須賀京太郎と彼女(仮) (みっくん)
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原村和の場合
原村和の場合①


原村和は自分で認めるレベルの人見知りである。

そんな彼女だが、目の前で如何にも何かありましたって顔をしている人を見かけ素通りする程冷酷な人間ではない。

珍しく、本当に珍しく彼女から知り合いでもない人に声を掛けたのだ。

例えそれが苦手とする男性だとしても。

 

「あの、なにかありましたか?良ければ聞きますが……」

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

授業終了を知らせる鐘が校内に鳴り響く。それを教室で聞いた俺は授業で使用した教科書やノートを仕舞い弁当箱を持って教室を飛び出す。

今日は彼女と一緒に飯を食べる約束をしていた。気持ちが行動にも表れてしまったのか少し早足になりながら屋上を目指す。

 

俺が通う清澄高校は昼休みの時のみ屋上が生徒たちに開放されている。屋上へと続く扉を開けると風に吹かれる。

 

「気持ちいい風だな」

 

思わず声に出してしまうほどに心地が良い風だった。季節はそろそろ夏になる。最近少しずつ温度が上がってきており授業中に下敷きなどを使って仰いでいる人を見る回数が増えてきた。

 

丁度いい日陰を見つけるとそこにブルーシートを敷く。俺一人なら直に座るのでも構わないが彼女 和もいるので必需品だ。

 

「京太郎君。お待たせしました」

 

ブルーシートに腰を下ろして少しすると和がやってきた。

 

「俺も来たところだよ。それよりも飯にしようぜ」

 

「はい」

 

俺の隣に和が腰を下ろす。二人とも弁当を開くと食前の挨拶をする。高校に入ってからは何か特別なことがない限りは彼女と一緒にお昼と食べている。

 

今日の弁当は唐揚げをメインとしたものだ。唐揚げは昨日の夕食で多めに作られた残りだったりする。他にはポテトサラダに大根と油揚げの煮物。基本的に俺の弁当は昨晩のおかずで構成されている。何もない場合は朝早く起きて作ることにしている。

 

和は食事中に喋る人間ではないので二人して黙々と食事を済ませる。

空になった弁当を風呂敷に包むと一息を吐く。

 

「今日は紅茶を入れてきました。まだ少し熱いので冷まして飲んでください」

 

「おっ、紅茶か。ありがとう」

 

魔法瓶から出てきた紅茶はまだ湯気が出るほどには温かい。最近熱くなってきたが紅茶は温かいほうが好みなので有難く頂戴する。

 

息を吹きかけ熱を冷ましていく。そんな俺の姿が面白かったのか和がクスクスと小さく笑っていた。

 

「何で笑うんだよ」

 

「いえ、京太郎君の見た目からすると可愛らしく見えたので」

 

「俺の見た目?……あー、何処から見ても不良っぽいもんなぁ」

 

「その金色の髪の毛、地毛ですもんね」

 

「そうだよ。なのに先生ときたらその髪染めてだろ、直してこいとか入学式の日に言いやがってさぁ」

 

金髪な上に筋トレなどの成果である筋肉、そこそこの身長のせいでよく不良と間違われる。勿論そこら辺のチンピラに腕っぷしで負けるような軟な鍛え方はしていないが。

 

楽しい時間というものは直ぐに終わってしまう。

屋上の壁に設置されている時計に目をやるとあと5分程で昼休みが終わるという頃だった。

 

「おっと、そろそろ終わりだな。教室に戻りますか」

 

「そうですね」

 

二人して荷物をまとめ屋上を後にする。

彼女とはクラスが違うので途中で分かれる。まぁ、放課後にはまた会えるのだが。

 

放課後となり掃除当番の仕事を早めに切り上げて部室へと向かう。

今日は部長が会議で出席できないから5人での活動となる。俺の入っている部活は麻雀部だ。

1年半ほど前から始めて、最近になって勝率が上がってきた。

 

「こんちわー」

 

挨拶をして部室へと入る。どうやら既に俺以外は揃っていたらしく全員が雀卓に座っていた。

 

「こんにちわ。京太郎君」

 

「おそいじぇー犬」

 

「掃除当番だったんだから仕方ないよ優希ちゃん」

 

「先に人数揃ったから始めとったわ」

 

手を止めずに挨拶を返してくれた。今は対局中なので俺は部室に設置されているPCを起動する。ネット麻雀をすることにした。

 

麻雀をする人間は大きく2種類に分けることが出来る。デジタル型かオカルト型の2種類だ。

デジタル型は場を見る能力や相手の上り牌をきっちり見き分けていく。オカルト型は感覚で動く。

オカルトとは簡単に言えば超能力だ。特定の牌を自分に集めたり未来を見たりとありえないことが出来る。

かくいう彼もオカルトに近い能力を持っている。彼のそれは直感とも呼ぶべきものが並の人間よりも鋭い。彼が麻雀をスポーツと同じように見ているからなのかもしれないが、彼は時々思い切った行動や完全に的外れの行動をとる。局地的に見れば不自然だが、結果的にみるとその動きが後々活かされるのだ。

しかし彼は師のせいかデジタル型を基本としている。彼のそのスタイルは同年代の者には少なくプロに近い。プロの事は別の機会に話そう。

 

ネット麻雀を1局終えると皆も終わっていたようで休憩をしているようだ。

 

「結果はどうじゃった京太郎?」 

 

副部長の染谷まこさんが声を掛けてきた。まこさんとは入学よりも前からの縁である。

彼女の実家は雀荘を営んでおり、そこにたまたま訪れた時からの縁なのだ。

 

「なんとか1位を守り切りましたよ」

 

「おお、流石じゃの」

 

彼女と喋りながら席の空いた雀卓の椅子に座る。どうやら優希が飲み物を買いに出て行ったようだ。

 

「和、一局しないか?」

 

「ええ構いませんよ。咲さんとまこさんは?」

 

「うん、私も大丈夫だよ」

 

「わしもじゃ」

 

彼女たちの了承を得ると意識を切り替える。

 

 

 

対局が終わった頃には日が暮れていた。流石に今日はもう終わりだと皆で片付けをする。

最期にカギをまこさんが閉めるとそこで解散だ。

 

「あっ、京太郎君。少しいいですか?」

 

「別に構わないが……どうした?」

 

「いえ、今日の対局を振り返って反省会をうちでしようかと思ったのですが。お時間大丈夫ですか?」

 

「大丈夫だな。じゃあ、帰りは和の家寄っていくか」

 

「はい」

 

彼女の家にはすでに何回も訪れている。理由は全て麻雀関係だったりする。いや、休日遊びに行く時もあったから全てではないか。そう考えながら彼女と共に帰路に付く

 

 





実写じゃあ、京ちゃんの意思を紙が継いだようですね。

影が薄いってレベルじゃねえな京ちゃん。なのにCV福山という。


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原村和の場合②

久々ののどっち


 

彼と私が出会ったのは中学2年生の夏の終わりでした。

 

母からのお使いで夕飯の材料を買った帰り、公園を通ってショートカットしようとしたら顔に影を落としているところに声を掛けたのが切っ掛けでした。

話を聞いてみるとこれまでやってきたスポーツが出来なくなってしまって全てがどうでもよくなったそうです。なので私は私が一番得意な麻雀を彼に教えてあげることにしました。

初対面なはずで苦手な男性にも拘らず私らしくない積極さで彼に指導することに。

最初こそ彼は戸惑いながら麻雀を始めてましたが、途中からは熱心に取り組み始めた彼。

急にやる気になったことを聞いてみると、自分のしてきたスポーツの駆け引きに似てるとの事だそうです。

 

肌が焼けるのかと思うほどの熱気が会場を包み込んでいる。今日は男子の部個人戦の1回戦だ。既に昨日女子の団体戦の本戦1回戦が行われたため、観客らのテンションも高まっている。

 

麻雀を始めてこの夏でそろそろ2年。まさか全国と戦うことが出来たとは……

麻雀を教えてくれた和に感謝だな。適度な緊張感を保つことが出来てるようで俺も本来の調子が出せそうだ。そう俺の直感がある。

俺のオカルトである直感は日常でも効果を発揮する。直感と試合中は呼んでいるが日常でも効果を作用するので、そう考えるとなると予知の能力も含まれている。

 

試合開始までまだ1時間ほどあったので部長に外の空気吸ってきますと告げ、会場の外に出る。

夏の日差しが降り注ぐ。正直熱くて嫌になるが、試合開始前までなら耐えきれる。

 

「結構緊張してるな。大会に出るのも2年ぶりだし……」

 

俺こと須賀京太郎は中学2年生の夏まではハンドボールをやっていた。自分で言うのもなんだが、俺はチームでエースをやっていた。俺がエースなのだから皆を引っ張らなければと思ってしまい、試合中に無茶をした結果、選手復帰は難しいと医者に診断された。

その後1月の間抜け殻のように過ごしていたが、公園でボーっとしてたら和と出会い、麻雀とも出会ったのだ。

 

「さて、そろそろ試合か。うし、行くぞ」

 

昔の事を考えていたらいつの間にか試合開始時間が迫っていた。少し早足で選手待機場に向かう。

 

★★★★★★

 

ふぅー、何とか初戦敗退とか言う事態は避けられた。

対局は雀卓に座れる4人で行われる。最終的に順位が一位と二位の人物が抜けることとなる。準決勝まではそのルールで行われ準決勝では一位の人のみが抜けることとなる。

 

試合で汗かいた分の水分を、持参していた水に口をつけることで取り戻す。

思った以上に汗をかいたようだ。

ペットボトルの中の水が半分を切ってしまった。万が一無くなったら困るので自販機に買いに行く。

 

自販機でどの飲み物を買おうか悩んでいると声を掛けられた。

 

「君は確か……さっきやってた須賀君だっけか」

 

「え?あ、はい」

 

「私は藤田靖子というものだ。先ほどの試合での君の闘牌中々良かったよ。オカルトも上手く扱えるようになれば君の勝利率も格段に上がるだろう」

 

「そうですか?このオカルトに目覚めてから日が浅いもので」

 

「そうか……君は清澄だろう?なら久がいるのか。うむ、決めた。君さえよければ暫くの間私と雀荘巡りでもしないか?これでも私はプロだ。顔は広いつもりだよ」

 

「え!?プロの方だったのですか。すみません、あまり知らなくて」

 

「いや、構わないさ。君は男子だろ?女子の方が人気の競技と言えど、違う部のほうまでは調べないものさ。それよりどうする?」

 

「えっと……よろしくお願いします!」

 

「うん、いい返事だ。元気な子は好きだよ私は。今日は無理そうだが、後日連絡を入れるから電話番号を交換といこうか」

 

「はい」

 

藤田さんと赤外線で電話帳を交換をした。

 

「それじゃあ、午後の部も頑張れよ」

 

「はい。ありがとうございました」

 

「構わないさ」

 

そう言い残し藤田さんは帰っていった。

というかマジか。プロの方に練習に付き合ってもらえるとか夢のようだ。




のどっちという割にはかつ丼さんの方がメインになってしまった。

京太郎にも師匠ポジのキャラが出来ました。

他のヒロインの場合もあるかも?


