水銀ロールで噂のVRMMORPGをプレイ 《SAO編》 (獣の爪牙)
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第1話 プロローグ

今作は水銀濃度は薄めお送りいたします。
「もっと水銀らしい水銀が読みたい!」
「こんなの水銀じゃない!これは水銀に対する冒涜だ!」
と言う方々はブラウザーバックなりファックなり行ってください。
読み進める内に慣れると思いますが、他オリキャラ達も基本的にキャラが崩壊しているので気にしないでください。

 なお作者はdies iraeは先輩ルートまでプレイ済み、SAOも19巻まで読了しておりますが、読み返したり、プレイし直したりはしていないので、グッグッてもわからない設定などがあった場合てきとうにでっち上げて物語を進行させて頂きますのでご了承お願いいたします。
 誤変換、誤用、などなど間違いがあった場合は感想などで教えていただけると助かります。

 以上、ご理解ご協力をお願いいたします。


 開発者茅場によって命を賭けたデスゲームと化した、世界初のVRMMORPGソードアートオンライン(以下SAO)。

 脱出方法はただ一つ。ゲームのクリアのみ。

 そんな現実味のないSF映画さながらの現実に、死亡者は続出。

 現時点で日本国内で起きた戦争以外での、テロ活動による死亡者数はSAOが更新中である。

 ゲームをクリアできなければ死ぬしかない。

 そんな極限状態に長時間置かれた一般人が、無事にこのデスゲームから生還出来たとしても、果たして社会復帰出来るまでにどれほどの時間と資金、労力がかかる事か計り知れない。

 この一大事件は歴史に名を刻むと同時に、 日本と言う国に大打撃を与える事になるだろう。

 

 ……などと、柄にも無くセンチメンタルな気分に浸りながら「俺の将来はどうなるんだか……」などと呟きながら、ギルドホームのメイルホールに置かれた「円卓」に備えられた十三の席の内、十三と書かれてある席に座りながら思う。

 無事にこのデスゲームをクリア出来た所で、現実世界に戻ればただの高校生のこの身では、どうすることも出来ないだろう。

 「原作知識」として、このデスゲームがクリアされる事も知っているし、このデスゲームの参加者には社会復帰の為に国からの援助などもあることも知っている。

 だからと言って不安がない訳ではない。

 「原作知識」には今の自分、SAO内のアバター「Silver」が無事にゲームをクリアする事が出来る保証などどこにも無いのだから。

 そうなればこそ、やるべき事はただ一つ。最低限の生活水準を整え、現実世界と相違ない生活をこのゲーム内で送りつつ、デスゲームSAOがクリアされるのを待っていればいい。

 

 そう、待っていれば良かったのだ……。

 

「カールよ、待たせたな」

 

 ギルドホームのメインホール、通称「円卓の間」の扉が開かれ、黄金の長髪を靡かせて、ひとりの男性プレイヤーが入室してきた。

 

「待ってなど居ないよ、獣殿。」

 

 通称「獣殿」。

 

「獣殿も黄金の獣もラインハルトやめておこう、今はただ唯一無二のGoldの言う名の一介のゲームプレイヤーに過ぎんよ。」

 

またの名を「ラインハルト・ハイドリヒ」「黄金の獣」。

数々の異名をもつ歴史上の偉人であるが、ここで言うラインハルト・ハイドリヒとは、歴史上の偉人の名ではない。

 「Dies irae」と呼ばれるノベルゲームに登場する悪の組織「聖槍十三騎士団黒円卓」の頂点に立つ男ラインハルト・ハイドリヒを指し示している。

 

「では以後はGold殿と呼ばせて頂くことにするよ。あなたも私の事はSilverとお呼びになるのがよろしいかと。」

 

「意地が悪いな卿は。まあ、他の者がいる場ではSilverと呼ばせてもらうことにしよう。」

 

 そして、この俺の名は「Silver」。またの名を「水銀の蛇」「メリクリウス」「トリスメギストス」「カールクラフト」など、数々の名を持つ有名なゲームキャラクターからイメージを拝借して作成したゲームアバターだ。

 もちろん元ネタは「Dies irae」に登場する組織「聖槍十三騎士団黒円卓」の首領ラインハルトの唯一無二の友人であり、真の裏ボス的存在であるメリクリウスである。

 

 Goldは円卓の一番と書かれた席に座ると、ホールの天井を見上げながら語りだした。

 

「今まで長かった。本当に長かったのだカールよ。

卿は知らぬだろうが、ここにたどり着くまで私は独りきり、最前線で攻略組に混じって、このデスゲームと化したヴァルハラ(SAO)を駆け抜けてきた。だか、やっと卿に出会えたのだ。これ程の幸福が有ろうか?このデスゲームを何度となく繰り返してきては無意味に終わったはまた繰り返してきた。もはや既知しか感じられなくなっていた。なんど第1層からやり直して来たか……。そんな中、今回のゲームで始まりの街で卿を見かけたときの私の感動が、卿には理解出来るか?出来ぬよ。いくら卿でもこればかり理解出来ぬさ。あのときの私の喜びは、まさにあの瞬間は今生で一番の歓喜であったであろう。しかし卿からすればさ些細な事であったのだろう。あのとき、卿は私を視界に収めながら、全くの感情をも面に出さず、さながら風景でも見つめるような(ry」

 

 獣殿がキャラ崩壊し始めたので、自分なりに簡単にまとめよう。

 獣殿ことGoldさんは、なんと転生者であり、さらには「やりなおし」のチートを神様から貰っている。いわゆる「神様転生者」である。

 だがそんな神様転生をしたGoldさんは、このデスゲームと化したSAOに二重の意味で捕らわれてしまった。何故なら、神様からもらったチートである「やりなおし」のセーブポイント的なものが、SAOの真のオープニングである、開発者の茅場からのデスゲーム宣言で固定されてしまったからである。南無。

 そんな中、クリア前に幾度となくHPが全損して何度もこのデスゲームをやり直していたら、ある時に俺こと「Silver」を始まりの街で見かけたらしい。

 Goldは今までのやり直しで、ほぼ全てのプレイヤーの顔と名前を覚えていたらしいが、Silverのアバター、俺を見るのは初めてだったらしい。

 そこでついに、この「やりなおし」に終わりが見えた!との事を大袈裟に感動している。

 まあつらかったのだろう。何度も同じ事の繰り返しは本当につらかったのだろう。想像力豊かな自分なら、そんな事が自らの身に起きとなれば、発狂していたかもしれない。

 

「……そして今、ついにこのギルドが完成した!」

 

 どうやら熱の入った身の上話が終わり、ついに俺がこの場に呼ばれた理由を説明していただけるらしい。(ここまで三十分)

 

「卿にはこのギルド『聖槍十三騎士団黒円卓』(以下、黒円卓)の副ギルドマスターになって貰おう。もちろん拒否や否は認めない。コレは既に決まった事だ。もし逃げようものなら、次の周で、また次の周でも、私は卿を探し出し、このギルドを創設し副ギルドマスターへと誘う事になるであろう。」

 

 ……何このヤンでる獣殿は?もう本当に「やりなおし」し過ぎて本当に病んでしまっているのだろうが、まさか高々自分と同じ転生者を見つけたくらいでここまでの事になるとは。誰が想像出来たであろうか?想像を超えて誰かに「創造」されてしまったのであろうか?

 もう一周回ってホモい獣殿になってしまわれたGold。憐れみを抱くが最後、「愛」によって破壊されてしまうかもしれない。主に俺のお尻が。

 そんな危機感を抱くほどに、この獣殿は病んでいた。

 

「獣殿、心配なされるな。私は逃げも隠れもしないよ。副ギルドマスターへの誘い、喜んで承るよ。共にこの『永劫回帰』を超越せしめようではないか。」

 

 とりあえずノリノリで答えて置いた。これ以上Goldさんが、獣殿の姿で病んでいくのを見ているのは、「Dies irae」の一ファンとしてなかなかに堪える物がある。はっきりいって見ていて辛い。あと尻が狙われそうで怖い。本当に怖い。何度やり直そうとも獣殿の姿で追いかけ回されるのだよ?キリト君がゲームクリアするまで逃げ切る自信はない。

 

「卿ならそう答えてくれると思っていた。さあ、共にこの永劫回帰を終わらせに行こう。」

 

「然り。

 ところで獣殿、他の円卓のギルドメンバーはどこかな?私はここに来るまでに誰ともすれ違わなかったのだか?クエストにでも出ているのかな?」

 

「ああ、残りのギルドメンバーはな。今最前線の迷宮攻略に6人ほと、後は各々が所要で出掛けている。

 今は二人きりだカールよ。」

 

ーーー獣殿からの視線が熱を帯び始めた!ーーー

 

 ……何故だろう。選択肢を間違えたかもしれない。

 

 何はともあれ、「水銀ロールで噂のVRMMORPGをプレイ」開演。




???「隊長、あれ何ですか?」

???「空席であった副ギルドマスターのSilverだバカ娘。昨日ギルマスが言っていただろう。鶏が貴様は」

???「いやそうじゃなくて、何かギルマスの視線が熱を帯びてるっていうか、何ていうか。ホモい雰囲気を感じます。てか鶏って何ですか!?酷いですよ隊長!こんな美少女に向かって鶏だなんて!私のファンクラブがあったら闇討ちされてますよ!?」

???「いつもの悪ふざけであろう、本気にするなバカ娘。あと貴様のファンクラブなどない。これは情報屋アルゴに調べて貰った確かな情報だ。それよりも覗き見などくだらん事をやってないで買い出しに行くぞ。面倒な女が帰ってくる前に。」

???「あら、その面倒な女って誰の事かしら?もしかして私の事かしら?」

???「あっ、おはようございます!迷宮攻略の方、今日は終わりですか?」

???「ちっ、随分と早いお帰りだな。まさか攻略に手こずって逃げ帰って来たのではあるまいな?」

???「いやねもう、ちょっとは信用してくれないかしら?これでもちゃーんとボスエリアまで迷宮の地図を埋めて来た所よ。予想より早くボスエリアまでたどり着いたから、今日は早めに切り上げて来たところ。他のメンバーは情報屋系のギルドへ地図をもって行ってるわ。」

