暗闇からの止揚 (近藤山人)
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Who are you?
Invitation-呼び込み
日本のごくありふれた地方都市の一つ穴戸市。そのオフィス街にあるビルの3階に探偵事務所が一つ入っていた。
その事務所の札にはこう書かれていた。
・鵺野探偵事務所
・Nueno Detective Office
〈鵺野探偵事務所・事務室〉
人が2人しかいないオフィスににキーボードを連続で叩く音が響く。
「接続完了、所内ネットワーク問題なし。所長引っ越し作業終わりました」
先程までキーボードを操作していた七三分けの眼鏡をかけた平凡そうな男が部屋の奥の所長席と記された机に腰掛けた女に話しかけた。
「そう、ありがとう佐藤くん。君がいてくれて助かったよ。ウチには君しかこう言う事に詳しい人がいないからね」
「いやぁ、給料分働いたまでですよ。」
「君は十分給料以上に働いてくれているよ」
「そうですか。ところで所長」
「ん? なんだい?」
「その格好は何なんですか?」
佐藤と呼ばれた男は今まで疑問に思っていた事を口に出した。何故なら所長と呼ばれた女性は室内にもかかわらず、顔の半分ほどを覆うマスクをしサングラスをかけて、クラウンもツバも大きな、明らかにサイズの合ってない中折れ帽を被っていたのだ。
「ああこれかい? 顔を出すと変な奴らによりつかれるからね。顔を隠そうと思っただけだよ」
「そ、そうですか。……でも所長が言うと説得力がありますね。あれでも今はまだこのビルに他の組織や個人は入ってないからつける必要はないのでは?所長は上層のマンショにお住まいですし」
その問いを聞いた彼女は、その問いに若干冷めた顔をしてこう返した。
「これから外出するんだよ」
それにを聞いた佐藤は身を乗り出してさらに質問をする。
「え? 服でも買いにでも行くんですか?」
「……今ので十分だ。友達に会いに行くのさ。友達に。そう言うわけで佐藤くん、私はしばらくここを留守にするから内亜に引き継いだら帰っていいよ」
「え?今ですか?」
多少困惑しながら質問した佐藤に所長である彼女は答えを返す。
「うん、今だよ」
「そ、そうですか。では自分は内亜さんが来るまで留守番をしていますのでどうぞ何処へでも」
「じゃあ佐藤くんまた明日」
彼女はそのまま机の引き出しからバックを取り出して事務所を出て行った。それを見送った後佐藤は椅子にどっかりと体を下ろしタバコに火をつけた。
「……はぁ、今日も言い出せなかった。あ、ここ禁煙だった」
〈穴戸市・いずれかの裏通り〉
彼女は穴戸市の寂れた裏通りを歩いていた。表通りと違い人通りもなく昼間だと言うのに薄暗い寂れた通りを進んでいた。
そして坂東探偵事務所と錆びた看板の出た建物の前で立ち止まりインターフォンを押した。
〈坂東探偵事務所・応接室〉
建物の外装に似合わない内装と調度品を応接室。そこにはタバコの入っていないパイプを加えた男と、一心不乱にナイフを磨いている女がソファに腰を下ろしていた。
「なあ、多田野ちゃん。今日鵺野が来るんだがこの格好でよかったのかなあ?」
パイプを咥えた男はナイフを磨く女、多田野に話しかけるが彼女は彼の方を見ずに「いいんじゃないですか。」と返すだけだった。
「相変わらずナイフが好きだな君は」
「まあ、そうですね」
「(……いこん、こうなると会話が続かない)」
パイプを咥えた男、坂東が会話が続かず困っていると応接室にインターホンの音が響いた。彼が多田野の方を見ると彼女はナイフを磨くのに夢中なのか気が付いてない様であった。坂東は立ち上がり出る。
「はい、坂東探偵事務所です」
『やあ、恭二くん。私だよ私。約束通り来たよ』
「ああやっぱり
それを聞いた女性、鵺野は坂東が扉を開けるより早く自分で扉を開け事務所へ入っていった。
「久しぶりだな京。相変わらず動くのが早い。それにしても、また随分と顔を隠しているな。それに服も地味な物を着ているな。」
「まあね。それと顔を隠すのは前から言ってるけど面倒な連中に憑りつかれない様にするためだよ」
「まあ確かにお前が飛び切りべっぴんさんだと言うのは認めるが、自分で言うのはどうかと思うんだが」
「それを言われると弱るなあ。それにしても、多田野さんはいつも通りね」
「まあとりあえず座ってくれ水羊羹持って来るから」
「わーいみやこみずようかんだいすきー。」
「そのネタが許されるのは中学生までだ」
「何か言った?」
「いいや何も。空耳じゃないか?」
2人がそんなこんなでどうでもいい雑談をしていると事務所の扉が開けられ活発そうな印象を与えながらも険しい表情をした1人の女性が入って来た。
「こんちにわ、恭二さん。未虎です」
「なっちゃんじゃないか。久しぶり」
「もしかして先客がいたのかな?」
「いや、そんな事はない。こいつは遊びに来ただけだからな」
それを聞いた未虎は少し意外そうな顔をして尋ねる。
「もしかしてお知り合いの方?」
「何言っているんだ?……あ!そうかそう言うことか。顔を覆っているものを取ってやれ」
「仕方ないなあ」
鵺野が顔を覆っていたマスクやサングラス、帽子を取ると未虎は少し驚いた顔をして
「京さんじゃないか。顔が隠れていたし、服の選び方も変わっていたからぱっと見分からなかったよ」
「それにしばらく会ってなかったからね。で未虎は様子を見るに何かを依頼しに来たんだよね、私は席を外すよ」
「待ってくれ。これは京にも聞いて欲しいんだ」
「まあまあまあ、詳しく聞くから取り敢えず座ってくれ。お茶と羊羹持って来るからそれでも食べて落ち着いてからな」
………………………………
「今日来たのはほかでもない、恭二にお願いしに来たのさ。私の父さんについて覚えているかい?父さんは十数年前に突如失踪したのさ。実はもう父さんは死んでしまったんじゃないかと思ってたんだけど、父さんの手がかりとなる物がこの間テレビに映ってたのさ」
そう言って未虎はスマートフォンを操作しこの街で起こっているとあるニュースを3人に見せた。それを行いながら彼女は説明を始める。
「これを見てくれ。今街を騒がしている血痕事件のニュースなんだけどこの時計父さんの物と瓜二つなのさ。しかも裏に掘られているNATIと掘られているところも一致している」
「そうか浩志さんは行方不明になった時。こんな感じのブランド物の時計を持っていたな。それが今見つかったとなると」
「その通りだよ。もしかしたら父さんは生きているかもしれないって事さ。……そう考えたら居ても立ってもいられなくなってね。どうか父さんを探して欲しいんだ。もちろん報酬は出来る限りだそう」
そう言って未虎はかなりの額が記された小切手を見せた。
「どうかよろしく頼む」
そう言って未虎は頭を下げた。
「頭を上げてくれ。親友の頼みだ。報酬などなくてもその依頼受けよう。それに俺も会えるなら浩志さんに会いたいからな。京お前はどうする?」
「もちろん協力させて貰うよ」
「ありがとう。恭二、京」
そう言って未虎は今出来る精一杯の笑顔を2人へ向けた。
ダイスはしっかりとふりますよ。
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Investigation-調査
平和な日々を、ごく当たり前なものとして
例えば、その日常の裏に得体の知れぬ何かが存在したとしても
多くの人は、自分と無縁のものと思うだろう
でも目の前にある現実が、全て偽りだったとしたら……?
