仮面ライダーソーシャル 戦う歌姫達と爆死する少年 (BF・顔芸の真ゲス)
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ガチャ死と転生

「くそっ、またハズレだ!」

 

スマホに表示されるガチャ結界を見ながら、俺はそう毒づいた。

 

「あー、当たんねえ。コレ本当に最高レアの割合3パーセントか?累計100回は回してんのに全然出ねえんだけど」

 

自分の運の無さというものがつくづく恨めしい。周りの友人はポンポンレアキャラを当てては俺に自慢してくると言うのに、対する俺が自慢出来る事と言えば呪いの一種と言ってもおかしくないくらいのガチャ運の悪さくらい。出る人はとことん出るのに出ない人はとことん出ない、ガチャってのはマジで闇で沼だわ。こんだけ当たらないのにムキになって回しちゃうんだもん。

 

「石は残り……丁度10連一回分か。よーし、最後の運試しだ。頼むから何か出てくれよ〜!この際最高レアじゃなくても良いからさ〜!」

 

ボックスを少し整理した後、ガチャ画面に移動する。すぐには引かず、祈るように手を合わせガチャの神様にお願いしてから10連のボタンを押す。

 

「来い、来い、来い、来い!」

 

少々のロード時間の後、ガチャがスタートする。演出はスキップしない。何となく飛ばさない方が当たりそうな気がするからだ。まあ良いのが当たった事なんて一度たりとも無いのだが。

 

「……っ!」

 

演出が終わり、1回目のガチャ結果が表示される。ハズレ、まあいつもの事だ。気を取り直して2回目、これもハズレだ。

 

「…………」

 

3回目、ハズレ。

 

4回目、ハズレ。

 

うん、いつもの事なんだが、そろそろ何か出ても良いんじゃないかな?

 

「…………」

 

5回目、ハズレ。

 

6回目、ハズレ。

 

段々と顔から表情が失われていくのが分かる。苦労して貯めた10回分の石が無残に消えていく時の喪失感と虚しさは、何度経験しても辛いものだ。

 

「…………」

 

7回目、ハズレ。

 

8回目、ハズレ。

 

9回目、ハズレ。

 

ここまで来たらもう悟る。ああ、今回も爆死なんだなと。また石を貯める作業をやらなければなと心中で血の涙を流しながら10回目の演出を眺めていると、不意に演出に変化が訪れる。

 

「……っ!」

 

間違い無い、確定演出だ。このソシャゲを始めて以来初の演出に、気分がハイになるのを感じる。

 

(何だ、何が来る!?激レアか!?超激レアか!?ああクソ、レアの演出以外見た事ないから分からねえ!?)

 

我ながら物凄く悲しい事を言っているなと自嘲しながら、ガチャの結果が現れるのを今か今かと待ち続ける。心臓の鼓動がヤバイ、呼吸がおかしなくらい乱れている。たった数秒の演出が一時間、二時間のように感じる。だがそんな極度の緊張状態の中、ついにその時が訪れる。

 

「……来たっ!」

 

キャラが表示され、画面に神々しい演出が発生する。この時点で飛び上がりたいくらい嬉しいのだが、その衝動を必死に押さえつける。まだだ、まだレア度の表示が出ていない。それを確認するまではまだーー

 

「ーーっぐ!?」

 

不意に心臓を握り潰されたかのような痛みが走り、視界が歪む。身体がガクガクと震え、言う事を聞かなくなる。

 

(な、んだよコレ……!?)

 

自分の身体に何が起こったのかを知る時間すら無く、視界が暗くなっていく。ただの直感、それでも俺は分かった。

 

ーー俺は、死ぬのだと。

 

(マジかよ、ざけんな……!まだ俺は、俺は……!)

 

ーーガチャ結果確認出来て無いんだぞ!?

 

そんな自分でも頭おかしいと思う事を考えながら、俺の意識は闇に堕ちていった。

 

 

 

 

 

「……ここは?」

 

気がつけば、俺は自分の部屋ではないどこか真っ暗な場所に突っ立っていた。

 

「……何にも見えねえ」

 

周囲は見通せない暗い真っ暗な闇に覆われており、しっかりと注視しなければ自分の手すら見る事が出来ない。これが、死後の世界という奴なのだろうか。

 

「マジかよ、死後の世界って何もねえの?三途の川とか、天国とか地獄とかねえの?」

 

自分が読んでいた様々な本に書いてあったような死後の世界とは違う現状に、大いに戸惑う。ああでも、『デスノート』で言ってたな。死後の世界に天国も地獄も無いって。まさか本当にそうだとは思わなかった。

 

「マズイぞおい!?あの世に何も無いなら、どうやって生き返れば良いんだ!?死んだ父さんに眼魂貰って復活する事も、不真面目な三途の川の橋渡しにマッカ渡して生き返らせて貰う事も出来ないじゃないか!?」

 

マズイ、本当にマズイ。死後の世界を体験出来たのは中々に貴重な経験だとは思うが、まだ俺は体験で十分だ。まだ俺にはしたい事も、やり残した事も沢山有るんだ。

 

何よりーー

 

「まだ俺はガチャ結果を見てねえ!?」

 

それだ、それなのだ。多くのソシャゲに手を出して、それら全てで爆死してきた俺の人生で、始めた当たったレアキャラなんだ。せめてレア度の確認をしなければ、死んでも死に切れない。

 

「うおおおお!目覚めよ俺の隠された力ぁ!今こそ覚醒して俺を生き返らせて、ガチャ結果を見せてくれぇぇ!」

 

右腕を抑えて叫ぶ。よくあるラノベならここで何らかの力に覚醒して、死の淵から生還するパターンだ。俺にラノベ主人公の属性なんか毛ほども無いと自覚しているが、ワンチャン賭けてみる価値はある筈だ。

 

「うおおおお!目覚めよその魂ィィィィ!!」

 

「ーーねえ、そろそろ話しかけても良いかな?」

 

「……うん?」

 

俺以外誰もいない筈のこの場所で聞こえた、俺以外の誰かの声に振り向くと、如何にもなオーラを纏った少女が目の前に立っていた。

 

「やっとこっちを向いてくれた。はあ、ようやく仕事が始められるよ」

 

「……誰お前?」

 

ボーイッシュな口調で話す少女に、思わずそんな声をかける。

 

「うん、いきなり現れた私に驚くのは分かるよ。でももう少しちゃんとした声のかけ方ってもんがあるよね?」

 

「あー、悪い。初対面の相手に『お前』は無いわな。それで、あんた一体誰なんだ?見た感じ俺と同じ人間って訳じゃ無さそうだが。なんか神々しいオーラ出てるし」

 

「うん、『あんた』も別にちゃんとした呼び方じゃ無いけどね。まあそれはもう良いや。ご察しの通り私は人間じゃない。私は君達の言葉で言う『神様』ってヤツさ」

 

なんと、この少女は神様だったのか。人間離れした神々しさだったから神様か天使かなと思っていたが、まさか本当に神様なんてものがいるとは。

 

「あまり驚いていないようだね。やっぱりこんなナリじゃ神様だって思い難いかい?」

 

「……いや、死後の世界があるって分かった今、神様なんてものが居ても不思議じゃないなと思っただけだ。それよりあんた、さっき仕事がどうとか言ってたな。一体これから何をするんだ?」

 

「ふむ、飲み込みが早くて助かるよ。それじゃあ本題に入るね。ーー君、君は死んだ。君の身体は生命活動を停止し、精神はこの場所へと導かれた。君が死んだ時点で生前の君の名前は意味をなさなくなり、君自身の記憶からも君の名前は消えているだろう」

 

「……そうか」

 

自分が死んだ。分かっていた事ではあるが、他人の口から言われると中々に堪えるものがある。そして名前。それまで気にも留めていなかったが、確かに自分の名前が思い出せない。あれだけ慣れ親しんだ名前が、一文字も口から出てこないのだ。それは、それまでの自分という存在が綺麗サッパリ無くなった事を、嫌でも俺に教えてくれた。

 

「……死因は?」

 

「極度の緊張による心臓発作。凄いね。今まで万単位で人の死に方を見てきたけど、ガチャが原因で死んだ人間なんて君が始めてだよ」

 

「……マジかよ」

 

余りにも恥ずかし過ぎる死因に思わず頭を抱える。そんなしょうもない理由で死んだのか俺。メンタル豆腐かよ俺。

 

「まさかレアキャラが出た事によるショックで死ぬなんてね。そんなに好きなの?あのソシャゲ」

 

「……いや、好きって程じゃないな」

 

「え、そうなの?」

 

「おう。どっちかと言うと、ガチャを回すのが好きなんだと思う」

 

そう、別段あのソシャゲに思い入れがあった訳では無い。あのソシャゲに限らず、俺は色々なソシャゲに手を出してきたが、どれも極める所までいかず中途半端に進めていた。飽き性な俺には、一つのゲームを極限までやり込むという事が出来なかったのだ。

 

「ソシャゲそのものじゃなくて、それを進めてやれるガチャを回すのが好きでソシャゲやってるんだと思う。なんて言えば良いのか分からないけど、とにかくガチャを回す為に俺はソシャゲをしてたんだ」

 

「ふーん、成る程成る程。中々に面白い話を聞かせて貰ったよ。それで話は戻るんだけど……君、人生をやり直す気は無いかい?」

 

「やり直す?」

 

「新しい世界に生まれ変わって、新しい命として誕生するって事さ。所謂『転生』ってヤツだね」

 

「転生……」

 

転生、それについては知っている。ラノベなどでよくテーマにされるもので、俺自身転生もののラノベやネット小説を読んだ事がある。

 

「元の世界に生き返らせて貰うって事は出来ないのか?」

 

「駄目だね。君の身体は既に病院に搬送されて死亡が確認されているし、君自身ガチャが原因で死にかけたなんて恥ずかしい過去背負って生きていきたくは無いだろう?」

 

「うっ、それは……」

 

確かに嫌だ、と少しだけ思ってしまった。あっちに残してきてしまった家族や友達には本当に申し訳ない気持ちで一杯だが、ガチャ回して一度死んだという事実を記憶に刻んで生きるのはそれはそれで辛い。

 

「とにかく、君には別の世界で生まれ変わって新しい人生をエンジョイして貰う。それでここからが本題だ。君達人間が転生するにあたって、私達神様は君達に一つだけ贈り物をあげる事になっているんだ。特典ってヤツだね」

 

成る程、これはまたベタなやつが来たな。

 

「……それが必要になるような世界に送るのか?」

 

「いや、それはランダムだね。バリバリ戦闘物の世界に送られる人間も入れば、戦闘とは無縁な穏やかーな世界に送られる人間もいる。だから人によっては使い道無くて貰った特典が腐ったりもするね。そういうのも考えて君には特典を選んで貰いたい。さあ、君はどんな特典を望む?」

 

その問いにしばし目を閉じて黙考する。神様の話通りだとすれば、転生する世界は完全ランダム、どこぞのバトル漫画のような殺伐とした世界に送られる事もあれば、キャッキャウフフの恋愛物の世界に送られる事もあるらしい。それを踏まえて真剣に特典を考えなければならない。仮に恋愛物の世界でモテる為に恵まれた容姿を貰ったとしても、送られた世界がバトル系だったら速攻で死ぬ。かと言って俺最強!な力を手にしても、平和な世界じゃ使い所の無いクソ能力になってしまう。さて、どんな能力を貰えばいいのだろうか?

 

「私からアドバイスをするとすれば、自分の好きな物を選ぶ事だね。君、何か好きな物は無いのかい?」

 

「ガチャ」

 

「ガチャ以外でだよ。ガチャの特典って一体何さ?ほら、何か一つは有るだろう?自分がガチャ以外で熱中した何かがさ」

 

「熱中した、何か……」

 

神のアドバイスに従い、自分の熱中したものについて記憶から引き出していく。殆どがガチャを回しているものだったが、一つだけそれとは違う物が有った。

 

「……仮面ライダーだ」

 

そう、ガチャ以外で俺は仮面ライダーに熱中していた。毎週日曜のニチアサはきちんと録画して見ていたし、ビデオ屋から昔のライダーのDVDをちょくちょく借りて来て見ていた。変身ベルトとかもなんだかんだ結構な数集めていた気がする。

 

「……決めた。特典は仮面ライダーの変身ベルトと変身能力だ。二つになっているが、出来るか?」

 

「まあ、ベルト貰っても変身出来なきゃ意味無いからその二つはセットで良いよ。因みにどのライダー?」

 

「特に無い。転生する世界同様そっちで決めてくれ」

 

「そう。……じゃあ、変身するのは君のオリジナルでも良いかな?」

 

「オリジナル?」

 

「君オリジナルのベルトで変身した方が、君にしても嬉しいんじゃないかい?」

 

確かに、自分だけのオリジナルライダーというのも中々に心惹かれる物があるな。

 

「分かった、それで良い」

 

「よし、話は決まったね。ベルトは君にとって必要だと思った時に送るから、それまでは新しい人生を存分に満喫してくれ」

 

「分かった。……ありがとう」

 

「礼なんて要らないよ、これが私達神様の仕事だからね。それじゃあ出発の時だ。君が新しい人生をどのように生きていくか、楽しみに見させて貰うよ」

 

その言葉と共に俺の身体が光に包まれ、爪先から徐々に消滅していく。どうやらお別れの時間のようだ。自分の身長より少し低いくらいの神様の目を真っ直ぐ見つめ、感謝の念を込めて深く礼をする。神様はそれを見て少し照れ臭そうに笑い、更に言葉を続ける。

 

「自分の命を大切にするんだ。一度は失い、また新たに手に入れたその命を。……あ、そうそう。君の死因になったガチャ結果なんだけどさ」

 

「……どうだった?」

 

「『激レア』。残念、一歩及ばなかったね」

 

「……そうか」

 

どうやら俺の命と引き換えに引いたガチャは超激レアでは無かったらしい。残念に思う一方で、これはこれで俺らしいと思う自分がいた。

 

「行ってらっしゃい。君の人生が超激レアな物になる事を祈っているよ」

 

そんな神様のからかうような言葉を最後に、俺は一度目の人生を完全に終了した。

 

 

 

「……行ったね」

 

新しい人生を送る彼が消えた空間で、神は独り笑う。

 

「君に言ってなかった事があるんだけどさ、特典には必ずデメリットがあるんだ。特典頼りのチート無双なんて白ける展開にならない為にさ」

 

その笑顔は最高に美しく、最高に優しく、そして最高に醜悪な笑顔だった。

 

「とりわけ君の特典のデメリットは大きくてね。君はとても辛く苦しい目に遭うかもしれない」

 

自分が彼に用意した特典、そのデメリットを頭の中で考えながら神は独り言を続ける。

 

「でも私は別に君が嫌いだからこんな事をした訳じゃないんだよ?ただ、その方が『面白い』かなって思っただけなんだ」

 

そう言って神はその手に彼に与える特典を持った。その手の中には何らかのアプリが表示された白いスマートフォンと白いベルトがあった。

 

 

 

「さあ、人生ゲームの始まりだ。私を楽しませてくれよ?ちっぽけで弱ぁい人間さん?」

 

 

 

 



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ライブと惨劇と初変身、それと爆死

「っ、また爆死だよチクショー!」

 

表示されたいつも通りのガチャ結果に、近所迷惑を気にせず俺は叫んだ。

 

 

 

どうも、ガチャ死で転生したマヌケです。前世の名前は忘れてしまったが、今は『檜山 幸助』という名前で生活している。幸助とかいういかにも幸がありそうな名前をしているが、名前の割にガチャ運に幸は無い。『名は体を表す』という言葉があった気がするが、ならば俺の一体どの辺に幸が有るのかと神に問いただしたい。そんな幸と縁遠い生活を送る俺は新しい人生を問題無くエンジョイし、現在は中学生をやっている。前世が高校生だったので、精神的には足して大体三十代だな。

 

さて、話が少し脱線したので本題に戻ろう。どうやら俺が転生したのはバトル物の世界らしい。というのも、この世界にはある怪物がいるのだ。

 

認定特異災害『ノイズ』

 

突如として世界各国に出現するようになったその怪物は、あらゆる兵器による攻撃が通用せず、人間が接触すれば身体が炭化して即死するという恐ろしい性質を持っている。しかもこの怪物は人間だけを狙って襲いかかる性質を持っているときた。まさしく意思を持った災害、人類の敵と呼ぶに相応しい存在である。

 

因みにそのノイズだが、外見は割と可愛らしい。その恐ろしい性質さえ無ければ、遊園地のマスコットをやっていそうな姿をしている。

 

(にしても中々にハードな世界に転生しちまったな、俺)

 

まず間違いなくノイズが俺の倒すべき敵なのだろう。だがそのノイズに俺の貰った特典であるライダーの力が通用するのかまだ分かっていない。恐らくは通じる筈だが、殴りかかってそのまま死にましたなんて事になったら悲惨過ぎる。

 

「そろそろ届いて欲しいんだがな、ベルト。……お?」

 

不意にやっていたソシャゲの画面が消え、軽快な音楽と共に振動する。どうやら誰かが電話を掛けてきたらしい。名前を見ると、こちらの世界で出来た俺の友人の名前があった。

 

「もしもし、何か用か?」

 

『あー幸助?お前ライブとか好きか?』

 

「別に好きでも嫌いでも無いが、それがどうかしたか?」

 

『いや、俺が大好きなボーカルユニットのライブが今度あってな。俺もチケット買ったりして楽しみに待ってたんだが、丁度その日にどうしても外せない用事が出来ちまってな』

 

そう話す友人の声は暗く、本当に残念で仕方ないという気持ちが電話越しでもこっちに伝わってくる。

 

「そりゃ運が悪かったな」

 

『でも折角手に入れたチケットが無駄になるのは嫌だから、興味があるならお前に代わりに行って貰おうと思ってな』

 

「俺に?」

 

『おう、折角苦労して手に入れたチケットだからな。ネットに売りに出すんじゃなく、誰かに見に行って欲しいんだよ。良いか?』

 

そう言って友人は申し訳無さそうに俺に頼んできた。正直な話、ライブなんて前世も含めて一度も行った事ないので少し興味がある。

 

「そういう事なら断る理由は無えよ。因みにそのボーカルユニットっつーのはどんな名前なんだ?」

 

『ああ、言ってなかったな。【ツヴァイウイング】って名前なんだけど、知らないか?結構有名なユニットなんだけどさ』

 

ツヴァイウイング……何と無く聞いた事がある気がする。俺はそこまで音楽を聞いたりしないのであまり音楽の世界については詳しく無いのだが、その名前に聞き覚えがあるって事は、友人の言う通り結構有名なユニットなんだろう。

 

「まあ、名前だけなら聞いた事がある」

 

『そうか。ならこれを機にお前も彼女達の歌を聴いて見てくれ。お前ならきっと気に入ってくれるだろうからさ。それじゃあまた明日学校で。チケットはそん時渡すわ』

 

「おう、また明日な」

 

そう言って通話を終了し、中断していたソシャゲを再開する前にツヴァイウイングについて少し調べてみる。

 

「天羽奏と風鳴翼の二人で結成されたユニット……へえ、この曲ツヴァイウイングのだったのか。成る程成る程」

 

ほんの少し調べるだけだったが、思った以上に長く調べてしまった。その後思いの外彼女達に興味が湧いたのでツヴァイウイングのCDを幾つか買って聴いてみたが、中々に良い曲だった。

 

 

 

そんなこんなで時間はあっと言う間に過ぎ、やって来ましたライブ当日。事前にチケットを渡して来た友人から『早めに行くように』と言われたので、公演より二時間くらい早く来たのだが、それでもライブ会場は大勢の人で溢れていた。

 

「うっわすげえ人だなオイ。一体何人居るんだ?」

 

数えるのも馬鹿らしいくらい大勢の人で溢れ返っているライブ会場。席に着いた俺は公演までやる事も特には無いので、最近始めたソシャゲのガチャを引く事にする。

 

「……爆死か。まあいつもの事だな」

 

「へえ、檜山君っていつも爆発してるの?」

 

「いや、爆死って言っても本当に爆発してる訳じゃ……ってうおぉ!?」

 

「うわぁっ!?」

 

急に話しかけられて思わず大声を上げる。相手の方も俺が出した声に驚いたのか、同じように大声を出していた。

 

「……って、なんだお前か立花」

 

「何だじゃないよ檜山君!?いきなり大声を出したりしたから私びっくりしちゃったよ!」

 

俺に向かってそう言って怒る少女『立花響』は、俺のクラスメイトだ。あまり話した事は無かったが、明るくて活発な生徒だったと記憶している。

 

「いきなり話しかけてきたそっちが悪い。先に一言声をかけるなりなんなりしてくれ」

 

「そりゃいきなり話しかけた私も悪かったけどさぁ、あんなに驚かなくても良いでしょ。ちょっと傷ついたよ私」

 

「勝手に傷ついてろ。それにしても意外だな立花、お前一人か?小日向は居ないのか?」

 

「……その私がいつも未来とセットって認識どうかと思うんだけど」

 

「事実だろうが」

 

こいつは基本的にいつも友人の『小日向未来』と一緒に行動している。小日向は陸上部に所属していて、かなり足が速い。一回あいつが走っている所を見たが、超速かった。

 

「まあそうだけどさー。最初はここにも未来と一緒に来る筈だったんだけど、未来が来れなくなっちゃってさ。あーあ、私呪われてるのかなぁ?」

 

「ハッ、そんくらいで呪われてるとか片腹痛いわ。俺の方が絶対呪われてるね。生まれてから今の今まで一回もガチャで良いの出た事無いもん」

 

ほんとどういう事だよ畜生。命賭けなきゃ激レアすら出ないのか俺は。マジでクソだわ俺の運。

 

「あはは……ほら、人生はガチャだけじゃないからさ!いつかきっと良い事あるよ!多分!」

 

「憐れむな!余計惨めになるわ!?」

 

「ご、ごめん!でも意外だな私。檜山君ってこういうライブとかに興味あるんだ」

 

これ以上この話題で話をするのは気まずいと判断したのか立花は慌てた様子で話題を変える。ああ、気を遣われてしまった。超恥ずかしい、死にたい。

 

「予定が合わなくて行けなくなった友達がチケットを渡してきただけだ。まあ、ライブってのがどんな感じなのか興味があったってのは事実だけどな」

 

「そうなんだ、私とおんなじだね。私も未来に誘われたから来ただけで、ツヴァイウイング自体よく知らなくてさ。でも良かったよぉ、未来も居ないし一人で見なきゃいけないのかなーって思ってたから。やっぱり知り合いが居るだけで大分違うよね!」

 

「知り合いって……俺お前と話した事なんて殆ど無いと思うんだが」

 

「そうだっけ?だったら今からお喋りしようよ!ライブが始まるまでまだ結構時間があるし!檜山君の好きな食べ物って何?私はごはんアンドごはん!趣味は?私はねーー」

 

俺の返事も聞かずにマシンガントークを始める立花。すげえ元気だなオイ。このノリに小日向はいつも付き合ってるのか。苦労してそうだな小日向は。頭の中で小日向についての情報を更新しながら、ライブが始まるまでの間俺は立花のマシンガントークに付き合ってやった。

 

 

 

同時刻、幸助や響達が開演を待つライブ会場の舞台裏。そこで一人の少女が俯いて暗い表情をしていた。

 

「…………はぁ」

 

その少女『風鳴翼』は、これから始まるライブへの重圧に思わず溜息を吐きながらじっと床を見つめていた。

 

「なぁに暗い顔してんだよ翼ぁ!」

 

「わっ!?……もう、脅かさないでよ奏」

 

いきなり後ろからくっついて来たオレンジ色の髪の少女、自分の相棒である『天羽奏』に抗議の視線と言葉を送る。それを送られた当の本人はそれを意にも解さず、にこりと笑いながら翼へと話しかける。

 

「もうちょい肩の力抜けよ。そんなガッチガチに緊張してたら、歌えるもんも歌えなくなっちまうぜ?」

 

