ハリー・ポッターとラストレッドショルダー (鹿狼)
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プロローグ

初投稿作品です、
何とか完結できるよう頑張ります。


それはかつて「異能生存体」と呼ばれていた。
それは不死身の力……では無い、
それは死なない力、
それは死なない状況を作り出す力、
それは死ぬことのできない力、
それは街も、星も、大切な人を犠牲にしてでも生き残る力、
……呪いの力であった。
この呪いのために彼は苦しみ、絶望し、悲しんできた……。

しかしそれも今終わる。「異能」といえども寿命には逆らえなかったのだ。そして彼は幸せの中にいた、かつて幾度も共に死線を潜り抜けた3人の友、共に緑の地獄を、神の棲む星を生き抜いた仲間、そして唯一彼の子供といえる存在、彼らに見守られ確かな幸福を感じながら彼は眠りについた。かつてその手から抜け落ちた彼にとってのささやかな望み、彼女のもとへ行くために、覚めることの無い、永遠の眠りについたのだ……。



ついた、はずだった。


有り得てはならない目覚め、そして彼が見たのは既に息絶えた女性と、赤子となった自身の姿だった。

彼は……俺は理解した、何が起こったのかを、「異能」は俺をとらえて離さなかったのだ、異能は「記憶」と「人格」を保ったまま俺を転生させたのだ、どこか別の銀河、別の宇宙に……
記憶と人格を保ったまま転生する。それは生まれ変わったと言えるのか?死んだといえるのか?俺はこれを「死」だとは思えなかった、認めることも出来なかった。
俺の肉体は死んだ、しかし俺の魂は死ぬことができなかった、俺は再び地獄へ迷い込んだのだ。

しかしそれは今までに比べればはるかにマシな地獄だっただろう、
生まれると同時に母を失った俺を引き取ってくれた、新たな両親は俺に惜しみない愛情を注いでくれた。それは炎によって両親の記憶を奪われた俺にとって初めて感じるものだった、かつて…もう出会うことのできない彼女と交わした「愛」、もう二度と感じることないと思っていたそれを彼らは与えてくれた、それは地獄のなかで得た、かすかな炎だった。
しかしそれは、またもや炎によって奪われた、俺が6歳の時、何者かによって俺の家は炎に包まれたのだ。
母は俺を守るために死に、
父は俺を救い出すために死んだ。
俺は再び地獄へ、地獄の最底辺、ボトムズへ叩き落とされた。


……再び愛を奪われた俺に残されたものは何もなかった。
もう愛を得ることも
もう希望を抱くことも
もう死ぬこともできない
あてもなく俺は地獄をさまよう
絶望のまま…惰性のまま…

地獄をさ迷い続けるキリコ・キュービィー、
地獄に再び炎が灯ったのは11歳の誕生日の時であった。



魔法界を真っ二つに分けた、闇払いと
死喰い人が、杖を交えて数十年。
死喰い人の長が滅ぼされ、ようやく終戦となった
大戦の末期。イギリスの辺境、リドの町の
闇の中で物語は始まった。『ハリー・ポッターと
ラストレッドショルダー』、お楽しみに。


次回予告ネタは続けられるだけ続けます……。


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「賢者の石」篇 第一話 「開演」

事実上の第1話です、
予定としては
Part3まではキリコによる被が…
…活躍は抑え目で行こうと思います。


…その日の天気は雨だった。
季節は夏だったがこの国はイギリス、夕刻になれば少し肌寒くなる、雨なら尚更だ。
確かあの日は、そんな日だった。

俺は自分以外誰も居ないこの家で、一人読書に耽っていた。
何の本だったかは覚えていない、いや、今を忘れられるものなら何でも良かったのだろう。
唯一の希望が潰えたあの日から、俺は惰性のまま生きるしかなかったのだから。




遥か昔の記憶が、今でも思い出される。
何処もかしこも鉄と硝煙、血と戦争で溢れていたあの世界。
牙を持たねば生きていけないあの世界で、右肩に鮮血を背負い続けたあの日々。
そこで俺は、白いシーツのベッドに横たわっていた。

「…キリコちゃん!」

勢いよく開かれた扉の音が、掠れた耳に僅かに響く。
朦朧とする景色だったが、それが誰かは直ぐに分かった。
…最初は利害の一致に過ぎなかった、だが数々の地獄を共に潜り抜けていく内に、それは仲間と呼べるモノに変わっていった。

「―――キリコ!」

かつては明るく快活だった声も、今では漸く落ち着いてくれたようだ。
少し皺ができた手で、彼女は俺の手を握った。

「キリコ! 聞こえてるの!? 聞こえてるなら返事をしてちょうだいよ!」
「落ち着けココナ! 落ち着けって…ブフォッ!?」

鈍い打撃音が部屋に響く、この遣り取りも今となっては愛おしい。
思えば彼女が居なくては、俺は無事ではいられなかった。
治安警察に捕まった時も、彼女が説得してくれたんだと、とっつぁんは言っていた。
結果的に彼女の思いは裏切ってしまったが、その思いは純粋に嬉しかった。
…こう何度も見せられては、流石に呆れてくるが。

「痛っいじゃないの!?」
「うっさい! あたいは今キリコと話してるんだ!」
「お母さん…あの…お客さんみたいだけど」

確かあの二人の娘だったか、彼女の声の後聞こえてきたのは重い足音。
この足音も忘れはしない、彼も来てくれたのか。

「…キリコ」
「…シャッコか」

始めて出会ったクメンの地獄、それからクエントで再開した時の嬉しさ。
神の後継者を演じていた時に傷つけてしまったが、事情を知った後はあっさりと許してくれた。
それからもア・コバのバトリングといい、ヌルゲラントといい頼れる戦友でいてくれた。

「あー! キリコが起きた!」
「ちょっと少しは静かにしろよ! お互い良い年何だから!」
「…そうだ、もう静かにしてやれ」
「…うん、ちょっとはしゃぎ過ぎた」
「何でシャッコちゃんの言う事は素直に聞くのかねホント」

年を取っても全く変わる様子の無いこの光景に、思わず苦笑が毀れる。
今思えば、この遣り取りに救われていた事もあるのかしれない。
もうここには居ないとっつぁんもだ、あいつのお人好しのお蔭で、俺は人の心を漸く取り戻せたのだから。
…まあ、金のがめつさには多少呆れたりもしたが。

「…やっと、やっと終わるんだね」
「ああ…本当にな」

長く長く、夥しい数の別れを経験した俺の命は、今終わろうとしていた。
この力のせいでどれだけ苦しんできたのだろう、悲しんできたのだろう、数える事すら苦しみを感じる。

「…ぶっちゃけ、寿命で死ねるか不安だったんだぜ?」
「まあ確かに…まさかコールドスリープから目覚めてるとは信じられなかったよ」

そうだ、彼女と戦争の無い世界を夢見て自殺同然のコールドスリープに俺は入った。
だが眠りは砂糖菓子の様に崩れ、再び地獄に堕ちた。
そして、その果てに彼女を失った。
フィアナという、ほんの僅かなささやかな祈りは、まさに炎の如く掻き消えてしまった。

それでも尚俺は生き続けた、それが彼女の祈りでもあったからだ。
俺は生きた、地獄の中で、何度も何度も戦いに呑まれながら。
死にたくても死ねない悪夢の中でもがき続けた。
…その中で手にした者も、僅かにあった。

「…………」

徐々に冷たくなる手に、人の温もりが滲みて行く。
かつて神に無理矢理押しつけられた、いたいけなる混沌。
それも今はすっかり大きくなり、柔らかかった手はいまはごつごつとしている。

「…お父さん」
「…………」
「…お疲れ様」

俺の無口な所まで完全に移ってしまったのか、最後の別れだというのに碌な言葉も交わさない。
だがそれは、下手な飾りで誤魔化した言葉よりも遥かに優しかった。

「そうだな…本当に…大変な一生だったな…」
「うん…やっと、やっとフィアナに会えるんだね」

…どんな地獄の中でも俺が生き延びてこれたのは、彼女を目指していたからだ。
本当にあの世があるかなど分からない、確かめようも無い。
しかし俺にとっては、それだけが最後の希望だったのだ。

時には″異能″の力によって寿命も迎えられないのではないかと不安にもなったが、幸いこうして死を迎える事ができた。
因果さえ歪める力であっても、寿命と言う絶対の法則には敵わなかったという事か。

「…やっぱり寂しいな、キリコが居なくなっちゃうなんて」
「言うなよ、分かるけどさあ…もう十分過ぎる位に戦ったんだ、休ませてやろうじゃねえか」

…次第に意識が遠のいていく、如何やらそろそろらしい。
全身が今まで感じた事の無い寒気に覆われて行く、かつての様な死に掛けの感覚とは違う確信的な″死″の冷たさ。
だが、今となってはそれすら愛おしい。
俺にとってこの恐怖は、彼女との再会を祝う春風の様に感じていた。

「…ココナ」
「…え? どうしたんだいキリコ?」

動かなくなっていく唇を懸命に動かし、俺の最後の思いを綴っていく。
これをせずに、旅立つ訳にはいかない。

「バニラ…シャッコ…」
「…………」
「キリコちゃん…?」

掠れて何も見えないが、俺の人生で家族と言える彼に目線を向ける。

「…うん、分かってる」

もう何も言わなくても分かっているらしい、最後に今ここに居ない彼等の名前を呼ぶ。
ゴウト…
そしてフィアナ…

「…皆に会えて良かった…」
「―――!」

硝煙の染みついた体に、冷たい水が滴り落ちる。
冷え切った手を、誰かの手が温める。
既に何も聞こえないが、思いは十分に分かった。
皆の事を―――決して――――忘れない―――――


…体が重い、全身に重しがついた様だ。
目の前は暗く染まり、何も見えない。
ここがあの世なのか?
天国には見えない、地獄へ堕ちたのか?

…体を動かそうとするも、上手く動けない。
いや、まるで体が自分の体ではない様な感覚だ。
何とかしようと腕を伸ばした時、俺は決定的な違和感に気付いた。

…この腕は誰のだ?
俺の腕はこんなに白くない、それに柔らかくもなければ短くもない。
まるで赤子の様な…

まさか、そんな事が?
いやある筈がない、そんな出鱈目あってたまるものか。
脳裏を過る予感から逃げる様に周りを見渡し、今を確認しようとするがそれは現実をより深く叩き付けるだけだった。

天井を回る、メリーゴーランドの様な物。
周りを覆う、ベッドの柵の様な物。
…認めたくなかった、だが認めざるを得なかった。

…俺は赤子として生まれ変わったのだ。
こんな事が起きた理由は一つしかない、異能だ、異能は俺の精神を生き残らせたのだ。
肉体を生かせなかったから、精神だけ生き残らせたのだ。

しかし、俺が落とされた地獄はこんなモノではなかった。
自らの今を知ろうと懸命に首を動かす中で、俺は見てしまった。
一人の女性が、ベビーベッドに凭れ掛かっているのを。

一目見て分かった、動かない肩、血の気の感じられない顔、口から垂れる赤い液体。
彼女は既に死んでいた。
その意味も、すぐに分かった。
彼女は俺の母親だ、何故だかは分からないが、俺は再び孤独になったのだと。




間も無くして俺は警察に保護され、孤児院に送られた。
だが母親が誰だったのかも分からず、分かっていたのは、この世界でも俺がキリコ・キュービィーだったという事だけ。
それは非情にも、異能の力までそっくりそのままだという事も意味していた。

孤児院での生活に、不自由はなかった。
食事は質素な物、多少のルールを強要されたが、何れも前世より圧倒的に楽かつマシなものだったからだ。
暮らしてすぐに分かったが、俺が生まれ変わったのはアストラギウスとは別の銀河…もしくは別の世界だった。

そこにはどこまでも続く戦いも無い、無論俺の力と過去を知る者も居なければ追われる事も無い。
あそことはまるで違って、少なくとも俺の居た国は平和といえる。

…しかし、しかし希望だけは何処にも無い。
異能生存体の力が魂にまで働く事が分かった、それはつまり、どう足掻いても彼女の居る場所へ行けない事を意味する。

ささやかな望みが、永遠に幻想のままであると知ってしまった俺は絶望した。
彼女に会えないなら、何故生きるのか。
何の為に生きて行けばいいのか。
俺は何に縋ればいいのか。
そうだ、俺は賽の河原に落とされてしまったのだ。




…それでも、救いが無い訳ではなかった。
四歳の頃、孤児院に二人の男女が訪れた。
如何やら子供を産めない体らしく、その為ここに来たらしい。

よくある話だ、これまでにも何人もここを訪れている。
最も俺を選ぶヤツらは居ない、正確には選ばれない様にしていた。
理由は簡単だ、俺は全てに疲れていた。
関わる事にも、築く事にも深める事にも、そして失う事にも。
にも関わらず彼等は俺を選んだ、それを当然疑問に思った。

何故、俺なのかと。
彼は答えた。
君が一番寂しそうだったから。
彼女は答えた。
君はきっと、一番優しい子だから。

…彼らが何故そう感じたのかは、いまだに分からない。
何回か聞いては見たが、何れも同じ答えしか返ってこなかった。
しかし、理由が分からずともその言葉は、深く胸に響いた。
そして俺は、彼等の養子になったのだ。

そこから俺の人生は大きく変わった、劇的に変わった訳ではないが、決定的に変わった点が一つある。
彼等は俺に、惜しみない愛を注いでくれたのだ。
前の世界でもこの世界でも、親の愛を知る事のできなかった俺にとって、それは初めて感じる温もり。

二年間、俺は間違いなく救われていただろう。
親の愛が、これ程までに優しいものだったとは。
…そう、それは二年間だけだった。

俺が六歳の時、家は火に覆われた。
それも俺が気付いた時には、火が回りきり手遅れだった。
…だが俺は生き残った。

彼女は全身を炎に包まれながらもその身を挺し、俺を炎から守ってくれた。
彼は一人炎の中を走り、俺を炎の中から連れ出してくれた。
…数刻後消防隊が到着した頃には、二人とももう息をしていなかった。
俺は彼等の命を喰らい、生き残ったのだ。




あれから数年、保護者を名乗り出たヤツ等は居たが全て断った。
再び両親を失った俺は、また大切な人を失うのを恐れていたのだ。
誰かと関わる気力すら失った俺は、雨の中、誰も居ない家で一人本に逃げ込む。
現実を忘れる為に、昨日も今日も、明日も明後日も…

唐突に鳴らされる玄関の音。
…空想の中に逃げるのも許されないのか、と自嘲しながら玄関へ向かう。
近所付き合いは最低限のみ、勉強も通信講座ですましている以上学校でもない。
なら大方セールスの類だろう、さっさと断り読書に戻ろう。
そして扉を開けた時、俺は目を丸くした。

何故なら、目の前の男は余りに怪しかったからだ。
人の事は言えないが厳つい顔つきに、全身を覆う黒いローブ。
頭髪は洗っていないのか、ベッタリと張り付いている。
形容するならば、育ち過ぎた蝙蝠と言った所か。
…警戒するなという方が無理だった。

「…………」
「…………」
「………………」
「………………」
「……………………」
「……………あー…」

先に口を開いたのは、怪しすぎる男の方だった。

「キリコ・キュービィーで合っているな?」
「…何の用だ」
「我輩の名はセブルス・スネイプ、ホグワーツ魔法魔術学校の入学案内をする為に、ここへ来た」

俺は思った、こいつは一体何を言っているのだと。




「…ああ、すまん」

椅子に座るその男、セブルス・スネイプにコーヒーを差し出す。
ヤツは軽く礼をした後一口飲んだが、眉間によった皺をより深くしながら角砂糖を三粒入れていた、どうやら苦すぎたらしい。

最初は頭のおかしい不審者か胡散臭い宗教勧誘かと思ったが、それにしては目も口調もしっかりとしている。
嘘を言っている様には見えず、仮に本当に不審者だったとしても多少話してやるくらいいいだろう。
そう考え家に入れる事にした。

普通に考えればこんなヤツを家に入れるなど考えられない、俺は自分でも気付かない程人との関わりに飢えていたのかもしれない。
誰かと関わる事を拒絶しているのに、誰かと関わりたいと願う。
そうした矛盾を、心の奥底に押しとどめながらヤツの話を聞いて行く。

いわく、この世界には魔法と言う一般人には秘蔵された神秘の業が存在し、ホグワーツ魔法魔術学校はそれを学ぶ事ができる場所。
それだけでなく魔法に関わる概念や魔法使いが持つべき理念、制約や常識などを学ぶ事もできる。
そこには誰でも入れる訳ではなく、魔法を扱う素質があるヤツのみが入学できる。
逆に言えば、魔法の素質さえあれば過去魔法に関わってこなかった…向こうで言う処の″マグル″でも入学できる事。

「…俺に素質が?」
「左様、魔法使いの素質がある者を見つけ出す為の魔法がある」
「…………」

そうは言うが、俺は今まで魔法などした事もない。
本当に素質があるのか?
その疑問を見透かした様に、ヤツは話し出す。

「疑問に思っているようだな、自分が本当に魔法使いなのかと。
だが間違いなく魔法使いだ、これまで生きてきて何か、既存の物理法則に囚われない不可解な現象を目にした事はないかね?」

無い事は無い、今まで何回か不思議な事が起きた事はある。
…だが、それが魔法なのか異能なのかが分からない。
疑問を何となく察したのか、眼前の男は懐から杖を取り出すとそれを振るった。

「…………!」
「これが呪文というものだ」

机に置いておいたカップの中身は、途端にコーヒーから紅茶へと変わる。
更に本棚の本が次々と動き出し、集まり変化した後烏に変身した。
…成程、ヤツの言っていた事は本当の様だ。
事前に仕掛けておいた可能性もあるが、俺がそれに気付かない訳はない。

「…魔法を見ても驚かんとはな…やはり魔法についての知識を持っているのかね?」

俺はその問いに、首を振る事で答える。
驚いていない訳では無いが、こういった超常現象に慣れているのが反応の少ない理由だ。
何せ俺の異能だって魔法の様なモノ、出鱈目なのは両方ともだ。

(…出鱈目? 両方共…?)

その瞬間、俺の脳裏に一つの可能性が走った。
″異能生存体″、″魔法″。
どちらも同じく出鱈目な力だ、そう、両方共…同じような力だとすれば。

「君がホグワーツへ入学すると希望するならば、今すぐ入学する事ができる。
しかしそうでないのなら、本日の記憶を消さねばらな―――」
「入ろう」
「…何?」

目を丸くしながら聞き直してくる、早すぎる返答に少し戸惑ったらしい。
その混乱を消す為に、俺は改めて明瞭に断言した。

「…ホグワーツに、入学させてほしい」
「…さようか、ならば…」

今度は聞きもらしてはいない様だ、ヤツは一枚の羊皮紙を取り出す。
そこに名前をサインする事で、入学手続きが完了するらしい。

「これに名前を書けば、君は正式にホグワーツの新入生となる。
正しこの紙はただの書類ではない、魔法契約が掛けられている」

魔法契約とは何だ? 名前から察するに魔法による契約だろうが…
直球過ぎる推測を他所に、ヤツは詳細を語り始める。

「魔法契約とは文字通り魔法による契約だ、名前を書く事は単なる証拠では無い、契約に対する決意を証明しているのだ。
よって一度書いたら最後、決意を破れば…相応の報いがある」

…成程、つまり契約を破れば誰かが見ていなくても、自動的に制裁が行われるという事か。
だが問題はない、既に心は決めてあるのだから。
羊皮紙と一緒に差し出された羽ペンをインクに漬け、俺の名前を刻み込む。
すると俺の名前は光を放ち、染み込む様に消えて行ってしまった。

「…成程、余程魔法が魅力的だったらしい、これで君は魔法使いの世界の住人となった。
であるからには守らねばならぬ義務がある」
「…義務」
「魔女狩りを知っているかね? あの愚かな歴史が証明している様にマグルは魔法族を恐れる。
魔法界が隠蔽されていたのはそれが理由だ、例え我々に犠牲がでなくとも大きな騒乱を巻き起こす。
よって魔法界には、魔法の事をマグルに教えてはならぬという法が存在している」

要するに余計な面倒を避ける為に、誰にも言うなという事か。
もっとも言った処で、信じるヤツは殆ど居ないだろうが。

「…了解した」
「左様か、では次の説明に入ろう」

その後ヤツは入学するに当たって必要な物や、準備等を説明した。
そして入学用品を買うのに自分が同行してくれると言ってくれた、何故かと聞いた所「教員の義務」と言っていた。
一通り言い切った後、ヤツは「明日の正午頃準備して待っていろ」と言い残し帰って行った。

「では、吾輩は失礼する」
「ああ…………」
「…………?」
「いえ、これから宜しくお願いします、スネイプ先生」
「…ああ」

顔を上げた頃には、既に居なくなっていた。
…ヤツを見送った俺は考えていた。
魔法の事を、今まで思いつきもしなかった可能性に俺は僅かな希望を見出した。
この力なら終わらせられるかもしれない。
この力なら叶えられるかもしれない。
この力なら―――



俺 を 殺 せ る か も し れ な い 。



地獄に下ろされた蜘蛛の糸を、慎重に手繰り寄せ俺は登り出す。
この地獄から逃れるために、今度こそ「彼女に」出会うために。
例え登りきった場所が、新たな地獄だとしても…



異能の手を逃れたキリコを待っていたのは、また地獄だった。
戦いの後住み着いた絶望と怠惰。
魔法使いが生み出したソドムの街。
悪徳と野心、頽廃と混沌とを大鍋にかけてブチまけた、
ここは魔法界のゴモラ。

次回「ダイアゴン」。
来週もキリコと地獄に付き合ってもらう。


ダイアゴン横丁がソドムと化していますが気にしてはいけません。


追記 後書きを少し修正しました。


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第二話 「ダイアゴン」

いまはこの投稿ペースだけど
絶対遅くなっていく気がする。
それでも何とか頑張っていきます。

…事前に書いとけばよかった


その日の家事を一通り終わらせた後、俺は椅子に腰掛けながら入学案内を眺めていた。
必要な物の欄には杖にローブ、制服に教科書、連れていける動物の種類等が書かれているが、それらが何処で買えるのか見当もつかない。
金もありったけ持ち出してはみたが、使えるかすら俺には分からないのだ。

だがそれは魔法を知らなかったのだから当然、だからこそ教員が付き添ってくれるのだろう。
準備を終わらせ、少し経った頃12時丁度に玄関のチャイムが鳴り響いた。

「…こんにちは」

やって来たセブルス・スネイプは相変わらず不機嫌そうな顔を崩そうとはしない。
…いや、これが素なのだろう。

「準備はできているな、行くぞ」

そしてヤツは右手を俺に突き出した。
…握ればいいのか?
心の中で首を傾げているとますます不機嫌そうになってきたので、さっさと手首を摘む。

その瞬間胸を引っ張られる様に―――景色がぐるりと回り見知らぬ光景が現れた―――かと思った時にはまた別の薄暗い光景に―――次の瞬間、俺は地面に転がっていた。

いや転がってはいない、少し姿勢を崩しただけだ。
今のは瞬間移動の類いだろうか、体勢を立て直し周囲を確認すると、大勢の驚く顔が飛び込んできた。

「…ここは?」
「″漏れ鍋″というパブだ、ここから″ダイアゴン横丁″に向かう」

成程、確かに充満したパイプやアルコールの臭いは、正にパブそのものだ。
横丁というからには商店街、それも魔法使い専用の店があるのだろう。
…だが、そこは何処にあるのだろうか。

「おや珍しい、いらっしゃいスネイプ先生。
…そちらの子は?」
「本年度の入学生だ」
「そうですか、こんにちは坊や、私はこのパブを営んでいるトムと言います」
「…キリコ・キュービィーだ」

その後トムは何か話したそうにしていたが、スネイプが此方を睨んでいるのに気付き早々に切り上げた。

そしてスネイプの後を追い奥の扉から外へ出る、そこからダイアゴンに繋がっているのかと思ったが、そこはバケツや箒が置いてあるだけの裏路地だった。

此処からどう行くのか、疑問に思っているとヤツは懐から杖を取りだし、煉瓦の壁を複数回叩く。
すると煉瓦は怒濤の勢いで回転しながら組変わっていき、気付けば巨大なアーチができたがっていた。

「ここがダイアゴン横丁だ、大抵の物はここで揃う、だがまずマグルの貨幣を換金しなくてはならない、持ってきているな?」
「…はい」
「宜しい、ではまずグリンゴッツへ向かう」

使えるか不安だったが換金できるのか、不安を払拭された事で俺は周りを見渡せる様になる。
箒の店にローブの仕立て屋、何に使うのか見当もつかない巨大な大鍋にガラス瓶等見た事もない店が立ち並ぶ。

そこらでは魔法で動かしているらしい人形が躍り、客の目を引く。
俺は改めて、今までいた世界とはまるで違う事を実感していた。

見知らぬ場所は幾つもさ迷ってきたが、ここまで非現実的、そして興味をそそられるのは始めてだ。
そうこうしながら街を歩いていると、他と比べ明らかに巨大で浮いている建造物が見えてきた。

…あれがグリンゴッツか、その予想通りスネイプの足は向こうに向かっている。
続いて中に入ると、大勢の人が忙しなく行き来していた。

中でも一番目立つのはあの銀行員の様な生き物だろう、鬼というには小さくゴブリンの様な印象を受けるその生き物は丸眼鏡をかけ髭を生やし、シワ一つ無いスーツを着こなしながら天秤を使って作業している。

珍しい者を眺めていると、一番奥の高い机に座っているゴブリンに目が合う。
スネイプの視線もあそこに向いている、換金場所はあそこなのだろう。

「マグルの通貨を換金したい」
「換金ですね、では係の者を呼ぶので少々お待ち下さい」

受付が手元のベルを鳴らすと、換金担当のゴブリンが現れた。
ヤツの後を付いて行き、奥の小さな部屋へ案内されると換金手続きが始まる。
ありったけの金を持ち出してはみたが、果たして足りるのだろうか。

「…ふむ、この量ですと…こちらの額になります」

貨幣を図り終え差し出された用紙を見てみるが、魔法界の物価を知らない俺にはさっぱりだった。

「…先生、これは十分なんでしょうか」
「…数年間は持つな、だが十分ではない」
「…足りなくなったら」
「何、返済不要の奨学金がある、それを使えば問題ない。
…もっともお前にそれだけのやる気と才があればだが」

…節約すれば十分持つか、やる気に関しても問題ない。
この入学には、俺の人生全てが掛かっていると言ってもいい、やる気が出ない訳がない。

その後換金ついてに金庫を作る事になった、金庫管理もやっているとはな、ここは魔法界の中でも特に大きい銀行なのだろう。
換金された魔法界の貨幣を受け取った後金庫へ案内してもらう、そして俺は久し振り猛スピードを体験する事になった。

乗り込んだトロッコは減速という概念を知らないかの様なスピードで走り、急カーブやら一回転に跳躍等ジェットコースター顔負けの駆動をし、軽く気持ち悪くなった所でやっと金庫に辿り着いのだった。




換金を終わらせグリンゴッツを後にした俺達は、遅めの昼食を取る事にした。
とはいえ二人ともそんなに腹が空いてもいないので、出店でサンドイッチを買う事にした。
尚買ったのはキューカンバーサンドイッチ…キュウリサンドだ。

しかし貧相と舐めてはいけない、塩による濃い味付けを施されたキュウリはしっかりとした味を主張している。
更に塩のおかげでパンが水浸しになる事もなく、野菜の生臭さも消している。
流石かつても上流階級御用達だった事はある、…最も今や庶民の味方だが。

最初に訪れたのは薬問屋だった、スネイプはホグワーツで魔法薬学という科目を請け負っているらしく、どんな材料が良いか、どんな薬瓶が最適化…等といったアドバイスをしてくれた。

その後は鍋屋にマント、望遠鏡の店等で必要な道具を買い揃えていった俺達が次に訪れたのはオリバンダーという職人が営んでいる杖屋だった。
かなり有名らしいが、肝心の店内は埃っぽく細長い箱が散乱していたりと、お世辞にも儲かっているとは考えにくい。

「…不安そうだな」

…顔に出ている程だったか、ヤツはそう呟きこの店の利点を説明してくれた。

「杖は一生使う物、使い手の素質を見抜き、その力を引き出す重要な要素だ。
故にその辺の出店で売っている様な粗悪品を買うのは素晴らしい愚か者と言える、それに対しオリバンダーが作る杖は芸術品とも言える」
「そこまで言って頂けるとは、長年生きた甲斐があります」

そう言いながら箱の山から現れた老人、ヤツがオリバンダーか。
待ちくたびれたといった空気を纏いながら、スネイプが要件を伝える。

「この子の杖を選んで貰いたい」
「分かりました、初めまして私はオリバンダーと申します。
杖というのは一本一本強力な力を持った物を芯に使っております、同じユニコーンの毛でも同じ個体はおらず、故に同じ杖はこの世に一つとして―――」
「あー、吾輩は必要な教科書を買ってくる、ここでじっくりと杖を選んで貰いたまえ」
「…………」
「…では採寸からいきましょう、…杖腕はどちらですかな」

うんちくを無慈悲にたたっ切られた店主は少し物悲しい顔をしながらも採寸をし、終えた後店の奥に入り、一本の杖を差し出してきた。

「樫にドラゴンの髭、23cm、頑固だが火に適する」

杖を受け取った俺はそれを空で一振りする。
…しかし何も起こらず、念の為もう一度振ろうとする前に杖を引っ手繰られてしまった。

「駄目ですな、では次、杉に人狼の頭髪、21cm、極めて気難しい」

再び杖を振るうが、先端から軽い風が吹いただけでそれっきり何も起こらなかった。

「ならばこの新品の杖はどうでしょう、特殊形状記憶合金テスタロッサにキューブ、最新技術を惜しみなく搭」
「次だ」

そんな杖あってたまるか、その杖を即座に断った後も幾つか試してみたがどれもしっくりこない。
そのうち店主は店の奥に入ったきり出てこなくなってしまった。
気付けばスネイプが戻って来てしまっている、驚いた顔を浮かべているあたり相当時間が掛かっているらしい。
…その時、店の奥から地鳴りの様な音が聞こえてきた。

「…一体何の音だ?」

箱でも崩れたのだろうか、すると店主が奥からやっと出てきた。
…他と比べ明らかな異彩を放つ、巨大な箱を持ちながら。

「ありました、この店開業以来誰も触れた事の無い杖ですが、もしかしたら…」

そう言いながら箱を開け、取り出された杖は箱同様今までとはまるで違う、禍々しささえ感じられる物だった。

「吸血樹にケルベロスの脊髄、長さ40cm太さ直径4cm、威力こそありますが重く扱い辛く極めて凶暴」

差し出されたそれを手に握る、…とても杖とは思えない重量だ。
指先で持つ事等絶対にできないそれを、掌でしっかりとホールドし、若干振り回されながらも振るった。

「わあああああ!?」

瞬間、閃光が弾けた。
耳を劈く爆発音と、オリバンダーの悲鳴が響き渡る。
それがやっと消えた頃、俺は店の床の一部が消し飛んでいる事に漸く気付いた。
…俺を含め全員放心状態になっていたが直ぐに気を取り戻し、代金を払い店を後にした。

俺はこの杖に酷く懐かしい感覚を覚えていた。
この重さ、扱い辛さ、扱う者の事を微塵も考えていない様なこの設計。
しかし、どんな敵でも打倒してくれると思える力強さ。
それはかつてあの銀河で生きていた頃、俺が信頼し常に持ち歩いていたあの武器。
″バハウザーM571アーマーマグナム″によく似ていた。



あの子が去った後、儂は強烈な不安に駆られていた。
それはまるで、″例のあの人″に杖を渡してしまった時に感じた不安…とはまた違う感覚じゃった。
オリバンダー自身は分かっていなかったが、その正体は″違和感″と言うべき感覚。
あの少年が人では無い、何かバケモノの様な。
恐ろしい″異常″を呼び覚ましてしまったのではないかという、あやふやな不安だったのだ。
儂は祈らずにはいられなかった、この不安が自分の勘違いであると…



後残ったのは洋服だけだったので、マダム・マルキンの洋服店と言う店に行く事になった。
店に入ると、恰幅の良い中年の女性が出迎えてくる。
店内には既に、俺と同じ入学生であろう眼鏡と金髪の少年が話している。

「あらいらっしゃい、坊ちゃんもホグワーツの?」
「…はい」
「この少年の服を頼む」
「はい分かりました、ではまず採寸をするのであちらの台にどうぞ」

そのまま問題無く採寸を済ませ、仕上がるのを店内で待つ事となる。
普通そこそこ時間が掛かる筈だが、彼女は「数分でできますよ」と言っていた。
これも魔法による技なのだろう、魔法様様と言った所か。
と、色々考えながら待機していると先に居た金髪の少年が急に話しかけて来た。

「ん? やあ君もホグワーツの新入生かい?」
「…ああ」

何やら嬉しそうに話しかけては来たものの、後ろに居た眼鏡の少年は何故か機嫌が悪そうだ。
答えを考える間もなく、ヤツはまた話し始める。

「君の両親も彼と同じく、僕達と同族なんだろう?」

彼…とは眼鏡の少年の事だとして、同族とは何の事だ?
何を言っているかまるで分らなかった俺は、明らかな事だけを言うしかない。

「…さあな、俺の両親は死んでいる」
「あ…す、済まない…」

明るい筈がない返事に、空気が一気に重くなる。
暫くの沈黙が経ち、耐えきれなくなった金髪の少年が場を少しでも明るくしようとし始める。
…それは完全に逆効果だったのだが。

「でも君の両親はきっと立派な魔法使いだよ、何せ雰囲気が違うからね。
その大人びた空気、他の連中とは絶対に違う」

大人も糞も、精神は相当な歳を食っているからなのだが…
仕方のない勘違いをしたまま、ヤツの論弁は続く。

「君達もそう思わないかい? 他の連中は入学させるべきじゃないんだ。
僕達純血のように常識のある生き方をしてこなかったんだよ、…君は仕方が無いけど。
ともかく、手紙を貰うまでホグワーツの事を聞いた事も無いような、特にマグルの血が混じってる連中と一緒にいるなんて考えたくも無いね」

…果たして、これは場を盛り上げようとしているのだろうか。
真剣に疑問に思いつつ横を見ると、眼鏡の少年がますます不機嫌になっているのに気付く。
しかし金髪の方がそれに気付く様子は無い。

「ほら見てごらん、あそこ! 森番のハグリッドだ! 言うならば野蛮人だって聞いたよ。
学校の領地内に掘立小屋を建てて暮らしてるんだってさ」

途端に眼鏡の少年の顔が、怒涛の勢いで赤く染まっていくのが分かる。
…ここまで聞いて大体察したが、ヤツはあまりできた人間ではないようだ。
どちらかと言うと、()()()()の様な自尊心が高い…簡潔に言えば面倒な連中と同類なのだろう。

「信じられないだろ? あんな所で生活なん―――」
「終わったぞ」

仕立てが終わったらしい、スネイプが服の入った紙袋を持ってきてくれたようだ。
袋を受け取った後代金を払い、買い残しがないか確認する。
…問題は無いようだ。

「あ、あれ? スネイプ先生?」
「準備はできたか」
「はい」

時計をチラチラ見ながら言っている、時間が無いのか?
手を突き出し掴むよう促してくる、行きと同じ呪文を使うのだろう。

「あ、おい! 話は終わってな―――」
「マルフォイ、すまないが時間が無いのでな、まあ彼とは特急でまた会えるだろう」

と言い残したと気付いた時には、腹を掴まれる浮遊感と共に自宅の前に立っていた。
最後に何か言いかけていたようだがどうでも良い事だ、ああいったヤツの話は聞く価値も無い、面倒なだけだ。
…そもそも純血とは何の事なのだろうか、大方差別用語の類だろうが。

「…これで必要な物は揃ったな、では吾輩は帰らせて貰う。
ホグワーツへ行く汽車のチケットは袋の中に入れてある」
「了解しました、今日は色々ありがとうございます」

そう言いお辞儀をして暫く経つと、瞬間移動をした時と同じ″バチン″という音が静かな住宅街に鳴り響く。
顔を上げてみれば、ヤツの姿はもう何処にも無かった。

家に入り荷物の整理だけ行った後、俺は夕飯の準備に取り掛かる。
本当は今すぐ寝たい気分だったが、腹を空かしたままでは満足に寝る事はできない。
それからシャワーを浴び、ペットとして購入した鼠に餌をやった後俺はベッドに倒れ込み、そのまま寝てしまった。

久し振りに動き回ったせいか、俺はだいぶ疲れていた。
しかしそれは今までの様な、生きる事そのものへの疲れでは無い。
地獄に垂らされた一本の糸を、紛い物でないか慎重に確かめる。
あれは幻では無かった、この疲れが確かな現実だという事を教えてくれた。
ならば焦る事はない、ゆっくりと糸を登って行けばいい。
だからこそ、今は眠ろう。
明日につながる、今日ぐらいは…


*


「只今戻りました、校長」
「おおセブルス、ご苦労じゃった」

今日はだいぶ疲れた、急に梟便が来たかと思えば『人手が足りないので入学案内を手伝っておくれ』と言われてしまった。
正直面倒だったが行かない訳にもいかない、吾輩以外にも手の空いてる者等幾らでも居るだろうに。

「それで、どうじゃった? あの子…キリコ・キュービィーは」
「彼ですか、…取り立てて言う事は御座いませんが、しいて言うなら物静かな子…と言った印象でしょうな」

あの少年…魔法を見せても殆ど反応しなかったのは印象的だった。
大体の連中は家族も巻き込んで大騒ぎするのだが、年の割にだいぶ落ち着いている、大人びた子供だった。
やはりあの年齢で一人暮らしをしているからだろうか、色々苦労があるのだろう。

…いや違うな、あれ以降も何を見ても終始無表情であった、そう考えると大人びているのではなく度胸が据わっているだけなのだろう。
…それはそれで凄まじいのだが。

「それにしても意外じゃのう、君が自ら新入生の案内を申し出るとは」

今この老人何と言った?
自分の聞き間違いかと思い、もう一度問いただす事にする。

「…今、何と…仰ったのですか?」
「む? 君から言い出したのではなかったのかね?」

非情に残念な事に聞き間違いではないらしい、このままでは吾輩は新入生の案内を好んでいると思われてしまう、直ちに訂正せねば。

「…校長、吾輩は人手が足りないと梟便で頼まれたからこそ貴重な時間を割き、英国の辺鄙な場所まで言ったのです。
何より手紙を出したのは校長貴方ではないですか」
「…はて? そのような事伝えたかの?」
「…………」
「おお、そんなに顔をしかめるでない、まあ儂からのねぎらいじゃ、これを舐め休むと言い。
レモンキャンディーじゃ、美味いぞ」
「………………」

校長室から地下に向かいつつ、右手の飴玉を握り潰していた。
とうとう耄碌して来たのかあの老人は、あれが完全に無駄足だったと考えると更に腸が煮えくりかえってくる、お蔭で薬学の学会に出損ねた。

…まあ、あの生徒に対し嫌な感情は抱かなかった上、真面目そうだ。
恐らく優秀な生徒になるだろう、そう考えれば少しは怒りが収まる。

そういえばルシウス先輩の息子には少し悪い事をしたかもしれない、もし気にしていたのなら声を掛けるべきだろう。
魔法薬学の教室の扉を開け、飴玉を口に含みながらそんな他愛のない事を考えていた



食う者と食われる者、そのおこぼれを狙う者。
杖を持たぬ者は生きてゆかれぬ魔法の城。
あらゆる存在が跋扈するホグワーツ。
ここは四人の賢者が産み落とした大英帝国の神秘の城。
キリコの躰に染みついた硝煙の臭いに惹かれて、
危険な奴らが集まってくる。
次回「出会い」。
キリコが飲むホグズミードのバタービールは苦い。


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第三話 「出会い」

データが吹っ飛びかけてマジでビビった、
今度からワードを頼りにしようと反省しています。
↑「嘘を言うなっ!」

追記 宴シーン入れ忘れてました。




俺はチケットをもう一度確認し直す。
キング・クロス駅
…間違いなくここはキング・クロス駅だ。
ホグワーツ行き 十一時発
…現在時刻は十時、乗り遅れたわけでもない。
九と四分の三番線
…そして周りを良く見渡す、俺が立っている場所は九番線。
…四分の三とは何の事なんだ、俺は駅のホームで立ち尽くしていた。

駅員に聞こうかと思ったが魔法の存在が秘蔵されているのを思い出し止めることにした、聞いた所で狂人に思われるだけだ。
実際の所魔法同様にこのプラットホームのどこかに入り口が隠されているのだろう、入り口を探しながらホームを適当に歩き回っていた俺の視界は違和感を捉えた。

違和感の先、そこにあったのは子連れの家族だった。
しかしそいつらは黒いローブを羽織り、動物やら杖やらが入った巨大な荷物を押していたりと、家族旅行と考えるには明らかにおかしな恰好。
恐らくあいつらは俺同様ホグワーツへ向かう生徒だろう、ならばホームへの入り口を知っている筈だ。
そう考えヤツ等を観察していたがすぐに見失ってしまった。と言うより壁の中に消えて行ってしまったのだ。

…つまりそういうことか、俺はヤツ等の後を追うように壁へ向かって突っ込んで行く―――
瞬間、俺の視界には石壁ではなく広大なホームが広がっていた。
再度周りを確認すると「四分の三番線」と書かれた看板がある、どうやら俺の考えは間違っていなかったらしい。

ホームは列車に乗り込む子供達にそれを見送るであろう保護者で溢れている。
人混みを避けながら、俺は早めに列車に乗り込む事にした。




…列車が出発した後暫く別れを惜しむ親子の声が響いていたが、それが急に届かなくなると同時にキング・クロス駅の姿も全く見えなくなった。
周りの景色が駅周辺と明らかに違うのを見るに、駅を出ると同時に何処かへ移動していたのだろうか。
俺は少し奥の車両のコンパートメントに腰掛けながら何冊か教科書を取り出し、その中の一冊に目を通す。

俺の″目的″、それは俺を殺せる魔法を探す事だ。
…しかし今の俺は魔法を全く知らない、だから今はこうして教科書を読み漁り基本を固める事にしている。
長い道のりとなるだろうが…希望の欠片も見えなかった今までよりは遥かにマシな道だろう。
そして俺は教科書を読みはじめた。

暫く経つと車両の奥から老婆の声が響いてきた、通路に身を乗りだし覗き込むと老婆は色々な食べ物を乗せた台車を運んでいる。
車内販売か、ホグワーツまではまだ時間が掛かるだろう、ならここらで何か食べておいた方が良いかもしれない。
そう考え老婆を呼び止める。

「車内販売よ、何か買いますか?」

そう言われカートを覗いてみる。
カートの中には百味ビーンズ、蛙チョコレート、かぼちゃパイにかぼちゃジュース、砂モグラ風ロールケーキ、大鍋ケーキ…カートの中は多分…お菓子だと考えられる物ばかりであった。
余り好みの物は無かったがここで何も買わないで腹を空かすのもどうかと思ったので危険そうな物は避け、大鍋ケーキとかぼちゃジュースを買う事にした。

「わかりました、毎度~」

老婆が去った後ケーキの袋を空けてみると、そのケーキは名前の通り黒い大鍋の形をしていた。
なかなか精巧に再現したその出来に感心しつつさっそく一口食べてみる。
…なるほど、このケーキはスポンジを幾つか重ねたような構造になっているのか。
その間には淡白な味のスポンジとは対照的に濃厚な生クリームが挟まっている。
それも多すぎず、最適な量となっておりそれがスポンジと混ざりあい滑らかな舌触りと甘さを演出する。

それだけではない、スポンジに混ぜられた固いチョコチップはちょうどいい歯応えと苦みとなり食べる人を飽きさせない。
暫く食べた後喉が乾いた俺は、かぼちゃジュースを飲み口の中に残ったケーキごと胃に流し込む。
なるほど、こちらのジュースもなかなか旨い。
かぼちゃの味は濃すぎず少し薄味となっている、さらにジュースに混ぜられているであろうリンゴがかぼちゃの甘さのクセを和らげ、爽やかな飲み心地となっている。

これならどんな子供でも飽きずにどんどん飲んでいけるだろう、そして俺はジュースで喉を潤した後少し溜息をつく。

「…甘い…」

…確かに旨いのだが、正直俺の舌には甘過ぎる。
いや、子供向けならこの位で丁度良いのかもしれないが。
あの世界に旨い物が碌に無かったせいだろうか、俺も気がつけば随分味に煩くなっている。
惜しむべきはこの国がイギリスだという点か、そうでなければもっと積極的に外食に行っていたのだが。
ホグワーツの食事はどんな味なのだろう、密かに期待しながら再びケーキに手をつけ始める。




俺は別の車両から自分のコンパートメントに戻ろうとしていた。まあ用を足してきただけだが。

「ゲコ」

車両の端から聞こえた音、その方向を見るとそこにいたのは何故か蛙だった。
何故蛙が?
少し考えた後、ホグワーツに持っていける動物を思い出す。
確か…ヒキガエル、ネズミ、ふくろうの三種類だったはずだ。
俺は結局どれも不要そうだったので適当にネズミにしておいたが、こんな所に居るということは誰かのが逃げ出したのだろう。

飼い主が探しているかもしれないので蛙を拾い上げておく。
改めてコンパートメントに戻ろうと車両を挟むドアを開けたところ、その飼い主とすぐ出会う事となった。

「あっ…えっと…、…あ!トレバー!」

トレバー、この蛙のことだろうか、なら目の前のこの大人しそうな少年が飼い主か。

「…気を付けろ」
「あっ、うん…、…あ、ありがとう」

そして俺はコンパートメントに戻り読書に戻ろうとするが、それは勢い良く開かれたドアの音に断ち切られた。

「ねぇちょっといい? 貴方ヒキガエル見なかった? ネビルって子のペットが逃げちゃったから皆で一緒に探してるんだけど中々見つからなくて。
それにしても本当に魔法ってすごいわね、人が突然透明になったり物が勝手に浮いたり、動物もお菓子も見たこと無いものばかりで本当に驚いたわ、私の両親はどっちも魔法使いじゃ無いから初めて見るものばっかりで…
あ、私はハーマイオニー・グレンジャー、貴方の名前は?」

…怒濤の勢いで喋りきったハーマイオニー…と名乗る少女に俺は少し呆気にとられていた。
こういった性格の人間は少し苦手だが、かつての友人を思い出す。
…いや違うな、あいつは目の前の少女よりさらに元気…というより騒がしいと言った方が似合っている。

「ねぇ、ちょっと聞いてる?」
「…キリコ・キュービィーだ、蛙ならもう見つけておいた」
「あ、そうだったの? ありがとう助かったわ!」

そう言い終わりかけた所で彼女はもうコンパートメントから出て行った。
外でまだ声が聞こえるが誰かと話しているのか、蛙が見つかった事を話しているのかもしれない。
まあ何でも良いだろう、静かになり俺は″近代魔法史″と書かれた本を取り出すと栞を挟んだページを開き、読書を再開する。

「…ポッター君、だからそこのそいつのようなヤツとは付き合わない方が良い」
「悪いけど、自分の友達くらい自分で決められるよ」
「そうだそうだ! お前こそ考えた方が良いんじゃないか? そんな腰巾着ばかりつれてさあ!」
「黙れよウィーズリー、血を裏切る者め」
「いい加減にしろよマルフォイ!」
「いい加減にするのは君たちの方じゃないか?それに―――!?」

再び開かれたコンパートメントの扉、その音に怯んだのか全員目を開けこちらを見ている。
居たのは彼女ではなく、五人の少年だった。

「…静かにしろ」

読書を邪魔され軽く苛立ちながらそう言い放ち、コンパートメントに戻ろうとすると金髪のマダム・マルキンの店にいた少年…たしか…名前は…マルフォイ…だったか? そいつがまたしつこく話しかけてきた。

「あ! 君はあの時の…
前は聞きそびれたけど、君もホグワーツに相応しいのはそこに居る連中じゃなく、僕らのような純血の魔法使いだと思うだろう?」
「どうでもいい」
「…へ?」
「あと、俺は純血ではない」
「え!?」

話す気も無かったが何か返さない限り延々と聞いてきそうだったので、さっさと会話を切り上げ俺は席に戻る。
あの買い物の後本で調べたが、純血とは両親や祖先にマグルの血が混ざっていない、つまり俺の予想通り選民思想の一種だと知った。
…まあ俺の実の両親は生まれた時点で死んでしまっていた為、実際は純血かどうかなど分からないが、わざわざ教えてやる義理もない。
しかしヤツは何故俺を純血だと思っていたのだろうか。

そう思った時、先程の会話で″ポッター″という言葉が出てきたのを思い出した。
ポッター…俺は何かを思い出すよう手元の本を捲っていく。
…あった、このページだ。
何処かで見た名前だと思ったがそうか、額に稲妻型の傷があった眼鏡の少年。
あれが闇の帝王…ヴォルデモート卿を倒した少年なのか。

だがあの少年、俺と同い年という事は当時は赤子だ、一体どうやってヴォルデモートを倒したのだろうか?
ヴォルデモートを倒した方法こそ気にはなったが、それ以外の興味が沸いた訳ではなかった。
そもそも考えても分からないことはどうしようもない、俺は考えるのを止め今度こそ読書に没頭し始めた。




(イッチ)年生はこっちだ!」

そう叫び新入生を案内しているハグリッドという名の大男は、クエント人の様に巨大な姿をしていた。
ヤツに案内された道は薄暗く左右は木々に覆われており、しかも急激な下り坂となっている。
…前でも後ろでも既に何人か転び坂を軽く転がっている、新入生を迎えるのに何故こんな道を選んだんだ。

足元に注意を払いながら進んでいくと急に広大な湖が現れた。
そして向こう岸にはパッと見ると古臭いが、何百年も積み重ねられたであろう伝統が伺える荘厳な城が聳え立っていた。
あの城がホグワーツか。
周りに合わせボートに乗り込みながら、俺は湖面の炎に浮かび上がるその城を眺めていた。

湖をボートで渡り切り、城内の階段を登りきった場所で待っていたのはエメラルド色のローブを羽織っている壮年の女性だった。
大男は新入生の案内をマクゴナガル先生と呼んだその女性に引き継いでいき、奥の扉から出て行った。
彼女は新入生の方を見渡したあと、全員に届くよう、かつ落ち着いた声で話始めた。

「新入生の皆さん、ホグワーツ入学おめでとうございます。これから皆さんの歓迎会が始まりますがその前に、皆さん一人一人の寮を決めなくてはなりません。
組分けはとても大事な儀式です、ホグワーツにいる七年間皆さんはその寮の中で学び、眠ります。
また自由時間もそれぞれの寮の談話室で、そして同じ寮生は家族同然となりこれらを皆さんと共に過ごすことになります。
寮は全部で4つ。グリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー、スリザリン。
それぞれに輝かしい歴史があり、多くの偉大な魔法使いや魔女が卒業して行きました。
ホグワーツに居る間、皆さんの行いは自らの属する寮の得点となります。
良い行いなら得点に、悪い行いなら減点に、 そして学年末には最高得点の寮に大変名誉ある寮杯が与えられます。
どの寮に入るにせよ、皆さん一人一人が寮にとって、またホグワーツにとって誇りとなるよう望みます。」

そう話終わり一息つき、服装を整えるよう新入生に伝えると彼女は準備のためと言い奥の扉に入って行った。
組分けの儀式か、″ホグワーツ歴史書″という本を読んではきたが組分けについては極秘事項なのか全く触れられていなかった。何故たかが組分けがそんなに極秘なのか、その疑問の答えは彼女が戻ってきた事で先伸ばしとなった。

案内された大広間は城外同様壮大な場所だった、天井には何千という数の蝋燭が糸も使わずに浮かんでいる。
その天井も武骨な石や精巧な絵画ではなく、多くの星が煌めく夜空が広がっている。
席の方を見ると部屋の端まで届きそうな四つの長机には、上級生が絶え間なく拍手を送っている。
少し奥にある上座の机は教職員の机だろう…そして間の机に置いてあるのは…帽子か?

何故帽子が置いてあるんだ、そんな疑問は突如顔の様な模様が浮かび上がりその帽子が歌い出した事で完全に吹き飛んでしまった。



『グリフィンドールに入るなら 勇気ある者が住まう寮 勇猛果敢な騎士道で ほかとは違うグリフィンドール

ハッフルパフに入るなら 君は正しく忠実で 忍耐強く真実で 苦労を苦労と思わない

古き賢きレインブンクロー 君に意欲があるならば 機知と学びの友人を 必ずここで得るだろう

スリザリンではもしかして 君はまことの友を得る? どんな手段を使っても 目的遂げる狡猾さ』



…つまりこの歌は、それぞれの寮の特徴を表した歌なのか。
彼女が言うにはこの帽子が一人一人、どの寮が相応しいか決めてくれるらしい。
まず最初の一人が呼ばれる。

「アボット・ハンナ!
…ハッフルパフ!」

するとハッフルパフの席と思われるテーブルから歓声と拍手が上がり、次々と名前が呼ばれていく。

「キュービィー・キリコ!」

…暫く経ち俺の名前が呼ばれた。
それぞれに相応しい寮を選んでくれるらしいが自分がどの寮になるのか見当もつかない。
まあ正直な所何処でも俺にとっては大差無いのだが、そうして俺はその帽子を深くかぶる。



これは…一体…どういうことだ…?

組分け帽子は驚愕した。
これまで幾人もの生徒を組分けてきたが、こんな生徒は見たことがなかった。
大人びた子は何人もいた。
冷静な子も何人もいた。
無口な子も何人もいた。
しかし皆、心の中では年相応の無邪気さや希望を持っていた。
しかしこの生徒は明らかに違った。
彼の心に無邪気さは欠片も無かった。
夢は粉々に砕かれていた、希望はあったがズタズタに引き裂かれていた。
彼の心をどこまで行ってもどす黒い暗闇しか見えなかったのだ。

…しかし彼が何であろうと私は組み分けねばならない、彼に最もふさわしき場所へ。
…彼が少しでも救われるであろう場所へ。



帽子をかぶり暫く経つと、頭の中に帽子の声が響いてきた。

(…これまた何ということだ。全ての寮への適性を持っている。
何物にも立ち向かう勇気、どんな困難も耐え忍ぶ忍耐、如何なる危機も切り抜ける機知、目的のためなら全てを欺く狡猾さ。
さて…どうしたものか…)

帽子はポツリポツリと困惑した様子でそう言った後黙り込んでしまった。

…もう五分以上は経った、帽子で塞がれよく分からないが前の上級生席や後ろの教職員席もざわついてきている。
確か五分以上かかるのは、組み分け困難者といいかなり珍しいらしい。
そこから更に二分ほど掛かり、帽子が一息ついた音が響いてきた、やっと決まったらしい。

「…ハッフルパフ!」

少し溜めた後帽子が叫ぶと、ハッフルパフのテーブルから一段と盛大な拍手と共に俺は迎えられた。
奥の空いた席に座ると、隣に座っていた短い茶髪の少年が話しかけてきた。

「お疲れ様! 僕の名前はキニス・リヴォービア、これからよろしくね!」
「…ああ」
「それにしても随分時間が掛かってたね、確か五分以上掛かった人って組み分け困難者って言うんだよねー。
あ、でもその分先輩たちは喜んでたな。
何でもハッフルパフは滅多に目立つことが無いからこういうことが起きると特に嬉しいらしいよ。」

そいつの会話を聞き流しながら、残りの組み分けを眺めていく。
周りを見渡すと何人かは眠そうに首を動かしてるが無理もない、長時間列車に乗っていたり、色々な事があったりともう疲れて当然だ。
そして半分以上が寝始めた頃、組み分けが終わり寮への案内が始まった。

厨房の間を通り抜け、上級生の後をついて行った先にあったのは何故か大量の樽であった。
上級生はその内の一つの樽に手を伸ばし、底を二回叩く。
すると壁に掛けられた絵画が動き出し、談話室への入り口が開く。

「今のが談話室への入り方だ、ただしどの樽でもいいという訳では無い。
樽山の内二つ目の列、その内真ん中の樽の底を二回叩かなくちゃいけない。
今のはハッフルパフ・リズムと言って分からなくなったら友達や上級生に聞くように。
でなきゃ君たちはアツアツのビネガーを頭から被ることになる」

上級生の言った事をメモに取る、忘れるのは不味い、ビネガーを被るのも御免だ。
書き取りを終え周りを見るともう殆どの生徒は意識が朦朧としている。
…明日は入口がビネガーまみれになりそうだ。
そんな事を考えながら談話室へ入って行くと、そこには黒と黄色を中心とした配色の暖かそうな空間が広がっていた。
左右には樽底のような扉が取り付けられた、細長い通路が続いている。

「ここが談話室だ、右が男子、左が女子寮となっているので間違えないように。
あとついでに言っておくと男子女子共にお互いの部屋への出入りは自由になっている。
…が、羽目を外さないように。
では今日はもうこれで解散だ、みんな疲れているだろうし、ゆっくり休んでくれ」

…今さり気無くとんでもないことを言っていた気がする。
確かにどの寮でも良いと思ったが色々大丈夫だろうか、一抹の不安に駆られながら俺は自分の部屋に入る。
俺の荷物も運び込まれてる、ここで合っているだろう。
だがもう一つ荷物があるということはここは二人部屋なのだろう、それを証明する様に再びドアが開く。

「あっキリコも同じ部屋なんだ! …じゃあ改めて、これからよろしくね!」
「…ああ」

どうやら先ほど隣の席にいたキニスというヤツが俺のルームメイトらしい。
最低限の荷物整理をし終わる頃には、ヤツはもうベットの上で熟睡していた。
…かくいう俺も猛烈な眠気に襲われる。
良く考えれば俺の体はこいつらと同じ年齢だ、なら疲れの溜まり方も同じで当然。
羽織っていたローブをハンガーに掛けると睡魔に引きずられる様に、俺の体と意識はベッドに沈み込んで行った。

薄れゆく意識の中、俺の手には暖かな毛布の肌触りがあった。
しかしそれに対して俺の心は鉄のよう冷え切っている。
死なない為に生きていた頃の、鉄の触感。
死ぬ為に生きる、今の暖かな触感。
どちらにせよもう、そこにおふくろの様な暖かさを感じる事は無い。
だからこそ俺はここに来たのだ。
今度こそ、深い眠りが訪れる事を祈って…



かつて、あの組み分け帽子の歌に送られた生徒たち。
寮を守る誇りを黒いローブに包んだ魔法使いの、ここは学び場。
無数の教師とゴーストたちの、
ギラつく期待に晒されて教室に引き出されるホグワーツの新入生。
学無きボトムズたちが、ただ己の成績を賭けて激突する。
次回「ホバリング」。
杖の閃光から、キリコに熱い視線が突き刺さる。


次回箒の授業やります、なので箒でホバリング…無理やり極まってるな
あと今回登場したキニス・リヴォービアは完全なオリキャラです。
なんせキリコ、ほっといたら永久に喋らないので会話の切っ掛けの為に
登場させた次第です。
もう一つ、キリコはハッフルパフ生となりましたが、これはハッフルパフの適性は
努力家、我慢強い、正義感が強いなどが条件なので
…散々考えた結果ハッフルパフ行きになりました。
色々言いたいことがあるかもしれませんがこのSSではこういう形でお願いします。


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第四話 「ホバリング」

本編作るより予告ネタの方に時間割いてるんじゃねえか?
まあいいや、
という訳で開幕グルメ、始まります。


こんがりと小麦色に焼けた皮を破ると軽快な歯応えと同時に芳醇な肉の香りと肉汁が口の中に広がっていく。
授業初日の朝、俺はホグワーツの朝食に舌鼓を打っていた。
イギリス料理とは曰く、「オウムの餌」「劇物」「ポリマーリンゲル溶液直飲み」などと自国民にさえバカにされるほど酷い物である。
俺も何度か外食しに行ったが、あれと比べれば味はまともな分アストラギウスの料理の方が遥かにマシだったと断言できる。
だが朝食だけは例外だ、これだけは何処に行っても安心して食べることができる、さすがEat three times a day breakfast(朝食を三回食べよ)と言われることはある。
ブラックプティング(ソーセージみたいな食べ物だ)を食べ終えた俺は豊かな朝食を再開する。
次はマッシュルームを頂くことにする、それを奥歯で噛み締めるとキノコの特徴的な噛み心地はもちろん、ちょうどいい焦げ目が作り出す香ばしい風味が口の奥にやって来る、塩の加減も絶妙だ。
しかし焦げ目と塩のせいか口の中が辛くなってきた。口に焼きトマトをほおばり、あふれかえる酸味で口内をリセット。
次は豪快にトーストの上に目玉焼き、その上にベイクドビーンズをたっぷり乗せる、三つとも同時に入るようかじるとビーンズにかかったトマトソースの酸味と目玉焼きの甘味、そしてカリカリのトースト達が三重奏を奏でる、もうたまらない。気がつけばトーストは食べきってしまっていた。
一通り食べきった後紅茶を飲み一息つく。本当はコーヒーが良かったのだか無いものはしょうがない。すると俺の隣に誰か…キニスが凄まじい勢いで突っ込んできた。

「ハー、ハー、キ、キリコ…お、起こしてくれても、良かったじゃんか…ハァ、ハァ、」

寝坊したヤツが悪いのに何を言っているんだ。大急ぎでヤツは朝食を食べ始める。俺も少し足りなかったのでおかわりをすることにした、

「モレニシヘモ、ホンナヒュヒョウヲスルンヒャヒョウ(それにしても、どんな授業をするんだろう)」

「…食べてから言え」

こいつには食事を味わう感性が無いのか、まあ俺も人のことは言えなかったのだが。
今日の授業は「魔法史」「闇の魔術に対する防衛術」「魔法薬学」だったはず、
…今の所ここの授業で最も興味があるのが闇の魔術に対する防衛術だ、俺の目的、そのための魔法を探すには普通の魔法では無く禁忌とされるような物で無くてはならない。それを知るためにも闇の魔術について知ることができるであろうこの科目は目的に適してると言える

「ハンハヘンヒヲヒ―――ゴホっ!ゴホっ!(何か返事をし―――ゴホっ!ゴホっ!)」
どのような授業になるだろうか、教科書は大体読んできたが実際に受けてみるのとは訳が違う。食べ物を詰め込みすぎたのかむせかえっているそいつを眺めながら俺は紅茶を飲み干した。
………俺はまだ知らない、この授業がまともに機能するにはあと二年かかることを…



無数の消える階段に動く階段、扉のようなただの壁、揚句絵が描かれたドアは合言葉や特定の言葉が必要。そんな軍事施設よりもたちの悪いセキュリティを何とか突破したころには授業開始ギリギリとなっていた。
思い返せば昨日の校長挨拶の時、死が潜む部屋には入ってはいけないとか言っていたがそんな部屋何故作ったんだ、何にせよここをつくったやつは相当ひねくれたヤツに違いない。授業開始のチャイムが鳴る直前に俺達は教室へ入っていった。
ホグワーツで受ける最初の授業は「魔法史」、つまり歴史の授業だ。この授業の担任であるピンズは教員の中で唯一のゴーストなのだとか、
しかし肝心の授業内容はピンズがひたすら教科書を読んでいくだけと恐ろしく単調な物であった。授業開始から数分で隣のキニスを含むほとんどの生徒は朝食の満足感とともに夢の世界へ一足先に旅立っている。教科書を既に読んで来てしまった俺も例外では無かったが、三時限目の魔法薬学の教科書を引っ張り出しその予習をすることで何とか机に留まることが出来た。
そして俺はまた校内を彷徨いながら次の教室へ入っていった。次こそはまともな授業のはず。




授業が始まって早々、俺やキニスだけで無く、合同授業で一緒となったレイブンクロー生も顔を青ざめながら帰りたそうにしていた。
その原因は教壇のあちこちと、防衛術の担任クィレルが体中にぶら下げてる大量の大蒜のせいだ。その臭いが部屋中に充満している。
キニスいわくヤツはルーマニアで吸血鬼に襲われたことがあるらしい。だとすればあれは吸血鬼避けということになる。
なら十字架にすればいいのに
そう言っていたキニスはもう何も話さず顔面蒼白で口を抑えていた。…放っておいたら確実におう吐するだろう。

「セメルフレス ー臭いを消せ」

「……あれ?」

俺が杖を取り出しそう唱えるとヤツは不思議そうに周りを見渡す、今のは「臭い除け」の呪文であり、ここに来るまでに使えるようになった内の一つだ。少なくともこの授業中は持つだろう。自分にもそれをかけた後、杖をローブにしまい代わりに教科書とノートを取り出す、これで授業に集中できるだろう。

「ねえ今のってキリコが唱えたの?もう魔法が使えるってことは知り合いに魔法使いが居るってこと?」

「予習してきただけだ、…俺に家族は居ない」

「あっ…ごめん。…さっきはありがとう」

俺が言いたいことを察したのか、それとも俺が授業に集中していたからか、その時間の間ヤツは話しかけては来なかった。
それでいい、俺に関わるとろくなことにならないからだ、これで気まずくなり話しかけてこなくなればそれが一番だろう。そう本当は望んでもいないことを願いしながらノートを書き綴っていく。

その日の授業の内容というと、魔法界に生息する様々な生物―例えば人狼やケンタウロウス、ユニコーンなどがどういった物なのかを解説することで終わってしまった。特に吸血鬼の話をしていた時はまるでそこに吸血鬼が居るのかのようにヤツは震え続けていた。
どこにもいない「吸血」鬼に脅えるか、それを見ていた俺もまたこの世界に居るはずの無い過去を思い出し、右肩が軽く震えるのを感じた。




最後の授業は「魔法薬学」だ、城内の仕掛けは幾つか覚えたのでさっきよりはスムーズに地下の教室へ向かっていく。キニスは俺の後ろをひたすら追いかけているが先ほどの事を引きずっているのか相変わらず無言のままである。俺はそれを追い払うかのように早足で歩き続けた。
地下へ続く通路を歩いていると魔法薬学を受け終わったばかりの生徒たちとすれ違う。しかし彼らは廊下の右と左、緑と紅で真っ二つに分かれて歩いており、お互いを常に睨み合っていた。

グリフィンドールとスリザリンはとても仲が悪い…

そう聞いてはいたがここまで露骨とは意外だった、一体何故ここまで険悪なのだろうか。
そう思っているとふと紅の中に見覚えのある顔を見つける、あれはたしかハーマイオニー・グレンジャー、そして稲妻の傷を持つハリー・ポッター、…それと隣にいる赤毛の少年。
…ホグワーツ特急の中で言い争いをしていた中に見覚えはあったが名前は知らなかったな。そうか、あいつらはグリフィンドールになったのか。
あいつらの方を見ていると彼女の方も俺の方に気づいたようだ、こちらに向かって手を小さく振ったのに対し軽い会釈で答えておいた。

魔法薬学の教室はさっきとは違い、大蒜の代わりに色々な薬品臭が少し臭っていた。教室に入ると教壇には入学を手伝ってくれたスネイプが立っている。ふと目が合ったので軽く会釈をする。

「魔法とは馬鹿みたいに杖を振るだけでは無い、この授業で学ぶのは魔法薬剤の微妙な化学とそれがもたらす厳密な芸術である。これを地味と感じるものも多いだろう。最もそう思うのはこの授業を真に理解していないウスノロだけであろうが」

授業開始早々辛口のあいさつをしてきたが、これだけでもこいつがどれ程魔法薬学を好きなのかは十分こちらに伝わってきた。
その後スネイプは魔法薬の概要や、調合する際に起こる危険性について説明した後薬剤の材料を配り、おできを治す薬を調合するように指示を出す。
二人一組か、誰と組もうか考えると隣のキニスがこちらを見つめている。
…誰でもいいか
そして俺達は薬の調合に取り掛かった。初めての調合とはいえ所詮一年生でならう初歩の初歩だ、量と手順を間違えなければ問題は無………っ!?
直ぐにキニスの腕を渾身の力でつかみ取る。

「いたたたたた!なっ何だよ急に!」

ヤツは大鍋から火を下ろさない内に山嵐の針を入れようとしていたのだ。これをしてしまうと大鍋が割れ、むしろおできまみれになる薬をばら撒いてしまうのだ。驚いた顔でこちらを見ていたヤツも鍋を見て自分が何をしようとしているのかようやく気付いたようだ。

「どうしたのかね?」

「…いえ、もう大丈夫です。お騒がせしました」

「さようか、気を付けるように」

スネイプはそう言い残し戻っていった。キニスに怪我がないことを確認した後鍋の火を下ろすと、ヤツはギリギリ聞こえる声でこちらに何か言って来た。何を言っているかは分かっている、しかしそれに対し俺は無視を決め込み作業を再開する。

その後俺たちの班はこの教室の中で最も早く調合を終えることが出来た。恐らく何の問題も無いだろう。そう思っているとスネイプはこちらに来た後。

「調合はほぼ完璧だ、だがもう少し遅くかき回すべきだな」

と言い残していった。
…やはり本で見るのと実戦は違うな。どことなく悔しい気分になった俺は隣からの視線を遮るためにも一時限目同様教科書を取り出し、徹底的に読み倒すことにした。今度は完璧な調合をしてみせる。




これで今日の授業はすべて終わりか。余った時間は図書館で勉強に当てることにしているがこのままでは荷物が多いので一旦自室に戻ることにする。
…来てみると談話室入口周辺は顔を軽く火傷した子らと地面に転んだ子で溢れていた。その理由は絨毯のようにぶちまけられたビネガーが全てを語っている。
自室に戻り、教科書を置いた所で急にキニスが叫びだした。

「…キリコ!ごめん!」

俺は一切それに反応しなかった…だがそれでもヤツは尚続ける。

「そういった人も居るんだって、少し考えれば分かるはずなのに…僕は何も考えないで酷いこと言っちゃって…そのせいで嫌なこと思い出させっちゃって…本当にごめん!えっと…だからこれからちゃんと気を付けるし…も、もし怒ってるなら君の気が済むまで謝るから!あ、あと魔法薬学の時のも…だから、ゆ…許し…」

「…もういい」

「え!?…そ、そうだよね、謝っただけで許されようっていうほうが間違いだよ 「怒ってはいない」 …え?」

気にしていないことを伝えるために「もういい」と言ったのにキニスは今にも泣きそうな顔でこちらを見てくる。…このままでは正直俺の心が持たない、というかこれを放っておいたら俺は確実に人でなしになる。
罪悪感に耐えられなくなった俺の心はそいつを落ち着かせることを即座に決定した。

「気にしていないから大丈夫だ、謝る必要はない」

「…許してくれるってこと?」

「そうだ、だから落ち着―――」

「本当に!?やったーありがとうキリコ!次からはちゃんと考えて話すようにする!鍋の時も止めてくれてありがとう、それも気を付けるようにする!
ところでキリコはこれからどうするの?やっぱり校内探索?ここの学校いろんな仕掛けがあるから楽しいよね!キリコも一緒に行こうよ!」

………許した途端これか。ずっと引きずっているのもどうかと思うが、これはこれでどうなのだろう。切り替えが早いとポジティブに考えるべきなのか、考えているあいだにヤツはもう外へ飛び出して行った。
…どこへ行ったのか分からない上、追いかける理由もない。俺は当初の予定通り図書館で勉強することにした。
結果その日の晩、「来てくれなかった、やっぱり怒ってるじゃないか」と言われまたヤツを説得する羽目になった。あいつ思ったより相当面倒くさいかもしれない。





それ以降俺はひたすら授業を受け、図書館で勉強をし、布団に潜る…という生活を繰り返していた。
ただし図書館でやっていることは授業の予習では無く、本を引っ張り出しては片端から読み漁っていくという単純な作業であった。
当初は図書館にある「禁書棚」の本を読みたかったのだが、それを読むには先生の許可が必要でしかもそれを得るのは極めて困難らしく、一年ではまず許可は出ないことが分かった。
最悪夜にでも侵入すれば良いのだが、仮にそれで読むことが出来たとしても今の俺の知識ではまず理解できないだろう。だから今は通常の本を読み、徹底して基礎を固めることにしている。

ちなみに今読んでいる本は〝偉大なる錬金術師達とその偉業″という物だ、それを読んでいく内に俺は、ある一つのページに興味を持った。そのページにはニコラス・フラメルという人物、そしてこの男が作ったという「賢者の石」について書かれていた。
賢者の石とは如何なる金属も黄金に変え、不老不死を生み出す命の水を作り出すらしい。この男の生きている年齢が明らかに人間のそれを超えているあたり、その力は本物なのだろう。

不老不死…それについて俺は考える。何故人はそんなものを求めるのか、それは死への恐怖か永遠を生きることへの欲望か、もしくは死を超越することで全てを支配する力を求めるのか。そのどれも俺には到底理解できない。それを欲するヤツらに追われ続け、戦いの中で生きることがなぜそこまで魅力的なのか。
死への恐怖から逃れられるという甘美な誘惑、だがそれこそ悪魔の罠、死は地獄から逃れる唯一の免罪符。それに騙された哀れな獲物は永遠に蟻地獄の中で魂を食われ続ける。
賢者の作りし誘惑。それに引き寄せられた蟻はどこに潜むのか。
俺は無意識の内に感じ取っていた、この城に潜む蟻地獄、それに集まる獲物の気配を





その日、ハッフルパフの一年生はいつもよりも浮かれていた。それは談話室に張られたあの掲示のせいだろう。

「飛行訓練は今週の水曜日。ハッフルパフとレイブンクローの合同授業です」

そして今日がその待ちに待った水曜日、授業直前になったのである。まだ時間があるにも関わらず何人かの生徒は我先にと談話室を飛び出して行っている、その中にキニスの姿も見当たった。
かくいう俺も少し楽しみにしている、乗り物なら前世で棺桶に嫌というほど乗っていたが空を飛ぶというのは流石に初めてだ。そんなわけで俺もいつもより早足で広場に向かっていくのであった。


「何をボヤボヤしているんですか! 皆箒の傍に立って! さあ早く!」

そうこの科目の担任であるマダム・フーチが大声で指示を出す。やはり危険が伴う授業だからなのだろうか、他の担任に比べだいぶ厳しそうな人である。さきほどまで浮かれていた生徒たちも急いでその指示に従っていた。

「右手を箒の上に突き出して! そして、「上がれ」と言う!」

あちこちで「上がれ」と言う声が響く中、俺もさっそく試してみる。

「上がれ」


………
………………
何も起きない。周りを見てみると成功しているのは数人しかいなかった、しかもその中にキニスが含まれている。キニスはこちらを見ると自慢げな笑いを浮かべていた…ほんの少しだけ腹が立った俺はもう一度試してみる。

「…上がれ…!」

少し箒が震えた後、跳ねるように俺の手のひらに飛び込んできた。何故さっきのは成功しなかったのだろうか、まあそれはどうでもいいか、その間にもフーチは生徒の持ち方などを注意して回っている、キニスは持ち方を指摘され、さっきとは逆に軽く落ち込んでいた。
そしてようやく生徒全員のチェックが終わり飛ぶ段階となる。

「さあ、笛を吹いたら強く地面を蹴るんですよ。箒はしっかり持って、数メートル浮上したら前かがみになってすぐ降りてきなさい。いいですか、笛を吹いたらですよ? 1,2,3!」

ピー!

その音と同時に地面を蹴り飛ばす―――!

次の瞬間、俺の視界は一気に広がった、見下ろすと皆俺同様に驚きながらも楽しそうな顔をしている。しかし俺はそこに違和感を感じる。
…キニスはどこだ?
その答えは下から迫ってきた。

「ギャアアアアア!」

絶叫は下から近づいた後聞こえなくなり…一気に急降下している。その先には浮遊している生徒たちが大量に居る、このままでは激突とパニックで大事故になるだろう。それはマズイ、浮遊魔法を使うか? いや、今撃っても他の生徒に当たるだけだろう、なら方法は一つ。俺は箒を前に傾け全力で突っ込んで行く。操作方法など無論知らなかったが所詮乗り物だ、ATと変わらない…はず、
ヤツを追いかけ生徒の中へ突撃を掛ける、驚く生徒がパニックになる前に助けなければ。
そう考え人の中を突き進む、箒の先は常に目標を捉えたまま最大速度で…
右に、左、上に下に、生徒の間を縫いながら、急カーブですり抜け、ターンを描きヤツの下に回り込み杖を取り出す。

「ウィンガーディアム・レビオーサ ー浮遊せよ」

勢いを無理やり止め…られず俺は木の中に派手に突っ込んで行った。何とかはいずり出てみるとヤツは無事地上に着陸していた。ほかの生徒も緩やかに着陸していたので、惨事は免れたようだ。木を降りながら状況を確認しているとこちらにフーチが駆け寄ってきた。

「大丈夫ですかキュービィー! 念のためあなたも医療室に―――」

「怪我は無い、それよりあいつを早く」

「ほっ本当に大丈夫ですね!? 決して無理はしないように、ハッフルパフに5点! 私はリヴォービアを念のため保健室に連れて行きます、私が戻ってくるまで絶対箒に乗ってはいけませんよ!いいですね!」

そしてフーチはキニスを抱え保健室に走って行った。見たところ外傷は無いようだし気絶しているだけだろう、それにしてもあれだけ無茶な落ち方をして箒から振り落とされなかったというのは中々凄いことなのでは無いだろうか。そう考え戻ってきたフーチからキニスは無事ということを聞き、俺はそれに安堵しながら再び箒に乗り込んでいった。

その日からしばらく経つと、「ハリー・ポッターがグリフィンドールのシーカーになった」という噂が校内に伝わっていた。どういうことかと言うと、ポッターが飛行訓練で素晴らしい飛行をし、それを見たマクゴナガルが、ヤツをシーカーに推薦した…と言うものである。
規則ではクディッチ(魔法界で人気のスポーツで、ホグワーツでも寮同士で試合をしてるらしい)の選手になれるのは二年生以上なのだが、校長のダンブルドアはポッターを気に入っているためそんな規則無視するだろう、ということらしい。先生一人ならともかく校長がそんな露骨に一生徒を優遇していいのだろうか。
その話を聞いていたキニスは「僕たちもすごい飛行をしたから選手になれるんじゃ!?」と期待していたが流石に二人も例外を認めることは無いだろう、第一俺はクディッチに興味は無いのだ。
そんなことより今俺が最も興味があるのはハロウィンパーティだ、きっとさぞ美味いものが食えるのだろう。俺は少し早すぎる期待に腹を減らしていた。

目新しい出来事の数々に俺はささやかな幸福を感じていた
だがこの幸せは湖に張られた薄氷のようなもの
それは突如簡単に砕け散り、真下に潜む深淵がこちらを引きずり込む
決して逃れることはできない底なしの暗闇を忘れるかのように
俺は砕かれた氷にしがみついていた。




最も危険な罠、それは不発弾。
たくみに仕掛けられた平穏の影に潜む内通者。
それは突然に動き出し、偽りの平穏を打ち破る。
ホグワーツは巨大な罠の城。
そこかしこで、陰謀を抱えた者たちが火を放つ。
次回「罠」。
キリコも、巨大な不発弾。
自爆、誘爆、御用心。


「キリコってこんな性格だったっけ?」と思う方がいらっしゃるかもしれません。
しかしこれにはちゃんとした理由があります。
まずキリコの精神年齢は前世を足すと約111歳です。
さらに神の子も育てきっているので子育て経験アリです。
この結果キリコの同級生を見る目は基本的に親のソレになっています。
なので同級生を助けることが多くなる…という訳なのです。
そのためキニス君、キリコ的には友人だとは思っておらず、親戚の子供みたいな感覚で接しています。
はたしてキニス君はキリコの戦友になれるのでしょうか?(壮大な付線)


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第五話 「罠」

ちょっと次回予告ネタとの兼ね合いで
今回から一話ごとの量が減ったり増えたりするかもしれません
つまりウd…違った賢者の石編は今回含めてあと八話の予定です
さあ、完走できるのか!?

(自主的に自分を追い詰める高度な作戦)


10月31日ハロウィン、今日はこの世界においてはるか昔に散っていった聖人や殉職者を弔い、そして祈りをささげる日。つまり死者の魂を弔うための日なのだ。
あの戦場で、そこの戦場で、どこもかしこも戦場のあそこで一体何人死んだのだろう。今はここにいない、そして行くこともできない。そんな俺は一人この世界で祈りを捧げる、一足先に自由になった顔も知らぬ兵士の為に。

「…キリコー、早く行こ、食べ物無くなっちゃうよ?」

「…今行く」

一人残された俺は、いつ自由になれるのだろうか。その答えは神でさえ知らないのだろう、神は殺してしまったのだから。





その日の大広間はまた随分と派手になっていた、広間を照らすのはいつもの蝋燭ではなくかぼちゃのランプ、並べられた食事は一面かぼちゃ、かぼちゃ、かぼちゃ… そこにはモナドに投入された一億二千万機のATを思い出させるほどのかぼちゃ料理が並んでいた。
その内過半数はデザートで占められているが、もう半分ぐらいは通常のかぼちゃ料理である。これならホグワーツ特急のように甘味で潰されることもないだろう。俺はさっそく色々な料理を皿によそっていく。
最初によそったのはかぼちゃグラタン、かぼちゃサラダ、パンプキンスープの三品だ。
最初にパンプキンスープを口へ流し込む、すると口の中にやさしく滑らかな甘味が広がっていく。その甘味はチョコのようなハッキリとしたものではなく、適度な温かさも手伝って空腹だった俺の胃を穏やかに満たしてくれる。甘いだけではない、その中に混ぜられた胡椒とハーブはさらに食欲を刺激する。
直ちに俺はグラタンに手を伸ばす。いや、急いではいけない、このまま食べれば口の中は大火傷だ。少し落ち着いた後改めてゆっくりと口にする。…何ということだ、とても美味い。こんがり焼けたチーズの甘味とかぼちゃの甘味、徹底的に煮込まれているのかかぼちゃは口の中でほろりと崩れ落ちトロトロのチーズと余すことなく絡み合う。その間に仕組まれた鶏肉はグラタンに旨みを染み出させコクを深くし、圧倒的な満足感を叩き込んでくる。
ではサラダはどうだ、今度は打って変わってさわやかな酸味と水々しさがとても心地よい、重めのメニューが続く中でこれは最高の清涼剤だ。いや、まだだ、サラダの中に隠されたかぼちゃは酸味と中和し、一味変わった味で楽しませてくれる。
美味い、どれも本当に美味い。そして残りのパンプキンスープを飲みほし改めて食欲を呼び覚ます。さて、次はどれを食べるか。
そんな俺の幸福は無情にも終わりを告げた。
突如開かれた大広間の扉、そこから現れたターバンの男…クィレルは取り乱しながらダンブルドアの近くまで走って行った。そして放った奴の一言は宴を終わらせた。

「ト、トロールが……地下室に……! お、お知らせしなくてはと思って」

そうヤツは言い残してその場に倒れこんだ。無論生徒たちは全員大混乱となった。
トロールとは全身から異臭を放ち、圧倒的な腕力でどんなものでも破壊する大型の魔法生物だ。しかし代償としてその動きは遅く、冷静に立ち回ればどうということは無い存在でもある。
ここの上級生もそんなことは分かっているだろう、…しかし実際にトロールと対峙したことのあるヤツは何人いるのか。どれほど銃を撃つ訓練をしても実際に戦場で迷わず撃てるのは何人いる?
その答えがこの光景だ、低学年はおろか最上級生までパニックになっており誰がどうすればいいのか誰も分からなくなっている。

「静まれーーーー!!」

そのカオスを終わらせた声の主はダンブルドアであった。

「監督生はすぐさま自分の寮の生徒たちを引率し、各自の寮へ戻りなさい」

さきほどまでの混乱が嘘のように落ち着いた生徒たちはダンブルドアの指示に従い、監督生を先頭に移動を始めた。俺達もそれに同行し寮へ戻っていく…はずだった。
視界の端に、何故か列を外れて一目散に走りだしたヤツらがいたのだ。あれはポッターと、ヤツと一緒にいた赤毛の少年。一体何をしているんだ、まさかトロールを倒そうとでも思っているのか? いや理由などどうでもいい、放っておくにはあまりに危険な状況だ。

「キニス、先生を呼んで来い、生徒がトロールに向かっていった」

「えっ!? ちょっキリコ!?」

そして俺はヤツらを追い走り出した。トロールへ挑むというのは俺の勘違いかもしれないが、その時は謝れば済むだけの話だ…!

ヤツらを追いかけたがどこにも見当たらない。どこだ、どこにいる…? 俺は目を閉じ、地面に耳を押し当てる。耳には避難している生徒たちの足音と騒ぎ声が流れ込んできた。それをかき分けながら浮いている音を探す。

・・・・!
遥か下の方から一つ、生徒の集団から離れた所に音を見つけた俺は地下へ向かって再び走り出す。誰もいないはずの地下へたどり着いたときにはその音はハッキリと認識できるようになっていた。その音を求めた俺は女子トイレにたどり着いた。どうやら俺の読みは間違っていなかったらしい、そこからはトイレの臭いとは明らかに違う異臭と、子供が騒ぎ立てるような声…の直後女子の悲鳴が響き渡った。どうやらあの二人以外にも人が居るらしい。ならば尚更急がなくては、俺は杖を取り出しトイレに進んで行った。

トイレに入るとそこにはポッターと赤毛の少年、そして無残に砕かれた個室の残骸とその中心にいる4m近い巨大な生物、そしてその陰には少女が…グレンジャーが震えながら腰を抜かしていた。
…つまり、こいつらは彼女を助けようとここへ来た。ということなのだろう。
そして俺は杖を構えトロールに近づいて行った。

「えっ!?なんであなたがここに?」

「えっ!?君は確か…」

「だっ誰だよお前!?」

「早くそこから逃げろ」

次々と反応するヤツらに対し逃げるように諭す。それに気が付いたのかトロールは俺の方にゆっくりと振り向いてきた。
俺は杖握りしめ、それをヤツに向け呪文を唱える。

「エクスパルソ ―爆破」

瞬間、強力な反動と共にすさまじい轟音と閃光がトロールに放たれた。本来この呪文の威力はそこまで高くはない、対人戦ならともかく魔法への抵抗を有する魔法生物が相手だと何の意味も無くなってしまうからだ。
しかし俺の杖…全長40㎝太さ4㎝に及ぶ、杖とは言いにくいこの棍棒のようなシロモノは例外だ。何回か使ってみて分かってきたことなのだが…どうやらこの杖は異常な反動と引き換えに呪文の威力を高めることが出来るらしい。とは言え、それは今のような攻撃呪文限定なのだが。
その結果、トロールの足は爆発こそしなかったが皮膚の一部が吹き飛ぶこととなった。
…しかしトロールの動きが衰える気配は無い。このまま魔法を打っていても埒が明かないだろう。ならば方法は一つだ、急所に確実に当てるのみ。

「グボオオオオオ!」

皮膚を抉られたことで激昂したのか、トロールはあいつらには目もくれず巨大な棍棒を振り下ろしてきた。
その一撃をギリギリでかわす。俺が生きていることに気付いたトロールが再び棍棒を振り下ろすが、やはり当たることはなかった。こんなものは脅威ですらない、同じ4mならATの方が遥かに素早く強力だ。速さと威力――そのどちらでも劣るやつが今更脅威になるはずもない。怒り狂うトロールの攻撃をギリギリでかわしながらチャンスを窺う…するとトロールの攻撃の手は急に止まってしまった。
棍棒は空を飛んでいたからだ。後ろ目でヤツらをみるとハリーが杖を突き出していた、どうやらヤツが浮遊魔法を使ったらしい。
―――チャンスは来た。トロールが空飛ぶ棍棒に気を取られた瞬間、洗面台に足をかけ一気に跳躍をする、そしてボロボロの服にしがみつき鼻の穴に杖を突っ込みそして―――

「エクスパルソ ――爆破」

トロールの皮膚をもえぐり飛ばす一撃を顔の中に直接浴びたヤツは顔の穴全てから血を吹き出しながら轟音と共に床に倒れ伏し、そしてしばらく痙攣した後動かなくなった。
…やったのか? 念のため杖を構えているとマクゴナガル、スネイプ、クィレルが部屋に入ってきた。

「これは……一体何があったのですか?」

「あ、……えっとその、これはその」

ポッターたちは混乱しているのか、彼女の質問にうまく受け答えできていないようだ。トロールの鼻水で汚れてしまった杖を拭いていると質問の対象は俺に切り替わった。

「ミスター・キニスに伝言を頼んだのはあなたですね、説明してもらえますか?」

「…彼らがトロールの場所へ向かって行ったので俺も追いかけただけです。そうしたらトロールに襲われていたため助けに入りました、恐らく彼らは逃げ遅れたグレンジャーを助けるためにここに来たのでしょう」

彼女はポッターたちの方を見ている。ヤツらはそれに対し首を縦に振っていた、それに彼女は納得したのか再び俺に質問を投げかける。

「では…これをやったのは貴方なのですか?」

「そうです」

いまだに頭から血を垂れ流すトロールを見ながら彼女は一瞬驚愕した。もしかして殺してはいけなかったのだろうか、彼女は表情を厳しくし俺とポッター、赤毛の少年を睨めつける。

「そうですか、事情はわかりました、先に連絡をしたのは正しい判断でしょう。…しかしならばそこで寮へ戻り、私たちが助けに行くのを待つべきでした。トロールに挑むなど危機管理が無さすぎます。
よってミスター・キュービィー、ミスター・ポッター、ミスター・ウィーズリー。それぞれ十点減点です」

減点になったか、まあむしろこの程度で済んだのなら幸運な方だろう。落ち込むポッターを見ながらそう考えていると今度は意外なことを言って来た。

「…しかし友を心配し、助けようとした姿勢は素晴らしいものです。そして一年生でトロールを倒すのは誰でも出来ることではありません。よってハッフルパフに三十点、グリフィンドールにそれぞれ十五点ずつ与えることにします」

これは意外なことになったな。ポッターたちも驚きつつ喜んでいる様子だ、

「貴方たちの幸運に対してです。では、急いで寮へと戻りなさい。パーティーの続きを寮で行っています」

その後寮に戻った俺は、心配していたのかベッタリ引っ付くキニスを引きずりながらパーティーに戻っていった。
しかし俺の心には教師たちの、グレンジャー達の視線が突き刺さっていた。それは恐怖か、警戒か、それとも化け物を見る目なのか。
この世界ではそんな事は滅多にない。だから俺は忘れていたのだ、殺しに来たものは殺す。そんな俺の日常はここには無いことを。
…次からは注意しなくてはならないだろう。

―――その次はもう足元まで迫っているのだ―――





「そうか…そんなことが」

「ええ、恐らく頭部の中に直接爆破魔法を撃ち込まれたのでしょう、ほぼ即死のようでした。…本来一年で習うことの無い呪文のはずですが」

「いや、一年生でも高学年の魔法を習得する子は居ないわけでは無い。セブルス、儂が心配しているのは彼の過去なのじゃ」

「彼の…過去?」

「そうじゃ、人は本来誰しもやさしい心、愛する心をもっておる。それはトムとて例外では無かった。だから例えどんな人間じゃろうと初めて人を殺す時には戸惑いを感じ、ためらうのじゃ」

「…………」

「しかし彼は殺した、トロールを何のためらいもなく。そしてそれに動揺することもしなかったのじゃ」

「確かに彼は吾輩たちが駆けつけた時もいたって冷静でした」

「誰かを傷つけ、殺しても何も感じない…そのようなことになるとすれば、それはただ一つ」

「…殺し慣れている…と言うことでしょうか」

「そうじゃ、…じゃがあの子の年でそんな事は考えにくい。もしかしたら気づきにくいだけで、心の奥底で震えているのかもしれん。
…セブルス、あの子を監視しろとは言わん、ただ、よく見ていてやって欲しい」

「…もしや校長は、彼があの「予言」の子だとお考えなのですか?」

「そうかもしれんし、そうでは無いのかもしれん。だがどちらにせよ儂らはあの子を正しい道へ導かねばならんのじゃ、セブルス、よろしく頼む」

「…別の『仕事』もありますので難しいとは思いますが…できる限りはやりましょう」

「感謝するぞ、セブルス」

「いえ…では吾輩はこの辺で」

「……」

あの日、組み分け帽子が話してくれた彼の「闇」、それが何なのか儂には分からなかった。
しかしそれは彼に限った話ではない、誰しも大なり小なり心の中に抱えているものなのだ。
ならばあの子が仮に「予言」の子であろうと関係ない、儂らはあの子を光の道へ導かねばならない。
…それが彼女にできる、唯一の贖罪なのだから…。





ハロウィンから数日、今俺は図書館にこもって新たな呪文を考えている。手にとっている本は「変身魔法~応用編」、「最低野郎でも出来るゴーレムの作り方」、「物体操作の本髄」と言った物だ。
何故新しい呪文を考えているのか、その原因は数日前のトロールにある。あの時は地形の利もあってヤツを倒せたが、もし戦いの場があそこでなかったらどうなっていたかは分からない。だからこそ俺は再び巨大な敵に遭遇した場合に備え、新たな呪文を考えているのだ。
自分より圧倒的に巨大な敵を倒す方法…その武器として俺は石巨人(ゴーレム)に目を付けた。何か材料さえ有れば変身魔法で簡単に作ることができるゴーレムは大型魔法生物を相手にするのに最適だと踏んだからだ。
…しかし、そう簡単にいく筈もなかった。ゴーレムは比較的簡単に作れる代わりに動きが単純で、一つの事しか実行できない。では物体操作の魔法で制御を…と考えたが、これは術者が常に集中していないと使えず、些細なことで崩壊してしまうのであえなく却下となった。
そして完全に行き詰った俺はこの課題をひとまず置いておき、宿題に打ち込んでいるのであった。
八つ当たり気味に宿題に打ち込んでいると一人の少女が声をかけてきた。

「あ、ちょっといいですか?キュービィーさん」

グレンジャーと、彼女の陰に隠れている他二人は俺に何の用なのだろう。妙によそよそしい話し方で彼女は続ける。

「あの日の事でお礼を言えなかったから、あの時はありがとう」

「…気にすることは無い」

そのことか、どうやら彼女は真面目な人間らしい。俺はそれで会話を打ち切るつもりだったが、あいつはそれを許さなかったようだ。

「あれ、キリコにいつもの三人組じゃん! 君たちいつ仲良くなったの?」

そう現れたキニスはいつも通り馴れ馴れしく話しかけてきた。というよりこいつらは仲が良かったのか、いや、こいつの性格なら特におかしくもないが。
あいつの質問に答えたのは赤毛の少年であった。

「えっ!? 違うよ!? 僕たちはハーマイオニーに付き合ってるだけだよ! …というかキニスってキュービィーと友達だったの?」

「そうだよ、…ってかそんなに驚くこと?」

「そうだよ! だ、だってそいつ怖いじゃん!」

「ちょっとロン!」

「ハーマイオニー、もう行こうよ」

「怖い? キリコが? 何で?」

「だって顔色一つ変えずにトロールの頭をパンクさせた奴が怖くないはずないだろ!?」

やはりそうだったか、さっきからのよそよそしい態度の原因はそれか。まあそれが当たり前の反応だろう、ポッターもそれに同意するように頷いている…ところがキニスはそれに反論する。

「いやーまあ確かにそりゃおっかないけどさ…まずお礼を言わなきゃだめだよー。」

「お、お礼?」

「だってハリーもロンもキリコに助けられたんでしょ? 怖くても何でも、助けてくれた人にはお礼を言わなきゃ」

…もしかして、ロンとはこの赤毛の少年のことを言っているのだろうか。今まで知らなかった事実に少し衝撃を受けている間に尚キニスの説教は続く。

「で、でも最初に駆けつけたのは僕たちだよ、それにキュービィーがトロールを倒すチャンスを作ったのも僕たちだ」

「じゃあハリー達だけでトロールを何とかできたの? 出来たかもしれないけど出来なかったかもしれない。実際どうなのかは分かんないけど、キリコのおかげでトロールを倒せたのが事実なんじゃないの? だったらハリー達もちゃんとお礼を言わなくちゃ」

「そうよ、キニスの言うとおりよ」

…まて、確かにあいつの言っていることが正しいだろう。だが逆に言えばハリーがチャンスを作ったからトロールを倒すことが出来た…とも言える。
…つまり、俺もあいつらに礼を言わなくてはならないと言うことか? いや、それが道理なのだろう。

「…ポッター、それと……誰だ?」

しまった、苗字も知らなかった。突然話し出した俺に明らかにビビりつつもロンは答える。

「えっあっその、ロン・ウィーズリーです!」

「そうか、……ポッター、ウィーズリー、ありがとう。トロールを倒すことが出来たのはお前たちのおかげだ」

「え!? あ、ありがとうキュービィーさん」

「僕の方こそありがとうございます」」

そうポッターとウィーズリーはやはりよそよそしい敬語で礼を言った。これで何の問題も無いだろう、では俺は宿題に戻るとしよう。
しかしヤツはまだ満足していなかったのだ…

「よし! これで大丈夫! でもまだ! 皆よそよそしすぎる! まだキリコのこと怖いと思ってるでしょ! それは誤解だ、友達になればそれが分かる!」

…ん?

「さあまず『キュービィー』なんて言い方は止めて『キリコ』と呼ぶようにしよう!」

…これは…

「さらに友達の握手で友情の完成だ! もちろんキリコもだよ!」

…まさか…

「さあ! 早く! 握手を!」

……………………………。
こうして俺たちはヤツの手によって無理やり友達となったのだ…。
あの後何故こんなことをしたのか聞いてみたが
「キリコが怖い人だって誤解されるのが嫌だったから」
だそうだ、
他に方法があったのではないだろうか、今更もう遅いが…





ヤツの手によって無理やり誓わされた友情
だが、俺はそれに対し何やらくすぐったい物を久々に感じていた
しかしそれは幻想でしかない、
炎、硝煙、異能。誰一人としてそれを知らないのなら
これは到底俺の手で掴めるものではない
ならば一人、夢から覚め地獄へ戻ろう

だが俺は祈らずにはいられなかった
これが幻影でないことを



人の運命を司るのは、神か、異能か。
それは時と世界を巡る永遠の謎掛け。
だが、キリコの運命を変えたのは、魔法と呼ばれた、あの存在。
英国辺境リドの闇の中で走り抜けた戦慄が、今、ホグワーツに蘇る。
次回「魔法」。
クディッチのサポーターの中から蛇が嘲笑う。



キニス、お前そんな頭よかったっけ?
彼は基本実年齢から―2した感じの性格です。
ただし根本的には空気を察したり
道理を重視し、
あとお人よしな
ある意味理想的なハッフルパフの生徒です。

作品上使いやすいキャラって言っちまえばそれまでだがな!