by孤門一輝
那智 未虎が去った後の坂東探偵事務所は沈黙が支配していた。なお気難しそうな表情をした男女が2人がその場の空気をより重くしていた。
しかし多田野はそんな事を気にせずに2人に話しかけた。
「一つ質問しますがお二方は那智 浩志さんがまだご存命だと考えているんですか?」
「……あれは証拠とするにはまだ若干弱いが、同時に亡くなった事も証明出来ない。なら信じてみてもいいと、俺は思う」
「その意見に私も賛成するよ。疑う事も大切な事だけど、信じる事もそれ以上に大切な事さ。まあ、感情論も入っているのだけれど」
〈穴戸市・鵺野探偵事務所・事務室〉
その男、内亜 千弥は同僚の佐藤 敏夫から仕事を引き継いで励んでいた。と言ってもやるべき事は現時点ではほとんど無く『主な仕事:留守番』な状態であったが。
しかしそれももう直ぐ終わりだろう。
彼のスマートフォンから着信音に設定されている、威風堂々が流れる。
彼は最初面倒臭そうにスマートフォンを取り出したが、相手を確認すると直ぐに通話マークをタッチした。
「はい所長、内亜です」
「昨日ぶりだね佐藤くん」
電話の相手は彼の上司であり、恋人でもある鵺野 京だ。彼女から電話をかけてくるときは大抵プライベート関係なのだが今回は違った。
『突然だけど、那智 浩志さんが生きているかもしれない』
その突拍子も無い発言に内亜は固まる。
「……は?」
『那智 浩志さんが生きているかもしれない』
「……ど、どういう事ですか?」
『言葉の通りだよ。詳しい説明いる?』
「お願いします」
『今この街で起こっている血痕事件については知っているよね?』
「あの誰のものか分からない血痕の事ですね」
『それでね、未虎が偶然そこにあるものを見つけたんだ』
「何ですかそれは?」
『時計だよ。浩志さんのね。まあまだ確定したわけじゃ無いけど調べてみる価値はあると思う。と言うわけでこっちに来て手伝ってくれないかな。今、穴戸駅の北口の出入口付近にいるんだけど。ああ、いつもの道具を忘れずに』
「分かりました。直ぐに向かいます」
『……ありがとう千弥』
それを最後にあちらから電話を切られ通話は終わった。
内亜は椅子に腰を下ろし天井を見上げながら
「浩志さんが生きていた、か。あらぬ希望でないといいがな」
〈穴戸駅北口〉
鵺野と坂東の2人は穴戸駅の北口で内亜が合流するのを待っていた。2人はしばらく無言であったが、それを苦痛に感じた坂東が鵺野に話しかける。
「なあ京、君はこう考えているだろ。『聞き込みをしていけば、警察にはなかなか言えない事、つまりくだらない事や関係なさそうな情報も探偵の自分なら得る事ができるかもしれない。』と」
「……まあね。概ねその通りだけどそれだけじゃ大した事は分からないと思うね。でも今回の件、何か嫌予感がするんだ」
「心配はないさ君のカンはよく外れるからな。あの時だって、あの時だってそうだ」
「そう言えばそうだったね。あっ、来たみたいだよ」
「ん、本当だ」
2人は内亜が運転する自動車を追いかけて駅の駐車場へと向かっていった。その足取りはいつもに比べて重い物であった。
〈穴戸駅・駐車場〉
内亜は車から降りてから坂東がいる事に気がついたが表情を少し変えるだけだった。
「お久しぶりです坂東さん。先日の件は実にお見事でした。ところで本日こちらにいらしているのは浩志さんの事ですか?」
「よく分かったな」
「まあ、社長の説明不足はいつもの事ですし。これくらいなら小学生でも予測できる事ですよ。と言うか坂東さん貴方、『よく分かったな』と言っておけばいいと思ってませんか?」
「いいや、全く」
「まあ、そう言うことにしておきましょう。それで詳しい話をお聞かせ願いたいのですが……
〈穴戸市・坂東探偵事務所・応接室〉
時刻は既に深夜深夜を回っていた。質の良いソファに腰を下ろした三人は精神的影響もあり疲れ切っていた。
「結局聞き込みの収穫は二つ、謎の血痕事件は数か月ほど前から起こっている事件である、この事件が不可思議なのは血痕の痕跡が残っているにも関わらず、その血を流した人物が見つかっていないこと。…………んな事とっくに分かったんだよクソボケガァ!」
部屋に坂東の怒声とテーブルを打ち付ける音が響き渡る。
「……………………」
部屋は再び重い空気に包まれていた。多田野が操作するキーボードの音だけが部屋に響き渡る。
「ねえ、千弥、恭二私たち浩志さんと仲が良くてよく一緒に遊んでもらっていたよね」
「ああそうだな」
「……懐かしいですね。もうかなり記憶が薄れて来てしまいましたよ」
「ああぁーーー!!」
突然多田野の叫びが部屋に響き渡った。
「な、なんだ突然!」
坂東はほぼ怒鳴り声で故を問う。
「お、おかしいんですよ。これ有志の人が撮った事件現場の写真なんですけど見てください。」
三人は一斉に詰めかけてPCのディスプレイを覗いた。そこには一枚の写真が表示されていた。一見すると普通の写真だ。場所が記されkeepoutのバリケードが貼られ血痕があったと思わしき場所にチョークが引かれていた。ただそれだけだ。
しかし……
「おい、何でこれ血痕が円形に存在しない事になっているんだよ。これじゃあまるで、」
「その上にマンホールがあったみたいかな」
「だとするとかなりおかしな事になりますよ。私が調べた限りではこの事をフリーの記者さえ記事にしてませんよ。警察からの発表もありませんし。マンホールが開いていた事が隠す理由は思いつかなくはありませんが、状況から察するに」
「普通の理由じゃあない」
「!」
普段はまず聞くことのない鵺野のその声色。それにつられて内亜は見た。先程まで沈んでいた彼女が口の端を釣り上げていた。
「行こうじゃあないか、千弥、恭二。さあ、さあさあさあさあささあさあぁ!」
興奮が収まらないと言った様子の鵺野は窓から飛び出して走り出した。
「お、おい待て鵺野!」
2人も後に続く。後にはただ多田野1人だけが残された。
「あの、私はどうすれば?」
〈穴戸市・黄金区・裏通り〉
鵺野は震える手でマンホールを掴み力を込める。
「ああ、思った通りだやっぱりこの事件普通じゃあない。いや普通であってたまるものか。恭二、内亜、ライトを持って」
「まさか……」
「そのまさかだ。潜るよ」
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ghoul-屍喰鬼
ラブクフト全集より
下水の悪臭が漂う下水道をLED式のペンライトを頼りに三人の男女が進んでいた。その足取りは注意深く音を立てないようにしたもので、さらにお互いに死角を埋めるように進んでいた。
勿論このように移動しているのには訳がある。
時間は少し遡り、
「マジかよ。本当に潜りやがったぞあいつ」
「まあ、いかにも所長らしいですね。追いますか?」
内亜と坂東は男2人、マンホールの前に取り残されていた。
「逆に聞くがお前は追わないのか?」
「いえ勿論追いかけますよ」
「そうか。じゃ、先に潜ってくれ。俺が殿を努める」
〈穴戸市・下水道〉
坂東は立ち込める悪臭に顔をしかめながら梯子を下っていた。中から、響いてくる音で2人がまだ近くにいるであろう事は分かっていたが、それとは別の音も耳に入って来ていた。
彼が下水道にたどり着くと鵺野と内亜の2人がある方向を見ながら固まっていた。
