ハリー・ポッターとラストレッドショルダー (鹿狼)
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プロローグ

初投稿作品です、
何とか完結できるよう頑張ります。


それはかつて「異能生存体」と呼ばれていた。
それは不死身の力……では無い、
それは死なない力、
それは死なない状況を作り出す力、
それは死ぬことのできない力、
それは街も、星も、大切な人を犠牲にしてでも生き残る力、
……呪いの力であった。
この呪いのために彼は苦しみ、絶望し、悲しんできた……。

しかしそれも今終わる。「異能」といえども寿命には逆らえなかったのだ。そして彼は幸せの中にいた、かつて幾度も共に死線を潜り抜けた3人の友、共に緑の地獄を、神の棲む星を生き抜いた仲間、そして唯一彼の子供といえる存在、彼らに見守られ確かな幸福を感じながら彼は眠りについた。かつてその手から抜け落ちた彼にとってのささやかな望み、彼女のもとへ行くために、覚めることの無い、永遠の眠りについたのだ……。



ついた、はずだった。


有り得てはならない目覚め、そして彼が見たのは既に息絶えた女性と、赤子となった自身の姿だった。

彼は……俺は理解した、何が起こったのかを、「異能」は俺をとらえて離さなかったのだ、異能は「記憶」と「人格」を保ったまま俺を転生させたのだ、どこか別の銀河、別の宇宙に……
記憶と人格を保ったまま転生する。それは生まれ変わったと言えるのか?死んだといえるのか?俺はこれを「死」だとは思えなかった、認めることも出来なかった。
俺の肉体は死んだ、しかし俺の魂は死ぬことができなかった、俺は再び地獄へ迷い込んだのだ。

しかしそれは今までに比べればはるかにマシな地獄だっただろう、
生まれると同時に母を失った俺を引き取ってくれた、新たな両親は俺に惜しみない愛情を注いでくれた。それは炎によって両親の記憶を奪われた俺にとって初めて感じるものだった、かつて…もう出会うことのできない彼女と交わした「愛」、もう二度と感じることないと思っていたそれを彼らは与えてくれた、それは地獄のなかで得た、かすかな炎だった。
しかしそれは、またもや炎によって奪われた、俺が6歳の時、何者かによって俺の家は炎に包まれたのだ。
母は俺を守るために死に、
父は俺を救い出すために死んだ。
俺は再び地獄へ、地獄の最底辺、ボトムズへ叩き落とされた。


……再び愛を奪われた俺に残されたものは何もなかった。
もう愛を得ることも
もう希望を抱くことも
もう死ぬこともできない
あてもなく俺は地獄をさまよう
絶望のまま…惰性のまま…

地獄をさ迷い続けるキリコ・キュービィー、
地獄に再び炎が灯ったのは11歳の誕生日の時であった。



魔法界を真っ二つに分けた、闇払いと
死喰い人が、杖を交えて数十年。
死喰い人の長が滅ぼされ、ようやく終戦となった
大戦の末期。イギリスの辺境、リドの町の
闇の中で物語は始まった。『ハリー・ポッターと
ラストレッドショルダー』、お楽しみに。


次回予告ネタは続けられるだけ続けます……。


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「賢者の石」篇 第一話 「開演」

事実上の第1話です、
予定としては
Part3まではキリコによる被が…
…活躍は抑え目で行こうと思います。


…その日の天気は雨だった。季節は夏だったが夕刻にもなればこの国は少し肌寒くなる、雨となれば尚更だ。確かあの日はそんな日だった。
俺は自身以外だれも居ないこの家で1人読書に耽っていた、何の本だったかは…覚えていない。というより、現実を忘れられるものなら何でも良かったのだ。
何もかも失ったあの日から俺は惰性のまま生きてきた。…いや、生きるしかなかったのだ。

「異能生存体」

あの時両親が死んでしまったのも、恐らくはこの力のせいだったのだろう。両親が死んだあと保護者を名乗り出た人は何人かいたが、全て断った。
それは、誰かと関わる気力も失っていたのも有るだろう、しかしそれ以上に俺は恐れていたのだ、また俺のせいで誰かが死ぬことを、大切な人を失うことを。
…あの頃が懐かしく感じる。何処もかしこも鉄、硝煙、血、戦争の臭いで満ちていたあの世界。牙を持たねば生きていけぬソドムの街。右肩に鮮血を背負い戦い続けたあの日々。
俺の「異能」を知っているものが居ない以上、襲ってくるものもいなければ、戦いに巻き込まれることもない、
それは確かに良かった、良かった…しかしそれは戦いの中に安息を求めることも、戦いで何かを忘れることもできないということでもあった。
そんな現実を少しでも忘れるべく、俺は本に意識を向ける、そんな日々が永久に続くのだろう、
昨日も、今日も
明日も、明後日も……。



キンコーン



……読書に逃げることも許されないのか、
そんな自嘲気味の考えをしながら玄関に向かう。近所付き合いはほとんどしていないし、勉強は通信講座で済ませているから学校絡みでもない。なら恐らくセールスの類いだろう。さっさと断って読書に戻ろう、そう考えながらドアを開ける。

そこに立っていたのは
 やたら厳つい顔つきに
 コスプレじみた三角帽子
 挙げ句真っ黒なローブで全身を包んだ……

凄まじい不審者感を醸し出す男であった。

「………」
「………」
「…………」
「…………」
「……………」
「……………あー…」
先に口を開いたのは怪しい男のほうであった。

「キリコ・キュービィーで合っているな?」

「ああ……何の用だ?」

「我輩の名前はセブルス・スネイプ、ホグワーツ魔法魔術学校の教師であり、そこの入学案内のためにここに来た。」

………こいつは何を言っているんだ?





「…ああ、すまない。」

その男にコーヒーを出す、その男…セブルス・スネイプはそう言った後コーヒーを一口飲んだ。………眉間に寄った皺をさらに深くしながら砂糖を幾つか入れている、どうやら苦すぎたらしい。
最初は頭のおかしい不審者か何かかと思ったが、それにしては目がしっかりしているし、嘘を言ってるようにも見えない。もしも本当に頭のおかしいヤツだったにしても多少話してやるくらい良いだろう。そう考えこいつを家に入れた。
こんな不審なヤツを家に入れるなど、俺は自身でも気がつかぬほど人との関わりに飢えていたのかもしれない。人と関わることを拒絶しているのに、誰かと関わりたいと願う。そんな矛盾を心の奥底に押し留めながらヤツの話を聞いていく。

いわく、この世界には魔法という秘蔵されたものが存在している。ホグワーツ魔法魔術学校とは魔法だけでなく、それに関わる概念や魔法使いが持つべき理念などを学ぶ場所であり、魔法の素質さえあれば、今まで魔法のことを知らなかった人間、…魔法の世界で言うところの「マグル」でも入学できると言うことらしい。その後いくつか魔法を実演してもらった。特に何もしていないにも関わらず物が浮いたり、別の物に変化したりと出鱈目な現象が目の前で次々と起こった。どうやらこいつはペテン師というわけではなさそうだ。

「魔法を見ても驚いていないようだが……魔法について何か知っていたのかね?」

俺は首を横に振る、そもそも俺の呪いだって出鱈目具合で言えば魔法みたいなものだ、今更本物の魔法が出てきたからといって何か驚くわけでもない。両方とも出鱈目であることに変わりはない。

 ---両方とも出鱈目---

その瞬間、俺はあることに…1つの可能性に気が付いた。
「異能生存体」
「魔法」
両方とも出鱈目な力だ、両方とも出鱈目な……()()()()()()()()()()()

「君がホグワーツへ入学したいと希望すれば入学することができる、しかし希望しないのであれば今日の記憶を「入学させてもらう。」……何?」

「入学させて欲しい。そう言ったんだ。」

あまりの急な返答にヤツは少し戸惑ったようだが、すぐに落ち着き改めて聞いてきた。

「つまり君は、ホグワーツ魔法魔術学校への入学を希望する……。それで良いのだな?」

「ああ、俺は入学を…ホグワーツへの入学を希望する。」

「さようか、ならばーーー」

その後ヤツは入学するに当たって必要な物や、必要な準備などを説明した後、必要な物を買いに行くので明日の正午頃準備して待っていろ。…と言い帰っていった。

「では、明日の正午頃迎えに来る、準備して待っていたまえ。」

「ああ、解った、……これから宜しく頼む、()()()()()()。」

「………ああ、こちらこそ。」

ヤツを見送った後、俺は考えていた。魔法のことを、今まで思い付きもしなかった可能性、俺はそこに微かな希望を見いだした。
この力ならば終わらせることが出来るかもしれない。
この力ならば叶えることが出来るかもしれない。
この力ならばーーー



俺 を 殺 せ る か も し れ な い



地獄に下ろされた蜘蛛の糸、それを慎重に手繰り寄せ登り出す。この地獄から逃れるために、今度こそ「彼女に」出会うために。

登りきった場所が、新たな地獄だとしても




異能の手を逃れたキリコを待っていたのは、また地獄だった。
戦いの後住み着いた絶望と怠惰。
魔法使いが生み出したソドムの街。
悪徳と野心、頽廃と混沌とを大鍋にかけてブチまけた、
ここは魔法界のゴモラ。

次回「ダイアゴン」。
来週もキリコと地獄に付き合ってもらう。


ダイアゴン横丁がソドムと化していますが気にしてはいけません。


追記 後書きを少し修正しました。


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第二話 「ダイアゴン」

いまはこの投稿ペースだけど
絶対遅くなっていく気がする。
それでも何とか頑張っていきます。

…事前に書いとけばよかった


その日の家事を一通り終わらせた後、俺は入学案内を見ていた。
必要な物としては杖にローブ、教科書に連れて行ける動物の種類など様々なことが書かれていたが…どこで買えるのか見当もつかない。金はありったけ持ち出したがそもそも使えるのかも分からない。…その辺の都合もあるから先生が付き添いで行ってくれるようになっているのだろう。準備を終わらせ少し経った頃、12時ちょうどにチャイムが鳴り響いた。

「準備はできているな?」

玄関に出ると昨日入学届を持ってきたセブルス・スネイプが立っていた。
俺が頷くとヤツは自身の腕を掴むように言ったので、手首あたりを掴むことにした。…次の瞬間、俺の視界には見知らぬ空間が…と思った瞬間さらに見知らぬ景色が移しこんできた…と思った瞬間視界が急に斜め向きになった、少し姿勢を崩してしまったらしい。いまのは瞬間移動の魔法だろうか、姿勢を正すと今度は大勢の人の驚いた視線が映り込んできた。

「…ここはどこだ?」

「『漏れ鍋』というパブだ、ここから『ダイアゴン横丁』に行くことができる。」

なるほど、言われてみればパイプの臭いやらアルコールの臭いが混じり合い、異様な臭いで充満している。横丁というからには商店街のような物、それも魔法使いのための店なのだろう。そこで買い物をするためにここに来たのか。

「いらっしゃいスネイプ先生、お久しぶりですね、そちらの子は?」

「今年入学する生徒だ、吾輩はその手伝いで来た。」

「おやそうですか。こんにちは坊や、私はこのパブを営んでいるトムといいます。」

「…キリコ・キュービィーだ、よろしく頼む。」

その後トムとか言う店主はいろいろ話そうとしていたようだが、スネイプがこちらを見つめているのを見て、早々に会話を切り上げていった。
そしてスネイプの後を追い店の奥のドアから外へ出たが、そこは四方とも煉瓦で囲まれあとはバケツと箒が置いてあるだけの空間に出た。…俺が疑問に思っているとヤツは杖を取り出しレンガの壁を数回叩いた。するとレンガは凄まじい勢いで回りながら組み変わっていき、気が付けばレンガはアーチへ変化しそこからは奇妙で賑やかな街並みが広がっていた。

「ここがダイアゴン横丁だ、必要な物は大体ここでそろう。だがまずマグルの貨幣を換金しなくてはならない。」

使えるかどうか分からなかったが、換金できるのか。頭の隅にあった不安を取り除いた俺は再び歩き出したヤツの後をついていく、周りを見渡すと箒の店やローブを取り扱う洋服屋、何に使うのか分からない巨大な鍋やガラス瓶など見たこともない店が立ち並び、あちこちに魔法で動かしているであろう人形が客の興味を引いている。それを見て俺はここが普通の街とは違うことを改めて実感する。見知らぬ街は今まで幾つも彷徨ってきたがここまで非現実的、そして興味をそそられる街は初めてだ。そうこうして色々な店を見ながら歩いているとほかの店と比べて明らかに巨大、かつ浮いている白塗りの建物が遠くに見えてきた。建物には『グリンゴッツ銀行』と書かれている、換金はあそこでするのだろう。
中に入っていくと大勢の人が行き来していた。その中で一際目立つのはあの銀行員らしき人…いや生き物だろう。鬼というには小さくどちらかというとゴブリンのような印象を受けるその生き物は丸眼鏡に髭を生やし、シワ一つ無いスーツを着こなしながら天秤のような物を使って作業をしている。

「スネイプ先生、あの生き物は何でしょうか。」

「あれは小鬼だ。頭は良いが色々と面倒な連中でな、礼節には気を付けた方がいい。」

あれは小鬼というのか、本当に色々いる所だ。すると一番奥、一番高い机に座っている小鬼と目が合う。スネイプもそちらに向かっているところを見ると換金できる場所はあそこなのだろう。

「マグルの通貨を換金したい。」

「換金ですね、では今係の者を呼ぶので少々お待ちください。」

受付の小鬼が手元のベルを鳴らすと、換金担当であろう小鬼が現れた。そいつの後をついて行き少し小さめの部屋へ案内される。テーブルを挟んで座ったのち換金手続きが始まった。ありったけの金を持ち出して来てみたが果たして足りてるのか不安ではあったがスネイプに聞いてみたところ「今年の分としては十分」と言っていたため大丈夫だったのだろう。また換金と同時に金庫も作ってもらうこととなった、個人単位の金庫までやっているとはここは魔法界の中でも相当大きい銀行なのだろう。そのあと換金を終えた小鬼から魔法界の通貨を受け取り、金庫へ案内してもらう。金庫に行くまでは中々の速さのトロッコで移動することとなった。金庫が管理されているこの地下空間は明らかに銀行の敷地よりも広い気がする、本当にどういう構造なのだろうか。

換金を終わらせグリンゴッツを後にした後、遅めの昼食となった、とはいえ俺もスネイプもそんなに腹が空いていた訳ではないのでサンドイッチで済ませることにした。尚買ったのはキューカンバーサンドイッチ…つまりキュウリサンドだ、しかし貧相と舐めてはいけない。塩で濃く味付けされたキュウリはしっかりと味を主張しており、さらに水のせいでパンが濡れることもなく野菜の生臭さも消している。さすがかつてはイギリス上流階級御用達の食べ物だったことはある。今や庶民食だが。

最初に訪れた店は薬問屋だった、なんでもスネイプは魔法薬学とかいう科目の担当らしく、どんな材料が良いか、どんな薬瓶が最適か---などといったアドバイスを受けながら購入した。その後は鍋屋にマント、望遠鏡の店で必要な道具を買い揃えていき、次に訪れたのはオリバンダーという店主が営んでいる杖屋であった。店の中は埃っぽく、カウンターの向こうからは細長い箱が延々と積み重なっていた。スネイプがベルを鳴らすと山と山の間をすり抜けながら一人の老人が現れた。

「いらっしゃいませ。スネイプ先生、今日はどんな御用で?」

「この子の杖を選んでもらいたい。」

「わかりました。初めまして、私はオリバンダーと申します、杖というのは一本一本強力な力を持った物を芯にしています。故に同じものは一つとして「あー…、吾輩は必要な教科書を買ってくる。ここで杖を選んでもらいたまえ。」………では採寸から行きましょう、杖腕はどちらですかな?」

うんちくをぶった切られた店主は若干悲しい顔をしながら採寸を終え、店の奥に行った後一本の杖を出してきた。

「樫にドラゴンの髭、23㎝、頑固だが火に適する。」

杖を受け取った後軽く振ってみる。………何も起こらない、念のためもう一度振ろうとする前に店主は杖を手元から取っていった。

「駄目ですな。ではこちら、杉に人狼の髪の毛、21㎝、やや気難しい。」

再び振ってみると、杖の先端から軽く風が吹いたがすぐ止んでしまった。

「ならばこの新品の杖はどうでしょう、特殊形状記憶合金テスタロッサにキューブ、最新技術をおしみなく搭s」

「次だ」

そんな杖あってたまるか、店主の出した杖を即座に断った後、幾つか試してはみたがどれもしっくりこない、その内店主は店の奥に入っていきしばらく出てこなくなった。
気が付けばスネイプが戻ってきていた、驚いた顔をしているあたり相当時間がかかっているらしい。

ゴゴゴ………

突如店の奥から軽い地鳴りのような音が聞こえる、…箱が崩れたのだろうか?すると再び店主が戻ってきた、…他と比べ明らかな異彩を放つ巨大な箱を持って。

「ありました、この店の開業以来誰も触れたことのない杖ですが、もしかしたら…」

そう言って取り出した杖は箱同様、今までとは明らかに違うモノであった。

「吸血樹にケルベロスの脊髄、長さ40㎝太さ4㎝、威力こそありますが、重く扱いずらく極めて凶暴。」

差し出されたそれを手に取る…とても杖とは思えない太さだ、指先で持つことなど絶対にできないそれを手のひら全てを使いしっかり握った後、その重さに振り回されつつも振ってみる。



その瞬間、オリバンダーの店に今日で二度目の轟音が響くこととなった。別に店が吹っ飛んだわけでは無かった。……床の一部が軽く吹き飛んでしまったが。俺を含めてしばらく放心状態となっていたが、すぐに気を取り戻し、杖の代金を払って店を後にした。


俺はこの杖に酷く懐かしいものを感じていた。
この重さ、この扱い辛さ、扱う人のことを微塵も考えていないこの設計、
しかしどんなものでも必ず倒してくれると思えるこの強さ。
それはかつてあの銀河で生きていたころ、
俺が信頼し常に持ち歩いていた、
『バハウザーM571アーマーマグナム』
あの愛銃によく似ていた。



彼が去った後、オリバンダーは強烈な不安に駆られていた。
それは、まるで「あの人」に杖を渡してしっまたとき感じた不安…とは、また違う不安であった。
その不安は、違和感…と呼ぶべきものであった、
何か、彼が、あの少年が人ではない、バケモノのような…
バケモノを何か、恐ろしい「異常」を起こしてしまったかのような、あやふやな不安であった。

彼は…この不安が、自分の勘違いであってほしいと、祈らざるにはいられなかった。



後足りないのは洋服だけだったので、マダム・マルキンの洋服店という店に行くこととなったが、店の中は何か騒がしかった。どうも二人の少年が言い合いをしているように見える。だからといってわざわざ会話に加わる必要も無いため、すぐに採寸を済ませ仕立てあがるの待つこととなった。店主曰く「数分でできる」らしいが服の仕立がそんな早く済むとは思えない、これも魔法によるものだろうか。魔法の万能さに感心していると、横から先ほど話していた少年のうち金髪の方が急に話しかけてきた。

「やあ、君もホグワーツの新入生かい?僕はドラコ・マルフォイ。よろしく頼むよ。」

「…キリコ・キュービィーだ、よろしく頼む。」

「君も聞いていただろ?、僕と彼の話、ホグワーツに相応しいのは純血の魔法使いで他の連中は入学させるべきではない。僕はそう思っているんだ。」

「………」

「連中は僕らとは違うんだ、真に優れているのは純血だけ、穢れた血のやつらが入って来たらホグワーツの品格が下がってしまうだろ?だから入学するのは伝統ある純血の一族だけにするべきだ。」

「………」

「そうすればホグワーツは今よりもっと良くなることが出来る、そうすれば今よりもっと優れた魔法使いが---」

「終わったぞ。」

どうやら洋服の仕立ては終わったらしい、スネイプが服の入った袋を持ってきてくれたようだ。袋を受け取った後代金を払い、買い残しがないか確認する。…問題ないようだ、荷物を軽く整えるとスネイプが確認をとっている。恐らく行きと同じ魔法を使って帰るのだろう。スネイプの腕を掴もうとしたとき、また金髪の少年が何か言ってきた。

「あ、おい話はまだ終わってな---」

腹が掴まれるような感覚と浮遊感の後、俺は自宅の前まで戻ってきていた。
何か言いかけていたようだが、どうでもいいことだ。ああいったヤツの話はだいだい聞く価値がない。ほとんど聞きかじって作ったような内容だからだ。
…そもそも純血とは何のことだったのだろう。まあ大方何かの差別用語だろう。

「これで必要な物は揃ったな、吾輩は帰らせてもらう。ホグワーツへ行く汽車のチケットは袋の中に入れておいた。」

「了解です、今日は色々世話をしてもらい感謝します。」

そう言いお辞儀をした。そして顔を上げ直すとヤツはもう居なくなっていた。



久々に動き回ったせいか、俺はだいぶ疲れていた。
しかしそれは生きることへの疲れではなかった。
地獄に垂らされた一本の糸。それが紛い物でないことを慎重に確かめる。
あれは幻ではない、この疲れが確かな現実だと教えてくれる。
ならば焦ることはない、ゆっくりと、糸を登って行けばいい。
だから今は疲れを癒そう、
明日につながる 今日ぐらい………





「只今戻りました、校長。」

「おおセブルス、ご苦労じゃった。」

今日はだいぶ疲れた、急に連絡が来たかと思えば「人手が足りないので入学案内を手伝って欲しい」と言われ、正直面倒だが行くことになってしまった。吾輩以外に手の空いている人はいくらでもいるだろうに。

「それで、どうじゃった?あの子…キリコは?」

「彼ですか…取り立てて言うことはありませんが、しいて言うならばだいぶ物静かな子…と言ったところでしょうな。」

あの少年…魔法を見せても殆ど反応しなかったな、大体の連中は家族全員で大騒ぎするのだが。年の割にかなり大人びた印象を受けた、やはりあの年で一人暮らしをしているからだろうか。いや、その後もずっと無表情だったな、そう考えると大人びているというよりは度胸が据わっているのだろう。

「それにしても意外じゃのう…君が案内をしたいと自分から言うとは。」

「………今、何とおっしゃたのですか?」

「む?君から言い出したのでは無かったのかね?」

「…吾輩は人手が足りないと頼まれたので行って来たのですが。」

「はて、そのようなこと伝えたかの…?」

………校長室から地下にある自分の部屋へ戻りながら、右手のレモンキャンディーを握りつぶす、とうとう耄碌してきたのかあの人は。あれが完全に無駄足だったのだと考えるとさらに腸が煮えくり返ってくる。
…まあ、あの生徒に対しそこまでいやな感情は抱かなかったし、何より真面目そうだ、恐らく優秀な生徒になるだろう。ならば今日のことも無駄ではなかった。…そう考えれば怒りも少し収まる。そういえばルシウスの息子には少し悪いことをしたかもしれない、もし気にしているようなら声をかけた方がいいかもしれないな。キャンディーを口に入れながらそんなことを考えていた。



食う者と食われる者、そのおこぼれを狙う者。
杖を持たぬ者は生きてゆかれぬ魔法の城。
あらゆる存在が跋扈するホグワーツ。
ここは四人の賢者が産み落とした大英帝国の神秘の城。
キリコの躰に染みついた硝煙の臭いに惹かれて、
危険な奴らが集まってくる。
次回「出会い」。
キリコが飲むホグズミードのバタービールは苦い。


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第三話 「出会い」

データが吹っ飛びかけてマジでビビった、
今度からワードを頼りにしようと反省しています。
↑「嘘を言うなっ!」

追記 宴シーン入れ忘れてました。




俺はチケットをもう一度確認し直す。
キング・クロス駅
 …間違いなくここはキング・クロス駅だ。
ホグワーツ行き 十一時発
 …現在時刻は十時、乗り遅れたわけでもない。
九と四分の三番線
 …そして周りを良く見渡す、俺が立っている場所は九番線。
………四分の三とは何のことなんだ、俺は駅のホームで立ち尽くしていた。

駅員に聞こうかと思ったが、魔法の存在が秘蔵されているのを思いだし止めることにした。聞いたところで狂人に思われるだけだ。
実際の所、魔法同様にこのプラットホームのどこかに入り口が隠されているのだろう。入り口を探しながらホームを適当に歩き回っていた俺の視界は違和感を捉えた。

違和感の先、そこにあったのは子連れの家族だった。しかしそいつらは黒いローブを羽織り、動物やら杖やらが入った巨大な荷物を押していたりと、家族旅行と考えるには明らかにおかしな恰好だった。
恐らくあいつらは俺と同じくホグワーツへ向かう生徒だろう、ならばホームへの入り口を知っているはずだ、そう考えそいつらを観察していたがすぐに見失ってしまった。と言うより壁の中に消えていってしまったのだ。
…つまりそういうことか、俺はやつらの後を追うように壁へ向かって突っ込んで行くーーー
瞬間、俺の視界には石壁ではなく広大なホームが広がっていた。再度周りを確認すると「四分の三番線」と書かれた看板を見つけた、どうやら俺の考えは間違っていなかったようだ。

ホームは列車に乗り込む子供達にそれを見送るであろう保護者で溢れている、人混みを避けながら俺は早めにホグワーツ行きの列車に乗り込むことにした。

                      

…列車が出発した後、しばらく別れを惜しむ親子らの声が響いていたがそれが急に届かなくなると同時にキング・クロス駅の姿も全く見えなくなった。
周りの景色はキング・クロス駅周辺と明らかに違うのを見るに、駅を出ると同時に何処かへ移動していたのだろうか、俺は少し奥の車両のコンパートメントに腰掛けながら何冊か教科書を取りだし、その中の一冊に目を通す。
俺の「目的」、それは俺を殺せる魔法を探すことだ。
…しかし今の俺は魔法のことを全く知らない、だから今はこうして教科書を読み漁り、基本を固めることにしている。長い道のりとなるだろうが…希望の欠片も見えなかった今までよりは遥かにマシな道だろう。そして俺は教科書を読みはじめた。

…しばらくたつと車両の奥から老婆の声が響いてきた、通路に身を乗りだし覗き込むと老婆は色々な食べ物を乗せた台車を運んでいた。車内販売か、ホグワーツまではおそらくまだ時間がかかるだろう、ならここらで何か食べておいた方が良いかもしれない、そう考え老婆を呼び止める。

「車内販売よ、何か買いますか?」

そう言われカートを覗いてみる。
カートの中には百味ビーンズ、蛙チョコレート、かぼちゃパイにかぼちゃジュース、砂モグラ風ロールケーキ、大鍋ケーキ…
カートの中は多分…お菓子だと考えられる物ばかりであった。あまり好みの物はなかったがここで何も買わないで腹を空かすのもどうかと思ったので危険そうな物は避け、大鍋ケーキとかぼちゃジュースを買うことにした。

「わかりました、毎度~」

老婆が去った後ケーキの袋を空けてみる。そのケーキは名前の通り黒い大鍋の形をしていた。なかなか精巧に再現したその出来に感心しつつさっそく一口食べてみる。
…なるほど、このケーキはスポンジを幾つか重ねたような構造になっているのか。その間には淡白な味のスポンジとは対照的に濃厚な生クリームが挟まっている、
それも多すぎず、最適な量となっておりそれがスポンジと混ざりあい滑らかな舌触りと甘さを演出する。
それだけではない、スポンジに混ぜられた固いチョコチップはちょうどいい歯応えと苦みとなり食べる人を飽きさせない。
しばらく食べた後、喉も乾いた俺はかぼちゃジュースを飲み、口の中に残ったケーキごと胃に流し込む。
なるほど、こちらのジュースもなかなか旨い。かぼちゃの味は濃すぎず少し薄味となっている、さらにジュースに混ぜられているであろうリンゴがかぼちゃの甘さのクセを和らげ、爽やかな飲み心地となっている、
これならどんな子供でも飽きずにどんどん飲んでいけるだろう。そして俺はジュースで喉を潤した後少しため息をつく。

「…甘い…」

…確かに旨いのだが、正直俺の舌には甘過ぎる。いや、子供向けならこのくらいでちょうどいいのかもしれないが。
あの世界に旨い物がろくに無かったせいだろうか、俺も気がつけば随分味に煩くなっている。惜しむべきはこの国がイギリスだという点か、そうでなければもっと積極的に外食に行っていたのだが。ホグワーツの食事はどんな味なのだろう、密かに期待しながら再びケーキに手をつけ始める。



…俺は別の車両から自分のコンパートメントに戻ろうとしていた。まあ用を足してきただけだが。

「ゲコ」

…車両の端から聞こえた音、その方向を見るとそこにいたのは何故か蛙だった。何故蛙が?
少し考えた後、ホグワーツに持っていける動物を思い出す。確か…ヒキガエル、ネズミ、ふくろうの三種類だったはずだ。俺は結局どれも不要そうだったので適当にネズミにしておいたが、こんなところに居るということは、誰かのが逃げ出したのだろう。
飼い主が探しているかもしれないので蛙を拾い上げておく。改めてコンパートメントに戻ろうと車両を挟むドアを開けたところ、その飼い主とすぐ出会うこととなった。

「あっ…えっと…、………あ!トレバー!」

トレバー、…この蛙のことだろうか、なら目の前のこの大人しそうな少年が飼い主と言うことか。

「…気を付けろ。」

「あっ、うん…。…あ、ありがとう。」

そして俺はコンパートメントに戻り、再び読書に戻ろうとするが、それは勢い良く開かれたドアの音に断ち切られた。

「ねぇ、ちょっといい?貴方ヒキガエル見なかった?ネビルって子のペットが逃げちゃったからみんなで一緒に探してるんだけど中々見つからなくて。
それにしても本当に魔法ってすごいわね、人が突然透明になったり物が勝手に浮いたり、動物もお菓子も見たこと無いものばかりで本当に驚いたわ、私の両親はどっちも魔法使いじゃ無いから初めて見るものばっかりで…
あ、私はハーマイオニー・グレンジャー、貴方の名前は?」

……怒濤の勢いで喋りきったハーマイオニー…と名乗る少女に俺は少し呆気にとられていた、こういった性格の人間は少し苦手だが、かつての友人を思い出す。…いや、違うな、あいつは目の前の少女よりさらに元気…というより騒がしいといったほうが似合っている。

「ねぇ、ちょっと聞いてる?」

「…キリコ・キュービィーだ、蛙ならもう見つけておいた。」

「あ、そうだったの?ありがとう助かったわ!」

そう言い終わりかけたところで彼女はもうコンパートメントから出ていった。外でまだ誰かと話しているようだ、蛙が見つかったことを話しているのかもしれない。まあ何でも良いだろう。静かになったところで俺は「近代魔法史」と書かれた本を取り出すと栞を挟んだページを開き、読書を再開する。

「…ポッター君、だからそこのそいつのようなヤツとは付き合わない方がいいよ。」

「悪いけど、自分の友達くらい自分で決められるよ。」

「そうだそうだ!お前こそ考えた方が良いんじゃないか?そんな腰巾着ばかりつれてさあ!」

「そうよ!それとも貴方、友達いないからそーんな人達をつれて回ってるんじゃないの?」

「だまれよウィーズリー、穢れたマグルに穢れたマグルを認める純血の面汚しめ。」

「いい加減にしろよマルフォイ!」

「いい加減にするのは君たちの方じゃないか?それにーーー」

バァン!!

「!?」

再び開かれたコンパートメントのドア、その音に怯んだのか全員目を開けこちらを見ている、人数は…六人か。

「…静かにしろ。」

読書を邪魔され、軽く苛立ちながらそう言い放ち、コンパートメントに戻ろうとすると金髪の…マダム・マルキンの店にいた少年…たしか…名前は
………
ドラコ・マルフォイ…だったか?そいつがまたしつこく話しかけてきた。

「あ!君はあのときの…キュービィー君じゃないか。前聞きそびれたけど、君もホグワーツに相応しいのはそこにいるマグルみたいな連中じゃなく、僕らのような純血の魔法使いだと思うだろう?」

「どうでもいい」

「え………」

「あと、俺は純血ではない。」

「え!?」

話す気も無かったが何か返さない限り延々と聞いてきそうだったので、さっさと会話を切り上げ俺は席に戻る、あの買い物のあと本で調べたところ、純血とは両親や祖先にマグルの血が混ざっていないこと、つまり俺の予想通り選民思想の一種だと知った。
…まあ俺の実の両親は生まれた時点で死んでしまっていたため実際は純血かどうかなど分からないが、わざわざ教えてやる義理もない。にしてもヤツは何故俺を純血だと思っていたのだろうか。
そう思った時、先程の会話で「ポッター」という言葉が出てきたのを思い出した。
ポッター…俺は何かを思い出すよう手元の本をめくっていく。
………あった、このページだ。
何処かで見た名前だと思ったが、そうか、あの頭に稲妻型の傷があった眼鏡の少年。あれが闇の帝王…ヴォルデモート卿を倒した少年なのか。
だがあの少年、俺と同い年ということは当時は赤ん坊のはずだ、一体どうやってヴォルデモートを倒したのだろうか?
ヴォルデモートを倒した方法こそ気にはなったが別にそれ以外の興味が沸いた訳ではなかった。とはいえ考えても分からないことはどうしようもないだろう。俺は考えるのを止め、今度こそ読書に没頭することにした。






(イッチ)年生はこっちだ!」

そう叫び新入生を案内しているハグリッドという名の大男はクエント人のように巨大な姿をしていた。そしてヤツに案内された道は薄暗く左右は木々に覆われており、しかも急激な下り坂となっていた。
…前でも後ろでも既に何人か転び、坂を軽く転がっている。新入生を迎えるのに何故こんな道を選んだんだ。
足元に注意を払いながら進んでいくと急に広大な湖が現れた、そして向こう岸にはパッと見ると古臭いが、何百年も積み重ねられたであろう伝統が伺える荘厳な城がそびえ立っていた。
あの城がホグワーツか。周りに合わせボートに乗り込みながら俺は湖面の炎に浮かび上がるその城を眺めていた。

湖をボートで渡りきり、城内の階段を登りきった場所で待っていたのはエメラルド色のローブを羽織っている壮年の女性だった。
大男は新入生の案内をマクゴナガル先生と呼んだその女性に引き継いでいき、奥の扉から出ていった。

彼女は新入生の方を見渡したあと、全員に届くよう、かつ落ち着いた声で話始めた。

「新入生の皆さん、ホグワーツ入学おめでとうございます。これから皆さんの歓迎会が始まりますがその前に、皆さん一人一人の寮を決めなくてはなりません。
組分けはとても大事な儀式です。ホグワーツにいる七年間、皆さんはその寮の中で学び、眠ります。また自由時間もそれぞれの寮の談話室で、そして同じ寮生は家族同然となり、これらを皆さんと共に過ごすことになります。
寮は全部で4つ。グリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー、スリザリン。
それぞれに輝かしい歴史があり、多くの偉大な魔法使いや魔女が卒業していきました。
ホグワーツに居る間、皆さんの行いは自らの属する寮の得点となります。よい行いなら得点に、悪い行いなら減点に、 そして学年末には、最高得点の寮に大変名誉ある寮杯が与えられます。どの寮に入るにせよ、皆さん一人一人が、寮にとって、またホグワーツにとって誇りとなるよう望みます。」

そう話終わり一息つき、服装を整えるよう新入生に伝えると彼女は準備のためと言い奥の扉に入っていった。
組分けの儀式か、「ホグワーツ歴史書」という本を読んではきたが組分けについては極秘事項なのか全く触れられていなかった。なぜたかが組分けがそんなに極秘なのか、その疑問の答えは彼女が戻っきたことで先伸ばしとなった。

案内された大広間は城同様壮大な場所だった、天井には何千という数の蝋燭が糸も使わずに浮かんでいる、その天井も武骨な石とか、精巧な絵画ではなく多くの星が煌めく夜空が広がっていた。
席の方を見ると部屋の端まで届きそうな四つの長机には上級生がこちらに絶え間なく拍手を送りながら座っている。少し奥にある上座の机は教職員の机だろう…そして間の机に置いてあるのは…帽子か?
なぜ帽子が置いてあるんだ、そんな疑問は突如顔のような模様が浮かび上がりその帽子が歌いだしたことで完全に吹き飛んでしまった。

 
 グリフィンドールに入るなら 勇気ある者が住まう寮 勇猛果敢な騎士道で ほかとは違うグリフィンドール

 ハッフルパフに入るなら 君は正しく忠実で 忍耐強く真実で 苦労を苦労と思わない

 古き賢きレインブンクロー 君に意欲があるならば 機知と学びの友人を 必ずここで得るだろう

 スリザリンではもしかして 君はまことの友を得る? どんな手段を使っても 目的遂げる狡猾さ


…つまりこの歌はそれぞれの寮の特徴を表した歌ということか。そしてマクゴナガルが言うには、この帽子が一人一人、どの寮が相応しいか決めてくれるらしい。まず最初の一人が呼ばれる。

「アボット・ハンナ!」
「ハッフルパフ!」

するとハッフルパフの席と思われるテーブルから歓声と拍手が上がり、次々と名前が呼ばれていく。

「キュービィー・キリコ!」

………しばらく経ち俺の名前が呼ばれる、それぞれに相応しい寮を選んでくれるらしいが、自分がどの寮になるのか見当もつかない。まあ、正直なところどこでも俺にとっては大差無いのだが。そうして俺はその帽子を深くかぶる。




これは…一体…どういうことだ…?