あっちなみにトロール殺したのはキリコが生かして返してくれるイメージが全く浮かばなかったからです。合掌。


追記 次回予告修正しました
   誤字指摘ありがとうございます


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第六話 「魔法」

日常回が多いとむせる成分が減り
だからといってキリコを暴れさせると
ホグワーツが滅亡する
そんなジレンマを抱えながら執筆しています。


談話室の中はいつもにまして賑やかになっている。生徒たちはマフラーや手袋を着けて防寒準備をしていた、しかしその格好はこの談話室内では暑すぎたようで汗をかいてしまっている。
中には賭け事に興じている連中もいた。賭けの内容はグリフィンドールとスリザリン、どちらが勝つかという内容。
つまり今日は俺達一年生にとっては初めてのクィディッチ観戦なのだ。この興奮はそのためである。
初戦の組み合わせはグリフィンドール対スリザリン。朝食の間からお互いの険悪さは普段より数割増しになっている。
そして今回、一年生でありながらグリフィンドールのシーカーとなったハリーはそのプレッシャーのせいか朝食にほとんど手をつけていなかった。
多少心配ではあったが、ロンとハーマイオニーが励ましていたので恐らく大丈夫であろう。

「キリコはどっちが勝つと思う? 僕はグリフィンドール! だってハリーに勝って欲しいからね」

キニスはそう言っているが多くのハッフルパフ生だけでなくレイブンクローの生徒もグリフィンドールの勝利を望んでいるようだ。というのもここ数年スリザリン寮が勝ちっぱなしのため、いい加減この流れを何とかしてもらいたいらしい。
ハリーを無理矢理シーカーにしたのもその一環なんだとか。

「…興味がない」

「あーやっぱり、デスヨネー」

実際そうだ、本当に興味がない。こんなものはバトリングと一緒で遊びでしかないからだ。
…ただしプロ同士の試合だと死人が出ることもあるらしい、やはりどこの世界でも人は危険に魅力を感じるものなのかも知れない。会場に引きずられながら俺はそんなことを思っていた。




防寒対策は正解だったようだ、試合会場は冷たい風が突き刺さり、生徒達はお互い身を寄せあっている。
教員席の方からアナウンスが飛ぶ、そろそろ試合開始のようだ、会場に選手達が入場していく。グリフィンドールは紅のユニフォームを、スリザリンは緑のユニフォームに身を包んでいる、選手紹介の間にハリーの様子を確認する、緊張はだいぶ抜けたように見える、あれなら大丈夫だろう。

選手紹介が終わると会場の中心にフーチがクアッフルとガタガタ震える木箱を持って入ってきた。あの中でブラッジャーが暴れているのだろう。現に勢いよく蹴り飛ばされた木箱の中からは凄まじい勢いでそれが飛び出していったのだから。

「正々堂々と戦ってください! 期待していますよ!」

そして放り上げられたクアッフルを最初に掴んだのはグリフィンドールであった、そして奪おうとするスリザリンを巧みなパスで翻弄し流れるようにゴールへ叩き込み、先制点を奪っていく。

「さぁさ、早くもグリフィンドールが十点獲得です。クアッフルはスリザリンへと移りました……おっと!グリフィンドールがクアッフルを奪った!パスの隙を狙った素晴らしいプレーです!そのままゴールへと向かい……ゴール!!絶妙なタイミングでフェイントを入れて見事ゴールを決めました!再び十点!この調子でグリフィンドールにはスリザリンをボッコボコにしてもらいたいです!」

「ジョーダン!!」

「おっと、失礼しました。では実況を続けていきます、スリザリンがクアッフルを―――」

あのジョーダンという男はグリフィンドール生のようだが、随分とグリフィンドール贔屓な実況をしている。マクゴナガルはそれに注意してはいるが、彼女自身グリフィンドール担当なのと、クディッチ狂いなのを考えると恐らくまともに止める気は無いだろう。

「HAHAHAHAHA!! そのまま地獄に叩き落としてやれぇ!!」

「………」

それに他の寮生もその実況に不快感を示していそうなヤツはスリザリン生しかいない。嫌われるのもここまで来るといっそ清々しく思える。
それにスリザリンもスリザリンでさっきから審判の目に隠れるように悪質な妨害行為を仕掛けている。これも一つの戦術なのだろうが、これではお互い様だろう。




そうこうしてる内に試合は五十対二十でスリザリンが勝ち越している。やはりキーパーが殺られたのが響いたか。
すると金のスニッチを見つけたのか突如ハリーが動き出した、スリザリンのシーカーも一瞬遅れて動き出す。
…グリフィンドールの勝ちだろう、あの一瞬は致命傷だ。
しかしそうはならなかった。ハリーは急に制御を失った箒にしがみつくのに必死になっている。

「スリザリンの蛇野郎ども! ハリーの箒に何かしやがったな!?」

…さっきから別人のように罵声を飛ばしてるこいつは本当に何なのだろう。
だがスリザリンのせいとは考えにくい、あれだけ露骨な妨害行為がバレない訳ないし、第一、試合直前に箒のチェックが入っている。
だから箒の不調でもない、
さっきまで順調だったのだからハリーの不調も考えにくい。

ならば…外部からの干渉か?
そう考えた俺は客席に注目する、そして不振な人物を教員席に二人見つけた。
クィレルとスネイプだ、あいつらは二人ともハリーの方を凝視し何やら口を素早く動かしている。
何かを凝視しながら呪文を唱え続ける。それは恐らく呪いの可能性が高い。呪いは継続的に掛けるのなら対象を凝視し継続的に呪文を掛ける必要があるからだ。
この場合、どちらかが呪いを、どちらかが反対呪文を唱えているのだろう、両方呪いを唱えていたらもう墜落済みだ。
それはどちらだ? 俺は二人を凝視する…
………煙?
突然スネイプのマントの裾が火をふいた。それに驚いたのかスネイプはハリーから目を離す、そしてその次に距離をとった観客に押されたのかクィレルが姿勢を崩す。
ハリーの箒が安定を取り戻したのはその瞬間だった。
…このタイミングから考えて、呪いを唱えていたのはクィレルなのだろう。
よく見ると観客席からハーマイオニーが勢いよく駆け降りていた、火をつけたのはあいつの仕業らしい。
多分ヤツは呪いを掛けているのをスネイプと勘違いしたのだろう、そうでなければスネイプに火をつける理由が無い。

その時、会場に歓声が響き渡った。
試合が決したのか?
会場の方に視界を戻すと地上にハリーが転がっていた。どうやらヤツはスニッチを追いかけ墜落してしまっ―――
いや違う、ヤツの口から金のスニッチが吐き出されている、ということはグリフィンドールの勝利か。

「グリフィンドールがスニッチを獲得!一七〇対六〇でグリフィンドールの勝利!!」

フーチの叫び声と共に、スリザリンを除いて会場に大歓声が巻き起こった。一方スリザリンは大ブーイングを巻き起こしている。
その後スリザリンのキャプテンが何やら抗議をしているようだったが、多分駄目だろう。




学校へ帰る道の中、俺はあの時の行動について考えていた。
クィレルはハリーに呪いを掛けていた。それは間違いない、では何が狙いなのだ?ハリーの命を狙っているというならもっと別の方法があるし、わざわざ他の教師や生徒に見つかる可能性を侵す必要はなかった。
スリザリンを勝たせたかった? いや違う、クィレルがスリザリンに肩入れする理由など無い、だったら呪いを掛けるのはスネイプになる。

「それにしても、あの時のハリーはどうしたんだろうね。キリコ何か分かる?」

「…………」

「キリコも分かんないか…ほんと何だったんだろ?」

結局この疑問がその日解決することは無かった。だがその答えは確実に近付いて来ているだろう、それが何かは分からないが居るのは事実だ。
この城に潜むもの、そいつの呼吸は確実に聞こえているのだから。





クリスマス休暇の時期になった、この時期は多くの生徒達が実家に帰省するため必然的に学校に残るのは少数だ。
無論俺も家に戻ったとしてやることは無いので、学校に残っている。
やっていることと言えば、何時もと変わらず大量の課題と、例の新しい呪文の研究だ、あの呪文だが、ようやく構想を作り上げることができた、だが完成させるにはあまりに資料が少なすぎる。とはいえ既に手掛かりになりそうな資料は読み尽くしてしまっている。これ以上の情報を求めるなら閲覧禁止の棚にしか無いだろう。
…そろそろ頃合いかもしれないな。そう考えた俺は本を棚へ戻し、大広間へ向かっていった。




休暇中、ホグワーツに残る生徒は少ない、故にたとえ今日がクリスマス当日だろうとクリスマスパーティーが行われると言うこともないのだ。
しかし、ここは流石と言うべきか。大広間に置かれた夕食はしっかりとクリスマス用のメニューとなっている。
前のハロウィンパーティーはトロールが乱入したせいでほとんど楽しめなかった。その分このクリスマスメニューを堪能させてもらうとしよう。

まず俺が手にとったのはクリームシチューだ、何故か、その理由は単純に寒いからである。
イギリスで冬とくれば寒くて当然、しかもこの校舎は吹き抜けや渡り廊下が多いせいで風がかなり入ってくるため校舎内もかなり冷え込むのだ。
そんな冷えきった体を暖めるためにシチューを一口頂く。とたんに俺の体はおふくろのような暖かさに包まれた。シチューのとろみは口の中に暖かさと優しい甘さをいつまでも響かせてくれる。具材はブロッコリー、人参、玉葱辺りだろうか、原型が無くなるまで煮込んだことにより野菜の甘味が溶けこんだスープからは複雑な甘味と旨味が漏れだしてくる。胃に染み渡るシチューによって得た暖かさと共に次の皿へ手を伸ばす。

次に俺が目をつけたのはオムレツ…では無くオムライスだ、日本料理まで網羅するホグワーツの屋敷僕にはもはや尊敬の念さえ抱く。
ふわふわ、されど肉厚な卵の皮をスプーンで抉り、中のケチャップライスと共に食べることで現れるのは卵とライスのハーモニー。甘さが酸味を、酸味が甘さを引き立てる相乗効果の威力は圧倒的だ、ライスもいい、玉子単品だとボリュームに欠けるオムレツを見事ボリューミーにしている。ふわふわの玉子はライス一粒一粒に挟まり、舌の上でとろける食感が素晴らしい。

シーザーサラダを食べながら次の獲物を選ぶ。
…あれだ、そして俺が選んだのは七面鳥の丸焼きだ。ただし七面鳥は既に切り分けられ取りやすく食べやすくなっている。
丸焼きというのだから当然基本は焼いただけである。しかしそれは逆に料理人の技量が直接出るということも意味している。さあ、当たりかハズレか…
ロシアンルーレットに挑んだ俺は見事当たりを引き当てた。
香ばしさ、パリパリに焼かれた皮に散りばめられた香辛料は肉の旨味を消しはせず、基本淡白な味の鶏肉によく似合う。基本淡白といったが、よく噛んでみるとそれが誤解だと気づかされる。噛めば噛むほど染み出てくる肉本来の旨味はどれ程たっても飽きることはない、いやむしろ香辛料とも組み合わせで食べる速度は加速する一方だ。気が付けばもう三本目に突入していた。




あの後ひたすら食べ続けた俺はほとんど動けなくなっていた。ふらふらとしながらも何とか自室まで戻ってきたが、何かに転んで倒れこんでしまった。振り返るとそこには幾つかのクリスマスプレゼントが置かれている。
…こんな俺にでもプレゼントをくれる物好きもいるんだな、そう考えつつ少し嬉しさを感じながら箱を開けてみる。
送り主の一人はハーマイオニーだった、中身は新品の羊皮紙セットに同じく新品の羽ペンとインクである。そこには一枚のメッセージカードも添えられていた。

「メリークリスマス、この前はなんだかよく分からないことになっちゃったから、改めて言おうと思って。あの時は助けてくれてありがとう。」

…この前の礼を兼ねているということか。プレゼントとカードをしまった後もう一つの方を開けてみる。

「メリークリスマス! 僕は今、旅行で海外にいるんだ。新学期に会えるのを楽しみにしているよ!」

カードと共に入っていたプレゼントには“ウドのインスタントコーヒー”と書かれていた。
…あいつは何処へ行っているんだ…?
それも一応大事に閉まっておく。まあ、貰ったものを粗末にすることもどうかと思うので一杯頂くことにしよう。

「アグアメンティ ―水よ」

呪文で造り出した水を暖炉の近くで温めカップにお湯とコーヒーを入れる。
…やはり、ウドのコーヒーは苦いな、まあ俺の知っているウドとは違うのだろうが。
コーヒーを飲みながら暇潰しとして借りてきた本を読む、たまにはこういうのんびりした時も大事だろう。
そろそろ例の計画の準備も始めなくてはならない、どうやって突入するか…何処から観察するか…俺は今後の計画を考えながらまどろみの中に落ちていった。




平穏な日常、穏やかな日々
しかしそこには一匹の虫が紛れ込んでいた
そうだ、戦いの疫病をばらまく死の害虫だ
どうやら何処へ行っても俺の行く場所は戦場になるらしい
だが俺の心が揺れることはない
何処へ行こうとやることは変わらない
ならばそこが、戦場こそ俺の日常なのだから



学校という汚れの海に、見え隠れする陰謀という氷塊。
どうやら、水面下の謎の根は深く重い。
少年の運命は、賢者が遊ぶ双六だとしても、
上がりまでは一天地六の賽の目次第。
石と出るか、蛇と出るか、謎に挑む敵中横断。
次回「観察」。
キリコ、敢えて火中の謎に挑むか


という訳で今回はクディッチ観戦とクリスマス回の日常回でした
日常回はもう少し続きます
その次? そんな先の事は知らない


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第七話 「観察」

話数配分を考えていなかったせいで
僅か五千字になってしまったことを
深くお詫びします。

…次はもっと短くなるんだろうけど…





「………」

俺は息を潜め、ヤツらの様子を伺っていた。そして居なくなったのを確認すると次の場所へ移動する。
…俺は夜の校舎を出歩いていた。
何故こんなことをしてるのかと言えば「閲覧禁止の棚」の本を見るためだ。既に図書館の本はだいぶ読み尽くしたため、そろそろ禁書を見ても理解可能な頃合いだと考えたため図書館への潜入を決定した。
しかし夜の校舎は監視の教員や用務員のフィルチにその飼い猫等が巡回しており簡単には侵入させてくれない。
中でも特に危険なのがあのやたら派手な格好をしているゴースト、ピーブズだ。
あのゴーストはかなりの悪戯好きであり入学してから俺を含めて多くの生徒がその犠牲になっている。よって万が一あいつに見つかれば大惨事は免れない。
だから今はこうして身を潜め教員の巡回コースやゴースト(主にピーブズ)の行動傾向を観察している。
…この調子ならあと三日程度で侵入可能になるだろう。そろそろ次の場所へ移動を―――!

瞬発的に俺は姿を隠す。誰だ、この時間はここに人は居ないはず。

「セ、セブルス!?あ、い…いや、私は…」

「私を敵にまわしたくはないだろう?」

「は…話がさっぱり…」

「よくおわかりの筈だ。近々また話すとしましょう。その時までにどちらの側につくのか決めておくんですな。」

廊下にクィレルとスネイプの声が響き渡る、理由は分からないがどうやらスネイプがヤツを訊問しているようだ。
その理由は分からない、しかし原因は分かる。あの時、クディッチの試合の時ハリーに呪いを掛けていたのがそうだろう。
あの時スネイプは対抗呪文を唱えて対抗していた、スネイプはヤツが何を企んでいるのか知っているのだろうか。
だが何故だ、何故わざわざこんな脅迫をする必要性がある? ほかの教師に知られればスネイプもただでは済まない。
…まさかダンブルドアはこのことを知っているのか、だとすれば合点がいく。校長が直々に許可をしてるのならこんなことをする理由も―――
いやそれもおかしい、校長が知っているのなら直ぐに、もっと直接的な手を打つのが普通だ。ならばこんな回りくどいことをする理由は一体…

………

どうやらスネイプ達は居なくなったようだ、改めて確認をとった後、俺は次の場所―――禁書棚へ向かうことにした。
結局訊問の理由も、クィレルの企みも校長が直接的な手段をとらない理由も分からなかった。
だが、脅迫までしてそれがただの汚職や失態とは考えられない、ヤツが隠していることが普通でないのは間違いない。
…あの試合の日から感じていた予感、それは今確信へと変わった。この学校には何かの陰謀が渦巻いている、その渦の中心に居座るものが何かは分からないが―――
…何か、何か凄まじいものが潜んでいる。戦場で培われたこの直感はそう確かに告げていた、そうだ、俺だけが知っている闇からの警告だ。

…しかし、それを知っている人間はそこに潜んでいたのだ。ヤツらに気を取られ俺は気がつかなかった、そこで潜んでいた透明の奴らに。

「な、なんであそこにあいつがいたんだ!? まさかあいつもスネイプの仲間!?」

「いや、仲間なら隠れる必要はないはずだ」

「じゃあキリコも賢者の石を狙ってるってことか!?」

「シーッ! フィルチに見つかるよ、それにもしかしたらキリコも石を守ろうとしてるかも知れない」

「トロールを簡単に殺しちゃうようなやつが…?」

「…分からない、と、とにかく早く寮に戻ろう、フィルチに見つかったら大変だ」




閲覧禁止の棚へ入り込んだ俺は、そこの本を一冊一冊確認していく。これは欲しい本を素早く見つけるために必要なことだ、本を探すのに手間取っていたらその分見つかるリスクが増える。だから数日かけて本棚の下見も行っているのだ。幾つかそれをリストアップしていく。「魂と肉体のあり方」、「石人形による生命の誕生」、「石人形全構成解体禁書」
…大体このあたりが、恐らく俺の求める本だろうか、もう時間がないそろそろ寮に戻らなくては

コツ…コツ…コツ…

…! まずい、誰かが入っている。周りを見渡し一つのドアを見つけた俺は静かに素早くその部屋に駆け込んだ。
…この部屋は昔使われていた教室のようだ、壁際の机と椅子がそれを証明している。なら、あの中心に置かれている鏡は一体何だ? 俺は鏡に近づき、自分の姿を映し出す。そこには―――





フ ィ ア ナ が 立 っ て い た 





「フィ……アナ………?」

肩まで届く長い長髪、今にも消えてしまいそうな儚くも美しい顔。鏡に映っていたのは間違いなく、あの日、俺の手から零れ落ちたささやかな願い、フィアナそのものだった。

「何故…何故フィアナが…!?」

フィアナは俺に肩を寄せ 優しく俺に寄り添う
かつて戦いの無い世界を祈って眠ったあの時のように
だが 彼女は居ない あの目覚めの後
彼女は消えてしまった 死んでしまった
いつかまた会えると信じていた しかしそれもダメだった
彼女は もう見ることのできない 優しい笑顔を浮かべ
俺に寄り添う 
あの時のように
あの時のように
あの時の………

「やめろおおおおおおお!」

俺は絶叫し、鏡から目を逸らす。フィアナは居ないそして二度と会うことは出来ない。そんな事は分かっていた、だから俺はそれを忘れようとしていた、この生活の中で少しでもこの悪夢を和らげようとしていたのだ。
会えない筈のフィアナは、俺にそれを思い出させたのだ、会うこともできず、死んで会いに行くことも出来ない絶望を思い出させたのだ。
…どうしようもない絶望に、まるで「忘れるな」と叫ぶかのように叩きつけられたそれに俺は打ちひしがれていた。
………かつて、あの日以降心の奥に押し込めていた悲しみ。溢れだした濁流を止めることは出来ない、ならせめて、この濁流に押し流されぬようにただひたすら耐えることしか俺には出来なかった。
…俺は、何時死ねるのだろうか。死ぬためにここに来たが未だ目処は立たない。もしかしたら、俺を殺せる魔法など無いのかもしれない。いつまで、一体いつまで地獄を彷徨えと言うのだ。哀しみのまま、俺は絶望の底へと沈んでいった。そしてどの位たったのだろうか、何とか落ち着きを取り戻したころにヤツは現れた。

「どうやら落ち着いたようじゃの」

「………ダンブルドア校長」

いつから見ていたのだろうか、あいつの言い方からすればだいぶ最初の方から見ていたのかもしれない。

「すまんの、見ているつもりはなかったのじゃが」

「…大丈夫です」

「そうか、それなら良い。この鏡はのう「みぞの鏡」というのじゃ、それも映ったものをただ写すのではない。映った物の本当の望みを映し出すのじゃ、故にこの鏡に魅入られ、身を滅ぼしたものは何人もいる」

「…………」

「なので丁度、これを明日移そうと思って来てみた所、君も居たというわけなのじゃ」

…君も? 俺以外にも出歩いているヤツがいたのか? 校則違反をした俺を責める気配もなく朗らかな笑いを浮かべながら俺をその青い瞳で見つめている。俺は、俺の全てを見透かしているかのような視線に警戒を覚えた。

「…キリコや、ホグワーツは楽しいかね?」

…? 一体こいつは何故こんなことを聞いてきたのだろうか。質問の意図は分からなかったが答えないのも不自然だろう、俺は差し当たりの無いことを言うことにした。

「ああ、…それなりに」

「そうか、それは良かった。ホグワーツはただの学び場では無い、(みな)の居場所であってほしいのじゃ」

「……居場所?」

「そうじゃ、ここにはどこにも居場所が無かった生徒もたくさんおる。だからこそ儂はこの学校が(みな)にとって楽しく、帰ってきたい。そんな学校になってほしいと願っているのじゃ」

「…………」

「儂は君のことを心配していたのじゃ。だからこそ、ここでの暮らしを楽しいと思ってくれたことが嬉しくてのう。」

やはり俺の直感は間違っていなかった。この男は既に…いや、感づいているのかもしれない。俺がここに来た理由が何であるか見抜かれているのかもしれない。この質問が俺を説得するための物なのか、それとも本心からでた物なのかは分からないが…何にせよ俺の目的を知られる訳にはいかないだろう。

「…キリコや、儂はこれからも君がここで生活し、そしてそれが楽しいと思えることを祈っている」

「…ありがとうございます。…では失礼します」




図書館を出た俺は再び決意をした。フィアナ、彼女に再び出会うためにも…俺は必ず見つけて見せる、俺を殺せる魔法を。
あの鏡に写されたフィアナから再び決意を受け取った俺は、巡回の教師に見つからないよう寮へ戻っていった。





…結局、あの子があの鏡に何を見たのか聞くことは出来なかった。仮に聞いたとて正直に答えてはくれなかっただろう。あの子が抱える闇、その正体が分からぬ今下手な言葉で説得をすれば余計闇へ落ちていくのは明らかなのじゃから。
だが…それでも一つだけ、確実に分かることはあった。あの子の闇の正体、そこには「孤独」が潜んでいることを。さきほど儂を見たあの子の目はひたすら、まるで二度と会うことの出来ない家族を求めるような哀しい瞳をしておった。ならばあの子を光の道へ導くにはその「穴」を埋めなければならぬ。
しかしその「穴」は埋まりつつあるのかもしれん、あの友人…キニス・リヴォービアといるキリコは僅かながら、だが確かに楽しそうな顔をしているのじゃから。

「…もしかしたら、儂がすることは無いのかもしれんのう…」

ならばそれが一番良いのじゃろう、…どこか、彼の闇に恐れを抱いている儂では彼を救い出すことは出来ないのかもしれん。しかしこれならば、もう心配はいらんのじゃろう。少し安心した儂は部屋を後にした。
…だが、もしも彼が闇に堕ちるようなことがあれば…その時は…
…その時は…

…馬鹿なことを、その時こそ、儂ら教師があの子を正しき道へ導かねばならぬのじゃ。あの子の「闇」から目を背けてはならぬ、諦めてはいけない、その闇を払わねばならない。
それが妹を、アリアナを死なせてしまった愚かな自分にできる、たった一つの贖罪なのじゃから。





クリスマス休暇が終わり、新学期が始まった。それと同時に授業は激化の一途をたどり始める、それは学期末に控えている試験のためだろう。それに備えて授業だけではなくそこから出される宿題の量も増加していた。その結果最近俺の隣には常にキニスが付きまとうようになっており、しょっちゅうヤツに勉強を教えることになっている。が、今日は居ない。明日行われる今学期初のクィディッチの試合の為にグリフィンドールの寮に行っているらしい。

尚、明日の試合日程はグリフィンドール対レイブンクローである。さらにその数週間後にはグリフィンドールとハッフルパフの対決が予定されている。そのため選手たちは勉強など目もくれずにひたすら練習に打ち込んでいる。
今の所一位はスリザリンとなってはいるが明日の結果次第では逆転ができるかもしれない。だが、それは現在四位のハッフルパフにとっては全く関係ない話だろう。最も俺自身興味は無いのだが。




試合が始まった時、試合会場…もといグリフィンドールの観客席には赤地に金の文字と、派手な垂れ幕が掲げられている。その内容は…まあ予想道理ハリーを褒めちぎったような内容だった。隣で自慢げにしているこいつの様子から昨日の用事とはこれの作成だったのだろう。
それを見たハリーは箒で見事な空中三回転を決めていた、効果は十分あったらしい。

試合が始まると初めは得点の取り合いとなった、片方が決めればもう片方が決める、まさに一進一退の攻防といえる、しばらく経つと得点の取り合いからボールの取り合いへと変化していく、その結果得点は変わらなくなり試合は硬直状態となった。ハリーもレイブンクローのシーカーも会場のあちこちをゆっくりと飛び、慎重にスニッチを探している。
実況もこうなると中々言うことが減ってくるのか試合開始ほど喋らない。…そういえば前の試合のようなグリフィンドール贔屓な実況はしていないのか、どうやらあれはスリザリン限定らしい。

「殺れぇ! 決めろぉ! 防がれただと!? ふぅざけやがってぶっ潰れろぉ!!!」

…キニスはどちらが何をしようが関係なく罵声を浴びせている。こいつの罵声はスリザリン限定という訳では無いらしい。正直なところ流石に止めた方がいい気がしてきた。

その時ハリーが動き出し、それに続いてレイブンクローのシーカーも動き出す、いよいよ試合も大詰めか。
ハリーに襲い掛かるブラッジャー、一撃目をかわす事には成功したが減速した影響で二発目が直撃した。すぐに姿勢を立て直すがその隙にレイブンクローのシーカーが追い抜いた。
スニッチは曲がる気配がない、ならば最後は単純な速度勝負になる。
実況と観客席から発せられる熱の中、スニッチを取ったのは―――

「グリフィンドールがスニッチを獲得!」

ハリーの方だった。




「いやー、やっぱクィディッチは興奮するねー面白かったー」

つまりこいつはかなり過激なクィディッチ狂いで、例え自分の寮だろうと何処だろうとああいった罵声を浴びせるということらしい。それはあの後、数週間後に行われたグリフィンドール対ハッフルパフの試合で証明してくれた。まあ試合が終わればどこの寮にも拍手を送るあたり平等なのだろう。…良くも悪くも。
クィディッチの試合が終わると同時に試験もすぐそこまで迫ってきている。それと同時に俺の計画も実行に移す時が来た。あの日鏡を見たことで、俺は決意を新たにしていた。俺は何としてもフィアナに合わなければならないと。

「…試験嫌だなぁー…キリコは…大丈夫に決まってるよねー…ハァ」

さっきと打って変わって気分を落ち込ませているキニスをしり目に、俺の覚悟は否応なしに高まって行っていた。




あの時鏡から、フィアナから受け取った覚悟
だが俺は気が付いていなかった
その覚悟もまた鏡だと言うことに
つまりそれが意味すること
それは所詮まやかしでしかないという真実
そこから目を背けた罪
それは罰となり
もう目の前までやって来ていたのだった



ペペレル三兄弟は、川に魔法を掛け明日を得た。
死は、三人の兄弟を陥れ、その命を得た。
キリコは魔法に、己の運命を占う。
今、ホグワーツで明日を得るのに必要なのは、ユニコーンと少々の狡猾さ。
次回「取引」。
ホグワーツには死の臭い。


キリコと校長、腹の探り合い
…まあ実際死にたいと考えてるなんて夢にも思わんよな。
という訳でトラウマ回でした、もうそうそう次は無いな!


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第八話 「取引」

フォイの出番少ねぇな…
まあスリザリンと一番絡まなさそうな
ハッフルパフじゃね…

D.M「フォーイ」


相変わらず生徒でごった返している図書館、クディッチの試合が終わって以降その数はさらに膨れ上がっていた。クディッチの練習で忙しかった選手たちも、クディッチの熱で現実から逃れていた生徒たちも加わり今の図書館は自分が座る場所を探すのさえひと苦労する。ひたすら羊皮紙と教科書を睨み、羽ペンを無我夢中で走らせる生徒の中に何故か俺に向かって小さく手を振っている連中が居た。

「こっち、空いてるわよ」

「…ありがとう」

そう言ってきたのはハーマイオニーだった、その隣にはハリーとロンの二人も座っている。どうやら、こいつらも勉強のためここに来たようだ。…もっとも実際はハーマイオニーが二人に勉強を教えているのだろうが。
席を紹介してくれた彼女に礼をいい、その席に座らしてもらう。そして俺も他の生徒同様に羊皮紙と羽ペンを取り出した。

「あっそれ…使っててくれたの、調子はどう?」

「ああ、ペン先が冴えている。それに羊皮紙の滑りも良い」

そうだ、これはクリスマスプレゼントとして彼女から貰った物だ。
…実はあの時、贈ってくれるヤツが居るとは思っておらず彼女とキニスに何も贈っていなかったことに後で気づいた。今度は必ず贈らなければ…、俺は少しの後悔を思い出し、申し訳ない気分になりつつも勉強を開始した。
この時期はもう、例の呪文の研究は全くせずに学期末試験のための勉強に専念していた。というよりは一時中断と言った方が正しいのだろう、あの日閲覧禁止の棚に侵入し主な本は決めていた。それにいつ再び侵入するのかも決めてある、その為今研究を焦る必要はないのだ。

だが、不安はある。それはあの日見たもう一つの物、クィレルだ。無論あいつとスネイプの行動だけは分からないというのもあるが、何よりヤツが企んでいる事が何なのか、それが俺の心に緊迫したものを残していた。あれからだいぶたったがクィレルは俺が見ている限り特に目立った行動はしていない。故に、ヤツの狙いは未だ分からない。だからこそ漠然とした不安が俺の中に漂っているのだ。

「…ねぇキリコ、ニコラス・フラメルって知ってる?」

「…賢者の石の作成者だな」

そう、以前読んだ本に書かれていた人物だ。
…しかしこの質問は何の為だ? こいつの事について知らなければならないような試験は今学期出ないはず。単純に知識を満たすのが目的なのか。だが質問の理由はその後ろから察することが出来た。

「や、やっぱりキリコも石を―――」

「ロン!」

石、それは間違いなく「賢者の石」のことだ。だがそこから何故俺に繋がるのか―――
…まて、「キリコも」? これは俺以外に石に関わるような人間がいるということなのか?
賢者の石、命の水、不老不死、それに関わろうという人間が居るとしたら、その理由は不老不死の可能性が高い。そんな人間が居るとするなら―――そいつは―――つまり―――

「…俺が賢者の石を狙っている、…そういうことか?」

「「「!!」」」

この反応、間違いない。ヤツらは俺と…おそらくクィレルが賢者の石を狙っていると考えている。そうなら今までの不審な行動の理由も―――
…? ならあの時、ハリーに呪いを掛けていた理由は何だ? ヤツが石を狙っていると仮定してもハリーを襲う理由にはならない。それに俺も石を狙っていると、あいつらが考えている理由も分からない。
…こいつらは、恐らく俺の知らない事を知っているのだろう。それを聞いてみる必要があるかもしれない。

「…何故、俺が石を狙っていると思った」

「い、いや!? そんな事全然思ってないよ!?」

「ロン…もう駄目だよ…」

「…ハリーとロンから聞いたの、クリスマス休暇の時あなたがクィレル教授とスネイプの話を盗み聞きしていたって」

「ハーマイオニー! そいつに言って大丈夫なの!?」

「…それを確かめたいから聞いてるの」

…どういうことだ、まさかあの時こいつらも居たというのか? だがそんな人影は何処にも無かったはずだ。…あの時一瞬だけ感じた違和感、あれがまさか… いや、どちらにせよ見られていたのは確かだ。だからあそこに、クィレルが訊問されるような場面に居た俺も、ヤツ同様石を狙っていると疑っているのか。

「そうだ、俺はあいつらの話を聞いていた。…逆に聞くが、お前達は何故ヤツが石を狙っていると考えた」

「キリコは初めてハリーがクディッチの試合に出たとき、箒の様子がおかしかったのは知ってる? あの時私達は()()()()がハリーに呪いを掛けているのを見たの。
それだけじゃないわ、貴方も見たと思うけどスネイプはクィレル教授を脅していた、あれは石の在りかを聞き出すためだと私達は考えたの。
証拠にスネイプは石が隠されている部屋の罠を突破する方法を―色々な人から聞き出していたわ」

「…罠?」

「そう、あの部屋には石を守るために先生達が色んな罠を仕掛けているわ」

…どういうことだ? 何故こいつらは呪いを掛けたのを()()()()だと勘違いしているんだ。いや、あの時彼女はスネイプに火をつけていた。
…おかしい、あの時呪文を唱えていたのはクィレルも同じ、ならば何故スネイプの方に火をつけた? どちらが呪いを掛けているか分からないなら両方に火を着ければよかったはずだ。
いや、思い出せ、あの時クィレルは何処にいた? そうだ柱の近くにいたはずだ。そしてグリフィンドールの観客席は………

「…あのクディッチの日、お前達の席からクィレルは見えたのか?」

「えっ、クィレル教授?」

「そうだ」

「……………ハリー、あなたあそこでクィレル教授見かけた?」

「いや、僕は客席を見てる余裕はなかったよ」

「じゃあロンは?」

「え? えーと確か居たとは思うけど、…僕らの席から見た覚えはないなぁ、もしかしたら僕らから見えない所にいたのかも」

………! そうか、いや、もしそれが狙ったものだとすればヤツの目的は…まさか……

「キリコ、石が隠されている部屋の…罠の越え方を知りたくない?」

…? 急に何を言い出したんだこいつは、俺を疑っているのに何故それを助けるような事を言うのか、それとも別の狙いがあるのか。

「知りたいなら教えてあげる。ただし私達も知りたいことがあるの、それは石が隠された部屋。もしそれを教えてくれるなら教えてあげてもいいわよ」

こいつらは俺を疑っている、つまりこの取引の意図は…俺が石を狙っているかどうか見定める事。恐らくそれだ、もし俺がこの取引に乗ればそれは、「石の在りかを突き止めている」つまり石の在りかを知ろうとする理由が存在することを。「罠の越え方を知る必要がある」それは石を手に入れたいから知る必要がある。という二重の証拠を得ることが出来る。
ならば俺の選択は、というよりもそれしかない。

「知る必要はない、何より俺は石の在りかを知らない」

…実のところ、見当はつく。四階廊下の突き当たりに存在する「死の潜む部屋」に石はあるのだろう。しかしそれはあくまで見当でしか無い以上、取引に使うことはできない。それに俺自身賢者の石に興味が無いため、罠の突破方法も要らないからだ。

「…お前達は石を守るつもりなのか」

「ええ、もちろん」

「………」

「………」

…しばしの間続く沈黙。クィレルの目的も、呪いを掛けた理由もわかった今これ以上話す理由は何処にもない。このままこいつらを放っておくことが俺にとって一番平穏な道だ。
だが、俺も何時からかお人好しになっているらしい。死ぬかもしれない場所へ行くのを何もせずに放っておくことは出来なかった。

「…止めておけ」

「心配ありがとう、でも私達がやらなきゃならないの。」

「何故だ? お前達が調べたことを教員に報告した方がより確実ではないのか」

「言ったわよ、でも先生達はスネイプを信用しているから私達の言うことは聞いてくれない。だから私達が―――」

()()()()の狙いはそれかもしれない」

「…えっちょっと待ってどういうこと? 石を狙っているのは()()()()よ?」

そして俺は話した、呪いを掛けていたのはスネイプでは無くクィレルだということを、そしてそこから考えられる事実…ハリー達が石を守ろうとすること。それこそがヤツの狙いである可能性が高いということを。

「そ、そんなまさかクィレル教授が石を…!?」

「で、でも何でそんなことする必要があるんだよ!?」

「それは分からない、だから可能性と言ったんだ。それに恐らくこの事はダンブルドアも気付いている」

「何だって!?」

「だからこそ、わざわざ敵の罠に飛びいるような危険を侵す必要は無い。俺が言いたいのはそれだけだ」

「で、でも僕達も行った方が確実に石を守れるはずだ! それに―――」

「ハリー、ロン、ハーマイオニー」

「………」

「命を粗末にするな」

そして俺は席を立つ、これ以上居てもあいつらが気まずいだけだろう。だがこれで伝えることは出来たはずだ、もう余程の事が無い限り危険に首を突っ込むことは無いだろう。
…俺はどうする? いや俺も同じだ、クィレル…スネイプかもしれないが、奴等の企みをダンブルドアが知っている以上下手な手出しは余計な混乱を産み出す。
俺は俺のすべきことをするだけだ。

「あのー、キリコさんちょーといいですかね…」

図書館を出ようとしていた俺にキニスが話しかける。…大量の菓子を持って。

「えー、その、申し難いのですが他の課題が多すぎて…魔法薬学まで手が回らず」

「………」

「なので、このお菓子あげるんで………」

「………」

「課題写させて下さい!」

…あまりに酷い取引に俺は呆れながらもこの取引を()()()。未練がましく助けて下さい何でもしますからとか叫んでいるがそんなことは知らない、自力で何とかしろ。




「………ハアアアァァァー、き、緊張したわ…。 …そもそもハリー達が「キリコが石を狙ってる」なんて言い出さなければこんな質問を勉強時間削ってまで考える必要もなかったのに」

「ごめんハーマイオニー、…でもまさか、クィレルが黒幕だったなんて」

「でもそれは絶対じゃ無いんだろ?」

「ええ、でもこれでキリコが石を狙ってないのはハッキリしたわ」

「でもさ、キリコがバレたくないから嘘をついたのかもしれないじゃないか」

「確かにそうよ、でもキリコはあんなに私達のことを心配してくれたのよ? そんな人が嘘をつくなんて私には思えないわ」

「それでもキリコが石を狙ってないって断言は出来ない。だから気を許すのは危ないと思う」

「…そうね、でも私は信じたいの。そうでないならハロウィンの時あんなに心配して私達を助けてはくれなかった筈だもの」





テストもいよいよ近づいてきたある日、大広間はどの寮もざわついていた。その原因はグリフィンドールにある、一体何があったのかたった一晩で一五〇点も減点されていた。その結果グリフィンドールは寮対抗において最下位まで見事に転落することとなったのである。あと何故かスリザリンも二十点減点されていた。
まあ原因は簡単に予想できる、あそこまで深刻な顔でテーブルに座る三人…と一人の男の子、つまりハリー、ロン、ハーマイオニーと一人の男の子だ。それにしたって一五〇点も減点されるものだろうか、一体あいつら何をしたんだ。
…まさか、あれで尚賢者の石を守ろうとしているのか、それで何かしらの無茶をやったと考えれば筋は通る。だが実際はどうなのだろうか、本人達に直接聞くのはいくらなんでも気まずいので知ってそうなヤツに聞くことにする。

「キニス、減点の理由はハリーか?」

「うーん、さすがに細かくは聞いてないよ。僕が聞いたのはハグリットがドラゴンが何だかですごい喜んでいたってことぐらいだからね、その理由までは答えてくれなかったよ」

…ほぼ答えを言ってしまっている。つまりドラゴンの卵を欲しがっていたハグリッド(本人は秘密にしているようだがほとんどの人が知っている)が何かしらの方法でそれを手に入れた。だがドラゴンは許可なしに飼うことを禁じられてるため、困り果てたハグリットは…もしくはそれを知ったハリー達がそれを助けようとして教師に見つかった。もしくはその過程で何かしてしまった。…と言ったとこだろう。証拠にハグリッドの顔色もこの世の終わりと言わんばかりに青くなっている。

その日以降ハリー達に対する生徒の態度は一変した。それまではスリザリンに勝てるからと、英雄のようにもてはやしていたが今やグリフィンドールのみならずレイブンクローやハッフルパフからも侮辱の視線を浴び続け、スリザリンは心の底からの感謝を廊下ですれ違うたびに言っている。勝手に期待しておいてこの変わりよう、すがすがしいまでの手のひら返しに俺は少しの同情を覚えた。

「大変だキリコ! ハリーが死んじゃうよ! 助けに行かないと!」

「死ぬ? 何故だ」

ハリーが死ぬ? 罰則でか? そんな危険な罰則は流石にないはずだが。

「今夜罰で禁じられた森に行くらしいんだよ! 狼男に大雲にミノタウロスに…とにかくそんな危険な場所に行ったら大変だ!」

「落ち着け…生徒だけでいく筈が無い。随伴の教員が居るはずだ」

「え、あ、そりゃそうか。でも大丈夫かなハリー達」

日が没し、暗闇を映す窓を見るキニスはだいぶ心配そうな顔をしている。とはいえ俺もキニスもできることは無いのだ、しばらく経ち部屋へ帰ろうとするキニスと共に、あいつらの無事を祈ることで精一杯なのだろう。





賢者の石、不老不死。
それを守るもの、狙うもの、
揃いつつある役者たち、もうじき整うその舞台。
その中に巧妙に隠された真実への付線、
それを集め、繋ぎ合わせた時完成したのは戦いへの招待状。
乗るか、乗らないか。
いよいよ放たれる真実への扉、賽を振る俺はそれに気づく。
既に断たれた虚構と安息への道。
戦いから逃れることは出来ない、それこそが俺の運命なのだ。



昨日の朝、安息を手に入れ人の心に触れていた。
今日の昼、命を的に夢見た炎を追っていた。
明日の夜、愚かな油断と大きな孤影が、偽りの心に楔を穿つ。
これはニコラスが作ったパンドラの箱。
倫理を問わなきゃ何でもできる。
次回「喪失」。
明後日、どんな先の事でもわかりきっている。



名探偵キリコ テレテーレーテレテーテーテテー
ちなみに本編でも示唆してますが、
ハー子はあの質問即興でやったわけではありません。
流石に事前に考えてからやってます、
…頭良くし過ぎたかな、どっちも。 ハリー?ロン?知らない子ですね… 
ハリー ロン「」


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第九話 「喪失」

そろそろバトルを始めたいです、
いい加減ホグワーツを火の海にしたくなってきた。
どうやって滅ぼすか…

「大戦争を! 一心不乱の大戦争を!」


学期末試験四日前、生徒達は大量の課題と膨大な試験範囲に追い込まれ夜も眠らずに勉強を、教員達は大量の課題の添削と試験作成の仕上げに追われ食事を摂る隙もない。
そんな状況の中、俺はまたもや夜の学校に潜んでいた。目的は無論「閲覧禁止の棚」、そう今まで狙っていたのはこの時期なのだ。本来夜の校舎は巡回の教員がいるはずだが試験数日前ということもあり、大幅にその数を減らしている、加えて巡回している教員も試験作成の疲れか監視に穴がある。故にこの時期こそが「棚」への侵入に最適だったのだ。
「目眩まし術」を自身に掛けながら、巡回にもゴーストにも見つからずに図書館の禁書棚へたどり着いた。

「ルーモス ―光よ」

出力を限界まで絞り混み本棚を照らす。通常の出力で使うと俺の杖の場合、先端から閃光手榴弾並みの光が発生するためである。そんな事になれば巡回がやってくるのは確実、この計画は水の泡になる。
………!?
杖の光を消し身を潜める、誰かが禁書棚に居たのだ。暗闇のせいでよく分からないがそいつは顔から足の先まで闇に溶け込むような漆黒のローブで包んでいた。そいつは隠れるようにしながら禁書棚の本をいじっている、あの怪しい風体にこそこそとした行動、巡回の教員ではないだろう。俺と同じ目的でここに居るのだろうか。
その後動き出したヤツは、何も持たずに図書館を出ていってしまった。折角侵入したにも関わらず何も持たないとは、いよいよ何がしたいのか分からない。まあそれを考えるのは後でもいいだろう、それよりヤツのせいで少し時間をロスした、急がねばなるまい。
再び杖に光を灯し、以前確認した場所を確認する。そこには目的の内の一冊が置いてあった、タイトルを確認するとそこには「石人形全構成解体禁書」と書かれている。間違いないこいつだ、その本を懐にしまい次の本を探す。
次の本もすんなり見つけた後、最後の本も探す。だがこれは時間が掛かった、以前確認した場所とは別の場所へ移動していたからだ。不味いな、あと数分で巡回がやってくる、急がなければ。
「禁じられた魔術」…違う。
「ニワトコの軌跡」…これも違う。
「魂と肉体のあり方」…こいつだ!
最後の本を懐にしまい急ぎ足で図書館を後にする、最初の曲がり角を曲がったところでちょうどフィルチの姿が見えた。かなりギリギリだったようだが、何とかなったな。そして俺は行き同様に、巡回に見付からぬよう自室に戻っていったのだ。
…この本こそが、俺を再び地獄のドン底に叩き落とすモノだとも知らずに…




熟睡しているキニスを起こさぬようゆっくりとドアを開ける。机のランプを灯し、手にいれた本が間違っていないか確認をする。盗めたとはいえ長期間持っていてはバレるリスクも高まる、なるべく早く読みきらなければならないだろう。羊皮紙を取りだし、羽ペンを構え、本を開いた。
その時、それは起きた。




「こ、これは…!?」

突如目の前が真っ暗になり、気が付いた時俺は使われていない教室にいた。この教室はまさか、あの鏡はまさか。そこに居たのはフィアナだった。彼女はあの時と全く同じように鏡の中から微笑み、俺に寄り添っている。
何故だ!? 何故俺はここに居る!? 一体何が起―――




その次の瞬間写り込んだのは燃え盛る炎であった。今度はどこへ移動したんだ、ここは一体―――
そして俺は絶句した、何故ならそこに居たのは、炎に包まれている人間だったからだ、そうだ、俺の、母親だ。
次の瞬間、俺は外にいた。いや違う、連れ出されたのだ。後ろを振り替えるとそこには全身を黒く焼かれながらも、俺を助け出してくれた、そして今息絶えようとする父親の姿があった。一体、一体何が起こっているのだ…




視界には天井が写っている、何故か上手く動かない体を動かし、横を見る。そこには俺を産み、そして力尽きた母親が倒れていた。
………まさか。




目まぐるしく、まるで映画のフィルムのように回る、戦場、鉄の騎兵が群を成し森を、砂漠を、街を駆け、その全てを踏み潰していく。
そしてたどり着いたのは砂漠だった。そこにあったのは黒い稲妻と神の眷属達の成れの果て、そして緑色の血を流しながら横たわる彼女。

石と権威で覆われた聖地。最後の言葉さえ聞けずに燃え尽きてしまった、俺のささやかな望み。

意図せず作られた束の間の安息、それを打ち破る過去に向かってのオデッセイ。

何も知らぬまま、人ですら無かった俺が出会い、そして全てが始まった闇の中。

不死と信じ、不死に弄ばれ、俺一人だけ生き残った爆発の中。

俺達によって赤く染まった星。そこで思い出す忌まわしき過去。

俺を、家族を、思い出を、そして星をも焼き尽くす赤い肩の悪魔達。

巡る、巡る、巡礼の記憶は何度も巡る。
そう、何度も、何度も、何度も、何度も…




「……………………!!」

今のは、俺の記憶だ、それも思い出すのも考えるのも忌まわしい記憶。それを突如、現実かと思うほど鮮明に、その全てを呼び起こされた俺の精神はたった数秒、一瞬の事にも関わらず崩壊寸前まで追い詰められた。
記憶の底に閉じ込めていたトラウマは、一度吹き出せば簡単には止まらない。それは今も精神を徹底的に削り続けていた。
頭の中にはかつて、戦艦の中に閉じ込められた時のように何度もある一曲が流れ続ける。
視界に写る幻影には途方もない数の戦場と途方もない数の残骸が広がり、かつての仲間達が一瞬の断末魔を繰り返し叫び続けている。
それが止む気配は全く無い、何故だ、何故今になってこの記憶が蘇った。その原因について考えようとするが心の中で繰り返される地獄と断末魔はそんな余裕さえくれなかった。

「キ、キリコどうしたの? 凄い顔色悪いけど…」

知らない内に悲鳴でもあげたのだろうか、いつの間にか起きていたキニスは俺を心配して語り掛けてきた。
しかしその瞬間、思い起こされたのはかつての仲間、戦友、家族、そこまで呼べなくとも何らかの仲間意識は持っていたヤツら。そいつらが皆、尽く死んでいく記憶、未練など無い。だが俺只一人を生き残らせる為に星もろとも基地もろとも死んでしまった事実は未だに俺を苦しめる。
そして脳裏をよぎる最悪の未来、散り行く仲間の影とそいつの姿が重なる時、物言わぬ屍となったキニスがそこには居た。まさか、いやあり得ない話ではない。俺に関わるという事はすなわち地獄まで付き合うということ、そして望む望まないに関わらず盾となって死んでいくのが運命なのだ。俺に関わることで、キニスは死ぬ。

「………やめろ」

「何言ってるのキリコ? 大丈夫ってレベルの顔色じゃないよ、それにそんなに汗も掻いて…マ、マダム・ポンフリーの所に行った方が良いんじゃない? 無理だったら僕が先生を呼んでく―――」

「やめろ!! ………これ以上関わるな…!」

急に声を荒げたせいだろう、キニスは驚愕の表情を隠せていない。だがこれで良い、いやこうでなくてはならない。今までこいつを傷つけるのは良心が痛むから辞めておいたがもうそうは言っていられない、何としてもこいつを俺から引きはがさなくては。でなければ死ぬ、理由などない、死ぬ経緯も状況も分からない。だがこのまま行けば必ず何時か死ぬ時が来てしまう、そうなる確信が今の俺には出来た。

「…わ、分かった、でも辛かったら言ってね。」

キニスは再び布団の中に潜りこんでいった。…これで良い、こうでなくてはならない。もう俺のせいで親しいヤツが死ぬのはもう沢山だ。未だ頭の中で踏み鳴らすことを止めぬマーチを引きずりながら俺は部屋を後にした。そして俺は談話室で朝まで過ごし、マーチと幻影が収まったのはその時だった。










「…あ、キリコ、…おはよう、あの後大丈夫だった?」

「………」

声をかけるキニスを無視し、疲弊した精神を表に出さぬよう大広間へ向かう。俺の意図を感じ取ってくれたのかキニスが話しかけてくることはそれ以降無かった。この状態を維持し、今までの関係を完全に無くすことが今の俺の目標だ、そうすればこいつが地獄に巻き込まれることは無い。俺のせいで死ぬことは無くなるだろう、…あいつは気にするだろうが、それがあいつにとって最も良い事なのだ。何、あいつの性格なら俺以外の友人は幾らでも手に入れることが出来るだろう、心配は要らない。

あの後強烈な頭痛に苦しみながら考えたが、あれは一種の呪いだったのかもしれない。以前本で見たことがある、飲んだものにトラウマを蘇らせる黒い水があるらしい。恐らくあの本に掛けられていたのはその水と似たような効果をもたらす呪いだと推測した、それを掛けたのはあの黒いローブの何かだろう。
だが、ヤツの正体は全く分からない。現状一番怪しいのはクィレルだろうがする意味が分からない、スネイプに脅されていた時俺に気づいた様子は無く、気づいていたと仮定しても万が一俺が死んでいたら校内の警備はさらに強化される。そうなれば目的である賢者の石の奪取は相当難しくなるはずだ。第一あの呪いを仕掛けたのがローブの人間だという確証も無い、何せ本来教員の許可を得てその監視の基にのみ閲覧を許された本だ、元々呪いが掛かっていても不思議ではない。唯一助かったのは、あの呪いは最初の一回で解除される点だろう、読むたびにあれでは本当に死んでしまう、これで俺の研究はだいぶ進むはずだ。…こんな状態で進むかどうかは分からないが。




今朝の食事は、いつもと変わらないイングリッシュブレックファストだ。だが試験の応援のためかいつもより少しだけ豪華なものとなっている。食欲はしなかったが空腹で倒れるわけにはいかない、俺は少しだけ皿に取った。
まず初めにトーストをかじった、脳の働きに炭水化物は必要だからだ。食べると口内の水がパンに吸われ口の中が気持ち悪くなった、味も心なしかサクサク感よりも焦げた味の方が目立つ気がした。
タンパク質としてソーセージを食べる、ドイツ産のでも取り寄せたのかいつもより肉の量が多そうである。しかし感じられるのはひたすら垂れ流される動物性油であり、軽い吐き気と胸焼けがした。
体を整えるためサラダを食べる。濃口のドレッシングはむしろ食欲を減退させ、草の苦みがそれを助長していた。
…心の中で、乾いた笑いすらこみ上げてくる。あの一瞬でここまで酷く追い詰められていたとは、いつの間にかあいつはそれだけ大事な人になっていた訳か。だが誰かと別れるのは慣れている、じきに俺もキニスも慣れていくだろう。
そういえば自分から誰かと完全に決別するのは初めてだ、今まではほとんど死に別れだったからな。まあ、何も死別する訳ではないのだからそこまで悲しむ必要はないだろう。そうだ、その筈だ。




一冊の本に綴られた炎の記憶。それが教えたのは死という真実。
悲鳴を上げているのは知っていた。
無論そんな事望んでいないのも知っていた。
だが、覚えたのは安堵と感謝。
こうすれば、死ななくて済む。
ズタズタに引き裂かれた俺は、ヤツの無事を祈りながら次の地獄へ向かう。









「…以上が今の彼の状況です」

「…一体、何故そうなってしまったのじゃ?」

「見ていると、仲たがいをした。…という雰囲気でもなく、どちらかと言えばキリコの方が彼を避けている。故に彼も何を話していいか分からない。…のだと、吾輩には見えました」

「そうか、…やはり、あの時鏡で見た物が原因なのかもしれんのう。儂らに何か出来ればいいのじゃが…」

「今それは不可能でしょう、例の作戦のこともあります。それに吾輩もクィレルが何時動き出すのかを常に警戒しなければならないのですから」

「無論それは分かっておるよ。あやつがヴォルデモートと繋がっておるのは確かじゃ、そして賢者の石を用いて復活せんとしておることは…。キリコのことも心配じゃが、ヴォルデモートの復活を許す事だけはあってはならんのじゃ
…色々無理を言って悪かったのう、改めて礼を言うぞセブルス」

「…いえ、吾輩の方でも出来る限り気に掛けてはみます」

「珍しいの、おぬしがそこまで気に掛けるとは」

「…分かりませんが、何故か彼を見ていると、まるで自分自身を見ているような気になるのです」

「自分自身、とな?」

「はい、…では失礼します」

あの子が抱えているであろう孤独は、キニスとの関わりで和らいだように見えた。しかし何故かそれは崩れてしまい、以前よりも深くなったように見える。
そして儂はそれに対し、何もすることができない。ヴォルデモート復活を防ぐのが優先だから? そんなものは言い訳にもならない。
…何と無力なのだろう、何が最高の大魔法使いだ、何が偉大な校長だ。孤独に震える生徒一人救えないような愚かな男でしかないのに、今も彼に対して何もできないではないか。
だが、だからといってどうすればいいのだろう。あの子の孤独は儂が考えていたよりも遥かに深く、暗い。その闇を照らす方法は未だ分からない。
…だが、諦める事だけはしてはいけない。それだけはあってはならない。
彼の闇を払う鍵、それを握っているのは間違いなくあの少年だ
なら、儂のやるべきことは―――



敵の血潮で濡れた肩。
触れえざる者と人の言う。
ホグワーツに、百年戦争の亡霊が蘇る。
アレギウムの神殿、ヌルゲラントの地底に、
不死と謳われたメルキア装甲特殊部隊。
情無用、命無用の一兵士。
この命、30億ギルダン也。
最も危険なワンマンアーミー。
次回「レッドショルダー」。
キリコ、危険に向かうが本能か。


「回歴の呪い」★オリジナル設定
ダンブルドア校長が飲んだ黒い水の効果と同様の効果を持つ呪い。
相違点として水を飲み切った時と同じ効果を一瞬で与えるため、長時間苦しむことは無いが精神崩壊のリスクは比では無い。尚後遺症は6時間は続く。


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第十話 「レッド・ショルダー」

キリコ、やさぐれモード突入
だけど頑張りますキリコ君
第十話、始まります。



教室は静まり返り、唯一聞こえてくるのは紙が擦れ、ペン先を突き立てる音だけ。そう、学期末試験は既に始まっているのだ。

閲覧禁止の棚から本を盗み出してから試験勉強そっちのけで読書をしていたため試験対策は全くしていなかった、とはいえそれまでは散々勉強していたので問題が解けずに苦しむ事は無いのだ。
しかもあの一件が原因で最近全く寝付けていない、おかげで試験中睡魔に苦しめられる事も無かった。代わりに精神はボロボロだが、多少の事はやむを得ない。
周り同様、俺も羊皮紙に羽ペンを走らせるのであった。

その日の試験科目の内容は魔法史、呪文術、変身術だった。
魔法史は基本暗記が中心になる、その結果ろくに勉強していなかったせいで満点はまず期待出来ないが合格自体は確実だろう。
呪文術の内容はパイナップルを机の端から端までタップダンスさせるというもの、これはそのための呪文を覚えていれば良いだけなので容易かった。
変身術の課題は鼠を嗅ぎたばこ入れに変身させる内容だ、これもまた、そつなくこなす事が出来た。途中何回か鼠がタコになったり右肩が赤くなったりしたが些細な事だ。

一日目の試験も終わり、そのまま自室へ向かう。盗んだ本はまだ読み終えてはいない、しかし盗んだ物を図書館や談話室で読むわけにはいかないので自室で読むしかない。

「あっ…キリコ、えーその…」

「………」

そのまま椅子に座り本を開く、ヤツはしばらく黙っていたがその内部屋から出ていった。
…現実から逃げるように本を睨み付ける、内容は今まで読んでいたような本とは比較にならないほど難しいものではあったが、その分見返りも大きい。これだけの情報があれば俺の考えている呪文は十分実現可能な段階まで引き上げることが出来るだろう。

しかし、俺は本に集中しきる事は出来なかった。そうしなければならなかったとはいえ、キニスを突き放した事は未だ俺の心に暗い影を落としていたのだ。
その度に自分自身に語り掛ける、お前と共にいたヤツはどうなった? お前を助けようとしたヤツ、共に戦ったヤツはどうなった? それにより鮮明に蘇る仲間の屍、キニスをそれに重ねて見る事でどうにか決意を持ち直す。
「死なせてはならない」それだけが今の俺を支えている今にも崩れそうな一柱であった。










…全く、分からない。魔法史のテストとにらめっこを続けているが答えを吐いてくれる様子は欠片もない、授業を思いだし答えを導こうとしても浮かぶのはピンズ先生の子守唄と朝御飯の満腹感だけだ。
それに何より、ここ最近心を重くする事があった。そのせいでテストに集中する事さえ出来ないのが、今の僕の現状だ。

あの日の夜、キリコに何かあったのは間違いない。だってその前日までは全然変なところが無かったんだもの。…少し、無理してそうだったけど、でもそれまではいつもとそこまで変わんなかったはずだ。

…キリコは多分優しい人だ、普段は無表情の無愛想だけど箒の暴走を止めてくれたり、真っ先にトロールへ向かっていったり、僕やハリー達を助けてくれた。誰かのためなら自分の危険なんて厭わない…そんな人なんだと思う。
だから今、僕を避けているのも何か僕の為にやっている事なんだろう。
でも、それでいいのだろうか。僕は正直今の状況はイヤだ、これからずっと話すことも出来ないなんて耐えられない。
それにキリコだって同じはずだ、あんなに辛そうな顔をして夜も眠れていないのに平気なはずじゃない。
僕の事を思ってやっている事だろうと関係無い、友達があんなに苦しそうにしてるのに放っておく事なんて、僕には出来なかった。
彼が何であんなことになったのか、一体何を抱えているのか何一つ分からない。だけどやってみせる、せめて、ほんの少しだけでいいからキリコの助けになりたい。彼を―――助けて見せる。










そして全てのテストが終わった今、僕は完全に詰んでいた。
どうすればキリコの助けになるのか。そんなことばかり考えていた結果テスト勉強にこれっぽっちも集中できず、ただでさえ絶望的だったテストは数倍酷い出来となった。
特に魔法薬学は酷かった、その内容は忘れ薬を調合するという課題だったけど肝心の作り方を見事に忘れ、辛うじて出来たのは「三日前のデザートの内容を忘れ、かつ五日前の朝御飯を思い出す」という、あのスネイプ先生が苦笑いを浮かべるほど微妙なシロモノだったとさ、これは酷い。
挙げ句の果てに、これだけ酷い結果という代償を払ってなおキリコを助ける方法が浮かんでいない事だろう。

まさか、ここまで分からないとは思わなかった。数日掛ければ何か一つぐらい妙案が浮かぶだろうと高を括っていたがそれは完全に的はずれだったと認めざるをえない。
とにかく話しかけてみる?
 いや、全部無視されるだろう。
美味しいご飯を奢ってみる?
 ダメだ最近食欲さえ無いみたい。
キリコの闇を調べてみる?
 下手に触れたら余計傷付くだろ。
こういった時、今まで自分がどうやってたのか思い出してみた、結果全てその場の勢いで乗りきっていた。一体どうしろと。

だけど仲違いしたままもイヤだし、キリコが辛そうなのもヤダ。本当にどうすればいいんだ…
その結果、試験が終わったのに部屋にも戻らずひたすら学校中をウロウロしながら頭を抱えているのだ。

「キニス・リヴォービア」

「へ? 誰… スネイプ先生!?」

不意に呼び止められ、間抜けな返事をして振り返ったときいたのはスネイプ先生だった。足音もたてずに話しかけてきたものだから思わずビックリしてしまった。
一体何の用なんだろう。スネイプ先生とはほとんど話した事も無いしそんな親しい関係でもない。何か怒られるような事もして無いし… まさか、テストがあまりに酷いから再試になったとか…

「ダンブルドア校長からだ」

「へ? あ、はいありがとうございます」

ダンブルドア校長? いよいよ分からなくなってきた、何で校長先生が僕に手紙を渡したんだろう? 手紙の内容はというと、

「キニス、すまんが校長室に来てくれんかの
追伸 儂はレモンキャンディーが好きじゃ」

………ダメだ、なんか混乱してきた。何だよ、レモンキャンディーって。一体何の用なんだ… まさか、退学なんて事無いよね…?
かなーり嫌な予感を抱えていたが、校長先生の呼び出しを無視するのはダメだろう。僕は軽く退学の恐怖に怯えながら校長室へ向かっていった。










試験終了から一週間の間、全ての授業は休みとなり生徒は惰眠を貪ったり、徹底的に遊んだりとそれぞれ思い思いの時間を過ごしている。それと同時に、教員は数百人分の答案を採点しており試験前同様夜の警備は薄くなっている。

そして俺はこのタイミングを狙い、またもや図書館へ潜り込んでいた。ただ今回の目的は本を盗むことではなくその逆、本を返却することである。
数日前の記憶を頼りに、読み終えた本をそれぞれの場所に戻していく。あれ以降さらに数日かける事でどうにか三冊共読みきる事が出来た。
本当なら真の目的のためにもここで新たな本を盗んでおきたい所だが、あと数日後のパーティーが終われば長期休みに入り、家に帰らなくてはならない。そうなれば本を返すのは不可能だ、だから今回は諦めることにした。
結局一年掛けて、盗めたのは三冊だけだったが…まあ、一年目ならこんなものだろう。本を戻し終わり、図書館を後にする。

あれからキニスが話しかけてくることは無くなった、だがヤツは未だに俺の事を気にしているようだった。しかし俺がそれに反応することは無い、むしろ順調だ、これを続けていけば一切の関わりを断つことが出来るだろう。
巡回の目を避け、ゴーストの気配を読みながら進んで行き厨房の近くまでたどり着く。ここまで来れば警備が来ることは無い、「目くらまし術」を解き、少し気を緩め再び歩き始めた時だった。

「―――――――――――――――――――――――――――――――――」

…なんだ、今の音は。聞こえたのは異様な音だった。それは人の話し声には聞こえない、しかし物音とは明らかに違う音が確かに聞こえてきた。
俺は歩き出した、無論確かめに行く必要性など何処にも無かった。だがそれとは無関係に足は動いていた、俺の体に染みついた戦いの臭いはその在りかを辿っていたのだ。




そしてたどり着いたのは、三階のある部屋の前だった。そう、ダンブルドアが警告し入ることを禁じた部屋、そして賢者の石が隠されているであろう部屋に俺はたどり着いた。音はここから発せられたのであろう。よく見ると部屋の扉は僅かだが開いており、何者かが侵入したことを物語っている。
扉に耳を当て様子を伺うが何も音はしてこなかった、微かに聞き取れたのは人のような声だけだった。人の声、聞こえた音は虫の鳴き声にも劣っていたが、俺はその声に聞き覚えがあった。誰かに向かって指示のような声を出している、その声はやや甲高くうるさい印象を与える少年の声、そうだ、この声はロン・ウィーズリーのものだ。

つまりあいつらは結局賢者の石を守りにこの部屋へ入って行ってしまったのか、自身の忠告が届いていなかったことに悔しさを感じる。だが、それにショックを受けている場合では無い。賢者の石などと言う驚異的、かつ恐ろしく魅力的な物を守るために仕掛けられた罠だ、少し泣きを見る程度で収まる罠では無い。侵入者を必ず殺すような罠のはずだ、このまま行けばあいつらはほぼ確実に死ぬだろう。
それに気づいた瞬間、俺は扉の中へ飛び込んでいた。










「オオオオオオオオオオオオオ!!!」

部屋に侵入した瞬間、俺は音圧だけで吹き飛ばされそうになっていた。そこにいた生き物は部屋の半分を埋め尽くさんとする巨体を持ち、頭部は三つに分かれ先端には血走った眼をギロつかせる犬の頭があった。そう、地獄の番犬、その異名を持つケルベロスだ。
六つの眼光は既に俺を捉え、鋭い牙と爪を打ち鳴らしながら威嚇をしている。これ以上寄れば殺す、という意味だろう。
ケルベロスの横にはハープが置いてあった、ケルベロスという生き物は美しい音楽を好み、これを聞くとあっという間に眠りについてしまうのである。このハープを奏でるのが本来のやり方なのだろうが、それをすることは出来ない。当然だ、俺はハープを弾けない。
だがそんな事をせずとも突破する方法は幾らでもある。ヤツの足物にある小さな扉、あれが次の部屋への入り口だろう。殺すのが一番確実だ、しかし今はハリー達の安否を確かめなくてはならない。
地獄なら幾らでも見てきた、地獄の番犬くらいに恐怖する理由は無い。俺は杖を取り出しケルベロスに向かって行った―――

「エクスパルソ ―爆破」

巨大な杖をケルベロス…では無くハープに向かって撃ち込む。粉々に砕けたハープはケルベロスに襲い掛かった、しかし怯む様子はあるがダメージは一切見当たらない。だが優先するべきなのはハリー達だ、その隙に扉に向かって駆け出す。
しかしそれを許すほどヤツも甘くはない、俺が走り出したのに気付くと巨大な口で噛み殺そうとしてくる。
だが上手くいってくれたようだ、わざわざ近づけてくれた頭に呪文を叩き込む。

「ルーモス ―光よ」

一瞬、部屋の中が閃光で覆われる。閃光手榴弾に匹敵する光を至近距離から浴びた三頭犬は目の機能を完全に失うことになった。
絶叫し激痛に痛み苦しみ暴れ狂う、冷静さを失ったケルベロスは臭いで俺を確認する事すら忘れ、部屋もろとも俺を潰さんと牙を、爪を、巨大な尾をそこら中に叩きつける。部屋は破壊され瓦礫が降り注いでいた。
普通ならこんな状態のケルベロスに近づく人間は居ないだろう。そう、普通の人間ならば。俺は暴走するケルベロスに向かって歩き出した。

残り8m…
人間一人分はある爪が降り下ろされる、だがそれは頬を掠めるだけだった。
残り7m…
全身を使いタックルを叩き込む、しかし姿勢を少し屈めるとそれは上を通りすぎていった。
残り6m…
冷静さを少し取り戻したのか、臭いの位置を探り正確に噛み殺そうとする、それはたまたま落ちてきた瓦礫を噛み砕くだけだった。
残り5m…
丸太のような尾が降り下ろされる、それを紙一重でかわすが衝撃で吹き飛ばされ、俺はちょうと扉の所まで吹き飛ばされた。
扉の中は暗闇となっており、底は見えなかった。しかし俺は迷わず、衝撃を利用しそのまま扉の底へ落下していった。




暗闇の中を落下していく、このまま行けば落下死は免れない。だが闇が何処まで続いてるか分からず、落ちた先に何があるのかも分からぬ以上迂闊な行動も危険だ。
目を凝らし闇の中を見続けると、地面らしきものが見えてきた。

「ウィンガーディアム・レビオーサ ―浮遊せよ」

自分に呪文を掛け減速する、ゆっくりと着地した場所には植物の弦のような物が密集していた。その植物はまるで生物の様に蠢き、俺を引きずり込んでいく。
そうか、こいつは「悪魔の罠」か。大人しくしていれば何とも無いが、暴れるとその分強く締めつき締め殺されてしまう。だがこいつには弱点がある、日の光だ。大人しくしてても構わないが生憎時間が無い、ここは急がせてもらう。

「ルーマス・ソレム ―太陽の光」

放たれた太陽光に怯み、悪魔の罠は萎んでいく…はずが、余りの強力さに一本残らず枯れ尽くしてしまった。まあそんなことはどうでもいい。名前負けした罠を突破した俺は、目の前の扉を開け次の部屋へ向かったのであった。






次は何が来る、次に来るものは何だ。
途切れることの無い緊迫感の中、俺は彼処を思い出していた。
前に居るのが敵なのか、後ろに居るのが味方なのか。
正体不明の四面楚歌、疑心暗鬼の危険地帯。
味方も敵も、誰が何処に居るかも分からない此処はまさに吸血鬼の故郷オドンそのものだ。
俺は今、この時だけはレッドショルダーに戻っていた。



混沌を体現する者が走る、跳ぶ、吼える。
杖先が光り、爆音が弾ける。
吸血鬼の腕が秘密の扉をこじ開ける。
炎の向こうに待ち受ける、ゆらめく影は何だ。
いま、解きあかされる、石を巡る謀略。
いま、その正体を見せるヤツの謎。
次回「強襲」。
キリコ、牙城を撃て。


やっとこさ部屋へ突入出来ました、話数合わせるのクソ大変だな…
さて、今の内にホグワーツの被害総額でも計算しておくか。


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第十一話 「強襲」

賢者の石編、いよいよクライマックスです。
果たしてどちらが勝つのか、ハリーに出番はあるのか!
クィレル教授の命やいかに!


ケルベロスの部屋や悪魔の罠と違い、今度はかなり、特に上に向かって広い部屋だった。目の前に扉こそあるが、鍵が掛かっており開ける事は出来ない。だがこの部屋の中に鍵はあるはずだ。
部屋を見渡すと、上の方に異様な光景を見つけた。どうやら大量の鳥が飛んでいるらしい、…いや、鍵だ、鍵に羽が生えて飛んでいるのか。つまりあの大量の鍵のどれか一つが扉の鍵なのだろう。
しかし、どうするか。鍵を取ろうにも相手は遥か彼方、箒でも持っていれば良かったのだが今更戻ることは出来ない、何より元々箒は持っていないのだ、呪文で撃ち落とすにもあの数は時間が掛かりすぎる。
羽を持つ鍵…か、一つ方法が浮かんだ俺はそれを試すことにした。魔法の羽にも通じれば良いのだが。
反動に備え地面に横たわり、杖を両手で構え上に向け全力で呪文を唱えた。

「アグアメンティ ―水よ」

杖の先端から発射された津波のような濁流、そして水圧に耐えながら上空一体をなぎ払っていく。その威力によって飛行していた鍵達は次々と天井に叩きつけられ、羽虫のように墜落していった。
どうやら大丈夫だったようだ。羽を濡らされた鍵は、その質量に抗えず地面でのたうち回っている。降り注ぐ水と銀の鍵の中、異様に古く、周りの鍵と浮いているヤツを拾い鍵穴に差し込む。鍵はすんなりと穴にはまってくれた、これが正解のようだな。




視界に広がるのは巨大なチェスの盤面、しかしそこに駒は殆どおらず、その多くは残骸となって打ち捨てられている。二体のキング、その内片方だけが剣を落としている。これは降伏の意味、つまり誰かがここで戦っていたということだ。盤面を見ると赤毛の少年が倒れていた。
ロン・ウィーズリーだ、こいつがここに居るということは俺の予想通りハリー達もここに居るのだろう。当たってほしくなかった予感にうんざりとした気分になったが、ロンの状態を確認する。
出血は少ない、心臓も脈もある。気絶しているだけのようだ。
向こうの扉が開いてるのを見るとハリー達は先に行ったらしい。念の為ロンに応急処置をしていると、砕けていたチェスの駒が元の形に戻り始めている。まさか―――
扉を見ると徐々に閉じ始めていた、まずい、ここで扉が閉じれば俺はチェスに挑む事になる。そうすれば大幅に遅れることになるだろう、応急処置を終えると扉に向かい全力で走り出した。




すんでのところで部屋に飛び込んだ場所に居たのは緑色の巨体に鼻を突く異臭、そうトロールだ。それもハロウィンの時のヤツよりも大きい、恐らく7mにはなるだろう。
幸い誰かが倒したのか気絶しており動く様子は無い、これを相手にする事になったら相当面倒だっ―――

…丁度目覚めたようだ、ならば仕方ないだろう。

「エクスパルソ ―爆破」

一先ず棍棒を爆破し攻撃手段の排除をする、そして突然の出来事に理解が追い付かないトロールに次の呪文を放つ。

「ウィンガーディアム・レビオーサ ―浮遊せよ」

浮遊魔法を使いトロールを天井ギリギリまで浮遊させ、呪文を解除する。トロールはもがくが既に手遅れだ、自分自身の巨体が仇となりその質量を全身に喰らうこととなったヤツはその場に崩れ落ちる。

「エクスパルソ ―爆破」

十分届く位置になったので、あの日のように口内へ直接爆破魔法を撃ち込む、無論トロールは顔から血を吹き出しながら絶命した。
トロールにトドメを刺した後次の部屋に進もうとした時、人の気配を感じた俺は死体の影に隠れる。
次の部屋への扉を開き、走ってきたのはハーマイオニーだった。一瞬だけトロールの死体に驚いていた様だが直ぐに再び走り去っていった。
一体何を急いでいるのだろうか。ここまで見たのはロンとハーマイオニーだ、ならこの先に居るのはハリーなのだろう。先ほどの彼女の行動、あれが助けを呼びに行った物だとしたら…
…急がなくてはならない。俺は危機感に煽られるように次の部屋へ走り出した。




これまた今までと違い、薄暗く小さめの部屋だ。中央には大小様々な薬品が置かれたテーブルがある、罠のような物は無いようだ。
警戒を続けながら部屋に入るとその瞬間今通った扉は紫色の炎に、次の部屋への入り口は黒い炎に包まれた。
テーブルには何かが記された巻き紙が置いてある。
…つまり、この瓶の内3つは毒薬、2つはイラクサ酒、そして1つが紫の炎を、もう1つが黒い炎を無力化する薬らしい。
だが、机の上にある瓶は五本しかなかった。さっき部屋を出ていったのだから一つはハーマイオニーが、ここに居ないのだからもう一つもハリーが飲んでしまったのだろう。
つまり、俺はこの部屋を出ることも進むことも出来ないらしい。ここに来て手詰まりになるとは、何か他に方法があればいいが…

「殺せ!」

突如先の部屋から聞こえてきた声、クィレルでは無い甲高い男の声だ。
もはや一刻の猶予も無い、俺はローブを脱ぎ、それを構えながら黒い炎の中へ突き進んで行った。










まさか、本当にクィレルだったなんて。それに何で僕の手の中に石があるんだ、何で同じ鏡を見てもクィレルは手に入れられなかったんだ。僕じゃないと石は手に入らなかったのか、だとしたら何もかもキリコの言っていた事が正しかった事になる。
悔しさと情けなさが込み上げてくる。僕がキリコの言う通りここへ来なければクィレルは石を絶対手に入れられなかったのに。
でも、それでも石を渡すわけにはいかない。ヴォルデモートを蘇らせるのだけはダメだ! もしこいつが蘇れば全てが壊される、ホグワーツ、ロン、ハーマイオニー、友達に先生たち、僕が皆を守らなくてはいけない!
石を奪い取ろうと襲いかかるクィレル、とにかく石を守ろうと必死で逃げようとする。でも体が上手く動かない、恐怖で足が震えるばかりだ。あれだけ大口を叩いておいてこれか!? 動け! 動け!
―――ダメだ! 奪われる!

だが、クィレルの手は僕に届かなかった。
突然飛んできた黒く燃えるローブ、それがクィレルを吹き飛ばし爆発したのだ。

「ああああ!?」

全く予想できない状況に混乱するクィレル、それは僕も同じだ。一体何が起きたんだ!?
ローブが飛んできた方を見る、暗闇の中からゆっくりと歩いてきたのは…

「キ、キリコ…!?」

「………」










間一髪間に合ったようだ、黒い炎に包まれたローブを爆破魔法で吹き飛ばした俺は体に燃え移った炎を払いながらヤツに近づいていく。
やはり、クィレルだったか。ハリーに目立った外傷は見当たらないようだ。

「な、…何故お前が、キリコ・キュービ―――」

「エクスパルソ ―爆破」

「! プロテゴ ―護れ!」

不意打ちとして爆破魔法を撃ち込む、ヤツと話す理由など無い。それは盾の魔法で防がれた、だが隙を与えはしない。

「エクスペリアームズ ―武器よ去れ」

「エクスペリアームス ―武器よ去れ!」

武装解除魔法に対し、同じ魔法で打ち消すクィレル。しかし最初の不意打ちのお陰か戦いの流れはこちらにあった。

「アバダ・ケダブラ!」

ヤツの杖から放たれた緑色の閃光、それを盾の魔法で防ご―――

「!? ウィンガーディアム・レビオーサ ―浮遊せよ」

その光に凄まじい悪寒を覚えた俺は咄嗟に瓦礫を浮遊させ閃光を防いだ、砕け散った破片で数ヵ所に傷を受ける。
あの閃光、ただの呪文ではない。分からないがあれだけは食らってならないと今まで生き残ってきた俺の本能は警告していた。

「アバダ・ケダブラ!」

再び飛来する閃光を横に跳躍することで回避する、だが上手く着地できず姿勢を崩してしまった。
俺の杖は、確かに強力だ。だが代わりに体力を大幅に消耗するという弱点も持っている。罠を越える為色々な呪文を使っていた俺はここに来るまでで既に体力をかなり消耗していたのだ。
息を切らしながら立ち上がる。そろそろ決めなければならないだろう。

「アグアメンティ ―水よ」

「インセンディオ ―燃えよ」

俺が放った水に対し、対抗呪文を放つクィレル。衝突した水と炎は部屋を大量の蒸気で埋め尽くした。
狙い通りだ、煙によってヤツは俺を見失っている。すぐさま後ろに回り込み至近距離から爆破魔法を―――

…居ない、ヤツの姿は何処にも無かった。では一体何処に―――

…! 頭の後ろに杖を突きつけられる。そうか「目くらまし術」だ、これで自分の位置を分からなくしていたのか。
後ろ目で確認するとヤツはほくそ笑んでいた、そして勝ち誇った顔であの呪文を放つ。


「アバダ・ケダブラ!」


それこそ、俺の狙いだったのだ。

「!?」

至近距離から放たれた、確実に当たるはずのそれは俺をギリギリ掠めず、あらぬ方向へ消え去って行った。
瞬時に振り返りヤツに杖を向ける。
信じられない事態に驚いたクィレルは俺から距離を取りながら再び閃光を放とうとする。

「アバダ・ケダブ―――!?」

クィレルは自分を支えられなくなり姿勢を崩した、いや、支える足そのものが無くなっていたのだ。
見るとヤツの足元にはハリーが驚いた顔で足…だった物に食らいついている。
こいつがやったのか? 一体どうやって? ハリー自身もそれを分かっていない様だがこれは絶好のチャンスだ。一切の出し惜しみをせず、トドメの一発を撃ち込む。

「エクスパルソ ―爆破」

「あああああああ!!」

部屋が吹き飛んだかと思うほどの閃光と轟音の中、クィレルの下半身は大爆発を起こし、後ろの石柱を砕きながら壁にめり込んでいき、そして崩れ落ちた。
それと同時に俺も膝をつく、だが勝てたようだな。
爆発の衝撃に巻き込まれたのかハリーも倒れている。様子を見てみると、単に気絶しているだけのようだ。
もうじき誰かしら助けが来る。これで一先ず大丈夫だろう、そう思い一息着いた時であった。



「アバダ・ケダブラ!」



!! 突如クィレルの背後から這いずり出てきた黒い靄、それはクィレルの杖を奪い緑色の閃光を放った。
どうすれば避けられる、跳躍するか、浮遊魔法を使うか。
しかしどの方法も俺の体はしようとしなかった。
…これを受ければ死ねるのか?
先ほどまでは単なる危険な攻撃だったそれは、まるで祝福の光のように見えた。
本能に反し、俺の体は動こうとしない。もし、これで死ねるのなら―――




「キリコーーー!」




閃光を遮るように現れた人影、それは紛れもなくキニスそのものだった。
!! 死にたいという願望を強烈な意志で体から叩き出し、咄嗟に盾の魔法を唱える。

「プロテゴ ―護れ!」

しかし無情にも盾は砕け散った。そして拡散した緑の閃光は俺とキニスを貫き吹き飛ばしていった。

まさか、駄目だったのか? 
結局キニスを殺すことになってしまったのか? 
俺がどうしようとこれが運命なのか?




途切れ行く意識の中、俺は絶望していた。
自分の意思ではどうしようもない、全てを飲み込んで燃やし尽くしてでも生き残ろうとする俺自身に。
文字通り何もかも焼き払ってゆく「炎のさだめ」に―――



ホグワーツと賢者の石、異能、キリコ、少年、ヴォルデモート。
縺れた糸を縫って、神の手になる運命のセストラルが飛び交う。
イギリス魔法界に織りなされる、神の企んだ紋様は何。
巨大なマトリクスに描かれた壮大なるドラマ。
その時、キニスは叫んだ。
キリコ!と。
次回「絆」。
いよいよキャスティング完了。


キリコ、ミスターお辞儀に気づかなかったん?
と思うかもしれません、しかし本編を読めばわかりますが
戦闘中キリコとクィレルはずっと相対し合っています。
よって一度も後頭部を見ていないからです。
唯一後ろに回り込んだ時は目くらまし術使ってましたし。


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第十二話 「絆」

残り八話と言ったな、あれは嘘だ
よってあと一話続きます。
また風邪でぶっ倒れ投稿遅くなりました
申し訳ありません


「………」

開かれた瞼、そこに写り込んでいたのは白い世界だった。
天井にはランプが吊るされており目を動かすと四方は白いカーテンで覆われている。
そして俺は白いシーツが敷かれたベッドに横たわっていた。
ここは医務室だろうか、だとすると俺はまたもや死に損ねたらしい。
とはいえそれは予想通りの事だ、落胆こそしたが絶望するほどでもない。

そこまで思い出した時、俺は大事な事に気が付いた。
キニス、俺を庇ったキニスは無事なのか。
周りを見渡そうと体を起こすと、そこら中から激痛が襲いかかってきた。
あの時食らった緑色の閃光によるものだろうか、激痛に悶えながらもヤツを探そうとする。

「…………!」

カーテンを開け放つと、ヤツはすぐ隣のベッドにいた。
あちこちを包帯で覆われ、目を閉じて横たわっている。
まさか、そんな、最悪の予感が脳裏を過る。
その予感が間違いであると確かめるために、これが嘘だと願い俺はキニスに触れようとする。

「ファー…あ、キリコ! やっと起きたんだ!」

その瞬間キニスは目を開け、あっさりと起きた、呑気に欠伸までしている。

「生きていたのか…」

「いやそれこっちの台詞だよ、キリコもう三日間まるまる寝込んでたんだから。
それに十ヶ所打撲、四ヶ所骨折、内一つは粉砕骨折だよ。
マダム・ポンフリーいわく「必ず死ぬはずよ…魔法が使えなければ!」だって。
まあ、僕も起きたのは少し前なんだけどね。
しかもあと一日は絶対安静だってさ…折角の休みなのに寝ることしか出来ないなんて」

…全く問題無いらしい、いつもと至って変わらないこいつを見て気が抜けるのを感じていた。
それにしても三日間も倒れていたとは、一体あの光はどれ程強力な物だったのだろうか。
もし直撃していたら、本当に死んでいたのだろう。

そこまで考えた俺は気づいた、俺にあの光は絶対当たらない事実に。
仮に拡散させるのに失敗していたら、光の直撃を受けたのは俺ではなくキニスだったのだ。
俺の異能が、俺を生き残らせるためにヤツを呼び出したという事実に。

俺の恐れていた事態が起こりかけていたのだ、俺に関わることでキニスが死ぬという事態があと少しで現実になろうとしていたのだ。

「お前は何故あそこに居た」

「え? いや最近キリコ辛そうだったし、それで心配してて寝れなかったんだ。
それで起きてたら、談話室の前で物音がしてさ、気になって行ってみたらキリコが出歩いていて。
何だろうと思ってついていったら立ち入り禁止の部屋に入ってったから心配して追いかけたんだよ」

そういうことか、しかし謎の音に気を取られていたとはいえ気付かないものだろうか。
そもそも物音をたてた覚えも無いが…
だが、これ以上こいつを地獄に付き合わせるわけにはいかない。
でなければ今度こそこいつは死んでしまう。

「それにしても本当に心配したんだからね、死が潜むって部屋にズカズカ入っていくんだもん」

「頼んだ覚えは無い」

無視していてもこいつは心配してくる。
だからヤツの気遣いを徹底的に拒絶する、そして完全に嫌われ二度と関わらないような状況にしなければならない。
だがこいつはその程度で引き下がるような人間では無い。

「そりゃそうだよ、第一死ぬかもしれない所に勝手に入って行ったら、頼まれ無くたって僕は行くよ」

「それが迷惑なんだ」

「…ちょっとそこまで言わなくてもいいでしょ、心配してるんだから」

少し、怒ったような表情を浮かべていたがヤツは言い返してきた。
もっとだ、完璧に拒絶しなければこいつは離れない。

「…分からないなら言ってやる、お前に関わられると迷惑だ、足を引っ張るばかりでろくな事がない。
俺の事を思ってるなら俺に関わるな!」

「………!」

かつて無いほど強い口調で拒絶の意思を示す、そんなつもりは無かったが声まで荒げていた。
それに衝撃を受けたヤツは何も言い返してこない、その顔は怒っているのか驚いているのかよく分からないものだったが、少なくとも好印象な感情では無いハズだ。

黙り混むヤツを見て手応えを感じた俺は痛む体を引きずり、あちこちの痛みに耐えながら医務室を後にしようとした。
しかし、ヤツはベッドから跳ね起き、痛みに表情を歪まながらも話そうとしてくる。

「…嫌だね、そんなこと。
だって友達を心配するのは普通の事だもん」

目を逸らさず、真っ直ぐに見つめてくる。
やはり、簡単にはいかないか。
だがここで引くわけにはいかない、そこで俺はさらに熾烈な言葉を必死にぶつけていく。

「死にたいのか? 
これ以上関わるならお前は必ず死ぬことになる」

「…な、何言ってるの?」

俺が言いたいことを理解できていないようだが、確実に動揺している。
当然だろう、突然死ぬと言われれば混乱するのは当たり前だ、この言い方ならまるで俺が殺そうとしているように聞こえるが、それも間違いではない。

「俺を心配してお前が来なければ、俺はあの光を避けることが出来た。
だがお前が来たせいで俺もお前も死にかける事になった。
お前の心配は俺の邪魔だ、そしていつかお前も死ぬことになる。」

今度こそヤツは黙り込んだ、自分の行動全てを否定されるということは相当辛い。
それに加え現に死にかけたという事実はあいつの心を折るのに十分な効果を発揮しているはずだ、完全に止めを刺すために最後の言葉を絞り出そうとする。

「だから言った、お前は邪―――」

「死ぬことになる? それが何? 僕のせいで怪我を負ったことは謝るよ。
でもキリコ、死ぬのが怖かったら僕はあの部屋には入らなかった!」

尚もしつこく反論してくるヤツに一瞬動きが止まる、だがすぐに次の言葉をぶつけようとする。

「それがどうした、お前は―――」

「ああああああああああ! もおおお!」

「!?」

突如頭を掻き毟りながら叫ぶキニス。
呆気に取られているとヤツは俺に詰め寄り、今までとは別人のように叫び始めてきた。

「いい加減にしてよキリコ! そんな顔してたら言ってることもその態度も全部嘘だって分かるんだよ!?」

そんな顔だと、近くの窓に映り込んでいる自分の顔を見てみる。
…特にいつもと変わらない、その筈だ。
冷静さを一旦取り戻し、反論を行う。

「何を言っている、全て俺の本心だ」

そう、嘘ではない。
これは全てまぎれもなく俺の心から出た言葉だ、キニスに死んで欲しくないからこそ今もこうして熾烈な言葉を吐き続けているのだ。
だがヤツもまたすぐさま反論してきた。

「いいや嘘だね、だってキリコは優しい人だから!」

…? 優しい? 急に何を言うのだこいつは。
突飛かつ的外れにもほどがある発言に、反論すべき言葉を一瞬見失っていた。

「理由を言ってあげるよ!
だって最初の箒の授業の時、暴走してた僕を助けてくれたじゃないか!」

そんなことで、そんな理由だけで俺を優しいと思ったのか。
その素直さに呆れすら感じたが、いくらでも言いようはある。
睨み続けるヤツに向かって淡々と理由を説明していく。

「あれか、あれは点数稼ぎのためだ。上手い飛行をすれば点数ぐらい貰えるかと考えたに過ぎない」

我ながら上手い理由を言えたと思う、だがヤツは視線を一層厳しくしながら次の理由を叫んでいく。

「じゃあ何でトロールに向かっていったの!? あれはハリー達を心配したからじゃないの!?」

「戦うためだ、自分の実力を試す機会はそうそうなかったからな、嬉しかったさ。」

そういった一面もあった筈だ、それが無いとは言い切れない以上理由としては十分だろう。
しかしヤツの叫びは止まらない。

「だったら何でハーマイオニーに助言をしたの!? ハーマイオニーから聞いたよ! 取引に応じなかったのに助言してくれたのはきっと自分たちを心配してくれてたからだって!」

「…当然だ、取引に応じなかっただけでは疑われる。
だから助言をした」

次々と理由を繰り出してくるキニスに対し、何とか次の理由を吐き出す。

「石を守りに行ったハリー達を追っかけた理由は!?」

「…それも点数加算だ、石をクィレルから守ればそうなると考えたからだ」

必死に言葉を絞り出していく、理由など幾らでも浮かんでいた、その筈だった。
しかしその言葉は俺の口から出てこようとしない。

「ロンに応急処置したのは!?」

「…それもだ、点数―――」

「クィレルと戦ったのは!? ハリーを助けるためでしょ!?」

もはや反論さえキニスは許してくれない、俺の心を暴かんとする勢いで問い続ける。

「…同じ理―――」

「だったら何で僕を守ってくれたの!? キリコはさっき避けれたって言ったよね、だったら僕のことなんか気にせず逃げれば良かったじゃないか! でもキリコはそれをしなかった、僕を守ろうとしてくれたのは何で!?」

「………」

言葉は出なかった、そんな事は知っている、俺は人を拒絶など出来ないことに。
誰かの温もりを求めずには要られないような、親しくなった人もそうでなくても見捨てることがで出来ないような情けない人間だとは知っていた。
だからこそ俺は人を拒絶してきた、俺のせいで誰かが傷つかないように。
俺の力のせいで誰かが死なない様に。

「…ね、そうでしょ? キリコは誰かの為なら自分が傷ついても構わない、そんな心を持った人だ。
そういう心を持った人が、人を傷つけるような事をして平気な訳だと思えない」

「………」

だがキニスは止めようとしない、どれ程拒絶しようと傷つけようと絶対に離れようとしない。
故に怖かった、いつも死んでしまうのはまさにこいつの様なヤツばかりだったからだ。
キニスも同じ運命を辿ると確信できたから全力で引きはがそうとした。

「なのにこんな事をするのは多分僕の事を思ってやってる事なんだと思う、もちろん理由は分からないけど。
でも僕はいやだ、僕の為でも誰かの為でも、キリコが苦しんでるほうが一番嫌だ」

「………」

しかし剥がせなかった、いや剥がそうとしなかったと言った方が正しいだろう。
俺の心は欲していたからだ、そう、まるであいつらの様に話せる人を、利害関係も何もなく腹を割って話すことの出来る親友を求めていたのだ。

「だからキリコ、そんなになるまで無理しないでよ。
別に悩みは全部言えとか秘密を抱えるなとか言わないけど、少しくらい頼って欲しいんだ」

「…お前は、何故そこまでする」

死すら紛い物だと知ったあの時から、俺の心は死んだものだと思っていた。
だからこそ傷つく事も無いと思っていた。
だが違った、俺の心は何もかも忘れようとしていたあの時と何も変わっては居ない、殺してしまうと分かっていても人の温もりを求めずには要られない傲慢なモノだった。

「友達を心配するのは普通のことでしょ? 僕はキリコの友達だ、キリコ自身はそう思ってないかもしれないけど僕はそう思ってる。
一緒に居ると必ず死ぬ? それがなんだよ、死に掛けようと何だろうと苦しんで辛そうな友達を放っておく事、それは僕にとって死ぬよりも嫌だ」

「………」

いいのだろうか、温もりを求めても。
その結果殺してしまう事になったとしても、地獄に付き合わせる事になったとしても。
こいつはそれでもいいのだろうか。
その答えなど、今更考えなくても分かり切っていた。

「友達が苦しんでるなら、僕は地獄にだって付き合ってやる。
―――それが友達だ」

ありふれた、よくある言葉。
しかし今の俺にとってその答えは、何よりも嬉しい言葉だった。
新たな地獄で傷付き冷え切った俺の心、その小さな灯は俺を温めてくれた。
安らぎと嬉しさ、何十年ぶりに得た感情に逆らうことは―――
いや、もう逆らう気すら無かったのだろう。
最後の、なけなしの抵抗に最後の疑問をぶつけた

「…何故、俺を友達と思う」

「………理由は…無いかな。
でも僕は一緒に居ると楽しいんだ、だからもしキリコも楽しいんだったら―――
友達で良いんじゃない?」

…やはりこいつはあいつらと同じ、お人良しなのか。
なら最初から拒絶することなど、不可能だったのかもしれない。

「…キニス」

「何? キリコ」

「…すまなかった、そしてありがとう」

「…うん、僕もありがとう、守ってく―――」

「何をしているんですか貴方達は! 絶対安静と言ったでしょう寝ていなさい!
ミスターキュービィー、大丈夫ですか? 後で検査をしますので待っていて下さい。
さあ貴方はベッドに戻って!」

「え!? ちょ!? このタイミングでそんn―――」

………
この状況を締まらないと言うのだろう。
今までの空気はマダム・ポンフリーに引きずられるキニスの断末魔と共に遠くへ去って行ったのであった。
だが俺の胸には、久しぶりに感じる感情が確かに残っていた。








マダム・ポンフリーにベッドに叩き込まれながら、僕はあの日の事を思い出していた。




「おおキニス、よく来てくれたのう」

いや、あれ部屋の合言葉だったのかよ。
もう少し分かりやすく書いて欲しかったと思う、現に僕は校長室の前で一時間途方に暮れ、結局通りすがりのスネイプ先生に助けを求めるハメになった。

「えーと、用って何でしょうか… まさか退学何てことありませんよねー…」

「退学? ほっほっほ、そんな事は無いから安心するのじゃ。要らぬ心配をかけてすまなかったのう」

…正直、僕はこの人が苦手だ。
別に悪い人じゃ無いとは思う、ただ何だか常に一物抱えてるような感じがする。
無論それも悪い事じゃ無い、誰だって言いたく無いことの一つや二つあって当たり前だからだ。
でも何か…何か突っかかる感じがする、それが苦手だった。

「じゃあ…」

「うむ、それなのじゃがキニス、君はキリコと喧嘩をしたのかね?」

「? いえ? してません…いや、もしかしたら知らない内に何かやらかしたかもしれませんが」

「ふーむそうか、では最近キリコに何かおかしな事はなかったかの?」

「…もしかして、用があるのはキリコの方なんですか?」

ダンブルドア校長は少しだけ驚いた顔をしていた、ってことは目的はそっちなんだろう。

「そうとも言えるし、そうとも言えん。
儂が心配しているのは君たち両方なのじゃ」

あ、両方でしたか。
じゃあ校長先生は僕とキリコの仲が悪くなってるのを気にして、呼んでくれたのだろうか。

「君たちは仲が良かった、じゃが最近は二人で居る所を見かけなくての、それで心配になったというわけなのじゃ
…一体何があったのか教えてくれんかの?」

「うーん、そう言っても…何故か急にあんな感じになっちゃたんですよね…
おかげで原因も分からず、仲直りする方法も分からないんです。」

ダンブルドア先生はちょっと落胆した後、僕にお礼を言ってきた。
そしてしばらく黙って何か考えてるみたいだった。

「…キニス、一つ頼みがあるのじゃが」

「頼み? 何でしょうか?」

「あの子の傍にいてやって欲しい」

「…はい?」

思わず聞き返してしまった、一体何でこの人はそんな当たり前の事を言って来たんだろうか。

「儂から見ると、彼は君といる時とても楽しそうな顔をしておった。
しかし今はこの学校に入学してきた時のような、悲しそうな顔に戻ってしまっておる。
じゃが、君なら彼をまた笑顔に出来るじゃろう。
今は辛いかもしれぬが、それでも彼の傍にいてやって欲しいのじゃ」

「もちろんですよ、離れろと言われてもそんなの嫌ですから」

「そうか、ありがとうキニス。
付き合わせて悪かったのう。」

「はい、…じゃあ失礼します」

さっき言った言葉はまぎれもなく本心だ、むしろ辛そうな時ほど傍にいるのが友達ってやつだろう。
でも改めて口にだして思った、今キリコから離れてはいけないと、絶対に支えて上げなければ取り返しの付かない事になるかもしれない。
キリコに何が起こったのかは分からない、けれど傍に居て元気づける事は出来る。
多分また拒絶されるだろうけど、それが今僕に出来る唯一のことだ。




そして今、ベッドに横たわりながら思う。
結局いつもの勢いで乗り切っていた気がするが…まあこの際何でもいいや。
最後までキリコに何が起きたのか聞くことは出来なかった、でもそれはいつか話してくれるまで待つ方がいいんだろう。
それよりも僕はキリコと仲直り出来た事の嬉しさで一杯だった。
何よりもそれが一番嬉しかったのだ。



降り注ぐ閃光。
迫りくる異能者。
野望と野心と陰謀の元、クィレルが燃える。
絶対的、ひたすら絶対的パワーが蹂躪しつくす。
我が主の望み、手に入れた石、力、狡猾な野心、
老いも若きも、男も女も、昨日も明日も呑み込んで、走る、炎、炎。
悲鳴をたててホグワーツが沈む。
次回「脱出」。
異能者は何があっても蘇る。


いや別に、家に帰るから「脱出」ってだけですよ
ホグワーツは燃えませんよ ま だ
というわけで次回、ようやく第一章完結です
まあプロローグなんで短めですが

追記 キニス君の部屋突破方法ですが
チェスの部屋までは自力で何とか突破しました、
で、立ち往生してたらダンブルドア先生が来た次第です。
描写不足で申し訳ありませんでした。


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第十三話 「脱出」

やっとこさ第一章が終わりました。
しかしまだまだホグワーツは地獄に程遠い、
このSSはホグワーツがイギリスもろとも滅ぶまで終わらないのです。

地球が消えないだけマシと思え


「また一年が過ぎた」

ダンブルドアは生徒達全員から見ることの出来る演説台に立ち話し始めた。

本来ならばあと数日間は絶対安静ということで、今行われている学年度末パーティーには出られなかったのだがキニスが無理やりマダム・ポンフリーを説得し参加できるようになった。
大広間の天井にはスリザリンの象徴、緑と銀そして蛇が書かれた飾りで埋め尽くされている、寮対抗杯はスリザリンの優勝で確定しているからだ。
既にスリザリン生達は七年連続優勝という快挙に喜びを隠せず嬉しそうに騒いでいる、かたやグリフィンドールはハリー達の減点のせいで最下位まで転げ落ち、どんよりとした雰囲気に包まれていた。

「今すぐご馳走にかぶりつきたいじゃろうが、その前に少し聞いて欲しい。
一年が過ぎ、空っぽだった君達の頭にも色々な物が詰まったのじゃろう、しかし新学期を迎える前に君達の頭がまた空っぽになる夏休みがやってくる
その前にここで寮対抗の表彰を行うとしよう、点数は次の通りじゃ。
第4位グリフィンドール、312点
第3位ハッフルパフ、382点、
第2位レイブンクロー、426点、
そして、第1位は475点でスリザリンじゃ」

スリザリン席から歓喜の声と地響きまで伝わってくる、他の寮、特にグリフィンドールの悔しさはすさまじかった。
責任を感じているのかハリー達は周りより一層暗そうな表情をしている。

「よーしよしよくやった、スリザリンの諸君。だがのぅ、最近の出来事も勘定に入れなくてはなるまい」

騒がしかった大広間は一瞬で静まり返る、その多くは戸惑いの表情を浮かべており、スリザリン生はかなり不安そうな表情をしていた。
ダンブルドアは生徒達を見渡した後再び話し始める。

「まずは…ロナルド・ウィーズリー、近年まれに見る素晴らしいチェス・ゲームを披露してくれたことを称えて50点を与える」

途端にグリフィンドールの席から天井が吹き飛ぶほどの大歓声が巻き起こった。
ロン本人は照れくさそうな顔をしていたが胸を張り誇らしげだ。

「次にハーマイオニー・グレンジャー、火に囲まれながらも論理的に、冷静に対処した頭脳を称えて50点を与える」

さらに強力な歓声が巻き起こる、ハーマイオニーは嬉し涙が止まらないようだ。

「さらにキニス・リヴォービア、友の為に恐怖を乗り越え、またその身をもって友を守ろうとしたその精神を称えて50点を与える」

まさかのハッフルパフへの加点、一瞬の沈黙の後俺達の周りもまた大歓声に包まれた。
キニスは自慢げな顔で周りに手を振っているが口から洩れているスパゲッティで色々台無しになっている。

「キリコ・キュービィー、強大な力に怯むことなく戦い、そして見事打ち破った力と信念を称えて50点を与える」

…俺もか、だが悪い気はしなかった。
ダンブルドアの声は途中からハッフルパフ生の声でかき消されており聞こえることは無かった、まあこれでハッフルパフはスリザリンを上回り1位になったのだから当然の反応だろう。
だが、この流れであいつが含まれない筈が無い。

「そしてハリー・ポッター、その完璧な精神力と並外れた勇気を称えて、60点を与える」

会場は興奮のピークに達している、グリフィンドールもスリザリンにあと一歩に迫ったからだ、ハリーの姿は押しかけた生徒のせいで見ることは出来なかったが十分予想できた。

「そして最後に、勇気には様々な種類がある。
中でも友人に立ち向かうのは敵に立ち向かっていく事と同じぐらい困難なことじゃ、よってネビル・ロングボトムに十点を与える」

これでグリフィンドールとハッフルパフが同点となった。
もうダンブルドアの言葉は一切届かない、会場は全て生徒達の歓声で埋め尽くされておりもはや誰が何を言っているのかすら分からなかった。

「さて、儂の計算に間違いがなければ飾りつけを変えねばな…前例もないがこうじゃろう」

スリザリンは1位からまさかの3位へ転落したせいで可哀想なほど静かになり、グリフィンドールを睨みつけている。
校長が手を叩くと緑と銀で飾られた大広間は消え去り、代わりに赤と金のライオン、黄と黒のアナグマが大広間を二分した。
つまり二寮が同時優勝したということだ、滅多に目立つ事が出来ないからか俺とキニスは涙を流しながら喜ぶ生徒達にもみくちゃにされまともに食事を楽しむことすらままならなかった。








そして、とうとうホグワーツでの1年が終わった。
キニスに別れを告げた後、帰りのホグワーツ急行に乗り込もうとすると見覚えのある影がこちらに向かって叫んできた。

「キリコ、ちょっと待って!」

「…お前達か」

ハリー達三人は息を切らしながら走り、息を整えた後再び話し始めた。

「えーと、この前は助けてくれてありがとう。そしてずっと君の事を疑ってごめん!」

「…僕もごめんキリコ、悪かったよ」

「私も…ごめんなさい、あんなに心配してくれたのに疑ってしまって」

何だそんな事か、俺自身は気にして無かったのだがこいつらはずっと気にしていたらしい。
俺としてはこいつらが無事なだけで満足だが、ここはちゃんと返事をしておいたほうがいいのだろう。

「気にするな、無事ならそれでいい」

予想外の返答だったのかポカンとその場で突っ立っている、そういえばいつか礼を言った時凄まじく笑われた事があったが、俺が礼や心配をするのがそんなに意外なのだろうか。
意識が戻るのをしばらく待っていると、列車に乗るように諭すハグリッドの声が聞こえてきた。

「………」

「あ! ちょ、ちょっと待って!」

いつまでも動きそうにないので乗ろうとするが、またもや彼女に呼び止められた。
まだ用があるのか、振り向くと彼女は笑顔で叫んだ。

「新学期もよろしく!」

それに答える事はしなかった、ただ彼女はそれで満足してくれたようだ。

帰りの列車の中、俺は考えていた。
結局この1年大きな収穫は得られなかった、だが不思議と俺の心は満ち足りていた。
数十年ぶりに手に入れた掛け替えの無い友人。
それは本来目指していた事よりも嬉しいものだった。
しかしだからこそ、より決意を強くする。
この呪いを解かぬ限りあいつは必ず死んでしまう、それは確かだ。
俺を友達と、地獄まで付き合うと言ったあいつを死なせるわけにはいかない。
より強い決意と、久しぶりの暖かさを感じながら俺はかぼちゃパイの甘さを口の中に感じていた。







「………」

学校から離れていく生徒達を見送りながら考えていた。
あの時放たれた閃光は間違いなく「死の呪い」じゃった。
しかしそれは彼らに当たることなく砕け散った、物理的な外傷だけで留まっておった。
それは素直に嬉しい事じゃ、大切な生徒が死なずに済んだのじゃから。

…じゃが、儂は素直に喜ぶことは出来なかった。
死の呪いが盾の魔法で防げるはずが無い、この程度で防ぐことが出来たら許されざる呪文にはなっておらん。
反対呪文が無い、当たれば必ず殺すことができるからこそ何よりも恐れられる呪いなのじゃ。
しかし、それは現に防がれておった。

…あり得ない訳では無い、原因など幾らでもあった。
あの杖はクィレルから奪って使った物、じゃから本来の力が出せなかった。
キリコの魔法のせいか杖にひびが入っておった、じゃから呪いが上手くいかなかった。
あの時、儂もとっさに「盾の呪文」を唱え、呪文を二重に張ることができた。

これだけ要因が重なれば、防げないことは無いかもしれん。
普通はあり得んが、あり得んこともまたありえる。
じゃが…ここまで都合よく重なるものじゃろうか、いくら偶然とはいえこれだけ起こるものじゃろうか。

シビル・トレローニーが予言した「異能者」、それはもしや…

いや、そう断ずるのはあまりに早すぎるじゃろう。
それにキニスとの仲も戻ってくれたようじゃ、ならば心配など要らんじゃろう。
それこそが何よりも最も大事な事なのじゃから。




































「そうか、我が君は…」

「…それは本当に残念な事だ」

「!? 何を言っている! そんな事など…」

「…無論丁重に保管している、失くす筈が無い」

「それは我が君からのご命令なのか?」

「分かった、では「日記」を誰かに持たせればいいのだな?」

「…ああ、では何時か」




ささやかな物が、炎の中から蘇った。
砕けかけた友情も、何処かへ置き去りにした愛も、秘密も。
かたや、あらゆる悪徳は違った。
全てが振り出しにもどった。
兵士は死んだ魂を温かな友情に包んで、泥濘と、硝煙の地に向かった。
次回「ダイアゴンYEAR-02」。
傭兵は誰も愛を見ないのか。


以上で賢者の石編は終了になります、次回まで少し時間が空くと思いますが、
クメン編(秘密の部屋)もまたよろしくお願いします!