???「ふん、なら良い。まあ近々迷宮ボス攻略か。味方の攻撃に巻き込まれて全損して死なないように気をつけておけよ。行くぞバカ娘。」

???「はいはい。本当に仲悪いですねお二人。この先不安ですよ。ギルマスと新しい副ギルドマスターを見習ってくださいよ。ほら、二人ともなんか抱きしめ合って……。え?」

???、???「「……ッ!?」」


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第2話 ギルドメンバー(前半)

 あの後副ギルドマスターになってから、なんかGoldさんから抱擁を受けたが何もなかった。……何もなかったよ?本当に。

 副ギルドマスターになったは良いけれど、俺は戦闘に関してあまり役にはたたないだろうから、副ギルドマスターとしてやれる事と言えばギルドの経営管理なんかだろうな。

 

 などと考えながら、「円卓の間」からGoldさんが出て行くのを見守りながら、俺はこのギルドでの自分の副ギルドマスターとしての職務に付いて考え初めていた。

 入らざる負えない状況だったとはいえ、さすがに副ギルドマスターにされてしまって何もしないのは、自称とはえい「水銀ロール」としては有り得ないだろう。既に俺は現時点で一般ピープルなクリア待ちプレイヤーから、迷宮攻略組での「聖槍十三騎士団黒円卓」のメンバーにして副ギルドマスターなのだから!……あぁ、お腹痛い。

 

 グダグダ考えていてもキリがないので、先ずは普通にギルドと財産とか、倉庫なんかを見ておこう。

 

 ギルドの「聖槍十三騎士団黒円卓」の名前の通り、ギルドメンバーはメインでは俺あわせて十三人と、あと準ギルドメンバーが数人しかいないから、そんなに大変じゃないけど、この少人数でこの大きなギルドホームを維持し続けるのはなかなか大変であろう。気合いを入れなければ。

 などと思いながら、ギルドの貯蓄などを見ているのだが、おかしい。物資や資源、貯蓄されているゲーム内通貨などが、ギルドの規模と釣り合わないのだ。

 明らかに多い。多すぎる!桁が明らかに多い!

 先ずはポーション類や結晶系アイテムなどの迷宮攻略組にとっては命綱となるHP、状態異常回復アイテムがスタック単位で列を作っている。しかもかなり希少価値が高い転移系アイテムが1スタックも保管されている!これはヤバい!こんなの他のギルドにバレたらこのギルドは潰されるぞ!?この転移系アイテムを他のギルドに売り払うだけでもゲームクリアまでこのギルドホームを維持し続ける事が可能であろう。まあ、途中から値崩れを起こして安くなるであろうが、転移系アイテムの供給が上がれば、最前線の攻略組の死亡率も下がるであろうし、必然的にゲームクリアまでの時間を短縮することも出来る訳だし。

 Goldさん、いや流石獣殿ですわ。きっと某運命に登場したらどこぞの金ピカのように「コレクターA+」くらいのスキルが得られるであろう。

 次に装備類だ。現状の最前線でも通用する、全ての武器種と防具が予備を含めて一人三つづつ確保しても、メインメンバーが十三人と数人のサブメンバーしかいないギルドでは有り余る程の在庫を抱えている。それはもうげんなりする。もうお腹いっぱいです。

 そして極めつけはギルドの貯金だ。兆単位とか、国家予算規模の貯蓄があるのだか?如何に最前線で戦う攻略組ギルドであっても、ここまでの貯蓄はされていないであろう。むしろ減っていくばかりであるはずなのだ。迷宮攻略ではポーション類、結晶系アイテム、武器、防具、精神面を維持する為の食糧など、減り続ける一方である。

これは一つの迷宮攻略が長引けば長引けば程に減り続ける。筈なのだが……。まさかあの獣殿、某運命で言うところの「黄金律EX」とかも持ち合わせているのであろうか?もう獣殿だか英雄王だか区別付かなくなってきたな。

 流石「獣殿」ロールをするだけのことはある。リアルラックっというか、もうシステム外スキルといってもいいレベルである。きっとコレには茅場も呆れることであろう。きっとこのゲームを管理しているAIシステムのカーディナルも、バグと認識して修正に必死であろう。諦めようカーディナル君、我らが獣殿に常識は通じないようだ。きっと「愛(破壊)されている」のだよ。

 

 さて、もう備蓄とか財政とか全くギルドの運営を気にしなくて良いことの気がついた俺は、既にこのギルド内での自分の立ち位置を見失ってしまったのだが?いかが致そうか?やっぱり「水銀ロール」的には粘着ストーカーとかするべきであろうか?

しかしだ……。マルグリット以外にストーカーする水銀とかもう水銀じゃないよね?

 そんな訳で粘着ストーカーは却下。あとギルド内での立ち位置と全く関係ない!ただの趣味の領域だ。

 裏工作なんてどうだろうか?情報系ギルドやレッドギルドなんかを潤沢なギルド資金を用いて、場を引っ掻き回したり……。

 却下だ。そんな水銀らしいっちゃらしいけれど、あれだ。スケールが小さい。水銀ならもう宇宙単位で裏工作して宇宙単位で巻き込んで引っ掻き回すからな。せめてロールするならゲーム単位で引っ掻き回さないとな。まあやるとしたらこのデスゲームをクリアしたらだな。

ALOとかGGOでやろう!そうしよう!運営も巻き込んで!

 

 などと物騒な事を考えていたら、円卓の間の扉が開いた。

 入って来たのは青紫色の髪の女性プレイヤー。防具がシスターっぽいので、たぶん、いや十中八九あの方のロールを担当しているのであろう。

 

「はじめまして、副ギルドマスターさん。私はLizaよ。何だかギルマスにとある人に似ているからって、ギルドに誘われて入ったのだけど、アナタもその口かしら?」

 

 ……まさか天然でバビロンなのか?末恐ろしいなLizaさんや。

 

「はじめまして、私の名はSilver。この度はギルマスのGold殿から誘いを受けて、このギルド聖槍十三騎士団黒円卓にて副ギルドマスターに任命された。あぁ、仰々しい喋りや迂遠な物言い、腹立たしい言動などするのはロールプレイなどあまり気にしないで頂きたい。」

 

「そうなら気にしないでおくわね。正直アナタのその話し方、どことなく気に障るのだけど、やっぱりロールプレイの方が大事なの?ギルマスも正直アナタみたいに言葉が丁寧過ぎたり、面倒な言い回しを好むのよね。」

 

 天然バビロンさんのお眼鏡には叶わなかったようだ。まあこんな水銀ロールなんてしている変態に近づいてくるのなんて、元ネタ知ってる奴か、同じく同類の変態くらいだものな。……Goldさん?あれは元ネタ知ってるからだよ?変態じゃないよきっと。……ないよね?

 Lizaさんはそのまま円卓の十一番目の席に座ると、何やら中空に指を走らせ始めた。

 程なくして、システムメッセージでメールが一件届いた。Lizaさんからのフレンド申請である。

 

「同じギルド仲間だし、チャットとかメール使えないと不便でしょう?他のメンバーはそう言うの頓着しない人達ばかりだから、せめて私からはおくっておくわね。承認よろしくね副ギルマスさん。」

 

 ウインク付きである。コミュ力高いなこの天然バビロン。まじでリアルでも「大淫婦(ビッチ)」なのだろうか?……さすがに失礼だわ。

 もちろんフレンド申請を承認した。その後は他のメンバーがどんな人なのかとか、このギルドの現状を軽く教えて貰っていた。

 ……いたのだが、これはヤバい。このバビロンのコミュ力といいお母さん気質な所がヤバい。水銀ロールしてなかったら照れ臭くて返事に困る程に良い人であり、魅力的な女性であった。まあリアルで既婚者らしく、このゲームも旦那さんやお子さんとログインしているらしい。そしてその旦那さんもギルドメンバーらしい。予想は付く。羨ましいから、こんど挨拶変わりにとんでもなくマズいモンスター飯を食わせてやろう。リア充爆発しろ!ちなみにお子さんは二人で両方とも女の子何だとか、高校生何だとか。

 ……伯母ではなく母親なのか、このギルドのバビロン。

 

「じゃあそろそろ私は行くわね。午後から一層の協会で子供達にお勉強会を開く約束してるの。娘達もそこで預かって貰っているし、時間通りに来ないと長女が拗ねちゃうのよ。またねSilverさん」

 

 そう言ってにこやかな笑顔で、こちらの返事も待たずにLizaさんは円卓の間から駆け足で出て行った。走っている最中に胸がとても揺れていて大変素晴らしい。眼福ですな。旦那にはモンスター飯の刑を更に上乗せしておこう。

 

 さて、Lizaさんも行ったし、そろそろ俺も拠点に戻って、ギルドホームへの引っ越しをしよう。と思って円卓の席から立ち上がって出入り口へ向かって歩いてもいると、扉の外から何やら騒がしい声が聞こえて来た。

 気になっなって扉を開けるとそこには……。

 

「待ってよシロくん!走ったら危ないよ!」

 

「アハハ!お兄さん走るの遅ーい!アハハ」

 

「おい兄貴!年下相手に負けてんじゃねーよ!後でシバくからな!覚悟しておけよ!」

 

「そ、そんなー!?さっちゃん、別にこれ勝負じゃないよ!?」

 

「口答えすんじゃねーよヘタレ兄貴!つかマジでシロさん速っ!?ステ振りどんなだよ!?」

 

「アハハ!お兄さんもさっちゃんもおっそーい!僕が一番乗りだね!」

 

 ……白髪兄妹と白髪のショタっ子が仲良く駆けっこしてた。

 本来は微笑ましい光景の筈が、何故だかあの子達の見た目や所属ギルドのせいでか、あんまり楽しくない。むしろ怖いわ。特に妹が怖いわ。

 ……目が笑ってない。

 

 どうやらこのギルドのメンバーらしいが、もう予想は付いた。これは間違いなくアイツらのロールの担当であろう。

 シュライバーのロールがショタっ子で、エーレンブルグ兄妹のロールがあの妹の尻に引かれてる兄とその兄を尻に引いている妹なのだろうな。エーレンブルグっていうか、凶月兄妹に近いわこれ。

 それにしてもGold殿。まさかドラマCDまで知っているとわな。なかなかのDies愛である、もう「愛(破壊)」し過ぎて原作プレイ者でもわからない程にカオスな雰囲気である。あの鬼いちゃんと鬼畜ショタが追いかけっこしてるんだよ?かなり上級者向けの場面である。流石の水銀ロール中でも思考が停止した。停止したせいでショタっ子の激突を腹で受ける事になった。

 

「どいてどいてー!」

 

「ゴフッ!?」

 

「「……アッ!」」

 

 ショタっ子ミサイルが激突。Silverは悶絶した。

 ここ圏内だよね!?なんで痛いさ!明らかにレギュレーション判定おかしいでしょ!カーディナルさん仕事してる!?

