美女と狼の奇妙な恋愛事情 (氷野心雫)
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始まりの朝~絢瀬絵里編~

 前作とは異なる小説になっています。絵里と希が主で、キャラ設定は原作と異なります。又、オリジナル作品を掛け合わせて、ストーリは恋愛官能小説です。



 部屋を明るく照らす朝陽が、少しずつ傾きベッドで眠る人物を優しい光で起こす。ベッドサイドに置かれたデジタル時計が軽快なメロディーを奏で、朝陽と共にベッドで眠る人物に追い討ちする。

「……ん、もう朝……」

 ゆっくりと身体を起こすその人物は、金色の髪を肩からさらりと流した。まだ鉛の様に重たい身体を完全に起こす。しばらくベッドの上で意識を覚醒させ、ようやく重たい目蓋を開ける。瞬間、違和感を覚えた。掛け布団を捲る。身体は一糸纏わぬ状態に、思考が止まった。

 

(……っえ?何?)

 

 女性は狼狽えた。右手に温かい何が当たる。女性はそちらを見た。そこには、女性と同じ金色の髪の男性が寝ている。よく見ると、目鼻立ちはハッキリとしていて、イケメンだとすぐに認識出来る。男性も女性と同じ様に裸で、服は身に付けていない。さらに思考が止まる女性。

 

(……っえ?ちょっと待って……何が起こったの?私、この人と……嘘でしょ?)

 

 混乱する思考で、女性は自分の置かれた状況を整理していく。しかし、一考に思い出せない。ただ、彼女の太股に生暖かな感触が、女性と男性の関係を物語っている。

 

(私、誰とも知らない人と、身体の関係を持ったの?……処女喪失しちゃったの?)

 

 両手で顔を覆い、女性は溜め息をついた。すると、隣で寝ていた男性が目を覚ます。女性の身体を抱き締め、押し倒した。

「おはよう。身体大丈夫か?」

 吸い込まれそうな程澄んだ眼差しで、男性が言う。女性は視線を反らせた。

「ごめんなさい。私、昨日の事、覚えていないの。」

 女性の言葉に、男性は一瞬驚く。しかし、ほんの一瞬だった。すぐに口角を上げ、悪戯っぽい笑みを見せる。

「何だ。覚えてないんだ?昨日、あんなに激しく俺を求めてたくせに」

 そう言って、女性の唇に指を這わせる。女性は真っ赤に顔を染め、男性を見た。

「絵里、どこまでなら覚えてんの?」

「……どうして私の名前」

「昨日、自分から教えてくれたんだけど。それも覚えてない?」

 男性の問いに、絵里は素直に頷いた。男性はクスクス笑い、絵里の身体を撫で回す。男性の愛撫に身体の奥が疼く。

「身体は覚えているんだ。なら、もう一回シたら思い出すかもな」

 言うのが早いか、男性の手が絵里の秘所を撫でる。その愛撫に反応する身体。絵里の口から甘い吐息が溢れる。

「……やだ、やめて」

 抵抗を試みる絵里。しかし、身体は言う事をきかない。一度覚えてしまった快楽は、絵里の意思とは逆に、男性の愛撫を受け入れる。

「ほら、すんなり俺の指が入った。」

 絵里の秘所に、男性の指が二本、三本と入っていく。その指を器用に動かして、絵里の中を掻き回す。

「……あぁ……、本当に…やめて……お願いだから」

 涙目で訴える絵里。その表情に男性はさらに笑みを濃くさせ、絵里の秘所にソレを宛がう。絵里は焦った。身を捩るが、男性が脚の間に身体を入れている為、抵抗にもならない。すぐに絵里の中に、ソレを突き入れた。一瞬、息を止める絵里。

「…………あぁ」

「どうだ?これでも覚えてないか?絵里のココは俺の形になっているみたいだけど?」

 何度が腰を打ち付ける男性。その度に、絵里の中は喜びに蠢き、男性を優しく締め付ける。

「……や…覚えて……ない……ん」

 喘ぎと共にそう答えるだけの絵里。しかし、男性の言葉の通り、絵里の身体は男性を覚えているようだ。絵里の意思とは関係無く、男性のソレを何度も締め付け、射精を促す。男性の動きが速くなり、絵里の奥に打ち付けた。

「中に出すぞ。しっかり受け止めろよ!」

「……ダメ、中はやめて!……抜いて!お願いだから」

「それは無理だな。ほら、イクぞ」

 男性の精液が絵里の中に注がれる。絵里はそれを感じながら絶頂した。絵里の奥でドクドクと注がれる精子。しばらく男性は絵里の中からソレを引き抜かず、絵里を抱き締めたまま横になる。絵里の方は脱力し、男性の温もりを感じながら目蓋を閉じる。そして、そのまま意識を手放した。




 男性の名前は、希の始まり後に出てきます。


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始まりの夜~東條希編~

 今回は、希編です。基本、二人の視点に合わせていますが、時折男性側に切り替わる場合もあります。事前にお知らせしますが、突発的な場合は、ご了承下さい。


 毎日の仕事は、沢山の患者さんの悩みや愚痴を聞いて、正直、疲れる。でも、心理カウンセラーの職についたのには、高校時代の友人達の一言で決心したのも、一つの要因だ。紫の髪を二つに束ね、歩く度に豊満な胸が揺れるその女性は、東條希。希は居酒屋で意気投合した一人の男性と談笑しながら、マンションのエントランスに入る。いつも一緒にお酒を飲み、仕事の愚痴や将来への不安を話し合う友人、絢瀬絵里は、今、希と一緒に歩いている男性の友人と絵里のマンションへ向かった。いわゆる、お持ち帰りである。

「希ちゃんは一人暮らし?」

 希の横に並んで歩く男性がそう問う。希は首を横に振った。自宅の玄関の鍵を開け、男性を部屋の中に招き入れる。

「一応、実家。両親は海外赴任が多いから、いつもうち一人なんよ」

 そう言って、男性の前にお茶を置く。男性が部屋の中を見渡す。歩いて少し酔いが覚めている希。男性も酔いは覚めているようだ。

「俺を家に上げて、良いの?」

「……そのつもりでついて来たんちゃうん?」

「はは!……参ったな」

 男性は楽しそうに笑った。希も口元を隠し笑う。

「まぁ、男は皆狼だからな」

「それは否定せんよ」

 お互い顔を見合わせ、笑い合う。希の横に座っている男性は、短い黒髪に大きなピアスをしている。少し中性的な顔立ちに、目は赤色のカラーコンタクトを入れていた。背は、希よりも大きく、180㎝はあるだろう。その男性が希の顔を覗き込む。

「希ちゃんって、仕事何してんの?」

「心理カウンセラー」

「へぇ、そうなんだ。それって、自分から進んで?」

「う~ん、そやな。最終的には自分で決めたけど、きっかけは友達かな」

 お茶を啜りながら希が言う。男性も同じ様に啜った。

「趣味とかある?」

「うち、趣味が占いなんやけど、よう当たるんよ。なんなら、占ってあげようか?」

「占いかぁ。ちょっと興味あるな。占ってみてよ」

「ええよ」

 希は小さな引き出しから、タロットカードを取り出し、シャッフルしていく。そして、その中から数枚のカードを取り出した。真剣な表情でカードが示す内容を紐解く。

「もしかして、職業は芸能関係やない?……しかも、恐らく……アイドル?」

「……すげぇ…、正解……他にも分かる?」

 男性は驚きながらも質問する。希の表情が少し曇った。それは、男性に対してではなく、タロットの示す内容に。希は躊躇しながら口を開く。

「……過去にトラウマあるんちゃう?女性関係で」

 その言葉に、男性の顔が強張った。希はその様子を見逃さない。男性の目を真っ直ぐ見つめる希。

「……相談にのろうか?もちろん、強制はせんよ。言いたくなければ、言わんでもええよ」

 希の提案に、男性の目が大きく目開かれ、ゆっくりと視線を落とす。

「なるほどな。……お友達が薦める訳だ。天職だな」

 一人納得する男性。希はずっと男性を見ている。

「……俺の話を聞かなくても、トラウマの原因、分かるんだろ?」

「そうやね。分かるんやけど、本人の口から聞く事に、意味があるんよ」

 そう言って、希はお茶を啜った。男性は無言でお茶から出る湯気を見つめる。

「……なぁ」

「何?」

「希ちゃんを抱きたい」

「直球やなぁ」

 希は微笑んだ。男性の手が希の頬に触れる。

「うち、初めてやから優しくしてな」

「っえ?マジで?」

 希の言葉に驚く男性。

「マジ、今まで男の人と付き合った事もないんよ」

「……こんなに美人なのに、本当に誰とも付き合った事ないの?」

「……美人やなんてお世辞はええよ。周りは女の子ばっかりやったし。専門学校も、勉強ばっかりやったから、男の人と話す事もなかったんよ」

「じゃあ、何で俺に?」

「ん~、特に理由はないんよ。ただ、君ならええかな?って。うちも三十路近い女やし。夢見る乙女じゃないやん?」

 希は微笑んだまま、男性の手を取る。男性の方は、希の言動に、動揺を隠し切れない。希の目を真っ直ぐ見つめる。希も視線を反らさず見つめ、互いの真意を探った。しばらく見つめ合う二人。

「……はぁ、負けたよ」

「ふふっ」

 両手を上げ降参のポーズをする男性。希は笑う。ゆっくりと身体を近付け、二人の唇が重なった。啄む様なキスが次第に濃厚なキスへと変わり、男性の手が希の胸を撫でる。

「……くすぐったい」

「希ちゃんの胸、やっぱり大きいな」

「大きいのも困るんよ。肩凝るし」

「女の人はそう言うよな」

 そう言って、男性は希の服を脱がしていく。全身を下着姿になった希。恥ずかしさで頬を染め、両手で胸を隠す。その両手を男性は掴み、希の首筋に舌を這わせた。ピクリと希の身体は反応。男性が手を後ろに回し、ブラのホックを外す。勢いよく溢れ出る乳房。男性はその乳房を掴み、グニグニと潰す。

「すげぇ、柔けぇ」

「……んん」

 乳房の刺激に、希の声が震える。男性が希を押し倒し、床に押さえ付けた。

「ごめん、ちょっと我慢出来そうにない。今ここでシテいい?」

「……好きにしたらええよ」

 希の返答に、男性は性急に下着を脱がし、秘所に顔を埋める。男性の舌が秘所を舐め上げた。イヤらしい音を奏で、秘所から愛液が溢れ出る。希は声を抑え、男性の愛撫を受け入れていた。秘所に指を這わせ、中に入れる。ゆっくりと出し入れさせ、指の本数を増やしていく。天高くそそり立つ男性の分身。その存在感はズボン越しでも分かる程。希はその部分を撫でた。

「……本当に良いか?」

「うん」

 希の返事に、男性はズボンを脱ぎ、秘所にソレを宛がう。愛液を擦り付け、ゆっくりした動きで、腰を進める。希の表情が苦痛に歪む。男性は何度も希の頬を撫で、キスをする。二人の身体が密着していく。そして、完全に触れ合った。希の呼吸は荒く、目は涙で滲む。

「全部入ったよ」

「……うん」

 涙を拭う男性。秘所からは、処女を喪失した証、鮮血が流れた。しばらく抱き合い、呼吸を整える二人。じっとしている事で、男性の存在感がはっきり分かる。ドクドクと脈打ち、希の中で存在を誇示していた。

「……動いて…ええよ」

 希が上目遣いでそう告げる。男性は無言で頷き、ゆっくりと腰を打ち付けた。苦痛に歪む希。何度も腰を打ち付ける事で、痛みが小さくなり、徐々に希の口から甘い吐息が溢れ始める。男性は希の身体を気遣いながら、速度を速め、やがて二人は果てた。男性はぐったりとしている希を抱え、寝室に運ぶと、そのまま眠りにつく。

 

 

 

 

 朝、下腹部と脚の付け根の痛みで目を覚ます希。横には男性が寝ていた。

「うち、あのまま寝たんや」

 ぼそりと呟く希。男性は安らかな眠りで、すぐに起きそうにない。物音を立てないようにベッドから降りると、近くに置いてあったタオルケットで身体を隠し、浴室に入る。身体には、男性に付けられた印が幾つもあり、昨日の出来事が嘘ではない事を示していた。突然、浴室のドアが開く。男性が心配そうに中に入ってきた。

「急にいなくなってたから、心配した。身体、大丈夫?」

「……うん、心配せんでええよ。」

 希の様子に、少し安堵する男性。二人は互いの身体を洗い、服を着ると部屋を後にした。




 最初からエロ全開で、申し訳無いです。お話を書くと、何故かそっちに行くんですよね(汗)

 次回は、絵里視点の続きです。


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絵里の大失態

 作者の暴走により、絵里のキャラ崩壊がある……かも


 夜、いつもの居酒屋に向かう希。昨日の今日で、同じ居酒屋に行くのは、別に何とも思わない。それもその筈だ。だって、ほぼ毎日飲みに行っているんだから。今日のお昼、絵里からメールが来ていた。

 

『話があるから、いつもの居酒屋で。角場、空いてると良いけど』

 

 角場とは、いつも座っている場所の事。店内の一番奥のテーブルに、絵里と希は座っている。大体、この角場は、絵里と希の予約席みたいなものだ。希は店名が書かれた暖簾を潜り、店内へ。店内は今日も大勢の客で賑わっている。絵里は、いつもの角場に座って、すでにビールを飲んでいた。時折、溜め息を溢し、虚ろな眼差しでビールジョッキを傾ける。希は苦笑しながら、テーブルに向かった。

「絵里ち、お待たせ」

 希の声に気付く絵里。希の顔を見ると半泣きになった。

「希ぃ~、私……」

「どしたん?何かあったん?」

 希が向かい側に座り、絵里の顔を覗き込む。絵里は無言で鼻を啜った。

「……希、昨日の事。覚えてる?」

「昨日の事?」

「ほら、昨日。ここでお酒を飲んでて、男の人二人と相席になったでしょ?」

 絵里はそう言って、ビールジョッキを置く。そして、溜め息をついた。

「ああ、その事?それがどしたん?」

 希の問いに、絵里は顔を伏せる。首を傾げる希。

「……ないのよ」

「っえ?なんて?」

「覚えてないのよ。私」

 絵里の言葉に、怪訝な表情の希。そこに、一人の店員が近付き。テーブルの上に枝豆とビールジョッキを二つ置く。希と絵里はそちらに視線を向けた。そこにいたのは、着物に割烹着姿の花陽。

「希ちゃん、いらっしゃい」

「花陽ちゃん、うちまだ頼んでないよ」

「うん、入ってきたの見たから、いつもの持ってきたんだ。希ちゃん、最初は大体これだから」

「おぉ~、さすが店長!気が利くねぇ~」

 希の言葉に、花陽は照れた。花陽はこの居酒屋の店長をしている。毎日通う二人の為に、この角場は他のお客は座らせない。

「昨日はごめんね。絵里ちゃんと希ちゃんに相席頼んで」

「ええよ。気にせんで、あんなにお客おったらそうなるやん。」

 昨日のお客の多さは尋常じゃなく、ほとんどの席が客で溢れ、どこもかしこも相席だらけだった。勿論、絵里達の席も相席になるのは仕方なく、絵里達も快く了承したのだ。そして、その相席の相手が、あの男性二人。最初、お互い話す事もなく、絵里と希も二人だけの会話をしていたのだが。絵里達が注文した品物を、彼らが代わりに受け取ったりと色々動いてくれて、そこから話すようになった。絵里はその辺りの記憶はあるらしい。別の客から呼ばれた花陽。

「またあとでね」

 そう言って、呼ばれたテーブルに向かう。その後ろ姿を見つめながら、希は口を開く。

「絵里ち、上機嫌だったやん。そのまま彼と家に行ったんやろ?それは覚えているん?」

「う~ん、微妙ね。はっきりと覚えている訳じゃないし」

「その後の記憶がないん?」

「そうなのよ。気が付いたら朝だったの……」

「もしかして、しちゃったん?」

 希の発言に、噎せる絵里。

「……何聞くのよ!」

 絵里の反応にニヤニヤする希。

「その反応。確実にしたね。」

「…………多分。したけど、覚えてない。それで」

「それで?」

 顔を赤く染める絵里。

「朝、その事言ったの」

「彼に言ったん?それから?」

「身体は覚えてんのにって、襲われた」

 呆然とする希。絵里は顔を両手で隠す。頭から蒸気が出そうだ。希は溜め息をつく。

「……はぁ、絵里ち。処女喪失の瞬間を覚えてないとか」

「生徒会長してたとは思えない程、ポンコツになったわね。」

 希の言葉に続き、誰かが言う。絵里と希は顔をその誰かに向けた。黒髪を二つに束ね、強気な表情の女性。旧姓、矢澤にこ。今は、桂木にことなった元μ,sのメンバーがそこにいた。

「にこ!?」

「にこっち!?」

「久しぶりね。二人共」

 そう言いながら、希の横の席に手に持っていた大きなビジネスバッグを置く。そして、絵里の横の席についた。反対の手には書類。それはテーブルの隅に置く。

「にこ、仕事忙しそうね」

「お陰様でね。」

「にこっちの天職やね」

「ふふん、そう思うでしょ。やっぱり、私天才なんだわ」

 恍惚とした表情でにこが言う。そんなにこを絵里達は苦笑しながら見つめる。にこの仕事は、桂木プロダクションの社長兼マネージャー。つまり、芸能関係の仕事なのだ。元々、アイドルに対しての姿勢は、人一倍凄かった。それを今度はアイドル育成に向けたのだ。にこがプロデュースしたグループは人気が上がり、テレビで観ない日はない。

「でもね。問題のあるグループもいるのよ。かなりの素材を持っているのに、なかなか人気が出なくて。ほら、このグループ」

 にこが隅に置いた書類を二人に見せる。男性五人組のイケメングループ。グループ名は『ラブウルフ』と書かれている。その一人の顔を見て、絵里は息を飲む。そこにいたのは、あの男性だった。その横には、希と一緒にいたもう一人の男性の姿。絵里は希を見る。希の表情に変化はない。その視線に希は気付く。

「……希、もしかして知っていたの?」

「……いいや、知らんやったよ。」

「あまり驚いていないから」

「うち、占いが趣味やん。彼、占ってええって言ったんや。そん時に何となくね」

 希の言葉に、絵里は納得する。一方、にこは二人を交互に見つめた。

「何の話?」

 絵里と希は、互いに頷き合い、昨日の出来事を話したのだった。




 絵里と希を書いてると、必然的にμ,sのメンバーが出ますね。前作より、大分絡みが多いと思います。


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奇妙な関係

 居酒屋からスタートします。ここでようやく男性二人の名前が明らかになります。


 騒がしい店内でお互いの声が聞こえにくい。三人は顔を近付け、なるべく声の音量を変えずに話始めた。

「そんな事があったのね。知らなかった。今日、二人に会ったけど、そんな話聞いてないし」

 にこが男性二人が写った写真を見ながら言う。

「ん~、そもそも、にこっちとうちらが友達なんて二人は知らんやん。」

「それもそっかぁ」

 希とにこの会話を聞きながら、絵里はずっと写真に写るあの男性を見ている。希は目でにこに語った。

「絵里、もしかして、慎に興味あるの?」

 いきなり問われ、絵里が我に帰る。希とにこの視線が自分に向けられている事に今気付いた。

「……えぇ!そんな事……ないとは言えないけど」

 言って俯く絵里。希はそんな絵里を見て溜め息をついた。

「実際のところどうなん?」

「何が?」

「その人、慎君だっけ?ちょっと興味あるんやないの?」

 その問い掛けに、絵里は目蓋を閉じ考える。正直、良く分からないでいた。

「どうなんだろう?興味あるのかも知れないけど、分からないの」

 率直な今の気持ちを告げる。希とにこは無言。

「でも、一夜限りだと思うわ。もう逢う事もないでしょ」

 その言葉に希が笑う。絵里はそんな希の行動にどう反応して良いのか分からない。にこは絵里に慎の資料を手渡した。

「絵里ち、うちの感から言うと、一度きりやないよ。多分、これから何度も逢う事になると思うんよ」

「……どういう事?」

「うち、聖君に聞いたんやけど。っあ、聖君は彼の事なんやけど」

 そう言って指差す希。それは昨日、希と一緒にいた男性の事だ。にこは絵里の前に、聖の資料を差し出す。慎と聖の個人情報が、事細かく書かれている資料。絵里はそれを見た。

 

 

 時田 慎(ときた しん) 性別 男。二十五歳。

 出身、福岡県……。

 

 和久井 聖(わくい せい)性別 男。二十六歳。

 出身、東京都……。

 

「ちょっとにこ。これ、個人情報でしょう?私なんかに見せて良いの?」

 呆れた表情で絵里は言う。にこは特に悪びれた様子もない。

「別に良いのよ。絵里、慎に興味があるなら、私は反対しないわよ」

「……何言っているの?にこ、話が見えないわ」

「だから、慎と交際してもオッケーって言ってるの」

「……ちょ…ちょっと待って…話が飛びすぎて意味が分からないわ。そもそも、アイドルなら恋愛はタブーじゃないの?」

 絵里は狼狽え、真っ赤な顔でそう言った。にこは大きな溜め息一つ。

「基本はね。でも、彼らの場合はコンセプトが『愛の狩人』なのよ。だから、恋人くらいいても問題なし。」

「希は知ってたの?」

「昨日ね。聖君にその話を聞いてたんよ。ちょっと面白そうやから、立候補はしたよ」

 その言葉に、絵里の目が大きくなる。

「処女貰ってくれたんやし。絵里ちも立候補したらええやん」

 にこやかに希が言う。絵里は深い溜め息をついた。頭の中が混乱している。その混乱を落ち着かせようとビールジョッキを掴み、一気に飲み干した。

 

 

 

 

 希とにこと店を出て、絵里は一人帰路に着く。少し肌寒さが、お酒で火照った身体に丁度良い。

『折角のチャンスなんだし。良い経験だと思って付き合ってみたら?』

『そうやん。うちら、もうそんなに若くないんやし』

 二人の言葉が頭の中をグルグルと回る。

 

(簡単に言ってくれるわね)

 

 絵里は真面目な性格だ。そんな話をすぐに鵜呑みに出来る筈もない。それでも、希達の言いたい事も分かる自分もいる。

 

(……あぁ、困ったわ)

 

 気が付けば、自宅のあるマンションの前まで来ていた。エントランス前に誰かが座り込んでいる。絵里は怪訝な表情で、その人物を見た。絵里に気が付く人物。顔を上げ、絵里を真っ直ぐ見る。

「……貴方」

「よう、絵里。今帰りか?」

 そこにいたのは慎だった。紺色のジャージに身を包み、フードを目深に被っている。絵里は一瞬躊躇し、後退した。

「何で逃げんだよ」

 慎が言いながら絵里に近付く。

「……どう見ても不審者っぽいから」

「ははっ、確かに」

 笑いながら絵里の前に立つ慎。

「んで?俺の事、思い出した?」

「昨日の事は覚えていないわ。でも、貴方の事は友人に教えてもらったけど」

 そう言って、視線を反らす絵里。

「へぇ~、その友人は俺の事、どこまで知ってんの?」

 口角を上げ、悪戯っぽい表情で慎は言う。絵里は横目で慎を見た。

「貴方の全てを知っているわよ」

 絵里の言葉に、慎は首を傾げる。

「私の友人は、桂木プロダクションの社長兼マネージャーをしているわ」

 その言葉で、慎の表情が一変する。

「……っえ?もしかして、桂木社長?」

「そうよ。桂木にこ。彼女は高校時代の友人なの」

「……ええ!?マジかぁ!」

 腰を抜かしそうな勢いで慎が言う。絵里はそんな彼を見て、吹き出し笑った。

「そんなに驚く?」

「いや、普通に驚くだろ。でも、まさか桂木社長の友人とはな。世間は広いようで、狭いもんだな」

 しみじみと慎は言った。絵里も無言のまま頷く。その時、勢い良く慎のお腹が鳴った。

「腹へった。絵里、なんか食わして」

「……嫌よ。どうして、私がそんな事しないといけないのかしら?」

「…………お願いします。絵里さん、何か食べ物下さい」

 何故か土下座する慎。絵里は大きな溜め息一つ。

「しょうがないわね。でも、食べたらすぐに帰ってね」

「……善処します」

 慎の言葉に、若干の違和感を感じながら絵里はマンションの中に入った。

 

 

 

 

 一方、希の方は。

 

 

 

 

 就寝の準備中。玄関のチャイムが鳴る。

「こんな時間に誰やろう?」

 鍵を解除し、扉を開ける。立っていたのは聖。希は一瞬固まった。

「ごめん、こんな遅くに」

「……別にええけど、どしたん?」

 希の問い掛けに聖は無言で希を見つめた。首を傾げる希。聖の口がゆっくりと開く。

「今日、泊めてくれないか?」

 聖の言葉に、希の思考は停止した。希の顔を覗き込む聖。我に帰る希。

「いきなりでごめんな。ダメかな?」

「……別にうちの所やなくても、聖君なら他に女の人おるやろ?そこに行けば?」

 珍しく不機嫌そうな希。不快感を露にしている。

「……いやその…」

 急に口ごもる聖。何か怪しいと希は考えた。

「うちら、確かに身体関係は持ったけど、一回きりやん。それでうちの所に来るのおかしくない?」

 希の言葉に、聖が小さくなっていく。今にも泣きそうな表情の聖。希は溜め息をついた。

「……しゃあないなぁ。今日だけならええよ。」

 聖の表情が明るくなる。まるで子供の様だ。聖が中に入り、希は玄関の扉を閉め、鍵を施錠する。聖の後ろ姿を見つめながら、希は何度目かの溜め息をついたのだった。




 物語が少しずつ動き出しました。にこの旦那さんもいずれ出る機会があると良いなぁ。あと、他のμ,sのメンバーも。


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美女と狼の駆け引き?~絵里編~

 今回は、絵里編です。絵里と慎の関係性が少しずつ変わります。


「あ~、旨かった!ご馳走さん」

 絵里が急遽作った料理を、全部完食した慎。その勢いは物凄く速かった。そのまま床に寝転ぶ慎。絵里は、テーブルに頬杖をつき、その様子を見ながら溜め息をつく。

「食べ終わったんだから、帰ってくれるかしら?私、明日も仕事があるから、寝たいの」

 迷惑そうな表情で絵里が言う。

「今度は煮込みハンバーグ作ってくれよ」

「嫌よ。今回だけの約束でしょ?」

「良いじゃん。ケチ」

 不貞腐れた表情で慎は胡座をかく。絵里は大きな溜め息一つ。

「ケチで結構よ。良いから、早く帰って」

 明らかに怒っている絵里。慎は無言で絵里を見つめた。

「……泊まっても良いか?」

「はぁ?」

 慎の言葉に不快感が増す絵里。絵里がどんなに怒った表情を見せても、慎はいっこうに帰る気配がない。急に視線を反らす慎。

「居心地が良いんだよ。安心するって言うか、落ち着くんだ」

 そう呟く。絵里の表情が少し緩む。何度目かの溜め息。

「そんな事言っても、泊められないわ。」

「やっぱ、ダメ?」

「ダメよ。そもそも私達恋人でもないし、お互いの事、よく知らないでしょ?」

 真剣な表情の絵里。慎はシュンとなる。

 

(子供みたい)

 

 絵里はそう思った。慎は視線を落とし、小さく溜め息をつく。

「……分かった。帰るよ。」

 言って立ち上がる。慎はそのまま玄関に向かう。絵里はその後ろ姿を見つめた。玄関の前で立ち止まる慎。絵里は首を傾げた。

「……なぁ、また食べに来ても良いか?」

 背中越しで慎はそう告げる。

「…………気が向いたら、作ってあげても良いわ」

「そっかぁ」

 その背中が嬉しそうに震える。そして、そのまま帰っていった。

 

 

 

 

 次の日

 

 

 

 

 いつもの様に、居酒屋から帰ってくると、昨日と同じ格好で慎がいた。絵里は嫌な顔をする。

「…………」

「…………」

 無言で見つめ合う二人。しばらくその状態で時間だけが過ぎた。根負けする絵里。小さく溜め息をついた。

「ハンバーグの食材ないから、煮込みハンバーグは作れないわよ。それでも構わないなら、作ってあげるわ」

 絵里の言葉に、慎の表情が明るくなる。

「ああ、それでも良い。絵里の作るものなら」

 満面の笑顔で慎は言う。絵里は一瞬、ドキリとした。二人肩を並べてマンションの中に入っていく。その間も、絵里の鼓動はドキドキしている。

 

(何?この感覚)

 

 自分の変化に絵里は狼狽えた。その間も慎は上機嫌。鼻歌まで歌っている。絵里は、玄関の扉を開けると、慎を部屋に招き入れ、キッチンに立った。いつも、数日分の食材を買う絵里。冷蔵庫の中には、複数の食材や作り置きした料理がある。それらを使い、手早く料理していく。テーブルの上にはすき焼きをリメイクした料理が出された。慎はそれを勢い良く食べ進める。ものの数分で完食した慎。

「超うめぇ、絵里の料理は最高だな。店出せるんじゃないか?」

 ご満悦で慎は言う。絵里は少し頬を染め。

「大袈裟よ。これくらい普通じゃないかしら?」

 言って視線を反らす。慎は絵里を見つめた。

「明日も作ってくれないか?」

「…………考えておくわ」

 

 

 

 

 また次の日

 

 

 

 

 絵里はマンション近くのスーパーにいた。買い物カゴには、沢山の食材。よく見ると、合い挽き肉や玉葱がある。カートを押し店内を回った。

「絵里ちゃん」

 後ろから肩を叩かれる絵里。振り返ると、ことりが小さな女の子と立っている。

「あら、ことり」

「久しぶりだね。元気にしてた?」

「ええ、見ての通り元気よ。ことりも元気?」

「ふふ、私も元気だよ。」

 ふんわりと微笑むことり。ことりは、高校時代の友人の一人で、元μ,sのメンバーだ。

「ひよちゃん、大きくなったわね」

 ことりの手を繋ぎ、後ろに隠れる様に覗き込む、ことりを小さくした可愛らしい女の子。その女の子は、絵里を見つめると、小さく微笑む。絵里はひよと同じ目線になるようにしゃがむ。

「ひよちゃん、何歳になりましたか?」

「……四歳」

「もう四歳かぁ。お姉ちゃんになったね。」

 絵里がそう言うと、ひよは少し照れた。

「子育ては大変?」

「ううん、大変じゃないよ。今は自分の事、何でも一人で出来るようになってきたから」

「そっかぁ」

「絵里ちゃんは?結婚の予定ないの?」

「……っえ?」

 唐突な話に絵里はびっくりする。

「何でそんな話になるのかしら?」

「っえ?付き合っている人いるんじゃないの?だって」

 そう言って、買い物カゴを指差すことり。絵里もつられて見た。どう考えても、一人が食べる食材の量ではない。買い置きするにしても、多過ぎる。絵里は今更気付いた。

「……聞かなかった事にするね」

「…………」

 気まずい雰囲気が二人を包む。ひよがことりの服を引っ張った。

「絵里ちゃん、そろそろ行くね」

「ええ、ことり。また今度ゆっくり話しましょ」

 そう言って二人は別れた。

 

 

 

 

 キッチンで手早く料理していく絵里。メニューは勿論、煮込みハンバーグだ。絵里のすぐ横では、慎がその様子をじっと見ている。

「後ろに立たないでくれるかしら?」

 ハンバーグを焼く手を止めず、絵里が言う。無言の慎。絵里は振り向いた。一瞬、ドキリとする。慎の顔が近くにあったからだ。慎の目はアツく、絵里を見つめている。絵里はすぐさま視線を戻した。

 煮込みハンバーグが出来上がり、絵里は深めのお皿に移し、テーブルに置いていく。

「いただきます」

 慎が一口食べる。絵里は生唾を飲み込んだ。

「……どうかしら?」

「…………めぇ」

「っえ?」

「メチャメチャうめぇ!」

 それだけ言うと、がっつくように食べ進める慎。ご飯、ハンバーグをお代わりし、かなりの量があったのに、全て完食してしまった。

 

(残ったらお弁当に入れようと思ったんだけど)

 

 絵里は小さく溜め息をつく。しかし、嬉しそうに食べる慎を見て、絵里も満足だった。食器を片付ける絵里。その後ろに慎が回り込む。そして、絵里を後ろから抱き締めた。狼狽える絵里。慎が絵里のうなじに舌を這わせた。

「ちょ……ちょっと」

「食後のデザート食べたいな」

 口角を上げ慎が言う。そして、抵抗する隙を与えず、絵里の服を剥ぎ取る。絵里はあっという間に、慎に食べられるのだった。




 次回は、お分かりの通り、希編です。


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美女と狼の駆け引き?~希編~

 希と聖の関係は、変わるんでしょうか?


 希の部屋に入ると、勢い良くソファーに飛び込み寝転がる聖。その行動を呆れた表情で希は見ていた。

「希ちゃん、一緒に寝よ?」

「いや、うちは遠慮するわ」

 希の冷たい視線に、聖は姿勢を正す。そして、希を真っ直ぐ見据えた。

「……急に来て悪かった。希ちゃんの言う通り、他に女の子達はいるし、多分声を掛ければ、泊めてくれる。だけど」

 一度、言葉を止める聖。悲しげな表情になり、視線落とした。ゆっくりと口を開く。

「信用出来ないんだ」

 そう呟く聖。希は無言で聖の話に耳を傾けた。そして、小さく溜め息をつく。

「うちも他の女の子達と大して変わらんよ?」

「……いいや、希ちゃんは他の女の子達とは違う。俺の勘だけどな」

 小さく微笑む聖。希は無言でキッチンに立つ。

「……ご飯、まだ食べてないんやないの?」

「……あ、ああ」

「お茶漬けくらいなら出せるよ」

「お願いします」

 丁寧に頭を下げる聖。希はお茶漬けを聖の前に置いた。ゆるりと湯気が立ち上る。聖は無言でそれを食べ始めた。希はその様子をじっと見つめ、聖を観察。

「……ご馳走さまでした」

 聖が言う。希は空になったお茶碗を流し台に下げる。

「お風呂入ってええで、その間にお布団持ってくるから」

 言いながら立ち上る希。聖は希の腕を掴んだ。

「何?」

「……い…一緒に寝たい」

 訴えるような眼差しで聖は言う。互いの視線が交わる。希が溜め息をついた。

「……今回だけや。それから、寝てる間に変な事せんでな。それが条件や」

「分かった。」

 小さく頷く。聖は掴んだ手を離し、お風呂場へ向かう。希はその後ろ姿を見つめた。聖が浴室に入るのを確認して、溜め息を溢す。

 

(過去のトラウマか……)

 

「ほんと、しゃあないなぁ」

 溜め息混じりに言う。そして、聖がお風呂から上がってくるまで、ハーブティーを飲みながら待った。

 

 

 

 

 聖がお風呂から上がる。脱衣場に置いておいた服を着ている聖。その服は、希の父の服だ。ほとんどサイズはピッタリのようで、特に違和感はない。

「上がったよ」

「……うん」

 分厚い本に視線を向けたまま、希が返事をした。聖はその本の表紙を見る。どうやら、心理学の本の様だ。

「そんな本を読んでると、心理カウンセラーって感じがするな」

「感じやなくて、心理カウンセラーや」

 言いながら視線を聖に向ける希。聖は目を丸くし、笑う。希は静かに本を閉じる。

「なら、寝よか。うち、明日は早いんよ」

 時計を見ると、すでに日付が代わっていた。希が寝室に向かう。希の後ろに聖も続き、一緒に部屋に入ると、ベッドに腰掛けた。

「ほんと、何もせんでな。お休み」

 布団に入りながら希は言った。

「……お休み」

 聖も同じ様に布団に入る。背中合わせの二人。しばらくして、希は寝息をたて始めた。聖は抱き締めようと振り返る。じっと希のうなじを見つめ、希の髪に顔を埋めた。そして、そのまま眠りにつく。その事に希は気付いたが、再び目蓋を閉じた。

 

 

 

 

 朝、希は目を覚ます。振り返ると聖が希を抱き締めたま寝ていた。

 

(……これくらいは許してあげんといけんかな)

 

 そう思った。ゆっくりと身体を起こして、静かに部屋から出る。仕事の準備をし、お昼のお弁当を作っていた時、聖がトボトボと部屋から出てくる。

「おはよう。よう寝てたね」

「……ん、おはよう…」

 まだ眠そうに目蓋を擦る聖。希の格好に気付く。希の今の姿は、スーツ姿。聖はマジマジと見つめる。

「悪いんやけど、うち。もう行かんといけんのよ。とりあえず、スペアキー置いていくよ。鍵は、玄関のポストに入れといてな」

 言って、テーブルに鍵を置く。

「……それから、朝ごはん。キッチンに置いてるから、チンして食べてな。あと、食べ終わったら流し台に置いといて」

 それだけ言うと、聖の返事も聞かずに部屋を出ていった。

 

 

 

 

 その日の夜。いつもの居酒屋に絵里といた。絵里の所にも、慎が来たと聞く。どうやら、ご飯だけ食べて帰ったらしい。希の方も聖が来て、泊まった話はした。

「……大丈夫なの?スペアキー、ちゃんと返してくれるかしら」

 そんな心配をしている。希は苦笑した。絵里は、自分の事より、他の人を心配する癖がある。

「大丈夫やない?うちに嫌われたら困るのは、聖君やろうし」

「どういう事?」

 希の言葉に、怪訝な表情の絵里。希は枝豆を頬張り、ビールで流し込む。

「聖君。女性関係でトラウマあるんよ」

「っえ?」

「まぁ、慎君も似たようなトラウマあるんやけど」

 エビチリを一つ口に入れる希。絵里は希の言葉を待った。

「慎君の場合は、いずれ本人が話してくれるまで待った方がええよ」

「……希」

「絵里ち、心配せんでええよ」

 そう言って、微笑む希。絵里は小さく溜め息をつくと同じ様に微笑んだ。

 

 

 

 

 絵里と別れてから、希は玄関の鍵穴に鍵を入れる。一瞬、違和感を覚えた。鍵が解除されている。希は恐る恐る中に入っていく。部屋の中は灯りが点いていた。ゆっくりと部屋の中を覗き見る。そこにいたのは聖だった。

「不法侵入やで、警察呼ぼうか?」

 怒りを露にする希。聖は希に近寄った。後ずさる希。

「お帰り、希ちゃん」

 希とは対称的な聖の態度。

「何でおるん?」

「……俺、希ちゃんの事、もっと知りたくなって。嫌だって思われるの分かってたけど、どうしても逢いたくなったから」

 その言葉に、希の表情が固まる。聖が希の腕を掴む。希は振り払おうとはしない。

「そんなん言われても困るんよ。うち、聖君の事、異性として見てないんよ?」

 本心ではない。希は聖の反応を見る。聖は掴んだ手を離さず、希を見つめた。

「それでも良いよ。俺、希ちゃんを絶対俺に振り向かせるから」

 

(……それ、告白やん)

 

 頬を染める希。聖は気付いていない。ずっと希の腕を掴み、真っ直ぐ見つめる。希は小さく溜め息をつく。

「今日も泊まって良い?勿論、何もしないから」

 まるで囁くように聖は言う。希はクスリと笑い。

「……しゃあないなぁ。ええよ」

 そう言って、聖の腕に触れた。




 二人の関係性は、絵里と慎よりは遅いようですが、変化しつつあります。

 次回は、男性側の視点で書こうと思います。


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美女との出逢い~慎視点~

 今回は、慎と聖が絵里と希に出逢う前から始まります。


『女なんて糞だ』

 

 彼女に出逢うまで、俺はそう思っていた。一週間前まで遡る。事務所の一室で、俺と聖の二人は、桂木プロダクションの社長兼マネージャーの桂木にこに呼ばれていた。

「どうして呼ばれたか分かる?」

 仁王立ちして俺達を見上げる社長。俺と聖は、身長180㎝以上ある為、必然的に見下ろす形になる。

「そろそろ危機感もってくれないと、グループ自体解散になるわよ?」

 その言葉に、俺と聖の表情が強張った。俺と聖は『ラブウルフ』というアイドルグループに所属している。数年前から全国的に広まったアイドル全盛期。俺達もその波に乗って、アイドルグループを結成。デビュー当時は、そこそこの人気はあった。しかし、それを維持するには、時間と努力が必要だ。だが、俺と聖はある共通の悩みでアイドルをする事に抵抗を感じていた。その悩みとは女性である。何故、女性で悩んでいるのか。それは複雑過ぎて、一言では言い表せない。ただ、言える事は、女性に対して不快感を感じている。それだけだ。それなら、アイドルなんてしなければ良い。だけど、そんな簡単な話だったら、こんなに悩んでいない。

「……まぁ、あんた達の事情も分かっているから、強くは言いたくないけど」

 桂木社長は、俺達の事情を知っている。俺達だって、社長には恩を感じているし、どうにかしてその恩を返したい。俺達は同時に溜め息をついた。

「……とりあえず、たまには息抜きして来なさい。そうだ。私の友人が経営している居酒屋に行ってみたら良いわ」

 そう言って、俺達にその居酒屋の店名と場所を書いたメモを渡し、にこやかに手を振ったのだった。

 

 

 

 

 『花陽の食卓』と書かれた暖簾。俺達は暖簾を潜り、店内へ。店内は客で溢れていた。出入り口で立ち往生する俺達。そこに一人の店員がパタパタと近付いてきた。

「お二人様ですか?」

 ほんわかと微笑む女性店員。俺達は、無表情で頷く。

「今、座る席が空いていなくて、相席でも構いませんか?」

 そう言われた。俺達はとりあえず頷く。極力、女性とは会話しない俺達。女性店員は、相席出来る席がないか、店内を見渡す。店内の一番奥の席に、二人座れる席があった。その席には、すでに女性が二人座っている。顔はよく見えないが、紫色の髪の女性と金髪の女性が座っていた。

「ごめんなさい。今、空いている席がないみたいです」

 女性店員はそう言った。俺達は顔を見合わせる。

「あそこの席、座れないのか?」

 一応、そう言ってみる俺。女性は指された席を見る。そして、俺達を見た。

「……あそこの席は」

 困り顔の女性店員。聖が俺の肩を叩く。

「今日は帰ろう。また、今度来れば良いじゃん」

 そう言った。俺は何となく聖がそう言った理由が分かる。出来れば、女性の横なんて座りたくない。俺は頷いた。

「花陽、ちょっと良いかしら?」

 女性店員を呼ぶ、金髪の女性。女性店員はパタパタと金髪の女性に近寄った。俺達は踵を返し、店の外へ向かう。

「あ、ちょっと待って下さい」

 女性店員が俺達を呼び止める。

「相席、出来ます。」

 そう言って、その席へ促す。俺達は内心。

 

(別に相席出来なくて良かったのに)

 

 しかし、女性店員が今にも泣きそうな表情で俺達を見ているから、仕方なくついて行く。奥の席に向かう途中、周りの席に座っている男達から睨まれる。

 

(何で睨まれないといけないんだ?)