不審に思った彼は2人の後ろまで行き、2人が見ている方を見た。そして坂東は思わず声が出そうになるのを奥歯を噛みしめる事でこらえた。からの視線の先には微かに赤く光る二つの点が見えたのだ。しかしそれはすぐに消えてしまった。
「おいさっきの奴はなんだ?」
「分からない。でも血痕はあれの方向に通じているんだ」
「追いかけるんだな?」
「当然」
更に鵺野はさも当然と言ったように伸縮式のスタンロッドを内ポケットから取り出した。
「はあ、相変わらずだなお前。俺も武装するか」
坂東もそういいメリケンサックを取り出し装着する。
「あの、僕何も持って来てないんですけど」
それに対して鵺野と坂東は顔を見合わせ。
「拳で頑張って」
「心配するな。まだ戦闘をする事になると決まったわけではない。多分」
心配するしかない答えを返した。
そして時は戻って現在。三人は冒頭のようにして下水道を血痕を頼りに進んでいた。そしてその結果ふと違和感に気がついた。壁に映る影が妙なのだ。そして案の定それはただの影などではなかった。
「おいおいおい、なんだよこりゃ?何だってこんな所にでっけえ横穴が開いているんですかねえ?」
そこには洞窟のような、シールドされていない横穴が開けられていた。それは奥深くまで達しておりペンライト程度の光では奥まで照らしきれなかった。
「まさかこんな物が気づかれずに存在したなんて……信じれない」
「同感だ。……ん、何だ今の?」
坂東が違和感を感じた次の瞬間
「誰ダオマエタチ、どこカラここに入ってキタ?」
外国語訛りとも違う異様な発音の問いかけに振り返った瞬間、三人は見た。二つのボロボロのコートを着た、犬にも似たしかし醜悪な外見をした獣の様な人型の生物を。その毛は針金様であり、その鉤爪は鋭く一振りで相手の生命を刈り取れるかのようだった。
「! 何者だ貴様らは!?」
坂東は威嚇の意味も込めて大声で彼らに問いただす。
「キサマはしつもんニシツモンデかえすナトオソワラナカッタノカ?」
「誤魔化すな!」
「デハ言うがオ前達は、自分が何者ナノカ自身でワカッテイルノカ?」
悶々とした問答に坂東が苦虫を潰したようになっている所へ鵺野が代わりに質問する。
「君たちはなんて言う種族なの?」
「グール、屍ヲクうモノだ」
「グールですか。アラブ人の伝承に登場する怪物ですが、まさか実在したなんて」
「……ねえ。……一つ聞いて良いかしら?」
鵺野が間を置いて問いかける。
「ナンだ?」
「上の血痕事件も君達がやったの?」
その質問を聞いた瞬間、グールが態度をやや硬化させ問う
「誰ノ指示でじけんノ調サを行なってイる?」
「それは答えられないね。ただ依頼主に君たちを害す意思はないことは伝えておこう」
「信じラレルモノか」
辺りには既に一触即発の気配が漂い始めていた。しかしそんな空気は今まで喋らなかった隻腕のグールが「もしや、坂東君たちか?」と訝しんだ。
その声に反応した坂東がそのグールの顔見ると、ある事に気づいた。そっくりなのだ、自分たちの探し人でり、昔よく遊んでくれた那智浩志その人に。
「浩志さん!いや、そんなまさか、」
「そう言えばジブリールが人間がグールに変化する事もあるって言ってたような……」
「変な事、言わないでくださいよ所長。そんな事有るわけないじゃないですか」
内亜は鵺野の口から出た言葉を否定しようとする。
「それが有るんだよ」
「え?それはどう言う事ですか?」
「まあ、何だ。腹を割って話そうじゃないか。お互い募る話もあるしね」
そう言って隻腕のグールは洞窟の出っ張りに腰を下ろした。しかしもう一方のグールはそれに対してやや否定的で、「ヒロシさんノ知り合いであるヨウダガ、人間ナド信頼できるノカ?我々をウラギルのデはナイカ?」と不満を隠そうとしない。
「心配ないさタダマル。私は彼らを信じている。さて何から話そうか」
「えーと、では貴方が本当に浩志さんなら私の父の名前を知っているはずですよね?」
「勿論だとも。鵺野呂比須君だったね」
「……正解です。疑ってしまって失礼しました」
「僕からも、疑ってすみませんでした」
「いや、別に構わないよ。それが普通の反応だしね。(と言うか三人ともかなり図太いな。人によってはグールを見ただけで気絶する者もいるんだか。)」
……………………
「他に質問したい事はあるかね?ないなら話を進めようと思うんだか」
坂東は即座にそれに反応した。
「グール化について聞きたいのですが何故人はグールに変化する事が可能なんですか?」
「これは知り合いから聞いた話で本当かどうかは知らないんだか、人間とグールは元々同じ先祖から進化したらしい。そしてその時遺伝子配列によるデータに魔術的繋がりが生じ、それがグールと接触し続ける事で起動してしまう事があるらしい」
「魔術なんてそんな空想の産物が有るわけないじゃないですか!?」
「ではこれはどう説明するのかな?そもそも坂東君は魔術をどんな者だと捉えている?」
坂東は少し悩んだ後、こう答えた。
「現実での欲求不満を解決する為に超自然的なものへ頼る事だと認識しています」
「確かにそう言った側面もある。だが私に言わせてもらうなら魔術も科学の一種だ。一見よく分からない物を帰納法に基づいて因果関係を明らかにするのに始まり、反証を行う。ただ違う事があるとすれば我々の知っている科学とは別の法則で動いていたその為に別のアプローチの仕方が異なる。だから一見偶然の事象の積み重ねのように見える。と言うのが私がグール化してからの様々な経験を元にした感想だ」
「分かりました。では仮に魔術が実在するとして話を進めましょう。貴方が何故、何も告げず姿を消したのか、血痕事件の真相について教えていただきます」
京は穏やかな声色でしかし、言い逃れを許そうとしない強い意志で問うた。
「京くん。君は特に未虎と仲が良かったね」
「昔の話です」
「そうかな?」
「…………」
「まあ、あまり煩くわ言わないよ。それじゃあ、話そうか。私の身の上話を」
……………………
私はこの街の穴戸市の地下にある遺跡を調査している過程で彼らに遭遇した。最初は驚いたさ。なにせ彼らのような存在がこの世にいるとは思ってもいなかったからね。しかし、少し話してみるとなかなか話のわかる連中でね私は知的好奇心を刺激されて遺跡を調査する傍ら彼らの事をもっと知りたいと交流を重ねているうちに身も心も屍喰鬼になっと言うわけさ。こうなってしまったらもう人間社会にはいられない。私が失踪したのはこんな理由だ。
次に坂東君。君はこの腕がどうなったか気になっているね。この失った左腕は人真会と言う狂信者集団によっての凶行であり、今もまだ狙われているんだ。狙われているのは私だけでなく混血の者、我々と関わった者も含まれている。だから私は部下の屍喰鬼たちに未虎の護衛に配置しているんだ。
そこで頼みがある。
とヒロシは一間置いてから続ける。
「人真会を襲撃してほしい」
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Fanatic-狂信者
夜の闇の深さが分かるものか。
byフリードリヒ・ニーチェ
「人真会を襲撃してほしい」
それは地下の湿った空間に響きすぎる程の声を持って伝えられた。
「へ? 何を言っているんですか浩志さん。私たちはただの探偵ですよ?」
