東京喰種:is (瀬本製作所 小説部 )
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もう一人の男

皆さんこんにちは、瀬本さんです。

今回私は東京喰種とインフィニット・ストラトスを書きました。
お気づきの方はいらっしゃると思いますが、
以前削除してしまった作品をもう一度描いてみました。

楽しんで読んでいただけたらありがたいです。





一夏Side

 

 

 

(....居心地が悪い)

 

 

俺の名前は"織斑一夏"(おりむらいちか)

本来は"普通の高校生"となるはずだった男だ。

そう、本来は....

 

 

 

 

しかし、俺が"あること"ができると発覚して状況が急変した。

 

 

それは"IS"が使えることだ。

 

 

"IS"は"インフィニット・ストラトス"という兵器で、

本来は"女しか使えない兵器"である。

そのおかげで男尊女卑の反対の"女尊男卑"という社会なってしまった。

そんな状況の中で男である俺がIS"が使えることがわかり、

強制的に"IS学園”に入学することになった。

自分でもなぜISが使えるのかまったくわからない。

もちろん"IS"を学ぶための学校のため、"女子校"だ。

周りの席の人や廊下に歩く人、校内にいる人は だいたい"女子"だ。

それだから俺はとても落ち着かない。

 

(....それにしても、なんで俺の席の隣が空いてるんだ?)

 

俺に視線を向けている次に、他の女子が視線を向けているのは俺の隣の席だ。

なぜか席が空いていたのだ。

本来なら席に名簿が書いてあるはずなのだが、

その席には名前は書いてなかった。

先ほどクラスの一人がクラスの副担任の山田先生にその席について聞いたが...

どうやら山田先生本人もわからないらしい。

 

 

 

 

時間が経つにつれて、さらに"謎が深まる"

 

 

 

 

その人は入学式に出席したのだろうか?

 

もしかしたら欠席だとか考えたが、それなら事前に先生に伝えられるはずだ。

 

一体誰だろうか…?

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

IS [インフィニット・ストラトス]

 

それは世界最強の兵器であり、女性しか扱えない兵器。

 

ISは篠ノ之束博士が作り出した兵器で、

 

白騎士事件で名を知れた。

 

しかしISには謎が多くあり、未知なる兵器でもある。

 

現在各国は最新型の第三世代を実験段階まで進んでいるが、

 

篠ノ之束博士がいない中のIS研究は良いとは言えず、

 

欠点が募るばかりであるーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「…と言う感じでいいでしょうか?”千冬さん”?」

 

彼の名は"佐々木琲世"(ささきはいせ)

毛先が白髪で生え際が黒髪と言う特徴のあるツートンカラーの髪をした青年である。

彼は本来女子しか通うことができないIS学園に今いる。

それは”ある理由”をもっていたのだ。

 

「説明は十分良い。しかし、一つ違うことがある」

 

彼の隣にいるのは"織斑千冬"(おりむらちふゆ)

彼女は第一回IS大会で優勝した人物で、

誰もが認める世界最強のIS操縦者である。

現在、IS学園の教員をやっている。

 

「違うことって…?」

 

「ここでのお前の扱いは”生徒”だ。”織斑先生”と呼べ」

 

琲世は「はい…」と少し恐縮してしまった。

 

「たく、”一夏””ほどじゃないが…」

 

「"一夏"...?」

 

一夏は織斑千冬の弟、"織斑一夏"(おりむらいちか)のことである。

彼はあることで世界中に目を向けられている。

 

「一夏くんって….確か僕と同じクラスになるISが使える子ですよね?」

 

「そうだ。ちょうどお前と"同じ年"だしな」

 

ちなみ僕は千冬さんの弟の一夏くんと同じく"ISが使える"。

どうして使えるかわからないけど、

僕が"この世"に生まれた時からわかっていたらしい。

 

「あの…なぜぼくは入学式に出席できないのですか…?」

 

ついさっき入学式が終わり、新入生は教室にて待機している状態である。

しかし琲世はそこにはいることは許されず、今のところ千冬など数人しか接してはない。

 

「お前は今日、ここで明かされるのだからだ」

 

「は、はあ….」

 

現在世界でISが使える男は織斑一夏だけであり、

佐々木琲世については、”一度も”世間には出してはない。

 

 

 

"つまり今日、明かされるのだ"

 

 

 

「……」

 

すると琲世は立ち止まってしまった。

 

「どうした?琲世?」

 

「僕はできるのでしょうか?」

 

「なんだ?」

 

「その…僕は人とはあまり…」

 

琲世はそう言うと口をつぐんだ。

彼がそんなことを言うのは”理由”あった。

目覚めていた時から、人とは離れた生活をしばらくしてのだから。

彼はこの世界に生まれて"長くはない"。

 

「...いいか?琲世?」

 

千冬はため息をつき、琲世の肩に手を置き、

 

「私と"あいつ"は琲世をよく見てきた。お前ができると信じている」

 

「……」

 

「お前はまだこの世界を知り尽くしてないから不安を感じるかも知れない」

 

 

 

「でも、それが自分にとって大切な一歩となる」

 

 

 

彼がこの世界に生まてしばらくした時、千冬と出会った。

委員会の調査で彼に”あるもの”が足りないことを気づき、"とある人物"が千冬と合わせたのだ。

 

「だから、不安がるようなことをするな」

 

「…..はい」

 

琲世は暗い顔つきから徐々に明るくなった。

彼にとって千冬は"親に近い存在"であった。

 

「...さぁ、教室に行くぞ」

 

「はいっ!千冬さ」

 

「織斑先生と呼べ、馬鹿者」

 

「すみません....」

 

琲世は千冬に怒られながらも、

再び廊下を歩く始めた。

 

 

 

 

 

 

 

時間が増えるたび、彼は気づいていく。

 

 

自分は"この世界"にいるべきではないと

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

一夏Side

 

 

「織斑先生だ、馬鹿者」

 

俺は千冬姉に二回頭を叩かれた。

理由は簡単、最初は自己紹介がだめだった。

あまりにも短いせいか千冬姉に叩かれた。

あまりにも強い強烈で俺の頭を叩きつけた。

2回目は千冬姉と呼んでしまったこと。

そこまで強くやる必要ないだろ....

 

 

 

 

 

"そんな時だった"

 

 

 

 

 

「お、織斑先生…やりすぎですよ…」

 

すると耳を疑うような声が俺の耳に入った。

その声は、女子の声ではなかった。

 

(あれ…?)

 

ここは女子高のはずなのに、なんで”男の声”が聞こえたんだ?

俺は顔を上げると...

 

 

 

 

(...はっ!?)

 

 

 

俺は目の前の光景を見て、驚いてしまった。

そこにはここではで俺しかいないはずの男が、"もう一人"いたのだ。

髪は白と黒が入り混じった髪で、俺と同じ身長ぐらいの男子がいたのだ。

 

「え?」

 

「なんで男子が..?」

 

多くの人がその人見てざわつき始めた。

なぜって見ての通り、俺しかいないはずの男子が"もう一人"いるのだ。

この教室に男子が二人いる時点で違和感が半端ない。

 

「おっと、すまない。佐々木、皆に自己紹介しろ」

 

「は、はい!」

 

その人は少し緊張気味に千冬姉に答えた。

 

 

 

 

「さ、"佐々木琲世"(ささきはいせ)です。よろしくお願いします」

 

 

 

 

その人はそう言うと大きく礼をした。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

名前 佐々木琲世(ささき はいせ)

 

誕生日:4月2日

 

身長:170cm

 

血液型:AB

 

IS適性:?

 

 

織斑一夏の次にISが使える青年

黒と白のツートンカラーの髪型をしており、

制服はノーマルとは違い、黒シャツと黒のスラック、白ネクタイでブレザーはノーマルと同じである。

能力は高く、生身でも常人離れをした動きも可能であり、

代表操縦者とは対抗できると言われる。

 

 

専用機:???

 

世代型:???

 

佐々木琲世の専用機だが、名前は非公開になっている。

製作者は篠ノ之束と言われるが謎が多い。

主な武器はデータ上近接戦闘用の"ユキムラ"のみで、

多くの研究者はそれだけで代表操縦者に対抗できたことに疑問を持っている。

なお待機形態は不明である。

 

 

 



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英国貴女


慣れない空気


僕は何すればいいのかわからなかった


一夏Side

 

 

いろいろ騒がしかった一限終わり、

俺に休息の時間が来ると思われた。

しかし結局俺に休ませる時間はなかった。

それは"周りの視線"だ。

 

「ねぇ、あの子がISが使える男の子だって」

 

「話しかけなさいよ」

 

廊下から大勢の女子が覗いてきて、

俺を落ち着かせようとはさせないように見えてしまう。

 

 

 

 

 

でも俺はそれよりも"気になること"があった

 

 

 

 

 

 

それは突然クラスにやってきた人物

 

 

 

 

 

その名は"佐々木琲世"(ささきはいせ)

 

 

 

「........」

 

その人は俺と同じくISが使える男であり、

突然ここIS学園にやってきた。

しかもその同時に"ISが使える"と千冬姉の口から出たのだ。

 

(.......)

 

"琲世"は机に肘をつけてただ外を見ていた。この学校で貴重な男が隣にいるのに、

なぜか"琲世"は話しかけてこない。

 

(俺から話しかけようかな...?)

 

俺は声をかけようか迷ったが、 自然に湧いてきた謎の緊張が妨害してくる。

大勢が女子が見ているこの状況が、とてつもなく恐ろしく感じる。

 

 

 

 

 

そんな時だった。

 

 

 

 

「ちょっといいか」

 

すると会話に誰かが声をかけてきた。

 

「...?」

 

俺は顔を上げると、驚いてしまった。

 

 

 

 

 

なぜってそれは知らない人ではなかったからだ。

 

 

 

 

 

 

その人は昔出会った人物

 

 

 

 

 

"篠ノ之箒"(しのののほうき)だった。

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

琲世Side

 

 

(....慣れないな)

 

僕は教室の窓に映る青空を席に座りなから眺めた。

妙に落ち着かない。

しかも大人数の女子が廊下からのぞいているため、

僕は窓側に視線を向けていた。

何せ僕はこんな大人数な環境にな慣れてはいない。

数人程度の環境にしか慣れてない僕にとって、

何すればいいのかわからなかった。

 

(...一夏くんは行っちゃったし...)

 

一夏くんは確か、"篠ノ之箒さん"とどこか行ったみたいだ。

"篠ノ之箒さん"と言えば僕はある人物が頭に浮かんだ。

苗字の通り、あのISを製作した"篠ノ之博士"の妹さんである。

 

 

彼女がIS学園に来るなんて、とっても複雑な心境のはず....

 

 

「ちょっとよろしいですか?」

 

 

すると誰かが僕に声をかけてきた。

振り向くときらびやかな金髪のロングヘアーに、ロングスカートに似た制服を来た女子が立っていたのだ。

 

「は、はい?」

 

「な、なんですの?そのお返事?」

 

「え?」

 

「私に話しかけられることは光栄なんですわよっ!」

 

「そ、そうですか?.....っ!」

 

僕はこの人は一体誰なのか思い出した。

 

「えっと...あなたは"セシリア・オルコットさん"ですよね?」

 

「私を知ってなさるのですか!」

 

「はい、イギリスの代表候補生の子...だよね?」

 

どうして知っているか直接言えないけれど、

僕は入学前に専用機を所持している学生のデータを目を通していた。

今の所一年生で専用機を持っているのはセシリアさんのみだけだ。

 

「えっと....僕の名前は...知ってますよね?」

 

「ええ、先ほど自己紹介で耳にしましたわ。名前は"佐々木琲世さん"っでよろしいですね」

 

実にイギリス貴族らしい紳士....いや、淑女の雰囲気が感じられる。

 

「それで...失礼ですが、何かご用ですか?」

 

彼女から声をかけられるのなら、何かあるはずだ。

何せ今日、初めて表に出たものだから。

 

「あなたも本当にISを使えるのですか?」

 

「..え?」

 

僕はセシリアさんの言葉に驚いてしまった。

 

「織斑一夏はISを使えることは世間では知られておりますが、あなたがどうですか?」

 

「..は、はい。使えます...本当に...」

 

「本当ですか?」

 

セシリアさんは僕の言葉を待たずにして、疑いの目を向ける。

僕がどうして躊躇に返すと言えば、

今千冬さんから使用許可はおりてはない。

というか本来ISをむやみに使用してならないのが普通である。

 

(何せ....僕のISの"待機状態"がね....)

 

専用機持ちなら待機状態はアクセサリーみたいな小さな感じになっているが、

僕はその小さなアクセサリーみたいなのもではない。

 

「本当ですよ...」

 

「........」

 

数十秒、静かな間が生まれた。

僕的にはこれ以上突き止められても困る。

 

「....ならいいですわ」

 

「は、はい...?」

 

セシリアさんはそう言うと、にこやかに言葉を返した。

どうやら認めた...かも?

 

「...いずれ、私は"あなたの実力"を見ますからね」

 

「...え?」

 

僕はそのセシリアさんの言葉に、

妙に嫌な予感を示しているように見えてしまう....

 

「何せ私は入試中に教官を倒しましたわよ」

 

「え?教官を倒した?」

 

「ええ、代表候補生であるならば当たり前なことです」

 

ひどく言ってしまうと、僕を見下す貴族に見える。

確かに彼女が教官を倒すのはすごいことなのだが....

 

「教官...」

 

専用機持ちの代表候補生なら、実力はいいはず。

 

 

 

 

 

 

だが僕は一言も"経験がない"とは言ってはない

 

 

 

 

 

 

 

「...僕も教官を倒しました」

 

 

 

 

 

「..はっ!?」

 

セシリアさんは偉そうな雰囲気から一変、驚いた顔つきになった。

 

「確か...山田先生と戦って、勝ちました」

 

セシリアさんは確か練習機で戦ったと聞いたが、僕は違う。

僕が行った入試は極秘で行われており、

山田先生は練習機ではなく専用機の『ラファール・リヴァイヴ・スペシャル』を使用していた。

もちろん入試での対戦で専用機を使ったのは僕以外誰もいない。

 

(....と言っても、なぜか山田先生はすぐに負けを言ったんだよね)

 

先生は元日本代表候補生なのだが、

なぜかすぐに負けを申し出てしまった。

先生が『遠慮なく戦ってください』と言ったら......

 

「ど、どうやって..?」

 

「はい、"普通"に戦ってやりました」

 

「普通...!?」

 

詳しく言えば、僕は"量産型IS"を使用してない。

というか僕は、

 

 

 

 

 

"他のISを使用することができない"

 

 

 

 

 

「わ、私だけと聞きましたが...」

 

「それは...僕が非公開とされていたからだと思います...」

 

「そ、そうですか....」

 

セシリアさんの肩が下がったように見えた。

本当に残念に感じたようだ。

 

「あ...落ち込まないでください。セシリアさんもすごいと思いますよ?」

 

僕はそんな残念に感じた彼女に少し励ました。

でも僕の少し話が下手だと実感してしまう。

やはり、あの"隔離された生活"が原因だとふと感じてしまった。

そのあとセシリアさんは「ありがとうございます...」と言ったのだが、

どうも全てを満たした気がしなかった。

 

 

 

 

 

僕はまだこの世界に生まれたばかりだと胸に感じた。

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

(やっと終わった...)

 

僕はいつもより長く感じた1日を終え、

今日から住む寮へと向かっていた。

荷物は既に部屋に置いてあると事前に山田先生に耳していた。

 

(......そう言えば一夏くんとは一度も話していないな)

 

もし他の人が聞けば疑うかもしれないが、本当だ。

何せ僕もそうだが一夏くんの周りに多くの女子がいたせいか、

中々話す機会がない。

もちろんそう言えば今も後ろに何人かの女子が僕について来ている。

 

(まぁ...部屋に入ったら、一夏くんはいるかも)

 

きっと一夏くんは先に部屋に帰っているに違いない。

その時に声をかければいいと思う。

 

 

 

(...."僕のIS")

 

 

 

今日セシリアさんと会話で感じたこと

 

それは僕の"専用機"

 

あのセシリアさんの言葉はある意味、"対決"の意味をしていると思う。

なぜか戦いたくない気持ちが変に生まれてしまった。

 

 

 

 

自らの意思を破る"恐ろしいもの"が"再び"起きるではないかの恐怖があった。

 

 

  

 

(あ、ここだね)

 

ふと気がつけば僕が入る寮の部屋のドアについた。

あまりにも考えていたせいか、校舎と寮の間が距離が短く感じた。

僕は気持ちをスッキリさせるため大きく息を吸った。

入学当初からこんなことで悩むのはだめだ。

 

(多分ここかな....?)

 

僕が入る部屋は、確かこの部屋だ。

おそらく二人部屋かな...?

 

 

 

 

そう思い僕はドアの開けた。

 

 

 

 

 

その先にいたのは......

 

 

 

 

 

「あ、君が噂の"琲世くん"ね」

 

 

 

 

そこにいたのは一夏くんではなく、

 

 

 

 

 

かつて出会った人であり、

 

 

 

 

水色の髪色をした女子高生

 

 

 

 

 

"更織刀奈"だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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生徒会長



僕の数少ない知る人


それは僕にとって唯一の拠り所





琲世Side

 

 

「....刀奈....さん?」

 

僕はその人を見て、驚いてしまった。

あの"更織刀奈"さんが僕が生活する部屋にいるのだ。

 

 

 

 

その同時に"危機感"を察した。

 

 

 

「ひっっっっさしぶり!!!!」

 

 

すぐ様、刀奈さんは僕に突っ込んできた。

まるで弾丸のようにまっすぐと僕にくる。

 

「っ!!!」

 

僕は咄嗟に刀奈さんの両手首を掴み、動きを抑えた。

 

「やっぱり琲世くんはいつ見てもすごいね♡」

 

両手を抑えてるのだが、顔が僕の体に近く。

 

「や、やめてください....っ!」

 

僕より小柄な刀奈さんなんのだが、

見た目とは想像がつかないほどの力が僕の手に伝わる。

刀奈さんは決して"ただの女子高生"ではない。

 

「はぁーやっぱり強いね〜」

 

刀奈さんはそういうと顔を近くのやめ、「早く手を自由にして〜」と笑いながら僕に訴えた。

 

「わ、わかりました....」

 

僕はそう言うと刀奈さんの両手を離した。

一瞬その隙で僕を襲うではないかと言う不安があったが、

その心配はなかった。

 

刀奈さんはあの対暗部用暗部の『更織家』の当主であり、

表に出ていなかった僕にとって数少ない知る人物だ。

 

「....久しぶりに会って早速、これって疲れません?」

 

「えーなんなのその言い方は」

 

「す、すみません...」

 

更織さんは頰を膨らませ、怒っている仕草をした。

先ほどの抵抗で多少疲れてしまった。

彼女とは初めて出会ったのは僕がISの訓練をしていた時だった。

それは千冬さんではなく、"あの人"からの指名であった。

 

「ルームメイトって、もしかして刀奈さんの希望で」

 

「"刀奈さん"じゃなくて、"楯無さん”っと呼んでほしいな〜」

 

そういえば僕はあることを忘れていた。

今の刀奈さんの名前は、"更織楯無"(さらしきたてなし)だ。

現在刀奈さんは17代目楯無として名前は"刀奈"ではなく、

"楯無"と言う名前を名乗っている。

対暗部用暗部「更識家」の当主と聞くと真面目な人かなと初めは思ったのだが....

ちょこちょこと子供っぽい姿になり、僕をからかうと言う場面が多い。

少しめんどくさい....

 

「は、はい...楯....無さん...」

 

「ちょっとぎこちないぞ、少年!」

 

僕は"刀奈さん"の方が言い慣れたせいか、

妙に気恥ずかしくて言いづらい。

むしろ誰かがいない中でも刀奈さんと言いたいのだが、

刀奈さんは『それじゃあだめじゃん』と否定した。

何度か楯無さんと呼んで3度目、

やっとオッケーをもらった。

やっぱり刀奈さんはめんどくさいところは変わっていない。

 

「それで楯無さん.....僕と一緒になったのは..指名ですか?」

 

以前出会ったことのある"刀奈さん"とは、初めて出会う人より一緒いた方がまだいいと思うが...

一夏くんは男だからそちらの方が居心地はいいと思う...

 

「それは私の指名じゃなく、"織斑先生"から言われたの」

 

「え?千冬さんが?」

 

「"君のIS"は危ないことを耳にしているから、私を選んだのかも」

 

彼女は生徒会長、つまり"学園最強"である。

それは千冬さんから聞いた情報だ。

どの生徒も教師でも最強と言われているため、

その情報は本当だと言える。

そんな僕とルームメイトでいるの理由は、"ただ一つ"しか頭になかった。

 

「...."僕のIS"ですか」

 

「ええ、それが一番の理由だね」

 

刀奈さんはそう言うと、扇子をパッと開いた。

その扇子には『正解』と書かれていた。

僕はそのことを聞いて、気分が暗く感じてしまった。

そのように思い始めたのは"僕のIS"を初めて起動した時であった。

 

 

 

 

 

その時、僕はーーーーーー

 

 

 

 

 

「なーに落ち込んでるの?」

 

「え?」

 

ふと気がつけば刀奈さんが僕の両肩に手を置いていたのだ

 

「せっかく学園に来て1日目だし、ここに座って♪」

 

刀奈さんはそう言うとベットに座り、ぽんぽんっとベットに誘っていた。

にゃははっと笑い、僕が座るのを待っていた。

 

「あの...それよりも先に報告書を..」

 

「そんなの、"後で"出来るんじゃないの?」

 

「.....はい」

 

僕は刀奈さんの言われたようにベットに座った。

一体何をやるのか僕は予想は着いていた。

 

「やっぱ琲世くんの髪、黒くなってるね〜」

 

「はい...だんだんと黒く染まってます」

 

刀奈さんと前に会った時、いつも僕の髪をいじっていた。

その理由は僕の髪色の変化であった。

始め出会った時は真っ白な髪だったけれど、

ある程度月日が流れると僕の髪に変化が訪れた。

僕の髪が上から黒く染まり始めたのだ。

それに最初に気づいてくれたのは、刀奈さんであった。

それ以降、僕と別れるまで髪の変化を見るようにいじるようになった。

 

「あの時出会いたての琲世くんの髪が少し恋しいかな〜」

 

「ははは、それは恥ずかしいですよ、刀奈さん」

 

「あ、今"刀奈"と言ったね」

 

「すみません。楯無さん」

 

僕はすぐに訂正して返すと、

刀奈さんは『切り替え早〜い』と笑った。

 

「あの...楯無さん?」

 

「ん?」

 

「"刀奈さん"と言っていいのは、どの時でいいでしょうか?」

 

「ん〜どうだろうね〜」

 

刀奈さんはそう言うと、人差し指と顎に当て、考える仕草をした。

僕はその答えを言う時を固唾を呑む。

 

 

 

しかし、出た答えは....

 

 

 

「一体どんな時だろうね〜」

 

「....え?」

 

「少なくとも、この時はダメだね〜」

 

刀奈さんはそう言うと、僕の髪をくるりんと指で丸めた。

このプライベートに近い状態でも言えないだなんて、残念に感じた。

久しぶりの再開なのに

 

「そういえば、琲世くん?」

 

「はい?」

 

「先ほど言ってた報告書って、もしかして琲世くんの"おかーさん"宛てかな?」

 

「....”千冬さん”をお母さんとは言わないでくださいよ...」 

 

確かに存在的にはそうだが....

口で言われるのは少し照れ臭くなる。

 

「えー、でも存在はそうじゃない?」

 

「確かに間違ってはないですけど...」

 

「お?そこは認めるんだね〜」

 

そう言うと刀奈さんは僕の髪をわしゃわしゃとくしゃくしゃにした。

 

「ちょっ!刀奈さん!」

 

「あ、もう一回言ったな〜」

 

僕が間違え刀奈さんと言ってしまい、刀奈さんはさらに僕の髪をくしゃくしゃにする。

このやりとりが何度も何度も繰り返しやられた。

僕は止めようとしたが、やはり刀奈さんは強かった。

軍隊の人よりも強いことがわかる。

 

 

 

 

 

 

 

そういえば、僕は千冬さん以外に報告しなければならない人物がいた。

 

 

 

 

 

 

その人は千冬さんも刀奈さん、もしかしたら一夏くんも知っている人物だ。

 

 

 

 

 

 

 



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不思議な奴

人との交流


それは僕が生まれる前から苦手なものらしい













 

琲世Side

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハイセ.....ハイセ.....』

 

 

 

 

 

 

暗闇から聞こえる誰かの声

 

 

 

 

 

 

『ネェ....起きてよ?』

 

 

 

 

 

自分の姿が見えないほどの暗闇

 

 

 

 

 

 

誰かの手が僕の目を塞ぐように触れる

 

 

 

 

 

 

 

ああ、そうだった

 

 

 

 

 

 

 

また"君"か

 

 

 

 

 

『なんで"ボク"を嫌おうとしてるの?』

 

 

 

君を使えば、僕が壊れる

 

 

そんなのだったらお前はいらない

 

 

 

 

 

『”ボク”使ってよ、ネェ?』

 

 

 

 

そういうと、手で僕の口を塞ぎ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『今のハイセは"弱い"からね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(.....っ!)

 

その声が終えた瞬間、僕は目を覚ました。

まるで悪夢から覚めたように起き上がった。

 

(....また"あれ"か)

 

それは度々寝ている時に聞こえる幻聴

 

僕を呼びかける"誰か"

 

それは姿の見えず、一体誰なのかわからない。

 

ただ一つわかることといえば、僕の声と"似ている"ことだ。

 

それはまるで僕の心の奥に潜む、"もう一人の自分"

 

 

 

 

なんだか僕を存在否定しているかのように思えるんだ

 

 

 

 

(もう朝か....)

 

窓に視線を向けると暗闇の空ではなく、青空が眩しく光る朝であった。

そういえば僕は寝る前に本を読んでら、そのまま寝落ちしてしまったようだった。

その読んでいた本は開かれたままでベットの横に置いてあった。

 

 

 

僕はそれを手にしようとした、その時だった。

 

 

 

「おっはよっ!新入りくんっ!」

 

「ぐはっ!?」

 

思い切り体に負荷がかかった。

突然僕に飛び込んで来たのは、刀奈さんであった。

朝からこれはとてもきつい。

 

「さすがに二度寝はいけないぞ〜」

 

「に、二度寝しませんよ...」

 

刀奈さんは僕の髪をくしゃくしゃにするように触る。

絡みと子供染みた発言はやめてほしい.....

 

「あの楯無さん...どいてください...」

 

「いま私はベットが恋しくなったのだ〜」

 

「僕のベットじゃなくて楯無さんのにしてくださいよ..」

 

「私のではなく琲世くんの暖かさに恋しくなってるのだ〜」

 

このような会話が数分間続いていった。

流石に僕は起きたばかりのせいか疲れてきてしまい、

刀奈さんの両肩に手を置き、立ち上がらせた。

 

「....もうそろそろやめません..?」

 

「えー別におもしろいじゃないの」

 

「...そ、そうですか」

 

そう答えた僕は視線を晒し、顔が少し赤く染まった。

僕は刀奈さんとの短い会話であることに気がついたのだ。

それは彼女の姿だ。

大きめの白シャツだけを着ているように見え、

透き通るような綺麗な肌が、シャツの隙間から薄っすらと見えた。

 

「おやおや〜?何かお気づきですな?」

 

「......っ!」

 

あまりにも恥ずかしいせいか、僕は答えられなかった。

このような体験は初めてだからかもしれない。

刀奈さんは僕の様子を気づいたせいか、どこか揶揄いそうな目つきで僕に話した。

 

「な、なんでも....」

 

「じゃあ、見せよっか♡」

 

「....えっ?」

 

揶揄うような目つきから、どこかいやらしい目で僕を見て、うふふっと笑った。

僕は刀奈さんが何かをするような予感を察し、口を開こうとした瞬間、僕は遅かった。

言おうとした瞬間に刀奈さんが来ていたシャツをバッと広げたのだ。

 

 

 

 

まさか僕の考えていたことを、目の前でやるなんて思いもしなかった。

 

 

 

 

一瞬の出来事ではないのに、僕は目を閉じようとしなかった。

 

 

 

 

それは驚きと羞恥心のせいかもしれない。

 

 

 

 

 

 

だが、

 

 

 

 

 

 

刀奈さんの姿は、

 

 

 

 

 

僕が察した通りではなかった。

 

 

 

「私は水着を着ていたのだ〜」

 

 

肌だけかと思ったが、

刀奈さんは"青い水着"を着ていたのだ。

 

「....み、水着を来ていたのですか」

 

「何を想像していたのかな〜?」

 

「......」

 

刀奈さんにそう言われた瞬間、僕は再び顔が赤くなってしまった。

察したことが間違いであった。

以前にも刀奈さんは似たことで僕に何度も驚きと恥ずかしさを出されたのだ。

そう思うと女性と言うものは、男性にはない恐ろしい武器を持っていることがわかる。

 

「佐々木くんの驚きと恥ずかしさが混じったいい顔も見れたし、私シャワー浴びてくるね〜」

 

刀奈さんは満足そうな笑顔をし、バスタオルを手に取りバスルームに向かう。

 

 

 

 

 

その瞬間、僕はあることを思い出した。

 

 

 

「....あの刀奈さん」

 

「ん?」

 

僕は刀奈さんにあることを伝えるために声をかけた。

刀奈さんは立ち止まり、僕の方に振り返った。

 

 

「えっと......」

 

 

刀奈さんに伝えようしたのだが、僕は躊躇してしまった。

 

 

 

 

それは本当信じてくれるかわからない。

 

 

 

 

 

 

 

僕が見た夢をことを

 

 

 

 

 

 

 

 

「....な、なんでもありません」

 

「なんでもない?」

 

「はい、ただ名前を呼んだだけです」

 

「あ、いま刀奈と言ったな〜」

 

「あ...っ」

 

「じゃあ、琲世くんに罰が必要だね〜」

 

「罰..?....っ!!」

 

無意識で刀奈さんの名を言ってしまったこと気がついた。

その瞬間に刀奈さんは、素早くベットにいた僕に再びダイブをした。

その後刀奈さんは僕の体をくすぐりだし、数分やめはしなかった。

朝から清々しい気分を味わったのではなく、疲労を味わった。

 

 

 

 

 

 

 

あの悪夢について話そうとしていた、僕。

 

 

でも自然にそれついて離そうとはしなかった。

 

 

それはまるで本当に話してはならないもののように感じたのだから。

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

一夏Side

 

 

「一夏、大丈夫なのか?」

 

「さすがに大丈夫な訳ないだろ....あの電話帳みたいなやつを1週間でやるのは...」

 

徹夜したおかげで、今日の朝は眠い。

だいたい俺が悪いのだけれど....

それに昨日箒に一度殺されそうになった。

まさかルームメイトが琲世ではなく知らずに入ったら、

ちょうど風呂から上がった箒が出てきたのだ。

バスローブだけ着た姿で出てきたものだから、

木刀で殺されそうになった。

 

(今日も騒がしくなりそうだ....)

 

そんな憂鬱な朝を目覚めさせるような出来ことが早速起こった。

 

「あの....おはよ、一夏くん」

 

早速朝から声をかけてくれた人物がいた。

それは女子ではなく男子である人物、琲世であった。

 

「お、おはよ....」

 

「昨日は声をかけれれなくてごめんね」

 

「い、いいよ。大丈夫さ...」

 

琲世はそう言うと俺の隣に座った。

琲世とは今、初めて会話をした。

昨日はたくさんの女子がお互いに押し寄せ、

声をかけれらるような状態ではなかった。

琲世は俺の次に箒に視線を向け、

 

「えっと、箒さんだよね?」

 

「なぜ私の名をわかるのだ?」

 

「え、い、いや....ちょうど座る席の場所が隣だったから...」

 

なぜか琲世と箒の間が不穏な空気が生まれた。

琲世は箒の態度に怖がっているように見え、

箒は琲世を警戒しているように見ていた。

 

「別にそう警戒することないだろ?琲世はなにも悪いことしてない」

 

「まぁ、そうだな...」

 

箒は少し納得した様子で頷く。

俺はパンを口に運び、噛み砕いて飲み込んだ。

 

「....えっと...やっと一夏くんと話せてよかったよ...」

 

先ほどに空気から気を取り直し、琲世はほっと安息したため息を吐いた。

 

「確か、同じ部屋じゃないよな...なんでだろう」

 

昨日は日中、琲世と会話する時間はなく、

おそらく同じ部屋で過ごすだろうと思ってたのだが...

俺は箒と同じ部屋であり、琲世とは別々だったのだ。

 

「別に異性とは話すのは嫌いじゃないけど....やっぱり同姓の人が一人いないとね..」

 

「そうだよな....おそらく俺たち以外の男なら憧れかもしれないが...」

 

俺たちがいる状況は外の人が見れば羨ましがられるかもしれないが、実際は地獄だ。

トイレは全部女子トイレのため、使用できるところは限られ、どこに行っても女子しかいないから違和感はある。

それに寮に行けば安らげるとは限らないし....

 

「......」

 

俺は琲世を見て、あることを気がついた。

 

「琲世?」

 

「ん?」

 

「...何か食べたか?」

 

「え?」

 

俺が琲世にそう聞いたのは、

琲世はコーヒー以外何も持ってはおらず、

ただ座っているだけであったからだ。

 

「さ、さっき食べたよ...」

 

「本当か?」

 

「うん。トースト二枚ぐらいだね」

 

琲世はそう言うと、コーヒーを飲んだ。

まぁ、トースト二枚だったら早く食べれるから、

琲世は食べるの早いな。

 

「...やっぱり空気が慣れないよ」

 

「空気?」

 

「女子ばかりの空気が少し違和感がね...」

 

「まぁ俺たちしかいないからな....」

 

俺でも流石に女子ばかりのところを一人でいるのはきつい。

別に嫌とは言うわけではないが、無性にどこかに逃げたくなる。

そう思うと琲世は数少ない同性で、心強い仲間だ。

 

「あ、織斑くんと佐々木くんだ!」

 

そんな時俺たちに、朝から元気な声が耳に入った。

振り向くと3人の女子が俺たちの元にやってきた。

 

「ちょっと隣に来ていいかな?」

 

「ああ、いいけど...」

 

小さくガッツポーズを取り、俺たちの隣の席に座った。

 

「いや〜ご対面できてよかった〜」

 

「話しかけるのすごく勇気が必要だったんだよね」

 

「そ、そうなんだな...」

 

別にに気軽の話しかけてもいいのだが、

今の空気は話しかけづらいと言ってもいい。

先ほどまで誰も話しかける女子が一人もおらず、

ただ遠くで俺たちを見ていただけだ。

そう考えると勇気がいることがなんとなくわかる。

 

「あ!やっほ〜"さっさくん"!」

 

すると俺たちの隣に座った3人の女子の一人が琲世を見た瞬間、

琲世に思いっきり抱きついたのだ。

 

「.....え、え!?」

 

琲世は一突然抱きしめられたことに驚き、顔が赤く染まった。

その抱きしめた女子は他の生徒とは違い、着ぐるみのパジャマをしていた。

 

「いや〜ここでさっさくんと会えるとは嬉しいよ〜」

 

「い、い、いや、急にどうして抱きつくの!?」

 

琲世は慌てた様子で、一体何をすればいいのかわからないように見える。

おそらく急に挨拶のハグを受けたから驚いているだろう。

でもさすがに俺でも驚いてしまうな。

 

「琲世知り合いか?」

 

「い、いや...知り合いじゃ」

 

「うんうん、知り合いだよ〜」

 

琲世はそう言うと、手を顎にこするように触った。

琲世は納得してないが、もしかすると知らぬ間に知り合ったかもしれない。

 

「えっと...確か...本音さん...だよね?」

 

「うんうんっ、のほほんでいいよ〜。あとオリムーも同じく呼んでね〜」

 

「お、おう...のほほんさん..」

 

「いいよ〜おりむー」

 

既に俺にあだ名が決められたことに疑問を持ったが、

のほほんさんと本人が呼んでいいなら俺も同じくそう呼ぶことにした。

その後俺たちは会話をしたのだけど、

ふと俺は琲世に聞きたいことを思い出した。

 

「ところで琲世?」

 

「ん?」

 

昨日の夜にふと頭に浮かんだことだ。

 

「お前ってここに来る前、今までどこで」

 

「いつまで食べてる?食事は迅速に取れ!」

 

するとタイミングよく千冬姉の声が、俺の質問をかき消した。

 

 

 

 

 

 

そういえば俺が琲世にあの質問したのは、

琲世はどこか普通の人ではなく、"不思議なやつ"だとふと感じただからだ。

どんなところが不思議なのかと聞かれると、うまく言葉に表せない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただ、"普通の人"ではないとわかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「一体なんなんだこれは....」

 

早速授業に入り、まず始められたのはクラス代表決めだった。

空気的に一体誰が推薦されるのかわかっていた。

 

「な、なんで...俺と琲世が...?」

 

クラス代表候補が俺と琲世の名前しか上がっていなかった。

しかも琲世とはいい勝負と言える状態だ。

 

「なんで僕たちだろうね.....」

 

琲世は苦笑いし、状況に受け入れられなかった。

ある意味強制と言ってもいい。

 

「ではクラス代表は、織斑くんと佐々木くんのどちらか」

 

「.........いや」

 

すると千冬姉が山田先生の言葉を止めるかのように口を開いた。

そして驚くことを言ったんだ。

 

「佐々木はクラス代表としては出さない」

 

「「え!?」」

 

千冬姉の言葉に皆は衝撃を受けた。

 

「ど、どうしてですか!?」

 

「佐々木くんはなんでダメなんですか!?」

 

琲世を推薦した人たちは千冬姉がどうして琲世がダメなのか千冬姉に問いただした。

 

「落ち着け。実を言うと佐々木は織斑とは違い、少し"事情"があってな。クラス代表候補を降ろす」

 

「その事情はなんですかっ!?」」

 

「それは"保安上"、言えない」

 

千冬姉がそう言うと、琲世を推薦した女子たちはガクッと気持ちが下がり、口を止めた。

"保安上"って一体なんだろうか?

 

「.....」

 

千冬姉の言葉を聞いた琲世の表情は、どこか暗い様子に見えた。

何も言わず、唇を噛み締めていた。

クラス代表になれなかったことに悔しいと感じているように見えず、

"俺とは違うなにか”に暗く感じていたように見えた。

 

 

結局俺がクラス代表になった.....訳ではなかった。

俺はセシリアとISで戦うことになった。

 

その理由は俺がクラス代表になることが気に入らなかったからだ。

確かに俺が前日に怒らせたからでもあるが、

セシリアはイギリス代表候補生と言うこともある。

その代表候補生がクラス代表になれなかったことに納得ができなかった。

それで俺はセシリアの決闘を受けることになった。

ISに関して素人が言える俺が、代表候補生と言うISのプロと戦うだなんて....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも忘れてはならないことがあった。

 

 

それは琲世がクラス代表になれなかったことだ。

 

 

その"事情"は一体なんだろうか...?

 

 

 

 

 



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理由

知られたくはない理由



それは誰にでも言えることじゃない


琲世Side

 

(.....)

 

授業が終わり、昼休みに入った。

僕は一人机にいたのだが、

気まずさがより居心地を悪くさせている。

先ほどのクラス代表決めで僕は"明確な理由"はなくクラス代表候補から外されたのだ。

その理由は千冬さんが皆の前に言った"保安上"だ。

千冬さんは配慮をしてくれたのか詳しくはみんなに言わなかった。

もちろんその"本当の理由"は僕は知っている。

 

(やっぱり僕のISは、扱うのはまだ早)

 

「ごきげんよう、佐々木さん」

 

先ほどのクラス代表決めの影響か誰も話しかけなかったのだけど、

こんな空気なのに僕に話しかけてきた人はいた。

 

「あ、ああ...セシリアさん」

 

先ほどクラス代表決めで僕が代表から抜けたため一夏くんだけになり、

その結果に不満を持ち、一夏くんに決闘を申し込んだ人だ。

 

「な、何かご用でしょうか?」

 

「佐々木さん、クラス代表になれなかったのは悔しいですか?」

 

彼女がプライドが高いせいか、ダブーに近い質問を唐突にしてきた。 

 

「べ、別に僕がクラス代表になれなかったのは悔しいことないですけど...」

 

「あなたがクラス代表候補から外された時、悔しい顔でしたよ」

 

確かにあの時は悔しかったのは事実だ。

でもクラス代表になれなかったのが悔しかったんじゃない。

別の意味で僕は悔しかった。

 

「それで...一夏くんに決闘を申し込んだのは?」

 

「ええ、私ならすぐに倒せますから。なにせ"国家代表候補生"ですから」

 

セシリアさん自信に満ちた様子ですぐに答えた。

確かにセシリアさんはイギリスの国家代表候補生だ。

代表候補生は決して誰も容易になることはない。

 

(一夏くんはそれを知った上で決闘を申し込んだだろう...?)

 

一夏くんはおそらくISの扱いは慣れていないはずだ。

なぜかと言うと、千冬さんは一夏くんにISが使えることが知られる前まで"一切”ISに関する知識を教えてない。

僕がこの学校に来る前にそう伝えてくれた。

 

「佐々木さんは織斑さんについて、知ってますか?」

 

「知ってる?」

 

「ええ、彼の強さです。いくら度胸があっても、ISに対してのスキルが足りなければ話になりません」

 

「一夏くんは...どうかな...?」

 

僕はその質問に安易に答えることができなかった。

別に一夏くんが代表候補生と戦うことは無謀と言え、

ISをうまく扱えないことは確かなのわかるが、

実際のところ、明確な答えは出せずによくわからない。

なぜなら一夏くんが使うISは学校の練習機ではなく、"専用機"だ。

専用機となれば自分自身の能力だけではなくそのISの性能も入るため、

答えは"専用機次第"と言ってもいい。

 

「まぁ...あまり油断をしていけないって言うことはわかります」

 

「油断?私がですか?」

 

「はい。どんな相手でももしかしら自分より"何か"が勝ることがありますからね」

 

「それはあると思いますが.....それで佐々木さんの実力はどうでしょうか?」

 

「え?」

 

僕は口を閉ざしてしまった。

それは僕にとって、決して望まない質問であったからだ。

 

「....もしかしたらセシリアさんより弱いかな?」

 

「弱い?」

 

「セシリアさんはイギリス代表候補生ですから、僕は"候補生でもなんでもない人”だから...」

 

「ふーん.....」

 

わざと回答を濁した。

配慮したこともあるが、彼女に知られたくないことがあった。

 

 

 

 

 

それは僕の"強さ"だ。

 

 

 

 

 

それは戦うどころか、殺してしまうような力。

 

 

 

 

 

 

 

 

だから決闘なんかは避けたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

言い換えれば彼女を殺したくはない。

 

 

 

 

 

 

「私より弱いですか...」

 

「...はい」

 

「お時間があればあなたに決闘を申し込みますわ」

 

「...え!?どうして?」

 

「それは、"まだ"戦っておりませんからね」

 

「.......」

 

セシリアさんはふふっと笑い「では、ごきげんよう」と言い、僕の元から去ってしまった。

その笑い方は何か考えているように見えた。

 

(時間があったら決闘を申し込む....?)

 

つまり、いつセシリアさんと戦うかはわからない。

もしかしたら明日かもしれないし、今週かもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今僕は武器を握るなんて、決して望んだことじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

"彼"がいるのだから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"彼"に移ってしまえば、殺してしまう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうか僕と戦わないでくれ、セシリアさん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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決闘


俺のIS


それは他とは違うように感じるんだ






琲世Side

 

 

セシリアさんが一夏くんに決闘を申し込み、その時が過ぎた。

一夏くん与えられた1週間は、あっという間に早く来てしまったように感じた。

 

(一夏くんの元に行かないと..!)

 

先ほど僕は司令室にいたのだが千冬さんが急に、

『佐々木、織斑と篠ノ之の元に行け』と言ったため、

急いで一夏くんと箒さんがいるピットに向かっている。

そもそも最初に僕が司令室にいたのは千冬さんの指示でいたのだ。

おそらく僕をピットに向かわせたのはおそらく"問題"が発生した時に出動させるからかもしれない。

ピットと司令室までは決して遠くはないものの、妙に長く感じる。

おそらく焦りのせいかもしれない。

 

(あ、あそこだね!!)

 

やっとAピットと書かれた開閉式の自動扉が僕の瞳に写り、そこに向かった。

おそらくその中に一夏くんと箒さんが待機しているに違いない。

そして僕は一夏くんたちがいるピットに入って行った。

 

「ごめん!おくれ」

 

「だから箒、目をそらすな!」

 

「.....ふんっ」

 

扉が開いた瞬間、謝ろうと言った僕は思わず口を止めてしまった。

二人がいるピット内はなぜか険悪な空気が漂っていたからだ。

 

「あ、あの...どうしたの?」

 

「ん?て、あれ?琲世なんでここに?」

 

「織斑先生が『ピットに向かえ』....と言われてね」

 

僕は少し恐れるように織斑くんに理由を伝えた。

一夏くんたちには『琲世は司令室にいる』と千冬さんは一様伝えていたのだが、

急遽僕がピット内にやって来たことに驚いたかもしれない。

僕が恐れるように口を開いたのは、上では織斑先生が僕たちを見下ろす感じに見ていたからだ。

司令室から見えるガラスはピットの様子が見れる。

もし何か変なことしたらあとで千冬さんに怒られ、"あのパンチ"が来るかもしれない...

 

「それで...なんでこんな空気に?」

 

「箒がISのことを一切教えてくれなかったから、こんなになったんだよ」

 

「え?」

 

決戦前というのに、ISに関する特訓はしていないと言ったのだ。

 

(と、とりあえず...箒さんに聞こう)

 

口を塞いだまま反対に向いていた箒さんに聞くことにした。

確かこの1週間、セシリアさんと対抗するため一夏くんと特訓をしたと耳にしたのだが、

果たして一体どんな特訓なのか?

 

「...箒さん?」

 

「なんだ?」

 

「その一夏くんと、どんな練習をしたかな?」

 

一夏くんをクラス代表生にするために箒さんは何か特訓をしているとクラスの人から聞いた。

その練習は僕は知らなかったため今更ながら箒さんに聞いた。

 

「...剣道をしていたな」

 

「...え?」

 

箒さんから出た言葉に耳を疑った。

 

「剣道って....まさかISの練習は」

 

「......」

 

僕の言葉を聞いた箒さんは目をそらした。

つまり、ISに関する練習は一切していない。

というか前の授業でISを作った篠ノ之博士の話題で、箒さんに多くの生徒から注目があったが、

本人はISに関することを姉である篠ノ之束から教わってないと公言した。

それを反してISの特訓となると少し考え難い。

 

(二人がこんな険悪な空気になるのが...なんとなくわかるよ...)

 

でも箒さんと一夏くんはこの学校で初めて出会ったわけじゃない。

確か二人ともはお互い幼馴染だ。

千冬さんから聞いた話だと、一夏くんと箒さんは小学校から知り合っている。

そう考えると他の人の指導よりは緊張はせずいいかもしれない。

 

「あれがセシリアのISか...」

 

するとアリーナの様子を流していた画面が目の前に現れ、一機のISを写していた。

 

(ブルー・ティアーズ...)

 

空中に待機している青い機体。

イギリスの第三世代型ISで、射撃を主力とするISである。

搭載されている"BT兵器"のデータを得る為に開発されたと言ってもいいISだけど、

まだISに不慣れな一夏くんにとっては脅威と言ってもいいだろう。

 

「織斑くん!織斑くん!」

 

すると司令部から山田先生の声が聞こえた。

 

「今、織斑くんの専用機が到着しました」

 

どうやら今、一夏くんが使用するISが来たらしい。

本来なら他のISを使うはずあったらしいが、

今回は時間がないためにあるISが用意された。

 

「織斑、すぐに準備をしろ。アリーナを使用できる時間は限られている。迅速に動け」

 

千冬さんがそう言うと、硬く閉ざされた扉がゆっくりと開かれた。

その扉の奥には、一機のISが現れた。

 

(これが一夏くんが使うIS..)

 

 

 

 

僕たちが目にしたのは、白いISであった。

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

一夏Side

 

 

「これが俺の...」

 

俺はISスーツに着替え、用意されたISの目の前に立った。

このISは"白式"と言われている。

それは今まで目の前で見てきたISより違うように感じる。

 

(.....よっし)

 

俺は気持ちを落ち着かせ、そのISにそっと手を触れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのIS触った瞬間、俺は"何か"を感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.....っ!」

 

「どうした?一夏?」

 

「...感覚が違う」

 

俺は触れた瞬間、驚いた。

そのISは最初に触ったISとは全くと言ってもいいほど感覚が違ったのだ。

 

「織斑、今すぐ装着しろ」

 

「あ、ああ....」

 

俺は背中を預けるように機体に身を預けた。

すると自動的に俺の体に装着していき、

腕、胸、足に装甲が着けられていく。

鋼鉄の冷たさと硬さが身に感じられて、本当に自分はISを装備していると実感できる。

ISを装備して感じる感覚も、早く慣れないといけない。

なにせアリーナに使える時間は少ないのだから。

 

「..........」

 

(...ん?)

 

すると俺は琲世の様子に何か変に感じた。

琲世の目つきが変わっていたのだ。

先ほど穏やかで暖かい目つきが、俺のISをどこか冷たく見ていた。

 

「...琲世?」

 

「ん?」

 

「どうしたんだ?」

 

「え?....あ、ああ....なんか普通の練習機と違ってね...」

 

琲世は慌てた様子でそう言うと、顎をこするように触った。

 

「どうだ?気分は悪くないか?」

 

「問題ないさ」

 

「...そうか」

 

千冬姉はそう言うと、少し微笑んだ。

この学校に来て以来、初めて微笑んだ姿を見た。

 

「琲世、箒」

 

「ん?」

 

「な、なんだ?」

 

俺は一緒に付き添っていた二人に声をかけた。

 

「行ってくる」

 

「あ...ああ、勝ってこい!」

 

「がんばって、一夏くん」

 

俺はISを発射台に配置に着き、姿勢を構えた。

 

(よし....行くぞ!!)