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原村和の場合①(別ver)


お久しぶりです。アンケートで集まったキャラを書こうと思い、書いては消して書いては消してを繰り返していて遅くなりました。
結果的に家族系から案が出てきた和を書きました。


★は視点切り替え
☆は時間経過 です。


 

「京太郎、母さんね再婚しようと思うの」

 

「俺はいいと思うぜ。というか高校まで面倒見てくれたんだから、ここから先は母さんの幸せを優先していいと思う」

 

「和。遅くなったが、父さん再婚をしようと思っている。母さんの実家にはすでに連絡は入れてある」

 

「私は構いません。お父さんにも自分の人生というものがあるでしょうし」

 

「それで明日、相手の人の家族と思うの京太郎も来てくれる?」

 

「急な話だが明日、和の学校が終わった後に相手の家族と会う話になっている。すまないが、来てくれないか?」

 

★★★★★

 

「すみません、部長。今日は家の用事があるので部活に参加できません」

 

「あら、そうなの。じゃあ須賀君には後日別に練習付けてあげるわ」

 

「ありがとうございます。では失礼します」

 

麻雀部の部長である竹井先輩に断りを入れて部活を休む。教室に戻り、自分の机の上に置いておいた鞄を手に取ると急いで教室を後にする。

 今日は母さんの再婚相手の家族と会う事になっている。昨日の夜に神妙な顔をしていた母さんから聞き、驚いたものの不思議と反対の言葉が出てこなかった。

 うちの家族は父を俺が幼稚園の頃に交通事故で亡くしている。幼い頃なので父親との記憶は残念ながらほとんど残っていない。その分、母がきっちりと育ててくれたので親からの愛情はしっかりと感じている。

 ここだけの話だが、大学は東京に一人暮らしでもしながら通おうと思っている。その時の生活費を高校に入ってからアルバイトで稼いでいる。

 母さんには幸せになってほしい。そう思いながら、待ち合わせ先である喫茶店へと早歩きで歩を進めた。

 

★★★★★

 

「すいません部長。今日は父と出かける予定でして、部活に参加できそうにありません」

 

「え?あ、そ、そう。分かったわ。和には宿題を後でメールで出すわ。それを明日じゃあアレだし……今週末にでも出してくれたらいいわ」

 

「わかりました。すいません、お先に失礼します」

 

 部室を出る前にもう一度頭を下げると急ぎ足で目的地へと向かう。今日は父の再婚相手となる人の家族と会う事になっている。目的地は喫茶店だ。駅前に丁度いい感じのお洒落な喫茶店があるらしく、そこで落ち合う事となっている。

 母は私が幼いころに交差点を歩いていた子供を守るためにトラックに轢かれ亡くなったらしい。というのも幼い頃過ぎて朧気でしか覚えていない。

父は滅多に母の事を口にしない人だ。

 だからこそ昨晩は驚いた。酒が多少入っていたこともあるが、父から再婚するという言葉が出るとは思わなかった。

 考え事をしながら歩いていたら目的地に着いたようだ。

 

★★★★★

 

「二人が用事とはねぇ……邪推するのも良くないとは思うんだけど」

 

 手に持っていたシャープペンシルをクルクルと回しながら竹井久は悩む。

先程、自身が部長を務める麻雀部の部員が二人ほど休むと言ってきたのだ。今年の夏に掲げていた目標であった全国優勝を達成したこともあり、少しやる気が落ちたのだろうか。しかし、二人はそういうタイプには見えない。……となると、

 

「やめやめ。私は邪推するのではなく、弄る側よ。其処を忘れちゃダメ」

 

 ぼそりと呟くと、部活の引継ぎに関する書類に目を戻した。

 

★★★★★

 

「こっちよこっち」

 

 母さんが俺を手招いてるのが入口から見える。店に入り店員に連れが待ってると告げ、母さんのもとに向かう。母さんの隣には眼鏡を掛けた厳しそうな男性がいた。

 

「は、はじめまして。須賀京太郎です」

 

 俺が話しかけると男性はフっと顔を少し崩し、挨拶を返してきた。

 

「君が京太郎君か。はじめまして、君のお母さんと仲良くさせてもらっている原村だ」

 

「原村……?あれ?」

 

「ん?どうかしたのかね」

 

「あ、いえ。同じ部活に原村という名字の女子がいるもので」

 

「ほう……っと、どうやら私の家族も来たみたいだ」

 

「え?」

 

 原村さんの言葉と視線に合わせて後ろを振り返ると、見知った顔がいた。

相手も俺を見て驚いた顔をしている。

 

「は、原村?」

 

「す、須賀君ですか?」

 

「「……」」

 

 お互い気まずくなってしまい言葉がなくなる。まさか部活仲間が親の再婚相手の家族だなんて。

 

「美咲さん、どうやら子供たちは既知の仲のようだね」

 

「ええ、そうみたいね」

 

 俺たちのそんな様子を尻目に親は仲睦まじく会話をしているのが、視界の端に見え、思考の端っこで現実逃避をしていた。

 

「ええっと、原村は原村さんの娘ってことでいいのか?」

 

「はい。となると、父の隣の女性が須賀君のお母さんという事ですね」

 

「相手の家族を知った今だと、再婚は反対になってしまうか?」

 

「い、いえ。私たちの事情はともかく、私は父に幸せになってほしいですし」

 

「俺もです。母が原村さんと結婚することで幸せになるのなら、俺たちの事情は些細なものです」

 

「ははっ、二人は似ているな」

 

 俺と原村が事実確認をしていると、突然原村さんが困った顔をして聞いて来たので、即答で返事をした。

 

「まぁ、いきなり会って今度からは家族だというのも酷だろう。どうだろう、暫くの間和を美咲さんの家で預かってはくれないだろうか」

 

「まぁ!それはいい考えね。じゃあ、和ちゃんを暫く預かったら今度は京太郎をそちらで預かってもらいましょう。そうすれば、二人も慣れると思うわ」

 

「そうだな。よし、二人はそれでどうだ?」

 

「え!?あ、はい。分かりました」「は、はい……」

 

 こうして、俺たちは家族となる為の第一歩をほぼ強制的に踏み出された。

 

 

 

 




誤字脱字・感想待ってます


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原村和の場合②(別ver)






 

はら……じゃなかった和がうちで住む事になるにあたって、約束事が少々できた。

 その一つとして名前呼びになった。家族になるのだからと赤面しながら言われてしまった。

 あと和も食事当番に加わった。うちは母子家庭なので、母が仕事で帰ってくるのが遅かったので、家事はほとんど俺が肩代わりしていた。和も同じような家庭環境の為、料理は人並み以上に出来るとの事だ。あまり、人の手料理など食べたことがないので少し楽しみだ。

 明日の夕飯を彼女が作るという事でその日は終わった。

 

☆☆☆☆☆

 

 朝と昼は俺の当番なので、早起きして弁当におかずを詰めていく。ある程度は昨晩に作っておいたので、大慌てする必要がない。

 和の弁当が俺らの弁当と比べて小さく見えるのが新鮮だ。母は割と飯を食べる人なので、育ち盛りの俺と同じ大きさの弁当を持って行ってる。それと比べると和のは一回りも小さい。

 おかずである唐揚げや卵焼きをせっせと詰めていく。並行してごはんを茶碗に盛り付けながら、楕円型の皿に焼いていた鮭を盛り付ける。付け合わせに冷蔵庫から大根の漬物を取り出す。温めていた味噌汁を御椀に注いで完成だ。

 まぁ、家族となる初日の朝にはこんな物だろう。

 どちらかが起きてくるまでにお弁当を冷ましておくことにした。

 

 暫く座って朝のニュースを見ていると和がやって来た。

 

「お、おはようございます」

 

「おはよう。朝ごはん出来てるけど食べるか?」

 

「あ、はい。いただきます」

 

「ちょっと待っててな。今持ってくるよ」

 

 御盆の上に出来た朝ご飯を載せて、食卓テーブルへと持っていく。和は朝は着替えてくるらしく、制服を着こなしていた。俺は調理中に汚れたら嫌なのでエプロンを付けているとはいえ、パジャマのままだ。

 

「母さんは今日は遅い感じだな。じゃあ、先に食べとくか」

 

「そうですね。では、いただきます」

 

「いただきます」

 

 母を置いて飯を食べる。時間も今から食べ始めると出るのにちょうどいい時間になる頃だ。

 

 

 暫くして食事を終える。食後の茶を飲んだ後、着替えを済ませる。ハミガキなどのエチケットも済ませたら家を出る準備の完了だ。

 和に道案内をしなければならないので、今日は何時もよりも早めだ。

 

「お待たせしました」

 

「ん、じゃあ、行くか」

 

「はい!」

 

 二人で家を出て、通学路を歩く。つい先日まで只の部活仲間だったことだけを考えるに中々に異様な感覚だ。

 

「見覚えのある景色になったら言ってくれ。和の家がどの辺りかは俺は知らんからな」

 

「はい。それにしても、京太郎君ちの辺りはマンションよりも一軒家が多いのですね」

 

「あー、そうだな。この辺りはスーパーとかも少ないからなぁ。駅前の方に行けばマンションとかも良く見るな。となると、和の家は駅の方?」

 

「ええ。私の家は駅から5分ほどの場所です。今度行くことになるのですから、教えときますね」

 

 鞄からスマホを取り出して、地図アプリを開く和。自分の家の場所を見つけたのか、俺の隣に近づいてスマホを見せてきた。その時、不意に甘い香りを嗅いだ。いや、誰の匂いかは分かるんだけどさ……っていうか女子ってやっぱり男とは違うんだな。そんなことを頭の片隅で考えていると、立ち止まった俺に和が心配そうに声を掛けてきた。

 

「京太郎君、どうかしましたか?」

 

「……え?あ、いや何でもない。そ、それより其処が和の住所か」

 

「はい。今日の部活終わりにでも行ってみますか?一度行っておけば、覚えやすいでしょうし。私も帰り道覚えるのに良さそうですしね」

 

「あー、そうだな」

 

 そういう訳で期せずして放課後の予定が埋まった。





最近の悩みは地の文の書けなさと、セリフの区切りが大変なことですかね。
アドバイスあればお願いします。

次回は和視点で書いてみようかと思います。

誤字脱字・感想待ってます。


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原村和の場合③(別ver)


和の地の文が酷すぎる。


 

 私の京太郎君への第一印象はよく分からない人でした。彼とは麻雀部に入ったことで知り合いました。当時は男の人が苦手な私の事を何処かで聞いたのか、あまり付き合いもない日々を過ごしました。

 彼の人となりについては京太郎君と同じ中学出身の宮永咲さんから聞きました。彼女が言うには、彼の中学での評判はお人好しだったようです。困った人を見かければ、何らかの形で力になっていたみたいです。

 確かに言われてみると、高校で知り合った彼は良く見知らぬ人と話している姿を随所で見ます。それは、彼の行動の結果、結ばれた交友関係の人達だったのでしょう。

 そんなことを知り、彼とは少なくとも夏の県大会前には、良く話すようになっていました。

 

☆☆☆☆☆

 

「すまない原村。此処の部分がいまいち分からないんだが」

 

 教本を片手に須賀君がやって来ました。最近彼は、部長から渡された教本と睨めっこを部活でしてました。丁度私たちが休憩に入ったのを見たのか、聞きに来たようです。

 

「ふむ……そこですか。そこはまず……」

 

 彼は基礎を大切にする人のようで、好感が持てます。彼と練習で対局をすると、時々恐ろしく上がるのが早い時があります。その時は勘に従って牌を切ってるといつも気が付いたら上がってると彼は言ってました。

 正直信じられないのですが、須賀君が嘘を言う人ではないので私もそのような人がいるのだと、理解しました。思えば、咲さんに似ている気がします。

 

「あー、なる程ね……まだまだだなぁ、教本も読めないんて。だが、壁が高ければ高いほどやる気が沸くってな。ありがと原村」

 

 大きく肩を落とした後、彼は頬を軽く叩き私に礼を言うと席に戻っていきました。その後ろ姿を見ると私も負けてられないと思い、席に座りなおそうとしたら、何故か妙に温かい目で咲さんが見ていたのが、頭に残りました。

 

★★★★★

 

 今日は、教本ではなくネト麻で実力試しをしていたが、今一な結果になってしまった。部長が言うにはもう少し他の人の河に目をやったほうがいいとアドバイスを貰った。たしかに、自分の手ばかりに意識が行っていた気がする。次はそこを注視してやるか。反省を終えると、待ち合わせ場所へ急ぐ。

 和と親の再婚で家族になることが決まったのだが、未だ学校で其れを暴露するにはお互いを知らなさすぎるので、一度学外で合流することにした。

 

「悪い、部長からのアドバイスで遅くなった」

 

「部長に呼ばれてましたもんね。大丈夫ですよ、私も来たばかりでしたし」

 

 先に部室を出ていたのが見えていたので、待ち合わせ場所にいると思ったが、案の定居た。しかも、微妙にカップルみたいなこと言われた気がする。

 頭を振り、忘れる。彼女とはそんな仲ではない。というか、家族になるのだから。

 

「じゃあ、和の家への案内頼めるか?」

 

「はい。こちらですよ」

 

 和の後ろを歩いていく。朝の登校の時も聞いたが、駅の方だ。辺りには同じように制服を着ている人たちの他に、仕事帰りのサラリーマンも見える。俺の家の近くとは少し違う人並みだ。

 

「帰りにスーパーへ寄っていこうと思うのですが、京太郎君は何かリクエストとかありますか?一通りの料理はこなせるのですが」

 

「リクエストか……そもそもとして、自分以外の料理を食べた経験が少ないからなぁ。和は何が得意なんだ?」

 

「得意料理ですか……強いて言うなら父が好きな肉じゃがですかね。母がレシピを残してまして、それがお袋の味って奴です」

 