「で、でも、こんなに大きな会場で、あんなに沢山の人達の前で歌うのなんて初めてで……」

 

不安気な表情を浮かべてそう言った翼に奏はクスリと笑って、翼の額を軽く小突いた。

 

「ていっ」

 

「あうっ!?」

 

「翼は真面目が過ぎるんだよ。そんなんじゃいつかポッキリ折れちゃうぞ?」

 

「奏……」

 

「いつも通り歌えばいいのさ。いつも通りやれば、きっと上手くいく。アタシらは二人で一つのツヴァイウイングさ。二人なら何だって出来るよ」

 

「……そうだね」

 

奏の言葉に勇気を貰ったのか、明るい表情を浮かべる翼に奏は優しく微笑む。

 

「お、どうやら気合いは十分みたいだな!」

 

「いや、本番前に気合いが足りてなかったら不味いだろ」

 

「し、司令!それに門矢さんも!」

 

「お、弦十郎の旦那に士のアニキ!来てくれたのか!」

 

「まあな。あっちの方の準備ももう少しかかるから、お前達の方にも顔を出しておこうと思ってな」

 

「俺はこのオッサンに無理矢理連れてこられただけだ。まあ来たからにはちゃんと様子は見るがな。なんなら本番前に一枚撮ってやろうか?」

 

「遠慮しとくよ。アンタ写真撮るのヘタクソだからな!」

 

「あのな奏。俺が写真撮るのが下手な訳じゃない。世界が俺に合ってないだけだ」

 

「言い訳はみっともないだけだぜ?」

 

「っの餓鬼……!」

 

ニヤニヤと笑う奏に今にも掴みかかろうとするマゼンタのカメラを持つ男性『門矢士』を赤髪の筋肉質な男性『風鳴弦十郎』が笑いながら抑える。

 

「まあまあ、落ち着け士君。翼、それに奏。今回のライブには俺達人類の未来が懸かっている。だからーー」

 

「分かってるって。今回のライブがどんくらい重要かは、耳にタコが出来るくらい沢山聞いたからな。アタシらはいつも通り歌うだけさ」

 

「うむ、それが分かっていたら十分だ!じゃあ二人共、そろそろ俺と士君はあっちに戻る。ライブは任せたぞ」

 

「ま、頑張るんだな」

 

「任せとけ!」

 

「は、はい!」

 

最後に二人を応援する言葉を残し、弦十郎と士は去って行く。

 

「……時間だな。そんじゃ行くか翼!」

 

「うん。行こう奏!」

 

そう言って二人は沢山の人達の待つ舞台へと歩き出した。ライブを成功させる為、そして人類の未来の為に。

 

 

 

「……始まるみたいだな」

 

立花のマシンガントークが3週目に入り、そろそろ聞き流すのも限界になってきた頃、照明が消えて会場が真っ黒になり、それと同時に観客のテンションも上がって行く。

 

「わぁー!凄いよ檜山君!何か凄い!」

 

「まだ始まってすらいないだろうが……」

 

始まる前からはしゃぎ出す立花、なんだかんだ言って楽しめているようで何よりだ。

 

『待たせたな皆ー!ツヴァイウイング、ただいま参上だぁぁぁぁぁ!!』

 

『精一杯の歌を、皆に届ける!』

 

まさかの上から現れてステージに降り立ったツヴァイウイングの二人に会場全体から歓声が上がる。勿論響も例外ではなく、キャーキャー叫びながら売店で買っていたらしいサイリウムをぶんぶん振り回している。

 

『今日は最高のライブにしようなぁ!それじゃあ先ずは一曲目行くぞぉ!!』

 

その声と共に一曲目が始まる。観客も要所要所で合いの手を入れたり、サイリウムを振ったりしている。全ての観客が曲に合わせて同じ動きをする姿は、中々に壮大だった。

 

(……凄いな。会場そのものが一つの生き物みたいだ。観客全員が歌手と一体となって行う、これがライブなのか)

 

「キャー!凄い凄い!凄いよ檜山君!皆がツヴァイウイングの二人の曲で一つになってる!これがライブなんだね!すっごい楽しいよ!」

 

「そうかい、そりゃ良かったな」

 

「もう!そんな楽しくなさそうな顔してちゃ駄目!せっかくこんなに楽しいライブに来てるんだから、楽しそうな顔をしなきゃ損だよ!ほら、笑って笑って!」

 

そう言ってニコッと笑う立花に、思わず引きつったような笑みを浮かべる。違うんだ立花、別に楽しくない訳じゃない。単に周りのハイテンションに圧倒されてるだけなんだ。

 

「……楽しそうで何よりだ」

 

「うん!あー未来も来れれば良かったのになー!そしたら三人で楽しめたのに」

 

「小日向が居たら俺はお前とは一緒に見てないだろ」

 

「そんな事ないよ!未来が居てもきっと檜山君は一緒にライブを見てる。だって友達じゃん!」

 

「いつ友達になったよ……」

 

馬鹿みたいに明るい立花の言葉に呆れながらも、どこか嬉しく思っている俺が居る。そんな自分に内心驚きながら、俺達は初めてのライブに夢中になっていた。

 

 

 

「『ネフシュタン』、現状は安定しています」

 

「そうか、引き続き観測を頼む」

 

「了解!」

 

端末を操作する職員に指示を飛ばしながら、弦十郎はモニターを見つめる。そこには眩い光を放つ『鎧』が表示されていた。

 

「んー、今の所は順調ね」

 

「それでもいつ何が起きるか分からん。相手は『完全聖遺物』だ。用心の上に更に用心を重ねてもまだ足りないくらいだ」

 

モニターを眺めて微笑む白衣の女性、『櫻井了子』にそう返しながら、弦十郎はじっとモニターの奥の鎧を睨みつける。

 

「安心しろよ弦十郎のオッサン。万が一の時の為の俺だ。最悪の事態にはならないようにするさ」

 

右手に持った不思議な形をした『ベルト』を弦十郎に見せながら、士は弦十郎にそう言った。

 

「済まないな士君。本来なら部外者の君にこんな仕事をさせるべきでは無いのだろうが……」

 

「気にするな。アンタ達と同じで、俺にもこの世界でやるべき事が存在する。俺はそれを果たす為にアンタ達に協力協力している。利害の一致ってやつだ」

 

(とはいえ、俺自身何をすべきかもはっきり分かっていないんだがな。一体何処に居るんだ?『この世界の仮面ライダー』は)

 

自分が此処にいる意味を考えながら、士は左手に持った一枚のカードを眺める。本来名前や絵柄が書かれているであろうそのカードには、しかし何の名前も絵柄も存在しなかった。

 

「ーーッ!?フォニックゲイン急上昇!基準値を大きく上回りました!?それに伴いネフシュタンの鎧が起動、いいえ、『暴走』します!?」

 

「何ッ!?」

 

オペレーターの報告に弦十郎は目を見開き驚愕する。そしてそれと同時にモニターに表示された鎧が放つ光が強く、禍々しいものへと変わっていく。

 

「不味いっ、伏せろ!」

 

右手に持っていたベルトを腰に装着し、一枚のカードをベルトに挿入した士が周りの人間に叫ぶ。しかし士の呼びかけも虚しく、鎧から放たれた光はその場にいた人間達全てを包み込み、大爆発を起こした。

 

 

 

ライブも終盤に入り、観客のテンションも最高潮に高まった。隣の立花もその例外では無く、サイリウムをデタラメに振り回しながら言葉になってない声を上げていた。

 

「ーーッ!!ーーッ!!」

 

「もはや何語喋ってんのかも分からないなオイ」

 

まあ立花の気持ちも分かる。俺だって柄にもなく心が昂ぶっているのを感じる。今ならパーフェクトでノックアウトなレベル99ゲーマーにだって変身出来そうだ。

 

『まだまだ盛り上がって行くぞォォォォ!!』

 

天羽奏の掛け声に応えるように観客が歓声を上げる。天羽奏がその光景に心底嬉しそうな表情を浮かべ次の曲を歌おうとしたその瞬間ーーステージの一部が、大爆発を起こした。

 

「ーーッ!?」

 

突然の出来事に俺が、立花が、観客達が、そしてステージに立つツヴァイウイングの二人が凍りつく。その状態を打ち破ったのは、空を見上げて指を指した一人の観客の恐怖に支配されたような声だった。

 

「ノ、ノイズだあぁぁぁぁ!?」

 

その声に会場にいた誰もがその観客が示した方角を見た。そこには空を覆い尽くす程の数のノイズがこちらを狙っているという最悪の景色が広がっていた。

 

その後の光景を表すとするならば、まさに地獄絵図という言葉こそが相応しいだろう。

 

「い、いやぁぁぁぁぁぁ!?」

 

「た、助けてくれ!?助けてくれぇぇぇ!?」

 

恐怖に支配され、逃げ惑う観客達。

 

「どけっ!どけってんだよ!?」

 

「足を掴むんじゃないわよ!死ぬのはアンタだけにしなさい!私は生きるのよ!」

 

他者を蹴落とし、突き飛ばし、踏み潰してでも自分だけ生き残ろうとする、醜い人間の本性。

 

「いやぁ!?死にたくない!?しにた、く、な……」

 

「た、すけ、て……く、れ……」

 

ノイズに襲われ、断末魔の叫びすら上げられずに炭化して消えていく、命。

 

「……っ」

 

さっきまで命だったものが黒い炭素となって辺り一面に広がる光景に、言葉が出ない。

 

「ーー立花ッ!?立花は何処に行った!?」

 

ハッと正気に戻って隣に居た筈の立花を探す。しかしあの五月蝿いくらいに元気だった少女の姿は何処にもない。逃げ惑う観客の波に流されてしまったのだろうか。

 

「逸れたか……!」

 

先程まで隣に居たんだ。まだ遠くには行っていない筈だ。そう思い立花を探す為に歩き出そうとしたその時、脳裏にに聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

『やぁやぁーー君。いや今は檜山幸助君だったかな』

 

(神様か……悪いが緊急事態だ、また今度にしてくれ!)

 

お気楽な調子で語り掛けてくる神様に頭の中で半ば怒鳴るような言い方で返す。それすらも愉快であるというように神様は楽しそうな声で言葉を続けた。

 

『つれないなぁ。折角君にプレゼントを届けに来たのに』

 

(……まさかっ!)

 

『そう、そのまさかさ。君の変身アイテム、持って来て上げたよ。喜びなよ、こんな大舞台でライダーデビュー出来るんだからさ』

 

今の現状を舞台か何かだとでも思っているような神様の言葉に腹が立って怒鳴りかけようとしたその時、自分が何かを持っている事に気付いた。

 

「これは……」

 

何の変哲も無い白いスマートフォンと、何の装飾も施されていない白いベルト。それはライダーの変身アイテムとしてはあまりにも飾り気の無い、異質な物だった。

 

『【ソーシャルフォン】と、【ソーシャルドライバー】。君の、【仮面ライダーソーシャル】の変身アイテムさ。どうだい、素敵だろう?』

 

「いやそんな事言ってる場合じゃ無いだろう!?今もノイズに人が殺されているんだ。早く助けないと!」

 

『はいはい、分かってる分かってる。それじゃあチュートリアルと行こうかな。ソーシャルフォンの電源を入れて、ホーム画面を開いてくれ』

 

「わ、分かった!」

 

言われた通りソーシャルフォンを操作し、ホーム画面を開く。操作法自体は普通のスマホと変わらないらしく、問題無くホームを開く事が出来た。

 

『次は画面が前に出るようにしてソーシャルフォンをソーシャルドライバーにセット!これで変身完了さ!』

 

「簡単過ぎないか!?」

 

あまりに簡単過ぎる説明に思わず突っ込みを入れる。あまりにも動作が無さ過ぎる。とはいえ時間に余裕がある訳では無いので神様の言う通りにソーシャルフォンをドライバーにセットする。

 

【log in!】

 

ドライバーから機械的な音声が流れ、俺の身体を白い光が包み込む。

 

『さあ、変身する時はあのセリフを言わなきゃ!ほらほらほらほら!』

 

「言われなくても分かってる!……変身!」

 

【OK!let's go!you are 仮面ライダー!】

 

俺を包みこんでいた光が収束し、俺を守る装甲へと変わっていく。頭の光が装甲へと変わったその瞬間、俺は変身が終了した事を理解した。

 

「これが、ソーシャル……!だけどこれは……」

 

変身した自分の姿を見て先ず確信したのは、『このライダーは先ず間違い無く強くは無いだろう』という事だった。

 

外見は真っ白になったライオトルーパー。武器らしき物は見当たらず、またそんな物は存在しない事を自分の直感が告げている。そんな俺の疑念を読んだのか、神様はケラケラと笑いながら俺の疑問に答える。

 

『うん、弱いよ。超弱い。スペック的には龍騎のブランク体や電王のプラットフォームにも負ける。一般人がちょい強くなったくらいの性能だね』

 

「んなっ!?」

 

『おっと慌てない慌てない。確かに今聞いた事だけじゃ詐欺だと思うだろう。確かにソーシャルは弱い。だがそれはあくまで通常形態のソーシャルの話だ。真価を発揮したソーシャルは、レジェンドライダー達に並び立つくらいの実力を持っているのさ!』

 

「なら早くそれの使い方を教えてくれ!?今現在も人が一杯殺されているんだ!いつまでもちんたらしてる暇は無いんだ!」

 

『やれやれ、せっかちだな君は。ソーシャルフォンをドライバーから外してホーム画面を見てみたまえ』

 

逸る気持ちを抑えながらソーシャルフォンをドライバーから取り外し、ホーム画面を見る。そこには聞いた事が無いアプリが一つだけ表示されていた。

 

「【仮面ライダー バトルレジェンズ】……。これがどうかしたのか?」

 

『そのアプリこそがソーシャルの真の力を発揮させる最重要アプリ!そのアプリ内のガチャで当たったライダーに、ソーシャルは姿を変えるのさ!』

 

「はあ!?ガ、ガチャ!?」

 

あまりにもこの場に相応しくない単語に驚愕する。

 

「ま、待ってくれ!?ガチャ!?何でそんな仕様になってるんだ!?」

 

『君ガチャ好きなんだろ?でもってライダーも好きなんだろ?ならいっその事二つを混ぜた感じのライダーにすれば喜ぶと思ってさ。どうだい?変身する度にガチャを回せるんだ。ガチャ好きな君にとって最高のライダーだろ?因みにレア度が高ければ高いほど変身したライダーは高性能になる。星が高い奴が強い、ソシャゲの不変の真理だね』

 

ふざけるなと叫びそうになるのを必死で止める。最高?そんな筈がない。戦闘の度にガチャに命運を左右されるとか酷すぎる。

 

『まあ物は試しで引いてみなよ。どのみちノイズに対抗するには、ガチャを回さなきゃいけないんだしさ』

 

「……排出されるライダーのレア度は?」

 

『星5から星1まで全部。因みにガチャはこれ一つだけ。フレポガチャとか石ガチャとか分けてないから』

 

「闇鍋過ぎるだろざけんな……!」

 

フレポと石で分けていないという事は、石ガチャで嫌という程見る星3すら引き当てるのが難しいという事。あまりにふざけた仕様に頭を抱えそうになるが、神様の言う通りガチャを引かなきゃノイズに勝てるかすら怪しい。

 

「……ああ良いよ!やってやるよ!俺の勝負時の激運舐めんじゃねえ!」

 

アプリを開き、ガチャメニューを開く。チュートリアルだという神様の言葉通り、アプリには最初からガチャを一回引けるだけのアイテムが集まっていた。

 

『ガチャを回して、ドライバーにセット!』

 

「はあぁぁぁぁ!大変身!」

 

【キャラガチャ!】

 

ガチャを回してドライバーにセットする。それと同時に俺を中心に光の柱が出現し、次々と色を変えていく。ガチャ演出のつもりか、どこまでもふざけた事をするなあの神。

 

(来てくれ……この状況を打破し、皆を救う為の力!)

 

やがて光の柱の色の変化が止まり、青い光が俺のベルトに収束していく。光に包まれたベルトは消滅し、代わりに俺の右手に何かが出現する。

 

「…………え?」

 

右手に出現した物を見て、凍りつく。それは俺が、取り返しのつかない結果を招いてしまったという事を示していたのだっあ。

 

「仮面ライダー、クロニクル……そんな、じゃあ俺が引いたのは……」

 

最悪の予想を後押しするかのように、どこからかドライバーの音声が聞こえてくる。

 

【good!星1!ノーマルレア!ライドプレイヤー!】

 

【エンター・ザ・ゲーム!ライディング・ジ・エンド!】

 

ベルトの代わりに現れたガシャットから無慈悲に流れる音声が、俺の大爆死を教えてくれた。

 

ふと、自分の姿を見る。そこには真っ白いライオトルーパー擬きの姿は無く、茶色いクリボー擬きの姿がある。

 

 

 

ーーどこからか、神様の笑い声が聞こえてくるような気がした。

 

 

 

 



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初陣と絶唱と砕ける心

「っぐ……!」

 

爆発に巻き込まれた実験室。瓦礫の下敷きになっていた弦十郎は、何とか自分の上に降って来た瓦礫を退かして出て来た。

 

「お、無事だったか」

 

瓦礫から這い出て来た弦十郎にそんな声を掛け、マゼンタ色の戦士、【仮面ライダーディケイド】に変身した士は弦十郎へと手を差し出す。

 

「門矢君か……!他の皆は……?」

 

「助けられる奴は全員助けた。爆発で即死した奴なんかは流石に無理だったがな」

 

差し出された手を取りながらそんな事を聞いた弦十郎に、士は淡々と報告をする。

 

「そうか……っ!?鎧は、ネフシュタンの鎧はどうなったんだ!?」

 

「盗られた。俺達が爆発に巻き込まれたすぐ後にな。俺も追いかけたんだが、思わぬ邪魔が入って見失った。……海東の奴、次会ったらぶっ飛ばしてやる」

 

弦十郎に聞こえないくらいの大きさで何事かを呟く士。しかし当の弦十郎はそれに意識を割く余裕が無いくらいに焦っていた。

 

「やられた!部下をみすみす死なせただけで無く、ネフシュタンの鎧までも奪われる事になるとは……!全ては俺の責任だ……!」

 

血が滴る程に強く拳を握り締め、自分への憤りを強くする弦十郎に、士は溜息を吐く。

 

「今回の件、俺達は万全の準備をしていた。外的要因さえなければ失敗する事も無かった筈だ。アンタが責任を感じる必要は無いだろう。それより、今の状況を何とかするのが先だ。翼から通信が来た。どうやら会場にノイズが出現したらしいぞ」

 

「何だとォ!?」

 

「今は奏と翼が応戦しているが、数が多くてキリがないらしい。加えて奏は時限式、長くは持たないだろうな」

 

「くっ……!士君、職員の避難は俺がやる!君は翼達の救援に向かってくれ!」

 

「そうしたいのは山々なんだけどな。どうやらこちらにもお客さんが来たらしい」

 

そう言って士崩れた部屋の天井を指差す。其処には無数のノイズがぎゅうぎゅう詰めになって弦十郎達に襲いかかろうとしている姿があった。

 

「こんな時に……!」

 

「団体様ご来店、だな。……下がってろオッサン、すぐにカタをつけてやる!」

 

ライドブッカーを右手に持ち、士はノイズの大群へと向かっていった。

 

 

 

「ライド、プレイヤー……!?」

 

変化した自分の姿に、俺は絶望した。

 

ライドプレイヤーとは、仮面ライダーエグゼイドに登場した量産型ライダーだ。誰でも変身する事が出来、人の身では対抗する事の出来ないバグスターにも対抗する事が出来る。そう言われれば聞こえは良いが、実際はそれ以上のデメリットの塊だ。

 

まずライドプレイヤーは、変身した時点でバグスターウイルスに感染し、【ゲーム病】を発症する。よって変身者は自分がゲーム病により消滅するまでに感染元のバグスターを倒さなければならない。

 

だがこのライドプレイヤー、物凄く弱い。天才ゲーマーである西馬ニコの変身するライドプレイヤーは例外ではあるが、それ以外のライドプレイヤーの性能はかなり低い。名無しの雑魚バグスターにすら苦戦するレベルで、ましてや名有りのバグスターを倒す事なんて不可能に等しい。

 

つまりライドプレイヤーは、一般人が怪物を倒す為に存在しない。その逆、怪物が一般人を蹂躙するという目的で存在しているのだ。

 

そんな物を、俺は引き当ててしまったのだ。多くの人が命の危険に晒され、それを助ける為に強い力が必要な今、この時に。

 

「ざけんな……!こんな時まで爆死すんじゃねぇよ!!ーーがっ!?」

 

不意に全身に焼けるような鋭い痛みが走り、耐えきれずに膝をつく。呼吸が荒くなり、酷い目眩がする。ふと自分の右手を見ると、不快なノイズ音と共に右手が半透明になっていた。

 

「ゲーム病の症状がもう……!変身解除するまでは大丈夫の筈だろうが……!」

 

『そりゃあ此処はテレビの中じゃなくて現実だし。少しくらい仕様が変わっててもおかしくないだろう?変身中は大丈夫なんて、そんな都合のいい話がある訳無いだろう?さあさあ、初めての戦闘だ!初っ端からゲームオーバーなんて白ける展開だけはやめてくれよ!』

 

「他人事だと思って……!おおォォォォッ!!」

 

現在進行系で病魔に蝕まれている身体を無理矢理起こし、観客達に襲いかかろうとするノイズ達に突っ込んでいく。

 

「くたばれバケモノがッ!!」

 

ノイズの真正面を捉え、思い切り蹴りを放つ。そのままの勢いで右の正拳突き、返しで左の裏拳。いつかライダーとして戦う為に鍛えてきた身体全てを使い、目の前のノイズを殲滅しようと攻撃を重ねる。

 

しかし当のノイズは俺の攻撃に一切堪えた様子は無く、俺をスルリと通り抜けて後ろにいた観客に襲い掛かる。

 

「ッ!?おい待て!お前の相手は俺だ!そいつを襲うんじゃねぇ!?」

 

無論ノイズに俺の言葉が届くはずも無く、そのまま直進したノイズは親子連れの観客に飛び掛かり、その両方を悲鳴を上げる暇も与えずに炭化させた。

 

「ーーッ!?テメェェェッ!!」

 

瞬時に激情に駆られた俺はそのノイズを蹴り殺そうと飛び掛ったが、親子を殺したノイズはまるでその役目を終えたかのように自らも静かに炭化した。

 

「ーー!クッッッソがァァァァ!!」

 

守る事の出来なかった命の仇を討つ事すら出来ない自分の無力さに全身が焼き尽くされるような怒りを感じる。

 

「クソッ!クソックソックソッ!!何で、何で倒せないんだよ!何で、何でぇぇぇぇぇぇ!!」

 

怒りをぶつけるように襲い掛かるノイズを滅多打ちにするが、それでもノイズは死なない。その事実が更に俺の心で燃え滾る怒りを熱くする。

 

「ッ!?やめっーー」

 

俺を相手にするだけ時間の無駄使いと判断したのか、全てのノイズが俺を避けて観客達に襲い掛かる。

 

「いやっ、いやぁぁぁぁ……ぁ」

 

「助け、助けて!あ、ああぁぁぁ……」

 

「やめろォォォォォォォォ!?」

 

観客に襲い掛かるノイズを殴り、蹴り、突き飛ばす。それでもノイズは進むのをやめず、ただ黙々と観客を殺していく。一つ、また一つと、俺の目の前で命が消えていく。どれだけ手を伸ばして、足掻いても、誰一人として俺の手は掴めない。炭化した『人だった物』しか、掴むことが出来ない。

 

「うわあああぁぁぁ!お父さん!お母さぁぁぁぁん!」

 

「……っ!君!俺に掴まるんだ、早く!」

 

逃げ遅れた男の子の手を掴み、此方に手繰り寄せ抱き締める。

 

「良かった……!無事で良かった……!」

 

「うっ……!うぅぅ……!お父さんが、真っ黒な砂になっちゃって!?うっ、うっ……!お、お母さんも!」

 

