CODE:HERO (TubuanBoy)
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第一話

大神君の性格を描き切れていない気はしますが、描きながら修正していきます。


それは雨の日の話であった。

 

ある少女の下校の時の事だ立間、、、、

 

(つい読書に夢中になって遅くなってしまいましたわ)

 

雨の上に日も暮れている。

公園の横の道路を通っていると暗がりの中1点の光を見た。

 

光を凝視して少女は驚いた。

 

(人…………!?人が燃えている!?)

 

青い炎に包まれた複数の人間。

そしてその中一人の男が佇んでいた。

 

その異常な現象を目に少女はすぐにその元凶が彼だと気がついた。

 

(まさか、あの男の『個性』!?……)

 

この世界、炎の『個性』を持っている者は少なくない。

しかし、そのどの個性ともそれは違った。

 

 

それは

 

熱くて冷たくて

 

激しくて静かで

 

残酷で優しげな

そんな『青い炎』だった…………

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

事の始まりは中国の軽慶市『発光する赤児』が生まれたというニュースだった。

 

以降、各地で超常は発見されその『特異体質』は人口の8割を占めるほどにまで拡散して言った。

 

『個性』と名付けられたそれは人々の暮らしに定着していた。

 

しかし、その最初のニュースよりもずっと昔からそれはあった。

 

 

『個性』が発見されるよりも前から特別な力を持つ人間は存在した。

ただ、歴史の闇に隠れ巧妙に隠蔽されていただけで

 

 

『異能』という形で。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

公園での事件を見た少女・八百万百は直ぐ様、車を降りて現場に直行した。

 

この世界の人気職業『ヒーロー』はその名の通り人助けをするもの。

彼女もヒーローを目指す一人である。

 

 

(この道を曲がったところにある公園!そこで人が燃えている!?)

 

すると彼女の目の前に黒服を来た男女が現れた。

 

顔はサングラスでよく見えない。

 

彼らは『エージェント』と呼ばれるC:Bをサポートする者達。

 

「申し訳ありません。

ここから先には行けません」

 

「あなた達!あの男の仲間ですね!?

正体を言いなさい。そして直ぐに投降するのです!」

 

八百万はファイティングポーズを取り相手を威嚇する。

彼女は子供だが、世界屈指のヒーロー科の学生、ヒーローの卵。

生半可な大人には負けない自信があった。

 

 

「あなたには知る必要がないことです。」

 

 

そう言うと男は八百万の目の前に手をかざした。

 

すると八百万を意識が遠退きその場に倒れてしまった。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「お嬢様!?お嬢様!?」

 

 

八百万はいきなり車を飛び出し、走り始めたお嬢様のようすが気になり追いかけて来た運転手によって意識を取り戻した。

 

 

「うぅ…………私は一体何を…………」

「それは私の台詞です。

急に走り出して……一体何を見たのですか!?」

 

 

八百万は理由を説明しようとしたか、出来なかった。

 

 

「…………私は何を見て…………

 

何をしにここに来たのでしょうか?」

 

 

八百万は記憶を消されていた。

こうして『存在しない者』が存在していた痕跡は、被害者の遺体も含め、綺麗に消されたのであった。

 

事件の方は警察が失踪事件として処理認めヒーローも調査を行わなかった。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

そこはとある街の金融会社の事務所。

その実態は『個性』を悪用する犯罪集団であった。

 

 

その日その事務所がたった一人の青年により壊滅した。

 

最後の生き残りであった厳つい顔したヤクザ風の男がその男に言葉をぶつけた。

 

「くっ…………テメェ…………

どこのヒーロー事務所の者だ!?

こんなことしてただで済むと思っているのかぁ!?」

 

この時代『個性』を悪用した犯罪が増加する代わり『個性』を使い人助けをする職業が注目を集めていた。

 

『ヒーロー』と言う職業が。

 

 

しかし、そんなヒーローでも手が出せないものがあった。

それはこの組織のように犯罪の証拠を隠蔽して善良なる一般市民を装っているもの達だ。

悪事の証拠さえでなければ自分たちは法に守られる立場。

例え、ヒーローであろうと手を出せば逆に犯罪者として罰せられる。

 

「ヒーロー?……違うな…………」

 

男は否定した。

 

「じゃあ!一体なんなんだよ!!」

 

 

 

 

「悪さ…………」

 

「は?…………」

 

 

 

「お前たち悪を裁くのは法じゃない…………」

 

 

青年は動けなくなっている男の顔を掴んで言った。

 

 

「目には目を、歯には歯を、悪には悪を……」

 

 

男は青き炎に包まれ塵一つ残さずこの世から消滅した。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

近隣で違法薬物をばら撒くヤンキー集団を始末し、その元締めのヤクザ組織を壊滅させた彼はCODE:BREAKERと呼ばれる存在である。

CODE:BREAKER(以後C:B)それは法で裁けぬ悪を裁く事を許された『異能』を持つ『存在しないもの』達。

裁きを含めたあらゆる特権と引き換えに全ての個人情報が抹消されている存在。

 

『異能』とは一部の人間が持つ特殊能力であり、非常に強力な力を持つ彼らは全て内閣総理大臣直下の非公認組織『エデン』によって管理さている。

 

管理されていると言ってもC:B以外の異能者の大半は『個性』蔓延るこの世間に馴染み定期的な監視のみである。

 

これも大昔(・・)にあったエデンの改革と今日に至る個性社会の賜物だ。

 

 

『個性』は『異能』から派生して生まれたものだ。

どちらも人の持つ特殊能力で異能は個性より強力だがリスクを伴うだけだ。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

TELLLLLL!TELLLLLL!

 

任務を終え、隠れ家的住居に戻った青年は自分の携帯電話が鳴っていることに気がつく。

 

「もしもし…………」

「お久しぶりです!大神くん。」

 

芝居掛かったハキハキした声が青年の耳に入る。

 

「平家か?次の仕事か?」

「相変わらずのクール&ワーカーホリックですね。

そんな大神くんにぴったりな仕事をお願いしに来ました。」

 

青年を大神と呼ぶのは平家将臣。

青年と同じくC:Bの一人で現在のエデンを実質的に牛耳っている存在だ。

 

大神とは彼が持つ偽名の一つで同僚にはこの名で通している。

大神零、彼をよく知る者はそう呼ぶ。

 

「ある人物の監視と観察のため、身分を偽って学園に潜入にして欲しいのです。」

 

 

平家がわざわざ仕事を持ってくるのだ、ただの仕事だとは思っていない。

しかし、監視と観察という話ならおそらく対象は異能者、本来ならエージェントの仕事だ。

それをあえてC:Bに依頼するのだから訳ありだと大神は勘づいた。

 

「訳ありか?………」

「ええ……『ワン・フォー・オール』及び『オール・フォー・ワン』がらみの依頼ですよ。」

 

その名を聞いてピクッと反応を見せた大神。

その名はエデンにっとって、そして大神にとって因縁のある言葉だった。

 

オール・フォー・ワン、それは個性が一般に馴染もうとしていた時期、超常黎明期に生まれた特異な個性持ちだ。

彼は当時からその個性を悪用し、犯罪を繰り返す悪だった。

 

だが、エデンはそれ以上にその能力を危険視していた。

その能力とは個性を奪い、与える能力であった。

 

本来、個性や異能の力は譲渡ができない。

それを可能としたものが嘗て一つだけあった。

 

『パンドラの箱』12月32日に生まれた絶対に開けてはいけない禁忌の箱。

その昔、C:B総出で破壊に成功したが、今度はそれが人の形をして現れたのなら放って置くわけにはいかない。

 

ワン・フォー・オールはオール・フォー・ワンから生まれたオール・フォー・ワンを打倒する力。

5年前、ワン・フォー・オールを影でサポートしオール・フォー・ワンを打倒することができたがC:Bは知っていた。

オール・フォー・ワンは死んでなんかいない、今もどこかで息を潜めていると。

 

「ワン・フォー・オールの力が衰えて、次の世代に移ろうとしています。

大神くんには新しい継承者の観察と護衛をお願いしたいのです。」

「…………」

 

ワン・フォー・オールあるところにオール・フォー・ワンの影がある。

宿敵が弱っている時に手を出さない理由はないだろう。

観察ついでにそれを餌に出来れば都合がいい。

 

 

「大神くんには生徒として彼が春から通う学園に入学してもらいます。」

「観察………学生……………」

「懐かしいフレーズですね。」

 

大神は過去にある学園に学生として入学した時のことを思い出していた。

 

 




プロローグですから少し短め、一話は直ぐに投稿します。


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第二話

続いて第二話を投稿です。

大神の姿は原作の高校生のままで、クロス補正により幼くイメージしてください。

最終話なんてなかったんや!


 

 

あの事件を目撃された少女がいるなんて知る由も無い大神は柄にもなく再び学校生活を始めようとしていた。

 

 

学校生活初日の朝。

観察対象者が所属するクラスに急遽編入することになった彼はしれっと自分の席に座り本を読んでいた。

 

教室の前の方では爆発頭と真面目眼鏡が口論していたがあの手の五月蝿い人間はどこにでもいる。

 

腕が6本の奴や頭に何か変な奴がついてる奴、横で重箱の様な弁当を貪っている。

 

流石は日本屈指のヒーロー科がある学校だ『個性豊かな』連中が揃っている。

 

 

 

(しかしまぁ、俺がまた学生生活とはな)

 

昔、似たような任務で学校に潜入した事があるがあの時はまだ年相応であった。

 

本来、大神は学生をやるような年では無い。

学生どころか大半の先生よりも長く生きている。

 

高位異能者は生命力をコントロールし、通常の人間より長く生きれ見た目上は年を取らない。

大神が変装もほとんどなく学校に通えるのはこのおかげだ。

 

「ケロ?……………」

 

本を読んでる大神の顔を覗き込む少女がいた。

彼女は独特の語尾で大きな目を見開いていた。

彼女の名前は蛙吹梅雨その名の通り『蛙』の個性をもつ。

 

 

大神は外面用の口調で答えた。

 

「どうかしましたか?…」

 

「…………ケロ、あなた入試の時にはいなかったわよね?」

 

大神は入試をパスした、言わば裏口入学生だ。エデンという秘密組織のコネを使って入っているため入試を受けていない。

 

「入試には何百人も受けてましたよね。

その中で僕がいたかなんてわかるんですか?」

 

「…………そうね。私も落ちた人達を、一人一人覚えててないわ。

でも、貴方みたいに不思議な雰囲気の人を見逃すわけないと思ってね」

 

その少女はその曇りなき眼で大神の特異性を見抜いているのだろうか。

 

「特待生かしら?」

「……ええ、まあ。そんなところです。」

 

確か、推薦入学者が何人かいたはずだからここではそう通しておけばいいだろう。

 

「それはおかしいですね。

私、試験の時。お会していませんでしたよ。」

 

先程の会話を疑問に思い、八百万が話しかけてきた。

 

八百万には記憶がない。

あの時の男がここで学生をやってるなんて思いもよらないだろう。

 

八百万は考えた。

一般に入試にも特待生入試にも来ていないとすると彼はどうやって入学したのだろうか?

二人は疑問が湧いた。

 

「……え……っと、それはですね。」

 

大神が嘘の事情を話そうとすると始業が始まっていて担任の先生らしき人が前に立っていた。

 

「お友達ごっこしたいなら他所に行け、ここは……ヒーロー科だぞ」

 

見るからに不衛生、髪の毛は伸ばしっぱなしでヒゲも伸びている。目はどんよりしている。

 

ヒーローネーム:イレイザーヘッド(本名:相澤消太)

アングラ系ヒーローと呼ばれるプロのヒーローだ。

この学校では現役のプロヒーローが教鞭に立つ。

 

 

「早速だが、体操着を着てグラウンドに出ろ」

 

 

相澤は入学式もガイダンスもすっ飛ばして初めての授業を開始した。

その内容は『個性把握テスト』本来個性抜きで測定する体力測定を個性ありで行う事で個性の内容とその練度を測定するものだ。

 

「個性を使って記録をだせ、出来なければ退学だ。」

 

 

相澤は今期の新入生をこのテストで見定め、見込みなしは退学処分にするつもりらしい。

 

 

(これならこいつら全員の能力がわかる………あの特別入学者のな………)

 

 

さっきも言ったが、大神はエデンにある特別なコネで入学している。(任務が決まった時には入試か終了していたから)

その真相を知っているのは校長を含めた一部のものだ。

 

一般入試も推薦入学も受けずに特別に急遽、入学が許された謎の多い生徒。

校長に聞いても特別な才能を持った素晴らしい生徒だから スカウトしたと言ってはぐらかされてしまった。

故にそれを不審がった相澤は大神に目をつけていた。

 

 

『会長のコネを使って特別に入学させて貰ったのでそれ相応の実力を示してくださいね。』

 

大神は平家の言葉を思い返す。

 

推薦入学試験さえも免除した彼は言わば推薦入学者よりワンランク上の存在。

そんな彼が初日で退学処分になったら笑い物だ、下位は避けたい。しかし

 

(あまり人に見せたい異能じゃないんだがな。

………しかし……………この程度なら…………異能を使うまでもないか)

 

 

50m走 5秒23

 

現存するC:Bは遺伝子レベルで他とは規格が違う。

 

長きに渡る修行と実践経験でそれを引き出せるようになった大神の身体能力は『珍種』にだって引けを取らない。

 

(まぁ、こんなものだろう。……しかし、少しなまってるな……)

 

速さが得意分野である飯田、応用力を見せた爆豪に続いて三番手。

 

実践戦闘におけるスピードならともかく直線的なスピードでは飯田に敵わない。

 

しかし、好成績。

大神は好成績を叩き出していった。

 

 

それを見ていた蛙吹梅雨はぼやく。

 

(かれ、の個性は身体能力向上系かしら?……)

 

 

蛙吹が感じたその違和感。

それが確信に変わっているものもいた。

 

(彼奴……個性無しで……)

 

相澤の個性で個性封じをしても能力に変化はなかった。

彼が個性を使っていないことは明白だ。

 

ちなみに相澤の個性封じは異能も封じられる。

 

この辺の互換性があるのも個性と異能が同種のものであるという証拠になっている。

 

異能という名前を知らない者にとって異能とは発動型の個性と認識されている。

 

異能と個性の違いは使いすぎると死を迎える『コード・エンド』と同じく使いすぎると24時間異能が使えず、人によっては姿形さえ変えてしまう『ロスト』があることであろう。

 

 

 

先生や一部の生徒に違和感を持たれてはいるものの成績的には問題ないライン。

 

心配なのは大神よりも今のワン・フォー・オール保持者だ。

 

(能力の使い方がお粗末過ぎるんじゃないか?…………)

 

入試試験の映像と今の様子を見る限り彼はまだまだ能力の調整が出来ない。

 

能力の負荷に耐えられず肉体が壊れるのを恐れているようだ。

 

(気持ちはわかるがな……)

 

大神も後から能力を得た者(正確には違うが)、異能の負荷に肉体が耐えられず、悲鳴をあげることも多々あった。

 

ロストもしない生命力が枯渇する状態である。あれは地獄だった。

 

しかし、増強型である彼は更に肉体の負荷が大きい。

 

自分に異能をくれた『皇帝』が増強型でなくて本当に良かったと思う。

 

 

 

しかし、だからと言って大神には継承者を助ける気は無かった。

継承者にそれ相応のものを見せてもらうしかないだろう。

 

仮に彼が退学させられたらそこで任務終了。

大神もこの学校から去り、『エデン』には見込みナシと報告するだけだ。

 

(最小限の被害で!!!!)

