駆け出しハンターと転生ペッコ教授 (RGT)
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プロローグ

 ハンターズギルドに一件の討伐依頼が舞い込んだ。

 

『奇妙なクルペッコ』

 条件:クルペッコ1頭の狩猟

 目的地:孤島<昼>

 依頼主:孤島の村の自警団隊長

 内容:先日、我が村の近くで一匹のクルペッコを見かけたのだが、それからというもの妙な胸騒ぎが収まらん。なにか不吉な予感がする。くれぐれも気を付けてくれ

 

 

 

 大きく膨らむ赤い鳴き袋。扇のように開く尻尾。ラッパのような形に広がる嘴。

 これらを用いることで他のモンスターの鳴き声を真似し、聞きつけた周辺のモンスターを呼び寄せるという面白い生態を持つ鳥竜種の大型モンスター彩鳥クルペッコ。

 ハンターズギルドが定めた危険度は☆3つ。

 しかしこの定められた危険度というのは割とあいまいなもので、個体の持つ鳴き真似のレパートリーによっては☆5つや6つに跳ね上がる。

 

 ギルドはさっそく調査に乗り出した。結果、個体としての鳴き声のレパートリーは少なく危険性は低いと結論付けられ、駆け出しハンターに依頼してもさほど問題なかろうと下位クエストの依頼板に回された。

 

 その依頼書にまじまじとのぞき込んでいたのは当時駆け出しハンターだった少女アイラ。

 

 アイラは依頼書に手を伸ばしてはその手を下ろし、また伸ばしては下ろすという動作を繰り返す。悩んでいたのだ。

 ハンターの間ではクルペッコといえばいわば狩人を生業としている者達がぶち当たる最初の壁。これを達成できれば、またひとつハンターとして大きく成長し、その力量も認められる。しかし相手の力量を履き違え返り討ちにされるハンターが後を絶たず、帰らぬ者やハンター人生を終えた者も数多くいる。

 

 繰り返すこと数回。アイラに声をかける者がいた。

 

「あの、すいません。それってクルペッコの討伐依頼ですよね」

 

「そ、そうだけど?」

 

「もしよかったら僕もご一緒していいですか?」

 

 少年の名はジン。彼もまたアイラと同じように駆け出しハンターの身だった。

 アイラは考える。ジンと行くことで報酬は半分になってしまう。しかしハンター二人にアイルー二匹の人数差のアドバンテージは戦いで大きな差を生む。

 一度の報酬とクルペッコに勝つ可能性を天秤にかければ、答えは一目瞭然だった。

 

「ぜひぜひ。ひとりで行けるかどうか不安だったから助かるよ」

 

「実は僕もなんです。それにしてもよかったです。断られたときはどうしようかと。あ、自己紹介がまだでした。僕はジンです」

 

「私はアイラよろしくね」

 

「はい。よろしくお願いします」

 

「じゃあ受注してくる」

 

 アイラは意気込んで依頼書を受け付けへと持って行った。

 

 

 

 

 

 しかしアイラは受注したことを後悔することとなった。

 目の前に立ちふさがるこのクルペッコは確かにギルドが調査したように鳴き真似のレパートリーはドスジャギィや全身を包むアシラシリーズのアオアシラなど比較的弱いモンスターだった。

 が、それ以外にある声真似を披露してみせた。

 

 人だ。この個体、人の声真似をするのだ。

 

 ある時は幼い女の子の悲鳴や泣きじゃくる声。またある時はアイラやジンの声をその場で真似ることで、指示に対してお互い疑心暗鬼になり戦略もあったものではない。

 

 そして今まさにアイラは絶体絶命のピンチを迎えていた。新調したばかりの大剣は破壊され、頭からは血が流れ意識はもうろうとし、ジンはいつの間にかその姿を消していた。

 

「痛い痛いよ。アイラ後ろだ。もうやめてよ。ジン下がれ。なんでそんなひどいことするの?」

 

「ニコ。逃げて」

 

 アイラは自分のオトモアイルーに告げた。

 

「いやですニャ。ハンターさんをおいてなんて逃げられませんニャ!」

 

 ニコはアイラとクルペッコの間に入ると武器を構えた。その手は震えていた。

 

「ld、s:ぱkfぱkヴぉあk?」

 

 クルペッコが口を開いた。アイラの声真似でもジンの声真似でも少女の声真似でもない。そもそも人語ではない。アイラには何と言っているのかわからない。

 しかしニコは違った。

 

「!?ニャ、ニャニャニャ。ニャニャニャ!」

 

 するとクルペッコはアイラとニコに交互に見ると背を向け、ゆっくりと遠ざかると空高く飛んで行った。

 

「どういうこと?なんでクルペッコは私を殺さなかったの?」

 

「あ、あのクルペッコアイルー語を喋ったニャ。なぜその女をかばおうとする?って言ってたニャ。だから答えたら………行ったニャ」

 

 アイラとニコはクルペッコが見えなくなるまでその姿を目で追った。

 

 のちにこのクルペッコが一人と一匹に多大な影響を及ぼすことになろうとはこの時知る者はいない。

 



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君の名は

サブタイトルはあれですが本編とは全く関係ありません。


 

 人語を巧みに操るクルペッコに大敗を喫したアイラのもとに第二の危険が迫っていた。傷だらけのアイラを狙ってジャギィ・ジャギノスが集まってきたのだ。

 ジャギィ達は一定の距離を保って様子を伺う。

 先のクルペッコとの闘いでいかにアイラが弱っているからと言って、ジャギィにとってハンターとは格上の存在。近くにはオトモアイルーのニコもいる。数で優っていようとも勝てる確証がない以上はむやみやたらに襲ってはこない。

 しかしその距離はゆっくりとだが着実に詰められていく。

 

 実際のところ、今のアイラにジャギィ相手にもう一戦する余裕などなかった。

 ここにいてはやられる。立ち上がる。それだけで体中が悲鳴を上げる。倒れそうになる。踏ん張る。痛い。でもいかなければ。ここにいてはいずれ食われる。

 アイラは全身の痛みに堪え、逃げるように孤島を後にした。

 

 アイラがやっとの思いで集会所にたどり着くと辺りは騒然とした。

 折れた大剣、頭から血を流し全身傷だらけのアイラ、そして一緒に受注した相方の不在。

 戦いの凄まじさをアイラ自身が物語っていた。

 

「だ、大丈夫か!?」

 

 アイラはジンでもない少女の泣く声でもない、はたまたアイラ自身の声でもない人の声に安堵した。すると張りつめていた緊張が緩み、全身に力が入らなくなる。アイラはそのままその場に倒れこんだ。

 

「ハンターさん!?ハンターさんしっかりしてニャ!」

 

 アイラは薄れ行く意識の中、声にならずとも口を動かした。大丈夫と。

 

 

 

 

 

 それから数時間後。

 アイラは集会所の長椅子にシーツや藁を合わせて作られた簡易ベットで目を覚ました。

 いつの間にか体の傷には治療が施され包帯が巻かれていた。

 

「よかった。気が付いたのね。皆さん、アイラさんが気が付かれましたよ」

 

 受付嬢の一言でぞろぞろと人が集まってきた。彼ら彼女らは口々に安堵の念を口にした。

 

「ここは………そうか、帰ってこれたんだ」

 

「ハンターさん!よかったニャー!」

 

 ニコは目元から大量の涙粒を零しながら、アイラを中心にしてできた人混みをかき分けて彼女の胸元へと飛び込んだ。よかったニャよかったニャ本当に良かったニャと声を震わせながら口にし、何度も何度も顔をこすりつける。

 

「痛い痛い痛い。痛いよニコ」

 

「こら!傷口が開いちゃうでしょ!離れなさい」

 

 すぐさま受付嬢に首根っこをつかまれアイラと離される。

 

「ご、ごめんなさいニャ」

 

 それを見ていた最前列にいたガーグァフェイクをかぶった男が口を開いた。

 

