IS-王と言う名の騎士- (osero)
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第一話「始まり」

この小説を読むに当たっての連絡です。

この小説は初心者のため、上手く出来ないと思います。矛盾などもあるかもしれないので、一話か二話読んで面白くなかった場合、読者様の時間を無駄にしないためにも、すぐにこの作品を読むのをやめた方がいいです。逆に少しでも面白いと思ってくれた方は読んでくれると嬉しいです。感想や、ここはこうした方がいいとアドバイスなど貰えると嬉しいです。

いちをメインのアリアの小説を書いてありますので、この小説は不定期の更新となります。
それでもいいと言うかたは読んでください。
それではお楽しみください。


 戦争。それは人と人との殺し合いである。

 

 戦場はまさに地獄。人の断末魔や苦しみ、血が飛び散り、人が簡単に死んでいく。

 

 何故、人は殺し合いをするのか、それには様々な理由がある。

 

 昔から人は争いを起こしてきた。国のため、自分達の領土を広げるため、人間が持つ、強欲や貪欲が戦争を引き起こしてきた。

 

 戦争や紛争と言うものは、大層な大儀を掲げながらも、はっきり言ってしまえば、自分達の意見を通すために、力を誇示し、相手を蹂躙するのだ。

 

 戦争では人殺しが正当化され。むしろ敵をより多く殺し活躍すれば英雄扱いになる。この矛盾を誰もが疑問に思わない。それが戦争。死んだ人間がただの数字として数えられ、簡単に人の思いが散っていく。

 

 そんな戦場に彼はいた。銃声が止まず鳴り響き、目で見える景色は人の死体。断末魔を上げる人間。血を流しながら苦しむ人間。鼻から感じる物は銃特有の硝煙の匂いと鉄の錆びた様な血の匂い。

 

 地獄絵図とも言える戦場に彼はただひたすら敵を殺していた。

 

 視界に入る軍服を着た複数の敵に、手に持つ人の命を奪う事ができる銃を構え、照準に入れる。人差し指に力を入れ、引き金のトリガーを引き、銃弾が発射された。放たれた何発もの弾丸は人の頭、胸、胴体、と的確に突き刺さる 。

 

「がっ!」

 

「っ!」

 

 頭を貫かれ、悲鳴を上げる事すらできず、膝を着き倒れ伏せる敵兵。楽に死ねず、血を流しながら苦しみの声を上げる敵兵。

 

「や……やめてく……」

 

「死ね」

 

 苦痛に顔を顰め、助けを請う敵兵に容赦なく銃弾の雨を浴びせる。ビチャリと返り血が彼にはびこり、元から返り血で染まっていたであろう赤い服がより鮮血に、赤黒く光らせ、すべてが赤一色に侵食する。だが、どれだけ染まろうとも彼の紅い瞳は同じ色であるにもかかわらず、色褪せる事なく光沢を放ちより一層存在感が際立っていた。

 

 戦場では慈悲などなく、あるのは生きるか死ぬかのみ。彼はそうやって子供の頃から生きてきたのだ。

 

 動かなくなった敵兵を無感情な目で見下ろしながら彼は次の敵を殺すべく歩を進める。しかし、彼の仲間であろう少年がこちらに必死になって走り敬礼を取り、報告を述べる。

 

「た、隊長!た、大変です!」

 

「落ち着け。状況を報告しろ」

 

「自分達の部隊が殆ど、か……壊滅状態です」

 

「……何?」

 震えながら、状況を説明しに来た仲間の余りの報告に一瞬言葉が詰まった。

 

 彼の部隊。『フェンリル』部隊の人間は精鋭ばかりであり、何回もの紛争を生き残って来た猛者ばかりだ。今、戦っている軍の兵も強い部類に入るがそれでも、圧倒的にこちらの方が強く格が違う。

 

 それにも関わらず、自分の仲間が壊滅状態など理解出来る筈が無く、彼の無感情だった瞳が僅かに揺らぐ。

 

 そんな彼の状況など知らず、報告で来たであろう少年兵は言葉を続ける。

 

「順調に敵を、せ、全滅していましたが、あ、ISが突如現れて、数分しない内に、つ、次々と仲間が……」

 

「IS……だ……と!?」

 

 IS-通称インフィニットストラトス-女性にしか扱えない物であり、究極の機動兵器。攻撃力、防御力、機動力すべてが他の兵器を圧倒的に上回る性能を持っており、その中でも防御機能が桁違いなのだ。銃やミサイルその他すべての兵器が効く事が無く、無力化される。兵器でこの有様なのにISと人など戦闘になるはずもない。

 

「早く逃げてください!俺達は隊長を逃がすために時間を稼ぎます!」

 

「ふざけるなっ!仲間を見捨てて逃げろだと!?……できるはずがないだろっ!!!」

 

「駄目です!行っては行けません!」

 

 少年の制止の声を振り払い彼は少年が来た方向に走りだす。自分の部下が戦っているというのに自分だけ逃げ出すなど彼にはありえなかった。それに、皆が彼を逃がすためだけに戦闘にもならない、死ぬと解っているISの足止めをしているのだ。

 

「間に合え!」

 

 彼はただひたすら走る。その走りは一切の無駄がなく、長時間戦闘を行っていたのにもかかわらず疲れが見えず、むしろその速度は増していた。

 

「な……な、なんだこれは……」

 

 彼が見たのは、死体、死体、死体、死体、死体。それしか目にはいらず、自分たちが着ている黒と青が混ざった『フェンリル』部隊を示す特有の服を着ていたであろう仲間たちが倒れ伏せ、死体となりその生を終えていた。瓦礫で埋もれ死んだ仲間。下半身が無く、上半身のみの仲間。原型を留めていない仲間。

 

「……」

 

 その死体を脳裏に焼き付け、彼は銃声が響く方に走る。胸に宿る膨大な殺意をISにぶつけ殺すために。まだ生き残っている仲間のために。

 

「見つけたぞ。IS!!!!」

 

 仲間と交戦中のISが目に入り、彼は雄叫びを上げながらアサルトライフルを発砲する。が、後ろを見ていないにも関わらず、彼が放った銃弾を上空に飛び避ける。

 

「俺が時間を稼いでる内にさっさと逃げろっ!……っ!」

 

「隊長!?逃げてください!もう部隊は壊滅です。俺たちが時間を稼ぎますから!」

 

 彼が仲間に撤退命令を出す。しかし、ISがそれを許すはずもなく、彼に銃弾を放つ。彼は普通の人間とは思えないほどの反射神経で咄嗟に横の建物に隠れ凌ぐ。仲間たちが彼の事に気づき、逃がすために命がけで特攻をしかける。

 

「やめろっ!」

 

「死ねぇー!」

 

「うぉーーー!」

 

 彼の制止の声を無視し、仲間二人が決死の覚悟でISに仕掛ける。フェンリル部隊だけあってその動きは精練されていたが、彼らが放った銃弾は圧倒的な機動力により簡単に交わされ、お返しとばかりにISから放たれた何十発ともあろう弾が彼らを蜂の巣にする。

 

「まだだ!」

 

 二人を犠牲にしながらも避ける事を想定していたのか、その避けた場所の周りには何名ものフェンリル部隊の人間が銃を構え、四方八方の建物の中でISを囲んでいた。

 

「全弾撃てぇええ!」

 

『フェンリル』部隊、副隊長のその合図とともに、一斉にISに向かい、絶え間なく銃弾が降り注ぐ。

 

「これも食らっとけっ!!」

 

 とどめと言わんばかりにRPGを持った数人がISに叩き込む。

 

「全員銃を下ろせ!」

 

 RPGが着弾と同時にその合図で絶えず撃ち込まれていた銃弾が止まる。先程の大音量とは打って変わって静寂が辺りを漂う。

 

 辺りに煙が蔓延し、視界が遮断されており、煙が晴れるのを待つ部下達。

 

「なっ!?」

 

「無傷だと!?」

 

煙が晴れ、視界に入ったのは無傷で佇むIS。その姿に隊員達は動揺を走らせる。

 

「作戦αに移行する!急げ!!」

 

 作戦を指揮していた副隊長の声が響く。

 

 作戦αとは撤退を意味する事であり、もはや、ISに対抗する手立てが無かった。

 

「ッ!早く逃げろ!!」

 

 彼は何かを感じ取ったのか、向こうにいる隊員達に声を張り上げる。

 

 その直後、ISは両手に武器を展開し、円を描くようにして全方位に弾をばらまくように乱れ撃つ。

 

 彼の声に反応した隊員はなんとか凌いでいたが、反応が遅れた隊員は弾に貫かれ命を落とす。

 

 そこからは一方的な虐殺だった。

 

 ISは逃がすつもりはないのか、圧倒的な機動で撤退する隊員を次々とその手にかける。

 

 彼はそれを中断させるべく、弾を放つが、効いてる様子もなく、注意を引きつける事しか出来ず、ISは視線をこちらに向け、何かが投げられる。

 

「ッ!」

 

 彼はその何かに気づき、急いでその場から遠のくが、数秒後彼がいた場所が爆発を起こし、彼は飛ぶ様に吹き飛ばされた。

 

「っくそ……」

 

 なんとか、事前に察知し、直撃は避けられたものの爆風までは凌げず、身体中が痛みを伴い、うつ伏せで倒れ伏す。

 

 肉の焦げる匂いが鼻につき、顔を上げてみれば自分達の仲間が一方的に殺戮されていた。ある者は銃である者は刀らしき物で、じっくりとまるで殺戮を楽しんでいる様子だった。そしてISの手には先ほど彼に伝令を伝えに来た少年が頭を掴まれ宙に浮いていた。

 

「やめろっ!!!」

 

 まるでこちらに見せびらかす様に体制をこちらに移す。

 

「隊長……逃げ……ぁ」

 

 最後まで言い切る事はなく、ミシミシと音を立てた後少年は頭を潰され、血の雨が辺りに降り注ぐ。

 

「ふざけんじゃねえぞてめぇー!!!!!」

 

 人の命をただのゴミのように扱うあの姿に彼は激怒した。戦争や紛争で仲間が死ぬのはまだ許せた。それはお互いが、守るもののために、貫きたいものを貫くために、お互いが譲れない何かのために戦うからであり、なのにあのISにはそれがない。まるで蟻を一方的に踏み潰す。そんな思いも決意も踏みにじる行為を見せつけ、なおかつ笑ったのだ。こんなゴミを殺した程度で喚くなと。嘲笑ったのだ。許せるはずが無かった。

 

「立て!立て!たてぇーーー!!!!」

 

 自分を奮いたたせ、彼は立ち上がりナイフを取り出し彼はISに駆け出す。それをISは何もせず、佇む。その行動を嘲笑うかの様に楽しんでいるようだった。そして彼がナイフを渾身の力で振り下ろす。人ならば、視覚するのも難しい素早く鍛えられた剣筋を意図も容易く交わし彼の背後に立ち回る。

 

「ふざけんな……ふざけんな……」

 

 ナイフを避けられ、勢いのままにそのまま転がる彼。彼は何よりも自分が許せなかった。仲間を守れず、一方的な殺戮を止める事すらできず、ただ仲間を、自分の世界を彩る唯一の色が、抜け落ちるのを見る事しかできなかったのだ。あんな信念も持たないやつに敵わない自分が、許せなかった。だが、彼はあきらめない。まだ仲間が生きていると信じているから。そして彼は吼える。自分の存在を。

 

「俺はフェンリルだ!自分の守りたい物のためならたとえどれだけ敵が強かろう関係ない。たとえ神だろうとも俺の前に立ちはだかるなら……殺す!!!今までもずっとそうしてきた!!これからもだッ!!」

 

 子供の頃からどれだけ劣勢にただされようとも彼は敵を討ち取ってきた。負け戦だろうとも、敗戦で合っても彼はただでは終わらせない。その凶悪な牙で敵を殺戮し、傷痕を残す、どんな巨大な戦力差があろうとも、どれだけ敵が巨大でも立ち向かい戦う姿から彼は畏怖をこめて神をも殺すフェンリルといわれてきた。

 

 ゆえに敵う敵わないという問題ではない。自分の仲間の為にただでは死なない、その牙をISに刻み付けるために走り出す。焔のように熱く、氷のように冷ややかな殺意を胸に宿らせ、ただあのISを殺す。その事だけで思考が働き、ISに接近する。

 

『私の名を呼んでください』

 

 ふと頭に声が響く。女性特有の声であり、どこか凛々しく王の威厳の様なものがあった。そしてその名前が紡がれる。彼はその声に、そんな思考などなかったが、反射的にその名前を紡いでいた。

 

「来い!----」

 

 その瞬間。彼は気づいてないが、何かを纏い、そして両手には光が収束し、黄金に輝く剣が握られていた。この時、ISの操縦者は後悔しただろう。遊ばす殺して置けば良かったと。

 

「消えうせろっ!!!」

 

 振り下ろされる剣から発せられる幻想的な輝きはISのみならず、戦場すべてを光に包み込んだ。

 




読んでくださった方ありがとうございます。だいたい、一話を4000文字か5000文字を目安にしていきたいと思います。

なお、この小説は前書きでもいったとおり、不定期更新です。メインのアリアの小説を書いております。メインのアリアは二週間前後に一回の更新で、

この小説はいちをアンチヘイトです。っというのも一夏がちょっと自分には合わないので、そういう場面があると思いますので、そこまで酷くありませんが、いちをつけときます。

 感想などはどんどんうけつけます。いい所、悪い所などももちろんうけつけます。ただ一方的に面白くない。というのはさすがに無理です。どこが悪いのか、指摘してもらえると嬉しいです。
その方が、ためになりますのでお願いします。
まだまだ未熟なため、矛盾など、色々あると思いますがよろしくおねがいします。


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第二話「新たな一歩とIS学園」

 

 

 

 

 あれから世界は2年の月日が流れ経ち、世界は変わった。

 

いや、変わろうとしていた。

 

それは世界で初めてISを動かす男性操縦者が見つかったからだ。

 

それにより世界はまた移り変わり新たな変革を迎える。

 

実際に今、男性操縦者が発見された事により世界は混乱状態に陥っている。男性は歓喜を、女性は自分達の立場の危うさを、世界各国が不安や希望で揺れ動いていた。

 

10年前のあの日、白騎士事件が起きISが世界に知れ渡った事で男性が世界から弾かれた様に、今回もまた何かしら不幸になる者が出てくるのだろう。

 

いつの時代にも変革に犠牲は付き物なのだから----

 

 

 

 

--IS学園

 

政府が作った組織でありいわばISを学ぶための学校。様々な難しい条件をクリアして入るいわばエリートの集まり。

 

そんなIS学園のとある一部の教室。そこは他のクラスと違いとても騒がしく喧騒に包まれていた。

 

その原因の中心、それは男性初のIS操縦者。織斑一夏と彼が自己紹介を滑らせ姉の織斑千冬が登場したからであった。

 

男性初のIS操縦者であり、顔も整っており尚且つブリュンヒルデこと織斑千冬の弟の織斑一夏。

 

かたや姉は世界でIS最強に与えられるブリュンヒルデの称号を持つ事を許されたたった一人の有名人物。

 

この二人が居るのだから女性達が騒ぐのも仕方がない。実際に今も皆の目を独占している織斑姉弟。

 

しかし、皆が手を上げ、喜び、歓喜し、熱気に包まれる一角で窓側の一番後ろ。

 

そこには二年前、戦場にいたであろう青年がいた。

 

あの時より髪が伸びており眼鏡をかけているため顔や表情が伺いしれないが、その手を見れば彼が怒りに打ち振るえているのが分かる。

 

彼の手からは力を入れすぎて爪が肉に食い込み血が流れ滴り落ちていた。しかしそれを一切気にする事なく織斑姉弟を睨みつけていた。

 

「ふざけるな……」

 

何故自分がこんな場所に来なければならないと彼は嘆き歯をかみ締めていた。

 

彼から大切な物を奪った原因を担ったIS。そんな物を扱う学園。そこに居るだけでも決して消える事のない怒りが、憎しみが心の底から湧いてくるのだ。

 

絶望しかない世界でやっとの思いで立ち直れたのだ。初めて友達ができ、小さな幸せを得る事が出来た。

 

だがそれも束の間、ISにより無理やり引き離され幸せが泡の様に消えていった。

 

「あぁ、どうして俺は……」

 

どこか諦めた視線を窓の外に向ければ、彼の心境とは裏腹に空は晴れ晴れとしており太陽の光が彼の場所を優しく照らす。

 

それを眼で捉えながら過去の出来事を頭に浮かべる。

 

そうでもしなければを今でもあの二人を殺してしまいそうだったから----

 

 

 

 

 

 

「……ここは」

 

彼が目を開けば純白に染まりきった白い天井が目に入る。

 

次に体を動かそうと力を入れるがピクリとも身体が反応せず、変わりに痛みが身体中を襲う。

痛々しい程にゴムやチューブなどが体中に張り巡らされており如何に重傷かを物語っていた。

 

「目が覚めたか?」

 

そんな中、聞き覚えのある妙齢じみた声に視線を向ければ見慣れた女性がいた。

 

「博士か……」

 

博士と呼ばれた女性。

 

誰もが彼女を美しいと感じられる容姿であった。特に手入れをしているわけでもないが、肩まで掛かる茶色い髪は艶があり日に照らされ切れ細やかにきらきらと輝く。

 

ずっと着ているのか皺が少し目立つ白衣を纏い、身長は女性にしては少しだけ高く、長いスラリとした脚が黒いストッキングに包まれ大人の魅力滲み出ていた。目に隈があるがそれを差し引いても男性を充分虜にする容姿をしていた。

 

「あぁ、随分と長い間眠っていたな」

 

「ここは……どこだ」

 

「ここは日本だ。因みに君が眠っていた時間は凡そ一週間だ」

 

「日本か……」

 

「あぁそうだ。君や私が生まれた場所であり、まあ……故郷と言うものだな」

 

彼は日本と言う言葉に何か思う事があった様だが、博士は自分の生まれた場所などどうでもいい、という感じであった。

 

それから互いが喋らず沈黙が病室に漂う。

 

しかしそれも束の間、彼がポツリと言葉を紡いだ。

「仲間は…………どうなった」

 

彼の絞り出した声に、博士は目を閉じる。

 

もし真実を言ってしまえば彼が壊れるかもしれない。その思いが彼女の口を開くことを許さない。

 

今まで彼がどれだけ血反吐を吐きながら頑張ってきたかを知っているからこそ、現実を伝えたくは無かった。しかし、博士は決意を固め目を開き残酷な真実を伝える。

 

「私が見たのは血を流す君を背負って来た副隊長……その一人だけだ……」

 

「…………そうか」

 

あぁやはりか、と彼はどこか呆然としながら頭では何となく理解していた。

 

脳裏に浮かぶは、共に戦場を生き抜いた仲間達が倒れ伏す姿。

 

それを目の前で嘲笑うかの様に奪っていったISに乗る女性。憎悪が彼の心を渦巻く。

 

--殺したい程に自分が憎い!

 

--殺したい程に敵が憎い!