 

 心の中で言う。それは、聖も思った様だ。俺と同じ様に複雑な表情をしている。そして、女性二人が座る席に着く。女性二人は、一瞬だけ俺達を見たが、視線を戻し、談笑を再開する。俺達は見惚れていた。離れた場所からは分からなかったが、女性二人は物凄く美人だった。それも、タイプが異なる美人。

「何してるん?座ってええよ」

 立ち尽くしている俺達に、紫色の髪の女性が言う。関西方言の女性は、微笑む。一方、金髪の女性も、少し椅子をずらし、座れる場所を広くしてくれている。俺達はとりあえず会釈すると、無言で席に着く。

「なぁ、横の二人相当な美人だよな」

 騒がしい店内で、聖は声を潜めてそう言う。俺は横目で二人を見ると、頷いた。

「さっき、周りの男連中が睨んだ理由が分かった。俺達が羨ましいんだよ」

「だろうな。女性店員が、相席しないようにしていたのも頷ける」

 俺の言葉に頷く聖。しばらく俺達は談笑しながら、ビールを飲んでいた。目の前に置かれる唐揚げ。俺達は首を傾げた。

「っあ、ごめんなさい。それ、私達が頼んだの」

 金髪の女性が、申し訳なさそうな表情でこちらを見ている。無言でそれを金髪の女性に渡す。女性は微笑んで受け取った。ほんの少し指が触れた。女性は気に止める様子もない。一方、俺の方は心臓が早鐘を打っている。理由は簡単だ。女性アレルギー。俺は女性に触れられると蕁麻疹が出る。触れた指を見た。蕁麻疹は出ていない。

 

(……蕁麻疹が出てない。何でだ?)

 

 不思議に感じ、女性を見る。女性達は楽しそうに唐揚げを頬張りながら、爪楊枝を並べていく。

 

(何してんだ?)

 

 お互い、目の前に五本ずつ爪楊枝を並べ、女性達はいきなりじゃんけんを始めた。聖も同じ様にそれを見ている。爪楊枝が女性二人の間を行き来していく。そして、金髪の女性の爪楊枝がなくなった。

「嘘、また負けたわ。もう希。たまには勝たせてくれない?」

 金髪の女性が悔しそうにそう言う。希と呼ばれた女性は、にやけている。

「絵里ち、弱すぎやわ。うちが手加減しても勝ててないやん」

 その言葉に絵里と呼ばれた女性は、渋々財布を出す。

「希の方が稼ぎが良いのに。……ごめんなさい。そこの領収書取ってもらえるかしら?」

 金髪の女性が、テーブルの下に備え付けられている領収書受けを指差す。

「……なぁ、奢るから。もうちょっといてくれないか?」

 俺は咄嗟にそう言った。女性二人は顔を見合わせる。

「ナンパ?」

 紫色の髪の女性が言う。その表情は悪戯っ子。

「ははっ!綺麗なお姉さん達の横に座って。声掛けない男はいないよ」

 女性の言葉に、聖がそう返す。女性達は楽しそうに笑う。

「綺麗なお姉さん達が帰ったら、男二人で飲む酒は美味しくないだろうな」

 俺はそう言った。

 

(それに、もう一回。触れてみたい)

 

 俺は金髪の女性を見る。女性が俺の視線に気付いた。じっと俺を見つめる女性。そして、優しく微笑む。

「なぁに?私の顔に何かついているかしら?」

 わざとらしく自分の頬を触る女性。俺はそんな女性の仕草をずっと見つめていたのだった。




 という事で、慎の視点での話でした。次回は、その続きです。勿論、ベッドシーンあります!


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君が欲しい~慎編~

 絵里と出逢ってからの慎の心情です。絵里の処女喪失の場面もあります。


 四人は楽しく談笑し、酒を飲み明かす。俺は金髪の女性に触れるチャンスを窺う。女性は気分が良いのか、身体をフラフラさせている。そして、俺にもたれ掛かった。ドキリとする俺。彼女からフワリと微かに甘い香りがした。

「絵里ち、大分酔っぱらってんな」

「そんな事……ないわ」

 そう言いながらも、彼女は俺にもたれ掛かり、少し眠そうにしている。

「ああ、限界やわ。絵里ち寝そう。そろそろ帰ろうか」

 紫色の髪の女性が立ち上がる。俺は彼女の身体を揺すった。

「……えっと、名前」

「絵里」

 俺を見つめ、彼女は目をとろんとさせている。頬を上気させ、俺を見ていた。

「絢瀬絵里」

 それだけ言って、彼女は目蓋を閉じる。

「そう言えば、自己紹介まだやったね。うちは、東條希」

「時田慎だ」

「俺は和久井聖」

「慎君に、聖君やな。今日はありがとな」

 希は絵里の肩を揺すり、何とか立たせる。俺も身体を支え、出入り口まで一緒に行った。いつの間にか、タクシーが店の前に止まっている。

「花陽ちゃん、ありがと。タクシー呼んでくれたんや」

「うん、絵里ちゃん大丈夫?」

 花陽と呼ばれた女性店員が心配そうに彼女を見ていた。俺と希が二人がかりでタクシーに乗せる。すると、彼女は俺の腕を掴んだ。身動きが取れない俺。

「……あ、ど。どうしようか」

「そやな。聖君。慎君の荷物持ってきてくれん?」

「分かった」

 希の言葉に聖は素直に聞く。そして、俺の荷物を持ってきた。

「慎君、絵里ちの事頼むわ。お持ち帰りされてくれん?運転手さん、ここまで」

 俺の返事を聞かずに、希はタクシードライバーに目的地を告げる。俺が呆然としていると、そのままタクシーは動き出す。後ろを振り向くと、聖と希、花陽の三人が手を振り見送る姿。俺は諦めて、溜め息をついた。俺の腕をしっかり掴み、微睡んでいる彼女。

 

(やっぱり蕁麻疹出てない)

 

 女性アレルギーは数年前から発症していた。その原因をつくったのは、俺の親父の再婚相手。本当の産みの親である母親は、俺が小さい時に交通事故で命を落とした。小さい時は、普通に本当の母親の様に育ててくれていた継母。それがいつしか、拒絶する対象になったのは、思春期の頃。俺が大人の男になるにつれて、継母は俺の身体を触る様になっていった。そして、それはエスカレートし、一線を越えてしまう。求められる度に、俺の中で何かが壊れた。

 俺は継母が怖くなった。同じ空間にいるだけでも、全身に蕁麻疹が出てしまう。それは、家を出るきっかけになった。継母から逃れるために家を出た俺は、当然住む場所もお金もない。ボロボロの服に、痩せこけた身体で徘徊していた時に、桂木社長に出会った。社長は住む場所を与えてくれ、そして仕事も俺に探してくれた。社長は女性だったが、身体に触れなければ、蕁麻疹は出ない事に気付く。アイドルを始めたのもそんな時だ。

「……ん…」

 俺の横で身動ぎをする彼女。不思議と彼女に対しては蕁麻疹が全く出ない。彼女を見つめていると、タクシーが停まった。目的地に着いたらしい。俺は彼女を揺する。しかし、彼女は目蓋閉じたまま動かない。仕方なく、俺は彼女を背負いタクシーを降りた。

「部屋どこ?」

 そう聞くと、彼女は長く白い指をマンションのエントランスに向ける。俺はマンションの中に入った。ポストの前に立ち、彼女を起こす。彼女は無言で部屋の番号を指した。どうやら、喋る気力が今はないようだ。俺は彼女を背負ったまま、部屋に向かう。玄関の前に立つ俺。彼女は鍵を俺目の前に出した。それを受け取り、玄関の鍵をあけると部屋の中に入る。彼女の部屋は1DK。俺はとりあえず、寝室に彼女を連れて行く。部屋の中央に、セミダブルのベッド。俺は彼女をベッドに下ろすと、履いたままの靴を脱がし、玄関に持っていった。

 寝室に戻ると、ベッドの横に座って上目遣いで俺を見つめる彼女。瞳は潤み、頬はほのかに赤く染まっている。心臓の音が五月蝿い。

「……お水…頂戴…」

 艶やかな唇が動く。俺は生唾を飲み込むと、なんとか理性を保ち水を取りに行った。お水の入ったコップを彼女に渡す。彼女はそれをゆっくりと飲み始めた。水を飲む度に動く彼女の喉元。それだけでも色っぽかった。

「……俺、帰るから」

 

(このままいたら、彼女が欲しくなる)

 

 残りの理性を総動員して俺は言った。背を向け、自分の荷物を持つ。無言の彼女。俺は部屋を出ようとした。

「もう帰るの?」

「ああ、ゆっくり寝れよ。じゃあ」

「……ねぇ」

「何だ?」

「……もう少しいてくれないの?」

 彼女が言う。心臓が鷲掴みされたような感覚。俺は無意識に振り返っていた。彼女は微笑んでいる。それだけで俺の理性は吹き飛んだ。気が付けば、彼女を抱き締めている。

 

(……ダメだ。彼女が欲しい)

 

 自分から女性を抱き締めていた。すると、彼女は俺の頬を撫で、頭を撫で、そして優しく抱き締める。俺は彼女を押し倒した。彼女は抵抗しない。ゆっくりと近付くお互いの唇。そっと重なり、何度も啄む。

「……ん」

 彼女は俺の首に腕を回し、何度も頭を撫でる。それだけでも気持ちいい。彼女の胸が鎖骨の辺りに当たっている。俺はそっと触れた。ぴくりと反応する彼女。服の上から撫で回し、尖端を探し当てる。

「……ぁ…」

 重なったままの唇から、彼女の甘い声が溢れ、俺の身体は疼き始めた。何度も尖端を触り、もっと触れたいと思った俺は、彼女の服に手を掛けた。

「……初めてだから優しくして?お願い」

 そんな事を言われたら、止められなかった。彼女の服を全て剥ぎ取り、下着も一気に取る。色白の肌に、ふくよかな乳房。尖端は淡いピンク色をしていて、俺はそれをしゃぶりつく。その度に彼女の唇から、甘く柔らかな吐息。しばらく乳房を堪能する。そして、下に手を伸ばした。脚の間をすり抜け、彼女の大事な部分を撫で上げる。彼女の秘所はしっとりと濡れていた。俺は脚の間に頭を入れ、秘所に舌を這わせる。彼女は身体を仰け反らせた。舌の動きに彼女の腰が揺らめく。ズボンの中が窮屈になる。俺は我慢出来ず、ソレを取り出し、彼女の秘所に擦り付けた。彼女は緊張しているのか、身体を震わせ、俺を見ている。

「怖かったら言ってくれ。なるべく、優しくする。」

「ん、大丈夫」

 お互い見つめ合い、唇を重ねる。それと同時に、腰を進めた。苦痛に歪む彼女。俺の背中に爪を立てる。俺はその痛みを感じながら、彼女の中を一気に貫いた。

「……ん…ぁあ…」

 唇を重ねたままの彼女。お互いの身体が密着している。身動ぎをする度に、クチュクチュと音が奏でられ、より一層結合が深まる。俺は、不思議な感覚だった。

 

(嫌な行為の筈なのに、どうしてだろう。とても気持ちいい。もっと繋がっていたい)

 

 ゆっくりと腰を動かす。彼女の表情は苦痛に歪んでいる。出し入れを繰り返す内に、彼女の中は解れて滑りが滑らかになっていく。それと比例して、彼女の口から喘ぎが出始めた。

「……ん…ぁあ………やぁ……んん」

 身体がぶつかり合う音が部屋に響く。彼女は潤んだ瞳で俺を見ている。俺はそっと唇を塞いだ。彼女が俺の舌と絡め合う。腰の動きにあわせてふくよかな乳房が揺れ、俺は腰の動きを加速させる。そして、彼女と果てた。

 

 

 

 

 数時間後

 

 

 

 

 彼女と俺は繋がり続けた。彼女の表情は妖艶で俺を惑わす。数時間前まで処女だった彼女。俺は色んな体位で彼女を責めた。彼女はそれに答える。

「……んん、もっと」

 彼女の中はもう完全に俺の形になっている。

 

(ずっと彼女の中にいたい。感じたい。繋がっていたい、このままずっと)

 

 朝、目を覚ますと、彼女が顔を隠し溜め息をついている。

「おはよう。身体大丈夫か?」

 俺の言葉に彼女は。

「ごめんなさい。私、覚えていないの」

 そう言われ、一瞬頭が真っ白になった。不思議だ。もっと彼女が知りたいと思う。俺はわざと彼女を責めて、再び抱いた。その後。彼女から追い出された俺だった。




 次回は、聖編です。


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本心は?~聖編~

 今回は、聖のお話です。希と聖の話は、絵里達に比べると、少し暗いですね。


 希の家に初めてお泊まりしてから、聖の心は完全に希で一杯になっていた。慎同様、女性に対して不信感を募らせている聖。その原因は、やはり女性だった。元々は、どこにでもいる普通の少年時代を過ごしていた聖。慎の生い立ちに比べると、特に波乱に満ちていない。寧ろ、少年時代から、身長も今と変わらず高く、整った顔立ちでモテていた。聖が行く場所には常に大勢の女性達が取り囲み、その頃からアイドルの様な扱いだった。

 聖自身もそれが当たり前で、当然だった。毎日、どこかで誰かに告白され、それを断る日々。だが、それも終わりが近くなる。聖はある女性の告白を受け、交際することになった。告白した女性は、特に可愛い訳でもなく、綺麗でもなく、どこにでもいる普通の女性。聖は、その女性が好きでもなかった。ただ、女性に囲まれる事に飽きていたからだ。

 ある日、デートをする事になった。聖は乗り気ではなかったが、女性があまりにも懇願するので、渋々了承。初デートの場所は遊園地。彼女は楽しそうに聖の手を取り、アトラクションを回った。しかし、聖の心は冷めている。元々、好きで付き合った訳ではない。聖は無表情で過ごした。デートが終わり帰り道の途中。

「ごめん、私から告白したけど、別れて」

 彼女はそう言った。聖は呆然としている。

「聖君。私の事、好きじゃないでしょ?だって、全然楽しそうじゃないもん」

 それだけ言って、彼女は去っていった。聖の別れ話は瞬く間に広まり、女性達の囲みは酷くなる。聖は誰でも良い訳ではなかったが、女性達の数人と交際した。しかし、いずれも数日で告白した側の女性達から振られている。振られる理由はほぼ同じ内容だ。

「聖君って、格好いいけど。それだけなんだよね。面白くもないし。デートするのは一回で良いや」

 その言葉に聖の心は傷付いた。その後も、女性達から告白され、そして振られる。それが数年間続き、聖は思った。

「誰も俺の心を見てくれないくせに」

 荒む心。聖は誰も信用出来なくなった。自分の外見だけを見て、理想を押し付け、女性達は勝手に幻滅し去っていく。いつしか、聖は女性を避けるようになる。それでも、言い寄る女性達は後をたたない。次第に俺の身体は、女性を拒絶し、身体に触れられると吐き気が起きるように。聖は引きこもり、全ての情報を遮断。それから数年が経過していた。

 

『聖、貴方に会いたいって方がいるの。会うだけでも良いかな?』

 

 母がそう言った。聖は数年部屋から出ていない。その為、外見は当時の面影はなく、髪はボサボサになり、筋肉質の身体は、元の体型が分からなくなるほど太っていた。聖は久しぶりに外に出る。太った聖を見る者はいない。聖に会いたいと言った人物がいる場所に両親と向かう。その場所は『桂木プロダクション』と書かれた看板が目印の大きなビル。聖は緊張しながらビルの中に入った。ビルの中の事務所に入り、一室に通される。そこで桂木社長と出会った。桂木社長は女性。一瞬、吐き気が起こる。それを見て社長は。

「和久井聖、貴方を私の事務所で雇うわ」

 一言だった。聖の見た目ではなく、目を見て、そう言ったのだ。当然、聖は困惑する。しかし、桂木社長は聖の身の回りを世話した。体力を付ける為、ダイエットし、何故かボイストレーニングをさせられる。聖はただがむしゃらにそれを続けていく。そして。

 数年後『ラブウルフ』と言うアイドルグループに所属した聖は、似た様な悩みを持つ慎と出会った。慎と仲良くなるのは早かった。境遇は違えど、悩みは同じ女性がらみ。気が付けば、常に一緒に行動し、桂木社長の指導の元、忙がしい日々を過ごした。そんな時だ。桂木社長の薦めで行った居酒屋で彼女と出逢ったのは。

 

 

 

 

 彼女とその友人の女性は綺麗だった。慎も彼女の友人に見惚れている。たまたま相席になった彼女達。聖は『吐き気が起きるかも知れない』という不安で一杯なる。ところが、彼女の横に座って全く吐き気が起きない。慎も同様で、たまたま触れた指先に慎は不安の表情だったのだが、その表情は驚きの表情へ変化。慎は女性アレルギーを持っている。女性に触れると蕁麻疹が出るのだ。しかし、その蕁麻疹が出ない。その事に驚いている。聖もそれには驚いた。桂木社長に対しても出る蕁麻疹。それがその女性に対しては出ていない。聖自身も、吐き気が出ない事に驚いた。元が狭いテーブル。どんなに端に座っていても、少し肩が触れる。いつもなら、すぐに吐き気が起こるが、やはり彼女にはその症状は皆無。慎と聖はお互いの変化に困惑しながらビールを飲んでいた。しばらくして、彼女達は帰るのようだった。咄嗟に引き留める慎。聖も同じ気持ちだ。

 四人は談笑しながらビールを飲む。友人の女性が眠気で持ちそうにない事に気付き、彼女は椅子から立ち上がった。店の出入り口まで見送る。すると、彼女の友人は眠りながら、慎の腕を掴み放す様子もない。彼女は慎の荷物を乗せ、友人を慎に任せた。

 

 

 

 

 慎がいなくなり、聖は彼女と二人でビールを飲み直す。彼女は俺の目を見て言った。

「なぁ聖君。うちの家に来ん?」

 聖は無意識に頷いた。そして、彼女と談笑しながら、彼女の住むマンションにたどり着く。彼女は俺に処女を捧げた。彼女に深い理由はない。彼女曰く。

「特に理由はないんよ。ただ、君ならええかなって。……」

 夢見る乙女じゃないなんて、そんな事言われて、胸が締め付けられた。聖は生まれて初めて女性を抱いた。彼女は聖の腕の中で乱れ、眠りにつく。

 朝、目を覚ますと彼女がいない。聖は驚いて飛び起きた。部屋を探し回り、浴室から音がして気付く。聖はとにかく彼女の顔が見たくて浴室に入った。安堵する聖。その後は、二人で部屋を出た。

 

 

 

 

 事務所に入ると、社長に呼び出された。聖は慎と共に社長のいる部屋に入る。

「話は聞いたわよ。あんた達、私の友達と一緒に飲んだそうね。」

「俺もびっくりした。社長と絵里が友人だったなんてな」

 社長の問いに慎が答える。社長の表情は固い。

「絵里と希の処女貰ったんだって?」

 目が少し怒っている。慎と聖は動けない。

「……まぁ良いわ。本人達も別に怒ってないし。それにその事は本人同士の話だから」

 机に置いてある書類を手に取る社長。

「絵里の方は、元が真面目だから良いとして。問題は希ね。聖、もし本気なら、一つだけ言っておくわ。希はなかなか本心を話さないから、気持ちが知りたい時は真っ正面からぶつかりなさい」

 

 

 

 

 その話を聞いて、無意識に彼女の家に向かった。時刻は深夜近く。インターホンを鳴らすと、パジャマ姿の彼女が困惑しながら聖を見つめる。聖は泊めて欲しいと告げた。彼女の表情が明らかに怒っている。『身体の関係は確かに持ったけど』と、彼女の言葉。聖は女性に対しての気持ちを話した。彼女も『うちも大して変わらんよ』と言う。それでも、聖は彼女の側にいたかった。何も食べていない聖に、彼女はお茶漬けを出す。聖は彼女の表情を見た。少し微笑んでいる彼女。そして、何もしない事を条件に、一緒のベッドで背中合わせで寝る。聖は振り向いた。後ろ姿の彼女。聖は抱き締めたい衝動に刈られる。その衝動を圧し殺し、彼女の髪に鼻を近付けた。甘く爽やかな匂い。聖はその匂いを嗅ぎながらいつしか眠りについた。




 慎程ではないですが、聖も色々とあります。まだ、表現力が乏しいので、上手く書き表せないのが、もどかしいところ。


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友達以上、恋人未満?それとも……

 絵里と慎の関係が進展します。


 絵里の料理を食べに来はじめてから、一週間が過ぎた頃、少しだけ二人の間に進展があった。

 

 

 

 

 朝、窓の外から小鳥の囀りが聞こえる。それに比例して、朝陽が窓を明るく照らす。ベッドサイドに置かれたデジタル時計は六時を表示していた。目覚ましアラームが鳴る。ベッドの中の住人が、白く長い手を伸ばしアラームを止めた。

「……ん、朝かぁ…」

 微睡む視界で身体を起こす。絵里は目蓋を軽く擦り、横で寝ている人物を揺する。

「……んぁ」

 隣で寝ているのは慎。最初、絵里は慎が泊まる事を拒み続けた。恋人ならともかく、ただご飯を食べに来るだけの慎に、泊める義理はないからだ。しかし、慎は意外にも甘えん坊なところがあり、絵里も慎に対して警戒心が薄れたからかも知れない。ここ二、三日前から慎は絵里の家に泊まっている。

 

(私達の関係って、何になるのかしら?友達以上恋人未満?)

 

 そんな事を考えながら絵里は、横で気持ち良さそうに寝ている慎を見る。寝ている時の慎の表情は、とても穏やかで、安心しきった表情をしていた。

 

(友達なら家に泊まるのかしら?同性なら普通だけど、異性の場合もあるの?でも、友達なら身体を重ねる事はないわよね?)

 

 慎は毎日、絵里の身体を求めなかった。たまに、何かのスイッチが入った時に、絵里を求める。それがいつ、何でそうなるのかは、今は分からない絵里。ただ、慎と身体を繋げる事に抵抗はなかった。

 

 

 

 

 

 慎にお願いされた煮込みハンバーグを作った時、慎は絵里を抱いた。

「食後のデザート食べたいな」

 そう言って、絵里のうなじに舌を這わせる慎。絵里の身体がゾクリと震える。絵里は咄嗟に流し台に手をついた。慎の手が絵里の背中を這い、上着の中に入る。ブラ越しから乳房を揉み、片手がブラのホックが外す。上着の中で乳房がプルンと出て、慎の手の中に収まる。

「……ちょっと」

 潤んだ瞳で絵里は慎を見た。悪戯っぽい表情の慎。絵里の唇を塞ぎ、指先が尖端を摘まむ。絵里の身体がビクリと跳ねた。それを楽しむように、慎は執拗に尖端を摘まむ。身体が少しずつ火照り始める。慎は立ったままの状態で、絵里の服を全て剥ぎ取った。絵里は抵抗する暇もない。慎の愛撫に、力が抜け、与えられる刺激に身を捩った。慎が膝をつき、絵里の秘所を下から舐め始める。お尻を撫で回しながら、舌先を秘所の中に入れた。指はクリをグリグリ潰す。

「……ん、あぁあ……」

 絵里は甲高く喘ぐ。ビクビクと痙攣する絵里の身体。

「絵里、入れるぞ」

 言い終わる前に、慎は絵里の中を貫いた。

「……待って…今…イッたばかりだから」

「無理」

 絵里の腰をガッチリと掴み、慎は腰を動かし始めた。イッたばかりの絵里の中は、慎の分身にしっとりと絡み付き、締め付ける。慎の表情は気持ち良さそうに歪む。絵里の方は、慎の責めに喘ぐのが精一杯だった。膝がガクガクと揺れる。慎は絵里を抱き止め、腰を動かし続けた。

「……や…ぁ…お願い……んん………動か…ないで」

 絵里はその場に崩れるが、慎はそれに合わせて、同じ様にその場に膝をつくと、絵里を四つん這いにし、分身を出し入れする。キッチンで淫らな音が響く。絵里は絶頂を向かえ、背中を仰け反らせる。グッタリした絵里。慎は絵里の中に、ソレを入れたまま絵里を抱き上げ、寝室へ向かう。歩く度、振動で分身が中を抉る。

「……ん…あん……やぁ…」

 絵里は掠れた声で喘ぎ、何度も絶頂する。ベッドに降ろされる絵里。慎は一度分身を引き抜くと、絵里を仰向けにして、再び挿入。そして、絵里の中を突き上げた。

「……本当………やめ…ん……おかし……なる」

「……もう少し待って、俺もそろそろイクから」

 そう言って、腰を深く入れ、絵里の中を突き上げた。絵里の身体が仰け反り、何度目かの絶頂を向かえる。慎は深く数回腰を打ち付けると、絵里の中でアツい精液を吐き出した。ドクドクと脈打つ慎の分身。絵里はそれを感じ、目蓋を閉じた。

 

 

 

 

 朝、抱き合う様に眠った二人。絵里の中には、まだ慎のソレが存在感を誇示したままだった。絵里が目を覚ます。目の前には慎が目をギラつかせて、絵里を見つめていた。絵里は咄嗟に身動ぎ、その度に慎のソレが大きくなり、絵里は朝から慎に抱かれたのだった。

 

 

 

 

 それがつい数日前の話だ。その後は、慎はご飯を食べに来るが、絵里に触れない。ご飯は食べに来るのに。絵里は慎が何を考えているのか分からない。

「なぁ、泊まったらダメか?」

 慎が絵里に言う。慎の様子がいつもと違っていた。何かに怯えているようなそんな表情だ。絵里は一瞬考えた。でも、慎の怯えた表情が、絵里の心を掻き乱す。

「……分かったわ。泊まっても良いけど、変な事しないでね」

 絵里がそう言う。断られると思っていた慎は、驚いていた。

「自分から言っておいて、驚くの?」

「……ぃや、てっきり断られると思ったから」

「本当は断ろうと思ったわよ?でも、時田君怯えた表情していたから。何かあったのかな?って」

「…………」

 暗い表情に変わる慎。明らかに何かあったようだ。

「話せないのなら、無理に話さなくても良いわ。貴方にも人には言えない悩みとかあるだろうから」

 そう言って、絵里は慎の頭を撫でた。慎は大人しくなる。目を細目、ゆっくりと頭が下がり、絵里にもたれ掛かった。絵里は慎の身体を支えながら、ベッドに連れていく。そして、一緒に眠った。それから、数日間。慎は絵里を襲う事もなく、ただ一緒に眠る。

 

(一緒に暮らしたらこんな風に、毎日彼の寝顔が見られるの?)

 

 慎の寝顔を見つめたまま、絵里はそう思った。何気なく時計に視線を移す。時刻は六時半になっていた。絵里はベッドから出ると、キッチンへ向かう。朝御飯とお昼のお弁当を作っていく絵里。その匂いに連れられ、慎がフラフラしながら起きてきた。

「おはよう、ご飯出来たわよ」

「……うん」

 慎が絵里の背後に立つ。絵里は振り向いた。

「なぁに?」

 微笑む絵里を真顔で見つめる慎。慎が絵里を抱き締めた。そして、ゆっくりと唇を塞ぐ。荒々しいキスで絵里の唇を貪る慎。

「……んふ、ちょっと……私」

 絵里の言葉を唇ごと塞ぎ、慎は絵里のお尻を撫で回した。そして、ズボンの下に手を入れ、秘所を撫でる。すでに濡れている秘所。絵里は唇を塞がれたまま抵抗したが、慎の分身に身体を貫かれ、身体を仰け反らせた。

「……ちょっと……んん…朝から……ダメ……仕事…あぁ……遅れ……ちゃう……わ」

「なぁ、俺と一緒に暮らさないか?」

 慎のいきなりの提案に、絵里は頭が真っ白になる。そして。

「……俺の子供産んで」

 そう言って、慎は絵里の中に白濁の液を流し込んだのだった。




 慎のまさかのプロポーズに、絵里はどう答えるのでしょうか?


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元μ,sの女子会~その一~

 絵里ちゃんにドップリハマる作者……

 今回は、元μ,sのメンバー出ますね。ここから、少しずつ変化がね……


 夕方、いつもより早い時間に、絵里は仕事を終え、いつもの居酒屋に向かう。希は、今日は休日だったらしく、すでに店内で待っていた。

「絵里ち、仕事お疲れ」

「待たせたわね。希」

 言いながら、席に着く絵里。希の頬はほんのり色付き、手には枝豆を摘まんでいる。

「もう、出来上がっているの?」

「いいやん、珍しく連休なんや」

「へぇ、珍しいわね。いつも、半休か一日休みなのに」

 そう言って、絵里は店内を忙しく動き回る花陽に手を上げた。絵里に気付く花陽。すぐさま駆け寄る。

「絵里ちゃん、いらっしゃい。メニュー決まった?」

「ええ、ビールとこれとこれ、頼めるかしら?」

「エビチリとチーズ巻きだね。すぐ持ってくるね」

 すかさず、花陽は厨房へ姿を消す。希と絵里は、微笑みながらその後ろ姿を見つめる。

「ところで、絵里ち。慎君とは進展はあったん?」

 希の質問に、一瞬動きを止める絵里。希はそれを見逃さない。にやけ顔の希。

「その反応、さては何かあったんやね」

「……何て言えば良いのかしらね?無い訳じゃないけど」

 言葉を濁す絵里。希はその様子に真顔に変わる。

「どういう意味で言ったのかは分からないけど、一緒に暮らさないか?とか。俺の子供産んで。とか言われたのよ。」

「……それって、プロポーズやん」

「……やっぱり、希もそう思う?」

 テーブルに頬杖をつき、絵里は溜め息をついた。希も珍しく眉間にシワを寄せる。

「時田君と知り合って、まだ三週間足らずでしょ?ちょっと、急と言うか。いきなり過ぎて、混乱してるのよ」

「絵里ちの言いたい事分かるよ。聖君もうちに告白してきたし」

「……その話、詳しく聞きたいですね」

 絵里と希の会話に、誰かが割って入る。二人は振り向いた。そこにいたのは、元μ,sのメンバー達だ。海未、ことり、穂乃香、真姫。そして、厨房から出てきた花陽。

「……ど、どうして、みんながここに?」

 あまりの出来事に、絵里は狼狽えながらも質問する。

「私がみんなに言ったの。絵里ちゃんと希ちゃんの事」

 そう答えたのはことりだった。海未は手に持っていたスマホを二人に見せる。

 

『海未、慎と聖が、絵里と希の事を好きになったみたい。詳しい話を聞きたいんだけど、慎と聖が教えてくれないの。絵里と希から聞き出してもらえる?』

 

 にこからのメールだった。海未はスマホをカバンに戻す。呆然の二人。

「私も一応、ラブウルフの作詞を提供しているので、出来れば教えて頂きたいですね」

「……私も、作曲してるし」

 海未と真姫が言う。絵里と希は互いの顔を見合わせた。

 

 

 

 

『花陽の食卓』店内の片隅

 

 

 

 

 花陽は絵里達が座っていたテーブルにもう一つのテーブルを引っ付け、みんなが座れるようにする。そこに、メンバーは思い思いに座った。

「花陽、仕事は大丈夫なの?」

「うん、心配しないで、絵里ちゃん。バイトの子達が協力してくれるって言ってくれたから」

「そう。なら安心ね」

 絵里と花陽が微笑み合う。座る配置は、絵里、花陽、海未。反対側に、希、ことり、真姫が向かい合う。通路側に穂乃香が座る。

「それにしても、びっくりしたよ。海未ちゃんと真姫ちゃん。一緒に仕事してたんだね」

 穂乃香が言う。

「にこちゃんの押しに負けたのよ。」

 真姫が不貞腐れたように言う。海未も溜め息をついた。

「押しに負けたって、何かあったの?」

「……ちょっとね。μ,sをやめてから、みんなそれぞれの道に進んだでしょ?私も病院を継がなきゃいけなかったし」

「私も、家元を継ぐ為に、毎日忙しかったんですけど」

 二人は何故か遠い目をする。にことの間に何が起こったのか。絵里は目を伏せる。

「何年か経ってから、にこちゃんから連絡来たの」

 

『にこの最初で最後のお願い!』

 

「私のところにも同じメールが来ました。」

 海未がそのメールを見せる。メンバーがそれを食い入るように見つめた。

「それで、私と海未がにこちゃんの事務所に行ったのよ。そしたら」

 

『真姫、海未。このグループの作詞、作曲を手伝って!二人が協力してくれたら、絶対売れるから!』

 

 絵里の脳裏に、その時の光景が浮かぶ。希と絵里は吹き出すように笑う。

「笑い事じゃないわよ。いきなりメールを送って来て、心配して行ったら、作曲をして。なんて、ありえないんだけど」

 同じ意見なのか、海未が溜め息を一つ。

「じゃあ、二人はずっと手伝っているの?」

「ええ、私と真姫だけではないですよ?凛もにこの手伝いをしています」

「ええ!凛ちゃんも!?」

 海未の言葉に花陽が驚く。さすがの二人も驚いていた。

「はい、凛はそのグループの振り付けを担当しています。今日は、そのグループのPV撮影に、にこと沖縄へ行っています。」

「……にこっち、さすがと言うべきか」

 希が呆れた表情を見せる。絵里も苦笑した。すると、真姫と海未の視線が二人に向けられる。

「つい先日、慎と聖に好きな人が出来たと言われました。私達は、それは誰なのかと問うと、二人は話してくれませんでした。でも、にこのメールが来て」

「納得したの」

 海未の言葉を引き継ぐ真姫。絵里と希は海未、真姫をそれぞれ見る。

「慎と聖が好きになった人が、絵里と希なら安心して任せられるって」

 真姫の言葉に怪訝の表情の二人。重苦しい空気が辺りを包む。

「それって、どういう事よ」

「……絵里、詳しい話は私達から聞くより、本人に聞いた方が良いと思う。希は何となく分かっていそうだけど」

 横目で希を見る真姫。

「そやね。うちは大体検討ついてるよ。別に聖君がうちでええなら、うちもそれなりの覚悟は決めてるよ。問題は、絵里ちの方やね。」

「……わ、私?」

「絵里ち、慎君の事。好きなんやろ?正直になった方が楽になるよ。」

 みんなの視線が、絵里に集まる。狼狽える絵里。

「もういっそうの事、子供作ったらええやん」

「もう、そこまでの関係なのですか?」

「絵里ちゃんの子供かぁ。可愛いだろうなぁ」

「だよね。絶対、可愛いよね」

「……何なのよ。この空気」

「絵里ちゃん、結婚式はちゃんと呼んでね」

 みんなが被さる様に言う。絵里は心の中で思った。

 

(結婚式より先に、妊娠するかも。何て言えないわ)

 

 現に、慎は絵里の処女を奪った日から、避妊をしていなかった。絵里がどんなにお願いしても。それがどうしてなのか。絵里は少しずつ分かり始めている。




 さて、少しずつシリアスになります。勿論、ベッドシーンもありますよ!ムフムフは得意であります!