 HPは減っていないが、明らかにペインアブソーバーのレギュレーション判定を無視した痛みによって、俺は床に倒れた。

 

「やっばい。この人あれでしょ?今日ウチらのギルドの副ギルマスになった人。ヤベーよ兄貴、お小遣い減らされたらお前のせいだからな!」

 

「ちょっ!?さっちゃん?なんで僕のせいになるの!?明らかに今のはシロくんが激突したのが原因でしょう!?」

 

「うわっ!お兄さんひっどーい!こんないたいけな少年に罪を被せて逃げる気なんだ!それって年上としてどうなのかな?ねーさっちゃん?」

 

「マジでないわー、兄貴それはないわー。アタシ兄貴はヘタレだし普段は頼り無いけど、こういう時には頼れる立派な兄貴だって思ってたのにさ。兄貴にはガッカリだよ」

 

「「マジでないわー」」

 

「ちょっとこんな時ばかり頼らないでくれるかな!?お兄ちゃんは妹に嫌われていて悲しいよ!シロくんも便乗しないで!」

 

 容赦ねーなこのショタと妹!ガチで実の兄貴に罪をなすりつけにいく妹と、便乗するショタっ子にお兄さんの心はボロボロだよ?

 なんかみていて面白いので、しばらく倒れていようかと思っていたが、白髪のお兄さんが可哀相になって来たので立ち上がる。

 

「あぁ、気にしないでくれたまえ。事故なんだ、仕方なかろう。それよりも君達はこのギルドのメンバーで良いのかな?あとお小遣いとか減らないからお兄さんに罪をなすり付けるのはおよしなさい。見ていて、あぁ、なんと言うか、哀れだ。」

 

「良かったな兄貴、副ギルマスが優しい人でよ。お前のお小遣い減らないってよ!」

 

「良かったねお兄さん、副ギルマスが優しい人で、お兄さんのお小遣い減らないってさ!」

 

「なんで僕が悪いみたいに扱われているのかな……?もう泣きたい。」

 

 もうお兄ちゃん弄って遊ぶのはやめなさい!俺もなんか楽しくなってきて収集付かなくなりそうだから!マジで!

 そんな願いが届いたのか、彼等は自己紹介をし始めた。

 

「ボクの名前はSiro。シロって読んでねぼろ雑巾のお兄さん。戦闘面では主に遊撃、迷宮攻略では斥候をしてるよ。あとこんな見た目だけど一応は高校生だし、男だからね?まあボクとしては男の人が相手でも問題ないけどね?今夜あたり一緒に寝るかいお兄さん?」

 

 ぼろ雑巾のお兄さんとは、まあ間違ってはいないけどもう少し気を使えよショタっ子や。

 今自己紹介してくれたのはシロ。俺のどてっ腹に神風ミサイルしてきた男の娘である。かわいい、けれどウゼーな!水銀ロールしてる俺が言うのも何だが、ウゼーな!参考にさせて頂きますそのウザさ!

 この子「転生者」なんじゃなかろうか?ほら、TS転生して男と男のグッチョングッチョンになりてー!ゲヘヘ!って感じの腐女子とかならあり得そう。そう思っておこう。そうでもないと辛い。もし何かの間違いで手を出したり出されたりしたときに、心は女の子だから的な……無理だわぁ、ないわー。

 要注意人物シュライバーのロール担当者が変態でした!

 

「アタシはSakura。さっちゃんって読んでいいのは姐さんと兄貴と年下の男の子だけだからな!呼んだらぶっ殺すから!あと戦闘はシロと一緒の遊撃と斥候がメインだから夜 露 死 苦!」

 

「すみません身内が。僕はK。みんなからはケイって呼ばれてます。戦闘では主にダメージディーラーとして最前線で戦っています。こんなナリですが、あの、その是非仲良くしてください。」

 

 改めてカオスな顔ぶれだある。シロくんがまともに見えるほどの摩訶不思議空間が「形成」されそうである。イェッツラーしたの誰だよ。はえーよ。まだメンバー半分も残ってるのだよね?カオス過ぎるだろこのギルド!まだ原作の「黒円卓」の方が普通に感じる程の違和感だ。異常者が普通になると異常者の時の方が普通に思える不思議である。とは言っても、この兄妹は普通に天然でこんな感じなのだろうな。ロールにしては兄の必死さとリアルな涙が物悲しい。仲良くしてあげよう。水銀ロールの筈なんだけど、他のギルメンのキャラ濃すぎてロール仕切れないね!原作通りに影が薄くなりそうです。結果的に水銀ロール可能?嬉しくないような……。

 

「私は今日副ギルマスな任命されたSilverというものです。どうぞ、よろしく、お願いするよ。」

 

 ギルメンはまだ半分以上残っているのに、既に疲れたよ。

 Gold殿よ、ギルメンが濃すぎて辛いよ。

 

 

 ギルドメンバー残り半分以上!果たしてSilverの精神は保つのか?

 第三話 ギルドメンバー後半へ続く!

 




???「そう言えば隊長、私達って何をしにきたんでしたっけ?」

???「バカ娘が、本当に鶏か貴様。ギルマスに頼まれた事を既に忘れたのか?副ギルマスの歓迎会をやるから、料理用の食材の買い出しに来たのであろうが。」

???「あぁそうでしたそうでした!って鶏って何ですか鶏って!?こんな美少女に向かって鶏ってのてはないでしょう!」

???「事実てあろうが。三歩も歩けば先ほどの事など忘れておろうが貴様は。それよりも、買う物は覚えていような?」

???「ええっと、なに買うんでしたっけ?確かギルマスからメール貰っていたんですけど……あれー?」

???「もういい、貴様は黙って私に着いてこい。鶏頭のバカでも荷物持ちくらいは出来るであろう?」

???「うわっ、酷いそんな言い方無いですよ隊長!私だって女の子何ですからね!そりゃーちょっとは頭悪いですし、物覚えも悪いかもしれないですけど!」

???「ウルサい、あまり人通りの多い通りで喚くな。貴様は恥と言うものを知らんのか?貴様のような恥知らずが女の子とは、世も末だよ。あと貴様、三十路手前の分際で女の子気取るな。そういうのが一番恥ずかしいと分からんのか?あのアンナと同類のようだぞ。」

???「グハッ!?隊長最後の一言が一番心に刺さりました。さすがにあれと一緒は嫌です。隊長やリザと同級生でお子さんいて『アレ』ですからね。」

???「そうだな。しゃべらなければ外見だけはいっちょ前に仕立ててあるから無害に思えるが、『アレ』はないだろうよ。正直、同級生というのも恥ずかしい限りだ。お前は『アレ』だけには似てくれるなよ?」

???「ちょっとアンタ達!人の事ボロクソ言ってんじゃないわよ!私だってアンタみたいな真面目なだけが取り得の堅物と同級生だなんてお願い下げだわ!」

???「あれアンナさん、情報屋の所に言ってたんじゃ?」

???「もう用事は終わったわよ。てか、露骨に話を逸らしてんしゃないわよ!ちょっとアンタ、後輩の教育がなってないわよ!それでも教育者なわけ?聞いて呆れるわ!」

???「黙れよアンナ、煩わしいぞ。用事が済んだのならコッチを手伝え。荷物持ちは多くても困らんからな。」

???「キーーーー!む か つ く !アンタのそういう所が昔から嫌いなのよ!私の息子の担任だからって粋がってんじゃないわよ!?」

???「さて、行くぞバカ娘。そこの痛いロリババアは貴様が引きずってこい。」

???「無視すんなやゴラ゛ー!誰がロリババアじゃー!」

???「アンナさん落ち着いて!武器しまってください!」



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第3話 ギルドメンバー(後半)

 ギルドホームを出だ俺は真っ直ぐに自分の拠点へ向かっていった。

 シュライバーのロールのシロくんや、エーレンブルグ(血染花)兄妹ロールの二人にSAN値をだいぶ削られたが、まだ大丈夫だ。ギルドホームを出るまでにあの三人以外とは出会わなかった。今ならまだ他のメンバーと会わずに済む。

 次にギルメンに会うなら、せめて拠点の片付けが終わってからにしてほしいね。切実なる願いだよこれは。疲れる。

 

 自分の拠点がある街へ転移するために、ギルドホームから街の真ん中まで来たのだが、何やら騒がしい。……まさかな。

 淡い期待を抱きつつ、その騒ぎの中心になっている広場を避けて通ろうした時に、人垣の隙間から中心が見えた。そして淡い期待は裏切られた。

 前世で見覚えのある背格好の二人が、決闘をしていた。

 

「稽古を付けてやるバカ娘。さっさとかかってこい。」

 

「あったま来た!いつも年上ぶってバカ娘バカ娘って!私はバカじゃありませんー!!隊長こそ年増でバツイチじゃないですか!そうやって生真面目でお堅いから逃げられるんですよ!」

 

「ッ!?貴様は、どうやら死にたいらしいな。良いだろう、一撃決着にしてやろうとも思っていたが、やれやれ。全損をかけて本気の殺し合いをお望みのようだなバカ娘!」

 

「受けて立ちますよ隊長!後で泣き言いっても聞いてあげませんからね!」

 

「行くぞバカ娘!簡単に死んでくれるなよ!」

 

「はっ!こっちの台詞ですよ!」

 

 赤い長髪の直剣使いの女プレイヤーと、金髪ポニテのレイピア使いの女プレイヤーが罵詈雑言を言い合いながら決闘をおっ始めた。

 見るからに身内ですね、ウチのギルドメンバーですねわかっておりますとも。

 しかし、ふむふむ。ちょっとヤバい気がしてきたぞ。まだ騎士として「名乗り」を上げてないからガチの中のマジな殺し合いじゃないとは思うけれど、止めおこうかな。あと、赤い長髪のザミエルのロールの人。バツイチなのか。ドンマイ!