 

何も出来なかった自分自身に対する無力感と怒り。敵に対する憎しみが彼を心を支配する。だが、今の状態では暴れる事も、嘆き叫ぶ事も出来ず、ただただ歯を強く噛み締める事しか出来なかった。

 

そんな様子を見かねたのか博士は優しく彼の手を両手で包み込む。

 

「余り自分を責めるな……」

 

「だがっ!俺のせいで……あいつらがっ!」

 

「君が…………レイがこうなる事は私も予測出来たし、彼女も分かっていたんだろう。伝言を預かっている。『自分を責めないで下さい。私達は貴方だったからこそ、命を懸けました……貴方だったからこそ皆が着いてきたんです。私達の事を思うのなら幸せになってください。それが部隊全員の意見です』それが伝言だ」

 

「そんな事言われたら……後悔なんて出来るはずないだろっ!」

 

馬鹿なやつらだと、彼は思った。

 

こんな自分の為に命を懸けていったのだから、だが、そんなバカで優しい奴らだからこそ彼は仲間を守りたかった。

 

ただ共に生き抜く。それだけで良かったのだ。他は何もいらない。見えない。聞こえない。あの仲間達の笑顔。それさえ有れば何もいらなかった。其れだけが彼にとっての輝かしい刹那だったのだから。

 

「今だけは泣けばいい。立ち止まればいい。レイは良く頑張った」

 

「ぁぁ……ッ!」

 

その博士の言葉に彼は今まで堪えていた涙が溢れ出るのを抑え切れなかった。

 

ベットの上で顔を隠し涙を流すレイを博士は子供をあやすみたいに背中を撫で抱きしめる。彼の悲しみが無くなる様に。

 

 そしてこの日初めて彼は涙を流した。

 

 

 

 

 

 

「もういい……」

 

「ん。もういいのか」

 

 暫く泣いていたレイだったが流石に恥ずかしくなり、博士を軽く引き離す。

 

「なんか……嬉しそうだな」

 

「まぁ、君と出会って6年経つが……初めて泣く所を見たからな。かなり得した気分だ」

 

「ふん……」

 

 博士の素直な気持ちにどこか照れくさそうに視線を逸らすレイ。まだ後悔や悲しみが心に残っているがそれを出すのは今ではないと言い聞かせ話を進める。

 

「博士……あの後どうなった」

 

「そうだな……簡単に言えば名のない国は滅んだよ。ISによってな」

 

 壁に寄り掛かり、腕をくんで話す博士。その様子はどこか残酷な光景を思い出したのか顔を歪ませていた。

 

「人が沢山死んださ……一般人も敵も仲間も、最早争う力も無いだろうな。復旧不可能な程、この国は死んださ。皮肉な事に紛争は終わったが国も終わったよ」

 

「そうか……」

 

「わかるだろう?この国は他の国からは国として認められていない。だから国際平和条約など意味を成さないからな……ISが攻めてきても対処するのは自分の国だけだからな……」

 

 いつ始まったかは解らない。それくらい長い間戦っていた紛争は皮肉な事に余所のISにより終わりを迎えた。それもたった1日だけでだ。

 

「だが、何故ISがあんな所にいたんだ?」

 

「これは私の推測なんだが聞くか?」

 

 確証もないがな、と付け足す博士だがある程度自信はあるようだった。

 

「あぁ、教えてくれ」

 

「ならまず、これを見てくれ」

 

「これはっ……ISが4機だと!?それとは別に同じISが複数もだと……」

 

 レイが驚くのも無理は無かった。IS1機さえあれば軍の施設を簡単に落とせるのだ。それが4機となれば、最早戦争さえ出来る程の戦力。むしろ過剰と言っても良いほどの物なのだ。

 

「私が至る所にカメラを設置していたが……殆どが凄まじい速度で乗っ取られたが少しだけ残ってたのがこれだ」

 

 画面を進めるとそれぞれが少し違う所が見受けられるIS4機が全く変わらない同じ形のISと戦闘を繰り広げられていた。

 

「私が見てほしいのはここだ」

 

「これは……無人機か?」

 

 姿、形が同じISは頭部から一直線に切られたが、中には人が乗って居らず、オイルを撒き散らし爆散した光景が其処にはあった。

 

「そうだ、無人機だ。君も私の研究室に入った事があるから分かると思うが……ISには人が乗らなければ操れない。そんな当たり前をこれは覆している。そんな事が出来るのは作った本人か、よっぽどの天才でも無ければ無理だろう」

 

「ISの生みの親が無人機を作ったと?」

 

「ハッキングの手際の早さといい、常識を覆すその機体と言い私は束博士しか思いつかないのさ……」

 

「だが……どうしてここを戦場にした?」

 

 たとえそれが事実だとしても何故ここで争うのかがレイには理解出来ない。だが、博士はそれすらも検討が付いていた様だった。

 

「恐らく、人が乗ってるISの方は何かしていたのだろう。この国は治安も悪く、毎日が争いで危険だから他国は進んで関わって来ようとしない。だから隠れ蓑としてはうってつけの場所だからな」

 

「それを見つけ出したから争っていたのか?」

 

「多分そうなのだろうな」

 

 映像を見ていたレイだが、尋常じゃ無いほど殺意が滲み出そうになるが、それを耐える。

 

「……無人ISが4機だが……それぞれ違うISも3機……よっぽどの組織じゃないと不可能だぞ」

 

「あぁ、この謎の組織に心当たりは私にはないな」

 

 博士は何も手がかりが無いのか頭を振って否定したが、レイは何かが頭に引っかかっていた。そしてあの時の事を思い出す。

 

「そう言えば……」

 

「何か見に覚えがあるのか?」

 

「博士も知ってるはずだ……1ヶ月前に勧誘に来た二人組を」

 

「あぁ、あの女性二人組みか。あの時は隊員全員が殺気立っていたからすぐ思い出せるさ」

 

 どこかやれやれと呆れの入った博士の態度にレイは思わず苦笑をこぼす。

 

「あれは仕方が無いさ……見張りをくぐり抜けて突然堂々と現れれば誰だって警戒する」

 

「だがな……一人一人が隊長を名乗れるぐらいの実力者の全員が殺気立てば私でも少しは背筋が冷えたぞ。あれだけ気楽に寛いで騒いでる中、敵が現れたと思えばすぐさま皆が敵に銃を向けるのはさすがだと思ったがな……」

 

 それでも少しなのかと思うレイ。

 

「話を戻すが、その時の二人の用件は覚えているか?」

 

「たしか、レイを勧誘しに来たんだろう?それがどうかしたのか?勧誘ならかなりの頻度で沢山の国から来てたじゃないか」

 

「その時の会話さ。色々興味深い事を言っていたじゃないか」

 

「会話?」

 

 レイが言った言葉に博士は顎に手をやりその時の事を思い出す。

 

「たしか……私達はあなたをスパイやエージェント、裏方の役として雇いたいと言っていたか?」

 

「重要なのはその後。俺が裏方でいいのか?と問いかけた後、彼女はこう言っただろ?主戦力はもう整ってるの。私達が欲しいのは裏方のサポート役や潜入、情報だとな……」

 

 その言葉を聞き、博士は何かに気づいたのか目を見開く。

 

「まさか…………主戦力と言うのはIS操縦者達の事を指していたということか。だがそれだけではまだ確証を持つまでではないんじゃないか?」

 

「いや……この時代、世界を変えるには求めているのは人じゃなくISだろうな。IS1つで軍事施設を落とせるんだ。3つ4つあれば国を落とせるさ。それに今思えばあれだけ囲まれてる中で余裕でいた理由も分かった……」

 

 ずっとあの時、レイは違和感が拭えなかった。二人組みが堂々と来た事が、何か手があるのかと思いきや周りに仲間がいる気配もなく、武器もない。ほとんど手ぶらの状態なのにこんな基地のど真ん中に恐怖もなく、あったのは余裕。だが、それにも今は納得がいった。

 

「何もないと思っていたが、最初からあいつらはあの状況を覆せる物を……『IS』って言う最強の兵器を持っていたんだ……だからあれほど余裕があったんだろうな」

 

「レイのその意見が正しいとしてもISを使って警備を突破したのなら、レーダーやら反応してるはずだが……」

 

「多分……味方にあいつらの仲間が紛れていた可能性が高い」

 

「用意周到なやつらだな……まぁ今更それが分かった所ですでに遅いな。それより奴らの事はひとまず置いといて今後の事を考えておくとしよう」

 

「今後?」

 

「そうだ。怪我の具合はかなり重症だがレイならすぐ直るさ。アレがあるからな……それが直り次第、君は高校に通ってもらうとする」

 

「おい……何故いきなりそんな事しないといけない」

 

 先ほどまで真面目な話は何処に行ったのか、急な話題転換に続き学校発言をする博士にレイは頭が追い付かない。

 

「話はこれまでだ。暫くは安静していろ。君じゃなかったらととっくに死んでるぐらいの重症なのだからな」

 

「おい……話はまだ終わって……ッ!」

 

 言いたい事だけ言い病室から出ようとする博士。それを阻止しようと手を伸ばすが、それよりも早く博士はどこから取り出したか分からない注射をレイに打つ。

 

「安心しろ。ただの麻酔…………のはずだ」

 

「お……い……」

 

 最後の危ない発言に文句の一つも言おうと思ったが急激に眠気に襲われ腕がベットの上に落ちる。

 

「良い眠りを……おやすみレイ」

 

 最後に見たのは人を安心させるような母親の様な博士の柔らかい微笑みだった。

 

 

 

 

 

 

  (……最悪だ)

 

 思い出した記憶が全然良くなかった。むしろ自分の泣き姿という恥に、余計に神経がイラだつレイ。

 

 あれからというのも博士の宣言どおりレイは学校に通った。そして一人だけだが友達と呼べるのも出来た。だが、色々あってIS学園に入学する事になってしまっていた。

 

「あの、次の……木下君。自己紹介お願いします」

 

 そのおどおどした態度のまったく教師に見えない、胸がふくよかな女性の声でレイは意識を教室に戻す。

 

「はい」

 

 返事をして立ち、辺りを見れば先ほどの騒ぎはとっくのとうに収まっていたらしい。最後の自分にまで来ているのがその証拠だった。

 

「木下 零……以上だ」

 

 それだけ言って座る零。

 

「あれって二人目のIS操縦者だよね?かなり根暗そうだね」

 

「挨拶もまともに出来ないのかしら」

 

「ちょっと感じ悪いね」

 

 こそこそと喋り出す女生徒。

 

 女生徒の零への態度は織斑一夏と比べてかなり冷たい。

 

 それもそのはず、今の零の見た目は髪が長く眼鏡を掛けているため女生徒から見ればあまり良い印象を受けない。それに今の事故紹介で余計に拍車をかけていた。

 

 しかしここまで扱いが酷いのには特別な理由がある。

 

「まぁそれも仕方ないんじゃない。だって彼……『IS』をかろうじで動かせるだけでしょ?」

 

 それが決定的な理由。織斑一夏はIS適正A、と素晴らしい数値に比べて零はFと最悪な数値。ISも一人の女生徒が言ったとおりかろうじでしか動かせない。

 

 それはニュースで男性操縦者が発見されたときに適正も一緒に出されたため、世界の全員が知っていることだった。

 

 現に今、零へと向けられる視線は良いものではなかった。

 

 ISが出来た事による代償。女尊男卑社会。織斑一夏とは違い、身内が有名と言う訳でもない。世界の女性の誰もが零へ良い感情を持っていないだろう。ただかろうじでISを動かせるだけの人物を自分と同等としたくないのだ。

 

「静かにしろ!まだ終わっていないんだ。私語は慎め!」

 

 千冬の一声で女生徒のレイへの視線や私語はなくなる。その様子に満足した千冬は続きを促す。

 

「山田君。いいぞ」

 

「あ、は、はい。これでショートホームルームを終わりたいと思います」

 

 ショートホームルームが終わった後、1限目のISについての授業があった。

 

(やはり、最初はこんなものか……)

 

 ISの授業は零から言わせれば簡単の一言に尽きた。それもそのはず、博士はISの研究、または実験をしていたため、 ISについては博士にびっしり教え込まれたのだからできないはずはない。

 

「ちょっといいか?」

 

 横から声が聞こえ視線を移せば、同じ男の織斑一夏の姿が確認できた。

 

「なんだ……」

 

「いや……この学園に2人しかいない男だからさ、仲良くしようと思って」

 

 気さくな感じで話す一夏。せっかくの男同士だから仲を深めていきたいのだろう。

 

 だがそれは零からしたら迷惑極まりない行為だった。疎まれてる自分が今一番の注目を浴びてる人物に話しかけられれば、周りは良く思わない。事実。皆があまり表情がよろしくない。

 

 構うのが面倒だがさっさと思わせようと思い声を開こうとしたが、

 

「……ちょっといいか」

 

「え……箒?」

 

 一夏の知り合いらしい人物に言葉を渡られた。

 

「廊下でいいか?」

 

「いや……今自己紹介を……」

 

「知り合いなんだろう?さっさと行け」

 

「わ、わかった」

 

「すまないな」

 

 関わるのがめんどくさい零はさっさと話を終わらせた。こちらに申し訳なさそうに教室を出る織斑と知り合いの人物を見ながら零は織斑の知り合いの人物の後ろ姿を見つめる。

 

(あれがISを作った篠ノ之束の妹か……)

 

 あの自分の大切な物を奪った忌々しい人物の妹。それだけでも零の中には黒い、黒い、憎悪が渦巻く。

 

「……ふぅ」

 

 しかし零は大きく息を吸い気分を落ち着かせた。厄介ごとは零も望んでいない。目立てば自分の存在がばれる可能性があるからだ。自分だけならいいが、博士が巻き込まれるのは零は良しとしてない。

 

 だから、次の授業に向け復習も兼ねて本を開いた。

 

 

 

 

 

 

「授業を始める前にクラス代表者を決める」

 

 三時間目の授業。織斑千冬がそう口を開いた。

 

 聞けば、そのままの通り、ISのクラスの代表であり、色々とめんどくさそうな役回りのクラス長だった。

 

「はい。織斑君を推薦します!」

 

「え……俺?」

 

 突然の候補に一夏は頭が追いついていないようだった。だが、まだ苦悩は終わっていない。

 

「私も推薦しまーす」

 

「いや、俺はそんなのやら--」

 

「自薦他薦は問わないと言った。拒否権はない。座れ」

 

「いや、でも--」

 

次々と女生徒が一夏を推薦するため、一夏は拒否しようとしたが自分の姉に拒否される。反論しようした一夏だったが、

 

「納得行きませんわ!」

 

 セシリアオルコットがそれを許さなかった。

 

 そこからは互いに言い合いが始まり、結局一夏は決闘と言うその勝負を買ってしまった。

 

「ハンデはどれぐらいつける?」

 

「あらさっそくのお願いかしら?」

 

「いや、俺がどれくらいハンデつけたらいいのかなーっと」

 

 そこまで言った一夏の言葉だったのだが、教室がドット爆笑に包まれる。

 

「織斑君それは昔の話だよ」

 

「そうそう、本気で言ってる?」

 

 その女生徒達の反応に一夏はしまったと顔をしかめていた。

 

(腐ってやがるな……)

 

 そんな爆笑に包まれる中、零は思わず胸中でそう悪態をつく。

 

(ISに乗れるのがそんなに偉いのか。そんなに人を見下すのが楽しいのか)

 

 女性の誰もが自分達が上だと思っている。男達は劣っていると、

 

 それで勝ち誇って優越感に浸り何が楽しいのか零には理解できないし、したくも無かった。

 

「今ならまだ間に合うよ。セシリアに謝ってハンデを取り下げよう」

 

 その言葉に仕方なくハンデを取り消して誤ろうとした一夏。

 

「ごめ--」

 

 ドンッ!その音で全員がシーンと教室が静まり返る。音の元凶を辿れば、零が机を叩いた音だった。

 

「煩い。不愉快だ…………先生授業を始めてください。もういいでしょう?」

 

「分かった、だが次からは机は叩くな」

 

「はい」

 

 世界最強に睨まれるが零にはどおってことはなく、平然な態度で返事を返した。

 

「と言う事だ。勝負は一週間後の月曜。放課後の代3アリーナで行う。ちなみに零。お前にもやって貰う。

 

「……何故ですか?」

 

 突然の名前に零も言葉に詰まる。

 

「上からの命令でな。男性の貴重なデータが欲しいらしい。拒否権はない」

 

「分かりました」

 

 さすがに断れないと悟った零は素直に頷く。

 

「じゃあ授業を始めるぞ!」

 

 そして授業が再開された。

 

 

 

 

 

 

「やっと終わったか……」

 

 退屈な授業が終わり放課後、夕日が照らす教室で帰ろうと鞄を取る零。

 

「あ、木下君。織斑君。まだ教室にいたんですね。よかったです」

 

「どうかしましたか?」

 

「いえ、寮の部屋が決まりました」

 

 零は渡された鍵と一夏が貰った鍵を見比べふと疑問が浮かぶ。

 

「部屋は一緒じゃないんですか?」

 

「あ、ほんとだ」

 

 一夏も気付いたらしく覗き込む様に鍵を見比べていた。

 

 それに対して山田先生は困った風に答える。

 

「えっとですね…、私もあまり詳しくは分からないんです。すいません。お力になれなくて……

 

 本人も疑問に思っていたが何故こうなった理由は分かっていない様で申し訳なさそうに顔を困らせていた。

 

「いえ、大丈夫です。真剣に考えてくれてありがとうございます」

 

「い、いえ、生徒の力になるのは先生として当たり前の事ですから」

 

(先生には見えないが……いい人だな。見下してる視線じゃない)

 

 今度は慌てた様にはにかむ姿に零はそう感じた。今の会話だけでも、ちゃんと一人の生徒として向き合ってくれているのが零には理解できた。

 

「じゃあお先に行きます」

 

「あ、はい」

 

 零は山田先生に頭を下げ、自分の部屋を探すべく歩き出す。

 

 この部屋割りが、零にとって大切で大事な新しい一歩になる事をこの時はまだ知らない。

 

 

 

 

 

  




 
更新速度は気まぐれですかね。緋弾のアリアの方は1話1話の修正で忙しいため、続きの投稿はちょっと微妙な所。

 久しぶりすぎて文章の書き方が分かりません。どうやって話を簡単にすればいいのか分からない。もっとすらすらと進みたいのに進まない……難しい……次の話は自分の大好きな子が出てきますね。

感想はどんどんうけつけてます。幼稚な文章なんで間違いがあれば指摘や書き方などをアドバイスくれると嬉しいです。

最後に……IS2期アニメは見た方がいいですかね?パソコン壊れてたし、携帯はガラケーだったから見れてないという事実。


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第三話「少女と奇策」

「ここか……」

 

 地図と睨めっこしながら歩くこと5分。鍵の番号と同じ部屋番号を見つけた零。

 

 トントン、とドアを叩くも全く反応がない。

 

「いないのか?……仕方ないか」

 

 内ポケットから鍵を差込み中に入る。

 

 中に入ればさすがは天下のIS学園。学生が住むには勿体無いぐらい高級そうな家具や物が零の目に入る。

 

「いくらなんでもこんなにお金をかけなくても、な……」

 

 悪い気はしない。だが今まで過ごして来た場所と比べるとやはり豪華な部屋は若干零には居心地が悪かった。

 

 そんなことを思いながらも自分の荷物を丁寧に鞄から取り出す。

 

「え……」

 

 そんなとき、後ろからふと女性の声が聞こえ視線を上げる。するとそこにはタオル一枚の女の子の姿。

 

(おいおい……いくらなんでもこんな偶然は無いだろう……)

 

「……すまない。早く服を着てくれないか?」

 

 今にも少女が悲鳴を上げようとしたため、彼女より先に口を開き後ろを向く。

 

 彼女はそれで『ハッ』、と今の自分の姿に気付いたのか、すごい早さで顔を赤く染めすぐさま服を取り洗面所に駆け込む。

 

(音はしなかったんだがな……すでに上がっていたか、それにしてもタイミングが悪い)

 

 物音一つしなかったため油断していた零。どうしようか、と頭を抱えていると洗面所からドアが開く。

 

「…………」

 

「…………」

 

 互いに顔を合わせるが沈黙。少女は下を向いて俯いていた。顔が赤いのは先ほどの格好を見られたを引きずっているからだろう。

 

 そんな姿を見た零は余計に罪悪感が募る。自分が悪いわけではない。しかし見てしまったのだから結局は圧倒的に自分が悪いと決めた零。 

 

「すまない。ノックはしたんだが反応がないから入らせて貰った。いちを物音もしないか確かめたんだがな……」

 

 頭を下げて謝る零の謝罪に少女は慌てたように答える。

 

「い、いえ、そ……その、何の用件……ですか……?」

 

「一応今日からここで住まわせて貰うことになったんだが……聞いてないか?」

 

「そ、そう言えば……そうだった、かも」

 

 忘れていたらしい少女。それを零は責めようとはしない。

 

「そうか、なら良かった。こんな男だから嫌だと思うが……我慢してくれると助かる。出来るだけ要望も聞こう。部屋も、寝る時とシャワーを浴びる時以外使わない。それでも本当に嫌なら適当に別の場所を探すから言ってくれ」

 

 零がここまで言うのも理由がある。それほどまでに世界は今、女性が上の立場にあり、一緒に居ることや喋ることもしたくないと言う女性は少なくない。だから早めの内に聞いておきたかったのだ。

 

 だが、そんな零の考えは杞憂だった。

 

「そこまでは……いい。私もあまり、使わないから……好きに使って良い」

 

「…………た、助かる」

 

