したのだ。

葛原粕人が急ごしらえの担当者ということもあり、粕人には尸魂界に戻るように指令が下された。

 

 

 

今すぐにでも死ぬことを前提にした人体実験をしたい涅マユリ、凶行に走りかねない上司を落ち着かせたい阿近を筆頭とする局員達の心は合致し、粕人に矢継ぎ早に尸魂界に戻るように連絡をしたのは言うまでもない。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章番外編 兵間義昭対葛原粕人

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


「せいっ、はっ。せいっ……!」

 背の高い引き締まった身体をした散切(ざんぎり)り頭の黒髪男が木刀を持って素振りをしていた。

 兵間(ひょうま)少輔次郎(しょうゆうじろう)義昭(よしあき)

 六年制の真央霊術院(しんおうれいじゅついん)を四年で卒業した秀才で、下級貴族兵間家の現当主義道(よしみち)の次男である。

 卒業するに辺り、霊術院は彼を多くの隊長・副隊長を輩出した五番隊に推薦したのだが兵間の研究をしたいという希望から十二番隊に配属されることになった。

 希望通り十二番隊に回された兵間は鵯州(ひよす)などの指導の(もと)で科学者としての道を着実に歩んでいた。

 ある程度技術開発局の仕事に慣れていた頃だった。今まで見たことのなかった一人の男を見かけたのは。

「あの人は誰ですか?」

「あぁ、二十席の葛原(くずはら)粕人(かすと)だよ」

 その時は何も思わなかった兵間だったが、粕人の技術開発局での仕事を見るに従い、全てにおいて自分の方が上だと確信した。

 何にするに置いても自分の方が上だった。義骸など高度な技術を必要とするものはもちろん、簡単な薬品の混合物を作るのも。

 対して粕人が行っている仕事と言えば書類整理や部屋の清掃など誰でも出来る仕事ばかりだった。

 兵間は我慢ならなかった。なぜ技術開発局としての仕事を満足に出来ない男が二十席という地位を与えられているのかが。

 護廷十三隊の席次は年功序列ではなく実力主義によってつけられる。席官に任命されるというのはその者が隊に必要とされた証であり全隊士の憧れである。

 そのような実力主義の席次に簡単な仕事しか与えられていない粕人が就任している。それが兵間には我慢ならなかった。例え二十席という下位であっても。

 

 あんな役立たずの地位など俺が数年で奪ってやる。

 

 そう心の中で誓った。

 そんな最中、兵間をさらにイラつかせる事件が起こった。眠八號(ねむりはちごう)誘拐事件である。

 兵間は直属の上司の鵯州と共に阿近を司令官とする眠八號奪還部隊に参加。粕人が仕掛けた幾数多の罠によって、眠八號がいる思われた頂上にたどり着くことができなかった。

 

 自分のような有能な男が下だと思っていた男が仕掛けた罠に負けた。

 

 その事実が兵間のプライドを傷つけた。

 

 あれはあいつが卑怯だったからだ。真正面から戦えば勝つのは俺だ。あの男より俺の方が強いということを証明してやる!

 

 その怒りを糧に、兵間は東空座町に赴任した粕人の大半の仕事を四苦八苦こなしながら研鑽に勤しんだ。

 そしてついに待ちに待った時が来る。本来東空座町に赴任するはずだった男と入れ替わる形で粕人が戻ってきたのだ。

 帰還するや否や、粕人は引き継ぎや現状把握などで局内を走り回った。おかげで兵間は粕人に仕事以外の話をすることが出来なかった。

 粕人が東空座町から帰還した一週間後。ついに兵間は行動に移した。

 誰もいない隊舎の廊下で粕人を呼び止めたのだ。

「葛原二十席。俺と真剣勝負をしてください」

「断るよ」

 そう言って粕人は再び歩き出す。そんな粕人の背中を見ながら兵間は叫ぶ。

「おい、アンタ。俺が怖いのかよ!」

「あぁ、怖いよ」

 兵間の方へ振り返り、粕人は言った。

「君と言う有能な人材を叩き潰してしまうのが」

 憐れんだ目で言う粕人に、兵間はキレた。

「お前みたいな役立たずが俺を叩き潰すだと!?ふざけんな!!今すぐ勝負しろ!!」

「……わかった。じゃあ今から一時間後に隊舎裏の修業場で勝負しよう」

 

 一時間後。大きく開けた平地に兵間は立っていた。約10メートルほどの距離に兵間が嫌悪する小柄な男、葛原粕人が立っている。

「勝負は……相手が参りましたと言わせたら勝ち、というのでどうですか?」

「あぁ、問題ない!」

 絶対に言わせてやる!

 そう意気込む兵間に粕人は驚きの行動に出た。地面に膝をつけて頭を下げたのだ。

「参りました」

 そう言うと膝についた砂を(はた)きその場を後にしようとする。

「ちょっと待てやッ!!」

「ん?どうかしましたか?」

 兵間の怒鳴り声にも特に気にした様子もなく粕人は振り返る。

「アンタ、俺のこと舐めてるだろう!正々堂々勝負しろよ!俺と正面からやりあって負けるのがそんなに嫌なのかよ!!」

「勝ち負けじゃないよ。兵間義昭というあと数年実績と経験を積めば席次を与えられるような人材を傷つけたくないだけだよ。君と言う人材を潰すくらいならこんな勝負の勝ち負けなんてどうでもいい話なだけさ」

「ふざけんじゃねぇぞッ!!」

 粕人の言葉に兵間は完全にキレた。カス同然の霊圧の男が戦えば自分が勝つと言い、かつプライドをかけた戦いを『こんな勝負』と言い切る姿に。

「戦いもせずに自分が勝つなんてどうして言い切れる?……あぁ、そんなこと言って本当は怖いんだろう?だってアンタはかつて護廷十三隊のお荷物部隊、四番隊に所属していたんだからな。そういう言い逃れして戦いを避ける負け犬根性は四番隊で染み込ませたのか?だったら当時隊長だった卯ノ花(うのはな)(れつ)という女も大したことないな!」

 兵間そう言い放った。兵間義昭の名誉のためにここに記すが、彼は本心で言ったわけではなかった。

 四番隊という補給・医療を行う部隊がいるからこそ前線で戦う部隊は迷いなく戦闘に全力を注ぐことが出来る。そして真央霊術院で卯ノ花烈という女性が100年以上も隊長を務めた偉大な人物であることは元四番隊の講師から教えられている(彼女が現在の十一番隊の原形を作った初代剣八で、護廷十三隊に取り立てられる前は『尸魂界史上空前絶後の大悪人』と呼ばれた大罪人だったことは黒歴史として葬られているため知らない)。

 四番隊及び卯ノ花烈を侮辱する発言をしたのは『葛原粕人という男が涅マユリと同じくらい卯ノ花烈という女性を生涯の師と仰いでいる』ということを古株の技術開発局局員達や粕人と親交がある四番隊平隊士・仏宇野(ふつうの)段士(だんし)から聞いたからだ。

 そしてこの挑発が兵間義昭という男の人生を大きく狂わせた。

「卯ノ花隊長が、大したことない(・・・・・・・)。面白いことを言いますね?」

 目の前の小柄な男が笑う(・・)。その笑みに遥かに背の高い兵間は思わず後ずさった。

 その笑みは。全ての光を呑みこんでしまいそうな暗い笑みだったからだ。偶然なのか、その笑みは無間にて更木剣八と剣を交える前に見せた卯ノ花八千流と同じ笑みだった。

「卯ノ花隊長が大したことがなかったか。あの方の(もと)で仕事の心構えなどを教えて頂いた元四番隊隊士、葛原粕人が見せてあげますよ」

 そう言うと粕人は兵間に背を向けて両手を上げた。

「……なんのつもりだ?」

 不可解な行動をする粕人に兵間は尋ねる。

「僕と貴方ではあまりにも力の差がありすぎる。だからその差を埋めるための枷です」

「枷、だと!?」

 自分よりも遥かに劣る霊圧しか持たない男がハンデと言って自分に背を向ける。さらに両手を上げてすぐに対応できない状況で。

 怒りの炎を燃え上がらせる兵間に、粕人はさらに続ける。

「なんならそこから鬼道を打ち込んでも構いませんよ」

「ふざけんな!お前なんて頭から一刀両断にしてやる!囲め、玄武陣(げんぶじん)!」

 兵間は自らの分身とも言える斬魄刀・玄武陣を抜くと刀の先に現れた光の六面の球を小柄な男に投げつける。粕人の身体に当たるか否かのスレスレのところで光の球はパカッと二つに割れ、粕人の身体を球の中に収めた瞬間、元の黄色く光る六面の球に戻る。

 光の球に包まれた粕人を見て兵間はニヤリと笑う。

「今アンタを包み込んだのは強固な結界。本来は自分を囲んで敵の攻撃を防ぐものだがこうして敵を拘束することも可能だ。その結界は玄武陣を持つ者、つまり俺以外の者は脱出不可能。中から攻撃しようとも弾かれるだけ!つまり、お前はその光の球の中で俺に斬り殺されるのを待つしかないんだよ!!」

 そう言って刀を振り上げながら間合いを詰めた。

 その時だった。

「え?」

 刀を振り下ろせば斬り殺せるという距離で地面が突然崩れたのだ。

「うわあああぁぁぁっ!?」

 底に大きく身体を打つ。それに追い討ちをかけるかのように大量の水が穴の中に注がれる。

「ウグッ、ゲホッ!……ガハッ!?」

 頭上から降り注ぐ大量の水が鼻や口に入り込み咳き込む。しかし大量の水によって兵間の身体は地面まで浮き上がる。

「ウッ……、ゲホゲホッ!!」

 胸を抑えて飲んだ水を吐く兵間の首に、鞘をつけた粕人の斬魄刀、幽世閉門が当てられる。

(意識が途切れたことで玄武陣の結界が消失したか)

 そんなことを考えている兵間に粕人は告げる。

「これで貴方は三回死にました」

「何だと?どういうことだ!?」

 激昂する兵間に粕人は淡々と告げる。

「一つ目は落とし穴。僕が底に槍などの突起物を仕掛けていれば串刺しになっていた。二つ目は頭上に降り注いだのは水ではなく土だったら、生き埋めになっていた。そして最後に僕が刀を抜いていたら、貴方の首はそこら辺に転がっていた」

「ひ、卑怯だぞ!正々堂々戦え!!」

 兵間の怒鳴り声に。粕人は笑った(・・・)。その笑みを兵間は知っていた。

 

 涅マユリ。

 

 己の優位が揺るがない時に見せる、敵を敵と見ていない残忍な笑みだった。

「卑怯?僕らはいつどこが戦場になるかわからない護廷十三隊に身を置いている。敵が背後から攻撃したからその者が卑怯と言うのですか?それは油断、もしくは気づいていなかった者の失態です」

「……」

「10年前。見えない帝国との戦いでは前線で戦っていた隊はもちろん技術開発局にも大きな被害が出ました。当時、更木隊長の監視という比較的安全な所にいた僕ですら長い間特別病棟に寝ていた(・・・・・・・・・・・・)くらいに」

 バンビエッタ・バスターバインを除くバンビーズと戦った記憶がない粕人はマユリ達に教えられた嘘を真実だと思い込み、そのまま続ける。

「護廷十三隊は常在戦場。いつ、どこで、誰が襲ってきてもおかしくない状況。敵が突然攻めてきても今みたいに『正々堂々戦え!!』と言うつもりですか?」

「……………………ッ!」

 兵間に反論する言葉は見つからなかった。悔しさに唇を噛み、うなだれたまま呟いた。

 

「ま、参りました」

 

 言いたくなかった。しかしどちらが勝者かわかった今この時点で負けを認めなければ本当の負けだと思ったからだ。

 その姿に粕人は微笑む。

「やはり僕の思った通り。兵間さん、貴方は凄い方だ。こうして完璧に負けたとしても自らの負けを認める事が出来る。その認めたくない所を認めることが出来る限り、貴方はもっと強くなりますよ」

 そう言ってうなだれたままの兵間に背を向けて粕人は歩き出す。

 しかし粕人は忘れていた。

 背を向けた自分の前に回りこんだ時の罠が今歩いている場所に設置していたことに。

 

 ピンッ!

 

「ん?」

 粕人がか細い糸を足で切った瞬間。

 

 ドゴオオオオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーンッッッ!!

 

 粕人が立っていたところを中心に推定5メートルの火柱が上がった。

 

 

 

「……」

 真っ黒焦げになってバタッ!と地面に倒れこむ粕人を、兵間はポカーンと見るしかなかった。

 




作中では書けませんでしたが、もし兵間が斬りかからず鬼道を放っていたら背中に入れていた反霊鏡というドラクエでいうマホカンタみたいなアイテムで跳ね返してました。

粕人が散々挑発じみたことを言っていたのはそう言えば兵間の性格上直接斬りかかってくると踏んだからです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第九話 粕人、眠八號と阿散井苺花の護衛をする前編

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。

この話は阿散井苺花の斬魄刀の能力を知らない(決まっていない)ので足踏みしている状態です。彼女の斬魄刀の能力を知っている、もしくはこんな斬魄刀はどう?というアイディアがありましたら感想に書いていただけると幸いです。


朝。技術開発局。

マユリに『外に落ち葉が落ちていたから掃除をしておけ』と言われた粕人が技術開発局に戻ると(くろつち)マユリと眠八號(ねむりはちごう)が口論をしていた。

「いいじゃないですか!マユリ様!苺花(いちか)ちゃんも一緒ですし!」

「ダメだ!子どもだけで遠くに出かけるなんて言語道断だ!」

眠八號が阿散井夫妻の一人娘、阿散井(あばらい)苺花(いちか)と遠くにいく約束をしており、それを父親であるマユリに(とが)められているらしい。

(確かにそうだ。どこに行くかは知らないけど、子どもだけで行くのは危険だ)

上司の言うことはもっともだ、と粕人は自分の仕事に戻る。その後も二人の言い争いは続く。

「今日苺花ちゃんと遊ぶ約束をしているんです!行かせてくださいマユリ様!」

「ダメだ!責任が取れる大人が一緒じゃないと遊ばせんぞ!」

「だったらクズさんがいたら問題ないですよね!?」

(はいっ!?)

突然自分の名前があがり動揺する粕人。これから昨日行われた研究結果のまとめた草書を清書しようとしていたからだ。

(まずい、これは……)

粕人の嫌な予感は的中した。

「よしそれならばいいだろう。クズ、これから眠八號のお守りをしろ」

「え、あの……涅隊長。僕、これから昨日の研究結果の清書を」

「それは別の者にさせておく。あぁ、心配するな。今日はお前が有給休暇を使ったことにしておくから安心してお守りに専念しておけ」

「え、これって涅隊長の命令で眠さんの護衛をするわけですから立派な仕事ですよね?だったら有給――――」

粕人は何もいえなかった。なぜならば瞬歩で粕人の背後に回りこんだマユリが首元に疋殺地蔵(あしそぎじぞう)を当てていたからだ。

「『今日、十二番隊第二十席兼技術開発局雑用係総責任者兼眠八號護衛総責任者、葛原(くずはら)粕人(かすと)自主的に(・・・・)眠八號の護衛をするため有給休暇を取った』。まちがいないかネ?」

今ここで死ぬか、貴重な有給休暇を犠牲にする代わりに生き延びるか。粕人の答えは一つだった。

「は、はい……その通りです涅隊長。僕は眠さんの護衛をするため有給休暇を取りました」

「よろしい」

満面の笑みを浮かべながら、マユリは刀を(さや)に戻した。

「あぁ、そうだ。クズ。眠八號をちゃんと護衛するんだぞ。かすり傷一つ負わすことになったら……わかっているな?」

「は……はい」

こうして粕人は眠八號と阿散井苺花のお守りをすることとなった。

 




前書きにも書きましたが、この話は阿散井苺花の斬魄刀の能力を知らない(決まっていない)ので足踏みしている状態です。彼女の斬魄刀の能力を知っている、もしくはこんな斬魄刀はどう?というアイディアがありましたら感想に書いていただけると幸いです。

あとこんな話はどう?というのもありましたらぜひお願いします。
ドラ○もんネタもありましたらお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章番外編 頑張れ希代ちゃん

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。

大前田兄妹がふと頭に浮かんだのでこんな話を書いてみました。
何か矛盾がありましたら感想の方に書いてくださると幸いです(例、十五席には別の人間がいるなど)。


 始めまして。私、護廷十三隊四番隊に所属しています大前田(おおまえだ)希代(まれよ)と申します。今日は私の一日を紹介しようと思います。

 

 朝五時。

 私は目を覚ますと軽く伸びをするなど体をほぐすとすぐに着替えます。

「こんな朝早くから掃除をする貴女を見ていると葛原(くずはら)を思い出すわ」

 朝早くから掃除をする私を見るたびに、私の直属の上司にあたる一葉(いちよう)音芽(おとめ)十五席はそうおっしゃいます。

 四番隊平隊士、仏宇野(ふつうの)段士(だんし)のお話によると葛原さんは四番隊に席を置かれていた方で、現在は十二番隊の第二十席で希次郎(まれじろう)三郎(さぶろう)お兄様の先輩に当たる方だそうです。

 ちなみに一葉十五席は、本名は仏宇野(ふつうの)音芽(おとめ)なのですが四番隊に夫にあたる仏宇野段士先輩がいらっしゃるので職務時は一葉を名乗っています。

 掃除が終わり朝の全体会議が終わると仕事が始まります。

 総合詰所で手当てを受けている方の治療はもちろん、治療中の方の体調管理と情報共有。医療品の在庫の確認。朝の時間にやった箇所とは別の掃除。色々とあります。

 また四番隊は救護・補給を専門とする部隊なので他の隊からは低く見られるところがあります。なので

 

「おい、なんだよこの飯!」

「俺ら十一番隊にこんなまずい飯くわせんのかよ!」

 

 このように救護詰所で暴れる方がいらっしゃるのは日常茶飯事です。

 四番隊には女性が多いのでセクハラをしようとする方もいらっしゃいますがそう言った方は大抵

 

「私の部下に手を出すなんていい度胸じゃないの?」

 女の私でも見惚れてしまうほど綺麗な顔を鬼のように変え、長く艶やかな黒髪を蛇のようにわななかせた一葉十五席が現れると「す、すみませんでした」とほとんどの人が謝ります。

 それでもひるまず一葉十五席に殴りかかろうとした方もいらっしゃいましたが、その時の一葉十五席は忍者のようにその方の後ろに回りこむと胴体に腕を回し後方に投げ飛ばしました。

 格闘技に詳しい仏宇野先輩によるとその技は『じゃーまんすーぷれっくすほーるど』という技だそうで、全身の筋力もさることながら、肉体の柔軟性も必要とされる難しい投げ技だそうです。

 ちなみにその『じゃーまんすーぷれっくすほーるど』を喰らった方は長期入院を余儀なくされ一葉十五席は虎鉄(こてつ)清音(きよね)副隊長にこっぴどく叱られたとか。

 その後一通りの仕事を終えると最後は回復・治療用の鬼道である回道の訓練。戦闘訓練が行われます。救護・補給専門と言っても四番隊は警察・軍事・治安を携わる護廷十三隊の一部隊。最低限の力は求められます。

 戦うことは苦手な私ですが最低限自分の身は自分で守れるようにと懸命に取り組みます。

 仏宇野先輩が「葛原も回道が全くできず十二番隊に異動になったが今では席次を与えられるまで成長した。だから腐れず努力すれば必ず身になるよ」と言われていましたから。

 そういった業務が終わりご飯やお風呂などを済ませるといち早く一人前になるために勉強、その後は明日に備えて就寝です。

 皆さんのお役に立てるようになれますように。

 そう心の中で祈りながら。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第九話 粕人、眠八號と阿散井苺花の護衛をする後編

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。

阿散井苺花が使う斬魄刀とその能力は筆先文十郎が想像して作ったものです。阿散井苺花の斬魄刀がすでにあるという情報がありましたら教えていただけると幸いです。

朽木ルキアを阿散井ルキアとしていますが、仕事中は『朽木』、それ以外は『阿散井』と分けているので間違いではありません。なので安心して読んでくださると嬉しいです。


 待ち合わせ場所に向かうと、そこには髪の赤い愛らしい顔の少女が上機嫌に鼻歌を歌っていた。

「あ!眠ちゃん、待ってた……よ」

 (ねむり)八號(はちごう)に気がつき、声をかけた少女が眠八號の隣にいる粕人を見て表情を一変させる。

「あんた、誰?」

 不機嫌な態度を隠そうともせず、赤い髪の少女、阿散井(あばらい)苺花(いちか)は尋ねる。

「僕ですか?僕は十二番隊第二十席、葛原(くずはら)粕人(かすと)と申します。貴女が阿散井苺花さんですね?貴女のことは眠さんから――」

「ねぇ、眠ちゃん。なんでこの人がついてきてるの?」

 苺花の無礼な態度に気にする様子もなく挨拶をする粕人を無視し、少女は粕人の隣にいる黒髪の少女に尋ねる。

「マユリ様が子どもだけだといけないと言ってクズさんを付き添いに連れて行くように言ったんです!」

 元気な声で質問に答える眠八號に苺花は「まあいいや、じゃあさっさと行こう」と眠八號の手を取って歩き出した。

「……」

(う~ん。年頃の女の子は難しいなぁ……)

 他所の隊とはいえ上官に当たる粕人に挨拶するどころか徹底的に無視をする苺花に、粕人は特に感情を荒立てることなく、三歩離れた距離を保ちながら二人の少女の後をついていった。

 

 

 

 一時間後。

「ねえ眠ちゃん。見て見てぇ!」

「わぁっ!すごい綺麗です!」

 苺花が連れて来た場所。そこは森の奥にある泉だった。泉の水がよほど澄んでいるのか、泉は周りの風景を上下反転にして周りの風景を映し出している。

 はしゃぐ二人を見て粕人は微笑む。

(眠さんはともかく、何だかんだ言って苺花さんも子供だな)

「おい、おっさん。何ジロジロ見てんだよ!」

 粕人の視線に気づいた苺花が睨み付ける。

「これは失礼しました」

(う~ん、嫌われてるな……)

 粕人は軽く頭を下げると近くの木の裏に隠れた。

「ねぇねぇ眠ちゃん。ちょっと手を入れてみて。すっごい冷たいよ!」

「あ!本当です!」

 木にもたれ、楽しそうにする二人の声を聞きながら、上を見上げる。

「綺麗な空だ。それに空気も美味しい。最近火山ガスが噴出する所とか空気がメチャクチャ薄い高山とかばっかだったからな。こうして美味しい空気を吸いながら割れる空を見るのもまた格別…………ッ!!??」

 粕人は勢いよく立ち上がり割れる空に視線を外すことなく懐から苦無を取り出す。

 苺花も気づいたのだろう。眠八號の手を引いて泉から出ると刀を抜いた。

 割れた空の奥からスッと白いワンピース風の服に緑色の髪を腰まで伸ばした、口元を露出させた骸骨の仮面を被った少女が現れた。

 

 破面(アランカル)ッ!!

 

 粕人と苺花の心の声が一致した。

「……」

 緑髪の破面は音もなく三人の視線から消えると近くの木の枝に座った。

「あんた、誰よ!?」

 自分達を見下ろす少女破面に声を荒げる苺花。

 その問いに答えることなく、緑髪の破面は刀を抜きながら小さな声で呟いた。

息吹(いぶ)け、大樹王女(プランタプリンセサ)

 刀を抜き終えると同時に彼女の身体に絡まるように何本もの緑色の蔦が現れる。

「……」

 木の幹に手を触れ、少女が仮面の奥で小さく笑う。次の瞬間、彼女の触れた木の根が、まるで触手のように粕人達の方へ向かってきたのだ。

「クッ!」

 数ある斬魄刀の中で一、二位の切れ味の悪さを誇る幽世閉門で、目の前までせまった鋭く尖った太い根を居合斬りする粕人。

(のぼ)れ!青龍丸(せいりゅうまる)!!」

 苺花の斬魄刀・青龍丸の刀身・鍔・柄が澄んだ水を凝縮させたようにうっすらと青い透明色に変わる。

(そめ)太刀(たち)青龍刃(せいりゅうじん)』!」

 振り上げた刀を一気に振り下ろした。

 刀身から紙よりも薄い水の刃が迫りくる根を斬り落とし、その先にいた少女に向かっていく。

「……」

 空に浮かぶ緑髪の破面がさっきまでいた場所を見下ろす。そこには自分が座っていた木とその後ろにあった木が、まるで包丁で切った豆腐のように地面に転がっていた。もしその場にとどまっていれば、刃の通さない強度を誇る『鋼皮(イエロ)』を持ってしても重傷は避けられなかっただろう。

「眠ちゃん、急いで逃げて」

 刀を構えたまま苺花は背後にいる眠八號に促す。

「だ、ダメです!腰が……!」

 少女破面の攻撃に腰を抜かしてしまった眠八號は起き上がることができなくなっていた。

「おい、あんた!眠ちゃんを連れて逃げろ!」

「苺花さん。眠さんを連れて逃げて下さい!」

「「んッ!?」」

 二人の声が重なり、二人が同じ言葉を言い放つ。二人はわかっていた。目の前の敵が眠八號を庇いながらでは戦うことが出来ない相手だと。

「苺花さん!ここは僕が引き受けます。だから――」

「こうなったのも私の責任だ!私がこいつを倒す!!あんたはさっさと眠ちゃんを連れて逃げろ!!」

「……ッ!」

 赤い髪の少女が譲らないことを悟った粕人は恐怖で固まる黒髪の少女を抱えて駆け出した。

「……」

 背を向けて逃げ去る粕人に拳に霊圧を集めたものをボクシングのジャブのように打ち出した。

 

 虚弾(バラ)

 

 虚閃(セロ)には威力は劣るものの虚閃の二十倍の速さで打つことが出来る攻撃技。

 しかし緑髪の破面の放った虚弾は途中で消滅した。

「あんたの相手は私だ!」

 苺花が青龍刃で虚弾を相殺させたからだ。

 邪魔をした苺花をジッと見ながら、少女破面は真下の木の枝に降り立ち、木の幹に触れた。

 

 ババッ!バババッ!!

 

 地中から再び鋭く尖った太い根が苺花に襲い掛かる。しかも今度は一本ではなく数本が様々な角度から押し寄せてくる。

「青龍刃!」

 赤い髪の少女は間合いを取りながら迫りくる根を全て斬り落としていく。

「……」

 緑髪の少女が霊力のこもった手で幹を撫でる。するとさきほど斬られた箇所から再び鋭く尖った根が現れ、再び苺花に襲い掛かる。

「クソッ、青龍刃!」

 苦虫を潰したような顔で再び襲い掛かる根を斬り落としていく苺花。

 苺花が根を斬り落としては少女破面が根を復元させて再び襲い掛からせる。

 そんなことが数分行われる。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 苺花は肩で息をしていた。汗で髪が張り付き、疲れて目の前の景色がぼやけ、今にも倒れそうなほどに

 疲労がたまり刀を構えるだけでも重労働なほどに。

 そして。薄い青色の半透明の刀は普段から持ち歩いている斬魄刀と同じくらいまで戻っていた。

 青龍刃は予め溜めていた水を使い攻撃や防御に使用する。その水がゼロに近いほど枯渇した状態では彼女に勝ち目がなかった。

 それでも赤い髪の少女は刀を構える。

「……」

 そんな苺花を見ながら、少女破面は地面に降りると霊圧が溜まった掌を地面に当てた。すると先ほど以上の木の根が現れ、苺花を囲むように出現する。

 戦う意志に満ちた顔が絶望に変わる。そんな顔を肴に、少女破面は地面から手を離し立ち上がると、先ほどまで地面に触れていた手を下に下ろした。

 それが合図だったのだろう。十数本の根が同時に苺花に向かって襲い掛かった。

 

 ブシャアッ!!

 

 肉を貫き血が飛び散る音。しかしそれは苺花の身体から洩れたものではなかった。

「な、なんで……」

 苺花の前には眠八號と共に逃げた男、葛原粕人が立っていた。その背には数本の根が刺さっている。

 眠八號を安全な場所に移した後、粕人は急ぎ苺花の元に戻ってきたのだ。左右後ろから苺花に襲い掛かっていた根は持っていた苦無や針、毒薬で潰したが正面まで手が回らなかった。

 このままでは苺花の身体に当たると思った粕人は迷うことなく彼女の前に立ち、自分の身体を盾に苺花を貫くはずの根を受け止めた。そして粕人は目の前で驚く少女をさらに驚かす行動に打って出る。

 

 グサッ!

 

「え?――」

 苺花の斬魄刀、青龍丸を自身の身体に突き刺したのだ。粕人の血を吸い、見る見るうちに赤くなる青龍丸。

「やれ!阿散井苺花!!」

 青龍丸が赤く染め上ったのを見届けると粕人は刀を抜き目の前の少女の名を叫び、地面に倒れ込んだ。

 粕人の言っている意味を即座に理解した苺花は自分が見下した男に助けられた自分への怒りや、男の行動を無駄にするわけにはいかないという使命感など様々な感情が入り混じった涙を浮かべながら

 

裏初(うらぞめ)の太刀、赤龍刃(せきりゅうじん)!!」

 

 刀を振り下ろした。

 攻撃する手段を失ったと油断した緑髪の破面は避けることも防御することも出来ず、赤黒い刃を正面から喰らってしまった。

 真っ二つに斬られた少女破面。その少女破面に付着した赤い血はみるみる内に緑髪の少女の身体を溶かしていき、ついには最初からいなかったかのように真っ二つに斬られた身体は消滅した。

 真っ白な顔で何かを口に放りこむ粕人を心配しながら苺花は尋ねる。

「なんで、なんで私を庇った上にあんな無茶な真似を!葛原二十席!?」

 涙を流しながらあんた呼ばわりしていた男の名前を呼ぶ苺花。そんな少女の頭を、粕人は優しく撫でながら言った。

「僕の任務は、眠さんと苺花さんの護衛、ですから……」

 飲みこんだ丸薬で多少回復したものの立っているのも難しい状態の粕人だったが、そんなことを露にも出さず目の前の少女に心配かけまいと優しい笑みを浮かべた。

 

 

 

 数時間後。

「ウッ……――――」

 無事眠八號と苺花を連れて帰った粕人は綺麗に折りたたまれたままの布団の上に倒れ込んだ。

 

 

 

「お、おい。どうした苺花!?」

 部屋でくつろいでいた六番隊副隊長、阿散井恋次は突然自分の胸に飛び込み噛み殺せていない声で泣き始めた愛娘にうろたえながら尋ねる。親にも泣いた姿を見せないからだ。

「……ううぅ、十二番隊の……葛原二十席に。……キズ――」

 

 をつけてしまった。

 

 そう呟く前に恋次は愛娘を優しく自分から離し、立ちあがる。

 怒りに燃える顔は自身の髪にも負けないほど赤く染め上っていた。

「おぉ、恋次。顔を真っ赤にさせてどうしたのだ?」

 愛娘が夫の部屋にいると聞いた苺花の母親、阿散井(あばらい)ルキアが部屋を出ようとする恋次に声をかける。

「すまないルキア。苺花を頼む。俺はこれから苺花をキズモノにしてくれた葛原って男をたたっ斬ってくる!!」

「え、ちょっと待て!待つんだ恋次!!」

 止めようとする妻の声も聞かず、恋次は飛び出していった。

 

 

 

 数分後。

 未だ部屋で横たわる粕人の部屋からこの世の物とは思えない断末魔の悲鳴が十二番隊隊舎に木霊した。

 




青龍丸(せいりゅうまる)
筆先分十郎版阿散井苺花の持つ水系の斬魄刀。始解をすると刃も柄も鍔も青い半透明に変わる。蓄えていた水が枯渇すると普通の斬魄刀に戻る。補充すれば再度可能。
初の太刀、青龍刃は粕人の居合い斬りを上回る威力を持つ。
血で青龍丸を満たした場合、赤龍丸に変わり裏初の太刀、赤龍刃は青龍刃に斬った対象物を溶かす効果が付属される。

ベルデ・アルアッワーム
粕人達の前に姿を現した緑色の髪をした少女姿の下級大虚の破面。植物を操る能力を持つ。無口で名前を名乗るように言われても告げることはなかった。
帰刃は『息吹(いぶ)け、大樹王女(プランタプリンセサ)
名前の由来はスペイン語で緑とスペインで活躍した植物学者イブン・アルアッワームから。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第十話 粕人は最強最狂の死神に目を付けられたようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


 粕人は自室で瀞霊廷通信にある占いを読んでいた。

『9月14日A型の方。今日は涅隊長に目を付けられ更木隊長に追い回されるくらい最悪な一日になるでしょう。幸運を切り開くラッキーアイテムは赤色の物。血にまみれた身体を隠してくれるでしょう!』

「それでどんな幸運が切り開かれるんだ!」

 占いに突っ込みを入れる粕人。

「ま、占いは占い。どうせ外れるさ!」

 そう言って小柄な男は懐にいれた白いハンカチを取り出し、赤いハンカチを懐に入れなおした。

 

 

 

 一時間後。

 粕人は上司である(くろつち)マユリに中庭に呼び出されていた。

「クズ、こいつをつけろ」

「おとととっ!」

 奇怪な顔の上司が投げる物体を慌てて受け止める。見るとそれは大砲の砲口部を模した筒だった。

「見ただけで理解できないクズに、この私がわかりやすく説明してやろう。それは高圧縮空気弾。手にはめて撃とうと考えると空気の衝撃波が発射させるという仕組みだヨ」

「あぁ、『ドカン』と言う行程が意思に変わったところを除けばドラ○もんの空気砲――ッ!?」

 慌てて口を押さえる粕人だったが、遅かった。何故ならば目が笑っていない笑みを浮かべながらマユリが刀を抜こうとしていたからだ。

()(むし)れ『疋殺(あしそぎ)――」

「い、いいい、いいえ!何でもありません涅隊長!!撃とうと考えるだけで空気の衝撃波が発射させるなど僕ら凡人には永久に思いつかない発想を思いつきかつそれを実現してしまうその発想力と実現能力!!流石は涅隊長です。これぞまさしく尸魂界(ソウルソサエティ)のエジソン!涅マユリ!!!」

 バクバクとなる心臓の鼓動を感じながら賞賛の言葉を贈る男に、マユリは「エジソンなどと比べられてもネ」とまんざらでもない笑みを浮かべて刀を元に戻す。

「というわけで適当にそこの壁でも撃て」

「え、でも……」

「いいから『撃て』というのがわからんか!なんなら0距離でお前の腹を撃ってもいいんだぞ!」

「は、はい!わかりました!!」

 高圧縮空気砲を右手にはめると、粕人は壁に向けて空気砲を放った。

 

 ドゴーーーーーーンッ!!

 

 空気の衝撃波は壁に大きな穴を開けた。その威力の凄さをさらに際立たせるかのように大量の土ぼこりが宙に舞う。ふと強烈な風が土ぼこりを遠くに運び、

 

「!!??」

 

 粕人は恐怖で固まった。なぜならばそこには腹を押さえて片膝をつく鬼も恐れる十一番隊隊長・更木(ざらき)剣八(けんぱち)がいたからだ。

「久しぶりだな、ガキ。確か葛原粕人……とかいったか。さっきの攻撃、なかなかのもんだったぜ」

 粕人の上司であるマユリとはまた違う不気味な笑みを浮かべながら剣八は立ち上がって剣を抜く。

「久しぶりに俺と遊ぼうぜ!!」

「イヤアアアアアアァァァァァァッッッ!!!!」

 ガハハハハハッ!!と笑いながら向かってくる剣八に、粕人は脱兎の如く逃げ出した。

 

 

 

 その後流魂街から遠く離れた荒野で『生き残るためには最強最狂の死神を殺すしかない』と考えた粕人は使用者の腕や身体を動かし、握っているだけで相手と戦うことができる妖刀殲滅丸(ようとうせんめつまる)と着続けている限り手足が麻痺しても骨が砕けても鎧の力が続く限り動き続けることができる死守天装(ししゅてんそう)を装着。さらに筋肉を増強したり減少したりと筋肉の量を自分の意思でコントロールすることが出来る筋肉調節剤、一粒食べれば100日分のカロリーが摂取できる丸薬を数粒、顔に塗ってから丸い物を見ると狼男に変身しその者が持っている本能を爆発させるため本来眠っている力をフルに出せる戦闘能力増強クリームを服用。

 並の死神なら数秒で死に絶えるであろうドーピングに次ぐドーピングで自分と命のやり取りをしようとする、戦いに魅せられた死神に襲い掛かった。

 

「すげぇ、すげぇぞ!久しぶりに本気でやりあえるぜ!!」

 

 そんな粕人を前に、剣八は満面の笑みを浮かべた。

 歩法の達人、隠密機動総司令官・砕蜂(ソイフォン)に近い機動力と前七番隊隊長・狛村(こまむら)左陣(さじん)に迫るほどの腕力、冷静に戦況を見極め的確な判断を下す京楽(きょうらく)春水(しゅんすい)の足元に及ぶ的確な動き。

 速・力・知。すべてを兼ね備えた強敵に、剣八は眼帯を外し自分に牙を向く強敵との死闘を楽しんだ。

 

 

 

 粕人が白骨死体寸前までやせ細り絶命するその時まで。

 




筋肉調節剤が膨大なカロリーを必要とすることを失念していたので『一粒食べれば100日分のカロリーが摂取できる丸薬』をつき足しました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章番外編 希代ちゃんは見た

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


 皆様はじめまして。私四番隊隊士の大前田希代と申します。今日は記憶に残る一日を紹介しようと思います。

 

 

 

 ある日。

「大前田さんですね?一葉(いちよう)十五席はいらっしゃいますか?」

 

 救護詰所に見るからに人の好さそうな、悪く言えば周りにたくさんの仕事や無理難題な仕事をおしつけられていそうな小柄な男が希代に話しかけてきた。

 

「はい、今呼んできます……あ、失礼なのですが……お名前を窺ってもよろしいでしょうか?」

「あぁ。これは失礼しました」

 目の前の男が照れくさそうに頭を下げた。

「僕は葛原(くずはら)粕人(かすと)。十二番隊で二十席をやらせていただいています」

「!?……し、失礼しました」

 自分より小さい男に希代は勢いよく頭を下げる。

 席官と護廷十三隊に入ったばかりの平隊士では大きな差がある。他所の上官である男が自分を知っていていたにも関わらず自分は上官のことを知らなかった。

 上官に無礼なことをしたと思った希代は自責の念で目に涙を溜めていた。

「き、気にしないで下さい。大前田さん!貴女の事は貴女の兄の大前田(おおまえだ)希次郎三郎(まれじろうさぶろう)や貴女の先輩にあたる仏宇野(ふつうの)段士(だんし)から聞いていただけですから!あと僕、威厳とか風格とかそういうのないからこないだなんか他所の平隊士に顎に使われて」

 今にも泣きそうになる希代を男は必死になって慰める。

「ふふ、ふふっ、あはははっ!」

 自分よりはるかに上の上官があたふたとしながら自分を慰める。その光景に希代は「申し訳ございません」と謝りながらも笑っていた。

 そんな希代に気分を害すことなく男は微笑んだ。

「あ、葛原!」

 奥から希代の直属の上官で指導役の女性で男の無二の親友である仏宇野段士の妻、一葉(いちよう)音芽(おとめ)が姿を現した。

「一葉十五席、おはようございます」

「おいおい、普通に一葉って言ってくれよ」

「いや、こういうけじめはちゃんとしないと」

 楽しそうに談笑しながら二人は奥の部屋へと下がって行った。

(そういえば葛原二十席は一葉十五席に何の用があったんだろう?)

 気になった希代はこっそりと二人が下がった部屋に聞き耳をたてる。

 

『……この薬……強すぎて……』

『ならこれなら……遅効性……バレない』

 

(よく聞こえないけど何か怪しい会話している!?)

 話をもっとはっきり聞こうとドアに耳に当てる。その時だった。

「マイハニー!愛してる~!」

 廊下の端から全力で走ってきた先輩隊士、仏宇野段士に驚いた希代が扉から離れると佛宇野は一目散に二人がいる部屋に入った。

 

『上官になんて言う口を聞いているんだ!このクズ亭主!!』

『ウギャアアアアアアァァァァァァッッッ!!』

『何で僕までぇぇぇぇぇぇ!?ヒギィイイイィィィィィィッッッ!!』

 

 ボキッ!!バキッ!!ボギィッ!!ブチィッ!!

 

 間接が外され、骨が折れ、砕かれ、肉が飛び散る音が部屋の外にも響く。

「あ、ああああああ…………」

 中で行われると思われる阿鼻叫喚に、希代は青ざめた顔でそっと救護詰所に戻って行った。

 こうして自分と似ていると言われていた葛原粕人と出会い、上官である一葉音芽の恐ろしさを改めて知ることになった希代の忘れられない一日は終わった。

 

 

 

 余談になるが仏宇野が部屋に飛び込まなければ苦無を持った一葉がドアを貫通する威力で希代に投げつけていた上、忘却剤を持った粕人によって記憶を消去されていたのだが、大前田希代にそれを知ることはなかった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第十一話 阿散井苺花は自分の目で葛原粕人を判断したいようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

作中の用語。
霊王護神大戦。見えざる帝国との一連の戦いの総称。


 技術開発局。

「クズ。隊舎の屋根瓦がはがれてしまっている所があるから直してこい。あと点検も」

「あ、あの……(くろつち)隊長。僕、就業時間が――」

「何か言ったかネ?」

 粕人の首にはいつの間に抜かれたのか、マユリの斬魄刀・疋殺(あしそぎ)地蔵(じぞう)が当てられていた。

「あッ!!僕、思い出しました!!隊舎の屋根瓦がはがれているのが気になっていたんだ!!わぁ、思い出したらすぐに修理したくなってきた!!あと他に危ない所がないか点検したくなってきました!!というわけで今すぐ修理に向かわせて下さい、涅隊長!!」

「いいだろう」

 そう言ってマユリが疋殺地蔵を鞘に戻すと、粕人は大急ぎで修理道具を持って隊舎に向かって行った。

 

 

 

 カチャカチャ。パンッ!

「よし。これでいいな」

 落ちた瓦を回収した後、粕人は無事に瓦を張り直した。ちゃんと瓦が固定されたことを確認した粕人は汗を(ぬぐ)って立ち上がる。

「さてと。今度は他に危ないところを点検することにしよう」

 

 

 

 十二番隊舎(ねむり)八號(はちごう)専用浴室。

 ヒノキがふんだんに使われた浴室ではお互いの身体を洗った眠八號と親友の阿散井(あばらい)苺花(いちか)が湯につかっていた。

「ねえ、眠ちゃん。私、前々から聞きたかったことがあるんだけど?」

「何ですか、苺花ちゃん?」

 元気な声で答える眠八號に苺花は続ける。

「眠ちゃんにとって、葛原二十席ってどんな人なの?」

「お母さんみたいな人です!苺花ちゃんは前に言ってましたよね?『お母様と一緒にいると安心する』って!クズさんと一緒に居たり声を聞いたりすると安心します!だからクズさんはお母さんみたいな人です!」

(やっぱり聞いていたのと違うな)

「ふ~ん、そうなんだ」と相槌を打ちながら、苺花は自分が得た葛原粕人という男の情報を思い出す。

(十数年前は四番隊にいたけど仕事が出来なさ過ぎて十二番隊に異動。技術開発局では主に掃除や書類整理、書類作成などの雑用を押しつけられる。10年前の霊王護神大戦で行方不明になっていたが後に復帰。多くの隊員が死亡・依願除隊・引退したことで二十席に昇進しただけの、ゴキブリのようにしぶとく生き残った実力のない男。あとエロい)

 それが葛原粕人に対する阿散井苺花の評価だった。

 それが眠八號と二人きりで遊びに行こうとした時以上に、同行した粕人を邪険にした理由だった。

 実力と成果、人間性で隊長・副隊長にのし上がった両親を持つ彼女にとって、運だけで出世した粕人は侮蔑する対象に過ぎなかった。

 そんな男に助けられたことは自分にとって恥であったことと同時に、自分が周りの評価だけで葛原粕人という男の実力を見誤った無知であると思い知らされた。

 だから苺花は知りたかった。葛原粕人という男がどんな男であるかを。他人の評価ではなく自分で判断するために。

 そのために自分より多く接している眠八號に聞いた。あまり参考にならなかったが。

「ところでさ、葛原二十席って結婚してるの?」

 苺花は別の質問をする。葛原粕人はエロい。その疑問を明らかにするためだった。女性関係がはっきりさせることで葛原粕人がどんな男なのか判断する材料にするために。

「結婚はしてないです!」

「じゃあ彼女は?」

「彼女は四人いらっしゃいます!皆さんとても美人な方です!」

(美人な女性を四人も!?なんて節操のない奴だ!!)

 本当は竹馬棒たちに一方的に求愛されているだけなのだが、そんなことを知らない苺花は男の節操のなさに怒りに燃えていた。

 その時天井がミシィと嫌な音がした。

 

 

 

 一分ほど前。

「う~ん。この辺は大丈夫そうだな。おや?」

 粕人の視線が止まる。そこは眠八號専用浴室の天井だった。

「あれ、あそこ瓦が割れているなぁ。急いで取り替えないと」

 浴室に眠八號と苺花が入っていることなど知る由もない粕人はゆっくりと瓦が割れている所に歩みを進めていく。

「さぁて」

 割れた瓦を回収した、その時。

 

 ビュウッ!!

 

「うわぁ!?」

 突然の突風に粕人はバランスを崩し、先ほど回収した瓦があった所に全体重をかけた。

 

 

 

(待てよ、眠ちゃんはそう言っているけど四人の女性と付き合っているとは限らないんじゃないのか?ここは自分の目で確認しないと)

 苺花がそう考えた時だった。

 

 バアアアァァァンンンッ!!

 

 天井から何かが落ちてきた。

「ッ!?」

 かばうように眠八號の前に立つ苺花。

「いたたたたっ……」

 そんな苺花と身体をさすりながら起き上がる粕人の目があった。

「あ、あの……」

 申し訳ございません。これには訳が。

 そう粕人が弁明する前に苺花は脱衣所に置いていた青龍丸を解放すると

「死ね、女の敵!青龍(せいりゅう)(じん)!!」

 恐怖で固まる男に向かって躊躇(ちゅうちょ)なく水で出来た刃を放った。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第十二話 葛原粕人は夢か現か確かめるようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。

今回の話は残酷な描写が出ます。苦手な方は読まないことをお勧めします。


「クズ。お前には夢はあるか?」

 資料を収めようと資料室に向かおうとする葛原(くずはら)粕人(かすと)は廊下で上司の(くろつち)マユリに呼び止められていた。

「夢ですか?そうですね……」

 上司の問いに粕人は腕を組んで考える。

「四番隊の隊花である竜胆の花言葉『悲しんでいるあなたを愛する』を具現化した前隊長の卯ノ花(うのはな)隊長のような死神になりたいですね」

 

 それと他人に理解されなくても自分のやり方で皆に貢献する涅隊長のような死神に。

 

「その夢じゃないヨ!」

 そう言おうとした言葉は上司の突っ込みによってかき消された。

「お前に聞いているのは実現したい夢ではなく寝たときに見る方の夢だ!」

 そう言って奇怪な顔の上司は続ける。

「もう一度聞こう。クズよ、お前は寝るときに見る方の夢は見る方か?」

「夢ですか夢は……」

 

 特に見ることはないですね。

 

 そう言おうとする言葉を、粕人は口の中で止める。

(待て、葛原粕人。涅隊長は夢があるかないかと聞いているのだぞ?ここで『特に見ることはないですね』なんて言ってみろ。一気に不機嫌になった涅隊長が何をするか分からんぞ?例えば、『だったら今すぐ夢が見られるように麻酔なしの解剖や王水に全身を浸かるなどして恐怖に満ちたところで睡眠薬を飲ませるとしようかネ』など恐ろしいことを言いかねないぞ!!)

「あぁ!!よく見ます!!もうバリバリ見ますよ、涅隊長!!」

 やや棒読みの部下の言葉に、マユリは満面の笑みを浮かべる。

「そうかそうか。それなら良かった。もし『夢は特に見ることはないですね』なんて言おうものなら『だったら今すぐ夢が見られるように麻酔なしの解剖や王水に全身を浸かるなどして恐怖に満ちたところで睡眠薬を飲ませるとしようかネ』と考えていたところだったヨ」

「あ、そうなんですか」

 本当にするつもりだったのか、この人!?とは露にも出さず粕人は笑顔で答える。

「さて、そんなよく夢を見るお前のためにこんなものを開発した」

 そう言ってマユリはどこからかキャタピラの上に白い手のようなものがついた物体を取り出す。

 

 何ですか、これ?

 

 そう聞く前にマユリは説明する。

「見ただけで理解できないクズに、この私がわかりやすく説明してやろう。これは(ゆめ)(うつつ)確認機(かくにんき)。これを使えば体験している出来事が夢か現実かを確かめられるようになる機械だ!」

「あぁ、これってドラ○もんの夢た○かめ機ですね。『ド○えもん のび太の南海大冒険』で活躍した以外はネタにしかならない『なんでこんなひみつ道具作ったの?』って言われる――ッ!!」

 男は慌てて口を押さえるが、遅かった。何故ならば目が笑っていない笑みを浮かべながらマユリが刀を抜こうとしていたからだ。

()(むし)れ『疋殺(あしそぎ)――」

「い、いいい、いいえ!何でもありません涅隊長!!夢か現か確かめるなんて僕ら凡人には永久に思いつかない発想を思いつきかつそれを実現してしまうその発想力と実現能力!!流石は涅隊長です。これぞまさしく尸魂界(ソウルソサエティ)が生み出した奇跡、涅マユリ!!!」

 叫ぶように賞賛の言葉を贈る男に、マユリは「尸魂界(ソウルソサエティ)が生み出した奇跡。悪くはないネ」と満足な笑みを浮かべて刀を元に戻す。

「というわけで早速使ってみろ」

「あ、はい……」

 マユリに渡されると粕人はしぶしぶ使うことにした。

「今現在、僕は夢を見ている!」

 粕人の言葉に反応し、夢現確認機は小柄な男のほっぺたをつまんだ。

 

 

 

 数秒後。

 マユリの前には夢現確認機に首がもげるほど引っ張られ、頭を失った(・・・・・)葛原粕人の胴体があった。周囲には目の前の男の血が飛び散って悲惨なことになっている。

「うむ。夢現確認機の引っ張る力を強くしすぎたみたいだ。これは改良するべきだネ」

 そう言ってマユリは夢現確認機を回収すると研究室に歩みを進めた。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第十三話 粕人はとある浴室と自室を入れ替えられたようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。

この話はこんなのを出してみては?という提案をきっかけに作りました。提案してくださった方にこの場を借りてお礼申し上げます。


 兵間(ひょうま)義昭(よしあき)は考えていた。葛原(くずはら)粕人(かすと)に一泡吹かせる方法はないかと。

「というわけでドラ○もんの『へやこ○かんスイッチ』を参考に部屋交換スイッチという道具を作ってみた。この部屋交換スイッチは、部屋を別の部屋と交換するスイッチで、これを交換元の部屋の壁に取り付けて、交換先の部屋がある方角と距離を指定してスイッチを入れると、互いの部屋が空間を越えて入れ替わるというもの。ちなみに室内の人間と、その人が身につけている物は転送されない。というわけで」

 兵間は粕人の部屋に誰もいないことを確かめるとビデオなどのリモコンに似た道具を壁につけると、とある部屋を指定すると部屋を後にした。

 

 

 

 一時間後。

「ふう、疲れたなぁ」

 仕事を終えた粕人は自室の扉を開けて、固まった。そこは浴室だったからだ。

「……どうなってんの、これ?」

 パニックになりかけつつも粕人は浴室をくまなく調べ、壁に何かあったのを確認する。

(こ、これはドラ○もんに出てくる『へやこうかんス○ッチ』じゃないか!?何でこんなのが僕の部屋に!?)

 そしてふと気づく。床に髪の毛が落ちていることに。

 粕人はその髪の毛を拾う。長くはないが短くもない青に近い黒髪。

「……」

 粕人は瞬時に理解した。この浴室が誰の物であるかを。

 死を覚悟した粕人は部屋交換スイッチの解除ボタンを押した。

 部屋を戻した粕人は逃げ出すように十二番隊隊舎を出た。

 その数分後。

「葛原!!貴様と言う奴は!!」

 そこには髪をぬらしたままの二番隊隊長兼隠密機動部隊総司令官、砕蜂(ソイフォン)が粕人の部屋の扉を開いた。

 自分が来ることを察知して逃げ出したことを悟った砕蜂は最低限の人員を残して動ける隠密機動を動員して粕人を探させた。しかし情報収集に特化した隠密機動を持ってしても葛原粕人を発見することは出来なかった。

「おのれ!あのすけべめ!どこに姿をくらました!!」

 

 

 

 その頃。地下特別監理棟。

「葛原さん。何であんたがこんなところに」

 囚人服を着たハゲ頭の大男、両角(りょうかく)は目の前で資料作成をする小柄な男に呆れながら声をかけた。

「ちょっとほとぼりさめるのを待ってね。口止めに協力してくれたら……」

 そう言って粕人は懐から一冊の本をチラッと見せる。そこには砕蜂に良く似たくの一が四楓院(しほういん)夜一(よるいち)に良く似たくの一に服を脱がされようとしている表紙があった。

「そ、それは!?くの一凌辱シリーズ『くの一快楽調教!これを味わってもうてはもう里は抜けられまい』の続編!!」

「他にもあるよ。『金髪むっちんぷりんのお姉さんが(いや)してア・ゲ・ル♥』、『白衣の巨乳ナースの夜のご奉仕』、『真面目なメガネ秘書が社長と二人きりで・・・』他にもそろえているよ」

 

「流石は葛原さん!」、「俺達が求めるものを持ってきてくださるなんて!!」、「流石は俺達の神、葛原粕人!!」

 

 蛆虫の巣に収容されている囚人たちが賞賛の声をあげて(たてまつ)る。

「それじゃあほとぼりさめるまで、お願いしますね」

 こうして蛆虫の巣の囚人の協力もあり粕人は葛原粕人捜索隊が解散されるまで見つかることはなかった。

 無断欠勤したことでマユリに説教をくらったが、蛆虫の巣にいる間に今まで出来なかった大量の資料をまとめ報告書を作成していたため一ヶ月の減給で済んだ。

 

 

 

 ちなみに諸悪の根源、兵間義昭は一週間謎の腹痛に襲われた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

葛原粕人死後の世界で

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。

この話はバンビーズに破れて復活する間までの話です。

この話は”更木剣八と卯ノ花烈の最期の決闘を粕人が見る”という感想から閃いた話です。この場を借りてお礼申し上げます。


 粕人が目を覚ますとそこは赤黒い空間だった。上下左右、どこを見渡しても赤黒い空間が広がるだけで、空も地面もなかった。

 そこは死後の世界で生者が死者へと変わる狭間の空間。数えきれないほどこの空間に来たことがある粕人だったが、生き返る度に記憶が消えている粕人は初めて見るかのように見た後に考える。

 

 ここはどこだ?何で僕はここにいる?