「まあ、それが普通の反応だろうね。いきなりこんな事を言われて、はいそうですかと言う奴は普通じゃない。だから嫌ならやらなくて良い。ところで君たちはこの街の失踪者の数が異様に多い事を知っているかい?」
それに答えたのは内亜だった。
「ええ、この街に来る前何気無しに調べて見たら行方不明者が異様に多くて驚いた経験があります。しかしまさか、そんなに多く者が貴方方に関わっていると言う事はないでしょう?」
「……残念ながらそれがあるんだよ。だから人間である君たちの協力が必要なんだ」
「何故人間の協力が必要なんですか?」
「それは、彼らの拠点には我々のような怪物を寄せ付けないように結界が張ってあるからだ。だから我々は攻勢に出たくても出れない。そして奴らの発想は狂気に満ちている。このままでは無辜の犠牲者が幾人も出るだろう。その中には未虎も含まれるかもしれない。……このような形で再会になってすまない、未虎にはどうか私の事は黙っていてほしい。こんな姿を見られたくないんだよ」
「……少し、考えさせてください」
坂東はそう言い、鵺野、内亜両名と少し離れた場所まで移動した。
「どうする、京、内亜?受けるか?」
「これから確認する内容によるね」
「同意見です」
「そうかでは確認する事をまとめようか」
……………………
「話はまとまったかな?」
それに対して坂東が答える。
「ええまとまりましたよ。そこでいくつか確認したいことがあるのですがよろしいですか?」
「言ってみなさい」
「まず一つ目、行方不明者に貴方達の手による者はどの程度含まれますか?」
その質問にタダマルが警戒心を高める。
「私の知る限りここ12年間は一件も存在しない。それ以前は数件ほどあった」
「そうですか。次に人真会についてですが彼らは我々も排除の対象に含まれますか?」
「彼らならそうする。ついでに言えば彼らは痕跡まで徹底的に殲滅する事をよしとする思想を持っている」
「なぜ警察は動かないのですか?」
「分からない」
その返答に坂東は若干語気を強めて質問する。
「言い方は悪いですが貴方がたを排除するいい機会だと考えられたのではないですか?」
「それは無いにゃ〜」
「何もノだ!」
突然何処からか響いたその声に浩志と三人は辺りを見回し、タダマルは声を張り上げる。
「何処見ているのかな〜?ここだよ、ここ」
今度は何処からか発せられたかハッキリと分かった。しかしそれ故にグール達と三人は恐怖した。声は周囲を見渡している彼らの内側から聞こえてきたのだ。まず鵺野が恐る恐る振り向くとそこには1人の"人間"が立っていた。
「い、イツノマニ。何者だキサマ!」
「そう怒らないでくださいよ。私の名前は……そうですね。仮に師走としましょうか。先程そちらの強面の野郎が言ったような事はありませんから安心してください」
「あ?」
「名前をキイテイルのデハナイ」
「ああ、そういう事ですか。私はこの国の抗神組織……暁の者です」
「抗神組織?」
「はい。我々の仕事は邪神と呼ばれる強大な力を持った生物やその眷属から世界を守る事です」
タダマルへの返答に更に疑問を呈した鵺野に師走は突拍子も無い普通の人間が聞けば何処ぞのフィクションの設定のような事を口にした。
しかし、何時もなら笑い飛ばすであろうその内容を3人は否定できなかった。いや、理屈では否定しているのだがそれが事実だという強い"実感"を感じていた。3人は浩志とタダマルの方を下がる様に見つめるが彼らはそれを事実と肯定する様に黙っているだけだった。
その様子を見た師走は続ける。
「まあ、実際の仕事はクトゥルフ神話関連の事件全般を解決することなんだよね。それ関係のことでね、我々は人真会の様な連中も取り締まり対象なんだけれど今回はちょっと面倒な事になってね」
「面倒なことっていうのは警察が動いていない事と関係があるのかしら?」
「その通りだよ美しいお嬢さん。地元の警察が連中のお仲間?に入り込まれていてね。ちょっち面倒なんだよ。そこで!」
師走は一旦言葉を区切り辺りを見回してたから続ける。
「君たち探索者に解決してもらいたい。君たちの様な探索者の行動にはたとえ法律違反でも表沙汰にならない限り目を瞑るの我々だが今回は少し勝手が違ってね」
師走は喋り続ける。
「そこのグール達は五両組とか言う893達と同盟関係になる。君たちが武器を必要としたらそこから調達されるだろう。何時もならこの程度の事神話的事件を解決する為の超法規的措置として認めているんだが、今回は上で一悶着あってね。それは無理なんだ。だから代わりに我々が武器給与を行う事になったのさ」
「おい!」
休む事なくまくし立てる師走をイラついた声で坂東が遮る。
「ひとつ質問していいか?」
「どうぞ?あ、僕らに過労死しろって言う様な意見は受け付けないよ。こっちは人手不足で大変だからね。それと何処の国も抗神組織については明らかにしてないよ。でも存在する。で質問は?」
「聞きたい事は幾らかあるが……ここまで話したと言う事は我々に協力を強制すると言う認識で間違ってないな?」
それを聞いた師走はニヤリと笑い。
「exactly.ついでに言えばこの事を口外すれば君達はブタ箱行きになる場合があるから気をつけて。それじゃあ私はやる事があるから失礼するよ。アディオス」
その言葉と共に師走の姿は搔き消え、彼の居た場所に大きな段ボールが置かれて居た。
「き、消えた。どんなトリックを使いやがったんだ!?」
坂東の叫びが響く。そこで今まで黙って居た浩志が口を挟む。
「恐らくあれは何らかの魔術だろう」
「魔術?あれがですか?」
「そうだよ。しかもあれだけ派手に使っているのに魔力の動きをほとんど感じられなかった。恐らく相当手練れの魔術師だろうね」
「浩志さん私からも質問があります」
鵺野は深呼吸をしてから浩志を真っ直ぐ見据えて切り出す。
「何だね?」
「一応貴方の口から直接聞きたいのですけれど、彼の言っていた事は本当ですか?」
「……………………」
沈黙が続く。
「……………………そうだ。私も詳しくは知らないが彼が言っている事は概ね事実だよ」
「そうですか。ありがとうございます」
内亜は固まっている。
……………………………………
「ソロソロぶキノ確認をシタラドウだ」
一同の中でいち早く平常に戻ったのはやはりと言うべきかタダマル出会った。やはり生まれついてのグールである彼は人間とは感性なども大きく異なっているのだろう。
「おっと、そうでしたね」
次にそうなったのは意外にも塊っぱなしであった内亜であった。その後鵺野と坂東も精神に一区切りつけ段ボールの中身の確認に移った。
「これはこれは、また随分と物騒な物が入っているね。よく一般人にこんな物を渡せるよ」
そう言って鵺野は感嘆と呆れの入り混じった息を吐きつつ中に入っていたものを手に取った。
それはサブマシンガンである【H&K MP5】であった。更に探ると【H&K MP5】専用に作られたゴム弾とスタングレネード、スモークグレネード、防護マスク、耳栓、赤外線暗視装置、各種説明書が収められていた。
そして鵺野は決心を決めた様に浩志に向き直り……
「浩志さん人真会への襲撃に当たって貴方方が把握している必要な情報を教えてください」
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Raid-襲撃