「ふむふむ、じゃあ肉じゃが一品は決まりだな。後はメインに……ハンバーグでも頼もうかな。なんか肉肉の組み合わせになったけど」

 

「ふふっ。京太郎君も男の子なんですね。分かりました。じゃあ、夕飯は肉じゃがとハンバーグです」

 

 俺の言葉に何故か笑う和。てか、男の子なんですねとは何だ。俺は一目で男と分かる見た目のつもりなんだが……

 

「そろそろ家に着きますね。其処を右に曲がったら私の住んでるマンションです」

 

「じゃあ、一目見たらスーパーへ行くか。荷物持ちは任せろよ、男だからな」

 

「ふふっ。ええ、お願いします」





現在あわあわの別verを考えています。というか別verでいいんですかね?ヒロイン以外、何もかも設定が変わってるし……

誤字脱字・感想待ってます。


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三尋木咏の場合
三尋木咏の場合①



プロ勢の中で一番咏ちゃんが好きです。

でも、シノハユ時代のはやりんも好きです


 

三尋木咏は年下の少年に恋をしている。

それも一つや二つ下の男性ではなく、高校生の少年にだ。

少年、須賀京太郎との出会いは簡単だ。彼の母は三尋木家の人間なのだ。彼との関係は叔母と甥であり、師匠と弟子である。

 

三尋木咏はプロの麻雀師である。それは日本代表を務めるほどの実力者である。

故に彼とは師弟関係だったりする。最も京太郎はそのことを知っている人間以外には彼女の弟子であることを一切明かさないが。

 

今日は京太郎と会う日だ。名目上は麻雀の練習に付き合うとなっている。彼と会うのは1か月ぶりだ。ここ最近、試合が忙しく中々連絡を取ることが出来なかった。

 

「にゅふふふ。久々に京に会えるねー。知らんけど」

 

嬉しさのあまり口癖が出てしまう。それほどまでに彼女は喜んでいた。

ウキウキしながら車で彼の家へと向かう。彼は現在、東京に一人暮らしをしている。たしか、白糸台高校に入学したはずだ。前に1年だけスタメン入りだと喜んだ声で報告された覚えがある。

 

彼の事を考えていると彼の住んでいるアパート近くに付いた。近くの駐車場に車を停めて徒歩で向かう。来客のベルを鳴らすと彼が出てきた。

 

★★★★★

 

今日は咏姉が来る日だ。部屋が散らかっているわけではないが、掃除機をかけておく。あとあの人は紅茶やコーヒーいった飲み物よりも緑茶やほうじ茶などの方を好むので茶葉を急須に入れ何時でも蒸せる準備をしておく。

 

一人暮らしする際に持ってきた、手積み雀卓を用意して待つ準備の完成だ。この雀卓は中学校入学祝に咏姉がプレゼントしてくれたものだ。それ以来咏姉との練習の際、この雀卓で行っている。結構な頻度で使用しているからか、所々色が剥げている部分があるが、味があるというものだろう。

 

自分の在籍する白糸台高校は男女ともに麻雀で有名だ。どちらも毎年全国出場するレベルの実力を誇っているうえに今は女子の方に個人2連覇という偉業をなしている宮永照が所属していることも有名な理由の一つだ。

 

ピンポーンピンポーンとベルが2度鳴る。この2度鳴らしのベルは咏姉が来たという合図だ。

 

玄関へ向かい、ドアを開ける。開けた瞬間、着物を着た小柄な女性に抱き着かれた。

 

「久しぶりだなー、京」

 

「うん、久しぶり咏姉」

 

この小柄な女性こそ咏姉である。正直咏姉は年齢詐称しているのではないかと思ってしまうほどに若く見えてしまう。具体的には警察に子ども扱いされるぐらいには。

 

「おっ、準備できてるじゃん。やるか?」

 

「お願いします」

 

部屋の中を準備された卓を発見し、俺に言ってくる。彼女との練習は学校での練習よりも密度が濃い。勿論、腕の差があるのだから当たり前なのだが、言葉では言い表せない何かの違いがある。

 

★★★★★

 

咏姉が持ってきたお茶菓子をお茶うけにお茶をすする。

我ながら美味く入れれたな。

 

「京、また腕を上げたな」

 

「そりゃあ勿論。咏姉に喜んでもらうためさ」

 

「っ……相変わらず恥ずかしげもなく言えるねぇ」

 

俺の言葉に顔を少し赤くしながらわき腹を肘で小突いてくる。こうして見ると、確かに俺より年上の女性だと改めて思う。

 

「あっ、京」

 

「うん?どうした?」

 

「今日泊っても良い?」

 

「え……あ、いや大丈夫だけど」

 

「んー?その反応は何だい?恥ずかしい?」

 

「そ、そんなことないし」

 

俺をからかうような声で弄ってくる。いや、確かに俺らは姉と弟のような関係だが、一応女性と男性なのだ。一応思春期な男の子なんだがなぁ……

 

「大丈夫なら泊まらせてもらおうかねぇ。よかったよかった。一応泊り道具車に積んできたんだよねぇ」

 

「用意周到じゃねえか。俺が許可しなくても勝手に泊ってただろ」

 

じゃあ一度車に戻って取ってくると言って彼女は部屋を出かけた。

 

 







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三尋木咏の場合②

「最後は昨年の夏の大会では惜しくも3位という結果で終わってしまった白糸台高校。今年のメンバーは昨年とは違い、先鋒が1年生という布陣。しかもその1年生、須賀京太郎はこの決勝までプラス収支を収めています。さぁ、これで全員出そろった決勝戦スタートです!」

 

実況の声と同時に試合開始のブザーが鳴り響いた。

 

★★★★★

 

「よくやったな須賀。おかげで次鋒から守りながら戦えるようになった」

 

「後は任せました」

 

「ああ。須賀が稼いだ点数、俺らがしっかり守ってやるよ。休んでな」

 

俺にそう告げ、水越先輩は部屋を出て行った。

 

ふぅ……今日は東京大会の決勝戦。俺の出番は先ほど終えた。俺は白糸台という強豪校でエースの席である先鋒をいただいた。この席を貰った時先輩たちから何か言われるかと思ったがお前なら任せられると言われたのが印象に残っている。

 

その後先輩たちも活躍で勝つことが出来た。

これで俺も全国で戦うことが出来る。明日は個人戦がある。俺も出場するから今日は早めに寝なければ。そう考えていた所に監督がやってきた。俺がインタビューを受けろとの事。

1年ながらのエースだからだろうか。

 

「やってきました白糸台のエース、須賀選手です」

 

「どうも、須賀京太郎です」

 

「今回も活躍していましたが、対局中に気を付けていたこととかありますか?」

 

「そうですね……誰かが高めの点数で上がりそうな気配がしたら様子見しながら降りるってことを考えていました。後は高めの点数で上がることを心掛けてましたね」

 

「なるほど。確かに須賀選手は常に満貫以上で上がってますね。それに放銃率も卓の中でダントツに低い」

 

暫くの間質問に答えていると最後の質問ですがと区切ってきた。

 

「最後に全国出場誰にこの気持ちを伝えたいですか?」

 

「自分を此処まで鍛えてくれた師匠にですね」

 

「師匠ですか。失礼ですがお名前を聞いても?」

 

「流石にそこは伏せさせてもらいます」

 

「そうですか。お忙しい中ありがとうございました」

 

「こちらこそありがとうございました」

 

インタビューを終えると椅子に座る。思いのほか緊張していたのでドカッと音を立てて座ってしまった。ある意味慣れなくて対局していた時以上に疲れたかもしれない。

チームメイトに先に戻ると告げると宿泊先であるホテルに戻った。

 

受付カウンターで預けていたカギを受け取ると部屋に戻る。

鍵を差し込み部屋に入る。

 

ん?誰かいる?

 

不審に思いソロリソロリと中をうかがうと咏姉がいた。

 

「やっほー京」

 

「なんで咏姉が俺の部屋にいるんだよ……」

 

はぁ……予想外の人物だったのでため息が出てしまう。

 

「さっきの聞いてたぜぃ。師匠に感謝だっていやー照れちゃうなー。しらんけど」

 

「ぐっ、そうかあのインタビューって生だったのか。録画系だと思ってた」

 

師匠に感謝とか言ってしまったのは恥ずかしすぎる。特に本人に知られてるとか……

 

「てか咏姉が俺の泊ってる部屋知ってることへの説明は」

 

「んー、決まってるじゃんか。私はお前の姉代わりだぜ。それぐらい知ってるもんさ」

 

あくまで白を切るか……まぁ、こういう時の咏姉には何を言っても無駄だというのは経験上知っているので追及をあきらめる。

 

「というか今日は疲れたから寝たいんだが」

 

「えー、折角京にマッサージでもしてやろうかと思ってきたのによー」

 

「マジで!?」

 

「おおう。そんな反応されるとは思ってなかった」

 

咏姉のマッサージはかなり上手い。昔体育の授業で疲れたと寝っ転がってたらして貰ったことがある。思わず寝てしまうぐらいには心地が良いのだ。

 

「じゃ、じゃあ仕方ないね。ほらベッドに横になりな」

 

「よっしゃ」

 

意気揚々とベッドに寝転がる。

 

……………

………

……

…ぐぅ

 

 




祝!お気に入り人数50人突破!!
記念に何かアンケートをしようと現在考えております。

ちなみに本作における京ちゃんの実力は
咏京>和京>憧京>憩京となっております。

というかこう並べると全部一文字の名前のヒロインしか書いてないな。


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新子憧の場合
新子憧の場合①


 

「あ、あの!お礼をしたいのでお茶しませんか」

 

「え?あ、はい」

 

俺は先ほどであったばかりの少女からお茶に誘われていた。

 

★★★★★

 

俺、須賀京太郎は中二の冬に奈良を訪れていた。というのも母方の実家があるのが奈良なのだ。つまり、絶賛帰省中という訳である。

しかし集めってきた親戚たちで盛り上がっているため、子供の俺には肩身が狭い。という訳で街に繰り出すことに。

 

街を歩いて買い食いなどをして楽しんでいると、複数の男たちに囲まれている少女を見かけた。

よく見ると少女が抵抗している感じなので、助けに入ることを決める。

 

「いやー、遅くなった。すまんな」

 

「え?あ、うん」

 

「何だお前は?」

 

男たちは急に現れた俺に警戒しているようだ。

俺は中二なのに背が180cm近くある。おかげで大抵の奴にはこの図体だけで威圧できたりする。この男たちも俺を見ると男がいたのかと吐き捨てて何処かへ行ってしまった。

 

「ふぅ、大丈夫か?」

 

「は、はい」

 

「じゃあ、俺先行くから」

 

特に用事はないが先に行くとする。彼女がまだおびえた感じ。多分、俺がでかいから怖く感じたのだろう。意外と慣れてることなのでさっさと退散を決める。

 

「あ、あの!お礼をしたいのでお茶をしませんか」

 

「え?あ、はい」

 

余りの勢いに思わず頷いてしまった。

 

★★★★★

 

しまった。私は内心毒づいていた。今日は天気が良かったので街を散歩していたら、ナンパ目的だと思われる男たちに囲まれてしまった。

 

「だから、連れを待ってるんですって」

 

「いいじゃん、そんな奴。待たせてる奴なんてほっといて俺たちと一緒に遊ぼうぜ」

 

「そうそう、ソレがいいっしょ」

 

などと口々に言ってくる。このまま騒ぎを大きくして町の人が警察辺りを呼んでくるのに期待をするしかないのかな。そう思っているときに彼がやってきた。

 

「いやー、遅くなった。すまんな」

 

「え?あ、うん」

 

私たちのもとにやってきたのは金色との髪をした男だった。声は大きい身長の割に気持ちが高い。

なので男というよりは少年と称するべきか。ともかく助けが来てくれた。彼を見た男たちは捨て台詞を口にすると何処かへ去ってしまった。

 

……しかし、彼よく見ると綺麗な顔つきをしている。一瞬見惚れてしまったが、彼にお礼をしたいと引き留めることに成功する。私らしくないなと心の片隅で思いながら彼を引き連れて、お気に入りの喫茶店に入った。

 

★★★★★

 

お礼をしたいといった彼女の後ろをついて辿り着いた、ある喫茶店。

彼女は迷いもなく入店する。俺もその後を付いて入店する。店内は人が少しいる程度に賑わっている。

 

彼女が座った椅子の向かい側に座る。メニューを見て彼女はミルクティーを俺はコーヒーを頼んだ。

 

「えっと、先程はありがとうございました」

 