 

そして俺は勢いよくアリーナに発射された。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

箒Side

 

 

始まってしまった、試合。

ピットから見える試合の様子に私と佐々木は見ている。

私は"篠ノ之束の妹”と言う特権と言うものがあったおかげか、他の人が一夏を指導させることなく特訓ができた。

でも姉さんから教えられたことはなく、昔一緒にやっていた剣道で特訓をすることになった。

それが今回の対決で響くのはそらしたくなるが、結局は私が作ってしまったことには変わらない。

一夏がどうか勝ってほしい。

 

 

 

 

 

 

 

でも私は試合だけを見ていたわけじゃないんだ。

 

 

 

 

 

 

(........)

 

 

私はある人に目を向けていた。

 

 

 

 

 

 

それは隣にいる人物、

 

 

 

 

 

佐々木琲世(ささきはいせ)だ。

 

 

 

一夏より身長が少し小さく、下が白で上が黒の変な髪色をした男だ。

制服は他の人と違いシャツとスラックスだけは黒だ。

私が会った時、どこか"嫌気"と言うものが自然と浮かんだ。

琲世の隣にいると、なんだか"誰か"に似ているように感じる。

その"誰か"とは、私が幼き頃に出会った人物であり、

一夏と一度別れるきっかけを作った"男"だ。

 

『君が篠ノ之さんの妹だね』

 

ある時、突然"その人物"がやってきた。

その男は一夏の姉の千冬さん姉さんと交流のあった男だ。

姉である篠ノ之束はISを開発したことで世に名を知られ、

世界がISと言う兵器に注目していた。

しかしある時突然姉さんは行方不明となり、

私も含む家族は政府の重要人物保護プログラムによって各地を転々とした。

 

 

 

 

 

その時家にやって来たのは、その男だった。

あの時に見た顔は、人らしさがなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

"人に似たバケモノ"に見えたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

その点では佐々木も同じだ。

どこか人らしさが感じられない。

まるで"あの男"に似ている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...あの箒さん?」

 

「ん?」

 

「どうしましたか?」

 

ふと琲世の言葉にぼーとしていたことに気づき、私は我に帰った。

考えていたせいか周りの音が一瞬にして戻った感覚がした。

佐々木は私に声をかけていた。

 

「あ、い、いや...」

 

私は少し慌ててしまい、目をそらした。

佐々木は私の行動に変に感じたのか、頭を傾けていた。

 

「それで...一夏はどうだ?」

 

「一夏くんは最初セシリアさんの攻撃を避けるだけだったけど、箒さんの特訓の成果が出ていたよ」

 

「成果が...?」

 

私は"過去"を思い出してしまったせいで、一夏の様子を見ていなかった。

 

「一夏くんの武器は雪片弐型(ゆきひらにがた)という近接用武器の刀しか持っていなかったから、

 射撃型のISを使用しているセシリアさんに不利だったのだけど、弾丸をうまく交わしてセシリアさんに接近して攻撃をしたよ」

 

「そ、そうなんだな....」

 

その話を耳にして私は心の中でひっそりと喜んだ。

ISの特訓ができなかったと少々後悔をしていたのだが、

佐々木の話に私がやった剣道の特訓が報われたように思えた。

しかも試合を詳しく見えなかった私にとって、細かく知れてとても助かった。

 

「それで...今はどうだ?」

 

「今は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『勝者 セシリア・オルコット』

 

 

佐々木の声を打ち消すように結果がアリーナに大きく伝えた。

 

「...え?」

 

「負けた...?」

 

先ほどの佐々木の話とはかけ離れた結果が大きく放送された。

 

(い、一体どうなっている...?)

 

私は中継画面を見たが、その様子ははっきりとした結果ではなかった。

 

「一夏くんは...やられてはないね」

 

どうも判定がおかしく見えた。

 

 

 

 

 

一夏が攻撃を加えようとした目の前で止まっていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

琲世Side

 

 

外はすっかりと星がきらめく夜となっていた。

 

 

僕は一人、ベットの上で本を読んでいた。

部屋に聞こえる音は本を開く音しか聞こえず、

珍しく静かであった。

 

(...なんで喜んだ姿をしたんだろう)

 

試合が終わった時、箒さんはどこか残念そうだったが、

夕方ごとに見た箒さんはなぜか満足した様子であった。

何かいいことがあったのだろう?

 

(そういえば...刀奈さんどうしたんだろう?)

 

刀奈さんは未だに帰っては来てない。

いつもは刀奈さんとの会話か、からかいで部屋は騒がしいのだが、

今はとても静かになってした。

 

(一夏くんが負けてしまった....)

 

僕はふと今日の試合を思い出す。

男として一夏くんを応援をしていたのもあるのだけど、

セシリアさんも心の中でこっそりと応援していた。

一夏くんはあと一歩でセシリアさんに勝てるはずであった。

しかしタイミング白式のシールド・バリアーがゼロになってしまった。

それは白式の零落白夜(れいらくびゃくや)と言う能力が原因だ。

その能力はは相手のエネルギー兵器の攻撃の無効化、

シールドバリアーを斬り裂くことで相手のシールドエネルギーに直接ダメージを与えられる白式の単一仕様能力だ。

それでびゃく式のシールドバリアーがゼロとなり、試合終了したわけだ。

 

(千冬さんが使用した能力とまったく同じだ)

 

直接は見たことはないけど、ISの世界大会モンド・グロッソの試合で千冬さんはその能力を使用した。

さすが僕はそんな千冬さんとは戦おうとは思わない。

"あの人"も同じくそうだけど。

 

(指導してあげたいんだけどな....)

 

あの一戦で僕は色々発見ができた。

まずは一夏くんはISを使ってでの実践練習が必要だ。

剣道だと剣術を学べれるかもしれないけど、

ISだと剣道とは違い地面での戦いではなく、空中での戦いだ。

僕はそんな一夏くんにISを指導をしたい。

でもまず僕が専用機を持っていると口を出してはダメ。

そうしたら"めんどくさいこと"になる。

 

「ん?」

 

ふと気がつくと、ドアのノックする音が聞こえた。

僕はベットから立ち上がり、ドアに向かった。

頭に一瞬刀奈さんのいたずらが浮かんだのだけれど、

さすがにそんなことはないと心を落ち着かせ、僕は息を吸った。

もしかすると刀奈さんじゃないかもしれないとね。

 

(...よしっ)

 

僕は気持ちを整えた後、ドアを開けた。

 

「こんばん....」

 

ドアを開けた瞬間、僕は驚いてしまった。

僕がいる部屋に訪れて来たのは、セシリアさんだった。

 

 

 

 



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明らかに

彼女の思い




それはまっすぐで、正直な心




僕はそんな彼女の思いに、どこか感動をしたんだ








琲世Side

 

 

「こ....こんばんは...セシリアさん」

 

「ごきげんよう...佐々木さん」

 

僕の部屋に訪れたのはしばらく帰ってこなかった刀奈さんではなく、

今日クラス代表になったセシリアさんだった。

もう就寝時間が近いせいか、寝間着姿でやってきたのだ。

 

「ど、どうかしました...?」

 

僕は彼女の口を恐れた。

その理由には以前セシリアさんが僕に言った話が脳裏にあった。

以前セシリアさんが時間があれば決闘を申し込むと言っていた。

もしかするとそれを伝えにきたのではないかと感じたのだ。

 

「ちょっとご相談がありまして...今お時間は空いていますよね?」

 

「お時間ですか...?」

 

「ええ、それで少しの間だけでいいですからできますでしょうか?」

 

「.......大丈夫です」

 

少し間を開け、僕は彼女の言葉を受け入れた。

相談と言うなら別に問題ないはず....

僕はセシリアさんを部屋に入れた。

 

「...佐々木さんは一夏さんと一緒じゃないのですね」

 

「え?あ、は、はい...他の人になっちゃってまして...」

 

どうやら僕が一夏くんとは一緒の部屋ではないと気づいたらしい。

僕がいる部屋は散らかっているものはなく、一通り女子が使っているものは見当たらない。

いわゆる女の勘というものだろうか?

そう考えるとセシリアさんは僕のデスクにあった椅子に座った。

 

「あの、紅茶でも飲みますか?」

 

「あ、い、いえ、すぐに出ますので...」

 

僕は「あ、そうなんだ...」と言い、刀奈さんのデスクにあった椅子に座った。

僕も緊張をしていたが、向かい側にいたセシリアさんもどこか緊張を持っていた。

なんだかいつもの学校で見る姿とは違うせいか、緊張が不意にしてしまう。

気楽に話したいのだけど...

 

(とりあえず、相談を聞こう...!)

 

このまま沈黙が漂っていたらまずいので、僕は口を開くことにした。

 

「それで...相談って?」

 

「...私はクラス代表を辞退しようと考えてます」

 

「...えっ?」

 

僕はそのセシリアさんの言葉に驚いてしまった。

クラス代表は一夏くんではなく自分にふさわしいと言っていたセシリアさんが、

まさかの辞退を口にしたのだ。

決戦前に僕に声をかけたセシリアさんとは正反対であった。

 

「クラス代表をやめるって...なんで?」

 

「私は一夏さんの戦いにて感じたのです」

 

「一夏くんの戦いで?」

 

「ええ、その......」

 

するとセシリアさんはだんだんと声が小さくなり、口を噤んでしまった。

少し顔が赤くなり、手を胸に置いて握る。

 

「...私、一夏さんに....その.......惚れたのです」

 

「....え、惚れた?」

 

それを耳にした僕は、思わず驚いてしまった。

一夏くんとは本気で嫌っていたセシリアさんが、まさかの一夏くんを好きになっていたのだ。

 

「私は彼の思いに惹かれ、まさに私が考えた"理想の男"にふさわしい人なのです」

 

僕はセシリアさんの思いにまだクラス代表の辞退の驚きもあるが、一夏くんの思いを聞いた驚きもあった。

セシリアさんの目はまっすぐと僕の目を見ていた。

彼女の瞳は嘘はついていなかった。

決して迷いもないっと言っているように見えたんだ。

そう言えば、戦う前では一夏くんを"織斑さん"と言ったのだけど、今では"一夏さん"と下の名前を呼んでいた。

 

 

 

 

 

彼女は変化をしたんだ。

 

 

 

 

 

「......そうなんだね」

 

「それで....私は本当にやめてもよろしいでしょうか」

 

「..え?」

 

するとセシリアさんは僕の目をそらした。

 

「私は一夏さんに高圧な態度をとってしまい、もし私がクラス代表を辞退と伝えたら...」

 

セシリアさんはどこか恐れていた。

確かに一夏くんに上から見るような感じに見ていて、結構仲が悪かった。

もし一夏くんに辞退すると考えると恐ろしくなるのはわからなくもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

でも、一夏くんは違う。

 

 

 

 

 

 

 

 

「もしかしたら一夏さんは...」

 

「大丈夫ですよ」

 

僕は迷うセシリアさんにはっきりを答えた。

下を向いていた彼女は顔を上げた。

 

「一夏くんは決して人をバカにするような人じゃないですよ。あまり話さない僕でも他の人でもみんなに優しくしますから...」

 

「そうなんですか....と言うか佐々木さんはその割には結構話しますね」

 

「そうかな...僕はあまり話さない方だと思いますが...」

 

僕はそう言うと頭に右手にそっと置いた。

不安そうな顔だったセシリアさんに笑顔が戻った。

 

「いえいえ、私とは相談やお話を乗ってくだいますよ」

 

「まぁ、まぁ....今更だけどそうだよね...」

 

僕が温厚な性格なのかそれともセシリアさんが他の人とは違うせいか、

意外と結構話し合っている。

そんな時、セシリアさんの口からある話が上がった。

 

「そういえば一夏さんはもう専用機を持ってますが、佐々木さんの専用機は?」

 

「専用機?ええ、僕はまだもらっていませんね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もうすでに僕は持っている。

 

でもそれを証明するにはISを展開しないといけない。

 

もし許可なしにISを展開すれば処罰がくる。

 

なぜ展開しないと証明ができないかと言うと、

 

一夏くんの専用機"白式"の待機状態は右腕に籠手がつけられているような状態けれど、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕のISの待機状態は、"普通"には見えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうなんですか....」

 

「僕は別に専用機はすぐには欲しいと考えてないので...」

 

「まぁでも、佐々木さんに専用機は来ると思いますよ」

 

「どうでしょうかね...」

 

僕は苦笑いをした。

演じるように笑った。

 

「あ、こうこんな時間ですか。でも私は部屋に戻りますわ」

 

「え?もう....結構時間過ぎましたね」

 

ふとセシリアさんの一声に時計を見た僕は驚いてしまった。

あっという間に時間が過ぎてしまった。

 

「お話できてよかったです」

 

「うん、僕も同じくだよ」

 

そう言うと僕たちは扉の前に移動し、僕はドアを開けた。

 

「でもおやすみなさい、セシリアさん」

 

「Good night 琲世さん」

 

セシリアさんはそう言うと部屋から出て、扉を閉めた。

 

(...なんで僕の名前を言ったんだろ?)

 

僕は少し気になった。

先ほどセシリアさんは僕を"琲世さん”と言ったのだ。

あまりにも一瞬だったため、気がつくのが遅かった。

そう思うとなんだか嬉しかった。

他の人からこんな嬉しいことを味わうのは、めずらしかったからだ。

 

(...やっぱり本場の英語はすごい)

 

今更だけど、セシリアさんが英語を喋る姿は今のが初めのような気がする。

しかも日本に短く滞在しているのに、結構日本語はうまい。

 

(まぁ...イギリスで学んだのかな?)

 

世界的には英語が必修言語で学内では英語が当たり前のはずだけど、

海外からきた生徒や先生もバリバリ日本語で話している。

 

 

 

その時であった。

 

 

 

(...ん?)

 

セシリアさんが去った後、またドアからノックの音が聞こえた。

しかもドアが閉まって数十秒ぐらいで。

 

(...戻ってきたのかな?)

 

おそらくセシリアさんは何か言い忘れたことがあるのではないかと思い、

僕は躊躇なくドアを開いた。

そこに立っていたのはセシリアさんだと考えていた、僕。

立っていたのは"違う人"であった。

 

「どうかしま」

 

「やっほ〜♪」

 

「.......」

 

僕は思わず口をすぐに閉じてしまった。

油断をしてしまった。

と言うか”忘れてはならない人”がいたことに僕は忘れていた。

 

「.....楯無さんですか」

 

同じルームメイトの刀奈さんだ。

刀奈さんがやっと戻ってきたのだ。

 

「なんでそんな落ち込んだ感じなの?」

 

「え、い、いや....帰って来るの遅いなって」

 

「それは仕方ないじゃない。ていうかさっきセシリアちゃんと何してたの〜?」

 

「もしかして....セシリアさんが部屋から出るまでずっとドアに待機してたんですか」

 

「正解っ!!鋭いわね〜佐々木くんっ!」

 

刀奈さんはそう言うと正解と書かれた扇子を広げた。

セシリアさんと話している時に帰ってきてもおかしくなかったのだけど、

僕はふと妙に感じていた。

刀奈さんなら相談中に部屋にくるようなことをせず、ドアでこっそりと耳にしている姿が自然と頭に浮かんだ。

なにせ"国家代表"であるから、状況を深く理解できるはずだ。

でも結局僕はセシリアさんの相談になんだか恥ずかしく感じてしまう。

 

「...まぁ、帰ってきてよかったですよ」

 

「そう?もしかして、心配してくれたの?」

 

「それも一理ありますけど、今何時だと思いますか?」

 

時計の針はもう12時であった。

 

「もしかして"裏方の仕事"で時間がかかったのですか?」

 

「それもあるかもしれないけど...ってそれは言わないの」

 

刀奈さんはそう言うと僕の口に人差し指を置いた。

 

「そういえば、さっきのセシリアちゃんの会話を聞いて気づいたのだけど」

 

「まだそれを言うのですか?」

 

「佐々木くんは一夏くんと比べると....どこか大人っぽいよね?」

 

「そうですか?」

 

「うんうん、なんだろうね...どうも"15歳の男の子"じゃなくて、"本当の大人"に見える」

 

「なんですか...それ..」

 

僕は刀奈さんのよくわからない理由に、少し呆れた。

僕があの部隊"に所属していたせいかもしれない。

部隊のほとんどが僕より年上だから、大人のようにな雰囲気になったと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"本当の理由"は僕は知らない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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恐れる


今の僕




胸の中にひっそりと忍んでいた、感情



いつかそれが表に出てしまうではないかと不安なんだ








琲世Side

 

 

生徒会室にいると思われた刀奈さんはいなかった。

今の時間帯は自分の教室にいないはずなのだが、でも彼女の姿は未だに目に映らない。

ちなみに今現在、僕が所属している1組はISを使用した実践練習をしている。

本当なら僕もアリーナに向かい、ISの実践練習をしているのだけど。

 

(実践練習が出れないのは...仕方ないかな)

 

でも僕はその実践練習には参加せず、生徒会のお仕事は手伝っている(その会長を探しているだけだけど)。

理由は僕のISは"特殊"であるからだ。

通常のISとは型式が違うため、参加しても参考にはならないと言ってもいい。

でも僕が参加しないことに、もしかしたらみんなは僕がISを使えないのではないかと疑うかもしれない。

そんな不安が頭に浮かんでいた。

 

(あれは...?)

 

ふと前に向けると、僕はある人を玄関で見かけた。

見かけない子が学校の玄関にいた。

その子は身長はだいたい150cmぐらいのツインテールをした女の子。

一見IS学園の生徒に見えるが、僕は初めて見たような感覚がした。

その子は普通の生徒とは違い、制服が改造されている。

校内で制服を改造する人は数が限られるため、一体誰なのか特定はできる。

誰だろうと頭の中で模索していたその瞬間、僕はその子と目が合った。

 

「たくっ!やっと来たわ......ね?」

 

その子はどこかイラついた様子で僕に近づき、

大きく怒号をしようとした瞬間、何か気づいたような目をし、声が止まった。

僕はその子が一体誰なのかわかった。

 

 

 

 

 

その人は、中国代表候補生凰 鈴音(ファン リンイン)

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

鈴Side

 

 

IS学園内の玄関に着いた、あたし。

持っていたボストンバックをおろし、手を腰に当てる。

やっとの思いでここに足を踏み入れることができた。

そこはIS学園。

普通の人が簡単に入れるような場所ではない。

 

(着いたのはいいのだけど...)

 

と言っても早速、事務室に行かなくてはならない。

だがこの学園はあまりにも広いためそう簡単に見つけられる気がしない。

そう考えるとなんだか苛立ちが生まれる。

 

(..ん?)

 

すると誰かがいる気配を感じた。

しかもそれは女ではなく男だ。

IS学園は本来女子校であり、男が来るような場所ではない。

でも"今年"は違う。

今、この学校で二人の男子が入学しているのだ。

女しか使えないはずISをどちらも使えるから。

 

「たくっ!やっと来たわ......ね?」

 

あたしは苛立ちを込め、その人に声をかけた。

そんなことをしたのはただの苛立ちではなく、

親しい人なら許せる行動でもある。

そのISを使える男の一人は昔からの友達だから。

名前は織斑一夏。

小5の時で初めて出会い、中2の時に親が離婚をして、一度一夏と離れてしまった。

その後中国にいたあたしのだけど、ある吉報を耳をした。

それが友達である一夏がISを使えることが世界中で大ニュースとなったのだ。

耳にしたあたしは中三で今まで準備をしていた勉強をすべてISに切り替え、高倍率であったISの代表候補生の資格をついに手に入れ、IS学園に入学できる許可を得たんだ。

あたしはあんたに会うためにこうして頑張って来た。

だからこんな態度をしたって許してくれるはず、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも

 

 

 

 

 

 

 

 

あたしが声をかけたのは、一夏ではなかった。

 

「あ...えっと....」

 

そいつは確か一夏と同じくISが使える男、"佐々木琲世"だった。

一夏とは違い、白黒の髪に黒いシャツとスラックスを着ている。

 

「一夏くんと同じクラスの....佐々木琲世です」

 

あたしが声をかけたのは織斑一夏ではなく、佐々木琲世。

そう思うと恥ずかしさより、苛立ちが増していった。

 

「もしかして2組に入る新しい人かな?確か中国代表候補生の...」

 

凰 鈴音(ファン リンイン)よ!」

 

「あ...はい...」

 

琲世は私の言葉に、しゅんっと気が小さくなった。

一夏と比べてなんだか気が弱そうな感じがある。

これがいわゆる、草食系男子と言ってもいいぐらい似合っている。

 

「それで、今一夏はどこにいるのよっ!?」

 

「一夏くんたちは実践練習をしているから、もうそろそろ教室に戻るかな?」

 

「実践練習?で、なんで佐々木は練習に参加してないのよ?」

 

「え?あ、ああ...ちょっとね」

 

なぜか口をつぐんだ。

確か佐々木琲世は今のところ専用機を持ってはいない。

では一体なんだろう?

 

「と、とりあえず、事務所に案内してよ!」

 

「わかったよ...えっとそのバックはもち」

 

「そのくらい持てるわよ!」

 

「あ、はい...」

 

あたしは地面に置いていたバックを拾い上げ、佐々木の跡を着いて行くように歩いて行った。

一夏の次に新たにISが使えると話題に上がっていた佐々木琲世。

未だにISを使用した姿はなぜか写真も動画も一個もない。

本当に使えるのか疑問に感じる。

もしかすると本当は使えないのではないかと考え始めなくもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう考えていたあたしはその時はわからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あいつの"本当の実力"を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

琲世Side

 

 

学校の授業が終わり、一人教室で自分の席に座り、物思いをふけた顔をした僕。

それは今日のこともあり、長く続いていることも考えていた。

まぁ、でも真っ先に頭に浮かんだのは今日のことだけれど。

 

(一夏くんが唐変木と言われる理由がなんとなくわかる気がする..)

 

今日の箒さんとセシリアさんの機嫌はとても悪かった。

授業にもそのオーラを感じ、何度も千冬さんに怒られる始末を目をした。

でも一夏くんは彼女たちの恋心に全く気づいておらず、余計に彼女たちの機嫌を悪くさせている。

それでも本当の理由を知らない一夏くんは本当に天然だ。

まるで"あの人"にそっくりと言ってもいいほどだ。

 

(まぁ...箒さんとセシリアさんから一夏くんに対しての不満の声が僕に言うのはね...)

 

あまりにも溜まっていたせいか二人はそれぞれ空いた時間に僕に不満を言う。

さすがに二人同時にくることはないが、会うたびに長く僕に一夏くんのことを言う。

もちろん僕も真面目に受け答えているが、大体は彼女たちが抱えていた不満を言って少し解消するだけであり、僕はその話を聞いているだけが多い。

 

「佐々木」

 

すると僕を呼びかける声が耳に入った。

その声は僕にとって慣れ親しんだ声だ。

振り向くと、千冬さんが立っていた。

 

「あ、織斑先生」

 

「聞き忘れてたが、1組が実践練習中に何していた」

 

「生徒会室に行ったのですが、更識さんがいなかったので探してたら凰さんに出会い、事務所に案内してました」

 

「そうか。てっきり勝手に寮に帰ったと考えたのだが」

 

「僕はそんなことしませんよ」

 

「...冗談だ。私はそこまで馬鹿者ではないことはわかってる」

 

そう言うとふふっと笑った。

千冬さんはたまにこう言った冗談をする。

他の人からだとあの厳しいイメージが定着しているせいか、中々信じてはくれない。

 

「そういえば..一夏くんはどうですか?」

 

「多少は最初と比べてうまくなっている。でもまだ扱いはなれてはないな」

 

「やっぱりですか...」

 

ISをうまくこなせている僕でも全てを完璧に動きや技術がわかるとは限らないため、

僕はISを長く扱ってい千冬さんに一夏くんの今の状態を聞いた。

 

「最近は篠ノ之さんとオルコットさんが一夏くんと特訓をしてますね」

 

「たく....あの小娘どもは一夏と距離が近くなってる」

 

「え?」

 

「なんでもない。ただの独り言だ」

 

「今、なんて言い」

 

「殴られたいか?」

 

僕が全て言い嘔吐した時、千冬さんはそう言うと拳をぎゅっと握りしめた。

 

「...す、すみません」

 

僕はそれ以上言及することをやめた。

通称千冬パンチ。

これは僕が命名したのではなく、千冬さん自身が命名している。

千冬さんのパンチは他の人と比べてものにならないほど強い。

でも一夏くんは何度も攻撃を受けていると聞いているため、

もしかしたら僕よりは体力があるかもしれないと考えさせる。

そういえばたまに千冬さんはおかしなことを言う。

それはお酒を飲んで時もそうだけれど、時にこんな正常な時に言うことがある。

大体は一夏くん関係のことを言うのだけど、急にぼそっと口に言うため全てを聞き取ることはできない。

 

「そうだ、琲世。今度のクラス対抗戦で一夏が出場する時、また今度もピットに待機してくれ」

 

「え?またですか」

 

「そうだ。お前は学年の中で一番ISを把握しているからな」

 

「は、はぁ...」

 

学園最強の刀奈さんとは渡り合えるぐらいだと言うことはわかる。

この前に行われた一夏くんとセシリアさんの戦いでも、僕はどう動けばいいのか知っている。

どう近づけばいいのか、どう弾幕を避ければいいのか、どこを攻撃を加えればいいのか、など"あの一戦"で僕はもう認識している。

なにせ、"危険な現場"にいたことで自然と身についた能力と言ってもいいだろう。

 

「それって...何か起こった時にISを使えって」

 

「あくまで"万が一"の話だ」

 

「"万が一"...ですか」

 

その話を耳にした時、複雑な感情を抱いてしまった。

何か問題があればISを展開する。

今の僕にとって、それは嫌なことが起きかねない。

なにせ"彼"を恐れているから。

 

「そういえば、琲世。最近何かおかしいことはないか?」

 

「え?......い、いえ、何も」

 

「そうか。何かあったら私に言え、琲世」

 

千冬さんはそう言うと『早く寮に戻れ』と言い、立ち去った。

再び教室で一人になった、僕。

千冬さんが来る前と比べると、なんだか居心地が悪く感じる。

今日の出来事が頭に浮かばず、長く続いていることが大きく占めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冗談抜きに笑えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんだか嫌な空気を感じたんだ。

 

 

 

 

 

 

 



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執徒





記憶の奥に眠る出来事



なんだか似たようなことを少しずつ思い出すんだ


一夏Side

 

やってきてしまったクラス代表戦。

その代表戦までに時間がだいぶあると思ったが、放課後に箒とセシリアとISの特訓に付き合っていたせいか、

あっという間にその時間が短く感じてしまった。

ピットにてISを展開し、待機をしていた俺。

それに一緒に付き添ってくれた箒、セシリア、琲世がいる。

 

「一夏くん、体調とか大丈夫?」

 

「体調はいいけど....なんというか問題は鈴の機嫌だ」

 

その一回目の対戦相手は、鈴であった。

昨日の夜、ちょうど怒らせてしまい朝も口を聞かなかったのだけど、

まさか初戦で相手になるなんて、さらに気持ちが重くなる。

 

「まさか...初戦は2組の凰さんだなんてね...」

 

琲世はあの時に同じ場にいなかったが、他の人から耳にしたと言っていた。

 

「一夏くんってなんか運悪いよね?」

 

「え?どうしてだよ」

 

「なんでだろうね...その...」

 

「なんだ?佐々木?」

 

「あ、いや..な、なんでもないよっ!」

 

箒が琲世に声をかけた瞬間、恐れた様子で口をつぐんだ。

最近、琲世は箒やセシリアの行動で恐れる姿をよく目にする。

普段は別に仲が悪くなはなくいいはずなのだが、なぜか俺が入ると琲世はそっと離れていく。 

 

「相手は一夏さんのISと同じ近接格闘型ですわね...」

 

「うんっ、おそらく近距離戦闘が多くなるかも...気をつけてね」

 

「硬くなるな、一夏。練習の時のようにすれば勝てる」

 

「わかった、みんな」

 

俺は発射台に乗り、アリーナに飛び立った。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

箒Side

 

 

一夏が勢いよくアリーナに飛び立った。

ついに始まる、戦い。

これは練習の成果を示す戦いでもある。

放課後に一夏とISの特訓をしたのだが、

なぜかセシリアも同じく特訓にいた。

あのクラス代表戦以降、 一夏とは馴れ親しむようなっていた。

前までは嫌っていたのに、どうして?

 

(まぁ...とりあえず一夏が前よりはISを使えこなせていいのだが)

 

とりあえず今私が望むのは、一夏がクラス対抗戦で勝利をあげることだ。

他にはあるが、それは今望むべきではないことだ。

 

(さてと....ここからでるか)

 

私たちは織斑先生がいる司令室に向かえばいい。

本来、生徒が司令室にいくには許可がいるのだが、

今回は織斑先生の許可で私とセシリア、佐々木が行くことができる。

踏み出そうとした時、あることに気が付いた。

 

「佐々木」

 

「ん?」

 

「ピットから出ないのか?」

 

私とセシリアはここから出ようとするが、なぜか佐々木は離れようとしなかった。

 

「え?い、いや、僕はここから戦いを見るよ」

 

「ここから?」

 

私は佐々木の言葉に不思議に感じた。

別に司令室か観客席で見ればいいのだが、

ピットから戦いを見るなんて、なんだか変わった奴だ。

 

「それはなぜでしょうか?」

 

「ここから見るのが好きなので」

 

「好き...?」

 

セシリアは佐々木の言葉に納得のいかない顔をした。

それは私も同じくそうであった。

ピットからアリーナまで結構距離があり、

観客席から眺めれば迫力があるのだが..

 

「えっと...箒さんとセシリアさんは先に司令室に向かってください」

 

そう伝えた佐々木は、にこりと微笑んだ。

 

「そうか...なら、私たちは出るぞ」

 

「わ、わかりましたわ...」

 

私とセシリアは佐々木からアリーナを眺める琲世を置いておき、ピットから立ち去った。

佐々木は一夏とは違い、どこか"不思議な部分"を持っている。

別にすべてを知ろうとは思わないが、私の胸に知りたいという感情がひっそりとあった。

もしかしたら"あの男"と繋がりがあるかもと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

佐々木がピットにいた理由が、後からわかるんだ。

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

一夏Side

 

 

「強いな...」

 

近づけない。

鈴のISは近接格闘型と聞いたのだが、射撃武器を持っていた。

 

「よく避けれたわね!!」

 

それは肉眼では見ることができない、透明な砲身。

俺は鈴に近づくことなく、弾丸を避けていた。

たとえ近づけても、鈴には近接武器があるため攻撃を弾き返される。

その後、大空へと向かい鈴が放つ弾丸を避けていった。

 

(今だ!!)

 

弾丸から逃れていた俺は隙を見つけ、急転換し鈴に突撃をした。

そしたら鈴は隙があったと油断をし、一瞬攻撃を止めてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このまま向かえば、俺は攻撃を加えれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でもそんな時だった

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が攻撃を加えようとした時、突然空からビームが放たれ、アリーナ中央に爆破起きたのだ。

 

 

 

「っ!?」

 

俺はその爆発音に動きを止めた。

それは俺のISでも鈴のISが放った攻撃ではなかった。

 

「なんだ....?」

 

『警告 ステージ中央に熱源 所属不明のISと断定』

 

(所属不明のIS...?)

 

そして俺の目の前に警告が現れた。

赤く警告音が俺の耳に響き渡っていた。

 

 

 

 

 

 

 

今、異常事態が起きていたんだ。

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

鈴Side

 

 

(なんなの、あいつ!?)

 

アリーナ中央に炎が燃え上がり、煙幕が舞っていた。

でもその中にISの反応があった。

そのISは明らかにデータにない、所属不明のISだ。

アタシが使用する衝撃砲より出力はだいぶ上であった。

すると煙幕からレーザーが放たれた。

そのレーザーはアタシにめがけて撃ってきた。

 

「っ!!」

 

「危ない!!」

 

立ち止まっていたアタシに一夏はアタシを抱え、攻撃を回避した。

間一髪なところで攻撃を避けた。

 

「危なかったな...鈴」

 

「うん....って、ちょっと!」

 

我に帰ると、アタシは思わず恥ずかしくなってしまった。

一夏がアタシを抱えているやり方は、まさにお姫様抱っこであった。

 

「離しなさいったら!!」

 

「バカ!やめろっ!!」

 

アタシが一夏に今すぐ降ろせと叩いていたその時であった。

 

「くるぞっ!」

 

「っ!!」

 

一夏の声に気がつくとアタシたちにまっすぐとレーザーが発射され、爆発をした。

このままダメージを食らってもおかしくはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、攻撃を受ける直前に思ったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも違った。

 

 

 

 

 

 

 

「...?」

 

目をゆっくり開くと、アタシたちはあることに気が付いた。

爆発音はしたけれど、攻撃を受けていなかった。

周りの視界を妨害していた爆発の煙が薄くなると、

アタシたちの目の前に"一機のIS"が立っていた。

 

「...二人とも大丈夫?」

 

突然、あたしたちの前に一機のISが現れた。

それは練習機でもなく、教員が使用するISはなかった。

そのISは黒と白をした専用機だ。

 

「..え?アンタ、なんで持っているのよ!?」

 

あたしはそのISを使用している奴を見て、驚いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのISに乗っていたのは、専用機を持っていなかったはずの"佐々木琲世"であった

 

 

 

 

 

 

 



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味人

僕と体内にあるIS





それはもう一つの僕のようだ





一夏Side

 

 

「..琲世?」

 

攻撃を喰らうかと思い目をつぶった俺たち。

しかし攻撃を受けたような爆発はあったものの、

俺たちは攻撃を受けてはいなかった。

爆発で生まれた煙が薄れていくと、俺たちが爆発でダメージを受けなかった理由がわかったんだ。

目の前に琲世が立っていた。

 

「二人とも大丈夫?」

 

琲世はISを展開をし、武器を握っていた。

黒と白の色をしたISで、俺たちよりは小さいISだ。

 

「なんでアンタが専用機に..?」

 

「嘘言ってごめんね、凰さん」

 

琲世が鈴に優しい声で謝った瞬間、

 

「っ!!」

 

後ろに振り向き、弾丸を跳ね返した。

跳ね返った球は空に行った。

 

「実弾だったら、跳ね返さえせなかったね」

 

「っ」

 

俺は琲世の動きに驚愕してしまい、言葉がでなかった。

今まで見てきた琲世とは全く違っていた。

琲世は俺たちと一緒に実践練習をしなかった理由が今、この目の前にわかった。

明らかに素人のような動きではない。

 

「一夏くんと凰さんは待機。僕だけで食い止める」

 

「え、えっ?う、うんっ....」

 

鈴が琲世の様子に未だに動揺したまま答えると、

琲世はまっすぐと不明機に向かった。

 

(なんて速さなんだっ!)

 

琲世が一気にスピードを上げ、その反動が肌にすぐに伝わった。

一体どのぐらいのスピードを出しているのかわからないぐらい早い。

明らかに俺のISや鈴のIS、セシリアのISなどに専用機とは桁が違っていた。

不明から放たれる容赦ない弾丸をうまくかわし、すぐに不明機の近くに接近した。

 

「僕の友達に、手を出すなっ!!」

 

琲世が大きく叫ぶと、奴の肩に刃を入れた。

鉄同士が激しく打ち合う音が耳に入った。

 

「やったかっ!」

 

「........」

 

しかし攻撃をした琲世の顔は、硬い表情のままであった。

その答えがすぐわかった。

 

「っ!!!」

 

深く歯を入れたはずなのだが、奴は動き出し、

琲世の刀を掴んだ。

 

「っ!?」

 

そして刀を掴んだままの琲世を、思いっきり投げ出した。

 

「琲世っ!!」

 

吹き飛ばされた琲世は壁に叩きつけられ、衝撃の音がアリーナに響いた。

 

「大丈夫なの、アンタ!!」

 

「だ、大丈夫だよ...ゲホっ!」

 

琲世の通信から聞こえる何かを吐き出した音。

俺には吐血した音にしか聞こえない。

 

(援護させたいが....)

 

琲世が一人やられる姿に、俺は胸が引き締められた。

 

 

 

 

何もできないという無力感が生まれたんだ。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

琲世Side

 

 

(ユキムラじゃ、歯が立たない)

 

何度も攻撃をしたが、不明機は一向に動きを劣る気配がしない。

致命的な攻撃を加えたと思えば、実際は予想していたよりもダメージが少なったりなど、

僕の攻撃はいまひとつ。

 

(今は、20〜30%ぐらい減ったのかな?)

 

僕のISはシールドエネルギーの残量は表示されない。

まさに今やっていることは、ただの遊びではない。

殺すか殺されるかの二つの選択が僕の目の前に現れているんだ。

 

(時間を稼ぐしか...)

 

このまま一人で戦い、教務課の先生の援護を待つしか....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『弱いね、ハイセ』

 

 

 

 

 

 

「っ!!」

 

 

 

 

突如、アリーナの真ん中にいたはずの僕がモノクロの床が広がる世界に立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

その後ろに、"彼"がいたんだ。

 

 

 

 

 

 

『このままじゃ、ヤツに友達を殺されちゃう。何も守れない』

 

 

 

 

 

 

ああ、あいつだ。

 

 

 

 

僕の中に潜む彼。

 

 

 

 

 

一つの雫が落ちる音のような静かな声。

 

 

 

 

鎖がじゃりじゃりと響く音。

 

 

 

 

彼が僕の後ろに近く。

 

 

 

 

 

『こっち向いてよ ...冷たいな』

 

 

そして彼は触れる。

 

 

氷のように冷たい手。

 

 

まるで死人のような手。

 

 

それが僕の肌に触れる。

 

 

 

『わかっているクセに 『僕』が必要だって』

 

 

 

 

『ねえ 『コレ』が欲しいんだろ?』

 

 

 

 

『僕を受け入れてよ』

 

 

 

 

 

 

『ほらほらほらほらほらほらほらほら』

 

 

 

 

 

 

 

「黙ってろ...」

 

小さく呟くように彼に言った言葉。

僕は君に呑まれたりはしない。

すぐさま、凰さんに通信をする。

 

「凰さん、織斑先生に連絡を」

 

「連絡?一体なんの?」

 

「"形態変形"の許可を」

 

「"形態変形"?」

 

そう聞いた凰さんはどこかパッとしなかった。

そうなるのは当たり前だ。

"一部の人"しかわからない用語だから。

 

「そのまま織斑先生に伝えて」

 

「わ、わかった....」

 

そして僕はすぐに通信を閉じた。

 

 

(......)

 

 

 

 

 

 

 

息を吸う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

乱れる心を落ち着かせる

 

 

 

 

 

 

 

いつも形態変形を使用する時、感情が乱れる

 

 

 

 

 

 

 

彼が不安定の僕を操られないためにね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして形態変形を開始する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

変形していく僕のIS

 

 

 

 

 

 

 

 

ボディのカラーが黒白から黒が多く染まり、新たに"赤"が入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

腰から現れる"赤い触手"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤く染まる僕の左目

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして無意識に人差し指を鳴らす

 

 

 

 

 

 

 

 

形態変形が完了した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

持っていたユキムラを光にして、消す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これで僕は先ほどよりも一撃を加えれる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千冬さん、有馬さん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勇気を

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

一夏Side

 

 

(あれが...琲世の...IS)

 

琲世が"形態変形"を開始した瞬間、琲世のISが変化をした。

異様な空気で形が変化し、白黒であった琲世のISのカラーが黒と赤へと変わった

赤く光る琲世の左目

持っていた刀を光でなくし腰から生えた触手

その姿に俺は、まるで"バケモノ"のように連想してしまった。

 

「っ!!」

 

そして琲世は再び不明機に接近を、攻撃をした。

 

(す、すげ....)

 

触手は機械的な動きはなく、何不自由もなく柔軟に動く糸のようで、

どんな硬いものでも貫く鋼のような頑丈な武器だ。

一体どんな装備なんだ。

琲世の動きはまるでISを展開していないように、装着されている装甲に邪魔されず華麗に動いている。

 

「っ!!」

 

だが不明機は動く。

不明機が再び琲世を掴もうとした瞬間、

 

「っ!?」

 

突然、空から一発のレーザーが不明機に命中した。

 

「...セシリアさんだね」

 

琲世がそう言うと、

 

「援護はおまかせですの!」

 

セシリアがISに展開しており、空に待機していた。

 

「援護はありがとう、あとは...」

 

「琲世!!」

 

「っ!!」

 

琲世がセシリアの方に顔を向けたその時、

不明機の大きな手に掴まれてしまった。

そして反対の腕に装着されていたビーム兵器を琲世に向け、発射をした。

 

「あが、ぐぁ、ぼぉ!!!」

 

止まることなく発射されるビーム。

取り押さえられる琲世。

容赦なく弾丸を無数に浴びさせられた琲世は、不明機に投げ飛ばさる。

 

「琲世っ!!」

 

無残にもやられた琲世は地面に何も動かず倒れた。

俺は大量に弾丸を浴びた琲世の元に駆けつけた。

さすがにもうゲージはないはず....

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、琲世は立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

「みんな、待機」

 

琲世はふらついたたまにも関わらず、俺たちに奴に攻撃をさせなかった。

 

「でも、琲世はだいぶ攻撃を...」

 

「....大丈夫だよ」

 

きっぱりと微笑んで言った琲世。

その同時に欠けていた琲世のISの装甲が徐々に再生していく。

俺は思わず口を閉ざしてしまった。

話している姿は琲世なのだが、なんだか"全くの別人"に見えたんだ。

 

「よーし、今度こそはあなたの思う通りにさせませんよ」

 

「........」

 

雰囲気が変わったせいか、琲世の喋り方に違和感がある。

大量に弾幕を受けたにも関わらず、余裕そうに口を開く。

しかし不明機は琲世の会話に一切反応しない。

 

 

「....アハハ、全く返事はなしですか。そうですよね。あなたは所詮、人ではなくロボット。

 慈悲があっては殺しにかかることは無理ですよね。

 それでしたら僕もあなたと同じく、容赦無く攻撃をしてもかかっても問題ないですよーーーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ーーーね?』

 

 

 

 

 

琲世は人差し指を親指で骨を鳴らすようにした瞬間、赤い触手が不明機に襲うように攻撃をする。

俺は琲世の目を見て、悪寒のような気味の悪い寒さを全身に感じた。

琲世の目つきが"本気で殺すような"目つきだ。

 

「お返しです!」

 

まるで蛇が獲物を激しく攻撃をするかのごとく、容赦なく攻撃を与える。

触手が獣の爪のように切り裂き、そして穴を作る。

無惨に攻撃を与え、俺たちを苦しめた不明機はついに止まった。

何も動かない鉄の塊と化していった。

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

琲世Side

 

 

(やっと倒した...)

 

腰に現れた僕が使用するISの主力武器。

それは人の手によって作られたものではなく、

僕の体から生まれたようなもの。

ユキムラよりもはるかに強く、すぐに一撃を加えれる。

 

 

 

 

 

 

それだったら、初めから使えばよか....

 

 

 

 

 

 

 

 

「......!?」

 

突然、頭に強烈な痛みが走った。

ずきんっと、左目にもくり抜かれるような痛みだ。

 

(な...なんだ、い、い、今の?)

 

痛み同時に現れた、目に映る記憶。

とある高層ビルに立っていた。

すると急に"巨大な化け物"に吹き飛ばされ、右手が吹き飛ばされる。

明らかに僕の目で見たような光景。

何度も攻撃を食らっている場面が目に映る。

 

 

 

 

 

『私のかわいい欠落者』

 

 

 

 

 

『あなたの親は、あなたを育てるのに失敗した』

 

 

 

 

 

 

「うぐっ!ああああああああああぁぁぁっっ!」

 

全身が痛い。

体全体が悲鳴を上げるように広がっていく。

まるで誰かが何かを奪うかのように、容赦なくどんどんと痛みがくる。

 

 

 

 

僕の体が暴走し始めたんだ。

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーー

 

一夏Side

 

 

「一体何が起きてる...?」

 

突然、琲世の様子がおかしくなった。

頭を抱え、声を上げ、赤い触手が不自然に動き出した。

 

『みんな聞こえるか?』

 

すると全員の通信に千冬姉の通信が入った。

 

「織斑先生っ!今、琲世の様子が」

 

『全員琲世に攻撃を加えるな』

 

「こ、攻撃加えるなってーーーーっ!」

 

俺たちの前に教務課の人たちがISを展開をし、目の前に現れた。

 

「所属不明機の回収に一時中止」

 

教務課のISがずらりと並んで立っており、

武器を琲世に向けていた。

 

「これより我々は警戒レベル4 所属不明機「ハイセ」の対処に当たる」

 

「レベル...4!?」

 

先ほどの襲撃した不明機はレベル3に対し、琲世はレベル4であった。

 

「一斉に取りかかれ」

 

一人の教員が合図をした瞬間、教務課の人たちは琲世に攻撃を開始した。

 

「あがっ!!!うぐっ!!ゔぇっ!」

 

無残に攻撃を受ける、琲世。

腕に、足に、胴体、体に装着していた装甲、そして腰から生えた赤い触手。

教官たちによって止まることなく切り込んでいく。

俺はまるで人を殺される場面を見ているよだ。

 

「っ.....っ.....」

 

無残に攻撃を受けた琲世は、地面に叩きつけられるように倒れ、アリーナに砂煙を上げた。

 

「......まったくだ」

 

砂煙の中、誰かいる。

その人は誰なのか、煙が薄れていくにつれてわかっていく。

 

(ち、千冬姉...!)

 

司令室にいたはずの千冬姉が、アリーナの中にいたのだ。

千冬姉がゆっくりと立ち上がる琲世に近づき、持っていた拳銃のスライドを引き、

琲世の頭に銃口を向ける。

 

「琲世....休め」

 

「...っ!!」

 

そして一発の銃声がアリーナに響いた。

その同時に琲世に体に装着していたISの装甲が光になって消え、ばたりと地面に倒れた。

 

「は.....琲世!!」

 

琲世はすぐさま、千冬姉の元に向かった。

琲世が頭に銃弾を受けた。

つまり、千冬姉が琲世を撃ち殺したんだ。

 

「ち、千冬姉!!なんで琲世を!!」

 

「織斑、落ち着け。琲世は生きている」

 

感情的になった俺に千冬姉は冷静に言葉を返す。

琲世を銃で撃ち殺したのにとても落ち着いている。

 

「生きてるって、銃を撃って」

 

「......っ」

 

「っ!?」

 

俺は倒れていた琲世に驚いてしまった。

先ほど銃弾を頭に撃ち抜かれたはずの琲世が、

わずかながら意識を取り戻していたのだ。

 

「さて聞こう。お前の名はなんだ?」

 

「僕は...ささき...ハイセ」

 

「そうだ。お前は"佐々木琲世"だ」

 

千冬姉はなぜか琲世に名前を聞いたんだ。

 

「....馬鹿者が、あの状況で使うとは」

 

「...すみま..せん..千冬さん..みなさんは」

 

「皆は無事だ。誰も死んではない」

 

「そう....ですか」

 

「立ち上がれるか?」

 

「...はい」

 

琲世は誰の手も貸さず、自らゆっくりと立ち上がった。

教官たちに多く攻撃を受けたにも関わらず、

琲世の体に負った傷は少しずつなくなっていた。

 

「織斑、オルコット、凰」

 

「「「はい!」」」

 

「今日見たことをくれぐれも外部に漏らすな。特に"佐々木琲世のIS”に関することもだ」

 

 

 

 

 

 

 

佐々木琲世

 

 

 

 

 

俺とは同じくISを使用を男だが、

 

 

 

 

 

 

 

大きな違いがある

 

 

 

 

 

 

それは俺とは違い、ほかのISを使用することができず、

 

 

 

 

 

 

 

体内に内蔵されているISしか使用できない。

 

 

 

 

 

 

 

そしてある決まりがある。

 

 

 

 

ひとつ、通常にISを使用する 『佐々木琲世』は『ヒト』として扱い事にする

 

 

 

 

ひとつ、形態変形で暴走し、やむを得ない場合 此れを『所属不明機』と見なし駆逐する

 

 

 

 

 

 

 

 

極力、専用の抑制弾などで沈静化を図るが

 

 

 

 

 

 

もしもの時、ハイセを駆逐しなければならない

 

 

 

 

 

 

 

琲世の戦いぶりは

 

 

 

 

 

 

 

俺たちに"強さ"、"未熟"、そして"恐れ"を刻みつけたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

琲世Side

 

 

 

 

 

 

 

哀れにボロボロと攻撃を食らった、僕

 

 

 

 

 

これで何度目だろう

 

 

 

 

 

この世に生まれたと自覚する前にも、夢でも数え切れないほど受けたように思い出すんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

陰でこんなことを聞いたんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハイセはまともな人間ではなく、ケッカン品だ』てね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は後日、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校を休み、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

有馬さんに呼び出された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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存在

一夏Side

 

 

 

翌日の朝 

 

 

昨日は所属不明機が突然アリーナに現れ、学園内は騒然としていたのだが、今は昨日の出来事が起きたことに知らなかったみたいに、もくもくと授業を受けていた。だが俺は昨日のあることに気になっていて授業に集中できなかった。ちょうど俺の隣の席に一人だけ座っておらず、皆はそれに気にする事なく黒板に目を向けていた。

 

俺が気になっていた原因は、俺の隣にある席に琲世が座っていなかったからだ。

 

(昨日の騒動が終わった後、一度も琲世に会うことがなかったな...)

 

朝に行われたホームルームの時に副担任である山田先生から『琲世くんは今日はお休みです』と言っていたのだが、俺は耳にした時、琲世はただ体調が優れなくて休んだのではなく、昨日の所属不明機の時に暴走したことが関係していると心の奥底で察した。それは俺だけではなく琲世が暴走した姿を見た箒とセシリアも同じく異変に気がついたような雰囲気を出していた。しかしホームルーム終了後、琲世が暴走をしたことを知っている俺と箒達は琲世のことをすぐに話題に上げず1時間目を迎えた。俺たちが琲世の話題を上げなかったのは理由があった。

 

 

『今日見たことをくれぐれも外部に漏らすな。特に"佐々木琲世のIS”に関することもだ』

 

 

それは琲世が暴走を止めた千冬姉が強い口調で言った言葉。あの時の千冬姉の目は本気で訴えかけるような目つきで現場を見てしまった俺たちに暴走をしてしまった琲世を口に漏らさないよう言ったため、琲世のことを口にしたくてもできない。

 

(琲世は俺と同じくISを使えるはずなのだが...俺とは違う...)