 

ハンドボール投げを前に八方塞がりの彼が下した決断は指にだけに力を集中させ、被害を最小限にした状態で超絶的な記録を叩き出すことであった。

 

「まだ!動けます!!」

 

壊れた指を握り、泣きながら先生に訴える継承者の姿を見て大神は驚愕した。

 

 

 

 

 

 

(………なんて奴だ………………)

 

骨はボキボギに折れて肉は破裂したかの様にズタボロの指。

 

入試の映像を盗み見たがアレはまだ自分の個性が体にどの様に影響するかわからなかったから出来た芸当だと思っていた。

 

しかし、今回は意識的に故意に使った。

 

いくら後で治せるとわかっても自分の肉体を自らの意思で壊せる人間はいない。

いたとしたら余程の覚悟を持つ人間か異常な精神の持ち主。

 

どっちにしても気狂いだ。

 

大神にも似た様な戦い方をしたことが何回かあった。

特に同胞達との戦いは熾烈を極め、無我の境地にたどり着くほどであった。

骨が折れようが血管が切れようが何がなんでも勝ちたいと言う一心で。

しかし、コレは戦いでもなんでもない。

ただの身体測定であり、ペナルティを受けても退学する程度。

 

彼にとってこの学園を追い出されるのはそれに相応する重大さなのだろう。

 

 

「入試の時にも見たが自分も怪我をするのか。おかしな個性だ。」

 

 

眼鏡の真面目君が冷静に継承者の能力の感想を言った。

 

(『おかしな?』…………

それで片付けるのかよ。

今の若い奴らは…………)

 

超常が当たり前の世代からしたら継承者の異常性も通常なのかもしれない。

 

とはいえこれでまともな成績が継承者に出た。

後は先生の気まぐれに託すだけだ。

 

 

 

 

テストが終わり、結果が発表された。

 

大神 零 3位

 

緑谷 出久 最下位

 

これは見るも無残。

下位何人が退学かはわからないが、継承者が残り、大神が落ちることはないだろう。

 

「今回の能力把握テスト、脱落者は一人だけだ。」

 

一人と聞いた瞬間、皆が継承者の事だと考えた。

 

「脱落者は大神零、お前だけだ。」

 

(はぁ?…………)

 

大神は一瞬、戸惑いながらも何時もの感覚で反論した。

 

「……理由を聞かせてもらってもいいですか?」

 

相澤は怒る様に大神に答えた。

 

「俺は個性を使って記録をだせと言った。

それなのに個性を使わないとかウチも舐められたものだ。」

 

クラスの全員が騒ついた。

無個性であれだけの成績を出せる人間がいる事に。

 

(しまったな。異能を隠したことが裏目に……

今、思い出した。奴は確かに個性を消す個性を持っていたな。)

 

「僕の個性はこう言う競技に向かないんですよ。」

 

嘘ではない。

 

 

 

 

「だったら最後のチャンスだ。」

 

相澤は首に巻くマフラーを武器の様に振るい大神を拘束した。

 

 

「俺と戦え…………

ヒーローにはそれ相応の戦闘力が不可欠だ。

競技にも応用できない、対人にも使えない個性なら早めに諦めた方がましだ。」

 

「くっ…………」

 

 

別に大神はヒーローになりたいわけではない。

任務だから仕方なく来たに過ぎない。

だが、この学園を追い出されても困る。

 

(切れない……

このマフラー……ただの布じゃない……)

 

炭素繊維に特殊合金を編み込んだ捕縛武器。

力では切れるわけがない。

 

(くっ……)

 

 

 

 

ボッ……

 

 

 

大神の右手が一瞬、青光りしたかと思ったら光は大神を拘束した布を包み瞬く間に炎上した。

 

 

「青い炎…………」

 

見覚えのある炎八百万は言葉を漏らした。

 

 

 

 

あの時、見た青い炎。

八百万の中に封印された記憶が蘇る。

 

 

あの時の人がまるでゴミの様に燃え散る様がフラッシュバックした。

 

 

 

 

「逃げてください!先生!」

 

 

あの炎の危険性を感づいて八百万は声をあげた。

 

 

 

 

 

炎は布を伝い、相澤に向かっていく。

相澤は異常を感じていた。

 

(耐火性に優れた捕縛武器が炎上している!?ただの炎じゃないな)

 

相澤は反射的に武器を手放す。

 

青き炎は武器を全て飲み込み、燃え散らせた。

 

 

(不自然な燃え広がり方……

しかも炭化じゃなくて消滅してるみたいだ)

 

八百万百と同じ推薦入学者である轟焦凍もその特殊性に気づいた。

 

自分も炎を使う個性だからわかる。

焦凍もあの武器を燃やすことはできるだろう。

しかし、あんな少量の炎で跡形もなく燃やすことは出来ない。

物凄い熱量であると言う証拠だ。

 

 

「わかりましたか?僕の個性は人でさえ簡単に殺すことができます。

一応、コントロールは出来ますが、不用意に使わない様に多少体を鍛えてるんです。」

 

 

触れたものを問答無用に燃え散らす。

強力過ぎるために救助や捕縛に向かない。

 

大神以上にC:Bの役割を体現したものはいない。

大神の説明に納得してしまった相澤は大神の退学を取り消す事にした。

 

「理由はわかった。

お前の退学をとり消そう」

 

「ありがとうございます」

 

(食えない奴だ。

……だが、確かに校長が言った通りの別格と言った風だな。)

 

 

 

こうしてA-1の初授業が終わった。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

初日を無事に終え、家に帰ろうとする大神は大きなスクランブル交差点に入る前に足が止まった。

 

「いつまで付いて来るつもりですか?……」

 

教室と同じ様に丁寧語で話しかけられた。

 

 

 

建物の陰から出てきたのは八百万百。

彼女は先日に見たあの惨状が本当であるかを問うた。

 

「三ヶ月前、公園で不良たちを殺したのはあなたですね!?」

 

 

(報告にあった目撃者だな。

……消した記憶が異能を見たショックで蘇った……と)

「僕が殺しましたけど、それが何か?」

「何を言っ……!?」

 

「仕事なんですよ。

ゴミどもを殺して何が悪いんです?」

 

なんと言う言い分、人の命を何だと思っているのか。

 

「彼らが貴方に殺されるだけの何をしたんですか!?」

 

「……強盗、恐喝、暴行……

わかっているだけで20件か……裏で暴力団が手を引いていた」

 

「そんな……嘘です。

そんなのヒーローが黙っているわけない」

 

 

「『記憶を消す個性』『声を変える個性』、昨今の個性社会のおかげで犯罪の証拠は隠したい放題だ。

警察は個性に頼らないし、ヒーローはもっと目立つ事件にしか目がいかない。

……あなたたちが言うヒーローなんてただの人気商売ですよ。」

 

 

自分たちの目指すヒーローを侮辱されて頭に血が上った八百万は反論した。

 

「だから悪人を殺すのですか!?

自分こそが本当のヒーローとでも!?「……悪ですよ。僕は誰よりも……」はあ?」

 

答えた大神の姿はどこか寂しそうであった。

 

「なら、自首してください!罪を償うのです!……きっと情状酌量の余地が!?」

 

「罪を償う……ですか、あなたは『あの人』と同じことを言うんですね。」

 

 

「あの人?……」

 

 

 

「だが、誰も俺を法で裁くことは出来ない。」

 

明らかに口調が変わった。

教室とは明らかに違う。

 

「例え、この大勢の人間ごとお前を燃やしても俺は決して裁かれない。

法で裁けぬ悪を裁く悪。

それがオレたち内閣直轄非公開組織『|楽園(エデン)』が所有する実働部隊『CODE:BREAKER』」

 

彼が何を言っているのか八百万にはわけがわからない。

 

「何を言って……」

 

 

そして八百万が困惑しているうちに大神は右手で八百万の顔を掴んだ。

 

「燃え散れ…」

 

三ヶ月前の記憶と先程の先生との戦いから青い炎がフラッシュバックした。

 

恐怖

 

 

八百万には大神が先程使った青い炎を防ぐ手立てがない。

 

このまま骨も残らず燃え散る運命なのかと。

 

「やめてっ!!」

 

とっさに手に持ったままの鞄を使い大神の拘束を解いて走り出した。

 

捕まれば殺される。

人混みに紛れ、全力で走る。

 

 

しかし、気づくと八百万の手は大神の右手に掴まれていた。

 

「右手の握手はサヨナラの握手。

さようなら、八百万百さん……」

 

掴んだ右手が光り輝く。

八百万は覚悟を決めた。

 

「なーんてね。」

 

 

 

 

 

大神の顔は教室で見せたにこやかな物に戻っていた。

 

「あなたもこの人達も悪じゃない。

だから不用意には殺しませんよ。」

 

 

昔の大神なら躊躇なく八百万と一緒に人々を殺していただろう。

 

 

「安心してください。

あの学校には誰かを消しに来たわけではありません。別の任務です。

…………ただし、あなたがこのことを他人に話した場合、あなたと其奴……そしてその周りの人も一人残らず処分する」

 

 

大神のさっきに蹴落とされた八百万はその場にぺたりと尻餅をつき、しばらく動けなくなってしまったのであった。





前半はヒロアカ後半はC:Bのエピソードで構成しました。
C:Bのエピソードは差込めるだけ差し込まないとダダのチート能力を持つ主人公の二次創作になってしまいますからねwww


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第三話

今後の予定
八百万ヒロイン
C:Bは全員登場
オリ主でバランス調整

これらの要素が苦手な人は意見ください、検討します。
でも基本豆腐メンタルなので優しくしてください。



 

 

 

大神の殺気に押し倒されてしまった八百万百であったが、次の日には覚悟を決めた顔で登校して来た。

 

 

「……おはようございます。大神さん」

 

「………………おはようございます。

八百万さん…………」

 

大神は驚かない。

かつて同じような人にあったから。

そして彼女の中にある決意を感じていた。

 

(周りの人たちを人質にされてる限り、警察に駆け込むのは得策とは言えませんね)

 

先日の公園の件が全く事件になっていないことから警察にも彼らの域がかかっていると見てもいい。

 

(それでもなんで、私を生かしたかはわかりませんが、これはチャンスです)

 

エデンには彼女は記憶を消したと報告してあり、彼女が記憶を取り戻していることを知っているのは大神だけだ。

 

(彼を見張って彼の組織を探る。

最終的には人殺しを推奨する彼の組織を潰して見せます)

 

 

八百万は彼が時折見せる寂しい顔はなんなのか気になっていた。

 

(組織を潰して彼を救う。

私には彼を救う理由も資格もない。

彼からしたら余計なお節介かもしれませんがそれこそが私達ヒーローの本懐だから……)

 

八百万一人の力ではどうにも出来ないことは最初からわかっている。

警察にもヒーローにも相談できないならやれることは1つだ。

 

(彼を改心させて人殺しを止める……

それしかありませんね。)

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

場所は変わって校長室。

ちょうどその頃、珍客が来ていてそこには奇妙な空間が広がっていた。

 

「いやいや、お久しぶりですね根津校長。」

「校長なんてつけなくていいですよ。

渋谷会長。」

 

喋る小動物と猫の着ぐるみを着た変人が悠長に話していた。

 

「あなたの頼みで入学させた彼は『存在しない者』(コードブレイカー)ですか?」

 

「流石は智い…その通りです。」

「もしや、今年から担任にした『オールマイト』関係で?…」

 

オールマイトもとい、『ワン・フォー・オール』と『オール・フォー・ワン』の関係だ。

 

 

「…………はい、ですが」

「わかっています。

本人には伏せてあります。

それに『存在しない者』が存在すると言う事実はまだ世界には早いのは理解しています。」

 

昔からC:Bは歴史の陰に隠れてきた。

それは世界を混乱させないためであることを校長は理解していた。

 

「…………いえ、エデンではもう直ぐなくそうと言う考えがあります。

だからこそ平和の象徴に悪の象徴を今度こそ倒してもらいたいのです。

次なる継承者に…………」

 

存在しない者が存在しない世界。

それは真の平和を意味する。

 

「だからこそ平和の象徴には悪の象徴を倒してもらいたい。」

 

本人たちの知らないところで話は進んでいた。

真の平和を目指し。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

八百万は大神についてくる形で監視を続けていると大神に話しかけてくる人達がいた。

 

「おっす大神!」

「よっ!大神」

「ちっす、大神!」

 

彼らは同じクラスの学生だ。

金髪チャラ男にツンツン赤髪に地味のっぽ。

 

「おはようございます。

稲妻くん、金剛くん、糊くん」

「上鳴、切島、瀬呂な……個性で覚えられてるんだろうけどな……」

 

 

この時代は何故か個性が名前に反映されてる。

名は体を表すとはよく言ったものだ。

 

「つーか、人見知りキャラかよww

まぁ、いいぜ。これからゆっくり覚えて行けばよ!」

 

フレンドリーかつ軽いノリの奴が固まってるみたいだ。

三人は先に教室に向かった

 

そんなやりとりを見ていた八百万が注意した。

 

「ご学友の名前くらい覚えたらどうですの?」

 

「どうでもいいですよ……

仲良くなろうと無かろうと……

どうせ、大神の名も偽名。

場所が変われば名も変える。

 

任務が終われば『存在しない者』に戻るだけなんですから……」

 

どうやら、彼なりの人の拒絶法のようだ。

 

 

 

※※※※※※※※※※

 

二人が登校する様を学校の屋上で眺める一人の青年がいた。

 

「……アレが噂の『エデン』(うち)

のエースさんですかどれだけの実力か見せてもらいますよ……先輩。」

 

 

教室で重箱の弁当を食べていたクラスメイト。

黒く長い髪を後ろで結ぶ彼は大神を見定めるような目つきであった。

 

※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

「私がぁ〜

普通にドアから来たぁぁ!!!」

 

 

今日は初のヒーロー基礎学の授業の日。

 

皆は興味津々であるが、C:Bである彼には興味はなさそうだ。

 

「君たちにはコスチュームが届いているよ。」

 

入学試験合格者にはそれぞれ要望通りのヒーローコスチュームが作られる。

個性の長所を伸ばし、短所を補う仕様だ。

 

(俺の異能は装備で補える者じゃないしな……)

 

大神の異能はC:B4の様に水銀を使って戦術の幅を効かせる様な器用な真似はできない。

 

「大神君のも届いているよ!さぁ、持って行った!持って行った!」

 

オールマイトの声に驚く大神。

 

大神は仕方なく服の入ったケースを開けるとそこに手紙が入っていた。

 

『大神君が着るコスチュームと言ったらコレしかないでしょう。

学園生活を楽しんでください。レッツ!エンジョイ!』

 

(平家ぇ!!)

 

中に入っていたのは昔、学生として潜入していた時文化祭で着た服。

明治の洋服であった。

 

「おぉ!大神のコスチュームもかっこいいじゃねぇか!

昔の人の服か?」

 

 

「明治時代の服装ですわね。」

 

と切島と八百万が感想を言った。

 

同じヒーロー科の名門の士傑高校の制服(コスチューム?)も昔の軍服だからそこまで異質でもないのかもしれない。

 

仕方なくコスチュームを着終わるとケースの一番下からこれもまた珍しいものが現れた。

 

(会長(クソ猫)の刀……)

 

それは《捜シ者》打倒の為に訓練し、使ったにゃん丸印の刀であった。

 

(ロスト対策か?)

 

異能者は力を使いすぎると体に異変が起きて更に24時間異能が使えなくなるロストと呼ばれる生命維持モードに入る。

 

異変内容は人それぞれである、例えば大神のロストは体が透けるというものだ。

 

 

《大神君のことですからロストする様なヘマはしないでしょうが一応対抗策に刀を入れて起きました。》

 

 

(成る程な、…………

ん?このボタンはなんだ?)

