Fate/うだうだ Order (爆死者)
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うだ1。こうして彼らはカルデアへ渡る。
何とか沖田さんを我がカルデアへ招きたくて書いた。
「……なあ、沖田さん」
「なんですか?マスター」
コタツの台を挟んで座りお茶を啜ってほっこりしていた彼女は湯呑みを置く。その音がいやに大きく聞こえるのは何故だろう。
「……俺ってなんでこの世界に来るのに特典を沖田さんにしたんだろうね」
「ひどいっ⁉︎マスターそれ本人の前で言っちゃダメなやつです!」
がたんっ!と膝立ちになって身を乗り出して来る沖田さん。俺は碇司令のポーズで動かない。
「……いや、ほんと。自分の能力強化にすれば良かったのか。こう、もっと小便利な【大嘘憑き】とか【ニノマエのスペック】とか貰っときゃ良かった。カンニングとかし放題じゃん。沖田さんに不満はこれっぽっちもないが、この世界においては……何だ。オーバースペックだなって、ぁぁあ⁉︎」
「(ノ°Д°)ノ======_|_|_!!!!」
星一徹クラッシュだとぅ⁉︎湯飲みとお茶請けが!
「あっぢぢぢぢ!あっつ!お茶かかった!ごめんって!冗談だ!」
「うわーん!もうマスターなんて知りません!私は今夜で蒸発します!精々家計に苦しんで下さいっ!」
「いや君働いてないよね⁉︎一般的に俺のバイト代と奨学金で食ってるよね⁉︎」
「ええですからマスターは思い知るんです!私がいなくなってからお金の減りがなくなった家計簿を見て、『ああ、あんなに邪険にしたけど俺にとって沖田さんは唯一無二の存在だったんだ』とっ!……コフッ!」
ああっ、興奮し過ぎて病弱Aが!
あと何その離婚ドラマみたいなノリ。
畳の上に血を吐いて突っ伏した沖田さんをひっくり返し、抱え起こすと、彼女は俺を見て寂しそうに笑った。
「ふっ……もういいですよ……どうせ沖田さんはいらない子なんです……病弱Aですしクソステセイバーですし、剣からビームは出ないし……」
「いや、剣からビーム出ないのは仕方ないだろ」
「それは私も思います。が。青いの曰く『剣からビーム出ないのはセイバーじゃない』らしいですし?私なんて仲間と最後まで一緒に戦えない新撰組一番隊隊長(笑)なんですよどうせ……」
目が一言ごとに澱んで行く……自分の言葉で凹んでるぞこの人!自傷行為か!やめろぉ!
「いやいや、そんなことないよ沖田さん。確かに耐久とか低いのかもしれないけど、ほら!敏捷とかは青王は藤丸君に召喚されたらBだけど、沖田さんはA+。技量も高いし奇襲向けだよね!」
「でもそれ以外のステータス大体負けてますよね?」
「……」
「うわぁあん!やっぱり沖田さんは所詮アルトリアラインナップの一つに過ぎないんですよ!この顔が「沖田顔」ではなく「アルトリア顔」と呼ばれるのがその証!」
しまった一瞬の沈黙が。
でも顔に関しては登場順とか考えても仕方ないことだろうに……これ以上放っておいたらどんどんメタいこと言い出しそうだ。
「沖田さん」
「何ですか。マスターだって実は黒王とかの方が汎用性高いとか考えてるんでしょう?」
もはや目が死んだ魚と化しつつある沖田さんに、俺ははっきりと宣言する。
「沖田さん。仮にあの神様に『選びなおしてもいいよ?』って言われても、俺は君以外を選ぶつもりはないよ」
「…………本当ですか?」
「実際この世界に降りて、俺は沖田さんがいて良かったと毎日思っている」
「……」
「さっきはおふざけが過ぎたが、異世界転生とかいう地雷を明かせる人がいる。心を許して話せる人がいる。それはとても、嬉しいことだから。
だから俺は、沖田さんがいてくれて本当に良かった。
ありがとう、沖田さん」
それを聞いた沖田さんはゆっくりと起き上がったが、顔が少し赤い。うん、あんなこっぱずかしいセリフ言われたらそうなるよね。こっちも恥ずいです。
沖田さんは「あー」とか「うー」とか唸っていたが、やがてスッキリとした笑顔を見せてくれた。
「……全くもう、マスターは。ずるくないですか?落としてから上げるなんて」
「すまん。さっきのは正直、俺が悪かった」
「もう気にしていません。それより、マスター」
「うん?」
「マスターには私が必要ですか?」
「うん」
「そうですか……マスターは私がいないとダメなんですね!沖田さん大勝利〜!」
沖田さんは起き上がってぴょんぴょん跳ね出した。
うん?いや、そうなんだけど、そうなんだけど!なんか釈然としない!