 

琲世は俺と同じくISが使える男なのが、持っている専用機は違う。名前はわからないが俺よりは性能が良く、おそらく琲世の身体能力もプラスされ、遥かに俺とは力の差が感じられた。しかしそれだけではなく琲世の背中から機械とは疑うほどの肉の赤さと、機械では表現できない自由自在に動く触手が現れた。その触手は滑らかに動くにも関わらず鋼を貫く強さを持ち合わせおり、本当にISの能力なのかと疑ってしまった。しかし所属不明機を倒した琲世に異変が起きた。突然琲世がもがき苦しみ、琲世の背中から生えた触手がいびつな動きをし、暴走をし始めたのだ。

 

(もし俺があの攻撃を受けたら...間違いなく終わってたな...)

 

琲世が暴走した時、俺たちの前にISに展開した教員達が現れ、暴走した琲世を容赦無く攻撃をした。あの時見た教員達の戦う姿は明らかに予測不可能に暴走する琲世を完全に把握していたように見えた。教員たちの経験だからこそ暴走する琲世を倒せからだと思う。そしてボロボロになった琲世を最後は千冬姉が拳銃で留めを刺した。

 

(あの時の琲世は...なんなんだ?)

 

俺は一限の授業の内容を頭に入ることなく一限が終わってしまった。二限に入る前にセシリアから琲世は検査のために学校には不在だと誰も聞かれないように小さな声で俺に伝えた。学園内の医療室は普通の高校の保健室とは違い、病院の並の設備を整えているのだが、琲世はそこにはいないらしい。大抵の病気の場合は学校で済ますことができるはずなのだが、琲世がそこにいないと言うことはただ事ではないとわかる。

 

 

 

琲世は一体どこにいるんだ? 

 

 


 

 

琲世Side

 

 

 

東京

 

 

IS学園から離れたところにある日本の首都でもあり、世界で有数の都市でもある場所。東京にそびえ立つビルの中の一つにある国際機関の建物。そこはISを保有している国家や企業を監視をする国際機関である"国際IS委員会"の本部が置かれている。僕は前日に"ある人"から呼び出しの連絡をいただき、本部にある会議室で有馬さんと二人だけいる。今いる会議室は普通の会議室とは違い天井が高く、二人だけだと会話するだけでも響いてしまうほどの広い部屋であった。

 

「琲世、学校は慣れたか?」

 

「ええ、最初は不安がありましたが、時間が経つにつれて空気に慣れました」

 

僕は"ある人"と会議室にあるテーブルに乗り、居合わせをしている。その人の名は有馬貴将(ありまきしょう)。僕よりも少し身長が高く、白い髪にメガネをしてスーツをした男性なのだが、女性しか扱えない世界最強兵器であるISに対抗ができる男性だ。ISは現在どの兵器よりも強力な兵器なのだが、女性しか扱うことができない欠点がある。そのため男女の立場が一変し、女尊男卑と呼ばれる男尊女卑の反対の言葉が生まれてしまうほどの影響力が今の社会に浸透してしまった。しかし有馬さんは男性にも関わらず、ISと勝るほど力を持っている。彼は対IS兵器と常人とは比べ物にならない戦闘能力を持っており、有馬さんを知る者の多くは"死神”と

しかし有馬さんは国際IS委員会から保安上秘密裏され、彼を知るものは世界ではほんの少しだけだ。

 

「今のところ学校で学んでいることは大体わかっているので、問題なく授業についていけてます」

 

僕は有馬さんの攻撃を瞬時に避け、持っているボールペンで有馬さんに容赦無く突き刺す。僕と有馬さんはそれぞれ一本のボールペンを持ち、どちらかがテーブルの上から落ちるのか戦っている。もちろん足での攻撃や、格闘に持ち込んでもいい。一見テーブルの上で戦うのは難しそうに聞こえないと思うが、実際上に立つとぐらぐらとテーブルが揺れ安定を失う。最初の頃はテーブルの上に立つのがやっとで攻撃をすることができなかったのだが、今では有馬さんに攻撃を仕掛けることができる。

 

「そうなんだ。同じ学年の代表候補生達とはどう?」

 

しかし有馬さんは僕の攻撃を軽々と避け、話を止めることなく僕に聞き続ける。普通の人ならば話をする余裕はないはずだが、有馬さんは普通に話しているように坦々と口を動かす。

 

「そうですね....実際に戦ったことはないですが、間違いなく強いと思います」

 

将来国を背負う代表のため、多くの志願者の中で勝ち抜けた実力を持っているはずだ。イギリス代表候補生であるセシリアさんは僕とは違い射撃重視の機体のため、どれだけ近づけるかが鍵となる。中国代表候補生の鈴さんは僕と同じ近距離の機体なのだが、与える一撃は強力なため、素早い判断が求められるはずだ。

 

「でも一夏くんはその代表候補生たちとはよく喧嘩みたいなことをするんですよ。そのほとんどが一夏くんが原因みたいらしくて、毎回代表候補生の人たちが僕に相談をーーー」

 

僕が話に夢中になってしまったその時だった。

 

「うぐぅ!?」

 

有馬さんは僕の足に蹴りを加え、体勢を崩した僕に追加で腹部に蹴りを与え、僕をテーブルの上から落とされた。床に倒れた僕は「いたたた...」と前に向くと...

 

「っ!」

 

有馬さんは無言で僕の目先にボールペンの先端を向けていた。いつの間にか有馬さんはテーブルの上から降り、僕は持っていたペンを失い完全になすすべもなかった。

 

「ま、参りました....」

 

「...琲世はISに展開した時もそうだけど、少し動きが遅い。そこを改善すればさらに良くなると思うよ。あと話に夢中にならないことも」

 

「あはは...そうですよね...」

 

僕は有馬さんの最後に言った言葉に少し苦々しく笑った。僕は理論上では代表操縦者と戦えるのだが、それはあくまでISを完全に扱えきれたらと言う話だ。暴走しては正確に攻撃は与えることができずただ物を破壊するだけで、例えるならISをしばらく展開していると感情的になってしまい、冷静に判断することができなくなると言えばいいだろう。

 

「あの...有馬さん」

 

「なんだ?」

 

「僕を呼んだのは、先日IS学園に現れた無人機のことでしょうか...?」

 

僕はそういうと少し口を硬くなり、有馬さんを見る。有馬さんは常に任務に出ているため、僕を呼び出すなんてそうそうない。僕を呼び出したのはもしかして失態を犯したためかもしれない。

 

「無人機を撃破した後に僕が暴走をしてしまい、IS学園の皆様に大変なご迷惑をーーー」

 

幸い怪我人がいなかったが暴走をしたことでアリーナの一部を破壊してしまい、そして多くの人を心配をかけてしまった。きっと有馬さんはそれで僕を呼び出したのだろうと思いながら僕はそう話しているとーーー

 

「これ借りた本、ありがとう」

 

有馬さんを見ると、有馬さんは右手に一冊の本があった。

 

「短いけどカフカの『雑種』が気に入った」

 

「あ..あれはカフカのどこか閉鎖的なユーモアを感じられるいい短編集ですよね..」

 

有馬さんが持っている本は以前僕が有馬さんに貸していた小説カフカ短編集だ。

 

「今回琲世が暴走したことは千冬は理解していると思うよ。だから深く考える必要はない」

 

有馬さんはそう言うと僕の手元に本を返した。

 

「限界を超えISにさらに力を使う必要あり、そうしたそれだけの話だろ。また限界を引き上げればいい...」

 

有馬さんは僕に怒りを見せることなく、淡々と僕に言葉を伝える。

 

「琲世。また"あの声"が聞こえた?」

 

「....はい、聞こえました」

 

有馬さんが言う"あの声"。それは僕がISを使用していた時に聞こえた声。

 

「『彼』が僕の耳元に囁くんです。『僕の力を使え』『早く使わせろ』と...あの声はまるで僕の体を返せと言っているみたいに聞こえるんです」

 

あれはもう一人の僕。僕が知らない過去を知る人物。

 

 

 

 

だけど僕は『彼』に体を渡したくはない。

 

 

 

 

「今の僕は過去を知らないですけど、これで結構幸せです」

 

僕はこの世界生まれて、嬉しいことがたくさん出会えた。

 

「最初に有馬さんと千冬さんが僕と出会い、IS学園に入学して初めて友達ができて、そして以前ずっといてくださった刀奈さんと再び会えました。僕は過去を知れなくても、十分幸せです」

 

「...家族や、かつての友人に会いたいと思わないのかい?」

 

「か、家族ならいまのでっ!」

 

僕は少し恥ずかしく噛みながた言ってしまった。僕は過去の記憶を失ったまま生きていたのだから、親の温もりは知らない。自分の父はどういった厳しさを持ち、自分の母はどういった優しさを持っていたのかわからない。だけど僕にはそれに等しい等しい人たちがいる。

 

「有馬さんは僕の『お父さん』で、千冬さんが僕の『お母さん』...なんて」

 

そう言った僕は口元を抑え、恥ずかしさを隠す。

 

「それは大変な家族だな...」

 

「そうですよね...もし千冬さんがいたら殴られていましたよ」

 

「それと一夏は琲世の叔父になってしまうよ」

 

「あ...そうなっちゃいますよね」

 

僕は有馬さんの言葉にハッと気がついた。有馬さんには"弟の似た存在の人"がいる。

 

「そういえば、一夏は元気か?」

 

「はい、一夏くんはもちろん元気ですよ。一夏くんは初めはISのことはわからず、皆さんに置いてかれていましたが、授業が進むたびに段々と理解していき、やっと皆さんについていけるほど成績が上がりました」

 

有馬さんは僕の話に「....そうか」と、どうか嬉しそうに微笑んだ。有馬さんは一夏くんと千冬さんとは昔から知り合っている。今は"ある事情"により一夏くんには会えない。

 

「琲世の話を耳にしたせいか、いつか一夏に会おうかな」

 

「えっ、本当に言ってるんですか!?」

 

「ああ、久々に『弟』に会いたくなった」

 

だけど、有馬さんにはおそらく超えられない大きな壁がある。

 

「でも千冬さんがオッケーしてくれないと思うんですけど..」

 

「....ああ、そうだな」

 

それは一夏くんのお姉さんである千冬さんだ。有馬さんが一夏くんと最後に会ったのは一夏君が小学校4年生の時で、それ以降は一度も出会ってない。理由はもちろん有馬さんがISに匹敵するほどの力を持っていると政府が知り、すぐに一夏君の元から去ったらしい。ちなみに千冬さんから聞いた話しだけど、一夏くんが唐変木なのは有馬さんが原因らしい。有馬さんは昔一夏くんと千冬さんとは何度も会っていたのだから、

 

「とりあえず有馬さん、机を拭きましょう。また千冬さん怒られてしまいますよ」

 

「そうだな。また言われてしまうな」

 

僕たちは靴の跡があった会議室のテーブルを綺麗な布巾で拭き、そして部屋から退出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕はこの世界に存在する意味はあるんだ

 

 

 

 

 

 

過去を知らなくても、僕は僕で生きていく

 

 

 

 

 

 

たとえ、誰かに否定されても

 

 

 

 

 


 

 

僕は昼過ぎから国際IS委員会が置かれているビルから出て、そのままIS学園に続く電車に乗車した。初めは電車に乗る人は多く、外はまだ太陽が真上にあったんだけど、IS学園が見えてきた時には乗車客は僕だけで、外を見ると空の真上にあった太陽は沈んでしまい電車の外からは見える街灯の光がつき始めていた。

 

(結局、遅く帰ってしまったな..)

 

駅から降りてIS学園にある寮に向かう、僕。有馬さんの元に行く前は明るかった学園内は、今では辺りが真っ暗で誰もいない。今の時間帯で寮に戻ってしまえば処罰は間違いないのだが、僕は出発する前に千冬さんに『遅く帰って来ます』と伝えてたため、おそらくは罰則はこないだろう。

 

(...ん?)

 

IS学園にある寮の建物が見えてくると、僕は動かしていた足を止めてしまった。あともう少しで寮に到着ができ、すぐにベットに飛び込むことができるのに、僕は足を止めてしまった。

 

 

 

 

 

その理由は、僕の前に"ある人物"が立っていたのだ。

 

 

 

 

「おかえり、佐々木くん」

 

夜風が青いショートカットの髪をなびかせ、街灯の光に照らされた道に立つ女性。その人は僕と同じルームメイトで一つ年上の先輩である更識刀奈(さらしきかたな)さんだ。僕はまさか寮の外で出迎えてくれたことに驚いてしまい『刀奈さん』と呼んでしまい、刀奈さんはすぐに『あれれれ?楯無(たてなし)じゃないの?』と暗いオーラを出しながら笑顔で聞いてきた。

 

「す、すみません...楯無(たてなし)さん」

 

僕はすぐに頭を下げて言うと、どこか怖そうに笑っていた刀奈さんからふふふっと笑い声が聞こえた。

 

「冗談わよ♪別に刀奈さんでもいいわ♪」

 

刀奈さんはさっきまで出していた暗いオーラが消え、子供のようなテンションになった。

 

「もぉ、琲世くんはかわいいからね♪」

 

「そ、そうでしょうか...?別に僕はかわいいわけなんて」

 

「かわいいわよ♪それにまるで数ヶ月ぶりに会うみたいに寂しかったのよ?」

 

「それ、本当に思っていたんですか?」

 

「嘘っと言って欲しいかしら?」

 

「いや...それは...」

 

「おやおやおや?琲世くんの顔に言って欲しく無さそうに書いてるわね〜?」

 

「刀奈さんっ!!」

 

僕はいつの間にか刀奈さんに絡まれ、ついに強い口調で刀奈さんの名前を言ってしまった。

 

「まぁ、ずっと琲世くんをいじるのはいいのだけど....久しぶりにお父さんに会えてどうだった?」

 

「お父さんって....恥ずかしいですよ...」

 

刀奈さんの言葉を耳にした僕は少し恥ずかしくなってしまい、口を硬くしてしまった。刀奈さんは今日僕が学校を休み、有馬さんに会うことを知っていた。いつもなら刀奈さんはさらにいじるはずなのだが、刀奈さんはいじる真似はせず優しく僕に話を聞いてきた。

 

「琲世くんの顔を見ると、とても嬉しかったみたいだね」

 

「ええ、その通りですよ。IS学園に入学して久しぶりに会ったんですから」

 

「それは久しぶりと言うかしら...?」

 

「あ...そうですよね。まだ1、2ヶ月ほどしか経っていませんよね...」

 

「まぁ、でもそのぐらい会いたい人だと言うことは代わりはないかしら?」

 

刀奈さんはそう言うと止まっていた僕の腕を掴み、僕たちは歩き始めた。僕たちしかいない寮まで続く夜道を僕は刀奈さんとしばらく歩きながら話していると、ある話題が上がった。

 

「有馬さんから琲世くんが暴走したことを聞かれたかしら?」

 

「そうですね...もちろん暴走ことは聞かれましたが、そんなに聞かれることなかったです」

 

「あら?そんなに聞かれなかったの?」

 

「はい、大体は学校生活に慣れているかとか聞かれましたよ....」

 

「そうだね。有馬さんは確か天然だからかもしれないけど...ん?」

 

「......」

 

「...どうしたの?」

 

僕は刀奈さんの口から出た"暴走"と言う単語を耳にし、段々と口を重くなってしまい、そして視線を前に向くことなく下に落としてしまった。僕はあの暴走でどれだけの人に迷惑をかけてしまったのだろうか。それにまた僕は暴走をしてしまい、もしかしたら誰かを傷つけしまうかもしれない。そう考えてしまうと僕はまたISを展開するのをためらってしまう。

 

 

 

 

僕がそう考えていると....

 

 

 

 

「琲世くん」

 

すると口を閉ざしていた僕に刀奈さんは暖かい声で僕の名前を言った。その声は暗くなった僕の胸に響き、僕は自分の名を耳にした瞬間、前を見ると刀奈さんがじっと僕の顔を見ていた。

 

「琲世くんには暗い顔は合わないよ」

 

刀奈さんは少し微笑み、そっと僕の頰に手を置いた。それは初めてではなく、前にも同じことを受けていた。いつも刀奈さんは僕が落ち込むと優しく頰に手を置き、優しい顔で僕を見つめる。僕のことをずっと知っているからこそできることだ。

 

「...すみません、刀奈さん」

 

「別の謝らなくてもいいのに、まったく琲世くんは」

 

刀奈さんはそう言うとどこか安心そうにため息をし、僕の頰に置いていた手を離した。

 

「さてと、早く部屋に帰りましょ」

 

「..はい、わかりました」

 

僕たちはそう言うと、止まっていた足を再び動かし寮に帰った。

 

 

僕は深く考えすぎてしまった。

 

恐れるあまりISを展開をするの罪悪感を持っていたが、もし無人機が現れた時に僕がISを展開していなければ一夏くんたちを助けることができなかった。

 

 

 

 

僕がまた暴走をしてしまったら、千冬さんと刀奈さんが止めてくれる。

 

 

 

 

 

 

僕が元に戻れなくなっても

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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理解者と発明者

琲世Side

 

 

刀奈さんと一緒に部屋に戻った、僕。

僕たちが部屋に入る時、先に刀奈さんが部屋に入り僕が部屋のドアを閉めると、先に口を開いたのは僕だった。

 

「やっぱり、この時間帯だと誰もいないですね」

 

「ええ、こんな時間に出歩いたらレポートを書かされるからね」

 

「楯無さんはそのレポートを受けたことありますか?」

 

「それはもちろんやったこないわよ。何せこの学園の生徒会長だもの」

 

楯無さんはそう言うと右手に持っていた扇子を開き、得意げな様子でふふっと笑った。

 

僕たちは寮の中に入る前に会話を止め、自分たちが寝る部屋に入るまで何も話さなかった。

理由はもちろん今の時間帯は就寝時間だからだ。

他の生徒が眠っているこの時間にうるさくしてしまえば迷惑がかかるし、寮にいる教師たちに気づかれてしまう。

でも僕の場合は事前に許可を頂いているため見つかっても処罰される可能性はないが、やはり静かにしなければ怒られる可能性は上がってしまう。

 

僕は一息してベットに行こうとすると、刀奈さんは「さてと」と開いていた扇子を閉じ、「そういえば琲世くん」と僕の名を強調するように声をかけた。

 

「ここまで帰ってくる時になんか食べたかしら?」

 

「え?...いえ、何も食べてないですよ?」

 

「何も?まさか昼食抜いて?」

 

「いやいや、流石に昼ごはんは有馬さんと委員会内の食堂で食べましたよ?」

 

先ほど刀奈さんが『昼食を抜いて?』と話の論点をずらしたかのような発言したが、これにはちゃんとした理由がある。

 

「それはよかったわぁ...私、未だに琲世くんと初めて会った時の出来事が忘れられなくて」

 

「ああ...まだ覚えているんですね」

 

「ええ、琲世くんが()()()()()()()()()()()()()()()を忘れるわけないわよ」

 

刀奈さんはそう言うと心配そうに自分の頬に手をそっと置いた。

人間はりんごやご飯とかの食べ物を食べる、と言う行為はどの人間に聞いても当たり前の行為だと思うだろう。

でもかつての僕の場合は、なぜかすべての食べ物を口にすることを拒んでいたのだ。

 

今の僕は普通に食べ物を口にすることができるが、この世界に降り立った時は食べると言う選択肢がないと言ってもいいほど拒絶をしていた。

どうしてあの時の僕は普通に食べ物を食べなかったのかは今でもわからない。

別に人間が食べても安全の食べ物が出されていたのに、あの時の僕は口に運ぼうとはせず、ただ空腹と戦っていた。

 

「初めて会った時の姿は今でも覚えているわ。右目に包帯を巻かれてて、左目は私と同じ赤い目で、何かに怯えた様子で私をじっと見つめたことぐらい」

 

「そう言われると恥ずかしいですよ..」

 

今の僕にとっては少しだけ照れるような話だが、この世界に降り立った時の僕に言ったら、間違いなく刀奈さんを攻撃していただろう。

 

「何度琲世くんを相手したんだろうね...少なくとも645回ぐらいかしら?」

 

「え?そのぐらいですか?意外と多い気が..」

 

「まぁその大半が暴走だから、琲世くんが覚えているわけないよ」

 

「え?そ、そうなんですか?」

 

刀奈さんは「暴走した琲世くんは本当に容赦ないからねぇ」と笑い話かのように軽々と話していた。

刀奈さんは余裕そうに話しているが、僕の暴走は警戒レベル4だ。レベル4は複数のISで対処しないといけない程の危険なISに指定され、単独で対処するのは通常の操縦者では無理と言われている。

 

「まぁ話を戻して、琲世くんは何を食べるかしら?」

 

「そうですよね...今、食堂は閉まってますよね?」

 

「うん。食事が出されないところで行っても、食べるものはないよ?だからここにキッチンが設置されているじゃない?」

 

刀奈さんはそう言うと後ろにあった冷蔵庫にを小さくコンコンと叩いた。

 

「え?もしかして、作ってくれたんですか?」

 

「ええ、作り置きだけど、いいよね?」

 

「いいですけど..それいつ作ったんですか?」

 

「寮から出る数分前に」

 

「...まさか僕が外で食べないことを計算して作ったんじゃないですか?」

 

「もしかしたらそうかもしれないわね。とりあえず冷蔵庫の中を確認したら真相がわかるじゃないかしら?」

 

刀奈さんのやけに不自然な冷静さを持った態度に、僕は根拠のない緊張を抱いてしまった。

僕は散々刀奈さんからいたずらをくらっているため、刀奈さんが不自然な態度を示すと僕は無意識に警戒をしてしまう。

もしかしたら冷蔵庫の中に何か仕掛けられているのではないかと、僕はじっと固まってしまった。

 

刀奈さんは「ほら、食べないの?」と不自然な笑顔で僕を急かすように何度も聞いてくる。

そんな彼女に僕は「....冷蔵庫の中に何かありませんよね?」と聞くが、刀奈さんは「んー私にはその何かがわからないねー」とわざとボケたような口調で返した。

 

僕は刀奈さんの姿に何らかからかわれる覚悟を決め、刀奈さんの後ろにあった冷蔵庫の前に立ち、そしてゆっくりと冷蔵庫のドアを開いた。

何か仕掛けれるこんな絶好な状況を刀奈さんは見逃すことなくはずがない。

僕はそう思いながら目を閉じ、冷蔵庫を開けるとーーー

 

 

 

「ーーー?」

 

冷蔵庫を開け10秒ほど間を空けたのだけど、何も起こらない。

今までの経験では何かを開けると爆発が起こったりするのだが、今感じられることを言えば冷蔵庫の冷気が僕の肌に感じるぐらいだ。

僕は何も起こらないことに違和感を抱えながらゆっくりと目を開くと、冷蔵庫の中には何か怪しいものはなくラップで包まれたお皿がいくつかあった。

 

「ーーー流石にこんな時間に脅かすような真似はしないわよ」

 

刀奈さんは僕の後ろに来て、揶揄うような笑いをした。

 

「...変に警戒しましたよ」

 

「まぁまぁ、そんな怖い顔をしないで。私にもそんな時もあるって理解してくれたら私は嬉しいかな♪」

 

いつも何かいたずらをするはずの刀奈さんがこうして何も起こさないことをするのは非常に珍しい方だ。

 

「ほら、明日も早いから早く食べなさい」

 

僕は冷蔵庫にあった刀奈さんが作ってくれた料理を取り出し、遅い夕食を頂いた。

もちろんそれらの料理に何か変な物は入ってなく、美味し召し上がった。

 

 

 

 

 

 

刀奈さんの料理を食べるのは一年ぶりだ。

 

料理に口にした時、僕は心の中にある出来事を思い出した。

 

刀奈さんが作る料理は、まだこの世界を理解仕切れていなかった時の僕にとって楽しみの一つだった。

 

どうして楽しみの一つになったかと言うと、それは初めて口にした食べ物だったからだ。

 

何も食べなかった僕がこうして普通に食べれるようになったのは、刀奈さんのおかげだ。

 

だから僕にとって刀奈さんは、数少ない理解者だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう思うと、僕は再びある疑問を抱いた。

 

 

 

 

 

なぜあの時の僕は、何も食べなかったんだろうか?と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

束Side

 

 

 

温かみのない銀色の電子機器に囲まれたラボで一人キーボードを打つ、私。そこはパソコンと電子機器のランプ以外の光はなく、ただ暗い密室。

 

でも私はこんな生活には慣れているし、あと邪魔な人間と手を組まずに一人で研究ができるから、十分満足している。ちなみに私はいるラボの名は吾輩は猫である(名前はまだ無い)と良い名前だ。

 

もちろんちゃんとした名前をつける予定はあるけど、多分その時が訪れた時にはこのラボは使われてないだろう。

 

『んー、まさかいっくん(一夏)じゃなくて、あの子が見せるとは〜』

 

くるくると自分が座る椅子を回す、私。

 

つい最近、私がIS学園に送り出した重装備のおもちゃから映した映像を見返していた。

 

今頃ちーちゃん(千冬)は私がおもちゃを送り出したことに気づいているはず。

 

『あの子っと言っても、名前はなんだっけなぁ?えっと….あ!思い出した!佐々木琲世だ!』

 

物覚えがいいはずの私が忘れるほど影が薄い、その子。

 

まるで髪を染めるのを失敗したみたいな黒白の髪色をした織斑一夏と同じISが使える男。

 

私はちーちゃん(千冬)たちのことは昔から知っているけど、その子の場合はつい最近ぐらいに知った。

 

『その佐々木琲世がよくわからない能力でおもちゃを壊しちゃったなぁ。まぁそんなのどうでもいいけど』

 

私はこの出来事に佐々木琲世のISがあると思われる国際IS委員会のサーバーをハッキングして調べたんたけど、佐々木琲世のISの内容を見た私は思わず笑いを抑えることなく大きな声で笑ってしまった。

 

なぜか私が佐々木琲世のISを作ったことになっている。

 

『これが噂のフェイクニュースかな?あ、いや違うな。世間に知られてないから、フェイクニュースじゃないね』

 

 

ツッコミたくなる内容だけど、とりあえず話を戻して、私が送り出したおもちゃを壊してくれた佐々木琲世の評価を言おう。

 

 

 

その佐々木琲世の評価は、なんと…

 

 

 

 


『なんで、あいつが壊したのかな?アホじゃない』

 

 

アルファベットで評価つけるなら、迷わずに”F”を選ぶ。つまり存在否定しても構わないぐらい最悪だ。

 

もちろんこの評価にそこらへんの人間が異論する権利なし、頭が硬い無能老人どもからも権利はないよ。だって私にしか評価する権利がないもん。

 

それはともかく、どうして佐々木琲世の評価が下の下の理由を今から言うよ。

 

いっくん(一夏)の取り柄を潰したのが−50点!!そして完全にISを操作しきれてないのがー100点!私が送りつけたおもちゃよりくず鉄以下だよ!!』

 

まず挙げられるのが計画倒れ。

本当なら織斑一夏がやるべきだった行動が、佐々木琲世にによって台無しにされた。

そう、例えるなら主役が変わってしまったほどに台無しにね。

 

もう一つがISを完全に操作しきれてない。

佐々木琲世は織斑一夏よりも操作は慣れているにもかかわらず、暴走を起こしている。

それだったら暴走を起こさずに私が送りつけたおもちゃを壊したほうがいいのに、なんてかっこ悪い。

 

以上のことが佐々木琲世を批判する理由だよ。

本当、なんでいるの?と言うレベル。

 

『佐々木琲世のせいで私が思い描いた物語が壊れちゃったなぁ。まぁでもあの物語は何年も止まっているから、別に既存の物語が壊れてもいいかぁ』

 

私が言うあの物語はいつまで立っても進む気配がなく、ただ時が過ぎていくばかりで、皆から忘れられていく物語へと変化していく。

 

最近耳にすることを挙げるなら、派生された物語が無数に生まれているぐらいで、例えるなら木の幹が成長せず、ただただ枝が伸びている状態だ。

 

そうなれば本来いるべき木の幹から別の木の幹に移るような例外も出ても、問題ないと私は思うよ?

 

『まぁ、佐々木琲世がこの物語で活躍するのは、別に悪くないか。この世の中に産んでしまったら、殺すか生かすしかないね。殺したら何も面白くはないね』

 

産んでしまったら、という言葉。

 

違和感を抱いた人はいる?

 

これはもちろん誤字ではない。

 

適当に言った言葉じゃないよ。

 

ちゃんと考えて言った言葉だよ。

 

どうして言ったかといえばここで言うのはおもしろくないから、考えてくれれば更におもしろくなはずだよ。

 

 

話を変えるけど、他人と同調しない私の姿に他人から見たら『痛い人間』、『世間を知らない恥ずかしい大人』、『社会で一番苦労する人間』とか吐き捨てるように言うだろう。

 

だけど私はそこらへんの人間とは違い、考える人間だ。

 

皆が考える常識を覆すほどの思考と能力を持ち、そして誰よりも行動を起こす人間だ。

 

いつの時代も、結局は他者とは違う思考を持つ異端者が上に立ち、名をあげる。

 

私は今も、そしてこれからもそういった存在になり続ける。

 

『次こそは束さんを満足させるような力を見せて欲しいなぁ』

 

どの物語もそうだけど、観客が求める存在はそこらへんの人間のような味気ない存在ではなく、ガラリと物語を変化をしてくれる存在。

 

今の佐々木琲世は観客が求めている存在とは反しているが、生かす価値は十分にある。

 

 

 

 

さて、どうしたら佐々木琲世を織斑一夏のような存在にさせるか?

 

 

 

 

 

私は次に送り出す新しいおもちゃを考え始めた。

 

おもちゃじゃなくても、サプライズになる出来事も悪くはないな?

 

だったら佐々木琲世に添ったサプライズも言い材料になるねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Hell hound

一夏Side

 

 

琲世がいなかった日が過ぎ、朝日が昇った次の日。

俺はいつも通りに目覚め,箒たちと食堂で朝飯を済ませ朝のホームルームが始まる10分前には教室に到着をした。

 

「結局、琲世は今日来るのか..?」

 

「さぁな、あいつのことを知らん。おそらく現れるじゃないか?」

 

教室に入って、俺たちが最初に取り上げた話題は琲世のことだった。琲世は昨日の夜にIS学園に帰ってきたと耳にしていたのだが、俺は起きてからずっと琲世の姿を見ていない。

それはもちろん絶対会うだろう場所である寮内や、朝食を食べる為に行く場所である食堂にも琲世の姿は見なかった。

 

「まさか佐々木さんは学園にいないんじゃ...」

 

「いや、流石にそれはないだろ、セシリア。学園内で『琲世が帰ってきた』と言う会話をどこでも耳にしたぞ?」

 

「私も同じくあちらこちらで耳にした。だがなぜあいつの姿は見えないんだ?」

 

どうやら琲世が学園にいるのは嘘ではないが、未だの琲世の姿を確認していない俺たちは疑念を抱き続けていた。

 

俺は「なんで琲世は俺たちの前に現れないんだ?」と口から出そうとしたその時、教室の入り口から「お、おはよ...」とどこか聴き慣れた弱々しい声が聞こえた。俺はまさかと思い、聞き覚えのある声がした教室の入り口に視線を向けると、学校に帰ってきてると疑ってしまうほど姿を見せなかった琲世の姿があった。

 

「あ!!琲世くんだ!!!」

 

「琲世くんが帰ってきた!!!」

 

俺たちが琲世の前に行こうとする前にクラスの女子が琲世を見ると一斉に向かった。その光景はまるでいつも女子に囲まれる自分を見ているようだった。琲世は「お、おはよう...」と苦しそうに言いながらたくさんの女子から潜り抜け、俺たちがいる机の元にたどり着いた。

 

「お、おはよ...一夏くん」

 

「お、おはよう、琲世」

 

たくさんの女子達からくぐり抜け、苦しそうに息を切らしていた琲世の姿に俺は思わず動揺した声で挨拶をしてしまった。

 

「やっぱり...女子がいっぱいだときついね」

 

「あ、ああ...そうだな...俺たちしかいないからな...」

 

この学園は本来男子がいるはずがない女子校だから、俺が学園内で一歩歩けばすぐに注目される。昨日は琲世が居なかったせいか、いつもより俺に近づく女子の数が多かった気がする。

 

「さ、佐々木さん、昨日はお体を崩されたと耳にしましたが...?」

 

「あはは…ちょ、ちょっと、体調を崩しちゃって…心配してくれてありがとう、オルコットさん」

 

琲世は喉に何か詰まっているような喋り方をすると顎を擦るように触った。

俺は琲世が言った言葉を信じていなかった。それはもちろん箒やセシリアも同じくそうであった。別に俺は琲世に対しては悪いことを考えていないが、琲世が抱えている真実に対しての欲求が強まっていた。暴走をした琲世がただの体調不良とは考えにくい。

その後、箒は『なんで朝から私たちの前に現れなかったんだ?』と琲世に聞くと、琲世は『3年生のアメリカ代表候補世の先輩に会ってて..』と疲れが混じった笑顔をした。

 

 

 

 

でも俺は琲世が遅れた理由よりも気になっていたことがあった。

 

 

 

「なぁ、琲世?」

 

「ん?」

 

「お前、昨日どこにーーー」

 

俺が琲世に昨日どこにいたのか聞こうとしたその時だった。

 

「何群がっているんだ。もうホームルームの時間だ、さっさと席につけ」

 

ちょうど琲世の後ろから俺が話していたことを阻むように千冬姉が現れ、先ほど教室内で散らばっていた生徒たちは急いで自分の席へと戻っていった。琲世に昨日のことを訊こうとしていた俺は千冬姉の姿を見ると無意識に口を閉ざしてしまった。

 

「お...おはようございます。織斑先生」

 

「おはよう、佐々木」

 

千冬姉は昨日教室にいなかった琲世に視線を向けると何も聞くことなく普通に挨拶をし教卓へと向かった。

結局俺は琲世に昨日のことを聞くことができず、無言で席に戻ってしまった。琲世に本当の話を聞けるチャンスがあったのだが俺はそれを逃してしまい、無念が胸の中に気持ち悪く残ってしまった。

だが全て悪いとは俺は言っていない。琲世が帰ってきたことで琲世のいない1日が終わり、いつもの日々が戻った。俺はそれだけでも十分にいいのだが、今日はただの日ではないと知るのは静かに始まった朝のホームルームで山田先生のある言葉であった。

 

「えっと...今日は転校生を迎えます!しかも二人です!」

 

「「ええ!!??」」

 

千冬姉が教室に入って静まっていた教室に再び活気のある声が戻った。

教室に入ってきた二人の姿を見た俺はハッと驚いてしまった。

 

 

 

その一人が俺と同じ男だったのだ。

 

 

 

 


 

 

琲世Side

 

 

転校生が教室から現れる前に、まず僕が遅れた理由について話そう。転校生については気になるのは僕も同じなのだが、遅れた経緯について話さないといけない。

僕が一夏くんたちと会うのが遅れた理由は、一人の先輩に出会ったからだ。

 

場所は朝のカフェテリアで、僕が朝食を頂いていた時には既に生徒の数は少なく、もちろん一夏くんたちの姿もなかった。ちなみに同じルームメイトの刀奈さんは僕が起きた時から会っておらず、朝のホームルームを迎えた今ですら会っていない。

 

 

 

 

僕は誰も会話することなく、一人で黙々と朝食を食べていたら…

 

 

 

 

『隣の席は空いているか?白黒髪のおまえ?』

 

 

 

 

口に食べ物を運んでいた僕は誰かからの呼びかけにフォークをピタリと止めた。

その声は明らかに僕に尋ねており、一体誰だろうかと僕は声がした方向に振り向くと、一人の女性が僕の体にかなり接近するように体を寄せていたのだ。

 

「っ!!」

 

僕はその女性との体の近さに驚いてしまい、危うく椅子から転がり落ちそうになり、ガタンと机に音を慌ただしく音を立ててしまった。

 

「なんだよ?ただ声を掛けただけなのに大袈裟だな?」

 

僕に声を掛けた人は僕が起こした慌ただしい行動に驚くことなく『ハハッ』と馬鹿にするように笑った。その人はIS学園の女子生徒なのだが入学したての一年生らしい初々しさはなく、学園に慣れ親しんでいることを表すようにその人の制服は着崩しており胸元には黒の下着がちらりと見え、長くのびた金髪を一つ結びをしており、明らかに同学年の一年生と思えない生徒であった。

 

「それで、隣は空いているか?」

 

「え、あ、空いてますよ?」

 

僕は急に声をかけられたことに動揺しつつ、声をかけてきた女子生徒に空いていた隣の席を譲った。

 

(...あれ?この人って確か...)

 

僕はその声をかけてきた女子生徒の顔をしっかりと見ると、不確かな気づきを抱いた。その人と直接会うのは初めてなのだが、どこかで見た記憶が頭の中にもやもやと浮かんだ。しばらく僕はそのもやもやを解き明かそうと考えていると、隣に座った声をかけてきた人は「どうしたんだ?」と声を掛けた瞬間、もやもやしていた気持ちが一瞬にしてすっきりと消え、僕は声をかけてきた人が一体誰なのかやっと気がついた。

 

「あの...?もしかして"ダリル・ケイシー"さんですか?」

 

「ん?オレの名前を知っているのか?」

 

ダリルさんは僕が彼女の名を口から出たことに両眉が少々動いた。

 

「ええ、もしかしたら専用機持ちの人と会うんじゃないかなって思いまして...」

 

「専用機持ちと会うってお前は織斑一夏と同じ男だが、専用機は持ってないだろ?」

 

「あはは…そうですよね….」

 

ダリルさんは緊張でぎこちなく話す僕に『少し緊張をほぐせよ』と上級生らしい振る舞いで僕の肩に手を置いた。僕は表では専用機を保有していない人間なのだが本当は専用機を持っている。それに学園内の専用機持ちを認知することはただ学園の有名人を知るのだけではなく、国家が力を入れるほどの戦力を知ることでもあり、もしかしたらどこかで戦うかもしれないからだ。

 

「それにしても、オレがお前に知られてるとは驚いたな」

 

「いえいえ、僕はただ他の人と違って物知りですので…おそらく一年生の中では僕しか知らないと思います」

 

おそらくは彼女を知る一年生は現時点では僕しかいないはず。少し遅れたが僕に話かけてきた彼女の名前はダリル・ケイシー。学年は僕より2つ上の3年生でありアメリカ代表候補生だ。保有するISについては彼女から変に怪しまれそうなので、ここでは説明はしないでおこう。僕はダリルさんにどこかで声を掛けようと考えていたのだが、まさか彼女から僕に声をかけるだなんて思いもしなかった。

 

「ダリルさんって、3年生ですね?」

 

「ああ、そうだが?」

 

ダリルさんはそう言うと僕は「年上の先輩に会えるだなんて..」と更に口を開こうとした時だった。

 

「なんだ?お前はまるでapple polisherなのか?」

 

「…えっ?ア、アップル….ポリシャー?」

 

ダリルさんの口から突然出たネイティブの英語に聞き取れなかった、僕。

僕は一応英語はある程度できるが、ダリルさんの言う英語は本場のネイティブイングリッシュで僕の耳にはうまく聞き取れず、しかもその単語の意味すらわからなかった。直訳すると”リンゴを磨く人”なのだが、本当の意味は一体なんだろうか?

僕は「そのアップルポリシャーてなんですか?」と聞くと、ダリルさんは日本語発音の英語に「なんだよ、その発音じゃ全然英語に聞こえんぞ」と苦笑を示した。

 

「じゃあダリルさんが言った英語の意味はなんですか?」

 

「全くしょうがねぇな…日本語で言うと…あれだ!"こびを売ってる"と言うやつだ」

 

「こ、こびを売るって…僕はそんなつもりはないですよっ!」

 

ダリルさんの言葉に僕は感情が湧き上がり、全力で否定をした。ダリルさんは「まぁまぁ、落ち着けって」と揶揄うように笑った。

 

「それにしてもダリルさんはすごいですよね?」

 

「ん?またapple polisherか?」

 

「いやいや、そう言うつもりで言ったんじゃないですけど…ダリルさんはアメリカの代表候補生ですよね?アメリカって世界一の軍事と経済を持っているのだから、結構競争率は高くないですか?」

 

「そりゃ、ヤバかっぜ。あそこじゃ候補生になりてぇヤツばっかで、倍率はとんでもなかったな。まぁ全員オレの敵じゃなかったけどな」

 

誇らしげに言うダリルさんなのだが、アメリカ代表候補生の選考はとても厳しかったのだと以前IS委員会の関係者から聞いている。話によれば代表候補生の試験内容はアメリカ軍の特殊部隊の選別に似ているとのことで、最終選別に辿りついたのは最初の選別者の内わずか数パーセントしか満たなかったらしい。そう考えると男だから専用機を受け取ることができた一夏くんは幸運に恵まれていると僕は思う。

 

「そういや、お前の名前ってハイセだよな?」

 

「ええ、そうですけど…?」

 

「それにしてもハイセは織斑一夏と違って落ち着いてるなぁ?もっと他の奴と話さないのか?」

  

「いやぁ気軽に声をかけてくれる人がいなくて...それに僕は話すのは得意じゃない者で..」

 

僕は一夏くんとは違い、人見知りが強く作用している。一夏くんは入学した当初は女子しかいないIS学園に馴染めず、一夏くんの幼なじみの箒さんや同じ男である僕以外とは話す姿はなかったのだが、今では普通に他の女子と話すことができている。

でも僕の場合はクラスのみんなのように自然と話す勇気が入らず、一夏くんや箒さんなどの知り合っている人の助けがないとうまく話すことができない。おそらく僕は一夏くんよりもかなり友達が少ないはず。

 

「ならオレがハイセに声をかけて正解だな」

 

「え?なにがですか?」

 

「なにがって?オレが織斑一夏よりも先にハイセに声をかけたことだ。なんだよ?"余り物には福がある"と言うことわざを思い出した顔をして?」

 

ダリルさんは僕とは対照的に口を開き、社交的に振舞う。

 

「余り物には福があるって...そんなつもりはないですよ...」

 

僕はダリルさんのノリについていけず口を少々歪ませると、ダリルさんはすぐ様『悪い、悪い。冗談だよ」と敬遠し始めようとしていた僕の肩を軽く叩き、気分を落ち着かせようとした。

 

「時には冗談を交えるのがいい友人の秘訣さ。これで怒っては友達は作れんぞ?」

 

「え、ええ...そうかもしれないですけど...」

 

まだ悪気のあるからかいに慣れていないせいか僕の胸の中には不信感が留まっていた。そんな思いを薄々と持っていた僕を段々と察知したのかダリルさんは『とりあえず悪いな。オレは空気を汚すためにハイセに声をかけたわけじゃない。時にはこう言う会話をするのがオレのスタイルだ。だから気分を害さないでくれ」と、先ほどの悪気のあるからかいを示さず、優しく落ち着いた声で話した。

 

「...すみません、ダリルさん。先ほどの不快な態度を見せてしまって」

 

僕はダリルさんの謝る姿に胸の中にあった不快感が消え、やっと落ち着きを取り戻した。

 

「いいんだよ。慣れてないと改めてよろしくな、ハイセ」

 

「はい、よろしくお願いします。ダリルさん」

 

「これでハイセに新たな友人ができたな。あと別にオレをさん付けしなくてもいいぞ?」

 

「それはさすがに上の人を呼び捨てするのは…」

 

今思えば僕は名前だけで言える人とはまだ会っていない。あと考えすぎかもしれないが同年代の友人ですらくん付けやさん付けで言ってしまい、まだ一人も名前だけで呼ぶ人はいない。

 

「なら"さん付け"はオッケだな」

 

「えっ?」

 

僕はダリルさんが返した言葉に驚いてしまった。

 

「また変に驚いた様子をしてどうしたんだよ、ハイセ?」

 

「い、いや...ダリルさんがそんなことを言う人だと見えなくて..」

 

「そう見えたのか?まったく見た目で判断すんなよ....オレは同調圧力をするのは趣味じゃねぇし、ハイセは自分らしい行動をすりゃいい。お前は男とはいえ、ISが使える人間だ。IS学園(ここ)では立派な生徒だ」

 

ダリルさんはそう言うと『オレはそう見えるか?』と頭をかしげて小さく呟いた。ダリルさんの雰囲気はどうもガツガツとした感じがあったのだけど、見た目で判断した自分が悪かった。

 

「なら、ダリルさんはダリルさんと呼びます」

 

「ああ、それでいい。おまえはおまえらしくいなきゃな。それでハイセーー」

 

このままダリルさんと会話を続けたいと思っていた僕なのだが、ダリルさんからあることが話に上がった。

 

「今日は出席するだろ?」

 

「ええ、そうですけど?」

 

「時間大丈夫か?」

 

「...えっ?」

 

僕はダリルさんの言葉にすぐに食堂の時間を目を向けると、あと数分で食堂から出ないといけない時間だった。

いつもなら千冬先生の一声で食事が終わるのを基準にしていた僕だったため、うっかり時間を過ごしてしまった。

 

「じゃ、じゃあ、ダリルさんはもう食べたのですか?」

 

「オレはメシ喰ったからな。ほら、遅れるぞ」

 

ダリルさんはそう言うと『またな、ハイセ』と席からすぐに去っていった。

 

僕はダリルさんとの会話で残していた朝食をすぐに口に運び、急いで自分が所属する教室へと向かった。

ダリルさんに取り残されたのはちょっと不満を感じたのだけど、僕の胸の中は嬉しさが優っていた。

 

 

 

 

僕にまた”新しい友達"が出来たのだから。

 

 

 

年上の先輩なのに友達という表現をするのは少し違和感があるかもしれないが、

 

 

 

 

僕はその方がふさわしいのだと判断した。

 

 

 

今の僕は誰かに伝えたくて仕方がない子供のように心が落ち着いていられたなかったんだ。

 

 

 

これからもこの気持ちを忘れずにいきたい。

 

 

 

そう、いつまでも。



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動乱の予感

琲世Side

 

 

それで転校生がクラスにやってきた話に戻そう。

今回やってきた転校生は一人だけではなく二人だ。

しかもその二人のうち、一人が僕と同じ男だった。

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。皆さんよろしくお願いします」

 

最初の子はフランスから来たシャルル・デュノア。僕は彼をシャルルくんと呼ぶ。

 

(え?男…?)

 

僕はシャルルくんの姿を見て、すぐさま違和感を抱いた。

シャルルくんは男だと口で言ったのだが、話す声や姿がなんとも女子らしいのだ。

見た目は首後ろに丁寧に束ねている濃い金髪で、顔だちは中性的よりも女性と言った方がいいぐらい女性的な顔だった。

 

「えっ!?織斑くんと佐々木くんと同じ男の子!?」

 

「3人目の男子じゃん!!!」

 

しかし周囲のみんなはシャルルくんを男だと疑うどころか、新しい男子がやってきたことにとても歓迎していた。

一夏くんと篠ノ之さんの反応をみるが、男だと疑う様子は見られなかった。

シャルルくんに対して異変を感じるのは自分だけなのか...?

それは置いといて、シャルルくんの次に転校してきた子について話に移ろう。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

シャルルくんと同じく転校した子の名はラウラ・ボーデヴィヒ。僕は彼女をラウラさんと呼ぶ。

 

(..あれ?これだけ?)

 

好印象だったシャルルくんに比べ、ラウラさんの自己紹介はこれだけであった。

シャルルくんの時は盛り上がった様子があったのだが、今は声も聞こえず静まり返っていた。

その状態は、気まずさが漂っていると言えばいいだろう。

ラウラさんは白に近い長髪の銀髪で150cmあるかないかの身長だが、きっちりした姿はまさに軍人だと肌に伝わるほどわかる。 

 

(...眼帯)

 

僕はラウラさんを見て一番印象があったのは眼帯だった。

眼帯自体つけつ人が少ないと言う理由が明確かもしれないが、僕は言葉にならないもやもやが胸の中に生まれていたのだ。

僕はどうしてラウラさんの眼帯でモヤモヤした気持ちになったのか考えていると、バシンと言う音が僕の耳に入った。

一体なんだろうかと僕は音がした方向を目を見ると、ラウラさんが僕の隣に座る一夏くんの前に立ち、突如一夏くんの頬を叩いたのだ。

 

「私は認めない。貴様があの人の弟であるなど、認めるものか」

 

ラウラさんの突然のビンタに、先ほどの気まずさが漂っていたクラス内が緊迫した空気へと一変した。

ラウラさんの声はただ恨んだ声ではなく、長年心の底から込められた恨んだ声に聞こえた。

彼女は初対面である一夏くんに対して、どうしてそんな感情を抱くのか僕の心の中に疑問を抱いだ。

 

「ではHRを終わる。各人はすぐに着替えて第二グランドに集合。今日は二組と合同でIS模擬戦闘を行う。解散!」

 

凍りついた空気が漂っていたクラスをなんとか千冬さんは手をパンパンと叩き、『ささっと動け』と固まった僕らに声をかけた。

 

「あと織斑、お前はデュノアの面倒を見てやれ」

 

「えっ、俺が?琲世は?」

 

「琲世は次の時間、参加できないだろ」

 

先ほどのラウラさんの件で僕も忘れかけていたのだが、次の時間はIS模擬戦闘だ。

HRを終え、シャルルくんは僕たちの元に近づき「織斑くんと佐々木くんだよね?僕はーーー」と改めて自己紹介しようとすると...

 

「とりあえず、教室から出るぞ」

 

「えっ?」

 

一夏くんはすぐにシャルルくんの手をひっぱり、僕たちは急いで教室から出た。

 

「な、なんで急いで行くの?」

 

「今、クラスの女子が着替え出すからな。流石にあそこにいたらまずい」

 

「この学園内の男子は僕たち3人しかいないからね。男子専用の所なんてないから、アリーナの更衣室で着替えないといけないよ」

 

僕と一夏くんは女子しかいないIS学園では決して容易ではないことを知っている。

何せ軽くトイレに行くだけでも息が上がるほど大変だ。

 

「あれ?そういえばハイセってIS模擬戦闘に出ないんだよね?」

 

「うん、僕は図書室で自主学習をするんだ」

 

「琲世は..えっと...あ、あれなんだよ。この前医者からしばらくISを使用するなと言われてな」

 

「使用できない?体調が悪いの?」

 

「う、うん、そうなんだよね...だから僕は自主学習と言うことで図書室に行くんだ」

 

一夏くんがそう言うと、僕と一夏くんはシャルルくんが見えないところでお互いグッとサインをした。

実際僕が行くのは図書室ではなく、今は誰もいないであろう生徒会室だ。

それに僕が体調が悪い話はもちろん嘘だ。

 

「二人とも、模擬戦闘で怪我しないようにね」

 

「わかった。いってくる」

 

「じゃ、じゃあね、ハイセ」

 

そう言って二人を見送った、僕。

僕が模擬戦闘で行ったところで既にIS専用機を持っているのだから、練習機を触れても何も反応せず使用はできない。

それに僕の専用機は非公開機のため、使用はできない。

みんなが実戦訓練をしている間、僕は一人生徒会室で待機しなければならないため、自分だけが参加できないのは辛い。

僕は少し寂しい思いを抱きながら生徒会室に向かった。

 

 


 

 

生徒会室までなんとかたどり着いた、僕。

 

(な、なんとか、ここまで来れた...)