「もう大丈夫だ!俺が絶対君を助けるから!だからもう泣かないでくれ!」

 

「なら何でお父さん達を助けてくれなかったんだよ!僕だけじゃなくて、なんでお父さん達も助けてくれなかったんだ!」

 

「ッ!……あ、ぁ」

 

「何で助けてくれなかったんだよ!?何で、何で、何で何で何で!?……ぁ」

 

「………………ぇ?」

 

男の子の胸に、ノイズが突き刺さっていた。綺麗に俺を避けて、少年だけに突き刺さっていた。

 

「なんで……なんで……」

 

「…………ぁ」

 

男の子の身体が胸を中心にどんどんと黒くなり、炭素となって崩れていく。俺が胸に刺さったノイズを抜いてもその侵食は続きーー

 

「おと…さ……お……さ……」

 

そんな掠れた声と共に、男の子は完全に炭素となって死んだ。俺に残されたのは、男の子だった炭素の塊だけ。

 

「…………あ、ぁ」

 

ただ一人掴む事が出来た男の子さえも炭素に変わってしまった時、俺はようやく理解した。

 

「あ、ああ、あああぁぁぁ…………あああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 

 

ーーライダーの『紛い物』である俺には、何一つとして守れる物なんて無いという事を。

 

 

 

「だぁぁぁぁ!!数が多過ぎんぞ!?いくら倒してもキリがねぇ!?」

 

「駄目、まだノイズが出現し続けてる!?このままじゃまずいよ奏!?」

 

自分達に群がるノイズを消し飛ばしながら、ツヴァイウイングの二人は焦っていた。

 

二人はライブで来ていた衣装とは違った衣装を身に纏っており、その手には少女が持つにはあまりに似つかわしく無い物を持っていた。

 

奏はその手に持った大きな槍、『ガングニール』を使いノイズを穿ち、薙ぎ払っていく。対する翼は鋭き剣、『天羽々斬』を構え、向かってくるノイズを一匹残らず両断していく。

 

これこそが彼女達の持つ力『シンフォギア』。聖遺物の破片より作られた、歌によって力を解き放つ、ノイズに対抗出来る人類の希望である。

 

「クソッ!士のアニキはまだ来ないのか!?」

 

「司令達の所にもノイズが出てて、こっちに来るのは難しいって!」

 

「マジか!?もうどうすりゃ良いんだよ!?……ん?おい翼!何かいるぞ!?」

 

そう言って奏は会場の一点、ノイズが群がっている箇所を指差した。

 

「あああぁぁぁぁ!!」

 

そこには自暴自棄になって我武者羅に戦うライドプレイヤー、幸助の姿があった。

 

「何あれ……!?ノイズに対抗出来ているって事は、アレもシンフォギアなの……!?」

 

「クリボーだ!クリボーだアレ!?凄えよ翼!クリボーがいるぞ!?」

 

「クリッ……何それ?」

 

「前教えただろ!あの有名なゲームの……ってこんな事言ってる場合じゃねえ!?アイツ囲まれてるぞ!翼、助けに行くぞ!」

 

「うん!」

 

ノイズに対抗出来るあの茶色の戦士の事は分からない。それでも、やるべき事は分かっていた。ノイズを倒し、人々を守る。その意思を自らの武器に込めて、二人は幸助の下へと駆け出した。

 

 

 

殴る、ひたすら殴る。一発で死ななければ二発。二発で死ななければ三発。それでも足りなければさらに殴る。目の前のノイズが炭化して死ぬまで、俺は殴るのをやめない。沢山の人が目の前で死んで理解した。俺には誰も守れない。死にたくないと願う俺には、命を懸けて戦う事すら出来ない。俺は彼らのようなヒーローには、【仮面ライダー】にはなれない。

 

(だから……俺は!)

 

殺し尽くす。眼に映るノイズ全てを殺し尽くして、誰もノイズに襲われないようにしてみせる。

 

「死ぃねえぇぇぇぇぇぇ!!」

 

渾身の蹴りが決まり、目の前のノイズの胴が弾け飛び炭化していく。

 

(ノイズが炭化して死ぬまで大体三十発……!一体殺すだけでこんなに時間がかかるのかよ!ならーー)

 

二体目のノイズに接近し、一体目と同じ様に反撃の隙を与えずにラッシュで畳み掛ける。今度は大振りの攻撃をラッシュから省き、出来るだけ動作が小さい攻撃を重ねて手数を増やす。一体殺すのにかける攻撃数は増えるが、殺すまでにかかる時間を多少は減らせる。

 

「どぉらあぁぁぁぁ!!」

 

四十発くらい打ち込んだ辺りでノイズが炭化し息絶える。ノイズの完全消滅を確認して、三体目に入る。今度もさっきの攻撃から無駄を省き、より効率よく殺せるように常に頭を働かせる。

 

「ーーグッ!?」

 

別のノイズからの攻撃がもろに直撃し、身体が大きく吹き飛ばされる。体勢を崩した俺に向かってノイズの大群が押し寄せて来る。

 

「不味いっ!?」

 

「どっせぇぇぇぇいッ!!」

 

ノイズの大群が俺に襲いかかろうとした瞬間、俺の目の前を大きな槍が勢いよく通り過ぎ、俺の周りにいたノイズを一匹残らず消し飛ばした。

 

「んなッ!?」

 

「危なかったな!大丈夫か!怪我とかしてないか!」

 

「天羽奏!?」

 

俺を助けたのは、何とも珍妙な格好をした天羽奏だった。

 

その後ろからは刀を持った風鳴翼も同じような格好をして歌いながら走って来ている。何だこれは、まるで意味が分からんぞ。

 

「……何だその珍妙な格好は」

 

「いやお前に言われたかねぇよクリボー擬き!?」

 

「奏今は話をしてる場合じゃない!……えっと、貴方が誰かは分からないけど、貴方は私達や士さんみたいにノイズと戦えるのよね!なら今は私達に協力して!」

 

「言われなくても分かってる!寧ろ助かった!俺一人じゃ火力が足りなかった!」

 

何がどうなっているのかはさっぱり分からないが、二人味方が増えた事で多少冷静になれた。見た所コスプレ二人組の方が火力が高いみたいなので、ノイズが密集している所は二人に任せ、単独で動いているノイズに狙いを定めて動く。

 

「団体はそっちに任せたぞ!」

 

「おっしゃ任せろぉ!!」

 

「ちょ、奏!あまり先行しないで!?」

 

二人はノイズが特に多い方へ突っ込んで行く。俺が苦労して一体一体倒しているノイズを、いとも簡単に倒して行く姿を見ると凄い複雑な気持ちになる。しかしそんな感情は頭の片隅に置いて、目の前のノイズの相手に集中する。

 

「らぁッ!」

 

足払いをかけ体勢を崩し、隙だらけの顔面に蹴りを叩き込んでノイズを炭素へと変える。段々と要領がつかめて来たのか、最初の頃よりも楽にノイズを倒せるようになって来た。まだ時間がかかるのには変わりないが、それでも大きな進歩だ。

 

「……ん?あれは……!」

 

視界の隅に見えた瓦礫の山に見覚えのある姿を見つけたので、周りのノイズを吹き飛ばしながらそこへ向かう。

 

「うっ、うぅ……」

 

「立花ッ!」

 

そこには瓦礫に足を挟まれ、身動きが取れなくなっていた立花響の姿があった。

 

 

 

「おいおい……アイツ、ノイズ倒す度にどんどん動きが良くなってないか?」

 

ノイズを蹴散らしながら奏がクリボー擬きの方を見て驚いたようにそう呟く。

 

「戦いの中で成長してる……ってヤツか。まるで少年漫画のヒーローだなオイ」

 

「奏!ノイズの増援!」

 

「おいおいおい!?また増えたのかよッ!?」

 

さらなる増援に内心焦りを感じながら目の前のノイズを殲滅する。流石に多過ぎだ。体力自体はまだまだ余裕が有るが、自分は翼と違って時限式、長くは戦えない。

 

「クソがッ!何で今日はこんなに大量なんだよ!」

 

「ーー奏ッ!あそこ!」

 

「ーーやべえッ!?」

 

翼が指差した方向を見ると、夥しい数のノイズに囲まれたクリボー擬きの姿が目に入る。さらに悪い事に、近くには生存者らしき少女付きだ。

 

「翼ァ!此処任せたぞ!」

 

「えっ、ちょっ、奏!?」

 

この場のノイズを翼に任せ、あのクリボー擬きと少女の下へと全速力で向かう。

 

「間に合ってくれよッ……!」

 

手に持つ槍を強く握り締めて念じながら、奏は一直線に駆け抜けた。

 

 

 

「……不味いな」

 

立花を発見して安堵したのも束の間、大量のノイズに囲まれ絶対絶命のピンチに陥る。

 

『いやぁ、大変そうだねぇ』

 

(マジでヤバイから今話しかけんな神様。……キャラガチャは引き直せないのか?)

 

『無理だね。石があるなら別だけど、君のガチャ用の石はチュートリアルで君にあげた分で全部だからね』

 

どうやら俺はライドプレイヤーでこの局面を乗り切らなければならないらしい。つくづく自分のガチャ運の悪さが嫌になるな。

 

『案外いけるかもよ?度重なる死闘で経験値が溜まった君のライドプレイヤーは、レベル3のライダーと互角にやり合えるくらいのスペックまで成長している。ノイズってのはバグスターよりも経験値が美味しいみたいだね』

 

(ならせめて別のガシャットくらい用意してくれませんかねぇ?武器が欲しいんだよ武器が!)

 

『武器ならあるだろう?ライオトルーパーが使ってる奴によく似た武器がさ』

 

(あれ思ったより使い難いんだよ!小振りだから本当に近くまで行かないと当たんねえし!普通の銃と同じくらいの威力じゃ大した傷にならねえし!)

 

相手が人なら十分な武器になるのだろうが、ノイズ相手では中々有効打にならない。それなら普通に格闘で対処した方がやり易い。

 

「しっかし……どうしたもんかねぇ……!」

 

前方にノイズの大群、後方に身動きの取れない立花。無理矢理にでも前のノイズを潰しにかかる事は不可能では無いが、そうすれば立花を危険に晒してしまう。ならば立花を見捨てるか?論外だ。それをやる気ならそもそも俺は変身なんてせずに逃げてる。

 

「ーーあのっ!に、逃げて下さい!わ、私の事は良いですから、せめて貴方だけでも!」

 

状況の不利を悟ったのか、立花がそんな事を言ってくる。自分が逃げられないから、せめて俺だけでも逃がそうとしてくれているんだろう。だが、大人しく言う事を聞く気は毛頭無い。

 

「ざけんなッ!お前見捨てて自分だけ生き残るくらいなら死んだ方がマシだ!こんな奴らとっとと片付けてお前を助けてやるから諦めんじゃねぇッ!!」

 

「よく言ったァ!カッコイイぜお前!」

 

「ーー来たかッ!」

 

物凄いスピードで疾走して来た天羽奏が槍を振るい、俺の前方にいたノイズ達を消し飛ばした。

 

「そこの二人!怪我はねぇな!」

 

「えっ!?奏、さん!?」

 

「遅いぞ天羽奏。あと少し遅かったらやばかった」

 

「悪い悪い。だがアタシが来たからにゃもう大丈夫だ!反撃開始ってヤツだな。クリボー、アタシがノイズを相手する。お前はその子を守る事だけ考えてな!」

 

「ああ、任せたぞ!後クリボーじゃねぇ!」

 

正直あの数を相手にするのは辛かったので、あの大群の相手は天羽奏に任せて立花を守る事だけに専念する。天羽奏がノイズ達を蹴散らし、取り零した奴が此方に向かってくるのを俺が迎撃する。現状で取れる策としては一番良いものだろう。欲を言えば風鳴翼にも応援に来て欲しかったがあっちもあっちで忙しいだろうし無理は言えないだろう。

 

「はあぁぁぁぁ!!」

 

飛びかかって来るノイズをキックで迎え撃ち爆散させ、続く二体目を掴んで反対側から迫るノイズに投げつける。バランスを崩した二体のノイズに上から蹴りを浴びせ、諸共に炭化させる。

 

「しゃあッ!怪我は無いか立花ァ!」

 

「う、うん!でも何で私の名前知って……」

 

「気にするな!今は無理だが、後で瓦礫を退けて助けてやるから、今は我慢してくれよ!」

 

そう立花に言って戦闘を続行。天羽奏も疲れが溜まっているのか、段々とノイズの討ち漏らしが多くなる。今はまだ二、三体で住んでいるが、これが十、二十となっていくと厳しいな。

 

「天羽奏の方もヤバイか……!」

 

天羽奏の方にチラリと視線を向けると、明らかに動きが悪くなっているのが分かる。

 

「ーーッ!」

 

突如として天羽奏の持つ槍が光を失い、全体に亀裂が入り始めた。

 

「ーー時間切れかッ!?クソッ!時限式は此処までだってのかよ!?」

 

焦った表情でそう叫ぶ天羽奏。勿論ノイズ達はその隙を見逃さず、一斉に天羽奏へと襲い掛かる。

 

「ーーッぐううぅぅ!?」

 

天羽奏も槍で何とか攻撃を防ぐが、流石に厳しいのか槍が酷い音を立てながら壊れていく。そして遂に槍が砕け散り、その破片がそこかしこに飛び散る。その中の一つが向かう先に居るのはーー

 

「ーーッ!?避けろ立花ァァァァッ!?」

 

「ーーえっ?」

 

俺の叫びも虚しく、槍の破片は寸分違わず立花の方へと飛んでいき、立花の胸を貫いた。

 

「ーーぁ」

 

「立花ァァァァァァッ!?」

 

 

 

「立花ァァァァァァッ!?」

 

「ーーッ!?」

 

後ろから聞こえたクリボー擬きの叫び声に反応し、奏は瞬時にそちらに顔を向けた。其処には胸から夥しい量の血を流す少女と、その少女を抱き抱えて必死に起こそうとするクリボー擬きの姿があった。

 

「まさか……ガングニールの破片が!?」

 

自分の所為で少女が傷付いたと分かった瞬間、全身に凍り付くような寒気を感じた。

 

「ーーッ!!」

 

瞬時に相手していたノイズを蹴り飛ばし、少女達の所へ走って行く。

 

「邪魔だ退けぇ!!」

 

立ち塞がるノイズ達を殴り飛ばしながら、奏は少女達の下へと駆けつけた。

 

「応急処置は!」

 

「もうやった!それでも意識が戻らねえんだよ!このままじゃマジで立花が……!」

 

「んな事させるかよ!おい!しっかりしてくれ!生きるのを諦めるなッ!!」

 

その奏の言葉が届いたのか、目を閉じたまま動かなかった少女の瞳が僅かに開き、身体が微かに震えた。

 

「ーー!……良く、頑張ってくれたな」

 

死の淵から這い上がろうと頑張った少女の頭を軽く撫で、ノイズの大群に向き直る。数は依然増え続けており、翼もこのクリボー擬きも限界が近い、自分も時間切れでマトモに戦えない。

 

(やる事は、決まったな)

 

この状況を何とかするには、アレをやるしかない。そして恐らくそれは自分がやるべき事なのだろう。クリボー擬きと少女の方に振り返り、奏はクリボー擬きに笑顔で言葉を交わした。

 

「そういやさ、お前もアタシらのライブ見に来てくれたお客さんなんだよな?」

 

「確かにそうだが、今はそんな事言ってる場合じゃ……」

 

「まあ聞けよ。アタシら最後の曲歌ってなかったよな?」

 

「だからさっきから何を言ってるんだよ!?」

 

「アタシの最期の曲、聴いてってくれないか?」

 

「ーーッお前何を!?」

 

「奏!?まさかアレを!?」

 

奏の表情からタダならないものを感じたのか、クリボー擬きがマスクの下で強張ったような表情を浮かべる。それと同時に遠くでノイズの相手をしていた翼も、奏のやろうとしている事を察して悲鳴を上げる。

 

「観客は沢山いる。……まあ、その殆どがノイズってのはちょっと残念だけどな」

 

ノイズの大群に向き直り、深呼吸をする。恐らくこれが自分の最期の歌になるだろう。

 

「……一度、思いっきり歌ってみたかったんだよな」

 

何も考えず、頭を空っぽにして歌う。翼と一緒に歌うようになってから、ずっとやってみたいと思っていた事だ。こんな形で叶う事になるとは、流石に予想が付かなかったけれど。

 

「駄目よ奏!?歌っては駄目ぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

「しっかり聴いてけよ。アタシのーー絶唱」

 

翼の制止を振り払い、奏は最期の歌を歌い始めた。

 

 

 

「Gatrandis babel ziggurat edenalーー」

 

……歌が、聴こえる。

 

「Emustolronzen fine el baral zizzlーー」

 

……綺麗で、優しくて、それでいて何処か寂しそうな、そんな歌が。

 

「Gatrandis babel ziggurat edenalーー」

 

……これが誰の歌なのかは私には分からない。それでも確かに私でも分かる事がある。

 

「Emustolronzen fine el zizzlーー」

 

……この歌は、大好きな誰かに伝える為に歌っているものなんだって。

 

 

 

天羽奏の最期の歌『絶唱』は、ライブ会場にいたノイズを一匹残らず消し飛ばした。百を超えるノイズの大群、その全てを。しかしそれは、決して軽くない代償を伴うものだった。

 

「奏!?しっかりしてよ奏!?」

 

ーー天羽奏の、命という代償を。

 

「つ、ばさ……?そこに居るのか?真っ暗で、なーんにも見えねぇ……」

 

すぐ近くで奏を抱き抱えている翼を探すように、奏はふらふらと右手を宙で彷徨わせる。

 

「天羽奏ッ!」

 

天羽奏の側に近寄り、その手を風鳴翼の手に重ねてやる。天羽奏は少し驚いた顔をした後、弱々しい笑顔で言葉を紡いだ。

 

「お……?クリボーじゃん……。お前もそこにいるのか。あの女の子は、無事だったか……?」

 

「ああ……!お前のお陰だ!お前のお陰で、あいつは救われた!」

 

「そっか……良かった。死んでたりしたら……悔しくって化けてでてたかもしれないからな……」

 

「縁起でもない事言わないで!?死なないでよ奏!?奏がいなくなったら、私どうすれば良いのか分からないよ!?だから死なないで!?」

 

風鳴翼が泣き叫びながら天羽奏へと言葉をかける。何とかして助けたい、でも今の俺には何も出来ない。自分の無力さが、死ぬ程嫌になった。

 

「はは……翼は、弱虫で、泣き虫だなぁ……」

 

「弱虫でも良い!泣き虫でも構わない!だから一緒に居てよ!?私達は、二人で一人のツヴァイウイングでしょ!」

 

「……翼、お願いがあるんだ」

 

「なに!?何なの!?奏がして欲しい事なら、私はなんだってする!だから!」

 

「これからも、歌い続けてくれないか?アタシの分まで歌を歌って、世界中の人に笑顔を届けてくれないか……」

 

「……っ!かなでぇ……!」

 

その言葉を聞いて風鳴翼の顔が更に歪む。それが見えているのかは分からないが、天羽奏は優しく微笑んで風鳴翼の涙を拭った。

 

「はは、本当に泣き虫だ……。なあクリボー、お前にも頼みたい事があるんだけど、良いか?」

 

「……言ってみろ」

 

「アタシの代わりに、皆を守る為に戦ってくれないか?翼や士のアニキだけじゃ、不安でさ……」

 

「無理だ……!俺には何も守る事が出来ない……!」

 

「何言ってんだよ……。守ったじゃねぇか、あの子を」

 

「守ったのはお前だ!俺には何も出来なかった!ノイズの大群を倒す事も!観客を守る事も!目の前にいた立花を守る事も!何一つ出来なかった!出来なかったんだよ!?」

 

「出来るさ、お前なら。そうやって誰かの為に泣けるお前なら、いつかきっと誰かを守る事が出来る。士のアニキも言ってたよ。『守りたい誰かの為に戦う奴の事を、仮面ライダーって言うのさ』って。あの子を守ろうとしたお前は、立派な仮面ライダーさ」

 

「違う!違う違う違う!?俺は仮面ライダーなんかじゃない!?俺は只の紛い物だ!?仮面ライダーなんて名乗る資格は無いんだ!?」

 

「はは、ライダーを名乗るのに資格なんて要らないよ。それでもお前がライダーの資格が無いなんて言うならさ、これから成れば良いじゃん。皆を守る、正義の仮面ライダーにさ」

 

「……ッ俺は、おれはぁ……!」

 

涙が、止まらなかった。無力な自分が本当に憎い。俺に力があれば、俺が仮面ライダーだったなら、今まさに生命を終えようとしている天羽奏を救う事だって出来た筈だ。

 

全ては、弱かった俺が悪いんだ。俺の弱さが、観客達や天羽奏を殺したのだ。

 

「あぁ、超眠い……なあ二人共、知ってたか?思いっきり歌うと、 腹が減る、んだ、ぜ……」

 

その言葉を最後に天羽奏は目を閉じ、この世から消滅した。

 

「奏ええぇぇぇぇぇぇ!?」

 

「……クッッッソがああぁぁぁぁ!!」

 

 

 

この日、ツヴァイウイングのライブで起きたこの事件は、死者6,000人、重軽傷者3,000人超。ノイズによる事件で過去最悪の結果となった。そしてこの事件は、この国全ての人間の心に、等しく爪痕を残す事となる。

 

 



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悪意と涙と世界の破壊者

大勢の人が死んだあの事件から二ヶ月が経った。あの事件の被害者の多くがリハビリを終え、心に傷を負いながらも日常生活へと戻っている。俺、檜山幸助もその一人だ。

 

俺は他の被害者達程酷い怪我を負わなかったので、一週間かそこらで学校に復帰出来た。クラスメイト達は俺の生還を喜び、暖かく迎え入れてくれた。あんな事があっても変わらず俺と接してくれるクラスメイトに感謝し、俺はこの暖かい暮らしがいつまでも続くようにと願っていた。

 

 

 

ーーあるテレビ局が行なった、あの悪意ある報道があるまでは。

 

 

 

「……」

 

机の上に置かれた花の飾られた花瓶を退かし、席に着く。机の中に入っていた画鋲を取り出し、ケースに仕舞う。机には数えるのも面倒になるくらい罵詈雑言が落書きされているが、机自体は問題無く使えるのでどうでも良い。

 

ーークスクス

 

誰かの笑う声が聞こえる。確認はしていないが、恐らくクラスメイトの女子だろう。全く、毎日毎日ご苦労な事だ。

 

ーーガッ!

