アクセルワールド BLACK (リューイ)
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プロローグ
第一話 転生
「RXキック!!」
俺は蜘蛛の意匠の怪人に両足で蹴りを放つ。空気との摩擦で赤熱した両足は寸分たがわずに蜘蛛怪人に吸い込まれるように決まる。蹴り倒された蜘蛛怪人はそのまま起き上がることなく断末魔を上げながら泡と消え行き跡形もなくなった。
そんな光景を眺めて俺はいつもと変わらない日常に少し辟易しため息をつき自分の愛車である命を持ったバイク、アクロバッターにまたがりその場を後にする
俺がなぜ仮面ライダーBLACKRXになり来る日も来る日も怪人退治に追われているのかを知るには俺が生まれる前まで遡らなくてはならない。
運命の瞬間、それは俺が転生を承諾した時だったのかもしれない。
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
此処は何処だ? 目を覚ますと俺はあたりを見回す。すると上も下も右も左もないまるで雲一つない青空の真ん中にいる様な気分になる不思議な空間にいることに気づいた。
「さて、ここがどこだか分からないが、こんな心地のいい空間なんだ、少しぐらい惰眠をむさぼっても許されるよな。」
誰に聞かせるでなく呟き、まどろんでいると、不躾に俺に話しかけてくる声が聞こえた。だが何故かその声に嫌な感じはせずしばし聞き入った。
「心地よいと言ってもらえて光栄です。しかしここは世界の理より完全に外れた場所あまり長い間留まって頂くわけにはまいりません。 貴方は肉体や魂の軛より時はなたれ今この時、貴方と言う存在そのままでこの場所にいます。 私は貴方に頼みたい事がありここにお招きしました。 どうか聞いていただけないでしょうか?」
空間全体から聞こえてくるようなその声の主に興味の沸いた俺は問いかけられたことの答えではなく名を聞いた。
「お前は一体何なんだ? 名前は何という?」
俺の声は何にも反射することなくこの空間に溶けて行ったようだったがちゃんと聞こえていたようで返事があった。
「神、精霊、悪魔、かつて私を呼び表す言葉はあまた存在した。だがどれも私そのものを適切に表すものではなかった。しかし今は簡単、私は乞い願うモノだ。」
気取った物言いをする奴だなと思いつつも俺は願い事と言う物を聞いてみたくなり話の続きを話すように促す。
「それで俺に何を頼みたいんだ。持って回った言い方はやめてくれよ。」
「そうだな、有り体に言うと君は死んでいるんだ。 そんな君にある世界に転生してもらいたいと思ってね。」
まったく、いくら持って回った言い方はやめろと言ったからってやってほしいことだけ言われても判断できないだろうが。
この辺りは自称乞い願うモノの融通の利かなさを見せられた感じで、今までに比べて少しは人間味を感じる。
「なんで俺を転生させたいんだ、理由を教えてくれるか?」
「貴方は子供のころ理科授業かなんかでミョウバンの再結晶実験なんかしませんでしたか? ミョウバンを限界まで溶かした飽和水溶液に種結晶をつるしてつけておくと大きなミョウバンの結晶が析出するんですよ。 ちなみにコツは再結晶化させている時にホコリなどの不純物が入らない様にしておくことです。 不純物が入るとそれを核として結晶ができてしまうので種結晶の方も大きくなりにくいんですよ。」
「突然理科の話なんかされても困るんだがな。」
「簡単に言ってしまえばあなたに転生してもらいたい世界で同じようなことを起こしたいと言う事です。 その世界では悪意が過飽和状態でいつ悪意の種ができ大きく成長するか分かりません、なので貴方と言う不純物を世界に入れて小さな悪意の結晶をいくつも固体として生み出し人自身の手で処理をしてもらおうと考えているのです。」
人の事を不純物だなんてよくも言ってくれる。だが今の説明が本当ならばその世界の人以外なら誰でもよかったと言う事か。
「俺にはそうそう戦う力なんてないんだが。」
「貴方が闘い悪意を消す必要はありませんよ。見えもせず触れもできないならともかく物質として存在するならば人の手でどうとでもするだろう。 ですが早々あなたに死なれても事らとしても困りますし自衛の手段はお渡しします。 お引き受けしていただけるでしょうか?」
話を聞いているとき俺は転生するのも面白いんじゃないかと思ってしまった。少しでもそう感じてしまえばすでに奴の術中にはまってしまったと言う事なのだろう、俺は新しい世界への興味が止まらなくなり、
「いいぜ!! 引き受ける。」
と返事をしてしまっていた。
「ならさっそく転生の準備をしよう、心の中に君が最も強いと思うヒーロー像を強く思い浮かべてくれ。」
声に従い俺は大好きな仮面ライダーたちの事を、特に仮面ライダーBLACK RXを思い浮かべる。すると何故か体の内から自分が変わっていく妙な感覚が湧き上がってきた。
「これは一体俺の体はどうなったんだ。」
「貴方の存在は今貴方が強く思い浮かべたものに近づきました。必要なものは転生されてから手に入る様にしておきます。あとついでと言っては何ですが貴方が転生する世界ではあなたが生まれた数年後ブレインバーストと言うVR対戦格闘ゲームが開発されるのですが戦いの経験のない貴方が経験を積むにはもってこいなのでそちらも送らせていただきます。 それでは良い来世を。」
なんだか急かしている様なその言葉に不信を感じる間もなく俺の意識は闇に沈んでいった。
読んでいただいてありがとうございました。
頑張って書くので感想&批判、何卒よろしくお願いいたします。
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第二話 後悔を糧に誕生!! 仮面ライダーBLACKRX
俺が転生してから数年たち、俺は6歳になり日々何事もなく元気に転生後の生活を楽しんでいた。