 

大神は服の中に変なボタンがあることに気がつく。

 

「ムグッ!!」

 

突如包帯が顔や手に巻きついて巻きついて大神の素肌が見えない様になった。

 

 

「ガハハハッ!なんだよそれwww

ミイラ男爵!?」

「………………」

 

なんの冗談かと思った瀬呂が笑う。

 

(これもロスト対策か……)

 

 

ロスト対策だけではなく、耐熱、耐電、耐圧にも優れる特殊素材で、見た目よりハイテクだ。

 

(まるで珍種対策だな……

…………まさかな…………)

 

平家のアプローチが普段より凝っている。

大神も思うところがある様だ。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

今回の授業はいわゆる模擬戦だ。

2人1チームを組み、(ヴィラン)正義(ヒーロー)側に別れて行う。

 

悪は爆弾を守り、正義はそれを奪還する筋書きだ。

 

大神はくじを引くとKのマークがつけられていた。

 

(Kチームか……)

 

相方は誰かと見渡すと欠伸をして眠たそうにするクラスメイト。

こちらに気がついたのか手を振っている。

 

昨日、重箱のお弁当を早弁していた生徒だ。

渋谷透魔、確かそんな名前であった。

 

 

 

第一戦は継承者・無限少女チーム対真面眼鏡・爆裂頭の対決。

 

戦いは序盤から波乱を起こしていた。

継承者に私怨剥き出しの爆裂頭は果敢に攻めるが全てをいなされる。

継承者のその動きはまるで武術の達人であるかの様だった。

 

(予測か…………頭を使った戦い方をするんだな……)

 

味方も敵も全てぶち壊して終わりの戦いを見てきた大神は少し驚く。

 

(彼奴は確か情報によると重度のヒーローマニア、自分が無個性であることが反動になっているんだろうが、かなりのものらしい。

 

対する相手は幼馴染の天才児、彼奴にとっては一番身近なヒーロー、長所も短所も隅々まで頭の中に叩き込まれてるんだろな)

 

実力では天と地ほどの差がある2人でもこれだけの要因があれば戦えるわけだ。

 

大神がこういった戦い方ができるんだと感心していると試合は急展開を迎える。

 

『スマァァァァシュゥ!!!』

 

継承者がワンフォーオールの力でビルに大穴を開けてその隙をついて正義側が爆弾を回収して試合は終了した。

 

(結局自分を壊して滅茶苦茶にして終了か……

仕方ないところがあるがアレでは成長する前に体が壊れるぞ)

 

大神は携帯を取り出してある者と連絡を取ろうとしたところで動きが止まった。

 

(彼奴に連絡を?……

何を考えているんだ俺は。

俺はただの観察者なのに……)

 

継承者にはなんの義理も義務も無い。

大神は自分の行動がわからなくなった。

 

「エデンとやらに連絡を取るのですの?……」

 

八百万が心配する様に問いかける。

彼はこの学園には人殺しに来たわけではない。

しかし、内容を知らない八百万にはそれが不安でしょうがない。

 

「いえ、古い友人に連絡を取るだけです。

彼の腕を治す手伝いが出来ればと。」

 

「あの腕をですか?

リカバリーガールが入れば問題ない様な気がしますが」

 

リカバリーガールはこの学園の保険医だ。

個性『治癒力の活性化』をもつ学園でも古株の女性。

勿論、医者としても一流だ。

 

「ですが、緑谷さんの頑張りを見てそう思ったのなら良い兆候です。」

「あなたは僕の何なんですか……」

 

今の八百万には大神は人に対して興味も思いやりも無いただの人殺しに見えている。

彼を改心することを彼女は考えているが大神の意識はそこには無い。

 

 

その後も次々と試合が繰り広げられる。

能力測定の時も思ったが、最近の子供はレベルが高い。

昔であれば直ぐにでもC:Bとして働けるレベルだ。

しかし、この個性社会では子供の域を出ない。その分C:Bには他のヒーローからも隔絶した力が必要となる。

それが欠番のC:B1が中々埋まらなかった理由でもあった。

 

5試合目が終わり最後に残されたのはKチームの大神と渋谷。

 

渋谷がオールマイトに聞いた。

「僕たちだけ残ったんですが、どうするんですか?」

 

「そうだな、このクラスは22人だから2人余っちゃうな。

 

すでに訓練を終えたチームを選出するのもいいが……

 

そうだ、Kチームの2人がそれぞれベストパートナーを選んでKチーム同士戦いなさい。

 

皆の個性を見て相性の良さそうな相手を見つけるのも必要だからね。」

 

 

「わっかりましたー!

じゃあ、誰にしよっかなー?

誰か、大神くんと戦いたい人いる?ー」

 

好戦的で実力派の爆発頭が名乗りあげると思ったが、継承者との戦いたい、紅白頭の個性、八百万の知識と彼のプライドを削ぎ落とす行為が立て続けに起きたので意気消沈していた。

 

「俺が相手をする……」

 

名乗りをあげたのは紅白頭こと轟焦凍。

クールな彼に似合わず大神との戦いを待ち望んでいた。

 

「じゃあ、僕は……」

 

 

「私がパートナーを引き受けますわ」

 

大神のパートナーは八百万が名乗りをあげた。

 

(彼が力を振るえば最悪人が死にますからね。

それを止めるのも私の役割!)

 

大神のヒーロー基礎学が始まった。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

轟焦凍は大神に対して並々ならぬ敵対心を持っていた。

 

 

彼の父親はNo.2ヒーロー『エンデヴァー』は炎を操るヒーローだ。

 

No.2というだけあり、炎の個性第一人者。

彼もまた、大神と同様、炎の温度を上げることで青い炎を作り出すことができ、その炎は冷酷な彼を表現している様で、彼を憎んでいる轟にとっては忌むべき存在なのだ。

 

(彼奴を超えるのに、同じ個性持ちに躓く訳には行かないんだよ)

 

※※※※※※※※※※※※

 




オリキャラ登場です。
正体は……まぁわかりますね。
クラスが22人だから3対3かなとか考えましたが組み合わせを考えるのが面倒だったからこうなりました。


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第四話

 

大神のヒーロー基礎学が始まる。

大神は『正義』サイドとして爆弾を回収する役だ。

 

「あなたは本当にお節介ですね」

「万が一でも学校で死人を出す訳にはいかないので。」

 

人殺しを止めるために自分の危険を顧みずに行動を共にする。

本当にあの人によく似ている。

 

その言葉に怒りを感じた大神は右手を八百万の顔の前に向けた。

 

大神の警告だ。

 

「あまり自分を過大評価しないほうがいい。

言ったはずだ、俺がその気になればここにいる全員を燃え散らすことが出来るし、あなたにそれを止める方法はない」

 

その通り、彼女の個性は構造を理解したものを作り出す『創造(クリエイト)』力より知識を必要とするその能力はどちらかと言うと補助だ。

 

それを差し置いても大神が本気で殲滅を始めたら止められるのはオールマイトだけだ。

 

「それでも私は諦めない。諦めたらただ、それだけで終わってしまうのですから」

 

この心も似ている。

しかし、大神はあの人とは違う脆さもに感じていた。

 

「そうか……話は終わりだ」

 

腕を引っ込むたかと思ったら大神は右手に青い炎を宿す。

 

そして、青い炎を八百万に振りかざした。

 

「え!?」

 

八百万は自分への攻撃かと思い防御しようとするが服を掴まれ後ろに引っ張られた。

 

青い炎は八百万の後ろから迫り来ていた氷を相殺させた。

 

「来たぞ!」

(あの紅白頭か……中々に強力な『冷気』だ)

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

轟は先行して正義側に単身で攻撃に移っていた。

 

それは私怨に狩られての戦いとは少し違った。

 

「僕の個性は君の邪魔になるからね。

君が先行して僕が護りにはいるよ」

 

そう言い両者納得の上で別れた。

 

彼の個性は『生命力』。

常人より強い生命力を持つのが特徴。

それにより肉体は活性化し、自然治癒力・身体能力・免疫力の向上する。

 

緑谷、砂糖に続く増強型だが前者ほどのリスクは無く、その代わり火力が乏しい。

 

肉体派の彼がそばにいたのでは彼の大火力・広範囲攻撃が生きない。

故に別れたのだと彼は言っていた。

 

しかし、彼はハナっから防衛役に回るつもりはなかった。

 

「さてと、行きますか…………」

 

 

 

所変わって大神・八百万と交戦する轟。

 

 

「クッソォォォオ!!!!」

 

建物の通路でエンカウントした2人はお互いの力をぶつけ合っていた。

 

「………………(ぐっ」

 

炎と氷の鬩ぎ合い、大神が右手を少し押すと境界線が少し動いた。

 

轟は相殺させるのにやっとだが大神はまだまだ余裕だ。

 

轟と大神の力、それは量対質の戦いだ。

攻撃範囲は轟の方が上だがただの冷気。

逆に大神は自らの生命力を使い生み出した『煉獄の炎(サタン・ブレイズ)』どんなものでも焼き尽くす地獄の炎とでは質が違う。

 

長所である攻撃範囲が生かせないこの通路では大神に軍配があがる。

 

それにいくら強力な個性を持っていようがまだ子供。

将来的にならともかく、今はひらけた場所でも大神は負けるつもりはないだろう。

 

轟は父を拒絶する様になってから訓練して来た氷の個性、それを易々と押し返されて意地になっている。

普段のクールな彼が見る気もない。

 

彼は強力な個性を持っているだけに皆、攻略しようとするには泣き所である接近戦を付こうとする。

 

しかし、接近戦とはどうしてもリスクを伴うし、一手間違えれば直ぐに反撃を食らう事を意味している。

それに轟自身、それがわかっているか何らかの対策を施すだろう。

故に一番簡単に攻略するには彼以上の火力で押し通すが確実である。

(勿論、それが出来ればであるが)

 

 

 

(凄い……あの轟さんの力を押し返すなんて…………)

 

「凄いよね〜あれくらい僕もできるけど」

 

「え?」

 

八百万は戦いを見るのに夢中で背後から近づいてくるもう一人の敵に気がつかなかった。

 

 

ギリギリでなんとか防御できたが八百万はその場に倒れる。

 

「きゃ!」

 

渋谷は八百万を倒すとそのまま大神に向かって拳を振りかざした。

 

轟と渋谷に挟まれた渋谷の攻撃を轟とは逆の手で受け止める大神。

 

しかし、それが悪手であった。

 

「残念でしたー」

 

突如、大神の力が抜ける。

 

(この生命力が抜ける感じ……まさか!?……『珍種』!!?)

 

大神の炎が弱まり、轟が反撃を開始し始めた。

 

「今だよ!轟くん!」

「余計なことしやがって……」

 

力が十分に出ていない状態で轟の攻撃を喰らったら不味いことになる。

 

大神のピンチかと思われた瞬間、大神に助け舟が舞い降りる。

 

「どいてください!!

大神さん!防御を」

 

そこには火炎放射器を担いだ八百万がいた。

 

あたり一面を火の海に帰る八百万。

 

大神は青い炎で防ぎ、轟と渋谷は距離をとった。

 

「……八百万さん……ありがとうございます。

お礼を言っておきます」

(逆に危なかったけど……)

 

「一応、パートナーですから」

 

 

これからは私が言わんばかりに八百万は二人の前に立った。

 

「私だって見てるわけには行きませんので。

大神さん、交代です私が二人を相手するので大神さんはその隙に爆弾を回収してください」

 

 

八百万の言葉に轟が怒る。

 

(舐められたもんだ!……)

 

轟が氷の攻撃を八百万に放つ。

 

「お二人の攻略法は先程大神さんに見せてもらいましたわ!」

 

八百万は再び火炎放射器を構えて轟の氷を相殺させる。

 

「轟さんの氷は相殺させるのが一番安心、渋谷さんもこの様に冷気と熱気がぶつかり合う壁を作って仕舞えば生身での突破は難しいですわ!」

 

先程の渋谷の奇妙な力も触れなければ一先ずは大丈夫だと判断した。

 

「GO!!」

 

渋谷が助走をつけて火の中に飛び込んだ。

 

 

 

「ライダーキーック!!!」

 

 

 

蹴りで足元のタイルをめくり上げそれを盾に冷気と熱気のぶつかるその中に飛び込んだ。

 

 

「逃さねぇぜぇぇ!!!

ハイブリットォォォ!!!」

「大神さん!!」

 

八百万には眼もくれず大神へと拳を振り上げる彼にはやはり大神との因縁がある様だ。

 

接触するのは不味い。

大神は使うつもりはなかった刀を抜いた。

 

渋谷は左手に装備したガントレットで大神の刀を防ぐ。

 

彼のコスチュームは右手は素手に反して左手には物々しいガントレットが装備されている。

 

(『珍種』パワーで打ち消せない物理攻撃を防ぐための防具と言ったところか……

こいつ、やはり……)

 

大神は全身から青い炎を吹き出す。

 

「無駄無駄!『珍種』パワー!全開!!」

 

どれだけ強かろうが異能は珍種に無効化されてしまう。

しかし、無敵ではない。

 

(右脇腹!……)

「グフッ」

 

脇腹を殴られてい痛うだがそれだけじゃない。

 

珍種の唯一にして無二の弱点。

個人で場所が違うが全ての珍種に存在する『ツボ』、そこをつけば一定時間珍種を無効化できる。

 

大神が逆転の一手を刻む時、八百万に危機が迫った。

 

(この程度の『火』で……

俺が止められると思ったか……)

 

先程の大神とは違う。

八百万の火炎放射器は威力は高いが轟と渡り会うには足りなかった。

 

「っ冷たっ!!!」

 

火炎放射器ごと凍らせた轟は八百万に追い打ちをかける。

 

「悪いが、彼奴と戦うのを邪魔しないでくれ」

 

 

この模擬戦に志願した理由は1つ。

炎の個性持ちである大神と戦う為。

 

轟は八百万を氷で動けなくして戦闘不能にするつもりだ。

 

「八百万さん、下がって!」

「させないよ。

珍種の力は封じられたけど、僕にはもう一つ(・・・・)ある!」

 

普通なら急所を殴られて悶絶しようが彼の個性は『生命力』回復速度も速い。

 

高い身体能力で大神に殴りかかるが、彼の目には渋谷の姿はなかった。

 

見た目に反して激情家の大神には仮にインスタントパートナーであっても仲間の危機に動かないほど冷酷ではなかった。

 

 

 

 

 

 

「邪魔だ!!」

 

 

 

 

 

 

白銀色の陰府怪火(リヴァイアサン)

 

 

突如現れた白銀の龍は渋谷を巻き込み、渋谷を氷柱にした。

 

 

 

大神の異能は7つの大罪、7つの悪魔を従える7つの炎。

特別な力を持つ異能者の中でも特に特別な存在。

 

7つの炎にはそれぞれ違う効果が付与されており、『煉獄の炎』もその1つ。

今回使った『白銀色の陰府怪火』は周囲の気温を奪うことで凍結させる絶対零度の炎。

 

大神はそれを霧状に拡散させてその空間の制圧にかかった。

 

 

『灼熱の冷気』(ヘル・ゴースト)

 

 

 

 

あたり一面銀世界にそして残る二人も動きを止めた。

 

 

「動けないですわ……」

 

「俺の『熱』でも溶けない……ただの氷じゃないのか?」

 

その冷気は八百万と轟の下半身を凍て付かせ、両者共に戦闘可能者が一人となった為、模擬戦は終了となった。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

(今の模擬戦は皆、模擬戦ということを忘れてそれぞれの思惑で動いているようだった……

ヒーローとしては赤点だが、それ以上の実力を見せてもらえた)

 

(渋谷くんと轟くんはライバル意識から、八百万くん……はよくわからないが大神くんをかばっているように見えた。

 

一番わからないのは彼だ。

轟くん、渋谷くんはすでに同世代では規格外の力を持っているにもかかわらず、彼らを圧倒する力を持つ彼は一体……)

 

相沢同様オールマイトも大神に不信感を持っていた。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※

 

激戦を繰り広げた四人にクラスの皆は賞賛を送る。

 

 

「にしても惜しかったな。渋谷に轟」

「……そうだな………」

 

切島の言葉に轟はそっけない風に答えた。

彼も性格がアレなのでクラスに馴染めない感があるが、それ以上に始終圧倒されていた轟としては素直に受け取れないところがある様だ。

 

しかし、音声なしの映像では見る人が見ないとわからない、クラスの皆は別格の四人の戦いだったというところだ。

 

「みんな凄かったけど、やっぱ大神が一番凄かったよな。

一撃で皆んなを制圧しちまいやがったんだか……ってどうした!?大神!!」

 

瀬呂が大神の方に目をやるとそこには顔面ぐるぐる巻きの大神がいた。

 

「………少し、個性を使い過ぎてしまって……人に見せられる姿でないとだけ言っておきます」

 

連日の任務に加え、7つの炎の中でも上位4つの内の1つを使ったお陰でロストしてしまった大神はその存在を隠すためにコスチュームの機能を早速使っていた。

 

(くそっ……予定外に力を使い過ぎた)

 

轟との戦い方を力押しにした事と渋谷に生命力を直に抜かれたのも原因だ。

 

「わかるぜ。

俺も個性を使いすぎると肌がカサカサになるしよ」

「オイラも頭皮から血が出るんだよな」

 

と瀬呂に続き、葡萄頭が賛同する。

 

(たしか、弾力性と吸着性の強い何かを頭から生える個性だったかな?……)

 

個性の場合、『ロスト』とは言わないが、ゲロイン、肌荒れ、頭から流血、眠くなる、お腹が痛くなる、アホになる等々、このクラスはトリッキーな個性ほど残念ロストが多い。

 

「でも、終わって見ると渋谷が一番化け物に見えるよ」

 

「え?……なんで?」

 

とアホになる奴が言うと渋谷は不思議な顔で見た。

 

「いや、そこだよ。

なんで氷漬けになって平気なんだよ」

 

「?………溶かしてもらったからね」

 

「いや、普通なんがあるだろ。」

 

ロストの大神、下半身を氷漬けにされた八百万と轟と轟は疲れた雰囲気だが一人、全身氷漬けになった渋谷だけはピンピンしていた。

戦った八百万が呆れ顔で賛成する。

 

 

「本当に呆れた『生命力』ですわね」

「本当だぜ。正にゴキブリ並の生命力だなwww」

 

 

「ちょっと!!