 

不意に後頭部に衝撃を感じ、頭が揺れる。辺りを見回すと、足元に硬式の野球ボールが転がっているのに気が付いた。

 

「おっしゃ当たりッ!」

 

「後頭部だから十点な。じゃあ次俺ー!」

 

「目を狙えよー、当たったら百点だからなー!」

 

そんな声が聞こえて来る。別段おかしな事では無い。教室で馬鹿な男子達が良くやる的当てゲームだ。普通のゲームと違う所と言えば、的が人間だという事くらいか。

 

ふと何処からか視線を感じたのでそちらに目を向けると、何か言いたげな顔でこちらを見る友人と目が合った。しかし友人は俺と目が合ったすぐ後に泣きそうな顔で俺から目を逸らした。正しい判断だ。その光景を誰かに見咎められたら、まず間違い無く自分も標的にされるだろうからな。

 

ここまで言えば誰でも理解出来ると思うが、俺は今イジメに遭っている。理由は簡単、俺が『生き残ったから』だそうだ。

 

事件から数週間が経った頃、とあるテレビ局がこんな報道をした。

 

ーー曰く、事件の死亡者の死因の三分の二はノイズによるものでは無いという事。

 

ーー曰く、その三分の二の人々の死は、逃げようとした人々に押され、蹴られ、踏みつけられた事が原因であるという事。

 

ーー曰く、つまりあの事件の生存者達は自分だけが生き残る為に他者の命を犠牲にした、許されざる殺人者の集団であるという事。

 

ーー民衆は激怒した。かの邪智暴虐な生存者達を必ずや取り除かなければならぬと。

 

そしてある日、義憤に駆られた民衆の一人が、生存者のリストをネット上にアップした。生存者の名前、容姿、住所に家族構成、あらゆるものが載っている、そんなリスト。

 

それがアップされたのが火種になり、人々は生存者狩りを始めた。

 

ーー民衆は声高に主張した。生存者達は罰せられるべき罪人であり、それを裁く自分達の行いは絶対的な『正義』なのだと。

 

生存者の家に石を投げ、壁のあらゆる所に罵詈雑言の書かれた紙を貼る。道を歩く生存者を取り囲み袋叩きにする。その他多くの暴力が行われた。民衆の手は生存者達の家族や友人にも及び、それを恐れた家族や友人までもが生存者狩りに加担する。肉体的、精神的、あらゆる暴力によって傷付けられ、絶望し自ら死を選ぶ生存者も多く生まれた。

 

そんな生存者達の不幸を、絶望を、死を見て、民衆は歓喜するのだ。

 

「ああ、やった。私達は悪を滅ぼしたのだ」と。

 

彼らにとって、生存者達への暴力は『制裁』なのだ。悪いのは生存者達であり、自分達は正しい行いをしている。罪人である生存者達には、日の当たる場所でのうのうと暮らす権利など存在しない。そう本気で考えているのだ。

 

そしてこの唾棄すべき風潮を、あろう事が報道陣までもが肯定した。連日生存者についての情報を流し、今日はどこどこの誰が民衆の制裁に遭ったなどと、嬉々として語るのだ。生存者を執拗に罵倒し、住所の映像を勝手に流し、更には生存者に懸賞金をかけて生存者狩りを促した。

 

彼らにとって今の風潮は美味いネタなのだ。ただ生存者を叩くだけで支持され、視聴率が取れる。被害に遭う生存者の気持ちなど知った事ではないのだ。

 

民度悪すぎだろ遊戯王以下かよ、とは俺の感想だ。確かにあの時他人を押し退けて逃げようとした人を見たのは事実だ。だが生き残った人間全てがそうでは無い。勘違いした正義感で他人を傷付けるのは、ただの屑だ。まあ、そう考えている人が全くいないから、俺は今イジメに遭っているのだが。因みに俺の家族は生存者狩りが始まった途端に俺を置いてどっかに行った。薄情な家族だと呆れはするが、別段愛情を注がれていた訳では無いのでどうでもいい。

 

「……チッ!」

 

俺が何の反応も示さないのが癇に障ったのか、俺で的当てゲームをしていた男子の一人が舌打ちをする。そしてゆっくりとこちらに歩いて来て、俺の腹を思い切り蹴って俺を床に叩きつけた。

 

「悪い悪い、足が滑っちまったわ!」

 

全く悪いと思っていないであろう表情でそう言った男子を無視し、椅子に座りなおす。

 

「何とか言えよ人殺し!」

 

その態度が更に男子の怒りを誘ったらしく、今度は顔を殴られる。

 

「ここはテメェみたいな屑が来ていい場所じゃねぇんだよカスが!人殺しは人殺しらしく刑務所にでも入ってやがれ!!」

 

「……」

 

「何とか言えって……言ってんだろうがぁ!」

 

襟を掴まれ、顔を何度も殴られる。口を切ったのか、少し血が垂れて来たが、そんなことお構い無しに顔を殴ってくる。二十発かそこら殴られた辺りで、男子は全く反応しない俺に飽きたのか何事も無かったかのようにさっまで話していたクラスメイトの所に戻って談笑をしていた。

 

「あ、あの……檜山君、大丈夫?」

 

服についた埃を払いながら立ち上がると、心配そうな顔をした黒髪の少女ーー立花の親友である小日向がハンカチを差しだしながら俺にそう話しかけた。

 

「……平気だ。それより、あまり俺に話しかけない方が良いんじゃないか。お前までイジメに巻き込まれるぞ」

 

ハンカチをそのまま突っ返し、俺は小日向にそう言った。助けようとしてくれるのは嬉しいが、それが原因で小日向が傷付く事になるのはもっと嫌だ。

 

「確かにイジメられるのは怖いよ。でも見て見ぬふりをするのはもっと嫌なの。これは私にとっても、他人事じゃないから……」

 

そう言って小日向は教室の隅の席で暗い表情を浮かべる少女、立花の方を悲しそうな顔で見た。

 

ウチのクラスで生存者狩りに遭ったのは俺だけじゃない、あの日あの事件で死にかけた立花も標的にされたのだ。

 

辛いリハビリを終え、やっと学校に通えるようになった立花を待っていたのは、クラスメイトからの陰湿なイジメだった。机に落書きをされ、教科書類をズタズタに破かれ、悪口を言われ、暴力を振るわれる。あのライブに立花を誘った小日向は、その事でずっと苦しんでいる。

 

立花への悪意は、立花の家族にも及んだ。連日家に石を投げ込まれ、悪口を書いた紙を家に貼られた。学校の外にも、立花の安息の地は無かったのだ。

 

そして悲劇は起こった。毎日のように続く人々の暴力に耐えきれなくなった立花の父親が立花とその家族を残して逃げ出したのだ。信頼していた父親に裏切られた立花は心に深い傷を負い、以前のような明るさは影に隠れ常に暗い表情を浮かべるようになってしまった。

 

無論俺も小日向も立花を助けるため出来る限りの手は尽くした。でもやはりたった二人でやれる事などたかが知れている。俺や小日向に出来るのは、立花の心が死なないように支えてやる事だけだ。

 

「……なら、立花を助ける事だけに専念しろ。俺の事なんて放っておけ」

 

「そんな事出来ないよ。檜山君は響を助けてくれた。だから私は響の友達として、檜山君にお礼をしたいの。響が檜山君を友達だって思ってるように、私にとっても檜山君は大切な友達だから」

 

俺の目を真っ直ぐ見つめ、小日向は俺にそう言った。小日向は意思が堅い。一度言った事は絶対に曲げない心の強さを持っている。そんな小日向に此処まで言われると、流石に拒絶しにくい。

 

「……分かった分かった。何かあったら相談するようにするよ」

 

「絶対だからね?」

 

「はいはい、相談しますよ」

 

「よろしい!」

 

それだけ言って小日向は満足そうに笑顔を浮かべ自分の席に戻って行く。その姿を睨み付けるクラスメイト達を見つめながら、俺はホームルームが始まるまでどうやって立花を救うかを考え続けていた。

 

 

 

「……なあ、ちょっと良いか?」

 

昼休み、それまで俺に話しかけようとしなかった友人に声をかけられた。まさか話しかけられるとは思っていなかった俺は、思わず友人の顔を二度見した。

 

「……何の用だ?」

 

「お昼、久しぶりに一緒に食べないか?」

 

「……良いのか?」

 

「おう。屋上で食べようぜ」

 

「……分かった」

 

どういうきっかけがあって友人が俺を誘おうと考えたのかは分からないが、誘って貰えたのは素直に嬉しいので誘いに応じる事にする。

 

「それじゃあ、俺は購買でパン買って来るから、先に屋上で待っててくれ」

 

「分かった」

 

用意していた弁当を持って、屋上へと向かう。教室を出る時にクラスメイト達がやけにすんなり出してくれたのは少々気になったが、まあ良しとした。

 

 

 

「……遅くね?」

 

昼休み開始から二十分、屋上で友人を待っていた俺は思わずそう呟いた。

 

「パン買ってくるだけならとっくに来てる筈だが、まさか嵌められたか?」

 

クラスで一番仲の良い友人だが、それ故に今の状況ではイジメに加担せざるを得ない時もあるだろう。そう納得し、教室へ戻ろうとドアに手を掛けた時、俺はある事実に気がついた。

 

「……鍵が開かない」

 

どうやらあちら側から鍵を掛けられたらしい。参ったな、そろそろ昼休みも後半だ。屋上は昼休み以外では解放されていないので、下手したら明日の昼休みまでここに閉じ込められる事になる。開けた屋上で『閉じ込められる』というのもおかしな話だが。

 

「どうしたものか…………ん?」

 

不意にポケットから軽快な音楽が響き、中に入れてあった携帯電話が小刻みに震える。

 

「……あいつからか」

 

どうやら、その件の友人からの電話らしい。

 

「何だドタキャン野郎。わざわざ電話かけてくるくらいなら直接こっちに来いや。そんで鍵開けろ」

 

『……悪いけど、もう暫くは其処にいて貰う。お前に戻って来られたら何もかも台無しだからな』

 

感情を押し殺したような冷たい声で友人から返事が返ってくる。長い付き合いだが、こんな声の友人は初めてだ。

 

「台無し?一体何がだ」

 

『……立花へのトドメだ』

 

「……は?」

 

今、この友人は何を言った?

 

『立花にトドメを刺す。あいつを徹底的にイジメ抜いて、あいつの心を完膚なきまでにぶっ壊す』

 

「……おい、待て」

 

『クラス全員による暴行、暴言、その他諸々の攻撃……あまり気は進まないが、立花の女性としての尊厳を踏み躙る事も考えている。つまりは性的暴行だな。当然立花の心は深く傷つく。良くて不登校からの自主退学、最悪の場合廃人になる可能性もあるな』

 

「待てよ……!」

 

吐き気がする程に悍ましい事を淡々と語る友人。理解出来ない、理解したくない。

 

『当然立花の親友である小日向は俺達を止めようとするだろうな。可哀想だがその時は小日向も標的に入れるのも視野に入れないといけない。小日向も立花同様に壊さないといけないだろうな』

 

「待てって言ってんだろうがッ!!」

 

『……何だ』

 

「何だじゃねえよ!テメェ自分が何を言っているのか分かってんのか!?」

 

立花と小日向を壊す、そんな事を作業でもするように淡々と話す友人の思考を理解出来ない。そんな事、正気の沙汰ではない。

 

『当然、理解しているさ。クラスメイト二人を壊す、それがやって良い筈がないという事も当然理解している。だが俺にはそれをしなければならない理由がある』

 

「脅されてるのか!ならとっとと鍵を開けて脅してる奴の名前を言え!そいつをぶっ飛ばしてやる!」

 

『別に脅されてこんな事をする訳じゃない。これは俺自身で考えてやる事だ』

 

「じゃあ何でだ!?何でお前はこんな事を平気で出来るんだよ!!」

 

『お前の為だよ、幸助』

 

「……俺の、為?」

 

感情の感じなかった友人の声に、その言葉を口にした時だけは何かが込められているのを感じた。

 

『この学校にいるあの事件の生存者はお前と立花だけ。ここで立花に皆の悪意を集中させれば、お前へのイジメだって幾分かマシになる筈だ。皆ひとしきり立花を痛めつければ満足するだろうからな』

 

「ざけんな!立花や小日向の犠牲の上に勝ち取った平穏なんか貰って、俺が喜ぶ訳ねぇだろ!今からだって十分間に合う!先生か誰かに言って皆を止めーー」

 

『じゃあお前はこのままで良いのかよ!!』

 

友人の激情の篭った怒鳴り声に、思わず息を呑む。

 

『お前が毎日皆にイジメられてるのを、俺がどんな気持ちで見ていたか、お前に分かるか!?俺がライブのチケットを渡した所為でお前が死に掛けて!?世間から迫害されてんのを見るのがどんだけ辛いと思ってるんだ!?』

 

「……ッ!」

 

『辛いんだよ……!俺の所為でお前が傷付いて!家族に捨てられて一人ぼっちになって!学校でもイジメられてるのが、辛いんだよ!』

 

それは、あの事件の後初めてまともに会話する友人の、心からの懺悔だった。

 

『だから俺はお前を助ける!例えその為に立花や小日向が壊れる事になっても、絶対に!これがお前の為に俺に出来る唯一の償いなんだ!』

 

それだけ言って、友人は通話を切った。

 

「……ッの馬鹿!」

 

ドアノブを思い切り捻る。鍵が掛かったドアはガチャガチャと音を立てるだけで、一向に開く気配が無い。

 

「強行突破しかないか!」

 

ドアを思い切り蹴り上げる。鉄製のドアが凄い音を立ててへこんだが、ぶち破る事は出来なかった。

 

「クソッ!」

 

足の痛みを我慢して何度も蹴り続ける。へこませる所まではいくのだが、そこから先にどうしても進まない。

 

「だったら!」

 

助走をつけ、勢いに乗って思い切り飛び蹴りをする。一際派手な音を立てドアは吹き飛び、校内への道が開かれる。

 

「……間に合えよッ!」

 

吹き飛ばしたドアに目もくれず、俺は立花達の下へ走り出した。

 

 

 

ーー生きるのを諦めるなッ!

 

あの時、私を救ってくれた奏さんは私にそう言っていた。

 

ーーテメェを見捨てて自分だけ助かるくらいなら、俺は死んだ方がマシだ!

 

動けない私を必死に守ってくれた茶色い人は、私にそう言ってくれた。

 

二人が居なければ、私は生きて居なかった。私の命は、二人に救われたんだ。

 

でも、最近はこう考えるようにもなった。

 

 

 

ーー本当に私は生きていて良かったのかな?

 

 

 

ーー私なんかよりも生きるべき人が、沢山いたんじゃないのかな?

 

 

 

ーー私は、死んだ方が良かったんじゃないのかな?

 

 

 

「……あ?気絶してたのかよ。よっえー、何でお前みたいなのが生き残ったんだよ人殺し」

 

「……ぁ」

 

髪の毛を掴まれて、無理矢理起こされる。どうやら私は気絶していたらしい。

 

「何だその目?助けて欲しいってか?助ける訳ねぇだろ人殺しが!」

 

「……ぁっ!」

 

顔を思い切り殴られて、床に叩きつけられる。周りのクラスメイト達はそんな私の姿を見てクスクスと笑う。

 

「見てよあの姿、きったなーい!」

 

「随分と人殺しらしい格好になったよね」

 

「あんなのがなんでのうのうと生きてるんだろうね?」

 

違う、私は人殺しなんかじゃない。そう叫ぼうとしたが、声が出ない。私を殴ったのとは別のクラスメイトが、私の首を絞めているから。

 

「痛いか?苦しいか?あそこで死んだ人達はな、皆同じような思いをしながら死んだんだよ。お前ら生存者に殺されてな!」

 

「……ぁ!」

 

「響!響!やめてよ、響に酷い事しないでよ!?」

 

「酷い事?何言ってんだよ小日向。酷いのは人殺しのこいつだろ?俺達は悪い奴を懲らしめてるだけだ。制裁だよ制裁!」

 

「響が何をしたって言うの!?響だって被害者だよ!?なのに何でこんな酷い事が出来るの!?」

 

「生きてる事だよ!他の奴らが死んだのに、自分だけのうのうと生き残ってる!それが罪なんだ!こいつは、生きてちゃいけない奴なんだよ!」

 

「……ッ!?」

 

はっきりと私に向けられた拒絶の言葉に、心がズタズタにされているように痛くなる。ずっと何処かで考えていた事を、誰かに面と向かって言われた事が、とても辛い。檜山君も、こんな思いをいつもしているのかな?

 

「…………?」

 

ふと、周りの人とは少し違う感じの視線を感じた。何となくそっちに目を向けると、じっと私を見つめている人と目が合った。

 

「……ッ!」

 

その人は私と目が合った途端にとても悲しそうな表情をして、さっと私から目を逸らした。あの人は誰だったっけ?確か、檜山君といつも一緒にいたーー

 

「よそ見してんじゃねぇぞ人殺し!」

 

「……あッ!?」

 

「響!?」

 

よそ見していた私のお腹に容赦無く蹴りが浴びせられる。痛い、でも、まだ耐えられる。

 

「……へいき、へっちゃら。大丈夫だよ、未来」

 

「ひびきぃ……!」

 

泣きそうな顔をしている未来をそう言って励ます。まだ大丈夫、まだ私は耐えられる。未来が居てくれるから、これくらいへっちゃらだ。

 

「はっ、人殺しの癖に一丁前に友達ごっこかよ。なら二人仲良くイジメてやるよ!」

 

「きゃっ!?」

 

「未来ッ!?」

 

そう言ってクラスメイトの一人が未来を突き飛ばして、未来の上に跨った。

 

「人殺しを庇うお前も共犯者だ小日向。なら、当然お前にも罰は必要だよなぁ?」

 

「やめてッ!?未来にだけは手を出さないで!?」

 

「やめるわけないだろ?何でお前みたいな人殺しの言う事を聞かなきゃいけないんだよ?」

 

駄目だ、未来だけは駄目だ。私の陽だまり、私の親友。未来だけは、傷付いちゃ駄目なんだ。

 

「やめてよ……!私はどうなっても良いから……未来にだけは酷い事しないでよ……!」

 

「響……私は、大丈夫。大丈夫、だから……!」

 

「おーおー立派だなぁ小日向。その強がりがいつまで持つか楽しみだ、な!」

 

「ひっ!?」

 

未来の着ていた制服が無理矢理脱がされ、その下に着ていた下着が露わになる。

 

「よーく見とけよ人殺し。お前の目の前で小日向を滅茶苦茶に甚振ってやる!これはお前の所為だ!お前が招いた結果なんだよ!」

 

「嫌!?やめてッ!?未来にそんな事しないで!?悪いのは私なんでしょ!私はどんな目に遭っても良い!?だから未来だけは!?」

 

「安心しろよ人殺し。小日向の次はお前だ。裸にひん剝いて、小日向と同じ目に遭わせてやるよ!」

 

「それじゃまだ足りないよ!こいつには、もっと酷い目に遭って貰わないと!」

 

「じゃあさじゃあさ!裸に引ん剝いた後、彫刻刀で文字を彫ってあげようよ!『私は人殺しです』ってさ!」

 

「良いねそれ!やろうやろう!」

 

ゲームをやる時みたいな口調で、皆は笑いながらそんな事を言う。

 

どうして?どうして皆こんな酷い事が出来るの?私達は今まで仲良く遊んだり、お喋りしたりしてたのに。何で皆変わっちゃったの?

 

(私の、所為なの……?)

 

皆に酷い事されるのも、その所為で未来が傷付くのも、お父さんが出て行ったのも、皆私の所為なの?私が悪いの?

 

(私は、生きてちゃいけなかったの……?)

 

「ほら、彫刻刀を持って来てやったぞ人殺し。今からお前の身体にお前の罪をしっかり刻んでやる。お前が生きてる限りずっと残り続ける傷だ。これからはそれを見て自分の行いを懺悔し続けるんだな!」

 

制服を脱がされ、馬乗りにされる。私をニヤニヤと笑っているクラスメイトの目を通して、私は私の姿を見た。

 

(ははは……ひっどい顔)

 

顔中傷だらけの痣だらけ。額から流れる血にべっとりと貼りついた、ボサボサの髪。濁った目は、少し前に撮った自分の写真とは大違い。まるで別人みたいだ。

 

(確かに、こんな私なんかが生き残るのは間違ってるかも)

 

こんな事になるなら、あの時死んでしまった方が良かったのかもしれない。そうすれば、お父さん達や未来に迷惑を掛けずに済んだかもしれない。

 

そんな事を考えながら、私は自分の身体に迫る彫刻刀の刃をぼんやりと眺めていた。

 

「響ッ!?」

 

「それじゃあ始めだ!まず一画目ーーゴハァッ!?」

 

「ゲハッ!?」

 

いきなり現れた誰かの手が、私に馬乗りになっていたクラスメイトを殴り飛ばした。その手は次に未来に跨っていたクラスメイトも殴り飛ばし、誰かが私と未来を庇うようにクラスメイト達の前に立ちはだかった。

 

「……すまない、遅れた」

 

駆けつけて来た誰かーー檜山君はそれだけ私達に言って、物凄く怖い顔でクラスメイト達を睨みつけていた。

 

 

 

「檜山、君?」

 

いきなり現れた俺に、小日向が驚いたような声を上げる。チラリと二人に目を向ける。二人共衣服が乱れてはいるが危惧していたような事はされていないようだ。どうやら俺は間に合ったらしい。ただ立花の方は酷い傷を負っている為、一刻も早く治療したいところだ。

 

「ッ……!何でテメェが此処に居るんだよ!?屋上に閉じ込めた筈だろうが!?」

 

「無論、ドアをぶち破って来た。だが、今ので確信した。お前達、俺に邪魔をさせない為に屋上に閉じ込めたな?」

 

俺が居たら小日向と立花に手を出せないから。だからこいつらは友人を利用して俺を閉じ込めたのだ。

 

「こっちからも質問良いか?ーー二人に、何をするつもりだった?」

 

「ヒッ!?」

 

俺の殺気に当てられたのか、目の前の男子はそんな声を出しながらジリジリと後ろに下がっていく。勿論それは二人を囲んでいた奴らも例外では無く、徐々に俺や立花達から距離を取っていく。ただ一人、友人だけはその殺気を真っ直ぐに受け止めていた。

 

「二人の服を脱がせて何をするつもりだった?その手に持った彫刻刀で何をするつもりだった?ーー答えろ」

 

「お、俺は悪くねぇぞ!?そいつらが悪いんだ!?そいつらは人殺しと、そいつを庇う共犯者だ!お、俺はそんな犯罪者共に罰を与えようとしただけだ!?」

 

「俺は何をするつもりだったのかと聞いている。誰もお前の下らない言い訳なんぞに興味は無い」

 

「ヒィィ!?」

 

自分達の行動を正当化しようとする下らない言い訳なんて要らない。そんな物は今まで散々聞いて来た。

 

「大体、立花達を犯罪者と呼ぶならお前達の方が犯罪者だろうが。立花への暴力、二人に対する性的暴行未遂、これらは立派な犯罪だ。立花達を裁くと宣う前に、自分達を裁いた方が良いんじゃないか?」

 

「何だとッ!?」

 

「調子にのんなよ人殺し!」

 

俺の挑発に乗った奴が二人俺に向かって来る。あんな挑発に乗るのか、単純な奴らだな。

 

「馬鹿かお前ら」

 

「ガッ!?」

 

「グゲッ!?」

 

一人目の拳を避けて顔面にカウンターを叩き込み、二人目の攻撃を防ぐ盾にする。怯んだ二人目に向かって盾にした一人目を蹴り飛ばし、倒れた二人を上から思い切り踏み付ける。

 

「こんな狭い教室内で二人がかりで攻撃して来たって動きにくいだけだろうが。もう少し考えて立ち回れよ」

 

「テメェ!」

 

二人ぶっ倒した事で怒りが頂点に達したのか、男勢が総出で俺に向かって襲って来る。その癖俺の言葉はしっかりと聞いていたらしく、一人一人攻撃のタイミングが少しずつズレている。

 

「……ふっ!」

 

「ごげぇッ!?」

 

回し蹴りで最初にやって来た奴の顔面を蹴り砕く。そのまま足を大きく振って蹴り飛ばし、後続にぶつける。

 

「……はっ!」

 

「ぎゅぐぇ!?」

 

無事だった後続に接近し、顔面に思い切りストレートをかます。意識が飛んだ後続の頭を掴み、壁に叩きつける。

 

「死ねぇ!」

 

「ーーッ!」

 

「檜山君!?」

 

背後に迫っていた奴に椅子で思い切り頭を殴られる。小日向の悲鳴と共に視界が揺れ、一瞬身体がよろける。

 

「ははははは!ざまぁ見ろ人殺ーーしぃ!?」

 

「ーーぁあ!!」

 

瞬時に態勢を立て直し、かかと落としで相手の頭を椅子ごと蹴り砕く。

 

「……!」

 

かかと落としを叩き込んだ奴が倒れる前にそいつを蹴り飛ばし、次の奴に攻撃する為の道を作る。目の前でクラスメイトが倒れて動揺しているその顔面にアッパーを叩き込み意識を奪い、次の奴に投げつける。

 

(対人用に用意していた戦闘スタイル……まさか初めての相手がクラスメイトだとは思わなかったな)

 

本当に、あらゆる意味で俺は仮面ライダーと呼ばれるのに相応しくない。本来守るべき存在の筈の人間に、躊躇いもなく手を出せるのだから。

 

(……いや、本当にこいつらを守る価値があるのか?人の生を呪い、死を望む。そんな奴らを生かしておく価値が、一体あるのだろうか?)