 

 粕人は思い出す。

 たしか。更木隊長の救援が来る時間稼ぎのために見えない帝国の星十字騎士団と交戦して……

 そこで記憶が途切れる。否、バンビエッタ・バスターバインを除くバンビーズと戦った記憶がみるみる内に消え失せていた。ついには更木剣八と星十字騎士団の一人、グレミィ・トゥミューと交戦していた所を見届けるまで記憶がなくなっていた。

 

「ん?」

 ふと後ろに何かが現れた気配を感じ、粕人は振り返る。

 そこには重々しい真っ黒な巨大な扉が開いていた。そしてその開いた扉の前には一人の女性が立っていた。

「う、卯ノ花隊長!!」

 死んだと聞かされていた自分の生きる道を示してくれた大恩人に向かって走り出し、

「……ッ!?」

 粕人は思わず立ち止まった。

 目の前に立つ女性は間違いなく卯ノ花烈だった。しかしその顔は粕人が今まで一度も見たことが無かった顔、尸魂界で護廷十三隊に入らなければ投獄されていた大罪人・卯ノ花八千流の顔だったからだ。

「……卯ノ花、隊長……なのですか?」

 尋ねられた女性は心臓を鷲掴みするような薄い笑みを浮かべる。

「……!?」

 その笑みに粕人は思わず下がっていた。

「私の顔を見て、私が卯ノ花烈だと分からないとは……やはり貴方を四番隊から(・・・・・)追い出した(・・・・・)のは正解(・・・・)だった(・・・)みたいですね」

「え?……う、卯ノ花隊長……貴女はいったい……何をおっしゃっているのですか……」

 粕人は震えながら尋ねる。目の前の女性が言った言葉が信じられなかったからだ。

 

(あの時、僕に異動をすすめたのは……僕を思ってのことだったのでは!?)

 

 嘘だといってくださいと心から願う粕人に、かつての上司は口を開く。

「この距離から聞こえなかったのですか?だったら分かりやすく説明しましょう」

 侮蔑の笑みを深め、粕人が大恩人と慕う女性は言い切った。

「貴方のような目障りな存在を私の()えある四番隊から涅マユリ(あの男)の隊に追い出した判断は間違いではなかった、そう言ったのですよ。クズ」

「……………………」

 大恩人の言葉を信じられず、粕人は呆然と立ち尽くす。嘘だと言ってほしい。先ほどの言葉は冗談だと言ってほしい。その望みにかけて目の前の隊長に訴える。

「卯ノ花隊長、それって……嘘ですよね?だって卯ノ花隊長は僕のために……僕という男の存在を思って……十二番隊の異動を勧めてくれた……だって卯ノ花隊長は言っていたじゃないですか!?十二番隊なら活躍できる才能があると!!」

「……あぁ。そんなことも言いましたっけ。貴方のようなクズに才能があると、私が思っていたと本当に思っていたのですか?」

「……………………」

「まあ。その嘘を信じてしまうところが、クズがクズだという所以(ゆえん)でしょうね」

「だ、だったら……僕に居合を教えてくれたのは何故ですか!?僕を追い出したいのなら、そんなことをしなくてもいいはずです!?」

「貴方はクズとはいえ私の四番隊にいたのですよ?そのまま他の隊に追い出しては、私の隊長としての力を疑われるじゃないですか。だから適当な理由をつけて貴方に居合を教えたのですよ。『卯ノ花烈は何も教えていなかった』と言われないように」

「……………………」

 

 ドサッ!

 

 粕人はその場に両膝をつき、項垂(うなだ)れる。自分の道を示してくれた大恩人が言う言葉に。

「まあ、居合を教えたところでクズはクズ。あの涅マユリ(バケモノ)とちょうどよかったわけですが」

 ハハハハハハッと哄笑する元上司の笑い声を聞きながら、粕人は頭を下に向けたままゆらっと立ち上がる。

「卯ノ花隊長。貴女が僕を十二番隊に異動させた理由が僕を(うと)んじてだったとしても。貴女に感謝する気持ちは変わりません。なぜならば“卯ノ花烈のような誰かのためになれるようになりたい”という感情が僕を成長させたのですから……だが!」

 頭を上げた粕人の目には烈火のような怒りに満ちていた。

「僕は貴女と同じように(くろつち)マユリという男を尊敬している!やり方こそアレで自分の知的好奇心を優先するところはあるけれど、自分の才を理解出来ず恐怖する者達のために自らの才能と頭脳で救おうとする涅隊長を!」

 右手に愛刀・幽世閉門の柄を握り左足を下げながら続ける。

「僕にとって言われなきことで卯ノ花隊長と涅隊長を侮辱されることは自分が馬鹿にされること以上に許せない!例え卯ノ花隊長、貴女であっても!!故に、涅隊長をバケモノ呼ばわりしたことを、撤回していただきたい!!でなければ、貴女に教えて頂いた居合を貴女に向けます!!」

「ふ、それは私の台詞(せりふ)です」

 粕人同様、卯ノ花烈も斬魄刀・肉雫唼(みなづき)の柄を握り、左足を下げながら続ける。

「この私をあの涅マユリ(バケモノ)と同列に扱った無礼。そのクズな命で償ってもらいましょう」

 

 

 

 いつでも抜ける体勢のまま、二人は一向に動かない。

(これが隊長……なのか!?)

 粕人の身体は汗でぐっしょりと濡れていた。曲がりなりにも数々の戦いを経験してきた粕人の危機管理能力が自分と卯ノ花烈との実力差を把握してしまったからだ。一瞬でも意識を途切れさせれば間違いなく斬られる。また相手が動けばその動きに対応できるものでないと。目の前の元上司が動かないのは自分に警戒しているのではなく、正面から(・・・・)斬れば(・・・)それだけで(・・・・・)終わるから(・・・・・)自分より遥(・・・・・)かに劣る粕(・・・・・)人がどう動(・・・・・)くのか見て(・・・・・)いるだけ(・・・・)

 と。

「……」

 

 一瞬でも気を抜けば斬られる。

 

 乾く喉のために口が唾液を出していることにも気がつかず、粕人は目の前の元上司を見続けていた。

「葛原粕人。貴方は人が良すぎる。人が良いから騙され、利用される」

「……」

 突然投げかけられた言葉に、粕人は警戒を解かずその言葉を聞く。

「護廷十三隊に甘さは不要。葛原粕人、貴方は甘すぎる!虫唾が走るほど!!」

(本当に、……何も変わっていない)

 かつての上司は心の中で笑う。呆れるような、それでいて嬉しいような笑みを。

 葛原粕人という男は何も変わっていない。誰に対しても優しく、他人のために自分の時間を潰す。人が良すぎる。

 それが彼女の評価だった。

 自分も仕事で疲れているはずなのに皆が気持ちよくなれるという理由で人より早く起きて掃除を行っていた。仕事を早く覚えようと仕事で気づいたことをメモに書いていた。人が酒や趣味などの娯楽に興じている中、休日など空いた時間に本を読んで知識を得ていた。

 自分の犠牲にして他人のために貢献しようと行動する。

 

 だからこそ気づいてほしかった。もっと自分を大事にしろと。

 教えたかった。もっと自分の為に時間を使えと。

 他人のことばかり考えていたら、自らを滅ぼすことになると。

 

「クズ、せめてもの情けで教えておいてあげましょう。貴方は他人(ひと)に騙され、利用されて、死ぬ。甘さを捨てない限り、あの涅マユリ(バケモノ)などに」

「卯ノ花隊長!!」

 涙を流し悪鬼の如く女上司を睨み付けながら間合いを詰めた粕人は刀を抜いた。

 刹那のような一撃を

「ふふっ」

 卯ノ花烈は完全に間合いを外し、ギリギリ当たらない最小の動きで避けた。その時だった。

「……ッ!?」

 粕人の左手には鞘が握られその鞘がギリギリで躱した自分の顔に迫ろうとしていた。

 

 殺サナケレバ殺サレル

 

 初代剣八として生きた戦士の本能が自身の意思に反して、無意識の内に刀を抜いていた。

 そして刀を抜きながら気づく。目の前の男の左手の動きが一瞬緩んだのを。

 

 バシュュュュュュッッッ!!

 

「ッ!?」

 卯ノ花烈が見た光景、それは自らの居合で斬られたかつての部下が、血飛沫をあげながら倒れる姿だった。

「葛原さん!」

 地面に倒れ込む部下に、悲痛な顔を浮かべながら近づく。

「なぜ、なぜ貴方はそのまま鞘を打ち下ろさなかったのです!?あの時の私は虚を突かれてしまった。あのまま鞘を下ろせば、私に斬られることはなかったはず!なのに何故!?」

 涙を流していることに気づかず叱責するように尋ねる烈に、粕人は息絶え絶えに答える。

「卯ノ花、隊長……。貴女に殺気がないのは……気づいて、おりました……あんなことを言ったのは……僕に、気づかせるため……だったのでしょう?」

「だとしても、なぜ鞘を振り下ろすのを緩めたのですか!?」

 粕人は苦しみながらもにっこりと笑う。

「僕は、卯ノ花隊長に教えられたことを、頑なに守るだけでなく……涅隊長の下で……成長した姿を、見せたかった……涅隊長が、卯ノ花隊長に勝るとも劣らない……素晴らしい隊長だと、卯ノ花隊長にお見せしたかった……」

「貴方には、私に騙されたという怒りはなかったのですか!?」

「卯ノ花隊長が、僕を騙したとしても……僕は、今の僕があるのは卯ノ花隊長のおかげ……そんな大恩人に…………――――」

 言い終わる前に、粕人はゆっくりと目を閉じた。

「葛原さんッ!!??」

 卯ノ花烈は自身が斬った箇所を見て、気づく。傷が浅かったのだ。自分の知る葛原粕人だったら絶命しているはずの威力で斬ったにも関わらず。

 よく見ると粕人の身体には鋼鉄の帯「銀条反(ぎんじょうたん)」をシャツのように着てあった。

 そして気づかされる。葛原粕人はこんな重い物(・・・・・・)をつけて(・・・・)私と戦って(・・・・・)いたのか(・・・・)と。

「……葛原さん。本当に貴方は、変わっていない。あの時からずっと……」

 そう言いながらも手当をする卯ノ花烈は嬉しそうだった。

 かつての部下が自分に本気を出させるほどに成長したこと。そして不器用で、優しくて、そして強い目の前の男を部下に持ち、そんな男に大恩人と言われた自分を。

 傷口が塞がると、治療していた男の身体は白い光に包まれ消えた。

「葛原さん……ご武運を」

 

 

 

 尸魂界に戻ったのを確信した卯ノ花烈はそう言い残し、黒い門の方へ足を進めた。

 ギィッ……バダンッ!!

 黒い門は卯ノ花烈が入ると同時に閉じた。

 

 




残念なお知らせです。
明日、筆先文十郎はインターネットが繋がらないところに転勤となります。つまり次の話は来年以降となる見込みです。

超絶飽き性の私がここまで書けたのは私の作品を読み、アドバイスを下さった皆様のおかげです。
この場を借りてお礼申し上げます。

引き続きアイディアを募集させていただきます。何かありましたら感想の方にお願いします。
それでは皆様、良いお年を。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

天才・涅マユリの秘密道具のぶっちゃけ

タイトル通り本作の裏話的なものです。

へぇ~そうなんだ。という感じで読んでくだされば幸いです。


 この小説を作ろうと考えたのは『ドラえもんのように一話完結なら飽き性の私も書けるのでは』と思ったから。

 

 (くろつち)マユリを主人公に置いたのは『発明といったらこの人だろう』と考えたため。

 

 葛原(くずはら)粕人(かすと)をもう一人の主人公にしたのは、『マユリが普通に秘密道具を渡すわけがない。というよりまず実験して試すだろう』と考えたため。

 

 粕人に小柄以外の描写がないのは読者の方のイメージにお任せしたかったため(ちなみに筆先文十郎の脳内では『バカとテストと召喚獣』の主人公、吉井明久)

 

 粕人の斬魄が刀を壊されない限り復活できる幽世(かくりよ)閉門(へいもん)なのはマユリがうっかり殺しても問題ないようにするため。

 

 粕人に死んだ記憶がないのは『自分何度でも生き返るんだから』とあぐらをかかせない&読者の方を飽きさせないため。

 

 粕人の得意技に居合があるが、この設定を決めたのは『千年血戦篇にクズと呼ばれる男が出ていたら』で居合をするシーンを書いたから。

 

 粕人の霊力はカス同然なのはBLEACHの世界観を壊さないため(強い設定にすると『じゃあ何でこいつ前線に出なかったんだ?』と読者の方が思うと考えたので)

 

 粕人の誕生日はこの小説の初投稿の日。好みが薄味なのは元上司の卯ノ花(うのはな)(れつ)の好みが濃い味なので彼女と対比させたため。

 

 飽き性の自分が9月14日から一日も欠かさず11月29日まで投稿するとは思っても見なかった。

 

 千年血戦篇・訣別譚その後でコエカタマリンを出して最終回にするつもりだった(ではなぜ最終回ではなくなったかというと、感想に『次回も楽しみにしてます』、と書かれてしまったため)。

 

 新章も書くつもりはなかった。理由は見えざる帝国との戦いが終わったBLEACHの情報が少なかったため。また自分の想像で皆さんが持つBLEACHの世界観を壊したくなかったため。それでも書いたのは涅骸部隊がその後どうなったか気になったため。そしたら何か色々書いてしまいました笑

 

 東空座町編は書く気はなかった。書いた理由は感想に東空座町編頑張って下さいと書かれたため(本当は『一ヵ月後、東空座町から戻った粕人は・・・』という説明をいれて新章の続きを書く予定だった)

 

 粕人の親友、仏宇野(ふつうの)段士(だんし)が隠密機動第四分隊裏見隊の月光と同一人物にしたのは11月12日。つまり『番外編 砕蜂は粕人について調べているようです』を投稿したその日。

 

 筆先文十郎版阿散井(あばらい)苺花(いちか)の斬魄刀、青龍丸は小説を読んでくださった方のアドバイスをちょこちょことつまんで出来た。『ルキアのように美しさを持つ水系の斬魄刀』&蛇尾丸→蛇→龍→青龍→『青龍丸』。

 

 葛原粕人死後の世界での決闘はトランスフォーマーマイクロン伝説のメガトロンとスタースクリームの決闘をイメージ。

 

 




来年まで間が空くので裏話的なものを作って皆様に楽しんでいただければなぁ、と思い作りました。

それでは転勤に行ってきます。皆様お体には充分お気をつけ下さい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 阿近さんと一富二鷹三茄子

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。



技術開発局。

「や、やべぇ……眠い…………」

12月31日23時頃。

技術開発局では十二番隊副隊長、阿近(あこん)が年末に向けて準備をしていた。年末ということもあり多くの人員が休みに入っておりかつ仕事も多忙を抱える。

さらにはこの数日は家に帰ることはもちろん風呂にもゆっくり浸かる暇もなかった。雑用のスペシャリストの葛原(くずはら)粕人(かすと)が死んでいることも忙しさに拍車をかけた。

舟をこぐ体を、コーヒーを飲んだり冷水で顔を洗うなどして耐えていたが限界が来ていた。

ついには幻覚を見るまでになっていた。

『よちよち、よちよち』

『おや、阿近が寝ようとしているな』

目の前には上司である(くろつち)マユリと羊の格好をした涅マユリ専属モルモット兼生贄、葛原粕人の姿があった。

『よし眠そうだな。羊を数えて眠らせてやるとしよう』

(いや、眠らせないで下さい……)

幻覚にそんなツッコミをしそうになるほど阿近は疲れていた。

『さあ、飛べ!キビキビ飛んで阿近に数を数えさせるんだ!!』

『ヒィ~~~!!』

いつの間にか用意されたサーカスなどでは定番の火のついた巨大な輪に立つ羊粕人が悲鳴を上げていた。

「それはかわいそうだから止めて上げて下さいよ!!」

そう突っ込むと、強面の副隊長は意識を失った。

 

 

「ん……ここは?」

目を覚ますとそこはのどかな草原だった。綺麗な青空、白い雲。

「ん?」

ある一団が阿近の目に止まる。そこには

「あ、あれは今年引退を表明した日○富士。その隣にいるのはルパン○世の時に味方、時に敵、時に恋人の○不二子。そして筆先文十郎が足を向けて寝られない藤子・F・不二○先生……。何か富士やら不二やら藤がつく名前が……ハッ!」

聡明な副隊長は気がつく。

「もしやこれは一富士(いちふじ)二鷹(にたか)三茄子(さんなすび)か!?」

その答えを証明するかのようにパタパタと空から何かが降りたった。

「どうも鷹です!」

「鶴だドンドコドーン!」

降り立ったのは鶴の格好をした眠八號(ねむりはちごう)だった。

「阿近さん!見た目で判断してはダメです!姿は鶴でも心は鷹です!」

「……でも鶴だよな?」

阿近のツッコミに眠八號は赤面してパタパタとどこかに飛び立ってしまった。

「う~ん、とりあえず俺は急いで仕事に戻らないといけない。見たところナスっぽいものもないみたいだし……とりあえず夢で寝てみたら逆に起きるか?」

そう思った阿近は横になって目を(つむ)る。

『よちよち、よちよち』

『おや、阿近が寝ようとしているな』

目をうっすらと開けるとそこには上司である涅マユリと羊の格好をした涅マユリ専属モルモット兼生贄、葛原粕人の姿があった。

『よし眠そうだな。羊を数えて眠らせてやるとしよう。さあ、飛べ!キビキビ飛んで阿近に数を数えさせるんだ!!』

『ヒィ~~~!!』

いつの間にか用意されたサーカスなどでは定番の火のついた巨大な輪に立つ羊粕人が悲鳴を上げていた。

「いいからそれは!!」

そう突っ込むと、強面の副隊長は意識を失った。

 

 

 

「…………ハッ!?」

意識を覚醒させた阿近は周囲を見渡す。そこはいつも見慣れた技術開発局だった。

「ふう、見ると縁起がいいといわれる富士?と鷹?は見れたとしてナスが見れなかったのは残念だったな。ん?そういえばなんか顎が重い、な……」

鏡を見て強面の副隊長が固まった。

そこには顎が茄子のように伸びた自分の顔があった。

 




昨日実家に帰ってきました。
見ていない間に色々な方が見ていただけていることに驚きました。
来年も引き続き読んでいただけると幸いです。

それでは皆様今年はお疲れ様でした。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第十四話 苺花は下着を盗まれたようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


 某月某日

 葛原(くずはら)粕人(かすと)は阿散井恋次の勘違いでボコボコにされたお詫びに(『新章第九話 粕人、眠八號と阿散井苺花の護衛をする後編』参照)眠八號(ねむりはちごう)阿散井(あばらい)苺花(いちか)とともに朽木家の別荘を訪れていた。

 

 

 

 露天風呂。

 満天の星空の下で、眠八號と苺花が湯に浸かっていた。

「それじゃあ苺花ちゃん!眠は先に上がっているね!」

「うん。私はもう少し浸かっているね」

 トトトッと歩いていく親友を見ながら苺花は考える。

(葛原粕人。あの男は本当に理解できない。弱そうに見えて強く、強いと思ったら弱い。威厳もないし死神見習いの私にも丁寧な対応する。今までは他の隊員が死んだり引退したりしたから席官になったものだと思っていたけど、そんな男ならあんなことは出来ない……)

 苺花の脳裏に忘れることも出来ない出来事、ベルデ・アルアッワームに襲われたことが思い出される(『新章第九話 粕人、眠八號と阿散井苺花の護衛をする後編』参照)。

(あの男は散々無礼を働いた私を見捨てるどころか自らの身体を盾にした上に知ってか知らずか私の青龍丸に血を与えてあの破面(アランカル)を倒すきっかけを作った。自分の命を落としかねないことをするなんて、例え私と眠ちゃんの命を助けるためだとしても……)

 葛原粕人と言う男が凄いのか凄くないのか。結局答えが見つからないまま苺花は脱衣場に戻る。

「とりあえず葛原粕人がどんな男なのかのはひとまず置いておいて。せっかく別荘に来たんだから眠ちゃんと遊ぼう!まずはトランプでしょう?それからオセロに将棋、あと……ッ!?」

 そんなことを考えながら自分の衣服を入れた籠を覗いた時、苺花は我が目を疑った。入るまではあったものがなかったからだ。その後も何度も籠の中や周囲を探したがそれ(・・)は見当たらない。

「!まさか!!」

 苺花は鬼のような顔で脱衣場の扉を開けるや否や、矢のように走り出した。

 

 

 

 粕人がいる桔梗の間。

「う~む、こうも広いと落ち着かないなぁ」

 四畳半ほどの部屋で、粕人はソワソワしながら書類を書いていた。二十席になったことで平隊士時代の一畳から一畳半に部屋は広くなったものの今いる部屋は粕人の部屋の三倍の広さ。狭いことに慣れてしまった粕人にとって四畳半は一人で使うには広すぎるといえた。

「とりあえず散歩でもしようかな」

 そう考え扉に手をかけた時だった。

 

 キキィィィィィィッ!!

 

 顔を真っ赤にさせ息を切らしながら浴衣姿の苺花が粕人をにらみつけた。

「く、く、く、葛原粕人……貴様という男は!」

「ど、どうされたのですか苺花さん?」

「わ、わたしの……」

「私の?」

 真っ赤な顔を更に真っ赤にさせ、苺花は叫んだ。

「私のお気に入りの下着、返しなさいよおっ!!」

「……苺花さんの下着?……はっ!?」

 粕人は赤面し、慌てて視線を外した。急いで走ったため浴衣がずれて胸元や股間部分が少し見えていたからだ。

「見るなバカ!」

「――――ッ!?」

 男の急所を殴られ、声にもならない声で股間を押さえながらうずくまる粕人。

「ちょ、ちょっと……ちょっと待って下さい……」

 股間を押さえながら青ざめた顔で粕人は口を開く。

「苺花さん。ぼ、僕はずっとこの部屋に……いたんですよ。下着なんて盗めるわけが……」

「今日この別荘は女性の使用人が数人いるだけなんだ!だったら貴様以外に私の下着を盗む奴なんているわけない!!」

「い、苺花さん……」

 股間の痛みが和らいだ粕人は股間から手を外し、苺花の目を見る。

「苺花さん。僕の目を見てください」

 そういわれて苺花は自分を見る男の目を見る。その目は澄み渡っていた。

「この葛原粕人、苺花さんの下着は盗んでいません。もしお疑いなら」

 粕人は懐から苦無を取り出すと苺花の手にそっと握らせる。

「これで僕の腹を割いてください」

「ば、バカ!出来るわけがないだろうが!!」

 苺花は慌てて渡された苦無を天井に投げ捨てた。

「悪かった……じゃなくて疑って申し訳ございませんでした、葛原二十席」

 

 とりあえず下着は替えのがありますので。

 

 そう言って自分の部屋に帰ろうとした時だった。先ほどの天井の穴から

 

 ツッー

 

 一匹のクモが下りてきて苺花の鼻にくっついた。

「ギャアアアアアアアァァァァァァッッッ!!」

「い、苺花さん!?」

 パニックになった苺花を落ち着かせようとする粕人。その粕人の手が偶然にも肩から胸元まではだけさせる結果となった。

 粕人の目の前には白い肌とまだ膨らんでいない胸元がばっちりと目に焼きついてしまった。

「このスケベ!!!!」

 苺花は天井から落ちてきた苦無を掴むと粕人の胸に突き刺した。

 

 

 

 次の日の朝。

「あのね苺花ちゃん!昨日お風呂から上がった後カフェオレを飲んでたんだけど誤って苺花ちゃんの下着にこぼしちゃったの!だから急いで洗ってトイレに干しておいたの!そしたらすっかり乾いたよ!ってクズさんは?」

「知らないわよ、あんな変態!!」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第十五話 正月記念!護廷十三隊対抗凧揚げ大会

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


 マユリの私室。

 葛原(くずはら)粕人(かすと)は上司である(くろつち)マユリに呼び出されて部屋に来るや否や一枚の紙を渡された。

「えっと、『正月記念!護廷十三隊対抗(たこ)()げ大会』。開催日は明日ですね。ま、まさか……」

「そのまさかだ。クズ、お前が十二番隊代表として出ろ」

「……」

 粕人は固まるしかなかった。なぜならば書類が作られた日付は去年の11月。つまり12月時点ではマユリの手にあったと推測できる。にも関わらず粕人にはその情報が一切入っていなかった。むろん他の隊員の話で正月に凧揚げ大会があることは知っていた。しかしその責任者は誰がするかは十二番隊内であがることはなかった。故に粕人は上司である涅マユリが凧揚げ大会の責任者ですでに準備をしているものだと思っていた。

 しかし現実は何の準備もしておらずあろうことか部下である自分に翌日伝えるというもの。

「……わかりました。凧揚げの件、了承しました……」

 このようないきなりは日常茶飯事。逆らえば死よりもひどい実験と言う名の拷問が待っていることを知っている粕人は上司の命令を受け入れた。

 

 

 

 翌日。

 凧揚げ大会は壮絶なものだった。

 自分達の凧を一番高くあげようと凧と凧がぶつかり合い、凧を破壊しようと破道が飛び交う。

 粕人のあげるマユリの顔を模した耐熱性と耐久性を兼ね備えた特別製凧は揚げているのが粕人ということもあり十一番隊の更木隊長凧と二番隊の夜一様凧の集中攻撃を浴びて撃沈した。

 正月記念!護廷十三隊対抗凧揚げ大会は制限時間終了時点で一番高く上がったものを勝者とするというルールが定められている。このままでは凧を落とされた十二番隊が最下位が決定的だった。

(このままでは涅隊長に何されるかわかったものではない。卑怯だがアレを使う!)

竹馬棒(ちくばぼう)千寿(せんじゅ)護国(みくに)万耶(まや)!」

「「「「おう!!」」」」

 粕人の呼び声に四人の女性が答えた。四人は粕人の身体をマユリの顔を模した巨大凧に固定すると一気に凧を上空に浮き上がらせる。しかし並の死神以上の身体能力を持つ彼女らを持ってしてもはるか上空に位置する他の凧に追いつく様子はない。

「よし、やるぞ!」

 残り30秒。粕人は秘策に出た。

 粕人は頭の上にあるものを取り付ける。それはマユリに渡されたヘリ蜻蛉(とんぼ)改参だった。

 某アニメに登場しそうな秘密道具を頭につけた巨大凧は見る見るうちに他の凧の追従を許さないほど上昇する。

「よし!これで十二番隊の優勝だ!」

 残り数秒で勝利を確信した粕人は忘れていた。瀞霊廷(せいれいてい)には瀞霊壁(せいれいへき)がありその瀞霊壁に使われている殺気石(せっきせき)には霊力を完全に遮断する鉱石で作られていることを。そして殺気石には切断面から霊力を分断する波動が球体状に出されている。

 みるみる上昇する巨大マユリ凧は

 

 ジュウッ

 

 粕人と巨大マユリ凧は殺気石が放つ波動の障壁にぶつかり、水の入った灰皿に押し付けたタバコの火のように消えてしまった。

 

 

 

 翌日。

 正月記念!護廷十三隊対抗凧揚げ大会は特に目立つことなく上がっていた三番隊の優勝、最下位は最後数秒で消滅した十二番隊で終わった。

 その結果発表の紙を見たマユリは見る者を恐怖のどん底に叩き落す笑みを浮かべながら呟いた。

「さて、あのクズにはどんな拷問(人体実験)をしてやろうか!」

 




今日また実家を離れます。次回投稿はGW頃になるかと思われます。

その間もネタの提供や感想頂けると幸いです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第十六話 葛原粕人はマユリに生死をかけた勝負をさせられるようです。

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


 技術開発局某所

「クズ、一つゲームをしよう。ここに二つの錠剤と水が入ったコップが二つある」

 そう言って葛原(くずはら)粕人(かすと)の上司、(くろつち)マユリは机の上に錠剤とコップを粕人に確認させる。

「これらの中には毒が入っている。これを私とお前が同時に飲む。どうだ、ロシアンルーレットのようで面白いだろう?」

「ええ。おもしろいですね」

(面白くないですよ!あと仕事終わりに背後から突然襲い掛かって眠らせた人が言えるセリフじゃないでしょう!)

 診察台にくくりつけられた粕人はそんなことを思っていることは露にも出さず満面の笑みで答える。

 その後拘束を解かれた粕人は目の前の錠剤とコップを観察する。そしてあることを思い出す。

(そういえば聞いたことがあるぞ。なぞなぞでとある殺人鬼が無実の人々を拉致し『ここに二つの錠剤がある。片方は毒薬で片方は無害の薬だ。もし無害の錠剤だったら解放してやろう』って言って錠剤を呑ませるけど全員が死亡した。それはなぜか。錠剤はじつはどちらも無害の物でその錠剤を呑む際の水に毒が仕込まれていた。故に誰一人生きて帰る者はいなかった……)

 自身がクズと呼んでいるとそんなことを考えているとは知らないマユリは「さあ、どちらの錠剤を呑むか選べ」と促す。

「じゃあこちらを」

 粕人は近くにあった錠剤を取る。

「それじゃあ私はこっちの錠剤と水を取るとしよう」

 そう言って錠剤を掴みコップを掴もうとする。その瞬間だった。

「な、何をする!?」

 マユリが慌てふためく。なぜならばマユリが飲もうとした水を粕人が奪い取ったからだ。

 水を奪い取った粕人は錠剤を口の中へと流し込み、ドヤ顔でマユリの顔を見る。

「ふふ、隊長。知ってますよ。実は錠剤には毒が入っていなくて水に毒が仕込まれているってことは。だからこうして隊長が飲もうとした無害の水を飲めば……ウゥッ!?」

 突然粕人は喉や胸を抑えて青ざめる。呼吸は乱れ、身体は小刻みに震え、焦点が次第に合わなくなる。

「た、たいちょ……グハアアアァァァッッッ…………――――」

 口から大量の血を吐き出しながら倒れると、粕人はビクビクと身体を痙攣(けいれん)させた後、死亡した。

「だからお前はクズなのだよ、クズ」

 そんな部下を見ながらマユリはニヤリと笑う。

「私は机の上に置いてある『これらの中には毒が入っている』とは言ったが毒が(・・)入っていない(・・・・・・)ものはない(・・・・・)とは一言も言っていないぞ。まあこれらの毒は私には効果はないから飲んでも支障はなかったのだがネ」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第十七話 葛原粕人は猿柿ひよ里と結婚する!?

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


「猿柿ひよ里、その命……頂戴する!!」

 そう言うと葛原粕人の同能力を持つコピーを倒した実績を倒した事のある四人が同時にひよ里に襲い掛かった。

 

 

 ★ ★ ★

 同時刻。尸魂界(ソウルソサエティ) 葛原粕人の部屋

「う、うぅ……ほんまに、ほんまに頼むで……」

「え、あの……平子(ひらこ)隊長?」

 五番隊隊長、平子(ひらこ)真子(しんじ)は滝のように涙を流しながら粕人の手を握っていた。

「え、っと……平子隊長?何がでしょうか?」

 何のことか分からない粕人は困惑しながら尋ねる。

「ひよ里はなぁ、口は悪いし態度は悪いし愛想はないしどうしようもない女や。でも何だかんだ言って面倒見が良かったり良い所も少しはあるんや。色々大変やろうけどほんまに頼むで!」

「いや、だから何がです!?」

 

 

 

 ★ ★ ★

「ふんっ!」

 ひよ里は仮面を外す。彼女の足元にはボロボロになった竹馬棒達が倒れていた。並の死神以上の実力を持つ竹馬棒達も元副隊長でありかつ虚化した猿柿ひよ里では相手が悪かった。

「で、改めて聞くけど。なんでウチを襲った?」

 

 猿柿ひよ里が竹馬棒達に襲った理由と葛原粕人が平子真子に頼まれる理由を聞いた瞬間、ひよ里と粕人のセリフがシンクロした。

 

 

 

「ウチが粕人と結婚するやて!!??」

「僕がひよ里さんと結婚する!!??」

 

 

 

 ★ ★ ★

 十二番隊隊士、兵間(ひょうま)義昭(よしあき)の部屋

「ふふふ。今頃葛原粕人(あの男)はパニックに陥っているだろうな」

(俺が足がつかないように『私、葛原粕人は猿柿ひよ里さんと結婚することをこの場を借りてご報告させていただきます』という情報(デマ)を流したんだからな)

「しかも猿柿ひよ里という女らしさの欠片(かけら)もない女と結婚させられるなんてな」

「悪かったなぁ、女らしさがなくて。粕人と結婚するというデマを流してくれたお礼を兼ねて……かわいがってやる(・・・・・・・)。覚悟しいや!!」

 不意に聞こえた声に邪悪な笑みをしていた兵間の顔が固まった。振り向くとそこには虚化した猿柿ひよ里が刀を抜いて立っていた。

「で、デマ!?な、何の話です!?」

 大量の汗を流しジワリジワリと出口に向かいながら弁解の言葉を考える兵間。その時だった。

「あれ~、こんなところに僕とひよ里さんが結婚する情報を流す領収書が」

 突然扉が開く。そこには隠し金庫に隠していた領収書を持っていた粕人が立っていた。

 兵間は蛇に睨まれたカエルのように動けなくなっていた。なぜならば目の前の二十席が涅マユリ(マッドサイエンティスト)の笑みを浮かべていたからだ。

 目の前には狂気の笑みを浮かべる葛原粕人(一度も勝ったこともない男)。後ろには猿柿ひよ里(絶望しか感じられない女)

 

 

 

 兵間義昭の目の前が真っ黒に染まった。

 

 




場面転換を表す意味で試しに『★ ★ ★』を使用してみました。
どうでしょうか?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第十八話 葛原粕人と佛宇野段士が技術開発局局長を批評するようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


 瀞霊廷通信。

 9月14日生まれのあなた。浦原(うらはら)喜助(きすけ)(くろつち)マユリを敵に回す1日。

 悪口を言うのはやめましょう。

 ラッキーアイテムは遺書。いつ死んでも後悔のないようにしましょう。

 

 

 

 とある居酒屋。葛原粕人(くずはらかすと)は親友で同期である仏宇野(ふつうの)段士(だんし)と酒を飲んでいた。 

「俺って思うんだけど浦原喜助と涅隊長って」

 近況の話から佛宇野は前々から思っていたことを話し出す。

「あの二人が護廷十三隊の隊長を務めるだけ戦闘能力、技術開発局の局長を務められるだけの科学的な知識技術を併せ持った稀有な存在であり、ソウルソサエティに大きく貢献したことを考慮した上で言うけれど」

 そう前置きを置いた上で話し出す。

「崩玉という危険極まりないシロモノを、その危険性は事前に百も承知していたはずだろうに結局それを作らざるを得なかった浦原喜助。

 生体実験大好きで護廷十三隊の隊長としての責務を果たすよりも自分の好奇心を満たすことで夢中なようにしか見えない涅マユリ。また自分の部下である隊員たちの事を自分の持ち駒の程度にしか考えておらず、部下を人間爆弾にした疑いもある」

 そこで一度区切り、佛宇野は話し出す。

「そもそもだ。藍染(あいぜん)惣右介(そうすけ)があのようなことをしたのも崩玉のせいともいえる。そしてその崩玉を作ったのは浦原喜助。マッドサイエンティストの涅マユリ。瀞霊廷及び現世を危機的状況に晒した浦原喜助。もしかしたらあの二人がいない方がよかったんじゃないのか」

「…まあ、そう言えるかもしれない」

 いつもなら否定していただろう粕人だったが酒が入っていたこともあり親友の意見に同調する。そのときだった。

「いやー面白いですね」

「クズ。まさかお前にそんなことを言う度胸があるとは」

 背後から聞こえた声に、二人は ゆっくりと振り返る。そこに立っていたのは噂された当人、浦原喜助と涅マユリだった。

「た、隊長!!いつからそこにッ!?」

「崩玉という危険極まりないシロモノを、と言う時点からだネ」

(そういうのって普通最初からいるんじゃないの!?)

 粕人が心の中で突っ込みを入れる中、佛宇野はある決断を下す。

(人前では使いたくなかったがこの二人から逃れるためにはあれ(・・)しかない!)

(「卍解全色(ぜんしょく)塗潰(ぬりつぶし)写絵(うつしえ)___ッ!?」)

小声で斬魄刀の能力をしようとした瞬間

 (か、体が動かない!?)

「君の卍解は厄介だからネ、動けなくさせてもらったヨ」

 佛宇野の耳元でマユリが針をチラつかせながら囁く。

 その言葉に衝撃を受ける。

(馬鹿な、俺が卍解を使えることがばれてるなんて!?)

「佛宇野!!」

 粕人は親友を救おうと突進する。

 親友を見捨ていればまだ自分が助かる見込みはあったかもしれない。

 しかし二人に敵うわけがなく、粕人はあっという間に身柄を拘束された。

 

 その後佛宇野は浦原喜助のたっての願い(・・・・・・)で浦原商店へ出張。

 一方数日の間、粕人の姿を見た者はいなかった。




IPhoneで試しに作ってみました。
まだ慣れていないため誤字脱字があるかもしれません。
発見されましたらご報告お願いします。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編阿近さんはラブレターをもらったようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


 3月31日

 

「さて次は この資料を 書庫に収めて資料を整理して」

 中学生と見間違えるほど小柄な男、葛原(くずはら)粕人(かすと)が部屋に入れるのと入れ替わる形で 阿近が部屋に入ってきた。

「さて、読んでみるか」

 阿近(あこん)はおもむろに自分宛に送られた一通の手紙を広げていた。

『阿近副隊長へ

 初めてお会いした時から好きでした。

 私があなたを見たときは雛森副隊長のお見舞いをした時でした。雛森副隊長を真剣に対応するあなたの姿を見て 私は一目で心を奪われてしまいました。

 私のような女ではご迷惑かもしれませんがこの思いを止められずこのような手紙を出してしまいました。

 明日午後5時にときめきの木の下でお待ちしております。

 五番隊 KK』

「たちの悪いいたずらだな」、「ふざけてやがる」、「男の純情を(もてあそ)びよって」

 手紙の内容を覗き見した技術開発局局員が次々につぶやく。

「なぜ誰も本物のラブレターだと思わないのでしょうか」

「縁がないから本当だと思わないんじゃないの」

 男たちの姿を見ながら 数少ない女性局員がつぶやく。

 女性局員を尻目に男たちの怒りのボルテージは上がっていく。

「よし 男の純情を弄ぶ やつを返り討ちするぞ!!」

「「「応ッ!!」」」

 

 

 

 翌日

 ときめきの木の下で待つ阿近、近くには茂みから様子を見る技術開発局員達がいた。

「もしこれが本物ならどうするんです?」

 ふと思ったことを様子を見る技術開発局の中で一番若い体格がよく長身の男、兵間(ひょうま)義昭(よしあき)が尋ねる。

「どうするって?」

 

 ぶっ殺すに決まってるだろ。常識的に考えて!

 

 凶悪な笑みを見せる鵯州(ひよす)たちの表情に兵間は固まった。

「誰か来たぞ」

 全員が足音の方へ振り向く。

「探しましたよ阿近さん、隊長からこちらにいると伺って……」

 息を切らしながら現れたのは十二番隊第二十席葛原(K)粕人(K)だった。

「そうか、お前だったのか。ラブレターを出したKKは……」

 阿近の顔がみるみるうちに豹変していく。

「え、あの阿近副隊長?」

 何のことだか分からず恐る恐るラブレターのことを聞こうとする粕人。

「男の純情をもてあますこのどうしようもないクズを血祭りにあげるぞ!!」

「「「応ッ!!」」」

 号令とともに茂みから怒りの形相で飛び出す技術局員達。

「う、うわああああああぁぁぁぁぁぁっっっ!?」

 過去に技術開発局局員の返り討ちにした粕人ではあったが、何の準備もしていないのでは多勢に無勢。

 襲いかかる技術開発局局員に粕人は背を向けて逃げ出した。

 

 

 

 翌日 五番隊隊舎

「雛森副隊長、やっぱり……私って魅力のない女なんですね」

  五番隊副隊長、雛森(ひなもり)(もも)の前で、 艶やかな黒髪の女性隊士が泣いていた。

 吉祥寺花梨(きっしょうじかりん)

 中流貴族である吉祥寺家の娘で、阿近にラブレター送った張本人(KK)である。 中学生と見間違うような幼児体型といかにもお嬢様然とした大人びた美貌のアンバランスさが魅力的だ。それは同性である雛森ですら『私が男性だったら告白していたかも』と思うほどだった。

 目の前で思わず抱き締めてあげたくなる部下を副隊長は慰める。

「吉祥寺さんを阿近副隊長が魅力的だと思っていないわけないよ。きっと部下のいたずらと勘違いしただけだよ」

「そんなバカなことあるわけないじゃないですか」

「ま、まあ、その……元気出して。吉祥寺さん」

 目の前でしくしく泣く少女を雛森は必死に慰めるのであった。




本作は4月1日に投稿しようとしたのですが、 力尽きて今になって完成できた作品です。
遅くなって申し訳ありません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第十九話 眠八號は葛原粕人にクイズを出すようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


 技術開発局休憩室。

「ふう、美味しいなぁ~」

「クズさんクズさん!」

 葛原(くずはら)粕人(かすと)が一人でお茶を飲んでいるとニコニコと笑みを浮かべながら眠八號(ねむりはちごう)が休憩室に入ってきた。

「クズさん。クイズを出してもいいですか?」

「いいですよ」

 元気良く尋ねる眠八號に粕人はにこやかに答える。

「それじゃあ第一問!おばあさんが狭い路地を歩いていると後ろから100キロの速さでトラックが突っ込んできました。ですがおばあさんは無事でした。それはなぜでしょう?」

「おばあさんが101キロの速さで逃げたから」

「……」

 出したクイズを即答する粕人に眠八號はキョトンとさせる。

「で、では気を取り直して第二問。バラ、ユリ、菊。この中で花にトゲがあるのは?」

「どれでもない。トゲがあるのは茎であって花にはないから」

「……で、では第三問。とある男性が二種類の缶コーヒーを買いました。しかし翌日には二種類のコーヒーは同じ物になってしまいました。それは何故!?」

「同じ缶コーヒーの温かいものと冷たいものを買ったから」

「…………で、では第四問―――」

  その後眠八號は次々に問題を出すが粕人はは全て即答した。

「で、次の問題は何ですか?」

「う、うぅ……うわーんーーーーーー!!」

 ニコニコと尋ねる粕人に眠八號は涙を流しながら部屋を後にした。

 

 

 

 翌日。

「眠さん」

「……!」

「あ、あの……眠さん?」

「フンっ!」

 粕人が呼びかけても眠八號はぷいっと顔を(そむ)ける。

 それを見た涅マユリが怪しむ。

(眠八號はクズを母親のように(した)っている。そんな眠八號があのような態度をとるなど考えられない)

 

 【涅マユリの想像】

 眠八號は 楽しそうに鼻歌を歌いながらシャワーを浴びていた。

 突然シャワーカーテンが開く。 そこにはいやらしい笑みを浮かべながら 葛原粕人がたっていた。

『へへへ。眠さん、眠さん!』

『え、く、クズさん……?』

 困惑する眠八號を前に涎を垂らしながら粕人はジワジワと近寄る。

『ゲヘヘヘ、ワオオオオオオンンンッッッ!!』

『キャアアアアアアァァァァァァッッッ!!』

 粕人は舌なめずりをすると一糸(いっし)まとわぬ眠八號に襲いかかった。

 

 

 

「阿近。クズを後で私の部屋に行くように」

「……わ、わかりました」

(葛原、生きろよ……まぁ復活するからいいけど)

その後マユリに呼び出された粕人の絶叫が局内に響いたが、十二番隊ではいつもの日常だったので気にする者はいなかった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第二十話 涅マユリが葛原粕人にマッサージをするようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


 十二番隊隊長室

 (くろつち)マユリは、核戦争によって暴力が支配する弱肉強食で伝説の暗殺拳"北斗神拳"を継承者の生き様を描くハードボイルドアクション漫画を読んでいた。

「なるほどここにはこういうツボがあってこういう効果があるのか」

 マユリは真剣な顔で漫画を読んでいた。

 

 

 

 1時間後

 葛原(くずはら)粕人(かすと)とは 上司であるマユリに呼び出しを受けていた。

「何の用でしょうか隊長」

(こういう時の隊長って何か良からぬことを考えているんだよな)

 そんなことを考えていることに気付いているのか気づいていないのかマユリはニコニコしながら 部下に(うなが)す。

「クズ。私がマッサージをしてやろう。あそこの診察台に座れ」

 まゆりはそう言いながら 診察台を指差す。その言葉に粕人は固まる。

(涅隊長が僕のためにマッサージをするなんて……絶対に裏がある!)

 そう確信する粕人ではあったが拒否権はない。

「何を立ち止まっている!早くしたまえヨ!」

「は、はい!?」

 警戒心をなくさないようにしながら診察台に横になった。

「それでは 始めるヨ」

 マユリのマッサージは意外に気持ちよく(またた)く間に粕人はとろけた顔になる。

 数十分後。

「あぁ~、隊長。気持ちよかったです。おかげで体が楽になりました」

「そうかそうか。それはよかった」

「ええ本当に。もう体が軽くなって勝手に動き出しそうで……あれ?」

 粕人は異変に気づく。ガタガタと体か勝手に動き出したかと思うと足が後ろに動き出していたのだ。

「な、なんだ!?どういうことだ!?」

「ああ、そうだ」

 パニックになる粕人に、マユリは思い出したように口を開く。

「そういえば膝限(しつげん)というツボを押したんだ。そのツボを押すと自分の意思とは無関係に後ろに歩き出すらしい」

「後ろに……ハッ!」

 後ろを振り返る。そこには高さ2メートルほどの大きさの女性の形をした、中が空洞の人形が置かれていた。左右に開かれた扉には無数の棘が血を吸わんと怪しく光っていた。

 その怪しい道具を、粕人は知っていた。

(あれは鉄の処女(アイアンメイデン)。中世ヨーロッパで刑罰や拷問に用いられたとされる拷問具。扉を閉じると全身を刺される仕組み……ま、まさか!!)

「クズ。そのまま後ろに下がると中世ヨーロッパで刑罰や拷問に用いられたとされる拷問具に串刺しにされるヨ(棒読み)」

「い、嫌だ!死にたくない……うわああああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!」

 助ける気がない隊長に救いを求めることが出来ず、粕人は鉄の処女の中に入っていった。

 

 キィィィッ、バタンッ!ブシュッ!!

 

 棺桶の扉が閉まり大量の棘が肉を貫く音が部屋に響く。それから時を置かず中から大量の赤い液体が流れ落ちた。




次回で仏宇野段士の斬魄刀の能力を明かそうと思います。

ちなみに今回の話は原作:武論尊、作画:原哲夫の『北斗の拳』が元ネタです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第二十一話 葛原粕人は部屋を掃除するようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


 十二番隊応接室。

「……(くろつち)隊長。何ですかこれは」

 上司である阿近(あこん)に呼び出された葛原(くずはら)粕人(かすと)は壁や床、天井が穴だらけ、瓦礫と化した調度品を見ながら尋ねた。

「……どうしたらこんなに散らかせるんですか?」

「それはだな……」

 角が生えたような強面の男は申し訳なさそうに説明を始めた。

 

 

 

 昨日。

『涅隊長。いるかい?』

 マユリの部屋に意外な人物が来訪した。

『おや、これはこれは京楽(きょうらく)総隊長殿。このような詰まらない所にいかなる御用時で?』

 マユリは隊長の羽織の上に女物の派手な着物を羽織り、無精髭を生やした眼帯をつけた男を(いぶか)しめながら尋ねる。

『いや、何もないよ。たまには女の子とじゃなくて男と飲みたくなっただけさ。腹を割ってね』

 訝しむマユリに気分を害することなく春水(しゅんすい)は酒が入った大きな徳利(とっくり)を取り出す。

『それともアレかな?涅隊長は飲める口じゃなかったかな?』

 試すようにニヤッと笑う眼帯の男の言葉に、奇怪なメイクをした男は不気味な満面の笑みを浮かべる。

『ほう。私がお酒が飲めないとでも?面白いことを!』

 マユリは「ここでは」と言って春水を応接室に案内する。

 こうして涅マユリと京楽春水の酒盛りが始まった。

 

 

 

「その後(ねむり)さんと伊勢(いせ)七緒(ななお)副隊長のどちらが綺麗かで口論となり……やりあった、と」

「……ああぁ」

 呆れる粕人に阿近は頭を押さえながら答える。

「というわけで葛原。色々仕事が溜まっているのに悪いんだが、ここの後片付けをしてくれないか?隊長は二日酔いで寝込んでいるし他の連中も手が放せない状態だ。もちろん隙を見ては手伝うから」

「……わかりました」

 技術開発局雑用総責任者兼眠八號(ねむりはちごう)護衛役総責任者という雑用と責任押し付けられのスペシャリストは諦めの笑みを浮かべるとすぐさま仕事に取り掛かった。

「よし、まずは穴を塞ぐ。そして壊れた机などの調度品を作り、最後に部屋を綺麗に磨くぞ!」

 

 

 

 翌日の朝。

「はぁ……はぁ……元通りになったぞ……」

 目を充血させ、粕人はほぼ自分一人で掃除した部屋を改めて見る。

 穴だらけだった壁や床、天井は完全に塞がり、調度品は元の物と寸部違わない。元々綺麗に掃除されていた部屋はキランッ!と輝いていた。

「よし。今日は休みだしこれから帰って寝るぞ!」

 粕人は掃除道具を元の場所に戻すと自分の部屋がある隊舎へと歩いていった。

 

 

 

 粕人が応接室を去る数分前。

『よお、涅。いるか?』

『何の用だネ?』

 自身が(ケダモノ)(さげず)む眼帯の男、更木(ざらき)剣八(けんぱち)の来訪にマユリは冷たい視線を送る。

『なあに。いい酒が入ったからからよ。たまには変わった奴と飲みたいと思っただけだ』

『ふん、私はお前と違って忙しいんだ。とっとと出て行ってくれないかネ』

『ほおぉ、涅。お前、酒が飲めないのか?』

『……何だって?』

 挑発するように言う十一番隊隊長に、十二番隊長が反応する。

『いやいや。それなら悪かったな。飲めない奴に酒をすすめるなんてどうかしてたぜ。許してくれ』

 ニヤニヤと馬鹿にした笑みを浮かべる男に、マユリは満面の笑み(・・・・・)を浮かべる。

『気が変わった。せっかく十一番隊隊長がいい酒を持ってきてくれたのに誘いを断るなど……じゃあここでは何だから……』

 そう言ってマユリは掃除を終えたばかりの応接室に剣八を案内した。

 

 

 

「さて、布団も敷いたことだし……思い切り寝るぞ!」

 自室に戻った粕人が布団に倒れこもうとした時だった。

 

 ドゴーーーンッ!!

 ホギャアァッ!!ホギャアァッ!!

 ギャハハハハハハッッッ!!

 

 粕人の耳に巨大な赤ん坊のようなものが建物を破壊しその赤ん坊に嬉々とした笑みを浮かべながら刀を振るう男の笑い声が聞こえた。

「……………………」

 この日、粕人は再び呼び出され更に悪化した応接室の片付けをするはめになった。




書いておいてあれですが、粕人って滅茶苦茶不幸な男ですね汗


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 葛原粕人は草鹿やちると腕相撲をするようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


 話は葛原(くずはら)粕人(かすと)が十二番隊の平隊士時代に(さかのぼ)る。

 

 技術開発局。

 数々の難問に持てる知識と技術力で解決してきた技術開発局に一つの問題が発生していた。

「お菓子~!作って作って作って!!」

 十一番隊副隊長、草鹿(くさじし)やちるが床に寝転がって駄々をこねていた。

 追い払っても雨後のタケノコのように現れる少女に困り果てる技術開発局局員たち。

「クズ、後は頼む」

「え、あの、ちょっと!?」

 粕人が何かを言う前に(くろつち)マユリをはじめとする技術開発局員は散っていく。

(どうしたものか 僕にも仕事があるんだけど……)

 粕人は悩む。粕人にも早急に片付けておきたい仕事山ほどがあった。

 僕も一刻も早く仕事に戻りたい。

 その思いだけが募っていく。

「あ、そうだ!」

 粕人はあることを思いつく。

(僕は最近体力がついてきた。戦闘では負けるけど単純な力勝負なら草鹿副隊長に勝てるだろう。草鹿副隊長は女の子なんだし)

「草鹿副隊長。僕と腕相撲しましょう。僕に勝ったらおやつを作ってあげますよ」

「本当!?」

 やちるの顔が満面に輝く。

「もちろん!」

  粕人も同じように 満面の笑みで答える。

 だがこの答えが自分自身を不幸に陥れるとはこの時粕人は知らなかった。

 15.5キログラムしかない彼女が黒崎(くろさき)一護(いちご)と戦って傷ついた100キログラム以上ある更木(ざらき)剣八(けんぱち)を抱えて空を飛ぶような跳躍(ちょうやく)を見せたことを。結果

 

 ボギッ!!

 うぎゃああああああぁぁぁぁぁぁッッッッッッ!!!!

 

 十二番隊隊舎に粕人の悲鳴が木霊した。

 

======================================

 

 10分後。

「ねえねえ、まだできないの!?」

「く、草鹿副隊長。お願いだから揺らさないでください!腕が、腕が!!」

 自分で治療した粕人は腕に包帯を巻いたまま左腕一本でお菓子を作っていた。

「早く作らないとカスくんのことゴミカスって呼んじゃうよ」

「そ、そのあだ名は勘弁してください」

 

=======================================

 

「あの頃はひどい目にあったな。でも草鹿副隊長はいないしあのトラウマをリアルに思い出すことはないだろう」

「きなこがたっぷりかかったおはぎが食べたいぃ!作って作って作って!!」

 技術開発局の扉を開くと、そこには頭にゴーグルをつけたスーパー副隊長九番隊の久南(くな)(ましろ)がその場で器用に回転しながら駄々をこねていた。

 子供のように駄々をこねる死神に困り果てる技術開発局局員たち。

「クズ、後は頼む」

「え、あの、ちょっと!?」

 粕人が何かを言う前に涅マユリをはじめとする技術開発局員は散っていく。

 

 うわああああああぁぁぁぁぁぁッッッッッッ!!!!

 

 技術開発局にトラウマを思い出した粕人の悲鳴が木霊した。




久しぶりの投稿になってしまい申し訳ありません。
仕事が変わり肩こりが悪化。遅筆に遅筆を重ねることになるとは思いますが読んでいただけると幸いです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第二十二話 葛原粕人は猿になるようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


 

 (くろつち)マユリは自室でとある大ヒット漫画を読んでいた。

「うむ、この七つの珠を集めると願いが叶うという漫画は実にすばらしい。その中でも宇宙の帝王と名乗る男は面白い。まるで自分ではないかという錯覚を覚えるヨ。そして主人公の種族の能力、特に満月を見れば変身し戦闘能力が向上するのは面白い。ぜひとも再現したいものだ」

 その後マユリは研究室に戻ると何かを作り始めた。

 

 

 三日後。

「ん?」

 葛原(くずはら)粕人(かすと)はお尻に違和感を覚えた。

「何だ?何かお尻がムズムズ――」

 ビリッ!