「いいんですよマスター。必死に取り繕ったりしなくたって!全くもう、マスターは照れ屋さん、ですねえ」
立てた指を『チッ、チッ』とでも言いたいのか横に振られ、ちょっとイラっとする。
何だろう、物凄く今日の夕飯をたくあんにしてやりたい気分になってきた。お茶碗に盛る米とたくあんの比率を逆にしてやろうか。……そう思ったが。
なんだか沖田さんの笑顔を見てたら、まあたまにはいいかと、そんな気分になるんだから不思議だな。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
このめちゃくちゃ平和な現代世界に転生させられるに当たって、俺は二つ特典を貰った。
一に沖田さん。
二に聖杯である。
……聖杯だ。あの万能の願望機だよ。
選ぶときは召喚補助の関係もあってノリノリで聖杯をチョイスしたが、若干後悔している。だって聖杯を個人で所有するとかダメ人間製造機にしかならないだろ。
家から一歩も出なくても生活出来るし、娯楽品でも望めば手に入るんだぞ?働く必要もない。
現に俺は最近ずっとコタツに籠っているわけだが、しかしそれでも、人並みに幸せでありたいので聖杯は余程切羽詰まった時にしか使っていない。財布落とした時の交通費とか(後から財布を呼び寄せれば良かったと気がついた)、念のために沖田さんや聖杯を魔術的存在として感知されないようにしたりとか。
まあそういうわけなので、スーパーに買い物に行くのは徒歩ですたすた向かうのだ。
帰り道には沖田さんが買ったロリポップを咥えながら帰るのがお決まりである。
スーパーのビニール袋を両手に提げて夕飯の献立を考える。
「卵は特売、あとモヤシ、豚肉に野菜ジュース……野菜炒めは確定だろ、卵は……」
「卵焼きですか?砂糖が嬉しいです」
「いや俺は出汁派」
「砂糖」
「だし」
「砂糖です」
じゃんけんして砂糖に決まった。汚い、流石英霊の動体視力汚い。
「あ。マスター、あれ」
街中で、沖田さんが示す方向に献血車が止まっているのが見えた。バスのような大きな車で、「400mlの献血を宜しくお願いします」と看板が立っており、数人が列を作っている。
「行ってこようかな?」
「マスターは献血好きですねえ」
「好きとは違うけど……まあ、自己満足だよ」
「私はサーヴァントだから提供出来ませんので、待ってますね〜」
ひらひらと手を振る沖田さん。
「うん、沖田さんは提供される側だもんな。よく吐血するわけだし」
「いや違いますよ⁉︎」
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
献血を終えて家に帰れば、さて料理の時間です。
俺は沖田さんにレタスを渡すと、フライパンを火にかけモヤシを取り出しながら指示を出す。
「いいか沖田さん!手順は簡単。その葉っぱを丁寧に洗った上で手でちぎり皿に並べる、以上!」
「斬っちゃダメなんですか?」
「字が違う。包丁で切ってもいいが、繊維が傷つくだかなんだかで栄養素が減るらしい」
「へー。初耳ですね」
しゃばしゃばとレタスを洗っていく沖田さんを横目に俺はモヤシと豚肉を焼いていき、香辛料を振りかける。塩胡椒でいいよな、普通に。
レタスはツナとサラダに。豚肉とモヤシの肉野菜炒め、卵焼き(遺憾ながら砂糖)、それと味噌汁。白米に金山寺味噌をこないだ貰ったのでそれも。
米が炊けるのとほぼ同時に他の料理も完成。
そんじゃ、食べましょうか。
コタツに皿を並べて互いの向かいに座り、手を合わせる。
「「頂きます」」
味噌汁を一口飲んだ沖田さんは、ほぅと息をついた。
「……美味しいです……あったまります。マスターって素朴な料理が得意ですよね」
「まあ、俺は家庭料理は美味しく作れるってレベルで、料理上手って言うほどじゃないし……あんまりゴテゴテしたのとかも作れないしな。エミヤさんには会ったことあるんだろ?一回習ってみたいな」
「いいですねえ……デザートの類を習ってきてください」
「いや家庭料理の話だから。パフェとかそういうのは作んねーから」
「そんなー。……でも、味噌汁に限ればマスター、エミヤさんに負けてないと思いますよ?」
「マジで?嬉しい」
マジか。うん、それは嬉しい。超嬉しい。いかんニヤニヤが止まらなくなってきた。
「次はデザート類ですね♪」
「……ぅ、うん。まぁ、おいおいね?」
「楽しみにしてますね?」
やべえ、おだてて要求突き付けてきたよこの子。俺デザート作るの苦手なの知ってるくせに。やることえげつないよ!
俺はジト目で沖田さんを見る。沖田さんはふいっとそっぽを向いてしまった。
「マ、マスターだって似たようなことするじゃないですか」
「えっ」
「えっ」
……。
あれ、俺そんなに悪どい真似するかな?
と、首を傾げていると詰め寄られた。近い近い近い。襟首を掴まれて揺さぶられる。
「さっき落として上げたばっかりじゃないですかー!やだー!」
「そんな泣きそうな感じで言われても!わざとじゃないし⁉︎悪かったよ!ごめんって!」
「わざとだったらたまったもんじゃないですよぉ」
「……沖田さんさっきのデザート要求わざとだよね?」
「……」
黙っちゃった、黙っちゃったよ。
つつい、と途端に目を逸らす沖田さん。
「私はほら、アレです。一応褒めてからお願いしただけですから。特に問題ないですよ?」
「そうだね」
「……えっ?」
「えっ?」
いや別に、褒められて悪い気しないし、そんないちいち怒らないし。そう言うと、沖田さんは顔を赤くしながらバシバシと卓を叩く。
「なんですか!張り合いがないじゃないですか!」
「なんで俺怒られてんの⁉︎」
「掛け合わなかったらFate/うだうだorderって名乗ってる意味が無いじゃないですか!マスターもっと喋ってくださいよ!」
「もう十分うだうだしてるよ!卓に付きっぱなしだよ!これ以上ない程に日常を謳歌してるよ!」
これ以上何を望めと!
と、沖田さんとガタガタと揉み合い(勿論俺は沖田さんへの魔力供給を大幅カットした上に自分に聖杯で最低限の強化を施して)に突入。沖田さんの筋力がクソステ故に辛うじて泥仕合になり、床を二転三転し、俺がマウントを取られたところで俺たちは動きを止めた。何故か。
「……今呼び鈴鳴った?」
「……鳴りましたね、コフッ!」
「ぎゃあああ!目に入ったぁ!毒霧が!」
最早卓上に常備されているタオルで顔を拭き、玄関に出て扉を開けるとーー
「……」
ぎゅむっ。
俺は無言で扉を閉めた。
それを見た沖田さんが不思議そうに首を傾ける。
「どうしたんですか?マスター」
「沖田さん今度は何やらかしたの?正直に言いなさい怒らないから」
「突然の冤罪⁉︎」
俺が扉を開けた先には、ムキムキマッチョのハゲの外人さんwith黒スーツ&グラサンがいた。うちにあんな、物語でしか見かけたことない幻想種が来る予定はない。
それを聞いた沖田さんが念のためと乞食清光を実体化させる。俺もTシャツの下にジャンプを仕込み(ノリ)もう1度扉を開けてーー!