 

襲い来るクラスメイト達を捌きながらそんな事を考える。こいつらは立花を傷付け、小日向にさえも手を出した。こいつらは立派な『悪』だ。

 

(……今後立花達が同じ目に遭わないよう、此処で全員殺しておくべきなのではないか?)

 

そんな事を考え、瞬時にその考えを振り払う。それこそが『悪』だ。殺していい人間などただの一人だって居やしない。誰かの生死を他人が決めるなど、有ってはならない事だ。

 

(……こんな考え方しか出来ない俺も、こいつらの同類だ)

 

そう自嘲したその時、不意に脇腹に熱を感じた。

 

「ーーッ!?」

 

脇腹に目を向ける。其処には刃渡り十センチ程のナイフが突き刺さっており、そこから自分の足元にポタポタと血が滴り落ちているのが見えた。

 

「檜山君ッ!?」

 

「いやあぁぁぁぁ!?」

 

「幸助ッ!?」

 

「お、おいヤベェって!?」

 

「これは流石に不味いんじゃ……!?」

 

「は、ははは……やってやった、やってやったぞ!ざまぁ見ろよ人殺し!お前が悪いんだからな、人殺しの癖にのうのうと生きてるお前がわるいんだからな!ひゃはははははははははははははッ!!」

 

小日向が俺を呼ぶ声、立花の悲鳴、友人の悲痛な叫び、クラスメイト達の慌てたような声、俺を刺したクラスメイトの狂ったような笑い声。それら全てが、何処か遠くから聞こえてくるような感じがする。まるで、今自分が見ている物全てが夢であるように。

 

(……何でこんなもん持ち歩いてるんだよ)

 

ザ・凶器と言えるような物を学校に持ち込んでいるクラスメイトに軽く戦慄を覚える。俺を刺したクラスメイトは未だに笑い続けており、こっちの事なんて意識の外にあるようだ。

 

(抜いたら痛いだろうな、コレ)

 

そんな事を考えながら、目の前で笑い続けるクラスメイトの腕を掴む。

 

「死んじまえ!死んじまえよぉ!ひゃっはははははははははは……は?」

 

「……おい、刺す場所間違えてるぞ」

 

そう言ってクラスメイトにナイフを握らせ、そのままゆっくりとナイフを脇腹から抜いていく。

 

「は……は?お前、何やってんの?」

 

「ッ……!」

 

脇腹の焼けるような痛みに耐えながらナイフをゆっくりと移動させ、刃先を自分の心臓の位置にちょんと当てる。

 

「俺を殺したいんだろう?なら、ちゃんと此処に刺さないと駄目だろ。脇腹なんて刺したって、俺はすぐには死なないぞ」

 

「は、はは、は?なに、言って……」

 

「刺してみろよ」

 

「は!?」

 

『……ッ!?』

 

「檜山君!?」

 

「何言ってるの!?」

 

「馬鹿かお前は!?」

 

クラスメイトや立花達の驚いたような声が聞こえる。それを無視し、目の前のクラスメイトをじっと見据える。

 

「腕をぐっと前に押せば、心臓にグサッと刺さって俺は死ぬぞ。ほら、早く刺せよ」

 

「あ、あ……!?」

 

「早くやれよ。お前は正しいんだろ?なら俺を殺したって誰もお前を責めないさ。俺が悪い人殺しだから、正義のヒーローのお前が俺を裁く。そうお前は今まで考えてたんだろ?どうした、早く俺を殺せよーー殺してみろよッ!!」

 

「ヒッ、ヒイィィィィッ!?」

 

「殺す気も無いなら……死ねなんて言葉軽々しく使うんじゃねえよッ!!」

 

「ぐへぇ!?」

 

完全に恐怖に支配されたクラスメイトの顔面を思い切り殴り飛ばし、ナイフを床に落として踏み砕く。そして遠くから俺を見つめていたクラスメイト達の方へ向き直り、血を吐き出しながら叫ぶ。

 

「テメェらもだ!傷付けられる覚悟も無い癖に他人を傷付けるなッ!立花がお前達に何をした!生き残った、ただそれだけの事で立花を傷付ける権利がお前達に有るのか!」

 

「ひっ……!?」

 

「何でこんな事が出来る!?何で誰も立花が、生存した人達が無事に帰って来た事を喜ばない!?お前達だって、立花と一緒に笑い合って、共に生きて来た筈なのにッ!?何でこんな残酷な仕打ちが出来るんだ!?」

 

ずっと心の中で感じて来た事を、全て吐き出す。血が流れ過ぎて意識が朦朧としてきても、俺は叫び続けた。

 

「何でだよ……何でなんだよ!?立花は、一刻も早くお前達とまた一緒に学校に通えるように、必死にリハビリをしていた!家族に心配をかけないようにと、痛みに必死に耐えながら頑張ってたんだ!なのにどうして……どうして立花を傷付けるんだよ!?」

 

立花はただ巻き込まれただけだ。誰も救えなかった、皆を殺してしまった俺とは違って、責められる謂れは無いはずなんだ。

 

「頼むから……!頼むから立花を受け入れてくれよッ!俺はどうなったって良いから……!立花だけは……また一緒に笑い合えるようにしてやってくれよッ!!」

 

それだけ言って、今度は立花の方に向き直る。涙を流す立花を抱き締め、言葉を伝える。

 

「立花、お前は生きてちゃいけない人間なんかじゃない。お前の家族も、小日向も、俺も、皆お前が生きていてくれて良かったと思ってる」

 

「……ぁ」

 

「だから立花、笑ってくれ。そんな顔は、お前には似合わない。馬鹿みたいにいつも笑顔でいる方が、お前らしくて良い」

 

「檜山、くん……!」

 

「……もう一度伝える。立花、生きていてくれてありがとう。お前が無事で、本当に良かった」

 

「……!ぅ、ぁ、ああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

それがトドメとなったのか、立花は大声を上げて泣き出した。今まで溜めていたものが全て吐き出しているようなその泣きっぷりに、思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 

「はは、参ったな。泣かせるつもりは、無かったんだけれど、な……」

 

「檜山君!?」

 

視界がぼんやりと歪む。それに伴って身体から力が抜け、立花にどさりと身体を預ける形になる。どうやら身体が限界を迎えたらしい。この出血量、下手したら死ぬな。

 

「檜山君!しっかりして檜山君!」

 

「おい幸助!目を開けろ!」

 

小日向と友人の声が聞こえる。耳元で立花も何事か叫んでいるが、よく聞き取れなくなってきた。

 

(あークソ、流石にナイフはキツかったかぁ……)

 

そんな呑気な事を考えながら、俺の目の前は真っ暗になった。

 

 

 

「……んがっ」

 

知らない天井だ。まあ天井なんぞ普段気にもしてないから知ってる天井と知らない天井の区別なんてつかないが。

 

「……生きてる」

 

身体に包帯が巻かれており、消毒液の匂いがあたりに漂っている。ここは病院か何かか?それにしては何か小汚い感じだが。窓の外は暗い。どうやら夜まで俺は意識を失っていたらしい。

 

「……ん?」

 

両手が異様に暖かい。ちらりと目を向けると、左右の手を小日向と立花が握りながら眠っていた。

 

「……何じゃこりゃ」

 

「お、起きたか」

 

そんな声と共に、部屋に白衣を来た医者らしき男が入って来る。マゼンタ色のカメラを首に掛けたその医者は、俺の側で眠る二人を見ながら俺に言った。

 

「そこの二人は見舞い客だ。お前が目を覚ますまで、ずっとお前の手を握っているんだとさ」

 

「……そうか。怪我はどんな感じだ?」

 

「治療は完璧だ。傷口はしっかり消毒したし、輸血も行なった。危なかったな、もう少し処置が遅れていたら死んでたぞお前」

 

「……やっぱりか」

 

どうやら三途の河一歩手前だったらしい。

 

「事情はそこの二人から聞いた。随分と無茶な事をしたようだな」

 

「……別に、それしか出来ないだけだ」

 

「そうか。……お前に一つ伝言を預かっている。お前の友人という奴からだ」

 

「……何だ」

 

「『悪かった』、だとさ」

 

「……馬鹿かアイツ」

 

謝る相手が違うだろうが。俺じゃなくて、立花と小日向に伝えるべきだろうに。

 

「……さて、そこの二人もまだ起きないようだし、本題に入るか」

 

「……本題?」

 

そう言って医者は俺の目をじっと見つめる。その力強い視線から目を逸らすのが事が出来なかった。

 

「やっと会えたな、この世界の仮面ライダー」

 

「……やはりアンタか、『門矢士』」

 

目の前の医者、門矢士は俺の方をじっと見ながら、一枚のカードを取り出した。それは彼の変身に使う、ディケイドのカードだった。

 

「初対面の筈の相手に名前を知られてるとは、俺も有名になったものだ。それとも、鳴滝の奴に聞いたのか?」

 

「……有名だからな、アンタの名前は」

 

流石に前世でアンタの番組見てましたとは言えないので、適当にはぐらかす。対する士もそれについては然程興味は無いらしく、それ以上は追求してこなかった。

 

「そうか、ならもうこの話はこれで終わりだ。俺の名前を何処で知ったかなんて、聞いても大した意味は無いしな」

 

「……それで、世界の破壊者様が俺に何の用だ?世間話をするような人間でも無いないだろうアンタは」

 

「それもそうだな。今回お前に会いに来たのは、お前を勧誘しに来たからだ」

 

「勧誘?旅の仲間になれと?」

 

「違う。俺は別にそれでも良いが、お前自身それは望まない筈だ」

 

当たり前だ。いつ終わるか分からないような旅について行く気は俺にはさらさら無い。

 

「今回の世界にはノイズと言う怪物がいる。俺の今回の世界での役割は、そのノイズと戦う組織と行動を共にする事だ」

 

「ノイズと戦う組織……あのツヴァイウイング達と何か関係が有るのか?」

 

脳裏にあの日の記憶が鮮明に蘇る。記憶の中の二人は、何やら珍妙な格好でノイズを殲滅していた。

 

「そうだ。風鳴翼、そして今は亡き天羽奏が所属する組織、『特異災害対策起動部二課』。短く省略して二課。其処に、お前に入って欲しい」

 

「……二課」

 

ノイズと戦う組織。ツヴァイウイングの二人がそんな組織に所属していた事に衝撃を覚える。

 

「お前があのライブで戦っていた事は翼から聞いた。奏が死んだ事で二課はノイズに対する大きな戦力を失った。今の二課には、新たな戦力が必要だ」

 

「それが俺、という訳か」

 

「そういう事だ。俺は現状では二課に力を貸しているが、いずれ別の世界に行く身だ。だからこの世界の仮面ライダーであるお前に、力を貸して欲しい」

 

「……俺に、力になれるのか?」

 

ライブでの一件を聞いたならば、俺があの時どうだったかも知っている筈だ。何一つ守れなかった、そんな俺でも力になれるというのだろうか。

 

「ああ、なれるさ。お前なら、いつかきっと『仮面ライダー』になれる。ライダーの先輩として保証してやる」

 

「……そうか」

 

こんな俺にここまで言ってくれるなら、俺はそれに応えるべきなのだろう。差し伸べられた手を取り、俺は士に向かってこう言った。

 

「分かった、俺も二課に入る。こんな俺でも、誰かを救えると言うなら、仮面ライダーになれると言うのなら、俺は命を懸けて戦う。平和の為に、そしてーー」

 

ーー確かに此処にある温もりを、守り抜く為に。

 

俺の手を握る二人の寝顔を見ながら、俺は決して忘れない誓いを立てた。

 

 



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撃・槍・覚・醒

「もう響!流石に食べ過ぎだよ!?」

 

「もっきゅもっきゅ……まだいける、いけるよ未来!」

 

「……何だコレ?」

 

頰をリスのように膨らませながらお好み焼きを頬張る立花を遠い目で見ながら、俺は今までの事を振り返っていた。

 

 

 

あのライブから二年が経ち、世間の生存者への風当たりも大分マシになった。あの一件以来学校で立花に手を出す奴も居なくなって、学校に立花の居場所が出来た。立花も本来の明るい性格を取り戻して、大分マシな環境を作る事が出来たと思う。

 

因みに俺はというと、学校を退学する事になった。立花を助ける為とはいえ、流石に俺はやり過ぎたらしい。俺を刺したクラスメイトと一緒に学校を追い出された。立花や小日向はその事をまだ気にしているようだが、俺としては二課の支援のお陰で生活は出来るので大して気にしてない。

 

そんな感じで中卒になった俺は現在二課で風鳴翼や門矢士と共にノイズの討伐をしている。生活費は二課が負担してくれるし、結構いい額の給料も出るので個人的には今の生活の方が良いと思っている。

 

 

 

そんな感じで今俺はあの一件以来親しくなった立花や小日向と共に、『ふらわー』という店で食事をとっている。

 

「もっきゅもっきゅ……あ、幸助君!そのお好み焼き食べないの?食べないなら私にちょうだい!」

 

「響!食い意地張り過ぎ!」

 

「悪いが渡せない。俺も腹が減ってるからな」

 

「……幸助君もなんだかんだ言って響並に食べてるよね。もう五皿目だよ?」

 

「……仕方ないだろ、腹が減るんだから」

 

苦笑いする小日向にそう返す。何故かは知らないが、ちょっと前から急に沢山食べるようになった。特に肉を食べたくなる衝動が強く、栄養バランスの偏りを無くすのが大変だ。

 

「うーん、男の子だからかな?でもちゃんとバランス良く食べなきゃダメだよ?響みたいに太っちゃう」

 

「あああぁぁぁ!?何でバラしちゃうの未来ー!?誰にも言わないでって言ったのにー!?」

 

「太ったのは響の自業自得でしょ?」

 

「いいもん!これから運動して痩せるから平気だもん!」

 

「ふふっ」

 

「……ふっ」

 

「あー!今笑ったね!私を笑ったね二人共ー!?」

 

若干涙目になりながらそう言った立花の姿に、俺と小日向は思わずクスリと笑う。そしてそれを見た立花が更に騒ぎ出し、ふらわーの中が一気に騒がしくなる。

 

「……それはそれとして、俺には立花はそんなに太ってるようには見えないんだが。一体どの辺が太ったんだ?」

 

「えっとね、お腹と、ほっぺとーー」

 

「言わなくていいから!?」

 

くすくすと笑う小日向と、顔を真っ赤にして小日向を止める立花。こんな光景を取り戻せただけでも、退学になるくらいの価値はあったんじゃないかと俺は思う。

 

「……別に少し太ったくらいで気にする事は無いだろう。ガリガリに痩せた人より、少し太ってるくらいの人の方が健康的で俺は良いと思うぞ」

 

「フォローになってないからね幸助君!?もう怒った!絶対ダイエットして二人を見返してやるんだから!」

 

「そういえば最近バイトで結構な額の収入が入ってな、少し良いトコの焼き肉屋にでも行こうと思うんだが……」

 

『行きたいっ!』

 

ダイエットするという意思をあっさり翻して、立花が目を輝かせる。そして小日向、お前もか。

 

「……前言撤回が早いな立花。というか小日向、お前は止める側だと思ってたんだが」

 

「焼き肉食べたいっ!」

 

「……お前も結構食い意地張ってるのな、小日向」

 

「あっ!?いや、その……焼き肉なんてそう滅多に食べる物でもないし、良いトコって聞いたから美味しいんだろうなぁって……」

 

「お肉食べたいっ!」

 

顔を赤くしながらもじもじとする小日向と、恥じらいというものを何処かへと置いてきてしまったらしい立花。鏡合わせのように対照的な二人だが、だからこそ二人は親友になれたのかもしれない。

 

「……まあ良い。お前らが喜んでくれるなら俺はそれで十分だからな」

 

「おー!さっすが幸助君!やっさしー!」

 

「でも本当に良いの?そんな所に私達も連れて行って。お金は大丈夫なの?」

 

「問題無い。さっきも言ったが、バイトの収入がたんまり有るからな、会計が十万を超えても余裕で払えるくらいの金はある」

 

「……幸助君、そのバイト危ないやつなんじゃないの?」

 

「……ぎくり」

 

じとっとした目でそう聞いてくる小日向に思わずそんな言葉が出る。小日向は色々と鋭いので、上手く誤魔化さなければ。

 

「……別に。危なくなんてない。ただ他のバイトよりちょっとばかり大変で、ちょっとばかり給料が良いだけだ」

 

「それ絶対やばいやつじゃん!?だから危ない事しちゃ嫌だっていつも言ってるでしょ!」

 

「響の言う通りだよ!幸助君無茶ばかりやっていっつも怪我してる!もっと自分の事を大事にしてよ!」

 

「ぜ、善処する」

 

『善処じゃ駄目!』

 

「……もっと自分を大事にします、ハイ」

 

叱られてしまった、ホント誤魔化すのが下手だな俺。何故かは分からないが、この二人にだけは逆らえない。この二人は絶対に言う事を聞かなきゃいけないと思わせるような迫力を持っているのだ。

 

「……そういえば小日向に立花、高校はどうだ?」

 

これ以上追及されるのを防ぐ為、二人の高校生活について話題をシフトする。二人はリディアン音楽院とかいう場所に進学した。毎日そこでの生活を日記のようにした文章でメールしてくるが、友達なんかも出来て楽しい学校生活を送れているらしいが、何故そこに入ったかは俺も詳しくは知らない。

 

「そりゃあもう楽しく毎日を過ごせてるよ!あーでも、先生に叱られたりする事が多いかなぁ」

 

「それは響の自業自得でしょ。猫を助けて遅刻したり、同じクラスの子に教科書貸しちゃったり」

 

「し、仕方ないじゃん!あの猫は木から降りれなくって困ってたんだし、教科書は未来が見せてくれたからノー問題だったし!」

 

いやマジで何やってんだよ立花。クラスメイトに教科書貸すバカがどこに居る。

 

「人助けは私の趣味なの!こればっかりは仕方ないよ!」

 

「響のそれは度を越してるって言ってるの!私聞いたんだからね!猫を助ける為に木に登って、木から落っこちて背中を打ったって!」

 

「うぐぅ!?い、いや確かに背中を打ったけど!後で保健室に行ったら大丈夫だって言ってくれたから平気へっちゃらだよ!」

 

「立花、小日向の言う通り度を越し過ぎだ。人助けをするのは結構だが、それで怪我をしては元も子もない」

 

「……それ、幸助君が言う?」

 

「私達を助けて大怪我したの、忘れてないんだからね」

 

「……ですよね」

 

ハイ、そうですよね。人助けで現在進行形で無茶と怪我を重ねまくってる俺が言えた事じゃないですよね。

 

「それとさぁ、幸助君はいつになったら私達の事名前で呼んでくれるの?」

 

「……名前で呼ぶ必要、有るか?」

 

「有るよ!名字じゃなんか他人行儀だもん!」

 

そういうものなのだろうか。前世でも今世でも、他人を名前で呼んだ事が無いのでよく分からない。別に名字で呼んでも良いのでは無いか?

 

「……その内な」

 

「約束だからね?」

 

「私と響の事、いつかちゃんと名前で呼んでよ?」

 

「……ああ、約束だ」

 

その日がいつになるかは分からないが、一応二人に約束しておく。その返事を聞いて満足したのか、二人は再びお好み焼きを食べ始めた。

 

「……ご馳走様、バイトがあるからそろそろ帰る。代金は置いておくから、それを使ってくれ」

 

そう言って俺は席を立ち、三人分の代金を机に置く。俺も響もかなりの枚数を食った為支払いはそれなりの額になっているが、俺にとっては余裕で払える額だ。

 

「いやいやいや!?それは流石に悪いよ幸助君!自分達の分くらいは自分達で払うって!」

 

「気にするな立花、今日は俺がお前らを呼んだんだ。支払いは俺がやるのが当然だ」

 

「でも流石に悪いよ!幸助君一人暮らしで大変なんだし、私と響の分まで払ってもらうのは……」

 

「気にするなって言ってるだろ小日向。人の好意は素直に受け取れ。じゃあな二人共、また今度」

 

「あっ、ちょっ、幸助君!?」

 

二人の制止を聞かなかった事にして、俺は店を出た。

 

 

 

ーー幸助が『ふらわー』を出た少し後

 

響達の居る商店街から離れた場所にある山間地帯は、文字通りの修羅場と化していた。

 

「チィ!駄目だ、全く効果がねぇ!」

 

「隊長!A班の隊員三名がノイズの攻撃により炭化!」

 

「C班から三人カバーに当たれ!何としてもこいつらを此処から先に行かせるな!」

 

飛び交う弾丸、響き渡る絶叫、風に舞う炭素物質。現在この場所では、人とノイズによる熾烈な戦いが繰り広げられていた。

 

ノイズに対抗するのは特異災害対策機動部一課、対ノイズの為に武装した戦士達だ。彼らは銃器を用い、絶えずノイズに弾幕を浴びせている。対するノイズはその攻撃を意にも介さず進行を続け、立ち塞がる一課の隊員達を炭素へと変えていく。

 

どちらが勝っているかは一目瞭然、戦闘はノイズ側の完全勝利に終わるかと思われた。

 

 

 

「Imyuteus amenohabakiri tron……」

 

「変身!」

 

【カメンライド・ディケイド!】

 

「大変身!」

 

【キャラガチャ!】

 

 

 

そんな三つの声が、戦場に響くまでは。

 

「……っ!来たかッ!」

 

「隊長!これって……!」

 

「全部隊に撤退命令!ここからは二課の仕事だ!」

 

「了解!」

 

隊長の指示を受け、各隊は徐々に後退する。そして一課が後退してノイズ以外が居なくなった戦場に、二つの光が舞い降りた。

 

「風鳴翼、参るッ!」

 

青きシンフォギア『天羽々斬』を纏う少女、風鳴翼。

 

「通りすがりの仮面ライダーだ、覚えておけッ!」

 

マゼンタカラーのバーコード戦士『仮面ライダーディケイド』、門矢士。

 

そしてーー

 

「我が魂は特異災害機動部二課と共にあーーぶげぇ!?」

 

何事かを大声で叫びながら真っ逆さまに落下し、地面に直撃した銅色のライダー『仮面ライダーケタロス』、の姿に変化した檜山幸助の姿があった。

 

「いっつつ……長過ぎて全部言えなかった」

 

「檜山、巫山戯ているならノイズよりも先に貴方を斬るわよ?」

 

「勘弁してくれ翼。俺はまだ死にたくない」

 

身体の土を払いながら起き上がった幸助を刀を構えながら冷ややかな目で睨みつける翼と、それを身震いしながら必死に止める幸助。コントをしているかのようなその姿は、一課の不安を煽るには十分だった。

 

「た、隊長、大丈夫なんですかアレ!?なんか仲間割れしかけてるんですけど!?」

 

「大丈夫……だと思いたい」

 

「隊長ォ!?」

 

『翼!それに幸助君も!巫山戯るなら本部に戻ってからにしてくれ!まずは一課と連携を取って様子見をーー』

 

「必要ありません。私達二人だけで十分です」

 

「おい何ナチュラルに俺を省いてるんだ翼」

 

「戦う前から醜態を晒すような人を戦力に数える気は無いわ。それに貴方同じライダーでも門矢さん程安定して強くないし」

 

「悪かったな運頼みなライダーで!言っとくが今回のケタロスは星2だ!前のたい焼き名人アルティメットフォームの時みたいな事にはならないからな!」

 

「そう、あまり期待しないでおくわ」

 

「人をおちょくってるとぶっ飛ばすぞ!」

 

本部から話しかけてくる弦十郎を無視して、二人は言い争いを続ける。因みに幸助が翼を名前で呼んでいる事に深い理由は無い。単に弦十郎と名字が被っているからというだけだ。