 コクンと頷く少女。それがかつての仲間の一人に重なり思わず言葉に詰まった。

 

「……?それに……色々、する事がある。だから帰らなくても心配しなくていい……」

 

 それに首を傾げ疑問に思っていたようだが気にせず用件を言う少女。

 

「分かった」

 

 返事を貰ったのを確認した少女はスタスタと部屋から出て行った。ドアが閉まったのを確認して、零はベットに雪崩れ込むように倒れる。

 

「相変わらず、女性と喋るのは疲れる……」

 

 天井を見つめながら愚痴を吐く。それも零には仕方が無いことだった。

 

 零が住んでいた場所。そこは閉鎖的な国で、ISなど他所の出来事には関心がない。自国のことしか考えがない。それほどの余裕があの国の国民にはない。

 

 だからか男女は平等だった。一方的な格差がないのが唯一の良さだったのかもしれない。力があれば実力を認められ力がなければ死ぬ、たったそれだけ。

 

「日本は平和すぎるな……平和すぎて落ち着かないのも考え物か……」

 

 今まで銃を持ち戦っていた零にとってこの穏やかな日々は今でもしっくりこない。

 

「まぁ、ルームメイトが今どきの奴じゃなくて良かったのが救いか……」

 

 思い出すは先ほどの少女。

 

 シャワーを浴びていた為、熱で薄く、赤く染まる頬。濡れてはいたが蒼い髪は水分を含んで輝き、特有の美しさがあった。目が若干の垂れ目で体は小さく、可愛らしい、守ってあげたくなるような女の子だった。タオルも短かかったため、白い健康的な太ももが大胆に露出されていてそういう経験がない零には刺激が強すぎた。

 

「……今日はもう寝るか。それじゃあおやすみ――――」

 

 邪念を振り払い、シャワーは明日浴びようと決意を固め、疲れた体を休ませるべく目を閉じた。

 

 最後に腕につけているブレスレットを撫で、自分以外誰もいない部屋で見知らぬ名前を告げる零だった。

 

 

 

 

 ――――――

 

「…………」

 

 真夜中のIS学園、IS整備室。

 

 そこに居たのは先ほど零と一緒の部屋になった少女――――更識簪だった。

 

 ただ無言でキーボードを叩きながら空中ディスプレイを凝視する簪。

 

「ふぅ……」

 

 作業に詰まり手が止まる。暫く思考するが上手くいかなく溜息が漏れ、ディスプレイも閉じキーボードを片ずける。ついでに横に置いてあるジュースを飲みながら一息つく。

 

「木下……零……」

 

 それは簪でも知っていた名前。いや世界中が知っている情報。

 

 世界で2人目のIS操縦者。だが最初の操縦者に比べ、あまり騒がれていない。

 

 「ISをぎりぎり動かせるだけの……操縦者」

 

 それは簪はもちろん世界中が見ていたテレビ中継だった。ISが乗れると分かり、検査をして適正を出す。その過程で念の為動かせるか実験をした物だった。その瞬間は大々的に中継された。男性の威厳を取り戻す一歩として。

 

 最初の織斑一夏は適正Aとあって最初は苦戦していたが、それも数分後には空を飛び、快調な動きを見せた。

 

 それに比べ2人目のIS操縦者の木下零は酷かった。最初の一夏同様期待されていたが、結果は散々。ISがかろうじで動く程度、四苦八苦してようやく空に飛べたかと思いきやその動きはゆっくりであり、安定していないのかフラフラとふらつき仕舞いにはそのまま撃墜。適正もFと有って評判は最悪だった。

 

 簪自身もこれは酷いと思える動きだった。本当に、乗れるだけの人物。

 

 だけど同時に可哀想だとも簪は思ったのだった。

 

 本人は真面目にやっていたのにも関わらず、終わった後の周りの目は酷かった。女性はだらしない男性の姿に笑い。同じ男性には思った通りに期待に答えられず、恥をさらしたことに対する冷たい視線。

 

 終わった後にもネット上では日本の恥さらしと罵られ、テレビでもあまり良い事は言われていなかった。

 

 世界中から拒絶された人物。

 

 そんな人物がまさか自分の部屋と一緒になるとは考えてもいなかった簪。

 

「さっきのも……こういうのがあったから……」

 

 簪は先ほどの部屋でした会話を思い出す。あまりにも自分を下に……卑屈に見すぎているその発言。それはこういうことがあったからと簡単に予測できた。もしかしたらもっと酷い仕打ちを受けていたのかもしれない。

 

 優しくしよう。そう思う簪だったが、零に裸を見られたことを思い出す。自分でも顔が赤くなるのが分かった。

 

「…………やっぱり……駄目」

 

 初めて異性の人に見られた自分の裸。許せるはずがなかった。でもあのどこか物寂しげな表情が浮かび、

 

「少しなら……いい」

 

 自己完結。納得が言った簪は再び、作業に励む。

 

 

 

 

 

 

 あれから1週間の日が過ぎ、決闘の日がやってきていた。

 

 今現在は、セシリアオルコットと織斑一夏がISを駆使して戦闘中であった。

 

 最初こそ苦戦してやられそうになった一夏かだったが、ファーストシフトを終わらせた一夏は逆にセシリアオルコットを追い詰めていた。とてもISに乗って1週間とは思えない動きを見せ善戦を見せる。

 

 現に会場は、まさか代表候補生を倒すんじゃないかと思わせる一夏の動きに誰もが言葉を発さず見守っていた。

 

 それを尻目に教師陣営はその戦いを評価していた。

 

「凄いですね……織斑君。代表候補生にここまで善戦するなんて」

 

「何……機体に助けられただけです」

 

 そう喋りながらも目線は戦闘から一辺たりとも離さない。

 

「俺が千冬姉の名前を守るさ」

 

 その発言に麻耶は思わず笑みを零す。千冬にいたっては恥ずかしいのか頭を手で押さえていた。

 

「いい弟さんを持ちましたね」

 

「まったくあいつは歯がゆい台詞を言って……」

 

「でも嬉しいんですよね?」

 

 やれやれと忌々しげな顔をする千冬だが、その口元は嬉しいのか緩みきっていた。それを長い付き合いの麻耶は見抜いていた。だがそれがやぶ蛇だった。

 

「…………」

 

 ミシミシと危ない音が鳴り響く。殺人アイアンクローが炸裂していた。

 

「痛い、痛いです……」

 

 そんなやりとりをしている間に試合は終盤を迎えていた。

 

 一夏は試合を決めるべく白式にインプットされていた近接武装を取り出し、加速。迫り来る2基のビットをバターように切り伏せセシリアの目の前で静止、下段から上段への逆袈裟払いを放つ。その瞬間、だれもが一夏の勝利を疑わなかった。

 

 しかし、それがセシリアに届く寸前にブザーが鳴り響く。皆がポカン、と置いてきぼりになる。皆が呆然とする一方、その原因を作った一夏本人が一番フリーズしていた。

 

 何が起きたか理解できない。そんな表情を浮かべていた。

 

「あの馬鹿が…………」

 

「エネルギー切れですね……」

 

 麻耶と千冬は原因にすぐ気付いた。その片方の顔は悪鬼羅刹の如く鬼の形相を浮かべ、麻耶はその横で苦笑い。随分と呆気ない結果だった。

 

 

 

 

 

 

「次の試合は俺の番か…………」

 

 先ほどの試合を教師の少し横で観戦していたであろう零は次は自分の番だと席を立つ。

 

 放課後とあって代表候補生との試合は噂になり、瞬くアリーナは女生徒達で埋め尽くされていた。今も一夏を認め、褒め称えている生徒達。

 

「負けたけど……1週間で代表候補生に勝ちそうだったよ」

 

「凄いね。さすがは一夏君」

 

 誰も零に気にかける者はいない。ただの消化試合と思われているんだろう。

 

「相変わらずアウェイだな。まぁ…………今出せる全力を出すとするか」

 

 零が乗る機体は打鉄。第二世代の量産型で、安定した性能を持ち防御が高い機体。

 

 いざ打鉄に乗り込もうとした所で声がかかる。

 

「木下君、頑張って下さいね」

 

「山田先生…………わざわざ見送りありがとうございます」

 

「いいんです。この1週間頑張ってましたから……先生として一生徒に贔屓はいけないんですが、応援してますから」

 

 この1週間。零は山田先生にISの教えを説いて貰っていた。零は打鉄やもう一つの訓練機。第二世代ながらブルーティアーズと言った第三世代にも劣らない性能をもった機体ラファール・リヴァイブのISには乗った事がない。だからISについて指導をして貰った。

 

 もちろんそれは零が頼んだのではない。もともと誰もが自分に対して喜んで指導をして貰える訳がない、とたかを括っていた零にとって声を掛けてくれたのが山田先生だった。

 

 その機体での動き方。わざわざ訓練機が使える時間を取ってくれたりと、一から丁寧に教えてくれたことに感謝でいっぱいだった。

 

「忙しい合間に時間割いて貰いましたから、感謝してます」

 

「い、いえ、いいんです。私が教師として好きでやったんですから……それよりもやっぱり打鉄でいくんですか?」

 

「自分の動きじゃあの射撃は全ては避けれないですから……なら装甲が分厚く防御力がある打鉄の方が善戦できますからね。大丈夫です。特訓の成果を少しは見せてきますよ」

 

 不安そうな顔をする麻耶に心配させまいと声を張る零。そんな気持ちが伝わったのか、その表情が少し和らぐ。

 

「はい。みっちり教えましたから期待してます。堂々と戦ってきてください」

 

「はい。じゃあ行きます」

 

 返事を返し、アリーナに飛び出す零を麻耶は見送ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 アリーナに出た零は打鉄の性能と武装をチェックする。その武装は近接ブレード、アサルトライフル、手榴弾にスモーク弾と打鉄ではあまり装備しない武装。

 

(あれだけ一生懸命に教えてくれたんだ……この機体であろうとも唯では負けられないな……)

 

 負けは明らか、しかしそんな劣勢のはずなのだが思わず笑みがこぼれる。そして対戦相手のセシリアに視線を向ける。

 

「さっきまでの油断はもうないようだな……」

 

「ええ……全力をもって相手しますわ」

 

 先ほどの一夏の試合で油断は微塵となくなっていた。もう隙は付けそうにないな、と零は思ったのだが。

 

「…………一夏さん……」

 

 どこかうわの空のセシリア。顔を赤くして何かを思い出してるようだった。ブザーが鳴ってるため、遠慮なく零はライフルを発砲する。

 

「っ!」

 

「もう試合は始まっているぞ」

 

 きっ、と目を細め睨むセシリア。お返しとばかりに零にレーザーライフルを撃つ。それを零はぎりぎりで避ける。

 

「やりますわね。ですがまだ行きますわよっ!」

 

 2回3回と続けざまに的確に放たれるライフルを左右に交わすが、一部の装甲に掠りシールドエネルギーを減らす。

 

(やはり、機体が思い通りに動かないな……なら!」

 

 すぐさま零はアサルトライフルの引き金を引く。狙いはつけずある程度、ばら撒くように。

 

「そんな攻撃。私には効きませんわよ」

 

 それを華麗に交わしきるセシリア。お返しとばかりにライフルが火を噴くが今度は当たらずなんとか避けきる零。

 

(やはり避けた後の射撃はほんの少しだが精度が落ちてるな)

 

 零が狙っていたのは当てる事じゃなく、回避させることにあった。良く狙われて撃たれたら今の動きじゃ避けれない、なら相手の射撃精度を落とすことに重点を置いていた。

 

 現に今狙い通り、零はすべての射撃をぎりぎりで交わす。だがそんな状況もすぐさま覆えされる。

 

「何故あたらないの!?それなら――」

 

「やはり、そうくるよな……」

 

 距離を大きくとったセシリアはスターライトmkⅢだけじゃなく、後ろに4機の自立機動兵器《ブルー・ティアーズ》が浮かび、零に一斉に襲い掛かり火を噴いた。

 

 

 

 

 

 

「落ち着け麻耶」

 

 モニターを見ながら麻耶にそう吐く千冬。一夏もそれに頷く。

 

「確かに、劣勢だけど……なんで山田先生はそんなに慌ててるんだ?」

 

「べ、別に慌てていませんよ……」

 

 一夏の質問はもっともで麻耶は零がセシリアの攻撃が当たったたびにそわそわと慌てているため疑問だった。だがそんな一夏の疑問も千冬の一言で理解を得る。

 

「1週間、零にISを教えていたからな……自分の教え子だから気が気でないんだろう」

 

「え!?し、知ってたんですか!?」

 

「何年お前といると思っている。最近仕事を遅くまでしてたのもこれが原因だったんだろう」

 

 その千冬の一言に麻耶はあわあわと手を振っていたが、やがて図星のため俯く。

 

「別に悪いことじゃないだろう?何故そこまで隠す必要がある?」

 

「えっと……先生が生徒一人を贔屓する訳には行きませんから……」

 

 麻耶は教師故に、一人の生徒を特別に見る事を悪いと思い、なるべく隠していた。だがそんなことか……と千冬に一蹴される。

 

「別にそんなのいいだろう。アイツはあまり周りから良く思われてないからな……一人ぐらいそういう奴がいても悪くはない。それにそう思ったから声をかけたんだろう?」

 

「そ……その通りです」

 

「なら胸を張れ。それに見てみろ。ぎこちないが君の得意の動きをしてるじゃないか?」

 

 麻耶が顔を上げれば、見た目はお世辞にも綺麗とは言い難いがしっかりと自分が教えたIS独自の動きを再現していた。被弾は免れない。それでも4機のビットとスターライトmkⅢから放たれる砲撃の雨をスラスターを吹かし弧を描くように交わす零の姿。

 

 それにちょっぴり嬉しく思い笑みを浮かべる麻耶。

 

「そうですね。しっかりと胸をはってこの試合を見てます。頑張ってください」

 

「千冬姉が教師みたいに見える」

 

それを横目で確認した千冬も笑みを浮かべ視線を試合に戻した。もちろん一夏が吐いた一言をしっかりと聞き逃す事無く、手にもつファイルを頭に落とす事も忘れない。

 

 

 

 

 

 

(やはりきつい、か!)

 

 四方八方から次々と襲いかかるビットとスターライトを教えてもらった動きで避けるが、全てを交わす事は出来ず次々と被弾していく。

 

 もはや打鉄も全身ボロボロであった。

 

 このままじゃ手詰まりだ――――

 

 残りのシールドエネルギーをみながらそう思う零。攻撃しようにもその動作にも行けない。行ったとしても蜂の巣にされるのは目に見えていた。

 

(なら……やる事は一つ!)

 

「行くぞ!」

 

 被弾覚悟の特攻。

 

 弧を描いてビットとライフルの雨を掻い潜る。そのまま虚をついて一直線にブレードを盾に突貫する。

 

「甘いですわよ!」

 

 一斉射撃による砲撃にエネルギーがあっという間に削られていく。

 

(まだだ!まだ近づける!……よし今だ!)

 

 距離はまだ少しあったが、零はすぐさまブレード上に投げ放棄。すぐさま手榴弾を取り出し、セシリアに向かって投げる。無論セシリアがそれを黙って見てるはずもなく、すぐさま回避行動をとる。しかしあろうことか零は左手に取り出していたアサルトライフルを躊躇なく自分の投げた手榴弾に打ち込む。

 

 零とセシリアの中間で爆発が起こり零もセシリアも互いに吹き飛ばされる。

 

「でたらめですわね!まさか自分も巻き込むなんて……これは!?」

 

 悪態をつきながらも体制を立て直すセシリア。しかし周りが見えない。

 

「まさか、先ほどのはこのために!」

 

 周りは煙で覆い包まれており、視界が防がれる。いくら便利なハイパーセンサーがついていようが対応するには数秒の猶予がいる。それを零はついた。

 

 そんなセシリアの焦りをつくように突如零が煙の中から現れる。全身がボロボロで所々火花が散っていた。それでも両手にブレードを持ち、セシリアに襲い掛かる。

 

「落ちろっっ!!!!」

 

 もはや機体も持たない、これが零の最後の攻撃。

 

 上段から力の限りブレードを振り下ろした――――――

 

 

 

 

 

 

「…………危なかったですわ」

 

「やはり近接武装も積んでいたか……」

 

 零の渾身の一撃はブルーティアーズの近接武装インターセプトにより阻まれ、機体を傷つける事は出来なかった。

 

 零とて考えていた。いくら遠距離の機体だろうと1つくらい近距離の武装はあるんじゃないか?と。だけどそれを確かめる相手は零には誰もいなかったのだ。山田先生には生徒の情報を聞くのは悪いと思い聴けず、結果は最悪の形で現れた。

 

「ひとつ聞いていいですか?」

 

「なんだ……?」

 

「何故捨てた筈の近接ブレードを?」

 

 セシリアのその問いかけに、なんだそんなことかと零は苦笑い気味に答える。

 

「俺の動きじゃ、どう頑張っても正攻法じゃ近づけないからな……近づけてもブレードが届かない近距離から中距離。それなら奇策を使うしかなかった。その奇策もぎりぎりまで近づくのが前提だった。一瞬の虚をつき無謀な特攻。相手からしたら、さぞ……良い的だろう?」

 

「ですわね……わたくしも勝負を捨てたかと思いましたもの」

 

「ある程度近づいたらブレードを上に高く投げ捨て、手榴弾を自分で爆発させる。もちろんその時、スモークを巻いていたがな……体制を立て直したとき、視界が塞がっていたのなら銃は撃てないだろ?俺はすぐさま自分で投げたブレードが上から落ちてくるのを拾い、そのまま切りかかっただけ。単純な話だろ?」

 

 簡単にそう言ってのけた零だがそれはセシリアの想像を超えていた。全て自分は相手の手の平で動かされていたことに気付く。そしてその奇策を悟らせない、行動や、それを実際に成功させた零の実力にただただ驚かされていた。

 

(これでISを十分に動かせたならどれだけ強かったことですか!!!)