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「秘密の部屋」篇 第十四話 「ダイアゴンYEAR-02」

どうも久しぶりです、
それでは秘密の部屋編開幕です


電車やバスに揺られること数時間、俺は一年ぶりにあの怪しげなパブの中へ入って行き、店の奥の煉瓦を叩くとあの時と変わらない賑やかな光景が広がってきた。

夏休み期間の間、やることは何も無かった、何せ呪文の練習をしようにも″臭い″が働いてる為出来ず、研究をしようにも家に禁書を持ち込める訳が無いのでひたすらトレーニングをしたり復習をする等して時間を浪費するしか無かったのだ。
そうこうしている間に夏休みも終わりが近づいて来たので、新たな教科書や荷物を買うためにここにやって来たのだった。
だが最初に買わなければならない物がある、ローブだ、この前の事件の時炎の罠を越える為に爆発させてしまった為買いなおす必要があった。
なので最初にマント専門店によって新しいのを購入し、店の外に出た時であった。

その人影は注意深く周りを観察しながら人気の無い脇道に急いで入って行っていた、それを怪しんだ俺は脇道を除いてみる。
そこには何も無いように見えるが、よく見ると確かに店が並んでいた、壁には″ノクターン横丁″と書かれている。

いわばここは闇市のような場所なのだろう、間違いなく危険だがこういった場所にこそ色々な物がある、特に欲しい物がある訳では無かったがその危険な臭いに引き寄せられるように俺は路地裏に入って行った。




路地裏は暗く、じめじめとしており人の気配はほとんど無い、時折見かける人もそれは浮浪者であったりローブを深く被っていたりとここの雰囲気に溶け込むような連中ばかりだ。
あての無い道を進んで行くと一軒だけ店と分かる建物が見えてきた、打ち付けられた板には掠れた文字で″ボージン・アンド・バークス店″と書かれている。
あても無いので、まずはその店から入ってみることにした。

店の中はどれもこれも不気味さと悪趣味を前面に押し出した様な商品ばかりであった、これぞまさに非合法と言うものだろう、店の人間たちは訝しげな視線をぶつけてきたがそんな物は気にせず商品を覗いてみる。
人骨、爪、ポリマーリンゲル溶液(ワップ製)、巨大な黒蜘蛛…
まあ、碌な目的には使わないだろう、そんな事を思いながら見ていると、新たな客が店に入って来た。

「…え!?」

「ドラコ、知っている人間か?」

入って来たのは…ドラコ…だったはず、それと先ほど入って行った怪しい男だ、話し方からして父親だろう。
まあわざわざ話しかける理由も無い、向こうも同じ様に考えたのかそれ以上興味を向けることも無かった。
物色に戻り色々な商品を見ていると店の暖炉に違和感を感じた、店自体が暗いのでよく見えないが誰か潜んでいる。

こんな怪しい店なら、こんな所に人が居てもおかしくないが…
気になったので覗き込んで見ると、そこには少年が驚愕した表情で息を潜ませていた、というよりハリーが何故かそこにいた。
一体何でこいつがこんな所のこんな所にいるのだろうか、意外な人物の出現に驚いているとマルフォイ達が出て行ったと同時にハリーも飛び出て来た。

「…な、何でキリコがここに? というかここ何処?」

「ここはノクターン横丁だ」

どうもハリー自身も何故ここに居るのかは分かってないらしい、混乱するハリーを置いて出て行ってしまうのは流石に悪いので一緒に店を出ていく事にした。

「…で、何でキリコはここに居るの?」

「たまたまだ、むしろ何故お前が居る」

「あ、今僕ロンの家に泊まってるんだ、それで一緒に新学期の買い物をしようって事になったんだけど、移動に″煙突飛行ネットワーク″って言うのを使ったら…何か間違えちゃったみたいで…」

煙突飛行ネットワークか、俺自身は使ったことはないがその内容は知っている。
魔法使いの家の暖炉にフルーパウダーと言う粉をふりかけ、行きたい場所を叫べばそこに行けるという便利なシステムだ、ただし場所をハッキリと発音する必要があり、微妙な発音だと別の場所に飛ばされてしまうのだ。
ハリーがここに居る理由も同じなのだろう。

「それにしてもキリコがいて本当に良かったよ、僕一人じゃどうなっていたか…そうだマルフォイ! なんであいつもここに居たんだ!?」

別に誰がどこで何をしていようが良いと思うのだが、まあ嫌いなヤツがこんな怪しい店に居たら怪しむのも可笑しくは無いか。

「…そもそもノクターン横丁って何処なんだろう」

「…ダイアゴン横丁の近くだ、こっちに行けば出られる」

ハリーを連れてダイアゴン横丁へ戻る道を辿っていると、巨大な影が行く手を遮る、一瞬だけ身構えたがすぐその正体は分かった。

「おお! ハリーお前さんこんなとこで何してんだ?」

「ハリー! そこに居たのか…って何でキリコが?」

ハグリッドとその影にはロン…と、赤毛の少女が居た、状況から考えてロンの妹だろうか、二人はハリーを見て安心した顔をした後、俺の方には不思議そうな顔を向けてきた。
理由を説明するのも面倒なので無視しておく。
すると彼女、ハーマイオニーも声をかけてきた。

「キリコも新学期の買い物に来たの? これから私達も教科書を買いに行くのだけど一緒に来る?」

「…そうさせてもらう」

別に一人でも良かったのだが、俺も残りは教科書だけなので一緒に行くことにした。

「こらこら、闇の市横丁には入ってはいけないと…ん?君は?」

話しかけて来たのは燃えるような赤毛が特徴的な中年の男性だった、見た目からしてロンの父親で間違いないだろう。

「キリコ・キュービィーです」

「キリコ…ああ! 息子から話は聞いているよ! うちの子供を助けてくれたんだってね、本当にありがとう!」 

大げさにお礼を言ってくる彼を適当に対応しながら本屋へ向かうことにした、彼、アーサーはお礼に教科書や箒でも買ってあげようと言っていたが、ロンの顔が真っ青に染まっているので丁重に断っておいた。
無論遠慮していたのもあるが、ウィーズリー家の財政は基本火の車だとロンから聞いたことがある、多分これで俺が遠慮しなかったらかなり危険な事になった…かもしれないからな。




フローリッシュ・アンド・ブロッツ書店は混んでいた、ただし学生ではなく中年くらいの女性の声援で埋め尽くされ、入るのも困難な状況になっている。
《ギルデロイ・ロックハート サイン会》
…俺は必要な教科書リストを見直した。
著者 ロックハート…
著者 ロックハート……
著者 ロックハート………
………こいつが原因か…
ほとんどがこのロック何とかで埋め尽くされている、しかも高い、いやそもそも教科書ですらない。

「…これ、本当に買うの…?」

ロンが言うのも頷ける、本棚の一冊を取ってみてみたが(泣き妖怪バンシーとのナウな…どうでも良くなってきた)内容はひたすらに彼の自慢で埋め尽くされている、数ページごとにこちらに送ってくる写真のウインクがヤツの全てを物語っていた。

「何を言っているの! あのロックハート様の本の素晴らしさが貴方達には分からないの!? ロックハート様は…」

…彼女はアレの熱烈なファンらしいな、趣味は人それぞれだからな。
気が付くとハリーの姿が見当たらない、本屋の中を見渡してみるとアレと一緒に笑顔の写真をとっていた、引きつっているが。
ロンとハリーにはそれぞれの生贄になってもらい、さっさと教科書を買いにカウンターへ向かって行った。

教科書を買い揃え、人の山から何とか脱出すると店の前で二人の男が言い争っていた。
片方はアーサー、もう片方はノクターン横丁に居たマルフォイの父親だ。

「おやおやウィーズリー、こんなに多くの教科書を、残業代も出ないのに大変ですな」

マルフォイはロンの妹の大鍋から教科書を取り、馬鹿にした顔でパラパラとめくっている。

「残業代はたくさん出ているさ、抜き打ち調査のおかげでね。
それよりも人の物を勝手に見る方が下品だと思うがねマルフォイ!」

「下品? 純血の面汚しが言うことかね?」

青筋を立てながらマルフォイはロンの妹の教科書を開き、ローブから何かを差し込もうと―――

「ぐっ!?」

マルフォイの手首を押さえ込み、その動きを止める。

「…急に何をするのかね?」

「今何を入れようとした」

ほとんど見えなかったが一瞬だけ見えたのは黒い本のような物だった、それにアーサーも反応する。

「マルフォイ! うちの娘に何をするつもりだ!?」

マルフォイは汗を一粒流した後、ローブから半分ほど出ていた手を引っ込め、先程の何かの代わりに羽ペンを取り出した。

「薄給のウィーズリーは大変だろうと思ってね、ちょっとした親切だよ」

「結構だ! 特に君のはね!」

一触即発、そんな緊迫感が場を包みこむ。
誰も言葉を発しないまま静まり返り、時間が過ぎていく。
その空気を感じ取ったのか店の人混みからハグリッドが現れた。

「おめえら、何やっとるんだ?」

二人の間に割って入るハグリッド、引き際と判断したのかマルフォイの方はこちらを睨み付けながら去っていった。

「あ、あの… ありがとう。
…私、ジニー・ウィーズリー」

「…キリコ・キュービィーだ」

「…なあ、一体あいつ何をしようとしたんだ?」

「ジニーの教科書に何かを仕込もうとしていた」

「何か…って何だろう?」

「マルフォイの父親だぞ、録な事じゃないさ!」

その後、険悪な空気を引きずったまま別れる事となった。
アーサーからはさっきの礼も兼ねて夕食を奢ろうと言ってくれたが、既に夕食の支度は済まして来たため遠慮しておいた。
それでも何か礼をしなければ悪いと言ってきたので、ゴーレムについての本を一冊買って貰うことにした。
そしてハリー達と別れ、行きと同じくバスに揺られながら帰っていた。

しかし、俺の心にはまたもや嫌な感覚が染み付いていた。
マルフォイの父親は何をしようとしていたのか、それが俺の意識を奪っていたのだ。
…今年も、何か起こる。
俺の直感は、新たな戦いの気配を確実に感じ取っていた。




「…何ということだ、これでは計画が…
クソッどうする? 屋敷僕に命じて潜り込ませるか…?
あの子供、キリコ・キュービィーとかいったか…
あの男の言う通り警戒しなくてはなるまい…」




数週間後のホグワーツ特急内、俺は一人でコンパートメントに居た、そう先程までは。

「あ! 逃げるな蛙チョコ!」

「気を付けてよ! 服にチョコが!」

キニスとハーマイオニーである、二人は俺一人だったはずのコンパートメントで壮絶な蛙チョコとの戦いを繰り広げている。
どうやらこの二人はハリーとロンを探していたらしいのだが列車のどこを探しても見つからず、諦めた末にここにたどり着きそのまま居座っているのだ。

「本当にどうしたのかしら…まさか退学なんて事にはならないでしょうけど」

「乗り遅れたんじゃないの? まああの二人なら大丈夫でしょ。
あ、砂モグラ風ロールケーキ下さい!」

実際に乗り遅れていたとして、入学式に間に合わなくても大丈夫だろう。
しかしそれよりもあの二人の場合、ただ遅刻をするよりも危険な事をしでかす気がしてならなかった。

…誰が車で空をドライブしていたと思うだろうか。


(イッチ)年生はこっちだ!」

一年前も聞いたハグリッドの声がホームに響き渡る、またあの道を歩かされるのかと思うと軽い同情を覚える。
新入生の多くは不安と期待が入り交じった顔をしていた、まあついこの間までは俺も同じ顔だったのだろうが。

二年生以降の生徒達は新入生と別の場所に案内される、少し開けた場所に行くとそこには巨大な馬車があった。
それを引くのは白い目に骨張った見た目の不気味な生き物だった。

「うわー大きいな、どうやって動いてるんだろう?」

「あの生き物が引っ張って行くのだろう」

「? 生き物なんて居ないわよ」

「…すぐそこにいるが」

「もしかしてあの白いモヤモヤ?」

どういう事だろうか、どうも俺以外の二人には見えていないらしい、キニスはぼんやり見えているようだが。

「…もしかして、キリコそれってどんな生き物?」

「白い目と骨張った見た目だ」

「やっぱり、それってセストラルよ」

「「セストラル?」」

「そう、セストラル。
天馬の一種で死を見たことのある人間にしか見ることの出来ない生物、多分それじゃないかしら」

なるほど、俺にしかハッキリと見えないはずだ、死ぬことは無くとも死人はいくらでも見てきた。
キニスが見えるのは恐らく、あの時食らった緑色の閃光のせいではないだろうか。
あの閃光は直撃を貰えば死んでしまう、そんな感覚がしていたからな。
あいつらは何とか見ようとしているが、見えない方が良いのだろう。

学校着いた俺達はマグゴナガル先生に直接大広間に連れていかれた、天井には去年と同じく星空が広がっている。
グリフィンドールの席を端から端まで探してみたがハリー達の姿は見あたらなかった、本当に何があったのだろうか。

寮の席で待機していると正面の門が開き、新入生達が入場してきた、今となっては見慣れた光景だがあいつらはそれに驚愕している、だがその顔は期待に満ち溢れていた。




期待、それは俺の中にもあった。
だがそれ以上に不安を感じていた。
あの時、ヤツは何をしようとしていたのか、如何なる陰謀を持ち込もうとしていたのか。
未だ何一つ分からないし、何も起こっていないがこれだけは言える。
俺は常に戦いと隣り合わせだという事、これだけは確実に言えた。



遙かな横丁の闇を走り、魔法の城に曲折し、
陰謀の泥濘に揉まれてもなお、キラリと光る一筋の光。
だが、この糸は何のために。
手繰り手繰られ、相寄る運命。
だが、この運命は何のために。
秘密のスリザリンに第2幕が開く。
次回「疑惑」。
まだ黒子は姿を見せない。


疑惑(ロックハートに対する)

ルシウス早速やらかしました、ハードモードスタートです。
没ネタ
ハグリッド「No1年! No1年! 返事をしろ!手前達のお守りはもう辞めだ!」
駄目ですね、新入生全員川底に沈んじゃいますもんね。


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第一五話 「疑惑」

声優ネタをどの程度ぶち込むか、
全力でネタに走るか真面目にネタに走るか、
難しい所です。


「―と、いう理由だったらしいよ」

なるほど、つまりキング・クロス駅の四分の三番線に何故か入れず、このままでは退学になるかもしれなかったから、やむを得ず車で空をドライブし、最終的に暴れ柳に突っ込んでいたと、何しているんだあいつら。

「でも羨ましいな…空をドライブなんて多分大人になっても出来ないよ」

出来てたまるか、しかもこの一件の後始末で魔法省の係が地獄を見たらしい。
何でも「心が乾く」と幻聴まで聞こえるほどだったとか。

新学期の初日、ハリー達のしでかした事は僅か一日で全校生徒に広まっていた。
それは話の種となり大広間を賑やかにしている、本来なら退学ものらしいが、厳重注意と厳罰で留まっているあたりは流石はハリー・ポッターと言った所か。

俺はその中、久しぶりのホグワーツの食事に舌鼓を打っていた。
昨日の長時間の移動で結構疲れている、だからこそ朝食は極めて重要であり、イギリス料理が朝食には力を入れているのだ。
が、毎日いつものメニューでは味気ない、皿にはいつもと違う料理がよそられていた。
今食べているのはサンドイッチだ、ただしいつものトーストを使った物ではない、固めのバケットに具材を詰め込んだフランス式のヤツだ。
中には様々な食材がこれでもかと詰め込まれている、それらをこぼさぬよう、かつ全ての具材を口に入れるようにかぶりついた。
広がるのは多種多様な具材の協奏曲だ、厚めのベーコンは濃厚な肉汁を、チーズは独特なコクと食感、レタスはその水々しさが潤いをもたらす。
それらの調和はまさに芸術的と言って良いだろう、レタスは口内の乾燥とチーズの癖を和らげ、チーズは単調になりがちな肉の味を鮮やかに彩っている。

バケットを食べきり、少し満足した胃を癒すのは薄味のコンソメスープだ、イギリス料理はとにかく具材を煮込む事に全力を掛ける、よって具材がぐちゃぐちゃになるわけだがそれが悪いとは限らない、こういったスープやカレーでは逆に長点となる。
原型を無くすほど煮込まれた野菜はその旨みを残す事なくスープに溶け込み、複雑な味を作り出す。
それに具材が溶けている事で飲み込みやすく、胃にも優しい、寝起きで上手く活動していない体にその温かさが染み渡るのを感じていた。

そこそこ満足出来たのでカップの中のコーヒーを飲み一服する、無論ブラックだ。

「…キリコ」

「何だ」

「何、それ」

「コーヒーだが」

「いや何でそんな大量に機材があるの!?」

「許可は得ている」

テーブルの上にはコーヒーを入れるための機材が積まれていた、無論コーヒーを入れるために自宅から持ってきたのだ。
何故なら、去年一年間通ったことで分かったのだが、ホグワーツではコーヒーを出してくれないのだ、あるのはせいぜいインスタントコーヒーぐらいである。
去年はそれでだいぶ辛い思いをしたので今年はコーヒーセット一式を持ち込むことにしたのだ。
無論他の生徒は注目しているしキニスは「ええ…」と言っているが全く気にはならなかった。

「そう言えば知ってる? 今年の闇の魔術に対する防衛術の先生」

「いや、知らないな」

結局去年はニンニクの臭いを浴び続け、挙げ句の果てには事件の黒幕という始末であった。
あの後クィレルは数週間聖マンゴ病院で治療した後、アズカバンに叩き込まれたらしい。
元々一番期待していた授業だ、今年こそまともな教師だといいのだが。
…まさか、あの大量の自著を買わせたあいつでは無いだろう、そうで無くては困る。

「ロックハートって人らしいよ。
…キリコ?」

…大丈夫だ、ダンブルドアも認めているのだ、教師としてはまとものはず。

その時大広間の扉が開き、そこから大量の梟が大広間に入ってきた。
梟は大小様々な荷物や手紙を抱えて飛んでいる、その中でポーズをとっているロックハートが居たが何も見なかった事にしよう。

その時であった。

「一体何を考えてるのあなたは!!!」

瞬間、大広間に響き渡る凄まじい怒声、いや地鳴りと言っていいだろう。
テーブルはガタガタと揺れており、食べ物は皿からひっくり返りそうになっている。

「車を盗み出すなんて退校処分になっても当たり前です! 首を洗って待ってらっしゃい! 承知しませんからね。
車がなくなっているのを見て私とお父様がどんな思いだったか。
お前はちょっとでも考えたんですか! 
昨夜ダンブルドアからの手紙が来てお父様は恥ずかしさのあまり死んでしまうのではと心配しました。
こんな事をする子に育てた覚えはありません。
お前もハリーもまかり間違えば死ぬ所だった!
全く愛想が尽きました。
お父様は役所で尋問を受けたのですよ。みんなお前のせいです。
今度ちょっとでも規則を破ってご覧。
私たちがお前をすぐ家に引っ張って帰ります!」

そこまで言い切って、何とか収まった後怒声の出所を見てみるとハリーとロンがひっくり返っていた。

「な、何今の…」

静まり返った大広間、一体何が起こったのかといった顔で生徒達は爆心地を見つめていたが、少したった所で笑い声が起こり再び喧騒が戻ってきた。




新学期最初の授業日ということもあって、校舎内は迷子になる生徒や遅刻寸前で走っている生徒が多かった。
しかし俺達の場合、去年使っていた教室に行くのでそんな心配は無かった。
…そう、闇の魔術に対する防衛術、つまりアレの授業というわけだ、不安しかない。

「ロックハートってどんな先生なんだろ?」

そうだ、まだ授業も受けていないのに決めつけるのは早すぎるだろう。
廊下を歩いていると先ほど防衛術を受けていたのか、グリフィンドールとスリザリン生が向こうから歩いて来た、相変わらず廊下の端と端で真っ二つになっている。
その中に居たハリー達は何か不満げな顔で話をしていた。

「いい加減にしろよハーマイオニー、あれは君が思ってるようなヤツじゃないって」

「あれはきっと私達に経験を積ませようとしてくれたのよ」

「ピクシー小妖精に杖を奪われて机の下に隠れるヤツが?」

…大丈夫…のはず。




「私だ。ギルデロイ・ロックハート。
勲三等マーリン勲章、闇の力に対する防衛術連盟名誉会員。
そして、『週刊魔女』五回連続『チャーミング・スマイル賞』受賞。
もっとも、私はそんな話をするつもりではありませんよ、バンドンの泣き妖怪バンシーをスマイルで追い払った訳じゃありませんしね」

帰るか。
一瞬そんな考えが脳裏をよぎった。
ヤツは授業開始の鐘と同時にとても爽やかな笑顔と派手な服装をまといながら教室に入って来た。
″そんな話では無い″と言ってはいるが、誰がどう聞いても自慢にしか聞こえない、ほとんどの生徒はその笑顔に対し呆れた目線を向けていた、一部目を輝かせてるヤツも居たが。

「さて全員私の本を揃えているね? そして私の素晴らしい経験に感動を覚えてくれたと思う。そこで簡単なミニテストを実施したい。
心配は無用、君達がどれくらい私の本を読んでいるのかちょっとチェックするだけですからね」

面白可笑しく書かれていた物にどう感動を覚えろと、ヤツは一部の生徒にウインクを送りながらテスト用紙を配って行った。

「とても悲しい事に先ほど同じテストをしたグリフィンドールとスリザリンで満点をとれたのはハーマイオニー・グレンジャー嬢以外居なかった。
君たちはそんな事ないと信じている」

配られた紙を確認してみる。

問一 ギルデロイ・ロックハートは泣き虫妖怪バンシーをどうやって追い払ったか?
問二 ギルデロイ・ロックハートはどんな色が好きでしょうか?
問三 ギルデロイ・ロックハートはどうやってモナドから脱出したか?

答案用紙には裏表にギッシリとそんな事ばかり書かれていた、問六あたりから本の内容すら関係なくアンケートとなっている。
隣に座ってるキニスは早速落書きを開始していた、俺もどうしようか悩んだが、あれに文句を言われるのも絡まれるのも面倒なのでそこそこ答えておくことにした。

「ふう、とても残念だ、君たちの殆どが私の本を読んでいないらしい。
あんなに分かりやすく書いてあったのにちっとも答えられていない、ですが大丈夫です、読んでいなくても私がここに居るのですから。
君達は私の力を直接見ることが出来るのです」

テスト用紙を机に置いた後、やっと始まった授業内容は途中途中に自慢を挟みながらヤツの本を読む、という内容だった。
『バンパイアとゆっくり船旅』を読んでいき、バンパイアを退治したシーンで一旦解説は止まった。

「さて、今バンパイアを退治した私の戦いを語った訳ですが、それだけでは意味がありません。
このような穢れた生き物と戦う術を授けるのが目的なのですから、ではどうすればよいのか?
実演すればよいのです! そうすることで君達は戦う術を身に着けることが出来ます。
さて、バンパイアの役は誰に頼みましょうか…では君! 先ほどのテストで最高点を取ったキュービィー君に吸血鬼の役を…」

「………」

「…キュービィー君は体調が優れないみたいですね、生徒に無理をさせるのはとても良くない。
ですので隣のリヴォービア君に頼みましょう!」

「えっ」

「さあこっちに! おおっとそうではありません、もっと迫力満点に! 真剣にやらなければ戦い方は身に付きませんよ!」

この授業が終わったのはキニスが犠牲になってから20分経過し、バンパイアがレタスしか食べれなくなる所までやった時だった。
キニスの迫真の演技のおかげでハッフルパフは5点貰えたが、生徒の中で喜んでいる者は一人として居なかった。




閑散とした人気の無い図書館、新学期が始まってから一週間、この時期は試験も無ければ課題もほとんど無い。
逆に言えば、だからこそ勉強に適しているとも言える。

俺はハーマイオニーと共に図書館で勉強をしていた、別に予定を打ち合わせていた訳ではないが、お互い暇さえあれば図書館に籠っているので一緒になる機会は必然的に増えるのだ。

ただ今日は珍しくハリーやロン、キニスも来ていた。
何でも魔法薬学の課題が難しかったらしく、調べものに来てるらしい。

「なあキニス、ロックハートの授業どう思う?」

「あー…そもそも聞いてないから分かんないや」

「嘘でしょ? 貴方もロックハート様の話を聞いてないの?」

「ハーマイオニー…まさかまだあいつの事を信じているの?」

授業開始から一週間たった今、ロックハートの評価は地に落ちていた。
どれほど経っても授業がまともに機能する様子は無く、いつまでも自著の解説と再現を繰り返している。

だが彼女はまだロックハートの可能性を信じているらしい。
ハリーはおろかロンでさえ無能と理解出来ているのに…まあ、彼女も半信半疑になっているみたいだが。

「でもあのロックハート様よ、無能と見せかけていて、何か隠してるんじゃ…」

「あー、分かった分かった、ひょっとしたら有能かもしれないね」

またハーマイオニーのロックハート弁護が始まることにうんざりしていたのか、ロンが話題を切り替えてきた。

「ところで皆、オーディション…どうする?」

オーディションとはクィディッチの事だ、数週間後にクィディッチの新メンバーを決めるオーディションがある。

「僕は元々シーカーだからね、ロンは受けるんだっけ?」

「もちろん! ハリーに負けてられないからね、ハーマイオニーはどうする?」

「私はいいわ、それより勉強したいし」

「だろうな、二人はどうするの?」

ロンは俺とキニスに質問をしてきた。

「受けるよー、ビーターになって相手の顎の骨を砕きたいんだ!」

極めて物騒な理由に場の空気が一瞬凍りつく、一応ブラッジャーで相手選手を攻撃するのは違反ではないが…
ハリー達の顔は青ざめていた、いつもの笑顔もこうなると狂気の笑みにしか見えない。

「キリコも受けるよね?」

「いや、俺はやらない」

「え!? あんな箒上手いのに!?」

キニスだけで無く、ハリーやロンも驚いていた。
どうも去年の一件で、いつの間にか俺はハリーと並ぶ逸材という事になっているのだ。
そもそも俺はクィディッチに興味も無ければやる気も無い、そもそもそれ以前の問題として―――

「俺は自分の箒を持っていない」

そういうことだ、別に授業を受ける時困る訳でもないので、未だ学校のシューティングスターを借りている。
仮にこれで参加しても、シューティングスターは蝶よりも遅いと言われる品物だ、戦力にはならないだろう。

「勿体無い…絶対活躍出来るのに」

そう言ってはいたが、箒を持っていない以上どうしようもないと考えたのかそれ以上言ってくることはなかった。

「あ、そういえばこれ誰のか分かる?」

ローブの中から取り出したのは、少し高そうカバーの本だった。
しかし本その物は色褪せておりかなり古そうである。
ハリーが本を手に取りながら質問する。

「…これ何処で拾ったの?」

「グリフィンドール寮の近く、だから知ってるかなって思ったんだけど」

「中身を見れば分かるかもしれないわ」

ハーマイオニーはそう言うと、本をパラパラとめくっていく。
しかし中には名前はおろか文字も書かれていない。

「なんだこりゃ? 何も書いて無いけど」

「ノート…かなあ?」

「それも変よ、こんなに古いのに使ってないなんて」

その怪しい本は最終的に、ロンが監督生である自分の兄、パーシーに渡す事になった。
怪しいといえば怪しいが、何かの禁書という訳でも無いのだから、誰かの落とし物で間違いなさそうだ。
仮に危険な物だったとしても、その場合は監督生経由で教員に伝えられるはずだから大丈夫だろう。



しかし、その認識は甘かったと俺は知る事となる。
あの時から体に纏まりつく嫌な予感、あれがその正体だったのだ。
それに気付かなかったのは、友を得た安心か。
それとも愛すべき平穏が感覚を鈍らせていたのか。
だが、今の俺はそれを否定しない。
だからこそ、戦いの炎が上がれば俺は戦う。
ただそれだけの事だ。



飛ぶ黄金、起きる歓声。
こわばった腕が箒をを走らす。
鉄塊が、選手を外れ、虚しい音を立てたとき、
皮肉にも、生の充足が魂を震わせ肉体に溢れる。
クィディッチ。
この、危険な遊戯が、これこそがこの世に似合うのか。
次回「選考」。
シーカーが動けば、試合が決まる。


久々のグルメ回、愉快なロックハート、雑談の三話でお届けしました。
尚ピクシー小妖精が出なかったのは、直前の授業で流石に懲りたからです。
万一また放ってたらキリコの手で教室ごと爆破されていました。
スプラッター映画にならなくてよかったですね!


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第十六話 「選考」

色々調べてみると、結構中の人ネタ多いですよね。
しかし思うがままぶっこむと逆につまらないし…
難しい所です。


放課後、談話室はいつもならば多くの生徒達がゆっくりとした時間を過ごしているのだろうが、今日は荷物を取りに来た人がまばらに通るだけであり殆ど居ない。

では何処に行ったのかというとグラウンドに行ってしまったのだ、そうクィディッチオーディションを受ける為に。
とはいえ全員がそうではない、何人かはオーディションの見物目的である。

まあ、受ける気も箒も持っていない俺には関係なかったので、一人温かいコーヒーを飲みながらのんびりと過ごしていた…はずだった。

「たのむキュービィー! チームに入ってくれ!」

四年生のキャプテン、セドリック・ディゴリーは何度もそう頼んできた。
オーディション中だと言うのに、俺が居ないと知るやいなやそれをほったらかしてすっ飛んで来たらしい。
無論、答えは決まっている。

「お断りします」

「そこをなんとか!」

と、これをさっきから繰り返しているのである。
何度断ってもディゴリーは引き下がる様子がない、一体何故そこまでするのか。

「俺達ハッフルパフはいつも負けてる、もちろん勝つこともあるがここ数年優勝を掴めたことはない。
今年はさらに状況が悪い、ハリーの練度はこの一年で十分なものになった。
スリザリンはマルフォイがメンバー全員に最新型の箒、ニンバス2001を提供してしまった…」

ニンバス2001は、去年ハリーが使っていたニンバス2000の最新型だ、無論その値段も凄まじい事になっている。
それをメンバー全員分か、確かに状況は最悪だろう。

「だがキリコ、君が入ってくれればチャンスが生まれるかもしれない。
去年の授業の時、君が見せてくれた飛行はハリーに匹敵するものだった。
たのむキュービィー! 僕達はどうしても勝ちたいんだ!」

気持ちは十分通じた、しかし俺はそもそも勝つことに興味が無い、というより戦いはもう飽きている、必要の無い戦いなら極力避けたいのだ。
よって、最大の理由を言うことにする。

「ですが、俺は箒を持っていません。
学校の箒では戦力にならないでしょう。」

「…ある、僕の予備がある、それを貸す!」

そこまで言うのか、しかしまいった、これでは断る事が出来ない。
どうしたものかと考えていた時、談話室にまた一人やって来た。

「ハァ…、あ、キリコにディゴリー先輩」

「ん? リヴォービアか、オーディションはいいのかい?」

深いため息をつきながら入ってきたのは
キニスだった。
ヤツはオーディションを受けていたはずだ、もう終わったのだろうか、いや明らかに早すぎる。
一体どうしたのだろうか。

「ええ、今年は諦めます…」

「どうしてだい?」

「ビーターのポジションが空いてないので…」

「ああ、そういえばビーター希望だったね」

何というか…呆れのような、ある意味尊敬を覚えていると会話の対象は再び俺に戻った。

「そうだリヴォービア、君もキュービィーを説得してくれないかい?」

「キリコ…僕の代わりに戦ってくれ、そして…仇を!」

これは突っ込んだ方がいいのだろうか、結局その後、二人がかりの説得を浴び続けた結果、今年一年に限るという条件で俺が折れる事になった。




選抜試験は終わり、人気の無くなったグラウンド。
もう九月下旬だ、この時間には少し肌寒くなり鮮やかな夕焼けが校舎を照らしていた。

しかしディゴリーの顔は浮かばなかった、寮の倉庫にあると思っていた箒が無かったのだ。
調べてみると、どうやら卒業した生徒がこっそり持って帰ってしまったらしい、誰だか知らないが最低な野郎も居たものだ。
結果俺の乗る箒が無いので、やはり不参加…という訳にはいかず、現在キニスと二人がかりで倉庫の探索中である。

グラウンドに放置され、しばらく待っていると遠くから二人が戻ってきた。
しかしどうした事だろうか、箒を持っているのにディゴリーの顔は暗いままである。

「…キュービィー、箒はあった、先輩が残してしまったヤツだ」

「いやー良かった! あれだけ説得に苦労したのに箒が無かったら僕泣くところだったよ。
…ディゴリー先輩?」

「…いいかキュービィー、よく聞いてくれ。
もしもこれが気に入らなければ、僕の箒の交換してもいい」

ディゴリーが深刻な顔で差し出してきた箒、それは明らかに異様な物体だった。
キニスやロンから散々聞かされたが、本来理想の競技用箒というものは、尾の部分は鋭く美しく、柄もシャープなのが優れている。
しかし目の前の、暗い赤色のこれは違った、尾の部分は太いのと細いの、長いのと短いのが不均一に入り交じり、柄は先端だけ妙に太い、極めて不格好な箒だった。

「インファーミス1024、十年くらい前のモデルだ」

「あの…何でそんな顔してるんですか?」

「この箒の性能は恐ろしく高い、最高速度も凄まじいが、瞬間加速はファイヤボルトすら上回る」

「ファイヤボルト…ってあの!? 一般販売は来年だっていうあれより上!?」

キニスは信じられない、といった顔だ.
ファイアボルト、現役プロチームでも今だ一部しか保有できていない現状最強の箒である。
それに十年前のモデルが匹敵、いや一部では優っているとは驚くほか無い。
だが、そんな古い箒でここまでの性能を叩き出すという事は…俺の嫌な予感は見事に的中した。

「だがその代償として、旋回性能とブレーキが全く機能していない。
具体的に言うと…いや一回だけ乗ってみてくれ、その方が分かる」

…絶対に乗りたくなかったが、一回参加すると言った以上断ることは出来ない、俺は箒にまたがり空へ浮かんだ。
そして少し動いてみ―――

「―――ッ!?」

空中へ投げ出されそうになるのを、渾身の力で握る事で何とか阻止する。
全身にATでも感じた事の無いようなGが押しかかっていた、気が付けばグラウンドの外へ飛び出かけている。
信じられない加速だ、一旦落ち着くためにブレーキを掛ける。
………
全く止まらない、いや減速する気配すら無い。
このままではまず―――

次の瞬間、それまでの加速が嘘のように止まった、一瞬で完全停止、完璧なブレーキだ、三秒遅れていなければ。
俺は夕日に向かって投げ飛ばされ、墜落地点にあった暴れ柳に一方的な暴力を振るわれた、そしてその結果、翌日は一日医務室で過ごすことになるのである。

「…い、今のは…!?」

「アレを作った会社だが、「ピーキーな物こそ需要が安定する!」とか言ってあの欠陥商品を作り上げ、その揚句倒産したらしい。」

「何でそんな物が僕達の寮に!?」

「さっき言っただろう、卒業した先輩が買ったんだ。
もっともすぐ、倉庫に叩き込んだみたいだけどね…当時は「殺したいヤツがいたら箒をコレにすり替えておけ」と言われてたらしい…」

「キ、キリコー!!」




全身打撲から早一週間、なんとかあのバケモノを乗りこなせるようになった頃、図書館には異様な光景が広がって、いや俺が広げていた、その原因は机三つ分を陣取って広げられている巨大な羊皮紙のせいである。
何人かこっちを睨んでいるが、そんなに混んでる訳でもないので無視しておく。
羊皮紙に黙々と書き込んでいく、既に一部は完成しているが何せだいぶ昔の事である、何とか記憶を辿りながらやっているので時間が掛かるのだ。

去年、トロールと戦ってから考えていた『対大型魔法生物用魔法』、その理論がついに完成し、その下準備をしているのである。
この魔法はゴーレムを作り出す呪文を基にしている、ただし俺が目指しているのはもっと複雑な構造のゴーレムであり、それを創り出す為にはその構造を完璧に叩き込んでおく必要がある。
その為にこうして記憶を辿りながら設計図を書き出しているのだ。

…駄目だ、これ以上思い出せない。
行き詰った所で羊皮紙を纏める、とにかく複雑な呪文だ、じっくり時間を掛けて完成させるべきだろう。

図書館を出て、廊下を歩いているとハリーとロンが歩いて来た。
ハリーの方はユニフォームを着ている、練習帰りのようだ、しかしロンの方はいつもの服である、…という事は選手になれなかったという事か。
その為か少し落ち込んだ様子である。

「あ、キリコ…選手になったんだってね、しかもシーカー」

ロンは若干未練がましく話掛けて来た、どうやら見た目以上に落ち込んでいるらしい。

「ああ、…残念だったな」

「うん…でも諦めた訳じゃない、来年こそ受かってみせる!」

そう言ってロンは自分自身を励ましているようだ、意外とこいつはタフらしい、なら心配は無用だろう。
するとロンは思い出したように、質問をしてきた。

「あ! そうだあの本知らない?」

本とは、以前キニスが拾ったあの高そうな本だろうか、あれは確かロンが兄に渡すと言っていたはずだが。

「いや、あの本がどうした?」

「…無くなった」

「え!? あの本無くしちゃったの!?」

「違うよ! どっちかって言うと消えちゃったんだよ!」

あの本が消えた? 一体どういう事だろうか。

「兄貴に渡そうと思ったんだよ! で、行こうと思ったら急にお腹が痛くなったからトイレに駆け込んだんだ、それで戻って来たら、談話室のテーブルに置いといた本が無くなってたんだよ!」

要するに急用が出来たから一旦テーブルに置いておき、その間に本が無くなっていたという事か。
誰かが盗んでいったのか? いやあの本は恐らくグリフィンドール生の物のはずだ、という事は…

「一体誰が盗んだんだろう? でもあんな本盗むやつなんて…ロンがトイレに落っことしたんじゃないの?」

「ハリー!」

「…持ち主が持って行っただけじゃないのか?」

「「あ」」

二人は今気が付いたらしい、抜けた声でそう返してきた。
その答えに納得したのか寮へ戻って行った、まああんな何も書かれていない本を盗んでいく物好きはそうそう居ないだろう、である以上理由はそれしか考えられない。

それにしてもあの本は結局何だったのだろうか、閲覧禁止の棚の本では無い、そんな危険物が寮の近くに置いてあるとは思えない。
教科書はあり得ない、ノートにしては古すぎるし高価すぎる。
一体何だったのだろう、その答えはそこの曲がり角から現れた。

「!!」

角から現れた赤毛の少女を避ける、しかし俺に驚いてしまったのかヤツは転んでしまい持っていた本を落としてしまっている。

「すまない」

「す、すみません…あ」

俺は目の前の少女を知っていた、この燃えるような赤毛、ダイアゴン横丁に買い物に行ったときに会ったロンの妹、ジニー・ウィーズリーだ。
驚くヤツをよそに、散らばった本を拾い集めていく、図書館から借りてきたものだろうか、本の内容はというと主に恋愛や美女になる魔法など、女性らしい本が主だった。

彼女はまだ十一歳のはずだが、もうそういった事に興味を持つのだろうか、それとも既に好きな人でも居るのだろうか。
そんな失敬な事を詮索していると、散らばった本の中に先ほど考えていたヤツがあるのを見つけた。
何故これを彼女が? 思わずその中身を覗いてみる。

『私は好きな人が居る、けれどどうすればいいのだろう』

「………」

「………あの」

「…すまない」

本を閉じ、目を合わせないように本を差し出すとひったくるような手つきで取って行った。
女性の秘密を覗いてしまい、極めて申し訳ない気分になりつつも何故彼女が持っているのか聞くことにした。

「…その本は、どこで拾った?」

こちらを睨みつけ黙り込んでいる、当然の反応に罪悪感が深まっていく。
暫く、いや数秒も経っていないのだろうが、彼女は答えた。

「…これは私の、…な、失くしたと思ってたら、机の上に…」

「…そうか、…本当にすまなかった」

彼女はそれに反応する事なく逃げるように去って行った。
だがまあ、持ち主が見つかって良かったとしておこう、書かれていた文章から推測するとあの本は日記だったようだ。
ならば何も書かれていなかったのも当たり前である、それにウィーズリー家は聖二十八族の一員でもある、高級な本も一冊くらいあるだろうしお下がりと考えれば古いのも納得できる。

後でロンに言って安心させなくてはならないな、そして俺もまた、自分の寮へと戻っていったのであった。




「うう…何てことを、誰も見つけてほしく無かったのに。
このままではハリー・ポッター様が死んでしまう…何とか、何とかしなければ…」



ソレを見たのが幻想なのか。
心の恐怖が幻想を生むのか。
噂の果てに真実を見るのが幻想に過ぎないことは、
子供の誰もが知っている。
だが、あの瞳の光が、体の震えが幻だとしたら。
そんなはずはない。
ならば、この世の全ては蜚語に過ぎぬ。
では、目の前にいるのは何だ。
次回「再来」
秘密なるものが牙をむく。


ディゴリー先輩、本当はまだキャプテンじゃないんですけど、どう調べてもハッフルパフのクィディッチメンバーが分からなかった為、こういった仕様にしました。
夕日に飛んでくキリコは、孤影再びの一シーンを参考にどうぞ。


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第十七話 「再来」

バジリスクをどうやって抹殺するか…
何か、最終的に自爆する気がする。
見えるぞ…その結果秘密の部屋が消滅する未来が!(未定)


「絶命日パーティ?」

「そう、ゴーストがハロウィンの時にやる死んだ日を祝うパーティーだよ」

「そうか、それがどうした」

「ハリー達に一緒に行こうって誘われてるんだ、キリコも一緒に行こうよ」

「断る」

死んだ日を祝うパーティーか、いつかは是非とも行ってみたいものだが今の所興味は無い。
何より今日は待ちに待ったハロウィンパーティーだ、何故ゴーストのご馳走を食いに行かねばならないんだ、ゴーストのご馳走など絶対に不味い。

「えー…ちょっと顔を出すくらい」

「断る」

「…キリコって食い意地凄いよね…」

キニスは呆れた視線を向けてくるが知った事ではない、去年はトロールの乱入が原因でほとんど食べる事が出来なかったのだ、今年は何としてもたらふく食べなければならない。
そうでなければ死んでも死にきれない。
文句を垂れながら大広間から離れて行くキニスを完全無視しテーブルを見つめる、そこには去年と同じく山ほど料理が並べられていた。

どれを食べるか悩んだが、一先ずパンプキンスープをゆっくりと飲み干す。
秋風で冷え切った体を温め、ハーブで食欲を加速させる。
準備は整った、さあどれから食べるか…

よしこれだ、山積みになっているフライを皿によそった。
これはフィッシュアンドチップスだ、ただしハロウィン仕様なのでパンプキンチップスになっている。
チップスを口に入れると、心地いい軽快な音と感触が楽しませてくれる、普通のチップスより太目に切られたそれは十分な噛み応えを作り出し、噛めば噛むほど甘味が吹き出してくる。
いや、それだけでは無い、これまた厚めに作られた衣、それは辛すぎず薄すぎず丁度いい塩加減で甘味を引き出しつつも旨みを主張しており、スナックらしく飽きずにいつまでも食べていられる。
チップスが無くなった所で魚の方に手をつける、当然モルトビネガーをどばどば掛けてからいただく。
厚い衣を食い破りアツアツの身を食べる、淡白な白身魚は濃い味の衣によく合う、モルトビネガーの酸味はどうしても出てしまう油濃さを打消し爽やかな風味を作り出す。
それにかなり分厚く揚げられている為、モルトビネガーを掛けても衣がふやける事も無く、サクサク感もしっかり楽しめる。

次に俺が狙いをつけたのはシェパーズパイ、要するにミートパイだ。
一口サイズに切り分け、少し大きめに切ったそれを大口を開けて食べる、途端に濃厚な肉の味とそれを引き立てるほんのり甘いかぼちゃの味が襲い掛かって来た。
なるほど、通常シェパーズパイは挽き肉とマッシュポテトを使っているのだが、これはポテトの代わりにかぼちゃを使っているのか、何もそこまでかぼちゃ尽くしにしなくても…と思ったが美味いので良しとしよう。
それにこの肉…普段よく食べる牛肉や豚肉では無い、羊肉だ、少しでも手順を間違えれば臭味で台無しになるそれは、一体どのような調理をしたのか濃厚な旨みへと変貌している。
素体のかぼちゃは甘味と特有のへばりつく食感が抑えられ、そのボリュームに反してどんどん食べる事を可能にしている、凄まじい、羊肉がこんなに美味いとは思わなかった。

さて、三品食べた事だ、この辺で一服つくのも良いだろう。
そう考えデザートに手を伸ばす、卓上の料理比率はデザートの方が多い、どれを取るか…
俺が手に取ったのはかぼちゃプリンだ、プリンはお子様の食べ物? 知らん、12歳はまだ子供だろう。
スプーンですくい、プルプルとした見た目を少し楽しみ、口に流し込むようにそれを頂く。
だが、それは俺の想像を上回っていた、ツルツルとした食感を想定していたのだがこれは違った、まるで濃厚なケーキを食べているような食感だったのだ。
しかし本来の食感も失われていない、触感は確かにプリンだがそれが溶けるように口に広がっていくのだ。
プルプルした食感と口に広がる濃厚な甘さにしばし時間を忘れる…気が付くと、空になった容器が三つもあった、信じられない。

さあ次はどうする? あれも美味そうだ、これも…




杖を文字通り杖にように使いながら、よろよろと廊下を歩く。
食べ過ぎた事で今にも倒れそうになっている、が後悔はしていない。
去年食べ損ねたのだ、これぐらい食べて丁度いいだろう、ふらふら歩いていると何やら人ごみが見えて来た、一体何があったのだろうか。

「継承者の敵よ気をつけよ! 穢れた血め、次はお前達だぞ!」

マルフォイの声が人混みの中から響いている、本当に何があった? どうもただの騒動では無いようだが…
人混みの中からハリー達三人とキニス、その横にはフィルチとロックハート、そして何故か異様な姿勢で固まっている猫のミセス・ノリスを抱えるダンブルドアが現れた。
人混みの中をかき分けると、壁には不気味な文字が書かれていた。

″秘密の部屋は開かれたり 継承者の敵よ、気を付けろ″

どうやら俺の予感は当たってしまったようだ、今年も何かが起きるという予感。
これだけで終わる筈が無い、そう、これはまだ緑の地獄(スリザリン)からのプレリュードに過ぎなかったのだ。




夜、ようやく聞き取りが終わったのか部屋に帰って来たキニスから話を聞いた。
あいつらが参加していた絶命日パーティーから抜け出し、大広間に戻ろうとした所ハリーが奇妙な音を聞いたと言い、走り出しその後を付いて行った所、ミセス・ノリスが動かなくなっていたらしい。

「秘密の部屋…か」

「キリコ、知ってるの?」

「…″ホグワーツ歴史書″に乗っていたはずだが」

「読んでないや」

…秘密の部屋、それはホグワーツを創り上げた四人の内一人、サラザール・スリザリンが創ったと言われている。
ヤツは純血主義者でホグワーツからマグル生まれは追放すべきと主張したが、それは他の三人に受け入れられず、彼はホグワーツを去って行った。
しかし、その時ヤツは秘密の部屋、そしてそこに″怪物″を隠した、そして部屋を開くことの出来る継承者が現れた時、継承者は怪物を用いてマグル生まれ…穢れた血を追放する。

…ただしそのような事が起こったのは一度しか無く、怪物と言えるような生物でもなかったらしい。
よってこの話は噂でしかないのだ。

「…あれ誰かのイタズラだよね?」

「…いや、″完全石化呪文″は高度な闇の魔術だ、悪戯で使うような物では無い」

しかしその噂が真実味を帯びているのはこれのせいだ、完全石化させるのは簡単な事では無い、ダンブルドアやそれこそヴォルデモートなら可能だろうが、その辺の魔法使いでは絶対に出来ない、生徒ならなおさらだ。
だが現実としてそれは起きている、つまり怪物は確実に存在しているという事になる。

「なんか嫌な予感がする」

「…継承者の敵とは純血以外の事だ、この一件では終わらない、恐らくまだ犠牲者が出るだろう。
キニスも俺も警戒する必要がある」

「いや、そうじゃなくて」

「何だ?」

「…いや、またハリー達が巻き込まれそうな気がする…」

「ああ…」

第一発見者はハリー、妙な音を聞いたのもハリー、よくよく思い出してみれば入学以来、何か事件が起こればそこにはハリーが必ず居た。
…偶然と思いたいが、しかしキニスの考えに俺は納得を覚えていた。
…そしてその予想は、現実である事を俺はまだ知らない。




「マルフォイだ、継承者はマルフォイに違いない」

数日たったが、校内は秘密の部屋の噂でもちきりとなっている、だがそれは緊迫した空気を孕まない会話を盛り上がらせる燃料としてだが。
その原因は二つ、一つは″完全石化呪文″がどれ程脅威か知らない生徒が多い事。
二つ目は石化を治す事が出来る薬の材料、マンドレイクが順調に育っているからだ。
しかし教師達の目つきは鋭くなり、継承者を警戒しているのは明らかだろう。

「ええ…マルフォイが?」

中でも盛り上がっているのは″継承者が誰か″の考察だ、秘密の部屋がどういった物か数日で広まり、今や詳細を知らないヤツの方が少なくなっている。
継承者、その候補者は多くがスリザリン生である、まあ″スリザリンの後継者″なのだからこれは当たり前だろう。

「だって昔からの純血だぞ、あいつ」

目の前のこいつらも例外では無く、マルフォイを継承者と考察していた。
数日前に秘密の部屋の内容を教えてからと言うもの、三人で図書館に押しかけてはこうして会議を開いている。

「てか何でマルフォイ? 純血の人なら幾らでも居ると思うけど…」

「継承者って言ったら普通血縁者でしょ? で、スリザリンに代々いるのはマルフォイ家じゃない」

「確かにそうだけど…スリザリンの血縁者かなあ?」

「だから一番古い純血のマルフォイなら、血を引いてるかもしれないじゃないか」

難色を示すキニスにポッターはそう返す、確かに理屈は通っているが、完全な理屈とは程遠いのも確かだ。
何故なら古い純血など幾らでも居る、この理屈で候補をヤツに絞るのは不可能だ。

「でもなぁ…キリコ、パーティーの時マルフォイ見た?」

「ああ、ヤツは参加していた」

「じゃあ、やっぱり違うんじゃない?」

「でも、あそこに居なくても石にする事は出来ると思うけど」

「無理よ、そんな魔法二年生は習わないわ」

頭では分かっているが、納得は出来ていないらしい。
そもそも、こいつらは元々スリザリンに不信感を持っている、納得出来ない理由はそこなのだろう。
だからこそ継承者候補の中でもマルフォイを疑っているのだ。

「…そうだ!」
 
「ちょっハリー! シーッ!」

ハリーが急に叫び手を合わせた、こちらを睨み付けるピンズに気付いたハーマイオニーが慌ててハリーを注意している。
忙いで声を抑えた後ハリーは話始めた。

「マルフォイに直接聞けばいいんだ」

「…何言ってるんだ? どうやって聴くのさ、第一聞いたって話してくれる訳無いだろ」

「そう、だからスリザリン寮に侵入してこっそり聴けばいい」

「そうか! ハリー、君は天才だよ!」

「…でも、どうやって侵入するの?」

キニスの疑問も当然だ、スリザリン寮に入るためには特定のパスワードが必要となる。
それ以前の問題として、ほぼ確実に見つかってしまうだろう。
その問題の答えはハーマイオニーが出した。

「! もっと良い方法があったわ、″ポリジュース薬″よ」

「ポリジュース薬?」

「そう、これを飲むと他人に変身出来るのよ。
これを使ってスリザリン生の誰かに変身すれば…」

「マルフォイから直接聞き出せるって訳だ!」

「…だが、許可の無い薬品調合は違反だ」

「大丈夫、絶対に見つからない場所を知ってるの、そこで作れば問題ないわ」

見つからなければ違反では無いということか、校則を重視していた去年の彼女が懐かしく思える。
だが確かにポリジュース薬は良い方法だろう、上手く使えば直接情報を聞き出せるし、パスワードを知ることも出来る。
…上手く演技出来れば、だが。

「…二人は協力してくれるの?」

「遠慮させてもらう」

正直、マルフォイの様な男が人殺しを出来るとは考えづらい、加えるとホグワーツに人殺しを出来る人間が居るとは考えづらい。
生徒全員と面識がある訳では無い以上確信は無いが、そういった雰囲気を持つ人間は見たことがない。

「僕もいいかな…やっぱりマルフォイとは思えないから」

「そっか…でもハーマイオニーはポリジュース薬の作り方を知ってるの?」

「…知らないわ」

「え!? じゃあどうするの!?」

「シーッ! …作り方は、閲覧禁止の棚にあるわ」

「…ま、まさか去年みたいに侵入するの?」

「許可を貰えばいいのよ」

「誰に貰うのさ、あそこの本は闇の魔術に対する防衛術の先生しか許可を出せ―――」

「…あっ」

「あー、アレなら簡単に騙せ―――」

「ね、ロックハート様なら私達の気持ちを汲んでくれるわ」

「………」

…確かに、アイツなら許可を出すだろう。
適当な理由と適当におだてればどんな危険な本でもあっさりと提供するに違いない。

「…ロン」

「…うん、僕らでおだてかたを考えておこう」

「一体何話してるの?」

「い、いや? 何でもないよ」

ハーマイオニーと彼女以外でだいぶ差があるようだが、許可さえ貰えれば何でもいいのだろう。

会議はそこで終了し、時間も夕刻になっていたので解散となる。
ただハリーは今からクィディッチのグラウンド練習をするので途中で別れる事になった。




そして寮の別れ道に差し掛かった所で、俺は伝えなければならない事を思い出した。
そう、あの日記の行方だ。

「ロン、あの本があったぞ」

「へ? …あ、あの日記? 聞いたよ、ジニーのだったんだね」

「知っていたのか」

「うん、ママのお古を譲ってもらったらしいんだ」

やはり俺の予想通りだったか、とにかくこれでひと安心だ。

「でもママがあんな高そうなの持ってた何てな、僕家であんなの見たこと無かったよ」

「大切に保管してたんじゃない? 見るからに高そうだもの」

そして俺達はそれぞれの寮へ戻って行った。
もうそろそろクィディッチの初戦が始まる、だが初戦はグリフィンドール対スリザリンなので俺の出番は無い。
元々やる気は無かったが、やらなければならないなら、真面目に全力で戦おう。
俺は一人、試合に対する決意をみなぎらせていた。




秘密の部屋、継承者、スリザリンの怪物。
それは未だ現れない。
だが、それとは関係なくヤツは迫ってきている。
この、何処までも深い城に潜む謎の殺し屋。
プレリュードからインテルメッツォへ。
空白の40年が、俺を新たな地獄へ誘っていたのだ。



変わる、変わる、変わる。
この血の舞台をかえる巨獣が、奈落の底でまた目覚めはじめた。
喉が軋み、人々は呻く。
舞台が回れば立つ人も変わる。
昨日も、今日も、明日も、秘密に惑わされて見えない。
だからこそ、確かな敵を求めて、脅えぬ力を信じて求めて。
次回「決闘」。
本当の敵などあるのか。


石化イベント発生しました、
次回は決闘クラブです、
…誰と闘わせりゃいんだ、あんなの。


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第十八話 「決闘」

次回「ロックハート死す!」
決闘スタンバイ!


秘密の部屋事件の影響だろうか、会場は例年以上の盛り上がりを見せている。
グリフィンドール対スリザリン、今年初のクィディッチが始まろうとしていた。

「さあ今年もこのシーズンがやって来ました、去年は惜しくも優勝を逃したグリフィンドール、しかしその一年で期待のシーカー、ハリー・ポッターの練度は凄まじい成長を見せました。
対するスリザリンはメンバー全員分のニンバス2001を使い、シーカーの座を買収したドラコ・マルフォイが注目の―――」

「ジョーダン!」

グリフィンドール贔屓の解説もいつも通りである。
盛り上がる観客席だが、俺はそこに居ない。
少し離れた選手用の席に座り、選手達の様子を注意深く観察していた、何故なら今後の試合の為にチーム全員で相手の動きを調べる為である。
一体どちらが勝つのか、箒で買収したとはいえ一定の実力が無ければシーカーになることは出来ない、マルフォイの力が分からない今、結果を予想することは誰にも出来ない。

しかし、試合が始まってもマルフォイの実力を図ることは出来なかった。
真の実力は、互角、またはそれ以上の相手と闘う事で発揮される。
だが、その敵であるハリーがまともに動けていなかったのだ。

「一体どうなってるんだ…?」

ディゴリーも気付いたようだ、いやあんなに露骨なら気付かないヤツの方が少ないだろう。
クィディッチにはブラッジャーという鉄球が二つあり、これは近くの選手を攻撃してくる特性を持つ、そしてそれから選手を守り相手に打ち返すのがビーターの役目だ。

一体どういう事か、ブラッジャーの内一つがハリーを集中的に狙っているのだ。
結果ハリーを守る為にビーターの二人が付きっきりになってしまっている。
去年の呪いといい、つくづく面倒事に縁のあるヤツだ。

シーカーもビーター二人もまともに動けない影響か、試合の流れは100対0とスリザリンに傾き始めていた。
と、ここでグリフィンドールのキャプテンのキャプテンウッドがタイムアウトを要求し、試合は一時中断となった。

しばらく経ち試合が再開する、未だブラッジャーはハリーを狙っているがビーターが護衛につく様子は無い。
このままでは勝てないと判断したのだろう、ハリーはブラッジャーをスレスレで回避しながら飛び回っている。

その時俺は会場のすみ、スリザリンの応援席の影にそれを見つけた。
人では無い、蝙蝠のような耳に大きく飛び出している眼球を持つ小さな生物がそこにいた。
その生き物が指を動かすとそれに呼応してブラッジャーがハリーを攻撃しだす。

どうやら異常の原因はあの生物、″屋敷しもべ妖精″のようだ、屋敷しもべ妖精とは魔法使いに使える事を本能、そして誇りとする生物、ならばヤツは誰かの命令で動いてるはず。
しかしその顔に誇りは無く、苦しそうに歪んでいる。
どう見ても喜んでやっているようには見えない、命令で仕方なく従っているのだろうか。

ならばハリーの為にもヤツの為にも穏便に済ませるのが理想だ、しかしここはスリザリンの応援席からは反対側の位置、どうするか…
手元にあった硬貨を取りだし「目眩まし術」を掛ける、そして応援席の後方に回り込み、誰にも見つからないようにコインを上へ弾く。

「レラシオ ―放せ」

放たれたコインは、空気を切り裂きながら弾丸のようにヤツに迫る。

が、着弾の直前それに気付いたヤツは一瞬で姿を消してしまった。
姿晦ましだろうか? しかし学校の敷地内では使えない…いや、確か屋敷しもべ妖精の使う呪文は俺達のとは違う原理のはず、だから発動できるのか。
杖も無く詠唱も無く呪文を使えるとは…俺も習得出来ないだろうか。
まあ無理だろう、人間と屋敷しもべ妖精は体の構造自体が違うのだから。

会場に戻るとマルフォイが悲鳴を挙げていた、先ほどまでハリーを追いかけていたブラッジャーは正気を取り戻し、目の前のマルフォイに突っ込んで行ったのだ。
それに加えハリーまでマルフォイに突撃を掛けている、これは…
ブラッジャーの直撃を貰いながらもヤツの頭上をすれすれで飛行し、手を掲げるとそこには黄金の球体が握られていた。
つまりスニッチはヤツの頭上をのんきに飛んでいたという訳か、マルフォイはこの世の終わりの様な顔で空を漂っている、まああんな致命的凡ミスをすればああもなるか。

試合結果は120対160でグリフィンドールの勝利となり三寮から歓声が上がる、その一方マルフォイはキャプテンに怒鳴られていた。
その後、対グリフィンドールとスリザリンの対策会議をして終わった、あった事とすれば右腕を折ったハリーがロックハートに骨抜きにされたくらいである、文字通り。




しかし、翌日にはこの余韻は消え去っていた、継承者により新たな犠牲者が出てしまったのである。
石にされたのはグリフィンドール生の一年生コリン・クリービー、初めての人間の犠牲者、そしてマグル生まれである。
今飼育されているマンドレイクが成長すれば石化は解ける、だからといって安心できるはずもなく、マグル生まれの生徒たちは恐怖に包まれる事となった。




だがそれ以降継承者の襲撃は無く、あっという間にクリスマス一週間前になった。
時間と言うのは偉大だ、あれ程の恐怖の空気が包み込んでいたのに、今や生徒達はクリスマスプレゼントについて話し合っている。

早朝、いつもなら温かな談話室で豊かなコーヒータイムを楽しむはずだったが、今日は駄目らしい、談話室の掲示板に人が屯しているからだ。

「おはよ、キリコ。
…何で皆あつまってるの?」

「決闘クラブが開かれるらしい」

掲示板に張られていた紙には決闘クラブ開催の第一回が、午後八時から大広間で開かれると書かれていた。
恐らく、生徒の自衛意識を高める為に開催したのだろう、ならば俺も行って損は無いはずだ。

「決闘クラブ…キリコは行く?」

「ああ、行って損は無いからな」

「そっか、じゃあ僕も行こうかな…秘密の部屋も怖いし。
…そういえば、誰が講師になるんだろう?」

講師…誰かは掲示板にも書いていなかった、まあ、これについてはアレを心配する事も無い、決闘という少なからず危険な事をするのだ、スネイプか、それとも決闘チャンピオンと呼ばれたフリットウィックのどちらかだろう。




全てにおいて最悪とはこのことだろう、確かにスネイプは居た、居たには居たがヤツを後ろに控えさせ、煩わしいスマイルでロックハートが入って来たのだ。

「静粛に」

最悪の事態を前にして、ごくごく一部から黄色い声援が上がり、他大多数は灰色の溜息を付いていた。

「………」

「…今からでも帰れるけど」

「………」

「返事くらいしてよぉ! 怖い!」

「皆さん私の声は聞こえますか? 姿は見えますね? 勿論見えているでしょう!
この度ダンブルドア校長から私が許可を頂き、この決闘クラブを開く事が出来ました。
私自身が、数えきれないほど経験してきたように、自らを守る必要が生じた時に備えてしっかりと鍛え上げる為です、詳しくは私の著書を読んでくださいね。
では私の助手、スネイプ先生をご紹介しましょう!」

壇上にスネイプが重い足取りで登って行く、アレはとても眩しすぎる微笑みをさらに強烈にしてまたもや喋り始めた。

「スネイプ先生がおっしゃるには、決闘についてごくごく僅かにご存じらしい。
訓練を始めるにあたって短い模範演技をしようと話した所、勇敢なことに手伝って下さるとご了承下さったのです。
大丈夫ですよ皆さん、ご心配はおかけしません…私と彼が手合せした後でも、魔法薬の先生はちゃんと存在します、ご心配めされるな!」

スネイプを馬鹿にしたような紹介の後、小馬鹿にしたような笑顔を振りまくロックハート。
対してスネイプの表情は変わら…いやパッと見分からないがだいぶ変わっている、何というか、地獄の悪鬼も逃げ出しそうだ。
昔、あんな顔を見たような…そうだ、あのクズを谷底に叩き落とした時の、親友の顔によく似ていた。
それに気付かないアレも大概だが。

「…さすがに殺さないよね」

キニスは、いや大体の生徒はスネイプが発する殺気に脅えていた、が、それと同時に一方的に叩きのめすのを望んでいるのも事実である。

「ご覧の様に、私達は伝統に従って杖を構えています」

向き合って礼をする二人、無駄に優雅な立ち振る舞いをするアレに対し、スネイプは軽く会釈をしただけだ。

「3っつ数えたら最初の術を掛けます。
勿論、どちらも相手を殺すような呪文は使いません」

いやどうだろう、スネイプの目はどう見ても本気の臨戦態勢である、生徒の前でなければ殺しているかもしれない。
方やまだ生徒に笑顔を振りまき、方や全身に殺意を纏っている、ここまで見る価値の無い戦いも珍しい。

「では! 1、2、3、………!」

「エクスペリアームス! ―武器よ去れ!」

ロックハートが振り上げるよりも圧倒的に早く、杖を振り上げるスネイプ。
武装解除呪文の赤い閃光が放たれ、ロックハートを壁まで吹き飛ばした。

途端にスリザリン生、いやアレのファンを除いて全員が拍手を送っている、普段は嫌われているスネイプだが、この時ばかりは凄い人気だった。
床を這いずりながら、尚負け惜しみを吐いていたがスネイプに睨まれた途端、蛇に睨まれた蛙のように大人しくなった。

「模範演技はこれで十分! これから皆さんの所へ降りて行って二人ずつ組んでもらいます。
スネイプ先生、お手伝いをお願いします」

そう言うと二人は生徒の中に入って行き、二人ずつ組ませていった、どうやら勝手に相手を決める事は出来ないらしい。
次々と組み合わせは決まって行った、キニスはネビルと、ロンは別のグリフィンドールの生徒、ハーマイオニーはスリザリンの生徒と組まされた。

…しかしいつまで経っても俺の相手が決まらない、というよりも俺以外は全員決まっているようだ。
…どうしたものか。

「おや? キリコ君は相手が居ないと…よし! ではこの私が…」

「それには及びませんな、助手である我輩が相手をしよう」

アレの勧誘を遮るようにスネイプが相手を申し出てきた。
スネイプか…戦った事など当然一度も無いが、恐らくかなり歴戦の戦士だろう。
今の俺の力でどこまで戦えるか…
対人戦は滅多に無い貴重な機会だ、ありがたく戦わせてもらおう。

二年生対教員という異質な組み合わせは、必然的に周りの注目を引き付ける、それに気付いたロックハートが何か閃いたのか、また余計な事を言い始めた。

「皆さん注目! ハッフルパフ二学年最優秀生徒とスネイプ先生の決闘です、せっかくなので舞台の方でやってもらいましょう!」

またもや顔をしかめるスネイプ、俺も同じ気分だったが仕方なく壇上へ上がっていく。
決闘をしていたヤツらもこちらに注目し始めた、が、そんな事は気にせず杖を構え向き合い一礼をする。
…やはり、こいつは只者では無い、一度や二度では無い、相当な修羅場を生き抜いた戦士の雰囲気をスネイプは放っていた。


…やはり、こいつは只者では無い、放たれる威圧感は二年生の物とは到底思えん、これ程のプレッシャーは単なる強さだけでは出すことは出来ない、それこそ数えきれない程の戦いを経験した歴戦の魔法使いしか出せないだろう。
キリコ・キュービィー、ヤツは一体何者なのだ…
こんな茶番に手を貸したのは正解だった、一年生にも関わらずトロールを容易く殺し、死喰い人さえ倒すヤツの力は未知数、ここで戦う事で実力を測ることが出来れば、今後色々と対処しやすくなるはずだ。


舞台から放たれる異様な、先ほどまでの茶番劇とは違う圧倒的な戦いの空気に生徒達は息を飲む。
一瞬の沈黙の後、先に仕掛けたのはスネイプだった。

エクスペリアームス(武器よ去れ)!」

エクスペリアームス(武器よ去れ)!」

放たれた赤い閃光、一瞬遅れて同じ呪文で相殺する。

エクスパルソ(爆破)!」

間をおかずに爆破呪文をスネイプの足元に打ち込む、
瓦礫に怯むヤツに、武装解除呪文を再度発射する。

アビフォース(鳥になれ)! オパグノ(襲え)!」

()()()()()()()()鳥に変身させ、武装解除呪文を防ぎつつ残りの鳥を突撃させる。
それに対し、ルーモスの光を最大出力で発生させる。
鳥の目は潰れ墜落したが、スネイプは盾の魔法で光を防いだ。

………

光りが晴れ、()()()()()()の中、スネイプは呪いを放つ、
それを盾の魔法で防ぎ、反撃の呪文を打ち込む。
一進一退の攻防、しかし経験の差か、俺は徐々に追い込まれていた。
一旦体制を整える為に後ろへ後退する、だがその隙を見逃さずスネイプが一気に距離を詰めて来た。
…そうだ、そのまま来い…!

「! レラシオ(放せ)

「! プロテゴ(護れ)

後ろに跳躍し、距離を大きく離した後、スネイプは足元にあった瓦礫をこちらに撃ち込む、
咄嗟にそれを防ぐと瓦礫は突如爆発を起こした。

エクスペリアームス(武器よ去れ)!」

罠を読まれた事に怯んだ瞬間発射された閃光、それは俺の杖を弾き飛ばした。
…俺の負けという事だ。

一体何が起こったのか、凄まじい戦いに生徒はしばらく静まり返っていたが、少し経つと全員から拍手が上がり始めた。
奪いとった杖を返しにスネイプがこちらに寄って来る。

「…今のは何だ?」

「気付かれるとは思いませんでした」

「あの光で怯ませた時に仕込んだのだろう? 新しく瓦礫を作ってな…最もそれが何かは分からんがな。
…それで、先ほどの呪文は何なのだ?」

エクスインテラ(爆弾と成れ)…呪文を掛けた物を、俺の合図で爆破する魔法です」

「!? 作ったというのか…新たな呪文を」

「既存の魔法を改造しただけです」

「………」

スネイプは唖然としたまま固まっている、何度か閲覧禁止の棚に侵入して研究したかいはあったようだが、これは…少しやってしまったかもしれない。

その後、俺達と同じく舞台に上がったハリーとマルフォイ、だがその決闘は思わぬ結末を迎えた。
マルフォイが呼び出した蛇がハッフルパフのジャスティン・フレッチリーに襲い掛かった時、ハリーが異様な言葉を喋り蛇を静止させたのだ。
しかし、フレッチリーはハリーが蛇をけしかけたと誤解し出て行ってしまった。
そう、ハリーが話したのは蛇語、すなわちサラザール・スリザリンの直系のみが持つパーセルマウス…スリザリンの後継者だという決定的な証拠だった。



再来のための平穏。
復讐のための秘密。
歴史の果てから、延々と続くこの愚かな思想。
ある者は悩み、ある者は傷つき、ある者は自らに絶望する。
だが、血筋は絶えることなく続き、また誰かが呟く。
たまには誰かを使うのも悪くない。
次回「思惑」。
神も、ピリオドを打たない。


「キラー○イーンは既に瓦礫に触っている…!」
新呪文登場です、要するに↑のような魔法ですね。
追記 次回予告修正しました。


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第十九話 「思惑」

そろそろ日常回も終わりが近いですよ、
心残りのないように、
平穏さを堪能しておいてください。


決闘クラブの翌日、また新たな犠牲者が現れた。
石になったのはジャスティン・フレッチリー、そう昨日ハリーが蛇をけしかけた…と一方的に思い込んでいた少年だ。
加えて言うとグリフィンドールのゴースト首無しニックも犠牲になったのだが、幽霊は人数に含まないらしい。
しかしゴーストすら石化させる恐るべき存在という事実は、教員たちの警戒をさらに引き上げていた。

そしてパーセルマウスと発覚し、昨日フレッチリーを激怒させてしまった直後、まるで打ち合わせたかのように彼女が石にされた事で、継承者はハリー・ポッターであると生徒の間で噂が広まっている。
その結果グリフィンドール生も含んだ生徒達は、ハリーが通ると蜘蛛の子を散らすように逃げ出し、スリザリン生は後継者がグリフィンドール生だという事を認めず憎悪の視線を送っていた。

「………」

「元気だしなよハリー…」

今やハリーとまともに話すのはいつもの二人組とキニスくらいとなっている、また話すわけではないが、ほとんどの教員達もハリーが無実だと信じてるようだ。
キニス達が励ましてはいるが、ハリーは延々と溜息を吐き出している、去年の大幅減点に続き本当に不憫なヤツだ。

「一体何なのよ! 蛇と話せるくらいで後継者扱いなんて!」

「でもハーマイオニー、パーセルマウスはサラザール・スリザリンの血を引いてる人しか持って無いんだ」

「でも僕、そんな事知らなかったよ。
てっきり魔法使いなら皆話せるんだと…」

「それにしたってねえ…普通に考えたらあり得ないのに…」

「集団心理だな、恐怖のあまり冷静さを失っているんだ」

集団心理とは恐ろしいものだ、冷静さを失い、あり得ない可能性を信じ込む事の恐怖は身を持って味わっている。
…今思えば、あの時俺が″異能″を口にしなければあいつらは生き残れたのだろうか。

「キリコは、何でハリーが後継者じゃないって信じてるの?」

「簡単な事だ、ハリーが本当に継承者なら、そうとばれる様な事をするはずが無い」

実際の所、ハリーが継承者というのはあり得ない。
今まで姿を現さず怪物の正体も知られぬまま三人と一匹を石にした狡猾なヤツだ、それが今更、自分が継承者だと疑われるような真似はしないだろう。
真の継承者は今も尚、何処かに潜み次の獲物を狙っているはずだ。

「そうだわ、アレがようやく完成したのよ」

アレとは、間違いなくポリジュース薬の事だろう、あの日以降ずっと何処かに隠れながら調合し続けていたらしい。

「やっと出来たんだ、で、誰に変身する?」

「マルフォイから聞き出すんだから、取り巻きのグラップとゴイルでいいんじゃないか。
ハーマイオニーはどうするの?」

「私はもう大丈夫よ、髪の毛は手にいれたわ」

ポリジュース薬は、変身したい対象の髪の毛を用いることでそいつに変身する。
こいつらは一連の計画をクリスマスに実行するらしい。

「…僕らにも何か出来ないかなあ」

ハリー達と別れた後、キニスはそんな事を言ってきた。
マルフォイは継承者では無いと思ってはいるのでポリジュース薬の計画に協力してはいないが、自分だけ何もしていないのを少し気にしているのだろうか。

「下手に首を突っ込むのは危険だ」

去年キニスは俺を庇って緑の閃光…死の呪いをくらいかけた、その事もありこういった事に関わってほしくないのが俺の本心だ。
…当初はハリー達にも関わるなと説得しようと思ったが、去年の事から考えて言っても無駄なので止めておいた。

「でもなあ、またハリー達だけが危険な目に会うのも…」

だがこいつがそれくらいで引き下がる男ではないのもよく知っている。
そんなお人好しに対し、一つ提案をした。

「…怪物の正体を探ってみたらどうだ」

「えっ?」

「犠牲者は三人にも増えている、逆に言えばそれだけ手掛かりもあるという事だ」

この提案をしたのは理由がある、継承者を直接探しだそうとすれば怪物の標的にされかねない。
しかしこれならば継承者に気付かれる可能性はかなり低くなる。

「それがあった! ありがとう早速調べてみる!」

そう言うとキニスは図書館に向かって走り出してしまった。
…本当にお人好しなヤツだ、まあ俺もお人好しな奴らに何度も救われているのだから文句は言えないが。

外の景色は変わりつつある、木は緑を落とし大地を銀色に染めていっている。
もうすぐクリスマス休暇になる、去年はプレゼントを送る事が出来なかったからな、今年は送らなくてはならない。

雪に埋もれ、雪の底に少しずつ沈んでいく、数多の悪夢。
だが、時が来れば溶けだし、再び地獄が牙を剥く。
銀に塗りたぐられてはいるが、この下は緑の地獄。
春風が悪夢を蘇らせるのは、もうすぐの事である。




既に外は銀一色の冬景色、クリスマス休暇となっていた。
しかし学校に残っている生徒は去年より圧倒的に少ない、継承者の襲撃を皆恐れているのだ。

ハリー達は今日計画を実行すると言っていた、今頃はスリザリン寮の中に侵入したころだろうか。

グシャアッ!!

「………失敗か」

俺はと言うと、禁じられた森の中に侵入していた、ただし森の奥ではなく少し開けた湖がある安全な場所だ。
無惨に崩れ去った瓦礫を見つめながらため息をつく。

そもそも何故こんな所に居るのか、それは広いスペースと材料が必要だからである。
つい先日、開発していた呪文の設計図がようやく完成したので、さっそく実験に取り掛かっているのだ。
その実験場として、十分なスペースと、材料の石がいくらでもあるここを選んだのである。

また別の理由として、あまり見られない方が良いというのもある。
決闘クラブの時、開発した呪文を見た時のスネイプは明らかに警戒していた。
これ以上下手な事をして警戒されないようにする為、普通は人が来ない立ち入り禁止の場所にしたのだ。

しかし呪文は失敗、一瞬出来上がったように見えるが、すぐに崩れさってしまった。
おそらく原因は設計ミスだ、事前に書き、頭に叩き込んだ構造が間違っており、そのため自重で崩壊したのだろう。

近くの雪が積もっていない場所に座り込み休憩する。
ここに来て、大きな弱点が分かった。
まず、作るのに時間が掛かること。
これは俺の技量の問題だろうが、先ほど崩壊したヤツは、作るのに3分も掛かってしまった。
さらに一機作るだけで体力をほとんど使いきってしまう。

これらの弱点を何とかしなければ実践では何の役にも立たない。
建造時間に関しては、俺が慣れれば何とかなるだろうが…
だが、呪文が完成していない時点で心配をしてもどうしようもないだろう、俺は設計を見直した後、再び実験を行った。

グシャアッ!!

………もう一度だ。




持てる体力全てを使い果たし、倒れるように床につく。
目が覚めると既に次の日の朝、ベッドの元には綺麗にラッピングされた箱が何個か置いてあった。

そう、今日はクリスマス当日だ。
丁寧にラッピングを剥ぎながら中身を確認していく。
キニスからは″箒の手入れセット″、ハーマイオニーからは″箒の手入れセット″…だぶっているな。
ハリーとロンからもプレゼントが届いている、あいつらにもプレゼントを送っておいて正解だったようだ。

去年の失態を踏まえ、俺と交友関係にある奴らには全て送っておいた。
…贈り物など今まで一度もしていないので、気に入ってもらえるかは全く分からないが…おそらく大丈夫だろう、その筈だ。




クリスマスパーティーまでは時間がある、俺は今日もまた禁じられた森へ向かっていた。
あそこは呪文の特訓に適しているが、そもそも立ち入り禁止の場所なのだ、だからこそ人のほとんど居ないこの時期に通いつめている。
しかしクリスマス休暇が終わったらどうする、今度の休暇はイースターまで待たなくてはならない。
だがそんなペースではいつまで経っても完成出来ない。

考え事をしながら、暴れ柳の近くを通り森へ向かう。
暴れ柳か…あの時はひどい目に遭った、そもそも何故こんな危険植物を校内に植えているのだろうか、ここの設計は本当によく分からない。

…? 何だあの窪みは。
そんな事を考え、柳を見つめていると俺は違和感を感じた。
良く目を凝らして見ると、柳の根本に不自然な窪みがある。
隠されてる…というわけではなく、単に雪が積もって見えなくなっているようだが。

感じた違和感、その正体を確かめる為に柳に近づくと、柳は当然暴れ始めた。

「アレクト・モメンタム ―動きよ、止まれ」

また重症を負うのは御免だ、柳の動きを止め窪みに杖を突き刺す。
すると積もっていた雪が崩れ、地下へ続く穴が現れた。
穴の底が明るいのを見ると、何処かへ繋がっているのだろうか。
俺は足を滑らせぬよう、慎重に潜っていった。




穴の出口へたどり着く、そこは何かの建物の中だった、しかし建物は見るからに古く風で軋んでいる。
上へと向かう階段を登り、ヒビが入っている窓を見ると遠くの方にホグワーツが見えた、反対側のは…あれがホグズミードだろうか。

その後建物の中を調べてみたが、人は一人もおらず、動物すら居なかった。
誰かが住んでいたのだろうか、いや、猛獣でも捕らえていたのだろうか? 壁や床にはおびただしい数の爪痕がつけられていた。

…しかし、これは使えそうだ。
ホグワーツもホグズミードも遥か遠く、周りは禁じられた森に唯一の通路…らしき場所は暴れ柳に守られている。
おそらく何かを監禁していたのは間違いないが、もう何年も使用していないようだし、危険な生物も居なかった。

ここなら、余程派手な魔法を使わない限り誰かに見つかる事は無いだろう。
呪文の練習や研究には最適だ、いやそれだけではない。
以前ノクターン横丁に行った時に見つけた店、あの時はまず使えないし、置き場も無いので入らなかったが、ここに隠しておけば問題無い。

暴れ柳のせいで酷い目にあったが、その柳のおかげでこんな良い場所を見付けられるとはな…
一体何に使われていたのか分からないが、ありがたく使わせてもらおう。




休暇が終わって新学期が始まってから、僕は今までの人生で最も長い、と自負出来るほど図書館に籠りきりだった。

休み明けに皆から聞いたけどマルフォイは継承者じゃなかったらしい、結局薬を作る手間が掛かっただけで成果は0…むしろ調合に失敗したのでマイナスみたいだ。

では僕の成果は? さっぱりナシ、手掛かりの欠片も掴めていなかった。
…そもそも人を石にする生き物が多すぎる、この中から一匹に絞るのは至難の技だ。

「あらキニス一人なんて珍しいわね、何調べてるの?」

「スリザリンの怪物…成果はまだ無いけどね…」

「あらキニスも? 私も調べてたのよ。
…まだ分かってないけど」

ハーマイオニーなら何か知ってるんじゃないかって期待したけど駄目らしい。

「一応、手がかりっぽいのはあったんだけど」

「手がかり? どんなの?」

「いや、石にされた人が居た場所を探したり、近くに居た人に話を聞いたんだよ。
そしたらそこは全部水浸しだったみたいなんだ」

「…という事は、怪物は人を石にして、かつ水辺に住む生き物…かしら」

「どうかなあ…近くに水も何も無いのに来れる? このお城かなり大きいし、たどり着く前にカピカピになりそうだけど」

水浸しだったのはあくまで事件があった時だけ、近くの水道管が怪物のせいで壊れていたからだ。
じゃあ水道管を辿って来たのか? でも水道管は細いし、そんなの通れるサイズは限られている。

「うーん、一応その方向で調べてみるわ」

「…あれ? 一緒に調べるの?」

「え? だって個別に調べるより、二人で調べた方が効率いいでしょ?」

「それもそうだね、よろしくハーマイオニー」

「ええ、…あら、あの子ロンの妹かしら?」

図書館の奥に立っていたのはジニーだった、なんだか顔色が悪いし、フラフラしている、大丈夫かな?

「何だか調子悪そうだけど…ジニー?」

声を掛けてみるとオバケでも見たような顔で振り向いて来た、そんなに驚かなくてもいいのに…

「顔色悪いけど、大丈夫?」

「へ、平気です…」

「平気には見えないわよ、マダム・ポンフリーの所に連れて行きましょう」

「い、いいです、じ、自分で行けるので…」

どう見ても辛そうだけど、自分で行けるって言ってるなら大丈夫かな。
それにあまり女の子の体調不良を聞いちゃいけないってママも言ってたし、いざとなればハーマイオニーが連れてってくれるか。

「そう? 本当に辛かったらいつでも言ってね」

「…あ! 聞きたいことがあったんだよ!」

聞き込み調査をしてる内に分かったんだけど、事件があった時、あそこの近くには赤毛の女の子がいたらしい。
勿論全部じゃないけど、三回の内二回は目撃情報があった、それにこの学校で赤毛の女の子と言ったらジニーくらいしかいない。

「ねえ、ジニーって皆が石にされた時、近くに居た?」

「え? …は、はい、近くには居ました」

「やっぱり! じゃあその時変な音を聞いたりとか、何でもいいからその時の事を教えて欲しいんだけど」

「…ごめんなさい、音も聞こえなかったし、人も見てません」

「ちょっとキニス急にどうしたのよ、ジニーが可哀想じゃない」

「あっごめん、事件当時近くに赤毛の女の子が居たっていう話があったから…調子悪いのに呼び止めてごめんね」

「い、いえ…じゃあ、私はこれで…」

むう、何か知ってると思ったんだけど…残念外れだったみたい。
まあそんなあっさり見つかるならこんな苦労はしてないか。

「何も知らなかったかあ…」

「まあしょうがないわよ、さっ調査を再開するわよ、私は水辺の生物を調べるから、キニスは相手を石にする生物を調べてちょうだい」

「はーい」




頭がボーっとする、意識がハッキリしない。
何で、あの時、私はあそこに居たんだろう。
でも、本当に何も聞こえなかったし居なかった。
…そうだ、もしかしたら。

リドルさんなら何か知っているかもしれない。



さだめ、絆、縁。
人間的な、余りにも人間的な、そんな響きはそぐわない。
冥府の臭いに導かれ、地獄の炎に照らされて、
ミルキーウエイ銀河の星屑の一つで出会った、
60億年目のアダムとメシア。
これは、単なる偶然か。
次回「キニス」。
衝撃のあの日からをトレスする。



トム「ほーん、こいつら怪物の正体追っとんのか!」
はい、バジリスク襲撃フラグが立ちました。
そしてキリコ、なんつうもん見つけてんだ。


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第二十話 「キニス」

流石にこうも日常回が続くとだれてきますね…
ようやくターニングポイントです。


クリスマス休暇が終わり数か月が経った、この前まで継承者の恐怖に脅えていたのはどこへ行ったのか、生徒はもうじき訪れるクィディッチに盛り上がっていた。
それもあの決闘クラブ以来継承者の襲撃が無いからだ、もうほとんどの生徒はこのまま何も無く過ぎていくものだと考えている。
またマンドレイクの成長も問題無く、このままいけば収穫できるらしい。

そして平穏な日々の一つ、聖ウァレンティヌスが殉教した日バレンタインデーとなった。
まあこの日は女性が愛を誓うというものだ、男子、俺には特に無縁だろう。

が、今年は例外だった、男も女も皆げっそりやつれている。
その原因はこの大広間にあった。
壁、床、窓の全てから自己主張の激しいピンク色の花が咲き乱れ、薄い青色の天井からはハート型の紙吹雪が舞っている。
なんだこれは、レッドショルダー色の方がマシに見えるなんて初めてだ。

「…やあ、キリコ、元気? ボクスゴイゲンキ」

キニスの目は死んでいた、いや全校生徒及び教員たちも全員死んでいる、俺はまた地獄に迷い込んだらしい。

このカオスの原因をキニスに尋ね…いや必要ないだろう、こんな馬鹿をするヤツなどアレ以外あり得ない、居てたまるか。
新たな地獄と化した教員席には、ピンク色の悪魔が居た。
部屋と同じ色の、汚いピンク色のローブを纏ったロックハートがいい加減見飽きた笑顔の無差別爆撃を放っている。

「あいつは何をしているんだ」

「さあ…でもキリコ、碌な事じゃないって断言するよ」

ロックハートの評価が地に落ちてから半年ほど経ち、今や誰にも相手にされなくなっている。
授業内容は全く変わらず自分の著書の再現演劇、たまに思い出したように魔法生物を持ってきてはそれの暴走を巻き起こす。
生徒はおろか教員からも厄介者扱いだ、いまだにアレを信望しているのはハーマイオニーくらいか…既に半信半疑以下だが。

「静粛に」

ほとんどの生徒が、この光景に唖然としつつも大広間に集まったのを見て、目も表情筋も死んでいる教職員の中からロックハートが喋り始めた。

「皆さんバレンタインおめでとう! 既に46人から私にバレンタインカードが届きました、ありがとう! まだまだ送って大丈夫ですよ!」

あんなのにカードを送るヤツが46人も居た事に衝撃を受けていると、大広間の扉が少し動いているのに気付く。
…猛烈に嫌な予感が脳裏をよぎる。

「そうです! 今日は皆さんを驚かせようと私がこの大広間をこのようにさせて頂きました。
し か も ! これだけではありませんよ、どうぞ!」

ロックハートが指を鳴らすと、大広間の扉から無表情、かつ派手…と言うより奇妙な格好をさせられた小人が重い足取りで入って来た。

「私の愛すべきキューピッド達です! 今日一日学校中をくまなく巡り、彼らが皆さんにバレンタインカードを配ります。
この程度で満足してはいけませんよ、先生方各々もこのお祝いのムードを楽しみたいと思ってらっしゃるのです」

もしも教師陣の死んだ目を知ってやっているのだとしたら、むしろ賞賛してもいいかもしれない。
この爆撃が過ぎるのを待っている教師達をしり目にまだ喋っている。

「さあ皆さん、スネイプ先生に″愛の妙薬″の作り方を聞けるのは今日くらいですよ?
フリットウィック先生は″魅惑の呪文″についてよく知っているそうで、素知らぬ顔をしていて、中々憎いですね!」

フリットウィックもあんな顔をするのだと思わず感心してしまった。
方やスネイプは…そんな事を聞こうものなら劇薬の実験台にされそうな顔をしている。
入学以来見た事も無いスネイプを前に、生徒達は震えあがっていた。

その結果、今日の授業は全て愉快なロックハートで塗りつぶされた。
ロックハートの被害者である小人達は、授業中だろうが何処だろうが、用を足してる時であろうがやって来てバレンタインカードをばら撒いている。

あげくの果てに小人達は、届けて来たカードの内容をその場で読み上げるのだ、当然の如く大声である。
俺はもともと知り合いが少なく、ハリーは後継者疑惑で避けられているから助かったが、他の生徒や人気者は本気の悲鳴を挙げていた。

「わあいとってもうれしいなあ」

目どころか感情も死にかけてるキニスもその一人だ、こいつは元々かなり交友関係が広いので、届くカードの数も桁外れになっている。
余りにもあんまりなので、最初の内は″黙らせ呪文″で対応していたが、カードの数が50を超えてから諦めた。

それにしても、何故よりによって今日魔法薬学の授業があるのだろうか。
教室に入った途端、凄まじい殺気をスネイプは放っていた、まあ当然言えば当然だが。
修羅の形相と化したスネイプは教室の中に小人が入ってくるたびに殺気を放ち、運悪くカードを貰った生徒はその視線を直接浴び震えあがっている。

これは後から聞いた話だが、普段罵りあっているグリフィンドールとスリザリンもこの日ばかりは話すのを止め、人が変わった様に授業を受けていたらしい。

「酷い目にあった」

本当は今日も図書館に籠るつもりだったらしいが、まともに調査出来ないだろうという事でキニスは談話室に避難していた。

「…これを許可したのもダンブルドア校長なんだよね…」

「恐らく、沈んだ空気を明るくしようとしたのだろう…アレは目立ちたいだけだろうが」

そもそも最初の授業日から思っていた事だが、決闘クラブの時といい今日といい、何故ダンブルドアはこんなヤツを雇い入れたのだろうか…




あの地獄から数ヵ月経ったが、いまだに継承者が現れる気配は無い。
無論それにこしたことは無い、だが嵐の前の静けさという言葉もある。

しかしほとんどの生徒達はそう考えず偽りの平穏を謳歌していた、その中でハリー、ハーマイオニー、ロン、キニスの四人だけは毎日図書館に籠り継承者が誰なのか、そして怪物の正体を探っている。

「正体は分かったのか?」

「ぜんぜん…って訳じゃ無いんだけどね…」

キニス達は調査の結果、50年前に秘密の部屋を開いたのがハグリッドという事を知ったらしい。
そして怪物は″毛むくじゃらの生物″だと絞り込む事ができ、今はその毛むくじゃらの生物が何なのかを調べているようだ。

しかしキニスとハーマイオニーはそれを信じておらず、別の可能性を探っているらしい。

「ハリーは凄い大きい蜘蛛みたいな生き物って言ってたんだ。
でもそんな目立つ生き物だったら、誰か見てるはずだよ」

「…ハリーは何故それを知っている?」

「え? …聞いてなかった。
ハーマイオニーから聞いただけだから、…ハグリッド本人に聞いたんじゃないかなあ、ハリーと仲良いみたいだし」

肝心な事を聞いていなかったキニスはばつが悪そうだ。
しかしハグリッドとは…信じがたいな。
…本当にハグリッドなのか? あまり関わらないのでよく分からないが、そんな事が出来るほどあの男は器用に見えない。

仮にハグリッドが継承者だったとしたら、今の継承者はハグリッドの親戚でなくてはならない。
だがハグリッドの親戚が学校に居るなど聞いたことも無い。

「でもハリー達の考えが今の所一番正しそうなんだ。
図鑑を片っ端から見てみたけど、水辺に住んでて相手を石にする生き物なんか居なかったんだ、だから僕の考えも間違ってたんだよ。
…キリコは怪物が何か分かる?」

「分からないな」

「さすがにキリコも分かんないか…せめてあと一つヒントがあればなあ…」

キニス達の調査によって今分かっている事。
一つ目は被害者は全員石になっていた点。
二つ目は現場は全て水浸しになっていた点。
…しかしこれに当てはまる生物は居ない、確かにあと一つ条件が見つかれば怪物の正体も明らかになるだろう。

「ねえ、キリコは怪物調査隊に参加しないの?」

「…いや、遠慮しておく」

確かに怪物を放置するのは危険だろう、しかし今回は状況が悪すぎる。
まず怪物の正体が分からない事、このままでは対策の仕様が無い。
次に正体が分かったとしても、その居場所が分からない。
さらに襲撃の時を狙おうにも、何処に現れるのか見当も付かない。
これでは怪物を撃破しようにも、生徒達を守ろうにも手の打ちようが無い、正直お手上げだ。

「そっかあ…残念」

「すまない」

またもう一つの理由として、あの呪文が完成間近なのもあった。
これは推測だが怪物は大型魔法生物の可能性が高い、この呪文はそういった相手と戦う為の魔法だ。
どうせ止めても無駄なのはよく知っている。
なら怪物の調査はあいつらに任せ、俺は怪物を倒す呪文を完成させた方がいいはずだ。
最も新呪文の開発は余り知られたく無いので、話してはいないが…

「そういえば明日試合だけど…練習しなくていいの?」

「今はグリフィンドールがグラウンドを使っている」

そう、明日はグリフィンドール対ハッフルパフの試合が行われる。
怪物調査に参加できなかった理由として、ここ最近クィディッチの練習が多かったのもその一因だ。

「…勝てそう?」

現在ハッフルパフはレイブンクローに対しては勝利しているが、スリザリンには僅差で敗北している。
対してグリフィンドールは全戦全勝、この状態から優勝杯を奪い取るには相当差をつけて勝たなければならない。
しかしグリフィンドールには現役最強と呼ばれるハリーがいる、開幕スニッチを奪われれば敗北確定だ。
つまり俺達が勝つには、グリフィンドールが点を入れる前にスニッチを奪い取らなければならない、かなり厳しい試合になるだろう。

「分からないな、…だが全力でやるだけだ」

「…ちょっと思ったんだけど」

「何だ」

「キリコって、緊張とか不安とか無いの?」

「どういう事だ?」

「あ、いや嫌味とかそういうのじゃなくて、キリコって去年トイレにトロールが出た時とか、試合前日と時とかも冷静だからさ、どうすればそんなに冷静さを保てるのかなーっと思ったんだけど」

「…しいて言うなら、常に状況を客観的に見る事だ」

今言ったのは嘘ではないが、本当とも言えない。
そもそも意識して冷静になっているわけではない、単に場馴れしているだけなのだ。
敵が急に襲撃してくる事はおろか、味方に襲われる事も何度かあった。
手を抜くわけでも、そんなつもりも無いが、試合にしても実戦に比べれば遊びでしかない以上、必要以上の緊張はしようと思っても出来ない。

「客観的かあ…何だか難しそうだね」

「常に意識していればそのうち慣れる」

「うーむ、…そもそも客観的って何だろう」

「………」

そこからか…まあ普通この年齢で、それをするのは難しいだろう。
そういった年相応な面を見ていると、何だか少し微笑ましくなってくる。
やはり子供が成長していくのは良い物だ、俺はあの忌々しい神から押し付けられた、あいつの事を思い出していた。

「…!? キ、キリコが笑っている…!?」

「…そんなに意外か?」

「入学以来初めて見たよ!?」

いつの間にか顔が綻んでいたらしい、そういえば人前で笑うのは何時以来だっただろうか。
しかし何もそこまで驚くことは無いだろう。

「びっくりした…ま、まああれだよ明日の試合、頑張ってね!」

「…ああ」

ここに来た時、俺は未だに地獄の中を彷徨っていた。
だがこいつと出会ったおかげで、僅かだが希望を持つことが出来た。
こいつと会っていなければ、今俺はどうしていたのだろう。
それがどんなものか、予想するのは難しくない。
未だ地獄に居る事に変わりは無い。
しかしヤツのおかげで、少しだけ生きる事に前向きになれた。
俺は今一度、キニスに心から感謝していたのであった。



人は、ここに何を求める。
ある者は、ただその日の学のため、ペンを走らす。
ある者は、虚栄のために己の手で忘却を与える。
また、ある者は、あてなき願いのために、禁忌と死臭にまみれる。
 秘密は汚れた管をたどり、流れとなり、怪物となって常に獲物をめざす。
次回「奮戦」。
人は恐怖に逆らい、そして力尽きて呑み込まれる。

ロックハートの馬鹿は結構書いてて楽しいです。
同じ無能でも、実力は一応あるカン・ユーとどっちがマシなんでしょうかね…


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第二十一話 「奮闘」

一体何話引っ張ったんだ!
お待たせしました、
ようやくキリコがクィディッチを地獄に変えてくれます!