組分け帽子は驚愕した。これまで幾人もの生徒を組分けてきたが、こんな生徒は見たことがなかった
大人びた子は何人もいた
冷静な子も何人もいた
無口な子も何人もいた
しかし皆、心の中では年相応の無邪気さや希望を持っていた
しかしこの生徒は明らかに違った
彼の心に無邪気さは欠片も無かった
夢は粉々に砕かれていた
希望はあったが、それはズタズタに引き裂かれている
彼の心をどこまで行ってもどす黒い暗闇しか見えなかった

…しかし彼が何であろうと私は組み分けねばならない
彼に最もふさわしき場所へ

…彼が少しでも救われるであろう場所へ




帽子をかぶりしばらく経つと、頭の中に帽子の声が響いてきた。

(………これまた何ということだ。全ての寮への適性を持っている。
…何物にも立ち向かう勇気、どんな困難も耐え忍ぶ忍耐、如何なる危機も切り抜ける機知、目的のためなら全てを欺く狡猾さ。
さて、…どうしたものか…。)

帽子はポツリポツリと困惑した様子でそう言った後黙り込んでしまった。


…もう五分以上はたった、帽子でふさがれてよく分からないが前の上級生席や後ろの教職員席もざわついてきている。確か五分以上かかるのは組み分け困難者といいかなり珍しいらしい。
そこからさらに二分ほど掛かったところで帽子が一息ついた音が響いてきた。やっと決まったらしい。

「…ハッフルパフ!」

少しためた後帽子が叫ぶとハッフルパフのテーブルから一段と盛大な拍手とともに俺は迎えられた。
奥の空いた席に座ると隣に座っていた短い茶髪の子が話しかけてきた。

「お疲れ様!僕の名前はキニス・リヴォービア、これからよろしくね!」

「ああ、よろしく頼む。」

「それにしても随分時間が掛かってたね、確か五分以上掛かった人って組み分け困難者って言うんだよねー。あ、でもその分先輩たちは喜んでたな。何でもハッフルパフは滅多に目立つことが無いからこういうことが起きると特に嬉しいらしいよ。」

そいつの会話を聞き流しながら残りの組み分けを眺めていく。周りを見渡すと何人かは眠そうに首を動かしてる。無理もない、長時間列車に乗っていたり、色々なことがあったりともう疲れて当然だ。そこで俺はある疑問を思い出した。
…結局なぜあの帽子が極秘事項だったのだろうか。その解決しないであろう疑問を諦め切れたのは組み分けが終わり、宴も終わって各寮への案内が始まったころだった。

厨房の間を通り抜け、上級生の後をついて行った先にあったのは何故か大量の樽であった。
上級生はその内の一つの樽に手を伸ばし、底を二回叩く。
すると樽の間にあった石壁が変形していき、談話室への入り口が開いた。

「今のが談話室への入り方だ、ただしどの樽でもいいという訳では無い。樽山の内二つ目の列、その内真ん中の樽の底を二回叩かなくちゃいけない。今のはハッフルパフ・リズムと言って分からなくなったら友達や上級生に聞くように。でなきゃ君たちはアツアツのビネガーを頭から被ることになる。」

上級生の言ったことをメモに取る、忘れるのは流石にまずいしビネガーを被るのもごめんだからだ。
書き取りを終え周りを見るともうほとんどの生徒は意識が朦朧としている。…明日は入口がビネガーまみれになりそうだ。
そんなことを考えながら談話室へ入っていくとそこは黒と黄色を中心とした配色の暖かそうな空間が広がっていた。左右には樽底のような扉が取り付けられた細長い通路が続いている。

「ここが談話室だ、右が男子、左が女子寮となっているので間違えないように。あとついでに言っておくと男子女子共にお互いの部屋への出入りは自由になっている。…が、羽目を外さないように。では今日はもうこれで解散だ、みんな疲れているだろうし、ゆっくり休んでくれ。」

…今さり気無くとんでもないことを言っていた気がする。確かにどの寮でも良いと思ったが色々大丈夫だろうか。
一抹の不安に駆られながら俺は自分の部屋に入る。俺の荷物も運び込まれてる所をみるに、ここで合っているだろう。だがもう一つ荷物があるということはここは二人部屋なのだろうか。それを確かめるように再びドアが開く。

「あっキリコも同じ部屋なんだ!…じゃあ改めて、これからよろしくね!」

「ああ。」

どうやら先ほど隣の席にいたキニスという子が俺のルームメイトらしい。そして最低限の荷物整理をし終わる頃にはヤツはもうベットの上で熟睡していた。
…かくいう俺も猛烈な眠気に襲われる。よく考えれば俺の体はこいつらと同じ年齢だ、なら疲れの溜まり方も同じで当然だ。羽織っていたローブをハンガーに掛けると睡魔に引きずられるように俺の体と意識はベッドに沈み込んでいった。


薄れゆく意識の中、俺の手には暖かな毛布の肌触りがあった。
しかしそれに対して俺の心は鉄のよう冷え切っていた。
死なないために生きていた頃の鉄の触感
死ぬために生きる今の暖かな触感
どちらにせよもう、そこにおふくろのような暖かさを感じることは無い
だからこそ俺はここに来たのだ
今度こそ深い眠りが訪れることを祈って



かつて、あの組み分け帽子の歌に送られた生徒たち。
寮を守る誇りを黒いローブに包んだ魔法使いの、ここは学び場。
無数の教師とゴーストたちの、
ギラつく期待に晒されて教室に引き出されるホグワーツの新入生。
学無きボトムズたちが、ただ己の成績を賭けて激突する。
次回「ホバリング」。
杖の閃光から、キリコに熱い視線が突き刺さる。


次回箒の授業やります、なので箒でホバリング…無理やり極まってるな
あと今回登場したキニス・リヴォービアは完全なオリキャラです。
なんせキリコ、ほっといたら永久に喋らないので会話の切っ掛けの為に
登場させた次第です。
もう一つ、キリコはハッフルパフ生となりましたが、これはハッフルパフの適性は
努力家、我慢強い、正義感が強いなどが条件なので
…散々考えた結果ハッフルパフ行きになりました。
色々言いたいことがあるかもしれませんがこのSSではこういう形でお願いします。


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第四話 「ホバリング」

本編作るより予告ネタの方に時間割いてるんじゃねえか?
まあいいや、
という訳で開幕グルメ、始まります。


こんがりと小麦色に焼けた皮を破ると軽快な歯応えと同時に芳醇な肉の香りと肉汁が口の中に広がっていく。
授業初日の朝、俺はホグワーツの朝食に舌鼓を打っていた。
イギリス料理とは曰く、「オウムの餌」「劇物」「ポリマーリンゲル溶液直飲み」などと自国民にさえバカにされるほど酷い物である。
俺も何度か外食しに行ったが、あれと比べれば味はまともな分アストラギウスの料理の方が遥かにマシだったと断言できる。
だが朝食だけは例外だ、これだけは何処に行っても安心して食べることができる、さすがEat three times a day breakfast(朝食を三回食べよ)と言われることはある。
ブラックプティング(ソーセージみたいな食べ物だ)を食べ終えた俺は豊かな朝食を再開する。
次はマッシュルームを頂くことにする、それを奥歯で噛み締めるとキノコの特徴的な噛み心地はもちろん、ちょうどいい焦げ目が作り出す香ばしい風味が口の奥にやって来る、塩の加減も絶妙だ。
しかし焦げ目と塩のせいか口の中が辛くなってきた。口に焼きトマトをほおばり、あふれかえる酸味で口内をリセット。
次は豪快にトーストの上に目玉焼き、その上にベイクドビーンズをたっぷり乗せる、三つとも同時に入るようかじるとビーンズにかかったトマトソースの酸味と目玉焼きの甘味、そしてカリカリのトースト達が三重奏を奏でる、もうたまらない。気がつけばトーストは食べきってしまっていた。
一通り食べきった後紅茶を飲み一息つく。本当はコーヒーが良かったのだか無いものはしょうがない。すると俺の隣に誰か…キニスが凄まじい勢いで突っ込んできた。

「ハー、ハー、キ、キリコ…お、起こしてくれても、良かったじゃんか…ハァ、ハァ、」

寝坊したヤツが悪いのに何を言っているんだ。大急ぎでヤツは朝食を食べ始める。俺も少し足りなかったのでおかわりをすることにした、

「モレニシヘモ、ホンナヒュヒョウヲスルンヒャヒョウ(それにしても、どんな授業をするんだろう)」

「…食べてから言え」

こいつには食事を味わう感性が無いのか、まあ俺も人のことは言えなかったのだが。
今日の授業は「魔法史」「闇の魔術に対する防衛術」「魔法薬学」だったはず、
…今の所ここの授業で最も興味があるのが闇の魔術に対する防衛術だ、俺の目的、そのための魔法を探すには普通の魔法では無く禁忌とされるような物で無くてはならない。それを知るためにも闇の魔術について知ることができるであろうこの科目は目的に適してると言える

「ハンハヘンヒヲヒ―――ゴホっ!ゴホっ!(何か返事をし―――ゴホっ!ゴホっ!)」
どのような授業になるだろうか、教科書は大体読んできたが実際に受けてみるのとは訳が違う。食べ物を詰め込みすぎたのかむせかえっているそいつを眺めながら俺は紅茶を飲み干した。
………俺はまだ知らない、この授業がまともに機能するにはあと二年かかることを…



無数の消える階段に動く階段、扉のようなただの壁、揚句絵が描かれたドアは合言葉や特定の言葉が必要。そんな軍事施設よりもたちの悪いセキュリティを何とか突破したころには授業開始ギリギリとなっていた。
思い返せば昨日の校長挨拶の時、死が潜む部屋には入ってはいけないとか言っていたがそんな部屋何故作ったんだ、何にせよここをつくったやつは相当ひねくれたヤツに違いない。授業開始のチャイムが鳴る直前に俺達は教室へ入っていった。
ホグワーツで受ける最初の授業は「魔法史」、つまり歴史の授業だ。この授業の担任であるピンズは教員の中で唯一のゴーストなのだとか、
しかし肝心の授業内容はピンズがひたすら教科書を読んでいくだけと恐ろしく単調な物であった。授業開始から数分で隣のキニスを含むほとんどの生徒は朝食の満足感とともに夢の世界へ一足先に旅立っている。教科書を既に読んで来てしまった俺も例外では無かったが、三時限目の魔法薬学の教科書を引っ張り出しその予習をすることで何とか机に留まることが出来た。
そして俺はまた校内を彷徨いながら次の教室へ入っていった。次こそはまともな授業のはず。




授業が始まって早々、俺やキニスだけで無く、合同授業で一緒となったレイブンクロー生も顔を青ざめながら帰りたそうにしていた。
その原因は教壇のあちこちと、防衛術の担任クィレルが体中にぶら下げてる大量の大蒜のせいだ。その臭いが部屋中に充満している。
キニスいわくヤツはルーマニアで吸血鬼に襲われたことがあるらしい。だとすればあれは吸血鬼避けということになる。
なら十字架にすればいいのに
そう言っていたキニスはもう何も話さず顔面蒼白で口を抑えていた。…放っておいたら確実におう吐するだろう。

「セメルフレス ー臭いを消せ」

「……あれ?」

俺が杖を取り出しそう唱えるとヤツは不思議そうに周りを見渡す、今のは「臭い除け」の呪文であり、ここに来るまでに使えるようになった内の一つだ。少なくともこの授業中は持つだろう。自分にもそれをかけた後、杖をローブにしまい代わりに教科書とノートを取り出す、これで授業に集中できるだろう。

「ねえ今のってキリコが唱えたの?もう魔法が使えるってことは知り合いに魔法使いが居るってこと?」

「予習してきただけだ、…俺に家族は居ない」

「あっ…ごめん。…さっきはありがとう」

俺が言いたいことを察したのか、それとも俺が授業に集中していたからか、その時間の間ヤツは話しかけては来なかった。
それでいい、俺に関わるとろくなことにならないからだ、これで気まずくなり話しかけてこなくなればそれが一番だろう。そう本当は望んでもいないことを願いしながらノートを書き綴っていく。

その日の授業の内容というと、魔法界に生息する様々な生物―例えば人狼やケンタウロウス、ユニコーンなどがどういった物なのかを解説することで終わってしまった。特に吸血鬼の話をしていた時はまるでそこに吸血鬼が居るのかのようにヤツは震え続けていた。
どこにもいない「吸血」鬼に脅えるか、それを見ていた俺もまたこの世界に居るはずの無い過去を思い出し、右肩が軽く震えるのを感じた。




最後の授業は「魔法薬学」だ、城内の仕掛けは幾つか覚えたのでさっきよりはスムーズに地下の教室へ向かっていく。キニスは俺の後ろをひたすら追いかけているが先ほどの事を引きずっているのか相変わらず無言のままである。俺はそれを追い払うかのように早足で歩き続けた。
地下へ続く通路を歩いていると魔法薬学を受け終わったばかりの生徒たちとすれ違う。しかし彼らは廊下の右と左、緑と紅で真っ二つに分かれて歩いており、お互いを常に睨み合っていた。

グリフィンドールとスリザリンはとても仲が悪い…

そう聞いてはいたがここまで露骨とは意外だった、一体何故ここまで険悪なのだろうか。
そう思っているとふと紅の中に見覚えのある顔を見つける、あれはたしかハーマイオニー・グレンジャー、そして稲妻の傷を持つハリー・ポッター、…それと隣にいる赤毛の少年。
…ホグワーツ特急の中で言い争いをしていた中に見覚えはあったが名前は知らなかったな。そうか、あいつらはグリフィンドールになったのか。
あいつらの方を見ていると彼女の方も俺の方に気づいたようだ、こちらに向かって手を小さく振ったのに対し軽い会釈で答えておいた。

魔法薬学の教室はさっきとは違い、大蒜の代わりに色々な薬品臭が少し臭っていた。教室に入ると教壇には入学を手伝ってくれたスネイプが立っている。ふと目が合ったので軽く会釈をする。

「魔法とは馬鹿みたいに杖を振るだけでは無い、この授業で学ぶのは魔法薬剤の微妙な化学とそれがもたらす厳密な芸術である。これを地味と感じるものも多いだろう。最もそう思うのはこの授業を真に理解していないウスノロだけであろうが」

授業開始早々辛口のあいさつをしてきたが、これだけでもこいつがどれ程魔法薬学を好きなのかは十分こちらに伝わってきた。
その後スネイプは魔法薬の概要や、調合する際に起こる危険性について説明した後薬剤の材料を配り、おできを治す薬を調合するように指示を出す。
二人一組か、誰と組もうか考えると隣のキニスがこちらを見つめている。
…誰でもいいか
そして俺達は薬の調合に取り掛かった。初めての調合とはいえ所詮一年生でならう初歩の初歩だ、量と手順を間違えなければ問題は無………っ!?
直ぐにキニスの腕を渾身の力でつかみ取る。

「いたたたたた!なっ何だよ急に!」

ヤツは大鍋から火を下ろさない内に山嵐の針を入れようとしていたのだ。これをしてしまうと大鍋が割れ、むしろおできまみれになる薬をばら撒いてしまうのだ。驚いた顔でこちらを見ていたヤツも鍋を見て自分が何をしようとしているのかようやく気付いたようだ。

「どうしたのかね?」

「…いえ、もう大丈夫です。お騒がせしました」

「さようか、気を付けるように」

スネイプはそう言い残し戻っていった。キニスに怪我がないことを確認した後鍋の火を下ろすと、ヤツはギリギリ聞こえる声でこちらに何か言って来た。何を言っているかは分かっている、しかしそれに対し俺は無視を決め込み作業を再開する。

その後俺たちの班はこの教室の中で最も早く調合を終えることが出来た。恐らく何の問題も無いだろう。そう思っているとスネイプはこちらに来た後。

「調合はほぼ完璧だ、だがもう少し遅くかき回すべきだな」

と言い残していった。
…やはり本で見るのと実戦は違うな。どことなく悔しい気分になった俺は隣からの視線を遮るためにも一時限目同様教科書を取り出し、徹底的に読み倒すことにした。今度は完璧な調合をしてみせる。




これで今日の授業はすべて終わりか。余った時間は図書館で勉強に当てることにしているがこのままでは荷物が多いので一旦自室に戻ることにする。
…来てみると談話室入口周辺は顔を軽く火傷した子らと地面に転んだ子で溢れていた。その理由は絨毯のようにぶちまけられたビネガーが全てを語っている。
自室に戻り、教科書を置いた所で急にキニスが叫びだした。

「…キリコ!ごめん!」

俺は一切それに反応しなかった…だがそれでもヤツは尚続ける。

「そういった人も居るんだって、少し考えれば分かるはずなのに…僕は何も考えないで酷いこと言っちゃって…そのせいで嫌なこと思い出させっちゃって…本当にごめん!えっと…だからこれからちゃんと気を付けるし…も、もし怒ってるなら君の気が済むまで謝るから!あ、あと魔法薬学の時のも…だから、ゆ…許し…」

「…もういい」

「え!?…そ、そうだよね、謝っただけで許されようっていうほうが間違いだよ 「怒ってはいない」 …え?」

気にしていないことを伝えるために「もういい」と言ったのにキニスは今にも泣きそうな顔でこちらを見てくる。…このままでは正直俺の心が持たない、というかこれを放っておいたら俺は確実に人でなしになる。
罪悪感に耐えられなくなった俺の心はそいつを落ち着かせることを即座に決定した。

「気にしていないから大丈夫だ、謝る必要はない」

「…許してくれるってこと?」

「そうだ、だから落ち着―――」

「本当に!?やったーありがとうキリコ!次からはちゃんと考えて話すようにする!鍋の時も止めてくれてありがとう、それも気を付けるようにする!
ところでキリコはこれからどうするの?やっぱり校内探索?ここの学校いろんな仕掛けがあるから楽しいよね!キリコも一緒に行こうよ!」

………許した途端これか。ずっと引きずっているのもどうかと思うが、これはこれでどうなのだろう。切り替えが早いとポジティブに考えるべきなのか、考えているあいだにヤツはもう外へ飛び出して行った。
…どこへ行ったのか分からない上、追いかける理由もない。俺は当初の予定通り図書館で勉強することにした。
結果その日の晩、「来てくれなかった、やっぱり怒ってるじゃないか」と言われまたヤツを説得する羽目になった。あいつ思ったより相当面倒くさいかもしれない。





それ以降俺はひたすら授業を受け、図書館で勉強をし、布団に潜る…という生活を繰り返していた。
ただし図書館でやっていることは授業の予習では無く、本を引っ張り出しては片端から読み漁っていくという単純な作業であった。
当初は図書館にある「禁書棚」の本を読みたかったのだが、それを読むには先生の許可が必要でしかもそれを得るのは極めて困難らしく、一年ではまず許可は出ないことが分かった。
最悪夜にでも侵入すれば良いのだが、仮にそれで読むことが出来たとしても今の俺の知識ではまず理解できないだろう。だから今は通常の本を読み、徹底して基礎を固めることにしている。

ちなみに今読んでいる本は〝偉大なる錬金術師達とその偉業″という物だ、それを読んでいく内に俺は、ある一つのページに興味を持った。そのページにはニコラス・フラメルという人物、そしてこの男が作ったという「賢者の石」について書かれていた。
賢者の石とは如何なる金属も黄金に変え、不老不死を生み出す命の水を作り出すらしい。この男の生きている年齢が明らかに人間のそれを超えているあたり、その力は本物なのだろう。

不老不死…それについて俺は考える。何故人はそんなものを求めるのか、それは死への恐怖か永遠を生きることへの欲望か、もしくは死を超越することで全てを支配する力を求めるのか。そのどれも俺には到底理解できない。それを欲するヤツらに追われ続け、戦いの中で生きることがなぜそこまで魅力的なのか。
死への恐怖から逃れられるという甘美な誘惑、だがそれこそ悪魔の罠、死は地獄から逃れる唯一の免罪符。それに騙された哀れな獲物は永遠に蟻地獄の中で魂を食われ続ける。
賢者の作りし誘惑。それに引き寄せられた蟻はどこに潜むのか。
俺は無意識の内に感じ取っていた、この城に潜む蟻地獄、それに集まる獲物の気配を





その日、ハッフルパフの一年生はいつもよりも浮かれていた。それは談話室に張られたあの掲示のせいだろう。

「飛行訓練は今週の水曜日。ハッフルパフとレイブンクローの合同授業です」

そして今日がその待ちに待った水曜日、授業直前になったのである。まだ時間があるにも関わらず何人かの生徒は我先にと談話室を飛び出して行っている、その中にキニスの姿も見当たった。
かくいう俺も少し楽しみにしている、乗り物なら前世で棺桶に嫌というほど乗っていたが空を飛ぶというのは流石に初めてだ。そんなわけで俺もいつもより早足で広場に向かっていくのであった。


「何をボヤボヤしているんですか! 皆箒の傍に立って! さあ早く!」

そうこの科目の担任であるマダム・フーチが大声で指示を出す。やはり危険が伴う授業だからなのだろうか、他の担任に比べだいぶ厳しそうな人である。さきほどまで浮かれていた生徒たちも急いでその指示に従っていた。

「右手を箒の上に突き出して! そして、「上がれ」と言う!」

あちこちで「上がれ」と言う声が響く中、俺もさっそく試してみる。

「上がれ」


………
………………
何も起きない。周りを見てみると成功しているのは数人しかいなかった、しかもその中にキニスが含まれている。キニスはこちらを見ると自慢げな笑いを浮かべていた…ほんの少しだけ腹が立った俺はもう一度試してみる。

「…上がれ…!」

少し箒が震えた後、跳ねるように俺の手のひらに飛び込んできた。何故さっきのは成功しなかったのだろうか、まあそれはどうでもいいか、その間にもフーチは生徒の持ち方などを注意して回っている、キニスは持ち方を指摘され、さっきとは逆に軽く落ち込んでいた。
そしてようやく生徒全員のチェックが終わり飛ぶ段階となる。

「さあ、笛を吹いたら強く地面を蹴るんですよ。箒はしっかり持って、数メートル浮上したら前かがみになってすぐ降りてきなさい。いいですか、笛を吹いたらですよ? 1,2,3!」

ピー!

その音と同時に地面を蹴り飛ばす―――!

次の瞬間、俺の視界は一気に広がった、見下ろすと皆俺同様に驚きながらも楽しそうな顔をしている。しかし俺はそこに違和感を感じる。
…キニスはどこだ?
その答えは下から迫ってきた。

「ギャアアアアア!」

絶叫は下から近づいた後聞こえなくなり…一気に急降下している。その先には浮遊している生徒たちが大量に居る、このままでは激突とパニックで大事故になるだろう。それはマズイ、浮遊魔法を使うか? いや、今撃っても他の生徒に当たるだけだろう、なら方法は一つ。俺は箒を前に傾け全力で突っ込んで行く。操作方法など無論知らなかったが所詮乗り物だ、ATと変わらない…はず、
ヤツを追いかけ生徒の中へ突撃を掛ける、驚く生徒がパニックになる前に助けなければ。
そう考え人の中を突き進む、箒の先は常に目標を捉えたまま最大速度で…
右に、左、上に下に、生徒の間を縫いながら、急カーブですり抜け、ターンを描きヤツの下に回り込み杖を取り出す。

「ウィンガーディアム・レビオーサ ー浮遊せよ」

勢いを無理やり止め…られず俺は木の中に派手に突っ込んで行った。何とかはいずり出てみるとヤツは無事地上に着陸していた。ほかの生徒も緩やかに着陸していたので、参事は免れたようだ。木を降りながら状況を確認しているとこちらにフーチが駆け寄ってきた。

「大丈夫ですかキュービィー! 念のためあなたも医療室に―――」

「怪我は無い、それよりあいつを早く」

「ほっ本当に大丈夫ですね!? 決して無理はしないように、ハッフルパフに5点! 私はリヴォービアを念のため保健室に連れて行きます、私が戻ってくるまで絶対箒に乗ってはいけませんよ!いいですね!」

そしてフーチはキニスを抱え保健室に走って行った。見たとこと外傷は無いようだし気絶しているだけだろう、それにしてもあれだけ無茶な落ち方をして箒から振り落とされなかったというのは中々凄いことなのでは無いだろうか。そう考え戻ってきたフーチからキニスは無事ということを聞き、俺はそれに安堵しながら再び箒に乗り込んでいった。

その日からしばらく経つと、「ハリー・ポッターがグリフィンドールのシーカーになった」という噂が校内に伝わっていた。どういうことかと言うと、ポッターが飛行訓練で素晴らしい飛行をし、それを見たマクゴナガルが、ヤツをシーカーに推薦した…と言うものである。
規則ではクディッチ(魔法界で人気のスポーツで、ホグワーツでも寮同士で試合をしてるらしい)の選手になれるのは二年生以上なのだが、校長のダンブルドアはポッターを気に入っているためそんな規則無視するだろう、ということらしい。先生一人ならともかく校長がそんな露骨に一生徒を優遇していいのだろうか。
その話を聞いていたキニスは「僕たちもすごい飛行をしたから選手になれるんじゃ!?」と期待していたが流石に二人も例外を認めることは無いだろう、第一俺はクディッチに興味は無いのだ。
そんなことより今俺が最も興味があるのはハロウィンパーティだ、きっとさぞ美味いものが食えるのだろう。俺は少し早すぎる期待に腹を減らしていた。

目新しい出来事の数々に俺はささやかな幸福を感じていた
だがこの幸せは湖に張られた薄氷のようなもの
それは突如簡単に砕け散り、真下に潜む深淵がこちらを引きずり込む
決して逃れることはできない底なしの暗闇を忘れるかのように
俺は砕かれた氷にしがみついていた。




最も危険な罠、それは不発弾。
たくみに仕掛けられた平穏の影に潜む内通者。
それは突然に動き出し、偽りの平穏を打ち破る。
ホグワーツは巨大な罠の城。
そこかしこで、陰謀を抱えた者たちが火を放つ。
次回「罠」。
キリコも、巨大な不発弾。
自爆、誘爆、御用心。


「キリコってこんな性格だったっけ?」と思う方がいらっしゃるかもしれません。
しかしこれにはちゃんとした理由があります。
まずキリコの精神年齢は前世を足すと約111歳です。
さらに神の子も育てきっているので子育て経験アリです。
この結果キリコの同級生を見る目は基本的に親のソレになっています。
なので同級生を助けることが多くなる…という訳なのです。
そのためキニス君、キリコ的には友人だとは思っておらず、親戚の子供みたいな感覚で接しています。
はたしてキニス君はキリコの戦友になれるのでしょうか?(壮大な付線)


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第五話 「罠」

ちょっと次回予告ネタとの兼ね合いで
今回から一話ごとの量が減ったり増えたりするかもしれません
つまりウd…違った賢者の石編は今回含めてあと八話の予定です
さあ、完走できるのか!?

(自主的に自分を追い詰める高度な作戦)


10月31日ハロウィン、今日はこの世界においてはるか昔に散っていった聖人や殉職者を弔い、そして祈りをささげる日。つまり死者の魂を弔うための日なのだ。
あの戦場で、そこの戦場で、どこもかしこも戦場のあそこで一体何人死んだのだろう。今はここにいない、そして行くこともできない。そんな俺は一人この世界で祈りを捧げる、一足先に自由になった顔も知らぬ兵士の為に。

「…キリコー、早く行こ、食べ物無くなっちゃうよ?」

「…今行く」

一人残された俺は、いつ自由になれるのだろうか。その答えは神でさえ知らないのだろう、神は殺してしまったのだから。





その日の大広間はまた随分と派手になっていた、広間を照らすのはいつもの蝋燭ではなくかぼちゃのランプ、並べられた食事は一面かぼちゃ、かぼちゃ、かぼちゃ… そこにはモナドに投入された一億二千万機のATを思い出させるほどのかぼちゃ料理が並んでいた。
その内過半数はデザートで占められているが、もう半分ぐらいは通常のかぼちゃ料理である。これならホグワーツ特急のように甘味で潰されることもないだろう。俺はさっそく色々な料理を皿によそっていく。
最初によそったのはかぼちゃグラタン、かぼちゃサラダ、パンプキンスープの三品だ。
最初にパンプキンスープを口へ流し込む、すると口の中にやさしく滑らかな甘味が広がっていく。その甘味はチョコのようなハッキリとしたものではなく、適度な温かさも手伝って空腹だった俺の胃を穏やかに満たしてくれる。甘いだけではない、その中に混ぜられた胡椒とハーブはさらに食欲を刺激する。
直ちに俺はグラタンに手を伸ばす。いや、急いではいけない、このまま食べれば口に中は大火傷だ。少し落ち着いた後改めてゆっくりと口にする。…何ということだ、とても美味い。こんがり焼けたチーズの甘味とかぼちゃの甘味、徹底的に煮込まれているのかかぼちゃは口の中でほろりと崩れ落ちトロトロのチーズと余すことなく絡み合う。その間に仕組まれた鶏肉はグラタンに旨みを染み出させコクを深くし、圧倒的な満足感を叩き込んでくる。
ではサラダはどうだ、今度は打って変わってさわやかな酸味と水々しさがとても心地よい、重めのメニューが続く中でこれは最高の清涼剤だ。いや、まだだ、サラダの中に隠されたかぼちゃは酸味と中和し、一味変わった味で楽しませてくれる。
美味い、どれも本当に美味い。そして残りのパンプキンスープを飲みほし改めて食欲を呼び覚ます。さて、次はどれを食べるか。
そんな俺の幸福は無情にも終わりを告げた。
突如開かれた大広間の扉、そこから現れたターバンの男…クィレルは取り乱しながらダンブルドアの近くまで走って行った。そして放った奴の一言は宴を終わらせた。

「ト、トロールが……地下室に……! お、お知らせしなくてはと思って」

そうヤツは言い残してその場に倒れこんだ。無論生徒たちは全員大混乱となった。
トロールとは全身から異臭を放ち、圧倒的な腕力でどんなものでも破壊する大型の魔法生物だ。しかし代償としてその動きは遅く、冷静に立ち回ればどうということは無い存在でもある。
ここの上級生もそんなことは分かっているだろう、…しかし実際にトロールと対峙したことのあるヤツは何人いるのか。どれほど銃を撃つ訓練をしても実際に戦場で迷わず打てるのは何人いる?
その答えがこの光景だ、低学年はおろか最上級生までパニックになっており誰がどうすればいいのか誰も分からなくなっている。

「静まれーーーー!!」

そのカオスを終わらせた声の主はダンブルドアであった。

「監督性はすぐさま自分の寮の生徒たちを引率し、各自の寮へ戻りなさい」

さきほどまでの混乱が嘘のように落ち着いた生徒たちはダンブルドアの指示に従い、監督生を先頭に移動を始めた。俺達もそれに同行し寮へ戻っていく…はずだった。
視界の端に、何故か列を外れて一目散に走りだしたヤツらがいたのだ。あれはポッターと、ヤツと一緒にいた赤毛の少年。一体何をしているんだ、まさかトロールを倒そうとでも思っているのか? いや理由などどうでもいい、放っておくにはあまりに危険な状況だ。

「キニス、先生を呼んで来い、生徒がトロールに向かっていった」

「えっ!? ちょっキリコ!?」

そして俺はヤツらを追い走り出した。トロールへ挑むというのは俺の勘違いかもしれないが、その時は謝れば済むだけの話だ…!