この世界は俺が生きていた世界より少しだけ未来の世界の様で俺の知らないものがたくさんあった。 その一つが量子通信端末ニューロリンカーだ。
突然だか転生した俺には家族が3人いる。両親と2歳下の弟だ。
両親は共働きで俺や弟を愛してはいるのだろうが中々育児に時間を割けない。そんなとき役立ったのがニューロリンカーだった。
ニューロリンカーは端的に言えばウェアラブルコンピューターだ、俺の感覚からすると高性能のスマホに仮想現実VRや拡張現実ARの機能を足したようなもので、子供の状態の管理、通知以外にもVRやARなどで子供をあやしたりと、育児の負担を劇的に軽くした。
それ故、俺や弟はあまり両親と多くの時間を過ごすことなく育っていった。 そのことは両親の育児の負担を減らしただけでなく、副次的に転生した俺の精神的負担もだいぶ減らしてくれた。
俺はそんなニューロリンカーにすっかり夢中になり、次第に他の事がなおざりになっていった。
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
『30m先、横断歩道を渡り右折してください。』
合成された機械音が俺の耳に届きと同時に俺の視界には半透明の道順を示す矢印が合成されていた。
この世界の人にとってはARでの道案内など一般的なのだろうが俺にはそれが新鮮でいろんなところに出かけて行き、出かけた先にあるARマーカーを読み取りいろんなものを視たり聞いたりすることを楽しんでいた。
今日は少し遠くにある自然公園に向かって一人で歩いていた。弟も来たがったがさすがに5歳児には遠かったので弟はうちと同じマンションに住む弟と同い年の幼なじみの男の子と女の子と一緒に家に家で遊んでいるように言い含めてきた。
俺はナビの示すとおりに横断歩道を渡り右折して暫く進んでいくと目的地が近いとナビのアナウンスが聞こえた。
自然公園に着くとそこでは親子連れや連れだって遊びに来たのであろう小学生などが思い思いに楽しい時間を過ごしていた。それを見て弟たちも連れてきてもよかったかもしれないなとしばし公園の入口でそんなことを考えていたがこんな所でじっとしていても周りの迷惑になるだけだなと思い至り自然公園に入っていった。
自然公園の中は人に閉塞感を与えるような雑多な人工物だらけのコンクリートジャングルな街中とは打って変わって綺麗な花や植物などにあふれて人を癒している。だがそんな自然も人が意図的に保護し残し育てているのだから、どこまで本当の自然か分からないな、なんて自分でも少しひねくれた考えだなと思い居ながら、視界に映されたARの草花の説明分を読みつつ周りを眺めていた。
そんな時一人の少女が視界に入った。彼女は今の俺と同じ年頃で友達を追いかけている様だった。
彼女の亜麻色の長い髪が天使の羽の様に汚れ一つない真っ白なワンピースにかかる様は、まるで塩の大地に流れる川が太陽の輝きを写し取っているみたいに美しく、年甲斐もなく俺の瞳は彼女を追い続けた。
彼女が友人であろう子供と楽しそうに遊ぶさまを見て、俺は先ほどまで考えていた『ここが本当の自然か人工の偽りの自然か』なんて些細なことで大切なのこと、それはここに来た人が幸福な時間を過すこともできる場所だと言う事なのだろうと思い至った。
俺はそんな風に考えるきっかけをくれた少女に心の中で礼を言い、その場を後にし、また暫く自然公園を見て回る。
歩き回り少し疲れた俺は公園の中ほどにいくつか設置されているベンチに腰掛けて体を休めていると公園の奥の方が何やら騒がしくなってきた。やがて公園の奥から何かに追い立てられるように逃げ出す人々が俺の目の前を次々と過ぎ去っていく。そんな人の一人を捕まえ、何が起きているのか問うと「怪人が出た!!」と言ってすぐに逃げて行った。
俺はすぐにそれが俺に転生するように言った奴が言っていた悪意の結晶であることに気づき逃げようと公園の入口に向かおうとするが無駄に良い強化された聴力の所為で大勢の悲鳴が聞こえる。
その悲鳴に何もしないのは罪悪感を覚えたが怪人に立ち向かうほどの勇気は俺にはない、そしてほっても置いて自分は関係ないと無関心を決め込めるほど図太い神経はしていなかった。そんな気持ちのせめぎ合いの結果、近くに行き様子を窺うことにした。
物陰に隠れ怪人のもとに向かい様子を窺うとそこには片腕が鞭になっているガラガラヘビの怪人、仮面ライダー一号を苦しめた地獄大使の正体としても有名なガラガランダがいた。
地獄大使だと!! いくらなんでも最初から大物すぎるだろう!!
誰に聞かせるわけでもなく心の中で悪態をつきガラガランダがやってきた方を見るとたくさんの人が倒れている様だったが息のある人もいた。
ガラガランダが何かを探すようにあたりを見回す、何かを見つけたのかベンチのある方へ歩いて行き、到着するとベンチをその鞭の様になっている腕でベンチを弾き飛ばす。するとそこには先ほど見かけた亜麻色の長い髪の少女が逃げ遅れたのだろう小さくうずくまっていた。
ガラガランダは少女周りに鞭を振り下ろし少女が怖がるのをただ楽しんでいる様でまるで地獄大使の様な知性を感じず、悪意に促されるままに行動している様だった。
少女は怯えながらもなんとか逃げようと立ち上がり走り出す。
ガラガランダはそれを待っていたと言わんばかりに鞭を振り上げる。
俺はもう見ていられず、思わずガラガランダへと駆け出した。
少女が襲われている様はテレビやネットでみる犯罪や事故のニュースと違いとてつもなくリアルで、家族でも友人でもない、名前すら知らない少女、だけどその身に起きようとしていることがどうしても許せなかった。
だけど俺は勇気を出すのが遅すぎた。
「止めろぉーーー」俺は声の限り下げぶ。
しかしガラガランダの鞭は俺の行動を待つわけはなく少女の足に振り下ろされる。
鞭が命中した少女の両足の膝から下ははじけ飛び、少女自身も鞭の攻撃の余波でやすやすと吹き飛ばされた。
甲高い悲鳴が辺りに響やがて何も聞こえなくなった
少女が余の痛みに気絶したのだ。
俺の所為だ。俺がもっと早く戦う決意を決めていれば!!