探偵3人はグールたちについて洞窟を進んでいる。その洞窟は広大であり、更には異界めいた見たこともない生物の数々が目についた。坂東はそれに驚きこそすれ動揺する事はなかったが鵺野と内亜はそれによって精神を揺さぶられていた。
「浩志さんまだ到着しないんですか? 私は早くここから出たいのですけれど」
鵺野が縋る様な声で浩志に問いかける。
「もうそんなに距離はないから耐えてくれ、内亜君もね」
「はい」
そんな感じで一行は洞窟を進んで行たが、ある地点から徐々に浩志、タダマルが酸欠に酸欠になったかの様に苦しげになり、ついには膝をついてその場に倒れてしまった。
「浩志さん!」
それまで直接光源を向けていなかったので分からなかったが浩志、タダマルは滝の様に汗を書いており、呼吸は荒く顔は病的なまでに青白くなっていた。
「心配するな京くん。何とか立てそうだ」
「グググ、ドウヤラ結界ノヨウダ。ココカラ先ハオ前達ダケデ頼ムゾ」
「分かりました。行くぞ京、内亜」
「了解」
「はい」
………………………………………
人真会への入り口は自然の迷彩を利用する様に一目見ただけでは分からない様になっていたが、3人とも観察力が一般人に比べて優れていたかつ、慎重に確認しながら進んでいたので見逃さずに済んだ。
またそこには時間のためか、或いはこの様な事態を想定していないためか、見張りや監視装置などば一切存在しない様であった。
「穴自体はかなりの大きさだけど見張りも監視装置もなしとは……随分無警戒じゃあないか」
「全くだ。と言いたいが結界がある様だしな、これで十分かもしれん。普通の人間はこんな所に来ないだろうしな。それより内亜、お前大丈夫か?顔が青いぞ」
「いえ、問題ありません」
「問題があれば遠慮なく言ってよ千弥。私たちは貴方の力になるつもりだから」
「ありがとうございます所長」
………………………………………
〈人真会、地下通路〉
洞窟は無造作に地下通路につながっており、3人は乱暴に開けられた穴から暗い廊下に出た。
「この穴、いつ開けたんだろ?」
「そう言えば、おかしいですよね。結界があるはずなのにここまで穴を掘れるなんて」
「昔、グールたちが襲撃をかけたが失敗してそれで結界が施されたんじゃないか?」
「かもしれないね。まあ、それは後から本人達?に聞くとして、今は早いとこ目的を達成してしまおう」
「最悪、証拠を持ち帰ればあとは向こうの方が何とかしてくれるんでしたね」
「そうね、それより何方の扉から行く?」
ここには鵺野達3人から見て正面に存在する厳重な扉、通路の左右に存在するこれまた堅牢な作りの扉が存在している。
「私としては『でも慈悲は無い』とか言っているやつを拘束して色々と聞き出したいんだけど」
「リスクとしては上手くやらないと俺たちの存在を他の連中に気づかれるかもしれないが。内亜お前はどうしたい?」
「私達は潜入のプロではありません。素早い行動こそ重要だと個人的に考えています」
「決まりだな。行くぞ」
そして3人は行動に出た。全員が暗視装置を装着し、二組別れ扉の両サイドに立ち、坂東が扉を開けて鵺野がスモークグレネードを投げ入れた。
「……ん?誰ッ!手榴弾!カハァッ」
スモークグレネードを認識した男はその場に伏せたが、それが隙を作ることになった。
次の瞬間彼は肋骨の隙間に強烈な蹴りを叩き込まれて気絶した。
「あ、力入れ過ぎた。と言うか暗視装置使う必要なかったな」
「何やってるんだよ鵺野」
「取り敢えず起こしてみましょうか。おい、起きろ!」
そう言って内亜は気絶した男をはたくが起きる気配はない。
「と言うか鳩尾に体が浮き上がるレベルの蹴りを入れて大丈夫なのか?」
「……ごめん。ちょっと見てみるよ。一応救急関係の資格持っているから」
そう言って鵺野はうつ伏せで倒れていた男を仰向けにし、服を捲り上げた。
「うっわ、これは酷い」
「自分でやったんだろ?」
「まあ、そうだけどさあ」
鵺野が取り敢えずの処置をしている間、坂東、内亜の2人は部屋内に証拠となるものがないか探ることにした。
その結果目に付いたのが古めかしい巻物、新聞であった。
それらは主に家系図や失踪事件に関連したものであった。
そして一際目に付いたのがパソコンに表示されていた『抹殺対象』と書き込まれた那智未虎の情報であった。
「……本当に狙われていたのか」
「坂東さんこの施設の見取り図が見つかりました」
「ん、そうか。……牢屋に拷問部屋か。言ってみる必要がありそうだな。上の階の捜索は後回しにした方がいいか。証拠としては地下階の物だけで十分だろう」
「同意見です。ここは下手に上に行こうとせずこの会で情報収集して立ち去りましょう」
「はっ!ここはどこだ!だ、誰だ貴」
鵺野による治療中に起きた男はそこまで言ったところで顎を押し上げられ口を閉ざされる。
「喚くな。お前はただ私の質問にだけ答えろ」
ここで男は鵺野を突き出そうとしたが鵺野に患部を叩かれ呻き声を上げて丸まろうとしたがそれも鵺野に阻まれた。
「骨が折れてるんだ。下手に動くと命に関わるからね。さて私の質問に答えてもらおうか」
「だ、だ、黙れェェェ!邪悪な化け物の走狗どもめ!お前らに話す事なぞ」
「もういい。よく分かった」
そこで鵺野は男の声を遮り腰に下げていたスタンロッドを男に押し当てた。
「もう黙れ」
「気絶させたか。お前なら拷問してでも聞き出すと思ってたんだかな」
「失礼な。君は私の事を何と思っているんだ」
「自分が一番偉いと思っている暴力女」
「そ、そ、それは昔の話じゃないか!」
「……そうであったと言う事は認めるんだな」
「何しているんですか?2人とも早く行きますよ」
「待て、そいつは大丈夫なのか?」
「安静にしていたらしばらくは大丈夫なはずだけど、一応早いとこ浩志さんに相談しておこう」
…………………………
〈人真会・地下牢〉
そこは通路の左右に牢屋の柵が設けられ、中には何人かのずたぼろとなった人間が横たわっている。それを示すようにその場所は血生臭い匂いが充満していた。
そこに立つ看守2人は雑談に興じていた。
「なあ、お前知ってるかよ?」
「何がだ?」
「今度の抹殺対象の女、かなり美人らしいぞ」
「ほう、しかし奴らの関係者の時点で萎えるな」
「ああ、全くだ。くそっ黒歴史思い出しちまったじゃないか」
「ああ、あれか?童貞キモッて逃げられたやつか?」
「待て」
「どうした?」
「妙じゃないか?さっきから妙な音がしたと思ったら扉が少し開いているぞ」
「おっ、本当だな」
そして次の瞬間扉が急に閉じられるとともに何かが投げ込まれた。
「な、手榴弾!」
「伏せろ!」
2人の看守はとっさに伏せる。しかしその手榴弾は破片も爆風も高熱も2人に伝える事はなかった。
代わりにそれは部屋を煙で包み込んだ。
「何も見えん」
「くそっ、警備員は何をしている!」
2人が突然のことに半ばパニック状態になっているところで再び扉が開け放たれ。発砲音。
「ギャン!」
「い、ぃだい、おでの腕が……」
そして2人に近づいてくる足音。そして2人の看守は床に押し倒された。そして首筋に衝撃を感じて意識を手放した。
……………………
「取り敢えず片付いたね」
「ああ」
「しかしこれは酷いですね」
そう言って内亜と坂東は牢を見た。それに続いて牢を見た鵺野は先の2人と同じく不快感を覚えた。