天候は曇り、春先とはいえ風は強く、感じる空気は冷たく鋭い。
だが観客席から吹き荒れる熱狂は冷たい空気を容易く吹き飛ばしている、魔法界には娯楽が少ないからこそここまで人々を夢中にさせるのだ。
熱狂、緊張、絶叫…無我夢中に、時に死人さえ出るという、この爆発しそうな空気はある意味で、戦場に似ているようだった。

だが、あくまで似ているだけ、プロ同士の試合ならともかく学生同士の戦い、それは遊びにしか見えなかった。
では手を抜くのか? そんな事は無い俺の取柄はたった一つ、くそ真面目だという一点だけ、これが遊びだろうと全力で戦おう、箒を握る俺の手はじっとりとした汗で湿っていた。

「さあいよいよクィディッチシーズンも大詰め、グリフィンドール対ハッフルパフが始まろうとしています!
今年に入って驚きの成績を残しつつあるハッフルパフに対して、現在全戦全勝のグリフィンドール。
しかし点差によってはどう逆転されるか分かりません、一体この試合どうなるのでしょうか!?」

シーズン終わりが近づいて来たからか、ジョーダンの実況もさらに熱が入っていた、その実況に煽られ観客席の熱風はさらに強烈になる。
それと共に選手たちの緊張感は否応なしに高まっていた。

「皆、俺達ハッフルパフは今まで最下位かその近くしか居なかった。
だけど今年は違う、数年ぶりに、あと少しで優勝杯に手が届く」

キャプテンであるディゴリーが選手たちに呼びかける、負け続きだったハッフルパフが数年ぶりにクィディッチに優勝できる可能性が出て来たのだ、当然緊張もあったがそれ以上に選手達は希望と覚悟を目に映し出している。

「俺達が優勝するためにはグリフィンドールに一点も与えちゃいけない、圧倒的な得点差をつける必要がある。
だが問題は無い、グリフィンドールにハリー・ポッターが居るように、ハッフルパフにはキリコ・キュービィーが居る。
俺達がするべき事はキリコがスニッチを手にするのを信じて、ゴールを全力で守り抜く事だ」

随分と期待されたものだ。
だがグリフィンドールはハリーを抜いても強い、ニンバス2001を全員分用意したスリザリンがほぼ反則なプレーをしてようやく互角という事実がそれを証明している。
俺がスニッチを取るのに時間が掛かったが最後、試合に勝ったとしてもグリフィンドールの優勝は揺るぎないものになってしまう。
俺の背中にはハッフルパフの優勝が、メンバー全員分の重みとなって伸し掛かっていた。

「大丈夫だ、俺達は勝てる!
誰よりも負け続けて来たからこそ、その悔しさを誰よりも力に出来る!
優勝争いにすら参加出来ず泣くことも出来ないのは今日で最後だ、絶対に勝つぞ!」

指揮官にとって最も大事な事は指揮能力でも本人の技量でもない、如何にして部下を鼓舞するかだ。
どれ程そいつが有能であってもそれが無ければ、個々の力を生かすことは出来ない。
しかしこいつは問題無いようだ、目に映っていた炎はディゴリーの激励によりさらに燃え上がり、箒を天に掲げ力の限り叫ぶ戦士の姿がそこにはあった。

強風により巻き起こる砂嵐の中、選手たちが各々のポジションにつく。
そしていつもの年相応な顔では無く、戦士の顔となったハリー・ポッターと空中で相対する。
思えばハリーと戦うのは、どんな形であれこれが始めてか。
ハリー・ポッター、パッと見た限り何処にでもいそうな少年だが、その実必要とあらば危険を顧みずどんな事でもするヤツだ、決して油断していい相手では無い、全力で戦わなければ勝てない相手だろう。




その一方、ハリーは相当な緊張に駆られていた。
キリコ・キュービィー、トロールを爆殺し、ヴォルデモートの在り台だったクィレルを撃退し、スネイプと渡り合う事も出来る何から何まで規格外の存在。
正直言って怖かった、「ハッフルパフの特攻野郎」、「生体ブラッジャー」等、彼がクィディッチを始めてからついたあだ名は何れも物騒な名前ばかりだ。

あの時、クィレルに襲われそうになった時彼は助けてくれた。
だけどそれと同時に恐怖も覚えていた、彼は本当に僕と同じ年齢なのだろうか? 一体どうして彼はここまで強いのだろうか?
良く言って大人びた、悪く言って子供らしさを欠片も感じる事の出来ないその異質さに恐怖するのはごく自然の事だった。

だがそのぼんやりとした恐怖に負けるわけにはいかない、ここは空中だ、僕が唯一得意と胸を張って宣言できる場所がここなのだ。
勝てない訳じゃ無い、いや勝てる。
キリコがどれ程無茶苦茶でも、箒の勝負だけは負けやしない!
ハリーの目にもまた、燃え上がる覚悟と情熱が宿っていたのだ。




交わす言葉は無かった、ただ見つめ合うだけで十分その闘志は伝わっていたからだ。
静まりかえる観客席、むせかえりそうな突風の中で響き渡る試合開始のホイッスル。
途端キリコが全速力で動き出した!
スニッチを見つけたのか!? いや幾ら何でも早すぎる、あれはウロンスキー・フェイントだ!

ウロンスキー・フェイントとは、スニッチを見つけたフリをして地面に急降下、激突寸前で上昇し相手選手を自爆へ誘い込む戦術である。
だがハリーの予測は外れてしまっていた、確かにフェイントでは無かったが、別の意図があったのだ。

キリコは地面スレスレの壁際で停止し、それっきり動かなかった。
そしてあろうことか目を閉じてしまったのだ。

一体何をしているのかハリーにはさっぱり分からなかった、目を開けるのは精々ブラッジャーをかわす時くらい、スニッチを探す素振りも無い。
だがそんな事を気にしている暇はない、もしキリコが先にスニッチを獲得してしまってはグリフィンドールが優勝杯を手にすることは出来なくなってしまう。

ハリーは迫りくるブラッジャーを紙一重でよけつつ、フィールドを風の様に飛び回りスニッチを探す。
どこだ…一体何処に居る!
しかし吹き荒れる砂嵐は視界を阻む、この状態でスニッチを見つけるのは至難の業だ。
さらに強風がハリーを襲う! 勿論その程度で体制を崩すような事はしない。

一旦風に身を任せ回転する事で姿勢を立て直す、180度、ちょうど下を向いたとき地表で未だ動かないキリコが見えた。

「………!?」

その時ハリーに悪寒が走った!
次の瞬間その正体、キリコの目的に気づいたのだ!
砂嵐は彼に向かって吹いていた、即ち風下!
常識外れのスピードで動き出したキリコ、今度はフェイントでは無い、彼の視界の先を見ると、一瞬だが金色の影が見えた。

「―――!」

少し遅れて動き出すハリー、しかしこの差は致命的だった。
この砂嵐の中スニッチを視界で捉えるのは困難、だからこそキリコは音に頼ることにした。
そう、キリコは風下で意識を集中させ、砂嵐がスニッチの羽音を運ぶのを待っていたのだ!

スニッチを追いかけ急上昇する二人、キリコが掴むまであと数cm…の所でスニッチは急降下を掛けた。
それを見たハリーは瞬時に止まり、一気に急降下。

箒について研究し尽くしているハリーは当然知っていた、インファーミス1024は確かに早いがそれ以上に旋回性能が死んでいるという事を。
今の動きはハリーにとって有利な物だった…はずだった!

「え…?」

視界にはあり得ない光景が映り込んでいた、キリコが箒から飛び降りていたのだ!
今度は一体何を!?
次の瞬間彼は驚きの行動に出た。
未だ上昇を続ける箒を右手だけで掴み飛び降りる、そして箒の先端に残された右手を全力で振り下す。
すると何と! 箒がその速度を保ったまま方向転換したのだ!
何という事だろうか、彼は自分の落下する勢いと、腕力だけで箒の方向を無理やり変えたのだ! 無論ミスすれば落下し命の保証は無い、彼はそれを当然の如く行ったのだ!

(無茶苦茶だ…!)

唖然とするハリーと眉一つ動かさないキリコが並走する、数秒後嵐の中にぼんやりと地面が映り込む。
激突する瞬間、急転換するスニッチ、ハリーもそれに続きこなれた様子で急カーブをかけ追走する。
対してキリコは後ろ脚を振り上げ…蹴った!
箒の尾を蹴り飛ばし、またもや無理やり方向を変えたのだ!

が、その隙を見逃さなかった者達が居た、フレッドとジョージ、ウィーズリーの双子が同時にブラッジャーを殴り、ドップルビーター防衛をキリコに食らわせた!
ブラッジャーの一撃を肩に食らったキリコ、しかし怯む様子の欠片も無い。
顔色一つ変えず、一瞬でハリーに追いついた!

(化け物か!?)

ハリーがそう思うのも無理は無いだろう、肩の骨が砕けたのにコンディションに全く影響が無いのだから。
すると目の前にはグリフィンドールチェイサーのアンジェリーナ・ジョンソンが!
彼女の近くをすり抜けていくスニッチ、ハリーは最小限の動きで彼女を回避した。
しかしキリコは回避する様子が無い、それどころか減速する様子も無い。

だが彼女もまたよけようとはしなかった、このまま激突すればキリコは失格に、回避しようとすればインファーミスは止まるかやり過ぎた方向転換の他無く、減速を余儀なくされるからだ。
空前絶後の速度で迫りくるキリコ、シーカーが反則で退場すれば自動的にグリフィンドールの勝ちになる、彼は必ず回避する!
5m! 一切減速なし!
4m! やはり減速なし!
3m! 減速する様子は無い!
2m! ジョンソンがキリコを避けた!
その汗一つ書かない彼の恐るべき精神力に彼女は怯んだ、精神的に負けたのだ!
これが彼が「生体ブラッジャー」と呼ばれる所以である!

あまりに無茶苦茶、あまりに危険なその飛行に魅せられた観客たちは悲鳴とも賞賛ともつかない歓声を上げていた。
スニッチに手を伸ばすハリー、ほんの数cm遅れて飛行するキリコ!
速度差を考えれば辿り着くタイミングは同時! 可能性は五分五分!
手を伸ばすキリコ、お互い身の安全等考えずに突撃を慣行した!
そして黄金の球体を手にしたのは…!

ピ―――ッ!!

試合中断のホイッスルが、突如砂嵐を貫いた。

一体何が?
ブレーキをかけ、ハリーが、少し遅れてキリコが降りて来た。
タイムアウト…な筈は無い、では一体何が起こったのだろうか。
顔を青くしたマクゴナガルがこちらに走って来た、彼女が放った重い一言、それは戦いの興奮を一瞬で吹き飛ばした。

「キニス・リヴォービアが継承者に襲われました」








「何か分かった?」

「分かんないという事なら」

基本的に図書館は試験前でもない限りほとんど人は居ない、けど今日は全く居なかった、司書のピンズ先生もだ。
まあその分調査に集中出来るから、僕達にとっては都合が良いんだけど。

「それにしても珍しいわね、あなたが調査をクィディッチより優先するなんて」

「言わないで! 忘れようとしてるんだよ!」

そもそもこんなに人が居ないのは、グリフィンドールとハッフルパフの試合があるのが原因だ。
あろうことか司書のピンズ先生まで、仕事をほっぽりだして観戦に向かってしまった。

「で! あのモジャモジャが何か分かったの?」

「ええ、多分ハリーが見たのはアクロマンチュラよ、人の言葉を理解出来る賢い蜘蛛。
でも人を石にする力何て無かったわ」

「じゃあもしかして…」

「調査は振りだしね」

「ノー!!」

思わず頭を抱える、何てこった、これまでの苦労が全部パアだ。

「本当に怪物の正体は何なのかしら…」

ハーマイオニーの言う通りだ、ここで調査は完全に行き詰まってしまった。
やっぱりもう一つヒントが無いとダメかもしれない。

「もう一度今までの状況を思い出してみようよ、このまま唸っててもどうしようもない」

「それもそうね…」

あまり性能の良くない頭をフル回転させて、今までの記憶を思い出す。
…被害者は石になってた、場所は水浸し、起こった日は決闘クラブの後と、クィディッチの試合後と、ハロウィンパーティーの…
ハロウィン? ちょっと待て、何か、あの日何かあったような…

「ハリーよ!」

勢いよく椅子から立ち、ハーマイオニーがそう叫んだ、その声で僕もハロウィンの日にあった事を思い出した。

「ハロウィンの日、ハリーが何か音を聞いたって言っていたわ!
きっとあれは怪物の声だったのよ!」

そうだ、あの日絶命日パーティーから抜け出した時ハリーが音を聞いた。
その音の元を辿ると、ミセス・ノリスが石になっていたんだ。

「…でも、私達には聞こえなかったのよね、けれど聞き間違いとも考えにくいし…」

確かに僕達には聞こえなかった、何でハリーだけ聞こえたのだろう。
…いや、まさか!

「違う、聞こえなかったんじゃなくて、分からなかったんだ、あの音がハリーにだけ分かる音だとしたら…!」

僕らに分からなくて、ハリーにだけ分かる言葉、それはたった一つしかない…!

「「…パーセルマウス!」」

「そうだよ! だとしたら怪物は…」

「蛇! 蛇の図鑑を取ってくるわ!」

今までバラバラだったパズルのピース、そこに加わった最後の一つが、全ての答えを教えてくれた。

「キャアアアア!」

!? 突然ハーマイオニーの悲鳴が響いた。
一体何が、まさか継承者に襲われたのか!?
大急ぎでハーマイオニーの所へ走り出す、そこにあった物、それは…



大いなる意志が全ての始まり。
芽生えた意識は行動を、行動は情熱を生み、情熱は秘密を求める。
秘密はやがて、闇に行き着く。
闇はすべてに呵責なく干渉し、破滅の嵐を育む。
そして、放たれた雷が信管を打つ。
次回「触発」。
必然たりえない偶然はない。

何か変な所で止まっていますが、
文字数の関係です、
お許しください!


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第二十二話 「触発」

デイリーランキング乗りましたああああ!!!
WRYYYYYYYYYYY!!!

皆さん感想、評価、お気に入り登録ありがとうございます、
これからもよろしくお願いします。


「…ど、どうしたの、それ」

「…図鑑が高いところにあって、取ろうとしたら本が崩れて来たのよ」

本に埋もれてもがくハーマイオニーがそこには居た、継承者の襲撃じゃなかった事に胸を撫で下ろしながら、散らばった本とハーマイオニーの荷物を片付けていく。
…ん? 何だこれ。
荷物の中にはちょっと雑にテープで補強されている折れた杖があった。

「どうしたのこれ? 杖折っちゃったの?」

「違うわよ、それはロンの杖、修理を頼まれたのだけど…」

修理の腕前は…酷いなこれ、テープはベタベタして手に引っ付くし、芯みたいな物が脇からアホ毛みたいに飛び出てる。

「…僕がやっておこうか? 本を見るのは一人で十分だろうし、こういうのは得意なんだ」

「え、いいの? じゃあお願い、私はその間に本を調べておくわ」


………


「出来た!」

「わー… キニスって案外手先が器用なのね」

何かさりげなく失礼な事を言っていた気が…まあいいや、とりあえず芯を整えて、テープを綺麗に巻き直し違和感の無いよう色をつけた、パッと見壊れているようには見えないだろう。
早速適当に呪文を使ってみる。

「ルーモス! ―光よ!」

うん、問題なく立派な光を放っているな、杖の尻からだけどね! おい!

「………」

「…で! 怪物は分かったの!?」

話を無理矢理変え、恥ずかしさをどうにか誤魔化す。
これは杖を変えなきゃダメそうだ…

「ええ! きっとこれよ!」

そのページに書かれていたもの、そこには巨大な蛇の姿が描かれていた。
名前は…毒蛇の王バジリスク

「バジリスクの眼を見ると死んでしまう、けど間接的に見るだけなら石化だけですむわ。
今までの場所は全て水浸しだった、だから石になっていたのよ」

「でもどうやって見つからずに…」

「ホグワーツには迷路みたいにパイプが走っているの、それを辿れば見つからないわ!」

そうか、そうだったのか!
確かに怪物がバジリスクだとすれば、全てのつじまじが合う!
バラバラだったパズルが、今完成した!

「早く先生の所に行こう! このことを知らせなきゃ!」

まだクィディッチの試合は終わってないはず、だったら先生はグラウンドだ!
怪物の正体が分かれば犠牲者は減る! いや、先生達が倒してくれるかもしれない!
大急ぎで図書館を飛び出す、勢いを緩めず曲がり角を走り抜け―――!?

「止まれぇ―――!!」

曲がり角の前でブレーキをかけ、その反動で後ろへ倒れ込む。
その結果ハーマイオニーまで巻き込んで転んでしまった。

「ちょっと、一体何を―――」

僕が止まった理由、曲がり角にあったソレを見てハーマイオニーは息を飲んだ。
レイブンクローの監督生、ペネロピー・クリアウォーターがまるで、石のように固まって倒れていた。

その意味はもう分かっていた、通路に鳴り響く何かの声、そこに居るのが何か察した僕達は曲がり角から急いで離れる。

「ま、まさか…!? こ、この音って…!?」

「…バジリスクだ…!!」

何てこった、こんな最悪のタイミングで出なくても良いじゃないか!
信じられない運命を呪いつつ、頭をフル回転させようとする。

「ま、回り道をして行きましょう!」

「ダメだ! バジリスクが居るのは後ろかもしれない!」

クリアウォータ先輩が図書館を出ていったのはだいぶ前だ、その後すぐ石になったとしたら、バジリスクはあの角にはもう居ないかもしれない。
でもこの通路は一本道、ここから出ようとすれば、前か後ろか、どちらかの曲がり角を行く必要がある。

どうする!? バジリスクはどっちに居る!? 戦うか? いや勝てるわけがない!
パニックに陥っていく思考、そこに一つの言葉が割り込んできた。

―客観的に見る事―

…そうだ、こんな時だからこそ冷静にならなくちゃいけない!
目的は何だ?
バジリスクの事を先生に伝える事だ、それが出来れば僕らの勝ちだ!
脱出ルートは前後の二つ、
ここに居るのも二人、
どっちかにバジリスクが居る、
どちらか一人が脱出出来ればいい!

「ハーマイオニー、よく聞いてくれ…!」

「な、何!? この状況で!」

「前と後ろの曲がり角、そのどっちかにバジリスクは居る。
だからそれぞれの角に、これを投げるんだ」

「これって…ほ、本?」

「そう、もし投げた方にバジリスクがいれば、何らかの反応があるはずだ。
そしたら、バジリスクを引き当てちゃった方がヤツの気を引く、その間にもう一人は全力で逃げるんだ」

「………」

「今一番大事な事は、怪物の正体を伝えること、どっちかが無事ならそれでいい!」

ハーマイオニーは少し戸惑ったような顔をしていたけど、すぐに目付きを鋭くし小さく頷いた。

「…じゃあこれを渡しておくわ」

「手鏡…! 分かった、ありがとう!」




バジリスクの声が響き渡る廊下の中、僕達はそれぞれの角につき、カウントダウンを始める。

3、2、1………!

同時に本を投げ飛ばす、すると僕の視界の端に緑色の鱗に覆われた鼻先が現れた! バジリスクが居たのはこっちの方だ!

「逃げろハーマイオニー!」

呼応してハーマイオニーが逃げ出す!
僕もすぐに目を閉じて廊下の壁沿いを走り出した。

「こっちだ化け物!」

「―――――――!」

一気に荒くなった鼻息を感じながら、バジリスクの脇を走り抜ける。
何も見えない中、自分の記憶だけを頼りにひたすら走る!
後ろから蛇の這いずる音が怒濤の勢いで迫って来た! は、早い!

想像以上の早さに一瞬恐怖してしまった、その恐怖心が足に絡み付き派手にスッ転んでしまう。
痛い! 息が止まるような感覚がする!
けれどそれを無理矢理押さえ込みまた走り出す。

その時、異常な圧迫感を感じた! その感覚を信じて前に飛び込んだ。
次の瞬間! 

ドゴオオオオ!!!

「うわあああ!」

思わず絶叫した! 鳴り響く轟音、むせかえる土の臭い、全身に降り注ぐ瓦礫、多分バジリスクが食らいついて来たんだ…!
立ち上がった所で最悪の事に気づいてしまった、手鏡が無い! さっきので無くしてしまったんだ!

つまり目を開けたが最後、バジリスクの目を直視して死んでしまう!
瞬間体が固まった、死ぬという恐怖がのし掛かり、指一本動かせなくなる。

…ダメだ! 止まるわけにはいかないんだ!
舌を思いっきり噛むと口の中に鉄の味が広がっていく、それと同時に起こった激痛で身体が覚醒した。

走れ、走れ、走れ!

無我夢中で走り抜ける、再度訪れる圧迫感!
再び飛ぶ! そして鳴り響く轟音!

だけど、その時気がついた、自分が何処で飛んでしまったのか。
全身が上に置いていかれるような感覚、風圧を全身に感じる。
階段だ、階段の奈落に向かって飛んでしまったんだ!

どうする!? このままじゃ落下死だ、どうすればいいんだ!?
身体中の感覚が絶望を教えてくる、風圧、殺意、激痛、
聞いたことも無いような甲高い音、
雨、…雨?

何で雨が? パイプが壊れたのか?
…! そうだ水だ! もしかしたら助かるかもしれない!
僕は空中で、一か八かの賭けに出た。

瞳をしっかりと開くと、視界は僕の血で真っ赤に染まっていた。
目の前には大量の雨粒が降り注いでいる、どこだ、どこにあるんだ!?
目的の光景を求めて水滴の中をひたすら探すと、下の方の水滴に黄色い瞳が写り込んでいた。
そう、死をもたらすバジリスクの瞳だ。

意識が一気に遠退いていく
指もまぶたすら動かなくなっていく
でも賭けには勝った
石になってれば地面に当たっても大丈夫のはずだ
…ハーマイオニーは逃げ切れたかな…

「キリコ…」

何でキリコの名前を呼んだのだろうか、助けを呼んだのか、後の事を託そうと思ったのか。
消える意識の中で理由を考えることは出来なかった。

そこで意識は途切れた








学校は継承者の恐怖に完全に飲み込まれていた、生徒達はパニックになり中には授業に出ようとしない物達まで居る。
とうとう出てしまった新たな犠牲者、レイブンクローの監督生 ペネロピー・クリアウォーター、そして…キニス・リヴォービア。

「………」

医務室のベッドに横たわるキニスは、驚くほど穏やかな表情をしていた、バジリスクに襲われたとは信じられない程に。
しかしその身体は冷たく死体のように動く事はなかった。
死んだわけではない、幸い石にされただけ、絶望する理由などない筈だった。
だが俺の心もまた石の様に固くなり何も感じる事はなかった、キニスが襲われたという事実を受け入れる事はそれほど困難だったのだ。

「じゃが…石になって良かったかもしれんの」

見舞いに来ていたダンブルドアの言葉、普通に聞けば無神経極まった一言だが、俺はその理由を知っていた。

現場からの推測ではあるが、キニスは階段の奈落に落下してる時に石化したのだろう。
もしも石になっていなかったら怪物に殺されるまでも無く死んでいた筈だ。
だから良いとは思わないが―――

「…本当に良かった」

そうは言っているが、ダンブルドアの青い瞳は微かに震えていた、それだけで十分理解できる、ヤツも俺と同じく無力さにうちひしがれているのだ。
その形容出来ない感情は、石よりも重い鉄塊となり足と心を縛り付け、前へ進む事を許さない。

しばらくの沈黙、それはここには似合わない、鋭い羽音が切り裂いた。
ダンブルドアの手元に一匹の梟が降り立つ、それは一枚の手紙を持っている
ヤツ宛の梟便の様だが…しかし中身を開く事は無く、全てを分かっているような顔でそれをローブの中にしまいこんだ。

「…では、儂はそろそろ失敬しようかの」

そう言い残し医務室を出ていくヤツの背中には、シワがつきやつれたローブと深い影が夕日と共に落ちていた。

隣のベッドにはハーマイオニーも横たわっていた、ただ彼女は石になったわけではなく気絶しているだけらしい。
あと数日で目を覚ますらしい、その無事を確認し俺も医務室から出ていった。

何故こうなったのだろうか?
怪物の正体を探ったからだろうか、だとしたらキニスをああしたのは俺自身なのか。
そんなはずは無い、あの時俺が助言しなくてもヤツは走り出したはずだ、それに少しでも危険の少ない方向へ導けたはずだ、それに…

いや、それは全て言い訳に過ぎない、理由が、過程が、そして結果が何であれキニスが襲われたのは俺のせいなのだ。
あの時止めるべきだったのだ、たとえ無駄だったとしても…

ふと放った一言、それは巡り希釈され、今猛毒の針となり俺の胸に突き刺さっていた。
既に手遅れだ、どれ程言い訳の言葉を重ね、傷口を誤魔化そうとしても毒は。
そう、後悔の毒は全身に回り、茨のように俺を縛り付け続けている。

誰も居ない廊下に、夕日に晒され孤影が揺らめく。
失意の後悔の泥沼の中を泳ぐ俺の前に現れた二つの影、見覚えのある二人は何を思ったか走る足をふと止めた。

「だ、大丈夫…?」

ハリーは俺を心配したのかそう言った、どうやらこの失意は全身から溢れ出ているらしい。

「…彼女の見舞いか?」

「うん、石にはなってないけど、やっぱり心配だからね」

そう言ってハリーは年相応の笑顔を作り、俺に向けてきた。
しかしその瞳は水面の様に揺れ、不安の風が心に波をうつ。
それは当然なのだろう、大切な人に何か起こった時完全に冷静で居られる人間がどれ程居るのか。

「キニスのお見舞いに行ってたの?」

「…ああ」

それは俺も同じだ、そう、あの日あの時からヤツは手のかかる子供ではなく、掛け替えのない親友になっていたのだ。

「…大丈夫だよ! 石になっただけだしマンドレイクももうすぐ収穫できるんだってさ!
だから、えーっと、元気だしなよ!」

「………」

「…いや、だから、その」

「…ありがとう」

「え?」

上手く言えてはいなかったが、俺を励ましたいのは十分分かる。
それがその場しのぎに過ぎないただの蝋燭の灯だったとしても、罪の意識に震える心を温めるには十分だった。
そしてロンに一言礼を言ったが、やはり驚かれてしまった。

「…やっぱり僕、ハグリッドに聞いてくるよ」

「え? どうしたのハリー、今まであんな嫌がってたのに」

「でもキニスも犠牲になった、ハーマイオニーも死ぬかもしれなかった! これ以上継承者の好きにさせるわけにはいかない!」

「そうだ」

「「え?」」

またもや二人に驚かれてしまった。
ほんの少し震えが収まった俺の心には、再び火がともり、今にも燃え上がろうとしている。
そうだ、今やるべき事は後悔でも、ましてや神に対する懺悔でもない。

「今お前達が知っている事を教えて欲しい」

「まさか、キリコ…!」

「ああ、俺も手伝おう」

継承者、そして怪物を滅ぼす事だ、これ以上犠牲を増やさないために、そしてキニスの仇を取るために。
俺の親友、その運命を弄ぶヤツを許すわけにはいかない。
それが怪物だろうと継承者だろうと、例え神だろうと許さない。
かつて神を滅ぼした時以来、数十年ぶりに燃え上がった復讐の炎。
俺の心は今再びその覚悟を決めたのだ、やつの運命(さだめ)を炎で焼き尽くすと…!



地底のスリザリンが、意志をはなつ。
それぞれの理想、それぞれの運命。
せめぎ合う策謀と、絡み合う縁。
視線をくぐり抜けたとき、突然現れた一匹の化け物。
沈みゆく夕陽に、二つの影が重なる。
だが、少女は、そのとき消えてゆく。
次回「失踪」。
地下の闇が怪物を隠す。



トム「ははっやってやったZE☆」
キリコ「………」
やってしまったのはトムさんのようですね、逃げて!
キニス君去年に引き続き酷い目にあってますが仕方ありません。
「地獄まで付き合う」なんて言ったのが運のツキです、ご愁傷様。


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第二十三話 「失踪」

秘密の部屋もいよいよ大詰め!
最後まで立っているのは誰か!
そもそも部屋は無事なのか!


以前の襲撃以来不穏な空気に包まれていたホグワーツ、それは昨日さらなる絶望感よって緑色に塗りつぶされた。
ダンブルドアが追放されてしまったのだ。

これは理事会の決定であり覆す事は不可能、確かに四人も犠牲者が出て尚有効な対策を打てていないのだ、責任能力を問われてもおかしくはない。

それでもあいつは最も優れた魔法使いだと聞く、ならばヤツ以上に優れた魔法使いは居るのか?
居たとしても限りなく少ないだろう、つまりダンブルドアの追放は完全な失策と言えた。

今のホグワーツはトップを失い、ありとあらゆる悪徳がはびこる頽廃の泥沼へ沈み込もうとしていた。

だが絶望かあるならば希望もある、数日前目を覚ましたハーマイオニーによりスリザリンの怪物、その正体が明らかになったのだ。
怪物の正体とは黒ずんだ緑色の鱗を鎧のように纏い、その黄色い眼光で見る物全てを殺し、その毒は魂すら溶かすと言われる毒蛇の王、バジリスクだ。

彼女は言っていた、この事を伝える事が出来たのはキニスが逃がしてくれたおかげだと…
そして生徒達は常に手鏡を持ち歩き、教員達はバジリスクにどう対抗するかをマクゴナガルを中心に話し合っている。

ただこの結果ハリーとロンがわざわざアクロマンチュアに話を聞きに行ったのが完全に無駄骨となり、死にかけただけだったため二人は不満を漏らしていたが些細な事だ。

「怪物の正体がわかったのはいいけどさ…肝心の継承者は結局誰なんだろう?」

廊下でロンは言った、その通りだ、怪物の正体が明らかになり誰もが安心しまっているが最大の問題が解決していない。

「あーダメだ、もう見つかる頃にはホグワーツが閉鎖してるよ」

「ロン! だったらその前に見つけなきゃ!」

ダンブルドアの追放もあいまって諦めかけているロンに対し、その執念を見せつけるハリー。
だがハリーの目にも以前のような自信は無く、諦めないためだけに言ったような物だ。
それもその筈、手がかりの欠片も無いのだから。
バジリスクに関しては多少なりとも手がかりが存在していたが、継承者に関しては何一つ無く、正直言って俺も手を挙げるしかない。
幸い、秘密の部屋については検討が付いてるようだが…

「もういっそ人間じゃないんじゃない? きっと継承者はサラザール・スリザリンの幽霊だったんだよ」

ロンの突拍子もない意見に頭を抱えていると赤毛の少女が通りかかった。
どうも彼女は最近体調が悪いらしい、顔を青白くしながらフラフラと倒れそうな光景にロンは心配そうな視線を送っている。
その手にはいつもの通り、あの日記が大事そうに抱えられていた。

「ハグリッドはあり得ないよね…」

「あり得ないな」

ハグリッドが後継者でないのはアクロマンチュアとの話で明らかになった、死にかけた事で得た少ない成果の一つらしい。
またハグリッドは前回の容疑者ということでアズカバン送りになってしまっている。
俺とハグリッドは特に親しい訳でもないが、冤罪を着せられるという無念、それは俺にとっても許しがたい事だ。
真の継承者が見つかれば、ハグリッドの疑いも晴れる、だからこそ煮えたぎる思い共に俺達は継承者を躍起になって探しているのだ。

「…ハリー、何故ハグリッドがかつての後継者…らしいと知っていた?」

ふと浮かんだ疑問を訪ねてみる、以前キニスは「ハグリッドから聞いたんじゃないか」と言っていたが、寧ろ聞くのを遠慮していたことがこの前の会話で分かったのだ。

「あ、キリコには言ってなかったっけ、日記だよ」

「…日記?」

瞬間、俺の全身を悪寒が襲った。
それはまるで蛇の様に全身を縛り付け今にも食らいつかんとする程に巨大な物だった。
そして蛇の正体は、すぐに明らかとなったのだ。

「うん、今までロンのお兄さん達や祖先の記憶が宿った日記だよ。
それがその時の映像を流してくれたんだ、…というよりさっきジニーが持ってた本だけど、それがどうしたの?」

「ジニー・ウィーズリー!」

全力で叫び廊下の端に居た彼女を呼び止める、しかし浮ついた表情で歩く彼女はそれに気付いた様子は無い、俺は全身の悪寒を引千切りながら走り出した。

「…痛ッ! …! か、返して! それを返してください!」

多少罪悪感はあったが、ジニーの肩を掴みとり日記を無理やり奪い取る。
すると彼女は青くなっている顔をさらに青ざめながら、異常な迫力で叫んできた。

「キリコ! 僕の妹に何をするんだ!」

「ロン、これはお前の兄弟が使った事はあるのか…!」

「何のことだよ! それよりもよくもジニーに乱ぼ―――」

「質問に答えろ…!」

怒るロンを気迫で黙らせ質問を迫る、もしも俺の予想通りなら、俺は最悪の見過ごしをしていた事になる…!
俺は予想が当たってしまう事への後悔で、水中で溺れるような感覚に陥いっていた。

「…! な、無いよ! 僕も誰もそれを見た事なんて無い! だってそれって僕のママのお古でしょ!?」

「え!? だって日記はジニーの兄さん達が使ってたって言ってたよ!」

「何言ってるんだよハリー! 第一使ってたとしても、日記に記憶が宿る訳ないじゃないか!」

「ええ!? これってそういう魔法道具じゃないの!?」

「そんな道具見た事も聞いた事もないよ!」

「返して! 早く返して!」

「全員静かにしろ…!」

大混乱している状況、俺は再び怒気を放ち場を落ち着かせる。

「状況を整理する、ジニー、これはお前の物なのか?」

「…そ、そう、だから早く返し―――」

「正直に言えばな」

「…ひ、拾ったの、談話室のテーブルで、誰かの落とし物かと思って…」

つまり、ロンが落とし物として届けようとした所、ジニーも同じ事をしてしまったという訳か。
そして全員の話を纏めた所こうなった。
最初ジニーは届けようとしたが、日記と話せる事を知ってから持ち主に返すのが惜しくなった。
またロンもそれを母親のお古と思い、不審に思う事はなかった。
しかし次第に意識を失ったり記憶が無くなる事が増え、不審に思ってトイレに捨てた。
それを今度はハリーが拾った、ジニーの物(実際は違ったが)と知っていたので最初は返そうとしたが、彼も日記と話せると知ってから返すのが惜しくなった。

「…日記は、ロンの兄弟の記憶…と言っているのか?」

「そ、その筈だけど…」

日記との会話は、本に文字を書き込む事で出来るらしい。
ハリーはロンの兄弟の記憶と言っているが、ロンはこれを母親のお古だと言っている。
物は試しだ、俺はどちらが真実なのか試すことにした。

《むせる》

何故か脳裏に浮かんだ言葉を書き込んで見る、するとインクが滲み出るように不気味な文字が浮かび上がって来た。

《はじめまして》

それはただの挨拶であった、だが俺には分かった、この言葉の裏には途方もない悪意が隠されていることを。
その悪意に気づかれぬよう、丁重な言い方でその名を訪ねる。

《貴方は誰でしょうか》

《僕はトム・M・リドルです。貴方の名前は?》

その答えにハリーは目を見開き驚愕する、どうやらロンの答えが合っていたらしい。
俺はその問いに答えることなく日記を閉じた。
つまりはそういう事だ、この日記こそがこの事件に深く関わっていたのだ!
でなければ何故日記が嘘をついたのかの説明が付かない!

「…あ、あの…返してほしいんですが…」

「ああ、…先生に見てもらってからな」

「!! そんな! 返して! 返してよ!」

ジニーは死にそうな顔をして叫んでいるが当たり前だ、こいつらの体験から仮定するとこの日記は所有者に異常な執着心を抱かせるのだろう、目の前の彼女を見れば一目瞭然だ。
そのような危険物質をこのまま放っておくわけにはいかない、継承者と関係無かったとしても教員に一度見せるべきだ。
最初から全ては見つかっていたのだ、その真実に俺は絶望していた。
俺が最初から気づいていれば…そんな事を考えずにはいられなかった。


シュー…シュー…


「…!」

その時俺の体に尋常ではない寒気と殺意が打ち付けられた、振り向くと目の前には青白い、いやまるで死体のような顔色となり、人間とは思えない声を喉から絞り出すジニーがいた。
その声はまるで…蛇の唸り声の様であった。

「ジ、ジニー? 一体どうしたんだい?」

彼女を心配するロン、その隣のハリーは顔を青くし、耳を抑えながら脂汗を流し震えあがっている。
そうだ、ハリーは聞いてしまったのだ、ジニー…のような何かが何を言ったのかを。

「…ハリー、…今、ヤツは何と言った」

「…こ、殺せ、殺せって…!」

地獄の底から鳴り響く轟音、迫りくる凄まじい圧迫感、壁の中から響き渡る蛇が這いずるような音、その不快な感覚全てが殺意に切り替わっていく。

「ッ!」

ドガアアアア!

二人に飛びかかり地面に押し倒す!
その一瞬の後、まさに濁流のような轟音が響き渡った!

「「わああああああ!」」

情けない悲鳴を挙げる二人、後頭部が感じる生暖かい風と、身の毛もよだつおぞましい声がそれの正体を現していた、そう、バジリスクだ。
空気さえ塗り替えるほどの殺意の中、俺は全てを理解した、継承者は人では無かったのだ、あの日記が継承者だったのだという真実に。

「どどどどうするの!?」

「そんな事言ったって!」

パニックになる二人とは対照的に俺は冷静だった。
確かにその殺意は凄まじいものだ、だがこの程度なら毎日のように晒されて慣れてしまった。
土煙の中、息を整え何をすべきなのか思考する…

アグアメンティ(水よ)インセンディオ(燃えよ)
二人とも目を開けろ! すぐにだ!」

現れた水に炎をぶつけ煙幕を創り出す、二人は戸惑いつつも目を開けた。
バジリスクの目を見れば死ぬ、間接的なら石化する、なら見えなければ何も起こらないという事だ。

「ついてこい!」

いまだ腰が抜けているこいつらの腕を掴み引っ張っていく、煙幕の中にはバジリスクの影だけが映り込みその目を見る事は望んでも不可能だ。

「ど、どうするの! 作戦でもあるの!?」

「ある、だからついてこ―――」

バジリスクは彼らが走る音に反応し、煙幕から這いずり出ようとしてきた。
通常蛇にはピット器官という物が発達しているがバジリスクは例外である、この生物はその代わりに視覚、聴覚、嗅覚が発達しているのだ。
キリコがもう一度煙幕をはろうとした時であった!

『!???!!?!!??』

「臭あっ!」

突然彼らを激臭の大旋風が襲った!
余りの酷さにハリー達はおろか毒蛇の王でさえのたうち回り、追跡どころでは無くなっている!

「誰! 何今の!」

「糞爆弾だよ…うええええ」

「何でそんな物を!」

「兄ちゃん達が「継承者の鼻も蛇みたいにしてやれ」ってくれたんだ!」

「助かった!」

この場合の兄ちゃんとは間違いなくフレッド&ジョージである、そして糞爆弾とは彼らも愛用する悪戯専門店の定番商品だ!

糞にまみれ悲痛な叫びを浮かべるバジリスクをしり目に三人は走った!
一体キリコはどこへ行こうとしているのか、どうやってこの毒蛇の王を倒そうというのか。
二人にはさっぱり分からなかった、だがキリコを信じて走った!
そして辿り着いた場所は―――図書館ッ!

「こ、ここでどうするの!?」

図書館へ全力疾走するキリコ、彼はその速度を緩めずに閲覧禁止の棚、そしてその中の一室に飛び込んだ!

「ここって確か…!」

ハリーは、いやここの三人は一年前この部屋を訪れていた。
そう、かつて賢者の石、それを隠した物…″みぞの鏡″を安置していた空き教室だ!

「ハリー、ロン、そこの机をドアの前にばら撒け!」

「え!? こういうのって普通バリケードを組むとかじゃないの!?」

「そうだよ! それにどこのパイプから現れるかも分からないんだよ!?」

「ここには無い、入口はあの扉だけだ! 早く作れ!」

キリコにせかされ二人は疑問を感じつつも急いで机をばら撒き始めた、それにキリコは一つ一つ呪文を掛けていく。
キリコは″罠″を張っていたのだ、そしてそれを確実に命中させるため入口が一つしかないこの部屋を選んだのだ!

「端でしゃがんで耳を塞ぐんだ、急げ!」

指示を受けた二人は部屋の隅でしゃがみ込む、キリコもまた襲来に備え瞼を閉じ意識を耳に集中させる…

………ドガアアア!

打ち壊された扉が封じられた殺意を開放する。
しかしその殺意はキリコの撃鉄を起こし、杖を叩きつけトリッガーを引かせてしまったっ!

「エクスルゲーレッ! -爆弾作動!」

キリコ・キュービィーが全力で爆破魔法を放った場合、小さめのトロールなら完全に消し飛ぶ、そして今回地雷化させた机の数は計30個。
即ち…

『ギャオオオオオオオ!』

「うわあああああああ!」

ホグワーツ創設以来最大の爆発がバジリスクの顔面に直撃!
そしてその前代未聞の大爆発はハリー達も教室も纏めて吹っ飛ばした!


………


「一体何事ですか…ッ!?」

瓦礫の山から何とか這いずり出たころ、マクゴナガルが唖然とした顔で教室…だった場所に入って来た。
ハリーとロンを引っ張り出し状況を確認すると、壁も天井も崩れ去り、隙間から美しい夕日が差し込んでいた。

「一体どういう事か説明しなさいキリコ・キュービィー!」

数か所打撲がある以外特に傷は見当たらなかったが、念のためハリーとロンに治癒魔法を掛けながら彼女は説明を求めて来た。

「バジリスクに襲われたので対処しました」

「!?」

彼女はまた驚愕していた、まあ当然か。
しかしバジリスクの死体が見当たらないあたり、恐らくまだ生きているのだろう、撃退は出来たようだが…
跡形も無く消し飛んだというのは都合が良すぎるだろう、そうしてる内に二人が飛び起きた。

「…! 先生! バジリスクに襲われて、それでここに逃げてきて…」

「分かっています、ですが余りにも危険な事です!
状況が状況ですから教室を吹き飛ばしたのは咎めません、しかし―――」

「そ、そうだ! ジニーは!?」

「落ち着きなさいロン・ウィーズリー、ジニー・ウィーズリーがどうかしたのですか?」

「ジニーが継承者だった…んじゃなくて、日記です! 日記がジニーを!」

「…先生、つまりこういう事です」

まともに説明出来ていなかったので、ことのあらましを彼女に説明した。
それを聞いた彼女は更なる驚愕に包まれていた。

「ま、まさかそんな事が…
…それで、ジニー・ウィーズリーは何処に居るのですか?」

ジニー・ウィーズリーは何処にもおらず失踪してしまっていた、ただ廊下に彼女の荷物が血まみれになって散乱しているのが見つかっただけだった。
それを知った俺達は理解したのだ。
ジニー・ウィーズリーがさらわれたのだと…



誰かが走らねば、部屋が開かぬとするなら、
静脈を走る折れた針となろう。
記憶の中にしか未来は来ないものなら、
己の血のちからに身を任せよう。
それぞれの運命を担い戦士たちが昂然と杖を掲げる。
次回「横断」。
放たれた光は、記憶を消すか。
自らに落ちるか。



オリジナル呪文
エクスルゲーレ『爆弾作動』
エクスインテラ『爆弾と成れ』で爆弾化した物質を爆破させる魔法。

まさかのバジリスク襲来5回目
ちなみにトムが嘘を言っていた理由は次々回明らかにします。




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第二十四話 「横断」

バジリスク戦だと思ったかい!?
残念、お茶目なロックハート回でした!

トム「アバタケタブラ!」


ジニー・ウィーズリーが拐われた。
それは突然大広間に集められた生徒達を絶望のドン底に叩き落とすには十分過ぎる一言だった。
あの後どれだけ探しても彼女を見つけることは出来ず、継承者に操られていた事から秘密の部屋に連れ去られたとしか考えられないからだ。

ただジニーが操られバジリスクを動かしていた事は生徒に伝えられなかった、ロンは妹が冤罪を着せられなかった事に心底安心したようだが他の生徒はそうではない。
聖28一族に数えられる純血のウィーズリー家の人間まで標的になった事実は、今まで安心しきっていたスリザリンの生徒達も恐怖で包み込む。

そして生徒達は大広間に集められ、継承者の襲撃に備えそこで眠る事になった。
だが安眠など訪れるはずもない。
ホグワーツは終わりだ。
皆殺される。
僕は狙われないはずだ。
悲鳴、絶望、懇願、ここはもう誰もが安心できる学舎などではない。
度しがたい悪意によって緑色に塗りたぐられた地獄がそこにはあった。

だがそんな状況で尚地獄に抗う者達がいた、そいつらは誰も寝付けない大広間の暗闇に潜み抜け出て、透明マントを羽織りながら廊下を走っている。

「本当に秘密の部屋の場所が分かったの?」

ハーマイオニー・グレンジャー。

「いや、でも知っている人なら知ってる!」

ハリー・ポッター。

「またあいつに会いに行くのか…」

ロン・ウィーズリー。

こいつらの顔にも勿論恐怖は浮かんでいた、しかしそれ以上にこの悪意を打ち払う事を、ジニー・ウィーズリーを取り返すという決意をその小さな手で大切に握りしめていたのだ。
普通に考えればただの12歳がバジリスクに立ち向かうなど無謀どころの話では無い。
だがこの戦士達は勇敢にもそれに立ち向かおうというのだ。
そして俺もまたそれを無視して、一人床につく事を許すなど出来なかった。

「で、知ってる人って誰?」

「嘆きのマートルだよ」

嘆きのマートルとは、二階女子トイレにとりついているゴーストの事である。
またちょっとした事で泣き、しょっちゅうトイレを水浸しにすることからこの名前がついた。
そしてハリーはアクロマンチュラとの会話から50年前の犠牲者が彼女だと知り、そこから彼女は秘密の部屋について何か知っているのではないかと推測したらしい。

「ん、誰だあれ」

ロンが指をさした先には何とも間抜けな人影が見えた。
隠れているつもりなのだろうか、身体をローブで覆ってはいるが文字通り尻が見えてるし、スーツケースは引きずられ物音を出している。
加えてローブもスーツケースもけばけばしいピンク色を基調とした派手なものだった。

「………」

「全くとんだ役だ! 秘密の部屋の場所も分からないのに「ジニー・ウィーズリーを助けてきて下さい」なんて無茶を言う!」

「………」

「それにこの世紀のハンサム顔がバジリスクの目でドロドロに溶けてしまったら、全魔法界何万人のファンが泣いてしまうじゃないか! ミス・ウィーズリーには悪いが私は逃げ―――」

「………」

「…あっ」

透明マントを脱ぎ、全員で杖を突きつけホールドアップした。
予想通りロックハートである。

「ややややあ君たちおはよう!!! どどどどうしたのかね!?」

「先生! 今からジニーを助けに行ってくれるんですか!?」

日は暮れているのに朝の挨拶、ジョークだろうか。
ハリーは驚くほどさわやかな声でそう言った。
何だ、一体こいつは何をするつもりだ。

「あっはっは! 勿論だとも! しかし残念な事に部屋の場所が分からなくてねぇ!」

「わぁ! 先生は運が良いですね! ちょうど僕達部屋の場所に心当たりがあるんです!」

「えっ」

「でも僕達だけじゃ心もとなくて…さあ先生一緒に行きましょう!」

「「「!?」」」

ロックハートはもとより俺もロンも目を丸くする、輝かせているのはハーマイオニーだけ…いや少し濁ってた。

「何考えてるんだハリー!? こんな世紀の大間抜けを連れてっても足手まといの足手まといだ!」

ロンの意見に首を強く振る。
無能、怯懦、虚偽、杜撰…この言葉が全て当てはまる最低人間を連れていったら死ななくていい場面で死にそうだ。

「いいかロン、秘密の部屋がどんな場所か分からないけど危険なのは確かだ」

「その通りだよポッター君! だからさあ早く戻りま―――」

「だからロックハート先生に先に行ってもらえば安全に通れるよ!」

「なるほど! そりゃいい考えだ!」

「君達!?」

「確かにロックハート様と一緒なら安全だわ!」

「最悪盾にはなるよ」

「ちょっと!?」

つまりこいつを生け贄、兼肉盾にしようと考えていたのか、なかなかいい考えかもしれない。
ハーマイオニーに関しては本気か皮肉かさっぱり分からないが。

「キリコ君! 君も彼らを説得してくれ! 優秀な君ならどんなに無謀な事か分かるだろう!?」

「ジニー救出を急ぎましょう。
先生、次のご命令は?」

「キリコ君ーーー!」

悲鳴を上げるロックハートに杖を突きつけながら歩く。
嘆きのマートルが何を知っているのか、そして秘密の部屋、その真実を求めて。




トイレなのだから湿っているのは当たり前だろう。
だがここの空気は普通ではなかった、鳥肌が立つ寒気と息の詰まりそうな重い湿気がのし掛かる。
密林の泥沼のような雰囲気で満たされていたのだ。
そして泥沼の中から悲痛さを纏った声が小さく聞こえてくる。

「誰…? あらっハリーじゃない…また変な薬でも作りに来たの…?」

「違うわ、今日は聞きたい事があって来たの」

「こんな事聞かれて嫌な気持ちにさせちゃうと思うけど…君が死んだ時の事を教えてほしい」

マートルを刺激しないようハリーがなるべく優しく頼む、悲しげな顔を一層暗くしたが彼女は話してくれた。
そして彼女は語った。
虐められ、隠れて泣いていた事。
その時男子が変な言葉で話していた事。
そして扉を開けると黄色い目が見え、その瞬間に死んだ事を…

「そうよ、まさにそこの洗面台よ…」

「…ありがとう。
…きっと入り口はこの洗面台だ!」

洗面台には錆がはえ、鏡は黒くくすんでいる、その周りを探すと、一ヶ所だけ蛇の模様が刻まれた蛇口が見つかった。

「これだ…!」

「蛇語で話せば開くのかしら?」

「ハリー、やってみなよ」

ハリーは目を閉じ意識を集中させる、そして…

「開け」

「蛇語だよ!」

「分かってるよ!」

改めて集中し、蛇のイメージを浮かべる、目の前の蛇口が蛇だと思い込む…

シュー…シュー…

ハリーの口から空気が漏れる音が静かに、かつ不気味に響き渡る。
その時洗面台が轟音を鳴らし動き出し、そして地獄まで続いていそうな深い穴が現れた。
そして俺は理解した、この穴の先に秘密の部屋が、悪意と野望の根源が潜んでいるという確信を得た。

「これが…!」

ハリー達もその気配に気づき後ずさる、一人既に腰を抜かしていた。

「誰から行く?」

「よしお前からだ」

「君達は正気か!? こんな所に入ったら絶対生きては帰れな―――」

ロンが地べたを這いずりながら逃げようとするロックハートの首根っこを掴む、そして杖を突きつけその尻を思いっきり蹴り飛ばした。

「あああああああぁぁぁぁぁぁ………   うげっ!」

地獄へ向かって行くロックハートの悲鳴は遠ざかっていき、途中で尻餅をつく鈍い音が聞こえた。
ハーマイオニーが怒るが知った事では無い、彼の犠牲でパイプの安全を確認した後俺達も続いた。




石造りの通路は光を遮断し、壁や地面のヌメヌメとした液体が足を滑らせようと纏わりつき、地面に散乱した骨はこの通路が如何なるものかを指し示す。
トンネルの中は深く入り組み何処までも続いている、一寸先も見えぬ暗闇と湿気はまさに地下の大密林といった所か。
だが蛆と熱病が無いだけ遥かにマシだ、この程度慣れたものなのでさっさと進もうとしたが、二人が彼方へ遠ざかって行ってしまった、流石に早すぎたか。
杖の光を頼りに、ロックハートを盾にして慎重に進んで行く、すると何か巨大な影が現れた!
反射的に杖を構える。

「…これは」

それは全長15mにもなる蛇の…バジリスクの抜け殻であった。
これがここにあるという事は秘密の部屋がこの先にあると事の証明だ、所詮抜け殻に過ぎないがその威圧感は十分、ハリー達も冷や汗を流していた。

「ひいいいいいい…」

…子供でさえ冷や汗だというのにこの無能は…
腰を抜かし倒れるロックハート、呆れ返るロンは立つよう強要した…!?

「ロン! 止めろ!」

その時感じた! ロックハートから今までと違う自信に溢れた表情に切り替わったのを!
しかしもう遅かった! ロックハートは一瞬で立ち上がりロンを殴り飛ばし杖を奪い取ったのだ!
そしてあのうんざりする笑顔を取り戻し、杖とそれを俺達に突き付けた!

「ハッハッハー! さあ子供のおふざけは終わりだ!
私はこの抜け殻を持って帰ろう! そして女の子は死んでしまったと伝えよう!」

ロックハートは自信満々にそう宣言した、無能だとは思っていたが、まさか生徒まで見捨てるつもりなのか…!

「そんな話誰が信じるものか! 僕達が証人だ!」

「いいや信じるね! 君たちは恐怖のあまり気が狂ってしまい全てを忘れてしまうのだから! いままでのヤツらの様に!」

「今まで…まさかお前!」

「その通りだよ、今までの私のお話、それは全て他人の経験を奪ったものさ!」

「嘘よ!」

「ミス・グレンジャー、残念ながら本当さ、ちょっと親しくなって″忘却呪文″を掛ければそれは私の経験談になる!」

こいつは、自身の名誉と自尊心を満たす為だけに何人もの記憶を奪ってきたのか?
その上生徒を見殺しにしようというのか?

俺は()()()()()()杖を落としてしまった、そして威嚇するロックハートからじりじりと距離を取る。

「無駄だ…ここで諦めるのが賢明だろう」

「!?キリコ」

「何て事を言うんだ! 見損なったぞ!」

「おや、キリコ君は賢いらしい、だが駄目だね、嘘を言っているかもしれない。
君の記憶も消させてもらうよ…!」

「!? 辞めてくれ! お願いだ!」

そう悲痛な叫びをしながらヤツに許しを請うため、腰を下げながら()()()()()()

「記憶に別れを告げるがいい! オブリエ―――!?」

引っかかった!
近づいたのは格闘を仕掛けるためのブラフに過ぎない!
杖を構える手首を捻り照準をずらす、
そして首元を掴み引き寄せながらの足払い! そして背負い投げをぶちかます!
不意を突かれたロックハートは重力に抵抗できず地面に叩きつけられ肺の空気を全て吐き出した。
そして空気のガードが無くなった肺に向かって、全体重を掛けた蹴りを叩き込んだ!

「が………!?」

顔を青くしながらむせかえるロックハートの頭を掴み、素早く拾い上げた杖を喉元に突き刺した!
神すら騙し抜いたのだ、こんな無能を騙すのは訳ない。

「ま、まさか教員に手を上げるつもりじゃないよね? 君はかしこ―――」

「口を開くな」

どうやら俺はこいつの事を甘く見ていたらしい。
ただの無能だと思っていたがそれ以下だ、同じ無能でも自分の力で手柄を得ようとしたあの無能の方が遥かにマシだ…!
かつての親友の声が木霊する、そしてその言葉を目の前の男に向かって吐き捨てた…

「あんたは人間のクズだな…! ステューピファイ(失神せよ)!」

「あばぁっ!」

最大出力かつ接射した失神魔法がクズの喉元を貫き、そのまま地面にクレーターを創り上げた。
多少口から血を吐いているが何一つ問題は無い。

「…杖だ」

「あ、うんありがとう…今の作戦だったんだね」

綺麗にテーピングされた杖を受け取り、そう言うロンはどこか浮かない顔をしていた。

「ロン? どうしたの?」

「…やっぱり僕引き返すよ」

「急に一体どうしたんだ?」

「だって見てくれよこの杖、こんなんじゃ絶対継承者には敵わないよ」

ロンがそう言いながらルーモスを唱えると、杖の尻からぼんやりと光が現れる。
杖は一見綺麗だが、これでは使い物にならないだろう。

「そんな事無いって! 大丈夫だ―――」

「…いや、その方が良いかもしれない。
ロン、代わりにこのクズを地上に連れて行き、他の教員の助けを呼んでくれ」

「ちょっとキリコまで!」

「いいんだハーマイオニー、キリコの言う通りだよ。
…じゃあせめて、僕の代わりにこの杖を持っていてくれよ、…キニスも直すのを手伝ってくれた杖だ」

「…分かったわ、頼むわ!」

「あっでも…流石にコレを一人で運ぶのは骨が折れるんだけど…」

「…分かった、すぐに戻る」

そして杖をハーマイオニーに託した後、俺はロンと二人掛かりでこのクズを地上へと運びに行ったのだ。
そしてトンネルの最深部へと彼らはたどり着いた。

ついに辿り着いた緑の地獄。
そこは光さえ届かぬ暗黒の大密林だった。
その泥沼をかき分け俺達は進む。
秘密の部屋、そこに深い根をはる悪意。
今こそその根を燃やし尽くす為、俺達は奈落の底へと沈んでいくのだった。



崩れ去る怪物、放たれる光、断ち切られる日記。
そのとき、呻きを伴って流される記憶。
人は、何故。
理想も愛も牙を飲み、毒を隠している。
血塗られた過去を、見通せぬ明日を、切り開くのは力のみか。
次回「記憶」。
キリコは、心臓に向かう折れた針。




次回、いよいよ対トム&バジリスクです。
ちなみにロックハートはあの後、完全石化と締め付け呪文で拘束したそうです。
追記 次回予告修正しました。


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第二十五話 「記憶」

最初はね、短くなっちゃうかなーって思ったんですよ。
そしたら8000字越えだ馬鹿野郎!
こんな長くなるとは思わなかった…


トンネルの最深部、そこあったのは蛇の模様が描かれた重厚な扉。
入口同様ハリーはその扉を蛇語で開ける、そしていよいよ現れた秘密の部屋。
その部屋の中央に倒れていたのは、正に死体の様な色となったジニー・ウィーズリー。
彼女に駆け寄るハリー、そこに現れたのはかつて日記が見せてくれた50年前の映像、そこに居たロンの祖先を名乗る幻影だった。

「お前が…お前がジニーを操っていたのか!」

怒りに震えながら叫ぶ、だがこいつはそれに動揺することも無く丁重な話し方で自らを語りだした。

「その通りだよ、さて、ちゃんと自己紹介した事は無かったね?
はじめましてハリー・ポッター、僕の名前はトム・M・リドル、50年前ホグワーツに在籍していた生徒であり…その時秘密の部屋を開いた張本人だ」

「じゃあハグリッドに罪を着せたのは貴方だったの!?」

「ハグリッド…? ああ、あのデカくて間抜けな半巨人か! 
そうさ、あいつに限らず教員達も皆間抜けだったよ、僕の言う事を簡単に信じたんだから」

まるでジョークでも言っているような軽い言い方でそいつは言った、その言葉に僕はさらに怒りを燃やす、こいつはこんな軽い感覚で大切な友達のハグリッドを陥れたのだから!

「何で名前を偽ったんだ!」

「ああそれかい? 簡単な事だよ、君たちはこの日記をジニー・ウィーズリーの物だと思っていたんだろ?」

確かにそう思っていたけど…何故こいつはそんな事を知っているんだ?

「ジニーが色々書き込んでくれてね…その事を知ったのさ。
なのに君たちに対して「僕はトムです」なんて言ったら怪しまれるに決まってるじゃないか」

何てこった! つまり僕たちはこいつの作戦にまんまと引っかかったのか!
さらにトムは馬鹿にした口調で続ける。

「それにしても分からないな…こんな事にも気づかない子供に、何故将来の僕は滅ぼされてしまったんだろう?
しかも、この日記の事を知っていた筈なのにね…」

「? どういう事よ!」

「こういう事さ…!」

トムが手を美しい表紙の日記にかざす、そして表紙に沿うように手を払う。
すると表紙の模様が剥げ落ち、不気味な黒いカバーがその姿を現した。

「これは…あの時の!?」

そうだ! この本は去年のダイアゴン横丁で、ルシウスがジニーの大鍋に入れようとしていた本だ!
さらに腹が立った、あいつに対してではなく自分自身の間抜けさに!

「これは屋敷しもべ妖精の呪文かな? 何か事情があったのだろうけど…人の物を勝手にいじるのは腹が立つな。
そして本当に分からない、こんな間抜けに何で滅ぼされたのか」

「…貴方は一体誰なの!」

トムはにやりと蛇のような笑いを浮かると、自分の名前を光にして宙に浮かべた。

TOM MARVOLO RIDDLE(トム・マールヴォ・リドル)

杖を払い文字を組み替えていく。
そして出来上がった文字に僕は驚愕し、ハーマイオニーは小さく悲鳴を上げた。

I AM LORD VOLDEMORT(私はヴォルデモート卿だ)

そして今パズルが完成した、秘密の部屋を開けた事、僕に疑いが掛かるような事ばかり起こった事、マグル生まればかり狙ったこと。
こいつは過去のヴォルデモートだったのだ! だから僕を陥れようとしていたのだ!

「疑問は解決したかい? じゃあ僕の方からも質問したいな、僕がどうやって滅ぼされたのか…
でもその前に、悍ましき血を排除するのが先かな?」

トム…いや、ヴォルデモートの表情が醜悪に歪む、すると水面から巨大な蛇の影…バジリスクが水しぶきと共に現れた!
目を閉じるのは間に合わない!…けど大丈夫だった。
あの時の大爆発のせいだろうか、顔の皮膚は爛れて、右目には机の足が痛々しく突き刺さり、左目は大きな傷がついている。
そして何故か少しだけとぐろを巻いていた、そのとぐろの中心には…キリコ!?

「キリコ!?」

「いやあ上手くいってよかったよ、何せこいつはバジリスクの顔をこんなにしてしまったヤツだからね、先に殺しておきたかったんだ、あ、まだ死んでないから安心してくれ」

ステューピファイ(失神せよ)!」

ハーマイオニーが失神呪文を放ったが、バジリスクの強固な鱗はそれを簡単に弾いてしまう。
キリコはうめき声を上げながらもがいているが、脱出できそうにない。

「ウィーズリーの男の子と何だかよく分からないヤツを運び終えた時奇襲したんだよ、そしたら彼はそいつらを庇おうとしてさ…おかげで上手くいった、どうせあんな奴らはすぐ始末できるしね…ああそうだ、エクスペリアームス(武器よ去れ)!」

キリコは杖を取り出す事に成功したが、あえなく奪われてしまう! これでは何の抵抗もできない!

「これで安心…とはいかない、こいつは何をしでかすか分からないからね、確実に仕留めさせてもらうよ、バジリスクの目線でね!」

「無理よ! バジリスクの目は潰れているわ!」

「確かに片目はね、だがもう片目は傷づいただけだったから治癒呪文を掛け続ければ何とかなったよ、そろそろ目が治りきる時間だ…そらっ!」

そう言ってトムは光を放つ! それに当たったキリコの目は閉じなくなってしまった!
そして無防備になったキリコに向かってバジリスクの左目が開きだす…!

その時近くの柱が燃え上がりその中から何かが現れた!
真紅の体に真紅の尾羽、そして黄金の嘴と爪を持つ美しい鳥。
ダンブルドアのペットである不死鳥フォークスがバジリスクに襲い掛かった!

《シャアアアアア!》

フォークスの爪がバジリスクの左目を抉り飛ばした!
その激痛に暴れのたうつ毒蛇の王! そして視力を完全に失った蛇の王は主であるはずのトムをブッ飛ばしてしまう!

「ぐわっ! つ、杖が!」

その衝撃でキリコの杖を手放すトム・リドル、弾き飛ばされた杖は放物線を描き、綺麗にキリコの手元に納まった!

エクスパルゾ(爆破せよ)!」

「!? プロテゴ(護れ)!」

キリコはすぐさま爆破魔法を発射したが、トムの方もすぐに体勢を建て直し盾の呪文でそれを防いでしまう。
それを見届けたフォークスは、何かを落として炎の中に戻って行ってしまった。
これは…組み分け帽子?

「…ハハハ、まさかあんな鳥にしてやられるとはね…だがどちらにせよバジリスクは健在だ」

トム・リドルはそう笑っていた、俺が拘束された状況から脱出できたとはいえバジリスクはいまだに相当な脅威を保っている。
まずあの蛇を何とかしなくてはならない、だがバジリスクを倒すためには時間が居る…

「なら今度は毒の牙で殺してやるとしよう、今度は逃がさないよキリコ・キュービィー…!」

リドルは口から蛇の言葉を出す、標的は俺か―――
が、おかしな事が起こった。
何とバジリスクが主の命令を無視しハリーに突っ込んで行ったのだ。

「うわぁ!?」

「どうしたバジリスク!? 僕の命令が聞けないのか!?」

何が起こっているのか分からなかったがこれはチャンスだ、これならば時間を稼ぐことができる!

「ハリー、時間を稼いでくれ、 バジリスクを倒す方法がある!」

それを聞いたハリーは聞き返す事もせず、瞬時に走り出す。
そして俺は正面の、巨大な顔の石造によじ登り杖を突きたてる、だがリドルはそれを許さない。

「何かするつもりかい? エクスペリアームス(武器よ去れ)!」

エクスペリアームス(武器よ去れ)!」

「!」

俺に向かって撃った武装解除呪文はハーマイオニーの呪文によって相殺された。

「私も忘れちゃ困るわ!」

「クソッ、穢れた血め…!」

ハリーがバジリスクを、ハーマイオニーがリドルを引き付けてくれる。
だがいつまで持つかは分からない、それまでに呪文を完成させなければならない…
2分か? いや1分持ってくれれば良い―――!
そして、戦いが始まった。




アグアメンティ(水よ)!」

プロテゴ(護れ)

先手を取ったのはハーマイオニーだった!
しかし濁流はあっさりと盾に阻まれてしまう。
ハーマイオニーは震えていた、何せ相手は闇の帝王である。
その若いころの姿でしかなかったが、その威圧感は十分帝王のそれを纏っている。
しかし彼女は戦った、ハリーが、キリコが戦っている中自分だけが震えて縮こまっているなど自分自身が許せなかったからだ!

フリペンド(撃て)!」

ディフィンド(裂けよ)

二人の呪文がぶつかり合う!
だが拮抗したのは一瞬、リドルの切り裂き呪文が肩を切り裂いた!

「…! ステューピファイ(失神せよ)!」

ステューピファイ(失神せよ)

失神呪文同士の激突!
しかしそれもリドルに軍配が上がった!
呪文を押し切り迫りくる呪い、だがそれを思いっきり横に飛ぶことで回避。
そして最も得意とする呪文を全力で放つ! 最初に放った水はその為の下準備!

グレイシアス(氷河となれ)!」

「やれやれ…こんな物かい?」

だが! その氷河は杖を振るだけで燃え、溶けてしまった!
インセンディオの無言呪文だ!
炎! 濁流! 衝撃波! 次々と迫りくる無言呪文の大旋風! ハーマイオニーは呪文の正体も掴めず無様に地べたを転げまわる事しかできない!
せめて、せめてあと一人いれば!

その瞬間! 剣を持ったハリーが現れた!




《こっちへ来い》

バジリスクが自分にくぎ付けになるように、蛇語で気を引きながら狭いパイプの中を逃げ続ける!
何度もぬかるみに足を取られ、既に体は傷まみれ。
それでも走り続けたその先はなんと! 行き止まり!
振り向けば今にも食らいつかん迫力のバジリスク!

駄目だ! やられる!

絶望感に息も出来なくなったハリー! 数秒後訪れる死の恐怖から逃れようと目をつぶった!



…あれ?

ゆっくりと目を開けると、そこには周りを見渡す毒蛇の王。

一体どういうことだ…?

そして思い出した! バジリスクの感覚は視覚、聴覚、そして嗅覚だという事に!
その内二つはフォークスと糞爆弾のせいで機能停止済み!
音を立てない様、足元の石を投げ飛ばす。
するとバジリスクは、石が落っこちた通路へ移動し始める。
その隙に反対の通路へ移動! そして!

「こっちだよ!」

《!》

バジリスクを再度誘導した!
そう、ハリーの目的は逃げる事では無く時間稼ぎ!
だからこそ命を危険に晒してまで逃げ続けているのだ!

再び地獄のチキンレースを再開する。
そして光が見えて来た、その先には―――

「!? しまった!」

まさかの大広間! いつの間にか戻ってきてしまった!
だが絶望したのは一瞬! 直ちにハーマイオニーの援護へ向かう。
何故か? 顔を見たからだ、自信に満ち溢れたキリコの顔、それを信じたからだ!

《キリコを殺せ》

その瞬間聞こえて来たリドルの蛇語、今度は命令を無視することなくキリコのもとへ真っ直ぐと突撃をする!
それを見届けハーマイオニーの救援に向かうハリー・ポッ―――!?

その時ハリーがスッ転んだ! 組み分け帽子に躓いてスっ転んだ!

何だ、今の固い物は?

組み分け帽子を見ると、そこには先ほどまでは無かった何かが入っている。
それを引っ張り出すと、そこには美しい白銀の剣があった!
ハリーは当然知らないが、これこそバジリスクを倒しうる秘宝!
ゴドリックの遺産! 真に勇敢なる物が抜ける剣!
グリフィンドールの剣だっ!

「やあああああ!」

迷い無くリドルに肉迫し、ハリーは斬りかかった! 
無論これが何か等知る余地も無い、だがハリーは直感で確信した!
これはフォークスが、ダンブルドアが届けた物だ! ならばヤツを倒すことが可能な筈だと…!

「…! 日記を狙え!」

バジリスクの攻撃を跳躍して回避するキリコがそう言った!
その発言に日記を持っているリドルは顔を歪める!
間違いない! これなら倒せる!

「チッ邪魔だよハリー!」

忌々しく呪いを打ち出すリドル、それに向かってがむしゃらに剣を振る!
すると呪文が真っ二つに両断された!
普通の剣でこんな事は出来ない、だがこの剣が普通の筈が無い!

その隙を狙い呪いを撃ち込むハーマイオニー、しかし素早く無言呪文で打ち消す!
カウンターを撃ち込むがそれはハリーの剣が遮ってしまう!
そして日記に斬りかかるが…当たらない!
当然だ、ハリーは剣の使い方など知らない。
故に大振り、故に単純挙動! 剣と戦った事の無いリドルでも避けるのは造作も無かった!

「フフフ…流石にそれを喰らったら僕はマズイだろうね…
でも分かっているのかい? 君は剣の素人、僕は熟練の魔法使い、勝てる見込みなんて無いんだよ!」

そう嘲笑いながら次々と放たれる無言呪文!
ハリーが剣を振り、ハーマイオニーが呪文を唱えても尚押し切られる程の圧倒的破壊力! 圧倒的実力差!
そしてハーマイオニーは気づいてしまった!

駄目! 勝てない!

その時である!

「「「!?」」」

彼らは目を疑った!




間に合わなかった、 ハリーが稼いだ時間でも呪文完成は間に合わなかった…!
だが問題は無い、間に合わなかったなら間に合わなかったなりにやるだけだ。
バジリスクの突撃を跳躍でかわすと、今まで杖を突きたてて来た石像の一部が崩れ去った!
そしてキリコは、呪文を唱えた! 今まで研究してきたあの呪文を!

「アーマード・ロコモーター -装甲″起″兵」

宙を舞う石像の破片、それが地面に落ちた時それは降り立った。
回るターレット
むき出しのフレーム
薄っぺらい装甲
お袋の温もりを感じた、数多の地獄を共に彷徨った、戦争を泥沼へ引きずり込んだ最低野郎…!
ATM-09-ST、ミッド級アーマードトルーパー、スコープドッグが地獄に降り立った!

キュイイイイイイン

その頭頂に降り立ったキリコは杖を突きさす!
そして聞きなれたローラーダッシュの回転音!

ガキィンッ!

一瞬で肉迫しアームパンチ! バジリスクの顎をホグワーツ創設1000年以来初の衝撃が襲った!

《!??!?!?!!》

「「「!?」」」

大混乱した様子のバジリスク…とキリコ以外の全員。
当然の反応である、まるでジャパニーズアニメーションに登場しそうなロボットが現れたのだから。
装甲起兵、ATをゴーレムの要領で再現した魔法である。
しかし今回は精製時間が足りなかった為、大部分の装甲無し、よって骨組みがむき出し。
ついでに射撃兵装も無し、つまり出来損ないである。
が! 今はこれで十分!

食らいつくバジリスク。
だがボーンドッグ(出来損ない)はその場で高速回転し攻撃をいなす!
散々使ってきたターンピックとローラーダッシュの合わせ技だ!

さらに一回転しバジリスクの側面に! その勢いのまま口に手を突っ込んだ!
そしてアームパンチで口を強引にこじ開ける!
バジリスクの毒で溶け出す腕部! キリコは勝負に出た!

サーペンソーティア(ヘビよ出でよ)、 エクスインテラ(爆弾と成れ)!」

呼び出した無数の蛇を全て爆弾化させ、口の中へ滑り込ませる!
しかし途中でATの腕が溶けきり、蛇もまた喰らい潰されてしまった!

「!? まずい!」

しかしリドルが企みに気が付いた!
とっさに蛇語でバジリスクを呼び戻そうとする―――が!

「―――――――――――――――――――――――――――――――――」

突然響き渡る異常な音、それを聞いたバジリスクは動かなくなってしまった!
下を見るとそこには、蛇語を話すハリー・ポッター!
彼とリドルの命令の板挟みとなり、動けなくなっているのだ! 
…そしてトリッガーは引かれた。

エクスルゲーレ(爆弾作動)!!」




部屋を包み込む閃光! 轟音! 爆炎! 肉片! 宙を舞うバジリスクの生首!
バジリスクがやられた―――
部屋は土煙に包み込まれる。

その時戦っていた三人は感じた! この一瞬で勝負は決まると!
いざ始まる最後の決闘!
動き出したのはハーマイオニー! 放たれかけた武装解除呪文!

エクスペリアーム(武器よ去)―――」

エクスペリアームス(武器よ去れ)

しかしそれを予見していたリドルは、その杖をあっさり奪い取った!
魔法使い同士の戦いでは杖を失う事は死を意味する!

「奇襲なんて随分単純な手だね? まあ穢れた血ならこんな物か…せっかくだ、君の杖で葬ってあげるよ!」

そして輝く緑の閃光! 許されざる呪文! 死の呪いが放たれた!

「アバダケダブラ!―――!?」

そして吹き飛んだ!
だが吹っ飛んだのはハーマイオニーでは無い!
リドルが! 何故かトム・リドルがブッ飛ばされたのだ!

一体何が起こった!? …しまった日記が!!

事態を理解する間もない! 今の衝撃で日記も飛ばされてしまっている。
宙を舞う日記に向かって剣を構えたハリーの影が突っ込む!
だが問題は無い、武装解除呪文を叩き込めばいいだけだ―――!

「!?」

そう思ったのは一瞬だった!
無い!
何も無い!
ハリーの手には剣はおろか、杖も何も持っていなかったのだ!

予測不能の事態に混乱するリドル、だがその混乱はコンマ数秒!
だから何だ! むしろ好都合! 直接殺せばいい!
そして再び死の呪いを撃とうとする、だがその数秒は既に致命傷だったのだ!

エクスペリアームス(武器よ去れ)!」

爆炎を切り裂き赤い光が杖を貫く! そして奪われた杖!
改めて言おう、魔法使い同士の戦いでは杖を失う事は死を意味する!

何故ヤツが杖を!? 奪った筈!?

混乱、焦燥、そう! 全て手遅れ!
そしてハリーが何も持っていない筈の手を振り下ろす。
すると日記は切り裂かれ、リドルの胸も同じように引き裂かれた…




爆炎が晴れた。
そこにあったのは勝者と敗者、その姿だけだった。
リドルは負けたのだ、あのたった数秒で。
そして理解した、何故呪文が逆流したのかを。

地面に転がるその杖はパッと見綺麗だが、呪文の反動でバラバラになっている。
そして修理した後のようなテープが幾つも引っ付いていた。

「こ、これは…」

「そうよ、私の杖じゃない、ロンの杖よ」

単純な話だ、壊れていた、だから逆流してしまった、たったそれだけの事だった。

「悔しいけど、私達じゃあなたには勝てない。
…だから負けてあげたの、まさかわざわざ使ってくれるとまでは思わなかったけど」

ならば、何故日記は切り裂かれたのだ?
その答えもすぐに分かった。
ハリーの手元から何かがほどける、その何かの中からグリフィンドールの剣が現れた。

「と、透明マントか…」

あの一瞬の時、ハリーはグリフィンドールの剣に透明マントを巻き付けて置いたのだ。
たった刹那の虚、それを突くために。

「認めろトム・リドル、お前の負けだ」

「フフフ…まさか未来の闇の帝王たる僕が…こ、こんな子供にやられるとはね…
だ、だが、ただ死にはしないよ…!」

シュー…シュー…

「させるか!」

無駄な悪あがきをしようとするリドル!
ハリーは日記に剣を突き立てた、そしてリドルの幻影もまた光を放ち砕け散った。

「!!」

「ジニー! 大丈夫か!」

それと同時に息を吹き返すジニー…どうやら全て終わったらしいな。
結局俺のやった事はバジリスクを仕留めただけだが、まあジニーも含め全員無事ならそれが一番だ。
闘いが終わり外からは足音が聞こえてくる、ロンが教員を連れて来たらしいな。
一段落つき俺も胸を撫で下ろした…その時俺は見た。

水面から迫る蛇の頭を

「ッ!!」

とっさにジニーとハリーを突き飛ばす!
バジリスクの頭が食らいついた! 馬鹿な! こいつはまだ生きていたのか!?
…そして俺の心臓はバジリスクの牙に俺は貫かれた


キリコ、いやここの誰も知らない事だろうが…蛇の中には頭部だけになっても数日間生存できる種類もいる、そして不幸な事にバジリスクもその一つであった。


「!? キリコーーー!!」

その異常事態に気づいたハリーが剣を構え突撃する!

《ギャアアアアアアァァァァァ………》

グリフィンドールの剣はキリコを掠め、口の裏から脳天を貫いた。
そして千年分の怨念、千年分の野望と共に今度こそ毒蛇の王は絶命した。
牙の間から崩れ落ちるキリコ、その胸には風穴が空き血が溢れ出している。

「キリコ! しっかりして!」

その時再びフォークスが現れた。
そしてフォークスが涙を流すと、キリコの胸の傷はみるみる塞がっていく。
不死鳥の涙には癒しの力が存在し、そして唯一バジリスクの毒を中和出来るのである。
…しかし。

「どうしたのキリコ! 傷は治ったわ! 毒ももう中和したわよ!」

「………」

「早く起きてよキリコ…!」

「駄目だ、…ハーマイオニー…」

「言わないで!」

「分かってるだろ、心臓が止まって生きてる人なんていないって…!」

「辞めて! お願い…」

「キリコは…もう、…死んでいる」

駆けつけた教員達とロン、彼らが見たのは涙を流し嗚咽するハリーとハーマイオニー、絶望した表情で呆然とするジニー、涙を流さないフォークス。
そして…キリコ・キュービィーの遺体であった…



時代は撓みに撓み、そして、崩れた。
嗚咽とは正にこれ。
悲劇とは正にこれ。
聖マンゴに響き渡る涙と絶望。
血筋も理想も火に焼かれ、毒に飲まれ、冥府へと流される土砂流。
悲劇は堆積され、軌跡となり、異能となる。
次回「奇跡」。
キリコは、歴史の裂け目に打ち込まれた楔。



フォークス「キョエエエエエwwwwカァアアッカwwwwwwピェエエエエエエwwwww」
バジリスク「おめーじゃねぇ!」

きゃあ! キリコが死んじゃった!
この人でなし!


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第二十六話 「奇跡」

感想欄にキリコを心配してる人が一人も居ない事に怒りを覚えていました。
まあ当然か!
では第二章の最終話です、お疲れ様でした。


回りの光景は白、白、白。
清潔に保たれてる医務室のベッド、その上で僕は目を覚ました。

…何でこんな所にいるんだろう。

石の様に重い頭をフル回転させる。
確か、ハーマイオニーと図書館にいて、怪物の正体を突き止めて…

そうだ! バジリスクに鉢合わせて階段から落っこちたんだ!
それでどうなったんだ!?
何とか覚えているのは水粒に写った黄色い眼球だけ、ってことは石にされていたと考えるべきなんだろうか。

「あがっ!?」

起き上がろうとしたら全身に激痛が走った、そういえば落下死を逃れるために石になったんだっけ。
だとしたら石になった後地面に大激突したのか。

運良く早めに完成したマンドレイク薬が彼に処方されてから一時間も経っていない、加えて石化していたとはいえ激突の衝撃は強く、全身打撲は免れなかったのだ。

「…おお、目を覚ましたのかの」

カーテンを開け現れたのはダンブルドア校長だった。
お見舞いだろうか? それにしては何だか元気が無い気がする。

「あのー、僕が石になった後バジリスクはどうなったんですかね」

「…バジリスクと、それを操っておった継承者もハリー達が倒してくれた」

ダンブルドア校長は静かに、淡々とそう答えた。
そっか、ハーマイオニーは逃げきってくれたんだ、そしてキリコ達がそれを元にバジリスクを倒してくれたんだ…

「そうですか、…良かった、事件が解決してくれて」

「………」

「…皆にお礼を言わなきゃな、あ、すいません、そういえば今日って何時なんですか?」

「………」

「…校長先生?」

何故かダンブルドア校長は顔をうつ向けたまま答えようとしない、一体どうしたのだろうか。
そしてダンブルドア校長は重く口を開いた。

「キニスや、…君が今から見る物はとても辛いものじゃ」

一体何の事か分からなかったけど、ダンブルドア校長の目付きは真剣そのものだった。
それに呼応し、僕は恐ろしい予感を感じていた。

「それは認めづらい事じゃろう、…じゃが君は独りではない、…じゃからどうか、覚悟を持って受け止めてほしい」

校長先生が僕の肩を支え、ベッドから降りる、そしてカーテンを開いた先には…

「キ、キリコ…?」

一つのベッド、その回りにはハリー達が居た。
ハリーは顔を歪ませ、ロンはベッドの上を必死で揺さぶっている、ハーマイオニーとジニーは顔を覆いながら涙を流している。
そしてベッドの上にはキリコが横たわっていた、…胸に大きな穴を開けて。

それがどういう事かくらい、すぐに分かった。
僕は力無くその場に崩れ落ちる。
キリコが…死んだ…




ハリーは自身の無力さを痛感していた、自分がもっと強ければこんな事には…と。

………

ロンは悔やんでいた、あの時引き返さねば結末は違ったのではないか…と。

………

ハーマイオニーばいまだに認められなかった、これは夢だ、ただの悪夢の筈だ…と。

…ク…

ジニーは後悔していた、自分がおかしくなっていた事を伝えていれば、罪に問われる事を恐れていなければ…と。

…クン…

そしてダンブルドアはその全てを感じていた。
結局何一つ出来なかった。
継承者に対しても、バジリスクに対しても何一つ出来ずに学校を追放されただけ。
そしてついには、生徒一人の命を守る事すら出来なかった。
何が世界最高の魔法使いだ、何が偉大な校長だ。
あの時から何も変わってはいない、愚かで傲慢な愚者のままだ…

…ドクン…

全身が痛むのも感じない、ベッドにしがみつきながら嗚咽するしかない。
どうしてこうなった? 何が悪かった?
何一つ分からず僕は泣いた、泣き続けた。

…ドクン…ドクン…

どれほど叫んでもキリコは反応しない、それを認めたくないからこそ叫び続ける。

…ドッド…ドッド…

すがるようにキリコの手を握る、その手は冷たく、動くことは無い………
その時僕は気づく、握った指に脈動が伝わっているのを。

…ドッド…ドッド…ドッド…

「!? キリコ!?」

叫ぶ、願いのままに。
それに気づいた皆もキリコを見つめる。
そして、その時。



「………………」



キリコが目覚めた。

「………!」

「…キ、キリコ………!?」

「………奇跡だ………!」




「聖マンゴの医者いわく…信じがたい事ですが、牙は僅かに心臓を掠めただけでした。
また毒らしきものは一切見当たらなかったようです」

「………」

「そして傷は不死鳥の涙で治癒した…だからこそ生き残れたのでしょう」

「………」

「ですが一つだけ説明がつきません。
バジリスクの毒は極めて強力…たとえ心臓を掠めただけであっても数秒で死ぬはずです」

「…いや、一つだけ可能性がある、グリフィンドールの剣じゃ。
グリフィンドールの剣の力は知っておるな?」

「ええ、グリフィンドールの剣に使われている小鬼の銀はより強きものを吸収する―――まさか」

「キリコの首元には切り傷があった、そしてハリーはキリコを掠めたと言っておった。
…そう、グリフィンドールの剣はキリコの体内の毒を吸いとったのじゃ」

「そんな事が…」

「君が信じられぬのも無理はない、儂もまだ信じられぬのじゃから。
…しかし、それ以外考えられないのもまた事実」

「…校長、やはりあやつは」

「落ち着くのじゃ、セブルス」

「しかし…」

「分かっておる、去年は死の呪いをうけて生き残り、今年はバジリスクの毒を心臓にくらっても生き残った…
もはや偶然と捉える事はできぬ、確信していいじゃろう…彼が予言の″異能者″じゃと」

「では…どうなさるおつもりで?」

「いや、どうもせんよセブルス。
あの子が何か邪悪な思惑をしたり、目論んだ事があったかね? むしろ行っているのは善行ではないかね?
疑いだけで罰を与えようとするのは最も愚かな行為の一つじゃ。
…それに儂らは″異能者″が何を意味するのかは知らぬ、ただあの子の異常さから推測しただけじゃ」

「………」

「今儂らに出来る事は、あの子を見守る事だけじゃ…それが良い方向か悪い方向に行くのかは分からんがの…」




俺が目を覚ましてから数週間、色々な事があった。
まず、日記を仕込んだ黒幕であるルシウス・マルフォイが理事を追放させられた。
ことの発端はこうだ。
まずハリーが一計を案じ、ヤツの屋敷しもべ妖精であるドビー、そうあのクィディッチの時ハリーを殺しかけていたヤツが、ルシウスから解放された。
そして忠誠の必要が無くなったドビーは全てを洗いざらい話した。
ルシウスに命令され、日記の見た目を変えた事、それをホグワーツに持ち込んだ事。
その結果理事を追放されたのだ、最もこれだけやって追放だけで済んでる事には驚いたが。

また継承者の正体が明らかになった事で、ハグリッドはアズカバンから帰ってくる事ができ、ダンブルドアも校長へ復職した。
そして50年前の冤罪も晴れ、名誉を取り戻すことができたのだ。

この結果ハリー、ロン、ハーマイオニー、俺は200点づつ獲得しグリフィンドールが今年の寮対抗杯を獲得した。
それらを記念し、また石化していた生徒の事も考慮し学年末試験は中止、盛大なパーティが夜通し開かれたという。

あ、あと生徒に忘却術を掛けようとした事から今までのペテンが全て露見し、ロックハートはアズカバン送りになった、どうでも良い事だが。

だが俺の心は穏やかでは無かった、そこにはダンブルドアに対する凄まじい怒りが渦巻いていたのだ。
よくも俺の居ない時にパーティを…!
そう、俺はあの後精密検査という事で聖マンゴ魔法疾患障害病院に入院する羽目になったのだ、別に異常は無かったので明日には退院らしいが…
一体どれ程美味い物が出ていたのだろうか、そう考えると夜も眠れない、ここで出るのは消化にいい不味い白湯だけだ。
俺は温くなった白湯を胃に流し込みながら、恨みつらみの言葉をつづっていたのだった…




それから瞬く間に時は過ぎ、夏の湿った風の中、俺達はホグワーツ特急に乗り込んでいた。
目の前には一年前と変わらない、生徒達が夏休みの予定を話し課題に対する不満を吐き出す、無難で平和な光景が広がっていた。

「今年も終わったねー…」

そして隣には、どことなく凛々しくなった顔をしたキニスが座っていた。

「いやはや、それにしても怪物が水道管を壊してくれて本当に良かったよ、でなきゃ死んでたね。
パパやママに自慢…したら卒倒しそうだから辞めとこ」

キニスは軽く笑いながらそう言った。
そうだ、この平穏な光景を取り戻した要因の一つは間違いなくこいつだ、こいつが居なければ怪物の正体は分からなかっただろうし、犠牲者も更に増えたかもしれない。

「………」

「………」

そして沈黙が流れる、だがそれは暗く淀んだ水では無い。
綺麗に澄んだ、心地の良い物が俺達の間を抜けていく。

「…キリコ」

「…何だ」

「…死なないでね」

「…何故そんな事を聞く?」

「いや、今年も見事に死にかけてたから…また心配になって」

一年前は死の呪いを喰らい死にかけ、今年も似たような事で死にかけた。
こいつは今年になっても何も変わっていないな、自分も死にかけたのに俺を心配しているのだから。

「…それはお前もだろう」

「それを言われると痛いです」

キニスは笑っているが俺からすれば全く笑えない、俺からしてもキニスが死ぬ事等あってはならないからだ。

「お前もだ、…少しは注意しろ」

「あははは、まあ今年みたいな事はもう起こんないでしょ」

「………」

「ちょっと、怖い、無言怖い」

果たして来年は無事に来るのだろうか…言いようの無い不安が俺を襲った。

また一年が終わった。
継承者の脅威は去り、学校は平和を取り戻した。
だが、俺の心の中にはキニスの言葉が何度も巡っていた。
…しかしその願いを聞き入れる事は出来ない、俺は死ぬためにここに居るのだから。
この二年で基礎は固まった、そろそろ本腰を入れても良いかもしれない。
俺を殺す魔法は果たしてあるのか…それを知るものは何処にも居ないだろう。
だが、それまで、その時までは…
俺は生きよう、力の限り、それを悲しんでくれる友が居るならば…




































「………」

コツ…コツ…コツ…

「………」

「クィリナス・クィレル、…出ろ」

「…フフフ、とうとう吸魂鬼(ディメンター)接吻(キス)の時間が来たんですか?」

「チッそうしたい所だったが、そうもいかなくなった。
お前は一体何者なんだ?…出ろ、お前の無罪が明らかになった」

「…何?」

「魔法大臣秘書が証言したんだ、「クィリナス・クィレルは死喰い人残党に″服従の呪文″を掛けられていた」…とな」

「魔法大臣秘書だと…?」

「そうだ、よってお前は無罪放免、晴れて出所だ」

「………」

「あっそうだった、そいつから伝言だ、「死喰い人の疑いが掛かっていたら仕事に困るだろう、雇ってやる」だとよ、全く仕事まで斡旋してくれるとは随分気に居られてるらしいな?」

(一体…何が…?)