 さて、今にも決闘の申請をイエスしそうなベアトリスのロールの方を止めようか。

 

 人垣を掻き分けながら進んでいくと、二人の間にピンク色の長髪の小さい女の子(じゃない気がする)が、二人を諫めようしていた。

 

「ちょっとアンタ達!こんな人通りの多い広場で決闘なんて始めるんじゃないわよ!あと全損は流石にダメでしょ!?」

 

 アンナちゃん(?)ロールの人がアタフタしている。微笑ましい光景のハズが、何か見落としている気がする。まあいいか。

 かなり周りでも煽り始めている。そもそもこんな空気では二人も引くに引けないだろう。やはり羽交い締めにでもして無理やり落ち着かせなければ。

 人垣を抜けた俺は、とりあえず一番近くにいたザミエルのロールをしている人に声を掛けようとした。

 と、その時ーーー。

 

「ーーーちょっと待ったぁー!!そこの二人とも落ち着きたまえ!」

 

 熊を模した全身甲冑を装備した大男が、二人の間に落下して来た。

 スゲーよ。全身甲冑が隕石みたいに落ちてきたぞ。いったいどんなステータスとスキル構成で成り立つんだ!システム外スキルか?いやいや、たぶん高い所から飛び降りたんだろうな。そうとしか思えない。

 全身甲冑の男による、破天荒な登場っぷりに激昂していた二人も流石に呆けている。アンナのロールの人なんて自分の真横に落下してきたもんだから腰を抜かして尻餅ついてる。あとパンツ見えそう。

 一触即発の空気を打ち破った猛者は、一体ダレなんだ?どこのギルドの人なんだ?結構に立派な全身甲冑装備だし。たぶん攻略組の一員ではあると思うのだが……。

 そんな俺の疑問は、すぐに晴れる事になったーーー。

 

「みんなコレを見て落ち着くんだ!

 

 凄く 一撃必殺です/// 。

 

 マッキーーーー、スッマーーーイル!」

 

ーーーウチのギルドメンバーでした。

 

 全身甲冑の熊の顔を模した兜を脱ぐ事によって放たれた、溢れんばかりの笑顔は、数秒前には殺伐としていたこの場の空気を殺し尽くした。これがあれか、無間黒肚処地獄か。顔を見ただけで(空気を)殺すとか、最強だわ。

 

「あれ、俺滑った?やっちまったなぁー!ワハハハハっ!」

 

 いやグッジョブですマキナ(大嶽)ロールの人。原作ファンとして複雑だけど、助かりました。あのネタはきっとGoldさんに仕込まれたのであろうな。まあ本人が楽しそうで何よりです。

 

「……ハァ、バカバカしい。バカ娘、今回は見逃してやるが、次は無いぞ。」

 

「えぇ、まあ、この空気の中で決闘なんて流石に無理ですからね。まあ、次があれば私が勝ちますけども!」

 

「はっ!戯れ言を抜かすなよ。……見せ物は終わりだ屑ども!散れ!」

 

 二人は各々武器をしまって人垣を割って去って行った。アンナちゃんロールの人はもちろん置いてきぼり。マキナ大嶽ロールの人も兜をかぶり直して二人の後に着いていった。……アンナちゃん置き去りにして。

 扱い雑だなアンナちゃんロールの人。可哀想だし声をかけてみようか。

 

「大丈夫かな、可愛らしいお嬢さん。さっきは驚いたよ。まさか、空から全身甲冑が降ってくるとはね。立てるかな?どこか落ち着ける場所へ送って行こうか?ああ心配しなくてもいいよ。私は怪しい者ではないのだから。」

 

 言ってから後悔した。これは犯罪臭いわ。辛うじてマントに見えなくもないぼろ切れの様な外套を羽織った胡散臭い男が、見た目が可愛い高校生か中学生くらいの背丈の女の子に掛ける言葉としては最悪ですわ。

 相手のアンナちゃんロールの人も凄く胡散臭いモノを見る目で、俺の事を半開きの目で見定めている。

 数秒無言の間があったが、何故か突然一人で納得がいったと言わんばかりに仕切りに頷き始めた。

 

「はぁ、私も罪深いものね。まさかこんな若い子まで一目惚れさせちゃうなんてね。でもごめんなさいね。私コレでもリアルで既婚者なのよ。アナタの気持ちは嬉しいけれど、コレでも私、夫に一途なの。諦めてね?」

 

 盛大な誤解を受けた。まああんなナンパ紛いの言葉を掛けられたら、自意識過剰な人ならそう捉えるわな。だがしかし、素で返されると無性に腹が立つな。あと周りのプレイヤーに可哀想な目で見られた。今後は気をつけよう。

 取り敢えず、誤解を解くことから始めようか。

 

「いやはや、誤解させてしまったようで失礼した。私はギルド『黒円卓』に本日付けで、副ギルドマスターに任命された者だよ。ギルドの正装をしている貴女が、同じギルメンだと思って声を掛けさせてもらったのだが、いやはや、ナンパ紛いと間違えられるとはね。以後は気をつける事にさせて頂くよ。」

 

「え、ええそうだったの?嫌ね私ったらぁー!ごめんない!」

 

 ダメだ!水銀の喋り方を意識すると、ナンパしてフラれた後の苦しい言い訳にも聞こえる!だってなんかアンナちゃんロールの人が凄く気を使って声を大きくして、聞き耳立ててたプレイヤーにも聞こえるようにしてるんだもの。これ絶対に更なる勘違いしてるよ。気を使って周りの誤解を解く為に自分が間違えてましたって周りにアピールしてるもん。その気遣いが痛いし、ちょっとむかつく。

 まあこれ以上なにか取り繕っても、更なる誤解を招く事になりかねない。少なくとも周りのプレイヤーの誤解は解けているようだし。本人には誤解されたままでいよう。いてやろう。なんか嬉しそうだし。ほっといても害はなさそうだ。

 

 気を取り直して、彼女に自己紹介でもしておこう。

 

「まあ誤解も解けたようなので、自己紹介でしましょうか。

 私はSilver。さっきも言ったように、本日付けでギルド『黒円卓』の副ギルドマスターに任命された。コレからよろしく。」

 

 まだ彼女が立ち上がっていなかったので、握手のついでに立たせてあげた。なんかアンナちゃんロールの人の視線が優しげだ。コレはあれか、「フラれたけど、最後に握手くらいしたい!」みたいウブな男の子だと思われているのだろう。癪に障るが気にしたら負けだ。こういう女は相手にしただけ割を食う。そういう所にかんしては無視するのが一番なのだ。今後関わる機会を少なめにしておけば、その内に自分の勘違いに気付いて悶絶するか、永遠に気が付かずに忘れているであろう。……自慢げにギルメンなんかに言い触らされたら困るから、釘は差しておくか。

 

「あとさっきの事なのだが……「解ってるわよ。内緒でしょ。誰にも言い触らしたりしないわ!」……そうですか。」

 

 勘違いは解けそうもないし、なんか妙に優しいな。まあ約束はそうそう破ったりしないと思うけど、これ以上はいいか。めんどうだし。

 

「私はアナタの思っている通り、ギルド『黒円卓』のメンバーよ。プレイヤーネームは『Anna』。みんなにはアンナとかアナって呼ばれているわ。よろしくね!」

 

 間違えているとは思っていなかったが、やはりアンナちゃんロールでした。いや天然物のアンナちゃんなのだろう。あまり無理している気がしない。自然体でぶりっ子なのだろう。苦手な人種だ。

 

「さっき決闘始めようとしてた二人と、空から降ってきた全身甲冑もギルメンだけど、自己紹介は後にしなさいな。彼女達はまだちょっと気が立ってるし、全身甲冑の男も渾身のネタが滑ってたから話し掛けにくいでしよ?」

 

 まあ確かに、ごもっともです、追いかけて自己紹介だけでも済ませようかとしていたけど、よく考えれば声掛けにくいな。拠点の片付けが終わって、自己紹介はギルドホームに戻ってからにしておこう。

 ならアンナちゃん改めてアンナさんに別れを告げて、さっさと転移門まで行こう。

 

「自己紹介も終わったので、私は行かせて頂くよ。なにぶんまだギルドホームへにあてがわれた部屋への引っ越しが住んでいなくてね。では、また後ほど」

 

「またねサブマス。ホームで待ってるわ」

 

 別れを告げるとアンナさんはギルドホームがある方向へ歩いていった。

 まあマッキースマイルはともかく、残りのギルメンが比較的にまともそうで安心した。マッキースマイルはともかく。あれはもう手遅れだ。修正が効かない。放っておこう。

 

 さて転移門まで数分で付くし、もう流石に残りのギルメンに出くわす事は無いだろうな。などと思いながら、ブラブラと歩いていく。

 広場から転移門までは一直線に行けるし、先程いたプレイヤー達も今は散っているから人混みも気になる程じゃない。転移門も転移待ちは気にせずに済みそうだ。

 

 ……などと思っていのだが、まあこの流れからすると、絶対に何か起きる!デジャヴる。これは転移門に着くと同時に残りのメンバーに鉢合わせになる。それはもう何度回帰しても確定している未来の如く、逃れられない運命なのだろう。これが既視感か!味わいたくなかったよこんな既視感!

 

 もう諦めて流れに身を任せようと思った所に、本日二度目の神風ミサイルをどてっ腹に食らった。まさにデジャヴ!でもデジャヴってるのに回避不可能!司狼のようにデジャヴを有効活用出来る日は遠そうだ。

 あとまたもやペインアブソーバーが機能していない。あれか、絶妙な力加減と無意識による事故だからか!クソったれ!