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過去からの~男性側~

 さて、不穏な動きが……。いよいよ、あの人が出ます。作者的には、あまり書きたくないな。


 沖縄でのPV撮影から、忙しい一週間が過ぎた。朝から夜遅くまで、連日のように新しいアルバムのジャケット撮影やレコーディング。雑誌のインタビュー。地方営業も欠かさない。慎と聖は、疲労困憊でぐったりとしている。

「なぁ、慎」

「……何だよ」

 聖の言葉に、不機嫌な表情で慎が反応する。

「そろそろ癒しが欲しいよな」

「……お前の言いたい事は分かる。俺だって、早く絵里の手料理食べたい」

 ようやく、事務所に帰れた二人。動く気力はなく、ソファーに身体をだらりと預けている。

「お疲れのところ悪いけど、これから新しい曲の振り付けがあるんだから、休まないでよね」

「そうだにゃ、凛だって早く帰って、かよちんに会いたいけど、我慢してるのにゃ」

 にこと凛が仁王立ちで二人の側に立っている。慎と聖は、ほぼ同時に大きな溜め息をついた。

「あとどのくらいで休めるんだ?」

「……二人次第だけど、頑張ればあと二日くらいかな?新しい曲の振り付けを覚えたら、すぐにレコーディングとTVの収録。それが終わったら、少しは休めるわよ」

 にこの言葉に、再び溜め息をつく二人。

「……仕方ない」

「ああ、そうだな」

 二人は腹をくくり、立ち上がる。

「「もう一頑張りしますか」」

 言って、事務所を出た。

 

 

 

 

 二人の鬼気迫る頑張りのお陰か、その後の仕事は思いの外早く終わり、二人はヘロヘロの身体を引き摺っていた。事務所のあるビルの出入り口に、一人の女性が立っている。黒いセミロングの女性。慎はその女性を見た途端に、全身から脂汗を吹き出していた。ガタガタと身体を震わせ、今来た道を後退りする慎。その様子を、聖はすぐに気付く。

「……おい、慎。どうした」

「………あの…女が来てる……」

 慎の顔面は蒼白。唇は青紫へ変色。聖が慎の腕を掴んだ。そこに、その女性がこちらに気付く。慎の姿を捉えると、駆け寄る。

「……慎、捜してたのよ。ほら、私よ?貴方のお母さん(継母)よ」

 慎の背筋が凍る。目の前の女性の顔が歪む。気持ち悪い程の笑顔。慎の身体に異変が起きた。蕁麻疹だ。頭のてっぺんから、足の先まで赤く小さなボツボツが浮き出る。聖も吐き気に襲われた。聖も希以外の女性に、拒絶反応を起こす。掴んでいた慎の腕を放し、その場に崩れ口元に手を当てる。

「ほら、慎。私と一緒に帰りましょ?また仲良くしましょうよ」

 継母が慎の腕を掴んだ。心臓が止まるほどの拒絶。手に力が入らず、その手を払えない。

 

(絵里、助けて)

 

 慎は心の中で叫んだ。意識が遠退いていく。バタバタと走る音が近付いてきた。そして。

「彼に触らないで!」

 今すぐ逢いたかった人物の声。慎はぼやける視界を声の方へ向ける。絵里だった。絵里の後ろには希の姿もある。希もすぐに聖の側へ駆け寄った。絵里は、継母の腕を掴み、慎から引き剥がす。

「聖君、大丈夫?うちが来たからもう安心して」

 聖の背中を擦りながら、希が言う。絵里を睨み付ける継母。絵里も同じ様に睨む。

「勘違いしてません?私は、慎の母親よ」

 継母の言葉を聞いて、絵里は一瞬怯む。しかし。

「例え、貴女が彼の母親であっても、彼に触れる事は許せないわ」

「……貴女、何の権限があってそんな事が言えるの?」

「…それは……私が彼を愛してるからよ!」

 絵里の言葉に、継母の表情が歪んだ。奥歯を噛み、目は怒りに満ちている。それでも、絵里の目は真っ直ぐ継母を見つめ、強い意思を感じさせた。その気迫は圧させるように継母が後退する。

「……今日のところは帰ります。また、会いに来ますから」

 それだけ言うと、踵を返し継母は去っていった。絵里は安堵の溜め息をつく。振り向く絵里。慎と視線が交わる。その横では、聖と希が抱き締め合っていた。

「慎、帰りましょ」

 絵里が手を差し出す。慎はそれを見つめ。

 

(初めて名前呼んでくれた)

 

 その手を取る。希達も立ち上がり、お互い手を繋ぎながら家路に着いた。

 

 

 

 

 絵里のマンション

 

 

 

 

 部屋に入ると、絵里は慎を一旦ソファーに座らせる。沸かしていたお湯を急須に入れ、お茶を慎に渡す。慎はそれをゆっくり飲んだ。絵里はその様子を優しい眼差しで見つめる。

「……絵里、話があるんだ。」

「うん」

「俺、本当は女性アレルギーで、その原因を作ったのがさっきの女なんだ。」

 慎の話に黙って耳を傾ける絵里。そして、慎は自分の過去と何故アイドルをしているのかを話す。一通り話終えると、絵里は小さく溜め息をついた。

「そうだったの。」

「……何か、言う事はないか?」

「……私が何を言うの?」

 慎は問いを、問いで返され一瞬固まる。

「ぃや、ほら。気になる事とかないのか?」

「そうね。無い訳じゃないけど、今の話とは関係ないから」

「何でもいい。話してくれ」

 絵里はしばらく慎の顔を見つめる。慎は緊張しているのか、生唾を飲み込んだ。

「この前の事、覚えている?」

「……この前?」

「私に、俺の子供産んでって話」

「……ああ、確かに言ったな」

 絵里は慎の目を真っ直ぐ見つめ。

「あれって、プロポーズなのかしら?」

 真剣な表情の絵里。慎は間抜けな表情。そして、吹き出す。

「聞きたい事が色々ある中で、気になるのはそこか!俺の過去とか、あの女の事とかあるだろ?」

「別に気にならないわ。最初はびっくりしたわよ?でも、それよりその話の方が、私には気になるのよ」

「意外と、絵里は大物だな」

 絵里の言葉に、慎の表情がようやく、和らいだ。

「絵里は、俺になんて言って欲しい?」

「……慎って意地悪よね」

「プロポーズだよ。出逢って、まだ一ヶ月過ぎた位だけど。一目惚れなんだ。」

「やっぱり、プロポーズだったのね。」

 溜め息をつきながら、絵里はソファーにもたれ掛かる。

「俺は、絵里以外の女性とは付き合えないよ。だって、ただ一人だけだったんだ。アレルギーが出なかったの」

 慎が絵里の手に触れる。手の甲を撫で回す慎。それだけで、絵里の身体に変化が現れる。頬を染め、身体をモジモジさせる絵里。

「それに、プロポーズの返事、聞かなくてももう分かったし」

「…………」

「俺の事、愛してるんだろ?」

「……そんな事、私言ったかしら?」

 染めた頬を横に向け、絵里は視線を泳がせる。慎が絵里を抱き締めた。固まる絵里。

「ごめん、しばらく触れてなかったから、我慢出来ない。返事は、後でゆっくり聞くから、今は俺を感じて」

 そう言って、慎は絵里の唇を塞ぐ。舌を絡め合い、性急に絵里の服を脱がしていく慎。絵里も慎の服を脱がしていく。素肌を重ね、互いの体温が上昇していき、慎が絵里の乳房を揉みし抱く。絵里の口から甘い溜め息が零れる。固くそそり立つ分身。絵里の身体はソレを求め、まだ触れてもいない秘所から愛液が溢れ出る。慎がソコを指で責めた。

「……ぃや、それじゃない……の」

 絵里が珍しく自分から慎のソレを掴む。そして、秘所へと導く。

「いつも、避妊してって言うよな。良いのか?」

「……うん、良いの。お願い」

 潤んだ瞳で慎を見つめる絵里。慎はゆっくりと腰を進め、絵里を深く貫いた。身体を仰け反らせる絵里。そして、そのまま二人は疲れて眠るまで、愛し合った。




 やっと、想いが通じ合えました。希の方は、まだ告白の返事が返せていませんが。次回で書きます。


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大切な人の為に~女性側~

 希と聖からスタートします。シリアスな展開が、しばらく続きますが……


 絵里と慎が愛を確かめ合っている頃。希と聖は、希の家でのんびりとTVを観ていた。お互いを意識しながらも、肩を並べて紅茶を啜る。聖は横目で希を見る。それに気付く希。

「うちの顔に何かついてるん?」

「……ごめん」

「何で謝るん?聖君、何か悪い事したん?」

「してないけど……」

「なら、謝らんで」

 そう言って、真顔で希は聖を見る。聖は希の手を取った。希ももう片方の手を重ね、微笑む。

「うちな、聖君に言わないけん事があるんよ」

「……っえ?何?」

 不安そうな瞳で希を見つめる聖。喉元がゴクリと動く。それを見て、微笑みながら目を細める希。

「うちな、聖君の事。好きになってしもうたんよ。聖君、責任取ってくれる?」

 希の言葉に、一瞬固まる聖。息をする事さえも忘れている。聖の口が少し開いた。

「……本当に?」

「嘘ついてどうするん?」

 聖の反応に、不貞腐れる希。小さく溜め息をついた。

「うちの真剣な告白やに」

「ち、違うよ。ただ、びっくりしたんだ!めちゃくちゃ嬉しいよ!」

 オーバーリアクションで聖が言う。そして、希を抱き締めた。希も同じ様に聖を抱き締める。お互いの鼓動が重なり合う。希は聖の胸に頬擦りする。その度に、希の髪から甘く柔らかな香りが聖の鼻腔を擽り、聖の意思とは関係なく身体が反応。希はその事に気付く。

「……聖君、もしかしてシたくなったん?」

「ぃや、まあ。正直言うとシたいけど」

 ゆっくりと抱き締めていた腕を緩める聖。希の顔を真っ直ぐ見つめ。

「今、希ちゃんを抱いたら、歯止めが効かなくなりそうだし。ちゃんと付き合いたいから」

 真剣な聖の言葉に、希は優しく微笑む。自分から聖の身体を引き寄せ、唇を塞ぐ。

「聖君の気持ちはちゃんとうちに届いとるよ。だからこそ、恋人として愛し合いたいんよ」

 呆然とする聖。希は聖の唇に指を這わせた。聖の身体が反応する。ゾクゾクとした痺れが聖の全身を駆け巡り、聖は希を押し倒した。荒い息遣いの聖。その眼差しはアツく希を見つめている。両手を広げ、聖を抱き締める希。

「ずっとうちが側におるよ」

「……うん、希ちゃん。好きだよ」

 もう一度、お互い抱き締め合い、二人は愛を深めた。

 

 

 

 

 二週間後

 

 

 

 

 継母と突然の再会をしてから、慎の精神は不安定だった。いつも何かに怯え、挙動不審になったり、一人言を呟いたりしている。にこや凛、聖、ラブウルフのメンバーは慎のその様子に心配そうに見守るだけだった。にこ達には、何も出来ないと分かっていたから。そして、この状況を打破出来るのは絵里だけ。にこ達が、慎の状況を絵里に報告する。絵里は慎に何も聞かない。その代わり、温かく美味しい料理を作り、慎を優しく抱き締める。絵里の側にいる時の慎は、穏やかだ。

「今日も美味しかった」

「そう、良かったわ。」

 絵里と慎は、今、半同棲状態だ。慎は、一週間の内、六日間を絵里の家で過ごしている。寝る時もずっと絵里を抱き締め眠る慎。絵里は温かく慎を包み込む。次の日が休みの時は、慎は絵里を何度も抱く。勿論、相変わらず避妊はしていない。

 

(本当、結婚する前に妊娠しそうね)

 

 そう思いながらも、絵里はそれを受け入れている。絵里自身も、慎と早く一緒になりたい気持ちはあった。だからそこ、継母の事を常に考える。

 

(どうにかして、この問題を解決しないと)

 

 黒いセミロングの女性の顔が、脳裏に浮かぶ。慎の継母。最初は、本当に我が子の様に思い、愛情を注いでいたのだろう。しかし、どこでその愛情が変わったのか。絵里は深く考える。

 

(……私、一人の考えだけでは、この問題は解決出来ないわ。やっぱりあの人に協力してもらいましょう)

 

 絵里は一人決意するのだった。

 

 

 

 

 今日は、仕事が夜遅くになると慎から言われていた。絵里は数日振りに、居酒屋に向かう。希も居酒屋にいるようだ。店の暖簾を潜る。いつもの席に、希は座っていた。

「絵里ち、お疲れ」

「希も」

 言って座る絵里。希の表情は少し艶っぽさが増している。元々、希は美人。それがさらに磨きが掛かったようだ。同性の絵里ですら、ドキリとする。

「希、なんだか綺麗になったわね」

 絵里の言葉に、一瞬目を見開く希。でも、すぐにいつもの悪戯っ子の様な表情に変わり、絵里を見つめる。

「……絵里ちも綺麗になったん。気付いてないん?」

「っえ?」

「自分の事になると、鈍いなぁ。絵里ちは」

「五月蝿いわね」

 そう言ったやり取りを希とする。絵里はいつものように店内を駆け回る花陽に手を上げた。

「絵里ちゃん、希ちゃん。久し振りだね」

「ええ、忙しくて」

「慎君の相手は大変そうやもんね」

「ちょっと、希。何を言っているのよ」

「聖君が言ってたんよ。慎君、夜激しいって」

「……夜が…激しい……はわぁ…」

 希の発言に、花陽が顔を真っ赤に染め、頭から蒸気が昇る。絵里は狼狽えた。

「慎君が、聖君に話したんやって。絵里ち、避妊させてないん?」

「……そ、そんな事まで言ったの?慎が?」

「ええやん、結婚より早いけど、赤ちゃん出来ても」

「別にそれは良いけど、もう!帰ったら慎、覚えておきなさいよ」

 花陽と同じ様に顔を真っ赤に染め、絵里は頭を抱えた。花陽にビールを注文。一気に飲み開ける。

「その前にしないといけない事があるわ」

 冷静に戻る絵里。希も真剣な表情に変わった。

「例の継母やろ?」

「ええ、あの人が慎を苦しめている間は、私も慎も幸せになれないわ」

 絵里の言葉に、無言で頷く希。絵里は溜め息をついた。

「どうするん?」

「一応、考えが無い訳じゃないけど、協力者が必要ね」

 珍しく不敵な笑みの絵里。希はそれを見て、同じ様に笑みを見せる。そして、絵里はスマホを取り出し、ある人に連絡する。

 

 

 

 

 数日後、絵里と希はあるビルの前に立っていた。そのビルは、桂木プロダクション。絵里と希は、顔を見合わせ、頷き合う。そして、力強く歩き、ビルの中へ入ったのだった。




 シリアス展開がありつつも、ベッドシーンは作者には必須であります。書いてて萌える。


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協力者と決意と

 リアルで問題が発生中……

 なかなか書けない状況がしばらく続きそうです。けど、頑張って書きます!


 桂木プロダクションの事務所内~社長室~

 

 

 

 

 革製の高価な椅子に、不釣り合いなにこが、足をブラブラさせて絵里と希を見ている。絵里と希は、にこが座っている場所の反対側。デスクを挟んで立っていた。

「話って何?」

 にこの表情は、少し怒っているような、不安を隠しているような。『今の感情をどう表して良いのか分からない』っといった表情。そんなにこを真っ直ぐ見据え、絵里が口を開く。

「にこ、慎の事なの」

「……それで?」

「慎の実家の住所、教えて欲しいの」

「どうして?」

「慎のお父様に会って、話がしたいから」

 絵里の言葉に、にこの表情が曇る。絵里は瞬時に気付いた。

「……にこ、貴女。何か知っているのね?」

 希もそう思った様だ。絵里と同じ様に、にこを見ている。二人の視線に、にこが溜め息で答えた。

「そう簡単に教えられないわよ。これでも、この桂木プロダクションの社長よ。」

「この間は教えてくれたやん?」

「あれは、絵里達が興味ありそうだったし。慎達の将来を考えての事だもん。今回は、慎の過去も関係するし。実家の住所までは教えられない……でも」

 含みを持たせるにこ。絵里達の表情が緩む。

「身内同士の話なら別だけどね」

 にこがウインクする。すると、扉がゆっくりと開く。そこには、紺色のスーツに身を纏った男性が立っていた。絵里と希は疑問の表情。男性は、部屋の中に入り、にこの横に立つ。

「二人は初めて会うわね?主人よ」

 にこやかな表情のにこ。その男性は、絵里達より少し年上だろう。絵里達を優しく微笑んで見ていた。二人は驚く。

「初めまして、にこがいつもお世話になっております。桂木宗次郎と申します。」

 そう言って、深々と頭を下げるにこの旦那。絵里達もつられて頭を下げた。

「絢瀬絵里です」

「東條希です」

「お二人のお話は、にこから良く聞いていましたよ。アイドルもされていたそうで」

 穏やかな表情で話す宗次郎。そんな宗次郎ににこは鋭く睨む。

「宗君、その話はまた今度にしてよ。今は」

「まぁまぁ、別に良いじゃないか。にこの高校時代のお友達と、一度話がしてみたかったんだよ。慎君の話もちゃんとするから、ね?」

 宗次郎がにこの頭を撫でる。にこは膨れっ面をしながらも、黙り込んだ。

 

(さすが、ご主人だわ。にこを手懐けているわね)

 

 感心する絵里。宗次郎は笑顔を崩さず、絵里達に視線を戻す。

「さてさて、折角来ていただいたので、お茶でも飲みながら、ゆっくりお話しませんか?勿論、慎君の事もお話ししますから」

「はい」

 絵里達は社長室から出ると、応接室に場所を移す。にこ夫婦と向かい合う形で座り、すでに頼んでいたのだろう。事務所のスタッフが、すぐにお茶を持ってくる。絵里達はそれを啜りながら、談笑した。

「……それで、桂木さんの一目惚れだったんですか?」

「そうなんですよ。にこのアイドルに対しての真っ直ぐな姿勢に、僕は惚れましてね。告白したんです。まぁ、親戚からはロリコンか?っと、疑われましたが」

「にこっち、愛されてるやん」

「五月蝿いわね!それより、慎の話をするんじゃなかったの?」

 顔を真っ赤に染めたにこが言う。その言葉に絵里の表情が変化する。希も同様だ。

「照れ隠しかい?まぁ、そうだな。そろそろ本題を話さないといけないね」

 姿勢を正す宗次郎。一つ咳払いをし、口を開いた。

「うむ、本来なら、他人には話せない事情が慎にはある。絢瀬さんは、慎から過去の話を聞いた事は?」

「……あります。全てではありませんが、女性アレルギーの事やその原因が継母だと言うこと。そして、アイドルをしている事」

「では、この事務所に連れて来られた理由は?」

 絵里は無言で首を横に振った。

「そうだろうね。慎自身も、どうしてにこがこの事務所に連れて来たのか。本当の理由を知らないからね。」

「それって、どういう意味ですか?」

 絵里の問いに、宗次郎は柔らかく微笑み、目を伏せる。

「僕の姉さんは、慎の産みの親。慎は、僕の甥になるんだ。」

 絵里と希は驚く。にこは知っていたのだ。いつもあまり見ない真剣な表情で二人を見ている。

「慎をここへ連れてくる様に頼んだのは、僕の義理の兄。つまり慎の父親」

「……それじゃあ、慎のお父さんは、知っているんやね?」

 希の言葉に、頷く宗次郎とにこ。絵里は深く溜め息をついた。

「なら、どうして?慎のお父様は」

「言えなかったんだ。いつも仕事ばかりで。家庭の事は姉さんに押し付けて、挙げ句、浮気してた。その相手が今の継母だ。その上、その継母が今度は慎を」

 宗次郎の表情が悲しみに変わる。

「せめてもの罪滅ぼしなのかも知れない。家出した慎を捜して、継母から遠ざけた」

 宗次郎の言葉に、絵里の目は潤んでいる。

「……協力してくれませんか?」

 絵里が頭を下げる。希も頭を下げた。

「宗君、私からもお願い。二人に協力して欲しい。それに」

「分かっているよ。僕だって、大事な姉さんの忘れ形見。慎の幸せを他の誰よりも願っているんだ」

 にこの頭を優しく撫でる宗次郎。

「絢瀬さん、慎の事。宜しくお願いします」

「はい」

 絵里は涙を溢しながら微笑んで答えた。




 今回は短めです。次回は、慎のお父さんも出てきます。さて、継母はどう動くのか?お楽しみに!


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父親と対面、連れていかれる慎

 あぁ、なかなか書く時間がないです……

 今回は、特に濡れ場なしです。


 福岡県のとある場所

 

 

 

 

 旅行鞄を肩に掛け、絵里と希はビジネスホテルに入る。東京から来た理由。それは、慎の父親に会う為だ。絵里と希は、チェックインを済ませると、早々にホテルを出る。

「私、初めて来たわ。希は?」

 福岡の街並みを眺めながら、絵里は言う。絵里の反応とは反対に、希は特に驚く様子もない。

「うちは、少しの間だけ住んでたから」

 そう答えた。両親の仕事の都合で、住む場所を転々としていた希。希の言葉は、暗くも明るくもなく、淡々としていた。そんな希を絵里は黙って見つめる。

「ここやね」

「ええ」

 とあるビルの前で立ち止まる二人。絵里と希はそのビルを見上げた。一枚のメモを懐から取り出し、絵里はもう一度見上げる。そして、数回深呼吸をした。

「……絵里ち、行くよ。心の準備はええ?」

 希の問いに、絵里は無言で頷く。二人はもう一度頷き合い、ビルの中へ入っていった。

 

 

 

 

 東京、桂木プロダクションの事務所

 

 

 

 

 その頃の慎と聖は、不貞腐れていた。理由は簡単だ。絵里と希が旅行でいないから。勿論、旅行先は知らない。にこ夫婦は知っている様だが、慎達に教えてくれず、何度問い詰めても口を割らない。二人は溜め息をつく。

「慎、あの継母から接触はあった?」

「……いや、今のところはない。でも」

 暗い表情の慎。不安を誤魔化す様に手元にあった紙を細かく千切る。

「必ずまた来る。あの女は」

「どうするつもりだ?」

「……分かんねぇよ…」

「嫌なら、はっきり言わないと」

「何度も言った!もう付き纏うなって。でも、あの女に通じていないんだ!俺の意思なんて、あの女には関係ないんだ!だから」

 

(あの日、家を出たんだ。なのに)

 

「……俺は」

 慎は無意識に拳を握り締めていた。聖も小さな溜め息をつく。

「こんな時に希ちゃん達はどこに行ってしまったんだ」

 そう言って、二人は不安の溜め息をついた。

 

 

 

 

 絵里達は、ビルの最上階の一室にいた。応接室の椅子に座る二人。白を基調としたその応接室は、一言で言えば『高価な部屋』である。壁に掛けられている絵画、掛け時計、テーブル、絨毯。そして、絵里が座る革製の椅子。その全てがどれも一級品。二人は居心地が悪く、椅子に浅く座る。緊張感で押し潰されそうになりながらも、背筋を伸ばし、慎の父親が来るのを待つ。しばらくして、扉をノックする音がし、部屋に二人の男性が入ってきた。一人は、にこの旦那さんである宗次郎。もう一人は、白髪の男性。見た目は五十代半ば。その二人が絵里達とテーブルを挟んで反対側に立つ。絵里は素早く立ち上がった。

「時田さん、今日はお忙しいところ、面会の時間を作って頂き、ありがとうございます」

 絵里と希が深々と頭を下げる。

「うむ、話は宗次郎から聞いています。どちらが絢瀬絵里さんですか?」

「……私です」

 慎の父親の問いに、絵里は答えた。慎の父親が絵里を見つめる。その眼差しは優しかった。

「うちの息子が世話になっているそうで。一緒に住んでいるとか」

「……すみません。本当ならちゃんと」

「絢瀬さん、そう畏まらずに。どのみち親子になるのですから」

「っえ?」

「とりあえず、座りましょう」

 そう言って、絵里達を促す。絵里達は会釈して座る。宗次郎も無言で座った。

「先程も言いましたが、宗次郎から全て聞いています。慎が絢瀬さんに夢中だという事も、後妻の事も」

 その言葉に絵里達が顔を見合わせる。

「絢瀬さん、本来なら私がもっと慎の事を考えるべきなのですが、私が動けばアイツが慎をさらに傷付ける。だから、慎の事は絢瀬さんにお任せしたい。勿論、私も出来る限りの事は協力します。」

「……時田さん、息子さんと奥様(継母)とどちらの味方なのですか?それによっては、私は時田さんの事、お義父さんとは呼べません。それに、彼を今後ここにお連れする事もしません。」

 苛立ちと悲しみが交差した思いが、絵里をそう言わせる。希が絵里の肩を掴む。

「絵里ち、落ち着いて」

 なだめる希。絵里は強張らせていた表情を少し緩める。

「……絢瀬さん、誤解させてしまって申し訳ない。私は、アイツの味方ではありません。私はアイツの本性を知っている。気付きませんか?私がアイツと言っている時点で、愛情はないんですよ。」

 その言葉に絵里の表情が変化した。

「私も慎の事を大事に思っています。亡き妻は、私にとって最愛の妻でした。なのに、私は過ちを犯した。たった一度の過ちで、私は全てを無くしたんです。そして、それに気付いた時にはすでに遅かった。妻は死に、息子はアイツに心も身体も滅茶苦茶に壊され、家を出た」

 慎の父親の表情が苦悩に歪む。

「……私は慎までも失いたくはなかった。だから、宗次郎とにこさんに協力してもらい、慎を捜した。見つかった時は、嬉しかったよ。まだ今からでも取り戻せるとも思った。でも、その時脳裏に浮かんだのはアイツの事だ。」

 慎の父親は絵里を真っ直ぐに見つめる。

「アイツが慎の居場所を知ってしまった以上、私も黙って傍観する事はしません。」

 ゆっくりと立ち上がる慎の父親。絵里達も立ち上がり、お互い見合わせる。

「絢瀬さん、いや。絵里さん、慎を守って下さい。そして、愛してあげて下さい」

「はい」

 そうして、お互いの手を取り合う。同時に、宗次郎のスマホが着信を告げる。宗次郎は出た。

「…………っえ!?本当なのか!?分かった。今すぐ戻る!」

 顔を真っ青に染めて、宗次郎が三人を見た。

「……絢瀬さん、慎が……」

 宗次郎の口が震えて動く。絵里は続きを聞くことなくその場を飛び出た。

 

 

 

 

 慎は絵里のマンションにいた。部屋の中には、誰もいない。慎は絵里と一緒に眠るベッドに座ると、布団の中に潜り込む。絵里の残り香が慎の鼻腔を擽る。そして、そのまま眠りについた。

 次に目を覚ますと、陽の光りはなく、部屋の中は真っ暗だった。慎は身体を起こし、部屋の灯りを点けようと寝室を出る。玄関から物音が聞こえ、慎は玄関に向かう。

 

(もしかして、絵里が帰って来た?)

 

 慎がそう思っている間に、玄関の鍵が解錠され、扉がゆっくりと開く。そして、訪問者が中に入り、玄関で慎とお見合いした。慎は一瞬、見間違える。目の前の人物に。その人物は絵里に似ていた。でも、明らかに違う。それは。

「もしかして、空き巣さんですか?」

 柔らかくゆっくりな話し方。慎は呆然としている。絵里に似ている女性がスマホを取り出し、どこかに電話。

「……もしもし、雪穂。お姉ちゃんの家に空き巣さんがいたの。……うん、分かった。」

 その女性は電話を切ると、そそくさと外に出ていく。そして、数分後。慎は誤解されたまま警察に連れていかれたのだった。




 次回は、ちょっとコメディがあるかも……。うん、多分。

 絵里の行動がどうなることやら。


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誤解は解けて

 前回から二週間、申し訳ありません!

 今回は、慎の逮捕から始まります。


 慎が逮捕されて一時間後

 

 

 

 

 慎は無機質な部屋の中で、大きな身体を丸くして震えていた。鉄格子の向こう側では、慌ただしく警官が動き回り、一人の警官が鉄格子の鍵を解錠。

「時田慎、出なさい」

 その言葉に慎はゆっくりと顔を上げ、警官を見つめる。数秒間、警官を見つめ、無言で立ち上がり、その警官と真っ白な廊下を歩く。警察署の出入り口では、腕組したにこと凛。そして、絵里に似ているあの女性が立っていた。さらに、その女性の横には見知らぬ女性の姿もある。慎はゆっくりとにこ達に近付き、真っ直ぐ見据えた。

「ご迷惑をお掛けしました」

 にこが警官に深々と頭を下げる。警官は『いえいえ、勘違いで良かったです。』そう言って、その場を後にした。そのやり取りを無言で見つめる慎。

「……時田さん、ごめんなさい。私てっきり泥棒さんと思って。まさか、お姉ちゃんの彼氏さんだったなんて」

 あたふたしながら言う絵里似の女性。

「亜里沙、絵里から何も聞いていなかったの?」

「はい、何も。私も今日、ロシアから帰って来たので」

 亜里沙と呼ばれた女性が、慎を横目で見る。その目は、好奇心に染まっていた。キラキラしている横目。その横では、不信そうに慎を見つめるもう一人の女性。

「本当に絵里さんの彼氏なんですか?」

「…………」

 無言で小さく頷く慎。そんな様子に、にこが溜め息をついた。

「雪穂、亜里沙。ごめんね。慎、女性が苦手だから」

「……っえ?でも、お姉ちゃんとはお付き合いしているんですよね?」

「付き合っているわよ。ただ、絵里以外の女性に対してなんだけど」

「それって、お姉ちゃんが特別って事ですよね」

 慎に向けられる眼差しが、より一層光輝く。慎はその眼差しに耐えられず、一人先に警察署を出た。

 

 

 

 

 桂木プロダクション、事務所の一室

 

 

 

 

「そう言えば、亜里沙。絵里に連絡した?」

「いいえ、まだしてないよ」

 それを聞いて、何故かニヤリと笑うにこ。凛も同じ様にニヤリと笑う。

 

(何か企んでるな、あの二人)

 

 部屋の片隅で二人を見ていた慎が溜め息をつく。スマホを取り出し、電話をする。電話の相手は、どうやらにこの旦那、宗次郎のようだ。

「そうなの。警官に連れて行かれてね。……うん、そう。詳しい話は後で」

 それだけ言って、電話を切る。慎は溜め息をついた。

「俺、もう釈放されてんだけど」

「分かってるわよ。ちょっと絵里の反応が知りたくなって」

「……ちょっと待て、宗次郎さんと一緒にいるのか?」

「あれ?言ってなかった?」

「聞いてねぇよ。絵里、今どこにいるんだよ。迎えに行ってくる」

「う~ん、それは無理でしょ。だって、絵里と希。福岡だし」

 テヘペロの仕草でにこは謝る。慎は呆然と立ち尽くした。

 

 

 

 

 福岡空港

 

 

 

 

「…………」

 落ち着きなく空港のロビーで右往左往する絵里。その表情は焦りと不安で一杯だ。どの便も満員で、キャンセルも無い。希も絵里にどう声を掛けて良いか悩んでいる。そこに、宗次郎が近付き。

「絢瀬さん、今日は一旦ホテルに戻りましょう。詳しい話は後でにこに聞きますから」

 その言葉に、絵里の動きが止まる。そして、希と宗次郎を見ると、小さく頷いた。ホテルに戻り、希と二人、ベッドに腰掛ける。すると、タイミングを計っていたように、スマホが鳴った。ディスプレイには亜里沙の名。絵里はすぐさま出る。

『もしもし、お姉ちゃん。亜里沙だけど』

「どうしたの?それより、いつ日本に帰って来たの?」

『今日の夕方。それでね。お姉ちゃん、話があるの』

「うん、何?」

『今日、お姉ちゃんの家に行ったら、知らない男の人がいて』

 その言葉に、絵里の脳裏に慎が浮かぶ。

『泥棒さんと思って、警官に連絡したの』

「……うん、それで?…」

 絵里の表情が強張る。希も苦笑していた。

『お姉ちゃんの彼氏さんだったなんて知らなかったから』

 思った通りの言葉。絵里は肩を落として項垂れる。

「仕方ないわ。私が亜里沙に言わなかったから、知らないのは当然よ。ごめんね。びっくりさせちゃったわね」

『ううん、気にしてないよ。それでね。彼氏さんが』

「……慎がどうしたの?」

『ちょっとにこさんと揉めてるの。どうしたら良い?』

「……亜里沙、そこに慎がいるのね?」

『うん』

「電話代わってもらえる?」

 絵里の表情は、笑顔のまま額には青筋が見える。それを感じたのか、亜里沙は無言で慎にスマホを渡したようだ。電話の向こうから慎の声が微かに聞こえる。

『もしもし』

「慎、私よ。絵里」

『ああ、絵里。どうしてそこにいるんだよ。』

「そこって、どこかしら?」

『福岡、俺の親父に会いに行ったんだろ?何でだよ』

「何故って、私が会いたかったのよ。ダメかしら?」

 その言葉に慎は黙る。

「黙って会いに行ったのは謝るわ。でも、それは私達のこれからの事を考えてよ。あの継母の事もあるから」

 慎からの返答はない。言葉が見つからないのだろう。

「慎、明日のお昼の便で帰るから、それまで亜里沙の事お願いね」

『…………分かった』

 慎が小さく返事。絵里はその後、にこ達に慎の周囲に異変がないか聞き、電話を切った。

「絵里ち、うちも協力するから、いつでも言ってな」

「ありがとう」

 そして、絵里達は眠りについた。

 

 

 

 

 絵里のマンション

 

 

 

 

 お昼の便で東京に戻った絵里達。福岡観光をする余裕などなく、ホテルをチェックアウト。電話で慎の父親と今後の話をして、東京へと戻る。勿論、にこをはじめ、亜里沙や慎、聖達が出迎えてくれた。そしてそのまま絵里のマンションに亜里沙と三人で戻る。

「お姉ちゃん、疲れたでしょ?お茶淹れるね。」

「ありがとう。亜里沙」

 そう言ってキッチンに立つ亜里沙。慎はというと、絵里を後ろから抱き締めている。絵里の首筋にキスを落とし、舌を這わせる慎。亜里沙の立っている位置からは見えないが、絵里は内心焦っていた。慎の愛撫に身体は素直に反応する。

「……ちょっと、妹がいるのよ。……ん、後にして」

 小声で抵抗する。その間も慎の腕が絵里の乳房に触れた。服越しでもしっかりと尖端の位置を探りだし、そこを執拗に触れてくる。絵里の身体は疼いた。もっと触れて欲しくて、秘所がピクピクと動いている。

「……やめて…お願……亜里沙に…気付かれちゃう」

「なら、後で一杯シテいい?」

 そう言って、お尻に身体を押し付ける。慎のソコが硬くなっているのが、服越しでも分かった。絵里の身体は一気に火照り、秘所が蠢く。そんな事など知らず、亜里沙がお茶を、テーブルに運んでくる。慎はすっと絵里から身体を退かし、何事もなく亜里沙の淹れたお茶を啜る。

「お姉ちゃん、お茶淹れたよ。飲まないの?」

 慎の愛撫で腰に力が入らなくなっている絵里。そんな事など、亜里沙は知る由もない。




 次回は、ほぼほぼエロ、エロ、エロ~!で、進みます。


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長い夜~濃厚な愛~

 今回は、最初からエロ全開で行きますよ!


 絵里のマンションにて

 

 

 

 

「お姉ちゃん、お風呂先に入る?」

 三人で夕食を済ませ、各々寛いでいる。いつの間にお風呂の準備をしていたのか。亜里沙が絵里にそう言った。

「そうね。先に入らせてもらおうかしら?」

 そう言って、立ち上がる絵里。慎がなんの前触れもなく、絵里の腕を掴んだ。

「俺も一緒に入って良いか?」

「……嫌よ」

「何でだよ。良いじゃんか」

 思い切り不貞腐れる慎。絵里は溜め息をついた。慎は掴んでいた手を放す。絵里は後ろ髪を引かれながら、脱衣室へ向かった。扉を開け中に入る。そこに慎がスルリと入り込み、絵里を後ろから抱き締めた。

「……ちょっと、何入って来てるのよ。」

「たまには良いだろ?」

「亜里沙がいるのよ。」

「…………」

 絵里の抗議を無視して、慎は絵里の服を脱がしていく。絵里は抵抗する気も失せているようで、じっとしている。慎はブラのホックを外し、こぼれ出た乳房を両手で包み込む。絵里の柔らかい乳房を優しく揉んでは、尖端を指先でクリクリと摘まむ。

「ん、ちょっと……」

 すでに身体の力が入らなくなっている絵里。慎にもたれ掛かり、振り向きながら上目遣いで頬を膨らませている。慎は絵里の唇をそっと塞いだ。互いの舌を絡め合い、二人の息遣いが身体を火照らせる。ゆっくりと唇を放す。絵里の瞳が潤み、続きをねだっている。慎は素早く自分の服を脱ぐと、絵里を抱き上げ浴室に入った。

「ほら、こっち」

 慎は浴槽に入らず、絵里を自分の膝の上に座らせた。

「何するの?」

 絵里の問いに、慎は無言で石鹸を泡立て、絵里の身体を洗い出す。身体全身に泡を撫で付け、手が絵里の乳房を揉み洗う。

「んん……ゃあ」

 ヌルヌルとした感触に絵里は身体を捩った。

「身体洗ってるだけだぞ?」

 そう言う慎の表情は悪戯っ子。絵里は睨んだ。絵里に睨まれても、慎は楽しんでいるようだ。絵里の太股をゆっくりと広げると、内側を撫で洗う。慎の指が秘所に触れる。石鹸をつけていないのに、すでにヌルヌルしていた。慎はクスリと笑う。

「絵里、ココ。何でヌルヌルなんだ?」

 慎の指が秘所の中に入っていく。そして、グチュグチュと卑猥な音を鳴らす。絵里は慎の指に翻弄されて、喘ぎ声を抑えられない。

「良いのか?亜里沙ちゃんに聞こえるぞ」

「……イジワル」

「絵里、もう我慢出来ない。入れて良いか?」

 慎は絵里の身体につけた石鹸の泡を綺麗に洗い流す。慎の愛撫に力が入らなくなっている絵里。その絵里を浴槽の縁に手をつかせ、お尻を突き出す体勢にさせた慎は、大きくそそり立ったソレを秘所に宛がった。

「声、抑えろよ?」

 絵里の返事も聞かず、一気に貫く。

「あぁあ!」

 背中を反らせ、絵里は喘いだ。咄嗟に口元を手で押さえる絵里。慎は強く中を抉り、腰を強く激しく動かす。

「……ゃあ、はげし……んん!……ダメ………やめ…あぁ……」

 慎の激しい責めに、口元を隠す手に力が入らない。絵里は必死に口元を押さえようとした。それを見て、慎は一旦ソレを引き抜く。絵里の身体を床に押し倒し、唇を塞ぐ。そのまま再び挿入、腰を打ち付けた。

「……んん……ゃあ、ん………んん…」

 浴室から乾いた音が響く。慎のソレが一回り大きくなり、一気に弾けた。絵里の中でドクドクと白濁の液を流し込む。絵里はその勢いに絶頂した。ゆっくりと唇を離す。荒い息遣いで見つめ合う二人。

「……慎のバカ」

「…ごめん、我慢出来なくて。でも、もっとシたい」

「今はダメ、早くお風呂出ないと亜里沙に気付かれちゃうわ」

「分かった」

 絵里の中で、存在感を固持したソレを引き抜く慎。その時、絵里の中が物欲しそう蠢く。慎は一旦引き抜いたが、再び挿入した。

「ちょっと、何また入れているのよ。抜いて」

「いゃさ、絵里のココは出て欲しくないみたいだったから」

 慎は腰を動かし始めた。絵里は狼狽える。慎が腰を打ち付ける度に、絵里の乳房が揺れ、喘ぎ声が溢れた。絵里が慎の首に腕を回し、引き寄せる。そして、唇を重ねた。慎はそのまま激しく腰を打ち付け、二度目の射精をする。慎の身体がビクビクと痙攣。絵里の上に覆い被さる。

「……もう良い?」

「ああ、とりあえずは」

「そう、なら早くお風呂に入って、上がりましょ?」

 絵里の言葉に慎は素直に頷いた。脱力した絵里を抱えたまま湯船に浸かり、程好く温まったところで浴室から出た。絵里は足に力が入らない。慎にバスタオルを巻いてもらい、寝室に入る。慎は絵里をベッドに座らせた。

「慎、亜里沙にお風呂出た事伝えてね?」

「ああ、分かった」

 そう言って、慎は寝室を出た。

 

 

 

 

 バスタオルを巻いた姿の絵里。まだ力が入らない。慎の責めは、絵里の身体を何度も絶頂させていく。絵里は小さく溜め息をついた。

 

(体力が持たないわ)

 

 慎の性欲は底知れない。それは多分、絵里に対してだけだろう。絵里の中にずっといたいのか。慎のソレは存在感を固持し続け、絵里の中を精液で一杯にしていく。絵里はそれを受け止めるだけだ。

 

(こんな状況で、妊娠していないのが不思議なくらいだわ)

 

 絵里はゆっくりと立ち上がり、下着を取りに行く。そこに慎が戻ってきた。慎が絵里の身体を引き寄せる。そして、身体に巻き付けていたバスタオルを剥ぎ取った。

「絵里」

 慎が絵里の身体を撫で回す。絵里の身体はそれだけで反応。乳房を揉み、尖端を何度も潰し捏ねる。

「……んん、まだ足りないの?」

「全然足りない。絵里を滅茶苦茶にしても良い?」

 その目はギラつき、妖艶だ。絵里はその目に囚われ、慎に抱き付く。慎は絵里をベッドに押し倒した。首筋にキスを落とし、舌が這う。

「はぁ……んん」

 精液と愛液が混ざりあった絵里の中に、慎はソレをゆっくりと入れて、腰を動かし始める。絵里の乳房を揉み、片方を舌で舐め尖端を甘噛み。絵里は頭をベッドに押し付け仰け反った。

「待って……んん…亜里沙がいるの……激しく…しない……で…」

 喘ぐ声を懸命に抑える絵里。しかし、慎の責めは変わらず、強く深くそれでいて激しくなっていく。

「やめ…ダメ……声が……あん…もう………慎…」

 絵里の爪が慎の背中に食い込む。絵里は絶頂した。身体を痙攣させ、慎のソレを締め付ける。それでも、慎の動きは止まらない。突然、扉をノックする音がした。慎の動きが一旦止まる。