「え……!?」

 お尻を見て、粕人は言葉を失う。そこには服を破って尻尾(しっぽ)が生えていた。

「何で尻尾が?……あっ!!」

 昨日のことを粕人は思い出す。

 粕人が「あぁ、疲れたな」とポツリと漏らすとマユリが「それは大変だ。すぐに注射を打つとしよう」と有無を言わさず得体の知らない薬液を注射したのだ。その後は何もなかったため特に気にしていなかったのだが。

「クズ」

 粕人は振り返る。そこには尻尾を生やす原因となった張本人が。

「涅隊ちょ――」

「急いで金剛石よりも固いと言われる鬼哭石(きこくせき)を100㎏ほど採ってこい」

「い、いや。隊長!それよりも――」

 この尻尾はどういうことですか!?と粕人は言えなかった。何故ならば喉元には抜かれた疋殺(あしそぎ)地蔵(じぞう)が突きつけられていたからだ。

「私は今すぐにでも研究に取り掛かりたいんだ。これ以上私の貴重な時間を浪費させたら……どうなるか分かるよな?」

「は、はい。今すぐ行ってきます……」

 静かで、それでいて重いマユリの口調に粕人は従うしか選択肢はなかった。

 

 

 その日の夜。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 鬼哭石が取れる山奥の砕石場で、血まみれの粕人は絶体絶命の危機に陥っていた。採取中に(ホロウ)の一団と遭遇したのだ。

「どうしたのぉ、死神?お前の力はこんなものなのぁ?」

 耳に鏡のようなイヤリングにアフロヘアで髭を生やしたマッチョの下級大虚、プリ・ズマーはガラガラとした耳障りな声で侮蔑する。

「くっ!」

 悔しさに粕人は歯を喰いしばる。

 顔の上半分を虚特有の仮面で隠し、お姉言葉で話す目の前の敵に翻弄された。

 砕石場に着いて数分後。粕人は前触れもなく幾百の虚に包囲された。突然の虚の出現に粕人は虚を突かれつつも応戦。無我夢中で苦無や針、薬品などの武器を使用するも虚達の身体をすり抜けるだけ。

 この時粕人は初めて気がついた。突然現れた幾百の虚が幻だということに。

 粕人が幽世(かくりよ)閉門(へいもん)以外の武器を失い、種明かしとばかりに能力を解いたプリ・ズマーが現れた時には、幻ではない本物の虚達が包囲網を完成させていた。

 退路を断たれ遠距離攻撃が可能な武器を全て失った粕人は前後左右上と五方向から来る遠距離攻撃に反撃することが出来ず回避し続けるしかなかった。

 虚の猛攻に遂に粕人は倒れた。夜中に遠い山道を歩いた疲労に戦闘の疲労、負傷による痛みに粕人の身体が耐えられなくなった。

 そんな虫の息の粕人を見てニタニタとしながらじわじわと包囲網を狭める虚達。

「ここまでか……」

 死を覚悟した粕人はふと空を見上げた。欠けた部分が一つもない真円の月が地上を照らしていた。

「あの満月が、僕の最後に見る光景か。最期だからか、すごく綺麗に見えるよ……ッ!?」

 その時だった。

 

 ドクンッ!

 

 身体の奥底で鼓動が鳴る。一回だけではない。鼓動は大きく、間隔を狭めてなり続ける。

 粕人の目が鮮血のように赤く染まると身体が見る見るうちに服を破くほど膨張。全身を黒い体毛が覆い始める。

「ウウウウウウゥゥゥゥゥゥッッッ……………………」

 呻き声を漏らす口からは犬歯が伸び、顔は凶暴なヒヒのような野獣へと変わり始める。

「!?全員、奴を攻撃しろ!!殺せ!!」

 プリ・ズマーが命令する。しかしそれは遅かった。なぜならば風前の灯火(ともしび)だった葛原粕人(死神)(またた)く間に巨大な猿へと変貌を遂げていたからだ。

 巨大な猿は目下にいる虚達を見てニヤリと笑う。

 その笑みが一人の死神を虚の一団がなぶり殺しにするという図式が崩れ、巨猿となった死神が虚の一団を皆殺しにするという図式を成り立たせた瞬間だった。

 

 グオオオオオオォォォォォォッッッ!!

 

 咆哮をあげた死神猿は足元にいた虚を蹴飛ばし、踏みつぶす。我を失った虚達が殺戮を始めた巨猿に向けて攻撃する。だがそんな攻撃も巨猿には蚊に刺された程度にしか感じないのか空を飛ぶ虚は叩き落とされ、地面にいる虚は次々と踏み殺されていく。

「く、クソォ!殺されて、殺されてなるものですかぁっ!!」

 プリ・ズマーは再び能力を解放する。最初に見せた虚の十倍、幾千の虚の軍勢を。

「さぁ、これで恐怖しなさ――」

 それが幻を見せる能力を持つ下級大虚、プリ・ズマーの最期の言葉だった。最期に見た彼の光景。それは口から光線のようなものを四方八方に吐き出し破壊していく巨猿。その光線が自分の方向に吐き出された姿だった。

 

 

 グルルルルルル

 

 理性を失った巨猿粕人は周囲をぐるりと見渡す。自分の周りにいた虚は消滅し、周囲にいるのは自分しかいない。

 遠くに目を凝らす。そこには点のような無数の灯り、流魂街(るこんがい)が見えた。

 ニヤリ。

 自分が“弱き者を守る存在”だと忘れてしまった巨猿粕人は流魂街を破壊しようと光が灯る方向へ歩き出した。

 

 

 翌日の瀞霊廷(せいれいてい)通信(つうしん)

『本日未明。巨大な猿のような虚が流魂街近くまで接近。街に侵入しようとしたが十二番隊隊長・涅マユリ率いる技術開発局によって水際で食い止めることに成功。麻酔薬と巨大な猿にも通用する捕獲ネットで身動きが取れなくなった所を涅隊長が巨大な猿の首を狩ったことで事態は収束に向かった。

 その手際の良さは一部始終を見ていた流魂街の住人は口をそろえて『まるでこうなることが最初から分かっていたようだ』と感心した様子で語り、水際で防いでくれた涅隊長と技術開発局に惜しみない賛辞を送った』

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

佛宇野段士は井上織姫のおっぱいに驚愕を覚えるようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。


 話は藍染(あいぜん)惣右介(そうすけ)市丸(いちまる)ギン、東仙(とうせん)(かなめ)と共に護廷十三隊を離反した直後に(さかのぼ)る。

 

 

 四番隊に所属する葛原(くずはら)粕人(かすと)一葉(いちよう)音芽(おとめ)佛宇野(ふつうの)段士(だんし)は傷ついた者達を必死で治す井上(いのうえ)織姫(おりひめ)を、自分たちの仕事をしながら横目で見ていた。

(井上織姫。彼女のあの能力(ちから)があれば、僕も多くの人を救えるのに……)

 羨望の視線を拒絶の力を持つ少女に向ける粕人に対し、反乱分子の捜索を専門とする隠密機動第四分隊・裏見(りけん)(たい)いう裏の顔を持つ一葉音芽は警戒するように明るい髪の少女を見ていた。

(井上織姫。あの力が敵の手に渡れば脅威となる。これが終わったら砕蜂(ソイフォン)隊長に井上織姫の暗殺を進言するべきかもしれないな)

水城(みずき)のやつ。どうせ井上織姫(彼女)を暗殺するよう砕蜂隊長に言おうと考えているんだろうな。しかし井上織姫のあの胸……でけぇ上に柔らかそう~。あぁ、あの現役女子高生の胸を後ろからガバッと揉みしだ――)

 

 バシュッ!

 

 脳天に苦無が撃ち込まれ、佛宇野は噴水のように血を流しながらその場に崩れ落ちた。

月光(げっこう)のアホ!)

 苦無を投げた一葉はいやらしい視線を送る同僚を無視し目の前の患者の処置を行った。

 

 

 数日後。

「ん?」

 一葉が休憩室に入るとそこには粕人が持っていた本を読み、汗を流す佛宇野の姿があった。

(な、何?葛原が休憩時間にも読書をしているのはいつものことだけど、月光が本を読んで、しかも驚愕の表情を浮かべている!)

 異様な光景に一葉は恐る恐る尋ねる。

「佛宇野。何かあったの?」

「一葉、大したことじゃないよ」

 返事をしたのは当人ではなく小柄な同僚の粕人だった。

「大したことないわけがないだろう!葛原!!」

 怒気を含ませた言葉に一葉は「大したことはないってどういうことなの?」と改めて尋ねる。

「音芽よ、聞いてくれ!この文献によると身体の中で一番老化が“胸”だという。胸は実年齢より3年も老化しているそうだ」

「……何が言いたいの?」

「わからないのか!」

 意図が分からない一葉に佛宇野は激昂する。

「井上織姫は現役の女子高生だ。だがこの文献が正しいければ俺が彼女のおっぱいを触ったとしても、そのおっぱいは現役女子高生ではなく女子大生のおっぱいだということだ!さらに言えば現役女子高生のおっぱいは現役女子高生に非ず!!」

 佛宇野は涙を流し自分の中に流れる熱い情欲を言葉に紡ぐ。

「別にいいとおもうんだけどねぇ。現役女子高生の胸だろうが女子大生の胸だろうが。あと口に出してまで言う事か?」

 巨乳好きだが松本(まつもと)乱菊(らんぎく)虎徹(こてつ)勇音(いさね)など年上の女性が好きな傾向の粕人は呆れながら親友の言葉を聞いていた。

「……」

「ん?どうした、音芽?」

 顔を(うつむ)かせ黙る同僚に佛宇野は覗き込みながら尋ねる。

「そんな馬鹿馬鹿しいことを考える暇があるなら!」

「な?」

「え?」

 音芽は二人の同僚の襟を掴むと風車のように回り

「仕事しろやぁっ!!」

「うぎゃああああああぁぁぁぁぁぁッッッッッッ!!」

「なんで僕までええええええぇぇぇぇぇぇッッッッッッ!!」

 二人を窓の外に投げ飛ばした。

 

 




いいタイトルが浮かばなかった……。
そして今日は葛原粕人の誕生日=本作品一周年。なのに猿になったり同僚に投げ飛ばされると(-_-;)

最後に。皆様のおかげで間隔が開きつつもここまで書くことができました。
この場を借りてお礼申し上げます。 引き続き読んでいただけると幸いです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第二十三話 8月31日の悪夢

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。

旬が過ぎてますが楽しんでいただけば幸いです。


 8月31日

 (ねむり)八號(はちごう)の部屋

「え?」

 目の前でシュンとなる少女、眠八號を前に葛原(くずはら)粕人(かすと)は言葉を失っていた。

「なんで、なんで少しずつやらなかったんですか……」

 真っ白なノートを見て、粕人は膝から崩れ落ちる。

 多くの方が経験しただろう『夏休みの宿題がまだ終わっていない事件!!』。8月31日の深夜に粕人が『眠さん。明日から始業式が始まりますが、夏休みの宿題は終わりましたか?』という何気ない質問で発覚したのだ。

「ごめんなさい、クズさん!」

 涙目で謝る少女を見ながら考える。

(ほとんどの宿題が白紙。本来なら眠さん一人にやらせるべきなのだが……)

 粕人の脳裏に奇怪なメイクをした男の顔が思い浮かぶ。

(涅隊長のことだ『眠八號に徹夜をさせるつもりなのかネ!そもそもこうなったのも眠八號が宿題をちゃんとやっているか確認していなかったお前が悪い!!』と技術開発局雑用総責任者兼眠八號護衛役総責任者という保護者的な仕事も兼ねている僕に厳罰を下すだろう)

 粕人の中に眠八號に宿題をやらせるという選択肢は消えていた。

「眠さん、この宿題は僕が責任を持ってやっておきます。なので明日に備えてもう寝て下さい」

 

=====================================================

 

「さてと」

 眠八號の宿題を自室に置いた粕人は十二番隊の倉庫に来ていた。

「あの宿題を全部やるには僕一人では足りない。だからと言って親友の佛宇野(ふつうの)や他の技術開発局の人間に手伝ってもらうのは気が引ける」

 と、目の前にかけられた布に手をかける。

「だったら、自分自身に手伝ってもらえばいい!」

 そう言って布を取り払う。そこには何の変哲のない机があった。その机の最上段の引き出しを粕人は開ける。そこには何もない空間に絨毯のような青い板、その青い板の上に様々な機械が取り付けられた謎の物体があった。

「まさか再びこの時空移動装置を使うことになるとはな(第八話 時空移動装置参照)」

 机の引き出しに飛び込むと粕人は時空移動装置を操作する。

「よし、まずは二時間後の僕を連れてこよう!」

 そう言うと粕人は時空移動装置で二時間後へとワープ。寝ようとしていた二時間後の自分を無理やり起こすとその後四時間後、六時間後、八時間後の自分をたたき起こして現在の自分の時間へと連行した。

(ん?)

 この時粕人は不思議に思った。どの時間の自分も痛々しい姿をしていることに。しかし宿題を終わらせないという焦りから、粕人はその疑問を払しょくする。

「じゃあ始めよう!」

 自室に戻った粕人の号令と共に粕人達は手分けして宿題を片づける。そして一時間半後

「出来たぁ!」

 全ての宿題が終わり、粕人は喜びを表すかのように満面の笑みで両手を広げた。

「あ、それじゃあ未来の僕。もう帰っていいよ」

 

 ギロッ!

 

 その一言に未来の粕人達は一斉に粕人を睨みつける。

「「「「過去の僕よ。君は未来の僕(ぼくたち)を呼び出して、悪いと思っていないの?」」」」

「え、いや……ごめん。悪いと思っているよ。反省している」

 ペコリと頭を下げる粕人。しかし未来の粕人達は睨み付けたまま。

「「「「本当に反省しているの?」」」」

「本当に反省しているよ」

「「「「だったらそれを証明してもらおうか!!」」」」

「ちょ、ちょっと待てぇぇぇっっっ!!」

 粕人の前に現れた物、それはアツアツに熱せられた巨大な鉄板だった。

「「「「本当に『反省している』という気持ちで胸がいっぱいなら……どんな場所であれ土下座が出来るはず!……例えそれが肉焦がし……骨を焼く……鉄板の上でも……!!」」」」

(あんな赤くなるまで熱せられた鉄板の上で土下座したら死ぬわぁ!!)

「……ッ!!」

 堪らず逃走を開始する粕人。

「「「「過去の行動を知っている僕から、逃げられるわけがないだろうが!!」」」」

 しかし粕人の行動を知っている未来の粕人達はすぐさま確保。

「熱ッ!熱い熱い熱いッ!!死ぬ死ぬ死ぬウウウウウウゥゥゥゥゥゥッッッッッッ!!!!」

 抵抗する粕人だったが同程度の力を持つ自分四人から逃れるはずがなく、無理やり熱気を放つ鉄板の上に座らされ、額がつくほどの土下座を強要されるのだった。

 

 =================================================================

 

「う、うぅ……ひどい目にあった……でも、これでやっと寝れる…………」

 未来の自分に帰ってもらった粕人は自力で火傷の治療をすると床に就こうとする。その時だった。

「やあ、未来の僕。今から眠さんの宿題を手伝ってほしいんだ」

 現れたのは二時間前の葛原粕人(自分)だった。

「い、いやだ!僕はこれから寝るんだ!」

 至る所に大やけどを負った粕人は全力で拒否する。しかし負傷した今の粕人(自分)では負傷前の粕人(自分)に敵うはずがなく、粕人は過去の自分に連行されていった。

 その後二時間ごとに過去の自分に起こされた粕人は呼び出した過去の自分に大やけどを負わせ元の時間に帰る。それを四回繰り返した頃にはもうすでに朝になっていた。

 その後粕人はマユリに『すみません、眠さんの宿題を手伝っていたら大やけどを負いまして……あと徹夜で……今日は休ませてくれませんか?』と連絡したが

『眠八號の宿題を手伝って大やけどを負う訳がないだろう。バカなことを言っていないでとっと仕事をしろ!』

 と怒鳴られ仕事場に出る事になった。

 

 

 

 火傷が治るまでの間、技術開発局には小柄のミイラ男が出没することになったのは言うまでもない。

 




今回の話はドラえもんにあった話を元に作りました。わかっていたかたもいたと思いますが汗。

夏休みの宿題は前もって計画を立ててやりましょう。(人のこと言えなかったですが)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

隠密機動第四分隊・裏見隊に所属する月光は技術開発局に忍び込むようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


 

 二番隊隊舎。砕蜂(ソイフォン)の私室。

「う~ん、と。何でしょうか、砕蜂隊長」

 呼び出された男は上司の前にも関わらず、くだけた態度で尋ねる。

月光(げっこう)。お前を呼んだのは他でもない」

 呼び出した部下に礼儀など期待していない女上司は早々に話を切り出す。

「貴様には十二番隊第二十席、葛原(くずはら)粕人(かすと)を再び調べてもらう」

「えええぇ……」

 月光と呼ばれた男はあからさまに嫌そうな顔で上司を見る。

「葛原は隊長が気にするような男じゃないですって……それに十二番隊なら松永が――」

 数秒後。

「か、畏まりました砕蜂隊長ッ!!」

 あと一撃同じところを突かれれば絶命する蜂紋華を全身に刻まされた男は、先ほどまでとは打って変わって見事な敬礼をすると逃げるようにその場を後にした。

 

 翌日。

「ったく。めちゃくちゃすぎるだろう。技術開発局(ここ)の防衛装置は」

 四番隊平隊士、佛宇野(ふつうの)段士(だんし)は防衛システムを作動させないよう細心の注意を払いながら、限られた者しか入れない技術開発局内部に侵入していた。その動きは補給や治療を専門とする四番隊らしからぬ静かで素早く正確なものだった。

「さてと」

 佛宇野は周囲に誰もいないことを確認すると斬魄刀に手をかけた。

「“見る者を(だま)せ”、写絵(うつしえ)!!」

 

 

 =======================================

 

「うぅ!忙しい忙しい!!」

 大量の荷物を持った粕人は右へ左へと駆けまわっていた。

「とりあえずこのやることメモに順序を書いておいたから『どれからしよう!?』というパニックはないけど……こんなにやることがあると大変だよ!……あぁ、誰か変わってくれないかな!!」

 目をグルグルと回しながら愚痴る粕人。

「だったら僕が代わりしようか?」

「え?……ッ!?」

 声のする方に振り返った粕人は大きく目を見開いた。そこには自分と同じ姿をした人物が立っていたからだ。

「誰だお前、は…………――――」

 そう粕人が聞く前に。本物の粕人が使えない瞬歩で素早く背後に回った粕人?は粕人の首元に何かを打ち込んだ。

 

 バダンッ!!

 

 糸が切れた人形のようにその場に崩れ落ちる粕人。

「さてと」

 地面に倒れた粕人を近くにあった用具室に隠した粕人?はやることメモを拾いすぐさま行動に移した。

阿近(あこん)さん、次の実験に使う道具持ってきました!」

鵯州(ひよす)さん、頼まれていた資料をお持ちしました!」

采絵(とるえ)さん、例の被験体がいる場所が特定できました!」

壷倉(つぼくら)さん、頼まれていたお菓子買ってきました!」

 こうして粕人?はやることメモに書かれた事柄を次々とこなしていく。本物の葛原粕人のように接し、本物の葛原粕人のように的確に仕事を終わらす粕人?に、誰もが本物の葛原粕人だと疑わなかった。

「さてと、今度は情報を集めるとするか」

 ポツリと呟いた粕人?は周囲に怪しまれないように葛原粕人(自分自身)に対する情報を集めていく。

「よし、こんなものかな」

 新たに追加された仕事も無事こなし、葛原粕人(自分自身)に対する情報を集めた粕人?が本物の葛原粕人が眠る用具室に向かおうとした時だった。

「おい、葛原。局長がお前を呼んでいたぞ」

「え……僕、何か悪いこと……しましたかね?……阿近さん」

 本物の葛原粕人と同じ反応に、阿近は目の前にいる粕人?を本物の葛原粕人だと思い続ける。

「わからないが。さっさと行った方がいいと思うぞ」

「……ですよね。じゃあ、行ってきます」

 背中を丸めて(くろつち)マユリの待つ部屋に行く粕人?を、阿近を始めとする技術開発局の面々はいつものように可哀そうに見つめていた。

 

 ======================================

 

 数分後。

 粕人?はマユリの私室に来ていた。

「あ、あの……涅隊長。阿近さんから隊長が僕を呼んでいる聞いて来たのですが、一体何のご用でしょうか?」

「……」

 マユリは何も言わず粕人?に牛乳瓶を差し出す。

「え、っと。涅隊長……これは?」

 本物の葛原粕人と同じように、粕人?は恐る恐る尋ねる。

「何だ、クズ。お前は私の部屋に来たらいつも牛乳を飲んでいたじゃないかネ」

(いや!葛原(あいつ)がそんなことするわけないだろう!)

「何を言っているんですか、涅隊長!僕がいつ隊長の部屋に来るたび牛乳を飲みましたか!?」

 粕人?は本物の葛原粕人のように慌てて否定する。

「クズ、お前もしかして体調が悪いんじゃないかネ?これはまずい、すぐさま四番隊に連絡しなくては!」

 そういうとマユリは外部に連絡をしようとする。

「あぁ!そうですそうです!!僕は隊長の部屋に来たら牛乳を飲んでました!!」

 四番隊に連絡をされると困るのか、粕人?は牛乳を一気に飲み干す。

「そうそう。お前を呼びだしたのは他でもない。実は霊子実験施設を拡張しようとおもってネ。お前の意見もとりあえず聞いておきたくてネ」

 そう言ってマユリは『霊子実験施設拡張について』と書かれた資料と牛乳を粕人?に手渡す。

「え……えっと。……隊長。なんで牛乳が?」

 その言葉にマユリは「なんだと?」と粕人?に疑惑の眼を向ける。

「おかしい。いつものクズなら資料を読む際いつも牛乳を飲んでいたではないか。やはり今日のクズはおかしい。急いで四番隊に――」

「いえいえいえ!……そうです!僕は資料を読む時はいつも牛乳を飲んでいました!!」

 そう言うと粕人?は資料を開きながら牛乳に口をつける。飲み干した先から新たな牛乳瓶を手渡されるので粕人?は渡されたはしから牛乳を飲んでいく。

「ゴクゴクゴクッ……ご馳走様でした」

 牛乳を飲みながら資料に目を通した粕人?は自分の意見を言おうとする。その時だった。

「そうだ、クズ。悪いがアレを掃除してくれ」

 そう言ってマユリは部屋の隅に置かれた薄汚れた像を指さした後、雑巾と牛乳を粕人?に手渡した。

「あの……隊長。雑巾はわかりますが、なぜ牛乳――」

「なんだと!?」

 粕人?の発言にマユリは目を大きく見開く。

「クズ。お前は雑巾がけをする時、いつも牛乳を片手に雑巾がけをしていたではないか!……これはおかしい。今すぐにでも四番隊――」

「はいはいはい!そうですそうです!!僕は雑巾がけをする時はいつも牛乳を飲みながら雑巾がけをしていました!!」

 そう言って粕人?は雑巾を片手にゴシゴシと拭きながら牛乳を飲んでいく。資料を読む時と同様、飲み干したさきから新たな牛乳瓶を渡されるので粕人?は飲むしかない。

「ううぅ……隊長……終わりました……」

 汚かった像がピカピカになる頃には、粕人?の腹はタプタプに膨れ上がっていた。

「うむ、ご苦労だった。下がっていいぞ……四番隊平隊士の佛宇野段士(・・・・・)

「はは……何を言っているんですか、涅隊長。僕は十二番隊第二十席、葛原粕人(・・・・)ですよ」

 今にも吐き出しそうになるのを口で抑え、粕人?は部屋を後にする。

「……ば、馬鹿な。俺の、写絵の能力で……葛原に化けていた俺を――――」

 周囲に誰もいないことを確認して十二番隊第二十席、葛原粕人(・・・・)から四番隊平隊士、佛宇野段士(・・・・・)に戻った月光はその場に崩れ落ちた。

 




今回の話は感想を下さった方の中で信頼について書いてくださった方がいまして、その方のコメントに触発されて書いてみました(マユリだけ粕人?が偽者だと最初から気づいていた)。

この場を借りてお礼申し上げます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第二十四話 葛原粕人はライオンと戦うようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。




「ん?ここは」

 粕人が目を覚ますと、 そこはどこかの地下室のようだった。地下室には何もない 変わっているとすれば 壁が色分けされているということだ。

(……なぜ自分はこんなところに?)

 粕人は記憶の糸をたどる。

(確か仕事が終わって部屋に帰ろうとしたら、突然目の前から涅隊長が現れたかと思うと突然顔にスプレーをかけてきて……。そしたらふっと意識が飛んで……)

「目が覚めたかクズ?」

「その声は!」

 声の聞こえた方向に振り向くとスピーカーから上司である涅マユリの声が漏れた。

「今からお前に生き残るチャンスを与えよう。そこに輪っかがあるだろう?」

「輪っか?」

 周囲を見渡すと足元に黄色いフラフープのような物が置いてあった。

(ま、まさか……これって)

 もしかして、と思う粕人。その疑問は上司の次の説明で明らかになる。

「それはすり抜け輪っかという。それを壁や床につけるとフープ内蔵の空間原子分解装置から電波が発生し、通り抜ける壁の原子をゆらして穴を開け、そのままフープをくぐってその壁の向こうへ抜けることができる。壁の向こう側の出口にもフープが付いており、フープを取り外すと元の壁に戻るという画期的な発明品だ」

(ドラ○もんの通○抜けフープじゃねえか!ってか久しぶりに出てきたなぁ、秘密道具!!)

 心の中でツッコミ入れる粕人にマユリは続ける。

「赤い扉は1兆度の炎の部屋。青い扉はマイナス1億度の部屋。そして黄色の扉は 一年以上餌を口にしていないライオンがいる部屋だ。クズ好きな部屋を選べ」

 もう話すことはないと粕人の「ちょっと!」という声も聞かずスピーカーが切れる音が空しく響いた。

(ちょっと待て。1兆度の炎って前総隊長の残火の太刀に熱いし、マイナス一億度って絶対零度より冷たいんですけど!?いくら隊長といえども……いや、あの人ならやりかねん!!)

 多少パニックになった粕人だったがすぐに冷静さを取り戻していた。その証拠にその顔には笑みが浮かんでいた。

「隊長、甘いですよ。一年以上餌を食べずに生きていられる生物が普通に考えているはずがない!」

 粕人は黄色の扉に通り抜け輪っかをつけて入る。そこには、ミサイルや機関銃などの多彩な重火器が。

 ピピッ!侵入者感知、迎撃モード突入!

 多数の銃火器の銃口が一斉に侵入者である粕人に向けられる。

「な、何ですかこれは……」

 固まる粕人にさきほどの部屋にあったスピーカーからマユリの声が響き渡る。

「それはホロウ迎撃マシンとして作った試作品、名前はライオンだ。一年前に作ったのはいいが如何せん燃費が悪くてネ。こうしてここに休眠モードで放置しておくしかなかった。ちなみにこのライオンを動かす燃料は死神や虚の霊圧だ。殺した死神や虚は触手で吸収する仕組みだ」

「しょ、触手!?……ヒィッ!!」

 よく見るとウネウネと赤黒い触手が蠢いていた。

「じゃあ頑張れ、クズ」

 その言葉を合図にライオンの粕人に向けた銃口が発射準備を始める。

(どうする?どうするんだ!?僕……そうだ!!)

 ある考えに至った粕人は色々なアイテムを四次元に保管できる腰巾着(こしぎんちゃく)、四次元袋からピンク色の片開きの戸、空間移動扉を取り出すとすぐさまドアノブに手をかけ開く。

 そこには実験室で研究をしていた打倒葛原粕人に執念を燃やす兵間義昭の姿が。

「来い!」

「!?」

 状況を理解する暇もなく、粕人は長身の年下死神を連れて戻る。

「ッ!!囲め、玄武陣(げんぶじん)!!」

 義昭は自分に向けられた銃口を見るなりすぐさま自らの斬魄刀・玄武陣を抜いて周囲に六面体の結界を発動させる。その直後、

 

 ダダダダダダッッッ!!バキューンッ!!ドゴーンッッッ!!

 

 粕人と義昭に向けて銃弾やグレネード弾のようなものが放たれる。しかし玄武陣は破壊されるどころかヒビ一つ入ることはなかった。

 雨のような銃撃が止まるや否や、粕人と義昭は飛び道具や鬼道で次々と兵器を破壊、数分たった頃には全ての兵器は使用不可能となっていた。

「ゼイゼイ、……く、葛原二十席……これはどういうことです……」

 訳も分からず突然強固な結界を発動することができる玄武陣の使用を余儀なくされる状況に放り込まれた義昭が、肩で息をしながら説明を求める。

 粕人から説明を聞いた義昭は、「あの、葛原二十席……」と前置きを置いてから思ったことを口にする。

「俺を呼び出してそのライオンという兵器の攻撃を防がなくても、空間移動扉というのでそのまま脱出していたらよかったのでは?」

「あ…………」

 その一言で、粕人は固まった。

 そんな粕人を、義昭は実力を疑う疑惑の眼で見続けた。

 

 

 後日。自分がクズと罵っている葛原粕人と新人隊士の兵間義昭に攻略されたことを受け、涅マユリはライオンを即座に廃棄する決断を下した。

 




1兆度の炎とマイナス1億度について指摘されたので加筆しました。
皆様ありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第二十五話 涅マユリは殿になるようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


 

 十二番隊隊舎前

「…………し、死ぬ」

 十二番隊第二十席、葛原(くずはら)粕人(かすと)は猛吹雪の中、十字架に縛りつけられていた。

 息すらも凍りつきそうなほどの氷点下で震える彼の足元には『この者罪人により飯や施しなど一切しないように』という立札が。

 体温で溶けた雪が服に染みわたりその溶けた雪が凍りつき体温を奪っていくという悪循環に体力はみるみる内に死が目前になるほど奪われていた。

(こんなことになるなら……やるんじゃなかった…………――――)

 震える体力すら残っていなかった粕人はガクッと首を落とした。

 なぜ葛原粕人がこのような死を迎えたか。それに昨日まで話は(さかのぼ)る。

 

 ===================================

 

 昨日。(くろつち)マユリの私室。

「マユリ様のバカ!マユリ様なんて大嫌い!!」

 そう言って眠八號(ねむりはちごう)は目に涙を溜めて部屋を飛び出した。

 事の発端はマユリが、眠八號が楽しみにしていた粕人特製のプリンを食べてしまったことだった。

 三時のおやつにと楽しみにしていた分、眠八號の怒りは相当なものだった。

 自分に従順な娘の「大嫌い!!」にマユリのショックを隠すことが出来なかった。それは無駄な時間が嫌いなマユリが一時間以上も放心するほどに。

 

 ===================================

 

 技術開発局廊下

「やばい!遅刻だ!!」

 粕人は大量の資料を抱えながら全力で走っていた。

 この日は技術開発局のトップであるマユリ以下全ての席官が参加しなければならない会議の日だった。

(涅隊長は遅刻に厳しいからなぁ。もう拷問は確実だけどそれでも急がないと更なる実験という名の拷問が……)

「ん?」

 粕人は立ち止まる。視線の先には天井を見ながらフラフラと歩くマユリの姿が。

(おかしい……隊長が会議の時間になってこんなところで歩いているなんて……そもそも隊長、何かおかしいぞ!?)

「あ、あの……涅隊長?……どうしたんですか?」

 恐る恐る粕人はマユリに近づいて尋ねる。

「……あぁ、そうだな」

 焦点が合っていない目で力のない返答をするマユリ。

(……何だかわからないが、今日の隊長はおかしい!)

「隣の家に囲いが出来たってねぇ、(へぇ)

「……あぁ、そうだな」

(確信した!今日の隊長はおかしい!!)

 普段のマユリにこのようなことを言えば「下らないことを言っている暇があったら仕事をしろ、このクズが!!」と罵声を浴びせられるはずだった。なのにそれがない。そんな放心状態の上司を見て、粕人の中にある考えが浮かぶ。

(もしかして何しても気づかない?)

 バレたら殺される、しかしやってみたいという好奇心がみるみるうちに粕人の中で膨れ上がっていく。そして、

「隊長、顔色悪いですよ。僕が化粧をしてあげますよ。あと今日は寒いですから御召し物も!」

 そう言って粕人はニヤニヤと笑いながらマユリに化粧を施し用意した服を着せた。

 

 ===================================

 

 技術開発局会議室

「……会議開始時間からすでに30分。時間に厳しい局長が来ないぞ。何かあったんじゃないか?」

「さっきから連絡をしているんだか繋がらないんだ!」

「葛原も来ていないぞ」

 副局長の阿近(あこん)を始めとする主要な技術開発局局員がいる会議室は不安と苛立ちに包まれていた。

「おい、誰か――」

 局長を探しに行ってくれ。そう阿近が言おうとした時だった。

 会議室の扉を開けた粕人がニヤニヤと笑いながら平伏した。

「殿のおな~~り~~」

「「「殿?…………ッ!?」」」

 会議室に入った涅マユリを見て、局員達は全員目を見開いた。

 自分達の上司である涅マユリは度々(たびたび)化粧や衣装を変える。しかし目の前の涅マユリはあまりにも変過ぎた。

 真っ白な顔に太い眉毛。真っ赤な唇。チョンマゲのカツラに暖色系の豪華な衣装。

 

(((ば、バ○殿……)))

 

粕人を除く全員の心の声が一致する。

 某大物芸人が(ふん)する、バカなお殿様のような化粧と恰好に

「……帰るか」

 脱力した阿近が立ち上がると他の局員達も次々と退席した。

「……あれ。皆どうしたんだ?」

 誰もいなくなった会議室に一人残されたマユリはぼーとその場に立っていた。

 

 

 

 その後バカなお殿様の恰好のままのマユリに眠八號は爆笑。愛娘が機嫌を取り戻したのをきっかけに放心状態から解放されたマユリは自身の姿に憤慨(ふんがい)。バカなお殿様の恰好をさせた粕人を即座に捕まえると十字架に磔にして外に放置した。

 

 

 

 






 いつも理不尽な理由で悲惨な最期を迎える粕人だが、今回ばかりは粕人が悪いですね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

眠八號一歳

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。


 話は見えざる帝国との戦いが終わってから約一年後まで(さかのぼ)る。

 

 技術開発局

「ちくしょうっ!!」

 十二番隊平隊士、葛原(くずはら)粕人(かすと)は壁がめり込むほどの強さで殴った。

 見えざる帝国との戦いが終わって約一年後。強面(こわもて)の上司、阿近(あこん)の説明に復活したばかりの粕人は悔しさで滝のように涙を流していた。

 自身が更木(ざらき)剣八(けんぱち)とグレミィ・トゥミューの余波に巻き込まれ昏睡状態に(おちい)ったこと(真相はバンビエッタ・バスターバインを除くバンビーズから更木剣八を守る時間稼ぎをして戦死したのだが、粕人が死んだことを悟らせたくないマユリによって伏せられる)。

 見えざる帝国との戦いに勝利したものの護廷十三隊が手痛い打撃を受けたこと。そして、

「ネム副隊長が……お亡くなりになるなんて!!」

 うぅっうぅっと嗚咽を漏らしながら粕人は歯を喰いしばる。

 (くろつち)ネムは粕人にとって上司であり、尊敬する涅マユリ(上司)の娘であり、共に技術開発局で働く仲間だった。

 そんな大切な存在が戦死したショックが、粕人の心を大きく(えぐ)った。

「ぼ、僕は……死を覚悟して更木隊長を監視することで情報収集をすることを涅隊長に志願しました。なのに……情報収集はおろか戦闘の余波で一年以上昏睡状態になっているとは!」

「あ、いや……」

 お前は充分な働きをしたぞ、と言おうとした阿近だったが真相は伏せるようにとマユリに厳しく言われているため、かける言葉が見つからずただ黙るしかない。

「くっ、僕が生きて……今後の技術開発局を(にな)う逸材のネム副隊長が死ぬなんて……クソッ!!」

「あぁ、葛原。その、ネム副隊長のことだが――」

「うわっ!?」

 突然粕人は尻もちをついた。目にも止まらぬ速さで近づいた何かが粕人の足を払うかのようにぶつかったのだ。

「いたたたっ!?……何だ、何が起こったんだ……」

 尻もちをついた粕人は周囲を見渡し、止まる。そこには

「あー!」

 可愛らしい赤ん坊が四つん這いの状態で、粕人に向かって手を伸ばしていた。

「何だ、この子は?」

 粕人は赤ん坊を抱きかかえて立ち上がる。

「葛原。お前が抱いているのがネム副隊長だ」

「………………」

 阿近の言葉に固まる粕人。そして数秒後。

 

「えええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっっっっっっっっ!!!!」

 

 技術開発局内に響き渡るような大声を上げた。

 

 =======================================

 

「なるほど」

 阿近から自分が抱いている赤ん坊が涅ネムなのかの説明を受けた粕人は、(ネムリ)八號(はちごう)をあやしながら確認する。

「つまりネム副隊長の身体は、見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)の総大将・ユーハバッハの親衛隊(シュッシュツタッフェル)の一人、ベルニダ・パルンカジャスという滅却師(クインシー)との戦闘で消滅したものの大脳は無事で、その大脳を元に眠八號(この子)が誕生した。と」

「あぁ」

 阿近が力強く頷く。

「あー!」

 眠八號は嬉しそうに粕人に手を伸ばす。

「あぁ、よしよし。よしよし」

 粕人が笑顔であやすと眠八號も嬉しそうに笑う。

(まるで本物の親子のようだな)

 粕人と眠八號の笑顔につられて阿近も微笑む。その時だった。

「何をしている!!」

「え?……うわっ!?」

 声を上げたマユリは瞬歩で粕人に近づき眠八號を取り上げる。

 粕人と離れたことにより泣き出しそうになる眠八號だったが、粕人から自分を奪ったのがマユリだと知り泣き止む。

「あ、あの……涅隊長?」

 訳がわからず恐る恐る尋ねる粕人に、マユリはキラキラと輝く満面の笑みで言い放った。

「クズ、お前はクビだ。今すぐ荷物をまとめて出て行け」

「何でいきなりクビを宣告されないといけないんですか、僕が!!」

 

 

 

 その後。その場にいた阿近が嫉妬に駆られたマユリをなだめ葛原粕人をクビにするデメリットを語るなど説得したことで、粕人のクビは撤回された。

 しかし撤回後の粕人の仕事は土木工事など技術開発局とは離れた仕事に従事させられることとなった。

 眠八號が粕人がいないことにぐずり、マユリや他の技術局局員では対処できない事態になるまで。

 




今回の話はとある方からネムがいなくなった時の粕人の反応が気になりますというコメントからヒントを得て書きました。
この場を借りてお礼申し上げます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

いや、別に

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


 マユリの部屋

「クズ。これを食え」

 上司である技術開発局局長兼十二番隊隊長・(くろつち)マユリに呼び出された葛原(くずはら)粕人(かすと)は疑惑の眼で紙袋に包まれたコロッケを見ていた。

「何ですか、これ?」

 手渡されたコロッケを見ながら尋ねる粕人にマユリは答える。

「それは牛の脳みそのコロッケだ。安心して食うがいい」

 満面の笑みで言う上司の言葉に粕人の疑惑はさらに増していく。

「なるほど。クズ、お前はその牛の脳みそのコロッケに何か怪しい物が入っていると思っているのだろう?」

「い、いえ!そんなことは!!」

 考えていることを読まれ動揺する粕人は慌てて首を横に振って否定する。それを知ってか知らずかマユリは微笑を浮かべる。

「安心しろ、それには薬物などの(たぐい)のものは入っていないヨ。もちろん病気の牛を使っているわけでもない。何なら私が毒見をしてやろうか?」

「い、いえ!……それではいただきます!」

 覚悟を粕人は手渡されたコロッケを頬張る。

「もぐもぐ……うん、美味しい。濃厚で……料理番組の評論家のように上手くは言えませんが……とても美味しいです」

「そうかそうか。じゃあこっちはどうだ?」

 そう言うとマユリは再びコロッケを粕人に手渡す。

 これは何ですか?と粕人が尋ねる前にマユリは説明する。

「それは羊の脳みそを使ったコロッケだ。先ほどのコロッケと同様に怪しい物も病気を持った羊を使ってなどの問題はない。快く食べるがいい」

「わ、わかりました……では、いただきます!」

 牛の脳みそのコロッケを食べても異常が表れなかったことに安心した粕人は一呼吸置いた後、羊の脳みそのコロッケを口にする。

「もぐもぐ……うん、これも美味しい。先ほどの牛のコロッケとは別の風味があって。とても美味しいです!」

「そうかそうか」

 部下の感想に嬉しそうに微笑みながらマユリは豚や鳥など様々な種類の脳みそを使ったコロッケを粕人に食べさせる。

「ふう、ご馳走様でした」

 満足そうに息を吐きながら粕人は少し膨れた腹をさする。

「ところで涅隊長。先ほどからやけに脳みそを使った料理でしたが……何かあったんですか?」

 

 

ニヤリッ

 

 

 部下の問いにマユリは興味深い研究材料が見つかった時のような満面な笑みで答える。

「クズ、漢方では身体が悪いときその部分のものを食べて治療する考えがあるそうだ。例えば肝臓が悪いなら鳥や豚のレバーを食べると言った具合にな」

「へぇ、そうなんですか……ん?」

 粕人はあることに気づく。

(僕、さっきから脳みそを使ったコロッケを食べさせられたなぁ……もしかしてッ!?)

「僕の脳みそが悪いから脳みそを使ったコロッケを食べさせた。そう言いたいのですか!!涅隊長!?」

「いや、別に」

 顔をひきつらせながら尋ねる粕人に、マユリは人をバカにしたような笑みでそっけなく答えた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第二十六話 眠八號&阿散井苺花が成長するようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


 十二番隊隊舎中庭

「ふふふ、ついにできた!」

 (くろつち)マユリは子ども二人が覆いかぶるには十分な大きさの時計模様の風呂敷を広げて満面の笑みを浮かべていた。

「これは時間(じかん)風呂敷(ふろしき)。見かけは薄い布だが時の流れが外に漏れないようにする膜などが盛り込まれた五重構造になっており、このふろしきに被せると被せた物の周囲の時の流れが逆行もしくは進行して物そのものの状態が大きく変容させることできる。しかも効果は無機物・生物の両方に作用するという画期的な発明品だ!!……どうも調子が狂う」

 マユリは額を押さえる。

 自身の発明品実験体である十二番隊二十席・葛原(くずはら)粕人(かすと)がいないからだ。この日、(ねむり)八號(はちごう)阿散井(あばらい)苺花(いちか)と共にピクニックに出かけて不在だった。

「まあいい。とりあえずその辺にあるものにこの時間風呂敷を被せるとしよう」

 その時だった。

 

 ぶあっくしゅんっっっ!!

 

「ッ!?」

 突然の大きなクシャミに驚いたマユリは時間風呂敷を放してしまう。そして運が悪いことに突然の突風に時間風呂敷は遠くの彼方に消えてしまった。

「あ、局長。おはようございます」

 マユリを驚かせた犯人、技術開発局に配属された新人隊士・兵間(ひょうま)義昭(よしあき)が頭を下げる。

「ひょ~う~ま~!!」

「ッ!!」

 憤怒の表情を浮かべながら睨み付ける上司に臆した新人隊士は背を向けて逃げ出した。

 

 

 =====================================

 

 近くに小川が流れる野原。

「どうですか眠さん、苺花さん。美味しいですか?」

 ポカポカと陽気な空の下で、粕人は眠八號と阿散井苺花と共に自身が作った料理を食べていた。

「はい!クズさんの料理は美味しいです!」

「……ふん、悪くない味よ」

 満面の笑みでおにぎりを頬張る眠八號にどこか悔しそうな顔でサンドイッチを食べていく苺花。

「そうですか」

 そんな二人を見ながら粕人は微笑む。

「クズさんは本当にお母さんみたいです!眠もクズさんみたいなお母さんになりたいです!」

「……はは、ありがとうございます」

「ふ~ん、葛原二十席がお母さんねぇ」

 男である自分がお母さんのような存在だと言われ苦笑する粕人に赤い髪の少女はにやつく。

「葛原二十席が女性だったら、どうせ今よりもっとちんちくりんで子ども体型なんでしょうね」

「ははは、そうかもしれませんね」

「……ッ!!」

 気にする様子もなく素直に返す粕人に苺花は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

「眠さんも苺花さんも美人ですからきっと綺麗な女性になるのでしょうね」

「そりゃあそうでしょう!」

 苺花はえっへんと胸を張る。

「私も眠ちゃんもボンキュボンな体型になって世の男という男を魅了するんですから!」

「ははは、それは楽しみですね」

 屈託のない笑顔で粕人が言った、そのときだった。風で飛んできた、子ども二人が覆いかぶるには十分な大きさの時計模様の風呂敷が眠八號と苺花に覆いかぶさったのは。

「眠さん、苺花さん!……え!?」

 粕人は固まった。なぜならそこにいたのは高校生くらいまで成長した眠八號と苺花がいたからだ。

 眠八號は前十二番隊副隊長・(くろつち)ネムに勝るとも劣らないナイスボディ。

(だめだ、笑ったらだめだ!)

 粕人は笑いをこらえる。

『ボンキュボンな体型になって世の男という男を魅了するんですから』と豪語した苺花はアルプスの平原のように厚みのない、すらりとした体型だったからだ。

「葛原二十席、何か言いたい事があるのでは?」

「い、いえ。別に!」

 こめかみをピクピクと動かしながら尋ねる苺花に粕人は首を横に振る。

「決して『ボンキュボンな体型になって世の男という男を魅了するんですから』と言っておいてアルプスの平原のように平らな胸とかそんなこと思ってませんから……しまった!?」

 慌てて口を押さえる粕人。しかしすでに遅かった。目の前には斬魄刀・青龍丸(せいりゅうまる)を抜いた苺花が九匹の龍を召喚した姿が。

「殺せ」

 苺花の命令に粕人に襲い掛かる九匹の龍を背に、粕人は握っているだけで相手と戦うことができる妖刀殲滅丸(ようとうせんめつまる)と着続けている限り手足が麻痺しても骨が砕けても鎧の力が続く限り動き続けることができる死守天装(ししゅてんそう)を装着すると、脱兎のごとく逃げ出した。

 

 

 その後九死に一生を得た粕人が技術開発局に戻るとヨボヨボの老人になった兵間義昭がいたのだが、なぜこうなったのかは不明である。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第二十七話 子どもはどこからくるの?

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。


「マユリ様!子どもはどこからくるの?」

 

 ピキッ

 

 娘である(ネムリ)八號(はちごう)の一言に(くろつち)マユリは凍りつく。

(どうする?どう答える、私!?)

 物質縮小装置を始めとする、凡人には永久に思いつかない発想を思いつきかつそれを実現してしまう天才的な頭脳と実現能力を持つマユリでも即答することが出来なかった。

 思いつかなかったマユリは

「少し待っていろ。すぐにお前が満足する答えを用意しよう」

 と言うと即座に阿近たちを呼び出し緊急会議を開始した。

 

 =============================================

 

 1時間後。マユリを含む技術開発局の主要メンバー四人が会議室に集まっていた。

「これより『眠八號に子供はどこからくるのと聞かれたらどう答えるか』の会議を始める」

「議論するほどのことか、これ?」

「いやそうとも言えんぞ」

 鵯州(ひよす)の疑問を技術開発局№2の阿近(あこん)が否定する。

 局長の言葉は眠八號にとっては全て。我々がこの言葉を否定することはできない。もし局長が赤ちゃんはコウノトリが運んで来るって言ってみろ。子作りは地下で行わなくてはならなくなる」

「だからって『お父さんの《放送禁止用語(ピー)》とお母さんの《放送禁止用語(ピー)》に入って《放送禁止用語(ピー)》すると子どもが出来るのよ』って言うのも、ねぇ」

 紅一点の采絵(とるえ)の呟きに阿近と鵯州がドン引きする。

「それ以前に、だ!」

 マユリの言葉に三人の視線がマユリに集まる。

「私は眠八號の親だ!娘の疑問に真剣に答えないなど親など親と言えるのか!?いや言えまい!!」

「「「う~ん……」」」

 本当のことを言うわけにもいわず、マユリの言葉に誤魔化すという選択を失った三人は腕を組んで悩むしかない。

「皆さん、どうかされたんですか?」

 そんな中、マユリ達が会議室にいると聞いた葛原(くずはら)粕人(かすと)がお茶を持って会議室に現れた。

「あぁ、葛原か」

 阿近が詳細を伝えると「なんだ、簡単じゃないですか」と粕人は続ける。

「涅隊長が直接眠さんに伝えるのではなく別の人間が教えればいいじゃないですか」

 

 おぉーーー。

 

 粕人の提案に四人が感嘆の声を漏らす。しかし粕人は後悔することになる。次の一言によって。

「こんな簡単なことに気がつかないなんて皆さん意外とバカなんですね」

 

 ブチッ!!

 

「よし。その任務、クズに任せるとしよう!」

「え?」

 キョトンとする粕人を尻目に阿近が続く。

「そうだな。俺達みたいにこんな簡単なことにも気づかないバカ(・・)と違って葛原なら眠八號が納得する答えを用意しているに違いないからな」

「あ、あの!阿近さん!?」

「そうだな、俺達みたいなバカ(・・)には出来ないから葛原に任せるしかないな」

「ちょ、ちょっと待っ――」

「そうね、私達みたいなバカ(・・)には荷が重い仕事ね」

「そ、そんな!?」

 助けを求められないことを悟った粕人はマユリにすがりつく。

「た、隊長!お慈悲を!どうかお慈悲を!!」

「えぇい!さっさと行かんか!!」

「ウゲェ!?……は、はい!!」

 マユリに蹴り飛ばされ刀を突きつけられた粕人は転がるように会議室を後にした。

 

 

 

 後日。

 采絵の言ったような直接的な説明は避け、かつ誤魔化さない説明を眠八號にした粕人は新人隊士の兵間(ひょうま)義昭(よしあき)に『もう精根尽き果てた。自分の限界を試された』と愚痴をこぼし義昭に『貴方はフランシスコ・ザビエルですか?』と突っ込まれた。

 

 

 

 

 




日本に布教に来たフランシスコ・ザビエルは民衆にこう突っ込まれたそうです。
「なるほど。ではそのありがたい教えを聞いた我々は幸せになれるかもしれないがご先祖様はどうなるのですか?」
キリスト教では洗礼を受けていない者は地獄に堕ちるそうなのでザビエルは『地獄にいる』と教えると
「貴方の信仰する神は無能で無慈悲ではないか。私の先祖くらい救ってくれていいではないか!?」
「ご先祖様が地獄にいるんだったら俺は地獄に行く!」
と言われたそうです。また
「では神様はなぜ悪もこの世に生み出したのですか?」
と聞かれて困窮したそうです。

後日ザビエルは同僚に

『もう精根尽き果てた。自分の限界を試された』

という内容の手紙を同僚に送ったそうです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

砕蜂は再び葛原粕人を調べさせるようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。




 砕蜂(ソイフォン)は第四分隊・裏見隊に所属する月光(げっこう)の調査報告書に目を通していた。

 

葛原(くずはら)粕人(かすと)

 西流魂街28地区新井(あらい)出身。

 真央(しんおう)霊術院(れいじゅついん)に入学。一つ上の代には現九番隊副隊長、檜佐木(ひさぎ)修兵(しゅうへい)がいる。

 卒業後は四番隊に配属。藍染惣右介らの離反から一ヵ月後、十二番隊に異動。

 斬魂刀は死んだときに初めて発動し蘇生する能力を持つ幽世閉門(かくりよへいもん)

 弱点としては刀を破壊されてから死亡した場合生き返ることはできない。

 またバラガン・ルイゼンバーンのように刀ごと破壊される、リルトット・ランパードのように刀ごと吸収されても生き返ることはできない。

 

 雑務処理能力、隊長級。

 罠設置能力、副隊長級。

 斬術、平隊士級(ただし居合の腕前は副隊長級)。

 白打、平隊士級(ただし身体能力は副隊長級)。

 鬼道、平隊士級。

 歩法、平隊士級。

 

 

 

 

 運の悪さ、零番隊総戦力』

 

「ふ、ふ、ふ……ふざけるなあああぁぁぁぁぁぁ!!」

 月光(部下)の提出書を破り捨てた砕蜂が手を叩くと一人の老忍者が姿を現した。

「お呼びでしょうか?」

「水城を呼べ」

 

 ============================

 

 数分後。一人の女性が砕蜂の前に姿を現した。

「水城。ただ今参上しました。お呼びでしょうか。隊長」

 女性は一挙一動の模範となる作法で頭を下げた。

「お前を呼んだのは他でもない。お前には葛原粕人を調査してもらいたい」

「……お言葉ですが隊長。葛原粕人は月光や十二番隊の松永(まつなが)が――」

 

 適任ではないでしょうか?

 

「私はお前に頼むと言ったのだ」

 ギロリと自分を見据えピリピリとしたオーラを醸し出す女上司の言葉に女は言おうとしていた言葉を飲み込んだ。

「分かりました。では」

 そう言うと女は影に溶け込むように姿を消した。

「ふふ、水城なら私が必要とする情報を手にすることが出来るだろう」

 送り出した部下なら必ずや葛原粕人の弱みを握って帰るだろうと予感した女上司はほくそ笑んだ。

 

 ============================

 

 音もなく技術開発局に忍び込んだ四番隊十五席、一葉(いちよう)音芽(おとめ)は周囲に誰もいないことを確認し、周囲に誰がいたとしても聞き取れないほど小さな声で呟いた。

「葛原。貴方には恨みはないけど、これも仕事だから」

 かつての同僚に詫びると技術開発局を進んでいった。

 

 しかしこの時彼女は知らなかった。

 隠密機動のように忍び込んだ彼女を涅マユリはすでに把握していたことを。

 

 

 




次作、『葛原粕人は女になるようです〔仮タイトル〕』に続きます。

しかし葛原粕人、よく席官になれたな(汗)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

戦慄!十二番隊は王様ゲームをするようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。


 技術開発局には他の組織にはない鉄の掟が存在する。

 

葛原(くずはら)粕人(かすと)は王様ゲームに参加してはならない】

 

 この鉄の掟が誕生した経緯は葛原粕人が平隊士だった頃に遡る。

 

 技術開発局、深夜。

「王様ゲームを始めるぞ!」

 

 わあー!!

 

 阿近(あこん)の宣言に粕人を始めとする隊員たちが拍手喝采を上げる。

 研究に行き詰まり、息抜きとして粕人が提案したのが事のきっかけだった。時間やお金もかからず場所を移動させる必要もないということでその場にいた全員が賛成した。

 こうして王様ゲームが始まった。

 最初の王様は采絵(とるえ)。命令は6番が異性の格好をするというものだった。

 その結果、密かに女性に人気のある壺府(つぼくら)リンがセーラー服を着て「あ、あまり見ないでください……」と恥ずかしがるという結果から始まった。

 その後ポッキーゲームや腕立て、秘密の暴露など王様ゲームは盛り上がっていた。

 盛り上がる王様ゲームも終盤に入り王様になったのは再び采絵。

「それじゃあ時間も時間だし。ちょっと過激な命令するわよ」

 イタズラっぽい笑みを浮かべた女性の命令が全員を困惑させ、かつ悪夢の引き金になるとはこの時、技術開発局の誰も思わなかった。

 

「3番が4番の胸を揉む」

 

「え?」

 3番と書かれた棒を持っていた粕人は固まった。持っている棒の数字を凝視する。これは何かの間違いではないかと。しかしどんなに見ても数字が変わることはなかった。

 にやける自分に粕人は待ったをかける。

(……ま、待て!待つんだ葛原粕人!!この僕にラッキーなことが起こるはずがない。この場合僕が鵯州(ひよす)さんや阿近さんの胸を揉んで「残念だったな葛原!」と周りに笑われるのがオチなはず……)

 そう思い周りを見て4番と書かれた棒のところで止まる。

 その棒の持ち主は

「……」

 尊敬する上司、(くろつち)マユリの娘の(くろつち)ネムだった。

 

「あ、あの。采絵さん……」

 

 マユリに半殺しされることを予想して王様に命令撤回を乞おうとする粕人に

「王様の命令は絶対よ」

 言い放った。

「わ、わかりました」

 粕人は覚悟を決めた。

「それでは失礼します、ネム副隊長」

「どうぞ」

 極度の緊張で急速に乾いた喉をゴクッとにじみ出た唾液でわずかに潤した粕人が腫れ物に触るかのようにゆっくりと、そしていたわるようにしてネムの胸にそっと手を乗せた。次の瞬間

 

防御(ボウギョ)システム発動(ハツドウ)迎撃開始(ゲイゲキカイシ)

 

 胸から涅マユリの声がしたかと思うとパカッ!とネムの胸が開いた。そこにはギランッと黒光りする二門のガトリング砲が。

(や、やばい!!)