 またもや俺は地に伏した。何度食らったって慣れるものかよ。鳩尾に綺麗に頭蓋がめり込んでいたからな。もう声を上げる琴さえ出来ない。

 

「いてて、ぶつかっちゃった。ごめんなさい大丈夫ですか?」

 

 よく見ろ!大丈夫な訳があるか!

 声からして相手が女の子で、しかも鳩尾にフィットした頭突きからして、明らかに年下であり、少女と言うより幼女に近い相手だということもあり、攻める事も出来ないので、脳内で叫んだ。

 本日二度目の頭突きに呻いていると、ミサイル幼女以外の人の足音が一つ近づいて来た。

 駆け足で近づいてきて、俺に突っ込んできたミサイル幼女を抱き上げる。

 

「ホタル怪我はないかい!?ダメじゃないかこんな人通りの多い道で走ったら!お兄ちゃんはホタルが怪我をしないか心配で心配で!」

 

 おいこら、まずは俺の心配しろよそこの男!

 会話から察するに兄妹なのは分かった。けどね、目の前で悶絶している人を放って置かないで!

 何とか痛みが引いて立ち上がると、ミサイル幼女と幼女のお兄さんの姿を見る。

明らかにギルメンでした!流石はデジャヴった後の展開だね。わ悪い意味で期待を裏切らない!憎いね、本当に憎いね。

 

「すまない、僕の妹を受け止めてくれたみたいだね。ありがとう。

ほら、ホタルもお礼言わないと。」

 

「おじさんありがとう」

 

 嫌味か貴様ら!お兄さんの方がスゲー爽やかだけど影のあるイケメンだから余計に腹が立つわ!

 とは言ってもここでキレてもカッコ悪いから、やせ我慢しておこう。幼女の前でキレて喚くのは流石に紳士としてナンセンスだよ。あと泣かれるとうるさいし喧しいからね。

 

「ああまあ、気にしないでくれたまえ。そちらは怪我も痛みなくて何よりだよ。圏内で悶絶するなんて貴重な経験をありがとう、名も知らぬお嬢さん。あと私はおじさんじゃあないよ、お兄さんだ。」

 

「気にしないでおじさん。私駆けっこ得意だし、いつもお兄ちゃんに受け止めて貰っているから急ブレーキを効かないけど、喜んで貰えて良かったです。その、怒られるかと思ったから」

 

 流石は幼女。この俺の渾身の皮肉を天然な皮肉で打ち返して来やがった。

 まさか櫻井兄妹までいるとは。そろそろ黒円卓の全員と挨拶したことになるな。

後は神父と赤蜘蛛さんだが、神父は正直あまり心配ない気がする。リザさんの既婚者だし、人格はあまり気にしなくていいと思われる。

しかし、問題は赤蜘蛛さんだな。原作通りとまでは重視していないgoldさんでも、一部の天然を除いて流石にある程度は見た目や性格の一部などはロールプレイしていなくても似ている人を集めていると思われる。

赤蜘蛛さんと似ているってことはだよ、ハッキリいって微妙な人しか想像出来ない!出来れば会いたくないなぁ。なんて思っていると出てくるから忘れてしまおう。

 

「ところでキミは、この辺では見ない顔だね。この階層に来たのは今日が初めてなのかい?」 

 

「ああ、今日が初めてだよ。普段は下層で占い師なんてセコい商売をしているよ。」

 

「占い師?もしやアナタが今日黒円卓の噂の副ギルドマスターに就いたsilverさんですか?」

 

「然り。」

 

 噂になっていたのか。まあ黒円卓は準メンバーを合わせても20人未満の人数の少なめのギルドだ。そのくらいの噂は既に知れ渡っていても不思議じゃないか。システムからの通知もあるし。

 

「そうですか、アナタが。僕の名前は『Kain』。みんなからはカイって呼ばれているよ。コレからよろしくお願いします。

 それから、妹の名前は『hotaru』。ほら、ホタルも挨拶して。」

 

「ホタルです。よろしくお願いします。」

 

「カイくんにホタルちゃんだね。既に知っているとは思うけど、私は『silver』。これからよろしく頼むよ。」

 

 自己紹介が終わってから別れた後、二人はすぐにギルドホームへ向かって行った。俺も拠点の片付けに向かう為に転移門へ向かう。

 流石に今度は邪魔は入らなかった。時間も遅くなって来たので次誰か来たら、もう今日引っ越すのは諦めて明日にしようと思っていた。

 まあ来なかったから今日の内に引っ越して、明日はギルドホーム内の部屋の片付けをしよう。

 

 転移門に到着してからはすんなりと事が運んだ。拠点の片付けは、元々置いてあるものは少なくすぐに終わった。下層からギルドホームのある中層まで戻る間にも何も起こらなかった。

なので後はギルドホームまで戻るだけだ。

 

 時間の余裕が少し出来だので、ギルドホームまで歩きながらさっきの櫻井兄妹の事を思い出していた。主に妹の方に付いて。

 それにしても螢は幼女なのか。リザさんのお子さんが何歳かはわからないけれど、たぶん同年齢と言うことは無さそうだ。天然でリザさんなくらいだし、なんかお子さんもイザーク&ヨハンかな?それともヒロインズかな?

 どっちにしろホタルちゃんと同年齢じゃなさそうでちょっとガッカリ。なんか『ディエスイレ』の原作に天然で近しい人やかなり本格的にロールしてる人が多いから、リザさんのお子さんとホタルちゃんが同年齢で、高校生になった時に同じ学校だったら「見ていて楽しそうだし、将来教師にでもなろうかな」なんて思ってしまった。まあ贅沢な夢だな。

 

 そんな事を考えている内にギルドホームへ着いた。

 

 黒円卓のギルドホームは中層の中でも一等地に建つお城だ。

掘りと城壁に囲まれ、正面には桟橋と大きな鉄の門がある。流石にグラズヘイムのような髑髏の装飾や黄金の外観は見られないが、黒円卓に相応しい良いギルドホームだと思う。

 二度目ですら入るのに緊張する。

 

 門を睨みながらまごついていると、システムからメールの受信を知らされた。すぐに確認すると送り主はgoldさん。内容は「ギルドホームに着いたら謁見の間にきてほしい」とのこと。

 まあ部屋の片付けは明日だし、今日はもうする事がない。すぐに謁見の間へ向かう事にした。

 謁見の間へ行くのは初めてだが、円卓の間より正面入口からは近いし、メインホールからほぼ直線で行けるから、迷うことはなさそうだ。

 しかし、門をくぐる時には緊張した。つい昨日まで下層で占い師とかポーション何かの売買で暮らしていたのだ、緊張くらい許してほしい。

 

 ホームに入ってから気が付いたのだが、誰にもすれ違わない。皆して謁見の間にいるようだ。コレは遅刻したのかな?なんて思うと、自然に早歩き気味になってきた。

 入団早々から目立つとか嫌だなぁ。

 

 謁見の間の目の前まで来ると、豪華な扉がひとりでに開いた。誰かがシステム的な操作で開けだのだろう。

 

 謁見の間の中には全員が揃っていた。もちろん全員が黒円卓の正装である軍隊のような制服を着ていた。

全員が制服姿で楽器を持っていた。

 

 ……あっ!まさか!?

 

「silverよ。卿の入団を祝して演奏会を開く。普段から定期的に開いているので完成度はなかなかのモノだ。是非とも堪能してくれ。

 さて、楽曲は在り来たりだが、奏者が良い。至高と信ずる。故に、面白くなると思うぞ?」

 

 オッフ。俺は感動で死にそうだぜ。

 あとgoldさん、最後の俺のセリフだと思う!



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キャスト紹介『※ネタバレ含む』

四話以降のネタバレを多く含む為、四話以降の展開や登場予定キャラを知りたくない場合はブラウザーバック推奨です。


キャスト紹介1

※随時更新予定

 

「silver」

水銀ロールの高校生

水銀汚染軽微

水銀らしくない水銀

趣味は占い

 

「gold」

獣殿ロールの社会人

バツイチ

イザークとヨハンは小学生

今作ではイザークとヨハンは孤児

 

「K」

ベイ、モヤシ高校生

凶月刑司郎

兄妹共にドラマCDの秀真学園に出てくるようなキャラ

 

「sakura」

ヘルガ、スケバン女子高生

凶月咲夜

 

「siro」

シュライバー、高校生

男の娘

バイ

 

「eren」

エレオノーレ、高校教師

秀真学園から帰還者学校の教師になる?

御門龍明

龍水という高校生の子供がいる

バツイチ

 

「liza」

リザ、孤児院経営者

レアとカスミは実子で、高校生

シロウも経営する孤児院にいる

トリファ神父と結婚してる、

 

「rea」

毒舌高校生

後輩弄りが趣味

 

「kasumi」

剣道高校生

世話好き

 

「シロウ」

不良高校生

不登校児

練と喧嘩中(暇潰し)

現在エリーの部屋に居候中

 

「ヴァレリア」

トリファ神父、孤児院経営者

霊視能力がある。

リザと結婚している。

 

「anna」

アンナ、主婦

ロートスと結婚している

子供は孤児院から練を引き取っている

練は高校生

 

「ロートス」

社会人

アンナの婚約者

 

「練」

元孤児

ロートスとアンナの養子になった

本人無自覚の不良高校生

トラブルメーカー

司狼と喧嘩して怪我したせいでSAOは出来なかった

 

「Makina」

マキナ、お笑い芸人マッキー

ロートスと仲良し

未婚

マッキースマイルで大ブレイク予定

凄く、一撃必殺です///

 

「beat」

ベアトリス、社会人

エレオノーレ、リザ、アンナと同じ大学の出で、後輩

未婚

保育士

戒に狙いを定めている

勤めている保育園に螢が通っていた

 

「kain」

戒、社会人

武蔵おじいちゃんは刀鍛冶

母の鈴も存命

妹の螢も元気に幼女している

櫻井兄妹共にSAOにログインしているのはベアトリスのお陰(せい?)