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
卓の上には、幻想種に渡された一枚の封筒。
「あっはははは……」
「うわぁ……マスター、これマジですか。今日って、四月馬鹿の日でしたっけ……」
俺と沖田さんはひくひくと、頬を引きつらせてその封筒を見つめていた。封筒自体は、ただの封筒だ。そこに描かれたシンボルと文字が問題なのだ。
一見三日月に見紛うような、大波に揺られてほぼ垂直に成っている方舟のマーク。そしてそれを囲う、洪水の終わりを示すオリーブの葉のシンボル。
皆大好き『人理継続保障機関 フィニス・カルデア』のシンボルだ。ただの封筒と言ったが、聖杯に調べて貰ったところ、魔術回路が開いてる人間を調べる魔術式がついてる。俺は開いてないからいいけど、魔術師かどうかのチェック用、なのだろう。
「……献血か」
「……献血ですね」
献血サービスに偽装された適合試験に見事引っかかってしまったわけだ。
「いや待って俺藤丸立香じゃないよね?え、なに?実は藤丸立香は俺だったの?ていうかこの世界カルデアとか魔術師とか存在してたの?この20年ノーコンタクトだったから存在しないとテッキリ……え?マジで?俺が立香で立香が俺で?これから人理修復で魔術王とファイア……あはは、俺が魔術王で立香と人理修復にファイア……人理焼却式魔神王ゲーティア」
「マスター正気に戻って下さーーーい!ほら、封筒の中身見てくださいよ!
……ほんとだ。
確かにカルデアへの勧誘が書かれた紙にそう記されている。いるが、これ書いちゃっていいの?大丈夫なの?秘匿とかそういうの。
「……なぁ、これこのままだと人理焼却って見方でいいのかな」
「私からはなんとも……しかしマスター、これで行かなかったら死ぬ確率があるって分かった以上、行った方がいいと思います。それにレイシフト要員を探してるってことは、その予定があるってことですからね」
「よし、行こっか」
「早!決断早くないですかマスター!仮にも魔術師の巣窟ですよ⁉︎」
「魔術師はまあ、沖田さんと聖杯がいればどうとでもなるし、最悪人理焼却されなかったら聖杯で『無かったこと』にして帰る。
あっけからんとそう言うと、沖田さんは呆れたように溜息を吐いた。
「……ぶっちゃけマスターの聖杯って普通の聖杯戦争の景品の奴よりよっぽどチート聖杯だと思うんですけど。もう魔法の領域とか割と平気で侵しに行きますよね。【大嘘憑き】とか要らないじゃないですか」
まぁ、神様(ガチ勢)に貰った奴だしネ。
「だからあんまり使いたくないんだよ。デメリットもあるし。日常から飛び出た事態にはガンガン使うつもりだけど」
「デメリット?そんなのありましたっけ?」
「使えば使うほど布団の上から動きたくなくなる」
「気持ちの問題じゃないですか!」
そうとも言う。
「というか今コタツから出ない時点でもう手遅れな気が」
沖田さんのお小言を聞き流し、取り敢えずこのハリー・茜沢・アンダーソンさんに連絡しようと、俺はスマホのパスコードを解いた。担当者の連絡先へコールする。
「あ、アンダーソンさんですか?……はい。……はい。行きます。ただ……」
俺はちらりと、沖田さんの方を見て。
「コタツ持ってっていいですか?」
「私を連れてくことを頼むとこじゃないですかそこ⁉︎」
霊体化してください。
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うだ2。特異点でも兎に角喋る。
ーー目を覚ますと、そこは地獄だった。
炎と煙を上げる街並み、焼け焦げた人の亡骸。骸骨がその中を闊歩する風景は、地獄の獄卒の如し。怨嗟の呻きのような声が怨怨と、聴こえて来る気さえする。
「ーーあ、起きました?マスター」
しかし例え地獄の中だろうと、その声だけは直ぐに分かった。決して忘れることのない、声。こちらを覗き込む彼女。忘れられない、忘れてはいけないーー
「…………………」
「マスター?」
「え?何ここ。俺さっきまでアイマスクとヘッドホンされたぐだ男くんと飛行機でフライハイしてなかったっけ」
「えっ」
「えっ」
忘れてはいけない大切な相棒はしっかり記憶。代わりに別の記憶がアボンしているようだが。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
俺はあの後ハリー・茜沢・アンダーソンさんに連れられ、霊体化した沖田さんと飛行機に乗った。飛行機には画面越しに見覚えのあるぐだ男くんが、アイマスクとヘッドホンをつけられてシートに座らされていてーーうん、どう見ても拉致だ。
ちなみにアンダーソンさんがぐだ男くんを自宅まで尾け回して拉致ったのに対して、俺は強行手段に出られることは無かった。
まあ万一そんな対応を取られようものなら沖田さんと聖杯のコンボで酷い目にあったかもしれないが。アンダーソンさん嗅覚鋭い。
で、そこからの記憶がない。
沖田さん曰くカルデアに着いて「マシュやレフと会い」「オルガマリー所長にぐだ男くんが怒られ」「何故か俺まで説明会追い出されて自室に戻って」「中央管制室ドーン(爆)」らしいのだが。
沖田さんは聖杯に隠蔽されたことでレフにもばれなかったそうで。令呪も一応隠してるしね。
「コフィンなしのレイシフトで記憶飛んじゃったんですかね?マスター、生年月日言えます?」
「西暦████年█月█日……」
「名前は言えますか?ヒント、お爺ちゃんみたいな名前です」
「有馬左玄。お爺ちゃん言うな」
「案外覚えてますね。最後の質問です。マスターの目の前にいる天才無敵の幕末剣士は誰でしょう?」
きゅぴーん、と自分を指差して沖田さんは言う。堂々と、誇り高く、いっそ自慢げに!