―クィリナス・クィレル 出所―




幸福は質量の無い砂糖菓子、もろくも崩れて再びの地獄
懐かしやこの匂い、この痛み
我はまだ生きてあり
鼠に欺かれて、鬼に喰われ、獣の本能に身を任せ、ここで堕ちるが宿命であれば、せめて救いは揺らめく怨磋
ハリー・ポッターとラストレッドショルダー、第二十七話『回帰』
幽なる獄の門が開く



デレレレレレン!(ドン引き) デッテッテッテ デッテッテッテ………
という訳で秘密の部屋篇完結です!
すがすがしい程の予定調和でしたね。
ってか完全に野望のルーツの再現でしたとさ。

またしばらく空くと思いますが、次章もよろしくお願いします。


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「アズカバンの囚人」篇 第二十七話 「回帰(Aパート)」

皆さんこんにちは、鹿狼です。
アズカバンの囚人編ですが、
上の(Aパート)を見れば分かる通り、
全5話 前後編構成の実質10話でお届けいたします。
それではよろしくお願いします。


煉瓦の抜けた先に広がるこの景色も変わっていない、子供たちは元気に走り回り行き交う人々は重そうな荷物を抱えているがその足取りは軽やかだ。
だがここは違う、暗く湿った路地に子供の気配は無くすれ違う人も居ない、たまに居るのは浮浪者、乞食、そして漆黒のローブを深く被った連中、そこに明るさや楽しさは無く陰鬱な空気が霧の様に立ち込めていた。

俺は今ノクターン横丁を一人静かに歩いている、だが去年の様にあても無く彷徨っている訳では無い、明確な目的を持ってここを訪れたのだ。
ボージン・アンド・バークスの脇にある先の見えない路地の先、街頭も店の照明も無い場所にその店はあった。
″非合法マグル用品専門店 プランバンドール″
釘一本で杜撰に打ち付けられた木片には、霞んだ文字でそう書かれている。

少し埃を被ったその扉を開くと立てつけが悪いのか扉が軋む音がする、そして現れた店内はマグル界の道具が所狭しと並べられており、それを最低限の赤い照明が不気味に照らしている。
置いてある商品は質の悪そうなガソリンに壊れかけのガスコンロ、この自転車に至ってはどう見ても中世頃の品物なのに『最新鋭!』と大嘘が書かれている。

つまる所ここに置いてある品物はそのほとんどが粗悪品なのだ、つまり本当に役立つ品物は何一つ無い。
だがそれが俺にとって問題になる訳では無い、俺の目的は最初からこの粗悪品達ではなく、この店の″本当の商品″なのだから。
最初それに気付いたのは去年の時だ、あの時ここを通りかかった俺は″ある臭い″を嗅ぎ取っていた、だがその時は商品を買っても置き場が無いので断念していたが―――
去年、絶好の隠し場所を見つける事ができた、だからこそ今俺はここにいるのだ。

「…ククク、随分若いお客さんだねぇ、迷子かぃ? 早くママの所へ帰った方が良いぞぉ、人攫いに連れてかれちまうよぉ?」

奥の暗闇からボロボロのマグルの服を着た店主が現れた、その表情は読み取れなかったが話し方でどんなヤツかは予想できる。

「…銃を売っているか?」

俺の一言にヤツの眉が少しだけ動いた、だが暫くの沈黙の後ヤツは不気味に笑いながら否定を返してきた。

「ヒヒヒッ生憎ですがぁ、うちではそんな物騒な物は扱ってなぁいんですよぉ…」
「ならば何故火薬の臭いがする」
「!」

眉が先ほどよりも大きく動き、細い目を見開く。
そうだ、臭い、俺は以前嗅ぎ慣れた火薬の臭いをここで嗅ぎ取っていたのだ。
ヤツは近づくと、俺の周りを回りながらまるで品定めをするかの様に凝視して回り、最後に俺の顔を覗き込んできた。

「………」
「………」
「…合格ですよぉ、ではこちらへどうぞぉ」

何だかよく分からないが合格したらしい、ヤツは不気味に笑うと俺を店の暗闇の底、奈落まで続くような螺旋階段へ案内した。
ヤツの持つライト以外まともな光源も無く、一歩一歩慎重に足を進める、その度に階段が今にも壊れそうな軋みを上げていた。

「いやぁ…すみませんねぇ、私の店では銃だけは簡単に売らない様にぃ、してるんですよぉ」
「………」
「なにせぇマグルの象徴みたいな物ですからねぇ、マグル友好派も純血主義者も、積極的にぃ摘発してぇ来るんですよ。
ですから、こぉうして簡単にお客さんを通ぉさない様にしてるぅんですよ…」

奈落へ下りながらヤツはどこか楽しげにそう語っている、歩きなれているのか、それとも少し興奮してるのか不安定な足場を難なく移動しており、俺はそれについて行くので精いっぱいだった。

「なら何故俺を通したんだ?」
「それですかぁ、まず貴方は火薬の臭いをしっていました、そして目ですよぉ」
「…目?」
「えぇ、これだけ長く生きてればぁ分かります、貴方の目は子供の目では無い、戦い…もぉしくは人生に疲れてぃらっしゃる。
そこから、貴方はきっと銃を使い慣れている…なら銃をちゃぁんと買ってくれると考えたのですよぉ」

自慢げに語るヤツに対し俺は正直驚いた、目を見ただけでそこまで分かるとは。
ようやく階段を降り切る、そしてヤツが壁にランプを置くと、暗闇の中を光が走り、部屋全体を白くハッキリと照らす。
そしてその部屋が明らかになる、そこには壁一面に色とりどりの銃火器、そして親切な事に演習場まで配備されていた。

「………!」
「まぁ、説明は要らないでしょうから、どうぞご自由に」

壁に立てかけられた銃を片っ端から手に取ってみる。
AK-47、M1911A1、RPG-7…
至れり尽くせりとは正にこのことか、だがよくよく見るとどれも細部が異なっている事に気づく。

「…これはカスタム品か?」
「あぁ、はい、魔法界でも使えるよぉうに調整してぇあるのです、例えばホグワーツなどでは複雑なマグルの道具は使えなくなってしまいます。
なので、一部のぉ機構を魔力で作動させたり…認識阻害の呪文を掛けておいたのです」

ヤツは当然の様に言っているがそれは並大抵の事では無い。
ホグワーツに掛けられている呪文は何れも強力なものばかり、中にはダンブルドアでさえ知らないような古代呪文もある。
それを平然と出し抜いているこいつは一体…
だがまあ、それを気にしていても仕方ないだろう、今はどれを買うかを決めるべきだ。

棚を物色していると一丁の銃が目に入った、それは何てこと無い大型の回転銃であったが何故か手に取らずにはいられなかった。
それを手に取ると、拳銃とは思えない重量が俺の体全体に圧し掛かってくる、だがそれは自分でも信じられない程しっくりきた。
それを両手でホールドし姿勢を安定させる、そして撃鉄を上げトリッガーを一気に引く。

「………ッ!」

異常な反動、鼓膜を震わす轟音、瞼を貫くマズルフラッシュ、その衝撃は13歳の俺の肉体にはあまりに大きい。
だが肉体とは裏腹に俺の心は懐かしい記憶を脳裏に映し出す、そして銃口から漏れ出す火薬の臭いが鼻を刺激するが悪くなく、むしろ安心を与えてくれる。
この銃を使うには少し取り回しが悪いだろう、だがそれで良い、この重さが俺を守ってくれる、俺はそう確信していたのだ。

「…お決まりですか?」
「ああ、こいつを貰うぞ」
「ケケケ…それはどうも、…でも大丈夫ですかぁ? よりによって″ブラックホーク″なんて…」

確かに13歳、いや子供が使うには無謀な代物だが俺にとっては問題ない、前世ではこれ以上の化け物を振り回していたのだ、この程度の銃なら容易いだろう。
俺は代金の金貨をローブから取り出し、代わりにそのリボルバーを胸に収めた。

「キヒヒヒ…お買い上げありがとうございますぅ、いやぁ久しぶりぃの上客で嬉しくなりますねぇ。
…そうだ、特別ぅサービスで良いぃ事を教えて上げます」
「良い事?」
「えぇ、ホグワーツの8階廊下の突当りの壁で、″物を隠す場所″と考えながら三往復してくだぁさい。
武器を隠すのにぃ良いぃ所がありますよ…」

武器を隠す場所か、既に良い所を見つけてしまったのだが…
まあどちらに隠すかは試してから決めればいいだろう。

「…所でぇ、何故それをお買い上げにぃ? やはり護身用ですかぁ?」
「…そんなところだ」

そう、この銃を買った理由は単に護身用に過ぎない、他の重火器は後々AT用に使うとしても流石にハンドガンでは有効打になりえない。
つまりこれは最終手段だ、魔力も切れ杖を無くした場合に備えての、まさに最後の隠し弾という訳だ。

「やっぱりそぉうですか…最近物騒ですからねぇ
「物騒? 何かあったのか?」
「知らないんですかぁぁ! ヒヒヒ…あの凶悪犯″シリウス・ブラック″がアズカバンから脱獄したんですよぉ!」
「シリウス・ブラック…」

シリウス・ブラック、ヴォルデモートに最も忠実な僕であり、そしてマグルを12人虐殺し魔法使い一人を殺害した男。
それがアズカバンから脱獄した、あの難航不落と呼ばれたアズカバンから…
いやおかしくは無いだろう、不可能な事などあり得ない、それが世の常なのだから。
もしあるとすれば、それはきっと俺を―――殺す事かもしれない。


*


「あっはい、これフランス旅行のお土産」
「…これは?」
「ボーバトン名物″ボンバートン団子″爆発に気を付け―――」

ドグオオオオン

「………」
「…ば、爆発する団子…!」

誰が買って来たんだ、誰が。
どうやら俺は何処へ行っても爆発から逃れることは出来ないらしい。
誰かみたいなアフロヘアーを披露したキニスを眺めながら、俺はさっきの団子を慎重に食べていた。
味は悪くないが…
扉から煙を出すコンパートメントを見て何人か来たが、俺を見た途端納得した様子で帰って行った、どうも以前の″図書館爆発事件″以来あらぬ噂が広まっているらしい。

換気の為に窓を少し開ける、空は分厚い雲が稲光を放ちながら雪崩のような雨を大地に叩きつけている、新学期というには余りに暗い天候。
特急の車体が呻くような軋みを上げ、時折跳ねるような激しい揺れを起こしていた。

「あ、聞いた? シリウス・ブラックの事」
「それか…」

先ほどから列車の中を歩くと、聞こえてくる話の三回に一回はシリウス・ブラックの話題だった、隣のコンパートメントに居るハリー達もその話をしているらしい。
だがほとんどはその事を恐れていない、まあ今から行く場所は魔法界で最も安全と言われている場所だ、そう考えるのも無理は無い。

「でも何で脱獄したんだろうね…例のあの人もう居ないのに」
「…どうやら、ヤツはヴォルデモートが生きてると考えているらしい」
「へー、…でも何でそんな事知ってんの?」
「…知り合いからだ」

嘘では無い、付き合いが短いだけの知り合いだ。
例のマグル商品…もとい武器商人からの情報である、何でも魔法省関係に知り合いが居るらしい…本当に何者なんだろうか。

「じゃあ目的は例のあの人探しってことかな?」
「…恐らくな」

今のは嘘である、俺はヤツの目的を知っている。
それは…ハリーの命だ。
ヤツはヴォルデモートを打倒したハリーを殺すことで、最高の名誉を貰おうとしているらしい。
―あいつはホグワーツに居る―
…やはり俺には理解できなかった、名誉、栄光、地位、それを求めること、救済の様にすがる事、興味を見出すことはやろうと思ってもできない、だがそれは達観では無く、ただの諦めなのではないだろうか?
ふとそんな事を考える、いやどちらでも良い事だ、そのいずれも、そうでないささやかな夢も手に入れることが出来ない俺にとっては関係ない話だ。

だが今持っているのが一つだけある、ブラックの目的を言えばまたこいつは首を突っ込みたがるだろう、俺の身勝手な願望かもしれないが…こいつが命の危機に晒されるのは極力避けたい。
その親友を手からこぼさないために、今俺は一つの嘘をついたのだ。

しかし、分からない事はもう一つだけあった。
何故ブラックは『あいつはホグワーツに居る』と言ったのだろうか―――
その時。

「!」
「ありゃ? 故障かなあ」

照明が消えたと思った瞬間列車が急停止した、ここだけかと思ったが他の何処にも光は見当たらない。
どうやら列車全体が停電しているようだ、心なしか空気まで冷たくなった様に感じる。

「!? キリコ! これ!」

キニスが跳ねるように窓から離れる、その窓は豪雨で濡れていた―――筈だった。
打ち付ける雨は瞬きしている間に雹へと変わり、窓を流れる雨粒と共に全体が凍り付いて行く。
気のせいでは無い、明らかに気温が急速に下がっている。
これはただの異常気象では無い、俺は窓に打ち付ける雹の悲鳴と身に纏わりつく冷たい悪寒から今起こっていることの恐ろしさを実感していた。

「ど、どうなってんの!?」
「落ち着け…状況を確認してみる」

まず状況確認が先決だ、そう考えた俺はコンパートメントの扉を開いた。
…だが、この扉は地獄への門だったのだ。

「!?」

扉を開いた瞬間、そこから川の様な炎が溢れだしてきた。
その衝撃に思わず瞼を閉じる、だがその時俺の耳にある音が聞こえた。
重く、画一的に。
均一に、統率された鉄の軋む音。
俺はこの音を知っていた、焼かれているにも関わらず感じる冷たさの異常さも忘れ瞳を凝らす。

焼かれる人々、蹂躙される村々。
空を飛び交う鉄の爆弾、無数に続く鉄の背中。
そしてその右肩には、忌まわしい鮮血がこびりついていた。
そう、炎の先にあったもの、それは―――

「レッド・ショルダー…!」

周りは既にコンパートメントでは無かった、緑の大地が、青い空が赤く染まっていく。
無数の吸血鬼たちが群れを成し、サンサを地獄へ変えていく。
一体何が起こったのか、だがそれを考える時間すらない。

「ぐわあああああ!」

吸血鬼の炎が俺を焼く、あの日、俺の過去がズタズタにされた時の様に。
だが絶叫を上げながらも俺はそれを見続けた、あの時のように。
過去は俺を捕えて離さないのか?
あの時振りほどいたとばかり思っていた悪夢の中に俺は居た。
それでも見続けたのはきっと、心を壊さないためだったのだろう。
地獄の炎が俺の憎しみの残り火を再び燃やす、それが俺の精神を支えていたのだ。

遠くから聞こえるキニスの悲鳴、そして聞こえて来た声は何故か誰かに似ている様だった。
炎に焙られながら感じる冷たさ、意識を失っていく俺は知った。
ホグワーツ、そこは地獄、いや幽獄になっていたことを。
そして今年もまた、平穏など訪れない事を―――



開幕不幸のキリコ、
流石不幸の御曹司と言った所か。
あ、あと作中の時間が大きく空く時ように*を導入してみました。
では後編に続く。


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第二十七話 「回帰(Bパート)」

今日は不死鳥の騎士団放送ですね、
このへんでピンク婆の活躍を思い出し、
どうブッ飛ばすかを考えておきます。


「…焼き払え! ―――全てだ! 全て焼き尽くせ!―――」

目の前も見通せない炎の海から声が聞こえる。
無数の赤い鉄鬼兵が隊列をなし、全てを塵に帰していく。
建物が、大地が、老いも若いも炎に焼かれ、大地に断末魔の悲鳴が鳴り響く。

炎に、熱に、煙に巻かれ次々と倒れ伏す子供たち、その中で俺はヤツを睨み付ける。
ヨラン・ペールゼン、俺の全てを狂わせたあの男に憎しみの炎を燃え上がらせながら。
そして俺は走り出す、同じく取り残された少女に向かって。
…そして俺は炎に焼かれる、その瞬間俺の視界は真っ黒に塗りつぶされた―――




「―――!!」

ブラックアウトした視界、それが光りを取り戻した時見えたのは既に見慣れてしまった医務室の天井だった。
体の神経が蘇っていくのと同時に全身がべたついた汗と寒気を感じ取る。
…一体何が起こったのだろうか、コンパートメントの扉を開けた瞬間そこから炎が噴き出し、気が付けば俺はサンサに居た、覚えているのはそこまでだ。
…何故今になってあの悪夢が蘇ったのだろうか、先ほどまでの悪夢を思い出し全身が冷たくなるのを感じていると、カーテンが開かれた。

「おや、意識が戻ったようだね」

カーテンから顔を出してきた男は、心なしか声が俺に似ている気がした。
だが見た目はだいぶやつれている、目には深い隈があり、ローブは継ぎ接ぎ、白髪交じりの髪の毛と下手したら浮浪者と間違われそうだ。

「…あんたは?」
「ああ私かい? 私は″リーマス・ルーピン″、今年から闇の魔術に対する防衛術の教授としてホグワーツに赴任したんだ」

その一言で俺は全身に先ほど以上の震えを感じた。
闇の魔術に対する防衛術、それは俺がかつてもっとも期待していた科目である。
だが一年目は犯罪者、二年目は人間のクズ、一人としてまともな授業をする教員は存在しなかった。
…目の前の男は果たして大丈夫なのだろうか、その震えを勘違いしたのかヤツは胸元から何かを取り出してきた。

「チョコレートだ、食べるといい、体が温まる」
「…ありがとうございます」

渡された蛙チョコレートを口の中へ放り込むと、じんわりとその甘味が温かく全身に回っていく、心なしかいつもと比べ美味しく感じた。

「やはり吸魂鬼に襲われた時はチョコレートに限る」
「…吸魂鬼?」
「何だ覚えていないのかい? 君は列車内に侵入してきた吸魂鬼に襲われて気絶してしまったんだよ」

吸魂鬼の事は知っている、アズカバンの看守でありこの地上でもっとも穢れた生き物、人の幸福を喰らいつくし絶望しか残さない恐怖の存在。
だがそれに襲われた覚えは無い、扉を開いた時にいたのは吸魂鬼ではなく吸血鬼だった筈だ、というより何故吸魂鬼が列車内に侵入したのだろうか、あいつらはアズカバンで一括管理されていた筈。

「…すみません」
「ん? どうしたんだい?」
「そもそも何故吸魂鬼が居るんですか?」
「ああ…そう言えば説明を聞けなかったんだよね」
「?」
「昨日の入学式の時ダンブルドア校長が説明して下さったんだけど、その時君はまだ寝込んでいたんだ」

昨日、その言葉に俺は思わず窓の外を見る、そこには美しいホグワーツ湖に真っ赤な空と地平線まで伸びる夕焼けが映っていた、雲の切れ間には小さな黒い物が飛んでいる。
丸一日中寝続けていたという事態に俺は驚いた、あの出来事が一体どれ程負担になっていたのだろうか。

「あー、じゃあ説明するよ、シリウス・ブラックが脱獄したのは知っているね?」
「はい」
「で、そのシリウス・ブラックがホグワーツに侵入したら大変だ、という事で魔法省が―――」
「吸魂鬼を警備につかせたと?」
「…その通りだ、ダンブルドア校長は反対したんだけどね」

やはり先ほど空に居た黒い影は吸魂鬼だったか。
ルーピンはチョコレートを食べながら深いため息をついた、こいつも吸魂鬼の配備に良い感情は抱いていないらしい。
それは当たり前の反応だろう、むしろ承認している魔法省がどうかしている。
というのも吸魂鬼に目は無い、ついでに言うと人間以外の生き物も認識できない。
よっていつ誰が襲われてもおかしくないのだ、現に俺も襲われている(記憶に無いが)。

「さて、私はそろそろ失礼するよ、君も今日は休んでおきなさい」
「はい、ありがとうございます」

外を見ればもう日は落ち、吸魂鬼も闇の中に紛れ始めていた。
夕食を食べに行きたかったが、マダム・ポンフリーに今日一日は休むように言われてしまった為叶わなかった。

布団の中に入り瞼を閉じ寝ようとするが、中々寝着く事はできない。
眼の裏に地獄が見えることこそ無かったが、呼び起された悪夢が簡単に離れることもないのだ。
そのトラウマは体に纏わりつき、俺はいまだ悪夢の中でもがいている。
何故あの時サンサが現れたのか、それは吸魂鬼の仕業だったのだろうか、一瞬とはいえ蘇ったそれが安らぎを与える筈も無く、心に乱れたモノを残したまま悪夢ではないただの夢の中へと俺は落ちて行った。


*


「いやー、大丈夫だった?」
「何とかな」

禁じられた森へ歩きながら二人で話す。
俺が意識を取り戻した翌日の授業の一つ、″魔法生物飼育学″で実習をするためだと、新任教師になったハグリッドは言っていた。
だが昼間とはいえ森は暗い、何人か木の根や穴に引っかかり転びかけている、俺は歩きなれているからいいが他の連中は中々大変そうだ。
そうこうしてる内に開けた場所に出る、そこには鳥か馬のような生物が堂々とした佇まいをしていた。

「こいつは″ヒッポグリフ″ちゅう生きもんだ、俺はバックビークって呼んどる」

ハグリッドがそう呼ぶと、名前に反応したのかそれは前足を上げ嬉しそうな咆哮を上げるが生徒達はそれに驚き数歩後ろへ下がってしまった。

「ああ怖がるこたあねえ、こいつは穏やかな性格だから大丈夫だ」

ハグリッドがそう言っても尚何人かの生徒は怯えている、まあ確かにハグリッドが要領の良いヤツでは無い事は全員知っている、その言葉を信用しきれないのだろう。
その後ハグリッドによるヒッポグリフの説明が入った。
その概要は簡潔に言うと、基本的に温厚、ただし侮辱されると激怒するので礼儀良く接しなければならない、―――つまりお辞儀をすることらしい。

とどのつまり変な気を起こさなければ何てことは無い安全な生き物という事だ。
説明が終わり、早速選ばれたのはハリーだった、ちなみに受講人数が少なかったので四寮合同での授業である。

ハリーが近づいて行くが近すぎたのかヒッポグリフが威嚇をする、それに怯んだハリーはハグリッドが注意する前に退いてしまった。
再度近づいて行くハリー、今度は適切な距離だったのかヒッポグリフもゆっくりと近づいてくれている。
そして少し震えながらお辞儀をする、暫くたちヒッポグリフも頭を下げた…かと思った瞬間その鋭い嘴でハリーの首元を掴み、自分の背中に投げてしまった。

「わあああああ!?」
「おお! バックビークに気にいられたみてえだな!」

予想外の事態に悲鳴を上げるハリー、そんな事気にしていないかのごとくヒッポグリフはその巨大な翼を広げ飛び立って行ってしまった。

「か、かっこいい…」

大空を飛翔するヒッポグリフを見ながらキニスは目を輝かせていた、確かにあれだけ巨大な生物がここまでの速度で飛翔する光景は凄まじいの一言に尽きる、他の生徒達も口を開けながら感歎の声を漏らしていた。

ハリーが戻ってきた後は当初の予想通り授業はつつがなく進行していった。
その背中で空を飛び、帰って来た生徒は皆興奮を残している、キニスは飛行中ヒッポグリフをひたすら撫で続けるという奇行に及んでいたみたいだが。

「もふもふ、かわいい」
「………」

そして俺の番となった。
俺とヒッポグリフの視線が交差し、目を逸らすことなくゆっくりと歩いて行く。

「………」
「………」

適切だろう距離になったのでお辞儀をしようと思ったが意外な事が起こった。
ヒッポグリフの方からお辞儀をしてきたのだ。

「おお!? お前さんよっぽど気に居られたらしいな」

生徒達は愚かハグリッドまで驚いている、一体何故ヤツからお辞儀をしたのだろうか、その理由を考えている内に俺の体は宙を飛んでいた。

「………!」

俺の知っている空からの光景と言えば、真っ赤に染まった大地か歓迎の弾幕くらいだ。
視界いっぱいに広がる光景、それは圧倒的な物だった。
どこまでも続く空、雄々しくそびえ立つ山々、全身で風を切る感覚。
それは俺が生きて来た中で間違いなく最も美しいと呼ぶことができた。
この速さ、あのバケモノ箒よりも速いかもしれない。

崖を渡り、湖を駆け、木々の間を飛んだところで広間に戻って来た。
暫くの間俺は意識を失っていた、その壮大かつ圧倒的な光景は、いつか向き合わなければいけない現実を少しだけ忘れさせてくれるのだった。
…その後マルフォイがしでかさなければ、だったが。


*



崩壊というものには二種類ある。
一つはゆっくりと崩れていくもの、雨に風に打たれ削られる石像のようにに消えてゆく。
もう一つは一瞬で崩れるもの、ほんのした一点から何もかもが崩れ去る。
ハグリッドの授業は後者の方だった。
あの後マルフォイが俺のマネでもしようと考えたのか、ヒッポグリフを無造作に触ってしまい結果としてヤツは腕の骨を折ってしまった。

それだけなら良かったのだが、あいつの父親は無駄に権力を持っていた。
魔法省は大騒ぎ、如何なる理由があろうと生徒が傷ついたのは教師の責任に他ならないといい、ハグリッドは停職中、しかもヒッポグリフは危険生物扱いされ鎖に繋がれてしまった。

揚句の果てにマルフォイは一体何が憎いのか、ハグリッドとヒッポグリフの悪評をこれでもかと言いふらしている、まあ人望はご覧のとおりなので効果は薄いようだが。
それにまたハリーが突っかかっていき、あいつらはまたもや注目の的になっているのであった。

「…ここか」

そんな騒ぎをしり目に俺は8階の突当りにある石像の前に立っていた。
そう、例の武器商人が言っていた″必要の部屋″を確かめるためである。
確かやり方は『物を隠す場所』と唱えながら三往復する、だったか。
周囲に人がおらず、ゴーストの気配も無いことを確認してから壁の前に立つ、

(物を隠す場所、物を隠す場所、物を隠す場所…)

そう唱えながら石像の前を三往復すると、武器商人の言っていた通り小さな扉が出現していた。
見つかったら面倒事になりそうなので素早く扉の中に入って行く、そこには箱が幾つも、まるで階段の様に、かつ扉を囲うように配置されていた。
周りを見渡すと机、本、ティアラ、クローゼット、マッスルシリンダー、統一性も何も無く色々な物が無造作に積み上げられている。
箱の中を覗いてみるとその底は10mくらいだろうか、蓋には鍵が刺さりっぱなしになっている所を見ると鍵付きロッカーみたいな物らしい。
だがこの深さだと取り出す事ができなそうだが、試しに羽ペンを落とし、それに向かって手を伸ばしてみる。
すると穴底の羽ペンは浮上し、吸い寄せられるように俺の手元に納まった、こういった仕掛けらしいな。

なるほど、確かに物を隠すには適しているだろう、しかし″目くらまし術″を使ってもここまで来るには人通りが多い。
だからといってあの館に鍵付きロッカーは無い、一長一短、どちらにするか…

しかし箱を見渡し終えた時点で、俺はどちらに隠すか即決した。
何故なら箱の一つが使用されていたからだ、これはつまり俺以外にもこの部屋、もとい箱を利用している人間がいるという事実を指し示している。
それは誰かと鉢合わせる可能性が極めて高いということ、よって隠し場所はあの館に決定した。

コツ…コツ…コツ…

「!」

その時扉の向こうから足音が聞こえて来た、瞬発的に箱の影に身を潜める、それと同時に人が入ってきた。

「~~~♪」

鼻歌を歌いながら入って来たのは占い学の教員″シビル・トレローニー″だった、手元にはシェリー酒の瓶と小さな鍵を嬉しそうに抱えている。
…こいつが使っていたのか、聞こえて来た珍妙な歌と何ともいえない感情に思わず力が抜ける。
シェリー酒をしまい部屋から出て行き、暫く経った所で俺も部屋から出て行った。

「!?」

扉を出るとシビル・トレローニーが俺に向かって立っていた、まさか気付かれてたのか? だが様子がおかしい、目線はあらぬ方向を向きまるで気絶しているように見える。
…持病か? 心配になったのでマダム・ポンフリーを呼びに行こうとした時、トレローニー―――のような何かが語り始めた。

『不死鳥が蘇る時 世界を渡った翅が合い見舞う
千古不易なる右の翼、世界を見渡す左の翼
翅が絡み合い 放たれる そして鳥の一片は歌を知る 
賢者が語る千古不易のわらべ歌』

「………」
「………あらっ? 貴方一体どうしたのこんな所で?」
「!? いえ、何でもないです」
「あらそう? ならいいけど。
…まさか、見た? そこの石像」
「!?」
「いえいいのよ? 私は言わないから。
…代わりにお酒の事も言っちゃ駄目よ」

彼女はそう言い残して帰って行った、本当に一体何だったのだろうか…

シビル・トレローニーの残した謎の言葉、その意味は考えても全く分からなかった。
しかし、妄言と切り捨てることもできなかった。
確固たる理由など無い、だがあの言葉に俺は予感めいたものを感じ取っていたからだ。
シリウス・ブラックの回帰、吸魂鬼、トレローニーの言葉。
一つだけ分かるのは、今年も平穏に終わる筈が無いという悲観のような、もしくは達観のような諦めだけが俺の中に渦巻いていた。



荘重なる欺瞞、絢爛たる虚無
律を謳い、秩序を司って一千年
不可侵海域にあって獲物を睥睨する大監獄が、消えたる畜生を求める
ハピネス・キャン・ビー・ファウンド
イブン・インザ・ダーケストオブタイムス
ハリー・ポッターとラストレッドショルダー、第二十八話『ディメンター』
空白の魂魄が饑渇する



次回はボガート登場です、
さあ何が出るか。
…やべえ、候補が多すぎるぞ、どうすんだこれ。


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第二十八話 「ディメンター(Aパート)」

参考と趣味がてら色々なポッターSSを回ってますが…
完結してる作品信じらんない程少ないな…

まあ、完結できるようコツコツ頑張っていきます。


教室の雰囲気は今までになかったものだ、一昨年は大蒜、去年はけばけばしいピンク一色だったが今目の前に広がるのは無駄な装飾も臭いも無く、最低限の品物だけが整理され置かれている。
これだけを見れば今年の″闇の魔術に対する防衛術″はまともと思えるかもしれない、だがそうと言い切れる訳では無い、その期待と不安によって生徒達は騒めいていた。

「ルーピン先生かあ、今年の先生は頼りになりそうだね」
「…どうだかな」

リーマス・ルーピン、以前医務室で話した時感じた印象からすると、前任者ほど酷い授業にはならないだろうがそれでも油断は禁物だ。
俺は今までの授業のせいで疑心暗鬼に陥っているのだった。

「いや、あの先生は絶対頼りになるよ、この前キリコが吸魂鬼に襲われた時も白い光であいつを追い払ったんだもん」

そうか、あの時意識を失う中で見た光は″守護霊″だったのか。
だが守護霊の呪文はかなり高難度だと聞く、それを扱えるという事実を知った事で俺はようやく期待を膨らませることができた。
そして騒めく教室の中にそいつが現れた。

「やあみんな、今年からこの教科を受け持つことになったリーマス・ルーピンだ。
準備してくれた所悪いんだけど、今日は教科書を使わないのでしまって、杖だけ持っててくれ」

そして教科書をしまい、机をどかすように指示を出す。
広いスペースを確保したところでヤツは奥の教員室から古ぼけた箪笥を持ってきた。
無論ただの箪笥の筈は無い、ガタガタと激しく揺れているそれは何かの存在を強く主張していた。

「この中には″ボガート″が入っている、君達にはこれからこいつと戦ってもらう」

その一言で途端にどよめき始める、どんな物とはいえ初めて相対するときは一定の恐怖を伴う、ましてや妖怪どころか戦闘経験も無い生徒達が脅えるのも当然の事だろう。
ルーピンはそんな不安を和らげるような声で再度話し始めた。

「さて、ボガートがどんな妖怪か分かる人はいるかな?」
「形態模写妖怪です!」
「その通りだキニス君、ちなみにこの性質そのまま過ぎる名前は今だしょっちゅう議論の的になっているけど、この授業でやるのはそこじゃない。
ではキニス君が答えてくれたが、一体何に化けるのか分かるかい?」

キニスに続き、別のハッフルパフ生が手を上げ答えた。

「その人にとって一番怖い物です」
「正解だ、それも怖い物なら、生き物、物、音にまで化けることができる。
だがそれゆえに誰かと一緒にいればその脅威は激減する、何故かわかるかい?」
「誰に化ければ良いか分からなくなるからです!」
「素晴らしい、キニス君は良く勉強しているようだ、ハッフルパフに5点!」

連続回答で得た得点に思わずガッツポーズをするキニス、そして話は続く。

「そしてボガート最大の弱点は恐怖の反対、″笑い″だ、これには強い精神力が居る。
君たちは見ていて滑稽だと思わせる姿をボガートに取らせる必要がある。
呪文は簡単だ、『リディクラス -ばかばかしい』、では一緒にやってみよう、さん、はい!」
「リディクラス! -ばかばかしい!」
「よし、だがこれだけでは完璧とは言えない、実際にやってみないと分からないこともあるだろう。
じゃあキニス君、こっちに来てくれるかい?」

見本として呼ばれたのはキニスだった、どうも先日のヒッポグリフの時と言い、こいつは動物とか妖怪とかその類に強い興味を持っているらしい。

「キニス君、君の一番怖いものは何かな?」
「えーと…、…バジリスク?」

騒めく教室からはフレッチリーの悲鳴が聞こえた、無理も無い、倒されたとはいえ怪物の恐怖はいまだ深い爪痕を残しているのだ。
特に直接襲われた二人はトラウマになっていてもおかしくないだろう。

「そうか、じゃあ思い浮かべるんだ、どうすればバジリスクが面白い見た目になるのかを。
皆もしっかり考えておいてくれ。
…浮かんだかい? じゃあ行くよ、3、2、1…!」

ゆっくりと、不気味に開かれた箪笥、だがいつまで経ってもバジリスクは出てこなかった。
代わりに出て来た物、それはベッドだった。

「あ…ああ…!」

凶荒状態に陥るキニス、やつれた目を限界まで見開き驚愕するルーピン、騒めく、いやパニックになりかけた生徒達。
当然の反応だろう、心臓に穴が空いた俺が出て来たのだから。

「こっちだ! リディクラス(ばかばかしい)!」

緊急事態と捉えたのかボガートの前にルーピンが割り込んできた、するとボガートは小さい銀色の球体へと変化、したと思ったらゴキブリへと姿を変え女子生徒の元へ迫って行った。

「!? キャアアアア!! リディクラス(ばかばかしい)!!」

絶叫と共に放たれた呪文により、ゴキブリボガートは床を盛大に滑ってひっくり返ってしまった。
その光景を見たことで生徒達は笑い出し、一先ずパニックから脱することは出来た。

「大丈夫かいキニス君、一先ず奥の教員室で休んでいてくれ」
「は、はい…」

ふらつく体を支えてもらいながらキニスは奥の部屋へ去って行った。
その光景に俺は複雑な感情を抱いていた。
当然疲弊していたキニスを心配していたが、それと同時にバジリスクに襲われたことよりも俺が死にかけた時の方がトラウマになっていること、それが意味する自分より俺のことを心配してくれたということに、ある種の嬉しさを覚えていたからだ。

だが逆に言えば、キニスは自分よりも俺のことを優先していることになる。
その行き過ぎたお人好しさを素直に喜ぶことは出来ない、だからこそ俺は複雑な思いを抱え込んでいたのだ。

「いや、すまなかった、キニス君は大丈夫だから安心してくれ」

戻って来たルーピンはそう言って授業を再開させた。
最初の内はキニスの反応を見てしまったことで恐る恐るやっていたが、次々と酷い醜態を晒すボガートを見てる内に順調になり始め、そしてついに俺の番となった。

…一体何になるのか想像もつかない、いや、恐い物が無いという意味では無いのだ。
むしろトラウマはうんざりするほどある、それ故にどれが出てくるのかサッパリ分からないのだ。
何が出てもいいように覚悟を決め箪笥の前に立つ、ボガートは少し停止した後何故か炎に包まれた。
…そして炎の中から出て来た物は。

炎の中からまず聞こえて来たのは軽快なマーチであった、だがその曲を聴いても心が軽くなる筈は無かった。
そして次に現れたのは壮年の男であった。
黒いサングラスの奥に見える眼光は鋭く、白髪が生え、皺が刻まれた体は老いていたがかつての過酷な訓練の成果を残している。
…ヨラン・ペールゼン。

周囲はキニスとは違った意味で騒めき始める、知らないおっさんが出てくれば当然の反応だ。
確かにこいつが出てくるのも納得だ、焼かれた過去、レッド・ショルダーの悪夢、俺の悪夢はほとんどこいつか″神″が発端となっているのだから。
だがいつまでもこいつを見るのは堪える、今更死んだ過去になど未練は無い。

「リディクラス -ばかばかしい」

呪文を唱えた瞬間、耳触りなレッド・ショルダーマーチは音程を激しく外し始め、ペールゼンは足が鳥みたいに細くなり、首から腰まで真ん丸に、そしてジグザグの髭が生えて来た。
全体的に言うと卵のような体形に早変わりしてしまった。
そのどっかのゲームで見たような姿に教室は笑いに包まれる、卵化したペールゼンは頭から蒸気を出し、まさにゆで卵その物になっていた。




「大丈夫か?」
「何とかね…」

全ての授業が終わり、寮へと戻るキニスの声はだいぶ疲弊しているようだった。

「………」
「………」

そして気まずい空気が流れだす、当然だ、自分の死体が現れてそれを笑い飛ばすことなど出来るはずが無い、授業自体は楽しい物であったが既に俺達にとっては苦いものに変わってしまっている。

「あー…なんかごめんね、あんなのを出しちゃって…」
「いや、お前が謝る必要は無い」
「そ、そう?」
「………」

またもや気まずい沈黙が空気を支配する、会話が続かないことは何時ものことだが、ここまで気まずい空気は久しぶりである。
まああの時のように、取り返しの付かないような空気と言う訳でもないので大丈夫だろうが…それでも俺の心は落ち着かなかった。

「そういえば…バックビークどうなっちゃうんだろうね」

この気まずい空気に堪えがたくなったのかキニスは話題を変えて来た、俺も辛くなっていたのでその話を繋げ出す。

「さあな、…だが簡単には終わらないだろう」
「まさか殺されちゃうなんてことないよね…」
「…ありなくはないな、マルフォイの父親は今だに大きな権力を持っている」

普通に考えれば処分を受けるのはハグリッドの方だろう、しかしそうならない可能性がある。
ダンブルドアがハグリッドを弁護する可能性だ、もしもヤツが弁護をした場合ハグリッドの罪は軽くなり、恐らくしばらくの謹慎処分ぐらいにとどまるだろう。
だが軽くなった罪の埋め合わせは誰がする? マルフォイはあり得ない、ヒッポグリフが残りの罪を負うことになるだろう。
なら動物の罪の取り方は何がある? 殺処分、それ以外取りようも無い。

「何とかならないかな…」
「無理だな」
「ええ…そんな無情な」

無情と言われても本当にどうしようもない、一昨年去年と違い今回は犯罪では無く法による正当な手続きを得て行うものだ。
そうである以上ルシウス・マルフォイの介入があろうと、それを妨害することはできない。
ましてや子供ではどれ程騒いでも無駄だろう。

「…俺は用があるから、先に帰っていてくれ」
「あ、そう? 分かった …じゃあ後で!」

そうこうしてる内に寮への分かれ道へ着いた、だが俺は寮に戻らずキニスと別れ8階への階段を昇って行った。



ばれる危険性を考慮し、使わないと決めた筈の部屋、俺は再びそこに立っていた。
何故ここに居るのか、それは物を隠す為では無い。
必要の部屋、それは本人が必要とする物が置いてある部屋だ、だからこそ物を隠したかった時は、あの大量の箱が出て来たのだ。
…そこで俺は思いついたのだ、俺が必要としているのは箱では無い、ましてや銃でもない。
俺が最も欲するもの、それは俺を殺せる魔法だ。
だがそれは恐らく相当高位の闇の魔術になる、だからこそこの数年間、何度も閲覧禁止の棚にこっそりと侵入していたのだ。

…だがそこまでだった、魂や死に関わる禁書は粗方読みつくしてしまい、結局有効そうな呪文は見つからなかった。
しかしこの部屋の存在は光明だったといえる、もしかしたら…だが、ここになら閲覧禁止の棚以上の闇の本があるかもしれない。
そう考えた俺は今再びここにやって来たのだ。

あの時のように石像の前に立ち、周囲の気配を探ってから壁の前を歩き始める。

(闇の魔術を知れる部屋、闇の魔術を知れる部屋、闇の魔術を知れる部屋…)

三往復したところで目を開く、するとそこにはあの時と同じ扉が出現していた。
存在していればいいが…
僅かな不安を抱きながら部屋へと入って行く、するとそこの景色は以前と変わっていた。
しかし現れたのは以前のような部屋では無く、色々な物が無造作に置かれその間に狭い通路が続く。
その通路を辿った先には想像していた本棚などではなく、幾つかの本が置かれた小さな机が椅子と共に置かれているだけだった。

…上手くいかなかったのだろうか、しかし扉が出現した以上俺にとって必要な場所の筈、机にある本を読もうとする。
が、掴んだそれをうっかり落としてしまった―――

「!?」

落下したことで開かれた本はその中から緑の閃光…死の呪いを発射した。
だが下向きに開いたため呪いは地面を少し抉るだけ、不発に終わった。

…罠、というにはあまりに危険すぎる、予想外の地雷を踏み抜いたことにしばし呆然としていたが、少したち落ち着きを取り戻すと本を拾い直し、パラパラと下に向けながらめくることで安全確認を済ませる。
そして本の内容を見ると、そこには闇の魔術についての研究や考察が驚くほど詳細に書かれていた。
死の呪い、服従の呪文、磔の呪文、悪霊の炎・・・
許されざる呪文はおろか、それ以外の闇の魔術もこれでもかと詰め込まれ、これを書いた者の情熱が伝わってくるのを感じた、いや、ロクな情熱ではないだろうが。

だが、何故こんな危険な罠が仕掛けられているのだろうか、本の表紙を見直してみる。

「…なるほどな」

納得だ、こいつの持ち物だったならここまで過剰な罠があってもおかしくない、この本以外の本もかなり危険な罠が仕掛けられているだろう。
だがこの手の罠は不意打ちだからこそ最大の効果を発揮する、罠があると知ってしまえば対策は容易だ。
大方昔ホグワーツに在籍していたころの研究室代わりだったのだろう、忘れていたのか不要になったのかは分からないがありがたく使わせてもらおう。
その本の端には『トム・M・リドル』即ちヴォルデモートの本名が記載されていた…



キニスの方がとんでもないの出てきてんじゃねーか!
はい、真面目に考えた結果アレでしたとさ。
そしてキリコも何てもん見つけてんだか、
一体どうなることやら…


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第二十八話 「ディメンター(Bパート)」

後編はクィディッチ回でお届けいたします。
…特に言うことがねぇ。


今年こそは、と俺は意気込んでいた。
今までは散々なことばかりだった、終わり良ければ総て良し、逆に言うと終わりが駄目なら全て台無しとも言える。
トロール、バジリスクと事件ばかりが続き呪われているのではと疑い始めたころのハロウィン。
腹をすかせ、例の館でAT作成の練習をし疲労をピークに、その上シャワーを浴びて身も心も綺麗にし、いざ今年こそ楽しもうと思った矢先のことである。

「シリウス・ブラックが校内に侵入した、生徒達は大広間から動かない様に」

ダンブルドアの一言、その結果ハロウィンパーティは一瞬でお開き、安全を重視し今夜は大広間で眠ることに、その為美味そうな食事はあっと言う今に片付けられた。




「………」
「機嫌直しなよキリコ…」

翌日になり、学校を覆っていた不安の空気はだいぶ和らいだかに見える。
だが人生の楽しみを奪われたことへの怒りが簡単に収まる筈も無く、俺はブラックに対する怒りの念を燃やしていた。
シリウス・ブラック…必ず復讐してやる…
シリウス・ブラックは恐るべきことに、吸魂鬼の警備網を掻い潜りホグワーツ内に侵入、太った婦人をズタズタに引き裂いたのだ。
尚太った婦人とはグリフィンドール寮の談話室を守る絵画のことであり、現在ストライキ中である。

「ハリー大丈夫かな、ブラックの狙いってハリーなんでしょ?」

ハリーはブラックを警戒しているのか、あの日以降常に誰かと行動するようにしている。
さらにハリー自身は気付いていないようだが常に教員が影で護衛をしている、それを見るにブラックの標的がハリーである事には間違いないだろう。
例の武器商人の言っていたことが当たってしまったことに苦虫を噛み潰す。

その時チャイムが鳴り響き、教員室の扉が開いた、が…
予想外の人物に教室が騒めきだした、闇の魔術に対する防衛術だというのに入ってきたのはスネイプだったからだ。

「ちょちょちょ何でスネイプ先生が? 教室間違えたっけ?」

机に教材を置きながら混乱する生徒達をじろりと見渡し、そしていつものように重い口を開いた。

「静粛に」

一言ではあったがそれは重く、騒めいでいた教室はたちまち静まり返った。
その様子を確認してから再度口を開く。

「今日は吾輩が臨時で闇の魔術に対する防衛術を教える事になった、では…」

授業を始めようとした矢先に、キニスが手を上げているのを見つけてしまったスネイプは少し面倒そうな表情で「…何かね?」と尋ねた。

「あのー、ルーピン先生はどうしたんですか?」
「ルーピン先生は体調が優れず、本日は休みを取っておられる。
では39ページ、教科書のだ」

キニスの疑問に簡潔な回答をした後素早く授業を再開する、ヤツの贔屓や嫌悪はあくまでスリザリンとグリフィンドールに限定されており、先ほどのほうに礼節を守っていればあいつはそれなりの対応をしてくれる。
これがグリフィンドール生だったらどうなっていたかは分からない。

肝心の授業内容はと言うと″人狼″についてだった。
人狼とは普段はただの人間だが、満月が近づくにつれ凶暴性が膨らんでいき、そして満月になるとその凶暴性を抑えきれず人狼へと変身してしまうらしい。
一応満月の時でなければ精神力で抑え込むことができるが、その場合身体に影響が出る、さらに人狼への変身は多大な苦痛を伴うのである。

人狼の特性としては大方こんなところだ、教科書に書かれたその内容をノートに記載していき、″人狼の見分け方、及び人狼の殺し方″という課題が出て授業は終わった。

「ルーピン先生大丈夫かな?」

キニスはそう心配していたがこの学校にはマダム・ポンフリーもいる、心配はいらないだろう。
俺にとって気がかりだったのはシリウス・ブラックのことであった。
無論ハロウィンの恨みも無いわけでは無いが別の話である。
一体ヤツはどうやって侵入したのだろうか、確かにこの学校へ侵入する方法が無いわけでは無い。

まず浮かぶのは隠し通路の存在だ、俺が練習場、兼武器庫(予定)として入り浸っている″叫びの館″など最たるものだろう。
他にも方法は幾らでもある、屋敷しもべ妖精の″姿くらまし″だ、通常この学校内で姿くらましはできないが、それは人間に限った話。
理論や構造が根本的に違う屋敷しもべ妖精の姿くらましなら使えるのだ、ちょうど去年ドビーがやったように。
あと他には″姿をくらますキャビネット棚″とかがあったな…そういえば必要の部屋に置いてあったアレがそうではないだろうか?
とはいえ一目見て壊れていると分かるので使用はできないだろうが。

候補は幾らでもある、だが現状最も怪しいのは叫びの館だろう、禁じられた森、それも不吉な噂ばかり立つ場所に近寄るものは居ない、しかもホグワーツに繋がっている。
…絶好の隠れ家だな、むしろ今まで誰も居なかったのが不思議なくらいだ。
今度訪れた時に、侵入者検知呪文あたりを張って置くべきかもしれない。

しかしそれでも疑問が一つ残る、アズカバンの時もそうだが、何故ヤツは吸魂鬼の群れの中を突っ切って平気だったのだろうか。
そういえば新聞で、ブラックはアズカバンに居ながらも正気を保っていたと書いてあった。
…もしかしたらそこにシリウス・ブラックの秘密が隠れているのかもしれない。
俺は静かにシリウス・ブラックへの敵意を研ぎ澄ます。
だがそれは正義感などでは無く、これ以上キニスやハリー達に傷ついてもらいたくないという、むしろ罪悪感や使命感に近い物だったのかもしれない。
いとも容易く破られた今年の平穏、しかしそれにも慣れた物だ。
ローブの中、諦めと覚悟を入り混じらせながら握る杖とブラックホークの重みと冷たさが、確かな力強さを伝えているのを掌に感じているのだった。



*


空に轟く万雷の喝采にも似た轟音、ならば吹き付ける雨風は祝福の紙吹雪か。
渦巻く雲、掻き消えるホイッスル、視界を遮る雨、風、雷鳴。
グリフィンドール対ハッフルパフ、いつもなら寒さも吹き飛ばす熱気も今日ばかりは嵐に呑まれ誰の耳にも届かなかった。
視界は見えず、音も聞こえず、ついでに雨の冷たさが触感を奪っていくこの天候は最悪以外の何物でもない。

そんな状況であっても闘志だけは失われず、戦いは激しさを増していく。
そして嵐を悲鳴と狂声が貫いた。

「うわああああ!」
「ジョージーーー!」
「ヒャーハッハッハー! 次は誰の顎だぁ!?」

今年度めでたくビーターにつく事のできたキニスは、そのクィディッチ狂いっぷりを遺憾なく発揮していた。
憐れ、グリフィンドールのビーター、ジョージは顎を砕かれ退場になってしまった。
尚これで既に二人目、雨の中からは「やめて! もうジョージのライフは0よ!」という声まで聞こえてくる。
しかも頼りのハリーは眼鏡が濡れまともにプレーできていない。

そんなスリザリンも青ざめる暴力的プレーに晒された結果現在40対20でハッフルパフが優勢である。
だが相手も黙って顎を砕かれている訳では無い、彼らは人数が減ったことでオリバーはタイムアウトを要求、戦術の練り直しにかかった。

「皆聞こえるか!?」

嵐の中ディゴリーが張り裂けんばかりの声で叫ぶ、俺達はそれを必死に聞き取ろうと耳に意識を集中させる。

「グリフィンドールは一発逆転! スニッチ獲得を狙うはずだ! だから俺達はそれに対抗して、全員で攻め立て逆転できないようにする!
キリコはハリーを徹底的にマーク! スニッチを取らせない様にするんだ!」

「了解した」

その声が聞こえたかどうかは分からなかったが、ディゴリーは俺達に向かって信頼の笑顔を向けていた。
…元々一年で辞める予定だったのだが、キニスに「どうせなんだからあと一年くらい一緒にやろうよ」と一ヶ月間毎日付きまとわれ、俺が折れた結果クィディッチを続けることになった。
まあ俺としても、去年のように勝敗があやふやなまま終わるのもどうかと思っていたのでいいのだが。

それと同時にタイムアウトも終わり、俺達は再び嵐の中へと舞い戻っていく。
予想通りグリフィンドールは守りに入った、確かにこの大雨の中、加えて人数の減った状態ならこれが最良の方法だろう。
だがハリーの動きが変わった、防水魔法を掛けたのかその動きは嵐の中でも迷いが無い。

対して俺は有利とは言えなかった、この轟音の中では以前使ったような戦法は使えず、このよく言えばメリハリが、悪く言えば1と0しか無いこの箒はスニッチ探しに全く向いていない。
だが最高速度はニンバス2000より上だ、だからこそこうやってハリーを追い回すことに専念している。

その一方ハリーもまた苦境に立たされていた、この雷雲の中でスニッチを見つけるのは困難、よしんば見つけたとしても初動が遅れればキリコに追い抜かれてしまう。
しかもキリコがいつもの危険運転でまとわりついているため、探すこともままならない。

一進一退にもなっていない、決定打に欠けるドッグファイトを繰り広げる二人。
だが幸運はハリーの元へ落ちた!
二人の間を雷鳴が切り裂く、その時ハリーは見た!
雷光に照らされるスニッチの影を!

思考は無い、反発的に飛び出し風となるニンバス2000。
対してキリコは不幸なことに雷で視界を塞がれていた!
既に距離は離れ、勝負は決したかに見える―――だが!

「スニッチが!?」
「…まずいな」

何を考えているのか、スニッチは遥か上空地獄の雷雲へ飛び込んでしまった!
つまりスニッチを取るには雷が縦横無尽に走る積乱雲の中へ特攻しなければならない!
危険! 無謀! 自殺!

だとすれば先頭を走るのはあいつ!
キリコ・キュービィー!
怯んでいたハリーも負けじと飛び込む!




ハリーに先手を取られたが、雷に怯んだことで遅れを取り戻すことはできた、だが…

「………!」

肩を閃光が切り裂く、そう、この箒は小回りに欠ける…と言うより無いも同然。
そんな最低箒では次々と襲いかかる雷を回避するのも命懸けだ。
しかし小回りの利くニンバス2000は軸をずらし、時に一瞬の弧を描き、時に止まることで刹那の危機を確実に回避する。

徐々に、じりじりと距離を詰めるハリー。
焦りと迫り来る危機によるものか、体温が急速に下がっている気もする。
…ならば戦法を変えよう。




何とかキリコに追い付いた…と少し安心できたのは1秒と持っただろうか。
キリコは全速力で加速した!
まるで雷の洗礼など知ったことではないと言わんばかりの急加速に再び距離を開けられる!

ハリーも負けじと加速しようとする…が駄目!
目の前を過る閃光を反射的に回避してしまう。

これが箒以上の、ハリーに無くキリコにある最大のアドバンテージ!
それは度胸!
方や所詮学生、命の危機に晒されたことは二回しかない!
方や元軍人、命の危機に晒されたことは数百回以上!
今怯んだ時点でハリーの勝利する可能性は消え失せていたのだ!
…その筈であった。

暗雲の中から、漆黒のローブを纏う幽鬼が現れるまでは。




「「!?」」

突如として現れた存在、それはズタズタのローブを纏い、身の毛もよだつ悲鳴を上げる、この地上で最もおぞましい存在。
吸魂鬼の大群の中に俺達は居た。

それを視界に入れた瞬間全身に寒気が走り出す、いやそれだけではない。
指先から凍りだす体、全身からは力が抜けていき、意識は朦朧としていく。
そして記憶の底から呼び起こされる炎の映像。

…! 何をしている! 意識を保て!
顔を強く叩き、悪夢の中に沈みかけた精神を叩き起こす。
一体どうなっている、吸魂鬼は校内に立ち入れないのでは無かったのか!?

だが今更嘆いてる場合ではない、吸魂鬼を追い払うためには″守護霊″の呪文がいる。
しかしそれを覚えていない以上今は逃げるしかない…!

もはやスニッチどころでは無い。
激痛が走る心臓を押さえながら吸魂鬼の群れの中を突っ切る。
ハリーも俺に続くように飛び出す。

だが、この状態で逃げ切ることは不可能だった。
激しくなる耳鳴り、意識を穿つ頭痛、まともに呼吸すらできず、もはや何処をどう飛んでいるかすら分からない。

そして箒すらまともに掴めなくなった時、ローブに隠された吸魂鬼の顔、その空白の眼球が目の前に現れた。

「…また、なのか…」

吸魂鬼の顔は見えなくなり、ローブの中から再び炎が現れ全てを包み込む。
気づけば俺は炎に焼かれ、サンサの大地が赤く染まっていく光景を見ていた。

どうやらあのコンパートメントの時のも吸魂鬼の仕業だったということを俺は理解した。
冷気と熱が混じり合った空気を感じながら、炎の中に落ちていく。
だが既に俺の意識は遠く、何も感じないまま暗闇の中へと沈んでいくのであった。

だが最後の一瞬、俺が見たのは幻影の中に揺らめく黒い犬の姿だった。
それがただの幻か、それとも地獄へ迎えに来た番犬だったのかは分からなかった。
しかしその瞳は、かつての俺のように復讐の炎が燃え上がっている様に見えたのだった…



廻る、廻る、全てが廻る
巡る、巡る、誰もが巡る
温なる物を知らず、かたるすべも知らず
数千年の虚妄のままに、幾千万の飢渇たる虚が群れをなす
我も行く、運命のままに
軋む廃墟に虚像を置いて
ハリー・ポッターとラストレッドショルダー、第二十九話『襲来』
我が求める者はただ一人



没ネタ
ハロウィンパーティのキニス

「何だあいつら!?」
「リヴォービアとウィーズリー(双子)か!?」
ジョージ&フレッドのスネイプコス(ロックハート式スマイル仕様)
三人「ドヤァ」
スネイプ「減点」

やや蛇足気味だったのでカットでしました。
それにしてもキリコ、今年は厄年ですね。


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第二十九話 「襲来(Aパート)」

謎のプリンスの放送日ですね、
そしてSSだと高確率でやることが無くなるパートでもあります。
…今の内にプロット組まなきゃ…


俺が目を覚ましたのはあれから三日後であった。
試合はと言うと、吸魂鬼の乱入により試合は終了、その時点で勝っていたハッフルパフの勝利となった。
だが俺より早く目を覚ましたハリーの不幸はそれだけでは終わらなかった、吸魂鬼に襲われ落下した際、あいつの愛用していたニンバス2000が″暴れ柳″に突っ込んでしまいズタズタに引き裂かれてしまったのだ。
ちなみに俺のインファーミス1024も暴れ柳に突っ込んでいたのだが、ズタズタになるどころか柳の枝を一本へし折って地面に突き刺さっていたらしい、しかも無傷である。

その結果ハリーはすっかり意気消沈、ダンブルドアはこの一件に対し大激怒、吸魂鬼と魔法省に対し相当言い含めたらしいが…それでも効果があるかは当てにならない。

ならば身に着けておく必要があるだろう、吸魂鬼に抵抗できる唯一の呪文、″守護霊″を―――

エクスペクト・パトローナム(守護霊よ来たれ)

と、意気込んだのは良いのだが、成果は思わしくない。
何と言うべきか、簡単に習得できないのは分かっている、だがあまりにも手ごたえが感じられないのだ。
守護霊の呪文を使うためには″幸福な感情″を強く思い出す必要がある、そして呪文の発音も杖の振り方も全て知っている。
だというのに白い光の欠片も出ないのだ、本当に全く出ない、マッチの煙ほども出ない。
正直言って、これ以上独学でやっても永遠に習得できない気がする…どうしたものか。


*


そんな困難にぶち当たった俺に光明が差したのはクリスマス休暇の少し前のことである。

「ハリーあなた最近何処へ行ってるの?」

こいつらは最近、ヒッポグリフの無罪を勝ち取るため図書館に籠り、過去の判例をあさり続けている。
無論ハリーもその仲間なのだが最近顔を出していないらしく、そのためハーマイオニーは不満げだ。

「ルーピン先生の所だよ」
「ルーピン先生? 一体何しに行ってるの?」
「守護霊の呪文を習ってるんだ」

あのコンパートメントで最後に見えた白い光を思い出す。
やはりあの光は守護霊だったらしい。

「守護霊の呪文? それ6年生で習うよう呪文よ?」
「うん、でもまた皆に迷惑かけるのも嫌だから…それにそろそろ習得出来そうなんだ」

ハリーは軽く頭を掻きながら言ったが、その顔は少し自慢げだ。
例の試合から数週間しか経っていない筈、それでもう習得しかけているとは…
どうやらあいつはかなり…いや今までが酷過ぎただけだが、かなり優秀のようだ、こうなったら手段は一つ。
手段を選ぶ必要も理由も無い、既に会得しているヤツから直接学ぶのがもっとも理想的だろう。

「あれ? キリコどこへ行くの?」
「ルーピン教授の元へだ」
「何で?」
「守護霊の呪文を教えてもらうよう頼んでくる」
「えっキリコも?」

ルーピンに頼むために席を立った。
戻りたくも、思い出したくも無い地獄、しかしそれはヤツらのせいで何回も叩き落とされる羽目になった。
もううんざりだ、いい加減にしてほしい。
俺は疲れた心を守るためにも、教員室へ足を進めるのであった。


*


エクスペクト・パトローナム(守護霊よ来たれ)

ハリーの目の前にある箱を開けると、そこから吸魂鬼…に化けたボガートが現れる。
それに割り込み守護霊の呪文を唱えるが、杖の先端からは小さな光の玉が出てくるだけであった。

「………」
「…上手くいかないね」

吸魂鬼を箱の中に閉じ込めながらルーピンは頭を抱える、直接ならっても尚守護霊呪文の習得は難航していた。
「一人も二人も変わらないさ」ということで特訓してもらえるようになったのは良かったのだが、肝心の習得が一向に進まない。

「…何か原因があるのでしょうか」
「イメージがハッキリ出来てないんじゃない?」
「いや、それだけならもう少し光が出るはずなんだけど。
うーん………」

尚ハリーは先ほど習得完了したばかりだ、もっともまだ実体を成していないが…俺と比べれば雲泥の差。
ここまで酷いと何か根本的原因があるとしか思えない、俺と同じことを考えたのかルーピンも首を傾げながら考え出す。

「もしかしたら…」
「心当たりが?」

しかしルーピンは何故か言うのを少し渋っている、一体どんな理由が浮かんだのだろうか。

「…君は最初吸魂鬼に会った時、一日中寝込んでいたね?」
「はい」
「さらに以前のクィディッチで感情を吸われた時は、三日間も寝込んでいたね?」
「…それが何か?」
「…それは普通あり得ないことなんだ」

あり得ない? どういう事だ? 
吸魂鬼に感情を吸われればどんな人間でも影響を受けるのが普通のはずだが。

「え? そうなんですか?」
「ああ、吸魂鬼に感情を吸われれば影響が出る、だがそれは一時的な物で、魂を抜かれない限り長くても数時間で目覚める筈なんだ。
…でも君は三日間も寝込んだ、さらに感情を吸われず、目の前で会っただけで一日寝込むなんてあり得ない」

思いもよらぬ事態に目が丸くなる、それが意味するのは俺が吸魂鬼に対し人並み外れて弱いということ。
だが何故そこまで吸魂鬼の影響を受けるのだろうか…、そこで俺はようやく気付いた。

「…吸魂鬼の影響は、過去に大きなトラウマがあるほど大きくなる」
「そうだ、ここからは私の推測だが…君の心の中は、幸運よりも不幸な思いでのウエイトが大きすぎるんだ。
だからあそこまで影響を受けるし、本来あり得ないけど守護霊を出す事にも影響があるんじゃないか?」

推測どころでは無い、むしろ大当たりだ。
かつての思い出を思い出そうにも、ほとんどロクなのが無い、というか無理に思い出そうとすると発作まで起こる、流石に今はもう落ち着いているが。
…ということはまさか俺は守護霊を出せないのか? そんな俺の心境を知ってか知らずかルーピンは優しく静かに語りだす。

「…けど、守護霊の光は出ている、不可能ではない筈だよ。
君がどんな不幸を背負っているかは聞かない、…無理に聞かれるのは誰だって嫌だからね」

ヤツが語る言葉は、俺やハリーに向けてだけではなく自分自身に言っている様にも聞こえた。

「それに肝心なのは不幸の数でも、幸せの数でもない。
守護霊を出すのに大事なのは、『自分がそれをどれだけ幸せに考えている』かだ、例えそれが悲劇に見えても君にとって幸せならば…」

ルーピンの言葉を受け、俺は今一度自らの記憶を辿ってみる。
地獄、地獄、そのまた地獄。
その中で俺が幸せな思い出と考えられる出来事。
それは―――

「…イメージできたかい?」
「………」

あの時の映像を、気持ちを、忘れることの、忘れてはならないそれを鮮明に思い出す。
返事はしない、ただ記憶に没頭し首を頷かせるだけだ。

「ではいくよ…!」

開けられた箱から襲い掛かる偽りの悪夢、それを見据え、かつての光景を目に焼き付けながら呪文を唱える―――!

「エクスペクト・パトローナム! -守護霊よ来たれ!」

杖から発せられた光は徐々に強くなり、数秒後、激しい本流となり放たれた。
それは実体を成していなかったが吸魂鬼を払うには十分、吸魂鬼は光に弾き飛ばされながら箱の中へ押し込まれていった。

「やった!」
「よし! 成功だ!」

成功の喜びもつかの間、力が抜け一気に襲い掛かって来た疲労感でその場に座り込む。

「君たちの年齢でここまでできるのは素晴らしい事だ、誰でも出来る事じゃ無い。
けれどもまだまだ、展開速度が遅すぎる。
吸魂鬼を追い払うにはスピードが大事だ、幸福を吸い取られればそれだけ守護霊を出すのは難しくなる。
特にキリコ君は吸魂鬼の影響をハリー以上に受けやすい、視界に入った瞬間に出せなければ敗北が決定するだろう
…まあとにかく今日はお疲れ様、ゆっくり休みたまえ」

かくして俺とハリーの守護霊呪文の特訓は、一先ず幕を閉じたのであった。


*


俺とハリーが守護霊の呪文を何とか習得してから数週間、ホグワーツはクリスマス休暇に入った。
いつもなら殆どの生徒が家に帰るところだが今年は帰らない人数の方が多いように見える、それはシリウス・ブラックのせいなのだろう。
普通の家で脱獄囚の恐怖に脅えるよりはホグワーツの方が安全、ということだ。

だからなのだろう、ノクターン横丁はともかく普段は賑わいを見せるダイアゴン横丁は雪が無造作に積り、聞こえる風の鋭い音が人気の無さを表している。
そんな今年の休暇中、俺は珍しく家に帰省していた、といっても″漏れ鍋″に宿泊しているのだが。
それも只泊まっている訳ではなく、アルバイトで資金を稼ぎながら泊まらせてもらっているのだ。

別に学費が困窮しているわけでは無い、むしろ魔法界の通貨は人間界と比べて安いので比較的余裕はある方だろう。
このアルバイトの目的は資金稼ぎのためである、…武器調達のための。
今はまだ予定の段階だが、これからAT用に多くの武器を必要とするだろう、問題としては人間サイズではATが使えない点だが…

これについても対応策は考えてある、″検知不可能拡大呪文″と″肥大化呪文″の二つを駆使する方法だ。
まず肥大化呪文で武器をATサイズまで巨大化させる、それを検知不可能拡大呪文で内部を巨大化させたバックサック当たりに保管しておけば、状況に応じて様々な武器を使用可能になるだろう。

が、それだけの種類を買い揃えようとしたらアホみたいな金が掛かる、なので迫りくる人食い株と闘いながらも命がけで金を稼いでいるのだ、尚一人暮らしの期間が長かったので自炊は一通りできる。

「キヒヒヒ、いらっしゃ…おやぁ! 久しぶりですねぇ!」

立てつけが悪いプランパンドールの扉を開くと、例の胡散臭い武器商人がいやらしい笑みを浮かべながらこちらにすり寄って来た。

「…で? またアレですか?」
「ああ…」

店主の会話を適当にあしらいながら螺旋階段を下りていくと、あの綺麗に整頓された武器庫が姿を現した。
今回の目的は簡潔に言うと武器ではなく″罠″である。
そもそもは叫びの館にシリウス・ブラックが居るのでは? という訳でヤツが侵入してきた時の為に幾つか罠が欲しかったからだ。
まあ俺の勘違いだったとしても、それはそれで侵入者避けにはなるので、買って損は無いだろう、ということである。

C4(赤外線対応)、クレイモア、地雷…

しかしなかなか手頃な罠は見つからない、いくら凶悪犯罪者といえど殺してしまえばこちらが罪に問われる、あまりに過激な物は使えない。
…ここは原始的な方法にしてみるか、そう考え手に取ったのはスタングレネードであった。

「ん? それをどうするんですかぃ?」
「糸を使った罠にする」

要するに床に張った糸や、俺の使う扉以外を開いた時にピンが抜けるようにするという簡単な罠だ、糸はワイヤーを使えば大丈夫だろう。
棚からグレネードを二、三個取り出して店主に渡した。

「はぃはぃ、スタングレネード三個ですねぃ。
そういえばぁ、ブラックホークの調子はどうですかぃ? 何人殺りましたか」
「0だ」
「ありゃ、そうですか…まあその方が良いっちゃ良いですけど…あ、良ければメンテしましょうか? タダで」

銃の手入れというのは非常に重要だ、俺もこまめにメンテナンスしてはいるが専門家に見てもらえればそれが一番好ましい。

「良いのか?」
「えぇ、お得意様ですからぁ」
「なら頼む」

ここは好意に甘えておくとしよう、店主が拳銃を手入れしている間に他の武器を品定めしておく。
…そういえば、何故こいつはこれ程の武器を仕入れる事ができるのだろうか、一つ尋ねてみる事にした。

「…少し良いか?」
「はぃ? 何でしょ」
「お前は何故、これ程の武器を仕入れられる?」
「ああそれですかぁ? ククク…」

店主は随分ともったいぶった含み笑いをし、ギョロついた眼光をこちらに向けた。

「魔法省に″お得意様″がいましてねぇ、そのお方のお蔭で仕入れやすくなってるんですよぉ。
…はい、メンテできましたよ?」
「…ああ、感謝する」

光り輝く銃身を受け取り、その出来栄えに満足しながら店を後にした。
俺以外に兵器を使っているヤツが居るとは…
いや、そもそもあの商売が成り立っている時点で俺以外に客がいるのは当たり前か。




「…行ったか?」
「えぇ、でもお客さん何で急に隠れたんですか?」
「…トラウマなんですよ」
「あぁ、もしかしてぇ、お客さんの下半身を吹っ飛ばしたのって」
「そうですよ…そんな事より注文の品は?」
「まぁ…やってはみましたけど、何なんですかぁコレ…とても危なっかしいですしぃ」
「私も知りません、雇い主しか知らないと思いますよ」
「そうですかぁ…まあ雇い主様にはお願いしますよぉ」


*


クリスマス休暇が終わり、新たな日々が始まったころ、ホグワーツに二つの衝撃が走った。
一つ目はハリーが世界最速の箒″ファイアボルト″を手に入れた事だ、尚値段は500ガリオンである。
どうやってこの箒を手に入れたか、この箒は大丈夫なのかと色々あったが、結果としてハリーが世界最強の力を手に入れたことには変わりない、その力は後行われたグリフィンドール対レイブンクロー戦で、全寮の選手達が絶望するほどの見せつけてくれた。

そしてもう一つは、シリウス・ブラックが再び現れたというものだった。
それもグリフィンドール寮の中に侵入し、そこに居合わせてしまった生徒の一人、ロンを殺しかけたのだ。
だが何故ブラックがパスワードを知っていたのか…その原因はロングボトムが合言葉を書いたメモを落としていたという、何とも簡単な、そして深刻なミスが原因であった。
尚これでロングボトムはしばらくパスワードを教えてもらえなくなったらしい。

…だがおかしい。
何故シリウス・ブラックは誰も殺さず、しかもロンだけに襲い掛かったのか…
俺がこの答えを知るのは、意外すぎるほどにすぐのことだった。



キリコ用吸魂鬼マニュアル
50m内 急激な体温低下       対処可能領域
20m内 頭痛、吐き気、眩暈、心臓痛 対処可能領域
10m内 意識の混濁、全身の脱力   対処困難領域 
5m内  意識消失、最低1日卒倒   対処不能領域
1m内  意識消失、最低3日卒倒   対処不能領域
つまり50~10mまでに対応できないとチェックメイトです。


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第二十九話 「襲来(Bパート)」

ホグズミード回もといギャグ回です、
アズカバンの囚人もターニングポイントを越えました。
まあ、シリウスの無事でも祈っててください。


ホグズミードとは、世界で唯一魔法使いだけが暮らす村である。
だからだろうか、家も人の服装も、挙句の果てに空の様子まで違うらしい、それもダイアゴン横丁以上にだ。
週末そこに訪れる生徒達は皆思い思いの楽しみ方をし、今だ厳しい冬の寒さなど感じていないのだろう。

しかし俺はそこに行くことができない、ホグズミードに行くには親族の許可が必要なのだが俺にはすでに親戚は居ない。
よってどう足掻いても許可は出ることは無かった。

「ねえキリコ」

話しかけるキニスの表情はいつもと違い、何か言いたげである。

「許可、出なかったんだよね?」
「そうだが」
「許可が無いとホグズミードに来れないことは知ってるよね?」

一体何故こいつは当然のことをそんな顔で言っているのだろうか。
そしてヤツは叫んだ。

「じゃあ何でここにいるのさあああ!!」

絶叫するキニス、俺はホグズミードの広場でヤツとバッタリ鉢合わせていたのだ。
何故ここに居るのか、その理由は俺が熱い視線を向けるあの店にあった。

″珈琲豆店 ウド(ホグズミード支店)″

キニスが呆れ返った顔をこちらに向けてくるが知った事では無い、俺がこの店の存在を知ってからどれ程ここに来たかったことか。
何せホグワーツでコーヒーを飲もうにも、保存状態の関係上インスタントコーヒーが精一杯だった、今俺はその絶望から解放されるのだ。
尚正規のルートでは来れないので″叫びの館″を利用させてもらった。

「…もういいや、まあでも、まず″三本の箒″で温かいのを飲もうよ」
「断る」

いやまずはコーヒー豆だ、それしかない。
だが俺の腕はキニスに掴まれ、あえなく三本の箒まで引きずり込まれていくのであった。
仕方が無い、豆は後で買おう。




「酒をよこせ!」
「駄目です、未成年は飲酒できません」
「俺は酒を飲むんだ!」
「駄目なものは駄目です!」
「Noだ! Noだ!」
「子供は大人の命令を聞いていればいいんだ!」
「Noだ! Noだ! Noだ! Noだぁぁぁぁ!」
「ぐああああ!!」

店員の断末魔が響き渡っているが、俺の精神のため無視しておこう。
店の中には大人や子供など、多くの人々で賑わっていた、ここには多様なメニューがあるからだろう。
まあとりあえず何か頼むとするか…ホット蜂蜜酒、バタービール、ポリマーリンゲル溶液(コチャック製)、ギリーウォーター…
色々あるが、まあとりあえずコレだろう。

「バタービール! 二本下さい!」

どうやら俺の意図を察してくれたようだ、しばらく待っていると模様が書かれたジョッキに泡立ったビールのような飲み物が運ばれてきた。
震える体を温めるようにそれを流し込む…

冷え切った体にじんわりと伝わっていくのは、暖かさと滑らかな甘さだった。
それもお菓子のような自己主張の激しい甘味では無い、むしろ乳と卵がバランス良く配合され舌の上で溶けるような舌触りだ。
味も良い、とろみがついたバタービールの優しい味、それでいてくどいと感じさせないほんのりとした後味はまさに魔法。
その優しい味とボリュームの組み合わせは、冷え切った胃を満たすのに最高の成果を上げている。

…だが、やはり甘い、少しならともかくここまで量があると飽きてくるのは、もはや個人の問題だろう。
…よし、俺はバタービールに新たな力を与えるため水筒の中身を割と大目に入れる事にした。

「あらキニス、…ちょっと何でキリコが居るの!?」
「僕はそこにいるハリーの方が気になるんだけど」

新たな客はハリー達三人だった、ハリーは許可が出ていない筈だが…まあ些細なことだ。
俺達と同じくバタービールを頼み同じ席に座りキニスと話し始めていた。
それを他所に俺は新型バタービールに手を付けようとした…その時、外からマクゴナガルの声が聞こえてこなければ。

「! ハリー! マクゴナガル先生よ!」
「どうしたんだハーマイオニー、そんなに慌てて」
「忘れたのロン!? ハリーは許可を取ってないのよ!? あとキリコも! もし見つかったら…」
「と、透明マント!」

透明マントを取り出しそれに隠れるハリー、俺もそれに便乗させてもらったところで間一髪、マクゴナガルの目をかわすことができた。
…だが、その目が無くなったころ、ハリー達は明るさを失っていた。

「ハリー! ちょっとまってよ!」

マクゴナガル達の会話、それはシリウス・ブラックがハリーの名付け親であること、そしてハリーの両親を裏切り死へ追いやった張本人だという衝撃的、かつ残酷な真実だった。
その衝撃と怒りのまま飛び出して行くハリーと、それを追う二人。

「…酷い話だね」

キニスもまた悲痛そうな表情でヤツらの背中を見送っていた。
俺もまたいい気持ちはしていなかった、親を裏切った張本人、それが牢獄を脱出し近くに潜んでいるというのだ、その怒りは俺でも想像しえなかった。

だがそれと同時に不安も抱えている、その怒りに任せてまたハリーが無茶をするのではないかという不安が俺を蝕んでいたのだ。
しかしあの怒りを鎮める事は俺には出来ないだろう…そんな諦めを飲み干すように残りのバタービールを流し込む。

「………?」
「ん? どうしたの」
「…これはロンのだ」
「えっ」

先ほど出て行った時間違えたのだろうか、だとすれば非常にまずい、あのバタービールには水筒に入れていたコーヒーが結構な量入って―――

「ぶぅっつふぁああぁ!!?!?」

遠くから聞こえたロンのむせる声が教えるのは、既に手遅れだということ、そして少し入れ過ぎたという計算ミスであった…




腹も気持ちも満足したので学校へ戻ることにした、ただし列車は使えないので行き同様叫びの館経由である。
重く錆びついた入口を開け、軋む階段を登っていきたどり着いた部屋はあちこちが痛んでおり、積もった雪の冷たさが上から降り注いでいた。
学校へ戻る前に、無許可立ち入りが発覚しないよう体についた雪を払い買った物をポーチの中へねじ込む。

証拠隠滅を済ませ校舎に戻ろうと扉に手を掛けた…時であった、下の階から軋む音が聞こえて来たのは。

「………!」

反発的にローブから杖を取り出し構える、そして扉からすり足で慎重に離れ別の部屋に隠れようとする。
何者だ、突如として現れた来訪者、それはおそらくシリウス・ブラックだろう、そうでなくともまともなヤツがここに来る筈が無い。

ギシ…

(しまった…!)

だがどれ程警戒しようともこの老化した屋敷は簡単に悲鳴を上げてしまう、その軋みに反応するように下からの…いや、既に扉の前まで迫っていた足音はピタリと止んだ。
こうなれば止むを得ない、息を飲みこみ目を開き襲来を覚悟する、すると向こう側から少しやつれているような声が叫びを放つ。

「そこに誰かいるのか!?」

その声には聞き覚えがあった、日刊予言者新聞に載っていた写真、それに写っていたシリウス・ブラックの声と完璧に一致する。
やはりシリウス・ブラックだったようだ…しかしこのまま黙っていては必ず突入されてしまうだろう、とにかく何か返さなくては。

「…シリウス・ブラックか?」

分かり切っている質問の答えを投げかける、その間に逃走しようとしたが…返って来た言葉は思いもよらないものだった。

「…! その声、まさかリーマスか!?」

俺は思わず目を丸くした、何故ここでルーピンが出てくるのだ?
確かに俺とルーピンは良く『声がそっくり』と言われているが…いやそんなことはどうでもいい。
とにかくヤツは俺をルーピンと勘違いをしている、ヤツとルーピンの仲が良いのかどうかも分からないが話を合わせるべきだろう。

「…ああ、…そうだよ」
「やはり…! だが何故今日ここに居るんだ? 今日は満月ではない筈だが」

一体何のことを言っているのか分からず混乱へと陥りかける、まずい、今下手な答えをいう訳にはいかない、すぐさま質問の意図を探り始める…
満月…満月の日に何か特別なことがあるのだろうか。
その時スネイプの授業、その時の内容が満月と結びついた、そう″人狼″だ。
思えばあの日は満月だった筈、だとすればルーピンは人狼だったのか? そう考えればあの日休んだ理由の説明がつく。

その瞬間この屋敷の存在する理由を直感で理解した、ルーピンが人狼だったこと、そしてシリウス・ブラックの質問をつなぎ合わせる。
この屋敷は人狼になった時の為の隠れ家だったのだろう、他の誰かを襲わない様に、だからここまであちこちに爪痕がついていたのだ。
それが合っているかは分からなかったが今すぐ答えないと怪しまれる、その推測を元に答えをでっち上げる。

「…少しくらい修繕しておこうと思ってね」
「なるほどそういうことか」

何とか納得してくれたようだ、扉からさらに距離を取りつつ少し胸を撫で下ろす…だが、次の質問を答えることはどうやってもできなかった。

「本当に…また会えて嬉しいぞ()()()()! きっとお前は私の無実を信じていると信じていた!」

()()()()? まずい、これは恐らくあだ名だろう、ならば俺もあだ名で返さなくてはならない、しかしそんなことを知る訳が無い。
だがこの一瞬、少しの戸惑いが間違いだった。

「ムーニー? …誰だお前は!?」
「………!」

数秒間の沈黙がヤツに再び疑いを与えてしまった。
ばれたか…! ヤツは扉を勢いよく突き破り部屋に突入してきた!
こうなれば仕方が無い!

ステュービファイ(失神せよ)!」
「うおっ!」

先手を打ち失神魔法を放つ! だがヤツは驚いてこそいたが冷静に素早く身を翻す!
その隙に扉を開け別の部屋へと逃走するがそれを見逃す筈も無い。
しかしそれでいい、扉越しなら確実に命中する!

この杖は強力だが効率が悪い、よって長期戦にはとことん弱くなる。
だがその欠点をいつまでも放置しておく理由も無いのだ。
それは出力を全て″速さ″に回すことで貫通力を上げ、燃費を良くした呪文、よって遮蔽物に当たっても貫通することが出来る!

「エクスブレイト -爆破弾頭」

扉に向かって杖を振り、その軌道に乗って閃光が発射される!
閃光は回転し収束し、扉の向こうのシリウス・ブラックを貫いた!

ドゴオオオン!

「ぐあああっ!?」

奇襲! そして悲鳴と轟音!
扉が軽く吹き飛び、その中から肩の一部が抉れたシリウス・ブラックが絶叫を上げる。
致命傷にはいたらなかったか、この呪文は代償として威力が少し下がるのが欠点なのだ。
しかしヤツはまだ、倒れず部屋へ入ろうとする。
…だが作戦はまだあったのだ!

カッ!

「ぐあっ!? 目、目が!?」

部屋中を照らす光、部屋の境目のワイヤートラップが閃光手榴弾を起爆させたのだ。
これでヤツの目はしばらく使えないだろう、その隙に再び別の部屋へ隠れる。

俺を見失ったシリウス・ブラックを壁に空いた穴から見つめ、トドメを刺そうと杖を構える、が…

(!? 消えた!?)

瞬きの一瞬、シリウス・ブラックはその姿を消し去ってしまった。
壁から離れ全方位を警戒する。
姿くらましか? それとも目くらまし術か? いや杖が無い以上それは考えられない。
ならば…その瞬間衝撃は上から襲来した。

「ガアアアアア!」
「!?」

それは黒く巨大な犬だった、想定外の事態に対応が一歩遅れた!
そうか!動物もどきか! それに変身し暗闇に紛れ、臭いで俺を見つけたのか!
鋭い爪で腕を裂かれ、杖を奪われながら壁へ激突する!

「う…!」

その衝撃によって崩れ落ちるキリコ・キュービィー。
人間の姿へと戻ったシリウス・ブラックは奪った杖を構えながら倒れるキリコへ近づいてゆく。

(どうする…? 見た所ホグワーツの生徒のようだが。
死んではいないようだが…殺すのはマズイ、ここは忘却呪文で記憶を消す方が良いだろう)

忘却呪文を確実に掛けるため、気絶しているキリコの目の前まで接近し杖を向けた、だがその時!

カチャッ

「な!?」
「………」

青髪の少年が構えている物、シリウス・ブラックはそれを知っていた!
気絶していたとばかり思っていたこいつは! 自分の眉間に″銃″を突き付けたのだ!

「何故お前のような子供が銃を持っている!?」
「…さあどうする、俺を殺すか?」

シリウスの質問に答える事も無く、キリコは淡々と言葉を迫らせる!
思考するシリウス、今こいつを殺せば、自分は必ず捕まってしまう!
だが見逃しても捕まってしまうだろう…
まさに詰み、シリウスは既に敗北していた。
…ならばせめてマシな選択をしよう、そして杖を離す。
だがそれを見たキリコもまた銃を離したのだった。

「な…私を殺さないのか?」
「…エピスキー(癒えよ)

少年は疑問に答える様子も無く、むしろ私の肩の出血を止めてくれた、一体何者なのだこの少年は…
そう考えていると、何と少年はそのまま帰ろうとしていた。

「わ、私を捕まえないのか…?」
「…犯人では無いのだろう?」

目を見開くシリウス・ブラック、彼の口から出た言葉はそれ程に衝撃的な物だった。

「!! そうだ! 私は違う! …だが何故そう思った?」
「『あいつはホグワーツに居る』…ハリーが入学したのは三年前だ」

俺が前々から疑問に思っていたことがこれだ、ハリーの入学は当時相当話題になり、三日間は新聞の一面を独占していた。
なのに今更『あいつがホグワーツに居る』…気づくのがあまりにも遅すぎる、だとすればこれは今年になって初めて″何か″に気づいたと考えるのが妥当だった。
だがヤツを信じたのはそれだけでは無い。

「そ、それだけで私を信じたというのか…!?」
「俺を殺さなかったからだ」

そう、ヤツは今でも俺を殺すことができる、それに先ほど死んだふりをしているときもヤツは殺そうとしなかった、その気になればそれこそ死の呪いでも撃てたというのに。
ならばこいつは世間で言われているような凶悪犯では無い、俺は先ほどのやり取りでそれを確信していたのだ。

…ならば、真犯人、もしくはその手掛かりがホグワーツにあるということか?
だとすれば無視することは危険すぎるな…

「…真犯人は誰だ?」
「っ! ピーター! ピーター・ペティグリューだ! ヤツが真の犯人だ! あいつは鼠の動物もどきで(アニメーガス)で下水管に逃げていたんだ! 小指を一本だけ切り落としてな!」

確かにそれなら筋が通るな、…まて、鼠?
小指を切り落とした…小指だけ無い鼠…まさか…

「…スキャバーズ?」
「知っているのか!?」

そうだ、確かにロンの飼っている鼠は小指が無かった、だからこいつはグリフィンドール寮に侵入しようとし、ハリーには目もくれずロンに襲い掛かっていたのか。
…ハリーの両親を裏切り、そして自身の為なら手段を問わない男。
無視しておくにはあまりに危険な存在だろう、何より…

「…協力する」
「何?」
「ペティグリューの捕縛を手伝う、と言っているんだ」
「良いのか!?」
「ああ」

既に乗り掛かった舟だ、降りるわけにもいかないだろう。

冤罪により孤独を、地獄を味わってきただろうシリウス・ブラック。
俺はヤツに対し親近感を抱いていた。
神、その手足によって地獄へ叩き落とされた苦しみが癒えることは無い、あのリドの暗闇に落とされたからこそ、炎を見つける事ができたとしてもだ。
吹雪によって叫ぶ館の中、俺は古く色褪せた懐かしさを感じていた。



誰を狙うのか、何処へ潜むのか
憎む物が憎み、逃げる物が逃げる
ためられたエネルギーが出口を求めて沸騰する
復讐と執念、恐怖と弁疏、過去と悲劇
舞台が整い役者が揃えば、暴走が始まる
そして、先頭を走るのは、いつもあいつ
ハリー・ポッターとラストレッドショルダー、第三十話『臨界』
メルトダウン、始まる


同 盟 結 成
スキャバーズ「あ、これ死んだわ」 
ちなみにバタービールですが筆者はUSJのを飲んだことがあります。
味は…言うほど不味くないかと。

新魔法 ○○ブレイト -○○弾頭
呪文の貫通力と速度を徹底的に上げた呪文、様々な呪文に適応可
ただし威力と範囲が低下する…が、キリコの場合元から威力が高い。
よって低下しても威力だけは平均値のままである。
あと良コスパ


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第三十話 「臨界(Aパート)」

いよいよ書くことが無くなってきたな…
何かネタでも投下していくか?


俺がブラックと協力関係になってからも、シリウス・ブラックの恐怖は学校中を覆っていた、だが時は偉大だ、イースター休暇を越える程の時間と共にそれは風に吹かれ消えていった。
今学校を包み込む空気はシリウス・ブラックへの恐怖ではなく、じりじりと確実に迫り来る学年末試験への恐怖であった。

しかし何人かはそれに集中している場合ではないようだ、何故ならとうとう、ヒッポグリフの処刑が決定してしまったからである。
それを止めようとハリー達は躍起になって過去の判例を漁っているらしい、そしてここにもヒッポグリフを助けようとするヤツが一人。

「署名をお願いしまーす!」

授業の終わった放課後、ここ数週間キニスは試験勉強には目もくれずに広場でビラを配り続けているらしい。

「あ、キリコ! キリコも署名してくれる?」
「………」

正直な所、俺もヒッポグリフが処刑されることに良い感情は抱いていない。
それに書いたとして何か減るわけでもないので羊皮紙に名前を掻き連ねる、紙を見てみると既に中々の数が集まっているようだ。

「何の罪もないヒッポグリフが殺されようとしています!
そんな横暴を許さないためにも!
貴重な生き物を守るためにも皆さんの署名が必要です!」

喉が張り裂んばかりの大声で、一人叫び続けるキニス。
だが流石に数週間もたつと粗方署名しつくしてしまい、道行く人々は無視か、中には嘲笑を向ける者もいる。

「…すまないな」
「ん? ああ気にしないでいいよ、僕がやりたくてやってるだけなんだから」

一人でなく複数人いればもう少し違ったのかもしれないが、ハリー達は少々厄介な事になっており判例調査で精一杯。
俺もヤツとの作戦会議のせいで手を空けようにも空けられない。
それでも諦めずに叫び続けるキニスの姿に、俺は尊敬の念と、手伝おうにも手伝えないという状況のもどかしさに少しの後悔を抱いていたのだった。




周囲に人の気配がないか慎重に探り、誰もいない事を確認してから柳の麓のこぶを押さえる。
すると今にも暴れだしそうだった柳は嘘のように大人しくなった、ヤツから聞いたこの通路の正しい通り方だ。

暗い通路を進んでいき屋敷の中へ入る、そしてあちこちに仕掛けた罠を踏まないよう確実に足を進める。
最後の扉を開くと、そこの部屋には黒い大型犬が尻尾を振って待機していた。

「わふっ!」
「………」

持ってきた袋の中を取り出す、そこには食堂から直接買った干し肉などの保存食が入ってる。
それを一切れ渡すと、犬は一目見て分かる程に目を輝かせ肉に食らいついていった。

一方で俺はここに常設しているコーヒー器具たち(2セット目)を使い、温かく鋭い苦さを持ったコーヒーを二つあるカップに注いでいく。

それを飲みながら一息ついていると、もう一つのカップがすでに空になっていることに気がついた。

「それでどうだ? スキャバーズ…ペティグリューは見つかったか」

人間の姿へと戻ったシリウス・ブラックが窓に腰掛けると、憎しみを隠そうともしないように口を開く。

「………」
「そうか…クソ、一体何処へ隠れたんだ?」

顔を落としながら首を横に振ると、ブラックもまた肩を落とし落胆する。
そう、本来ロンの所に居るはずのペティグリューは数週間前から居なくなっていたのだ。

元々俺達は、俺がスキャバーズを捕まえこの館まで連れていき、そこで変身を解除する予定でいたのだがヤツが居なくなってしまったので計画の修正を余儀なくされていた。

「…ロンは、ハーマイオニーの猫、クルックシャンクスに補食されたと言っているが」
「いやそれはないだろう、あいつは確かに臆病の卑怯者の裏切り者だが、実力は十分あるし機転も利く、猫に喰われるほど間抜けでは無い筈だ。
…だからこそ俺はアズカバンにぶちこまれたわけだがな」

コーヒーを飲みきり、忌々しげにカップを机代わりのピアノに叩きつけるブラック。
厄介事とはまさにこのことだったのだ。

クルックシャンクスとは、ハーマイオニーが今年になって飼い始めた猫なのだが、何故かスキャバーズを親の敵のように追いかけ回していた。
そのためロンはスキャバーズがクルックシャンクスに食べられてしまったと思い込んでおり、大喧嘩になってしまったのである。

しかも証拠代わりに、スキャバーズに切り傷をつけた前科あり。
その結果ハリー達はロン無しの、人手が足りない状況での判例探しを。
キニスは一人で署名活動をする羽目になったのであった。

「それにクルックシャンクスには捕まえてくれるよう頼んであるからな、食われることは無いさ」

…こいつは今何と言った?
クルックシャンクスに頼んでいた? ではクルックシャンクスがスキャバーズを遅い続けていたのは偶然ではなく、こいつの命令を聞いていたから…
ということはロンとハーマイオニーの仲が険悪になってしまったのはこの男のせいなのか。

あまりに意外な黒幕の登場に対し、俺は呆れ返る以外の術を持たない。
…まさか、嫌な予感と共に脳裏をよぎった疑問を訪ねる。

「ファイアボルトを送ったのはまさか…」
「私だが…それがどうした?」
「………」

開いた口が塞がらない、とはまさにこのこのか。

「いや、箒が壊れてしまって落ち込んでるハリーを見たらついね
…あ、送るのもクルックシャンクスに頼んだから私だとは分から無い筈だよ」
「………」

クルックシャンクスを差し向けた挙げ句ハリー達の仲を険悪にしたこと。
自分の存在が発覚するかもしれないのにファイアボルトを送った迂闊さ。
こいつは本当にペティグリューを捕まえる気があるのだろうか…
俺は一抹の…いや、かなりの不安に駆られていた。

「まあそんなことより、ペティグリューをどう見つけるかだ」

そんなこと…深い溜め息をつきそうになるが何とか飲み込んでおく。
確かに優先すべきはそちらだろう、だが…

「…何か良い手段はあるか?」
「…無理だな」
「やはりそうなるか…」

俺に代わって深い溜め息をつくブラック、その気持ちが分からないわけではない。
しかしどうようもないのも事実だ、ホグワーツだろうと何処だろうと鼠など幾らでもいる。
その中から一匹だけ見つけ出せという方が無理難題である。

「…あっ! アレがあった!」

椅子から勢いよく立ち上がったブラックが、何か思い付いたのか強く叫んだ。

「″忍びの地図″だ!」
「…忍びの地図?」
「ああ、私達…ハリーの父親と私、それとリーマス、…ペティグリューが学生の頃に作った地図だ」

それはホグワーツ敷地内の詳しい詳細が書かれた地図らしく、隠し通路どころか、校内に居るなら人間の位置も分かるらしい。
これを使えばペティグリューの居場所も見つけることができる…と、ブラックはやたら熱く語ってきた。

「アレがあればペティグリューが何処へ隠れようとも無駄だ!」
「…それはどこにあるんだ?」
「あー…確か…用務員室のどっかだと思うぞ、まだ残っていればだが」

何でも卒業間近にフィルチに取り上げられた…もとい後輩のために取っておいたらしい、こいつら何て危険物を残してるんだ。

「…分かった、探してみよう」
「助かる、それで…罠は?」

ブラックの問いに呼応しローブから″罠″を取り出す。
何故罠が必要なのかというと、ペティグリューが万一にも逃げられないようにするためである。

「これを館のあちこちに仕掛ければいいんだな?」
「間取りはこれだ、…使い方は分かるか?」
「説明書を見ればな」

扱いを間違えないか不安ではあったものの、それをブラックに渡す。
これを買った結果バイト代が全て風に散ってしまったがやむを得まい。

そう、ブラックに渡したのは″クレイモア″。
それだけではなく催涙手榴弾(鼠用ワイヤートラップ)、地雷(改造型)等の爆発物、その他ホームショップで購入した鼠取り用の罠を用意してきたのだ。
一応店主に頼んで致命傷は負わないレベルにしてもらっている、問題は無い。

そう、叫びの館は炎と硝煙が漂う地獄に変わりつつあったのだ。


*


暗闇の中、光すらつけずに影が蠢く。
誰も居ない廊下に鳴り響く音は自分自身の足跡だけ、闇に目を慣らしながら俺は夜の廊下を歩いていた。
それはまるで俺の生き方のようであったが、ハッキリとした目的を持ちながら歩いていた。

用務員室に忍の地図はあるのか、それは分からなかったが行かないことにはどうしようもないだろう。
だがフィルチの所につく前に、地図は向こうからやった来た。

(光…? あれはハリーか?)

廊下の角から発する光を警戒していると、そこからハリーが現れた。
無論″目くらまし術″は使っているので見つかりはしないが。
しかしヤツは鬼気迫る様子でしきりに回りを見渡している、何か探しているのだろうか。

よく見ると手元には古そうな紙が握られている…まさか。
気付かれないように手元を覗いてみると、そこにはハリーや俺の名前が記載されている地図があった。
…参ったな、どうやったのか忍の地図はすでにハリーが手に入れていたらしい。
奪う…訳にもいかないが…貸してもらうか?

だが見付かっても面倒だ、いまだに周りを見渡すハリーから離れようとする。
だがその時俺はそれを見た、地図の端をピーター・ペティグリューの文字が走り去っていくのを。

「ルーモス・ソレム!」

暗闇に紛れ既に場所は分からない、だが先程の地図が大まかな位置を示していた!
そこを強烈な閃光で照らす!

「うわあああ!?」
「なんだ今の光は! ポッター貴様か!?」
「スネイプ先生!? 違います! いきなり光が―――
ってキリコ!?」

暗闇を引き裂いた光が、何も無い廊下に唯一動く影を映し出す。
それに狙いを定め一撃を放つ!

「ステューブレイト ―失神弾頭」

目にも止まらぬ早さで放たれた弾丸、しかしヤツは間一髪、ダクトの中へ滑り込み弾丸は壁を貫き何処かへ飛んでいってしまった。

(逃がしたか…)

ようやく見つけることができたペティグリューを逃がしてしまったことに悔しさを滲ませていると、背後から俺に似た声が聞こえてきた。

「一体何があったんだね?」
「おやこれはルーピン教授、何、校則違反をした挙げ句馬鹿騒ぎをしていた生徒を見付けただけですよ」

現れたルーピンに対し、嫌悪感むき出しの口調で対応するスネイプ。
二人の間に緊迫した空気が走る

「…では我輩はこやつらに罰則を与えなくてはならんので失礼する」
「分かった、しかし二人の罰則を一人で見るのは大変でしょう?
ハリーの方は私が罰則を与えましょう」

…どうやら俺はハリーを助けるための生け贄にされたらしい、ますます顔を険しくするスネイプだったが静かに溜め息をついた。

「さようですか…ではしっかりとお願いします」
「ああ、勿論。
…さあついてきたまえ」
「…キュービィー、貴様はこっちだ」

黒いマントを翻し引き返すスネイプの後についていく。
只でさえ暗い廊下のさらに奥、地下室は輪を掛けて暗く湿気が俺の肌を冷たく刺激する。
そこの一室、魔法薬学の教室にある教員室に辿り着いた。

「…座りたまえ」
「…失礼します」

古ぼけたソファーは反発せず、少し軋んだ音を出すそれに俺は座った。
スネイプはその対面の同じソファーに腰掛け、深い溜め息を一回ついた。

「まさか貴様がこういったことをするとは思わなかったぞ」

ヤツの機嫌の悪さが収まる気配は一向に無い、俺が手間を掛けたのが面倒なのか、はたまたハリーを取り逃がしたのが悔しいのか…

「それで…何故夜間に出歩いていたか教えてもらおうか」
「…ブラックを捕まえるために夜の校舎を彷徨いていると聞きました。
止めたのですが効果が無かったので、いざという時のために彼を見張っていたのです。」

俺は嘘でこの場を誤魔化すことにした、流石に「ピーター・ペティグリューを追い回していました」とは言えまい。

「…成る程、やはりポッターか」

どうやらヤツは騙されてくれたようだ、ハリーには悪いことをした、これで被害を被っていたら謝っておこう。

「やはり父親に似てどこまでも傲慢なヤツだな…まあブラックを憎むのは分かるが」

ブラックを知っているのか? いや、ブラックがハリーの親を裏切ったということは教員なら知っているか。

「ブラックめ…もし見付けられたら…
…ああ、そうだ罰則だったな」

ブラックの名を出すヤツの目には、凄まじいほどの憎悪が映し出されている。
そして吐き出すように何かを良いかけたが、それは罰則の話へと変わってしまった。

「…では罰則は教科書の書き取りだ」

思ったより軽い罰則に思わず拍子抜けしてしまった、スネイプがこの程度で済ませるとは珍しい。

「…それだけで良いのですか?」
「初犯に正当な理由もある、それとも最も重い罰則が望みか?」
「いえ、ありがとうございます」

やらなければならないことがある、罰則が軽いならそれに文句を言う理由は無い。

「では失礼します、申し訳ありませんでした」
「以後気を付けるように」

謝罪の後一礼をし、部屋から出て寮へと戻…らずルーピンの教員室へ直行した。
流石に罪悪感が沸いてくるが、ペティグリュー捕縛のためだ、やむを得まい。

闇の魔術の防衛術の教室まで来ると、ちょうどハリーと入れ違いになった。
それと同時に教室を覗くと、ルーピンが教員室に入って行くのが見えたのでその隙に教室に入り込む。
教室の中を探すと先ほどまでルーピンが居た机に忍びの地図が置いてあるのを発見した。

「ジェミニオ -そっくり」

双子の呪いを使い地図のダミーを作り、本物の代わりに置いておく。
本物の効果まではコピーできないのでその内偽物とはばれるだろう、だが盗んだのが俺とばれなければ問題にはならないのだ。
地図をローブの中に仕込み、教室から脱出し素早く寮へと戻って行った。

…しかし地図とは別に、俺の心にはスネイプの目が焼き付いていた。
あの目は確かに憎悪に燃えていたが、それだけでは無い様にも見えていたのだ。
憎しみの炎の中で僅かに揺らぐ瞳。
そこには憎しみよりも、悲しさと後悔が酷く寂しそうな影が差し込んでいるようだった。



叫びの館「あれ? もしかしてヤバイのって俺じゃ…」
それにしても必要の部屋に無断外出、このSSのキリコはだいぶ悪餓鬼ですね。


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第三十話 「臨界(Bパート)」

もうじきアズカバン編も終わりです、
ピーターか、シリウスか、スネイプか、
誰が消し炭になるのか楽しみにしていてください。


学年末試験は散々と言う言葉も生温い程酷かった、本当にこれでもかと言うほど酷かった。

まずテストの出来が酷かったのは予想済みだし、いつものことだからそんなに気にしていない。

特筆して言うことと言えば、″呪文学″のテスト内容は″元気の出る呪文″を上手く掛けられるか。
だったんだけど、僕が掛けた結果普段表情筋が死んでるキリコが、部屋中に高笑いを響かせたもんだからクラスの皆が震え上がった…くらい。

あとはハグリッドの魔法生物学が物凄くつまらなくなってしまったこと。
というかテストだけじゃなく、授業自体がつまらなくなっていた。
あの日バックビークがドラコの腕を折ってから、授業内容は″レタス虫″を育てるだけになっていた。
そいでもってテスト内容は自分のレタス虫がテスト終了まで生きていればOK

…ちなみにレタス虫はレタスさえ食べてれば年中絶好調だ。

でもそんなことはどうでもよかった、僕は、…僕たちはテストが終わった時よりも大喜びしていた。

「うおおおお! お前さん達好きなだけ食え!」
「うわ!」

涙と鼻水でぐちゃぐちゃ&酒臭いハグリッドの力強いハグを回避する。
そう! バックビークの裁判に勝つことができたんだ!
正確には無罪じゃなくハグリッドが罰金を払うことになったから有罪だけど、ともかく死刑は免れた!

「奴ら驚いていたんだ、裁判が始まった途端裁判所が埋まるほどの署名を梟が運んできたんだからな」
「本当にありがとう、キニスが居なかったら駄目だったかしれないわ」
「いやいや、ハーマイオニー達が無実の判例を見付けてくれなきゃ、何万人集めてもダメだったよ」

あれから数ヵ月、僕はありとあらゆる手段で署名を集めまくった。
ホグワーツは当然として、週末のホグズミード広場を占領したり、イースター休暇の時はダイアゴン横丁の大通りを練り歩いた。
さらに先生達の署名も限界まで集め、ついにダンブルドア校長の署名もゲットしてやった。
でもやっぱり一番効果があったのはドラコのお父さんが死刑要求を変えたことだろう。
あ、あと何故かホグワーツにいたニュート・スキャマンダーさんの直訴状も忘れちゃいけない。

「それにしてもキニス、一体どうやったんだ? あのマルフォイの親父の証言を変えるなんて」
「簡単さ! ドラコがお父さんを説得するまで付きまとって、後ろからシンバルとホイッスルを鳴らし続けただけだよ、延々と」
「…へ、へぇ」
「それは…お疲れ様」
「うん、流石に一か月間ずっと説得するのは疲れたよ」
「説得…?」
「それ脅迫…もういいや何でも」

何で皆首を傾げているんだろう?
そんな訳で、お礼として夕飯をご馳走になっている、…まあ僕らでも食べれる物はそう多くないんだけど。
ゴツゴツしたロックケーキを紅茶で柔らかくしながら食べてる内に、いつの間にか外は暗くなってきていた。

「ううっそれでよ、バックビークは俺の気持ちが分かってるように―――」

完全に酔っ払っているハグリッドはさっきから″ハグリッドとバックビーク種族を越えた友情~ドラゴンの卵付き″を三回程繰り返している。

「…私疲れてきたわ」
「同感だね」

僕もそういった話は嫌いじゃないので最初の方は楽しく聞いていたけど、流石にハリー達同様顔色が薄茶色になりつつある気がしてきた。
いつ撤収するか…そんな会話を目線で始めようとした時、急に暖炉からふくろうが飛んできて手紙を落としていった。

「何だ急に?」
「ハグリッド宛みたいだけど…」
「見ろハリー、バックビークが飛んだぞ!…グゥ」
「…駄目みたい」

酔いつぶれたハグリッドが手紙に気づく様子は無かった、こりゃどうしたもんか。

「中身見ちゃって平気かな?」
「駄目に決まってるでしょ」
「あれ? これダンブルドア校長先生からみたいだ」
「ダンブルドア校長!?」

手紙の端っこに書かれたダンブルドア校長先生の名前をハリーが読み上げると、酔いつぶれていたハグリッドが大声を上げながら跳ね起きた。

「一体何の用で…ああすまねえ、せっかく来てくれたのに悪いが俺は校長の所へ行かなきゃいけねえ。
好きなだけ食ってていいからくつろいでいてくれ ヒック!」

慌ただしく小屋から千鳥足で歩いて行くハグリッド、そして小屋に残された僕たちはボー然としていた。

「…どうしよっか」
「食べると言われても、僕たちが食べれるものは大体食べちゃったし…」

ドドドドド

「おっと言い忘れてた!」
「おわぁ!?」

地鳴りを鳴らしながらUターンしてきたハグリッドは、小屋の端の箱を指さした。
よく見ると少しガタガタと動いている。

「これがどうしたの?」
「ああ、中にロンの鼠…スキャバーズだったか? まあそいつが入ってる」
「え!?」
「何でそんな所に!?」
「今朝なんか小屋の隅に居たからな、とりあえず捕まえ取ったんだ」

まさかのスキャバーズ登場に大喜びするロンとハリー、しかし滅茶苦茶不機嫌オーラを出している人がいるのに気付いていないようだ。

「おーい…ローン…」
「え、何!?」

僕が指を刺した方向を見たロンは、そこに腕を組んで睨み付けるハーマイオニーを見つけバジリスクに睨まれたみたいに硬直してしまった。

「…よかったわねえ、スキャバーズが見つかって、ロン?」
「え!? あ、うん、本当に良かったよ!」

違う、そうじゃ無い。
的外れの返事にハーマイオニーの顔はさらに険しくなっていく。

「でも私は何も良くないのよね、何でかしら?」
「えー、あー、その…」
「………」
「…ごめんなさい」
「よろしい、後でクルックシャンクスにも謝っておいてよね」
「猫にも!?」

ジロッ

「駄目だロン、今は言うとおりにするんだ」

ハーマイオニーの気迫に押され、やや涙目になってきたロンにハリーはアドバイスを送った。

「…分かったよ」
「言い方!」
「分かりました!」

ハーマイオニーはそこまでやってようやく納得してくれたらしい、…が、まだロンはちょっと涙目だ。
外を見ると、言い争っていたからか日が落ちる数分前といった感じになっている。

「皆、そろそろ帰らないと罰則が…」
「本当だ、もうこんな時間か」
「じゃあ帰りましょうか」
「ちょっとまってよ、まずスキャバーズを箱から出さな―――」

ドグオオオン!!