「お姉ちゃん」

 亜里沙だった。絵里は焦る。と同時に、慎が動きを再開させた。絵里は必死に抵抗する。

「ほら、返事しないと」

 慎が言う。絵里は慎を睨み、口を開いた。

「……亜里沙…どうしたの?……ん…」

「っあ、えっと。私、今日雪穂の家に泊まるから」

「そ……う、ぁ分かったわ……んん…気をつけて…行く……ゃのよ。」

「うん、明日また連絡するね。それじゃ」

 慌てたようにその場を後にした亜里沙。絵里は慎の腕を叩く。

「もう、絶対気付かれちゃったわよ!」

「ごめん、ごめん。でも、絵里意外と感じてたろ?締め付けが凄かった」

「バカぁ……あん」

 慎は動きを加速させ、絵里の中に三度目の射精をした。

 

 

 

 

 数時間後

 

 

 

 

「……し…ん……もう……許し…て」

 絵里はすでに力が入らない。慎の動きに合わせて、ただ揺さぶられている。絵里の身体中には、慎の精液が掛かり、汚れていた。

「ずっとこうしていたい。」

 慎は絵里の中を抉り、精液を送り込む。絵里は慎に向かって小さく微笑んだ。

 




 次回は、元μ,sの女子会です。


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元μ,sの女子会~そのニ~

 今回は亜里沙の心情から始まります。ちょっとエロ含み……


 亜里沙は頬を真っ赤に染め、雪穂の家に急いだ。どうしてそんなに急いでいるのかと言うと。それは、絵里の艶かしい声と何かをぶつける音。それを聞いたからだ。男女の交際経験がない亜里沙でも、絵里が何をシテいるのか容易に判断出来る。

 

 

 

 

 絵里が脱衣室へ向かった時、絵里の彼氏である慎が音を忍ばせ後ろについて行ったのを亜里沙は見ていた。亜里沙は好奇心で、二人が入って行った脱衣室へ向かう。あまり薄い扉ではないが、二人の会話が聞こえてきた。

「……ん、ちょっと」

 絵里の甘ったるい声が聞こえ、次第にチュッチュッとキスをする音がした。亜里沙は、恥ずかしさでその場を離れたい衝動に刈られたが、足がすくんで動けない。そんな事など二人は知る筈もなく、浴室に入る。亜里沙は早鐘を打つ心臓を落ち着かせながら、脱衣室の扉を少しだけ開けた。そして後悔する。浴室からは絵里の喘ぐ声が響き、同時に慎の声が聞こえた。

「良いのか?亜里沙ちゃんに聞かれるけど」

 その言葉に亜里沙の顔が真っ赤に染まる。絵里の喘ぐ声が小さくなると、今度はパンパンとナニかがぶつかる音が浴室から響き、絵里の掠れた声が響いた。

 

(……お姉ちゃん達、エッチしてる)

 

 亜里沙は今にも噴火しそうな頭で、その場を離れた。真っ赤に染まった顔を、近くにあった雑誌で冷ます。しばらくして、慎が絵里を抱えて寝室に入るのを見た。亜里沙は、雑誌で顔を隠す。そこに慎が来た。

「亜里沙ちゃん、俺達お風呂上がったから」

「…………」

 言葉が出ない亜里沙。

「もしかして、さっきの聞こえてた?」

 慎が問う。亜里沙は雑誌から少し顔を出して、小さく頷く。

「ごめんな。本当は抑えようと思ったんだけど。どうしても衝動が抑えられなくてな」

 気まずそうに頬を掻く慎。

「……あの」

「ん?どうした?」

 亜里沙はゆっくりと雑誌を下ろし、慎を見つめる。

「彼氏さんにとってお姉ちゃんは特別なんですよね?」

「ああ、特別で大事な人だ。だから、プロポーズもした」

 真剣な表情の慎。亜里沙は満面の笑みで慎を見る。

「私、今日は友人の家に泊まりますね」

 その言葉に慎は何かを悟ったようだ。

「なんか悪いな。気を使わせて」

 微かに笑う慎。絵里がいる寝室に向かう後ろ姿を見て、亜里沙はまた真っ赤に顔を染めた。寝室からは、絵里の声が時折聞こえ、亜里沙は声を掛けるタイミングを計る。そして、思い切って話し掛けた。絵里は掠れた声を抑えながら返事をしている。そして、亜里沙は退散するようにマンションを出た。

 

 

 

 

 『花陽の食卓』

 

 

 

 

 今日は定休日である。しかし、店内からは複数の話し声が聞こえ、賑わっていた。

「それで、今日は絵里と希来るの?」

 真姫がその場にいた全員に聞く。店内にいたのは穂乃果、海未、ことり、花陽。にこ、雪穂、凜、そして、亜里沙である。

「多分、お姉ちゃん遅くなるかも」

 真っ赤な表情で亜里沙が言う。雪穂も同様に頬を染めていた。

「……慎、一度、しっかり説教しとかないとね」

 にこが溜め息混じりに言う。

「それ、聖君にもお願い出来るんかな?」

 店の戸を開けながら、希が入ってきた。後ろには絵里の姿も。絵里の方は、少し疲れた表情だった。

「希、絵里。遅かったですね」

 心配した表情で海未は言った。

「……もう始めてたの?」

「ええ、それより絵里。大丈夫ですか?顔色が良くないようですけど」

 海未の言った通り、絵里の顔色は良くなかった。疲労感もあるのか、店内に入ると椅子に座る。

「慎君がね。朝まで絵里ちを抱いてたんやって」

「それじゃあ、絵里、一睡もしてないの?」

「そういう事やな」

 にこの問いに希が答える。当の絵里は、座ったまま眠り始めていた。今の時刻はお昼前。

「お姉ちゃん、大丈夫?」

「う……ん、ちょっと眠たいわね」

「絵里ちゃん、こっちならゆっくり横になれるよ」

 花陽がお座敷のテーブルを動かし、綺麗に座布団を敷き並べる。絵里は亜里沙に手を引かれ、そこに寝転んだ。そして、数秒も掛からず眠りに落ちる。みんなは絵里が眠るのを見届けると、一斉に溜め息をついた。

「……慎には、お灸を据える必要があるみたいですね」

「それは賛同するわ。慎には悪いけど」

 海未と真姫が頷く。にこも同じ気持ちのようで頷いていた。穂乃果と凜は話が見えていない。二人して頭に?を幾つも浮かばせている。

「でも、彼氏さん。本当にお姉ちゃんが好きなんです」

 亜里沙が唐突に話す。みんなは亜里沙を見た。

「うん、分かってるよ。だからこそ、ちゃんと慎君に話さないといけない事もあるんよ」

 真剣な表情の希。亜里沙は小さく頷いていた。

「亜里沙ちゃんは、慎の生い立ちを話した事なかったから、今の状態が良くわからないわよね。絵里は話さないだろうし。どうする?」

「慎は、絵里と一緒になる覚悟はあるようですよ。先日、私にその話をしました。」

「まぁ二人のラブラブ見てたら、教えてもらわなくても分かるやん。近々結婚するのは目に見えてんやから、話してもええんやないの?」

 希の言葉に、一度眠っている絵里を見る。スヤスヤと寝息をたてて絵里は起きそうな気配はない。みんなは顔を見合わせ、頷いた。

 

 

 

 

 まだ眠そうな表情の絵里が、無言で身体を起こした。眠っていた時間は、二時間くらいか。みんなの方を見ると、丁度お昼ご飯の準備をしていた。

「っあ、絵里。起きたのですね。大丈夫ですか?」

 絵里が起きた事に気付いた海未が言いながら近付く。

「……ええ、ごめんなさい。私も準備手伝わないといけないのに」

 まだ身体をフラつかせながら、絵里が言う。

「絵里ちゃん、大丈夫だよ。みんなが手伝ってくれたから」

 花陽がお茶を絵里に渡す。絵里はそのお茶を受け取り、ゆっくりと啜った。

「それよりお昼食べられる?」

「うん、食べられそう。みんなは?」

「今から食べるよ。ほら、絵里ちゃんこっちに座って」

 花陽は希の横に絵里を座らせた。みんなが絵里を見つめる。

「お姉ちゃん」

「亜里沙、昨日はごめんね。今日はゆっくり話をしましょ?」

「うん」

 絵里と亜里沙は微笑み合う。それをみんなが温かく見守っていた。




 次回は……。何やらμ,sが計画してます。


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絵里の為の集まり~慎にお灸を据えよう!~

 特に見せ場ないかも……


 μ,sの女子会から数日後。

 

 

 

 

 慎は桂木プロダクションの一室にいた。部屋の中心には長テーブルを二つくっ付け、大きなテーブルにしている。そこに、慎と聖が無言でパイプ椅子に腰掛けていた。

「なぁ、聖。今日何で呼ばれたか知ってるか?」

「さぁ~、俺にもさっぱり分からないけど」

 お互い、スマホを弄りながら会話をする二人。それから特に会話はなく、無言で時間だけが過ぎていく。一体、どのくらいの時間が過ぎたのだろうか。慎は壁に掛けてある時計を見る。長く感じていた時間。しかし、意外にも、まだ十五分位だった。慎は小さく溜め息をつく。それから数秒もしない内に部屋の扉をノックする音がした。

「はい、どうぞ」

 聖が答える。ゆっくりと開かれた扉から、にこを始め、希、凜、海未、穂乃果、ことり、真姫、花陽の順で入ってくるμ,sのメンバー。そこには絵里の姿はない。少し遅れて、亜里沙と雪穂も入ってきた。慎と聖は咄嗟に椅子を立ち上がり、部屋の隅に逃げる。二人は女性が苦手なのだ。特定の女性以外は近寄るのを極力避けている。

「二人共、そこに座りなさい」

 桂木プロダクションの社長であるにこが二人に言い放つ。慎と聖は怯えた表情で、さっきまで座っていた椅子にゆっくりと座る。女性陣は二人を囲むように立ったまま。聖は希を見た。視線を感じた希は、聖を見る。何かを言いたそうな表情で希を見ていた。いつもならすぐに希の側に行こうとする聖だったが、部屋に漂う暗い雰囲気に、じっとして他の女性達を観察している。

「さてと、話を始めましょうか」

 声のトーンは明るめでにこが言う。その場にいた女性陣が小さく頷いた。男性は慎と聖のみ。そして、女性陣が一斉に慎と聖を見る。視線の多さに引く二人。

「聖はとりあえず後にして、慎。貴方に今日は話をするわ」

 にこの表情が変化する。その表情は怒り。にこだけではない。そこにいる女性陣は皆、怒りの表情だ。

「……慎、どうして呼ばれたのか分かりますか?」

 海未が言う。慎は無言で首を横に振った。

「貴方が呼ばれた理由は、絵里です。」

 絵里の名に反応する慎。

「慎君、最近の絵里ちは疲労困憊や。その理由は分かるやろ?」

「……俺が無理させてるって言いたいのか?」

「そうや」

 希の言葉に慎は睨んだ。今にも掴みかかりそうなオーラを纏う慎。すると、海未、真姫、にこが慎の前に立つ。慎は一瞬で壁に逃げた。すると、にこの不敵な笑み。海未と真姫はそれに少し呆れつつも、にこと同じ様に慎に近付く。慎は逃げ場を失い、ガタガタと身体を震わせている。

「……ゃめろ…、近付くな」

「それは却下」

 そう言って、にこが慎の腕に触れた。次の瞬間。慎の全身に蕁麻疹が出る。呼吸も荒くなり、弱々しい。

「……俺が女性アレルギーなのを知ってんのに、どうしてこんな事するんだ」

「慎君、さっきも言ったんやけど。絵里ちの為なんよ。」

「……絵里の為?」

「そう。絵里ちの為」

 慎の問いに希が頷く。他の女性陣も同じ様に頷く。

「絵里ち、自分の事より相手の事考えたり、素直やないんよ。μ,sに入る時もそうやった。本当はスクールアイドルしたいんに、自分の気持ちを押し込めて。今だってそうや。慎君の事ばかり考えて、正直身体しんどいはずやのに」

「……希もね」

 真姫が希に視線を送る。言われて希は舌を出す。

「つまり『絵里の身体の事もう少し考えて』って言いたい訳よ」

「……分かった」

 にこの補足的な話に、慎は素直に頷いた。そして、そこでようやく気付く。海未、真姫、にこ、凜、希以外の女性達に。

「……居酒屋の店員さんがいる。あと亜里沙ちゃんとお友達の雪穂ちゃん。それと二人は誰だ?」

 慎の言葉に、みんなが目を丸くする。そして笑った。

「そう言えば言っていませんでしたね。私達は絵里の高校時代からの友人です。」

「……っええ!?」

「予想通りの反応やな」

 慎の反応が面白いのか、みんなが笑っている。聖も驚いて、口をポカンと開けていた。

「自己紹介がまだでしたね。」

 海未が視線を穂乃果に送る。それに気付いた穂乃果。満面の笑みで。

「高坂穂乃果だよ。雪穂は私の妹なんだ~」

「どうも、宜しくです」

 元気な姉と対照的に、雪穂は冷めている。

「小泉花陽です。『花陽の食卓』の店長しています」

 照れながら花陽が言った。

「南ことりです」

「……ことり、旧姓ですよ」

「っあ、そうだった。今は井元ことりなの。苗字が変わると言いにくいよぉ」

 海未の指摘にことりが弱々しく嘆く。

「亜里沙の事は言わなくても大丈夫だよね?」

「絵里の妹だろ」

 にこの問い掛けに慎は答えた。そこに絵里が宗次郎と入ってくる。

「……ちょっと、みんな」

 絵里は部屋に入って驚いた。慎の全身に蕁麻疹が出る事に。

「慎、大丈夫なの?」

 言いながら駆け寄ろうとする絵里。しかし、それは叶わない。それは希達によって、遮られたからだ。その行動に怪訝な表情の絵里。

「慎、約束して。今後、絵里に無理をさせないって。絵里は私達の大切な友達だから」

 にこの真剣な表情。その言葉に、絵里は理解したようだ。慎の回答を待つ面々。慎は力強く頷き。

「約束する」

 すると、希達はゆっくりと絵里と慎の間から離れる。絵里はすぐさま近寄り、慎の頬を撫でた。大人しく撫でられる慎。絵里が触れた所からゆっくりと蕁麻疹が薄れていく。それにはみんな驚いた。全身に出ていた蕁麻疹はゆっくりとだが、確実に薄れていく。しばらくして、慎の身体に出ていた蕁麻疹は治まり、慎は絵里に抱き付いた。

「……ところで、スクールアイドルって何だ?」

 頭に?マークを浮かべ慎が絵里に尋ねる。一瞬、絵里の身体がピクリと反応。そして。

「……ふふ、今はヒミツ」

 そう言った絵里の表情は妖艶だった。




 ちょっと今回は短めでした。まぁ、これに懲りて、慎の性欲も少しは抑えられるでしょ……。恐らく。
 でも、絵里の色気に当てられるでしょうけどね。


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理性VS性欲~それでも勝つのは~

 前回の投稿から遅れてしまいました。申し訳ありません!


 元μ,sのメンバーからお灸を据えられた日から数日後

 

 

 

 

 絵里のマンションにて

 

 

 

 

 慎は理性と性欲の狭間で揺れ動いていた。『自制しなければ』という思いと『絵里と一つになりたい』という思いが入り交じり、慎は悶絶している。当の絵里は、悪気はないのか、それとも無意識なのか、色気が身体全体から滲み出て、慎を誘惑していた。特に二人きりになると色気という名のフェロモンがより一層濃く出ている。

「ねぇ、慎」

 ソファーに腰を下ろし、慎に甘えた声で絵里が慎の服を引っ張る。慎は無言で絵里を見下ろした。頬を赤く染めた絵里の顔。慎はドキリとする。

「……何だ?絵里」

 慎はなるべく平静を装う。すると、絵里が微笑んだ。

「これ、着けてくれない?」

 そう言って、手のひらに握っていたペンダントを慎に見せる。慎は徐にそれを受け取ると、絵里の首にペンダントを回し当て、後ろの留め具を掛ける。その時、慎は絵里のうなじを見つめ、キスがしたくなった。

 

(……っあ…ぶねぇ!)

 

 我に帰る慎。

「どうしたの?」

 絵里が振り返りながら言う。その横目がまた色っぽい。慎は絵里の唇に指を這わせ、そのままキスをした。舌を絡め、濃厚な口付けを交わす二人。慎の手が絵里の胸に下りた。

「……ぃて」

 慎の手を絵里がつねる。

「慎、今胸触ったでしょ」

「……触ってない」

「今の間は何よ」

 疑いの眼差しを向ける絵里。慎は視線を反らした。

「……絵里だって悪いんだぞ」

「私の何が悪いのよ」

 頬を膨らませる絵里。慎は小さく溜め息をついた。

「フェロモンが駄々漏れなんだよ。我慢出来なくなる」

 慎の発言に絵里は真っ赤な顔に染まる。

「……ちょっ…と、何言ってるのよ。……恥ずかしいでしょ。それに私は、フェロモンなんて出していないわよ」

 真っ赤な顔を両手で覆い、絵里は言った。すると、その言葉に慎は大袈裟に溜め息をつく。

「分かってるよ。絵里、無意識にフェロモン出してるから厄介なんだ。油断するとシたくなるんだよ」

「……なら、すれば良いでしょ?」

 上目遣いで言う絵里。慎は生唾を飲み込んだ。そして、首を勢い良く横に振る。

「ダメだ!そしたら、歯止めが効かなくなるし、また絵里に無理をさせる」

「私、無理なんてしていないわよ?」

 絵里の言葉に、一瞬慎は揺れ動いた。絵里の眼差しは真っ直ぐ慎を捉えている。慎はその視線から逃げるように無言で部屋を出た。

 

 

 

 

 数日後

 

 

 

 

 桂木プロダクションの一室に慎と聖はいた。二人は相変わらずスマホを弄りながら談笑している。

「ところで、最近絵里ちゃんとエッチしてんの?」

 爽やかな笑顔でドストライクな質問をぶつける聖。慎は聖を睨む。

「……してねぇよ」

 苦々しく答える慎。聖は長テーブルに置いてあったお菓子受けからチョコレートを摘まみ、そのまま口に放り込む。

「絵里ちゃんの身体の事を考えたらって事?」

「ああ、そうだ」

「……でもさ、我慢も良くないんじゃないかな?反動で寧ろヤバそう」

 その考えは慎にもあった。現に、ここ数日は絵里の何気ない仕草でも衝動が抑えられない自分がいる。

「絵里ちゃんに正直に白状したら?」

「……何をだよ」

「何って、勿論エッチだよ。じゃないともっとヤバくなりそうだし」

 聖が真顔で言う。慎は無言のまま答えない。そんな様子の慎に聖もそれ以上何も言わなかった。

 

 

 

 

 次の日

 

 

 

 

 慎はいつもの様に絵里の手料理を食べ終えると、そのままお風呂場に向かった。脱衣室で着ていた服を脱ぐ。すると、絵里が中に入ってきた。

「ねぇ、慎。今日は一緒に入らない?」

「……はぁ?な、何言ってんだ?」

 珍しく狼狽える慎。絵里は服を脱ぎ始めた。慌てる慎。

「ま、待って!脱ぐな!」

「どうしてよ」

「そんな事されると、俺。もう抑えられない。マジで!」

 その言葉に、一瞬絵里の動きが止まる。そして、慎を見つめた。明らかに慎は慌てている。絵里の身体を隠すようにバスタオルで包み、脱衣室から追い出そうとしていた。慎の手を絵里は掴む。

「……ねぇ、どうして我慢するの?みんなに言われたから?」

 そう言う絵里の目は潤んでいた。

「ごめん、絵里を泣かせるつもりはなかったんだ。ただ、絵里の身体の事、考えると」

 ゆっくりと抱き寄せる慎。絵里も慎を抱き締めた。

「ありがとう。でも、この間も言ったけど、私、無理なんてしていない。確かに、体力は持たないけど」

 お互い、少し身体を離す。

「私も慎ともっと触れ合いたい。感じたいの」

 絵里はつま先立ちし、慎の唇を塞ぐ。慎はそれに答えた。啄む様なキスを交わし、舌を絡め合う。絵里の服を一つ一つゆっくりと脱がす。慎も服を脱ぎ、そのまま浴室には入らず、寝室に絵里を抱き向かった。

「待って、お風呂」

「無理、もう我慢出来ない。早く絵里の中に入りたい」

 慎は絵里の首筋を舐め、吸う。慎が吸った場所には、赤い小さな華が咲いている。首筋から始まった小さな華は、徐々に下へと下りていき、二つの乳房に両方咲く。絵里は、慎が付ける小さな華の存在に気付いていない。それは、慎の指が絵里の秘所の中で踊っているからだ。絵里はその刺激に甘く喘ぎ、腰を踊らせる。

「……ん…慎……もう」

「ああ、俺も早く入りたい。絵里、入れて良い?」

 慎の言葉に、絵里は頷く。慎は上半身を起こすと、そそり立つソレを秘所へと宛がう。勿論、相変わらず避妊具は着けていない。それでも絵里は良かった。

「絵里、もし妊娠したら産んでくれるか?」

「当たり前でしょ」

 絵里の言葉を聞いて、慎のソレが中にズブリと入る。絵里の中は喜びで震え、慎のソレを何度も締め付けた。慎はゆるゆるとした動きで絵里の中を抉る。

「……はぁ…んん……ねぇ…慎」

「…………」

 絵里の言葉に反応しない慎。絵里は慎の目を見た。ぎらぎらと目が光り、今にも絵里を滅茶苦茶にしそうな眼差し。絵里は小さく溜め息をついた。

 

(……やっぱり、慎は我慢させない方が良いわね。そうじゃないと、体力的に持たないわ……今日は諦めましょ)

 

 絵里はこれから数時間、慎に抱かれ続ける覚悟を決めて、目蓋を閉じた。

 

 

 

 

 それから数時間後

 

 

 

 

 絵里はグッタリとベッドの上で横になっている。慎はというと、ようやく性欲を我慢していた反動が落ち着いたのか、絵里の身体を抱き締めたまま寝ていた。ただ、慎のソレは絵里の中に入ったままだが。穏やかに眠る二人。ベッドサイドに置かれていたスマホのランプが点滅している。これが、嵐の到来を告げる合図だった。




 次回はいよいよ継母再登場です。


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絵里と慎~引き裂く影~

 いや~、書きたくないな、この回。


 絵里のマンションにて

 

 

 

 

「……だから…やぁ……これ……んん、以上は……」

 朝から響く卑猥な音。慎は朝から絵里を抱いていた。ずっと性欲を抑えていた反動は、昨日の夜だけでは落ち着かず、ずっとソレは固持し続けて、絵里の中を抉る。絵里は慎の責めに喘ぐだけで、抵抗する力は最早ない。

「……ごめん、これで止めるから、もう少し我慢して」

 絵里はうっすら目蓋を開け、小さく頷く。目元には涙が滲んでいる。慎の腰の動きに二つの乳房が大きく揺れ踊り、身体の至るところに赤く咲く小さな華が卑猥だ。それを見下ろしながら慎は腰を激しく動かし続ける。

 

(滅茶苦茶エロい)

 

 絵里の身体を眺めながらそんな事を考える慎。そして、そんな絵里を抱いていると思うと、徐々に慎のソレはさらに大きく、固くなり熱を持つ。やがて、慎の熱は一つに集まり、絵里の中を抉る力が強くなる。

「…あん…ん……やぁ…もう……イッちゃ…ああぁ」

 絵里は声を掠れさせながら絶頂する。慎のソレを何度もきつく締め付け、射精を促した。

「……中に出すぞ…っく……」

 慎のソレが絵里の中で大きくなり、熱を放出する。慎は一番奥に押し当てて、授精を高める為に、絵里の腰を掴み、結合を深めた。精液を出し終えるまで慎はもっと奥に何度も腰を押し当てる。あまりの刺激に絵里はその間も小さく何度も絶頂し、身体が痙攣していた。しばらくして、慎がゆっくりとソレを引き抜く。ずっと絵里の中で固持し続けていたソレは、少しは小さくなっているものの、まだ固持し続けている。慎はそんな自分の分身を見つめ、小さく溜め息をつく。

 

(……ったく、俺の性欲は…)

 

 自分に呆れ果てる慎。一方、絵里は完全に意識がなかった。荒い息遣いでグッタリとしている。絵里の頬に汗で張り付いた髪を払う慎。薄紅に染まった頬に慎はキスを落とす。慎は絵里の身体を舐めるように見た。

 

(……やべぇ…)

 

 絵里の身体には、白濁の液が掛かり、赤く小さな華が咲いている。慎のソレが大きく脈打った。

 

(……キリがないな)

 

 慎は溜め息をつく。絵里にシーツを掛け、脱衣室に向かう。慎が浴室に入ってから数分後、ゆっくりと絵里の目蓋が開く。辺りを見渡し、慎がいない事に気付く絵里。浴室から微かに物音が聞こえ、絵里は理解した。そして、ベッドサイドに置かれていたスマホが点滅している事に気付く。それは慎のスマホだった。一瞬、絵里は躊躇ったが、スマホを手に取り、ディスプレーを見る。そこには、相手の名前と電話番号が。

 

『糞 090-××××-××××』

 

 絵里は自分のスマホを取り出し、相手の番号を登録すると、希に電話した。

『……ん…、絵里ち……どうしたん?』

「っあ、希?寝ていたの?」

『……ぇ?違うよ……やぁ、ちょっと聖君、今絵里ちと話してん、邪魔せんといて……絵里ち、ごめんな』

「……ぇ?いや、私。お邪魔だったかしら?」

『気にせんでエエよ。ところでどうしたん?何かあったん?』

「……それなら、実はね」

 絵里は慎に掛けてきた電話の話をする。

『……多分、例の継母やろうな』

「希もそう思う?」

『絵里ち、もしかして』

「……会ってみようと思うの。だから」

 脱衣室の扉が開く。絵里は小声になり。

「希、お願いね。」

 希の返事を待たず、電話を切る絵里。慎が後ろから絵里を抱き締める。

「誰と電話してたんだ?」

「希よ」

 慎は絵里の身体を抱き締めたまま、首筋を舐める。

「ん、もうダメよ。あんなにシたでしょ」

 絵里の言葉を聞きながらも、慎の手は絵里の乳房を包み捏ねる。それを絵里は軽く叩き、ベッドから降りた。シーツで身体を隠し、浴室に行く。

「……一緒に入る?」

 絵里は振り向きそう言う。その言葉に慎は妖艶に笑い、絵里と浴室に向かったのだった。

 

 

 

 

 数日後

 

 

 

 

「……それで?やっぱり、我慢出来なかったわけね」

 溜め息混じりににこが言う。ビール片手に枝豆を摘まむのは希。真姫と海未は虚ろな眼差しを絵里に向ける。

「…なんだか、悪い事をしたみたいね」

 絵里はみんなの視線に乾いた笑みで返す。今、絵里達がいるのは『花陽の食卓』。ここにいるのは、絵里、希、にこ、海未、真姫とお店の店長をしている花陽だけ。六人は思い思い溜め息をつく。

「まぁ、ラブラブなのはエエことやん。それより、例の話をした方がええんやないの?」

「……希、私としては、あの時。希と和久井君がナニをしていたのか気になるのだけれど」

「その話は後にしよか」

 張り付いた笑顔で希が絵里に詰め寄る。絵里は視線を反らした。そんな二人のやり取りを他のメンバーは無言で見つめる。海未が大袈裟に咳払い。絵里と希の動きが止まる。

「絵里、希。なんの為に集まったのか、分かっているのですか?」

「そうよ。慎の継母の話をする為でしょ?」

「二人のノロケは、お腹一杯なんだけど」

 三人の言葉に、絵里と希は姿勢を正し、お互い顔を見合わせる。絵里が小さく溜め息をついた。

「話が脱線しちゃったわね。もうみんな気付いていると思うけど、今日集まったのは継母の件よ」

 絵里が真剣な表情でみんなの顔を見渡す。希も珍しく真顔だった。

「希には話したけど、私。継母に会おうと思うの。」

「……っえ!?」

「……会うとはどういう事ですか?」

「正気なの?絵里」

 三人の言葉が重なる。予想していた反応だったのか、絵里も希も驚かない。

「……絵里ちゃん、その継母さんに会ってどうするんですか?」

 今まで無言だった花陽が口を開く。絵里は徐に花陽を見る。

「慎から身を引いてもらうの」

「……でも、その継母さん。話を聞いて素直に聞くかな?」

「まぁ、無理やろな」

「希」

 希の言葉に絵里が反応する。希は溜め息をつく。

「絵里ちの言いたい事は分かるんやけど、素直に聞く相手だったら慎君があんな風にならないよ」

 その言葉に絵里以外のメンバーが頷く。絵里も内心そう思う。だから、今日集まってもらったのだ。流石に全員は無理だったが。

「とにかく、絵里ちが会いたいなら会えばええよ」

「……っえ?」

 絵里は希を見た。希がウィンクする。

「何かあってもうち達がサポートするから。絵里ちは絵里ちの思う様に行動したらええよ」

 そう言った。絵里は希の真意が分からなかったが、決意は変わらない。希の言葉に力強く頷く。希は無言で絵里のスマホを手に取り、何か操作している。そして、絵里に返した。

「?」

「心配せんで、絵里ちの想いを継母に伝えたら大丈夫や」

 希が笑う。絵里は無言で希を見つめた。

 

 

 

 

 それから一週間

 

 

 

 

 絵里はいつもの様に仕事を終え、帰路につく。後ろから忍び寄る怪しい複数の影。絵里は咄嗟に振り向いた。全身真っ黒な出で立ちの男達に絵里は囲まれ、その内の一人に白い布で口と鼻を塞がれる。絵里は遠退く意識の中で希に電話を掛けた。しかし、男達にそのスマホを取られ、道端に投げ捨てられ、近くに停めてあった車に乗せられる。絵里の身体は力が抜け、そこで意識を手放した。

 

 

 

 

 微睡む意識の中、絵里は自分の今の状況を考え、辺りを見渡す。絵里は床に敷かれた布団の上に仰向けで寝かされていた。絵里の周りには複数の男達が気持ち悪く笑って絵里を見ている。絵里は身体を横に向けた。そして、その男達の向こう側に一人の女性が立っている事に気付く。

 

(あの人だ)

 

 絵里は一瞬で覚醒する。

「あら、お目覚めね。絢瀬絵里さん」

「……貴女は慎の」

「絵里さん、お願いがあるの。慎を諦めてくれない?」

 絵里は理解した。そして、覚悟を決める。

「いやよ。私は慎と別れるつもりはないわ。例え、身体を汚されたとしても、絶対に別れないわ。」

 絵里の言葉に、継母の顔が歪む。

「……そう、それならこれならそんな事が言える?」

 そう言って、指を鳴らす継母。継母の後ろから数人の男達に引き摺られる様にして慎が連れてこられた。

「……絵里!?」

「……慎!?」

「絵里さん、慎と別れないなら、慎の目の前で貴女を犯すわ」

 その言葉に絵里の背筋が凍り付いた。




 いよいよ、絵里と慎のお話は大詰めですけど、話は続きますよ( 〃▽〃)

とりあえず、次回はどうなるのでしょうか!?


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これからは~絵里編~

 さて、絵里編の話です。


 絵里を取り囲んでいた男達が、絵里の手足を掴む。絵里が着ていた服が、男達の手によって引き裂かれ、絵里の身体が露になった。一斉に息を飲む男達。絵里は口を手で塞がれ、声が出せない。

「……うわぁ、超エロい」

「ヤベェ、俺もう勃起しちゃったわ」

「本当にこの女、ヤっちゃって良いんすか?」

 数日前に慎につけられた小さな赤い華が、まだうっすら残る色白の肌。そんな絵里の裸に男達の身体が反応していた。

「さぁ絵里さん、選んで。慎と別れるか、ここで犯されるか」

 気持ち悪い程の笑みで継母が言う。塞いでいた手が絵里の口から離れる。

「……私、慎と」

「絵里、別れよう」

「…………」

 絵里は無言で首を横に振る。慎の顔が歪んだ。それは悲痛な表情。

「ダメだ、絵里。俺は絵里を他の男達に汚されたくないんだ。だから」

「慎、私は貴方と一緒にいたいの。身体を汚されたとしても、貴方と一緒に」

「………絵里…」

 絵里が微笑む。こんな状況なのに慎は見惚れていた。

 

(こんな俺の為に……。俺は絵里に何もしてやれないのか。大切な人を守る事も出来ないのか)

 

 慎の奥歯がギリッと軋む。両腕の拳は力強く握られていた。

「返事は聞かなくても良いわね?絵里さん、貴女はもっと賢明な人だと思っていたけど、見込み違いだったようね。さぁ、慎の目の前で身も心もボロボロになるまで犯されなさい。」

 継母が指を鳴らす。男達が一斉に絵里の身体に触れてくる。背筋が凍る感覚に、絵里は抵抗した。両手、両足を掴まれ、思うように動けない絵里。両足を掴んでいた男二人が、足を持ち上げる。露になる秘所。そこに男の指がなぞる。絵里は必死に抵抗した。

「……じっとしろ!」

 男が絵里の頬を平手打ちする。あまりの衝撃に絵里の動きが止まった。男が絵里の秘所に舌を這わせ、秘所を濡らす。男のソレが絵里の秘所に宛がわれる。絵里は歯を食い縛り、目蓋を閉じた。

「止めろ!絵里に触れるな!」

 拘束された慎が暴れる。絵里は慎を見た。目には涙が滲み、口元が動く。

 

『愛してる』

 

 声にならない叫びを上げ、慎が暴れた。それでも拘束の手は緩まず、慎の目にも涙が滲む。絵里の秘所に当てられたソレが数ミリ入る瞬間。勢いよく扉が開いた。

「はぁい、そこまでやで」

 緊迫した雰囲気に似合わない緩い声が部屋に響く。その声の主を一斉に見る。そこにいたのは希だった。張り付いた笑顔の希。絵里は希を見た。その視線に気付く希。絵里の姿を見つめ、希の表情が変わった。今までに見た事もない怒りの表情。

「……ウチ、あんたの事許さへんよ」

 希の言葉に継母が後退りする。

「警察だ。そこを動くな」

 希の後ろから、私服警官がぞろぞろと入り、絵里達をグルリと取り囲む。絵里を掴んでいた両手、両足が解放される。絵里は自分の身体を手で隠す。すると、絵里の側に女性警官が毛布で包み、絵里をその場から連れ出した。部屋から出た絵里を待っていたのは、μ,sのメンバー。絵里は涙を流す。そして、部屋からは希の声が聞こえた。

「ちょっとやりすぎやで。継母さん」

「……私は何もしていないわ。彼らが勝手にした事よ」

「そうは見えへんな。慎君、君ももう少しは抵抗した方がええで」

「…………」

「絵里ちの事、真剣に想っているなら尚更や」

「……あぁ、そうだな。俺がもっとしっかりしないと」

 その言葉に希は微笑む。

「さて、継母さん。絵里ちと慎君の仲、もう邪魔せんでな」

「貴女、何が言いたいの?私は慎の母親よ。干渉して当たり前でしょう?」

「……お前は慎の母親ではない」

 別の声が三人の会話に入る。絵里は後ろ姿を見た。それは慎の父親。

「あなた」

「……親父」

 両者別々の反応。継母は驚きの表情。一方、慎は安堵の表情。

「お前はもう私の妻でもない。赤の他人だ」

 その言葉に継母の表情が変わる。

「あなた、どういう事?私は」

「……お前との離婚は成立した。裁判所からの書面もな」

 そう言って、継母の前に離婚届と裁判所からの書面を見せる父親。継母の顔の色が青くなる。一人の警官がさらに継母の前に紙を見せた。

「罪状だ。誘拐、監禁、婦女暴行未遂。ストーカー行為、脅迫。それと、時田代議士の事務費の横領罪。証拠はすでに揃っている。」

「……私」

「裁判所で会おう」

 警官達が一斉に男達と継母を連れて行く。絵里の前を通り過ぎる瞬間、継母が絵里に飛び掛かったが、μ,sのメンバーが立ち塞がる。

「私達、大事な友達を傷付けた貴女の事、絶対許しませんから」

 その言葉でようやく継母は観念した。そして、無言のまま連れて行かれる。絵里はその後ろ姿を複雑な表情で見送った。

 

 

 

 

 その後は慌ただしかった。絵里と慎は、病院で検査を受けたり、警官に事情聴取されたり、希達に説教されたりと慌ただしく一日が過ぎる。

「絵里、大丈夫か?」

 慎が絵里の身体を抱き寄せる。今、絵里達はマンションにいた。疲れた身体を気遣う慎。絵里は小さく笑った。それでも小刻みに震える身体は正直だ。

「……絵里、俺は誓う。何があっても絵里の側を離れない」

「うん、私も」

 震えていた身体が落ち着く。絵里はゆっくりと目蓋を閉じ、そのまま眠りについた。慎は絵里の寝顔を見つめる。

 

(これからは、何があっても俺が絵里を守る。絵里、愛してる)

 

 眠る絵里の頬にキスを落とした。

 

 

 

 

 数か月後

 

 

 

 

 最近の絵里の顔色は冴えない。いつも蒼白く、フラフラしている。仕事もままならないようで、欠勤や早退が増えていた。いつも通っている居酒屋も最近は行っていない。絵里曰く、匂いで気分が悪くなるそうだ。絵里は気付いていないが、希はすでに知っている。

「……っえ?何を聞くのよ。希」

「せやから、生理来てないんちゃう?」

「…………来てないけど」

 真っ赤な表情で絵里が言う。希はニヤリと笑い。

「赤ちゃん、出来たんやない?」

 数秒の沈黙。

「…………っええ!」

 当事者なのに絵里は驚いた。そして狼狽える。

「……そ、そんな!まさか……」

 徐にお腹を擦る絵里。

「一度産婦人科に行ったらええやん。慎君について来てもらえば?」

「う~ん、慎に来てもらっても」

「そやな、男の人はいざって時に慌てるもんな」

「でしょう?」

 絵里と希は笑い合う。

「それなら、希。一緒に来て?希もいずれ行く事になるんだし?予行練習と思って……ね?」

 絵里の提案に、希は小さく笑う。

「しゃあないやぁ」

 そう言って、小さく溜め息をついた。




 とりあえず、絵里編は終わりです。次回は慎編です。


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新しい旅立ち~慎編~

 慎編です。慎のお父さん、もっと書きたかった。


 継母が逮捕されてから数日後

 

 

 

 

 慎は実家がある福岡に来ていた。理由は父親に会う為である。閑静な住宅街に一ヶ所だけ大きな門と塀に囲まれたその場所が、慎の実家。慎は門の正面にタクシーを停め、門へ近寄る。

『お帰りなさい。慎お坊っちゃま』

 インターホンのスピーカーから年配の女性の声がすると、それと同時に門の扉が開く。慎は無表情のまま中へと入っていった。

 

(相変わらず広いな、この庭は)

 

 門から玄関の入り口まで数十メートル。ようやく玄関に辿り着くと、すでに一人の女性が慎を待っていた。

「慎お坊っちゃま」

「愛ちゃん、久しぶり。見ない間に老けたな」

「……その口振り、慎お坊っちゃまは相変わらずですね」

 愛と呼ばれたその女性が呆れた表情で言う。年の頃は六十代くらいの少し小太りの女性。彼女はこの時田家の使用人である。

「愛ちゃんとゆっくり話したいんだけど、今は親父に用があるんだ。いるんだろ?」

「ええ、旦那様は書斎でお待ちしておりますよ」

「分かった。ありがとう」

 慎は彼女に微笑むと、書斎に向かう。途中、彼女に向き直り。

「そうだ。あとで俺の部屋にいつもの持って来て」

「畏まりました」

 慎の言葉に、彼女は恭しく頭を下げた。

 

 

 

 

 慎は書斎の前で静かに深呼吸した。そして、ノックする。扉の向こうで父親の声がした。慎は部屋の中に入る。父親は大きな椅子に深々と座り、慎を待っていた。

「数日振りだな。元気にしていたか?」

 父親が言う。

「ああ、お陰様で元気だ」

 慎は頭を掻きながら部屋の真ん中に置かれている椅子に座る。父親と向かい合う形だ。

「絵里さんは?どうした?」

「絵里は仕事だよ。なかなか都合がつかなくて来れなかった」

「そうか」

 父親は小さく溜め息をつく。慎はただ黙って父親を見つめた。父親は一度、目蓋を閉じると今度は深く深呼吸し、慎に視線を向ける。

「慎、今まで済まなかった。私が至らぬ為に、お前だけでなく、絵里さんにも迷惑掛けた」

 そう言って、頭を下げる父親。慎はその姿をただ見つめた。

「アレはもう私達の前に現れる事はない。私の友人達にアレの処罰を頼んだからな」

 父親は複雑な表情で言う。

「親父、お袋の事。今も大事か?」

「……何だ。唐突に」

「教えてくれ、本当はどうなんだよ」

 真剣な表情の慎。父親はその真剣な表情の慎を見つめ、小さく頷く。

「私は、お前の母を愛している。それは今でも変わらない。…………あの時、私はどうしてあんな事をしたのか、分からないんだ。代議士になって周りから羨望の眼差しを向けられ、自惚れていたんだろう。アレに唆され、私はその言葉を信じてしまった………その結果が今回の事を招いたのは事実だ」

「…………」

「私が言うのも何だが、お前には幸せになってほしい。私が出来なかった幸せな家庭をお前には築いてほしい。それが私の願いだ」

 父親の目にはうっすらと涙が滲んでいる。慎は驚いた。初めて父親が泣いている。

「なら、絵里との結婚認めてくれるのか?」

「……認めるも何も、私は反対する意思はないぞ。そもそも、アレのせいで女性アレルギーになったお前が、唯一触れられる女性だぞ。奇跡だ」

 歓喜の声を上げ、父親が熱弁する。慎は唖然としていた。父親の話は続く。

「出来れば早く孫の顔が見たい。絵里さん、美人だから産まれてくる子も勿論、美人だろうな」

「……女が産まれるとは限らねぇよ」

「それもそうか。しかし、男ならイケメン確定だな」

 楽しそうに言う父親。慎は呆れながらも笑っていた。

 

 

 

 

 福岡から帰ってくると、慎は絵里のマンションに向かう。絵里に連絡は入れていない。しかし、慎が絵里の部屋の鍵を開けると、漂ってくる美味しそうな匂い。慎は匂いに誘われ、キッチンに向かう。

「慎、お帰りなさい。」

「俺、帰る時間言ってなかった筈だけど?」

「……ふふふ、どうしてかしら?帰ってくる感じがして」

 絵里の言葉に慎は。

 

(なんか、良いなぁ。)

 

 慎は沁々感じた。その日の夜。慎はいつもより優しく絵里を抱いた。絵里の身体を気遣い、欲望のまま抱く事はしない。絵里の方は、慎の深い愛撫に乱れ、腰はユラユラと揺らめく。気持ち良さで歪むその表情が色っぽく、慎は深く貫いた。

「……んん、気持ち……い……」

 絵里の腕が慎の首に絡み、キスをねだる。舌を絡め合う二人。慎は絵里の中がいつもよりきつく、子宮の入り口が近い事に気付く。少し深く入れるだけで、慎のソレの尖端と子宮の入り口がキスをする。慎は何度も子宮と尖端をキスさせた。すると、絵里の中が蠢き、射精を促す。絵里は掠れた声で喘いだ。

「……やぁあ……もう………イッちゃ………いやぁあ」

 絵里の身体が痙攣した。慎は絵里の締め付けを感じながら、子宮の入り口に思い切り尖端を押し付け、白濁の液を流し込んだ。

 

 

 

 

 数か月後

 

 

 

 

 ここ数日、絵里の態度がおかしい。慎はそう感じていた。最近、表情も冴えない。いつも蒼白く、気分が悪そうだ。

「大丈夫か?一緒に病院に行こうか?」

「……大丈夫よ。あともう少しで良くなる筈だから」

 どうやら、病院には行ったらしい。それでも慎は心配だった。ある日、絵里が仕事でいない時、慎は何気無く絵里の本棚に置かれている雑誌を手に取る。その雑誌は、結婚専門誌。さらにその横には赤ちゃん関連の雑誌が幾つかあった。

 

(……もしかして、妊娠したのか!?)