ヤツらを追いかけたがどこにも見当たらない。どこだ、どこにいる…? 俺は目を閉じ、地面に耳を押し当てる。耳には避難している生徒たちの足音と騒ぎ声が流れ込んできた。それをかき分けながら浮いている音を探す。

・・・・!
遥か下の方から一つ、生徒の集団から離れた所に音を見つけた俺は地下へ向かって再び走り出す。誰もいないはずの地下へたどり着いたときにはその音はハッキリと認識できるようになっていた。その音を求めた俺は女子トイレにたどり着いた。どうやら俺の読みは間違っていなかったらしい、そこからはトイレの臭いとは明らかに違う異臭と、子供が騒ぎ立てるような声…の直後女子の悲鳴が響き渡った。どうやらあの二人以外にも人が居るらしい。ならば尚更急がなくては、俺は杖を取り出しトイレに進んで行った。

トイレに入るとそこにはポッターと赤毛の少年、そして無残に砕かれた個室の残骸とその中心にいる4m近い巨大な生物、そしてその陰には少女が…グレンジャーが震えながら腰を抜かしていた。
…つまり、こいつらは彼女を助けようとここへ来た。ということなのだろう。
そして俺は杖を構えトロールに近づいて行った。

「えっ!?なんであなたがここに?」

「えっ!?君は確か…」

「だっ誰だよお前!?」

「早くそこから逃げろ」

次々と反応するヤツら対し逃げるように諭す、それに気が付いたのかトロールは俺の方にゆっくりと振り向いてきた。
俺は杖握りしめ、それをヤツに向け呪文を唱える。

「エクスパルソ ―爆破」

瞬間、強力な反動と共にすさまじい轟音と閃光がトロールに放たれた。本来この呪文の威力はそこまで高くはない、対人戦ならともかく魔法への抵抗を有する魔法生物が相手だと何の意味も無くなってしまうからだ。
しかし俺の杖…全長40㎝太さ4㎝に及ぶ、杖とは言いにくいこの棍棒のようなシロモノは例外だ。何回か使ってみて分かってきたことなのだが…どうやらこの杖は異常な反動と引き換えに呪文の威力を高めることが出来るらしい。とは言え、それは今のような攻撃呪文限定なのだが。
その結果、トロールの足は爆発こそしなかったが皮膚の一部が吹き飛ぶこととなった。
…しかしトロールの動きが衰える気配は無い。このまま魔法を打っていても埒が明かないだろう。ならば方法は一つだ、急所に確実に当てるのみ。

「グボオオオオオ!」

皮膚を抉られたことで激昂したのか、トロールはあいつらには目もくれず巨大な棍棒を振り下ろしてきた。
その一撃をギリギリでかわす、すぐにトロールは再び棍棒を振り下ろすがその一撃が当たることは無かった。こんなものは脅威ですらない、同じ4mならATの方が遥かに素早く強力だ。そのどちらも劣るやつが相手に脅威になるはずがない。怒り狂うトロールの一撃をギリギリでかわしながらチャンスを伺う…するとその爆撃は急に止まってしまった。
棍棒は空を飛んでいたからだ。後ろ目でヤツらをみるとハリーが杖を突き出していた、どうやらヤツが浮遊魔法を使ったらしい。
―――チャンスは来た。トロールが空飛ぶ棍棒に気を取られた瞬間、洗面台に足をかけ一気に跳躍をする、そしてボロボロの服にしがみつき鼻の穴に杖を突っ込みそして―――

「エクスパルソ ―爆破」

トロールの皮膚をもえぐり飛ばす一撃を顔の中に直接浴びたヤツは顔の穴全てから血を吹き出しながら轟音と共に床に倒れ伏し、そしてしばらく痙攣した後動かなくなった。
…やったのか? 念のため杖を構えているとマクゴナガル、スネイプ、クィレルが部屋に入ってきた。

「これは……一体何があったのですか?」

「あ、……えっとその、これはその」

ポッターたちは混乱しているのか、彼女の質問にうまく受け答えできていないようだ。トロールの鼻水で汚れてしまった杖を拭いていると質問の対象は俺に切り替わった。

「ミスター・キニスに伝言を頼んだのはあなたですね、説明してもらえますか?」

「…彼らがトロールの場所へ向かって行ったので俺も追いかけただけです。そうしたらトロールに襲われていたため助けに入りました、恐らく彼らは逃げ遅れたグレンジャーを助けるためにここに来たのでしょう」

彼女はポッターたちの方を見ている。ヤツらはそれに対し首を縦に振っていた、それに彼女は納得したのか再び俺に質問を投げかける。

「では…これをやったのは貴方なのですか?」

「そうです」

いまだに頭から血を垂れ流すトロールを見ながら彼女は一瞬驚愕した。もしかして殺してはいけなかったのだろうか、彼女は表情を厳しくし俺とポッター、赤毛の少年を睨めつける。

「そうですか、事情はわかりました、先に連絡をしたのは正しい判断でしょう。…しかしならばそこで寮へ戻り、私たちが助けに行くのを待つべきでした。トロールに挑むなど危機管理が無さすぎます。
よってミスター・キュービィー、ミスター・ポッター、ミスター・ウィーズリー。それぞれ十点減点です」

減点になったか、まあむしろこの程度で済んだのなら幸運な方だろう。落ち込むポッターを見ながらそう考えていると今度は意外なことを言って来た。

「…しかし友を心配し、助けようとした姿勢は素晴らしいものです。そして一年生でトロールを倒すのは誰でも出来ることではありません。よってハッフルパフに三十点、グリフィンドールにそれぞれ十五点ずつ与えることにします」

これは意外なことになったな。ポッターたちも驚きつつ喜んでいる様子だ、

「貴方たちの幸運に対してです。では、急いで寮へと戻りなさい。パーティーの続きを寮で行っています」

その後寮に戻った俺は、心配していたのかベッタリ引っ付くキニスを引きずりながらパーティーに戻っていった。
しかし俺の心には教師たちの、グレンジャー達の視線が突き刺さっていた。それは恐怖か、警戒か、それとも化け物を見る目なのか。
この世界ではそんな事は滅多にない。だから俺は忘れていたのだ、殺しに来たものは殺す。そんな俺の日常はここには無いことを。
…次からは注意しなくてはならないだろう。

―――その次はもう足元まで迫っているのだ―――





「そうか…そんなことが」

「ええ、恐らく頭部の中に直接爆破魔法を撃ち込まれたのでしょう、ほぼ即死のようでした。…本来一年でならうことの無い呪文のはずですが」

「いや、一年生でも高学年の魔法を習得する子は居ないわけでは無い。セブルス、儂が心配しているのは彼の過去なのじゃ」

「彼の…過去?」

「そうじゃ、人は本来誰しもやさしい心、愛する心をもっておる。それはトムとて例外では無かった。だから例えどんな人間じゃろうと初めて人を殺す時には戸惑いを感じ、ためらうのじゃ」

「…………」

「しかし彼は殺した、トロールを何のためらいもなく。そしてそれに動揺することもしなかったのじゃ」

「確かに彼は吾輩たちが駆けつけた時もいたって冷静でした」

「誰かを傷つけ、殺しても何も感じない…そのようなことになるとすれば、それはただ一つ」

「…殺し慣れている…と言うことでしょうか」

「そうじゃ、…じゃがあの子の年でそんな事は考えにくい。もしかしたら気づきにくいだけで、心の奥底で震えているのかもしれん。
…セブルス、あの子を監視しろとは言わん、ただ、よく見ていてやって欲しい」

「…もしや校長は、彼があの「予言」の子だとお考えなのですか?」

「そうかもしれんし、そうでは無いのかもしれん。だがどちらにせよ儂らはあの子を正しい道へ導かねばならんのじゃ、セブルス、よろしく頼む」

「…別の「仕事」もありますので難しいとは思いますが…できる限りはやりましょう」

「感謝するぞ、セブルス」

「いえ…では吾輩はこの辺で」

「……」

あの日、組み分け帽子が話してくれた彼の「闇」、それが何なのか儂には分からなかった。
しかしそれは彼に限った話ではない、誰しも大なり小なり心の中に抱えているものなのだ。
ならばあの子が仮に「予言」の子であろうと関係ない、儂らはあの子を光の道へ導かねばならない。
…それが彼女にできる、唯一の贖罪なのだから…。





ハロウィンから数日、今俺は図書館にこもって新たな呪文を考えている。手にとっている本は「変身魔法~応用編」、「最低野郎でも出来るゴーレムの作り方」、「物体操作の本髄」と言った物だ。
何故新しい呪文を考えているのか、その原因は数日前のトロールにある。あの時は地形の利もあってヤツを倒せたが、もしあそこでなかったらどうなっていたかは分からない。だからこそ俺は再び巨大な敵に遭遇した場合に備え、新たな呪文を考えているのだ。
自分より圧倒的に巨大な敵を倒す方法…その武器として俺は石巨人(ゴーレム)に目を付けた。何か材料さえ有れば変身魔法で簡単に作ることができるゴーレムは大型魔法生物を相手にするのに最適だと踏んだからだ。
…しかし、そう簡単にいく筈もなかった。ゴーレムは比較的簡単に作れる代わりに動きが単純で、一つの事しか実行できない。では物体操作の魔法で制御を…と考えたが、これは術者が常に集中していないと使えず、些細なことで崩壊してしまうのであえなく却下となった。
そして完全に行き詰った俺はこの課題を置いておき、宿題に打ち込んでいるのであった。
八つ当たり気味に宿題に打ち込んでいると一人の少女が声をかけてきた。

「あ、ちょっといいですか?キュービィーさん」

グレンジャーと、彼女の陰に隠れている他二人は俺に何の用なのだろう。妙によそよそしい話し方で彼女は続ける。

「あの日の事でお礼を言えなかったから、あの時はありがとう」

「…気にすることは無い」

そのことか、どうやら彼女は真面目な人間らしい。俺はそれで会話を打ち切るつもりだったが、あいつはそれを許さなかったようだ。

「あれ、キリコにいつもの三人組じゃん! 君たちいつ仲良くなったの?」

そう現れたキニスはいつも通り馴れ馴れしく話しかけてきた。というよりこいつらは仲が良かったのか、いや、こいつの性格なら特におかしくもないが。
あいつの質問に答えたのは赤毛の少年であった。

「えっ!? 違うよ!? 僕たちはハーマイオニーに付き合ってるだけだよ! …というかキニスってキュービィーと友達だったの?」

「そうだよ、…ってかそんなに驚くこと?」

「そうだよ! だ、だってそいつ怖いじゃん!」

「ちょっとロン!」

「ハーマイオニー、もう行こうよ」

「怖い? キリコが? 何で?」

「だって顔色一つ変えずにトロールの頭をパンクさせた奴が怖くないはずないだろ!?」

やはりそうだったか、さっきからのよそよそしい態度の原因はそれか。まあそれが当たり前の反応だろう、ポッターもそれに同意するように頷いている…ところがキニスはそれに反論する。

「いやーまあ確かにそりゃおっかないけどさ…まずお礼を言わなきゃだめだよー。」

「お、お礼?」

「だってハリーもロンもキリコに助けられたんでしょ? 怖くても何でも、助けてくれた人にはお礼を言わなきゃ」

…もしかして、ロンとはこの赤毛の少年のことを言っているのだろうか。今まで知らなかった事実に少し衝撃を受けている間に尚キニスの説教は続く。

「で、でも最初に駆けつけたのは僕たちだよ、それにキュービィーがトロールを倒すチャンスを作ったのも僕たちだ」

「じゃあハリー達だけでトロールを何とかできたの? 出来たかもしれないけど出来なかったかもしれない。実際どうなのかは分かんないけど、キリコのおかげでトロールを倒せたのが事実なんじゃないの? だったらハリー達もちゃんとお礼を言わなくちゃ」

「そうよ、キニスの言うとおりよ」

…まて、確かにあいつの言っていることが正しいだろう。だが逆に言えばハリーがチャンスを作ったからトロールを倒すことが出来た…とも言える。
…つまり、俺もあいつらに礼を言わなくてはならないと言うことか? いや、それが道理なのだろう。

「…ポッター、それと……誰だ?」

しまった、苗字も知らなかった。突然話し出した俺に明らかにビビりつつもロンは答える。

「えっあっその、ロン・ウィーズリーです!」

「そうか、……ポッター、ウィーズリー、ありがとう。トロールを倒すことが出来たのはお前たちのおかげだ」

「え!? あ、ありがとうキュービィーさん」

「僕の方こそありがとうございます」」

そうポッターとウィーズリーはやはりよそよそしい敬語で礼を言った。これで何の問題も無いだろう、では俺は宿題に戻るとしよう。
しかしヤツはまだ満足していなかったのだ…

「よし! これで大丈夫! でもまだ! 皆よそよそしすぎる! まだキリコのこと怖いと思ってるでしょ! それは誤解だ、友達になればそれが分かる!」

…ん?

「さあまず「キュービィー」なんて言い方は止めて「キリコ」と呼ぶようにしよう!」

…これは…

「さらに友達の握手で友情の完成だ! もちろんキリコもだよ!」

…まさか…

「さあ! 早く! 握手を!」

……………………………。
こうして俺たちはヤツの手によって無理やり友達となったのだ…。
あの後何故こんなことをしたのか聞いてみたが
「キリコが怖い人だって誤解されるのが嫌だったから」
だそうだ、
他に方法があったのではないだろうか、今更もう遅いが…





ヤツの手によって無理やり誓わされた友情
だが、俺はそれに対し何やらくすぐったい物を久々に感じていた
しかしそれは幻想でしかない、
炎、硝煙、異能。誰一人としてそれを知らないのなら
これは到底俺の手で掴めるものではない
ならば一人、夢から覚め地獄へ戻ろう

だが俺は祈らずにはいられなかった
これが幻影でないことを



人の運命を司るのは、神か、異能か。
それは時と世界を巡る永遠の謎掛け。
だが、キリコの運命を変えたのは、魔法と呼ばれた、あの存在。
英国辺境リドの闇の中で走り抜けた戦慄が、今、ホグワーツに蘇る。
次回「魔法」。
クディッチのサポーターの中から蛇が嘲笑う。



キニス、お前そんな頭よかったっけ?
彼は基本実年齢から―2した感じの性格です。
ただし根本的には空気を察したり
道理を重視し、
あとお人よしな
ある意味理想的なハッフルパフの生徒です。

作品上使いやすいキャラって言っちまえばそれまでだがな!

あっちなみにトロール殺したのはキリコが生かして返してくれるイメージが全く浮かばなかったからです。合掌。


追記 次回予告修正しました
   誤字指摘ありがとうございます


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第六話 「魔法」

日常回が多いとむせる成分が減り
だからといってキリコを暴れさせると
ホグワーツが滅亡する
そんなジレンマを抱えながら執筆しています。


談話室の中はいつもにまして賑やかになっている。生徒たちはマフラーや手袋を着けて防寒準備をしていた、しかしその格好はこの談話室内では暑すぎたようで汗をかいてしまっている。
中には賭け事に興じている連中もいた。賭けの内容はグリフィンドールとスリザリン、どちらが勝つかという内容。
つまり今日は俺達一年生にとっては初めてのクィディッチ観戦なのだ。この興奮はそのためである。
初戦の組み合わせはグリフィンドール対スリザリン。朝食の間からお互いの険悪さは普段より数割増しになっている。
そして今回、一年生でありながらグリフィンドールのシーカーとなったハリーはそのプレッシャーのせいか朝食にほとんど手をつけていなかった。
多少心配ではあったが、ロンとハーマイオニーが励ましていたので恐らく大丈夫であろう。

「キリコはどっちが勝つと思う? 僕はグリフィンドール! だってハリーに勝って欲しいからね」

キニスはそう言っているが多くのハッフルパフ生だけでなくレイブンクローの生徒もグリフィンドールの勝利を望んでいるようだ。というのもここ数年スリザリン寮が勝ちっぱなしのため、いい加減この流れを何とかしてもらいたいらしい。
ハリーを無理矢理シーカーにしたのもその一環なんだとか。

「…興味がない」

「あーやっぱり、デスヨネー」

実際そうだ、本当に興味がない。こんなものはバトリングと一緒で遊びでしかないからだ。
…ただしプロ同士の試合だと死人が出ることもあるらしい、やはりどこの世界でも人は危険に魅力を感じるものなのかも知れない。会場に引きずられながら俺はそんなことを思っていた。




防寒対策は正解だったようだ、試合会場は冷たい風が突き刺さり、生徒達はお互い身を寄せあっている。
教員席の方からアナウンスが飛ぶ、そろそろ試合開始のようだ、会場に選手達が入場していく。グリフィンドールは紅のユニフォームを、スリザリンは緑のユニフォームに身を包んでいる、選手紹介の間にハリーの様子を確認する、緊張はだいぶ抜けたように見える、あれなら大丈夫だろう。

選手紹介が終わると会場の中心にフーチがクアッフルとガタガタ震える木箱を持って入ってきた。あの中でブラッジャーが暴れているのだろう。現に勢いよく蹴り飛ばされた木箱の中からは凄まじい勢いでそれが飛び出していったのだから。

「正々堂々と戦ってください! 期待していますよ!」

そして放り上げられたクアッフルを最初に掴んだのはグリフィンドールであった、そして奪おうとするスリザリンを巧みなパスで翻弄し流れるようにゴールへ叩き込み、先制点を奪っていく。

「さぁさ、早くもグリフィンドールが十点獲得です。クアッフルはスリザリンへと移りました……おっと!グリフィンドールがクアッフルを奪った!パスの隙を狙った素晴らしいプレーです!そのままゴールへと向かい……ゴール!!絶妙なタイミングでフェイントを入れて見事ゴールを決めました!再び十点!この調子でグリフィンドールにはスリザリンをボッコボコにしてもらいたいです!」

「ジョーダン!!」

「おっと、失礼しました。では実況を続けていきます、スリザリンがクアッフルを―――」

あのジョーダンという男はグリフィンドール生のようだが、随分とグリフィンドール牽引な実況をしている。マクゴナガルはそれに注意してはいるが、彼女自身グリフィンドール担当なのと、クディッチ狂いなのを考えると恐らくまともに止める気は無いだろう。

「HAHAHAHAHA!! そのまま地獄に叩き落としてやれぇ!!」

「………」

それに他の寮生もその実況に不快感を示していそうなヤツはスリザリン生しかいない。嫌われるのもここまで来るといっそ清々しく思える。
それにスリザリンもスリザリンでさっきから審判の目に隠れるように悪質な妨害行為を仕掛けている。これも一つの戦術なのだろうが、これではお互い様だろう。




そうこうしてる内に試合は五十対二十でスリザリンが勝ち越している。やはりキーパーが殺られたのが響いたか。
すると金のスニッチを見つけたのか突如ハリーが動き出した、スリザリンのシーカーも一瞬遅れて動き出す。
…グリフィンドールの勝ちだろう、あの一瞬は致命傷だ。
しかしそうはならなかった。ハリーは急に制御を失った箒にしがみつくのに必死になっている。

「スリザリンの蛇野郎ども! ハリーの箒に何かしやがったな!?」

…さっきから別人のように罵声を飛ばしてるこいつは本当に何なのだろう。
だがスリザリンのせいとは考えにくい、あれだけ露骨な妨害行為がバレない訳ないし、第一、試合直前に箒のチェックが入っている。
だから箒の不調でもない、
さっきまで順調だったのだからハリーの不調も考えにくい。

ならば…外部からの干渉か?
そう考えた俺は客席に注目する、そして不振な人物を教員席に二人見つけた。
クィレルとスネイプだ、あいつらは二人ともハリーの方を凝視し何やら口を素早く動かしている。
何かを凝視しながら呪文を唱え続ける。それは恐らく呪いの可能性が高い。呪いは継続的に掛けるのなら対象を凝視し継続的に呪文を掛ける必要があるからだ。
この場合、どちらかが呪いを、どちらかが反対呪文を唱えているのだろう、両方呪いを唱えていたらもう墜落済みだ。
それはどちらだ? 俺は二人を凝視する…
………煙?
突然スネイプのマントの裾が火をふいた。それに驚いたのかスネイプはハリーから目を離す、そしてその次に距離をとった観客に押されたのかクィレルが姿勢を崩す。
ハリーの箒が安定を取り戻したのはその瞬間だった。
…このタイミングから考えて、呪いを唱えていたのはクィレルなのだろう。
よく見ると観客席からハーマイオニーが勢いよく駆け降りていた、火をつけたのはあいつの仕業らしい。
多分ヤツは呪いを掛けているのをスネイプと勘違いしたのだろう、そうでなければスネイプに火をつける理由が無い。

その時、会場に歓声が響き渡った。
試合が決したのか?
会場の方に視界を戻すと地上にハリーが転がっていた。どうやらヤツはスニッチを追いかけ墜落してしまっ―――
いや違う、ヤツの口から金のスニッチが吐き出されている、ということはグリフィンドールの勝利か。

「グリフィンドールがスニッチを獲得!一七〇対六〇でグリフィンドールの勝利!!」

フーチの叫び声と共に、スリザリンを除いて会場に大歓声が巻き起こった。一方スリザリンは大ブーイングを巻き起こしている。
その後スリザリンのキャプテンが何やら抗議をしているようだったが、多分駄目だろう。




学校へ帰る道の中、俺はあの時の行動について考えていた。
クィレルはハリーに呪いを掛けていた。それは間違いない、では何が狙いなのだ?ハリーの命を狙っているというならもっと別の方法があるし、わざわざ他の教師や生徒に見つかる可能性を侵す必要はなかった。
スリザリンを勝たせたかった? いや違う、クィレルがスリザリンに肩入れする理由など無い、だったら呪いを掛けるのはスネイプになる。

「それにしても、あの時のハリーはどうしたんだろうね。キリコ何か分かる?」

「…………」

「キリコも分かんないか…ほんと何だったんだろ?」

結局この疑問がその日解決することは無かった。だがその答えは確実に近付いて来ているだろう、それが何かは分からないが居るのは事実だ。
この城に潜むもの、そいつの呼吸は確実に聞こえているのだから。





クリスマス休暇の時期になった、この時期は多くの生徒達が実家に帰省するため必然的に学校に残るのは少数だ。
無論俺も家に戻ったとしてやることは無いので、学校に残っている。
やっていることと言えば、何時もと変わらず大量の課題と、例の新しい呪文の研究だ、あの呪文だが、ようやく構想を作り上げることができた、だが完成させるにはあまりに資料が少なすぎる。とはいえ既に手掛かりになりそうな資料は読み尽くしてしまっている。これ以上の情報を求めるなら閲覧禁止の棚にしか無いだろう。
…そろそろ頃合いかもしれないな。そう考えた俺は本を棚へ戻し、大広間へ向かっていった。




休暇中、ホグワーツに残る生徒は少ない、故にたとえ今日がクリスマス当日だろうとクリスマスパーティーが行われると言うこともないのだ。
しかし、ここは流石と言うべきか。大広間に置かれた夕食はしっかりとクリスマス用のメニューとなっている。
前のハロウィンパーティーはトロールが乱入したせいでほとんど楽しめなかった。その分このクリスマスメニューを堪能させてもらうとしよう。

まず俺が手にとったのはクリームシチューだ、何故か、その理由は単純に寒いからである。
イギリスで冬とくれば寒くて当然、しかもこの校舎は吹き抜けや渡り廊下が多いせいで風がかなり入ってくるため校舎内もかなり冷え込むのだ。
そんな冷えきった体を暖めるためにシチューを一口頂く。とたんに俺の体はおふくろのような暖かさに包まれた。シチューのとろみは口の中に暖かさと優しい甘さをいつまでも響かせてくれる。具材はブロッコリー、人参、玉葱辺りだろうか、原型が無くなるまで煮込んだことにより野菜の甘味が溶けこんだスープからは複雑な甘味と旨味が漏れだしてくる。胃に染み渡るシチューによって得た暖かさと共に次の皿へ手を伸ばす。

次に俺が目をつけたのはオムレツ…では無くオムライスだ、日本料理まで網羅するホグワーツの屋敷僕にはもはや尊敬の念さえ抱く。
ふわふわ、されど肉厚な卵の皮をスプーンで抉り、中のケチャップライスと共に食べることで現れるのは卵とライスのハーモニー。甘さが酸味を、酸味が甘さを引き立てる相乗効果の威力は圧倒的だ、ライスもいい、玉子単品だとボリュームに欠けるオムレツを見事ボリューミーにしている。ふわふわの玉子はライス一粒一粒に挟まり、舌の上でとろける食感が素晴らしい。

シーザーサラダを食べながら次の獲物を選ぶ。
…あれだ、そして俺が選んだのは七面鳥の丸焼きだ。ただし七面鳥は既に切り分けられ取りやすく食べやすくなっている。
丸焼きというのだから当然基本は焼いただけである。しかしそれは逆に料理人の技量が直接出るということも意味している。さあ、当たりかハズレか…
ロシアンルーレットに挑んだ俺は見事当たりを引き当てた。
香ばしさ、パリパリに焼かれた皮に散りばめられた香辛料は肉の旨味を消しはせず、基本淡白な味の鶏肉によく似合う。基本淡白といったが、よく噛んでみるとそれが誤解だと気づかされる。噛めば噛むほど染み出てくる肉本来の旨味はどれ程たっても飽きることはない、いやむしろ香辛料とも組み合わせで食べる速度は加速する一方だ。気が付けばもう三本目に突入していた。




あの後ひたすら食べ続けた俺はほとんど動けなくなっていた。ふらふらとしながらも何とか自室まで戻ってきたが、何かに転んで倒れこんでしまった。振り返るとそこには幾つかのクリスマスプレゼントが置かれている。
…こんな俺にでもプレゼントをくれる物好きもいるんだな、そう考えつつ少し嬉しさを感じながら箱を開けてみる。
送り主の一人はハーマイオニーだった、中身は新品の羊皮紙セットに同じく新品の羽ペンとインクである。そこには一枚のメッセージカードも添えられていた。

「メリークリスマス、この前はなんだかよく分からないことになっちゃったから、改めて言おうと思って。あの時は助けてくれてありがとう。」

…この前の礼を兼ねているということか。プレゼントとカードをしまった後もう一つの方を開けてみる。

「メリークリスマス! 僕は今、旅行で海外にいるんだ。新学期に会えるのを楽しみにしているよ!」

カードと共に入っていたプレゼントには“ウドのインスタントコーヒー”と書かれていた。
…あいつは何処へ行っているんだ…?
それも一応大事に閉まっておく。まあ、貰ったものを粗末にすることもどうかと思うので一杯頂くことにしよう。

「アグアメンティ ―水よ」

呪文で造り出した水を暖炉の近くで温めカップにお湯とコーヒーを入れる。
…やはり、ウドのコーヒーは苦いな、まあ俺の知っているウドとは違うのだろうが。
コーヒーを飲みながら暇潰しとして借りてきた本を読む、たまにはこういうのんびりした時も大事だろう。
そろそろ例の計画の準備も始めなくてはならない、どうやって突入するか…何処から観察するか…俺は今後の計画を考えながらまどろみの中に落ちていった。




平穏な日常、穏やかな日々
しかしそこには一匹の虫が紛れ込んでいた
そうだ、戦いの疫病をばらまく死の害虫だ
どうやら何処へ行っても俺の行く場所は戦場になるらしい
だが俺の心が揺れることはない
何処へ行こうとやることは変わらない
ならばそこが、戦場こそ俺の日常なのだから



学校という汚れの海に、見え隠れする陰謀という氷塊。
どうやら、水面下の謎の根は深く重い。
少年の運命は、賢者が遊ぶ双六だとしても、
上がりまでは一天地六の賽の目次第。
石と出るか、蛇と出るか、謎に挑む敵中横断。
次回「観察」。
キリコ、敢えて火中の謎に挑むか


という訳で今回はクディッチ観戦とクリスマス回の日常回でした
日常回はもう少し続きます
その次? そんな先の事は知らない


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第七話 「観察」

話数配分を考えていなかったせいで
僅か五千字になってしまったことを
深くお詫びします。

…次はもっと短くなるんだろうけど…





「………」

俺は息を潜め、ヤツらの様子を伺っていた。そして居なくなったのを確認すると次の場所へ移動する。
…俺は夜の校舎を出歩いていた。
何故こんなことをしてるのかと言えば「閲覧禁止の棚」の本を見るためだ。既に図書館の本はだいぶ読み尽くしたため、そろそろ禁書を見ても理解可能な頃合いだと考えたため図書館への潜入を決定した。
しかし夜の校舎は監視の教員や用務員のフィルチにその飼い猫等が巡回しており簡単には侵入させてくれない。
中でも特に危険なのがあのやたら派手な格好をしているゴースト、ピーブズだ。
あのゴーストはかなりの悪戯好きであり入学してから俺を含めて多くの生徒がその犠牲になっている。よって万が一あいつに見つかれば大惨事は免れない。
だから今はこうして身を潜め教員の巡回コースやゴースト(主にピーブズ)の行動傾向を観察している。
…この調子ならあと三日程度で侵入可能になるだろう。そろそろ次の場所へ移動を―――!

瞬発的に俺は姿を隠す。誰だ、この時間はここに人は居ないはず。

「セ、セブルス!?あ、い…いや、私は…」

「私を敵にまわしたくはないだろう?」

「は…話がさっぱり…」

「よくおわかりの筈だ。近々また話すとしましょう。その時までにどちらの側につくのか決めておくんですな。」

廊下にクィレルとスネイプの声が響き渡る、理由は分からないがどうやらスネイプがヤツを訊問しているようだ。
その理由は分からない、しかし原因は分かる。あの時、クディッチの試合の時ハリーに呪いを掛けていたのがそうだろう。
あの時スネイプは対抗呪文を唱えて対抗していた、スネイプはヤツが何を企んでいるのか知っているのだろうか。
だが何故だ、何故わざわざこんな脅迫をする必要性がある? ほかの教師に知られればスネイプもただでは済まない。
…まさかダンブルドアはこのことを知っているのか、だとすれば合点がいく。校長が直々に許可をしてるのならこんなことをする理由も―――
いやそれもおかしい、校長が知っているのなら直ぐに、もっと直接的な手を打つのが普通だ。ならばこんな回りくどいことをする理由は一体…

………

どうやらスネイプ達は居なくなったようだ、改めて確認をとった後、俺は次の場所―――禁書棚へ向かうことにした。
結局訊問の理由も、クィレルの企みも校長が直接的な手段をとらない理由も分からなかった。
だが、脅迫までしてそれがただの汚職や失態とは考えられない、ヤツが隠していることが普通でないのは間違いない。
…あの試合の日から感じていた予感、それは今確信へと変わった。この学校には何かの陰謀が渦巻いている、その渦の中心に居座るものが何かは分からないが―――
…何か、何か凄まじいものが潜んでいる。戦場で培われたこの直感はそう確かに告げていた、そうだ、俺だけが知っている闇からの警告だ。

…しかし、それを知っている人間はそこに潜んでいたのだ。ヤツらに気を取られ俺は気がつかなかった、そこで潜んでいた透明の奴らに。

「な、なんであそこにあいつがいたんだ!? まさかあいつもスネイプの仲間!?」

「いや、仲間なら隠れる必要はないはずだ」

「じゃあキリコも賢者の石を狙ってるってことか!?」

「シーッ! フィルチに見つかるよ、それにもしかしたらキリコも石を守ろうとしてるかも知れない」

「トロールを簡単に殺しちゃうようなやつが…?」

「…分からない、と、とにかく早く寮に戻ろう、フィルチに見つかったら大変だ」




閲覧禁止の棚へ入り込んだ俺は、そこの本を一冊一冊確認していく。これは欲しい本を素早く見つけるために必要なことだ、本を探すのに手間取っていたらその分見つかるリスクが増える。だから数日かけて本棚の下見も行っているのだ。幾つかそれをリストアップしていく。「魂と肉体のあり方」、「石人形による生命の誕生」、「石人形全構成解体禁書」
…大体このあたりが、恐らく俺の求める本だろうか、もう時間がないそろそろ寮に戻らなくては

コツ…コツ…コツ…

…! まずい、誰かが入っている。周りを見渡し一つのドアを見つけた俺は静かに素早くその部屋に駆け込んだ。
…この部屋は昔使われていた教室のようだ、壁際の机と椅子がそれを証明している。なら、あの中心に置かれている鏡は一体何だ? 俺は鏡に近づき、自分の姿を映し出す。そこには―――





フ ィ ア ナ が 立 っ て い た 





「フィ……アナ………?」

肩まで届く長い長髪、今にも消えてしまいそうな儚くも美しい顔。鏡に映っていたのは間違いなく、あの日、俺の手から零れ落ちたささやかな願い、フィアナそのものだった。

「何故…何故フィアナが…!?」

フィアナは俺に肩を寄せ 優しく俺に寄り添う
かつて戦いの無い世界を祈って眠ったあの時のように
だが 彼女は居ない あの目覚めの後
彼女は消えてしまった 死んでしまった
いつかまた会えると信じていた しかしそれもダメだった
彼女は もう見ることのできない 優しい笑顔を浮かべ
俺に寄り添う 
あの時のように
あの時のように
あの時の………

「やめろおおおおおおお!」

俺は絶叫し、鏡から目を逸らす。フィアナは居ないそして二度と会うことは出来ない。そんな事は分かっていた、だから俺はそれを忘れようとしていた、この生活の中で少しでもこの悪夢を和らげようとしていたのだ。
会えない筈のフィアナは、俺にそれを思い出させたのだ、会うこともできず、死んで会いに行くことも出来ない絶望を思い出させたのだ。
…どうしようもない絶望に、まるで「忘れるな」と叫ぶかのように叩きつけられたそれに俺は打ちひしがれていた。
………かつて、あの日以降心の奥に押し込めていた悲しみ。溢れだした濁流を止めることは出来ない、ならせめて、この濁流に押し流されぬようにただひたすら耐えることしか俺には出来なかった。
…俺は、何時死ねるのだろうか。死ぬためにここに来たが未だ目処は立たない。もしかしたら、俺を殺せる魔法など無いのかもしれない。いつまで、一体いつまで地獄を彷徨えと言うのだ。哀しみのまま、俺は絶望の底へと沈んでいった。そしてどの位たったのだろうか、何とか落ち着きを取り戻したころにヤツは現れた。

「どうやら落ち着いたようじゃの」

「………ダンブルドア校長」

いつから見ていたのだろうか、あいつの言い方からすればだいぶ最初の方から見ていたのかもしれない。

「すまんの、見ているつもりはなかったのじゃが」

「…大丈夫です」

「そうか、それなら良い。この鏡はのう「みぞの鏡」というのじゃ、それも映ったものをただ写すのではない。映った物の本当の望みを映し出すのじゃ、故にこの鏡に魅入られ、身を滅ぼしたものは何人もいる」

「…………」

「なので丁度、これを明日移そうと思って来てみた所、君も居たというわけなのじゃ」

…君も? 俺以外にも出歩いているヤツがいたのか? 校則違反をした俺を責める気配もなく朗らかな笑いを浮かべながら俺をその青い瞳で見つめている。俺は、俺の全てを見透かしているかのような視線に警戒を覚えた。

「…キリコや、ホグワーツは楽しいかね?」

…? 一体こいつは何故こんなことを聞いてきたのだろうか。質問の意図は分からなかったが答えないのも不自然だろう、俺は差し当たりの無いことを言うことにした。

「ああ、…それなりに」

「そうか、それは良かった。ホグワーツはただの学び場では無い、(みな)の居場所であってほしいのじゃ」

「……居場所?」

「そうじゃ、ここにはどこにも居場所が無かった生徒もたくさんおる。だからこそ儂はこの学校が(みな)にとって楽しく、帰ってきたい。そんな学校になってほしいと願っているのじゃ」

「…………」

「儂は君のことを心配していたのじゃ。だからこそ、ここでの暮らしを楽しいと思ってくれたことが嬉しくてのう。」

やはり俺の直感は間違っていなかった。この男は既に…いや、感づいているのかもしれない。俺がここに来た理由が何であるか見抜かれているのかもしれない。この質問が俺を説得するための物なのか、それとも本心からでた物なのかは分からないが…何にせよ俺の目的を知られる訳にはいかないだろう。

「…キリコや、儂はこれからも君がここで生活し、そしてそれが楽しいと思えることを祈っている」

「…ありがとうございます。…では失礼します」




図書館を出た俺は再び決意をした。フィアナ、彼女に再び出会うためにも…俺は必ず見つけて見せる、俺を殺せる魔法を。
あの鏡に写されたフィアナから再び決意を受け取った俺は、巡回の教師に見つからないよう寮へ戻っていった。





…結局、あの子があの鏡に何を見たのか聞くことは出来なかった。仮に聞いたとて正直に答えてはくれなかっただろう。あの子が抱える闇、その正体が分からぬ今下手な言葉で説得をすれば余計闇へ落ちていくのは明らかなのじゃから。
だが…それでも一つだけ、確実に分かることはあった。あの子の闇の正体、そこには「孤独」が潜んでいることを。さきほど儂を見たあの子の目はひたすら、まるで二度と会うことの出来ない家族を求めるような哀しい瞳をしておった。ならばあの子を光の道へ導くにはその「穴」を埋めなければならぬ。
しかしその「穴」は埋まりつつあるのかもしれん、あの友人…キニス・リヴォービアといるキリコは僅かながら、だが確かに楽しそうな顔をしているのじゃから。

「…もしかしたら、儂がすることは無いのかもしれんのう…」

ならばそれが一番良いのじゃろう、…どこか、彼の闇に恐れを抱いている儂では彼を救い出すことは出来ないのかもしれん。しかしこれならば、もう心配はいらんのじゃろう。少し安心した儂は部屋を後にした。
…だが、もしも彼が闇に堕ちるようなことがあれば…その時は…
…その時は…

…馬鹿なことを、その時こそ、儂ら教師があの子を正しき道へ導かねばならぬのじゃ。あの子の「闇」から目を背けてはならぬ、諦めてはいけない、その闇を払わねばならない。
それが妹を、アリアナを死なせてしまった愚かな自分にできる、たった一つの贖罪なのじゃから。





クリスマス休暇が終わり、新学期が始まった。それと同時に授業は激化の一途をたどり始める、それは学期末に控えている試験のためだろう。それに備えて授業だけではなくそこから出される宿題の量も増加していた。その結果最近俺の隣には常にキニスが付きまとうようになっており、しょっちゅうヤツに勉強を教えることになっている。が、今日は居ない。明日行われる今学期初のクィディッチの試合の為にグリフィンドールの寮に行っているらしい。

尚、明日の試合日程はグリフィンドール対レイブンクローである。さらにその数週間後にはグリフィンドールとハッフルパフの対決が予定されている。そのため選手たちは勉強など目もくれずにひたすら練習に打ち込んでいる。
今の所一位はスリザリンとなってはいるが明日の結果次第では逆転ができるかもしれない。だが、それは現在四位のハッフルパフにとっては全く関係ない話だろう。最も俺自身興味は無いのだが。




試合が始まった時、試合会場…もといグリフィンドールの観客席には赤地に金の文字と、派手な垂れ幕が掲げられている。その内容は…まあ予想道理ハリーを褒めちぎったような内容だった。隣で自慢げにしているこいつの様子から昨日の用事とはこれの作成だったのだろう。
それを見たハリーは箒で見事な空中三回転を決めていた、効果は十分あったらしい。

試合が始まると初めは得点の取り合いとなった、片方が決めればもう片方が決める、まさに一進一退の攻防といえる、しばらく経つと得点の取り合いからボールの取り合いへと変化していく、その結果得点は変わらなくなり試合は硬直状態となった。ハリーもレイブンクローのシーカーも会場のあちこちをゆっくりと飛び、慎重にスニッチを探している。
実況もこうなると中々言うことが減ってくるのか試合開始ほど喋らない。…そういえば前の試合のようなグリフィンドール贔屓な実況はしていないのか、どうやらあれはスリザリン限定らしい。

「殺れぇ! 決めろぉ! 防がれただと!? ふぅざけやがってぶっ潰れろぉ!!!」

…キニスはどちらが何をしようが関係なく罵声を浴びせている。こいつの罵声はスリザリン限定という訳では無いらしい。正直なところ流石に止めた方がいい気がしてきた。

その時ハリーが動き出し、それに続いてレイブンクローのシーカーも動き出す、いよいよ試合も大詰めか。
ハリーに襲い掛かるブラッジャー、一撃目をかわす事には成功したが減速した影響で二発目が直撃した。すぐに姿勢を立て直すがその隙にレイブンクローのシーカーが追い抜いた。
スニッチは曲がる気配がない、ならば最後は単純な速度勝負になる。
実況と観客席から発せられる熱の中、スニッチを取ったのは―――

「グリフィンドールがスニッチを獲得!」

ハリーの方だった。




「いやー、やっぱクィディッチは興奮するねー面白かったー」

つまりこいつはかなり過激なクィディッチ狂いで、例え自分の寮だろうと何処だろうとああいった罵声を浴びせるということらしい。それはあの後、数週間後に行われたグリフィンドール対ハッフルパフの試合で証明してくれた。まあ試合が終わればどこの寮にも拍手を送るあたり平等なのだろう。…良くも悪くも。
クィディッチの試合が終わると同時に試験もすぐそこまで迫ってきている。それと同時に俺の計画も実行に移す時が来た。あの日鏡を見たことで、俺は決意を新たにしていた。俺は何としてもフィアナに合わなければならないと。

「…試験嫌だなぁー…キリコは…大丈夫に決まってるよねー…ハァ」

さっきと打って変わって気分を落ち込ませているキニスをしり目に、俺の覚悟は否応なしに高まって行っていた。




あの時鏡から、フィアナから受け取った覚悟
だが俺は気が付いていなかった
その覚悟もまた鏡だと言うことに
つまりそれが意味すること
それは所詮まやかしでしかないという真実
そこから目を背けた罪
それは罰となり
もう目の前までやって来ていたのだった



ペペレル三兄弟は、川に魔法を掛け明日を得た。
死は、三人の兄弟を陥れ、その命を得た。
キリコは魔法に、己の運命を占う。
今、ホグワーツで明日を得るのに必要なのは、ユニコーンと少々の狡猾さ。
次回「取引」。
ホグワーツには死の臭い。


キリコと校長、腹の探り合い
…まあ実際死にたいと考えてるなんて夢にも思わんよな。
という訳でトラウマ回でした、もうそうそう次は無いな!