ゴキブリと同列にしたら失礼でしょ!!

 

……ゴキブリさんに!!!」

 

「「「そっちかよwww」」」

 

と言う渋谷の天然ボケが炸裂した所で模擬戦は終了した。

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

その日の放課後、渋谷を探していた大神を見つけ八百万は後をつけた。

 

 

モニターで見ていたみんなは気づかないだろうが、戦いの最中大神の個性を打ち消していたかの様であった。

 

個性『生命力』にあの様な事が出来るとは思えない。

彼もまた大神同様力を隠していると八百万は考えていた。

 

 

 

 

「よく、ここがわかったね。」

 

屋上にいた渋谷を大神が見つける。

八百万は隠れてそれを見守る。

 

「何とかと煙は高いところが好きだと聞いてな」

「キツイな〜先輩は。

さっきのはちょっとした挨拶じゃないですか」

 

(先輩か………やはりな………)

「本題に入る前に邪魔者がいるみたいだ。

 

八百万百、これ以上の深入りは警告したはずだ!」

 

八百万の尾行は気づかれていた。

八百万は渋々姿をあらわす。

 

「すまない、この話は後日だ」

「いいんじゃないですか?彼女は貴方の監視対象でしょ?

なら、貴方の説明にもなるし」

 

 

その言葉に驚く。

八百万が記憶を取り戻している事はエデンには大神しかいないはず。

 

「お前、それをどこで……」

C:B02(二番先輩)に聞いた」

 

 

(平家ェェ!)

彼はC:Bの中でも読めない男だ。

さしずめ、彼の異能で集めた情報から推測されたのだろう。

 

「話が読めませんね…

渋谷さん、貴方も人殺しを推奨する組織のコードブレイカーなのですか?」

 

「人殺しを推奨する組織か…

確かにそうだけど、先輩からどんな風に説明されたんだか」

 

説明なんてされてない八百万が効いているのは悪人だからと簡単に人を殺す組織とその暗殺者の存在だけだ。

 

「そう、僕はエデンが定めた法で裁けぬ悪を裁く六人のヒーロー、C:B06(・・・・・)渋谷透魔。

 

個性発現者で初のC:Bさ」

 

 




オリジナルのキャラの渋谷くんは実はC:B 。
No.6という事は大神は……

苗字は言うまでもなくあの人の流用。
下の名前も……まんま、ですね。


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第五話

 

 

「そう、僕はエデンが定めた法で裁けぬ悪を裁く六人のヒーロー、C:B06(・・・・・)渋谷透魔。

 

個性発現者で初のC:Bさ」

 

「コードブレイカー……06?」

 

「そお、06。

コードブレイカーは強さや立場で01から順に番号が振り分けられるんだ。

僕は最近入ったばかりだから06。

この人はエース番号の01。」

 

「コードブレイカーが六人もいるなんて……」

 

この個性社会で悪人(ヴィラン)を相手に悪を倒すにはヒーロー以上の強さがいる。

 

渋谷でさえ想像以上の強さなのにそんなのが後4人もいるなんて驚きだ。

 

「そもそもコードブレイカーとは、エデンとは何者なんですか?」

 

大神から詳しい話を聞いていない八百万は渋谷に尋ねた。

 

「あれ?それも先輩から聞いてないんだ」

 

渋谷はエデンとコードブレイカーについて話した。

 

「元はエデンは異能者を保護する組織なんだ」

 

「異能?……個性とは違うのですか?」

 

「君たちからしたら自然エネルギー発生させる、発動系個性の様なものさ」

「自然エネルギーと言うと上鳴さんの電気や轟さんの熱や冷気ですか?」

「うん、まぁそんな所

個性と同じ特異体質なのは変わらないけど使いすぎると厄介なことになるのが特徴だね」

 

「厄介なこと?……」

「……それはね」

 

ロストやコードエンドのことを喋ろうとする渋谷に大神が怒る。

 

 

「おい!」

 

「あぁ……はいはい」

 

(そういえば先程、使い過ぎて人に見られない姿になったって言ってましたね。

おそらくその辺なのでしょう。)

 

 

「それにしても珍種がC:Bを名乗るとはな」

「珍種?」

「後で説明するよ。

それと僕は『珍種』でもないから」

 

珍種とは異能を無効化でき、異能の根源である生命力を他者から吸い取ることができる特殊な人間。

異能者を悪魔と例えるなら珍種は天使と例えられることがあるほど双対な関係だ。

 

「何を言っているんだ。

さっきの力は珍種の……」

 

「僕は貴方と同じハイブリッド。

珍種と異能者の間に生まれた禁断の子供」

 

昨今の個性婚で生まれた轟の様な複合個性持ちとは訳が違う。

彼やあの人がそうであった様にハイブリッドには過酷な運命が待ち受けるのは今も昔も変わらない。

 

 

「だが、珍種が発現してるなら珍種だろ」

 

大神もあの人も同じハイブリッドだが珍種と異能、どちらかの力しか発現しなかった。

 

「だから発現してないの」

 

そういうと渋谷は上着を脱いだ。

 

そこには外科的手術により繋げられた右腕があった。

 

「僕は珍種の身体能力と異能の高い生命力を持って生まれてきたハイブリッド、聞こえはいいけど、どちらでもない故に固有の異能を持たず、珍種の異能無効化の力も無い。

故に両者の特性が中途半端に個性として発言したに過ぎなかった、

 

 

 

…………あの時まではね…………」

 

彼がまだ幼かった時、家族旅行の最中に交通事故にあった。

 

原因は不明、しかしエデンに渾名す(ヴィラン)の仕業ではないかという話だ。

 

潰れた車の中で小柄故に唯一助かった彼は薄れゆく意識の中で両親の見るも無残な姿を目撃した。

 

今でもあの時の記憶が鮮明に残る。

 

急ぎ駆けつけたエージェントによりすぐ様エデン管轄の病院に連れてかれた彼は大手術を受ける。

 

彼も重傷で右腕は深い傷があり、内臓も所々損傷していた。

故に医者は移植手術を提案した。

 

父親は手足どころか原型さえも分からないほどにぐちゃぐちゃだったため、母親の腕と臓器を移植することにした。

 

手術は見事に成功。

それからしばらく経ってからであった。

彼に『珍種』の力が宿ったのは。

 

移植によって彼の体構造は大きく変わり、個性『生命力』は変化し、個性『珍種』となった。

 

「僕が生きていられるのは母さんの臓器と父さんから受け継いだこの生命力のお陰……異能と珍種、2つの血が僕を支えているんだ」

 

渋谷の話を聞いて八百万は思うところがあった。

 

(それだけの過去を持ちながら今も笑顔でいられるなんて……しかし、)

「だったら尚更わかりませんね。

ご両親から命を託された貴方が……大切な人を失う辛さを知ってる貴方が自分の命も他人の命もないがしろにする組織に所属するなんて」

 

 

 

 

「………だから、大事にしてるよ……」

「え?…………」

 

 

 

 

「僕の複合個性なら吸い取られた生命力も十全に活用できる。

 

 

 

彼らは死んだんじゃない、僕の中で生き続けるんだ……

 

 

 

………永遠に…………」

 

 

 

笑顔で答えた渋谷のからは底の見えない狂気が孕んでいた。

 

 

天使の様な笑顔の裏に残虐な悪魔が潜む。

ハイブリッドを体現したかの様な彼であった。

 

TELLLLLL!

 

その時、大神の携帯が鳴った。

その相手は意外な人物であった。

 

「俺だ、ついたか?

手筈通り頼む」

 

『久しぶりに連絡よこしたかと思えば人使いが荒いんだから!』

 

相手は女性の声だが、いまいち聞き取りにくい。

 

「嫌なら断れ」

 

『そこまで言ってないでしょ

老人はいたわりなさいって行ってるのよ

……まぁ、いいわ

懐かしい顔も見えるし』

 

「ん?……知り合いでもいるのか?

この学園に…」

『あんたには関係ない話よ』

「そうかよ……」

 

プッ

 

大神は電話を切った。

 

「どうかなされたので?」

「お前には関係ない話だ」

 

二人のやりとりを見て渋谷は笑った。

 

「ふふっ、話に聞いていた通りの人なんだねエースさんは」

「聞いていた通りって誰だよ……」

 

C:B04(4番先輩)からだよ」

「…………あの野郎…………」

 

 

「他にもC:B2(2番先輩)にはあったけど3番と5番にはあってないですね」

 

3番は気分屋で他人と組むのは向かない性格だし、5番は諸事情により仕事の数を減らしている。

 

現役バリバリでやっているやつなら仕事で顔を見せることもあるだろう。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※

 

 

全力の個性を使った緑谷の体はボロボロの腕で保健室にはいるが、元気な顔をして部屋から飛び出してきた。

 

「ありがとうございます!

リカバリーガール!あおばーちゃん!」

 

保健室には二人の老婆がいた。

 

「まっすぐで元気な子だねぇ、あの子は

(彼があぁ言う子を気にいるのは珍しいわね)」

「それにしてもお久しぶりですねぇ、あおば先生……」

 

「先生はよしてくださいな、ちよちゃん

私は引退した、ただのばあさんだよ」

 

リカバリーガールに先生と言わしめるこの老婆は高津あおば。

 

リカバリガールが研修時代から世話になった医者の友人で孤児院の院長を長年務めた人だ。

 

医師ではないが、孤児に対する献身的な精神は医者も見習うところがあったようで、その友人の医者と同様リカバリーガールが今でも師事する数少ない人だ。

 

「引退ですか……

ご主人が亡くなられて何年でしたか?」

 

「…………もう、何年になるのかしらね……

でも、あの人らしく笑顔で逝ったのを今でも覚えているわ………」

 

 

彼女は元々エデンの異能者。

それもC:Bの上位部隊である『CODE:NAME』(以後C:N)の一人であったが、パンドラ箱の事件(以後パンドラ事件)以降、C:Nは解体、エデンに残ることもできたが、一般人に戻り自分の恩師が守ってくれた孤児院を再建させる道を選んだ。

 

そして幼馴染の男性と結ばれて今日まで一般人として生活していた。

 

 

リカバリーガールとは一般人に戻ってからの知り合いであり、彼女が秘密組織の一員だったことは知らない。

 

だが、時折見せる違和感や昔の知り合いにこの様に呼び出されているのをたまに見る為、彼女が只者ではないと言うことは知っている。

 

今回は大神が継承者を見るに見かねてあおばを呼び出したのだ。

 

 

彼女達C:Nは異能を2つの所持している。

その内の1つは『対物時変』物体の時間を巻き戻す異能の中でも規格外の力。

 

この力によって緑谷の怪我は完全に完治した。

 

そして2つ目、『活殺穴法』物体のツボをつくことで肉体を強化したり物体を破壊したりすることができる。

 

それで緑谷の肉体を活性状態にした。

時間で解けてしまう処置だが、繰り返し施すことで肉体強化を馴染ませて個性使用時の反動を少しでも減らすのが目的だ。

 

以前、大神に施してくれた時は凄まじい強化だったが、今の彼女にその様な力はない。

 

高位異能者でないあおばの寿命は普通の人間と変わらない。

 

歳をとるにつれて生命力は弱まり、その姿が彼女の『老人になるロスト』と同じくらいになる頃、彼女に残った力は僅かなものであった。

 

対物時変を使えばそれを回避することも出来たが、彼女の場合はこれで良かったのかもしれない。

 

『愛する者と共に歳を重ねる』そんな当たり前のことが出来たのだから。

 

旦那が死んでからも彼女が生きているのは旦那の遺言にできるだけ生きて親友達を見守ってくれと言うものがあったからだ。

 

 

「さて、私も帰りますよ。

今度からは定期的にこの学校に来るから、その時はまた、昔話に花咲かせましょ」

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

ただの模擬戦、されど模擬戦。

それぞれの個性の可能性を見せつけた結果になったこの授業は、それぞれに信念とも言える思いを抱かせるのであった。

 

 

「半分野郎の力を見て勝てねぇっと思っちまった!!

 

ポニテの奴の言うことに納得しちまった!

 

能面野郎の底知れなさにビビッちまった!

 

クソ猫の動きを見て真似できないって思っちまった!

 

でもな!俺はこっから……

いいか!?

 

こっから1番のヒーローになってやる!」

 

ナンバーワンヒーローとその継承者の前で宣言していた。

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

「大神零!」

 

 

下校中の大神を見つけた轟は彼を呼び止めた。

 

 

「アンタを俺と同じ熱と冷気の複合個性の使い手と見込んで頼みがある!!

模擬戦で使ったあの技!リヴァイアサンとかヘルナントカとか言ってたあの技を俺に教えてくれ!!」

 

そう言って轟は頭を下げた。

彼は決してプライドが低いほうではない。

しかし、彼の野望はそれさえも捻じ曲げるほどに高いものであった。

 

片方の『熱』の個性を使わずにNO.1ヒーローになること。

 

それは永遠の2番手である父親に対しての復讐であった。

 

その為には同じ土俵(同じ個性)でありながら自分より強力な力を持つ大神から少しでも学ぶしかないと考えたのだ。

 

轟のその目はまっすぐなのに何処か濁っている様であった。

 

大神は問う。

 

「その目はだれか復讐してやりたい奴がいる目ですね。

……だれです?……君にそこまで思わせるのは……」

 

「…………親父だ…………」

 

師事されるのであれば話さなくては失礼だ。

轟は素直に答えた。

 

自分の生い立ち、個性婚、母親の乱心、父親への復讐。

 

それは母親が乱心し、実兄を復讐対処にしていたかつての大神であり、自分を見てほしい、認められたいと父親に反抗するかつてのC:B4であった。

 

「…………わかりました。

先に言っておきますが、私と同じことはできないと思います。」

 

「……そうか…………」

 

「ただ、近いことはできるはずです。」

「本当か!?」

 

7つの炎は火が持つそれぞれの特徴を極限まで高めたものだ。

 

リヴァイアサンも熱と冷気の温度調整を極めれば可能だろう。

 

大神は強い口調で言った。

 

「だが、今のお前には無理だ

プライドを捨ててから出直してこい」

 

「………それはお前に関係ない!」

 

「……今のがヒントだ………」

「はぁ?」

 

「じゃぁな……」

 

 

彼は昔の自分と限りなく近い心の持ち主だ。

しかし、大神との決定的な違いはヒーローという存在の影響から殺人という選択を選ばないことだ。

これも時代の流れなのだろう。

悪に堕ちる心配のない自分と共感できるところが多い少年と無我夢中で前に進もうとする少年。

大神は老婆心ながら力を貸したいと思い始めていた。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 




あおばーちゃんはやりたかったネタの1つ。
スキあらば出していきたいと思います。

ケツァルクアトルさんの感想の影響でドンドン渋谷くんが
ネコミミ男っぽんなってる気がする………
まぁ、にゃん丸コスチュームのヒーローだから全然問題ないんですがねwwwイメージは各々で。

USJ襲撃の前か後にCB寄りのオリジナルストーリーを挟もうと思います。




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第六話

だいぶ久しぶりです!
忙しさと他の誘惑が多くてなかなか書き進められなかったのですがようやく次話投稿です。


 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

雄英生徒・八百万百は窮地に立たされていた。

 

「ウヘヘヘッ……餓鬼のくせにいい身体してんじゃねぇか姉ちゃん」

 

八百万は触手のような物で拘束されて動けないでいた。

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

事の始まりは今日の終礼後。

大神の携帯が鳴ったことから始まった。

 

大神は八百万の監視対象だ。

クラスの誰よりもよく見ているつもりだ。

 

八百万は大神のこれ以上の殺人を望まない。

こっそり後ろから覗き込み双眼鏡をクリエイトして画面を覗いた。

 

 

 

内容は要約すると個性を使い、悪事を働く悪を抹殺する事だ。

 

生安角手(はやすかくて)

大神はこれからこの男を殺しに行く。

 

その現実を知ってしまった八百万は困惑してしまった。

 

(ついに…来てしまいました……

 

……どうしましょう、おそらく警察に言っても意味はないですし……

 

先生方プロヒーローに相談を?)