 

『だからそういうのは本部でやれと言ってるだろうが!士君、その馬鹿共の面倒を頼んだぞ!」

 

「分かった。おいお前ら!喧嘩するのは勝手だがノイズを倒してからにしろ!」

 

「こうなったら仕方ない、どちらがノイズを多く倒したかで勝負だ!」

 

「良いわよ。本来戦場にこういった勝負事を持ち込むのは御法度だけど、一度貴方と競い合ってみたかったの!」

 

「だから人の話を……ああもう!だからガキの世話は嫌いなんだ!」

 

士の制止を聞く前に、二人はノイズに向かって駆け出す。その光景を見た士も二人を止めるのを諦め、二人同様ノイズへと攻撃を開始する。

 

「先駆けの功は私が貰う!」

 

翼が勢い良く飛び上がり、ノイズに向かって剣を振り下ろす。斬撃は衝撃波となってノイズを斬り裂き、次の、そのまた次のノイズまでも両断していく。更に地上に着地した翼は逆立ちしながら回転し、脚部の刃によって周囲のノイズを細切れにしていく。

 

「【蒼の一閃】に【逆羅刹】……ほんと無双ゲーのキャラじみた技構成してるよなあいつ。それじゃあ俺も!クロックアップ!」

 

【clock up!】

 

クロックアップによって一時的に周囲よりも早く行動する事が可能となった幸助は、ケタロスの武装であるゼクトクナイガンを振り回し、近くのノイズを片っ端から切り裂いていく。

 

【clock over】

 

クロックアップが修了した瞬間、近くのノイズが次々と炭化して消滅する。

 

「高速移動!?それは反則でしょう!?」

 

「テメェの無双技の方が反則的だっつーの!テメェがその技一発撃つだけで俺の攻撃何十回ぶんのノイズが倒せると思ってんだよ!」

 

「どっちが反則でも良いから大人しく戦ってくれよ……」

 

言い合いを続けながらも二人はノイズを殲滅していく。二人の様子を見た士も溜息を吐きながらノイズを蹴散らしていき、僅か数分でノイズを残すところ大物一体という所までノイズを追い詰めた。

 

「さてさてさーて!ノイズも残すところ最後の一体となってしまったが、トドメはどうする?俺としては、締めは俺が決めたいんだが」

 

「私が決めるわ。先駆けも大将首も、どちらも防人である私が頂く!」

 

「おいお前ら!そんな事で張り合ってる場合じゃーー」

 

「そうか、お前も締め譲れないか」

 

「ええ、貴方もそうなのよね?」

 

大型のノイズを前にして再び口論を始めようとする二人を叱りつけようとした士だが、二人がニヤリと笑ったのを見て諦める。駄目だこりゃ、こっちの話をまるで聞いてないぞあいつら。

 

「だったら!」

 

「やる事は一つ!」

 

二人はノイズに接近し、勢い良く飛び上がった。直後翼の持っていた刀が変形し、巨大な剣へと姿を変える。翼はその剣を押し出すような形で剣を蹴りつけ、剣と共にノイズへと向かっていく。人剣一体となって放つその技、【天の逆鱗】はノイズに寸分違わず狙いをつけて放たれた。

 

一方の幸助もまた必殺技を使う。ゼクトクナイガンにエネルギーを収束させ、全てを乗せた渾身の一撃を放つ。

 

【rider beat!】

 

『同時攻撃だあぁぁぁぁ!!』

 

二人の攻撃はコンマ一秒違わず同時にノイズに命中し、哀れノイズは原形を残さず爆発四散した。その場に残ったのはノイズを殲滅した三人の戦士と、その姿を呆然と眺める一課の隊員達だけだった。

 

戦闘終了、人類の勝利だ。

 

「ふう、終わった終わった」

 

「そうね。そして勝負も決まったわ。最後を飾ったのは私の剣、つまり私の勝ちね」

 

「あ?何言ってんだよ。完全に同時だったろうが」

 

「威力的には私の【天の逆鱗】の方が圧倒的に上、ならトドメは私が決めたと言っても過言では無いわ」

 

「はぁ?何を言ってんですかね翼さん。俺のライダービートだって結構威力高かったですー!寧ろ俺の勝ちまでありえますー!」

 

「だからお前らそういうのは本部でやれってさっきから言ってるだろうが!」

 

変身を解除し、ただの学生となった翼とただの中退アルバイターとなった幸助。二人は互いに自分の勝利を譲らず言い争い、それを士が半分本気でキレながら怒鳴りつける。そんな光景を、一課の隊員達はなんとも言えないような表情で見つめていた。

 

「ホントにノイズを全部倒しちゃいましたね、彼ら」

 

「あれがノイズに対する我が国唯一の対抗手段、『シンフォギア』と『仮面ライダー』……凄まじいな」

 

「まだ子供じゃないですか。俺達だってあれを使っていたら……」

 

「ならお前はあの少女のような格好でノイズと戦えるか?歌いながら戦場を駆け抜ける事が出来るか?」

 

「……無理です、社会的に死んじゃいます」

 

「そういう事だ。彼女はそのような苦しみを背負って戦っているんだ。無論彼ら仮面ライダーも、何かしら重い物を背負っている筈。俺達も、彼女達に負けられないな」

 

「……ですね」

 

そんな翼達自身は気にもしていない事を考えながら、一課の隊員達は決意を新たにしていた。

 

 

 

私、立花響十五歳!趣味は人助けで、好きな食べ物はご飯&ご飯!彼氏居ない歴は年齢と同じだけど、大好きな親友が二人も居るのでノー問題!さて皆さん、そんな私が今何をしているかと言いますとねーー

 

「な、なんでこんな事になったのおぉぉぉ!?」

 

「いきなりどうしたのお姉ちゃん!?」

 

ーー可愛い女の子を連れてノイズの集団と命懸けの鬼ごっこをしています。ホントに、どうしてこんな事になっちゃったんだろうね……

 

時は十数分前に遡ります。『ふらわー』で未来と一緒に幸助君とご飯を食べたのが昨日の事。私は今日発売の翼さんのCDの特典付き初回限定盤を買いに行く為、放課後全速力で街に駆け出したのです。その甲斐あってCDを無事買う事が出来てホクホク顔で街を歩いていた私ですが、そこで周りの異変に気が付きます。

 

人が全くと言っていい程居なかったんです。まだ日も出てるこんな時間に、ただの一人も。通行人なんて居ない、チラリと見えたコンビニには店員すら居ない。

 

明らかな異常に私の本能がこの場から遠ざかる事を進言しますが時すでに遅し。私は見てしまいました。足元に、そして私の前に点々と存在する黒い塊、そしてそれを作り出した元凶であるーーノイズの姿を。

 

今更になってノイズ警報が周囲に響き渡りますが、既にこの場で生き残っているのは私だけとなっていました。普通の人ならすぐさま駆け出してシェルターに避難します。当然私も例外では無くシェルターへ避難しようとしたのですが私は聞いてしまいました、見てしまいました。必死になって母親を呼ぶ声を、涙を流す女の子の姿を。

 

そこからの事はあまりよく覚えていない。兎に角無我夢中で女の子の手を取って駆け出して、無我夢中でノイズから逃げ続けて今に至る。

 

見捨てればよかったって?あはは、多分この場に幸助君がいたら同じ事を言うと思います。自分が逃げるだけでも手一杯なのに、わざわざ荷物増やすとか何考えてんだー!とか、お人好しも大概にしろー!とか。そんな感じの事を言って私を叱るんだと思います。未来も無茶しないでって怒ると思います。でも嫌です。絶対見捨てません。

 

だって仕方ないじゃないですか、あんなに泣いてたんだから。怖くて足が震えていても、それでもお母さんに会うために必死になって歩こうとする。そんな女の子を平気で見捨てられるような人には、絶対になりたくないから。

 

だから私は助けるんだ。きっと幸助君や未来も、最後には私を止めるのをやめてやれやれって言いながら私を助けてくれると思う。二人もわかっているから。だってそれが私なのだから。人助けが趣味の、『立花響』って人間なんだから。

 

(……って格好つけた事を言ってはみたものの、ホントにどうしよう?)

 

夢中になって逃げていた所為で、気がつけばシェルターとは全く見当違いの工場地帯に来てしまった。女の子の体力も限界みたいだ。

 

(でも、前に進み続けるしかない!)

 

「乗って!」

 

「う、うん!」

 

女の子を背中に背負って、工場地帯を駆け抜ける。兎に角ノイズの居ない所へ、ノイズの居ない所へと我武者羅に突き進む。身体がそろそろ悲鳴を上げて来たけれど、これくらいどうって事はない。平気、へっちゃらだ。

 

走って走って走り抜けて、何かの施設の梯子を上って、そこで力尽きて地面に座り込む。恐らく同じくらい走る事は無いだろうというくらいの全力疾走で駆け抜けた為、息切れが激しい。脇腹が凄い痛い。

 

「お姉ちゃん、大丈夫?」

 

「ハァ、ハァ……平気、へっちゃらだよ!」

 

それでもこの子を不安にさせない為に、痛みを我慢して笑う。私は年上、お姉ちゃんだ。この子に心配をかける訳にはいかない。

 

「それより、どうにかしてこの状況を……っ!?」

 

状況の打開など許さないとでも言うように、地上から這い上がって来たノイズ達が私達を取り囲む。側に居た女の子が小さく悲鳴を上げ、私にしがみつく。そんな女の子を抱き締めながら、私はノイズ達を睨みつけていた。

 

「お姉ちゃん……私達、死んじゃうの?」

 

「ーーッ!」

 

死ぬ。その言葉を聞いた瞬間、不意に二年前のあのライブ会場での出来事が頭に浮かんだ。そして、あの日私を助けてくれた二人のヒーローの事も。

 

「生きるのを諦めないでッ!」

 

思わず、私は女の子にそう言った。

 

ーー生きるのを諦めるなッ!

 

私を助けてくれたあの人は、力強い歌を口ずさんでいた。

 

ーーテメェを見捨てるくらいなら、死んだ方がマシだッ!

 

私を見捨てなかったあの人は、どんなに傷ついても私を守ろうとしてくれた。

 

ーー生きていてくれて、ありがとう……!

 

私を守ってくれたあの人は、私に生きる意味を思い出させてくれた。

 

私の命は三人の人に繋いで貰った命だ。だからこんな所で終わる訳にはいかない。いやーー

 

「ここで終わって……たまるかぁッ!!」

 

ーー良く言った、なら歌え!思いっきり歌うんだ!

 

何処からか、あの人の声が聞こえた気がした。同時に、聞いた事の無い歌が、頭の中に浮かんで来た。何処かから聞こえたあの人の声に導かれるように、私は脳裏に浮かんだ歌を口ずさんだ。

 

「Balwisyall nescell gungnir tron…」

 

その歌を歌った瞬間、私の身体を光が包み込む。そして光が消えた時には、私の姿は変わっていた。オレンジを基調としたスーツに、腕に装着されたガントレット。頭には良くわからない機械が付いていて、まるでクラスメイトの一人がよく話題にするアニメの主人公みたいな姿になっている。

 

「え?え!?えええぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 

 

「高レベルフォニックゲイン反応感知!アウフヴァッヘン波形照合!パターン特定!ーーこれはッ!?パターン、完全に一致!ガングニールです!」

 

「ガングニールだとォ!?」

 

「なッ!?」

 

(グングニールじゃなくて、ガングニールって読むんだなアレ)

 

端末を操作しながら驚いたように叫ぶオペレーター、『友里あおい』の言葉に作戦室の面々は騒然とする。弦十郎は驚きのあまり椅子から立ち上がり、翼は目を見開いた。そして俺は、そんな至極どうでも良い事を考えていた。

 

「どういう事……!?だってあれは、奏の……!?」

 

「……考えるのは後だ。翼、現場に急行するぞ。付近にはノイズの反応もある。ガングニールの反応も気になるが、まずはノイズを片付けるのが先決だ」

 

「幸助君の言う通りだ。翼、幸助君と一緒に兎に角現場に急行してくれ!」

 

「……了解しました」

 

色々と凄まじい表情で翼は了承し、発進準備をする為に作戦室を飛び出した。そして俺も翼の後に続いて作戦室を飛び出す。

 

(天羽奏のシンフォギアと同じ反応……まさかな)

 

二年前、天羽奏のギアによって生死の境を彷徨った少女の事を考えながら俺は走る。

 

ーー何故だか分からないが、アイツが巻き込まれた。そんな予感を感じていた。

 

 

 

 




〜おまけ〜

『その後の幸助と翼』

「…………」
「……翼、色々と思う所が有るのは分かるが、今は運転に集中してくれ」
「分かってるわ。ちゃんと気を付けて運転してる」
「いやいやいや!?絶対集中してないだろ!?さっきから俺の身体がガードレールにガンガンぶつかって超痛えんだよ!?」
「我慢しなさい。それにしても驚いたわ。貴方、バイクにも変身出来るのね」
「偶々そういうライダーが当たっただけだっつの!今はその事を超後悔してるけどな!だから俺の事を考えて運転してくれ!」
「悪いけど急いでるの。更に飛ばしていくわよ」
「おい待て!?この状態で更に加速する気か!?お願いだからやめーー」
(ガングニール……あれは奏のギア。奏だけのギア!一体誰がアレを……)
(OMO)「ウワアアアァァァァァァァ!?」


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撃槍と爆走と絶刀

「うぇ!?うぇぇぇ!?何この姿!?プリキ○ア!?」

 

突然変化した自分の姿に、思わずそんな事を呟きながら慌てる。最近出来た友達の一人なら、『アニメじゃないんだからっ!』って言いそうなこの状況。どうしたものかと思いながら前を見ると、ノイズがジリジリと私に近付いて来ていた。

 

「ど、どうすれば……!」

 

ーーいいから歌え!思いっきり歌うんだ!

 

また、頭の中であの人の声が聞こえた。でも歌うって言ったって、一体何を歌えば良いの!?

 

ーー自分の思いを全部ぶちまけろ!そいつがお前の歌になる!

 

(自分の気持ちを、思いっきり!)

 

「〜〜♪」

 

自分の思い、頭に浮かぶ言葉を片っ端から声に出す。最初は出鱈目に並んでいただけの言葉が段々と纏まっていき、一つの歌になった。

 

(凄い……何だか分からないけれど、力が湧いてくる!)

 

歌を歌い始めてから感じる、身体の奥底から熱いものが湧き上がってくるような感覚。さっきまでの疲れは何処へやら、私の身体はこれまでに無いくらい軽くなっていた。

 

歌を歌いながら、女の子を抱き抱えて大きく飛ぶ。普通ならあり得ないくらいの距離を一息で飛び、そのまま危なげなく地面に着地する。

 

「わっ!お姉ちゃん凄い!」

 

女の子が目を丸くしてそう言うが、そんな顔をしたいのは私だ。この格好になった途端、どんな事でも何となく出来そうな気はしていたけれど、まさかここまで飛ぶとは思わなかった。

 

(ホントに、どうなってるの……?)

 

自分に何が起こっているのかはさっぱり分からないが、今自分がやるべき事ははっきりと分かる。

 

(何とかしてこの子を安全な所へ運ばなきゃ!)

 

今の自分なら、この子をシェルターまで運ぶ事が出来る。そう考えて駆け出したけれど、すぐにノイズに囲まれる。

 

(だったら……!)

 

さっきみたいに思いっきり跳んでノイズを飛びこえようとしたけれど、空にもノイズが居たので出来なかった。

 

「っ邪魔を、するなぁぁぁぁ!!」

 

前を塞ぐノイズを蹴り飛ばし、強引に道を作る。蹴り飛ばされたノイズは二、三メートルくらい空中に飛んで炭化して消滅した。

 

(ノイズを倒せた!?でもこれなら、いけるッ!)

 

両腕でしっかりと女の子を抱え、前を行くノイズ達を足を使って倒していく。ノイズが女の子に少しでも触れる事の無いよう細心の注意を払っての攻撃だから効率は悪いけれど、しっかりとノイズを減らしていっている。

 

「もう少し、もう少しだから!」

 

「っ、お姉ちゃんあれっ!?」

 

「……ッ!」

 

ノイズの集団を抜けた先に居たのは、十メートルは軽く超えているだろう大きさの巨大なノイズ。しかも悪い事にその巨体がシェルター方面への道をぴったり塞いでしまっている。

 

「そんなっ……!」

 

飛び越えて来たノイズ達も続々と私の後ろに集合し始めており、もう蹴散らして走り抜けれる程の量ではなくなってきた。退路も完全に絶たれた、詰みだ。

 

「ここまで来て……諦められるかぁッ!」

 

それでも、私は諦める訳にはいかない。折れそうになる心を奮い立たせ、私は巨大ノイズへと突撃しようとした。

 

「ーーその心意気は評価に値するけど、死にたくなければそこから動かない方が良いわよ」

 

「お、おい待て翼!?テメェ一体何をーー!?」

 

【キメワザ!】

 

【爆走!クリティカルストライク!】

 

(OMO)「ウワアアアアァァァァァァァ!?」

 

ーーその瞬間、何処か聞いた事のある二つの声が聞こえ、それと同時に私の目の前を黄色い何かが猛スピードで横切っていった。

 

「アアァァァァァァァ!?」

 

私の横を横切った黄色いバイクはノイズの集団を跳ね飛ばし、最後は巨大ノイズに激突して大爆発を起こした。

 

【会心の一発ゥ!】

 

「……え、え?」

 

「うん、中々良い感じに決まったわね」

 

突然の出来事に頭が追いつけずに呆然とする私の横で、さっさとバイクを捨てて脱出していた青髪の女の人、風鳴翼さんが良い笑顔でそう言った。

 

……ん?翼さん!?

 

「へ!?へ!?何で翼さんが此処に!?しかも私みたいにプリキュ○みたいな格好して!?」

 

「呆けない、慌てない、騒がない。今貴女がやるべき事はその子を何が何でも守り抜く事よ。ノイズの相手は私達がするから、貴女はその子を守る事だけに集中しなさい」

 

「は、はいッ!でも私『達』って……?」

 

「それはね……早くこっちに来なさい檜山、あれくらいで気絶する程軟弱な貴方ではないでしょ?」

 

「……檜山?」

 

凄い聞き覚えのある名前を翼さんが口にした瞬間、爆煙の中からさっきの黄色いバイクが一人でに走って来て、翼さんの所までやって来た。

 

「俺を乗り捨ててノイズに突っ込ませといて俺に言う第一声がそれかテメェ!?もう少し丁寧に扱え!バイク使いが荒いんだよテメェは!」

 

「貴方バイクじゃなくて人でしょ」

 

「それが分かってんならバイク以上に丁寧に扱えよ!轢き殺すぞこの野郎!」

 

「私は女よ。それに貴方が轢き殺すべきは私じゃなくてノイズ。間違えないで頂戴」

 

「くっそ正論なのが超ムカつく!」

 

「バイクが喋った!?というかこの声……まさかこのバイク幸助君!?」

 

「……嫌な予感はしてたんだがやっぱお前だったか立花。まあ詳しい話は後でしてやるから、取り敢えず大人しくしてろ」

 

目の前の黄色いバイクから聞き慣れた幸助君の声が聞こえた。やや呆れたようなその声は、私が何かバカをやらかした時に溜息を吐きながら説教をする幸助君そのものだ。

 

「何かもう色々あり過ぎて頭が破裂しちゃいそうだけど、分かった。大人しくしとく」

 

「よろしい。それで立花、一つだけやって貰いたい事が有るんだが……その辺に何か変わった物が転がってはいないか?」

 

「変わった物?そんなの……あ!もしかしてコレ?」

 

幸助君に言われた通りに辺りを見回すと、変わった形をしたオモチャが転がっていた。それを拾い、幸助君の恐らく目であろう部分にヒラヒラとかざしてみせる。

 

「そうそうそれそれ。それを俺の身体の所にあるホルダーに入れてくれないか?あ、入れる前にスイッチを押すのを忘れるなよ」

 

「……?分かった。こう?」

 

【ギリギリチャンバラ!】

 

カチリとオモチャのスイッチを押すと、そんな音声と共に何やらかっこいい音楽が流れてくる。

 

「そうだ、それで良い。後はそれを俺の身体に挿してくれればそれでOKだ」

 

「身体に……挿す……」

 

「……何を想像したのかは聞かないし聞きたくもないが早くしてくれ。そろそろ翼が暴れたくてうずうずしてる」

 

「……っ!?わ、分かった!?」

 

「人をまるで斬り裂き魔みたいに言うのやめてくれないかしら?」

 

一瞬頭に浮かびかけた薔薇色の光景を振り払い、バイクに取り付けられたホルダーに差し込んだ。

 

「三速!」

 

【ガッシャーン!レベルア〜ップ!】

 

【爆走!独走!激走!暴走!爆走バイク〜!】

 

【アガッチャ!】

 

【ギリ!ギリ!ギリ!ギリ!チャンバラ〜!】

 

中々にリズミカルな音声と共にバイクが変形し、人型に変わる。

 

「やっと人型になれた……もうレーザーにだけはなりたくないぞ俺は」

 

「……次はもう少し優しく乗るわよ」

 

「仮にまた変身する事があってもテメェだけは絶ッ対に乗せねえ!」

 

「……何かもう、何でもありだね檜山君」

 

「トランスフォー○ー!トランス○ォーマーだ!本当に居たんだ!コンボ○?バンブル○ー?それともス○ースクリーム?」

 

「……上二つはまあ分かるが何で三つ目それ選んだし。全部違うからな。俺は仮面ライダーソーシャル!トランスフォーマーじゃないからな」

 

幸助君の変形に目を輝かせる女の子に若干押されながら幸助君はそう言った。

 

「その名前、無いような物でしょ。今は仮面ライダーレーザーの姿なんだし。貴方本来の姿なんて弱すぎて使わないじゃない」

 

「おう翼、喧嘩売ってんなら買うぞ?まあ、それもこれも全部こいつらを片付けてからだ。やるぞ翼!」

 

【ガシャコンスパロー!】

 

何処からか弓を取り出し、幸助君はそう言う。

 

「……前衛は私が務めるわ。檜山は後方から私の支援と、その子達の身の安全の確保をお願い!」

 

それを受け翼さんは手に持っていた刀を構えると、ノイズの集団へと素早く駆けていく。

 

「防人の剣の閃き、見せてあげる!」

 

近くにいるノイズというノイズをバッタバッタと斬り捨てながら、翼さんが言った。まるで時代劇の殺陣のシーンのようなその光景に、私も女の子も思わず現状を忘れて見惚れてしまった。

 

「……当たれッ!」

 

幸助君も翼さんに負けず劣らずの凄い動きでノイズ達を射抜き、数を減らしていく。私の記憶が確かなら幸助君は弓道なんかはやっていなかった筈だけど、何であんなに当たるんだろう。

 

「ーー幸助君危ないッ!?」

 

翼さんの剣戟と幸助君の射撃から運良く逃れていたノイズが、幸助君に襲い掛かる。間合いは完全に内側に入られていて、幸助君の矢が間に合わない。このままじゃ幸助君がやられてしまう。

 

「……ふっ!」

 

当の本人である幸助君は全く慌てた様子も無く、冷静にノイズの攻撃を躱す。そして持っていた弓を二つに分離し、鎌として使ってノイズをバラバラにした。

 

「……喧しいぞ立花、あれくらいでデカイ声出すな」

 

「でも、今の危なかったよね!?怪我したらどうするつもりなの!?」

 

「ライダーやってる以上、多少の怪我は避けられん。俺の事は良いから、今は自分の事だけ考えてろ」

 

「そんなの……っ!後でお説教だからね!」

 

「……分かったよ」

 

そう言って幸助君はまた鎌を一つに合体させて弓に戻してノイズを撃ち抜いていく。向こうの方では翼さんがノイズを斬り払っていて、その時に生まれた黒い粉末が風に乗ってこっちまで飛んでくる。

 