「まぁまぁ、大目に見てやりなよ。この猫っころだってご主人様が心配で心配で溜まらなかったんだから。それにしてもほんと君は大したもんだよ。その傷で孤島から帰ってきたんだ。普通ならとっくに俺のばあちゃんと川向うで仲良くしているところだ。さて冗談はこのくらいにしてと………一体何があったんだい?君の折れた大剣にその傷。尋常じゃない。それに君と一緒にいた少年は?」

 

「彼は―――「あのジンというガキはハンターさんをおいて逃げたニャ!それでハンターさんはクルペッコと一人で戦うことになったニャ!今思い出すだけでも腹立たしいニャ。今度会った時はとことんお灸を添えてやるニャ!」

 

 首根っこを掴まれたままニコは怒りを体で表現する。ニコの怒りは相当なものだった。しかし受付嬢はそれを気にも留めず、「暴れちゃダメでしょ」の一言と共にニコは強烈なデコピンを食らい身悶えた。

 

 ニコの話を話を聞き、ある者は「なんてやつだ!」と声を荒げ、またある者は「そのジンとかいうガキをとっ捕まえてくる」と集会所を後にした。

 

「あの、ジンをそこまで責めないであげてください。もし私が彼の立場だったら同じように逃げ出していたと思うから………」

 

「いったい何があったんだ?」

 

「クルペッコが人の声を真似たんです。しかもその意味をちゃんと理解して」

 

「そんな馬鹿な。クルペッコが人を言葉を真似するなんて聞いたことがないぞ。それに意味を理解してだって?それは確かなのか?」

 

「ホントニャ!それにアイルー語まで話してたニャ」

 

「ほんとのほんとにクルペッコが人を真似て言葉を喋ったっていうのかい?」

 

 アイラは首を縦に振る。

 

「面白そうじゃないか、そのクルペッコ。俺たちが見てこよう」

 

 そう言って話に入ってきたのは全身をレイアシリーズで統一した男だった。西洋甲冑のような頭装備で顔は見えない。しかし声音からしてアイラと同じくらいか少し上の若いものだった。アイラはこの男のことを知っていた。

 男の名は神代秋人(カミシロアキヒト)。秋人はここいらではちょっとした有名人で、つい最近ハンター家業を始めたばかりのルーキーだというのに、パーティメンバーと破格の勢いで上位まで上り詰めたという。そのためもあってか期待の新人狩人として各所から注目されていた。

 

「わ、私も連れてって。リベンジしたいの」

 

「そんな無茶だ。その傷じゃあついてったところで何もできない上、足手まといになるだけだ」

 

 彼らのパーティならクルペッコをとアイラは秋人に頼み込む。それにガーグァフェイクは猛反発。しかしアイラも食い下がろうとはしない。

 

「クルペッコのことは私が一番知っている。何か助けになれるかもしれない」

 

「しかし」

 

「まぁまぁ、俺たちもまだやらないといけない依頼が何件か残っているんだ。それを終えてからそのクルペッコを狩りに行くつもりだ。それまでには彼女の傷も治っているだろう」

 

「しかし秋人さん」

 

「俺が付いてるから大丈夫だって。君名前は?」

 

「アイラ。あなたは?」

 

「俺は秋人。神代秋人だ。よろしく」

 

「アキヒト?ここらじゃ聞かない名前ね」

 

「よく言われるよ。こことはだいぶ違うところから来たからね」

 




次回クルペッコ編です


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密かな野望

 

 一つの器に一つの人生。

 このある種の決まりごとは人間だろうとモンスターだろうと生物として生きる者の万物共通に適用されるものだった。しかしいつの時もイレギュラーは発生するもの。

 いくら入念に何度も何度も何度も確認したところでいつかは必ずほころびが出る。そしてイレギュラーは誕生する。クルペッコもそのうちの一つに過ぎなかった。

 クルペッコには二つの記憶が混在していた。

 一つは生まれてから今日に至るまで身をもって体験し記録した狩りやモンスターの鳴き真似、自らの食物連鎖の位置づけといった記憶。もう一つはこことは違った別世界で一人の人間として生きた生前の記憶。

 

 クルペッコが生前の記憶を思い出したのは成鳥となって間もない時だった。

 頭を打った拍子にまるで塞ぎ込められていた生前の記憶が濁流のごとく脳内に流れ込む。

 忽ち記憶はクルペッコに革命をもたらした。

 それまで外界からゆっくり一滴一滴と蓄えられていった知識が突然内から湧き出てきたのだ。湧き出てきた知識は留まることを知らず、クルペッコは人同等かそれ以上の知能を手に入れた。

 

 するとクルペッコの中である疑問が浮かんだ。

 

 今の私にとっての食物連鎖における位置付けはどこだ?なにが天敵でなにが強敵だ?

 

 事と次第によっては今までの立ち回り方を変えなければならない。

 クルペッコは考えた。しかし考えたところでそれは仮説にすぎない。試さなければ。

 

 その日からクルペッコは目に留まるモンスターを手当たり次第にその手に殺めていった。モス、アプケロス、アイルー、ドスジャギィ、アオアシラ、イャンクック、ババコンガ時には同族さえも殺めた。驚異の知能の得たクルペッコの前ではリオレイアでさえ歯が立たない。いつしか孤島においてクルペッコの敵なりうる存在は数えるほどにまで減っていた。

 

 ある程度の力を確立したクルペッコは次にモンスターを取りまとめようとした。

 これには自分の敵となる存在に対しての対応処置という意味合いが込められている。そしてクルペッコはゆっくりとそして着実にその計画を推し進めるのだった。

 全ては王となるために。

 

 

 

 さっそくクルペッコは巣近くに棲みつくアイルーを力をもって自らの配下に加え、同時に彼らに新たな知識を与えた。アイルー達は与えられた知識をスポンジのごとく吸収し自らの生活に生かした。その成長速度にはクルペッコも目を見張るものがあった。

 そして知識はすべてを変えた。アイルーの生活や思考そしてクルペッコに対する考え方さえもすべてに変化をもたらした。やがて暴君クルペッコはいつしか仁君クルペッコとしての信頼を勝ち取っていた。

 

 クルペッコが巣穴に戻るとアイルー達が彼の帰還を出迎えた。

「王の帰還ニャ」「王ニャ」「お帰りニャ」「我らが王をたたえるニャ」「ニャ―」と数匹の歓喜の声を聞きつけて岩肌に開いた無数の穴から次々とアイルーが顔を出す。クルペッコは足元に群がるアイルーを傷つけないようにとゆっくりと巣へと降り立つ。

 

「進捗はどうだ?」

 

 クルペッコはアイルー語でまとめ役を任せたジーに声をかけた。

 

「各部署から報告を受けてるニャ。まずモスの養殖は万事順調に進んでるニャ。このままいけばキノコ採取にも頭数を回せそうですニャ。次は農作班からニャ。先月開墾した畑の担当者からOKサインが出たから早速栽培を始めるそうニャ。担当者から最初はマタタビの栽培をしてもいいか?と」

 

「却下だ」

 

「………言っておくニャ」

 

「養殖池はどうなっている?」

 

「それが………少し厄介なことになってるニャ」

 

 アイルーはきまりが悪そうに言う。

 

「建設予定地がロアルドロスの縄張りになっていたニャ。あまり刺激しないように計画を進めてたのニャ。ニャけれども一昨日作業中のアイルーがルドロスに襲われて死傷者が出たニャ。このままでは犠牲が増えるだけニャ。一度計画を見直さないといけないニャ」

 

 彼の視線の先には二つの墓が隣り合うようにして立っていた。

 

「その必要はない。明日部隊を向かわせろ。次は我も同行する」

 

「ニャ!?王自らかニャ!?」

 

 

 

 後日、総勢20名ものアイルー達は仲間に見送られ浜辺へと向かって列をなしていた。浜辺に到着すると岸から半円状に弧を描いてまるで堤防のように石壁が設置されているのを確認できた。あと半分。さっそくアイルー達は作業を始めた。

 

「安全に気を付けて今日も一日頑張るニャ」

 

「「「ニャ―!」」」

 

 作業は至ってシンプルなもので近くの岩肌から石を採掘しそれを組み合わせて石壁として設置していくというもの。しかしこのままではただの水槽に他ならない。これを養殖池として機能させるには条件があった。