「新撰組一番隊隊長、沖田総司さんですとも!」
「自分で言っちゃうんだ⁉︎」
いやにドヤ顔だった沖田さんから目を離し、改めて辺りを見回す。ファイアー。鎮火したら確実に世紀末の様相を呈する光景が広がっていた。
「ぐだ男くんとマシュちゃんと所長も来てるんだよね?探しに行こっか」
「ですね。もう隠す理由もないですし敵地ですから私も実体化しておきます」
「おけ。ただ、エミヤに見つからないように聖杯さんで隠蔽しとくわ。
自分達に気配遮断スキルを聖杯さんを通して一時的に獲得。俺と沖田さんはこそこそと物陰で動き出した。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
「実況の左玄です。現在ぐだ男くんとマシュちゃんと所長が弁慶と呪腕のハサンに追い詰められています。おおっと弁慶の大振り!マシュちゃん受け止めるも大きく後退!沖田さん、今の動きをどう見ますか」
「解説の沖田さんでーす。弁慶さんの宝具って何でしたっけ?」
「……解説ってなんだっけ?ま、シャド鯖は宝具使えないけど」
俺と沖田さんはビルの上にいる。
高いところから探そうとしてビルに登り、双眼鏡で周辺を遠視。つい先程三人を見つけたのはいいんだが、出て行こうと思った矢先にシャド鯖二人がぐだ男くん達に襲いかかっていった。出るタイミングを見失い、そのままずるずると見物しているのだ。俺らとは別に、彼らに助けが来ると分かってないと出来ない行動である。
「……しかしキャスニキ来るの遅くね?あ、沖田さんスルメ炙れた?」
俺は双眼鏡を覗き、沖田さんは俺の後ろで火災の炎で二人ぶんのゲソを炙っている。中々いい匂いが漂って来ていた。
「いい感じにできましたよー。確かに来るの遅いですよね。マスター、ポン酒あります?」
「ある訳ないでしょー。聖杯さん使えば出るだろうけど、流石にここで飲む気にはならないし。沖田さん飲むの?」
「マスターが飲まないなら辞めておきます。戦闘も次に控えてますしねー。っていうかスルメがあることがまず不思議なんですけど」
「非常食です」
「いや、ただのおつまみじゃないですか!」
横にやって来た沖田さんに双眼鏡を手渡し、代わりにスルメを半分受け取って口に含む。スルメはよく噛むことでヒスタミンが分泌されやすく、満腹感を得られるので小腹が空きそうな時には丁度良いのだ。
決してカルデアで酒盛りするために買い込んでいた訳ではない!特異点Fに持ち込んだのも記憶にないが、別に火災の炎で炙れるとか考えていたわけでも無かろう!そう、違うったら違うのだ!
「あ、マスター、キャスニキ来ましたよ。アンサズしてますアンサズ」
「なんか遅かったな。ちょっとハラハラした。転移して行かないとダメかと思ったよ」
「ですねー。……よくよく考えたらクー・フーリンってアルトリアシリーズほどじゃないけど多いですよね」
「そう?キャスニキ、槍ニキ、プロトニキ、オルタニキ……確かに。アルトリアシリーズの皆さんも彼らを見習ってもう少し落ち着きを持てばよろしいのではなかろうか」
「わぁ熱い風評被害ですねー。言っておきますけど沖田さんは基本大人しくしてますから。だいたいやらかすのはビームセイバーとかローマセイバーですよ。ぐだぐだ組はイベントも少ないですし?いやでもノッブはこないだ水着に……ま、まぁそれでもノッブは星4ですから。星5の沖田さんは余裕を持ってますし、悔しくなんかないですよ!」
「聞いてないですしおすし。まあ来年辺り審査通るってきっと」
ぐだ男くん達がいる場に目を遣ると、遠くて見えにくいがフードを被った杖の男。キャスニキだ。ルーン文字から炎を打ち出している。見ているうちに、ぐだ男くんは見事な指揮でアサシンとランサーを倒してしまった。
「じゃあ俺たちもそろそろ移動しようか?」
「そですね。サクッと合流して、協力態勢に……あれ?マスター。なんかキャスニキこっち見てません?」
「え?何メートル離れてると……ほんとだこっち見てる。え?なんか杖振ってね?炎出てね?」
ーーアンサズ!
「ちょっ……!」「やだー!」
ズドドドドォン!!
ーーあれ?クー・フーリン、どうしたの?
ーー戦い始める前から誰かがこっちを見てやがった。警戒してて出てくるのが遅れたんだが……多分サーヴァントだろ。急いでここから離れた方がいいかもな。
ーーなんと。……そうですね。流石に連戦は厳しいかと。先輩、移動しましょう。
ーーうん、そうだね。所長、立てますか?
ーーえ、ええ。大丈夫よ。(ちらっと見えた影が有馬っぽかったなんて言えない)
何だよ視線か何かで気が付いたのか⁉︎これだからケルトは!