 

「Hotaru」

螢、幼女

バカな子になる前の綺麗な螢ちゃん

兄の戒とベアトリスが大好き

 

「rot」

シュピーネ、研究員

茅場の部下

デスゲームに巻き込んだ茅場の事を恨んでいる

SAOの開発にも関わっている

今作では頼れる男!に、したい!

goldにSAOのシステム的な弱点を教えた

帰還後は帰還者学校の教師になる予定

……誰だよコレ

 

「クラウディア」

リザとトリファ神父の経営する孤児院の近くに建てられた教会て働くシスター。

同居人であり保護者のルートヴィヒが怪しい為、よくリザに保護される。

 

「ルートヴィヒ」

クラウディアの働く教会の神父。

クラウディアの保護者でありながらクラウディアを見る目が怪しい

 




 ディエスレは転生キャラや血縁関係が複雑かつ昼ドラ以上にドロドロしているので、あるていど分かりやすくする為と、私が楽をする為に血縁関係や転生キャラを整理しました。

 納得いかない方も多くいるとは思いますが、ロートスと練や、リザの血縁関係者も全員登場させたいので、KKKクリア後の天照世界の孤児院の設定を利用して孤児を多くしてしまいました。

 今後もキャラが増えたり、設定が決まったものから随時更新していく予定です。


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第4話パワーレベリング

 長らく更新出来ずにいて申し訳ありません。
モチベーションや仕事の関係で時間などが取れず、いつの間にか忘れていました。
 決してFGOとかのせいではありません!多分!きっと!


 ギルド「黒円卓」のサブマスに就任してはや一週間。驚愕の事実に俺こと水銀ロール「silver」は直面していた。

 このギルド、平均レベル高すぎ!

 いまだ最前線で戦っている攻略組と呼ばれるトッププレイヤーの平均レベルが60なのに対して、ギルド「黒円卓」はなんと脅威の90レベル!

 え?そんなに高くないって?いや、おかしいんだ。だって俺はまだレベル1だから!レベル1がいるの!低人数のギルドにレベル1が一人いるのに平均レベル90ですよ?さすがに笑った。

 何故そんなにもレベルが高いのかgoldさんに聞いてみたら

 「あぁ、いわゆるチートだ。流石に数えるのも億劫な程繰り返してきたのだ。そろそろクリアして日常生活に戻りたくてな。結果、バグを探しだしてレベリングをすることにしたのだ。カーディナルに修正される前にバグを使ってレベル上げなど造作もない。まあバグを探し出せたのは私だけだし、私以外にバグをつかって未実装領域でレベル上げなんぞ耐えられる筈もなかろうが……。?。あぁ、未実装領域にはうじゃうじゃと高レベルMOBが湧いてきてな。休む暇もない程だ。MOBの平均レベルもレベル500とかでな。流石に最初の200回帰分くらいは私でも諦めそうになったが、500回帰過ぎた頃には案外楽になっていたよ。当たらなければ良いのだ。こちらからの与えるダメージが1でも、回復させなければ良い。自動回復する敵を避けて、脳筋MOBをひたすら刈り続けていればこちらもレベルが上がって自動回復が追いつかない程ダメージを与えられるようになる。あとはカーディナルに修正されるまでレベルを上げ続けていた。まさしくパワーレベリングだな。お蔭でギルドメンバー以外にはレベルを見せられなくなってしまったが、構わんさ。まあバグの修正と同時に、今度は私のレベル表記がバグを起こしてLv??79とか表示されている。実験段階では四桁まで用意していたのだろうが、今回は二桁までしか解放されていないのだろう。まあ私はバグを(ry」

 

 仄暗い瞳に哀愁を漂わせながらブツブツと語る獣殿とか誰特だよ!?つか200回帰で諦めろよ!なに500回帰越えてんだよ!お前獣殿ロールだろ?回帰は水銀ロールの俺の仕事じゃねーの?

 まあそんな分けで、goldさんはレベル表記バグって??79だけけど、本来は四桁レベルで一人でギルドの平均レベルを押し上げております。流石は獣殿。あとそれチートだけどチートじゃないっす。誰だよこんなフロム脳な獣殿にしたの。まじで今回回帰したらぶっ壊れるんじゃない?いやもう遅いか。

 

 そんな分けで、goldさんが居れば他のギルドメンバーのパワーレベリングも可能になるので、必然的に他のギルドメンバーもそこそこにレベルヶ高く、低レベルなのは俺とか螢ロールの「Hotaru」ちゃんとかリザさんの子供二人とか。ちなみにリザさんレベルはそこそこ高いけど、第一層の教会で子供達の世話してるから攻略には参加するとこは殆どない。人手不足の時なんかだけらしい。この前も他のギルドのミスで攻略が遅れそうになったから偶々ボス部屋までのマッピングを手伝ってきたのだとか。アンナさんもリザさん同様に基本的には教会で子供の世話だが、リザさんよりは攻略に積極的。まあ流石にリアルでお母さんしてる人達である。エレオノーレ?いやあの人も実はリアルお母さんだし教会にいるのかなって思ったらね普通に最前線の攻略組に他の黒円卓のギルメンと混じってたわ。

リザさんいわく「独りにして来た子供の為にも、一刻も早くクリアしたい」らしい。流石です。

goldさんはやくクリアして下さい。レベル四桁なんでしょ?俺のこと構っている暇ないですよ?あんたと違って転生特典なんかないからね俺!

 

 そんなとき、レベルの事を考えながらウンウン唸っていた俺に、メッセージが届いた。何故か嫌な予感がする。開けるなと俺の感が言っている!

 メッセージはギルマス「gold」さんから戦闘系ギルメンと俺へ向けてだけだ。

 

 絶対にロクな事じゃねーよ。戦闘系ギルメンだけ、ギルメン全体とかならまだしも戦闘系ギルメンと俺だけとか。もうあれだきっと俺はこれから強制パワーレベリングに連れ出されるに違いない!

嫌だー!間違って全損したら死ぬんだよ!?goldみたいに回帰できないから俺!

 とか戦々恐々としていたら急に肩に手を置かれた。

 

 「卿、レベリングのお時間だ。なに私自らが出向く。間違っても全損になどさせはしないさ。全損してもバグで増やした復活アイテムも用意した。安心しろ」

 

 ……いつの間にかgoldさんがいた。つかメッセージ送っておいて自ら来るのかよ。フットワークが軽い獣殿だな。

 だがしかしだ、俺レベリングする意味ある?獣殿レベル四桁でしょ?オーディナルスケールで出てきた第100層のボスとか茅場本人が相手でも余裕あるんしゃないのかな?無いの?なら無理じゃねクリア?キリトさんに任せてええちゃう?80層手前でゲーム終わるよ?待とうよ!って思いを視線に乗せて訴える。が、しかし獣殿モードのgoldさんは薄く笑って語り始めた。

 

 「あぁ、卿の言いたいことは分かる。だがな、なぜ私が回帰を繰り返しているのかを卿にはまだ教えていなかったな。

 実は私はカーディナルには目を付けられていてな。散々バグを使っているせいでボスエリアへの侵入制限を付けられている。しかも茅場にも私のレベルやバグの利用についてバレている。

 まあそんなわけでな、私は基本的にボスとの戦闘に参加出来なくなってしまった。レベルを上げすぎたな。バグも使い過ぎた。

 よって私はギルドメンバーを強化して攻略するしか方法がなくなったのだ。

 許せ友よ。私は今から卿に地獄を見せる。

だが、卿ならきっと耐えてくれるであろう。何せ水銀ロールを選んだくらいなのだ。回帰はともかく、数度の死線など耐えられるさ。

 逝くぞ。」

 

 語り終わると同時に俺はgoldさんに担ぎ上げられ、ギルドホームから連れ出された。

 

 誰か助けてー!




ベア「ギルマスからメッセージ入ってますよ」

エレ「どうやらサブマスのパワーレベリングにいってくるそうだ」

ベア「ギルマスが自らですか?」

エレ「あぁ、羨まs……いやなんでもない」

ベア「いやそこは可哀想とかでしょう。ギルマスのパワーレベリングとか初期メンバーに聞いたら皆白目剥いて気絶しそうになりながら『やめておけ、全損するよりも恐ろしい。思い出したくない!』って……」

エレ「は?いやそこそこ厳しいが全損より恐ろしい思いなどする訳がなかろうが馬鹿共が。あの方がそばにいる事ほどに安心できる事などなかろうに」

ベア「ハァ……。いやまあ安心はできますがね。そういう事とは別にですね」

エレ「まああの方がわざわざこの時期に連れてきたサブマスだ。たかだが地獄の一つや二つは乗り越えてもらわねば困る」

ベア「そうですね。そろそろ準備もできましたし、攻略も終盤に差し掛かる手前です。サブマスのパワーレベリングは終わったら遂に!」

エレ「ああ、攻略を一気に進めるぞ」


エレ&ベア「次回!第5話茅場死す!」

アンナ「早くもSAO編終わり?5話で?!どんだけよ!」

螢「あのね、SAOよりALO編とかGGO編を早くやりたいんだって!」

アンナ「うっわぁー」


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第5話茅場死す!前編

次で終わりと言いました!はい、あれは嘘です!


 goldさんとのパワーレベリングは凄まじいと一言に尽きる。

 まず敵のレベルがおかしい。

 さっきまで中層にいた筈なのだが、隠しダンジョンに入ったのかレベルが一気に跳ね上がっている。およそ平均レベルは90。現在の最前線の階層でもお目にかかれないレベルである。

 

 そしてgoldさんのパワーレベリングの方法がおかしい。

 何故俺はgoldさんに脚を掴まれて、まるで武器のように振り回されているのだろうか?