「礼は受け取っておくよ。でも、そんなに畏まらなくても良いぜ。多分同い年ぐらいだろうし」

 

「そうなの?あ、あたしは新子憧。阿太峯中二年」

 

「俺は須賀京太郎。同じ中二だ」

 

「本当に同い年だったんだ……」

 

「まぁ、この身長だと間違われやすいからなぁ」

 

身長が伸び始めたのが小学六年生の頃だった筈。なので中学入学の時の制服はかなり大きめに注文したのだが、もう既にキツク感じる。……もっと大きめの買えばよかったな。

 

「京太郎はここら辺に住んでるの?」

 

「いや、今は親の帰省に付いて来たんだ。普段は長野に住んでるよ」

 

「長野かぁ……行ったことないなぁ。京太郎、結構体格良いけどスポーツでもやってるの?」

 

「いや、やってたが正しいな。ちょっとケガして……な」

 

「そうなんだ。……ごめん、嫌なこと聞いたみたいで」

 

「気にしないでくれ。知らないから聞いただけだろ?」

 

「……うん」

 

それっきり会話が途切れてしまった。

俺は夏までハンドボールをやっていた。でも、試合に熱中するあまり、周りに気を配れず怪我をしてしまったのだ。医者が言うには選手としてやるには難しいケガだそうだ。

 

「じゃあさ、麻雀やってみない?」

 

「麻雀?ルールも知らないんだが」

 

「大丈夫、私これでもそれなりの実力者だから」

 

「……じゃあ、教えてもらおうかな」

 

彼女と明日も会う約束をして帰路に付く。準備があるから麻雀の練習は明日からに決まった。

 

その際練習するのは雀卓?というものがあるという彼女の部屋に決まった。……知り合ったばかりの女の子の家に行くのは勇気がいるなぁ。





憧ちゃんはナンパされそうなイメージある。

あ、今更ですけどこのシリーズ、最初に①系統を挙げ行く予定です。その後そこからストーリー発展させていきたいなぁ……

思い付きで書いてるからね こうしないとモチベ繋がらないし


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新子憧の場合②

憧ちゃんにしました。


「へー、結局その阿知賀ってところに行くことにしたんだ」

 

「うん。幼馴染の熱意にやられちゃってね」

 

憧と知り合ってからもう1年が経つ。あれから長期休暇のたびに憧と遊びに出かけた。普段は長野と奈良では物理的な距離で会う事も出来なかったので今のように電話で連絡を取っていた。彼女から麻雀を教えてもらってからはネットで夜やるようになり、その時も電話で話しながら遊ぶ。

麻雀は俺の生活サイクルの中心となっていた。

 

「京太郎はどこに行くの?」

 

「俺か?俺は清澄ってところに行く。家から近いしな。麻雀は個人枠で応募するから問題ないし」

 

「男子麻雀部って少ないもんね」

 

「まぁ、オカルト持ちが少ないから必然的にな」

 

麻雀をする人間は大きく分けて二種類いる。オカルト持ちかデジタルか。オカルトは普通の人間では絶対に起こせないようなプレイングをする人が多い。特定の牌を自身に集めたり、未来を見たりと。デジタルは教本に書いてあるような効率的な打ち方、敵に隙を見せずに自分のプレイを貫く人たちだ。

俺はオカルト持ちに含まれる。俺は便宜上直感と呼んでいる。この牌を捨てると不味いと思ったり、ここで待ちを変えると上がれると思ったりとかなり運要素が絡む。自分の意思で発動できるものではない。もしかしたら未来では自在に扱えるかもしれないが。

 

「じゃあ、次会うのは東京でかしら」

 

「そうだな。お互いが良い成績出せばな」

 

最近はネット麻雀での成績も良くなってきている。前はよくしていたミスも減ってきているし、男子の部なら中々の成績を出せそうだ。

女子の部は男子の部よりも強者ぞろいだ。男子でオカルト持ちというのが少ないのも理由の一つだが、若い男性プロで報道されるレベルの実力者がいないのも関係あるだろう。日夜軒並みテレビで報道されるプロは女性プロばかりだ。ばかりというか女性プロしか見ない。

おかげで男子はサッカーや野球といった体を動かすスポーツで活躍をしている。

 

憧との電話を終え、寝る支度をする。今日の分のネトマは既に済ませたから大丈夫。

それにそろそろ0時回るからな。

 

先も言ったが憧と出会って一年が経った。つまり俺は現在中三というわけだ。最近は進路の話ばかりだが、俺は清澄に推薦で既に入学が決まっている。なので他の生徒よりは余裕があるので今は麻雀漬けの毎日を送っている。

 

★★★★★

 

更にあれから月日が経った。

今日は入学式。早めに起きて憧と電話をし、お互いが入学祝いの言葉を口にした。

それを済ませた後に朝食を食べ、母と共に清澄高校へと足を向けた。

 

あっという間に放課後になった。

高校生になったが、ある程度は中学のころに見たことがある面子だったりする。なので挨拶もそこそこに俺は街を散策することにした。

高校生となったので中学生のころには行けなかった雀荘に顔を出すことが出来る。

普段はネトマで腕を磨いてきたが、今日からは実際に対戦相手の顔を見ながら対局することが出来る。夏の予選まで時間があまりないので今日から通うことにする。

 

前から目はつけていた雀荘『Roof-top 』へ訪れる。

ここは他の雀荘と違い、外から中を見ることが出来る珍しい店なので俺でも知っていた。

それに雰囲気が良いので初めて行くのには向いているだろう。

早速入店し、初めて来たと告げ席の空いている場所に座らせてもらう。

暫くすると、空いていた最後の席が埋まり他の客と対局することに。

 

★★★★★

 

結論から言わせてもらおう。

正直、対面しながらやるのって難しいな。相手の河を見ながら流れを作っていたが、厳しかった。

勝つことは出来たが3位との僅差での2位だ。今まで対面しながら麻雀した相手は教えてくれた憧しかいなかったので中々に空気をつかむのが難しい。

まぁ、いい。これからだ。まだまだ慣れるまでには時間が掛るが慣れれば強くなれる。

改めてそう決心するとまた別の面子で麻雀をする。

 

 




今回は時間がすごく経ちました。

正直京ちゃんの中学時代は書くのが難しかったので描写不足ですみません。

憧ちゃん編の次は予選辺りからの時系列にする予定です。


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新子憧の場合③


憧ちゃんは標準語なうえに同級生なので敬語も使わせずに書けるのでスラスラ書けます。




「ねーねー、穏ちゃん」

 

「ん?どうかしました玄さん」

 

阿知賀女子学院2年生の松実玄が同じく阿知賀女子学院の高鴨穏乃に話しかける。穏乃は今年入ったばかりの新入生だ。

 

「なんかさ、憧ちゃん。雰囲気変わったよね」

 

「???そうですか?憧は元気だと思いますけど」

 

「あ……うん。穏ちゃんはそういう子だもんね」

 

穏乃にこういう話は無理だ、と玄は肩を落とした。

玄から見て暫くぶりに会った新子憧という女子は恋をしている女子に見えたのだ。もっとも玄自身も恋をした事がないので確信には至らないが。

こうなったら本人に聞くのが一番だと玄は考えると憧に突撃した。

 

「ねーねー、憧ちゃん」

 

「どうしたの玄」

 

「憧ちゃん最近、何か良いことでもあった?」

 

「え?……あー、特にないですよ」

 

言葉を出すのに少し間があった。これはやはり何かあったなと黒の目が妖しく光る。

問い詰めようとした時、阿知賀麻雀部の顧問である赤土晴絵が部室に入ってきた。

どうやら今回は此処までだなと引き下がることにした。

 

「よーし、みんな揃ってるなー。今日も元気に麻雀するぞ」

 

その言葉を合図に部活動が始まった。

 

★★★★★

 

どうやら清澄高校にも麻雀部はあるという事が分かった。そのことに喜んだ京太郎だが、詳しく調べると男子は入部していないようだ。入部しても良いが、流石に女子の集団に混ざることにこの前まで男だけの部活をしていた京太郎には勇気がいる事だった。

なので、今日も今日とて雀荘を巡ることに。

 

幸いなことに長野には雀荘がたくさんあるのであちこち回っている。

何処か一つの場所にとどまっても良いのだが、やはり経験が積みたいので毎回訪れる雀荘は変えている。

 

★★★★★

 

雀荘で今日のノルマを終えると本屋へ足を向ける。

ふた月ほど前に憧に勧められた教本を読み終えたので、新しいの買いたいのだ。

馴染みの本屋に顔を出すと麻雀コーナーへ。そのまま新刊などを見渡しながら自分に合った本を探す。

 

「おっ、これは元プロの本か……しかも男性プロ」

 

今の男性プロはパッとしない人たちばかりだ。しかし、それでもシニアと呼ばれる世代のプロは違う。戦後にその腕を磨いた者たちばかりで強者ぞろいだ。

この本を書いた人物、南浦聡も確かその一人だった筈。

ネットで目にしたのだが、彼も同じ長野に住んでいるらしい。それだけなのに何処か親近感が湧き、本を手に取る。

 

レジで本を購入し帰路に付く。

 

★★★★★

 

夕飯を食べ風呂から上がり部屋に戻ったところ、携帯が光っているのが見えた。

 

「こんな時間だし……憧か?」

 

そう思い携帯を開く。

 

どうやら合っていたようだ。5分ほど前に憧から着信があったと履歴に残っている。

5分程ならかけなおしても大丈夫だろう。そう思いアドレスからかけなおす。

 

「もしもし憧?」

 

「あっ、京太郎」

 

「すまんな風呂に入ってた」

 

「ううん。大丈夫」

 

「それでどうした?」

 

「今から麻雀しない?いつもの部屋で」

 

「ああ、それならオッケーだ」

 

パソコンを立ち上げ、普段やるネトマを起動する。

憧が立ち上げた部屋へ入ると人が揃うのを待ちながら会話する。

 

「憧から勧められた教本あったじゃん?あれ今日読み終えたよ」

 

「どうだった?」

 

「結構ためになったわ。ネトマばかりやってたからさ、実際に相手の顔を見ながらやるのなんて初めてで、本に書いてあることが随分分かったわ」

 

「なら良かった。あれ結構わかりやすくて良いのよね」

 

「それで読み終わったからさ、南浦元プロって人の本買ってみたわ」

 

「南浦ってあの南浦聡?」

 

「誰か知らんけど、長野に住んでいるらしい南浦さん」

 

憧から聞くと南浦プロは攻めよりも守ることの方が得意なプロだったらしい。

堅実な守りで相手に点を取らせず、自分は合間を縫って点を稼ぐそんなプロのようだ。自分も守り主体であるので自分に合ったプロの本を買うことが出来たようだ。

 

そんな風に話していると部屋に人が揃ったようだ。

 

「今日こそ点差つけて勝ってやる」

 

「まだまだ京太郎には負けられないわ」

 

 




お気に入りがもうすぐで50を迎えそうです。

皆さんのおかげです。正直これだけの人に見られるとは思ってませんでした。

次書くの誰にしようかな。


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新子憧の場合④

 

季節は既に秋となった。

時が過ぎるの早いもので大会からそろそろ2か月が経とうとしている。

結果的に俺の成績は8位という初出場で好成績を収めることが出来た。正直な話、本戦1回戦で負けると思っていた。

憧たち女子の部の団体戦では彼女の在籍する阿知賀は2位という成績だったようだ。1位は俺の在籍する清澄だった。俺は麻雀部に所属していないので驚いた。まぁ、結局はどうでもいいのだが。憧達からすれば喜べる結果だが、出来る事なら優勝したかったと電話越しに聞いた。

 

「やっほー京太郎」

 

「おう、久しぶりだな憧」

 

今日は憧が長野にやってきた。

丁度三連休だったのでこの機会を逃すかとばかりにやってきた。お袋や親父には憧が来ることを伝えてあるので宿泊先も問題ない。その時ニヤニヤしている両親の目にムカついたが。

 

「こっちも寒いわね」

 

「まぁ、もう少ししたら雪が降る季節だからな。長野の雪舐めんなよ」

 

「奈良が寒くなるのは1月からが本番だからねぇ」

 

寒いことを見越してかそれなりに着込んできたようだ。彼女と初めて会った時のように長袖を着ている。

 

「まずは荷物うちに置いてから街でも歩くか。それでいいか?」

 

「ええ、いいわ」

 

憧を家へと案内する。憧と両親は既に面識があるので、荷物を置いてスムーズに街へ繰り出すことが出来る。

 