ビルの屋上が爆撃されて煙が巻き上がる中、俺は沖田さんに姫抱っこされて寸前で退避していた。泣きそう。色んな意味で。
「ケホッケホッ、マスターが死んだ!この人でなし!」
「死んでないから!えほっ、ごほごほっ。ちくしょうキャスニキめ!俺が召喚したら令呪で三食ホットドッグにしてやる!」
「迂遠な嫌がらせですねえ……地味に効果ありそうなのがまた」
そう言って沖田さんが俺を下ろし、転がった双眼鏡を拾う。「あちゃーレンズにヒビが。見えなくもないですかね?」と言いながら明後日の方向を覗いて……
「うぇえ⁉︎」
「今度はどうした⁉︎」
素っ頓狂な声を出した沖田さんが双眼鏡を取り落す。青い顔でこっちを振り向き。
「爆発で気が付いたらしいエミヤがこっち見てます!」
「ファッ⁉︎た、退避ーーー!!」
飛び降りた2秒後、ビルの屋上が再び爆発して粉微塵となった。
英霊怖い。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
「マスター、行きましょうよ〜」
「英霊って何アレ超怖いんですけど。咄嗟に聖杯さんで転移してなかったら追撃で木っ端微塵だったんですけど!沖田さんは爆弾とか投げないでねホント。くそっ、紅茶とキャスニキまじ許さん」
「うわあ怒りと恐怖で混乱してらっしゃいますね」
だって怖かったんだもの。あんな戦隊ヒーローみたいな真似をリアルですることになるとは思わなかった。
「どうする?最悪ぐだ男くん達に近づく間にキャスニキに爆撃される可能性が浮上してしまいましたけど。ぐだ男くんが静止するまで攻撃を躱せばいいんだろうけど……」
「? なにか問題ありますか?」
「……いや、沖田さんがしばらく吐血してないから。肝心なところで吐血するんじゃないかなって。お約束でしょ」
「コフッ⁉︎」
「あ、吐血した」
「何ですかその嬉しくない信頼!沖田さんだってシリアスな時はシリアスにやりますよ!戦闘ボイスと普段ボイス聞いたら分かるじゃないですか!」
「知ってる。でもきっとアレだよね。シリアスにシャレにならない感じで吐血するよね。ギャグ描写じゃないからね。割とマジで心配になるような感じだよね」
それはそれとして、話を戻すが、奴らには何とかして一泡吹かせてやりたい。キャスニキは一応味方なので兎も角エミヤだ。聖杯さんに青セイバーと同衾してる若かりしエミヤの写真でも捏造してもらってカルデア中に撒き散らしたろか。……カリバられそうで怖いからやらないけど。
「沖田さんは何か案ない?」
「私としては先手必勝、兎に角『寄って斬る』くらいしか言えないんですが……」
「ああうん。そうだね。それはその通りですわ」
沖田さんこう見えて結構戦闘になると直線的というか脳筋でしたな……となると俺が考える役を?と言っても聖杯さんでトラップ仕掛けたり沖田さんを転移させるくらいしか手が無いんだけど。
いや待て、逆に考えるんだ。転移させられるならそれこそ理想。
沖田さんが無明三段突きを繰り出すタイミングでエミヤの背後に転移させればいいか。そのまま心臓ぼっくり消滅させちまおうか……?どうしよう。
「……よし。沖田さん。作戦を伝えます。█████████████。██████████████████。と、いうわけです。行けそう?」
「やりましょう。ただ斬る、それだけの話ですから」
沖田さんは真摯な表情で頷いた。
よし、行こう。
俺と沖田さんは再び気配遮断を使って、ぐだ男くん達の尾行を始めた。
「ところでマスター、沖田さんこの特異点来てから一度も戦ってないんですけどそれは。この流れだと、折角立った戦闘フラグ回収もすっ飛ばされそうで不安ですよ私」
「そういうこと言わないの!それが既にフラグなんだよ!」
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うだつの上がらないマテリアル
血潮は詫び石、心は有償
百度のガチャを越えて出ない
ただの一度も沖田はなく
ただの一度も土方出ない
彼の者は常に一人キャットが出て宝レ上げる
故に、このガチャに意味は薄く
しかしーー
この課金は、有限の財産で出来ていた
……誰か格好いい英訳考えて下さい(嘘。
尚、今回は設定のような、予告のような。そんなよくわからない代物です。
〜登場人物〜
■有馬左玄
自称二十歳。『やらなければいけないこと』『やるべきこと』は短時間で効率よく済ませるそつなさと、『やりたいこと』は時間をかけて楽しむ童心を持ち合わせる、多少珍しいものの、よくいるタイプの青年。当人に何ら特別なパワーはない。
基本的に年がら年中コタツに張り付いている(夏場はコタツ布団は外すが)。やるべきことや、やりたいことがある際にはコタツから一時的に離れるが、必ず帰って来る。最早有馬が英霊になれば宝具はコタツ。
嫌いな物は説教。好きな物は他人の話。酒の肴にすることが多い。お酒は二十歳前からこっそり飲んでいたり。皆さんは真似しないように。お酒にはそこそこ強い。日課は一日一善。かといって善人であるわけではなく、悪人でもない。
本人曰く、
「良いことやってれば『良いことしたー』って悦に浸れるし、良いことされた側も嬉しい。これぞwin-winの自己満足」
とのこと。
大体何でも出来るチート聖杯を所持しているが、何でも行う気はなく、また使用する際にも、とあるルールがあるため過度な使用は行えない。
ぶっちゃけ有馬から聖杯さんを取ったらただのコタツムリである。
……が、命の危険盛り盛りな冬木に転移してスルメを炙り出したり、逃げるためとはいえビルの屋上から躊躇なく飛び降りたりと、少なからず感性がイカれていることは間違いない。
本作ではボケ4、ツッコミ6で担当。
「くそっ、魔術王許さん。家にVita忘れて来た。フリウォやっとナタリアさんまでクリア出来たのに焼却されてんじゃん」
■沖田総司
お馴染み桜セイバー。この作品の絶対正義にしてアルティメットヒロイン。時たま血反吐を吐く血反吐系ヒロインでもある。病弱Aをチートな聖杯で治せないの?という読者からの声を聞くまで作者の脳はその可能性を一切放置していた。治せない理由を現在考え中である。
好きな物は甘味。また、この20年ずっとコタツ星人と生活したせいで、部屋に戻ると取り敢えずコタツに入る癖がついてしまっているが、本人はコタツ汚染に合ったことを自覚していない。