 逃げようとした粕人だったが、すでに遅かった。

 

 ダダダダダダダダダダダダッッッ!!!!

 

 至近距離から放たれた無数の銃弾は粕人の顔を始めとする上半身に次々と命中していく。

 数秒にわたる銃撃に物言わぬ肉体と化した粕人が倒れた。

「――――――」

 その姿は悲惨で上半身がかろうじて形を止めているとしか表現できない無残なものだった。周囲には血痕があちらこちらに飛び散っている。

 その光景にネムを除く局員達は固まるしかなかった。

 

 

 

 こうして十二番隊に【葛原粕人は王様ゲームに参加してはならない】という鉄の掟が刻まれることとなった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

眠八號三歳

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。


 話は十二番隊二十席葛原(くずはら)粕人(かすと)が平隊士だった時に(さかのぼ)る。

 

 マユリの部屋。

 この日。粕人は上司の(くろつち)マユリに招かれ鍋を囲っていた。

「しかし隊長。いくら侵入者とはいえあんな血も涙もないことをしなくてもいいのでは?」

「え!?」

 笑いながら言う粕人の言葉に、マユリの股の間でご飯を食べていた(ネムリ)八號(はちごう)は固まった。

「ま、マユリしゃま……」

 ブルブルと震えながら眠八號はマユリの方に振り返る。

「マユリしゃまは……ロボットにしちゃうんですか!?」

「「……」」

 震える声で尋ねる眠八號の言葉に

 

「ははははははっ!!」

「ひぃ、ふふふふふふふっ!!」

 

 マユリは腹を抱えて笑い出し、粕人は口と腹を抑えて笑いを抑えようとしても抑えられずにいた。

「眠さん、『血も涙もない』というのは――」

 トントン

「ん?」

 首を傾げる眠八號に説明しようとしていた粕人が振り向くと、そこにはイタズラめいた顔のマユリがいた。マユリは「しー」と発言を止めさせると眠八號の方へ振り返る。

「眠八號。私は気に入らない人間はぜーんぶロボットに変えてしまうのだ」

「そ、そんな……」

「だが眠八號」

 ポンッとマユリは眠八號の頭に手を置くと優しく撫でながら続ける。

「お前はロボットにしないヨ」

「ま、ま、ま……まゆりしゃま~~~!!」

 胸の中で泣き叫ぶ眠八號を「よしよし」と慰めるマユリ。その様子を粕人が微笑ましく見ていた。

「あ、そろそろ帰らないと」

「え?もう帰るのですか?」

 眠八號が落ち着いたのを見計らったかのように時計を見た粕人に眠八號が尋ねる。

「ええ、明日早いので。あ、そうだ!」

 粕人は懐から折り紙を取り出すとあっという間に鶴を作った。

「はい、どうぞ。眠さん」

「ねぇねぇクズしゃん。他にも出来ませんか?」

「他にですか?では」

 目を輝かせる眠八號に粕人は瞬く間に作った舟を手渡した。

「うわぁ~!じゃあカブトムシとかはどうです?」

「カブトムシですね」

 注文どおりカブトムシを作り眠八號に手渡す粕人。

「じゃあ今度は!」

「はいはい」

 眠八號が繰り出す要望に粕人はニコニコと笑いながらすぐに作っては渡す。

 この時粕人は気づいていなかった。上司である涅マユリが鬼のような表情でその光景を見ていたことを。

 

 ====================================================

 

 マユリの部屋を出て数分後。

「あ、いけない!これから明日の朝ごはんを買わないと」

「その必要はないヨ」

「え?……ッ!?」

 振り返ろうとした瞬間、湿ったハンカチを口元に当てられる。

「――――」

 ハンカチに染み込まれた液体が何なのか、自分にそんなものを嗅がせたのが誰なのか考える間もなく粕人は地面に崩れ落ちた。

「ククク、クズ。お前が悪いんだヨ」

 誰にも聞こえない声で影は呟くと粕人を抱えて煙のようにその場から消えた。

 

 ====================================================

 

 翌日。技術開発局。

阿近(あこん)サン、珈琲(コーヒー)デス」

「あぁ、ありがとう。くずは、らぁぁぁぁぁぁっっっ!?」

 作業に没頭した阿近が振り返る。そこにはロボットと化した葛原粕人が立っていた。

 

 




今回はとある方の感想を見て思いつきました。
この場を借りてお礼申し上げます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

前門に朽木白哉 後門に更木剣八

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


 瀞霊廷通信。

 特にこの瀞霊廷通信を読みながら歯を磨いている9月14日生まれのあなた。今日死にます!

 朽木白哉と更木剣八を敵に回す日。お酒を飲み過ぎないようにしましょう。

 ラッキーアイテムは聖書、十字架。気休めになるでしょう。

 

 ====================================================

 

 とある居酒屋。

「しかし先遣隊は日番谷(ひつがや)隊長で良かったと思わないか」

「何の話だ」

 粕人は親友である四番隊平隊士、佛宇野(ふつうの)段士(だんし)と居酒屋で酒を飲んでいた。

破面(アランカル)の侵攻に備える時、松本(まつもと)副隊長が参加するということから日番谷隊長が先遣隊の隊長に選ばれた。でも先遣隊には は阿散井(あばらい)副隊長、朽木(くちき)ルキア隊長、斑目(まだらめ)副隊長 綾瀬川(あやせがわ)三席もいた。つまり朽木(くちき)隊長、更木(ざらき)隊長、浮竹(うきたけ)前隊長も先遣隊の隊長になってもおかしくないという理屈になる」

「確かにそうかもしれないな」

「で、だ。まず浮竹隊長は病気のことがあるから除外。朽木隊長と更木隊長が残る。

 朽木隊長が先遣隊の隊長だったとして。あの人が一般人と暮らせるととう点で疑問が残る? あの人は四大貴族に数えられる名家。それゆえに庶民とはかけ離れた感覚の持ち主。そんな朽木隊長が寝泊まりする場所も特に用意されてなかった現世に滞在することなどできるわけがないだろう。

 更木隊長の場合事件が起こるか起こらないか分からない状況下でおとなしくしているとは思えない。 現世で余計な摩擦を起こさずに暮らすなどできそうにないだろ。そもそも戦闘狂であり強いものと戦うことを生きがいとしている更木隊長が引率者としての適性を持つかと言っても大いに疑問を持つ」

「まあ、そうだな」

 二人は手にしている酒を口にして喉を潤す。

「話は続ける。短期間の滞在ならば二人でも問題ないかもしれない。しかし長期に渡って人間社会の中に入り込まなければならないとなってくると話は全く別だ。日番谷隊長の場合はホームレス状態で過ごしても井上(いのうえ)織姫(おりひめ)の部屋で居候してもそこに不満を言うことなく過ごしていたみたいだが、あの二人にそんな真似ができたかと思うとかなり疑わしい」

「朽木隊長だったら『このようなもの私の口に合わん』って言いそう。更木隊長はだったら『こんな何もないところでジッとしてられるか!』暴れていただろうな」

「ほう」

「言ってくれるじゃねーか」

「「え?」」

 二人が振り向く。そこには噂をされていた当人、朽木(くちき)白哉(びゃくや)更木(ざらき)剣八(けんぱち)が立っていた。

(や、やばい……ど、どうする佛宇野……!?)

 粕人は親友の方へ振り返る。しかしそこには真央霊術院(しんおうれいじゅついん)時代からの親友ではなく六番隊副隊長阿散井(あばらい)恋次(れんじ)の姿が。 

「隊長、更木隊長。ちーす」

 恋次は二人の隊長に挨拶をすると居酒屋から出て行く。

(あれ……阿散井副隊長って居酒屋にいたっけ?)

 粕人は親友の斬魄刀の能力を思い出す。

(あいつの斬魄刀の名前は写絵(うつしえ)。解号は『見るものを(だま)せ』。能力は思い込み。見る者に自分を別の者に誤認させる効果がある。正しい思い込みのため見るものが思い込ませようとする対象を知らなければその姿を見せることができず、違和感を覚えられると効果が消滅してしまうというデメリットがある。ってことは!)

「お前、佛宇野だな!」

 粕人が叫んだ直後、赤い髪とイレズミが特徴の副隊長の姿が無二の親友に変わる。

「待ちやがれ佛宇野!」

 店を出た親友を追おうとする粕人。だが

「どこに行く?」

 出口に向かおうとする粕人の目の前には瞬歩で回りこんだ白哉の姿が。

「この私を侮辱した

「まあ待てよ」

 粕人の肩に手を置く。

「おい、どこ行くんだ?」

 腹をすかした猛獣が極上の餌を見つけた時のような笑みを浮かべていた。

 

 翌日。

「かかか、ききき、くくく、けけけ、こここ。こけぇここここここっっっ!!」

 瀞霊廷の片隅で脱尿&脱糞し精神崩壊しケラケラと意味不明なことを言っていた葛原粕人が発見された。

 




いつか話した佛宇野段士の斬魄刀の能力です。
もし見抜いていた人がいたらすごいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

涅マユリの悪夢 性転換編

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


 深夜。マユリの部屋。

 

(くろつち)隊長……」

 狼狽する涅マユリの前に頬を赤く染めた小柄な女性が立っていた。

 引き締まった肉体を持ち、隊服の胸元を大きく盛り上げる乳房の膨らみや健康的にムチッと張り詰めた臀部。幼い顔立ちと胸の大きい大人のプロポーションは一種のアンバランスを生みだしている。

 年下にも見える童顔に男の欲望を叶えたような肉体。そして近づくだけで笑顔になる雰囲気を醸し出す女性に、普通の男ならば欲望を刺激されるがマユリは大量の汗を流すしかないなぜならば。

「涅隊長。この葛原(くずはら)粕人(かすと)改め葛原(くずはら)粕子(かすこ)……隊長に全てを捧げます」

 そう言うと女体化した粕人は服をぱらっと落として裸身を晒すとゆっくりとマユリの方へと歩んでいく。

「涅隊長、不束者(ふつつかもの)ではございますが……私の初めてを、奪ってください!」

「く、来るな! 頬を染めて(しな)を作りながら潤んだ目で私を見ながら近づいてくるな!!……う、ううっ……」

 

 うぎゃああああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!! 

 

 技術開発局及び十二番隊隊舎にマユリの絶叫が響き渡った。

 

 ====================================================

 

「うぅ、やめろ、やめろ……うわああああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!……ハッ!?」

 バッと布団を跳ね除けたマユリは周囲を確認し、先ほどの悪夢が夢だと気づく。

「ふう。なぜあのクズと……ッ!?」

 夢の続きを想像してガクガクと震えるマユリ。

「く、涅隊長! 大変です、大変です、大変でぇぇぇぇぇぇ!?」

 転がり落ちるかのようにノックもせず部屋に入ってきた粕人にマユリはバレーボール大の玉、虫喰玉(むしくいだま)を投げつける。

「ひぎぃ! も、申し訳ございません。涅隊長。ですが、ですが……本当に一大事なのです!!」

 クズと呼ぶ男の狼狽する姿に「このクズは……」とため息をつくのだった。

 

 ====================================================

 

「な……」

 数分後。涅マユリが見た光景にマユリは絶句した。

 

鵯子(ひよこ)、あなたは今日も綺麗ねぇ」

「もうアコったら、冗談がうまいわねぇ」

「リンカ。今夜、一緒に食事に行かないか?」

「と、采夫(とるお)さんがそうおっしゃるなら」

「に、ニタさん! す、好きでした! 結婚を前提にお付き合いしてください!!」

「ごめん昭子(あきこ)。まだ僕は研究に集中したいんだ」

 

「……」

 自らがクズと呼ぶ男、葛原粕人を除く部下たちが性転換した姿に

 

 うぎゃああああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!! 

 

 マユリは発狂した。




今回は感想を下さった方のコメントを元に作りました。
この場を借りてお礼申し上げます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第二十八話 葛原粕人はバケモノになるようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


 二番隊隊舎、砕蜂(ソイフォン)の部屋。

「……」

 二番隊隊長にして隠密機動の長、砕蜂は一人考え事をしていた。

 元来持つ気の強さから砕蜂には嫌いな男が多い。嫌いな男ランキングを述べると

 一位に自分と崇拝する四楓院夜一を引き裂く原因になった浦原(うらはら)喜助(きすけ)

 二位に満足に仕事をせずに金勘定のことばかり考える副隊長、大前田(おおまえだ)希千代(まれちよ)

 三位に浦原喜助の元部下であり不気味な男、(くろつち)マユリ。

 その三位に迫る男がいた。

葛原(くずはら)粕人(かすと)!」

 裏見隊の月光が提出した粕人の調査書を見て砕蜂は激昂した。

 彼女にとって粕人は崇拝する夜一にちょっかいをかける蝿のような存在だった。さらに夜一と仲良くなれるという粕人の甘言によって酷い目にあった。

「あの男は、あの男だけは血祭りに上げたい!」

 握った拳の爪が肉に食い込み、血がにじみ出る。

「だが葛原粕人は斬魄刀・幽世(かくりよ)閉門(へいもん)の力で不死身。斬魄刀を破壊してから殺せば生き返りはしないがそうした場合……葛原粕人を雑用係兼実験用被験体兼いざと言う時の生贄(いけにえ)として重宝している涅マユリ(あの男)が黙ってはいないだろう。涅マユリ(あの男)のことだ。じわりじわりと嫌がらせをしてくるに違いない。涅マユリ(あの男)は怖くはないが、敵に回すと面倒すぎる。そして事が明らかになった場合、非がある私に処罰が下されるのは火を見るよりも明らか。となると葛原粕人を殺す利益以上の不利益が私に返ってくる」

 どうすればいいと頭を抱えて悩む砕蜂。

「!」

 考えること数時間。砕蜂はあることを思い出した。

「そうだ、いい方法がある。葛原粕人を殺さずに葛原粕人に復讐する方法が!」

 ニヤリと笑うと砕蜂は目にも映らぬ速さでとある場所に駆け出した。

 

====================================================

 

 翌日。

「確かお前は……葛原粕人だったな?久しぶりだな」

「あ、ああ、はい。ご、ご機嫌麗しゅう……」

 水浴びをしている所を覗き見にした粕人はあっさりと夜一に見つかっていた。

 恐怖で身体を小刻みに震わせる粕人に今まさに殺さんとする夜一。その光景を砕蜂が少し離れた場所で隠れて見ていた。

(葛原粕人め!クズの分際で夜一様の完璧な肢体を覗き見ようとは、万死に値する!!)

 憤りながら懐から毒々しい緑色のノートを取り出す。ノートには『バケモノになる』と書かれてあった。

 それはマユリが虚園に行った際、ザエルアポロの保管庫から持ち帰ったノートの一つである。

「お、お許しを……お許しを!」

「さて、どう料理してやろうか」

 腰を抜かしたまま許しを乞う粕人に怒りの炎を滾らせる夜一。

(ふふふ、葛原粕人。バケモノになって夜一様に殺されてしまえ!)

 砕蜂はノートを開くと

 

『葛原粕人』

 

 と名前を書いた。次の瞬間

「な、なんだ!?うわあああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!」

 突然起こる未知なる感覚に、粕人は悲鳴に似た絶叫を上げる。

「な、なんじゃ!この『て、て、テレビを見る時は~部屋明るくして離れて見てね』と言いたくなるほどの点滅する閃光は!」

 腰を抜かす小柄な男から発せられる閃光に思わず手で目を覆う夜一。

「お、収まったか……ッ!?」

 閃光が収まるとそこには

「くじゅ?」

 黄色いネズミを連想させる、体長40センチほどになった愛らしい瞳をした粕人がいた。

 

 ドキューーーーーーンッッッ!!!!

 

 その愛らしい姿に、夜一の心が貫かれた。

「な、なんと()い奴、これは持ち帰りたい……いや、このまま放置しておいたら危ない。誰かが保護してやらねば!」

「くじゅ?」

 独り言のように呟く夜一に首を傾げる粕人。

「な、なあ。葛原粕人。そ、そのままでは不自由だろう?元に戻るまで儂と一緒にいるか?いや、一緒にいるがいい!!」

「くじゅ~!」

 頬を染める夜一の提案に愛玩動物(バケモノ)になった粕人は子どものように喜びを露わにする。その無邪気な愛玩動物(バケモノ)

「お~、いい子だ。いい子だ!」

 と抱きつき頬ずりする夜一。

「くじゅくじゅ!」

 愛玩動物(バケモノ)になった粕人も嬉しそうな声で鳴く。

「よ、よし。それじゃあ家に帰って一緒に飯でも食うとするかのぉ」

「くじゅ~!」

 愛玩動物(バケモノ)になった粕人を脇に抱えると夜一は最初からその場にいなかったかのように走り去った。

「……………………」

 憎い男が崇拝する女性に惨殺されるどころか心を射止め、自分がしてもらいたかったことをしてもらえる展開になったことに放心する砕蜂。そして

 

 よ、よ、よ……夜一様ああああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!

 お前だけは、お前だけは絶対に許さんぞ……葛原粕人!!!!

 

 という悲痛な叫びと怨嗟に塗れた怒号が響き渡った。

 ちなみに粕人が元に戻るまでの数日間、砕蜂が嫌う男ランキング一位に浦原喜助を押しのけ粕人がランキングトップに君臨することになったのは言うまでもない。

 




元ネタです。
『て、て、テレビを見る時は~部屋明るくして離れて見てね』
ポケモンショック以降に注意喚起するようになったこち亀OP。

くじゅー
葛原粕人がバケモノになった姿。その姿に心奪われた夜一によって連れ去られた。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第二十九話 某ゲームのCMを見た涅マユリが狂喜乱舞したようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


 (くろつち)マユリの部屋の前

「え?」

 四番隊から涅マユリが隊長を務める十二番隊に異動して十年以上経過した葛原(くずはら)粕人(かすと)。そんな男が目の前の光景に固まっていた。

「ヒャハハハ、ウホッ、グフッ、フフフ、フハハハハハハッ!!」

 どんな異常事態にも冷静沈着に分析をする上司からは想像できない狂喜乱舞する姿に

「……」

 粕人はスッと扉を静かに閉めた。

 

 ====================================================

 

 数分後。

「阿近さん」

「どうした、葛原?」

 粕人は技術開発局№2であり技術開発局の中で涅マユリと付き合いの長い阿近(あこん)のもとを訪ねていた。

「実は……書類の確認をしてもらおうと涅隊長の部屋を尋ねたら……何か、こう……不気味なくらいに喜んでいる隊長の姿を見まして……何かあったのでしょうか?」

「あぁ、多分アレだろうな」

「アレ?」

「これだよ」

 阿近はパソコンを立ち上げると一つの動画を粕人に見せる。

 それは現世で流行しているゲームのCMで人気お笑い芸人コンビが涅マユリと金色(こんじき)疋殺地蔵(あしそぎじぞう)(ふん)するというものだった。

「なるほど、これは隊長も喜ばれるでしょうね」

「……人気投票で日番谷(ひつがや)隊長たちに負けたことに『何で私が人気投票一位じゃないのかネ!私がどれほど尸魂界(ソウルソサエティ)に貢献したか、私がどれほど活躍したか……視聴者は分かっていないのかネ!』って酒を浴びるほど飲んでいたからな。この世の春が来たという感じなんだろうな」

「ふ~ん、人気投票なんて気にしなくていいのに。隊長が素晴らしいお方なのは技術開発局(ここ)の人間なら皆分かっていることなのに……」

 重い溜息と共に呟く粕人。だが『運の悪さは零番隊総戦力』と隠密機動第四分隊裏見隊(りけんたい)月光(げっこう)に評価された男はとんでもないことを口走る。

「そんなことを気にするなんて、隊長も案外器が小さいんですねぇ~」

「ッ!?」

 粕人がマユリの悪口を言った瞬間、阿近はバッとドアの方角に振り向いた。

「……」

 そこには無言で立ち尽くす上司、涅マユリの姿があった。

「……」

 そのまま何も言わず姿を消すマユリ。

「く、葛原。そろそろ仕事に戻ろう」

 そう言って話を切り上げた副局長は事の結末を想像し、この日一番のため息をついた。

 

 

 ====================================================

 

 深夜。

「遅い!」

 粕人の部屋で粕人を主と呼ぶ少女、竹馬棒が頬を膨らませていた。

 この日、竹馬棒は粕人と晩御飯を一緒にする約束を取り付けていた。久しぶりの二人きりの食事に竹馬棒は西へ東へと食材を買い求めた。主と呼ぶ愛しい人に喜んでもらいたい一心で。しかし仕事が終わってすでに1時間。粕人が戻ってくる気配はなかった。

「……もしかして。何かあったんじゃ……」

 不安に駆られ、竹馬棒は部屋を飛び出した。

 技術開発局に行くと鵯州(ひよす)壷倉(つぼくら)リン、久南(くな)ニコなど技術開発局の主要メンバーと出会った竹馬棒は粕人のことを尋ねた。だが彼らの答えは「仕事が終わって開発局を出た所までは見たが……」という落胆させるものだった。

 技術開発局に忍び込むと偶然出くわした阿近に粕人の所在を尋ねる。その答えは

 

「葛原がどこにいるかは知らないが……諦めろ」

 

 の一言だった。

「ま、まさか!?」

 最悪の事を想像しそれから技術開発局の隅から隅まで探す竹馬棒。しかし粕人本人はおろか、その痕跡すらも見つけることができなかった。

「はぁはぁ……一体どこに……」

 日が昇り始めた頃、あちこち走り回り竹馬棒は十二番隊隊舎にある中庭の巨木に手を置き、冷たい感触を覚える。

「え、何……ッ!?」

 恐る恐る手のひらを見る。それは血だった。

「……」

(ま、まさか……)

 竹馬棒は無言で血が(つた)う巨木を見上げ

 

「い、い、い……イヤアアアアアアァァァァァァッッッ!!!!…………────」

 

 頬に手を置き、絹を裂くような悲鳴を十二番隊隊舎及び技術開発局に響き渡らせ、糸が切れた人形のようにその場に気絶した。

 竹馬棒が見た光景、それは

 

「────」

 

 不気味な赤子の顔をした斬魄刀で心臓を串刺しにされ絶命した、主と呼ぶ愛しい男の姿だった。

 竹馬棒の悲鳴を聞きつけ、粕人の死体に衝撃を露にする隊員たち。その中に副隊長である阿近の姿があった。

 あまりにも残虐な光景に、阿近はこれが『涅マユリによる見せしめ』だと悟ると外部にこの事が漏れないよう直ぐに箝口令を発令。その後粕人を除く席官全員を召集。『局長の陰口を隊舎及び開発局内で言うのを控える』ことを全員に徹底させるように命令した。

 

 

 

 その後この事件を知る隊員たちがマユリの管轄内で陰口を言わなくなったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 




 モンストでハリセンボンのお二人が涅マユリと金色疋殺地蔵に扮して出演されたCMを見た瞬間「え、これ、何?え、これ、(涅マユリを主人公&準主人公にした二次小説を書いている)私のために作ったの?」と呟いてしまいました。
 その感謝をこめて今回の話を作りました。
 最後のシーンは12巻の藍染惣右介の暗殺シーンです汗

 復活する時間に指摘してくださった方がいましたので加筆しました。
 この場をかりてお礼申し上げます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

阿近が涅マユリの秘密道具第二話を見た時から多くの読者の皆々様が薄々気づいたことを代弁するようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。

なんで阿近がBLRACHを読んでいるかというツッコミはスルーして頂けると幸いです。


 技術開発局休憩室

 技術開発局で局長である涅マユリに次ぐ地位にいる男、阿近(あこん)はBLRACHの十四巻を読んでいた。

「この頃の局長はひどいな」

 自身が爆弾にされたことに恐怖する隊員に容赦なく起爆スイッチを押すマユリ(上司)のシーンを見て、呟かずにはいられなかった。

「100年以上付き合いのある俺でも局長のやることは分からないことがある。まぁ、そこもあの人の魅力と言える所もあるんだけどな」

 そう言って阿近は机に置いた珈琲(コーヒー)に口をつける。

「ん?」

 ふと阿近の視界に何者かが入る。

「ふう、よっこいしょ」

 そう言ってドリンクサーバーの前に立ったのはマユリに顎で使われる十二番隊第二十席兼技術開発局雑用係総責任者兼眠八號(ネムリはちごう)護衛総責任者という誰もやりたくない雑用と極度の緊張と責任を負わされる仕事を押しつけられた不運な男、葛原(くずはら)粕人(かすと)だった。

「はぁ、それじゃあやりますか」

 小柄な男は腰をトントンと叩くと持ってきた段ボールから必要な物を取り出すとドリンクサーバーを掃除、点検。それが終わるとドリンクサーバーで規定に達していない飲み物を補充していく。

 普段の仕事と違い無駄のないテキパキとした動きでそれらを行う粕人を見ながら阿近は思う。

(14巻の時点で、葛原が最初から十二番隊、もしくは四番隊から十二番隊(うち)に配属されていたら。間違いなく葛原が人間爆弾役に選ばれていただろうな)

 苦笑を浮かべる阿近の視線に気づいた粕人が振り返る。

「……あの、阿近さん?どうしたんですか。人を憐れむような目で見て」

「……いや、何でもない。それより葛原、今晩暇か?何か奢ってやるぞ。六角(ろっかく)(てい)でどうだ?」

「あ、ありがとうございます」

 キョトンとした顔で頭を下げる粕人。

「失礼ながら阿近さん。……何かあったんですか?六角亭って結構値がありますけど……」

「いや、他意はない」

 阿近は首を横に振ると心の中で呟く。

(言えるわけがないだろう。もし『葛原(お前)が14巻の時点で十二番隊にいたら間違いなく人間爆弾に選ばれていたな』なんて)

「ハッ!もしかして……」

 何かを思いだし、粕人は頭を抱えてその場に(うずくま)る。

「昨日誤って割ってしまった(ネムリ)さん手作りの湯呑みを僕が作ったダミーとすり替えたことが隊長にバレて──」

「ほう、そうだったのか」

「「────ッ!?」」

 阿近と粕人は固まった。何故ならば先ほどまで休憩室にいなかった二人の上司、(くろつち)マユリが粕人の背後に立っていたからだ。

「そうだクズ。お前には今から付き合ってもらいたい実験がある。なぁに、そんな難しいものではない。私が開発したとある液体に数時間全身を浸かるだけだ。心配することはない」

「い、嫌だ!……隊長のことだ!僕を溶解液に──」

 マユリは研究素材を見つけた時のような満面な笑みを浮かべると逃げようとした粕人の首根っこを掴んでその場から消えた。

 

 

 

 その日の夜。「来ることはないだろうな」と思いつつも念のため日付が変わるまで六角亭にいた阿近だったが同情した男が来ることはなかった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第三十話 マユリは運動不足の局員たちのためにあるものを開発したようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


 深夜。涅マユリの部屋。

「う~む」

 マユリは一人考えていた。技術開発局は日夜尸魂界(ソウルソサエティ)の発展のために局内で実験・研究などに没頭している。それ故に運動不足が懸念されるようになっていた。

「何かいい方法はないだろうか。どこかに移動せずにその場で運動できれば……その場で運動?そうか!!」

 何かを閃いたマユリはすぐに脳内のアイディアを再現しようと行動を開始した。

 

 翌日。マユリの部屋。

「隊長、どうかされましたか?」

 次の実験の準備など仕事の準備を終えて一休みしようとしたところに緊急の呼び出しを受けた十二番隊二十席、葛原(くずはら)粕人(かすと)は嫌な予感を感じつつもそれを感じさせない笑顔を作っていた。

「ククク。クズ。私はとんでもないものを作ってしまった」

 よほどの自信作なのか、マユリは満面の笑みから「ククク」という笑い声を止められずにいた。

「いや。私の作るものに間違いはないのだが。これは最近のものでは一番といっていい、素晴らしい作品だネ」

「いや、さっさと見せろよ……ッ!!」

 つい出た本音に粕人は慌てて口をふさいでごまかそうとする。しかし自分が作ったものを見せびらかせたくてウズウズしているマユリはあえてそれを受け流す。

「クズ、私は前々から考えていたことがあった。それは技術開発局の人間は研究等に没頭するあまり運動不足になってしまう点だ!」

「あぁ~、確かにそうですね」

 前々から自分も思っていたのか、粕人も大きく頷く。

「そこで私は考えた。ならばその場で運動できるようにすればいいと。そこで開発したのが、これだ!」

 そう言って指差した物を見て粕人は固まった。なぜならば彼はそれを見たことがあったからだ。それに気づかないマユリは嬉しそうに説明する。

「これは屈伸(くっしん)マジック!座ってポンポンと上下に動くだけで正しいスクワットができるという優れものだヨ!そしてお腹、ヒップ、太もも、内もも、ふくらはぎの5つの部位を同時にトレーニングできるというまさに十分な運動時間を確保できない局員たちにとって待ち焦がれていた夢のような発明だヨ!!」

「お言葉ながら隊長、この屈伸マジックに似たスクワット○ジックというものが現世に――」

 粕人はそれ以上言うことができなかった。何故ならば目が笑っていない笑みを浮かべながらマユリが刀を抜こうとしていたからだ。

()(むし)れ『疋殺(あしそぎ)――」

「い、いいい、いいえ!凄いです凄いです涅隊長!!座るだけで正しいスクワットができるなんて誰も思いつかなかった発想を思いつきかつそれを実現してしまうその発想力と実現能力!!さすがは磁束密度の単位「テスラ」にその名を残すなど多くの実績・貢献をしたニコラ・テスラを超える実績と貢献をする男、涅マユリ!!!」

 大量の汗をかきながら賞賛の言葉を述べる粕人に、マユリは「ニコラ・テスラと比べられてもな」と言いつつもまんざらでもない顔で刀を元に戻す。

「では、クズ。早速使ってみるがいい」

「あ、はい」

 粕人は屈伸マジックのサドルに腰掛けてゆっくりと力をかけていく。そして

「よっ」

 と力を抜いた。次の瞬間

 

「うぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!――――」

 ボオオオーーーーーーンンンッッッ!!!!

 ドガアアアーーーーーーンンンッッッ!!!!

 

 粕人の体はゴムの力で打ち出された小石のように上昇すると天井を突き破った。

 天井を突き破ってもなお速度の落ちない粕人は霊力を完全に遮断する瀞霊壁(せいれいへき)にぶつかり

 

 ジュウッ

 

 水の入った灰皿に押し付けたタバコの火のように消えてしまった。

「ふむ。どうやらこの屈伸マジックには改良の余地がありそうだネ」

 そう言うとマユリは部下に天井を直すように命令すると屈伸マジックの改良に取り掛かった。

 

 




久しぶりの開発シリーズ。何を開発させるかを考えることも大変ですが粕人のゴマすり台詞を考えるのも結構難しいです汗

ニコラ・テスラがどんな方か知りたい人はニコニコ動画で『ニコラ・テスラ』と打つと可愛らしい女の子二人が紹介している動画があります。

あと個人的な話ですが、この間健康診断がありました。そこで気づいたこと
「へぇ、自分って172センチなんだ。乱菊さんとほぼ一緒じゃん(実際は筆先文十郎の方がちょっと高い)。まあ私の場合は腹が出ているんだけど。ははは……あれ、なんか涙出てきた」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第三十一話 世界は救われる。一人の命を犠牲にすれば

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


 技術開発局。

「ば、バカな!?」、「う、嘘よ!こんなの……」、「そうだ、夢に決まっている……」

 技術開発局が誇る超高性能レーダーが探知した情報に局員達はパニックになっていた。

 

 尸魂界(ソウルソサエティ)を焦土にするには十分すぎるほどの巨大隕石が光速を超える速さで接近。衝突するまで残された時間は約一時間。

 

 護廷十三隊で協議していては間に合わないと判断した技術開発局局長・(くろつち)マユリはすぐに技術開発局主要人物を会議室に召集した。

 

 ====================================================

 

 技術開発局会議室。

 モニターには今まさに尸魂界に迫りつつある巨大隕石とその位置情報が表示されていた。

「皆も知っているが今まさに巨大隕石が尸魂界が迫っている。もしこれが尸魂界に落ちれば尸魂界は生きる者のいない死の荒野となるだろう」

「う……」

 深刻な表情でマユリの説明に十二番隊第二十席兼技術開発局雑用総責任者兼眠八號護衛役総責任者の葛原(くずはら)粕人(かすと)を始めとする局員たちはゴクリと喉を鳴らす。

「そしてこんなことがあるかもしれないと思い、私はあるものを開発していた。それがこれだ」

 マユリがパチンと指を鳴らすとモニターの右端に巨大な大砲の写真が表示される。

「これは私が開発した魂弾砲(こんだんほう)。文字通り魂を砲弾にして打ち出す大砲だ。一度使用すれば二度と使うことはできないのが難点だがその威力は絶大。人間換算して50年ほどの寿命分の魂で今まさに尸魂界に迫りつつある巨大隕石を粉砕する威力を持つ。……誰か一人を犠牲にすれば、の話だが」

 

 !!!!

 

 誰か一人を犠牲にする。その言葉にその場にいた全員が息を呑む。

「このような危険なことにお前たちを巻き込むわけにはいかない。よって私が魂弾砲に――」

「待ってください!」

 マユリの言葉を止めたのはマユリの懐刀にして技術開発局№2の阿近(あこん)だった。

「局長は技術開発局だけではなくこれからの尸魂界に必要な人物。そんな人をこんなことで失うわけにはいかない!俺が魂弾砲の弾になります!!」

「おっと、待てよ。阿近」

 ギョロッとした目をしたフグのような男、鵯州(ひよす)が待ったをかける。

「局長ほどではないがお前も技術開発局(うち)にとって必要な男なんだぜ。ここは俺が行かせてもらう」

「あらあら。いい格好しようなんてそうわさせないわよ。魂弾砲の弾は私がなるわ」

 と研究素材捕獲科科長の采絵(とるえ)が微笑を浮かべながらつぶやく。そんな彼らに続くように他の局員たちも「自分が!」、「いや俺が!」と続く。

「待ってください!」

 それらの声を止めるように、粕人が声を上げる。

「皆さん技術開発局に必要な人材。失うわけにはいきません。よって僕がなります、魂弾砲の弾に!!」

 

 

 どうぞどうぞ(×全員-粕人)

 

 

「え?ちょ、ちょっと!?」

 粕人が魂弾砲の弾になると宣言した瞬間、マユリを始めとする面々は魂弾砲の発射準備を始める。

「ちょ、ちょっと!!皆さん僕が死んでも生き返る斬魄刀・幽世(かくりよ)閉門(へいもん)を持っているから『葛原ならどうせ生き返るから弾にしてもいいか』って考えてませんか!?……確かに僕の幽世閉門はそういう能力ですけど僕は一度も死んでないんですよ!!生き返るかどうかの保障なんてないんですよ!!……って僕を無視しないでテキパキと準備しないでください!!ああああああぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!ーーー」

 粕人の叫びを無視し、局員たちは問答無用で魂弾砲の砲筒に押し込めた。

「それでは、発射!!」

 

 ポチッ

 

 マユリが発射スイッチを押すと文字通り砲弾化した粕人の魂は巨大隕石を粉々に粉砕。

 その日、尸魂界に大量の流れ星が観測された。

 

 

 ちなみに一週間後。一度も死んでないから生き返るかどうかわからないといっていた男は何事もなかったかのように技術開発局に復帰した。




今回はダチョウ倶楽部さんがよくやられる鉄板ネタが元になっています。
楽しんでいただけたなら幸いです。

人間換算して50年ほどの寿命分の魂=巨大隕石を粉砕する威力
と魂弾砲の説明がわかりづらかったので加筆しました。
申し訳ございません。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第三十二話 尸魂界一運が悪い男が運がよくなる薬を飲むとどうなるのか

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


 人には人生に一度、とんでもないついてない日があるという。

 もし満場一致で世界一不幸だと言われる男がその日を迎えた場合、果たしてどうなるのだろうか。

 この物語は誰がどう見ても不幸な(本人はそう思っていない)男、葛原(くずはら)粕人(かすと)に密着した物語である。

 

 =======================================

 

 技術開発局。涅マユリの部屋。

「クズ。目を(つむ)って口を大きく開けろ」

「は?いきなり何を――」

「開けないなら疋殺(あしそぎ)地蔵(じぞう)でお前の身体を突き刺して――」

「は、はい!……アーン……ングッ!?……ゴクン」

 言われた通り目を閉じて口を大きく開ける粕人の何かが放り込まれる。驚いた粕人はそれが何なのか確認する前に放り込まれたものを飲みこんでしまった。

「あ、あの……涅隊長。一体何を――」

「クズ。現世で行われている宝くじに行ってきてくれ」

 そう言われ万札を帯になった万札を渡される粕人。

「え?」

 何でですか、そう尋ねる前に

「さっさと行かんか!このクズが!!」

「は、はい!!」

 マユリの怒号に粕人は転がるように部屋を後にした。

「ふふふ」

「局長、葛原が『急いで宝くじ買いに行かないと!!』と言いながらどこかに行ってましたが……何かあったんですか?」

 粕人と入れ替わるように入ってきたのはマユリの右腕であり腹心である副局長、阿近(あこん)だった。

「あぁ阿近か。実はクズに月のツキフシギナコトグサという食べると不思議なことが起こる希少な草を抽出して作った薬を食べさせたのだ。ちなみにこの薬は普段ついていない者ほど運がいいことが起こる。つまり」

「宝くじなど当選するというわけですか?」

 ニヤリと笑う阿近に

「その通りだヨ」

 とマユリも同じように笑った。

 

 葛原粕人が今絶好の運気を持っている。

 

 その噂を聞きつけた局員達は次々と粕人に「宝くじを買ってきてほしい」と多額のお金を手渡した。

 その異常事態に違和感を覚えつつも粕人は了承した。

 

 

 

 1時間後。空座(からくら)(ちょう)住宅街の十字路。

「ふう、ついた」

 現世に着いた粕人は大きく背伸びをした後に屈伸をする。

「ん?」

 屈伸をした粕人は足元にキラリと光るものを拾った。

「あ、これ昭和64年の硬貨だ」

 突然だが運が世界で一番と言っていいほど超絶悪い人間が人生で一度起こるか起こらないか幸運に出会った場合どうなるだろうか。今まで運が悪かったのだからその見返りに運のいいことが引き続き起こるのだろうか。それともこれで運を使い果たしたのだろうか。例え不運と強運を逆転する現象が起きていても。

 結果は。

 

 ブオオオォォォォォォォンンンッッッッッッ!!×4

「え?……ええええええぇぇぇぇぇぇっっっ!!??」

 

 粕人は四方から同時に聞こえる轟音に我が目を疑った。何故ならば四方から住宅街を走っているとは思えないほどの速度でこちらに十字路の中心に立つ粕人に向かっていたのだから。

 数秒後。粕人が両手足で突っ込む車を抑え込むという行動によって四台の車が衝突する事態は避けられたものの四方から押し潰された粕人は両手足の骨にヒビが入る事態となった。

 その後預かったお金で宝くじを買った粕人だったが一等はおろか当たりくじ一枚もない最悪の結果だった。

 

 

 

 その後涅マユリを始め多くの局員が一ヶ月以上も極貧生活を送る状況になったのは言うまでもない。

 

 




設問。尸魂界一運が悪い男が運がよくなる薬を飲むとどうなるのか?

答え。焼け石に水である。

わかりにくいですが元ネタはドラえもんのツキの月です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

眠八號はシャチに乗りたいようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


 技術開発局

 実験をする(くろつち)マユリの隣に立った眠八號はマユリが自身の方へ振り返るのを待ってから口を開いた。

「マユリ様!私、シャチに乗ってみたいです!」

 愛娘の突然の懇願に、父親の涅マユリはビシッと言い放つ。

(ネムリ)八號(はちごう)。いいかネ、漫画などでは人間や他の動物と仲良さそうに描かれているが、本物のシャチは危険な動物なんだヨ。実際、漁に出た流魂街の住人が襲われた事例もある」

 そんな上司のマユリを十二番隊第二十席兼術開発局雑用総責任者兼眠八號(ネムリはちごう)護衛役総責任者、葛原(くずはら)粕人(かすと)は微笑ましく見ていた。

(さすがは涅隊長。普通なら子どもの夢を壊さないように適当にごまかしたり嘘を言う所を、ごまかしたりすることなくちゃんと真実を伝えて教えるべきことは教える。父親の(かがみ)ですね。まあ少々残酷なような気がしない事もないですが......)

 微笑みながらそんなことを考える粕人。しかしそんな微笑ましい状況は一変する。マユリの一言によって。

「それをクズが証明してくれる。自らの身体を実験体にしてネ」

「え?」

 

 

 

 数分後。

「た、隊長?冗談、冗談ですよね.わああああああぁぁぁぁぁぁっっっ!?」

 空間移動扉でシャチが生息する海に来たマユリは、幽世閉門以外の武器を全て奪った状態で粕人を海に放り投げた。エサの気配を感じ取ったシャチたちが一斉に粕人に向かって行く。

「く、来るな!......うわああああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!」

 必死に泳いで逃げる粕人を指さし、マユリは隣で見守る眠八號に説明する。

「どうだ眠八號。シャチは危険な動物だろう?」

「はい!マユリ様!」

「さて、帰るぞ眠八號」

「え?クズさんはあのままでいいんですか?」

 眠八號は粕人を見る。そこには涙目で襲い掛かるシャチから逃れようと必死に泳ぐ粕人の姿があった。

「大丈夫。あれは助けを呼んでいるのではなくシャチたちと戯れているだけだ。なぁに、クズは強い。海の帝王と呼ばれるシャチに何の装備も持たず海で襲われたくらいで死にはしないヨ」

 思ってもいないことを言って眠八號を納得させると、マユリは空間移動扉を使って技術開発局へと戻って行った。

 

 一時間後。

「ん?何だあれは?」

 偶然、粕人が放りこまれた海の崖にやって来た男が、目の前に浮かぶ物を見て目を疑った。

 海にはズタズタになった死覇装の切れ端と葛原粕人の斬魄刀、幽世閉門(かくりよへいもん)が漂っていた。

 




長い間投稿していなかったにも関わらずUAが10万突破。
うれしく思うと同時に申し訳ない気持ちでいっぱいの心境です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

涅マユリの悪夢 下剋上編

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


「ハァッ……ハァッ……ハァッ……」

 200名以上の隊員が見守るなか、(くろつち)マユリは部下である葛原(くずはら)粕人(かすと)に追い込まれていた。

 マユリの卍解金色(こんじき)足削(あしぞき)地蔵(じぞう)はマユリがかつて開発した物質縮小装置を粕人が拡大機能も追加した物質拡縮装置によって、粕人自身が大きく、金色足削地蔵が小さくされた上で踏み潰された。天と地ほどの差がある霊力も粕人が作った霊封輪(れいふうりん)という腕輪を無理やり装着させられた瞬間、平隊員以下まで減少させられた。

 ほかにも様々な手で自らがクズと(さげす)む男に攻撃を仕掛けたが、それら全てを自分が開発した発明品を改良した秘密道具によって無効化されていった。

「……ば、バカな。……この技術開発局局長兼十二番隊隊長、涅マユリが……」

 打つ手を全て封じられ立ち上がる意思を持てないほど混乱、心身ともに限界に達して地面に倒れるマユリ。そんな上司をニタニタと笑いながら粕人は斬魄刀、幽世(かくりよ)閉門(へいもん)

「うりゃあっ!」

 という掛け声とともにマユリの右手に突き刺した。

 

 ウギャアアアアアアァァァァァァッッッ!!?? 

 

 悲痛な叫び声をあげて地を()い、もがく上司に粕人は腰を下ろす。

「涅隊長、僕の名前を言ってみてください」

「……く、クズ!」

 マユリはクズと呼んでいた男の顔に唾を吐いた。その唾をハンカチで(ぬぐ)うと粕人は笑顔で尋ねる。

「どうやら聞こえていなかったようですね。ではもう一度聞きます。()マユリ(・・・)、もう一度僕の名前を言ってみろ」

「く、クズ!!」

「なにぃ? ……クズだとぉぉぉ!!」

 粕人はマユリの右手に突き刺していた幽世閉門をグリグリと(えぐ)った。

 

 ヒギャアアアアアアアァァァァァァッッッ!!!! 

 

 広がる傷口にドクドクと流れる血が大地を赤黒く染める。

 全ての手を打ち砕かれ、流れていく血液と比例するように絶望と心身の痛みが広がっていく。

「もう一度聞く。涅、僕の名前を言うんだ」

 静かで、それでいて情一つない冷酷な言葉が鋭利なナイフとなって弱り果てたマユリの心を突き刺した。

「……く、く、く……葛原……」

 そして遂にマユリは

 

 葛原隊長ぉぉぉぉぉぉっっっ!! 

 

 自身も含め、絶対に言わないと思われた敗北宣言を口にした。

「ふふふ、そうだ!」

 涙と鼻水まみれの前隊長(・・・)を見て、粕人は嬉しそうに笑いながら幽世閉門を引き抜く。

「だが殺しはしない。廃人となって一生僕を恐れるんだ!!」

 粕人は部下(・・)になった阿近(あこん)らに後処理を任せると笑いながらその場を後にした。

 

 後日

 車椅子に乗せられたマユリは、四番隊の重症患者が治療を行う病棟に向かわれていた。

「…………」

 (よだれ)を垂らし焦点の合わない顔で車椅子に押される包帯まみれのマユリに、かつて十二番隊及び技術開発局で絶大な権力を誇示していた男の面影は残されていなかった。そんなマユリを粕人の先輩だった青鹿(あおが)大前田(おおまえだ)希代(まれよ)が見ていた。

「青鹿さん。涅前隊長は治らないのでしょうか?」

 後輩の言葉に悲しげに首を振る。

「下に見ていたあの葛原……いや、葛原隊長に手も足もでないほどやられたショックもあるだろうが、葛原隊長が何らかの方法で涅前隊長の脳神経をズタズタしたみたいだ。虎徹(こてつ)隊長と副隊長、阿近副隊長が手の尽くしたのだが……治らなかった。あの葛原隊長があそこまでするなんて……」

 人一倍優しい、後輩だった男の信じられない行動に嘆くように呟く。

「私も信じられません。あの葛原二十席……いえ。葛原隊長が……」

 密かに尊敬していた腰の低い男の凶行が信じられないといわんばかりに、希代は精神異常者が突然暴れても大丈夫なように頑丈に設計された病棟へ車椅子で押されていくマユリを見た。

 

 ギィィ

 

 重い扉がゆっくりと開き

 

 バタンッ! 

 

 と閉まると

 

 ヒィッ! ……嫌だ! お願いだ! 助けてくれ!! ……許してくれええええええぇぇぇぇぇぇっっっ!!!! 

 

 扉の向こうで、全てを奪った元部下(葛原粕人)の幻影を見て発狂したマユリの絶叫が響いた。

 

 

 =======================================

 

 

「ヒィッ! ……嫌だ! お願いだ! 助けてくれ!! ……許してくれええええええぇぇぇぇぇぇっっっ!!!! …………ハッ!?」

 目を覚ましたマユリはバッと布団から起きる。周囲を見渡すと、そこは普段通りの自分の部屋だった。

「ゆ、夢か……」

 全身から吹き出る嫌な汗を拭い、軽く深呼吸をすると気持ちが少し和らいだ。

(よくよく考えてみればあのクズは私を超えるような作品を作るはずがない)

 完全に落ち着きを取り戻したマユリは朝食と着替えを済まして技術開発局へと向かった。

 

 

 =======================================

 

 

 涅隊長、見てください!! 

 

 自分の研究室に入るのを見計らったかのように自らがクズと呼ぶ男が紅潮した顔でマユリの元を訪れた。

「私は忙しいんだ! 今すぐ出て行くかさっさと説明して去れ!!」

「はい!!」

 よほど紹介したいのか邪険に言うマユリに気づく様子もなく四次元袋から様々なものを取り出した。

「涅隊長にお見せしたいのはまずこれ、霊封輪。隊長が更木(ざらき)隊長に作った眼帯と比べて少し能力をしますが、眼帯と違い複数取り付けることが出来ます。更にこれを両腕に複数装着すると理論上は更木隊長すらも平隊士レベルまでに霊力を抑えることが可能です」

「……ッ!?」

 部下が見せた霊封輪とその説明を受けたマユリは身体をビクンと震わせた。

 クズと呼ぶ部下が持つ道具は昨夜見た悪夢と酷似していたからだ。

「それで次はこれ!」

 そんなマユリの心情など知らず、再び四次元袋から道具を取り出す。

「以前隊長が作られた物質縮小装置に拡大機能を追加した機械、物質拡縮装置です。その名の通り縮小だけでなく拡大も出来る優れものです!」

 粕人は次々とかつてマユリが作った発明品をグレードアップした改良品を紹介していく。楽しそうに説明する粕人は気づいていなかった。改良品を紹介するたびにマユリの顔が険しくなっていることに。

「……なるほど。クズにしてはなかなかやるじゃないかネ」

「あ、ありがとうございます!!」

 まったくと言っていいほど褒めることのない上司の言葉に、粕人は地面に頭をぶつけるのではと思うほど頭を下げた。

「ん? クズ。肩にゴミがついているぞ。取ってやろうじゃないかネ」

「あ、ありがとうございます涅隊長……え?」

 グサッ! 

「グフゥ!?」

 胸を貫く衝撃と胸から生える斬魄刀、そして斬魄刀から(つた)う血と吐血した大量の血が地面に飛び散る様子に、頭を下げた状態の粕人は何が起こったのか理解できずにいた。

「く、涅隊長? ……グハッ、グフッ、ウガッ!!」

 マユリは自らの愛刀、疋殺地蔵を引き抜くと地面に崩れ落ちた粕人に向けて何度も何度も突き刺していく。

(……く、涅……隊長ぉ……な、なぜ…………?)

 薄れていく意識の中、粕人は尊敬する上司の突然の行動に理解出来ず困惑したまま

「──────」

 絶命した。

 

 

 

 その後粕人の改良品は何者かの手によって闇に葬られた。

 




戦隊に詳しい方なら悪夢の部分を見て「ん?」と思ったでしょう。
その疑問、あってます。元ネタは鳥人戦隊ジェットマンの『帝王トランザの栄光』です。
廃人となったトランザ役の広瀬裕氏の演技はいい意味でドン引きです(実際当回のシナリオを見た出演者たちは絶句したとか)。

気になった方はレンタルで見られるか『帝王トランザの栄光』を調べてみてください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

阿散井苺花と眠八號のサンタ論争

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


 12月23日 朽木邸

 阿散井(あばらい)苺花(いちか)(ネムリ)八號(はちごう)は口論となっていた。

「サンタなんているわけないじゃん!」

「います! サンタさんは絶対います!」

「じゃあサンタがいるなら明日の夜に眠ちゃんの所訪れてプレゼントくれるはずだよね?」

「もちろんです! サンタさんは煙突くぐって必ずプレゼントくれます!」

 

 ====================================================

 

 翌日。12月24日 朝。

「……っ。あの、涅隊長。何かあったのでしょうか?」

 夜勤明けで今まさに帰って寝ようとした矢先、眠八號から母親(・・)のように慕われている十二番隊第二十席兼技術開発局雑用係総責任者兼眠八號護衛総責任者、葛原(くずはら)粕人(かすと)欠伸(あくび)をこらえて上司に用件を伺った。

「クズ、今日はクリスマスイブだ。つまりサンタクロースが可愛い眠八號にプレゼントを届ける日だ」

「そうですね」

 なぜ眠さん限定!? と突っ込もうとした粕人だったが、『私の高尚な話の腰を折るとはいい度胸じゃないかネ!?』と怒りを買うと察知し何食わぬ顔で返答する。

(これは僕にプレゼントを渡すように命令するんだろうな、自腹で!)

 心の中で「まぁ、いいけど」と折り合いをつける粕人にマユリは言った。

「サンタがプレゼントできるように煙突を作れ」

「……はっ?」

 予想もしていなかった上司の発言に、粕人はポカーンと立ち尽くす。

「あ、あの……涅隊長? 何を言って……」

「サンタクロースは煙突からやってくると眠八號は言っていたなぁ」

 マユリの真意が理解できずに固まる粕人にマユリは目を押さえながら口を開く。

「もし煙突がなかったら……。きっとサンタクロースは来ないのだろうなぁ。サンタクロースが来なかったら眠八號はものすごく悲しむだろうなぁ。その姿に耐え切れず……私は部下に当り散らしてしまうかもしれない……最悪、その部下を殺してしまうかもしれない」

 そう言ってマユリは目の前で震える部下を見る。

「……」

 粕人の死を覚悟して言った。

「涅隊長……突然の申し出に驚かれるでしょうが、隊長の家に煙突を作ってもよろしいでしょうか?」

 

 

 ====================================================

 

 12月24日 夜。

「ハクチッ!」

 煙突が見える茂みで、苺花はサンタクロースを待っていた。

「眠ちゃんはサンタはいるって言っていたけど、絶対葛原粕人(あのやろう)がサンタに変装してプレゼントして『サンタさんは来ましたよ!』と眠ちゃんに言わせる気だ。そうはいくもんか……ッ!?」

 苺花は独り言を止めて煙突を凝視する。そこには大きな袋をかついだ、赤い服を着た小柄な人物が今まさに煙突に入ろうとした。

「見つけたぞ!」

 瞬歩で一気に間合いを詰めると苺花は解号と共に斬魄刀、青龍丸を抜くと赤い服を着た人物に斬りかかった。

「う、うわっ!?」

 苺花の声に振り返った謎の人物の真っ白な髭が屋根に落ちる。

(やはり)

 苺花はニヤリと笑う。すぐにどこからともなく髭を出して顔を隠すが、その顔は葛原粕人そのものだったからだ。

 苺花に背を向けて逃げ出す粕人。

「待ちやがれ!」

 逃走する粕人と思われる人物を苺花は追った。

「くっ、ちょこまかと!」

 撒菱(まきびし)や煙幕などで追撃を妨害されて距離を離されるものの、瞬歩が使える苺花にとっては何の障害にならなかった。

「追い詰めたぞ!」

 赤い服を着た人物を誰もいない袋小路で追い詰めた苺花が言い放つ。

「さあ、正体を現せ! 偽サンタ!」

 そう言って斬りかかった苺花を

「え?」

 偽サンタは瞬歩(・・)で回避した。

(ば、馬鹿な!? 葛原粕人は瞬歩は使えないはず!?)

「卍解」

 苺花は後ろに視線を移す。そこには

 刃も柄も鍔も赤錆のように汚れた斬魄刀、写絵(うつしえ)を持った男、仏宇野(ふつうの)段士(だんし)の姿があった。

全色(ぜんしょく)塗潰(ぬりつぶし)写絵(うつしえ)!」

 仏宇野は躊躇することなく赤錆のように汚い刀身で苺花を貫いた。

 

 お前は今日、サンタクロースに出会った。

 

 消え行く意識の中で、苺花は大嫌いな男の親友の言葉を聞いた。

 

 ====================================================

 

 12月25日

「だから本当だって! 本当にサンタクロースに会ったんだって!! ほら、証拠にゲンテンドウsyuwattiを私にくれたんだって!!」

 ゲーム機を見せながらサンタクロースがいることを主張する苺花。

「「……」」

 昨日までサンタクロースはいないと言っていた娘の豹変振りに父親の阿散井(あばらい)恋次(れんじ)と母親の阿散井(あばらい)ルキアは困惑した顔で愛娘を見た。

 

 

 

 ちなみにブラック企業も青ざめる業務をやらされ疲弊したところに煙突作りを強要され、作り終えた後に寝る時間はおろか休む時間もなく夜勤をさせられた粕人は、親友の仏宇野段士に代役を頼んだ後に過労死していた。が、それはまた別の話である。




ほぼ二ヶ月ぶりの投稿。あやうく書き方を忘れるところでした。
もし待っていた方がいらっしゃいましたら、本当に申し訳ございません。

全色(ぜんしょく)塗潰(ぬりつぶし)写絵(うつしえ)
仏宇野段士の卍解。一日一回限定で斬った相手を仏宇野が言ったように思い込ませることができる。
卍解時は刃も柄も鍔も赤錆のような汚れが浮かび上がる。自称『尸魂界で最も醜い斬魄刀』。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

眠八號に弟が出来るようです(前編)

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


 夜。マユリの部屋。

「マユリ様! 私、弟が欲しいです!」

「……」

 愛娘の(ネムリ)八號(はちごう)の言葉に、(くろつち)マユリは「はぁ……」と重い溜息をつくと

「バカなこと言っていないでさっさと寝ろ!」

 と無理やり寝かしつけた。

 

 ======================================

 

 技術開発局休憩室前。

 

 ……んで、どうよ? 