 

僕は息を切らすほどの事態に出会っていたのだ。

それはHRと一限の間にある休みに学園中の女子に追いかけられたのだ。

その女子たちの目的は転校生のシャルルくんだ。

3人目の男子と言うことで、シャルルくんを見たい女子たちは彼を見つけようと追いかけていたのだ。

それでシャルルくんを連れた一夏くんの方だけ追いかけるのではと思うかもしれないが、残念ながら僕に被害が出ていた。

僕の元に駆けつけた女子たちは『転校生の男の子はどこ!?』とかなどの残党を探し出す兵士のように何度も聞いてきて、僕は朝から疲れる思いを味わった。

 

(ま、まぁ..生徒会室は誰もいないから、ゆっくり読書でもしてよ...)

 

僕は気を取り直して深呼吸をして、生徒会室のドアを開いてみると...

 

「久しぶり、琲世くん〜♪」

 

「あれ?楯無さんじゃないですか?」

 

本来なら授業で生徒会室にいないはずなのに、刀奈さんが普通に生徒会長が座る席に座っていたのだ。

楯無さんはあくまで口でいい、ここでは刀奈さんと表示する。

 

「楯無さん、授業は...?」

 

「私は出なくていいのよ。これが生徒会長の権限ってやつね」

 

確かに楯無さんは生徒会長なのだが、そんな権限を乱用しないかと不安になるが、楯無さんを知る人たちから聞く限り、学業はかなり優秀な模様。

それで刀奈さんは『ずっと立ってちゃ疲れるでしょ?ほら、座って?』と言われ、僕は刀奈さんに対面するように椅子に座った。

 

「それで琲世くん、なんかいいことあった?」

 

「いいことって...HRでありましたよ。楯無さんは知ってますよね?」

 

「ええ、知ってるわよ。転校生でしょ」

 

何せ刀奈さんの座っているテーブルには、ラウラさんとシャルルくんが詳細に書かれた書類があるのだから。

 

「琲世くんのクラスにやってきたその転校生は二人で、一人がフランスからきた男の子で。もう一人はドイツからきた軍人ちゃんよね?」

 

「ええ、その通りです。それでクラス内では温度差はありましたよ」

 

「へぇ、どのぐらい?」

 

「熱帯地域と、極寒地域ぐらいに」

 

「ははは、どちらなのかは予想がつくわ」

 

楯無さんはそう言うと持っていた扇子を開き、開いた扇子には『笑止』と大々的に書かれていた。

 

「何かあったか、わかるんですか?」

 

「ええ、だいたい予想はできるわ。それで琲世くん的にはどっちが印象的だった?」

 

「印象ですか?」

 

「ええ、今回は二人でしょ?両方とも印象深い子でしょ?」

 

一夏くんなら、おそらくはシャルルくんを選ぶだろうけど...

 

「僕は...ラウラさんですね」

 

「あら?ラウラちゃんなのね。シャルルくんだと思ったのだけど、意外ね」

 

一夏くんなら、多分シャルルくんを選ぶと思うが(ラウラさんにビンタを食らったけど...)、僕は一夏くんとは反対の答えをしめした。

 

「なんというか...僕とどこか似ている気がするんですよ」

 

「琲世くんと似ている?ああ、確かにキャリアは似てるかもね」

 

「え?本当ですか?」

 

「ええ、テーブルにある書類を見るといいわ。本当は私以外見るのはダメなんだけど、琲世くんならいいわ」

 

そんな重要書類を読むのはいいのだろうかと少し疑問を感じた僕は楯無さんの許可を得て、楯無さんが座るテーブルにあったラウラさんの経歴書を手に取った。

 

「本当にドイツ軍少佐だ...」

 

「すごいでしょ?私は大尉かそのぐらいかなっと思ってみたんだけど、正真正銘の少佐よ」

 

ちゃんとラウラさんの階級は少佐と書かれており、それぞれの欄にドイツ語で"Major"、その隣にはNATOでの階級表示"OF-3"と表示されていた。

本来少佐と言う階級はだいたいは30代ぐらいでつける階級なのだが、ラウラさんは15歳という若さで昇進している。

 

「ラウラさんの経歴を見る限り、どこか僕と似たところがありますね...」

 

「そうね。琲世くんは有馬さんの元で戦力としていたのだから、似てーーーあっ、そうだ」

 

すると刀奈さんは何か思いついた仕草をした。

 

「じゃあ、ラウラちゃんと仲良くしたらいいんじゃない?」

 

「..えっ?」

 

僕は思いによらぬ発言に驚いてしまった。

 

「じょ、冗談じゃないですよね?」

 

「何よ?これは冗談でもなく、冗談の対義語の本気よ」

 

「だ、だって誰も近く気はなかったですよ?一夏くんにビンタをしましたし」

 

「ビンタ?一夏くん早速ラウラちゃんにセクハラをしたの?」

 

「いや、セクハラじゃなくて、なんか憎んでいたというか...」

 

「ああ、もしかして織斑先生に関係してるわね。まぁ、それは置いといて、似た者同士で仲良くするのはいいことよ?」

 

僕はHRでの出来事に出会ったせいか、楯無さんの提案に難色を示すように顔をしかめた。

 

「ラウラさんと仲良くするのはちょっと...」

 

「でも琲世くんには危害は加えなかったのでしょ?」

 

「ま、まぁ、そうですね...」

 

「だったら、仲良くした方がいいと私は思うわ。今頃、模擬戦闘で一人になってると思うし」

 

軍人特有の厳しさと、一夏くんにビンタした光景を見た人間ならば、絶対ラウラさんと協力的になる人間はいないはず。

 

「それは置いといて、二番目に印象があったシャルルくんはどう?」

 

「シャルルくんは自分では男と言ったのですが...どうも女の子らしいんですよ。皆さん、シャルルくんが女の子らしいと思わなかったのですが...」

 

「私の勘だったら、絶対シャルルくんは女だわ」

 

「え?楯無さんはそう思いますか?」

 

「そりゃ、女の勘を舐めてもらっちゃ困るわよ」

 

刀奈さんはそう言うと、誇らしげにフフンっと鼻で笑った。

僕は同じくシャルルくんを女の子だと考える人がいて、ほっと安心をした。

何せあの一夏くんも気がついていないのだから。

 

「もし仮にシャルルくんが女性なら、名前はシャルロットになりますよね?」

 

「あら?さすがね琲世くん。そんなこともわかるのね」

 

楯無さんはまるで小さな子供を褒めるような口調をして僕を褒めた。明らかに馬鹿にしてる。

 

「さ、さすがに僕はわかりますよ...」

 

「そんなムスッとした顔にならないで、さっきのは冗談でやったのよ」

 

刀奈さんはそう言うと席から立ち上がり、僕の後ろにつき、僕の肩に優しく手を置いた。

 

「っ!!な、なんですか?楯無さん!?」

 

「いやー、なんか席に座り続けたせいか疲れちゃって」

 

「疲れたって、僕の肩に手を置きますか!?」

 

「はははっ、琲世くん顔が真っ赤だよ?」

 

刀奈さんはそう言うと僕の肩に置いてあった手を離した。

 

「どう?肩こりは効いた?」

 

「効いたって...そもそも僕は肩こりはありませんよ!」

 

「ハハハッ、やっぱり琲世くんは面白いね」

 

刀奈さんがそう言った直後、ちょうど授業の終わりを知らせるチャイムの音がなった。

 

「おっと、もうこんな時間なのね。琲世くんと話してたら、すぐに終わっちゃね」

 

「ええ、僕は少し疲れましたよ...」

 

「疲れたの?だったら、今日の昼食はラウラちゃんと食べたら?」

 

「えっ?今日の昼食ですか?」

 

どういう話題の移り方だよ、と言わんばかりにまたもや刀奈さんの口から提案が出た。

 

「そうそう、ラウラちゃんは間違いなく一人で食べるはずだから、琲世くんが声をかけたらいいじゃない?」

 

「じゃ、じゃあ、ラウラさんに誘いをしてきます」

 

「うん、返事はよろしい。じゃあ、また寮内で会いましょうね」

 

「ええ、また会いましょう」

 

僕は楯無さんに別れの挨拶をすると生徒会室から出た。

楯無さんの提案をなんとなく了承してしまった、僕。

まさかこれが最悪な出来事が起きるなんて、今の僕は思ってはいなかった。

 

 

 


 

昼休みの食堂。

僕は授業が終わると一人食堂へと向かった。

教室から出る時に一夏くんたちから誘いがあったのだが、僕は『ちょっと先輩から誘いを受けたから...また』と断った。

もちろんそれは嘘である。

 

(一夏くんシャルルくんと食べるみたいだけど...なんか篠ノ之さんやセシリアさんたちの顔は不満そうだったなぁ...また一夏くん変な誤解をさせたね...)

 

一夏くんたちには篠ノ之さんとセシリアさん、あとは鈴さんも同行していたのだが、3人ともの顔は嬉しそうとは言えなかった。

それぞれの顔には『一夏くんと二人っきりで食べたかったのだけど、なぜか大勢で食べることになっている』と言う望みとは違うことに不満を抱いた顔だった。

またしても一夏くんの唐変木ぶりがまたしても発揮してしまったことがわかる。

多分、放課後にはセシリアさんか鈴さん、それか篠ノ之さんが僕の元に訪れ、長い愚痴を聞くことになる。

本当に一夏くんの唐変木、勘弁してほしい...

 

そう憂鬱に考えながら僕は食堂に入り、山かけうどんと言うものを選んだ。

山かけうどんんは一体なんだろうかと疑問に感じたのだが、出来上がった山かけうどんをもらうと、それはうどんの上にとろろと生卵を入れたとろろうどんであった。

なぜこれを選んだかは自分でもわからないけど、とりあえず僕はうどんをトレイに置き、食堂内にいるであろうラウラさんを探した。

一応、ラウラさんは食堂に入っていった姿を見かけたため、さすがに出ていることはないのだが...

 

(あ、見つけた!)

 

食堂内をしばらく見渡していると、予想通り、ラウラさんは一人で食事を取っていた。

学園で眼帯をしている人なんて、おそらくラウラさんだけではないだろうか?

僕はラウラさんが座る席に一直線に向い、『どうも、ラウラさん』と言おうとしたら...

 

「なんだ?佐々木琲世?」

 

ラウラさんは僕が口を開く前に先に口を開き、ギラリと僕を見る。

その目つきは一夏くんをビンタした時と同じ殺意のある目だ。

僕はその目に完全に怯えてしまった。

 

「あ、えっと...い、一緒に食事を取らーーー」

 

「断る」

 

まだ話を終えていないのに食い気味で答える、ラウラさん。

 

「なぜ私と食べなければならないのだ?もしかして織斑一夏に追い出され、私の元に来たのか?」

 

「い、いや...別に追い出されたわけではなくて...」

 

ラウラさんの言葉に先ほど一夏くんの誘いを断ったことを思い出し、無意識に罪悪感が湧き出た。

そんなつもりじゃないけど...

 

「ほ、ほら、初日から一人で食べるのはあれじゃないかなって...」

 

「いいか、佐々木琲世。よく聞け」

 

するとラウラさんは左手に持っていたフォークを置き、右手にあったナイフを僕に向けるように見せた。

 

「今、私の右手にナイフがある。ナイフは食い物を細かく切る道具でもあり、刺す道具でもある。つまり、これ以上私に話しかけるとどうなるかわかるだろ?」

 

ラウラさんのナイフの持ち方が食べ物を切る持ち方ではなく、敵にへと変わっていた。

このまま引き下がらないと、食堂でいざこざが間違いなく発生する。

それに僕は学園中歩くだけでも目を向けられているため、ただごとじゃ済まない。

 

「...わかったよ。僕は離れるよ」

 

僕はそう言うと、ラウラさんの前に立ち去ろうとしたその時だった。

 

「待て、佐々木琲世」

 

するとラウラさんは立ち去る僕を呼び止めたのだ。

 

「...なに?」

 

「お前は先ほどの時間どこにいた?」

 

「どこって...僕は図書館にいたよ」

 

「図書館?ああ、確か教官も同じくおっしゃったな」

 

「僕はしばらくISを使用できないから、自主学習をしてるんだ」

 

「理由など聞く気はないが、お前は本当にISを使えるのか?」

 

「っ!」

 

ラウラさんの言葉を耳した瞬間、僕は心臓の音が聞こえるんじゃないかほどの衝撃が走った。

それは嘘がバレた感覚に似ている。

そして次に僕の耳に聞こえたのは、ラウラさんの軽蔑の笑いだ。

 

「織斑一夏は普通に使っていたが、さてはお前本当はISを使えないだろ?」

 

「...あの、ラウラさん。僕は一夏くんと同様ISを使えるよ?今は使用を止められているから...」

 

「そうか、ならISを使えないんだな?まったく、哀れだな。織斑一夏のようにISを展開できずに、ただ本を読んでいるんだな?」

 

「...だから、使えるよ」

 

「じゃあ、今証明しろ。お前がISを使用できるこーーー」

 

 

 

 

バンっ!!!

 

 

 

「っ!!」

 

「.....ごちゃごちゃうるせえんだよ。何度言ったらわかるんだ」

 

バンっと机を叩きつける音が食堂内に響いた。

その音を起こしたのはラウラさんでもなく、冷静さ無くしてしまった僕だった。

 

「僕はISを使えるんだ。()()()()から聞いていないのか?」

 

その時の食堂の空気は、ラウラさんが一夏くんにビンタした時と同じ緊張した空気へと変化した。

隣の席から聞こえる会話の声がピタリと止まり、かちゃかちゃとなる食器の音、そして食堂内で歩く音までもが一瞬にして消え、そして食堂内にいる皆は僕とラウラさんに視線を向いていた。

 

「はっ?お前、今なんて言った?」

 

冷静さを失った僕は千冬さんのことを『教官』と言ったためか、先ほど僕を軽蔑していたラウラさんは怒りの感情を表した。

 

「聞こえなかったのか?まったく、君の耳は使ってなかったのか?なんためにその耳はついているの?」

 

「ほお、そうか。私は最初からお前に眼中はなかったんだが、まさかお前如きに無駄な怒りがこみ上げてしまうとはな。お前はバカ者か命知らずだろうな?」

 

久しぶりの怒りという感情。

こうして怒りを表すのはいつぶりだろうか。

まさか、ここで出るなんて思いはしなかった。

 

「「.....」」

 

僕とラウラさんはしばらく何も言わず、まるで国境線手前で睨み合う兵士のようにお互いの顔を見る。

周囲は僕たちの異様な光景に黙視していた。

その沈黙の時間のおかげか、僕の胸の中にあった怒りの感情が段々と収まり始め...

 

「...これ以上、騒ぎを起こしたくない。君から離れるよ」

 

僕はそう言うと、僕はすぐにラウラさんの元に離れ、遠くの席に座った。

僕が頼んだ山かけうどんはすっかり伸びきっていて、さっきの状況のように最悪だった。

 

 

触れられたことに久しぶりにカッと苛立った、僕。

改めて考えると、やってしまった後悔が滲み出てくる。

 

今日と言う日は、僕にとっては本当に落ち着かない日だった。

 

 

 



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暗き影

それは険悪な日が過ぎた、数日後のことである。

 

「お疲れ様、二人とも」

 

僕は放課後のアリーナで特訓を終え更衣室に戻ってきた一夏くんとシャルルくんにタオルとスポーツドリンクを渡した。 

 

「ありがとな、琲世」

 

「あ、ありがとう、琲世」

 

二人はそう言うと、僕が持っていたいタオルとドリンクを受けった。

いつもなら箒さん、セシリアさん、あと鈴さんの3人に放課後アリーナで指導されるはずだが、今日はシャルルくんだけが指導していた。

 

「今日はどうだったかな?」

 

「ああ、シャルルのおかげでこの前よりも成果が出てだいぶ良くなっているよ」

 

最初シャルルくんが一夏くんの特訓に入ると聞いた時、僕は流石に指導してくれる人が3人もいるのだから十分じゃないかと思ったが、指導のわかりやすさと同じく男性と言う理由があったおかげか、今では一夏くんとシャルルくんだけとなっている。

一見すると良い話のように聞こえるかもしれないが、僕はその悪い方を受けるように一夏くんの特訓から外された箒さんたちから『琲世、今私は一夏と特訓ができなくなった』とか『どうしたら一夏さんと特訓できると思いますか!?』とか、『なんかいい方法がないの?なかったらあんたを叩きのめす』という話を聞くようになってしまっている。

 

「それはよかったね。二人とも結構疲れているみたいだから、すぐにシャワーに入ったら?」

 

「ああ、そうだな。シャルルもさっさと入ろうぜ?」

 

「...えっ!?」

 

するとシャルルくんはなぜか変に驚いた様子をした。

 

「ぼ、僕はあとでいいかな...?」

 

「え?シャルルは俺のあと?」

 

「う、うんっ!!だから先に一夏が入っていって...!」

 

(...ん?)

 

僕はシャルルくんに異変を察知した。

何か変だ。

シャルルくんが今見せている表情は何か隠しているような様子をしている。

しかし一夏くんはシャルルくんの異様ともいえるはずの驚きに『おお、そうか』と言い、シャルルくんにそれ以上言及しなかった。

 

「とりあえず俺は先にシャワーに入るよ。シャルルもさっさと入れよ?」

 

「うん、い、行ってらっしゃい...」

 

一夏くんはどこか納得しない様子でシャワールームに行ってしまった。

おそらくは絶対シャルルくんが変に驚いた理由を知らないはず。

 

「「....」」

 

一夏くんがシャワールームに行くと、更衣室に残った僕はシャルルくんと二人っきりになり、僕の胸の中に現れたのは気まずさだった。

 

「えっと...琲世とこうして二人で話すの初めてだよね?」

 

「う、うん...そうだね..」

 

僕だけではなく、シャルルくんも同じく気まずさを感じた。

なにせ二人っきりになるのはこれが初めてだった。

今の状況を簡単に説明するならば、 友達の友達と話すような感じだ。

 

「シャルルくんはシャワーに入らないの?」

 

「えっ?あ、ああ、シャワーを入るのはあとでいいから...せっかくだし、琲世と話そうかなーって?」

 

「そうなんだね...それだったら、座って話そうか」

 

シャルルくんはどこか落ち着きのない様子だったけれど、僕は指摘をする気はなかったため、僕は更衣室の長椅子に座り、シャルルくんと話すことにした。

 

「ふぅ...今日は普通に疲れたよ」

 

「今日二人ともは結構激しい動きをしていたよね。射撃時の回避だったり、敵への接近だったり」

 

いつも一夏くんが放課後にアリーナで特訓する時、僕はアリーナの観客席から見ている。

一夏くんたちがいるアリーナ内に入っていたら練習中に攻撃を喰らうかもしてないからだ。

 

「.....」

 

「どうしたの琲世?」

 

「えっ?い、いや...なんでもないよ」

 

僕の隣に座るシャルルくんを見ると、僕は彼を長く見ることができず、おもわず目をそらしてしまった。

 

(...ダメだ。やっぱりシャルルくんを女の子として見てしまう...)

 

クラスの女子がよく使う甘い香りがシャルルくんから香りが鼻につき、しかも男性とは言い難い体の骨格に154cmという身長が男らしさを感じられない。

それにISスーツを着ているシャルルくんは中性的と言うよりも、明らかに女性じゃないかと僕は自然と思ってしまう。

彼を疑うつもりはないけれど、もしかして”本当”の女子ではないかと僕は無意識に頭に浮かんでしまう。

 

「琲世って一夏と違って、入学日から知られたんだよね?」

 

「えっ?あ、うん、あれは突然だったよ。急に織斑先生に学園に連れ出されてたんだよね...本当にどうしたらいいのかわからなかったよ」

 

もちろんこれは嘘。

一夏くんがISが使えると知られる前に、僕は裏でISを使用していた。

まぁ僕が使用しているISはISと言えるものかは言い切れないけど。

 

「そうなんだ。でも他の女子から聞いたんだけど、教室に入った時の様子は結構慣れた感じだったと聞いたんだけど?」

 

「...え、え?そ、そうだったのかな?緊張していてあんまり覚えてないよ」

 

「ふーん...」

 

確かに一夏くんよりは慣れていたのは間違いない。

僕はシャルルくんにこれ以上話題を踏み込まれないよう、ぼかしたフリをした。

 

「それで、琲世の怪我っていつ治るの?」

 

「怪我?どうだろうね?いつぐらいになるのかわからないんだ」

 

「わからないって、結構重い怪我なの?」

 

「そうだね...」

 

一応、表では『この前の所属不明機に攻撃を受けた』と知らされているが、何度も言うけど僕は今怪我をしていない。

怪我と言う嘘をいつまで隠せるか僕は不安で仕方がない。

千冬さん曰く『当分、そのままでいろ』とのことで明確に決まっておらず、僕はただ嘘をつくしかない。

 

「琲世ってISの経験はある?」

 

「経験?」

 

「うん、琲世がISを使用している姿を見たことがないから、どのぐらいの実力あるのかなって思って」

 

今のところ僕がISを使用した姿を見たことがあるの人は数少ない。

つい最近転校してきたシャルルくんとラウラさんは僕が使用している姿を絶対に見たことがないはず。

 

「ああ、一応あるけど...シャルルくんほどあるとは言えないね」

 

「本当に?一夏よりもあるの?」

 

「そ、そうだね...うん」

 

流石にこれ以上言ってしまえば僕に正体がわかってしまうため、これ以上言うのをやめた。

 

「でもそう考えると、琲世の方が経験があるかもね」

 

「え?そうなの?」

 

「うん、今僕は一夏と特訓してるでしょ?それで一夏はまだ未経験の感じがあるけど、琲世はパッと見た感じ、一夏よりもありそうだなーって思ってね」

 

「そ、そうかな...?」

 

「まぁ、実際琲世がISを動かしてみないとわかんないけれどね」

 

「あはは...そうだね...」

 

シャルルくんの言葉を耳にして、他の生徒から『一夏くんよりも経験がありそう』との話をふと思い出した。

でもそれはあくまで『ありそう』というだけではあり、ISの操縦に関しては一夏くんよりはあまり期待されてない。

 

「琲世は今の一夏の感じを見てどう思う?入学した当初から見ている男子として?」

 

「今の一夏くんね....一夏くんはまだ不慣れな感じがあるよ。それに一夏くんが使用しているISは拡張ができないのが一番の欠点だよね」

 

一夏くんの専用機白式(びゃくしき)にある武器は刀型の雪片弐型(ゆきひらにがた)のみで、拡張領域はその雪片弐型(ゆきひらにがた)が大きく占めており、ほぼない。

 

「これ以上の武器を使いすることができないとなると、一夏くんはどうにかして接近戦に持ち込むのが一番だね。射撃を避ける技術も磨く必要もあるし、射撃の特性を理解しないと何も攻撃もできずに撃破されるよ。あとそれにISを操作する上の基礎が欠如してるから、何回も使用しないとダメだ」

 

「す、すごい分析力だね...」

 

「放課後の特訓を見ればわかるよ。一夏くんはまだまだ足りなさが明確に見える」

 

僕はあくまでまだISに対して未熟である一夏くんを責めているわけではない。

本来専用機持つのは各国から送られた代表候補生のみでS学園に入学する前から他の生徒と違い、はるかにISの扱いに慣れている。

僕は形式上ISの操作は未経験と見られているが、実際は入学する前からISの知識や操作などを徹底的に叩きつけられている。

しかし一夏くんの場合はISが使えると発覚してからまだISを使い慣れてはいない。

だけど一夏くんはまだ恵まれているほうだ。

教えてくれる人が多くいるからね。

 

「もしかしてなんだけど、琲世って今専用機を持っていたりして?」

 

「え?い、いや、持ってないよ。多分用意してくれると思うけど、今のところはないよ」

 

「やっぱりそうだよね。もし持ってたら、待機形態が体のどこかにあるはずだよね。僕の場合はこのペンダントだし」

 

シャルルくんはそう言うと、首にかけていた十字形のペンダントを僕に見せた。

 

僕が専用機を持っていないのは、嘘。

本当は持っているのだけど、シャルルくんのようなISとは型式がまったく違う。

それに待機形態は外からだと全然見えない。

 

「ペンダント型なんだね...そういえば、シャルルのISって射撃武器があったよね?」

 

「うん、僕のISのことはわかるかな?」

 

「一応、目を通してあるよ。第二世代型IS デュノア製のラファール・リヴァイヴ・カスタムIIだよね?」

 

「僕のISをさらっと口から言えるのすごいね」

 

「そうかな?」

 

「一夏に言わせたら、何度も噛んでたもん」

 

シャルルくんはそう言うと、女子のように目を細めて笑った。

もちろんシャルルくんが所持しているISの情報について刀奈さんから聞いている。

ちなみにそれはリークではなく公式の書類から。

 

「そういえば、シャルルくんの苗字ってデュノアだよね?」

 

「うん、そうだよ?」

 

「もしかしてデュノア社の社長の子だったりし.....」

 

すると話していた僕はだんだんと蚊の音のように小さくなり、声を止めてしまった。

それはシャルルくんの顔を見た体。

 

「あー...そ、そうだね...」

 

シャルルくんが見せた顔は、影のある顔だった。

それはこれ以上この話題を触れて欲しくないような顔。

僕はそれを見た瞬間、良からぬ空気を察知した。

それは僕自身にも持っている暗い影に似ていたから。

 

「そ、そうなんだね...」

 

僕はその返事しかできず、僕たちの間に再び気まずさが戻ってきた。

それは先ほどよりも重さのある気まずさだ。

しかもその悪い空気は数分も続いた。

更衣室のある時計の針がいつもよりも遅くなるほど、気まずさが僕とシャルルくんの間に漂い続けていた。

流石にこの空気が不味いと感じたのか、シャルルくんは僕よりも先に口を開いた。

 

「.....あ、えっと...あ、あとで一夏に伝えて欲しいことあるんだけど...?」

 

「ん?」

 

「ぼ、僕は さ、先に部屋に帰っているって伝えてくれるかな?」

 

「え?ここでシャワーをしないの?」

 

「い、いや...あ、あれだよ。自分のところが落ち着くて言うか...」

 

「.....」

 

僕はシャルルくんの発言に違和感を抱いた。

シャルルくんの様子はバレていないか焦っている様子だった。

明らかに何か隠している。

別に更衣室のシャワーをしていいにもかかわらず、逃げるように自分の部屋のシャワーに向かうのはおかしい。

やっぱり、シャルルくんは男ではなく女ではないか?

僕は口を閉ざし、考えたのだが...

 

「...まぁ、そうだよね。僕がシャルルくんの立場だったら、同じくそうするかな」

 

僕はこれ以上シャルルくんに追求しないことにした。

今、シャルルくんの性別を調べても何もいいことがない。

もし女ならば、シャルルくんには悪いことしか起こらない。

 

「や、やっぱりそうだよね??とりあえず、部屋に戻っていると伝えてね」

 

シャルルくんは僕の思わぬ返事を聞いたせいか、秘密を知られるのではないかと言う焦りから一難が去りほっとした様子になり、急いでロッカーの中にあった制服を既にきていたISスーツの上から着て、「じゃあ、またね」とすぐに更衣室から出た。

 

「ふぅ、シャルル入って...て、あれ?シャルルは?」

 

シャルルくんがちょうど更衣室に出た瞬間、シャワーからあがった一夏くんが僕の元に戻ってきた。

 

「ああ、シャルルくんは一夏くんたちが住む部屋に戻ったよ」

 

「え?部屋に戻った?なんかあったのか?」

 

「い、いや...なんか急に一夏くんたちが住んでいる部屋のシャワーに行くって言い出して...」

 

「部屋に戻った?別にここでも問題ないのに、どうしてだ?」

 

「多分あれだよ。自分のところの方が落ち着くっていうか」

 

「ああ、なるほどな。この学園の更衣室のシャワーってなんか居心地が悪いんだよ。まぁ別に俺はそんなに気にしないけど」

 

男子である僕たちの悩みは、まず学園内が全部女子専用で設計されているところだ。

トイレもそうだし更衣室も同じくで、男女共同というものはこの学園にはない。

今使用しているアリーナの更衣室はどのクラスも使用していないため利用している。

もちろん僕たちが着替えている間に突然女子がやってくる場合もあるため、鍵をすることも忘れてはならない。

 

(...一夏くんはシャルルくんが女子だと疑ってない)

 

一夏くんの顔を見た感じ、まだシャルルくんを疑っていない。

シャルルくんが女子ではないかと。

恋愛もそうだけど、一夏くんって変に鈍感な部分があるんだよね。

 

「とりあえず、琲世はこのまま部屋に帰るか?」

 

「うん、そうだね。一夏くんは?」

 

「俺は白式の書類をやんないといけないから、先に帰ってくれ」

 

「白式の書類?ああ、正式な登録者としての紙だね」

 

「え?なんでわかんだよ?」

 

「ついさっき、織斑先生が僕に『もし織斑が忘れてたら、白式の登録用紙を書くように伝えろ』と言われたから」

 

「なんで千冬姉が琲世に話を通してるんだよ?」

 

「いや?同じ男子というからじゃないかな?」

 

これは一夏くんだけではなく他のクラスの子には伝えないのだけど。僕は千冬さんとは長い付き合いがある。

一応千冬さんからISのことがまだ未熟な一夏くんをサポートをしろと言われているため、僕はある程度は手伝っている。

本当ならば一夏くんを全面的にサポートをしたいのだけど、箒さんやセシリアさんたちからいくたびのクレームを受けることになるため、だいたいは箒さんたちに任している。

 

「とりあえずその登録書を書いてくるからな。じゃあな、琲世」

 

「じゃ、じゃあね...」

 

シャワーから上がり、制服に着替えた一夏くんは駆け足で更衣室から退出し、僕は誰もいない更衣室に一人取り残された。

 

(さてと...ここから出るかな)

 

そろそろ更衣室から出ようと僕が長椅子から立ち上がったその時だった。

 

 

 

 

「ISが使えないという屈辱を抱えて、どんな気持ちなんだ?heißen《ハイセ》」

 

 

 

「っ!!」

 

水を差すように誰かの嘲に似た冷たい声が僕の耳にはいると、落ち着いていた自分の体に緊張が走った。

しかも僕の『琲世』と言う名の部分だけが、日本語の口調ではなくドイツ語の口調に聞こえた。

僕はまさかと思い、声がした方向に振り向くと、更衣室に影から現れたかのように銀色の長髪に身長の低い女子が立っていた。

 

「なんでここにいるのですか...ラウラさん」

 

またしても、嫌な空気を味わうなんて思いもしなかった。

何せラウラさんとは食堂での言い合い以来、初めて話すのだから。

 

 




次回の投稿日:6月18日(木) 12:00


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同族同志

僕が更衣室から出ようとしたその時、僕しかいないはずの更衣室に思いがけない人物の声が聞こえた。

 

「ラ..ラウラさん...!?」」

 

「久しぶりにお前と話すな、佐々木のheißen《ハイセ》」

 

僕は声がした後ろに振り向くと、ラウラさんはずっとここにいたかと思えるような雰囲気を醸し出し、ロッカーに背をもたれていた。

僕は彼女がこの空間にいたことを知り、背中に銃を突きつけられたかのように焦りを抱いた。

先ほどまで一夏くんとシャルルくんと一緒にいて、僕たち意外他に誰もいなかったはずの更衣室にラウラさんが現れたのだ。

僕たちが更衣室にいる間は、ドアが開く音は全くしなかった。

 

僕がラウラさんを見て、真っ先に頭に浮かんだのだ報復だ。

僕が食堂で一人食事をしていたラウラさんに話しかけた時、自分の怒りを彼女に見せてしまった。

ラウラさんと最後に会話をしたのは食堂で話しかけた時だけで、それ以来僕はラウラさんに声をかけていないし、もちろん彼女から声を掛けられたことはない。

音も立てずに僕が一人になった瞬間にラウラさんが僕に声をかけるなど、明らかに嫌な予感が頭によぎってしまう。

 

「僕に何か用ですか...?」

 

「なにそんなに警戒をしているんだ?私はただお前に話しかけただけなのに?」

 

ラウラさんはそう言うと背を持たれていたロッカーから離れ、僕の近くを回るように歩き出した。

 

「いや...そりゃ、警戒しますよ。シャルルくんが去った後に、急に僕の前に現れるなんて...それでなんですか?僕を攻撃する機会をうかがっていたのですか?」

 

「攻撃する機会?確かに私の頭にお前を今ここで危害を与える選択肢があるが、今回は違う」

 

「違う?」

 

ラウラさんの頭に僕を攻撃すると言う手段があって少しゾッとしたが...

 

「じゃあ、 僕に話しかけたのは?」

 

「お前に話すことになった理由は、この前のカフェテリアの件でお前の見方が変わったことだ」

 

「見方が変わった?」

 

「私はお前を織斑一夏のおまけみたいな存在だと認識していたのだが、どうやら違っていたようだな」

 

「違う...?それはどういうことですか?」

 

『一夏くんのお前みたいな存在』とラウラさんの口から結構ひどい言葉を聞かされたが、実際IS学園に過ごしてから一部の生徒からうわさと言う形で僕を蔑む声を耳にしている。なにせ僕はISを使用した姿を見たものはごく一部の人間しかいないのだから、僕を誹謗中傷したがる人間が生まれるのは必然だ。

 

「それはこの前お前がカフェテリアで私に話しかけたことだ。誰も私に近づきもしない中、愚者なのかお前は私の前に現れ、一緒に食事をとらないかと話しかけたな。初めはただの冷やかしなのか、もしくは気を使ってきたのかと思い、私の頭にすぐに鬱陶しさが浮かびお前を追い払った時まではお前は凡人だと私は考えていたのだが、その後の出来事で私のお前の実像が一変した」

 

ラウラさんは区切るように言葉を止めると、その同時にピタリと足を止めた。

 

「お前のあの怒りを見て、私はお前が只者ではないと確信した」

 

ラウラさんは僕の眼球の奥を見るように、まっすぐと僕の目を見る。

僕はラウラさんの重みのある言葉を耳にして、手が妙に湿っていたことに気がついた。

ラウラさんの言葉は間違っていない。

僕の本当の姿を迫ろうとしている。

 

「た、只者って、何をーーー」

 

「私の推測だが、周囲の人間からお前は優しい人間で怒りとは無縁の男だと思われている。しかしお前がカフェテリアで怒りを放った後の周囲の状況はかなり怯えていた。あれは明らかに十代の男が起こしたただの怒りではない」

 

僕の言葉を遮り、自身が考えた推測をスラスラと言う、ラウラさん。

彼女の分析力の高さに、15と言う年齢で高い階級に上り詰めた理由がわかる気がする。

 

「織斑一夏はそこらの男子学生と同じ雰囲気を感じるのだが、お前は確実に違う。お前は誰かを殺害、もしくはそれと同等の出来事に慣れているな。違うか?」

 

これは生死に関わる軍人の勘だろうか?

いや僕とは似た職業にいた人間だから、たどり着けた考えかもしれない。

ラウラさんが言う推測はまるで答えを知っているかのように完璧に近いものだ。

 

「...あなたは一体何を求めているのですか?」

 

「求める?もし私がお前に何か求めるならば、お前と一対一で対決ぐらいだな。ISでな」

 

「僕と対決...?」

 

ラウラさんが言った言葉は一夏くんに決闘を申し込むように嘘ではなく本当だ。

彼女の口調から僕に闘う意思がある。

それは冗談ではなく、本気だ。

 

「ああ、そうだ。ただの格闘戦ではつまらないことがわかるだろ?せっかくこの学園にいるのなら、ISで闘うのがお似合いだ。すぐに戦闘を開始したいのだが、残念ならがお前は今ISを使用することができなかったな。ああ、残念だ」

 

すぐに戦わないことに僕は心の奥底でほっとしたのだが、最後ラウラさんが言った言葉はわざと僕を煽っているように聞こえる。

 

「...別に今ラウラさんと戦えないことに残念ではないですが、あなたは今後誰かに危害を与える真似はしませんよね?」

 

「私が誰かに危害を加える?なぜそう言える?」

 

「あなたは前にシャルルくんと一夏くんが特訓中に妨害を加えたと聞きました。しかもドイツ最新機のレールガンで」

 

それは僕がいない中、一夏くんとシャルルくんがアリーナで演習していた時、突如ラウラさんが現れ、ラウラさんが使用していたISからレールガンが放たれ、平和だったアリーナが緊迫した空気に変わったらしい。

 

「ああ、お前の言う通り、本当だ。しかしあれは織斑一夏に対決を挑んだだけで、誰も危害など加えていない」

 

「一夏くんに対決?シャルルくんにも危害を加えそうになったと聞きましたが?」

 

「あのカエル野郎など知らん。私の眼中にはない」

 

お国柄をあらわすようにラウラさんはシャルルくんに対して無関心というよりも荒々しく吐き捨てる。

昔からフランスとドイツの関係はあまりよくないと耳にしてきたが、まさか目の前で見れるとは。

 

「僕はラウラさんがいつか誰かを危害を加えるんじゃないかと思ってます。なのでこれ以上不要な行動をーーー」

 

「もしそのような出来事が起きれば、お前が止めに行くことだな。ISが使用できない今の体でな」

 

ラウラさんは僕を軽視するように鼻で笑い、『ではまたな、heißen《ハイセ》』と先に更衣室から出た。

先ほどからラウラさんはなぜか僕の名をドイツ語の発音で言っていることに疑問に思ったのだが、なぜか僕は調べる気力が湧かなかった。

 

ラウラさんが立ち去って5分後、僕は自分が出した足音とエアコンの音しかしない更衣室から立ち去った。

彼女と会話した後、最初は最悪な気分を持っていたのだが、後々になってなぜか嬉しさと言う感情が胸の中に湧き上がってきた。

別に嬉しくなるような出来事に出会っていないにどうしてそのような気持ちが現れたのかわからず、僕はこれ以上答えを見つけるのを止めた。

 

彼女はいつか僕と一対一で対決をすると言ってたのだが

まさか数日後に彼女とISで戦うなんて、更衣室にいた時の僕は考えもしなかった。

 

 

 

 

 

 

 




次回:7月2日 12:00


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夜と霧

海を照らしていた日が水平線に半分沈みかけた夕方。

 

「ーーーそれでラウラちゃんと仲良くできたかな?」

 

「いや、全然仲良くできませんよ...」

 

今日のすべての授業が終わり、僕は刀奈さんがいる生徒会室にいた。

今、部屋にいるのは生徒会長席に座る刀奈さんと彼女に対面するように椅子に座る僕だけで、他の人の姿はない。

 

「全然仲良くなってないの?ラウラちゃんは琲世くんと仲良くなれそうと思ったのに」

 

「そんな予感すらありませんよ。あると言えば彼女から変な敵対心が生まれたぐらいで」

 

「変な敵対心?性的な意味で?」

 

「そんなわけないですよ」

 

息をするようにかうつもりで刀奈さんの口から出た良からぬ発言。

僕は刀奈さんとの付き合いが長いおかげか、異性との交流が少ない男子高校生のような動揺をせず冷静に返事をかえした。

あの敵対心が意味ありげな行為だなんて、こんなことを肯定してしまえば僕は終わる。

 

「なーんだ、 琲世くんがラウラちゃんとそこまで進歩した関係かと思ったのに」

 

「そんな楽観的に考えられても、現実は思うように行かないですよ。ラウラさんは僕を一夏くんと同様に敵視してます」

 

「え?そうなの?」

 

「はい。前まではぼくの存在自体興味がないと言っていたんですが...どうも最近ライバル視してるような雰囲気を感じるんですよ」

 

あやふやに話す僕だが、実際のところ、ラウラさんから本当に敵視されている。

あの更衣室の件以降、僕はラウラさんに対する見方が変わり、喧嘩後の嫌悪感からいつ起こるかわからない戦いに対する懸念へと変化していた。

 

「そうなんだねぇ...なんか琲世くんがきっかけを作ったみたいぽいけど、そこは触れないでおこうかしら。介入はほどほどにしよう」

 

「ええ、楯無さんはいつもそうあって欲しいですけど」

 

「そうかしら?私は琲世くんにあまり介入しない方が多いんじゃーー」

 

「いや、あなたは介入と言う名の邪魔やちょっかいが多いですよ」

また刀奈さんの言葉を遮る、僕。

なぜなら僕は彼女から四六時中いたずらを受けているからだ。

 

「そんなことないでしょ?あれはスキンシップ、スキンシップ」

 

「スキンシップにしてはかなり暴力的なことが多い気がするんですが...」

 

それは朝ベットに起きる時や着替える時、1日の終わりにベットに入る時でも、僕はこの人に邪魔やいたずらを受けている。

しかも彼女から受けるいたずらは通常では考えられないほどの暴力的だ。

どんなものがあるのかは一個一個あげるのはキリがないが、簡単に言えば怪我では済まされないものばかり。

刀奈さんはそこらの男性からしたら別嬪さんだと思うかもしれないが、僕は刀奈さんと付き合うのはおすすめしないと断言できる。

将来この人と付き合う男性はきっと苦労が絶えないだろうなぁ...

 

「なんかあれらしいね。今月末に行われる学年別トーナメントで優勝した人が一夏くんと付き合うことができる、と言う話を耳にしたわ」

 

「ああ、なぜか学園中で広まっていますよね?僕は関係なさそうですけど」

 

「関係ない?つい最近知った情報なんだけど、このトーナメンの話は一夏くんだけじゃなくて琲世くんも含まれているらしいよ?」

 

「え?それって...どこから?」

 

「ついさっき私が思いついた」

 

「変な面倒ごと作るのをやめてください...」

 

相変わらず変な思いつきをするのが得意な刀奈さん。

彼女からの言葉に僕は疲れがにじみ出たため息を吐いた。

刀奈さんのせいで逸らされた主題であるトーナメントの話に戻ろう。月末トーナメントで一夏くんと付き合うという情報の発生源はよくわからず、非公式の噂話なのにふと気がつけば学園内で表彰式に発表するか否かなどの話にまで展開が進んでいる。

 

「というか生徒会はその変な噂話を統制しないんですか?」

 

「しないといけないかもしれないけど、今回は触れないことにしようかしら」

 

「触れないって、もしかして放置するのですか?」

 

「ええ、だってその方が面白いじゃないの?」

 

(...あ)

 

刀奈さんはそう言うと、悪巧みを含んだ笑顔を見せた。

彼女のその顔を見た瞬間、僕は思わず口を止め察してしまった。

あ、これは本気だ。

明らかに意図的に噂話を学園中に広め、一夏くんをより注目させるつもりだ。

今の状況で似合う言葉はただ一つ、権力濫用だ。

ちなみに僕は月末トーナメントに出場することはできず、そのためか一夏くんに似た僕の噂話は一回も耳にしていない。

 

「一夏くんに関するトーナメントの話は置いといて、琲世くんは女子しかいないこの学校に来て、好きな子はできたかしら?」

 

「いや...いませんよ」

 

「えー、つまんない。琲世くんはいつも話しかけてくる女子いるでしょ?」

 

刀奈さんはぐいぐいと僕の顔に近づき、『ねぇ?いる?』とかなり知りたがっていた。

僕の経験談だが女子というものは恋愛話になると興味をそそられる生き物らしい。

それは女子の口からではなく、僕が話を持ちかけただけでも無関心だった様子が一変する。

 

「ええ、毎日のように学園の女子たちから声を掛けられるのですが...なぜか好意というものが沸かないんですよ」

 

「"コウイ"がわかない?」

 

「...いま、変なことを考えましたね」

 

「バレちゃいましたか」

 

刀奈さんは創作物で出てきそうな年下の後輩のように『えへへ』と笑ったのだが、先ほどの発言のおかげか彼女に対して可愛さなどまったく感じられなかった。

この人は普段はミステリアスでいい人なのにな....

それはさておき、いつもたくさんの女子が僕に話しかけてくるのだが、それはあくまで女子から僕という一方通行であって、そこから自然に恋情というものは生まれない。

学園内の女子たちはみんな可愛いのだけど...なぜか付き合いたいと言う意欲が微動たりしないのだ。

 

「じゃあさ、琲世くんが今可愛いと思う子っている?」

 

「可愛いと思う人ですか?」

 

「ええ、"私以外の子"ね」

 

「...なんで自分を強調して言うんですか?」

 

明らかに私の名前を挙げろと言わんばかりの口調だ。

 

「なんでしょうかね...僕に話しかけてくる人たちは十分可愛いですよ。限定的に一人に絞り込むとなると、全く浮かばないと言うか...」

 

「...はぁ、まったく」

 

刀奈さんはわかりやすく大きいため息をした。

 

「君はふつーの男子高校生じゃないんだから、全然面白くないなぁ」

 

刀奈さんは席から立ち上がり、僕の後ろに回り込み、退屈さを表すように僕の肩に顎を乗せ、ぐぐぐっと重くさせる。

 

「い、痛いですよ...楯無さん」

 

「だって君はどうも同年代の男の子じゃないの。態度も振る舞いも20代ぐらいのお兄さんって感じがある。もしかして前世は都内のオフィスで働いていたお兄さんだったりして?そうだったりして?」

 

今、僕の耳元に聞こえるのは刀奈さんが愚痴を言うような早口。

明らかに不満をぶつけに来ている。

 

「いやいや、そんなことはないですよ。と言うか楯無さんが考える普通の男子高校生って、どんな感じですか?」

 

「え?思春期真っ盛りな男の子ってな感じ」

 

「いや...それはないですよ」

 

刀奈さんが考える男子高校生像を否定した僕なのだが、実際は僕でもよくわからない。

世間が考えるような男子高校生は普通に思い浮かべることができるのだが、本当の男子高校生像はまったくと言ってもいいほどわからず、どう振る舞えばいいのかわからない。

 

「箒ちゃんやセシリアちゃんたちに相談を乗ってくれているらしいわね」

 

「ええ、相談というなの愚痴ですが...」

 

流石に毎日とはいかないが、箒さんやセシリアさん、そして鈴さんに相談されることがある。

最近の相談ごとと言えば、一夏くんが全然好意を抱いてくれないと言う話が多々ある。

最初その話を聞いた僕は変に近づく彼女たちが良くないのでは?と思っていたのだが、最近だと一夏くんの唐変木ぶりに僕は彼女たちに同情してしまっている。

 

「それで...彼女たちがどうしたのですか?」

 

「彼女たちの誰かに好意を抱かないの?」

 

「いやないです」

 

僕は刀奈さんの質問に、無意識にすぐに答えた。

 

「えー?なんでよ?いつもあの3人から琲世くんに相談してくれてんるじゃん?昼間だけじゃなくて夜に部屋に来てくれて、いい香りがしてくるパジャマ姿が見れて惚れそうにならないの?」

 

「だから、好意なんて一寸もないです。というか恋愛の相談に乗っている人に恋情を抱いたら、一巻の終わりじゃないって知らないのですか?」

 

「へー、お姉さんは知らなかったなー?初めて知ったー」

 

刀奈さんは明らかにわかっている様子で棒読みで言葉を返した。

流石に相談してくる女子を好きになると言うのは自殺行為だと僕は認識している。

なにせ有馬さんの元にいた時に、悲惨な末路を辿った男を僕は知っているのだから。

 

「....なんか楯無さん話していると、変に疲れましたよ」

 

「疲れたの?私と話しただけなのに?」

 

「ええ、いつも楯無さんにいたずらをされるよりも疲れましたし、あと僕の肩から離れてください」

 

「まったく、現実じゃ絶対に出会わないであろう女の子の顎のせシチュエーションをもっと堪能できるのに、もういいの?」

 

「...それが疲労の元と言ったらどうですか?」

 

生徒会室に訪れ椅子に座り、刀奈さんと話していた僕だが、なぜかどっしりとしたつまらない授業を受けたかのような疲労が僕の体にきていた。

刀奈さんは『ふつーの男の子だったら照れてるのになぁ...』とわざとらしさが薄らとある不満な口調で僕の肩から離れた。

 

「今日の琲世くんは妙に辛辣だよね」

 

「ええ、時にはそう言う日も必要じゃないですか?」

 

「うわ、それは流石にひどい...」

 

本当に傷つけられたかのような声で答える、刀奈さん。

普通の男からしたら傷つけたことへの罪悪感を抱いてしまうかもしれないが、僕からしたら彼女のいつもの行動であり、これが落とし穴でもあることを知っている。

 

「とりあえず、外の空気でも吸いましょう。もうそろそろ日が完全に沈むことだと思いますし」

 

「そうかしら?まだここにいてもいいけどね」

 

「楯無さんはやることはありますか?例えば生徒会関係のこととか」

 

「ええ、あるわ。今、目の前にいる琲世くんをいじることだけね」

 

「...それは生徒会室以外でもできることじゃないですか」

 

「そう?まぁ、琲世くんの言葉に従うけど」

 

刀奈さんはまだ生徒会室に居座りたいと言うかと思ったが、僕の言葉をすんなりと受入れ、まだ席に座る僕に『ほら、部屋から出ないの?』と急かしていた。

 

「ええ、わかりました。とりあえず寮に戻って、ゆっくりとーーー」

 

僕は席から立ち上がり生徒会室に出て、廊下に一歩踏みこんだその時だった。

 

『第三アリーナで代表候補生が模擬戦をやっているって!!』

 

『マジで!?今すぐ行かなきゃ!!』

 

『しかも3人だって!!』

 

すると突然、何人かの生徒が部屋から出た僕たちに構うことなく、駆け足で何処かに向かっていた。

僕は危うく通りかかった女子にぶつかりそうであった。

 

「あ、危なかった...アリーナで模擬戦ですか...?」

 

「なんかさっきの子たち、結構興奮した様子で行ったわね。まぁ、代表候補生同士の模擬戦だからかもね」

 

「....」

 

代表候補生の模擬戦という言葉に何も違和感を持たなかった、刀奈さん。

しかし彼女の隣にいた僕は悪寒に似た感覚が自分の体の奥から現れていた。

 

「...あの楯無さん」

 

「ん?」

 

「...もしかして、模擬戦をしている代表候補生って、ラウラさんが入っているんじゃないですか?」

 

「え?ラウラちゃんが?」

 

「ええ、まさか彼女が誰かと戦っているんじゃ...」

 

代表候補生同志が普通に公式の試合以外で闘うことはあるだろうか?