作者の勝手なイメージだが、お酒は土方さんより弱く、さらに言うならノッブとは同じ程度。ただ、ノッブと沖田さんが一緒になって飲んだら、張り合ってハイペースで飲んで、瞬く間に潰れそうである。
土方さん>>有馬>ノッブ=沖田さん 的な。
本作ではボケ6、ツッコミ4で担当。戦闘ボイスのようなシビアな様子を見せてくれることは本作では殆どないと思われる。
「マスター、ご飯どうします?」
□ぐだ男くん
またの名を藤丸立香。献血帰りに拉致された一般人にして真性の鯖垂らし。どう絡ませるか未だ考え中。キャラ的に有馬に汚染されていくのは間違いない。
ボケ5、汚染5、ツッコミ0。
「あ、マシュ。マシュもコタツ入りなよ」
□マシュちゃん
本名マシュ=キリエライト。健気な後輩系女子。恐らくコタツに吸い込まれそうになるぐだ男くんを助けようと苦労する苦労系後輩になる予感。
ツッコミ9、ボケ1。
「先輩正気に戻って下さい!」
□ロマン
本名ロマニ=アーキマン。或いは重要参考人。恐らくは汚染されることもなく、ひたすらに有馬の取り扱いに苦労することになる。生存出来るかは有馬に掛かっている。
ツッコミ9、胃痛∞。
「最近人理修復より有馬君をコタツから出す方が大変な気がして来たよ……」
「流石にそれは気の迷いよ」
□ダヴィンチちゃん
共犯者であり、有馬がやらかす際にはダヴィンチちゃんの協力のもとになると思われる。ノリノリで余計なことをする可能性大。
ボケ10。
「ほう……ほうほう。くくく……有馬屋、お主も悪よのう……。ではその方向で行こうか。この万能の天才ことダヴィンチちゃんに任せたまえ!」
□所長
良く騙される。有馬に説教しに行っては屁理屈で言いくるめられ、ミイラ取りがミイラになる可能性大。生存するかは読者の皆様に掛かっている。
「有馬!いい加減コタツからーーえ?コタツに入ることで血行が良くなる?美容にもいい?……五分だけよ」
「所長!いい加減コタツから出て下さい!」
「嫌」
□魔術王ソロモン
ラスボス。有馬のせいでロマンと同じく胃痛∞になるかもしれないし、或いは月でのエリザベートに悩まされたキレ芸サーヴァントのようになる可能性も。どちらにせよロクな可能性は残されていない。
「あーーあの人類最悪のマスターがぁあああああ!!」
□その他サーヴァント
ご意見募集。ぐだ男と有馬の鯖を。
また有馬の鯖は沖田さんしか出らず宝具レベルが登るのみというのもアリかなと思っている。
□概念礼装の扱い
難しい。カードゲームのアニメみたいにこう、実体化させようか。麻婆とか麻婆とか麻婆とか。でも人間描かれた概念礼装になると扱いに困る。
『Fate/うだうだ Order』
筆がこのまま乗れば近いうちに更新したいです。
尚、上記の内容で実行するとは限りません(じゃあ何だったんだこのコーナー)。
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うだ3。シリアスは彼方に置き去りたい。
マテリアルの前書きの詠唱にほんとに英訳つけて下さる方がいらっしゃった。感想を見たときにとても驚きました。超COOLだよ旦那。
尚、病弱Aをチート聖杯でも治せない理由について。読者の皆様の意見を有り難く掻き集めて、型月Wikiを見たりして勝手ながら考えました。ご意見くださった皆様、ありがとうございます。正直鯖募集と同じくらい多かったです。
『スキルである病弱Aは無辜の怪物同様、後世に押し付けられた『沖田総司は病弱である』という
おのれ抑止。ついでに守護者。
こんなところでどうでしょう。……何故でしょう、一瞬いたちごっこというワードが脳裏を掠めました。ま、まあ気のせいでしょ!
では三話、始まりです。
尚内容について、守護者への八つ当たりではありません。決して、ほんとに。出番やらねえなんて思ってないです。
「えっ……?」
「……⁉︎」
目の前の光景にぐだ男くんとマシュちゃんは驚愕していた。仕方のないことだ。今の今まで相対していた、宝具をポンポンポンポン投影しては爆破してくる上に、近接も強いという敵に回したら超面倒なシャドウサーヴァント、その胸から唐突にも白銀の刃が突き出したのだから。ズグシュって。
後ろから見ている俺は当然分かるが、誠を掲げた浅葱色の羽織を纏った沖田さんの一撃である。諸事情で無明三段突きは今回は使用せず。
「馬鹿なっ……貴様、何処から……ッ!!」
「……」
沖田さんは答える事なく、赤く染まった胸元から刃を引き抜く。エミヤが苦し紛れに双剣を振るうが、エミヤの敏捷値では宝具『誓いの羽織』まで装備した沖田さんを捉えることは叶わない。元々敏捷A+だからな。エミヤはCだったはずだ、多分。
「なん……だと……⁉︎いや待て、その刀は……!」
沖田さんの顔を見たエミヤが愕然とした後に、沖田さんの手にある刀を解析したのか、更に顎をかっくり落とした。
『菊一文字則宗』。『誓いの羽織』を装備することで『乞食清光』からランクアップされた武装である。
《やってやりましたよマスター!がっつり心臓を破壊しました!》
《パーフェクトだ、沖田さん。これでもう勝ったも同然だ!カルデアに帰ったら紅茶とケーキでお祝いしようぜ!》
《ちょっと死亡フラグ撒き散らすのやめて下さいよ》
まあエミヤの気持ちは分かる。気が付いたら心臓を刺されてて1びっくり、振り向いたらアルトリア顔で2びっくり。最後に菊一文字つまり、沖田総司が女性で3びっくりだ。
心臓を破壊されたエミヤは体の末端を影の粒子として崩壊させて行きながら、重なる驚愕に脳が混乱をきたしたらしい。あの言葉を絞り出す。
「な、なんでさ……」
生なんでさ頂きましたァ!これで勝つる!(何がだ)
「さて」
ここらで俺も出よう。気配遮断を解いて、ぬるりと岩陰から姿を現わす。当然危険なので沖田さんより前に出ることはしない。情けないとか言わないでくれ、流石に戦闘機の前に堂々と立てるほど命を投げやっちゃいないんだ。今も割と声震えそうなんだ。
「初めまして、正義の味方」
「「有馬さん⁉︎」」
ぐだ男くんとマシュちゃんが驚いているのでヒラヒラ手を振る。すまんね、これまで合流できなくて。でも半分はキャスニキの所為だから、是非もないよネ!