だけど今ここで足を止めるわけにはいかなった。少女を助けるためにもこれ以上犠牲を出さない為にも。
俺は走りながら己の力を解き放った。
俺は光に包まれ次の瞬間には変身できていた。
その姿はダークグリーンと黒い生態装甲、腰の二つの宝玉のついたベルト、サンライザー、そして何より目立つバッタの様な顔、まごうことなき仮面ライダーBLACK RXだ。
目線がいきなり1m近く高くなり手足も伸びて転びそうになるが何とか踏みとどまり走り続ける。
俺はガラガランダに走り寄りながら腰のベルトサンライザーに手をやる。
するとベルトに光が集まりRXの必殺武器リボルケインが現れる。
俺はリボルケインを一気に引き抜くと少女に気をとられているガラガランダの背中にかけよった勢いのままにリボルケインを突き立てる。
ようやくこちらに気づいたのかガラガランダは反撃しようとこちらに手を伸ばす。
しかしすでに俺がリボルケインから高エネルギーを注ぎ込み内部から体を破壊していたガラガランダの手は届くことはなかった。
ガラガランダの体からリボルケインを引き抜き、ガラガランダの爆発に撒きこまぬように人がいない方思い切りガラガランダを投げ飛ばす。
投げ飛ばしたガラガランダは地面に着く地同時に爆発して消えた。
ガラガランダの消滅を確認した俺は急ぎ変身をとき少女のもとに向かう。
少女のもとに行くと俺が目にしたのは先ほどとは程遠いいたいたしい姿だった。真っ白だったワンピースは血と土埃で赤黒く汚れ綺麗なストレートヘアーが今はぼさぼさになっていた。だが最も変わったのは足だ。ガラガランダの攻撃を受けたせいで両足共になくなってしまっている。
絶え間なく流れ出る血に気づくとすぐに持っていたニューロリンカーやパソコンをつなぐ1m半ぐらいの長さがあるXSBゲーブルをポケットから取り出し半分に引きちぎると少女の足をきつく縛り止血した。
その後は救急車を呼び到着を待った。
救急車の到着前に少女は苦しそうにだが少し意識を取り戻した。
まだ朦朧とする少女の手おにぎり俺は必死に呼びかけた。もう俺の所為でこれ以上死んでほしくはなかったから。
「もうすぐ救急車が来るから頑張ってくれ、頼む、死なないでくれ」
少女や他の人たちへの申し訳なさや自分のふがいなさに押しつぶされそうで、これ以上背負いきれないと感じた俺はひたすら願った。
「生きてくれ、俺の為にも生きてくれ、お願いだ。」
俺はひどいことを言っている、その自覚はあった。痛みに苦しんでいる少女に死んだら己の心の重荷になるから生きてほしいなんて本当にクズもいいところだ。だけど本当にもう如何しようもなくてそう言うしかなかった。
少女の手を握り助かるように願っていると少女のかすれて途切れがちな小さな声が聞こえた。
「な……まえ、 お……し……えて」
なぜ少女が名前を聞きたがったのか、さっぱりわからなかった。だけど俺は少女が望むのならと何度も名乗る。
「俺の名前はしゅうそう、有田秋霜だ、秋に霜と書いてしゅうそう、それが俺の名前だよ。」
少女は俺の名前を聞くと少し微笑んだ気がした。しかしそれは俺が見た幻だったのか少女はすぐにまた気を失ってしまう。
それから間もなくして救急隊が駆け付け少女や他のけが人を搬送していった。
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
ガラガランダが現れた日亜麻色の髪の少女を救急隊に預け見送った後、俺は警察が公園を封鎖する前に抜け出し家に帰った。
家では弟の春雪たちが俺の事を心配してくれたがそれどころではなく、すぐに部屋に閉じこもり眠りについてしまった。
翌日俺は昨日の怪人事件を心配し母に家にいる様に言われたにもかかわらず出かけた。昨日の少女が搬送されたはずの病院に行くためだ。
病院に着くとまず真っ先に昨日の少女の事を調べた。
個人情報なので細かいことまでは分からなかったが昨日の少女は、一命はとりとめたので早々に義肢専門の医療科のある病院に映されたそうだ。
冷たい対応の様にも感じるがそれも仕方がないのかもしれない、病院のスタッフは今もあわただしく働いている。恐らく昨日のガラガランダの犠牲になった人たちの中にいまだ生死の境をさまよっている人たちが相当数おられるのだろう。病院のスタッフだけでなく待合室にいる人たちからも張り詰めた空気を感じる。
俺はその空気がまるで俺を責めているように感じた。まるでお前がもたもたしていたから多くの人が傷つき命を落としただと言われている様でいたたまれなくなり病院を出た。
病院を出て俺は当てもなく歩いていた。何も考えたくないのに頭の中では昨日の光景ばかりがリプレイされ続けている。
人間いいことより悪い事の方が頭に残るのかもしれないな。
だからこれ以上後悔しない為にも俺は戦おう。
この世界の悪意と。
そう俺が決意した瞬間ニューロリンカーからニュースの通知が来た。
俺はARで表示されている仮想デスクトップを操作しニュースを開いた。
「マジかよ。」
思わずそんな言葉が出るようなニュースだった。 それは昨日に引き続き今日も怪人が出現して暴れていると言う物でる。
「クソッ! せっかく戦うって決めたばかりなのに遠すぎる。」
その場所は、公共交通機関しか移動の手段がない今の俺には遠すぎた。とても間に合わない。また大きな被害を出してしまう。
俺は一瞬また間に合わないのかと途方に暮れたが何もしなければ昨日以上の被害が出てしまうと思い直し、とりあえず駅に向かい走り出した。
そんな時、後ろから転生してからめっきり聞かなくなったエグゾーストノートの音が追いかけてきた。
振り向くとそこにはアクロバッターが自立走行してきていた。
俺に追いつくとアクロバッターは停車し「ノッテ、ライダー」と機械の合成音の様な声で俺に自分にのるように言った。
「俺が乗っていいのか?」
それはアクロバッターへの問いかけと言うよりは自分への問いかけだった。アクロバッターは仮面ライダーBLACKRXのパートナーだ、はたして俺に乗る資格があるのか分からなかった。
迷う俺にアクロバッターはまた「ノッテ、ライダー」と言う。
俺は仮面ライダーBLACKRXに変身してアクロバッターに乗った。
俺にアクロバッターに乗る資格があるのかは分からない、だけどここで迷って時間を無駄にすれば俺はアクロバッターに乗る資格を、仮面ライダーになる資格を失うと思った。
だから俺はアクロバッターで怪人のもとへ急いだ。
仮面ライダーとなるために。
こうして俺は仮面ライダーBLACKRXとなった。