 俺はコイツだと思う……

 ……いや、違うだろ

 

「ん?」

 休憩室の前を通りかかったマユリは中から聞こえる声が気になり中を覗く。

 そこには週刊少年〇ンデー(他社の有名推理漫画)を広げながら「犯人が誰なのか?」、「トリックは何なのか?」、「どうやってアリバイを確保したのか?」を議論していた。

「……確かあの漫画は怪しい組織によって怪しい薬を飲まされた主人公が数々の事件を解決していくという漫画だったな」

 見た目だけでなく裏でも色々怪しいことをしているマユリが顎に手をあてつぶやく。

「……ッ!!」

 その時、マユリの脳内に閃きが走る。

 その閃きを実現させようとマユリは研究室へ走り出した。

 

 

 ======================================

 

 数時間後。マユリの自室。

「ハァハァ……く、涅隊長。遅れて申し訳ありません!!」

 マユリが開発した身体能力を高める秘密道具を駆使して42.195㎞という距離を数分で走り切った十二番隊二十席、葛原(くずはら)粕人(かすと)は肩で息をしながら上司の部屋を開ける。

「あ、あれ……涅隊長?」

 電気がつけられていない真っ暗な部屋に疑問を覚えた粕人は部屋の電気をつけようとスイッチへと手を伸ばす。

 

 パッ! 

 

 明るくなる部屋。そして

 

「え? ……ッ!?」

 

 背後で何か棒状の物を振り上げる人影。頭部を襲う硬く重い衝撃。

「…………」

 

 ドサッ! 

 

 何が何なのか分からずその場に崩れ落ちる粕人。

「ククク」

 謎の影は頭から血を流し意識が朦朧となっている粕人の口にカプセルと忘却ドリンクを流し込む。

「じゃあな……クズ!!」

 影はそう言い残し部屋から立ち去った。

「う、うぅ……ああぁ……」

(か、体が……熱い!!! 骨が……溶けてるみたいだ……ダメだ……どうなるんだ、僕…………あれ、僕って……誰だ…………)

 シュウウウゥゥゥ、と身体から白い煙が漂う中、粕人の意識は黒い闇へと飲み込まれていった。

 

 ======================================

 

「あれ?」

 うっすらと開いた扉に違和感を覚えつつ、眠八號はマユリの部屋に入る。

「ッ!?」

 眠八號は目を見開く。そこにはブカブカの死覇装に身を包んだ、頭から血を流す子どもが倒れていたからだ。腰には粕人の斬魄刀、幽世(かくりよ)閉門(へいもん)があった。

「ひっくひっく……うぇぇぇんっ!! いたいよ!! あたま、いたいよぉぉぉ!!」

 目を覚ますや否や子どもはその場で泣き出す。

「大丈夫だから泣かないで!」

 眠八號は子どもをなだめながら傷口を見て消毒、包帯を手早く巻いていく。

「君は誰?」

 子どもが落ち着くのを待ってから眠八號は優しく尋ねる。

「……わからない。ボク、なにも……おもいだせない」

 子どもは困った顔で視線を下におろす。

「何も思い出せないのか……困りましたね……あ!」

 悩むこと数秒。何かを思いついた眠八號は子どもの肩を優しく掴む。

「そうだ! 君が何者かわかるまで眠が面倒みてあげます!! その間、眠をお姉ちゃんだと思っていいです!!」

「お、おねえちゃん?」

 

 どきーん!! 

 

 その言葉に眠八號の心が射抜かれる。

「も、もう一度言って!」

「おねえちゃん」

 

 どきーん!! 

 

 再び心を射抜かれる眠八號。

 その後、眠八號は何度も子どもに「お姉ちゃん」と呼ばせた。

(お、『おねえちゃん』と言われるのがこんなに気持ちいいなんて!!)

 子どもに気づかれないように喜ぶ眠八號があることに気づく。

「そういえば名前がないと色々と困りますね……う~ん……そうだ!」

 ポンッと眠八號は手を叩く。

「『眠』という名前の由来が『起きたまま見る夢など馬鹿げている』です! だから眠の弟とわかるように『夢』! 今日から君は(くろつち)(ゆめ)です!!」

「くろつち……ゆめ……」

 確かめるように呟く子どもは明るい表情で眠八號の顔を見る。

「ボク、くろつちユメ! ネムリおねえちゃん、だいすき!!」

「眠も好きです! ユメ!!」

 眠八號はギュッ! と自分より小さな弟を抱きしめた。

 




涅夢(くろつち ゆめ)
マユリの部屋で倒れていた謎の少年。記憶喪失。腰には粕人の斬魄刀、幽世閉門を身に着けていた。
名前の由来は『起きたまま見る夢など馬鹿げている』というマユリのセリフから。
この日を境に粕人が行方不明になる。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

眠八號に弟が出来るようです(中編)

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


 十二番隊隊舎前掲示板。

 

 ………………

 

 そこに張り出された内容に阿近(あこん)を始めとする十二番隊兼技術開発局員は言葉を失った。

 

『十二番隊第二十席兼技術開発局雑用総責任者兼眠八號(ネムリはちごう)護衛役総責任者

 

 葛原(くずはら)粕人(かすと)

 

 右の者。無期限の長期休暇を与える』

 

 その内容にその場にいた全員が

 

 な、なんだってぇぇぇぇぇぇっっっ!!!! 

 

 驚愕の声を上げた。

 (くろつち)マユリにとって葛原粕人は危険な実験に何の気兼ねもなく実験体に出来るモルモットであり、権限は一切ないが不都合なことがあればいつでも生贄にすることができるトカゲのしっぽであり、どんな雑用も一切手を抜くことなく実行する奴隷のような存在。そんな男から休日などを奪い自らの奉仕のために顎で使うことはあっても休日を与えるなど天地がひっくり返ってもあり得ないことだった。

 そのあり得ないことが現実として起きたことに技術開発局員たちは驚きを隠すことができなかった。それ以上に彼らを動揺させたのは

 

「葛原がいなければ誰が実験後の掃除をするんだよ!?」、「俺、葛原(あいつ)に仕事押し付けるつもりだったんだぜ! どうしてくれるんだよ!?」、「お菓子が~~~!!」

 

 という粕人本人の心配ではなく、粕人を使うことができないという普段のマユリ同様自分の都合だった。

 

 

 ====================================================

 

 その頃。

 (ネムリ)八號(はちごう)阿散井(あばらい)苺花(いちか)は並んで家路を歩いていた。

「ねぇねぇ眠ちゃん。今日は私の家で遊ばない?」

 にこやかに誘う苺花に眠八號は申し訳なさそうな顔を浮かべる。

「ごめん苺花ちゃん! 私、(ユメ)の面倒を見ないといけないから……ごめんね!」

「ゆ、夢?」

 聞いたことのない名前に首をかしげる苺花。しかしその疑問はすぐに解決する。

「ネムリおねえちゃ~~~ん!」

「あ、夢!」

 遠くからトコトコと走ってくる子どもを眠は優しくギュッと抱きしめた。

「この子、誰?」

 現れた謎の少年に苺花は隣で謎の少年に「可愛いです、夢!」と頬ずりする眠に尋ねる。

「あ、この子が夢です! (くろつち)(ユメ)。眠の弟です! ……ほら夢。苺花ちゃんにあいさつするです!」

 夢は「う、うん」と眠に隠れながら苺花を見る。

「は、はじめまして……くろつちユメです」

(……何かこいつ。ムカつく!)

 なぜ自分が腹が立っているのか分からず、苺花は無言で夢を睨みつける。そんな苺花に夢は「……ひぃ」と眠の後ろに隠れる。

「と、とりあえずまた今度誘ってね! それじゃあ!」

 不機嫌になる苺花と怯える夢を察して、眠は夢の手を引っ張りその場を後にした。

 

 翌日。

「ねぇ、眠ちゃん。今日はどこかで食べて行かない?」

「ごめんなさい! 今日は帰ったら夢と遊ぶ約束しているんです! また今度ね!」

 

 さらに翌日。

「ねぇ、眠ちゃん。前に読みたかった本が手に入ったんだけど、一緒に読まない?」

「ごめんなさい! 今日は夢に勉強を教えてあげる約束をしているんです! 本当にごめんなさい!」

 

 またさらに翌日。

「ねぇ、眠ちゃん。今日一緒に勉強──」

「ごめんなさい! 今日は夢に絵本を読んであげる約束を──」

 

 またまたさらに翌日。

「ねぇ、眠ちゃん。今日──」

「ごめんなさい! 今日は夢と双六(すごろく)を──」

 

 またまたまたさらに翌日。

「ねぇ、眠ちゃん。──」

「ごめんなさい! 今日は夢と──」

 

 何度も眠八號を誘う苺花に対して、眠八號は夢を優先して断り続けた。

(あのクソガキめ!)

 初めて会った時から気に食わなかった謎の少年に大切な親友を取られる怒りが加わり、夢に対する苺花の憎悪は最高潮に達しようとしていた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

眠八號に弟が出来るようです(後編①)

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。



 二番隊 砕蜂(ソイフォン)の自室

「え~、何事でしょうか。砕蜂隊長」

 突然の呼び出しにボケ~としただらしない顔で耳をほじりながら第四分隊裏見隊(りけんたい)の一人、月光(げっこう)が尋ねる。

(……相変わらずこいつは!)

 ぶん殴りたい衝動を「時間の無駄だ」と自分自身に言い聞かせ、砕蜂は本題に入る。

「お前は十二番隊の葛原(くずはら)粕人(かすと)が長期休暇を取ったことは知っているか?」

「あ~。そうですね。おかげで月に一度の飲みが流れましたから。いや~本当に残ね──―」

「すぐに居場所を突き止めろ」

「……え?」

 会話のキャッチボールを完全に無視した上司の言葉に、月光は固まる。

「聞こえなかったのか? 『すぐに居場所を突き止めろ』。そう言ったのだ」

「いやいやいや!!」

 月光は右手をブンブンと振る。

「あいつが長期休暇取ろうが取るまいがどっちでもいいじゃないですか! それに──―!?」

 言葉を止めて月光は戦闘態勢に入る。なぜならば

 

尽敵螫殺(じんてきしゃくせつ)雀蜂(すずめばち)』!」

 

 目の前の上司が斬魄刀を抜いていたからだ。斬魄刀はアーマーリング状の刃に変化する。

(頭がおかしくなったか!? この人は!! ハッ……!?)

 後ろの気配に月光は後ろをチラリと見る。そこには大きく見開かれた目と髪型以外は砕蜂と瓜二つの女性、鬼塚(おにづか)静気(しずき)が斬魄刀を抜いて迫っている姿だった。

(しまった!!)

 月光の右肩が掴まれる。

記呪筆(きじゅひつ)第弐画、与着呪(よちゃくじゅ)!」

 静気は右肩を掴む左手ごと躊躇することなく赤くなった刀身で刺した。

「離れろ!!」

 月光は予備動作無しで音すら置き去りにする速さで裏拳を放つ。しかし静気はそれをあっさり回避する。

「月光。これを見ろ」

「え?」

 砕蜂が懐から取り出したものを見て月光の目がハートマークになる。そこにあったのは現世で最近注目を浴びている松本(まつもと)乱菊(らんぎく)似の黒髪セクシー女優、松下(まつした)蘭華(らんか)の水着写真集だった。

「ウホッ!」

 食い入るように見る月光。だが彼はすぐに異変に気づいた。

「ハッ!?」

 月光は自らの股間に視線を移し、両手で触る。そこには普段なら躍動(やくどう)するはずのモノがピクリとも反応していなかったからだ。

「な、なぜ……!? ま、まさか……!!」

 月光は思わず後ろに立つ静気を見て、気づく。

鬼塚静気(あの女)! 記呪筆の呪いで俺の愛しの自主規制(ピ──)を!!)

「月光」

 砕蜂の呼びかけに月光は振り返る。

「元に戻して欲しければ……わかっているよな?」

「……ッ!!」

 月光は歯を食いしばる。しかし彼に選択肢はなかった。

 

「チクショ~~~~~~ッッッ!!!!」

 

 血の涙を流しながら風のように月光は砕蜂の前から姿を消した。

「ご苦労だった、静気。さて」

 月光が立ち去った後、砕蜂は静気の方へ振り返り、満面の笑みで言った。

「労いの気持ちを込めて、今からお前の好きな野菜を最高級で出してくれる美味い店に行くとするか」

「……それは呪いの反動で嗅覚と味覚が不能になっている私への嫌味かしら、梢綾(シャオリン)(砕蜂の本名)?」




今気づいたのですが。中編と前編が変な所にありましたのに今気づきました。すぐに訂正します。読んでくださった皆様、本当に申し訳ありません。

あと今回の話が個人的に面白かったので、後編は①と②に分けようと思います。申し訳ございません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

葛原粕人の一日~お前は眠八號のママか!~

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


十二番隊第二十席兼技術開発局雑用総責任者兼眠八號(ネムリはちごう)護衛役総責任者の葛原(くずはら)粕人(かすと)の朝は早い。

 

1時、起床。

「ふぁ~、もう朝か」

大きく伸びをした粕人は窓を見る。

「うん、今日も日が昇っていない星々が煌く朝だ!」

そうして部屋の掃除を行った後に隊舎の給湯室でサッと朝食を作り食べると、自室に戻りこれから行う仕事の内容の確認と段取りを行う。

 

2時。

「よし、始めるか!」

技術開発局の外壁に立つ粕人の手には雑巾とバケツ、箒とちり取り、様々な薬品が置かれていた。

「よいしょ!」

粕人はゴシゴシと汚れた箇所を拭きながら壁の1ミリ未満の僅かな凸凹を掴んで壁を昇っていく。時折強風で飛ばされそうになるが、粕人は壁の僅かな凸凹を掴んで耐える。命綱などつけていないので転落したら即死、よくて生死を分ける大怪我を負うのは間違いない。

そうして外壁を拭き終えた後、粕人は技術開発局周辺の雑草を取り除き箒とちり取りでゴミをかき集める。

 

5時30分。

「やばい!もうこんな時間だ!!」

ほんの少しだけ明るくなった空を見て、粕人は上司である涅マユリの元へと駆けだす。

指紋検査や瞳膜チェックなど様々なセキュリティチェックを行った後、手洗いうがいをして三角巾と割烹着に身を包むと、粕人は冷蔵庫から食材を取り出し急いで調理を始めた。

 

6時。

「ふぁ~、クズ。飯は出来ているか?」

「ふぁ~、クズさん!おはようございます!」

「おはようございます。涅隊長、眠さん。ご飯出来てますよ!」

お茶の間の机にはマユリと(ネムリ)八號(はちごう)用に作られたご飯やお味噌汁、漬物、さんまの塩焼きが置かれていた。

二人がご飯を食べ始めたのを見届けると、粕人は再び台所に戻り二人の弁当を作りだした。

 

7時。

二人が食べた食器を片づけた後、粕人は技術開発局に向かうとモップで床を磨いていた。

その後夜勤をしていた局員に「何か食べたいものや飲みたいものはありませんか?」と尋ねて軽い食べ物を用意すると作業の引き継ぎを行う。

 

8時。

引き継ぎ作業や仕事の準備を終えると技術開発局員・葛原粕人としての本格的な一日が始まる。

局長であるマユリだけでなく阿近(あこん)鵯州(ひよす)采絵(とるえ)などの上役の指示に従って仕事をこなししつつ実験結果のレポート、実験後の後片付け、書類整理、書類作成、ドリンクサーバーの補充、トイレ掃除などの雑務を行う。その間粕人にはおにぎり一つ頬張る暇はない。

 

12時~12時15分。

昼食やトイレなどを済ます。

 

12時15分~12時45分。

昼からの仕事がすぐに始められるように準備を行う。

 

12時45分~17時。

業務再開。もちろんこの間もお茶を一気飲みするくらいしか自由な時間はないほどの多忙な仕事をこなす。

 

17時。

眠八號を迎えに行く。マユリの家で眠八號のおやつを作るとやれなかった仕事を終わらせるために再び技術開発局に向かう。

 

18時。

仕事をひと段落済ませると再びマユリの家に行くと夕食の支度に取り掛かる。

 

19時。

帰宅するマユリと眠八號と共に夕食を食べて軽い世間話やほつれた服を縫うなどの雑務をこなすと再び技術開発局に向かいサービス残業を行う。

 

0時。

「ふう~、今日も疲れた」

自分の部屋に戻った粕人は軽く身体を洗うとそのまま床に就いた。1時からの準備に備えるために。

 

 ====================================================

 

とある居酒屋

「……というわけで大変なわけよ」

「いや、お前は眠八號のママか!!」

「いや、労働基準法ガン無視の労働環境とそれを受け入れている葛原に突っ込みなさいよ!!」

苦労話をする粕人に突っ込む、統合霊術院時代からの親友の仏宇野(ふつうの)段士(だんし)に、仏宇野の妻である仏宇野(ふつうの)音芽(おとめ)一葉(いちよう)音芽(おとめ))が突っ込んだ。

 

 

一日で睡眠時間入れても二時間にも満たない粕人って、どんな身体しているんだ?

あと壁の僅かな凸凹を掴むって……お前はバキに出たいのか?

 




今年最後の投稿がこんな話とは・・・。
皆様よいお年を。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

筆先文十郎版 隠密機動人物一覧

タイトル通り本作の隠密機動の人物&組織紹介です。(刑軍と警邏隊の詳しい情報は省略)

もし後に公式に発表されることがあれば変更する場合があります。
未登場キャラ多数。ネタバレあり。


【第一分隊 刑軍】

 処刑や刑の執行を担当する隠密機動の中での最高位。二番隊隊長である砕蜂が総括軍団長として兼任している。

 

【第二分隊 警邏隊】

 瀞霊廷を主な担当区域とする諜報部隊。大前田(おおまえだ)希千代(まれちよ)が長を務めている。

 

【第三分隊 檻理隊】

 瀞霊廷内で罪を犯したものを投獄監督する部隊。

 

鬼塚(おにづか)静気(しずき)

斬魄刀/記呪筆(きじゅひつ) 解号/()(しる)せ『記呪筆(きじゅひつ)

誕生日/2月11日

身長/150cm 体重38㎏

ギョロリとした目が特徴の二番隊第三席兼檻理隊分隊長を務める女性。砕蜂とは同日誕生、幼馴染み、親友、好敵手、そして不倶戴天(ふぐたいてん)(同じ場所にいられないほど憎みあう)の間柄(理由は後述)。

粕人が檻理隊分隊長代理になった際には、代わりに十二番隊に配属された大前田の代わりに警邏隊の分隊長代理を務める。

砕蜂に差をつけられ悩んでいた時、当時檻理隊分隊長だった浦原喜助に『逆に鬼塚さんに出来ることがあるでしょう?鬼塚さんは鬼塚さんの得意なことを磨き上げてはどうですか?』というアドバイスをもらう。それ以降、浦原喜助を崇拝に近い尊敬の念を抱くようになる。

分隊長の中では一番足が遅いが(隠密機動全体で見れば速い)、格闘技に優れてかつ暗器などそれを補ってなお有り余るトリッキーな戦闘スタイルを持つ。

 

【第四分隊 裏見隊】

 護廷十三隊、鬼道衆、隠密機動に紛れて各組織に存在する危険分子の発見を主任務とする。同じ裏見隊であっても誰が裏見隊なのか分かっておらず、全ての分隊員を把握しているのは総司令官の砕蜂と裏見隊分隊長、同副分隊長のみ。

なお彼らの名前は暗号名であって本名ではない。暗号名は分隊長と副分隊長によってつけられる。

 

鬼撫(おになで)

斬魄刀/不明 解号/不明

長年隠密機動に携わる古参で裏見隊の分隊長を務める男。二番隊での席次は四席。

月読、月光を始めとする、仕事は出来るが素行の悪い部下に頭を悩ましている。

粕人が檻理隊分隊長代理になった際に地下特別檻理棟(蛆虫の巣)に案内した砕蜂の側近、犬飼(いぬかい)鳴ノ助(めいのすけ)ではないかと言われているが真相は不明。

名前の由来は『地獄先生ぬーべー』の鬼の手。

 

月読(つくよみ)

斬魄刀/形白(かたしろ) 解号/(うつ)しなさい『形白(かたしろ)』 卍解/形白二振(かたしろふたふり)

誕生日/1月2日

身長/168cm 体重53㎏

二番隊第九席兼裏見隊副分隊長を務めるグラマーな女性。あと少しずれただけで乳首が見えてしまいそうなほど服をはだけさせている。息子の月光と同じで普段は不真面目だがやる時はやる人物。

斬魄刀の形白は触れた相手のその時点での記憶、姿を自分のものにすることが出来る(能力は自分のものにすることはできない)。

卍解は出来るが制限が多い。自称『後にも先にも私より弱い卍解は存在しない』(自身が斬魄刀に化ける)。

 

月光(げっこう)

斬魄刀/写絵(うつしえ) 解号/見る者を(だま)せ『写絵(うつしえ)』 卍解/全色(ぜんしょく)塗潰(ぬりつぶし)写絵(うつしえ)

裏見隊副分隊長を務める月読の息子であり同隊の水城の夫。仕事は出来るが不真面目な性格で、砕蜂に何度か殺されかけている。四番隊に所属する仏宇野(ふつうの)段士(だんし)と同じ斬魄刀を持つが関係性は不明。

 

水城(みずき)

斬魄刀/タチ(たち)(かげ) 解号/我が意に従え『タチ(たち)(かげ)

同隊の月光の妻。使う能力によって呼び名が変わる斬魄刀を持つ(立影、断影、太刀影)。(タチ影の天敵は太陽形態(くろつち)マユリ)

四番隊に所属する仏宇野(ふつうの)(旧姓:一葉(いちよう)音芽(おとめ)と同じ斬魄刀を持つが関係性は不明。

 

【第五分隊 裏廷隊】

 隊士間での情報伝達を行う部隊。瞬歩の使い手が多い。

 

逃隠(にげかくれ)才蔵(さいぞう)

斬魄刀/不明 解号/不明

二番隊第五席兼裏廷隊分隊長を務める男。

趣味は覗きで覗きをする際には地形や風向き、逃走経路や遮蔽物の有無、対象者の対覗き能力を精査するなど余念がない。

それ故に覗きの成功率及び逃げ足ならば隠密機動で並ぶ者はいない。

逃げ隠れしている事が多いため、同隊でも顔を思い出せない者が多い。

仏宇野親太郎の直属の上司。

名前の由来は真田十勇士の一人、霧隠(きりがくれ)才蔵(さいぞう)

 

仏宇野(ふつうの)親太郎(しんたろう)(『ふつうのおやだろう』ではない)

斬魄刀/不明 解号/不明

二番隊平隊士兼裏廷隊平分隊員。主な仕事は前隠密機動総司令官の四楓院(しほういん)夜一(よるいち)の御姿を写真に収めること。

後述の仏宇野(ふつうの)八葉(やつは)の夫。

 

【その他】

仏宇野(ふつうの)八葉(やつは)(『ふつうのはは』ではない)

斬魄刀/形白(かたしろ) 解号/(うつ)しなさい『形白(かたしろ)』 卍解/形白二振(かたしろふたふり)

誕生日/1月2日

身長/137cm 体重不明

二番隊平隊士。二番隊の食堂で働く合法ロリな女性。旧姓は正野(しょうの)(『ただの』ではない)

仏宇野段士の母親。夫である親太郎とは息子の仏宇野段士がドン引きするほどラブラブ。

裏見隊副分隊長を務める月読と同じ斬魄刀を持つが関係性は不明。

 

犬飼(いぬかい)鳴ノ助(めいのすけ)

斬魄刀/不明 解号/不明

砕蜂の側近を務める古参。粕人が檻理隊分隊長代理になった際に地下特別檻理棟(蛆虫の巣)に案内した。裏見隊分隊長を務める鬼撫ではないかと噂されているが真相は不明。

名前の由来は大阪にあるエロゲー会社、アリスソフトが制作した『戦国ランス』の登場人物の一人、犬飼(いぬかい)と『地獄先生ぬーべー』の主人公、鵺野(ぬえの)鳴介(めいすけ)から。

 




この話はとある方に本作の登場人物の名前について触れられていたので書いてみました(過去にも大前田が十二番隊に異動した時、誰が警邏隊を指揮していたのかなどありましたが汗)

ふと思ったこと。月読の斬魂刀ってグランドフィッシャーの脳写(トランスクライブ)ですね汗(卍解は檜佐木修兵の「風死絞縄(ふしのこうじょう)以上に相方の力量が必要だし)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第三十三話序章 葛原粕人異動計画

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


 (くろつち)マユリの部屋

 冬休み最後の日の深夜。

「……」

「すーすー」

 十二番隊隊長兼技術開発局局長、そして(ネムリ)八號(はちごう)の父親であるマユリは後ろで気持ちよさそうに寝ている眠八號を確認してから鞄の中に入っていた絵日記ノートを取り出すと机に座りノートを開く。

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 12月24日

 今日はマユリ様とクズさんと一緒にクリスマスケーキを食べました! クズさんのケーキはとても美味しく砂糖で出来た私の人形はとても可愛かったです! 

 

 12月31日

 今日は大みそかです! 近くのお寺に行ってマユリ様とクズさんと一緒に除夜の鐘を叩きました! 家に帰るとクズさんが作った甘酒を飲みました! とても美味しかったです! 

 

 1月1日

 今日は元旦です! 今日はマユリ様とクズさんと一緒にクズさんが作ったおせち料理とぜんざいを食べました! その後マユリ様とクズさんと一緒に近くの神社に行っておみくじを引きました! 眠とマユリ様は大吉! クズさんは大凶でした! 

 

 1月4日

 今日は大雪でした! クズさんと一緒にマユリ様の雪だるまを作りました! 

 

 1月5日

 昨日の大雪が残る今日! 眠は苺花(いちか)ちゃんとペアを組んでクズさんと雪合戦をしました! 苺花ちゃんの石入りの雪玉にクズさんは血まみれになっていました! 

 

 1月6日

 今日は冬休み最終日! 眠の宿題は「クズさんが少しずつやるように!」と監視したおかげでなんとか最終日に間に合いました! でもそのおかげで遊ぶ時間が減りました(ぷんぷん)

 明日は新学期! 皆と会えるのが楽しみです! 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「おのれ、クズが!」

 ノートを静かに閉じたマユリの手は怒りで震えていた。

 宿題というもののために眠八號の貴重な時間を無理やり奪ったこと。そして父親である自分よりクズと蔑む部下の方が接している時間が長いこと。

「クズ……このままで済むと思うなよ」

 マユリはノートを鞄に戻すと脳内コンピュータをフル稼働させながら眠りについた。

 

 翌日

 技術開発局、涅マユリの部屋

「ふふふ、出来た……出来たヨ!」

 マユリは自身が開発した望遠鏡のような形をした発明品を見てニヤリと笑う。

「これは切り替え式時間望遠鏡という発明品だヨ!これを覗けば過去や未来において『ここで○○したら』もしくは『こうするとどうなるか』という結果を見たり確認できる優れた発明品だヨ!」

 ご満悦な様子で独り言を言うマユリ。もし粕人がいたら

「あぁ、ドラ○もんの切り替え式タイ○スコープですね」

と突っ込んだ後に怒るマユリを見て即座に

「い、いいい、いいえ!何でもありません涅隊長!!過去や未来の行動の結果を見たり確認できるという僕ら凡人には永久に思いつかない発想を思いつきかつそれを実現してしまうその発想力と実現能力!!流石は涅隊長です。これぞまさしく尸魂界(ソウルソサエティ)完璧(パーフェクト)超人、涅マユリ!!!」

と言って怒りを鎮めていただろう。

「さて、早速使ってみるとするかネ」

そう言ってマユリは切り替え式時間望遠鏡を操作してレンズを覗いた。




久々のドラえもんのひみつ道具。
とりあえず二番隊から書いていこうと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第三十三話二番隊編 第八席葛原粕人

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。
+切り替え式時間望遠鏡というドラ○もんの切り替え式タイ○スコープとよく似た秘密道具で見たifです。楽しんでいただければ幸いです。


 地下特別監理棟。通称「蛆虫の巣」。

 二番隊第八席兼檻理隊副分隊長に就任した葛原(くずはら)粕人(かすと)は、収容された男達の前で持ってきた小説を朗読していた。

「『ほとんどの生徒が下校した放課後の屋上に僕は一人立っていた。いや、一人ではない。同級生で学園のマドンナの有栖川(ありすがわ)涼子(りょうこ)さんが虚ろな目をしたまま立ち尽くしていた。そこで僕は思い出す(・・・・)。突然前触れもなく催眠術に目覚めた僕は催眠術を使って有栖川さんを催眠状態にしたことを。そして僕は有栖川さんに……』

 

 ゴクリッ

 

 男達の喉を鳴らす音が静粛に包まれたこの場に静かに響く。

「『そして僕は──』」

 粕人が小説の主人公がヒロインにどんな暗示を吹き込もうとしたのかを言おうとした、その時だった。

「葛原。お前は何をしている?」

「!?」

 粕人は潤滑油が十分に注されていないロボットのように首を後ろに回す。そこに立っていたのはギョロリとした目が特徴の、砕蜂(ソイフォン)と似た背恰好の女性が腕を組んで立っていた。その身体からは激しい怒気が漂っている。

 鬼塚(おにづか)静気(しずき)

 二番隊第三席にして檻理隊の分隊長を務める女性。そして二番隊兼隠密機動に配属された粕人の直属の上司だ。

 静気が先ほどまで粕人の朗読を聞いていた男達を見る。それだけで男達は無意識に後ずさった。中には腰を抜かす者や気絶する者もいた。

 囚人達を震え上がらせた女分隊長は目の前で小さくなる副分隊長を見下ろす。

「葛原。我々檻理隊は囚人どもに恐れられる存在でなくてはならない。なのにお前は副分隊長という重要な仕事を放棄して囚人どもとこうして仲良く語り合っている。しかもこれは一度や二度、否……119回目だ! ……覚悟は出来ているな?」

 そう言って女分隊長は手刀を作るとゆっくりと振り上げる。

 囚人達を素手で制圧できることが檻理隊分隊長の最低条件である。その最低条件を合格するために、彼女はあらゆる格闘術を我が物にした。その中には手刀を真剣のように鋭くするものもあった。

「職務放棄の罪、命を持って償え!」

 振り上げた手刀を振り下ろす。狙う先は粕人の脳天。その時粕人が口を開いた。

「待って下さい、鬼塚分隊長!」

 ピタッ! 

「何だ、葛原?」

 脳天まで一寸(約3cm)の距離で手刀を止めた静気が尋ねる。

「この前現世に赴いた時に、現世で声優をしている『ミキ シンイチロウ』という男の声を録音しております。ぜひ聞いていただきたいと思いまして」

「フンッ! そんなので私の機嫌を取ろうと思ったのか!?」

 そう言って手刀を再び脳天に振り下ろそうと振り上げた静気に、粕人はポケットから取り出した録音機の再生ボタンを押した。

 

『鬼塚サン。だ~い好きですよ!』

 

 録音機から流れる浦原(うらはら)喜助(きすけ)と同じ声色を聞いた瞬間、静気は再び手刀を脳天まで一寸のところで静止させた。

「今回の件は不問とする」

「ハッ!」

 手刀を収めた静気に粕人は頭を下げる。

「だが次また同じようなことをすれば厳罰に処す。覚悟しておけ! そしてその録音機は没収する!!」

 そう言って粕人の手から録音機を取り上げると、静気は足早にその場を後にした。

「なあ両角(りょうかく)

「なんだ?」

 細身ながらガッチリとした筋肉質な男が、剥げた頭の大男に尋ねる。

鬼塚静気(あの女)の厳罰って、これで120回目だがいつになったらなるんだ? この前は浦原商店新作駄菓子だったし、その前は浦原喜助隠し撮り写真。あの人、浦原喜助に気でもあるのか?」

「俺に聞くな」

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第三十三話二番隊編 葛原粕人と逃隠才蔵と下着

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。
+切り替え式時間望遠鏡というドラ○もんの切り替え式タイ○スコープとよく似た秘密道具で見たIFです。楽しんでいただければ幸いです。


「葛原」

「ハッ!」

 二番隊に異動になった元十二番隊第二十席、葛原(くずはら)粕人(かすと)は直属の上司である鬼塚(おにづか)静気(しずき)に呼び出されていた。

「これからお前には裏廷隊の逃隠(にげかくれ)才蔵(さいぞう)に書類を届けてほしい」

 粕人は受け取った書類を大事そうに抱える。

「この檻理隊副分隊長の僕を呼び出したということは……とても大事な書類なんですね?」

「いや。夜一(よるいち)様グッズイラスト提出用用紙という砕蜂(ソイフォン)隊長の完全な私用だ」

 なんで浦原(うらはら)分隊長ではないのだ! と愚痴る静気を前に粕人はガクッと項垂(うなだ)れる。

「あの~、鬼塚分隊長。僕って童顔で霊圧もカス同然ですから舐められることは多々ありますよ。しかし仮にも檻理隊の副分隊長ですよ。二番隊の第八席ですよ。そんな僕に重要書類ではない、砕蜂隊長の私用の書類を手渡すだけって。そんなの別の者に任させればいいじゃないですか」

「書類自体は、な」

「……」

 含みのある上司の言葉に、粕人の真剣な表情へと変わる。

「葛原、逃隠には気をつけろ」

「……ハッ!」

 戸惑いつつも粕人は書類を抱えたまま上司に頭を下げると部屋を後にした。

 

 ====================================================

 

 逃隠才蔵の部屋

「逃隠分隊長。鬼塚分隊長より書類をお届けに参りました」

「うむ。ご苦労」

 粕人から資料を受け取った長髪のクールに整った顔立ちの男、逃隠才蔵はスッと息を吸ってフーと吐いた。

(そりゃあそうだよな……)

 静気から書類の内容を聞かされていた粕人は目の前でため息をつく才蔵の気持ちが痛いほど理解出来た。

「……」

 目の前の男を観察しながら、粕人は上司のある言葉を思い出していた。

 

『葛原、逃隠には気をつけろ』

 

 静気の助言に従ってどのような事が起きても対応できるように身構えていた粕人にとって、普通に書類を受け取り書類の内容にため息をつく男の行動は普通過ぎて拍子抜けするものだった。

「それでは逃隠分隊長。自分はこれにて」

 分隊長はなぜあのようなことを、という疑問を抱えながら粕人は部屋を後にしようとした。その時だった。

「そうだ、葛原」

「はい、何でしょう?」

 振り返る粕人。そして静気が言った忠告の意味を知ることになる。

「君は女性の下着に興味はあるかね?」

「え?」

 どんな過酷な任務も平然とこなしそうなイケメン忍者風の男の口から発せられた言葉に、粕人は固まった。

「生脚はいい。とても良いものだ。多くの男は胸に目が行きがちだが健康的な引き締まった脚こそが男が欲情すべき部分だと私は思う。否、そうなのだ!」

「……ッ!?」

 クールな表情を崩すことなく力説する男に粕人はドン引きする。しかし男は続ける。

「そしてその先にある下着。あれには素晴らしき力が宿っている。現世で“すかーと”と呼ばれる衣服に包まれ、隠された女性の下着を見た瞬間……私は何故生まれてきたかの意味を知ることができた」

(やばい、この人は本当にやばい!!)

 静気の忠告の意味を理解した粕人は慌てて逃げようとする。しかし足が自慢の裏廷隊の頂点に座る逃隠才蔵にとって、瞬歩が使えない粕人を出口にたどり着く前に捕まえることなど朝飯前だった。

「ヒィッ!?」

 両肩を掴まれ悲鳴をあげる粕人。

「さぁ、この逃隠才蔵が女性の下着の魅力を存分語ってあげよう」

 男はフッとクールなイメージを崩すことなく小さく笑った。

 

 ====================================================

 

「鬼塚分隊長。葛原粕人、ただ今戻りました」

「うむ、ご苦労だった」

(どうやらこいつは大丈夫だったみたいだ)

 自分に頭を下げた粕人の様子を見て静気は心の中でホッとため息をつく。行かせる前と行かせた後の粕人に何の変化も見られなかったからだ。

 今まで才蔵の所へ書類を届けさせた部下は帰った後「ぱ、パンティ……」、「ぶ、ブルマ~」、「ガーターベルト……」と放心した状態で訳の分からないことを漏らしていたからだ。そうなっていない粕人を見て、静気は自分の判断が間違っていなかったことを確信した。

「ところで鬼塚分隊長に一つお聞きしたいことがあります」

 そんな静気に真面目な表情で、粕人はこう言った。

 

 

 

「分隊長は今、どんな色の下着を履いていますか?」

 




筆先文十郎。『シーマ・ガラハウに成り代わった女』のクレア・バートンとか『姉は弟(の心)をオーバーキル』の弟とか色々なオリジナルキャラクターを作ってきましたが、その中でもこの逃隠才蔵はひどすぎる。

ちなみに逃隠才蔵のイメージは上条明峰先生の『SAMURAI DEEPER KYO』に登場する初代猿飛佐助(十二神将、死なずの真達羅)。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第三十三話二番隊編 偉大な先生、鬼塚

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。
+切り替え式時間望遠鏡というドラ○もんの切り替え式タイ○スコープとよく似た秘密道具で見たIFです。楽しんでいただければ幸いです。


 話は十二番隊第二十席、葛原(くずはら)粕人(かすと)が二番隊に異動することが決まった時に(さかのぼ)る。

「……」

 二番隊隊長兼隠密機動総司令官を務める女性、砕蜂(ソイフォン)は自室で腕を組ながら考えた。

 自分と崇拝する四楓院(しほういん)夜一(よるいち)とのを引き裂く原因になった浦原(うらはら)喜助(きすけ)。満足に仕事をせずに金勘定のことばかり考える副隊長、大前田(おおまえだ)希千代(まれちよ)。浦原喜助の元部下であり不気味な男、(くろつち)マユリ。そんな彼らの次に嫌いな男、葛原粕人をどこに配属させようかと。

 砕蜂にとって葛原粕人は自分と四楓院夜一との仲を(ことごと)く妨害してきた嫌悪する存在である。砕蜂にとって葛原粕人という男は全否定したい存在だった。

 しかし好き嫌いの激しい砕蜂だが、一方で嫌いな相手でも必要とあらば感情を抑えて評価する冷静さも少なからず持ち合わせていた。

 死神の基本となる四つの戦闘方法、(ざん)(けん)(そう)()全てにおいて平隊士並なものの、腕力などの身体能力は上位席官と互角以上に渡り合え、雑用に限れば隊長級まで活躍できる粕人をぞんざいに扱う気にはなれなかった。

「……」

 考えた末。砕蜂は自分が嫌う浦原喜助を神のごとく崇拝しているという一点を除けば自分と相性が良く、かつ信頼できる同日誕生で幼馴染みであり親友であり好敵手である部下、鬼塚(おにづか)静気(しずき)の下に置くことを決めた。

 

 ======================================

 

 鬼塚静気の部屋。

「今日からお世話になります葛原粕人です。よろしくお願いします」

 粕人は目の前に座る、ギョロっとした目と髪型以外で砕蜂と見分けがつかない女性に腰から頭を下げる。

「うむ」

 粕人の新上司、二番隊第三席兼檻理隊(かんりたい)分隊長の静気は大きく(うなず)く。

「これからお前には私の右腕として存分に働いてもらうためにいろいろ叩き込む。覚悟しておけ!」

「ハッ!」

 見事な敬礼をする粕人に静気は満足そうに頷く。

「今日からみっちりバシバシしごくぞ! それは『偉大な教師、鬼塚』と言われるほどに! 英語風に言えばGreat(グレート) Teacher(ティーチャー) Onizuka(オニヅカ) 。略して──」

他誌だよ、それは!(言わせないよ!)

 

 

 略語を言おうとする静気を、粕人はコメディアンのように間髪入れずに突っ込んだ。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第三十三話二番隊編 大前田希千代、恐怖の一日

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。
+切り替え式時間望遠鏡というドラ○もんの切り替え式タイ○スコープとよく似た秘密道具で見たIFです。楽しんでいただければ幸いです。


大前田(おおまえだ)

「……ッ!?」

 背後からの声に大前田(おおまえだ)希千代(まれちよ)はビクンと体を震わせる。その声は尊敬しつつも心の底から恐怖する上司、砕蜂(ソイフォン)の声だったからだ。

「……」

 希千代はゆっくりと声の人方へ振り返る。そこに立っていたのは

「なんだ。鬼塚(おにづか)か」

 希千代は安堵する。そこに立っていたのは目と髪型が同じならば砕蜂と双子と言われても信じてしまうほど同じ背格好のギョロ目の女、鬼塚(おにづか)静気(しずき)だった。

 希千代は「ふぅ~」と大きく息を吐いた後、ゆっくりと胸をなでおろす。

「いきなり後ろから声をかけるんじゃねーよ。砕蜂隊長だと思ってびっくりしたじゃないか。で、俺を呼び止めて何の用だ」

「砕蜂隊長がお呼びだ。急ぎ隊長室まで来いとのことだ。私も一緒に呼び出されたから一緒に行くぞ」

 そう言ってスタスタと先に歩く静気。

「お、おい! ちょっと待てよ!」

 その後を追いかけるように希千代は早歩きで追いかけた。

 

「……」

「……」

 

 スタスタ

 

「……」

「……」

 

 スタスタ

 

(これは何か話した方がいいのか?)

 隣で歩く女性との無言に耐え切れなくなった希千代は「そういえば鬼塚よ」とわざとらしく声をかける。

「お前って隊長のこと、どう思っているんだ?」

「『どう』って。隊長は隊長だ」

 そっけなく言う静気に、希千代は「……ま、まあ……そうだけどよ……」と言ってから続ける。

「お前って砕蜂隊長とアレで結構もめているじゃないか。……で、結局のところどう思っているのかな……て」

「……」

 アレ……自分たちが尊敬する四方院(しほういん)夜一(よるいち)浦原(うらはら)喜助(きすけ)の件に、静気はこめかみを一瞬だけピクンと動かした後、そのまま無言を貫く。そして

「お前は隊長をどう思っているんだ?」

 聞き返した。

「え、俺!?」

「お前は隊長に不満はないのか?」

「不満ねぇ……」

 希千代は腕を組んで考える。

「隊長かぁ……あの人はいい加減にしてほしいよな。些細なことで怒るし、必要な連絡は教えてくれないことは多々あるし。何よりいつまで『夜一様!』って言うんだか。夜一様はもう二番隊とは関係ないんだし……」

 グチグチと言う希千代。最後の方は「それでも強くて頼れる尊敬できる上司なんだけどな」と締めた希千代だったが、『夜一様』の所から怒りを爆発させないように耐えていた静気には聞こえていなかった。

 そうこうする内に二人は砕蜂の隊長室まで来ていた。

「失礼します」

「……」

 二人は椅子に座る砕蜂の前に膝を折る。

「隊長。お呼びとのことで来たんですけど……」

 恐る恐る尋ねる希千代に。砕蜂は静かに、確かめるように尋ねた。

「大前田。お前、気づいていないのか?」

「へ、何がですか?」

 目の前の上司の意図が分からずポカーンとした顔をする希千代。そんな希千代を見て砕蜂は小さくため息をついた。

「しょうがないか」

 そう言うと砕蜂は隊首羽織を脱いで眼鏡(・・)を取った。

「……ッ!?」

 その姿に、希千代の顔が崩壊した。そこにいたのは立場上は部下であり同僚の二番隊第三席兼檻理隊分隊長、鬼塚静気だったからだ。

(ま、まさか……)

 先ほどまで砕蜂(・・)だった静気は前髪を後ろに流すと、希千代の隣にいる静気(・・)に隊首羽織を手渡す。

「うむ」

 隊首羽織を受け取った静気(・・)眼鏡(・・)を取って後ろに流していた前髪を前に直すと、先ほどまで静気が座っていた席に座る。

 そこにいたのは部屋に入る前に噂にしていた上司、砕蜂だった。

 

「え、え、え……ええええええぇぇぇぇぇぇっっっっっっ!!??」

 

 希千代は意味がわからなかった。先ほどまで話していた同僚が砕蜂で、上司だと思っていた女性が同僚の静気だったからだ。

 二人の顔を交互に見る希千代に砕蜂が種明かしをする。

「十二番隊から異動した葛原(くずはら)粕人(かすと)が目元を意図的に変える変眼鏡(へんがんきょう)というものを作ってな。実際に通用するのか静気と入れ替わって、お前で試してみたわけだ」

(あのチビ、なに余計なことしてくれてんだよ!!)

 憤る希千代をよそに、もう自分は用がないと静気は「それでは」と隊長室を後にした。

「ま、待て。待ってくれ、鬼塚……ッ!?」

 呼び止めようとする希千代の首に

「さて。先ほどの話の続きをしようではないか」

 と獲物をいたぶる獅子のような笑みで、砕蜂が刀を当てていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第三十三話二番隊編 激突!砕蜂(夜一バカ) VS 鬼塚静気(喜助バカ)前編

 隠密機動第四分隊の分隊長を務める古参、鬼撫(おになで)は目の前の光景に凍りついていた。

 隠密機動の主要人物が会合するために作られた、機密性と安全性のために作られた隠密機動専用の特別な地下会議室。並大抵の攻撃では傷一つつかない床や壁に、無数の傷がつけられていた。

 その無数の傷をつけたのは

 

「死ねぇ! 静気(しずき)ィィィッッッ!!」

「死ぬのはお前だぁ! 梢綾(シャオリン)(砕蜂の本名)ッッッ!!」

 

 鬼撫の前で、相手を殺す気で襲いかかる二番隊隊長兼隠密機動総司令官の砕蜂(ソイフォン)と二番隊第三席檻理隊分隊長の鬼塚(おにつか)静気(しずき)だった。

 ことの発端は砕蜂が会合の日の変更を伝え忘れた第二分隊・警邏隊の大前田(おおまえだ)希千代(まれちよ)を除く隠密起動定例会議後の麻雀で、第五分隊・裏廷隊分隊長を務める顔だけ見れば凄腕イケメン忍者に見えるスケベ男、逃隠(にげかくれ)才蔵(さいぞう)の一言だった。

「誰が最強なのかといえば特記戦力に数えられた黒崎(くろさき)一護(いちご)更木(ざらき)剣八(けんぱち)兵主部(ひょうすべ)一兵衛(いちべえ)藍染(あいぜん)惣右介(そうすけ)浦原(うらはら)喜助(きすけ)など色々な人が思い浮かびますが、『最高』という定義ならば誰が一番最高の人物と言えるのでしょうか?」

 

「それはもちろん!」

「それはもちろん!」

 

 砕蜂と静気が一コンマも狂うことなく同時に喋る。しかしその後に続く台詞は違っていた。

「夜一様だろう!!」

「浦原分隊長でしょう!!」

 

「「ん??」」

 

 二人は互いの顔を見る。

「静気。今『最高』の定義に当てはまる人物の名前に夜一様以外の名前を言ったように聞こえたが……私の聞き間違いだよな?」

「奇遇ですね、砕蜂隊長。私も隊長が『最高』の定義に当てはまる人物の名前に浦原分隊長以外の名前を言ったように聞こえましたが……私の聞き間違いですよね?」

 不気味なほど笑顔で確認しあう二人。しかしそれは嵐の前の静けさだというのは誰の目にも明らかだった。

「浦原喜助が最高だと? 崩玉というとんでもない物を作りだした男が『最高』だと!? その大きく見開かれた目は何も見てないのだな!?」

「夜一様が最高? 星十字騎士団(シュテルンリッター)の特記戦力という『見つけ次第優先して倒すべし』という強敵と認識されなかった夜一様が『最高』? 刀のように研ぎ澄まされたその瞳は人を見る能力もそぎ落としたのかしら!?」

 

「「なんだとコラアアアァァァッッッ!!」」

 

 二人は目の前の牌を投げつけると同時に投げつけられた牌を掴み、地面に投げ捨てる。

「静気。私のことはともかく夜一様を侮辱した罪、万死に値する! 命を持って償ってもらうぞ!!」

「それはこちらの台詞よ、梢綾。浦原分隊長を侮辱した罪はアンタの命で償ってもらうわ!!」

 二人はお互いを殺すべき敵と認識すると斬魄刀に手を置いた。

 

尽敵螫殺(じんてきしゃくせつ)雀蜂(すずめばち)』!!」

()(しる)せ『記呪筆(きじゅひつ)』!!」

 

 同日の誕生日。幼馴染。親友。好敵手。上司と部下。それらの繋がりを超えた不倶(ふぐ)戴天(たいてん)の敵に斬魄刀を解放し刃を交える二人。

「お、おい逃隠! お前があの二人を焚きつけたんだぞ! 責任とって──」

 鬼撫は隣を見る。そこにいたのは年下の同僚の姿をしたカカシだった。

「……ッ! あの顔だけイケメン忍者男めぇぇぇっっっ!! 名前の通り逃げ隠れしよって!!」

 古参の男は怒りを抑えて

 

(つた)われ神報(しんほう)!」

 

 ホイッスルのように変化した斬魄刀を吹いて目の前の脅威を隠密機動の主要人物に伝わると

 

(頼む……早く誰か来てくれ!!)

 心の中で必死に助けが来ることを祈った。

 

 

 ====================================================

 

 

 その頃

 無断欠席した月読を除いた隠密機動の副分隊長達が麻雀をしていた。

「ツモ! 国士無双十三面!!」

 檻理隊副分隊長を務める葛原粕人が牌に他の副分隊長達が凍りつく。

「ば、馬鹿な! 国士無双十三面待ちだと!?」

「う、嘘だろ…… これで何回飛ばされた……? もう今月どころか来月の給料も負けてるんだぞ……」

「取り乱すな! 金が無いなら借りてくればいい! それを元手に伊達に隠密機動やっていないことを新任副分隊長に知らしめてやるのだ!!」

「ふふふ、何度やっても無駄ですよ」

 強がる副分隊長達に、粕人は微笑する。

「十二番隊にいた頃。借金帳消し(正確には涅隊長が僕名義で作った借金)のために、僕は超人的な頭脳と先見性、他の追従を許さない豪運で戦後の日本を裏から支配していた闇の帝王とお金の代わりに血液を賭けて約20年に匹敵する一夜の麻雀勝負をして生き延びたほどですよ。負けるわけがないじゃないですか」

「闇の帝王がどうした!? いつもピリピリしている砕蜂隊長やサボってばかりの大前田副隊長、覗きばっかでろくに姿を現さない逃隠五席の下で 働きアリのように働いているんだ! その苦労は並じゃねぇんだよ。行くぞ根来(ねごろ)甲賀(こうか)。新任副分隊長に 目に物見せてやるぞ!」

 刑軍の伊賀(いが)の言葉に警邏隊の根来と裏廷隊の甲賀が「応ッ!」と答える。

「面白い ! (くろつち)隊長の下で万を超すほど死に匹敵する地獄を見た僕に見せてもらいましょうか !!」

 その時だった。鬼撫の神笛によって鬼撫の見た出来事が四人の脳内に伝わったのは。

 口を開いたのは粕人だった。

「僕が砕蜂隊長と鬼塚三席を止めます!!」

 その言葉で三人が動く。

「じゃあ俺は箝口令を敷く!」

「俺はいざというときに他の隊に応援を頼めるように準備を!」

「私は被害を最小限にするために隊員を動員させておくわ!」

 そうして四人は散った。

 

 

 

 この決定が粕人の運命を決定付けるとは、粕人本人は気づいていなかった。

 




後編でまだ出現していない裏見隊、月読が出ます。
そして砕蜂と静気の殺しあい。

気長に待って下さると幸いです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第三十三話二番隊編 激突!砕蜂(夜一バカ) VS 鬼塚静気(喜助バカ)中編

 四番隊 綜合救護詰所 薬品管理室。

 そこでは四番隊十五席、一葉(いちよう)音芽(おとめ)の指示の元、隊員達が数ある薬品の状態の確認・整理を行っていた。

「凝血剤に痛み止め、共に使用期限・備蓄数問題なし、と」

 確認した部下からの報告を受け自分自身の目で最終確認を行いながら、黒髪の女性はチェックリストに丸をつけていく。

「よし、後は……ッ!」

 まだチェックリストに丸をつけられていない箇所を見て、音芽の顔が険しくなる。

 丸がつけられていない箇所、それは自分の部下であり夫である仏宇野(ふつうの)段士(だんし)が担当する箇所だったからだ。

「あの男は!」

「い、一葉十五席! ……えっと、ほら! 仏宇野先輩は立ち上がりは遅いですけど──」

 ギリギリと歯を鳴らす上司に怯えながらも傍にいた大前田(おおまえだ)希代(まれよ)がフォローをしようとするが

「結果を出したことがあったか?」

「……」

 その一言で言葉を詰まらせてしまう。

「もういい。あのバカ旦那には体に教え込ませないとね!」

 そう言うと音芽は床を叩くように段士のいる担当箇所へと歩きだす。そんな音芽を青ざめた顔で希代は追いかける。

 音芽の足が止まる。そこにいたのはいかがわしい服装をした女性が表紙となっている本の袋とじを開けようとしている音芽の夫、仏宇野段士だった。

「よ~し、そ~と、そ~とだ」

 男はゆっくり、慎重に袋とじを破いていく。

「慎重に慎重に……よしあと少しで」

「何をしているのかしら」

「うわ!?」

 突然声をかけられたために手元が狂い、袋とじは大きく破れた。

「何をしやがる!」

「それはこっちのセリフよ!!」

 烈火の如く怒る男に女はそれ以上の怒りをぶつける。

「今日という今日は体に覚えこませないといけないようね」

 バキッバキッと拳の関節を鳴らす音芽。それを見て恐怖で体を震わせる段士。

 

「「ッ!?」」

 

 その時、向かい合う夫婦の脳内にとある光景が浮かぶ。それは四番隊の自分達とは全く関係のない、隠密機動総司令の砕蜂(ソイフォン)とその部下、鬼塚(おにづか)静気(しずき)が戦っている情景だった。

「あぁ! もういい!! やる気がないのならここは私がするわ!! あんたはとっとと家に帰りなさい!!」

「へいへい」

 段士は口笛を吹きながら薬品管理室を後にする。そんな夫を見向きもせず、音芽はぶつくさと文句を言いながら薬品のチェックを始めた。

「……」

 いつもなら一葉リベンジャー、一葉インフェルノ、一葉スパークという某プロレス漫画の三大奥義に出てきそうな技を放つのに小言だけで済ました上司を希代は怪しんだ。

 

 ====================================================

 

 二番隊隊舎食堂

「あぁ美味しい~」

 忙しかった昼時を終えて、中年の女性達がお茶を飲んでいた。その中に同世代とは思えないほど、あまりにも幼い容姿の女性の姿がほんわかとした表情でお菓子とお茶を交互に口へと運んでいた。

 仏宇野(ふつうの)八葉(やつは)

 二番隊に所属する平隊士で俗にいう食堂のおばちゃんである。そして四番隊に所属する万年平隊士の仏宇野段士の母親であり一葉音芽の義理の母にあたる。

「しかし隠密機動の人達は大変だね。食事もババッと食べて。もう少しゆっくり食べたらいいのに」

「本当だよねぇ~」

 八葉は相づちを打つ。二番隊と隠密機動は強い(かかわ)りを持つが、全ての隊員が隠密機動というわけではない。中には彼女のように二番隊の隊員として従事している者もいる。

「そういえば聞いてよ、(うち)の旦那がさぁ……」

「どんな話~?」

 八葉がもっと詳しく聞こうとした。その時

 

「ッ!?」

 

 裏見隊(りけんたい)分隊長、鬼撫(おになで)が見ている情報が彼女の脳内に映し出される。

「あ、ゴメン。私トイレ~」

 八葉は照れ笑いをしながら食堂を出る。

「チッ、あのバカ二人が!」

 先程までの陽気でバカそうな女の子ではない厳しい顔つきで上官である砕蜂と静気をなじると、八葉はまるで隠密機動のように瞬歩でどこかへ向かって走り出した。

 

 




一葉音芽。お前はゆ○たまご先生の代表作である○ン肉マンファンか?