お互い仲がいいならありえるかもしれないが、仮に仲が悪いとなると明らかに何かをきっかけで衝突したと考えられる。

ラウラさんはこの学園に来て以来、仲良くなった人はいない。

それに僕は彼女がいつか誰に危害を加えると恐れていた。

もし彼女がそこにいるならば、恐れていた事態が起こりかねない。

 

「ま、まさか...それは琲世くんの単なる思いつきじゃ」

 

「いや、間違いなく彼女が絡んでいます。急いで行かな....っ!」

 

僕はラウラさんがいると思われるアリーナーに行こうとしたのだが、10歩ぐらい歩くと勢いが治ったかのようにピタリと足を止めてしまった。

 

(...まずい、僕がこのまま止めに行くとなれば...自分のISを曝け出すことになる)

 

もしラウラさんがアリーナにいて、僕が彼女を止めようとISを展開してしまえば、機密扱いである僕のISを大勢の生徒が来ているであろうアリーナで見せることになる。

人数に関しては先ほどの女子生徒の興奮ぶりを見る限り、かなりの人がいるはず。

そうなれば流石に緊急事態とはいえど、ISを見せるのは避けたい。

 

「...あの、楯無さん」

 

「ん?」

 

「お願いがありますがーーー」

 

僕は刀奈さんにあることを頼んだ。

今の僕では"カバーしきれない部分"を補うために。

 

 

 


 

 

「くたばれっ!!織斑一夏!!」

 

自分のISに搭載されているカノン砲で宿命である織斑一夏に狙い、あとは発射するだけの状況を持った、私。

ここまでの経緯を簡単に話そう。

まず私が第三アリーナにいたセシリア・オルコットとファン・リンインに挑発をすると二人はすぐ私の挑発に乗り、ISを即座に展開し攻撃をした。

ここまで2機のISと戦うことになった私だが、感情に振り回された操縦者と戦うのは容易いものだった。

感情に振り回された二人は私の予想通りに冷静さを失い、攻撃の流れは私に変わっていった。

だが攻撃の流れはずっと私に流れると思いきや、突如ある男が私の目の前に現れた。

現れたのは憎むべき人物織斑一夏とその連れであるシャルル・デュノアだった。

アリーナで戦闘が行われている時、観客席にバリアーが貼られ、ピット以外アリーナに入ることができないはずだが、織斑一夏は観客席からISを展開し、無理やりバリアを壊しアリーナに入ったらしい。

しかし二人が現れたところで、私を不利な状況を作り上げるのは不可能だ。

なぜならば、二人は私のISの特性を知らないのだから。

あと私に与えられた選択肢は、織斑一夏を撃破するだけーーー

 

だった。

 

「っ!」

 

すると突然、明確に見えていたはずの視界が数秒で視界不良になってしまった。

 

(なんだ...これは?)

 

視界を遮りるのはアリーナの地面から現れた土煙ではなく、先ほどよりも湿り気を感じるどこからやってきたのかわからない霧。

霧の濃さは私の手が微かに見える程度で、先ほどアリーナに照らされた日の光が一瞬に夜になったかと思わせるほど暗くなった。

 

(...なぜ急に静かになった?)

 

1分ほど経つと、織斑一夏どもの慌てふためく声が聞こえなくなり、その次に観客席にいた野次馬の声が消えた。

まるで私がアリーナに取り残されたかのように周囲から音が消え去った。

 

「...誰だ?」

 

私は霧で見えない先に呟くように声を出した。

それはただなんとなくやったのではない。

今私が抱いているのは未知の存在に出会った心境に似ている。

このアリーナには私以外にISを展開をしているのは4機のはずだが、もう一機新たなISの反応がある。

それは織斑一夏ではなく、ヤツに群がる女どもでもない気配。

しかしそのISは私に真正面に向いている。

私がアリーナに現れた正体不明機に近づこうと考えた、その瞬間だった。

 

「っ!!」

 

すると突然、霧の中から薄らと姿が見え、そしてその同時に私に向けて剣が振り下ろされると知った。

 

「くっ!!」

 

私は即座に腕に装着していたプラズマソードを出現させ、霧の中から現れた一つの剣を防いだ。

あと数秒遅れていたら、ダメージを喰らってしまうほど速い攻撃。

しかも速さだけではなく、振りかざしたブレードの重さが身体中に伝わるほどの威力。

明らかに只者ではない。

 

「さっさと離れろ! Geist(幽霊)!」

 

私はプラズマソードで伏せいだ剣を大きく突き放し、すぐさま後方に下がった。

 

(...ヤツはどこだ?)

 

ヤツの攻撃を防ぎ体勢を整えた私だが、襲ってきた人物を正確に確認ができず、視界が悪い状況の中、神経質に周りを警戒する。

しかもヤツは私の眼中だけではなく、先ほどまで確認できたはずのISに搭載されているレーダーですら発見できず、

 

「ーーー前に言いましたよね?ラウラさん」

 

「っ!」

 

霧の中からとある男の声を耳にした私は何かに囚われたのように興奮に似た感情を抱いた。

この声は私がカフェテリアで聞いた殺伐とした声と同じ声。

 

「あなたは普通の人よりも記憶がいいはずなのに、なぜ"行動"を起こしたのですか?」

 

ああ、その声だ。

私は自然と高揚感が胸の中に現れた。

これほど戦いたいと言う気持ちは滅多に生まれない。

 

「来たか....heiße(名無し)!」

 

私がヤツの名を言うと、霧が私の心情を表しているかのように視界から消え始め、一人の男が立っていた。

織斑一夏と違い、同年の人間にあるであろう青さがない怒り。

どんな攻撃にも恐れののかない立ち姿。

そして根元を作った私を全力に止めにかかると自然と思わせる鋭い眼差し。

その男の名は、佐々木琲世。

 

ヤツは、死神を思わせる白黒の色をしたISを展開していたのだ。

 

 



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火種

一夏Side

 

それは夕日が照らす放課後のアリーナでのことだ。

本当ならば今ごと俺とシャルルはここで練習をしていたのだが、今やっていることは練習ではなく実戦だった。

俺はラウラに一方的に攻撃されたセシリアと鈴を吸湿していたところ、ラウラのISに搭載されているレールカノンにロックオンされ、危うく二人のように打ちのめされるところであった。

 

「ーーー前に言いましたよね?ラウラさん」

 

しかし俺はある人物が現れたことにより、ラウラに攻撃されずに済んだ。その現れた人物は琲世だった。しかも、機密であるはずのISを展開した状態で。

 

「あれは...は、ハイセなの?」

 

「ああ、そうだ。あいつは琲世だ」

 

俺の隣にいたシャルルはISに展開している琲世を見て驚いていた。そりゃ。そうだ。琲世がISを展開している姿なんていろいろな事情で普通は見れない。

 

「しかもハイセが展開しているISは...専用機?練習機にしては小さく、他の専用機には見られないパーツ。あれはいったい何?」

 

「あれは俺にもわからない。だけど一つだけ分かることといえば...絶対に手をだすな、シャルル」

 

セシリアと鈴が同時に戦っていても苦戦した様子を見せなかった、ラウラ。

シャルルはきっと無謀だと考えているだろう。だが俺は琲世のISを見るのは二度目の人間だから言えることがある。

 

それは絶対に琲世を一人で戦わせることだ。

 

「あなたは普通の人よりも記憶がいいはずなのに、なぜ"行動"を起こしたのですか?」

 

声の口調から分かる、琲世の怒り。

特徴のある柄がある黒(よくレースカーで使われているカーボン模様に似ている)に、中世ヨーロッパの騎士が着ていた鎧を連想させる白銀の装甲をした琲世のIS。しかし、いかにも重厚そうな見た目とは裏腹に重さを感じさせないISの外観に、人間の体に合わせた小型さ。今最新のISはどれも大型化しているのだが、その理に反した設計であるとわかる。

それにしても琲世がアリーナに現れるきっかけになった"霧"は琲世のISの能力なのだろうか?

つい先ほどまでの空が夕焼け色に綺麗に染まっていたにもかかわらず、突然霧が現れるなんて明らかに異常と言える。

だがあの霧のおかげで観客席にいた女子生徒たちは消え(観客席から誰かが誘導する声が聞こえたのだが、もしかしたら上級生が誘導していたのだろう?)、琲世のISを見られずに済んだ。

 

「ラウラさん、今すぐISを解除してください。あなたがやっているのはただの遊びなんかじゃない。殺人に等しい行為です」

 

普段俺たちに見せない冷静な怒りを見せる琲世は右手に持っている日本刀の形をした剣(名前は機密のため知らない)をラウラに向け、いつでも攻撃ができるよう構えた。

まっすぐとラウラを見る琲世の目は明らかに俺と同じ年の人間の目ではない。

琲世がいったいどんな道を歩んできたのかわからないが琲世の目からわかることと言えば、千冬姉に似た厳しい目つきだ。

 

「それがお前のISか、ハイセ」

 

しかしラウラは琲世の言うことには従わず、かえってさらに好戦的な態度になっていく。 なぜ戦いたくなるのか俺にはわからないが、今のラウラの様子は妙に興奮している。俺やセシリアたちと戦っていた時は軽蔑がまじった冷たさがあったのだが、今俺の目から見えるラウラは待ちに待ったと言わんばかりに感情が高まっていた。

 

「ええ、そうです。ですが今すぐISを解除してください。解除しなければーーー」

 

「解除しなければ私に攻撃を加える、と受け止めればいいだろ?悪いが私からの返事はーーーNein(断る)だ」

 

ラウラがそう言った瞬間、瞬時にワイヤブレード一本を放ち、1秒も経たないうちに琲世の腕に巻きついた。

 

「は、早い...!明らかに僕たちが受けた時よりも早いよ...!!」

 

シャルルの言う通り、今ラウラが放ったワイヤーブレードの速さは明らかに俺たちが受けてきた時よりも違う。

つまり、今のラウラは"本気"と言うことだ。

 

「ワイヤーブレードですか...」

 

「ああ、これでお前は自由に動けられまい」

 

ラウラは琲世に巻きついたワイヤーを引っ張り、どんどんと近づけさせる。

琲世はある程度抵抗はしているが、アリーナの地面に引きずった跡が見えるほど引きずられていく。

ラウラのあのワイヤーブレードは俺よりもISの操縦経験のあるシャルルでさえ、かなり苦戦を敷いた。

もし俺が琲世の立場ならばそのままラウラに引きずられ、攻撃を受けてしまうだろう。

 

しかし琲世は違った。

 

「...なら、これはどうでしょう?」

 

琲世はそう言うとラウラの引っ張る力を耐えていた足を地面から離し、ワイヤーの引っ張られる力と同時に瞬時加速を発動しラウラの元に近づいたのだ。

 

「っ!」

 

突然の琲世の行動にラウラはっきりと目を剥いた。なぜなら琲世のISの加速は他のISと違い比べ物にならないほどの速い加速を生み出せるのだ。どのぐらいなのかと言えば、約300mあった距離を一瞬にして距離を縮めることができるほどだ。

そしてとてつもない速度に乗った琲世はラウラの腹に蹴りを入れ、攻撃を受けたラウラはアリーナの端へと吹き飛ばされ、壁に衝突した。

 

「い、いま、ハイセはとんでもない速度でラウラに攻撃をしたよね...?あれを受けたら、ただの怪我じゃ済まされないじゃ...」

 

シャルルの言う通り、先ほどの琲世の攻撃はジェット機並みの速さで蹴りを入れることであり、それは攻撃を食らった相手だけではばく、本人も体にダメージを食らう攻撃である。

 

「....」

 

しかしラウラに攻撃を加えた琲世は痛がるような様子を見せることなく、攻撃を加えた足は普通に地面につけていた。

もしかしたら、普通の人間よりも速い再生力のおかげかもしれない。

 

「....ハハハっ!!」

 

すると琲世の攻撃を食い、壁に倒れていたラウラが急に高笑いをした。

 

「お前のISは他のISよりも小さい私は侮っていたが、まさかあんな速度を出せるとは、ますます興味が増した!」

 

ラウラはそう言うと先ほどの攻撃を食らったにもかかわらず、堂々と立ち上がった。

 

「これ以上戦闘をするのをやめてください。これは皆さんだけではなく、ラウラさんのためでもあります」

 

「私のためか?笑わせるな」

 

ラウラは琲世の言葉に軽蔑した様子で鼻で笑うが、琲世はイラッとした様子を見せることなく『冗談ではありません』と冷静に言葉を返した。

 

「僕は正直なところ、あなたと戦いたくありません。戦っても無駄に過ぎないからです。だからこれ以上ーーー」

 

「なら、私のためならば、もっと戦え!!」

 

ラウラは琲世の言うことに耳を傾けず、即座にワイヤブレードを放った。しかも一本だけではなく四本も同時に放ったのだ。

 

「全く...戦うのが本当に好きですね!」

 

琲世はそう呟くとすぐさま動き出し、自分に追ってくるワイヤブレードを数センチ間隔で避け続ける。一本ですら大変苦戦するものだが、四本となると全て交わすのは至難の技だ。

 

「ねぇ、一夏。これ以上ハイセ一人で戦わせうのは..」

 

「いや、琲世だけでいい。あいつは俺たちより戦いに慣れている。見たら分かる」

 

シャルルにそう言った、俺。

俺は琲世を信じて言った言葉のようにシャルルはそう聞こえたかもしれない。

だが実際は逃げているような言動しかなかった。

俺は琲世のISを再び見た時、前のアリーナにやってきた正体不明機時を思い出した。

 

『みんな、待機』

 

あの時、琲世の通信から聞こえた、あの声。

普段琲世の口から聞くような声ではなく、別人に変わったかのように違和感のあった冷たい声。

普通の俺なら一人戦う琲世を見捨てることなく共に戦うのに、琲世のあの声を聞いて俺は琲世に攻撃を加担しなかった。

 

それを考えた俺は、なんで見ているだけなんだ?とじっと動かない自分に苛立ちを覚えた。

セシリアと鈴がラウラと戦っていた時は俺は即座にISを展開し、すぐにラウラに攻撃を加えたのに

琲世が戦っている時、俺はただその姿を見ているなんて、 全然俺らしくない。

 

「ラウラさん!いい加減にしてくだーーー」

 

琲世は追いかけ回るワイヤーブレードを潜り抜け、ラウラに刀で攻撃しようとしたその時だった。

 

 

「やめろ、佐々木」

 

 

すると聞き覚えのある声がアリーナで聞こえた。

その声に気づいた琲世はラウラの頭部からあと数センチというところで刀を止めた。

 

(ち、千冬姉!?)

 

ちょうど琲世の真後ろにスーツ姿をした一人の女性が立っていた。その人物は千冬姉であった。

 

「なぜお前はISを展開したのだ?」

 

「アリーナににて緊急事態が起きたため、やむなくISを展開させました」

 

「何度も言っているはずだ。お前はISを展開はするな、と」

 

「...すみませんでした」

 

千冬姉のいつも通りの冷たい口調に、琲世は不服の様子を見せることなく、そのままISを解除をした。体に装着していたアーマーは光の粒子に変わり、跡形もなく消え去った。

 

「...全く、これで目撃者は2人も増えてしまったな...ボーデビッヒ、シャルロット」

 

「「はい!」」

 

「お前らが見た佐々木の専用機は本来なら機密IS機として扱われているものだ。絶対に他の人間や組織などには漏洩してはならない」

 

千冬姉はそう言うとシャルルとラウラは『はい』と答え、そして展開したISを解除をした。

結局、学年別トーナメンとまで戦闘は禁止され、そして授業以外にISを使用することも禁止された。

今回の剣で他のみんなはそれぞれ考えさせられたことが生まれたと思うが、俺は他の誰よりも考えさせられた地震があった。

 

 

確かに琲世は俺よりもISの操縦経験は上だとわかるのだが、

 

だからと言ってあいつばかり活躍するなんて、どこか悔しさが生まれる。

 

 

 

俺はもっと強くならないと

 

今の自分よりも、そして俺よりも強い琲世よりも

 

 


 

 

 

琲世Side

 

 

(セシリアさんと鈴さんが無事でよかった...)

 

夕日が沈んだ直後の夜。

僕は保健室にいたセシリアさんと鈴さんに見舞いに訪れ、その後自分が寝泊りする寮へと戻っていた。

ラウラさんの攻撃で負傷した二人は命に別状はなく、僕はその報告を聞いた時ほっとした。

だがその安心した心を二人に見せた瞬間、学年別トーナメントには出場することはできないと嘆き始めたのだ。

聞くところによるとセシリアさんと鈴さんのISの損傷は酷いものだったらしく(ダメージレベルがC以上)、どんなに修理を急いでもトーナメントに出場できないのは確定らしい。

それで二人は僕に愚痴話をいつもより長く聞くことになり、寮に戻る時はすっかり夜空が綺麗に見える夜に変わっていった。

 

(えっと、確かここかな?)

 

それはさておき寮に戻った僕はそのまま自分の部屋に行くことなく、ある人物の元へと向かっていた。それは僕が寝る部屋から少し遠い部屋で、クラスの誰もが近づかない部屋だ。誰もが近づかな理由についてはいじめの意味ではなく、逆の意味と言えばいいだろう(正式には違うが)。僕はその部屋のドアの前に立つと少し深呼吸をし、息を履いた後、ドアに軽くノックをした。

 

「.....」

 

しかし部屋からは全く返事はなかった。

 

(彼女はもしかして...いないのかな?)

 

初めはそう考えた僕だが、少し考えてみると彼女はこの部屋にいるはずだ。今の時間帯は彼女はカフェテリアや他の人の部屋に行くことなくこの部屋にいる。しかも今日はあの出来事でさらに部屋から出にくくなっているはず。僕はとりあえずもう一度ドアをノックし、『佐々木ですけど』と自分の名を言ったのだが、反応はなかった。僕は仕方なくその部屋から離れ、諦めて帰ろうとしたその時だった。

 

(...ん?)

 

僕がその部屋のドアから背を向け歩いて4歩の時、ドアのロックが開いた音が聞こえた。一瞬気のせいかと思ったのだが、ドアのロックが開いた音がしたのは、明らかに僕が尋ねようとした部屋しか考えられない。僕はしばらく尋ねようとした部屋のドアをじっと待ったのだが、ドアが開く気配はなかった。僕はもしやこちらから訪ねろと言っているのか?とふと心の中で感じ、恐る恐るドアノブを引くと、ちゃんとドアが開いた。

 

「し、失礼します...」

 

僕は職員室に尋ねるように慎重に中に入っていった。部屋の中は電気はついておらず、光らしき物はまったくなかった。流石にこのままでは何も見えないため、僕は部屋の電気をつけようとしたら...

 

「電気をつけるな、heißen(ハイセ)

 

「っ!!

 

突然暗闇の中に冷静な女子の声が聞こえた。

 

「あ...ど、どうも..."ラウラさん"」

 

「...なんの用だ、佐々木のheißen(ハイセ)

 

気配を感じ取れなかった真っ暗な部屋から現れたのは、今日僕と戦ったラウラさんだ。

 

 

僕が訪れた部屋はラウラさんの部屋なのだ。

 

 

 




次回:8月20日 12:00


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左目

琲世Side

 

つい先ほどまでラウラさんと戦っていたはずの僕が入ったのはラウラさんの部屋であった。

 

「ら、ラウラさん...怪我の方は大丈ーー」

 

「問題ない」

 

窓から映る月明かりしか明るさがないラウラさんの部屋に訪れた僕は恐る恐るラウラさんの顔を伺うように声を震わながら言った。

しかしラウラさんは僕が必死に心配な言葉を出した労力を打ち消すように「問題ない」と温かみのない返事をした。

 

「まさかお前が来るとはな、heißen(ハイセ)

 

僕が部屋に現れ、どこかうっとうしさが滲み出す、ラウラさん。

相変わらずドイツ語の発音で僕の名前を言う点は明らかに何か意味あるのではないかと感じさせてしまう。

 

「や、やっぱりそう考えちゃうんだね...」

 

「ああ、私の元に尋ねるのは教官かお前しかいないからな」

 

「あ...そ、そうなんだ...」

 

僕はラウラさんのその言葉に察しがついた。

今思い返すとラウラさんの部屋に行ったことのある生徒など聞いたことがない。

一夏くんはもちろん、箒さんやセシリアさんなど今後ラウラさん自身が改善しなければ、千冬さんしかラウラさんの部屋に来ないだろう。

 

「先ほどまで敵だった人間の前に再び現れるとは、さてはもう一度戦いを挑むのーーー」

 

「いやいや!流石にここで戦うなんてないよ!」

 

ラウラさんの発言を聞いた僕は先ほどまでぎこちなかった自分の口調が、いつもの自分の口調にすぐに戻り、ラウラさんの発言を遮った。

寮内で戦闘が起きてしまえば間違いなく面倒ごとが起きかねない。

 

「違うのか?じゃあなんだ?無様にやられた私に対して冷やかしに来たのか?」

 

「冷やかしじゃなくて....その...怪我の方は大丈夫かなと...」

 

「怪我?」

 

僕がラウラさんの部屋に訪れた最大の理由はラウラさんの怪我であった。

 

「医務室の先生に聞いたんだけど...ラウラさんはあの戦闘以降、医務室に訪れていないから...僕は心配してここにーーー」

 

「お前如きに心配などしなくてもいい」

 

切り捨てるように冷たく発言をした、ラウラさん。

どうして僕は先ほどまで戦っていたラウラさんに心配するのか、それは僕が彼女を攻撃した方法に理由があった。

僕がラウラさんにどのように攻撃したと言うと、ワイヤーの引っ張られる力とISの瞬時加速(イグニッション・ブースト)でまっすぐとラウラさんに接近をし、そのまま腹部に蹴りを入れたのだ。

普通の女子が受けたなら、しばらく立ち上がれないはずの攻撃なのだが(例えるならジェット機並の速度で衝突するぐらい危ないこと)、ラウラさんは最初はアドレナリンのおかげか痛がる様子はなかったのだが、ある程度時間が経つと歯を食いしばる様子が何度も目に映った。

 

「い、いや...僕は心配するよ。だってあの攻撃を受けたらなら、絶対防御があっても怪我は間違いなくあるはずだ」

 

「いいや、お前に受けた攻撃など今は大したことはない。私の体は他の人間とは違うな」

 

「他の人間とは違う?」

 

「....」

 

すると今まで冷たく言葉を発していたはずのラウラさんは突然無言になった。

どうしてなんだろうかと僕は考えようとしたら、ラウラさんのベットにあるものを見つけてしまった。

 

(あれは...包帯?)

 

ラウラさんのベットにあったのは軍から至急されたであろう救急キットだった。

 

「なんだ、物珍しそうに見て?」

 

「や、やっぱり、怪我をしていたんだね...明日すぐに医務室にーーー」

 

「だから今の私は問題はない。それよりもお前はどうなんだ?」

 

ラウラさんは冷たくに僕の言葉を遮り、突然何かを聞き出した。

 

「僕?」

 

「お前の怪我だ。急激な瞬時加速(イグニッション・ブースト)で蹴りを入れるなど、攻撃された側よりも攻撃する側に負担が大きいだろ」

 

言われてみれば攻撃した時に片足にとてつもない重力がくることを思い出した、僕。

確かにいくらISを装備したとはいえ瞬時加速(イグニッション・ブースト)をむやみに使用すれば、 体に負担がかかり、最悪骨折などが起きかねない。

しかし僕は通常の操縦者だと骨折が確定な場面でも、体に異常をきたすことはなかった。

それは他の人には知られてはならない僕の体に理由があった。

 

「ああ、あれはISがある程度抑えてくれたから、僕は怪我はないーー」

 

「なんだか理由にしては裏がある気がしたのだが、違うか?」

 

「....」

 

本当の理由を言わなかった僕はラウラさんの鋭い指摘に思わず黙ってしまった。

やはり彼女は他の女子生徒よりも目が鋭く、とても怖い。

 

「そ、それだったら、ラウラさんはどうなんですか..?」

 

「私か?」

 

「はい。先ほど”他の人間とは違う”をうっかり言ってしまったような感じがありました。それはどうしてなんですか?」

 

「....」

 

ラウラさんは僕の言葉を聞くと、先ほどうっかり言ってしまった時のように沈黙をしてしまった。

数分沈黙が漂うと痺れを切らしたのかラウラさんは大きなため息をした。

 

「...変に黙ってても、お前は帰りそうにないな。わかった。どうしてあんなこと言ったのか答えを言おう」

 

めんどくさそうにラウラさんはそう言うと、着ていたブレザーをすぐに脱ぎ、シャツの下にある腹を見せた。

 

「っ!!」

 

僕は突然ラウラさんが素肌を出したことに、思わず後ろに振り向いてしまった。

 

「なんだ?急に顔を赤くして?」

 

「だ、だって、急に服を脱ぐから..」

 

「お前が先ほどの私の理由を知りたかったから見せたのだろ? 何を言っている?」

 

しかしラウラさんは何も恥ずかしがる様子はなく、逆に恥ずかしがる僕に疑問を抱いていた。

一応ラウラさんは自分のお腹だけ見せており、一瞬だけだったが下着の方は見えてない。(これは確信に言える)

僕は彼女の突然の行動に恥ずかしがる中、あることを浮かんだ。

もしかして、ラウラさんは...?

 

「いつまで後ろに向いている。ほら、よく見ろ」

 

ラウラさんの声が耳に入ると、考え始めようとしていた僕はハッと我に帰ったかのような感覚を味わった。

僕はラウラさんの方向に振り向くと、ラウラさんはシャツを上げ、僕が攻撃した彼女の腹を見た。

 

「...あれ?」

 

ラウラさんの腹を見た僕は思わず意外さに驚いた声を出してしまった。

ラウラさんの腹にあったのはわずかなあざだけであった。

いくら絶対防御があっても大怪我が確定の僕の攻撃が、まるで自転車に乗って怪我をしたぐらいの怪我であった。

しばらくラウラさんの腹の怪我具合を見ていた僕の「どうだ?満足か?」とラウラさんは相変わらずの冷たい返事をした。

 

「少しあざが残っているが、あと二日ほどしたら完全になくなる」

 

「二日って...じゃあ、つまりラウラさんは普通の人間ではーー」

 

「ああ、だからどうしたんだ?」

 

ラウラさんはまた僕の言葉を遮った。

 

「私はお前と違ってただの人間ではない。戦いのために生まれた人間だ。そこらの人間とは違い、お前程度なら数日で治る」

 

「..つまり、ラウラさんは人工的に作られた人間と言うこと?」

 

「ああ、ただし体の作りは他の人間と同じで、決してアンドロイドではない。だが違うところと言えば先ほど言った戦闘能力と再生能力が大きく違う。どうだ?これで納得して部屋から出られるか?」

 

「.....」

 

僕はラウラさんが話した事実に思わず黙ってしまった。

ラウラさんが人工人間だと言う事実を知ったことに驚いたと言えばいいだろうけれど、それよりも驚いたことがあった。

それは戦うために生まれたと言う事実だ。

その事実に驚いた理由は、自分とは似ているからだ。

 

ラウラさんの事実を知り、沈黙を続けていた僕を見たラウラさんは「何もしゃべらないなら、次は私が質問する番だ」と声を出した。

 

「お前は本当は怪我をしているのではないか?あの攻撃で骨折並の怪我をしているはずだ。どうだ?違うか?」

 

「....今はしていないよ」

 

「今は?」

 

僕の静かに『今は』を強調するように返した返事にラウラさんは不審感を抱いたかのか眉を潜めた。

 

「"今は"とはどういうことだ?」

 

「...ええ、ラウラさんに攻撃した時に怪我はしたのは本当です。しかし、"今は"怪我はしてないです」

 

「そんなバカな。あの衝突だと骨折は確定ものだろ」

 

「もし他の人が僕と同じ攻撃をしたならそうなるでしょう。しかし、僕は違います」

 

「他の人と違う...?もしかしてお前は...?」

 

「ええ、そうですよ。あなたと同様、ただの人間じゃ無いんですよ」

 

僕はただの人間では無いことをきっぱりと言った。

 

「ラウラさんとはどう言った形でこの世界に生まれたかはわかりませんですが、確かに他の人とは違うのだとわかっています」

 

「...やはりか」

 

「...?」

 

するとラウラさんは何かわかったかのように少し笑った。

 

「...何がですか?」

 

「だからそうだったんだな。お前がただの人間ではないから、左目が変化することができたんだな」

 

「っ!!」

 

ラウラさんはそう言うと自分がつけている眼帯の方、つまり自分の左目の方に指をさした。

 

「お前が私に攻撃した時、左目が変色をしたな。確かあの色は赤と黒の色だったな」

 

「わかっていたんですね...」

 

「ああ、このことは今日お前と戦っていた時にわかったことでもあり、それ以前にあった食堂の件でわかったことだ」

 

「...え?あの時の僕、目が変わってたんですか?」

 

「ああ、あれは一瞬だったがな。おそらく他の人間は見てはいない」

 

食堂の時の僕はあまりにも怒りの感情が高まり、しっかりと状況がはあくできなかったため、自分の左目が赤く染まっていたことなんて覚えていなかった。

 

「...なら、ラウラさんのその左目はどうなんているんですか?」

 

ラウラさんは「私か?」と言うと、嫌そうな様子を見せることなくスラリと眼帯を外した。

右目は赤色に対して、左目は人工的な金色だった。

 

「これは越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)で移した目だ。本来なら片目と同じく赤色になるはずだったのだがこんな色になった。そもそもお前は越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)すら知らんだろうから、どうでもいいだろ」

 

「....そうかもしれませんね」

 

ラウラさんの言われるままそう答えた僕だが、越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)という言葉知っている。簡単に言えばISのような高速下での視覚能力を上げることができるものだ。

 

「となると、お前の反応を見る限り、お前の左目は越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)ではなさそうだな」

 

「...ええ、越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)ではないですね」

 

「なら、それはどんな効果があるのだ?」

 

「....おそらく自分のISに関係するのではないかと思うんですよ」

 

「お前のISか?」

 

「はい、そうな....あっ」

 

すると僕はハッとあることを思い出し、うっかり自分のISについて話そうとしていたことに気がつき、口を止めて焦り始めた。

 

「そ、そういえば、僕のISのことは他の人にはーーー」

 

「教官から詳しく聞いた。お前のISは極秘機なんだろ?だからお前は他の人間には隠していたんだな」

 

自分の秘密を話してしまったことに焦っていた、僕。

あとから千冬さんがラウラさんとセシリアさんを呼び出していたことを僕は少し忘れてしまっていた。

 

「お前が他人の前にISを展開しない理由はなんとなくわかった。機体形状を見たところ、どこの企業にはない形状だな。しかも実装されている他の機体と比べ小型化している...お前のISは一体なんなんだ?」

 

ラウラさんの洞察力に驚かされた僕だが...

 

「なんと言うか...実は僕でもよくわかっていなんだ」

 

「よくわかっていない?」

 

「僕が使用しているISは生まれた時から持っていたかのようにいつの間にか所持していた...てな感じなんだ」

 

僕が使用しているISはいつどこで入手をし、体に埋め込んだかは僕でもわからない。

一つ言えることといえば、今僕が使用しているISはISの開発者である篠ノ之束が作ったのではないかと言うことだ。

なぜなら、僕が使用しているISの形状は今存在しているISの中では異質なのだから。

 

「なら、待機形態はどうなっている?ISを所持しているなら、何か身に着ける形になっているだろ?」

 

「.....」

 

僕はラウラさんの質問に対して、沈黙をしてしまった。

 

「なんだ?急に黙り込んで?」

 

「もし...ラウラさんが誰かに僕の秘密を漏らさなければ...伝えますが...?」

 

「秘密を漏らさなければ、か...?」

 

ラウラさんは僕の言葉に『それほど重要なことか?』と変に眉を潜め、しばらく黙った。

 

「...わかった。お前が言う秘密は漏らさないように守ろう」

 

「ええ、ありがとうございます。僕のISの待機形態はーーー」

 

僕はそう言うと、スッと自分の腹部に指をさした。

 

「腹...?」

 

「はい。僕のISの待機形態は、()()なんだ」

 

「た、体内...?」

 

ラウラさんは僕の言葉を聞くと、しずかに目を剥いた。

 

「体内だと...?それはどういうことだ?」

 

「場所はよくわからないのですが、僕の腹部にあるんじゃないかなって言われているんですよ」

 

僕が体内と伝えたのは理由がある。まず具体的にどこにあるのかわからないのだ。それはレントゲンをしてでも場所が把握することができず、どういった待機形態なのかは不明である。

 

「そのせいか体の再生能力や自分の左目が変色することができると思うんです」

 

「つまり、お前はISと同化していると捉えればいいのか?」

 

「...ええ、そうかもしれません」

 

少し間を空けそう答えた、僕。

僕はある意味今使用しているISとは体の一部として使用しているのだ。

 

「だからお前は実践練習に出なかったんだな。体内に待機形態があると他のISには反応が出ないから疑われるからか」

 

「そうですね...実際に他の機体を触れても、僕は所持している状態だから触れても意味ないんです」

 

「そうなると、お前はあの男とは違い、"ある意味"ISを使える男だな」

 

「ええ...そうなりますね...」

 

もしこの事実を知られては、おおごとになるのは確定だ。

一夏くんとは違った、重大なことだと。 

 

「それで体の方は大丈夫か?」

 

「体調の方は問題ないですよ。僕のISを取り出さない限り」

 

「そうだろうな。体のどこかにあるISを取り出すとなると、どこかに異常が起きるだろう」

 

一応手術以外に僕のISを取り出す方法として剥離剤(リムーバー)を使用されない限り、問題はないと思われる。

 

「...なので、ラウラさんは僕のことを秘密にして欲しいです。それはもちろん教師の皆さんや、他の生徒の皆さんにも」

 

「...ああ、わかった。お前の秘密は誰にも言わん。それにお前のことを知れたからな」

 

「僕のことですか?」

 

「ああ、少なくともあの男よりも少しだけ興味が出たからな」

 

別にラウラさんだから『興味を抱いた』という意味はあまりよくない意味と思えるのだが(ラウラさんの表情を見る限り戦闘欲が沸く意味?)、その時の僕はなぜかある感情が芽生えていた。

 

「そうなんだね...だ、だったら、もしよかったら...友達にーーー」

 

「答えはNeinだ」

 

ラウラさんは変な出来心を抱いた僕の言葉を遮り、即答で拒否した。

 

「お前ばアホか?馬鹿げたことを言う余裕があるなら、さっさと私の部屋から去れ」

 

「...ええ、わかりました」

 

出来心から目を覚ました僕は少しトーンを下げた返事を返し部屋から出ようとすると、ラウラさんは明らかにわざとらしい大きなため息をし、退出する僕とは逆の方向に振り向いた。

 

「...あ、あの...お、おやすみなさい...ラウラさん」

 

「....」

 

返事ぐらい返すだろうと考えた僕だが、ラウラさんは返事はすることなく、先ほど彼女の拒否した顔を思い出した僕はそのまま彼女の部屋に出た。

 

「....っ」

 

ラウラさんの部屋のドアを閉め、誰もいないであろう廊下に立った、僕。

僕は先ほどの失敗でため息をしようとしたのだが、ある感覚が察知した。

 

「...全部聞いてたんですね、楯無さん」

 

僕が独り言のようにそう言うと、廊下の曲がり角から刀奈さんがひょこっと顔を出した。

 

「ええ、正解〜♡最後のあの会話、かなりツボったわ。私が再現しよっか?」

 

「やめてください」

 

僕は恥ずかしさを押さえながら刀奈さんに連れられ、自分の部屋に戻った。

 

せっかくいい感じになってきたのに、なぜそんな失敗をしてしまったのだろう、僕。

 



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真実を知るための仕掛け

琲世Side

 

気まずさと恥ずかしさを得てしまった夜が過ぎ、迎えた朝。

昨日の件で少し気にしながら教室に訪れた、僕。

 

「あ!おはよう、ハイセ!」

 

僕が教室に入った時、最初にシャルルくんが僕に挨拶しにきた。

 

「おは...ん?」

 

シャルルくんの挨拶を聞いた僕はあることに気がつき、シャルルくんの前にピタリと止まってしまった。

 

「どうした?ハイセ」

 

(あ、あれ...?)

 

女子らしく不思議そうな目で僕を見る、シャルルくん。

僕はシャルルくんの姿にかすかに疑問を抱いた。

 

(昨日は確か風邪を引いたと聞いたのだけど...?)

 

ラウラさんの部屋に訪れたあと、僕は一夏くんたちの部屋に訪ねたのだが、「シャルルは風邪を引いたんだ」とドアで対応してくれた一夏くんに言われ、部屋に入ることができなかた。

今、席にいるシャルルくんは風邪を引いた様子はなく、むしろ最初から風邪は引いてはいないと言ったほうが近かった。

そう考えていた僕に後ろから「どうしたんだ?琲世」と一夏くんがやってきた。

 

「ああ、おはよう一夏くん。昨日シャルルくんは風邪を引いたんじゃ...」

 

「「え」」

 

すると一夏くんとシャルルくんは息ぴったりに言葉を「え」と言葉をこぼした。

 

「え、えっと、じ、実は僕、朝起きたら良くなったんだよ!!そう、今朝ね!」

 

「あ、ああ...なんかシャルルは急に風邪を治ったらしいんだ」

 

ん?

なぜか一夏くんとシャルルくんは僕の言葉に不自然とも思える挙動で言葉を返した。

もしや、二人は何か秘密を知っているのではないか?

僕はそう考えていると...

 

(...あれ?なんで急に教室が静かになったんだ?)

 

騒がしかった教室が急に静かになっていたことに気がついた。

一体何が起きているのかと教室を見渡すと、教室の反対側の入り口にラウラさんが現れたのだ。

 

「....」

 

僕と目を合ったラウラさんは僕の瞳をまっすぐと見つめ、そして何も言葉を言うことなく自分の席へと向かった。

ラウラさんが席につくなり、静まりかえった教室は若干ながら騒がしさが戻り、一夏くんはラウラさんに聞かれないためか「なんだよ...あいつ」と小さく呟いた。

 

「大丈夫か、琲世?さっきあいつがお前のことをじっと見ていたようだが?」

 

「いや...大丈夫だよ...」

 

一夏くんはおそらく僕の心情を『敵対していた人間と再び会い、琲世はきっと気分を悪くしただろう』と思っているかもしれないが、実際は違う。

どんな点で違うかというと、僕はラウラさんに対して敵対心がないのだ。

今の僕の心情を例えるなら、自分の告白を断った相手とは告白後に初めて出会う感覚に似ている。(実際に告白した経験はないが、多分同じ)

つまり気まずさが心の中で尋常じゃないほど溢れかえっていた。

昨日の出来事を知るのは僕とラウラさん、あと部屋の外から盗み聞きしていた刀奈さんだけだ。

 

「ハイセは何も悪くないよ。僕たちがいるからね」

 

「え、う、うん...あ、ありがとう」

 

僕はシャルルくんたちの意見に半分賛同した感じに返事を返したのだが、実際の僕の心情ははっきりと言って賛同できるものではなかった。

ラウラさんとの対決以来、僕は彼女を否定的に見ることはなくなった。

あの夜(同時に気まずさを生み出した夜でもあるが)に彼女と話し、僕は彼女の見方が変化したからだ。

とは言えど、僕の周りの人たちはいまだにラウラさんを否定的に見ている。(急に攻撃されたり、学年別トーナメントに参加することができなくなったりなど、敵対するのは当たり前だが)

なんとかして彼女をこの学園に馴染ませたい。

僕は胸の中に小さく呟くと、一夏くんとシャルルくんの周りにたくさんの女子が異様に集まりだしていた。

いつも一夏くんや僕などに女子が集まるのはめずらしくはないのだが、今回はやけに多く集まっている。その原因は女子たちがある紙を持っていた紙だった。

 

「ねぇ、一夏くん!私と一緒に組まない?」

 

「シャルルくん!次のトーナメント、あたしと組もうよ!」

 

数々の女子が持っていた紙を見ると『緊急告知』と大きく書かれ、その下記に書かれた内容は簡単にまとめると、今月開催する学年別トーナメントのペア申請だ。

あれ?学年別トーナメントは確か個人戦じゃ?

僕がそう疑問を抱いた瞬間...

 

「ああ...お、俺はシャルルと組むんだ」

 

「「シャルルくんと?」」

 

すると一夏くんは『シャルルくんと組む』と行った瞬間、何か間違えたことを言ったかのように一瞬静まりかえった。

一夏くんたちの元にきた女子生徒たちは一夏くん、またはシャルルくんと組むために来たのだから、静まり返るのは当たり前だ。おそらくは怒りの声がくるのではないかと隣にいた僕は身構えたのだが...

 

「一夏くんとシャルルくんは男同志だからいいか」

 

「そうしたほうがいいよね」

 

一夏くんとシャルルくんに駆けつけた女子たちは一夏くんの言葉に仕方ないと言わんばかりに、教室から去っていった。

 

「私だったら、琲世くんと組んでたよ」

 

「なんであなたが一夏くんと組もうとしてたのよ?」

 

「いいじゃないの!私の勝手でしょ!」

 

ああ、始まってしまった。

先ほど一夏くんたちにペア申請していた女子が廊下で言い合いが始まった。

よく僕と一夏くんに関係した不毛な争いがしばし見られる。(シャルルくんが来てからは少しは治まったが、学年別トーナメントが近づくにつれて再び争いが現れている)

毎回その光景を見るたびに、僕は『そこまで争わなくてもいいのに...』と悲しくなってしまう。

どうか仲良くしてくれ...

 

「でも、本当によかったね」

 

「ん?なんだ、シャル?」

 

「ハイセが今、ISを使えない状態よね?もしハイセが使えていたら...」

 

「ああ...そうなるよな」

 

「うん。おそらく僕は巻き込まれていたよ...」

 

もし僕がISを使用できると知られていたら、僕は一年生中の女子に追いかけまわされていたと思われる。

きっと夜もぐっすりと眠れないほど恐ろしい状況が起きていただろう...

ちなみにシャルルくんは僕が専用機を所持していることは知っている。

 

「もし琲世が使えるとしたら、誰と組むんだ?」

 

すると一夏くんがそう言うと、教室や廊下にいた女子たちが僅かながら体をビクつかせた。

あ、やっぱりみんな気になっているんだ。

 

「どうなんだろう...僕がISを使えたらなら、多分指名じゃなくてランダムで決まるじゃないかな?」

 

「抽選か?」

 

「やっぱり...他の子のことも考えて、そうしたほうがいいんじゃないかなって」

 

「そうかもしれないけど...もし選ぶとしたら、誰を選ぶ?」

 

「んーもし誰かと組むならーーー」

 

僕が言おうとした、その時だった。

 

「....」

 

「っ!」

 

すると僕は冷たい視線を察知し、思わず口を閉ざしてしまった。視線を感じた方向は確かラウラさんが座っている方向。つまり僕の真後ろだった。

 

「どうしたんだ、琲世?急に黙って?」

 

「い、いや...な、なんでもないよ...」

 

僕は察知したのだが、 一夏くんは気づいていない模様。

ここで一夏くんの唐変木が発動するとは...

 

「ねぇ...ハイセ」

 

「ん?」

 

すると僕の隣にいたシャルルくんは僕の肩をポンポンと叩き、誰かに聞かれないように小声で声をかけた。

 

「...ボーデヴィヒさんに目を付けられていない?」

 

「...やっぱりそう?」

 

「うん、だってボーデヴィヒさん、席に座ってからずっとハイセのことを見ているんだもん」

 

僕が察知した状況を理解できていていた、シャルルくん。

実際にラウラさんを見ていないが、見ていなくても尋常じゃないほどの嫌な空気を察知できる。

 

「やっぱり昨日の対決のせいで恨んでるんじゃ...?」

 

「あ、ああ...そうかも...うん...」

 

シャルルくん、そこまで心配しないでほしい。

僕は別のことで目を付けられているんだ。

昨日の夜に変なことを言ったせいで。

 

「どうしたんだ?二人とも」

 

「「っ!」」

 

僕とシャルルくんは一夏くんの返事にぎくりと肩が震えた。

 

「は、ハイセと組む子の名前を一応僕が聞いたから... 」

 

「シャルが?なんでシャルだけなんだよ?」

 

「秘密にしたほうがいいかなって...」

 

「秘密か?ちぇ、せっかく聞いたのによ」

 

一夏くんは僕とシャルルくんの返事に少し不満そうに答えたのだが、周りの女子は僕たちの返事には妙にそわそわとしだしたように見えた。

 

だが僕の心境は恐怖と不安で仕方なかった。

何せ今日一日中ラウラさんから目をつけられていたのだ。しかも僕に声をかけずに。

この状況が午前中ずっと味わうことになってしまった、僕。

昨日の自分に問い詰めたいほど、後悔が滲み出ていた。

 

 

 


 

 

全ての授業が終わり、徐々に夕日が沈んでいく、放課後

ラウラさんの殺意に似た冷たい視線に逃れようと、生徒会室に入った、僕。

部屋に入ると、刀奈さんは僕を来るのを待ちわびていたと言わんばかりに、自分が座っている会長席に肘をつけて手にあごをのせ、『いらっしゃ〜い、琲世くん♡』と嫌な予感を感じさせるような笑顔で迎えた。

 

「どうだった?友達になろうとしたけどすぐに断られ、翌日に出会った気分は?」

 

「ええ、最悪でしたよ。昨日の自分を殴りたいほどに」

 

僕のため息が混じった返事を聞いた刀奈さんは『ああ、やっぱりね』と明らかに僕を馬鹿にするように笑った。

 

「そのせいか一日中ラウラさんに目を付けられたんですよ。今まで一夏くんを目をつけていたはずの人が」

 

「いいじゃん、今まで琲世くんに対してまったく興味がなかった子に好かれて」

 

「す、好かれてなんかいませんよ。むしろいつ攻撃されるかわからない状況でしたよ」

 

「いつ攻撃されるかわからない状況?そこから発展していくモノがあるじゃないの?」

 

「なんですか?友達以上のあれですか?」

 

僕が呆れた様子で答えると、『ええ、正解』と刀奈さんは僕を小馬鹿にするようににやにやと笑った。

いやいや、僕がそんなことをしたら死にますよ、刀奈さん。

 

「それはともかく....学年別トーナメントが個人戦からタッグになったんですね」

 

「ええ、そうよ。これは昨日の夕方に決まった話らしいけど、前回の無人機の件を考慮した上での判断みたいだわ」

 

「ああ、なるほど」

 

無人機の件を聞いた僕はすぐに納得をした。

前回のクラス対抗戦で突如現れた無人機は通常のISの乗りでは対処は難しいほどの力を持っていた。

もし二機だけの対応は明らかに難しい。

 

「一夏くんはもちろんシャルルくんと組むよね?」

 

「ええ、もちろんです。理由はわかっていると思いますが男同士だからです」

 

僕が『男同士』と言う単語を言った瞬間、刀奈さんは面白そうに眉を潜めた。

 

「本当にシャルルくんは男の子かしらね?」

 

「...やっぱり、そう思いますよね」

 

「あら?思い当たることに出会ったみたいね」

 

「ええ、そうです。しかも一夏くんも関係してますよ」

 

「一夏くんも?」

 

「ええ、昨日一夏くんたちの部屋に入れなかったことを楯無さんに言いましたよ?」

 

「確かシャルルくんが風邪で入れなかったと言ってたわね」

 

「そのことを今日の朝聞いたら、一夏くんとシャルルくんは何か隠しているかのように動揺したのですよ」

 

「あ〜なるほど〜。二人は絶対あの部屋で何かがあったみたいですね〜」

 

どこかいやらしいことを考えているような顔をしていた。

この人はあっち系の話をするのは結構好きだからな...

僕はそれを阻止しようと「変な話に行きそうなので、別の話に移りますね」と言うと、「え〜なんでよ。結構こういうの面白いのに」と刀奈さんは反発し始めた。

 

「面白くもないですよ。むしろ呆れが生まれます」

 

「まったくつまらないわね...まぁ、琲世くんがそう言うなら、あっち系の話はやめるけど」と刀奈さんはすんなりを僕の言葉を受け入れた。

 

「あなたと言う人は...とりあえず、学年別トーナメントのことなんですが、ラウラさんは誰と組むんですかね...」

 

「おそらくは抽選で決められると思うわ。学年別トーナメントだから、一年生の誰かかもね」

 

「一年生の誰か...そういえば、1組と2組以外に専用機持ちの人っていましたっけ?」

 

一応ラウラさんは一年生の中では一番強いと言われているが、おそらくバランス的に専用機持ちと組むのはないと思われる。

それに関連して僕は一年生で他に専用機持ちの人がいるのか?と刀奈さんに聞いたのだが...

 

「一組、二組以外の専用機持ちは.....いや、いないわ」

 

すると僕の返事を耳にした刀奈さんは妙に間を開け、「いない」と返事をした。

何か嫌なことを思い出したかのような反応に見えた。

 

(まぁ...ここは触れないでおこう)

 

刀奈さんの反応に違和感を覚えた僕だが、あえて触れないことにした。

理由についてはただ単に嫌なことを感じたことと、あと先ほどの刀奈さんの僕のからかいで疲れてしまったからだ。

でも一つだけ言えることは、おそらく重要なことであろうということだ。

 

「そういえば、楯無さんとは僕が入学して以来対戦しませんよね?」

 

「ああ、そういえば確かにそうね。最後に琲世くんと戦ったのはいつだっけ?」

 

「確か、楯無さんが一度僕の元から離れる前だから...」

 

「私が一年生から二年生に入れ替わる時ね。何?もしかして、私と戦いたいの?」

 

「流石に休み時間や放課後に戦うなんてやりませんよ。やると言えば、学園内の公式戦ぐらいで」

 

「ほぉ〜、自信満々そうですねぇ〜」

 

刀奈さんはそう言うと、からかうぞと言わんばかりににやにやと僕のことを見た。この人は普通のIS操縦者からしたら、とんでもないほど強い人だ。何せ僕あh最初彼女と戦った時に知ったのだから。

 

「まさか琲世くんがそんなことを言うとは、いつか琲世くんと戦えることに楽しみにしているわ♪」

 

「そんなデートに行く感じに言われましても...」

 

ちなみにもし一夏くんが刀奈さんと戦ったら、間違いなく数分以内で決着がつくと思われる。

なにせ僕が初めて刀奈さんと戦った時、数分で終わってしまった。もちろん刀奈さんの勝ちだ。

最初戦った時の僕はISの基本操作や知識はまったくなく、こてんぱんにやられた。

もしかしたら一夏くんも同じ道を辿るのではないかと、思わず脳裏に浮かんでしまう。

そう考えた僕は生徒会室の時計を見て、『そろそろ部屋に戻ります』と言うと...

