チーズ系転生者 (カチカチチーズ)
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チーズの品目
鉄血の死神:ハイスクールD×D


気まぐれで思いついた作品を投げつけてみる。
やめて!?チーズは投げないで!!
第三のチーズ主人公
主人公の設定は後書きで


 

 

────嗚呼、どうしてこうなったのだろうか

 

 

 俺は目の前に広がる光景を見て嘆息した。

 煙の立ち上る焦土と化した大地、視界の端々に映る敵兵だった炭の数々、風に乗って運ばれてくる硝煙と鉄と血の臭い。

 度々、聴こえてくるのは配下の放つ砲撃と逃げ惑う敵兵の悲鳴、見えるのは配下の砲撃により焼け捲れる大地、感じるのは戦争とは名ばかりの蹂躙劇という事実。

 

 俺は風によって飛んでいきそうな軍帽を片手で抑えつけて、軍服の上から羽織った配下手製のマントをはためかせながらこの戦場の中心を堂々と歩いていく。

 その際に幸か不幸か生き残った敵兵がその身体から血を流しながら一矢報いんと仕掛けてくる、近場の槍や剣などで襲いかかる者は軍帽を抑えていない方の手でその武装ごと殴り砕き、遠目から魔力を放ち狙撃せんとする者は俺を追いかけてくる後方の配下らが素早く砲撃で吹き飛ばす。

 

 

────ああ、これは後で叱られるな

 

 

 などとどこか他人事かのように戦場で些かズレた事を考えながら俺は構わず戦場を突き進んでいく。

 

 さて、何時から俺は前線を抜けて敵の司令部付近に来てしまったのだろうか。周囲を軽く見回せば、そこには何十、何百もの敵兵……悪魔どもが俺へとその手の槍を剣を魔力を向けていた。

 どうやら先行しすぎたようだ。近場にはまだ配下の気配はなく、配下からの支援は望めないようだな。

 

 

 一人、武器を持たずにいる俺を何百人で囲んだ事で何やら気が昂っているのだろうか悪魔どもは皆一様に下卑た視線と嘲笑の意を俺へと向けてくる。

 

 

「大人しく投降しろ。そうすれば酷い事はしないでやってもいいぞ?ん?」

 

 

 そう、下卑た視線と声で俺に投降を要求してくるのは恐らくこの悪魔どもの指揮官であろう大きく腹の出たまるでヒキガエルか何かのような醜悪な顔の悪魔。俺はそのヒキガエルの悪魔を見て顔を顰める。

 何やらこのヒキガエルの悪魔はいくつか勘違いをしているようだ。

 俺はその勘違いしているであろう事の内の一つに苛つきを覚える。

 

 

「どうした?恐ろしくて声も出ないのか?ん?ん?」

 

 

 こちらが黙っていた事でまた勘違いしてその意気を昂らせるヒキガエルの悪魔。

 ああ、面倒だ。

 俺はそのヒキガエルの悪魔を、周囲の悪魔どもを無視するように背後……来た道の方を向いて……

 

 

「己が優位に立っている、それはただの勘違いというものだ。悪魔(トイフェル)

 

 

 

 そう、俺は嗤い、その右手を上げて振り下ろす。すれば一拍を置いて────

 

 

 

────────!!!!

 

 

 

 鉄の暴風がこの司令部を襲った。

 耳に痛い響音が周囲に響き渡るが俺はそれらを無視して揚々と吹き荒れる鉄の暴風の中を歩いていく。

 しかし、どういう原理か鉄の暴風は一切俺の身体を傷つけないどころかそもそも掠りすらしない。本当に自分自身でもこの掠りしない原理はわからないが当たらないのならそれでいいだろう。

 

 

「ああ、まったくどうしてこうなったんだろうな」

 

 

 鉄の暴風が止み、周囲に鉄の暴風により発生した熱量で蒸発した血の臭いと熱せられ融解した鉄の臭いが充満する中、俺は軍帽を浅く被り直して紫色に染まる空を見上げながらそう呟いた。

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 その人物の終わりは一つの気まぐれだった。

 つい先日に、大学の卒業旅行と称して友人ら数人と共にドイツへの初の海外旅行から帰ってきたその人物は、本場のソーセージという奴を堪能したのを思い出しその日の夕食にとドイツで購入したソーセージを用意した。

 アッツアツのソーセージに冷えたビール、そしてちょいとしたお洒落を求め、友人に押し付けられたそれなりの大きさのチーズを詳しい作り方を知らなかった為に寸胴鍋で煮溶かしそのままチーズフォンデュを楽しもうとしていた。

 

 だがしかし。

 

 悲劇というものは何時も唐突に起きるものだ。

 

 

────っとと……んぁ…………ああぁぁぁぁあ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!???

 

 

 台所で食べる前に片付けをしていたところ、不安定な置き方をしていたアッツアツの煮溶けたチーズ入りの寸胴鍋がキッチン備え付けの鍋入れで別の鍋をしまう為にしゃがんでいたその人物の下へ落下。

 丁度顔を上げたところで寸胴鍋の中身が降りかかり、チーズが鼻と口へ侵入。

 結果アッツアツのチーズにより気道を塞がれ、最後に落ちてきた寸胴鍋で気絶、そのまま帰らぬ人となった。

 

 

 

時期:大学卒業後

死因:チーズフォンデュで気道が塞がった事による窒息死

チーズの種類:多種多様なチーズ

 

 

 

 その人物はやはりチーズで死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 そうして、こうなるわけか。

 

 

「聞いているのか総統(アドミラール)!」

 

「ああ、聞いてるよ」

 

 

 俺は現在、戦場での先行しすぎによる説教を受けていた。

 無論、自分でもアレは先行しすぎた。そう感じてしまっていた以上、彼女……グラーフの説教を回避する事など出来なかった。

 だがしかし、かれこれ説教は二時間ほど続いているのだが…………そろそろ解放されたい。

 

 

「そもそも総統(アドミラール)はなぁ!」

 

「…………」

 

 

 始めの四十分程は真面目に聞いていたのだが、一時間を超えた辺りから俺は彼女の説教を右から左へと流していた。

 というか二時間もぶっ通しで説教しているが疲れないのだろうか。喉とかその辺り。

 と、まだまだ続くかと思われた説教は意外な人物によって終了させられた。

 

 

「はいはい、グラーフ説教はその辺にしましょ」

 

「ッオイゲン!」

 

「説教が二時間越えたわ。もう司令官(アドミラール)も殆ど聞き流してるのに続ける意味無いでしょ」

 

 

 そんなふうに呆れたようにグラーフの説教に口を挟んだのはオイゲン。どうやら彼女には俺がグラーフの説教を聞き流してる事がバレていたようだ。

 ああ、とても今更だが悪魔どもの司令部に鉄の暴風を引き起こしたのはオイゲンだ。聞けば作業じみてきた前線よりも俺の後を着いて行った方が刺激がありそうだったらしい……上司を囮にするな。

 

 

「聞き流しているだとッ!?総統、私はお前の為にだな────」

 

「だからといって二時間はないわ。そこまでいったら総統の為じゃなくて自己満足のレベルよ」

 

「なッ────…………もういいッ!私は軍務に戻る!」

 

 

 オイゲンの言葉にグラーフは一瞬言葉を失い、そのまま語気を荒くしながらこの陣幕から出ていった。

 彼女の背からはとてつもない怒気が感じられて、俺は少し頭が痛くなった。

 

 

「……後でフォローしとくわ」

 

「そうね、そうした方がいいわ。……それと」

 

「はいはい、グラーフの後でだがきちんとお前に御礼をしますよ」

 

「ええ、楽しみにしてるわ」

 

 

 オイゲンの小悪魔じみた微笑に俺は搾られるなとさらに頭を痛くさせた。

 さて……グラーフのように陣幕を後にしたオイゲンを見送ってここには俺しかいない。

 そう、俺一人

 だから

 

 

「────チーズで死んだらなんで傭兵してるんですかねぇ」

 

 

 いつも通り俺は愚痴る。

 仕事終わりはいつもこうだ。仕事上色々とストレス的なモノが溜まってしまうため、こうして誰にも聞こえないところで淡々と愚痴っていく。

 まあ、効果があるのかどうかはわからないが愚痴とともにストレスを吐き出していく。

 

 と、ここらで俺についての情報でも整理する。

 チーズで死んだ俺は気がつけば赤ん坊になっていて別世界に転生だか憑依だかをしてしまったようだ。

 母がドイツ人だった俺はドイツと日本のハーフとして生まれ、母親の血が強いのかやや日本人離れした容姿を手に入れたのだが…………

 

 

「…………見た目完全に鳶一折紙なんだよなぁ」

 

 

 手鏡を取り出し自分の顔を映してみればそこにはデート・ア・ライブのメインヒロイン(確定)な鳶一折紙(長髪)がいた。

 まあ、彼女ほど純粋()な眼ではなく少し濁った眼など違いはあるがそれは瑣末事項だ。

 こんな美少女な見た目ではあるがきちんと生物学上は男だ。服の上から見れば本物の少女の様な華奢な肢体ではあるが脱いでみると戦場での古傷がチラホラあるし、きちんと身体は鍛えてるし…………前世の身体よりは無いがそれでも鳶一折紙よりは身長あるし…………。

 と、まあ、部屋整理していたら途中から懐かしいとか出てきたモノを弄くり回すように脱線したから戻ろう。

 

 現在、俺は二十代後半につい先日入ったばかりなんだがどうやら俺は幼年に死ぬはずだったようだ。どうしてそんな事が分かるかというと…………俺の中にあるモノが理由だ。

 

 俺は手元にソレを出し、ソレをペン回しのように掌で弄びながら本来の持ち主を夢想する。

 

 俺は幼年に一度死ぬかもしれない大病を患ったのだが、いま弄んでるソレの力を使う事で生きながらえた……そして数年前に日本のとある地方都市のとある学園に魔王の妹が入学したという噂を聞き、俺は本来幼年に死ぬはずだったという結論に至った。

 そうしなければ、彼女がソレを持って生まれるという本来の歴史と辻褄が合わないからで…………まあ、いいや。

 どうせ、数週間もすれば彼女と御対面するんだ。今更考える必要も無いな。

 

 

「────それに何より、こんなガラクタよりもどうしてあるのかまったくわからない能力と中身が疑問だよ」

 

 

 椅子から立ち上がり、椅子と机を片付ける。

 仕事は終わりだ。

 

 

忠誠こそが我が名誉(ジークハイル)────」

 

 

 軍帽を被り直して俺は陣幕を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────続くかどうかわからない予告もどき(続いたとしてもこうなるのかそもそも不明)

 

 

 

 

 

 

 

「────忠誠こそが我が名誉(ジークハイル)

 

 

 深夜の戦場、深夜の学園に響く静謐なるその声に戦場にいる者たちはその心臓を鷲掴みにされたような感覚を覚えた。

 その感覚を知っていたコカビエルはすぐさま硬直より回復し、旧知の怪物を見つけ出す。

 学園新校舎の屋上、嘗て第三帝国を自称した世界の敵とも呼ばれた軍事国家と同じ意匠の黒い軍服を着込み首には金刺繍のルーン文字が施された黒の帯を垂らされ、マントを羽織り胸元で留めた一つの人影。

 

 その相貌はまるで人形の様に美しい少女のそれ、腰ほどまで伸ばされた白雪の如き髪と相まってまるで天使かなにかのように感ぜられる。

 

 されど、その身に纏う雰囲気はそんな美しい容姿とかけ離れた、どうしようもなく『死』を感じさせるモノ。

 

 

 そんな旧知の怪物を見つけたコカビエルは戦慄き叫ぶ。

 

 

「ァあ、嗚呼…………漸く、漸く再び会えたなァッ!!死神ィィッ!!!!」

 

「────クハッ」

 

 

 積年の憎悪を募らせ歓喜に叫ぶコカビエルに怪物……死神は嗤う。

 

 

 

 

 

────────

 

 

 

 

「死とは何か分かるか?」

 

「は?」

 

 