というかなぜ隠密機動と関わりのない三人に鬼撫から情報がなぜ渡ったのか……。いったい何者なんだ?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第三十三話二番隊編 激突!砕蜂(夜一バカ) VS 鬼塚静気(喜助バカ)後編

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 目にも留まらぬ速さで上下左右に動く砕蜂(ソイフォン)に、右手に普通の刀にしか見えない斬魄刀・記呪筆(きじゅひつ)を持ったギョロリとした大きな目が特徴の女性、鬼塚(おにづか)静気(しずき)は肩で息をしながら高速で動く砕蜂を目で追っていた。彼女の体には次に同じ箇所を攻撃されれば命を落とす死の紋章、蜂紋華(ほうもんか)が両肩、背中、両手の甲に刻まれていた。

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……」

 一方の砕蜂も息を切らしていた。得意の足を使って翻弄している相手は隠密機動随一の格闘術を持つ部下。不用意に間合いに入れば致命傷になりかねない傷を負わされる。実際、砕蜂の服は触れられていないのにもかかわらず、至るところに静気の鋭い手刀によって起きた真空の刃の跡が残っていた。

 そして何より砕蜂が警戒するのは静気の斬魄刀の能力だった。その能力を知るゆえに、砕蜂は慎重にならざる得なかった。

「……ウッ!」

 速さを上乗せした砕蜂の蹴りが静気に命中する。何とかガードをする静気だが蹴りの威力に負けて片膝をつく。

「死ね、静気!!」

 バランスを崩した静気の背後に回ると、砕蜂は蜂紋華が刻まれた背中に雀蜂を突き刺した。

「かかったわね」

「しまったッ!?」

 笑う静気の言葉に砕蜂は気づく。背中の蜂紋華がまだ刺していないはずの左足に移動したのだ。背中には再び刺せば命を落とす蜂紋華が新たに刻まれる。

「記呪筆第壱画、傷移呪(しょういじゅ)!」

 静気の右太ももには刀身が青くなった記呪筆が刺されていた。

 傷移呪。文字通り刺した対象者の傷を移動させる呪い。主な方法は全身に与えた傷を脳や心臓などに移動させて致命傷を与えたり、重傷な箇所を全体に分散させることで危機的状況を脱する。

 砕蜂が別々につけた蜂紋華を移動させて弐撃必殺を完成させる。

 トドメとなる弐撃目が外されたことに一瞬動揺する砕蜂。その隙を静気は見逃さなかった。

「記呪筆第弐画、与着呪(よちゃくじゅ)!」

 静気は躊躇することなく赤くなった刀身を自らの胸に刺した。

「!!」

 赤い刀身はその先にいた砕蜂を貫く。

(しまった!)

 静気の能力を知る砕蜂は反射的に間合いを取る。刺された箇所からは血は流れていない。

「ふふふ」

 意味深な笑いを浮かべながら静気は刀を引き抜く。貫いたはずの胸から血は一滴も流れていない。

「静気! 貴様、私に……うぐっ!?」

 なんの呪いを掛けた!? そう問う前に異変が起こる。

 纏っている服が突然、鉄に変わったかのようにずっしりと重く感じたのだ。その重みに砕蜂はその場に跪く。

「与着呪。自らの肉体を通して相手に呪いをかける。与える呪いは様々だけど、今回は貴女の強みである脚を奪わせてもらったわ。どう、思った以上に動けないでしょ? その代わり……」

 

 ブシューーーッ!! 

 

 全身から鯨の潮吹きのように血が流れ出す。噴出する血を見ながら静気は苦笑いを浮かべる。

「与えた呪いに比例して傷を負うわけだけど……。さすがは隠密機動総司令官を務める女。封じる代償はとんでもなく大きかったみたいね……さっさとケリをつけさせてもらうわよ!!」

 ニィッと笑みを浮かべ、血が噴出する我が身を無視して静気は駆けた。

「……クッ!」

 避けようとする砕蜂。しかし万全の状態からほど遠い静気の攻撃を回避するのが精一杯なほど身体は思うように動かなくなっていた。

 先ほどまでは回避すると同時に反撃していたほどの機動力を見せていた砕蜂の身体に静気の攻撃の痕跡が出来始める。

「ハァハァ、くそッ!!」

 本来の自分ならば悠々対処出来る、呪いの反動で負傷した静気の斬撃と手刀が自身を掠めるという事実。それに対応できなくした呪いに苦虫を潰したような顔で砕蜂は避け続けるしかなかった。

 

 ====================================================

 

 背中まである波状の髪が水平になるほど駆ける、胸元があと少しずれれば隠すべき所が露出してしまうほどはだけさせた妖艶な女性、隠密機動第四分隊裏見隊副分隊長、月読(つくよみ)は砕蜂と静気が戦っている場所へと向かっていた。

「これ以上の損害を防がなくては!」

 焦りの色を見せる彼女の後ろから聞き慣れた足音が聞こえた。

「月光か」

 月読はその者の名を呟く。

 月光。反乱・危険分子の捜索・発見を主任務とする裏見隊の一人で、四番隊平隊士の顔を持つ部下であり一人息子。

「ふう」

 隣で駆ける息子が小さくため息をつく。その顔には「何で俺がこんなことを」という不満と「自分達が行かなくては」という覚悟が滲んでいた。

「急ぐぞ」

 そう言って月読は月光と共に目的の場所へ駆けた。

 

 ====================================================

 

「ハァ……ハァ……ハァ……」

 呪いによって重く感じる身体で動き続けた結果、肩で息をする砕蜂の服は大量の汗と血でびっとりと張り付いていた。

「フゥ……フゥ……フゥ……」

 対する静気は砕蜂の脚を封じる呪いの反動によって生じた傷による流血で意識が朦朧(もうろう)となっていた。

 砕蜂の静気。二人は少し離れた場所にいるお互いを見据える。

 

 次の攻撃で全てが決まる。

 

 残された体力と経験が導きだした答えだった。

「喰らうがいい! ……卍解、『雀蜂(じゃくほう)雷公鞭(らいこうべん)』!!」

 砕蜂の右腕に照準器のついた巨大な砲台が装備される遠距離ミサイル砲が姿を現す。

「記呪筆第参画、刻命呪(こくめいじゅ)!!」

 静気は黒くなった刀身を自らの身体に突き刺す。

 刻命呪。文字通り自らの命を消費する代償に対象者の身体能力を増大させる呪い。

 その呪いの力によって静気は出血死寸前とは思えない速さで駆け出した。

 狙いを定める砕蜂。全神経を射たれる前に息の根を止めようとする静気。

 轟音と共に発射される砲弾。

(あと一歩、遅かった!)

 静気は自らの敗北、そして死を覚悟した。その時だった。

「空間移動扉!!」

 何者かが天井からドラ○もんの○り抜けフープに酷似した通り抜け輪っかで侵入すると、某国民的アニメの青色の猫型ロボットがお腹辺りに着けていそうな四次元袋からピンク色の片開きの戸を取り出した。

 砲弾は開かれた扉の中へと消えていく。

 突然現れた者は、驚きと事態把握で一瞬動きを止めた静気の背後に回り込んで羽交い締めにする。

「砕蜂隊長! 鬼塚分隊長! 落ち着いて下さい!!」

 ドラ○もんの名刀電光○と滅却師の乱装天傀(らんそうてんがい)に酷似した装備を身に(まと)った葛原(くずはら)粕人(かすと)が叫ぶ。その時だった。

 

「卍解、『全色(ぜんしょく)塗潰(ぬりつぶし)写絵(うつしえ)』!!」

「卍解、『形白二振(かたしろふたふり)』!!」

 

 粕人が作った通り抜け輪っかから斬魄刀を抜いた月光と月読が現れる。月光の持つ写絵は赤錆まみれのボロ刀へと変化し、月読は瞬く間に斬魄刀・形白と同化し月光の写絵へと姿を変えた。

 左右の手に写絵を持った月光は

 

「元に戻れ!」

 

 と叫ぶと同時に砕蜂と静気に向かって写絵を投げた。

「う……──」

「あぁ……──」

 もはや立っているだけで精一杯だった二人は糸が切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。

「……」

 二人が気を失ったことを確認した月光は刀を抜く。深々と突き刺さったが、二人の体からは一滴も血は流れなかった。

「え、仏宇野……」

 突然現れた親友になぜここにいるのか、卍解とは何かを問おうとしたが……出来なかった。

 

「え──」

 

 親友の仏宇野段士によって首をはねられたからだ。

 ブシューーーッと頭を失った首から血飛沫があがる。

(仏宇野……どうして?)

 何時ものばか騒ぎをする親友からは想像も出来ない、冷酷無慈悲の表情で自身を見る親友の顔。

 それが粕人が見た最期の光景だった。

 

 ====================================================

 

 一方その頃。

 十二番隊保管庫では隊員達が消火活動を行っていた。

 どんな攻撃にも耐えられるように設計された保管庫だが、突然ワープしてきた雀蜂雷公鞭の砲弾によって保管庫内は瞬く間に火の海と化したのだ。開発局局員総出で懸命に消火活動は繰り広げられるが、火の勢いは収まる気配はない。

「…………」

 今まで集めに集めた研究素材が灰となっていく光景を、(くろつち)マユリは力なく見ているしかなかった。

 

 

 翌日。火が完全に消え去った保管庫には、燃え尽きた灰と瓦礫が残されただけだった。

 

 

 




長かった……二番隊編は本当に長かった……。次は十番隊をする予定。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第三十三話十番隊編 第三席葛原粕人

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。
+切り替え式時間望遠鏡というドラ○もんの切り替え式タイ○スコープとよく似た秘密道具で見たifです。楽しんでいただければ幸いです。


 二番隊に異動させた場合。砕蜂(ソイフォン)雀蜂(じゃくほう)雷公鞭(らいこうべん)によって、自分の命ともいえる研究素材を破壊されるという結末は(くろつち)マユリの望むものではなかった。

「これでは駄目だ! 絶対にクズを二番隊に異動させるわけにはいかない!」

 マユリは(あご)に手を置いて考える。

「ならばここは一旦、無縁の十番隊に移動した場合はどうなるかをやってみるとするかネ」

 そう言ってマユリは覗けば過去や未来において『ここで○○したら』もしくは『こうするとどうなるか』という結果を見たりできる発明品、切り替え式時間望遠鏡を操作してレンズを覗いた。

 

 ====================================================

 

 十番隊隊舎

粕人(かすと)、次はここを掃除しといて!」

「今すぐ取り掛かります松本(まつもと)副隊長!」

「粕人、この書類に目を通しておいて!」

「かしこまりました松本副隊長!」

「粕人、この調査書を今日中にまとめておいて!」

「お任せください松本副隊長!」

 十番隊に異動となった葛原(くずはら)粕人(かすと)は三席としてその任をこなしていた。

「あ、あの……葛原三席、こちらの書類に目を通していただきたいのですが」

「どれどれ……ん?」

 七三分けの男から手渡された書類には、十番隊隊長である日番谷(ひつがや)(とう)()(ろう)が副隊長である松本(まつもと)乱菊(らんぎく)に今日中に行うように書かれた仕事内容が記されていた。

丹波(たんば)十席……。この仕事は葛原粕人(三席)ではなく松本乱菊(副隊長)がするべきだと思うのだけど、気のせいかな?」

 気のせいではありません、そう言って男は諦めるように続ける。

「これを『松本に渡しといてくれ』と日番谷隊長に言われたのですが、松本副隊長は『私の代わりに粕人に渡しといて!』と……」

「……」

「あと『これは副隊長命令ね』、とのことです」

「……『承知しました』と、松本副隊長に伝えといてください」

 頬をピクピクとさせながら、粕人は部下に伝言をお願いした。

 

 ====================================================

 

「くそ!松本副隊長に文句を言ってやる!!」

 年平均睡眠時間が一時間を切る十二番隊の仕事よりも楽とはいえ、自分の責任以上の仕事をさせられたことに不満を覚えた粕人は、乱菊がするはずだった仕事を全て終えるや否や、副隊長室に向かっていた。

「失礼します、松本副隊長」

 苛立つ気持ちを抑え、粕人は扉をゆっくりと開ける。

「!?」

 文句を言おうとしてた粕人は固まる。

 そこに立っていたのは、水着上のボンテージにうさぎ耳、網タイツを履いた俗に言うバニーガール姿の格好をした乱菊だった。

「ねぇー粕人」

 前傾姿勢で胸元がよく見えるようにかつ両腕で胸の谷間を強調させながら甘えた声で乱菊は言った。

修兵(しゅうへい)に『今夜までに提出してください!』って言われてる原稿があるんだけど、代わりにやっといてくれない?」

 そう言うと乱菊は粕人の腕に豊満な乳房を挟み込んだ。

 

 むにゅっ!

 

「お、おおおおおお、お任せ下さい松本副隊長!!」

 鼻から赤い蒸気を放つ鼻血を流しながら、粕人は敬礼をした。

「松本!! 葛原!!」

 

 

 

 その後偶然居合わせた冬獅郎によって自然発火寸前まで体温が上昇した粕人は氷漬けにされた。

 

 

 

 




バニー姿の乱菊さん。見てみたいわぁ。
ちなみに作者と松本乱菊の身長は同じ(笑)
話とは関係ないですけど汗


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第三十三話十番隊編 仕事の鬼、松本乱菊

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。
+切り替え式時間望遠鏡というドラ○もんの切り替え式タイ○スコープとよく似た秘密道具で見たifです。楽しんでいただければ幸いです。


 松本(まつもと)乱菊(らんぎく)はジュースと食べ物を頬張りながら、つい最近十二番隊から十番隊に異動になった葛原(くずはら)粕人(かすと)に注文をつけていた。

 

「粕人。この仕事お願いね」

「わかりました松本副隊長!」

「粕人。この書類の山、今日中に処理しといてね」

「わかりました松本副隊長!」

「粕人。ご飯を作ってくれない?」

「わかりました松本副隊長!」

「粕人……」

「わかりました」

 

 

 

「ん?」

 いつもいつのまにか眠っていた乱菊はふっと目を覚ます。

「今何時かしら?」

 目をこすりながら時計を見ようとした矢先

「え?」

 乱菊は顔を青ざめ、固まった。

 そこにあったのはまるまる太った自分の姿。ぶよぶよに肉のついた頬、自慢の大きくて形の整った胸よりも存在感を示す大きなお腹。

 その姿は美しさに絶対の自信を持つ乱菊には絶対に認められない、美しさとは程遠い醜くだらしない姿だった。

「い、い、い…………」

 

 いやああああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!! 

 

 たるんだ頬を掴むようにして乱菊は悲鳴をあげた。

 

 ====================================================

 

「違う、違う違う違う! ……こんなの私じゃない! こんなの……ッ!?」

 バッと起き上がる。と同時に鏡を見る。そこに映っていたのはいつもの自分だった。

「なんだ、夢か……」

 

 むにゅ

 

「え?」

 腹から伝わる、いつもなら感じない違和感。

「ま、まさか……」

 乱菊は恐る恐る自らの腹の肉をつまんだ。

 

 ====================================================

 

 一時間後

「ひ、()(つが)()隊長! た、たたた、大変です!!」

 いつもであれば「失礼します」と断りを入れてから入室する粕人の慌てた様子に十番隊隊長、()(つが)()(とう)()(ろう)は「何事だ!」と問いただす。

「松本副隊長が……松本副隊長が!」

「松本が……!?」

 粕人を引き連れ副隊長室に向かう。そこにいたのは

「次の案件は何!!」

「は、はい! 次はこちらを!!」

 矢継ぎ早に報告してくる部下たちに的確に指示を出しながら、必死の形相で書類の案件に目を通し、『仕事命』というハチマキを頭に巻いた松本乱菊の姿だった。

「…………」

「…………」

 普段は隙あらばサボる不真面目な副隊長が真面目に働く姿に唖然とする二人は知る(よし)もなかった。

(頭を使うとカロリーが消費されるって言うからね! もっと頭を使わないと‼)

 

 

 

 ダイエット目的で仕事に集中しているということに。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第三十三話十番隊編 松本乱菊、墓参りに行く

 (ひがし)流魂街(ルコンがい)六十二地区、花枯(かがらし)

「……ギン」

 人の目から離れた『市丸(いちまる)ギン』と彫られたみすぼらしい墓の前に、松本(まつもと)乱菊(らんぎく)は腰を下ろし手を合わせていた。

 藍染(あいぜん)惣右介(そうすけ)(ふところ)に入り内側から藍染を討つ。その目的を果たすためとはいえ、藍染と共に反乱を起こし尸魂界(ソウル・ソサエティ)に多大な被害を与えた市丸ギンの行いは到底許されるものではなかった。反逆者となった市丸ギンの墓を瀞霊廷内(せいれいていない)に作ることは許されず、また身寄りもいないこともあり彼の墓を質素であり、墓を訪れる者は乱菊を除き全くと言っていいほどいなかった。

 乱菊が時々ポツリと「……ギン」と呼ぶだけの寂しい時間が過ぎる中、乱菊に近づく一つの影がいた。

「あ、松本副隊ちょ……」

 影は言いかけた言葉を止める。手を合わせる乱菊の姿を見たからだ。

「……ギン」

 小さく、それでいてはっきりと呟く乱菊の独り言に全てを(さっ)した影は、(おもむ)ろに自身の斬魄刀(ざんぱくとう)に手を置いた。

卍解(ばんかい)――」

 

 

 ======================================

 

 

「……ギン」

「呼んだ? 乱菊」

「え? 」

 バッと声のする方へ振り返った乱菊は、驚愕(きょうがく)する。

 そこに立っていたのは最後に会った時の姿の市丸ギンその人だったからだ。

「どうしたん、乱菊? 」

「ギン! アンタ、どこで何やってたのよ!? 」

 涙を流しながら懐に飛び込むと胸をドンドンと叩く。

「い、痛いがな。乱菊」

「バカ、バカバカバカ……」

 涙を流しながら胸を叩く。言いたいことは山ほどある。しかしいざ言おうとすると言葉が出なかった。そんな乱菊にギンは申し訳なさそうに言った。

「乱菊、悪いんだけど……もう行かんとアカンねん」

「な、なんで」

「これ以上こっちにいたら()の命が危ないから」

「彼? 彼って――」

 乱菊が言い終わる前に

「乱菊、またな」

 ギンは煙のようにその場から消えた。最初からいなったかと思うほどに。

「ギン」

 乱菊は呆れたように笑う。さきほどまでいた男の名を呼ぶ声に、悲しみはなかった。

「……相変わらず自分勝手な男よね」

 言葉とは裏腹に明るく微笑む乱菊が隊舎に戻ると

「おい、葛原(くずはら)。しっかりしろ!! 」

「えっ? 」

 上司である十番隊隊長、日番谷(ひつがや)冬獅郎(とうしろう)の焦る声に乱菊は慌てて部屋を(のぞ)く。

 そこには

「葛原三席!? 」、「しっかりして下さい!! 」、「誰か、四番隊に連絡を!! 」

「……ぁ……ぅ…………」

 骨と皮になるほど干からびた十番隊第三席、葛原(くずはら)粕人(かすと)の姿があった。




幽世開門(かくりよかいもん)
死んでも生者と死者との世界を行き来する門が閉じているため復活する??の卍解。尸魂界とは違う世界に行った者を呼び戻すことが出来る。使用者と呼び出す者の能力があまりにもかけ離れている場合、長時間の使用は使用者が死亡する危険がある(死んだ時に死者への門が開いているため)。また復活するかの決定権は復活する側にあるため復活する者が望まなければ呼び戻すことは出来ない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第三十三話十番隊編 葛原粕人対アクタ・デブリアス

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。
+切り替え式時間望遠鏡というドラ○もんの切り替え式タイ○スコープとよく似た秘密道具で見たifです。楽しんでいただければ幸いです。


葛原(くずはら)三席、こちらが(ホロウ)遠征の報告書です」

「わかりました。この仕事が終わったら確認します」

「葛原三席、頼まれた物資はどこに置いておきましょうか?」

「あぁ、あれは僕の部屋にお願いします」

「葛原三席、実は……」

「なるほど。では僕が代わりに……」

 

松本(まつもと)乱菊(らんぎく)から一方的に仕事を押し付けられなくなったとはいえ十番隊三席、葛原(くずはら)粕人(かすと)は多忙を極めていた。

次から次へとやって来る部下からの報告に受けて適宜指示を出しながら業務を行っていく。

(仕事だけ見れば葛原の方が副隊長だよな)

粕人の仕事を遠くから眺めていた十番隊隊長、()(つが)()(とう)()(ろう)がそう思わずにはいられないほどに。

 

後日。

休日にもかかわらず出勤してきた粕人に「今日は休みだろ、何で来た?」と冬獅郎は尋ねた。

「え?十二番隊では休日出勤は当たり前でしたが……」

「……今すぐ家に帰れ」

粕人を帰らせると冬獅郎は大きなため息をついて額を押さえた。

(くろつち)……あいつは部下を何だと思っているんだ?」

 

 ====================================================

 

「う~む……」

数時間後。粕人は円谷(つぶらや)(さん)と呼ばれる山を探索していた。

粕人がこの場所を訪れたのには理由があった。

それは以前からこの付近にいる植物や動物が異様に大きくなっているという現象が報告されていたからだ。

と言っても数倍、数十倍と大きくなっている訳ではなく「あれ?」と思う程度。元技術開発局である粕人も一度訪れたが危険性などは確認されていなかった。

しかし気になった粕人は再びこの地を訪れ調査を開始した。

そしたらあることに気づく。とある石の近くに近づけば近づくほど周りの植物が大きくなっていたことに。

 

その内の一つを拾う。見た目は拳ほどの石にしか見えない。しかし粕人が持ってきた携帯測定器を近づけると測定器の針が大きく揺れた。これはこの石に何かしらのエネルギーが秘められているということを意味していた。

「とりあえずもしもの時に、と思って作った物質安定装置に入れてみよう」

そうして粕人がドラ○もんのス○ールライトに似た物質縮小装置で石を小さくしてから、小振りなペンライト状の機械にはめ込んだ。その時だった。

「!?」

気配を感じて空を見る。そこには破面が現世や尸魂界(ソウルソサエティ)などを行き交う時に空間を割いたように現れる霊的通路、黒腔(ガルガンタ)

「ん?何だお前は」

奥から現れたのは工事用のヘルメットによく似た仮面をかぶった小柄な男だった。

「何者だ!名を名乗れ!!」

自分に似た破面に、粕人は斬魄刀に手をかけながら尋ねる。その問いを謎の破面は鼻で笑う。

「馬鹿じゃねーの?どう見たって俺は敵だろ?その敵が何か言われて「はいそうですか」って素直に答えると思ったのか!ザエルアポロの元従属官(フラシオン)のNo.53。アクタ・デブリアス。虚園のみならず現世も尸魂界も支配する男だ。今回ここに来たのはその下調べだ!!」

「……名乗ってますよ。あと目的も」

その指摘に、アクタ・デブリアスと名乗る破面は顔を真っ赤にさせながら刀を抜いた。

「身を変えろ!起動戦士(ムガンダ)!!」

その瞬間、破面の持つ斬魄刀の刀身が輝きだす。その光に粕人は思わず目を閉じる。時間にして二、三秒。粕人が目を開けるとそこには頭にVの形をしたアンテナをつけた二足歩行の巨大なロボットが立っていた。

『驚いたか、死神?』

破面はライフルのようなものを粕人に向ける。嫌な予感がした粕人は敵に背を向けないようにしながら後ろに跳んだ。

 

バキューンッ!!

 

銃口から霊圧の集中された破壊の閃光、虚閃が放たれる。

「うわあああぁぁぁっ!!」

その凄まじい威力に大地は(えぐ)り取られ、衝撃で粕人の身体は吹き飛ばされ、幽世(かくりよ)閉門(へいもん)もどこかに行くほどに。

『おいおい。この程度で終わりかよ?』

破面が地面に伏せる粕人に銃口を向ける。

(ま、負けてなるものか!)

この時、自身の斬魄刀である幽世閉門がどこかへ行ったこと気づいていない粕人は、ゆっくりと立ち上がりながら刀を抜く要領で偶然腰に帯びる形で下げられた物質安定装置を取りだした。そして偶然にも安定装置のスイッチを押した。その時だった。

安定装置から閃光が発生し、粕人の周りを渦巻き状に包み込む。その後みるみる内に粕人の身体は赤と銀色に変わり巨大化する。その時粕人は無意識の内に右手を宙空に突き上げ、左手は顔の隣に置くという独特のポーズ取っていた。

約18mほどに巨大化した破面が逆に見上げるほどの巨人がそこにいた。

『な、何なんだよ!お前は!!』

 

シュワッ

 

巨大化した粕人はそれだけ言うと左右の手刀を十字型に交差させると右手から光線を発射した。放たれた白い光線は固まる破面に直撃。破面は四散した。

ピコン、ピコン、ピコンと胸の中央で点滅するタイマーを一瞥すると、粕人は「シュワッチ」と言うと両手を挙げて空へと旅立った。

 

 

 

なお「なぜ自分が巨大化したのか」を調べようと考えたが、大人の事情から粕人は考えるのをやめた。

 




おそらく久保帯人先生、藤子 F 不二雄先生、サンライズ、円谷プロを同時に敵に回す人間は私以外いないだろうな……と思う今日この頃。

アクタ・デブリアス
粕人に工事用ヘルメットを被せたような破面。ザエルアポロの元従属官(フラシオン)でNoは53(「ゴミ」ではない)。帰刃をすることで某国民ロボットアニメに酷似した姿に変身することができる。
名前の由来は芥(あくた)とデブリ。
ムガンダを並べかえると……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第三十三話十番隊編 日番谷冬獅郎は大きくなるようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。
+切り替え式時間望遠鏡というドラ○もんの切り替え式タイ○スコープとよく似た秘密道具で見たifです。楽しんでいただければ幸いです。


「あぁ~、この服。もう着ないんだけど思い入れがあって捨てられないのよね」

 大量の衣服や帽子、アクセサリーを見ながら十番隊副隊長、松本(まつもと)乱菊(らんぎく)はどうしようかと思案に暮れていた。

「そんな時はこれ!」

 そう言いながらテレフォンショッピングのように唐突に現れた十番隊第三席、葛原(くずはら)粕人(かすと)がドラ○もんの○次元ポケットに似た四○元袋から少し変わったライトを取り出す。

「 これは物質縮小装置。名前の通り対象物を小さくすることができる機械でこのようにライトを当てると……」

 粕人は 乱菊が思案に暮れていた品々に向けて光を当てる。すると光を当てられた品々はみるみるうちに小さくなっていく。

「わーすごい!!」

 実際に小さくなった品々を見て、乱菊は歓喜の声を上げる。

「……」

 その様子を偶然副隊長室を通りかかった十番隊隊長、()(つが)()(とう)()(ろう)が見ていた。

 

 翌日。

「日番谷隊長、どうかなさいましたか?」

 突然呼び出しを受けた粕人は神妙な顔で 椅子に座る 日番谷冬獅郎に問いかける。

「葛原、お前を呼び出したのは他でもない。実は昨日お前が松本の衣服を小さくするところを目撃してな」

 そう言いながらゆっくりと立ち上がり、粕人の方へと歩み寄る。

「物を小さくすることができるなら、逆に大きくすることもできるんじゃないかと思ってな」

 そう言って粕人の肩に手を置く。

「できるか、葛原?」

 言葉こそ疑問形だが、力強いその言葉は「お前なら出来るよな」と言う期待と信頼に満ちたものだった。

「……日番谷隊長!」

 冬獅郎の真意に気付いた粕人はなぜ大きくしようと考えたのかその理由を聞かず「お任せください日番谷隊長! この葛原粕人、隊長の期待に必ずや答えてごらんにいれます!!」と言って一礼すると隊長室を後にした。

 

 翌日。

「葛原……これは?」

 冬獅郎の手には物質縮小装置とは異なる懐中電灯に似た物が握られていた。

「それはドラ○もんのビッ○ライトを参考に作りました物質拡大灯(ぶっしつかくだいとう)です。その名前の通りその機会から発せられた光を浴びるとその対象物が大きくなるというものです」

「……なるほど。じゃあ少し試してみるぞ」

 そう言うと冬獅郎は机の上に置いてあった筆に光を当てる。すると筆は光があたった時間に比例して大きくなった。

「おぉっ! すごいぞ葛原! よくやってくれた!」

 二倍ほどの大きさになった筆を持ちながら冬獅郎は礼を言う。

「いえいえ。隊長の役に立てて何よりです」

 そう言って粕人は冬獅郎の期待に応えられたという満足感を抱いたまま部屋を後にした。

「……よし!」

 粕人が部屋を出たことを確認すると冬獅郎は自分自身に光を当てた。その時間に比例して冬獅郎の身体は大きくなった。

 頭一個分大きくなった自分自身の姿を鏡で確認して、冬獅郎は普段の真面目さからは想像もできない子供のような笑みを浮かべる。

「よし、もう少しだけ大きくなって」

 物質拡大灯のスイッチを押した。

 

 ガチッ!!

 

「え?」

 冬獅郎は固まる。スイッチがオンの状態から戻らなくなってしまったのだ。

「あわわっ!?」

 パニック状態になった冬獅郎は物質拡大灯の光を自分に当てないようにするなどの対応策を考える余裕もなく、そのまま自分自身に当ててしまう。

 巨大化していく冬獅郎の身体はドンドン大きくなっていき、ついには天井を突き破る。

「……あぁ、ああぁっ……」

 巨大化が止まった頃には見上げるほど高い隊舎がおもちゃの家になるほどになっていた。

「ひ、日番谷隊長!!」

 まだ部屋からそこまで離れていなかった粕人は、巨大化した冬獅郎を確認するや否や慌てて物質縮小装置で小さくする。

 数秒後。巨大化したことが嘘のように冬獅郎は隊長室の床に腰を落としていた。

「日番谷隊長、何があったんですか!?」

「いや。誤って自分自身に光を当ててしまってな……すまん」

 自分のコンプレックスである背の低さをどうにかしようとしたとは言えず冬獅郎は目を逸らす。

「まあ、隊長にお怪我がなくて何よりです」

 ホッと安心したのに粕人は微笑む。

「まさかとは思いますが。日番谷隊長、もしかして自分の身長の低さを何とかするために僕に物質拡大灯を作らせたんじゃ──」

「卍解……大紅蓮(だいぐれん)氷輪丸(ひょうりんまる)!!」




次回
『日番谷冬獅郎&猿柿ひよ里 VS 葛原粕人&仏宇野段士&兵間義昭(仮タイトル)』を予定してます。気長に待っていただけると幸いです。
てかこれ最初から勝負にならない……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ひとりぼっちの冬獅郎

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。
+切り替え式時間望遠鏡というドラ○もんの切り替え式タイ○スコープとよく似た秘密道具で見たifです。楽しんでいただければ幸いです。


 十番隊隊舎 廊下。

「ふぁ~、眠っ」

 自室である隊長室に向かって歩いていた十番隊隊長、()(つが)()(とう)()(ろう)は 口に手を当てながら大きくあくびをしていた。

 いつもならば昼寝をする時間なのだが、この日の冬獅郎はやらなければならない仕事が山のようにあった。

「しょうがねぇ、昼寝は諦めるか」

 そう呟き、もう一度大きなあくびをした時だった。

「お困りのようですね、日番谷隊長」

 背後からの声に冬獅郎は振り返る。そこに立っていたのは十二番隊から異動し、今ではなくてはならない存在になっている十番隊第三席、葛原(くずはら)粕人(かすと)だった。

「葛原か」

 何か言いたそうな部下に冬獅郎は言葉を待つ。

「実は日番谷隊長が今抱えている悩みを解決する物を作ったんですよ」

 ニコッと笑いながら胸を張る粕人は懐から缶詰を取り出すと冬獅郎に手渡した。

「なんだこれは?」

 缶詰を怪しい目で観察する冬獅郎に粕人は嬉しそうに説明する。

「それは缶詰カンヅメという某国民アニメの○詰缶というものを参考に作りました。それを開けると開けた人間が快適に暮らせるほどの大きさに変化し、その中に入ると時間の流れが遅くなります。缶での1時間が外では24時間というように。

 またその缶の中では出前を注文できたりマッサージチェアがあったりなど快適に過ごせる設備が豊富に揃っております」

「ふ~ん」

(この缶詰がねぇ)

 疑心暗鬼の冬獅郎だったが、昨日の光にあてたものを大きくする物質拡大灯(ぶっしつかくだいとう)の事を考えればあながち嘘ではないのだろうと思い始める。

「ありがとう、早速使わせてもらうぞ」

 一言お礼を言うと冬獅郎は自分の部屋へと歩いた。

 数分後。

 隊長室へと帰った日番谷冬獅郎は手渡された缶詰カンヅメを開けた。

 すると缶詰カンヅメは説明した通り日番谷冬獅郎が余裕で入れるだけど大きさへと変化した。

 開いた缶詰の中に入り缶の蓋を閉じると日番谷冬獅郎は缶の中を見る。そこには自分の体にフィットする適度な反発性を持ったベッド、アイスやジュースなどが入った小型の冷蔵庫、マッサージチェアがあった。

「あいつの言っていた通りだったな」

 部下の言葉が本当だったとわかると、安心した冬獅郎はベッドに向かってバタンと倒れそのまま眠りについた。

 

 ====================================================

 

 

「ん? 今何時だ」

 熟睡し、目を覚ました冬獅郎はベッドに置かれていた目覚まし時計を見る。

 床に着いて1時間が経っていた。しかし粕人が言っていたように缶の中が1時間でも外では24時間ならばまだ数分しか経っていないはずだ。

 そう思い缶の蓋を開けて外に出る。

 

「え…………」

 

 目の風景に日番谷冬獅郎は放心した。

 そこは厚く黒い雲に覆われ、十番隊隊舎をはじめとする建物が朽ち果て荒廃した尸魂界(ソウル・ソサエティ)だった。

「ど、どうなってやがる!?」

 これじゃあまるで浦島太郎じゃねぇか!! 

 そう言おうとした時、一枚の紙が冬獅郎の目に入った。そこには

 

『日番谷隊長へ。この缶詰カンヅメは缶の中では1時間でも外の世界では数億年経過するというとんでもないものでした。ごめんなさいテヘペロ』

 

 と書かれてあった。

「ごめんなさいで済むか!!!! あとテヘペロって何だ!!!!」

 自分以外いない世界で全ての怒りをぶつけるかのように叫ぶ冬獅郎。その時だった。

 

 タッタタ~~~!! 

 

 軽快な音楽とともに、荒廃した風景がいつもの隊長室の風景へと変わる。と同時に『ドッキリ大成功』と書かれた プラカードを持った副隊長、松本(まつもと)乱菊(らんぎく)が姿を現した。その後ろには粕人の姿もあった。

「…………え?」

 状況を把握しきれていない日番谷冬獅郎に粕人が説明する。

「実は隊長が見た荒廃した尸魂界は鏡霞水月(きょうかすみすいげつ)という蜃気楼を生み出す機械で、 こうやってドッキリを仕掛けたというわけなんですよ」

「…………」

 申し訳なさそうに説明する粕人の言葉を聞いても、何を言っていいのか分からず固まる冬獅郎。それを見ながらキャッキャと笑う乱菊。

「しかし放心する隊長の顔、すごく面白かったですよ!!」

 先ほどの日番谷冬獅郎の姿を思い出し、声を出しながら笑う乱菊。

「わ、笑っちゃダメですよ。松本副隊長」

 そう言いながらも笑いをこらえている粕人。

「てめぇら……」

 静かにそしてゆっくりと、冬獅郎は斬魄刀に手をかけた。

「覚悟しろよ」

 そう言って斬魄刀を抜いた。

 

 

「卍解! 大紅蓮(だいぐれん)氷輪丸(ひょうりんまる)!!」




ドラえもんの二次創作を読んでいたら思い付いたネタです。
楽しんでいただければ幸いです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もし仏宇野八葉が千年血戦篇に参戦していたら

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。


 砕蜂(ソイフォン)BG9(ベーゲーノイン)と戦っている頃。

「こんなものかよ? 隠密機動総司令官ってやつは!」

 右目に虚特有の骨のような仮面をつけた水色髪の大人な女性、カマセーヌ・ザッコーは逃げ続ける砕蜂に攻撃を加えていた。

「くっ!」

(当たり前でしょうが!? 私は二番隊食堂係(ただの平隊士)なんだから!!)

 敵戦力の分散のための囮として、砕蜂に化けた仏宇野(ふつうの)八葉(やつは)は顔では冷静を装いながら心の中で毒つき、逃げ回っていた。

 瞬歩や周りの地形を利用して逃げ回る八葉だが、ただの平隊士である彼女に曲がりなりにも

 尸魂界(ソウル・ソサエティ)侵攻部隊の一人に選ばれた破面(アランカル)。勝敗は火を見るよりも明らかだった。

「おい、どうしたよ隊長さんよ! そんなに苦しいなら卍解したらどうだ?」

「……」

 挑発するザッコーの言葉に八葉は怪しむ。しかし

 

(釣ってみるか)

 

 このままでは事態は好転しないことを悟った八葉は懐から黒い丸薬を取り出した。

正野(しょうの)家秘伝『遮霊霧(しゃれいむ)』!」

 地面にたたきつけると瞬く間に八葉とカマセーヌ・ザッコーとの間に白い霧が立ち込めた。

「……何かしら、これは?」

 周囲が白い霧に覆われ、自分と目の前の砕蜂に化けた八葉しか霊圧を感じられなくなったことを理解したザッコーは何がしたいのかわからず首を傾げる。

 ザッコーへの返答を、砕蜂に化けた八葉は行動で答えた。

「卍解! 『形白(かたしろ)二振(ふたふり)』!!」

 砕蜂に化けた八葉が刀を抜いて卍解を発動した瞬間、ザッコーは狂気の笑みを浮かべるといつの間にか握っていた星章(メダリオン)を発動させた。

 

「……!? ……ば、バカな………………」

 

 自分の身体から大事なものを奪われる感覚に八葉は言葉を失った。ショックのあまり砕蜂の姿から本来の姿の子どものような愛らしい姿へと戻る。

 

「……ば、卍解を……奪われた………………」

 

 放心しその場に崩れ落ちる八葉。そんな八葉を見下す視線を送りながらザッコーは歯を見せるように笑いながら近づいていく。

「ふふっ。自らの卍解の味、とくと堪能しなさい。卍解! 『形白二振』!! ……!!??」

 ザッコーは言葉を失った。自身の身体が刀と同化し地面に転がったのだ。動こうにも刀となった自分に動く(すべ)はない。

「私の卍解は少し特殊でね」

「……!?」

 ザッコーは意識を前に向ける。そこには先ほどの愛くるしい姿の美少女とは相反する、あと少しずれただけで乳首が見えてしまいそうなほど服をはだけさせているグラマーな女性が立っていた。

 突然現れた謎の女は刀となったザッコーを拾い上げる。

「まずは私の始解で触った状態のものでしか変身することができないの。当然ただ卍解しただけじゃただの刀にすぎない」

「……」

「次に形白二振は第三者の力が必要。変化した斬魄刀の力を再現できるだけの力を持った第三者の力が。そして最後に……」

(ま、まさか……)

 ザッコーが一番知りたく、そして一番知りたくなかった事実を謎の女は告げる。

「形白で刀になると少なくとも十五分は元に戻ることが出来ない。つまり敵に何されてもどうすることもできない」

 謎の女は優しい笑みを浮かべて、言った。

「最期に教えてあげる。私の名前は仏宇野八葉。裏の顔は隠密機動第四分隊裏見隊副分隊長、月読(つくよみ)

(ま、待て!!)

 ザッコーは月読に向かって叫ぶ。しかし発声機能がない今のザッコーの叫び声は月読に届かない。

 月読は刀となったザッコーを放り投げた。

「破道の五十四 『廃炎(はいえん)』」

 

 

 

 月読の手から放たれた円盤状の炎がザッコーを両断すると同時に二つに折れた刀を焼き尽くした。




今更ながら気が付いたこと。
仏宇野八葉の能力(記憶と姿のコピー能力)ってRのロイドそのものですね。

実力は圧倒的にRのロイドの方が上ですが汗


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

親切

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。

今回は残酷な描写があります。苦手な方は読まないほうがいいかもしれません。


 葛原(くずはら)粕人(かすと)の部屋。

 十二番隊二十席で技術開発局では責任だけ負わされ権限のない雑用の総責任者、そして(ネムリ)八號(はちごう)の教育係でもある葛原粕人は一通りの勉強を教えた後に最後の締めとして眠八號に人生の心得を説いていた。

「眠さん。他人に親切をすればいつか自分に返ってきます。だから困った人を見かけたら親切にするんですよ」

「しんせつ……? わかりました!」

 元気よく返事をする眠八號。粕人にそう返事をしたものの眠八號は実際に親切というものがどういうものかわかっていなかった。

 

 ====================================================

 

「う~ん……しんせつ……」

 

 考えている眠八號の前に技術開発局副局長の阿近(あこん)が通りかかる。

「阿近さん!」

 呼び止める眠八號に阿近は振り返る。

「どうした?」

「阿近さん『しんせつ』ってどう書くんですか?」

(『しんせつ』? 普通に考えれば『親切(しんせつ)』だよな。でも『新雪(しんせつ)』や『新説(しんせつ)』、はたまた『新設(しんせつ)』の可能性も……)

 どの『しんせつ』を聞かれているのか首をかしげる阿近に、眠八號はさきほどの粕人の説明を伝える。

「あぁ、その『しんせつ』か。……ちょっと待ってろ」

 阿近は持っていたメモ帳にすらすらと文字を書くと書いたページを破って手渡す。

 

「親切というのは(おや)()ると書くんだよ」

 

「……親を、切る」

 背を向けて立ち去る阿近は気がつかなかった。『親を切る』という言葉を聞いた瞬間、眠八號の顔が真っ青になっていたことを。

 

 ====================================================

 

「ん?」

 自室に戻った涅マユリが見た光景。それは包丁を持った眠八號の姿だった。包丁を持つ手はガタガタと震えている。

「何をしている?」

「……や、やっぱりできないです!」

 ポロポロと涙を零し持っていた包丁を落とす。

「眠八號、なぜこんな真似を?」

 マユリは優しく問いただす。

「クズさんが……親を切れ、と……」

「ほう、あのクズがそのようなことを」

 愛娘の頭を優しく撫でながら、マユリは満面の笑み(・・・・・)を浮かべた。

 

 ====================================================

 

 翌日。技術開発局通路。

「~~~♪」

(う~ん、今日はとっても気分がいい。なんかいいことがありそうだ)

 陽気に鼻歌を歌いながら資料室に入った阿近は

 

「ッッッ!?」

 

 大きく目を見開いた。そこにいたのは

 

「────」

 

 手足全ての指に針を刺され、えぐりとられた目から溶けた鉄を流し込まれ、肛門から口にかけて鉄製の棒で串刺しにされ絶命した部下、葛原粕人の姿があった。




数ヵ月ぶりの投稿。待っている人がもしいたらごめんなさい。

数あるハーメルン作品の中でも葛原粕人を超える不幸な男はいないだろうな、と思う今日この頃。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

真夏の怪 葛原粕人は眠八號に浴衣をプレゼントしたようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。

今回は残酷な描写があります。苦手な方は読まないほうがいいかもしれません。


「ふ~む。たまには外で気分転換というものも悪くないものだネ」

 (くろつち)マユリは右手で太陽光を(さえぎ)りながら空を眺める。

 季節は夏。大きな入道雲に蝉の鳴き声。うっすらとにじみ出る汗。普段なら不快感を露わにする所だったが今はそんな気分ではなかった。

「こういう時に案外天使とかいうモノが現れるのかもしれないネ」

「マユリ様!」

「ん? ──―」

 振り向いたマユリは心を奪われる。そこには髪をシニヨンでまとめた愛娘、(ネムリ)八號(はちごう)の姿だった。着ている服は白地に水彩画風のタッチで青から緑のグラデーションで朝顔が描かれた浴衣。淡い黄色と淡い緑の両面遣いの半幅帯を折り返して結び優しいアクセントになっていた。

 風そよぐ夏の朝を思わせる、一枚の絵として飾りたい姿だった。

「どうですか、マユリ様! クズさんが作ってくれたんですよ!」

「……」

「マユリ様?」

「あ、あぁ……似合っているヨ」

「うわぁ~い、ありがとうございます。マユリ様!」

 無邪気にその場でクルッと一周すると眠八號は「これから苺花(いちか)ちゃんの所に遊びに行きます!」と言ってその場を後にした。

「……ふっ」

 愛娘の可愛らしい浴衣姿に嬉しそうに微笑みながらマユリは研究所に戻った。

 

 ====================================================

 

 研究所に戻ったマユリは先ほどの眠八號の姿を思い出しでは今まで積み上げてきた涅マユリ像が崩れる笑顔を浮かべていた。幸いなことにその姿をこれから『葛原粕人(モルモット)でどのような実験(拷問)手伝い(サービス残業)をさせようか』と考えていると部下から思われたのでイメージが壊れることはなかったが。その際その姿を見た部下は葛原粕人の末路を想像し距離を置くように逃げたのは言うまでもない。

采絵(とるえ)さん見て下さい、これ!」

「ん?」

 マユリは声のする方へ振り返る。そこには私服の写真を机に並べて自慢する久南(くな)ニコと複雑な顔をする采絵の姿があった。

「確かに似合っているわ。でも男が女に服を送るって『送った服を引き()いてその女を自分のものにしたい』という裏の意味があるから気をつけた方がいいわよ」

 

 ッッッ!!!! 

 

「それじゃあ仕事に戻りましょう」

「そうですね」

 その場を後にする二人とは対照的に、さきほどの浮かれていたのが嘘のようにマユリは大きく目を見開き、大粒の汗を流していた。

「……『送った服を引き剥いてその女を自分のものにしたい』……だと……?」

 マユリの脳内にある光景が浮かび上がった。

 

 ~~~涅マユリの脳内~~~

 

『キャアッ!!』

『グヘヘヘヘッ』

 口から(よだれ)を垂らし、獲物を見る目で眠八號に近づく粕人。

『く、クズさん! 何で!?』

 母のように優しい男の豹変(ひょうへん)した姿に、眠八號は信じられず身体を小刻みに震わせながら粕人を見つめる。

『知らないんですか、眠さん。男が女に服を送るというのは『送った服を引き剥いてその女を自分のものにしたい』という意味があるんですよ』

『そ、そんな……』

 これから何をしようとするのか想像し逃げようとする眠八號。しかし外に通じる扉は粕人の真後ろ。そして自身の後ろは音一つ漏らさない厚い壁。壁を破って逃げるという方法はなかった。

『さあ、始めましょうかね』

 そう言って粕人は自身が送った青い濃淡の朝顔で彩られた浴衣に手をかけ、力任せに引きちぎった。

 眠八號のきめ細やかな、白く透明感のある肌が露わになる。

『いや、助けて……マユリ様ァァァァァァッッッ!!!!』

『呼んでも無駄ですよ! グフフ、ギャハハハハハハッッッ!!!!』

 

 ~~~~~~~~~~~~~~

 

「ククク、クズの分際で!」

 愛娘を凌辱する部下を許すほど護廷十三隊でも一、二位を争うサディストである十二番隊隊長兼技術開発局局長の涅マユリは慈悲深くはなかった。例えそれが葛原(くずはら)粕人(かすと)本人にその意思がなく、ただ純粋に眠八號に喜んでもらおうと忙しい合間を()ってプレゼントしただけで凌辱することなど微塵(みじん)も考えていなくても。

「さてオシオキ(・・・・)の時間だヨ……」

 

 ====================================================

 

 技術開発局通路。

「ねぇ采絵さん。今日のお昼は何にします?」

「そうね。今日は血のように赤いことで有名な激辛軒(げきからけん)名物の『激辛 血の池地獄ラーメン~ミンチ肉を絡ませて~』なんてどう?」

「え~、こんな暑い日に激辛ですか♪」

「何言ってんのよ。暑い時に熱いものを食べる。これも一つの暑さ対策というものよ……ん?」

「どうしたんですか……ん?」

 楽しそうに昼ご飯を何にしようかと談笑していた采絵と久南ニコは耳を傾ける。

 

 だ……誰か助けて……爆弾が、爆弾が……うわああああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!! 

 ドゴォォォォンンンッッッ!!!! 

 ビチャッ!! ビチャッ!! ビチャッ!! 

 ──────

 

 普段人が足を運ばない資料室の方から涅マユリの怒りを買った哀れな葛原粕人(モルモット)が体内に埋め込まれた爆弾によって首だけを残して吹き飛び、部屋中に肉片と血を飛び散らし絶命した声が二人の耳に残った。

「……ねぇ。今日は甘々軒(あまあまけん)の『スペシャルグランドパフェ ~トロピカルフルーツ盛り合わせ~』にしない?」

「……そ、そうですね」

 そう言って二人は資料室から離れるようにもと来た道を引き返した。

 




ハロウィンネタじゃなく夏がとっくに終わった時に夏のネタを思いつく。

どんだけ旬をはずすんだ、私は?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

涅マユリは阿近に心霊写真を見せるようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。

今回は残酷な描写があります。苦手な方は読まないほうがいいかもしれません。


 深夜。他の局員たちが夜食のため食堂に行っている間、阿近(あこん)は上司である(くろつち)マユリと二人きりで異常がないか計器を見ていた。

「阿近」

「どうしました、局長?」

「暇ではないかネ?」

「……まぁ、そうですね」

(暇ということは異常がないというわけで俺にとっては好ましい状況ですけど)

 そう言うと上司の機嫌を損ねるかもしれないと思った阿近は当り障りのない返答で相槌を打つ。

「そうだろう、そうだろう……」

 グフフと奇妙な笑みを浮かべながらマユリは懐からマユリ自身が技術の粋を集めて作った特製のデジタルカメラを取り出す。

「せっかくの夜、そして眠気覚ましに恐怖の心霊を見せてやろう!」

「う……」

 涎を垂らしながら浮かべる恐ろしい笑みに阿近は言葉を詰まらせる。

「まずは『涙の亡霊』。これを見てもらおうかネ」

「な、涙の亡霊?」

 汗を垂らす阿近をマユリはデジカメでその写真を探しながらその時の状況を説明し始める。

「あの日、私が書類作成をしていると後ろからクズが『あ、隊長。そこ字が間違えていますよ』と口を出してきてだネ。あまりにもムカついてだね。クズを死神をも粉砕する大型粉砕機に放りこんだ時だ。その時私はなんとなく写真を撮ったんだ」

 お、これだ。とマユリは阿近に映像を見せる。横から見る阿近の表情が固まる。

「そう、写っていたのだヨ。部屋の隅、絶対に写るはずのない涙を流す顔のようなものが!」

「うっ!」

 マユリの言う通り写真の隅には涙を流す人の顔のようなものが写っていた。しかしそれ以上に阿近が気になったのは。足を粉砕され「うわあああぁぁぁっっっ!!!!」という声が写真から聞こえそうなほど苦しみ泣き叫ぶ部下、葛原(くずはら)粕人(かすと)の姿だった。

「この亡霊。一体何があって泣いてみるのだろうか……」

「……」

 阿近は言いたかった。泣いているのは葛原(こっち)だと。

「では次だ」

 そう言ってマユリは次に見せたい画像を探す。

「次に見せたいのは私がクズに眠気覚ましにおしぼりを頼んだ時のことだ。私が30秒後に60度のおしぼりを、大量の仕事を抱えたクズに頼んだ。そして、あのクズは私の言いつけを守らず31秒後に61度のおしぼりを私に手渡してきたのだ。あまりの仕事のできなさに私は腹を立ててな。クズをいざという時の証拠隠滅に使う溶解液をぶっかけた時だ。……そうこれだ!」

 提示した画像を見て阿近は再び固まる。そこには黒いフードをかぶり鎌を持った骸骨、その足元で今にも溶けていく葛原粕人の姿があった。

「恐ろしいと思わないか、この謎の骸骨!? まるで現世の奴らが思い描く死神のような!!」

(いや、確かに恐ろしいですけど。それより恐ろしいのは生きたまま溶かされる葛原とそんなことをする局長ですって!!)