 俺がしている事なんて武器を離さないように両手で握り締めているだけだ。あとはgoldさんが俺を振り回して敵に俺が握り締めている武器で攻撃している。不思議と俺のHPはそんなに減っていない。茅場もビックリなパワーレベリングだ。

 

 「すまんなカール。今回ばかりは、いささか急いでいる。何せクリアまでの攻略の準備が終わってな。装備、アイテム、資金などの諸々の備蓄が済んだのだよ。よって卿のレベリングと少々のプレイヤースキルの向上が済んだなら直ぐにでも攻略に参加して貰わねばならない。なに私が開発したこのレベリングでなら1日もあれば卿も立派な攻略組の一員になれる。

 あぁ、プレイヤースキルの方は心配せんでもよい。卿に求めるものはボス部屋での救助活動と少々の遊撃だ。後で私を仮想ボスとしてギルドホームにあるコロシアムにて、ギルドメンバー全員で訓練する。なに全損させなどせんよ。手加減用のスキルはとってある。」

 

 などと話しているが俺はgoldさんにブンブンと振り回しされているので殆ど聞こえていない。もう最初は下手な絶叫マシンより怖かったんだが慣れてくると武器を握り締める事とgoldさんの説明や独り言を聴く事いがいはやる事がない。敵のMOBとか一撃で消し飛んでいるから鳴き声も聞こえないからね。さっきから「ブオン!」とか「カシャン!」とかgoldさんが俺を振り回す音と、MOBが砕け散る音しか聞こえない。

 しかしカーディナルよ仕事しろよ!なんでプレイヤーがプレイヤーを装備できんだよ!まあ判定的には装備されてないし?筋力値で無理やり振り回しているとはgoldさんの言。

 俺がなgoldさんの筋力値で振り回される事によって、ダメージ計算の一部に墜落ダメージとかと同じ計算が入ってダメージが高くなっているとか。いや墜落ダメージとかの計算入るほどの速度で振り回すとか俺壁とかに打ちつけられたら即死だよ?つか掴まれている脚がヤバい!HP減少の殆どがそれ!どんな筋力値してんだよgoldさん!

 でか俺が装備している武器で攻撃する事によって俺に経験値が入るようになっているらしいこのレベリング。カーディナルの怠慢だな!おい仕事しろよ!

 などと心の中でカーディナルへの愚痴を言っているとgoldさんが俺を振り回すをやめて肩に担ぎ上げて走り出した。レベリングは終わったのか?などと考えていた。

 

 「さてカール。そろそろレベルの上がりが悪くなってくる頃だ。場所を変える。次は手加減などできない程にMOBのPOPが早い。卿が全損する前に引いて回復させるが、その間もMOBは四方八方から襲いかかってくる。私が蹴散らしている間は不用意に動いてくれるな。流石にレベル四桁は伊達ではない。掠っただけで全損もありえるからな。」

 

 数秒前の自分を殴りたい!レベリング終わってねーじゃん!さらに難易度上がってる!しかもさっきまで手加減してたらしいよ。これは俺にステータスの更新や自動回復系統のスキルを取らせてさらに振り回す速度上げるんですね?もう嫌ぁー!

 

 そして俺は一日中goldさんに振りまわされ続けてレベリングが終わる頃には攻略組の中でもトップのレベル99。今実装されている段階での事実上カンストレベルに達していた。そして、プレイヤースキルに関しても仮想ボスとしてレベル四桁のgoldさんが相手だ、並みの階層ボスなどと比較使用もない程に強かった。おかげで今更階層ボスを相手にしようとも恐怖は沸かなくなっていたし、遊撃も救助活動も楽々である。

 俺は「silver」。攻略組のトップにして攻略ギルド「聖槍十三騎士団黒円卓」の副ギルドマスター。今や知る人ぞ知る超有名プレイヤーである!

 なんてことあるかよ!トラウマだらけになって戦闘することすらできねーわコンチクショウメ!ギルドニート万歳だわ!

 

 

 

 

 

 

 とある日、黒円卓のギルドホーム円卓の間にてギルメン全員が集まっていた。ボス攻略会議からgoldさんが帰ってきてから、メンバー全員が呼びたされたからだ。

 しかし普段第1階層の教会にいるリザさんとその子供やアンナさん、カイさんとその妹もいる。珍しい。今までギルメン全員が集まったのなんて俺の歓迎会くらいでした見たことがなかった。

 しかも全員がギルドの正装か、ボス攻略時に使うフル装備。もちろん俺も一応は攻略用の装備をしているが、リザさんやアンナさんまでもがフル装備である。

いったい今から何を始めるんだgoldさんは?今までの流れだと攻略会議後は普段の戦闘職メンバーだけ集めて作戦を説明して、ギルド倉庫からアイテムを配って終わりだったんだが。

 まさか知らないのは俺だけなのだろうか?

 

 不安になりつつ自分の席で天井を見つめているとgoldさんが円卓の間に入ってきた。しかもフル装備で。過去にバグやらを利用して手に入れた未実装領域で揃えた防具と武器らしい。バグで所々のポリゴンが崩れているが、機能的には問題ないらいし。いや問題あるだろ仕事しろよカーディナル。

 などと心の中でカーディナルへの不満をぶちまけ始めていた俺の心はとても楽観的だった。goldさんが席に座ると同時にとんでもない事をいいはじめるまでは。

 

 「明日のボス攻略。失敗すれば私も死ぬ。」

 

 ギルメン全員が「は?」ってなった。だがgoldさんの目を見た瞬間怖気が走った。完全に本気の目だ。

 

 「明日のボス攻略にて恐らく茅場が姿を現すだろう。いや正体を突き止めたとあるプレイヤーによって晒される。ヒースクリフが茅場であるとな。」

 

 ギルメンがめちゃくちゃ驚いている、そりゃそうだ。転生者である俺やgoldさん以外に、ヒースクリフ=茅場なんて知ってるやつはこのゲームの中にはいないだろう。

 てか明日があの日なの?マジで?いつの間にかもうそんなに進んでたの?つかまだキリトやらアスナやらとまとも会話すらしてないんだが?

 

 「そこで、だ。明日、ボス戦に参加するメンバーには忠告だけはしておく。不用意にヒースクリフへの攻撃などするな。システム的な防御に守られている。それとボス攻略が終わったら直ぐに私にメッセージを飛ばせ。私直々に奴を叩く。攻略済みのボスエリアへの侵入には制限が掛けられておらんのでな。」

 

 更なる衝撃。茅場さん逃げて!獣殿が殺る気です!眼光がヤバい!ギルメン全員がめちゃくちゃビビってる!俺もビビってる!

 つかマジでか、やっと終わるんだ。戻れるんだ。もっと喜べると思ったけど、あまりにも唐突過ぎて感情がついて行けない。

 まあアンナさんは一人ガチ泣き入ってますが、他は案外普通だ。まあギルマスがあれだしね、不安とかあまり抱けなかったかな。「やりなおし」のせいで回帰しまくってるせいか、goldさんのカリスマ性とか某運命で言う所のA+とかありそうだもん。goldさんが「このゲームはクリアされる。卿達の誰一人たりとも全損させない」なんて言えば信じてしまうよね。実在、ギルドにスカウトされる時には大体のメンバーがそんな感じで誘われたらしいし、

 

 「明日がSAO最後の日になる。卿達の今までの働きに感謝する。今日はこの事を伝える為に呼んだ。私からは以上だ。質問があるものは早めにな。」

 

 それからは質問の嵐だったとくにリザさんの子供、まあレアとカスミとか螢ちゃんがね、興奮しまくっていた。そりゃそうだわ、俺も転生前の記憶とかない普通の子供だったらこんなん興奮するわ。

 

 それからはボス戦への会議ではなく、普通に談話して解散した。

 まあゲームクリアしたらどうする?とか、リアルで合おうとか、連絡先を交換したり。今まで絡みの少なかったギルメンもと最後ということでかなり話したりした。

 そこで驚いたのはあのシュピーネさんを皆が慕っていたことだ!

 今まで欠片ほども話したことなかったし登場すらしていなかったシュピーネさんが皆に慕われてプレイヤーネームであるロートの読みから取ってつけられた「ローさん」と呼ばれ慕われいる!驚愕!

 まあ理由は納得できる物だったが。このギルドに集まってくる情報の9割はシュピーネさんが集め!アイテム、装備、資金の調達などもシュピーネさんが!そして装備の修繕やプレイヤーメイドのレア装備などもシュピーネさんが!更に更にあの茅場の元部下だったらしくSAO実装段階までのあらゆるバグや秘密わ知り尽くしていて、goldさんに教えてくれたのもこのシュピーネさんだったのだ!

 流石はシュピーネさん!

 

 一応はシュピーネさんとも連絡先交換しておいた。

 なんあALO関連でお世話になりそうな予感がした。

 ほら!アスナが捕らわれた時に一緒に300人くらいも取り残されるやん?それに黒円卓の誰かがいたら助けたいしね!

 ……フラグ建てちまったかな。

 

 ちなみに俺はボス戦は出ません!ニート万歳!螢ちゃんやカスミやレアとお留守番です!だって俺ニートだから!レベル99のニートだから!



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第6話茅場死す!中編

 後編としたかったのですが、更新を待っていて下さった読者様が約一年越しにもまだいてくれた事が嬉しく、早めの更新をしたかった為さらに中編と後編に分けての更新となりました。
 それとランキング入りありがとうございます。こんな内容の薄い自己満小説に読者がいて下さる事に感激いたしました。
 ありがとうございます。


 ボス戦が始まったと同時に、阿鼻叫喚の地獄絵図が……、とはならなかった。goldによってパワーレベリングされ強化された黒円卓のギルメンが天井に張り付いているボスにいち早く気が付き、投擲やウォークライでタゲを取った。そこにエーレンヴルグ兄妹とシュライバー、続いてキリト&アスナの遊撃部隊。

 ボスは蠍座と蟷螂が合体した髑髏の巨大ボス。だが今更その程度の異様に尻込みするほど攻略組は大人しくはなかった。

 

 「どうしたどうした!?そんなもんかよテメェー!遅ぇーなぁーおい!そんなんじゃあかすりもしねーよ!オラァ!!つか邪魔すんじゃねー糞ガキ!」

 

 「ヒャッハー!狩りの時間だ!ホラホラ踊れよ不細工な骸骨くん!つかオニーサンどいて!そいつ殺せない!」

 

 白髪の二人が完全にタガが外れたように猛攻撃をくりだす。

 振り下ろされる脚や凪払われる巨大な鎌をギリギリで避けると同時に切り刻み、空中に飛んではお互いを足場にしたりして大鎌をよける。たまにぶつかりそうになってはお互いを罵倒したりなど、息が合っているようで合ってない。エーレンヴルグ妹が上手くフォローに入る事で致命的なミスを減らしていく。