「「「「!?」」」」
「何だ今の!?」

外から聞こえて来た爆発音、何が起こったか確かめるために外へと飛び出す。

「どこから聞こえて来たんだ?」
「…もしかしてアレじゃない?」

ハーマイオニーが指さした方には、畑のかぼちゃが一個だけ派手に吹き飛んでいた。

「…かぼちゃ?」
「もしかしてシリウス・ブラックが…」
「ハリー、シリウス・ブラックの敵はかぼちゃなのかい?」

まあシリウス・ブラックは論外としても、何でかぼちゃが爆発したんだろうか。
目的も何も分からず畑で首を傾げる。

「爆発…爆発といえば…もしかして…」
「キニス、どうかしたの?」
「いや、爆発が得意なのって確か―――」

ガチャアァン!

今度は何だ!?
後ろから聞こえて来たガラスが割れるような音、そして振り返った途端、ロンが悲鳴を上げた。

「スキャバーズ!?」
「何あの犬!?」

ハグリッドの小屋の窓をぶち破って出て来た大きい影。
そこにはスキャバーズが入っている箱を咥えた、黒い大型犬がいた。
その犬はこっちを一瞥すると禁じられた森に向かって走り出してしまった!

「ど、何処に行くんだ!」
「ロン!」

それを追いかけ駆け出していくロンを三人でさらに追いかける!
息を切らしながら走っていくと、犬が暴れ柳の根っこから消えてしまった!

「消えた!?」
「見てあそこ、穴があるわ!」

どうやら犬はあの穴に逃げ込んだらしい、しかも何でか暴れ柳は眠ってるみたいに動かない。
その隙を狙ってロンは穴に飛び込んでしまった!
僕達もそれを追いかけようとした…が。

「うわっ!?」

横から信じられない速さで飛んできた太い枝を縄跳びのように避ける、柳はまた動き出してしまったらしい。

「どどどどうすんのさ!?」
「そんなこと言ったっ…きゃあっ!」

今度は幹をハンマーみたいに振り下ろす! 間一髪かわしたけど柳が収まる気配は無い!
というか早い! 何かいつもより圧倒的に早い!

「どうするのこれ! 全く隙が無いよ!?」
「何でこんなに元気なんだろう…」

あまりの速さに枝が分裂して見える柳を見ながらハリーは悲鳴を上げる、けどその悲鳴も柳の風圧で飛ばされていった。

「君達一体ここで何をしているんだ!」

後ろの方からルーピン先生が青い顔をしながら走って来た。

「先生!? どうしてここに!?」
「教員室の窓から、ロンが犬を追いかけて穴に入って行ったのが見えたんだよ」
「そ、そうなんです! ロンのペットのスキャバーズが…」
「大丈夫だ、ロンはちゃんと私が助けよう、勿論あの鼠もね。
さあ君たちは早く寮へ戻るんだ」

僕達に帰るよう言い聞かせると、「おかしい…何故こんなに暴れてるんだ…?」と呟きながら近くの小石を投げ飛ばした。
それが柳の根っこの小石に当たると、一気に元気を無くして止まってしまった。

「アレああやるんだ…ってハリー!?」
「ロンを助けなくちゃ!」

何で行っちゃうんだよ!
思わず叫びたくなったけど今更どうしようもないと気が付いた僕は、同じ顔をしていたハーマイオニーと一緒に穴へ飛び込んで行った。




何とか暴れ柳を突破し、泥と土と砂とルーピン先生の説教にまみれつつも辿り着いた場所は、ボロボロの壁に割れた窓など、まさにTHE廃墟といった場所だった。

「ここもしかして叫びの館じゃない?」
「言われてみれば確かに…」

方向も外装からの雰囲気も大体合ってる…けど何でこんな所に繋がってるんだろ?
とりあえず階段を登って行くと、一つだけドアが少し開いてる部屋があった。
隙間から除くとスキャバーズを握っているロンが居た!

「ロン! 大丈夫!?」
「ハ、ハリー…逃げるんだ…!」

何故かロンは怯えた様子だ、逃げるってどういうことだろう。

「罠だったんだよ…! あの犬が、あの犬が…!」

ふと足元を見てみるとさっきの犬の足跡が続いている、それを辿っていくと…

「!?」
「お、お前は…!」

―――手配書と全く同じ顔をしたシリウス・ブラックが立っていた。




「お前が…お前が父さんと母さんを裏切ったのか!」
「待つんだハリー、ここは私に任せるんだ」

ブラックに詰め寄っていくハリーを静止し、杖を向けながらブラックに近づいて行くが何かおかしい、するとルーピン先生はブラックとがっちりと親友のようなハグをした。

「一体何がどうなってるんだろう…」
「ルーピン先生は人狼だったのよ!」

そこからは何だか怒涛の勢いで話が進んでいた。
何でもルーピン先生はブラックと同学年で、そいでもってルーピン先生は人狼だから本当は入学できなかったけどダンブルドア校長先生が計らってくれた。
それが満月の時ルーピン先生を隔離する叫びの館であり、それがばれないように入口に暴れ柳を植えた。
あとスネイプ先生が昔ブラックに虐められていて、それでスネイプ先生がブラックと、その友達だったルーピン先生を憎んでるということを話していた。

「さあ友よ! 一緒にヤツを殺そう!」
「ああもちろ―――ぐあっ!?」

ハリーを殺そうとした瞬間ルーピン先生が地面に拘束される。
そして扉をぶち破って入って来たのはスネイプ先生だった。

「復讐は蜜よりも濃く、そして甘い。お前を捕まえるのが我輩であったらと、どれほど願ったか。今どれほど歓喜に満たされているか、お前には分かるまい」

そう語るスネイプ先生の目は、いつもグリフィンドール生やハリーに向けるような視線より、何十倍もの憎しみを燃やしていた。

「さぞ愉悦だろうな、いいとも、そこの鼠と一緒なら大人しく付いて行ってやる」
「違うんだスネイプ! シリウスは―――」
「黙れ人狼、貴様も引きずって行ってやる…アズカバンにな」

震えるブラックとルーピン先生を引きずって行こうとした時、スネイプ先生の前にハリーが立ち塞がった。

「何のつもりだポッター? 英雄ごっこはいい加減にしてもらおうか」
「…ブラックは分からないけど、ルーピン先生は敵じゃない、もしルーピン先生がブラックの仲間だったら僕はとっくに殺されていた!」
「それも人狼の作戦かもしれんぞ? さあ退けポッター!」

スネイプ先生は本気の怒りを含ませながら叫ぶけど、ハリーはどきそうにない。
それどころかスネイプ先生以上の迫力で反撃し始めた。

「人狼人狼…って、恥を知れ! 学生のころ苛められたくらいで!」
「黙れ! 苛められたくらいだと!? やはりあの男の息子だな!
どこまでも傲慢で自分を正当化しようとする! 誰のおかげで今ここにいると思っているのだ? 地に伏して感謝すべきだ!
にも関わらず貴様は! 貴様などその男に殺されていれば自業自得だったろうに!
さあ退け! 退くのだ!」

一体何が勘に触ったのか、今までとは別人のように怒り狂うスネイプ先生。
ハリーもその剣幕に呑まれてしまったのか、先生に向かって呪文を撃とうとしている!

エクスペリアームス(武器よ去れ)!」

スネイプ先生に向かって呪文が真っ直ぐに飛んでいく!
…けど。

「えっ!?」

呪文に向かって飛んできた何かが、呪文の横腹をぶち抜きながら壁に逸らしてしまった。

「何者だ!?」

スネイプ先生が叫ぶと、さっき呪文が飛んできた扉から人が現れた、それは―――

「キ、キリコ!?」
「………」

キリコが杖をこちらに向けながら、ゆっくりと歩いて来ていたのだった―――



敢えて問うなら答えもしよう
望む事はささやかなりし
この腕に掴み取れるだけの命でいい、あの胸に収まるだけの真実でいい
今こそ言おう、その名はピーター
ピーターこそ我が命、ピーターこそ我が仇
ハリー・ポッターとラストレッドショルダー、第三十一話『囚われざる者』
だが、最後はその名の如くに



有名なネタですが、忍びの地図には一瞬ニュート・スキャマンダーの名前が載っています。
よって矛盾はありません。
またピーターの語源は使徒ペトロです、彼はローマから脱出しようとしますが、戻ってきた結果磔になり処刑されます。
さて、ペティグリューの最後はどんなんでしたっけ…?


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第三十一話 「囚われざる者(Aパート)」

今更だけど全10話って思ったより尺短いんですね…
いまだ話数配分が下手だな…今後の課題です。


極限の緊張が場を支配していた。
それは怒りか、憎しみか、はたまた悲しみか。
しかしそれは俺が現れたことで驚愕へと転じた。

「キ、キリコ!?」

要る筈の無かった奴らがいることに、思わず苦虫を噛み潰す。
そう、本来ならここに居るのは俺とブラックだけだったのだ。

忍びの地図を使いピーター・ペティグリューを見つけたのは今朝のことだった。
そして急いで練った計画。

クルックシャンクスを通じてハグリッドに偽の手紙を出し、小屋から追い出す。
招待されていたハリー達は外のかぼちゃを爆破することで誘導。
その隙にブラックがペティグリューを叫びの館まで連れ去る。
ハリー達が追ってきた場合に備え、暴れ柳に″元気になる呪文″を掛けておく…という計画だった。

しかし暴れ柳の突破方法を知っていたルーピンの出現により、事態は混濁した方向へと進んでいた。

「キュービィー! 何故ハリーを止めた!?」

憎しみを込めたブラックの叫びは、俺とブラックが協力関係にあったという事実を伝えている。

「な、何でブラックがキリコのことを…?」

「決まっている、こやつもまた卑しい畜生の仲間だったということだ」

スネイプは杖をブラックに向けたまま、視線でこちらを警戒する。
しかしそれに激しく反論しだすブラックが事態を更に混乱させてゆく。

「違うぞスニベルス! 彼も私も何もしていない!」
「この期に及んで言い訳とは、やはり貴様は最低の畜生だな」
「スネイプ! キリコまで疑うのか!?」
「貴様は黙っていろポッター! それともブラックを庇った罪でアズカバンに行きたいのか!?」
「ハリーを巻き込む気か!? ならば容赦は―――」

この状況、どうするべきか…と考えた時、叫びが館に響いた。

「ああああもぉぉぉう! うるさぁぁぁぁい!!」
『!?』

キニスの怒声に、全員一発で黙り混む。
そしてこちらに振り向き、怒りながら迫ってきた。

「キリコ! 一体どういうこと!? 説明して!」

全員の注目が俺に集まる、どこから説明すべきか少し悩んだが、とりあえず結論から言うことにした。

「ピーター・ペティグリューは生きている」
「………はえ?」
「…何かと思ったらあの畜生と同じことか、やはり貴様もアズカバンに―――」

そこまで良いかけた所でスネイプの目線は俺の手元に釘付けになった。

「それは…」
「忍びの地図!? 君が持っていたのか!?」
「…″我、良からぬ事を望む者なり″」

地図を見て驚くルーピンを他所に、起動させた地図をスネイプに投げ渡す。
スネイプはまじまじと地図を眺めていたが、途中でそれは心からの驚愕へと変わった。

「これは、我輩を陥れるための道具か何かね?」
「…スネイプ、それは間違いなく本物だ、私が保証しよう」

スネイプはルーピンを疑っているように見つめるが、先程のまでとは違い話を聞こうと耳を傾けている。

「それはかつて私やシリウスが作り上げた物だ、間違っている筈が無い」
「では貴様はウィーズリーがピーター・ペティグリューであると言うのかね?
地図ではそう書かれているが…」
「いいやここにはもう一人…いや! もう一匹いる!」

杖をロンが大切に握っている鼠に向けながら叫ぶ、しかしロンは震えながらもスキャバーズを庇おうと声を絞り出す。

「い、一匹って…まさかスキャバーズが…?」
「そうだ! ヤツは鼠の動物もどきだったんだ!」

ブラックの怒声に反応し、脱出しようと激しく暴れ狂うスキャバーズ。

「そんなことって! スキャバーズは僕の家族だ! ペティグリューなんてヤツの筈が…」
「12年も生きる鼠がいるか!?」

涙を流しながらも必死にスキャバーズを庇おうとするロンの姿は、もはや悲壮感さえ漂っている。
…すでに薄々感ずいてはいるのだろう。

「第一鼠なんて何百匹もいるよ…? 何でスキャバーズなのさ…?」

もう誰も杖を突き合わせていない、その敵意は全てペティグリューに向いている。
そして杖を向けていたスネイプが、それに気づき呟いた。

「…指が」
「そうだ! こいつは指を自ら切り落とし、鼠に変身して下水道へ逃げ去ったんだ! 私に罪を被せてな!」

狂ったように叫ぶブラック。
スネイプの目付きもまた、ブラックに向けていた以上に憎しみを込めている。

「ロン、鼠を渡してほしい、大丈夫、その子が只の鼠だったなら何も起こらない」

怯えるロンを刺激しないよう、できるだけ優しい声で説得するルーピン。
その説得に対ししぶしぶといった様に鼠を渡そうとする…が。

「スキャバーズ!」
「しまった!」

ペティグリューはロンの手から滑り落ち、そのまま逃げ出してしまった!

ステュービファ(失神せ)―――」
「待てリーマス! 放っておけ!」

まさかの制止に驚愕するルーピンは、信じられないという顔でシリウスを見つめる。

「何を考えているんだシリウス!? 奴に逃げられたら何もかも終わりなんだぞ!?」
セクタムセンプ(切断せ)―――!?」

何かの呪文を唱えようとしたスネイプに、杖を突きつけ制止させる。

「貴様! 何のつもりだ!」
「すぐ分か―――」

ドゴオオオン!!

スネイプが只ならざる殺意を向けた時上から響き渡る爆発音。
そして崩れ落ちる天井の中から、ちょうど俺の手にペティグリューが落ちてきた。

「…キュービィー、貴様まさか」
「察しの通りです」
「…キリコ、な、何をしたの…?」
「彼はもしもペティグリューが逃げた時のために、屋敷中に罠を張ってくれたんだ」

ブラックの説明に頭を抱えるスネイプ。
やはり張っておいて正解だったな、願わくば残りの罠がバレないとだいぶ嬉しい。
そして…時は来た。

「キュービィー君、逃がさないでくれよ…!」

俺が空に投げた鼠に向かって、スロー再生の様にゆっくりと、確実に光が迫る。
一瞬視界が消えた次の瞬間そこに立っていたのは、薄汚い小柄な、まさに鼠のような男だった。




「や、やあリーマス、シリウス、…ひ、久しぶりだね…」

旧友との再開を辿々しく喜ぶペティグリューに浴びせられる視線は懐かしさでも代えがたい友情でもない。
ただ、憎悪と侮辱だけがヤツの全身に突き刺さっていた。

「やっと会えたな、ピーター・ペティグリュー!」

歓喜にうち震えるブラックを見たペティグリューは、大袈裟に震える演技をしている。

「ひぃぃ! た、助けてくれ! 私は悪くない!」
「この期に及んでまだ言うのか!?」
「話を聞いてくれ! 私は逃げていただけなんだ、シリウスがいずれ脱獄するのは分かっていた。
彼は私を殺しに来るだろう、そう考えると恐ろしくてしょうがなかったんだ!」

怒濤の言い訳に対し、俺は呆れるだけだ。
それが言い訳だと分かりきっているブラックは笑いながら叫ぶ。

「私が? 違うな貴様が恐れていたのは私ではない、アズカバンで囚人達が言っていたぞ、『主の死の切っ掛けを作った奴を許しはしない』とな!」
「そんなこと…リーマス! 君は信じてくれるよな…?」
「そうだね、もし君の言っていることが真実だったら我々が全力で保護したさ。
…だから分からない、何故君が12年も鼠になっていたのかね」

ルーピンの言っていることは最もだ、反論の仕様が無くなったペティグリューはさらに言い訳を重ねる。

「シリウスはあの人のスパイだったんだ…だから死喰い人の残党に―――」
「貴様今何と言った!?」

シリウスに責任を擦り付けようとするが、それはどうやら逆鱗に触れたようだ。

「私が友を裏切っただと? ふざけるな! そんなことをするくらいなら私は死ぬ!」

ペティグリューを秘密の守人にしたのが間違いだったと怒り狂うブラックを前にぶつぶつと呟くペティグリューだったが、その目はいまだ油断無く逃走の隙を伺っている。

「…リーマス」
「ああ分かっている、共にこいつを殺そう」
「う、嘘だ…き、君なら分かってくれるだろう?」

あろうことかロンにすがり付き助けを懇願しだすペティグリュー。
しかしロンは汚物を見るような視線をするだけだ。

「お前のような奴と一緒に暮らしていたなんて…」
「お嬢さん、君からも説得してくれ…」

ハーマイオニーにまですがり付くが、彼女は軽蔑を向けながら下がっていく。

「だ、誰か…君は私の話を聞いてくれるよね…?」
「あんたみたいなクズ見たこともないよ」

無慈悲に切り捨てるキニスを見て、今度はハリーに助けを求める。

「ハリー、君は本当にジェームズそっくりだ…きっとジェームズやリリーなら許してくれる筈―――」
「ハリーに話しかけるとは何様のつも―――」
セクタムセンプラ(切断せよ)!!」
「ぎゃああああああ!!」

激昂するブラックを遮りスネイプが放った呪文は、ペティグリューの耳を切り裂きそこからは大量の血が溢れだす。

「貴様よくもリリーを言い訳に使ったな!? いいだろうそんなに追われるのが恐ろしいなら貴様に永遠の安息を与えてやろうではないか」
「ハリー、ジェームズならきっと分かってくれた、きっと許してくれた…!」

ペティグリューの首を掴みながら、額に杖を突きつけるスネイプ。
そして他の面々も杖を首元に突きつける。
しかしスネイプの杖を無理矢理ハリーが奪い取った。

「ポッター…貴様も父親と同じ場所に行きたいようだな」
「ゆ、許してくれるのか!? やはり君はジェームズの息子だ、何てやさ―――」
「お前なんかのためじゃない」

涙を流しながらお礼を言おうとするペティグリューだったが、ハリーはそれを遮った。

「僕の父さんは、お前なんかのために親友が殺人者になるなんて望んじゃいないからだ」




最終的にペティグリューは引き渡すことになった、吸魂鬼に直接。
これはスネイプの強い要望を呑んだ結果である、まあ当然の結果だろう。
張りつめた空気はすでに消え失せ、穏やかな光が俺達を照らしていた。

―――光?

脳裏をよぎった最悪の予感を確かめるため、崩れ落ちた天井を見上げる。
そこには…
立ち込めていた雲の切れ間から、月が俺達を嘲笑っていた。

(まずい…!)

ルーピンはすでに唸り声を上げながら、異形へと変貌しつつある!

セクタムセンプラ(切断せよ)!」

スネイプが切断呪文を撃ち込むが、分厚い人狼の皮膚は簡単には裂けない。
人狼は標的をこちらに切り替え、牙を剥き出しにして飛びかかる!

「シリウス!」

ハリーが悲鳴の様な叫びを上げる、ブラックは黒い犬に変身しそのまま人狼を向こうの部屋まで押し出した…が、これが参事の始まりとなった。

「目を閉じろ!」

「え?」

次の瞬間!

「うわあああ!?」

ワイヤートラップに引っ掛かったブラックと人狼が、スタングレネードの大閃光を引き起こしてしまった!

「ギャオオオン!!」

目を潰され暴れ狂う人狼、それを止めようとシリウスは必死でしがみつく。
だが人狼と動物のパワーには大きな差がある、シリウスはいとも容易く湖側の窓から突き落とされてしまった!…その時!

ドゴオオオン!!

「今度は何だ!?」

窓の外側に仕掛けておいたクレイモアが作動してしまった!
本来は怪我を負わせて逃走を困難にする物だったのだが…
その時ハリーが絶望しながら叫んだ。

「ペティグリューが逃げた!」

暴れ狂う人狼が屋敷の罠を次々と作動させていく中、ハリーが指さした方向を見ると、ペティグリューが鼠へと変身しダクトの中へ逃げ込んでいくのが見えた。
しかもどうやら、罠を器用に避け続けているらしい、畜生に落ちてでも生き残ってきたその執念はだてでは無いようだ。
しかしこのままヤツを逃がせば、ブラックの冤罪は証明できなくなってしまう!
その危機感のまま俺は走り出した!

「玄関への通路には罠は無い! 逃げろ!」
「でもシリウスが!」
「玄関から回り込め! 俺はヤツを追う!」
「え!? どうやって―――」

ガシャァン!!

ハーマイオニーの悲鳴も気にせず、身を守りながら窓をぶち破る!
全身にクレイモアの洗礼を浴びつつ3階から地上まで叩き落とされ…ようとした時、上から落ちて来た黒い影が俺を受け止めた。

「貴様何をしている!?」

スネイプが何らかの飛行呪文で俺を受け止めてくれたらしい、全身に鋭い痛みを感じながらもすぐさま立ち上がる。

「ペティグリューはこの近くです」
「本当か!? しかしこの暗闇では…」

罠設置の都合上屋敷の構造は把握している、あのダクトから逃げたのなら必ずこの近くに出るはずだ。
そして方向さえ分かっていれば探す手段は存在する…!

「目を閉じろ! ルーモス・ソレム(太陽の光)!」

初めてペティグリューを見つけた時のように暗闇を太陽の光で焼き払う! そして視界が白と黒に二分された!
こうなれば簡単だ! すぐさま影を探し出す!
そう、ここが人混みなどだったら捜索は困難極まっただろう、だがここで動くものはそう多くない。
しかもサイズも分かり切っている、逃走目的なのだから動き方も真っ直ぐ!
何よりキリコはシーカー! 小さく素早い物を探す事には慣れている!

目を凝らし森の中を見つめる…あれだ! 真っ直ぐ動く小さな影!

ステューブレイト(失神弾頭)!」

撃ち込まれる失神弾頭、しかし!

ガキィッン!

(クソッ!)

ペティグリューを貫く筈のそれは、森の木々に阻まれ軌道を逸らしてしまった! これでは当たらない! だがここにはもう一人居る!

セクタムセンプラ(切断魔法)!」

スネイプの放つ切断魔法が邪魔な木々をなぎ倒す!
そう、スネイプはキリコの意図に気づいていたのだ! 
あの夜の廊下でキリコの魔法を目撃していたため、キリコの意図を一瞬で理解しサポートしたのだ!
これでもう真実への道を阻むものは居ない…!

ステューブレイトッ(失神弾頭)!!」

虚構へ向けて銃弾が目にも止まらぬ速さで飛翔し、そして闇に響く悲鳴が俺達の勝利を宣言した。

アクシオ・ペティグリュー(ペティグリューよ、来い)

呼び寄せ呪文を命中させ、手元にペティグリューを引き寄せたスネイプ。
それを見た俺は思わず深いため息をついた。

「…館が」

スネイプと同じ方向を見ると、とうとう罠が連鎖反応してしまったのか叫びの館が炎に包まれ、ちょうど大爆発を起こして吹き飛んでいるあまりに酷い光景が背景にあった。

 ―叫びの館、火災と爆発により消滅―

「っ!? 身を隠せ!」

突然の警告にお互い暗闇の中へ溶け込む、そして崩れた屋敷の向こう、ホグワーツ湖を見ると湖が凍りついているのが見えた。

(…吸魂鬼)

何故か湖に集結している吸魂鬼だったが、その後放たれた守護霊の光によって弾き飛ばされていくのが確認できた。
…あの守護霊、…ハリーだろうか? あの中で守護霊を使えるのはヤツしかいない。

「一体何が起こっているのですか!? …また貴方ですかキュービィー!!」

ハリー達の安否を心配していると何故かマクゴナガルが青筋を立てながら現れた、…いやここまで大事になれば普通気づくか。
するとスネイプがマクゴナガルの前に鼠を突き出した。

「セブルス! ふざけているのですか!?」
「いえ、是非見てもらいたいことが」

とても良い顔をしながら鼠に呪文をぶち込むと再びペティグリューが現れた、それを見て声にならない声を上げるマクゴナガル。

「ピ、ピーター・ペティグリュー…!? ま、まさか…ではブラックは…!?」
「ああ…懐かしいマクゴナガル先生…!」

こいつまだ言い訳する気なのか。
もはやここまでいくと尊敬の念すら出てくる、スネイプは今にも殺しそうになっているが。

「…キュービィー、吾輩達はこのドブ鼠をまず連行する、なのでブラック共と他の連中の安否だけ確認してきてくれたまえ」
「了解しました」
「あー、それと…」

ハリー達を見に行こうとした時スネイプが呼び止めたが、何故か言い渋っているようである。

「…ペティグリュー捕縛の件、感謝する」
「…当然のことです」

俺はまだ知らない、セブルス・スネイプがこの時どんな思いだったかを。
そして俺とスネイプが、どれ程似ているのかも。
ペティグリューを前にした時のあの目の意味も。
だが今は喜ぶだけで良い、俺のような悲劇が一つ終わった事に。
俺は嘲笑う月に向かって嘲笑を向けるのであった。



ルーピン「私かよぉぉぉぉぉ!」
キリコ「まじごめん」
キリコ守護霊(有体)「アレ? 私の出番は…」
キリコ「無い」

以上、やっと予告通り叫びの館を葬り去れました。
いやあ、ずーとどっかブッ飛ばしたいなーと思ってはいたんですが、最初から臨界させる訳にもいかず…
これからは本格的に爆破オチが増えてきますよ! ご期待ください!


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第三十一話 「囚われざる者(Bパート)」

早いものでアズカバンの囚人編も最終話になりました。
さてピーターは逃げ切れるのか、ルーピン先生は生きているのか。
最終話スタートです。


医務室の空気は異様という他無かった。
ヒッポグリフの罰金と厳重注意の為ダンブルドアとコーネリウス・ファッジが話していた中医務室に呼び出され、その場でペティグリューを突き出したからだ。
現在ブラックとペティグリューは別々の部屋でダンブルドアが話を聞いている。

「そんな馬鹿な…一体どうすれば…」

医務室ではスネイプがいつも通り不機嫌な顔で外を眺め、吸魂鬼に襲われたハリー達はベッドに寝かされ、俺もまたマダム・ポンフリーの治療を受けていた。
ファッジは既に俺の証言を聞いているのだが、魔法省の権威の為どうしてもブラックを犯人にしておきたいらしい。
それに対し内心腸が煮えくり返っているのである。

「…スネイプ、君は彼の証言を信じるのかね」
「全面的に」
「うう………」

スネイプは何故か分からないがペティグリューに凄まじい憎しみを抱いている、なのでペティグリューのアズカバン行きを熱望しているようだ。
その時扉が勢いよく開かれ、マクゴナガルが血相を変えて飛び込んできた。

「マクゴナガル先生! ここは医務室ですよ!」
「それどころではありません! ペティグリューが逃走しました!」
「「「!?」」」

逃げた!? まさか鼠になってか!?
あまりに衝撃的な知らせに医務室が騒然とする。

「警備は何をしていた!? 確か魔法省の魔法戦士が警備をしていたのではなかったのか!?」
「トイレに行っていたようです! ふざけています!」
「ファッジ魔法大臣、その愚かな阿呆を是非清掃係りに任命を―――」
「ピーター・ペティグリューは死んだ! 最初からここには居なかったんだ!」
「「「!?!?」」」
「魔法大臣殿、君は何を言っているか分かっているのかね…?」

その時ダンブルドアも戻ってきたが、その顔にはいつもの穏やかさは欠片も無い。
この騒ぎでハリー達も跳ね起き、言葉をまくし立て始めた。

「大臣聞いて下さい! シリウスは無実でピーター・ペティグリューが真犯人です! ペティグリューは自分が死んだと見せかけて罪を被せたんです! あいつはキリコが捕まえています! だから―――」
「ハリー、落ち着きなさい、ピーターが何処に居るというのかね? ブラックは大量殺人鬼だ」
「何を言っているんですか!? シリウスは誰も殺していません、マグルを殺したのもペティグリューなんです!」

必死で訴えるハリーとハーマイオニー、しかし冤罪を認めようとしないファッジはどこ吹く風、怒りの目線の中宣言した。

「これより吸魂鬼のキスにより、シリウス・ブラックの処刑を行う!」
「そんな!!」

…何と言うことだ。
まさかの展開に、誰もが絶望に打ちひしがれる、だがハリー達はダンブルドアに必死で縋り付く。
…しかしダンブルドアに慌てた様子は無かった。

「ダンブルドア先生! シリウスは、シリウスは―――」
「勿論分かっておるともハリー、しかし証言には重さと言うものがある、13歳の子供達の証言では大人は動かせないのじゃ。
何より肝心のピーター・ペティグリューが逃げた以上、どうしようもない」
「う、嘘だ…」

床に崩れ落ちるハリーだが、ダンブルドアは何故か不敵に笑いながら、何かを回す仕草をした。

「…三回…いや一回で十分かの? 上手くいけば、罪なき命を救うことができるかもしれぬ。
…よいか、絶対に見られてはならぬぞ」

そしてダンブルドアもスネイプも医務室から出て行った。
誰しもが絶望していたが、その中でハーマイオニーだけが決意に満ちた目をしていた。
いつの間にか目を覚ましたロンが質問をする。

「…今のどういう事?」
「説明してる時間も惜しいわ」

質問を無視しハーマイオニーが慌てながら取り出したのは金色の鎖が特徴的な時計だった。
俺はそれに見覚えがあった…逆転時計(タイムターナー)だ。
それを見た俺はダンブルドアの意図を理解した。

「…全員で5人、…2人が限界ね…」
「…キリコ、あれ何?」
「逆転時計、ヤツらは過去へ行き、逃走したペティグリューを見つけるつもりだ」

キニスは『そんなのアリかよ』といった顔で驚いているが、そんなことはどうでもいい。
最終的にハーマイオニーと、強い要望でハリーが行く事になった。
…親の仇を逃がしたくないのは当然のことだ。

「…じゃあ行くわよ…!」
「ストーーープッ!」

突然ハリー達を静止したキニス、それに文句を言おうとしたハリーに向かってキニスは何かを手渡した。

「これは…忍びの地図!?」
「ドサクサに紛れて拾っといた」

意地悪そうな笑顔を浮かべるキニスにハリーは笑いながら頷き、そして次の瞬間…消え去った。


*


「…一体…どうすれば…」

医務室で頭を抱えるファッジの顔は、大空の青よりも青ざめていた。
あの後シリウス・ブラックの元に向かっているファッジの所に鼠を掴んだハリー達が乱入した結果である、ハリー達はペティグリュー捕獲に成功したのだ。
つまりこの瞬間、保身の為証拠を隠滅しようとした事実が確立されたのである。

「さて…どうしようかの」

ファッジの周りを回りながら呑気な言い方で語るダンブルドア、態度には出していないがどう見ても激怒している。
対してファッジはすっかり縮こまっていた。

「い、嫌…我々は決してペティグリューの脱走を隠蔽しようとは…」
「隠蔽? はて何のことかの?」

飄々と語るダンブルドア、スネイプと俺は目を合わせた。
…お互いあいつの意図に気づいたらしい。

「いやあ最近物覚えが悪くての…あー、何じゃペティグリューの隠蔽がナントカ…じゃったか?」
「ダンブルドア先生! 何を―――ムグッ」

失言をしかけたハリーの口を抑えるスネイプの顔は軽く笑っている様に見えた。
…最も殆ど変っていないが。

「むうやはり思い出せんの、もしシリウス・ブラックが無罪になったら、その喜びでこんな事忘れてしまうかもしれんのぉ」
「………!」

ヤツが言いたいのは、要するにシリウス・ブラックを無実にするならこの失態を黙っていても良い、という脅しに他ならなかった。
…とんだ狸だな。

「ううう…ん? 梟?」
「ファッジ、お主当てのようじゃが」

ダンブルドアから手紙を震える手で受け取るファッジの顔色は、手紙を読むごとにどんどん青…いや黒くなっている。

「…どうしたのかの?」
「…マ、マスコミが押しかけてきてるらしい」

その言葉を聞き外を見ると、確かにホグワーツ駅に人だかりができているのが確認できた。
つまりこのままチンタラしてたら全てがばれるということである。
追い詰められ椅子にがっくりと倒れこむファッジは沈黙し、そしてしばらく経ってようやく重々しい口を開いた。

「…シ、シリウス・ブラックを…無罪…放免とする」

『やっ…たあああああ!!!』

魔法大臣や校長の目の前にも関わらず抱き合い喜ぶハリー達、その目には大粒の涙が浮かんでいた。
喜ぶハリー達と裏腹に頭を垂れながら医務室から出ていくファッジに、ダンブルドアが冷え切った声を掛ける。

「コーネリウス、過ぎた保身は身を滅ぼすぞ」
「…肝に銘じておくよ」


*


翌日の朝刊は一面にシリウス・ブラックの無罪をこぞって報道していた。
そしてピーター・ペティグリューはめでたく有罪が決まり、近々アズカバンに護送されるらしい。
…あ、あと叫びの館が謎の大爆発を起こしたことも一面の端に載っていた。
ただそれ以降もファッジが証拠を隠滅しようとしていたことが載ることは無かった、これについてハリーあたりが不満を言っていたが、それよりもブラックが無罪になったことの方が嬉しいようでそこまで気にしていないようだ。

ただ良くない知らせもある、リーマス・ルーピンが人狼であることをセブルス・スネイプがうっかり漏らしてしまい、ルーピンはその日の内に辞職届を出してしまった。
…が、その前に何故か全身傷、火傷、催涙性の毒、鼠とりの罠まみれだった為速攻で聖マンゴ送りになったそうな、今度会ったら謝らなければならない。
ちなみに屋敷に仕掛けていた罠だが、屋敷ごと吹っ飛んだことでそれがばれることは無かった。

「今年も一年が終わった」

いつもの挨拶と共に始まった学年末パーティ、今年の寮杯はクィディッチの結果が直で反映された結果スリザリンのものとなった。
いつもならハリー達に大幅加点…といきたい所だが、今回は事情がかなり込み入っている為厳しかったらしい。
優勝の立役者であるスリザリン・クィディッチチームはパーティの主役のような歓声を受け、グリフィンドール・クィディッチチームはそれを親の仇のように睨み付けている。
これもいつもの光景だが。

「マルフォイめ…来年こそはあの尖った顎をバラバラにしてやる」

例の如く物騒なことを言っているキニスだが、こいつもそんな事より無罪が確定したことの方が嬉しいらしい。
一通り呪詛を言い終えてスッキリしたのか、いつもの爽やかな笑顔に戻っていた。

「ふう、いやあ今年も大変だった」

キニスの言うことも最もだ、だが全てが無事に終わった今それを気にしたりする理由も無い。
過ぎてみればいい思い出、そういう事なのだろう。

「シリウスはこの後どうするんだろうね…」
「………さあな」

あの後裁判すら待たずにシリウス・ブラックの無実は決まった、だからまだ校内の何処かに居るだろうが…それに答えるように俺の席に梟がやってきた。

「どうしたのソレ?」
「…ブラックからだ」

手紙を開いてみると、簡潔に『明日の7時天文台に来てくれ』と書かれていた。
一体何の用だろうか。


*


「ペティグリューめ…今度こそぶち殺してやる…」

何故ブラックがそんな事を言うのか、何と今朝の新聞で護送中のピーター・ペティグリューを死喰い人残党が連れ去ったというのだ。
この度重なる大失態をマスコミはこぞって非難している。

「………」
「…あ、来てくれたのか」

今までは汚く痩せこけていたブラックだが、ホグワーツの美味い食事を食べた事で大分体調を取り戻した様に見える。
憎しみが燃えていた目は憑き物が落ちたように黒く光っていた。

「ハリーは良いのか?」
「ああ、昨日話したから大丈夫だ。
それにもう、いつでも会えるからな」

ブラックはとりあえず実家に戻るらしい、その後夏休みの幾分かをハリーと一緒に過ごす予定だそうだ。
今後の予定を楽しく話した後、息を吸い直しこちらを向き直す。

「…今回私が助かったのは、間違いなく君のおかげだ。
本当にありがとう、感謝してもしきれない」
「………」
「それで聞きたいのだが…何故君は私を助けてくれたんだ?」
「…冤罪が嫌いだからだ」
「そ、それだけなのか? それだけの理由で―――」
「………特急が来るから、ここらで」

嘘は言っていない、というか正直に答えた所でややこしくなるだけだ。
質問を簡潔に答えホグワーツ駅に向かう中、背中に声が聞こえた。

「ありがとう! 本当に…ありがとう!」

手を上げそれに返す。

今年も何とか無事に終わった、しかし俺には一抹の不安…いや、疑問が残っていた。
キニスは掛け替えの無い友人だ、それは疑いようもない。
それにハリー達も間違いなく大切な奴らだ、だからこそ俺は今ここに居る。
…だが、果たして俺の過去を話せる日は来るのだろうか?
どれ程俺の心が光りで照らされようと、その中に炎が灯る事だけは決してない。
この炎の代わりは無いのだから。
…それを話せる日が来るのか、炎が灯る時…俺が死ぬ時は来るのか、この孤独を苦しみを話すことが俺にはできるのだろうか。
その答えはきっと―――

 ―――風だけが知っている。




































「はあ、はあ、はあ…何とか逃げれたが…」
「いいや、逃げれていないよ」
「!? お、お前は…クィリナス・クィレル!? 何故生きて―――」
「知っているのか? ああお前はロンのペットだったか、なら私も見た事があるか」
「どうか見逃してくれ! 私は違う、悪いのは―――」
「いいぞ、無駄だと思うが」
「そ、それはどういう事だ!?」
「ピーター・ペティグリュー、お前が鼠の動物もどきだということは、魔法省にも闇の陣営にも既に伝わっている…お前に逃げ場はない」
「そんな…どうか…どうか命だけは…」
「勿論だ、むしろその為にお前の脱走の手引きをしたのだから」
「え、え?」
「私は今、ある人物につかえている、…とはいっても大体使い走りだが。
そして我が主は、お前の恐れる例のあの人の復活を目論んでいる」
「!? そ、それが一体何の関係が…?」
「…私の主はお前を助けようとしてくれているのだ、例のあの人の復活をお前に託すことで。
もし成功すれば、お前は裏切り者から英雄になる」
「だ、誰だ!? お前の主は一体!?」
「それは―――」
「そこからは私が話そう」
「!? お、お前は…!?」



俺たちは待った。
この100年を焦燥とともに。
瞼の裏に揺らめく赤い影、青い髪。
もはや追憶は銀河もろともに因果の彼方か
だが炎は突然に甦る。
杖の軋みと闇の呻き。
ローラーダッシュに乗せて魔法界を駆ける
遺伝確率250億分の1の衝撃
 ハリー・ポッターとラストレッドショルダー 第三十二話「国際試合」
不死の呪文は存在するか?



アズカバンの囚人編完結ーーー!
ペティグリューには何としても脱出してもらわないと困りますからね、
それにしてもトイレに行ってた警備員、きっと以前はシャドーモセスで働いていたんでしょう。
…多分ね、ククク・・・
…ファッジが少しクズ過ぎましたかね…? 個人的にはあんな感じだと思っていますが…やや悩みどころです。
しばらく経ったら、いよいよお辞儀復活編を始めたいと思います。
ではまた!


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「炎のゴブレット」篇 第三十二話 「国際試合」

事前に書き溜めたら一週間以上経っちまった!
お久しぶりです鹿狼です。
ようやくターニングポイントに入りました、炎のゴブレット編始まります。
お辞儀をするのだポッター!


今年の夏休暇になっても、俺は漏れ鍋でアルバイトに勤しんでいた。
何故ならこの前叫びの館に大量の罠を設置したが、その購入費のせいで今現在財政がかなり圧迫されてしまったからである。
とはいえ、ホグワーツの学費とは別枠で管理しているので生活を圧迫する程ではないのだが…今後も色々な武器を充実させたというのが大きな理由だ。

だが危険食材と関わる仕事も今日は一旦休みとなり、コーヒーを飲みながら人を待ち合わせている。
コーヒーが少し冷めてきた頃、店の扉が一気に開かれるのが目に入った。
そして店に入って来た少年は店内をキョロキョロと見回し俺を見つけると、テーブルを起用に避けながら俺の所へ勢いよく突っ込んできた。

「キーリーコー! 久しぶりー!」
「………」

待ち合わせていたキニスはいつも通りの元気さをまき散らしている、しかし服装はいつも来ている少しサイズが合っておらずぶかぶかな制服では無く、パリッと決まった…言うならパーティに参加するときの様な正装を着込んでいる。
かく言う俺も、今日は少し身だしなみに気を使っている、何故なら今日は―――

「さあ行こう! 早く行こう! ワールドカップ!」

そう、今日はクィディッチ・ワールドカップ、それも決勝戦であるアイルランド対ブルガリアの試合日なのだ。
事は数週間前、俺とキニスの自宅にこのチケットが届いたことにある。
差出人はシリウス・ブラック、何でもあの時の礼として飛び切り上等な席を用意してくれたんだとか。
尚ブラック家の資産と大量の賠償金があるため金の心配は要らないそうだ。

…それにしても席が上等過ぎるのには疑問があったが、ブラック曰く『大方ファッジが根回ししたんだろ』との事、つまり口止め料である。
まあ別にヤツの犯したことを告発した所で俺に何か特がある訳でも無いので、この際気にしない事にしよう。

「おーい、早く行こうよー」
「………ああ」

残りを飲み干しカウンターへ戻す、そして赤々と燃える暖炉に煙突飛行粉を掛けると炎は瞬く間に緑に変わり、その中へ発音を正確にしながら飛び込んだ。

「「ウィーズリー家」」

目まぐるしく変わる景色に上へ急速に引っ張られる感覚、それが終わると俺達は全く別の場所に居た。

「あら! 貴方達がロンのお友達の?」
「こんにちは! キニス・リヴォービアです!」
「…キリコ・キュービィーです」

明るい声で出迎えてくれたのは燃えるような赤毛が特徴的な、少しふくよかな女性だ、恐らく彼女がロンの母親モリー・ウィーズリーだろう。
だが他の人間が見当たらないようだが先に行ってしまったのか?

「あのー、ロンたちはどこに?」
「ロン達は外の庭で準備して待ってるわよ、さあ急いで! 遅れたら一大事よ」

窓から外の庭を見てみるとロンやハリーがこちらに向かって手を振っているのが分かった。
家から出ようとした瞬間、危険を察知した俺が玄関から一気に飛び出す。
すると出遅れたキニスの頭に大量の蜘蛛が落下し、キニスが変な声を出していた。

「のわぁぁぁぁ!?」
「クソッ何故ばれたんだ!?」
「俺達の新作がこうも容易く!?」
「お前達何をしているんだ!?」
「あっよく見たら可愛い」

若干ハグリッド化しつつあるキニスは置いておき、目の前でアーサーに頭を掴まれながら怒鳴られているそっくりなヤツらを眺める。

「あー、ごめんね、うちの兄貴たちが…」
「別にいいって、てかもう新作作ったのお兄さん達」
「本当に…なんで貴方達はその時間を勉強に当てられないの!?」
「でもママ」
「時間大丈夫?」
「ああ! もう貴方達のせいで…急ぎなさい!」

ウィーズリーの双子、ジョージ&フレッドはホグワーツでは有名人だ、…良くも悪くも。
しかしそれを帳消しにするくらい頭も良く機転も回る、今だって時間を出汁にして説教から逃げおおせているのが良い証拠だ。
そんな騒動も程々に、近くの丘の頂上まで登って行くとそこにはヤカンと人影が二つ立っていた。

「やあアーサー、随分遅かったじゃないか」
「まあね、ちょっと息子の友人達を待っていたんだ」

その内一人には見覚えがある、同じ寮で二年上、また同じクィディッチチームのセドリック・ディゴリーだ。
ということはヤツはディゴリーの父親だろう、ふとディゴリー…セドリックと目が合うと近づいて来た。

「久しぶり、キリコにキニス」
「…お久しぶりです」
「…おお! セドリック先輩も見に行くんですか!?」
「うん、まあね、父さんが魔法省の関係者だったからたまたまチケットが取れたんだよ」
「おや、ということは君達がかい? 私はエイモス・ディゴリー、君達の事は息子からよく聞いているよ」

俺について…一体どんな事を聞いているのだろうか。
俺のあだ名はこの世界でもロクなのが無い、″生体ブラッジャー″、″ハッフルパフの特攻野郎″揚句この前の″叫びの館爆破事件″を受け、″歩くコンフリンゴ″なんてものまで増えている、…自業自得といえばそれまでだが。
まあ、反応から見てそこまで酷い物では無い…筈。

「フレッドとジョージも元気で何よりだよ、今日はよろしく」
「ナニヨリー」
「キョウハヨロシクー」
「お前達」

辛辣…というか邪険に扱うウィーズリーズを睨むアーサー、この二人はディゴリーを目の敵にしている。
いや、ほとんどの男子から疎まれている、ただしそれは悪質な物では無い。
というのもこの男、全てにおいて完璧過ぎるのだ。
容姿端麗、成績優秀、クィディッチもプロ級、しかも性格も良し。
非の打ちどころがなさ過ぎて、ああいった対応でしか嫌がらせをできないのだ、はたも効果があるかと聞かれたらそれは別の話になるが。

「ちょっと先輩達、年上なんだからもうちょっと―――」
「ギャアアアア! 顎が! 古傷がぁぁぁぁ!」
「ジョージ! 死ぬな! お前言ってたじゃないか、いつか自分の店を持つって!」
「ガクッ」
「ジョーーーージィィィィ!」
「さあ皆行こうか、移動鍵(ポートキー)のヤカンを掴むんだ」

双子の寸劇を完全無視する当たり、この程度は日常茶飯事なのだろう。
ヤカンを掴み取り、遅れた双子も慌てて手を置くがハリーだけは不思議そうな顔をしている、もしや移動鍵(ポートキー)の事を知らないのだろうか。

「叔父さん、移動鍵(ポートキー)って?」
「ああ、魔法使いが使う移動手段の一つだよ、何せワールドカップと言っても大っぴらにやる訳にはいかない、マグルに見られたら大騒ぎだからね。
しかも会場も大きいから、人数分の煙突なんて用意できないし姿あらわしも皆が使える訳じゃ無い…そこでこいつの出番って訳だ」

移動鍵(ポートキー)は魔力を込める物では無く元から魔力がこもっているいる魔法具だ、だからこそ誰しもが平等に使え、かつ主催者側は準備が楽になる、ということである。
ハリーが納得した表情をした所で、ようやく移動となりアーサーがカウントダウンを始める。

「3,2、1、………!」
「わああああああ!?」

途端姿晦ましとはまた違った感覚で上に引っ張られていく、まるで無重力下で姿勢制御を失敗したATのような勢いで目まぐるしく景色が変わっていく。
そんな性質の悪いアトラクションみたいな感覚が数十秒程続いた後、今度は急激な落下の感覚と共に景色が横に回転しだした。

「手を離すんだ!」

その瞬間手を離すと、先程以上の速度で地面に落下していくのが分かった。
一瞬で近づいて来た地面に向かって、思いっきり足を叩きつけそのまま上体を地面に叩きつける。
手足を使い三点着陸を成功させ、圧迫感から解放された勢いで空気を思いっきり吸い込む。
衝撃が無くなり立ち上がると、周りの面子は大体地面に転がりこんでいる、後ろの方から話アーサーとセドリックが空中歩行の様にこちらへ降りてきていた。

「あああああぁぁぁぁぁ………」
「キニスーーー!?」

いや、一人だけ地平線まで飛んで行っていた、まあ誰かが連れ戻すだろう。




飛んでいったキニスを回収したアーサーが帰って来てから、ウィーズリー家用のテントの中で荷物整理をする、一見4人入るかどうかといった感じだが、空間拡大魔法によって20人は入れそうな内装になっている。
試合開始は3時から、現在はお昼時なので出店を見て回ることにした。

出店はアイルランドやブルガリアの食べ物飲み物に、クィディッチ用品に各国の国旗やグッズ、選手のユニフォームに動くプロマイド、など、まあ売れる物は全て売れといった様相を成していた。

「キリコ、一体どうやればそんなに物を持てるのさ」
「………」

喋れない訳では無い、口に色々突っ込んでいるせいで話せないだけだ。
あと両手が約12個くらいの品物で埋まってるだけだ、この程度漏れ鍋の皿運びと比べれば何てことは無い、やはり人生は経験だ。

色々堪能しつくした頃時間を確認すると既に2時になっている、そろそろ入場したほうが人混みにまみれずに済むだろう。

「ん? そろそろ時間?」
「…そうだ」

食べ終わった物をゴミ箱に捨て、ウィーズリー家のテントでハリー達と再度合流する。

「ジョージとフレッドは何処へ消えた!?」
「………」

結局アーサーが会場中を探し回り、見つけだした双子の耳を引っ張ってきた頃、まだ来ていなかったビル・ウィーズリーとチャーリー・ウィーズリーが″姿あらわし″で合流。
大量の人に揉まれた結果試合開始10分前になってようやく入場できた。

「おやウィーズリー、どうしてこんな所に? 席を間違えてしまったのかね?」
「おやおやマルフォイ、君こそよくこの席がとれたね、理事を辞めさせられて金は大丈夫かい?」

出会い頭にまたもや醜い争いを繰り広げるルシウスとアーサー、後ろの方ではロンとマルフォイが似たような事をしている。
一体何がどうなればここまで仲が悪くなるのだろうか、さっぱり理解できない。

「生憎貧乏役人の君と違って余裕はあるんだ、君こそ大丈夫か? 家を売り払ったんだろう? …いやあのボロ家じゃ無理か」
「マルフォイ貴様!」
「おっと試合が始まるようだ、では失礼」

今にも噛みつかんとする勢いのアーサーを残しマルフォイ親子は去っていった、…と言っても少し離れた席だが。
俺達の席は会場全てを見通せる一番上の席だ、会場は小高い丘を垂直にくりぬいた、言わば″お釜″の様な構造になっている。

「皆さんお待たせしました!」

観客席の中央から拡張された声が響き渡る、その元にはコーネリウス・ファッジが開催宣言をしていた。

「今宵ここで世界王者が決まります! 私は魔法大臣ですが今は―――」

うんちくやら何やらが長くなりそうなので、手元のパンフレットに目を通してみる。

『責任者及び関係者一覧
魔法大臣 ミスターK.F
 上級補佐官 ミスA.T
 下級補佐官 ミスターB.D
  魔法大臣秘書 ミスターK.L
国際魔法協力部部長 ミスターB.K.S
 部長補佐 ミスターP.W
魔法ゲーム・スポーツ部部長 ミスターR.P
………
プログラム
1.魔法大臣挨拶 2.マスコット入場』

会場を見てみると、ちょうどそれらしき影が入場口に見えている。

「まずはブルガリアチームのマスコットからです」
「ヴィーラだ!」

その叫びと共に会場中の男が立ち上がり、次々と叫び始めた。
ちなみにヴィーラは何もしなくても男を誘惑できる。、つまり―――

「僕は最年少シーカーだ!」
「僕は昔少年合唱団に入ってたんだ!」
「僕は…えーと…すごい! とにかくすごい!」

ご覧の通りである、酷い場合だと服を脱いで自己主張を始めるヤツまでいた。
それを余りにも冷たい目で見る女性陣、ちょうどモリーがアーサーの髪の毛をむしりとっている。
男性陣が一通り醜態を晒したのを見たファッジが次のマスコットを招待する。

アイルランドは金と緑の光を繰り出し、それは空を光速で駆け巡った後離れてそれぞれのゴールを潜る。
そこから再び合流し、合体した光はアイルランド・チームのマークと大量の金貨を降り注がせた。

瞬間ボックス席から人々が飛び出し、我先にと金貨に群がっていった。
尚レプラコーンの能力は偽の金貨をばらまく事である、つまりそういうことだ。

「では皆さん、いよいよ選手入場です!」

ヴィーラと偽金貨の興奮も冷めぬまま、ついに選手がその姿をあらわした。
次々現れる選手の中で特に喝采を浴びていたのはビクトール・クラムだ。
彼は現在のヨーロッパ・クィディッチの中で最も注目されているヤツだ、その噂に違わず入場の速度すら目で追うのが厳しい。

「では試合開始ぃ!!」




テントの中に戻っても、今だクィディッチ熱は冷めていないようだ。

「クラム! クラム! クラム!」
「ウェェェアァァァ!」

双子はご覧の通り、何でも誰かと賭けをして大勝利したらしい。
ロンはクラムの動きを真似てテントを走り回り、ハリーは彼の動きに衝撃を受けたのか窓辺でボーっとしている。

試合結果はと言うと、160対180でアイルランドの勝利である。
しかし正確には少し違い、クラムがスニッチを取ることで試合を終わらせた、と言った方が近い。
これ以上点差が開くくらいなら自分の手で終わらせる、そういうことだ。
つまりアイルランドは試合に勝って勝負に負けたのである。

その熱気のせいか外まで騒がしい、それを何となく微笑ましい気分で聞いていた、が…

(………?)

よく聴くと何かがおかしい、聴こえてくるは悲鳴は悲鳴でも、嬉しさによるものでは無く混乱と恐怖によるものに聴こえる。
嫌な予感を確かめるためテントの外に出ようとした瞬間、息を切らしたアーサーが飛び込んできた。

「皆! 全員いるな!?」
「あなた? 一体どうしたの?」

モリーが聞くと、アーサーは彼女を抱き締め額に口づけをした。
そして口を離した後彼女の目の色は変わり、素早く指示を出し始めた。

「どうしたのパパ?」
「非常事態だ! この騒ぎはサポーターのものじゃない!
全員杖だけ持って避難するんだ!」

あまりにもただならぬ緊迫感にテントの中の空気が一気に入れ換わる。
そして各人でチームを組んで避難を開始した。

「キリコ…何が起きたんだろう…」
「…テロの可能性が高い」

人混みの中から遠くを見ると、広場だった所から悲鳴を燃料に炎が燃えている。
そこからなるべく離れる用に動いていると、ハーマイオニーが悲鳴を叫んだ。

「ハリーがいないわ!」
「え? あ、本当だ!」

確かに行動を同じくしていたハリーの姿が無い、周囲を見るとハリーが人混みに流されもがいているのが見えた。
厄介な事にその方向はちょうどあの広場に向かっている。

「…連れ戻してくる」
「え!? ちょっとキリコ!?」

姿勢を屈め人と人の間を潜り抜けながら素早く移動し、ハリーの腕を捉える。

「!? あっキリコ!」
「…手遅れか」

目の前には黒いローブを羽織、銀色の仮面をつけた集団が我が物顔で周囲を破壊していた、ついでに人質まで取っている。
そしてその杖が既にこちらへ向いている以上、逃げるのは難しいだろう。
…ならばやることは一つ。

「…先に行け」
「え!? キリコは―――」
「こいつらを何とかする」

心配そうな顔でこちらを除き込むハリーを後ろへ突き飛ばし、死喰い人の集団に向かって歩き出す。
無論勝ち目はほとんど無い、実力差にはかなりの開きがあるだろう。
しかし勝敗を決するのは何も実力だけではない、隙をつけば格上の相手も倒すことができる。
そして、隙は作る事ができる。

「おいこのガキ今なんつった? 何とかする? ヒャハハハ! おつむはボケた爺って―――」
ルーモス・ブレイト(閃光弾頭)

少年が勇敢に向かってくる、漫画の様な光景。
それを嘲笑う死喰い人に向かって炸裂閃光弾を放つ、それは気づく間も無く鼻先で炸裂し目を潰した!

「!? ぎゃああああ! こっこの糞ガキ! どこへ行ったああ!」

想像を絶する速度と閃光に不意を突かれた死喰い人は呪文を手当たり次第に撃ちまくる。
しかしそんな雑な攻撃、身を水平に傾ければほとんど当たらない。
その姿勢のまま走り込み、杖の柄を腹に抉りこませる。
そして″てこ″の原理を使い、あばら骨をへし折る!

「ギャアアア!?」
エクスパルゾ(爆破せよ)プロテゴ(盾よ)

血ヘドを吐き出している内に人質を奪い取り、爆破呪文を盾の呪文で受け止める事で人質ごと至近距離から離脱、人質を遠くへ逃がす事に成功する。

「人質が!? 糞がぁ! 殺してやる!」
『アバダ・ケダブラ!』

前方を多い尽くす死の閃光、この場合の最適解は横に回避することである。
だがキリコはそれを蹴った! それよりも隙を作る事を優先した!

エクスパルゾ(爆破せよ)

爆破魔法によって砕かれた地盤、信じられるだろうか、飛び散った破片がちょうど死の呪文を防いだのだ!

「なっ!?」

その奇跡の様な光景を死喰い人は信じられなかった、そしてその一瞬の衝撃こそが命取りだった!

ステューブレイト(失神弾頭)!」

拳銃の様な破裂音と共に失神弾を撃ち込まれた死喰い人は、数10メートル程飛んでいきピクリとも動かなくなった。

「ぐ………」

それでも何人かは無言呪文で盾を張り防いでいたが、無慈悲にもバチンとした姿あらわし特有の音が時間切れをヤツらに宣言した。

ステュービファイ(失神せよ)!!』
「! 糞がぁ!」

だが伊達に死喰い人を名乗ってはいないようだ、闇祓いの一斉攻撃を姿くらましでいなし、そのまま暗闇の中へ消えていってしまった。

「逃がしたか…くそっ!」
「君! 大丈夫か…!?」

俺を心配してきた闇祓いの目線は地べたに転がる死喰い人に向けれている、しばらく唖然とした後フードを脱ぎその顔を表した。

「…まさか、これをやったのは君かい?」
「…はい」

浅黒い肌をした男性は、呆れてるのかどうなのかよく分からないといった顔をしていたが、すぐに冷静さを取り戻し俺に詰め寄ってきた。

「一体何を考えているんだ! 今回は偶々上手くいったかもしてないがそれは運が良かっただけだ!
死喰い人は人殺しの達人だぞ!? もし君が死んだらどれだけの人が悲しむかわかってい―――」
「キングズリー!」
「何だトンクス! 今はそれどころでは―――」
「それどころじゃないのはアレの方よ!」

トンクスと名乗る女性が指差す方向を見ると、そこには不気味な骸骨と、その口から蛇が顔を出す悪趣味な紋様が空に写し出されていた。
それはかつて死喰い人が自らの象徴として使っていた、知るものが見ればいまだ恐怖を蘇らせる忌まわしき印。

「闇の印…!」
「君! 早く避難するんだ! それと二度と危険な事をするんじゃないぞ!」

そう言い残すと彼等は再び姿くらましで消え去っていった、あの印の元へ向かったのだろう。

唐突に始まった混乱、それは一先ずの終わりを告げた。
だが俺はこれで終わりと考える事ができなかった。
戦争というのはそうだからだ、いつの間にか始まり何も知らぬまま終結する。
焼かれるテントと平和、空に浮かぶ空虚な屍。
揺らぐ炎の中に写る幻影が、俺に更なる戦いの予感をもたらしていた。



生き残った事が幸運とは言えない
それは次の地獄へのいざないでもある
ここは魔法学校の最前線
暗く燃え上がる蒼炎が臆病者はいらないと呻きを上げる
呻きは活気を呼び名誉を求める
競い合い、しのぎ合い、その覚悟を己の血で証明せと古の杯が叫ぶ
次回、『ゴブレット』
赤く揺らめく炎が狂気を促す



開幕早々戦闘シーン、もうモブ兵士じゃ相手にならないぜ!
ヴィーラに魅了されたロンの台詞、分かる人いますかね?


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第三十三話 「ゴブレット」

前哨戦も終わり、本編開始です。
さて、キリコを大会に参加させるべきか、
それとも否か…


『闇の印打ち上げられる、屋敷しもべ妖精の悪戯か?』

日刊予言者新聞の一面はここしばらくクィディッチ・ワールドカップの話が制圧している。
無論明るい話題などではなく、死喰い人が襲撃してきたというものだが。

しかし不幸中の幸いか、死傷者も負傷者も出ずに済んだらしい。
…魔法省が新聞に圧力を掛けていなければの話だが。

だがそんな安心を掻き乱すかのごとく、コンパートメントの窓に打ち付けられる雨がけたましく音を鳴らす。
それはまるで、新聞の内容を鵜呑みにし安心しきっている人々を嘲笑っている様に聞こえるのだった。

まあ雨とはいえ、去年の様に吸魂鬼が這いずっている訳では無いので遥かにマシだろう。
その不吉な雨の向こうにホグワーツ城が見えてきた所で、だらしなく寝ているキニスを叩き起こしておく。




セストラルの馬車に揺られながらホグワーツへと向かい、一刻も早く雨から逃れる為に城の中へと駆け込んでいく。
今年の組分けを見守った後、歓迎パーティーを堪能する。
そしてテーブル上のデザートが粗方排除された頃、ダンブルドアがいつもの挨拶を話始めた。

「さて諸君、腹一杯食べ、そのままベッドに飛び込みたいじゃろうが、何とか儂の話を聞き終わるまで頑張ってほしい」

内容は毎年の内容とさほど変わらず、学校内への持ち込み禁止物が追加(守っているヤツはほとんど居ない)、禁じられた森の立ち入り禁止、ホグズミードの諸注意といった所か。

「それととても驚きの事があるのじゃが、どうか驚かないでほしい」
「あいあい、まあ大したことないでしょう…」

腹を擦りながら瞼を擦るキニスだったが、穏やかな安息は次の一言で消し炭に成り果てた。

「今学期の寮対抗クィディッチは中止じゃ」
「やろうぶっ殺してやる!!」

真っ白い杖を鮮血で染めん勢いのキニスを無理矢理席に着かせる。
見ればあちこちから殺害予告が飛び交っている、しかしダンブルドアは動じる様子も無く、むしろその反応を待っていた様な意地悪い笑みを浮かべていた。

「ああちゃんと理由はあるんじゃ、これウィーズリーズ、糞爆弾を構えるのは止しなさい、そうそう」

暴走寸前の生徒達を宥め、一息ついた後息を大きく吸い込み一際大きな声で叫んだ。

「今年、三大魔法学校対抗試合(トライ・ウィザード・トーナメント)を開催する!」
「「御冗談でしょう!?」」

双子の反応と共に、暴走寸前だった大広間はとうとうメルトダウンしてしまった、が。

「…なにそれ?」
「…親善試合の様なものだ」

マグル出身である俺達には、それがどの程度凄い事なのか実感が持てなかった。
一応知識としては持っている、ホグワーツ、ボーバトン、ダームストラングの三校で行われる大会である。
かつては毎年開催していた様だが、やるたびに参加してない観客まで膨大な命の損耗をしていた為、とうとう100年前に中止されてしまったという歴史を持つ。

「長らく中止されてきた本大会じゃが、多くの方々が協力し、徹底的な安全措置を施す事で再び開催できる様になっ―――」

ダンブルドアの声を遮る様に放たれた扉、大広間に一人の男が入ってきた。
…その男の衝撃により、狂喜乱舞は一瞬で冷え込んだ。
何というか、どう言えばいいのか。
あえて言うなら、皹の入った茹で玉子に玩具の目玉を捩じ込んだ様な。
とにかく凄まじい見た目をしていた。

「久しぶりだなダンブルドア!」
「おおアラスター、来てくれたのか」

ズカズカと中央の道を歩いていき、アラスターと呼ばれた男はダンブルドアと力強い握手をする。

「紹介しよう、今学期の闇の魔術に対する防衛術を請け負ってくれるアラスター・ムーディ先生じゃ」

…どうしてこう、この教科にはアクの強い人間しか来ないんだ。
まあ見た目で判断するのは早すぎるだろう、少なくともロックハート以下という事は無い筈だ。
自分にそう言い聞かせ、出かけた溜め息を何とか飲み込む。

「で、なんじゃったか…おおそうじゃ、試合を開催するに至ってボーバトンとダームストラングの生徒達を10月のハロウィン頃に招待する、大会の詳細もその時伝えよう」


*


そこからの一ヶ月は、正に怒濤の勢いで過ぎていった。
一体どんな競技が行われるのか、誰が参加するのか、ボーバトンやダームストラングはどんな所か。
大会が始まってすらいないのに、学校内は既にお祭り気分で浮き足立っている。

が、それに待ったをかけるのが膨大な授業とその課題だ。
始まっていないのにこの熱気なら、始まってしまえば勉強所では無いのは誰の目にも明らか。
それ故に今の内に1年分の量を終わらせようと、かなり無茶な授業日程となっている。

特に元々課題の量が多い変身術や魔法薬学は地獄と言ってもいい程に熾烈なスケジュールとなり、今日も生徒達は断末魔の悲鳴を図書館に響かせている。

「死ぬ…マヂで死ぬ…」

睡眠時間も中々取れないのか、キニスの足取りは重く、目には深い隈が刻まれている。

「キリコはどーなの…?」
「問題ない」
「うへぇ…何でそんなに頭良いのさぁ…」

頭が良いと言うより、単に予習と授業と復習をクソ真面目にやっているだけなのだが。
ただ俺もこの過密日程のせいで、必要の部屋に行く機会が中々取れないのが悩み所である。

「ああ…ハグリッドの授業が待ち遠しい…」
「…何故だ?」

今年で魔法生物学を止めた俺には、何故あの授業が楽しみなのか分からない。
いや、別にハグリッドが嫌いという訳では無いのだが…
正直言ってあいつが教師に向いているとは思えない、よって今年は別の授業を受けることにした。

「え? やっぱ課題が楽だし」

まあそんな所か、妥当な理由だった事に納得していた…が、次の一言でそんな思いは消え去ってしまった。

「それに″尻尾爆発スクリュート″の飼育も面白そうだしね!」
「…尻尾?」

聞いたことも無く、そのあまりに奇妙かつ物騒な名前には不安しか覚えない。
まさかあの男、新種を創り出したのでは…確か新種の創造は違法の筈…

「何かハグリッドが()()()()()()()()()()で、空を剥いた蝦みたいなのの尻尾が爆発するんだ。
今学期はそれの飼育方法を皆で見つけるのが課題」
「………」

やはり受けなくてよかった、心の底からそう思った俺は無心のまま天を仰いだ。
さて次の授業は闇の魔術に対する防衛術だ、一体あの男がどんな授業をするのか楽しみである。

「そういや、ムーディ先生ってどんな授業をするんだろ? 何か聞いてる?」
「…いや」

あの後ヤツについて少し知らべてみた。
『アラスター・″マッドアイ″・ムーディ』かつて魔法省の闇祓いとして第一次魔法戦争を戦い抜き、アズカバンの半数を埋めたと言われる男。
あの傷だらけの顔はその激戦が原因となっているらしい、…それ以上の変人としても有名なようだが、これは期待できそうだ。

「…ロンが言ってたには言ってたんだけど…」
「…何と?」
「『あいつマジでクレイジーだぜ』だって…」
「………」

期待…していい筈…




席に座った生徒達は、皆今年の授業がどうなるのかコソコソ話ている。
まああんな見た目だ、気になるのも当然だろう。
すると奥の扉からコツコツと義足を鳴らしながらヤツが荒っぽく入って来た、そして黒板のチョークを持ち、ギョロギョロと義眼を動かし、こちらをぐるりと見渡した後、名前を書き綴った。

「アラスター・ムーディ、貴様らに闇の魔術に対する防衛術を教える男だ! 貴様らいつまでくっちゃべっとる! え!?」

教室が軽く揺れるほどの怒声で始まった授業に、豆鉄砲を撃たれた様な顔をする生徒達。
それを「フン!」と鼻で笑い、出席を取った後また怒鳴り始めた。

「何故教科書なんざ出しとる!? しまっちまえそんなもん!!」
「え? でも―――」
「何だ貴様何か言いたいのか!? 貴様は敵が呪文を撃って当たるまでの間に教科書をのんびり読んで対抗呪文を見つけるのか!? え!? それはすごい能力だな! ぜひ闇祓いに欲しいな! ええ!?」
「………」

ぶっ飛んでいる、どうやらロンの言っていた事は間違っていなかった様だ。
あまりにあんまりな気迫に、すっかり縮こまってしまった可哀想な女子生徒は黙り込んでしまった。

「儂は闇の魔法と闘う術を教えに来た! しかし貴様らは闇の魔術について何を知っている!? 何故何も知らないで闘えるのだ!? お前達は知らねばならない、闇の魔術とはどういうものか!!」

やはりぶっ飛んでいる、そう感じるが言っている事は極めて真っ当、同感である。
その圧倒的気迫と目つきからは、どれ程の地獄を潜り抜けてきたのかが伺える。

「では聞こう、英国魔法界において″″許されざる呪文″は何だ、知っているものはいるか!?」

その質問に対し、一人のハッフルパフ生が恐る恐る手を上げた。
見渡せば多くの生徒が見えない何かに怯えるように縮こまっている、ただ聞かれただけだというのにこの反応、それだけでこの呪文の恐ろしさが伝わってくる。

「よし貴様! 答えてみろ!」
「は、″磔の呪文″です」
「その通り! これは対象に度しがたい程の苦痛を与える呪文だ!」

ただ苦痛を与えるだけ、言ってしまえばそれだけである。
しかし逆に言えば、苦痛を与えるだけだというのに許されざる呪文に指定されている事実、それがどれ程凄まじい痛みなのかを物語っている。

「それでは実際に見せてやろう」

そのとんでもない一言で生徒達の緊張も恐怖も遥か彼方まで消し飛んでしまった。
ムーディは唖然とする生徒達を気にも止めず、後ろの棚から蜘蛛が入った小瓶を取り出す。

「安心しろ、今から使うのはこの蜘蛛に対してだ。
しかし! この呪文は人に向かって使えばそれだけでアズカバン送りになるほどのものだ! そんなクズにはなるなよ!」

ヤツの説明で胸を撫で下ろす生徒達だったが、それでも尚その目は怯えたままである。
ムーディは瓶から蜘蛛を取りだし、全員に分かりやすい様に肥大化呪文を使い、そして杖を突きつけた。

「クルーシオ! ―苦しめ!」

痛みが度しがたいならば、悲鳴も相応のものとなる。
放たれた絶叫は教室が破裂するのでは、と思わせる程のものであった。
その呻きは蜘蛛のものであるにも関わらず、かつて聞いてきた拷問の悲鳴、そのどれよりも凄惨な音に聞こえた。

生徒達がその悲鳴に耐えきれなくなり、耳を塞ぎ涙を流し始めた頃、拷問はようやく終わりを告げた。

「これが磔の呪文だ、では次! 答えられるヤツはいるか!?」

だが先程の惨事を引きずっているのか、答えられるものは一人としていなかった。
それに対し不満げな舌打ちをした後、しょうがないといった風に説明を始める。

「″服従の呪文″、それが許されざる呪文の二つ目だ、文字通り対象を″服従″させる―――インペリオ! ―服従せよ!」

それまで息も絶え絶えだった筈の蜘蛛は、次の瞬間嘘のように元気になった。
それどころかシルクハットを持った様に優雅なお辞儀まで披露する。
そしてタップダンスを踊り出したり、何度も宙返りを見せる蜘蛛を見て、陰鬱だった空気は少しずつ笑いに変わっていく。

「ははは! どうだ面白いか!? では次はどうする? 死ぬまで踊らせるか? 入水自殺もいいな、いや、自分で自分の目玉を抉り取ってもらおう! 何せこいつは今儂の言いなりだからな!」

途端に場の空気が凍りつく、そしてこの呪文の恐ろしさを理解した。
何でも思い通りにできる、それは自分にとって都合の良い操り人形を作り出す事に他ならない。
他人の為に生き他人の為に死ぬ、俺はそれに吐き気を覚える程の嫌悪感を抱いた。

「この呪文の恐ろしさを理解したようだな、しかしこれは許されざる呪文の中ではまだマシな方と言える。
何故なら他の二つの違い、強い精神力があれば打ち破る事ができるからだ」

またもやドン底になった教室だが、その分余計な話をする者もいなくなった。
昨年のルーピンも良かったが、より実戦向きといった意味ではヤツの方が遥かに優秀だ。
…最初の2年が酷すぎたからではない、決して。

「では最後! 答えられるヤツはおらんのか!? え!? よしそこの青髪の貴様…キュービィーだったか? まあいい答えてみろ!」

直々の指名とはどういう事だろうか? まあ言わない理由も無く、知らない訳でも無いので坦々と答える。

「…″死の呪文″」

知っていたであろう生徒達は、肩をすくめ一層震え出す。
だが俺はそれほど恐ろしいにも関わらず、特に何も感じていなかった。

「そう、最低最悪、最強最凶の呪文―――アバダケダブラ!」

額から脂汗を流しながら、杖先から撃たれた緑の光。
それが当たった瞬間、蜘蛛はピクリとも動かなくなった―――死んだのだ。
もがく事も苦しむ事も、泣く事も絶望する間も無く、一瞬で死んだ。

この呪文が最強と呼ばれる理由がこれだ、理由も訳も無く殺す。
本来ある筈の過程を一切挟まず、文字通り″死″を与える呪文、だからこそ恐れられるのだ。
おかげでマグルが検死をした場合『死んでいる事を除けば至って健康』と、おかしな事になってしまう。
…最も、俺にとっては一番縁の無い呪文である、ハッキリ言って磔の呪文や服従の呪文の方がよっぽど厄介だと思う。

「この呪文をくらって生き残った人間は歴史上たった一人だ…お前達はよく知っているだろう」

これは言うまでも無くハリーの事だろう、無傷では無く額に傷を残してはいるが。
…そういえば、一年の時死の呪文から生き残った事は知られていないのか。
まあ下手に有名になるのも面倒なので、寧ろありがたいのだが。

「いいか! これが闇の呪文だ! 敵をいたぶり、操り、そして殺す! 身を守る為にはこうして相手がどれ程無惨な事をするか知らなければならない。 
肝に命じておけ、()()()()!」

衝撃の授業が終わり教室から出ていく生徒達は、興奮しながらムーディの凄まじさを語る者や気分を悪くして医務室へ行く者など、様々な姿を見せている。

「…凄かったね」
「…ああ」

その中でキニスは興奮と気分の悪さを足して二で割ったような様子であった。

「イカれてるって言ってたけど、まさかあそこまでとは…いや、面白かったのは確かだけど」

面白かった…と言うよりはひたすらに実戦向きなのだろう、流石元闇祓い、とても充実した授業である。
やや青ざめた顔のキニスとは対照的に、俺は興奮することも吐き気を催す事も無く、純粋な満足感を噛み締めていた。


*


「……うぅ」

揺らぐ視界と耳鳴り、頭痛とふらつく足取りの中、俺は杖を支えに何とか立ち上がった。
久しぶりに必要の部屋に籠ってからというもの、こうして気絶するのはもう五回にもなる。
今すぐ休みたい気分ではあったが、羊皮紙に成果を忘れない様記載していく。

一回目は不発、二回目は軌道がそれ、三回目は反対方向にすっ飛んでいった。
なので自身の周りを囲い、外れても反射で当たるようにしてみた。
その結果の四回目と五回目はご覧の通り、当たるには当たったが何故か気絶止まりである。
…そう、俺は死の呪いを自分自身に撃ちまくっていたのだ。

必要の部屋でヴォルデモートの研究資料を見つけてから早一年、俺は既に死の呪いを習得する事に成功していた。
あまり嬉しくないが、この研究資料が驚くほど分かりやすく書かれていたのも大きな理由の一つだろう、正直素直に感心している。

ただ何も理由も無く自殺未遂を繰り返していた訳では無い、というよりも俺に死の呪いが効かない…というか絶対に当たらないのは分かりきっている。
では何故か、それは単純に俺の異能を研究する為である。

思い返して見れば、どいつもこいつも死なない、とにかく死なない、どう足掻いても死なない…と連呼し続けていたが、この力が具体的にどういった状況で、どう発動するのかについて調べた者はいなかった。

俺の知る限り…の話ではあるが、この力についてハッキリと知っている者は俺を含めてもいない。
では自らの力を知らないのに、何故それを打ち破る事ができようか?

だからこそ俺は、こうして様々な方法を用いて異能の力を研究する事にしたのだ。
こうやって死の呪いを自分自身に撃っているのも、その方法の一つである。

そのおかげか、この力について少しだけ分かってきた。
一つは、発射から着弾までが長い場合は照準が外れる。
二つ目は、どうやっても被弾する状況なら不発を起こしたり、又は当たっても何らかの要因で生き残る。

つまり異能といえど、余りにも無茶苦茶な奇跡を起こすことはそうそう無く、変な言い方ではあるがなるべく自然に生き残らせようとする事が分かった。
…が、これは俺の経験で分かりきっていた事なので、結果で言えば改めて確認しただけである。

その進歩の遅さに肩を落とす、しかし千里の道も一歩からと言う、地道にやっていくしかないのだろう。
だがこれ以上頭に死の呪いを叩き込むのは流石に辛いので、これからは″何故照準が外れるのか″を調べる事にする。

その原因を推測するのは難しい事では無い。
単に運が悪かった、杖の相性が悪いのかもしれない、はたまた呪文の撃ちすぎで魔力が足りなかった…
もしくは自分の意思で照準をずらしたのか、それも考えられなくはない。

俺は死にたいと考えている、その悲観にも似た願いはここに入学してから今に至るまで変わってはいない。
だが頭で、心の底からそう思っていたとしても実際にそうとは限らない。
生きるという事は、生物であるなら当然の欲求と言える。
だとすれば俺が死ぬのを拒み、無意識下で避けようとするのも当然である。

…そうなのだろうか、だとしたら俺は何なのだろうか。
死にたいと願いながらも、その願いの奥底では死にたくないともがいている。
どれ程生きたとして、生きていても楽園(パラダイス)等絶対に来ないのに、何故そこまで足掻くのだろうか。

いや、そうではない、単純な事だ。
結局の所、俺はこの期に及んで尚死ぬのが恐いのだ。
死ぬのはどれ程辛いのか、どれ程の激痛なのか
死んだら何処へ行くのか、天国か地獄か、それとも辺獄(リンボ)か、もしくは何も無いのか。
一番恐ろしいのはそれだ、死んで、それで本当に彼女と再開できるのか…
もしあの世等存在せず、更なる地獄に足を踏み入れるだけだったとしたら…

いや、だとしても迷う事は無い。
この異能を殺さぬ限り、明日が訪れる事は無い。
その明日が地獄だったとしても、明後日は違うかもしれない。
少なくとも、生き地獄以外の道はある筈だ。
不安と恐怖、それを深い暗雲に隠す。
そして俺は、その中に見えた微かな光を追い求めるのであった。
仮にそれが、更なる奈落の入口だったとしても…



言うなれば運命共同体
互いに競い、互いに高め合い、互いに助け合う
一人が五人とともに、五人が一人とともに
だからこそ全力で闘える
嘘を言うな!
猜疑に歪んだ暗い瞳がせせら笑う
お前も、お前も、お前も!俺のために死ね!
次回、『選手』
こいつらは何のために集められたか



予告で全部言ってるじゃねえか!
まあ分かり切っている事ではあるので…
でもホグワーツ3人はあんまりにもあんまりだと思います。


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第三十四話 「選手」

総合評価が1500を越えました!
これからも精進していきますので、
応援をお願い致します!


時が経つのは早い、特に実年齢がかなりの物になっている俺にとってはあっという間の二ヶ月であった。
だがまだ若いこいつらはそうでは無かったらしい、特に楽しみな事を待つ時はさらに長く感じるものだ。
そうして待ちに待ち、いよいよボーバトンとダームストラングが来校するハロウィン前日となったのである。

まあ、昨日の夜の内に空飛ぶ巨大馬車や巨大潜水船やらが見えたので既に到着しているのだろうが。
その為大広間に集まった生徒達は、見たことも無い人々の来訪をまだかまだかと、そわそわしながら待っている。
その光景を一通り眺め、満足したのかダンブルドアが話し始める、するとそれまでの喧騒が嘘の様に静まった。

「本日、我々は新たな友を迎える、彼等は今年一年間ホグワーツの留学生扱いとなる。
始めての事ばかりで諸君らも緊張しているじゃろうが、それは彼等とて同じこと。
諸君らホグワーツの生徒は、彼等が困っていたら率先して助ける様な、誇り高い精神を持っていると儂は信じておる」

珍しく冗談抜きの挨拶をするダンブルドアだが、皆それを真摯に聞いていた、普段ヤツを小馬鹿にしているスリザリンもだ。
それは対外的な問題を起こして欲しく無い、といった理由ではなく本心から言っている様に感じた。

三大魔法学校対抗試合(トライ・ウィザード・トーナメント)の為に訪れたとはいえ、他国の者達と交流を持てるのは貴重なこと。
この一年間、彼等と親睦を深め、試合以上に素晴らしい友情を築き上げてほしい。
これで儂の長ったらしい演説は終わりじゃ」

結局冗談で締め括り、あちこちから苦笑が漏れる。
それと同時に沈黙で押さえつけられていた興奮がいよいよ爆発した。

「では諸君、お待ちかねの時間じゃ」

それと同時に、大広間の扉がゆっくりと開かれた。
まず入ってきたのは薄い水色の、スーツの様にも見えるローブを着込んだ女性達であった。
バレエ音楽に似た優雅な曲と共に、それに合わせた躍りは彼女らの魅力を一層と引き立てている。

「まずはパフォーマンスを見せてくれる様じゃ。
芸術と美の国フランスの淑女、″ボーバトン魔法魔術アカデミー″の生徒達。
それとフランス魔法生物飼育学の権威、校長はマダム・マクシームじゃ」

生徒達に続いて大広間を横切るのは、ダンブルドアが小さく見える程の巨体を持つ壮年の女性であった。
しかしその動きの一つ一つが洗練されており、若い頃では出すことのできない美しさを輝かせている。
その横を歩く女性は、下手すれば他の女性が引き立て役に成りかねない程の、それこそ人間離れした美貌を見せつける。

「お久しぶりーです、ダブルドー、元気そうで何よーり」
「マダムも、相変わらず美しい」

マクシームの手の甲に口付けをするダンブルドアは、ほとんど姿勢を変えなかった。
ダンブルドアは比較的大きい筈だが、彼女はそれを遥かに上回っている。
ハグリッドに迫る巨体を見るに、彼女はおそらく巨人の血を引いているのだろう。

「あ、フラ―さんだ」
「…知り合いか?」
「いや、前フランス旅行に行ったでしょ? その時折角だからボーバトンの行事を見学したんだ。
その時フラ―さんと少し話したことがあるんだ」

改めてこいつの持つコミュニケーション能力の凄まじさを痛感している間に、ボーバトン生とマクシームがレイブンクローの席に着く。
それを見たダンブルドアは次の学校の紹介を始めた。

「北からもお越しくださった、厳しい雪に鍛えられた屈強な魂を持つ者達、ドイツの″ダームストラング専門学校″の生徒達。
校長は闇の魔術に対する防衛術の専門家、イゴール・カルカロフどのじゃ」

先程までの優雅な曲とは一転、重厚な音楽が腹に響いてくる。
そして軽い爆発と思い靴音を打ちならしながら、分厚いコートを着込んだ男性達が入場してきた。
彼等が持つ長大な杖は、地に打ち付ける度に重い音や花火を撃つ。
その洗練され、統一された光景は学生の演目と言うよりも、軍隊のパレードの様に見える。

不意に杖を消し去った瞬間、驚くべき身体能力でアクロバティックな躍りを披露する。
杖を口元に当て息を吹けば、炎で象られた鷹が飛んでいき、その先にいた人に膝まずいた。
その鷹を作り出した青年が入ってくると、生徒達は一斉にどよめきだす。

「ク、ク、ク、クラム!? 本物!?」

分厚いコートをたなびかせ堂々とした歩みを刻む青年は、あのクィディッチ会場で見たビクトール・クラムその人だった。
学生というのは知っていたが、よもやダームストラングの生徒だったとは。

その横を歩いていた男性は、まるで山羊の様な髭をしており、そしてダンブルドアと力強い抱擁を交わした。
恐らくヤツが、校長のイゴール・カルカロフだろう。

「久しいなアルバス!」
「イゴールも元気そうじゃな」

ダームストラングの生徒達とカルカロフがスリザリンの席に着いた所で、再びダンブルドアの演説が始まった。

「紳士淑女にゴーストの諸君、ホグワーツへようこそ。
今回の来校が諸君らにとって、貴重で有意義なものになる事を願っておる。
さて、色々説明しなければならんが、まずは親睦を深めてもらおうかの」

そこで杖を一振りすると、次々と料理が表れた。
外国のヤツらが来ているからか、いつもと違い異国の料理が多いように見える。
…素晴らしい、これだけでも三大魔法学校対抗試合が開催された価値は十分ある。

さっそく手をつけたのはジャーマンポテトだ、ボリュームたっぷりのそれにフォークを突き刺すと、意外と固めに茹でている事が分かる。
分厚い切り口のポテトを口に含めば、胡椒の辛味が食欲を暴走させる。
その赴くままに噛み締めると、その度に染み付いたベーコンとソースの旨味が、満足感のある歯応えから染み出してゆく。
同じ味付けの玉ねぎは甘く、素材の味を限界まで引き出している。

流石ドイツ料理、素材の味を引き出す事で有名なだけはある。
…実のところジャーマンポテトはドイツ料理では無いのだが…まあ旨いならそれでいい。
続けてドイツ料理の鉄板、ヴルスト…つまりソーセージを頂く事にした。

皿に乗っているヴルストに同じ物は一本として無い、どれを取るか…と考える間も無く、俺はブラートヴルストにかぶりついていた。
ソーセージと言えば軽快な歯応えに溢れだす肉汁であり、これも例外ではない。
しかしこれの旨さは、その比ではなかった、こんがりとした風味に、皮を喰い破る快感は目眩がするほど。
それにナツメグや胡椒等が組合わさった羊肉や豚肉の旨さは、もはや暴力的ですらある。

さらにヴァイスヴルストやシュヴァルツヴルストにかじりつき、その芳醇な味わいを楽しんだ後、ザワークラウトの爽やかな酸味で一息ついている時であった。

「ヴぁの、キリコ・キューヴィーですか?」

誰だ、俺の安息を邪魔するヤツは。
食事を邪魔された事に少し苛立ちながら振り替えると、そこには何故かビクトール・クラムがいた。

「…そうだ」
「やヴぁり、一度ヴぁなしてみたかったんです」

超一流のクィディッチプロが何故俺と? それに何故俺の事を知っているのだろうか。

「…何か用か?」
「ヴぁ、えー…」

ドイツ訛りの強い英語で話すクラムだが、母国語で無いからか少し話しにくそうにしている。
すると隣で目を丸くしていたキニスが口を開く、次の瞬間俺もクラムも衝撃を受ける事になった。

『よかったら通訳しましょうか?』
「「!?」」

凄まじく流暢なドイツ語が飛び出してきたのである。
クラムも少し目を丸くしていたが、すぐそれに頼る事にしたようだ。
クラムはキニスに向かって話始め、キニスはその後俺に向き直った。

「あの″自殺用箒インファーミス1024″を自由自在に操る変態がいると聞いて、話してみたかったんだって」
「………」

クラムの方を見れば、憧れの様な珍しい物を見るような…何とも言えない表情でこちらを眺めている。

『何か聞きたい事はありますか?』
『そんな危険な箒で、どうやって勝ってきたんですか?』

その後ろを見れば、クラムが俺に会いに来たことがそんなに気にくわないのか、大量のスリザリン生が…いや、クィディッチ狂い達がこちらを睨んでいる。
まずい、このままでは至福の時が過ごせなくなってしまう。
危機感を抱いた俺は、ヤツが満足しそうな答えで手を打つことにした。

「箒の性能は絶対ではない、肝心なのは乗り手の技量だ」

その答えに満足してくれたのか、クラムはニヤリと笑い群衆の中に去っていった。
それを見届けていると、今度はキニスが騒ぎだした。

「…あ!? サイン貰い損ねた!」
「…ドイツ語話せたのか」
「え? まあ昔ドイツに住んでたし」

そういうことか、なら話せてもおかしくないだろう。
と思っていた直後、二度目の衝撃を受ける事になった。

「あと日本とフランスとイタリアに住んでたから、五つは話せるよ」
「…何?」
「いやだから、日本生まれでその後ドイツに引っ越したんだけど、パパの都合であちこちに移り住んでたんだ。
ちなみにイギリスに来たのは入学の数ヵ月前」
「………」

こいつもしかして、凄まじい才能を持っているのでは…
そんなやり取りをしてる内にいつの間にかパーティが終わり、いよいよ試合の説明をする時間となった。

最初に大会開催においての協力者達の紹介、その内バーテミウス・クラウチとルード・パグマンという奴らと、学校の校長を含めた5人によって審査委員会が構成されるということ。
そして大会の概要やら、それによる措置等を説明した後、ようやく生徒達が最も気にしている事を説明し始めた。

「皆選手をどうやって選ぶのか気になっておるじゃろう、その公平なる選考人は…これじゃ、ミスターフィルチ、頼む」

フィルチが運んできたのは、大小様々な宝石が散りばめられた木の箱だった。
ダンブルドアがそれをコツンと杖で叩くと、中から粗削りのゴブレットが姿を表す。
そしてそこに、煌々と揺らめく青い炎が灯った。

「″炎のゴブレット″これが選手を選んでくれる。
我こそは、と思う勇敢な者は、羊皮紙に学校名と名前を書き、この炎の中に投げ入れるのじゃ」

ただの炎が選手を公平に選べるとは考えにくい、恐らく魔法道具の一種だろう。
それにしても、あそこまで派手な演出をする必要性は考えにくいが…しかしその理由はすぐに分かった。

「炎のゴブレットに名前を入れればそれを取り消す事はできぬ、悪戯半分で名前を入れぬことの無いように」

なるほど、ただ派手なだけではなく、辞退やふざけ半分での参加を防止する能力もあるという訳か。
下手すれば死人が出るこの大会、そのくらいの措置はして当然だろう。

「選手は三校から一人づつ選ばれる、そして彼等が挑むのは三つの課題、それによってあらゆる角度からその力を試される。
課題の内容はすでにクラウチ氏とパグマン氏が協議し決定済みじゃ、この課題の総合得点が最も高い者に優勝杯が与えられる。
あ、あと1000ガリオンの賞金も忘れてはいかんな」

三つの課題、優勝杯、1000ガリオン。
名誉と金を同時に得られる一世一大の大チャンスに、生徒達は沸き上がった。
…が、次の瞬間その大半はあえなく撃沈していった。

「ただし、未熟な者が危険に挑まぬよう、今回は儂が直々に″年齢線″を張らせてもらった。
17歳に満たぬ者はゴブレットに名前を入れる事も近寄る事も出来ぬ」

ホグワーツ生を中心としてブーイングが上がる。
当然の措置と言えば措置だが、なにせ生徒の大半が参加できないのだ、苦情が出るのも無理はない。

「制限時間は24時間以内、ゴブレットは玄関ホールに置かれる、明日のハロウィンの夜、課題に挑むに相応しい者達をゴブレットが吐き出すじゃろう。
もう一度言おう、一度名前を入れれば、例え死のうとも闘い続けねばならぬ。
覚悟と決意を持つ者だけが、ゴブレットに名前を入れるのじゃ。」




パーティが終わった後、ゴブレットに名前を入れるヤツはいなかった。
まあ既に夜なので、今から入れるには遅すぎる、入れるヤツは明日入れるのだろう。

寮へ帰る道の中で生徒達が話しているのは、如何にして″年齢線″を突破するかだ。
老け薬を使うだの、ポリジュース薬はどうかだの、上級生に頼んでみてはどうかだの…
しかしそれは恐らく無駄骨になるだろう、世界最強のダンブルドアが引いた魔法だ、たかが学生ごときで突破できるとは思えない。
…この三年間、ダンブルドアが居るにも関わらず事件ばかり起こっているがこの際気にしないことにする、気にするだけ無駄だ。

だが大人しい事が特徴ともいえるハッフルパフに、そんな無謀な挑戦をするヤツは居ないようだ。
暖炉の前では、猛烈なセドリックコールが巻き起こっている。

「セドリック先輩かあ、…パーフェクトだ!」

容姿端麗、成績優秀、温厚篤実、ヤツなら例えスリザリン生でも文句は言わないだろう。
しかしあの男、こういった事に興味があるとは少し意外だな。
いや、少なからず目立ちたいという思いはあるだろう、でなければクィディッチ選手になどなっていない筈だ。

「キリコは出ないの?」
「…断る」

出たい、等微塵も思わない、むしろ全力で拒否する。
元来俺は目立ちたくは無いのだ、この三年間やむを得ぬ事情で面倒事に関わり続けてはいたが、できるならひっそり穏やかに過ごしたいのが理想である。

「…うう、た、大変だった」
「あ、セドリック先輩お疲れさまです、水飲みます?」
「ありがたく頂くよ」

群衆の中から脱出してきたセドリックは、キニスから渡された水を飲むといつも通りの笑顔に戻った。

「そういえば先輩、何で出ようと思ったんですか?」

俺も疑問に思っていた事を質問するキニス、セドリックは窓辺に腰掛けながらにこやかに答える。

「まあ理由は幾つかあるけど…皆に期待されてたり、父さんも期待してくれてるし…
でも一番は、やっぱり興味かな」
「興味…ですか?」
「うん、自分の力がどこまで通用するのか、どんな試練が襲い掛かってくるのか…怖くもあるけど、楽しみでもある」

少々意外な答えではあったが、予想の範疇でもある。
なにせ100年ぶりの祭典だ、興味を抱くなという方が無理だろう、俺でさえ少し興味を持っているのだから。

「それに100年ぶりのお祭りだからね、どうせなら参加してみてもいいんじゃないか…そう思ったんだ」
「なるほどー、流石セドリック先輩、死んでも応援しますよ!」
「そこまでやらなくても…第一まだ選ばれてすらいないんだから」

セドリック応援パーティも程々に、各々自室へと戻っていく。
明日は土曜日なので授業の準備などは必要ない、よって必要の部屋に籠ろうかと考える。
しかし少し思案し、それは無理だと断定した。
恐らく明日はボーバトンとダームストラングの生徒達が学校見学に勤しむ、その為必要の部屋に入る瞬間を見られる可能性があるからだ。
とどのつまり、明日は図書館に籠って勉学に励むしかないのである。

「でも残念だね、17歳じゃないと参戦できないなんて。
キリコなら絶対優勝狙えたのに」
「…興味が無い」

ブツブツ文句を垂れ流しているキニスには悪いが、今年はのんびり大会を見学しつつ、闇の魔術の研究に勤しむとしよう。




翌日の大広間には大勢の人が押しかけていた、最もその大半は野次馬であり、自ら参戦しようという者はいない。
その中からゴブレットに名前を入れるヤツが出るたびに、大きな歓声…というよりも煽り立てる様な歓声が爆発する。
ただ一日中見張っている暇なヤツはそうそうおらず、昼になれば観衆はほとんど居なくなっていた。

そんな大広間を通りかかった時、そっくりな見た目をした老人二人が俺を横切り遥か彼方まで飛んでいくのが見えた。
ロンが「兄貴ー!?」と叫んでいたので、あれは大方ウィーズリーの双子だろう。
老け薬を飲んで年齢線を突破しようとしたようだが失敗したみたいだな。
この調子を見るに、年齢線は問題なく機能しているようだ、これならまず突破されないだろう。

そうこうしながらも瞬く間に時間は過ぎ、気が付けば選手発表の時が訪れていた。
大広間はその日一番の静けさを見せ、生徒達は緊張と期待に胸を膨らませている。
しかしこの静けさは、熱狂が爆発する前のほんの一時でしかない。

「さて、時は来た」

ダンブルドアが壇上に立ち杖を振るう、大広間からは光が消え失せゴブレットの青い炎だけが人々の目に映り込む。
耳を凝らせば生唾を飲み込む音さえ聞こえる、それ程に静かな空間の中でヤツは再び話し出した。

「ゴブレットは試練に挑む勇者を選んだ、もう後戻りはできん、これに名前を入れた者は既に覚悟を決めている事じゃろう。
選ばれた者は、前に出るのじゃ」

そう言い終わるかどうかの所でゴブレットの蒼い炎は一層激しく燃え上がり、闘志を表すかの如く紅い炎に姿を変える。
一瞬、天井に届かんばかりにそれが燃え上がる。
次の瞬間天井から一枚の羊皮紙がユラユラと踊りながら、ダンブルドアの手元に舞い降りた。
そこに書かれた名前を、息を吸い込む空白の後に叫んだ。

「ボーバトン魔法魔術アカデミー代表は、フラー・デクラール!」

レイブンクローの席が爆発した、と思いかねない程の歓声の中をデクラークは歩く。
その立ち振る舞いはただ美しいだけでなく、その内に秘めた力強さも感じる女戦士の様である。
選ばれなかったボーバトン生の中には泣いている者もいるが、どこか納得したような表情で拍手を送っている。

彼女が奥の部屋に入って行った頃、その歓声と拍手も、次の炎が蘇った途端消え失せた。
再び紅く染まる炎が吐き出した羊皮紙を手に取ったダンブルドアは、先程と同じように叫んだ。

「ダームストラング魔法専門学校代表は、ビクトール・クラム!」

大広間がメルトダウンを起こした、ヤツに至っては別格ともいえる。
何故ならヤツはクィディッチ・プロの一人、いわばヨーロッパのヒーロー。
スリザリンの席から歩き出したクラムは、ホグワーツの寮を通り越してどの学校の生徒達も拍手を浴び続けている。
ダンブルドアと力強い握手をした後、ヤツも奥の部屋に入って行った。

そして最後の炎が揺れ始めた、陽炎の様な炎の中には羊皮紙が映り込み、それはするりとダンブルドアの手に納まる。

「ホグワーツ魔法魔術学校の代表は、セドリック・ディゴリー!!」

ハッフルパフの席が核爆発を起こした。
その勢いは大広間全員の歓声よりも強力である、最もその理由は分かっていたが。
いわゆる日陰者、永遠の二番手、三年前に優勝杯を取っていたにも関わらず未だにそんな扱いのハッフルパフ。
そこから代表が出たのだ、嬉しくない筈が無い、見れば何人かは鼻水を垂らしながら号泣している…キニスお前もか。
自分の学校だからかほんの少し大声でセドリックを呼んだダンブルドアの元に、その笑顔を少しこわばらせながら歩いているセドリック。

「これで三校全ての選手が揃った! 彼らの勇気と情熱が見せる雄姿が今から楽しみじゃ! では観戦者である諸君にルール諸々を説明しよう」

ゴブレットの前に立、杖で空中に何かを書き綴っていくダンブルドア、今後の日程を分かりやすく紹介しようとしたのだろう。
…しかし炎は突然に蘇った。

「…これは」

死んだ筈の炎が、殷殷と火花を散らしながら蘇る。
そこから吐き出された一枚の羊皮紙が、異様な沈黙を打ち破った。
振り返ったダンブルドアは硬直しながらも、その憐れな犠牲者の名前を読み上げた。

「…ハリー、ハリー・ポッター」

大広間に居る全ての視線がハリーに注がれた、その騒ぎの元凶であるヤツは何が起こっているのかも理解できていないらしい。
目を白黒させながら戸惑うハリーに向かってダンブルドアは叫ぶ。

「ポッター! ハリー・ポッター! 来るのじゃ!」

混乱しながらもハーマイオニーに諭され、よろよろと中央の通路を歩いて行くハリー。
まるで死刑囚の様な雰囲気を漂わせるハリーに向かって、様々な感情を見つめる群衆たち。
だが俺は気付いた、その視線の中に一つだけ違う感情が混ざっている事に。
その大本を探ろうとした―――瞬間の事であった。

「…な!?」

炎は二度蘇る、地獄から聞こえる様な、不気味な音を鳴らしながらもう一枚の羊皮紙を打ち上げるゴブレット。
人々は騒めく、誰だ? 誰が選ばれるのだ? ホグワーツは既に二人選んだ、ならあれはボーバトンかダームストラングか。
しかし俺はこの時点で感じ取っていた、そこに刻まれたのが何なのかを。

「…キリコ・キュービィー」

何時だってそうだ、俺が望もうが望むまいが、常に戦いに巻き込まれてきた。
今回だけ例外、そんな都合の良い運命などある筈が無い。

「…キ、キリコ…!?」
「………」

深い深いため息をつきながらも立ち上がり、歩き出す。
期待、困惑、嫉妬、驚愕。
ありとあらゆる感情を乗せた視線の槍、それを全身に受けながら大広間を歩く。
どうやら、どう足足掻いてもこの戦いの堀から抜け出る事は無理らしい。
だが俺の感情が揺れる事は無かった。
こういった事は慣れきっている、今更驚くほどの事でもない。
だからこそ気付けたのだろう、その視線の中に一つだけ違うのが混じりこんでいた事に。
ハリーに向けて歓喜を、俺に向けて憎しみを向けるアラスター・ムーディ。
その訳を考えながら俺は一人、奥の暗闇に吸い込まれていくのであった。



無能、怯懦、虚偽、杜撰
どれ一つとっても試練では命取りとなる
それらをまとめて無謀でくくる
用意された計画、用意された地獄
行くも怖いが逃げるも怖い
脆弱な地盤 重裂な爪牙、充満する爆炎
まさに焼死必須の竜戦虎争
次回、『死の竜』
怒涛のドミノ倒しが始まる



久々の飯回&予定調和
Q何故わざわざ参加させたのですか?
A貴方はこの男が面倒事に巻き込まれないと思っているのですか?
よかったねセドリック! 出番は減らなかったよ!