鍵を握っていたのは石壁の高さ。数カ所の石壁の高さをを周囲より少し低くし、満潮時の高さに近くしておく。そうすることで満潮時にのみ魚が入りこみ干潮時には出られないという、自然の営みをうまく利用した養殖池が完成するのだ。

 

 途中休憩をいれながら作業の始めること数時間。一匹のアイルーが声を上げた。

 

「ロアルドロスニャ!ロアルドロスが出たニャ―」

 




違うんです。何かが違うんです。でも今の自分にはこれが限界。
そのうち書き直しますかと思います。


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vsハーレムの長①

更新遅れました。
体調を崩しているもので、休んで執筆して休んで執筆してなんとか区切りをつけて投稿しました。
中途半端ですが、よろしくお願いします。


 水獣ロアルドロスはまるで強者としての余裕とも見て取れるような、のったりとした足取りで水中からその姿を露わにする。続く形で水中からは次々とメスのルドロスが顔を出した。ロアルドロスは辺りを見回した。

 岩肌から削り出された石。こちらの様子を伺うアイルー達。そしてアイルーが設置したであろうと思われる得体のしれないなにか。

 

 ロアルドロスにはアイルー語は通じない。逆もまた然り。アイルーにはモンスターの言葉は通じない。お互いがお互いの考えが分からない上にお互いに考えを伝える手立ても持ち合わせてはいなかった。

 ただわかることといえば、アイルーが彼らの縄張りに侵入している事。そして今はルドロスたちが新しい命を産み付ける大事な時期。理由はそれだけで十分だった。

 

 ロアルドロスは特大の咆哮を上げた。戦闘態勢だ。鋭い目つきで獲物に狙いをすませ、地を踏み込む。するとその巨体からは想像もできない勢いの突進がくり出された。地面を這う様に瞬く間にアイルー達との距離を詰めた。

 

 あんなのを食らえばひとたまりもない。しかしあまりのことに一歩も動けないアイルー達。

 

 その時だった。

 聞こえてきたのはロアルドロスの咆哮とは比にならない大地を揺るがすほどの巨大な咆哮。

 

 ロアルドロスが長年の経験で培った野生の勘が過去に類を見ないほどの大音量で母体に危険信号を発した。圧倒的強者の存在。ロアルドロスは勢いを殺してすぐさま飛び退くと声の方角を向く。

 

 小高い崖の上に一匹の鳥竜種。彩鳥クルペッコ。

 クルペッコはロアルドロスとアイルーの間を遮るようにして降り立った。

 

「ロアルドロスよ。彼らは我の配下だ。手出しはご遠慮いただこう」

 

「アイルーが配下?モンスターの鳴き真似に飽き足らず今度は群れの真似事だと?笑わせるな。そんな雑魚共を手駒に加えたところでどうするクルペッコよ」

 

「弱者も指揮と作戦によっては強者へと化ける」

 

「それをできるのが自分だと?」

 

「ああ。しかし確かにお前が言うことも一理ある。いくら我でも指示を与えることのできる数にも限りがあるのでな。我の手の届かないところでは再び弱者として蹂躙されるだろう。それに元が弱者。いくら強者になったところで真の強者にはまず勝てない。そこでだロアルドロス。我は真の強者であるお前を手に入れたい。我の配下に加われ」

 

 するとロアルドロスはまるで鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。

 一間をおいて今度は声を大にして笑い出す。

 

「くっくっく。この俺がお前に従うだと?面白い冗談だ。………今すぐここから立ち去れば命までは取らない。とっとと失せろ」

 

 ロアルドロスは頭部のトサカのような角5本を威嚇のために動かす。しかしクルペッコは全くと言っていいほど動じてはおらず、挙句の果てに「嫌だと言ったら?」と挑発するように聞き返した。

 

 次の瞬間、首筋めがけてロアルドロスの鋭利な歯がクルペッコを襲う。しかしロアルドロスは空を食らうと、クルペッコは予想していたかのように避けると距離をとる。

 

「どうやら心底死にたいらしい」

 

「交渉決裂か。致し方ない」

 

 両者は睨みあう。そして動かない。

 時折体を左右に揺らしながら頃合いを見計らっているが、それでも一行に動く気配がない。

 

「ニャンで王は動かないのニャ?」「分からないニャ」

 

 アイルーにはクルペッコの考えが読み取れなかった。我らが王クルペッコはモンスターとは思えない高い知能で数多くのモンスターを仕留めてきた。それこそたとえロアルドロスが群れで立ち向かったところで相手にならないような大物さえもその手で殺めてきた。

 それだというのに動かない。

 

 実際のところはクルペッコの考えは動かないのではなく動けないのだった。

 

 訳は二つ。一つは先に動いたほうが負けるという野生で生きる内に身に付いた思想があるからだ。この戦いは奇襲交じりの狩とは訳が違い、お互いに臨戦態勢に入っているのだ。勝ったり負けたりする出たとこ勝負の博打に命は預けられない。そのため、どんな相手であっても対応できる完全必勝攻略法が極意。

 それはロアルドロスもわかっていること。だから両者共に動かない。

 それに加えてクルペッコにはロアルドロスの動きが分からないでいた。なにせ今まで海竜種との戦闘経験が一度もない。一度殺めたことのあるモンスターならいざ知らず、今まで交戦したことのない相手。何をしてくるか見当もつかなかった。

 

 しかしこのまま永遠と睨み続けているわけにもいかない。

 先にしびれを切らして動いたのはロアルドロスだった。今度はクルペッコめがけて突進を繰り出した。だがクルペッコにはクルペッコとしてのアドバンテージがあった。空だ。クルペッコは飛び上がり、突進を紙一重で回避するとロアルドロスの首筋めがけてかみつく。

 

 脊髄を損傷を加えれば絶命する。

 

 

 

 

 筈だった。

 

「!?」

 

 次の瞬間クルペッコは壁に叩きつけられた。

 




いつの間にかUA1000達成していて驚きました。
これからもよろしくお願いします。


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vsハーレムの長②

やっと体調も良くなり、完全復活!!!
ということで急いで執筆して投稿させていただきました。
短めですがよろしくお願いします。



そこまで重要ではありませんが専門用語なので用語解説を

頸椎 脊椎の首の部分にあたる部分。首の骨という認識程度で大丈夫ですので


 周囲の予想に反してクルペッコは大きな危機を迎えていた。

 クルペッコの鋭利な歯は確かにロアルドロスの首筋を、ひいては頸椎を捉えていた。だというのにロアルドロスは絶命するどころか何事もなかったかの如くクルペッコに突進をお見舞いしたのだ。

 

 クルペッコは驚きを隠せない。

 

 しかしそれは知識のある者なら普通の反応で本来ならあり得ないことだった。

 クルペッコやロアルドロスが属す脊椎動物とは読んで字のごとく、脊椎を持つ動物のことで脊椎とは脳からの信号を全身へと伝える脊髄のおさめられた場所。

 そこを損傷したのだ。良くて下半身不随や全身麻痺。最悪その場で死に至る。体が動くはずなどない。それだというのにロアルドロスは動いているのだ。

 

 

 

 

 

 その秘密は鬣にあった。

 ロアルドロスのもつ鬣は保湿能力に長けた鱗が変質した物で、毛髪のような繊維が死滅した細胞でできている。更に網目状の構造をしている為、大量の水分を蓄積することができるのだ。

 本来ルドロス種は乾燥にとても弱く、水分が減ると疲労が蓄積しやすくなるため陸上生活は好まない。しかし、ロアルドロスはこの鬣に溜めた水によって、長時間の陸上での行動が可能になっている。陸に上がるためにもロアルドロスは鬣に水を溜め込む。溜め込むにつれ首筋の鬣は膨張する。膨張した鬣が脊髄を守る。そのため頸椎に歯は届いていなかった。

 

 そのことにクルペッコが気づいた様子はない。

 気づかぬ者からすれば、ただの化け物に他ならない。

 