荷物を憧が寝泊まりする部屋に置くと家を出る。

 

「取り合えずプラプラするか」

 

「うん」

 

彼女を引き連れ街へと向かうバスに乗る。三連休だから遠出している人が多いのかバスの中は人があまりいなかった。おかげで空いている二人用の椅子があったので憧を窓際に座らせて隣に座った。

 

「京太郎は春大会出るの?」

 

「ああ。成績が良ければ夏の大会でシード枠貰えるしな」

 

「私たちも個人で出場かなぁ」

 

「あー、そっか。阿知賀はギリギリで今年出たんだもんな。卒業する人が抜けると団体無理なのか」

 

「そうそう。それに監督も変わるのよ」

 

「監督?」

 

阿知賀は旧知の仲の人間で構成された麻雀部だという事を前に憧から聞いている。

まさか監督までとは思わなかった。

 

「色々と大変だな阿知賀麻雀部」

 

「そうよ。まぁ、部員の問題以外は解決してるんだけどね」

 

「へぇ」

 

俺は麻雀部に所属していないので、競い合う相手がいない。そう考えると麻雀部に入るべきだったのかもしれないな。過ぎたことだが。

 

街に着いたので適当に店を見ていく。

服屋に入ってはどれが似合うあれが似合うなど考えたり。

喫茶店で軽食をとったり。

本屋で教本の新作を立ち読みしてみたり。

そうこうしている内に時間は夕方になりそうだ。

 

「そろそろ日が沈むし帰るとするか」

 

「そうね。こんなに歩いたのは久しぶりだわ。少し疲れちゃった」

 

「俺も疲れちゃったよ」

 

二人でバス停で次のバスが来るまで待つ。

 

★★★★★

 

家に着いたので手洗いや口濯ぎを済ませる。

そろそろ風邪が流行るシーズンなので対策はしておかないとな。

 

二人とも特にする事がなかったのでネトマを起動する。

何時も通り部屋を作りそこで他の人がやってくるのを待つ。

 

「始めたてと比べると京太郎も随分と強くなったよね」

 

「俺も驚いてるさ。まさか日本で8位だぜ、始めたての男が」

 

「京太郎の実力がそれだけ高かったってことよ。胸を張りなさいな」

 

「うーん。あまり実感がないんだけどなぁ」

 

部屋に人が集めり対局が開始する。

今回は指導麻雀ではないので少し離れた距離でやっている。

 

★★★★★

 

「やっぱり憧は強いなぁ」

 

「ネトマだとオカルトもあまり関係ないしね。それに私は根っからのデジタルだから」

 

「俺の直感めいたものもネトマじゃあ余り発動しないからなぁ」

 

「春までには基礎をもっと固めなきゃだめね」

 

「ああ、そうだな」

 




なんか既に付き合っているような雰囲気な二人になってしまった……

感想待ってます。


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新子憧の場合 正月編①

すんごいお久しぶりです。

書こうと思いつつも、中々案が出てこず放置してました。申し訳ありません


 買ったばかりのキャリーバックを引きずりながら道を歩く。バックを引きずっていない右手にはスマホを握っている。

 ここら辺は歩いたことが昔にあったが、最近は訪れていなかったので少し不安が拭えない。なので、彼女から送られてきた地図データを頼りに道を歩く。

 

「ここか……」

 

 思わず言葉が詰まってしまう。それほどまでに大きな神社が目の前にある。新子神社―それが俺が訪れた神社の名前だ。名前の通り、俺の彼女である新子憧の実家だ。

 本日は12月31日、つまりは大晦日。3が日忙しい憧の手伝いに来たのと、やはり正月に彼女に会いたい気持ちがあったからやって来た。

 彼女の両親には電話越しだが、既に挨拶を済ませているので既知の仲だったりする。

 石の階段を昇ると、憧が待っていた。

 

「世話になるぜ憧」

 

「いらっしゃい京太郎」

 

 憧は笑顔で俺を迎えてくれた。

 

☆☆☆☆☆

 

 憧の両親に改めて挨拶を済ませると、憧の案内でしばらく泊る部屋へ移動することに。

 

「ここよ。見ての通り、物が何もないのがアレだけど」

 

「へぇ……中々広い部屋じゃん。元は物置部屋か何かだったのか?」

 

「まぁ、そんなところね。さて、荷物置いたらお昼にしましょうか。お腹減ってるでしょ?」

 

「ああ。でも、時間的に憧達は食べたんじゃ?」

 

 腕時計に目をやると時刻は既に昼の2時を回っている。一般家庭なら既にお昼を取り終わっている時間だろう。

 

「いいのよ。私が京太郎の為に作ってあげたいの」

 

「……そっか。じゃあ、頼んだ」

 

「ふふっ、頼まれました」

 

 憧とはすでに恋人の仲になったのだが、こうして俺が赤面してしまう事が多い。普通は男の何気ない言葉で女が顔を赤くするのではないのだろうか。……まぁ、いいか。

 

☆☆☆☆☆

 

 ふんふんと憧のご機嫌な鼻歌が聞こえる。俺は台所にある小さなテーブルに座って料理を作る憧の後姿を唯々眺めていた。

 せっかく恋人が料理を作ってくれているのだからスマホを弄るのはなんだか気が引けてしまうので大人しく待つ。

 それに、後姿を眺めるだけでも楽しい。憧は普段部屋着として使用しているであろう服の上にピンク色のエプロンを身に着けていた。正直言って可愛い。後ろから抱き着いていい匂いのしそうなうなじに顔をうずめたくなる。

 料理中だからと抵抗はしそうだが、何だかんだで大人しく受け入れてくれる気がする。……やるか?

 

 そんな風に頭の中を煩悩で埋め尽くしていると、黙っている俺を心配したのか憧が目の前に来ていた。

 

「大丈夫京太郎?疲れ溜まっちゃった?」

 

「……いや、憧の後姿に見とれてた」

 

「~~~っ。いきなり照れること言わないでよ。……もう」

 

 顔を赤くして俺を見れないのかふいと顔を逸らす彼女。そんな姿もいとおしく思うほどに俺は憧に惚れているんだなと頭の片隅で考えながらも彼女を抱きしめていた。

 

「ちょ、ちょっと今は料理中。だからそういうのは……あとでね」

 

「分かった。後で思う存分抱きしめるから」

 

 先ほどよりも顔を赤くした彼女は料理の続きをするべく台所に再び戻っていった。

 

 またしばらく憧を眺めていたら、料理が出来たらしい。

 

 台所中に料理のいい匂いが広がる。美味そうだ。

 

 彼女にいただきますと言い野菜炒めを口に放り込む。

 

モグモグモグモグ

 

「うん。美味しい、ありがとな」

 

「そ、そう。口にあったなら良かった」

 

 照れくさいのか髪の毛をクルクルと巻きながら喋る憧。しかし、

 

「もう付き合うようになってから一年か……」

 

 味噌汁を啜りながら今からちょうど一年前の年明けの頃だ。

 来年度には高校3年生になるから一年の冬か。思うと日が経つのは早いものだ。

 恥ずかしいことだが、告白は彼女からされた。憧が実家の手伝いを終えてから長野に遊びに来た時にされた。近所の神社でお参りをした後の出来事だった。

 

 思わず過去に思いを馳せていたが、何時の間にか食事は済ませてしまったらしい。美味しいとしか感想が出ない自分のボキャブラリーが悲しい。

 

「ごちそうさまでした」

 

「おそまつさま。食後のお茶でも飲む?」

 

「ああ、頼む」

 

 付き合うようになってから実感したのだが、憧は結構なお世話焼きだった。今のお茶も俺には手伝わせてくれない。なんでも、こういうのは女の役目だからと何時も断られてしまう。

 家が神社だからか、微妙に古臭い感覚を持っているところがある。服装だけ見れば、今時の女子高生なんだけどなぁ。

 

 憧が作ってくれた昼食を取り終えると、憧の父である渉さんと一緒に今夜の準備を行った。

 大晦日の今日は、年が明ける瞬間を神社で過ごす人たちに甘酒を配るのだ。夜はかなり冷えるので、甘酒で温まってもらおうという考えだ。

 甘酒のカップを置いたりする台を設置したりして、彼方此方を走り回った。

 バイトの人たちも準備を手伝いに来てたのだが、年明け後のお守りなどを売ったりするための巫女のバイトさんばかりだったので、俺みたいな若い男の力は有難いらしい。これは渉さんから聞いた話だ。

 

 準備の手伝いをしているとあっという間に時間が経ち、既に年を越すかどうかの時間になっていた。

 俺も他の客と同じように、甘酒を貰い神社の外で年が明けるのを待っていた。憧はまだやる事があるらしく、隣にはいない。

 甘酒を飲んでいても外は寒いので、手はコートの中に突っ込んでいる。神様に来年は何を祈ろうかと適当に考えていると、俺の腕に誰かが抱き着いてきた。

 

「お疲れさま。京太郎」

 

「ああ。憧もこんな遅くまでお疲れ様」

 

「年越し蕎麦の用意が出来たけど、食べる?」

 

「あー、頂く。夕飯は頂いたけど、この時間となると腹がすくからな」

 

 憧に腕を引かれ、家の中に入っていく。蕎麦は既にテーブルの上に置いてあった。しかも、家族の方が配慮してくれているのか、俺と憧以外は誰もいなかった。

 

「お姉ちゃんか……まぁ、いいや。京太郎、早く食べよ?」

 

「そうだな。いただきます」

 

「いただきます」

 

 蕎麦は一から打ったものなのか市販の物より、よっぽど美味い。市販も好んで食べるが、やはり手打ちが一番だな。蕎麦に乗っている海老も中々にデカくて食べ応えがある。

 

「海老美味しいでしょ。私が揚げたのよ」

 

「へぇ。良いきつね色に揚げられてるし、美味いよ」

 

「でしょでしょ。今回のは結構うまくいったのよ。まだ高校生だからママが揚げ物はあまり手伝わせてくれないから頑張ったんだから」

 

 うーむ。俺のために頑張ってくれたと言外に言ってくれるのですごく嬉しくなってしまう。飯を食べているのに、思わず頭を撫でてしまう。

 

「ちょ、髪が乱れちゃう」

 

 などと言いつつも満更ではないのか、笑顔を見せてくれる。うん、可愛い。

 

「いやぁ、嬉しくてさ。それに憧だって撫でられるの好きだろ?」

 

「そ、そうよ。京太郎になら何されても喜んじゃうんだから……あ、今のは忘れて。ちょっと恥ずかしい事口走っちゃったから」

 

 顔を赤くして、俺の顔の前で手を振る憧。愛しさが溢れそうになり、遂に抱きしめてしまう。

 

「ちょちょちょ、京太郎!?まだ家族が起きてるから。恥ずかしいし……ね?」

 

「やだ」

 

「~~~っ、もう。蕎麦伸びちゃうから、続きは寝るとき……に」

 

「……仕方ないな」

 

 心底残念に思いながら、憧から体を離す。憧の体は温かったので、心地よかったのだが、その熱も離れてしまった。

 イチャ付きながら蕎麦を無事に食べ終え、残るは寝るだけとなった。

 

 うちから持ってきた、歯ブラシを使い、歯磨きを済ませる。

 年末年始なのに、家族と一緒にいないというを今更ながら思い出した。今年は憧の家に来ているので、この時期に家を離れているのは、初めてだ。

 でも、憧と一緒なので寂しさとは無縁であるが。

 

 明日は8時30分から、神社でお守りや破魔矢の販売を始めるので、起きるのは早めだ。スマホのアラームをセットし、先に布団にもぐる。

 暫く、ボーっとしていると憧が部屋に入ってきた。

 

「……もしかして、寝ちゃった?」

 

「いや、起きてるよ」

 

「そっか。じゃあ、お邪魔します」

 

 そう言い、俺の布団に憧が入ってきた。あー、やっぱり憧の体温は高いので心地が良い。憧は以前にお気に入りだと言っていた、ピンク色のパジャマを着ていた。

 

「一緒の布団に入るのに、慣れたもんだな」

 

「そうねぇ……前みたいに恥ずかしがったほうが良かった?」

 

「いや、俺はどっちでもイイさ。だって憧だし」

 

「どういう理由よ」

 

「さて明日も早いし、今日はもう寝るか」

 

「うん。準備で疲れちゃったし、今日は直ぐに眠れそう」

 

「俺も」

 

 腕に憧をすっぽりと抱えながら、眠気に身を任せた。

 

 