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第三十五話 「死の竜」

タイトルの癖に課題に挑むのは次回!
しょうがない!
だって本編でも最初は予告になってるか微妙だもん!
あと感想100件に到達しました!
皆さんありがとうございます!


様々な絵画が飾られた部屋は、先程まで選ばれた選手達が和やかな会話をしていた筈だった。
だがその安息は俺達の来訪によって容易く崩れ去る、不思議そうな顔をした選手の中で最初に話しかけて来たのはセドリックだった。

「キリコにハリー? どうしたんだい?」
「それが…僕にも…」
「………」

まだ状況の整理が付いていないのか言いよどむハリー、片や俺も何と伝えれば良いのか考え込むが、結局そのまま伝えるしかないのだろう。
意識の外で深くため息をつき、言葉を口にする。

「…俺達も代表だ」
「…え?」

何を言っているのか分からない、といった様子だったが、その意味を理解してきたのかその顔は徐々に険しくなっていく。
次に口を開いたのはクラムだった。

「それヴぁ、そのままの意味ですか?」
「残念ながらな」

口を開け唖然としていたのは数刻の間、少し経った瞬間大騒ぎが始まった。
一体どういう事だ、何故代表が三人もいる、これは不正だ…
特に騒いでいるのはデクラールだ、彼女は俺達が不正を働いたと訴えている。
それに反論するのはセドリック、ヤツは俺達がそんな事はしないと説得をしようとしてくれている。
クラムは何も語らず、腕を組んだまま何かを考えているようだ。
騒然とした空気の中現れたダンブルドアは、俺達に詰め寄り声を荒げる、ヤツも混乱しているのだろう。

「ハリー! キリコ! ゴブレットに名を入れたか!?」
「「いえ」」
「上級生に頼んで名を入れてもらったのか!?」
「い、いえ…僕何もやっていません」
「俺もです」

否定を繰り返す俺達、しかしその言い方はまるで…

「…上級生に頼めば年齢線を越えられるんですか?」
「成るほど、その小僧の言う通りかもしれんな、どうなんだダンブルドア!」

怒りに声を荒げながらダンブルドアに詰め寄るカルカロフ、その隣のマクシームも同じ目つきで睨み付けている。

「…確かに年齢線は越えられる、じゃがゴブレットは複数人を選ぶことは決して無い」

そうだ、この事態で最もおかしいのはそこだ。
例え俺やハリーの名前がゴブレットに入れられようと、選ばれるのは一校一人、総数に変わりは無い。
だが現実に俺達は選ばれた、ある筈のない4人目と5人目として。

「でーすが、一体どうするのでーすか? 我がボーバトンは一人で三人に挑まーねばならないのでーすか?」
「そうだ! ホグワーツの選手が三人というなら、我がダームストラングも三人選ばせてもらう!」

怒りに身を任せ無理難題を怒鳴り散らす二人の校長、それを収める術をダンブルドアは持たない。
ヤツはこちらに振り返り、改めて問いかけた。

「もう一度確認じゃ、君達は何もしておらんのじゃな」
「「そうです」」
「嘘を言うな! わざわざ他人の名前を入れる物好きは居ない! こいつらが何らかの不正を行ったのは事実だ!」

ダンブルドアを横へ追いやり俺達に迫るカルカロフ、その目には激昂のあまり殺意が宿っている様にすら見える。
しかしハリーの胸ぐらを掴もうとした時、その殺意は一瞬で引っ込んだ。
ハリーの頬を僅かに掠め、その喉元に杖が突きつけられたからだ。

「ポッターに手を出そうとするとは随分度胸が据わっているな、えぇ!? どうなんだカルカロフ」
「!? マ、マ、マッドアイ・ムーディ!? な、何故お前が…!?」
「下種共を近づけさせないためだ! 丁度貴様の様な輩だ! ポッターに少しでも触れてみろ、地獄に引きずり戻してやるぞ!」
「アラスター!」

修羅の様な形相で杖を突きつけるムーディに怯えるカルカロフだったが、ダンブルドアの声でヤツが大人しくなると心の底から安心した声を出した。
確かにヤツは怖いが、この怯え方は異常だ、一体何があったのか…

そこで俺は思い出した、先程この男が発していた歓喜と憎しみを。
だがその様な気配は既に微塵も無い、俺の思い違いだったのか?
いや、それは無い、俺のたった一つの特技が覚えている、あの感情に僅かに混じっていた鋭い殺意は勘違いなどでは無かった筈だ。
だとしたら俺達の名を入れたのはもしや…
その思考は、新たな来訪者によって打ち切られた。

「炎のゴブレットは鎮火した…たった今」

苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら暗い声で話すバーテミウス・クラウチ、それはつまりもう新たな選手を選ぶ事も辞退する事も叶わないという、残酷な事実を物語っている。

「炎のゴブレットが選んだ選手は、必ず試合に出なければならない、ハリー・ポッターとキリコ・キュービィーは今より代表選手の一人だ」
「そーんな事、許さーれるはずがあーりません!」

俺としても耐え難い状況であったが、既に賽は投げられた。
誰が何と言おうと後戻りはできないのだ。
クラウチがその事実を苦々しく告げる。

「そうだ、何らかの不正があったのは間違いない、だが炎のゴブレットは魔法契約、それを破れば何が起こるかも分からないのだ…」

リタイアを防止する為の魔法契約が、かえって仇となる。
危険から逃れる為には危険に飛び込まねばならない、矛盾を抱え込んだそれを正当と認めなくてはならない異常事態に、俺達はただ唸る事しかできない。

「ともあれ代表は代表、理由はさておき…」
「さておき!? クラウチ! 貴様はこの異常事態をさておきで済ませる気なのか!?」

もう帰りたそうな顔色のクラウチが話を切り上げようとしたが、それをムーディの怒声が阻む。

「″炎のゴブレット″の様な強力な魔法道具を騙すには、高度な″錯乱の呪文″が必要だ! 恐らく何者かが存在しない4校目と5校目の選手としてポッターとキュービィーの名を入れたに違いない!」
「確かにそれなら彼らは選ばれるでしょう、一人しか立候補していないのですから。
…しかしそんな強力な″錯乱の呪文″を掛けられる人間はそうそういない、それこそ極々一部の死喰い人くらいしか―――まさか」

そこまで言いかけ言葉を飲み込むクラウチ。
炎のゴブレットに錯乱呪文を掛けられるのは死喰い人くらいしか居ない、逆に言えばこれを引き起こせるのは死喰い人しか居ないという事。
そして死喰い人はヴォルデモートの忠実な部下、結論は誰の目にも明らかだった。

「ハリー・ポッターを殺そうと考えた輩がこの異常事態の黒幕だ!」

ハリー・ポッター、ヴォルデモートを滅ぼした英雄にして魔法界の希望。
だが闇に潜む者からすれば、憎んでも憎んでも尚憎み足りぬ忌まわしい怨敵。
ヴォルデモート、死喰い人、犯罪者、ハリーを憎む人間は五万といる、ヤツらはひたすらに祈る、目を背けるほど醜く死ねと。

「ハリー・ポッターを殺す…!?」
「それ以外何がある?」

絶句するクラウチに向かってムーディが断言する、しかしクラウチは首を傾げたままだ。
その理由をマクシームがつぶやく。

「ですーが、この少年は何なーのですーか?」

全員の視線が俺に集まる、そうだ、ハリーを憎むのは考えられるが、何故俺まで選ばれたのかが分からないのだ。

「…キュービィーだったか? 何か闇の輩に恨まれる様な事でもしたのか?」
「ほう、それを一番知ってるのは貴様じゃないのか!? ええ!?」
「アラスター」
「…心当たりが無い」

ムーディに再度脅迫されながらも睨みを利かせるカルカロフに対し、全員に聞こえるよう簡潔に答える。
そうは言ったものの心当たりはある、一年の時死喰い人のクィレルとヴォルデモートを撃退したのが最たるものだ。

しかし魔法省はヴォルデモートを故人として扱っている以上、言ったとして信用してはもらえまい。
二年の時トム・リドルの復活を阻んだがそれも同じ事、三年の事件はピーターを捕縛したくらい…
残る可能性はただ一つ、しかしそれが真実だとしたらそれは考えたくも無い、最悪の事態だ。
それは俺の″異能″を狙っているという事、即ちこの世界に俺の存在を知っているヤツが居るという事に他ならないからだ。

結局ゴブレットの決定には逆らえないという事で、俺もハリーも参加するという形で決着がついた。
全身からダラダラと汗を流しながら走っていくクラウチを先頭に、部屋から出て行こうとするとクラムに呼び止められる。

「大ヴぇんな事になりそうですね…」
「…いつもの事だ」

うんざりしている、といった意味で返したのだが、ヤツはそれを兆発と受け取ってしまったらしい。
少し驚いた顔をした後、口角を上げながら笑みを浮かべた。

「ですが僕ヴぁ気にしません、それに何人いようと勝つのヴぁヴぉくですから」
「…そうか」

自信に満ち溢れた宣言をし、クラムは早足で去って行った。
その後を追うように階段を登る俺は、この事件の企画者に目を向けていた。
あの時感じた違和感、俺達の名前を入れたのはムーディなのか? しかしそうだと確信するには証拠が少なすぎる。
だがヤツが何か隠しているという確信はある、今はまだ警戒するのが精一杯だった。




昨日の夜はそんな警戒心を投げ捨てたくなる程に面倒だった、あのセドリック・コール以上の、いわばキリコ・コールの雪崩に飲み込まれたからだ。
どうやって年齢線を越えたのかについて聞かれると思い適当な理由を揃えてはいたのだが、そんな事は普段目立たないハッフルパフ生からしたら些細な事だったらしい。

顔が死んで来たセドリックを生贄にその中から脱出できたのは深夜12時を回ってからの事である。
と、弁明する機会も無かったので校内では俺が年齢線を出し抜いたという噂だけが独り歩きする事になり、様々な視線にさらされる事となった。

幸いその程度で動揺するような精神は、とうに棺桶(AT)ごと爆破してしまったので気になることは無い。
が、憐れな事にその被害をハリーはモロに食らっていた。

所属寮であるグリフィンドールは純粋にハリーを応援しており、スリザリンはいつも通りである。
しかしレイブンクローは冷ややかな視線を浴びせている程度ではあるが、ハリーは大分堪えている様に見える。
中でも最も反発しているのは他ならぬハッフルパフである、どうやら自分達が目立つ最大の機会を横取りされたと考えているんだとか。

大減点に継承者騒ぎといい騒動の渦中にあったハリーだが、それでも比較的優しい反応だったハッフルパフにまで無視されるのは余程辛いようだ。
トドメに勝手に立候補したとロンが思い込んだせいで、ヤツら二人はほぼ絶縁状態、それを何とかしようとするハーマイオニーの顔色は悪く、ハリーの孤立はかつて類を見ない程に悪化しているのであった。


*


「ロンェ…」

その状況を何とかしようと努力してみたものの、あえなく撃沈し溜息を漏らすキニスと共に廊下を歩く。
キニスもキニスでハリーを庇うような言動をしているので、ハリーほどではないが寮内で少し避けられているのが現状である。

「まさか…あそこまで思い込みが激しいとは思わんだ…」

色々証拠を取り揃えて説得したみたいだが、何を言っても最終的に「どうせ僕はハリーの添え物だよ!」と、頭の悪い誘導尋問みたいな答えしか返ってこず諦めた次第だ。
確かにハリーやハーマイオニーと比べてロンが目立つ機会は少ない、あのくらいの年齢なら目立ちたいと考えるのはごく自然な事。
まあ所詮コンプレックスの発現に過ぎない以上、その内元通りの関係になるだろう。

「それにこんなの渡されてどうしろと」

ブラブラと手の上で回すバッジには、セドリックの笑顔と一体どうやって作ったのか俺の不自然な笑顔が描かれていた。
その淵には『ハッフルパフの戦士、セドリックとキリコを応援しよう!』と書かれている。
しかしキニスがそれを地面に叩きつけると一転、ハリーの写真にかぶさる様に『汚いぞポッター』と書かれたバッチが現れた。

「…正直頭悪いと思う、てか暇だなドラコ、一体いくつ作ったんだろう」

汚いぞポッターバッチの製作者であるドラコ・マルフォイ、ハリーも勿論だがその誹謗中傷の出汁にされた俺とセドリックもたまった物では無い。
スリザリン生を中心として、道行く多くの生徒がそれを着けている。
つまり事あるごとに、俺は俺の不自然な笑顔を目の当たりにしなければならないのだ。
それを視界に入れない様健闘していると、前の様からセドリックが苦笑いしながらこちらに近づいて来た、その理由は俺と同じに違いない。

「いたいた、…大分参ってるみたいだね」
「………」
「あははは…やっぱり」

無言の溜息がその憂鬱さを雄弁に語っていた、それを聞いたセドリックも笑ってはいるが不快感を隠せてはいない。

「あんまり良い気分じゃないからね、…まあ皆その内飽きてくるよ、…ハァ」
「お疲れ様です、…で、どうかしたんですか?」
「ああそうだった、キリコを呼びに来たんだよ」
「…?」
「代表選手はクィディッチピッチに集合するらしいよ、何かやるみたいだけど…」

一体何をするのだろうか、代表選手だけなのでキニスと別れセドリックと共にピッチへ向かう。
そこには代表選手達とクラウチ等スーツを着た役人に、何故かオリバンダーまで居た。
よく見るとハリーがまだ来ていないが、その内来るだろう。
近くの席に座りハリーを待っていると、隣からやたら声の高い女性が声を掛けてきた。

「んーまぁ! もしかして貴方がキリコ・キュービィーざんすか?」
「…そうだ」

その過剰に盛られた化粧とこれまた過剰に掛けられた香水の臭いは、俺に不快感を齎すには十分すぎた。
しかしその不快感は次の瞬間確信的なものに変わった。

「んーーまぁっ! じゃあ貴方が5人目の代表選手、ちょっとお話してもいいざんすか? ちょっとだけでいいざんす」
「………」

この会話とも言えない数秒で俺は理解した、この女はかなり危険だと。
目だ、一風変わった羽ペンと羊皮紙を持っているのを見るに新聞記者の類だろうが、それよりも飢えた獣の様な眼光をぎらつかせながら迫っていたからだ。
何より雰囲気で分かる、こちらを貶めようとする悪意がダダ漏れなのだ。

「ね? いいざんしょ? 本当に数分だけざんす」
「……………」
「…無視は酷いざんすよ、そんな男はモテないざんす」
「…………………」

流石に一言言いたくなったがその衝動を堪える、この手の人間は一言でも答えたが最後、ありとあらゆる理由をこじつけ取材しようとする。
それこそ怨霊の問いかけの様にだ、ああいったものは何か答えた時点で引きずり込まれると言われている。
人間を怨霊に例えるのはどうかと思うが、ひたすら無視を決め込み続けた結果、「二重の意味で魔法使いになるがいいざんす! モテないとそうなるざんすよ!」と捨て台詞?…の様な呪詛を吐き捨て、何時の間にか来ていたハリーの方へ向かって行った。

ハリーがうっかり答えてしまいスキャンダルの沼に引きずり込まれ、ようやく解放された頃、全員集まったのをクラウチが確認した。
その後例の新聞記者…リータ・スキータが全員の集合写真を撮影し、更なるインタビューを試みたが、オリバンダーの手で遮られる形になった。

どうやら競技をする前に″杖調べの儀″というものを行うらしい、つまり俺達は集合写真とこれの為に集められたという訳だ。
まあ要するに杖に不正や不備が無いかを確認する、いわば整備ということである。

名前を呼ばれ杖を差し出し、その杖をまじまじと見つめていくオリバンダー。
やはり国が違えば杖も違うのか、ホグワーツで見かけるのとは大分違って見える。
例えばフラー・デクラールの杖には持ち手の部分にカールのような装飾が施されており、そこ以外にも繊細な彫刻が美しく刻まれ武器と言うよりは芸術品の様である。

ビクトール・クラムの杖には鳥の様な意匠が施され、武骨さの中に荒々しさを感じる事が出来る。
そんな珍しい杖を見る事ができるおかげか、オリバンダーもどこか嬉しそうに微笑みながら整備をしていた。

「最後はキリコさんですな…、いや、あの時の事は忘れたくても忘れられませんよ」

残るハリーとセドリックの点検も終え、俺が杖を差し出す。
それを見たデクラールとクラムが、思わずぎょっとしているのが視界に入った。
まあ仕方ないだろう、長さ40㎝太さ4㎝の杖はあまりに異様だ、それを見つめるオリバンダーの目つきも少し鋭くなる。

「吸血樹にケルベロスの脊髄、40㎝、威力はあれど重く非常に凶暴、手入れは完璧ですな、…相変わらず忠誠心の欠片も無いみたいですが、ではルーモ…あ、皆さん目を閉じてください、危険ですから」

危険? いや確か買った時店の床を少し吹き飛ばしてしまった筈、その事を覚えていたのだろう、…むしろ忘れる方が難しいか。

「ルーモス -光よ」

瞬間予想通り閃光手榴弾に匹敵する光がクィディッチピッチを覆った、その予想以上の閃光をカメラ越しに食らってしまいスキータが医務室行きになった事以外は特に問題無く儀式は終わった。

「ではお返しいたします」
「…少しいいでしょうか?」
「はい、何でしょうか?」
「忠誠心が無いとは、どういう事でしょうか?」

さっきの会話で少し気になったのがそれだ、普通杖には忠誠心というものがある。
それは決闘の結果や杖の特性で違いや変化こそあれど、忠誠心が全く無いなど聞いたことが無い。

「あー…、わたくしも初めて見るのですが、どうやらその杖には元々忠誠心というものが無いようなのです」
「…そうなんですか」

少し不安になった、忠誠心が無いという事は杖の力を引き出し切れていないと考えられるからだ。
その不安に気付いたのか、オリバンダーが続けて話し出す。

「ええ、ですが逆に言えばその凶暴性を操れる者ならば、忠誠心に左右される事無く力を引き出せるとも言えます。
貴方様はこの杖を完璧に扱っておられる、大丈夫ですよ」
「…ありがとうございます」

手元のバケモノの様な杖に視線を落とす、本当に扱いずらい杖だとは思うが、それでもこいつのおかげで助かった事も多々ある。
忠誠心が無いのに信頼できるというのも変だが、俺はその頼れる相棒を懐に収めながら校舎へと歩いていくのだった。

「キリコ? どこ行ってたの?」

その途中で何故かハリーとセドリックが、俺を待っていた様に声を掛けてきた。
一体何の用だ…と思っていると、ハリーの口から驚くべき言葉が発せられた。

「最初の課題はドラゴンだよ」
「…何?」

ハリーの目を見つめるが嘘をついてる様には見えない、隣のセドリックは苦笑いしながら頷いている。
聞いてみると昨晩ハリーがホグワーツに五匹のドラゴンが運び込まれるのを見たらしい、それが丁度人数分だったので、課題の為に運ばれたと確信したんだとか。

「ドラゴンか、…でもドラゴンを使って何をするんだろう?」
「そこまでは分からなかったんだ、…倒すとか」
「無理じゃないかな…専門家が10人集まってようやく倒せるんだよ?」

話し合ってはみたが、結論は出ず「最低限死なないようにしよう」となり各自の寮へ戻って行った。
ドラゴンで何をするのかが分からない以上、戦術は複数個考えておくのが妥当だろう。
まあ幸いああいった生物を相手に戦う魔法は丁度いいのがある、負ける事はまず無いだろう。
ならすべき事は、その戦術に合わせた設計図を作る事だ。
暗記しきれるかどうかは分からないが…そこを悩んでも仕方ないだろう。
俺は何を創り出すか考えつつ、図書館へと足を進めていた。

刻一刻と、着実に迫りくる試合の時。
踏みつぶされて死ぬか、炎に焼かれて死ぬか。
ゴブレットに選ばれた五人の戦士たち。
焦熱から始まる、三つの地獄巡りが、今始まろうとしていた。



野望とは恐怖の別名と冷たく嘯く
そうかもしれない
だが野望には破滅がひっそりと潜む事を知るがいい
この男がそうだ
理想の果てがそこにある
なるほど、警告のつもりか?それとも…?
ふん、惑わされはしない。不死は不死を知る
見せろ!見せてみせろ!力の全てを!
次回、『検証』
時に不死の別名は何と言うのだろうか?



キリコちゃんの杖ですが、
忠誠心が無い=無茶苦茶我が強い、とも言えます。
つまりある意味でキリコのそっくりさん、
って訳です。
まあその分忠誠心に左右されないので、
安定してるとも言えますが。


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第三十六話 「検証」

ひゃっほう!
やっとドラゴン戦が投稿できたぜ!
連載始めた頃からこれを楽しみにしていた…
では地獄巡りをお楽しみください。


設営された大型テントの中は驚くほどに静かだ、あるものは息を整え、あるものは最後の確認をし、またあるものは成功を祈っている。

課題の標的がドラゴンである事は恐らく誰もが知っている事だろう、ハリーや俺達が知れて他の二人が知れない道理は無い。
他の選手がどうやって挑むかまでは流石に知らないが、そんなに奇抜な策を取る者はいないと考えられる。

専門家がいれば対処できるレベルとはいえ、魔法生物の中でも飛び抜いて危険であることは事実なのだ。
故に危険を犯してでも目立とうとする選手はいない、多少なりとも安全を確保する筈だ。

しかしそんな方法で客が歓声を上げるだろうか? いや、それは無い。
意図せずして参加する羽目になってしまったが、やるからには全力でやるのが義務。
これで手を抜くのは、不正に対する不満を飲み込んだ他の選手に対しあまりに無礼だ。

俺は一つの光景を思い浮かべていた、あの日あの時、彼女を取り戻すためにレッドショルダーの幻影を背負ったあのバトリング。
どんな時客は湧いた? どんな時興奮した?
その記憶をトレスすれば、やるべき方法はおのずと見えてくる。

「おっ全員集合してるな?」

天幕に入ってきたのはこの大会の主催者の一人、ルード・パグマンだった。
ヤツの手が握っている紫色の袋は、うぞうぞと不気味に蠢いている。

「君達にはこの袋に入ってる五つの模型の内一つを取って貰う、それが君達の立ち向かう相手だ。
そして課題の内容は―――その相手を出し抜き、″金の卵″を手にすることだ!」

五つの模型、ハリーが見た数と合致するのでそれはドラゴンの模型で間違いないだろう。
予想通りドラゴンの撃墜でなかった事に俺は安心を覚えた、ただしそれは恐怖からではなく、予定していた戦術が使えるという確信から来たものだった。

「使っていいのは自分の杖だけ、他の持ち込みは禁止だ。
ではレディーファーストで」

恐る恐る手を入れていき、小さな悲鳴を上げ手を引っ込めてしまうデクラール。
しかしその手には生きてる様に動き回る、小さな模型が確かに握られていた。

「ウェールズ・グリーン普通種、競技は二番手だ。
普段は大人しいが…今回はどうかな?」

思わず苦笑いをするデクラールを見て、意地悪そうな笑みをうかべたパグマンはセドリックの方へ袋を向けた。

「スウェーデン・ショート―スナウト種、一番手だ。
美しい炎が特徴、戦う当人はそれどころじゃないだろうがな」

手の上で青く美しい炎を吐く模型を見たセドリックは、微妙な心境を全く隠せていない。
その笑顔は何とも形容し難いものだった。

「チャイニーズ・ファイヤーボール種、三番手。
三匹までは共存を認めるそうだ、最も卵に手を出さなければだが」

竜というより、龍に近い姿の赤いドラゴンを見たクラムは、その絶対的な自信を鼻を短く鳴らす事で表す。
次に袋から引いたのは、クラムとは対照的に自信無さげなハリーだ。

「ハンガリー・ホーンテール種、四番手。
この中で一番狂暴なヤツだぞ」

黒い鱗を持った棘棘しいドラゴンが、地獄から響く様な咆哮を上げる。
ハリーの顔色も地獄色に染まっていくのが分かった。

「最後だ、ぶっちゃけ引く必要は無いが…まあそれはノリだろう」

パグマンの軽口を聞き流しながら、袋の中にあった最後の一つを掴む。
…重い、そう感じて引っ張り出したのは銀色の鱗を持ち、そして何より他の模型より三回り程巨大なドラゴンだった。

「ウクライナ・アイアンベリー種、五番手。
世界最大級のドラゴン、全長18mだ」

全員の相手が決まった所で丁度良くダンブルドアがテントの中に入ってきた。

「各々準備はできたようじゃの、諸君らの無事と健闘を祈る、大砲が鳴ったら番号の順に行っ」

ズドンッ!

「………」

話を喰い気味に鳴り響いた大砲の轟音、一拍置いて巻き上がる観客達の歓声を聞き、肩を竦めるダンブルドアであった。

「…セドリック・ディゴリーからじゃ」

青ざめた顔をしながら歩き出すセドリック、しかしその目付きは真っ直ぐ鋭く、覚悟の重さを感じる足取りであった。

生憎試合を観戦する事は叶わないが、様子を伺う事はできる。
交互に巻き起こる歓声と悲鳴、それに挟まるパグマンの実況がベール一枚を挟んだ、地獄の光景を鮮明に伝えている、

『おぉ! 行けるか!? どうだ!? いや不味い! これは大ピンチ―――危ない! 何とか切り抜けた!』

それ以降も似たような解説が挟まっているということは、恐らくドラゴンの隙をついて卵を奪い取ろうとしているのだろう。

それから数分後に聞こえてきた大歓声、どうやら卵を取る事に成功したらしい。
続けて向かっていくデクラールは首からぶら下げたロケットを握りしめ、目を閉じ祈りながら地獄へ向かっていく。

『どうしたことだ!? ドラゴンが尻尾を振りながらすり寄っているぞ!?
彼女の美貌に魅了されたか!?』

ドラゴンが人間に惚れる…などある筈がない。
しかし魅了される事はある、彼女は″魅了の呪文″を使いドラゴンを無力化したのだろう。
その直後耳をつんざく悲鳴が上がる―――かと思うと一転して歓声に変わった。
何かトラブルが起こったが卵は確保できた、という事だろうか。

三番手であるビクトール・クラムは動じる様子は無い、かといって油断している訳でも無い。
その間にある完璧な集中力を保ったまま、堂々と地獄に挑んでいった。

突入と同時に、爆音の様な絶叫がテントを貫く。
ドラゴンに唯一効果的とされるのが″結膜炎の呪い″だ、ドラゴンは分厚い装甲で魔法を尽く弾き飛ばすが、それが無い眼球だけには呪文が通じるのだ。
クラムはそれを使ったのだろう、証拠に今もドラゴンが苦しんでいる様な地鳴りが響いてきている。

『あー! 卵が割れてしまいました! これは点数に響きそうです!』

だが代わりにこういった欠点もある、使用する場所を考えなければこういった事態を引き起こしてしまうのだ。
結果聞こえてきたのは、歓声と落胆が入り交じった声だった。

そして地獄へのホイッスルが聞こえてきたが、それを見て俺は不安に駆られた。
ハリーの足取りは重く遅くふらつき、目の焦点すらも合っていなかったからだ。
…大丈夫だとは思う、ヤツも相当な修羅場を潜っている、ドラゴン程度で死ぬ筈が無い。

会場に入ってから最初に聞こえたのは悲鳴だった、そして次に聞こえたのは歓声だった。
しかしその直後から何も聞こえなくなってしまった、それもドラゴンの動く音でさえもだ。
一体どうしたのだろうか? 競技が続いている以上死んではいない筈だが…

耳を研ぎ澄ましてみるとその無音の中に僅か、ほんの僅かに風を切る音が流れているのに気付き、そしてハリーの戦術にも気付いた。
炎の雷(ファイアボルト)″だ、箒を呼び寄せ空中戦を仕掛けたのだ。
確かにそれは有効な手段と言える、ハリーの箒の才能は誰もが知るところ、それにファイアボルトの性能が加わればドラゴンを相手取る事も夢ではない。

『戻ってきた! ドラゴンの姿は見当たらない! 撒いたようだ!
そしてそのまま箒で…取ったぁぁ! 最短記録です!』

やはり何の心配も要らなかった様だ、ハリーが無事だった事に内心安堵していると俺の出番が訪れた。

天幕を抜けると洞窟の様な道が20m程続いている。
その先の光に向かって歩く俺は、これから挑む地獄に恐怖して―――いなかった。

全く恐くない訳では無いが、それは理想的な緊張を作るものでしかない。
18m、確かに巨大だ、だがそれだけだ。
それにパララントの地上戦艦の方が遥かに巨大、全身に銃火器を纏ってる訳でも無い、狡猾な乗り手が居る訳でも無い。

一部なら魔法が通じ、口からしか火を吹けないドラゴンなぞに恐怖する様な神経は全く持ち合わせていなかったのだ。
例えそうで無くとも同じ事だったのだろう、そうだ。
…戦い方は人間相手と変わらない。




『最後の一人! 今大会注目の一人にして存在しない筈の5人目の選手!
キリコ・キュービィーだぁぁ!』

歓声と共に俺を出迎えたのは大小様々な岩山が並ぶ劣悪な地形と、中央に佇みこちらを睨み付ける巨大な竜だった。
その下には金色の卵が紛れ込む、竜の巣がある。
何はともあれヤツを退かさないとどうしようもない、挑発も兼ねて真っ直ぐに歩いていく。

『おお! 真っ直ぐにドラゴン向かって行った…あ! 不味い!』
「…!」

こちらを敵と判断したのか、圧倒的な迫力と共に息を吸い込む!
そして爆炎が放たれた!

インセンディオ(燃えよ)!」

爆炎には爆炎、炎を炎で相殺し、相手の炎が尽きるまで燃やし続ける!

『何と!? ドラゴンの炎に拮抗している! 何という威力だ!』

力尽きた瞬間、その隙をつき更に呪文を唱える。
…記憶を呼び覚ます、暗い星の海の中で、当てもない眠りについた記憶を。
その隣で微笑んでいた彼女との思い出を…

エクスペクト・パトローナム(守護霊よ来たれ)!」

光輝く杖先から、2mにも及ぶ巨大な蝙蝠の守護霊がドラゴンに襲いかかった!

『守護霊だ! 僅か14歳の少年が守護霊を出した! これだけでも高得点が期待できるぞ!』

ドラゴンの周りを飛び交い、時に爪を立て時に卵を奪おうと襲いかかる!
勿論実際に取れる訳では無い、守護霊に実体は無いのだ。
だがそれで構わない、その間に岩影に隠れ呪文を唱え始める。

『どうしたんだ? 守護霊に任せて動く気配が全くないぞ!?』

ドラゴンは鬱陶しそうに守護霊を攻撃するが、それが幻影である以上効果が出る事は無い。
しかしいつまでもそれに気付かない程頭が悪い訳でも無い!
気配を探り、キリコの潜む岩影に飛び掛かった!

『これは不味いぞ!』

全長18mのドラゴンが空から迫る!
圧倒的、ひたすらに圧倒的な超スケールの攻撃!
既にかわすことは不可能、間に合いはしない!

「…アーマード・ロコモーター(装甲起兵)

爆発かと思うほどの地鳴り!
ガラスの様に砕け散る岩山!
その全てを覆い尽くす土煙!

『あああ! キュービィー選手はどうなってしまったんだ!?』

観客は絶叫する、五臓六腑をぶちまけたキリコの死体を未来に見たのだ!
だが彼等が見たのはそれ以上の衝撃だった!

やっと死んだ、これでひと安心だ。
ドラゴンはそう思った。
そして死んでいるかの確認をしようと煙の中を除き込む。
そして見た! 目の前にあった回るターレットを!
そして感じた! 片目が潰れる激痛を!

『な、な、な、何だアレはーっ!?』

アストラギウス銀河が産み出した戦場の最低野郎(ボトムズ)が、片目を潰し、砂煙を切り裂きながら再び魔法界に降り立った!

機体名″バーグラリーバックス″
ストロングバックスをベースに不整地走破用ユニット″トランプルリガー″を装備させたミッド級AT!
武装はソリッドシューターを模した投石器が二丁!
装弾数は合計16発!
しかし自慢の装甲もドラゴンの火力の前では紙クズ同然だ!

ありゃゴーレムか!?
違う人形だろう!
知ってるぜ! ありゃガン○ムだ!
想像の遥か彼方を行く展開に湧き上がる観客達!

「…無駄弾を使うつもりは無い」

未だに呻くドラゴンの背中を伝い後方へ着地、そのまま後ろ足へソリッドシューターを三連射!
一瞬ドラゴンの鳴き声が響くが致命傷には程遠い!

怒り狂うドラゴンの尻尾が鞭の様に大地を抉っていく!
それを芸術的とも言えるターンピック捌きで完全回避、それどころかかわしながら弾を後ろ足に残りを全て撃ちまくる!
当然の如く全弾命中だ!
ドラゴンが怯む隙にもう一つのソリッドシューターに持ち替える。

『凄い! 凄すぎるぞキリコ・キュービィー!
あのジャパニーズロボットは完璧にドラゴンを翻弄しているぞー!』

爪を降り下ろしATをスクラップにしようと目論むドラゴン。
だが当たらない! 変幻自在の超機動はドラゴンの予想を尽く覆す!
焦燥に駆られ再度飛び掛かってゆく!
地形もろとも押し潰す気だ!

それに対しキリコは大胆なカウンターを仕掛ける!
超質量の飛びかかりに合わせ加速! そり立つ岩から飛び出したATはなんと!
回避と同時にそのままドラゴンの翼に降り立った!

薄い翼膜にターンピックを突き立て穴を空ける!
そしてそのままローラーダッシュで強引に翼を走り抜けて行った!
そう、キリコは翼を引き裂いたのだ! もうドラゴンが飛ぶ事はできない!

『翼が裂かれた!? ドラゴンはもう飛べなくなってしまったぞー!』

目にも止まらぬ激戦に観客の視線は釘付けである。
全身を動かし大木の様な尾を振れば降着姿勢でそれをいなす!
からのダッシュで頭の下へ三連射! 不意を突かれ怯むドラゴン!

「ギァオオオオ!!」
「………!」

怒りに燃えるドラゴンが息を吸い込む!
ちょこまかと動く敵!
なら纏めて焼き払えばいい!
そしてブレスが解き放たれた! が!

「…余計な手間を取らせるな」

一気に加速をつけてからのスライディング!
腹下に潜り込む事でブレスを回避したのだ!
そしてこの回避は同時に攻撃でもある!

全身を鱗で覆っていようと、どうしても薄い部位は存在する。
生物である以上腹の装甲はどうしても薄くなってしまう!
だからこそキリコは容赦なく弾丸を叩き込む!
三連射! そしてしつこく後ろ足へ三連射…いや二連射だ!

一体どうしたと言うのだ? キリコはそれを投げ捨てた!
弾切れ! ここで弾切れである!
再び精製し直すか? いやそんな隙は無い!
そしてドラゴンは今こそチャンスと言わんばかりに、一層強く息を吸い込んだ!

だが問題は無い、腹下に潜り込んでやれば良いのだ。
―――しかし!

『ド、ドラゴンが後ろに跳ねた!? これはどういうことかー!』
「………!」

ドラゴンに向かって行っていた。
しかしドラゴンは後ろに下がった。
そして今まさに爆炎を撃とうとしている!

キリコは苦虫を潰す! ドラゴンの策に掛かってしまったのだ!
今キリコが居る場所は最悪の位置! 
腹下に潜るには遠すぎる!
爆炎から逃げるには距離が近すぎる!
つまりどう足掻いても炎に焼かれる運命!

『こ、これはかわせないぞ!? あーっ! ま、間に合わない!?』

そうと決まればやる事は早い!
上体を180度回転させ、ATから離脱!
と同時に杖を構える!

エクスパルゾ(爆破せよ)! プロテゴ!(盾よ)

炎に包まれたATが大爆発! 爆発で爆炎を相殺する事に成功!
しかしキリコが居たのは空中、その勢いのまま地面に叩き付けられたキリコは何か喋るように呻いた後動かなくなってしまった!

『どうしたキュービィー選手! 気絶してしまったのか!? あ、不味い! ドラゴンが迫っております!』

頭に血が上りきったドラゴンがトドメを刺そうと迫り来る!
このまま成す術無くミンチ死体になってしまうのか!?
観客が目を覆い絶叫する!

ところで、バトリングを思い出してほしい。
観客が湧くのはどんな時だっただろうか?
賭けてた選手が勝ったとき? それは別の話だ。
例えば…今にも負けそうだった選手が、満身創痍のそれが、奇跡のような大逆転を見せた時、とか。
そしてもしそれが、最初から狙っていた事だとしたら―――?

キュイイイィィィン………

『こ、この音は…?』

どよめきが静まる、皆その音がどこから聞こえるのかを探り出す。
突如、倒れていた筈のキリコが高速移動を始めた!
まるで何かに引きずられるように!
次の瞬間虚空を破り、それが姿を現した!

『!? も、もう一体! ロボットがもう一体現れた!?』

キリコを引きずっていたのはもう一機のATだった!
そう、何も創っていたのは一機だけではない、最初から二機創っていたのだ!
″目眩まし術″で隠しておいたそれを″呼び出し呪文″で自分の方に呼び出していたのだ!
気絶のフリをする寸前の呻きは、呪文の呻きだったのだ!

突如現れたATにドラゴンは一瞬怯んだ!
ほんの数秒、いや数コンマだが怯んでしまった!
この男の前で数コンマも隙を晒してしまったのだ!

「…その隙が命取りだ」

まだ生きている片目に″結膜炎の呪い″を叩き込む!
絶叫! そしてがむしゃらに暴れ狂う!
そして驚異の連撃が始まった!

グレイシアス(氷河と成れ)

凍結呪文で凍らせたのはドラゴンの後ろ足…ではなく、その足元!
ローラーダッシュを全力駆動させ疾走するAT!
不安定な地形でその体を必死に支える後ろ足を、ストロングバックスの重量と加速を纏ったタックルが襲う!

『ドラゴンの姿勢が崩れた! しかも痛みのせいで立ち上がれない!』

執拗に後ろ足を攻撃してきた理由がこれだ! 今まで蓄積されたダメージが今ので限界を越えたのだ!
そして結膜炎の痛みが姿勢感覚を奪い、立ち上がる事すらできない!
そして!

ウィンガーディアム・レビオーサ(浮遊せよ)!」

飛んだ! 全力の浮遊魔法によって一気に上昇していく!
気づけば遥か上空、ホグワーツ城を見下ろせる程の高度へ到達した!

『一体どこまで飛んだのか!? その姿が見えな―――いや!? お、落ちてきたー!?』

なんと浮遊呪文を解除し落下して行く!
何せこの高度、その落下速度は凄まじい勢いで加速している!
このままでは激突死必須! キリコはどうするつもりなのか!?

ディセンド(落ちろ)…!」

まさかの落下呪文!
さらに勢いを増すストロングバックス、そしてキリコはアームパンチを構えた!

そう! わざわざ機動力を犠牲にしてまで重装甲を持つストロングバックスを創った訳がここにあった!
キリコはドラゴンの頭に、落下の質量を乗せたアームパンチを叩き込むつもりだったのだ!
その一撃をより確実なものにするためにストロングバックスを創った!
遥か上空から、凄まじい速度で落下する!
ヘビー級ATの重量とアームパンチ!
その威力は考えるに及ばす!

「…オパグノ(襲え)

何とか姿勢を建て直したドラゴンの頭に向かって16発の岩石が纏わりつく!
これは!? そう、ソリッドシューターの弾丸!
その重さに耐えきれず、頭を押し潰される!
これでもうアームパンチから逃れる事はできない!
…そしてこの弾丸は全て、事前に爆弾化してあった!
何のために? 更なるダメ押しの為である! 

エクスルゲーレ(爆弾作動)!」

鈍く重い打撃音!
ドラゴンの絶叫!
その全てを押し流す怒濤の大爆発!
観客席の叫びすらも消し飛んだ!

『…な、何が起こったんだ? キリコ選手は? ドラゴンはどうなった!?』

会場全てを包む土煙。
その中に一つの人影が写り込む。
そして土煙が晴れた時見えたのは、意識を完全に奪われたドラゴンと、ロボットの残骸、そして悠然と歩くキリコ・キュービィーの姿だった!
あの刹那の中で、自分自身に浮遊呪文を掛け脱出していたのだ!

『な、な、な、何とぉ―!? た、倒した! たった一人でドラゴンを倒してしまったー!』

ドラゴンの単独狩猟という前代未聞の暴挙を見て、興奮しない者はいない!
拘束する場所まで計算したのか卵は全て無事!
守る者のいなくなった巣の中から黄金の卵を持ち上げる。

『取ったあああぁぁぁっ!
一体何が起こっていたのか私もまだ理解しきれていません!
しかも最短記録です! もう何なんだコイツは!?
ちょっと、ドラゴンキーパーまで唖然としててどうするんですか!』

気絶しているドラゴンを慌てて押さえに行くドラゴンキーパーを尻目に、俺は卵を抱えながらテントへと戻って行った。
やはり大した事は無かったが、あれだけ魔法を乱発したせいか少し疲労が溜まっている様に感じる。

「キリコ! いや何というか…まあお疲れ!」

何故かテントの中に居たキニスが出迎えてきた、よく見れば寮監のスプラウトも居る。

「てか何なのアレ、あのタコみたいなの」
「ゴーレムだ」
「あんな動きをするゴーレムなんて普通無いと思う…いや、とにかく無事で良かったよ」

少し会話をし、スプラウトから疲労回復効果のある飲み物を貰うと、彼らは観客席の方へ戻って行った。
その後係員の指示に従い、救急用テントでマダム・ポンフリーの診断を受ける。
結果は軽度の疲労以外問題無し、その足で競技場へ戻って行く。

「お疲れキリコ、最後凄い爆発音が聞こえたけど…どうやったの?」
「気絶させた」
「えっ」

目を白黒させるハリーがその意味を理解したのは数秒後だった。
ハリーから話を聞くと、現在の最高点はハリーとクラムの40点らしい。
何でもカルカロフが露骨な贔屓をしたかららしいが…

立ち回りは完璧だったと自負できるが、あの殺られたフリからの逆転が唯一の不安要素だ。
あれを戦術かミスのどちらで捉えるかで結果が変わるだろう。
そう話しているとちょうど俺の得点が発表され始めた。

マクシーム  ―9点
クラウチ   ―9点
ダンブルドア ―10点
パグマン   ―10点
カルカロフ  ―6点

合計44点、それが俺の結果であった。
…カルカロフの贔屓が気になるが、一位である事に変わりはない。
その後再度テントに集まると、パグマンが次の課題の内容を選手に説明し始めた。

「全員よくやった! 疲れているだろうから手短に済ませよう。
第二の課題は二月二十四日の午前九時半だ!
課題のヒントは君達が手に入れた金の卵の中にある!
質問はあるかな? では説明終わり! 解散!」

本当に手短な説明を聴き終えた俺達は各々の場所へと戻っていった。

最初の試練は一先ず切り抜ける事ができたが、いまだ地獄の中である事に変わりはない。
果たして俺達は何処へ向かうのか、その導はこの金の中にあるのか、それは地獄の出口に繋がっているのか。
それはない、所詮、この中にあるのは更なる悪夢への招待券に過ぎないのだから。



この時点で間違いだったと気づかなければいけないのだ
自分を知ってほしいとなど言った事はない
むろん認めてほしいなど考えた事もない
ましてや願い事など見る目も持たない
滅びもなければ喜びをも思わない
だが一つだけ確実になしている事がある
それは自分を支配せんととする者を抹殺する事
これだけは誠実に実行している
次回、『服従』
ただの一度も見逃した事はない



キリコ守護霊初登場。
ちなみに蝙蝠には死、不運、英知、狂気、沈黙、狡猾さといった意味があります。
…キリコそのものだな!
あともしドラゴン討伐が課題だった場合、パイルバンカーで脳天を串刺しにする予定でした。

追記 後書きを修正しました。


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第三十七話 「服従」

暫く日常回が続きます。
というか日常イベントの消化期間が始まります。


最初の課題を切り抜けた俺達を待っていたのは、談話室での祝勝会だった。
ハッフルパフの寮の一部は直接厨房と繋がっている、そこから貰って来たであろうより取り見取りの料理と飲み物が俺達を出迎えてくれていた。
いつになく大騒ぎする生徒達であったがこういった雰囲気もたまには悪くない、生き延びれた事に胸を撫で下ろしながらその光景を微笑ましく眺める。
気付けば俺やセドリックも関係無しに盛り上がってゆく空気の中一人の生徒が呟いた、あの卵には何が入っているんだ?

その言葉を皮切りに群がってくる生徒達、しかしそれを拒む理由も何も無いので開けてみる事にした。
パグマンはこの中に次の課題の手ががりがあると言っていたが、何が入っているのだろうか。
期待に目を輝かせる群衆の中、卵を掲げセドリックと同時に蝶番を開く。

瞬間、まるで狂気を体現しているような恐ろしい金切声が談話室を引き裂いた。
予想だにしない悲鳴の登場によって、耳を押えて蹲る。
混乱の中何とか卵を閉め直し音を止めるが、近くに居た生徒達はいまだ白目を剥きその被害の甚大さを見せつけている。
結果場の空気は一気に冷え込み、祝勝会はあっさりと終わりを告げたのであった。


*


『エルンペントの角を運ぶ違法業者壊滅! しかし同時に大爆発が発生、ノルウェー魔法界は大きな被害を受けた、爆発規模は調査中』

日刊予言者新聞の一面を読みながらホットコーヒーで体を温める、耳には冷たい金属音が常に鳴り響いている。
時は過ぎ十二月、外を見れば一面白銀で覆われており、それを更に分厚くしようと強烈な吹雪が大地を打っていた。
どうも今年はかなり冷え込むらしい、最低気温は既にここ数年を更新してしまっている。
しかし近づいてくるクリスマスに興奮する生徒達には関係の無い事であった。

その理由は数日前告知されたダンスパーティーにあった、三大魔法学校対抗試合の伝統としてクリスマスにそれが行われるというのだ。
それが知られて以降、生徒達は理想の相手を見つける為に目を獣の様にぎらつかせており、ホグワーツは猛獣の檻と化していた。
その理由は好意を寄せる相手であったり、なるべく美しい相手と踊りたいという自己顕示欲だったり、酷い場合だとそのままベッドの上で泥沼の様なバトリングを目論む為だったりと千者万別である。
いずれにせよ俺にとっては関係の無い話だ、誰かと踊る気も無いし踊ろうとも思わない。
そもそも全く興味が無いので行く理由事態無い、よって俺はその間一人で悠悠自適に過ごすつもりでいた。
…暫く経った後、絶対の危機に陥るとはまだ夢にも思っていない頃である。

そういった色話だが、今学校内で最も評判に…正確に言うと酷い目に合っているヤツがいる。
誰かと言うと、それはハーマイオニー・グレンジャーである。
再び日刊予言者新聞に目を通すと、ゴシップの欄に『玉の輿を目指す彼女の狙いはビクトール・クラムとハリー・ポッター、ホグワーツの秀才は色仕掛けも秀才の模様』ととんでもないのが書かれている。
その結果ここ数週間、彼女の元にはクラムファン(主に女性)からの吼えメールの集中爆撃が続いていたのであった。
執筆者の欄を見てみればそこには″リータ・スキーター″の名前、俺の勘は間違っていなかったらしい、あの女に口を聞いていれば俺も只では済まなかっただろう。

しかもそれに限らず他の選手の記事まで書かれている、ご丁寧にも全て例外無く嘘か本当か分からないロクでもない内容であるが。
ただあの時インタビューに一切答えなかった事が功を成したのか、俺の記事は少なくせいぜい無口で不愛想と耳にタコができる程聞いた事しか書かれていなかった。

そして俺は今、手元にある金の卵の謎を解き明かす為に必要の部屋に籠りながら、閉心術の特訓に勤しんでいた。
…間違いでは無い、閉心術である。
一体どういう事なのか、確かに最初は卵の謎に取り組んでいた。
しかし開けられる事以外卵本体には何の特徴も無い、開ければ卒倒しかねない程の騒音。
何かの暗号かもしれないとそれに耐えながら音を調べてみたが、音の並びに規則性も無ければそもそも人の感覚に当てはめる事もできなかった。

その後も遮音呪文や呪文解除呪文等色々試みてはみたものの成果は思わしくなく、顔をしかめる程に行き詰まっていたのだ。
よってこのまま悩んでいてもどうしようもないと、息抜きと実用を兼ねて閉心術の練習を始めたのである。

閉心術とは開心術の反対呪文であり、精神への侵入を防ぐ事で記憶を読まれる事や、操られる事を防ぐ事ができる呪文だ。
実の所前々から習得しようと考えてはいたのだが、ある出来事を切っ掛けに危機感を覚えたのが理由の一つでもある。

代表選手に選ばれてしまった時、俺は一つの可能性を仮定した。
それは俺の″異能″を知っているヤツがいるかもしれないという可能性だ。
もし何かの切っ掛けで開心術を掛けられ、その時異能の力を知られてしまったら?

そうなれば俺は以前の様にありとあらゆる勢力から追われる事になるだろう。
俺には全く理解できないが、不死というのは多くの奴等にとって魅力的な甘い果実に見えるらしい。
不老では無いとはいえ、魂や肉体等の代償を払わずに不死に成れるのだ、それを欲するヤツは山ほど居るだろう。

そうなれば俺自信は言うに及ばず、キニスや他の奴等まで巻き込まれる事になる。
俺だけなら兎も角、それは何としても避けなければならない。
それ故に、秘密を知られない為に、閉心術の習得は急を要するものだったのだ。
本当は他に会得したい呪文もあるのだが、それはまた別の機会にしておく。

ゆっくり息を吸い込み集中力を高め、目の前に置かれた小さな人形と相対する。
次の瞬間、体の内側をズルズルと這いずり回る感覚に襲われる―――

―――息をつく事も叶わぬ泥沼の中で一人喘ぐまた一人だけ生き残ってしまったしかしそれは次の地獄への誘いだった全身で感じ取る監視者の視線の中集められた五人の男達内通者は誰なのか切りの無い疑いドミノ倒しの様に崩れる谷底死神を浄化せんとする炎から逃げ惑うそして辿り着いた冷獄狂気と才能の間にある一線を頼りに生き残る黒い耐圧服を着込み最後の任務に挑む謎の現象異能生存体分隊の正体を語りそれを希望に足足掻く次々と散りゆく戦友体闇に落ちる感覚を覚えてるささやかな祈りだ人間らしかった彼らの様に俺も―――

「―――………ッ!」

抉り返されフラッシュバックする記憶を心の底へ追いやり、それに近づく全てを拒絶する。
頭の中で何かが弾ける様な音が鳴ると同時に、人形が弾き飛ばされる。
何とか追い出す事に成功したようだ、この調子ならもうじき完璧なものを会得できるだろう。

全身から嫌な汗を流しながら椅子に腰掛ける。
本当に必要の部屋様様だ、『閉心術を練習できる部屋』と考えたらこの部屋が出てきたのだ。
閉心術について書かれた本に術の威力を調整できる開心人形、お陰でまだ時間は掛かるが最高レベルの開心術も防げる様になった。

…アラスター・ムーディ、俺の勘が鈍っていなければ、この望まぬ参戦にヤツが関わっているのは確かだ。
しかし疑問は多い、何故ハリーに歓喜を向けていたのか、殺すつもりなら殺意ではないのか?
何故俺も参戦させたのか、ヤツは俺の力を知っているのか? あの殺意の訳はなんだ? そもそも殺すつもりなのか?
キリの無い疑い、しかし今やらねばならないのは俺の心を守り、この力を知られない様にすることだ。
…無論卵の謎も忘れてはいけないが。


*


日々悪化していく吹雪はもう一週間も吹き続けている。
そういった形で、卵の調査と閉心術の訓練を繰り返しながら数週間たった頃の昼時の事である。

「キリコ! 重要な話があるの!」

サンドイッチをもさもさもと食べている所に乱入してきたハーマイオニー、彼女が机に叩きつけたのはバッジの山であった。
ブームが去り校内のあちこちに放置されフィルチの頭痛の種になっている″汚いぞポッター″バッジかと思ったが、それとは違うようだ。
バッジにはでかでかと″S・P・E・W″と書かれている。

「…″Spew(反吐)″がどうした?」
「違うわよ! ″S・P・E・W″!  Society for Promotion of Elfish Welfare(屋敷しもべ妖精福祉振興協会)!」
「………」

何やら非常に面倒な事に巻き込まれた気がする、よく見ればハリー達やウィーズリーの双子は人混みの中に溶け込みながら逃げ出している。
その間際双子が憐れみの表情を浮かべながら俺に向かって親指を立てていた、奴等もこれに巻き込まれたのだろう。

「知ってる? 屋敷しもべ妖精はお給料も休日も福祉厚生も年金も何も与えられないで過酷な労働を強いられているの!」
「………」
「これは奴隷以外の何ものでもないは、私それを知った時凄いショックだったの。
だってそうでしょ? 奴隷制度はもう何世紀も前に廃止されたのに魔法界ではそれがまかり通っているのよ!?」
「………………」
「誰かが彼らの意思を代弁しなくちゃいけないわ、″S・P・E・W″はその為の組織よ! 入会金は2シックル!」
「………………………」

久し振りに聞いた彼女のマシンガントークと想像以上の面倒さに頭痛が止まなかった。
人混みの中で息を潜めるキニスやハリーがあんな表情を浮かべるのも納得である。

「当面の目的は屋敷しもべ妖精達が正当な報酬と労働条件を確保すること、それ以外にやることは色々あるけどとりあえずはそれね、というわけでキリコも入会してほしいの!」
「断る」
「そう! ありがと―――え?」
「…断る」

にべもなく断られた事に唖然とするハーマイオニー、何故そんな事を言うのか理解できていないのか困惑した表情を浮かべている。

「ど、どうして!? キリコは屋敷しもべ妖精が可愛そうだと思わないの!?」
「お前は奴等から頼まれたのか?」

労働に正当な対価を要求する、それは別にいい。
問題は屋敷しもべ妖精の本能だ、奴等は一体どういう事なのか魔法使いに使える事を至上の喜びとしている。
にも関わらず報酬を寄越せと? あいつらが自分からそんな事を言うとは考えにくい。

「いいえ、聞いてないわ、だって彼らはそう言えないよう洗脳されているのだもの!
だからこそ代弁者が必要なの!」
「………」

これは駄目だな、どうしようもない。
彼女は純粋な善意で動いているのだろうが、その分たちが悪い。
これでは奴等の意向を無視し自分の正義を押し付けているだけ、ありがた迷惑というやつだ。
このまま放置てしいても構わなかったが、悪化するのも面倒だったので助言を送る事にする。

「…梨だ」
「え?」
「地下室にある果実皿の絵だ、その中の梨を擽れば厨房に繋がる、そこには屋敷しもべ妖精が100人程居る、意見を聞ける筈だ」

何故そんな事を知っているのかというと、これはハッフルパフ生の間では常識だからである。

「でも屋敷しもべ妖精は不満を言えないよう洗脳されてるかもしれないじゃない!」
「なら「正直に答えろ」と命令すればいい、奴等は魔法使いからの命令には逆らえない」

これなら奴等の本心を確実に聞き出す事ができる、彼女はいまだ納得していなさそうだが必ず聴きに行こうとする筈。
これで少しはマシになるだろう、時計を見てみれば午後の授業が近づいていた。

サンドイッチを食べきり席を立つ、次の授業は闇の魔術に対する防衛術だ。
あの男が何を目論んでいるか、そもそも本当にあいつが犯人なのかも分からない。
まあ仮に黒幕だったとしても、大衆の目がある中で変な事はしないだろう。




「今日は貴様らに″服従の呪文″を掛けるぞ!」

からのこれであった。
とんでもないを通り越して堂々と犯罪宣言をしたムーディ、生徒の反応は一律して正気を疑っている。
いくら実践向けと言えど限度は有るだろう、パニックに陥る生徒達を無視して授業は続く。

「以前も言ったが″許されざる呪文″の内これだけは精神力で抵抗できる!
しかし初めて喰らう呪文にどうして対抗できようか!」

聞いた直後はどうかと思ったが、ムーディの言うことは至極正しい、初見の攻撃に対し的確に対処するのは非常に困難だ。
本当に質の高い授業をしてくれる、これで黒幕の疑いさえ抱かなければ素直に喜べたのだが。

「よって貴様らにはこの呪文の恐ろしさを身を持って味わってもらう!
ついでに言っておくがこの事はダンブルドアの許可も得ている! 誰一人とて例外無く叩き込むから覚悟しておけ!」

半ば問答無用で一列に並ばされ、哀れな犠牲者達は次々と黒歴史を量産していた。
キニスは闇だの深淵だの片目が疼くだのと連呼し、フレッチリーは上裸になってからのブレイクダンス、ハンナは両手を伸ばし教室中を走り回っていた。

「全く駄目だ貴様ら! どいつもこいつも抵抗どころか喜んで闇の力を受け入れてしまっているぞ!?」

そしてとうとう俺の番になってしまった、一体何をやらされるのか…
もしかしたら俺の秘密を聞き出されるかもしれない、可能性は限り無く低いが無いとも言い切れない。

「次のヤツ! む!? 貴様か!」

他の奴等にとってはただ恥を晒すだけだが、俺にとっては深刻な問題だった。
絶対に掛からない様にしなければならない。

「ドラゴンは楽勝だったようだがこいつはどうかな?
インペリオ! ―服従せよ!」

その瞬間俺が抱いていた不安は全て砂の様に吹き飛んだ。
こいつへの警戒心も死ねない事への絶望も、誰かが死ぬことへの恐怖も。
残されたのは不気味な程暖かい幸福感と満足感だけだ、これが″服従の呪文″か。
そうか、これが俺の求めていた事だったのだ。
何て簡単な答えだ、もっと早くこれを知っていれば喜び涙を流しながらこの男に頼んでいたのに。
感謝しても仕切れない、嬉しい、嬉しい、嬉しい嬉しい嬉しい………

『儂に従え』

だがその幸福感と満足感は木っ端微塵に崩れ落ちた、と同時に凄まじい嫌悪感と怒りが溢れ出てきた。
従え? 従えだと? ふざけるな、何故お前などに跪かねばいけないんだ。
これは俺の人生だ、俺の運命だ、彼女の命だ、お前なぞに従うものか!

「………ッ!」

圧倒的な怒りの奔流が、頭に掛かっていたもやを消し飛ばす。
気持ちの悪い幸福感が抜け落ち、そして俺は冷静さを取り戻した。

「ほう、見たか貴様ら! キュービィーは一発で闇の力を打ち破ったぞ! ハッフルパフに10点!」

ニッコリと怒っているのかどうか分からない表情を浮かべるムーディ。
しかし恐ろしい呪文だった、涙を流しながら懇願しようなど一瞬でも考えた自分が嫌になる。
今回は事前に準備ができていたから抵抗できたものの、″磔の呪文″で疲弊した所に叩き込まれていればこうはいかないだろう。




結局その後も俺以外に抵抗できるヤツは出ないままであった。

「あー、やだー、絶対しばらく弄られるじゃないかー…」
「………」

げっそりした生徒達と共に教室から出ていく、俺の気分も最低ではあったが、まあ貴重な経験もできたのでプラマイ0といった所か。
何はともあれ授業はこれで終わりである、なので何時もの様に必要の部屋に籠る事にしよう。

「あっそういえばパートナー決まった?」
「…パートナー?」
「ダンスパーティーの」

そういえばそんなのもあったか、ここ最近忙しくてすっかり忘れていた。
まあ覚えていなくても問題無いのだが。

「で、誰になったの?」
「決めていない」
「ありゃ、じゃあどうするの?」
「行く気が無い」
「あー、そう、まあキリコらしいっちゃらしいけど…」

別に行きたい相手がいない訳ではない、しかし彼女がここに居ない以上そこに価値を見いだすことはできないのだ。
ダンスパーティーまで一週間を切っているが、俺には関係の無い事と言えよう。

「…お前はどうなんだ?」
「僕? 僕は…フフフ、ハハハ」
「…どうした」
「内緒だよ…ヌフフ」
「………」

何時もの他愛も無いがかけがえの無い一時を過ごす、ふと視線を上げればそこには眉をしかめるマクゴナガルが居た。

「ミスターキュービィー、貴方はダンス・パートナーを決めていないのですか?」

何故マクゴナガルまでそんな事を聞くのだろうか、ダンスパーティーはそんなに重要な事なのか?

「いえ、俺は出ません」
「…今何と?」
「出ません」
「駄目です」

一体どういうことだ? まさか全員強制参加だとでも言うのか?
深い溜め息をつくマクゴナガル、そして出てきた言葉は俺にとっては恐ろしい程の現実だった。

「聞いていなかったのですか? 代表選手は強制参加です、これは三大魔法学校対抗試合の伝統、例外はありません。
まだ決まっていないのは貴方とポッターたけですよ」
「…本当ですか?」
「私に虚言癖があると思いますか」

何と言うことだ、最悪以外の何ものでもない。
この瞬間俺の捉え方は″行く気が無い″から″行きたくない″というものに早変わりした。

「いいですか、必ずパートナーを見つける事です、万が一見つからなかった場合パートナーは私になりますよ、それが嫌なら―――」
「ではお願いします」
「冗談はいい加減になさい!」

本当に誰でも良かったのでマクゴナガルの提案は天恵だったといえよう、にも関わらず冗談と切り捨てられてしまった。何故だ。

「…で、どうするの?」
「………」

ゆるりと続く平凡な日々。
その中で男と女、悲鳴と秘密、歓喜と憎悪。
まるで遺伝子の様に絡み合うそれの狭間で俺は悩んでいた。
ダンスパーティー、それが遊びである事は分かっている。
ただ誰か一人を選んで、一回踊るだけでいい筈なのだ。
だが、たったそれだけの事が、彼女への裏切りだと感じてしまうのは…おかしな事なのだろうか?



恋路と嫉妬、欺瞞と弁明
閉塞空間に絡みつく異能の因子
利己的に、利他的に
そう、それは本能を懸けてせめぎ合う、唐突に仕掛けられた絶対の危機
純心を引き裂かんと、鉄の檻を突き抜ける炎からの銃弾
こわばる魂がそっと呟く
あいつもこいつも俺以外と踊ればいい
次回、『虚劇』
これも一つの茶番か



ギャグっぽく見えるけどマジで踊るの嫌がってるキリコでした。
どこまでもフィアナ一途故に…
ちなみにエルンペントってのは魔法生物の一種で、角に衝撃を与えると大爆発します。
原作ではこの結果ルーナちゃん家が半分吹っ飛びました。


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第三十八話 「虚劇」

一途+糞真面目=めんどくさい
よって本編じゃ絶対見れない、ややめんどくさくなったキリコが登場します。
…上手く書けてりゃいんだが…


『爆発規模判明! 一帯を巻き込んだ大規模火災、アジトがマグルの工場内にあったのが原因。
忘却術師は対応に追われ、スキャマンダー氏がスウーピング・イーヴルの薬をまかねばならぬ程の大惨事に。
ノルウェー闇祓い局長は辞任か』

日刊予言者新聞の一面を読み終えた俺は、深い息をつき寮から出ていく。
俺は困っていた。
何故か、無論ダンスパートナーの事である。
ダンスパーティーまであと四日、にも関わらず俺のパートナーはいまだ見つかっていなかったのだ。

その原因は幾つか存在する、一つは遅すぎた事。
何せ既に四日前、校内のほとんどの生徒達はパートナーを見つけており、無いヤツの方が少なくなっている。
そして俺の人間関係の少なさも理由だ、誰とも話さないという訳では無いがハッフルパフの中で良く話すのはキニスくらいしかおらず、他の寮の連中は顔すら覚えていない。
例外としてハリー達とは時々話すが、あいつらの相手はもう決まっているらしい。

自分の愛する人と踊り、その関係を深める。
とはいうもののこれは建前、実際は少し気になるヤツと仲良くなれたら良いと考えている連中が大半だ。
最悪その辺の女性に頼み込んで、素早く踊りさっさと解散してしまえばいい。

しかしそれが認めがたいからこそ俺は頭を抱えているのだ。
それでは踊ってくれる相手に対し、あまりにも無礼。
面倒くさそうに踊られてすぐに放置され、喜ぶ女性が一体何処にいるというのだ。
こんなクズそのものな行為、できるなら俺だってしたくは無い。

最大の理由は単純だ、俺自信が踊りたくない、彼女以外と踊りたくないからだ。
別の女性と踊る事を彼女がどう考えるかは分からない、例え許してくれるとしても嫌なものは嫌だった。

そうはいっても義務は義務、やらねばならぬ以上は仕方がない。
夕暮れの廊下を一人彷徨いながら頭を抱える。
だが一体誰と組むべきか、しかしもうほとんどの生徒はパートナーを見つけて…

いや駄目だ、そう悩んで一体何日間無駄に過ごしているのだ。
もうこうなればヤケだ、手段が何だのと言っている場合ではない。
今から出会う女性に片端から声を掛けていこう、それしか策は残されていない。

端から見れば笑い話に違いないだろう、しかしその実自分の気持ちと義務の板挟みになり、俺の精神は自覚している以上に荒みきっていたのだ。
自分の本心と義務、女性への敬意によって作り出された地獄…いや、ブラックホールの様な重力に足を掴まれているのが、今の俺だった。

内心かなり苛立ちながら渡り廊下の角を曲がると、運の良いことに…いっそ誰とも遭遇せず当日になってほしかったが、早速一人の女子生徒と鉢合わせた。

「………」
「………」

その少女は奇妙だった。
濁ったブロンドの髪に銀灰の瞳、レイブンクロー生だという事を示す青と白のネクタイ、株の様なイヤリング。
そこまでは普通だった、しかし問題がある、何故イヤリングが本物の株なんだ。
いや、取り合えずまじないか何かの類いと考えておこう。

「知ってる、あんたキリコ・キュービィーだ」
「…お前は?」
「あたし? ルーナ・ラブグッド、年齢は聞いちゃだめだよ」
「…何故そんな事を?」
「レディだから」
「………………」

全く会話をしている気がしない、どうやらこの少女はそのイヤリング以上に変わっている様だ。
しかしそれだけで距離を取る様な感性は俺には無かった、というよりも慣れているのだろう、何せあっちの宇宙に居たヤツらが濃すぎるからだ。
懐かしい面々をふと思い出し、少しの感傷に浸った後彼女との会話に戻る。

「頼みがある」
「いいよ」
「…え?」

俺は知った、この声帯からこんな素っ頓狂な声が出る事もあるのだと。
この場合の″いいよ″とは間違い無くダンスパートナーの事だ、しかし言っても居ないのに何故分かったのだろうか。

「だってこの時期のお願いっていったらダンスパーティーしかないもン」
「………」

この時に限り俺は純粋に感心していた、少しだけ変人というフィルターを掛けてしまっていたが、その実頭の回転は相当なものだ。
この少しのやり取りでそれを見抜くとは、流石レイブンクロー生といったところか。

「…いいのか?」

しかし俺は後ろめたさを感じていた、確かにパートナーの申し出を受けてくれた事は非常に助かる。
だがここまですんなり了承してくれたのに対し、踊りをさっさと済ませるつもりだという俺の狙い。
結果としてパートナーを蔑ろにするその考えは、俺に申し訳なさを痛感させるには十分過ぎた。
では何回か踊るか、と聞かれれば間違いなく「断る」と答えるだろう。

「うン、だってあんた踊りたくないんでしょ?」

一人唸っている所に恐るべき、確信的な発言が俺を貫いた。
何故そんな事まで分かったんだ、もしや開心術でも掛けていたのか?

「…何故分かった」
「鏡、見てみなよ」

あらぬ疑いを立てつつ、彼女の言うままに近くの大鏡を覗き込む。
…ここまで酷い顔をしていたとは自分でも想像できなかった、成程分かって当然だ。
いや、だとすると彼女は俺が嫌がっている事を承知で受けてくれたのか?
ますます申し訳なくなってきたが、こんな機会はもう来ないだろう。
その罪悪感を少しでもマシにする為に、改めて誠意を込めた申し出をする事にした。

「…すまない、宜しく頼む」
「うン、あたしもよろしく」
「…一つだけ質問がある」

だが一つだけハッキリさせなくてはならない事がある、それを無視して踊る事はできない。

「俺が行きたくないと知って、何故付き合ってくれるんだ?」
「あたしだって一回くらい踊ってみたいもン、でも一人はやだし、あんたならちゃんとしてくれそうだったから」
「ちゃんと?」
「そっ、真面目に付き合ってくれそうってこと」

…イマイチ分からなかったが、どうやら彼女の都合から見ると俺が一番丁度良い…という事で良いのだろうか。
まあ彼女が納得しているのならそれで良い、この利害の一致により、俺は何とか絶対の危機を脱する事に成功したのであった。


*


今年一番の極寒と大吹雪、魔法が掛かっているので寒さは感じない筈だが、それでも感覚が冷気を感じてしまう程の悪天候のクリスマス。
大半の生徒が帰省し、いつもなら蛻の殻となる時だが、ダンスパーティーがあるおかげか逆に殆どの生徒が残っている。

会場に到着してみれば開始30分前にも関わらず、玄関ホールは足の踏み場も無い程の群衆で埋め尽くされていた。
その中パートナーであるラブグッドを探す、これだけの中から一人探すのは骨が折れるだろう。
…その悩みは一秒も持っただろうか、ホールのど真ん中に居る彼女は一際、いや二際も三際も浮いていたのだから。

「………」
「あ、キリコ、こんばんは」

今年の持ち物リストの中に記載されていたドレスローブを着込む彼女、そのドレスローブは俺の予感通りなんとも奇抜なものだった。
白で統一されたドレスに、大胆に開いた胸元、からの肩から延びる鳥の様な羽が凄まじい自己主張を叫ぶ。
いや、このドレス、確かクメンで見たような…

「わあ、そのドレスローブ似合ってるね」
「…ああ」

確かに客観的に見れば似合っているのだろう、しかし俺は全く気に入っていなかった。
俺の着ているローブは黒一色という、シンプル極まった物だった。
だが店主が「この方が似合う」と要らぬ気を利かせた結果、所々に赤いアクセントを付けてしまったのだ。
そのお陰で俺は、これを見るたびにトラウマ(レッド・ショルダー)を思い出す羽目になっているのである。
しかし今更文句を言ったとてどうしようもないので、肩が赤く無いだけマシと思い込む様に勤めている。

「…行くぞ」
「うン、エスコートお願いね」

ちょうど良く玄関ホールが開き、彼女の手を取りながら会場へ入っていく。

「あ、キリコ、…とルーナ?」
「こんばんわ」

するとバッタリキニスと鉢合わせる、ヤツもまたパリッとした灰色のドレスローブで身を包んでいた。
その隣に居たのは美しい銀髪をなびかせる美女だった。

「あら、キュービィー君ですーか? こんばーんは」
「…今晩は」

フラー・デクラール、まさか彼女がキニスのパートナーだったのか。
通りであの時自慢げな顔をしていた訳だ。

「…彼女だったのか」
「うん、フラーさんが学校に来た頃、学校案内をしてあげていたんだ」
「私、言葉が上手く通じなーくて困っていまーした、その時彼が助けてくれたーのです」

キニスは五か国語を操る事ができる、それもあって彼女と仲良くなれたのだろう。

「うん、というかキリコパートナー見付けたんだ」
「まあな…」
「てっきり最後まで渋って、マクゴナガル先生と踊るのかと思ってたよ」
「へー、私じゃなくてマクゴナガル先生だったんだー」

訳の分からない疑いを吹っかけてくるラブグッドは無視しておく。
だがこれ以上会話に没頭し、パートナーを蔑ろにするのも悪い。

「んじゃ! しっかり踊ってきなよ!」
「分かっている」

お互いに気を使い合い、会話も程々にしてテーブルへ向かっていく。
近くの空いているテーブルに座るが、そこで俺達は途方に暮れた。

「わあ、綺麗なお皿、でも料理は何処だろう?」

無い、テーブルの上には金色の皿だけが置いてあり、後はメニュー以外何も無いのだ。
会場の何処にも料理が無いのでバイキングでもない、しかしウェイターも居ないので注文式でも無い。
これは一体何なんだ…と、どの生徒も混乱している。

「ローストチキン」

審査員席の方からダンブルドアの声が聞こえてきた、そしてそちらを見ると次の瞬間皿の上にローストチキンが直接出現しているのが見え、そこで俺達は注文方法を理解した。

「びっくりだ」
「…ああ」

何とも斬新な方法を考えたものだ、周りの連中も次々と頼みだすのを見て俺達も注文する。

「ローストビーフ」
「ダボフィッシュとチヂリウムソーダー」

出てきた料理を二人して無言で食べ続ける、そこに会話は一切無い。
どうやら食事に対する姿勢はお互い同じの様だ、極力邪魔されずに美味い料理を堪能する。
しかし俺が代表選手である以上、それは叶わぬ願いだった。

「ここに居ましたかキュービィー、パートナーが見つかった様で何よりです」
「こんばんわマクゴナガル先生、凄い綺麗ですね」

確かに若さを生かした色気とは違い、その老いすらも美しさへ昇華したそれはまさに英国淑女といった雰囲気である。

「おや、ありがとうラブグッド、用件ですが、代表選手は見本も兼ねて一番最初に踊る伝統があります、なのでパートナーを連れて壇上に上がってください」

まさかの事態が発生した、しかしもうここまで来たら腹を括るしかないのだろう。

「~♪」
「…………」

この状況でも鼻歌混じりとは、その精神力には圧巻するばかりだ。
壇上に上がると代表選手とそのパートナーが並び、何人かは恥ずかしげである。
そして魔法界で最も人気のあるバンド(らしい)″妖女シスターズ″の曲と共に、代表選手のダンスが始まった。

「へえ、キリコ結構上手だったんだね」
「…恥はかかせたく無い」
「知ってる、紳士ってヤツだ」
「…………」



俺達のダンスを切欠に盛り上がりだしたパーティー、その空気の中俺達はエントランスで休憩していた。

「…水だ」
「ありがと、みんな盛り上がってるね」

吹雪は一旦落ち着き、景色はクリスマスらしい静かな雪を積もらせている。
だが俺の心はある意味雪よりも静かだった。
その理由は俺も、彼女も分かっている。

「…まだ踊るか?」
「ううん、大丈夫、最初からそういう約束だったしね」

彼女に気を遣い、俺自身もなるべく楽しく過ごそうと意識していたが、やはり心から楽しめる事は無かった。
いや、最初から意識しようとした時点で無理だと分かっていたのだ。

「…すまない」
「いいよ、あたしとじゃ楽しめないって分かってた」

今のは自嘲だったのだろうか、しかしそれにしては何かが変だ。
…そして俺は、彼女の恐るべき直感を知る事となった。

「あっちに行っちゃった、好きな人に申し訳ないもんね」
「!?」

何故だ!? 何故こいつがフィアナの事を知っている!?
やはり開心術を使っていたのか!?

「…何故…分かった…?」
「だってパパにそっくりなんだもン」
「…パパ?」
「あたしのママね、魔法の実験で死んじゃったんだ、その時のパパが、キリコとそっくりの目をしてたの」

…そういう事だったのか、よく見ればそれを語る彼女の眼もどこか、遠い場所を見ている様である。
と、理解すると同時にそれを思い出させてしまった事に対する罪悪感が湧き出てきた。

「…本当にすまない」
「謝んなくていいよ、それにあたし、お陰で楽しめたから」
「…………」
「じゃあね! よかったらまた踊ろ!」

そう言い残し彼女は何処かへ去っていってしまった。
残された俺が感じていたのは、冷たい孤独感だった。
…フィアナ、お前に会える日は来るのだろうか、今生きている事はお前が消えてしまった時よりも辛くはない。
だが、それでも心のどこかで常に寂しさが泣いている、こればかりは無くなる事は無い。

「―――良かったのかの?」
「…ダンブルドア…校長」
「何だかあまり楽しそうでなくてのう、どうしたのかと思い、ちょっと覗いてみたら… すまん、聞くつもりは無かったんじゃがの」

カーテンの影から現れたのはばつの悪そうな顔をしたダンブルドアだった。
いつから聞いていたのか、あの顔を見るに割りと最初のほうからだろう。

「…おぬしが寂しそうな理由がようやく分かった」
「…ようやく?」
「今だから言うが、儂は君の事をずっと心配していたのじゃ」

心配か、だからこいつは入学したての頃、俺に妙な視線を向けていたのか。
確かにあの頃はキニスにもほとんど心を開いておらず、常に威圧感を放っていた。

「今はもう、その寂しさは和らいだ様に見える、しかしそれでも時折寂しそうな眼をするのが分からなかったのじゃ」
「…………」
「キリコ、君は、彼女の事をいまだ思っているのかね?」
「そうだ」

その思いが変わる事は無い、他は何も要らない、俺の望みはフィアナだけだ。
だからこそ、このパーティーに参加するのを散々渋っていたのだ。

「そうか、…それは良い事じゃ、じゃが覚えていてほしい、君が生きている場所はここなのじゃ、向こうではない。
彼女を忘れてもならんが、引きずられてもいかん。
君を思っている人は沢山おる、それだけは覚えておいてほしい」

そう語るダンブルドアの顔を覗き込む、その蒼い瞳には俺と同じ寂しさが写っている様に感じる。
それと同時に、まるで自分自身に言っている様な感覚も覚えていた。

「ところでもう一つあるんじゃが」
「…どうぞ」

急に声色を変えたダンブルドア、今度は何の用なのだろうか。

「最初の課題で君が使ったあれは、何の呪文なのじゃ?」

…不味い、この質問に答えるのは非常に不味い。
それを教える事は、俺が何なのかを教えるのと同義だ。
だが答えない訳にもいかない、それはむしろ警戒を呼ぶ。
ならば適当に誤魔化す以外ないだろう。

「…アニメ、…です」
「アニメ? やはりジャパニーズアニメかの?」
「…ロボットが好きで、ゴーレムで再現したん…です」
「ほう、確かにあれは凄い、実にクールじゃ、…しかし儂がボケていなければ、あんなロボットを見たことは無いんじゃが…」
「…オリジナル…です、他を真似てもつまらないので」
「なるほどのう、それにしては運転に慣れてる様じゃったが」
「…練習したので」
「…………」
「…………」

何てしつこい追求なんだ、先程の説得が嘘だったという訳でも無いだろうが、この質問も狙いの一つの様だ。
その真剣さを表す様に、ヤツの目線はこちらを見て離さない。

…目線?
まさか開心術か? 開心術は行う時に目線を合わせる必要がある。
しかしそうだとしたら、身体中を這いずり回る感覚に襲われる筈、それが無いという事は使っていないのだろうか。
万が一使われても、閉心術は会得済なので大丈夫だが…

「…ふう、少し話疲れてしまったのう」
「…………」
「儂は戻るが、どうするかね?」
「…寮に戻ります」
「そうか、では第二の課題、頑張るんじゃぞ」
「お疲れさまです」

会場へ戻っていくダンブルドアの言葉が、俺に染み付いていた。
引きずられてはならない、俺がフィアナを思い続けるのもそうなのだろうか。
だが俺にはそうとは思えなかった、いや彼女だけではない。
かつて共に戦った戦友(とも)達、人間らしく死んでいった彼等に未練など無い。
だが忘れた事も無いのだ。
…だからこそ。




ようやく、あの子の″闇″の一片に触れることができた。
愛すべき人を失った悲しみ、それがあの子の寂しさの理由だったのじゃ。

じゃが、儂の不安が消えることは無かった、むしろ膨らむ一方。
何故あの子は殺しに躊躇いが無いのか、あのロボットは何なのか、何故彼はあれほど冷静に戦えるのか。

彼の悲しみはその問いの答えには成らない、結局儂の不安は一つも解決していない。
…異質じゃ、あまりに異常過ぎる。

それだけではない、儂は彼に対し正体も分からぬ恐怖を感じていた。
恐怖の正体を見るために、それに駆られるまま、彼に開心術までかけようとした。

じゃがすんでの所で踏み留まる事ができた、そして儂は自己嫌悪に陥った。
あの子の過去を覗けば、愛する人の死を見るのも必然。
それを知りながら目的の為に記憶を掘り起こそうなど、それこそ儂が後悔して止まぬ″善″そのものじゃ。

大丈夫、今の彼は多くの友に囲まれている、それにあの子は邪悪などではない、これだけは間違いない。 
ならば儂がすることはない、あの子はいつか死の悲しみを乗り越え、自分の道を歩んで行くじゃろう。
あの子の光を可能性を信じる事こそが、儂の務めなのじゃから。

じゃが、それは大きな思い違いじゃった。
結局の所、儂は彼の事を何一つ理解してはいなかった。
これが儂の、罪を誤魔化す為の自己満足でしか無いこと。
それを知るのは、まだ遥か先の事…



会場に監禁と過酷を求め、完璧さを追求すればここになる
ここには厚い壁もなければ、深い海もない
吸魂鬼の群れもなければ看守さえいない
あるのは澄み切った湖と代えがたいモノのみ
摂氏1℃足らず
手足どころか内臓さえも凍る
息をくれ
鉄心石腸を立たす息をくれ
次回、『冷獄』
恨みつらみの言葉すら出せない



キリコに開心術を掛ける 異能ポイント+10
キリコに開心術を掛けない 異能ポイント+2
※10以上で回避不能の死亡フラグが成立します

たまたまキリコの過去を聞いてたから踏みとどまったが、もし聞いていなければ…
運の良い奴め。


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第三十九話 「冷獄」

予め言わなくてはならない事がある。
大 変 な 事 に な る と 。


猛烈な吹雪によって閉ざされる視界、その中を一人孤独に歩く。
このような悪天候の中では歩くのも精一杯、だからだろう、出歩く者は俺一人しか居ない。
ダンスパーティーを終えた俺は、残り僅かなクリスマス休暇を使いノクターン横丁を訪れていた。

ノクターン横丁、つまり目的は武器洗浄(ロンダリング)の店である。
別にイースター休暇の時に行っても良かったのだが、それでは少し不安要素が残ってしまう。
だからギリギリになってでも訪れる事にしたのだ。

しかしその店の前を通り過ぎてしまい、俺がその店に入る事は無い。
いや、今入る事はできない。
何故なら、俺は何者かに追跡されているからだ。

気付いたのはついさっきの事、体の内側まで舐め回すような視線を感じ取ったからだ。
だがどれだけ周りを探っても、そいつが出てくる気配はない。
しかし何かが居るのは確か、その何かから俺は逃げている。

追跡者の正体、それは多少察しはつく。
死喰い人か、もしくはその手先か。
どちらにせよ、俺を殺すために来たのだろう。

考えられる理由としては、俺がヴォルデモートに対し不利益な行動ばかりを取っている事。
それを恨んだ誰かが、俺を殺すためにゴブレットに名前を入れた。
そして殺す可能性を上げる為に、わざわざ暗殺者まで差し向けた…といった所か?

だが何にせよ、何の目的にせよ、俺を狙っているのは確かだ。
そいつを見付だし、対処しなければならない。
だがどれだけ気配を探れど、そいつは影も形も無い。
何かの呪文か、もしくは相当の手練れか…

…勝負を掛けた方が良いかもしれない、このままではらちが空かない。
そう考えた俺は不意に、一気に走り出した!
要り組んだノクターン横丁、その路地を次々と潜り抜けて行く!

これで撒く事ができればそれが理想的、できなければ―――

「…!」

できなければ仕留められる!
連続する路地裏から突然に開けた道へ出る!
賭けに等しいが、俺の逃走にヤツが付けて来てるとしたら。
見逃さんと全力で追跡をする余り、この通りに飛び出てしまう筈だ!

そして俺は、この通りの中に追跡者の気配をひしひひと感じ取っていた!
作戦通り、ヤツは通りに飛び出ている!
吹雪で視界は閉じたままだが、大雑把な位置が分かればそれでいい!
確信と共に、懐からするりと得物を抜き出す!

呪文は使えない。
17歳より下の魔法使いが呪文を使えば、″臭い″に引っ掛かる。
正当防衛の為なら免除されるが、実際に襲われていない以上それは成立しない。
だが、俺の武器は杖だけではない。
いや、むしろこういう時の為にこれを持っているのだ―――!

乾いた撃鉄と、鋭い破裂音が雪の中に響く。
ブラックホークの凶弾が吹雪を貫いた。

「…やったか」

銃声を掻き消す吹雪の中、敵の気配が消えて行くのを感じる。
どうやら命中したらしい、銃を構え警戒を保ちながら、姿の見えぬ暗殺者へ近づいて行く。

それでもそいつの姿は見当たらない。
だが確かな手応えはあった、ならばすぐ近くに居る筈なのだが。
その付近を探していると、足元からほんの僅かな、小さな音が聞こえてきた。

「…虫?」

そこに居たのは小さな黄金虫だった、その足は痛々しく千切れ飛んでいる。
…まさかこいつか?
切断面を見てみると、銃弾がかすったような焦げ目が付いている。
つまりこいつが追跡者だったという事か、成る程、このサイズなら気付けなくても無理はない。

こいつは″動物もどき″なのだろう、只の虫に追跡なんてできる筈が無い。
取り合えず正体を明らかにするのが先決だ、こいつをどうするかはその後考えればいい。
俺は黄金虫を摘まむ事で、ようやく店の中へ入る事ができたのだ。

「いぃっらっしゃ…何です? それ?」
「動物もどきだ、…恐らくな、これの正体を暴いてほしい」
「まぁそのくらぃなら、スペシアリス・レベリオ(化けの皮よ、剥がれろ)

俺は呪文を使えないので、店主に頼みこいつの変身を解除する。
すると黄金虫はムクムクと巨大化していき、けばけばしい格好をした女が現れた。
いや、こいつは確か…

「リータ・スキータ…ですねぇ」
「…ああ」

まさかこいつだったとは、という事は暗殺ではなく俺のゴシップを狙っていたのか?
だとすれば暗殺者より不味かった、14歳の少年が違法武器業者の店に入るのを観られていたらスキャンダルどころでは無い。
この女、俺の予想よりも遥かに危険だったようだ。

「…どぉしますぅ? これ」
「…縛っておこう」

近くのロープで腕と足をしっかり拘束し、店主の呪文で止血だけしておく。
その後店主はどっかで見たような青緑色の液体を取りだし、それをスキーターに…

「ぁ、間違えた」

ではなく真っ黒なコールタールの様な液体をスキーターに飲ませる。
すると足の切断面から怒濤の勢いで蒸気が発生した、こいつ何を飲ませたんだ。

「…これは?」
「再生促進剤ですよ…さぁ、店の奥へどうぞぉ」

切断面が見るに堪えなくなっているスキーターを置いて、俺達は武器庫への階段を下っていった。
久し振りに来てみれば、懐かしい火薬の臭いが俺の鼻を刺激する。

「では、ゆぅっくりどうぞ」

店主の言われるまま、色々な武器を手に取り試し撃ちをしていく。
それも隠し持てる様な拳銃や手榴弾ではなく、突撃銃等の大型火器ばかりを撃ちまくる。

「ぉや? デカブツを買ぅ目処がつぃたんですか?」
「…まあな」

それは資金が貯まったからだけではなく、これらの武器を安全に運べる様になったからである。

「…………」
「ぉ決まりですね? ではぉ会計…」

多めに買ったそれを前に、俺は大型の軍用バッグを取り出す。
明らかに入りきる大きさではないが、銃火器は何の問題も無くその中に吸い込まれていく。

「おぉ、″検知不可能拡大呪文″ですか」

そうだ、つい最近会得したこの呪文、これによって俺はようやく重火器を持てる様になったのだ。
これで武器を隠し持てる様になり、学校に持ち込む事ができる。

何故こんな事までして武器を持ち込むのか。
それはこの異常事態に備える為だ、今のホグワーツの何処かに黒幕が居るのは必然。
にも関わらず、武器となるのが杖と拳銃だけでは余りにも心もとない。

だからこそ、これらの武器を学校に持ち込める様にしたのだ。
最も、常に持ち歩く為にはもう一工夫必要だが…

『こ、ここは何処ざんすか!?』
「ぁ、起きたみたいですね」

バッグに武器を詰め終わった頃、スキーターの悲鳴が聞こえてきた。
地上へ戻るとスキータ―が凄まじい眼光でこちらを睨み付ける。

「キ、キリコ・キュービィー! ネタは掴んだざんすよ! こんな違法マグル用品の店に居ることが知られたらどうなるか分かってるざんすね!?」
「…………」

手足を縛られ、片足は再生途中だというのにこの言いぐさ、こいつのゴシップに掛ける情熱はどれ程のものなのか…
まあそんな脅しに屈する筈も無いのだが。

「…黄金虫」
「!? 何でそれを知って…知って…」

驚いた後何処か納得した様な顔を浮かべるスキーター、自分の身に何が起こっていたのか思い出したらしい。

「非登録の動物もどき…うわぁ、重罪じゃないですかぁ」
「そ、それがどうしたざんす!? それを密告するならこっちも考えがあるざんす!」
「無駄ですよぉ、私は杖を持っています、忘却呪文を掛けてしまえば真実は水の泡…」

唸るスキーター、ヤツにとって今の状況は最悪そのものだ。
折角掴んだスキャンダルも忘却呪文を喰らえば水の泡、それどころか動物もどきだという事を一方的に密告されるだけ。
だからこそこの状況は価値があった、俺はある事を思いついたのだ。

「…取引だ」
「は? 取引?」
「…俺の依頼を受けるなら忘却呪文も掛けない、密告もしない」
「それは脅しって言うざんす」
「無論謝礼もする」

実際その通りだが、だからといってこの脅しをヤツが拒む事はできない。
恨みつらみの言葉をぶつぶつと綴った後、ようやく口を開いた。

「…なんざんす、一体何を言うざんすか!?」
「アラスター・ムーディ、ヤツを見張ってほしい」
「は!?」

途中まで俺に一切気付かせないという驚異的な追跡能力、それ程の力ならムーディに気付かれる可能性は低い。
怪しいとは思っていたが決定的な証拠は無かった、だがこいつが協力してくれればそれを掴む事ができるかもしれない。

また唸った後、「前金寄越せ」と言い、取引は成立した。
人を利用するのはどうかと思うが、報酬を払っている以上問題は無い。

「イースターの日、ここで情報を貰う、それが終わった後残りを渡す」
「まったく、何で私がこんな事を…ブツブツ」
「…それと」
「!? まだ何かあるざんすか!?」

こいつの能力から考えて、もしかしたらアレを知っているかもしれない。
役員室に潜りこむなり、他の選手を探るなりしている可能性は高いからだ。

「第二の課題、あの騒音は何だ?」
「あれざんすか? マーミッシュ語ざんすよ! もう私は行くざんす!」
「そうか、感謝する」

礼を聞く間も無くヤツは店から出て行ってしまった、心境を考えれば当然だが。
しかし思わぬ収穫があった、マーミッシュ語…だったか。
確か図書館で見た覚えがある…がハッキリ言ってうろ覚えだ、しかし正体が分かれば対処のしようはある。
…問題はムーディの秘密を掴めるかどうかだが、それはヤツの能力を信じるしかないのだろう。


*


試合当日、気温は8度以下という極寒、天候は稲光を伴った曇り、昨日の夕方は晴れていたのだが、生憎の天候である。
しかし舞台は水中、嵐が来ようが関係ないのはある意味救いだった。
そう、第二の課題は水中戦だったのだ。

あの後マーミッシュ語について調べ直した所、それは水中でしか聞き取れない言語だと分かった。
なので必要の部屋を使い、風呂の部屋を呼び出して貰った。
そして卵と共に水中に入りそれを開いてみると、美しい歌が聞こえてきたのだ。

探しにおいで、声を頼りに。
地上じゃ歌は、歌えない。
探しながらも、考えよう。
我らが捕らえし、大切なもの。
探す時間は、一時間。
取り返すべき、大切なもの。
一時間後のその後は、もはや望みはありえない。
遅すぎたなら、そのものは、もはや二度とは戻らない。

この歌の意味は大体こんな所だろう。
水中人の歌を頼りに、何か大切なモノを探し出す、水中人の歌が聞こえるのだから舞台は当然水中。
会場を創り上げるとも考えにくいので場所は恐らくホグワーツ湖、制限時間は一時間、という事だ。

大切なモノが何かは分からないが、そこは実際見てみなければ分からない。
問題は場所が水中、それも真冬の湖だという点だ。
しかも長時間潜る事になるのは必須、冬の湖で最長一時間潜り続ける、それが何を意味するかは考えるまでも無い。
溺死、凍死、水圧による圧死、死亡要因は山ほどある。

その脅威への対策は当然考えてある、と言っても無難な物になってしまったが。
最初は第一の課題同様ATで挑もうと考えた、その第一候補はマーシィドッグ。
思いついた後数秒で却下になった憐れなATだ、何故ならこいつは″水中戦″用では無く浮き袋を使った″水上戦″用だったからだ。
湖の中を探すのに水上を軽やかに走るAT,道化も良い所だ。

次に浮かんだのはダイビングビートル、こいつなら水中戦も対応できる。
が、これも一瞬で却下となった。
何故か、単純である、俺が覚えている設計図はドッグ系しかないのだ。
…というか、乗ったかどうかさえも定かでない物を覚えている筈が無かった。

結果無難な選択肢として顔を泡で包み、呼吸を可能とする″泡頭呪文″。
体温低下を防ぐ″耐寒呪文″を使う事にした。
水圧に関しては軍に居た頃に潜水訓練を受けていたので問題は無い、水中を泳ぐのも同様だ、必要になった時の高速移動も考えてある。

残る二か月間その呪文を全力で練習し続け、迎えた試合当日、予想通り場所はホグワーツ湖であった。
水着姿となった選手たちは既に準備運動をしながら試合開始の時を待つ。
クラムとセドリック、俺はランニングシャツに競泳用のパンツ、デクラールは競泳水着を着ている。

ハリーはというと、…まだ来ていなかった。
もう開始二分前だ、一体ヤツは何をしているんだ。
焦り始める観客と共に周りを見渡すと、校舎の方から息を切らしながらハリーが走って来ていた。
だがその姿はいつものローブと、これから泳ぐ格好には見えない、しかも下に水着を着ている訳でも無い。
あいつは大丈夫なのだろうか…

『時間です! 生憎の天気になってしまいましたが試合を止める事はできません! そんな事したら私がゴブレットに焼かれてしまうからです!』

不安を他所に始まったパグマンの実況、苦笑を漏らす観客達だがあながち冗談とも言い難い。
ゴブレットによる魔法契約、その中に試合中の介入を禁ずるものがあってもおかしくないからだ。

『待ちに待った第二の課題、その内容は水中に潜り、大切なモノを取り返す事です!
如何に早く取り返し、如何に早く戻ってくるかが評価の分かれ目になりそうです!
この極寒の中でどう活躍してくれるのか、乞うご期待!』

そしてヤツの前に出てくるダンブルドア、挨拶をするのだろう。
隣を見ると何やらハリーが昆布の様な物を無我夢中で齧っている、途端に顔が水色になっていた、不味かったらしい。

「諸君らの活躍を期待しておるぞ! 大砲が鳴ったら選手は水中に飛び込むのじゃ! ではカウントダウンを始め」

ズドンッ!

「…………」

大砲の係を変えるべきだ、顎を外しているダンブルドアを見ながらそう思った。
次々と飛び込む選手に続き俺も冷水の中へ飛び込んで行く。




「―――!」

やはり冷たい、予想以上の極寒だ…!
今年の悪天候が響いたのか、水温は三度、…いや氷点下ギリギリの様に感じる。
そんな感覚から逃げるべく杖を振るう。
″泡頭呪文″と″耐寒呪文″を掛けると、その苦しさは直ぐに消え去った。
一度掛けてしまえばこちらのものだ、この杖によって強化されているので一時間は確実に持つ。
しかし油断できる訳でも無い、素早く探し出さなければ…

浮上するのは楽だが潜るのは難しい、体力のある前半に潜り、浮上しながら探すのが賢明だろう。
ゆっくりと、だが確実に、そして歌を聞きもらさない様下へ、下へと潜って行く。

…十分ほどたっただろうか、未だ音は聞こえず水底にも到達していない。
まあ十分で見付かる筈も無い、焦らずに確実な一歩を進ていく。
…その時、俺は音を聞き取った。
だがそれは美しい歌声では無い、まるで巨大な潜水艦が通る様な水切り音だった。

(―――こいつは!?)

振り向けば目の前に迫る巨大な影!
身を翻しその突撃を回避する、そしてその影の正体を見た。

(ホグワーツ湖の…イカか!?)

ホグワーツ湖には巨大なイカが住んでいる、しかしこのイカに凶暴性は無く、至って穏便である。
だが今目の前に居るのは違った! キリコに向かって明らかな殺意を向けている!

(どういう事だ…? だが…!)

その訳を考える前にキリコの体は動く。
この判断力の高さこそこの男の強みなのだ!

フリペーダ・ブレイト(貫通弾頭)!」

フリペンドを弾頭呪文に適応させた物を撃つ、その特徴は狙撃銃並の速度と貫通力!
周りの水を巻き込みながら放たれた弾丸が足を捩じ切った!
あまりの回転力に纏めて吹っ飛ばされたのだ!
だが!