 クルペッコは一度体制を立て直そうとするも、ロアルドロスは攻撃の手を更に加えた。放たれたのはゼロ距離での圧水ブレス。まるで鈍器で叩かれたかのような痛みがクルペッコの全身を襲う。身体が大きく揺れる。必死に踏み止まる。

 

 そこでロアルドロスは一度距離を置く。

 

 長丁場になるだろうと睨んだロアルドロスは消費した水分を補給するために悟られないよう大きく水辺のほうに下がった。多少しぼんだ鬣がゆっくりと膨張していく。

未だクルペッコが気づいた様子はない。

 

「弱い。弱すぎる。そんなんで俺を配下に加えるなど片腹痛いわ」

 

「こんな言葉を知っているか?弱い犬ほどよく吠える。強い者は自信があるが為に堂々としている。逆に、自身に実力がなく自信がないと他者に自分をよく見せようとするが為に余計なパフォーマンスが多くなる。それ故口数が多くなる。まるで今のお前のようだ」

 

「それが貴様の最後の言葉だ!」

 

 ロアルドロスは地面を踏みしめ距離を詰めると、鋭くとがった爪を振り上げた。

 合わせてクルペッコは大きく後ろにとび、粘液球を吐く。大振りで隙が生まれたロアルドロスは避けることができない。

 

「なんだそのブレスは。痛くもかゆくもないわ」

 

 ロアルドロスは下がるクルペッコを追随する。

 

 その時だった。クルペッコが攻めに転じた。

 両足で地面を踏み込み、ロアルドロスに飛び掛かった。ロアルドロスは避けようとはしない。ぶつかる目前でクルペッコは翼の火打石を擦り合わせた。火花が散る。突如爆発が起こった。

 

 ロアルドロスは顔面でもろに爆発を受けた。

 クルペッコはロアルドロスの過信によって生まれる隙を狙っていたのだ。クルペッコは追撃する。攻撃の手を緩めることはない。顔面めがけて幾度となく火打石を叩きつける。何度も何度も何度も。

 

 

 

 やがてロアルドロスはその場に倒れこんだ。

 

 先ほどの爆発で鬣をやられたのだ。

 本来ルドロス種は乾燥にとても弱く、水分が減ると疲労が蓄積しやすくなる。それに加え戦闘での疲労。すでにロアルドロスに戦う力は残っていなかった。

 

「今一度問おうハーレムの王よ。我の配下に加われ」

 

「断る。我らロアルドロスは王となるために生まれ、王として死ぬ種族。貴様の配下に加わるなど我が認めてもこの体に流れる血が決して許さん」

 

 ロアルドロスはとぎれとぎれの声でそう告げた。

 

「しかし。しかし俺はそうでも女達は違う。俺の勝手に付いて来ただけだ。クルペッコ。お前を強者として認めたうえでお願いがある。あいつらが望むのならお前の配下に加えてやってくれ」

 

「逃がすのではないのか?」

 

「ここら一帯は俺の縄張りだった。他のロアルドロスは当の昔に追い払った。そんなところでこいつらだけで生き抜いていくにはあまりにも過酷すぎる」

 

「なるほど。わかった、しっかりと聞き届けた」

 

「………王として君臨し、ハーレムを作り、最後にお前のような強者とやりあえて悪くない人生だった」

 

 そういってロアルドロスは息を引き取った。




急いで書いたのでおかしな部分があるかもしれませんがよろしくお願いします


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作戦会議

UA2000ありがとうございました。
多くの方に見てもらえて、感謝感激です。
これからもクルペッコとアイラをよろしくお願いします


 

 クルペッコとロアルドロスの死闘とほぼ同時刻。

 

 駆け出しハンターアイラと上位ハンター神代秋人そして彼のパーティメンバーユキとジェイは集会所で料理の並んだ卓上を囲んでいた。この場は秋人の計らいでパーティを組むうえでの自己紹介・情報共有・作戦会議の名目で設けられた。

 

 その中で一人アイラは腑に落ちないといった表情を浮かべていた。

 

 別にアイラは催し自体にこれといった異論があるわけではない。むしろ大賛成だ。なにせアイラと秋人達が組むのは初のこと。加えて相手はあのクルペッコ。そんじょそこらにいるクルペッコとは訳が違う。舐めてかかれば今度こそ生きては帰って来れない。作戦が必要だ。そういった意味でも出席するのは当然のことだった。

 しかしアイラは思う。

 いったいなぜ私はジョッキ片手に食事を頬張っているのか?と。

 これって作戦会議だよね?と。

 

 アイラは思わず疑問を口にした。

 

 そんなアイラに秋一は、これがハンターの作戦会議の仕来りと言い放った。続けざまにアイラに周りで真昼間だというのにジョッキ片手に机を囲んでどんちゃん騒ぎをする数組のパーティを見るように促す。彼らもそうだと秋人は言う。

 アイラは駆け出しの身だ。ハンターの世界での常識はこれっぽっちもわからない。そうと言われればそうなんだと信じる他なかった。口から出任せを並べる秋人の横でユキとジェイが呆れた目をしているのにアイラは気づかない。

 

「ではカンパーイ!」

 

 誤解は解かれることがないまま、秋人の乾杯の掛け声とジョッキの音があたりに響く。

 

「さて、じゃあ最初は親交を深めるためにも恒例の自己紹介から。まずは俺から。俺の名前は神代秋人。武器は太刀でガンガン切りかかっていくぜ」

 

「「知ってる」」

 

「あ、それもそうか。ってお前らに行ってねぇよ」

 

 笑いが起こる。催しは和気藹々とした雰囲気で始まった。

 

「私はユキ。獲物は弓よ。援護は任せて。先に謝っとくけど射線が重なって当たった時はごめんね。わざとじゃないから」

 

「僕はジェイ。武器は狩猟笛です。夢は音楽家だったんですけど、どこで道を間違えたのかいつの間にかハンターを生業としていました」

 

「アイラです。武器は大剣だったけどつい最近片手剣に武器替えしました。よろしく」

 

「大剣から片手剣に?それはまた何でですか?」

 

「折れちゃったってのもあるし、ほかの武器のほうがあっているのかもって思って」

 

 話は数日前。アイラは折れた武器を新調する為、集会所近くの武器屋を訪れていた。

 そして新しい大剣を吟味している際ふと頭の中にある一つの疑問が思い浮かんだ。またクルペッコと殺り合うのに大剣で大丈夫なのかと。

 アイラはあの時のことを思い出す。攻撃は大振り過ぎて当たらなかった。ガードしようにも重すぎてワンテンポ遅れていた。動作が遅すぎてクルペッコの動きについていけてなかった。考えるまでもなくアイラ自身大剣は自分に合ってないことを察した。

 

 しかし武器を変えようにも一撃必殺にロマンを感じロマンを追い求めてきたアイラは、大剣以外の武器を使ったことはおろか手にしたこともない。そこで鍛冶大工にアドバイスを求めた。隙がなくスピードで翻弄でき、初心者にもお勧めで、もしもの時でも対応可能な前衛の武器。そうして勧められたのが片手剣だった。そうして使ってみること数回。いまでは大剣よりも扱いが手に馴染んできていた。

 

「太刀に、片手剣に、弓に、狩猟笛か。うん、いいな。バランスが取れてると思う。さて、知っての通りこのメンバーで今回はクルペッコを狩猟する。さっそくだが本題に入ろう。アイラ説明頼む」

 

「えっとどこから話そう。まぁ、まずは事の経緯から」

 

 アイラはクルペッコのことを事細かく語った。

 少女の声真似をすること、パーティメンバーの声真似をして翻弄してくること、知能がモンスターとは思えないほど高いということを。

 

 三人は終始無言のままアイラの話に耳を貸す。

 皆先ほどのおちゃらけムードとは一変して、その表情には真剣さが伺える。

 

「まさかそんなことがあり得るなんて。ある意味厄介な相手ね」

 

「どうしましょうか?少女の鳴き真似なんてされたら戦いにくくて仕方ありませんよ」

 

「うん。だから合流する前に私なりに考えてきた。まずお互いにハンドサインを決めておくってのはどうかな?」

 