 

大神が実力を出しきっていない事を視野に入れてもこの学園にいる人気ランキング上位のヒーローにはそう簡単に手は出せないと考えた。

 

『君は先輩の気まぐれでギリギリ生かされている事を忘れない方が良いよ』

 

この間、渋谷に言われた事を思い出した。

 

(……いや、かれは真実を知るものすべてを燃やすと言っていました。

 

それにもし、外部に漏れればその人だけではなく、周りの人まで……)

 

相手が大神だけならいくらでも手はあるのだが、今のギリギリの均衡を崩すのなら必ずエデンという秘密組織が絡んでくる。

 

彼らの隠蔽能力は警察や国家にまで影響力がある。

 

『俺たちは法で裁けぬ悪を裁く』

 

大神の言葉を思い出す。

ルールに守られている限り警察もヒーローも手は出せない。

 

(でも、何かやらないと……)

 

名前しか知らない人を救うことなんて出来るはずがない。

素直に大神に聞いても教えるはずがないし、彼自身を止めるなんてもっと無理だ。

 

己の無力さを痛感し、廊下を歩いていると異様な光景が目に入った。

 

白髪の男性が洋式の椅子とテーブルを構えて紅茶を嗜んでいた。

 

(か……官能小説…………)

 

事もあろうに彼は官能小説を片手間に読んでいた。

 

「お困りの様ですね。お嬢さん」

「えぇ……まぁ」

 

(学校関係者ですよね?でないとここには来れませんし……

変わった人だから私の知らないプロヒーローでしょうか)

 

プロヒーローには変な人が多い、それにこの学園の先生は全員現役ヒーローだ。

 

その男は八百万の顔を見ると見透かしたの様に

 

「ご学友の悪業を止めたいのだけど自分には力が無いと…

それは辛いですね」

 

「えぇ!?そうですが何故それを!」

 

男はその問いに答えた。

 

「私はエデンの在り方に疑問を感じている者……と言ったところでしょうか」

 

「エデンを!コードブレイカーを知っているのですか!?」

「ええ、もちろん

1-Aの大神くんと渋谷くんがそれだという事もね。」

 

良かった!

流石は雄英の教師、エデンの存在に気づいている先生がいても不思議では無い。

これで1人、秘密と悩みを分かち合える人に会えたと八百万は思った。

 

「先程、彼に暗殺の依頼が!

早く止めないと!!」

「知っています」

 

男はUSBメモリーを取り出した。

 

「ここに、彼が標的にするであろう法で裁けぬ悪のデータが記憶してあります。

 

…貴方にこれを上げましょう。」

 

そこには主な潜伏場所など、八百万の望む情報が入っていた。

 

「本当ですか!?」

 

 

「しかし、あなたにはありますか?

彼らを止める覚悟と信念が………」

 

自分の行いが悪である事を自覚しながらも突き進む彼らの行動には信念がある。

 

信念ある者の行動を止めるのには同じく信念と責任を持たなければならない。

それは善悪を超えた道理である。

 

しかし、八百万には問いの内容は届いていなかった。

八百万はすぐさま男の手からUSBメモリーを取り立ち去って行った。

 

「…………………

 

減点ですね。人の話は最後まで聞きましょう。」

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

裏路地に追い詰められる1人の成人。

それを追い詰めるCB達。

 

 

「許してくれぇ!!

俺が何したって言うんだ!!」

 

CBがひとり、大神零が言い、渋谷が続いた。

 

「そう言って何度、罪を逃れた……」

「強盗、恐喝、強制猥褻etc………犯罪のオンパレードだね」

 

 

「……そ、そんなの………何処に証拠が……」

 

 

「パパに頼んでもみ消してもらったんだろ?」

 

彼の親父は警察官僚にも顔が効く国の役人だ。

 

「じゃぁ、てめぇも俺には手を出せないぜ。ヒーローさんよ

証拠もないに手を出したら犯罪者だ」

 

 

「残念、僕たちはヒーローじゃないし罪で裁かれない存在なんだよね」

 

彼らはCB、たとえ人殺しをしても裁かれない存在。

 

「なんだよ!意味わかんねぇよ!!」

 

ガシッ

 

耳障りな言葉を遮るかのように生安の首を掴む大神。

 

「もう、いい……

 

燃え散…「させませーん!!」っ!!!」

 

突如現れたのは八百万。

データを読み取り現場に急行。

するとまさに裁きが下る瞬間だった為大神の腕を蹴り上げ拘束を取り払うとバイクを創造して生安を後ろに乗せて走り去った。

 

 

「……………」

「今の八百万さんだよね?…

なんでここに来れたのかな……」

 

八百万が謎の男から標的の情報を聞き出し現場に駆けつけたことに渋谷は驚いていた。

 

(なんだが、昔にも似たようなことがあったな…)

 

「早く追いかけましょう!」

「おぅ。」

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

バイクでの移動も路地裏では限界があり、走って逃げる二人。

 

「はぁはぁはぁ……」

「はぁはぁはぁ……

おい!もう、追って来ないんじゃ無いか?」

 

「いえ、そんなはずはありませんが、少し休みましょう。」

 

少し落ち着いたところで男は八百万を怒鳴りつけた。

 

「なんだよ、アイツら!

意味わかんねぇよ!」

 

「私だって説明できるほど彼らを知りません。

私も本当だったらあなたなんか助けたくありませんが、どんな犯罪者でも死に行く人を見捨てることはできません。」

 

八百万は謎の男から受け取ったデータで彼がどんな罪を犯していたかを知っていた。

知った上で助けていた。

 

「表通りに出て助けを求めようぜ!

警察に匿ってもらってもいい!!」

 

たしかに常套手段ではあるが、八百万は以前の経験からそれがダメな事に気がついていた。

 

「無駄です。

彼らは任務を遂行するために他人を巻き込むことに躊躇がありません。

被害が広がるだけ。

 

そして警察も無駄です。

おそらく近隣の警察には彼らの手が回っているでしょうし。」

 

まさに八方塞がりである。

 

男は最後の手段だと携帯を取り出し、連絡をとる。

対象は勿論数多の犯罪の証拠をもみ消したり示談に持ち込ませた彼の父親のところであった。

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

所変わって彼の父親が働くオフィス。

やはり、官職が使う個室のようだ。

 

息子から電話がかかっていることに気がつく。

いつものわがままだろと思っていたが、自体は思ったより深刻であった。

 

『助けてくれ!親父!

コード・ブレイカーとか言うヤバい奴らに追われてるんだ!!』

 

彼は自体の深刻さに一瞬で気付く。

彼も曲がりなりにも政府の要職、政府の裏の顔もその手足であるエデンの存在も知っていた。

 

彼は何も答えずに息子の電話を切った。

彼は自分のやっていることがC:Bの粛清対象になると知っていた。

息子の犯罪の隠蔽なんていう微罪ではない。

彼の本性は人身売買、特殊な個性を持つものを社会的に死んだことにしてとある非合法組織に売り渡す行為だ。

 

(息子は見せしめか?警告か?………まだ、決定的な証拠は掴まれていないはず。

………とにかく急いで隠さなければ!!そうしなければ次は私が殺される!)

 

すでに彼の脳内には息子に対する心配ではなく自己保身で一杯であった。

 

(証拠を隠したらしばらく身を隠さないと………あのお方(・・・・)の所へ!)

 

すぐさま行動にかかろうとしたいた彼の前に一人の青年が立っていた。

 

「いやいや、息子がクズなら親もクズか…」

 

ここには関係者以外は入れない。

彼はすぐに青年が只者じゃないと気がついた。

 

「誰だ!貴様ぁ!!」

 

焦る彼は青年を怒鳴りつける。

 

C:B(コード・ブレーカー)………って言えばわかるよな?」

 

彼は唾を飲んだ。

すでに自分の元にまでエデンの手が迫っていたのだと。

 

「息子よりも自分を心配するクズ親じゃあ息子がグレるのもわかる気がするがな」

青年はまるで心当たりがある様に語る。

 

「あんたの悪事は全て掴んでるだよネ。

 

…だからさー、死ねよ。」

 

 

死の宣告、しかし彼は覚悟をしていたのか、冷静に状況を見ていた。

部屋には青年一人、ならば隙をつけば逃げられなくもない。

 

「そうだな…………だが、死ぬ前に………死ぬ前に…………

 

 

 

死ぬのは貴様だぁぁぁぁぁ!!!!」

 

彼は引き出しから拳銃を取り出し発砲した。

 

 

部屋に響き渡る一発の銃声。

 

 

しかし、それに続くはずの音が聞こえて来なかった。

それは着弾音。

青年に当たるなり避けて壁にぶつかるなりすれば確実に音が聞こえるはずだ。

 

「ザンネンデシター……」

 

銃弾は彼の目の前でまるで時間が止まるかのように止まっていた。

彼にとって腐る程こなしたシュチュエーション。

余裕はあれど隙はなかった。

 

「返すよ。……コレ」

 

「やっ…やめろ!助けてくれ!」

 

彼の命乞いも虚しく弾は彼を貫いた。

 

「目には目を……歯には歯を……

 

悪には正義の鉄槌を…」

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

一方、父親に見捨てられた息子の側というと。

 

「クソっ!!電話切りやがった!!」

 

 

(親にまで見捨てられましたか………)

八百万の手に入れたデータには父親のことは詳しく書かれてはいなかった。

しかし、自体の状況的にいつものように彼の父親の力で なんとかなるとも思えなかった。

 

「もうダメだ……御仕舞いだ…」

親にまで見捨てられた彼は絶望していた。

 

「生きることを諦めないでください。

生きて罪を償うのです…」

 

八百万の言葉に彼の思考が思わぬ方向に進む。

 

「そうだよ……どうせ死ぬんだし、生きてたってこのままじゃかったりー務所生活が待ってんだ……

 

だったら最後まで好き勝手生きてやるよ!!」

 

「え!!」

 

彼は自身の個性を発動させた。

 

生安角手(はやすかくて)彼の個性は視界に映る無機物から感覚がリンクしている触手的な物を生やすことができる。

 

そして、話は冒頭に戻る。

 

 

「ウヘヘヘッ……餓鬼のくせにいい身体してんじゃねぇか姉ちゃん」

 

彼の犯罪の大半は婦女暴行。

父親はその度に被害者に大金を積み立て事件そのものをなかったことにしていた。

 

彼は最後の時間に自分が最も満たされる行為に投じた。

それも仕方ないのかもしれない。

極限の状況下に彼の目の前に極上の素材な転がっているのだから。

 

八百万の抵抗も虚しく服を剥がれて行く。

(くっ…こんなはずでは……)

 

まさか助けた相手に襲われるとは八百万は思っていなかった。

表の世界でのうのうと生きていた八百万には。

 

「残念時間切れだよ、お兄さん。」

 

追いかけてきた渋谷が触手を掴んだ。

感覚リンクしている触手は渋谷が掴むと生命力が抜け、彼はみるみるうちに立てなくなった。

 

「ちくしょう!!

……最後ぐらい……最後ぐらい……」

「そうだな。本当に最後だ。」

同じく追いついた大神は倒れた彼に手を置いた。

 

彼は無表情を貫きながらも助けた人にまで手を出す外道っぷりを目の当たりにした大神はハラワタが煮えくり返っていた。

 

「目には目を歯には歯を悪には悪を

 

燃え散れぇ……」

 

「ギャァァァァ!!」

この世のものとは思えぬほどの断末魔をあげて彼は灰も残さず燃え尽きた。

 

 

 

「大神さん……」

八百万は大神の人殺しを止めれなかった事に無力感を感じていた。

しかし、今回ばかりはそれだけでは済まなかった。

 

精神的に弱ってる八百万にさらなる追い討ちをかける。

 

大神は八百万の首を掴み壁に叩きつける。

 

「アガッ!……いぎが……」

壁に押し付けられた衝撃と呼吸困難で激痛が八百万を襲う。

 

「一歩間違えればこうなっていた…わかるな?」

 

さらに強くなら握力。

痛みですでに身動きさえ取れないが、八百万は気を失うばかりか逆に意識がはっきりとしていた。

 

故に刻まれる。

痛みとともに恐怖が。

 

「悪に人道を求めるな…

アイツらにも……俺たちにも……」

 

 

もう何度目になるか、当然だがその度に警告が強くなる。

 

大神は八百万の首をパッと離した。

そして上着を脱いで八百万に被せると、ゆっくり立ち去った。

 

そんな大神の後ろを渋谷がついて歩いた。

 

「なんか、先輩のこと、少しわかった気がします。」

「なんの話だ?」

「邪魔者は排除してでも任務を成功させる先輩が八百万さんだけは例外的に警告だけで終わらせてる。

 

……なんででしょう?それだけあなたにとって大切な人なんですか?」

 

渋谷の言葉は適切じゃない。

特別なのは八百万ではなく八百万と同じことをかつて行った人だ。

大神は別の道を歩む事になったその人とダブらせているのかもしれない。

 

「気のせいだろ…」

 

大神はその思考を否定し、帰路につく。

彼の頭の中にはなぜ八百万があの場を特定できたかが気になっていた。

 

 

 



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第七話

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

その日、1-Aではクラス委員を決めていた。

こういう学校らしい行事は普通の生徒たちは興味津々だが、大神達C:Bは全くと言って興味がない。

しかし、周りはそうではなかった。

 

「投票の結果……クラス委員は同率3票で緑谷と大神のどちらかという事になった。」

 

 

(どうしてこうなった!!)

 

自己推薦が基本だと思われていたが、短期間で信頼を勝ち取った二人が選ばれた。

緑谷は仲のいい真面目メガネと無限少女が票を入れ。

大神は八百万を推薦し厄介払いしようとしていたが、逆に八百万・渋谷・轟から票を貰った。

轟は尊敬から、八百万はクラスメイトとの関わりを増やす事で改心するのではと考え、渋谷は面白半分だった。

 

「さて、同じ3票が二人…どちらを委員長にしたものか…」

相澤先生の声をはじめに話はこんがらがってくる。

 

「でしたら僕は辞退します。」

「それは行けませんわ!」

 

早々に辞退しようとした大神を止める。

 

「誰が投票したかはわかりませんが、投票した人の思いを無下にするべきではありませんわ。」

 

 ここで引き下がればせっかくの投票が無駄になる。八百万は食らいつく。

「ソウダーソウダー!やれやれ委員長!」

八百万の意見とそれを煽る渋谷。

 

(渋谷ぁ!!)

 

そんな彼らのやりとりにしびれを切らした天才問題児が騒ぎ始める。

 

「大神ぃ!やりたくねぇならすっこんでろ!