 

 なんとももったいない。そんな事をセシリアが思っていることに微塵も零は気付かない。

 

「さあ……煙も晴れてきたんだ。さっさとトドメをさせ」

 

 零の言った通り段々と煙ははれていく。しかしその零の言葉にセシリアは訝しげな表情を浮かべる。

 

「何をいってますの?このまま負けを認めればいいでしょう?」

 

「これでいいんだよ。それに煙が晴れた後、何事もなく負けを認めたらまた騒がれるだろ。だらしないやら、だから男は……と。ならまだ最後まで精一杯戦って負けたと言う方が示しがつくだろ?」

 

「ですが……わたくしに傷をつけ十分にあなたは善戦を――――」

 

 セシリアの問いかけも零は頭を振りそれを否定する。

 

「煙で今の攻防を観客は見れてない。だからこれでいい。早くしろ」

 

「…………わかりましたわ。貴方がそういうのであれば……」

 

 スターライトmkⅢの銃口が向けられる。

 

「たとえ、貴方が世間から疎まれようともわたくしは貴方を認めましょう」

 

「そりゃどうも」

 

 セシリアの賛辞を受け取る。それを合図に砲撃が零の乗る打鉄を貫き、その衝撃で地面に撃墜する。

 

 ブザーがアリーナ全域に鳴り響き、セシリアオルコットの勝利により周りは歓声が鳴り響いていた。

 

(これでいい……)

 

 零はすぐさまISを解除。疲れた体に鞭を打ちアリーナを後にする。

 

 その後ろ姿を簪が怪しげに見ていたのを零は気付けなかった。 

 




はい。三話を投稿しました。可愛い簪。反則です。ISのキャラは皆可愛いですね。もっと上手くかけるようこれからも精進していきたいですね。

楽しんで頂ければ幸いです。


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第四話「疑惑と目的」

 アリーナを出た後、零を待ち構えていたのは目を細めこちらを睨む千冬とどこかおどおどする麻耶だった。その後ろには一夏や簪も着いて来ていた。

 

「どうかしましたか?」

 

 その問いかけにより一層千冬の視線が鋭くなる。隣にいる簪の視線も同様であった。

 

「最後……何故あんな結果になった?」

 

「あんな結果とは?」

 

「煙の中だと見えないとでも思ったか……解析すれば煙の中も見える。もう一回聞くぞ。何故あんな結果になった?」

 

 やはりばれたか、と内心で悪態をつく。おおよその予測は付いていた。周りを見渡せば山田先生も気になっているのかチラチラと視線を向けてくる。簪も知りたくてココに来たんだろうと簡単に推測できた。

 

 言い逃れは出来そうにない。そう悟った零は溜息をつき、重い口を開く。

 

「セシリアにも言いましたが……あのまま負けを認めてるよりああやって負けた方がまだ良いかと思いましてね」

 

「良い負け方だと?」

 

「どういうことだ?」

 

 互いに同じ反応をした千冬と一夏にさすが姉弟と思いながらも零は自分の考えを述べる。

 

「自分で言うのもなんですが……自分は嫌われ者ですからね。あまりいい印象を持たれていません。あのままただ負けを認めたとして、周りはそんな自分を罵るでしょうね。簡単に負けを認めて情けない。これだから男は……とね。なら最後まで戦って負けた方がまだマシだと思いました」

 

「何故だ、確かに動きはチグハグであまりいい機動はできていなかったが、それでもセシリアの攻撃を最小限の被害に収め、自分が今出来る最善の事を貴様はしていたはずだが……」

 

 千冬とて教師の端くれだ。しっかりと零の動きを見ていた。チグハグの機動を補うために相手が射撃を打つ前に予め先に予測しての回避行動。避けれない攻撃は最低限の被害を抑える動き、一通りの作戦を実行する実行力。

 

 それはISが思い通り動かせないなりの最善の戦いだったと千冬は零の戦闘を評価していた。だがそれを零本人が否定する。

 

「無駄ですね。それでも最初から最後まで終始セシリアの圧倒的な優位は変わらなかった。結果もこの通りです。もしこれが貴方の弟さんなら頑張ったと称えられたかもしれませんが……自分は適性Fで評判も良くはないですからね」

 

 事実。そうでしょう?と語る零。事実アリーナにいる観客はセシリアの勝利を祝い、その第三世代の性能の強さに目を奪われている。誰も零の事など頭から忘れ、健闘を称えている人物は皆無であった。唯一の救いは零本人の悪口がないだけまだ良い方であった。その光景を見て全員が零の言った意味を理解した。

 

 千冬がしたのはあくまで教師としてであり、IS操縦者としての評価。しかし、零をよく思ってない先入観をもつ生徒達は少し善戦したくらいじゃ認めるはずがない。

 

「だから最後、セシリアにトドメをさして貰ったということか」

 

「そうです。まぁ……本当はすぐに負けるつもりでした。1週間前は」

 

「何?」

 

 突然の零の負ける発言に千冬はもちろん、麻耶や一夏、簪も目を見開く。何故という感情でいっぱいなのだろう。

 

 ただそれは零にとっては当たり前の事。もともと評価の低い自分の事だ。周りから期待もされていない。ならば、すぐに負けたとしても、たいして評価は変わらないと零は考えていた。それにあまり目立つと色々とまずいという理由ももちろんあった。それでもここまでした理由は、

 

「今回精一杯頑張ったのは山田先生が自分の時間を削ってまで指導してくれたからです。だから一矢報いたかったんです。だから自分はこの結果で満足してます」

 

 すべては山田先生が精一杯指導してくれたため、報いるという意味で真剣にしたに過ぎない。

 

「え、わ、私ですか。そんな私はそんな大層な事は……」

 

 そんな一生徒の気持ちに麻耶は恥ずかしいのか、手に持つノートで顔を隠す。それでも隠し切れずこれでもかというほどリンゴのように顔全体が赤一色に染まる。恥ずかしいのかふらふらと今でも倒れそうな麻耶。

 

「はぁ…………まぁいい。もう言っていいぞ」

 

 そんな麻耶の様子に千冬はすっかり毒気を抜かれたため零を解放する。馬鹿馬鹿しくなり、疲れたのだ。

 

「失礼します」

 

 なんとか世界最強を納得させる事を成功させた零は頭を下げその場から立ち去る。

 

 

 

 

 

 

「これがさっき放課後で戦闘していた記録です」

 

 IS学園の生徒会室――――

 

 その場所で一人の女性の声が室内に響く。女性が見ているであろう画面に映るモニターでは先ほどの試合。零とセシリアオルコットが戦ってるシーンが映し出されていた。

 

「何回見ても異常はないのでは?」

 

 その女性――――布仏虚はもう数十回見ている映像に何ら違和感は感じられないためそう声をかけた。

 

 その疑問にこの部屋の主――――生徒会長、更識楯無は首を頷き肯定する。

 

「そうねー。実際にアリーナでも見ていたけれど、特に変な所はなかったわね……ただ」

 

「ただ?」

 

 そのもったいぶる発言に従者の虚は先を急かす。

 

「戦闘が手馴れすぎてる。たしかに動きはたいして良くはないわ。でも、戦い方が初心者っぽくない」

 

「ですが、彼はまだISにはそこまで乗ってないはずです」

 

「んー。ISでの戦い方って意味でいった訳ではないわ……人としての戦い方かしら」

 

 その楯無の言葉に虚は再度映像を見直すが、分からず首を傾げる。そんな困った自分の従者の顔をニコニコ観察しながら楯無は答える。

 

「まずはここね……」

 

 虚からリモコンを受け取り、映像を止めた場所は最初のセシリアの射撃を零が避ける動き。

 

「どこも変な所はないですが……?」

 

 写っているのは一見どこも変わりは無い、至って普通の回避シーン。

 

「彼、相手が自分に照準を定めて指で引き金を引く直前、その絶妙なタイミングで機体を動かしているわ」

 

「それは無理では?」

 

 銃口を向けられて避けるのなら虚にも分かる。しかし、引き金を引く瞬間に避けるなど、出来る出来ない以前にしようともしない。リスクが高すぎる。それが虚が叩き出した結論だった。

 

「そう?なら全部スローで見てみる?どの映像見ても全部そのタイミングよ」

 

 確認のため、映像一つ一つをスローで再生する。結果からいえばその通り。どの映像もその動き出すタイミングが全部一致していた。セシリアが射撃をした回数、合わせて30数回。そのどれもがすべて一緒だったのだ。

 

「まさか……こんなことが」

 

 あまりの驚きで言葉を失う虚。楯無は真剣な表情のまま続ける。

 

「私もスローで見るまで気づかなかった。気づいたのは偶然だったわ。それにISであの動きをしていたのは生身でそれをやっていたからじゃないかしら?それをあれだけ同一のタイミングでこなすのは相当そういう事に遭遇していたって事になるわね。彼にとってはこれは日常茶飯事だったのではないかしら?」

 

 おそろしいわね。と笑う主の楯無に虚は笑えない。

 

「笑い事ではありません」

 

「まあまあ、いつもそんな無愛想な顔してたんじゃいつまでたっても彼氏できないわよ?」

 

「死にますか?」

 

 場を和ませる役割を持った台詞。しかしそれは虚にとって禁句だったらしい。

 

 その言ってはいけない一言に虚からは尋常じゃない見えない何かが見えだす。言ってしまえばそこにいたのは修羅。思わず楯無は冷汗が垂れる。やりすぎた。その一心だった。

 

「じょ……冗談よ!」

 

「分かりましたから早く続きを説明してください」

 

 いつもの状態に戻った虚に楯無は安心して続きを説明する。

 

「それに、違和感がないのがそもそも可笑しいのよ」

 

「違和感がないのが、可笑しい……ですか」

 

「最後の彼の攻防見てたよね?」

 

「はい。ブレードを盾に突っ込み、それを放棄、右手には手榴弾を放り投げ、その時にさり気なく左手に持ったスモークを落として置く。そしてライフルでの爆発に乗じて煙の中からブレードを取り切りかかるですよね?」

 

 専用機を持っていればその機能のハイパーセンサーを起動すれば煙の中もすぐ見える。セシリア本人は手榴弾の爆発で煙の発見が遅れ、センサーもそれに最適するためには数秒の猶予がいたが、観客席から見ていた専用機持ちならば、最初から煙を見ていたため簡単に中は見えたのだ。

 

「そう、それでも気付かない?」

 

「いえ?一連の動作が素晴らしいとは思いますが……」

 

 その言葉に楯無はパサリ、と扇子を開く。その扇子には『柔軟』という文字。

 

「頭が固いわよ。貴方も彼の経歴を見たんだから分かるでしょ?ISの操縦は初心者。それに加えてただの一般人。そんな人物がこんな動作を違和感なく、完璧に出来ると思う?出来るはずないわ……それを知る私から見たら違和感バリバリだったわよ」

 

 あの一連の動作を見たとき、楯無は思わず鳥肌がたった。あまりにも簡単にそれを成し遂げる彼自身の技量に。あまりにも自然な動作。そう思えるのは毎日それを扱ってきたという証拠に他ならない。言ってしまえばあの精練された動きは彼にとっては当たり前に出来る動き。むしろISがそれを台無しにしてるとも感じとれたのだ。

 

「それならなおさら、妹様が危ないと思いますが……」

 

「そうよ!」

 

 バン、と机を叩く。それはやりきれない楯無の怒りを表していた。

 

「彼の部屋割りは私のはずだった……それは承諾してくれたはず。なのに……」

 

 ギリ、と唇を噛み締める。

 

 彼の相部屋はもともと自分のはずだったと楯無は思う。最初から彼は怪しかった。経歴を弄っているので有れば、それを見破る力があると楯無自身自負していた。しかし、彼の経歴はそれ以前の問題だった。生まれてから16才までの情報は一切書いておらず。1年ちょっと高校に通ったぐらいの情報しか書いてなかった。

 

 それは疑ってくださいと言ってるもんだと楯無は鼻で笑った。しかし、徹底的に調べてみれば本当に情報通りに彼の情報は無かった。何一つだ。本人に問い詰めても覚えてないの一点張り。医者に見てもらった診断結果も記憶喪失としっかり紙に示されていた。結局分からず仕舞い。一切謎な人物。それが楯無にとっては不気味でならない。

 

「たしかに承諾を貰ってましたね……ですが、一体誰が?」

 

「あの人しかいないわ。彼の事も何か知ってるんじゃないかしら……」

 

 頭を抑えながらも楯無はあらかじめ予想はついていた。

 

「あの人ですか?しかし、何故です?」

 

 互いにある人物が浮かび上がる。それは実質IS関係を取り仕切っている事実上の運営者。

 

「それが分かれば苦労しないわ。あの人の考え方は読めないわ……」

 

 思い出すだけで心身ともに疲れる。

 

 人心の掌握、交渉を得意と自負する楯無。しかしあの人物の考えは楯無をもってしても読めなかった。年を重ねた功か、自分の行動が全てのらりくらりとかわされ何一つ情報をえられず仕舞い。ニコニコと対応する姿は余計に腹立たく、そんな感情すらも分かってるかの如く煽って来るのだから、怒りを通り越して呆れてくる。

 

「では、どうしますか?」

 

 八方塞がり、そんな状況の中。虚の質問に楯無はすでにどうするかを決めていた。

 

「あの人に聞きに行くわ。それが無駄骨なら……私が直接、彼と接触して正体を確かめるわ」

 

 堂々と言い放ち扇子を広げる。その扇子には――――「覚悟」

 

 その文字が刻まれた扇子を広げ不敵に笑う楯無であった。

 

 

 

 

 

 

『そっちの調子はどうだ?』

 

「あまり良くは無い。相変わらず変わらない」

 

 今現在、携帯を片手に持ち部屋で電話をしていたのは零と木下博士だった。

 

『そうか?私としては君があそこまで打鉄を動かせた事に驚きだがな。随分と頑張っているじゃないか』

 

「……何故それを知ってるんだ?」

 

 さっき行わなわれた試合。それも3時間前の出来事をまるで見ていたかのような物言いの博士にさすがの零も疑問を感じた。たしか今は本社にいるはずだが、と零は思考するがそんな考えをお見通しなのか、

 

『なに、前にも言ったが私の知り合いに頼んだだけさ』

 

「いや……まあ、もういい。それより何か用か?」

 

 簡潔に答える博士。だがそれは頼んでどうこうなるものじゃないもののはずだと思うが零は割り切った。博士の行動に一々驚いてたらきりが無いからだ。思考を放棄しそう割り切る。何故なら電話の向こうでそんな自分の悩む姿を笑っている様な気がしたからだ。その知り合いはそれなりの地位の人間だということだけ頭においておけば良い。

 

『ふむ。面白くないな……』

 

「……用がないなら切るぞ」

 

 怒りが蓄積される。あと少しでも溜まれば零は博士の所に乗り込むだろう。それぐらいの鬼気迫る物が今の零にはあった。

 

 そんな零の気持ちを住み取ったのか、博士は用件を語る。

 

『近況報告と忠告の電話をかけたまでさ』

 

「忠告?」

 

『そうだ。こちらも映像で先の戦いを見たが、普通の人間には気付かないが優秀な人物なら君の異常に気付く。実際に知り合いからもそのことで色々聞かれたと言われた。まあ……本人は楽しそうだったがな』

 

 博士が思い出すのは先ほどのやり取り。

 

 いやいや困りましたよ。若い女性に迫られてハッハッハと困るどころか逆に嬉しそうだった知り合い。その笑顔が非常に憎たらしい。それだけならまだ良かった。しかしまだ飽き足らないのか、まだまだ私もモテ期が来てるんですかね?と調子に乗っていたのですぐさま電話を切り、奥さんに連絡したのは言うまでもない。

 

「善処はする」

 

「そうしてくれ。君の立場はいつだって危うい場所なのだからな……」

 

 IS適正が低くISに乗れるだけの人物。価値はないように思えるが……誰もが持っていないたった一つの才能。男性ながらISを動かせるという力。それはこの世界を変えようと思っている、または女性に蔑まされる男性達にとっては喉から手に欲しい貴重なサンプルだった。解剖して世界のために役立てようとも考える輩はいくらでもいる。ISさえ動かせればこちらの物だというように。しかも都合の良い事に彼の後ろ盾は何もない。狙ってくださいと言っている様なものだった。

 

 しかし、だからこそ――――

 

「アイツら……亡国企業にとっては良い餌になるだろうさ」

 

「そうだ。だからこそ、君は一般人のままでいて貰わないと困るのさ。IS学園に亡国企業のスパイがいても可笑しくはない。疑われると色々やっかいだぞ」

 

 良くも悪くも傭兵としての零の戦場での評価は高く、同じ戦場を戦う兵士や傭兵達からは有名であった。

 

 かつて零がいたフェンリル部隊。各国に突如現れては国が極秘に開発する兵器や、基地などを襲い破壊する。目的も何もかも不明であり、世界中の国の軍や上層部が警戒するほどの危険部隊。それもそのはず国の極秘中の極秘であるため、それ相応の部隊を守りにおいているにもかかわらず、その部隊はそれを容易く殲滅する。現場に増援が到着した頃には、そこにあるのは破壊された施設と味方の死体のみ。 

 

 そんな圧倒的な力を持つ部隊の長に立つのが零だった。もちろんその事を知る人物は皆無に近い。その部隊が実際にあると知っている国や人物は極少数。だから傭兵や軍の間には噂だけが広まったのだ。

 

 曰く、幻の部隊がある、と。長に至っては一人で部隊を殲滅した。目を紅く輝かせ獣のように戦場をかけ次々と敵の命を刈る姿は青い狼……フェンリルの様だ。と様々な噂が飛び交う。

 

 もちろんそれを知っている国は居場所を突き止め危険を承知で零本人を勧誘に来た事もある。だから目立つと正体が突き止められる場合がある。一度接触してるだけあって警戒はして置かなければ行けなかった。

 

「それは理解している。でも、本当に危険になった時はアレは使えば良いのか?」

 

「それは君にまかせる。君の人生だ。好きにするといい」

 

「助かる。また休みの時にそちらに寄るよ。色々教えて貰ったとはいっても、本業の人にアレは見てもらった方がいいからな……」

 

『それは助かる。こちらとしても新しい物が出来たからな……』

 

 クックックとどこか不気味に笑う博士。その声を聴いた零は顔が引きつる。博士達が作るものにまともな物などないと本人が理解しているからだ。数々の実験が脳裏に浮かび上がる…………。冷や汗が止まらない。

 

「それは……俺に害はないよな?」

 

『何を疑っている。ある訳がないだろう?』

 

「何を当たり前の事をみたいに言ってるが……何回も死にかけたんだがな……」

 

『そうか……。と呼ばれたみたいだ。また追って連絡する』

 

 零の反論を無視して軽い挨拶をして博士は電話を切った。何かやるせない気持ちが零の心を占める。脳裏に浮かぶは、累々と怪しい笑みを浮かべ手を振って歓迎する研究大好きなオタク共。

 

 零自身。アレの整備をしてくれたり、武装を開発してくれたりするのはありがたいし感謝しているのだが、少し……いや、大分ネジが外れているため零本人ががあそこに行くといい玩具が来たと言う顔をされるのが零の悩みの一つだった。あの嘘偽りのない子供の様な笑顔が逆に不気味で怖いのだ。

 

 深く考えても仕方ないと首を振る。その時はその時だ、と腹を括った零は明日の用意をするのであった。

 

 

 

 

 

 

 何百年前。とある国があった。その国は他国とは違い、一つの国に三人の王様がいた。その国一つを三等分として三人の王様がそれぞれの領土を取り仕切り、互いに協力しあい、同じ国でありながら違った技術や文化などを見せ合い、交流し国の発展を高めていた。だからか技術発展が他を寄せ付けず圧倒的であり、最先端をいっていた。

 

 それぞれの王様も仲が良く自分達の文化や技術をお披露目したりと王様が三人いるのにもかかわらず纏まり、とても平和で良い国であった。そんな国はピスリング。各国からはピースリング、平和の輪と呼ばれまさしく理想郷とも言えた。

 

 その平和も長期に続く。もちろん途中で揉め事もあり険悪になった時もあったが、それでもひたすらこの独自の政策を貫き通してきた。だがそれも永遠に続く事はない。

 

 一人の王様が突然病気で亡くなり、幼い子供が王を即位した事により歯車が狂い始めた。その幼い子供が王となり数年の月日が経ち、幼き子供の王が突然二人の領地を治める王に宣戦布告を宣言したのだ。理由は今もわからず仕舞い。それから二人の王は協力を結びなんとか自分達の国を守ろうと抵抗したが戦力は互いに拮抗し、次々と人が死に民は嘆く。終わらぬ戦争に国も段々と腐り始めていく。それでも戦争は終わらず国が腐敗していく中、戦争の技術だけは恐ろしいぐらいに発展していく。技術だけが一本立ちになり互いに疲弊を重ね、死亡者だけが増え続ける。

 

 もはや国の秩序はなく、理想郷と呼ばれた国は跡形もなく、何百年経った今でも絶えず戦争は継続している。美しい文化は廃り、緑豊かな自然は荒野となり、美しい町並みは瓦礫に埋もれ、青い空は血の様に紅く染まる。人の絶叫、絶望、まさしく地獄そのもの。その様子から今では死の楽園とまで呼ばれる。

 

「これが二年前までのこの国について大体のあらすじだ」

 

 IS学園の二時間目の授業。パンパンと教科書を叩きながらとピスリングについて、授業の一環として織斑千冬は語っていた。さらに千冬は続ける。

 

「諸君らも知っていると思うが、この国はずっと戦争を続け他国を受け付けない閉鎖的な国であったが、突如二年前その国は滅びた。原因は不明。その国を治めていた人物ももはや死んだと言われている。何か質問はあるか」

 

「その国はISは無かったんですか?」

 

 その質問に手を上げて告げる一夏。その何も理解してない発言に溜め息をつきながら千冬は説明する。

 

「そんな国にISなど与えられるはず無いだろう。それに閉鎖的な国だと言ったはずだろう。こちらが関わなければ向こうからは何もして来ない。内部の状況も良く分かっていない」

 

 千冬の説明通り、外の部外者では中の国について何も分かっていない。内部に入り込んで初めてその実態を知る事が出来る。しかし、それには相応のリスクを伴う。その国に入るだけでも難易度は高い。腐ったとは言え、技術は一流。兵の実力もある。たとえ入ったとしてもあるのは死の危険性が常に身に付き纏う。だから他の国も簡単には入れない。確かにISという圧倒的な技術を世界は手に入れはしたが、それはその一点だけ上回ってるだけに過ぎず、その他の技術はあちらの方がまだ高いと言わざる終えない状況であった。現にその技術欲しさに何人もの優秀な人材を各国は秘密裏に送り込んだが帰ってきたのは半分以下であり、大した技術や情報を得られず仕舞いであった。