「「「ハンドサイン?」」」

 

「そう。そうすることでしゃべらないでもコミュニケーションが取れる。例えば手を振るの意味は下がれとかさ」

 

「なるほど、考えたな」

 

 秋人は関心を示す。確かに声に発しなくとも連携は取れる。しかし欠点もあった。

 

「それだと前衛から後衛に情報を伝えることはできますけど後衛から前衛に情報が伝わりませんよ。前衛はモンスターに集中しないと危ないでしょうしそんな余裕ないでしょう」

 

「あ、そっか」

 

「じゃあこういうのはどうだ?全員とにかくしゃべる。でも一人の指示だけ聞く」

 

「また始まったわ。秋人の意味不明な作戦が。アイラちゃん聞かないでいいからね」

 

「いやいや今回のは十分実用的だって。まず全員最初は普通に声を掛け合ってお互いがお互いをサポートする。それで鳴き真似してきたら作戦2。後衛のジェイの声だけを全体の支持として聞く」

 

「でもそれってジェイの声を真似されたら意味なくない?」

 

「ちっちっち。ジェイは支持出さないときはいつも笛を吹いている。ってことは笛が聞こえているときに声が聞こえれば、それは偽物ってことだ」

 

「あ、なるほど」「いいですね」「考えたわね」

 

「じゃあそれでいこう。話をまとめよう。まずユキとジェイは俺とアイラの援護を徹底してくれ。指示はさっきも言ったようにクルペッコが鳴き真似を始めたらプラン2で。アイラは片手剣で死角に回り込むように立ち回ってくれ」

 

 決行は明日に決まった。

 アイラは期待に胸を躍らせ明日を待つのだった。

 




焼きサーモン様、5話での誤字報告ありがとうございました。
この場を借りてお礼させていただきます。


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vsクルペッコ

続きです。
今回は書き方を少し変えてみました。
どうでしょうか?


 

 船に揺られること小一時間。アイラ達は孤島の港へと船をつけた。

 一度大きく伸びをすると太陽を遮るように手を掲げる。雲一つない快晴。絶好の狩日和だった。今日こそクルペッコを。アイラは期待に胸を膨らませながら島へと降り立った。

 

「まずは腹ごしらえ。それからクルペッコだな」

「賛成」「そうですね」「うん」

 

 村の中へと足を進める。進むにつれ、甘いタレの匂いが鼻を刺す香辛料の匂いが鼻をくすぐり言葉にならない喧騒が耳に届く。こんな辺境にあるというのに村は大いににぎわっていた。お祭りやお祝い事でもないというのにアイラがいつ来ようと変わらない賑わいをみせる村。それもこれもここが初心者・中級者ハンターゆかりの定番狩スポットだからだ。

 

 360度どこを見ても海に囲まれている孤島は大陸からは離れ、外界からの侵入者は比較的に少ない。加えて。強大なモンスターはいない。熱いわけでもなく、寒いわけでもないちょうどいい気候。大自然。オーシャンビュー。と上げていけばいくらでも出てくる好条件。

 口々へと話は広がり、いつしかハンターが集まる。そして今日の村の在り様に至る。

 

「アイラ。珍食材に挑戦する気はないか?」

「へ?珍食材?」

「そ、あそこの店で食えるはずだ」

 

 返事の有無に関わらず秋人は店の暖簾をくぐる。

 店内に入ると紺の作業衣と前掛けに身を包んだアイルーがアイラ達を手向かえた。秋人は慣れた手つきで右手で指を四本たてる。

 

「いらっしゃいませニャ。あ、秋人さんニャ。お久しぶりニャ」

「久しぶりだな、ミケ。アレって今日あるか?」

「アレってあのあれかニャ?………ちょっと待ってニャ。店長に聞いてくるニャ」

 

 アイルーのミケは四人を席まで案内すると厨房へと消えた。やがて戻ってくると秋人とミケの指すアレはあったらしく秋人はアレを四人前注文した。

 

「アレって何なの?」

「来てからのお楽しみ」

 

 含みのある笑みを浮かべる秋人。アイラはジェイとユキにも聞くが、二人も店に来るのは初らしくアレが何なのか見当がつかないらしい。

 

 待つこと30分。

 

 ミケが同僚のアイルーを連れて料理を運んできた。アイラ、ジェイ、ユキそれぞれの前に出された料理を注意深く見る。皿に盛られているのは米に、その上からかけられたどろどろとした茶色い液体。中から煮込まれた肉や野菜が顔を出し、香辛料が鼻孔をくすぐる。食欲を身体の奥深くから沸き上がらせる。おかしな点はない。それどころかこの料理をアイラは知っている。食べたこともある。

 

 これは正真正銘、

 

「カレーだよね」

「カレーね」「カレーですね」

「カレーだな。カレーはカレーだけどな。とにかく食え」

 

 アイラは恐る恐るスプーンですくうとジェイ・ユキと顔を合わせる。そして口へと運んだ。

 

「どうだ?」

「なんというか………普通のカレーですかね?」

「そうね」「しいて言うんだったらお肉が甘い?」

「お、いいところに気づくなアイラは。あとはあとは?なにか気づくか?」

「うーん。わかんない。肉がいつも食べてるのより柔らかい?」

「いいねいいね」

「で結局何なのこれは?」

「これか?妊娠していたメスアオアシラの左手カレーだ」

 

 三人の手が止まる。

 

 秋人曰く、詳しい理由は不明だが妊娠時にメスアオアシラは魚や木の実よりもはちみつを本能的に多く摂取する傾向がある。それによって手にはちみつの甘みが染みわたり柔らかくおいしい肉になるらしい。

 

 アイラは何か普通ではない肉を食べさせられてることは当に察していた。

 

 しかしまさかアオアシラの肉とはいったい誰が想像出来ようか。加えて妊娠していたアオアシラの肉。モンスターといえども人で言えばいわば妊婦。一匹を狩るために一つの新しい、まだ芽吹いて間もない命を奪ったのだ。驚きと罪悪感で言葉を失うとともに思わずスプーンをおく。

 

「それでアオアシラ肉の感想は?」

「まずくはない。まずくはないけど。なんか………こうくるものが」

「ですね。アオアシラってだけでも驚いたのに、妊娠していたアオアシラって………」

「秋人。これってまさかわざわざメスアオアシラを狙って狩ったってこと?」

 

 ユキの疑問に秋人は首を横に振る。

 

「たまたま狩猟目標が妊娠していたメスってだけだよ」

「そう………」

 

 秋人は気にしない性格をしていたが三人には応える者があり場の空気は重くなる。

 

「ま、まぁ偶然狩猟対象が妊娠していたから誰のせいでもないし、このまま捨てるわけにもいかないだろ?俺たちハンターが狩ったんだからちゃんと殺した分まで生きる糧にしないと」

「………そうだね、うん。ちゃんと食べよう」

「おいしく頂かせていただきます」

「私たちに力を頂戴ね」

「それじゃあクルペッコの狩猟達成とアオアシラへの感謝を込めて乾杯!」

「「「乾杯!!!」」」

 

 お互いにジョッキを鳴らす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 と同時に聞こえてきたのは爆発音。続いて辺りに悲鳴が響き渡る。

 

「な、なんだなんだ」

 

 アイラ達は店前に出た。煙は村のさらに奥にある村と狩場を隔てる巨大な門の方角から上がっていた。秋人は逃げてくる青年を一人とっ捕まえた。

 

「何があった?」

「門が破られたんだよ!モンスターが一斉になだれ込んできた」

「門が!?いったい何に?」

「クルペッコだ。クルペッコに門が破られた!」

 




アオアシラの設定はオリジナルですのであしからず


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vsクルペッコ②

UA3000ありがとうございました。
多くの人に見てもらえて本当に執筆の励みになります。
では続きをどうぞ


 

 もくもくと立ち籠める黒煙。響き渡る甲高い鐘の音。巨大な爆発。耳に届くは悲鳴、泣き声、怒声。人波が我先にと港に向かって流れていく。アイラ、秋人、ジェイ、ユキの四人は波に逆らうようにして門のほうへと走った。多くの初級・中級ハンターが彼らに続く。