 冥界で開かれたパーティー。その最中、兵藤一誠は会場のベランダで気を落ち着かせようとし、ベランダへと訪れたはいいもののそこには先客がいた。

 少女の如き華奢な肢体をやや大人しくさせた黒の軍服に包ませた白髪の男。

 悪魔、天使、堕天使問わず、鉄に血が流れていると形容されるほどの慈悲無き死神に突拍子もなくそんな言葉をかけられた一誠はその唐突さに馬鹿丸出しと言われても仕方ないような声を上げる。

 

 そんな一誠を見て死神は嗤い、告げる。

 

 

「死とは何より大切なものだ。遍く全てが生まれてたった一度しか経験することができない神聖にして不可侵の終焉」

 

「…………」

 

「だが、君は……いや、転生悪魔の半分程が死後、駒により悪魔へと転生した。分かるか?死を二度味わう事が約束された」

 

 

 死神の言葉は軽い語気でありながら始終重圧を感じさせるモノ。

 そんな死神に一誠は言葉を口にすることが出来ない。

 

 

「……二回目の死……そんなものに価値があるのだろうか。俺たちはその約束された一度きりの終焉へと疾走する……満足した生に終わりを迎える為に」

 

「…………」

 

「メメント・モリ……受け取り方は人それぞれだが、俺は何より一度きりの死を尊ぶ。だから、教えてくれ……その唯一を得たにも関わらず二度目を約束された男よ」

 

 

 まるで冷えた鉄芯を襟首から背中へと入れられたかのような寒気を覚えさせる微笑に一誠は何度か躊躇いながら答える。

 

 

「…………そんなんはさ……アンタの独り善がりみたいなもんなんじゃないのか?アンタが一度きりの死ってのを大切にしてて、二度目がある奴を見下してるかはどうか知らないけど……そんなん人それぞれだろ」

 

 

 一誠は死神の機嫌を伺うような死神の意見に沿った言葉ではなく自分が感じた事をそのまま口にした。

 嘘偽りの無いその言葉は、聞く者によれば「そんなもの人それぞれ、個人個人の考え」と他者の考えを理解せず自分とは違うと封殺する様なモノと受け取れるが死神は嗤い

 

 

「そうだな。君にとって俺の死を尊ぶ思想は本当に埒外のモノ何だろう。うん、否定しているように聞こえるが一つの意見として肯定されているようでもある…………」

 

 

 死神は何やら満足した様子で何度も頷き、一誠に微笑を向けて

 

 

「故にだ。一つ道を教えよう」

 

「道……?」

 

「これから先の岐路、君がどれを歩むかはわからないが…………今はその一つを」

 

 

 死神は片手に持っていた食べかけが乗った皿を置いてから白ワインを飲み干し

 

 

「蠅の末裔は確実に滅ぼすべし────」

 

「……なっ────!?」

 

 

 言葉を残してベランダから飛び降りた。

 

 死神の言葉を飲み込んでいた事で一瞬、反応が遅れた一誠はすぐさまベランダの端へと駆け寄りベランダの下を覗いてみるがもはやそこには誰もおらず、死神がいたという証になるものは食べかけのチーズとソーセージだけ。

 

 

 

 

 

 

────────

 

 

 

 

 

「────鉄を持て、血を流せ」

 

 

 戦場に響くは死神の願い

 

 

「────我らは武器を執る 我らは血潮を垂らす」

 

 

 あらゆる外敵を排除したい。

 愛しい者との平穏を享受したい。

 

 

「────遍く平穏の為に 静謐なる眠りの為に」

 

 

 死神の思い想うのは『唯一無二の死を尊ぶ』

 己自体が二度目の生を歩んでいるという事実を嘆き受け止め、だからこそ一度きりの死を想う。

 

 

「────我らが平穏、侵されざる静謐な時を望むならば鉄と血を以て勝ち取るのだ」

 

「────鉄血せよ。我らが願いは鉄血によってのみ齎されるのだから」

 

 

 平穏と排除。唯一無二の死。

 二つの願いと一つの思想は死神の中で混ざり合い駆動し、脈動し、鳴動する。混ざり合い新生する願いと思想は一つの渇望と化す。

 

 

「────死の幕引きこそが唯一の救い」

 

 

 渇望の受け皿たる聖遺物は既にある。

 死神の肉体……否、位相の異なる身体。人間としての肉体とは違う聖遺物の肉体が死神の『平穏を脅かす敵に唯一無二の死を与えたい』という鉄血たる渇望を受け止め顕現する。

 無論、あくまで聖遺物。水銀の蛇の術理などかかっていない……聖遺物という体しか成していない。だがしかし

 

 

創造(Briah)────」

 

静謐なる時は激動の後に訪れる(ミズガルズ・ヴォルスングサガ)

 

 

 水銀の魔術が無かろうとも、そんなもの己が意思一つでなんとでも出来るだろう────

 

 

 世界は裏返り、ここに死神は人間から鉄血の魔人へと羽化した。

 

 

 




主人公……
見た目……デート・ア・ライブ:鳶一折紙(長髪)
能力……無機物に生命を付与できる
身体……鳶一折紙(男)ボディ、機神・鋼化英雄(調整済み)
神器……幽世の聖杯(ヴァレリーはノー神器)
CV……任せるbyチーズ


社畜スロットはまだ書き途中です。許してくださいチーズあげますから


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霧に舞う剣士:ハイスクールD×D

別に詰まってないけど書いた。後悔?ふ、そんなもの既に武蔵ちゃんに斬られたぜッ!!




 

 

 

 さて、運命に抱かれている彼は平凡な人間というわけではない。

 ただの人間が力を持ったとしてすぐに強くなれるか?無理だろう。ならば、彼には下積みがあるのは間違いない。

 ほんの少しだけではあるが彼の生涯、その一端を語るとしよう。

 

 

 

 

 彼はやや少し特殊な家に生まれた。

 と、言ってもライトノベル・ゲーム・アニメに有りがちな何やら特別な血を引いているというわけではなく、ただ単純にズレている家に生まれただけだ。

 

 明治以前から細々と続く刀に連なる家の分家のそのまた分家。探せば時折見つかるようなそんな家柄の一つ。

 重箱の隅をつつく様に探せばもしかしたら有名所の親戚かもしれないというそんな家。

 祖父は時代錯誤な鍛冶師、父は地元でそれなりに有名な剣道及び剣術の指南者。そんな血を受け継いだ彼はやはりズレている。だから、彼は先の世界で人を殺してもショックを受けなかった。

 

 

 無論、彼とて自分の歪みを理解し受け入れている。何故ならもう仕方がないから、変えようもないのだから。もしかしたら変えれるかもしれないにも関わらず彼はそれを放棄した。

 こういうところが後々の騎士となった時に呆れられる原因なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 さて、そんな彼は剣術を父に習っていた。その過程で北海道の大学で通う事にしていた。理由は寒いから、と彼は答えるだろう。

 

 ……話を変えよう。

 

 

 その過程、その時期、その結果は違えど彼の運命は定められている。

 その運命の中から一つ、今回の彼の死をもって新たなる世界を拓くとしよう。宛ら、外史を創り出すとある一人の男子学生の様だ。

 

 

 

 

 ある時、大学より諸事情で地元へと帰省していた彼が街を歩いていた。

 そして、空には一羽の烏が飛んでいた。烏はたまたま公園で拾い持ち帰ろうとしていたチーズを運悪く落としてしまった。

 よくある円形の箱に入れられている一ピースのチーズ。

 せいぜい高層ビル程度の高さから落とされたとして、はたしてどれほどのスピード・威力なのかはわからない。

 

────しかし、運命は定まった。

 

 落下するチーズ。

 既に死の因果は定まり、回避出来ぬものとなったチーズはそのまま街を歩く彼の首もとを穿ち、骨を砕き、内臓を引き裂き、そして肉を破った。

 即死である。

 

 

 もはや運命が彼に追いついた以上、神の御業であろうとも、如何なるものですらその死を覆すこと能わず。

 

 

 

 

 かくして、彼は死んだ。

 

 その生命は、その魂は、次の世界へ

 

 その際に彼はその在り方を、その魂を僅かに変えられる。

 それはもとある絵の具に僅かばかりの別の絵の具を混ぜるのと同じと言える。

 

 例えば、湖光を抱く騎士。

 例えば、悪を自覚する赫赤の眼を持つ捕喰者。

 例えば、唯一無二の死を尊ぶ鉄血の死神。

 例えば、祖父と同じく無二の一振りを造らんとする火産霊の鍛冶師。

 例えば、化生を母とした五芒星の京の術者。

 

 

 

そして────────

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 その日は雪が降っていた。

 俗に言うホワイト・クリスマス・イブ、商店街や大型ショッピングモールを忙しなく行き交う何組もの男女や親子。

 正しく平和と言える光景だ。

 

 だがしかし、光あれば闇があるように平和の裏には一つの騒乱があった。

 

 

 

 人気の無い路地。雪を降らせる厚い雲から僅かに漏れ差す月明かり以外明かりとなるようなものが無い路地を一組の男女が逃走していた。

 

 男女は雪道という足場の悪い中、懸命に駆けている。しかし、そんな事などお構い無しと言うようにその後方からとある一団が迫っていた。黒づくめの暗殺者の如き装束に身を包んだ者らはこの雪道など一切関係なく徐々に、徐々にその距離を詰めていた。

 

 そして、

 

 

「キャッ!?」

 

 

 雪に足を取られ転ぶ少女。そんな少女を立たせようと足を止める青年。足が止まったことにより追っていた黒づくめの一団は二人に追いつき包囲した。

 右も左も敵ばかり、逃げ場を断たれた青年は意を決して腰元から光の刀身を持つ剣を抜き放ち構える。そんな彼を黒づくめの一団は嘲笑する。

 

 

「ほう?人間風情が我らに盾突くか」

 

「そこに足でまといがいては子供の棒振りにもならんぞ?」

 

「なんと、なんと愚かだ人間」

 

 

 青年をあざけ笑う黒づくめの一団……悪魔どもに青年はその端正な顔を歪めた。

 なるほど、たしかに。少女は傷を負っていて足でまといとなるだろう。そして少女を気にせず戦えば多少の傷を負うものの十分勝ちを拾えるだろう。しかし、青年の中で少女を見捨てるという選択肢はとうの昔に消え失せていた。

 故に見捨てて逃げろと請い願う少女の言葉などに耳もくれず、いますぐにでも悪魔どもへ切りかからんとして────

 

 

───紗乱ッ

 

 

 雪降る夜に美しく静謐な鈴の音が響いた。

 

 

 悪魔どもはその鈴の音に気付き、音のする方へと顔を向けた。それはこの結界に巻き込まれた目撃者ならば殺す必要があり、人質として青年と少女を楽に殺す事が出来るだろうと踏んだからだ。

 

 

───紗乱ッ

 

 

 刹那、雲に隙間が生じ一際輝く月光が差した。

 そこには一人の人間。時代錯誤の笠を被り、和装束に身を包み、その腰には鈴がついた二振りの刀が下げられ、足には草履が履かれた何者か。

 

 

 正しく時代錯誤というしかない出で立ちの者が一人そこで悪魔どもを見ていた。

 

 

「仏に逢っては仏を斬る、神に逢っては神を斬る、人に逢っては人を斬る、獣に逢っては獣を斬る────なれば魔に逢っては?」

 

 深く被った笠でその顔は見る事が出来ないがその声音は中性的であるがしかし男よりである為か悪魔どもは和装束を男と認識した。

 

 

「人間風情が我らを斬ると言うのか?笑わせてくれる」

 

「貴様ら下等種族に我らを斬れるものかッ!」

 

 

 悪魔どもは口々に和装束の言葉に対して嘲笑を憤怒を宿した言葉を吐き捨てていく。

 しかし、和装束はそんなものを意に介さずその手を被っている笠の縁を摘み

 

 

「────魔を斬るのが定め」

 

 

 そう、嗤い和装束はその笠を一番近い悪魔へと投げ放った。

 悪魔どもは何故かは知らないがその投げ放たれた笠に視線を集中させてしまった。無論、その悪魔の中には包囲されている少女も入っていた。

 