 

 進んで優秀な人材を失うわけには行かない国は関わらないのが一番だと理解したのだ。

 

 ちなみに情報力がある国はそれがISによって滅ぼされた事を理解している。その情報を知っている国のIS関係者も地位が高い人物には教えられているだろう。現にIS最強のブリュンヒルデ。織斑千冬にもその情報は日本から伝えられている。どこの国の所属でもない謎のISが現れてその国に終止符を打った事を。

 

 それが知られると世界は混乱の渦に陥るため極秘情報となっている。当たり前の事だが、所属不明のIS4機が一つの国を滅ぼした。そんな事を発表したなら世界はかつてないほどの不安に包まれるだろう。特にISを持たぬ国は絶望的といって良いだろう。最先端の技術を持つ国がISによって滅ぼされたと言うのだから。ISを持たない国やどの国も命を握られているのだ。だからこそ、それを知っている国はもちろん千冬も黙認している。

 

「分かっているのは最先端の技術を持ち、兵が強いと言う所か。今の所噂でしかないが、各国で行方不明になってる数々の人間はこの国に拉致されていたとも言われていたな。証拠はないがな……」

 

「では、何故。最先端の技術と兵が強いと言うのが分かるんでしょうか?誰も内部を知らない国なんですわよね?」

 

 優雅に席を立ち発言したのはセシリア。その発言はたしかに的を得ていた。他の生徒も同調する様に頷いている。

 

 その質問に千冬は一瞬考える素振りを見せるもやがて口を開く。

 

「これはあの国が滅びたから言えるが……向こうから来た人物がいたからだ。教科書には載ってないがな。何十年前の話だが向こうの地位の高い人間が数人、他の国に流れたらしくその時貰った技術は相当先を行っていた。そして兵も強者だったらしい。現に各国に流れたその人物達はその流れ着いた国で高い能力を遺憾なく発揮しその国で高い地位を手に入れた」

 

 事実。アメリカやドイツなどはその恩賜を受け取っている。その人物の知能や持ち帰った技術を最大限に活かしあの国以外で常に先へ進んでいた。現にISにかんしてもアメリカやドイツの機体性能は他の国よりレベルが高い。もちろんそれは天才科学者束博士を除けばの話だが。

 

「他に質問はないか?ならこれでこの授業は終わりにする。次はISの授業だ。遅刻だけはないようにな」

 

 生徒達に連絡を済ませ立ち去る千冬。

 

 それを期に生徒達は次のISの訓練があるため、着替えをするために移動を始める。

 

 そんな中、零は誰も居なくなった教室で呆然と椅子に座りながら佇む。先ほどの自分自身がいたであろう国の話を聞いて懐かしさがこみ上げ友の言葉を思い出していた。

 

『今が永遠に続けばいい?この日常を永遠に?おいおい!あいかわらずの刹那主義者だな。どれだけ祈ろうが、ずっと続くなんてことは、ありえねえんだよ。だいたいよォ。お前自身がそれを一番分かってんだろ?どれだけ力を手に入れても、こぼれ落ちる物があることおよォ。お前の大好きな今の日常も次の日には壊れてるかもしれねえだろ。……んな顔すんなよ。たとえ話だろ?それに、常にお前の先を行く俺が居るんだ。そう簡単にお前の刹那は壊れないだろ。要するにだ、あんまりあいつ等に心配かけさせるな。いくら優しい俺でもあいつ等を宥めるのは大変なんだからよぉ』

 

 かつての言葉が零の頭をよぎる。相変わらず親友の言葉は恐ろしいくらい的を得ていた。永遠なんてものは絶対にありえない。

 

 現に、あの望んでやまなかった仲間達との優しい日常の刹那は砕け、残ったのは憎悪のみ。

 

 自分の刹那を奪ったあいつ等を許さない。許してなるものか、と零はギュッと手に力を込める。

 

 かならずあいつ等を倒す。と改めて零は誓いを胸に、席を立ち教室から出て行った。

 

 

 

 

 

 




 今回は説明回ですかね。早く楯無やら簪、ラウラの出番を増やしたいですね。次あたりでラウラ登場までは行きたいですね……無理そうですけど。出来るだけ早く投稿出来るように頑張ります。

 


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第五話「世界の風潮」

 

 四月の下旬。入学初日から女子生徒が男子生徒を、詳しく言うと一夏目的に集まっていたのだがそれもようやく落ち着きを取り戻していた。もちろん一夏本人が近づけば嬉々満々に一夏に寄っていくだろうが。

 

 一方、零の方は相変わらず周りからは冷たい待遇であった。いや、むしろこれが今の世界の正常な反応なのだろう。むしろ一夏だけが特別と言えた。

 

 この世界の原因を担った世界最強、ブリュンヒルデの異名を持つ織斑千冬。一夏は全女性から尊敬を持たれているブリュンヒルデの弟なのだ。他の男子と違い差別を受けるはずがなかった。むしろそういう立場だからこそ、今の歪んだ世界の醜さを本当の意味で理解していないのだろう。 

 

 現に零が2年、この国に来てからはあまりにも酷い光景を見せられていた。

 

 零がいたであろう戦場は男女差別などある訳がなかった。強いものが生き弱いものが死ぬ。弱肉強食そのもで世界の心理の中で生きぬいてきた。だから日本に来て驚きを隠せない。力を持たぬただの女の弱者が、当たり前の如く強者に強い態度を取ってそれが平然と認められる現実がそこにあったのだから。

 

 そしてそれを常識として誰もが仕方ないと受け入れている現状が理解不能だった。男子に暴力を振るおうが殺そうとしようとも、圧倒的に許され、男と言うだけで平気で蹴落とす不条理。

 

 酷く歪みきった世界がそこにはあった。

 

 そんな場所に二年も居ればさすがの零も今のこの状況には慣れていた。というより元から気にしてなどいない。

 

 そんな一方的な思想を持つ者に興味すらない。

 

 同じ人間ではない、別の生き物だともはや割り切っていた。自分や仲間に害がなければ基本何もしない。ようするに人の形をした何かが喋ってるとしか思わなかったのだ。

 

 もちろん突っかかってくる女性は沢山いたにはいたが殺気を向けるだけで回避していた。

 

 戦場を知らぬ平和に育った人間が殺気など耐えられる訳無く、怯え影で彼の陰口を叩くぐらいしかしなかった。

 

 IS学園に来てからもそれは変わることはない。周りの見下す視線と陰口など目と耳に入るのは不快だが、大した事はないと気にせず平然と過ごしていた。もちろんストレスはかなり蓄積されてはいるが。

 

「やっと終わったか……」

 

 チャイムが鳴り響き、今日の授業が終わる。それを期に部活に行く生徒、雑談や一夏に集まる生徒など、それぞれが各自行動する中、零はいち早く鞄を持ち教室を出た。途中で一夏と目が合うが気にしなかった。

 

 どうせ男同士夕食を取ろうと誘われるのが目に見えていたから。悪気はないのだろうがこちらも事も考えて欲しいと思わなくもない零である。

 

 その行動がどれだけこちらの立場をより悪くさせるのを気付いてないのだろう。

 

「ふぅ」

 

 廊下を歩きながら人がいない事を確認しやっと零は肩の力を抜いた。

 

(就任パーティーには行かない方がいいだろうな……)

 

 それは一夏がクラス代表に決まったことで、盛大に祝おうと1組女子が決めたことであった。夕食後の自由時間。1組全員で織斑一夏の就任パーティーが行われる予定である。

 

 先ほどの雑談もそれに関しての事だろう。しかし零本人は行く気がない。自分が行ったとしてもあまり歓迎されないのが見て分かるからだ。わざわざ、反感を買いに行くほど暇でもなかった。

 

 寮に着いた零は部屋に入る。部屋に常備してあるパソコンは使わず、自分のPCを取り出し立ち上げる。もちろんそれは情報を見られないための処置。学園用のパソコンを使う物など自殺行為に等しい。

 

 立ち上げた零は手際よくキーボードを打ち始めた。

 

 

 

 

 

 

 「まぁ、こんなものか」

 

 椅子に寄りかかり横にあった水を飲み干す。

 

 零が打ち込んでいたのは、セシリアとの対戦したときについての操縦者としての戦闘の報告だった。

 

 本当ならばイギリスのブルーティアーズについての事を詳しく打ち込む予定だったのだが、博士はその試合について見ていたであろう台詞を口にしていたために操縦者としての意見だけを書き込んでいた。

 

「しまったな、もうこんな時間か」

 

 パソコンを閉じ時間を見れば夕食の時間が終わる頃、丁度一夏就任パーティーが始まる時間帯であった。

 

 間が悪い。そう思い今日はこのまま寝るかと思っている所に部屋のドアが開く。

 

 (こんな時間に珍しいな)

 

 ここに来て2週間近く経つが、彼女が今までこんな早い時間に帰ってくる事など一度もなかった。シャワーだけを浴びに帰るだけであり、後は皆が寝静まった夜遅くに来ることが多い。帰らない事も多々ある。

 

 そんな人物がこんな時間に訪れる事に少し驚いていた。

 

 零の同部屋の彼女、簪は驚く零を余所に部屋に入り手に持ったトレイをそっと机に置く。置かれたのは日本食をメインにした湯気を放つ夕食だった。

 

「わざわざ取ってきてくれたのか?」

 

「ん。本音が私に零は来てないって言ってたから」

 

 それは彼女にしては珍しく、IS作業を早めに切り上げ夕食を取っていた。その最中に本音が来て、零が来てない事を伝えたのだ。それを耳にした簪は食事を済ませてこうして食べ物を持ってきてくれたのである。

 

「そうか、布仏さんには明日感謝しないといけないな」

 

 そう言葉にして目の前に置かれた和食に手をつけ始める零。お腹をすかしていた零は手が進むのが早かった。その様子を椅子に座り眺める簪。

 

「ふぅ……それでどうかしたのか」

 

 食事中、ずっと自分を見ていたのが気になっていたが、特に声をかけてこないため出来るだけ急いで食事をすませた。

 

「1組は今日パーティーだけど、零は行かなくていいの?」

 

「あぁ、そのことか」

 

 首をかしげ問いかける簪に思わず苦笑いを漏らす零。あまり触れて欲しくない話題であった。

 

「あまり女子の前で言いたくはないんだが……それでも聞くか?」

 

 その問いかけにコクリと頷く簪。

 

「俺が居れば場の空気が悪くなるのが、まず一つだな。自分はブリュンヒルデの姉を持つ織斑一夏とは違って唯の一般人。自分で言いたくはないが……客観的に見ても顔もあまり冴えないからあまりいい印象をもたれてない。二つ目はISの実力だ。ニュースで見たとおり適正も皆無と言っていい。はっきり言えば乗れるだけの人物だ。そんな人物が何の努力もせず此処にくれば嫌でも女子に非難の目を食らう」

 

 IS学園に入るにはそれこそ血の滲むような努力をしないと入れない。それほど倍率は高い。IS学園に入るだけでもエリートと呼んでも遜色ないレベルであり、その為だけに小さい頃から努力している女性も中にはいる。

 

 それでもIS学園の半分が日本人を占めてるのはISを開発したのが日本人だからだろう。教材も説明も何もかも日本語が標準だから、他所の国からしたら日本語を学ぶだけでも相当の努力が必要になる。そんな難関を越えてでも居るのがIS学園の生徒なのだ。

 

 そんな中、ただISに乗れるだけの男性が入ればもちろん良い思いはしない。むしろ不愉快に感じているだろう。現にその非難の視線が多いのも事実であった。

 

「でも、そんな人が全員って訳でもないよ」

 

簪の言う事は正しい。全員が悪意を零に向けている訳ではない。中にはそれを気にせず話かけにくれた人物達がいた。本音もその中の一人。

 

「たしかに全員って訳じゃない。話して見れば優しい人達だと理解出来る。ただやはり、女尊男卑が当たり前になってしまった時代の風潮だろうな……。少なくとも対等の扱いではないな。言葉の中に無意識に下に見てる台詞がある。まぁ、対等にみてくれようとしてくれてるだけで破格な扱いなんだがな」

 

 IS学園に来てから零は数人の女性から声をかけて貰った。鷹月 静寐、夜竹 さゆか、谷本 癒子らとその他にも色々いたが、印象に残ってるのはこの三人だった。女尊男卑が特に激しい日本では珍しい程に差別意識が少ない、多少下に見てる発言はあったものの気遣う姿勢は良い人物なんだと関心させた程だった。

 

 もう一人の本音については零はよく分からない評価を下した。

 

 いきなりやってきてはレイレイよろしく~、と妙なあだ名を付けられウリウリと服の袖でペチペチと叩く。まるで犬の甘噛みみたいに甘えるようなそんな行動に戸惑う。気づいたときにはすでにいなくなっており何なんだ、と頭を抱えたのは此処だけの話。

 

 それらの出来事があってもやはりまだ信頼に足るまでには行かない。同じ目線。対等に立ってからこその友達だと零は思うのだ。

 

「気を許す相手がいないのに行っても疲れるだけだ。だからなるべく行きたくない。ただでさえこの学園に来てからずっと気を遣ってるのに、自由時間までもそれに費やしたくないんだよ」

 

 色々理由を言ったが、要するにめんどくさい。ただそれだけである。

 

「じゃあ何故……私にそんな話をしたの?」

 

 女性に対しての嫌悪の話を聞いても嫌な顔一つせず正面で真剣に聞いていた簪の疑問が出るのも当然だった。

 

 今の話を聞く限り、相当女性を忌避しているはずなのにそれを何故同じ女性である自分に話すのかが簪には分からないうのだろう。そんな彼女の疑問を零は簡潔に答えた。

 

「簡単なことだ。簪には女尊男卑の差別が無い、からだな」

 

 その言葉に納得の言ってない様子の簪に零はさらに続ける。

 

「何故そんなこと分かるのって顔しているな。だが、こちらから言わせて貰えれば当たり前に等しい。女尊男卑の差別が酷い国に生まれた男子なら、殆どが嫌でも分かる。こちらを見る目や少し程度の会話。それでこちらをどう思ってるか判断できる。特に会話はそれがよくでるからな。人間ってのは言葉に感情が乗るからな。例えるなら家族とか、良くわかるだろう?喋っていて今日は機嫌が悪いな、とか。それが差別の対象ならよく見えるんだよ。こいつは男子を良く思っていない、男子を酷い目にあわせたい。なんて奥底の感情が言葉から漏れ出てるんだ」

 

 人が持つ悪意、それを見抜く観察眼と洞察力。今の日本の男子にはこの世界で生きていくには必須のスキル。自然と身に付く物と言って良いだろう。女性に対しての限定だが。

 

 「だから簪が男子だけでこちらを一方的に嫌ってないってのは過ごしてて分かったから今こうして話した。こうして夕食も持って来てくれたしな」

 

「そ、そう」

 

 少し照れくさそうにする簪。それを眺めながら零は立とうとする。

 

「さてと、そろそろトレイを片付けてくるか」

 

「え、就任パーティー。行きたくないんじゃ……」

 

「それはそうだが、ここにずっと置いとく訳にもいかないだろ。学食で食事を作ってくれてる人達に悪いしな」

 

「そ、それなら、私が持ってくからだいじょ……」

 

 トレイを運ぼうと手を伸ばす簪だったが、それは掴むことなく空をきる。掴む直前に零が素早く右手でそれを持ち席をたったからだ。

 

「そこまでしてもらう訳には行かないな」

 

「でも……」

 

「いいから。それと、夕食は助かった。それじゃ」

 

「あ、うん。どういたしまして」

 

 右手を軽く上げ礼をいい立ち去る零。それを見送る簪であった。

 

 

 

 

 

 

 「織斑くんクラス代表決定おめでと~」

 

 時間通り夕食後の食堂で就任パーティーは既に始まっていた。

 

 今は新聞部の2年の黛薫子の質問攻めにあっていた。

 

「それで一夏くん。クラス代表のお気持ちを一つ」

 

「えぇ!?特には……しいて言うなら頑張ります」

 

「硬い、硬い、もっとかっこいいセリフないの?俺に触れると火傷するとか」

 

「自分不器用ですから」

 

「んーまぁいいでしょう。他の女子もうずうずしてそうだから、これぐらいでいいですか」

 

 もっと取材したい感じの黛副部長であったがすぐさま立ち去った。

 

 周りを見渡せば早く喋りたいのか、うずうずして震えていた女子が沢山いたから潔く引いたのであろう。

 

 食堂全体を見渡せばその女子の数は1組だけではなく2組の女子の姿も見えた。女子の花園といっても遜色ではない光景がそこに存在していた。

 

「一夏くん一緒に写真取ろうよ」

 

「あぁーずるいよ!私が先!」

 

「い、いや、そんないっぺんには相手出来ない」

 

 ぞろぞろと蟻のように寄ってくる女子。

 

「……嬉しそうだな」

 

「どこがだ!マスコット扱いされてるだけだ」

 

 ふん、とふてくされる箒を他所に一夏はこの状況に疲れていた。

 

「なんで自分しかいないんだ……零は何で来ないんだよ」

 

 辺りを見渡しても零の姿が見えないことに溜め息と共に不満が漏れる。それも仕方がない。入学して数週間経った今でも零との関係はあまり良い関係とは言い難かった。

 

 こちらから声をかけているのだが、なんと言うか対応がぎこちないと言うか避けてるのが一夏自身も理解出来た。

 

「俺は織斑一夏。同じ男子同士仲良くしようぜ」

 

「ん?あぁ、こちらは木下零だ。それより、隣の奴がそちらに用がある様子だぞ?」

 

 又は

 

「零、食堂一緒に行こうぜ」

 

「すまない。あまり人目が多いのは苦手なんだ。自分は一人の方がいい、じゃあな」

 

 そう言いそそくさと立ち去る零。それからも色々と誘うが全て何かにつけてすべて断られていた。

 

「俺何かしたっけな……」

 

「木下のこと考えてるのか?」

 

「え……」

 

「お前はすぐ顔に出るからな」

 

 図星を付かれて慌てる自分を他所に冷静に意見を述べる箒。幼馴染のこういう所は便利であり、不便だ、と思いながらもそのことに関しての意見が欲しいのが正直な気持ちだった。

 

「実はそうなんだよ。何回か、声をかけたり学食に誘うんだけど……全部断られるんだ。俺が何かしたとは思えないんだが……」

 

 思い当たる節がない。

 

「そうだな……私も木下のことはあまり知らないんだが、もしかしたら一人が楽なんじゃないか?」

 

「いや……箒じゃないんだから、それは違うんじゃ……グッ」

 

 箒の意見を一蹴。しかしお返しとばかりに鳩尾にパンチがつき刺さっていた。悶絶するほどの痛さにお腹を押さえる。

 

「……ごほん。考え方は人それぞれだ。無理に誘うと逆に嫌がられるぞ」

 

 余計なことを、そんな表情が見て取れる。

 

「同じ男子同士仲良くしたいんだけどなー」

 

 なんとかならないか。そんなことを試行錯誤していると、人ごみの外にトレイを持った零が食堂に入ってくるのが見えた。

 

 これは仲良くなるチャンス。

 

「おぉ、零来てたのか。こっちこっち」

 

 呼ばれた零は何故か顔を引きつらせていた。周りのがやがやと言った騒音も少し静かになる。

 

「あれ、皆どうしたんだ?」

 

 どうして静かになったか分からず、首を傾げる。

 

「あれがもう一人の男子操縦者の木下零?」

 

「あれが適正Fの……」

 

「あんまりぱっとしないね」

 

 ひそひそ声が食堂に広がる。不穏な空気が辺りに漂う。

 

「おい、織斑一夏。そんな大声で呼ばなくても聞こえてるぞ。何か用か?」

 

 さっきまでの表情はなりを潜め無表情を浮かべながらいつの間にか目の前にいた。

 

「おぉ、いつの間に……零も今来たのか?」

 

「そうだが……まぁトレイを戻しにきただけだ。すぐ部屋に戻るがな」

 

「零も同じ一組同士だし少しは楽しんだらどうだ?」

 

「いや……わざと言ってるのか?」

 

「ん?何がだ?」

 

 零が何のことを言ってるのか良く分からない。そんな自分の態度に零が溜め息を吐く。

 

 自分が何かしたか?そんな考えごとも向こうには伝わったようだ。

 

「いや……なんでもない。俺はすぐ出るよ」

 