 

「あ、そういえば、琲世くん」

 

すると刀奈さんは何かを思い出した仕草を見せ、机の引き出しからある物を出した。

 

「この封筒を一夏くんとシャルルくんに渡してほしいんだけど」

 

刀奈さんが僕渡したのは無地のA4の封筒。

裏表には何も書かれておらず、持った感じ二枚の紙が入っているようだった。

 

「封筒ですか...?これを二人に?」

 

「ええ、そうよ。もちろんこれは琲世くんは見ちゃだめよ〜♪」

 

刀奈さんはそう言うと、不気味さを感じさせるほどのニコニコした笑顔した。

なぜそんな態度を見せたのかわからないが、刀奈さんがこの封筒を僕に渡したのはもしかしたら今日の朝に見た学年別トーナメントの申込書と、この時の僕はそう考えていた。

 

「わかりました。僕は図書室にいる一夏くんの元にーーー」

 

「いや、一夏くんの部屋に向かった方がいいわ」

 

「一夏くんの部屋に?」

 

すると刀奈さんは僕の言葉を遮り、『一夏くんの部屋に』と強調するように言った。

 

「一夏くんは夕食の時間が来るまでに寮には戻らないと言ったのでは?」

 

「一夏くんは早めに自分の部屋に戻るとの話を耳にしたの」

 

「そうですか?」

 

「ええ、対暗部用暗部 更識家の当主の舐めないでもらいたいわ」

 

刀奈さんはそう言うと、ほこらしげに鼻で笑った。

一夏くんと別れる時、彼から『しばらく図書室で勉強をしている』と聞いたのだが、おそらく気分は変わったのか?

それはともかく刀奈さんは先ほど彼女の口で言った通り、情報に精通した家の人間のため、情報に信頼性は高いと思われる。

 

「とりあえず、自分の部屋に戻る前に、一夏くんたちの部屋に向かいます」

 

「ええ、また部屋で会いましょうね、琲世くん....ふふっ」

 

「今、なんで笑ったんですか?」

 

「いや、昨日のことを思い出しちゃった♪」

 

「やめてください」

 

刀奈さんのからかいにうっとうしさがありながらも、生徒会室から出た、僕。

このまま一夏くんの部屋に向かったのだが、その途中刀奈さんのある行動に違和感を感じていた。

 

なぜ刀奈さんは僕に封筒を渡したのか。

なぜ刀奈さんは一夏くんが先に部屋に戻っていると言ったのか?

なぜ僕と別れる時、刀奈さんが急に思い出し笑いをしたのか。

 

これらのことが妙に頭から離れなかった。

気にしすぎなのでは?と思ったのだが、何か意味があるようにも感じてしまう。

 

だが、それら3つが実は意味のある行為であると、数分後の僕は知ってしまう。

 

まさか、"数十分後"に答えを知ってしまうとは、一夏くんたちの部屋に向かっている僕は知らない。

 

 



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隠事

琲世Side

 

生徒会室から出て、夕日があと数分に地平線に沈みゆく頃。

刀奈さんから中がわからない封筒を渡されて、一夏くんの部屋に訪れた、僕。

 

(何が入っているんだ...?)

 

封筒を持った感じだと一枚の紙が入っているみたいだけど、一夏くんたちの渡すものと言われるとどこか疑問を持ってしまう。

もし学年別トーナメント申込用紙だとしたら、わざわざ封筒に入れてまでやるだろうか?

 

(それにしても、一夏くんたちの部屋は僕がいる部屋から少し遠いようなぁ...)

 

今更のことなのだが、一夏くんたちの部屋の場所は僕の部屋から少し離れた場所にある。

別にそれが悪いとは言わないが、そのためか一夏くんたちやそのほかの人たちから僕が刀奈さんと一緒にいることは知られていない。

とりあえず一夏くんの部屋のドアの前にたった僕はノックをした。

そのまま一夏くんが現れたらありがたいのだが...

 

(...ん?声が聞こえない?)

 

誰もが聞こえるであろうドアノックをしたのだが、部屋からはまったくと言ってもいいほど返事はなかった。

僕はもう一度ノックをしたのだが、やはり返事はなかった。

 

(もしかして...いないのかな?)

 

僕はまさか空いてはいないだろうと思い、ドアノブを回すと...

 

(あれ?鍵はかかっていない...?)

 

ドアノブはすんなりと周り、ドアが空いたのだ。

一夏くんはドアの鍵を忘れるような人ではないはずなのだが...なぜ?

それはともかく一夏くんの部屋に入ってみると、シャワールームから水が流れる音が聞こえた。

 

(もしかして...中に入っているのは一夏くん?)

 

廊下から確認ができなかったシャワーの音のだが、おそらくシャワーの音でドアノックが聞こえなかったかもしれない。

 

(とりあえず...この封筒を部屋に置いて帰ろう...)

 

流石にこれ以上一夏くんたちの部屋にいては怪しまれる恐れがあるため、僕は一夏くんのテーブルに刀奈さんから頂いた封筒を置き、そのまま部屋から出る。

ここまではよかったのだが、僕があるものを見た瞬間、動きが止まってしまった。

 

(...ん?)

 

僕はあるものを見た瞬間、ピタリと止まってしまった。

それはシャルルくんのベットに思わず止まってしまうものがあったのだ。

 

(女性の下着...?)

 

それは男子しかいないはずの一夏くんたちの部屋に"女子の下着"があったのだ。しかも色は赤色だ。

明らかに一夏くんが所持しているとは思えない物。

 

(ま、まさか...?)

 

僕はそれを見た瞬間、あることが頭によぎった。

女子の下着があったのはシャルルくんのベット。

シャルルくんと言えば男子よりも女子に近いルックスであり、僕は彼には申し訳ないが本当に男子なのか疑っている。

まさか、シャルルくんは男子ではなく...

 

「一夏、帰ってきたの?」

 

「っ!」

 

するとシャワールームからシャルルくんの声が聞こえ、僕はその声に無意識に肩が震えてしまった。

 

(今の声は、シャルルくん...?)

 

シャルルくんの声が聞こえた時にはシャワールームから水が流れる音が消えており、シャワールームから一歩一歩と出る足音が聞こえていた。

 

「帰ってきたなら声を....え?」

 

そしてシャルルくんは僕が部屋にいるのことに驚いたのか言葉が詰まった。

僕はシャワールームの方に顔をゆっくりと振り向くと、シャワールームからひょいっと顔を出したシャルルくんと目が合ってしまった。

 

「ハ...ハイセ?」

 

声と顔はいつもみるシャルルくんなのだが、今僕の目で見える彼は僕と同じ男ではなかった。

シャルルくんは"女子"であった。

 

「っ!」

 

しばらく僕と目が合ったシャルルくんはすぐさまシャワールームに戻ってしまった。

 

「あ、あの...シャルルくん!」

 

僕はシャワールームに閉じこもったシャルルくんに声を掛けたのだが...

 

「ハ、ハ、ハイセ...!な、な、な、なんでここに....!?」

 

シャルルくんの動揺した声がシャワールームから十分と言ってもいいほど伝わっており、完全に取り乱していた。

 

「.....」

 

そんな状態の彼、いや彼女に対して僕は"あえて"沈黙を作った。

一方が混乱している時に同じく混乱した様子で声を掛けたら、話など進まない。

しばらく部屋に沈黙が続き、異変に感じたのかシャルルくんは「...ハイセ?」と落ち着いた声で返事をした。

 

「....シャルルくん。もしかして、女の子?」

 

「....」

 

僕はそう返事をすると、また沈黙が生まれた。

一瞬無視されたのかと思ったのだが、だんだんと時間が経つと無視されている空気ではないとわかった。

 

「...うん」

 

そしてシャワールームに閉じこもったシャルルくんの返事が聞こえた。

それは短い返事ながら、重々しい返事だった。

シャルルくんの返事を聞いた僕は「そうなんだね」と返事をしようとしたら...

 

「ハイセは前から察していたんだよね...?」

 

「えっ」

 

僕のあっけない返事を耳にしたシャルルくんは「やっぱり」と呟いた。

 

「いや...シャルルくん。僕は」

 

「別にそこまで気を使わなくてもいいよ。ハイセは初めて僕を見た時、疑ったような目していたもん」

 

シャルルくんの声は先ほどの動揺した様子は消え、いつものシャルルくんの様子だった。

 

「やっぱり、ハイセは一夏とは違うね。もしかしてどこかの組織に所属していたんじゃないかとかぐらいに鋭いしね」

 

「い、いや....」

 

流石に僕がかつて所属していた場所の名は言わなかった。

 

「それで...どうして部屋にきたの?」

 

「渡す物があって、部屋に訪れたんだけど...鍵が開いてあってそれで...」

 

「鍵が開いてあった...ああ、それで...」

 

シャルルくんはおそらく自分のミスにため息のしたような音がシャワールームから聞こえた。

 

「とりあえず....僕、部屋から出るよ」

 

「え?どうして」

 

「だって、そこに着替えはないよね?」

 

「...あ....そうだね...少し外で待ってて」

 

このままシャワールームから出られずに話すのは彼女には申し訳ないし、おそらく何も着ていないだろうから、僕は部屋から出た。

廊下には僕以外誰もおらず(もちろん刀奈さんの気配もなかった)、待っている間も誰も会うことなく廊下で待っていた。

時間はいつも通りに進んでいたはずと思うが、僕の体感はいつもより待ち遠しかった。

 

「入ってきていいよ、ハイセ」

 

しばらく待っているとシャルルくんの声が部屋から聞こえ、僕は部屋に入った。部屋に入るとシャルルくんは自分のベットに座っており、僕と目を合わせようとはせず視線をそらしていた。いつも夜に見かけるジャージ姿なのだが、今見える姿はいつもとは違った。

 

「...やっぱり変だよね?」

 

「...うん。シャルルくんが女子と知ってから、見る目が変わったと言うか...」

 

「...とりあえず、一夏のベットの方に座って」

 

「うん、わかった...」

 

僕はシャルルくんに言われるがまま、対面する形で座った。

しかし僕が座ってからすぐに話が始まったわけではなく、おそらく5分ぐらい沈黙が続いてしまった。

今部屋の中に漂っているのは沈黙ではなく、気まずさだ。

シャルルくんが女の子という事実を知ってから、一体どんな話をしたらいいのかわからず、お互い黙っている。

 

「...あの、シャルルくん」

 

「えっ!」

 

流石にこのまま時間を過ごすのはまずいと考えた僕はゆっくりとシャルルくんに声をかけたら、あまりにも沈黙が続いたせいかシャルルくんを驚かせてしまった。

 

「と...とりあえず...受け取って欲しいものがあるんだけど...」

 

おそらく急にシャルルくんが男子ではなかった事実を触れるのを恐れたであろう僕は一夏くんの机に置いていた封筒を取り出した。

 

「こ...これなんだけど」

 

「封筒...?」

 

シャルルくんは封筒を受け取り、中にある紙を取り出した。

 

「....」

 

封筒の中にあった紙を見たシャルルくんはしばらく静止したが、後々に顔をしかめ始めた。

 

「この紙、何も書かれてないよ?」

 

「え?」

 

まさかと思った僕はシャルルくんから書類を受け取り目を通すと、彼女の言う通り紙には何も書かれていなかった。

 

「誰から受け取ったの?先生から?」

 

「いや、生徒会長さんから渡すように言われて...」

 

「生徒会長...なんでこれを僕たちに渡したんだろう...変な人だね」

 

「う、うん...そうだね...」

 

僕はふと刀奈さんが僕を馬鹿にするような顔が自分の頭に浮かんでしまった。

ああ、そうだ。

僕は"今回も"彼女に騙されたのだ。

おそらく刀奈さんはきっとシャルルくんは女の子である証拠として用意したのだろうと思うのだが、今起きていることは気まずい雰囲気がさらに重くなってしまった。

 

「....えっと...ど、どうしてシャルルくんは女子ではなく、男子だと名乗っていたの?」

 

「.....」

 

つい数分前の気まずい雰囲気がさらに部屋から出たくなるほど気まずさになった中、僕は勇気を振り絞りシャルルくんにやっと本題の話を言うと、彼女はまた黙ってしまった。

しかし僕はそんな彼女に返事を待った。

流石にこの話題を避けて部屋に出ることはできない。

 

「...ハイセはデュノア社のことはもちろんわかるよね?」

 

「...うん、わかるよ。ISのシェア率では世界で3位の企業であり、シャルルくんのお父さんがいるところだよね」

 

「なら今の経営状況は知っている?」

 

「...確か経営が良くないと耳にしたことがあるよ。そのせいかフランスは欧州連合の統合防衛計画『イグニッション・プラン』には入っていなかったね」

 

僕がIS学園に来る前、つまり有馬さんの元にいた時からデュノア社に対しての評判はあまりよくなかった。どういったところが悪かったと言えば、装備の真新しさがないところだ。他社ではどんどんと新技術や新装備を導入している間、デュノア社は最近新しく出たものは指で数える程度であり、旧式の物ばかりが揃う。その例が今シャルルくんが使用しているラファール・リヴァイヴ・カスタムIIだ。各国が最新鋭である第三世代型機のISを導入しているにもかかわらず、ラファール・リヴァイヴ・カスタムIIは第二世代型機である。

 

「うん、ハイセはわかると思うけどISの開発は莫大な資金がないと新しい物ができないし、改良はできない。デュノア社は世界3位のところだけど...」

 

「...ていうことは、経営の打開策としてシャルルくんが男装をしてIS学園に来たんだね。そうなると、指示したのはシャルルくんのお父さんが?」

 

「...うん、そうだよ。"あの人"に」

 

シャルルくんは僕の返事を聞くと、ぐっと唇を噛み締め視線を逸らした。

デュノア社の社長であるシャルルくんのお父さんしか考えられない。しかもシャルルくんの返事した様子を見るかぎり、悪い意味にしか聞こえなかった。

 

「あの人...?」

 

「...正確に言うと僕は愛人の間に生まれた子なんだ」

 

「愛人の...?」

 

シャルルくんの発言に僕はショックに似た感情を抱き、自然と言葉を失った。

 

「うん、お父さんと初めて会ったのは2年前のことで、ちょうどお母さんがいなくなった時に引き取られたんだ。お父さんとは会ったのは数回しかなくて、もちろん家族の温もりなんてどこにもなかった」

 

「....」

 

僕は先ほどの発言により黙ってしまったのだが、シャルルくんはそれを気にすることなく話を進めていた。

 

「それであの人から、男装をして会社の広告塔になるだけではなく、白式の機体データを盗むように指示されたんだ」

 

「白式のデータ...第三世代機で一夏くんと同じ男子となれば、確かに盗みやすいね」

 

「最初は一夏だけじゃなくてハイセからも情報を抜き取ろうと思ったのだけど、ハイセは一夏と違って僕を疑っていたし、あとボーデヴィヒさんの一件から諦めた」

 

「僕からデータを奪う予定があった...」

 

シャルルくんの口から出た事実を聞いた僕はショックに近い感情を抱いてしまった。まさかそこまでやろうとしていたなんて信じられなかった。

 

「うん...だから...その...嘘ついて、ごめん」

 

シャルルくんは消えてしまいそうな声で、深々と頭を下げた。

 

「...別に謝らなくてもいいよ、シャルルくん。そこまで謝られると、こっちが申し訳ないよ...」

 

深々と頭を下げるシャルルくんに僕はゆっくりと顔を上げさせた。

 

「確かにシャルルくんは罪とも思える行為をしたのは事実だけど...僕はとても悲しく感じた」

 

「....うん」

 

「だけど、僕が一番悲しく感じたのはシャルルくんが僕と一夏くんを騙して偽っていたよりも、シャルルくん自身のことを聞いて悲しくなった」

 

「...僕のこと?」

 

「そうだよ。シャルルくんが置かれている立場にね」

 

きっとこの話を聞いたであろう一夏くんはおそらく怒りを覚えたのだろう。

だけど僕はシャルルくんの話を聞いた僕は怒りを覚えるどころか、無意識に悲しみが溢れ出たのだ。

 

「シャルルくんのお父さんはきっとシャルルくんのことを道具として見ていないよね。我が子であるはずの人間を実刑判決を受けかねない行為をさせるなんて僕は痛いほどわかる」

 

「...もしかして、ハイセはその経験があったの?」

 

「うん...あまり言いたくないけど...そう考えてくれたらいいかな」

 

有馬さんに出会うまでのあの頃の記憶は思い出したくはない。

かつて人として扱われなかった時を。 

 

「シャルルくんは織斑先生に聞いたと思うけど、僕は表上専用機は持っていないんだ」

 

「うん、確かに先生からは『琲世は専用機を持っている』と聞いたよ。その話を聞いて驚いたよ」

 

「だけど実際はISを所持しているISは他のISとは違い、特殊な作りをしているんだ」

 

「...特殊な作り?それって?」

 

「体に埋め込まれているんだ」

 

「え...!?体に...!?」

 

「うん、詳しく言うとーーー」

 

僕の口から出た事実にシャルルくんは静かに驚いた。

織斑先生はおそらく機密情報のため僕のISのことは詳しく話していないだろう。

僕はラウラさんに話した通りに僕のISの仕組みや僕の体についてなどをシャルルくんに伝えたのだが、シャルルくんの口からラウラさんと話した時に聞かれることがなかった質問が現れた。

 

「...そうなんだね。それでハイセの体にISを埋め込まれたのはいつぐらいなの?」

 

「...わからない」

 

「え?」

 

「わからないんだ。いつ僕の体にISを埋め込まれたのか。それに過去の記憶も思い出せない」

 

「記憶が思い出せない?それって...」

 

「うん、記憶喪失だよ」

 

僕の言葉を聞いたシャルルくんは「記憶喪失...」と目を大きく見開いた。

 

「僕がこの世界にいると気がついたは一年前ぐらいだよ」

 

「一年前って...つい最近に目覚めたばかりじゃん」

 

「そう、本当に最近目覚めたばかり

 

「...本当に思い出せないの?」

 

「うん、まったくね。何か手がかりはあるのか調べたのだけど、一つもなかったよ」

 

「例えば小さい頃に行った場所だったり、ハイセの家族...あっ」

 

シャルルくんはふと何かを思い出した仕草をし、申し訳なさそうな顔をした。

 

「...シャルルくんは見たんだよね?僕の資料のこと。確か"両親不在"と書いてあったはずだよ」

 

おそらくシャルルくんは僕の資料を思い出したのだろう。僕の情報を盗み出す時に。

 

「...思い出したくないことを言ってごめん」

 

「別に問題ないよ。過去に会った人のことを思い出せないのは確かに辛いのだけど...でも今の僕には親に近い存在がいるから寂しくなんかないよ」

 

「親に近い存在?」シャルルくんは疑問を持った返事をした。

 

「その親に近い人って...?』

 

「...織斑先生がそうなんだ」

 

「え?織斑先生が?」

 

「年齢的にはおかしいかもしれないけど、僕はあの人をお母さんと捉えてもいいぐらい大切なんだ。僕がこの世界にいると知ってからあの人に指導してもらって、記憶を失った僕にとって数少ない大切な人なんだ」

 

正確に言うと織斑先生は有馬さんの次に出会った人だ。だけど流石に有馬さんの名をあげると色々とまずいため、千冬さんのほうが身近で説明しやすい。最初はISの特訓や技術指導などのISに関することだけであったが、時が過ぎるごとに段々と親しくなった。

 

「そうなんだね...だからハイセは織斑先生とはほかの生徒よりも親近感があったんだね」

 

「...ん?」

 

シャルルくんの返事に嫌な予感を察した。

 

「それって...どう言う意味なのかな?」

 

「ああ、これはほかの子から聞いたんだけど、織斑先生と一夏は姉弟という感じはあるけど、織斑先生とハイセだと親子っぽい感じがするって」

 

「ああ...そ、そうなんだね...」

 

僕は少し顔が熱くなり、恥ずかしくなってしまった。

自分は織斑先生のことを親だと言い切れるのだが、人から言われるとなんだか恥ずかしくなってしまう。

 

「それで...シャルルくんはフランスに強制帰国されるの?」

 

「多分そうかもしれないけど...でも一夏が『IS学園にいろ』と言われたよ」

 

「IS学園に?...ああ、そうか」

 

初めどうしてなのかと考えたのだが、僕はあることを思い出した。

 

「特記事項第二十二を適応すれば、すぐには連れ戻されないよね」

 

「そう、一夏はそれを言ったんだよ。よくわかったね」

 

特記事項は全部で五十五個もあり、第二十二に書かれている内容はざっくりいえば『IS学園は他の国家や組織に属しない独立した団体であり、干渉は許されない』と書かれている。

 

「うん、流石に僕も忘れかけていたんだけど...一夏くんすごいね」

 

「一夏は琲世のように思い出した仕草をしなくてスラスラと言ってたからね」

 

そう考えると一夏くんは僕よりも優れているかもしれない。何せ広辞苑ほどの厚さを持つを思わせるほどの入学前に配られた参考書を1週間で覚える人間だから、安易に侮れない(普段は一夏くんに侮っていないけど...)。あとシャルルくんは僕より一夏くんの方が優っているような発言をしたような...?

 

「とりあえず...シャルルくんが女子であることは秘密にするよ。ちなみにこのことは一夏くんに話すのはーーー」

 

「ーーーいや、だめ」

 

すると突然シャルルくんは僕の話を遮った。

 

「え?どうして...?」

 

「一夏の方には...念のために伝えないで。なんと言うか...万が一何かあったらーーー」

 

シャルルくんが話していたら、突然入り口のドアが開いた。

 

「ただいま、シャル」

 

「「っ!!」」

 

突然部屋にやってきた人物を見た僕とシャルルくんは思わずギョッとしてしまった。

部屋にやってきたのは僕たちの会話に出てきた一夏くんだった。

 

「あれ?なんで琲世がここにいるんだよ?」

 

「い、いや...シャルルくんと話していて...」

 

「それはいいけど... なんでシャルと琲世はそんな驚いた顔をするんだ?」

 

「と、突然一夏が部屋に入ったからだよ...!」

 

「そうか?別にいつも通りに部屋に入ったつもりなんだけど...」

 

一夏くんはそう言うとどこか納得のいかない顔をした。だけど一夏くんの顔を見る限り、僕がシャルルくんを女子であると知ってしまったという察しはなかった。一夏くんは持っていたかばんを机に置き、「それで二人は何話してたんだ?」と僕たちに話しかけた。

 

「僕は琲世に色々と相談に乗ってたから...」

 

「相談か?なんか琲世にいう相談なのか?」

 

「よく琲世は箒さんやセシリアさんに相談に乗っているから、僕も乗ろうかなと...」

 

「ああ、なるほどな。確かに箒たちは琲世によく相談するよな。でもなんであいつらは俺に相談しないんだ?」

 

「さ、さぁ...なんで僕にしか相談しないんだろう」

 

僕はわざととぼけた様子で一夏くんに言葉を返した。

僕が箒さんたちから受ける相談は詳しくは相談ではなく自らの愚痴を僕に吐き出すことであり、その愚痴を生み出しているのは一夏くんだ。僕はある意味箒さんたちの受け皿となっている。

 

「ーーーそれでどんな相談をしたんだ?」

 

「えっ!?」

 

一夏くんの返事を聞いたシャルルくんはわかりやすくびくりと肩を震わせた。

 

「なんだよ?シャル?」

 

「い、いや...それは...」

 

「あれだよ、一夏くん!気軽に他の人には言えない相談だから...その...うん、一夏くんには言えないことだから...」

 

「言えない相談てなんだ...て、おい!待ってくれよ!琲世!」

 

一夏くんに曖昧な言葉を残してしまった僕は部屋から迅速に退出をし、廊下の端まで走りきった。

 

(変な形で部屋に出てしまったな...)

 

廊下の端までたどり着いた僕は強引に終わらせてしまった展開に息を切らしながらも、ため息をしてしまった。

明らかに不審に思われる行動を一夏くんに見せてしまい、しかもシャルルくんを置いていく形で部屋に去ってしまった、僕。

後日、シャルルくんにに謝らないと...

 

(でも、一夏くんは気づいた様子はなかったな...)

 

だけど先ほどの一夏くんの顔を見る限り、シャルルくんが女子である秘密を僕に打ち明けていたと察している様子はなかった。流石に100%とは言い切れないけれど。

 

(とりあえず部屋に戻って、ゆっくりと休みをーーー)

 

とりあえず呼吸が落ち着いたことに確信をし数歩歩いた僕だが、

 

「っ」

 

突然、足を止めてしまった。

そして僕は誰もいないはずであろう廊下でため息をし、「まったく、あなたは本当に神出鬼没ですね。楯無さん」と口を開いた。そう、あの人がいたのだ。

 

「よく気づいたわね。琲世くん♪」

 

人気がなかったはずの廊下から聞き覚えのある声が聞こえた。しかも僕の真後ろで。

僕は呆れた様子で振り向くと、誰もいなかったはずの廊下に刀奈さんが堂々と立っていた。

 

「どう?あの子の秘密を知れたかしら?」

 

「ええ、知れましたよ。と言うか楯無さんも聞いていたんですよね?」

 

「ええ、聞いてたわ。その話ってここでは大きな声を出しちゃダメな話よね」

 

「...絶対に他の人に言わないでくださいよ?」

 

「だいじょーぶ♪このことは流石に手出ししないし、他の人間には漏らさないわ♪私をなんだと思ってる?」

 

刀奈さんはそう言うと、『安心して』と言わんばかりに僕の肩に手を置いた。

先ほどあなたは嘘の情報を流しましたよね...?

 

「なら安心です。とりあえず部屋に戻りましょ」

 

「そんなに部屋に戻りたいの?もしかして私の素肌を楽しみにしているの?」

 

「そんなわけないでしょ。誰があなたの素肌を楽しみにしてると言ったのですか?」

 

「え?私だけど?」

 

刀奈さんの返事を聞いた僕は呆れが混じったため息をした。

それは先ほどのため息よりもはるかに大きいため息だ。

 

「とりあえず...部屋に戻りましょ」

 

「りょうかーい♪」

 

刀奈さんのちょっかいに悩まされながらも、自分たちの部屋に戻った、僕。

シャルルくんの今後の扱いに不安を抱きながらも、僕は彼女のために何かできないか少し考えたのだが...

 

(...あっ、そういえば)

 

僕はシャルルくんにあることを聞き忘れたことに気がついた。

それはシャルルくんの本当の名は聞いていなかったのだ。

彼女と何度も言っていたのだが、名前はシャルルくんの名前のまま。

彼女の本当の名前はなんだろうか?

 

僕はそう考えた。

 

 

 

 



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cooperative?

琲世Side

 

それは6月が終わろうとした週のこと。

6月の最終の週は学年別トーナメントが行われる週であり、IS学園は普通の日よりもだいぶ賑わっていた。

 

「...ここ静かだね、一夏くん」

 

「そりゃそうだ。だって俺たち男子しかいねぇもんな」

 

しかし賑わいを反して、僕たちのいる更衣室はかなり静かだった。

例年ならこの部屋は女子でいっぱいなのだが、今年は僕たち男子(シャルルくんは表上男子)がいるため、別の更衣室に移動している。ちなみに隣はかなり窮屈になっているらしい。

そう思うと申し訳なさが胸の中に徐々に湧き上がる。

ちなみに僕は今回も怪我と言う理由で出場はできず、一夏くんはシャルルくんとペアで参加をしている。

 

「三年生にはスカウト、二年生は一年の成果をそれぞれに確認で各国の要人がたくさん来てるよ。一年生はーーー」

 

「...」

 

今回のトーナメント戦で詳しく説明するシャルルくんの言葉に一夏くんは聞くことはなく、ただトーナメント表が表示されるモニターを見ていた。

 

「一夏くん。もしかして、ラウラさんのことが気になる?」

 

「...そうだな」

 

一夏くんはやはりラウラさんとの対戦が気になっていたようで、シャルルくんも同じく肌で感じたらしく『ああ、やっぱりね』とクスッと笑った。

対戦相手の構成は当日発表でしか知れないため、まだわからない。

さすがに一夏くんたちは"初戦から"ラウラさんと闘うことはないと思うけど...

 

「とりあえず...僕は外に出ようかな」

 

「ここから出るのか?」

 

「なんと言うか...緊張してきたから...」

 

「緊張?ハイセが?」

 

僕の言葉を聞いた二人は少し首を傾げた。

そりゃ、そうだ。別に更衣室に出る意味は曖昧だし、僕が試合に出るわけではないのに緊張していると言ったら、僕でも違和感を感じる。

 

「う、うん...長くは離れないけど...」

 

「ああ、わかったけど...トーナメント表が出る前に戻ってこいな」

 

『わかったよ』と言った僕は一夏くんとシャルルくんがいる更衣室から出た。

 

(さてと...どうしようかな...)

 

更衣室から出たのはいいのだが、僕は何をしたいかは決めていない。一応どうして更衣室に出たかと言えば、ただ単純に一人になりたかっただけだ。特に深い意味はないけれど。

一人になったとは言え、他の場所に行こうにもトーナメント表が発表されるまでの時間は決して長くなく、かと言って短いとは言い難い程の時間しかない。

一体何をすればいいのかと考えていたら...

 

「佐々木琲世」

 

すると考えていた僕に、誰かから声をかけられた。

 

「あ、ラウラさん」

 

声がした方向に顔を向けると、僕の前に現れたのはISスーツに着替えたラウラさんだった。

いつも思うのだけど、ISスーツは競技水着のデザインをしており、別に他のデザインを採用してもいいんじゃないか?と毎回見るたびに思ってしまう。

それはさておき、前までの僕はラウラさんに声を掛けられるだけでも緊張感を持ったのだが、今では素直に受け応えることができる。今日のラウラさんは琲世の部分がドイツ語風に言わなかったことに気がついた。

 

「どうしたのですか?」

 

「お前に聞くことがある」

 

「...僕はあなたに助言を言う気なんかありませんよ」

 

ラウラさんの口から出た言葉に、僕はすぐに身構えてしまった。

ラウラさんが僕にどんなことを聞くのか察しがついたのだ。

 

「流石だな、どこかの部隊に所属したかのような鋭さがあるとは」

 

「それはご想像におまかせしますが、僕は協力なんかしませんよ」

 

ラウラさんは僕の察知した姿勢に、馬鹿にするように少々笑った。

僕は一夏くんとシャルルくんの練習をいつも見ており(ラウラさんとの戦闘後はトーナメント戦までISの使用は禁止されたて練習がなくなったけど)、おそらくラウラさんは事前に一夏くんたちの情報を得ようとしたのだろう。

 

「ああ、わかっていてお前に聞いたんだ。私は織斑一夏どもの情報など興味はない。ただ叩きのめせばいい」

 

「なら、なぜ僕の前に現れたのですか?ラウラさんは試合が始まるまで更衣室で待機しないのですか?」

 

「ただの時間潰しだ」

 

「時間潰し?」

 

「私がちょうど更衣室から出たら、お前の姿を見かけたからだ」

 

「そうなんですね...」

 

ラウラさんがいたと思われる更衣室は他の選手が多くいるだろうから、おそらくラウラさんは僕と同じく『一人になろう』と考え、更衣室から出たのだろう。

それで僕は一瞬だけラウラさんに冗談を言おうか考えたのだが、今の状況でラウラさんに冗談を言ってしまえば、少なくともナイフを突き立てられるのが予想がつく。ラウラさんの脚には常に軍用ナイフを常備している。IS学園で常備する必要があるのだろうか...?

 

「織斑一夏は同じ男とであるカエル野郎(シャルル)と組んだのだが、もしお前が公でISを使用できる状態なら、私と組んでいただろうな」

 

「それはラウラさんをサポートする形でのことですよね?」

 

ラウラさんは『ああ、そうだ』と頬を少し上げたのだが、目だけ笑っていなかった。

ああ、やっぱり。ラウラさんは絶対僕を酷使するつもりだ。

 

「それで確かあなたと組む人はどうでーー」

 

「ーーー少なくとも私の邪魔をしなければいい、とあいつには言った」

 

僕がラウラさんとペアになった人を聞こうとしたら、ラウラさんは話を遮るように即座に返事を返した。

どうやらラウラさんはペアになった人にはまったく興味はない模様。ちなみにラウラさんと組む人なんだけど、自分でも驚いてしまうほどの意外な人だ。

 

「まったく...とりあえず今回の試合はラウラさん一人で行動しないでくださいね」

 

「なんだ?さっきまで助言は言わないと言っただろう?」

 

「ええ、確かに僕は言いましたよ。でも、もしラウラさんに助言を言うならば、一夏くんとシャルルくんは前よりも上手くなっていると伝えます」

 

「ふん、そうか」

 

ラウラさんは僕の話を聞こうとはせず、僕の目の前から去ってしまった。情報提供しろと言わんばかりに僕に聞いてきたのに、なぜ素っ気無い態度で去ってしまうのか...

 

(まったく...ラウラさんは変わってないな...)

 

僕はそんなラウラさんの態度に思わずため息をしてしまった。

話が逸れてしまうけど、ラウラさんはトーナメント前の騒動後も、相変わらず僕と千冬さんぐらいしか話すことがない。そのせいかいつも僕がラウラさんと話すたびに、周りの女子生徒から『大丈夫だった?琲世くん?』と心配した目で話しかけられる。いや、そこまで心配しなくてもいいのだけど...と思うような状況がよく起きてしまう。

 

「おやおや、ラウラとは馴れ馴れしいな」

 

「っ!」

 

ラウラさんの行動に再び呆れたため息をしようとした僕に突然、誰かに声をかけられた。

その声は聞き覚えのある声で、かなり久しぶりに聞く声だった。

 

「ダリルさんっ!」

 

振り向くと、ダリルさんが『待っていた』と言わんばかりに仁王立ちで立っていた。いや別にそこまでやらなくてもいいんですが...

 

「なんだよ。まるで数十年ぶりに会うような反応をして?」

 

「だって、ダリルさんとは全然会わないじゃないですか?ダリルさんがいる教室に尋ねてもいませんし」

 

「ああ、確かに会わないよな」

 

実際ダリルさんとこうして会うのは食堂で初めて会った時以来のことのだ。決して僕はダリルさんに会いたくなかったのではなく、わざわざダリルさんがいるであろうクラスに何度も尋ねてはいたが、彼女は必ずと言ってもいいほど姿はない。なぜだろうか?

 

「とりあえずハイセと会えたし、これで問題ないだろう?」

 

「は、はぁ...」

 

確かにダリルさんの言う通り、会えたから問題はないのだけど、ダリルさんはどこかマイペースぽいところがあるような気がする。

 

「それで、おまえは本当にラウラとは縁があるな。この前の食堂の時といい、さっきのヤツも」

 

「ああ、見ていたんですね...」

 

「そりゃそうだ。特に食堂の時は、明確に覚えているぜ。あの時のオレは笑いを抑えるのに必死だったしな」

 

ダリルさんはそういうと、陽気にハハハッと笑った。

今思えば、不穏な空気になった食堂で周りの女子生徒が会話を止めて静かに僕を見ていたのに、一人だけ笑いを抑えていた女子生徒がいたのだが、まさかあの人がダリルさんだったとは。

 

「それで、織斑一夏がシャルルと一緒にいるのに、おまえは対照するようにラウラと一緒にいるよな」

 

「まぁ...確かにそうですね」

 

僕はラウラさんとはいろんな意味で一緒にいる。大部分が悪い意味だけど。

 

「今回の学年別トーナメントでは一夏は参加するが、ハイセはいつも通りに参加しないよな。いつになったらISを装着した姿を見せるんだ?」

 

「まだ怪我が治っていなくて...しばらくかかりそうなんですよね...」

 

僕の返事を聞いたダリルさんは『まぁ、早く治ったらいいけどな』と小馬鹿にするように笑った。

僕は毎回いろんな人から怪我を理由にISを使用できないと言っているのだが、実際は怪我はしてない。

 

「そう言えばダリルさんって今回は本気でいくのです?」

 

「いや、ある程度のやる気があればなんとかるから、本気でやる気はない」

 

「え?本気でやる気ない?」

 

「ああ、いつもオレはそんな感じで挑んでいるさ」

 

一瞬、なぜ本気で挑まないのかと考えた僕だが(マイペースも理由の一つと思うけど)、今回に学年別トーナメントの趣旨も考えていると、他の理由が頭に浮かんだ。

 

「もしかして...シード権があるからですか?」

 

「まぁそうだな。他の三年どもはお偉い方のスカウトするために努力しているらしいけど、オレはすでに決まっているしな」

 

ダリルさんはアメリカ代表候補生であり、既に内定をしているような状態だ。

 

「ダリルさんはアメリカの代表候補生だから...このまま卒業をしたら、アメリカ代表になるんですか?」

 

「ああ、順調に行けばの話だ。だけどイーリス・コーリングがいるから、まだまだ代表候補生止まりかもな」

 

ダリルさんが所属している国はアメリカという世界の覇者とも言える国で、イーリス・コーリングは現在アメリカの代表である。今は代表候補生としているのだが、"必ず"代表になれるとは言えない。

ちなみに副担任の山田先生は元日本代表候補生であり、先生を見れば必ずしも代表になるとは限らないとわかる(なお実力はもちろん高く、セシリアさんと鈴さんの同時攻撃は対処できる)。

 

「まったくよー、ハイセと戦いたかったなー。さっさとその怪我を直せよ」

 

「いやいや、あなたと戦ってもすぐに負けますって...というか今回のトーナメント戦は学年別ですから闘うことないじゃないですか」

 

「ああ、そうだな」とダリルさんは思い出した仕草を見せた。

 

ダリルさんのISはヘル・ハウンドであり、そのISは主に火を扱う能力を持っている。ヘル・バウンドの詳しい情報は知らないが、もし闘うとなれば油断はできないとわかる。

 

「だけど、ハイセがオレにすぐに負けるとは全然見えないけどな?」

 

「...え?」

 

すると僕はダリルさんの言葉にあっけない声で驚いてしまった。先ほどまで安心して話せる空気だったのに、ダリルさんから緊迫した空気を肌で感じたのだ。

 

「織斑一夏はパッと見た感じ、まだ未熟な点が苛立つほどあるが、ハイセはそう見えないな。もしかしたら、オレといい感じの戦いになるんじゃない?」

 

「そ、そうかもしれませんね...」

 

ダリルさんが話す様子は、シャルルくんよりも妙に信憑性が高いようにも感じられる。

いや、まさか彼女は僕がかつていた場所や僕の過去を知っているのか?

そう考えていたら...

 

(ん?)

 

すると僕とダリルさん以外いないはずの廊下で誰かの気配を感じた。気配を感じた方向に振り向いたが、人がいるよう気配はなく誰もいなかった。

 

「どうしたんだ?ハイセ?」

 

「今、誰かに見られているような気がするんですが...」

 

「ああ、あんまり気にすんな。別にハイセとは関係したことじゃねぇから」

 

「気にするな...?」

 

どうやらダリルさんも気配を感じたようだけど、僕には関係のないこととは、どういうことだろうか?

少なくともラウラさんではないことはわかるが、"身長の低い人"が見ていた気がする。

 

「もうそろそろトーナメント表が開示すると思うから、オレの応援よろしくな」

 

ダリルさんは僕の肩をポンっと叩き、僕から離れようとしていた。

 

僕は『がんばってください、ダリルさん』と言うと、ダリルさんは『ああ』と手を上げ、僕の前から姿を消した。

 

(さてと、一夏くんたちの元に戻るか)

 

時間を見るとダリルさんの言う通り、もうそろそろトーナメント表が表示される時間だった。僕は一夏くんたちがいる更衣室に向かった。

 

「おまたせ、二人とも」

 

「「...」」

 

一夏くんたちがいる更衣室に戻った僕は二人に声を掛けたのだが、二人からの返事はなかった。

一体何が起きたのだろうか?と疑問に思った僕は一夏くんたちの元に近づくと、二人が黙った理由がわかった。

 

(ーーーえ?)

 

一夏くんたちが見ていたものを見た僕は二人と同じく静かに驚いてしまった。

それは表示されたトーナメント表に原因があった。

 

なんと初戦から一夏くんとシャルルくんのチームが選ばれ、そして一夏くんたちと闘うチームはラウラさんと"箒さん"のチームだったのだ。

 

 



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二人の共通点

琲世Side

 

一夏くんとシャルルくんを見送った僕は、そのまま観客席にいるセシリアさんの元に行かず、あるところに向かった。そこは通常生徒が立ち入ることは許されない場所なのだが、僕はそこに向かうのはある理由があったからだ。

 

「失礼します」

 

僕が向かったのは教員しかおらず、アリーナの状況を把握するための司令室だった。

僕が部屋に入るや『なぜここに来た、佐々木』と千冬さんの鋭い目が僕に向けられた。

 

「えっと...僕が観客席に入ったら、注目されるのではないかと思い、ここに来ました...」

 

もし僕が観客席に入れば、観客席にいる女子生徒たちが僕に視線を向けるだろうと考え、僕は変に注目が浴びられずに試合を見ることができる司令室に向かった。しかしいくら僕が学園内で数少ない男子生徒とはいえど、易々と司令室に入るのは無理があると思ったのだが...

 

「...まぁ、いいだろう。ここでゆっくりしろ」

 

千冬さんはそう言うと『あそこにコーヒーメーカーもあるぞ』と給湯室に指をさした。

追い出される覚悟でここに入ったのだが、どうやら千冬さんは僕を追い出す気はないらしい。

 

「ありがとうございます。じゃあ、コーヒーをいただきますね」

 

「あとここに砂糖があるからな」

 

「...なんで塩が?」

 

「さあな、どこかの物好きが置いたのだろうな」

 

千冬さんはそう言うと何か思い出したのか、少し苛立ちを含んだ口調で言葉を返した。

 

「もしかして...千冬さんは入れーー」

 

「今回の対戦はどう見る、佐々木?」

 

これ以上聞くなと言わんばかりに千冬さんは冷静に話題を変えた。あなたは間違えてコーヒーに塩を入れたんですね...

 

「...こ、今回の対戦は一年生の中ではラウラが一番強いと言われていますが、おそらくはラウラさんのチームは負けると思います」

 

「理由を聞こうか」

 

「ラウラさんは一夏くんたちに単独で挑むつもりだからです。今回の対戦のカギとなるのはペアとなっている人とどれだけ連携が取れているかが重要です。ラウラさんは常に単独行動で動いており、おそらく同じチームの箒さんは邪魔者扱いするでしょう。しかし一夏くんとシャルルくんは練習を詰み重ねているため、今回は一夏くんたちが勝つと思います」

 

千冬さんに理由を説明した、僕。

口で言った通り、今回の対戦はラウラさんのチームが負けるではないかと僕は予想がついている。これは決して一夏くんたちにえこひいきしているのではなく、ちゃんと客観的に見た上での評価だ。

千冬さんは僕の説明に『なるほどな』とそう呟くと、

 

「てっきり、ボーデヴィッヒが勝つんじゃないと思ったのだが」

 

「...え?」

 

僕は冷静にそう答える千冬さんに変な声を出してしまった。

 

「ど、どうしてそう思ったのですか...?」

 

「なぜって、お前はよくボーデヴィッヒと話すだろう?ボーデヴィッヒと話すのは私か他の教員か、もしくはお前ぐらいしかいない」

 

「そ、そうなんですね...」

 

やはり教員である千冬さんもわかっていた模様。ラウラさんは僕や千冬さんなど特定の人以外は本当に誰も話さない。

 

「それでお前がボーデヴィッヒが勝つと口で言うのではないかと心の隅で考えていたのだが、どうやら違ったようだな」

 

「ええ、彼女を応援したい気持ちはありますが...今の彼女はとにかく一夏くんを倒すことしか考えていないため、おそらく考えを改めない限り負けるのではないかなと思います」

 

「ほぉ?応援したい気持ちが僅かならがあるのか?」

 

「ええ、そうですけど...何か変なこと考えていませんか?」

 

「いや、全くない」

 

今日の千冬さんなんか僕をからかっているのか...?

それは置いておいて、今回のラウラさんは真っ先に一夏くんを攻撃をするだろうし、箒さんは他の生徒より良い成績を出しているが所詮は練習機を使用してでの出場のため、あまり期待はできない(箒さんには申し訳ないけれど...)。 

 

「まぁ、ボーデヴィッヒがお前に話しかけるようになったのは、私でもなんとなくわかる」

 

「え?わかるのですか?」

 

「佐々木とボーデヴィッヒは非常に似た生い立ちをしているからな。私がお前に初めて指導した時にボーデヴィッヒを思い出したぐらいだからな」

 

僕がIS学園に入学する前に千冬さんから『前にお前に似た生い立ちをした奴を指導したことあるがーーー』という話をし、その同時に千冬さんが一時期ドイツにいた頃の話をしていたことを思い出した。

 

「それで、お前は織斑を叩きのめすことしか考えないボーデヴィッヒにはなんか言わなかったのか?」

 

「ええ、彼女には注意したつもりなんですけど...聞く耳はありませんでした」

 

「あいつはそう簡単には耳を貸そうとはしない人間だ。佐々木はよく聞くのだがな」

 

「そ、そうですか...」

 

一見すると褒められたように聞こえるが、どちらかと言うと小馬鹿にされた感じを聞こえるんですが、千冬さん。

だけどこのことを千冬さんの前で言ってしまえば、おそらく今日断食しないといけないぐらいのパンチが来るだろうから言わないけど...

 

「それにしても...あの空いている席ってなんですか?」

 

「ん?あれか?」

 

司令室にあったモニターをずっと見ていた僕だけど、あることに気づいた。

それは今回の各国の要人が集まっている中、おそらくかなりお偉い方々が座るVIP席の中に一席だけぽつんと空いている席があった。その席はいくら時間が経っても誰も座る気配がしない。あの席はいったいなんだろうか?

 

「ああ、あれは毎年欠席しているヤツの席だ」

 

「え」

 

僕は思わず千冬さんに振り向いてしまった。

お偉い方なのは確かだけど、千冬さんの言い方に僕はある人が頭に浮かんだ。

 

「もしかして...あの席って...有馬さんの席なんですか?」

 

「ああ、そうだ。委員会の指令で席を用意しているが、あいつはこの学園が開校して以来まったく足を踏み込んでいない」

 

「そ、そんな話初めて聞きましたよ!有馬さんから何も言われてないですよ!」

 

「まったくそうだろうな。あいつは肝心な話を言わない人間だ。まったくだ...」

 

千冬さんはそう言うと呆れたため息をした。

有馬さんが毎年IS学園から招待をされている話は本人からまったく聞いておらず、僕は今ここで初めて聞いた。今回の学年別トーナメントの招待リストには有馬さんの名前は入っていないのだが、おそらく表上は誰かが来るようにしているのだろう。だけどそれでも有馬さんやその関係者が来る気配はない。

言われてみれば、有馬さんはどこか抜けているところがあり、例えばIS委員会の定例会ではいつも欠席しており、上層部は有馬さんのその行動に頭を抱えながらも『あいつなら仕方ない』ち半分認めている感じになっている。

 

「まったく...今回は一夏が出場するから、来ると思ったんだが...」

 

「え?」

 

「いや、なんでもない」

 

今、一夏くんが出場するから、期待していたこと言いましたよね?

 

「あの、それってーーー」

 

聞こうとしたその時だった。

 

『緊急事態発生!!緊急事態発生!!』

 

すると突然、司令室中に警報が鳴った。

何事かと思った僕は各アリーナを映し出すモニターを確認すると、一夏くんたちとラウラさんたちが対戦しているアリーナに異常があった。

 

「これって...?」

 

一夏くんたちがいるアリーナで起こったことは、前回のように無人機が襲来したのではなく、ラウラさんに異常があった。

それはラウラさんのISが液状化し、ラウラさんを包み込んでいるのだ。そしてラウラさんを包み込み、何やら形が生み出していく。明らかにただごとではないとわかる。

 

「佐々木、今すぐアリーナに向かえ!」

 

「わ、わかりましたっ!」

 

千冬さんの言葉に急いでアリーナに向かった、僕。

今回もISを使用せざるを得ない状況なのは確定だった。

 

(それにしても...あれは一体何だ...?)

 

先ほどモニターで見たのはISとは思えない形状に変化をした何か。

外部から操作されたとは思えず、あれはラウラさんのISにあったシステムが作動した何かなのか?

僕はそう思いながら、観客席から避難してきた女子生徒たちを避けながら、彼女たちとは逆の方向に向かった。

 

 

 





今回は話が短くて申し訳ございません。
次回は戦うと思いますのでお楽しみ(琲世or一夏?)


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rette sie

一夏Side

 

 

それは突然のことだった。

ラウラと箒のペアとの対戦中に突如異変が起きた。

 

「な、なんだよ...これ...?」

 

その経緯について説明しよう。

まず俺とシャルルはラウラと箒のペアと戦っていた。しかも他の人よりも一番最初である一回戦で。

それでシャルは先に箒をダウンさせ、その後に俺とシャルはラウラと戦った。

ラウラは予測通り、箒とは協力をせず一人で挑んできた。

一年生野中では一番強いと言われるラウラだが(琲世はラウラとは同格?)、二体一での戦いでは力が発揮されなかった。

その後にシャルがラウラをアリーナの壁まで叩きつけ、このままラウラはダウンするかと思われた。

 

だが、予想とは反した異変が起きたのだ。

 

「なに...あれ...?]