あと、デク!テメェには荷が重い!

かわりに俺がやってやるからすぐにそこをドケェ!」

 

「自推1票のお前がやる意味がわからねぇよ。」

「黙れ、アホ面!!」

 

 

「俺がぁ」

「大神さんが!」

「八百万さんが」

 

言い争いがカオスになる頃。

堪忍袋の切れた相澤先生が静止をかける。

 

「お前らいい加減にしろ!!

全員、どうすべきか昼休み中に決めろ!

出来なければ俺が独断と偏見を持って勝手に決める!いいな!」

 

そして結論は昼開けとなった。

 

※※※※※※※※※※※※※※※

 

大神は『エデン』への定時連絡を入れてから食事に向かった。

 

時間がかかってしまったので大神が来た時には既に大半の生徒が食べ終わっていた。

 

大神が少し遅くなった昼食を取っていると食べ終わった緑谷が話しかけてきた。

 

「あれ、大神くんこれから?」

「…えぇ、ちょっと用事がありまして。」

 

お互いなんの因果か委員長になる権利を手に入れたもの同士何か思うところがあるのだろうか、緑谷が珍しく積極的に話しかけてきた。

 

「隣、いい?」

「いいですけど…何ですか?」

 

「えっと…ちょっと大神くんと話したくなってね!

ほ、ほら、僕らちゃんと話したことなかったじゃん。」

 

緑谷はぎこちない言葉遣いで話す。

 

「………何か聞きたいことがあるんですか?」

「あっ、うん。

大神くんはどんなヒーローになりたいのかなって。」

 

「……何ですか。藪から棒に」

「さっき、飯田くんの話を聞いたんだ。

お兄さんみたいなヒーローを目指してるだって。

大神くんは何でヒーローになりたいのかなとか気になったんだ。」

 

緑谷は兼ねてから疑問に思っていた。

何故彼はここに居るのを。

 

緑谷がそう思うのも当然だ。

大神は別にヒーローになりたいわけでは無い。

 

あくまでもワンフォーオールの継承者である緑谷出久の観察と接触する可能性が高いオールフォーワンの確保を目的としている。

 

これまで緑谷と接点が少なかったのは観察対象として近づき過ぎるのは不便だと感じたからだ。

 

しかし、相手が興味を抱きこうして接触してきたのなら強く拒絶することは逆に疑われる。

 

大神は答えた。

 

「そうですね。

僕は相沢先生みたいなヒーローを目指しています。

知名度なんて仕事の妨げにしかなりませんから…」

 

ヒーローになりたいわけでは無いなんて言ったら何故この学校のヒーロー科にいるのかという話になってしまう。

あらかじめそう聞かれた時の対策として用意していた答えを言った。

 

「…………。」

「………どうしたんですか?」

 

緑谷は大神の能面に気がついていた。

 

「なんか、用意された答えを言っただけ見たいだなって。」

 

緑谷は人の感情には鋭い。

それが緑谷の無個性故の才能と言っていいものであった。

 

今度は少し本音を織り交ぜて言い放つ。

 

「……俺には悪に裁きを受けさせられればそれでいい…」

 

大神の本性。

悪を裁く悪の本性が一瞬現れる。

 

緑谷は少し戸惑いながら答えた。

 

「ヴィランを捕まえたいのならヒーローより警察の方がいいんじゃ無いかなって思うけど、大神くんは才能を考えてヒーローの方が活躍できるからって考え方なのかな?」

 

ヒーローそのものが目標ではなく手段なのなら大神が普通のヒーロー志望の生徒と考えが合わないのも頷ける。

 

「たしかにそういう考えのヒーローも一定数いるけど………

あっ!だから炎の個性なのに模擬戦で見せた氷の技を磨いたんだね。

あの捕縛術はヴィランを無傷で無力化するものなのか。」

 

緑谷はいつのまにか趣味のヒーロー分析を開始していた。

 

「あっ、あれ?………」

 

ひとり熱中する緑谷を置いて大神は食べ終わりその場から去っていた。

 

この時、緑谷は勘違いをしていた。

大神の目的がヴィランを裁きを受ける場に立たせるため殲滅では無く制圧を心がけているのだと。

もちろんそう勘違いさせるため、あのような言い方をした。

いくらヒーローと言えど悪を殺せば犯罪だからだ。

しかし、大神の目的は制圧ではなく殲滅。

悪をこの手で裁く。

それがC:B大神零である。

 

(変なところ鋭かったり鈍かったり、やはり今回の継承者は輪をかけて変わった奴だな。)

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

そんな出来事があった後、オールマイト目当てのマスコミが学園に不法侵入した事件が発生。

学校中に響き渡る警報に混乱する。

それにより生徒達が大混乱していたが、飯田がこれを見事収めた。

 

昼開けの最初の授業で、緑谷が委員長に飯田を推薦。

それに便乗して権利の譲渡が可能ならばと大神は八百万を指名した。

 

八百万はそれを渋々了承したが、納得していなかった。

 

その日の帰り掛け八百万は愚痴った。

 

「残念ですわ。

大神さんに委員長を任せられなくて。」

 

大神としては良い迷惑だ。

この学校にいる目的は継承者の観察だけ、それ以外は邪魔でしかない。

 

「余計なことはしないことです。」

 

「私はただ…」

 

「気持ちだけいただいておきます。」

(でも、C:Bである以上俺はそちらには戻る事はない。)

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 大神達が帰っている間、先生方はマスコミが学園に侵入した現場に立ち会っていた。

 

 すると驚くべき惨状が広がっていた。

 

「おいおい、これはどうゆう事だ。

ただのマスコミがこんなことできるわけない。」

 

侵入者対策の隔壁が円形に消滅していたのだ。

 

ただ破壊されていただけでも十分異常なのに消滅していたとなれば尚更異常だ。

 

この事態に校長は先生達に警戒を促し、ある先生に声をかけた。

 

「平家先生はどう考えますか?」

 

白髪の異様な雰囲気を放つその教諭は答えた。

 

「トップシークレット案件ですね。

皆さん、この調査はくれぐれも慎重に…」

 

 

 時は再び動き出す。

 長き眠りから覚めた人の形をした天災は人の世に大きな影響を与えようとしていた。

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

-次の日-

 

 大神・渋谷を含む1-Aクラスの皆は災害訓練施設にバスで向かっていた。

 

 その中で生徒達は自分たちの個性について話していた。

 

「それにしても大神と轟の個性って似てるよな?親戚だったりするのか?」

 

 異能も個性も血統で決まることが多い。

 故に親戚や親子が似た個性になる事は多々ある。

 

 大神の一族の異能から派生し轟の一族の個性が誕生したという可能性はあるにはあるが、大神は異能の中でも特殊な血縁でありそれを調べることさえ難しい。

 

 それにそうだったとしたら今の轟は無かったかもしれない。

 

 血筋に氷を扱える炎使いがいるのなら彼の父親も母の血をおっする必要はなかったかもしれないのだから。

 

 轟が嫌な顔をしているのに気がついた八百万は話を逸らした。

 

「そういえばオールマイトと緑谷さんも似てますよね。」

 

 事情の知らないはずの八百万が言い当てたことに大神も本人である緑谷も驚いたが、すぐに否定が入り、話は流れた。

 

 

「まてよ。オールマイトは怪我しないぜ?」

 

 そんな会話の中、大神をじっと見つめるクラスメイトがいた。

 

「…どうしたんですか?蛙吹さん」

「梅雨ちゃんとよんで…

私は大神ちゃんと渋谷ちゃんが近いと思うわ…」

 

「どうしてそう思うのですか?」

 

「上手くいえないけど二人とも命を燃やしてるからかしら」

 

 

「……面白い考え方ですね。」

 

八百万とは別の意味で厄介な存在がいると気づかされた大神であった。

 

 

そしてバスは目的地に到着する。

これから起こる大事件のことをまだ誰も知らずに……

 

 



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第八話

 大神達は雄英が保有する施設「嘘の災害や事故ルーム(USJ)に到着した。

 

 様々な災害現場を再現できるその施設はまるで本物のUSJのようだ。

 

 そこには災害救助で目まぐるしい活躍を見せるスペースヒーロー『13号』が待っていた。

 

 今日は彼と相澤先生とオールマイトの3人で授業を行うはずであったが、オールマイトは遅れてくるようだ。

 

 差し詰め朝から無理をして活動時間が無くなっただけだろう。

 

 授業の開始、13号は皆に忠告をした。

 

「皆さんご存知だとは思いますが

僕の個性は『ブラックホール』

どんなものでも吸い込んでチリに、してしまいます。

 

しかし、簡単に人を殺せる力です。

みんなの中にもそういう個性がいるでしょう。

超人社会は個性の使用を資格制にし、厳しく規制することで一見成り立っているようには見えます。

 

しかし、一歩間違えれば容易に人を殺せる『行き過ぎた個性』をここが持っていることを忘れないでください。」

 

 13号は自分の個性の可能性をしり、危うさを知った彼らに使い方を知って欲しいと最後に言っていた。

 

 

 

 言われるまでもない。

 

 

 

 大神の異能の炎は燃え移れば決して消える事はない。殺傷能力抜群の異能だ。

 

 彼は

 

 自分の異能が人を殺せる可能性を知っている。

 

 自分の異能が危うい事を知っている。

 

 故に彼はその力を人を殺す事に使う。

 

 決して消えることのない悪を滅するために。

 

 

 さぁ、これから授業が始まると思われた瞬間彼らの前に突如黒いモヤが現れた。

 

「一塊になって動くな!」

 

 皆んなが困惑する中、大神と渋谷だけは状況を理解していた。

 

(始まったか…)

 

平和の象徴の世代交代ともなれば彼らの命を狙う輩が出てきても不思議じゃない。

 

 モヤの中から現れたのは掌型のマスクの青年、脳みそ剥き出しの大柄の男、そしておそらくこのモヤを作り出したモヤでできた体の男。

 

 相澤が彼らに睨みをきかせ、13号が生徒を守る布陣。

戦力的には心配のある構成、ここにC:B二人分の戦力があれば別だ…

 

 しかし、大神の仕事は彼らの監視と観察であり、保護ではない。

 寧ろワンフォーオールを敵に奪われるくらいなら継承者を殺す事を視野に入れていた。

 

 今、出てきたものだけなら大神は継承者と引き離されないように立ち回り身を潜めるつもりであった。

 

「初めまして、我々は敵連合(ヴィランれんごう)

僭越ながら…この度ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせていただいたのは

 

平和の象徴オールマイトに息絶えていただきたいと思ってのことでして」

 

 敵の目的も本来は来るはずだったオールマイトらしいので問題無い。

 

 

 このまま生徒に紛れて退散したほうが良いだろう。

 その考えが間違いであった。

 

 モヤから次から次へと出てくるヴィランを相沢が相手する。

 

 

 大神はその後に遅れてモヤから出てきたフードをかぶった2人に驚いた。

 

(アイツは………!!)

 

 フードをかぶった2人はそれぞれ全く違うデザインだが、そのうちの一人はかつて戦った同族の陽炎が着ていた服の黒色。

 

 もう一人は白い服だがこれも大神には見覚えがあった。

 何処で見たかはここでは説明を省くが、大神が警戒するに十分な者であった。

 

「みんな!避難を!」

13号の呼び声も虚しく、敵側からの手が皆に降りかかる。

 

「散らして…殺す…」

 

 黒いモヤ男から放たれたモヤは皆を囲い始める。

 

「渋谷ぁ!」

「あいよっ!!」

 

珍種パワー全開!!

 

 渋谷は珍種パワーをあたり一面に幕状態で展開して皆を守る壁にした。

 

 珍種パワーの結界まで見せるのは予定外だが、後でいくらでも言い訳するから今はこの場を抜け出すのが先決だ。

 

 結界はモヤを無効化した。

 

 しかし、その隙を突かれた。

 

「ネジレロ……」

 

バギィ!バギ!

 

黒服の者が手をかざした瞬間、渋谷の腕が捻れ、骨が折れ、肉が裂けた。

 

「喰ラウ…」

 

続いて、黒服の者は異様な光を発して渋谷の生命力を吸い始めた。

 

「ぐはぁ!」

 

 

 先のは明らかに状態を司る異能

 異能は自然界に現存するエネルギーもしくは状態を自在に発生・操る能力。

 これは状態を操るタイプの異能だ。

 

 渋谷は中の生徒が個性を使えるように珍種パワーを結界状にした為、敵の異能はその隙をついたのだ。

 

 そして敵の珍種パワー渋谷の様に無効化するだけではなく敵から生命力を吸収できるほど強力なもの。

 

 中途半端に珍種を受け継いだ渋谷が移植された右腕で触れないと行えない事を接触なしで行った。

 

(こいつ!いま、異能と珍種を使いやがった!…)

闇色の辺獄烈火(ベルフェゴール)!!」

 

 異能を打ち消す黒き炎。

 それで奴の異能を打ち消した。

 

「何やったかはしらねぇけど!

その個性!俺には聞かないと思うぜ!」

 

 物体をねじ曲げる異能を見た切島は自分の『硬化』なら防げると思い、更に学友がやられている事実を目にしてその正義感から黒服に特攻した。

 

「てめぇが一番やばい雰囲気を出してるのはわかっているだよぉ!」

 

爆豪がその天才的な勘で一番危険な存在を感じ取り白服に襲いかかる。

 

 しかし、彼らには自分との力量さがわかっていなかった。

 

「『地友気』……」

 

突如、ドーム状の重力場が発生し、襲いかかった二人はもちろんその場の全員が動けなくなった。

 

「体が重い…」

「麗日さんと同系統逆性質の個性か!?…」

 

 無限少女と継承者が言葉を漏らすが、それは個性とも異能ともそして珍種の力とも違った。

 

 大神はベルフェゴールを身に纏い、重力場を無効化して二人を助けようとするが、その瞬間、敵の攻撃が襲う。

 

「『鶺鴒眼……』」

 

 

 白服は一瞬で無数にも増えた。

 全ては残像、大神の目にも捉えられない神速のなか、白服は大神にささやいた。

 

()に宜しく……」

 

 大神は身体中に無数の傷を作り倒れた。

 

 C:B二人が動けなくなったところで敵連合は動き出した。

 

「御二方、ありがとうございます。」

 

 モヤの男は再びモヤを展開して重力場による攻撃で動けなくなっている皆を包んだ。

 

「大神さん!」

「先輩…」

 

 モヤに包まれる中、渋谷と八百万の声が最後に聞こえるのであった。

 

 

 13号に直接守られていた数人と相沢を除き、全員が何処かに飛ばされた。

 

 大神達が消えた事を確認すると白服は言った。

 

「さてと…私たちは帰ります。

ゲートを開いてもらえますか?」

 

 モヤの男は言い返す。

 

「最後まで手伝ってもらえないのですか?」

 

「今回、僕らはゲスト扱いですから。」

 

「目的は達したと言う事ですね。

ではあの二人が噂の…

助かりました。いま、彼等とぶつかるのは得策ではありませんから。」

 

「ではここで…」

「はい、では先方に宜しくお願いします。」

 

 二人はモヤの中に消えていった。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 飛ばされた八百万は最後の瞬間、渋谷を掴むことができた。

 

 本当は大神も捕まえたかったが立ち位置の関係で出来なかった。

 

 それをしたかった理由は二人の治療だ。

 

 腕がねじ曲がった渋谷に切り刻まれた大神の治療だ。

 

 経験こそないが知識として治療の心得はあるし、八百万なら治療道具も創造できる。

 

 渋谷を優先したのは明らかに重症なのは彼だった為だ。

 

「あ…ありがとう、八百万さん。」

 

 八百万は渋谷に肩を貸して移動していた。

 

「早くここから移動しましょう。

偶然敵がいない場所で助かりました。」

 

 あのモヤ男はゲートを任意の場所に開く誰もいない。

 

 この事態を予測したある者が先回りしていたのであった。

 

 

 

 八百万がいなくなった場の影には光の紐により無数のヴィランが拘束されていた。

 

「様子を見にきて正解でした。

 