 

「ッ!」

 

 

 笠が悪魔の近い所に落ちて漸く悪魔どもはその笠から視線を外した。

 しかし

 

 

「ッ!?何処に消えた!?」

 

「まさか、逃げたのか?」

 

「探せっ!目撃者は逃がすな!」

 

 

 姿を晦ました和装束に驚愕し口々に叫び立てる悪魔ども。目撃者が逃げれば後々面倒事になると察したのだろう。

 自分たち悪魔こそ至高の種族。そう信じて疑わない悪魔だからこそ気が付かない。否、無意識にそれを認めようとしていない。

 人間が逃げたと決めつけて、

 

 

 

 

 

 

「さて、如何様に斬ったものか」

 

 

 既にその内に入られている事を認めれない。

 

 

「ッ────」

 

 

 内に入られているというのに気が付かない。それは何故か。

 それは和装束が人間である為。

 悪魔が下等種族と嘲てやまない人間であるからこそ、いつの間にかに内に入られているなど認められようか。この場においてそんな致命的な認識が悪魔どもに視界内にいる和装束を気づかせない。

 少女と青年は既に自分たちの目の前にいる和装束と和装束に気が付かずに騒いでいる悪魔どもに目を丸くする。

 

 

「魔性が(たり)

 

 

 笠が外れている事で隠されていたその相貌が露となる。背の半ばまで伸ばされた雪のように白い髪に少女と見間違う相貌、そんな余人の目を引くモノが霞む程のモノが一つ。

 右眼を覆い隠す黒鉄の鍔を使った眼帯。

 

 隻眼の和装束はそんな顔を唖然と見ている少女と青年を無視してその鯉口を切る。

 

 

「では、(みなごろし)だ」

 

 

 抜き放たれた刀は気がつけばその鞘に納められていた。

 悪魔祓いとして邪悪な悪魔を斬る事を何度も経験し、それなりに強者であると自負していた青年はその刀を抜き納めるまでの動作を一切見る事が出来なかった。

 その事に青年は衝撃を受けるがそれも和装束は無視する。

 

 

───紗乱

 

「────────」

 

 

 降り注ぐ血雨、流れゆく血河、倒れ伏す肉塊。全てその首を一斬のもとで断ち切られていた。

 知覚出来ぬ所業をしたというのに隻眼の和装束は誇るどころか寧ろ呆れたように嗤う。

 

 

「未だこの身は情景に届かず」

 

 

 血雨が降ったというのに一切濡れていない装束を揺らしながら同じく濡れていない笠を拾い上げる。

 

 

「情景の血族、その末席に生まれた。されど未だこの身は情景に届かず。まだまだ未熟か」

 

 

 自虐、の様なモノをし隻眼の和装束は青年と少女を見る。

 その間に何故か悪魔の死体は次々と神隠しかのようにその場から消えていった。

 

 

「あなたは────」

 

 

 未だ驚愕から戻らない少女を尻目に青年は隻眼の和装束に言葉を零し、それを拾ったか隻眼の和装束はその少女の如き相貌に見合った少女らしいにも関わらず冷たい鉄芯……否、刀を背へと入れられたかのような寒気を抱かせる笑みを浮かべ

 

 

「柳生三厳────ただの剣士よ」

 

 

 

 

 

 

 

────例えば、前世の父と同じく剣を臨み、とある剣神の如き者を目指す隻眼の剣士

 

 

 

 




今回はちらりと作者の被害者である主人公のちょっとした設定を晒してみました。てへ
あ、見た目は死神と同じく長髪の鳶一折紙です。CVはお任せします

Twitterもやってるので気になる方はどうぞ


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霧に舞う剣士2:ハイスクールD×D

剣鬼なチーズ主人公の続きです。
ランスロットも順調に進んでますよ?多分今日の十時過ぎには投稿するかなぁ?



 

 

 

 

 未だ朝霧が消えぬ時刻に屋敷の庭で一人木刀を振るう。冷えた空気が寝巻きの間から入り込み身体を冷やしていく。

 しかし、そんなものは些事。

 冷気など一切切り捨て素振りに勤しむ。

 

 ふと、素振りをしながら少し前の事を思い出す。そう、アレは雪の降るクリスマス・イブだったか。

 あの日、俺はこの土地由来の化生らから悪魔とこの街の聖職者らが何やら会合しているという話を聞き、この街で暮らしている貴族悪魔の少女の事を思い出し人気の無い路地を一人警邏していた。

 そして、逃げる貴族悪魔の少女と何処かで見た記憶のある悪魔祓いの青年、二人を追う怪しい風体をした悪魔の団体。そんな光景を見かけた以上、見て見ぬ振りも出来ず更にはこの街で魔性───特に伴天連───が何やら面倒事を起こそうとしている、という大義名分もあり子供騙しな結界を踏み越え、悪魔どもを一刀の下に処分し貴族悪魔の少女と悪魔祓いの青年を保護した。

 

 いま、思い出してみればこれも原作の過去での出来事だったのだろう。

 

 保護した次の日に話を聞いてみれば貴族悪魔の少女はベリアル家の出であのディハウザー・ベリアルの従妹で彼から実の妹のように可愛がられていたらしい。一族の繋がりが強いというベリアル家にして皇帝の妹分ともなれば…………彼が後々にクリフォトに与した理由になるだろう。

 少なくとも彼女の恋人である八重垣正臣が蘇りクリフォトに与していた。

 

 さて面倒事に刀を差し込んだ以上、半ばで止めるのは道理に合わず。二人とついでに彼女の眷族らをまとめて匿う事に決め、伝手を利用し悪魔どもも干渉出来ん場所へと送り終わったわけだが…………

 

 

「ふむ……気がつけば既に」

 

 

 木刀を下ろし、庭から部屋の時計を見てみれば既に短針は六と七の丁度あいだを示していた。素振りを始めたのが大体五時始めと考えれば長い間振っていたようだ。

 

 予想外ではあるが素振りをこれ程続けていたなら朝のは終わりにしてもよかろう。

 

 

 汗をかいた身体を拭う為の手拭いを縁側から拾い上げ庭奥の井戸へと足を向ける。

 今日の朝餉は何だろうか。

 

 

 

 そういえば、俺の記憶について話そうと思う。

 先程の話から分かる通り、俺の中の前世の記憶は半分近くが薄れている。

 前世の自分及びその周りの関係者の記憶自体はまだまだ大丈夫ではあるが……だが主に刀に関する記憶以外が段々と薄くなっており、父親が刀を振る姿は思い出せるがその顔は思い出せないというのが時折あり、この世界についての記憶は細かい所が抜け落ちている。

 そして、はっきりと残っているのは一人の男に対する記憶。

 我が情景。剣士として新たに生を受けた俺が求める情景…………あの剣神に対する記憶。

 

 

 まあ、はっきりと残っているのがソレだからこそ今の俺がこのようになったのだろうがな。

 

 井戸で顔を洗い、手拭いを取ろうと手を伸ばし────

 

 

「どうぞ、三厳様」

 

「───すまんな」

 

 

 優しげな声と共に俺の伸ばした手に手拭いが差し出された。俺は礼を告げ、手拭いで顔を拭ってから顔を上げ、手拭いを手渡してくれた彼女を見る。

 

 

「おはよう、千鶴」

 

「はい、おはようございます三厳様」

 

 

 長く美しい白髪をポニーテールの様に結い上げた和服美人。

 柳生千鶴。俺がまだ若くより未熟であった頃に今の父から命ぜられた大化生討伐の際に拾った俺の二つ下の鬼種の血を引く少女。

 当時は大化生により肉親を喪ったという身の上を憐れんで侍女として引き取ったのだが……いまは愛い女だ。

 

 成長して俺がよく知る人物に瓜二つとなった時は頭を抱えたが別人と割り切りかれこれ長い付き合いだ。

 

 

「三厳様、朝餉が出来上がったのでお呼びにまいりました」

 

「ん、着替えてすぐにいこう」

 

「はい」

 

 

 千鶴を食卓へと戻し俺は一度部屋へと戻る。

 寝間着を脱ぎ畳み洗濯物入れの箱に入れておきいつも通りの和服に腕を通す。

 

 

 

 

 

────────

 

 

 

 

 

 

「────なるほど」

 

 

 柳生家七郎三厳の持ち家である屋敷の大広間で家主である三厳は数人の三厳よりも長く生きているとわかる偉丈夫らと対面していた。

 菅笠を被る修験者を数人後ろに並べ唯一菅笠を脱いでいる初老の男は威圧感を漂わせながら三厳を見ているが三厳はその威圧感など柳に風の如く受け流す。

 

 

「では、そちらが件の娘を始末する際に私も同行、伴天連が魔性の相手を私がすれば宜しいのですね?」

 

「うむ……貴殿はあの黒き天使の相手さえしてくれればいい」

 

「わかりました。私としても伴天連の魔性───その神話に記された存在を斬るというのは願ってもない事。その仕事お引き受けいたしましょう」

 

 

 そう言いながら三厳は深々と目の前の初老の男に頭を下げる。

 実力を見れば分もかからぬ内に修験者らで血河を築く事が出来る程に差があるがしかし、この日本において家格は三厳よりもこの初老の男が上である以上、三厳は下に出ていた。

 三厳は初老の男はともかくその後ろの菅笠を被った修験者どもが三厳を、柳生家を武家上がりの新参者を見下している事を知っていた。



 それは実力ではなく歴史の長さ、血の貴さを見ての行動。柳生宗矩が再興した柳生家は歴史でも血でもなくその実力を良しとしているため、そこで育った三厳は彼らの考えが煩わしく逆さ鱗を撫でられている様に思えた。

 目の前の初老の男が見下さず三厳を、ひいては柳生家を高く見ていなければ此度の依頼など引き受けずこの場で血河を築いていただろう。

 下手人をそこそこの大化生に仕立てあげて。

 

 

「うむ、任せたぞ。三厳殿」

 

「ええ、任されました」

 

 

────ああ、任された。我が敵は雷光の魔性、端役など知らん

 

 

 再び深く頭を下げる三厳。だからこそ、三厳以外その表情がわからない。

 

 その表情は正しく剣鬼のそれだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

「────え」

 

 

 鮮血が飛び散る。

 少女に降りかかる母とは違う血。

 それは今まさしく少女の愛する母を切り殺した修験者らのモノ。

 

 皆ただ一振りでその命を散らし鮮血の華を咲かせていた。

 

 

「────芥が」

 

 

 それを成したのは一人の剣士。

 血濡れた部屋の中で唯一、血に濡れていないまるで人形か何かの様に美しく白髪の少女。

 否、少女の如き姿をした隻眼の和装束。

 何時抜刀したのか、何時納刀したのか分からぬ程の早業に少女───姫島朱乃は何も言葉を出すことが出来なかった。それはきっと何か口にした途端、先程物言わぬ骸と化した修験者らのように鮮血の華が咲くのだろうと思ったからかそれとも本能的に喋ってはいけないと察したのか。

 

 

「さて、名も知れぬ少女」

 

「────」

 

 

 そして、その隻眼が少女を貫く。

 その視線から感じれるのは無味。少女の中に流れている魔性の血への蔑みは無く、母を殺され少女も殺される事への憐れみは無く、少女を殺させず生かそうとする救済の意は無く、そこにあるのは目の前の少女に対して何も抱いていない透明なソレ。

 

 

「お前の父を斬るために来た訳だが後どれぐらいで来る?」

 

「お、父様……?」

 

 

 まるで道端で名も知れぬ人に道を尋ねるかのような平坦な言葉だった。

 少女にお前の父親を殺す、と言っているのに関わらずそんな平坦な言葉を履いた。

 何故、そのような事が出来るのか。きっとそれを彼に聞けば彼は嗤いながら応えるだろう。────情景へと至るため、と。

 常人に理解出来ないであろう言葉を彼は平然と口にするだろう。それは前世では考えれなかったこと、全てはその在り方を、魂を僅かながらも変えられたが為。

 

 

「何時来るか、いや」

 

 

 壊れていると自覚している隻眼の剣鬼はその腰の刀の鯉口を切る。

 そして、次の瞬間

 