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第八話 「取引」

フォイの出番少ねぇな…
まあスリザリンと一番絡まなさそうな
ハッフルパフじゃね…

D.M「フォーイ」


相変わらず生徒でごった返している図書館、クディッチの試合が終わって以降その数はさらに膨れ上がっていた。クディッチの練習で忙しかった選手たちも、クディッチの熱で現実から逃れていた生徒たちも加わり今の図書館は自分が座る場所を探すのさえひと苦労する。ひたすら羊皮紙と教科書を睨み、羽ペンを無我夢中で走らせる生徒の中に何故か俺に向かって小さく手を振っている連中が居た。

「こっち、空いてるわよ」

「…ありがとう」

そう言ってきたのはハーマイオニーだった、その隣にはハリーとロンの二人も座っている。どうやら、こいつらも勉強のためここに来たようだ。…もっとも実際はハーマイオニーが二人に勉強を教えているのだろうが。
席を紹介してくれた彼女に礼をいい、その席に座らしてもらう。そして俺も他の生徒同様に羊皮紙と羽ペンを取り出した。

「あっそれ…使っててくれたの、調子はどう?」

「ああ、ペン先が冴えている。それに羊皮紙の滑りも良い」

そうだ、これはクリスマスプレゼントとして彼女から貰った物だ。
…実はあの時、贈ってくれるヤツが居るとは思っておらず彼女とキニスに何も贈っていなかったことに後で気づいた。今度は必ず贈らなければ…、俺は少しの後悔を思い出し、申し訳ない気分になりつつも勉強を開始した。
この時期はもう、例の呪文の研究は全くせずに学期末試験のための勉強に専念していた。というよりは一時中断と言った方が正しいのだろう、あの日閲覧禁止の棚に侵入し主な本は決めていた。それにいつ再び侵入するのかも決めてある、その為今研究を焦る必要はないのだ。

だが、不安はある。それはあの日見たもう一つの物、クィレルだ。無論あいつとスネイプの行動だけは分からないというのもあるが、何よりヤツが企んでいる事が何なのか、それが俺の心に緊迫したものを残していた。あれからだいぶたったがクィレルは俺が見ている限り特に目立った行動はしていない。故に、ヤツの狙いは未だ分からない。だからこそ漠然とした不安が俺の中に漂っているのだ。

「…ねぇキリコ、ニコラス・フラメルって知ってる?」

「…賢者の石の作成者だな」

そう、以前読んだ本に書かれていた人物だ。
…しかしこの質問は何の為だ? こいつの事について知らなければならないような試験は今学期出ないはず。単純に知識を満たすのが目的なのか。だが質問の理由はその後ろから察することが出来た。

「や、やっぱりキリコも石を―――」

「ロン!」

石、それは間違いなく「賢者の石」のことだ。だがそこから何故俺に繋がるのか―――
…まて、「キリコも」? これは俺以外に石に関わるような人間がいるということなのか?
賢者の石、命の水、不老不死、それに関わろうという人間が居るとしたら、その理由は不老不死の可能性が高い。そんな人間が居るとするなら―――そいつは―――つまり―――

「…俺が賢者の石を狙っている、…そういうことか?」

「「「!!」」」

この反応、間違いない。ヤツらは俺と…おそらくクィレルが賢者の石を狙っていると考えている。そうなら今までの不審な行動の理由も―――
…? ならあの時、ハリーに呪いを掛けていた理由は何だ? ヤツが石を狙っていると仮定してもハリーを襲う理由にはならない。それに俺も石を狙っていると、あいつらが考えている理由も分からない。
…こいつらは、恐らく俺の知らない事を知っているのだろう。それを聞いてみる必要があるかもしれない。

「…何故、俺が石を狙っていると思った」

「い、いや!? そんな事全然思ってないよ!?」

「ロン…もう駄目だよ…」

「…ハリーとロンから聞いたの、クリスマス休暇の時あなたがクィレル教授とスネイプの話を盗み聞きしていたって」

「ハーマイオニー! そいつに言って大丈夫なの!?」

「…それを確かめたいから聞いてるの」

…どういうことだ、まさかあの時こいつらも居たというのか? だがそんな人影は何処にも無かったはずだ。…あの時一瞬だけ感じた違和感、あれがまさか… いや、どちらにせよ見られていたのは確かだ。だからあそこに、クィレルが訊問されるような場面に居た俺も、ヤツ同様石を狙っていると疑っているのか。

「そうだ、俺はあいつらの話を聞いていた。…逆に聞くが、お前達は何故ヤツが石を狙っていると考えた」

「キリコは初めてハリーがクディッチの試合に出たとき、箒の様子がおかしかったのは知ってる? あの時私達は()()()()がハリーに呪いを掛けているのを見たの。
それだけじゃないわ、貴方も見たと思うけどスネイプはクィレル教授を脅していた、あれは石の在りかを聞き出すためだと私達は考えたの。
証拠にスネイプは石が隠されている部屋の罠を突破する方法を―色々な人から聞き出していたわ」

「…罠?」

「そう、あの部屋には石を守るために先生達が色んな罠を仕掛けているわ」

…どういうことだ? 何故こいつらは呪いを掛けたのを()()()()だと勘違いしているんだ。いや、あの時彼女はスネイプに火をつけていた。
…おかしい、あの時呪文を唱えていたのはクィレルも同じ、ならば何故スネイプの方に火をつけた? どちらが呪いを掛けているか分からないなら両方に火を着ければよかったはずだ。
いや、思い出せ、あの時クィレルは何処にいた? そうだ柱の近くにいたはずだ。そしてグリフィンドールの観客席は………

「…あのクディッチの日、お前達の席からクィレルは見えたのか?」

「えっ、クィレル教授?」

「そうだ」

「……………ハリー、あなたあそこでクィレル教授見かけた?」

「いや、僕は客席を見てる余裕はなかったよ」

「じゃあロンは?」

「え? えーと確か居たとは思うけど、…僕らの席から見た覚えはないなぁ、もしかしたら僕らから見えない所にいたのかも」

………! そうか、いや、もしそれが狙ったものだとすればヤツの目的は…まさか……

「キリコ、石が隠されている部屋の…罠の越え方を知りたくない?」

…? 急に何を言い出したんだこいつは、俺を疑っているのに何故それを助けるような事を言うのか、それとも別の狙いがあるのか。

「知りたいなら教えてあげる。ただし私達も知りたいことがあるの、それは石が隠された部屋。もしそれを教えてくれるなら教えてあげてもいいわよ」

こいつらは俺を疑っている、つまりこの取引の意図は…俺が石を狙っているかどうか見定める事。恐らくそれだ、もし俺がこの取引に乗ればそれは、「石の在りかを突き止めている」つまり石の在りかを知ろうとする理由が存在することを。「罠の越え方を知る必要がある」それは石を手に入れたいから知る必要がある。という二重の証拠を得ることが出来る。
ならば俺の選択は、というよりもそれしかない。

「知る必要はない、何より俺は石の在りかを知らない」

…実のところ、見当はつく。四階廊下の突き当たりに存在する「死の潜む部屋」に石はあるのだろう。しかしそれはあくまで見当でしか無い以上、取引に使うことはできない。それに俺自身賢者の石に興味が無いため、罠の突破方法も要らないからだ。

「…お前達は石を守るつもりなのか」

「ええ、もちろん」

「………」

「………」

…しばしの間続く沈黙。クィレルの目的も、呪いを掛けた理由もわかった今これ以上話す理由は何処にもない。このままこいつらを放っておくことが俺にとって一番平穏な道だ。
だが、俺も何時からかお人好しになっているらしい。死ぬかもしれない場所へ行くのを何もせずに放っておくことは出来なかった。

「…止めておけ」

「心配ありがとう、でも私達がやらなきゃならないの。」

「何故だ? お前達が調べたことを教員に報告した方がより確実ではないのか」

「言ったわよ、でも先生達はスネイプを信用しているから私達の言うことは聞いてくれない。だから私達が―――」

()()()()の狙いはそれかもしれない」

「…えっちょっと待ってどういうこと? 石を狙っているのは()()()()よ?」

そして俺は話した、呪いを掛けていたのはスネイプでは無くクィレルだということを、そしてそこから考えられる事実…ハリー達が石を守ろうとすること。それこそがヤツの狙いである可能性が高いということを。

「そ、そんなまさかクィレル教授が石を…!?」

「で、でも何でそんなことする必要があるんだよ!?」

「それは分からない、だから可能性と言ったんだ。それに恐らくこの事はダンブルドアも気付いている」

「何だって!?」

「だからこそ、わざわざ敵の罠に飛びいるような危険を侵す必要は無い。俺が言いたいのはそれだけだ」

「で、でも僕達も行った方が確実に石を守れるはずだ! それに―――」

「ハリー、ロン、ハーマイオニー」

「………」

「命を粗末にするな」

そして俺は席を立つ、これ以上居てもあいつらが気まずいだけだろう。だがこれで伝えることは出来たはずだ、もう余程の事が無い限り危険に首を突っ込むことは無いだろう。
…俺はどうする? いや俺も同じだ、クィレル…スネイプかもしれないが、奴等の企みをダンブルドアが知っている以上下手な手出しは余計な混乱を産み出す。
俺は俺のすべきことをするだけだ。

「あのー、キリコさんちょーといいですかね…」

図書館を出ようとしていた俺にキニスが話しかける。…大量の菓子を持って。

「えー、その、申し難いのですが他の課題が多すぎて…魔法薬学まで手が回らず」

「………」

「なので、このお菓子あげるんで………」

「………」

「課題写させて下さい!」

…あまりに酷い取引に俺は呆れながらもこの取引を()()()。未練がましく助けて下さい何でもしますからとか叫んでいるがそんなことは知らない、自力で何とかしろ。




「………ハアアアァァァー、き、緊張したわ…。 …そもそもハリー達が「キリコが石を狙ってる」なんて言い出さなければこんな質問を勉強時間削ってまで考える必要もなかったのに」

「ごめんハーマイオニー、…でもまさか、クィレルが黒幕だったなんて」

「でもそれは絶対じゃ無いんだろ?」

「ええ、でもこれでキリコが石を狙ってないのはハッキリしたわ」

「でもさ、キリコがバレたくないから嘘をついたのかもしれないじゃないか」

「確かにそうよ、でもキリコはあんなに私達のことを心配してくれたのよ? そんな人が嘘をつくなんて私には思えないわ」

「それでもキリコが石を狙ってないって断言は出来ない。だから気を許すのは危ないと思う」

「…そうね、でも私は信じたいの。そうでないならハロウィンの時あんなに心配して私達を助けてはくれなかった筈だもの」





テストもいよいよ近づいてきたある日、大広間はどの寮もざわついていた。その原因はグリフィンドールにある、一体何があったのかたった一晩で一五〇点も減点されていた。その結果グリフィンドールは寮対抗において最下位まで見事に転落することとなったのである。あと何故かスリザリンも二十点減点されていた。
まあ原因は簡単に予想できる、あそこまで深刻な顔でテーブルに座る三人…と一人の男の子、つまりハリー、ロン、ハーマイオニーと一人の男の子だ。それにしたって一五〇点も減点されるものだろうか、一体あいつら何をしたんだ。
…まさか、あれで尚賢者の石を守ろうとしているのか、それで何かしらの無茶をやったと考えれば筋は通る。だが実際はどうなのだろうか、本人達に直接聞くのはいくらなんでも気まずいので知ってそうなヤツに聞くことにする。

「キニス、減点の理由はハリーか?」

「うーん、さすがに細かくは聞いてないよ。僕が聞いたのはハグリットがドラゴンが何だかですごい喜んでいたってことぐらいだからね、その理由までは答えてくれなかったよ」

…ほぼ答えを言ってしまっている。つまりドラゴンの卵を欲しがっていたハグリッド(本人は秘密にしているようだがほとんどの人が知っている)が何かしらの方法でそれを手に入れた。だがドラゴンは許可なしに飼うことを禁じられてるため、困り果てたハグリットは…もしくはそれを知ったハリー達がそれを助けようとして教師に見つかった。もしくはその過程で何かしてしまった。…と言ったとこだろう。証拠にハグリッドの顔色もこの世の終わりと言わんばかりに青くなっている。

その日以降ハリー達に対する生徒の態度は一変した。それまではスリザリンに勝てるからと、英雄のようにもてはやしていたが今やグリフィンドールのみならずレイブンクローやハッフルパフからも侮辱の視線を浴び続け、スリザリンは心の底からの感謝を廊下ですれ違うたびに言っている。勝手に期待しておいてこの変わりよう、すがすがしいまでの手のひら返しに俺は少しの同情を覚えた。

「大変だキリコ! ハリーが死んじゃうよ! 助けに行かないと!」

「死ぬ? 何故だ」

ハリーが死ぬ? 罰則でか? そんな危険な罰則は流石にないはずだが。

「今夜罰で禁じられた森に行くらしいんだよ! 狼男に大雲にミノタウロスに…とにかくそんな危険な場所に行ったら大変だ!」

「落ち着け…生徒だけでいく筈が無い。随伴の教員が居るはずだ」

「え、あ、そりゃそうか。でも大丈夫かなハリー達」

日が没し、暗闇を映す窓を見るキニスはだいぶ心配そうな顔をしている。とはいえ俺もキニスもできることは無いのだ、しばらく経ち部屋へ帰ろうとするキニスと共に、あいつらの無事を祈ることで精一杯なのだろう。





賢者の石、不老不死。
それを守るもの、狙うもの、
揃いつつある役者たち、もうじき整うその舞台。
その中に巧妙に隠された真実への付線、
それを集め、繋ぎ合わせた時完成したのは戦いへの招待状。
乗るか、乗らないか。
いよいよ放たれる真実への扉、賽を振る俺はそれに気づく。
既に断たれた虚構と安息への道。
戦いから逃れることは出来ない、それこそが俺の運命なのだ。



昨日の朝、安息を手に入れ人の心に触れていた。
今日の昼、命を的に夢見た炎を追っていた。
明日の夜、愚かな油断と大きな孤影が、偽りの心に楔を穿つ。
これはニコラスが作ったパンドラの箱。
倫理を問わなきゃ何でもできる。
次回「喪失」。
明後日、どんな先の事でもわかりきっている。



名探偵キリコ テレテーレーテレテーテーテテー
ちなみに本編でも示唆してますが、
ハー子はあの質問即興でやったわけではありません。
流石に事前に考えてからやってます、
…頭良くし過ぎたかな、どっちも。 ハリー?ロン?知らない子ですね… 
ハリー ロン「」


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第九話 「喪失」

そろそろバトルを始めたいです、
いい加減ホグワーツを火の海にしたくなってきた。
どうやって滅ぼすか…

「大戦争を! 一心不乱の大戦争を!」


学期末試験四日前、生徒達は大量の課題と膨大な試験範囲に追い込まれ夜も眠らずに勉強を、教員達は大量の課題の添削と試験作成の仕上げに追われ食事を摂る隙もない。
そんな状況の中、俺はまたもや夜の学校に潜んでいた。目的は無論「閲覧禁止の棚」、そう今まで狙っていたのはこの時期なのだ。本来夜の校舎は巡回の教員がいるはずだが試験数日前ということもあり、大幅にその数を減らしている、加えて巡回している教員も試験作成の疲れか監視に穴がある。故にこの時期こそが「棚」への侵入に最適だったのだ。
「目眩まし術」を自身に掛けながら、巡回にもゴーストにも見つからずに図書館の禁書棚へたどり着いた。

「ルーモス ―光よ」

出力を限界まで絞り混み本棚を照らす。通常の出力で使うと俺の杖の場合、先端から閃光手榴弾並みの光が発生するためである。そんな事になれば巡回がやってくるのは確実、この計画は水の泡になる。
………!?
杖の光を消し身を潜める、誰かが禁書棚に居たのだ。暗闇のせいでよく分からないがそいつは顔から足の先まで闇に溶け込むような漆黒のローブで包んでいた。そいつは隠れるようにしながら禁書棚の本をいじっている、あの怪しい風体にこそこそとした行動、巡回の教員ではないだろう。俺と同じ目的でここに居るのだろうか。
その後動き出したヤツは、何も持たずに図書館を出ていってしまった。折角侵入したにも関わらず何も持たないとは、いよいよ何がしたいのか分からない。まあそれを考えるのは後でもいいだろう、それよりヤツのせいで少し時間をロスした、急がねばなるまい。
再び杖に光を灯し、以前確認した場所を確認する。そこには目的の内の一冊が置いてあった、タイトルを確認するとそこには「石人形全構成解体禁書」と書かれている。間違いないこいつだ、その本を懐にしまい次の本を探す。
次の本もすんなり見つけた後、最後の本も探す。だがこれは時間が掛かった、以前確認した場所とは別の場所へ移動していたからだ。不味いな、あと数分で巡回がやってくる、急がなければ。
「禁じられた魔術」…違う。
「ニワトコの軌跡」…これも違う。
「魂と肉体のあり方」…こいつだ!
最後の本を懐にしまい急ぎ足で図書館を後にする、最初の曲がり角を曲がったところでちょうどフィルチの姿が見えた。かなりギリギリだったようだが、何とかなったな。そして俺は行き同様に、巡回に見付からぬよう自室に戻っていったのだ。
…この本こそが、俺を再び地獄のドン底に叩き落とすモノだとも知らずに…




熟睡しているキニスを起こさぬようゆっくりとドアを開ける。机のランプを灯し、手にいれた本が間違っていないか確認をする。盗めたとはいえ長期間持っていてはバレるリスクも高まる、なるべく早く読みきらなければならないだろう。羊皮紙を取りだし、羽ペンを構え、本を開いた。
その時、それは起きた。




「こ、これは…!?」

突如目の前が真っ暗になり、気が付いた時俺は使われていない教室にいた。この教室はまさか、あの鏡はまさか。そこに居たのはフィアナだった。彼女はあの時と全く同じように鏡の中から微笑み、俺に寄り添っている。
何故だ!? 何故俺はここに居る!? 一体何が起―――




その次の瞬間写り込んだのは燃え盛る炎であった。今度はどこへ移動したんだ、ここは一体―――
そして俺は絶句した、何故ならそこに居たのは、炎に包まれている人間だったからだ、そうだ、俺の、母親だ。
次の瞬間、俺は外にいた。いや違う、連れ出されたのだ。後ろを振り替えるとそこには全身を黒く焼かれながらも、俺を助け出してくれた、そして今息絶えようとする父親の姿があった。一体、一体何が起こっているのだ…




視界には天井が写っている、何故か上手く動かない体を動かし、横を見る。そこには俺を産み、そして力尽きた母親が倒れていた。
………まさか。




目まぐるしく、まるで映画のフィルムのように回る、戦場、鉄の騎兵が群を成し森を、砂漠を、街を駆け、その全てを踏み潰していく。
そしてたどり着いたのは砂漠だった。そこにあったのは黒い稲妻と神の眷属達の成れの果て、そして緑色の血を流しながら横たわる彼女。

石と権威で覆われた聖地。最後の言葉さえ聞けずに燃え尽きてしまった、俺のささやかな望み。

意図せず作られた束の間の安息、それを打ち破る過去に向かってのオデッセイ。

何も知らぬまま、人ですら無かった俺が出会い、そして全てが始まった闇の中。

不死と信じ、不死に弄ばれ、俺一人だけ生き残った爆発の中。

俺達によって赤く染まった星。そこで思い出す忌まわしき過去。

俺を、家族を、思い出を、そして星をも焼き尽くす赤い肩の悪魔達。

巡る、巡る、巡礼の記憶は何度も巡る。
そう、何度も、何度も、何度も、何度も…




「……………………!!」

今のは、俺の記憶だ、それも思い出すのも考えるのも忌まわしい記憶。それを突如、現実かと思うほど鮮明に、その全てを呼び起こされた俺の精神はたった数秒、一瞬の事にも関わらず崩壊寸前まで追い詰められた。
記憶の底に閉じ込めていたトラウマは、一度吹き出せば簡単には止まらない。それは今も精神を徹底的に削り続けていた。
頭の中にはかつて、戦艦の中に閉じ込められた時のように何度もある一曲が流れ続ける。
視界に写る幻影には途方もない数の戦場と途方もない数の残骸が広がり、かつての仲間達が一瞬の断末魔を繰り返し叫び続けている。
それが止む気配は全く無い、何故だ、何故今になってこの記憶が蘇った。その原因について考えようとするが心の中で繰り返される地獄と断末魔はそんな余裕さえくれなかった。

「キ、キリコどうしたの? 凄い顔色悪いけど…」

知らない内に悲鳴でもあげたのだろうか、いつの間にか起きていたキニスは俺を心配して語り掛けてきた。
しかしその瞬間、思い起こされたのはかつての仲間、戦友、家族、そこまで呼べなくとも何らかの仲間意識は持っていたヤツら。そいつらが皆、尽く死んでいく記憶、未練など無い。だが俺只一人を生き残らせる為に星もろとも基地もろとも死んでしまった事実は未だに俺を苦しめる。
そして脳裏をよぎる最悪の未来、散り行く仲間の影とそいつの姿が重なる時、物言わぬ屍となったキニスがそこには居た。まさか、いやあり得ない話ではない。俺に関わるという事はすなわち地獄まで付き合うということ、そして望む望まないに関わらず盾となって死んでいくのが運命なのだ。俺に関わることで、キニスは死ぬ。

「………やめろ」

「何言ってるのキリコ? 大丈夫ってレベルの顔色じゃないよ、それにそんなに汗も掻いて…マ、マダム・ポンフリーの所に行った方が良いんじゃない? 無理だったら僕が先生を呼んでく―――」

「やめろ!! ………これ以上関わるな…!」

急に声を荒げたせいだろう、キニスは驚愕の表情を隠せていない。だがこれで良い、いやこうでなくてはならない。今までこいつを傷つけるのは良心が痛むから辞めておいたがもうそうは言っていられない、何としてもこいつを俺から引きはがさなくては。でなければ死ぬ、理由などない、死ぬ経緯も状況も分からない。だがこのまま行けば必ず何時か死ぬ時が来てしまう、そうなる確信が今の俺には出来た。

「…わ、分かった、でも辛かったら言ってね。」

キニスは再び布団の中に潜りこんでいった。…これで良い、こうでなくてはならない。もう俺のせいで親しいヤツが死ぬのはもう沢山だ。未だ頭の中で踏み鳴らすことを止めぬマーチを引きずりながら俺は部屋を後にした。そして俺は談話室で朝まで過ごし、マーチと幻影が収まったのはその時だった。










「…あ、キリコ、…おはよう、あの後大丈夫だった?」

「………」

声をかけるキニスを無視し、疲弊した精神を表に出さぬよう大広間へ向かう。俺の意図を感じ取ってくれたのかキニスが話しかけてくることはそれ以降無かった。この状態を維持し、今までの関係を完全に無くすことが今の俺の目標だ、そうすればこいつが地獄に巻き込まれることは無い。俺のせいで死ぬことは無くなるだろう、…あいつは気にするだろうが、それがあいつにとって最も良い事なのだ。何、あいつの性格なら俺以外の友人は幾らでも手に入れることが出来るだろう、心配は要らない。

あの後強烈な頭痛に苦しみながら考えたが、あれは一種の呪いだったのかもしれない。以前本で見たことがある、飲んだものにトラウマを蘇らせる黒い水があるらしい。恐らくあの本に掛けられていたのはその水と似たような効果をもたらす呪いだと推測した、それを掛けたのはあの黒いローブの何かだろう。
だが、ヤツの正体は全く分からない。現状一番怪しいのはクィレルだろうがする意味が分からない、スネイプに脅されていた時俺に気づいた様子は無く、気づいていたと仮定しても万が一俺が死んでいたら校内の警備はさらに強化される。そうなれば目的である賢者の石の奪取は相当難しくなるはずだ。第一あの呪いを仕掛けたのがローブの人間だという確証も無い、何せ本来教員の許可を得てその監視の基にのみ閲覧を許された本だ、元々呪いが掛かっていても不思議ではない。唯一助かったのは、あの呪いは最初の一回で解除される点だろう、読むたびにあれでは本当に死んでしまう、これで俺の研究はだいぶ進むはずだ。…こんな状態で進むかどうかは分からないが。




今朝の食事は、いつもと変わらないイングリッシュブレックファストだ。だが試験の応援のためかいつもより少しだけ豪華なものとなっている。食欲はしなかったが空腹で倒れるわけにはいかない、俺は少しだけ皿に取った。
まず初めにトーストをかじった、脳の働きに炭水化物は必要だからだ。食べると口内の水がパンに吸われ口の中が気持ち悪くなった、味も心なしかサクサク感よりも焦げた味の方が目立つ気がした。
タンパク質としてソーセージを食べる、ドイツ産のでも取り寄せたのかいつもより肉の量が多そうである。しかし感じられるのはひたすら垂れ流される動物性油であり、軽い吐き気と胸焼けがした。
体を整えるためサラダを食べる。濃口のドレッシングはむしろ食欲を減退させ、草の苦みがそれを助長していた。
…心の中で、乾いた笑いすらこみ上げてくる。あの一瞬でここまで酷く追い詰められていたとは、いつの間にかあいつはそれだけ大事な人になっていた訳か。だが誰かと別れるのは慣れている、じきに俺もキニスも慣れていくだろう。
そういえば自分から誰かと完全に決別するのは初めてだ、今まではほとんど死に別れだったからな。まあ、何も死別する訳ではないのだからそこまで悲しむ必要はないだろう。そうだ、その筈だ。




一冊の本に綴られた炎の記憶。それが教えたのは死という真実。
悲鳴を上げているのは知っていた。
無論そんな事望んでいないのも知っていた。
だが、覚えたのは安堵と感謝。
こうすれば、死ななくて済む。
ズタズタに引き裂かれた俺は、ヤツの無事を祈りながら次の地獄へ向かう。









「…以上が今の彼の状況です」

「…一体、何故そうなってしまったのじゃ?」

「見ていると、仲たがいをした。…という雰囲気でもなく、どちらかと言えばキリコの方が彼を避けている。故に彼も何を話していいか分からない。…のだと、吾輩には見えました」

「そうか、…やはり、あの時鏡で見た物が原因なのかもしれんのう。儂らに何か出来ればいいのじゃが…」

「今それは不可能でしょう、例の作戦のこともあります。それに吾輩もクィレルが何時動き出すのかを常に警戒しなければならないのですから」

「無論それは分かっておるよ。あやつがヴォルデモートと繋がっておるのは確かじゃ、そして賢者の石を用いて復活せんとしておることは…。キリコのことも心配じゃが、ヴォルデモートの復活を許す事だけはあってはならんのじゃ
…色々無理を言って悪かったのう、改めて礼を言うぞセブルス」

「…いえ、吾輩の方でも出来る限り気に掛けてはみます」

「珍しいの、おぬしがそこまで気に掛けるとは」

「…分かりませんが、何故か彼を見ていると、まるで自分自身を見ているような気になるのです」

「自分自身、とな?」

「はい、…では失礼します」

あの子が抱えているであろう孤独は、キニスとの関わりで和らいだように見えた。しかし何故かそれは崩れてしまい、以前よりも深くなったように見える。
そして儂はそれに対し、何もすることができない。ヴォルデモート復活を防ぐのが優先だから? そんなものは言い訳にもならない。
…何と無力なのだろう、何が最高大魔法使いだ、何が偉大な校長だ。孤独に震える生徒一人救えないような愚かな男でしかないのに、今も彼に対して何もできないではないか。
だが、だからといってどうすればいいのだろう。あの子の孤独は儂が考えていたよりも遥かに深く、暗い。その闇を照らす方法は未だ分からない。
…だが、諦める事だけはしてはいけない。それだけはあってはならない。
彼の闇を払う鍵、それを握っているのは間違いなくあの少年だ
なら、儂のやるべきことは―――



敵の血潮で濡れた肩。
触れえざる者と人の言う。
ホグワーツに、百年戦争の亡霊が蘇る。
アレギウムの神殿、ヌルゲラントの地底に、
不死と謳われたメルキア装甲特殊部隊。
情無用、命無用の一兵士。
この命、30億ギルダン也。
最も危険なワンマンアーミー。
次回「レッドショルダー」。
キリコ、危険に向かうが本能か。


「回歴の呪い」★オリジナル設定
ダンブルドア校長が飲んだ黒い水の効果と同様の効果を持つ呪い。
相違点として水を飲み切った時と同じ効果を一瞬で与えるため、長時間苦しむことは無いが精神崩壊のリスクは比では無い。尚後遺症は6時間は続く。


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第十話 「レッド・ショルダー」

キリコ、やさぐれモード突入
だけど頑張りますキリコ君
第十話、始まります。



教室は静まり返り、唯一聞こえてくるのは紙が擦れ、ペン先を突き立てる音だけ。そう、学期末試験は既に始まっているのだ。

閲覧禁止の棚から本を盗み出してから試験勉強そっちのけで読書をしていたため試験対策は全くしていなかった、とはいえそれまでは散々勉強していたので問題が解けずに苦しむ事は無いのだ。
しかもあの一件が原因で最近全く寝付けていない、おかげで試験中睡魔に苦しめられる事も無かった。代わりに精神はボロボロだが、多少の事はやむを得ない。
周り同様、俺も羊皮紙に羽ペンを走らせるのであった。

その日の試験科目の内容は魔法史、呪文術、変身術だった。
魔法史は基本暗記が中心になる、その結果ろくに勉強していなかったせいで満点はまず期待出来ないが合格自体は確実だろう。
呪文術の内容はパイナップルを机の端から端までタップダンスさせるというもの、これはそのための呪文を覚えていれば良いだけなので容易かった。
変身術の課題は鼠を嗅ぎたばこ入れに変身させる内容だ、これもまた、そつなくこなす事が出来た。途中何回か鼠がタコになったり右肩が赤くなったりしたが些細な事だ。

一日目の試験も終わり、そのまま自室へ向かう。盗んだ本はまだ読み終えてはいない、しかし盗んだ物を図書館や談話室で読むわけにはいかないので自室で読むしかない。

「あっ…キリコ、えーその…」

「………」

そのまま椅子に座り本を開く、ヤツはしばらく黙っていたがその内部屋から出ていった。
…現実から逃げるように本を睨み付ける、内容は今まで読んでいたような本とは比較にならないほど難しいものではあったが、その分見返りも大きい。これだけの情報があれば俺の考えている呪文は十分実現可能な段階まで引き上げることが出来るだろう。

しかし、俺は本に集中しきる事は出来なかった。そうしなければならなかったとはいえ、キニスを突き放した事は未だ俺の心に暗い影を落としていたのだ。
その度に自分自身に語り掛ける、お前と共にいたヤツはどうなった? お前を助けようとしたヤツ、共に戦ったヤツはどうなった? それにより鮮明に蘇る仲間の屍、キニスをそれに重ねて見る事でどうにか決意を持ち直す。
「死なせてはならない」それだけが今の俺を支えている今にも崩れそうな一柱であった。










…全く、分からない。魔法史のテストとにらめっこを続けているが答えを吐いてくれる様子は欠片もない、授業を思いだし答えを導こうとしても浮かぶのはピンズ先生の子守唄と朝御飯の満腹感だけだ。
それに何より、ここ最近心を重くする事があった。そのせいでテストに集中する事さえ出来ないのが、今の僕の現状だ。

あの日の夜、キリコに何かあったのは間違いない。だってその前日までは全然変なところが無かったんだもの。…少し、無理してそうだったけど、でもそれまではいつもとそこまで変わんなかったはずだ。

…キリコは多分優しい人だ、普段は無表情の無愛想だけど箒の暴走を止めてくれたり、真っ先にトロールへ向かっていったり、僕やハリー達を助けてくれた。誰かのためなら自分の危険なんて厭わない…そんな人なんだと思う。
だから今、僕を避けているのも何か僕の為にやっている事なんだろう。
でも、それでいいのだろうか。僕は正直今の状況はイヤだ、これからずっと話すことも出来ないなんて耐えられない。
それにキリコだって同じはずだ、あんなに辛そうな顔をして夜も眠れていないのに平気なはずじゃない。
僕の事を思ってやっている事だろうと関係無い、友達があんなに苦しそうにしてるのに放っておく事なんて、僕には出来なかった。
彼が何であんなことになったのか、一体何を抱えているのか何一つ分からない。だけどやってみせる、せめて、ほんの少しだけでいいからキリコの助けになりたい。彼を―――助けて見せる。










そして全てのテストが終わった今、僕は完全に詰んでいた。
どうすればキリコの助けになるのか。そんなことばかり考えていた結果テスト勉強にこれっぽっちも集中できず、ただでさえ絶望的だったテストは数倍酷い出来となった。
特に魔法薬学は酷かった、その内容は忘れ薬を調合するという課題だったけど肝心の作り方を見事に忘れ、辛うじて出来たのは「三日前のデザートの内容を忘れ、かつ五日前の朝御飯を思い出す」という、あのスネイプ先生が苦笑いを浮かべるほど微妙なシロモノだったとさ、これは酷い。
挙げ句の果てに、これだけ酷い結果という代償を払ってなおキリコを助ける方法が浮かんでいない事だろう。

まさか、ここまで分からないとは思わなかった。数日掛ければ何か一つぐらい妙案が浮かぶだろうと高を括っていたがそれは完全に的はずれだったと認めざるをえない。
とにかく話しかけてみる?
 いや、全部無視されるだろう。
美味しいご飯を奢ってみる?
 ダメだ最近食欲さえ無いみたい。
キリコの闇を調べてみる?
 下手に触れたら余計傷付くだろ。
こういった時、今まで自分がどうやってたのか思い出してみた、結果全てその場の勢いで乗りきっていた。一体どうしろと。

だけど仲違いしたままもイヤだし、キリコが辛そうなのもヤダ。本当にどうすればいいんだ…
その結果、試験が終わったのに部屋にも戻らずひたすら学校中をウロウロしながら頭を抱えているのだ。