 

突如ラウラのISから電撃が現れ、ラウラを攻撃していたシャルは吹き飛ばされ、アリーナを騒然とさせた。そしてラウラのISが光が反射しない黒い液体へと変化し、ラウラを包み込み、黒い液体はある形へと変化していく。

 

「っ!」

 

俺は変わってしまったラウラを見てあることに気がついてしまった。

その変わってしまった形は昔から見てきた"ある人の姿"。

俺はそれを見た時、怒りを感じた。

 

「シャル、下がってろ...」

 

「...え?」

 

俺はシャルにそう言うと持っていたブレード形の雪片(ユキヒラ)を構え、

 

「この野郎っ!!」

 

そして俺は黒いISに迷いもなく突っ込んだ。

 

 

「っ!!」

 

しかし黒いISは俺の攻撃を即座に防ぎ、そして俺が気がついた時、ヤツの攻撃を受ける数秒前だった。

 

「ぐはっ!!」

 

ヤツの攻撃を左腕に受けた俺は遠くに吹き飛ばされ、そしてあっという間に俺のISが解除された。ISが解除されるということはエネルギーが全て消え去ったこと。俺はあの一振りで一気に体力を消されたのだ。

 

(あの動き...間違いなく千冬姉だ...!!)

 

あの攻撃は明らかにラウラのISの動きでなく、千冬姉の動きだ。

長く見てきたからこそわかる、この感覚。

それが今、あの黒いISがやっている。

そんなの許せない。

俺はヤツに怒りを抱いていた。

そんなことを考えていた俺にまたもや何かが起きた。

 

「っ!!」

 

それは黒いISにまっすぐと突っ込み、そして刀同士をぶつけた音をアリーナに響かせた。

異変を感じた俺は前に振り向くと、シャルルと箒が使用したISとは全く違うISがヤツに攻撃をしていた。

そのISの操縦者は俺と同じくISを使える男 琲世だった。

 

「琲世!!」

 

「....」

 

琲世は俺の声を聞こえていたみたいだったが、返事はなかった。

なぜ琲世が返事をしなかったのか、琲世の様子を見ればわかる。

 

「っ!」

 

琲世は鍔迫り合いの状態から脱すると、即座に別の箇所に刀を向け、黒いISから攻撃を防ぐ。

 

(あいつ...攻めに入れていない...!)

 

琲世はヤツの攻撃には避けたり、武器で防御することはできているが、攻撃をすることができなかった。

それにヤツの攻撃を防いだ時は、琲世が歯を食いしばるほど押されていた。

 

「ハイセ、大丈夫!?」

 

先ほど俺の声が聞こえなかったと知ったシャルは琲世に通信を入れた。

 

「...大丈夫なんかじゃない。これはかなり厄介だよ」

 

「厄介...?」

 

ヤツの攻撃をなんとかして防いでいる琲世だからわかる説得力。琲世が言うには間違いなかった。

 

「最初これを見た時はなんなのかはわからなかったけど、後々にわかったよ。あれはラウラさんのISに入っていたVTシステムだよ」

 

「VTシステム...それはなんだ...?」

 

「簡単にいえば、モンド・グロッソの優勝者のデータを再現するためのシステム。つまり目の前にいるのは、織斑先生の強さを再現しているのに等しいよ相手だよ...!」

 

琲世はそう言うと、間一髪でまたヤツから攻撃を防いだ。今度は琲世の顔が当たる数センチ前。俺だったら間違いなく攻撃を受けていた。

 

『佐々木、今すぐ武器をしまえ』

 

「えっ?」

 

すると黒いISと戦っていた琲世に千冬姉の通信が入った。

 

『あいつは武器か攻撃で反応するプログラムを保有している。お前が攻撃、もしくは武器を保有し続ける限り、奴は襲いかかる。ひとまず体勢を整えろ』

 

「...わかりました」

 

琲世はそう言うと手にあった刀を光の粒子で消し、素早く黒いISから離れ、俺の横についた。

千冬姉の言う通り、黒いISはそのまま琲世を攻撃しなくなり、動きが止まった。

 

「一夏くん、腕に血が流れているけど腕は大丈夫?」

 

「ああ、大丈夫だけど...痛みがあるな..」

 

ヤツの攻撃で俺は左腕に血が流れていた。怪我は骨まできておらず、手で抑えればなんとかなるぐらいだ。

 

「...わかった。じゃあ、一夏くんは下がって」

 

「っ!」

 

俺は琲世の言葉にハッと目を見開いた。

 

「悪いけど、この相手は一夏くんたちには勝てないし、僕でも対抗できるか怪しいぐらいだよ」

 

「....」

 

俺は琲世の言葉にはまったく耳が入らなかった。いや、まったく聞く気にならなかったと言えばいいだろう。この時の俺は琲世に苛立ちと言うものが生まれていたのだ。 

 

「だから一夏くんたちは後ろで待ーーー」

 

「待てよ!!」

 

苛立ちを抑えきれなかった俺は琲世の返事を遮り、琲世に近づいた。

 

「俺は戦えない...?なんだよ!俺は邪魔と言うのか?」

 

「い、いや...そんなことは...」

 

怒りを露わにした俺を見た琲世は驚き、戸惑ってしまった。

この時の俺は感情を表に出てしまい、琲世に根拠のない言い掛かりをぶつけてしまった。

 

「おい、一夏!落ち着け!」

 

すると先ほどの試合でダウンをした箒が俺を止めにきた。

 

「一夏、お前はこれ以上戦えないだろ?あとは教員部隊と琲世に任せーーー」

 

「俺はやらなきゃいけないんじゃない。俺はやりかいたいからやるんだ。あれは千冬姉だ。千冬姉しか持っていないものをあいつが使っている!だから俺はーーー」

 

とにかく形にならない怒りをぶつけた、俺。

だが琲世も黙ってはいられなかった。

 

「そんな私情で立ち向かうな!!!」

 

「っ!!」

 

突如琲世から出た怒号に俺は口を閉めてしまった

それは頬を打たれるよりも、心に伝わる怒りだった。

 

「何がぶっ飛ばしたいんだ!何が自分でやらなきゃいけなんだ!あれは前に戦った無人機とは大きく違う!あれはヤツではなく、ラウラさんだよ!!」

 

琲世は俺の目をまっすぐと見て、変わってしまったラウラに指をさす。

 

前にも琲世が怒りを出した姿を見たことがあるが、今俺が受けている怒りは前とは違う。

それは真正面にぶつける怒りであり、人間らしさのある怒りだ。

こんな琲世の怒りを見るのは初めてだった。

 

「今、彼女はあの中にいるんだよ?一刻も彼女を助けないといけないのに、そんな私意的な考えを持って挑むなんて一夏くんも危ないし、ラウラさんも危ないよ!」

 

「....っ」

 

俺だけではなく、周りも琲世の怒りを初めて見たのか騒然となった。

 

「僕は彼女を今すぐ助けないといけない。彼女は一夏くんたちには悪いことをしたかもしれないけど、僕は全く違う。僕は彼女とはどうにかして彼女を助けたい」

 

だが、俺もこのまま黙ってはいられなかった。

 

「悪いが琲世。俺はどうしてもあいつと戦わなけれならない。あいつは千冬姉の偽者だ。俺がこの手でやたらないと気がすまない」

 

「じゃあ、どうするの?すでにエネルギーを使い果たした白式をどうやって作動ーーー」

 

「それなら、僕のを使ったらどう?」

 

すると俺と琲世が言い合っている空気の中、シャルがすっと空気の中に入るように。

 

「シャ、シャルルくんのって...?」

 

「あれだよ。コア・バイパスで僕のリヴァヴのエネルギーを一夏の白式に移すんだよ」

 

シャルはそう言うと自分のISからケーブルを取り出し、俺の右腕にある籠手(ガントレット)に接続をした。

 

「多分、ISを完全に作動することはできないけど、武器を出すことはできるよね?」

 

接続するとシャルのISが光の粒子となって消え、そして俺の右手にあった籠手(ガントレット)に光の粒子が現れ、再び白式が起動をした。

白式を再び動かすことができたが、シャルの言う通り、腕と白式の武器である雪片しか現れなかった。

だが俺はそれでも十分に戦える。

 

それでシャルは自分のISが光の粒子で消え、地面に降りた後「ねぇ、ハイセ」と琲世に優しく声をかけた。

 

「ハイセの意見も一理あるかもしれないけど、一夏の意見も間違ってはいないよ。だから一夏のことを信じたら?」

 

「....」

 

シャルの言葉に琲世は熱が冷めたのか、無言で頷いた。俺も十分に熱は冷めたけど。

そして琲世は誰かに通信を入れた。

 

「あの、織斑ーーー」

 

『佐々木の判断に任せる』

 

「....」

 

琲世が千冬姉に応答をした瞬間、千冬姉は即座に返事が返した。

どうやら千冬姉も俺の意見に賛成をしているらしい。多分だけど、

 

「...わかったよ。ただし、僕は一夏くんのサポートで一緒に戦うよ」

 

「琲世のサポートなしで挑んでやる」

 

「まったく、それじゃあラウラさんと同じ道をたどるよ」

 

「...ああ、そうだな」

 

琲世はそう言うと光の粒子で消した刀を再び呼び戻し、刀を握った。

今思えば、琲世とは初のタッグだ。IS学園に来てからだいぶ時間が経っており、かなり新鮮に感じる。

 

「僕は彼女の攻撃から防ぐよ。ある程度なら攻撃手順は把握しているし」

 

「わかったよ。それで俺はあいつに一撃を加えればいいんだな?」

 

「うん、そうだね。僕の武器じゃ仮に攻撃できたとしても、効果は薄い。でも一夏くんの零落白夜(れいらくびゃくや)なら威力としては十分だよ」

 

琲世の刀はどんなものなのかは詳しくは知らないが、おそらく俺の雪片とは違いサブ武器であって、メイン武器はあの触手みたいなヤツだろう。

 

「だが、もし零落白夜(れいらくびゃくや)の攻撃がラウラに当ててしまったらーーー」

 

「刀の振り方は一夏くんの方がよくわかるはずだよ。織斑先生の一閃(いつせん)二断の構えでいけばいい」

 

「っ!」

 

俺は琲世の言葉にふと気づいてしまった。

なぜ琲世は千冬姉のことをよく知っているんだ?

俺が千冬姉の弟という事実は誰もが知っていることだが、琲世は千冬姉のことをよく知っているように見える。

その一つが先ほどの千冬姉の動きをコピーした黒いISの攻撃を予測していたかもように防いでいたこと。

そう思った俺はまたもや琲世の新しい視点を見つけてしまった。

琲世は一体なんだろうか?と。

そう考えていると、「い、一夏っ!!」と箒が近づいた。

 

「一夏、絶対に死ぬな」

 

「ああ、大丈夫だ。もしなんかあったら、琲世のせいにしてくれ」

 

「僕のせいって...まったく...」

 

琲世は俺の冗談にため息をすると、「じゃあいくよ、一夏くん」と刀を構えた。

琲世が武器を構える、ずっと止まっていた黒いISは再び動き出した。

 

「先に僕がいくから、一夏くんは零落白夜(れいらくびゃくや)を起動して、攻撃を」

 

「ああ、わかったぜ」

 

俺が琲世にそう言うと、琲世は瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使用し、先に黒いISに飛び込んだ。

 

「っ!!」

 

さっきよりも黒いISに攻めに入る、琲世。ヤツにぶつかった後、すぐさま刀を振るい、耳が痛くなるほどの金属音を鳴らしながらぶつかり合う。その同時に攻撃に耐える琲世の歯軋り音が聞こえた。

 

「....零落白夜(れいらくびゃくや)、発動」

 

琲世が黒いISと戦っている間、俺は雪片を構え、目を閉じて集中した。

持っていた雪片にエネルギーが集中しているのがわかる。

俺の集中が頂点に達した時、雪片も最大限にエネルギーが溜まってきた。

あとは黒いISに攻撃するタイミングを掴むだけ。

俺は雪片を真っ直ぐと構え、 タイミングを見計らう。

琲世と黒いISとの戦いで出る音は全く消え、アリーナに吹く風の音が聞こえなくなる。

 

 

 

 

見えたーーー

 

 

 

 

「一夏くんっ!!!」

 

「っ!」

 

タイミングをつかんだとの同時に琲世の声を聞いた俺はハッと目を開き、黒いISの前に向かった。

黒いISは琲世と激しく戦っているにもかかわらず、俺は黒いISのすぐ目の前に入り込めた。

 

「くらえっ!!!偽者っ!!!」

 

黒いISの目の前に入り込めた俺は何迷いもなく縦に切り裂いた。

 

『っ!!!!』

 

刀傷が大きく刻み込まれた黒いISは動きが急に止まり、そして刀傷を中心に形が崩れていく。

刀傷の中心から、黒いISに飲み込まれていたラウラが姿を現した。

ラウラは意識が朦朧とした様子で左目につけていた眼帯が取れ、黒いISから離れていく。

 

「ラウラっ!」

 

俺は落ちていくラウラをすぐに抱き上げた。ラウラが黒いISから離れていくと、完全に形が崩壊し、ラウラのISであるシュヴァルツェア・レーゲンのパーツがアリーナに転がり落ちていった。

 

「ラウラさんっ!!」

 

俺がラウラを抱き上げた瞬間、琲世は自分のISを解除するなり、ラウラを抱き上げた俺の元にすぐにやってきた。

 

「だいぶ弱っているけど...大丈夫だね。ちゃんと息している。ああ...よかった」

先程の黒いISで激しく戦ったはずの琲世はラウラの首元に手をおき、ラウラが無事だとわかった瞬間、疲れなどなかったかのように安堵のため息をした。

 

「...琲世、ラウラのことをだいぶ心配しているな」

 

「当たり前だよ。だって、助かっただけでも十分に嬉しいから」

 

琲世がどれほど心配していたのかは琲世の顔を見ればわかるほどだった。

 

こうしてアリーナの騒動は俺と琲世の手で終わらせることができた。

前に琲世が無人機を倒した時とは違い、今回は俺と琲世で仕留めたのは一番大きかった。

なぜなら前の俺は琲世に任せっきりで何もできなったが、今回は自分で動くことができた。

 

 

 

 


 

 

ラウラSide

 

私が再び目覚めて約2時間が経った。

私は医務室に運ばれ、ずっと医務室のベットで過ごしていた。

その後に織斑教官から私が医務室に運ばれた経緯について聞き、今に至っている。

 

(さてと...食事を取らなければならないのだが...)

 

私が目覚めた時は夕日が沈む頃であったが、今はすでに夕日など消えてしまった夜であり、食事の時間だった。

織斑教官曰く、『食事は運びに来るから、そのまま安静しろ』と誰かが食事を運びに来るらしい。だが、一向に来る気配はない。

まさか忘れられているのでは?思った矢先、入り口が開く音がした。

 

「こんばんわ、ラウラさん」

 

「っ!」

 

私は入り口に目を向けていなかったのだが、誰がやってきたのかすぐにわかった。

 

「...佐々木琲世か」

 

私の元に現れたのは教官でもなく織斑一夏ではない

 

 

 

佐々木琲世だった。

 

 

 

 




次回、二人に進展か?もしくは...


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また、一歩

琲世Side

 

それはアリーナでの事件が収束した、夜のこと。

 

「どうもラウラさん」

 

ラウラさんがいる病室に入った僕なのだが、部屋の空気は決して良いとは言えなかった。

 

「なぜ貴様がくるのだ?佐々木琲世」

 

ベットにいたラウラさんは僕を見るなり、早く部屋から出ていけと言わんばかりの嫌な目で迎えた。

 

「あ...えっと...」

 

病室にいたラウラさんの態度に完全に怖気づいてしまった、僕。

先ほどまでラウラさんは意識がなく、彼女の寝顔が可愛いと思っていたのだが、今はそれを忘れてしまうほど緊迫した空気へと変わっていった。

 

「と、とりあえずっ!ラウラさんのご飯を持ってきたよ!」

 

「は、はぁ....?」

 

かなり強引な返事で返してしまった僕はラウラさんがいるベットの横にあるテーブルに食事を置いた。  

 

「...お前が食事を用意するとは、さては織斑教官に言ったな?」

 

「え?」

 

僕はラウラさんの言葉に全く心当たりのない声を出してしまった。

僕は千冬さんには何も伝えてはおらず、僕がやったのはラウラさんの病室に食事を持ってくる医務室の方にお願いしたことぐらい。

 

「そうだね...おそらくラウラさんは一人で食べるんじゃないかなと思って、千冬さんにお願いして持ってくることにしたんだ」

 

「.....」

 

とりあえず千冬さんからお願いされたと伝えた僕(実際は違う)だが、ラウラさんは何も言わずにじっと僕を見つめる。

 

「お前が持っていきた食事はかけうどんか」

 

「流石に重い食事を出すのはあれかなと思って...」

 

もしラウラさんに重い食事を出したなら、間違いなく僕の命が一瞬にして消える。

 

「まぁ、いい。今の私にはぴったりなものだ」

 

ラウラさんは反発することなく、うどんを口にした。

 

「...やっぱり出すのは遅かったかな?」

 

「ああ、そうだ。変に感じるほどだ。私がそれを思いついた時に医務室の者に尋ねようかと思ったのだが、ちょうどお前が来た」

 

「あれ?ちょうど僕が来たって...」

 

「つい先ほどのことだ」

 

「もしかして…ラウラさんが期待して待ってたんじゃーーー」

 

「次に余計な発言をしたら、私の横にあるナイフでお前の頭に突き刺すぞ」

 

「あ、はい...」

 

ラウラさんの発言に、僕はすぐに背筋が凍った。

やっぱりこの人は冗談が通じない。

さすが軍人だ...

そう思っていると、ラウラさんはあっという間に完食をした。

 

「食べるの早いね」

 

「軍人としては当たり前だからな。そう言えばお前は食べたのか?」

 

「うん、食べたよ。先生たちから事件のことを聞かれたけど、僕は早く終わって普通に食堂に行けたよ。今頃、一夏くんたちは急いで食べていると思うよ」

 

「どうやらお前は教師たちからあまり聞かれなかったようだな?」

 

「そうだね...僕のISが関係しているかもね」

 

「だろうな」とラウラさんはどこか侮った笑いをした。

確か一夏くんたちは食堂が閉まるぎりぎりの時間帯で食べていたと他の女子生徒から聞いた。

 

「...それで今日の事件について話すけど」

 

「やはり聞くのか」

 

「もちろんだよ。僕も今回の事件の関係者だからね」

 

僕がラウラさんの元に来たのは彼女を心配していただけではなく、今回の事件について話すことだ。

 

「今回の事件が起こったきっかけはVTシステムが作動したからだよね?」

 

「そうだな。その話は織斑教官から聞いた。お前はVTシステムのことはもちろん知っているな?」

 

「うん、知ってるよ」

 

「まぁ、そうだろうな。お前からその単語が出るぐらいなら、説明しなくても良いな」

 

VTシステムは簡単に言えばモンド・グロッソの優勝者のデータを再現するためのシステムであり、戦った相手は千冬さんに等しいほど厄介なものであった。

 

「それでラウラさんがVTシステムを発動している時の記憶ってあったかな?」

 

「いや、ない。私が飲み込まれた時から私がこのベットで目覚めるまでの間の記憶などまったくない」

 

「そうだよね...動きが完全に織斑先生の動きだったから、ラウラさんの意識なんて皆無に等しいね」

 

記憶は覚えていたらおかしい。もし意思があるならば、千冬さんの動きを真似することはできないはずだ。

 

「VTシステムを発動をしていた時、お前と織斑一夏はかなり苦戦をしたと思うが、どうだ?」

 

「うん…僕だけで戦える相手ではなかったよ…」

 

あれはまるで千冬さんと戦っているようで、久しぶりの感覚のあまりずっと守りの体勢で居続けてしまった。

 

「まぁでも、織斑先生の動きに似ていたからなんとかやられずに済んだよ」

 

「...つまり、織斑教官と手合わせをしたことがあるんだな」

 

「うん、そうだね。流石に僕が織斑先生に勝つのは無理があるけど、動きを知っているか知っていないかで結構戦局は変わっていたと思う」

 

もし他の人が戦っていたら、おそらく瞬殺されていたんじゃないかぐらい太刀打ちはできなかったと思う。

ちなみに僕が千冬さんと最後に手合わせしたのは、千冬さんがIS学園に戻る頃であり、ちょうど一夏くんがISを使用できると発覚した時だ。

 

「それでラウラさんのISはかなり損傷がひどいみたいだけど…」

 

「それは問題はない。パーツは破壊されたが、コアについては無傷だ。本国から送られた予備パーツを使えば、すぐには復帰は可能だ」

 

「ああ、それはよかった」

 

しばらくはラウラさんのISが使用できないのかないと思ったが、どうやら問題ないようだ。

もうこれでラウラさんから聞くことはなく、雑談せずに帰ろうかと思ったら...

 

「ーーー織斑教官から聞いたのだが」

 

「ん?」

 

「お前は誰よりも私を心配したらしいな」

 

「え?」

 

ラウラさんの言葉に一瞬だけ思考停止をしてしまった。

 

「そ、それ...て?」

 

「お前、動揺を隠せていないぞ」

 

「い、いや...別に隠してはないんじゃ...」

 

完全にバレていた。

僕は誰よりもラウラさんを心配していたのは事実であったことを。

 

「なぜそう隠そうとする?」

 

「....」

 

僕は沈黙してしまった。

まるで事実を叩きつけられ、何も言えなくなった罪人のように。

ラウラさんに本当のことを伝えてしまえば、間違いなく彼女の横にあるナイフが僕の体に突き刺さる。

 

「どうして黙るのだ?」

 

「っ!」

 

すると突然、ラウラさんが僕の顔に近づいたのだ。しかもあと5センチほどで顔がくっついてしまうほど顔を近づけたのだ。僕は突然の彼女の行動に裏返った声を出してしまい、すぐさま部屋の隅まで離れた。

 

「どうした?ただ顔を近づけただけだぞ?」

 

「い、いや...!急に顔を近づいたから驚いたんだよ!」

 

ラウラさんは自分がとった行動に疑問を持つことなく、逆に驚いた僕に疑問を抱いていた。

彼女は本当に僕と同じ15歳の人間だろうか?

 

「まぁ、お前がどうしてそんな行動を出したのか聞かんが、私がお前に聞きたいのは、なぜ私を心配していたんだ?」

 

「心配...?」

 

「お前はそこらの人間よりは協調性が高く、織斑一夏やシャルル(カエル野郎)と話していればいいだろう」

 

そろそろシャルルくんをカエル野郎と呼ぶのはやめて欲しいのだけど...

 

「だが、お前は周りから不穏な空気を生み出すという危険性を抱きながらも、私に近づいた。それはなぜだ?」

 

「…ええ、確かに僕は一夏くんやシャルルくんの元にいれば良いと思います。でも僕はラウラさんに近づいたのは、似たところがあったからと思います」

 

「似たところ?」

 

「ええ、これは織斑先生から聞きました。ラウラさんは僕と生い立ちが似ていると」

 

実際は生徒会室で刀奈さんから見せてもらった経歴書で知ったのだが、ここは千冬さんと変えたほうがラウラさんにとって納得がいく答えになると思う。

 

「...つまり、お前は私と同じく戦うために生まれてたのか?」

 

「ざっくり言えばそうですね」

 

僕がこの世界に生まれてからISの訓練を受け、そして最前線で戦った。ある意味ラウラさんを同じ立場にいると言ってもよいだろう。

 

「それで僕はあなたを見た時から肌に感じたんですよね。どこか似ているなって。だから僕はあなたに近づき、そして僕はあなたを誰よりも心配していたんです」

 

僕はそう言うとしばらく黙り込み、「...こ、これでいいでしょうか?」とどこか頼りない返事をしてしまった。

僕は顔が少し熱くなり、恥ずかしくなってしまったのだ。ドラマや映画でありそうな言葉を自分の口で言うのは、なんだか勇気がいる。

 

「...そうか、ありがとう」

 

「っ」

 

恥ずかしがっていた僕はラウラさんの返事にハッと驚いてしまった。

いつも聞くような冷たい返事ではなく、暖かさのある返事であったのだ。

 

「お前は散々わかっていると思うが、私はかなり冷たい人間だ。そこらの生徒とは違い、愛想など無縁に近い女だ」

 

ラウラさんはそう言うと少し間を空け、再び口を開いた。

 

「だがそんな中、お前は私に声をかけてくれた。初めて声をかけてきたのは同性からではなく、異性からな。初めてお前を見た時は織斑一夏のおまけみたいな人間であり、私とは水と油のような人間だと思ったのだが、今は見方が変化した。お前は私を似た人間だと」

 

「....」

 

「私はお前が来るまでふと気づいたのだが、お前と話していると少し落ち着くことに気がついた。ずっと孤独のままでいいと思っていた私がなぜかお前といると安心する」

 

「....」

 

「少なくともこの学園に来てからこうして話すなど、お前が初めてだ」

 

僕は彼女の言葉に驚き、言葉が出なかった。

彼女からこの言葉が出るなんて、想像はしなかった。

 

「だから、ありがとう。佐々木琲世」

 

「...うん、どういたしまして」

 

空っぽになってしまった頭から必死に捻り出した言葉。僕はそのぐらいに衝撃的なことであった。

 

「ところで、私のこういう感情は日本語でなんと言うんだ?」

 

「日本語で?」

 

「ああ、特定の相手にかなり惹かれることなんだんだが、適切な言葉が日本語であるだろ?ドイツ語だとすぐに浮かぶんだが...」

 

「...」

 

まさかこれは...

 

「それって...恋心じゃ」

 

「コイゴコロ?」

 

「…あ」

 

重大なミスに気づいてしまった。

まさに自分は言ってはならない単語を言ってしまったのだ。

 

「...お前にか?」

 

「え?いや...なんというか...」

 

「私が…!?」

 

普段のラウラさんから絶対見られない感情(おそらくこの学園だと僕が初めて?)。彼女の顔は少し赤く染まり、動揺していた。

そして、ずっとベットに座っていたラウラさんは怪我していたことを忘れてしまうほど勢いよく身を乗り出した。

 

「それはない!お前にそんな感情など一切ない!!」

 

「ち、違うんですよ…!別の言葉がーーー」

 

「そ、そ、そういえば!お前はそこらへんの人間と比べて再生能力が高かったよな?な!?」

 

(あっ)

 

ラウラさんの言葉に察しがついてしまった。次はどんな行動をするか頭に浮かんだ瞬間、ラウラさんは僕の予想通りに横にあったナイフを取り出した。

 

「もう二度と思い出させなくしてやるっ!!!覚悟をしろ!!」

 

「い、い、い、いや!やめてください!!ラウラさん!!ここで騒ぎを起こすのは…っ!!!」

 

僕は病室の入り口に誰かの気配を感じた。

病室の入り口をみると、予測通り誰かがこっそりとのぞいていた。

 

(か、刀奈さんっ!!!)

 

入り口はわずかに開いているが、誰かがのぞいているのはわかる。

よく見ると見慣れた赤い瞳。

同じルームメイトである刀奈さんだった。

 

(琲世くん、またヘンなことを起こしましたね〜♪)

 

刀奈さんはそう言っているかのように嫌味が入った目つきで笑いを堪えていた。つまり僕を助ける気は皆無であることだ。

 

その後、僕は凶器を持つラウラさんから必死に逃げることになった。ラウラさんは今日の騒動がなかったかと思わせるほど動きは早く、彼女が落ち着いたのは真夜中に近い時間帯であった。

もし一夏くんなら自分が言った言葉が原因だと考えないだろうが、僕はラウラさんがこの行動をとったのは自分であると自覚している。

 

しかし今日ラウラさんからわかったことと言えば、僕が失言した時に冷たく言葉を返したのではなく、顔を赤くして恥ずかしがったことだ。

 

あれって....もしかして...?

 

 

 




次回はもうひとり打ち明かす模様です(これは原作通り)。


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友達以上?

琲世Side

 

それは翌朝に起きたことだった。

 

(...はぁ)

 

心の中でため息をしてしまった、僕。

今、自分の席に座る僕は険悪な状況に立たされていた。

朝のホームルームが始まる10分前、僕が教室に姿を表した瞬間、ラウラさんの鋭い視線が一瞬にして察した。

 

(まだ昨日の機嫌が続いている...)

 

昨日の夜にラウラさんに言ってはならない言葉を言ってしまい、彼女は今もかなり不機嫌である。昨日ラウラさんに追われた僕はなんとかして自分の部屋に入り一難が終わったのだが、ひょっとしてラウラさんは夜に部屋に忍び込むのでは?と不安になり、安心して眠れず、少々寝不足気味だ(なお部屋には刀奈さんがいたおかげかラウラさんが部屋に入ることはなかった)。

憂鬱そうに窓を見ていた僕に「なぁ、琲世?」と一夏くんが声をかけてきた。

 

「...ん?」

 

「なんでラウラがあんなに機嫌が悪いんだ?」

 

「さ、さぁ...僕にもわからない...うん」

 

一夏くんに対してわざととぼけてしまった、僕。

機嫌を悪くさせたのは僕が原因であるなんて、誰にも言えるわけがない。

 

(...あれ?)

 

僕は一夏くんを見て何気なく教室を見渡すと、あることに気がついた。

 

「そういえば、シャルルくんは休みなの?」

 

「シャルか?なんか知らないけど部屋に出る前にシャルが『先に部屋に出て』と言われて、それから会ってない」

 

「え?食堂の時も一緒じゃなかったの?」

 

「そうだ。何か用事があるような顔だったけど、あいつはどうしたんだ?」

 

一夏くんの様子を見ても、まったく心当たりのないようだけど...。

 

(そういえば...結局は大浴場はどうなったんだろう?)

 

聞くつもりはないけど、昨日一夏くんは入学当初から入れなかった大浴場に入ったみたいけど、まさか一夏くんは女子であるシャルルくんと一緒に入ったりはしてないよね?

そう思っていると、「お、おはようございます...」と何やら人の顔を伺うように山田先生が不安そうに教室に入ってきた。

 

「今日は新しく入る子を紹介します...た、多分皆さんは知っていると思いますが...改めて紹介させていただきます...」

 

(新しい子?)

 

また新しく転校生がやってくるのか?

でも知っているとはどう言うことなのか?

それは僕だけではなくクラスのみんなも同じく感じ誰かが山田先生にさらに聞こうとしたその時、意外な人物が教室に入ってきた。

 

(..え?シャルルくん?)

 

教室に入ってきたのは初めて見る子ではなく、昨日ぶりに見たシャルルくんだった。

だけど、目の前にいるシャルルくんは違った。

 

「シャルロット・デュノアです。よろしくお願いします」

 

「「...え?」」

 

僕も含めクラスのみんなは教室に入ってきた子を見て、ざわついていたクラスが少し沈黙が生まれ、そして驚きの声を出した。

今、 教卓の前にいるのはシャルルくんなのだが、着ている服は男性用に制服ではなく、スカートがついている女子用に制服。しかも名前はシャルルではなく、シャルロットだった。

 

「な、なんでシャルルくんが女装をしてるの?」

 

「いや、あれは女装してない。シャルルくんは男の子じゃなくて、女の子だったの!?」

 

「たしか、昨日は大浴場が使えたよね?」

 

「ていうことは...一夏くんたちは..?」

 

「じゃあ、琲世くんの性別は...?」

 

どうして男子である僕が女子だと疑われるの...!?

シャルルくんの姿を見たクラスの女子は真っ先に僕らに視線を向けた。

それは驚きを含んだ視線だけではなく、心の奥底から現れた負の感情が含んだ視線もあった。

さらに嫌な予感が起きるのではないかと僕が思った瞬間、突然教室の扉が木っ端微塵に破壊された。

 

「一夏...!!!!!」

 

怨恨が含んだ怒りの声が耳が痛くなるほど教室に響いた。

声の主はISを展開していた2組の鈴さんだった。

2組である鈴さんが突然1組にやってきたのは、おそらく朝のホームルームで知ったんだろう。

 

「あんたはよりによってなんでシャルルと入ったの!?」

 

目を向けられた瞬間、恐縮してしまうほどの目つき。

女子の怒りは男子よりもはるかに怖いとわかる瞬間だ。

 

「い、一夏くん...もしかして本当に...?」

 

「...っ」

 

一夏くんは僕に返事をすることなく、僕の目を見ていた。一夏くんの様子を見る限り、どうやら本当にシャルルくんと一緒に入ったらしい。

シャルルくん(シャルロットさんだけど)が女の子である事実を僕よりも先に知っているにも関わらず、なぜ一緒に風呂に入ったの?

一夏くんは『どうすればいいんだ!?』と言わんばかりに僕の目を見てくるのだが...

 

「....」

 

僕は一夏くんには何も言わず、ただ目を見ていた。言葉で表すのなら『ごめん。僕には何もできない』。

僕は一夏くんを守りたい気持ちはあるのだが、僕のISを皆に見せてはならない。

 

「というか、琲世も同罪じゃないの!?」

 

「...え?」

 

大浴場の件を避けようと黙ってしまった僕なのだが、鈴さんはまさかの僕にも刃が向けられた。

 

「あんた、察してたんじゃないの!?シャルルが女だったことを!?」

 

「え?い、いや..僕はそんなことを?ほ、ほ、ほんと、本当だよ!?」

 

「本当なの?もしかして、一夏と同じく大浴場に入ったんじゃ?」

 

「っ!!!」

 

突然鈴さんに指摘され、変に戸惑ってしまった、僕。

シャルルくんが女子であることは前から知っていたのだが、鈴さんに指摘された僕は動揺をしてしまったため、僕の言葉に信憑性など誰が見ても皆無に等しい。

鈴さんは怒りをぶつけるかの如く「さっさと消えろ!!!」と最初の標的に一夏くんに衝撃砲を向け、迷いもなく放った。

衝撃砲の耳に響くほどの発射音がクラスに大きく響き、同時に周りの状況がわからないほどの砂煙が上がった。

 

いくらなんでも生身の人間に与える兵器ではないため、無事かどうか疑わしい状況なのだが...

 

「...?」

 

一夏くんは体に傷を負うことなく無事だった。

一夏くん自身ISを展開したのではなく、一夏くんの前に立つ人が攻撃を防いだのだ。

 

「ラ、ラウラさん!」

 

その一夏くんの前に立つラウラさんだった。

彼女の専用機である『シュヴァルツェア・レーゲン』を展開し、AIC(慣性停止結界)を起動し衝撃砲を無効にしていた。

 

「なっ!なんであんたがあたしの攻撃を防いでいるよ!?」

 

「これは織斑一夏に借りがある」

 

突然の出来事に一夏くんは状況が把握しきれていない声で「さ、サンキュ...ラウラ」と安堵のため息をした。

 

「一夏に借りがある...?それはなーーー」

 

「あと一つだけ言っておく、凰鈴音。佐々木琲世は昨日大浴場には入っていない」

 

「...はっ?」

 

鈴さんはラウラさんの言葉を聞くと、感情的になってしまった頭のせいか少し間を開けた。

 

「なんであんたはそんなことが言えるのよ!?」

 

「簡単だ。琲世は私がいた病室に来たのだ。織斑一夏が大浴場に出た頃には琲世は自分の部屋に戻っている」

 

今まで他人のことなど考えもしなかったラウラさんが、ここまで他人のために思うなんて...

 

と、思ったのだが...

 

「あとそれに、織斑一夏の問題に関係のない佐々木琲世を加えるな」

 

「「...ん?」」

 

最初まではラウラさんがちゃんと訂正をしてくれていると思ったのだが、最後の部分を聞いた僕と一夏くんは同じく疑問を感じた。

 

「一夏と一緒にするな?」

 

「ああ、織斑一夏がシャルロットと風呂に入った話など、私にはどうでもいい。だが、私は佐々木琲世に無実の罪を被せようとしたお前に訂正を求める」

 

一夏くんと僕を助け、僕を庇ってくれたのはありがたいけど、なぜ一夏くんには庇わないのだろうか?

 

「て言うことは、一夏のことはこっちで決めてもいいのね?」

 

「ああ、そうだ。手を出さない」

 

一夏くんは「...え?手を出さないって...?」と命の危機を感じ取った消えてしまいそうな声を出すと「そのままの意味だ。大浴場の件はお前らで決めろ」 とラウラさんは一夏くんの前から去ろうとしていく。

 

「わかったわ。琲世のことは謝るけど、一夏のことはやっちゃっていいのね」

 

「えっ?ちょっ待ってくれ!!ラウラ!!どういうことだよ!?」

 

「借りはもう使い果たした。あとは知らん。もう介入はーーー」

 

「ちょっと待って!!!ラウラさん!!」

 

ラウラさんがISを解除しようとしたその時、ただ黙っていた僕は声を遮った。

 

「なんだ?佐々木琲世?」

 

「先ほどまで攻撃を防いでくれたのに、なんで一夏くんを助けないの?」

 

「それは簡単だ。私とお前に関係のない争いなど関与しても得はない。私はお前を濡れ衣を被せようとした鈴に訂正を求めただけだ。私がやるべきことは終えたからな」

 

「いやいや、だからと言って一夏くんたちを野放しするのはだめだよ...!」

 

おそらくこのまま放置すれば、教室が吹き飛ぶほどの大惨事が起きかねない。

 

「そうか?お前もわかっているだろ?この問題はあいつらだけの問題だ。介入しても何も得るものがないつまらん争いだ」

 

「いや、 あいつら"だけ"の問題だからって放置するのは良くない。どう見たって他の人に被害が及ぶほどの争いに発展してるよ!」

 

本来教師である山田先生がこの争いを止めなければならないのだが、山田先生は驚いて全く行動しておらず、僕は先生の代わりになんとかして止めなければならない。

かと言って僕がISを展開するのは無理がある。

だから僕を庇ってくれたラウラさんになんとかして争いを止めなければならない。

 

「頼むよ!!これは僕の願いだよ!!」

 

「....」

 

僕の必死の願いを聞いたラウラさんは返事をせず、沈黙をした。

イエスかノーを言うのかわからない沈黙。

ほんのわずかでもいいからラウラさんが僕の願いを受け入れる確率が上がればいい。僕は心の中でそう願った。 

 

「わかった。ただしーーー」

 

「っ?」

 

ラウラさんの返事を聞いた僕は胸の中で安心を得たその瞬間、突然ラウラさんに胸ぐらを掴まれ、彼女に引っ張られた。

 

「お前の願いだけを受け入れるわけにはいかない」

 

「えっ?どういうーー」

 

僕が意味を聞こうとしたその時、お互いの唇が触れ合った。

 

「...やっとできたな」

 

「...っ」

 

「全く...あの時の姿と違い、なぜそう惚けるんだ。お前は」

 

「....っ!!」

 

初めは何が起きたのか理解ができなかった。

しかし思考が戻るにつれて、衝撃が走り出してきた。

ラウラさんは僕にキスをしたのだ。

 

「...これでお前の望みを受け入れ、私の望みも受け入れた。これでいいだろ?」

 

「....う、うん」

 

この時の僕はあまりにも驚いてしまい一言しか返事をすることしかできず、自分が女子になったかように小さくうなずいてしまった。

 

「う、嘘でしょ...?」

 

「佐々木くんがキスを...?」

 

「そういえば、さっきボーデヴィッヒさんが佐々木くんは病室に行ったと言ったよね?」

 

「ていうことは琲世くんがボーデヴィッヒさんの元に行ったのは...」

 

「だから病室で...」

 

気がつくと僕の胸の中から新たに危機感と言うものが生まれた。

周りの女子の習性を刺激してしまったのだ。

 

「佐々木さん!!!」

 

「っ!」

 

机をバンッと大きく叩き、僕の名を言ったのはセシリアさん。さっきまでは大浴場の件で静かに怒りを感じていたセシリアさんなのだが、なぜか僕に怒りを見せている。

 

「あ、あ、あなたは!私と同じくこっち側だと思ってましたのに...!!」

 

「こ、こっち側...?」

 

「な、なので!!病室の件を詳しく説明を求めます!!!」

 

セシリアさんはそう言うとすぐさまISを展開し、『スターライトmkIII』を秒で構え、僕に銃口を向ける。

と言うかセシリアさんの口から出た"こっち側"とはなに?

そして『スターライトmkIII』が放った瞬間、教室で開戦が起こってしまった。

 

結局のところ僕が阻止するべきことであった教室の破壊は免れず、最終的には無断にISを起動した鈴さんとセシリアさん、ラウラさんと、争う原因を作った一夏くんが反省文を書くことになった。

なお僕は関わりがないせいか反省文の提出を求められなかったのだ、罪悪感を抑えきれなかったのか自主的に反省文を書くことにした。

 

以上、今朝に起こった出来事である。

 





だいぶ遅くなりましたが、今年初の投稿ができました。

次回は2月2日(木)12時以降となります。


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plötzlich

それは授業もなく、ゆったりと過ごせると思っていた週末の朝のこと。

 

「そういえば、学園指定の水着でいいだろうか?」

 

「...はい?」

 

カフェテリアでゆったりとコーヒーを頂いていた僕の席に突然ラウラさんが無言で向かい合うように座り、突然喋り出したことだ。

決して挨拶もせず、雑談もせずに突然話題を降り出したのだ。

 

「な、なんで..それを聞くのかな?」

 

「来週、臨海学校に向かうだろ?それでシャルロットに言われてな」

 

あれほどシャルロットさんをカエル呼ばりしていた人間が、同じルームメイトになったせいか、いつの間にか仲良くなっているみたい(実際にシャルロットさんからの苦情はない)。

なお一夏くんはシャルロットさんが部屋に出てから、僕が入ることなく一人の模様(理由の9割が刀奈さんだけど)。

 

「が、学校指定の水着...」と僕はラウラさんの提案に思わず難しい顔になってしまった。

 

うちの学校の指定の水着は一般的に学校に使われている露出を抑えた水着であり、良く言えばシンプル、悪く言えばダサいものだ。

臨海学校では指定の水着は特にないため(過度な露出は禁止だけど)、おそらく学校指定の水着で挑むとなると変に目立ってしまうだろう。

 

「今日、他の奴らは水着を買いに外に行っているらしいが、そこまでして買うものか?学校指定のヤツでいいだろう?」

 

「...」

 

ラウラさんは何もおかしくはなく話しているのだが、僕は徐々に反感に似た感情が湧き出た。

臨海学校で彼女を変に目立たせたくない、と。

 

「いや、学校指定の水着を使うより他の水着を買った方がいいよ」

 

「他の水着を買う?」

 

「うん。学校指定の水着を使うのはいいかもしれないけど...なんというか...その...見栄えがよくないよ」

 

見栄えと言う単語を口に出すのをためらいながらも言った、僕。

はずかしいからためらったのではなく、誤解した表現を言うのにためらったに近い。

なぜ僕がそう言うのか?

はっきりと言おう。

僕は決してラウラさんとは()()()()()()()()()()()()

 

「見栄えか...」とラウラさんは心の隙間から嬉しさが盛れたかのようにわずかニヤリとした。

僕はそんな彼女の顔を見た瞬間、『ああ、また変な誤解を与えてしまった』と嫌な予感を感じ取ってしまった。

 

「なら買い物に付き合ってほしい」

 

「え」

 

僕は彼女の返事を聞いた瞬間、反射的に呟いてしまった。

 

「なぜ嫌そうな顔する?」

 

「い、いや...なんで、僕が?」

 

「そりゃ簡単だ。この学園に知り合っている同年代の人間はお前しかいないだろ?それに、私が好意を抱いた人間でもある」

 

ラウラさんの言う通り、いまだに他の生徒と仲良くしている様子や話などまったく聞かず、わかることといえば彼女がもっとも親しくしている人といえば僕しかいない(千冬さんを除くと)。

何度も言うが、僕はラウラさんに対して恋人並の好意はなく、決して付き合ってなんかいない。

 

「ま、まぁ、そうだけど...同じルームメイトのシャルロットさんは?」

 

「あいつは織斑一夏と行っている」

 

「ああ...なるほど」

 

おそらく、シャルロットさんは一夏くんを連れて水着を買いに行っているだろう。

 

「私と行くのを嫌がるお前は水着は持っているのか?」

 

「い、いや...僕は別の日に買いに」

 

「なら、決まりだ。今すぐ買いに行くぞ」

 

僕よりも背の低いラウラさんに流されるように手を引っ張られる、僕。

 

ゆったりと時間を過ごせると思っていた週末が、忙しく、疲れる週末に変化しようとしていた。

 

 


 

 

その後、ラウラさんに連れられIS学園前駅に到着した、僕。

 

「とりあえず、手洗いに行ってくる」

 

「うん、待ってるよ」

 

ラウラさんはそう言うと駅の手洗い場に行った。

僕たちは流石に水着を買うために急いではいないため、残り数分到着の電車には駆け足て行く必要はなかった。

 

(まったく...これじゃあ、デートと変わりがないよ...)

 

ラウラさんにキスされて以降、学校では僕とラウラさんは付き合っていると認識され、変に気を使われていたり、嫌がられたりしている。

もちろん僕が置かれている立場を理解してくれている人はいるのだけれど、それは少数に止まっている。

 

(...ん?)

 

時間潰しに駅構内を見渡すと、不審な行動をしている人たちを見つけた。

 

(あれって...セシリアさん?)

 

よく見るとセシリアさんだけではなく、後ろには鈴さんもいた。

二人は駅の無料雑誌置き場の物陰に隠れ、何かを見ている。

二人は何しているのだろうか?と僕は首を傾げ、そっと二人に近づき...

 

「あのーーー」

 

「「っ!!」」

 

一声言った瞬間、二人は驚きすぎではないかと思うぐらい体を跳ね上げた。

 

「だ、誰ですーーーって、佐々木さんじゃないですか!?」

 

「あの...何してるんですか?」

 

「今、一夏さんの跡を追っているのですよ!」

 

「一夏くんの跡?」

 

「こっそり...て、行っちゃったじゃない!?」

 

セシリアさんたちが見ていた電車が動いてしまった。

どうやら電車の中に一夏くんたちが乗っていたらしい。

 

「なに、勝手に話しかけてくるのよ!?琲世!?」

 

「いや、不審に感じるような行動をしていたから...」

 

「そこは察しなさいよ!!バカ!!」

 

相変わらず理不尽なことを言う、鈴さん。

ラウラさんとキスして以来、セシリアさんと鈴さんは僕に愚痴を言いに部屋にやってくる頻度は少なくなったが、それでも部屋にやってくる。

 

「まったく...あなたもこちら側だと思っていましたけど...」

 

「え?こちら側?」

 

セシリアさんの口から出る『こちら側』の意味が相変わらずわからない。

要するに仲間ではなくなったから?

 

「それで、琲世は付き合っているんでしょ?」

 

「いや、僕はラウラさんとは付き合ってなんかいないよ」

 

「はぁ?あんた、ついに一夏と同じく唐変木になったの?」

 

明らかにわざ見せつけているようなため息をした。

今の僕とラウラさんの関係は一方的な恋愛と言えばいいだろう。

 

「それで琲世はどこか行くの?」

 

「....水着を買いに」

 

「はぁ?聞こえないんだけど?」

 

「水着を買いに」

 

「誰と?絶対一人じゃないでしょ?」

 

「...ラウラさんと」

 

「ああ、やっぱり。ついにお買い物デートのデビューですか。大変羨ましいですねぇ、佐々木琲世くん」

 

やたらと鈴さんは僕に対してものすごく煽っているように見える。

鈴さん、そこまで煽らなくても...

 

(とりあえず、二人は一夏くんの跡を追っているのはわかるけど...)

 

変に掘り下げると、僕の墓穴が出来上がってしまう恐れがあるため、聞かないことにする。

 

「もうそろそろラウラさんがくると思うから、隠れたほうがいいよ」

 

「はぁ?なんでよ?」

 

「別にお二人とも付き合ってなんかいませんよね?」

 

二人は僕の言葉に反感を持った返事をしたのだが、僕はそのようなことを言ったのは他に理由があった。

 

「なんだ、お前らもいたのか」

 

「「っ!」」

 

後ろを振り向くと、いつの間にかラウラさんが立っていた。

 

「なんだ?佐々木琲世に恨みでも持っているのか?」

 

「どちらかと言えば、あんただよ!」

 

僕がセシリアさんと鈴さんに離れるように言ったのは、この前の学年別トーナメントの件であった。

二人にとってラウラさんは恨むべき人物であり。前回の学年別トーナメントに参加できなくなった原因でもある。

 

「あんたとここで、決着をーーー」

 

「待て待て、ここISを出すのはダメだよ」

 

ISを展開しようとしていた鈴さんをすかさず止めた。

流石に学園外で騒ぎを起こしたくはない(教室を破壊しかけた時に比べたらかなり優しいけど)。

 

「まだ恨んでいるのか」

 

「ええ、あの時の恨みを忘れるわけありませんわ!」

 

「いくら恨んだって、私は勝手に野垂れ死ぬことはない。では私は琲世と行くとする。失礼する」

 

「ちょっと待って!」

 

セシリアさんと鈴さんはあっさりと僕を連れて立ち去ろうとするラウラさんを止めた。

 

「なんだ?お前らもついてくるのか?」

 

「すんなり去るんじゃないわよ!というかあんたちについてくるって...!」

 

「お前らが私たちを勝手に追っても良いが、万が一琲世に好意を持つようなことがあったらーーー」

 

「いや、そんな気持ちなんかまったくない」

 

「佐々木さんに対して、そんな感情など皆無に等しいですわ」

 

鈴さんとセシリアさんは即答で返した。

ラウラさんは二人の返事を聞くと『なら、いい』と少し安心した。

二人からそのような返事を聞いた僕には地味に心にくるのだけど...

 

「さてと、琲世。だいぶ待ったか?」

 

「そこまで待ってなんかいないよ」

 

セシリアさんと鈴さんと話していたせいか、時間があっという間に過ぎていた。

 

それから電車に乗り、セシリアさんと凛んさんに近くに座ってもいいと伝えたが、鈴さんは「二人の時間を汚されたくないよね?」と嫌味を含んだ口調で離れた席に座った(しかし僕とラウラさんから十分に見えるぐらいの距離だけど...)。

そこまで嫉妬を出さなくてもいいんだけど...

 

そして僕とラウラさんは同じ席に座り、ラウラさんは窓側の席で、僕は通路側に座った。

 

「琲世、あいつらになにか危害を加えられたか?」

 

「いや、別に嫌なことはされてないよ」

 

加えられたのはいつも通りの嫉妬の言葉ぐらい。

僕の返事を聞いたラウラさんは 「そうか」と窓から見える景色に視線を向けた。

 

(ラウラさんの髪は結構さらさらしてる)

 

意外にも(彼女には失礼だけど)髪からいい匂いがする。香りで言うならば花の香り。

ラウラさんは戦うために育てられたため普通の女子とは違った面を持つものの、おしゃれに関しては最低限ならがしていることに少しほっとした(常識はずれのことはいまだにしてないけど)。

 

「なぁ、琲世」

 

「ん?」

 

「...Paarらしい行動ってなんだかわかるか?」

 

「え?」

 

パーらしい行動?