 

「朱璃ィッ!!朱乃ォォォォォオッ!!」

 

 

 室内に飛び込む様に扉を壊さんばかりに入ってきた血濡れの偉丈夫。その背には魔性を表す黒い翼。

 男の名をバラキエル。

 聖書に記されし堕天使の一人にして、神の子を見張る者の幹部。

 そして、少女と切られ死んだ女の父であり夫である魔性の存在。

 

 嗚呼、然しそれは駄目だ。

 既に鯉口は切られている。

 

 バラキエルの視界に映るのは赤、赤、赤。

 家族が団欒と暮らしていた部屋には鮮血がこびりつき、愛しい妻は血を流して倒れ伏し、愛しい娘は死んではいなくとも血塗れ。

 首を刎ねられ息絶えた死体がいくつか、そして娘の目の前に立つ血に一切濡れていない一人の隻眼の剣鬼。

 どういう事情か、その仔細はわからない。

 バラキエルが知っているのは自分が留守の間に妻と娘を殺そうとする妻の家の者らが来ているということ。外にいた修験者らを殺し飛び込んできて見たのは血塗れの部屋と死んだ妻、生きている娘、そして血に濡れていない一人の剣鬼。

 

 そんな状況証拠だけでも十分目の前の剣鬼が下手人またはそれに準ずる何かなのは明白だった。

 

 故にバラキエルがとった行動は目の前の剣鬼を仕留めるそれだけ。

 

 

「貴様ァァァッ!!」

 

 

 雷光を纏った光の槍を創り出し剣鬼へと振るう。その速度たるやバラキエルのいままでの何よりも速かった。

 それはきっと、バラキエルの仲間で最も戦いを好むコカビエルにも勝るものだったのかもしれない、だがしかし────

 

 

───紗乱ッ

 

 

「この様なものか」

 

「ッ”ア”!?」

 

「お父様ッ!!」

 

 

 鮮血と共に飛ぶのは光の槍を握った右腕。

 バラキエルは右肩から肘の丁度あいだの断面を抑え叫びを噛み殺す。

 剣鬼はそんなバラキエルを見ず、刀を握った腕を軽く振るい斬り飛んだバラキエルの右腕を木っ端微塵に斬り刻む。

 

 

「妻の死、その怒りを以てこれか。所詮は伴天連の魔性か…………赤城山が大百足の番の方がもっと強かったぞ?」

 

 

 嗤う剣鬼は呻くバラキエルにそんな言葉を投げかけながら刀を納め、室外へと足を向ける。

 もはや、その眼には興味無しという言葉がありありと浮かんでいた。

 

 バラキエルの横を通り過ぎそのままバラキエルの背後の扉が無くなった出入り口から廊下へと足を踏み込み────

 

 

「不意打ちならもう少し上手くやれ」

 

 

 残った左腕で光の槍を持ち背後から突き殺さんとしたバラキエル、その槍は斬り落とされ腕の代わりにその左耳が斬り落とされた。

 

 

───紗乱ッ

 

 

 納刀と同時に刀の鈴の音が鳴り響き、それを最後に剣鬼は霧と共にその場からその姿を消した。

 

 

 

 

 

 

────────

 

 

 壊れている?歪んでいる?

 そんな事、とっくのとうに理解してるし諦めている。

 転生だか憑依だか知らないが、そもそも前世の俺はもう死んでるんだよ。

 ここにいるのは前世の都合の良い記憶を引き継ぎそれに侵され壊れたガラクタの人形だ。

 

 なら、人形は人形らしく壊れたまま歪んだまま踊るだけだ。

 

 目指すは剣神。至高天たる剣士。

 

 その為ならば例え悪と言われようとも構うまい────たとえそれが情景の認めないモノだとしても…………俺には俺の道しかないから…………

 

 

 

 

 

 




三厳は壊れてます。歪んでます。
だからこそこうも斬ることに躊躇いがありません。
愛しい女を捨てる以外なら大抵の事はします。

柳生千鶴
女 鬼種の末裔
見た目……アーチャー・インフェルノ


当たらないなら書けばいいじゃない(なお、別人)



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転生剣士の一切紫電:落第騎士の英雄譚

長い。
チーズのくだりは今回はいいよね?
刑部姫を見て思ったのはまずその服、おまえ……

なんとなく欲しくて引いてみたらまさかの槍おじ様。

……いや、あんた去年のイベントキャラじゃん!?




 

 

 

 

 紫電が迸る。

 

 無数もの紫電が紅蓮の炎を穿ち切り裂いていく。

 

 

「アァッ!!」

 

「────」

 

 

 振るう。一振りするだけで十束もの紫電が炎を食み喰らう。

 刃渡り二尺六寸五分の刃がまるで舞うように紅蓮の姫君へと殺到する。

 

 

「ッう────!!」

 

 

 秒に三振り、一振り十束ならば秒に三十束もの紫電が次いでに襲いかかる。炎では対処に追いつかず、紅蓮の皇女は防戦一方でしかなかった。

 この状況より脱するには彼女の最大の一撃をもってこの無数もの紫電を消し飛ばし、それと同時に目の前の騎士を倒すしかない。

 しかし……

 

 

「ぐぅぅぅッ!!(それを、させてくれないッ!!)」

 

「どうした、ステラ・ヴァーミリオン。啖呵を切った割にはなんとも調子が悪そうだな!」

 

 

 どれだけ逃れようとも紫電の騎士は間合いを保ったまま打ち合う。魔力による強化を利用した身体能力で離そうとも魔力は互角且つ紫電の如き雷速より逃れることは不可能。

 故にステラ・ヴァーミリオンはこの状況より脱する事が出来ず歯痒い感情を隠せなかった。

 

 

 

────さて、この状況を説明するのにしばし時を遡る必要がある。

 

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

 はてさて、どうするか。

 

 昼間のランニングを終えた俺はタオルとスポーツドリンクを片手に今日の昼食を何にするかを思案していた。

 今は春休みの真っ最中……と言っても新学期開始の直前で俺は少し早めに学生寮へと戻ってきていた。

 本来なら入学式前日に戻ってくる方が生徒会の雑務に駆り出されなくて済むのだが、生憎な事に我らが生徒会長様に少し早めに戻ってきちんと手伝えと連絡されてしまい、それに対して反応してしまった以上こうして今学生寮にいるのは仕方のないことだった。

 

 ちなみに戻ってきたのは今日の朝で学生寮の自室に行く前にランニングをして来たのでまだ今日は一度も部屋に入っていない。

 春休みの間に埃が被っていたらどうしようか。いや、もしかしたらお節介焼きの我らが生徒会長様辺りが掃除してくれているかもしれない。

 

 

「で、昼飯は何にするかね」

 

 

 適当に外で食うか、学校にいる筈の生徒会長様やうたに貴徳原辺りでも誘って…………いや、間違いなくうたは俺に奢らせるな。やめよう。

 なら……適当に何か買って作るか?

 

 そうだ、確か一輝も今日辺りに戻ってきてるんだったな。となると、原作的に着替え中のステラ・ヴァーミリオンと出会うわけだ……しかし……ふむ。

 

 

「まあ、決闘になっても早期から手を加えた分、原作よりは楽になるだろう」

 

 

 誰もいない廊下で俺は笑い、自室のドアノブを掴み……そのまま開いた。

 

 

「え────?」

 

「は?」

 

 

 鍵の掛けていた筈の扉が鍵を使ったわけでもないのに開き、部屋の中には一人の少女がいた。

 燃え盛る炎を体現するかのようなウェーブのかかった紅蓮の髪をツインテールにし、日本人離れした美しい顔立ちの中心で突然の侵入者により驚愕で見開かれた真紅の瞳。

 いや────まて、おい。

 

 部屋を間違えたか?ンなわけあるか。角部屋の左隣の部屋は俺が一人で使っている部屋の筈で俺が間違えているわけはなく……ということは目の前の少女が間違えているということになるが……いやいや、違う。

 

 

「ひ────」

 

 

 少女の喉から引きつったような悲鳴が漏れる。続いて聞こえるのは少女の肺が空気を吸い込む音。

 もはや、遅い。言い繕った所で無意味。ならば此処は────!

 

 

────タアンッ!!

 

 

 速攻で扉を閉める。

 

 いや、きっと遅いんだろうけども……

 

 

『いやぁあああああ!!!ケダモノぉおおおお!!!!』

 

 

 かくして悲鳴は午前の静寂を切り裂き、天を衝いたのであった。当然である。

 俺は部屋の前でこれからの事……具体的には刀華や一輝らになんて言おうか、と昼飯どうしようか、などと少しズレた事を考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

伐刀者(ブレイザー)》。

 己の魂を武装────《固有霊装(デバイス)》として以下略。こんなん説明するまでもない気がする。

 とりあえずライトノベルやマンガ、ゲームにありがちな魂から固有の武装を召喚して魔力使って異能を行使する異能系ファンタジーな特異存在と思っておけばいい。

 古い時代には『魔法使い』だの『魔女』だの言われていたらしい……とりあえずアーサー王やジャンヌ・ダルク辺りは伐刀者だったんじゃなかろうか。エクスカリバーしかりアロンダイトしかりガラディーンしかり聖女の旗しかり。

 

 さて、そんな『伐刀者』に……『魔導騎士』と『免許』という社会的立場諸々を与えてくれる専門学校の内の一つが今俺がいる日本の東京都に東京ドーム十個分───ちなみにぶっちゃけ東京ドーム一個分の大きさが俺は全くわからない───という広大な敷地を持つ『破軍学園』なわけだが…………

 

 

「やれやれ、寮へと戻ったと思えばこうして痴漢とは」

 

 

 その破軍学園の理事長室に、悲鳴を聞きつけた寮の警備員に痴漢として現行逮捕されてしまった憐れな男こと俺、皆許蕾興(かいもとれき)は連れてこられていた。

 皮のソファーに座る、煙草を咥えたスーツ姿の麗人、破軍学園理事長・新宮寺黒乃は一連の騒ぎの経緯を聞いて呆れた表情で俺に言い放った。

 

 

「いやいや、痴漢なんてしてませんって……いや、確かに見てしまいましたけどアレはもはや不可抗力じゃないですか」

 

「不可抗力をうたうならすぐさま閉じればよかったろう」

 

「いや、まあ、そうですけど……でも普通驚いたらしばらく動けないでしょ?」

 

「確かにそうだな……とは言ってもな皆許。彼女の立場になって考えてみろ。春休みで人の少ない学生寮で着替えをしていたら、突然扉が開いてそこには見知らぬ男がいたら……どうだ?」

 

「とりあえず俺なら逃がす前に八つ裂きですね」

 

 

 そう、理事長の言葉に俺は返すが内心割りとどうでもよかった。いや、確かにうら若き乙女しかも歳下の着替えを見てしまったのには心が痛む……だがしかし、俺にはこれから恐らく待っているであろう刀華の雷速剣舞・戦姫変生の方が大事だ。

 いや、乙女の心の傷より俺の身体の傷の方が重いわけがないんだがしかしそこは俺が一度たりとも女になってそういう経験が無いという故のもので罵倒しくれて構わん。

 

 

さて────どうするか。

 

 

「ヴァーミリオン嬢には酷い事をしてしまったというのは思いますよ……」

 

「なんだ、皆許はヴァーミリオンの事を知ってるのか」

 

「なんとなくは、俺と同じAランクという程度には知っていますよ……ついでにヴァーミリオン皇国の姫さんでしょ?」

 

 

 ステラ・ヴァーミリオン。ヨーロッパ辺りの小国であるヴァーミリオン皇国の第二皇女だった筈だ。ついでにいえば原作における主人公のメインヒロイン。

 彼女が破軍に入学した事はそこそこ大きなニュースになったらしいが俺は刀華づてで知っただけだ。後は原作知識でなんとなく知っている……彼女が俺と同じくAランク騎士だということ

 

 

「そうだ、《総魔力量》なんかは平均の三十倍だそうだぞ?……能力値が低すぎて留年してもう一回一年生をやる誰かとはえらい違いだな」

 