 

 慎は驚いて、雑誌を落とした。数日後、慎の手には小さな箱が握られている。絵里は台所で洗い物をしていた。慎は小さく深呼吸。

「絵里、こっちに来て。話がある」

「……どうしたの?」

 不思議そうな表情で絵里が慎の側に来た。慎は無言で小さな箱を絵里の目の前に差し出す。

「何よ、これ?」

「開けてみて」

 絵里は怪訝な表情で小さな箱を開けた。中に入っていたのは、シルバーリング。絵里は両手で口元を隠した。

「……絵里、前に一度、プロポーズしたけど」

 そう言って、絵里の前に膝をつく。

「改めて言わせて、俺と結婚して下さい」

 慎は絵里を見つめる。絵里は小さく震え、少し頬を染めていた。ところが、呆れた表情に変わり、溜め息をつく。慎は絵里の行動に狼狽えた。

「……慎、もしかして覚えていないの?」

「?」

「やっぱり覚えていないのね………仕方ないわよね。だって、慎。酔ってたから」

「……っえ?何、何が?」

 狼狽える慎。絵里は小さく笑い、そして溜め息をついた。

「慎が実家に行く前の日よ。慎、お義父様に会うのが恐いって。緊張するからお酒飲みたいって」

 絵里に言われて、朧気に思い出す慎。

「お義父様に反対される前に籍を入れようって話したでしょ?思い出さない?」

「……ああ!?」

「ふふ、ようやく思い出したのね」

「それじゃ」

 絵里は微笑む。

「時田絵里になってるのよ。私達はもう夫婦なの」

 絵里の言葉に慎はその場に座り込む。絵里は慎の横に座った。

「結婚式は少し先になるけど」

 絵里が言う。慎は絵里を見つめた。

「……妊娠、したんだろ?」

「気付いていたの?」

「絵里が仕事に行ってる時にたまたま見つけたんだ」

 そう言って、絵里の本棚に視線を送る。絵里は一瞬驚いたが、すぐに微笑み。

「名前、決めないとね?」

「ああ、そうだな」

 そう言って二人は微笑み合った。




 次回は、希と聖の話がメインになります。ちなみに、μ,sの再結成あるかも!


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一緒になりたくて~希編~

 さて、今回は希編です。


 最近、希は悩んでいた。悩みの種は、勿論、聖である。聖は希と二人きりになると、よく甘えてきて、隙をみせると、希の乳房に吸い付いてくる。別にそれが悩みの種ではない。何が悩みの種かと言うと、希の仕事場まで来る事だ。

「慎は性欲が強過ぎて大変だったけど。和久井君は、また違った意味で大変ね」

 少し大きくなったお腹を撫でながら、絵里が言う。今、希と絵里は『花陽の食卓』でのんびりとコーヒーを飲んでいる。絵里の方はお腹の赤ちゃんを気遣って、カフェインレスのコーヒーを飲んでいた。いつも夜に来ている『花陽の食卓』は、最近は妊婦である絵里の為に、昼間に来ている。夜、仕事帰りのサラリーマンやOLで賑やかな店内。日中は絵里達と年頃が近い、主婦層が多い。二人は小さく溜め息をついた。

「そうなんよ。別に甘えて来る分にはええんやけど、仕事場に来るのはさすがに困るんよね」

 呆れた表情で希はそう言った。慎と同じで、女性に対しての不信感は、今もあるようで、希以外の女性には、近寄れない聖。

「患者さんの中には、女性の患者さんもおるから」

 心理カウンセラーをしている希。患者の悩みを聞き、一緒に解決法を考える必要性があるのだが、患者の個人情報を聞かれても困る。

「和久井君には言ったの?」

「言うには言ったけど。うちから離れたくないって言うんよ」

「……和久井君、不安感があるのかしら?」

「聖君が?」

 絵里の言葉に、希の表情が変わる。

「そう、不安感。私の考え言っても良いかしら?」

「ええよ」

「和久井君、今まで自分の内面を見てくれる女性がいなくて、女性に不信感を抱いた。そこに、その内面を受け入れてくれる希が現れた」

「…………」

「でも、和久井君は自分自身に自信が持てていないのよ。だから、もしかしたら自分は希に捨てられるって思っているかも知れないって事」

 そう言われて、希の表情が驚きに変わる。

「絵里ち、意外と心理カウンセラーになれるんやない?」

 希の言葉に絵里は微笑む。

「恋は盲目。希、和久井君の事になると、周りも見えなくなっているのよ。まあ、その分だと、希も和久井君にゾッコンって事なのね」

 今の言葉で、希の顔が真っ赤に染まった。普段見せない希の表情に、絵里は満足そうに笑う。

「今日は良いものを見られたわ」

「…………やられた」

 希は悔しげに言ったのだった。

 

 

 

 

 数日後

 

 

 

 

 聖は希を後ろから抱き締めている。希の方は、黙々と心理学の本を読んでいた。聖の腕がするりと服の中に入り、二つの大きな乳房を揉む。

「……ちょっと、今ウチ忙しいんや。やめて」

「…………」

 聖は無言で希から離れる。そして、寝室へ消えた。希は溜め息をつく。本を綴じると、同じ様に寝室へ向かった。ベッドに腰掛けて、聖はスマホを弄っている。希は聖に近付いた。

「……なあ、希ちゃん」

「何?聖君」

 スマホから視線を外して、希を見つめる聖。

「俺達、別れようか」

 聖の言葉に、希の心臓が軋む。急激に血の気が引く。

「……な…に……言うて…」

「俺さ、考えたんだ。俺、希ちゃんに迷惑しか掛けてないって」

「…………」

「だから、別れよ?」

 希の表情は暗い。無言で聖を見つめている。聖は希の横を通り過ぎ、荷物を纏め始めた。そんな聖の後ろ姿を黙って見ている希。

「…………聖君、本当。勝手やな」

 暗い声に、聖は振り向いた。希の表情は怒りに満ちている。ただ、目には涙を浮かべ。

「……希ちゃん」

「確かに、仕事場に来られるのは、正直しんどいよ?でも、迷惑なんて。ウチは一度も思った事ない」

 希は一度、深呼吸する。

「絵里ちが言うてた。聖君、自分に自信がないって。不安なんだって」

 聖は何も言えない。

「どうすれば自信がつく?不安は無くせる?ウチな、考えたんよ」

 希は聖に近付いた。そして、手を繋ぐ。

「聖君、ウチと結婚して」

「……っぇえ!?」

 希の予想外の言葉に、聖の声が上擦る。希は聖の腕を引き、ベッドに押し倒した。希は馬乗りになる。

「……聖君返事は?」

 唖然としている聖。希はどんどん自身の服を脱ぎ捨て、聖の上着に手を伸ばす。

「希ちゃん、本気?」

「ウチはいつも本気や。特に聖君に関してはな」

 そう言って微笑む希。その表情はとても色っぽく、妖艶だ。聖が希の身体をひっくり返し、今度は聖が上になる。

「……後悔しない?」

「どうして?」

「だって、俺こんなだし。頼りないよ」

 希は吹き出す。

「そんなん、初めから知ってるやん」

「本当に、俺と結婚してくれるの?」

 聖の瞳には、まだ不安が入り交じる。

「その気がなかったら、ウチからプロポーズせぇへんで」

 優しく微笑む希。ようやく、聖の不安は和らいだ。希の首筋にキスを落とし、服を脱ぎ捨て、二人は産まれたままの身体になる。そして、重なりアツく濃厚な夜を過ごした。

 

 

 

 

 数か月後

 

 

 

 

「希、そろそろ準備出来たか?」

「……ちょっと待って。聖、女には時間が必要なんよ」

 今、二人は聖の実家に挨拶に行く為、慌てて準備している。

「もう、聖ったら。早めに予定言ってくれんと」

「ごめん、忘れてたんだ」

 いつも二つに結ぶ髪を一つに束ね、横に流す。希は明るめのメイクで、可愛らしい。聖はそんな希に見惚れながら、希の手を取った。あの日から二人はちゃん、君付けを止め、名前で呼び合っている。

「聖のご両親に会うの、今から緊張するわ」

 胸に手を当て、何度も深呼吸する希。そして、それを見つめる聖。二人の表情はとても幸せに満ち溢れていたのだった。




 次回は、聖編です。これで、二人の話は終わります。

 が!?しかし。これで終わりではありません。実は、このまま第2章に突入します。出てくるメンバーは、ラブハンターの三組と花陽、真姫、海未の話です。

 一話、あらすじに使用しますので、ご了承下さい。


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次のステップへ~聖編~

 さて、希と聖の話も終わりです。


 ある晴れた日の午後

 

 

 

 

 穏やかな風が吹く昼過ぎ。聖は白い袴を着ていた。今日は待ちに待った希との結婚式。聖は神妙な面持ちで、生涯の伴侶となる希を待つ。

「……聖、花嫁の準備が出来たぞ」

 ゆっくりと襖を開け、そう言って部屋に入ってきたのは慎である。聖は振り返った。お腹が大きくなった絵里の手に引かれ、白い花嫁衣装に身を包んだ希が部屋に入る。聖と希はお互いを無言で見つめた。

「……聖、カッコええよ」

「希もな」

 お互い、頬を染めながらそんな事を言う。そんな二人を絵里も微笑んで見ていた。

 

 

 

 

 二人の結婚の儀は晴れやかに行われ、その後の結婚披露宴は、盛大だった。招待客に呼ばれたのは、ラブウルフのメンバー。μ,sのメンバー、両家の親族。そして、学生時代の友人達だ。二人の門出をみんなが祝福する中、当の聖は少し表情が固い。その理由は、一週間前に遡る。

 

『聖、ウチ達は夫婦になるんよ?聖は一家の大黒柱になるんよ。この意味分かる?』

 

 何気ない会話の中で、投げ掛けられた希の言葉。この言葉に、聖はすぐに理解する。希と結婚し、夫婦になるという事は、いずれ二人の間に新しい家族が増えるという事。つまり、守るモノが増えていくという事だ。希は、聖の『女性に対しての不信感を無くしたい』と思っているのだ。当の聖自身も克服したいと思っている。同じ様に女性アレルギーで悩んでいる慎もそれには賛同し、一緒に取り組みだした。しかし、数年間募らせ続けた不信感を数日で改善する事など出来る筈もなく。聖は悩んでいる。

「急に変わる訳ないやん?ウチだってそれなりに分かってるつもりなんよ」

 披露宴が終わり、二人は新居にタクシーで向かう。希は聖の手を取り言う。希の温かな手の温もりを感じながら聖は深く溜め息をついた。

 

 

 

 

 一ヶ月後

 

 

 

 

 聖は産婦人科の新生児室の前に立つ。大きなガラス越しに、産まれたばかりの赤ちゃんがスヤスヤ寝てる。聖の目の前で眠っているのは、慎と絵里の愛の結晶。まだ目も開かないその赤ちゃんは、金髪で絵里の遺伝子を受け継いでいる。聖は食い入るようにその赤ちゃんを見つめた。

 

(俺も早く子供が欲しい。……俺は)

 

 聖は静かに決意する。そして、その決意は聖の精神を強くさせた。月日が経つにつれ、聖を成長させていく。μ,sのメンバーや事務所の女性社員、ファンに囲まれ触れられても、もう吐き気は起きない。それから数日後。聖は希をベッドに押し倒す。

「希、そろそろ新しい家族増やさない?」

「……なんやいきなり」

 唐突な聖の言葉に、希は狼狽えた。希の反応に聖は微笑む。

「だって、俺希との愛の結晶欲しいんだ」

 そう言って、希の上着に手を掛けた。希は一瞬唖然とするが、クスリと笑い。

「そうやね。」

 聖の首に腕を回す。ゆっくりと近付く互いの唇。聖と希は見つめ合いながら唇を重ね、同時に目蓋を閉じた。

 

 

 

 

 二年後

 

 

 

 

 今日は音ノ木坂学院の体育館にて、私服の女性達が談笑しながらステージを見つめる。聖と慎、そしてラブウルフのメンバーは、女性達と同じ様にステージを見つめていた。

「これって、何の集まり?」

「さぁ?」

 聖と慎は首を傾げる。

「見てれば分かるよ。」

 二人の後ろに宗次郎が立つ。二人は宗次郎を見ると、再びステージを見る。しばらくして、暗転する体育館の中。そして、ステージに灯りが点く。ステージに立っていたのは、μ,sのメンバー。可愛らしい衣装に身を包んだ希と絵里。二人は驚きで言葉も出ない。

「あれが、君達の大切な人のもう一つの姿だよ」

 宗次郎が言う。二人が見つめる中始まる、μ,sのライヴ。キラキラした表情の希と絵里。そして、女性達の歓声に、聖と慎、ラブウルフのメンバーは心を打たれたのだった。




 今回は短く纏まりましたが、このまま第二章へ続きます。次回はお知らせした様に、第二章のあらすじと出てくる人物の詳細を書きますので、宜しくお願いします。


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第二章

 第二章のあらすじと出てくる人物の詳細です。


 あらすじ

 

 

 

 

 μ,sのライヴから数日後。ラブウルフのメンバーはアイドルとしての再スタートを始める。しかし、またしても残りのメンバーの問題がグループの存続を阻む。

 大量の買い物袋に途方に暮れてる花陽の前に、土井晃太郎と名乗る男性が救いの手を差し伸べる。無口で無表情の晃太郎に、花陽は怯えるものの、時折見せる笑顔に心惹かれ、やがて二人は交際する。

 

 一方、ラブウルフの作詩、作曲を提供する海未と真姫は、ラブウルフのメンバー、新田紡と小林絆の二人に翻弄される。引っ込み思案の紡に、優しく接する海未。人見知りの紡は、海未の優しさに惹かれ、心を開いていく。

 

 どこか謎目いた小林絆。真姫は本心が見えない絆に頭を悩ませる。言葉を交わしても、掴み所のない絆。真姫はどうしてもそんな絆を放っておく事が出来ない。不釣り合いな二人の関係は?

 

 

 三組の男女の関係は?メンバーの幸せは訪れるのか。グループの存続はどうなるのか?

 

 

 

 

 人物の詳細

 

 

 

 

 土井晃太郎(どいこうたろう) 26歳。出身、東京都。

 

 無口で無表情。言葉は少ないが、困っている人には優しい。花陽の前では、時折笑顔を見せる。実はムッツリスケベ。過去に傷害事件を起こしている。

 

 

 

 新田紡(にったつむぐ) 23歳。出身、大分県。

 

 グループの最年少。心に傷を持ち、人前に出る事を拒む。過去の出来事で、トラウマを抱える。にこにスカウトされ、トラウマを克服しようとグループのメンバーになる。引っ込み思案の人見知りで絆以外とはなかなか心を開けない。

 

 

 

 小林絆(こばやしきずな) 25歳。出身、千葉県。

 

 グループの中で一番掴み所のない人物。自分の本心を見せる事もなく、また仲の良い紡にも自分の話を一切しない。謎の多い絆。真姫の言動に興味をみせ、次第に真姫の側にいつもいるようになる。

 

 

 

 

 補足として

 

 

 

 

 にこ、ことり、穂乃果、凛のお話はありません。理由は、既婚者なので。にことことりは苗字が変わっているので、みなさまお分かりかと思います。穂乃果の場合は、穂むらを継いだので婿養子を迎えて、苗字は変わっていません。凛に関しては、アメリカ人の旦那さまで、日本で活動する際は星空凛のままです。

 

 ちなみに、話の中でμ,sのメンバーは出てきます。その際、四名の旦那さまが出るかは、話の流れ具合で。にこの旦那さま、桂木宗次郎は他の旦那さまに比べてよく出ると思います。作者としては、出したいところですが。話の纏まりが無くなるのは……。とりあえず、今は伏せておきます。




 次回から、第二章スタートします。始めは、花陽と晃太郎のお話です。


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出逢いは必然

 第二章のスタートです。


 ある日の夕方。大量の買い物袋を道端に置き、花陽は途方に暮れていた。買い物袋の中身は、花陽が切り盛りする居酒屋『花陽の食卓』で使う食材だ。いつもなら配達業者の人が配達してくれるのだが、ここのところ来客が増えて、仕入れ数が足りなくなったのだ。しかも、今日に限って、配達業者が忙しく食材の在庫が無くなっていた。花陽は近くのスーパーに走り、大量の食材を買う。ここでタクシーを使えば良かったのだが、花陽はうっかりしていた。

「……うぅ、携帯持ってくれば良かった」

 半泣きで一人立ち尽くす。肩を落とし、しゃがみ込む花陽の背後に、人の気配がした。花陽は振り返る。夕日の明かりで、その人物がよく見えない。ただ、とても身長の高い男性だという事だけは分かった。男性の手が買い物袋に伸びる。花陽は咄嗟にその男性の腕を掴む。

「…………」

「……あの…困ります。これは私の」

「……持つの手伝う」

「……っえ?」

 男性は一言言うと、ほとんどの買い物袋を拾い上げた。花陽は驚いた表情で男性を見る。男性の眼差しは優しい。花陽は掴んでいた手を放し、立ち尽くす。

「………どこに運べば良い?」

 無表情の男性が言う。我に帰る花陽。

「……っあ、ごめんなさい。本当に良いんですか?」

「……嫌なら手を出していない」

 男性は視線を反らした。花陽は残り一つの買い物袋を持つと、ゆっくりと歩き出す。男性は花陽と同じ歩幅で歩き出した。花陽は横目で男性を見る。男性の身長は、花陽より明らかに高く、頭一つ以上差があり、体格も服を着ていても分かるくらいがっしりしていた。体育会系だろう。その男性の視線が花陽に向けられる。花陽は瞬時に視線を反らす。

「………あんた」

「っえ?」

「μ,sのメンバーだろ?」

 男性がそう言って、花陽を見つめる。花陽の足が止まった。同じ様に男性の足も止まる。

「どうして知っているの?」

「……この間、ライヴ見た」

 男性は歩き出す。花陽は男性の後を追うように歩き出した。

 

 

 

 

 『花陽の食卓』に着く。花陽は男性と共に店内に入った。相変わらず賑わっている店内。男性は無言でキッチンの厨房に入り、買い物袋を台の上に置いた。

「ありがとうございます。助かりました」

 丁寧に頭を下げる花陽。男性は無言でキッチンを出る。花陽は男性の腕を掴む。花陽に視線を向ける男性。一瞬、花陽は怯んだが、男性の目を真っ直ぐ見つめ。

「運んでくれたお礼がしたいです。」

「………別にお礼はいらない」

「そうはいきません。お礼、させて下さい」

 潤んだ瞳で花陽は言う。男性は始めて表情を変えた。それは困惑の表情。そして、小さく溜め息をつく。

「……分かった」

 そして、席を案内されたのは、絵里達がよく座る角場。母親として、妻として忙しい絵里達は、最近お昼時に来る。夜、この席を使うお客はいない。花陽も何度か他のお客に勧めたが、誰一人使うお客はいない。お客曰く。『あの席は特別だから俺達には勿体ない』っとの事。男性がその席に座る。一瞬、店内のお客の視線が男性に注がれた。男性は気付いていない。それは、他のお客に背を向けていたからだ。勿論、花陽もそれには、気付いていない。

「あの、どれでも好きな品を選んで下さい。」

 そう言って、男性にメニュー表を差し出す。男性は無言でそれを受け取った。そして、無言で『さばの味噌煮定食』を指が示す。花陽の表情は明るかった。

「急いで作ってきますね」

 足取り軽くキッチンに向かう花陽。男性は横目で花陽がキッチンに立つ姿を見つめた。

 

 

 

 

 次の日

 

 

 

 

 花陽は大きなお重箱を両手に抱え、桂木プロダクションの事務室の前で立ち往生する。花陽がここにいる理由、それはこの桂木プロダクションの社長であるにこから、昼食を頼まれたからだ。いつも、小さなお弁当を頼むにこだが、今回は特別らしい。

「どうしよう。両手が塞がって、何も出来ないよ。」

 ずっしりと重みのあるお重箱。次第に腕が疲れてきた。

「……誰か、助けてぇ」

 半泣きで言ってみる。すると、両手の重みが軽くなった。花陽は目を見開く。目の前に立って、お重箱を持ってくれたのは、昨日の男性だった。

「……昨日の」

「あんた、いつも半泣きだな」

 無表情の男性。花陽の手からお重箱を取り上げると、かなり重い筈のお重箱を片手で持ち上げ、事務室の扉を開ける。花陽は呆然としていた。事務室からにこの声がする。

「晃太郎、ありがとう。そこに置いてくれる?花陽、どうしたの?早く中に入って」

 晃太郎と呼ばれた男性は、大きなテーブルの上にお重箱を置いた。花陽はにこに促されるまま部屋に入る。そして、男性と向かい合った。

「花陽、紹介するわ。彼は土井晃太郎、ラブウルフのメンバーよ。それと、そこにいるのは新田紡と小林絆。二人もラブウルフのメンバー。慎と聖は知ってるわよね?絵里と希の旦那」

 事務室の中にいたのはラブウルフのメンバーとにこ夫妻、真姫、海未と凛だった。

「この集まりは一体」

 ?マークを頭に浮かべ花陽は言う。

「この間のμ,sのライヴの打ち上げよ。」

 ウィンクしながらにこが言う。花陽は呆けている。そんな花陽を見つめる晃太郎。花陽はそれに気付かない。そこに絵里と希が入ってきた。勿論、穂乃果とことりも入ってくる。広い事務室で行われる打ち上げ。花陽は飲み慣れないビールをちびりちびりと飲む。メンバーと楽しく談笑。少し暑くなった身体を冷ます為、部屋の隅に移動した。ちょうどパイプ椅子があり、そこに腰掛ける。花陽の横に晃太郎が立っていた。

「……わぁ、いつからそこに」

「…………俺はずっとここにいた」

「……」

 晃太郎の存在に気付かなかった花陽は、頬を染める。

「ラブウルフのメンバーだったんですね」

「…………まぁ、一応」

「μ,sのライヴ、どうでした?」

 恐る恐る晃太郎に尋ねる花陽。晃太郎は視線を花陽に向け、すぐに反らす。

「……良かったと思う。あんた、普段の時とステージに立つ時、全然違うな」

 視線を前にむけたまま晃太郎は言う。花陽はそんな晃太郎を無言で見つめた。




 始まりはこんな感じですね。話が進むにつれて、面白くなると、良いなぁ!


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二人の心情

 前回から時間が過ぎて……

 投稿する時間がないです(泣)でも、頑張ります!


 賑わっている事務室の中、花陽は晃太郎を見つめた。その視線に気付き、晃太郎も花陽を見る。互いを見合う二人。晃太郎の表情が一瞬、動く。花陽はドキリとした。無表情だった晃太郎が少しだけ微笑んでいる。

「……今度はいつあるんだ?μ,sのライヴ」

「…………ライヴはもうしないんです」

 そう言って、視線を床に落とす花陽。

「どうして?」

 花陽の頭上から晃太郎の問い掛け。花陽は視線を落としたまま、小さく溜め息をついた。

「あのライヴは、節目の様なモノだから」

 それを聞いて、晃太郎は花陽から離れた。向かう先はにこ。無言で近付いてくる晃太郎に、にこは怪訝な表情で見つめる。

「どうしたのよ。そんな怖い顔をして」

「社長、μ,sのライヴ。もうしないのか?」

 晃太郎の問いに、にこは腕組、首を横に振る。

「しないわよ」

「何で?すれば良いじゃん」

 にこの言葉に、小林絆がそう言う。晃太郎の表情も同じ意見だったのか、小さく頷いていた。にこは一瞬、驚くも、やはり横に振り。

「この間のライヴは、同窓会の余興みたいなモノだから。今後は無いわよ」

「……っえ?意味が分からないよ。だって、観客いたじゃん」

「あそこにいたのは、音ノ木坂学院のOB、私達の友人達よ」

 慎の口に料理を食べさせながら、絵里が言う。

「でも、あんなにダンスも歌も上手いのに、ライヴしないの?」

「うち達はスクールアイドルやから、音ノ木を卒業した時、スクールアイドルもやめたんよ。にこっちが言ったように、この間のライヴは同窓会の余興」

 すでに酔いが回って、座り込んでいる聖を介抱しながら希は言った。

「ちょっと待って、スクールアイドルってそもそも何?」

 絆の頭に?マークが幾つも浮かんでいる。絆の横にいる紡も同じ反応をしていた。

「……説明するべき?」

 にこはその場にいるμ,sのメンバーに問い掛けた。一瞬、みんなの表情が同じ様に困惑になり、ほぼ同じタイミングで頷く。にこはそれを確認すると、盛大な溜め息をつき、ラブウルフのメンバーにμ,sの話をしたのだった。

 

 

 

 

 一週間後

 

 

 

 

 花陽はいつもの様に、お店の開店準備をしていた。『花陽の食卓』は、朝8時から夜の12時まで開店している。お店の厨房やお客が座る座席。テーブルを拭いたりと朝の仕事は、ほぼ花陽一人でしていた。別に、人件費を削る為ではない。そもそも、お米が大好き過ぎて始めたお店、愛着もある。ご飯に合う料理を作る内に、みんなにお米の素晴らしさを伝えたくてこの『花陽の食卓』を始めたのだ。厨房では、炊飯釜から水蒸気が上がり、花陽の鼻孔を擽る。

「はぁ~、今日も美味しく炊けました~」

 恋する乙女の様に頬を染め、炊き上がったお米の匂いを嗅ぐ花陽。うっとりと幸福感に浸っている。

「……あんた、本当に面白いな」

 花陽の目の前に、朝陽を背にして男性が立っている。花陽は声で、それが誰なのかすぐに分かった。

「……ど、土井さん!?いつからそこに」

「はぁ~、今日も美味しく炊けました~。あたりから」

 その言葉に、花陽の顔は真っ赤に染まり、目には涙が滲む。

「何でここにいるんですか?お仕事は?」

 潤んだ瞳で晃太郎を見つめる花陽。晃太郎はそんな花陽の反応に一瞬固まり、口元を手で隠す。そして、視線を反らした。

 

(…………なんだ、その反応。滅茶苦茶可愛いんだが)

 

 一方、花陽はそんな晃太郎の反応に怯える。

 

(もしかして、怒らせちゃったのかな?私、何かしたの?)

 

 気まずさで無言のまま立ち尽くす二人。晃太郎は、口元に当てた手を退ける。

「……なぁ、あんた一人で準備してるのか?」

 いつも通りの無表情に戻った晃太郎が問い掛ける。花陽は何も言わずただ頷く。

「手伝おうか?あんたさえ良ければだが」

「……っえ?」

 晃太郎の意外な言葉に花陽は反応に困った。花陽を真っ直ぐ見つめる晃太郎。その目は、朝陽で綺麗だった。

 

 

 

 

 数日後

 

 

 

 

「……これはここに置いておけば良いのか?」

「はい、ありがとうございます」

 朝、『花陽の食卓』の開店準備をする二人。数日前、開店準備の手伝いの申し出を晃太郎から受けた花陽は、一瞬躊躇するも手伝ってもらう事にした。理由は男手が必要だった事だ。お店の掃除は大して問題ではない。必要だったのは、お店で使う食材や調味料等の運搬である。配達業者は厨房の途中までしか運んでくれない。業務用冷蔵庫まで運ぶのは自分達でするしかなかったのだ。それを今まで花陽一人でしていた。それが晃太郎の申し出のお陰で、花陽の負担がかなり軽減され、花陽は感謝している。

「あとはこのコンテナだけだな」

 そう言って、晃太郎は肉類と魚が入ったコンテナを持ち上げる。冷蔵庫の中に、種類別に分け入れるとコンテナを外に片付けた。

「ありがとうございます。土井さん、お茶を淹れたので休憩して下さい。」

 そう言って微笑む花陽。晃太郎は花陽を見つめ、視線を反らした。

 

(だから、その笑顔が反則なんだよ)

 

 花陽に今の表情を見られない様に、斜め後ろに視線を向ける。花陽は困惑していた。

 

(……私、何かしたのかなぁ)

 

 晃太郎の反応に、花陽は少し寂しく感じていた。すると、突然晃太郎が花陽に向き直る。あまりに急な動きだったので、花陽はびっくり。目を見開いた。

「…あ…あのさ」

「……は…はい…」

「この間から言おうと思ってたんだけど」

「………何ですか?…」

 晃太郎の言葉に花陽は首を傾げる。

「俺の事、土井さんじゃなくて、晃太郎って呼び捨てにしてくれないか?なんか、気持ち悪くて」

「…………ぇえ!?む……無理です!呼び捨てなんて」

 顔を真っ赤にしながら、両手を顔の前で横に振る花陽。花陽の頭から今にも蒸気が噴き出して来そうだ。

 

(恥ずかしがる反応も可愛い過ぎなんだよ!)

 

 晃太郎の心情など露知らず、花陽はどうしてそんな事を言うのか分からない。

「やっぱりダメか?無理にとは言わないが」

 少し肩を落とした晃太郎を見て、花陽は一瞬我に帰る。

 

(……もしかして、ガッカリさせちゃった?でも、呼び捨てなんて恥ずかしいよぉ)

 

「…急には……無理です…心の準備が」

 言って、一度視線を床に落とし、再度晃太郎に向ける。

「……あの…晃太郎君じゃダメですか?」

 上目遣いでそう訴える花陽。晃太郎の心臓ははち切れそうな程、脈打った。

 

(……っあ、ヤバい。マジでハマるわ)

 

 晃太郎の鼻から赤い鮮血がスッと落ちる。それを見て、花陽は大いに慌てたのだった。




 今回は、花陽と晃太郎の心情が主ですね。晃太郎のムッツリがじわじわと……

 花陽、可愛いからなぁ~。μ,sのメンバーはみんな可愛いんだよね!良い具合にエロくしていきたい(欲望)ウフフ


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急展開な二人

 さて、今回はどう動くかなぁ……。書いてる本人が予測出来てない(汗)


 

 

 晃太郎が花陽のお店の手伝いを始めてから二週間。二人の距離は少しずつ縮まり、周囲から見ても仲が良いと感じられ始めた頃。お昼時にいつもの様に絵里と希がお店に来る。

「……っあ、絵里ちゃん、希ちゃんいらっしゃい」

 笑顔の花陽が二人に駆け寄る。『花陽の食卓』は、夜は居酒屋。昼は定食屋と変貌するお店だ。飲食店では珍しくはないのだが、花陽の作る料理は美味しいと評判になり、時間帯関係なく賑わっている。

「今日も繁盛してんなぁ」

「本当ね」

 店内の様子を見ながら、絵里達がいつもの席に向かう。夜と同様、あの角場は絵里達以外は誰も座らない。昼も夜も他の客の中では『角場は特別席』と認識されているようだった。その証拠に、絵里達が座ると他の客達の表情は明るく、安心感を感じているようだ。

「今日も彼、手伝いに来ているの?」

「晃太郎君?うん、いつも手伝いに来てくれてるよ」

 ほんのり頬を染め、花陽はそう言った。

「花陽ちゃん嬉しそうなや。もしかして、好きになったん?」

 いたずらっぽい表情で希が言う。その言葉に花陽は顔を真っ赤に染める。

「っえぇ!?希ちゃん、いきなり何言い出すの!?好きだなんて、そんなぁ」

 慌てふためく花陽。絵里はそんな花陽を見て、クスリと笑う。

「別に良いんじゃないかしら?お似合いな二人だと思うけど」

 笑顔の絵里。希も何度も頷いている。赤く染まった頬を両手で押さえながら、花陽は口をワナワナと動かし、返答に困っていた。

 

(絵里ちゃんも希ちゃんも何言ってるの~!?お似合いだなんて、晃太郎君は優しいから手伝ってくれてるだけなのに~!)

 

 心の中で反論する花陽。しかし、絵里達はそれを分かっているようだ。二人してニヤニヤしながら花陽を見ている。

「絵里ちゃんも希ちゃんも、私の反応で面白がってない?」

「そんな事ないわよ。ねぇ?希」

「そうそう、花陽ちゃんにようやく春が来たなぁって思ってるだけや。なぁ、絵里ち」

 花陽はそれ以上言うのを止めたのだった。

 

 

 

 

 次の日の朝

 

 

 

 

 今日もいつもの様に開店準備をする二人。しかし、花陽は昨日絵里達との会話を思い出し、挙動不審な動きをとっていた。晃太郎が話し掛けても、何処と無く素っ気ない。さすがの晃太郎もそれには気付いた。

「なぁ、俺何かしたか?」

「……べ、別に」

「だって、明らかにおかしいだろ。何か悪いところがあったらちゃんと言ってくれ」

 花陽を真っ直ぐ見つめる晃太郎。真剣な表情で訴える晃太郎に、花陽は我に帰る。首を思い切り横に振り。

「本当に何もないよ。ごめんね、晃太郎君」

「本当か?」

「うん、本当」

 そう言って微笑む花陽。少し申し訳なさそうな表情。晃太郎は小さく溜め息をついた。

「……花陽がそう言うなら、良いけど」

 肩の力を抜き、開店の準備を再開させる晃太郎。その後ろ姿を、花陽は黙って見つめた。

 

(絵里ちゃん達があんな事言うから、晃太郎君に嫌な思いさせちゃったよ)

 

 小さく溜め息をつく花陽。晃太郎は肩越しにその様子を見つめる。開店準備を黙々と済ませる二人。その間、特に会話はない。花陽は厨房で料理の最後の仕上げをしていた。晃太郎が花陽の後ろに立つ。振り向く花陽。

「なぁ、もしかして、迷惑なのか?俺が手伝うの」

「っえ?どうしてそんな事言うの?」

「だって、今日。ずっと態度がおかしい」

 晃太郎の言葉に、花陽は俯く。晃太郎は溜め息をついた。すると、花陽は顔を上げ、晃太郎を見る。何故か、顔がみるみると真っ赤に染まっていく。

「……昨日ね、絵里ちゃん達に言われたの………その…私が」

 一度視線を床に落とし、何度も深呼吸する花陽。晃太郎は黙って続きを待つ。花陽は俯いたまま口を開いた。

「……私が…晃太郎君の事、好きなんじゃないかって…」

「…………」

 花陽の言葉に、無言の晃太郎。何も反応しない晃太郎に、花陽はゆっくりと顔を上げ、晃太郎を見る。晃太郎の表情は、無表情。花陽と視線が合うと、無表情のまま、真っ赤に染まっていく。突然、花陽に背を向ける晃太郎。花陽はいきなりの行動に驚く。

 

(……やっぱり言わない方が良かったのかな?)

 

 花陽は言葉にした事を後悔する。一方、晃太郎は混乱していた。

 

(……っえぇ!?今、花陽。何て言った?俺の事、好きって言ったか?マジで!?嘘だろ?……ちょっと待て、落ち着け!俺!)

 

 花陽は晃太郎の後ろ姿を黙って見つめる。晃太郎の身体が小刻みに揺れているのに気付いた。花陽は?マークを頭に浮かべる。そして、さっきと同様、突然花陽に向き直った晃太郎に、花陽は再度驚いた。晃太郎の顔は真っ赤だ。表情は少し強張っている。花陽もつられて、同じ様に表情を強張らせた。

「……迷惑だったらごめん。でも、俺の話、聞いてくれないか?」

 緊張の面持ちで口を開く晃太郎。花陽は頷いた。それを確認し、晃太郎はゆっくりと口を開く。

「俺、いつも無表情だし、身体もこんなんだから、みんなに怖がられて、口数も少ないし。好意を持ってくれる女性とか今までいなかったから……その、何て言ったら良いか」

 晃太郎は一度深呼吸する。そして。

「μ,sのライヴ見た時から、ずっと花陽の事見てた。一目惚れってあんな感じなんだな。花陽から目が離せなくて。その……、花陽が良ければ、俺と付き合って下さい」

 右手を差し出し、花陽に頭を下げる晃太郎。花陽の思考は停止寸前だった。

 

(……っえぇ!?晃太郎君が私の事、好きって。一目惚れって、何かの間違い?聞き間違いじゃないの!?……)

 

 頭を下げ、右手を差し出したままの晃太郎を花陽は見つめ。

 

(どうしょう!?この手を取るべきなの?でも、取ったらお付き合いOKって事になるよね?……恋人同士になるの!?)