「おい!ちょっ」

 

「一夏くん、早く写真とろう」

 

「私は一夏くんの趣味が聞きたいなー」

 

 呼び止めようと肩を掴もうとしたが、女子の大群に囲まれた。零はすでにトレイを返して食堂を出る所だった。

 

 またはぐらかされた。そう思い苦笑いを浮かべて一夏は女子の相手に務めるのであった。

 

 

 

 

 

 

「はぁ、災難だったな。まさかあの人数で見つかるとは」

 

 食堂での一件。まさか、気づかれるとは少しも思っていなかった。

 

 そうぼんやり思考しながら寮に向かって歩いていると夜の時間帯にも関らず忙しくキョロキョロと動いている一人の少女が目に入った。

 

 あちらも気づいたのか見つけるなり、寄ってきた。

 

「ちょうどいい所に。本校舎一階総合事務受付ってどこにあるか分かる?」

 

「ん?あっちだな。ここに初めて来たのか?」

 

「そう。今日から……まぁ、明日から入ることになる凰鈴音よ。よろしく」

 

「この時期に転校生か……ということは言わずとも専用機持ちか?」

 

 この時期に一般生徒が転入はない、男子でもない限り。

 

「あら、鋭いわね。そういうことよ。暗くてよく見えないけど……あんたってもしかして男?」

 

 辺りは暗闇のため、見にくいのだろう。近づいてやっと零が男だとようやく気づいた少女。

 

「あぁ、まぁ知ってると思うが木下零だ。じゃあ俺はこれで」

 

 余計なことは言われたくないためそそくさと立ち去ろうとする零だったが、裾を掴まれる。

 

「なんだ?」

 

「そう。それよりこの暗闇じゃ方向だけだと場所分かりにくいから案内して」

 

「俺でいいのか?」

 

 零の問いかけに首を傾げる少女だったがやがて意味が分かったのか、

 

「え?あぁ、あたしはそういう差別だとか気にしないから大丈夫よ」

 

「それはまた珍しいな」

 

「年を取ってるだけで偉そうにしてる大人や、力が強いって威張ってるだけの男よりマシって所かしら」

 

 はっきりとしてる物言いである。だからこそ単純明快で分かりやすい少女であった。

 

「なるほど、良い答えだな。単純であるがそれがいい」

 

「褒めてるのか馬鹿にしてるの?」

 

 こうも清々しい少女に拍手を送りたい物である。好感が持てた。だが少女本人に至ってはその笑みが馬鹿にされたと思ったらしい。ポキポキと指をならしている。逆立つツインテールが暴れていた。

 

「違う。今のこの世界にそんな考えの奴はなかなかいなくてな……」

 

「あぁ、なるほどね。自分が学も地位も力もないのにただ女性だけで威張ってるのに苦労してると?」

 

 面白いほどに的確に当ててくるから、零も普段より表情が和らぐ。

 

「面白いな。その通りではあるが、そんなこと言っても良いのか?」

 

「あぁいいのよ。何も持ってないのに威張るのは違うじゃない?それにそういう女子ってさっき言った私の嫌いなことと似てるじゃない。自分で得た力ならいいけどね!」

 

 そう言ってアクセサリーを突き出す少女。おそらくそれがISなのだろうとすぐ予測できた。ドヤ顔を浮かべているが、あまり似合ってはいなかった。

 

「なるほど。専用機を持つのにはなかなかの努力じゃ難しいからな……」

 

「そうでしょ。そうでしょ」

 

 褒められて嬉しいのか、スキップを刻みながら先を歩き出す少女。ツインテールが揺れてそれがまた笑顔と良く似合っていた。

 

だが、

 

「そっちは違うぞ。あっちだ」

 

「そ、それを早くいいなさいよ!」

 

 すぐさま顔を真っ赤にし耳まで赤くなり、零が指差す方向にすぐ歩き出す。

 

 それからは普通の会話を少しかわし別れた。途中でクラス代表がもう一人の男子、織斑一夏と伝えたとき、おかしな動きをしていたがもしかしたら知り合いだったのかも知れない。

 

 そんなことを思いながらツインテールの似合う少女を見送った零はそのまま帰るべく寮へと引き返して行った。




更新は1月か2月をめやすに投稿出来ればいいなぁーと思います。

簪。いつまでたっても可愛い。もじもじする姿がね……

 なんか発言が変態のおっさんぽくて、きもいと自分でも思ってしまった……

 楽しんでいただければ幸いです。



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第六話「中国代表候補生」

「ねえ、織斑君。転校生の噂聞いた?」

 

「今の時期に?珍しいな」

 

「そう。なんでも中国の代表候補生らしいよ」

 

 朝。教室は転校生の噂で賑わっていた。

 

 今はまだ四月。入学して数週間しか経ってない今、転校生が来るのだから女子達が騒ぐのも無理はない。

 

何故なら転入には国の推薦と試験が入学に比べ難しくなっており圧倒的に難易度が高い。

 

 そんな難関を超えた人物が来てるのだから噂好きの女子からすれば気になるのもわかる。ついでに代表候補生なのもまた気になる素材の一つであった。

 

(転校生。……凰か)

 

 その中で二人目のIS操縦者、零は教室の噂の女子。昨日のツインテールが似合う勝気の女子を思い浮かべていた。

 

 他のクラスで体格に似合わず、態度が大きく堂々としてる姿が容易に想像で出来る。

 

 『私は凰鈴音、中国の代表候補生よ!まぁ、よろしく頼むわ!』

 

(ありえるな……)

 

 そんな零の考えを余所に女子達はいつの間にか来月に始まるクラス代表同士のリーグマッチの話題になっていた。

 

 それは言葉通り、各クラスの代表同士が戦う物であり、この時期にやるのは本格的なIS訓練のスタート時点での実力指標を作るためだ。

 

 表向きはクラス単位での交流およびクラスの団結のためのイベント。裏は稼動データ、武器の試作品の試しなど、言ってしまえば各国の実験の成果を試す場所だろう。

 

 大抵、入学の数週間でクラス代表になるなど一般人には無理である。最初から国に有力視されているクラス代表候補生か、専用機持ち、などと国に重宝されてる人間がなる場合がほとんどである。新しい武器や性能を試すには良い機会であるのだ。

 

「織斑君!フリーパスのために頑張ってね!」

 

「私達の希望を織斑君に託すよ!」

 

「お、おう。頑張るよ。デザートがかかってる女子は凄いな……」

 

 一位のクラスが獲得出来る優勝商品。学食デザート半年フリーパスのおかげで女子全員は一同団結して燃えていた。淑女のセシリアは目を輝かせ、いつも不機嫌そうな箒もまたすこし機嫌がよさそうであった。

 

 その異様な熱気を受ける一夏の顔はもちろん引きつっている。女子のデザートに対する執念は恐ろしいものである。女子の背後に修羅が一夏にはくっきりと見えた。

 

「ごほん。気軽に頑張ってね」

 

 次第に自分を見る目に気づいた女子達は冷静を取り戻し取り繕うがもはや遅いだろう。だが、幸先の良い情報を教えてくれた。

 

「大丈夫。各クラス代表で専用機持ちは四組しかいないからアドバンテージが大きいよ。それにまだ出来てないらしいから。実質専用機持ちは織斑君一人だけだよ」

 

「おお、それならなんとかなりそうだな」

 

「――――その情報古いよ」

 

 その声と共に教室の入り口には先ほど噂にあった中国代表候補生であり、一夏の幼馴染でもある、凰鈴音が立っていた。

 

「二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単には優勝できないから」

 

 腕を組み、片膝をたててふっと笑みを漏らす鈴。だが――――

 

「お前、もしかして鈴か?……それより何格好付けてるんだ?すげえ似合わないぞ」

 

「んなっ!?なんてこと言うのよ、アンタは!」

 

 あまりにも似合っていないため一夏に突っ込まれる始末。零にいたっては想像通りすぎて、無表情ではあるが面白がっていた。口を押さえてるのが軽い証拠だろう。似合っているのは左右に揺れているツインテールぐらいであった。

 

 その後の出来事は鈴が後ろにいる鬼、いや教師である千冬の出欠簿を食らい泣く泣く退散していった。相変わらずのキャラである。その様子を眺めながら零は次の授業の用意を始める。

 

 一方で一夏を好いているセシリアと箒は新たな幼馴染の登場で授業が頭に入らず、千冬の出欠簿の打撃を何回も食らう羽目になるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、あんたは寂しく一人で食事?一緒に食べる人もいないの?」

 

「まぁな。凰こそ幼馴染との会話はもういいのか?」

 

 授業も終わり、皆が学食で食事を取る中。幼馴染の一夏と喋っていた鈴だったが、食事を食べ終え食堂を出ると思いきや零の席に腰を下ろした。

 

 それに気づいた零は箸をおきお茶を飲みながら話を聞く。

 

「まぁね。もっと喋っていたかったけど、知り合いがこんなに大勢人がいる中一人ぼっちで食事してたら気にもなるわよ……」

 

 零れる溜め息。

 

 それもそのはず、これだけ人がいるなか昨日自分に道案内をしてくれた男子は一人で食事を表情一つ変えることなく黙々と取ってるのだ。あまりにも空しい光景に自分なら耐えられない、と鈴は思いこうして声をかけたのである。見ていられなかったのである。そんな鈴の優しい思いとは裏腹に当人は陽気にお茶をすすっていた。

 

「あまり歓迎はされてないんでな……嫌悪の視線を向けられるよりはだいぶマシだがな」

 

「まぁ、それもそうよね。あの操縦技術だもんね……」

 

「あのテレビ中継のやつか……」

 

 そのときの光景を思い出してか苦笑いの零。

 

 IS操縦者を大々的に取り上げたものであり、零が墜落したものでもあった。結果としては木下零という名前は別の意味で有名になったものである鈴が覚えているのもそういう理由であった。

 

 やはりそれが自分の中を見たときの第一印象なのだろう、と深く頷く零である。

 

「あれは男子の威厳を取り戻そうとする連中がまともに操れもしないとわかってるのに無理やり乗せたあいつ等が悪い。適正Fで乗れるだけって事は事前に知っていたんだからな」

 

「ふう~ん。アンタも大変そうね。私も昨日道案内して貰わなかったら、今の女子とたいして評価は変わんなかったでしょうね」

 

 周りの視線を感じての一言。あいかわずはっきりとした物言いである。

 

「今は違うのか、てっきりこの状況を笑いに来たんだと思ったんだが……」

 

「そんな訳ないでしょ!私をどんだけ酷い人物と思ってんのよアンタは!」

 

「落ち着け。そんなことより食事待ってもらうのは悪いからな……これ食べるか?」

 

 ――――可愛い。

 

 怒りはすぐさま収まりおもわず鈴はそう思ってしまった。 

 

 ごそごそとポケットから出したのは綺麗に包装されたクッキーだった。特に鈴が目を引いたのはクッキーの形だ。ウサギやら猫、犬と可愛らしい動物がいっぱいあった。色もちゃんと動物に合わせてあり、鈴の目がキラキラ光る。クッキーに釘付けであった。

 

「し、仕方ないから貰ってあげるわ」

 

 異性から貰うというのに慣れていないのか、恥ずかしいそうにほのかに頬が赤く染まっていた。照れくさそうにその包みを受け取り括っていた紐を取り犬のクッキーを口に含む。

 

「ッッ!美味しい!」

 

 甘すぎず、かと言って甘くない訳ではなく、絶妙な甘さ加減であった。

 

 幸せ。とクッキーをころころ口の中に転がす鈴は猫のようである。先ほどの怒りが嘘と思うほど今は子供のような笑顔であった。普段からこの顔なら可愛いであろう。

 

 それを見て、扱いやすいな――――と思った零は悪くないだろう。

 

「なら良かった」

 

「でも、なんでアンタがこれ持ってるのよ」

 

「まあ、食堂のおばさんと仲良くなってな。色々使わせて貰ってる。自分の立場を心配してくれる優しい人物でな。おかげでこうしたクッキーとかも焼かせて貰えた」

 

 今の時代の風潮の影響の事で酷い事されてないか、とこちらの身を本当に心配してくれているのだから零にとって感謝の念しかない。

 

 男女差別なんて碌なもんじゃないですよ、とはっきり言える良く出来た人物である。

 

「それでも自分で作ったんだ?」

 

「クッキーは色々練習したからな……いや、させられたの方が正しいか、おかげでここまで上達出来た」

 

「見た目も可愛いし美味しいんだけど、なんか女として複雑だわ……」

 

「練習すれば誰でも出来る。なんなら作り方教えるか?」

 

「ほ、ほんと!?いいの?」

 

 ずいっと顔を寄せる鈴。よほど美味しいのだろう、目に星が見えた。あまりにも純粋すぎた。だからこそ零の悪い癖が出た。

 

「すまん、嘘だ」

 

「あ、あんたねぇー!!わ、私の気持ちを踏みにじったわね!」

 

 ふしゃー、と猫のように体を震わせ怒りの鉄槌とばかりにパンチが放たれる。普通の女子であればポコポコと可愛らしいパンチだが、そこは鈴、手加減なしの本気のパンチである。だが――――

 

「なんで当たらないのよ!」

 

 零は涼しげな表情で左手で鈴のパンチを弾く。右手は暢気にお茶を啜っていた。

 

 納得が行かない鈴は負けじと両手で対抗したが無駄骨であった。

 

「落ち着いたか、まあさっきのは冗談だ。今度レシピ書いて持ってくる」

 

 全てをことごとく防がれ机に顔をつけもたれかかる鈴にそう伝え、食事を食べ終えた零は席を立つ。

 

「覚えてなさい」

 

「そんな怒るな。それじゃあ俺はここで失礼する。一組はこの後はIS実戦の授業だからな。ISスーツに着替えないといけないからな……それと喋り相手、感謝する。」

 

  そのまま意気消失している鈴を置いて零は食堂を出て行った。

 

「ほんとに覚えてなさい……」

 

 言葉ではそう言いつつも、鈴は怒っていない。むしろその表情は楽しそうだった。

 

 昨日と同様で無表情ながら、出る言葉はこちらを馬鹿にしてるかのようなものばかり。だが、馬鹿にしてる訳でもなく、それで本当にそう思って言ってるのだから余計に性質が悪い―――と思うと同時にこういうさりげない優しさを持っているのだからなんだが憎めなかった。

 

「……美味しい」

 

 また一口クッキーを口に含む。さっき食べたクッキーよりほんのり甘く感じた鈴だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後。零は山田先生に事前に予約して貰っていた訓練機を借りてのIS訓練をしようとアリーナに来ていたのだが、ISには乗れず、呆然と観客席で座っていた。 

 

(まさか、自分が予約していた訓練機が貸し出されてるとは……)

 

 零の目に映るは自分が乗るはずだった訓練機。箒が操る打鉄が白式と打ち合い火花を散らしていた。なかなかの接戦であった。ついでにブルーティアーズを纏うセシリアも視界に入る。

 

 「自分が嫌いで嫌がらせで貸したのか、それとも篠ノ之束の妹だから優先して貸したのかどっちだろうな……」

 

 首をポキポキ鳴らしながら現状を把握していた。

 

「はぁはぁ、零君!」

 

「どうも山田先生」

 

「えっと……これは一体……」

 

 アリーナに着いた麻耶もこの状況に驚く。自分が一生徒のために予約していたはずの訓練機が使われていたのだから。

 

(どうして……)

 

 愛用のメモを何回も見直すも間違いではない。しっかりと記入してある。

 

 なんで?どうして?そんな疑問が麻耶の頭を過ぎる。

 

「えっと、何かの間違いだと思うので確認してきますね。……どうしましたか零君?」

 

 何かの間違いだと思い許可を出した同僚の先生に確認を取りに行こうと思った麻耶だったが零に手を掴まれていた。

 

「もういいですよ。何かの手違いがあったんでしょう」

 

 日常茶飯事なのでなんてことはなく、当人はまったく気にしていない。

 

 むしろこれ以上、麻耶の立場を悪くしたくないため裾を掴み止めたのだ。

 

 普段とは違い険しい表情を浮かべる麻耶を見たくなかったのもある。

 

「でもっ……!」

 

 それに激しく声を上げるが、次第に俯く麻耶。髪が掛かり表情が隠れる。

 

 しかし、体は小刻みに震えていた。

 

 普段の麻耶ならすいません。と誤りそれで終わっていたはずだが、今回の零の件に関しては我慢しきれなかった。

 

(こんなの間違ってます)

 

 麻耶とて馬鹿ではない。

 

 今のこの状況がどういうものか既に理解していた。

 

 零という自分の一生徒が邪険に扱われたことに。

 

 それも生徒からではなく、同じ教師によるものだと言う事に気づいたのだ。

 

 本来、放課後にISを使う際には事前に申請を出さなければならない。そしてそれを承諾して管理するのは教師の仕事である。

 

 ISを貸し出す際。日程の間違いはあるものの、貸し出す人間の間違いは本来起こりことはありえない。

 

 放課後の各アリーナには大抵教師が中継室で待機しているのだから。

 

 なのに今現在、麻耶の眼鏡越しに写るのは本来、零が乗るはずであった打鉄を操り白式と打ち合う箒。

 

 思わず手に力が入る。

 

 生徒の手本となる教師が生徒を差別するなど、自分の職に誇りを持っている麻耶としては許せるはずがなかった。

 

 悲しみややるせない思いが麻耶の心を占める。

 

(田中先生……ですか)

 

 中継室に目をやれば、それは自身が最も苦手としている同僚の姿が目に入った。

 

 その人物は今の風潮を色濃く受けた、男性嫌いの典型的な人物であった。

 

(すぅー。はぁー)

 

 胸に手をやり深く深呼吸して熱くなった頭を冷やす。

 

(自分がしっかりしないと!)