読んでいただいてありがとうございました。
頑張って書くので感想&批判、何卒よろしくお願いいたします。
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第三話 仲間
俺は有田秋霜、仮面ライダーBLACKRXをやっている。
怪人退治は大変だが俺には仲間がいる。
そう! アクロバッターだ。
だがそれだけじゃない新たにロードセクターとライドロンが仲間に加わり一人と三台で何とか戦っている。
そして俺が初めて変身してから一年ぐらいたったある日、俺はあの少女が最初に運ばれた病院を訪れていた。
別に俺が怪我をしたわけじゃない。
ただあの日の事を忘れない為の習慣のようなものだ。
俺は自分で自分を罰し許されたいのだろう。
そのことがわかるから余計に自分の行動に嫌気がさす。
そんな習慣に終止符を打ち自分の罪と向き合うために何度もこれで最後にしようと自分にいい聞かせるがまた来てしまう。
そんな繰り返しだ、今日もそうして病院を訪れ何もせず呆けていると一人の少年が話しかけてきた。
「こんにちは 僕は千明宗弥と言います。 病室からよくあなたを見かけて、何だか気になって話しかけてしまいました。」
そのあまりにも子供とは思えぬ落ち着き具合と言葉使いからこいつも転生者かとも思いかけたが彼の邪気の無い笑顔は大人にできるようなものではないと感じ考え直した。
「何か用か?」
俺の不愛想な返事にも負けず宗弥は俺に友達になりたいと言ってきた。
「僕は生まれつき病弱で家と病院を行ったり来たりの日々で友達がいないんだ、だからもしよかったら僕の友達になってくれないかな。」
俺にはさっぱり分からなかった。
この年端もいかぬ少年がなぜ自分などと友達になりたいと言うのか、だからここで悩むのもしゃくなので聞いてみた。
「なんで俺と友達になりたいんだ?」
すると宗谷は恥ずかしそうにこう答えた。
「君は良く病院に来ているからついでにたくさん僕の所にも遊びに来てくれそうだから。」
何と言う事もない年相応の短絡的発想だった。
どんな凄い理由が出てくるのかと身構えていたのが馬鹿らしくなった俺は思わず宗弥と友人になってもいいような気がしてしまった。
「有田秋霜だ。」
「えっ!?」
突然の名乗りに宗弥は如何いう意味なのかわかっていない様子だ
「名前だよ、な・ま・え、友達なら名前ぐらい知っとくべきだろ。」
「僕は千明宗弥です。」
「知ってるよ。」
嬉しそうに名乗る宗弥は先ほどの落ち着いた様子とはまるで違い年相応に見える。
宗弥はきっと色々なことを我慢してきたのだろう。
病弱だから仕方がない。
それはそうだろう、そんな事、誰に責任があるわけでもないのだから。
だから俺は宗弥に何かしてやりたくなったのだ。
きっと俺は宗弥を憐れんでいるのだろうそれ自体はあまり良いことではないのだろう。
だかその感情からくる何かしてあげたいと言う思いはそう悪いものではないはずだ。
そんな風に自分自身に言い訳しないと何できない自分にあきれながら宗弥に一緒にゲームをやらないかと提案する
「宗弥、もしよかったらブレインバーストってゲームをニューロリンカーにインストールしないか? 俺もやってるVRゲームなんだけど。」
俺は宗弥にブレインバーストを進めた。
ブレインバーストは俺をこの世界に送った奴がいつの間にか俺のニューロリンカーにインストールしたVR格闘ゲームだ。
奴の言った通りこのゲームは戦闘経験のなかった俺が仮面ライダーとして戦うための経験を積むにはうってつけだった。
それほどのリアリティがあるゲームだ。
あまり体を動かせないであろう宗弥の入院生活おける慰めになるだろう。
宗弥はすぐに首を縦に振り肯定した。
「うん! やってみたい。」
「ならさっそくインストールしよう。」
俺はいつも持っているXSBケーブルを取り出し、片方の端子を自分のニューロリンカーに指してもう一方の端子がついた方を宗弥にわたした。
宗弥は一も二もなくそれを自分のニューロリンカーに指した。
そのためらいの無さから宗弥の初めて友達ができた喜びの大きさがどれほどなのかが容易にわかる。
これはもう失敗する可能性があるとは言えないなと俺はインストールが成功することを祈りながら宗弥のニューロリンカーにブレインバーストをコピーインストールする。
しばらくすると宗弥が無事ブレインバーストをインストール出来たのか最初に出てくる言葉を読み上げる。
「加速世界へようこそ?」
宗弥が不思議そうに首をかしげている。
最初に出てくる言葉は正確にはWELCOME TO THE ACCELERATED WORLDと出てくるのだが宗弥は普通に読めている様だった。
最近の小学生が凄いのか宗弥が凄いのか、まぁ宗弥は育ちの良さを感じさせるし、恐らく後者なのだろう。
だがそんな事より無事にインストール出来たようで良かった。
「無事にインストール出来てよかったな。 これで後は明日までグローバルネットに接続せずにいれば自動的にブレインバーストで使用するアバターができる。」
「そうなんだ、明日が待ち遠しいな。」
言葉通り明日が待ち遠しくそわそわしている宗弥に俺が今日はとりあえず帰ると伝えると悲しそうな表情を少しだけ見せるがやがて取り繕った笑顔で送り出してくれた。
翌日、俺は小学校が終わってすぐ宗弥のもとへ向かった。
今の病院は昔の様にきつい漂白剤の様な匂いはせずかすかに芳香剤の良いにおいがする。
昔の病院は殺菌や消毒にクレゾールや次亜塩素酸ナトリウムをつかっていたので独特のにおいがしていたなんて一部で言われていたが、じゃぁ今は如何しているのだろうなどと、取り留めもないことを考えながら宗弥の病室に向かって看護師さんについて歩いている。
この看護師さん、宗弥に俺が来ることを伝えられていたのか受付に行き宗弥の病室を尋ねるとすぐに来て案内してくれた。
宗弥の病室に着くと俺は思わず案内してくれた看護師に礼を言うのも忘れ本当に宗弥の病室なのか聞いてしまった。
だが看護師は不愉快な顔一つせず、ここが宗弥の部屋だと答えてくれた。
もしかしたら驚く人が多いのかもしれないこの病院には似つかわしくない豪華な扉に。
案内を終えた看護師が戻っていくと俺はドアを恐る恐るノックした。
「秋霜だ。」
すると待ってましたとばかりにすぐにドアが開く。
「いらっしゃい、さぁ入って。」
そう言う宗弥の言葉か耳に入らないぐらいに部屋の豪華さに圧倒されていた。