 

 花陽は心の中で悶絶していた。花陽の反応がない事に、晃太郎は小さく溜め息をつき、諦めた表情で頭を上げる。そこに花陽の潤んだ瞳が目に飛び込んだ。一瞬、晃太郎は狼狽える。

 

(…もしかして、俺。勘違いしてたか?ヤベェ、どうしよう、この手)

 

 晃太郎がゆっくりと手を引こうと動いた。次の瞬間。今までに見た事のない速度で、花陽の手が晃太郎の手を掴む。晃太郎の動きが止まり、花陽も我に帰った。晃太郎が小さく笑う。

「俺はこの手をどう捉えるべき?」

「………うぅ……」

 泣きそうになる花陽。晃太郎は初めて花陽の頭に手を乗せ、軽く撫でた。真っ赤に染まる花陽の顔。

「これからは彼氏、彼女って事で、宜しく」

「…………はい」

 カップルが成立した瞬間だった。




 展開が早くない?って思われるあなた!実は、作者も同じ意見です。花陽と晃太郎、流れが早くて自分もびっくりしてます。さてさて、次はどうなる事やら。


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無自覚な花陽に悶絶する晃太郎

 インフルエンザ等々でなかなか投稿できませんでした(汗)


 カップル成立から次の日

 

 

 

 

 晃太郎は悩んでいた。理由は花陽の事である。男女の交際は勿論、異性に対しての免疫がない花陽。晃太郎とようやく普通に話せる様にはなったものの、時折怯えたように反応する時がある。晃太郎はその事を気にしていた。

 

(今は恋人として振る舞うより、今まで通りの接し方でいくべきか)

 

 そう考える晃太郎。しかし、初めて恋心を抱いた相手なのだ。晃太郎は花陽の言動に胸が高鳴り、悶絶する日々を送る事になる。

「……こ…晃太郎君、これお願い出来ますか?…」

 ほんのり頬を染めて、晃太郎にそう言う花陽。花陽の横には大きなコンテナが二つ置かれている。

「どこに持っていけば良いんだ?」

 晃太郎は花陽に近付き、コンテナを持つ。花陽の大きな瞳が晃太郎を見つめる。晃太郎はドキリとした。

 

(……な、何だ?そんなに見つめられると)

 

 晃太郎は一度コンテナを下ろし、花陽に背を向ける。

 

(うわぁ~!抱き締めたい~!)

 

 晃太郎は無表情のまま、悶絶していた。

「晃太郎君、どうしたの?」

 背後で花陽が晃太郎に声を掛ける。我に帰る晃太郎。ゆっくりと振り向く。困惑顔の花陽。晃太郎は小さく咳払い。

「……悪い。それで、どこに運べば」

「晃太郎君」

 晃太郎の言葉を遮る花陽。その目は少し潤んでいる。

 

(……っえ?何?)

 

 晃太郎は狼狽えた。花陽はゆっくりと手を晃太郎の前に差し出し、手の中にある小さな豆電球を見せる。

「……あの…実は、これを替えて欲しかったんです」

 晃太郎は豆電球を無言で見つめる。そして、花陽を見た。

「……豆電球を替えるのか?」

「はい、私じゃ手が届かなくて」

 そう言って、何故か天井を指差す。晃太郎は不思議に思った。そして、花陽の頬が染まる。

「私の部屋の豆電球を交換して欲しいんです」

 そう言って、俯く花陽。晃太郎はドキリとした。実は、花陽が住んでいる場所は『花陽の食卓』の2階部分。花陽の住んでいる場所は店舗兼自宅である。

「へ、部屋の電球?」

 晃太郎の声が微かに上擦る。俯いたまま花陽は小さく頷く。晃太郎の見ている角度からは、花陽の表情は分からないが、横髪から少しだけ見えている耳が赤い。

 

(……っえ?俺、誘われてる?)

 

 晃太郎の口角が上に上がる。花陽に見られないように、手のひらで唇を隠し、心の中でガッツポーズ。

「分かった。交換するから案内して」

 平静を保ちつつ晃太郎が言う。晃太郎の心情を花陽は知らない。ゆっくりと花陽は顔を上げ。

「ありがとうございます。良かった……。断られるかと思いました」

 可憐な花の様に微笑む花陽。その表情に晃太郎は目眩を覚える。

 

(……か、可愛い!っくぅ~!抱き締めたい)

 

 花陽はポットから鍵を取り出し、厨房の裏口へ向かう。晃太郎も花陽と同じ様に裏口へ向かった。花陽は、厨房の裏口へ出る扉には見向きせず、もう一つの扉に鍵を差し込む。厨房の裏口は店舗の端で、その扉から直角の位置に、もう一つの扉がある。ロックを解除し、花陽は扉を開けた。中に入る花陽。晃太郎も後に続く。扉の向こう側は壁だった。

「晃太郎君、こっちです。」

 晃太郎は声を掛けられた方を見る。右側に階段が見えた。そして、何気に反対側を見る。そこには、もう一つの扉があり、明かりを取り入れる為の小さな硝子がはめ込まれていた。

「……この扉は外に続いているのか?」

 晃太郎が問う。花陽は晃太郎の前を通り過ぎ、その扉を開ける。

「はい、こっちの扉は一応玄関です。でも使っていないんです。」

「何でだ?」

 言いながら外を覗き込む込む。花陽は一度、外に出るとドアノブを指差す。

「この扉、外から鍵が開けられないんです。内鍵らしくて」

 困惑顔の花陽。晃太郎はドアノブを内、外側を見る。確かに、外側のドアノブには鍵穴がない。

「……これは不便だな」

「いえ、不便なんて感じた事無いですよ?」

「どうしてだ?」

「……だって、私。ほとんどお店の中にいるので、厨房の裏口が玄関みたいなものですから」

 その言葉に晃太郎は納得。

「確かに、それもそうか」

 晃太郎の反応に、花陽は小さく笑う。玄関の扉を閉め、鍵を施錠。そして、晃太郎の前を再度通り過ぎ、階段を登り始めた。晃太郎も階段を登り始める。

「そう言えば、靴脱がなくて良かったのか?」

 階段を数段上がった所で、それに気付く晃太郎。

「はい、大丈夫ですよ。」

 階段を登り終わり、再度右側を見る。そこは数メートルの廊下。そして、階段を登りきった場所に下駄箱がある。それの境界線が分かる様に、可愛いウサギの刺繍がある玄関マットが敷かれていた。

「ここで靴を脱いで下さい」

 花陽の指示に従う晃太郎。靴を脱ぎ、花陽の横に立つ。

「ここからが私の家です」

 廊下を先頭で歩きながら花陽が言う。そして、明らかにセキュリティーの高そうな扉の前に立つ。扉のドアノブの上には、指紋照合の装置が付き、花陽が取り出した鍵は特殊な鍵。壁には、警備会社の名が書かれたステッカー。廊下の天井には防犯カメラが目を光らせている。

「……何だか物々しいな」

「常連のお客さん達が付けてくれたんです。女の子の独り暮らしは危ないからって」

 指紋照合と鍵の解除を終わらせた花陽が答えた。ゆっくりと扉を開けると『ピー』と鳴る電子音に『ロックを解除して下さい』とアナウンスが流れる。部屋の中の入り口に靴箱位のボックスがあった。それはセキュリティーボックス。花陽はセキュリティーボックスに鍵を入れ回す。『ロックを解除しました』と再度流れるアナウンス。晃太郎は少し引いていた。

 

(厳重過ぎるだろ)

 

 変な汗を流しつつ晃太郎は部屋の中を見渡す。部屋の中は、花陽のイメージそのまま。可愛い動物のヌイグルミ、パステル系の家具、床に敷かれている敷物は、フワフワしていて、クッションやソファーもパステルピンクのモコモコ。

「……イメージ通りだな」

「っえ?何か言いましたか?」

 晃太郎の一人言に、?マークを浮かべた花陽。

「いや、何も。ところであの蛍光灯か?」

 晃太郎は天井を指差す。そこにあったのは天井にはめ込むタイプの蛍光灯。

「確かに、花陽には手が届かないな」

 蛍光灯の高さは、晃太郎が踏み台に乗って届く高さだった。花陽は晃太郎より頭一つ半くらい小さい。しかも蛍光灯のカバーを外さないと豆電球が取り替えれない。晃太郎は蛍光灯のカバーを外し、豆電球を取り替えた。

「……ん。これ」

 古くなった豆電球を花陽に渡す。花陽はそれを受け取り、微笑む。

「晃太郎君、ありがとう」

 頬をピンク色に染めて、花陽は晃太郎に言った。踏み台を降りかけていた晃太郎は踏み外し、床に落ちる。

「晃太郎君!?」

 

(……不意打ちのその表情は反則過ぎる!超キスしたくなる!)

 

 床に顔を押し付け、悶絶する晃太郎だった。




 次回は、花陽側です。花陽は晃太郎の事、どう思っているのでしょうか……


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花陽の心~目覚める恋心~

 いや~、今年のインフルエンザ及び風邪、喘息。酷かった~!

 作者、何気に病気のデパートであります!


 晃太郎と交際が始まった数時間後

 

 

 

 

 お昼時、いつもの様に絵里と希が『花陽の食卓』で昼食を取っている。花陽が二人の側に歩み寄った。

「花陽、どうしたの?顔が赤いわよ?」

 絵里の指摘の通り、花陽の顔は赤く、挙動不審だった。どことなく落ち着きがない。希には理由が分かっているようで、微笑んでいる。

「……希、その顔。何か知っているの?」

「それは、うちの口からより、花陽ちゃん本人に聞いた方がええんやない?」

 そう言うと、希は花陽を見る。同じ様に、絵里も花陽を見た。二人の視線に、花陽の顔はさらに真っ赤に染まり俯く。そして、消え入りそうな声で、数時間前の事を話したのだった。

 

 

 

 

 数分後

 

 

 

 

「へぇ~、花陽と土井君がね」

「うちは土井君が、花陽ちゃんの事好きなこと分かっとったよ」

 無言の花陽を見ながら、二人が言う。当の花陽は、耳を真っ赤に染めたまま。そんな花陽に絵里が見つめる。

「まぁ、希なら何でもお見通しなんだろうけど。それより花陽。何か相談事でもあるんじゃないの?」

 澄んだ青い瞳で絵里が言う。希も微笑んだまま花陽を見つめている。

「…………絵里ちゃん、希ちゃん。私」

 頬を染めて、潤んだ瞳で花陽はゆっくりと口を開いた。

「……私、晃太郎君の事。……好きなんだと思います」

「……何だと思うって、好きなんじゃないの?」

 花陽の言葉に怪訝の表情の絵里。希の表情に変化はない。

「分からないんです。晃太郎君と一緒にいるとドキドキするけど、それが好きって気持ちなのか。私分からなくて」

 俯きながら花陽はぽつりと溢した。絵里はそれを聞いて、希を見た。

「……だって、私。晃太郎君の事、まだよく知らない」

 その言葉に、絵里と希は互いに顔を見合わせ、クスリと笑う。そんな二人を見て、花陽は狼狽えた。

「その人の全て知らないと好きになっちゃいけないのかしら?」

「もし、そうだったら、うち達はなんやろうね。」

 二人の会話に、首を傾げる花陽。

「花陽、私と慎の出逢い、話した事あったかしら?」

「うちと聖の出逢いもな」

 絵里達の言葉に、首を横に振る花陽。絵里と希は小さく笑う。

「少し話が長くなるけど」

 そう言いながら、二人は笑っていた。

 

 

 

 

 次の日

 

 

 

 

 花陽は晃太郎を初めて、自分の自宅に招き入れた。『部屋の豆電球を交換して欲しい』なんて、ただの口実だ。本当の目的は、もっと晃太郎の事を知りたいと思ったから。花陽は、早鐘を打つ胸を抑えながら、晃太郎と会話する。基本的に、晃太郎の表情は無表情。絵里達やラブウルフのメンバーと会話する時も、表情を変える事がない晃太郎。しかし、花陽の前だとその表情は時折変化する。困惑な表情、何か考え事している表情、そして、小さく微笑む表情。そのどれもが、花陽の胸を締め付ける。

 

(どうして、みんな晃太郎の事分からないんだろう?)

 

 花陽は、絵里達に晃太郎の表情について話した事がある。ところが、絵里達には全くと言ってもいい程、誰も晃太郎の表情は無表情にしか見えていないようだ。

「それは、花陽が特別だからよ」

 絵里が言う。希も頷き、お腹を擦っていた。実は、希は妊娠中。

「花陽の話も重要だけど、今は希の事ね」

 花陽の横に座っていた真姫が希を見て、溜め息をつく。今、μ,sのメンバーがいるのは、『花陽の食卓』である。今日、お店は定休日。毎月恒例の女子会だ。

「希、なんでもっと早く言わなかったの?妊娠」

 横目で真姫が言う。希以外のメンバーは、その言葉に希を見た。花陽も心配そうに見る。

「別にええやん。何ともなかったんやから」

「……そうやって、希はいつも」

 真姫の表情は苛立っていた。

「真姫、落ち着いて。それから希。何ともなかったからと言って、秘密にすれば良い問題でもありませんよ?下手すれば、流産してたかもしれないのに」

 海未が、今にも掴み掛かりそうな真姫を止めながら言う。メンバーに流れる不穏な雰囲気。その原因は、同窓会で催したμ,sのライヴ。

「……うちも悪かったって思ってるよ?でも、一度しかない節目の事なのに、うちのせいでライヴしないのはイヤやったんよ」

「だから言わないって言うのは、ちょっとおかしいでしょ?」

「そうだにゃ。言ってくれたら、違うダンス構成も出来たにゃ」

「……そうだよ。希ちゃん」

 μ,sのライヴをした同窓会。希は妊娠三ヶ月だった。その事をメンバーは言っている。希の妊娠を知ったのは、ついさっきだ。本来なら今回、花陽と晃太郎の事を話す予定だった筈で、花陽は正直何を話せばよいのか悩んでいたのだが。希は申し訳なさそうな表情でみんなを見る。今、希は妊娠四ヶ月目に突入していた。

「心配かけてごめんな」

 希はそう言う。メンバーは思い思いに溜め息をつくと、ほぼ同時に花陽を見る。複数の視線を一気に向けられ、花陽は狼狽えた。

「それで?花陽の方はどうなのよ」

 真姫が頬杖をついたまま花陽に言った。真っ赤に顔を染めた花陽。唇がワナワナと動き、言葉が出ない。

 

(……フリーズしちゃったわね)

 

 花陽を見ながら、絵里はそう思ったのだった。

 

 

 

 

 それから二週間

 

 

 

 

 にこの依頼された昼食用のお弁当を持って、花陽は桂木プロダクションの事務所に向かう。長い廊下を歩いていると、ある部屋の中から絵里の声が聞こえた。花陽は表情を明るくさせ、その部屋の扉を静かに開ける。しかし、花陽の手が途中で止まった。花陽の目に飛び込んできたのは、絵里と慎がキスしているところ。花陽は視線を反らす事が出来ず、二人のキスを見ている。何度も触れては離れる二人の唇。やがて、互いに舌を絡め合い、絵里の身体を引き寄せる慎。絵里が慎の肩を優しく掴む。花陽の心臓ははち切れそうに脈打っている。少しずつ後退する花陽。花陽の背は何かにぶつかった。それは、冷たい廊下の感触ではなく、温かな感触。花陽は振り向いた。そこにいたのは晃太郎。花陽の顔が一気に真っ赤に染まり、足は棒の様に動けずにいる。そんな花陽に晃太郎は無言で肩を軽く叩くと、部屋の扉をノックする。ノックに気付き、二人は離れた。

「……今、良いところだったのに、邪魔するなよ」

 不機嫌な表情の慎。絵里は晃太郎の後ろに花陽がいる事に気付く。

「慎、次仕事入っているでしょ?行ってらっしゃい。土井君、慎をお願いね」

 そう言って、慎の背中を優しく押した絵里。慎の背中を押しながら、耳元で何かを囁いている。花陽は絵里のそんな仕草にドキリとした。何故なら、囁いている絵里の表情が、あまりにも色っぽかったからだ。一方、囁かれた慎は、興奮した表情で機嫌良く部屋を出ていき、晃太郎は、絵里に小さく頷くと、一瞬花陽を見て、無言でその場を後にした。しばらくの静寂。

「花陽、入って」

 絵里の声が優しく廊下に響く。花陽は早鐘を打つ胸を抑え、ゆっくりと部屋の中に入った。パイプ椅子に座っている絵里。絵里の横に、同じ様にパイプ椅子が置いてある。絵里は手招き。

「花陽、ここに座って。私とお話ししましょ?」

 微笑んでいる絵里。花陽は恐る恐る座り俯く。

「さっきの見てたでしょ?」

「…………」

 無言は肯定だ。絵里が小さく笑う。

「どうして何も言わないの?」

「……私、その……見るつもりなかったの。絵里ちゃんの声が聞こえたから」

 声が上擦る花陽。

「別に見られたからって、私は怒っていないわよ?」

 絵里の言葉に、花陽は顔を上げ、絵里を見る。絵里の表情は穏やかだ。

「怒っていないの?見られて恥ずかしいとか思わないの?」

「どうして?」

「……だって、私だったら恥ずかしくて」

「そうね。周囲から見て恥ずかしいかも知れないけど。あの時の私は慎しか見えていないから」

「っえ?」

「キスしてる時もだけど、慎と二人きりの時は慎しか見えていないの」

 絵里が微笑む。その表情は妖艶で、花陽は目が離せなかった。

「花陽もすぐに分かるわ。だって、土井君を見つめる時の花陽。私と同じだもの」

 そう言われて、花陽の顔が真っ赤に染まり、頭から蒸気が吹き出したのだった。




 花陽もそうだけど、絵里の半端ないエロさ!鼻血が吹き出る!


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初めてのデート

 前回からかなり空いてしまいました。申し訳ありませんm(__)m


 心地好い風が、淡いピンク色のワンピースを揺らす。パステルイエローのカーディガンに、小さめのカバンを両手で持ち、某水族館の入り口で花陽は頬を染めて立っていた。今日は、晃太郎との初めてのデート。まるで、身体全体が心臓になったかのように脈打つ花陽の心臓。しきりに腕時計を見ては、自分の服が気になり。

 

「変じゃないかなぁ」

 

 と呟く花陽。何度も深呼吸を繰り返し、その度に恥ずかしさで卒倒しそうになる。花陽は誰に言うわけでもなく、ブツブツと呟いていた。

「……何してんだ?」

「……ひゃあ!?」

 背後から声を掛けられ、花陽は身体をびくりと飛び上がらせ、ゆっくりと振り向く。赤いチェック柄の上着に、白のVネック、黒いジーンズ姿の晃太郎が立っていた。特にお洒落な格好という訳ではなく、ラフな服装なのに、花陽の目には格好良く見える。

「……晃太郎君」

 花陽が晃太郎を見る。口元を隠し、上目遣いの花陽。

 

(……か、可愛い…。抱き締めてぇ)

 

 無表情のまま、晃太郎の内心は悶えていた。硬直した晃太郎に、花陽は小さく首を傾げる。我に帰る晃太郎。小さく咳払いすると、手を花陽に差し出した。

「……っぇ?」

「……手、繋がないとはぐれるかも知れないだろ?」

 視線を反らしながら晃太郎が言う。花陽はその言葉に頬を染めながら、ゆっくりと手を繋ぐ。晃太郎はしっかりと握り返し、指を絡めた。その絡め方に色気を感じた花陽。恥ずかしさで頭から蒸気が吹き出している。

 

(……その反応も可愛い!)

 

 平静を保ちつつ、晃太郎は歩き始めた。俯いたまま花陽も歩く。入り口近くの売り場で、入場チケットを購入し、晃太郎は花陽の手を引きながら水族館に入っていく。水族館の中は沢山の人で溢れていた。カップルや小さい子供連れの家族。女子高生のグループ、年配夫婦。気ままに一人で来ている人も。沢山の人が思い思いに水中の生物を見ている。花陽達もその中に混じって大きな水槽を見ていた。キラキラとライトに照らされて、水槽の中は不思議な空間になる。大きなジンベイザメが二人の前を横切っていく。ふと、晃太郎は花陽を見た。淡い蒼の色に染まった花陽。晃太郎の心臓が早鐘を打つ。

 

(……あぁ、綺麗だ)

 

 見惚れる晃太郎。花陽が晃太郎の視線に気付き、視線を向ける。晃太郎の真剣な表情。晃太郎の瞳に吸い込まれる様な感覚に、ゆっくりと花陽の身体が近付いていく。二人の顔が少しずつ近付き、ピタリと止まった。花陽と晃太郎は同時に顔を横に向ける。すると、複数の視線が二人に集中していた。一気に真っ赤に染まる花陽。晃太郎の方に視線を向けると、晃太郎の表情は無表情。しかし、耳だけは真っ赤になっていた。

 

(……っあ、晃太郎君も恥ずかしいんだ)

 

 花陽は嬉しくなった。それは、晃太郎の気持ちが段々分かっていく事に。晃太郎の方は軽くパニックになっていた。

 

(やべぇ、恥ずかしい)

 

 晃太郎の手が引かれる。晃太郎は花陽を見た。真っ赤に染めたまま、晃太郎の手を引き、その場から離れる花陽。二人は見つめ合う。そして、クスクス笑い合った。イルカショーを見て、一通り水族館を見て回ると、近くのファミレスで昼食を取る。

「……花陽の料理の方が美味い」

 ポツリと溢す晃太郎。花陽は何度目かの頬染め。

「……っあ、ありがとうございます」

 照れながら言う花陽に、晃太郎の表情が緩む。それを見て花陽の表情も緩んだ。

「……今日、お店開けるのか?」

「はい、そのつもりです。」

「花陽が良ければ、手伝いたいんだけど」

 その言葉に、花陽は一度目を見開き、すぐに微笑む。

「はい、お願いします」

 花陽が笑みを絶やさず言う。晃太郎の目には、花陽の周りに花畑が見えた気がした。そして思う。

 

(やっぱり、可愛い……)

 

 

 

 

 

 その日の夕方。二人仲良く手を繋いだままお店に戻った。そしてお店に立つ。晃太郎は、花陽のサポートをしながら、店内を世話しなく動き回る花陽を見つめた。『花陽の食卓』には、数名のバイトの女の子達が、割り振られた仕事をこなしていく。食材を切り、下ごしらえをする者、接客をする者。出来上がった料理を盛り付ける者。みんな、息が合っていて無駄がない。そんな中、晃太郎の担当は、洗い場だった。なぜ洗い場かと言うと、理由は簡単。晃太郎の無表情が原因である。バイトの女の子達は、晃太郎の無表情にようやく慣れてきているが、この無表情では接客は出来ない。そんな訳で、晃太郎は黙々と洗い物を片付けていく。一つの事に集中していた晃太郎。気が付けば、閉店時間になっていた。

「晃太郎君、お疲れ様。もうお店の片付け終わったよ」

 バイトの女の子達を送り出し、花陽が晃太郎に声を掛ける。

「……もうそんな時間か。集中していて気が付かなかった」

 晃太郎の言葉に、花陽はクスクスと笑う。晃太郎は花陽を見つめた。二人の視線が絡み合う。

「…………」

「…………」

 無言で見つめ合う二人。ゆっくりと晃太郎の顔が花陽に近付き、互いの唇があと数センチのところ。花陽が顔を隠す。花陽の耳は真っ赤だ。

「……嫌、だったか?」

「ち、違うんです。心の準備が出来ていなくて」

 言いながら首を横に振る花陽。どうやら、本当に恥ずかしかったようだ。晃太郎は小さく溜め息をつく。

「悪かった。」

 一言だけ言うと、晃太郎は店を出ていく。花陽はその場に呆然と立ち尽くすのだった。

 

 

 

 

 次の日のお昼。花陽が絵里達にこの事を言ったのは、言うまでもない。




 次回は、言うまでもなく、絵里達が出てきます。花陽と晃太郎、進展するかなぁ……


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初めての……

 前回よりかなり時間が過ぎました。リアルが忙しいっと言うより、色々ありすぎて……。


 次の日『花陽の食卓』にて

 

 

 

 

 絵里と希がいつもの時間にお店に来る。そして角場へ。花陽は頬を染めて二人に近付いた。

「花陽、どうしたの?顔が赤いわ」

 少し挙動不審な花陽に絵里が言う。希の方は、どうやら気付いているようだ。

「花陽ちゃん、土井君とはキスできたん?」

 ニヤニヤした顔で希が言う。花陽はその言葉で一気に頭から蒸気が噴き出す。

「……希…ちゃん!?」

「その反応を見る限り、まだみたいね」

「絵里ちゃんまで!?」

 花陽の反応を、二人は悪戯っぽい表情で見ている。花陽の口がまるで池の鯉の様にパクパク動き、身体が固まった。二人はさらにクスクス笑う。

「どうしてキスしなかったの?」

 絵里が微笑みながら言う。絵里の言葉に、花陽は俯き。

「………は…恥ずかしくて」

「どうして?恥ずかしがる事ないでしょ?」

「そうやん、土井君の事好きなんやろ?なら、すればええやん」

 花陽は、一度二人を見ると視線を反らした。

「……だって、どんな顔して良いか分からなくて」

 花陽の言葉に首を傾げる二人。

「変な顔してるかも知れないし」

 その言葉に沈黙。突然、吹き出すように笑う二人。二人の反応に花陽は狼狽えた。

「そんな事、気にしていたの?」

「花陽ちゃん、可愛ええなぁ」

 二人の言葉に、花陽は顔を真っ赤にするしかない。絵里と希は微笑みながら花陽を見つめ。

「花陽、何も考える必要はないわ」

「そうや。花陽ちゃんはただ目を閉じて待っていればええんよ」

「……でも」

 言いかけた花陽の唇に、絵里の細くて綺麗な人差し指が触れた。

「大丈夫よ。花陽は土井君を信じて待てば良いのよ。ちゃんと目を閉じてね」

 ウインクしなが絵里は言う。その仕草が色っぽく、花陽絵里に見惚れながら、無言で頷いたのだった。

 

 

 

 

 その日の夜。

 

 

 

 

 その日、最後のお客を見送り、花陽は閉店の準備と次の日の下ごしらえを始める。先程まで大勢のお客さんで賑わっていた店内からは嘘の様な静寂。食材を煮込む音と食器を洗う音だけが響く。広い厨房に一人洗い物をする花陽。その背後に、ゆっくりと近付く黒い影。花陽はまだ気付いていない。何かの気配を感じて、花陽は後ろを振り向いた。そこにいたのは晃太郎。花陽が安堵の溜め息をつく。

「どうしたんですか?」

 花陽が無言でその場に立ち尽くす晃太郎に声を掛けた。無言で花陽を見つめ、ゆっくりと近付く。晃太郎の腕が花陽の肩に添えられた。急な事に花陽の身体がびくりと反応する。

「…………」

「…………」

 見つめ合う二人。花陽は思い切り、目を閉じる。しかし、しばらくしても何の反応もない晃太郎に、花陽は恐る恐る目蓋を開けた。

「……お腹空いた…」

 力無く項垂れた晃太郎がポツリと言う。

「……ぇ!?」

「花陽、お腹空いた。何か食べ物ないか?」

「………少しだけなら残っているけど」

「それでいいから、食わせて」

 お腹が空いて覇気がない晃太郎に、花陽は呆然としつつも頷いた。

 

(……キスされるかと思っちゃった)

 

 安堵しながらも、心なしか、少し残念な気持ちになる花陽。考え事をしながらも、しっかりと手元は料理を盛り付けていく。そんな花陽を、晃太郎は黙って見ていた。厨房の隅に立食式のテーブルがある。お昼時や夕食時の忙しい時間に、手早く食事を済ませる為のテーブルだ。勿論、バイトの子達も使う。そこに盛り付けた料理を置く。

「ごめんね。晃太郎君からしたら、量が少ないけど」

「……いや」

 小さく首を横に振り、晃太郎は食事を始める。今度は花陽の方が晃太郎を見つめた。晃太郎の食べ方はとても豪快で、見ていて気持ち良い。頬はぷくりと膨らみ、まるでその姿はリスのようだ。花陽がクスクス笑う。晃太郎は首を傾げながら、視線を花陽に向けた。

「ごめんなさい。何でもないの」

 そう言いながらも花陽は笑う。晃太郎の頬にご飯粒が付いていた。花陽は徐にそのご飯粒を取り、食べた。その行動に固まる晃太郎。花陽も自分の行動に驚いた。気まずい雰囲気が二人を包む。

「……あ…あのさ…」

 晃太郎が躊躇しながら口を開く。花陽は視線を晃太郎に向けた。何故か顔が赤い晃太郎。

「……今日、部屋に行ってもいいか?」

「………うん」

 花陽の顔は真っ赤だ。晃太郎は素早く食事を済ませると、流し台に持っていく。使った食器を洗い、二人は二階の部屋へと向かった。部屋の中に入り、花陽は晃太郎をソファーに座らせる。

「飲み物何が良い?お茶?コーヒー?他もあるけど」

「じゃあ、コーヒーで」

 電気ポットにスイッチを入れる。数分も掛からずお湯が沸き、花陽はコーヒーを入れた。コーヒーの入ったカップを晃太郎に渡す。

「ここ、座って」

 晃太郎が指差したのは、勿論。晃太郎の横だ。花陽は恥ずかしがりながらもそこに座る。穏やかな時間が流れ、二人の緊張も緩み始めた。晃太郎が花陽の頬に触れる。

「…………」

「…………」

 花陽の脳裏に、絵里と希の言葉が浮かぶ。

 

『花陽ちゃんは目を閉じて、ただ待っていればええんよ』

『花陽は土井君を信じて待てば良いのよ』

 

 花陽はゆっくりと目蓋を閉じた。晃太郎は狼狽える。今までの花陽の反応は、顔を赤くして、俯いたり。

 

『やっぱり、ダメですぅ』

 

 と、恥ずかしがって逃げていたからだ。花陽の綺麗な顔が目の前にある。震えた様子もなく、キスを待っているその表情は。

 

(……あ、ヤバ…)

 

 晃太郎の鼓動が大きく脈打つ。ゆっくりと近付く二人の唇。そして、初めて触れ合った。花陽の身体は少しだけ反応。それでも逃げたりする素振りはない。晃太郎の方は、抑圧されていた欲望に火がつく。最初、触れ合うだけのキスをしていたが、次第に濃厚になり、今度は花陽の口を開けようと舌が動く。花陽はキスから逃れ様と頭を動かす。晃太郎はガッチリと花陽の頭をホールド。晃太郎の腕が花陽の肩を撫で、胸元に降りていく。花陽の目蓋がそこで開かれた。そして。

 

『パシッ!』

 

 乾いた音が部屋に響く。花陽が晃太郎の頬を叩いたのだ。放心状態の晃太郎。真っ赤な顔で花陽が晃太郎を見ている。

「……花…陽…」

「晃太郎君、怖いよ」

「……ごめん」

「晃太郎君の事好きだけど、今の晃太郎君、いつもの晃太郎君じゃない」

 それだけ言い残し、花陽は部屋を出ていった。その場に一人残される晃太郎。その日、花陽は帰って来なかった。

 

 

 

 

 次の日

 

 

 

 

 晃太郎は二人に呼び出される。その二人とは、絵里と希。呼び出された場所は『花陽の食卓』だ。二人の表情を見る限り、花陽から話を聞いていたのだろう。とても険しい表情だ。

「土井君、座って」

 短めの言葉に、晃太郎は恐怖を覚えた。お店には、絵里と希、晃太郎の三人だけ。どうやら、臨時休業にしたようだ。素直に指定された場所に座る晃太郎。

「今日、呼ばれた理由。分かっているわよね?」

「……ああ」

「どうして胸触ったの?」

「…………っえ!?そこ?キスした事じゃなくて?」

 絵里の問いが、晃太郎には意外だった。

「キスは良いのよ。花陽も嬉しかったみたいだし」

「せやな。舌を入れられたのはちょっと驚いたみたいやったけど」

 腕組して頷く希。絵里が小さく溜め息をつく。

「その後が頂けなかったわね。いきなり胸はダメよ」

「……いきなりじゃなければ良いのか?」

「段階ってもんがあるんよ。花陽ちゃんの場合は恋愛初心者なんやから」

 希の言葉に、晃太郎は溜め息をついた。

「……俺だって、恋愛初めてだし」

 晃太郎がポツリと言う。絵里と希は互いの顔を見合わせ、クスクス笑う。晃太郎はドキリとした。微笑む二人から目を離せない。

「一層の事、押し倒しちゃえばええやん」

「ちょっと希。それだと意味がないわ。花陽が土井君の事、余計に警戒するわよ?」

「そんな事ないと思うんやけど」

 希が言う。絵里と晃太郎は視線を希に向けた。

「その根拠は?ないとは言わせないわよ」

「実例がおるやん」

 そう言って、希は絵里を見た。晃太郎は何を言っているのか分からない。

「私の時と状況が違うでしょ」

「でも、好きになったんやろ?」

「……そうね」

「…………ごめん、話が見えない」

 恐る恐る晃太郎は言う。絵里と希が視線を晃太郎に向けた。

「晃太郎君。今から君に絵里ちと慎君の馴れ初めを話してあげよう」

「……やっぱり恥ずかしいわ。希の馴れ初めを話したら?」

 両手で顔を隠しながら絵里が言う。希の表情は悪戯っ子。

「うちと聖の馴れ初めより、絵里ち達の馴れ初めの方が生々しいやん。それに面白いし」

 そう言って、希の口から絵里達の話を聞く事になるのだった。




 絵里達の生々しい馴れ初め、晃太郎はどう感じたのでしょうかね。不定期なアップになりますが、どうぞお付き合い下さいm(__)m


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好きだから~通う心~

 ますます不定期ですね……


 桂木プロダクション内~廊下~

 

 

 

 

 強張らせた顔に少しだけ頬を染め、晃太郎は目の前の扉から目が離せなかった。いや、扉の向こう側にいる人物に目が離せなかったと言うのが、正しかったのかもしれない。晃太郎の視線は、一点に集中し、しっかりと焼き付けている。目の前の部屋は、主にラブウルフの休憩室の役割を持っていた。そこにいたのは、メンバーの一人、慎とその奥様である絵里。二人は晃太郎の存在に気付かず、身体を密着させて唇を重ねている。しかも、軽めのキスではない。濃厚なキスを続けて、慎の手は絵里の柔らかく大きな胸を撫でていた。

「……んん、これ以上はダメよ」

 キスの合間から溢れる絵里の声。小さく抵抗をし、身体を少し離している。一方、慎の方は、絵里の腰を掴み、下半身を怪しく密着させていた。

「絵里、我慢出来ない。シよ?」

 絵里の首筋を舐めながら言う慎。慎の腕が絵里の服の中に入り込み、胸の辺りで蠢いた。

「……あん…ダ……メよ。誰かに見ら…れ」

 言いながら、視線を廊下に向けた。絵里の表情が固まる。視線が晃太郎とぶつかった。慎はまだ気付かず、絵里のお尻を撫でている。しかし、絵里の反応がない事に気付き、絵里の顔を見て、そこでようやく晃太郎の存在に気付いた。

「……何だよ、折角今良いところだったのに」

 膨れ面で抗議する慎。手は相変わらず絵里の胸を触っている。絵里は慎の腕を退け、身体を離すと晃太郎の方に歩いていく。

「……絵里」

「土井君、変なところを見せてごめんなさいね。……慎、続きは帰ってからよ。お仕事頑張って」

 晃太郎に言いながら微笑み、慎を一瞥してから部屋を出ていく絵里。その時の横顔は妖しく、そして綺麗だった。

 

(……絵里さんって、慎の前だと綺麗なんだな)

 

 心の中でそう思った晃太郎。普段、見せている表情も綺麗ではあるけど、慎の前だと、その綺麗さは別格である。その事に晃太郎はそう感じたのだ。そして、希から絵里と慎の馴れ初めを聞いていたからでもある。晃太郎は、部屋から去っていく絵里の後ろ姿を見つめ、花陽に逢いたい気持ちに駆られたのだった。

 

 

 

 

 花陽と逢えなくなって一週間が過ぎた。晃太郎は何度か『花陽の食卓』に足を運ぶ。しかし、花陽は逃げる様に二階に上がったり、お客として行ったときは、バイトの子達が代わりに注文を取りに来たりして、なかなか花陽と話す機会がない。

 

(やっぱり嫌われたか)

 

 自分がしでかした事とはいえ、ショックを隠しきれない晃太郎。『花陽の食卓』に行く回数も減っていった。そんな時である。

「絵里がお前に話があるから、いつものお店に来てくれって」

 慎が睨み付けるようにそう言ってきた。

「……分かった」

「……晃太郎、お前。俺の絵里に手ぇ出したら分かってんだろうなぁ」

 今まで見たことない程の剣幕で、慎が言った。晃太郎は小さく首を縦に振る。

「心配するな。絵里さんには、俺の恋愛相談に乗ってもらってるだけだ」

 そう言うと、慎の表情が少しだけ明るくなる。

「……相手には嫌われたかも知れないけどな」

 ぼそりと呟く晃太郎。それを聞いて、慎は無言で晃太郎の肩を叩いたのだった。

 

 

 

 

『花陽の食卓』にて

 

 

 

 

 お店の中は静まり返っている。電気の点いていない店舗内は、少し薄暗い。そして、いつもの場所に絵里と希が座って晃太郎を待っていた。絵里が無言で手招きしている。晃太郎はゆっくりと近付き、絵里達に向かい合う様に反対側に座った。沈黙する三人。

「……土井君、今日呼ばれた理由、分かる?」

 沈黙を破ったのは絵里。晃太郎は小さく頷き。

「この間、慎と」

「その事は忘れて。それより、花陽の事よ」

 言い掛けた晃太郎の言葉を遮り、絵里は言う。表情は怒っている様な、焦っている様なそんな表情。

「この間って、何かあったん?」

 絵里の横では、にやりと笑う希。絵里は頬を真っ赤に染めた。

「何もないわよ!」

「そうなん?ウチはてっきり、絵里ちと慎君のイチャラブ見られた事かと思ったんやけど」

 何でもお見通しの希である。

「私の事はどうでも良いのよ。それより、花陽の話しましょ」

 不貞腐れる絵里。晃太郎は苦笑い。その場の空気が少し和むと、絵里の表情は真剣になる。希も同様だ。晃太郎の背筋が伸び、真顔に変わる。

「土井君、花陽がね。ずっと泣いている事。貴方、知っているの?」

「……っえ?どうして?」

 絵里の言葉に、晃太郎は驚きを隠せない。絵里はその反応を見て、溜め息を一つ。

「やっぱり、知らなかったのね」

「……ちょっと待って、花陽が何で泣いているんですか?」

 椅子から立ち上がり、前のめりになる晃太郎。

「この間の一件で、花陽ちゃん。晃太郎君に嫌われたって思ってるみたいなんよ」

「…………」

 希の言葉に無言の晃太郎。その表情は、無表情。

「花陽本人から聞いた訳じゃないわ。花陽は、自分から話すタイプじゃないから。泣いてる姿を見た訳でもない。でも」

「心がね。泣いてるんよ」

 その言葉を聞いて、晃太郎は天井を見上げた。二階にいるであろう花陽を見つめる様に。

「土井君は、花陽の事。まだ好き?」

「……はい」

「晃太郎君に、花陽ちゃんを任せてもエエかな?」

 視線を絵里達に戻す晃太郎。二人を交互に見ると。

「俺、今度は花陽から離れません」

 力強く頷いた。

「そう、なら私達はこれで帰るから。花陽の事、お願いね」

 同時に二人は椅子から立ち上がり、お店を後にする。店の中、一人佇む晃太郎。しっかりとした足取りで、厨房の中を通り過ぎ、二階に続く階段を上がる。そして、二階の扉の前で、インターホンを鳴らした。

『……はい』

 インターホンのスピーカーから聴こえる花陽の声。いつもより弱々しく聴こえる。

「…花陽、俺。晃太郎だけど」

 一瞬、インターホン越しに花陽が狼狽えたのが分かった。

「急に来て悪かった。俺、花陽と話がしたいんだ。部屋に入れてくれないか?」

『…………』

「……やっぱりダメか?」

 晃太郎の言葉の途中で、扉のロックが解除される音が聴こえ、ゆっくりと扉が開かれると花陽が部屋から出て来る。花陽は視線を下に向けたまま。

「……中、入っても良いか?」

「どうぞ」

 そう言って、花陽が部屋に入る。晃太郎も後に続いた。『座って』小さな声で花陽が言う。晃太郎は言われた通り、花陽が指定した場所に座った。キッチンで花陽が飲み物を用意している。その間も晃太郎は無言で花陽を見つめ、抱き締めたい衝動を抑えていた。キッチンから戻り、晃太郎の前にコーヒーを置く花陽。視線がやっと絡まった。今にも泣き出しそうな瞳。

「花陽、この間は悪かった」

 そう口にすると、首を小さく横に振る花陽。晃太郎は言葉を続ける。

「花陽の気持ち考えずに先走った。俺、花陽に嫌われても仕方ないって思ってる」

「…………」

「でも、あの時。花陽に触れたかったから」

 真っ直ぐ花陽を見つめ、晃太郎は言う。

「……ごめんなさい。違うの…」

 顔を真っ赤に染め、目に涙を潤ませ花陽が口を開く。

「本当は嬉しかったんです。でも、恥ずかしくて。怖くて、晃太郎君の顔が見れなくて。私」

 そこまで聞いて、晃太郎は花陽を抱き締めた。晃太郎の胸に顔を埋め、震える花陽。

「嫌われたらどうしようって」

「花陽を嫌いになんて。俺はなれない。好きだから」

 花陽が顔を上げる。潤んだ瞳に映るのは晃太郎。その姿が近付き。

「……私も晃太郎君が好きです」

 重なる唇。二人の気持ちが通い合った瞬間だった。

 

 

 

 

 数分後

 

 

 

 

 何度もキスをする二人。舌を絡め合い、何度も角度を変えて唇を重ねる。一度、唇を離す。上気した花陽の表情、目がトロリとふやけ、唇から少し荒い息遣い。晃太郎はドキリとした。花陽の身体は力が抜けて、ちょっと押すだけでその場に崩れる。晃太郎は花陽の上に覆い被さり、そのままキスを一つ落とす。

「……ん」

 甘く声を出す花陽。晃太郎の理性は擦り切れていた。

「……ごめん、このまま最後までシたい」

 言うのが早いか、胸に触るのが早いか。晃太郎は花陽の服に手を掛ける。

 

(やっぱりダメか)

 

 服の中に手を入れ、胸を触った。花陽に叩かれる覚悟で。しかし、花陽は抵抗もせず、されるがまま。晃太郎は花陽の顔を覗き込む。

「……晃太郎君」

「本当に良いのか?」

 晃太郎の問いに、花陽は無言で頷いた。生唾を飲み込み、晃太郎は花陽の首筋に舌を這わせ、胸に触れたのだった。




 次回は、花陽と晃太郎の……。多くは語りません。見れば分かる!