囚われていた者たちは拷問の跡が至る所にありこれが映画なら18歳未満は鑑賞禁止になる程のものであった。更にその中で生きているのは10人中2人ほどであった。その2人も立って歩けないほどまで衰弱していた。
鵺野は看守の身体を探った時に見つけた鍵で牢を開けて囚われていた者たちを介抱する。
「……早く逃げるん、だ。ここには監視カメラがある。」
「監視カメラ?」
それを聞いた3人が辺りを見渡すと入り口から死角になる場所に何台かカメラが設置されているのが確認できた。
「あー、これはしくじりましたね」
「逃げるぞ!この老人は俺が背負う。内亜、お前はそっちの少女を背負え!」
「言われずともやりますよ。合理的な理由がありますしね」
「私がしんがりを務めるから2人は早く脱出しろ!」
しかし時すでに遅く『フェーッフェーッ』と言う警告音と共に各所に設置された赤色灯が点灯され。
時期に警備員の到着するところとなるであろう。
「私が時間を稼ぐから2人は早く通路から逃げて」
「あぁ、任せたぞ鵺野」
「社長、どうぞご無事で」
囚われた被害者をおぶった2人は地下通路に広がる穴へと直行した。それを見た鵺野はすぐさま右側の指紋認証の扉の鍵の部分を『段ボールの奥底に入っていた実弾が1発だけ入ったコルトシングルアクションアーミー』を取り出し、撃ち抜いき扉を開けはなつ。
「いたぞ!あそこだ!」
追っ手である警備員たちが拳銃を持っているのを見た鵺野は呆れた。あまりに分かり易すぎる存在だと言うことに。そして同時に彼らが外部の者ではない事に歓喜した。
なぜなら、
「こう言ったことが心置き無くできるからね」
鵺野は腕を振りかぶった後、すぐに扉を閉め耳を塞いだ。
次の瞬間、非常に大きな音と、強烈な閃光が駆けつけた警備員たちを襲った。
「さてと、私も逃げるか」
………………………………
「お待たせ千弥、恭二。まだこんな所に居たんだ」
「こっちは人を背負いながら走っているんですよ。むしろ褒めて欲しいくらいですね」
「ごめん、ごめん」
そこで後ろから発砲をが響く。
「もう追いつかれたのか」
「しつこい連中はモテないって知らないのかしら?」
「(今こんな時に考えるセリフじゃないが、京がその口調で話すのは何か違和感を感じるな。)これに慣れすぎたせいか」
「え!?千弥こんな経験があるの?」
「ありませんよ!それより後ろの連中をなんとかしてください」
「言われずとも」
鵺野は振り返り後方の追っ手に対してサブマシンガンをばら撒くように連射する。そして追っ手が二の足を踏んだところで再び走り出す。
そして3人とおぶられている2人は銃弾を浴びることなく結界の境目までたどり着いた。そこにはすでに浩志、タダマルの他数人のグールたちが戦闘態勢で待ち構えていた。
「追手が来テいルナ。ココハおレタチニ任セテ地上ヘ逃ゲテくレ。ソコマでハ奴ラモ追ッテこナイ!ソコニ協力者ガ居る!」
「ありがとうございますタダマルさん」
坂東とタダマルが手短に言葉を交わす。そして、銃声が鳴り響く。そして浩志呻き声も。
「ぐわっ、うぅ、な、なにかすり傷だ、先に行っていてくれ。」
そしてそこに留まろうとする鵺野を押しのける様に人真会の追っ手たちの方へタダマルたちと突撃していく。
そして鵺野はその場を後にした。
………………………………
それから3人は無駄口を叩かずに走った。そしてようやく地上への『入口』マンホールが見えた、その時。その時に通路の陰から3人の男が姿を現した。
「どうも。教祖の禿山です。私たちの大切な客人を誘拐されては困りますね」
その丁寧すぎて無礼な、慇懃無礼な態度!礼節めいた挨拶とは裏腹にその人を小ばかにした眼、口! 彼こそが人真会の首領でこの街で起こっている血痕事件の黒幕、禿山重利であった。まあ、探偵3人組にとっては彼の名前などどうでもいい話だが。
更に彼の両サイドを固めている2人の男だがどちらともパッとしない顔をしたよく似た男である。これも3人にはどうでもいいことなのだが。(と言うよりこの状況で気にすべきことではない。)
「私たちはね、正義の使」
禿山はそこまで言って頭にゴム弾をくらい昏倒させられる。
そして鵺野はそこから一秒ほどで動揺している護衛の男の1人に接近し掌底を放つ。が、この攻撃は避けられる。
そして護衛は手に持っていた警棒を鵺野にめがけて振り下ろす。
しかし鵺野は冷静にそれを銃で受け流し、それによって生じた隙をつき相手のわき腹に蹴りを叩き込む。更にそれによって出来た隙と先ほどの動きを利用して拳を放つがそれは態勢を立て直した相手に回避されてしまう。
「チッ」
更にもう片方の男が振り下ろした警棒を鵺野は避けることが出来ず直撃を食らってしまう。
「ッッッ!」
が、彼女は強靭な精神力を持ってそれに耐え目の前の男に拳を振ろうとしたが生理的反応まではごまかせなかったのか転倒してしまう。
「うぅ。(不味い。このままじゃ。)」
これを好機とばかりに2人の男は口々に鵺野を罵りながら警棒を振り下ろすが、それは内亜の放ったゴム弾によって阻まれた。ゴム弾というものは射程こそ短いものの至近距離ではプロボクサーのパンチ並みの威力を持ち強い痛みを伴う。それを受けた2人の男はその場にうずくまった。そして、若干フラつきながらも立ち上がった鵺野に頸動脈を閉められ意識を奪われる。
「無事ですか京!」
「言うのが遅いぞ!それに無事なわけないじゃ無いか。早く地上に出るよ」
鵺野はフラついていたが何とか自分の力でマンホールから外に出ることができた。2人の人真会による被害者も坂東と内亜の手により多少衰弱した怪我人を運ぶには乱暴かもしれないが大きな問題は無い手際で運び出された。
そしてそれを見計らったかの様に、どこからともなく胡散臭い警官が現れる。 3人はこの状況でのこの出来事に固まる。
「どーも、警官です。首尾はうまく行ったようですね。後は我々に任せてください。信用できないかもしれませんが、こちらも秘密裏に動いてましてね。な~に、安心してください。期待は裏切りませんよ。ああそうそう、大筋は中央の方から聞いているので貴方方はもうご自宅に帰っても構いませんよ。まあ、事情聴取を受けたいと言うなら別ですがね。もちろん、給与された銃火器についてはこちらで預からせてもらいますよ」
「待ってください。あな」
「それ以上は言わない方がいいですよ。連中の目はどこにあるか分かりませんから」
胡散臭い警官はそれだけ言うと事件の被害者を車に乗せ何処かに走り去って行った。そしてそれと入れ違いになる様に他の警官たちが到着し外で気絶させられていた人真会のメンバー達を回収し去って行った。
3人はしばし、それを呆然と見つめていたがやがて数人のグール達が現れているのに気がついた。
グール達が一様にお通夜のように暗い顔をしているのが傍目にも分かる。そしてそれは浩志の死に依るものだと、「この借りは必ず返す」と3人に伝え、マンホールの中に消えて行った。
後には恩人を一人失った探偵3人が残された。
………………………………
翌朝、地元紙の一面に『新興宗教による凶悪誘拐事件!!ビルの地下に存在した狂気の施設!!』と銘打たれ。
そこには、警察がついに謎の血痕事件の犯人と、その被害者である人々を救出したことを大々的に書かれており、人真会と言う悍ましい組織についての記事が記されていた。
しかしそれがなにの慰めになるだろうか?