丁度ヴィランを始末した場所に八百万さんが飛んでくるとは…

 

彼等帰りましたね…お互い顔見せといったところでしょうか。」

 

 それはかつて八百万に助言した奇妙な教員であった。

 

「さて、後は他の先生方と大神くんに任せますか…

 

 まだまだ敵はたくさんいますが、生徒達にはいい経験でしょう。」

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 大神が飛ばされた先にはたくさんの敵がいた。

 

 大神は身体中を切り刻まれたがその傷は浅く、少し休めば動ける状況であった。

 

「おいおい、にいちゃん。

既に傷だらけじゃねぇか。

人想いに殺してやるよ。」

 

「黙れ…………」

 

 大神は悔やんでいた。

 自分がいながらこの失態。

 

 加勢するつもりはなかった。

 他の生徒なんて庇う必要はなかった。

 継承者も最悪自らの手で始末して仕舞えばよかった筈なのに。

 

 だが、実際は他の生徒ごと庇い、隙を突かれた遅れをとった。

 

 それを差し引いても対応できたとは限らないが…

 

 目の前に現れた彼等は明らかにオールフォーワン以上にC:Bが対処すべき存在であった。

 

 

 何がC:B01(エース)だ。

 ここまで自分の無力さを痛感したのは数百年ぶりだ。

 

 大神は怒りに燃えていた。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 渋谷を治療し、安全な場所に渋谷を置いできた八百万は大神を探していた。

 

 あれぐらいの傷で大神がどうにかなるとは思ってない。

 

 しかし、相手がヴィランなら彼は容赦せずに彼等を殺すだろう。

 

 大神にこれ以上殺しをして欲しくない八百万は一刻も早く彼を探さなければならなかった。

 

すると八百万は青い光を発見した。

 

「アレは大神さんの炎の光…」

 

八百万は走った。

 

 

 

しかし、時は遅かった。

 

 

 

 

無数の死体が青き炎に包まれていた。

 

 

 

 

その中で一人佇む青年は悪魔の様な瞳をしていた………

 

 



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第九話

CODE:HIRO 9話

 

 敵連合の襲撃事件はオールマイトの活躍と駆けつけた先生方により収束した。

 

 大神の殺したヴィランは例の如くチリ一つ残らず燃え尽きたので証拠は残らず、目撃した八百万も揉み消されるのがわかっている為、何も言わなかった。

 

 怪我人は継承者と渋谷、それと大神だが、渋谷と大神は生命力が高いのと応急処置が 適切なお陰でリカバリーガールのその場の治療で完治した。

 

 皆が撤収中の中、渋谷と大神はまだ座り込んでいた。

 

「ほら、お二人とも帰りますわよ。」

 

 中々動き出さない二人に八百万は副委員長として声をかけた。

 

「………」

 

「どうしたんですか?

渋谷さんまで、たしかに主犯格を取り逃したのは残念ですがお二人のおかげで生徒の皆さんが無事だったんですよ。」

 

 二人にとって大事なのは主犯格でも雑魚の殲滅でも無い、最初に介入した正体不明のフード姿の二人であった。

 

 そして渋谷にはうち一人の異能に心当たりがあり、大神にはもう一人の異質な力の使い手に心当たりがあった。

 

 二人が想いに老けていると突然二人に話しかけてきたものがいた。

 

「二人とも、ご苦労様です。」

 

 それはかつて八百万に助言した学園の先生らしき人物であった。

 

「あ…あなたは…」

 

「平家…」

C:B02(二番先輩)!!!」

 

「え!?」

 

 八百万は当然驚く。

 そして、聞き返した。

 

「じゃあ、この人は…」

 

 それに答えるのはもちろん渋谷。

 

「この人はC:B02平家将臣。

C:Bの元締、僕らをこの学園に呼び寄せた張本人さ。」

 

 確かに変わった人だとは思ったがまさか大神の関係者だとは思わなかった八百万。

 そして会話の中で八百万は違和感に気がつく。

 

 

「え?02なのに?」

 

01(エース)を差し押さえて02が元締なのか元締が02を務められるほどの実力者なのかはわからないがなんとも変な話だ。

 

「大神さんが僕らのエースであることに変わりないですが、2番先輩にはもう一つの顔がありますから。」

 

 彼にはC:Bの裁きが正しく遂行されているか監視するジャッジの役割がある。

 

「渋谷くん35点、大神くん5点。」

 

 エデンのジャッジは点数式の様だ。

 しかし、活躍した大神が5点で何もできなかった渋谷が35点は驚きだ。

 

「えっ…なんで先輩が5点なんですか?」

「研修生の君と違って01のコードを持つものとしては不十分なんですよ。」

 

 入ったばかりでバイトの様な立場の渋谷と歴戦のC:Bの中でもトップに位置する大神との立場が違うのは当然だ。

 

「でも、思った以上に彼らは得体の知れない力を内包している様です。

 これは呼ぶしかないですね。」

 

「何をですか?」

 

 八百万が平家に尋ねたが後の二人は言わなくてもわかっている様だった。

 

「残り三人のコードブレーカーを…」

 

 この学園に在籍するトップクラスのプロヒーローを比べても遜色ない、寧ろ上回っている部分さえ有ると見える大神と肩を並べる残る三人のコードブレーカーが集まればそれはすごい戦力になる。

 

 八百万は武者震いをした。

 

 

 

「チィ……」

 逆に大神は悔しそうにし、その場から立ち去った。

 

 昔と違って他のC:Bと協力してことにあたることに抵抗はないが、自分の失態が招いての事となると頼りたくはない。

 特に弱みを見せたくない奴がメンバーに一人いるから尚更だ。

 

 大神の機嫌を感じ取った八百万だったが、あえて大神を追いかけるのであった。

 

 その姿を見た平家は懐かしく感じた。

 

「懐かしい光景ですね。」

 

その昔、ああして大神を追いかける女性を平家は知っていた。

 

「なんの話ですか?」

「昔話ですよ、昔のね…」

 

「先輩の過去ですか?差し支えなければ教えてくださいよ。」

「………まあ、概要だけなら…」

 

 プライバシーもパーソナルスペースも気にせず踏み込んでくるC:Bは珍しいが、珍種でありあの人(・・・)の関係者で有ることを考えると変に納得した平家であった。

 

 ただ、主に官能小説を愛読し、普段の会話もアレな平家の解説が、言える内容が少ないことも合間って多くの誤解を生む事となる。

 

********************

 

「大神さん!!」

 

 

 大神に追いついた八百万。

 

 呼び止められても止まる気配が無い大神に対し、八百万は正面に回り込み思っていることを口にした。

 

「大神さん!」

 

 なんのことかわからない大神は不機嫌そうに答えた。

 

「どうしたんですか、八百万さん

正直、今は…」

 

「大神さんは間違ってはいません!」

「はい?」

 

 八百万は大神の気持ちを汲み取ったかの様に話を始めた。

 

「身を隠さないといけない立場にもかかわらず、大神さんは皆んなを守ってくださいました。

その所為で敵に遅れをとったことは残念ですが、大神さんは間違っていないと思います!」

 

 八百万は大神が悔やんでいるのは皆を守るために力を使ったことを後悔しているのだと思い励ました。

 

 大神はいつもの能面ではなく、素の笑顔が溢れた表情で返した。

 

「そんなことを言いに来たんですか。

でも、ありがとうございます。

気持ちが少し楽になりました。」

 

 大神はポンっと八百万の頭をたたいて、お礼を言うと再び八百万を置いて去っていった。

 

 しかし、その後ろ姿には先程の様な不機嫌さは無くなっていた。

 

 

********************

 

二人のそんな様子を眺める二つの影。

 

「1番、楽しそうやな。」

「あいつのあんな姿、みるの久しぶりだな…

ちょっくらからかいに行くか。」

 

 

********************

 

 平家から昔話を聞いた後、分かれた渋谷と平家はそれぞれ、今回の事件で思うところがあった。

 

平家はとある人に今回の件を報告していた。

 

TELLLLLLL!

 

「会長、ご無沙汰してます。」

『やあやあ、平家くん』

 

 

「例の件ですが、相手側に彼が着いているのは確実の様ですね。」

 

『はやり、そうか』

「それで、例の計画を復活させたいのですが…」

『例のって…あれは自分や『捜し者』さえ、途中断念した者だしね。

大神くんも以前の修行では基礎さえ習得できなかった代物だよ?』

「しかし、彼が動くなら必要な力の筈です。

現状、習得できる可能性があるのは大神君だけですから。」

 

 

 

********************

 

 同じく渋谷もお世話になっている人に電話をかけていた。

 

TELLLLLLL!

 

「あっ、桜子おば……おねえさん

ちょっと調べて欲しいことがあるんですけどいいですか?

 

…えぇ、そうです。

まだ、確信は持てないですが少し『思い出した』ことがありまして。

 

あっ、はい。

それでは情報はいつものルートで…」

 

********************

 

 

 所変わり、平家の連絡をもらった者は以前、根津校長と話していた着ぐるみの男であり、その日も偶然、校長に会いにきていた。

 

 この男はエデン関係者からは『渋谷会長』の名で慕われ…てはいないが関係者の皆が一目置く存在であった。

 

 

「やはり、彼らも動き出しましたか…」

 

 根津校長は渋谷会長に問う。

 

「はい…

古の力…神話の存在と謳われた者たちが…」

 

 渋谷会長は答えた。

 個性が発見される前から超常な力を持つものは存在していた…『異能』という形で。

 しかし裏社会でのみ知られていたとはいえ存在し、研究されていた『異能』が根源であると誰が証明できたであろうか。

 

 今でこそ御伽話や神話、民話の中の存在であるとされているが超常の力を持つ者は存在した。

 

 人々から『鬼』と恐れられ、『神』として崇められたそれは人としての規格を優に越していた。

 

 彼らは生き残り再び暴れられるこの時代を待っていた。超常が日常化したこの時代を。

 

「お互いに本腰を入れましょう。『継承』のために。」

 

『異能』の代表者である『エデン』と『個性』の代表者ともいえる現代の『政府』は手を組んだ。

 

 

『異能』が過去からの脅威に対抗するために。

『個性』が年々、複雑化し強力になる個性の暴走を止めるために。

 

『継承』それが彼らの課題であった。

 

 




ヒロアカの設定を『X-MAN』に当てはめるならこの作品のC:Bはファーストジェネレーションの世代で敵がアポカリプスの敵といった感じでしょうか。
お気づきの人も多いでしょうが、クロスオーバー作品を一つ増やします。


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第十話

CODE:HIRO

 

 USJ襲撃事件から数日がたったある日、1-A組は近々体育祭が雄英で行われることを知らされた。

 

 USJ事件で目立ってしまったA組は隣のB組だけではなく、クラス替えを目指す一般科の生徒からもライバル視されていた。

 

 テレビ中継がされ、プロヒーローも注目する為、雄英生徒にとって意味のある催し物であった。

 

 

 各生徒、体育祭にかける意気込みが違うため、八百万はC:Bの二人に尋ねた。

 

「渋谷さんもよかったですね。

体育祭には腕が完治しそうで。」

 

 リカバリーガールの力を持ってしても完治には日数が必要であったが、流石は『生命力』の個性の渋谷の回復力は段違いであった。

 

「いえ、僕も先輩もこの間の事件の怪我を理由に体育祭は不参加でいこうと思います。」

 

 その回答に戸惑う八百万。

 

「何でですか!?大神さん!」

 

 ヒーローを目指す自分たちからしたらあり得ないことだけに驚きに怒りが混ざる。

 

コードブレイカー(存在しない者)がテレビにでて能力を披露してどうするんですか。」

 

「……あぁ、そうですね……」

「学級委員の時みたいにまともな学園生活させて更生させようとか考えないでくださいね。

そういう手は懲りてるんですから。」

 

「………(もったいない話ですわね…)」

 

******************

 

 

 そんな話を廊下でした後、教室に入った三人は、いつもと違う人が教室にいることに気がつく。

 

「へぇ〜、大神くんの友達なんだ。」

「友達っつうか、仕事仲間だよ。

アイツがバイトって言ってるやつ」

 

 その青年は大神の話を芦戸を含むクラスの面々に話していた。

 

「もしかして、大神みたいに強かったりするのか?」

 

「当たり前じゃん。だってオレ、大神に勝ったことあるシ」

 

 その言葉に指定に近い関係性の轟とライバル視している爆豪が遠くで反応した。

 

 そして、話の本人である大神が後ろに立つ。

 

「刻…テメェ…何でここに…」

 

 彼はC:B04 刻、チャライ感じの容姿・言動が目立つが、01(大神)並び立つ実力と何者にも砕けぬ精神力を持ち、エデンの《切り札(ジョーカー)》の異名を持つ実力者。

 

 

「おぉ〜大神クン、丁度よかった。

今から、俺たちが出会った時の話をしようと思ってたんだ。」

 

 刻と大神は出会った時に大喧嘩し、大神は大敗を期した経緯があったが、それは彼がまだ弱い頃であり、何百年も前の話である。

 

「昔話が過ぎるの…

今のオレには勝つ自信が無いからか?…」

 

「調子に乗るなよ。元・6番(下っ端)……」

 

 

 二人は殺気を高める。

 一見仲が悪そうでもあり、何処か信頼関係がある様にも見える二人の関係はライバル、宿敵、戦友と言った言葉では足りない何かがあった。

 

 

「先ぱ…刻さん、どうしてここにいるんですか?」

「そうだぞ、刻。ここは関係者以外立ち入り禁止だ。早く帰れ。」

 

 

「あれっ?聞いてないのかよ。

オレたち、隣のクラスに転向してきたからよ。」

 

「転校!?」

「達……」

 

 渋谷は驚き、大神は『また、平家の仕業か』と考え頭を抑えた。

 

「アレ?遊騎はどこ行った?…」

 

 大神と八百万が見渡すと耳郎の前に男子が立っていることに気がついた。

 

じぃ〜〜〜〜

 

「な、何だよ…」

 

 その男は高い身長で座ってる耳郎を見下ろしていた。

 

「めっちゃいい音が聞こえるねん…」

「え…?」

「今まであった人の中で一番ええ心音がきこえるねん」

 

「んん〜?」

 

 遊騎自身、かなりのイケメンである上に、あまり、そう言った男性に慣れていない耳郎は少し照れながら皆に助けを求めた。

 

「これは新手のナンパか何か?」

 

「耳郎さん、心音が個性の源だから『良い個性だね』って意味じゃない?

となると彼も耳郎さんと同じ『音』に関する個性なんじゃない?」

 

 彼はC:B03天宝院遊騎

 出会った時よりも背も伸び、子供らしい雰囲気が無くなっていたが相変わらずネジが抜けた様な言動が残る。

 

「二人ともちょっとこい…」

「おいおい、早々に真面目キャラが崩れてるぜ、仮面優等生。」

「お〜大神、久しぶりやな〜」

 

 天真爛漫な遊騎に自慢話が大好きな刻がいたのではまともな会話ができないと踏んで大神は二人を人気のない場所に連れ出そうとした。

 

 二人は引っ張られて行った。

 

八百万は二人が大神のバイト仲間となればC:Bだと当然気づく。

 

 八百万が思うところある顔をしているとC:Bの会話に参加させてもらえなかった渋谷が八百万に話しかけた。

 

「さっ、盗み聞きに行きますか。」

「え"えっ!?」

 

「ハブられた腹いせに先輩達の会話を八百万さんに聞かせてやろってね。」

 

 

******************

 

「どう言うつもりだ、刻。」

「つもりも何もお前が失敗はするほどの仕事に戦力を追加投入するのは当然だろ?」

 

「だかといってこの時期は…」

「『雄英祭』があるんだろう?