 不定期のアップで申し訳ありません。このお話を読んで下さる方々に、重ね重ねお詫び申し上げます。

 最後まで、お付き合い頂ければ幸いです!


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ようやく訪れた幸福の時間

 勢いで本日二回目のアップです。


 部屋に響く艶かしい声。声の主は花陽だ。晃太郎はキスを続けながら、器用に花陽の脱がしていく。上半身が晒され、花陽の顔が茹で蛸の様に真っ赤に染まる。

「……恥ずかしいですぅ」

 両手で胸元を隠す花陽。晃太郎は花陽の身体を抱き上げ、ベッドに座らせた。床に座り込み、下から見上げる様にして花陽を見つめる。

「……隠すなよ。ちゃんと見せて」

 そう言って、両手に触れ、ゆっくりと外していく。花陽は真っ赤な顔で、身体から力を抜いた。花陽の肌は色白で、血色も良く、晃太郎が思っていたよりも健康的だ。しかも、小柄な身体なのに、二つの乳房は少し大きい。理想的な大きさだ。花陽の呼吸と共にその乳房が前後している。先端は薄いピンク色。息を飲む晃太郎。膝立ちになると、花陽の肩口に唇を這わせ、指先で乳房にちょこんと立っている尖端を摘まんだ。花陽の身体が小さく跳ねる。何度かそうしていると、花陽の身体が傾き、ベッドに倒れ込む。頬をピンクに染めて、息を吐く花陽。

「……大丈夫か?やっぱり、やめとくか?」

 晃太郎の言葉に無言で首を横に振る花陽。晃太郎はそのまま続ける。首筋に唇を這わせてゆっくりと下へ下りていく。二つの乳房に辿り着くと、尖端を舐め口に含む。まるで赤ちゃんの様に吸っていると、花陽が甘い声で笑う。晃太郎は吸い付いたまま花陽に視線を向ける。

「……んん、何だか。晃太郎君、赤ちゃんみたいです」

 楽しそうに笑う花陽に、晃太郎は軽く甘噛みする。すると、花陽の身体が跳ね。

「……あぁ…」

 声を上げる花陽。意地悪な笑みを見せる晃太郎。油断している花陽に、馬乗りになると自分の上着を脱ぎ捨て、上半身裸になった。初めて男性の裸を見て、花陽の目は釘付け。両手で顔を隠しているものの、指の間からしっかりと見ている。

「……晃太郎君」

 潤んだ瞳で花陽は言う。晃太郎は花陽の唇を塞いだ。何度もキスする。すると、花陽の身体から力が再度抜け、晃太郎の首に腕を回す。その間に、晃太郎は花陽の下の服を脱がして、ショーツのみにする。花陽も抵抗しない。晃太郎の長い指が、ショーツの中に入り込む。

「……んん」

 恥ずかしい場所に指が触れ、その感覚から身を捩る花陽。何度も大事な部分を指が掠める。その度に花陽の腰が震え、腰を浮かす。花陽の声が震える。怖くて震えているのではない。晃太郎の愛撫によって、切なくて震えているのだ。次第に、晃太郎の指が花陽の秘所に触れ、濡れた音を出していく。

「あぁ……や」

 花陽の中に晃太郎の指がゆっくりと入っていく。花陽の目蓋が閉じる。

「怖いか?」

「……だ、大丈夫です」

「ちゃんと解さないと、キツいからな」

 そう言って、晃太郎は何度も指を抜き差しする。その指は、二本に増え中をかき混ぜた。花陽の腰が浮く。花陽の反応に、晃太郎の息遣いも荒くなる。花陽が晃太郎を見つめた。

「……晃太郎君、もう」

 その言葉に、晃太郎は弾かれたように花陽を見つめ、生唾を飲み込みながら、花陽のショーツを脱がし、自分のトランクスも脱ぎ捨てた。花陽の秘所から愛液が垂れ、晃太郎を誘うように濡れている。晃太郎は素早く自分の分身にゴムを装着。花陽の秘所に宛がう。何度か擦り付けた。

「ゆっくり入れるからな」

 そう言って、中に入れていく。花陽の表情が歪み、苦しそうだ。花陽の頭を撫で、何度もキスを落とす。

「力を抜いて」

 晃太郎に言われ、花陽は力を抜いた。徐々に花陽の中に入っていく晃太郎の分身。そして、完全に二人の身体が重なった。花陽の額からは大量の汗が滲んでいる。

「……花陽、大丈夫か?」

「…はい」

 見つめ合う二人。唇を重ね、身体を密着。晃太郎が腰を打ち付ける。花陽の唇から、小さな喘ぎ。最初は速度を緩めたまま腰を動かした。花陽の中が解れ、滑りが良くなる。すると、次第に晃太郎の腰が速く、強く打ち付け始めた。

「……んん、あぁ……やぁ」

 花陽の喘ぐ声も甘く艶が出始める。そして。初めて二人は果てた。荒い息遣いで見つめ合う二人。濃厚なキスをし合い、微笑み合う。今、二人は幸せだった。

 

 

 

 

 数時間後

 

 

 

 

 もう何度目の繋がりか分からない。花陽はあまり体力がないが、晃太郎は違う。やっと花陽と結ばれた嬉しさと、花陽の可愛さに理性は当に切れている。花陽の事を気にしつつも、花陽と繋がりたいという衝動が強く、何度も花陽を抱く。花陽はすでに体力の限界で、声も掠れていた。今はただ、ユラユラと晃太郎に揺さぶられたまま、涙で滲んだ視界で晃太郎を見ている。晃太郎の動きに合わせ、ギシギシと軋むベッド。花陽は小さく微笑み、晃太郎の頭を撫でた。晃太郎は花陽を抱き締める。花陽は目蓋を閉じ、意識を手放した。

 

 

 

 

 数日後『花陽の食卓』にて

 

 

 

 

 賑やかな店内。花陽はいつも通り店内を駆け回っていた。そんな花陽を微笑ましく見つめる二人の視線。視線の主は、勿論絵里と希だ。

「……ふふ、花陽とうとう土井君と」

「せやな。腰辺りが軽やかやな」

 にやりと笑う希。絵里は溜め息混じりに笑うだけだ。そこに花陽が注文を取りに近付き。

「絵里ちゃん、希ちゃん。注文決まった?」

 明るい表情で言う花陽。しかし、絵里と希の表情でその表情が固まった。

「花陽、おめでとう」

「これで、大人の女の仲間入りやね」

 ニヤニヤ顔の二人。

「……恥ずかしい」

 手に持っていたお盆で顔を隠す花陽。絵里と希は笑う。

「花陽、大人の女になった感想を聞かせてね」

 そう言う二人の笑顔が怖い。花陽は涙目になりながら、晃太郎との事を話す事になるのだった。




 まだまだ、しばらく、アップが不定期になります。


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元μ,sの女子会~その三~

 今回は、ただただメンバーが会話してるだけですね。


 『花陽の食卓』にて

 

 

 

 

 お店の扉に、大きく貼られたお知らせ。『今日は臨時休業します』と書かれている。店内にいるのは、μ,sのメンバー。みんな、思い思いに食べ物や飲み物を用意している。四人用のテーブルを二つの並べ、両側に四人座った。絵里が、ふと何かに気付き、にこに視線を向ける。

「にこ、凛がいないけど」

「ああ、凛なら今、アメリカに行ってるわよ?」

 その言葉に、その場にいた全員がにこを見る。

「最近、ラブウルフの活動が忙しくてね。ようやく落ち着いたから」

「どういう事?」

「……凛の旦那、アメリカ人なの、知らなかった?」

「っえ!?」

 にこの言葉に、海未と真姫以外が驚きの表情を見せた。凛の事は、二人共知っているからだ。

「向こうに子供も置いているから、多分二ヶ月くらいはあっちにいると思うわ」

 そう言って、凛の旦那と子供の写真を見せる。

「へぇ~、知らんかったわ」

 希が言う。にこのスマホがメンバーの手元を一周し、自分の手元に戻ると鞄に入れた。

「……そう言えば、花陽。晃太郎と付き合い始めたんでしょ?」

「…ぁわ」

 いきなり話を振られ、狼狽える花陽。みんなの視線が花陽に一点集中。口をワナワナと震わせ、花陽は固まった。絵里と希がニヤニヤしている。

「大人の女の仲間入りしたのよね?」

 絵里の不適な笑み。希も悪戯っぽく笑う。それを聞いて、狼狽えるのは、花陽ではなく、海未だった。

「……花陽が…破廉恥です」

 真っ赤に染めた顔を両手で隠す。隣に座っていた真姫は呆れて溜め息をついていた。

「海未、花陽も年頃なんだから、それくらい普通でしょ」

 頬杖をついたまま、真姫が言う。

「……それは、そうですが。真姫、貴女そのような経験が?」

「……別に、私の事は関係ないでしょ。それに、海未だって」

 少し頬を染めた真姫。海未と真姫は互いを見合う。そして、視線を逸らした。そこに、にこが小さく溜め息をつき。

「……っていうか。二人はどうなっているのよ」

「……何がですか?」

「紡と絆の事。海未と真姫、付き合ってんでしょ?」

 にこの問い掛けに、二人の表情が固まる。無言で視線を泳がせた。頬を染めて。二人の話に興味が湧いたメンバー。視線が二人に集中した。そこに、絵里が口を開く。

「その人達って誰なの?」

「新田紡と小林絆。二人はラブウルフのメンバーよ。この間、同窓会余興ライヴの打ち上げで逢ってるでしょ」

 淡々と告げるにこ。ようやく絵里は思い出した。新田紡はラブウルフのメンバーの最年少で、見た目は美少年である。色白の肌と中性的な顔立ちなのだが、引っ込み思案で人見知り。打ち上げの時も部屋の隅で隠れるように立っていた。一方、小林絆の方はまるで白馬の王子様の様なハンサムボーイ。目鼻立ちはハッキリとしていて、常に微笑みを絶やさない。しかし、感情が読み取れないその瞳が、彼をミステリアスにしている。

「じゃあ、海未と真姫はどっちと付き合っているの?」

 絵里の問いに、二人は何度か瞬き。視線を巡らせると、ゆっくりと口を開いた。

「私は、紡です」

「……はぁ、絆よ」

 海未は視線を下に落としながら、真姫は溜め息混じりに言う。絵里達は一瞬固まったが、柔らかく微笑む。

「っという事は、みんなフリーじゃないって事ね」

「うち、ちょっと安心したわ」

 絵里と希の言葉に、みんなは小さな笑みを見せ頷き合う。その場の空気が和み、食事を再開した。持ち寄った食事をシェアし合い、飲み物は好きな物を注ぎ合う。

「海未と真姫は、ラブウルフ結成から協力しているの?」

「ううん、結成一年経過してからかな?そうよね?」

 にこが二人を見た。無言で頷く二人。迷惑そうな表情。

「海未ちゃん、全然教えてくれないから。知らなかったよ」

「穂乃果とことりに言える状況でしたか?」

「……あはは」

 穂乃果の話に、呆れる海未。実はその当時、穂乃果とことりは出産と育児で忙しく、海未と会えない状況だった。凛は、海未と真姫とほぼ同時にラブウルフの協力をし始めていたので、海未達の状況を知っている。

「本当、にこちゃんの強引さには呆れると言うかなんと言うか」

 溜め息混じり言う真姫。

「しょうがないじゃない。人気アイドルにする為よ。それに、そのお陰で付き合い出したんでしょ」

 悪びれる様子もなくにこは言った。それを聞いて、海未と真姫が溜め息をつく。

「……あの」

 ずっと黙り混んでいた花陽が口を開く。頬をピンク色に染めて。みんなの視線が花陽に向けられる。

「お手洗いに行っても良いですか?」

 みんな、無言で固まった。そして、吹き出すように笑う。

「何を言うかと思ってびっくりしたわ。私達に遠慮しないで行って」

 絵里が代表して言う。

「は、恥ずかしい」

「本当、花陽ちゃんはかわええなぁ」

 希の言葉。花陽は居たたまれなくなり、逃げるようにお手洗いに向かった。しばらくして、お手洗いから戻る花陽。すると、他のメンバーも交代でお手洗いに行く。

「実はみんな行きたかったのよね」

 絵里は微笑みながらそう言った。照れながら花陽も笑う。和やかな雰囲気で女子会は終わったのだった。

 

 

 

 

 花陽の部屋

 

 

 

 

 ベッドに座っている花陽を後ろから抱き締めている晃太郎。花陽は、照れながらも晃太郎の胸に身体を預けている。二人してテレビを見ながら穏やかな時間が過ぎていく。ふと、花陽は晃太郎に向き直り、その表情を見た。視線が合い、小さく笑う晃太郎。

「……どうした?」

「ううん、何でもないよ」

 その言葉に、少しムッとする晃太郎。

「…言いたい事、ちゃんと言えよ」

 花陽の表情が変わる。驚きの表情。視線を一度落とし、モジモジしている。

「あのね、幸せだなって」

 頬を染めてそう言う花陽。晃太郎は何度も瞬き。そして、花陽を抱き締めた。

「……本当、マジで可愛い」

 抱き締める腕に少し力が入る。

「……っあ」

 花陽の口から溢れた声。少し甘さが混じっている。晃太郎の心臓が大きく脈打つ。すぐにベッドに押し倒し、花陽を見下ろす。

「そんな声出されたら、我慢出来ない」

「っえ!?今のはそんなつもりじゃなくて」

「もう遅い」

 そう言って、晃太郎は花陽が意識を手放すまで抱いたのだった。

 




 ちょっと話が短くなり、最後に、晃太郎と花陽のムフムフになってしまった。反省……

 次回は、海未と真姫の話が入ってきます。時系列でラブウルフ結成から一年後の出逢いからですね。勿論、花陽と晃太郎の話も絡みますので、分かりやすく、海未ルート、真姫ルート、花陽ルートってな感じで進みます。三者の話が絡み合うので、書いてる自分もゴッチャにならないように気を付けねば……

 不定期なアップ、続きます。


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突然の召集~海未、真姫共通ルート~

 お久し振りのアップです。今回は、ラブウルフ結成から一年後、絵里、希が慎や聖と出逢う数年前の話です。


 絵里、希が最愛の伴侶、慎と聖に出逢う数年前

 

 

 

 

 音ノ木坂学院から卒業後。海未、真姫はそれぞれの道へ進む。卒業後の二人の生活は、忙しくも充実感はあった。ただ、μ,sの時に感じた感動とは無縁。ふとした時に、小さな溜め息が口から溢れる。そんな自分が嫌で、二人は今、目の前の現実に、あの時感じた感動を忘れる為に没頭する日々を過ごす。そんな時だ。二人のスマホにメールの着信があったのは。

 

『にこの最初で最後のお願い』

 

 元μ,sのメンバー、にこの切迫した内容。それを見て、二人は離れた場所にいる筈なのに、口から出た声は同じだった。

「……っえ?」

 一瞬、頭が真っ白になりつつも、次の瞬間には家を飛び出していた。それぞれタクシー、自分の車に乗り込み、にこが社長として経営している桂木プロダクションへと向かう。ビルの入り口に辿り着いたのは、海未が最初だった。その数分後に、真姫も到着し、二人は見合う。

「……真姫、貴女にもにこからメール、来たのですか?」

「えぇ、海未。貴女も?」

 騒ぐ心を落ち着かせながら、二人は周囲を見渡した。しかし、ビルの入り口にいるのは二人だけ。二人は怪訝な表情を見せる。

「どういう事ですか?」

「さぁ、分かんない。私達に用があるんじゃない?」

 二人の間に答えはない。その答えは、二人を呼び出した本人に直接聞かなければいけない。二人は同時に溜め息をつき、ゆっくりとビルの中へ向かった。

 

 

 

 

 桂木プロダクション、社長室

 

 

 

 

 怪訝な表情の二人、机を間に挟み、反対側に満面の笑みのにこ。しばらく、無言で見つめ合う。

「……いきなり呼び出して、何の用ですか?にこ」

 最初に口を開いたのは、海未だった。声色は明らかに怒っている。隣に立つ真姫も同じ感情だ。

「メール見たでしょ?」

「見ました。だから、ここへ来たんです。用があるなら早く言って下さい」

「二人を呼び出したのは、二人に曲を作って欲しいからなの」

「……っえ?」

「……はぁ?」

 にこの言葉に、二人の声が合わさる。部屋の中の雰囲気が暗くなった。先程まで満面の笑みを見せていたにこも、今は真剣な表情になっている。

「曲を作って欲しいとは、どういう事ですか?」

「言葉の通りよ。二人に、うちのアイドルグループの曲を作って欲しいの」

「……意味分かんない。にこちゃん、私達忙しいの。分かる?」

「……分かってる。でも、二人の協力が必要なんだもん。仕方無いでしょ。それに」

 二人の後ろの扉が開く。部屋に入って来たのは。

「凛も協力してもらっているから」

 二人の表情が驚きに変わる。部屋に入って来た凛は、学生時代とは少し違い、髪も伸びて、今は一つに束ねていた。あどけなかった顔は、面影が残っているが、大人の女性に成長している。

「海未ちゃん、真姫ちゃん。久し振りにゃ」

 口調はあの時のまま。二人の表情が少しだけ和らぐ。

「凛、貴女何やっているのですか」

「何って。にこちゃんのお手伝いにゃ」

「お手伝いって。仕事は?凛、確か貴女、アメリカに行っていたわよね?」

 真姫の言葉に、凛は笑顔。小さく頷く。

「日本にいて大丈夫なの?」

「心配いらないにゃ。仕事は、パパにお願いしてるから」

「パパ?」

「凛は、アメリカに旦那さんがいるの」

 当たり前の如くそう言い放つにこ。二人の思考がしばらく停止。そして、同時に声を上げた。

「っえ!?あの凛が?一番恋愛に興味なさそうだったあの凛が!?」

「……あはは、何だか酷いこと言われてるにゃ」

「子供もいるのにね」

 にこが追加の情報を二人に与える。二人の口が、顎が外れそうなほど開いていた。その後、二人が平静を取り戻すまで少し時間を要することになる。

 

 

 

 

 数十分後

 

 

 

 

「お願い、協力してよ」

 二人に拝むにこ。凛も何故か頭を下げていた。そんな様子に。

「……しょうがないですね」

「……しょうがないわね」

 二人が溜め息混じりに言う。歓喜の声を上げ、飛び上がるにこ。海未が、机を軽く叩く。

「協力するんですから、にこのアイドル、紹介して頂けるんですよね?」

 その言葉に、笑顔だったにこの表情が焦りに変わる。視線も合わせようとはしない。

「にこちゃん、協力して欲しいなら、メンバー紹介して。本人達をちゃんと見てからじゃないと、そのグループの特長を曲に反映出来ないでしょ?」

「……一つ約束してもらっても良い?」

 にこの言葉に頷く二人。

「本人達を見ても、協力してくれる?」

 その言葉に、二人の首が傾いた。お互い視線を合わせてから、にこに小さく頷いて見せる。二人の頷きに、安堵の溜め息をつくにこ。

「メンバーの所に案内するからついて来て」

 にこは椅子から立ち上がり、部屋の扉を開けた。二人はその後ろをついて行く。勿論、凛も一緒だ。長い廊下を歩き、エレベーターに乗り込むと、一つ下の階で降りる。また長い廊下を歩き、灯りが漏れている部屋の前に立つにこ。小さくノック。部屋から数人の男性の声が。

「私よ。皆いる?」

「……います」

 それを確認すると、にこは部屋の扉を開け中へ。海未、真姫、凛が順に入っていく。海未と真姫の目の前には、男性が五人いて、全員ではないが二人を見ている。ただ、見ている状態が明らかに異常だ。一人は、部屋の隅に、一人は椅子に座ったまま。椅子に座っている男性の後ろに、隠れる様に二人を見ている男性。もう一人は居眠りし、最後の一人は部屋の隅で、しかも背をこちらに向けて床に座りこんでいる。

「…………にこ」

 海未が小さく口を開く。にこの肩がピクリと跳ねた。

「……これはどういう状況ですか?彼らがにこの言っていたアイドルグループですか?」

「……そうなの。ちょっと色々訳ありのグループなの。でも、彼らのアイドルとしての資質はあるの。ただ、彼らがこんな感じだから」

「それで?私と真姫が曲を作れば、それなりに売れると?」

 黙って頷くにこ。海未は額に手を当てた。隣に立っている真姫も溜め息をつき、天井を見つめる。

「……にこ、私達も曲作りは協力はします。でも、歌い手がこれでは、例え良い曲が出来たとして、売れるとは思いません。にこ、本当は分かっているのではないですか?」

「……にこちゃん」

 二人がにこを見つめる。黙り込んだままのにこ。すると、椅子に座っている男性が口を開く。

「ねぇ、君達。社長の何?」

 ブラウン系の髪、鼻筋はスッキリとしていて、薄い唇。大きな瞳の男性。爽やかな王子さまを連想させそうなその男性が、笑顔で二人に言う。

「……社長…ね……」

 真姫がその言葉に反応した。その男性を真っ直ぐ見つめる。

「私達は、にこちゃんの。貴方達の社長の高校時代からの友人よ」

 真姫の言葉に、男性の表情が一瞬、動いた。でも、ほんの一瞬だ。海未やにこ、凛は気付いていない。真姫が見た男性の表情は嘲笑う様な表情だった。

「……へぇ、友人ね。ああ、自己紹介していなかったね。俺、小林絆。宜しく」

 何故か、真姫に手を差し出した絆。真姫は一瞬、考える。躊躇しながらも、真姫も手を差し出し、握手した。握ったその手は、ひんやりと冷たい。その上、真姫の身体から電流が走る感覚があった。それも一瞬の事だ。すぐに手を放し、真姫は自分の手を見つめる。海未は絆の後ろに隠れている男性に視線を向けた。海未の視線に気付く男性。海未は小さく溜め息をついた。

「……とりあえず、二人にメンバー紹介するわ」

 にこがようやく口を開いた。そして、二人にグループの名前や、メンバーの紹介をするのだった。

 

 

 

 

 その日の夜

 

 

 

 

 海未と真姫は二人だけで会った。それはこれからの話をする為だ。海未はグループの特長が今一掴めず、作詩に時間が掛かりそうだ。一方、真姫の方も同じな様で、二人の口から何度も溜め息が出る。真姫の脳裏には、絆が一瞬見せた嘲笑う様な表情。そして、身体を駆け抜けた電流のような感覚。それが気になっている。海未の方も絆の後ろに隠れていた男性。新田紡の事が気になっていた。二人は知らない。これから起こる出来事が、グループの未来や二人の未来を変える事になることを。




 リアルが目まぐるしい程、忙しく。アップしたくても、疲れて熟睡する日々を送っていました。大分、リアルが落ち着き始めたので、これから、アップを増やせたらと思います。


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彼女と彼~海未ルート~

 本日、二回目のアップ。多分、見てる人には分かると思いますが、海未と紡視点が混ざって進んでいます。


 ラブウルフのメンバーを紹介されてから次の日

 

 

 

 

 海未の頭の中は、ラブウルフの為の作詩に作りで一杯だった。メンバーとの初対面は、最悪である。しかも、彼らのグループコンセプトは『愛の狩人』であり、それを売りにしていた。しかし、彼らを見る限り、恋愛に対して、上手どころか、奥手。それだけなら、まだマシである。彼ら自身は、興味がない者。女性アレルギーを持つ者、女性恐怖症。そして、さらに厄介な者。それが対人恐怖症である。その対人恐怖症を持つ者、それは新田紡。海未は彼が気になってしょうがない。

「とりあえず、作詩作りをしないといけませんね」

 溜め息混じりに言う。海未は桂木プロダクションへと向かい始めた。外の景色はすでに暗く、時間は午後八時。海未はスマホを取り出し、真姫にメールを送る。

 

『先に、にこの所にいきますね。真姫も後で合流しましょう』

 

『分かったわ。少し遅くなると思うけど、必ず行くわ』

 

 メールを確認し、バッグに戻した。昨日、海未と真姫は作詩、作曲作りの為のヒントを得る為、にこの事務所で会う約束をしている。曲を作る為、彼らを観察する事にしたのだ。海未は事務所に入ると、彼らの部屋に入る。今部屋にいるのは、新田紡だけだった。部屋に入って、紡は部屋の隅に隠れる様に床に座り込んでいる。海未はゆっくりと紡に近付く。海未が近付いて来るのを感じて、紡は身体を強張らせ、ガタガタと震わせる。海未は小さく溜め息をつく。それだけでも、紡の身体がピクリと反応した。

「……怖がらなくて大丈夫ですよ。これ以上は近付きませんから」

 そう言って、その場にしゃがむ。紡は横目で海未を見る。海未は柔らかく微笑んでいた。しばらく視線を海未に向け、ゆっくりと視線を外す。海未は一度立ち上がり、側にあったパイプ椅子に座る。紡は海未の行動を目で追っていた。手に持っていたバッグから、小さなノートを取り出し、書き物をしている。長い長い沈黙。無言の時間、部屋には、海未の書く音だけが聞こえる。

「……な…」

 書く事に集中している海未に、紡の細い声は聞こえない。紡は顔を上げ、声を掛けようか悩む。海未の横顔は、とても綺麗に見えた。海未が小さく溜め息をつく。憂いを帯びた表情。紡の目にはそう写った。紡の視線を感じて、海未が紡の方を見る。初めて視線が合った。無言で見つめ合う二人。

「……どうしました?」

 海未が口を開く。その言葉に紡の顔が真っ赤に染まり、視線を逸らした。首を傾げる海未。紡の胸の鼓動は激しく脈打っている。対人恐怖症であるが、女性に興味がない訳ではない。今、同じ部屋にいるのは、とても綺麗な女性。髪は肩より長く、ストレート。背筋は真っ直ぐに伸び、所作に無駄がない。まるで大和撫子を連想させる。紡の行動に、海未はただ首を傾げた。そして、再びノートに向かう。紡は再度横目で海未を見つめる。

 

(とても綺麗な女性だ。僕と一緒にいるのに、何も言って来ないし)

 

 もう一度、海未を見つめる。

「私に何かついていますか?」

 ノートに書き物をしながら、海未が口を開く。今度は視線を逸らさない紡。海未と見つめ合う。

「………な…」

「…な?」

 おうむ返しする海未。首は横に傾いている。真っ赤に染まる紡の顔。視線をゆっくりと落とし。

「……何で、何も聞いて来ないの?」

 海未が座ったまま身体を紡に向けた。視線を戻す紡。海未は微笑んでいた。

「人には、言いたくない事の一つや二つあります。そんな事くらいは私も知っていますし。無理に聞こうとは思いません。」

「……だから、何も聞かなかったの?」

「ええ」

 紡の問いに頷く海未。紡の鼓動は速いまま。

「話したくなった時に話してくれれば良いです。貴方が人と接するのを怖がる理由も、話せる時が来たら話して下さい。その時はきちんと聞きますから」

 微笑んだ海未。紡の胸が締め付けられる。身体が奮える。恐怖ではない、別の感情で。それは恋に落ちたという証である。紡は元々、対人恐怖症とは無縁の人懐っこい性格だった。普通に仲の良い友達もいたし、好きな女の子もいる。どこにでもいる少年だった。海未は紡から視線を外し、ノートを見つめる。海未から見た紡は、とても可愛らしい男性だ。目鼻立ちはハッキリしていて、目も大きくクリクリしている。中性的な顔は、年齢だけでなく、性別も分かりにくい。声も柔らかい声で、女性と男性の中間的な声だ。

「……あの」

「どうしました?」

 海未を見つめる紡。

「……あの…あ…の……」

 口は動くのに、言葉が出ない紡。そんな彼を海未は静かに待つ。紡は言葉を飲み込んだ。

「…何でもない…です」

「………そうですか。今、無理に話さなくて大丈夫ですから」

 海未は伏し目がちに言う。沈黙が二人を包み込む。しばらくして、真姫が部屋に来た。海未は真姫と二人で部屋から出ていく。その後ろ姿を紡はどこか寂しげに見つめていた。

 

 

 

 

 部屋に来てから、真姫の様子がおかしい事に、海未は気付く。顔は少しピンク色に染まり、どこか落ち着かない。

「真姫、どうしたのですか?」

 その言葉に真姫は海未を見つめ、混乱した様子で部屋に来るまでの経緯を話す。その間も少し泣きそうだ。

「……そんな事が」

「本当、信じらんない。……ファーストキス…だったのに…」

 どうやら、小林絆に何故かキスされたそうだ。不意打ちの事だったので、反論どころか、反応すら遅くなり、当の絆は、爽やかに去って行ったらしい。そんな話をしながら、二人は桂木プロダクションの中のとある部屋に入る。そこは、曲を収録するためのスペース。勿論、ピアノも完備されていた。

「ここならすぐにでも収録出来ますね」

「ええ、周りに気を使わなくてもすみそうね」

 笑顔で言い合う二人。その後、二人それぞれの作業を始めたが、やはりアイディアは浮かばない。

「……やはり、メンバーの事をもっと知らないと無理ですね」

「そうね。μ,sの時と違うっていうのもあるけど」

 そう言って、深い溜め息を一つ。

「お互い、忙しいですから。休日を上手く使っていくしか無さそうですね」

 その言葉に頷く真姫。今日はお開きだ。二人は桂木プロダクションを後にした。

 

 

 

 

 五日後

 

 

 

 

 海未は収録スペースで作詩作りをしていた。海未の足下近くでは、何故か紡が体操座り。海未を見つめる紡。海未も紡の存在に気付いているが、声も掛けることなく、無言。端から見たら、異様な雰囲気。紡の目の前には、海未のスラッと長い足がある。紡は徐に海未の足に触れた。

「……ひぁ!?」

 身体を強張らせ、声を上げる海未。

「ちょっと、新田さん。いきなり何するんですか!?」

「……ご…ごめんなさい…手が勝手に動いて」

 顔を真っ赤に染め、息が荒い海未。反射的に紡は頭を手で押さえる行動をとる。それを見た海未は、ハッとした。そして、無意識で紡の肩に触れ、優しく撫でる。

「大丈夫ですよ。何もしませんから、急に触れられたので、びっくりしたんです。貴方を怖がらせるつもりはありませんから」

 海未の優しい言葉に、紡は顔を上げ、海未を見つめた。目の前に海未の顔。心配そうに見つめる海未を、紡の心はざわついたのだった。




 しばらくは、海未ルート。真姫ルートが交互に出ると思います。途中、花陽ルートも混ざるので、見辛いかも知れませんが、最後までお付き合い下さい。


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振り回さないで~真姫ルート~

…お盆が過ぎました。そして、秋の気配がします。時間の経過は、あっという間に過ぎるのですね…(哀愁)


海未と桂木プロダクションに行く約束をしてから、次の日の朝。いつもの様に、実家から出勤する真姫。愛車に乗り込むと、いずれ父親から譲り受ける病院へ。関係者用入り口から入ると、廊下で数人の看護師とすれ違いに挨拶を交わす。看護師のほとんどは、真姫がスクールアイドルをしていた事を知っている。羨望の眼差しを向けながら真姫に挨拶を返していた。

 

(……いつになったら普通に接してくれるのかしら)

 

小さな溜め息を一つ。まだ研修医である真姫。女性用更衣室に入ると、自分のロッカーから白衣を取り出し、素早く羽織る。担当の階である3階のナースステーションに向かう。ナースステーションには、看護師と医師含め十数名いた。そこに真姫が加わり、朝のカンファレンスが始まる。真姫の忙しい1日が始まった。先輩医師の 後に付いていき、巡回往診。それが一段落すると入院患者の話相手になったり、今後の入院患者の状況を確認。次の手術の打ち合わせや医学会に提出するレポートを書いたりと忙しい。休憩時間が少し出来、真姫は外の空気を吸いに外へ。病院の敷地には、小さな公園があり、そこにベンチがある。丁度、木陰になっていて、真姫はゆっくりと腰を下ろす。真姫の前をリハビリの為、看護師と共に歩く患者。入院患者を見舞いに来た人達が行き交う。木々を揺らす風の音が、真姫の心を癒す。目蓋を閉じる真姫。誰かが、真姫の前に立つ。真姫はゆっくりと目蓋を開けた。そこにいたのは小林絆。目を見開く真姫に対して、穏やかな笑みを称え絆は真姫を見ていた。

「へぇ~、君。お医者なんだ」

「……貴方、どうしてここにいるの?」

警戒心剥き出しに真姫は言う。それは、昨日の絆の一瞬の表情のせいだ。真姫が、にこの友人と言った時の一瞬、嘲笑う様な表情を見せた絆。真姫はそれに対して警戒心を抱いている。絆の方は、どこ吹く風で笑みを絶やさない。真姫の許可も取らず、横に座った。すぐに間を取る真姫。それでも、絆の表情は笑顔のまま。

「そんなに警戒しないでよ。傷付くなぁ」

「……警戒するに決まっているわよ。貴方、何考えているの?」

真姫の問いに、絆は小さく溜め息をつき、真姫に詰め寄る。

「君、可愛いね。……汚してやりたいくらいに」

絆は嘲笑う。真姫の背筋がゾクリとした。反射的に立ち上がり、絆との間合いを取る。一方、絆の表情は穏やかな笑みに戻っていた。

「ここに、知り合いが入院しているんだ」

「…っえ?」

何の脈絡もなく絆が言う。その表情は少し寂しげ。一瞬、真姫の表情が揺らいだ。

「もう、何年も眠ったまま」

それだけ言うと、絆は立ち上がり、去っていった。その後ろ姿を真姫は複雑な表情で見送る。真姫の耳には、看護師と患者の話し声や笑い声は聞こえてこない。ただ、自分の心臓の音だけが、聞こえてくるだけだった。

 

 

 

 

その日の夜

 

 

 

 

仕事を終え、真姫は素早く車に乗り込む。向かう場所は、勿論、桂木プロダクション。真姫の脳裏には、絆の言葉が反芻している。

 

『もう、何年も眠ったまま』

 

確かに、真姫の病院には若干名、植物状態の患者がいる。その殆んどは、病気によるもの。ただ一人を除いて。その患者は、ある事件に巻き込まれて、意識不明なった。歳は絆と同じくらい。

 

(…あの患者さんの関係者なの?)

 

車のエンジンを掛けながら、真姫は考えた。意識を別に向けていた為、助手席のドアが開いた事に気付かない。車が微かに揺れる。真姫の視線が助手席へ。にこやかな表情の絆が座っていた。一瞬、何が起こったのか。真姫の思考が停止した。次の瞬間には、運転席の扉に背をぶつけ、間合いを取る。

「事務所に行くんでしょ?乗せてって?」

「…………」

「ん?どうしたぁ?起きてるかぁ?」

楽しそうに、真姫の顔の前で手を振る絆。そこで真姫の思考が戻ってくる。

「……な!?何、勝手に乗ってるのよ!」

「っえ、事務所に行くんだよね?ついでに乗せてってよ」

「嫌よ!どうして、私が送らないといけないのよ!意味わかんない!!」

「ええ~、良いじゃん。目的地は同じなんだから。ケチだなぁ」

真っ赤な表情で声を上げる真姫に対して、実に楽しそうな絆。しばらく無言で見つめ合う。真姫は苦虫を噛み潰したような表情でいたが、溜め息と共に諦めの表情に変わる。

「……分かったわよ。送れば良いんでしょ!」

その言葉に絆は小さく頷き。

「ありがとう」

軽めの言葉。真姫は内心イライラしている。乱暴にギアをDに入れると、車を桂木プロダクションに向けて走り出した。目的地に着くまで、約30分は掛かる。真姫は無言に徹したが、絆がずっと真姫を見ていて落ち着かない。

「…何よ。何か言いたい事でもあるの?」

絆の視線に、真姫はとうとう、口を開く。絆からの返答はない。赤信号で車を停めると、真姫は絆の方に視線を向けた。絆の表情は暗がりで見えにくい。真姫は何か言おうとしたが、信号が青を代わり、車を発進させた。無言の二人。その間も絆は真姫を見つめている。車が桂木プロダクションに到着。真姫はすぐに駐車場に車を停めた。

「…ほら、着いたわよ。降りて」

そう言って、絆に視線を向けると、絆の顔が近くにあった。そして、そのまま唇が触れ合う。頭が真っ白になる真姫。今の状況が分からない。間近にある絆の顔。

 

(…な、何?何が起きてるの!?)