「キニス・リヴォービア」

「へ? 誰… スネイプ先生!?」

不意に呼び止められ、間抜けな返事をして振り返ったときいたのはスネイプ先生だった。足音もたてずに話しかけてきたものだから思わずビックリしてしまった。
一体何の用なんだろう。スネイプ先生とはほとんど話した事も無いしそんな親しい関係でもない。何か怒られるような事もして無いし… まさか、テストがあまりに酷いから再試になったとか…

「ダンブルドア校長からだ」

「へ? あ、はいありがとうございます」

ダンブルドア校長? いよいよ分からなくなってきた、何で校長先生が僕に手紙を渡したんだろう? 手紙の内容はというと、

「キニス、すまんが校長室に来てくれんかの
追伸 儂はレモンキャンディーが好きじゃ」

………ダメだ、なんか混乱してきた。何だよ、レモンキャンディーって。一体何の用なんだ… まさか、退学なんて事無いよね…?
かなーり嫌な予感を抱えていたが、校長先生の呼び出しを無視するのはダメだろう。僕は軽く退学の恐怖に怯えながら校長室へ向かっていった。










試験終了から一週間の間、全ての授業は休みとなり生徒は惰眠を貪ったり、徹底的に遊んだりとそれぞれ思い思いの時間を過ごしている。それと同時に、教員は数百人分の答案を採点しており試験前同様夜の警備は薄くなっている。

そして俺はこのタイミングを狙い、またもや図書館へ潜り込んでいた。ただ今回の目的は本を盗むことではなくその逆、本を返却することである。
数日前の記憶を頼りに、読み終えた本をそれぞれの場所に戻していく。あれ以降さらに数日かける事でどうにか三冊共読みきる事が出来た。
本当なら真の目的のためにもここで新たな本を盗んでおきたい所だが、あと数日後のパーティーが終われば長期休みに入り、家に帰らなくてはならない。そうなれば本を返すのは不可能だ、だから今回は諦めることにした。
結局一年掛けて、盗めたのは三冊だけだったが…まあ、一年目ならこんなものだろう。本を戻し終わり、図書館を後にする。

あれからキニスが話しかけてくることは無くなった、だがヤツは未だに俺の事を気にしているようだった。しかし俺がそれに反応することは無い、むしろ順調だ、これを続けていけば一切の関わりを断つことが出来るだろう。
巡回の目を避け、ゴーストの気配を読みながら進んで行き厨房の近くまでたどり着く。ここまで来れば警備が来ることは無い、「目くらまし術」を解き、少し気を緩め再び歩き始めた時だった。

「―――――――――――――――――――――――――――――――――」

…なんだ、今の音は。聞こえたのは異様な音だった。それは人の話し声には聞こえない、しかし物音とは明らかに違う音が確かに聞こえてきた。
俺は歩き出した、無論確かめに行く必要性など何処にも無かった。だがそれとは無関係に足は動いていた、俺の体に染みついた戦いの臭いはその在りかを辿っていたのだ。




そしてたどり着いたのは、三階のある部屋の前だった。そう、ダンブルドアが警告し入ることを禁じた部屋、そして賢者の石が隠されているであろう部屋に俺はたどり着いた。音はここから発せられたのであろう。よく見ると部屋の扉は僅かだが開いており、何者かが侵入したことを物語っている。
扉に耳を当て様子を伺うが何も音はしてこなかった、微かに聞き取れたのは人のような声だけだった。人の声、聞こえた音は虫の鳴き声にも劣っていたが、俺はその声に聞き覚えがあった。誰かに向かって指示のような声を出している、その声はやや甲高くうるさい印象を与える少年の声、そうだ、この声はロン・ウィーズリーのものだ。

つまりあいつらは結局賢者の石を守りにこの部屋へ入って行ってしまったのか、自身の忠告が届いていなかったことに悔しさを感じる。だが、それにショックを受けている場合では無い。賢者の石などと言う驚異的、かつ恐ろしく魅力的な物を守るために仕掛けられた罠だ、少し泣きを見る程度で収まる罠では無い。侵入者を必ず殺すような罠のはずだ、このまま行けばあいつらはほぼ確実に死ぬだろう。
それに気づいた瞬間、俺は扉の中へ飛び込んでいた。










「オオオオオオオオオオオオオ!!!」

部屋に侵入した瞬間、俺は音圧だけで吹き飛ばされそうになっていた。そこにいた生き物は部屋の半分を埋め尽くさんとする巨体を持ち、頭部は三つに分かれ先端には血走った眼をギロつかせる犬の頭があった。そう、地獄の番犬、その異名を持つケルベロスだ。
六つの眼光は既に俺を捉え、鋭い牙と爪を打ち鳴らしながら威嚇をしている。これ以上寄れば殺す、という意味だろう。
ケルベロスの横にはハープが置いてあった、ケルベロスという生き物は美しい音楽を好み、これを聞くとあっという間に眠りについてしまうのである。このハープを奏でるのが本来のやり方なのだろうが、それをすることは出来ない。当然だ、俺はハープを弾けない。
だがそんな事をせずとも突破する方法は幾らでもある。ヤツの足物にある小さな扉、あれが次の部屋への入り口だろう。殺すのが一番確実だ、しかし今はハリー達の安否を確かめなくてはならない。
地獄なら幾らでも見てきた、地獄の番犬くらいに恐怖する理由は無い。俺は杖を取り出しケルベロスに向かって行った―――

「エクスパルソ ―爆破」

巨大な杖をケルベロス…では無くハープに向かって撃ち込む。粉々に砕けたハープはケルベロスに襲い掛かった、しかし怯む様子はあるがダメージは一切見当たらない。だが優先するべきなのはハリー達だ、その隙に扉に向かって駆け出す。
しかしそれを許すほどヤツも甘くはない、俺が走り出したのに気付くと巨大な口で噛み殺そうとしてくる。
だが上手くいってくれたようだ、わざわざ近づけてくれた頭に呪文を叩き込む。

「ルーモス ―光よ」

一瞬、部屋の中が閃光で覆われる。閃光手榴弾に匹敵する光を至近距離から浴びた三頭犬は目の機能を完全に失うことになった。
絶叫し激痛に痛み苦しみ暴れ狂う、冷静さを失ったケルベロスは臭いで俺を確認する事すら忘れ、部屋もろとも俺を潰さんと牙を、爪を、巨大な尾をそこら中に叩きつける。部屋は破壊され瓦礫が降り注いでいた。
普通ならこんな状態のケルベロスに近づく人間は居ないだろう。そう、普通の人間ならば。俺は暴走するケルベロスに向かって歩き出した。

残り8m…
人間一人分はある爪が降り下ろされる、だがそれは頬を掠めるだけだった。
残り7m…
全身を使いタックルを叩き込む、しかし姿勢を少し屈めるとそれは上を通りすぎていった。
残り6m…
冷静さを少し取り戻したのか、臭いの位置を探り正確に噛み殺そうとする、それはたまたま落ちてきた瓦礫を噛み砕くだけだった。
残り5m…
丸太のような尾が降り下ろされる、それを紙一重でかわすが衝撃で吹き飛ばされ、俺はちょうと扉の所まで吹き飛ばされた。
扉の中は暗闇となっており、底は見えなかった。しかし俺は迷わず、衝撃を利用しそのまま扉の底へ落下していった。




暗闇の中を落下していく、このまま行けば落下死は免れない。だが闇が何処まで続いてるか分からず、落ちた先に何があるのかも分からぬ以上迂闊な行動も危険だ。
目を凝らし闇の中を見続けると、地面らしきものが見えてきた。

「ウィンガーディアム・レビオーサ ―浮遊せよ」

自分に呪文を掛け減速する、ゆっくりと着地した場所には植物の弦のような物が密集していた。その植物はまるで生物の様に蠢き、俺を引きずり込んでいく。
そうか、こいつは「悪魔の罠」か。大人しくしていれば何とも無いが、暴れるとその分強く締めつき締め殺されてしまう。だがこいつには弱点がある、日の光だ。大人しくしてても構わないが生憎時間が無い、ここは急がせてもらう。

「ルーマス・ソレム ―太陽の光」

放たれた太陽光に怯み、悪魔の罠は萎んでいく…はずが、余りの強力さに一本残らず枯れ尽くしてしまった。まあそんなことはどうでもいい。名前負けした罠を突破した俺は、目の前の扉を開け次の部屋へ向かったのであった。






次は何が来る、次に来るものは何だ。
途切れることの無い緊迫感の中、俺は彼処を思い出していた。
前に居るのが敵なのか、後ろに居るのが味方なのか。
正体不明の四面楚歌、疑心暗鬼の危険地帯。
味方も敵も、誰が何処に居るかも分からない此処はまさに吸血鬼の故郷オドンそのものだ。
俺は今、この時だけはレッドショルダーに戻っていた。



混沌を体現する者が走る、跳ぶ、吼える。
杖先が光り、爆音が弾ける。
吸血鬼の腕が秘密の扉をこじ開ける。
炎の向こうに待ち受ける、ゆらめく影は何だ。
いま、解きあかされる、石を巡る謀略。
いま、その正体を見せるヤツの謎。
次回「強襲」。
キリコ、牙城を撃て。


やっとこさ部屋へ突入出来ました、話数合わせるのクソ大変だな…
さて、今の内にホグワーツの被害総額でも計算しておくか。


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第十一話 「強襲」

賢者の石編、いよいよクライマックスです。
果たしてどちらが勝つのか、ハリーに出番はあるのか!
クィレル教授の命やいかに!


ケルベロスの部屋や悪魔の罠と違い、今度はかなり、特に上に向かって広い部屋だった。目の前に扉こそあるが、鍵が掛かっており開ける事は出来ない。だがこの部屋の中に鍵はあるはずだ。
部屋を見渡すと、上の方に異様な光景を見つけた。どうやら大量の鳥が飛んでいるらしい、…いや、鍵だ、鍵に羽が生えて飛んでいるのか。つまりあの大量の鍵のどれか一つが扉の鍵なのだろう。
しかし、どうするか。鍵を取ろうにも相手は遥か彼方、箒でも持っていれば良かったのだが今更戻ることは出来ない、何より元々箒は持っていないのだ、呪文で撃ち落とすにもあの数は時間が掛かりすぎる。
羽を持つ鍵…か、一つ方法が浮かんだ俺はそれを試すことにした。魔法の羽にも通じれば良いのだが。
反動に備え地面に横たわり、杖を両手で構え上に向け全力で呪文を唱えた。

「アグアメンティ ―水よ」

杖の先端から発射された津波のような濁流、そして水圧に耐えながら上空一体をなぎ払っていく。その威力によって飛行していた鍵達は次々と天井に叩きつけられ、羽虫のように墜落していった。
どうやら大丈夫だったようだ。羽を濡らされた鍵は、その質量に抗えず地面でのたうち回っている。降り注ぐ水と銀の鍵の中、異様に古く、周りの鍵と浮いているヤツを拾い鍵穴に差し込む。鍵はすんなりと穴にはまってくれた、これが正解のようだな。




視界に広がるのは巨大なチェスの盤面、しかしそこに駒は殆どおらず、その多くは残骸となって打ち捨てられている。二体のキング、その内片方だけが剣を落としている。これは降伏の意味、つまり誰かがここで戦っていたということだ。盤面を見ると赤毛の少年が倒れていた。
ロン・ウィーズリーだ、こいつがここに居るということは俺の予想通りハリー達もここに居るのだろう。当たってほしくなかった予感にうんざりとした気分になったが、ロンの状態を確認する。
出血は少ない、心臓も脈もある。気絶しているだけのようだ。
向こうの扉が開いてるのを見るとハリー達は先に行ったらしい。念の為ロンに応急処置をしていると、砕けていたチェスの駒が元の形に戻り始めている。まさか―――
扉を見ると徐々に閉じ始めていた、まずい、ここで扉が閉じれば俺はチェスに挑む事になる。そうすれば大幅に遅れることになるだろう、応急処置を終えると扉に向かい全力で走り出した。




すんでのところで部屋に飛び込んだ場所に居たのは緑色の巨体に鼻を突く異臭、そうトロールだ。それもハロウィンの時のヤツよりも大きい、恐らく7mにはなるだろう。
幸い誰かが倒したのか気絶しており動く様子は無い、これを相手にする事になったら相当面倒だっ―――

…丁度目覚めたようだ、ならば仕方ないだろう。

「エクスパルソ ―爆破」

一先ず棍棒を爆破し攻撃手段の排除をする、そして突然の出来事に理解が追い付かないトロールに次の呪文を放つ。

「ウィンガーディアム・レビオーサ ―浮遊せよ」

浮遊魔法を使いトロールを天井ギリギリまで浮遊させ、呪文を解除する。トロールはもがくが既に手遅れだ、自分自身の巨体が仇となりその質量を全身に喰らうこととなったヤツはその場に崩れ落ちる。

「エクスパルソ ―爆破」

十分届く位置になったので、あの日のように口内へ直接爆破魔法を撃ち込む、無論トロールは顔から血を吹き出しながら絶命した。
トロールにトドメを刺した後次の部屋に進もうとした時、人の気配を感じた俺は死体の影に隠れる。
次の部屋への扉を開き、走ってきたのはハーマイオニーだった。一瞬だけトロールの死体に驚いていた様だが直ぐに再び走り去っていった。
一体何を急いでいるのだろうか。ここまで見たのはロンとハーマイオニーだ、ならこの先に居るのはハリーなのだろう。先ほどの彼女の行動、あれが助けを呼びに行った物だとしたら…
…急がなくてはならない。俺は危機感に煽られるように次の部屋へ走り出した。




これまた今までと違い、薄暗く小さめの部屋だ。中央には大小様々な薬品が置かれたテーブルがある、罠のような物は無いようだ。
警戒を続けながら部屋に入るとその瞬間今通った扉は紫色の炎に、次の部屋への入り口は黒い炎に包まれた。
テーブルには何かが記された巻き紙が置いてある。
…つまり、この瓶の内3つは毒薬、2つはイラクサ酒、そして1つが紫の炎を、もう1つが黒い炎を無力化する薬らしい。
だが、机の上にある瓶は五本しかなかった。さっき部屋を出ていったのだから一つはハーマイオニーが、ここに居ないのだからもう一つもハリーが飲んでしまったのだろう。
つまり、俺はこの部屋を出ることも進むことも出来ないらしい。ここに来て手詰まりになるとは、何か他に方法があればいいが…

「殺せ!」

突如先の部屋から聞こえてきた声、クィレルでは無い甲高い男の声だ。
もはや一刻の猶予も無い、俺はローブを脱ぎ、それを構えながら黒い炎の中へ突き進んで行った。










まさか、本当にクィレルだったなんて。それに何で僕の手の中に石があるんだ、何で同じ鏡を見てもクィレルは手に入れられなかったんだ。僕じゃないと石は手に入らなかったのか、だとしたら何もかもキリコの言っていた事が正しかった事になる。
悔しさと情けなさが込み上げてくる。僕がキリコの言う通りここへ来なければクィレルは石を絶対手に入れられなかったのに。
でも、それでも石を渡すわけにはいかない。ヴォルデモートを蘇らせるのだけはダメだ! もしこいつが蘇れば全てが壊される、ホグワーツ、ロン、ハーマイオニー、友達に先生たち、僕が皆を守らなくてはいけない!
石を奪い取ろうと襲いかかるクィレル、とにかく石を守ろうと必死で逃げようとする。でも体が上手く動かない、恐怖で足が震えるばかりだ。あれだけ大口を叩いておいてこれか!? 動け! 動け!
―――ダメだ! 奪われる!

だが、クィレルの手は僕に届かなかった。
突然飛んできた黒く燃えるローブ、それがクィレルを吹き飛ばし爆発したのだ。

「ああああ!?」

全く予想できない状況に混乱するクィレル、それは僕も同じだ。一体何が起きたんだ!?
ローブが飛んできた方を見る、暗闇の中からゆっくりと歩いてきたのは…

「キ、キリコ…!?」

「………」










間一髪間に合ったようだ、黒い炎に包まれたローブを爆破魔法で吹き飛ばした俺は体に燃え移った炎を払いながらヤツに近づいていく。
やはり、クィレルだったか。ハリーに目立った外傷は見当たらないようだ。

「な、…何故お前が、キリコ・キュービ―――」

「エクスパルソ ―爆破」

「! プロテゴ ―護れ!」

不意打ちとして爆破魔法を撃ち込む、ヤツと話す理由など無い。それは盾の魔法で防がれた、だが隙を与えはしない。

「エクスペリアームズ ―武器よ去れ」

「エクスペリアームス ―武器よ去れ!」

武装解除魔法に対し、同じ魔法で打ち消すクィレル。しかし最初の不意打ちのお陰か戦いの流れはこちらにあった。

「アバダ・ケダブラ!」

ヤツの杖から放たれた緑色の閃光、それを盾の魔法で防ご―――

「!? ウィンガーディアム・レビオーサ ―浮遊せよ」

その光に凄まじい悪寒を覚えた俺は咄嗟に瓦礫を浮遊させ閃光を防いだ、砕け散った破片で数ヵ所に傷を受ける。
あの閃光、ただの呪文ではない。分からないがあれだけは食らってならないと今まで生き残ってきた俺の本能は警告していた。

「アバダ・ケダブラ!」

再び飛来する閃光を横に跳躍することで回避する、だが上手く着地できず姿勢を崩してしまった。
俺の杖は、確かに強力だ。だが代わりに体力を大幅に消耗するという弱点も持っている。罠を越える為色々な呪文を使っていた俺はここに来るまでで既に体力をかなり消耗していたのだ。
息を切らしながら立ち上がる。そろそろ決めなければならないだろう。

「アグアメンティ ―水よ」

「インセンディオ ―燃えよ」

俺が放った水に対し、対抗呪文を放つクィレル。衝突した水と炎は部屋を大量の蒸気で埋め尽くした。
狙い通りだ、煙によってヤツは俺を見失っている。すぐさま後ろに回り込み至近距離から爆破魔法を―――

…居ない、ヤツの姿は何処にも無かった。では一体何処に―――

…! 頭の後ろに杖を突きつけられる。そうか「目くらまし術」だ、これで自分の位置を分からなくしていたのか。
後ろ目で確認するとヤツはほくそ笑んでいた、そして勝ち誇った顔であの呪文を放つ。


「アバダ・ケダブラ!」


それこそ、俺の狙いだったのだ。

「!?」

至近距離から放たれた、確実に当たるはずのそれは俺をギリギリ掠めず、あらぬ方向へ消え去って行った。
瞬時に振り返りヤツに杖を向ける。
信じられない事態に驚いたクィレルは俺から距離を取りながら再び閃光を放とうとする。

「アバダ・ケダブ―――!?」

クィレルは自分を支えられなくなり姿勢を崩した、いや、支える足そのものが無くなっていたのだ。
見るとヤツの足元にはハリーが驚いた顔で足…だった物に食らいついている。
こいつがやったのか? 一体どうやって? ハリー自身もそれを分かっていない様だがこれは絶好のチャンスだ。一切の出し惜しみをせず、トドメの一発を撃ち込む。

「エクスパルソ ―爆破」

「あああああああ!!」

部屋が吹き飛んだかと思うほどの閃光と轟音の中、クィレルの下半身は大爆発を起こし、後ろの石柱を砕きながら壁にめり込んでいき、そして崩れ落ちた。
それと同時に俺も膝をつく、だが勝てたようだな。
爆発の衝撃に巻き込まれたのかハリーも倒れている。様子を見てみると、単に気絶しているだけのようだ。
もうじき誰かしら助けが来る。これで一先ず大丈夫だろう、そう思い一息着いた時であった。



「アバダ・ケダブラ!」



!! 突如クィレルの背後から這いずり出てきた黒い靄、それはクィレルの杖を奪い緑色の閃光を放った。
どうすれば避けられる、跳躍するか、浮遊魔法を使うか。
しかしどの方法も俺の体はしようとしなかった。
…これを受ければ死ねるのか?
先ほどまでは単なる危険な攻撃だったそれは、まるで祝福の光のように見えた。
本能に反し、俺の体は動こうとしない。もし、これで死ねるのなら―――




「キリコーーー!」




閃光を遮るように現れた人影、それは紛れもなくキニスそのものだった。
!! 死にたいという願望を強烈な意志で体から叩き出し、咄嗟に盾の魔法を唱える。

「プロテゴ ―護れ!」

しかし無情にも盾は砕け散った。そして拡散した緑の閃光は俺とキニスを貫き吹き飛ばしていった。

まさか、駄目だったのか? 
結局キニスを殺すことになってしまったのか? 
俺がどうしようとこれが運命なのか?




途切れ行く意識の中、俺は絶望していた。
自分の意思ではどうしようもない、全てを飲み込んで燃やし尽くしてでも生き残ろうとする俺自身に。
文字通り何もかも焼き払ってゆく「炎のさだめ」に―――



ホグワーツと賢者の石、異能、キリコ、少年、ヴォルデモート。
縺れた糸を縫って、神の手になる運命のセストラルが飛び交う。
イギリス魔法界に織りなされる、神の企んだ紋様は何。
巨大なマトリクスに描かれた壮大なるドラマ。
その時、キニスは叫んだ。
キリコ!と。
次回「絆」。
いよいよキャスティング完了。


キリコ、ミスターお辞儀に気づかなかったん?
と思うかもしれません、しかし本編を読めばわかりますが
戦闘中キリコとクィレルはずっと相対し合っています。
よって一度も後頭部を見ていないからです。
唯一後ろに回り込んだ時は目くらまし術使ってましたし。


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第十二話 「絆」

残り八話と言ったな、あれは嘘だ
よってあと一話続きます。
また風邪でぶっ倒れ投稿遅くなりました
申し訳ありません


「………」

開かれた瞼、そこに写り込んでいたのは白い世界だった。
天井にはランプが吊るされており目を動かすと四方は白いカーテンで覆われている。
そして俺は白いシーツが敷かれたベッドに横たわっていた。
ここは医務室だろうか、だとすると俺はまたもや死に損ねたらしい。
とはいえそれは予想通りの事だ、落胆こそしたが絶望するほどでもない。

そこまで思い出した時、俺は大事な事に気が付いた。
キニス、俺を庇ったキニスは無事なのか。
周りを見渡そうと体を起こすと、そこら中から激痛が襲いかかってきた。
あの時食らった緑色の閃光によるものだろうか、激痛に悶えながらもヤツを探そうとする。

「…………!」

カーテンを開け放つと、ヤツはすぐ隣のベッドにいた。
あちこちを包帯で覆われ、目を閉じて横たわっている。
まさか、そんな、最悪の予感が脳裏を過る。
その予感が間違いであると確かめるために、これが嘘だと願い俺はキニスに触れようとする。

「ファー…あ、キリコ! やっと起きたんだ!」

その瞬間キニスは目を開け、あっさりと起きた、呑気に欠伸までしている。

「生きていたのか…」

「いやそれこっちの台詞だよ、キリコもう三日間まるまる寝込んでたんだから。
それに十ヶ所打撲、四ヶ所骨折、内一つは粉砕骨折だよ。
マダム・ポンフリーいわく「必ず死ぬはずよ…魔法が使えなければ!」だって。
まあ、僕も起きたのは少し前なんだけどね。
しかもあと一日は絶対安静だってさ…折角の休みなのに寝ることしか出来ないなんて」

…全く問題無いらしい、いつもと至って変わらないこいつを見て気が抜けるのを感じていた。
それにしても三日間も倒れていたとは、一体あの光はどれ程強力な物だったのだろうか。
もし直撃していたら、本当に死んでいたのだろう。

そこまで考えた俺は気づいた、俺にあの光は絶対当たらない事実に。
仮に拡散させるのに失敗していたら、光の直撃を受けたのは俺ではなくキニスだったのだ。
俺の異能が、俺を生き残らせるためにヤツを呼び出したという事実に。

俺の恐れていた事態が起こりかけていたのだ、俺に関わることでキニスが死ぬという事態があと少しで現実になろうとしていたのだ。

「お前は何故あそこに居た」

「え? いや最近キリコ辛そうだったし、それで心配してて寝れなかったんだ。
それで起きてたら、談話室の前で物音がしてさ、気になって行ってみたらキリコが出歩いていて。
何だろうと思ってついていったら立ち入り禁止の部屋に入ってったから心配して追いかけたんだよ」

そういうことか、しかし謎の音に気を取られていたとはいえ気付かないものだろうか。
そもそも物音をたてた覚えも無いが…
だが、これ以上こいつを地獄に付き合わせるわけにはいかない。
でなければ今度こそこいつは死んでしまう。

「それにしても本当に心配したんだからね、死が潜むって部屋にズカズカ入っていくんだもん」

「頼んだ覚えは無い」

無視していてもこいつは心配してくる。
だからヤツの気遣いを徹底的に拒絶する、そして完全に嫌われ二度と関わらないような状況にしなければならない。
だがこいつはその程度で引き下がるような人間では無い。

「そりゃそうだよ、第一死ぬかもしれない所に勝手に入って行ったら、頼まれ無くたって僕は行くよ」

「それが迷惑なんだ」

「…ちょっとそこまで言わなくてもいいでしょ、心配してるんだから」

少し、怒ったような表情を浮かべていたがヤツは言い返してきた。
もっとだ、完璧に拒絶しなければこいつは離れない。

「…分からないなら言ってやる、お前に関わられると迷惑だ、足を引っ張るばかりでろくな事がない。
俺の事を思ってるなら俺に関わるな!」

「………!」

かつて無いほど強い口調で拒絶の意思を示す、そんなつもりは無かったが声まで荒げていた。
それに衝撃を受けたヤツは何も言い返してこない、その顔は怒っているのか驚いているのかよく分からないものだったが、少なくとも好印象な感情では無いハズだ。

黙り混むヤツを見て手応えを感じた俺は痛む体を引きずり、あちこちの痛みに耐えながら医務室を後にしようとした。
しかし、ヤツはベッドから跳ね起き、痛みに表情を歪まながらも話そうとしてくる。

「…嫌だね、そんなこと。
だって友達を心配するのは普通の事だもん」

目を逸らさず、真っ直ぐに見つめてくる。
やはり、簡単にはいかないか。
だがここで引くわけにはいかない、そこで俺はさらに熾烈な言葉を必死にぶつけていく。

「死にたいのか? 
これ以上関わるならお前は必ず死ぬことになる」

「…な、何言ってるの?」

俺が言いたいことを理解できていないようだが、確実に動揺している。
当然だろう、突然死ぬと言われれば混乱するのは当たり前だ、この言い方ならまるで俺が殺そうとしているように聞こえるが、それも間違いではない。

「俺を心配してお前が来なければ、俺はあの光を避けることが出来た。
だがお前が来たせいで俺もお前も死にかける事になった。
お前の心配は俺の邪魔だ、そしていつかお前も死ぬことになる。」

今度こそヤツは黙り込んだ、自分の行動全てを否定されるということは相当辛い。
それに加え現に死にかけたという事実はあいつの心を折るのに十分な効果を発揮しているはずだ、完全に止めを刺すために最後の言葉を絞り出そうとする。

「だから言った、お前は邪―――」

「死ぬことになる? それが何? 僕のせいで怪我を負ったことは謝るよ。
でもキリコ、死ぬのが怖かったら僕はあの部屋には入らなかった!」

尚もしつこく反論してくるヤツに一瞬動きが止まる、だがすぐに次の言葉をぶつけようとする。

「それがどうした、お前は―――」

「ああああああああああ! もおおお!」

「!?」

突如頭を掻き毟りながら叫ぶキニス。
呆気に取られているとヤツは俺に詰め寄り、今までとは別人のように叫び始めてきた。

「いい加減にしてよキリコ! そんな顔してたら言ってることもその態度も全部嘘だって分かるんだよ!?」

そんな顔だと、近くの窓に映り込んでいる自分の顔を見てみる。
…特にいつもと変わらない、その筈だ。
冷静さを一旦取り戻し、反論を行う。

「何を言っている、全て俺の本心だ」

そう、嘘ではない。
これは全てまぎれもなく俺の心から出た言葉だ、キニスに死んで欲しくないからこそ今もこうして熾烈な言葉を吐き続けているのだ。
だがヤツもまたすぐさま反論してきた。

「いいや嘘だね、だってキリコは優しい人だから!」

…? 優しい? 急に何を言うのだこいつは。
突飛かつ的外れにもほどがある発言に、反論すべき言葉を一瞬見失っていた。

「理由を言ってあげるよ!
だって最初の箒の授業の時、暴走してた僕を助けてくれたじゃないか!」

そんなことで、そんな理由だけで俺を優しいと思ったのか。
その素直さに呆れすら感じたが、いくらでも言いようはある。
睨み続けるヤツに向かって淡々と理由を説明していく。

「あれか、あれは点数稼ぎのためだ。上手い飛行をすれば点数ぐらい貰えるかと考えたに過ぎない」

我ながら上手い理由を言えたと思う、だがヤツは視線を一層厳しくしながら次の理由を叫んでいく。

「じゃあ何でトロールに向かっていったの!? あれはハリー達を心配したからじゃないの!?」

「戦うためだ、自分の実力を試す機会はそうそうなかったからな、嬉しかったさ。」

そういった一面もあった筈だ、それが無いとは言い切れない以上理由としては十分だろう。
しかしヤツの叫びは止まらない。

「だったら何でハーマイオニーに助言をしたの!? ハーマイオニーから聞いたよ! 取引に応じなかったのに助言してくれたのはきっと自分たちを心配してくれてたからだって!」

「…当然だ、取引に応じなかっただけでは疑われる。
だから助言をした」

次々と理由を繰り出してくるキニスに対し、何とか次の理由を吐き出す。

「石を守りに行ったハリー達を追っかけた理由は!?」

「…それも点数加算だ、石をクィレルから守ればそうなると考えたからだ」

必死に言葉を絞り出していく、理由など幾らでも浮かんでいた、その筈だった。
しかしその言葉は俺の口から出てこようとしない。

「ロンに応急処置したのは!?」

「…それもだ、点数―――」

「クィレルと戦ったのは!? ハリーを助けるためでしょ!?」

もはや反論さえキニスは許してくれない、俺の心を暴かんとする勢いで問い続ける。

「…同じ理―――」

「だったら何で僕を守ってくれたの!? キリコはさっき避けれたって言ったよね、だったら僕のことなんか気にせず逃げれば良かったじゃないか! でもキリコはそれをしなかった、僕を守ろうとしてくれたのは何で!?」

「………」

言葉は出なかった、そんな事は知っている、俺は人を拒絶など出来ないことに。
誰かの温もりを求めずには要られないような、親しくなった人もそうでなくても見捨てることがで出来ないような情けない人間だとは知っていた。
だからこそ俺は人を拒絶してきた、俺のせいで誰かが傷つかないように。
俺の力のせいで誰かが死なない様に。

「…ね、そうでしょ? キリコは誰かの為なら自分が傷ついても構わない、そんな心を持った人だ。
そういう心を持った人が、人を傷つけるような事をして平気な訳だと思えない」

「………」

だがキニスは止めようとしない、どれ程拒絶しようと傷つけようと絶対に離れようとしない。
故に怖かった、いつも死んでしまうのはまさにこいつの様なヤツばかりだったからだ。
キニスも同じ運命を辿ると確信できたから全力で引きはがそうとした。

「なのにこんな事をするのは多分僕の事を思ってやってる事なんだと思う、もちろん理由は分からないけど。
でも僕はいやだ、僕の為でも誰かの為でも、キリコが苦しんでるほうが一番嫌だ」

「………」

しかし剥がせなかった、いや剥がそうとしなかったと言った方が正しいだろう。
俺の心は欲していたからだ、そう、まるであいつらの様に話せる人を、利害関係も何もなく腹を割って話すことの出来る親友を求めていたのだ。

「だからキリコ、そんなになるまで無理しないでよ。
別に悩みは全部言えとか秘密を抱えるなとか言わないけど、少しくらい頼って欲しいんだ」

「…お前は、何故そこまでする」

死すら紛い物だと知ったあの時から、俺の心は死んだものだと思っていた。
だからこそ傷つく事も無いと思っていた。
だが違った、俺の心は何もかも忘れようとしていたあの時と何も変わっては居ない、殺してしまうと分かっていても人の温もりを求めずには要られない傲慢なモノだった。

「友達を心配するのは普通のことでしょ? 僕はキリコの友達だ、キリコ自身はそう思ってないかもしれないけど僕はそう思ってる。
一緒に居ると必ず死ぬ? それがなんだよ、死に掛けようと何だろうと苦しんで辛そうな友達を放っておく事、それは僕にとって死ぬよりも嫌だ」

「………」

いいのだろうか、温もりを求めても。
その結果殺してしまう事になったとしても、地獄に付き合わせる事になったとしても。
こいつはそれでもいいのだろうか。
その答えなど、今更考えなくても分かり切っていた。

「友達が苦しんでるなら、僕は地獄にだって付き合ってやる。
―――それが友達だ」

ありふれた、よくある言葉。
しかし今の俺にとってその答えは、何よりも嬉しい言葉だった。
新たな地獄で傷付き冷え切った俺の心、その小さな灯は俺を温めてくれた。
安らぎと嬉しさ、何十年ぶりに得た感情に逆らうことは―――
いや、もう逆らう気すら無かったのだろう。
最後の、なけなしの抵抗に最後の疑問をぶつけた

「…何故、俺を友達と思う」

「………理由は…無いかな。
でも僕は一緒に居ると楽しいんだ、だからもしキリコも楽しいんだったら―――
友達で良いんじゃない?」

…やはりこいつはあいつらと同じ、お人良しなのか。
なら最初から拒絶することなど、不可能だったのかもしれない。

「…キニス」

「何? キリコ」

「…すまなかった、そしてありがとう」

「…うん、僕もありがとう、守ってく―――」

「何をしているんですか貴方達は! 絶対安静と言ったでしょう寝ていなさい!
ミスターキュービィー、大丈夫ですか? 後で検査をしますので待っていて下さい。
さあ貴方はベッドに戻って!」

「え!? ちょ!? このタイミングでそんn―――」

………
この状況を締まらないと言うのだろう。
今までの空気はマダム・ポンフリーに引きずられるキニスの断末魔と共に遠くへ去って行ったのであった。
だが俺の胸には、久しぶりに感じる感情が確かに残っていた。








マダム・ポンフリーにベッドに叩き込まれながら、僕はあの日の事を思い出していた。




「おおキニス、よく来てくれたのう」

いや、あれ部屋の合言葉だったのかよ。
もう少し分かりやすく書いて欲しかったと思う、現に僕は校長室の前で一時間途方に暮れ、結局通りすがりのスネイプ先生に助けを求めるハメになった。

「えーと、用って何でしょうか… まさか退学何てことありませんよねー…」

「退学? ほっほっほ、そんな事は無いから安心するのじゃ。要らぬ心配をかけてすまなかったのう」

…正直、僕はこの人が苦手だ。
別に悪い人じゃ無いとは思う、ただ何だか常に一物抱えてるような感じがする。
無論それも悪い事じゃ無い、誰だって言いたく無いことの一つや二つあって当たり前だからだ。
でも何か…何か突っかかる感じがする、それが苦手だった。

「じゃあ…」

「うむ、それなのじゃがキニス、君はキリコと喧嘩をしたのかね?」

「? いえ? してません…いや、もしかしたら知らない内に何かやらかしたかもしれませんが」

「ふーむそうか、では最近キリコに何かおかしな事はなかったかの?」

「…もしかして、用があるのはキリコの方なんですか?」

ダンブルドア校長は少しだけ驚いた顔をしていた、ってことは目的はそっちなんだろう。

「そうとも言えるし、そうとも言えん。
儂が心配しているのは君たち両方なのじゃ」

あ、両方でしたか。
じゃあ校長先生は僕とキリコの仲が悪くなってるのを気にして、呼んでくれたのだろうか。

「君たちは仲が良かった、じゃが最近は二人で居る所を見かけなくての、それで心配になったというわけなのじゃ
…一体何があったのか教えてくれんかの?」

「うーん、そう言っても…何故か急にあんな感じになっちゃたんですよね…
おかげで原因も分からず、仲直りする方法も分からないんです。」

ダンブルドア先生はちょっと落胆した後、僕にお礼を言ってきた。
そしてしばらく黙って何か考えてるみたいだった。

「…キニス、一つ頼みがあるのじゃが」

「頼み? 何でしょうか?」

「あの子の傍にいてやって欲しい」

「…はい?」

思わず聞き返してしまった、一体何でこの人はそんな当たり前の事を言って来たんだろうか。

「儂から見ると、彼は君といる時とても楽しそうな顔をしておった。
しかし今はこの学校に入学してきた時のような、悲しそうな顔に戻ってしまっておる。
じゃが、君なら彼をまた笑顔に出来るじゃろう。
今は辛いかもしれぬが、それでも彼の傍にいてやって欲しいのじゃ」