尚更、ちょうど良い。」

 

「……何を企んでる?」

 

「俺は企んでないヨ

今回の件、敵が予想外の戦力を保有していたことを踏まえてもお前の不甲斐なさが目についた。

 

だからエデンが体育祭の場を利用して他のC:Bと比較させて、必要とあれば番号交代だってさ」

 

「公衆の面前で本気を出すつもりか?」

「今のご時世、能力秘匿の必要性は低い。

むしろ、俺たちがC:Bである事を知られてる方がまずいだろ。」

 

 八百万の事は平家が知っているのだから刻が知っていてもおかしくはない。

 不味い相手に知られてしまったとかすかに苦い顔をする大神。

 

 

「俺も今更、01の番号に興味ないんだが…

 

お前と本気でやりあえるんならわるくないかなってネ」

 

 二人の殺気が高まる。

「やってみろ」「上等だ」と言葉にしなくても二人の喧嘩のふっかけ合いが側からでもわかる。

 

「それよりも、聞かれてるで。」

「あぁ、わかってる。」

 

 大神は突然の遊騎の忠告に答える。

 

「おそらく、渋谷と八百万さんでしょう。

また、渋谷の奴が余計な…」

 

 ため息と共に大神の顔からわずかに笑顔が漏れる。

 

 

「お前、いま昔と同じ顔をしてるぜ。」

「何のことだよ。」

 

 

「…にしても似てるよな。

八百万って子。桜ちゃんにサ」

 

 

『(サクラ?……)』

 

 その名に隠れて聞いていた八百万も気になった。

 

「何を急に…

全然似てませんよ…」

 

「そんなことないぜ。

正義感が強くて…」

「ヒーロー科だからな。」

 

「良い所の出だし」

「そんな人いくらでもいる」

 

「何より、お前の人殺しを止めようと必死な所…」

「…………」

 

 

 何も言えなくなった大神はあからさまに話題を変える。

 刻達も深入りする気はないようだ。

 

「転校の理由は分かったが、邪魔だけはするなよ。

 タダでさえヒヨッコの面倒で手がいっぱいなんだから。」

 

「アイツも、中々面白いやつだよな。

C:Bに向いてるとは思えないがな。」

「ワイは好きやでー06(ろくばん)のこと」

 

 しばらく、そんな話をして三人は解散した。

 三人が解散したところを確認した八百万と渋谷は会話の内容を確認しながら帰路に着いた。

 

「サクラさんってどなたですの?」

「ボクも詳しくは知らないけど昔、大神先輩を変えた人って平家先輩に聞いた。

 その人にあってから大分丸くなったらしいよ。」

 

「あれで?」

 

普段の大神の態度を見て昔はどんなんだったんだと考える八百万であった。

 

「その人も大神先輩を完全には変えられ無かったらしいからね」

「どんな人なのか気になりますね。」

 

「詳しく知っていそうな人に心当たりがあるから聞いておくよ。」

 

 彼の出生に関わる人物が実はこの話の主要人物であったりする。

 

 2人もその後解散した。

 

 



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第十一話

 刻達が転向してきて数日、大神と刻に新たな指令が降っていた。

 

「異能研究の科学者がエデンを離反……」

 

 大神は平家から指令を受け取っていた。

 

「はい。彼は『元隆 櫂鬼』

エデン管轄の研究機関にて個性の源流を異能と考える学者の一人でその繋がりを研究することで異能・個性因子の解明をテーマにした研究をしていました。

しかし彼は禁断の領域に手を出し、エデンを離反。

姿を眩ましていたのですが、先日ついに所在が判明しました。」

 

 

「後は俺達が踏み込んでそいつを消せば終わるってわけネ」

 

 平家の説明に刻が付け足す。

 

「所で、渋谷は呼ばないの?」

 

 刻はここに他のメンバーが集められていないことを気にした。

 気分屋の遊騎ならともかく、新人を経験豊富な先輩に同行させてローリスクで経験を積まさない理由がない。

 

 「彼には少し難しい仕事ですからね。」

 

どうやらよほど危険な任務なのだろう。

 

「遊騎は出自的に今回の事件とは相性が悪そうだしな。」

 

 

 そうして2人で任務をこなすことになった。

 

※※※※※※※※※※※※※※※

 

そこは元隆 櫂鬼の秘密の研究施設。

そこから狂気じみた高笑いが聞こ得てきた。

 

「ついに…ついに完成した!!

これぞ!人類を…新たなるステージに昇華させる第一歩だ!」

 

『ボクからしたらただの人形(・・)だけどね。』

 

 後ろから聞こえる声に彼は振り向かずに答えた。

 

「たしかに、この薬ではまだかつての力を取り戻しているだけに過ぎない。

 しかし、いずれは貴方様の領域に届いて見せましょう。」

 

『フフッ…楽しみにしているよ。』

 

 最後の笑い声を最後に背後から声は消えた。

 

「さて、この薬が予定通りの効果があるか試さないといけませんね。

…若く、成長の余地を残す、実験にも耐えられ、特定の系統の能力を持つ者

 

せっかくですから彼らに復讐のチャンスを与えましょうか…」

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※

 

 ある日の放課後、八百万はまたもやバイトに行く大神にまかれて1人で帰っていた。

 

(大神さんの様子…また人殺しに行ってしまわれましたわ。)

 

 放課後、気づいたら大神が居らず、刻も足早に帰ったそうだ。

 遊騎は今日はサボりのようで、平家は探しても見つからない。

 

 いつもなら大神に巻かれても平家か遊騎が場所を教えてくれるか、連れて行ってもらうが、今日はその気配ではない。

 

 1人寂しく帰路に着くと人通りの多い商店街で事件が起きた。

 

「きゃ〜

泥棒!!だっ!誰か捕まえて〜!」

 

 中年のおばさん(おそらく主婦)がカバンを引ったくられ叫ぶ声が聞こえた。

 

 あたりにはヒーローも警察も居らず走り去る泥棒を誰も捕まえられないでいた。

 

「待ちなさい!」

 

 ヒーロー科の学生である八百万はすぐさま泥棒を追いかけた。

 

 泥棒は人通りの少ない裏路地に逃げ込む。

 

 それを追いかける八百万。

 

 すると泥棒は行き止まりに逃げ込んでしまった。

 

「さあ!もう逃げられませんよ!

鞄を返して警察に出頭してください!」

 

 しかし、泥棒は笑っていた。

 

「ばーか、逃げられないのはテメーだよ。」

 

 背後から迫る気配に八百万は振り返った。

 

「マジちょれーな。本当に雄英生かよ。」

「どんだけエリートでもガキはガキってな。」

 

 わらわらと集まってくる柄の悪い連中。

 

「ガキにしてはいいから出してそうだけどな。

上に引き渡す前につまみ食いでもするか?」

「バカ、下手に手を出したら上に怒られるじゃねぇか!」

 

この計画的犯行に八百万は彼等の正体を聞く。

「貴方達何者ですの?」

 

連中は答えた。

 

「俺たちはこの間の事件を起こしたヴィランのツレだよ。」

 

先日のヴィラン連合の襲撃には地元から徴兵したゴロツキが多くいた。

 彼等はそんな連中の仲間だった奴らだ。

 

「……」

 

 地の利も頭数も不利すぎる状況に八百万は手も足も出なかった。

 

※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 一方、元隆 櫂鬼の研究施設に忍び込んだ大神と刻は次々とトラップを回避して奴の元に近づいていた。

 

「アイツが警戒しろって言ってた割には拍子抜けだな。

 これなら新人でも楽勝だったんじゃね?」

 

「肝心なのはこの後だがな。」

 

 電子的なトラップは刻の前では役に立たず、物理的なトラップは大神には無力だった。

 

TLLLLL!!

 

 すると平家から電話がかかってくる。

 

「どうした、平家。」

「大変です。大神くん

 

 

 

……八百万百さんが誘拐されました。」

 

 

 

 

 

 

「どういう事だ?」

 

 大神は詳細を聞いた。

 

「犯人は先日の襲撃班の残党。

すでに渋谷くんと遊騎君で捕縛済みですが、既にヴィラン連合関係者の手に落ちたようです。

近くにヒーローも警察も居らず、初期対応が遅れました。

 どうやらヴィラン連合が手を回したようです。」

 

「何故八百万さんが?…」

 ただの一雄英生である八百万にそこまでする理由はない。

 心当たりがあるとしたら自分たちの関係者であるということ。

 

「私達のせいではありませんね。

他にも候補者がいて彼女はたまたま罠にかかってしまっただけですね。

候補者の共通点は物質を生成するタイプの個性を持ってますね。」

 

「…そうか」

「そちらは刻君に任せてこちらに合流しますか?」

 

「…いや、終わらせてから行く。」

 

 まだ所在がわからないのであれば平家やエージェントに任せるのが最適解だ。

 

 そう思い、大神は電話を切った。

 

「あのねーちゃんは何回事件に巻き込まれれば気が済むんだよ。

 マジで珍種もどきより珍種みたいだな。」

 

 大神に出会ってから八百万は事件に巻き込まれっぱなしだ。

 刻は昔のことを思い出しながら大神に言った。

 

「黙れ…」

 

 大神は軽く頭を抱えながら先に進んだ。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 2人はとある一室に入るとそこには沢山の実験器具や、ホルマリン漬けにされたあらゆる生物の臓器が並んでいた。

 

 ザ・マッドサイエンティストの部屋を見た2人は機嫌を悪くした。

 

「けっ、趣味の悪い部屋だヨ」

「……」

 

 2人は部屋の奥にある机の書類を目をつける。

 

「平家の報告通り、個性と異能の研究だな。」

 

 すると刻が変わった資料を見つける。

 

「何だ?『壬生再臨計画』?」

 

 ほとんど読めなかったが、かろうじて読めたタイトルを読んだところで大神は顔色を変えた。

 

 その言葉に驚いた大神は刻から無理やり資料を奪い取った。

 

 その資料はボロボロになった巻物を写真に撮り印刷したような資料で明らかに現代の文章ではなかった。

 

「『万物を破壊する陰の力、万物を生み出す陽の力を内包する者こそ、真の紅十……」

「おい、何でお前がこんなの読めるんだよ」

 

刻のツッコミを無視して読み進める大神であったが、そこに邪魔が入る。

 

「おやおや、招かねざる客のご登場のようだ。」

 

 2人が振り向くとそこには抹殺対象である元隆 櫂鬼がいた。

 

 Yシャツにネクタイ、上着に白衣。

 度が高そうな大きな丸いメガネに痩せ型の体格。

 この研究室の主人に相応しいほどにザ・マッドサイエンティストの様な姿をしていた。

 

「エデンの犬め、よくも私の研究室を汚してくれたな。

 『皇帝の系譜』に『切り札』…是非とも私の非検体になってほしいが、そう簡単にはいかな様だ。」

 

 

 

「そうだな、元隆…お前は知り過ぎたようだ。」

 大神は元隆を燃え散らす為に青い炎を手に宿した。

 

「私はこんなところで死ぬわけにはいかない。

そろそろお暇しよう。

 すでにバックアップは次の研究室に移動済み、後はここを破壊するのみ…」

 

 元隆は向かってくる大神に対して煙玉を投げて煙幕を貼った。

 

「チィ!」

 

 大神は炎を大きくし、上昇気流を発生させることにより煙幕を払った。

 

 しかし、そこに元隆はいなかった。

 

「大神!すぐに追いかけるぞ!」

「…わかっている。」

 

 すぐに追いかける為に部屋を出ようとしていた2人だが、元隆の代わりに部屋にいた人物を見て驚いた。

 

「八百万さん?…」

「マジかよ…」

 

「……」

 

 そこには誘拐されたはずの八百万が虚な目をして立っていた。

 

 すると元隆の声が部屋に響き渡る。

 

『おや?知り合いでしたか?

彼女は私の大事な被検体第一号です。

経過観察を見る為にしばらくあなた方に預けます。

 大事に扱ってくださいね』

 

 

「ふざけんじゃねぇ!元隆!百ちゃんに何してくれてんだ!」

 

 刻の言葉も虚しく、再び返事が返ってくることはなかった。

 

 少し、下を向いていた八百万が顔を上げた瞬間、C:Bでもトップクラスの力を持つ2人が闘気だけで一瞬、動けなくなった。

 

 そんな常人離れした八百万の瞳はまるで血のように真っ赤な『紅ノ瞳』であった。

 

 

「『物質創造』、《書庫》(アーカイブ)より刺突・切断に長けた武器を選択、対象をロック、射出!」

 

八百万が機械の様な無機質な声で唱えると、空中に西洋剣が現れて大神達を襲った。

 

「どわっ!!」

 

 刻の足元に剣が刺さる。

 威力、スピードともにかなりのものだ。

 

「百ちゃんの能力は脂質を元に創造する能力だろ!!明らかに無から作り出してるぞ!!」

「ああ、しかも作り出した物を操ってる。

これがやりたかったから、この手の個性を持つ生徒を襲ったのか。」

 

 エネルギー・状態を司る個性・異能と違い、物質を作るタイプの個性は質量を無視している傾向が強い。

 八百万だと、消費している脂質に対して精製できる物質の質量を明らかに凌駕している。

 

 1を10にできる能力が改造・強化されれば0()から物を生み出すことも可能であろう。

 

 

「軌道修正、敵回避対策に射出数を増加……」

 

 次は古今東西あらゆる剣を作り出して射出した。

これは避けられない。

 

「刻!」

「わかってるよ!」

 

 ものすごい勢いで飛んできた剣は突如止まった。

 

 刻の異能は『磁力』。

 彼の前では磁性のある金属は彼の支配下だ。

 

 しかし…

 

「百ちゃんに返すわけにもいかねぇよな。」

 

 刻の力を持ってすれば金属による攻撃は全て相手に返すことができるが刻は八百万を傷付ける気はない。

 

 攻撃が効かないことを学習したのか八百万は次の手を考えた。

 

「鉄成分にクロム、ニッケルを配合、面心立方格子構造で形成…」

 

 

「γ鉄!?」

 秀才かつ科学に精通する刻は八百万の独り言に危機を感じた。

 

 八百万は別成分を配合することで磁性を抑えて武器を作り出した。

 

 

「やばっ!」

『青色の煉獄業火』(サタン・ブレイズ)

 

 刻に向かっていった剣を大神が燃え散らす。

 

「…鉄に炭素配合…」

「!!!」

 

 

 八百万は磁性に続き、熱にまで耐性をを備えた

 

「大神!こっちだ!」

 刻はすぐ様周囲の金属を操り八百万の攻撃の盾にした。

 

「ほとんど洗脳状態なのに対応力半端ねぇ」

「厄介だな。」

「下手に攻撃すると百ちゃんを傷つけちまうからなぁ。

 正義の味方は辛いな。大神クン!」

「黙れ…」

 

 2人の実力的にはいくら魔改造されているとしても学生レベルの八百万に遅れは取らない。

 

 刻は八百万が作り出す武器以外で攻撃すれば良いし、耐熱性の金属だって火力と時間が有れば大神ならお構いなしで燃え散らす事ができる。

 

 しかし、それだけの力を行使すれば八百万を傷つけてしまう。

 

「一気に蹴りをつけたいな。」

 

「あの力…『生命力』垂れ流しだな。

あれなら闇色の辺獄烈火(ベルフェゴール)を使えば気絶させることは出来るが…」

 

「ベルフェゴールだと剣を防げないんだろ。

俺が何とかするヨ」

「何とかって…」

「最近は持参してなかったんだけど、ここが研究室でよかったよ。」

「なるほど。」

 

 2人はニヤリと笑い、一気に勝負を仕掛けた。

 

 先に飛び出した大神に無数の剣が射出される。

 

 しかし、それは瞬時に破壊された。

 地面から伸びる金属の氷柱が武器を壊したのだ。

 

 刻の異能『磁力』で操る事ができる液体『汞』、水銀と言われる常温で液体の金属は刻により強度も形も思うがままの代物だ。

 大神が前に出る前に地面に這わせて準備を整えていた。

 

『汞』は武器を破壊すると次は八百万の体を拘束した。

 

闇色の辺獄烈火(ベルフェゴール)…」

 

 その隙に大神は黒い炎で八百万を包み込んだ。

 

「あぁ…」

 

 黒い炎により生命力を食い尽くされた八百万はそのまま気絶した。

 

 静まり返った研究室に佇む2人と気絶した八百万。

 

 

「元隆櫂鬼は…逃げられちまっただろうな」

「また、将臣に減点されるな…」

 



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