「数が多いな……翼!大技で一気に決めるぞ!」

 

「私もそれに賛成よ。良い加減鬱陶しいと思っていた所なの。ちゃんと合わせなさいよ、檜山」

 

「ハッ!合わせるのはテメェだよ翼ァ!」

 

【ガッシャットォ!キメワザ!】

 

勢い良く幸助君が上空へと飛び上がり、その周囲に無数の光の矢を発生させる。それと同時に翼さんも上空に飛び、青く輝く光の剣を大量に発生させた。

 

【ギリギリ!クリティカルフィニッシュ!】

 

【千の落涙】

 

光の矢と剣は同時に地上に降り注ぎ、生き残っていたノイズ全てを凄まじい光で包み込んだ。光が収まった時、ノイズは全て消し飛び、ただの一匹も残っていなかった。

 

【会心の一発ゥ!】

 

【ゲームクリア!】

 

「す、凄い……!」

 

「プリキュ○のお姉ちゃんと仮面ライダーのお兄ちゃん、凄い!ノイズぜんぶやっつけちゃった!」

 

圧倒的な勝利。さっきまで私がやっていたような危なっかしい戦い方とは違う、完璧な戦闘。何が何だかよく分かっていない私にもこれだけは分かる。二人は、私よりも遥かに強い。

 

「ふう、これにて一件落着だな。立花、そろそろ二課の奴らが来る。事後処理やら何やらで結構時間がかかるから、帰りが遅くなるって小日向に伝えとけよ」

 

変身を解除した幸助君が、そう言って私に向かって毛布を投げてくる。

 

「わぷっ!」

 

「もう夜になる。夜は冷えるからな、羽織っとけ」

 

「う、うん。ありがと。……それで幸助君、色々聞きたい事があるんだけど」

 

「うーん、答えてやりたいのはやまやまなんだがな。結構話長くなるから、事後処理とか諸々が終わった後にしてくれないか?」

 

「うん、そういう事なら分かったよ」

 

本当は今すぐにでも聞きたかったけれど、先にやっておくべき仕事があるんだからしょうがない。今まで幸助君が私達に嘘を吐いた事は無かったので、きっと正直に全部話してくれるだろう。

 

毛布を羽織って、空を眺める。暗くなり始めた空にはチカチカと星が光って、月も姿を見せ始めていた。

 

「……あったかいなぁ」

 

毛布の温もりに誰かの体温を重ねながら、私は幸助君達が作業をしている光景をじっと見ていた。

 

 

 

「ーーそれが、何でこうなったのおぉぉぉ!?」

 

黒服の二課の職員達に囲まれ、腕に手錠を付けられた立花が涙目でそう叫んだ。

 

「一般人の救助を手伝って貰っておいて悪いけれど、貴女をこのまま大人しく返す訳にはいかないの。貴女にはこれから我々特異災害対策機動部二課の本部まで同行してもらいます」

 

「という訳だ立花。悪いが大人しく同行して貰うぞ」

 

「だからってこんな犯罪者みたいな扱いしなくても良いでしょ!?この手錠すっごい重いんだけど!?」

 

手錠をブンブンと振り回しながら立花がそう言う。危ないからあまり振り回さないで欲しいんだが。

 

「色々あんだよこっちにも。道中で俺の事についても説明してやるから、今は大人しくしてくれ」

 

俺がそう言うと、立花はまだ納得してはいないようだが大人しくなった。

 

「それじゃ、出発するか!」

 

大人しくなった立花を車に乗せ、同じように自分も車の座席に座る。俺がシートベルトを着用したのを確認すると、運転席にいた緒川さんは車を発進させた。

 

「さて、三つまで質問を受けるが何を聞きたい?」

 

本部までの道中、三本の指を立てながら約束通り立花に問いかける。立花は少し悩むような表情を見せ、すぐに真剣な表情で俺の方を見た。

 

「じゃあ一つ目!私や翼さんが着てたアレは何なの?」

 

「それは今此処で聞くよりこれから行く場所に居る奴らに聞いた方が分かりやすいから俺からは答えられないな。あと二つな」

 

「答えられなくても数に入れるんだ!?」

 

「当たり前だ。残り二つ、しっかり考えて発言しろよ?」

 

「う〜、じゃあ二つ目!私や未来は名字なのに、何で翼さんだけ名前で呼んでるの?」

 

何でしっかり考えて発言しろって言ったのにそんなどうでもいい事に質問権を使うんですかね?立花のアホさ加減に呆れながら俺が口を開こうとした途端、それまで助手席で目を閉じていた翼の奴が突然口を開いた。

 

「それには私が答えてあげる。今私達が向かって居る二課の司令を務めているのは私の叔父、風鳴弦十郎よ。檜山は基本的に人を名字で呼ぶけど、同じ名字が二人以上いる時は紛らわしくないよう名前で呼ぶみたいなの」

 

「ほえ〜、成る程〜」

 

「何でお前が答えるんだよ翼……」

 

「私はただ独り言を呟いただけよ。だから今のは質問の答えじゃない、まだ質問権は二つ残ってるわ」

 

「なっ!?テメェ……!」

 

俺が睨みつけるのを軽く無視し、翼は再度目を閉じた。

 

「……兎に角、まだ私は二回質問出来るって事だよね?それじゃあ改めて二つ目!幸助君はいつから今日みたいな事をしてたの?」

 

「……」

 

どうしたものか、と俺は思案する。馬鹿正直にあのライブの時からと言えば説教が増える気がするし、かと言って嘘を吐けば助手席の翼に訂正されるだろう。

 

「……二年前、あのライブの時からだ。あの時お前を助けた茶色のヤツは、俺だ。……まあ、お前以外誰一人として守る事は出来なかったけどな」

 

起こってしまった事実は無くならない。過去を変える事は出来ない。俺が沢山の人の命を救えなかったという事実は覆る事は無い。あれだけ仮面ライダーになって人々を助けるんだなどと息巻いていながらあの始末。あの日あの場所で救えなかった命は、十字架として俺が一生背負い続けねばならないのだ。……まあ、世の中には電車に乗って時間を旅するライダーや、天の道を行って過去を変えるライダーも居るから一概に変えられないとは言えないのだが。

 

「……そう、なんだ。あの日から、ずっと……」

 

「先に言っておくが、俺が戦う理由とあのライブは関係無いぞ。この手に戦う力が、人を守る為の力がある。それが俺の戦う理由だ。お前が気にするような事は一切無い」

 

立花が何やら暗い顔をしたので予防線を張っておく。あのライブが関係してないとは言えない部分が有るのは事実ではあるが、仮面ライダーの力を手に入れた時点で俺はライダーとして戦う気満々だったのだ。変に気にされて落ち込まれると困る。

 

「そら、残る質問権は一つだ。ちゃんと考えて発言しろ」

 

「……うん。えっと、じゃあ……」

 

「悪いけれど最後の質問はまたの機会にして頂戴。着いたわよ二人共」

 

シートベルトを外しながら翼がそう言う。翼の言う通りいつの間にか車は止まっており、目的地である二課の本部のすぐ近くまで来ていた。

 

「あれ?私達その二課って所に来たんですよね?何でリディアンの教師棟に?」

 

「着いて来れば分かるわ。行くわよ檜山、緒川さん」

 

「何でお前に指図されなきゃいけないんだよ……」

 

「まあまあ幸助君。そんなに機嫌を悪くしないで下さい」

 

「緒川さんは翼に甘いんだよ……。おいどうした立花、とっとと着いて来い。ボサッとしてると置いてくぞ?」

 

「わ、分かった!」

 

建物の中へと入り、どんどんと先へ進む。やがて突き当たりにたどり着き、緒川さんがカードキーを使ってエレベーターのドアを開ける。

 

「うわぁ……何か秘密基地みたいだね……」

 

「みたい、じゃなくて秘密基地なんだよ。手すりにちゃんと捕まってろ。ここのエレベーターは速いぞ」

 

「え?速いって一体ーー」

 

立花が俺に質問するより先にエレベーターが動き出し、立花の姿が一瞬ぶれる。どうやら俺の忠告は一足遅かったらしい。

 

「わああぁぁぁぁぁ!?」

 

立花の絶叫に耳を塞ぐ。こいつの声はデカイ。元気なのは構わないんだが、狭い室内で叫ばれると鼓膜にくるから困る。

 

「ぁぁぁぁぁ……あれ?」

 

急降下が終わり、エレベーターの速度が遅くなる。それと同時にエレベーターから見える景色が一変し、黒一色だった景色が、鮮やかに彩られた壁画のような物へと変わる。

 

「綺麗……!」

 

「古代メソポタミア文明をイメージした壁画、だそうだ。その時代にこんな立派なもんがあったのかは学の無い俺には良く分からんが」

 

「幸助君中学の頃の歴史の成績悪かったもんねー」

 

「うるせぇ!昔の事なんざ覚えなくても生きていけるから良いんだよ!」

 

第一学校で習う事の何割が社会で役立つんだよ。特に数学だ数学。XやらYやらサインやらコサインやらを日常で使う奴が生徒の中にどんだけいるんだ。少なくとも俺は使わない、よって高校行かなくても問題無い(暴論)。

 

「景色に見惚れたり談笑するのは構わないけれど、緊張感だけは持っていなさい。今から私達が向かう所に、微笑みなど無縁なのだから」

 

「……っ」

 

翼の真剣な表情に立花も緊張したような表情を浮かべる。まあ確かにヘラヘラ笑ってやってける職場では無いのは分かる。だが翼よ、忘れては居ないか?

 

「……着いたわ。ここがーー」

 

「立花響君、ようこそ二課へ!」

 

『いらっしゃ〜い!』

 

ここの大人達は、皆こんな感じなんだぞ?

 

「……へ?」

 

「…………はぁ」

 

エレベーターから出た途端にクラッカーによる歓迎を受けて立花が素っ頓狂な声を出し、翼が頭痛を堪えるように頭を抑えた。俺と緒川さん?そりゃもう苦笑いだよ。だってこうなるって薄々分かってたもん。

 

「良く来てくれたな響君!色々あって疲れただろう、まずは飯にしようか。色々用意して有るんだが、アレルギーとかは無いかな?」

 

「ああいえ、特に無いですけど……」

 

「オペレーターの友里です。喉乾いたでしょ?あったかいもの、どうぞ」

 

「あ、あったかいものどうも……」

 

「同じくオペレーターの藤堯です。怪我とかはしてないかい?一応医務室から救急箱持って来たんだけど」

 

「あ、はい、大丈夫です……」

 

次々と話しかけてくる二課の面々に、響が困惑した表情で答えを返していく。うん、その気持ち凄い分かる。俺も初めて二課に来た時こんな感じだったもん。

 

「……友里さんは飲み物勧める前にまず手錠を外してやって下さい。それと藤堯さん、現場で軽く立花の応急手当をしたので怪我は問題ありません。最後に司令、あんた仮にもここのリーダーなんだからファーストコンタクトくらい威厳のある感じにしてくれ。それと櫻井女史、どさくさに紛れて手錠姿の立花とツーショット写真撮ろうとするな」

 

「あら、バレちゃった?」

 

「へ?ってうぇぇ!?いつの間にぃ!?というか何やってるんですか!?」

 

「何って、記念写真よ記念写真。あ、私は櫻井了子よ」

 

「あ、どうも。……それはそれとして!手錠付けた状態での記念写真なんて嫌です!きっと悲しい思い出として残っちゃいます!」

 

「そこなのかよ……」

 

立花の何処かズレた答えに思わず溜息を吐く。いやそこじゃないだろう、もっと別に言う事あるだろ。

 

「というか!何で皆さん私の名前知ってるんですか!幸助君から聞いたんですか?」

 

「我々二課の情報収集能力はこの国でもトップクラスなのでね。君一人の個人情報など簡単にーー」

 

「現場に転がってた鞄の中の学生証見ただけだろうが」

 

「……空気を読んでくれ士君」

 

「生憎、空気を読むのは苦手なんでね。俺は門矢士、自分の世界を探して旅をしているカメラマンだ」

 

「あ、はいどーも。っていうか鞄!何勝手に人の鞄の中身見てるんですか!?」

 

尤もなお言葉である。年頃の女の子の鞄を勝手に拝見し、あまつさえ個人情報を手に入れる。字面だけ見たら百パーセント犯罪だ。いや実質犯罪スレスレなんだけれども。

 

「悪いな立花、こっちにも色々あるんだ。今度ふらわーで奢ってやるから許してくれ」

 

「うん許す!」

 

「許されたのか……」

 

門矢士が呆れたような表情を浮かべるが、これが立花だ。こいつのチョロさは、二年間の付き合いの俺が良く知っている。

 

「それじゃあ早速始めましょっか!響ちゃん、ちょっとこっち来てね〜?」

 

「……?えっと、何をするんですか?」

 

「簡単な身体検査よ。という訳で、脱いで?」

 

「……え?」

 

「だぁから、脱いで?此処で」

 

「………………え?」

 

櫻井女史の爆弾発言に響が固まり、二課の面々が溜息を吐く。この人はこういう事を何の恥ずかしげも無く言えるから凄い。此処で脱げとか酷すぎる。此処にいる二課の面子は大体が男なんだぞ。

 

「いやいやいや!?検査をするのに服を脱ぐのは百歩譲って理解出来ますけど、何で此処で脱がなきゃいけないんですか!?私女の子ですよ!?」

 

「男の子とか女の子とか関係無いわよぉ、人間生まれた時は男も女も皆すっぽんぽんなんだから。ほら、脱いだ脱いだ!」

 

「い〜や〜!?助けて幸助く〜ん!?」

 

「…………俺は退室しとくわ」

 

「じゃあ俺も」

 

「すいません、僕も退室しますね」

 

「俺も退室するか」

 

「俺も退室しよう。翼、了子君が暴走しないようにしっかり見張っておいてくれ」

 

「了解です、叔父様」

 

「え!?もしかして誰一人として助けてくれないの!?」

 

すぐ側で聞こえてくる立花の悲鳴を聞こえなかった事にして、男衆は面倒事から逃げるように退室する。ただ退散していく男衆の中で唯一翼にフォローをお願いしておくあたり、流石司令だ。

 

 

 

「酷い目に遭った……。翼さんが助けてくれなかったら、人に見せられない恥ずかしい部分までじっくり観察されてたよ……」

 

「……災難だったな」

 

「ホントだよ!?幸助君何で助けてくれなかったのさ!」

 

二課からの帰り道、帰りが遅くなる立花を送っていく道中で立花に責められる。だって仕方ないだろ、あの人の相手面倒臭いんだもん。

 

「はぁ、今日はどっと疲れたよ……。ノイズには襲われるし、プリキュ○には変身するし、翼さんも○リキュアだったし、幸助君はトラン○フォーマーだったし……色々な事が有り過ぎて頭が弾け飛びそうだよ」

 

「トランスフォー○ーじゃなくて仮面ライダーな。あの時もそう名乗っただろうが。後アレはプリ○ュアじゃない」

 

翼みたいなプリ○ュアが居てたまるか。キュアサキモリとかどんなシリーズに出せば良いんだよ。

 

「それだよそれ!私結局アレについて教えてもらって無いんだけど!?」

 

「ぎくり」

 

やはり有耶無耶には出来ないか。正直なところ、立花にはこっち側には関わらせたくないんだが。変に関わって危ない目に遭わせてしまったら小日向に合わせる顔が無い。

 

「……明日、身体検査の結果が出る。その時に多分話す事になるだろう。だから今は聞くな」

 

「……な〜んかはぐらかされてばっかな気がするけど、まあ良いよ。幸助君を信じて聞かない事にする」

 

「そりゃどうも。……今日の事、小日向には言うなよ」

 

「分かってるよ。私が今日の事を話したりしたら、未来が危ない目に遭っちゃうかもしれないんだよね?」

 

「……そうだ」

 

まだ詳しい説明をしていないにも関わらず、立花は俺の言う事を素直に聞いてくれた。立花は馬鹿ではあるが、こういう時に鋭いからあまり馬鹿に出来ない。馬鹿なのに馬鹿に出来ないというのも中々に矛盾しているが。

 

「何となくだけど分かったよ。幸助君が今まで私や未来に隠してたのって、私達の事を守ろうとしてたからなんだよね?だから、ずっと一人で戦ってたんだよね?」

 

「別に一人で戦ってた訳じゃない。翼も居たし、士さんも居た」

 

「そういう意味じゃなくて……ああもう!何て言っていいか分かんないよ!?兎に角、私ももう関係者なんだからもう隠し事は無しだからね!未来は駄目でも、私なら相談に乗って上げられる事もあるかもしれないんだから!」

 

「……分かったよ。ほら、着いたぞ」

 

漸くリディアンの学生寮に着いた。大した距離では無かった筈だが、立花と話して居た所為で大分疲れた。

 

「絶対だからね!絶対隠し事は無しだからね!それはそれとして、送ってくれてありがとうね幸助君。それじゃあ、また明日!」

 

「立花」

 

元気良く挨拶をして寮に入っていこうとする立花の背中に声を掛ける。

 

「明日の身体検査の結果がどうであろうと、話を聞いたらそれで終わりだ。お前はこれまで通り小日向と一緒に学校に通って、これまで通りの生活を続けろ。今日起きた事、明日聞くであろう事を忘れて、平和な日常の中で生きていけ。お前がこっち側に来る必要は無い」

 

その言葉に立花は一瞬歩みを止め、また直ぐに歩き出して寮の中に消えていった。

 

「……はあ」

 

全く、人生って奴は最悪だ。いい予感は悉く外れる癖に、悪い予感だけは百発百中だ。ずっと巻き込まぬようにと思っていた立花が、まさかあっちの方から非日常に巻き込まれに来るとは思わなかった。

 

「これも神の悪戯って奴なのかねぇ……」

 

この世界に転生してから性根が腐っていると分かった神様の事を頭の中で浮かべながら、俺は暫くぼんやりと空を見上げて居た。

 

 




おまけ〜その事の響〜

「た、ただいま〜……」
「響!こんな遅くまで何処に行ってたの!?ノイズが出たっていうし、私心配したんだからね!」
「え、え〜っと……」
(うわ〜、やっぱり怒ってたよ未来。上手く誤魔化さないと……)
「そ、それがさ!CDを買って帰る途中で偶然幸助君とバッタリ会ってさ!折角だから二人で遊びに行こうって事になって、それで気がついたらこんな時間になったといいますか……」
「……ふぅん。幸助君と、そうなんだ……」
「う、うんうん!そうなの!」
「幸助君と遊んでたんだ、私抜きで」
「いや、未来には悪いと思ったんだよ!?でも幸助君と会った事自体偶然だったし……」
「……ずるい」
「へ?」
「何でもないよ。疲れたでしょ、お風呂沸かすから待っててね」
「うん!ありがとう未来!」
(良かったぁ……。何とか誤魔化せたよ……)

「……ん、メール?……小日向からか」
『今度は私ともお出かけしてね? 未来』
「……どんな誤魔化し方したんだ、あの馬鹿は?」

おまけその2〜幸助がこれまでの話で変身したライダー一覧〜

仮面ライダーソーシャル(星0)
ソーシャルドライバーを使って変身するソーシャルの基本フォーム。スペックは歴代ライダーの中でも最低クラスであり、ブランク体やプラットフォームなどにも遥かに劣る性能となっている。

ライドプレイヤー(星1)
最初のガチャ変身で変身したライダー。スペックは軒並み低いが、経験を積む事でレベルアップしてどんどんと強くなっていく。ちなみにライドプレイヤーは複数体おり、劇中でエグゼイドからガシャットを奪って武器を使っていたライドプレイヤーは全て別個体扱い。その為同じ星1でも違うライドプレイヤーが出たりして、他のライダーが更に当たりにくくなっている。本ガチャの外れ枠。

仮面ライダーケタロス(星2)
大気圏から落下した初代仮面ライダーメテオ。クロックアップによる高速戦闘が可能な為、星2の中では割と使いやすいライダー。

仮面ライダーレーザー(星3)
二代目バイクライダー。星3の他にも星4、星5にもレーザーがおり、星4はドラゴナイトハンターZを使ったレーザーレベル5、星5はプロトガシャットを多数扱うレーザーターボになる。今回出た星3はレベル1、レベル2、ギリギリチャンバラを使って変身するレベル3の三つの姿になれる。

たい焼き名人アルティメットフォーム(星1)
翼との会話の中で名前だけ出ていたライダーで星1ライダー最弱のネタ枠。というか本来ライダーですらないのだが、ブレイドのゲームの隠しキャラとして出ていた所為で神様にライダー扱いにされた。武器は熱々の鉄板。上級アンデットにダメージを与えた代物だが、長期間使用すると冷めてただの鉄板になる。


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Gの参戦/Surpriseな乱入者

「……んぁ?」

 

一寸先も見通せない闇の中で、俺は目を覚ました。ぼんやりとしながらも辺りを見回すが、眠る前の光景とは全く違うという事しか分からない。

 

「俺は確か…」

 

立花を送った後、二課に戻った俺は精神的に疲れていたのか休憩所のベンチで寝てしまった。そこから考えれば此処は二課の休憩所でなければおかしいのだが、先程言った通り周りの光景は休憩所のものにはとてもじゃないが見えない。

 

「ん?こんな場所、前にも……」

 

「やあ、久しぶり」

 

「あったようなあぁぁぁぁ!?」

 

この場所についての心当たりに考えを巡らせようとした瞬間に背後から声をかけられ、変な声が出る。

 

「はは、そんなに驚いて貰えるなんて思わなかったよ。気配を殺して背後に回った甲斐があったね」

 

「んなトコに高度な技術を使ってんじゃねぇよ!?ホント性格悪いなアンタ!?」

 

勢い良く振り返りケラケラと笑う少女、神様を正面に見据え睨みつける。そんな俺の視線を物ともせずに、神様は言葉を続けた。

 

「酷いなぁ。私の性格の良さは神様界でもトップを争うレベルだと、神様達の間では評判だよ?」

 

「噓つけ!それは良い奴って意味じゃなくて、『イイ』性格してるって意味だろ!アンタクラスで善良なら、神様界性格悪いの多過ぎだわ!」

 

「ははは、確かに」

 

「認めんのかよ……で、何の用だ?世間話する為だけに態々こんなトコに呼ばないだろ」

 

「いんや、本当にただの世間話だよ?神様の仕事は同じ事の繰り返しで飽きやすくてね。君達転生者が日々のちょっとしたお話を聞かせてくれるだけでも嬉しいのさ」

 

そう言って神様は目線で何事かを話すように訴えかけてくる。その為だけにこんな所に俺を呼び出した神様の自分勝手過ぎる行動に苛々しつつも、俺は丁度神様に聞きたいと思っていた事を口に出した。

 

「……立花がガングニールの適合者になった」

 

「知ってるよ、見てたからね」

 

「あれはアンタの仕業なのか?」

 

「違うよ。彼女があの力に覚醒するのは必然だった。仮に彼女があの時ノイズの集団に出くわさなかったとしても、いずれ何処かでガングニールを覚醒させていた」

 

「そうか……」

 

得られた答えを元に更に考えを巡らせる。必然とは一体どういう事だ?この神様はこうなる事を知っていたって事なのか?