「もちろんですよ、離れろと言われてもそんなの嫌ですから」

「そうか、ありがとうキニス。
付き合わせて悪かったのう。」

「はい、…じゃあ失礼します」

さっき言った言葉はまぎれもなく本心だ、むしろ辛そうな時ほど傍にいるのが友達ってやつだろう。
でも改めて口にだして思った、今キリコから離れてはいけないと、絶対に支えて上げなければ取り返しの付かない事になるかもしれない。
キリコに何が起こったのかは分からない、けれど傍に居て元気づける事は出来る。
多分また拒絶されるだろうけど、それが今僕に出来る唯一のことだ。




そして今、ベッドに横たわりながら思う。
結局いつもの勢いで乗り切っていた気がするが…まあこの際何でもいいや。
最後までキリコに何が起きたのか聞くことは出来なかった、でもそれはいつか話してくれるまで待つ方がいいんだろう。
それよりも僕はキリコと仲直り出来た事の嬉しさで一杯だった。
何よりもそれが一番嬉しかったのだ。



降り注ぐ閃光。
迫りくる異能者。
野望と野心と陰謀の元、クィレルが燃える。
絶対的、ひたすら絶対的パワーが蹂躪しつくす。
我が主の望み、手に入れた石、力、狡猾な野心、
老いも若きも、男も女も、昨日も明日も呑み込んで、走る、炎、炎。
悲鳴をたててホグワーツが沈む。
次回「脱出」。
異能者は何があっても蘇る。


いや別に、家に帰るから「脱出」ってだけですよ
ホグワーツは燃えませんよ ま だ
というわけで次回、ようやく第一章完結です
まあプロローグなんで短めですが

追記 キニス君の部屋突破方法ですが
チェスの部屋までは自力で何とか突破しました、
で、立ち往生してたらダンブルドア先生が来た次第です。
描写不足で申し訳ありませんでした。


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第十三話 「脱出」

やっとこさ第一章が終わりました。
しかしまだまだホグワーツは地獄に程遠い、
このSSはホグワーツがイギリスもろとも滅ぶまで終わらないのです。

地球が消えないだけマシと思え


「また一年が過ぎた」

ダンブルドアは生徒達全員から見ることの出来る演説台に立ち話し始めた。

本来ならばあと数日間は絶対安静ということで、今行われている学年度末パーティーには出られなかったのだがキニスが無理やりマダム・ポンフリーを説得し参加できるようになった。
大広間の天井にはスリザリンの象徴、緑と銀そして蛇が書かれた飾りで埋め尽くされている、寮対抗杯はスリザリンの優勝で確定しているからだ。
既にスリザリン生達は七年連続優勝という快挙に喜びを隠せず嬉しそうに騒いでいる、かたやグリフィンドールはハリー達の減点のせいで最下位まで転げ落ち、どんよりとした雰囲気に包まれていた。

「今すぐご馳走にかぶりつきたいじゃろうが、その前に少し聞いて欲しい。
一年が過ぎ、空っぽだった君達の頭にも色々な物が詰まったのじゃろう、しかし新学期を迎える前に君達の頭がまた空っぽになる夏休みがやってくる
その前にここで寮対抗の表彰を行うとしよう、点数は次の通りじゃ。
第4位グリフィンドール、312点
第3位ハッフルパフ、382点、
第2位レイブンクロー、426点、
そして、第1位は475点でスリザリンじゃ」

スリザリン席から歓喜の声と地響きまで伝わってくる、他の寮、特にグリフィンドールの悔しさはすさまじかった。
責任を感じているのかハリー達は周りより一層暗そうな表情をしている。

「よーしよしよくやった、スリザリンの諸君。だがのぅ、最近の出来事も勘定に入れなくてはなるまい」

騒がしかった大広間は一瞬で静まり返る、その多くは戸惑いの表情を浮かべており、スリザリン生はかなり不安そうな表情をしていた。
ダンブルドアは生徒達を見渡した後再び話し始める。

「まずは…ロナルド・ウィーズリー、近年まれに見る素晴らしいチェス・ゲームを披露してくれたことを称えて50点を与える」

途端にグリフィンドールの席から天井が吹き飛ぶほどの大歓声が巻き起こった。
ロン本人は照れくさそうな顔をしていたが胸を張り誇らしげだ。

「次にハーマイオニー・グレンジャー、火に囲まれながらも論理的に、冷静に対処した頭脳を称えて50点を与える」

さらに強力な歓声が巻き起こる、ハーマイオニーは嬉し涙が止まらないようだ。

「さらにキニス・リヴォービア、友の為に恐怖を乗り越え、またその身をもって友を守ろうとしたその精神を称えて50点を与える」

まさかのハッフルパフへの加点、一瞬の沈黙の後俺達の周りもまた大歓声に包まれた。
キニスは自慢げな顔で周りに手を振っているが口から洩れているスパゲッティで色々台無しになっている。

「キリコ・キュービィー、強大な力に怯むことなく戦い、そして見事打ち破った力と信念を称えて50点を与える」

…俺もか、だが悪い気はしなかった。
ダンブルドアの声は途中からハッフルパフ生の声でかき消されており聞こえることは無かった、まあこれでハッフルパフはスリザリンを上回り1位になったのだから当然の反応だろう。
だが、この流れであいつが含まれない筈が無い。

「そしてハリー・ポッター、その完璧な精神力と並外れた勇気を称えて、60点を与える」

会場は興奮のピークに達している、グリフィンドールもスリザリンにあと一歩に迫ったからだ、ハリーの姿は押しかけた生徒のせいで見ることは出来なかったが十分予想できた。

「そして最後に、勇気には様々な種類がある。
中でも友人に立ち向かうのは敵に立ち向かっていく事と同じぐらい困難なことじゃ、よってネビル・ロングボトムに十点を与える」

これでグリフィンドールとハッフルパフが同点となった。
もうダンブルドアの言葉は一切届かない、会場は全て生徒達の歓声で埋め尽くされておりもはや誰が何を言っているのかすら分からなかった。

「さて、儂の計算に間違いがなければ飾りつけを変えねばな…前例もないがこうじゃろう」

スリザリンは1位からまさかの3位へ転落したせいで可哀想なほど静かになり、グリフィンドールを睨みつけている。
校長が手を叩くと緑と銀で飾られた大広間は消え去り、代わりに赤と金のライオン、黄と黒のアナグマが大広間を二分した。
つまり二寮が同時優勝したということだ、滅多に目立つ事が出来ないからか俺とキニスは涙を流しながら喜ぶ生徒達にもみくちゃにされまともに食事を楽しむことすらままならなかった。








そして、とうとうホグワーツでの1年が終わった。
キニスに別れを告げた後、帰りのホグワーツ急行に乗り込もうとすると見覚えのある影がこちらに向かって叫んできた。

「キリコ、ちょっと待って!」

「…お前達か」

ハリー達三人は息を切らしながら走り、息を整えた後再び話し始めた。

「えーと、この前は助けてくれてありがとう。そしてずっと君の事を疑ってごめん!」

「…僕もごめんキリコ、悪かったよ」

「私も…ごめんなさい、あんなに心配してくれたのに疑ってしまって」

何だそんな事か、俺自身は気にして無かったのだがこいつらはずっと気にしていたらしい。
俺としてはこいつらが無事なだけで満足だが、ここはちゃんと返事をしておいたほうがいいのだろう。

「気にするな、無事ならそれでいい」

予想外の返答だったのかポカンとその場で突っ立っている、そういえばいつか礼を言った時凄まじく笑われた事があったが、俺が礼や心配をするのがそんなに意外なのだろうか。
意識が戻るのをしばらく待っていると、列車に乗るように諭すハグリッドの声が聞こえてきた。

「………」

「あ! ちょ、ちょっと待って!」

いつまでも動きそうにないので乗ろうとするが、またもや彼女に呼び止められた。
まだ用があるのか、振り向くと彼女は笑顔で叫んだ。

「新学期もよろしく!」

それに答える事はしなかった、ただ彼女はそれで満足してくれたようだ。

帰りの列車の中、俺は考えていた。
結局この1年大きな収穫は得られなかった、だが不思議と俺の心は満ち足りていた。
数十年ぶりに手に入れた掛け替えの無い友人。
それは本来目指していた事よりも嬉しいものだった。
しかしだからこそ、より決意を強くする。
この呪いを解かぬ限りあいつは必ず死んでしまう、それは確かだ。
俺を友達と、地獄まで付き合うと言ったあいつを死なせるわけにはいかない。
より強い決意と、久しぶりの暖かさを感じながら俺はかぼちゃパイの甘さを口の中に感じていた。







「………」

学校から離れていく生徒達を見送りながら考えていた。
あの時放たれた閃光は間違いなく「死の呪い」じゃった。
しかしそれは彼らに当たることなく砕け散った、物理的な外傷だけで留まっておった。
それは素直に嬉しい事じゃ、大切な生徒が死なずに済んだのじゃから。

…じゃが、儂は素直に喜ぶことは出来なかった。
死の呪いが盾の魔法で防げるはずが無い、この程度で防ぐことが出来たら許されざる呪文にはなっておらん。
反対呪文が無い、当たれば必ず殺すことができるからこそ何よりも恐れられる呪いなのじゃ。
しかし、それは現に防がれておった。

…あり得ない訳では無い、原因など幾らでもあった。
あの杖はクィレルから奪って使った物、じゃから本来の力が出せなかった。
キリコの魔法のせいか杖にひびが入っておった、じゃから呪いが上手くいかなかった。
あの時、儂もとっさに「盾の呪文」を唱え、呪文を二重に張ることができた。

これだけ要因が重なれば、防げないことは無いかもしれん。
普通はあり得んが、あり得んこともまたありえる。
じゃが…ここまで都合よく重なるものじゃろうか、いくら偶然とはいえこれだけ起こるものじゃろうか。

シビル・トロレーニーが予言した「異能者」、それはもしや…

いや、そう断ずるのはあまりに早すぎるじゃろう。
それにキニスとの仲も戻ってくれたようじゃ、ならば心配など要らんじゃろう。
それこそが何よりも最も大事な事なのじゃから。




































「そうか、我が君は…」

「…それは本当に残念な事だ」

「!? 何を言っている! そんな事など…」

「…無論丁重に保管している、失くす筈が無い」

「それは我が君からのご命令なのか?」

「分かった、では「日記」を誰かに持たせればいいのだな?」

「…ああ、では何時か」




ささやかな物が、炎の中から蘇った。
砕けかけた友情も、何処かへ置き去りにした愛も、秘密も。
かたや、あらゆる悪徳は違った。
全てが振り出しにもどった。
兵士は死んだ魂を温かな友情に包んで、泥濘と、硝煙の地に向かった。
次回「ダイアゴンYEAR-02」。
傭兵は誰も愛を見ないのか。


以上で賢者の石編は終了になります、次回まで少し時間が空くと思いますが、
クメン編(秘密の部屋)もまたよろしくお願いします!


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「秘密の部屋」篇 第十四話 「ダイアゴンYEAR-02」

どうも久しぶりです、
それでは秘密の部屋編開幕です


電車やバスに揺られること数時間、俺は一年ぶりにあの怪しげなパブの中へ入って行き、店の奥の煉瓦を叩くとあの時と変わらない賑やかな光景が広がってきた。

夏休み期間の間、やることは何も無かった、何せ呪文の練習をしようにも″臭い″が働いてる為出来ず、研究をしようにも家に禁書を持ち込める訳が無いのでひたすらトレーニングをしたり復習をする等して時間を浪費するしか無かったのだ。
そうこうしている間に夏休みも終わりが近づいて来たので、新たな教科書や荷物を買うためにここにやって来たのだった。
だが最初に買わなければならない物がある、ローブだ、この前の事件の時炎の罠を越える為に爆発させてしまった為買いなおす必要があった。
なので最初にマント専門店によって新しいのを購入し、店の外に出た時であった。

その人影は注意深く周りを観察しながら人気の無い脇道に急いで入って行っていた、それを怪しんだ俺は脇道を除いてみる。
そこには何も無いように見えるが、よく見ると確かに店が並んでいた、壁には″ノクターン横丁″と書かれている。

いわばここは闇市のような場所なのだろう、間違いなく危険だがこういった場所にこそ色々な物がある、特に欲しい物がある訳では無かったがその危険な臭いに引き寄せられるように俺は路地裏に入って行った。




路地裏は暗く、じめじめとしており人の気配はほとんど無い、時折見かける人もそれは浮浪者であったりローブを深く被っていたりとここの雰囲気に溶け込むような連中ばかりだ。
あての無い道を進んで行くと一軒だけ店と分かる建物が見えてきた、打ち付けられた板には掠れた文字で″ボージン・アンド・バークス店″と書かれている。
あても無いので、まずはその店から入ってみることにした。

店の中はどれもこれも不気味さと悪趣味を前面に押し出した様な商品ばかりであった、これぞまさに非合法と言うものだろう、店の人間たちは訝しげな視線をぶつけてきたがそんな物は気にせず商品を覗いてみる。
人骨、爪、ポリマーリンゲル溶液(ワップ製)、巨大な黒蜘蛛…
まあ、碌な目的には使わないだろう、そんな事を思いながら見ていると、新たな客が店に入って来た。

「…え!?」

「ドラコ、知っている人間か?」

入って来たのは…ドラコ…だったはず、それと先ほど入って行った怪しい男だ、話し方からして父親だろう。
まあわざわざ話しかける理由も無い、向こうも同じ様に考えたのかそれ以上興味を向けることも無かった。
物色に戻り色々な商品を見ていると店の暖炉に違和感を感じた、店自体が暗いのでよく見えないが誰か潜んでいる。

こんな怪しい店なら、こんな所に人が居てもおかしくないが…
気になったので覗き込んで見ると、そこには少年が驚愕した表情で息を潜ませていた、というよりハリーが何故かそこにいた。
一体何でこいつがこんな所のこんな所にいるのだろうか、意外な人物の出現に驚いているとマルフォイ達が出て行ったと同時にハリーも飛び出て来た。

「…な、何でキリコがここに? というかここ何処?」

「ここはノクターン横丁だ」

どうもハリー自身も何故ここに居るのかは分かってないらしい、混乱するハリーを置いて出て行ってしまうのは流石に悪いので一緒に店を出ていく事にした。

「…で、何でキリコはここに居るの?」

「たまたまだ、むしろ何故お前が居る」

「あ、今僕ロンの家に泊まってるんだ、それで一緒に新学期の買い物をしようって事になったんだけど、移動に″煙突飛行ネットワーク″って言うのを使ったら…何か間違えちゃったみたいで…」

煙突飛行ネットワークか、俺自身は使ったことはないがその内容は知っている。
魔法使いの家の暖炉にフルーパウダーと言う粉をふりかけ、行きたい場所を叫べばそこに行けるという便利なシステムだ、ただし場所をハッキリと発音する必要があり、微妙な発音だと別の場所に飛ばされてしまうのだ。
ハリーがここに居る理由も同じなのだろう。

「それにしてもキリコがいて本当に良かったよ、僕一人じゃどうなっていたか…そうだマルフォイ! なんであいつもここに居たんだ!?」

別に誰がどこで何をしていようが良いと思うのだが、まあ嫌いなヤツがこんな怪しい店に居たら怪しむのも可笑しくは無いか。

「…そもそもノクターン横丁って何処なんだろう」

「…ダイアゴン横丁の近くだ、こっちに行けば出られる」

ハリーを連れてダイアゴン横丁へ戻る道を辿っていると、巨大な影が行く手を遮る、一瞬だけ身構えたがすぐその正体は分かった。

「おお! ハリーお前さんこんなとこで何してんだ?」

「ハリー! そこに居たのか…って何でキリコが?」

ハグリッドとその影にはロン…と、赤毛の少女が居た、状況から考えてロンの妹だろうか、二人はハリーを見て安心した顔をした後、俺の方には不思議そうな顔を向けてきた。
理由を説明するのも面倒なので無視しておく。
すると彼女、ハーマイオニーも声をかけてきた。

「キリコも新学期の買い物に来たの? これから私達も教科書を買いに行くのだけど一緒に来る?」

「…そうさせてもらう」

別に一人でも良かったのだが、俺も残りは教科書だけなので一緒に行くことにした。

「こらこら、闇の市横丁には入ってはいけないと…ん?君は?」

話しかけて来たのは燃えるような赤毛が特徴的な中年の男性だった、見た目からしてロンの父親で間違いないだろう。

「キリコ・キュービィーです」

「キリコ…ああ! 息子から話は聞いているよ! うちの子供を助けてくれたんだってね、本当にありがとう!」 

大げさにお礼を言ってくる彼を適当に対応しながら本屋へ向かうことにした、彼、アーサーはお礼に教科書や箒でも買ってあげようと言っていたが、ロンの顔が真っ青に染まっているので丁重に断っておいた。
無論遠慮していたのもあるが、ウィーズリー家の財政は基本火の車だとロンから聞いたことがある、多分これで俺が遠慮しなかったらかなり危険な事になった…かもしれないからな。




フローリッシュ・アンド・ブロッツ書店は混んでいた、ただし学生ではなく中年くらいの女性の声援で埋め尽くされ、入るのも困難な状況になっている。
《ギルデロイ・ロックハート サイン会》
…俺は必要な教科書リストを見直した。
著者 ロックハート…
著者 ロックハート……
著者 ロックハート………
………こいつが原因か…
ほとんどがこのロック何とかで埋め尽くされている、しかも高い、いやそもそも教科書ですらない。

「…これ、本当に買うの…?」

ロンが言うのも頷ける、本棚の一冊を取ってみてみたが(泣き妖怪バンシーとのナウな…どうでも良くなってきた)内容はひたすらに彼の自慢で埋め尽くされている、数ページごとにこちらに送ってくる写真のウインクがヤツの全てを物語っていた。

「何を言っているの! あのロックハート様の本の素晴らしさが貴方達には分からないの!? ロックハート様は…」

…彼女はアレの熱烈なファンらしいな、趣味は人それぞれだからな。
気が付くとハリーの姿が見当たらない、本屋の中を見渡してみるとアレと一緒に笑顔の写真をとっていた、引きつっているが。
ロンとハリーにはそれぞれの生贄になってもらい、さっさと教科書を買いにカウンターへ向かって行った。

教科書を買い揃え、人の山から何とか脱出すると店の前で二人の男が言い争っていた。
片方はアーサー、もう片方はノクターン横丁に居たマルフォイの父親だ。

「おやおやウィーズリー、こんなに多くの教科書を、残業代も出ないのに大変ですな」

マルフォイはロンの妹の大鍋から教科書を取り、馬鹿にした顔でパラパラとめくっている。

「残業代はたくさん出ているさ、抜き打ち調査のおかげでね。
それよりも人の物を勝手に見る方が下品だと思うがねマルフォイ!」

「下品? 純血の面汚しが言うことかね?」

青筋を立てながらマルフォイはロンの妹の教科書を開き、ローブから何かを差し込もうと―――

「ぐっ!?」

マルフォイの手首を押さえ込み、その動きを止める。

「…急に何をするのかね?」

「今何を入れようとした」

ほとんど見えなかったが一瞬だけ見えたのは黒い本のような物だった、それにアーサーも反応する。

「マルフォイ! うちの娘に何をするつもりだ!?」

マルフォイは汗を一粒流した後、ローブから半分ほど出ていた手を引っ込め、先程の何かの代わりに羽ペンを取り出した。

「薄給のウィーズリーは大変だろうと思ってね、ちょっとした親切だよ」

「結構だ! 特に君のはね!」

一触即発、そんな緊迫感が場を包みこむ。
誰も言葉を発しないまま静まり返り、時間が過ぎていく。
その空気を感じ取ったのか店の人混みからハグリッドが現れた。

「おめえら、何やっとるんだ?」

二人の間に割って入るハグリッド、引き際と判断したのかマルフォイの方はこちらを睨み付けながら去っていった。

「あ、あの… ありがとう。
…私、ジニー・ウィーズリー」

「…キリコ・キュービィーだ」

「…なあ、一体あいつ何をしようとしたんだ?」

「ジニーの教科書に何かを仕込もうとしていた」

「何か…って何だろう?」

「マルフォイの父親だぞ、録な事じゃないさ!」

その後、険悪な空気を引きずったまま別れる事となった。
アーサーからはさっきの礼も兼ねて夕食を奢ろうと言ってくれたが、既に夕食の支度は済まして来たため遠慮しておいた。
それでも何か礼をしなければ悪いと言ってきたので、ゴーレムについての本を一冊買って貰うことにした。
そしてハリー達と別れ、行きと同じくバスに揺られながら帰っていた。

しかし、俺の心にはまたもや嫌な感覚が染み付いていた。
マルフォイの父親は何をしようとしていたのか、それが俺の意識を奪っていたのだ。
…今年も、何か起こる。
俺の直感は、新たな戦いの気配を確実に感じ取っていた。




「…何ということだ、これでは計画が…
クソッどうする? 屋敷僕に命じて潜り込ませるか…?
あの子供、キリコ・キュービィーとかいったか…
あの男の言う通り警戒しなくてはなるまい…」




数週間後のホグワーツ特急内、俺は一人でコンパートメントに居た、そう先程までは。

「あ! 逃げるな蛙チョコ!」

「気を付けてよ! 服にチョコが!」

キニスとハーマイオニーである、二人は俺一人だったはずのコンパートメントで壮絶な蛙チョコとの戦いを繰り広げている。
どうやらこの二人はハリーとロンを探していたらしいのだが列車のどこを探しても見つからず、諦めた末にここにたどり着きそのまま居座っているのだ。

「本当にどうしたのかしら…まさか退学なんて事にはならないでしょうけど」

「乗り遅れたんじゃないの? まああの二人なら大丈夫でしょ。
あ、砂モグラ風ロールケーキ下さい!」

実際に乗り遅れていたとして、入学式に間に合わなくても大丈夫だろう。
しかしそれよりもあの二人の場合、ただ遅刻をするよりも危険な事をしでかす気がしてならなかった。

…誰が車で空をドライブしていたと思うだろうか。


(イッチ)年生はこっちだ!」

一年前も聞いたハグリッドの声がホームに響き渡る、またあの道を歩かされるのかと思うと軽い同情を覚える。
新入生の多くは不安と期待が入り交じった顔をしていた、まあついこの間までは俺も同じ顔だったのだろうが。

二年生以降の生徒達は新入生と別の場所に案内される、少し開けた場所に行くとそこには巨大な馬車があった。
それを引くのは白い目に骨張った見た目の不気味な生き物だった。

「うわー大きいな、どうやって動いてるんだろう?」

「あの生き物が引っ張って行くのだろう」

「? 生き物なんて居ないわよ」

「…すぐそこにいるが」

「もしかしてあの白いモヤモヤ?」

どういう事だろうか、どうも俺以外の二人には見えていないらしい、キニスはぼんやり見えているようだが。

「…もしかして、キリコそれってどんな生き物?」

「白い目と骨張った見た目だ」

「やっぱり、それってセストラルよ」

「「セストラル?」」

「そう、セストラル。
天馬の一種で死を見たことのある人間にしか見ることの出来ない生物、多分それじゃないかしら」

なるほど、俺にしかハッキリと見えないはずだ、死ぬことは無くとも死人はいくらでも見てきた。
キニスが見えるのは恐らく、あの時食らった緑色の閃光のせいではないだろうか。
あの閃光は直撃を貰えば死んでしまう、そんな感覚がしていたからな。
あいつらは何とか見ようとしているが、見えない方が良いのだろう。

学校着いた俺達はマグゴナガル先生に直接大広間に連れていかれた、天井には去年と同じく星空が広がっている。
グリフィンドールの席を端から端まで探してみたがハリー達の姿は見あたらなかった、本当に何があったのだろうか。

寮の席で待機していると正面の門が開き、新入生達が入場してきた、今となっては見慣れた光景だがあいつらはそれに驚愕している、だがその顔は期待に満ち溢れていた。




期待、それは俺の中にもあった。
だがそれ以上に不安を感じていた。
あの時、ヤツは何をしようとしていたのか、如何なる陰謀を持ち込もうとしていたのか。
未だ何一つ分からないし、何も起こっていないがこれだけは言える。
俺は常に戦いと隣り合わせだという事、これだけは確実に言えた。



遙かな横丁の闇を走り、魔法の城に曲折し、
陰謀の泥濘に揉まれてもなお、キラリと光る一筋の光。
だが、この糸は何のために。
手繰り手繰られ、相寄る運命。
だが、この運命は何のために。
秘密のスリザリンに第2幕が開く。
次回「疑惑」。
まだ黒子は姿を見せない。


疑惑(ロックハートに対する)

ルシウス早速やらかしました、ハードモードスタートです。
没ネタ
ハグリッド「No1年! No1年! 返事をしろ!手前達のお守りはもう辞めだ!」
駄目ですね、新入生全員川底に沈んじゃいますもんね。


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第一五話 「疑惑」

声優ネタをどの程度ぶち込むか、
全力でネタに走るか真面目にネタに走るか、
難しい所です。


「―と、いう理由だったらしいよ」

なるほど、つまりキング・クロス駅の四分の三番線に何故か入れず、このままでは退学になるかもしれなかったから、やむを得ず車で空をドライブし、最終的に暴れ柳に突っ込んでいたと、何しているんだあいつら。

「でも羨ましいな…空をドライブなんて多分大人になっても出来ないよ」

出来てたまるか、しかもこの一件の後始末で魔法省の係が地獄を見たらしい。
何でも「心が乾く」と幻聴まで聞こえるほどだったとか。

新学期の初日、ハリー達のしでかした事は僅か一日で全校生徒に広まっていた。
それは話の種となり大広間を賑やかにしている、本来なら退学ものらしいが、厳重注意と厳罰で留まっているあたりは流石はハリー・ポッターと言った所か。

俺はその中、久しぶりのホグワーツの食事に舌鼓を打っていた。
昨日の長時間の移動で結構疲れている、だからこそ朝食は極めて重要であり、イギリス料理が朝食には力を入れているのだ。
が、毎日いつものメニューでは味気ない、皿にはいつもと違う料理がよそられていた。
今食べているのはサンドイッチだ、ただしいつものトーストを使った物ではない、固めのバケットに具材を詰め込んだフランス式のヤツだ。
中には様々な食材がこれでもかと詰め込まれている、それらをこぼさぬよう、かつ全ての具材を口に入れるようにかぶりついた。
広がるのは多種多様な具材の協奏曲だ、厚めのベーコンは濃厚な肉汁を、チーズは独特なコクと食感、レタスはその水々しさが潤いをもたらす。
それらの調和はまさに芸術的と言って良いだろう、レタスは口内の乾燥とチーズの癖を和らげ、チーズは単調になりがちな肉の味を鮮やかに彩っている。

バケットを食べきり、少し満足した胃を癒すのは薄味のコンソメスープだ、イギリス料理はとにかく具材を煮込む事に全力を掛ける、よって具材がぐちゃぐちゃになるわけだがそれが悪いとは限らない、こういったスープやカレーでは逆に長点となる。
原型を無くすほど煮込まれた野菜はその旨みを残す事なくスープに溶け込み、複雑な味を作り出す。
それに具材が溶けている事で飲み込みやすく、胃にも優しい、寝起きで上手く活動していない体にその温かさが染み渡るのを感じていた。

そこそこ満足出来たのでカップの中のコーヒーを飲み一服する、無論ブラックだ。

「…キリコ」

「何だ」

「何、それ」

「コーヒーだが」

「いや何でそんな大量に機材があるの!?」

「許可は得ている」

テーブルの上にはコーヒーを入れるための機材が積まれていた、無論コーヒーを入れるために自宅から持ってきたのだ。
何故なら、去年一年間通ったことで分かったのだが、ホグワーツではコーヒーを出してくれないのだ、あるのはせいぜいインスタントコーヒーぐらいである。
去年はそれでだいぶ辛い思いをしたので今年はコーヒーセット一式を持ち込むことにしたのだ。
無論他の生徒は注目しているしキニスは「ええ…」と言っているが全く気にはならなかった。

「そう言えば知ってる? 今年の闇の魔術に対する防衛術の先生」

「いや、知らないな」

結局去年はニンニクの臭いを浴び続け、挙げ句の果てには事件の黒幕という始末であった。
あの後クィレルは数週間聖マンゴ病院で治療した後、アズカバンに叩き込まれたらしい。
元々一番期待していた授業だ、今年こそまともな教師だといいのだが。
…まさか、あの大量の自著を買わせたあいつでは無いだろう、そうで無くては困る。

「ロックハートって人らしいよ。
…キリコ?」

…大丈夫だ、ダンブルドアも認めているのだ、教師としてはまとものはず。

その時大広間の扉が開き、そこから大量の梟が大広間に入ってきた。
梟は大小様々な荷物や手紙を抱えて飛んでいる、その中でポーズをとっているロックハートが居たが何も見なかった事にしよう。

その時であった。

「一体何を考えてるのあなたは!!!」

瞬間、大広間に響き渡る凄まじい怒声、いや地鳴りと言っていいだろう。
テーブルはガタガタと揺れており、食べ物は皿からひっくり返りそうになっている。

「車を盗み出すなんて退校処分になっても当たり前です! 首を洗って待ってらっしゃい! 承知しませんからね。
車がなくなっているのを見て私とお父様がどんな思いだったか。
お前はちょっとでも考えたんですか! 
昨夜ダンブルドアからの手紙が来てお父様は恥ずかしさのあまり死んでしまうのではと心配しました。
こんな事をする子に育てた覚えはありません。
お前もハリーもまかり間違えば死ぬ所だった!
全く愛想が尽きました。
お父様は役所で尋問を受けたのですよ。みんなお前のせいです。
今度ちょっとでも規則を破ってご覧。
私たちがお前をすぐ家に引っ張って帰ります!」

そこまで言い切って、何とか収まった後怒声の出所を見てみるとハリーとロンがひっくり返っていた。

「な、何今の…」

静まり返った大広間、一体何が起こったのかといった顔で生徒達は爆心地を見つめていたが、少したった所で笑い声が起こり再び喧騒が戻ってきた。




新学期最初の授業日ということもあって、校舎内は迷子になる生徒や遅刻寸前で走っている生徒が多かった。
しかし俺達の場合、去年使っていた教室に行くのでそんな心配は無かった。
…そう、闇の魔術に対する防衛術、つまりアレの授業というわけだ、不安しかない。

「ロックハートってどんな先生なんだろ?」

そうだ、まだ授業も受けていないのに決めつけるのは早すぎるだろう。
廊下を歩いていると先ほど防衛術を受けていたのか、グリフィンドールとスリザリン生が向こうから歩いて来た、相変わらず廊下の端と端で真っ二つになっている。
その中に居たハリー達は何か不満げな顔で話をしていた。

「いい加減にしろよハーマイオニー、あれは君が思ってるようなヤツじゃないって」

「あれはきっと私達に経験を積ませようとしてくれたのよ」

「ピクシー小妖精に杖を奪われて机の下に隠れるヤツが?」

…大丈夫…のはず。




「私だ。ギルデロイ・ロックハート。
勲三等マーリン勲章、闇の力に対する防衛術連盟名誉会員。
そして、『週刊魔女』五回連続『チャーミング・スマイル賞』受賞。
もっとも、私はそんな話をするつもりではありませんよ、バンドンの泣き妖怪バンシーをスマイルで追い払った訳じゃありませんしね」

帰るか。
一瞬そんな考えが脳裏をよぎった。
ヤツは授業開始の鐘と同時にとても爽やかな笑顔と派手な服装をまといながら教室に入って来た。
″そんな話では無い″と言ってはいるが、誰がどう聞いても自慢にしか聞こえない、ほとんどの生徒はその笑顔に対し呆れた目線を向けていた、一部目を輝かせてるヤツも居たが。

「さて全員私の本を揃えているね? そして私の素晴らしい経験に感動を覚えてくれたと思う。そこで簡単なミニテストを実施したい。
心配は無用、君達がどれくらい私の本を読んでいるのかちょっとチェックするだけですからね」

面白可笑しく書かれていた物にどう感動を覚えろと、ヤツは一部の生徒にウインクを送りながらテスト用紙を配って行った。

「とても悲しい事に先ほど同じテストをしたグリフィンドールとスリザリンで満点をとれたのはハーマイオニー・グレンジャー嬢以外居なかった。
君たちはそんな事ないと信じている」

配られた紙を確認してみる。

問一 ギルデロイ・ロックハートは泣き虫妖怪バンシーをどうやって追い払ったか?
問二 ギルデロイ・ロックハートはどんな色が好きでしょうか?
問三 ギルデロイ・ロックハートはどうやってモナドから脱出したか?