あまり聞こえなかったが、パーの部分だけドイツ語の発音に聞こえた。

 

「パーってなに?」

 

「...カ、カップルのことだ。何度も言わせるな」

 

先ほどのラウラさんの声は冷静な声だったにもかかわらず、今はどこか恥ずかしさのある声であった。

急にドイツ語を言われても、普通の人はわからないよ。

 

「それで、相応しい行動とはなんだろうか?」

 

「と、隣同士にいるとか...?」

 

「それは普通の人間もやってるだろ」

 

「...そうかな?」

 

「...と、とりあえず、お前が提案したことにはやってみることにする」

 

ラウラさんはそう言うと拳一個分に空いていた感覚をからさらに近づき、体に接して寄り添った。

 

「「.....」」

 

僕の肩に頭を擦り寄らせる、ラウラさん。

僕は近すぎて恥ずかしくなる現象はなく、居心地の悪さがあるのだけど...

 

(ラウラさん、結構顔が赤くなってない?)

 

気のせいだろうか?

隣に寄り添うラウラさんは少し顔を赤くし、何か我慢をしているように見える。

しばらくラウラさんの様子を見ていた僕なのだが...

 

(...二人からの殺意のある視線を感じる)

 

僕は離れた席から殺意というものを感じ取ってしまった。

鈴さんは下手したら席を破壊するんじゃないかと言わんばかりに座席を握っており、セシリアさんは光を失った目で僕を見つめながら、中指を立てていた。

僕の予想だけど、二人は『何イチャイチャしてるのよ、琲世!?』とか、『あなたはわざとやっているのですか、佐々木さん...!!』と言っているんじゃないかと、僕たちを見ていた。

 

「...ああ、もう!わからん!」

 

「っ!」

 

じっと何かを我慢していたラウラさんはついに声を上げ、僕から離れた。

僕も急に声を上げた彼女に驚き、彼女と同じく離れてしまった。

 

「ど、どうしたの!?ラウラさん!?」

 

「わ、わからんのだ...!!こ、これが何がいいのか、 ま、ま、全くわからん!」

 

何度も噛みながら話し、僕の方に顔を向けずに窓の外に顔を向ける、ラウラさん。

明らかに恥ずかしさから逸らそうとしていた。

僕は何がわからないのか更に彼女に聞こうとした時、僕たちが乗る電車はちょうど目的の駅に着いた。

 

「...いくぞ、琲世」

 

「え?あ、ああ...そうだね」

 

僕は通路側の席に座っていたため、先に席から立ち上がると...

 

「っ!」

 

ラウラさんは咄嗟に僕の手を引っ張り、すぐに電車から出てしまった。

彼女は恥ずかしさを逸らすためか、僕に顔を向けず、早歩き以上のスピードで駅前のショッピングモールに向かった。

 

 

今日の彼女の様子はおかしい。

いつもの冷静さのある性格が崩れ去ってしまうほどに。

 




最近出したオリジナル作品に力を注ぎたいのですが、連載中の2作品も執筆したい欲求があるため、中々投稿ができません(どちらも投稿をやめるという選択肢はございません)。

もしよければ、オリジナル作品にもご覧ください。


次回は2月18日(木)12時以降となります。


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積乱雲の前

それからラウラさんに引っ張られ、水着コーナーに辿り着いた、僕。

そのまま水着選びに入るのかと思ったのだが...

 

「....」

 

「ラウラさん?」

 

今日の目的地である水着コーナーに到着したのだが、ラウラさんは僕に顔を向けず、ただ沈黙が漂っていた。

沈黙が長続きすると悟った僕はラウラさんの返事を待つのではなく、自分から提案することにした。

 

「最初にラウラさんの水着からーーー」

 

「...と、とりあえず、私一人で調べることにする...!」

 

「え?どういうーーーってちょっと待って!!」

 

突然ラウラさんは何かから逃げるように一人水着コーナーに入ってしまった。

 

(どうしよう...このまま中にはいるのは...)

 

しかし僕はラウラさんの跡を追わず、足を止めてしまった。

ラウラさんが入った女性の水着コーナーに男である僕が一人で入るのは抵抗がある。

もし知っている人が近くにいたら、変な噂を流される可能性が生まれる。

僕はそう躊躇していると...

 

「あれ?ハイセ?」

 

「っ!!!」

 

学園内で聴き慣れた声が聞こえた瞬間、『ついに見られてしまった』と体を震わせてしまった。

一体誰だろうか?と振り向くとシャルロットさんがいた。

 

「....あ、シャルロットさん」

 

「どうしたの?水着コーナーの前に立って?」

 

セシリアさんたちの口ではシャルロットさんは一夏くんと一緒にいたと聞いたのだが、今はなぜか一夏くんと一緒ではなかった。

流石に一夏くんと一緒であった事実を口にすると、彼女から変に思われかねないため、僕は「あれ?シャルロットさんは一人で買い物?」と自然に振る舞った(ぎこちなさはあるが)。

 

「いや、つい先ほど一夏と一緒にいたんだけど...そしたら一夏の友人とたまたま会って、一夏はそのまま行っちゃって...」

 

「ああ、なるほど...」

 

だからシャルロットさんは一夏くんと一緒ではなく、ひとりになったんだ。

多分、今頃セシリアさんたちは一夏くんの方に向かっていると思う(多分)。

 

「それでもう一回水着コーナーを見ていたら、ちょうどハイセとラウラを見たって感じだよ」

 

「あ...み、見てたんだね」

 

「そうだよ。というか、ラウラの跡を追わないの?」

 

「いや...流石に男一人が女子の水着コーナーに入るのは...」

 

「そう?僕だったら普通に入るよ?」

 

つい最近まで男子として振る舞っていたシャルロットさんは問題ないと思うが、僕はこの世界に生まれた時から男であるからそう簡単に入れやしない。

 

「そういえば、ラウラがハイセから離れる時、なんか言ったよね?」

 

「えっと...ラウラさんは『一人で選ばせてくれ』と言って」と僕は答えると、シャルロットさんは「ああ、やっぱり」と納得した様子で数回うなずき。

 

「多分、恥ずかしがって逃げたと思う」

 

「ああ、そうなんだ...」

 

確かに先程のラウラさんの動きを思い出すと、あれは水着コーナーに入ったと言うより、逃げたと言ったほうが納得がいく。

 

「...まぁ、とりあえずラウラを追わずに、時間を置いたほうがいいかも」

 

「え?追わずに?」

 

「うん、そこのベンチで座らない?」

 

「でも...彼女は...」と僕は躊躇した様子で答えていると...

 

「もし追いかけたら、確実に刺されるよ」

 

「あ、うん...」

 

僕はシャルロットさんの言葉に危うく命を落としかねない記憶を思い出し、肝を冷やしてしまった。

人の姿がまったくない夜の学園に、軍用ナイフを持つラウラさんから追いかけられた恐怖の記憶を思い出してしまった。

僕は「わかったよ...」と大人しくシャルロットさんの言葉通り、ベンチに座った。

 

「それでどう?」

 

「...何が?」

 

「あれだよ。ラウラとは」

 

「いや、付き合ったりしてないよ」

 

シャルロットさんの返事に咄嗟に拒否してしまった。

 

「なんかその言い方を聞くと、癖になってない?」

 

「みんな僕にラウラさんのことを聞いてくるんだよね...」

 

「ああ、だからすぐに言ったんだね...」

 

シャルロットさんは「大変だね...」とつぶやいた。

 

「ていうことは、ラウラとは付き合ってはない?」

 

「そうだよ」と僕は言うと、シャルロットさんは「ああ、やっぱり」と共感した様子でため息をした。

 

「やっぱりそうだよね。私でもわかるよ」

 

「シャルロットさんは気づいてくれるんだね」

 

「そりゃそうだよ。ハイセとラウラの様子を見た感じ、明らかに片方だけ満足?と言うか...」

 

「そう、僕はラウラさんに対して恋人とは認識してないよ」

 

キスをしてしまったとは言え、恋人同士になったわけではない。

あのキスはまぐれで受けたキスだ。

事前に決めたことではない。

 

「僕が彼女に近づいたのはかつての僕と同じ境遇に立っていたから、友達として付き合いをしたいんだけどなぁ...」

 

「友達としてね...なんだか私と立場が逆転してるよね?」

 

「逆転?」

 

「そう。こっちは一夏とは付き合いたいけど、一夏は私を友達として明らかに見ているから、ハイセのことを聞くと羨ましいよ」

 

「そ、そうなんだね...」

 

シャルルくんはそう言うと、『まったく、一夏は...』と額に手を置いた。

僕はラウラさんとは付き合っておらず、彼女と友達の関係で保ちたいと言う僕の主張は、一夏くんと付き合いたい女子たちにとっては"贅沢なわがまま"と認識していると思う。

 

「でも僕としてはラウラさんとは友達として付き合いたいんだけど...」

 

「...だったら、ある程度恋人ととして付き合ってくれたら?」

 

「付き合う?」

 

「そう。流石に無理矢理付き合えとは言わないけど、ラウラが私と同じルームメイトになったことは知ってるよね?」

 

「ああ、そうだね...」

 

僕はシャルロットさんの言葉を聞き()()()()を思い出し、恐れを感じ取ってしまった。

 

「どうしたの?」

 

「...ラウラさんとは仲いい?」

 

「うん、普通に仲良いよ?それがどうしたの?」

 

「前のラウラさんはシャルロットさんのことをかなり悪く言ってたんだよね」

 

「例えば?」

 

「....」

 

僕は口をつぐんでしまった。

シャルロットさんの顔や様子を見ても、怒りの前兆と言うものは感じ取れないけれど、もし言ってしまえば場の空気が一気に悪くなるんじゃないかと恐れていた。

しかしだからと言って沈黙を続けても仕方がない。

僕は覚悟を決め、口を開いた。

 

「シャルロットさんのことを...カ、カエル野郎だったり」

 

「ああ、最初一緒に部屋に入った時に言われたよ。『なぜカエル野郎と同じ部屋になったんだ』ってね」

 

「キッパリと言ったんだ...」

 

シャルロットさんは蔑称に慣れていたのか、僕に怒りを見せずに、冗談ごとように笑った。

 

「でもそれは初日だけで、その後は普通に話せたし、仲良くはできたよ。もしかして、仲が悪くないか心配だった?」

 

「うん。ラウラさんは他の子と仲良くしている姿を見せないから」

 

「私とラウラは別に仲悪くないから、安心してね」

 

僕はシャルルくんの返事にほっとした。

険悪な空気を作り出すんじゃないかと恐れていたが、そうでもなかった。

 

しかしだからと言って差別用語を安易に使ってはならない。

特に僕が所属しているIS学園には各国の生徒が来る。

だから僕はシャルロットさんに言うのを躊躇った。

 

「...あれ?初日以降から仲良くなった?」

 

「うん。すんなりと仲良くなったよ」

 

「僕ですらかなり時間がかかったんだけどなぁ...」

 

「ハイセの時は転校した当初だったから、仲良くなるのに時間がかかるのは当たり前だよ。まぁ、ハイセのおかげで私とラウラはすぐに仲良くなったとも言えるけどね」

 

「ま、う、うん...そうかもしれないね」

 

僕はそう言うと今までしたことが無駄にしていたかのような脱力感を感じた。

あれほどラウラさんと仲良くしようとしていた僕の努力は一体...?

 

「それでラウラは結構ハイセのことを話してたよ」

 

「僕のこと?」

 

「そうだよ。ハイセのことを話すラウラって、転校した時の軍人らしいラウラの姿とは大きく違うんだよね」

 

シャルロットさんはそう言うと、「あの時のラウラはかわいいよ」と一人満足したかのようににへへと笑った。

シャルロットさんの話を聞いた僕は病室で赤面になったラウラさんの顔を思い出す。

いつもクールだったはずの彼女が恥ずかしがる姿は、ギャップを感じてしまった。

 

「それで...ラウラさんはなんて言ってた?」

 

「んー例えば『ハイセは私のことを嫌いになってないか』とか『ハイセは私のことをどう思うか』とか毎晩私に言うんだよね」

 

「そ、そうなんだね...」

 

そう言われると、なんだか嬉しさと恥ずかしさが現れる。

 

「だから、付き合えとは言わないけど、ラウラと一緒にいたほうがいいんじゃないかな?」

 

「...まぁ、そうだね」と僕は少し納得していない返事をしてしまった。

 

「あ、乗り気じゃない」

 

「うん。ラウラさんって他の人とは大きく違う、度を下げてくれたらありがたいかな...」

 

「ラウラはああ見えて一生懸命にやっているから、ラウラがそれを聞いたら悲しむよ」

 

もしラウラさんはそうやって頑張っているのなら、頑張っている方向が大きく違っているんだよね...

 

「だったら、ハイセが気になっている子って誰?」

 

「え?僕が気になっている人?」

 

「そう、ラウラのことが好きじゃないなら、ハイセが気になってる子っている?」

 

「気になっている子ね...」

 

僕がそう言うとしばらく沈黙が続いてしまい、「まだいないんだね」とシャルロットさんは察した様子で話した。

今思えば、僕にはまだ気になっている女子はいない。

ラウラさんは良いかもしれないけど、どちらかと言えば友達としていたい。

流石に今こうして話しているシャルロットさんの名前を上げたら、速攻で嫌われる(いわゆる相談した人のことを好きなるダメなパターン)。

 

「...なら、シャルロットさんの方は?」

 

「私?私はさっき言った通りーーー」

 

「一夏くんだよね?」

 

「...なんですぐ答えるの?」

 

「いや...なんでかな?」

 

僕は先ほどセシリアさんと鈴さんからきっぱりと言ったことを思い出し、話をすぐに切り上げるように答えた。

さっきのセシリアさんたちの返事は心にグサリと来るため、もうごめんだ。

 

「それでシャルロットさんと一夏くんとの関係はーーー」

 

「全然ダメ」

 

シャルロットさんは即答で返し、苦労が入ったため息をした。

 

「みんなが唐変木と言う理由がはっきりとわかるよ」

 

「ああ、やっぱりね...」

 

一夏くんの様子を見る限り、女性の扱いがわかっておらず、どちらかといえば男性の扱い方になっている。

 

「今日の外出なんかひどいんだよ?別に私だけ誘ったんじゃなくて一夏が『水着を買う()()()()シャルも連れていくか』とね」

 

「ああ、なるほどねぇ...」

 

『ついでに』を強調するように不満を言った、シャルロットさん。

言葉の口調から苦労さがわかる。

 

「あと女子に対してのデリカシーがないし、勝手に私を置いていくしーーー」

 

「....」

 

ああ、始まってしまった。

よくセシリアさんや鈴さんが僕の部屋にやってきて、しばらく自分の話を一方的に話す愚痴が始まった。

女子の愚痴を聞く時に注意していただきたいのは、愚痴を助言をするのではなく共感をするように聞くことだ。

もし共感せずに助言を指定前ば反感を買われ、矛先が自分の方に向いてしまう(実際に僕は助言をしたことで、反感を買われた経験がある)。

 

「あとはーーー」

 

「...あの、シャルルロットさん?」

 

「ん?」

 

「申し訳ないけど、お願いをしてもいいかな?」

 

しかしシャルロットさんの愚痴をしばらく聞いても仕方がないため、僕は話を切り上げた。

 

「お願い?」

 

「ラウラさんの水着選びを任してもいいかな?」

 

僕はシャルロットさんに水着選びを任せようと頼んだ。

男性が思う良い女性水着と、女性が思う良い水着は絶対一致しないとわかっている。

特にラウラさんは最低限のことしか知らなそうなため(大部失礼だけど、半分事実)、基準を知っているシャルロットさんに任せることにした。

 

「あれ?ハイセはラウラと選ばないの?」

 

「僕にはその...女子が選ぶいい水着の基準がよくわからなくて...あと、ラウラさんはちょっと常識が抜けている所があって、僕だけじゃカバーしきれない部分があるから」

 

「ああ、だったら私も助けるよ」

 

「え?本当に?」

 

「うん。一夏はしばらく戻って来なそうだから、ハイセのお願いを聞くよ。でもその代わり...」

 

シャルロットさんはベンチから立ち上がり、間を空けると...

 

「ラウラの水着は臨海学校まで楽しみにしてね」

 

「楽しみ...?」

 

「そう。私に任せたのだから、こっちの意見に異議はないよね?」

 

「あ、ああ..そうだね」

 

シャルロットさんはそう言うと、『楽しみにしてね』とラウラさんがいるであろう女子の水着コーナーへと入って行き、僕はひとりになった。

 

(...友人ね)

 

シャルロットさんが言っていた一夏くんの話を思い出した。

 

今思えば、高校よりもはるか前に知り合っている人なんていない。

 

千冬さんや刀奈さんはIS学園に入る前に出会っているが、小学校からとか中学校からの知り合いなんて僕にはいない。

 

仮に僕に昔からの付き合いのある人がこの世界にいるならば、僕のことを知っているのだろうか?

 

そう考えていくと...

 

「やっと見つけましたわ!」

 

「っ!」

 

つい数分前に聞いた声が耳に入った。

声がした方向に顔を向けると、セシリアさんと鈴さんが『やっと見つけた』と言わんばかりに息を切らしながら、僕に迫った。

 

「なんであんたたちはすぐに消えたの!?」

 

「いや、あれはラウラさんが...」

 

「それより、一夏さんはどこに行ったんですか!?どこですか!?」

 

「し、知らないよ...!」

 

友人とどこかに行ったことはわかるが、具体的にどこに行ったのかはわからない。

 

「そ、そういえば...二人とも?」

 

「「はい?」」

 

「水着の方は買った?」

 

「「もう買っているわ!!」」

 

「...はい」

 

二人の苛立ちが入った返事に僕は恐縮してしまい、肩をすくめた。

二人からは強い当たりが来るのだが、決して仲が悪いとは言えない。

セシリアさんや鈴さんのように何か話を聞いて欲しい人(愚痴だけじゃないけど)や、シャルロットさんのように何かを任せれる人、ラウラさんのように僕に好意を持ってくれる人、あとは刀奈さんのように僕に絡みをきてくれる人、そして一夏くんのように同じ男子として友達である人が今の僕にある。

 

今の人間関係で満足していれば、過去の人間関係に気にする必要はないと今の僕はそう思う。

 

(そういえば...箒さんは僕にあまり話しかけないような)

 

僕の周りの人を考えていると、ある人を思い出した。

 

それは箒さんだ。

 

箒さんはある程度ながら僕と交流があるのだが、あっちから避けてきている感じがある。

 

なぜかは知らないけど...

 

あまりよろしくない空気が漂っているのは薄々ながら感じる。

 

 


 

 

それは皆が寝静まる夜の学園のこと。

篠ノ之箒は携帯を持って寮の外に出て、ある人物に電話をかけていた。

 

「....」

 

箒自身、その人物に電話をするのを避けてきたが、今回は避けざるおえない状況に置かれていた。

発信音を数回聞くことなく、一回聞いた瞬間、声が聞こえた。

 

「やぁ、久しぶりだね!箒ちゃん!」

 

その人物の名は篠ノ之束。

ISを作った張本人でもあり、箒の姉である。

 

「ずーーーーーと箒ちゃんのことを待ってたよ!!」

 

「...姉さん」

 

「要件はあれだよね?自分にも専用機が欲しいよね?お姉ちゃんはお見通しなんだよね」

 

箒は束の返事に「ああ、そうだ」と言おうとした瞬間ーーー

 

「ーーーでも、それだけじゃないよね?」

 

「...?」

 

「あの子が気に入らないから、私に電話をしたんだよね?」

 

「あの子?」

 

「そう、箒ちゃんと同じクラスで、いっくんと同じISが使える男子のことだよ」

 

束がそう言うと、箒はすぐに頭に浮かんだ。

 

 

「...佐々木琲世」

 

 

箒が電話をしたのはただ専用機が欲しいからではなく、もう一つ理由があった。

 

 

それは佐々木琲世に怨恨に似た感情を抱いていたからだ。

 

 

かつて自分に尋問をした人物と似ている人であると。

 

 

 

 

 






次回は3月4日(木)12時以降となります。


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抱きつき


今回は過度にしすぎました。




 

それは臨海学校出発する1時間前のこと。

 

「いや〜琲世くんが臨海学校に行くのか〜」

 

「ええ、行くんですけど...なんで楯無さんは授業に行かないのですか?」

 

朝食を済ました僕は自分の部屋に戻り2泊3日分の荷物をまとめ、最終確認をしていたのだが、そろそろ授業が始まる頃なのに刀奈さんはさりげなく部屋にいた。

 

「いや、私は授業よりも琲世くんの見送りをしたいからここにいるのよ」

 

「またいつもの会長権限ですか...」

 

僕は刀奈さんの話にやれやれとため息をついてしまった。

とは言え刀奈さんは生徒会長の名を恥じないほどの成績優秀のため、一つの授業に出席しなくても学業には問題ないらしい。

 

「私も臨海学校に行きたかったな〜」

 

「...あなたが行っても、何をするんですか?」

 

「琲世くんと同部屋にーーー」

 

「なら、学園に居てください」

 

「もう、琲世くんたら〜」

 

刀奈さんが僕と同じ部屋で寝泊まりと聞くと嫌なことしか起きない。

おそらく寝不足は必須。

 

「今から行くところは臨海学校とは言え、別に遊びに行くんじゃないですよ。あそこでISの校外実習をやるんですよ」

 

「校外実習ね。今年は専用機持ちが多いから結構長引きそうわね」

 

通常の学校ではおそらく海水浴をしたり、宿に宿泊すると思うが、うちでやる臨海学校は主にISの装備試験であり、特に装備が充実している専用機の場合はさらに時間がかかるのは目に見えている。

 

「でも旅館近くに貸切のビーチで遊ぶんでしょ。この前の休みの日にラウラちゃんと買いに行ったよね?水着を買うために」

 

「そ、そうですけど...」

 

僕は肩をすくめると、刀奈さんは「ほぉ...」とからかうぞと言わんばかりに顔がにやけていた。

 

「それで、ラウラちゃんとどんなことするか決まっている?」

 

「どんなことって...何して遊ぶんですかね...?」

 

「何も決めてないの?」

 

「ええ、まったく決めてないんですよ」

 

ビーチで何をすればいいのかわからない。

ただ海で泳ぐだけでは物足りなそうだし、夕方まで堪能できるか怪しい。

 

「と言うか、あんまり話している時間はありませんよ。今、ラウラさんが待っているので」

 

「あれれ?ラウラちゃんが待ってるの?」

 

「なんですか?誰かに噂話をしたくなるような顔つきは」

 

「いや〜結構良い仲になってきてない?」

 

「いやいや、僕はラウラさんとは友達の関係でいたいんですよ。でも彼女は...」

 

「琲世くんのことを恋人として認識してるんだ?」

 

「...そうですよ」

 

ラウラさんはある程度時間を置いたら僕に対する好意は減るのでは?と思ったのだけど、まったく好意が減っている感じはない(むしろ高まっている気が...)。

 

「ラウラちゃんと付き合うの嫌なら、なぜ振らないの?」

 

「振るって...僕は別にラウラさんのことは嫌いじゃないですし、あと彼女には申し訳ないと言うか...」

 

「付き合っちゃいなよ」

 

「いやです」

 

好きではない相手と付き合うなんて僕にとっては相手に申し訳ないし、無理矢理付き合っているように感じてしまう。

もし付き合うとしたら、僕が惚れるような人じゃないと。

 

僕は「そろそろ僕は行きます」とカバンを背負い、あとは部屋から出るだけだった。

部屋に出ようと一歩足を踏んだその時だった。

 

「っ!!」

 

その時、突然僕の背中に顔をつけながら抱きつかれた。

 

「...どうしたのですか?楯無さん?」

 

「...」

 

抱きつきてきたのは間違いなく刀奈さんだった(それ以外に人はいない)。

僕の返事に反応せず、無言のまま抱き続ける、彼女。

いつもだったら何かいたずらをするのではないかと警戒をするのだが、刀奈さんから醸し出している空気はいたずらをする雰囲気ではない。

 

(この状況は...なんだ?)

 

今漂っている空気は一体どんな状況なのか把握できない。

いつも刀奈さんにからかわれる僕は彼女の行動をある程度把握しているが、今回の行動は初めてのパターンだ。

刀奈さんは何かする気配を出すことなく数分ほど時間が経ち、僕は自分から声をかけることにした。

 

「...あの、刀奈さーーー」

 

「よしっ!」

 

僕が声をかけようとした瞬間、刀奈さんは何か覚悟を決めたような呟きをし、僕からパッとすぐに離れた。

 

「...何していたんですか?」

 

「おまじないみたいなものだよ」

 

「おまじないですか...?」

 

「そう。琲世くんが無事に帰ってこれるようにおまじないをしたの」

 

僕は「はぁ...?」と理解できていない声で呟いてしまった。

何度も言うが、刀奈さんがこんなことをするのは初めてだ。

今までにやってもらったことのない行動だ。

 

「無事って...これから僕は何か危ないことにでも会うのですか?これから行くのは臨海ーーー」

 

「でも、こういうのはいいんじゃないかな?だって未来って予測できないじゃない?」

 

からかうように笑っている刀奈さんだが、空気は偽りのない真面目さがあった。

 

「いくら人が未来を予測しようとしていても、結局運任せになってしまうのが未来。これから琲世くんが行く臨海学校で必ずしも安全に過ごせるとは限らないんじゃない?」

 

「...」

 

突然刀奈さんがどこか真面目さがある話を始め、僕は彼女の話を遮ることなく沈黙していた。

刀奈さんが話す内容は『気にしすぎる』と言えるが、妙に『確かにそう思える』と納得がいってしまう。

一言で心配性とは言い切れない。

 

「だから、琲世くんが良琲世くんにおまじないをしたの。無事に帰れるようにねと」

 

「...わ、わかりました」

 

「て、その返事の感じ、わかってないじゃない!」

 

全く理解してきれてない僕の返事を聞いた刀奈さんは空気で漂わせていた真面目さが消え、いつもの子供じみた性格に戻った。

 

「いや、そんなことを急に言われても...」

 

「まぁ、時間が経てばわかるかもね。ほら、ラウラちゃんが待ってるわよ」

 

「わ、わかりました...では、刀奈」

 

「あ、今、私の本名を言おうとしたでしょ!」

 

「す、すみません、楯無さん。い、行ってきます...」

 

「はい、いってらしゃい♪」

 

コロコロと状況を変えていく刀奈さんに少々戸惑った僕はそう言うと、刀奈さんがいた部屋から出て行った。

 

その時の僕はまったくわからなかった。

刀奈さんがどうして突然抱きつき、そしてあの話をしたのか。

あの行動が単なるからかいの一種だなんて、非常に考えにくい。

 

 

僕はそう思いながら、ラウラさんが待っている寮の玄関口に向かった。

 

 


 

それから寮の玄関口に辿り着いた、僕。

 

「遅いぞ、琲世」

 

「ああ、ごめんね。ラウラさん」

 

玄関にたどり着くと、ラウラさんがだいぶ待っていたぞと言わんばかりに仁王立ちして待っていた。

 

「まったくだ。食堂の時はちゃんと来たのに、出発前には遅れるとはどう言うことだ?」

 

「遅れていた?そうかな...?」

 

僕はラウラさんの言葉に疑問に感じ、時計を見ると彼女が決めた集合時間には間に合っており、5分前までには集合はできていた。

おそらくラウラさんの体感では時間が長く感じたのだろう。

「特に遅れてはないけど...?」と僕は言葉を返すと、ラウラさんは「それはそうだが....ほら」となぜか手を広げた。

 

「...なんですか?」

 

「ほら...あれだ。あれをやれ」

 

「あれ...?」

 

「あれだ!あれ!」

 

『あれあれ』と言われてもわからないが、何をしたいかはなんとなく想像がついてしまった。

僕は恐る恐る「もしかして...ハグ?」と小声で聞くと、ラウラさんは小さく頷いた。

 

「いや、それはやらないよ!?」

 

ラウラさんの行動に何人かの女子が『あれってもしや?』とこそこそと話し始めており、さらにやりづらい状況ができていた。

こんな状況で抱きつくわけがない(周りに人がいなかったとしてもやるつもりはない)。

なかなかハグをしない僕にラウラさんは痺れを切らし「いくぞ」と僕の袖を引っ張った。

 

「なんでお前はやらなんだ。私たちは...ぱ、Paarだろ...!」

 

「ぱ、Paarなのかな...?」

 

「なぜ疑問を持った様子で言うんだ!?」

 

いやいや、そもそも僕は認めてはいないからね!?

なお、Paarとはドイツ語でカップルの意味である。

 

「それにしてもなぜ遅れたんだ?もしかして同室の者となにかしたのか?」

 

「なにかって...いや、そもそも先に授業に行っていたから、誰もいなかったよ」

 

嘘です。本当のことを言ってしまえば、間違いなく問題に発展しかねないため、ここは敢えていなかったとする。

なおラウラさんは僕に偽りの発言に疑うことなく「先に授業?じゃあ、琲世と同室の奴は誰なんだ?」と聞いた。

 

「えっと...更識楯無さん」

 

「更識楯無?」

 

「僕たちより一つ上の2年生で生徒会長なんだ。織斑先生の指示でその人といるんだけど...どうしたの?」

 

するとラウラさんは「ん...」となぜか納得のいかない顔をしていた。

 

「いつもお前の部屋に来るたび、お前以外生活している者の気配が感じられなんだ」

 

「ああ、そうなんだね...」

 

これはラウラさんだけ当てはまることではないが、なぜか刀奈さんは一夏くんたちの前には現れない。

いつも僕に相談に乗ってくる(どちらかと言えば愚痴を吐きに来ている)セシリアさんや鈴さんにも同じく言われ、僕の部屋で刀奈さんを見たことある人は未だにいない模様。

 

「とりあえず僕は持っていく荷物の最後の確認をしていたよ。念には念をと」

 

「そうなんだな...それで琲世...バスの席のことだが...」とラウラさんはどこか恥ずかしそうに急に話題を変えた。

 

「バスの席?」

 

「お前と隣の席に座りたいがーーー」

 

「あ、それは無理だよ」

 

「は?」

 

恥ずかしさがあったラウラさんは僕の返事に表情が一変し、「拒否するな」と言わんばかりに圧力をかけてきていた。

 

「どうしてなんだ?バスの席は自由と言ったのではないか?」

 

「い、いや...これは織斑先生の指示で、一緒の席に座れないよ」

 

「織斑教官が...?」

 

千冬さんの名が出た瞬間、反感的な態度が一瞬にして冷めてしまった。

僕と一緒に座るのはもちろん一夏くんだ。

 

「そ、そうか...教官の指示なら仕方ないな...」

 

ラウラさんはシュンっと落ち込んだ。

 

 

このままラウラさんに何も言うことなくバスに乗り込んでしまえばいいだが、その時の僕は違った。

 

「座る席が別でも問題ないよ?」

 

「...?」

 

「離れていても気持ちは冷めることないし...あとは...あ」

 

僕はハッと気づきいて口を止め、「あ、言ってしまった」と微少ながら後悔をしてしまった。

 

「なら...さっきのやってくれ」

 

「え?」

 

ラウラさんはそう言うと段差のある縁石の上に立ち、『早く抱きつけ』と顔を少し赤くしながら手を広げた。

 

「な、なんで...?」

 

「ほら、今誰も見えないところだろ?」

 

「....」

 

ラウラさんの言う通り、今は誰もおらず、抱きつきのは今しかなかった。

 

「わ、わかったよ...」

 

僕は半分諦めた様子ですっと手を広げると、ラウラさんから抱きついてきた。

 

「「....」」

 

それにしても女子ってなぜこんないい香りを出せるのだろうか?

僕はある程度良い香りを出せるように地道に試しているのだけど、中々女子のように香りを出すのはできていない。

 

「なぁ、琲世」

 

「ん?」

 

「楽しみにしているか?」

 

「...何が?」

 

「私の....水着に...?」

 

「み、水着...?」

 

耳元から聞こえたラウラさんの言葉に間抜けな返事をしてしまった。

 

「ま、まぁ...楽しみに...してる...かな?」

 

流石に楽しみにしていないと言ってしまえば、僕の背中にナイフの刺し傷が生まれかねないため、そう言わざる負えなかった。

「そうか...」と言うとラウラさんはわずかにぎゅっとに僕の体に身を寄せた。

 

「なぁ、琲世」

 

「...なに?」

 

「...あ、頭を...撫でてくれないか...?」

 

「頭を...?」

 

「...そうだ」

 

僕は周りに誰かいないか確認をし、「いいよ」とそっとラウラさんの頭を撫でた。

撫でてわかることはラウラさんの白銀の髪は引っかかることなくサラサラとしていた。

ただ頭を撫でているとは言え、髪の毛一本一本が丁寧に手入れしているとわかってしまう。

 

「...琲世」

 

「...何?」

 

「このままキスを」

 

「それはダメ」

 

「....」

 

キスという言葉を聞いた瞬間、僕はキッパリと断った。

いい流れになったとは言え、流石にその行動に移すのは無理。

もし僕の理性が保ってなかったら、おそらく断ることはできなかっただろう。

しばらく沈黙した後、ラウラさんは僕からパッと離れ「ほら、いくぞ」と舌打ちした。

僕の顔を見ずに僕の袖を引っ張るラウラさんは表面上は不満そうな様子だったけど、どこか嬉しそうな雰囲気はあった。

 

 

それからバスに乗り込むときにセシリアさんと鈴さんは『また変なことをしたな』と僕を殺意のある目で見ていたことに気づいてしまった。

二人は僕とラウラさんが二人でいたことを実際に見ていないはずなのに、なぜかその場にいたかのように僕を『あとでしばくぞ』と見ていた。

これがいわゆる女の勘というものだろうか。

 

僕は「またやらかしてしまった」とため息をした。

 

 





次回は3月18日(木)12時以降となります。


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根拠のない不安

根拠のない不安。

別に現実に起こるわけではないのに、なぜか起きてしまうのではないかと考えてしまう。

起きる根拠はないけれど、起きない根拠は存在しない。

これが非常に厄介だ。


旅館に到着後のこと。

旅館の女将さんに挨拶を終え、その後女子たちは自分たちが寝泊まりする部屋に向かったのだが...

 

「なぁ、琲世」

 

「ん?」

 

「俺たちの部屋はどこかわかるか?」

 

「いや、全く。織斑先生の元に来いとしか聞いていないよ」

 

「千冬姉の元か?」

 

僕と一夏くんだけはどこの部屋で寝るのか知らされておらず、何をしていいのかわからない状態だった

 

「まさか俺たちは部屋じゃなくて廊下で寝ろとか言わないだろうな?」

 

「廊下って...この旅館は結構広いから、そんなことないと思うんだけど...」

 

僕たちが泊まるこの旅館は団体客に対応した旅館であり、僕たちがこの旅館に泊まっている間は他のお客さんを入れないらしい(この情報は刀奈さんから頂いた)。

とりあえず山田先生から「織斑先生の元へ」と聞いておらず、僕たちは先生が指定した場所に向かった。

指定した場所は本館と別館の連絡路で、僕たちがその向かうと「来たな、お前ら」と千冬さんの姿があった。

 

「えっと...織斑先生。俺たちの部屋はーーー」

 

「今からお前らの部屋に向かうから、黙ってついてこい」

 

千冬さんの言葉に「は、はい...」と言及することなく黙ってしまった、一夏くん。

これ以上変に聞いてしまえば、何が起きるかは想像がついてしまうと察したと思う(例えば腹部に拳が来たり...)。

それから僕と一夏くんは千冬さんに付いていくと、本館と別館の連絡路の間に『教員用』と書かれた張り紙が貼ってある看板が立っていた。

看板に気づいた僕は「あれ?織斑先生。この看板に教員用と書いていますけど?」と千冬さんに聞くと。

 

「ああ、お前らはこれに従うな。この先にはお前らが泊まる部屋がある」

 

「この先にですか...?」

 

「ちょうど本館から独立した部屋がある。廊下は一つしかない場所だ」

 

「通路が一つって...もしかして、僕たちを監禁ーーー」

 

「きっとお前らの元に女子どもがやってくるだろうから、離れた場所に用意したのだ。なのに、監禁と言う表現を使うとは、良い度胸だな、佐々木琲世。織斑と同じことをされたいか?」

 

「...はい。すみませんでした」

 

少し冗談を言ったつもりが空気は和むことなく、張り詰めた空気になってしまった。

やはり千冬さんに冗談を言ってはいけない。

そして僕だけ刃が向けられているのに隣の一夏くんは僕と同じく刃を向けられたかのように緊張した様子をしていた(やはり昔から千冬さんと一緒にいたから、体が無意識に覚えているかも)。

 

「女子どもが来ないよう私はお前らがいる部屋の隣にいるからな」

 

僕たちが泊まるであろう部屋のちょうど横の部屋に指をさした、千冬さん。

つまり変に騒ぐようなことがあれば、即座に千冬さんからの制裁が来るということだ。

そして千冬さんは「ほら、お前らが泊まる部屋だぞ」と僕たちが泊まるであろう部屋の襖を開けた。

一体どんな部屋に入るのだろうかと不安と緊張が混じった感情で襖を覗くと、部屋の中を見た瞬間、感情が一変した。

 

「なんだよこの部屋は!?」

 

僕たちが利用するのは人権を剥奪された者が入るような部屋ではなく、男子高校生が利用するのに十分贅沢な部屋だった。

どう言った部屋かというと、絶好の景色のために作られた部屋と考えさせられるほど海の良い眺めが見れ、浴室やトイレ、手洗い場が各部屋に別れており、しかも浴室は贅沢にヒノキを使った風呂であった。

 

「この部屋はこの旅館では最上級の部屋だ。例年だとこの部屋は使わんが、今回は特別に用意してくれた」

 

「えっ!?そうなんですか!?」

 

千冬さんの言葉を聞いた僕はなんだか申し訳ない気持ちになってしまう。

いくらISを使える男二人とはいえ、そこまで特別に扱わなくてもいいのにと。

 

「だが、いくら最上級の部屋だかたといって何か騒ぐような真似をしたら、タダじゃ済まさないからな」

 

千冬さんは忠告をするようにギラリと僕たちを見て、僕と一夏くんは緩んでいた気持ちが引き締められるように「は、はい」と緊張で震えた口で返事をした。

 

「ではお前らは今すぐ海で遊んでこい。明日は遊ぶ暇などないからな」

 

「わ、わかりました...」

 

千冬さんは「私は先生たちとの話し合いがある」と言い、部屋から出て行った。

千冬さんの足音が遠くなり、やっと聞こえなくなったとわかった瞬間、僕たちは緊張から解かれため息をした。

 

「琲世が千冬姉に冗談を言うなんて、めずらしいなぁ。マジで殴られると思ったよ」

 

「珍しい?たまにやるけど、返ってくる返事は背中が....」

 

千冬さんの話をした僕だが、襖の先に千冬さんがこっそりと聞いているのではという恐れがふと頭に浮かんでしまい「...背筋が冷たくなるような事ばかりだよ」と声を小さくしてしてつぶやいた(実際はいないと信じたい)。

なお一夏くんには僕と千冬さんはIS学園に入学する前に知り合っているとは言ってはない。

とりあえず気を取り直して荷物を整理しようとした時「なぁ、琲世」と一夏くんが何かひかかったような顔をしていた。

 

「ん?どうしたの?」

 

「さっき千冬姉が明日は遊ぶ暇はないと言ったんだが、明日は何をするんだ?」

 

「一夏くん...聞いてなかったの?」

 

どこかのお笑い番組の一面のようにガクッと体が地面に転がり落ちそうになった、僕。

もし千冬さんが前にいたら、間違いなく拳が来るよ?

「まぁ、仕方ない」と僕はため息をし、明日の予定を説明することにした。

 

「明日は装備試験運用とデータ取りだよ。予定だと明日の午前中から夜までやるよ」

 

「夜までか?て言うことは丸一日かよ...結構長いなぁ」

 

「うん。特に専用機持ちはさらに長引くみたい」

 

「まじかよ...」

 

一夏くんはそう言うと大きくため息をした。

とは言っても一夏くんの場合は他の専用機持ちと比べて装備が少なくデータを取るべきことは少ないようだけど、あくまですんなりと終わらせればと言う話。

何か変なことがなければいいのだけど...

 

「て言うことは、琲世は出るのか?」

 

「僕?」

 

「琲世も専用機持っているよな?」

 

「まぁ...出ることになってるよ。なるべく外部に知られない程度にね」

 

表上は専用機を持っていない僕。

かと言って専用機持っていない子と一緒に校外実習をしても仕方ないため、"表面上"専用機は持っていない僕は一夏くんと同じ男子であるため、専用機持ちと参加することになっている。

一応、一年生の専用機持ちの人は僕がISを所持していることは知っているため(大体はトラブルが起きた時に見ている)、僕が専用機を持っていることに驚くような人はいないはず。

 

「琲世の場合、どんな感じでデータを取るんだ?」

 

「どうやってデータを取るのか聞いていないよ。一夏くんも同じだよね?」

 

「俺か?まぁ...何も聞かれてないからわからんなぁ」

 

「そうだよね...」と少し肩を落としてしまった、僕。

明日の校外実習でやることがわからず、妙に不安にかられてしまう。

僕はその不安をどうにか和らごうと明日は何をするのか考えていると、「そのための今日じゃないか?」と肩に手を置くように一夏くんは話した。

 

「そのための今日?」

 

「別に変に明日のことを考えても仕方ないだろ?いくら考えたとしても、予定が変わるかもしれないし、あと今日は十分に遊ぶ時間だってあるから、その時間を悩みで消すのは勿体無いだろ」

 

「...そんな感じに考えればいいかな」

 

一夏くんの言う通り、変に先のことを考えても仕方がないことだ。

明日の予定をいくら考えたとしても、予想したことが必ずしも的中するわけがない。

それに僕は変に一人で考えていたが故に、無駄に悩んでしまっていた(例えば急に故障や事故などのトラブルが起きたりなど)。

どこかで聞いた話だけど、悩んでいる時は他の人に話した方がいいと聞いたことがある。

その理由は一人で考えていると問題を客観的に見ることができず、ありもしない出来事を含んで考えてしまい、無駄に悩んでしまう。

しかし自分が抱いた考え事を他の人に話してみると、意外と深く悩むような考え事ではないと気付かされる。

やはり僕だけで考えていたら、おそらく海水浴に行けず悩み続けていたのだろう。

 

「というか琲世と部屋に入って思ったんだけど...」

 

「ん?」

 

「俺たちが一緒の部屋になるの、これが初めてじゃない?」

 

「あ、確かに」

 

言われてみれば、IS学園に入学して一夏くんと同部屋になるのは初めてだった。

その気づきのせいか、一夏くんと一緒の部屋に入ってから違和感というものを感じていたことに気づいた(異性と過ごしたせいか?)。

 

「別に俺たちだけでも部屋を一緒にしてもいいはずなんだが..なんで一緒にならないんだ?」

 

「さあ...なんでだろうね...」どこかとぼけた様子でつぶやいてしまった、僕。

この状態にさせているのは約9割が刀奈さんが絡んでいると言えばいいだろう。

あの人は何かと特権濫用しているからな...

 

「と、とりあえず...海に行こうよ。みんなが待っているかもしれないし」

 

「ああ、そうだな。さっさと海に行こうぜ」

 

「うん、そうだね...」

 

僕たちは部屋から出る準備をし始めた。

 

 


 

 

それから一夏くんより先に部屋から出た、僕。

僕は一夏くんよりも先に水着を着替え(流石に海までそこそこ距離があるため、水着の上にはシャツを着ている)、一夏くんが「先に行ってくれ」と言われ、部屋から出た。

決して一緒にいるのが耐えきれずに部屋から出たのではない、

 

(そういえば...ラウラさんは結局どんな水着を選んだのだろう...?)

 

ふと思い出したのだが海に行くということは、ラウラさんの水着を見えることになる。

流石にラウラさんはスクール水着を選んだわけないと思うが、彼女を思い出したせいか彼女の選んだ水着が気になってしまった。

体格的には大人っぽい水着は選びそうにないが...果たしてどんな水着を見せるだろうか?

ラウラさんの水着をことを考えながら移動し、ちょうど廊下の突き当たりに足を踏み入れた時、人影を察知した。

 

「っ!」

 

僕が察知した瞬間、足をぴたりと止めると、ちょうど廊下の岐路に人が立っていた。

立っていたのはIS学園の制服を着た女子生徒であり、黒長髪でポニーテールをした人物。

篠ノ之箒さんだった。

 

「「...」」

 

廊下の岐路に会った僕と箒さんだが、お互いの間に数秒間沈黙が流れた。

まるで友達の友達にばったりと出会ってしまい、何を話せばいいのかわからない状況に近いものだった。

お互い返事をすることなく、箒さんから返事をする気配を感じられない。

そう察した僕は自分から「あ...どうも、箒さん」とぎこちなく挨拶をしたのだが...

 

「.....」

 

箒さんは返事をすることなく、どこか拒絶しているかのように僕を見ている。

気まずさを察してしまい、「あ...えっと...」と次の言葉を考えていたら、「あれ?箒か?」と僕の後ろから一夏くんがちょうどよくやってきた。

一夏くんが姿を表すと箒さんは僕から一夏くんに視線を向けると「...ああ、一夏か」と沈黙していた口が開き、一夏くんだけに目を向けていた。

 

「なんだ、まだ海に行っていないのか?」

 

「...今から更衣室に向かっていたところだ」

 

まるで僕の存在がなかったかのように会話をする箒さん。

一夏くんと話している箒さんの姿は先ほど僕と会った時より、どこか明るさがあり、目つきは優しかった。

今思えば、最近僕と箒さんとの間に溝が生まれている気がする。

原因はわからないが少なくとも言えることは、彼女から溝を作っているような状況であると言える。

 

「一夏は今から海に向かうのか?」

 

「ああ、そうだ。今から()()と行くところだ」

 

「そうか...」

 

琲世という言葉が出た瞬間、優しかった箒さんの目が後ろめたさがある目へと変わった。

 

「よかったら一緒に行かなーーー」

 

「結構だ」

 

箒さんは一夏くんの言葉を遮り、キッパリと断わった。

そして箒さんは苛立ちを抱きながら僕たちの前から去り始めた。

「おい、箒」と一夏くんが返事をした時、箒さんはあっという間に僕たちの前から去ってしまった。

 

「たく...なんだよ...今日はなんか不機嫌だな...」

 

「え...?今日は?」と僕は一夏くんの言葉に違和感を覚えた。 

 

「ああ、いつもの箒はあんな態度をしないが...どうした?」

 

「いや、最近箒さんから避けられているような感じがあって...」

 

「避けられている?琲世に?」

 

僕の言葉に意外さが混じった驚きをした、一夏くん。

どうやら先程の箒さんの態度は一夏くんには見せないらしく、先程の様子は僕にしか見せないらしい。

 

「僕は彼女に何か悪いことをした記憶はないのだけど...」

 

「そうか?それだった俺もあるぞ。この前なんかは、なぜか強く蹴られたんだが?」

 

「そ、そうなんだ...」

 

どこか引いてしまった様子で答えてしまった、僕。

内容は知らないが、それは一夏くんが唐変木だから攻撃をされていると思うんだけど...?

 

「まぁ...でも、そこまで気にしなくてもいいよ。多分箒さんは箒さん自身の問題あるかも」

 

「箒自身の問題...」

 

一夏くんは何か心あたりがあるような様子で考え始めた。

彼のその姿を見た僕は何か触れてはいけない話題に触れてしまったと察し、これ以上問題を触れさせないよう僕は「ところで...一夏くんは箒さんとは幼なじみだったんだよね?」と話題をそらした。

一夏くんは「ん?あ、ああ、そうだな」と最初は話題の振り方に違和感を覚えたような様子だったが、「あいつとは小学校からの仲で、小4年の時に離れたんだ」と違和感に指摘することなく話題に移ってくれた。

 

「小学校から付き合いがあるんだ...」と一夏くんに変に思われないよう相槌を打った、僕。

一夏くんが言ってくれた話は千冬さんから既に聞いた話であるが、僕が聞きたい話はその先にあった。

 

「それでなんだけど...一夏くんは箒さんのお姉さんである束さんと会ったことある?」

 

「ああ、会ったことある。あの人は箒とは性格が大きく違って子供っぽい性格だったよ。でも最後に会ったのは小学校の時だから、今はどうしているかわからんな」

 

「そうなんだね...」と少しトーンを下げた返事をした、僕。

 

なぜ僕が一夏くんに篠ノ之束のことを聞いたのか?

それは彼女とは直接会ったことはないけれど、ここ最近どうも嫌な予感がするのだからだ。

彼女のことは僕がこの世界に降り立った時に有馬さんや千冬さんから知ったのだが、最近彼女の名を聞くたびに胸騒ぎがしてしかたがない。

そして彼女の名を聞くたびに『もしかしたら、僕は篠ノ之束と関係があるのではないか?』と根拠のない思い込みを考えてしまう。

彼女とは関係があるなんて証拠はないけれど、逆に彼女とは関係がないという証拠はない。

 

 

もし彼女と出会ってしまったら、彼女はどんな様子で僕を見るのだろうか?

 

 

しばらく考え込む僕に一夏くんが「なんだ?束さんに何か用なのか?」と疑問を持った顔で聞いてきた。

 

「いや...なんでもないよ。というか、早く海に行こうよ。みんなも待っていると思うし」

 

またしても話を逸らした僕だが「ああ、そうだな」と一夏くんは篠ノ之束さんの話を言及することなく、海に向かった。

海に向かっていた僕は頭に現れたよからぬ予感をどうにか打ち消そうと一夏くんと会話することなく、黙ったまま海に向かった。

 

 

せっかくの臨海学校の初日を、根拠のない不安で潰されないように、と。

 

 

 

 

 




今週かなり投稿が遅れて申し訳ございません。

今回は執筆のモチベーションがわかなかったため、投稿が遅れました。

次回は早めに投稿ができるよう努力をします。

なお大変申し訳ございせんが、今週投稿予定の東京喰種:re cinderellaは投稿が遅れる見込みですので、この場を借りて謝罪をします。

最後になりますが、前回の投稿で急激にアクセス数が上がったことに驚きました。
コメント、感想をお書き頂いたら、ありがたいです。
お時間があればお願いします。


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