 

(……もしかして彼、今自分が居る世界が創作物を元にした世界だって事知らない?これ、結構有名なアニメだった筈なんだけどなぁ)

 

「……なあ神様、質問良いか?」

 

「ん、ああ構わないよ。迷える子羊達に道を示すのが神様の務めだからね」

 

「俺以外にこの世界に転生した奴は居るのか?」

 

割と気になっていた事だ。俺と同様に神様から何らかの特典を貰った人間、味方なら接触したいし敵なら対策を練りたい。この情報は内容次第では今後にかなり響く。

 

「居たよ?やったら態度デカくてウザい奴。あんまりにも腹が立ったから、ゼロノスのベルトをデメリットそのまんまで渡してやったけどね。もうとっくに存在が消えてるんじゃない?」

 

「うわぁ……」

 

ホント性格悪いなこの神様。いやまあ神様相手に生意気な態度を取ったそいつも大概だが、また随分とエゲツない所業を……

 

「……神様、もしかして俺のソーシャルドライバーにも何かしらのデメリットが有ったりするのか?」

 

「うん、有るよ?」

 

有るってさ(白目)。いやまああんな曲者なドライバー渡す時点でこの神様が性格腐ってるのは分かってたから、ドライバーに何かしらの悪い仕掛けが有っても驚きはしないけどさ。

 

「タダでチートな能力が手に入る訳無いだろう?ここは良くある異世界転生物の小説の中じゃないんだ。何の苦労も無しに力は得られないよ」

 

「至極尤もなお言葉どうも。ちなみにどんなデメリットなんだ?」

 

「教えない。それは君が自分で知るべき事だ」

 

つまりデメリットについては自分で調べろという事か。元よりこの神からマトモに教えて貰えるとは思って居なかったのでそこまで腹を立てる事でも無いが、やはりはっきり知りたい気持ちもある。

 

「聞きたい事はそれで全部かい?ならそろそろ君の意識を返そうと思うんだけど」

 

「ああ、今んとこはこれで全部だ」

 

本当はもう少し色々聞いておきたい所だが、どうせ真面目に答えてくれないだろうから質問するだけ無駄だろう。

 

「そうかい。それじゃ、今日はここでお別れだ。また其の内暇潰しに呼ぶかもしれないから、次はもう少し面白い話のネタを用意しておいてくれよ?」

 

神様のそんな迷惑極まりない言葉を最後に俺の身体が光に包まれ、意識が浮上していくような感覚に襲われる。

 

「またね、ーー。今度は、お茶の用意くらいしておくよ」

 

もう聞き取る事の出来ない俺の前世の名前を口にして、神様は俺に別れを告げた。

 

 

 

「……ん」

 

「目が覚めたみたいね」

 

目を開けた時、俺の側には翼が居た。

 

「……おい翼、学校はどうした」

 

「もうとっくに終わったわ。……檜山、あなたもしかしてずっとここで寝てたの?」

 

「……マジか」

 

半日以上を寝て過ごしたのか俺は。呆れたような顔をしてそう言った翼に俺は驚きを隠せない。

 

「今から作戦室で司令から話が有る。彼女、立花ももう来ているわ。分かったらさっさと準備しなさい」

 

「へいへい、了解了解」

 

ベンチから起き上がり、軽く服装を整える。若干服にシワが寄ってるが、まあ着れるなら別に構わないだろう。

 

「んじゃ、行くか」

 

先にスタスタと歩いて行ってしまった翼を追って、俺は作戦室へと向かった。

 

 

 

「悪い、遅れた」

 

「あっ!遅いよ幸助君!」

 

「半日以上寝てたとかアホかお前」

 

「幸助君、もう少しキチンとした生活態度をした方が良いんじゃ無いか?」

 

フルボッコである。まあ俺が一日の内の半分以上を寝て過ごしていたのは事実なので仕方無いのだが、普段寝るのも起きるのも遅い士さんや藤堯さんには言われたく無い。

 

「ともあれ、これで全員揃ったな。それじゃあ了子君、後は頼んだ」

 

「はいは〜い、任せて頂戴♪それじゃあ先ずは響ちゃんの纏ったアレについての説明ね。全員、モニターにちゅうも〜く♪」

 

櫻井女史の何ともテンションの高い声と共にモニターに立花のレントゲン写真が映し出される。

 

「これが響ちゃんのレントゲン写真。心臓の近くに傷が有るのが分かるわよね?」

 

「はい、あのライブの時に出来た傷です。何とか一命は取り留めて、今もこうしてピンピンしてますけど、傷は残っちゃったみたいで……」

 

そう言いながら苦笑して自分の傷が有る部分を眺める立花。それにしてもあの傷、楽譜に付いてるフォルテの記号に凄い似てるよな。

 

「その傷の部分に注目した結果、聖遺物の破片がある事が分かったの。……二年前に死んじゃった、奏ちゃんのガングニールの破片が」

 

「なっ……!?」

 

「おいおい、マジか……」

 

衝撃の事実に二課の面々が騒つく。あの士ですら思わず声を出してしまう中翼は、

 

「……やっぱり、そうだったのね」

 

嬉しいような、悲しいような、そんな様々な感情を秘めた顔をしていた。

 

「えーと、その、すみませーん。そのせいいぶつ?とかガングニール?について説明して貰っても良いですか?」

 

「ん〜、聖遺物の研究で名を馳せている身としては凄く詳しく解説したい所だけど、ちょ〜っと難しい説明になりそうなのよねぇ〜。幸助君、サクッと解説お願い出来る?」

 

まさかの丸投げである。いやまあ、櫻井女史の専門用語たっぷりの説明は立花の頭じゃ理解しにくいだろうが、それならそれで他に説明できる奴がいるだろうに。

 

「何で俺が……はぁ。立花、お前RPGとかやるか?」

 

「RPG?う〜ん、たまに?それがどうしたの?」

 

「それに出てくる伝説の装備って有るだろ?」

 

「うん、エクスカリバーとかゲイボルグとかだよね?」

 

「聖遺物っつーのは、遺跡とかから発掘されたそういう物の事を言う。お前の胸の奥にあるその欠片も、その一種という事だ。ガングニール……日本じゃグングニルって読み方の方がメジャーだな」

 

「……ああ!ガングニールってグングニルの事だったの!道理で何処かで聞いた事がある名前だと……ってうええぇぇ!?私の胸にそんな凄い物が埋まってたのぉ!?」

 

自分の胸に埋まっている物の正体を知って立花が大声を出す。全く、本当に騒がしい奴だ。

 

「そしてシンフォギアとは、それらの聖遺物の一部を加工して作られた対ノイズ用の装備。俺に説明を丸投げしたそこの櫻井女史が提唱した『櫻井理論』を元に作られた、人類の反撃の一手だ」

 

「えぇ!?それじゃあ了子さんってもしかしてかなり凄い人なの!?」

 

「そうなのです!実は私、凄い人なのでした〜♪」

 

「じゃあじゃあ!幸助君の、あの『仮面ライダー』っていうのも了子さんが作ったんですか?」

 

立花のその質問に先程まで得意げだった櫻井女史の表情が難しそうなものとなる。

 

「そうですって言いたいけど、残念ながら私が作った訳じゃあ無いのよねぇ。幸助君のソーシャルドライバーは、幸助君が二課に入った時から幸助君が持ってた物だから」

 

櫻井女史がそう言って俺の方を指差した途端、立花の視線が俺に突き刺さる。さて、どういった風に説明しようか。

 

「……あー、拾った」

 

「絶対嘘だソレ!?」

 

即バレである。俺が嘘が下手くそなのは前から分かっていた事ではあるが、かと言ってどう説明すれば良いのか分からない。神様に貰ったとか言ったら絶対頭おかしい人だと思われる。

 

「……正直俺もいつコレを手に入れたのか分からない。だがこれがノイズに対抗出来る数少ない手段である事、これが俺の所に来た事、それだけで俺が戦う理由になる」

 

「……だったら、私も戦う!」

 

「はぁ!?」

 

思わず変な声が出た。何を言ってるんだこいつは。

 

「私もこのシンフォギアっていうのでノイズと戦えるんだよね?なら私も幸助君と一緒に戦うよ!」

 

「いやいやいや!?お前自分の言ってる意味分かってんのか!お前がいつもやってる人助けとはワケが違う!下手したら死ぬ可能性もあるんだぞ!」

 

「私に誰かを助ける力が有るなら、私はその力で助けたい!それに幸助君だって私や未来に隠れてこんな事二年もやってたんでしょ?」

 

「うぐぅっ……!?」

 

図星を突かれて言葉に詰まる。何とか説得しようと思ったが自分が説得力ゼロの塊である為、大人連中に助けを求めて視線を向ける。

 

「良いんじゃないか?ノイズに対抗出来る人材は多いに越した事は無い。響君が入ってくれれば、翼や幸助君も少し は楽になるだろうし」

 

「司令!?」

 

「俺もいつまでこの世界にいるか分からないからな。立花の加入は有難い事だと思うが」

 

「士さん!?」

 

「と言うか、正規の人材じゃないにしろ装者を一般人のままにはして置けないわよねぇ?」

 

「櫻井女史!?」

 

何てこったい、大人は皆賛成側だよ。最後の希望の翼に視線を移す。

 

「私も賛成よ檜山。寧ろ、反対する理由が無いわ」

 

「お前もか翼……!」

 

まさかの四面楚歌。これは俺がどう反対しても立花の二課加入は止められないだろう。

 

「……はぁ、勝手にしろ」

 

「やったぁ!これから宜しくね幸助君!」

 

「よぉし!それじゃあこれから響君の二課加入を記念して歓迎会をーー」

 

「そうしたいのはやまやまだけど、ノイズが出たわよ弦十郎君!」

 

ノイズ出現を告げるアラームが鳴り、二課の面々の表情が緊張した面持ちとなる。ちらりと地図を確認してノイズの出現位置を把握し、俺は一足先に駆け出す。

 

「あ、ちょ、幸助君!?」

 

「先に行く。立花、ついて来たければ勝手について来い」

 

「待て幸助君!ノイズの出現場所はここからじゃ結構遠いぞ!現地まで送るから他のメンバーと一緒にーー」

 

「その心配は無用だ!」

 

《キャラガチャ!》

 

司令の制止を無視し、通路で変身する。直ぐにソーシャルドライバーが別のベルトに形を変え、右手にカードデッキが現れる。

 

「今回はこれか、中々運が良いな。変身!」

 

《great!星3!仮面ライダー オルタナティブゼロ!》

 

カードデッキをベルトに挿入し、仮面ライダーオルタナティブゼロに変身する。そして近くの鏡からミラーワールドに突入し、俺はそこから現地へと向かった。

 

「幸助君!ってあれ!?もういない!?」

 

鏡の向こう側から、立花のそんな声が聞こえた。

 

 

 

「……現地に到着。人的被害は……今の所無さそうだな」

 

道中様々な鏡から出たり入ったりを繰り返し、割と早い時間帯で目的地に到着する。地図を見た時には分からなかったが、どうやら此処は高速道路らしい。

 

「ノイズは……見つけた。って何だあの気持ち悪いの」

 

ノイズの集団の中に一際デカくて気持ち悪い個体を発見する。何か前世で見たジブリ映画にあんな感じの奴居た気がする。

 

「さてと……全員纏めてブチ殺してやる」

 

《ソードベント》

 

カードを使ってオルタナティブゼロの武器であるスラッシュダガーを召喚、そしてそのままノイズの集団へと突っ込む。

 

「ーーはあッ!」

 

近くにいるノイズを手当たり次第に斬りつけて炭素に変えて、集団の更に奥まで切り進む。やはり星3の火力は高いようで、どのノイズも一撃か二撃で倒せる。しかしノイズの集団も数だけは無駄に多い為、中々奥にいる大型ノイズまで辿り着く事が出来ない。

 

「数が多いな……ならこれだ!」

 

《アドベント》

 

『オアアァァァァ!!』

 

少しでも数を減らす為、契約モンスターのサイコローグを召喚して人手を増やす。同じ契約モンスターなら龍騎のドラグレッダーを呼び出したかったが、何のライダーが出るかは運次第なので仕方が無い。それにうろ覚えだが確かこいつも結構強いモンスターだし、気を抜いたらムシャムシャされそうな蟹よりはマシだろう。

 

そんな感じで順調にノイズを殲滅していると、何体かのノイズがこの場からの逃走を図り出した。

 

「あっ、コラ逃げんな!」

 

《ホイールベント》

 

すかさずサイコローグをバイク型のサイコローダーへ変形させ、逃げようとしたノイズ達を轢き潰す。すぐさま方向転換し、そのまま残りの集団の所へ突き進む。

 

「終わりだァ!!」

 

《ファイナルベント》

 

オルタナティブゼロのファイナルベント、【デッドエンド】が発動し、ノイズの集団を瞬く間に殲滅する。基本動きの遅いノイズ達がこれを躱せる筈も無く、大型ノイズを除く全てのノイズを轢き潰す。そして俺が大型ノイズに狙いを定め突進したその時ーー

 

《ファイナルベント》

 

「ーー何!?」

 

夥しい数の砲弾、銃弾、ミサイルの雨が、俺と大型ノイズ目掛けて降り注いだ。

 

「っ、うおわあぁぁぁぁ!?」

 

咄嗟にサイコローダーから飛び降りて回避を試みるも、攻撃の範囲が広過ぎて失敗。爆風で吹き飛び、そのダメージで変身が解除される。

 

「がはっ!?今のは、まさか……!」

 

攻撃の直前に聞こえた電子音、そして今の広範囲にわたる殲滅攻撃。その情報から、一人のライダーの姿が俺の頭によぎる。

 

《シュートベント》

 

「っ、危ねぇ!?」

 

爆煙の中からの砲撃を、地面をごろごろと転がって何とか回避する。相当ヒヤリとしたが、今の攻撃で敵の正体を見極める事が出来た。

 

「……マジかよ」

 

爆煙の中からこちらに向かって歩いて来る一人のライダーを視認。緑のボディーに戦車を彷彿とさせる外見、間違いなく仮面ライダーゾルダだ。

 

「…………」

 

「ダンマリかよ。せめて俺を攻撃した理由くらい説明してくれませんかねぇ?」

 

「…………」

 

「無視かよ糞がっ!」

 

俺の問い掛けには答えずに、ゾルダは再び俺を攻撃しようと砲塔を俺に向ける。

 

(……ちと不味い展開だな。あっちはいつでも攻撃出来る体制で、こっちは変身解除された生身。変身を挟むからどうしても行動が相手よりワンテンポ遅れちまう。さっきのファイナルベントでノイズが全滅したのが唯一の幸いか)

 

何でいきなりゾルダが俺を攻撃してきたのかは分からないが、襲われた以上は相手をするしかないだろう。そう考えてソーシャルフォンを構えた瞬間、背後で何かが弾けたような音と共に強い閃光がほどばしった。

 

「おいおい次は何だ!?」

 

ゾルダと距離を取りながら素早く後ろを振り返ると、先程全滅した集団と同じくらいの規模のノイズ達が俺に向かってじりじりと近づいて来ていた。

 

「おかわりなんて頼んで無いぞ畜生が……!?」

 

前門のゾルダ、後門のノイズ。逃げ場無しの挟み討ち。少しでも被害を減らそうと翼と立花を待たずに出撃したのがここで裏目に出た。

 

(どうする……!ダメージ覚悟で変身するか?いやどっちの攻撃も生身で受けたら死に直結する。何とかしてどっちかを取り除ければ良いんだが……!)

 

まさに絶対絶命のピンチ。これが前世で見てた特撮なら何かしらのイベントが起きてなんとかピンチを切り抜ける流れだが、生憎これはリアルだ。

 

「……はぁ、翼と立花が来るまで保つかな俺?」

 

「呼んだ?」

 

「ってうわあぁぁぁぁ!?立花お前いつからここに!?」

 

「私も居るわよ檜山」

 

「翼もか!?」

 

余りにも絶望的な状況に思わず弱音を吐いたその時、どこからか現れた二人が返事を返して来た。

 

「お、お前らどうやって来た!?どんな交通手段を使っても本部からここまで少なく見積もっても三十分はかかるぞ!」

 

「緒川さんよ。檜山が無茶しそうだからって叔父様が緒川さんに頼んだのだけれど、案の定無茶をしたわね」

 

「凄いんだよ幸助君!緒川さんが私と翼さんの手を掴んだと思ったらバビューンって景色が変わったの!もう兎に角凄かったんだから!」

 

「あの人か……」

 

そうだった、そういえばあの人リアルニンジャだった。瞬身の術使えるとか色々おかしいだろもうあの人が忍術使ってノイズ倒せよ。そんな念を込めながら俺は視界の端にちらりと映った緒川さんに視線を送る。緒川さんは少し困ったような顔で笑うと、一礼してドロンと消えた。

 

「檜山、状況説明をお願い。アレは貴方と同じ仮面ライダーで良いのよね?」

 

「ああ、そんで敵だ。あっちは俺がやるから、ノイズはお前と立花に任せるぞ」

 

「了解したわ」

 

ゾルダを見ながら俺に問いかける翼に、俺はそう答えを返した。その瞬間、立花が俺に異議を唱えて来た。

 

「ちょっと待ってよ幸助君!あの人が幸助君と同じ仮面ライダーなら、ちゃんと話せば分かり合えるよ!何も戦う必要は……」

 

「先に仕掛けて来たのはあっち、俺は売られた喧嘩を買うだけだ。それに別に俺はアイツを殺す気は無い。ボコって本部までふん縛って洗いざらい全部吐くまで拷問するだけだ」

 

「十分物騒だよ!?」

 

立花が顔を青くして叫ぶがこれでも十分抑えた方だ。それに俺の予想が正しければ、アイツを倒す事は出来ても恐らく捕まえる事は不可能だ。なら加減をする必要は無い。

 

「兎に角、立花は翼と協力して後ろのノイズを相手してくれ。……正直な話アイツの相手するので精一杯だから、本当に頼むぞ」

 

「……分かった!」

 

「背中は任せなさい、檜山」

 

そう言って立花は拳を、翼は刀を構えてノイズへ鋭い視線を向け戦闘態勢に入る。その二人の姿に頼もしさを覚えながら、俺もゾルダを相手すべくソーシャルフォンを構えた。

 

《キャラガチャ!》

 

ソーシャルフォンから音声が流れ、俺を囲むように周囲に光の柱が出現する。最初は白かったその光がやがてどんどんと強くなり、銅色、銀色へと色を変えて行く。そして一際強い輝きと共に、光が金色へと変わる。

 

「Sレアキターーーッ!!先に言っとくぜウシ野郎!今からの俺は、かなり強いぞ!」

 

《amazing!!星4!仮面ライダーカリス!!》

 

「変身ッ!!」

 

《チェンジ》

 

ハート型のバックルに姿を変えたソーシャルドライバーにハートのカテゴリー1をラウズし、ハートの戦士『仮面ライダーカリス』に変身する。

 

「……グッ!?」

 

変身が完了した瞬間、心臓を鷲掴みにされたような激しい痛みと、焼け付くような熱が俺を襲った。視界が揺れ、立っているのも困難なくらいのその症状と共に、頭の中に響いてくる声を聞く。

 

ーータタカエ!タタカエ!タタカエ!

 

「ーーッ!!」

 

自分の内側から響くその声が自分の闘争本能である事に気づくのに、数秒もかからなかった。俺の意識を呑み込もうとするそれを必死に押さえ込み、何とか体勢を立て直してゾルダ目掛けて突進する。

 

「ーァアアッ!!」

 

「……ッ!」

 

『醒弓カリスアロー』を振り下ろしゾルダを斬りつけ、回避行動を取ろうとした瞬間に矢を放って吹き飛ばす。ゾルダもただやられるばかりではなく、瞬時に受け身を取って俺に向けて銃弾を放つ。

 

「オオォォァァアアアッッ!!」

 

銃弾を回避せずにそのままゾルダに突撃、カードを使う暇を与えないように攻撃を続ける。

 

「……ッ!」

 

「逃がすかこの野郎!」

 

「……ッ!?」

 

不利を悟ったのか逃走を図るゾルダの身体を蹴倒し、頭を思い切り地面に叩きつける。そのまま倒れたゾルダの身体を蹴りつけ、大きく吹き飛ばす。

 

「終わりだァッ!!」

 

《フロート》

 

《トルネード》

 

《ドリル》

 

【スピニングダンス】

 

「ハァァァァァァァッ!!」

 

「…………ッッッ!?」

 

地面に倒れ込んで動けないゾルダに、トドメの一撃を食らわせる。ダメージが大きく回避行動を取れなかったゾルダはまともに食らい、声を上げる間も無く爆発した。

 

「幸助君!こっちは終わったよ!」

 

「どうやら、そっちも片付いたみたいね」

 

ノイズ達を片付けて来た翼と立花が俺の所にやって来る。俺は他に敵が居ない事を確認し、変身を解除した。

 

「ああ、何とかな。どっちも怪我は無いか?」

 

「大丈夫!翼さんのお陰でこの通りぴんぴんしてるよ!」

 

「立花は中々筋が良いわ。アームドギアこそまだ使えないけれど、十分な働きを見せてくれた。これからの成長に期待ね」

 

「ホントですか!?翼さんにそんな風に言って貰えるなんて感激です!」

 

目を輝かせながらそう言った立花に、翼は穏やかな表情を浮かべる。翼の事情などを考えるとどうなるか少々不安だったが、案外良い感じに二人とも仲良く出来ているようで何よりだ。

 

「それより幸助君、あの緑の人はどうしたの?さっき何かが爆発したみたいな音がしたんだけど……」

 

「ああ、爆発した」

 

「爆発しちゃったんだ!?」

 

目を丸くして叫ぶ立花に見えるように、ゾルダが爆発した所を指差す。そこにはゾルダの姿は無く、ゾルダが居た痕跡も存在しなかった。

 

「……逃げられた?」

 

「みたいだな。翼、立花を連れて先に戻ってくれ。俺はちょっとこの辺りを調べ、て?」

 

「幸助君!?」

 

不意に足から力が抜け、その場に倒れ込んだ。

 

「幸助君!?大丈夫なの!?」

 

「や、やばい……!?指一本マトモに動かない……!?」

 

「疲労ね。櫻井女史に診てもらうように連絡しておくわ。これに懲りたら一人で先走ったりしない事ね」

 

「ぐぬぬぬぬ……!流石に短時間で二回も変身したのが不味かったか……!?」

 

硬い地面に顔をくっつけながらそう呟くと、立花と翼が俺の腕を掴んで引っ張り上げた。

 

「幸助君、肩貸してあげるよ!」

 

「いや大丈夫だって、起こしてくれれば一人で歩け……ねえやチクショウ。足の感覚が全く無ぇ」

 

「変に意地を張るんじゃないわよ。ほら、私も肩を貸してあげるから、とっとと本部へ帰るわよ。調べ物なら緒川さんにやっておいて貰うから、大人しく運ばれなさい」

 

そんな感じで二人に肩を貸して貰い、俺は本部まで引き摺られていった。

 

「……ん?」

 

「どした立花、急に後ろ向いて」

 

「いや、なーんか誰かに見られてるような気がして……」

 

「緒川さんじゃないの?」

 

「いや、誰も居ないみたいです。うーん、気の所為だったのかなぁ……?」

 

 

 

 

 

「……驚いたね、まさか僕の視線に気がつくなんて」

 

幸助達が戦闘していた場所から少し離れた所にある廃ビルに、その視線の主は居た。

 

「あれがガングニールの新しい装者、融合症例の立花響。『彼女』が言っていた標的か。中々骨が折れそうだ」

 

響に視線を向ける青年はそう呟くと、次は二人に引き摺られる幸助へと視線を移した。

 

「そして彼が鳴滝の言っていた例の少年か。確かに腕は立つみたいだけど、能力的には士の劣化版。鳴滝が気にする程の人間とは思えないな」

 

青年は懐から二枚のカードを取り出す。一枚は幸助が先程戦ったゾルダのカード。そしてもう一枚には、五人のライダーの姿が描かれていた。

 

「ゾルダ一人では彼には勝てなかった。なら、今度は彼らを使ってみようか」

 

二枚目のカードを見つめ、青年は不敵な笑みを浮かべる。

 

「覚悟していたまえ。君達のお宝、僕が必ず頂戴させて貰うよ」

 

そう言ったのを最後に、青年の姿は影も形も無くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回変身したライダー

仮面ライダーオルタナティブゼロ(星3)
星3の中でも結構高いスペックを持つライダー。高APのファイナルベント、アクセルベントによる高速戦闘など強力な攻撃手段を持つ。

仮面ライダーカリス(星4)
ハートのスートのラウズカードで戦う仮面ライダー。星5ではないのでワイルドカリスは使えないが、それを抜いても十分過ぎる身体スペックを持っている。


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