「それ、あまり言わないでもらえます?一応俺としては結構心に来てるんですよ?もう少し早くに対処してやってれば……ねぇ」

 

 

 煙草を吹かす理事長の言葉に俺は若干のイラつきを覚えながら反論する。

 しかし、否定はしない。何せ件の留年生もとい原作主人公の《総魔力量》は平均の十分の一しかないのだから。

 

 

「しかし、これは大変な事だな。この一件、下手すれば国際問題になりかねん……だから皆許に非はないが責任を取ってもらう。理不尽だろうが男の度量を見せろ」

 

「男ってそんな都合の良い言葉でしたっけ?」

 

 

 と、そんな風に理事長と話していると不意にノックが聞こえた。

 

 

「……失礼します」

 

 

 ノック音のもと、理事長室のドアへと視線を向けるとドアが開き件の少女、ステラ・ヴァーミリオンが入室してきた。

 その際、俺の姿を視界に入れたからかこちらへ涙を流したのか赤く腫らした目元ながらも恨みがましい視線を投げてくる。

 流石に歳下の乙女を泣かしたのはばつが悪いため俺は大人しく頭を下げる。

 

 

「すまない。あれは不幸な事故で、俺も別に君の着替えを覗こうなんて微塵も思わなかった。しかし、見てしまった以上詫びるしかない。煮るなり焼くなり好きにしてくれ」

 

「……潔いのね。これがサムライの心意気なのかしら」

 

「まさか。千の言葉を重ねるよりもこうした方が何より良いと思っただけだ」

 

 

 澄んだ声の彼女に俺は表情を変えず答える。

 すると彼女は……強ばった表情をやや和らげ薄く微笑んだ。

 …………普通ならこれで許されたないしなんとかなるだろうと思うだろう。少なくとも何も知らなければ俺もそう思う。ただ、まあ……

 

 

「貴方の潔さに免じてこの一件、───ハラキリで許してあげる」

 

 

 だよな。

 俺は表情を変えずにとんでもない事を抜かした彼女を見て……

 

 

「とりあえず切腹はおかしい」

 

「本来なら丸太に縛り付けて国民全員で一発ずつ石打ちにするところを本当に特別なのよ?なのにおかしいってどういう事かしら」

 

「伐刀者的にそっちの方がまだマシなのでは?と思うのは俺だけなんだろうか」

 

「名誉死にしてあげるだけでも出血大サービスよ」

 

 

 いや、出血するのは俺だ。

 というか切腹は死ぬとしても国民全員で石打ちなら耐久いかんによってはなんとか耐えきれる筈……だが彼女は俺に切腹をやらせるようだ。

 無論、する気は無いがね。

 

 

「皆許。お前の生命一つで日本とヴァーミリオン皇国との恒久的平和が買えるんだ。安い買い物だと思うわないか?」

 

「そんか買い物するぐらいなら全力で《解放軍(リベリオン)》に特攻仕掛けますよ。そうすればとりあえず屍山血河が築けますよ」

 

「それはやめろ」

 

 

 ちょっとした理事長とのコントじみたものを挟みつつ俺は彼女に向き直る。

 

 

「他にないのか?」

 

「何よ、日本男児にとってハラキリは名誉なんでしょ?何が不服なのよ」

 

「いや、それ結構昔の話だからな。俺に切腹を名誉と思う考えはない」

 

 

 俺の言葉に明らか彼女はその表情を再び険しくした。

 

 

「なによ!さっき煮るなり焼くなり好きにしろって言ったじゃない!!男なら自分の言った言葉には責任持ちなさいよッ!!」

 

「いや、まあ、そうだが。それは日本独特の言い回しとして流してくれ」

 

「まったく呆れた物言いだな皆許。男としてのケジメとはなんだったのか」

 

 

 うるさい。茶々を入れるな。というか男としてケジメをつけるとは一度も言わなかったろう。

 

 

「ともかく、たかだか下着姿を見た程度で命を支払うつもりは無い」

 

「たっ、たかだかですって!?し、しし信じられない!信じられないわッこの変態ッ!!??」

 

 

 俺の挑発まがいの言葉に彼女の瞳に怒りの炎が灯った。来るか────

 

 彼女の周りの大気が、ひりつくような熱を帯びて、燐光を散らし始めた。

 

 奴の固有霊装。それは…………

 

 

「もう許せない!アンタみたいな変態・痴漢・無礼者のスリーアウト平民はこのアタシが直々に消し炭にしてやるわ!!!傅きなさい!《妃竜の罪剣(レーヴァテイン)》!」

 

 

 瞬間、理事長室を熱を帯びた極光が照らし、ステラの両手に炎を纏う大剣が顕現した。

 それは伐刀者の魂を具現化した固有霊装。

 様々な形状を持つ『魔法の杖』、そして奴の能力は全てを焼き尽くす灼熱の炎────

 

 

「覚悟しなさいこの変態……!!この世から塵残さず蒸発させてやるわ………ッ!!」

 

「……はぁ」

 

 

 まったく誰が変態だ。誰が。

 振り下ろされる炎剣。それに対し俺は言霊を告げる。

 

 

「黄泉より迸れ。《冥月》」

 

 

 現れるのは藍の布が巻かれた黒紫の鞘に収まった刀。俺は刃を抜かず鞘でそれを受け止めた。

 

 

「微温い」

 

「え……はぁッ!?」

 

 

 如何に彼女の炎が強かろうとも経験は俺の方が上。彼女の一撃を受け止めたと同時に俺は彼女の剣を弾いた。

 予想外のそれに彼女は目を丸くして驚愕の声を上げる。

 その間に俺は彼女へ事実を叩きつける。

 

 

「ともかく、あそこは俺の部屋だ。間違えた君が悪いんじゃないか?」

 

「はァっ!?何言ってんのよ!!アタシの部屋に勝手に来たのはアンタの方でしょ!?アタシはちゃんと理事長から貰った鍵であの部屋に入ったのよ!?間違えてるわけ無いでしょ!!!」

 

 

 俺の言葉にまた表情を険しくする彼女。しかし、彼女が口走った言葉に俺はやはりと零しながら理事長に視線を向ける。

 そもそも俺は春休みで外に出る前にきちんと鍵をかけていた。で、彼女が鍵を開けて入った?

 というかなんで一輝ではなく俺が……というか仕方ないのか。俺はAランクなんだから。

 

 

「とりあえず勿体ぶらず真実を教えてもらおうか、理事長」

 

「く、くくく……」

 

「……り、理事長先生?」

 

 

 二人揃って理事長へと視線を向けると、彼女は何やら堪えかねたようにくつくつ笑いだし、

 

 

「ふふ、いやいやすまない。何やら面白い事になっていたのでな……どういうこともそういう事さ。破軍学園の寮が基本二人一部屋なのは皆許も知っているだろう?いや、去年まで一人部屋だったお前が知らないかもしれないが……まあ、ともかく皆許もヴァーミリオンも部屋を間違えたわけではないさ。簡単な話……君たちはルームメイトなんだよ」

 

 

 原作知識で知ってなければ……というより知っててもとんでもない事を言い放った理事長に俺は呆れつつ耳を塞ぐ。

 

 

「え、ええええええええええ!!??」

 

 

 無論、それは叫ぶヴァーミリオン嬢の叫び声から耳を護る為

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

 皆許蕾興がルームメイトである事に理事長・新宮寺黒乃へ抗議をぶつけるステラ・ヴァーミリオン。

 しかし、黒乃の方針である「完全な実力主義、徹底した実戦主義」に基づいた部屋割りと言われステラはその抗議を一度切られ、そのまま黒乃が話し続ける。

 

 

「ここ数年、破軍学園は他の騎士学校六校と比べてあまりいい所がない。年に一度、七校合同で主催される一番強い学生騎士を決める『七星剣舞祭』でも負け続きだ…………いや、すまんそれは一昨年までだったな。ともかくほんな破軍学園を立て直すために理事会に呼ばれた私がこの学園を立て直すための第一歩、それがこの部屋割りだ。出席番号、性別、年齢なにも関係ない。力の近い者同士を同じ部屋にしている────互いに切磋琢磨させるためにな」

 

 

 どうだ凄いだろう、と不貞不貞しく己の思惑を明かす黒乃にステラは唖然とし、原作知識故に事情を知っている蕾興は呆れた表情で見ていた。

 と、一拍遅れて蕾興は一つ気がついた。

 

 

「あ?待て、いや、待ってください。つまりはもしかして一輝が一人部屋ですか?」

 

「ああ、黒鉄は一人部屋だ」

 

 

 黒乃の言葉に蕾興は嘘だろ?と言うふうにソファーに深く座り直す。今まで一人部屋を満喫していたがために知り合いにそれを奪われたのがショックだったのだろう。

 

 

「まあ、そういうわけだ。Aランク同士のお前たちがルームメイトになるのはある意味必然なわけだ。納得したか?」

 

「納得できるわけないでしょうッ!?」

 

───バンッ!!

 

 

 ステラは理事長の執務机を手のひらで叩き抗議を再開した。

 そんな彼女に諦めの視線を向けながら蕾興は一人懐から取り出した飴を口に放り込む。

 

 

「だ、だいたいアタシ達みたいな年代の男女が一緒の部屋で生活だなんて、ひ、非常識だわ!間違いが起こったらどうするんですか!」

 

「おやおや。ヴァーミリオンは年頃の男女が一緒にいるとどんな間違いが起こると思ってるのかな?是非聞かせて欲しいな〜」

 

「そ、それは……その……ぅぅ」

 

 

「もはやオッサンの絡みだぞアレ」

 

 

 黒乃に呆れた言葉を投げかける蕾興を他所に黒乃とステラの話は進んでいく。

 蕾興は当事者だというのにもはや諦めているため話は聞かず二つ目の飴を取り出し口に放り込む。

 と、唐突にステラが蕾興の方を向いて三本指を立てる。

 

 

「わかったわ。ただし、一緒の部屋で生活する以上アンタに三つだけ条件があるわ!!」

 

 

 唐突だった為、蕾興は少しむせかけながら、ステラの条件とやらに耳を傾ける。

 無論、なんとなく察しがついているのだが

 

 

「話しかけないこと。目を開けないこと。息しないこと!」

 

「とりあえず三つ目以外ならしてやらなくもない」

 

「この三つが守れるなら部屋の前で暮らしていいわ!」

 

「おい、部屋から追い出すな。というか一緒の部屋で生活じゃないぞ、それ」

 

 

 蕾興は冷静にツッコミを入れつつ、ステラの背後で笑いをこらえている黒乃に苛つきの視線を向ける。

 

 

「何よ、出来ないの?」

 

「せめて呼吸をさせろ」

 

「いやよッ!どうせ息を吸うふりしてアタシの匂いを嗅ぐつもりなんでしょ変態!」

 

「誰が変態だ!それと口呼吸すればいいだろ!?」

 

「駄目よッ!どうせ舌でアタシの吐いた息を味わつもりなんでしょ!?」

 

「そんな気持ち微塵もないわ戯け!」

 

 

───知っていたとはいえ自分が言われるとこんなふうに叫び返すしかないな、おい。

 

 心中で蕾興はそう愚痴りながらいい加減に何か折半案でも出せと黒乃へと視線を向けると彼女はやれやれと呆れたように首を振り……

 

 

「では、模擬戦でもしたらどうだ?勝った方が部屋のルールを決めるんだ。己の運命を剣で切り拓くのが騎士道なれば、これに異論を唱えるものはいないだろう?」

 

 

 それは二人で正々堂々試合をして勝った方が意を通す、単純明快なモノ。

 騎士同士の揉め事を解決する常套手段だ。

 その提案に微妙に蕾興は面倒な表情をしつつ了承する。

 

 

「仕方なし。これ以上面倒事になる前にそれで終わらせましょう」

 

「え、あ、アンタそれでいいの?」

 

「なんだ、嫌ならいいけど?負けるのが怖いなら」

 

 

 そんな、あからさまな蕾興の挑発にステラは乗ってしまった。

 理由は不明ではあるが……だが、蕾興の予想以上にステラは挑発に乗りすぎた。

 