 

 アイラが門までたどり着くとそこには戦場が広がっていた。足元には村民やアイルー、モンスターの死体が有象無象に転がり、民家からは火の手が上がり、血の匂いが漂い、ハンターとモンスターの戦闘が目につく至るところで繰り広げられていた。まさに門前は地獄絵図と化していた。

 

 アイラは店先で腹を押さえて倒れ込む一人の門衛に気づく。生死を確認する。門衛は負傷していた。腹部の傷口から血がとどまることを知らず流れていく。遠のく意識の中、門衛は近づく足音に恐怖し震える手で必死に「来るな来るな来るな」と叫びながら砂や石ころを投げつける。相手の定まっていない物は在らん方向へと飛んでいく。

恐怖で門衛は人かモンスターかの区別がつかない。

 

 アイラは門衛の手を抑え込むと頬に平手打ちを叩きこむ。

 

「落ち着いた?なら状況を教えて、いったい何があったの?この混乱は何!?」

「へ、え、ああ。行商アイルー達がクルペッコに追われているのを確認できたから規定通り村に入れるためにも門を開けて、彼らを招き入れて門を閉めようとしたら突然アイルー達が仲間の門衛に切りかかったんだ。俺もその時一発もらっちまって。その間にクルペッコが強引に門を開き破壊した。そうしたらまるで待っていたかのようにモンスターたちがなだれ込んできて」

「村と友好的関係のアイルー達がなぜ?」

「分からない。分からないんだ。あのアイルー達が一体なぜ………」

「たぶんだがそのアイルー達はもう死んでるだろうな」

「「え?」」

 

 秋人が周囲の警戒をしながら推測を口にする。

 

「いつも友好的なアイルーが突然襲い掛かってきて、クルペッコが門をぶち破り、クルペッコだけならいざ知らず他のモンスターもなだれ込んできた。明らかにタイミング良すぎる。まるで何者かに計画されていたかのように」

「馬鹿な。モンスターにそんな知能があるわけない」

「モンスターらしからぬ知能か。アイラ、例のクルペッコならそれが可能だろ?違うか?」

「あいつならあり得る」

「ありえない。ありえないけど、もし、万が一そんな奴がいたら、俺達じゃ勝てるわけないじゃないか!」

「だから俺たちハンターがいるんだよ。無理じゃない。やるんだ。おいアイラもう行くぞ」

「うん。じゃあ私たちはもう行くから。一人で港まで逃げれる?無理ならどこか物陰に隠れておいて」

 

 アイラは立ち上がると新しい相棒を構える。鮮血に染まりたくてうずうずしている血に飢えた相棒を制しながらその顔に笑みを浮かべた。一体相棒はクルペッコ相手にどこまで戦えるのか?クルペッコに傷を負わせられるのか?クルペッコの息の根を止められるのか?緊迫した状況でアイラ自身は気持ちを引き締めているつもりだった。だというのに、どこかこの状況を楽しんでいる自分にアイラは気づかない。

 

「行くよ!」

「うん」「はい」

「あの、俺が一応リーダーなんだけど」

 

 アイラ達は手近で戦っている中級ハンターに加勢する。そんな彼らを門の上から見下ろすモンスターがいた。クルペッコだ。ひとしきり様々なモンスターを呼び寄せるために鳴き終えたクルペッコは傍観していた。クルペッコはアイラに気づくと口元を緩める。

 

(あの小娘この前の。武器が変わっているようだが………。そうか。くっくっくそうかそうか前の系統の武器では勝てないと踏んで小ぶりのものに変えたというわけか。面白い面白い面白いぞ、娘。飽きさせないな)

 

 クルペッコは大きく翼を羽ばたかせる。そしてアイラと激闘を繰り広げるモンスター、ドスファンゴを廃屋へと弾き飛ばしアイラ達の目の前に降り立つ。突然のことにアイラの顔には驚愕の色が浮かべる。

 

「久しいな、小娘」

「な、人の言葉を!?」

「当の昔にな。さぁ、楽しいゲームを始めよう」

 

 クルペッコは咆哮を上げる。

 

「全員作戦通り動けよ」

「「「了解」」」

 

 秋人は正面からクルペッコに対して切りかかった。合わせてアイラはクルペッコの死角へと回り込み、ジェイとユキは距離をとると各々身体強化の笛を吹き、遠距離から弓を射抜く。クルペッコは一度に四人の動きを捉えることができない。加えてアイラ達がお互いの距離を考えて動いているため、クルペッコにとっては非常に厄介だった。

 

 不利と見たクルペッコは大きく後ろに飛ぶ。そして考えを巡らせる。

 

(厄介なものだ。さてどうしたものか)

 

 クルペッコは後ろに後ろにと下がる。追撃するアイラと秋人。

 

「二人とも行き過ぎです!」

 

 二人は夢中で後衛との距離ができたことに気づくのが遅れた。

前衛と後衛の距離が離れ、笛の効力は薄くなり弓の射程外に出た。

好機。クルペッコは攻めに転じた。

地面を踏み込むと秋人との距離をつめ、口を大きく開く。

走り出した人は急には止まれない。今更ブレーキをかけたところで止まれない。秋人の目の前にはクルペッコの無数の鋭利な歯が顔を覗かせていた。

 

「秋人!」

 

 避けることは不可能に等しかった。

 

 

 

 

 鮮血が辺りに飛び散る。

 

「何!?」

 

 驚きの声を上げたのはクルペッコだった。

 

 なんと秋人は回避不可能と思われていた攻撃避けてみせたのだ。それだけではなくクルペッコの頭部に傷を負わせた。クルペッコ大きく大きく距離をとった。

 

「いやー、危なかった危なかった。今頃体に穴という穴を増やされてるところだったぜ。ん?おいおいどうしたよクルペッコさん。そんな驚いたような顔を浮かべて。何が起こったかわからないってか?簡単だよ。お前がモンスターと思えない知能を持ち合わす特殊なモンスターなら俺は特殊な人間ってだけだ」

 

 神代秋人。この世界らしからぬ名を持つ者。彼自身が特殊な人間である部分は脳にあった。秋人の脳は自身が危機的絶体絶命的状況に陥ると活性化し、その働きを通常の何倍何十倍にも跳ね上げる。結果として秋人の目にはスパースロー映像のような景色が広がり、無意識に体が最善の動きで攻撃を避けカウンターを加えたのだ。

 

「さぁゲームを楽しもうぜ」

 

 秋人は不適に笑った。

 



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vsクルペッコ③

次の更新は少し遅れそうです。
また次回、次々回で完結する予定なので待たせる形になってしまいますが、ご了承ください。では楽しんでください。


 向かい合うは二人のハンターと一匹のモンスター。一人はレウスシリーズで全身を包み、その特殊な身体能力で獲物の剣先をクルペッコの体液で染めたクルペッコ自身と肩を並べるほどの実力の持ち主神代秋人。一人は戦闘経験を踏まえ、新たな武器新たな装備で格段に強敵へと変貌した少女アイラ。それに加え、後衛には弓使いと笛使いが待機している。数的優位はハンター側にあった。

 

 クルペッコは圧倒的不利な状況に半ば焦りつつも、この状況を大いに楽しんでいた。クルペッコはあえて鳴き真似をしてみせる。これには様子見の意味合いが込められていた。クルペッコが発した声音は優しい少年の、でもどこか聞き覚えのある、そんな声だった。

 

「アイラさん下がって!秋人さんクルペッコの攻撃が来ます」

 

 戦闘中クルペッコが一番耳にした声が狩猟笛のジェイの声だった。これで動きに迷いが浮かれ攻撃のチャンスが生まれるかに思えた。しかしアイラも秋人も下がろうとはせず、そのままクルペッコに切りかかる。間一髪でクルペッコは斬撃を避けてみせる。

 

(む、聞かぬか。後衛の指示を聞くことをやめたか、あるいは本当に聞こえていないか)

 