 更にはユニークスキル「二刀流」を扱いかなりのダメージを与えて行くキリトと、白髪二人に追従するほどの速度でレイピアを振り回すアスナ。

 そして始まって一分もたっていない内にボスのHPバーが一本削りとられた。

 

 「少し下がれよ馬鹿共!タゲを取り過ぎるな!タンクの邪魔だ!」

 

 余りにも一度にダメージを稼ぎ過ぎた遊撃部隊を呼び戻したのは、タンク部隊の指揮をしている燃えるような赤髪のプレイヤー「eren」。横には後輩であるレイピアを構えた金髪のプレイヤー「beat」と長身黒髪の大剣使い「kain」。

 

 「先輩、次は私とカイ君が遊撃部隊と入れ替わりで前に出ます。」

 

 「わかっている。だがお前とカイだけでは不安がある。タンク部隊からマキナは外せん。結晶系アイテムも使えんので暇になってるであろう後衛のリザとアンナも一緒に連れていけ!」

 

 「了解です!じゃあちょっと呼んできます!」

 

 先ほど遊撃部隊として動いていた白髪二人やアスナとも比べててもそ遜色ないほどのスピードで後衛組の元へと向かうベアト。途中ボスの脚に狙われても一切構うことなくすり抜けていった。

 

 「凄く 一撃必殺技です///!」

 

 タンク部隊にいる全身甲冑のプレイヤー「Makina」が、切り裂かれそうになったプレイヤーをボスの鎌から助ける。素早い装備切り替えで盾から両手斧へ。そこから流れるようにボスの鎌をソードスキルを使う事すらなくへし折った。

 続けざまに振るわれた反対側の大鎌。ボスの部位を破壊したマキナへと一気にヘイトが溜まりタゲが移った。

 そこへタンク部隊の脇から白髪二人とキリト&アスナ、血盟騎士団のギルドマスターであるヒースクリフが滑りこんでくる。

 マキナへと大鎌が振り切られるより前に、白髪二人のソードスキルによってノックバックによる反動でボスの攻撃が中断された。

続けてキリトとアスナが隙を付いて連続でソードスキルを叩き込む。

 ノックバックから復帰したボスから攻撃が来るも、ユニークスキル「神聖剣」をもつヒースクリフが盾と剣で攻撃を払う。その隙にソードスキルのクールタイムの確保の為白髪二人とキリトとアスナが下がった。

 

 「さーて行くわよリザ、ベア、カイ!カイ君は大鎌の対処よろしく!リザとベアと私で削るわよ!」

 

 「「「了解!」」」

 

 入れ替わりにボスの前面に出てきたのはギルド「黒円卓」のメンバーの4人。ヒースクリフと入れ替わるようにしてカイが大鎌の対処に入り、大鎌をカイが抑えている内にリザ、ベアト、アンナの3人がソードスキルを叩き込む。ボスが怯んだ隙にカイも大剣のソードスキルを叩き込みタンク部隊と合流しつつ下がった。

 

 既に作業の域になっているボス戦だが、ギルド「黒円卓」以外の参加ギルドの殆どはギリギリであった。「風林火山」「血盟騎士団」では既に危うく全損させられそあうになった者もいた。そんな中、紐のような物に引っ張られて助けられたら者が何人もいた。

 

 そう!ギルド「黒円卓」の情報、物流、財務となんでもこなすプレイヤー「rot」さんだ!ボスには一切攻撃を加える事なく、全損間近のプレイヤーを耐久値の高いモンスタードロップのアイテムである縄のようなモノを使いかこなして、救っていく。そして彼等に回復ポーションを渡してはまた次の救助へ!

 彼こそがこの戦場の戦線を支えているのだ!

 後衛組として一緒にいたアンナとリザは遊撃部隊に駆り出されたので、独りで救助と回復を担っていた。

 

 「やはりあの人がいると後衛組に人を回さなくて済むな。このままリザとアンナは前衛だ。」

 

 「えー!ちょっとそろそろボスのモーションパターン変わる頃でしょ!他のギルドやばいんじゃない?」

 

 「いや彼ほまだ本気ではない。お前は知らないだろうが「rot」さんが本気を出せば一度に5人はプレイヤーを救助できる。」

 

 「あ~そう。なら問題ないかぁ。」

 

 「(問題大有りですよ!この六条があの怨敵茅場を目の前にして救助でイッパイイッパイ!必ずら茅場に天誅をおぉぉぉ)ぉぉあああ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 全損者0名でボス戦を制した攻略組は、全員が喜びあっていた。

お互いの無事を確認して安堵し泣いている者もいるが、ゲーム故の誇張された表現によるものだろう。

そんな中、攻略組のトッププレイヤーであるキリトは、ギルド「血盟騎士団」のギルドマスターであるヒースクリフに切りかかった。

 周りは騒然とした。キリトがヒースクリフに切りかかった事による驚愕。同時にヒースクリフがシステムで護られていた事により動揺

不安の波が攻略組に波及していく中、ヒースクリフから告げられる真実はこの場にいた一部のギルドメンバー以外全員を打ちのめした。

 ヒースクリフこそがこのデスゲームを仕組んだ張本人の茅場本人であると、ヒースクリフの口から語られたのだ。

 動揺している攻略組をヒースクリフがシステムコードを用いて状態異常である麻痺にして動きを封じる中、最後の戦いが始まろうとしていた。

 始まるのはキリトと、ヒースクリフによる完全決着デュエルによる一騎打ち。

 ヒースクリフから持ちかけられた提案は、この場でキリトがヒースクリフに全損を賭けたデュエルに勝てば、このデスゲームと化したSAOをゲームクリアとし、捕らわれたプレイヤー達を解放し、ヒースクリフが勝てば予定通りに第100層まで続けるか、全てプレイヤー達が死ぬまでゲームが続けられるというもの。

 キリトはその提案を受け入れ、ヒースクリフからのデュエルを受け入れようとしていた。

 

 その時だ。ボス部屋の扉が外から開かれ、一人のプレイヤーが入ってきた。

 

 そのプレイヤーは顔以外の全身が所々がポリゴンの崩れた異様な装備であり、手に持つ黄金の槍は込められたデータ量故に、コレまで見つかって来たモンスタードロップ品やプレイヤーメイドの武器とは比べものにならない程の威圧感を放っている。

 異様な装備に身を包むプレイヤーは、金の長髪を靡かせながらヒースクリフへと視線向けた。

 黄金の眼光に射竦められたヒースクリフは悟った。「勝てない」、と。

このプレイヤーにはシステムによるアシストやユニークスキルである「神聖剣」を用いた上、本来のSAOのラスボス「ヒースクリフ」としてのステイタスで挑んでも、なお勝てないを悟らされた。

 

 麻痺によって動きを封じられたら攻略組のプレイヤー達も、異様な装備のプレイヤーを見つめていた。

 そして気がついた者がいた。攻略組参加ギルドの会議にて、ギルド「聖槍十三騎士団黒円卓」のギルドマスターを見掛けた事がある者達だ。

 一度見た者は忘れない。獅子の鬣のよう靡く金の長髪と、災厄の象徴ともされる獣の如き黄金の瞳は、見た者全ての脳裏にこびりついて離れない。

 ある者は恐怖し、ある者は歓喜し、皆が様々な感情を抱いているなか、そのプレイヤーがヒースクリフへと声を放った。

 

 

 「そのデュエル、この私が引き受けよう。

 なに、退屈はさせんよ。

 

 

     存分に殺し(愛し)合おうではないか!」

 

 放たれる威圧に、気の弱い者から気絶していった。今まで攻略組で最前線を駆け抜けてきた者達がだ。

 今まで出くわして来たどんなボスモンスターからも感じた事もない、本物の「殺意」というものを感じたのだ。

 レッドギルド「ラフィンコフィン」の掃討に参加した経験のある者達ですら、余りの殺意に恐怖を抱いた。

 

 しかし、そんな中で一番恐怖による感情に支配されたのは他でもない。その殺意を真っ向から浴びせかけられたヒースクリフ本人であった。

 そして同時に「彼」がこの場にいる事にもっとも混乱していた。

 

 「(馬鹿な!?なぜ彼がここにいるのだ!カーディナルを通して監視をしていたハズ!)」

 

 「ふむ、その表情を見るに私がこの場にいる事が不可解で仕方がないご様子だ。まあタネ明かしをするとな、カーディナルには少し本来の仕事に戻って頂いたよ。

 なに簡単な事だ、カーディナルでも処理仕切れない程の負荷をゲームに与えだけだ。あと数分、いや数十分か。まあその内カーディナルによる私の監視も戻るさ。まあ、その頃には卿は全損しているであろうがな。」

 

 カーディナルを通さした監視にて、ヒースクリフは彼を警戒していた。このSAOという世界を根本から破壊してしまう可能性のある彼を。

 バグを流用を始めとした不正行為を数々は、カーディナルによってすら未然に防げなかったことによる管理者側の落ち度だの目を瞑ってきた。だが、それにも限度がある。彼のせいでサーバーがダウンしそうになったことは数知れず。その度にヒースクリフはロールプレイを中断して原因究明に勤しんだ。その度に彼が原因で起きたシステムバグを数日かけて復旧してきたのだ。警戒しないほうがおかしい。

 

 

 そんな茅場の心中など知らぬ彼は思いを馳せていた。

 

 「(やっとここまできたか。毎度原因不明のサバ落ちで回帰を繰り返してきた私だが、やっとだ。ここまで果てしない道のりであった。)」

 

 そう、彼はギルド「聖槍十三騎士団黒円卓」のギルドマスターにして転生者であり、「やり直し」という「特典」を貰い受けたせいでこのデスゲームの世界を回帰し続けたプレイヤー「gold」。

 

 なお回帰の原因の大部分は「原因不明のサバ落ち」によるデスゲーム参加者全員の死亡である。

言わずもがな「gold」によるバグの利用や、「gold」自身が起こしたシステム的な負荷が原因で起こったサバ落ちだ。

 この事を「gold」はこの先永遠に知る由もなかった。



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