「最後に見せたいのはこれだ」

「う……!!」

 画像を見せられ、阿近は固まる。

「これはあまりにも暇だったからクズを猛火の上に多量の油を塗った銅製の丸太を渡し、その熱された丸太のうえを裸足で渡らせた時のものだ。どうだ、わかるか?」

 マユリは画像を指さす。そこに写っていたのは恐怖で顔を歪める人の顔のように見える炎、そして。

 

『熱い、熱い! 誰か助けて……うぎゃああああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!』

 

 写真からそのような悲痛な叫びが聞こえそうなほど、猛火に耐え切れず燃え盛る炎の海に落ちていく粕人の姿があった。

 




世間はもう冬なのにこの小説は未だに夏……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

涅マユリは粕人の斬魄刀・幽世閉門を改造するようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

綱彌代(つなやしろ)時灘(ときなだ)という成田良悟先生著の小説 BLEACH Can't Fear Your Own World』のキャラが説明だけですが登場します。
「誰?」と思われる方はあとがきを先に読んでから読んだほうがいいかもしれません(ネタバレ注意)。


 尸魂界(ソウル・ソサエティ)の命運をかけた護廷十三隊対見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)の戦いは多数の犠牲を払いながらも死神側が勝利。その半年後に起きた綱彌代(つなやしろ)時灘(ときなだ)の騒動が終わった数日後。十二番隊隊長兼技術開発局局長、(くろつち)マユリは部下(モルモット)である葛原(くずはら)粕人(かすと)斬魄刀(ざんぱくとう)幽世(かくりよ)閉門(へいもん)を手に取り観察していた。

「う~む、どうしたものかネ」

 マユリには一つ困りごとがあった。それは補充などの心配をすることなく実験に使える被験体(モルモット)、葛原粕人がいないことだった。

 葛原粕人は星十字騎士団(シュテルンリッター)が優先的に倒すべき敵、通称『特記戦力』に数えられた更木(ざらき)剣八(けんぱち)に群がる敵戦力の情報収集及び更木剣八にトドメを刺そうとしたバンビーズの妨害のために単騎で交戦。善戦するが力及ばず、刀が破壊されるなどしなければ何度でも生き返る幽世閉門を破壊された後に戦死した。

 マユリが事前に本物とすり替えたために生き返ることは確定しているのだが、幽世閉門には死んだ時の持ち主と距離が離れていればその分だけ生き返るのに時間がかかるというデメリットも存在した。

 特記戦力にも数えられた元上司にして初代技術開発局局長、浦原(うらはら)喜助(きすけ)を除いて他の追従を許さない卓越した頭脳と技術開発力を持つマユリであってもすぐに粕人を復活させることは不可能だった。

 マユリは考える。

「今すぐにでも行いたい実験を行うことが出来ない。あのクズがいないだけでこんなにも苛立つことになるとは思わなかったヨ。二度とこんなことにならないように考えておかないといけないネ」

 幽世閉門を見ながら、マユリはニヤリと笑った。

 

「さあ、私にとって都合がいいように幽世閉門(コイツ)改造(なお)しておこうじゃないかネ!!」

 

 こうしてマユリによる幽世閉門の改造が始まった。

 まずマユリが着手したのは幽世閉門の強度だった。粕人は元々戦闘をするタイプではなく戦闘を行う場合でもマユリが開発した秘密道具を使用し愛刀の幽世閉門を使うことはほとんどなかった。例外として前四番隊隊長で粕人が大恩人と尊敬する元上司、卯ノ花(うのはな)(れつ)直伝の居合いのみ。

 大戦時。Zの聖文字を持つ星十字騎士団の一人、ジゼル・ジュエルの背後を取った時に粕人は首を落とすべく居合いで幽世閉門を使用した。しかし圧倒的な実力差によって簡単に受け止められた挙句、最後はPの聖文字を持つ星十字騎士団の一人、ミニーニャ・マカロンによって普通の斬魄刀程度の強度しか持たない幽世閉門はいとも容易く破壊された。

「最低でもあの小娘が破壊出来ない位には強度を高めておかないといけないネ」

 こうしてマユリの強度強化改造により幽世閉門はミニーニャの怪力を持ってしても折れない数ある斬魄刀の中で一、二位を争う最硬の斬魄刀へと変貌を遂げた。

「さて、次は復活する時間を私の好きな時間に設定できるようにしようかネ」

 幽世閉門は粕人が(じか)に持っている状態であっても復活するまでに一日前後時間を要していた。粕人が死亡している間に今すぐに行いたい人体実験が山のように出来たマユリにとってそれは許しがたいことだった。

 こうしてマユリは最硬の斬魄刀になった幽世閉門に新たな改造手術を(ほどこ)した。

 結果、幽世閉門の復活する時間が一日から数分に短縮した上に距離が離れるほど復活に時間がかかるデメリットを克服。さらにマユリの意思によって復活する場所を指定できるようになった。

 

 

 

 こうして自分が死亡している間、愛刀の幽世閉門を魔改造されたとは知らない粕人は今まで以上にマユリの人体実験用モルモット兼雑用処理係としてこき使われるのであった。

 




綱彌代(つなやしろ)時灘(ときなだ)
元護廷十三隊で綱彌代家末席。綱彌代家の当主とその周辺人物が次々と暗殺され、その暗殺者を全て返り討ちにした功績によって末席から一気に当主の座へと上りつめた(真相は自作自演)。

一言で言い表すならば悪意の塊と言える人物。
東仙要の親友の歌匡の夫で、彼女を殺害した張本人であり、東仙に自分のことを伏せた状態で「彼女を殺した犯人を恨んではいけない」と諭した後に「実は殺したのは自分でした。君が恨んでくれなくて助かったよ」と煽った。その後京楽や七緒、砕蜂、白哉など色んな人物を煽る。

九天鏡谷(くてんきょうこく)という京楽の花天狂骨(かてんきょうこつ)と響きが似ている、綱彌代家に代々伝わる斬魄刀を持つ。能力は見えない鏡のような結界を展開し、鬼道を含む相手の技・術を跳ね返すもの。(本当の名前は艶羅鏡典(えんらきょうてん)。九天鏡谷という偽りの名前は『九天鏡谷なんて、偶然お前の刀と似た響きになったとでも思っていたのか?』と京楽を煽るためと彼への戒め。能力は全ての斬魄刀の能力を模倣し出現させるというもの。デメリットとして使用するたびに魂魄=寿命が削られる)。

最期は当主らの殺害の際に利用した暗殺者の一族の少女が仇を取るために自分を刺したことに驚きを表した後、京楽、東仙、檜佐木、自分を気にかけていた浮竹などを煽った後殺害した妻の歌匡に対して

「どうだ…….歌匡……私は……星を……」

と息絶える。

もし彼が幽世閉門のことを知っていたら物凄く嫌な敵がさらに嫌な敵になっていたことは想像に難くない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

親友を失った男の誓い

 葛原(くずはら)粕人(かすと)

 生前は葛原村という地方の小さな村で農耕に従事。江戸時代末期に死亡。その後西流魂街(ルコンがい)第二十八地区新井(あらい)にたどり着く。

 

 

 数十年前。死神・隠密機動・鬼道衆と戦いに特化した者を養成する教育機関、真央(しんおう)霊術院(れいじゅついん)に入学。後に唯一無二の親友となる仏宇野(ふつうの)段士(だんし)を始めとする者たちと共に六年間勉学に励んだ後に四番隊に配属。四番隊第八席、荻堂(おぎどう)春信(はるのぶ)の班に所属し不器用ながらも精一杯仕事に従事する。

 その仕事ぶりから当時四番隊隊長だった卯ノ花(うのはな)(れつ)の目に留まり彼女から居合いを教わる。

 

 

 藍染(あいぜん)惣右介(そうすけ)らが起こした反乱事件から一ヶ月後。大恩人と尊敬する卯ノ花の勧めにより(くろつち)マユリが隊長を務める十二番隊に異動。マユリの過労死必然の仕事の量・難易度に加え、殺され復活する度に死亡前よりも少し強い状態で復活する斬魄刀・幽世(かくりよ)閉門(へいもん)の力によって知らず知らずのうちに力を蓄えていく。

 

 

 尊敬する卯ノ花裂が更木剣八に剣術を教え死亡したと聞いた後、彼女の仇を討つため行動を起こすが更木の口から語られた卯ノ花の最期を知り刀を納める。

 その後更木剣八に群がる敵の情報を集める監視役を直訴。マユリから許可を得るとVの聖文字を持つグレミィ・トゥミューとの交戦を安全な距離から観察し更木剣八の勝利を見届ける。その後強襲したバンビーズから負傷した剣八を救う時間稼ぎとしてバンビーズを挑発。涅マユリが開発した秘密道具を使わずバンビーズを翻弄するが力及ばず愛刀・幽世閉門を破壊され、Tの聖文字を持つキャンディス・キャットニップの電滅刑(エレクトロキューション)の直撃を受けて虫の息になった所をGの聖文字を持つリルトット・ランパードに喰われ、戦死。

 

 

 ====================================================

 

 更木剣八とグレミィ・トゥミューが戦った場所付近。

「はあっ……相変わらずヒドいもんだ」

 死神と滅却師(クインシー)の命運をかけた戦いが終わった数日後。四番隊に所属している粕人の親友、仏宇野段士はため息をついた。

葛原(あいつ)も今頃西に東にと駆けまわっているんだろうな……」

 脳内に浮かぶ仕事で目を回らせる親友の姿を想像した後に、仏宇野は目の前の光景に視線を移す。

 見えざる帝国の強襲により多くの建物は損壊、多数の隊員が犠牲となった。負傷者の治療、行方不明者の捜索、遺体回収などやることは山のようにあったため粕人と連絡が取れずにいた。

(俺がこんな状態じゃあ、馬車馬のように働かされているあいつは過労死しているのかもしれないな。まぁ、幽世閉門がある限り死ぬことはないんだけどな)

 親友が寝る時間はおろか食事の時間も与えられずに仕事をやり続けた結果、吐血し死亡する姿に苦笑を浮かべた仏宇野が「さてと……」と仕事を再開しようとした時だった。

「え?」

 仏宇野は何かを見つけ、動揺する。彼の視線の先にあるのは折れた斬魄刀だった。

 多くの隊員が死亡した今、彼らが所有していた斬魄刀も至る所で発見された。その中には形の良い状態もあれば原型を留めていないものもあった。故に普通なら折れた斬魄刀を目にしても動揺することはなかった。

 動揺したのには理由があった。視線の先にある折れた斬魄刀が先ほどまで想像していた親友、葛原粕人が所有する斬魄刀・幽世閉門と酷似していたからだ。

「嘘だろ? え、嘘だろ!?」

 仏宇野は慌てて折れた斬魄刀に駆け寄り拾い上げる。見つけてしまった折れた斬魄刀が親友である粕人の斬魄刀であることを否定するために。

「嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ!」

 震える身体で仏宇野は色々な角度から折れた斬魄刀を観察する。

 

 この折れた斬魄刀は親友である葛原粕人の斬魄刀ではない。

 

 その淡い希望は穴が開くほどの観察によって打ち砕かれた。

「……何で、何で……何で何で何で!!」

 仏宇野は折れた斬魄刀を強く握りしめて叫んだ。

 

「……何でここに葛原(あいつ)斬魄刀(かたな)があるんだよ!!!!」

 

 答えは一つだった。ここで粕人は戦死した。そしてそれは斬魄刀が無事な限り何度でも復活する幽世閉門が破壊されて、粕人が二度と生き返ってこないことを意味していた。

 

「違う……違う違う違う!! う、嘘だ!! こんなの……こんなの…………うわああああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」

 

 親友の死を受け入れることが出来ず、周囲に仲間がいることも忘れて仏宇野はその場に崩れ落ちた。

 この様子を見た妻、一葉(いちよう)音芽(おとめ)が「あの状態では仕事になりません」と進言したことにより仏宇野は自室に戻るように命じられた。

 自室に戻った仏宇野に待っていたのは、強烈な自己嫌悪と後悔だった。

「俺が、俺が……もっと強ければ!!」

 涙と鼻水まみれの顔で折れた斬魄刀を握りしめる。

 当時四番隊は山本(やまもと)元柳斎(げんりゅうさい)重國(しげくに)から『四番隊舎を出るな 何があっても』という厳命が下されていた。例え仏宇野がどんな力を持っていたにせよ、彼が四番隊に所属している以上、綜合救護詰所を離れて戦うという選択肢はなかった。

 それでも仏宇野は自己嫌悪と後悔に苦しんだ。救護を主任務とする自分に、親友を救うために戦う選択肢がなかったとしても。

 一通り泣き、顔にへばりついた涙と鼻水を拭った後。仏宇野は折れた斬魄刀を目の前に掲げた。

 

「葛原。俺、誓うよ。……俺は、俺はもっと強くなる!! 音芽や両親、大切な仲間……失いたくないものを守るために!!」

 

 普段のスケベで仕事をサボるお荷物を演じていた仏宇野段士の顔を捨て、どんな困難な任務も遂行する(よど)みのない真剣な顔つきで、仏宇野は亡き親友の斬魄刀に誓った。

 

 そして葛原粕人が復活する一年後。どんなに才能があるものでも十年以上の歳月が必要とされる卍解を会得するのであった。

 




今回のシリアス回。前話を見るとギャグ回にしか見えない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

葛原粕人の復活

 死を(つかさど)る神と称する死神で組織された護廷十三隊と悪しき魂を滅却してきた者達の見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)との全面戦争、後に『霊王(れいおう)護神(ごしん)大戦(たいせん)』と呼ばれる争乱は死神側の勝利で終わった。

 だが見えざる帝国の首魁(しゅかい)、ユーハバッハを始めとする重要人物を失った滅却師(クインシー)と同様に、死神側にも多数の犠牲者が出た。護廷十三隊創始者で護廷十三隊の頂点に君臨する歴戦の老将、山本(やまもと)元柳斎(げんりゅうさい)重國(しげくに)や隊長になれる実力を持ちながら元柳斎への忠義心から一副官として生涯を終えた雀部(ささきべ)長次郎(ちょうじろう)など多くの重鎮、隊士達が命を失った。そしてそれは多くの悲しみを生み出した。

 

 十二番隊平隊士兼技術開発局平局員の葛原(くずはら)粕人(かすと)の戦死も例外ではなかった。

 

「「「「何で、何で死んじゃったのよ!!!!」」」」

(自称)粕人の妻である竹馬棒らは嘆き悲しみ、

 

「葛原。俺はもっと強くなる!!」

 真央霊術院からの親友、仏宇野(ふつうの)段士(だんし)は悲しみを決意に変え、

 

「葛原のバカ野郎! お前が死んだら誰に仕事をおしつければいいんだ!!」

「局長のストレス発散が俺らに向くじゃねえか!! マジでふざけんな!!」

「掃除や書類作成とかやりたくない仕事を誰がやると思っているんだ!!」

 

 技術開発局の上司や仲間は怒りに(たけ)った。

 

 そして一年後。

 仏宇野家 庭

「せい! せい! せい!」

 息を吐くように女性陣にセクハラをすることから要注意人物と認識されている四番隊平隊士、仏宇野は死覇装をはだけさせ、上半身裸で素振りをしていた。

 頭上から勢いよく地面すれすれまで振り下ろされている素振りの音は全く音がしていなかった。だからと言って手を抜いているわけではない。

「もし今段士(あの人)の前に鉄の兜でも置いたら。まるで包丁でキュウリを切るようにスパッと斬っちゃうわね」

 どこかに行く途中に庭が見える廊下から見た妻、仏宇野(ふつうの)音芽(おとめ)がそう呟いてしまうほど無駄な力がない、手本にするべき刀の振りだった。

「ふう~」

 仏宇野は汗を拭った。

 

 葛原。俺、誓うよ。……俺は、俺はもっと強くなる!! 音芽や両親、大切な仲間……失いたくないものを守るために

 

 親友の折れた斬魄刀に誓ってあの日から。周囲に紛れて危険分子を探す裏見(りけん)(たい)の職責を全うするためにお荷物な平隊士を演じながら、仏宇野は自身に鍛錬を課していた。

「精が出るわね、段士」

 仏宇野が振り返る。そこには表上は隠密機動とは関わりのない二番隊食堂で働いている『仏宇野の妹』と言われても信じてしまうほど可愛らしい容姿の実母、仏宇野(ふつうの)八葉(やつは)が立っていた。

「なんだ、母さん?」

 ニコニコと笑う母に仏宇野は尋ねる。そんな仏宇野に八葉は「『母さん』か。裏見隊に入ることが決まる直前ぶりね」と誰にも聞こえない小声で懐かしそうに呟いてから実の息子の顔をしっかりと見る。

「お客さんが来ているわよ」

「客?」

 その客を見て、仏宇野は思考を停止させる。そこには

「久しぶり、仏宇野」

 一年前の戦いで命を落とした親友、葛原粕人が微笑みを浮かべた。

「…………」

「……えっと。仏宇野?」

 思考停止し何も言わない親友に粕人が恐る恐る尋ねる。そして

 

「何でおめぇは生きているんじゃあっ!!!!」

 

 勢いよく振り下ろされた斬魄刀に粕人は真剣白刃取りで防ぐ。

「いきなりどうした、仏宇野!!」

 (くろつち)マユリに『更木剣八とグレミィ・トゥミューの戦いの余波に巻き込まれて昏睡状態に陥った』という嘘の情報を吹き込まれた粕人は、自身の死への悲しみを決意に変えた親友の覚悟など知る由もない。故になぜ親友がここまで怒っているのか理解できなかった。

「まぁ、葛原君。ここは素直にうちのバカ息子のために一回斬られてくれない?」

「嫌ですよ!!」

 八葉のお願いを真剣白刃取りの状態で粕人は全力で断った。

 

 その頃、粕人の復活を知った技術開発局ではマユリの機嫌が悪い時に捧げる生贄が帰ってきたことを喜び、(自称)粕人の妻の竹馬棒達は復活することを隠していたマユリに怒りをぶつけるためにマユリの部屋を襲撃し

 

「「「「ま、まさか私たちの出番……これだけ?」」」」

 

 マユリが自室に仕掛けた対襲撃者用のトラップにひっかかり地面に転がされていた。

 




自称粕人の嫁ズの扱いがひどすぎる。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第三十四話 粕人は忘年会を手配するようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


 12月30日 高級料亭 六角亭(ろっかくてい)

「ぷはぁ~!」

 十二番隊第二十席兼技術開発局雑用総責任者兼眠八號護衛役総責任者、葛原(くずはら)粕人(かすと)熱燗(あつかん)を一気に飲み干すと酒臭い息を吐いた。

「よ! いい飲みっぷり!」

 技術開発局№2であり技術開発局の中で(くろつち)マユリと付き合いの長い阿近(あこん)が手を叩く。

「葛原、こっちの卵焼きもどうだ?」

「ヒック、いただきます!」

 顔を真っ赤にさせながら粕人はギョロッとした目をしたフグのような男、鵯州(ひよす)が差し出した皿から卵焼きを箸で挟むと「よっ!」と空中に放り投げてパクッと口に入れる。

「お見事!」

「ムシャムシャ、美味しいです!」

「葛原、デザートをどうぞ」

「はい、いただきます!」

 粕人は研究素材捕獲科科長の采絵(とるえ)が微笑を浮かべながら手渡したシャーベットを口に運んでいく。

「ふぅ~」

 満足した粕人は膨らんだ腹を撫でる。

「ヒック。いやぁ~、全く至れり尽くせりですねぇ。でも突然どうしたんですか?」

「いや、実は俺達、葛原にお願いがあるんだよ……」

 申し訳なさそうにいう阿近の様子を気にすることなく粕人は陽気に答える。

「ヒック。お願いって何ですか? ここまでしてもらったらどんなお願いだって『ドンっとこい!』ですよ!!」

 

 ドンっとこい! 

 

 その言葉に阿近は口を開く。

「実はな。明日12月31日に100人規模の忘年会が予定されているんだ」

「へぇ~、そうなんですか。それは楽しみですね」

「でも場所が決まってないんだ……」

「……へ?」

 粕人は固まる。

「場所が決まってない? それは予約が取れなかったとかいう理由ですか?」

「いや、予約を取れなかった以前に予約すらしてない……」

「……」

 粕人の頬がピクピクと痙攣(けいれん)する。

「予約すらしてない? どういうことですか?」

「いや、実はだな……」

 阿近は顔を視線をそらしながら説明する。

「一ヶ月前に局長から俺達に忘年会をするように指示だされていたんだ。でもその時俺達は忙しくてな。『誰かがやってくれるだろう』って思ってそのまま忘れていたんだ。そしてふと昨日思い出してな……」

 この時ほろ酔い気分の粕人の身体からサァーと酔いが抜けていった。

「まさか……今から僕に忘年会の手配をしろ、と? いや! この時期に予約なんて取れるわけがないじゃないですか!! こういうのはもっと前に言っておくべきでしょう!! っていうか店に予約するなんて簡単なことすらしてないってどういうことですか!? 無理むりカタツムリですよ!!」

粕人は首をブンブンと横に振る。

「おい、まさかだと思うが引き受けないとか言わないよな? さっき『どんなお願いだって『ドンっとこい!』ですよ!!』と豪語したのはどこにいったんだ……」

「……楽しみにしているだろう局長が予約出来ていないと知ったら間違いなくクビにされるでしょうね。あぁ……たった一人の薄情な男のせいで私達三人とその家族が路頭に迷うことになるなんて!!」

「……」

 鵯州と采絵の言葉に粕人は思考を停止させる。

「あぁ……」

 阿近は額に手を当てる。

「いくら付き合いの長い腹心の俺でも『店に予約する』という簡単なことすらしていなかった俺を局長は「この役立たずが!!」と言って切り捨てることだろう。……次に副局長になる者に引き継ぎや教育をせずに……。そうなると次の俺の後釜は局長へのストレスと重責で身体を壊して次の奴も……あぁ、葛原が引き受けてくれればこの負の連鎖を断ち切ることが出来るのに!!」チラッ

「……」

「職を失ってどうやって生活していけばいい……。愛情込めて育ててくれた年老いた両親の首を俺が絞めなくてはならないとは……。あぁ、葛原が引き受けてくれれば両親を殺すという最悪の状況を回避できるのに!!」チラッ

「……」

「与えられた仕事を忘れて部下に尻ぬぐいさせようとする無能女なんてどこも雇ってくれないわよね。そして行き着く先は風俗……。当たり前のように結婚して当たり前のように子どもを産んで当たり前のように笑いあう家庭を築くなんていう平凡な夢も終わり。さようなら清純、こんにちは性病。あぁ、葛原が引き受けてくれれば風俗嬢にならなくてもいいんだけど」チラッ

「……わかりました。やります」

 乾いた声で粕人は了承した。

「おおっ、さすがは葛原だ!!」

「悪いな葛原。うまくいったらいい酒をおごってやる!」

「いやぁ~良かったわぁ~。これで安心していつも通り仕事に取り組めるわ。ありがとうね、葛原!」

 肩の荷が下りた三人はニコニコと席を立った。

「……急げ!!」

 三人に対する怒りを抑え込み、粕人は走り出した。

 

 

 

 その日。酒が完全に抜けた粕人は今まで貯めた300万円相当のお金を日本円に両替して現世に(おもむ)くと、以前地下帝国へと連れて行かれた時に協力者した仲間と共に裏カジノの社長をギャンブルで罠に()め、さらに一儲けすることを画策。

 裏カジノの社長が考案した変則麻雀「17歩」で勝負するが協力者二人の裏切りにより思いかけず孤立無援の死闘を余儀なくされる。しかし偶然居合わせた金融会社の息子のジャッジもあり4億8千万円の大金を得る。そして勝負の立会人となっていた金融会社の息子に勝負を申し込まれ承諾。

 

 その際何だかんだあって7000万円という大金を失ってしまうが出稼ぎで日本に来ていた中国人のC、フィリピン人のMという男が協力を申し出る。葛藤はあったものの粕人は二人の申し出を快諾。ワン・ポーカーというギャンブルで金融会社の息子と勝負をつけることになる。

 

 互いに1枚のカードを使って勝負するゲームで序盤有利に進める粕人だったが、資金力と心理的駆け引きによって敗北。椅子ごと逆さまに吊るされた状態でベルトが解除・収納され頭から十数メートル下に落下、確実に即死となる状況に追い込まれてしまう。しかしCとMが自分達の命を担保にすることでゲームは続行。そこから怒涛(どごう)の巻き返しにより大逆転。その結果24億円という大金を得る。なお負けた金融会社の息子は逆に自分が椅子ごと吊るされる状況に追い込まれたが、24億円のアタッシュケースを覆っていたブルーシートで即席のトランポリンを作るという粕人の機転によって事なきを得た。

 

 その後。粕人は二人に命を担保にした見返りとして6億円ずつ手渡すと、涅マユリが作った秘密道具で母国に送り届け、すぐに尸魂界(ソウル・ソサエティ)に帰還。残った12億円(-手数料)を元手にすぐに行動を開始。

 翌日の12月31日。予約を取っていた団体に多額のお金を手渡し無理やりキャンセルさせると残ったお金で忘年会に参加する100人分の店を確保することに成功した。

 

 ちなみに24億円を奪い取るべく金融会社の息子の会社は日本全国に包囲網を張ったが、すでに母国に帰った外国人二人はもちろん尸魂界に帰った粕人を捕まえることが出来ず、時間とお金と労力を無駄にすることになったことは言うまでもない。

 




作者の一言。
「粕人、お前はなに福本伸行先生の『賭博黙示録カイジ』の賭博堕天録カイジ、和也編、ワン・ポーカー編、24億脱出編みたいなことをしているんだ?」

今の状況で大勢が集まる小説を書くのはどうかと思ったのですが、それより小説を読んで笑顔になる方が有益ではないかと思い投稿しました。
皆さん567に負けずに頑張りましょう!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第三十五話 粕人は忘年会用の希少食材を調達するようです

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


 12月31日 技術開発局

「ふう、葛原はよくやってくれた」

 部下である葛原(くずはら)粕人(かすと)が100人規模の忘年会を行うことができる店を確保したという報告に阿近(あこん)安堵(あんど)した。

 阿近は今夜行われる忘年会のメニューを見る。そこには普段食べられない豪華な料理がズラリと書かれていた。

「よし、これなら隊員はもちろん局長も満足することだろう」

「やあ、阿近」

「あ、これは局長。おはようございます」

 上司である(くろつち)マユリに声をかけられた阿近は振り返り挨拶を返す。

「ところで阿近。今日の忘年会は大丈夫かネ?」

「えぇ、葛は……いえ、俺達が数年前から予約をしないといけないといけない有名店、風雪(ふうせつ)(えん)を何とか予約することができました」

(葛原……お前が店を確保したのに自分達の手柄にしてしまう俺達を許してくれ……)

 正直にマユリがクズと(ののし)る粕人が店を確保したと知れば激怒することを察した阿近は、一抹の罪悪感を感じつつマユリに今日の店と予約ができたことを報告した。

「そうかそうか、風雪宴か。それはいい店を予約したものだヨ!」

 阿近の報告にマユリはウンウンと首を縦に振る。

「風雪宴は料理の腕はさることながら出す食材も素晴らしいからネ。ブランド和牛のサーロインにも匹敵する脂のノリと旨みがある牙羅々(がらら)(わに)を始めとする、私でもそう味わえない食材をこれでもかというぐらい提供するからネ。うん、楽しみだ!」

 そう言ってマユリは以前風雪宴を訪れた時に食べた料理を説明し終えると阿近の前から嬉しそうに立ち去った。

 対する阿近は

 

「……が、牙羅々鰐だと……ッ!?」

 

 固まったいた。

 牙羅々鰐。

 尸魂界(ソウル・ソサエティ)に生息する危険生物の一種である。

 危険生物にはその危険度合いを示す指標として尸魂界(ソウル・ソサエティ)危険(きけん)指数(しすう)というものが用いられている。ちなみに尸魂界危険指数1は経験豊富な手練れの死神が10人必要な程度とされている。

 牙羅々鰐の尸魂界危険指数は5。直径76mmの鉄筋を割箸のようにへし折る筋力を持ち、手練れの死神が50人いてやっと仕留めることが出来るか否かという危険生物だった。

 その他にもマユリはその牙羅々鰐を超える四本腕を持つ尸魂界危険指数9のゴリラ、斗呂流(とろる)恨愚(こんぐ)が集団で暮らす地域に生える、25メートルプールの水に果汁をたった1滴たらすだけでプールの水全てが芳醇なジュースに変わるほどの高い果汁濃度を持つ果実の七色(しちしょく)()

 あらゆる部位の良いところを凝縮した肉・財宝(ざいほう)(しし)を持つ二つの鼻を持つ象の仲間で、体長が約1500m、体高が1000m、体重が5000万tある超巨大マンモス・理狩(りがる)万毛須(まんもす)

 マユリが食べた料理はかつて一握りの上級貴族しか口にできなかった幻のコーン・美々(びび)玉蜀黍(とうもろこし)

 あらゆる食材のエキスが混ざり合い、一口でも飲めばあまりの美味さに顔が緩んでしまうスープ、世紀(せいき)(しる)

 その他にも獲得が困難な食材ばかりで、隊長級でない限り捕獲はおろか倒すことすら出来ない危険生物や危険な場所に足を踏み込まなければ得られない食材ばかりだった。

 当然というべきか。今夜の忘年会で出される料理には一番獲得が容易と思われる牙羅々鰐すらなかった。

 手練れの死神が束になっても勝てない凶悪な食材を狩り、かつそれらを的確に調理できる人材は尸魂界には一人もいなかった。

 

 ただ一人を除いて。

 

 ====================================================

 

 数分後。

「阿近さん。それはふざけていますか? ふざけていますよね? ふざけてなければそんなこと言えるはずないですよね?」

 凶悪な食材を狩る強さとどんな食材をも調理する腕を持つ料理人。その二つを兼ね備えた男 、葛原粕人は真っ赤に充血した目を大きく見開きながら頭を下げる阿近に嫌みを言っていた。

 昨日。阿近達に先月に上司である涅マユリに頼まれた忘年会の予約を押しつけられ粕人は現世で十年以上にも匹敵する、命を懸けたギャンブルの末に大金を得てその金でマユリが満足する店の予約を取り付けた。

 そのまま休む間もなく通常業務をしている。

 尻ぬぐいをさせられた上にそれ以上の無茶苦茶なことを頼まれる。嫌味一つ言わずに引き受ける者は普通に考えて皆無だった。

(そりゃあそうだよな……昨日取れるはずのない忘年会で使う店の予約を押しつけられ、涅マユリ(上司)の望む数々の貴重な食材を忘年会が始まる数時間で確保してこいと言われれば誰だってキレるよな)

「……すまない、本当にすまないと思っている」

 阿近は頭を下げる。

「でも今日の忘年会、局長は期待しているんだ!」

「え?」

 その一言に粕人が驚きのあまり固まった。

「え?」

 そんな部下の反応に阿近が固まる。

「隊長が……涅隊長が期待していると? ……この僕に?」

 大恩人と慕う四番隊前隊長・卯ノ花(うのはな)(れつ)と同じほど、粕人はマユリを尊敬していた。たとえ「クズ」と(さげず)むまれ、奴隷未満の扱いをされようとも。

 

 その上司が自分に期待している。

 

 粕人は喜びで身体を震わせた。

「あ、いや……。葛原……」

 誤解を解こうとした阿近だったが、強権を振るうマユリの下で働いてきた阿近の頭脳がそれを止める。

(待て。もしここで「お前に期待している」のではなく「忘年会に期待している」と言い直したらどうなる? 葛原(こいつ)はこの難題をキッパリと断るだろう。そして誤解する発言をしたとして俺を殺しにかかりかねない!!)

 誤解を解く。それはマユリの機嫌を大きく損ね、目の前の部下に殺される可能性が高いことを意味した。

(それに今の葛原なら局長の期待に応えようと120%の力を発揮してこの難題を成し遂げる!!)

 阿近は腹を決めた。

「あぁ。『クズならば出来るはずだヨ』と局長は仰っていた。だから葛原、この通り……頼む!!」

 阿近は全力で目の前の部下に頭を下げた。

「わかりました。阿近さん、任せて下さい!! この葛原粕人、命を懸けてでも隊長の期待に応えてみせます!!」

 粕人は直立不動で敬礼をし、自分がやるはずだった仕事を他の局員にしてもらえるように阿近に頼むとすぐに技術開発局を出発した。

 涅マユリが開発した空間(くうかん)移動(いどう)(とびら)を始めとする秘密道具を使い、粕人は次々と食材を確保。途中虞瑠眼(ぐるめ)(かい)と名乗る世界中の食材を牛耳ろうと企む闇組織と交戦。隊長級に相当する虞瑠眼界の強者との死闘の末、何とか彼らを退け食材を手に入れた粕人は風雪宴に直行。料理人の頂点が集う風雪宴の料理人達が言葉を失うほどの無駄のない早業で忘年会の料理を作り終えた。

 

「お、終わった……──」

 

 最後の料理を作り終えると、42.195㎞を全力疾走したのに匹敵するほど疲労した粕人はそう言い残し、息絶えた。

 数分後。生き返った粕人は自身が作った料理に満足するのだった。

 

 

 

 阿近に頼まれたことも、マユリが自分を期待しているという阿近の嘘も忘れて。




なんだろう。この島袋光年先生の『トリコ』に登場していそうな食材&危険生物は……。
そしてそんな食材を最強・最恐・最狂の猛者が集う美食會のような連中と争った末に退け、本職以上の料理の腕を披露する。それも数時間で。
秘密道具を駆使したとはいえ、人間じゃねぇ……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第三十六話 粕人は忘年会で舞を披露をするようです~ 眠八號の母?(くろつち)夢夜(ゆめよ)登場~

この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です


 12月31日 風雪宴(ふうせつえん)大広間

「ぷはぁ! 美味い!」

 技術開発局の面々が食事や会話を楽しむ中、葛原(くずはら)粕人(かすと)はコップに入った酒を一気に飲み干した。

「クジラフグのヒレ酒。今まで色々なお酒を飲んだけど……これほどのものは今まで飲んだことがないです!!」

 あまりの美味さに粕人は涙を流す。

 クジラフグ。尸魂界(ソウル・ソサエティ)に生息する希少生物の中でもさらに希少で幻と呼ばれる生物である。本来はクジラ並みの大きさだが深海での水圧によってフグの大きさにまで縮小。それにより美味さも凝縮されているという幻の珍味。

 しかし美味さと同時に体内に蓄積された毒袋も凝縮され、ほんの少しの刺激で毒袋が裂けて食べられなくなる。そのため存在を確認されるだけでなく、捕獲&無毒化も難しいためどんなに金を持った食通がいくら金を出しても食べることの出来ない、幻の中の幻といえる食材となっていた。

「まさかクジラフグのヒレ酒を死ぬまでに飲めるなんて……夢のようです!! もう明日死んでもいいぐらいに!!」

 

 いや……もうお前、何度も死んでるけど。

 

 感激する粕人に周囲にいた者達が心の中でツッコミを入れる。

壺府(つぼくら)リン。手品やります!」

「おっ」

 粕人は壇上に目を移す。そこでは局員達による余興が始まっていた。

 次々と余興を披露する局員に見ている局員は声を出して笑い、また楽しげにヤジを飛ばしていく。

 余興が行われる度に演目台の紙がめくられていき、もうそろそろお開きになる。その時だった。

「え?」

 めくられた次の演目を見て粕人は言葉を失った。そこには『大取(おおとり)。葛原粕人の女装(皆様を魅了する舞を舞わせて頂きます。こうご期待!!)』と書かれてあったからだ。

 

 く、葛原が女装? 

 いや。確かに中性的な容姿はしているけど……

 余興とはいえわざわざハードルを上げてくるなんて。葛原も大胆なことをするなぁ……

 

 壇上の余興そっちのけで局員達はざわつく。

(……ど、どういうことだ!?)

 頬を引きつらせ混乱する粕人の耳元でいつの間にか背後に立った上司、(くろつち)マユリがボソッと呟いた。

(くろつち)夢夜(ゆめよ)

 

 コトンッ

 

 その言葉を聞いた瞬間。酒で赤くなった顔は一気に青ざめ、粕人は持っていたコップを落とした。

(……さ、3ヶ月前のことバレてる!!)

 粕人は3ヶ月前に起こったこと思い出した。

 

 ====================================================

 

 3か月前 とある通学路

「眠ちゃんって片親なのでしょう?」

「ち、違いますよ!」

 尸魂界で上流階級にも人気のある老舗のお菓子屋の娘、(おか)椎菜(しいな)の言葉を(ネムリ)八號(はちごう)は顔を真っ赤にして否定する。

「へぇ、片親じゃないんだぁ~」

 黒髪ショートボブヘアの少女はニヤリと笑った。

「じゃあ証拠見せてよ。今から眠さんの家に行きましょう」

「い、いいですよ! じゃあ、私はお母さんに『お友達が来るから』って伝えてくるから!!」

 そう言って眠八號は瞬歩で家路を駆け抜けた。

「ふふっ」

 すぐに点になった同級生の後姿を椎菜はニヤニヤと見つめた。

(眠ちゃん。私、色々調べたんだから。眠ちゃんに母親なんていないこと。その代わりに葛原粕人という男が涅家のお弁当を作るなど専業主婦みたいなことをしていることも)

「さて。どうするのかしら、眠ちゃん?」

 

 ====================================================

 

「クズさんどうしましょう!?」

「……なんでそんな嘘つくんですか」

 家に帰るや否や、涙目に事の詳細を伝える眠八號に家事をしていた粕人は困惑した顔で答える。

「もうこうなったらさっきのは嘘だったと正直、に……」

 その時粕人の脳裏に眠八號の父親、涅マユリの姿が浮かんだ。眠八號に協力しなかったと怒りを露わにする姿を。そして死すら生ぬるい拷問(オシオキ)を狂気の笑みを浮かべながら自分に行う姿を。

(……やるしかない)

 粕人は某国民アニメの狸に似た猫型ロボットが持っていそうなポケット、四次元(よじげん)(ぶくろ)から丸薬とドラ〇もんの糸なし〇電話に似た無線電話を取り出した。

 

 ====================================================

 

「眠ちゃん、来たよ」

「待ってました!」

「いらっしゃい」

 戸の前に立った椎菜の前に、眠八號の隣に立つ人物が上品に戸を開けた。

「え?」

 その人物を見て椎菜は目を大きく見開いた。

 淡い緑の和服に袖を通した、大きくクリっとした目が特徴的な可愛らしい、背中まで届く艶やかな黒髪を首の後ろで(まと)めた小柄な女性が立っていた。

「初めまして。眠の母の涅夢夜です。岡椎菜さんですね? 娘から伺っています」

 母親というよりも姉のように見える夢夜に一瞬見とれた椎菜はハッと我に返る。

「は、初めまして。岡椎菜です。突然の訪問、申し訳ございません!」

 椎菜は慌ててペコリとおじきをする。

「ふふっ、礼儀正しいのね。眠も見習ってほしいわ」

 一枚の絵になりそうな慈愛のこもった笑みを見せる夢夜に椎菜は再び心を奪われる。清楚でいて濃厚な色香が華やかに匂い立っていた。

「さぁ、どうぞ」

「お、お邪魔します」

 夢夜に促され椎菜は家に上がる。

「あ──」

 椎菜は玄関の段差につまずく。

「危ない」

 夢夜がとっさに椎菜を支える。

 着物に書き込まれた香の香りと甘い体臭が渾然一体となり椎菜の鼻腔をふんわりとくすぐった。服の上から感じられる 確かな膨らみ。自分には持ち合わせていない女性としての魅力に、同性にも関わらず椎菜の脳髄はとろけてしまった。

「それじゃあ少し待ってて下さいね」

 居間に案内されると夢夜は台所へと姿を消した。椎菜は眠八號と双六(すごろく)をしながら眠八號の母親を名乗る女のことを考えていた。

(おかしい。私が事前に調べた情報では眠ちゃんには母親代わりの葛原粕人という男はいるけど、母親はいなかったはず。なのに何故?)

「二人とも、お待たせ」

 そうこう考えている内に奥から夢夜が姿を現した。持っていたお盆から二人の前にガラスの器を差し出す。

(なんだ、アイスか)

 内心馬鹿にしながら椎菜は渡された木のスプーンで真っ白なアイスクリームを口に運んだ。

 

「え?」

 

 椎菜は言葉を失った。気づいた時にはアイスクリームを全て喉に通していたのだ。それを知ったのはアイスクリームの冷たさが喉を通過する感触と空になった器を見た時だった。「あ~不味い」などの用意した侮蔑の言葉を言う思考を奪うほど、夢夜のアイスクリームは美味しかった。

 心の底から美味しいと思うものを食べた時、人は言葉を失うという。それを椎菜は身をもって知った。

「なんで……」

 椎菜は悔しさで歯を食いしばった。片親だと思ってバカにしていた女の子が自分が見とれるほど美しく、お菓子屋の娘として多くの甘味を食してきた自分が今まで食べたことのなかった料理を日常的に作れる母親を持っていたという事実に。

「ハッ!」

 悔しさで頭が沸騰しそうになる椎菜の脳裏にある男が思い浮かぶ。

(確か眠ちゃんには葛原粕人という母親代わりの男がいた。そして眠ちゃんのお父さんの涅マユリは技術開発局。何らかの方法で女体化したんだ!)

「眠ちゃん、卑怯だよ!」

 ドキッと体を震わせる眠八號に、心配そうに夢夜は椎菜を見る。

「母親がいない嘘をごまかすために替え玉を用意するなんて! この夢夜さんは大方(おおかた)眠ちゃんの母親代わりの葛原粕人という男が化けているんでしょ!!」

 オロオロとする眠八號を「大丈夫、眠?」と優しくさすると、夢夜は椎菜の方を向く。

「えっと、椎菜さんは私が葛原さんとおっしゃるの?」

「そうです! 貴女が葛原粕人ではないのなら証拠を見せてください!!」

「う~ん、困りましたねぇ」

 そう言って夢夜は右手を頬に当てて首を傾ける。その時だった。

 

 すみませ~ん、葛原です! 夢夜さん、いますか? 

 

 玄関の方から声がした。

「あ、葛原さん!」

 夢夜は立ち上がると玄関の方へと向かった。

(ば、馬鹿な!?)

 慌てて椎菜も玄関に向かう。そこには死覇装を身にまとった、中性的な容姿の小柄な男が立っていた。顔を合わせるのは初めてだったが、マユリの家を何度も見に行った際に見かけていたため、椎菜はその男の名前を知っていた。

 

 葛原粕人。

 

 自分が涅夢夜に化けていると思った男の名前だ。

「な、な、な……なんでお前がここにいるんだよ、葛原粕人!?」

「……え? 僕は涅隊長の使いで来たんですけど。……っていうか貴女は誰ですか?」 

 幼女の怒鳴るような問いかけに、事情を知らない粕人は目を白黒とさせるしかなかった。

「葛原さん、実はですね」

 戸惑う粕人に夢夜は(こと)顛末(てんまつ)を説明する。

「あ~。なるほどなるほど」

 夢夜の説明に納得した粕人はハハハと愉快に笑う。

「そういうことでしたか。まあそう思われるのも仕方ないですよね。夢夜さんは体が病弱で、普段は僕が料理などの家事をしてますからね」

 そう説明する粕人の言葉は椎菜の耳には入っていなかった。

 涅夢夜は葛原粕人ではなかったこと、眠八號の実の母親で片親では無かったこと。

 そして。女の自分が見惚れるほど美人で、料理の上手な優しい女性だったということ。そのショックにうちひしがれていたからだ。

 そんな椎菜に夢夜が優しく語りかける。

「椎菜さん。よろしければまた来てくださいね」

 無礼を働いた自分に笑顔で言う夢夜に、椎菜は非礼を許された嬉しさ半分、自分が羨む女性を母親に持つ眠八號への悔しさ半分に「はい」と答えるしかなかった。

「椎菜さん」

 背を向けて帰ろうとした椎菜を夢夜が呼び止める。

「これからも眠と仲良くしてくださいね」

「また来てね!」

 二心ない涅親子の笑顔に椎菜は力強く「はい」と答えた。

 

 ====================================================

 

「いや、名演技でしたよ。葛原粕人(涅夢夜さん)

「そちらこそ、仏宇野段士(葛原粕人さん)

 マユリが作った性転換薬で涅夢夜という架空の人物に成りすました粕人は、自分を特定の人物だと誤認させる斬魄刀を持つ親友、仏宇野(ふつうの)段士(だんし)に親友同様、邪悪な笑みを浮かべながらお礼を言う。

 粕人は自分の正体が露見する保険として無線電話で仏宇野と連絡を取っていた。無線電話からの情報から事情を察した仏宇野は斬魄刀『写絵(うつしえ)』で自分が粕人だと椎菜に誤認させたのだ。写絵は自分を相手に〇〇だと誤認させる斬魄刀。もし椎菜が事前に粕人を調べていなければ仏宇野を粕人だと思い込むことが出来ずここまで上手くいかなかっただろう。

「では葛原。お前にはある物を作ってもらおう」

 邪悪な笑みを浮かべながら要求する親友に、粕人は渋々従った。

 

 

 ====================================================

 

「やるしかない」

 着替え室で急いで着替えると舞台の袖に立つ。

『それでは最後の大取り、葛原粕人です!』

 アナウンスの声に、背中まで届く艶やかな黒髪のカツラを被り、赤と白の市松模様の振り袖に黒の袴を身に付けた粕人が舞台に向かって歩きだす。

「……」

 背筋を伸ばして顎を少し引く。身体の重心が頭の天頂部と足の真ん中を通るように流れるような歩行で幕の裏から歩くその仕草は、徹底的に教育を施された令嬢か茶道の娘と見誤るほど優雅で静かな美を感じさせるものだった。

 

 あれが葛原なのか? 

 

 そんな疑問をすぐに思い付かないほど、その場にいた者は目を奪われていた。

「……」

 ブレることなく腰から頭を下げた粕人が頭を上げると、いつの間にか持っていった扇を広げる。それが合図だった。

 尺八や琴などの和楽器の音楽に合わせて粕人は踊り出す。

 派手な動きはない。されどしっかりとした技術の裏付けの上に見ている者の感情を揺さぶる計算された動き。多くの苦労や体験をしたものだからできる、見る者の心を掴む親しみや懐かしさを感じさせる表情や仕草。

 たとえ苦しくても自分を磨き前を向いて戦い続ける、粕人の決意がそこには込められていた。

 雑音は消え、宴会に参加した隊員だけではなく配膳などで動かなければならない店の人までも舞台の粕人に心を奪われる。

 和楽器の演奏と粕人の動きから生じる小さな音以外の音が存在しない空間。演奏が終わると同時に動きを止めた粕人が一礼した。

 

 パチパチパチッ!! 

 ブラボーッ!! 

 アンコール!! アンコール!! 

 

 全員の力強い拍手とともに巻き起こる称賛の嵐。その声に応えて「そ、それでは……」舞だけではなく様々な芸を披露する。それは粕人の舞を見ていなかった従業員が忘年会が終了する時間が迫ったことを知らせる間際まで続いた。

 

 サプライズで本当の大取として巨大涅マユリと共に現れるはずだったマユリの出番を台無しにするほどに。

 

「おのれッ! クズの分際で!!」

 壇上の下で、マユリは今すぐにでも暴れたい怒りの衝動を抑えていた。

 

 

 その日の夜。

「──」

 何者かによって惨殺された葛原粕人の死体が道端に転がっていた。

 

 ====================================================

 

「ふふっ」

 仏宇野は手に持った眼鏡を見ながら、いやらしい笑みを浮かべていた。

 仏宇野が粕人に化けた代わりに要求したもの、それは透視することが出来る眼鏡だった。

「これで女の裸体を見放題!」

 グフフと鼻の下を伸ばしながら眼鏡をかける。

「どうしたの、貴方?」

 仏宇野が振り返る。

「あぁ、音芽(おとめ)……うぎゃああああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!??」

 仏宇野(ふつうの)音芽(おとめ)に声をかけられた仏宇野が妻の姿を見た瞬間、驚きのあまり失神した。

 仏宇野が見たもの。それは服はおろか皮と筋肉を通り越し、内臓を包んだ骸骨が立つ光景だった。

 

 




本当にマジ疲れた。本当は1月中に投稿する予定でした。
しかしお菓子やダンスなど様々な分野の本を読み漁るうちに「自分の小説は何て薄っぺらいんだ」と痛感。一か月以上の時間を費やす結果となりました。
編集回数も40回越え。
今まで作ったどの話よりも、時間もお金もエネルギーも使う話になってしまいました。

でもネットで調べてささっと書くよりも充実。そしてこの苦労は後の作品に活きていくと考えてます。
小説は辛く、そして楽しいものですね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

葛原粕人。終わりなき終わりの始まり

とある方が粕人の人生を終わりなき終わりと称されたのをきっかけに作りました。
この場を借りて感謝の言葉を述べさせていただきます。


 葛原(くずはら)粕人(かすと)

 十二番隊では二十席という決して低くはない地位を任され、技術開発局では技術開発局雑用総責任者兼眠八號(ネムリはちごう)護衛役総責任者という権限はないが責任だけは取らされ、(くろつち)マユリの最高傑作と言っても過言ではない眠八號の世話を任され、もし何か起これば命を奪われ、仮に無事に務めたとしても給料もボーナスも評価も上がるわけではない、極めて利益のない責任と労力だけが積み重なる要職を任された男である。

 今回はなぜ端から見れば不幸としか言いようがない人生を歩む羽目になったのか、そのエピソードを紹介したい。

 

 ====================================================

 

 藍染(あいぜん)惣右介(そうすけ)の反乱事件からしばらく経った後。

 粕人の人間性を評価しつつも四番隊には向いていないと思った四番隊隊長、卯ノ花(うのはな)(れつ)は涅マユリに「葛原粕人という男をそちらに異動させることは出来ませんか?」と打診。ちょうど隊員が爆発するという不幸な事故(・・・・・)で人員を失っていたマユリは卯ノ花の打診をあっさり承諾。こうして粕人は十二番隊に異動することとなった。

 その後、納得できず「四番隊に残して欲しい」と懇願する粕人を卯ノ花が説得したことにより、粕人は異動を受け入れた。そして四番隊から十二番隊に異動してから数日後の夜。

「腹が減ったな、誰か何か作ってくれないか?」

「じゃあ僕が作ってきます」

 誰もが仕事で疲れ億劫(おっくう)とする中で、異動したばかりの粕人が名乗り出た。

 給湯室に向かった粕人は手早く握ったおにぎりを各隊員に「ありあわせですが」と手渡した。渡されたおにぎりを隊員達は口へ運ぶ。

「お! 美味いな、このおにぎり」

「よくこんな短時間に作れるものだな」

 入って間もない粕人の料理の腕に驚いた隊員は口へと運んでいく。

 いつも食べる夜食よりも美味いおにぎりに「もっと作ってくれよ」と要求する隊員達に「はい、わかりました」と嬉しそうに給湯室へと向かう粕人の姿を、遠くから涅マユリが見ていた。

 

 ====================================================

 

「クズ。私と一局手合わせしようじゃないかネ」

「あ、はい。わかりました」

 突然自室に呼び出された粕人は、マユリの応接用の机に将棋盤を置いて駒を並べる。

 十分後。

「完敗です」

 粕人は頭を下げた。勝負はマユリの圧倒的な勝利。しかしマユリは少しも喜んでいなかった。

「クズ、私に遠慮せず本気を出したまえヨ」

 マユリは気付いていた。粕人が自分に気を回してわざと負けるように手を抜いていたことに。

「ご機嫌を取るためだけにわざと負けるんじゃないヨ。全力でかかってこい」

「……も、申し訳ございませんでした!」

 自分が手を抜いていたこと。それを見抜かれたこと。それが新しい上司に対して失礼だったことを粕人は詫びる。

「わかりました。では全力で!」

 真央霊術院時代に遊ぶ金がなく、勉強以外に将棋や麻雀(覗きを少々)などお金のかからない娯楽に自分の時間を費やした粕人はその経験で得た全てを目の前の一局にかけた。

(涅隊長は尸魂界(ソウル・ソサエティ)でも一、二位をを争う賢者。思わぬ所から反撃を喰らう恐れがある。ここは慎重に慎重を重ねるぐらい攻めていかないと!)

 マユリが駒を動かす次の瞬間に粕人は駒を動かす。それは今まで幾千、幾万と将棋自慢の猛者達と戦った粕人にしか出来ない経験則と危機を避ける本能が融合した一手だった。

「……」

 すぐに駒を動かす粕人に負けじとマユリも駒を動かす。その駒の動きに対応するように粕人も一秒にも満たぬ速さで駒を動かす。

「……!」

 全く考えていないようでこれ以上ない手を打つ粕人に、マユリの怒りは増す。即座に駒を動かす粕人に対抗心を燃やしたマユリは即座に駒を動かす。だがその動きにも粕人は反射の域に達する速さで駒を動かす。

「……!!」

 苛立ったマユリは先程以上の速さで駒を動かし、粕人も先程以上の速さで駒を動かす。

 こうして二人の将棋は熱を増した。即座に自分の動きに対応する粕人を引き離そうと熱くなるマユリ。その動きに冷静かつ即座に対応する粕人。

 対局を再開させて二分半。マユリの変幻自在の攻撃を防ぎ切った粕人は反撃に出る。反射の域に達する速さで反撃に転ずる粕人にマユリも負けじと防ごうとする。しかし攻撃にほとんどの駒を消費し、マユリの反撃を恐れて一気に王を狙わず一枚一枚着ている服を脱がしていくように慎重に攻める粕人に、マユリは対応することができなかった。

 再局から五分後。

「……」

 マユリは呆然と盤上を見ていた。

 マユリには王以外残っていなかった。残りの駒は全て粕人に取られてしまった。誰が見てもマユリの負けは明らかだった。

「……あ、そろそろ仕事が始まりますので失礼します」

 時計を見た粕人はそう言って将棋盤を元に戻し退出した。

「……お、お……おのれっ!!」

 マユリは悪鬼のような表情で体を震わせ、部屋を後にした粕人を睨み付けた。

 粕人は知らなかった。マユリの言うことを信じずに少し手を抜く程度に留めていればよかったことを。

 粕人は気づいていなかった。マユリに勝つために慎重に慎重を重ねて一気に王手に行かずに他の駒を奪っていった結果、駒の全取りという相手からすればこれ以上ない屈辱を味あわせたということに。

 このことがマユリの逆鱗に触れ、後に彼の人生を大きく狂わすことを。

 そして激しい憎悪を抱いたマユリが、粕人の持つ斬魄刀が『斬魄刀が破壊されるなど異常がない限り何度も生き返ることができる能力』と気付き、生涯に渡って復讐を決意したことを。

 

『終わりなき終わりの人生』の引き金を自分自身が引いてしまった事を、粕人は知る由もなかった。

 

 

 

ちなみに。この時の対局を葛原粕人はこう振り返る。

「あの時、僕は『試されている』と思いましたね。『涅マユリ(この私)に一度でも勝てない奴が技術開発局が務まるか』と。そして涅隊長は護廷十三隊でも一、二位を争う頭脳の持ち主。普通のやり方ではどうあがいても勝てるわけがありません。

となると勝つ方法は一つ。それは涅隊長の間合いをずらして僕の土俵に持ち込ませること。そして平隊士だと少なからず僕を見くびっているだろう油断をつくこと。だから僕は涅隊長が駒を動かすのと同時に間髪入れずに駒を動かすという戦法に賭けました。そうすれば僕に負けまいと涅隊長が焦ってくるだろうと思って。結果は万が一に賭けた僕の戦法が成功し、何とか勝つことに成功しました。

あの時。もし涅隊長が『僕と格の違いを見せつけてやろう』と焦りや油断をすることなくどっしりと構えて対局していたら……まず勝てなかったでしょう。実際、涅隊長とその後も対局しましたけど、瞬時に対策を立てることのできる隊長にはこの戦法は通用しませんでしたし……。

四番隊に在籍していた頃から涅隊長の凄さは聞いていましたが、あの対局だけで隊長の素晴らしさと恐ろしさを身にしみて感じましたね」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

眠八號三歳その後~葛原粕人はなぜ出世しないのか~

今回はタイトル通り、随分前に出した『眠八號三歳』の後日談です。
そして何故粕人がマユリが出世させたくない以外の理由で、二十席以上の地位にいないのかが分かる話です。


 シンギュラリティ(Singularity)。

 英語で「特異点」の意味する言葉である。「人工知能(AI)」が人類の知能を超える転換点(技術的特異点)、またはそれにより人間の生活に大きな変化が起こるという概念を意味する。

 とある人工知能・研究の世界的権威の科学者は著書で、2045年には人間の脳とAIの能力が逆転するシンギュラリティに到達すると提唱している。

 それによって多くの人がAIに仕事を奪われ、収入だけではなく社会的地位や人材的価値などを消失してしまうのではないかという不安が問題視されつつある。

 

 ====================================================

 

 (くろつち)マユリの家を後にした数分後、何者かによって拉致されロボットと化した葛原(くずはら)粕人(かすと)。マユリから『KUZU』と名付けられた粕人はロボットとなる前同様によく働いた。しかし相違点もあった。それはロボットとなる前にはあった肉体・脳疲労がないこと。休憩なしの長時間労働が当たり前だった粕人は疲労が溜まるにつれてミスも多くなり、その度にマユリの怒りを買い殺害されてきた。しかし集中力が落ちることはないKUZUは、何一つミスすることもなくマユリのオーバーワークに応えていく。無論必要以上の稼働によって引き起こされるオーバーヒートを起こすこともあるが、それは外部からの冷却などによって解消され、問題にはならなかった。

 本物以上に成果を黙々と上げ続けるKUZUを、技術開発局の局員達は不安そうに見ていた。

 

 ====================================================

 

 阿近(あこん)が時折通う高級居酒屋、六角亭(ろっかくてい)で阿近は部下である壺府(つぼくら)リンと酒を飲んでいた。

「阿近さんはあのKUZU(ロボット)をどう思います?」

「どう思うとは?」

 つきだしを口に運ぶ阿近に、壺府リンは不安そうに答える。

「あのロボットは葛原さん以上によく働きます。いずれ僕たちが用済みになるのでは?」

「そんなことか」

 そんな不満を一蹴するかのように阿近はフッと笑う。

「確かにあの葛原は普段の葛原以上によく働く。しかし俺達と葛原では局長と付き合ってきた年数が違う。俺達より葛原が局長に重宝される日はない。心配するな」

 そう言って阿近はそれでも心配する壺府リンをよそに酒をグイッと飲み干した。

 

 ====================================================

 

 翌日 技術開発局。

 涅マユリは苛立っていた。特に理由はない。ただ意味もなく苛立っていた。それゆえに局員達はどうすればいいかわからず距離をとることしかできなかった。

 そんな時だった。

「……」

 マユリの机にKUZUが無言でラベンダーが入った花瓶をさりげなく置いた。摘みたてのラベンダーの香りが、苛立っていたマユリの鼻腔を優しくくすぐり気分を落ち着かせる。

 それだけではない。KUZUはほのかに温められたティーカップに、上品で華やかな香りを放つジャスミンティーをスッと差し出した。

 ティーカップから漂うジャスミンの香りを楽しみながら、マユリはちょうどいい温かさのジャスミンティーを飲み干した。

「素晴らしい! 実に素晴らしいヨ!!」

「モッタイナイ御言葉デス」

 満面の笑みで称賛の言葉を送るマユリに、年季の入った執事のようにスマートに頭を下げるKUZU。

 

「……!?」

 

 付き合いの長い自分達ですらどう対処すればいいかわからなかったマユリの苛立ちを瞬時に落ち着かせたKUZUの行動に、阿近をはじめとする他の局員達は青ざめていた。自分達の地位が平隊士である葛原粕人(KUZU)に取って代わられるという恐怖で。

 

 

 

 翌日。

 技術開発局のとある一室で、(なた)やハンマー、電動ノコギリなどの様々な凶器によって原型を留めないほど徹底的に破壊されたKUZUが発見された。




前話の『葛原粕人。終わりなき終わりの始まり』でいくつかご意見を頂いたので加筆修正しました。
確かにあの話はマユリらしくないな、と反省しています。またああいったご意見をいただけると幸いです。そしてご意見をして下さいました方々にこの場を借りてお礼申し上げます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第三十七話 護廷十三隊対抗リレー前日

 技術開発局 (くろつち)マユリの部屋

 マユリに呼び出された阿近(あこん)鵯洲(ひよす)壺府(つぼくら)リン、葛原(くずはら)粕人(かすと)の四人は

 

「「「「いやいやいや!! 無理です!! 無理です!! 絶対無理です!!!!」」」」

 

 と一言一句(たが)わず、猛烈な勢いで首を横に振りブンブンと手を横に振っていた。

 彼らが十二番隊及び技術開発局で絶対的権力を持つマユリに断固として「無理!」だと主張する理由。それは突然マユリが隊長を除く&瞬歩使用不可の『明日行われる護廷十三隊対抗リレーに出場し優勝しろ』と言ってきたからだ。

 ちなみに護廷十三隊対抗リレーは各隊の能力向上を目的として試験的に今年発案され、それは一ヶ月前の隊首会議で決められていた。しかし彼ら四人が知ったのは今この時だった。また選出された各隊の隊員達は明日の大会に向けて特訓をしていたが、この一ヶ月の技術開発局は例年まれに見る多忙を極め、外部から今大会があると知ることは勿論のこと特訓する時間もなかった。

 マユリが突然何かを言い渡すのは日常茶飯事で、「何でそんな大事なことを早くに言ってくれてないのですか!?」と追及すればマユリに逆ギレされることを知っている局員達はその事には触れずに異議を唱える。

「護廷十三隊には脚力自慢の隠密機動も(にな)う二番隊もいるんですよ! 二番隊が出場している時点で勝てるわけがないじゃないですか!!」

「それに身体能力だけならば戦闘バカ=体力バカの十一番隊も忘れてはいけません!!」

「そもそも十二番隊は身体能力よりも知力重視です!!」

「勝てそうなのはその任務の重要性を理解していない者から『お荷物』と(さげす)まれる四番隊くらいですよ!!」

 

「「「「どうか考えを改めてください!!」」」」

 

 四人の必死の猛抗議にマユリも「それもそうだネ」と考えを改める。

「じゃあ一位にならなくても三位以内には入れるように特訓するヨ」

 

 いや、三位も無理ですよ!! 