欲望に身を任せて書いてみたら、3000文字を超えていた。結構な驚き。

次は、「起こしちゃった?」とアコチャーに言わせる予定です。漫画とかで好きなシチュの一つ。

活動報告で、アンケやってますので、気が向けば意見をどうぞ。

感想待ってます。


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荒川憩の場合
荒川憩の場合① 


今回は何時もより短い気がします。

あと、京ちゃんこの話では麻雀部ではないです。

関西弁適当なのは許してください。生で聞いたことないんです。


「京ちゃんいますーぅ?」

 

放課後になり帰る支度をしていた所に彼女がやってきた。荷物を急いで適当にしまい、彼女のいるであろう教室前に出る。

 

「憩さん。俺に何か用ですか?」

 

「うん。京ちゃん今から大丈夫?」

 

「ええ。今日は部活がないので大丈夫ですが……」

 

「じゃあ、一緒に街に行きましょー」

 

彼女に手を握られ、そのまま引っ張られる。周りからはまたいつものが始まったとばかりの目を向けられる。

 

彼女の名前は荒川憩。三箇牧高校に在籍する2年生、つまり俺の先輩である。彼女との縁は俺が大阪に引っ越してきてからもう約5年となる。所謂腐れ縁だ。

昔から俺を引っ張って色々と遊びつれられたので手を握られるというのに恥ずかしさを感じられない。これが良いことなのか悪いことなのかイマイチ判断がつかない。

 

★★★★★

 

彼女に連れられて街にやってきた。放課後だからか制服姿の学生が多く見える。

 

「それで憩さん。俺らはどこへ行くのでしょうか」

 

「部活の買い出しだから、色々やね」

 

憩さんは麻雀部に所属している。しかもその実力は全国でも通用する。というか、去年の個人戦で2位になっていた気がする。

彼女はそれほどの実力を持っていながらも、部の仲間のために尽くしていたりする。その買い出しにはたびたび俺も連れて行かれる。今回もそのようだ。

 

彼女が手に持つメモ帳を頼りに必要なものを買い揃えていく。今回はどうやら合宿のための食材の買い出しのようだ。重い荷物は優先して俺が持つ。結構重いな。今回の合宿はどれぐらいの規模でやるのだろうか。

 

「合宿ってこんなに食材使いましたっけ」

 

「んーん。普段はこんなには要らないんよ。けど、今回は複数の学校と合同してやるんや。だから結構な量が必要なのですーぅ」

 

「へー、合同合宿ですか……楽しそうですね」

 

「京ちゃんもくるー?」

 

「あはは、遠慮しておきます」

 

麻雀部は女子の部しかないので俺が行くとなると確実に迷惑だ。てか、行けないだろう。

彼女と昔からいるので俺も必然として麻雀をすることは出来る。といっても初心者の域を出ないが。俺は麻雀みたいなジッとしてやるモノよりは外に出て体を動かしているほうが性に合うのだ。

 

「合宿は今週の土日に行うんよ。ちょうど今週は三連休みたいやからね。部長はんが前もって監督と話を進めてらしんよ。うちとしては皆と一緒に麻雀打てるのはすごく楽しみやねー」

 

ニコニコしながら憩さんは言う。彼女はニコニコしていることが多い。前に聞いたところ、暗い顔しているよりは元気な顔しているほうが物事が良くなる気がするそうだ。俺もそれを聞いて以来、少なくとも人前では暗い顔はしないようにしている。

 

「俺も三連休は部活詰めですね。予選がそろそろですし」

 

「応援に行って大丈夫?」

 

「勿論。憩さんが来てくれたら俺、頑張っちゃいますよ」

 

「なら行きますーぅ」

 

俺はサッカー部に入部している。中学からやっているので高校もスポーツ推薦でやってきたのだ。まぁ、最も三箇牧に来たのはそれだけの理由ではないが。一応ベンチ入りすることは出来たようなので、試合で出してもらえるように監督にこの連休中にアピールできたらと思っている。

 

雑談をしながら買い出しをしていると、いつの間にか全部そろったみたいなので学校へと戻る。

 

学校に戻ると麻雀部控室に設置されている冷蔵庫に食材を積めていく。今更思ったが、合宿の海上ってうちの学校なんだな。じゃなきゃ食材みたいな日持ちしないものは買わないか。

 

荷物をしまい、部活している皆さんに挨拶を終えると憩さんと別れる。

彼女はこのまま部活に参加するので此処までだ。

 

彼女からお礼と貰った飲み物を片手に自宅へと歩く。

 

 




お気に入り人数が30人突破しました。ありがとうございます。

それに評価10を二人からももらえてすごく喜んでます。というかこんな短いだけの駄文に評価を付けてもらえること自体嬉しいです。

次は今まで上げた誰かの②でも書こうと思ってます。



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大星淡の場合
大星淡の場合①


どうしてこうなった


 

あたしが麻雀に興味を持ったのは幼いころに試合を見た事だろう。

あの試合は日本を代表する選手たちが外国人たちと対局するものだった。今だから分かるけど、アレは世界大会という奴だったのだろう。

日本代表は男女混合チームで構成されていた。エースである先鋒を務めていた人物の闘牌を見てあたしもあんな麻雀をしてみたいと幼いながらも思ったのだ。

日本代表にはすごく強いと噂の小鍛治という人物がいたのだが、彼女ではなく彼がエースの席に座っていた。

彼、須賀京太郎の麻雀は凄いとしか言い表せない。誰よりも早く上がり、常に打点が高かった。それでいて敵に隙を一切見せず、放銃率がその試合で誰よりも低かったという。そんな成績をあの世界大会の会場で収めていた。

あの対局から10年が経つが未だに彼のその記録は抜かれていない。つまり彼が公式に残る最強の先鋒なのだ。

あたし、大星淡の麻雀をやる動機はこれに限る。

 

★★★★★

 

4月。必死に勉強をして無事に希望していた白糸台高校に入学することが出来た。

麻雀推薦で入学する事も出来たのだが、頭が悪ければ麻雀するのも苦労すると思い必死に勉強をした。

暇な入学式を終え、入学式を見に来た母と一緒に帰る。帰宅途中、母が入学祝だとレストランで食事をしてきた。

 

家に帰ると部屋でパソコンを起動する。

仮入部期間というものまで未だ日にちがあるので、それまでの間はネトマで練習を積む。

あたしのオカルトは正直言って他の人よりも強力なものだと思う。でも、それに頼っては足元を掬われる。

彼もインタビューで答えていたが、基礎を疎かにするやつには大事な場面で勝てない。その言葉を雑誌で見て以来、教本などを使い練習するようになった。

最近、須賀選手の姿をテレビで見ない。5年ぐらい前ではちょこちょこ見てたのだが、最近は一度も見ていない。ネットでは引退したとささやかれているが、真偽不明だ。

 

その日はお風呂に入ってご飯を食べてと何時通りに終わった。

 

★★★★★

 

入学してから数日が経った。

仲良くなったクラスメイト達に別れを告げあたしは麻雀部へ足を運ぶ。今日は待ちに待った隊仮入部期間だ。

あたしは麻雀部以外に入る気がないので仮という言葉は要らないだろう。でも、入部用の用紙は期間が終わるまではもらえないので我慢して通う。

 

失礼しますと告げ、部室に入る。

あたしは言葉を失った。

 

なんとあの、あの須賀京太郎が部室にいたのだ。

それも暇そうに本を読みながら。あたしが入ってきたことに気が付くと本を閉じ、近寄ってきた。

うわぁ、だ、大丈夫だよね。今日は体育がなかったから汗もかいてないし、走ってもいないから髪は乱れてないだろうし。

 

「君は新入生かな?」

 

「……え?あ、はい」

 

「そうか。ようこそ白糸台麻雀部へ。俺は此処のコーチをしている須賀京太郎だ。よろしく」

 

彼はそう言うとあたしに右手を出してきた。

え?これって握手しろってこと。あの須賀京太郎と握手が出来る。

ニヤけそうになる顔を必死にこらえて、あたしも右手を出す。彼の手はあたしの手よりもはるかに大きく。それでいて温かかった。しかも麻雀によるタコが出来てるのか、少しデコボコしてた。

 

「まだ皆が来てないんだ。だから、お茶でも飲んでゆっくりしないか」

 

「……はい」

 

憧れの人物と二人っきりという状況に頭が追い付かず、彼の言葉に返答するのに間が開いてしまう。

彼はそのまま奥の部屋に行き、お茶を入れた湯飲み茶わんを御盆に乗せて戻ってきた。

 

「あ、そうだ。まだ君の名前を聞いてなかった。よければ教えてくれないかな」

 

「淡です。大星淡」

 

「そうか。じゃあ大星さんと呼ばせてもらうね。大星さんは麻雀やったことある?」

 

コクリと頷く。

 

「腕の方に自信は?」

 

「それなりにはあります」

 

「そっかそっか。なら、今日は俺と勝負でもしてみようか。勿論、俺は全力は出さないよ。それに君との対局中に気が付いたことが有ったら口出ししようと思うけど大丈夫?」

 

「大丈夫です。よろしくお願いします!」

 

自分でもビックリするぐらいの声で返事をしてしまった。彼は一瞬驚いたように目を開けたが、一拍開けると笑いだした。

 

「ははは。今年の一人目は中々元気が良い。それに腕に自信があるというこれはツイてるな」

 

「あぅ。その、大きな声出してすみません」

 

「いやいや、気にしなくていい。じゃあ、オカルトも影響しないネトマでやろうか。個々の設備としてあるからそれを使おう」

 

こうしてあたしは憧れの須賀選手……じゃなかった須賀先生に腕を見てもらうことになった。

 





いや、すみません。何故かあわあわこうなっちゃいました。
当初は同じ同級生物で行こうと思ったのですが、それだと他の作品を変わらないなと思い路線変更したらこうなりました。

この淡ちゃんは慢心なにもありません。むしろ隙すらない。
京ちゃんプロ系の作品ってよくあるよねってここはひとつ。

活動報告の方でアンケートやってます。よければ来てください。


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大星淡の場合②

 

須賀コーチに案内され、部室内に設置されているパソコンを起動する。

今回は仮入部期間という訳でネトマはゲストでログインするとのこと。

 

「よし、準備できたね。じゃあ始めようか。遠慮しないで全力でかかってきな」

 

彼のその言葉と同時に対局が開始された。

 

★★★★★

 

彼のオカルトは詳しく知らないが、ネトマでも彼の堅実な守りを感じる。

手加減してくれようと彼の隙が見えない。やはり、あたしと彼とではそれほどの実力差があるのだろう。

その強大な壁を前にあたしは尻ごみをするのではなく不敵に笑った。笑ってしまった。

憧れの存在が目の前にいる。それだけで嬉しいのに、その憧かれた人物と対戦している。それだけであたしの顔には笑みが浮かぶのだ。ならば見せよう彼の言葉雑誌で見て以来磨いてきたあたしの基礎力を。

 

★★★★★

 

今年やってきた新入生の大星さん。

部室にやってきた時から彼女には期待をしていた。彼女は一定以上の実力を持つ雀士が放つオーラのようなものを纏っていたからだ。勿論、彼女には自覚がないのだろう。だが、これはいい人材がやってきた。

去年までの白糸台のメンバーも中々に強かったが、彼女がスタメン入りすれば更に高みを目指せるだろう。そう確信できたが、一応念の為、彼女の実力を測ることに。

 

やはり強い。オカルトが一切影響しないネトマでも彼女は中々の強さを持っている。

今回は様子見という事で守ることを優先して俺は戦っているが、大星さんは少しずつ点を稼いでいく。同室となった人たちにはかわいそうだが、この卓は彼女のものだろう。

 

そう思っているうちに対局が終わった。

 

「うん、やっぱり強かったね大星さんは」

 

「やっぱりとは?」

 

俺の言った言葉が分からないのか首をかしげている。彼女は俺と同じ金色の髪をしている。その金色の髪が首をかしげることで動いた。

 

「君が入ってきた時から感じていたんだ。強者のオーラみたいなものを」

 

「オーラ……」

 

「俺もうまく言葉にはできないけど、今まで会ってきた強者特有の雰囲気があるんだ。俺はそれを便宜上オーラって呼んでる。勿論、うちにも同じオーラを放つ人物がいるよ」

 

「宮永さんですよね」

 

「そうだ。宮永さんは高校生の中で一番強いと言っても過言ではない。実際それほどの成績を収めている。でも、君も彼女に負けず劣らずのオーラだ。期待しているよ」

 

「は、はい!期待に応えたいです」

 

「なら、今月末の部内対抗戦で皆に実力を示すんだ。そこで監督にアピールすれば今年の夏にでも大会に出れるかもしれないよ」

 

「分かりました。じゃあ、まずはそこを目標にします」

 

「うん、良い目標だ」

 

他の部員たちがやってきたようなので、大星さんにはそのままネトマをしておいてと告げておく。

 

★★★★★

 

須賀さんに期待していると言われた。

ものすごく嬉しい。方便に近いものだと分かっているが、それでも心臓はバクバク鳴っている。

彼に言われたとおりにネトマでまずは実力をつけよう。

そう意気込みパソコンに向かった。

 

部活が終わり、通学路を一人で歩く。

クラスメイトの中には同じ方向の子もいたが、残念ながら部活では居なかった。なので一人で帰っている。須賀さんが今日言っていた宮永照さんはやって来なかった。

 

家に着いたので部屋で着替えて、ベッドに飛び込む。

今日は驚いた。まさかあの須賀さんに出会えるとは。思い出すだけで嬉しくなり足をバタバタしてしまう。

母にうるさいと言われて止める。言われるまで気づかなかった。

明日からの放課後が楽しみになった。

 





今回は頭に浮かんだ言葉だけで書いたので文字数いつもより少ないです。

5000文字とか書きたいけどモチベが……ね?