宗弥の部屋は病室とは思えないほど広くて絵画や花瓶などの豪華な調度品、それにまるで高級ホテルにでもありそうな机とソファー、ベッドも病院でよく見る簡素なものではなく綺麗な彫刻が施された木製の大きなベッドだ。
だがその横にある医療器材が俺に冷や水を浴びせかけた。
此処はどれだけ豪華であろうとも宗弥を閉じ込める鳥かごなのだ。
俺は宗弥の促すまま部屋に入ると彼に夢を見たかを聞いた、どうやら普通にブレインバーストを始めると悪夢を見るようなのだ。
俺の時は見なかったので軽く考えていたが病弱な宗弥は大丈夫だろうかと今更ながらに心配になってきている。
「宗弥、昨日夢を見たか?」
すると宗谷はとても驚いていた。
「見たよ、飛び切りの悪夢だったけど、どうしてわかったの?」
「ブレインバーストがアバターを作る時に必ず悪夢を見るんだ。なぜだかは分からないけどそう言う仕様みたいなんだ。」
それを聞くと宗弥は一応、納得したようで落ち着きを取り戻す。
「悪夢について納得してくれたところで早速ブレインバーストについて説明したいんだがいいか?」
「わかったよ。 とりあえずソファーに座って待ってて。」
そう言うと宗弥は部屋の隅にある棚から二つコップを取り出して次に棚の下の冷蔵庫からジュールの瓶を取り出して俺が座ったソファーの対面にやってきてコップにジュースを注ぎもてなしてくれる。
だが俺は宗弥のもてなしに戦々恐々だ。何故なら用意されたそれらの物はすべて、過度な装飾を施した似非高級品などではなく、質素だがどこか洗練された優雅さを感じさせる本物の風格があったからだ。
だがここで怯んでいては余にも宗弥に申し訳がない。
久しぶりの、ともすれば初めての友人の俺が気後れしていたのでは嫌な思い出を彼に残してしまうだろう。
だから俺はソファーに深く座り、見ようによっては不作法だったかも知れないほど何でもない物を扱う様に無造作にコップを取る。
俺は宗弥に礼を言い、その後一口ジュースを口に含み喉を湿らせ、ブレインバーストについて話しだす。
「ブレインバーストについてなんだが色々オプションはついているがメインとしてはVR対戦格闘ゲームだ。取りあえず俺と直結して始めてみよう。」
俺は一旦コップを置き家から持ってきたいつも持っているものより長めのXSBケーブルを取り出し、片方の端子を自分のニューロリンカーに指してもう一方の端子がついた方を宗弥に差し出した。
宗弥がケーブルを接続すると俺は早速レクチャーを開始する。
「ブレインバーストはバーストリンクとコマンドを入力すれば起動する。 普通に音声入力でも思考発声でも仮想デスクトップからの入力でも大丈夫だから試してみてくれ」
俺はそういうと自分も「バーストリンク」と意識を加速させる。
俺に続き宗弥も加速できたようだ。
宗弥は俺と同じで仮想世界で使っているアバターは自分自身の姿のようで違いと言えば服装ぐらいのものなのですぐにわかった。
アバター体となった宗弥はきょろきょろとあたりを見回している。
無理もない、ブレインバーストは思考を一千倍に加速する。
そのうえ、その間は通常ソーシャルカメラの情報から構成された、まるで色が抜け落ちた青いモノトーンの3D映像の世界を見ることになるのだが、今はそのソーシャルカメラすら無い場所にいるので、辺りは無機質な3Dポリゴンの床や壁、天井が広がっているだけだ、余計に混乱するだろう。
まぁ流石に防犯のため全国津々浦々まで網羅しているソーシャルカメラとて個人の部屋のプライベート空間に近い病院の個室にまでは配置されていないから仕方がない。
というかICUなどならまだしも患者の安全などの為と理解できなくはないが、個室にまでカメラがあれば逆に怖い。
物珍しそうにあたりを見ている宗弥に今起こっていることを説明する。
きちんと伝わればいいが、まぁ宗弥は同じ年頃の子供より頭がよさそうだから心配はいらないかもしれない。
一通り説明すると宗弥は此処が思考を1000倍に加速した世界だと理解してくれたようでソーシャルカメラカメラがあるところも見てみたいなどと言い出すぐらいだ。
だが今はメインの格闘ゲームとしての機能を説明する方が先だ。
「さて宗弥、いよいよここからがゲームの説明だ。 視界の端にブレインバーストと言うアイコンができているだろう、それがブレインバーストのメニュー画面だ。 そこから自分のステータスを視たり対戦相手を探したりできる。 今回は対戦までやってみるか、マッチメイキングリストのボタンを押してみてくれ。」
宗弥は俺の言葉に従い自分の仮想デスクトップを捜査しているのだろう自分の前で指を動かして何かを押す動作をしている。
俺に宗弥の仮想デスクトップが見えるわけではないがよどみなく指が動いているところを見るにすぐに使い方は分かったようだ。
「リストが出たよ、このブラックサンというのが対戦相手?」
「そうだ、ちなみにそのブラックサンが俺だ。 今はグローバルネットにつなげずに直結しているから俺しか出ないがネットにつなぐと周囲のバーストリンカーがマッチングリストに現れる。バーストリンカーってのはブレインバーストのプレイやの呼び名だ。 それじゃあ、早速始めるか、リストにあるブラックサンを選択してデュエルと表示されるボタンを押してくれ。」
「いきなり対戦するの? チュートリアルとか説明書とかないの?」
「実際に戦うのはまだ先だ。 これがチュートリアルみたいなもんだよ。」
俺がそう言うと宗弥がデュエルボタンを押したのだろう景色が味気の無い3Dポリゴンから夕陽に照らされる短草原に切り替わりアバターもブレインバーストのデュエルアバターとなった。
俺の姿は黒い強化皮膚リプラスフォームに真赤な複眼マルチアイ、それに額から延びる2つの触覚のようなもの……仮面ライダーBLACKそのものだ。
なぜRXではなくBLACK、しかもブラックですらなくブラックサン、それはブレインバーストの名前のつけかたが色プラス何かという仕様だからなのかもしれないが俺は結構この姿は気に入っている。
ほぼ格闘戦しかできないが経験は詰めるから悪い事ばかりじゃない。
それに何故かブレインバーストの中でもアクロバッターがいるのだしかも姿はバトルホッパーに戻って、最初それが分かったときは驚いたが今は、もうそう言うものだと達観した。
まぁ俺の事はおいておくとして宗弥のアバターは一体どんなものになったのだろうか。
彼がいた場所には頭部に王冠を被った美しいガラスの彫像があった。
それこそが彼のデュエルアバターなのだろう。
それを示すように体力バーの上の表示がグラスモナーク……硝子の王様となっている。