物言いたげな所長は放置し、俺は膝をついた消えかけのエミヤに向き直る。睨まれた。睨みたいのはコッチだ、カラドボられたのまだ忘れてないからな!
俺は息を吸って、一つの頼みを口にする。
「今回あなたは奇しくも敵役に回った訳だが、最後に正義の味方らしく、世界を救う為に頑張る若人の頼みを聞いてくれてもいいとは思わないか?」
「………なに?」
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
エミヤが消滅した後、大空洞に続く洞窟の中。所長の第一声は叱責だった。
「有馬!あなた今の今までどこ行ってたのよ⁉︎」
まあ、正直そう来るだろうなと思っていた俺は沖田さんとアイコンタクトを交わすと、大仰な手振りで話し始める。そう……被害者っぷり全開で!!
「それが聞いて下さいよ所長!俺と沖田さんは所長とぐだ男くんとマシュちゃんを探そうとですね、高いところに登ってたんですよ。具体的にはビルの屋上とか、ええ。それで必死に目を凝らしてようやく見つけたと思ったら、ルーン魔術と思しき魔術で何者かに突然爆撃されたんです!それで合流するのに手間取りまして。いつ攻撃されるか分かったもんじゃないですから。ね、沖田さん」
俺は沖田さんを振り返る。沖田さんもうんうんと頷き、心なしかキャスニキをじと目で見ながら。
「そうですねーマスター。あの攻撃を受けて煙まみれになって、その後は今さっきのアーチャーに気がつかれて爆撃されましたし。マスターなんてビルから飛び降りることを余儀なくされましたもんねえ。あの攻撃、あの魔術……敵はキャスタークラスに違いありません!ルーン魔術使える系の、ケルトとかの」
「「「「『……』」」」」
「「どうかしました?」」
ニッコリ。
「「「「……ごめんなさい/悪い」」」」
心当たりアリアリだったようで(皮肉)、全員目を逸らした末に謝罪なさった。キャスニキもごめんなさいならレアだったんだが。もっと弄ってもいいけど味方だし、この辺にしておこう。しかし何故ぐだ男くん達まで謝るのか。解せぬ。
『いやまあ、誤解が解けて良かったじゃないか。それよりもこの先にいるって言う騎士王の対策について話し合おうよ』
「そっすねドクター。何故か俺のところには一切連絡来なかったんですけど、そんなことより対策の方が百倍重要ですもんね」
『ごめんなさい』
「マスター、ねちっこいですよ……その辺にしてあげましょう」
「グフッ⁉︎」
ね、ねちっこい……?沖田さんにねちっこいって言われた……痛い!心が痛い!
言葉が矢印のように胸の中央を突き抜け、俺は洞窟の隅で膝を抱えて蹲る。
「ね、ねえ……その、有馬のサーヴァント?有馬、めちゃくちゃ凹んでるわよ?」
「だ、大丈夫ですよ。時々こうなりますし……予想しない方向から攻撃されるとこんな感じに。ゲームでも味方だと思ってた人間に刺されたりすると、十分くらい呆然とするタイプですし、マスターは」
「ゲ、ゲーム?英霊が?