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大星淡の場合③

 

やった!やったよ!あの監督にスタメン考えとくとまで言わせることが出来た!

 

須賀コーチの言う通りにあたしは4月末に行われた部内対抗ランキングを目標に練習を重ねていた。そして当日に見事好成績を収めることが出来、監督から声を掛けてもらったのだ。

 

嬉しくて須賀コーチに報告をする。

 

「そうか、おめでとう。これでスタートラインには立ったな。今後は基礎力の向上の練習だな」

 

「はい!」

 

須賀コーチが考えたという練習メニューの書かれた用紙を受け取る。どうやら暫くの間の練習はこれを行うようだ。

監督は大会における選手の選別をしている。普段の部活はコーチに任せ、自分が見た時に良い成績を出す選手がいたら声を掛けるという方針をとっている。この為、普段の努力の様子を監督は一切知らないので部活対抗ランク等の監督がやってくるイベントでは緊張力がすごいと先輩が言っていた。

 

「はいはーい。みんな注目注目。今日は部活始める前に諸連絡からだ。来月頭のゴールデンウィークに合宿を行うことが決定した。なので、合宿の準備しておけよ。泊るのは学校だからそこまで荷物も必要ないしな」

 

須賀コーチが皆を集めて話す。合宿の話自体は部活に入ったころに言われていた。学校で合宿をするか遠くへ遠征するかの予定だったらしいが、どうやら学校で合宿をすることに決定したようだ。

 

「詳しい説明書きなどは部活終わりにプリントとして渡すからそれ以外の質問は早めにな。じゃあ、部活やろっか」

 

その言葉を合図に皆が一斉に動き出した。

あたしもコーチからもらった用紙に書いてある教本を使って牌の切り方を勉強する。勿論分からないことがあればその都度コーチのもとへ行き話を聞く。

 

勉強をしているところに声を掛けられた。

 

「ねぇ、君が大星淡?」

 

「へ?」

 

「コラ照。まず人に尋ねるときは自分から挨拶しろよ」

 

「む」

 

私に声を掛けてきたのは赤い髪をした人だった。微妙に気になるアホ毛が生えてる。

その人に注意した人物も彼女の隣に立っていた。その人は黒い髪を長く伸ばしているようで、女性にしては高めのスレンダーな方だった。

 

「はい、確かにあたしは大星淡ですけど」

 

「そう……なら麻雀しよう。コーチから許可は得ている」

 

「え?別に構いませんが。あなたは?」

 

「あ……宮永照、3年」

 

「すまんな大星、コイツ人に自分から声を掛ける奴じゃないのに珍しく掛けたから順序が変わってしまったようだ。私は麻雀部の部長をしている弘世菫だ。挨拶が遅くなり申し訳ない。如何せん人が多くてな」

 

「貴方達が宮永先輩と弘世先輩……」

 

「照でいい。それより麻雀」

 

そう言うと宮永先輩は雀卓の置いてある部屋へと一人で向かった。

 

「あっ、おい照。すまん、あいつを追いかけるしかないようだ」

 

「わかりました」

 

あたしも弘世先輩の後ろを付くように歩く。宮永先輩はどうやらあたしの麻雀の腕を見たいようだ。正直勝てる気は今はしないが、全力で挑ませてもらうとしよう。全国1位の高校生の実力にどこまで行けるのか……

 

★★★★★

 

大星淡。あの照が気に掛けるほどの雀士らしい。

私は先日受け取った大星の麻雀記録を見ながらそう思う。彼女の麻雀は綺麗だ。基本を疎かにしないできっちりとしたうち筋だ。迷いも見えない。

まだ対局したわけではないので彼女のオカルトの強さも計り知れない。対局した生徒から聞く限りは強力なオカルトのようだ。

 

中々手ごわい相手だな。

 

大星淡。あの須賀コーチが最近何かと練習に付き合っている少女。

私としては彼には彼女よりも私と練習してほしいが、彼の性格上それは無理だろう。

だから、私が実際に対局して須賀コーチが付きっきりになる程の実力を持っているのか計らせ貰う。

幸い私は全国高校生の頂点に立っている。彼女も私の誘いを無下にはしないだろう。

予想だとこれを機に私の実力を彼女も図ってきそうだ。

 

対面してみて分かった彼女の実力は本物だ。去年の夏に戦った2位と3位ともそう離れたように感じないほどのオーラを感じる。

 

むむむ。これは須賀コーチが気に入るのも分からなくはない。むむむ……困った。

 

 

 




照はそれなりに書けたつもりだけど菫のキャラが……

あ、照の話も近々書く予定です。


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大星淡①(別ver)


まさか設定をろくに考えずに1日出掛けるとは……


 

 麻雀の名門である白糸台高校の廊下を一人の女生徒が走っていた。時刻は既に放課後。部活を終えた生徒がチラホラと見えるが、少女はそれらに目もくれず目的の人物へ一直線に走っていた。

 走っている少女の綺麗な金髪は宙に靡いている。白い制服のスカートも走っているのに何故か、彼女の走りを邪魔をすることはない。

 暫く走る事数分、目的の人物の後姿が見えた。その姿はまるで仕事に疲れたサラリーマンの如く、哀愁を漂わせていた。

 

「キョータロォォォー」

 

 少女―大星淡は後姿を見せている人物の名前を呼びながら勢いよく抱き着いた。

 

「うおっ!……おい、大星」

 

 青年はいきなり抱き着かれたことでバランスを崩しそうになったが、ギリギリで耐える。抱き着いた少女の名前を少し低い声で呼ぶと、背中に抱き着いた存在がビクッと動いた。

 

「なぁ、俺は廊下を走るなって昨日も言ったよな?」

 

「……」

 

「それに、勢いよく抱き着くのも危ないから止めろって言ったよな?」

 

「……」

 

「そーかそーか。よし、今から生徒指導室に行くか。行くぞ、そのまま捕まっとけよ」

 

 青年はそう言うと、背中にへばり付いた存在が離れないように手を回すと目的の場所へと足を向けた。

 

☆☆☆☆☆

 

 生徒指導室と書かれたプレートが掲げられている部屋に入ると鍵を掛ける。そのまま背中の存在を近くにある椅子に座らせる。自分の近くの椅子に座った。

 

「それで、どうした?」

 

「ん?部活も終わったから遊びに!」

 

「……はぁ、お前なぁ。俺とお前の関係は?」

 

「先生と生徒じゃん、何言ってるの?」

 

「それ分かるなら分かれよな。ここは家じゃなく学校なの。今は家みたいな関係でいられないと何度言ってるんだ……」

 

 キョータローと呼ばれた人物はため息をもう一度吐いた。

 彼と大星と呼ばれた少女の関係は簡単だ。ご近所さんの一言で終わる。幼いころからともに遊んできた仲なので、高校生となった今でもそのままの関係だ。もっともそれは大星から見た関係だが。

 

「今は放課後だから生徒少ないから良いけど、昼間とかにやるなよ?一応は俺との関係は秘密にしてるんだから」

 

「はーい」

 

「ったく、返事は何時も良いんだがなぁ」

 

「でさでさ、キョータローは何時帰れるの?」

 

「今日はもう少しでだな。明日の授業の準備を簡単に済ましてからだ」

 

「むむむ。じゃあ、淡ちゃんは先に帰ってお料理して待ってるかな」

 

「おう、そうしとけ。寧ろそっちのほうが助かる」

 

「まっかせなさい」

 

 胸を張る少女。余談だが、彼女は同年代に比べて女性的な肉体をしている。身長が低いことも相まって、いわゆるロリ巨乳に分類されてしまう。

 そんなポーズをされたので、京太郎は目を逸らす。

 

「じゃあ、俺は職員室に戻るから。部屋の鍵を閉める必要もあるし、行った行った」

 

「はーい」

 

 共に生徒指導室を出て、鍵を閉める。鍵がかかったのを確認すると、淡と別れ、職員室へと歩み始めた。

 

☆☆☆☆☆

 

 職員室で他の教員たちと明日の授業内容を離し終えると、校舎を後にする。

 教職について、2年目となる。まぁ、こんなものだろと思いながら帰路に就く。

 

 家に入ると、美味しそうな匂いがする。今日の夕飯はデミグラスソースを使った物だろうか。リビングへの扉を開けると、エプロンをした淡が立っていた。

 

「おかえりー」

 

「ああ、ただいま」

 

 もう2年もしている挨拶だ。大星淡の両親は現在海外で仕事をしている。

界隈で有名な人物で、年中世界を飛び回っている。白糸台に赴任が決まった際に、彼女の両親から、自宅に住んでみないかと話を受けた。

 学校近くのアパートを借りようとしていた俺にとって棚から牡丹餅な出来事だったので直ぐに了承した。

 淡は両親が世界を飛び回っていたため、普段の言動からは想像できない程に家庭的な少女だ。

 学校に近いというよりも、この家で生活することになっての一番良かったことは淡がいる事だった。

 

「今日は少し寒いからビーフシチューにしてみました。デミグラスソースから手作りだよ!」

 

「マジか。それは楽しみだ。早速だけど、いただけるか?」

 

「じゃあ、テーブルに座って待ってて」

 

「ほいほい」

 

 淡がキッチンに入るのを見て、リビングの椅子に座る。料理を御盆にのせ、運んでくる姿を見ながらぼんやりと考え事をする。

 普段の言動がなければ、さぞかしモテるんだろうなと。淡は彼女は知らない事だが、ファンクラブというものが存在する。その多くは男子生徒構成されており、如何に彼女の容姿が高いかが窺える。

 少し胸元に痛みが走った気がするが、直ぐに治まったので安心する。まだその手の病気とかに掛かりたくない年齢だしな。

 

「おまたせ。どーぞ」

 

「いただきます」

 

「めしあがれ」

 

 スプーンを手に取り、一口口に運ぶ。

 

「うん、美味しい」

 

「ほんと!?」

 

「ああ、本当だ。というか、淡の料理で美味しくないと思ったことはないよ」

 

「そっか……えへへ」

 

 淡は照れたのか頬をぽりぽりと掻いている。その姿をしり目に二口目三口目と食べ進める。というか、

 

「淡、お前は食べなくていいのか?冷めるぞ」

 

「あっ……い、いただきます」

 

 俺の感想を待っていたのか、ずっと食べていなかったようだ。

 

「おー、美味しい。でも、これなら……」

 

 自分で作った料理だからか、まだまだ改良の余地があるのかぶつぶつと改良案を口にしながら食べている。これじゃあ、食事を楽しむというか試食だな。





今回は冒頭の走る辺りは上手く書けた気がする。
次は、これの続きかほかの人を書こうかな。勿論、別verではなく別人ね。

誤字脱字・感想待ってます。


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天江衣の場合
天江衣の場合①


タイトルと一文目の矛盾。


須賀衣は龍門渕高校に通う女子である。身長がかなり低いため、そうは見えないが立派な高校生だ。

本来は家庭環境故、龍門渕みたいなお嬢様学校に通うことが出来ないのだが、龍門渕家の娘の推薦により通うことが出来ている。一応従姉妹らしい。

らしいというのはとある事故の葬儀の際に会ったことがあると義父から聞かされているが、覚えていないのだ。

 

★★★★★

 

朝日が昇り始めた頃、義父の部屋に忍び込む影が一つ。

 

「ふっふっふっ……今日こそは潜り込ませてもらおうぞ」

 

義父を起こさぬよう小声でつぶやく小さな影。

彼女の義父である須賀京太郎はプロの麻雀師である。その職業柄家にいることが多く、彼女はたくさん甘えることが出来た。その結果としてファザコンを通り子とした何かへと変貌を遂げたことを京太郎は知らない。

 

「よおく寝ておるのう」

 

彼女は古めいた口調でしゃべる。それは義父によるものではなく、かつて失った両親たちから受け継いだものだ。京太郎はそれを注意することなく育て上げたので、昔から変わらず古風なしゃべり方をする子に育った。

 

義父の布団をめくると寒いのか包まる義父の体。それを見て少し笑いが漏れ出すが起きだす気配はない。それに気をよくすると彼の体に抱き着く。京太郎の匂いに包まれながら彼女は安心して眠りについた。

 

★★★★★

 

ピピピピピ

 

予めセットしておいた目覚まし時計が部屋に鳴り響く。今日の目覚ましは確か10時にセットしたはずだ。休日なので衣も俺を起こしに来る気配が……ん?