 

 そう言いたかった四人だが、狂気の笑みを浮かべるマユリを見て異を唱えるほど彼らに勇気はなかった。

 

 ========================================

 

 数分後。五人は大会が行われる場所と同じくらいの広さのある空き地にいた。

 走る順番は壺府リン、鵯洲、阿近、粕人の順に決められた。

「……あ、あの……涅隊長。僕がアンカーでいいんですか?」

 そう尋ねる粕人に対しマユリは「私に考えがある。何か異論でもあるのかネ?」と粕人を睨み付ける。

「……い、いえ。異論など……」

 粕人は体を震わせながら返答する。

(何か嫌な予感がする…… だがここは隊長を信じよう…… 言葉通り何か考えがあるはずだ! ……たぶん)

 四人が所定の位置につくと、マユリが空に向けて放ったピストルの音で訓練は始まった。

(おおっ、凄いな!)

 アンカーから様子を見ている粕人は、命の危機が迫っているかのような三人の猛烈な走りに感嘆の声を漏らす。

(いくら技術開発局といっても護廷十三隊。身体能力が極めて劣ってるわけでもないよね)

「葛原!!」

 第三走者の阿近から、最もスピードが乗った最高のタイミングで粕人はバトンを受け取る。粕人にバトンを渡した阿近は、全力疾走によって地面に崩れていく体から残された力を振り絞って叫んだ。

「く、葛原……急いでゴールするんだ!!」

「……阿近さん。何でそんなに急いでゴールしろと言っているんだろう?」

 背後で悲痛な叫びを上げる阿近に首をかしげる粕人だが、その理由をすぐに理解することになる。

 

 シュー

 

「何の音だ、これ?」

 渡されたバトンを見て、粕人は凍りついた。

「だ、だ、だ……ダイナマイトォォォォォォッッッ!!??」

 そこには導火線に火がついたダイナマイトがあった。導火線がダイナマイト本体にたどり着くのはもって数秒しかない長さだった。

(やばい爆発する!!)

 粕人はダイナマイトを放り投げようとする。しかしダイナマイトは磁石のように手からくっついて離れない。

『そのダイナマイトはゴールするまで手放すことはできないヨ』

 ダイナマイトから聞こえたマユリの声に粕人は「何でこんなことを!?」という疑問や「何を考えているんですか!?」という声を抑えて走り出した。マユリが答える前にダイナマイトが爆発の目に見えていたからだ。

 

「うわああああああぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!」

 

 粕人は走った。体中のエネルギーを走る力に変えて全力で走った。

 ダイナマイトが爆発する前にゴールにたどり着く。それだけを考えて。

 極限まで高められた身体能力と集中力によって粕人は驚異の速さでゴール手前まで到達する。

(やっとゴールだ! これでこのダイナマイトを手放せる!!)

 粕人が一安心した次の瞬間

 

 ドカァァァァァァンッッッ!!!! 

 

 ただでさえ短くなっていた導火線の火は、ゴールまであと体一つ分という所でダイナマイト本体に到達。粕人の肉体は木っ端微塵に吹き飛んだ。

 

「「「………………」」」

 

 降り注ぐ肉片と血の雨が地面に広がっていく光景に、肩で息をする三人は恐怖で青ざめていた。 




日曜日に続編を投稿する予定です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第三十八話 護廷十三隊対抗リレー本番

今回は台詞ばっかです(^-^;


 技術開発局 食堂

 大型のモニターがある食堂で、(くろつち)マユリは他の局員達と共に護廷十三隊対抗リレーの中継を見ていた。テレビには競馬のスターティングゲートに似た場所で、スタートの合図を待つ各隊員の顔が映し出される。

 マユリの後ろで隊員達が「頑張れよ」、「スタートが肝心だぞ」など声を漏らしながら固唾(かたず)を呑む。

『さあ始まりました護廷十三隊対抗リレー。場所はこの日のために用意された現世の競馬場を思わせる数千メートル芝が存在感を示す大会場。この大会の結末を自分の目で見ようと多くの隊員達が見守ります。実況は三番隊、穴島(あなしま)阿保(あお)がお送りします』

 

 パーン

 

『開始のピストルと共にゲートが開き各隊員が一斉にスタートしました。先頭を走るのは大方の予想通り大本命の二番隊。その後ろに十一番隊、3番手に七番隊が続きます。最下位はこれまた大方の予想通り四番隊。二番隊副隊長を務める大前田(おおまえだ)希千代(まれちよ)の妹の第一走者、大前田(おおまえだ)希代(まれよ)は一歩目で大転倒。今立ち上がりスタートします。

 3位の七番隊の後ろには五番隊、5位に十番隊、意外にも四番隊と最下位争いをすると思われていた十二番隊が6位につけております。

 さて先頭集団に視線を戻しましょう。最初にバトン渡したのは二番隊。その後を追うように十一番隊が次の走者にバトンを渡す。その他の各隊員も次々と次の走者にバトン渡していきます。先頭を走るのは二番隊。2番手には依然として十一番隊。3位だった七番隊は六番隊に抜かれて4位に後退。6位に入った十二番隊は一つ順を上げて5位で次のバトンに渡します。

 第3走者にバトンが渡り先頭は二番隊。2位は十一番隊。5位に入った十二番隊がここで六番隊と七番隊を追い越して3位に上がる。……おぉと、ここで後方で大きく動きが出た!』

 会場で見守る観衆のざわめきと共に実況の穴島の声が大きくなる。

『四番隊だ! 四番隊第3走者一葉(いちよう)音芽(おとめ)、前を走る各隊員の距離を詰めてどんどん順位をあげていく! みるみるうちに順位を上げて今4位の六番隊を追い抜いた! 

 そして先頭を走る二番隊、最後の走者の大前田希千代にバトンが渡る! その次に十一番隊の斑目(まだらめ)一角(いっかく)、少し遅れて3位に順位を上げた十二番隊の第3走者の阿近(あこん)、アンカー葛原(くずはら)粕人(かすと)にバトンを渡した! 葛原粕人、持っているバトンが『実はダイナマイトでゴールしないと爆発する』というギャグ補正がかかったかのような必死の形相で前方を走る二人の距離をどんどん縮めていく。

 そして数秒遅れて四番隊第3走者の一葉音芽、アンカーの仏宇野(ふつうの)段士(だんし)にバトンを渡し燃え尽きたかのように崩れ落ちる。バトンを受け取った仏宇野段士、激走する葛原粕人を上回る速さで猛追。

 先頭は二番隊、大前田希千代! 2番手は十一番隊、斑目一角! 先頭争いする両副隊長を葛原粕人と仏宇野段士が追いかける!』

 この時。誰もが予想だにしていなかった思わぬアクシデントが起こる。

『おおっと!? 先頭を走る大前田希千代、まさかの転倒!! そのすぐ後ろにいた斑目一角も巻き込まれる!! 二人の真後ろまで迫りつつあった葛原粕人、ハードル走者のように華麗に飛び越えて今トップに躍り出た!! 立ち上がろうとする大前田希千代と斑目一角を仏宇野段士が容赦なく踏みつける!! それに(なら)うように後ろにいた各隊員も同じように踏みつけていく。先頭を争っていた二番隊と十一番隊がここでまさかの最下位に転落!!』

 本命、大本命のまさかの最下位転落に会場から「嘘だろ……」という落胆と「ふざけんじゃねぇ!!」と様々な怒声が巻き起こる。

 そんな観客の動向を尻目に先頭争いをする粕人と仏宇野の二人はゴールを目指して全力疾走する。その姿に実況のアナウンサーの声に熱が入る。

『前に誰もいなくなった芝を走る葛原粕人! ジリジリと距離を縮めていく仏宇野段士! 勝つのは科学の十二番隊か!? 医療の四番隊か!? 互いの意地がぶつかり合う!! 逃げる葛原粕人! 追う仏宇野段士! 葛原粕人!! 仏宇野段士!! 勝つのはどっちだ!?』

 必死に逃げる粕人に一切の感情を見せない暗殺者のように迫る仏宇野。その様子をマユリの後ろで見ていた隊員達が「葛原……」、「葛原二十席!」と必死に祈る。

『残り100m! ……50m! ……10m! 先にゴールテープを切ったのは……十二番隊、葛原粕人だぁぁぁっっっ!!』

 優勝が確定したのを知り、大量の汗を流しながら右手を上げてガッツポーズをする粕人。そんな親友を肩で息をしながら冷徹な暗殺者から親友の激走を祝福する笑顔を見せる仏宇野。マユリの後ろで十二番隊の優勝に抱き合い、歓喜の涙を流す局員達。そして

 

「クズめ……やってくれたな!!」

 

 画面に映る粕人を憤怒(ふんぬ)の表情で睨み付けるマユリの懐からは『1位二番隊、2位十一番隊』に膨大な金額が賭けられた馬券が地面に落ちた。

 




この小説を書くために YouTube で競馬の色々な実況動画を何度も見ました。

『新章第三十六話 粕人は忘年会で舞を披露をするようです~ 眠八號の母?(くろつち)夢夜(ゆめよ)登場~』でお菓子、料理、ダンス、舞踊などに全力を注ぐ人たちの凄さと恐ろしさを感じた私ですが、実況の人が傾ける情熱・『職人芸』ともいえる仕事への姿勢にも尊敬の念を抱かずにはいられませんでした。と同時に自身の小説技術の未熟さを感じさせられました。

命を賭ける仕事ぶりは他の職種でも刺激を受けます。本当にこの小説を書いてよかったとほっとしています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新章第三十九話 涅マユリは粕人のためにお風呂を沸かすようです

 護廷十三隊対抗リレーから数日後。

「……」

 先日の護廷十三隊対抗リレーで優勝候補の二番隊兼隠密機動の大前田(おおまえだ)希千代(まれちよ)と十一番隊副隊長の班目(まだらめ)一角(いっかく)を抜き、両副隊長を上回る粕人を上回る速さで猛追した四番隊平隊士の仏宇野(ふつうの)段士(だんし)から逃げ切った十二番隊優勝最大の功労者、葛原(くずはら)粕人(かすと)は上司である(くろつち)マユリに呼び出されマユリ邸の端に作られた掘っ立て小屋にいた。

「……なんだ、これ?」

 粕人は壁に貼られた紙に目を通す。そこには服を脱いで用意しているタオルを巻いて扉を開けるように書かれてあった。

「……」

 得体の知れない不安が粕人を襲う。しかし彼にマユリの命令に背くという選択肢はなかった。逆らえば死に匹敵する実験という名の拷問が待っていることが予想できたからだ。

「……よし!」

 覚悟を決めた粕人は服をタオルが入っていた藤のカゴに入れると、代わりにタオルを腰に巻いて扉を開けた。

 そこには粕人のように小柄な体格なら入れるほどの木の樽があった。中を覗く湯気が上がっていた。

「これは……五右衛門(ごえもん)風呂(ぶろ)か。……ん?」

 

 ふー! ふー! ふー! 

 

 誰かが息を吐く声に粕人は格子窓から外を見る。そこには頭に手ぬぐいを巻いて火吹き竹で五右衛門風呂に空気を送るマユリの姿があった。

「く、涅隊長! 何をしているのですか!?」

 粕人は慌てて格子窓から問いかける。

「見てわからないかネ? 風呂を沸かしているんだヨ」

「い、いえ……そこではなくて!」

 なんで隊長がそんなことを!? 

 そう尋ねる前にマユリが答える。

「現世では蒲生(がもう)氏郷(うじさと)という男は手柄を立てた部下のために自ら風呂を沸かしたという。私もそれに(なら)おうと思ってネ」

「……た、隊長……!!」

 粕人の目から滝のように涙が流れ出た。

 自分を都合のいい道具としか扱わない上司が風呂を沸かすという重労働を行う。その事実に粕人は心を打たれ嗚咽を漏らす。

「さ、冷めない内に入りたまえヨ」

「……は、はい!」

 粕人は目頭を押さえながら五右衛門風呂に浸かる。

「クズ、湯加減はどうかネ?」

「……隊長。いい……湯加減です!」

「そうか」

 部下の感激する返答にマユリは笑う、獲物がかかったことに喜ぶ邪悪な笑みを。もし粕人がマユリの笑みを見ていたらすぐに五右衛門風呂から出ていただろう。しかしマユリ自ら沸かした五右衛門風呂を堪能していた粕人はマユリの笑みを見ることはなかった。そして五右衛門風呂からマユリが離れたことも。

 数分後。粕人は異変に気付く。お湯が熱くなると同時に粘度が生じ始めていたことに。

「た、隊長! 風呂に何かおかしいのですが? ……隊長、涅隊長!?」

 格子窓から外に視線を移した粕人は固まる。そこには小型で強力な送風機が五右衛門風呂に風を送っていた。

 五右衛門風呂のお湯は熱湯へと変わり、粘度も小柄な体格に似合わない怪力を持つ粕人を持ってしても脱出不可能にまで高まっていた。

「あぁ! あ、熱い!! 誰か、誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 必死に助けを求める粕人。しかしマユリの領域である涅邸で助けが来ることなどあるわけがなく、あっという間に脱水症状で失神した粕人は粘度のあるお湯に顔を突っ込む形で

 

「────」

 

 絶命した。

「くくく、クズ。お前が悪いんだヨ。お前が余計なことをするからそんなことになるんだヨ」

 部下が死んだことを確認するとマユリはハズレ馬券を五右衛門風呂の(かま)に落とした。

「さて、これで仕上げだ」

 掘っ立て小屋から離れたマユリはドクロの顔の起爆スイッチを押した。

 轟音と共に木っ端微塵に吹き飛ぶ掘っ立て小屋と粕人。あらかじめ用意した全自動消火ロボットが消火したことを確認したマユリは満足そうな笑みを浮かべながらその場を後にした。

 

 

 後日。

 粕人は自身が出したオナラに引火したせいで五右衛門風呂&小屋を破壊したとして、マユリが護廷十三隊対抗リレーで外れた馬券と同額の弁償費を要求された。

「……なんで風呂と急ごしらえの小屋を破壊しただけでこんな額を請求されなければならないのだ!?」

 上司の理不尽さに怒りと驚きに身体を震わす粕人。しかし

「逆らえば命を奪われる……やるしかないか!」

 自身の斬魄刀・幽世閉門(かくりよへいもん)の副作用により、マユリに殺された記憶がすっぽり抜けていた粕人は後日、親友の仏宇野(ふつうの)段士(だんし)と共に現世へ向かい大金を得るために行動を移すのだがそれは別の話。




『新章第三十九。五話 仏宇野段士は金欲しさに親友を脅すようです』に続きます。

実家にあったスーパーファミコンミニでFF6にはまってました(-_-;)
投稿できず申し訳ございません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

仏宇野は金ほしさに親友を脅すようです(前編)

 隠密機動特別地下室

月光(げっこう)大前田(おおまえだ)のように超高温のサウナ室に入るか、それとも肉と脂肪を削ぎ落とす肉抜きか。好きな方を選べ」

 先日の護廷十三隊対抗リレーで最下位に転落し、超高温サウナ室から出て骨と皮になるまで痩せ細った二番隊副隊長・大前田(おおまえだ)希千代(まれちよ)を背後に、二番隊隊長兼隠密機動総司令官・砕蜂(ソイフォン)は、両手首を後ろ手で縛られ正座した裏見隊分隊員・月光の首に刀を当てた。

「いや! ちょっとわかんないですよ! 何で俺がこんな目に遇わないといけないのですか!?」

 突然味方の隠密機動第一分隊・刑軍になす(すべ)もなく捕らえられ、状況が飲み込めない月光。そんな男に砕蜂は冷たく言い放つ。

「隠密機動に(くみ)する存在でありながら二番隊の最下位脱落を決定的にしたからだ。ついでに最下位になっておかしくなかった四番隊を二位に押し上げたこと。これも大罪だ!」

「いや、本当に意味わかんないし! そもそも四番隊の最下位を望むなら、一番責められるのは第2走者の虎鉄(こてつ)清音(きよね)副隊長が大きく引き離されていた距離を大幅に縮めていたとはいえ、驚異のごぼう抜きをした水城(みずき)でしょう!?」

「水城? ……ああ、あのゴミのことか?」

「え?」

 月光は砕蜂の視線をたどるように視線を移す。

 そこにいたのは

「…………」

 両手首を天井につながれた荒縄で縛られ項垂(うなだ)れている黒髪の女性がつま先立ちの状態で立たされていた。女性の服はズタボロになっており体の至る所から血が流れ出ていた。どれほど立たされていたのか、女性の足元には血の池が出来上がっていた。

音芽(おとめ)ッ!!」

 月光は四番隊十五席の一葉(いちよう)音芽(おとめ)の名前を叫びながら血相を変えて走り出す。

「……あ、あな……た……」

 月光の声に顔を上げた女性はすぐに意識を失い項垂れる。

「今助けるぞ、音芽!!」

 両手首を縛られていることを忘れ、女性を助けようとした月光を

「ウグッ!?」

 直属の上司である裏見隊分隊長の鬼撫(おになで)と檻理隊分隊長・鬼塚(おにづか)静気(しずき)、裏廷隊分隊長・逃隠(にげかくれ)才蔵(さいぞう)が取り押さえる。更には実母であり裏見隊№2の月読(つくよみ)を除く各副分隊長が三人に取り押さえられた月光を取り囲む。

「クソッ! ふざけるなっ! 離せ、離しやがれ、てめぇら!!」

 裏見隊の平隊員でありながら卍解を会得した月光といえど、無防備状態で取り押さえらえた上に大前田希千代と月読を除く、砕蜂と各分隊長&副分隊長達が相手では勝ち目はなかった。

「そうだ、月光。条件を出してやろう」

 そう言って砕蜂はとある金額が書かれた紙を、頬を床に押し付けられる月光に見せつける。

「もし近日中にこの金額に達する金を用意できれば水城を開放してやろう」

「金?」

 そう言って砕蜂は金額が書かれた紙を月光につきつける。そこには

『小学中学と塾通いをして……常に成績はクラスのトップクラス、有名中学有名進学校と受験戦争のコマを進める一流大学に入る……入って3年もすれば今度は就職戦争‥‥頭を下げ会社からの会社を歩き回り、足を棒にしてやっと取る内定……やっと入る一流企業‥‥これが一つのゴールだが‥‥‥‥‥ホッとするのも(つか)()、すぐに気が付く。レースがまだまだ終わってないことを‥‥今度は出世競争。まだまだ自制していかねばならぬ‥‥! 

 ギャンブルにも酒にも女にも(おぼ)れず、仕事を第一に考え、ケスな上司にへつらい取り引き先にはおべっか。遅れずサボらずミスもせず……毎日律儀(りちぎ)に定時に会社へ通い、残業をしひどいスケジュールの出張もこなし‥‥時期が来れば単身赴任‥‥夏休みは数日……そんな生活を10年()続けて気が付けばもう若くない。30台半ば‥‥40……そういう年になってやっと蓄えられる預金高』

 に匹敵する金額が記されていた。

「その金を用意できれば、水城を解放してくれるんだな?」

「あぁ、約束する」

「わかった。用意してやる。だが!」

 そう言って月光は砕蜂を睨みつける。

「もし水城を殺せば、砕蜂……お前を殺す!!」

 

 

 ======================================

 

 月光が隠密機動特別地下室を後にした数分後。

「……」

 四番隊平隊士、仏宇野(ふつうの)段士(だんし)は何も言わず自宅の扉を開けるとそのまま自室へ向かう。

「お帰りなさい。珍しいわね、あなたが家に帰って『ただいまっ!』って挨拶しないなんて……!」

 夫の近寄りがたいほどの真剣な空気に、妻の仏宇野(ふつうの)音芽(おとめ)は真剣な表情でたずねる。

葛原(くずはら)の所へ行ってくるから夕飯はいらない」

「わかったわ。でも何のために?」

(とら)われのお前を救うために」

 それ以上のことは何も言わず、仏宇野は自宅を後にした。その後ろ姿を、音芽はポカーンと見ていた。

「囚われの私って……私ここにいるんだけど?」

「音芽ちゃん! お久しぶり!」

 夫の言葉に理解が追いつかない音芽の前にツインテールの可愛らしい美少女が現れる。

「お、お義母様!?」

 音芽は義理の母、仏宇野(ふつうの)八葉(やつは)の格好に驚く。彼女の服は拷問にかけられたかのようにズタズタになっていたからだ。

「お義母様! どうしたんですか、その格好は!?」

「ところでうちのバカ息子見なかった?」

「え?」

 回答ではなく夫の行方を尋ねられた音芽は数秒固まった後に質問に答える。

「お義母様と入れ替わるように家を出ていきましたが……」

「そう……」

 中学生言っても通じる女性は深いため息をついた。

「ところでお義母様……ッ!?」

 音芽は先ほどの質問を再度しようとし、大きく目を見開いた。瞬きした僅かな時間に目の前の美少女は妖艶でグラマラスな美女へと変わっていたからだ。

「あの子も本当にバカよね。嫁に化けた母親くらい見抜きなさいよ。それとも私の成りすましが域に達していたのかしら?」

「意味わからないこと言っていないで早く服を着替えてください!! 普段から男を誘惑するほど服をはだけさせている人がそんなボロボロの服……ハレンチです!!」

 そう言って音芽は周囲を確認すると、急いで月読を家へと入れた。

 

 




次回は12日に投稿予定です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

仏宇野は金ほしさに親友を脅すようです(後編)

 十二番隊隊舎 葛原(くずはら)粕人(かすと)の部屋。

「葛原、金を出せ。今すぐにだ」

 四番隊平隊士・仏宇野(ふつうの)段士(だんし)は親友である粕人を壁に押し付け首に斬魄刀を押し付けていた。その目は触れただけで切れてしまうのではと思うほど鋭く、そして冷たかった。

「ちょ、ちょっと待て! 仏宇野!!」

 真央霊術院(しんおうれいじゅついん)時代から苦楽を共にし、十二番隊に異動になってからも月に一度は飲みに行っている親友からは想像もできない行動に、粕人は慌てふためく。

「お前はバカでスケベで何か失敗したらボコられる三枚目キャラだろ!! 何『普段はバカな三枚目を演じているけど本性は任務遂行や大事な者のためならば親友すらも躊躇(ちゅうちょ)することなく手にかける忍者』みたいなキャラになっているんだよ!! キャラが違いすぎるだろ!?」

「そんなくだらない話に付き合ってる暇はないんだよ。こっちは音芽()の命がかかっているんだ。やるかやらないかどっちなんだ?」

「うぐっ! やる! やるから放してくれ!!」

 その言葉で仏宇野は粕人を解放する。粕人は「ゲホゲホッ!」と呼吸を整えてから続ける。

「実はちょうど僕も金が必要だったんだ。仏宇野も手伝ってくれれば都合がいい。現世でいい儲け話があるか調べてみたらちょうどいいのがあったんだ。早速現世に行こう」

 

 ======================================

 

 数時間後。

 二人はとあるホテルで”パーティの余興”として衆人環視のなかで地上から数メートルもある鉄骨を渡るギャンブルに大金を求める多数の参加者と共に参加。渡りきった挑戦者上位2名には大金との引換券を取得する。

 その数時間後。引換券を換金するため今度は地上からは74m(約20階分)の高さがある、手を触れれば落下は必須の死なない程度に電流が流れた鉄骨を渡るゲームに参加。失敗すれば即死亡という恐怖と心理的圧力に負けて、参加者は「金はいらないから電流を切ってくれ」と懇願。しかし責任者の男は「世惑い言だ」と一蹴。無惨にも参加者は次々と転落、粕人と仏宇野を残して死亡した。

 そんな恐怖と闘いながら粕人は先に鉄骨を渡り切った。しかし

 

「!」

 

 橋のスタート地点から見えるゴールポイントのドアは気圧の変化による突風で落下。

 

「……え? う、ウワアアアアアアァァァァァァッッッ!!!!」

 

 命からがらやっとたどり着きやり遂げたという安堵、大金を得ることができるという歓喜、それらを容赦なくもぎ取られ思考を「なぜ?」と思考を停止させて粕人は転落した。

 

「く、葛原ァァァァァァッッッ!!!!」

 

 暗闇で見えなくなった親友の最期に気力を奪われ、仏宇野はその場に立ち尽くすしかなかった。

(進むべきなのか? ……それとも戻るべきなのか?)

 親友の死に絶望しつつもどうすればいいか思案していた仏宇野。その時ゴール付近にガラスで出来た新たな道を発見した。

 

(このままゴールと思われたドアを開けば葛原の二の舞。だからといって戻る気力も体力もない。これに賭けるしかない!)

 

 覚悟を決めて仏宇野はガラスの道に片方の踵を置いた。踏んだ瞬間、砕け散る恐怖が脳裏をかすめるも勇気を振り絞り足をつける。

「よし!」

 両足をガラスの道に乗せて壊れないことを確信した仏宇野はそのままガラスの道を歩き本当のゴールに到達。そこで待っていた責任者の男に換金を要求するが、男はは「金はいらないから電流を切ってくれという願いを聞き入れた。だから換金は無効」と拒否。

 

「だったらその場で切れよ!!」

 

 そんな返答に納得できるはずもなく暴れる仏宇野に、その場で様子を見ていた主催者側のトップが「こちらにも落ち度があるからチャンスを与えよう」と一勝負を提案。その案を仏宇野は呑む。

 その後仏宇野は皇帝カードというそれぞれのプレイヤーが先手後手の順に分かれカードを裏向きに伏せて出す変則じゃんけん型のゲームを受ける。

 幾多の修羅場をくぐり抜けた対戦相手に苦戦する仏宇野だったが、ゲーム前に渡され身に付けさせられた時計が脈拍などを相手に伝えていると見抜くと、自身の持つ斬魄刀・写絵(うつしえ)の力で自分が場に出したカードが別のものであると自分自身を錯覚させ勝利。

 その後イカサマなしの真剣勝負に勝利し、主催者側のトップをティッシュの箱を用いたクジでさらに大金を得ると尸魂界(ソウル・ソサエティ)へと帰還した。

 

 

 なお粕人は自身の斬魄刀、幽世(かくりよ)閉門(へいもん)ですでに尸魂界に戻っていたことは言うまでもない。




本作とはまっっったく関係ありませんが、福本伸行先生のカイジシリーズは人生やこの世の真理をついた名作だと思いますのでおすすめします。
なお「賭博黙示録カイジと展開が似ているなぁ」と思う人はいるかもしれませんが、気のせいです。もう一度言います、気のせいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

月読「計画通り」

 四番隊隊士・仏宇野(ふつうの)段士(だんし)は十二番隊二十席の葛原(くずはら)粕人(かすと)の協力を得て、日本円にして約二千万円相当の大金を得ると、翌日に何故か他隊の砕蜂(ソイフォン)に譲渡した。

「……」

 その事実を知った二番隊平隊士で仏宇野段士の実母、仏宇野(ふつうの)八葉(やつは)は面白くない顔で呟いた。

「砕蜂隊長には少し痛い目を味わってもらおうかしら」

 

 ====================================================

 

 翌日。隠密機動特別地下室

「各分隊の長である五人全員が(そろ)うのは何時ぶりかしら?」

大前田(おおまえだ)副隊長(に連絡が行っていなかったせいで)不在が多かったので、かれこれ数ヶ月ぶりなのは間違いではないな」

 大きく見開かれた目と髪型を似せれば砕蜂と見分けがつかない檻理隊分隊長・鬼塚(おにづか)静気(しずき)の疑問に、古参の裏見隊分隊長の鬼撫(おになで)がしんみりと事実を告げる。

「ところで砕蜂隊長。この度の招集はどのような件で?」

 女性の下半身(主に下着)のことを喋らせなければクールなイケメン忍者、裏廷隊分隊長・逃隠(にげかくれ)才蔵(さいぞう)が四人を代表して砕蜂に今回の緊急招集の理由を尋ねる。

「うむ」

 砕蜂は部下の顔を見た後に「こほんっ」と軽く咳払いをしてから口を開く。

「お前たちの耳にも裏見隊の月光(げっこう)が先日私が提示した金額を持って尸魂界(ソウル・ソサエティ)に戻ってきたことは届いているだろう」

「えぇ。確かに俺らの耳にも届いてますが……それと今回の招集に──」

 何の関係が? そう尋ねようとした大前田(おおまえだ)希千代(まれちよ)の台詞は砕蜂の獲物に突き刺す毒蜂のような鋭い視線で閉ざされる。

「そこで、だ。この金を先日行われた護廷十三隊対抗リレーの残念会の資金にする。異論はないな?」

 

 ッッッッッッ!!!!???? 

 

 砕蜂の言葉に四人は驚愕する。部下に厳しく、叱責と体罰を行うことはあっても部下を慰めるためにお金を使うほど心優しい人物ではないことを知っていたからだ。

 

 …………

 

 四人の驚愕の表情は疑心へと変わる。

「砕蜂隊長」

(こいつは偽物だ!)

 同日誕生、幼馴染み、親友、好敵手、そして砕蜂が最も嫌っている男・浦原(うらはら)喜助(きすけ)を崇拝の域に達するほど尊敬している理由で砕蜂と険悪な間柄である静気が斬魄刀に手をかけた。が、すぐに斬魄刀から手を離した。なぜならば

 

「ふふっ。これで夜一(よるいち)様は『隠密機動に泥を塗った部下をあえて慰めるとは、お主も成長したのぉ』とお褒めの言葉をかけてくれるに違いない!」

 

 自らが崇拝する四楓院夜一にお褒めの言葉をもらう妄想する姿を見たからだ。

 四人は確信した。先ほどまで疑念を抱いていた目の前の女は正真正銘、自分たちの上官である二番隊隊長兼隠密機動総司令官・砕蜂であると。

「それでは日にちは明日。店の手配は大前田、お前に任せる。それと裏見隊など仕事や諸事情で来られない者には来月の給料に色を付けておく。それでは解散!!」

 

 ====================================================

 

 緊急会議が終わった同時刻。

「ふふっ!」

 二番隊兼隠密機動総司令官とは思えないほど妄想でだらけた顔の砕蜂が廊下を歩いていた。

「月光が持ち帰ったあの大金……どのようにしようか!」

 自らが崇拝する四楓院夜一を模した人形などを制作し、砕蜂は自らの部屋に埋め尽くす妄想にふける。

「砕蜂隊長」

「ん?」

 後ろから呼び掛けられ、砕蜂が振り返る。そこには裏見隊分隊長・鬼撫という裏の顔を持つ古参の側近、犬飼(いぬかい)鳴ノ介(めいのすけ)が立っていた。

「犬飼か、どうした?」

「はい、先ほどの残念会の件。刑軍及び裏見隊全員に通達しました。檻理隊及び裏廷隊も全員に通達したとのことです」

「ん? 残念会……何のことだ?」

 意味が分からない砕蜂に犬飼は「御冗談を」と周囲に人がいないことを確認してから落ち着いた様子で答える。

「先ほど我々分隊長を緊急招集されたではありませんか。月光が得た大金を元に」

「残念会……だと……?」

 夜一のグッズ制作費用にしたお金が残念会に使われるという寝耳に水な情報に、砕蜂は驚愕の表情を浮かべる。

(ど、どういうことだ!?)

 どうしてそのような状態になったのかわからず混乱する砕蜂。その答えは砕蜂はすぐに理解する。

「おぉ、砕蜂!」

 砕蜂は振り返る。そこには自らが敬愛する元上司、四楓院夜一と二番隊食堂係、仏宇野八葉の姿があった。

「どうされたのです? 夜一様!?」

 予期せぬ夜一の登場に砕蜂は声を上ずらせながら尋ねる。

「いや。久しぶりに二番隊隊舎(こっち)を覗いてみたらのぉ、八葉に呼び止められてのぉ。『ぜひ明日行われる残念会に夜一様も参加してください』と言われてのぉ。しかし護廷十三隊対抗リレーで最下位になった部下を叱咤するのではなく慰めるために金を出すとは……お主も成長したのぉ!」

 腰に手を当てて「あははっ!」と楽しそうに笑う夜一に砕蜂は困った顔で「あ、ありがとうございます」と返す。

(どうしてだ? どうしてこんなことに……ハッ!)

 ある可能性が頭をよぎり砕蜂はうつ伏せていた顔を上げる。

 そこには夜一の隣にツインテールの幼女から一変、乳首が見えそうになるほど服をはだけさせた、夜一に負けず劣らずグラマラスな体型の裏見隊副分隊長・月読(つくよみ)が計画通りとニヤリと笑っていた。

 

 

 

 




計画通りと聞くと、どうもある有名キャラを思い浮かべます。
名前に月がついてるので余計に(^-^;


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

仏宇野はチャリティーバザーに出品する物を集めるようです

「……う~む」

 四番隊副隊長、虎徹(こてつ)清音(きよね)は頭を悩ましていた。

 一ヶ月前に行われた隊首会議で未だ爪痕を残す10年前の霊王護神大戦の復興案。その資金を集めるため四番隊隊長である実の姉、虎徹(こてつ)勇音(いさね)の提案によりチャリティーバザーを開催することになったのだが、その商品が今一つ集まらなかった。

「う~ん、どうしたものか。ん? またか……」

 遠くから聞こえてくる騒動の音に清音は大きくため息をついた。

 四番隊恒例となっている騒動の発生源。それは

「ゆ、許せ! お願いだから!!」

「覗き3000回目を繰り返し何を許せというの? このクソ亭主が!!」

 のぞきの常習犯にして四番隊の問題児、仏宇野段士が妻であり上官である一葉(いちよう)音芽(おとめ)を筆頭に怒り狂う女性陣に捕まり命乞いをする声だった。

「覚悟はいいわね。このバカ亭主」

 音芽は斬魄刀に手をかけた。その時だった。

「!!」

 清音にある名案が浮かんだ。

「待って、皆! 私に仏宇野を預けて!!」

「こ、虎徹副隊長!?」

 何かを言おうとした音芽に清音は「私に考えがあるの」と制止すると土下座する仏宇野の首根っこを掴み副隊長室へと連れて行った。

 清音の説明に腕を組んだ仏宇野は「なるほど」と頷いた。

「つまり俺が護廷十三隊の中で四番隊を一番にするほどの寄付金とバザーの品を集めれば?」

「覗き3000回されて怒り狂う女性隊員達を説得してあげるわ」

 その時だった。

「すみません、虎徹副隊長。少々お時間を頂きたいのですが……」

 ノックをして現れたのは四番隊第三席・山田(やまだ)花太郎(はなたろう)だった。

「虎徹副隊長。山田三席をお借りします」

 そう言うと仏宇野は「え? ええっ!?」と状況が理解できていない花太郎を連れて副隊長室を後にした。

 

 ====================================================

 

 1時間後。二人は葛原粕人の部屋を訪れていた。

「仏宇野……それに山田三席。どうしたんですか?」

 親友とかつての上官の突然の訪問に粕人は不思議そうに来訪した二人を見る。

「葛原」

 そんな粕人に仏宇野はニヤリと笑う。

「つかぬ事聞くが。お前はバザーに何を寄付したんだ?」

「え? 尸魂界(ソウル・ソサエティ)の銘酒お試しセットだけど?」

「ほうぉ、そうかそうか!」

 そう言ってから仏宇野は続ける。

「実は我が隊ではバザーへの品物がちょっと不足していてね。お前にちょっと協力してもらおうと思ってね。ほらお前には俺に借りがあるだろう?」

「……」

 粕人は黙る。仏宇野の言う借りが先日の賭けで獲得したお金だと察したからだ。

 その際粕人は半々にしようと提案したが、粕人が多額のお金を必要としていることに気づいていた仏宇野は「お前がいなければこの金はなかったんだし、差額分はいずれ何かあった時に返してくれればいい」ということでその場を収めた経緯があった。

「仏宇野」

 考えること数秒。粕人は口を開く。

「その借りに関してはいずれ払わせてもらう。もちろん利子をつけて。それなら文句はないだろう? それになんで僕が別の隊に寄付をしないといけないんだ?」

「ほぉ、別の隊ねぇ」

 親友の予想外の返答に戸惑いつつも、瞬時に切り替えた仏宇野は粕人との距離を一気に詰める。

「お前は元々四番隊だったよな?」

「それがどうした?」

「そして卯ノ花隊長には面倒を見てもらった。それも大恩人と言うくらいに」

「だ、だからどうした……それとこれとは関係ないだろ……」

 冷や汗を流す粕人に仏宇野は粕人の心を追い詰める言葉を放つ。

「つまりお前は卯ノ花隊長に大きな恩がありながら『関係ない』と言うんだ? 返しても返しきれないほどの恩があるかつて隊が困っているのにも関わらず協力しないんだ? へぇ、そうなんだ?」

「……ッ!!」

 その言葉に粕人は青ざめ、先ほど以上に冷や汗をかきながらガタガタと震える。

「そうかそうか。葛原粕人という男はそんなにも薄情で他の部隊に異動したら恩義を忘れる畜生(ちくしょう)だったのかぁ。卯ノ花隊長の墓前にそう伝えておこう。行きましょう、山田三席」

「ま、待て!」

 粕人は慌てて仏宇野の服を掴む。

「待て?」

「いえ、待ってください……」

 振り返る仏宇野に粕人は腰を低くさせる。

「じ、実はかつて恩義のある四番隊のためにとっておきのを用意していたんだ。だから、ね?」

 粕人は畳をひっくり返し自分専用の倉庫に通じる地下通路へと二人を案内した。

 案内されるや否や、仏宇野は粕人が見繕った物に目をくれず、粕人がコツコツ集めてきた年齢指定のコレクションに注目。「それはダメだ!!」と止めようとする粕人を卯ノ花烈の名前を出して黙らせると、いつの間にか外に手配していた隊士達とともに根こそぎ持ち出した。

「はは、ははは! ぼくの、ぼくのコレクションが! ぼくが、ながねん……たがくの、おかね……ぜんぶ、ぜんぶ……なくなった…………ふふふ、ふはははっ!! あひゃひゃひゃっっっ!!!!」

「く、葛原二十席……」

 足を棒にして集めてきたコレクションを失い、壊れた笑い声をあげる粕人の後ろ姿に同情を向ける花太郎に対し

「さて、次に行きましょう。山田三席」

 親友の大事な物を奪ったという罪悪感を微塵も見せず、仏宇野は次なる獲物へと向かった。

 その後、仏宇野は阿近(あこん)を始めとする十二番隊及び技術開発局の人間から得意の話術で強引に奪い取り、日付が変わる頃には用意した台車数台分の品々が積まれていた。

「ふう。これでお仕置きは避けられたな」

 仕事を終えてご機嫌な様子で綜合救護詰所に現れた仏宇野は知らなかった。

 仏宇野を身柄を確保するために十二番隊の戦車部隊及び航空部隊が迫りつつあったことを。

 それを察知して地下水路から逃げようとした仏宇野を

「ジュルリ。待っていろよ、妖刀(ようとう)殲滅丸(せんめつまる)。もうちょっとで仏宇野段士(ゴミやろう)の血をたらふく吸わせてやるからなぁ!!」

 地下水路を知り尽くした元四番隊にして妖刀殲滅丸と死守天装を装備した親友、葛原粕人率いる本隊が待ち構えていたことを。




どうでもいいけど。技術開発局の面々よ。戦車と戦闘機持ち出すなよ……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

浦原喜助、世界を救う!

 浦原商店 お茶の間。

「うひょひょひょっ!」

 ちゃぶ台に置かれた札束の山を見ながら浦原商店の店主、浦原(うらはら)喜助(きすけ)は扇子で口元を隠しながら笑っていた。

 先日尸魂界(ソウル・ソサエティ)で行われた護廷十三隊対抗リレーで『一着になる可能性が天文学的確率でない』十二番隊と四番隊に大金を賭けた。

 結果は一位を走っていた本命中の本命、二番隊アンカーの大前田(おおまえだ)希千代(まれちよ)のまさかの転倒(・・)。対抗にされていた十一番隊の班目(まだらめ)一角(いっかく)も巻き込まれて最下位に転落。転落した二番隊と十一番隊に代わって最下位争いをすると思われた十二番隊と四番隊がギリギリの争いを繰り広げ、わずかの差で十二番隊が一位の座をつかみ取った。

「いやぁ、まさか先頭を走っていた二番隊が転倒し、十一番隊がそれに巻き込まれるなんて……いやぁ、勝負に不慮の(・・・)出来事(・・・)はつきものですねぇ」

 邪悪な笑みを扇子で隠しながら目の前のお金の使い道を思案する。

「さて、まずは夜一サンも含めた皆で世界一周旅行をして……それからこの店を拡張させて──」

「次のニュースです──」

「ん?」

 喜助は付けていたテレビの方へ振り返る。

「……なん……ですと……」

 そのニュースを見た喜助は驚きの声を漏らした。そのニュースは世界で大流行を引き起こした病原菌で渡航などの移動を制限、それに合わして店などが営業を制限するというものだった。

「ふふふ……面白いですね!」

 喜助の身体から禍々しい赤黒いオーラが立ちのぼる。今まで立てていた計画がご破算したからだ。

「せっかく考えた楽しい計画を潰されるとは……許せませんね!」

 喜助の目に狂気が宿る。それからの喜助の行動は早かった。自らを崇拝レベルまで慕っている元部下、鬼塚(おにづか)静気(しずき)に新型ウイルスの詳細な情報を入手できるスパイと特効薬を作る助手を探してほしいと頼んだ。

 その後四番隊平隊士、仏宇野(ふつうの)段士(だんし)は現世に赴き某研究所などから情報を入手。そして一ヶ月の連続勤務後に三日間の休暇予定だった十二番隊二十席、葛原(くずはら)粕人(かすと)は急に『新薬を作る浦原喜助を手伝う』ことを思い出す(・・・・)

 その後仏宇野が入手した情報を元に粕人と共に、星十字騎士団(シュテルンリッター)の一人で毒の変質に適応する能力を持つアスキン・ナックルヴァールの能力を参考に、様々な形に変異する新型ウイルスにも対応できる新薬を開発。開発した新薬は瞬く間に全世界に配布。一ヶ月後には新型ウイルスの終息宣言が出された。

 

 

 

 ちなみに新型ウイルスを撲滅させることに意識が向きすぎて、配当金全てを開発費と新薬に使ってしまったことに浦原喜助が気づくのはもう少し後である。

 にした。

 

 

 ====================================================

 

「おや、黒崎サン。どうしたんですか?」

「あ、浦原さん」

 クロサキ医院の前を通りかかった喜助は、缶コーヒーを片手に空を眺めていた黒崎(くろさき)一護(いちご)に声をかける。

 一護は飲みかけの缶コーヒーをグイッと飲み干して喜助の方へ振り返る。

「ほんの少し前まで新型ウイルスで世界が大パニックになってたじゃないですか。もちろんクロサキ医院(うちの病院)も。それがあっという間に新薬が開発されて一気に終息したじゃないですか。……医者や警察は暇な方が良いわけですけど、あの時との落差にちょっと体がついていってなくて……本当に新薬を作ってくれた人に感謝ですよ」

「本当ですねぇ」

 そう言って一護は微笑む。それを見て喜助も微笑む。

 粕人達と共に新薬を作った喜助だったが匿名で新薬の情報と製品を世界に配付したため、当人達以外にこの事を知っている者はいない。そしてそれは喜助と目の前で話している一護も。

「それじゃあ黒崎サン。何かあったら浦原商店(うち)に遊びに来てください」

「ありがとう、浦原さん」

 家へと入る一護、道交(みちか)う人々が新型ウイルスがなかったかのような日常を過ごしている姿に、喜助は表情を変える自分の顔を見られないよう足早に浦原商店へと(きびす)を返した。

 

 




皆様いかがお過ごしでしょうか?

2021年もあと一時間とちょっとで終わります。数か月も投稿できなかったのは本当に申し訳なくおもいます。
今後も読んでいただけると幸いです。

それではよいお年を。

追記。
新章第三十三話十番隊編 仕事の鬼、松本乱菊の後に『新章第三十三話十番隊編 松本乱菊、墓参りに行く』を投稿しました。
ご迷惑をおかけすることをお許しください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

涅マユリは何故葛原粕人を排除しないのか?

何かどこかで見たなぁ、と思われるかもしれませんが気のせいです。


 (くろつち)マユリは葛原(くずはら)粕人(かすと)の事が嫌いである。将棋で全ての駒を取られるという屈辱的な負けを与えたことを皮切りに、自身に不平不満を持っていること、かつて自分を殺そうとしたこと、そして

「クズ、明日は(ねむり)八號(はちごう)と現世に遊びに行く。だから隊首会やこないだの実験データのまとめetc(などなど)任せたヨ」

「はい! こんなこともあろうかと隊首会で話す内容と隊長の仕草などを頭に叩き込みかつ隊長に変装できるように(きょう)(かすみ)水月(すいげつ)(第五話登場)を改造して光の屈折で隊長に見えるようにしました。声も物まねマイク(第九話登場)を改良し誰が聴いても僕だと気づかれない自信があります。

 あと実験データを言われると思ってすでにこちらにまとめてあります。

 それと隊長がどこかに急に出ていかれると想定して、お弁当を用意していたのが無駄にならなくてすみました。それと……」

 

 自分が心の底から()み嫌う、「千の備えで一使えれば上等。 可能性のあるものは全て残らず備えておく。それがアタシのやり方です」という言葉を残した浦原(うらはら)喜助(きすけ)を思い出させる行動に。

 

「しかしクズは人体実験やストレス解消、雑用処理、トカゲのしっぽ切りなど利用価値がある。どうしたものか……そうだヨ!」

 自室で腕を組んで考えていたマユリは先日、眠八號と見たアニメを思い出すとたまたま部屋を訪れた部下に「私からの命令だ。クズに──」と伝達をした。

 

 ======================================

 

 技術開発局 廊下。

「うぅ……やっと終わった……」

 フラフラな上手く動かせない頭と身体を無理やり動かし、粕人はマユリがいるであろう局長室に向かっていた。

 

 クズ、お前に特別に休暇をやろう。だからその分前倒しで仕事をしておくんだヨ

 

 そう言われた粕人は言われた通り仕事を休憩時間を削って前倒しで終わらせた。

 そして前倒しで終わらせた仕事の報告と確認をしてもらうため、局長室の前に立つ。

 入ろうとした。その時だった。

(……何だ? 何か嫌な予感がする……)

 脳内でビビッとした粕人は入室をためらう。

「……もう少し後にしようか」

(いや、隊長のことだ。「嫌な予感がしたので報告が遅れました」なんて言ったら……うぅっ!)

 激怒したマユリを想像し、粕人は覚悟を決める。

(大丈夫だ。何が起きても対応できるように注意深く周囲を見て、逃げ道を確保をすればいい! よし、大丈夫だ!)

 想像できるあらゆる状況を頭で考えた粕人は大きく深呼吸をすると部屋に入った。しかし粕人は知らなかった。部屋に入った後で思わぬ事態に対処するでは遅すぎたという事実に。そのツケは扉が開いた瞬間から始まった。

「あれ? ……なんか、頭が……」

 見慣れた局長室と今まで嗅いだことのない甘い香りが鼻に入る。その香りに身体は無意識に鼻から大量の空気を吸い込んでしまう。

(ま、まずい! 今すぐ逃げ、ない……と…………)

 大量に吸い込んだ甘い香りが脳内にまで浸透すると、粕人の目は(うつ)ろとなる。それと同時に全身から力が抜けて前かがみになる。

「僕は、あれ……ここ……どこだっけ……」

 見慣れた涅マユリの部屋は次第に食べ頃の桃が実った桃林に底まで見える透明度の高い池、暑くもなく寒くもない理想的な桃源郷の風景へと変わっていく。そこに音もなく目の前に胸元を隠すように黒髪を結わえた、卯ノ花(うのはな)(れつ)に似た天女が現れる。

(うわぁ~、すごいきれいなひとだなぁ〜……)

 大恩人と慕う美女に似た天女に疑問や驚きを覚えない程、粕人の思考力は低下していた。

 優しく微笑む女性が粕人の口先に飴玉を差し出す。何も考えることなくゆっくりと口を開ける粕人に、天女は粕人の口に飴玉を入れた。

 粕人が飴玉を飲み込んだ、次の瞬間。

 

 ニヤリッ

 

 天女に似つかわしくない、歯をむき出しにした獲物がかかった笑みを粕人は大きく目を見開く。

「!? ……うぅっ、う、うううぅぅぅっ!!」

 苦悶の表情を浮かべ胸元を抑える粕人。

「クククッ」

 天女、ではなく対象者に幻を見せる香で天女に化けた涅マユリが膝から崩れる粕人をニヤニヤと見下ろす。

「……く、涅、隊ちょ!? ……うぅ、うわぁ、うぅ、ぅぅっ…………」

 見る見るうちに粕人の体は死覇装(しはくしょう)と同化し、遂には反物(たんもの)になった。

「ククク、クズ。しばらくお前は休むがいい。これでどんな巨大な被験体も簡単に持ち運べるようになったヨ」

 先日見た中国妖怪の頭目が日本に攻め込み日本の妖怪達を次々に反物に変えていく。そこからヒントを得て開発した道具の実験が成功したことに満足したマユリは、反物を拾うとクルクルと巻いて戸棚に入れた。

 その直後だった。

 

 ブゥッー!! ブゥッー!! ブゥッー!! 

 

 異常事態を知らせる警告音が局内に響き渡る。

破面(アランカル)を確認!! 全隊員、及び全局員は持ち場に入り迎撃と非常事態に備えよ!! 繰り返す。破面を確認!! 全隊員、及び全局員は──』

「何だと、このタイミングで……ん?」

 懐に入れた伝令神機からマユリに報告が次々と入る。

 

『局長、大変です。保管庫で火災が発生! 我々だけでは消火しきれません!!』

『こちら十二番隊隊舎です! 破面がこちらに! 助けてください!!』

滅却師(クインシー)が挟撃する形で攻撃してます! どうすれば!!』

 

 マユリにとって不都合な情報が続々と入る。

「何だ、何なんだこの状況は!?……ハッ!!」

 粕人を使い勝手のいい駒としか考えていなかったマユリは気づく。

 葛原粕人という男は雑用のスペシャリストである。そのためベテランから新人まで粕人に頼ることが多い。つまり自然と自分や阿近などの上層部と隊員・局員の末端をつなぐ存在となっていた。

 その粕人がいない状態では命令や情報の伝達が遅れる。一分一秒の遅れが命取りになる状況ではそれは命取りだった。

 また粕人はマユリの無茶ぶりによって、緊急事態に対して的確な行動に移せる行動力と判断力が鍛え上げられた。熱いヤカンに触れた際、脳を経由せず脊髄(せきずい)から手を放すように身体に命令する脊髄反射(せきずいはんしゃ)のように、上層部に伝えていては間に合わない状態ではその場にあった命令を下せることが出来る。

「クソが!」

 マユリは吐き捨てると矢継ぎ早に命令を発して窮地を乗り越える。しかし翌日、そのまた翌日と十二番隊及び技術開発局を揺るがす事件や事故が多発した。

「……ハァッ、ハァッ…………これでは仕事にならない上に私の研究に支障が出るヨ」

 熟慮(じゅくりょ)に熟慮を重ねた結果、マユリは粕人を元に戻すことに決めた。

 その日を境に今まで起きた問題がピタリ! と止まった。

 

 

 まるで今まで一人に降りかかっていた災いが元に戻ったかのように。




本編とは関係ない話。

チー(ゲゲゲの鬼太郎)
ゲゲゲの鬼太郎に登場する中国妖怪を率いる妖怪。鬼太郎を始めとする日本妖怪を飲み込んだ者を反物に変える丸薬で次々と反物に変えて戦況を有利に進めた。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。