「グラスモナークか、かっこいい名前になったじゃないか?」
「そうだね、けど現実の僕と一緒でとてもひ弱そうだ。」
俺は宗弥のアバターを褒めたがあまりうれしくなさそうだ。
むろん宗弥のグラスモナークはガラスの頭部をもつ表情のないアバターなので顔色は分からないがその声色は十分に宗弥の心をあらわしていた。
宗弥の気持ちは分からないでもなかった。
そのアバターはすらっとしたガラスの手足の美しい造形をしていたが高度な物理演算エンジンを積んでいるブレインバーストではそのガラスの体は容易に砕かれてしまうだろう。
しかしブレインバーストにおいてそんなことは大した問題ではない、だがそれをそのまま言えばきっと宗弥は傷つくだろう事は容易にわかった。
だから俺はこう言いかえた。
「心配することはない。 ブレインバーストでは同レベルは同スペック、欠点があるならその分長所がある。 それにブレインバーストは対戦ゲームだけど対戦以外の楽しみがあるんだよ。 レベル4以上に成れば無制限中立フィールドっていう現実の世界と重なる様にできている広大なオープンワールドのステージにいけるんだ、しかもそこでは通常対戦が現実の1.8秒、体感の時間で30分しか加速していられないのに対しリンクアウトするまでずっと加速していられるんだ。 そこでは色んな人に出会うだろうし、色んなものが見える。 何日もかけて広大な世界を冒険だってできるかもしれない。」
俺の言葉に宗弥も大分興味を取り戻したようでしきりに相づちを打つ。
「だけど気を付けないといけないことがある、それはバーストポイントの事だ。メニュー画面を見てくれバーストポイントは最初、100ポイントあるんだけど減っていないか?」
「確かに減っている99ポイントになっている。」
「このゲームでは加速するためにポイントが必要なんだ、さっき話した無制限中立フィールドに行くにもね。 あとレベルアップや無制限中立フィールドでアイテムを買ったりするにもポイントがいる。」
真剣に聞いてくれる宗弥に俺は楽しくなりついもったいぶった喋り方になる。
「じゃぁそのポイントはどうやって稼ぐのか、それはずばり対戦だ。 対戦に勝つとポイントをもらえて、負けると奪われる。このほかにも無制限中立フィールドでエネミーと呼ばれるモンスターを狩る方法もあるけど基本はやっぱり対戦だ。 あとポイントをすべて失うとブレインバーストが強制アンインストールされてブレインバーストの記憶が消えるなんてうわさも聞くから気を付けるようにな。」
その後も俺は対戦時間いっぱいまで宗弥にブレインバーストについて知りえる事すべてを語って聞かせた。
体感時間で30分経つころにはすべて話し終えてドローで対戦が終わった。
現実の世界に戻った俺はソファーから立ち上がり宗弥に挨拶をして帰る。
「話さないといけないことは全部話したし、そろそろ帰るよ。 ジュースありがと、おいしかったよ。」
俺がドアを開け廊下に出ようと言うとき宗弥から声をかけられる。
だけどその声はどこか申し訳なさそうだった。
「また来てくれますか?」
そうか俺が余にそっけなく帰るものだからもう来ないのかと思ったのか。
そんなわけないのに。
「もちろん、また来るよ。」
そう言って、俺はその日は帰った。
その帰り道はよく通るいつもの道のはずが今日は何時もより明るく見える。
大人の精神を持っていないとおかしい転生者の俺が友人の少年ができたことを喜んでいるなんて、全く度し難い。
だけどいつも病院ではネガティブな思いしか出てこなかったのが今はそうでもなくなった。
それはもしかしたら少し前に進めているってことなのかもしれないな。
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俺は宗弥にブレインバーストの説明をした日以降も度々宗弥のもとを訪れていた。
ブレインバーストをコピーインストールした責任もあるが年の割に聡明な所がある宗弥との会話にあまりストレスを感じなかったからなのかもしれない。
そんなある日、宗弥の病室を訪れ、ソファーで寛ぎながら他愛のない話をしていると仙人の様に長い顎鬚に和装の60歳位の男性と、かっちりとした仕立ての良いスーツをきこなした壮年の男性が宗弥を見舞いにやってきた。
年のころからして宗弥の祖父と父かもしれない。
「お爺様! お父様!」
俺の考えはどうやら当たりの様で宗弥は立ち上がり彼らの方へ行きながら二人の事をやはりそう呼んだ。
「今日お越しいただけるなんて思いませんでした。」
宗弥の喋り方は何だか硬かったがその声からは喜びにあふれていた。
やはり家族が見舞いに来てくれて嬉しいのだろう。
「仕事の合間によって見たのだ。 横になっていなくて大丈夫なのか?」
宗弥の祖父はまるでまぶしい物を見る様に目を細め笑っている。
宗弥のことがかわいくて仕方がないのだろう。
「はい。 今日はなんだか調子がいいので。」
宗弥はそう答えるがやはり家族にとっては心配には違いないのか今度は彼の父が「そうか、だが無理はするんじゃないぞ。」と宗弥を言い含めている。
「ところで、ソファーの彼は友達かい?」
今度は俺の方に話が来たようだ、そう言えばソファーに座ったままで礼を失したかもしれない。
だがそんな俺を宗弥はためらいなく友人だと肯定した。
「はい、僕の友達です。」
俺はソファーから立ち上がり宗弥の祖父と父に挨拶をする。
「はじめまして、有田秋霜と言います。お邪魔しています。」
挨拶を終えると俺はこれ以上家族のお見舞いを邪魔するのも無粋だと思い宗弥の所まで行き「今日はもう帰るよ」と伝える。
「今日はこれで失礼します。」
宗弥の祖父と父に挨拶をして宗弥の病室を出でようとすると宗弥の祖父から「また来てやってくれ」と声をかけられたのでもう一度お辞儀をして病室を出る。
宗弥の病室をでて帰るために病院のエントランスまで降りると大きなテレビスクリーンでニュースが流れていた。
連続無差別射殺事件が発生中で外出時は気を付ける様にと注意喚起をしている。
ニュースによると被害者は全員直上より針の様なもので射貫かれているらしい。
恐らくこれも悪意の結晶体なのだろうが空を飛ぶ怪人で針を武器とすると言う事はグロンギのメ・バヂス・バかもしれない。
これは早く止めなければ大変なことになる。
俺個人の印象として悪意の結晶体として現れる怪人は俺の記憶が核となるからなのかあまり頭が良くない。
だがその分狂暴だったり、残忍だったり、嗜虐的だったりする。
むろん怪人は元々そう言う傾向が往々にしてあるがそれが強化されている感じだ。