 

「あれ?なんだ布団が温かい」

 

 

布団を捲ると俺の義娘である衣がくっついて寝ていた。

 

「久々に潜り込んできたか……はぁ」

 

衣もう高校二年生になる。そろそろ親離れとは言わないが、甘えてくるのはどうなのかと思う。

それでもこうして頭を撫でてしまうのだ。

衣を起こさないようにゆっくりと動かす。なんとか動かせたのでそのまま部屋を出る。

 

リビングにやってくると昨夜のうちに沸かしておいたコーヒーをカップに注ぐ。

朝起きた時はブラックを飲むのを習慣付けているので慣れた味だ。

 

玄関近くに設置されたポストから新聞をとるとテレビを見ながら見る。

特に気になる記事がないので、新聞はたたんでテーブルの端に置いておく。後で衣が読むだろうからな。

 

簡単に朝食を作っていると衣が起きてきた。

 

「おはようキョーターロー」

 

「おう、おはよう衣」

 

フライパンに掛けていた火を止め衣の頭をなでる。昔は子供ではないと抵抗していたのだが、最近は大人しくなでられている。というか目を細めて嬉しそうにしている。

 

「朝ごはんもそろそろ出来るから、部屋に戻って着替えてこい」

 

「うん、わかった」

 

まだ眠そうに目をコシコシこすりながら自室へと戻っていった。

その間にできた料理を皿へと持っていく。

皿をテーブルに運び終えたので席に付き、衣を待つ。

 

暫くすると完全に目が覚めた衣がやってきた。

 

「「いただきます」」

 

我が家の朝食はいつもこんな感じだ。

 

★★★★★

 

今日は昼過ぎから仕事が入っているので衣に告げておく。

 

「むぅ……」

 

「そんなにむくれるなって。その代わりと言っては何だが、夕飯は衣の好きなレストランにでも行こうか」

 

「本当か!?」

 

先程までほほを膨らませていたのが嘘のように目を輝かせた。衣は昔両親に連れて行ってもらったレストランのエビフライが好物だったりする。

勿論、うちでも作っているのだが思い出には敵わない。

 

「仕事が終わったら一度帰ってくるからその前に連絡入れるよ」

 

「分かった。ならば衣はそれまで本でも読んでおく」

 

「結構溜まってたもんな」

 

衣は俺の影響か麻雀をするがそれ以上に読書をする。基本的には古本屋にしか置いてないような昔の本を好んで読む。先月たくさん買ってきたのを思い出したのか、今日の予定を決めたようだ。

 

「じゃあ、俺は仕事の準備するから皿洗いは任せた」

 

「うむ、任されよ。衣にかかれば皿洗いの一つや二つ電光石火の如く終わらせて見せよう」

 

「ははは。それは心強い」

 

彼女に仕事を任せ俺は部屋に戻った。

 

 




実はこの案はあわあわ編を書いていた時に思い浮かびました。

京太郎大人シリーズは主要キャラにしようかなと。(具体的には咲、照、小蒔、淡、衣の5人)

活動報告にてアンケートやってます。


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天江衣の場合②

スマホで書いたので改行とかいつも以上に酷いかもしれません


須賀京太郎という雀士は想像以上に人気だったりする。

彼の昼過ぎからの仕事はテレビによる取材関連なのだが、彼が出演する放送は毎回高視聴率を叩き出している。

それは彼の麻雀へのひたむきな思いと、取り繕わない性格故なのだろう。

ともかく彼は人気なのだ。

 

「お疲れ様でした須賀さん」

 

「そちらこそお疲れ様です」

 

「どうです?仕事終わりの一杯でも」

 

「あー、残念ですが家族サービスをする約束がありますので」

 

彼が子持ちだという事は周知の事実だ。その言葉を聞いたテレビ番組の関連者はなら仕方ないと笑った。

 

さて、思いの外遅くなってしまった。衣に持たしている携帯電話へ掛ける。

 

「もしもし衣?」

 

「京太郎、遅いぞ」

 

「すまん。こんなに遅くなるとは思わなかった」

 

時刻は既に9時に近い。早歩きで車を停めてある駐車場へ向かう。ドアロックを外し車に乗り込む。

俺の愛車は親父のお古なので、割と年代物だったりする。しかし手入れをしているのできっちり動いてくれるのだ。

衣に急いで帰るからと伝えて車を走らせた。

 

京太郎と出会ったのは、大好きな両親が亡くなってすぐの事だった。

死因は別の車との衝突事故だったようだ。勿論過失は相手の方にあると判決が下された。

前に聞いた事があるが、当時は衣を何処に引き取らせるかと親戚間で揉めていたらしい。衣の両親は考古学者だったこともあり、親戚にはあまり良い目で見られてなかったのだ。

そこで衣の両親が勤めていた大学の生徒の一人だった京太郎がやって来た。恩師が亡くなったのは本当なのか確認しに来たらしい。

両親が亡くなった事を確認した京太郎は親戚が揉めていた事に気付いた。それから衣の所にやって来て、親戚の元で生きるか少し苦労するが俺の元で暮らすかと聞いてきた。

衣は京太郎のことを全く知らなかったが、両親が亡くなったと急いで駆けつけてくれたのを見ていた。だから京太郎について行くと決めたのだ。

 

「遅くなったな」

 

「本当だぞ!衣はお腹がペコペコだ」

 

車の助手席に座った衣は不貞腐れながら言う。勿論本気ではない。

彼が人気がある事は情報として知っているし、彼の雀士としての実力が高い事も知っている。

でも衣にとっては今や唯一の家族なのだ。だから構って欲しいとついつい不貞腐れて接してしまう。

京太郎はそれに気付いたのか苦笑いしながら悪い悪いと頭を撫でてくれた。

 

大好きな両親と何回も訪れたレストランへ着いた。

京太郎と此処に来たのは既に両親と来た以上だ。入店すると夜も遅いのかあっさりと席に付けた。

衣は既にメニューが決まっているのでデザートの欄を見ている。

今日はお昼食べて以来、水以外口にしていないのでお腹が空いている。なので結構がっつりのハンバーグを頼む事にした。これなら衣が一口欲しいと言ってきてもあげることが出来る。

 

衣はジュースとかよりも玄米茶やほうじ茶といったちょっとジジ臭いものの方が好きなのでドリンクバーを頼まなかった。

ベルを鳴らしやってきた店員に注文頼むと衣が話しかけてきた。

 

「それで京太郎。今日の取材は何だったのだ?」

 

「ん?今日はな来年行われる世界大会への意気込みについての取材だったよ」

 

「ほう、もう世界大会の事を話題として来たか」

 

「まぁ、話題性としては良いだろうよ。見た感じネットでも大騒ぎだ」

 

「ふふん。京太郎が出るのだから当たり前だ」

 

「そう言って貰えると嬉しいよ」

 

そう京太郎は世界大会に出場する事が決まっている。男女混合のチームで団体戦の次鋒として起用された。勿論個人戦にもエントリーされている。衣としては大好きな京太郎が参加する事を心から喜んでいるのだ。

 

「そうだ、麻雀といえば衣の方はどうなんだ?」

 

「む?大丈夫だぞ。とーか達と今年も出場する事が決まっている。一番気をつけねばならぬのは風越の先鋒だな」

 

「風越の先鋒といえば……福路さんだっけか」

 

「うむ。彼奴の卓を見るセンスはピカイチよ。勿論衣も負けておらんがな」

 

「衣は先鋒で出るのか?」

 

「いや、オカルト的に夜に近づく方が有利だからな。大将を任された。衣が戦えば百戦百勝よ」

 

「ほう、なら俺とやるか」

 

「むむむ、京太郎相手には満月で無ければ難しいからな」

 

「まだまだ子供に負けてやるつもりはないさ」

 

「子供じゃない衣だぞ!」

 

「おっ、久々に聞いたなその言葉」

 

そんな風に家族団欒をしていると注文したメニューを店員さんが持ってきた。

 

「じゃあ食べるとするか」

 

「うむ」

 

 




京ちゃんの強さは淡編と同じぐらいです


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天江衣の場合③

時間がない中適当に書いたので1000文字レベルです。

多分後日加筆します。


 

時間というものはあっという間で既に衣たちの大会が間近に迫ってきた。

衣に本番前の調整がしたいと言われたのでその相手をする。衣の能力は満月に近づくほどに脅威が増す。勿論平時でも強いのだが満月と比べると月とスッポンだ。

一応これでもプロなので負けることはない。最も、調整なので何時もとは違いオカルト抜きの技術のみで闘牌してるのだが。

 

「ぬう……さすがは京太郎だな。衣の技術では追いつくので精一杯だ」

 

「同年代に比べると衣の技術は抜き出てると思うがな」

 

プロの俺の背中を追いかけることが出来るレベルには育っている。これならあの宮永照にも迫れるかもしれないな。

 

「そういえば衣。対戦相手の情報は見たか?」

 

「む?見てはおらんな。正直県大会で衣を楽しませてくれるものがいるのだろうか」

 

「いるぞ。今回の相手は正にそうだ」

 

「ほう……京太郎にそこまで言わせるとは。興味が湧いて来たな。名は?」

 

「宮永咲だ」

 

清澄高校という無名の高校から出てきた強者。大将を務めているようなので衣と戦うことになるだろう。少なくともその戦いは衣にとっていい経験になるだろうな。

宮永か……宮永照に似てる点もあるしそうなのかもな。まぁ、人様の事情だ。気にしないでおくべきだろう。

 

「宮永咲、しかと覚えた。京太郎、映像とかはあるか?」

 

「ああ勿論取ってあるさ。それに決勝戦は俺も実況席に呼ばれている」

 

「ほほーう。京太郎が見てるのかならば、なお更負けられんな」

 

どうやらやる気に満ち溢れてきたようだ。親が授業参観に見た子供のようなものなのかね。

 

「では部屋で見てくる」

 

「ああ、そうしてきな。お昼はそれが終わったころに出来るように準備しておく」

 

「楽しみにしてる」

 

普段はもう少し甘えた口調で話してくる衣だが、麻雀が絡むと変わる。冷たい雰囲気とは言わないが冷静な口調になる。

 

衣が部屋に戻る後姿を見ながら先ほどまでしていた麻雀用具をしまう。それを済ませると台所へ。

 

★★★★★

 

結論から言うと衣たちは負けた。

誰かが悪かったというわけではない。敢えて言うなら運が悪かった。宮永咲は衣以上の気迫を最後に見せた。それが勝利につながったのだろう。彼女もまた衣と同じように牌に愛されているのだろう。それを感じ取ることが出来た試合だった。

 

現在の高校麻雀には牌に愛された少女たちが幾らかいる。それは毎年見るのだが今回のは例年より多く感じる。

先程衣を倒した宮永咲。

俺の義娘である須賀衣。

王者宮永照。

長野の県大会よりも先に行われた東京大会で見た大星淡。彼女は確か宮永照の後継者と言われているらしい。

後は鹿児島の大会でその実力を示した神代小蒔。

 

これ以外にもまだいるのだが、これ以上に愛されている者はいないだろう。泣いている衣を見ながら俺はそう思った。

 

 





ころたんは原作と同様に負けました。一応個人の方で勝ち進めた風にしようかなと思ってます。そうすれば話広げれるしね。

次回は淡編の続きを書こうと思ってます。


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