 

「いいわ。わかった。わかりました。やってやるわよその試合。でもアタシをこれだけバカにしたんだから、もう賭けるのは部屋のルールなんて小さなモノじゃすまないわよ!負けた方は勝った方に絶対服従!どんな屈辱的な命令にも犬のように従う下僕になるのよッ!いいわね!!??」

 

「いや、まて、これだけバカにってバカにしてないからな!?」

 

「今更怖じ気付いても無駄よ。アタシをここまで本気にさせた自分を呪いなさい!これはもう模擬戦ではなく、決闘なんだから!」

 

 

 蕾興にとっての事実を言ったところでもはや後の祭り。蕾興の言葉を挑発と受け取り続けていたステラはその怒りを爆発させた。

 もはや、止めるには決闘をするしかない。

 

 

「話はまとまったようだな。ならば、第三訓練場を使え。許可は私が出す」

 

「ちょ、理事長ッ!!」

 

「覚悟しなさいよねッ!!フンッ!!」

 

 

 時既に遅し。ステラは鼻を鳴らして蕾興を置き去りに理事長室から出ていった。恐らく第三訓練場へと向かったのだろう。

 理事長室に残ったのは笑う黒乃と呆れる蕾興。

 

 

「……理事長、恨みますから」

 

「くく、流石に下僕は嫌か?」

 

「嫌ですよ。刀華とかにそんなん殺されかねないですからね」

 

「ほう、勝つ気満々のようだな。彼女は近づくだけで相手を焼く灼熱の炎。先ほどは怒りによる突発的なもの、決闘ではさっきのようには出来んかもしれんぞ?」

 

 

 残った蕾興にそう笑う黒乃。しかし、そんな黒乃に蕾興は嗤いながら答える。

 

 

「まさか。まだアレは孵化していない竜ですよ。ならば、仕留めるのは容易い」

 

「……なるほど。ならば、見せてやれ。彼女のこれからの成長にもお前の様な奴や黒鉄の様な奴が必要不可欠だからな」

 

「はいはい、わかってますよ」

 

 

 そして二人は理事長室を後にした。

 

 

 

 

 

 

────────

 

 

 

 

 

 破軍学園の敷地にはいくつものドーム型闘技場が点在しており、内部には直径百メートルほどの戦闘フィールドと、それをすり鉢状に囲む観客席が設けられている。

 そのうちの一つ、第三訓練場の中心に皆許蕾興とステラ・ヴァーミリオンの姿があった。

 レフェリーである黒乃を挟み、二メートルほどの間を空けて対峙する両者。

 

 そして、そんな二人を見つめるいくつもの視線が観客席にある。

 元々この訓練場を使ってトレーニングしていたり、噂を聞きつけて見学に来た、二、三年生たちの視線だ。数は二十強と、春休み中に突然決まった模擬戦の見学者としては数が多い。

 その半分弱が鳴り物入りで入学した超新星(スーパールーキー)ステラがお目当てだった。

 

 

 

『あの娘がヴァーミリオンの《紅蓮の皇女》かー』

 

『すっげぇ美人じゃん』

 

『髪の毛が綺麗……。燃えているみたいで素敵……』

 

『で、相手は…………おい』

 

『…………どっちが勝つんだ』

 

『皆許蕾興……』

 

『Aランク対Aランク……か』

 

『《紫電》……』

 

 

 

 本来ならそんなものはいらない、と一蹴するがステラは勝利を確実にする為にもと大したものは無いとわかりつつも観客席から漏れ聞こえる言葉に耳を澄ませていたが、やはりたいしたものはなくすぐに止めてステラは目の前の蕾興に集中する。

 

 

「それではこれより模擬戦を始める。双方、固有霊装を《幻想形態》で展開しろ」

 

「黄泉より迸れ。《冥月》」

 

「傅きなさい。《妃竜の罪剣》!」

 

 

 ステラ、蕾興共に魂の具現である剣を、刀を《幻想形態》────人間に対してのみ、物理的なダメージを与えず、体力を直接削り取る形態で召喚する。

 

 

「……よし。では────LET's GO AHEAD(試合開始)!!」

 

 

 告げられる合図。

 それと同時にリングに紫電が迸った。

 

 

 

────そして、冒頭に至る

 

 

 

 

 

 

「シッ────」

 

「つぅ!!?」

 

 

 肩口を狙って放たれる突き。ステラはそれを寸前で回避するが追走してきた十束の紫電がステラを弾き飛ばす。

 観客席近くまで弾かれたステラは即座に体制を整えその手の剣に魔力を込める。しかし、そんな彼女に襲いかかるのは無数の紫電。

 今年で3年となるAランク学生騎士・皆許蕾興の二つ名は《紫電》。それはその能力である紫色の雷光とその鋭い剣筋から付けられたモノ。そんな蕾興にとって距離などさしたる問題にはならず、こうして距離があるステラに大技を出す隙を与えない為に無数の紫電を放っていく。

 

 勝負の天秤は既に蕾興へと傾いている。

 

 その事をステラは察していた。

 目の前の騎士は今まで自分が戦ってきた中の誰よりも、そう自分よりも強い相手なのだと。だがしかし、ステラはそれがどうしたと一笑する。

 自分よりも強い相手?願ってもいない。もとより更なる高みへと至る為にこの破軍学園へと入学してきたのだ。

 自分よりも強い相手と戦うのは当たり前だ。だからこの戦いに全力を注ぐ。

 

 

「はァァァッ!!」

 

 

 ステラは放たれた紫電を回避しつつ剣で撃ち落としていく。その際の衝撃は一つ一つ重いがしかし耐えれないものではない。

 動きながら蕾興の隙を伺う。いくつか隙は見つけられる、だがそれは誘いであるのをステラは持ち前の勘で察し中々踏み切ることが出来ない。

 

 

「────迸れ」

 

 

 紫電が止んだ。

 何故、とステラが目を見開くがすぐにその理由はわかった。

 

 頭に平行に立てた蕾興の固有霊装《冥月》に紫の魔力がまとわりついていく。紫電という形でないため雷特有の音は鳴らないがしかし相当量の魔力が集まっているのが理解出来た。

 明らかな隙だ。

 

 決闘が始まってから一番大きな隙。

 

 ただ突っ込めば確実に負ける、とステラは直感していた。だからこそステラはこの選択を選んだ。

 

 

「────私の最大の敬意で迎え撃つわ」

 

 

「蒼天を穿て、煉獄の焔」

 

 

 ステラが《妃竜の罪剣》を天に掲げた瞬間、剣に宿る炎がその光度と温度を一層猛らせ────炎ではなく光の柱へと変化させドームの天井を溶かし貫いた。

 

 

『な、なんだこれぇぇぇっ!?』

 

『《紫電》も《紫電》だが、同じ人間かよ……ッ!!』

 

 

 百メートルを優に超える光の刃は、───太陽そのもの。

 ありとあらゆるモノの存在を許さない滅死の極光。

 これぞAランク騎士《紅蓮の皇女》が誇る最強の伐刀絶技(ノウブルアーツ)

 蕾興が自分よりも遥かに強い剣客。それを認めるが故にステラは己が持つ力で戦域全てを焼き払うつもりなのだ。

 この自分の最強の一撃で蕾興を打ち倒してみせる、と決めて。

 

 

 

「《天壌焼き焦がす竜王の焔(カルサリティオ・サラマンドラ)》────!!」

 

 

 訓練場を焼き切りながら振り下ろされる光の剣は間違いなく蕾興へと迫って────

 

 

 

 

 

 

「遮那王流離譚────」

 

「え?」

 

 

 都合八度の跳躍音が響いたと思えば、ステラの意識は暗転した。

 

 

 

 




頑張った。
とりあえず2話構成です。
2話はしばし待たれよ。オルレアンの方を投稿してからですね


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傀儡師の遊戯

ランスロットが中々書けなかったのでこちらを書きました。
ほんと、なんでランスロット書けないんだろうか……

あと、これを書いて後悔はしていない……頭悪いって思うけども


 

 

 

 

 背景、前世の両親・友人。

 ある日久しぶりに遊戯王のアニメを見た事で俺の中の(ファンサービス)が沸騰し、休日を利用して実家の近くにあるショップの大会に参加した帰りに友人に貰ったチーズを食っていたら何かが起きて気がつけば何処か見知らぬ真っ白な空間?部屋?にいました。

 そこで俺は何やらFate/のメイヴに何処と無く似たような女性に会ったと思ったら

 

「んー、何かちょっと違うわね。パス」

 

 と、まあ、何か失礼な事を言われた俺はそのメイヴらしき女性───仮称マブに何やら謎の光球を押し付けられたと思ったら、俺は赤ん坊になっておりまして候。

 

 

 当初はまさかの神様転生!?と思いましたがあんな投げやりでパスなんて言われ、ついでに何を貰ったのかもわからなくとりあえず新たな人生と諦め、『  』ではなくトーマス・アークライトという人間として生きる事を決めまして…………ああ、実は今世では兄と弟が出来ました。

 前世では兄弟姉妹無しの一人っ子だったのでこうして兄弟が出来たのはとても嬉しいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………トーマス・アークライト。

 

 

 兄弟、トーマス、アークライト…………うん。

 

 

 

 生まれてからそこそこたったら、俺は兄にとあるモノを教えて貰ったんだ。そう、デュエルモンスターズを!!

 

 ああ、きっと察しがついたろう。

 

 ここ遊戯王の世界じゃねぇか!?

 手紙的な演出終わり!!

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

「………………くっそ、ダルい」

 

 

 公園のベンチに腰掛けながら俺は天を仰ぐ。

 理由は定かではないが遊戯王の世界に転生してからかれこれ十数年経ったわけだが……端的に言おう俺が転生したのは遊戯王ZEXALの世界ではなかった。

 いや、普通は遊戯王でトーマス・アークライトで三兄弟といえばあのファンサービスで有名な俺たちのIVさんでつまりはその世界は遊戯王ZEXALだと思うだろ?でもな…………成長してデュエリストとして、IVさんとしていい感じになった頃、兄貴に言われてプロになるなら別の街にある有名なデュエルスクールがあると紹介され単身そのデュエルスクールのある街へと家を出たんだ。

 

 なんとなく察しはついていた。

 本来あるはずのないシンクロがあった時点でなんとなく察していた。ごく稀に出ていた融合がエクシーズやシンクロ並に使われていてアクションデュエルなんてもんがある時点で分かってたよ……転生した世界が遊戯王ZEXALじゃなく……遊戯王ARCーVってな!!

 

 

 いや、別にいいんだ。ZEXALじゃないから俺のギミックパペットデッキにNo.を入れる事が出来ないだけでさ?別の暗黒界とかネプチューンとかのデッキを使うから…………と、思ったんだがなぁ。

 

 

『どうしたマスター』

 

「察しろよ、レオ」

 

 

 ……おかしいだろ、転生特典?がNo.カードでそれの精霊だなんて……いや、別にNo.カードが特典ってのはわかるぜ?でもさ、なんでわざわざデュエルモンスターズの精霊宿させんだよ!?

 まあ、遊戯王だからな……そんなんありえない話ではないんだろうけれども…………でもなぁ?