今回の怪人がメ・バヂス・バとするなら打ち出す針が再生し次第手当たり次第に殺して行っている感じだ。
「ぐずぐずしている暇はないな。」
俺はすぐにメ・バヂス・バの犯行現場に向かう事にした。
メ・バヂス・バ自体はもういないかもしれないが何か手がかりが見つかるかもしれない。
近い場所で犯行を繰り返さないとも限らない。
急ぎ事件現場に来ては見たが現場はまだ警察に封鎖されていて見る事も出来なかった。
それにこれはある意味良かったが次に被害者はまだ出ていないようだ。
此処にとどまっても警察が帰るのはまだまだ先の様だし地道に空を見上げて探すしかないようだ。
決めたからには見つけ出し倒すまで帰らないぐらいの覚悟で目を皿にして空を探しまわった。
そして俺は何時間も探しまわったあとに大変なことに気づいた。
それはメ・バヂス・バが空にいるとは限らないってことだ。
グロンギには人間態がありその姿で人に紛れられればかなり見つけるのが困難になる。
もしかしたら今までにすれ違った者の中にいたのかもしれない、これはもう一度探し直しだな。
そうして俺が事件現場に戻ろうと歩いていたとき一台の車が近づいてきた。
黒いセダンタイプの高級車だ。
知り合いにそんなものに乗っている人はいないし誰だろうと考えていると、窓が下がっていき中の人物が見えた。
宗弥の祖父と父だった。
「有田君だったね。 もう日が暮れるから家に帰りなさい。 もし遠いなら送るよ。」
今までの人生の苦労を顔に刻み付けた様な迫力のある祖父と違い、宗弥と同じで温和そうなほんわかした雰囲気の宗弥の父が俺を気遣ってくれるがそんなわけにもいかない俺は返答に窮してしまう。
そんな俺を見て宗弥の父は車のドアを開け出てこようとしていた。
その時ふいに鋭い風切り音がした。
次に鋭いものが金属を貫くような音がしたと思ったら宗弥の家の車の運転手らしき人がぐったりとしていた。
俺は瞬間的にメ・バヂス・バの仕業だと理解し空を見上げる。
すると何かが急降下している姿が見えた。
車のボンネットの上に着地したそれは動かぬ運転手を見て満足そうに首を縦に振る。
その姿は見るものに嫌悪感を与える事は間違いないだろう。
そいつは蜂の様な顔に昆虫の羽、そして何より多くの命を奪ってきたであろう腕の針の射出口を持っていて、そのすべてはメ・バヂス・バの特徴と一致していた。
間違いなくメ・バヂス・バだ。
「早く逃げて!!」
俺は宗弥の祖父と父に逃げる様に言ったが2人は車からは出たが逃げようとしなかった。
2人は俺を見ていた。
なるほど俺を置いては逃げられないと言う事か。
2人とも大した人物なのは分かった。
命の危機がある極限状態でも人の事を思い行動できるのは素晴らしいが今は先に逃げてほしかった。
俺が逃げれば2人も逃げ始められるだろうが俺が逃げたあと二人がメ・バヂス・バから逃げられるとは思えない。
それにここでメ・バヂス・バを逃がせばまた犠牲者が出る。
そんな事は断じて許されない。
もう目の前で1人殺されているんだ。
俺は覚悟を決めた。
此処で変身して戦う。
正体が宗弥の祖父や父にばれて宗弥に近づくなと言われるかもしれないが、まぁ仕方ない。
普通の人には俺も怪人も大差ない。
それにもともと潮時だった。
俺の傍にいてあいつを危険に巻き込むようなことはできないし丁度いい。
宗弥の父が俺の手を取り逃げようと手を伸ばすが俺はその手を躱しメ・バヂス・バの前に躍り出る。
「宗弥のお爺さん! お父さん! 2人は逃げてください。 こいつは俺が倒します」
そう叫ぶと俺は変身ポーズをとる。
「変身!!」
RXに変身した俺をみて2人は言葉を失っている様だがメ・バヂス・バは横に開くあごを鳴らしながら車のボンネットから飛び降り襲ってきた。
メ・バヂス・バは針を使ったばかりでまだ針が再生していないのだろう接近戦を挑んできた。
しかし元々接近戦を得意としないメ・バヂス・バの大雑把な攻撃をよけるのはまだまだ戦闘経験の足りない俺でも容易であった。
「RXパンチッ!!」
両手をあげ飛びかかってくるメ・バヂス・バに俺はカウンターで強烈なパンチをくらわせた。
後方に吹き飛びアスファルトを削りながら転がるうちに流石に接近戦では勝ち目がないと理解したのかメ・バヂス・バは背中の羽を広げ空に逃げる。
羽が起こした風を感じながら俺は飛んでいくメ・バヂス・バを見上げる。
悔しいが俺には羽がない、だから当然、飛ぶことができない……
だが奴を倒す方法がないわけじゃない!!
「変身!!」
俺はRXからさらにロボライダーに変身した。
メタリックな黒とオレンジの装甲、名前の通りロボットの様な姿のロボライダーは凄い力を秘めたライダーだ。
その主武装は光線銃、ボルテックシューター。
俺はその名を呼び、実体化した銃を空のメ・バヂス・バに向ける。
「ボルテックシューター‼」
そしてありったけの思いを乗せて引き金を引く。
「もうこれ以上、誰かを殺させはしない!!」
俺は思わず叫んでいた。
ボルテックシューターから放たれた光弾は俺の叫びと共にまっすぐ空へと上がっていく。
そして光弾はメ・バヂス・バの背中に命中し胸へと抜けていった。
間もなく光弾は空に消えゆき、メ・バヂス・バも爆散し塵と消えた。
しかし遅かった、またたくさんの命が失われた。
奴を倒しても喜びなんて微塵もわいてこない、後悔ばかりが先に立つ。
車の方に目をやると、メ・バヂス・バがボンネットに着地した衝撃で壊れたフロントガラスか亡くなった運転手の姿が覗く。
その姿はまるで俺に「なんでもっと早くメ・バヂス・バを倒さなかったんだ。」と語りかけてくるようで、俺は彼から目を背ける。
そんな俺に背後から近づく足音がする。
本当に胆の据わった人たちだ。
俺が振り返ると当然の様に宗弥の祖父と父が立っていた。
「君は一体、何なのだ?」
宗弥の祖父の問いにどうこたえるべきか……
全部ありのままに話しても理解はされないだろう、しかし嘘をついてもすぐに見破られそうだ。
仕方がないテレパシーで呼んだアクロバッターが来るまで当たり障りのない範囲で語ろう。
それから俺はアクロバッターが来るまであの怪人は人の悪意が固まってできたものであることや自分がそれと戦う事の出来る力を持っている事などを語った。
アクロバッターが着た頃には語れることは語りつくしていた俺はまだ話を聞きたそうな宗弥の父の制止を聞かずアクロバッターにまたがり帰ろうとした。
アクロバッターは俺が跨るとロボライダー用のバイク、ロボイザーに変化する。