 

 よし、と気合を入れ直し不機嫌そうな顔からいつもの優しげな顔に戻る。

 

 冷静になった麻耶は抗議に行ってもはぐらかされて無駄になると悟り行くのを諦めた。

 

「すいません木下君。今回は諦めて下さい」

 

「いえ、いつもお世話になってるのは自分ですからね。こんな自分の為に……本当に感謝してます」

 

「こんな、とかあまり自分を貶すのは駄目ですよ。それに木下君にはしっかりと才能があるんですから」

 

 頭を下げる零に姿勢を合わせ、

 

 めっ!と、指を立てて優しい顔で怒る麻耶。

 

 こういう姿は教師にはとても見えない。むしろ、男性を虜にするであろう可愛らしい仕草である。

 

 そんな麻耶の偽りのない本心に零は思わず口を緩めた。

 

「やはり山田先生は可愛いですね」

 

「えぇ!?か、からかわないで下さい」

 

 突然の言葉に戸惑う麻耶。

 

 零とて他意はない、それなりの信頼を置く人物には思ったことを言う性格なのだ。

 

 顔が真っ赤に染まり、両手で必死に顔を隠す。

 

(か、可愛いだなんて、そ、そんなこと……)

 

 熱い頬を手で押さえながら落ち着いて、落ち着いて、と繰り返す。

 

 しかし普段。言われ慣れてない言葉にどぎまぎしながらあたふたと慌てふためく。

 

 そんな麻耶の姿を気にせず零は続ける。

 

「本当に感謝してますよ。適正Fの自分がISをしっかりと動かせることが出来る所まで来ましたし。それもこれも山田先生の指導のお陰です。これからもお願いしますね」

 

「あ、いえ、そ、そんな大袈裟ですよ。先生として当たり前のことで……その、これからもしっかり見ますから」

 

 手をバタバタさせて照れる麻耶。此処まで信頼されていることについつい嬉しくて口がにやけそうになる。

 

 それを見られたくない一心で後ろを向き顔を隠す。

 

 だが、耳も赤いので全然隠せてない。

 

 零はその様子に首を傾げるだけで気づいてはいない。むしろからかいすぎたか、と頭を悩ませる始末。

 

(こんなに頼りにされてるなんて……恥ずかしい。ですがとっても嬉しいです。これからも頑張らないと!別に異性とか、そんなんじゃなくて、生徒と教師の立場として)

 

 先ほどとは別の意味で頭が熱くなった麻耶ではあるが、パチンと両手で顔を軽く叩き引き締める。

 

 まだ顔は若干赤いままである。

 

「木下君。これからもどんどん頼ってくれていいですよ」

 

「そうですか。それなら今日はせっかく専用機の試合がみれますから、それを見て自分が生かせそうな動きを教えて欲しいですね」

 

「はい!」

 

 先ほどの怒りはあっという間になくなり、それすらも本人はもう覚えてないかも知れない。

 

 それくらい、麻耶はうって変わり普段の優しいオーラが二割り増ししていた。

 

 後ろにお花畑が見えるのも幻覚ではないのだろう。

 

(良かった。やはり山田先生は笑顔が似合うな)

 

 えへん。と胸を張り、張り切って説明するのを横目で確認しながらそう思う零。

 

「やはりPICの扱い方が代表候補生は良く出来てますから。それを……て聞いてますか木下君!!」

 

 頬を膨らませる麻耶を軽く宥めながらアリーナに視線を戻す零であった。

 

 教師と生徒のいい見本である光景がそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕日が落ち、外が暗くなった時間帯。

 

 IS学園の整備室。

 

 そこには簪の姿があった。

 

 さすがにこの時間帯では居残りしてる人はおらず、静けさが整備室を支配する。

 その中で簪の打ち込むキーボード音だけが整備室に響き渡っていたが、それも手が止まりなりを潜めた。

 

(上手くいかない……)

 

 簡易ディスプレイに写るは簪自身に用意された専用機体、名を打鉄二式である。

 

 コンセプトはリヴァイヴの汎用性を参考に全距離対応型に組み上げられた機体。

 

 その性能は第三世代に相応しい物だった。だが、機体の状態はあまりに未完成であり、まだまだ完成には程遠いものだった。

 

 本来なら倉持研究所が彼女の為の専用機として完成させる目処だった。

 

 しかし、世界初の男性操縦者。織斑一夏が現れたことにより、簪の専用機は後回し、はっきり言うなら放置されたと言うものだろう。

 

 IS開発者。篠ノ之束のお手製のIS白式。それが一夏の専用機の目処がたたなかった倉持研究所に送られてきたのだから、企業、又は研究者の喜びは計り知れなかった。それに付け加えもともと倉持研究所にあった使えない欠陥機のコアがIS開発者によってお手製のISに変身したのだから喜びも二倍であった。

 

 IS開発者の機体。普通の機体であるわけがない。技術は1歩も2歩も先をいっているに違いない最先端の機体。

 

 もはや代表候補生の専用機などに構ってる暇はなかった。一刻も早く研究し、技術を吸収しようと躍起になる研究者。

 

 そんな企業の対応に日本の代表候補生の簪は自分でISを作る決心をしたのだ。

 

 もちろん個人にISコアを任せるのは普通ならばありえない。IS一つで世界が動く程の代物なのだから。

 

 しかし現ロシアの代表。更識楯無――彼女の姉が一人で専用機を作り上げた実績を省みてその妹の簪に1年以内の時間制限を貰えたのだ。

 

 そんな過程がありこの期限の一年間になんとしても専用機を完成させなければ行けなかった。

 

 それこそ無理をしてでも。

 

 そんな簪の決意とは裏腹に順調とは行かず作業は停滞気味であった。今も機体のシステムを構築していたが上手くいかず手が止まっていた。

 

「はぁ……なんでッッ!」

 

 頭に手をやりばさばさと髪を乱す。しばらくそのまま頭を押さえていたが、やがて椅子に寄りかかり深い、深い溜め息を吐く。天井の無機質な壁を呆然と眺める。

 

 上手くいかないときの簪のよくする癖であった。

 

 顔も食事と睡眠をとってないからか、隈が少し目立っており顔色も余り良くなかった。

 

(誰か来た?きっと、忘れ物を取りに来た生徒かな……)

 

 だからか、ドアが開く音が聞こえはしたが気にする事は無かった。

 

 しかし足音が段々近づき自分が使っていた机に何かが置かれた。

 

「大丈夫か?」

 

「えっ……」

 

 目の前には苦笑いを浮かべた人物がいた。

 

 ぼおっとしていたために瞬く思考が働かず、呆然としていたがようやくその人物に気づく。

 

 いつもの似合わない丸眼鏡はかけておらず、無造作に伸びたぼさぼさの髪も綺麗に整えられていた。

 

「……れ……い?」

 

 余りにも普段の違いに一瞬だれかわからなかった簪。

 

「そうだ。それより大丈夫か、随分と疲れていたようだが……」

 

 顔色が優れないため心配そうに顔を覗き込むが、反射的に仰け反る簪。

 

「だ、大丈夫」

 

(み、見られた)

 

 先ほどの自分の一連の行動を省みて恥ずかしさがこみ上げ言葉が詰まる。必死にぼさぼさに乱れた髪を戻しながら用件を聞く。

 

「な、何か用?」

 

「あぁ、今朝作り過ぎてな。良かったら食べるか?」

 

 言われてようやく机に置かれて物に気づく。

 

 シンプルな蒼の四角の形状の箱と水筒が簪の目の前にあった。

 

「お弁当?」

 

「今朝作ったんだが作り過ぎてしまってな……捨てられるには勿体無い、だからといってあげる人物もいないからな」

 

「私、大丈夫。お腹すいて――」

 

 反射的に断ろうとした簪のお腹から可愛らしい音が鳴り響く。

 

(な、なんで、今!)

 

 かぁぁ!と、自身の顔が赤くなる。

 

 今にも湯気が出そうな勢いであった。穴があったら入りたいと思う簪。

 

 あまりの恥ずかしさに俯く。顔が自分でも分かるくらい非常に熱かった。

 

 ちらりと視線をあげると、顔を横に逸らし口を押さえる零がいた。

 

 必死に隠そうとしているが、クックック、と笑い声が漏れていた。

 

 そんな姿にまた羞恥心が襲う。

 

(どうして……もう!)

 

 馬鹿、馬鹿と自分の腹を恨む簪。

 

 数分前に戻りたいと切に願うも無常にも時間は進むだけで戻りはしない。

 

 視線に気づいた零は咳払いし、必死に笑いを堪える。

 

「そ、それでお腹すいていないから食べないのか?」

 

 今のを聞いといてあえてそう言うのだから意地悪である。

 

「た、食べる」

 

 睨みをきかせながら弁当を受け取る。

 

 せめてもの反抗である。

 

 しかし、そこに怖さは微塵も無く。むしろ純真無垢の子供らしい可愛らしさがあった。

 

「そう言えばここで食事して良かったか?」

 

「駄目。いちを近くにそういう場所がある。そこに机もある」

 

「そうか。まぁ体壊さない程度に、な」

 

「え……」

 

「どうかしたか」

 

 邪魔しちゃ悪いと思い身を翻して帰ろうとした零だったが、驚く簪に首を傾げた。

 

「いや、あの……」

 

 引き止めた本人も戸惑う。自分が食べ終えるまでいてくれると思っていた為につい声が出てしまったのだ。引き止めてしまった手前、どうしようと慌てる簪。

 

 そんな姿を見た零はそんな簪の思いに気づいたのか気づいてないのかは分からないが口を開いた。

 

「部屋に戻って食べるか?それとも、そういう部屋で取るか?」

 

「きょ、今日はもう終わりだから部屋に戻る……」

 

「そうか。なら一緒に帰るか、もう外も暗いしな」

 

 外は星すらも見えないほど暗闇の空であった。

 

「うん。少し外で待ってて……電気落としてくる」

 

「あぁ。分かった」

 

 簪はディスプレイを急いで消し、小走りで行くのを見送りながら零はポツリと言葉を漏らす。

 

「打鉄二式の開発の急務に、姉へのコンプレックス。……無理をするのも当たり前か」

 

 本来、誰も知り得もしない情報を吐く零。

 

 組んでいた腕を解き、寄りかかっていた壁から背中を離す。

 

「押しつぶされなければいいが……」

 

 そう吐いた後、心配そうな顔をしながら歩く。部屋を出る頃にはいつもの無表情に戻っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれからさらに数週間がたち、五月。クラス対抗戦の初日が幕を開ける。

 

 朝、天候は澄み渡るくらい青い空が浮かび絶好の試合日和であった。

 

 食堂の隅の席にはもはや特等席ともいえるくらいにいつも通り零が食事を取っていた。変わったことがあるとすればそこにツインテールを揺らす鈴が一緒に食事を取っていることだった。朝の時間にしてはまだ結構早い時間なので人は数人しかおらず、おちついた朝食であった。

 

 零は自作の弁当。鈴は朝から豪快にラーメンを啜っていた。

 

「朝からラーメンか。それより結局試合当日まで仲直り出来なかったんだな……」

 

「う、うるさいわね。アイツが鈍感すぎるのが悪いのよ!あ、卵焼き貰うわね。んーー相変わらず美味しい!料理も美味しいなんてあんた生まれてくる性別間違えてんじゃないの?」

 

 この数週間、鈴は思い人の一夏と喧嘩をしたらしく、こうして朝は毎日二人で食事を取るのが日課となっていた。

 

 今もその話題で不機嫌になったが、零の卵焼きをひょいっと箸で摘み口に含み笑みを浮かべながら失礼な一言。そんな言葉に慣れているのか平然と言葉を返す。

 

「朝、キッチンを貸して貰っているからな。仕込み中の合間に食材の味付けや、お弁当の見栄えの色分けなど詳しく教えてくれてるんだ。あの人に教えて貰えれば誰でもこれくらい作れる」

 

「ふぅーん。それより朝、弁当二つ作ってるけど誰にあげてるの?」

 

「同じ部屋のルームメイトだな。四組の更識簪だ」

 

 その言葉にピクリとラーメンを食べていた鈴の箸が止まった。

 

「あんたも女子と同部屋なの?どうなってんのこの学園は」

 

「俺もそれにはまったくもって同意見だ。もし何かあった時どうするつもりなんだろうな」

 

「まぁ、今の風潮で男子が大胆な事は出来ないって思ってるんじゃない?それより更識簪って……日本の代表候補生じゃない」

 

「知ってるのか?」

 

「知ってるわよ。クラス対抗戦で出るクラス代表者の試合記録は全部チェックしたわよ」

 

 そう言って豪快にラーメンの皿を両手で持ち上げ豪快に汁を飲み干し口を腕で拭った。その目は勝気の鈴にしては珍しく、不安の色が宿っていた。

 

「さすが、IS操縦者が多い日本の代表候補生なだけはあるわ。他の代表候補生より、練度が高い。どの距離でも対応出来る適応力に空間把握能力がずば抜けて高わね。射撃も近接も総じて能力が高い万能型」

 

 鈴が素直に人を褒めることは珍しいことだった。それほど簪のレベルが高いのだろう。

 

「よく調べたな。実際に見たのか?」

 

「まぁ、代表候補生ともなるとそういうISの戦闘記録があるし、動画が見れるのよ。もちろん見せたくない物は見せないけど、アピールするためにISの戦闘記録が見れるやつもあるのよ」

 

 そう言って、忌々しそうに鈴はその動画を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 実際に鈴が簪が操るラファール・リヴァイヴの戦闘記録を見たのは三日前。それまでは次の対戦相手、織斑一夏が操る白式の動きを観察していた。実際に稽古訓練でだいたいの白式のスペックと一夏本人の技量を把握し終えたために部屋で記録を見ることになったのだが、そのビデオは簪が日本の代表候補生を決めるための試合であった。

 

 相手は打鉄を操る操縦者。もちろんレベルは低い訳がなく、候補生レベル。試合展開はレベルが高かった。

 

 最初に攻撃を仕掛けたのは打鉄を操る操縦者。

 

 すぐさま間合いを詰めに入る。しかし、簪もそれは読んでいる。すぐさま後退しながらアサルトライフルを呼び出し放つ。無論相手も候補生の候補、やすやすと当たる訳はなく、回避し、ジグザグな動きで標準を定めさせない、不規則な機動をえがく。一発、二発と正確無比な銃弾をかわしきりそのまま瞬時加速。

 

「はぁ!!!」

 

 自身の刀の間合いに入った。相手は簪の懐に入り鋭く刀を振るう。だがそれは当たることはなく空を切る。

 

「甘い……」 

 

 簪は完璧な見切りにより、ほんの少し後退することによってその攻撃を避けていた。それと同時に左手には連装ショットガン「レイン・オブ・サタデイ」がすでに展開されており火を噴いた――――――が絶妙なタイミングで放たれた攻撃も、相手はしっかりと左手の実体シールドでしっかりと防ぎきっていた。

 

 しかし、全てを防ぎきることは出来ず多少は被弾しつつシールドエネルギーを消費したが気にせず距離を詰める。

 

 やすやすと自分の得意な距離から逃がすほど甘い相手ではない。

 

 上段からの振り下ろし、突き、すかさず返しの太刀と逃がさないとばかりに怒涛のラッシュで攻め立てるが、簪は冷静だった。初撃の太刀を距離を取って避け、胸に迫る脅威は体を半身にして最小限の動きで避ける。最後の返しの太刀は右手のアサルトライフルで太刀の側面に当てて攻撃を受け流す。そして体制を崩した所にカウンターを叩き込んだ。

 

「グッッ……!!」

 

「リヴァイヴだからって近接戦は出来ないとは限らない……今度はこちらから行く」

 

 ショットガンを直に食らった相手は衝撃で吹き飛ばされ距離が開く。その隙を逃さず簪はさらに追撃を仕掛けた。

 

「早い!?ラピットスイッチまで……」

 

 相手が苦痛を浮かべて一瞬目を離したときには既に簪の手にはマシンガンが二挺握られ弾が放たれていた。

 

 それに対して相手は状況を立て直すために被弾しながらもそのダメージを最小限に留め、その場から空中に逃げる。簪の逃がさないとばがりに近すぎず遠すぎない絶妙な距離を保ち攻め立てる。

 

 そこからは確実な動きで簪は相手のシールドエネルギーを順調に削っていく。相手は距離を取ることも近寄ることも出来ず苦戦を強いられていた。近づけば手数が足りず受け流されショットガンの餌食。中距離と遠距離に逃げればマシンガンとアサルトライフルの餌食と空中戦は明らかにリヴァイヴの機動に翻弄されっぱなしであった。

 

 不利を悟った相手は空中戦をやめ地面に降り立つ。もちろん簪は上から弾を放つが、相手は器用に交わしていく。

 

 回避だけに専念した相手を見て、空中からの攻撃は当てにくいと悟った簪は同様に降下し、対面に降り立つ。

 

(いちかばちか突破するしかない!!)

 

 このままじゃ埒があかない、そう判断し相手はエネルギーを爆発させ実体シールドを掲げながら突撃を図る。銃弾の嵐が打鉄を襲いシールドエネルギーを削る。それでもマシンガンの嵐を潜り抜け両手にブレードを掲げ襲い掛かる。

 

 懐に入られた簪は左右から迫り来るブレードを器用かつ流麗に受け流すがついに捕られた。アサルトライフルを切り伏せられもう片方のブレードが簪を弾き飛ばす。弾きとばされながらも右手のショットガンを相手に向けたが相手はそれを左手に持つブレードを投げ破壊。

 

(行ける……これで終わり!)

 

 吹き飛ばされ武器を破壊し体制を崩したリヴァイヴを見て、勝てる確信を持つ。すかさず間を詰めとどめの刺突を放つ。

 

 鋭く、速く、完璧なタイミングでの刺突。不利な体制であり、武装も手元にはない、受ければ絶対防御が発動し勝負が決まる逆転の一撃だった

 

が――――――

 

 

 

「更識流――――秋燕」

 

「え…………」 

 

 必中を確信した技は見切られ、気づけば打鉄を操る相手は仰向けに倒されていた。

 

「な……なんで……わ、わたし、倒れてる」

 

 呆然と吐く疑問に簪は簡潔に答えた。

 

「回避と攻撃の両方をいっぺんにしただけ」

 

「でも、私には何がされたか分からなかった……」

 

「ISだからって全方位を把握出来る訳じゃない。集中して攻撃するとき、視野は狭まる。私はただ貴方のブレードを見切ると同時に攻撃しただけ」

 

 あの時、簪は迫り来る攻撃を紙一重で避けると同時にラピットスイッチで右手に近接武装、ブレッドスライサーを展開しアッパーの要領で下から顎にカウンターを決めていた。

 

「あと……派手に吹き飛ばされたのは攻撃を誘うためのフェイク」

 

「なぁ……!?」

 

 最後の試合を決めた簪の動き。

 

 更識流――――秋燕

 

 回避と死角からの攻撃を同時に行う高等技術。使える時は相手の攻撃を制限し、なおかつ、相手の動きを把握すること。使える場面は限られるが、その代わり効果は絶大である。相手が攻撃を行ったときすでに相手は見えない攻撃で意識を落とすのだから。

 

 だから簪がわざと吹き飛ばされたのも、体制を崩していたのも全てが相手の行動を制限しその技を使いたかったのが理由だった。

 

 IS戦であるために意識こそ落とさないが、衝撃は伝わるに合わせて意識外からの攻撃もあってIS戦でもその技は有効であった。

 

「それでも最後の攻防は危なかった……」

 

 一言そう呟き会場を悠然と立ち去る。

 

 そこで映像は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(やっぱり今思い出しても、レベル高いはね……それでも私は負けられないけど)

 

「おい、大丈夫か?」

 

「あぁ、うん。ちょっとその試合内容思い出してね」

 

「まぁ、後のことを考えるのはいいが、まずは目先の試合に集中したほうがいいと思うがな」

 

「そうね、後のことはその時考えれば良いわね」

 

「その方が鈴らしいな」

 

 らしくない態度は似合わないといつもの調子に戻った。今はこれからある試合に備えようと気合十分の鈴。

 

 それを確認しながら湯気が立つお茶を口に含める零。

 

 二人の朝はいつも通りの光景であった。

 

 

 

 




とりあえず投稿しました。


これからもこれぐらいで投稿できたらいいなと思います。

さてアリアの方書くか……
 


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第七話「鈴の覚悟」

鈴は今の目の前の現状がよく認識できないでいた。

 

できないというよりも脳が今の現状が正しいと認めたくなかったのである。目に写るは燃え盛る炎。アリーナの一部から煙がもくもくと上がっている。混乱し逃げまとう生徒。アリーナはパニックに陥っており負の感情で溢れていた。

 

 その元凶は謎の未確認ISであった。通常のISとは違いゴツゴツとしており全身装甲というどこか不気味なIS。全身黒い装甲が一層不気味さを際立たせている。突如空中から流星の如く、遮断シールドを破り現れた。

 

 ぐるりと何かを探す仕草を見せ目標としていた人物を発見できたのかぐるりと周っていた首が止まる。その視線の先には二人目のIS操縦者である木下零。機械でできた腕を振り上げビームを放ったのだった。

 

 普通ならばアリーナの観客席にはISのシールドエネルギーと同等の遮断シールドが作動するはずなのだったが……何故か(・・・)彼の所だけ何故か起動せず生身のまま死という光に呑まれていったという理解しがたい現実が目にやきついていた。思わず息を呑んだ。

 

「な……な、なんで……」

 

 口が震える。手や足、体中がうすら寒い。喉が詰まり掠れた声しかでない。頭が直接鈍器で叩かれているような、頭痛と眩暈が鈴を襲う。

 

 どうして、なんで。と、言葉がはんしょくするも答えは出ない。否定しようにも目に入った情報が正しいと鈴に告げる。

 

 ――――レイは死んだのだと。

 

自分は助ける事が出来る立場にいながら今なにをしていた?ISと言う機体を纏い助けられる位置にいながら、それを呆然と眺めている事しか出来なかった。

 

 さっきまで一緒に食事をしていた。嫌な顔しながらも愚痴も聞いて貰った。想い人に約束を忘れられ傷ついた自分を慰めてくれた。ちょっぴり不安だったIS学園で居場所をくれた。そんな楽しかった日常が一瞬で崩壊したパズルのように非日常に変わった。

 

「な……んで……どうして……ぁぁ……」

 

「鈴!しっかりしろ!!」

 

 彼女はIS越しに苦しそうに両手で頭を押さえる。

 

 認めたくない。認めたくない。認めたくない。だけど、どうして……。違う、違うんだ。と、訴えかけるも先ほどの死という光に呑まれた彼の姿が目に焼きついている。

 いつも皮肉を言う零。嫌そうな顔をする零。常にやる気のなさそうな表情の零。

 

 数々の表情が浮かびは淡く消えていく。もうあの顔は見れないのだと鈴は自覚して……

 

 あの笑顔が自分の当たり前の日常の一部だったんだと今頃理解して……

 

「アァ……ァァッッッァァアアア!!!」

 

「鈴っっ!落ち着け!!」

 

 ――――殺す、殺す、殺す、ユルサナイ!!