「え?……あっ。しまったやぶ蛇じゃないですか。今のナシでお願いしますね」
「いや待ちなさいよ!しっかり説明しなさい!有馬!あなたも……有馬?」
『マスター、ねちっこいですよ』『マスター、ねちっこいですよ』『マスター、ねちっこいですよ』『マスター、ねちっこいですよ』『マスター、ねちっこいですよ』
ねちっこい……ねちっこいか……。ねちっこい……。
「……ねえ、なんか凄まじく影背負ってるんだけど⁉︎変な魔力滲み出てるわよ⁉︎」
「あ、あっれえ?マスター?マスター⁉︎ごめんなさい、謝るからガチ傷つきしないで下さい!」
ハァ……。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
「……まあ、俺と沖田さんに関しちゃあれです。並行世界から何者かに放り込まれた人間とでも思って頂ければ」
「へ、並行世界……?第二魔法の領域じゃない……いや、それは流石に騙されないわよ?」
「事実ですし。ねえ?」
「ええ、まあ(若干違いますけど)。第二魔法の領域の実演なら沖田さんも出来ますとも。案外身近にあるものですよ?第二魔法。ええ、炊飯器くらいには身近ですよ」
「そんな訳ないでしょ⁉︎」
ああ、
《今そこに突っ込んじゃ駄目じゃないですかマスター。折角説得力のカサ増しを図ってるんですから!》
カサ増しって言っちゃったよこの娘。
それはそうとして……キャスニキがずっとこっち見てるんだよなあ、訝しげに。多分ぐだ男くん達が襲われてる時に助けに行かずに見てたことを不思議に思ってるんだろうけど。
今掘り返すのはやめて欲しい。折角協力出来そうなのにそこを指摘されると返答に非常に困る。
いやまあ、キャスニキが来てるって分かってたから動かず見てたって言えばいいとは思うけど、疑念をぐだ男くん達に決戦前に来て抱かれたくはない。反転してるとは言え騎士王相手に身内の瑕疵ありで挑むとかマジであり得ん。死ぬる。
結局、キャスニキもそれは理解していたのか、何も言わないでくれたけど。
あと多分、《初対面》のはずのエミヤに向けて、正義の味方と言ったのも一因だと思われる。
所長は悩んでいたようだったが、結局溜息を吐いて考えを振り払うように首を振った。
「……兎に角、もうすぐ大空洞に着くわ。今聞いても死んじゃったら意味無いもの。帰ったら全部聞かせて貰うわよ」
「あいまむ」
《帰ったら、ねえ》
《帰ったら、ですか》
沖田さんとほぼ同時に念話で言い合う。この先の正史を知る側としては、皮肉にも聞こえた。この後の段取りを脳内で確認していくうちに、所長はぐだ男くん達へ寄って行く。
「藤丸、マシュ!その……………勝つのよ。負けるのも死ぬのも許さないわ」
「はい!」「頑張ります!」
おおう。所長、精一杯の応援。マジツンデレ。しかし、それならば。
「所長、俺と沖田さんには何か無いんですか?」
「ですよね、私も思いました」
「あなた達は放っておいても、気がついたら終わらせてそうじゃない」
「まさかの放置ゲー扱い⁉︎」
「そんなー!コフッ!」
「嬢ちゃ、ぶっ⁉︎」
「な、なんでいきなり吐血するのよ⁉︎ギャグ表現⁉︎ギャグの英霊なの⁉︎」
顔面からベシャッと血を被ったキャスニキに常備してるタオルを渡す。所長がキャスニキを盾にして逃げたのだ。セコイ。
「おっすキャスニキ。水も滴るいい男だぜ」
「血しか滴ってねえよ」
「沖田さんは病弱だからな。すまん。堪忍してやってくれ」
「病弱な英霊かよ……見ねえタイプだな」
「無辜の怪物みたいなもんだ」
「……あー、災難だな。あの嬢ちゃん」
それにしても所長。放置してて問題ないとか、信頼から来ているなら兎も角、そういう生き物扱いされるのは流石に納得いかないんですがそれは。サボテンじゃないんだから。
と、ぐだ男くんとマシュちゃんが沖田さんについて考察していた。真名を当てようとしてるのかね?
「吐血する英霊とは……駄目です、分かりません。先輩、心当たりはありませんか?」
「まあ、日本人なら分かると思いますよ?沖田さんは日本では割とメジャーな英霊ですから。でも吐血する英霊ってレッテルはやめてください、いやほんと」
「誠の羽織に、『沖田さん』……やっぱり新撰組一番隊隊長の、沖田総司じゃないかな?病弱で有名な」
沖田さんは再び血を吐いて崩れ落ちた。orzの体勢で沈んでらっしゃる。やはり沖田総司=体弱い人イメージは深く根付いているようだ。
「……病弱Aの原因の一端を見た。沖田さん、刀抜かないでね?ここで何したって、日本国民の意識が変わらないとどうしようもないよ」
「分かってますっ……!分かってますけど、私のこの遣る瀬無い思いはどこへ……!死後も尚病に悩まされてディスペル不可とか。うわーん!」
「あーよしよし。帰ったら生キャラメル作るから。元気出して、ほら」
「うぅ……ありったけお願いします……」
俺はじたじたする沖田さんの肩をぽんぽんと叩く。カルデアに生キャラの材料あるかな。
「人理修復したらタイムスリップして治しに行きましょう、マスター!」
「それ剪定事象にされない?大丈夫か?」
沖田さんは考えた末に困ったように。
「……大丈夫。問題ないですよ」
それ駄目なやつな。うん、剪定事象にならないにしてもややこしいところに絡まれる可能性がなくもないし、止めておこうか。
いや、待てよ。
「いっそ特異点的な感じで沖田さんの病が治る世界を聖杯で……それでそこにいる間だけでも……」
「! 流石マスター。それならワンチャン沖田さん大勝利の可能性が!」
特異点【沖田快癒温泉 熱海】とかな。コタツに入ってのんびり出来そうじゃない?
「……頼むからこれ以上問題増やさないで」
「私と先輩が定礎復元しに行くんですね、分かります」
所長とマシュちゃんが眉間を揉んでいたが知ることか。実行する時はついでに、「温泉か、いいなぁ」と漏らしていたぐだ男くんを拉致して行こう。
言いながらも足は動かしていた俺たちの前に、光が差し込んでくる。さあーー大空洞だ!
「あれ?騎士王対策会議してなくないですか私達」
「……あっ」
「ーーほう。面白いサーヴァントがいるな」
やせい の きしおう が あらわれた !
後、沖田さんが病弱A持ちの英霊だと知れた時に、所長が沖田さんと有馬に、
『何よ、使えないじゃない!もっといいサーヴァント引きなさいよ!』
と詰るシーンを入れようかと思いましたが、感想欄が所長をカルデアスにダストシュートしろみたいな感想で埋め尽くされそうでしたので変更しました。
変更しておいてなんだけど所長、混乱してる時はホントにコレ言いそう。
……まあ、うだうだの所長については、一緒に行動する人が増えたから責任感とか安心感が増してるってことで。
あっ、鯖募集は続行でお願いします……と言ってましたが感想欄での募集は運対案件らしいため申し訳ない、急遽停止します。活動報告か……仕方ないから名前晒すべきか……?
また気が乗れば近々ー。
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