 

 

『ふむ……私にはわからない。ストリングス、キラーお前たちならわかるか?』

 

『応答。わかりません』

 

『さぁ?』

 

「お前ら……!」

 

 

 俺の頭の中で話し合うギミックパペット軍団、いやほんとやめてくれ。お前らが話してると頭痛がするんだよ色んな意味で。

 

 ともかく、俺はこんなギミックパペット軍団と共に遊戯王ARCーVの世界でそれはまあ頑張ったわけよ。例えばそれなりに有名なデュエリストにファンサービスをしたり、偉そうなLDSの講師にファンサービスをしたり、赤馬零児にファンサービスをしたり、ひたすらなまでのファンサービスをしたんだよ。

 そして気がつけば何故かランサーズに入れられていて色んな次元を旅した…………

 

 

 何でこんなことに!!と嘆きながらも頑張って頑張って頑張って気がついたらズァークとの戦いも終わり、晴れてスタンダードに平和が参ったわけだが………………

 

 

 

 

「なあ、なんで別次元に俺はいるんだろうな」

 

『それは我々にもわからない。が、恐らくマスターを転生させた某かの仕業か思惑なのだろう』

 

「だろうなぁ……」

 

 

 そう、俺は何故かは知らないがスタンダード次元ではない次元に来ていた……更にいえばこの次元……いやこの世界にはデュエルモンスターズがないんだよなぁ、これが。

 

 

『まあ、前みたいに一々デュエル申し込まれないからいいじゃん』

 

『疑問。それでは我々はマスターと話すだけしか役立てないのでは?』

 

『む、それはまずかろう』

 

 

 何やら俺を置き去りにしてギミックパペット軍団で話が進んでいるんだが……いや、そんな事よりも、そんな事よりも!ここはいったい何処の世界なのかが重要なんだよ!

 とりあえず、来た当初は丁度よく荒くれ者(ファン)に絡まれない為に来てる私服姿だったから奇異の視線を向けられることは無かった。その代わりに髪色が珍しかったのか何人かに驚かれたが……。

 一応、次元とか面倒だったから幾つか財布を所持してそれなりに入れていた為、こちらでの行動資金は充分ある。……尽きたら終わりだがな。いやほんと、遊戯王の世界とこっちの世界の金の種類が前世と同じでよかった。

 

 

『とりあえず、こっちでも我々が活躍できるようにだな……』

 

『提案。ユベルやアストラルの様にすればいいのでは?』

 

『いや、喋れるだけであんなふうに出てくる事は出来ないじゃん?というかアストラルは僕らと違ってカードじゃないし』

 

 

「…………お前らが何を話してんのかさっぱりわからんがとりあえずこれから俺はどうすりゃいい」

 

 

 こっちじゃ戸籍が無いから働けねぇ、だがそれだと行動資金が尽きちまう…………こう考えると遊戯王の世界ってほんとにいい世界だったんだな。

 ある程度ならデュエルで解決できたし……。

 

 

「ひとまずはこの世界が何か別の作品が下地になってる世界なのかそれとも何にも下地にされていない未知の世界なのか、前世みたいな本当に普通の世界なのかを調べる必要があるな……図書館にでも行けばパソコンあるか?」

 

 

 とりあえずはそこだろう。

 この世界が何なのかによっては抜け道はある筈だ。例えば何やらアレな世界なら上手い具合にやってける筈で前世と変わらなければ……ジ・エンド。

 

 そしてどうするか……ひとまずは移動するか。

 あ、今俺がいる街だが残念と言うべきか嬉しいと言うべきかここは東京ではなく京都だ。

 とりあえずいくつかの世界なら事件などに巻き込まれていた可能性があったがある程度安心出来る。

 さて、行くか。

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でだ」

 

 

 襲いかかる頭痛にトーマス・アークライトは苛つきながら走っていた。

 本来ならその頭痛故に頭を抑える所なのだろうが残念ながらトーマスは頭を抑えることが出来なかった。それは両手が塞がっていた為。

 

 

「なんでこんなことになってんだよォォォオオ!!!!」

 

「ちょっと!追いつかれてるんだけど!」

 

 

『GIAAAAAAAAA!!!!』

 

 

 薄暗い京都の森、一人の少女を抱えながらトーマスは虎のような怪物から全力で逃げていた。

 いったいどれほどの距離を走ったのだろうか。しかし、どれほど走ってもこの森から抜ける事が出来ていない。

 

 さて、何故このような事になっているのかというとそれは十数分ほど前に遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この世界の情報を得るべく図書館を目指したトーマスだったが何故かは知らないが気がつけば何処か薄暗い怪しげな森の中に迷い込んでいた。

 何故かその森の中にいると頭がボーッとしていたがトーマスはそれを何とか振り払い森の中を進んでいくと何やら寂れた社のような場所で硬直している少女とそれに襲いかかろうとしていた虎のような怪物。

 瞬時にトーマスはどうすればいいのかを察し、襲われそうだった少女を怪物から攫いあげ逃げる事になった。その間に硬直していた少女も正気に戻り、こうしてトーマスに抱えられながら野次を飛ばしているわけだが。

 

 なお、何故デュエリストであるトーマスが少女一人抱えてこんな怪物から逃げているのかというとデュエリストだから、と言うしかないだろう。

 何せ、デュエリストなのだからこれぐらい出来て当然だ。特にトーマスは様々な状況を考え幼い時分から己を鍛えていた。

 

 

例えば、「お前の一番のファンの顔を忘れたのか凌牙!!」と言いながら飛び降りて登場してみたりなどを夢見て鍛えた結果、世界が違かったがアクションデュエルに役立つなど決して無意味で無かったそれがいまこうして実を結んでいた。

 

 

 

『GIAA!』

 

「ひゃアッ!?いま、ぎりぎりだったんだけどぉ!?」

 

「うるせぇ!分かってる!!」

 

 

 だが、いくら鍛えたといえどもやはり人間である以上怪物のそれには勝てず少しずつ少しずつ距離が縮んでいき、今もギリギリのところで攻撃を回避していた。

 さて、トーマスの頭の中ではこの場をどうやって切り抜けるかという思考が回転しているのだが…………

 

 

『ここはやはりデュエルをだな……』

 

『否定。相手は怪物です。バリアンのようにデュエルしても……』

 

『というかここでデュエル脳出すなし』

 

「(うっせぇよ!?なんかないのか、この状況を打開する方法がよォ!!)」

 

 

 脳内会議もとい脳内で騒ぐギミックパペット軍団に悩ませられながら打開策を考える。

 そもそもこの世界が何の世界なのかがわかっておらず、どうすればいいのかもわかっていない中トーマスはただ逃げるしかできない。

 

 

 だが、少女を抱えながら足場の悪い森を走っている以上疲れは溜まっていくわけで……

 

 

「ッ────」

 

「わ!?」

 

『GURU!!』

 

 

 突如見知らぬ世界へやってきてしまった事による心的ストレスとギミックパペット軍団によるストレスとこの少女を抱えて足元が悪い森を走り逃げるという肉体的疲労が祟り、根っこに足を引っ掛けてしまい少女を抱えたまま転倒、それにより怪物の一撃から回避することが出来た。

 

 しかし……

 

 

「うっ……」

 

「ッしまった!!」

 

 

 転倒した事で少女諸共木へとぶつかったトーマス。それにより少女は意識を失い、もう一度抱えて逃げようとしてもその前に怪物に襲われる。

 絶対絶命の状況へと陥ったトーマス。果たしてどうやって抜け出すのか。

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 おい、地の文何勝手に終わらせようとしてんだ!?

 

 

『GURURU』

 

「んな事よりこっちか……」

 

 

 もはや勝ったつもりなのかゆったりとした歩みで俺とこの名も知らぬ……ぶっちゃけ見た目、宇佐見蓮子なんだが……そんな少女に近づいてくる虎もどき。

 何やらサーベルタイガーみたいな長い牙に異様な体躯、そして特徴的なのはその背中に生えてるモノ。

 

 

「蝙蝠の翼ねぇ……悪魔族か獣族、それとも……いやいやデュエル脳……」

 

 

 何言ってんだ俺と思いつつ、打開策を考える。

 俺に特殊な力なんてねぇ……せいぜい精霊が宿ってるNo.カード(アニメ版)を持っていてIVなだけだ。

 遊戯王の世界じゃねえここじゃあちょっと違うだけのただの人間…………どうすればいい

 

 

『………………』

 

『………………』

 

『沈黙。………………』

 

「……黙ってんなら沈黙をわざわざ言うな」

 

 

 若干、ギミックパペット軍団に思考を乱されるが俺は思考を続けていく。どうする、どうすればいいドン・サウザンドォォ!!

 こんなところで死んでいいのか?

 ここがどこだかわからないってのに、何のためにここにいるのか知らないってのに、何より親父にも兄貴にもミハエルにも悲しい思いをさせる事を認められるのか?

 

 認めてたまるか!!

 

 

『ならばどうする』

 

「決まってる」

 

『質問。何をするのですか』

 

「アレに決まってるだろ」

 

『目の前の怪物にかい』

 

「そうに決まってんだろうが」

 

 

 思考がクリアになっていく。

 視界が歪んでいく。

 そして、それは顕れた。

 

 

 

「こいつは……!!」

 

 

 段々と飛躍していく事態、そんな中俺の目の前に顕れたのは俺が前世で見たことがあるもの。

 そう、それは……

 

 

『さぁ、選べ。この可能性世界の『  』よ』

 

「運命の扉……だとッ!?」

 

 

 前世で俺がわりかし見てたというか初代、GX、5D’s、ARCーVと違って一話から最終話まできちんと見たアニメにしてIVが出ているZEXALの主人公九十九遊馬の前に度々顕れた謎の扉。伏線回収云々は置いといてだ……何故これが俺の目の前に……!!

 というより可能性世界?いったい何のことだ

 

 

『選べ。運命に殺された男よ。停滞か変化か』

 

 

 いったいこいつが何を言ってるのかとんと理解出来ねぇ……だが、その選択肢の意味はわかる。変わらずにここで死ぬか、変わって生き延びるか……そういう意味だろう。

 

 

『選択は必ずお前から大事なものを奪うだろう』

 

「ハッ!上等だ、奪えるもんなら奪ってみせろ!!」

 

 

 そうだ。奪うだと?やってみせろ。

 俺から何かを奪うだなんて俺が認めねぇ、奪おうとする奴にはファンサービスをおみまいするだけだ。だから、俺が選ぶのは……!!

 

 

『選べ。停滞か変化か』

 

「俺が選ぶのはファンサービスダァァァアア!!」

 

 

 叫び手を伸ばし扉の鎖を引きちぎる。

 思考が変化する。

 少しずつ少しずつ何かが失われていく気がする。だが、それを変化した思考が気のせいだと断ずる。

 こんなめくるめくる変わる事態を俺はだからどうしたと思考する。

 

 

 世界が戻る。扉は消え、代わりに虎もどきがそこにいる。変化はない、否そこに確かに変化はあった。

 

 

「────」

 

 

 鎖を引きちぎった右手の甲には紫の光を灯す紋章と左腕には篭手の様なモノが顕れていた。

 それはZEXALでIVが使用していた紋章とデュエルディスク。俺が持っていなかったものだ。

 それが何故?