 

 ドロドロとした形容しがたい感情が止め処なく溢れ出す。幼馴染の声すら耳に入らず鈴は憎悪の瞳を浮かべ謎のISに突貫した。

 

 どうとでもなればいい。どうなってもいい。ただ、あのISだけは殺すと彼女は獲物を振り下ろした。

 

 

 

 

 

 時はIS襲撃から数時間前に遡る。

 

 朝。朝食を食べ終え鈴と別れた零は部屋に戻り毎日の日課となったお弁当を簪に渡す。「ありがとう」とお礼を述べた簪に気にするなと返事を返しながらもお湯を沸かす。

 

 お湯が丁度いいくらいに沸騰したのを確認し紅茶を入れる。その動作は自然と様になっており、普段から入れなれてるのが理解出来る程。最初からお湯でカップを温めており、お湯を茶葉の入ったカップに注ぐ。

 

 紅茶の基本をしっかりと押さえてる動作であった。

 

 入れ終えた紅茶を机に持っていき、二人分のカップを置き零は簪の対面に座る。それをじっと観察する簪。彼女の目からしてちょっと大きい丸眼鏡から覗くブルーの綺麗な瞳が零を映していた。無表情であるが、1ヶ月共に過ごしたのもあり、彼にはなんとなくその表情で何を思っているのか理解出来たので苦笑いしながらその話題を振る。

 

「簪は今日の学年別対抗は行くのか?」

 

「私は別にいいかな……」

 

 ふうふうと紅茶を冷ましながら口に含む簪。まだ自分が思ってたより熱かったのか、はぅ。と舌を出す姿は年相応の反応で普段の様子からは見られないので可愛らしい仕草。思わず苦笑いを零せば、むぅ。と頬を膨らませて睨んでくる始末。謝罪の意味も含めてミルクの入った容器を差し出す。

 

 受け取った彼女はミルクを入れ口に含む。不機嫌そうな顔が和らぎ微かに顔が綻ぶ。それを目にしながら彼も紅茶を一口。上手く出来ているみたいで納得の表情を浮かべ頷く。

 

 最初の頃はそのままミルクティーを簪に出していた彼だったが、仲良くなることに彼女がミルクを入れる前に紅茶を一口味わってからミルクを入れるのが好きだともじもじと恥ずかしそうに発言したために、こうして紅茶とミルクを別に用意するように至ったのである。

 

「レイは行くの?」

 

「そうだな……鈴に見に来いと言われたからな。どうやら織斑一夏を完膚無きまでにぶっ飛ばす所を見て欲しいらしい」

 

 その時の意気込む鈴は闘志に満ち溢れており、その時のことを思い出しちょっとどころか顔をかなり引きつらせる表情の零。それぐらい怖かったのだろう。対してそれを聞いてある言葉にピクリと興味を示す簪。

 

「織斑一夏……」

 

 眉を顰め下唇を噛み締める。零した言葉には憎悪と嫉妬が含まれていた。事情が事情なのだろう。その感情がよく理解出来る零は提案する。彼には簪の過去を知ってるからの気遣いでもあった。

 

「見に行くか?鈴はアイツの自信をへし折ってボロボロにしてやると意気込んでいたし、第三世代同士が戦うから性能を把握出来ると思うが……」

 

「……分かった」

 

 自分をぞんざいに扱った倉持技研。自分の目的を邪魔した織斑一夏。邪魔したにも関わらず自分が乗った機体が如何に贅沢で凄い機体かを理解していない事。その機体を活かそうと理解しようと努力しようともしない事。それが簪にはどうしても許せなかった。初めての男性操縦者であり仕方なくここに来たのも分かるが、そこに至るまでに自分を含み、学園の生徒達がどれだけ血反吐を吐く思いで努力をしていると思って……そう考えると自然と腹が立つのは当たり前であり、彼女だけではなく女子全員の意見でもあろう。

 

 “逝ってしまえ”思わずそう思うのである。今の彼女は鬼の様である。無表情であるが静かに怒りにうち震えていた。だが、零からしたら私怒ってます。そんな風な感じである。要するに可愛らしい感じであった。

 

しかし、あえて触れないようにした。怒った女性が怖い事は彼には経験済みであり、痛い目にあうことをしっかりと過去を通して学んでいるからだ。

 

 暫く、様々な葛藤が彼女の中で鬩ぎあっていたが、第三世代の性能が身近に見れるのは僥倖かもしれない、と思いこくりと頷いた。

 

  今の彼女のIS打鉄二式の整備はまったくと言っていいほど上手く行ってなかった。各部分の出力調整は勿論。武装も全てが中途半端であり、メインの武装であるマルチロックオンシステムについては手つかずの状態である。このままでは……と不安に募らせる簪にとっては息抜きになって良かったのかもしれない。

 

 ――――それがたとえ逃げていると彼女自身がわかってても。

 

「それより、相変わらず美味しい……虚さんといい勝負」

 

 話題が変わり簪が吐いたその言葉にレイは飲み終えたカップを置きながら前に彼女から聞いた話を思い出す。

 

「それは確か……布仏本音の姉だったか?かなり真面目な人物だったんだよな?」

 

「そう、布仏虚。しっかりとしてて真面目な人物」

 

「本音とはまたま逆だな……」

 

 同意見を示すように簪も頷く。

 

「まるで正反対。むしろ……どうしてあんなにだらけきってるのがおかしい」

 

 自分の従者に対して厳しく断言する簪。あまりに酷い言い草であるが的を得すぎて、否定も出来ず深く頷く零。もし本人がこの場に居れば酷いよぉっと言いながらペチペチと裾で叩かれていただろう。そんな光景が容易に想像でき零はフッと笑みを漏らした。

 

 彼のそんなあまり表情が乏しい笑みを眺めながら簪は残りの紅茶を飲み干した。

 

 

 

 学年別トーナメントの試合まで後数分。アリーナには続々と人が集まっていた。従来の時よりもその数は異常に多い。原因は勿論初の男性操縦者が戦うからだろう。

 

 織斑一夏。男性でありながらISを動かし世界で慕われるブリュンヒルデの弟であり彼が乗るハイスペックの機体。第三世代の白式を操るのだ。自然と注目が集まるのも当たり前である。特別席には各国のお偉い方も来ており、観客の一部には国に有望視されている2年、3年の代表候補生が多いのも各国がその機体に注目しているからであり、その機体の性能を把握するためでもある。その中にはレイと簪も混じっていた。

 

「盛り上がってるな……」

 

「それほど、皆アレに期待してる……」

 

 一夏をアレ扱い発言する簪。暗く黒いモノが見えるのは気のせいだろうと思いたい。棘があり怖い。よっぽど嫌な出来事だったんだなぁ。と、無表情でありながらそう考え話題を逸らそうと口を開く。

 

「っと、簪の知り合いが手招きしてるぞ」

 

「かんちゃーーん!こっちこっち」

 

「……本音。こんな大勢の中で叫ばないで」

 

「なんでぇー私はかんちゃんの従者だよぉー?」

 

「そういうことじゃなくて……」

 

「試合が始まったぞ」

 

 揉めている二人を余所に試合は始まった。白の機体は白式。開始直後、いきなりのスタートダッシュで先制攻撃を仕掛けていた。しかし、その機体は突然見えない何かに吹き飛ばされた。

 

「あれが……」

 

「そう、中国が作った第三世代の甲龍(シェンロン)が扱う第三世代兵器―――龍咆(りゅうほう)。衝撃を砲弾として打ち出す衝撃砲」

 

 不可視の攻撃にシールドエネルギーを減らす白式。必死に避けるが攻めあぐねているのが目に見えて分かる。

 

「セシリアの奴とは違って燃費は相当いいんだろうな……あれだけばんばん打ってると言う事は」

 

そう、と相槌を打ちレイの言葉に簪は頷く。

 

 鈴が操るシェンロンは龍咆を巧みに使いながら一夏を接近させない。したとしても手に持つ双天牙月(そうてんがげつ)で弾き飛ばしていた。

 

「中国の第三世代は燃費を重視したコンセプト。多分今の攻撃を見るに拡散性を使ってる。一発一発はたいしたことはないけど、戦闘を有利に運べる。そして何より―――」

 

 不可視なのが圧倒的優位を作る。と、その簪の声にレイは思わず納得した。見えない攻撃ほど、厄介な物はない。現に彼の視線には苦戦を強いられる一夏。一発一発の威力はたいしたことはないといっても当たれば吹き飛ばされシールドエネルギーは消費される。

 

 一夏はりゅうほうの餌食になり壁に叩きつけられた。更に追い討ちをかけるように二発、三発と無抵抗な白式に着弾しシールドエネルギーを大幅に削る。ダメージを喰らいながらもかろうじで抜け出す一夏。だが、鈴はそれすらも許さない。抜け出した進路には既に鈴が待機しており双天牙月が白式を叩き潰した。咄嗟に刀で防いでいたが力の入った蹴りが入り再び壁に弾き飛ばさる白式。

 

 ―――圧倒的。言うならばその言葉が皆の共通認識であった。

 

 ここまで何も出来ず一方的にやられるという試合展開。

 

 だが、これは必然であった。今の今まで鈴は一夏に勝つために念入りに一夏の修行背景で念入りに動きを観察していた。一夏の独自の癖。射撃を避ける際、右側に避ける数が多いのも把握して。

 

 一方。一夏はどうしてここまでの差があるのか分からない、そんな疑問を抱く。確かに強いとは彼自身、予測範囲内ではある、しかし実際に戦えば強いとは思ったがなんとか喰らいつけると括っていた。なのに何故だろう、戦う事に自分が圧倒的不利に立たされていく事に納得がいかない。今も自分の思考を読んでるかの如く動く先には鈴がいて不可視の砲弾が降り注ぎ舌打ちしながら回避に専念する。まだ諦めてはなどない。この白式の特性。零落百夜が当たれば勝てる。そう自分に言い聞かせ彼は隙を伺い動き回る。

 

 

 

「それにしても、あのパイロットも中々。自分の機体の特性を最大限活かした闘い方をしてる」

 

「だね。だね。離れれば龍咆。近づけば双天牙月がまってる。さすがリンリンだね」

 

 わーい、わーいと何故か自分の事のように喜んでいる本音。

 

「一年で代表候補まで上り詰めた実力者だからな」

 

 レイの言った事に驚きの表情の簪。

 

 1年で代表候補生。それが鈴の経歴である。零が鈴本人に聞いた話によれば、中学2年で中国に戻り3年でISに乗り始め、僅か1年で代表候補生までなったのだ。如何に才能があるか分かる経歴であった。しかし、だからこそ―――

 

「それは……中々の才能。でも欠点がある」

 

「あぁー……まぁ血が昇りやすいんだよな……」

 

 先ほど圧倒的な戦況から急に嘘と思えるほど鈴の動きは単調なもの。

 

「何か会話してたが……恐らくそれでアイツの言葉に何か鈴の琴に触れたんだろうな」

 

「感覚で戦うタイプではアリがちなこと……それに」

 

 ―――何か狙ってる。そう言った彼女にレイも同意見であった。明らかに一夏は何かを狙ってる。それは傍から見ても分かるほど。これはヤバイとレイは視線を細めた。

 

「これは……ひっくり返るかもな」

 

「白式の特性……あれは喰らえば一発で戦闘不能の可笑しい代物」

 

 戦況は鈴が圧倒的優位とはいえ、白式の単一仕様能力―――零落白夜。当たれば対象のエネルギー全てを消滅させるというチート並みの性能である。

 

 頭に血が昇って闇雲に龍咆を放つ鈴。先ほどの動きのキレは微塵も残っていない。だからか砂煙でアリーナを覆っているのも気づかない。そしてついに一夏は仕掛けた。龍咆を完璧に見切ったのだ。

 

「なんで!?」

 

 驚く鈴を余所に一夏は避けた後、瞬時加速。ここぞとばかりの切り札を切った。それは鈴に迫り、零や簪含め、鈴の負けだと思った刹那。アリーナの天井から何かが降り注いだ。

 

 

 

 

「……あれは何?」

 

 突然の乱入者に誰もが呆然としていた。いち早く我に返った簪は疑問を口にする。

 

 ISが備えているシールドエネルギー、それと同様の遮断シールドが突き破られた。それが意味することは観客全員が死ぬ可能性があると言う事だろう。

 

「試合中止!直ちに退避せよ!」

 

 千冬の張り詰めた声に第二アリーナにいる観客はようやく事態を飲み込み、少女達は悲鳴を上げた。もくもくと会場に漂う煙が晴れ、不気味なISをその目で認識したこともあるのだろう。殆どの観客がパニック状態になり会場は混乱状態になる。

 

「あの機体は……篠ノ之束!!」

 

 そんな中で突如乱入した機体に思わずレイは声を漏らした。その音色は憎悪で埋め尽くされていた。余りにも見覚えのある機体だったから。自分の仲間を奪った元凶。それが今目の前にいる、思わず本能的に動きそうになるが、彼は止まった。

 

「……大丈夫か簪」

 

「ちょっと足を挫いたみたい……」

 

 逃げまとう生徒に突き飛ばされたのか彼女は足を挫いたのだ。足の具合を確かめたが、簡単に歩けるほどの状態ではなかった。

 

 それだけならまだ良かったのだが、隔壁が全ての観客席に発動しアリーナの元凶から視界を渡る。がしかしレイと簪の場所だけ隔壁が降りてこない。

 

「……何故だ」

 

 依然として、レイと簪の視界には黒いISが佇んでいる。黒いISは何かを探すように不気味に周囲を首がぐるぐると回りこちらに気づき、止まった。

 

(まさか……狙いは俺か!?でも、何故)

「なんで……」

 

 疑問で一瞬思考が空くが相手が腕を突き出す仕草ですぐさまレイは行動する。足を挫いて動けない簪。周りを見れば既に自分と彼女だけ。

 

(間に合え!!)

 

恐怖に歪む彼女を抱えて、ISを展開してからじゃ、遅すぎる。そう判断した彼は腕だけを部分展開し少し離れた場所で心配そうに此方を見ていた本音に向かって彼女を投げた。

 

 しっかりと本音に受け止められた彼女を見て助けられた事に安堵の表情を浮かべる。

 

 良かった。

 

 そう思った直後―――レイは慈悲もなく光に呑まれていった。

 

 

 

 

「アァァアアアッッア!!」

 咆哮と共に未確認ISのレーザーを避けながら獲物を振り下ろし相手を吹き飛ばす鈴。まだ生ぬるいとばかりに鈴の砲身が一瞬煌くやいなや龍咆を連続で発射。一発、二発と叩き込みISを押し潰す。

 

 慈悲もなく、容赦なく、無慈悲に黒いISを破壊していた。

 

 勿論、黒いISも無抵抗ではない。分厚い装甲に任せて突撃する。肩の小型レーザーや腕の先にも同類のが着いており、距離を縮めながら弾幕を放つ。

 

 上空に逃げ回避する鈴。熱波がジワリと肌を焦がすように感じた。

 

 負けじと追いかける黒いIS。暫く避ける鈴だったが、すぐさま急な方向転換。かかる重力を歯を食いしばり耐えながら双天牙月の連結をとき、ぶん投げる。黒いISは二本の青龍刀を右手と左手で器用に弾き、腕の先からビームを放とうとエネルギーを貯めていたがすぐさま龍咆を感知し、位置を横にずれることにより避けられるが同時に俊敏な動きでシェンロンの膝蹴りが中心部分に入り、くの字の如く体を曲げアリーナの地面に叩きつけられる黒いIS。

 

 止めとばかりに雨の如く龍咆が降り注いだ。

 

 煙がアリーナに蔓延る。

 

「なんだよ……これ」

 

 一夏はあまりにも圧倒的な戦闘に思わず声が出た。それほどにまでに幼馴染の操るISが先ほどと自分が戦っていた時とは別人であったから。

 

「どうしたんだ……一体……」

 

 突如、激昂して突撃したかと思えば、黒いISを圧倒する鈴。動きが最早別次元である。容赦が無い程の苛烈な攻撃。援護しようにも逆に巻き込まれそうでただ眺めるしかない。現に今も、龍咆がアリーナに降り注いでいる。黒いISは必死に逃れようと抵抗を試みているも雨のように降り注ぐ龍咆にその場を抜け出せず衝撃の砲弾に呑まれ装甲の傷を増やしていた。

 

 それを見て現状待機。それが一夏の決めた判断だった。いつでも用意出来るよう白式の刀を力強く握り閉めた。

 

 

 

 澄み渡る程、頭が冴え渡っていた。自分でも驚く程に。

 

 殺す。ただそれだけを意識した瞬間彼女の頭はそれだけに体が動いた。

 

 腕が迫る。いつもなら回避で精一杯のはずのもの。それを紙一重で躱しカウンターで予備で出した青龍刀で反撃する。振り下ろされた刃は装甲に罅が入る。さらにとばかりに蹴りを入れた。

 

 面白い程の転がる黒いISが見える。

 

―――見える。―――軽い。

 

 どうすればいいのか、どう動けばいいのか、頭で考えるより体が勝手に動く。本能と言うものだろうか。

 

 レーザーが迫る―――遅い、遅すぎる。

 

 ひらりと体を捻り瞬時加速。本来の彼女なら出来ないであろう技。

 

 それをも容易く出来た。今なら出来て当たり前と本能で何となく理解していた。

 

 驚異的な速度での強襲。何とか黒いISは反応するも、既に遅し。

 

 すれ違い様に鈴は右手の青龍刀で右の拳を弾き左手の青龍刀で右から左に斜めに大きく切り裂いていた。ギギィと異音を発し活動を停止するIS。

 

 目標を達成したことにより殺意がなくなり、それと同時に悲しみが去来する。

 

「あ……」

 

 先ほどの自分の行動など彼女は最早どうでも良かった。滝の如く心に流れ込むのは悲しみ。

 

 心が凄く痛い。

 

 止め処なく溢れ出る感情が制御出来ない。

 

 痛い、苦しい、胸に奔る鋭い痛みが心臓を抉るようだった。

 

 「鈴!まだだ!」

 

 「え……」

 

 幼馴染の切羽詰まった声に気づいた鈴。背後を振り向けば腕を振り下ろそうとしている黒いISが目に入った。

 

 防御しなきゃいけない、そう思ったが上手く体が動かせず凄まじい衝撃と共に鈴は壁に叩きつけられた。

 

「ッッカハ!」

 

今度は別の痛みが襲う。肉体的な意味で衝撃に肺から空気が漏れる。

 

「鈴!そこをどけIS!」

 

 今まで機を伺ってたであろう一夏が間に割り込みなんとか危機を脱することに成功するが。

 

「鈴、動けるか?」

 

「……なんとかね」

 

「さっきみたいに戦えるか?」

 

「多分、無理。怒りであまり覚えてない……それにかなりエネルギーが消費されてる」

 

 シールドエネルギーを一瞬だけ視野に入れ一言。三分の一を切っていた。一夏もなんとなくではあるがそれを理解していたらしい。

 

 あれだけの戦闘。かなりのエネルギー消費は納得出来た。

 

 今の鈴はどこか情緒不安定で感情が揺らいで危なかしいので一夏は策を提案する。

 

 断られたらどうしようと思った一夏だったが、いいわよ。とその言葉に思わず安堵した。余りの無茶苦茶な作戦にジト目で見られたが、承諾して貰えた。

 

「じゃあ行くか」

 

「アタシが龍咆で援護。アンタが隙を窺って切りかかる」

 

「おう。背中は任せたぞ」

 

 今度は一夏を加え、黒いISと再び戦闘を開始した。

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




更新遅くなってすいません。


まったく、手が進まない状態に陥ってました。

書きたい事は山ほどあるんですが、如何せん上手くかけなく、自分で読んでても面白く感じられない。他の方の小説を読むと凄い小説が書きたくなるんですが、いざ、書いて読んでみると何故だが面白く感じられない。

 
 キャラの感情の描写が上手くかけてないのか、もっと状況を説明する背景描写がかけてないのか、そういうアドバイスが欲しい所です。

 それより息抜きにネギマの方も投稿したので、漫画見てた人は興味があったら覗いてください。

ラウラと簪と楯無が早く書きたい。


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