 戦闘が開始してから既に数十分近くの時が経過していた。その間クルペッコは一度の攻勢以外はすべて守りに徹していた。それもハンターたちの手数の多さに翻弄されていたからだ。前衛の攻撃をかわしカウンターを仕掛けようとすると、後ろから飛んでくるは的確に射抜かれた弓矢。後衛をつぶそうと距離を詰めるとユキをかばうようにしてジェイが狩猟笛を振り回し、死角から追いついた秋人とアイラの斬撃が襲う。思った以上に数的優位がクルペッコの動きを制限している。

 

 しかし心なしか人の喧騒よりかモンスターの咆哮を耳にする。

 

 どうやら全体的にモンスター側が押しているようだ。村を押さえるのも時間の問題だろう。とクルペッコは思考を巡らせる。

 

 ならばとクルペッコが次に真似たのは大地を震え上がらせるほど巨大な咆哮。方向から発生した衝撃波で辺りの瓦礫は吹き飛び、クルペッコの周りはぽっかりと瓦礫の穴が開いたかのように地面が顔を出す。

 

 アイラと秋人は大きく距離をとると身構える。空気が震え、地面が震え、全身をしびれが包む。クルペッコが咆哮し終えたというのに揺れは止まる気配を見せない。それどころかどんどんと揺れが大きくなるように感じた。

 

 まずい。これは揺れではない。秋人が気づく。

 しかし時すでに遅し。壊れた廃屋を破壊して現れたのはティガレックスだった。

 

 ティガレックスはアイラと秋人を吹き飛ばすと辺りを見渡す。そして一匹のクルペッコに気づく。ティガレックスはクルペッコを目の片隅に置くとハンターとクルペッコを見比べ、そしてハンターたちに襲い掛かった。クルペッコとは比べ物にならない圧倒的暴力が二人を襲う。

 

 とっさに盾を構えたものの、足の堪えが足りずアイラは家壁に叩きつけられた。

 

 突如現れたティガレックスの存在によって形勢は逆転した。加えて突進によって前衛のアイラと秋人は大きな深手を負う。深手といっても戦闘は続行できるほどのものだ。しかしクルペッコならまだしも、万全でもティガレックスが相手では勝ち目はない。

 

 いま考えることのできるもっとも最善な手は一つ。撤退だ。しかしこれには問題がある。全員で島から脱出しようにもティガレックスを撒けるほどの手段は持ち合わせてはいない。全員は逃げられない。誰かティガレックスを食い止めなければ。

 

 秋人は考えた。そして答えを口にする。

 

「撤退だ。アイラ、ジェイとユキを連れて港まで走れ」

「秋人はどうするの!?」

「お前らが逃げた後にすぐ追いつく。任せろ、女を抱くまでは死ぬ気ない」

「そんなこと言っても、今の状況じゃ………ひとりで二匹を相手にするなんて無茶だよ!私も残る」

「お前じゃ足手まといだ!無駄死にして結局全滅する。いつ奴らが攻撃してくるかわからないんだ!いいから早く行け!」

 

 秋人は怒声交じりにアイラに言った。

 

「分かった。絶対戻ってきてよね」

 

 アイラは秋人の背を見つめ、その瞳にたまる涙をふくと走り出した。

 ユキは抵抗し何度も何度も秋人の名を呼び、彼の下に向かおうとする。そんな彼女をジェイとアイラは必死に抑え、連れていく。

 

 残った秋人は溜息を吐くと太刀を構えた。

 

「なぁ、クルペッコ。聞きたいことがある。一つ冥土の土産に聞かせてくれないか。なぜお前達、いやお前はこんなことをするんだ?」

「なぜだと?愚問だな。お前達ハンターが理由もなくこちらに危害を加えたからに決まっておろう。ここは本来我々自然界に生きる者の楽園だったというのに、人々が住まい初めてからいつしか自然界のバランスが崩れ始め、ハンターたちがのさばるようになった。ここにいる者達は皆、子を父を母をハンターに狩られた者達だ。彼らもそして我も我慢の限界だったのだ。皆復讐の一心で我の呼びかけに応じ、今この場に集ったのだ。この現状は誰でもないお前たちが招いたものだ人間」

「………そうか」

 

 秋人は咆哮を上げティガレックスへと切りかかっていくのだった。

 

 

 

 

 アイラは島を後にした。船には秋人の姿はなかった。

 



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最終話

短いながらも無事完結させることができました。
これも多くの人に見ていただけ、モチベーションを上げることができたからです。
本当にありがとうございました。

次回作は艦これを予定しています。もしよろしければそちらもご覧になっていただけると幸いです。

ありがとうございました。


 

 孤島の最悪から日をまたいだ次の日。

朝刊のトップ記事には既に孤島での惨劇が取り上げられていた。現在ハンターズギルドの報告で分かっているだけでも死傷者約70名以上、及び行方不明者約14名。

今回の騒動では過去類を見ないほどの被害をたたき出しただけでなく、比較的安全で危険度の高いモンスターがいないと言われ、多くのハンターたち定番狩スポットとして名高かっただけあって驚きの声が大陸各地で湧き上がっていた。

 

 事態を重く見たハンターズギルドは古龍観測所の気球を例外的に調査に向かわせた。

観測員によれば、狩場と村を隔てていた門は無残にも破壊され、村には種族を問わず飛竜種・鳥竜種・牙竜種・獣竜種といった多くのモンスターがばっこしているという報告と共に悪い知らせがギルドの耳に入った。

 

 まだ村に人が取り残されている。

 

 弱り目に祟り目。ハンターズギルドは大きく頭を悩ませた。

モンスターの規模もわからない、負傷者の手当てが追い付いていないといった現状の収拾がついていないまま、孤島にハンターを送り込むというのはあまりにも愚策。無意味にも犠牲を増やしかねない。かといってこのまま生き残りを見捨てさえすれば、ハンターズギルドに対する世論の反応は容易に想像がつく。

 究極の選択に各々が各々の意見を主張する。議論は一向に進む気配を見せはしない。しかしその間にも生き残りの命は刻一刻と削れていく。

 

 長きに及ぶ会議の結果ギルドは救出兼孤島奪還作戦を計画した。

 

『孤島救出奪還作戦』

条件:孤島に取り残された人々の救出及び、モンスターの撃退

目的地:孤島<昼>

依頼主:ギルドマスター

内容:皆も周知のとおり、先日孤島の村がモンスターによって壊滅的被害を受け、調査員を派遣したところ村にはまだ取り残された人々がいることが発覚した。我々ギルドは彼らを見捨てるなどということはできない。勇敢なハンター諸君、ぜひ君たちの手を貸してくれ。

 

 ギルドは犠牲よりも世論の反応を危険視したのだ。

 

 すぐさま依頼書は各地の依頼板へと張り出された。それを目にした正義感の強い者、仲間を失い復讐に燃える者、取り残された者を救いたいと願う者、それぞれ違った思惑の初級・中級・上級・G級ハンターがそれぞれ名乗りを上げた。

 

 ギルドの依頼に応じたのは総勢100名のハンター。各階級のハンターが入り乱れて集まる。その中に一人アイラは参加していた。しかしその表情はどこか浮かない表情をしていた。オトモアイルーのニコは心配そうにアイラを見つめると口を開く。

 

「ハンターさん、大丈夫かニャ?」

「ん、え、あぁ、うん。大丈夫、大丈夫。ありがと」

 

 顔に出ていたかと無理に笑顔をつくる。しかし心情は複雑だった。

「あなたが逃げ出さなければ、秋人は死なずにすんだ!なんで秋人が死ななければならないの!あなたが死ねばよかった!!!」

アイラの中でユキの一言が深く心の中に突き刺さっていた。

 

 秋人がクルペッコに敗れ帰らぬ人なって以降、ユキの行き場のない怒りと悲しみがアイラを襲った。抵抗しないアイラ。それがまたユキの怒りを駆り立てた。

 あまりの暴力と怒声にジェイとその他の周りの者にいた者に押さえつけられ、その場は程なく済んだが、それ以降ユキの心にぽっかりと穴が開いたかのように抜け殻状態になってしまった。医師曰く精神的にまいってしまったらしく、いまは何か言われない限り食事もとらないほどの精神状態らしい。