答案用紙には裏表にギッシリとそんな事ばかり書かれていた、問六あたりから本の内容すら関係なくアンケートとなっている。
隣に座ってるキニスは早速落書きを開始していた、俺もどうしようか悩んだが、あれに文句を言われるのも絡まれるのも面倒なのでそこそこ答えておくことにした。

「ふう、とても残念だ、君たちの殆どが私の本を読んでいないらしい。
あんなに分かりやすく書いてあったのにちっとも答えられていない、ですが大丈夫です、読んでいなくても私がここに居るのですから。
君達は私の力を直接見ることが出来るのです」

テスト用紙を机に置いた後、やっと始まった授業内容は途中途中に自慢を挟みながらヤツの本を読む、という内容だった。
『バンパイアとゆっくり船旅』を読んでいき、バンパイアを退治したシーンで一旦解説は止まった。

「さて、今バンパイアを退治した私の戦いを語った訳ですが、それだけでは意味がありません。
このような穢れた生き物と戦う術を授けるのが目的なのですから、ではどうすればよいのか?
実演すればよいのです! そうすることで君達は戦う術を身に着けることが出来ます。
さて、バンパイアの役は誰に頼みましょうか…では君! 先ほどのテストで最高点を取ったキュービィー君に吸血鬼の役を…」

「………」

「…キュービィー君は体調が優れないみたいですね、生徒に無理をさせるのはとても良くない。
ですので隣のリヴォービア君に頼みましょう!」

「えっ」

「さあこっちに! おおっとそうではありません、もっと迫力満点に! 真剣にやらなければ戦い方は身に付きませんよ!」

この授業が終わったのはキニスが犠牲になってから20分経過し、バンパイアがレタスしか食べれなくなる所までやった時だった。
キニスの迫真の演技のおかげでハッフルパフは5点貰えたが、生徒の中で喜んでいる者は一人として居なかった。




閑散とした人気の無い図書館、新学期が始まってから一週間、この時期は試験も無ければ課題もほとんど無い。
逆に言えば、だからこそ勉強に適しているとも言える。

俺はハーマイオニーと共に図書館で勉強をしていた、別に予定を打ち合わせていた訳ではないが、お互い暇さえあれば図書館に籠っているので一緒になる機会は必然的に増えるのだ。

ただ今日は珍しくハリーやロン、キニスも来ていた。
何でも魔法薬学の課題が難しかったらしく、調べものに来てるらしい。

「なあキニス、ロックハートの授業どう思う?」

「あー…そもそも聞いてないから分かんないや」

「嘘でしょ? 貴方もロックハート様の話を聞いてないの?」

「ハーマイオニー…まさかまだあいつの事を信じているの?」

授業開始から一週間たった今、ロックハートの評価は地に落ちていた。
どれほど経っても授業がまともに機能する様子は無く、いつまでも自著の解説と再現を繰り返している。

だが彼女はまだロックハートの可能性を信じているらしい。
ハリーはおろかロンでさえ無能と理解出来ているのに…まあ、彼女も半信半疑になっているみたいだが。

「でもあのロックハート様よ、無能と見せかけていて、何か隠してるんじゃ…」

「あー、分かった分かった、ひょっとしたら有能かもしれないね」

またハーマイオニーのロックハート弁護が始まることにうんざりしていたのか、ロンが話題を切り替えてきた。

「ところで皆、オーディション…どうする?」

オーディションとはクィディッチの事だ、数週間後にクィディッチの新メンバーを決めるオーディションがある。

「僕は元々シーカーだからね、ロンは受けるんだっけ?」

「もちろん! ハリーに負けてられないからね、ハーマイオニーはどうする?」

「私はいいわ、それより勉強したいし」

「だろうな、二人はどうするの?」

ロンは俺とキニスに質問をしてきた。

「受けるよー、ビーターになって相手の顎の骨を砕きたいんだ!」

極めて物騒な理由に場の空気が一瞬凍りつく、一応ブラッジャーで相手選手を攻撃するのは違反ではないが…
ハリー達の顔は青ざめていた、いつもの笑顔もこうなると狂気の笑みにしか見えない。

「キリコも受けるよね?」

「いや、俺はやらない」

「え!? あんな箒上手いのに!?」

キニスだけで無く、ハリーやロンも驚いていた。
どうも去年の一件で、いつの間にか俺はハリーと並ぶ逸材という事になっているのだ。
そもそも俺はクィディッチに興味も無ければやる気も無い、そもそもそれ以前の問題として―――

「俺は自分の箒を持っていない」

そういうことだ、別に授業を受ける時困る訳でもないので、未だ学校のシューティングスターを借りている。
仮にこれで参加しても、シューティングスターは蝶よりも遅いと言われる品物だ、戦力にはならないだろう。

「勿体無い…絶対活躍出来るのに」

そう言ってはいたが、箒を持っていない以上どうしようもないと考えたのかそれ以上言ってくることはなかった。

「あ、そういえばこれ誰のか分かる?」

ローブの中から取り出したのは、少し高そうカバーの本だった。
しかし本その物は色褪せておりかなり古そうである。
ハリーが本を手に取りながら質問する。

「…これ何処で拾ったの?」

「グリフィンドール寮の近く、だから知ってるかなって思ったんだけど」

「中身を見れば分かるかもしれないわ」

ハーマイオニーはそう言うと、本をパラパラとめくっていく。
しかし中には名前はおろか文字も書かれていない。

「なんだこりゃ? 何も書いて無いけど」

「ノート…かなあ?」

「それも変よ、こんなに古いのに使ってないなんて」

その怪しい本は最終的に、ロンが監督生である自分の兄、パーシーに渡す事になった。
怪しいといえば怪しいが、何かの禁書という訳でも無いのだから、誰かの落とし物で間違いなさそうだ。
仮に危険な物だったとしても、その場合は監督生経由で教員に伝えられるはずだから大丈夫だろう。



しかし、その認識は甘かったと俺は知る事となる。
あの時から体に纏まりつく嫌な予感、あれがその正体だったのだ。
それに気付かなかったのは、友を得た安心か。
それとも愛すべき平穏が感覚を鈍らせていたのか。
だが、今の俺はそれを否定しない。
だからこそ、戦いの炎が上がれば俺は戦う。
ただそれだけの事だ。



飛ぶ黄金、起きる歓声。
こわばった腕が箒をを走らす。
鉄塊が、選手を外れ、虚しい音を立てたとき、
皮肉にも、生の充足が魂を震わせ肉体に溢れる。
クィディッチ。
この、危険な遊戯が、これこそがこの世に似合うのか。
次回「選考」。
シーカーが動けば、試合が決まる。


久々のグルメ回、愉快なロックハート、雑談の三話でお届けしました。
尚ピクシー小妖精が出なかったのは、直前の授業で流石に懲りたからです。
万一また放ってたらキリコの手で教室ごと爆破されていました。
スプラッター映画にならなくてよかったですね!


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第十六話 「選考」

色々調べてみると、結構中の人ネタ多いですよね。
しかし思うがままぶっこむと逆につまらないし…
難しい所です。


放課後、談話室はいつもならば多くの生徒達がゆっくりとした時間を過ごしているのだろうが、今日は荷物を取りに来た人がまばらに通るだけであり殆ど居ない。

では何処に行ったのかというとグラウンドに行ってしまったのだ、そうクィディッチオーディションを受ける為に。
とはいえ全員がそうではない、何人かはオーディションの見物目的である。

まあ、受ける気も箒も持っていない俺には関係なかったので、一人温かいコーヒーを飲みながらのんびりと過ごしていた…はずだった。

「たのむキュービィー! チームに入ってくれ!」

四年生のキャプテン、セドリック・ディゴリーは何度もそう頼んできた。
オーディション中だと言うのに、俺が居ないと知るやいなやそれをほったらかしてすっ飛んで来たらしい。
無論、答えは決まっている。

「お断りします」

「そこをなんとか!」

と、これをさっきから繰り返しているのである。
何度断ってもディゴリーは引き下がる様子がない、一体何故そこまでするのか。

「俺達ハッフルパフはいつも負けてる、もちろん勝つこともあるがここ数年優勝を掴めたことはない。
今年はさらに状況が悪い、ハリーの練度はこの一年で十分なものになった。
スリザリンはマルフォイがメンバー全員に最新型の箒、ニンバス2001を提供してしまった…」

ニンバス2001は、去年ハリーが使っていたニンバス2000の最新型だ、無論その値段も凄まじい事になっている。
それをメンバー全員分か、確かに状況は最悪だろう。

「だがキリコ、君が入ってくれればチャンスが生まれるかもしれない。
去年の授業の時、君が見せてくれた飛行はハリーに匹敵するものだった。
たのむキュービィー! 僕達はどうしても勝ちたいんだ!」

気持ちは十分通じた、しかし俺はそもそも勝つことに興味が無い、というより戦いはもう飽きている、必要の無い戦いなら極力避けたいのだ。
よって、最大の理由を言うことにする。

「ですが、俺は箒を持っていません。
学校の箒では戦力にならないでしょう。」

「…ある、僕の予備がある、それを貸す!」

そこまで言うのか、しかしまいった、これでは断る事が出来ない。
どうしたものかと考えていた時、談話室にまた一人やって来た。

「ハァ…、あ、キリコにディゴリー先輩」

「ん? リヴォービアか、オーディションはいいのかい?」

深いため息をつきながら入ってきたのは
キニスだった。
ヤツはオーディションを受けていたはずだ、もう終わったのだろうか、いや明らかに早すぎる。
一体どうしたのだろうか。

「ええ、今年は諦めます…」

「どうしてだい?」

「ビーターのポジションが空いてないので…」

「ああ、そういえばビーター希望だったね」

何というか…呆れのような、ある意味尊敬を覚えていると会話の対象は再び俺に戻った。

「そうだリヴォービア、君もキュービィーを説得してくれないかい?」

「キリコ…僕の代わりに戦ってくれ、そして…仇を!」

これは突っ込んだ方がいいのだろうか、結局その後、二人がかりの説得を浴び続けた結果、今年一年に限るという条件で俺が折れる事になった。




選抜試験は終わり、人気の無くなったグラウンド。
もう九月下旬だ、この時間には少し肌寒くなり鮮やかな夕焼けが校舎を照らしていた。

しかしディゴリーの顔は浮かばなかった、寮の倉庫にあると思っていた箒が無かったのだ。
調べてみると、どうやら卒業した生徒がこっそり持って帰ってしまったらしい、誰だか知らないが最低な野郎も居たものだ。
結果俺の乗る箒が無いので、やはり不参加…という訳にはいかず、現在キニスと二人がかりで倉庫の探索中である。

グラウンドに放置され、しばらく待っていると遠くから二人が戻ってきた。
しかしどうした事だろうか、箒を持っているのにディゴリーの顔は暗いままである。

「…キュービィー、箒はあった、先輩が残してしまったヤツだ」

「いやー良かった! あれだけ説得に苦労したのに箒が無かったら僕泣くところだったよ。
…ディゴリー先輩?」

「…いいかキュービィー、よく聞いてくれ。
もしもこれが気に入らなければ、僕の箒の交換してもいい」

ディゴリーが深刻な顔で差し出してきた箒、それは明らかに異様な物体だった。
キニスやロンから散々聞かされたが、本来理想の競技用箒というものは、尾の部分は鋭く美しく、柄もシャープなのが優れている。
しかし目の前の、暗い赤色のこれは違った、尾の部分は太いのと細いの、長いのと短いのが不均一に入り交じり、柄は先端だけ妙に太い、極めて不格好な箒だった。

「インファーミス1024、十年くらい前のモデルだ」

「あの…何でそんな顔してるんですか?」

「この箒の性能は恐ろしく高い、最高速度も凄まじいが、瞬間加速はファイヤボルトすら上回る」

「ファイヤボルト…ってあの!? 一般販売は来年だっていうあれより上!?」

キニスは信じられない、といった顔だ.
ファイアボルト、現役プロチームでも今だ一部しか保有できていない現状最強の箒である。
それに十年前のモデルが匹敵、いや一部では優っているとは驚くほか無い。
だが、そんな古い箒でここまでの性能を叩き出すという事は…俺の嫌な予感は見事に的中した。

「だがその代償として、旋回性能とブレーキが全く機能していない。
具体的に言うと…いや一回だけ乗ってみてくれ、その方が分かる」

…絶対に乗りたくなかったが、一回参加すると言った以上断ることは出来ない、俺は箒にまたがり空へ浮かんだ。
そして少し動いてみ―――

「―――ッ!?」

空中へ投げ出されそうになるのを、渾身の力で握る事で何とか阻止する。
全身にATでも感じた事の無いようなGが押しかかっていた、気が付けばグラウンドの外へ飛び出かけている。
信じられない加速だ、一旦落ち着くためにブレーキを掛ける。
………
全く止まらない、いや減速する気配すら無い。
このままではまず―――

次の瞬間、それまでの加速が嘘のように止まった、一瞬で完全停止、完璧なブレーキだ、三秒遅れていなければ。
俺は夕日に向かって投げ飛ばされ、墜落地点にあった暴れ柳に一方的な暴力を振るわれた、そしてその結果、翌日は一日医務室で過ごすことになるのである。

「…い、今のは…!?」

「アレを作った会社だが、「ピーキーな物こそ需要が安定する!」とか言ってあの欠陥商品を作り上げ、その揚句倒産したらしい。」

「何でそんな物が僕達の寮に!?」

「さっき言っただろう、卒業した先輩が買ったんだ。
もっともすぐ、倉庫に叩き込んだみたいだけどね…当時は「殺したいヤツがいたら箒をコレにすり替えておけ」と言われてたらしい…」

「キ、キリコー!!」




全身打撲から早一週間、なんとかあのバケモノを乗りこなせるようになった頃、図書館には異様な光景が広がって、いや俺が広げていた、その原因は机三つ分を陣取って広げられている巨大な羊皮紙のせいである。
何人かこっちを睨んでいるが、そんなに混んでる訳でもないので無視しておく。
羊皮紙に黙々と書き込んでいく、既に一部は完成しているが何せだいぶ昔の事である、何とか記憶を辿りながらやっているので時間が掛かるのだ。

去年、トロールと戦ってから考えていた『対大型魔法生物用魔法』、その理論がついに完成し、その下準備をしているのである。
この魔法はゴーレムを作り出す呪文を基にしている、ただし俺が目指しているのはもっと複雑な構造のゴーレムであり、それを創り出す為にはその構造を完璧に叩き込んでおく必要がある。
その為にこうして記憶を辿りながら設計図を書き出しているのだ。

…駄目だ、これ以上思い出せない。
行き詰った所で羊皮紙を纏める、とにかく複雑な呪文だ、じっくり時間を掛けて完成させるべきだろう。

図書館を出て、廊下を歩いているとハリーとロンが歩いて来た。
ハリーの方はユニフォームを着ている、練習帰りのようだ、しかしロンの方はいつもの服である、…という事は選手になれなかったという事か。
その為か少し落ち込んだ様子である。

「あ、キリコ…選手になったんだってね、しかもシーカー」

ロンは若干未練がましく話掛けて来た、どうやら見た目以上に落ち込んでいるらしい。

「ああ、…残念だったな」

「うん…でも諦めた訳じゃない、来年こそ受かってみせる!」

そう言ってロンは自分自身を励ましているようだ、意外とこいつはタフらしい、なら心配は無用だろう。
するとロンは思い出したように、質問をしてきた。

「あ! そうだあの本知らない?」

本とは、以前キニスが拾ったあの高そうな本だろうか、あれは確かロンが兄に渡すと言っていたはずだが。

「いや、あの本がどうした?」

「…無くなった」

「え!? あの本無くしちゃったの!?」

「違うよ! どっちかって言うと消えちゃったんだよ!」

あの本が消えた? 一体どういう事だろうか。

「兄貴に渡そうと思ったんだよ! で、行こうと思ったら急にお腹が痛くなったからトイレに駆け込んだんだ、それで戻って来たら、談話室のテーブルに置いといた本が無くなってたんだよ!」

要するに急用が出来たから一旦テーブルに置いておき、その間に本が無くなっていたという事か。
誰かが盗んでいったのか? いやあの本は恐らくグリフィンドール生の物のはずだ、という事は…

「一体誰が盗んだんだろう? でもあんな本盗むやつなんて…ロンがトイレに落っことしたんじゃないの?」

「ハリー!」

「…持ち主が持って行っただけじゃないのか?」

「「あ」」

二人は今気が付いたらしい、抜けた声でそう返してきた。
その答えに納得したのか寮へ戻って行った、まああんな何も書かれていない本を盗んでいく物好きはそうそう居ないだろう、である以上理由はそれしか考えられない。

それにしてもあの本は結局何だったのだろうか、閲覧禁止の棚の本では無い、そんな危険物が寮の近くに置いてあるとは思えない。
教科書はあり得ない、ノートにしては古すぎるし高価すぎる。
一体何だったのだろう、その答えはそこの曲がり角から現れた。

「!!」

角から現れた赤毛の少女を避ける、しかし俺に驚いてしまったのかヤツは転んでしまい持っていた本を落としてしまっている。

「すまない」

「す、すみません…あ」

俺は目の前の少女を知っていた、この燃えるような赤毛、ダイアゴン横丁に買い物に行ったときに会ったロンの妹、ジニー・ウィーズリーだ。
驚くヤツをよそに、散らばった本を拾い集めていく、図書館から借りてきたものだろうか、本の内容はというと主に恋愛や美女になる魔法など、女性らしい本が主だった。

彼女はまだ十一歳のはずだが、もうそういった事に興味を持つのだろうか、それとも既に好きな人でも居るのだろうか。
そんな失敬な事を詮索していると、散らばった本の中に先ほど考えていたヤツがあるのを見つけた。
何故これを彼女が? 思わずその中身を覗いてみる。

『私は好きな人が居る、けれどどうすればいいのだろう』

「………」

「………あの」

「…すまない」

本を閉じ、目を合わせないように本を差し出すとひったくるような手つきで取って行った。
女性の秘密を覗いてしまい、極めて申し訳ない気分になりつつも何故彼女が持っているのか聞くことにした。

「…その本は、どこで拾った?」

こちらを睨みつけ黙り込んでいる、当然の反応に罪悪感が深まっていく。
暫く、いや数秒も経っていないのだろうが、彼女は答えた。

「…これは私の、…な、失くしたと思ってたら、机の上に…」

「…そうか、…本当にすまなかった」

彼女はそれに反応する事なく逃げるように去って行った。
だがまあ、持ち主が見つかって良かったとしておこう、書かれていた文章から推測するとあの本は日記だったようだ。
ならば何も書かれていなかったのも当たり前である、それにウィーズリー家は聖二十八族の一員でもある、高級な本も一冊くらいあるだろうしお下がりと考えれば古いのも納得できる。

後でロンに言って安心させなくてはならないな、そして俺もまた、自分の寮へと戻っていったのであった。




「うう…何てことを、誰も見つけてほしく無かったのに。
このままではハリー・ポッター様が死んでしまう…何とか、何とかしなければ…」



ソレを見たのが幻想なのか。
心の恐怖が幻想を生むのか。
噂の果てに真実を見るのが幻想に過ぎないことは、
子供の誰もが知っている。
だが、あの瞳の光が、体の震えが幻だとしたら。
そんなはずはない。
ならば、この世の全ては蜚語に過ぎぬ。
では、目の前にいるのは何だ。
次回「再来」
秘密なるものが牙をむく。


ディゴリー先輩、本当はまだキャプテンじゃないんですけど、どう調べてもハッフルパフのクィディッチメンバーが分からなかった為、こういった仕様にしました。
夕日に飛んでくキリコは、孤影再びの一シーンを参考にどうぞ。


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第十七話 「再来」

バジリスクをどうやって抹殺するか…
何か、最終的に自爆する気がする。
見えるぞ…その結果秘密の部屋が消滅する未来が!(未定)


「絶命日パーティ?」

「そう、ゴーストがハロウィンの時にやる死んだ日を祝うパーティーだよ」

「そうか、それがどうした」

「ハリー達に一緒に行こうって誘われてるんだ、キリコも一緒に行こうよ」

「断る」

死んだ日を祝うパーティーか、いつかは是非とも行ってみたいものだが今の所興味は無い。
何より今日は待ちに待ったハロウィンパーティーだ、何故ゴーストのご馳走を食いに行かねばならないんだ、ゴーストのご馳走など絶対に不味い。

「えー…ちょっと顔を出すくらい」

「断る」

「…キリコって食い意地凄いよね…」

キニスは呆れた視線を向けてくるが知った事ではない、去年はトロールの乱入が原因でほとんど食べる事が出来なかったのだ、今年は何としてもたらふく食べなければならない。
そうでなければ死んでも死にきれない。
文句を垂れながら大広間から離れて行くキニスを完全無視しテーブルを見つめる、そこには去年と同じく山ほど料理が並べられていた。

どれを食べるか悩んだが、一先ずパンプキンスープをゆっくりと飲み干す。
秋風で冷え切った体を温め、ハーブで食欲を加速させる。
準備は整った、さあどれから食べるか…

よしこれだ、山積みになっているフライを皿によそった。
これはフィッシュアンドチップスだ、ただしハロウィン仕様なのでパンプキンチップスになっている。
チップスを口に入れると、心地いい軽快な音と感触が楽しませてくれる、普通のチップスより太目に切られたそれは十分な噛み応えを作り出し、噛めば噛むほど甘味が吹き出してくる。
いや、それだけでは無い、これまた厚めに作られた衣、それは辛すぎず薄すぎず丁度いい塩加減で甘味を引き出しつつも旨みを主張しており、スナックらしく飽きずにいつまでも食べていられる。
チップスが無くなった所で魚の方に手をつける、当然モルトビネガーをどばどば掛けてからいただく。
厚い衣を食い破りアツアツの身を食べる、淡白な白身魚は濃い味の衣によく合う、モルトビネガーの酸味はどうしても出てしまう油濃さを打消し爽やかな風味を作り出す。
それにかなり分厚く揚げられている為、モルトビネガーを掛けても衣がふやける事も無く、サクサク感もしっかり楽しめる。

次に俺が狙いをつけたのはシュパーズパイ、要するにミートパイだ。
一口サイズに切り分け、少し大きめに切ったそれを大口を開けて食べる、途端に濃厚な肉の味とそれを引き立てるほんのり甘いかぼちゃの味が襲い掛かって来た。
なるほど、通常シュパーズパイは挽き肉とマッシュポテトを使っているのだが、これはポテトの代わりにかぼちゃを使っているのか、何もそこまでかぼちゃ尽くしにしなくても…と思ったが美味いので良しとしよう。
それにこの肉…普段よく食べる牛肉や豚肉では無い、羊肉だ、少しでも手順を間違えれば臭味で台無しになるそれは、一体どのような調理をしたのか濃厚な旨みへと変貌している。
素体のかぼちゃは甘味と特有のへばりつく食感が抑えられ、そのボリュームに反してどんどん食べる事を可能にしている、凄まじい、羊肉がこんなに美味いとは思わなかった。

さて、三品食べた事だ、この辺で一服つくのも良いだろう。
そう考えデザートに手を伸ばす、卓上の料理比率はデザートの方が多い、どれを取るか…
俺が手に取ったのはかぼちゃプリンだ、プリンはお子様の食べ物? 知らん、12歳はまだ子供だろう。
スプーンですくい、プルプルとした見た目を少し楽しみ、口に流し込むようにそれを頂く。
だが、それは俺の想像を上回っていた、ツルツルとした食感を想定していたのだがこれは違った、まるで濃厚なケーキを食べているような食感だったのだ。
しかし本来の食感も失われていない、触感は確かにプリンだがそれが溶けるように口に広がっていくのだ。
プルプルした食感と口に広がる濃厚な甘さにしばし時間を忘れる…気が付くと、空になった容器が三つもあった、信じられない。

さあ次はどうする? あれも美味そうだ、これも…




杖を文字通り杖にように使いながら、よろよろと廊下を歩く。
食べ過ぎた事で今にも倒れそうになっている、が後悔はしていない。
去年食べ損ねたのだ、これぐらい食べて丁度いいだろう、ふらふら歩いていると何やら人ごみが見えて来た、一体何があったのだろうか。

「継承者の敵よ気をつけよ! 穢れた血め、次はお前達だぞ!」

マルフォイの声が人混みの中から響いている、本当に何があった? どうもただの騒動では無いようだが…
人混みの中からハリー達三人とキニス、その横にはフィルチとロックハート、そして何故か異様な姿勢で固まっている猫のミセス・ノリスを抱えるダンブルドアが現れた。
人混みの中をかき分けると、壁には不気味な文字が書かれていた。

″秘密の部屋は開かれたり 継承者の敵よ、気を付けろ″

どうやら俺の予感は当たってしまったようだ、今年も何かが起きるという予感。
これだけで終わる筈が無い、そう、これはまだ緑の地獄(スリザリン)からのプレリュードに過ぎなかったのだ。




夜、ようやく聞き取りが終わったのか部屋に帰って来たキニスから話を聞いた。
あいつらが参加していた絶命日パーティーから抜け出し、大広間に戻ろうとした所ハリーが奇妙な音を聞いたと言い、走り出しその後を付いて行った所、ミセス・ノリスが動かなくなっていたらしい。

「秘密の部屋…か」

「キリコ、知ってるの?」

「…″ホグワーツ歴史書″に乗っていたはずだが」

「読んでないや」

…秘密の部屋、それはホグワーツを創り上げた四人の内一人、サラザール・スリザリンが創ったと言われている。
ヤツは純血主義者でホグワーツからマグル生まれは追放すべきと主張したが、それは他の三人に受け入れられず、彼はホグワーツを去って行った。
しかし、その時ヤツは秘密の部屋、そしてそこに″怪物″を隠した、そして部屋を開くことの出来る継承者が現れた時、継承者は怪物を用いてマグル生まれ…穢れた血を追放する。

…ただしそのような事が起こったのは一度しか無く、怪物と言えるような生物でもなかったらしい。
よってこの話は噂でしかないのだ。

「…あれ誰かのイタズラだよね?」

「…いや、″完全石化呪文″は高度な闇の魔術だ、悪戯で使うような物では無い」

しかしその噂が真実味を帯びているのはこれのせいだ、完全石化させるのは簡単な事では無い、ダンブルドアやそれこそヴォルデモートなら可能だろうが、その辺の魔法使いでは絶対に出来ない、生徒ならなおさらだ。
だが現実としてそれは起きている、つまり怪物は確実に存在しているという事になる。

「なんか嫌な予感がする」

「…継承者の敵とは純血以外の事だ、この一件では終わらない、恐らくまだ犠牲者が出るだろう。
キニスも俺も警戒する必要がある」

「いや、そうじゃなくて」

「何だ?」

「…いや、またハリー達が巻き込まれそうな気がする…」

「ああ…」

第一発見者はハリー、妙な音を聞いたのもハリー、よくよく思い出してみれば入学以来、何か事件が起こればそこにはハリーが必ず居た。
…偶然と思いたいが、しかしキニスの考えに俺は納得を覚えていた。
…そしてその予想は、現実である事を俺はまだ知らない。




「マルフォイだ、継承者はマルフォイに違いない」

数日たったが、校内は秘密の部屋の噂でもちきりとなっている、だがそれは緊迫した空気を孕まない会話を盛り上がらせる燃料としてだが。
その原因は二つ、一つは″完全石化呪文″がどれ程脅威か知らない生徒が多い事。
二つ目は石化を治す事が出来る薬の材料、マンドレイクが順調に育っているからだ。
しかし教師達の目つきは鋭くなり、継承者を警戒しているのは明らかだろう。

「ええ…マルフォイが?」

中でも盛り上がっているのは″継承者が誰か″の考察だ、秘密の部屋がどういった物か数日で広まり、今や詳細を知らないヤツの方が少なくなっている。
継承者、その候補者は多くがスリザリン生である、まあ″スリザリンの後継者″なのだからこれは当たり前だろう。

「だって昔からの純血だぞ、あいつ」

目の前のこいつらも例外では無く、マルフォイを継承者と考察していた。
数日前に秘密の部屋の内容を教えてからと言うもの、三人で図書館に押しかけてはこうして会議を開いている。

「てか何でマルフォイ? 純血の人なら幾らでも居ると思うけど…」

「継承者って言ったら普通血縁者でしょ? で、スリザリンに代々いるのはマルフォイ家じゃない」

「確かにそうだけど…スリザリンの血縁者かなあ?」

「だから一番古い純血のマルフォイなら、血を引いてるかもしれないじゃないか」

難色を示すキニスにポッターはそう返す、確かに理屈は通っているが、完全な理屈とは程遠いのも確かだ。
何故なら古い純血など幾らでも居る、この理屈で候補をヤツに絞るのは不可能だ。

「でもなぁ…キリコ、パーティーの時マルフォイ見た?」

「ああ、ヤツは参加していた」

「じゃあ、やっぱり違うんじゃない?」

「でも、あそこに居なくても石にする事は出来ると思うけど」

「無理よ、そんな魔法二年生は習わないわ」

頭では分かっているが、納得は出来ていないらしい。
そもそも、こいつらは元々スリザリンに不信感を持っている、納得出来ない理由はそこなのだろう。
だからこそ継承者候補の中でもマルフォイを疑っているのだ。

「…そうだ!」
 
「ちょっハリー! シーッ!」

ハリーが急に叫び手を合わせた、こちらを睨み付けるピンズに気付いたハーマイオニーが慌ててハリーを注意している。
忙いで声を抑えた後ハリーは話始めた。

「マルフォイに直接聞けばいいんだ」

「…何言ってるんだ? どうやって聴くのさ、第一聞いたって話してくれる訳無いだろ」

「そう、だからスリザリン寮に侵入してこっそり聴けばいい」

「そうか! ハリー、君は天才だよ!」

「…でも、どうやって侵入するの?」

キニスの疑問も当然だ、スリザリン寮に入るためには特定のパスワードが必要となる。
それ以前の問題として、ほぼ確実に見つかってしまうだろう。
その問題の答えはハーマイオニーが出した。

「! もっと良い方法があったわ、″ポリジュース薬″よ」

「ポリジュース薬?」

「そう、これを飲むと他人に変身出来るのよ。
これを使ってスリザリン生の誰かに変身すれば…」

「マルフォイから直接聞き出せるって訳だ!」

「…だが、許可の無い薬品調合は違反だ」

「大丈夫、絶対に見つからない場所を知ってるの、そこで作れば問題ないわ」

見つからなければ違反では無いということか、校則を重視していた去年の彼女が懐かしく思える。
だが確かにポリジュース薬は良い方法だろう、上手く使えば直接情報を聞き出せるし、パスワードを知ることも出来る。
…上手く演技出来れば、だが。

「…二人は協力してくれるの?」

「遠慮させてもらう」

正直、マルフォイの様な男が人殺しを出来るとは考えづらい、加えるとホグワーツに人殺しを出来る人間が居るとは考えづらい。
生徒全員と面識がある訳では無い以上確信は無いが、そういった雰囲気を持つ人間は見たことがない。

「僕もいいかな…やっぱりマルフォイとは思えないから」

「そっか…でもハーマイオニーはポリジュース薬の作り方を知ってるの?」

「…知らないわ」

「え!? じゃあどうするの!?」

「シーッ! …作り方は、閲覧禁止の棚にあるわ」

「…ま、まさか去年みたいに侵入するの?」

「許可を貰えばいいのよ」

「誰に貰うのさ、あそこの本は闇の魔術に対する防衛術の先生しか許可を出せ―――」

「…あっ」

「あー、アレなら簡単に騙せ―――」

「ね、ロックハート様なら私達の気持ちを汲んでくれるわ」

「………」

…確かに、アイツなら許可を出すだろう。
適当な理由と適当におだてればどんな危険な本でもあっさりと提供するに違いない。

「…ロン」

「…うん、僕らでおだてかたを考えておこう」

「一体何話してるの?」

「い、いや? 何でもないよ」

ハーマイオニーと彼女以外でだいぶ差があるようだが、許可さえ貰えれば何でもいいのだろう。

会議はそこで終了し、時間も夕刻になっていたので解散となる。
ただハリーは今からクィディッチのグラウンド練習をするので途中で別れる事になった。




そして寮の別れ道に差し掛かった所で、俺は伝えなければならない事を思い出した。
そう、あの日記の行方だ。

「ロン、あの本があったぞ」

「へ? …あ、あの日記? 聞いたよ、ジニーのだったんだね」

「知っていたのか」

「うん、ママのお古を譲ってもらったらしいんだ」

やはり俺の予想通りだったか、とにかくこれでひと安心だ。

「でもママがあんな高そうなの持ってた何てな、僕家であんなの見たこと無かったよ」

「大切に保管してたんじゃない? 見るからに高そうだもの」

そして俺達はそれぞれの寮へ戻って行った。
もうそろそろクィディッチの初戦が始まる、だが初戦はグリフィンドール対スリザリンなので俺の出番は無い。
元々やる気は無かったが、やらなければならないなら、真面目に全力で戦おう。
俺は一人、試合に対する決意をみなぎらせていた。




秘密の部屋、継承者、スリザリンの怪物。
それは未だ現れない。
だが、それとは関係なくヤツは迫ってきている。
この、何処までも深い城に潜む謎の殺し屋。
プレリュードからインテルメッツォへ。
空白の40年が、俺を新たな地獄へ誘っていたのだ。



変わる、変わる、変わる。
この血の舞台をかえる巨獣が、奈落の底でまた目覚めはじめた。
喉が軋み、人々は呻く。
舞台が回れば立つ人も変わる。
昨日も、今日も、明日も、秘密に惑わされて見えない。
だからこそ、確かな敵を求めて、脅えぬ力を信じて求めて。
次回「決闘」。
本当の敵などあるのか。


石化イベント発生しました、
次回は決闘クラブです、
…誰と闘わせりゃいんだ、あんなの。


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第十八話 「決闘」

次回「ロックハート死す!」
決闘スタンバイ!


秘密の部屋事件の影響だろうか、会場は例年以上の盛り上がりを見せている。
グリフィンドール対スリザリン、今年初のクィディッチが始まろうとしていた。

「さあ今年もこのシーズンがやって来ました、去年は惜しくも優勝を逃したグリフィンドール、しかしその一年で期待のシーカー、ハリー・ポッターの練度は凄まじい成長を見せました。
対するスリザリンはメンバー全員分のニンバス2001を使い、シーカーの座を買収したドラコ・マルフォイが注目の―――」

「ジョーダン!」

グリフィンドール贔屓の解説もいつも通りである。
盛り上がる観客席だが、俺はそこに居ない。
少し離れた選手用の席に座り、選手達の様子を注意深く観察していた、何故なら今後の試合の為にチーム全員で相手の動きを調べる為である。
一体どちらが勝つのか、箒で買収したとはいえ一定の実力が無ければシーカーになることは出来ない、マルフォイの力が分からない今、結果を予想することは誰にも出来ない。

しかし、試合が始まってもマルフォイの実力を図ることは出来なかった。
真の実力は、互角、またはそれ以上の相手と闘う事で発揮される。
だが、その敵であるハリーがまともに動けていなかったのだ。

「一体どうなってるんだ…?」

ディゴリーも気付いたようだ、いやあんなに露骨なら気付かないヤツの方が少ないだろう。
クィディッチにはブラッジャーという鉄球が二つあり、これは近くの選手を攻撃してくる特性を持つ、そしてそれから選手を守り相手に打ち返すのがビーターの役目だ。

一体どういう事か、ブラッジャーの内一つがハリーを集中的に狙っているのだ。
結果ハリーを守る為にビーターの二人が付きっきりになってしまっている。
去年の呪いといい、つくづく面倒事に縁のあるヤツだ。

シーカーもビーター二人もまともに動けない影響か、試合の流れは100対0とスリザリンに傾き始めていた。
と、ここでグリフィンドールのキャプテンのキャプテンウッドがタイムアウトを要求し、試合は一時中断となった。

しばらく経ち試合が再開する、未だブラッジャーはハリーを狙っているがビーターが護衛につく様子は無い。
このままでは勝てないと判断したのだろう、ハリーはブラッジャーをスレスレで回避しながら飛び回っている。

その時俺は会場のすみ、スリザリンの応援席の影にそれを見つけた。
人では無い、蝙蝠のような耳に大きく飛び出している眼球を持つ小さな生物がそこにいた。
その生き物が指を動かすとそれに呼応してブラッジャーがハリーを攻撃しだす。

どうやら異常の原因はあの生物、″屋敷しもべ妖精″のようだ、屋敷しもべ妖精とは魔法使いに使える事を本能、そして誇りとする生物、ならばヤツは誰かの命令で動いてるはず。
しかしその顔に誇りは無く、苦しそうに歪んでいる。
どう見ても喜んでやっているようには見えない、命令で仕方なく従っているのだろうか。

ならばハリーの為にもヤツの為にも穏便に済ませるのが理想だ、しかしここはスリザリンの応援席からは反対側の位置、どうするか…
手元にあった硬貨を取りだし「目眩まし術」を掛ける、そして応援席の後方に回り込み、誰にも見つからないようにコインを上へ弾く。

「レラシオ ―放せ」

放たれたコインは、空気を切り裂きながら弾丸のようにヤツに迫る。

が、着弾の直前それに気付いたヤツは一瞬で姿を消してしまった。
姿晦ましだろうか? しかし学校の敷地内では使えない…いや、確か屋敷しもべ妖精の使う呪文は俺達のとは違う原理のはず、だから発動できるのか。
杖も無く詠唱も無く呪文を使えるとは…俺も習得出来ないだろうか。
まあ無理だろう、人間と屋敷しもべ妖精は体の構造自体が違うのだから。

会場に戻るとマルフォイが悲鳴を挙げていた、先ほどまでハリーを追いかけていたブラッジャーは正気を取り戻し、目の前のマルフォイに突っ込んで行ったのだ。
それに加えハリーまでマルフォイに突撃を掛けている、これは…
ブラッジャーの直撃を貰いながらもヤツの頭上をすれすれで飛行し、手を掲げるとそこには黄金の球体が握られていた。
つまりスニッチはヤツの頭上をのんきに飛んでいたという訳か、マルフォイはこの世の終わりの様な顔で空を漂っている、まああんな致命的凡ミスをすればああもなるか。

試合結果は120対160でグリフィンドールの勝利となり三寮から歓声が上がる、その一方マルフォイはキャプテンに怒鳴られていた。
その後、対グリフィンドールとスリザリンの対策会議をして終わった、あった事とすれば右腕を折ったハリーがロックハートに骨抜きにされたくらいである、文字通り。




しかし、翌日にはこの余韻は消え去っていた、継承者により新たな犠牲者が出てしまったのである。
石にされたのはグリフィンドール生の一年生コリン・クリービー、初めての人間の犠牲者、そしてマグル生まれである。
今飼育されているマンドレイクが成長すれば石化は解ける、だからといって安心できるはずもなく、マグル生まれの生徒たちは恐怖に包まれる事となった。




だがそれ以降継承者の襲撃は無く、あっという間にクリスマス一週間前になった。
時間と言うのは偉大だ、あれ程の恐怖の空気が包み込んでいたのに、今や生徒達はクリスマスプレゼントについて話し合っている。

早朝、いつもなら温かな談話室で豊かなコーヒータイムを楽しむはずだったが、今日は駄目らしい、談話室の掲示板に人が屯しているからだ。

「おはよ、キリコ。
…何で皆あつまってるの?」

「決闘クラブが開かれるらしい」

掲示板に張られていた紙には決闘クラブ開催の第一回が、午後八時から大広間で開かれると書かれていた。
恐らく、生徒の自衛意識を高める為に開催したのだろう、ならば俺も行って損は無いはずだ。