そう言えばまだロボライダーのままだった。
まぁだからと言って何も支障はないのだが、自分の状態を忘れるぐらいには動揺していたって事だな。
こんな状態で運転して事故でも起こそうものなら本当に怪人と変わらない。
俺は落ち着くために一度深く息を吐きだしてから発進した。
背中に感じる宗弥の祖父たちの視線を感じながらも、それを振り切るように速度を上げアクロバッター達に隠れてもらっている隠れ家の廃工場まで走り抜けた。
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ロボイザーで走り去っていくロボライダーの背中を見ながら宗弥の祖父、千明宗重郎は息子に秋霜の印象と問う。
「あの者のこと、如何見る?」
少し考えた後、宗弥の父、宗士は答えをだす。
「よどんだ目をした少年らしからぬ少年、ですが悪意を持つ者ではないと感じます。」
それを聞いた宗重郎は腕を組み納得したかのようにうなずぐ。
「わしも同意見じゃ。 そして淀んでいるなら詰まっているものを取り除けば自然に清流に戻るだろう。」
宗重郎は何かを決意したようすだ。
「わしは決めたぞ、あの者を支援する。孫の友人でもあるし、何より命を助けられたのだ、恩には報いねばならん。」
そして宗重郎は運転手を見る。
「だが、今はまずは彼を車から下ろしてやろう。」
「そうですね。」
宗重郎は来ていた羽織りを脱いで地面に敷くとその上に彼を息子と共に車から運びだしよこたえる。
その体はまだ暖かくて宗重郎たちは生きていると錯覚しそうになるが、やはりそんな奇跡はなく、確かに死んでいた。
宗重郎たちは彼に手を合わせる。
その姿から心中を察する事は出来ない。
しあし亡くなった運転手は千明の家に十年以上、仕えていた者だ。
そんな人物が死んだのだから悲しいに違いない、だがそれだけでもないだろう。
何かが違えばそこに横たわっていたのは宗重郎達だったかも知れないのだ、だからこそ宗重郎たちは彼ために祈ると共に自分自身に祈っているような感覚だったのかもしれない。
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俺がメ・バヂス・バを倒してから数日、世間はいつも通りの日常に戻り、もう奴の事が忘れられかけている。
そんな中、俺はと言うと病院に宗弥の見舞いに行くこともなくなり、学校などのやらなくてはいけないことを終えるとアクロバッターたちが隠れている廃工場に行き、怪人による事件が起きていないかグローバルネットに接続してニュースを隅から隅まであさるのが日常となっていた。
そんなある日、俺以外には誰も来ないはずの廃工場の扉を開ける音がした。
俺は思わず身構えるがやって来たのは見知った人物だった。
「なんとも、すさんだ場所に隠れているものじゃな。」
宗弥の祖父がそんなことを言ってくるが俺はなぜ彼がこんな場所にいるのか……いや、言葉から俺に用があるのは分かっているが目的が分からず、混乱してしまう。
俺は近くにいたアクロバッターの頭のあたりを撫でて落ち着いてから宗弥の祖父に訪問の理由を聞いた。
「なぜ、こんな所まで来られたんですか?」
すると宗弥の祖父は俺の正面まで来て片膝をつく。
子供の俺との身長差ではそうしなければ目を合わせられないからだろうが、あまりきれいと言えないこんな場所で高級そうな着物を汚してまで目を合わせて話さないといけないことって何なんだ。
「おぬしに提案があってきた。 儂におぬしの怪人退治の手助けをさせてもらいたい。」
これには俺も驚かされた。
この人も変身して戦えると言うのか?
「むろん儂は君の様に変身して戦う事は出来ん。 だがこう見えても儂は顔が広い、警察などに怪人の情報を問い合わせる事も出来る。 他にも此処よりは良い隠れ家を用意できる。」
なるほどそれならば納得いく話だがやはり断った方がいいな。
関係の無い人を巻き込むわけにはいかない。
俺が断りを言おうとするとそんな事はお見通しだったのか宗弥の祖父は言葉を重ねる。
「おぬしがなぜ戦うのかわしには知りようもないが、あれが悪意の固まりと言うのならばあれは君一人で背負っていいものではない。 儂にも共に背負わせてくれ。」
俺は今どうすればいいか迷っていた彼の言葉は俺の心に案外簡単に入ってきた。
それは彼の年の功なのか元から持つカリスマ性からなのかは分からないがとにかく俺の心を揺らす。
確かに彼に協力してもらえれば情報を集めるのは楽になるかもしれない。
「それにの、これはおぬしの為だけに言っているのではない、力を合わせる事で今までなら犠牲になってしまうような人たちを救えるかもしれんのだ。」
このとき俺の心は決まった。
助けられる命が増えるのならそれに勝ることはないはずだ。
「よろしくお願いします。」
そう言って差し出した俺の小さな手を宗弥の祖父は取る。
「こちらこそ、よろしく頼む。 そう言えば自己紹介をしていなかったな、わしは宗弥の祖父で千明宗重郎じゃ。」
そう言って握られた手から彼の手の熱いぐらいのぬくもりが感じられる。
もしかしたらずっときつく拳を握りしめていたのかもしれない。
そうかこの人も、きっと色んな葛藤がある中で決めたことなんだ。
普通の常識を持っていて、怪人に襲われても先に子供を逃がそうとするような人だ。
いくら特別な力を持っていても子供の姿の俺が闘うのをなんとも思わず容認できるわけがないんだ。
それなのにこの人は決断したんだ。
きっと苦しいはずだ、それでも自分が考えた最善と思える道を進んでいく。
凄い人だ。
俺がそんなことを考えている時、宗重郎さんが思い出したように宗弥の事を口に出す。
「そう言えは宗弥がおぬしは最近遊びに来てくれないと寂しがっていたぞ。」
「いいんですか?宗弥と友人でいて?」
俺がそう聞くと宗重郎さんは快活に笑う。
「孫の友人を選別しようとするほど、わしはまだ耄碌しとらんよ。」
俺はそれを聞いて感謝した。
「ありがとうございます。」
そのあと宗重郎さんは立ち上がり俺に「ではそろそろ行くとするか。」と言うと俺を連れ歩き出した。
「どこにですか?」
俺がそう聞くと宗重郎さんは「新しい秘密基地じゃよ、まぁまだ仮のじゃが。」と言う。
こうして俺は新たに手助けをしてくれる仲間ができたのだった。
読んでいただいてありがとうございました。
頑張って書くので感想&批判、何卒よろしくお願いいたします。
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