(止まらない…!?)

野生とは即ち実力社会である、野生動物は力の差に敏感だ。
キリコはそれを知っていたからこそ驚いた!
足を吹っ飛ばされると言う明らかな″差″を見せたにも関わらず、こいつは向かってきていたのだ!

(″服従の呪文″か…!?)

この巨大イカは何者かに操られていたのだ、でなければ足を失ってまで向かってくる筈が無い!
再び襲い掛かる5mにも及ぶ足! それがキリコを包囲する!
ここは水中、どちらに分があるかは明らか! どうする!?

アグアメンティ(水よ)!」

逆手で杖を持ちながら水を噴出させる!
キリコが″水増し呪文″を使った時、どれ程の勢いで水が噴出されるかは知っての通り!
右へ左へ! まるで踊る様に攻撃を回避する!
分かっただろうか、キリコは″水増し呪文″を水圧ジェットにしたのだ!

空を飛ぶように動き回るキリコに大イカは翻弄される一方!
止めを刺すために背後に回り、そして距離を取る!
何故か? 巻き込まれないためだ! 何に? それは―――

グレイシアス(氷河となれ)!」

″凍結呪文″からだ!
威力に任せたゴリ押し、周りの水諸共氷漬けにしてしまった!
そのまま水底へ沈んで行くイカの氷漬け、それにキリコは掴まった。
彼は体力を温存したまま、一気に水底へ辿り着く事に成功したのだった。




巨大イカエレベーターを利用し水底へ辿り着いた俺は、それからすぐに歌を聴く事ができた。
着地した場所にたまたま居たハリーと合流しながら進む、しかしハリーはどうやって泳いでいるのか。
答えは首元にあった、あの鰓、そうか鰓昆布を使ったのか。

と他人の事を考えながら歌を辿って行った場所、そこには海藻で覆われた広場と一本の柱があった。
そしてそこに、大切な″者″が繋がれていた。

(…ルーナ・ラブグッド)

あのダンスパーティーはこれが目的だったのか、その隣にはロンやハーマイオニー、そしてキニス達が繋がれている。
彼らは眠っているのだろうか? ともあれ大切な者は見つかった、時間を過ぎたからといって本当に死ぬような事はないだろう。
…黒幕の存在が気になるが、第三の課題も残っている以上まだ犠牲者は出さない筈だ。

冷静に考えればそうだがハリーはそう思わなかったらしく、その場に留まり他の人質にも手を伸ばし警備の水中人(マーピープル)に止められていた。

しかし俺も余裕とは言い難いので、ハリーには悪いが先に行く事にする。
ラブグッドに絡まった海藻を切断し、浮上しようとした時の事だった。

(!?)

突如、何も無かった筈の水底から水魔が現れた。
それも一匹ではない、そんな数では無い。
―――視界を黒く塗り潰す程の水魔が、一斉に襲い掛かった。

アグアメンティ(水よ)!」

水圧ジェットで緊急離脱!
ハリーは無事か!?
しかしその心配は無用だった、代わりに俺が悪夢を見る事となる。

水魔の大群は、全て俺に向かって来たからだ。
ハリーに目もくれないのは良いが、逃げきれるか…!?

何とか水面が見え始めるが、その瞬間片足を掴まれる!
あと少しだ、何とか振りほどけないか!?
水底に引きずり込まれかけながらも、脱出しようと必死で地上を見つめる。

その時俺は見た、青白い光の粒を。
大穴を開け、雷鳴を響かせる黒い雲を。
その光が、雪の様に水面に降りてくるのを。

(―――!!)

杖を反転させ水底へ潜り直す!
水魔に揉まれながらも、それを承知の上で逃げる!
俺の直感が、魂が、そして記憶が告げていた!
…もし、この判断が一瞬でも遅れていたら、彼女はここで死んでいただろう。

…そして水面が全面凍結した。
一瞬でホグワーツ湖全域の水面が、厚さ10m級の氷塊になったのだ。

だが、この逃走がより最悪の事態を呼んだ。
潜る途中に、合流してしまったのだ。
人質を抱えた4人の選手と。
それはつまり、俺を追う水魔達の獲物が、4人に増えた事を意味する。




俺の誘導によって、今はまだ安全な岩陰に逃げ込んだ俺達。
しかし、その心に安全などありはしなかった。
互いの泡に顔を突っ込み、怒声とも悲鳴とも言えない声を出し続ける。

「一体どうなっているーんですか!? 早く脱出しなーいと!」
「…無理だ、あの厚さでは破壊できない」
「キリコ! あの水魔の大群は何なんだ!?」
「そうだよ、何で僕には向かって来なかったんだ!?」
「分からない、人質を助けた瞬間奴等が現れた」
「…助けを呼ぶことはできなヴぃか?」
「いや、それができるならダンブルドア先生が何とかする筈だよ」
「…え? い、いや、嘘…!?」
「どうしたんですか?」
「結氷が、…大きくなっていまーす…!」
「な!? 何故!? 一体何がおこってヴぃる!?」
「まだ続いているのか…!?」
「キリコ! 知っているのかい!?」

意図してか、意図せずか。
唐突に作られた巨大な水牢。
俺達を押しつぶさんとする氷塊と、引き裂かんとする水魔の大群。
俺はようやく気付いた、今までのは本当の地獄などでは無かったのだ。

「…ダウン・バースト」

恐怖の中で死ぬのを待つ、脱出不能の処刑場。
それこそが俺達の辿り着いた、真の冷獄だった…



溺死か凍死か
食い潰される固まるか
その間にある果てしなく脆い不安定な一滴
震える恐怖と才能がその記憶を探る
信じるか、信じられるか
助かるか、助けきれるか
ポリマーリンゲル液、俺はかつてこの鉄の血液に運命を託してきた
だからこそ
次回、『ダウン・バースト』
しかし、生き延びたとしてその先がパラダイスのはずはない


ど う し て こ う な っ た
※ボトムズではよくある事です。
※あとキリコが居たからです。


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第四十話 「ダウン・バースト」

☆ダウン・バースト発生☆

…やり過ぎたか…?
まあ今更引き返せないししょうがない、決死の脱出劇始まります。


ペリキュラム(花火よ上がれ)!」

今大会用にダンブルドアが用意した、救難用の花火呪文。
その花火は水中だった為、色水へと姿を変え地上へ昇って行く。
しかしその希望は、ぶ厚過ぎる氷塊に阻まれ誰の目にも届かない。

「何で!? 何で誰も来てくれなーいの!?」

これを撃ったのに救助が来ないという事は、少なくとも時間切れまで救助はあてにならないという事を意味する。
大切な者を取り返すだけだった筈の第二の課題、今やそれは確約された死を待つだけの地獄に成り果てていた。

「ど、どうすれば…」

愕然としているのはセドリックだけではない、ここに居る全員がその事実に絶望しきっている。
上を見上げれば、今も尚巨大化し続ける氷塊。
岩影から顔を出せば、数百匹は居るであろう水魔の大群が蠢く。

「なんとかならなヴぃのか…!?」

唸るクラム、それに対する答えを持つヤツはここには居ない。
デクラールは人質であるキニスを守ろうとしている。
ハリーは必死に打開策を考えているが、パニックに陥った頭が妙案を作り出せる筈も無い。
四面楚歌か、阿鼻叫喚か、もはや競技どころではなくなっているのであった。

だがその中で俺は一人、自分でも不気味だと感じる程冷静に、この地獄からの脱出法を考えていた。
それはかつて似た経験をした事があるからだろう、あの白い大地から生き延びたという事実が、ほんの僅かな冷静さを与えていたのだ。

だからといって状況が絶望的な事に変わりはない。
ガレアデを襲ったのとは性質が違うのだろうか、長時間続くタイプのダウン・バーストだと推測できる。
その結果凍る範囲を拡大させ続けている結氷は、あと数分で湖のほとんどを呑み込もうとしていた。

では残りに避難し救助を待つか、それもできない。
常軌を逸した水魔の群れ、一人だけなら逃げ切れたかもしれないが、人質を抱え水中という制約の中逃げ切る事は不可能だ

なら氷塊を破壊し脱出するか、それも良いかもしれない。
最も、既に目測50メートル以上に成長した氷塊を破壊できる自信があるならばだが。

まさに八方塞がりと言えよう、しかしのんびりと考える時間もない、この岩影もいつ水魔に襲われるか分かったものではないからだ。

「―――! まずい!」

セドリックの声につられ、ヤツの見る方向を見れば水魔の大群がこちらに迫っていた!
やはり気付かれてしまったか…!
逃げなければならない、その場から瞬時に離脱する!

先程は慌てていて分からなかったが、その量も種類も尋常ではない。
ケルピー、グリンデロー、果てには河童まで混じっている。

キリコは水圧ジェット、クラムは頭部を鮫に変身させる事で、ハリーは鰓昆布の力によって高速移動を可能にし素早く逃げ切る。

しかし残りの二人は高速移動手段を用意していなかったのだ!
それが意味するのは只一つ。

水魔達は遅れた二人に狙いを定め集中攻撃を行っていた!
しかもセドリックがデクラールを庇ったせいで泡が割れてしまっている!

フリペードブレイト(貫通弾頭)!」
ペトリフィカス・トタルス(石になれ)!」

貫通弾頭が河童の脳天を貫く!
キリコに続き状況を理解したハリーの石化呪文によってグリンデローが沈む!
攻撃によって水魔が気を取られた一瞬を突きクラムが突貫!
鮫の遊泳力を持って二人をその中から助け出す!

ペリキュラム(花火よ上がれ)!」

助け出されたデクラール、彼女は追い縋る水魔に向けて花火を撃ち込んだ!
この呪文はリタイア宣言用にダンブルドアが使うよう指示した呪文。
しかしここは水中、花火にはならず只の色水が吹き出しただけ。
だが彼女はそれを利用した!

色水の煙幕が水魔を包み込む!
その間に彼等は逃走を再開する!

すると突然ハリーが立ち止まり、杖を下に向けて何かを訴える!
ハリーが指し示した場所は海草の群生地帯! 隠れるにはうってつけの場所!
迷っている様な暇は無く飛び込んで行く!
最後の一人が隠れたと同時に、水魔が煙幕から脱出しこちらへ迫る!

「…………行ったか、…いや?」

息を潜める事数秒、幸いにも水魔はこちらに気付かす通りすぎて…くれなかった。

「こ、これは…!?」

信じられない事に水魔達は散開、水中にくまなく分散して行った。
奴等は索敵を始めたのだ!
このままでは再び見つかるのは必然か…!

「セドリック! 大丈夫ですか!? 今呪文を!」

溺死しかけていたセドリックに包頭呪文を掛け直すデクラール。
更に治癒呪文と蘇生呪文を使い意識を復旧させる。

「う、うう…」
「ああ! 良かった、本当に…」
「…だが、状況は全く好転してヴぃなヴぃ」

そうだ、一時は逃げ切れたが何も変わっていない。
むしろかなり悪化している、水魔の索敵もあるが上方の氷塊も更に巨大化しているのだ。

「…あれ、破壊できないの?」
「無理だ、大きすぎる」

あれ程巨大化しては、もう爆破呪文をどれだけ撃っても無駄だろう。
非常過ぎる現実を前に俺はかつての地獄を懐かしんでいた、これでは事前に覚悟ができていたガレアデの方が遥かにマシだ。
いや、この状況はある意味あの時そっくりといえる。

このダウン・バーストは、あのエルンペントの角によって起こされた大爆発が原因だったのだろう。
あの時の異常気象も俺達が発端となって起こった、ポリマーリンゲル液タンクの大爆発が原因だったからだ。

「………!」

その瞬間寒気がするほどの恐るべき感覚が俺を貫いた。
この方法なら脱出できる、しかし作れるのか? 確実と言えるのか?

「ど、どうしたんだキリコ?」
「…脱出方法がある」
『何だって!?』

上を見れば巨大化を続ける氷塊、水魔に見付かるのも時間の問題。
ならば…心を決めるしかない…!

「だが凄まじく危険だ、だからこそ聞きたい事がある」
「それは何でーすか?」
「救助を待つか、俺の作戦に乗るかだ」

だが最大の不確定要素がそれだった、競技時間中だから来れないだけという可能性がある。
それがあり得る以上、俺一人の意志で死地に向かう事は許されない。
…しかし。

「決まってヴィる、当てにならなヴぃ救助を待つ方が危険だ」

最初に口を開いたのはクラムだった、ヤツに続き全員がその決意を表していく。

「そうだよ! ここでじっとしていちゃ駄目だ!」
「ハリーの言う通りだ、それにこの競技に立候補したんだ、それくらいの覚悟はできている!」
「私達だけじゃない、大切な者の命も掛かっていまーす、今何かできーるのは私達だけでーす!」

何てことは無い、最初から覚悟は決まっていたという事か。
甘く見ていたのは俺の方だったらしい、潜った地獄こそ少ないがこいつらも十分な戦士だったのだ。
ならば迷っている暇は無い、時間も限られている…!

「…で、一体どうするの?」
「この湖を爆破する」
「は!?」

まあ脱出と湖を爆破する事を繋げるのは困難だろう、目を丸くするハリーが当然の指摘をする。

「何言っているのキリコ! それはさっき出来ないって…」
「可能だ、それを説明する」

この作戦の全てはそこにかかっていた、まさか二度と使う事は無いと思っていたあれを作る事になるとは。
実の所″装甲起兵″を練習している時に作ってはいたのだが、ATを動かすのに不要と分かってからは作るのを止めてしまったのだ。
そう、俺が創ろうとしていた物、それは″鉄の血液″と呼ばれた物、かつて俺達が運命を賭けてきた物。

「″ポリマーリンゲル液″、…それが作戦の要だ」




巨大化し続ける氷塊の近くに佇むキリコ、その目の前には泡頭呪文で作った泡が五つ。
その中に浮かぶのは、水を変身させた青緑の液体、…ポリマーリンゲル液。
あの後すぐに水魔に発見された彼等はただちに作戦を始めた、しかし内容は単純、PR液が完成するまで時間稼ぎをするだけである。

ペトリフィカス・トタルス(石になれ)!」

デクラールの石化呪文が命中し、水底へ沈んで行く水魔の一体。
だが水魔達は尚キリコに向けて猛進し続ける!
何故か水魔はキリコ一人に集中攻撃を加えていた!

その原因は彼が持つロープ、その先にある五人の人質!
時間稼ぎに専念する為に人質を預けたのが仇になったのかもしれない!
獲物が集中している場所を襲うのは当然だからだ! しかし!

インカーセラス(縛れ)!」
ステューピファイ(失神せよ)!」

縛られ沈静化するケルピー、失神させられる河童、そして食い千切られるグリンデロー!
ハリーやセドリックの呪文と、鮫になったクラムの牙が水魔の接近を阻む!
そうだ、こいつらの為にも急がねばならない。

妨害を潜り抜けようと密集体型をとるグリンデロー軍団、その数は目測で20匹相当!
しかしそれは逆に、奴等の戦力を大幅に削ぐ結果に終わった!

グレイシアス(氷河となれ)!」

杖を振るセドリック! 大イカに対してキリコがやったように周りの水諸共氷漬けに!

コンフリンゴ(爆発せよ)!」

からの爆破呪文! 纏めて木っ端微塵にされた!
密集体型が仇となり二次被害をモロに喰らっていく水魔達!
だが数の暴力は圧倒的! その間を潜り抜け一体の河童が現れた!

エクスペリアームス(武器よ去れ)!」

武装解除呪文を放つハリー、手馴れているのか赤い閃光は直撃するが怯ませただけ。
けど、それで十分だ…!
その怯みがヤツの接近を許す!
強靭な肉体に鮫の勢いを乗せ、頭の皿を破壊し力を失わせる!
高い遊泳能力によって縦横無尽に駆け巡るクラム!
誰もが必死に戦っている中、俺だけが違っていた。

(駄目なのか…!?)

先程生成したPR液は全て爆発、それ以降も失敗が続ている。
何故なら記憶が曖昧だからだ、あまりに昔過ぎる。
そもそもPR液の配合比率など、専門家でもない限り知る機会すら無い。
どうする、思い当たるのは全て試した、当てずっぽうをする時間は無い…
考えろ、どうすれば思い出せるのか…

(………!)

そうか、俺が忘れていても、俺は覚えている。
その事に気付いた俺は自分の額に杖を突き立てた、そして…

「レジリメンス -開心」

俺が覚えていないなら、記憶を直に見ればいいのだ。
全身の内側を這いずり回る感覚と共に、ビデオテープの様に記憶が廻っていく―――

―――極寒の地に取り残された俺達周囲を囲むパララントの大群空を覆うダウン・バーストの厚い雲小太りの仲間が液体を並べる様々な液体や材料をぶち込んでいき複雑な計算式を書き綴るだが上手くいかずヤツは頭を掻き毟る次々と爆発してくPR溶液ガンマリンゲル電子量0.265ボルス俺の持つサンプルを舐め戦慄する仲間達それが安定を見せ歓喜の声を上げるそのサンプルのリンゲル反応は代謝率R酸化剤配合したのはその量は―――

―――これだ、その記憶に従い水を変身術でPR液に変身させる。
そしてそれは、ダウン・バーストが齎した超低温の氷に触れても爆発する事は無かった。
あいつが創った零下200度でも凍結しないPR溶液が再び完成したのだ。

『PR溶液が完成した』

ハリー達の脳にキリコの声が響き渡る、しかし返事が来ることは無い。
この呪文は一方通行のテレパシーしかできないのだ、だが指揮や伝令をする時には最適でもある。

『これがそのデータだ、…頼む』

それぞれに配合比率等のデータをイメージとして送り付ける。
何も理解する必要は無い、それを大体把握していれば十分だからだ。
データを送った数秒後、セドリックとクラムが動き出す。
彼等が通った後には青緑色の液体が生成されている。

そう、キリコはホグワーツ湖の水をPR溶液に変身させ、その爆発で氷塊を吹き飛ばそうと目論んでいたのだ!
その為にPR液を作りつつ、二人が作ったのもこちらへ引き寄せる。

水魔の狙いがキリコに集中しているので二人はPR液生成に専念できるのも幸いであろう。
そして彼に集中した水魔達はハリーとデクラールが対処する。
凍結、失神、縄、水、ありとあらゆる閃光が飛び交い、その度に水魔が一匹、また一匹と沈んでいく。
だが状況は芳しくない、その圧倒的な数の暴力によって彼等は徐々に追い詰められている。
元々四人でも何体が逃がしていた以上、二人でやるのは無理だったのだ。

助けなければ、しかしそれをすればPR液生成に支障がでる…。
歯がゆさに身を震わせるが、突如水魔の大群が崩れ始めた。
その中に居たのは灰色の肌と緑色の髪を持つ、槍を持った戦士達。

(水中人…!)

この恐るべき状況の中、彼等を助ける為に現れたのだ。
その救援を生かし、一気に生成速度を上げていく。
…氷塊が更に巨大になっているのか? …いや狙い通りだ。
何故なら彼の周辺だけは凍結せず、まるで板に丸い窪みができている様になっていたからだ。

わざわざ自分に開心術を掛けてまで、あの時のPR液を作った理由がこれだった。
零下200度でも凍結しないPR液が湖の一部を満たした結果、そこだけ凍結せず薄い部分が出来上がっている。
少しでも破壊できる可能性を上げる為の策は、今功を成した!

『集まれ!』

だが危険な状態には変わりない、一刻も早く脱出しなければならない。
このくらい生成できれば十分だ、そう判断し彼は招集を掛ける。

アグアメンティ(水よ)

氷塊の窪みにできたPR溶液のたまり、そこに少しだけ真水の場所を作る。
そうしなければ着火した時全員巻き込んでしまうからだ。
次々と集まってくる選手達、それに追いすがる水魔の軍勢。
だがその中にハリーの姿だけが無かった、ハリーは溺れていた!
ヤツは鰓昆布があったのでは?
しかし彼らは、首元にある筈の鰓が無い事に気が付いた、効力が切れていたのだ!

助けに行かねば!
しかし窪みを作ったのが仇となり、その小さなスペースに集中してしまった水魔達。
人が通れるスペースは既に無い、纏めて吹っ飛ばせば巻き込まれる。
―――そうだ!
その方法を閃いたセドリック!

アクシオ・ハリー・ポッター(来い、ハリー・ポッター)!」

彼は呼び出し呪文を使った、その閃光は水魔の隙間をねりハリーに届いた!
呼び出し呪文! でも…!
ハリーの大きさでは水魔の密集地帯を潜る事は不可能、しかし彼女は瞬時に思いつく。

レデュシオ(縮め)!」

デクラールはハリーを縮小呪文で縮ませる、これで隙間を潜れる様になった!
水魔の間から飛び出してきたハリーに拡大呪文と泡頭呪文を掛ける。
人質、選手、全員揃ったか。
水魔はもう目前、今やらねばやられる…!

『盾を張れ!』
「「「プロテゴ(盾よ)!」」」

呪文が使えないハリー以外の三人が盾を張った瞬間、キリコは最初の火を放つ!

インセンディオ(燃えよ)!」

青緑色の液体に火が灯る、次の瞬間!
―――視界の全てが白く染まった。

「うわああああ!!」

盾一枚を挟み大爆発を起こすPR液!
火球に呑まれ消滅していく前方の水魔達!
軋みながら轟音を鳴らす後方の巨大氷塊!
それに挟まれた彼等は尋常ではない圧力に必死で抵抗する!

「あ、暑ヴぃ…!」

盾の魔法で軽減されているにも関わらず体感温度は300℃近く!
灼熱に晒され、空気に肺を焼かれ呼吸すらままならない!

しかし包頭呪文を張る間も無い、盾を解いたが最後水中で焼死してしまう!

だがキリコの読み通り、氷塊は大きく歪み今にも砕けんとしている!
このままいけばあと数秒で崩壊する!
しかしそう簡単に事が進む筈も無かった!

(…く、砕けない…!?)

僅かな皹が氷塊に入るが、それ以上割れてくれないのだ!
何故だ!? 爆発は十分だった!?
いや…水か!? 水によって威力が減衰したのか!?
愕然とするキリコ!

「ま、まだ…砕け無い…の…?」

氷と盾による密閉空間、その熱は上昇し続ける!
うっすらと見える地上、あと一押しだというのに…!

「あと…一回…強力な衝撃が…あれば…」
「衝撃…」

盾の呪文を張れないためその身で人質を守っていたハリーが呟く。
今行動を起こせるのはハリーだけだが、彼の使える呪文に″強力な衝撃″を起こせるものは無い!

「爆発呪文は…だ、駄目だ…!」

この密閉空間でそんな事をすれば全員巻き込まれる!
止めに最悪な事に爆発が弱まってきた!
爆発できるPR液が無くなってきているのだ!

「…た、盾が…!?」

展開していた盾に皹が入り始めた!
呪文を展開していたセドリック達が、この高温に耐えきれず倒れてしまったからだ!
溺死か、爆死か、万事休すか…!?

「………あ!」

その中で一人ハリーが叫んだ!
その目には確かな煌めきがあった!
そして、その機転のままに呪文を唱えた!

アクシオ―――(来い―――)

ハリーは思い出した、この湖にあったソレを!
ソレの質量がぶつかれば、この扉を破れるかもしれないと!
爆発を切り裂き、水底から引き寄せられたのは!

―――巨大イカ(巨大イカ)!」

氷漬けの巨大イカが盾に激突した!
イカと氷、それに呼び出し呪文の速度が加わればその破壊力は相当なものになる!

それだけではない! 
イカは盾に阻まれるが呼び出し呪文の効力により、ハリーに届くまで圧を掛け続ける!

盾越しに掛かり続ける圧力!
一気に広がっていく皹!
そして遂に、巨大氷塊が…決壊した!

前代未聞の大爆発を起こすホグワーツ湖!
吹き飛ばされた氷塊が客席に降り注ぐ!
突然の事態に唖然とする観客達!
それと共にブッ飛ばされた彼等はそのまま地面に落下して行く、呪文を唱える気力も残っていないのだ。

アレクト・モメンタム(動きよ、止まれ)!」

会場に響くダンブルドアの声、その瞬間周囲の氷塊ごと静止、そしてゆっくりと地面に降ろされた。

「ガハッ! ぐっ、ハァ、ハァ、ハァ…」

灼熱地獄と凍結地獄から解放され、温度差にむせながらも必死に息を吸い込む。
すると隣から、先程まで死ぬかもしれなかったとは思えない程明るい声が聞こえてきた。

「…大丈夫? キリコ」
「………お前は、無事か…?」
「うン、凄い元気」

全身火傷に噛み傷切り傷、凍傷と俺達はズタボロになっていた。
しかしダンブルドアが掛けておいたであろう保護呪文がしっかり作用していたのか、俺達とは違いラブグッドは傷一つ無いようだ。

「凄い爆発だったね、あんなの見れるとは思わなかったよ」
「…意識はあったのか?」
「あったよ、だから全部見てた、ポリマーリンゲル液って何?」
「…マグルの軍で使われてる液体火薬だ」
「液体火薬?」

全力で誤魔化していると、現れた大量の医務スタッフに取り囲まれてしまった。
そのまま何処かへ運ばれようとした時、ラブグッドがそれを呼び止める。
彼女は静かに、一言だけ言った。

「キリコ、ありがとう」
「………ああ」

その言葉を聞いて、俺はようやく理解した。
生き残る事ができたのだと。
暗闇に沈んで行く意識の中で、誰一人死ななかった喜びを噛み締める。
この安息が次の地獄までの、束の間の休息なのは分かっている。
だからこそ、今はこの暗闇に身を任せよう、真の地獄は目の前なのだから…



百年ぶりの大会が終結する
最後の戦い
古の牙城ホグワーツに動員される人員、一千二百人
勝利者が手にする名誉一千ガリオン
一度入れば小国の国家予算にも迫る
だが全てを知る者からすれば蚊の涙
こんなものだと狂気が嘯く
次回、『最終局面』
ウィザードトーナメントの仕掛け人が犯した最大の誤り
それは奴を敵に回した事だ



ホグワーツ湖「俺が何をしたあああぁぁぁ!!!」
ホグワーツ城「ドンマイ」
タイバス河「俺よりマシだよ」
残り三話です、かなりハイペースで進みそうだな…

追記 水中人&イカの安否は次回書きます。
   人質の部分を修正しました。


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第四十一話 「最終局面」

お気に入り件数1000件突破しました!
皆さん有難うございます!
これからも宜しくお願いします。


ダウン・バーストから生き抜いた翌日、俺達は大広間に集められていた。
それだけでなくカメラやメモ帳を持ったマスコミも居る。
昨日の大事件により結果発表ができなかった為、朝食の時に発表する事になったからだ。

勿論怪我は治りきっていない、文字通り肺や全身を焼かれた重症、魔法界で無かったら死んでた様な怪我が簡単に治る訳もなくマダム・ポンフリーは猛反対していたが、ダンブルドアの説得により発表だけ聞く事に落ち着いた。

「全員揃っておるの」

静かな大広間にダンブルドアの声が響くが、いつもの明るい口調ではない。
ヤツは重々しい低いトーンで語り始めた。

「結果発表の前に話さねばならぬ事がある、昨日行われた第二の課題、そこで起こったトラブルについてじゃ」

生徒が騒ぐ事は無い、あの時観客席もダウン・バーストの直撃を喰らっていたのだから知っていて当然だ。

「課題中、ホグワーツ周辺に局所的な大寒波が直撃し、その結果ホグワーツ湖全面が凍結し選手達が閉じ込められた」

ここまでは全員知っている事だが、次の話は俺にとっても予想外だった。

「更に試合中に隔離していた筈の大イカが乱入し、加えて水中内に大量の水魔が突然現れ、選手達を襲撃したのじゃ」

あのイカと水魔の大群は予定外の事だったのか。
だが、冷静に考えればあんな大量に放つ訳が無い。

「この結果氷塊に阻まれ脱出できず、更に水魔に補食されかけるという状態に彼等は追い込まれた。
この大会は時に命の危険に晒される事はあり得る、じゃが今回我々の想定を遥かに上回る危険に襲われる事になってしまった」

そこまで言い終えた所で一息つき、より重く真摯な口調になる。

「これは我々の想定不足と、対策が十分で無かった事により起こされた事態である。
故に選手達とその大切な者達、家族、また関係者諸君には深く謝罪したい。
…大変申し訳無い」

深々と頭を下げるダンブルドアと審査員達、眩しいカメラの光がその印象を深くする。
謝ったからといって俺達の怪我が直る訳でも無いが、こういうのは謝る事そのものが重要なのだ。

「…では、結果発表に移ろうと思う」

張り詰めた空気が少しだけ緩むのを感じながら、結果に耳を傾ける。

「氷塊と大量の水魔によって、本来水中内で選手の行動を見ている筈だった水中人も避難するのが精一杯じゃった。
よって今回、選手一人一人に話を聞き、それを合わせ採点する事となった」

その聞き取りを受けていた時聞いた話だが、水中人はかなり水底に逃げていた為、爆発に巻き込まれずには済んだらしい。
大イカも氷に守られ無事だ、…やや人間不振になったらしいが。

「彼等は湖の中に閉じ込められ、100体をゆうに越える水魔に襲われた。
じゃが自らの命さえ助かるか分からない状況の中で、彼等は協力しあい、誰一人欠ける事無く生還を果たした」

徐々に熱を帯びる大広間の空気。
それを感じたヤツは、明るく高らかに叫んだ。

「これは最早採点などできるものでは無い。
よってその勇気、力、機転、それら全てを讃え…
50点を全員に与える!」

緊張感に押さえ付けられていたからか、ダムが決壊したかの様な歓声が吹き出した。
まあ妥当な判断だろう。
その勢いのまま宴…と思った矢先に、マダム・ポンフリーが現れ医務室に引き摺られて行ったのであった。


*


あれから数日、どうにか火傷も治り授業に顔を出せる様になった頃に、第三の課題が説明された。
その内容は六月二十四日に行われるという点と、その一ヶ月前に詳細を発表する、という事前告知だった。

よって一ヶ月前になるまで内容は分からず、対策のできない日々が続いている。
だがやらねばならない事は大量にある、その為必要の部屋に籠ろうとした時の事である。

「何か飲むかね?」
「…大丈夫です」

俺は何故か校長室に居た。
数刻前、自室にダンブルドアからの呼び出しが飛んできたからだ。
一体何の用なのだろうか。

「そうかの? まあ取りあえずそこに座りたまえ」

促され、近くのソファに腰を掛ける。
その向かいに座ると、ヤツは話し始めた。

「儂は君に言わねばらなぬ事がある」

重々しい口調、一体何を言うというのだ。
と思うと、ヤツは急に頭を下げた。

「今回の課題で、君等を無用な危機に晒してしまった、その事を謝罪したい」
「…………」

何かと思えばそんな事か、確かに酷い目にあったが、最終的に誰も死なず生還できた。
それだけで十分、俺は既に気にしてはいない。

「…気にしていません」
「…そう言ってもらうと儂も助かる、今回は済まなかった、皆そう言ってくれた、…優しい子ばかりじゃ」

この呼び出しは個別謝罪だった訳か、確かにそれをするのは道理だろう。
これで終わりか…と思ったが、本題はここからだった。

「…ただ話はもう一つある、これは君にしか聞かない事じゃ」

まだあるのか、そう感じながらヤツと目が合う。
その目は先程の様な申し訳なさでは無く、強い意志の様なものが感じられる。

「…君は誰じゃと思う、この事件の犯人を」
「…………!」

俺は少しだけ驚き、疑惑を抱く。
こいつは俺が、既に見当をつけている事を知っているのか?

「…何故俺に?」
「…君が選手として選ばれた時、儂等はひたすら混乱していた。
しかし君はただ一人、誰よりも冷静じゃった、故に儂は君がおおよその見当をつけていたのでは、だから混乱しなかったのではないか…と考えたのじゃ」

…それだけで考えたというのか?
それに冷静だった理由も違う、あれは単純に面倒事に慣れていたからだ。
もしかしたらだが、俺に聞いたのは当てずっぽうなのかもしれない。
何も掴めていないからこそ、藁にも縋るつもりで聞いたのだろうか。

「…無論知らないならそれで良い、じゃがもし、もしかしたら…でも良いのじゃ」
「…………」

言うべきか?
だが言えば、俺自身が更に警戒されてしまう。
説明したら理由を言わなくてはならない、その理由が「殺気を感じたから」と言えば確実に怪しまれる、一体何処に殺気を感じ取れる十四歳がいるんだ。

…しかし、言わなければならないだろう。
危機に晒されているのは俺だけでは無い、ハリーやセドリック、選手全員が危ないのだ。
なら秘密に拘っている場合では無いのだろう。

「…アラスター・ムーディ」
「なんじゃと?」
「恐らくヤツです」

信じられないといった顔のダンブルドア、当然だ、ヤツは闇祓い中の闇祓いだ、死喰い人だったとは考えにくい。

「…彼は伝説の闇祓いじゃ、むしろ最も信頼のおける人物じゃぞ?」
「これまでの事件は関係者以外できません」

選手の名前を入れるのは城に居た人間しか、水魔を放つのは会場の下準備をした人間しかできない。
そのどちらにもヤツは矛盾していない。

「…確かにそうじゃが、何故彼が怪しいと考えた?」
「…殺意です」
「…殺意、じゃと」
「俺が選ばれた時、ヤツは明らかな殺意を向けて来ました」

黙り込むダンブルドアは顎に手をやりながら考え、ようやく口を開いた。

「その言い方じゃと、君は人の殺意を感じ取れるという事になるが?」
「…そうです」

断言してしまったが仕方無い、当然ヤツは疑惑の目線をぶつけてくる。

「…お主は…いやよそう、今やるべきなのは、選手達を守る事じゃ」

俺にではなく、自分に言い聞かせる様な口振りで呟く。
何とかこれ以上疑われずに済んだらしい、もっとも今だけだが…

「話を戻そう、君が感じた殺意は勘違いではないかね? アラスターが大広間に犯人が居ると考え、殺意を発したのではなかろうか」
「いや、あれは俺に向かっていました、不特定多数に向けた意識ではありません」
「そうか…」

また顎髭を擦り出すダンブルドア、あいつが怪しいのが余程信じられないらしい。
それは俺も同じだ、だが犯罪者を憎む余り同じ場所に身を落とすというのはよく聞く話でもある。
ヤツもそうなってしまった可能性は十分ある。

「信じがたい…じゃがそれしか手懸かりが無いのが現状じゃ、彼を重点的に警戒する事にしよう」
「…………」
「キュービィー、協力感謝するぞ、最後の課題は安心して頑張っておくれ」
「…はい、では失礼します」

そうは言っているものの、俺は余り期待していなかった。
一年や二年の時しかり、あの男は受け身の戦略が苦手に見える。
何もしない事は無いだろうが、こちらでも準備するべきだろう。




「…あの子は…一体…」


*


ダウン・バーストと共に寒波も吹き飛んだのだろうか、暑すぎず寒すぎず、穏やかな春風が心地よい季節。
しかしノクターン横丁にそんな風が吹く事は無い、相変わらず湿った空気が路地に立ち込めている。

そして俺は武器商人の店で、趣味の悪い服を着た女と向かい合っていた。
その女は本心を隠す気も無いのか、しきりに足を揺らしている。

「あー、やだやだ、何でこんな所に…」

と文句を垂れ続けるリータ・スキーター。
今日は武器を調達しに来たのでは無く、約束していた情報を買取りに来たのである。

「…情報は?」
「無理だったざんす」
「…そうか」
「防衛呪文のせいで部屋には入れない、後をつけようにも魔法の目がある、正直お手上げざんす」

だが依頼を達成できなかった事に、俺はあまりショックを受けなかった。
元々情報が取れれば、運が良いくらいの気持ちで頼んだのだ。
それにあいつは常に周囲を警戒している、それを掻い潜れないのも仕方が無いだろう。

「…でも成果はあるざんす、取り合えずこれを見るざんす」

肩をすくめる俺にヤツが突き出してきたのは、新聞の切れ端だった。
良く見ればそれは日刊予言者新聞ではなく、外国語で書かれた新聞だ。

「…日本語」
「翻訳は追加料金ざんす」

と言われたので6シックルを差し出したら、何故か目を丸くされたが快く翻訳してくれた。

「まさか払うとは…じゃあ読むざんすよ。
『魔法生物保護地区から河童等が大量消滅! 密猟者の仕業か?』ざんす」

様は日本魔法界の失態が書かれていただけだ、これが何なんだと言うのだ?

「それで日付を見るざんす」
「…………!」

そこには2月24日と書かれていた、それは第二の課題があった当日に他ならない。

「更にこれを見るざんす」

差し出された一枚のメモ、それは出張記録の写しだった。
名前の欄には、荒々しく″アラスター・ムーディー″と記載されている。
日付は2月22から23まで、試合日の直前だ。

「あの河童以外にも、水魔の消滅事件が起こっていたざんすよ、…試合当日に」

恐らく…いや、間違いない、あの大量の水魔はホグワーツ湖に住んでいたモノでは無い。
何らかの方法で湖に呼び出したのだ、その前日にはヤツの出張、これを偶然と捉えるのは難しい。

「あのブ男の出張先はロンドンだったざんす、…最も目撃証言はあちこちであったざんすが、例えば…日本とか」
「…………!」

この情報に俺は驚嘆していた、この女危険だと思っていたが、味方(一応)になればここまで頼もしいとは。

「さあ約束の報酬払うざんす」
「分かった」

催促されながらガリオン金貨を差し出す、ヤツはそれを勘定していたが突然こちらに向き直した。

「…何か多いざんすよ?」
「上乗せした、それだけの価値がある」

相応の情報には相応の報酬を、取引とはそういうものだ。
お陰でまた財布が燃え始めたが…仕方無い。

「…弱味さえ握ってなきゃ良いビジネスパートナーになれたざんすね」
「そうか」

これで取引は終わった、お互い席に席を立ち帰り支度を始める。

「これでお互いの弱味は忘れる、それでもう全部終わり、で良かったざんすね」
「ああ」
「はぁ、酷い目にあったざんす…」

こいつが約束を守るかは分からないが、破ったならその分きっちりやり返せば良い。
…尚、ヤツが安心して暮らせるのは数週間と持たなかった事を知るのは、まだ先の事だ。

ともかくこれで確証は得た、何故なのかは分からないが、この事件の仕掛人はヤツだ。
ならどうする? 知った以上放っておくのは危険だ。
しかし今すぐ襲撃する訳にもいかない、確証はあれど証拠は無い。
そんな事をすれば俺が捕まる、なら仕掛けるタイミングは…


*


最後の試練、それを発表する日が来た。
俺達が集められたクィディッチ会場は、随分おかしな事になっている。
草、草、草、広々としていた筈の会場はひたすら生い茂る生垣に蹂躙されていたのだ。

「…何これ?」
「さあ…? これが課題?」

首を傾げるハリーとセドリック、それは他の二人も俺も同じ。
生垣の要塞を前に佇んでいると、学校の方からパグマンが走ってきた。

「い、いやすまない! 少し遅れた!」
「どうしたーんでーすか? そんなーに慌てて」
「へ!? いやいやいや何にもない!」

デクラールの疑問に対し、異常なまでの反応をするパグマン。
何かあったのは間違いないが、早口で捲し立てそれ以上の質問を拒む。

「さあそんな事より課題について説明だ! 課題の会場は察しているだろうがここ、クィディッチスタジアムだ!
この生垣は課題の頃には6メートルに成長しているだろう!」

そんなに生垣を育てて何をしようというのか。
そう思い観察していると、生垣の間に隙間があるのが分かった。
その隙間はどの生垣の間でも均一になっている。

「…迷路?」
「おっ! その通り! クラム君の言った通りこれは巨大迷路に成長する!
その迷路の中心に置かれた優勝杯を最初に取った者が優勝だ!」

やはりそうか、しかし最後にしては随分シンプルに纏めたな。
だがこの課題は、シンプルどころかこの大会において最も混沌(カオス)な試練だったのだ。

「無論ただの迷路ではない、道中にはありとあらゆる呪いな魔法具やハグリッド厳選の魔法生物が仕掛けられている」

ハグリッドこそが、混沌(カオス)の化身だったのだ。
ヤツの趣味趣向を思い出せば、何が繰り出されるかは十分予想できる。

「スタートの順番は君達の持つ、得点が高い者からだ。
と言っても第二の課題は全員同じだから、第一の課題が直接反映される事になる」

だとすれば順番は俺、ハリー、クラム、デクラール、セドリックか。

「説明は以上だ! 質問は無いね!? では!」

大慌てで走り去るパグマン、あれで何でもないと信じられるヤツが居るのか。

「…何だったんだろ? キリコは何か知ってるかい?」
「…いや」

話も終わり各自の学校へ戻っていると、途中でセドリックが何か思い出した様に声を掛けてきた。

「そういえばキリコ」
「何だ」
「あの課題の時から、…ずっとタメ語だね」
「…あ」

しまった、極限状態のせいで敬語どころでは無かったのをずっと引きずっていた。

「…すみませんでした」
「いや全然良いよ、むしろその方が僕も話しやすいし」
「そうか、ならそうさせてもらう」
「…早い」

敬語は無しで良いと言ったのに、何故笑顔が少しひきつっているのだろうか。
疑問に思っていると、遠くから赤い髪をした男性が走って来ているのが見えた。

「…あ、パーシーさん!」
「え? ああ、ハリー! こんにちは」

パーシー、確かロンの兄の一人だったか。
クィディッチ・ワールドカップで見た覚えがある。

「こんにちはパーシーさん、…何をそんなに急いでいるんですか?」
「セドリック君に、キリコ君か、こんにちは、で急いでるだっけ? ははは全然そんな事無いよ本当だよ」
「…………」

パグマンといいこいつといい、魔法スポーツ部には隠し事のできないヤツが多いのだろうか。
そんな言い訳に騙される筈も無く、ハリーが詰め寄っていく。

「…何かあったんでしょう? パグマンさんも似たような事を言ってましたし」
「え!? パグマンさん口を滑らせ―――ヴェフン!」
「……………………」

滑らせたのはどっちだ、パーシーはその白い目に堪えきれなくなったのか、脂汗を流しながら口を割った。

「…ぜ、絶対言っちゃ駄目だよ?」
「はい、勿論です」
「実は…少し前から、クラウチさんが行方不明何だ」
「クラウチさんって、あの…」
「シィーーーッ!」

言われてみれば最近姿を見ていない、あのダンブルドアの謝罪会見の時も居なかった筈。

「だからその穴埋めで皆忙しいんだ、いいか、絶対言っちゃ駄目だよ!」

と言い残し全力疾走で去っていくパーシーを、俺達は呆然と見つめていた。

「クラウチさんが…あの時何がしたかったんだろ…」
「…あの時とは何だ?」

ハリーはクラウチの行方について何か知っているのか? まるでそんな言い方だが…

「いや、少し前クラウチさんが廊下に倒れてて…ダンブルドア先生を呼んで欲しいって言ってたんだ」
「ダンブルドア先生を? マダム・ポンフリーじゃなくて?」
「うん、それで呼びに行って、戻ってきたら居なくなっていたんだ」

クラウチが行方不明…ダンブルドアを呼びに行ったというのに、そのまま失踪…
ヤツは何を伝えたかったのか、その間に何が起こったのか、…既に死んでいるのか。

「…気を付けろ、第三の課題中、確実に何かが起こる」
「…うん、分かってるよ」

クラウチは真実にたどり着いてしまったのか? だからヤツに殺されたのか?
キナ臭さい臭いが、俺の警戒心を擽っていた。


*


いよいよ到来した最後の課題当日、俺は必要の部屋、その内″物を隠す部屋″で最後の準備をしていた。

目の前に措かれているのは″AK-47″が二丁、″RPG-7″、″グレネード″が三つに″ブラックホーク″。
それらを一つ一つ、念入りに整備していく。

それらを終えると、検知不可能拡大呪文を掛けたバックサックに武器を放り込んでいく。

「レデュシオ ―縮め」

バックサックに縮小呪文を掛け、さらに″対酸呪文″等を掛けていく。
最後に俺はそれを…

…飲み込んだ。

何故こんな事をするのか、それは不足の事態に備える為だ。
課題中、もしくはその前後に何かが起こるのは明白。
その為俺は何が起こっても対処できるように、この銃火器を持ち込もうとしていた。

しかしこれを課題中に使うことはできない、規定違反になる。
でなければわざわざ飲み込む必要は無い、規定を突破する為にこんな方法を取っているのだ。
本当に万が一の、最後の手段になるだろう。

実の所最後の手段はもう一つある、異能を研究する過程で開発した新しい呪文。
上手く使えば窮地を切り抜けられるかもしれない、…余り使いたくないが。

最後に大会用のユニフォームに着替え、必要の部屋から出ていく。
試合直前に召集が掛かっているのだ、内容は教えられていないが。




大広間脇の小部屋で俺は溜め息をついていた、この状況をどうしろと。
周りを見渡せば、選手が色々な奴等と抱き合ったり励まして貰っている。
招集の内容は、招待された家族への挨拶をする為だったのだ。

唯一の肉親が魔法使い嫌いで有名なハリーの所には、ウィーズリー一家が勢揃いし、ヤツを応援している。

その中で俺は只一人佇んでいた、理由は言う価値も無い。
…この世界に俺の家族は、既に居ないのだから。

思えば前の世界でもこの世界でも実の両親を知らない、もしくは記憶を炎に焼かれ、忘れてしまっている。
俺の産みの親はどんな人だったのだろうか、少し悲観的な気持ちになっていると、誰かが肩を叩いてきた。

「キリコ、久し振りだな」
「…ブラック?」

そこに居たのは去年俺が助けた男、シリウス・ブラックだった。

「…何故ここに?」
「ハリーの応援さ、ほら後見人だから…」

そういえばそうだったか、いわく今は大量の賠償金を散財し、14年間の鬱憤を晴らしているらしい。

「…改めてだがありがとう、君が居なければ私はこうして、ハリーを応援する事もできなかっただろう」

ヤツを助けたのは感謝を欲したからではないが、それを言われて俺は少しの嬉しさを感じていた。

「…所で君は気付いて居るのか?」

和やかな空気を引っ込めながら真面目な問い掛けをするブラック、俺やハリーの意図せぬ参加を何故知って…ハリーから聞いたのか。

「…大体はな」
「そうか、なら言う事は無い。
だが気を付けろ、相手は闇の輩だ、どんな手段を使っても不思議じゃない」
「…ああ」

本当に追い詰められた時に備え武器も持った、最後のかくし球もある、やれる事はやってある。

「…まさか懐に鉄製のアレを仕込んでないよな?」
「…………」

何故バレた、だが答える訳にもいかずしらを切る。
それを見たヤツは、苦笑いしながら溜め息をつく。

「もう良いかこの際…では頑張ってくれ、ハリーにと同じ様に、君も応援しているぞ!」
「…そうか」

所詮応援、俺を直接助けてくれる訳ではない。
だが少し寂しさを感じていた心にとって、それは間違いの無い温かさだった。

「おーい、僕も忘れないでよー」
「おはようキリコ」
「…キニスとラブグッド?」

何故こいつらが? 入っていいのは家族だけだった筈。

「あ、やっぱり不思議そうな顔してる」
「校長先生から聞いたんだよ、家族と挨拶するのに、キリコだけ一人ぼっちだって、で僕らが来たって訳」

ダンブルドアが気を利かせてくれたのか、あいつは何故か信用ならないが今回は素直に感謝しておこう。

「まあアレだよ、えー、あー、…何言おう」
「迷路だっけ? 凄い楽しそう」

ハグリッドが魔法生物を放たなければな、という思いは呑み込んでおく。

「とにかく頑張ってきてね!」
「迷路の感想、後で聞かせてね」
「…ああ」

余りに迷走した激励、応援された気はしなかった。
それでも俺の気持ちは大分明るくなった。
そして彼等の声に俺はただ、静かに感謝していた。

「…時間だ、全員覚悟はできてるな? では行くぞ!」

パグマンの言葉が小部屋に鳴り響き、クィディッチ会場へ足を進める。

少しだけ温かくなった心で俺は向かう。
そこにどんな邪悪な罠が潜んでいようとも、今更降りる事はできない。
重い杖を、揺らがぬ意思で握りしめる。
何が来ようとも、やるべき事は単純なのだから。
そして俺達は最早地獄かどうかすら分からぬ程の、最後の暗黒へ歩きだした。



腕もいい、用心深くもある、時に畜生以下に堕ちた
生きながらの死と誹られた事もある
畜生の肩を借りるような真似もした、策も練った
だがそれだけか
それ為だけに生き残り続けたというのか?
違う
成功確率250億分の1、鮮血の一族、悍ましき血
それが俺様の望みなのだ
次回、『不死の末裔』
この男は死なない



期待させて悪いんですが、今章で銃火器を使う事はありません。
でももうじき解禁するので、もうちょっと待ってて下さい。


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第四十二話 「不死の末裔」

ボチボチゴブレット編も終わりが近付いてきました。
さて、迷路は無事でいられるのか…


どこまでも続く暗黒、天を貫く様な生垣。
あても分からずその中を歩く。
しかし俺自身が歩いている訳では無い、ATの方だ。

機体名″スコープドッグⅡ″
特に特徴も無い、極めて平凡な機体である。
逆に言えば適応能力が最も高く、何が出てくるか分からないこの状況には最良だ。
尚、何故″Ⅱ″なのかと言うと、生成時周囲の草を巻き込んでしまい、全身緑色になったからである。

立ち込める霧が、潜むモノの気配を隠す。
聞こえるのはATが軋む音だけ。

しばらく進むと、道が二手に別れた。
…どちらに行くか。
少し悩んだ後左に進む事にした、右にはトラウマがある。

結果表れたのは、頭がどこかも分からず、外殻を取っ払った様な見た目を持つ、そして尻尾らしき部位をしきりに爆発させる生物。

…尻尾爆発スクリュートか。
ハグリッドが色々放っているのは知っていたが、生徒に育てさせた物を出すとは…
3メートル程の体格を眺めると、背中に″K″と書かれているのに気付く。

…確かキニスが「僕のスクリュート、一目で分かる様に背中に″K″って書いといたんだ!」と言っていたな。
あいつの育てた個体か、よくもこんな大きさまで育ててくれたな。

しかし躊躇は無い。
迫るスクリュートから距離をとりながら、ソリッドシューターを叩き込む。
だがスクリュートは尻尾を振り、弾丸を叩き落とした。
意外と強いな…

とはいえ、さほど時間は掛からない。

アクシオ(来い)

呼び出し呪文を撃った後の弾丸に叩き込み、俺に引き寄せる。
そして間に居たスクリュートの後頭部(頭か分からないが)に全弾命中、あえなく気絶したのであった。

さて、倒したはいいが…
仮にも親友が大切に育てた生物、他の選手に殺されるのもどうかと思う。
…そうだ、こうしよう。

スクリュートの問題を解決し、迷路の奥へと進んでいく。
二手に別れた道を左へ、時に右へ。
障害も無く、順調に進んでるかに見える。

…何かがおかしい。
似たような光景とはいえ、余りにも変化が無い。
障害も無さ過ぎる、違和感を確かめるべきだろう。

フィニート・インカンターテム(呪文よ、終われ)

次の瞬間空間が捻れ、立ち込めた霧が霧散し別の景色に変わった。
下にはATの足跡がびっしりと張り付いている、どうやら同じ場所をずっと歩いていたようだ。

周囲を確認しようと、後ろを振り向く。
―――そこには、猛烈な速度で迫る棍棒があった。

「―――!」

ターンピックを突き刺し反対のローラーを回転させ、ATを180度回転、棍棒をいなす!

そこに居たのは鼻息を荒げる、4m級のトロールだった。
ATの装甲は薄い、喰らえば即死だろう。

だがそれだけだ、こちらの方が早い。
攻撃を外した事にやっと気づいたトロールにアームパンチを叩き込み、怯ませる。

その隙にバイザーを上げ、身を乗り出し杖先を鼻にねじ込み呪文を撃つ。

エクスパルゾ(爆破せよ)

爆散する頭部、バイザーを戻し肉片を防ぐ。
浴びても害は無いが、あの異臭を直接嗅ぎたくは無い。

交戦経験があったのが役に立ったな、トロールを排除した俺は更に足を進める。

そこからも罠は絶え間なく続いた。
落とし穴、絡まる蔦、巨大な大蜘蛛、錯乱させる魔法具、エルンペント、ペールゼン…もといボガート。
それらを悉く叩きのめした俺は、通路の脇に影を見つけた。
武器を構えながらその正体を確かめる。

…クラムか。
ヤツは地面に倒れていた、何かにやられたのか?
近くにそれらしき物は無い、逃げたのだろう。

目立った外傷も無い、競技の続行はできそうだな。
そう考え蘇生呪文を使おうとした、その瞬間。

「―――インセンディオ(燃えよ)!」
「!?」

突如クラムが炎を撃ち込んできた!
ATの装甲で炎を防ぎ後退する。
不意打ちだと、だがクラムはそんな卑怯な事をするのか?

インカーセラス(縛れ)!」
「―――な!?」

後ろから縄が飛び、拘束される!
横目で後ろを確認するとそこに居たのはデクラールだった、ヤツらは組んでいたのか!?

…いや、違う。
証拠は無いが、俺は察した。
服従の呪文だと、大会に潜む黒幕が彼等を刺客に変えたのだ。

付き合いこそ短いが、彼等はそんな事はしないと信じている。
この信頼が俺に確信を齎していた。
―――ならば!

ローラーダッシュをそれぞれ逆回転、スピンターンを起こし縄を力ずくで千切る。
拘束を破ったキリコは、そのままATを走らせた。
二人は迷宮の中へ消えたATを追いかける。

コンフリンゴ(爆発せよ)!」
フリペンド(撃て)!」

呪文を連射する二人に対し、キリコは一切の反撃をせず逃げ惑うばかり。
だがいつまでも逃げれる筈も無く、行き止まりに追い込まれる。

インセンディオ(燃えよ)

キリコが放った炎は、二人では無く周囲の生垣を焼き払う。
炎上によって立ち込める煙によって、二人の視界は潰された。

何をするつもりだ?
いや問題無い、この通路なら確実に当たる。
通路の幅は石人形一体分、回避はできない。

この素早い判断こそが服従の呪文の強み。
服従の呪文は絶対的な安心を与える、それは全ての悩みを無くす事。
例え敵を見失おうと、煙に巻かれようと、友が死のうと。
悩む事なく、迷う事なく、動揺する事なく、目的に向けて猛進し続ける。

コンフリンゴ(爆発せよ)

爆破呪文をかわす事もできず砕けるAT。
同時に煙幕も吹き飛ばされ、キリコの姿が露になる。

エクスペリアームス(武器よ去れ)

動揺した様子のキリコに向かって、武装解除呪文を撃ち込むデクラール。
突然の事態に、いとも容易く杖を奪われてしまった。

杖を奪った、もうキリコは無力。
後は御主人様の命令通り、確実に抹殺するだけ。
無様に床を這いずるキリコに向けて、殺意を剥き出しながら二人が迫る。

―――しかし、悩まない事が本当に良い事なのだろうか。
戦場で最もやってはならぬ事、それは思考を止める事。
一つ一つの攻撃、行動、それにどんな意味があるのか考え続けねばならない。

だが服従の呪文はその悩みさえも消し去ってしまうのだ、それは紛れもない弱点。
彼等は気付くべきだった、ドラゴンを蹂躙し、ダウン・バーストから脱出する様な男が、こんな簡単にやられた事に。

「―――な!?」

上にずれるクラムの視界!
何が起こったのか?
答えは単純、ワイヤーに引っ掛かり転んだのだ。

あの煙幕は時間稼ぎ、キリコはその間に呪文のワイヤーを仕掛け、目眩まし術を掛けていた。
行き止まりに居たのも、確実に引っ掻ける為!

それがどうした?
ヤツに杖は無い、転んでいても呪文は撃てる!
動揺する事なく杖を振る。

彼等はまたしてもミスを犯した、この男が″転ばす為″だけに罠を張る筈が無い、と。

「「ステューピファ(失神せ)―――!?」」

突如、衝撃が彼等に降り注いだ!
キリコしか見ていなかったのもミスの一つ、上を向いた彼らが見たのは大量の…落石!

あれは只の罠では無かった、引っ掛かる事で上に仕掛けた岩石が落下し出すワイヤートラップだった!

呪文を撃とうとするが既に時遅し、落石を脳天に食らい二人の意識は暗闇に消えた。

キリコはヴォルデモートのレポートを読んでいた為、服従の呪文の弱点を知っていた。
だからこの作戦を組めたのだ、もし彼等が呪文に掛かっていなければ苦戦は免れなかった。

(…息はある、外傷だけだ)

二人の状態を確認し、治癒呪文を掛ける。

ペリキュラム(花火よ上がれ)

救助用花火を打ち上げた俺は思考する、誰がこいつらに呪文を掛けたのか。
試合前は正気だった、なら掛かったのは試合が始まった後。
選手以外で会場に入れるのは、救助要員だけ。

…今なら、決定的な証拠を得られる筈だ。
そして俺は、その場に倒れた。

息を潜め倒れる。
しばらく経った後、何かが降り立つ音が聞こえた。
それはゆっくりと歩き、こちらへ迫る。
そして―――

「…アバダケダブ―――」
ステューブレイト(失神弾頭)!」
「!?」

死の呪文が放たれる前に失神弾頭を撃つが、それを紙一重でかわす!
驚いた顔をした後、こちらを睨む。
その目には、かつてない程の憎悪が籠っていた。

「…いつから? いつから気付いていた?」
「…最初からだ、お前の殺意がそれを教えてくれた」
「殺意? …まさかあの時か? あの一瞬で気付いたのか?」

顔を歪め、不気味に笑う。
殺意を隠す気はもう無いらしい。
だが今捕らえれば、人に死の呪いを使った事を証明できる。
―――その時、光が降り注いだ。

ステューピファイ(失神せよ)!」
「何!?」

光から飛び出した呪文が、ムーディ―を失神させる。
そこに居たのは、ワールドカップの時に居たのと同じ奴等、…闇祓い。

「大丈夫か!?」
「…はい」
「そんな…ま、まさかお師匠様が…」

その中の一人、ショートカットの女性は愕然としながらヤツを見つめている。
そして別の男が語りだした。

「アラスター・ムーディ、とうとう尻尾を出したな。
貴様はその為に、泳がされていたのだよ」

…という事は、ボロを出させる為にこいつを警備に回していたのか?
あの男、選手の安全が最優先ではなかったのか…
怒るを通り越し、俺は呆れていた。

「…ククク、まさかね…」
『!?』

倒れていたムーディが口を開く、もう意識を取り戻したのか…!?

「でも…既に遅い、任務の片方はもうじき達成される…」

任務だと? こいつは誰かの指示で動いていたのか?
そいつは誰だ?

「敵の血は届き、帝王は復活する…」

…そうかそういう事か。
ヤツの裏に居たのは…
ゆらりと立ち上がるムーディは、それを嬉しそうに語る。

「その為にゴブレットに名前を入れ、彼が勝ち進む様に手を貸し、そして移動鍵(ポートキー)になった優勝杯を掴む…筈だったんだ!
お前が! お前さえいなければ!」

…どういう事だ、俺が参加するのは計画内の事ではなかったのか。

「帝王の閃きにより、計画に支障は出なかった。
だが僕は帝王を失望させてしまった! 分かるかい!? お前のせいで計画は頓挫しかけたんだ!」

顔を激しく歪ませ、激昂するムーディ。
…違う、本当に歪んでいる!?

「しかし、我が君は仰ってくれた、「ヤツを殺せ」と!
第二の課題では失敗したが、もうそうはいかない!」
「!? だ、誰!? お師匠様じゃ無い!?」

魔法の目を引きちぎった瞬間、その姿は別の者へと変化した。
まさかポリジュース薬か、ならこいつは…!?

「殺してやるぞ!! キィリィコォ・キュゥゥビィィィッ!!!」
『!? ぐわあああ!』

場を満たす閃光!
それが晴れた時、闇祓い達は地に伏していた。
あの一瞬で何をした?
まさか、あの光全てが無言呪文なのか!?

「死ねえええぇぇぇっ!」
「―――ッ!」

溢れ出す殺意と閃光。
声が伴う事は無い、全て無言呪文で唱えている様だ。
何とか反撃を試みるが…

「ハハハハハッ! そんなものかいキリコ・キュービィー!」

強い…これまで戦った誰よりも強い!
反対呪文を撃つ間も無い、かわすのが精一杯。

「…第二の課題も、お前の仕業か」

気を引く為にそう問い掛けると、ヤツは突然攻撃を止め呟きだした。

「いけない、冷静にならないと…」
「…………」
「その通りだ、君を殺す為に、移動鍵(ポートキー)で大量の水魔が転移する様にしたんだ、無論ポッターを襲わない様服従させてね」

服従の呪文は長くて三日しか持たない、直前に出張したのはそれが理由か。

「俺が転移時刻に来ると思っていたのか?」
「その為に大イカを用意したんだ、速すぎた場合は足止めをする様に…」
「…あの程度で足止めか」

挑発の一言、だがヤツは何故かより冷静になってしまった。

「そうだ、…白状するよ、僕は君を見くびっていたんだ」
「…………」
「認めなくなかったんだ、君ごときが僕を出し抜ける筈が無いと。
嫉妬していたんだ、″悍ましき血″にも関わらず、帝王から認められている事を。
…だから自分でも気付かない内に、あんな手抜きをしてしまったんだ」

垂れた頭を上げるとその瞳に憎しみは既に無く、代わりに冷たさを感じる狂気が宿っていた。

「もう油断はしない、確実に君を殺そう…
じゃあ決闘だ、僕の名は″バーテミウス・クラウチ・ジュニア″…次は君の番だ」

優雅に一礼するムーディー、…いや、クラウチ・ジュニア。
まさか、あの男の息子だというのか。
行方不明になったクラウチはこいつに…?

いや、それは後で考えれば良い。
思考を打ち切り、御辞儀を返す。
―――杖を隠し持ちながら。

「じゃあ死ね! アバダケダブラ!」
アーマード・ロコモーター(装甲起兵)!」

御辞儀の間に生成しきったATが出現、死の閃光が直撃するがATは無機物、効果は発揮されない。

反撃にソリッドシューターを連射するが、その全てを砕かれる、無言の爆破呪文か!

エクスルゲーレ(爆弾作動)!」

事前に爆弾化された弾丸を爆破、更に細かくなったそれは散弾となって襲いかかる。

「利くものか…!」

出現した盾が弾を防ぐ、だがそれで終わりではなかった。
軟化呪文(スポンジファイ)によって弾力を得た盾が、散弾を撃ち返した!

「!?」

細かい破片がATの隙間を通りキリコを襲う。
攻撃を逆利用されたのだ。

正面からでは敵わない、なら…
最大の速度で逃げ始めるキリコを追うジュニア。
無論只逃げているのではない、隙を作る為の逃走だ。

ターンピックを使い一瞬で角を曲がる、それを追い飛び出すジュニア。
かかった…!
そこを曲がったと分かっていても、敵が居るかどうか確認してしまうものだ。

ルーモス(光よ)!」

キリコは飛び出してきたジュニアに、強力な閃光を浴びせようとする!
―――しかし。

「馬鹿め! ノックス(闇よ)!」

破裂しかけた閃光が、反対呪文に打ち消される!
作戦は読まれていた、寧ろカウンターを受けたのはキリコだ。
閃光に備え目を閉じていたのが仇となる。

「ぐッ!?」
「甘いぞキリコ! 油断大敵!」

碎けるバイザー、その破片をモロに食らい全身から血を流す。
しかしキリコは怯まない、即座に反撃する。

ルーモス(光よ)!」
「なっ!?」

二回も連続するとは思わなかったジュニアは、今度こそ閃光を喰らう。
来るか、何を仕掛ける!
だが攻撃は来ない、何を目論んでいる…?

(…………)

目が眩んでいる隙に逃げたキリコは、ジュニアのいる通路から生垣を2、3個挟んだ場所にいた。
彼はターゲットが見えない中で、長距離狙撃を狙っていたのだ。
頼れるモノは気配だけと無謀、しかしそれまでの経験が自信を与える。

(…そこだ!)

無言の貫通弾頭を放つ。
かつて無い危機に呼応した集中力が、無言呪文を可能にした!

「…そこか!? プロテゴ(盾よ)! フリペンド(撃て)!」
「―――何!?」

キリコにできてジュニアにできない理由は無い、気配を感じての反撃、キリコは首元を抉られてしまう!

「チョコマカと…いつまで逃げれるかな!?」

…どうする、このままでは確実に負ける。
だが今負ければ、ハリーが危ない。
打てる手は無いか、競技中なので銃は使えない…!

思考しながら全身に治癒呪文を掛け、ローブの中を治療しようとした時、杖が何かにぶつかった。

(…こ、これなら…!)




一方ジュニアは迷路製作に関わっていた事を利用し、最短距離でキリコに迫っていた。

だがその前に小さな影が立ち塞がる、ATではない只の石人形である。
時間稼ぎのつもりか? 小賢しい!

敵にもならず片っ端から破壊される石人形、その次に来たのは煙幕、事前に張っていたのだろう。
邪魔だ!
杖を振り煙を吹き飛ばした瞬間、ATが殴りかかってきた!

が、これも予見済み。
激烈な連激に脚を砕かれ、ATが転倒する。
その時ジュニアは気付いた、コックピットにキリコが居ない事に。

エクスパルゾ(爆破せよ)

先程の特攻は囮、爆発したATの破片がジュニアを仕留めるだろう。
キリコのその予想は容易く覆された。

「―――!?」

ATが消えた!? 何処に行った!?
その時キリコに影が重なる、上を見ればATが空を飛んでいる!
何があったか、ジュニアはATを浮遊させる事で呪文をかわしていたのだ。

更に急上昇していたATは突如、弾かれたかの様にキリコへ落下して来た!

「!?」

自分の機体に潰されかけるも、後ろに飛び回避する。
実は競技場の上空には飛行手段を取られない様、浮遊防止の呪文が掛けてあるのだ。
関係者故にその事を知っていたジュニアは、それを利用した!

「追い詰めたぞ、キリコ・キュービィー」

着地を失敗したせいで片足を挫き、全身や首からの出血、満身創痍のキリコ。
迫るジュニアは、尚も油断しない。

「時間稼ぎで仕掛けたのはこれかい? ふざけているな」

ジュニアの足元でクラムに対して仕掛けたのと同じワイヤーが凍る、これでもう作動できない。

「フフフ…これで任務は達成される、僕は最高の名誉を持って迎えられるだろう!」

高笑いを上げ、大袈裟に、だが油断無く杖を振るう!

「終わりだ! アバダケタブ―――」
エクスルゲーレ(爆弾作動)!」

瞬間爆発したのは生垣、…の根本。
ドミノの様に倒れ込む、6メートルに及ぶ生垣。
それがジュニアに覆い被さる瞬間!

ボンバーダ・マキシマ(完全粉砕せよ)!」

警戒していた為、即座に生垣を爆破。
その時煙の中に影が一つ、尻尾爆破スクリュートの姿があった。
何故こいつが? そうか、埋め込んでいたのか、僕に襲いかかる様に。

あの時、キリコはスクリュートに縮小呪文と睡眠呪文を掛け、懐に仕舞っていたのだ。
そしてジュニアが石人形と戦ってる間にスクリュートを埋め、生垣の根本を爆弾にしていた。

なるほど無策ではない、しかし所詮一匹!
―――次の瞬間、彼はすぐ逃げなかった事を後悔した。
煙幕が晴れた時、彼は愕然とした。

「がっ………!?」

上、左右、前後。
その全てをスクリュートが包囲していた!

確かに埋めてはいたが、一匹では無い。
双子の呪いで増やしてから、埋めていたのだ。
生垣が爆破された時、目が覚める様に、元の大きさに戻るように、ジュニアを覆い尽くすように!

何だこれは!?
どうする!?
盾の呪文は…駄目だ一方向しか防げない!
爆破…いや誘爆で僕も死ぬ!
姿晦まし、不正防止の結界が!
終了呪文? それだ! これは呪いで増やした物だろう!

彼は呪文を撃とうとした、目の前の失神弾頭の光を見なければ。

「こ、こんな…僕が…!」

失神弾頭を防げばスクリュートの爆発が。
スクリュートを消せば失神弾頭が。
警戒していても無駄な状況。
そう、チェックメイト。
それがジュニアの運命だった。

「て、帝王様あああぁぁぁっ!!」

最後の絶叫。
それは恐怖からか、帝王に対する申し訳なさだったのか。
答えは、爆発の中へ儚く消えていった…




…恐るべき強敵だった。
しかしまだだ、急いでハリーの所へ行かなければ…!
応急処置をし、俺は走り出す。

そして見えてきた眩しい光。
その中心には優勝杯、移動鍵(ポートキー)か!
広場へ飛び込んだと同時に、ハリーとセドリックが現れた。
まずい、優勝杯に触れさせてはならない!

普段なら俺が先に取れただろう。
だが全身の傷はそれを許さず、鈍くなる動き。
優勝杯に触れる事ができたのは、二人が同時に触れた時だった―――




腹を引っ張られる感覚の後、地面に叩き付けられる強烈な痛みを感じる。
目の前に広がるのは大小様々な石に、人の名前が刻まれている場所、ここは墓場なのか?

「…ここはどこだろう?」
「優勝杯が移動鍵(ポートキー)になっていたのか? 二人は何か知ってる?」
「杖を構えろ」
「「え?」」
「早くしろ、死ぬぞ…!」

一歩遅かった、ジュニアの言っていた事が本当ならこの近くにヤツが潜んでいる筈。
急いで移動鍵(ポートキー)の元に戻らなくては、優勝杯はかなり離れた場所に落ちていた。
呼び出し呪文を使おうとした、その一瞬の間だった。

インカーセラス(縛れ)!』

縄掛け呪文の声が聞こえ、光が飛来する!
思考は既に、どう回避するかに切り替る。

「―――!?」

だがそれは甘かった、呪文は360度全ての方向から飛んでいた。
キリコは気付く。
かわしようが無い、ここに来た時点で手遅れだったのか。

「く…!」

後ろの墓石に縛りつけられ、きつい締め付けに呻きが漏れる。
表れたのは黒いローブと銀色の仮面を被った、十人近くの死喰い人。
ハリーとセドリックも捕まってしまったが、最悪の状況を悲観する間も無い。

『余計な奴は殺せ!』

墓地の奥、暗闇から寒気がする声が響く。
俺は直ぐに理解した、この声の持ち主はヤツだと。

殺せ? 誰の事だ?
ハリーは違う、ジュニア曰く復活に必要だからだ。
俺は問題ない、むしろ死ねるものなら死にたい。
なら、残るは…!?

「アバダケダブラ!」

奴等の一人が杖を突きだし、死の呪いが放たれる!
それは彼目掛けて、真っ直ぐに飛ぶ。

―――止めようと手を伸ばす、だがロープに縛られ、指一本動かせない。

やがて光が弾け、衝撃で千切れたロープから彼がずり落ちる。

「…あ、あ、ああ…」

何もできなかった、助けに行く事さえも。
彼が地面に落ちたとき、ハリーは絶叫した。

「セドリックゥゥゥ!!」

―――セドリックが、死んだ。




墓石に縛られながら俺は呆然としていた。
だから目の前で起きている事を、ただ見つめる事しかできなかった。

「父親の骨、知らぬ間に与えられん! 父親は息子を蘇らせん!」

不気味な液体に何かの骨を投げ入れる小太りの男、ピーター・ペティグリュー。
あれは恐らく、ヤツを復活させる儀式だろう。

(しもべ)の肉…よ、喜んで…差し出されん…(しもべ)は…ご主人様を…蘇らせん!」

…どうして、どうしていつもこうなるんだ。
俺と親しいヤツは、何故いつも死んでしまうんだ。
セドリックの死は異能によるものではないだろう、あの状況に俺の命は掛かっていなかったからだ。

腕を切り、それを鍋に落としたペティグリューは、過呼吸を起こしながらハリーに近づく。

「うわああああ!!」

ハリーの腕を短刀で切りつけ、流れた血を小瓶に入れる。

…しかし、異能によるものだった方がまだ良かった。
そうだったら、俺は自分を責めれたからだ。
この感情を自分にぶつけられた、後悔もできた。

「敵の血…力ずくで奪われん…汝は…敵を蘇らせん!」

小瓶を入れると、鍋は一層不気味に光出す。
そしてペティグリューは、その場に崩れる。

…だがセドリックが死んだのは偶然だ、偶々移動鍵(ポートキー)に触れてしまったのが、この死を招いた。
余りにも呆気ない最後、それはまるで戦場にそっくりだった。

誰のせいでも無い、異能のせいでも無い。
気付いたら死んでいて、そして最後に俺一人が立っている。
この光景は俺が最も嫌う、かつての戦場そのもの。

「ローブを着せろ」

湯気をたたせる大釜から、一つの影が現れる。
這いながらも、それにローブを被せるペティグリュー。

「会いたかったぞ、ハリー・ポッター、そして…キリコ・キュービィー」

蛇の様な顔。
紅く光る眼。
ヴォルデモートが復活した。

だが俺は、その事に何も感じなかった。
孤独と悲しさが胸を締め付ける中、俺はひたすら祈る。
もう…これ以上、俺を独りにしないでくれ…



ねじれて絡まる二重螺旋のように、精妙にして巧緻、残虐にして細心
練りに練られた謀略が御業の如く野望を結実する
いよいよクライマックス、いよいよ大詰め
舞台を作った全ての者がツケを払う時が来た
万雷の拍手にも似た閃光と共に、眩しすぎるカーテンコールが照らすのは何だ?
次回、『リドル』
真実はいつも残酷だ



ボコられた後のジュニア
失神&縄&完全石化。
更に地面に埋められ、上にスクリュートの重し付也。
以上VSジュニアでした、次回最終話です。


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第四十三話 「リドル」

炎のゴブレット編、最終回。
始まります。


セドリックの死。
ヴォルデモートの復活。
かつての戦場を思い出させる光景に呻きながらも、俺の体は動き出す。
心とは別に、体に染み付いた硝煙の臭いが俺を動かしていた。

「立て、ワームテール、俺様の杖を寄越せ」
「は、はい…ご主人様…」

腕の切断面から流れる血を押えながら、ペティグリューは杖を差し出す。
それを懐かしそうな顔で手に取ると、杖をペティグリューに向けた。

「腕を出せ」
「おお…ありがとうございます」

腕を治して貰えると思ったのだろう、だがその願いはあえなく潰えた。。

「違う、反対側の腕だ」

その言葉に身を竦ませ、泣いて許しを請う。
しかしヴォルデモートは聞き入れず、無傷の腕に杖を押し当てた。

「ああああああ!」

悲鳴と共に、ヤツの腕が焦げ付いていく。
数秒の後杖を離し天を仰ぐ、まるで誰かを待っている様に。

「今ので全員気付いただろう、これを見て戻る者は何人いるか、逃げ出す臆病者な何人いるのか」

一人呟いたヴォルデモートは、拘束されているハリーの方を向いた。

「ポッター、お前がいる場所が何か分かるか? そうだ俺様の父親の死体、その上だ」

淡々とヴォルデモートは語る、自分が何処で生まれ、どう育ち、どんな人生だったのか。
母の孤独死、魔法に恐怖した愚かな父の事。
自らの人生が、ハリーとよく似ていると。

その言葉に怒りもがくハリーを見つめ、笑いながらヤツは叫んだ。

「だがこの瞬間、愚かな父やマグルなどでは無い、本当の家族が戻ってくる!」

その言葉と共に、幾つもの黒い影が墓場に降り立つ。
最初から居た連中と合わせて、合計二十人程か。

「よくぞ戻ってきた、死喰い人達よ」

死喰い人達は一人一人跪き、ローブの端に口付けをしていく。
やがてヤツらがヴォルデモートを中心に円を組むように並ぶと、ヤツは饒舌に語りだした。

最初こそ戻ってきた部下に対する歓喜の言葉だったが、やがてそれは何故最初から助けに来なかったのだという、憤怒の言葉に変わっていった。

「俺様は告白しよう、…お前達には失望させられたと」

意図的なものだろう、冷徹な言い様に震えた一人が許しを請う。
だが懺悔の救済は、″磔の呪文″による拷問だった。

「ギャアアアアア!!」
「見ろ、彼は十三年分の裏切りを磔の呪文一つで償った、…俺様は寛大だ、お前達を赦そうではないか」

今のは見せしめだ、もっとも何人かが安堵の表情を浮かべているあたり、殺されないだけマシなのだろう。
死喰い人達を舐めまわしながら、ヤツは一人の仮面を奪い取る、その顔は俺も知った物だった。

「おや、面白いヤツが居るな…」
「お久し振りです我が君、肉体を取り戻せた事は私にとっても歓喜の極み」
「相変わらず白々しい男よ、ルシウス」

ルシウスはヴォルデモートを前にしても怯む事無く方便を語るが、その額には一筋の汗が流れている。

「誠に申し訳ありません、ほんの僅かでも情報があれば、直ぐに馳せ参じたのですが…」
「何を言う? 魔法省に勤めている同士、お前に伝わっていない筈が無かろう」
「そ、それは…」

勤めているだと、魔法省に間者が居るのか?
一瞬硬直するルシウス、それを嘲笑うヴォルデモート。

「まあいい、これからの働きを期待しようではないか」
「寛大なお心、感謝致します」
「ルシウスだけでは無い、お前達もだ、十三年間のツケをどう払ってくれるか楽しみだ。
その点、ワームテールや先んじて馳せてくれた者達は多少マシと言える、だが多少に過ぎない、分かっているなワームテール」
「は…はい…ご主人様…」

大量出血によって朦朧としながらも、声を搾り出すペティグリュー。

「その痛みは報いだ、だが復活に貢献したのも事実、ヴォルデモートは助ける者には褒美を与える」

杖を振ると、地面から液状の銀が溢れだす。
それはペティグリューに集まり、新たな義手を構築する。

「あ、有難うございます…!」
「その忠誠心が二度と揺らがない事を期待するぞ」

そしてヤツは裏切り者には制裁を、アズカバンに投獄された者に名誉を与えると宣言した。

「最後に最高の名誉を与えなければならない者が二人居る、一人はホグワーツで任に就きその命を散らしてまで任を達成した、もう彼がここに来ることはないだろう、俺様は彼の死を慎む」

バーテミウス・クラウチ・ジュニアの事か、ヴォルデモートが目を閉じると他の死喰い人達もそれに続く。
…殺してはいないが、あれで無事に帰れる筈は無いだろう。

「そしてもう一人、四年前俺様が生きている事に気付いたヤツは俺様を支えてくれた、魔法省の内情を探り、復活の策を練り、居なくなってしまった間死喰い人達を纏めてくれた。
彼等二人の働きにより、今宵二人の友人を迎える事ができた」

一人はハリーで間違いない、だがもう一人は…俺なのか?

「紹介しよう、かつて俺様の手から逃れ、滅ぼし、英雄として担ぎ上げられている男の子、ハリー・ポッターだ」

ヤツらの目線がハリーに集まると、ルシウスが一歩前に出て頭を下げながら問う。
如何なる軌跡を辿り、如何なる奇跡を用いたのかと。

ヴォルデモートは語りだした、何故ハリーを殺そうとし、呪いが跳ね返ったのか。
どう生き延び、どれだけ惨めな姿になったか。
クィレルを利用し、失敗した時の絶望を。
その時一人が馳せ参じ、ペティグリューを得復活した事を。

クルーシオ(苦しめ)!」

そこまで語り、ハリーに呪いを放つ。
絶叫を上げるハリーを見つめ、高笑いを悲鳴に響かせる。

「見たか! この小僧は何もできはしない! こいつは俺様から偶然と幸運だけで逃げ延びたに過ぎないのだ!」

醜悪な笑みを浮かべ拷問を続けるヴォルデモート。
暫く経ちようやく杖を下ろした頃にハリーの悲鳴は止んだ。

「宣言しよう、今夜我らが友人ハリー・ポッターを殺すと、そうすればお前達も、魔法省の腐った犬共も俺様の力を信じるだろう…だがもう一人紹介しよう」

ヤツの赤い眼が俺を捉える、それを困惑した目で見つめる死喰い人達。
その困惑をルシウスが代弁した。

「我が君…この小僧が何なのでしょうか?」
「良い質問だルシウス、まあこいつに関しては知らなくて当然だ」

何故俺が主演の一人なのだ、まさかこいつは異能を知っているのか。
考えられる理由はそこ以外見当たらない。
異能を知られるという恐怖に、冷や汗が頬を流れる。

「一体どこから説明したものか…よし、ここからだな、それといつまで縛られたフリをしている?」

ざわつく死喰い人達、既に見抜かれていたか。
とっくのとうに縄抜けをしていたが、これで不意を突けなくなってしまった。
奇襲を諦め、地面に降り立つ。

「見たか? こいつは呪文も使わずに拘束から脱した、四年生とは思えん恐るべき力量だ、…ああ杖はそのままでいいぞ?」

…いつでも殺せる自信があると言う事か。
杖を構えたからといって、状況は全く変わらなかった。

「さて続きだ、三大魔法学校対抗試合の時、彼にポッターを連れてくる事以外にもう一つ命令したのだよ…キリコ・キュービィーを抹殺せよとな」

…どういうことだ。
殺せと命じておいて、ここに主演として迎えられた? 矛盾している。

「彼は任務を全うしようとした、第二の課題では100体の水魔を放って殺そうとし、第三の課題では他の選手を操り、自分の手で殺そうとまでした。
…だがこいつはここに居る、分かるか? 俺様に最も忠実だったクラウチ・ジュニアは、たかが十四歳の学生に倒されたのだ!」

今までで最も激しく動揺する死喰い人達、ヤツはそんな強かったのか。

「だがそれで証明された、この男が何なのか。
…俺様はジュニアに嘘をついていたのだ、嘘をつかねばならなかった。
彼は忠実だ、それ故に…本心を話したら、無意識の内に手心を加える可能性があったのだ」

嘘だと、ならヤツが俺を憎んでいた理由も嘘なのか。
俺が立候補したのは、やはりヴォルデモートの思惑の内だったのか?
それならヤツ以外の内通者が居る事になるが…

「では本心は何なのか、何故殺せと命じたのか、それは…実験の為だ、こやつが生き残るかどうかの。
だからこそ本気で殺さねばならなかった、もし死んだら俺様の検討違いだったで済むからな」

実験、実験だと、まさか、こいつは、俺の事を…!?
確信に近付いていく予感に、俺は怯える。

「信じられるか? 100体の水魔どころか大寒波からも脱出し、本気のジュニアを破った事を。
それだけでは無い、クィレルに寄生していた時、俺様はこいつに死の呪いを放った、だがその呪いは―――砕け散ったのだ!」

どの死喰い人も驚愕を隠せない、死の呪いは普通防げないのだ、当然の反応と言える。

「更に二年生の時はバジリスクの牙に心臓を射抜かれ、尚生き残った! 奇跡でも起こらなければ助からない状況で二回も生き残ったのだ!
これは偶然などでは無い、もうお前達も理解しただろう…?」

何故その事も知っている?
いやそれよりも、こいつはやはり…!

「―――不死身の存在、それがこの男の正体だ!」

隠し続けていた秘密、異能の存在。
それが今、この世界に放たれた。

「―――な、何を仰います! 永遠なる存在は貴方様しか…」
「驚くのはまだ早いぞルシウス、その前にこいつの過去を語らなくてはいけない」

だが俺にとっての衝撃はここからだった。

「こいつは一人で生きてきた、六歳の時火事で両親が死んだからだ、だが本当の両親では無い、真の親、それが問題だ」

忘れもしない、俺を庇ってくれた義母の事を、助けてくれた義父の事を。
そして俺を生み、死んでしまった母の事を。
そこに、一体何があるというのか。
こいつは俺の母を知っているのか

「…俺様は不死に近い、だが完璧には程遠い、故に不死について誰よりも調べた、そして学生の頃知ったのだ、不死を求める一族を」

何かを懐かしみながら語るヴォルデモート。
それが俺の母と、何の関係があるというのだ。

「その最後の一人を、俺様は何とか見つけ保護する事に成功した。
純血、半純血、穢れた血、マグル、スクイブ、魔法界で優れた血の順番だ。
…だが知っているか? これよりも、更に下があると」

周りの死喰い人達が、急に騒ぎだす。
何となくだが勘づいてきた、この話は単なる昔話ではないと。

「教えてやろう、お前の母親の名は―――
―――ジャックリーン・ブラッド、″悍ましき血″ブラッド家最後の生き残りだ」

その瞬間、墓場に悲鳴が響いた。
ある者は後ずさりをし、ある者は倒れ、ある者は地に崩れた。
何なんだ、俺の母親は一体何者なんだ。

「わ、我が君!? ブ、ブラッド家と、い、今…!?」

ルシウスのあの動揺振り、あそこまで恐怖する理由は何なのか。
俺の疑問を見透かすように、ヴォルデモートは話し始める。

「知らないだろうから説明してやろう、ブラッド家とは何なのか。
奴等は300年程前、純血の王ブラック家から派生した分家の一つだ、奴等が不死を求めていた理由は分からないが…それを求めたのは事実だ」

…それだけでは無い筈だ、それだけで死喰い人があそこまで震えあがる訳がない。

「だが奴等の名は歴史に無い、何故だと思う? 実に簡単だ、弾圧されていたのだよ。
不死を求めるという、愚民共曰くの禁忌に手を染めたからだ、…だがそれだけで歴史から末梢はされない」

俺は血塗られた運命が、この世界でも尚続いている事を知る事となった。

「不死へのアプローチは魔法だけでは無かった、奴等はマグル式…つまり科学にも手を染めていたのだ。
いやまだだ、黒魔術、人体実験、更に近親相姦、家族殺し、大量虐殺、挙句の果てには吸血鬼や吸魂鬼の血や魂まで取り込んでまで不死を目指した。
…当然この様な存在を認める者は、マグル、魔法使い、純血主義者のどこにも居なかった。
そして徹底的な弾圧の末…滅んだのだ」

あまりにも無茶苦茶な、そして凄惨極まった歴史。
それが俺の血脈だった。

「奴らはこう呼ばれる、″悍ましき血″と、″鮮血を背負う一族(レッド・ショルダー)″と、学者達はこぞって奴等を歴史から末梢した。
その生き残りがお前の母親だ、俺様は保護をする代わりに、研究の成果を提供するよう命じたのだ」

では、俺の母もそうだったと。
何人も、欲望の為に殺した悪魔こそが、母だったと。

「そして一報が届いた、孕んだ子供に一つの呪文を掛け、成功したと。
″例え何があっても生き残る″という、成功確率250億分の1、その呪文が完成したと
…最も何と交わったかは知らないがな、少なくとも人間では無いだろう」

欲望の為に自分の子供さえ実験体にする様なヤツが、俺の母親だったのか。
今更血など気にはしない、それでも俺の心は抉られていた。
…だが。

「…俺様は歓喜し彼女の元を訪れた、…だが奴は居なくなっていた。
奴は自分の子供恋しさに、俺様に子供が利用されるのを拒み、逃げ出したのだ!」

彼女は逃げていた、俺を守るために。
それは何の贖罪にもならない。
だがそれだけで、心に刺していた徐々に影は消えていった。

「刺客を送ったが帰らなかった、あったのは奴と刺客の死体だけ、お前は綺麗さっぱり居なくなっていた。
探そうとしたが、…今度は俺様が滅ぼされてしまった」

代わりに沸いてきたのは、母親を殺された事に対する感情。

「絶望したよ…完全な不死、その鍵が無くなったのだから、だからこそお前が死の呪いを砕いた時、まさか、と思ったのだ。
そして徹底的に調べた所…大当たりだった訳だ」

ヴォルデモートの言葉は耳に入らない、俺の中は既にかつて″神″に対し抱いた思いで埋め尽くされていた。

「念を入れこの大会を利用し不死かも試した、それも成功した。
…さあキリコよ、俺様の元へ来るのだ、お前の正体が知られればまともには生きてゆけぬ、だが俺様はお前を迎えよう―――」
「断る」
「…何?」

母親を殺された事、俺を利用し支配しようと言うなら―――

「例え神にだって、俺は従わない」

幾度無く吐き捨てた言葉を、呪詛の様に叩き付けた。

「…そうか、なら仕方無い、無理矢理来て貰うとしよう、だがその前に奴を歓迎しなくては」

そう言いながら杖を振り、ハリーの拘束を解除する。
そしてヤツは宣言した、決闘をすると。

「決闘の作法は学んでいるな? まずお辞儀からだ、格式ある伝統は守らねばならぬ―――」

杖を振りハリーの頭を無理やり下げさせると同時に、高らかに叫ぶ。

「お辞儀をするのだ!」

一瞬の後、磔の呪文がハリーの叫びを呼ぶ。
決闘とは名ばかりの蹂躙劇、それを楽しむヴォルデモート。
助けに行きたいが、流石に喉元に杖を突き付けられてはどうしようもない。

「何をしているポッター、逃げてばかりでは恥を晒すだけだぞ?」

ハリーは更なる追撃を岩に隠れ凌ぐが、時間の問題。
ヴォルデモートの挑発に反応したのか、ハリーが飛び出し呪文を放つ。

エクスペリアームス(武器よ去れ)!」
「アバダケダブラ!」

赤と緑の閃光が激突した。
…いやどうなっている、死の呪いが武装解除呪文と激突? そんな筈が無い。
相殺どころか拮抗もできない、だから死の呪いと恐れられるのだ。

その現象を目にした死喰い人も、ヤツ等の決闘に目を奪われていた。
今なら脱出できる、だがその後どうする?

今の俺ではヴォルデモートに勝てない、逃げるのが賢明。
しかし移動鍵(ポートキー)に触れても戻るのは俺だけ、ハリーはどうすれば良い。
手段を講じていると、再び異変が起こり始めた。

ハリーとヴォルデモートを中心に、巨大な黄金のドームが出現したのだ。
こちらからは分からないが、中の二人は何かを見て驚愕している。

そして突如膜が弾け、死喰い人達が吹き飛ばされた時ハリーが動き出した。
セドリックに向けて走るハリー、ヴォルデモートは何故か動けないでいる!
チャンスは、今だ―――

「え? あ!? ああああ!?」

杖を突き立てていたヤツに一本背負いを叩き込む!
キリコもセドリックに向けて走り出す。
キリコはハリーの意図を察していた。

ルーモス・ソレム(太陽の光よ)!」

逃げ出した事に気付いた死喰い人の目を潰し、二人がセドリックの所に到着するとハリーが杖を振った。

アクシオ(来い)・優勝杯!」

優勝杯、もとい移動鍵(ポートキー)を呼び出すハリー。
彼等の狙いはセドリックと共に、移動鍵(ポートキー)で競技場に帰還する事だった。

「アバダケダブラ!」

誰かが放った死の呪い、だがもう遅い。
呪いよりも、移動鍵(ポートキー)が届く方が早いからだ。
―――邪魔が入らなければ。

「―――え!?」

転がりながら迫っていた優勝杯が、あと一歩の所で止まった。
鼠が、ワームテールが優勝杯を押さえつけていたのだ!

まずい、間に合わない。
今の遅れのせいで呪いの方が早くなった、このままだとハリーに当たる。
…なら、最後の手段に賭けるしかない。

エクスパルゾ(爆破せよ)!」

足元に向けての爆破呪文。
煙幕の中、地面の破片と共に飛ばされる優勝杯とワームテール、キリコ。

「―――え?」

ハリーは目を疑った。
煙幕の中で、大きな影と緑の光が重なったからだ。
見間違いだ、今のはきっと…
だが無情にも大きな影、…キリコはその場に崩れた。

「キ、キリ―――」

吹き飛んだ優勝杯が手に触れるのは、現実を認めるよりも速かった。




「…ハリィィィ・ポォッタァァァァ!」

怨敵を取り逃がし絶叫するヴォルデモート、それに震える死喰い人達。
ところがその暴風は急に収まった、何故なら―――

「………死んだの…か…?」

地面に倒れこむキリコ、その顔は青ざめ血の気を感じられない。
ヴォルデモートは落胆した、キリコが死んだ事に。
ジュニアを犠牲にしてまで得た理想が、結局偽物だった事に。

やはり、完全な不死など無いのか…?
いやこいつは死んだのだ、どう見ても死の呪いは直撃していた。
なら前向きに捉えよう、厄介な相手が死んでくれたと。
…それでも諦めきれず、遺体をもう一度見直す。

「…?」

違和感、何かが違う。
ヴォルデモートは死の呪いの達人、故に呪いの犠牲者は何人も見た。

「…まさか…」

だからこそ気付いた、その決定的な違和感に。

「…アバダケダブラ!」

死体に呪いを放つヴォルデモート、そして―――

「―――!」

呪いをかわした。
そう、死体が動いた。
呪いの直撃を受けて、キリコは生きていた。

「な…!?」
「こ、こんな!? こんなことが…!?」
「…黙れお前達」

ばれたか…!
あのまま死体と勘違いしてくれれば、後で逃げれたのだが…
不気味なほど嬉しそうに笑うヴォルデモート。

「ククク…やはりお前は本物だ、俺様以上の、完全な不死…
先程の行動を見るに、お前は自分の不死を自覚しているようだな?」
「…………」
「だんまりか…まあ良い、今の俺様は機嫌が良い、…暴いてやるぞ、お前が宿す、不死の呪文を」

ヴォルデモートも何気ない一言、それは俺に疑問を与えた。
呪文? 異能生存体の能力は遺伝子に基づく力の筈。
ヴォルデモートが知らないだけなのか、この世界では呪文の力なのか。

「…さて、では来て貰おうか、勿論拒否権はないぞ?」
「…………」

逃げられない以上、断る事はできない。
だからこそ俺はヤツを睨み付け、支配への抵抗を示す。

「強がるものではないぞ? 俺様は多くの心を覗いてきた、だから人の心が分かるのだ。
見えるぞ、恐怖に怯えるお前の姿が………!?」

俺と目を合わせると、突然ヴォルデモートが硬直した。




(何だ…何だこの男は!?)

キリコの心を見た彼は、恐怖していた。
恐怖の象徴と呼ばれたヴォルデモート、彼の姿を見た者は多種多様な感情を抱く。
絶望、畏怖、反骨心、例えダンブルドアでさえ例外ではない。

だがこの男は違った。
恐怖の一片も無く、ただひたすらに殺意を研ぐ。
それはヴォルデモートが初めて出会う人間、自分を見て心を一切揺らす事の無い人間。

故に彼は、心の底から戦慄する。
人を見る目があるばかりに、理解してしまった。
この男は、誰にも支配できぬと。




「わ、我が君…?」

声を掛けるルシウスを、ヴォルデモートは突き飛ばす。
この空白の間、何を考えていたんだ?

「貴様は…」
「…………」
「お前は何者だ、キリコ・キュービィー!」

そう叫ぶヴォルデモートの顔は、まるで未知の存在に怯えている様だった。

「…まあいい、来て貰うぞ、逃げれはしないのだから
もっとも場所を知られては困るのでな…!」

ハリーは無事に逃げれただろうか、向こうはどうなっているのだろうか。
無事を祈りながら、俺は思う。

支配への嫌悪、それ以上の、孤独の悲しみを。
あと何回別れを経験するのか、幾つの死を見届けなければならないのか。
セドリックは、苦しまずに死ねたのだろうか。

「―――ステューピファイ(失神せよ)!」

闇に沈んで行く意識を、今でも覚えている。
それは、ささやかな祈りだ。
このまま永遠に目覚めなくてもいい。
最後まで人間らしかった彼の様に。
俺にも与えてくれ、永い眠りを―――




































「あり得ない、あり得てはならない…例のあの人が復活したなど…!」
「お気持ちの方、ご察し致します」
「ダンブルドアは私を惑わせ大臣の座を奪おうとしているのだ、そうでなかったら、そうでなかったら…!」
「ご安心下さい大臣、直ちにマスコミに手を回し、ダンブルドアの信用を失墜させるよう手を打ちます」
「おお、…流石君だ、頼りにしているぞ」
「はい、また闇祓いを再編成、死喰い人の活動に対する対策を考案します」
「…!? 何を言っているんだ!? 君はまさかあの男を信じているのか!?」
「滅相も御座いません、…しかし、しかし万一本当に復活なさっていたら…どうなるか分かるでしょう?」
「そ、それは…」
「対策をすればダンブルドアに足元を救われます、しかし事が真実だった場合、貴方は「何もせずのうのうと椅子にしがみ付いていた無能」の烙印を永遠に押されてしまいます。
念には念を、ご安心下さい、ダンブルドアに隙を突かれない様、極秘裏に対策を進めます」
「う、うむ…確かにそうだ、では頼んだぞ!」
「お任せ下さい、是非期待に応えて見せましょう」



時は過ぎ、日は巡る。
今が今であればある程、あの日あの場所が懐かしい。
例えそこが屈辱と涙、血と裏切りに塗れていたとしても。
だからこそ鮮烈に蘇る。
いまだ生きてあり、俺とお前とあいつとこの子。
賢者の混乱、緑の地獄、潜り潜って幽鬼の狂気。
暴走、暴走、また暴走。
百々の詰まりは繰り返し、あの人までがぶっ飛んだ。
切ない程に懐かしい、狂おしい程に懐かしい。
ハリー・ポッターとラストレッドショルダー、第四十四話「レウニオン」。
蘇れ、あぁ、幻影の、あの日あの時。



キリコのオリ設定ですが、実は入れなくてはならない事情がありました。
というのもヴォルは異能について知る機会が無い、つまりキリコとの絡みが生まれない。
よって因縁や絡みが終盤に集中してしまうんですが、これだとシナリオが終盤まで盛り上がらなくなってしまう。
なのでオリ設定を加える事で、キリコとヴォルの絡みを中盤に入れられる様にしたんです。
少々言い訳がましくなってしまいましたが、なるべくブラッド家の話は表に出さない様進めて行きますので宜しくお願い致します。

では今年の投稿はこれで終わりです。
皆さま良いお年を。


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「不死鳥の騎士団」篇 第四十四話 「レウニオン(Aパート)」

ひっさびっさの投稿です、休みにしては長すぎる…
まあいいや。
「アンブリッジをひたすらボコボコにする」編、始まるよー。


ヴォルデモートの復活、セドリックの死。
それらが与えた衝撃は余りに大きい、だが俺はその事を知らないでいる。
何故なら俺は、自分自身が何処に居るのかも知らないのだから。

あの時より数ヵ月、俺は何処かの牢獄に監禁されていた。
何故監禁されているのか、理由を聞かされていない以上憶測でしかないが、恐らく″異能″を調べる為だろう。

ヤツ…ヴォルデモートは、俺の不死性を″異能″によるものではなく″呪文″によるものだと捉えている様だった。
″異能生存体″そのものを知られなかったのは、不幸中の幸いだ。
だからと言って、俺の異常性を知られてしまったという結論に変わりはない。

この監禁生活中、俺は不死性を調べる為の拷問を幾度と無く受けた。
死の呪文により、何度も仮死状態を味わった。
磔の呪文により、精神が壊れる寸前まで苦しめられた。

肉体的に、精神的に、奴等はあらゆる方法で俺を殺しにかかってきた。
…結果的にそれは、俺が限界を迎える一歩直前になると、悉く不発になり俺を殺すには至らない。
だがそれは、更なる苦痛の縁に立つだけでしかない。

今日もまた暗い牢獄の中で出された食事を食べ、命を繋ぐ。
割りと良いメニューな辺り、これでも待遇は良い方なのだろうか。
餓死するかの実験で断食させられた時以外は、ちゃんと食事が出ている。

…分からない、ヤツは俺をどうしたいんだ?
ヤツはこれまでに様々な拷問を仕掛けてきたが、欲しいのは俺の不死性そのもの。
異能を手に入れるのと、拷問に何の関係がある?

俺を殺して、異能だけ奪い取るつもりなのだろうか。
返らない答えを考えながら、空の器を石畳に置く。

「―――ッ!」

立ち上がった瞬間、間接に鋭い痛みが走る。
ここに監禁されて約二ヶ月、ずっと日光を浴びていない弊害がいよいよ出てきたか。
このままでは、歩けず動けずしかも死ねないという、今以上の地獄になってしまう。

…脱出の手段が無い訳