「決闘クラブ…キリコは行く?」

「ああ、行って損は無いからな」

「そっか、じゃあ僕も行こうかな…秘密の部屋も怖いし。
…そういえば、誰が講師になるんだろう?」

講師…誰かは掲示板にも書いていなかった、まあ、これについてはアレを心配する事も無い、決闘という少なからず危険な事をするのだ、スネイプか、それとも決闘チャンピオンと呼ばれたフリットウィックのどちらかだろう。




全てにおいて最悪とはこのことだろう、確かにスネイプは居た、居たには居たがヤツを後ろに控えさせ、煩わしいスマイルでロックハートが入って来たのだ。

「静粛に」

最悪の事態を前にして、ごくごく一部から黄色い声援が上がり、他大多数は灰色の溜息を付いていた。

「………」

「…今からでも帰れるけど」

「………」

「返事くらいしてよぉ! 怖い!」

「皆さん私の声は聞こえますか? 姿は見えますね? 勿論見えているでしょう!
この度ダンブルドア校長から私が許可を頂き、この決闘クラブを開く事が出来ました。
私自身が、数えきれないほど経験してきたように、自らを守る必要が生じた時に備えてしっかりと鍛え上げる為です、詳しくは私の著書を読んでくださいね。
では私の助手、スネイプ先生をご紹介しましょう!」

壇上にスネイプが重い足取りで登って行く、アレはとても眩しすぎる微笑みをさらに強烈にしてまたもや喋り始めた。

「スネイプ先生がおっしゃるには、決闘についてごくごく僅かにご存じらしい。
訓練を始めるにあたって短い模範演技をしようと話した所、勇敢なことに手伝って下さるとご了承下さったのです。
大丈夫ですよ皆さん、ご心配はおかけしません…私と彼が手合せした後でも、魔法薬の先生はちゃんと存在します、ご心配めされるな!」

スネイプを馬鹿にしたような紹介の後、小馬鹿にしたような笑顔を振りまくロックハート。
対してスネイプの表情は変わら…いやパッと見分からないがだいぶ変わっている、何というか、地獄の悪鬼も逃げ出しそうだ。
昔、あんな顔を見たような…そうだ、あのクズを谷底に叩き落とした時の、親友の顔によく似ていた。
それに気付かないアレも大概だが。

「…さすがに殺さないよね」

キニスは、いや大体の生徒はスネイプが発する殺気に脅えていた、が、それと同時に一方的に叩きのめすのを望んでいるのも事実である。

「ご覧の様に、私達は伝統に従って杖を構えています」

向き合って礼をする二人、無駄に優雅な立ち振る舞いをするアレに対し、スネイプは軽く会釈をしただけだ。

「3っつ数えたら最初の術を掛けます。
勿論、どちらも相手を殺すような呪文は使いません」

いやどうだろう、スネイプの目はどう見ても本気の臨戦態勢である、生徒の前でなければ殺しているかもしれない。
方やまだ生徒に笑顔を振りまき、方や全身に殺意を纏っている、ここまで見る価値の無い戦いも珍しい。

「では! 1、2、3、………!」

「エクスペリアームス! ―武器よ去れ!」

ロックハートが振り上げるよりも圧倒的に早く、杖を振り上げるスネイプ。
武装解除呪文の赤い閃光が放たれ、ロックハートを壁まで吹き飛ばした。

途端にスリザリン生、いやアレのファンを除いて全員が拍手を送っている、普段は嫌われているスネイプだが、この時ばかりは凄い人気だった。
床を這いずりながら、尚負け惜しみを吐いていたがスネイプに睨まれた途端、蛇に睨まれた蛙のように大人しくなった。

「模範演技はこれで十分! これから皆さんの所へ降りて行って二人ずつ組んでもらいます。
スネイプ先生、お手伝いをお願いします」

そう言うと二人は生徒の中に入って行き、二人ずつ組ませていった、どうやら勝手に相手を決める事は出来ないらしい。
次々と組み合わせは決まって行った、キニスはネビルと、ロンは別のグリフィンドールの生徒、ハーマイオニーはスリザリンの生徒と組まされた。

…しかしいつまで経っても俺の相手が決まらない、というよりも俺以外は全員決まっているようだ。
…どうしたものか。

「おや? キリコ君は相手が居ないと…よし! ではこの私が…」

「それには及びませんな、助手である我輩が相手をしよう」

アレの勧誘を遮るようにスネイプが相手を申し出てきた。
スネイプか…戦った事など当然一度も無いが、恐らくかなり歴戦の戦士だろう。
今の俺の力でどこまで戦えるか…
対人戦は滅多に無い貴重な機会だ、ありがたく戦わせてもらおう。

二年生対教員という異質な組み合わせは、必然的に周りの注目を引き付ける、それに気付いたロックハートが何か閃いたのか、また余計な事を言い始めた。

「皆さん注目! ハッフルパフ二学年最優秀生徒とスネイプ先生の決闘です、せっかくなので舞台の方でやってもらいましょう!」

またもや顔をしかめるスネイプ、俺も同じ気分だったが仕方なく壇上へ上がっていく。
決闘をしていたヤツらもこちらに注目し始めた、が、そんな事は気にせず杖を構え向き合い一礼をする。
…やはり、こいつは只者では無い、一度や二度では無い、相当な修羅場を生き抜いた戦士の雰囲気をスネイプは放っていた。


…やはり、こいつは只者では無い、放たれる威圧感は二年生の物とは到底思えん、これ程のプレッシャーは単なる強さだけでは出すことは出来ない、それこそ数えきれない程の戦いを経験した歴戦の魔法使いしか出せないだろう。
キリコ・キュービィー、ヤツは一体何者なのだ…
こんな茶番に手を貸したのは正解だった、一年生にも関わらずトロールを容易く殺し、死喰い人さえ倒すヤツの力は未知数、ここで戦う事で実力を測ることが出来れば、今後色々と対処しやすくなるはずだ。


舞台から放たれる異様な、先ほどまでの茶番劇とは違う圧倒的な戦いの空気に生徒達は息を飲む。
一瞬の沈黙の後、先に仕掛けたのはスネイプだった。

エクスペリアームス(武器よ去れ)!」

エクスペリアームス(武器よ去れ)!」

放たれた赤い閃光、一瞬遅れて同じ呪文で相殺する。

エクスパルソ(爆破)!」

間をおかずに爆破呪文をスネイプの足元に打ち込む、
瓦礫に怯むヤツに、武装解除呪文を再度発射する。

アビフォース(鳥になれ)! オパグノ(襲え)!」

()()()()()()()()鳥に変身させ、武装解除呪文を防ぎつつ残りの鳥を突撃させる。
それに対し、ルーモスの光を最大出力で発生させる。
鳥の目は潰れ墜落したが、スネイプは盾の魔法で光を防いだ。

………

光りが晴れ、()()()()()()の中、スネイプは呪いを放つ、
それを盾の魔法で防ぎ、反撃の呪文を打ち込む。
一進一退の攻防、しかし経験の差か、俺は徐々に追い込まれていた。
一旦体制を整える為に後ろへ後退する、だがその隙を見逃さずスネイプが一気に距離を詰めて来た。
…そうだ、そのまま来い…!

「! レラシオ(放せ)

「! プロテゴ(護れ)

後ろに跳躍し、距離を大きく離した後、スネイプは足元にあった瓦礫をこちらに撃ち込む、
咄嗟にそれを防ぐと瓦礫は突如爆発を起こした。

エクスペリアームス(武器よ去れ)!」

罠を読まれた事に怯んだ瞬間発射された閃光、それは俺の杖を弾き飛ばした。
…俺の負けという事だ。

一体何が起こったのか、凄まじい戦いに生徒はしばらく静まり返っていたが、少し経つと全員から拍手が上がり始めた。
奪いとった杖を返しにスネイプがこちらに寄って来る。

「…今のは何だ?」

「気付かれるとは思いませんでした」

「あの光で怯ませた時に仕込んだのだろう? 新しく瓦礫を作ってな…最もそれが何かは分からんがな。
…それで、先ほどの呪文は何なのだ?」

エクスインテラ(爆弾と成れ)…呪文を掛けた物を、俺の合図で爆破する魔法です」

「!? 作ったというのか…新たな呪文を」

「既存の魔法を改造しただけです」

「………」

スネイプは唖然としたまま固まっている、何度か閲覧禁止の棚に侵入して研究したかいはあったようだが、これは…少しやってしまったかもしれない。

その後、俺達と同じく舞台に上がったハリーとマルフォイ、だがその決闘は思わぬ結末を迎えた。
マルフォイが呼び出した蛇がハッフルパフのジャスティン・フレッチリーに襲い掛かった時、ハリーが異様な言葉を喋り蛇を静止させたのだ。
しかし、フレッチリーはハリーが蛇をけしかけたと誤解し出て行ってしまった。
そう、ハリーが話したのは蛇語、すなわちサラザール・スリザリンの直系のみが持つパーセルマウス…スリザリンの後継者だという決定的な証拠だった。



再来のための平穏。
復讐のための秘密。
歴史の果てから、延々と続くこの愚かな思想。
ある者は悩み、ある者は傷つき、ある者は自らに絶望する。
だが、血筋は絶えることなく続き、また誰かが呟く。
たまには誰かを使うのも悪くない。
次回「思惑」。
神も、ピリオドを打たない。


「キラー○イーンは既に瓦礫に触っている…!」
新呪文登場です、要するに↑のような魔法ですね。
追記 次回予告修正しました。


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第十九話 「思惑」

そろそろ日常回も終わりが近いですよ、
心残りのないように、
平穏さを堪能しておいてください。


決闘クラブの翌日、また新たな犠牲者が現れた。
石になったのはジャスティン・フレッチリー、そう昨日ハリーが蛇をけしかけた…と一方的に思い込んでいた少年だ。
加えて言うとグリフィンドールのゴースト首無しニックも犠牲になったのだが、幽霊は人数に含まないらしい。
しかしゴーストすら石化させる恐るべき存在という事実は、教員たちの警戒をさらに引き上げていた。

そしてパーセルマウスと発覚し、昨日フレッチリーを激怒させてしまった直後、まるで打ち合わせたかのように彼女が石にされた事で、継承者はハリー・ポッターであると生徒の間で噂が広まっている。
その結果グリフィンドール生も含んだ生徒達は、ハリーが通ると蜘蛛の子を散らすように逃げ出し、スリザリン生は後継者がグリフィンドール生だという事を認めず憎悪の視線を送っていた。

「………」

「元気だしなよハリー…」

今やハリーとまともに話すのはいつもの二人組とキニスくらいとなっている、また話すわけではないが、ほとんどの教員達もハリーが無実だと信じてるようだ。
キニス達が励ましてはいるが、ハリーは延々と溜息を吐き出している、去年の大幅減点に続き本当に不憫なヤツだ。

「一体何なのよ! 蛇と話せるくらいで後継者扱いなんて!」

「でもハーマイオニー、パーセルマウスはサラザール・スリザリンの血を引いてる人しか持って無いんだ」

「でも僕、そんな事知らなかったよ。
てっきり魔法使いなら皆話せるんだと…」

「それにしたってねえ…普通に考えたらあり得ないのに…」

「集団心理だな、恐怖のあまり冷静さを失っているんだ」

集団心理とは恐ろしいものだ、冷静さを失い、あり得ない可能性を信じ込む事の恐怖は身を持って味わっている。
…今思えば、あの時俺が″異能″を口にしなければあいつらは生き残れたのだろうか。

「キリコは、何でハリーが後継者じゃないって信じてるの?」

「簡単な事だ、ハリーが本当に継承者なら、そうとばれる様な事をするはずが無い」

実際の所、ハリーが継承者というのはあり得ない。
今まで姿を現さず怪物の正体も知られぬまま三人と一匹を石にした狡猾なヤツだ、それが今更、自分が継承者だと疑われるような真似はしないだろう。
真の継承者は今も尚、何処かに潜み次の獲物を狙っているはずだ。

「そうだわ、アレがようやく完成したのよ」

アレとは、間違いなくポリジュース薬の事だろう、あの日以降ずっと何処かに隠れながら調合し続けていたらしい。

「やっと出来たんだ、で、誰に変身する?」

「マルフォイから聞き出すんだから、取り巻きのグラップとゴイルでいいんじゃないか。
ハーマイオニーはどうするの?」

「私はもう大丈夫よ、髪の毛は手にいれたわ」

ポリジュース薬は、変身したい対象の髪の毛を用いることでそいつに変身する。
こいつらは一連の計画をクリスマスに実行するらしい。

「…僕らにも何か出来ないかなあ」

ハリー達と別れた後、キニスはそんな事を言ってきた。
マルフォイは継承者では無いと思ってはいるのでポリジュース薬の計画に協力してはいないが、自分だけ何もしていないのを少し気にしているのだろうか。

「下手に首を突っ込むのは危険だ」

去年キニスは俺を庇って緑の閃光…死の呪いをくらいかけた、その事もありこういった事に関わってほしくないのが俺の本心だ。
…当初はハリー達にも関わるなと説得しようと思ったが、去年の事から考えて言っても無駄なので止めておいた。

「でもなあ、またハリー達だけが危険な目に会うのも…」

だがこいつがそれくらいで引き下がる男ではないのもよく知っている。
そんなお人好しに対し、一つ提案をした。

「…怪物の正体を探ってみたらどうだ」

「えっ?」

「犠牲者は三人にも増えている、逆に言えばそれだけ手掛かりもあるという事だ」

この提案をしたのは理由がある、継承者を直接探しだそうとすれば怪物の標的にされかねない。
しかしこれならば継承者に気付かれる可能性はかなり低くなる。

「それがあった! ありがとう早速調べてみる!」

そう言うとキニスは図書館に向かって走り出してしまった。
…本当にお人好しなヤツだ、まあ俺もお人好しな奴らに何度も救われているのだから文句は言えないが。

外の景色は変わりつつある、木は緑を落とし大地を銀色に染めていっている。
もうすぐクリスマス休暇になる、去年はプレゼントを送る事が出来なかったからな、今年は送らなくてはならない。

雪に埋もれ、雪の底に少しずつ沈んでいく、数多の悪夢。
だが、時が来れば溶けだし、再び地獄が牙を剥く。
銀に塗りたぐられてはいるが、この下は緑の地獄。
春風が悪夢を蘇らせるのは、もうすぐの事である。




既に外は銀一色の冬景色、クリスマス休暇となっていた。
しかし学校に残っている生徒は去年より圧倒的に少ない、継承者の襲撃を皆恐れているのだ。

ハリー達は今日計画を実行すると言っていた、今頃はスリザリン寮の中に侵入したころだろうか。

グシャアッ!!

「………失敗か」

俺はと言うと、禁じられた森の中に侵入していた、ただし森の奥ではなく少し開けた湖がある安全な場所だ。
無惨に崩れ去った瓦礫を見つめながらため息をつく。

そもそも何故こんな所に居るのか、それは広いスペースと材料が必要だからである。
つい先日、開発していた呪文の設計図がようやく完成したので、さっそく実験に取り掛かっているのだ。
その実験場として、十分なスペースと、材料の石がいくらでもあるここを選んだのである。

また別の理由として、あまり見られない方が良いというのもある。
決闘クラブの時、開発した呪文を見た時のスネイプは明らかに警戒していた。
これ以上下手な事をして警戒されないようにする為、普通は人が来ない立ち入り禁止の場所にしたのだ。

しかし呪文は失敗、一瞬出来上がったように見えるが、すぐに崩れさってしまった。
おそらく原因は設計ミスだ、事前に書き、頭に叩き込んだ構造が間違っており、そのため自重で崩壊したのだろう。

近くの雪が積もっていない場所に座り込み休憩する。
ここに来て、大きな弱点が分かった。
まず、作るのに時間が掛かること。
これは俺の技量の問題だろうが、先ほど崩壊したヤツは、作るのに3分も掛かってしまった。
さらに一機作るだけで体力をほとんど使いきってしまう。

これらの弱点を何とかしなければ実践では何の役にも立たない。
建造時間に関しては、俺が慣れれば何とかなるだろうが…
だが、呪文が完成していない時点で心配をしてもどうしようもないだろう、俺は設計を見直した後、再び実験を行った。

グシャアッ!!

………もう一度だ。




持てる体力全てを使い果たし、倒れるように床につく。
目が覚めると既に次の日の朝、ベッドの元には綺麗にラッピングされた箱が何個か置いてあった。

そう、今日はクリスマス当日だ。
丁寧にラッピングを剥ぎながら中身を確認していく。
キニスからは″箒の手入れセット″、ハーマイオニーからは″箒の手入れセット″…だぶっているな。
ハリーとロンからもプレゼントが届いている、あいつらにもプレゼントを送っておいて正解だったようだ。

去年の失態を踏まえ、俺と交友関係にある奴らには全て送っておいた。
…贈り物など今まで一度もしていないので、気に入ってもらえるかは全く分からないが…おそらく大丈夫だろう、その筈だ。




クリスマスパーティーまでは時間がある、俺は今日もまた禁じられた森へ向かっていた。
あそこは呪文の特訓に適しているが、そもそも立ち入り禁止の場所なのだ、だからこそ人のほとんど居ないこの時期に通いつめている。
しかしクリスマス休暇が終わったらどうする、今度の休暇はイースターまで待たなくてはならない。
だがそんなペースではいつまで経っても完成出来ない。

考え事をしながら、暴れ柳の近くを通り森へ向かう。
暴れ柳か…あの時はひどい目に遭った、そもそも何故こんな危険植物を校内に植えているのだろうか、ここの設計は本当によく分からない。

…? 何だあの窪みは。
そんな事を考え、柳を見つめていると俺は違和感を感じた。
良く目を凝らして見ると、柳の根本に不自然な窪みがある。
隠されてる…というわけではなく、単に雪が積もって見えなくなっているようだが。

感じた違和感、その正体を確かめる為に柳に近づくと、柳は当然暴れ始めた。

「アレクト・モメンタム ―動きよ、止まれ」

また重症を負うのは御免だ、柳の動きを止め窪みに杖を突き刺す。
すると積もっていた雪が崩れ、地下へ続く穴が現れた。
穴の底が明るいのを見ると、何処かへ繋がっているのだろうか。
俺は足を滑らせぬよう、慎重に潜っていった。




穴の出口へたどり着く、そこは何かの建物の中だった、しかし建物は見るからに古く風で軋んでいる。
上へと向かう階段を登り、ヒビが入っている窓を見ると遠くの方にホグワーツが見えた、反対側のは…あれがホグズミードだろうか。

その後建物の中を調べてみたが、人は一人もおらず、動物すら居なかった。
誰かが住んでいたのだろうか、いや、猛獣でも捕らえていたのだろうか? 壁や床にはおびただしい数の爪痕がつけられていた。

…しかし、これは使えそうだ。
ホグワーツもホグズミードも遥か遠く、周りは禁じられた森に唯一の通路…らしき場所は暴れ柳に守られている。
おそらく何かを監禁していたのは間違いないが、もう何年も使用していないようだし、危険な生物も居なかった。

ここなら、余程派手な魔法を使わない限り誰かに見つかる事は無いだろう。
呪文の練習や研究には最適だ、いやそれだけではない。
以前ノクターン横丁に行った時に見つけた店、あの時はまず使えないし、置き場も無いので入らなかったが、ここに隠しておけば問題無い。

暴れ柳のせいで酷い目にあったが、その柳のおかげでこんな良い場所を見付けられるとはな…
一体何に使われていたのか分からないが、ありがたく使わせてもらおう。




休暇が終わって新学期が始まってから、僕は今までの人生で最も長い、と自負出来るほど図書館に籠りきりだった。

休み明けに皆から聞いたけどマルフォイは継承者じゃなかったらしい、結局薬を作る手間が掛かっただけで成果は0…むしろ調合に失敗したのでマイナスみたいだ。

では僕の成果は? さっぱりナシ、手掛かりの欠片も掴めていなかった。
…そもそも人を石にする生き物が多すぎる、この中から一匹に絞るのは至難の技だ。

「あらキニス一人なんて珍しいわね、何調べてるの?」

「スリザリンの怪物…成果はまだ無いけどね…」

「あらキニスも? 私も調べてたのよ。
…まだ分かってないけど」

ハーマイオニーなら何か知ってるんじゃないかって期待したけど駄目らしい。

「一応、手がかりっぽいのはあったんだけど」

「手がかり? どんなの?」

「いや、石にされた人が居た場所を探したり、近くに居た人に話を聞いたんだよ。
そしたらそこは全部水浸しだったみたいなんだ」

「…という事は、怪物は人を石にして、かつ水辺に住む生き物…かしら」

「どうかなあ…近くに水も何も無いのに来れる? このお城かなり大きいし、たどり着く前にカピカピになりそうだけど」

水浸しだったのはあくまで事件があった時だけ、近くの水道管が怪物のせいで壊れていたからだ。
じゃあ水道管を辿って来たのか? でも水道管は細いし、そんなの通れるサイズは限られている。

「うーん、一応その方向で調べてみるわ」

「…あれ? 一緒に調べるの?」

「え? だって個別に調べるより、二人で調べた方が効率いいでしょ?」

「それもそうだね、よろしくハーマイオニー」

「ええ、…あら、あの子ロンの妹かしら?」

図書館の奥に立っていたのはジニーだった、なんだか顔色が悪いし、フラフラしている、大丈夫かな?

「何だか調子悪そうだけど…ジニー?」

声を掛けてみるとオバケでも見たような顔で振り向いて来た、そんなに驚かなくてもいいのに…

「顔色悪いけど、大丈夫?」

「へ、平気です…」

「平気には見えないわよ、マダム・ポンフリーの所に連れて行きましょう」

「い、いいです、じ、自分で行けるので…」

どう見ても辛そうだけど、自分で行けるって言ってるなら大丈夫かな。
それにあまり女の子の体調不良を聞いちゃいけないってママも言ってたし、いざとなればハーマイオニーが連れてってくれるか。

「そう? 本当に辛かったらいつでも言ってね」

「…あ! 聞きたいことがあったんだよ!」

聞き込み調査をしてる内に分かったんだけど、事件があった時、あそこの近くには赤毛の女の子がいたらしい。
勿論全部じゃないけど、三回の内二回は目撃情報があった、それにこの学校で赤毛の女の子と言ったらジニーくらいしかいない。

「ねえ、ジニーって皆が石にされた時、近くに居た?」

「え? …は、はい、近くには居ました」

「やっぱり! じゃあその時変な音を聞いたりとか、何でもいいからその時の事を教えて欲しいんだけど」

「…ごめんなさい、音も聞こえなかったし、人も見てません」

「ちょっとキニス急にどうしたのよ、ジニーが可哀想じゃない」

「あっごめん、事件当時近くに赤毛の女の子が居たっていう話があったから…調子悪いのに呼び止めてごめんね」

「い、いえ…じゃあ、私はこれで…」

むう、何か知ってると思ったんだけど…残念外れだったみたい。
まあそんなあっさり見つかるならこんな苦労はしてないか。

「何も知らなかったかあ…」

「まあしょうがないわよ、さっ調査を再開するわよ、私は水辺の生物を調べるから、キニスは相手を石にする生物を調べてちょうだい」

「はーい」




頭がボーっとする、意識がハッキリしない。
何で、あの時、私はあそこに居たんだろう。
でも、本当に何も聞こえなかったし居なかった。
…そうだ、もしかしたら。

リドルさんなら何か知っているかもしれない。



さだめ、絆、縁。
人間的な、余りにも人間的な、そんな響きはそぐわない。
冥府の臭いに導かれ、地獄の炎に照らされて、
ミルキーウエイ銀河の星屑の一つで出会った、
60億年目のアダムとメシア。
これは、単なる偶然か。
次回「キニス」。
衝撃のあの日からをトレスする。



トム「ほーん、こいつら怪物の正体追っとんのか!」
はい、バジリスク襲撃フラグが立ちました。
そしてキリコ、なんつうもん見つけてんだ。


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第二十話 「キニス」

流石にこうも日常回が続くとだれてきますね…
ようやくターニングポイントです。


クリスマス休暇が終わり数か月が経った、この前まで継承者の恐怖に脅えていたのはどこへ行ったのか、生徒はもうじき訪れるクィディッチに盛り上がっていた。
それもあの決闘クラブ以来継承者の襲撃が無いからだ、もうほとんどの生徒はこのまま何も無く過ぎていくものだと考えている。
またマンドレイクの成長も問題無く、このままいけば収穫できるらしい。

そして平穏な日々の一つ、聖ウァレンティヌスが殉教した日バレンタインデーとなった。
まあこの日は女性が愛を誓うというものだ、男子、俺には特に無縁だろう。

が、今年は例外だった、男も女も皆げっそりやつれている。
その原因はこの大広間に会った。
壁、床、窓の全てから自己主張の激しいピンク色の花が咲き乱れ、薄い青色の天井からはハート型の紙吹雪が舞っている。
なんだこれは、レッドショルダー色の方がマシに見えるなんて初めてだ。

「…やあ、キリコ、元気? ボクスゴイゲンキ」

キニスの目は死んでいた、いや全校生徒及び教員たちも全員死んでいる、俺はまた地獄に迷い込んだらしい。

このカオスの原因をキニスに尋ね…いや必要ないだろう、こんな馬鹿をするヤツなどアレ以外あり得ない、居てたまるか。
新たな地獄と化した教員席には、ピンク色の悪魔が居た。
部屋と同じ色の、汚いピンク色のローブを纏ったロックハートがいい加減見飽きた笑顔の無差別爆撃を放っている。

「あいつは何をしているんだ」

「さあ…でもキリコ、碌な事じゃないって断言するよ」

ロックハートの評価が地に落ちてから半年ほど経ち、今や誰にも相手にされなくなっている。
授業内容は全く変わらず自分の著書の再現演劇、たまに思い出したように魔法生物を持ってきてはそれの暴走を巻き起こす。
生徒はおろか教員からも厄介者扱いだ、いまだにアレを信望しているのはハーマイオニーくらいか…既に半信半疑以下だが。

「静粛に」

ほとんどの生徒が、この光景に唖然としつつも大広間に集まったのを見て、目も表情筋も死んでいる教職員の中からロックハートが喋り始めた。

「皆さんバレンタインおめでとう! 既に46人から私にバレンタインカードが届きました、ありがとう! まだまだ送って大丈夫ですよ!」

あんなのにカードを送るヤツが46人も居た事に衝撃を受けていると、大広間の扉が少し動いているのに気付く。
…猛烈に嫌な予感が脳裏をよぎる。

「そうです! 今日は皆さんを驚かせようと私がこの大広間をこのようにさせて頂きました。
し か も ! これだけではありませんよ、どうぞ!」

ロックハートが指を鳴らすと、大広間の扉から無表情、かつ派手…と言うより奇妙な格好をさせられた小人が重い足取りで入って来た。

「私の愛すべきキューピッド達です! 今日一日学校中をくまなく巡り、彼らが皆さんにバレンタインカードを配ります。
この程度で満足してはいけませんよ、先生方各々もこのお祝いのムードを楽しみたいと思ってらっしゃるのです」

もしも教師陣の死んだ目を知ってやっているのだとしたら、むしろ賞賛してもいいかもしれない。
この爆撃が過ぎるのを待っている教師達をしり目にまだ喋っている。

「さあ皆さん、スネイプ先生に″愛の妙薬″の作り方を聞けるのは今日くらいですよ?
フリットウィック先生は″魅惑の呪文″についてよく知っているそうで、素知らぬ顔をしていて、中々憎いですね!」

フリットウィックもあんな顔をするのだと思わず感心してしまった。
方やスネイプは…そんな事を聞こうものなら劇薬の実験台にされそうな顔をしている。
入学以来見た事も無いスネイプを前に、生徒達は震えあがっていた。

その結果、今日の授業は全て愉快なロックハートで塗りつぶされた。
ロックハートの被害者である小人達は、授業中だろうが何処だろうが、用を足してる時であろうがやって来てバレンタインカードをばら撒いている。

あげくの果てに小人達は、届けて来たカードの内容をその場で読み上げるのだ、当然の如く大声である。
俺はもともと知り合いが少なく、ハリーは後継者疑惑で避けられているから助かったが、他の生徒や人気者は本気の悲鳴を挙げていた。

「わあいとってもうれしいなあ」

目どころか感情も死にかけてるキニスもその一人だ、こいつは元々かなり交友関係が広いので、届くカードの数も桁外れになっている。
余りにもあんまりなので、最初の内は″黙らせ呪文″で対応していたが、カードの数が50を超えてから諦めた。

それにしても、何故よりによって今日魔法薬学の授業があるのだろうか。
教室に入った途端、凄まじい殺気をスネイプは放っていた、まあ当然言えば当然だが。
修羅の形相と化したスネイプは教室の中に小人が入ってくるたびに殺気を放ち、運悪くカードを貰った生徒はその視線を直接浴び震えあがっている。

これは後から聞いた話だが、普段罵りあっているグリフィンドールとスリザリンもこの日ばかりは話すのを止め、人が変わった様に授業を受けていたらしい。

「酷い目にあった」

本当は今日も図書館に籠るつもりだったらしいが、まともに調査出来ないだろうという事でキニスは談話室に避難していた。

「…これを許可したのもダンブルドア校長なんだよね…」

「恐らく、沈んだ空気を明るくしようとしたのだろう…アレは目立ちたいだけだろうが」

そもそも最初の授業日から思っていた事だが、決闘クラブの時といい今日といい、何故ダンブルドアはこんなヤツを雇い入れたのだろうか…




あの地獄から数ヵ月経ったが、いまだに継承者が現れる気配は無い。
無論それにこしたことは無い、だが嵐の前の静けさという言葉もある。

しかしほとんどの生徒達はそう考えず偽りの平穏を謳歌していた、その中でハリー、ハーマイオニー、ロン、キニスの四人だけは毎日図書館に籠り継承者が誰なのか、そして怪物の正体を探っている。

「正体は分かったのか?」

「ぜんぜん…って訳じゃ無いんだけどね…」

キニス達は調査の結果、50年前に秘密の部屋を開いたのがハグリッドという事を知ったらしい。
そして怪物は″毛むくじゃらの生物″だと絞り込む事ができ、今はその毛むくじゃらの生物が何なのかを調べているようだ。

しかしキニスとハーマイオニーはそれを信じておらず、別の可能性を探っているらしい。

「ハリーは凄い大きい蜘蛛みたいな生き物って言ってたんだ。
でもそんな目立つ生き物だったら、誰か見てるはずだよ」

「…ハリーは何故それを知っている?」

「え? …聞いてなかった。
ハーマイオニーから聞いただけだから、…ハグリッド本人に聞いたんじゃないかなあ、ハリーと仲良いみたいだし」

肝心な事を聞いていなかったキニスはばつが悪そうだ。
しかしハグリッドとは…信じがたいな。
…本当にハグリッドなのか? あまり関わらないのでよく分からないが、そんな事が出来るほどあの男は器用に見えない。

仮にハグリッドが継承者だったとしたら、今の継承者はハグリッドの親戚でなくてはならない。
だがハグリッドの親戚が学校に居るなど聞いたことも無い。

「でもハリー達の考えが今の所一番正しそうなんだ。
図鑑を片っ端から見てみたけど、水辺に住んでて相手を石にする生き物なんか居なかったんだ、だから僕の考えも間違ってたんだよ。
…キリコは怪物が何か分かる?」

「分からないな」

「さすがにキリコも分かんないか…せめてあと一つヒントがあればなあ…」

キニス達の調査によって今分かっている事。
一つ目は被害者は全員石になっていた点。
二つ目は現場は全て水浸しになっていた点。
…しかしこれに当てはまる生物は居ない、確かにあと一つ条件が見つかれば怪物の正体も明らかになるだろう。

「ねえ、キリコは怪物調査隊に参加しないの?」

「…いや、遠慮しておく」

確かに怪物を放置するのは危険だろう、しかし今回は状況が悪すぎる。
まず怪物の正体が分からない事、このままでは対策の仕様が無い。
次に正体が分かったとしても、その居場所が分からない。
さらに襲撃の時を狙おうにも、何処に現れるのか見当も付かない。
これでは怪物を撃破しようにも、生徒達を守ろうにも手の打ちようが無い、正直お手上げだ。

「そっかあ…残念」

「すまない」

またもう一つの理由として、あの呪文が完成間近なのもあった。
これは推測だが怪物は大型魔法生物の可能性が高い、この呪文はそういった相手と戦う為の魔法だ。
どうせ止めても無駄なのはよく知っている。
なら怪物の調査はあいつらに任せ、俺は怪物を倒す呪文を完成させた方がいいはずだ。
最も新呪文の開発は余り知られたく無いので、話してはいないが…

「そういえば明日試合だけど…練習しなくていいの?」

「今はグリフィンドールがグラウンドを使っている」

そう、明日はグリフィンドール対ハッフルパフの試合が行われる。
怪物調査に参加できなかった理由として、ここ最近クィディッチの練習が多かったのもその一因だ。

「…勝てそう?」

現在ハッフルパフはレイブンクローに対しては勝利しているが、スリザリンには僅差で敗北している。
対してグリフィンドールは全戦全勝、この状態から優勝杯を奪い取るには相当差をつけて勝たなければならない。
しかしグリフィンドールには現役最強と呼ばれるハリーがいる、開幕スニッチを奪われれば敗北確定だ。
つまり俺達が勝つには、グリフィンドールが点を入れる前にスニッチを奪い取らなければならない、かなり厳しい試合になるだろう。

「分からないな、…だが全力でやるだけだ」

「…ちょっと思ったんだけど」

「何だ」

「キリコって、緊張とか不安とか無いの?」

「どういう事だ?」

「あ、いや嫌味とかそういうのじゃなくて、キリコって去年トイレにトロールが出た時とか、試合前日と時とかも冷静だからさ、どうすればそんなに冷静さを保てるのかなーっと思ったんだけど」

「…しいて言うなら、常に状況を客観的に見る事だ」

今言ったのは嘘ではないが、本当とも言えない。
そもそも意識して冷静になっているわけではない、単に場馴れしているだけなのだ。
敵が急に襲撃してくる事はおろか、味方に襲われる事も何度かあった。
手を抜くわけでも、そんなつもりも無いが、試合にしても実戦に比べれば遊びでしかない以上、必要以上の緊張はしようと思っても出来ない。

「客観的かあ…何だか難しそうだね」

「常に意識していればそのうち慣れる」

「うーむ、…そもそも客観的って何だろう」

「………」

そこからか…まあ普通この年齢で、それをするのは難しいだろう。
そういった年相応な面を見ていると、何だか少し微笑ましくなってくる。
やはり子供が成長していくのは良い物だ、俺はあの忌々しい神から押し付けられた、あいつの事を思い出していた。

「…!? キ、キリコが笑っている…!?」

「…そんなに意外か?」

「入学以来初めて見たよ!?」

いつの間にか顔が綻んでいたらしい、そういえば人前で笑うのは何時以来だっただろうか。
しかし何もそこまで驚くことは無いだろう。

「びっくりした…ま、まああれだよ明日の試合、頑張ってね!」

「…ああ」

ここに来た時、俺は未だに地獄の中を彷徨っていた。
だがこいつと出会ったおかげで、僅かだが希望を持つことが出来た。
こいつと会っていなければ、今俺はどうしていたのだろう。
それがどんなものか、予想するのは難しくない。
未だ地獄に居る事に変わりは無い。
しかしヤツのおかげで、少しだけ生きる事に前向きになれた。
俺は今一度、キニスに心から感謝していたのであった。



人は、ここに何を求める。
ある者は、ただその日の学のため、ペンを走らす。
ある者は、虚栄のために己の手で忘却を与える。
また、ある者は、あてなき願いのために、禁忌と死臭にまみれる。
 秘密は汚れた管をたどり、流れとなり、怪物となって常に獲物をめざす。
次回「奮戦」。
人は恐怖に逆らい、そして力尽きて呑み込まれる。

ロックハートの馬鹿は結構書いてて楽しいです。
同じ無能でも、実力は一応あるカン・ユーとどっちがマシなんでしょうかね…


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