 

 そんな彼女がアイラをより一層苦しめた。それでもアイラはここでハンターをやめるわけにはいかなかった。立ち止まるわけにはいかなかった。秋人のためにも村の人のためにもクルペッコを討たなければ負の連鎖は止まらない。やめるのならそれからでも遅くない。アイラは嫌な気持ちを振り払うと乗船し孤島へと向かった。

 

 

 

「島が見えたぞ」

 

 船頭が言う。船首にハンターが集まった。そして皆が皆言葉を失う。

 今なお経ち込める黒煙。物が焼け焦げた匂い。血と歯肉の匂い。モンスターの咆哮。地響き。島に近づくにつれ惨劇の全貌が露わになる。被害は村全体に及んでいた。

 

 壊れかけの港に何隻もの船がつける。総勢100名ものハンターが島に乗り込んだ。各々が怒声や雄叫びで自分を奮起し、村に散らばる。それと同時に村のあちらこちらでモンスターの咆哮が響き渡り、地響きがより一層強くなった。

 

 のちに語り継がれるモンスターとハンターたちの戦争の火ぶたが落とされた。

 

 

 

 

 

 アイラとニコは船を下りると村の奥へと門を目指し、先頭を切ってモンスターの中に切りかかっていく。襲い来るジャギィやルドロスの攻撃をひらりとかわし、的確にのど元へと獲物を突き刺す。蝶のように舞い蜂のように刺す。避けてた突き刺し避けては突き刺す。彼女は恐怖を切り捨てた。もう何も怖くない。失うものは自分だけ。もう誰にも迷惑はかけない。不思議と体の重荷が消え、アイラは思う以上の動きができていた。

 

 そんな彼女の前に立ちはだかるのは昨日のティガレックス。アイラは足を止める。自然と片手剣を握る手に力が入る。両者お互いの力量を見定める。しかし誰が見ても力の差は歴然。先に動いたのは圧倒的力量を保持するティガレックスだった。大きく口を開き、その柔肌を装備事かみちぎろうとアイラとの距離を詰めていく。

 

 避けれない。ならばいっそのこと。アイラもまた距離を詰める。ティガレックスが大きく口を開いたその時アイラはティガレックスの腹へとスライディングで滑り込む。空を食らうティガレックス。ティガレックスはアイラを見失った。

 

「秋人の敵!死ね、糞トカゲ!」

 

 アイラは片手剣を肋骨の隙間へと何度も何度も突き刺す。突然の痛みに暴れるティガレックス。アイラは必死に剣を深くまで差し込みしがみつく。

 吹き出す血しぶきがアイラの全身を包む。全身の血液が流れだし、動きが鈍っていくティガレックス。やがてその場に倒れた。その呼吸は荒い。アイラは確実にと腹から剣を抜くとのど元に剣を突き刺しとどめをさした。

 

 ティガレックスという強者に勝利したアイラは勝利の美酒に酔うしれたいところだったが、それは叶わなかった。アイラの目の前に両翼を大きく広げ、一匹のモンスターが降り立つ。そして一言。

 

「どうやら一皮二皮剥けたようだな人間」

 

この発端の現況、クルペッコが降り立った。その声音はどこか嬉しそうだった。

 

「………クルペッコ。あなたを倒せば彼らは、モンスターたちは止まるの?」

「我が配下の者は退却を始めるだろう。そうすれば散らばった戦力を集めることは可能だ。我を倒せればの話だがな」

 

 アイラは武器を構えた。クルペッコは両翼を大きく広げた。

 両者ともこれ以上の話し合いをしたところで事は進まないことを理解している。どちらかが死なない限り、この戦いは終わらない。

 

「楽しませよ、人間!」

 

 アイラはクルペッコに切りかかる。合わせてニコは死角へと回り込む。

 

 クルペッコは避けようとはせず、火打石を振り上げた。片手剣の刃先がクルペッコの腹部に深い切り傷を残す。クルペッコは火打石を振り下ろす。アイラは腰を低くし盾で防ぐも、あまりの衝撃に膝を地面に落とした。

 

 そこからはお互い一糸乱れぬ動きで繰り広げられる死闘。痛み分けに続く痛み分け。ニコには付け入る隙がなく、無理でも参加すればアイラの邪魔になることは目に見えていた。もはやニコはただ茫然と立ちすくみアイラの勝利を祈ること以外出来なかった。

 

 アイラ、クルペッコ共に距離をとる。両者とも傷だらけで呼吸も荒い。本来なら既に意識を失っていてもおかしくはない。それほどまでにボロボロだった。お互いが思考を巡らせる。もって次が最後。なら今持てる力を次の一手にすべて注ぎ込む。

 

 アイラとクルペッコは同時に地面を蹴った。

 

「はぁぁぁぁぁ!」「Gaaaaa!!!」

 

 アイラの斬撃がクルペッコを捉えた。

 クルペッコは血を流しながらもアイラの右腕をかみ砕く。骨の砕ける音が響く。

 

「腕の一本ぐらいくれてやる!冥土の土産にもってけ!!!」

 

 アイラは片手剣を左手に持ち変えるとクルペッコの心臓めがけて剣を突き立てた。

 

「見事なり」

 

 クルペッコの身体は揺らぎその場に大きく倒れ込む。アイラもその場に膝をついた。

 

 勝敗は決した。ニコは慌ててアイラの下に駆け寄るとありったけの回復薬を飲ませた。体の切り傷や擦り傷は見る見るうちに消えていく。しかし砕かせた腕は元には戻らない。傷が深すぎるのだ。

 アイラは治療したところで右腕がもう動かないことを悟った。

 

 アイラは立ち上がるとクルペッコの前に立つ。クルペッコの呼吸は荒いながらもまだ息はある。しかし動くほどの気力はもう持ち合わせてはいなかった。

 

「見事だ、小娘まさか腕を捨てて―――………なぜ泣いている?うれし泣きというものか?」

 

 アイラは目元から体力の涙をあふれさせていた。

 

「違う。違うよ。あなたほどの知能を持ち合わせたモンスターなら、きっと私たちは友好な関係を築けたはず。なのに私がその可能性を考えもしなかった。私がこの結果を招いた。最初にあなたに会った時、呼び止めてさえいれば話してさえいれば、私たちは争うことはなかった」

 

「なにを言うかと思えば………お前だろうとなかろうと結果は変わらなかった。お前の責任ではない。ただ我々はお前たち人間にも知ってほしかった。モンスターにも我に及ばずとも知性があり、家族がいることを。怒り、悲しみ、復讐する気持ちがあることを。モンスターは人間に狩られる存在ではない、狩る存在なのだと。だから行動を起こしたまでだ。そして我は負けた。ただそれだけだ」

 

「私たちはこれからどうすればいいの?」

 

「いま我が言ったことを広めろとは言わん。せめて心にとどめておいてくれ。それが我の願いだ。………もう長くはない。せめて最後にお前とアイルーの名前を教えてくれ」

 

「私はアイラ。この子はニコ」

 

「アイラ。それにニコ。いい名だ。………良き死に場所を得た。こういうことかロアルドロスよ」

 

 そうしてクルペッコは息を引き取った。

 

 〇

 

「なぁ、片腕の女片手剣使いって知ってるか?」

「片腕の片手剣使い?なんだそれ。どうやって片腕で片手剣なんて使うんだよ」

「それが専用のオリジナル片手剣装備で手で剣を握って、前腕部分に盾を装着して狩りするらしいんだ。それでその人めっちゃ可愛くて強いらしいんだよ」

「へぇー、世の中にはそんなすごいハンターもいるんだな」

「そうなんだよ。しかも無駄な殺生は好まないらしくてさ、モンスターに力の差と自分の狩の縄張りを教え込ませることで近づかないようにさせるんだってさ。だから武器もモンスターを殺さないようにいつもペッコの片手剣を使っているらしいぜ」

「すげーな、それは」

「おっと時間だ。行こうぜ」

「おう」

 



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