 

ゆっくりと絆の唇が離れ、何事も無かったかのように車から降りる絆。真姫はただ呆然とその場にいたのだった。そして、海未と合流。その事を話す。

「何なのよ。本当に…」

溜め息混じりに真姫は言う。海未は何と声を掛けたら良いか悩んでいる。

「……小林さん、掴み所がないですね。一体、何を考えているのでしょうか?」

「多分、何も考えていないわよ。私の反応を面白がっているだけ」

ファーストキスを奪われ、真姫の表情は怒りで染まっている。そんな真姫の様子に、海未は無言で見つめているだけだった。

 

 

 

 

数日後

 

 

 

 

怒りを露にしている真姫。目の前には、右頬に手形を付けて真姫を見ている絆。二人は今、真姫の車の中。運転席に真姫、助手席に絆。真姫の運転席は後ろに倒され、絆が真姫に覆い被さるような状態。どうしてこうなったか。それは数分前に遡る。

 

 

仕事終わりに、桂木プロダクションに向かうのが、真姫の日課になり始めていた。真姫はいつもの様に車に乗り込み、エンジンを掛ける。そして、当たり前の様に助手席に座る絆。真姫は最初拒否し、なるべく逢わない様にしていた。理由は明白だ。ファーストキスを奪った相手に、警戒心を抱かない筈がない。しかし、絆の方は真姫の行動を把握しているのか、執拗に絡んでくる。

 

(ストーカーだわ)

 

真姫の不信感は最高潮だ。それでも、にこの会社に所属するアイドルグループ。真姫は仕方無く絆と桂木プロダクションに通っていた。当然、目的地に着くまで、無言を貫いていた真姫。絆も特に会話する訳でもなく、ずっと真姫を見つめている。そして、駐車場に着き、真姫が車から降りようとした。その時だ。いきなり、絆が真姫の運転席に身を乗り出し、シートを倒す。真姫はシートベルトを外したばかりで、無防備の状態。絆が真姫の唇を、自分の唇で塞ぐ。当然、真姫は抵抗をした。身体を押し退け様と身を捩り、平手打ちする。乾いた音が車の中で響いた。唇が離れ、絆は真姫を見下ろしている。羞恥と怒りで真っ赤に染まっている真姫。身体は震えている。

「……信じられない…」

消え入りそうな声で抗議する真姫。絆を睨み付けた。それでも、絆は真姫を見下ろしている。その表情は無表情。真姫は絆が何を考えているのか分からない。ただ言えるのは、またキスをされたという事だけ。

「……二度と私に近付かないで」

絆を力一杯押し退けると、真姫は逃げる様に車から降りた。その日のから、真姫は桂木プロダクションに行かなくなる。




何を考えているのか分からない絆君で~す!自分にも制御出来ませ~ん。真姫ちゃん、ファイトです…


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男と女、鈍感な彼女達~海未、真姫共通ルート~

おたふく風邪って、辛い


しとしとと降る雨。厚く薄暗い空。風も無く、静かな校内に響く音。音乃木坂学院の弓道場から、矢が的に当たる音している。ひんやりとした板の間に背筋を伸ばし、的に視線を向けているのは、海未だった。弓を引き、矢の尖端を的に向ける。キリキリとしなる弓。指を離した瞬間、空を切る音と共に、的を射抜く矢。矢は的の中心に刺さっている。

「…ゎぁ、凄い」

小さな声で感嘆の声を上げているのは、紡だった。その紡の横には、不貞腐れた様に胡座をかく絆。海未は小さく一礼して、二人の方に歩み寄る。二人の目の前に立つと、座る事無く見下ろす海未。表情は少し怒っているようだ。しかも、その怒りの視線は絆に向いている。

「小林さん、説明してくれますよね?」

「…さぁ~、何の事?」

海未の問いに、絆は飄々としている。

「…貴方、真姫に何をしましたか?あれから1週間、真姫と連絡が取れていません。」

「別に何もしてないけどなぁ」

何故か嬉しそうな表情の絆。海未の表情が変わる。

「そんな訳ありません。真姫と最後に会っていたのが、貴方なのは知っているんです。…真姫に何をしたんですか?」

海未の更なる問いに、無言の絆。しばらく、海未を見ると小さく笑う。そして、徐に立ち上がり、弓道着の上から、海未のお尻を触った。身体を強張らせる海未。

「へぇ~、やっぱり下。何も履いていないんだ」

ニヤニヤしながら絆がお尻を撫でる。海未の顔が真っ赤に染まった。

「…ゃあ!?破廉恥です!」

身を捩り、絆から離れようとする海未。しかし、絆は海未の両腕を掴み、壁に押し付けた。青ざめる海未。

「ブラも着けてないの?」

そう言って、海未を壁に押し付けたまま両腕を頭の上で交差させ、片手で押さえ付け、空いた手で海未の胸を触ろうとした。

「……駄目、海未ちゃんに触るなぁ!」

ずっと黙っていた紡が、絆にタックルする。そして、海未を庇う様に、立ち塞がった。バランスを立て直す絆。

「何だ。二人、デキてんじゃん?」

「…違う。でも、絆の今の行動はやっちゃいけない」

「…ふぅ~ん、いつも俺の後ろに隠れていた紡の割には、言うねぇ」

怒りを見せる紡に対して、余裕の表情の絆。次の瞬間、絆が紡を殴り始める。海未は何が起こっているのか分からない。ただ、今の状況を青ざめた表情で見ていた。

「…っは!?…お前、反撃出来ないくせに、俺に意見するなよ」

床に倒れ込んだ紡に言い捨てる絆。小さく笑う。海未は、初めて見た。絆の嘲笑う表情。背筋がゾクリとする。再び海未に近く絆。海未の目には涙が滲む。

「……止め」

「も~、邪魔するなよ。ウザいよ?」

必死に絆の足を掴む紡に、絆は蹴り上げる。それでも紡は離さない。絆が溜め息をつく。

「…面白くない。や~めた」

掴む紡を振り払い、絆はそのまま弓道場から立ち去った。しんと静まり返る道場。海未はゆっくりと紡に近く。絆は身体を強張らせ。

「…ごめんなさい、殴らないで」

頭を抱えて、身体を震わせる紡。海未の手が、一瞬躊躇する。それでも、紡の身体を抱き締めた。

「…大丈夫です。何もしません。貴方が謝る必要はないですから」

震える背中を優しく撫で言う。しばらく海未は、紡を抱き締め背中を撫でた。少しずつ、紡の震えが治まり、身体を少し離す海未。顔のあちらこちらに殴られた時の傷がある。腫れはあまり目立たないが、赤くなっていた。そこを優しく触れる。

「あまり無茶はしないで下さい。」

微笑み言う海未。紡は海未を見つめると、子供の様に抱き付き甘える。海未もそのまま抱き締めた。どのくらいの時間が経ったのか。お互い、同じタイミングで身体を離す。

「痛みはありますか?」

「…ぅん、少しだけ」

「そうですか。一応、病院に行きましょうか。」

「病院、好きじゃない。消毒液滲みるし、注射嫌いだから」

「…もぅ、子供じゃないのだから、我慢して下さい。私も一緒について行きますから」

傷に優しく触れる海未。紡の表情が変わる。何かを我慢しているような表情。海未は首を傾げた。

「どうしました?」

「……ぃや…何でも……ない」

頬を染めて、視線を反らす紡。海未は気になってしまう。

「新田さん、何でもないって。そんな表情されたら、気になります」

「…ぃや、だって……園田さん、多分疎いでしょう?」

その言葉に、海未の表情が変化する。まるで拗ねているような表情。

「何が疎いのか、ちゃんと話して下さい。それから、私の事は名前で呼んでもらっても構いませんから」

「っえ?」

「…だって先程、名前言いましたよね?」

それは、紡が咄嗟に叫んだ事だった。絆に触れさせたくない思いで。

「あれは、咄嗟に出ただけだから」

「…私が名前で良いって言っているんです。何か問題ありますか?私も名前で呼びますから。それなら問題無いでしょ?」

拒否権はないと感じた紡。無言で頷く。しかし、海未の追求は終わらない。

「それで紡、私の何が疎いのですか?」

「…れ、恋愛です」

「そんなに疎くありません。」

「……なら、僕が海未ちゃんに対して、何を思っているか。分かってるんだよね?」

「分かりませんよ」

その言葉を聞いて、溜め息をつく紡。

「やっぱり疎いんじゃない」

「…そんなに疎いですか?」

「ぅん、物凄く疎い」

首を傾げる海未。それでも納得出来ないようだ。

「それなら、紡は私に何を思っているのですか?」

「言わない。それ言ったら、海未ちゃん。僕から離れるから」

ゆっくりと立ち上がり、紡は乱れた服を直す。海未も立ち上がる。しかし、表情は不貞腐れたまま。それでも、紡の乱れた服を直す手伝いをする。

「私は、紡から離れませんよ?」

背中越しに海未の言葉を聞いて、紡は小さく笑う。

「…ぃや、海未ちゃん。疎い上に免疫無いから、絶対離れる」

「離れません。どうしてそんな事言うんですか」

海未は紡の前に立つ。真っ直ぐ見つめ、紡の腕を掴んだ。紡は揺らぐ。戸惑いの表情のまま。

「僕が海未ちゃんを好きって言っても?」

「私も紡が好きですよ?」

「……僕の好きは、異性としての好きなんだ。海未ちゃんにキスして。エッチな事もしたいって。そういう好き。海未ちゃんは、友達としてじゃないの?」

言われて、海未の動きが固まる。紡はゆっくりと腕を上げ。海未の力は抜けて、するりと落ちる。少し寂しそうな表情の紡。そのまま弓道場をあとにした。

 

 

 

 

その日の夜。海未は頭を抱えて、自室のベッドの上でうつ伏せになっていた。今、頭の中を駆け巡っているのは、紡の言葉。

 

『海未ちゃんにキスして。エッチな事もしたいって。そういう好き』

 

今までそんな感情を言われた事がなかった海未。それもその筈だ。恋愛おろか、異性と交流すらした事がない海未。頭の中はぐちゃぐちゃで混乱している。それだけじゃない。それを言ったのは紡なのだ。海未はゆっくりと息を吐く。

「……次逢う時、どういう顔して逢えば良いのでしょうか」

そう呟く海未。答えなど出る筈はない。海未は微睡む思考の中、紡の事だけ考え眠りについた。

 

 

 

 

次の日

 

 

 

 

海未は、何度連絡しても繋がらない真姫に電話する。数コール、やはり留守番電話に切り替わり、海未は何度も溜め息をつく。

(…今日、行くのは止めるべきでしょうか)

自問自答を繰り返す。脳裏を掠めるのは、紡の事ばかり。海未は躊躇しながらも、桂木プロダクションへ向かう。収録室に入ると、そこに絆が椅子に座っていた。昨日の事が頭を過り、身構える海未。それを察知していた絆は、素早い動きで海未に近くと、ソファーに押し倒した。

「残念~、行動はお見通しだよ」

気持ち悪い笑みで海未を見下ろす絆。海未の身体は血の気が引き、震え出す。

「昨日は紡が邪魔したから、残念だったけど、今日は最後までシようか」

そう言って、上着に手を掛ける。海未の身体を、絆の指が這う。何とか逃げようと懸命に身を捩る海未。まだ誰にも触れさせた事のない場所へ指が下りていく。海未は固く目蓋を閉じた。

「ちょっと!?海未に何してんのよ!?」

聞き慣れた声と共に、乾いた音が響く。恐る恐る目蓋を開ける海未。海未に覆い被さる絆の頬が赤い。海未は放心状態の絆から逃げるように離れると、久しぶりの真姫の姿を見た。真姫と目が合う。

「……真姫」

「海未、ごめんね。私も彼に同じ事されたの。だから」

視線を絆に向ける。絆の方は、まだ放心状態。

「…最初のは私の分よ」

真姫の腕が絆の頬を打つ。絆の身体が横に揺れた。

「今のは海未の分」

その時、海未はようやく気付いた。真姫が平手打ちした事に。そして、打たれた絆は無言。その後、壊れたかのように笑い出した。それと同時に、紡が部屋に入ってくる。それを確認した海未は、紡の側に駆け寄る。

「…良いねぇ、真姫ちゃん。俺と付き合ってよ」

「はぁ?どうしてそうなる訳?意味分かんない」

「良いじゃん、キスした仲じゃん」

「嫌よ!誰が好き好んで貴方みたいな人と」

気が付けば、真姫の唇を絆が塞いでいる。

「んん!?」

身体を捩り、脱け出そうともがく。それを絆は更に深く口付けて押さえ付けた。無理やり唇を抉じ開け、舌を侵入させる。絆の舌が、真姫の舌を絡めとり吸う。その二人を海未と紡は呆然と見ていた。

(真姫を助けなくては)

頭ではそう思うのに、身体が動かない。紡に視線を向けると、紡は海未を見つめていた。射抜かれたように海未は固まる。

「海未ちゃん、僕。海未ちゃんが好きだ」

「…何をいきなり。今は、そんな状況では」

海未の言葉を遮り、紡は海未の腕を掴むと、収録室から出た。部屋に残る真姫と絆。二人は気付いていない。

「んん、ちょっと!?」

何とかキスから逃れ、真姫が荒い息遣いで絆を睨んだ。嬉しそうな表情の絆。真姫が逃げないように、ガッチリとホールドしたまま、ソファーに押し倒す。溜め息をつく真姫。

「あれ?抵抗しないの?お友達もどこか行ったみたいだし、助けに来てくれる人いないよ?」

「……そうね」

真っ直ぐ見つめる真姫。絆の表情が真顔になる。

「貴方、何を考えているの?」

「何が?」

「……はぐらかすのね。良いわ、聞かない事にする」

小さく息を吐く真姫。そのまま目蓋を閉じた。抵抗する様子はない。

「黙って俺に抱かれるって事?」

「…………」

「ふぅん、んじゃ。遠慮無く戴いちゃおうかな」

恐る恐る真姫の胸に触れる絆。真姫に反応はない。次に首筋に顔を埋めた。そして気付く。

「……嘘だろ?この状況で、寝る?普通…」

じっと真姫を見下ろし。絆は唇に優しくキスをした。

 

 

 

 




次回は、紡と絆視点メインでお送りします。


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やっぱり、放っておけない~真姫ルート~

前回、紡と絆視点でとお知らせしましたが、真姫ちゃんが欲しくなったので、真姫ちゃんで行きます。


 

 

 

 

心地好い音楽が聴こえる。オルゴール風の曲。バラードっぽい。真姫はゆっくりと目蓋を開けた。見慣れない天井。窓からはレースカーテン越しに柔らかい光で部屋を明るく照らしている。

「……ここは?」

ゆっくりと身体を起こし、周囲を見渡す。白い壁に、木目調のタンスが一つ。床にベージュの絨毯が敷かれて、その上に丸いガラス製のテーブル。部屋にあるのはそれだけ。あとは真姫が寝ていたセミダブルベッド。キッチンは小さく、数歩で辿り着ける。そこに、腰にタオルを巻いただけの絆が、隣の部屋から出てきた。

「ああ、起きたんだ」

「……ここ、貴方の家?」

真姫は警戒心剥き出しで絆を睨み付ける。クスリと笑う絆。

「何もしてないよ。」

「本当に?」

布団を身体に巻き付け、距離を置く真姫。絆は小さく溜め息をついた。

「寝ている娘に無理やりシナイよ。それに、気持ち良さそうに寝てたし」

その言葉に、真姫は安堵した。

「それにしても、襲われそうになっていたのに、良く寝れたね?」

「……夜勤明けだったのよ。海未から電話が来ていたけど、急患が運ばれてきて忙しかったし」

「そういえば、医者だったね」

言いながら冷蔵庫からペットボトルを取り出し、真姫に近付く絆。真姫の横に座り、ペットボトルの水を飲み干す。

「さてと」

ペットボトルを床に置き、強引に布団を引き剥がし、

真姫を押し倒す絆。

「ちょっと!何するのよ!?何もしないんじゃなかったの」

「何もシナイよ?寝てる間限定だけど」

慌て逃げる真姫。絆は真姫の腕を掴み、真姫の上に覆い被さる。真姫の首筋に舌を這わせ、空いている片手を服の下に滑り込ませ、ブラのホックを外す。

「……やぁ」

身を捩る真姫。絆は真姫が逃げないように、跨がった。そして、上着をブラごと剥ぎ取る。上半身を隠す物が無くなり、真姫は狼狽えた。

「やめて!?」

「……想像以上に肌綺麗だね」

抵抗する真姫。力一杯殴る。絆の顔にもお構いなしに殴るが、その両手を塞がれ、唇を奪う。

「んん!……ぅん、やぁ…ん」

長いキス。唇を割り、舌が絡め取られる。部屋に響く荒い息遣い。

「……う…もう」

長いキスから解放され、涙目になっている真姫。絆は小さく震えた。

「その顔そそられる」

力が抜けた真姫に、絆はさらに追い討ちを掛ける。形の良い乳房。先端は薄いピンク色で、真姫の呼吸に合わせて上下している。絆は思い切りしゃぶりついた。

「…やめ……ぁあ」

全身を駆け巡る刺激に、真姫の身体が仰け反る。執拗に舌で吸い、指先で片方の尖端を摘まむ。

「…ぁあ……んん…ダメぇ…」

絆の髪をグシャグシャにし引っ張る真姫。その間に、下に向かう絆の腕。真姫が乳房に気を取られている間に、スカートとショーツを手早く引き抜き、下半身を滑り込ませた。

「嘘でしょ!?やめ」

真姫の抗議はキスで塞がれた。今まで誰にも触れさせた事のない場所に、絆の長い指が這う。急激に強張る真姫。足を閉じようとしても絆が間に入って、出来ない。

「止めて、お願い」

「残念。それは無理なお願いかな」

真姫の懇願は、不適な笑みの絆には聞いてもらえない。絆の長い指が、割れ目を往復。すると、少しずつ濡れ始めた。ある程度濡れた所で、長い指が真姫の中に入っていく。

「やぁ…ん」

「中、キツいね。やっぱり初めてなんだ」

「そうよ、悪い?お願いだから止めて」

指が中をかき混ぜる。出たり入ったりする度、濡れた音がし始めた。

「ほら、聴こえる?」

「止めて、恥ずかしいから」

「指一本増やすよ」

指が二本になり、真姫の中に入った。そして、今度は大きくかき混ぜる。真姫は溜まらず、動いている腕を掴んだ。

「もう止めて」

「だから、無理だって。俺、真姫ちゃん欲しくなっちゃったから」

そう言って、腰に巻き付けたタオルを外す。大きく反り上がった絆の分身。

「……そんなの入らない…」

青ざめながら真姫が後退りし、絆は真姫の腰を素早く掴んだ。

「最初は痛いから我慢して」

逃げる真姫の腰をしっかり掴み、絆は割れ目に分身を宛がった。息を呑む真姫。絆が腰に力を入れる。痛みが真姫を全身を支配した。

「…ぃた……うぅ」

苦痛に歪む真姫を見ながら、絆の腰は徐々に真姫の身体に近付く。そして、完全に肌が密着した。

「…はぁ……はぁ」

荒い呼吸を続ける真姫。目は涙で滲み、天井を見ている。息を吐く絆。

「真姫ちゃんの中気持ち良い」

「…信じ…られない」

「仕方ないじゃん。欲しくなっちゃったんだから」

「…上手く言って逃れようと…思っているの?犯罪よ。これ」

真姫が睨む。それなのに、嬉しそうな絆。真姫の唇にキスをする。

「良いよ。それで真姫ちゃんを抱けるなら」

その言葉に目を丸くする真姫。次の瞬間には、溜め息をついた。

「貴方、変な人だわ」

「良く言われる。それよりさ、動いても良いかな?そろそろ限界だし」

「っえ?…ぁあ」

真姫の返事を聞かずに、腰を動かし始める絆。真姫は痛みで顔が歪む。それでも絆は止まらない。

「…んん、い……たぃ…もぅや……だ」

何度も腰を動かし、深く貫く。真姫の中で何が変化を始めた。痛みに混じる別の感覚。

「……ぁん…やぁ……はぁ…んん」

甘い吐息。真姫の声が甘くなる。その声に絆の身体が反応した。下腹部が熱くなる。

「ヤベェ、その声。腰にクる」

乾いた音が部屋に響く。真姫の指が絆の腕に食い込む。絆の動きが変化し、小刻みに変わった。真姫に覆い被さり、唇を塞ぐ。真姫の舌を絡め、そして、欲望を吐き出した。真姫の身体が弓なりに仰け反り、痙攣する。

「…はぁはぁ」

「……本当…信じ……られない」

真姫は言う。絆の方は放心。荒い呼吸のまま二人は抱き締めた状態だった。

「そろそろ退いて」

「……」

真姫の言葉に絆は反応しない。真姫は絆の肩を押す。びくともしない絆の身体。何とか抜けようと、真姫は押す。絆の顔が、真姫の目の前に来る。

「退いて。今日の事は、誰にも言わないから」

「……」

「ちょっと、話聞いてるの?」

睨む真姫。一方、絆は反応しない。次の瞬間、真姫の唇を塞ぐ。

「んん!?」

真姫の中で、絆の分身は固さを増し、真姫の中を満たす。イヤらしく動き出す絆の腰。真姫は溜まらず抵抗した。

「…ちょっと……もぅ…何で?……ん」

「ヤバィ……もっと…」

真姫にキスをする絆。真姫の乳房を指で擦る。真姫の身体が跳ねた。すでに絆の形になり始めている真姫の中。真姫本人の意思とは関係なく、絆を包み込んでいる。一番奥まで貫くと軽く絞めてきた。

「真姫ちゃん」

耳元で囁く絆。その声に、真姫の身体が更に反応し、中が蠢く。

「…はぁ……ぁあ、もぅ」

真姫の中が痙攣する。絆がそれを追うように欲望吐き出した。荒く呼吸をする真姫。ぐったりとしている。絆はそれを見て、真姫のお尻を持ち上げた。真姫の中はグシャグシャに濡れている。

「……ちょっ…と、休ませ……」

四つん這いにした真姫を、後ろから貫く絆。

「やぁぁ…」

「止まんねぇ…、真姫ちゃん。壊したらごめんね」

そう言って、絆は真姫を何度も抱いた。

 

 

 

 

一週間後

 

 

 

 

夕方、桂木プロダクションの録音室に、真姫と海未の姿が。二人は相変わらず曲作りをしている。

「ようやく、一曲出来たわね」

「そうですね。こんなに時間が掛かるとは思いませんでした」

「…同感ね」

重たい溜め息をつく二人。ようやく曲が作れても、あとの問題もある。それは歌い手であるラブウルフの問題。二人は憂鬱だった。真姫はそれ以外に悩みがある。それは。

「…真姫ちゃん」

「……絆、ちょっとあっちに行ってくれない?」

真姫の後ろに背後霊のように立っている絆。あれから二人の関係は変化している。海未も二人の変化に気付いていた。ここ数日、絆が真姫の側にいるのだ。

 

『最近、小林さんが真姫の近くにいつもいるのですが』

『ちょっと色々あってね。何を考えているのか、私にも分からないの』

 

絆に見られいように、海未とそんなやり取りをする。

 

(私の初めてを無理やり取ったんだから、訴えてやりたいけど、なんか。放っておけないのよね)

 

心の中でそう感じる。溜め息をつく真姫。それから、海未と次の曲作りを少し話し合い、その日は解散した。海未が先に出て、二人きりになる。絆がゆっくりと真姫に近付く。

「ねぇ、真姫ちゃん」

「…何?そろそろ帰るから手短にしてよ?」

振り向く真姫。そして、固唾を飲んだ。絆の目はギラついている。服の上から真姫を触る絆、不適に笑う。ゾクリと身体が震えた。

「…真姫ちゃんが食べたいな」

そう言って、真姫を事務所内にある自室へと誘う絆だった。

 




次は、海未ちゃんで行く予定にしてます。急な変更の場合もありますので、ご了承下さい!


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君に嫌われたくなくて~海未ルート~

お久しぶりです。本当にお久しぶりです。約1年ぶりの投稿です。待っていてくれた方、ありがとうございます。正直、飽きられていてもおかしくないのですが、皆様の寛容なお心に救われます。

又、久々の投稿なので、誤字、脱字等あるかと思いますが、ご了承下さいませ。

今回は、真姫が絆に初めてを奪われる直前の海未が紡に連れて行かれるところからです。若干、時系列が不安定ですが、続きをどうぞ


 

 

 

 

 

海未の腕を掴んだまま、桂木プロダクションを飛び出る紡。元々体力がない紡の呼吸は激しく乱れている。しばらく、歩道を歩いていると腕を掴まれた海未が歩みを止め、紡に掴まれていない手で、紡の身体を引っ張った。その反動でバランスを崩す紡。肩で息をする紡がゆっくりと振り向く。

「……」

「……」

無言で見つめ合う二人。無言の海未が、紡に掴まれた腕を振り払おうと、動かす。抵抗する様に、紡は掴む力を強めた。しかし、何故か海未はため息と共に力を抜く。そして、紡の腕を掴まれた腕とは反対の手で掴んだ。

「紡、ちょっと一緒に来て下さい」

「……ぃやだ」

「あそこには戻りませんから」

そう言って、視線を桂木プロダクションに向ける。海未の言葉で、紡の身体の力が抜けた。掴んでいた手を放す。次の瞬間、今度は海未が紡の腕を掴んだ。

「今から行きたい所があります。紡、一緒に来てくれますよね?」

そう言った海未の目は、とても怖かった。

 

 

 

 

音ノ木坂学院 弓道場

 

 

 

 

静まり返った弓道場に響く弓の空を切る音。海未は珍しく弓道着も着ず、弓を引いていた。怒りの感情が、海未の目に灯っている。的の中心は幾つもの矢が突き刺さり、最早刺さる場所はない。それでも、海未の怒りは治まらず、矢を放つ。矢が向かう先は、的の中心。刺さっていた矢を押し退ける形で、矢が突き刺さる。ふぅと、一息吐く海未。その後ろでは、真剣な表情で海未を見つめる紡。海未の後ろ姿を息を殺して見つめ続ける。

「……海未ちゃん」

無言で立ち、微動だにしない海未に紡は怖々と声を掛けた。その声に、ゆっくりと振り向く海未。その目は、まだ怒りが宿っていた。徐に生唾を飲み込む紡。怒っている表情も美しい。そう感じてしまう。

「…紡、私が何故怒っているか分かりますか?」

その問いに、首を横に振る紡。

「あの時、真姫を助けようとしたのに」

それだけ言うと、再び無言になる海未。

「……ごめん、海未ちゃん。でも僕」

「もう、手遅れ……ですよね。小林さんのあの状態でしたら…今頃真姫は」

独り言のようにそう言うと、海未の顔は徐々に赤く染まり、頭から湯気が上がる。

 

(海未ちゃん、可愛い)

 

海未の今の姿に、紡の心臓は高鳴る。気が付けば、海未に近付き、手を伸ばしていた。手が、海未の頬に触れる。強張る海未。

「……紡」

「ごめん、西木野さんの事」

「今更そんな事言われても困ります」

「うん、そうだよね。でも、ごめん」

紡は俯いた。海未も何も言えず黙り混む。

「……あの時、そうしなきゃと思ったんだ。別に、絆に言われた訳でもないんだけど。でも、海未ちゃんを守らないとって」

海未が真っ直ぐ紡を見つめる。

「この間の事、きちんと話したいっていうのもあったし」

その言葉で、海未の顔が徐々に赤く染まる。それを確認して、紡は口を開いた。

「僕、海未ちゃんが好きだよ。一人の女性として」

言いながら、一歩下がる紡。海未の表情が曇った。それは不安な表情。

「対人恐怖症なヤツが何言ってるんだ。って言われるかも知れないんだけど、好きでそうなった訳じゃないんだ。僕だって、人並みに恋だってするよ」

言いながら、また一歩下がる。海未の不安な表情が濃くなった。

「でも、臆病なヤツなんだ。僕は」

また一歩下がる。海未が何か言いたそうな表情をした。

「……君に嫌われたくなくて、ズルいんだよ。でも僕、自分でもどうしたら良いのか分からない。好きなのに、嫌われたくないのに……」

苦悶の表情の紡。呼吸が荒くなり、その場に踞る。

「紡!」

海未は駆け寄ろうとしたが、紡の手が制止の意思を示す。呼吸が荒いまま、ゆっくりと立ち上がる紡。

「…ごめん、一人で考える時間が」

「許しませんよ」

「……っえ?」

海未の言葉に、紡が顔を上げる。目の前には、真剣な表情の海未。

「逃げるんですか?私に……その、告白しておいて」

頬を染めたまま、海未は言った。そして、ほんの一瞬の口付け。何が起こったのか分からず、固まる紡。海未の手が、紡の頬に触れる。微笑む海未。

「…私……も、好きです。紡の事が」

「………友達の好きとかじゃなく…て?」

「初めての感情なので、私も何と言えば良いのか分かりませんが、お友達の好きではありません。紡にもっと触れて欲しいと思っています」

頬を染めたまま、真剣な表情の海未。紡の呼吸は正常に戻っていた。紡の手が海未の頬に触れる。その触れた手に、海未は自分の手を重ねた。

「……海未ちゃん」

「はい、何ですか?」

「…キスしたいです」

海未が微笑み、ゆっくりと目蓋を閉じた。

 

(っあ、どうしよう。海未ちゃんが可愛い過ぎて、止められる自信ない)

 

海未の唇に吸い寄せられる様に、紡は顔を近付け、そんな事を考えていた。

 

 

 

 

数分後

 

 

 

 

「…ん……ちょっ…と、待って」

弓道場の床に押し倒され、海未の声が震える。海未が何か言おうとすると、それを塞ぐ様に紡が唇を重ねてくる。紡は海未の唇を貪った。勿論、すでに紡の下半身は雄の象徴が浮き出て、ズボンが窮屈そうだ。そして、その昂りを紛らわす様に、海未の下半身に擦り付けていた。

「…ゃん、ちょっと紡」

足と足の間に、紡の身体が邪魔をして、恥ずかしくて足を閉じたくても閉じられない海未。その恥じらう姿に、紡の下半身は強く反応。より強く擦り付ける。

 

(ダメだ……やっぱり止められない。どうしよう)

 

今まで感情を閉じ込めていた紡。特に、恋はもう無理だと諦めていた。そこに海未が現れ、しかも今の自分を受け入れてくれたというその喜びに、紡の感情は暴発している。頭では『冷静にならなくては』と、思っているのに、感情と身体は言う事を効かない。海未の唇を貪り、手は海未の身体を撫で這う。海未は何度も身動ぎ。ただ、抵抗しているようではなかった。

 

(嫌われたくないのに、止められない!)

 

荒い呼吸、紡のキスを受け入れながら、海未は紡の頬に触れる。

「……紡」

「ごめん、自分でも止められないんだ」

泣きそうな表情の紡。海未は腕を回し、背中を撫でた。

「……それは良いんです。ただここではちょっと……それに腰も痛いですし」

紡の動きが止まる。海未の顔を見つめた。身体を海未の上から退き、海未の身体を起こす。海未の手を掴んだ紡。

「海未ちゃん、それって」

期待と不安の表情で、紡が言う。海未も、恥ずかしいのか、視線を泳がせ。小さく頷いた。その後の紡の行動は、出逢ってから初めて驚くほど速かった。

 

 

 

 

とあるマンションの一室

 

 

 

 

海未は、産まれて初めて男の人の部屋に入った。紡は、几帳面なのか、とても綺麗にしている。家具のほとんどが明るい木目調で統一され、壁紙は淡いベージュ。間取りは、8畳一間のワンルーム。セミダブルのベッド、二人掛けソファー。ローテーブルとテレビ。キッチンは対面式で、紡はそこでお湯を沸かしていた。海未の内心はそわそわ。自分が言った手前、恥ずかしさと不安で言葉が見つからない。『心の準備が出来てないから』なんて言える筈もなく、真っ赤な顔のまま段々と俯いていく。

「…海未ちゃん」

「…は!はい!」

急に声を掛けられ、上擦る海未。そんな海未の姿に、紡はクスリと笑う。

「…ど……どうして笑うのですか」

「あはは!ごめん、あまりにも海未ちゃんが緊張してるから」

「紡!」

海未の手が横に腰掛けた紡の膝を叩く。紡が両手を上げて、降参の意思を示す。

「緊張しないで、何もしないから」

「……本当に?」

「うん、海未ちゃん。心の準備出来てないでしょ?」

「…そ、それは…そうなんですけど」

「確かに僕、暴走してたけど、場所移動して、今は落ち着いたから」

「そうですか」

明らかに安堵のため息を吐く海未。紡は残念な表情を浮かべた。

「でも、油断してると」

「…っえ?」

海未が顔を紡に向けたと同時に、紡がキスを一つ。真っ赤に染まる海未。

「海未ちゃんに嫌われたくないけど、僕も男だからね。油断してると食べちゃうかも」

不敵な笑みを見せる紡。海未の心臓は高鳴った。

 

(紡、反則ですよ。格好良すぎます)

 

しばらく、海未の心臓は高鳴ったままだった。




まだまだ、不規則、不安定な投稿状態が続くと思います。書き手としては致命的ですね……。善処出来るよう頑張ります!

紡と海未が付き合うのが、ちょっと急すぎるなぁなんて、書いてる自分も思うところ。でも、この二人。意外と最初から両思い的な感じで進んでいたので(自分的に)結果オーライです。


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もう我慢出来ない~海未ルート~

続きをどうぞ


紡と付き合い出してから数ヶ月、二人の進展は然程無く、まるで中学生のお付き合いのようだった。休日はデートし、お互いの家に行き来する。良い雰囲気になりキスをするが、それ以上進もうとすると、海未がフリーズ。紡は滾る息子をなだめながら平静を保つ。そんな状態が続いていた。

一方、真姫と絆の関係も微妙な状況。付き合っている訳でもなく、何となく逢い、身体を重ねるそんな付き合いを続けている。まるでセフレだ。そして、そんな悩みを誰にも話せずにいる。海未も真姫も心のどこかで焦りを感じた。そんなある日。紡が海未を自宅のマンションに来るようメールを送って来た。

「今日は急にメールしてくるなんて、どうしたのですか?」

海未の問い掛けに、紡は反応しない。首を傾げながら紡に近付く海未。すると、無言で紡が海未をベッドに押し倒した。

「どうしたのですか?紡」

海未は驚きの表情で紡を見つめる。身動ぎしようとしても、紡に両腕を拘束され、足と足の間には紡の下半身が入り込み、逃げられない。

「…海未ちゃん、僕、もう限界だよ。海未ちゃんと一つになりたい」

荒い息遣いで見つめる紡。射抜くような視線。海未の鼓動が急速に高鳴る。

「……分かりました」

覚悟を決めた海未の言葉。今度は紡が驚く。でも、上着が少し擦れ、腹部が見えるその姿に、紡の下半身が少しずつ脈を打ち始める。そして、紡は海未の口を塞いだ。どうしていきなり紡が行動に移したのかというと、数時間前に遡る。

 

 

 

 

紡は最近変化をみせたラブウルフのメンバーが気になった。それは、時田慎と和久井聖の二人だ。二人は女性に対してそれぞれ、アレルギーと恐怖症を持っていた。しかし、最近の二人はある特定の女性達に強い好意を示し、アプローチしているらしい。その女性達が絢瀬絵里と東條希である。しかも、海未と真姫の友人だという事は、今は知る由もない。そんな事を考えていると、事務所の一室から声が聞こえてくる。声の主は慎と女性。紡は沸き上がる興味からつい、部屋の中を覗いてしまった。

「ああ、ありがとう絵里」

「もう、忘れ物しないで」

「……ごめん、これで許して」

そう言って、女性にキスをする慎。

「ん、そんなので許してもらえると思ったらダメよ」

絵里と呼ばれた女性は、それを受け入れながら抗議。しかし、慎は絵里の身体をイヤらしく触る。絵里の首筋に舌を這わせ、服の上から胸を撫でた。絵里が身動ぎする。

「や…もう、慎」

「絵里、ここでシても良いか?」

下半身を妖しく絵里に擦り付け、耳元で囁く慎。絵里の表情は、恥ずかしながらも与えられる刺激に高揚していた。紡は目の前で行われる淫らな行為に目が離せない。脳裏には海未の裸が浮かび、絵里が海未に見え始めた。下半身はすでにそそり立ち、ズボンが窮屈になる。荒い呼吸で二人の行為を食い入る様に見た。無意識に手が下半身に触れる。紡はその場を足早に去ると海未にメールを送ったのだった。

 

 

 

「……紡?」

海未の声に、我に帰る紡。海未は不安そうに紡を見ていた。

「本当に良いの?怖くない?」

「…正直、怖いです。でも私も紡と一緒になりたいです」

紡は胸が締め付けられた。恐る恐る海未の胸を服の上から撫でる。海未は抵抗しない。拘束していた手を放し、海未の首筋に舌を這わせた。海未の首筋がピクリと反応。紡は海未の様子を確認しながら、徐々に手を服の中に滑り込ませ、下着の上から胸を触った。

「……あ」

「ごめん、大丈夫?」

「大丈夫です。続けて下さい」

顔を真っ赤にそめながら海未が言う。紡はブラのホックを外し、直に胸を触った。海未が切ない声を上げる。しばらく胸を揉みしだき、時折尖端を摘まんだ。

「やん…あぁ……紡」

海未の甘い声に、紡の下半身が反応を示す。溜まらず、海未の上着を剥ぎ取った。色白の裸が、とても綺麗で恥じらう海未の表情が、そそられる。

「海未ちゃん、隠さないで」

恥ずかしさで隠していた腕を胸から退かし、紡は尖端に息を吹き掛けた。そして、しゃぶり付くように尖端を貪る。

「…ああ!」

声を上げると同時に、腰が浮く。紡はそれを見逃さず、海未のスカートとショーツを一緒に取った。海未の反応を見る余裕が、紡に無くなり始める。海未の秘所に息を吹き掛けると、舌を這わせた。急に刺激を与えられ、悶える海未。

「……やあ…紡、舐めないで」

しかし、雄の欲求に支配された今の紡に、海未の声は聞こえない。夢中で秘所を舐め、広げていく。

「…あ……あぁ…もう、やぁ」

急に紡の顔が海未の目の前に来た。その目はギラギラと光り、今にも海未を犯しそうだ。涙を滲ませる海未に、紡は優しいキスをする。舌と舌を絡め、貪り合う。その間に、紡の指が海未の秘所の中に入っていく。

「…んん」

紡はキスで海未の声を塞ぐ。秘所の中を何度も抜き差し、徐々に解していく。指が2本に増える。今度は、中を抉る様に大きくかき混ぜた。海未の腰がフルフルと震え、キスの合間から甘い声が出てくる。空いている片手は、胸を揉み、尖端を摘まんだ。コリコリと摘ままれ、海未の腰が揺らめき始める。

「……ん、あぁ…んん」

紡が秘所から指を抜く。海未の中が切なく蠢いた。次の瞬間、秘所に紡の雄の象徴を宛がう。

「海未ちゃん、本当に良いの?」

「……はい、私を大人の女性にして下さい」

グチュリと濡れた音。

「ゆっくりするから、力を抜いてね」

その言葉に頷く海未。紡はゆっくりと腰を進める。海未が苦痛で顔を歪ませた。背中には海未の爪が食い込む。

「……はぁ、全部入ったよ」

そう言って、海未の髪を撫でる紡。海未の中で、紡の分身が脈を打ち、存在を伝える。海未は溜まらず恥ずかしさで身悶えた。

「……恥ずかしい」

「っえ?今さら?」

「だって」

「……海未ちゃん、これからもっと恥ずかしい事するんだけど」

言って、腰をイヤらしく動かし始めた。溜まらず海未は紡の背中に爪を立てる。最初、ぎこちない動きだった紡の腰使いも、強弱をつけ海未を責め立てた。

「…んん、やぁ…あぁ」

海未の方も次第に甘く喘ぎ、紡の与えられる刺激を受け入れる。そして。

「…んん、紡……私、何か変です…あぁ」

「…良いよ海未ちゃん、イッて」

紡は腰を一度ギリギリまで引くと、思い切り奥まで打ち付け、グリグリと中をかき混ぜた。海未は声無く弓なりに身体をそらせ、絶頂する。その後を紡が続いて射精した。脱力感が二人を襲う。紡は海未を抱き締めた。海未も抱き締める。

「…紡、私とても嬉しいです」

「僕も今凄く嬉しい」

重なり合う唇。紡は慎と絵里と呼ばれた女性に感謝しながら、目蓋を閉じた。




なかなか進まなかった海未と紡。絵里本人は知らなかった所で、まさかの出逢いでした。しかし、二人の進展に、密かに後押ししていたとは。作者びっくりです。


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