〈穴戸市・某所〉
穴戸市のとある地下通路そこに2人の男がいた。
「いやー、助かりましたよ」
「なに礼には及びませんよ。私は自分の仕事をしたまでです。あなたの手際もなかなか見事でしたよ」
「公安の方にそう言って頂けるとは嬉しい限りですよ。しかし貴方も大変ですなあ、公安と暁を掛け持ちとは」
「この程度こなさないとこの仕事はやっていけませんからね。では私は次の仕事があるので先に失礼します」
「お気をつけて伊藤警部」
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とある閑話のオムニバス
高額アルバイト-1
シナリオURL→https://touch.pixiv.net/novel/show.php?id=8325649&mode=text#1
またネタバレを多大に含みます。以上のことをご了承ください。
春の気配が俄かに漂ってきた3月のある日、鵺野探偵事務所に1人の依頼人が訪ねていた。
その依頼人はステレオタイプな主婦のご婦人に当てはまりそうな背格好、服装をした女性で緊張によるものか、はたまた別の要因による者なのか運動もしていないのに出る汗を拭いながら、対応している美形の女性に依頼内容を話していた。
「つまり、お子さんが怪しいアルバイトに手を伸ばそうとしているから監視と雇い主の調査、ボディーガードをお子さんに内密でして欲しいと言う認識でよろしいでしょうか?」
美形の女性……鵺野京が依頼内容を確認する。
「ええ、その通りです。それであっております」
「分かりました。ではこちらの契約書にサインと印鑑をお願いします」
女性は差し出された契約書にサインをし印鑑を押す。
「はい。確かに拝受しました。では後はこちらの方にお任せください」
「はい、お願いします探偵さん。あの子が危ない事に巻き込まれても大丈夫なように頼みましたよ」
依頼人の女性は最後にそれだけ言うと探偵事務所を後にした。
…………………………
「高額アルバイトかぁ」
依頼人が去った後1人応接室に残った鵺野の前には件のアルバイトのチラシが置かれていた。
《1日だけの単発アルバイト!時給1650円×7時間(1時間休憩あり)昼食・夕食に弁当・お茶付き。交通費支給。履歴書不要。 運搬作業と清掃作業。誰でも簡単にできる仕事です♪
友達と一緒の応募もOK
分からないことは、社員が丁寧に教えます 》
「全く。あの人達示し合わせたかのように一斉に長期休暇をとるからな。私が1人で色々としなきゃならないじゃないか。こっちはついこの前退院したばっかりなのに。その意味では依頼人が息子さんから集合日時と集合場所、業務内容を聞き出していてくれて助かった。はあ、今日は独り言が多いなあ。話し相手を見つけないと」
チラシには依頼者の女性によるアルバイトについてのメモ書きがなされていた。
・日時 ○月×日 10時~18時
・集合場所 地蔵坂駐車場前
(電車で地蔵駅到着後、バス利用:地蔵坂駐車場で下車)
・業務内容 地蔵山にある倉庫へ在庫の運搬作業と、倉庫の清掃作業
・弁当は向こうで用意される?
・業務中は携帯電話を預かられる
・動きやすい服装、軍手、マスク持参
「事前調査は大切だからね。早いとこ調べよっと」
…………………………
〈アルバイト当日〉
その日、探偵事務所には所長である鵺野以下5人が最終打ち合わせを行っていた。この事務所にはまだ他にも所属している者はいるが現在休業中である。
「以上です。では皆さん質問はありますか?」
鵺野のその問いに1人が手を挙げる。この場で最年長のアルスラーン・ジブリールだ。彼の故郷の名乗り方だとアルスラーン・ジブリール・イブン・シェヘラザードと成るだろう。
「所長、事前調査ではキュウソウ社は地蔵山のある街とその周辺の会社の不要となった物を回収する、産業廃棄物処理の会社となっていますが、裏に暴力団などがついているのか、そうではないのか、などは分かりましたか?」
「いや、ネットによる調査しか行ってないから何とも。」
「どう言う事ですか所長?」
その驚愕の答えに質問を返したのは鵺野の部下で恋人の内亜千弥だ。
「単純な問題だよ千弥くん、時間と人手が足りなかった。ただそれだけだよ」
「……そう、ですか」
「他に質問はありませんか?……無いみたいですね。では内亜くんと二階堂さんは速やかに準備を済ませてください。もう時間はあまりありませんから。それとジブリール予定通りお願いね」
「分かりました」
「了解です所長」
…………………………
〈地蔵駅〉
3人がそこに到着したのは地蔵坂駐車場へのバスの出る30分ほど前であった。
地蔵駅は利用者の殆ど居ない無人駅で待合所に長い木製ベンチが2つと掲示板、自販機と地元でちょっとした話題になる程汚いトイレがあるだけの寂しい場所である。
「飯食い地蔵さまか、所ちょ……京はどう思います?」
「私はこの乞食がどうやって村人の願いを叶えて居たか気になるな」
「お地蔵様の使いだから不思議な力が使えたんじゃないですか?」
その質問をしたのは二階堂だ。
『飯食い地蔵』それはこの地域に伝わる昔話である。要約するとお供え物の代わりに願いを叶えていた乞食を殺してしまってその後食糧難の時地蔵の顔が乞食と似ていて乞食を殺してしまった村人達が反省すると言う話だ。
「飯食い地蔵の話からは少しずれるんだけど昔ここに旧陸軍の食料調達部隊の本部があったらしいよ」
「食料調達部隊?何ですかそれは?」
「調べた限りでは食料の獲得と自然資源の有効活動に力を入れた補給部隊ってところかな」
「ちなみに」と鵺野は少し区切った後で続ける。
「そこでは食用ミミズを使った食べ物の開発も行っていたらしいよ」
「……食用ミミズですか。ミミズ肉は高価ですが……大量養殖でも行うつもりだったんですかね?」
「さあ?でもまあ常識的に考えたらそうなんじゃないの?」
話はそこからミミズ肉へと移る。そしてミミズの肉はどんな味なのかと言った話題に移った時点でバスが到着し3人はそれに乗り込む。
…………………………
〈バス・車内〉
「来ないね。もう直ぐ出発の時間なのに」
と鵺野
「初日から遅刻とか酷いですね」
とそれに続く二階堂
2人はバスが到着しても姿を現さない監視兼護衛対象、阪西正雄に対して少々苛立っていた。電車は30分前のものの他に5分前の便も存在したのだがそれにさえ彼の姿は無かった。
「2人ともあれを見てください」
バスに乗ってから今まで黙っていた内亜はある場所を指した。2人がそこを見ると猛スピードで迫る一台の乗用車があり、その助手席には写真で見た写真で見た男性、阪西正雄の姿があった。
乗用車が減速して駐車場に入るとともにドアが開け放たれ阪西正雄は飛び出した。そしてそのままバスに飛び乗った。
そしてそれを確認した運転手はバスを出発させた。
「はあ、はあ、間に合った。ギリギリセーフだ」
「ギリギリアウトだ」
その発言に待ったをかけたのは内亜であった。
「何だよあんた?何か文句でもあるのかよ?」
「大有りだね。お前周りに迷惑をかけているのがわからないのか?」
「まあ、まあ落ち着いたよ千弥。彼を責めてもないも変わらないよ」
「えっと、貴女は?」
「私は鵺野京よろしくね」
「は、はい!」
「馬鹿何やってんだ千弥」
〈すいません」
「あのどうかされましたか?」
「いや、今後人に喧嘩を売らない様注意しただけだよ。」
依頼人と若干もめながらも関係なくバスは進む、目的地へと。運転手の心情は別にして。
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高額アルバイト-2
シナリオURL→https://touch.pixiv.net/novel/show.php?id=8325649&mode=text#1
またネタバレを多大に含みます。以上のことをご了承ください。
バスは乗客(探偵3人と他1人)を揺らしながら山道を対向車も見ずに進んでいる。そして、やがて地蔵坂駐車場の看板の隣に建てられたバス停にて停車する。
そして4人を降ろすとバスはここで折り返し近くの村に戻って行った。
「ん〜、やっと着いた」
「あの鵺野さん1ついいですか?」
「何かな阪西さん?」
「もしかして貴女も時給1650円のアルバイトに来たんですか?あっ、いや変なこと聞いてすいません。貴女の様な美人で頭の良い方がこんな所までアルバイトしに来ませんよね。」
「アハハハ、褒めても何も出ないよ。それに残念ながら私はそのアルバイトに来たんだよ」
阪西はそれを聞くと少し意外そうな顔をしてこう応答する。
「いや〜、僕は貴女ならミスユニバースに出場できると思うんですけどね」
「いやいや、流石にないよ。それに評価内容的に私はすぐ落とされるだろうね」
「そんな事ありませんよ。貴女は自信に満ち溢れていますし、僕の話に付き合ってくれる優しさがあるじゃないですか」
「そ、そうかなぁ。「ワッ!」ヒャ!」
「ウワッ!何だあんたは!」
突然?至近で大声を出された鵺野は情けない悲鳴をあげる。そしてそれに反応した阪西がそちらをに意識を向けるとそこにはタンクトップ姿の逞しい大男が立っていた。
「何だじゃないぞ。こっちはさっきから話しかけているのに中々反応さえしてもらえなくて結構心にきたんだぞ」
「それは失礼しました。ところで貴方は?」
「俺か?君たちのバイト先の屋久だ。それであの2人から聞いたけど君達もバイトの子なんだろ?後ろになりな」
大男、屋久はそう言って指で背後のマイクロバスのような乗用車を指す。そこには既に内亜、二階堂のほか1人の男が乗っていた。
「……行こっか阪西さん」
「はいそうですね」
2人が乗り込むと乗用車は出発する。その時後部座席に乗っていたもう1人の男が鵺野に話しかけようとしたがそれをしなかった。何故なら内亜に凄まじい形相で睨まれたのだから。
4人が乗り込むと、乗用車は山の上の方へ向かって出発する。大型車は通られない対向車線のない細い一本道だ。周りには人の手を離れて自然な状態に帰りつつある森が広がっている。
このような森は一部の者が思っているほど良い世界では無い。むしろ人の手が入っている里山よりも本当の自然は往々しにして厳しいものなのだ。
…………………………
〈乗用車・車内〉
「改めて自己紹介するよ。俺は屋久だ。若いのがたくさん来てくれて助かるよ。なにせ人手が足りなくてな」
運転手であるたくましい腕の彼は簡易的ではあるが、改めてそう自己紹介をする。タンクトップを着ているため露出しているその腕には大型の獣の牙や爪で付けられたような傷跡が目につく。
「これはどうもご丁寧に。先ほどは見苦しい見せて申し訳ありませんでした。鵺野京です。そしてこちらは私の友人の……」
「二階堂薫です。見ての通り力仕事には自信があります。期待してください」
そう言って彼は自らの力こぶを手で叩いた。因みにではあるが彼のベンチプレスな記録は92kgである。
「そうかい。そいつは頼りになるな。んでさっきから不機嫌そうな兄ちゃんはなんて言うんだい?」
「内亜千弥です。一応鵺野の彼女をやっています」
「ヒュー、こいつは驚いた。こんな美人の彼氏さんだったのか。慣れ始めたか聞いていいか?どっちから申し込んだんだ?」
鵺野との恋愛関係について尋ねてくる屋久に内亜は正直ダジタジというべき状態にあった。彼は恋愛関係になるとかなりシャイになる一面があるのだ。更に言えばそれと鵺野の気質が関係して大学卒業後はあまり恋人らしいことが出来ないでいた。鵺野は大して気にはしていないが……
そんな彼に助け舟を出したのは二階堂だ。
「こいつにはそんな度胸ありませんよ。鵺野さんの方から告白したんですよ。しかもかなり手の込んだ方法でね。」
「その通り!いつまでもぐずぐずしているもんだから、見るに見かねて私の方から告白したんですよ」
「ほーお、草食系ってやつか。んでさっきのでショックを受けている君は?」
「阪西……正雄……です」
その声に力はなく。その目には目にはこの世への絶望が映っているかのようだった。平たく言うと言うと自分に好意的に接してくれた美人に彼氏がいたことにショックを受けたのだ。
「ククククク、ヒヒヒ、アヒャヒャヒャ!告白する前から負けてやんの!クク、初対面の美人がお前なんかにいきなり好意を抱くわけないだろーが。ヒヒ」
そこでまだ自己紹介を済ませていなかったいかにもと言った感じでチャラけた格好の男が笑い出した。突然笑い出した。どうやら阪西の反応が彼のツボにはまったようだ。
「なんだと、テメェ!」
当然阪西は怒りを露わにする。しかし……
「やめないか薦野!すまない。俺が変な聴き方をしたのが悪かった。」
「い、いえ確かに僕も浮かれていましたし。」
「そうか、ありがとう。彼は薦野、君達より前から雇われているアルバイトだ。まあ、あんな感じのやつだが、根はそこまで悪いやつじゃないんだ。まあ……出来るだけでいいから仲良くしてやってくれ。」
やがて車は鬱蒼とした山奥の舗装されていない道に入り、ガタガタと揺れ始める。そして五分ほどだった時森の中の開けた場所に木造の小屋とシャッターの閉まったコンクリート製の平屋が現れた。
そして、小屋からはスーツにヒールと、この山奥では不釣り合いな格好をした女性が姿をあらわす。
大変遅くなってしまって申し訳ありません。実生活の方で色々とあって投稿が遅れておりました。今後ともよろしくお願いします。
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