 

 

「いや、わかる。何故これがここにあるのか、まるで手に取るようにわかるぜ」

 

 

 そう笑いながら俺は立ち上がる。

 この紋章と篭手が俺にその使い方を教えてくれる。そう、これこそがあの時俺が転生した際に見たあの女が俺に与えた光球の正体。

 すなわち転生特典。

 その力は────

 

 

「────モンスターの能力行使。それこそが俺の力だ」

 

 

 展開されていく篭手。

 紋章が輝き俺の左眼付近に熱が発せられていく。

 俺がこの世界に来ることなんざとっくのとうに決まっていた。遊戯王の世界での生活はこの世界での戦いのための前準備、そして俺の最終地点。

 この世界を生き抜き俺は再び家族のもとへ帰るためにも

 

 

「俺のファンサービスを受けてもらおうかァァ!!」

 

 

 俺は嗤いながら目の前の虎もどきの向けてカードを一枚発動した。きっとこん時の俺の表情はアニメのIVのように盛大に歪んでるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

以下ありもしない可能性────────

 

 

 

 

 

 

「フハハハ!!どうだこれが俺のファンサービスだ!!」

 

「……悪魔相手にはちゃめちゃしてるんだけど」

 

 

 見知らぬ世界で怪物相手にファンサービスをしてはっちゃけるトーマス、そしてドン引きしている謎の少女こと宇佐見蓮子。

 

 

「何?行く宛がない?ならば儂のところでも来るかね」

 

 

 唐突に現れる筋肉達磨な老神ことイザナギ。

 

 

 

 

「いいぜ、悪魔の一体や二体……いや、十体でも二十体でもまとめてファンサービスしてやるよォ!!」

 

「クッ、私達悪魔を舐めないで欲しいわ!!」

 

 

 この世界本来の歴史のメインヒロインたちとの会合。披露されるファンサービス。

 

 

「俺はNo.15ギミックパペット─ジャイアント・キラーの能力を発動!!さぁ、俺のファンサービスだ!」

 

「いや、やめて、いやぁァァァ!!??」

 

「レ、レイナーレ様ぁッ!?う、うわぁぁぁ!!」

 

 

 教会でのファンサービス。エクシーズでもないのに効果圏内の堕天使たち

 

 

 

 

 

「やぁ、マスター」

 

「挨拶。こうして会うのは初めてですね、マスター」

 

「と、いうわけだマスター」

 

「お、俺のギミックパペットが擬人化している件について!?」

 

 

 擬人化したギミックパペット軍団に驚き頭痛を起こす悲しきトーマス。

 やはり、どの可能性世界でも『彼』は頭痛または胃痛に苛まれるのだろう。

 

 

 

 

 

「異世界からやってきた人間かァ、おっもしれぇなぁ!!」

 

「……久々にキレちまったよ……リゼヴィム・リヴァン・ルシファァァ!!!てめぇにはとびっきりのファンッサービスをくれてやるよぉぉ!!」

 

「俺はRUM─アージェント・カオス・フォースを発動!!これこそが俺の真の切り札!!!」

 

 

 異世界侵攻を目論むリリンとの戦い。

 遂に使われるカオスの力。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トーマス・アークライト/IV

 

・性別:男/年齢:17

・呼称:IV

・デッキ:ギミックパペット、暗黒界、ネプチューン

・口癖:ファンサービス

・死因:チーズの肺への侵入によるショック死

 

 久々に見た遊戯王アニメにより遊戯王熱が再燃した社会人時期の主人公。

 友人が買ってきたチーズを帰り道に食べていた際に肺へ誤飲、それによるショック死。他の可能性世界の主人公と違い明確に何者かによって転生させられた。

 遊戯王ZEXAL世界ではなくARCーV世界に転生した事でNo.が使えないと思っていたが何故かある日手元に顕れ、しかも精霊が宿っていた事から少しずつ頭痛に苛まれる。

 元々幼い頃からデュエル(物理)などを対策してそれなりに身体を鍛えていたのが功を奏し、アクションデュエルでも活躍。プレイングはわざと相手の優勢にさせてからの逆転勝利という自分のワンサイドゲームにならないようにしている。

 ARCーV原作と関わる事となったのはLDS狩りをしていた黒咲隼との一戦。黒咲隼にNo.を駆使して勝利し、他のLDSに見つかる前に逃走したが黒咲隼の証言により赤馬零児に目をつけられなし崩し的に巻き込まれてしまう。

 ランサーズ入りしてからは何度か原作主人公である榊遊矢とぶつかるが少しずつ和解する。タイラー姉妹との戦いの際には遊矢とタッグを組んで戦った程度には。

 タイラー姉妹の姉であるグロリアに対しキャラ被りがあると文句を付けるなどグロリアへの好感度はマイナスである。

 ZEXAL世界ではないため、顔の傷は付かないはずだったがアクションデュエルで梁山泊出身のデュエリストとデュエルした際に傷を負った。その事から梁山泊出身のデュエリストに対しては常時圧倒したプレイングをする。

 

 

 ARCーVにおける原作イベントが終わり、変わらずデュエリストとして活躍していた際に唐突にハイスクールD×D世界へと迷い込んでしまう。

 調べ物の為に図書館を目指すがはぐれ悪魔の力により無意識の内に謎の森へと迷い込んでしまうが振り払い、謎の少女こと宇佐見蓮子をはぐれ悪魔から奪い逃げる。絶対絶命のピンチに陥った際に運命の扉により本来の力を与えられる。

 カードの能力行使という力に目覚めた事ではぐれ悪魔を滅ぼし、京都にいた神に目をつけられ日本神話群に客将として入る事となった。

 

 

 

No.15ギミック・パペット─ジャイアントキラー

・アニメ効果。

 

 主人公の転生特典のおまけとして与えられた精霊の宿っているNo.。

 なお、僕っ子であり主人公が真の力に目覚めた事で実体化(擬人化)することが出来るようになった。

 実体化した時の見た目はSAOのユウキ、なお男である。

 

 

No.40ギミック・パペット─ヘブンズ・ストリングス

・アニメ効果

 

 主人公の転生特典のおまけとして与えられた精霊の宿っているNo.。

 セリフの頭に二文字の単語を付けるなど某デートの登場人物のような特徴を持っている。

 実体化した時の見た目はその特徴通り、八舞耶倶矢に似た風貌の少女。

 

 

No.8ギミック・パペット─デステニー・レオ

・アニメ効果

 

 主人公の転生特典のおまけとして与えられた精霊の宿っているNo.。

 他の二体と違って口調にこれといった特徴はない。

 実体化した時の見た目はアルトリアっぽい。セイバーでないのでアサシンよ狙わないでくれ。

 

 

 

宇佐見蓮子

 

 はぐれ悪魔が縄張りにしていた森に迷い込んだ少女。

 裏の世界について触り程度であるが知っており、京都に隠居しているとある神の巫女もどきをしている。

 

 

 

 




久々に遊戯王を見てデッキを探したらギミックパペット軍団だけ見つかりました。

天草のピックアップの後には俺たちの財布をクランチしてくるピックアップがやってくるぞ遊馬!!
これを書いていたりランスロット考えているとデート・ア・ライブで書きたいな。代わりにまたチーズ死因考えないといけないけどね!



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UNDEAD──不死人:オーバーロード

オーバーロードの合間に書いた作品です


 

 

 

 

 火は陰り、王たちに玉座なし

 

 

 嘗て不死院にて牢に繋がれた不死人は数奇な運命により不死院を抜け鐘を鳴らし、蛇が告げた言葉に従いその身に秘めた使命を成すため神話の都へ向かい、火継ぎの旅へと殉じた。

 死者の王を討った、鱗無き白竜を討った、公王らを討った、王のソウルを集めそして不死人は王を倒し世界の礎となった。

 

 されども不死人の魂は眠る事はなく、目覚めた先で新たな使命を成すために遥か北の地にあるという国へと至り、彼の地にて嘗て討ち倒した深淵の主が落し仔を滅ぼした。

 

 そして、三度目の旅路にて再び不死人は火継ぎの旅へと歩みを始めた。

 名も無き灰として、嘗ての己と同じ薪の王であった者らを玉座へ戻すべく旅をした、貧相ながらも王らしい小男、ファランの狼血を流す不死の騎士団、深みの聖職者にして神喰らい、偉大なる巨人の王、双王子。

 彼らを玉座へ戻し不死人は再び最初の火の炉へと至る。

 

 

 

 

 

 そして、彼は────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 

 

 私はそこにいる。

 何もする気が無く、私はそこにいる。

 所々岩が生え、幾つもの剣や杖が墓標の様に刺さった地、その中心にあるただの篝火を私はただ、ただ見つめ続ける。

 弱々しい火。しかし、見る者に温もりを与えるそれは私の荒んだ心を癒してくれる。

 もはや、全てが終わる。

 今までの歩み、その終止符。

 私は嘗てを想起する。今まで様々な者らと出会った。多くの困難に出会った。

 それらを私は時に一人で、時に仲間と共に乗り越えてきた…………しかし、それはもはや過去のもの。この手にあるのは燃え尽きた後に残る灰だけ、もはや取り戻す事など出来はしない。

 だから、だろうか。

 私は弱々しい、されども篝火として充分なそれに手を伸ばして────────

 

 

『────ネームレスさん、ヘロヘロさんが来たので一度円卓に来てくれませんか?』

 

 

 …………、…………、…………はぁ。

 気が削がれた。

 私は篝火へと伸ばしていた手を戻し、その場から立ち上がってその指にはめられていた指輪の力を行使する。

 転移の力は問題なく発揮され、私はその場から姿を消した。

 

 一瞬の暗転を挟み、私は先程の場所とは打って変わった豪華絢爛な円卓が置かれた部屋へ足を踏み入れた。

 視線を動かせば円卓には二人の人物が席に付いていて…………人物という括りでいいのか?

 

 

「あ、ネームレスさん」

 

「お久しぶりです、ネームレスさん」

 

 

 どうも、ヘロヘロさん。

 

 円卓の間にやってきた私に気がついたのかこちらへ顔を向けるのは二人の異形。豪華な黒いローブに身を包んだ骸骨と黒い不定形なスライム。

 私が所属する異業種ギルド:アインズ・ウール・ゴウンのギルドマスターことモモンガさんとギルドメンバーの一人であるヘロヘロさんだ。

 私はヘロヘロさんに軽く会釈をして、私の席へと腰掛ける。ふむ、それにしてもヘロヘロさんは疲れているようだ……声音に元気がないな。

 

 

「いやー、まさかナザリックがまだ会ったなんて……これもモモンガさんやネームレスさんが頑張ってくれてたおかげですね」

 

「……ええ、ネームレスさんにはお世話になりましたよ」

 

 そんなことは無い。私は趣味に走ってその副産物をナザリックの運営資金に当ててただけでほとんどモモンガさんのおかげですよ。

 

 私はそう二人に告げてコンソールを開き弄り始める。どうやら、まだまだユグドラシルのサービス終了まで時間があるようだ。

 さて、ロールが途切れてしまったからなそろそろ自己紹介といこう。

 私の名はネームレス、プレイヤーネームなのは許して欲しい。君たちとて私のリアルネームなんてどうでもいいだろう?

 まず、私は転生者だ。ダークソウル・リマスタードが発売され、有休を二日ほどとり寝る間も惜しんで墓王ニトまで進め、さてボス戦と意気込みながらおつまみのチーズを摘んでいたら唐突に喉が辛くなり────間違いなくチーズが詰まった────苦しんだと思ったら赤ん坊になっていた。

 何を言ってるいるのか分からないだろうが、私も分からない。さて、赤ん坊になった私はすぐにそれが転生だと理解し、同時にダークソウル・リマスタードが出来なくなった事に絶望した。ついでに言えば転生先の世界を見てさらに絶望した。

 外にはマスクを付けなければ出歩けない、義務教育の撤廃、富裕層と貧困層、アーコロジーなどなど……そんな恐ろしい世界に転生した事は私の心を打ちのめしたが運の良い事に私は富裕層の中でもそこそこの家に生まれ良い暮らしが出来た。そんな世界で育ち前世の性格や口調が変わっていき、企業で上役となった頃にとあるゲームが発売された。

 

 その名を『ユグドラシル』。DMMOーRPGの一つなんだが、それを聞いて私は理解した。

「ここ、オーバーロードの世界かよ」

 それを理解した私はすぐさまユグドラシルを購入し、異業種を選んだ。フロムにより鍛えられた技術────間違いなく衰えてる────を以て異業種狩りプレイヤーやPKを狩るなど楽しい楽しい暗月警察暮らしをしているとある日、正義降臨ことワールド・チャンピオンの一人であるたっち・みーさんと出会いなんやかんやあってアインズ・ウール・ゴウンへと入ることが出来た。ちなみに調べたらフロムは過去に存在していなかった……。

 

 オーバーロード×ダークソウルな二次創作によくあるコラボはない、という事を知ってしまった私はなら私がやるしかないじゃないか!と富裕層で企業の上役という立場を利用し廃課金を行いこのナザリックのNPCにかぼたんを創ったり、装備の見た目をダークソウルにしたり、来る異世界転移の為に様々な用意をしてきた。

 まあ、そんなこんなで現在ユグドラシルはサービス終了日を迎えた。

 

 

「…………ぁ、モモンガさん、すいません。いま、寝かけてました」

 

「大丈夫……じゃないですね。どうぞ、ログアウトしても大丈夫ですよ?ゆっくり寝てください」

 

「……はい、ではお言葉に甘えて…………ユグドラシル2とかがあったらまた……」

 

『ヘロヘロさんがログアウトしました』

 

 

 

 と、どうやらヘロヘロさんがログアウトしたようだ。私はコンソールを切りモモンガさんへと視線を向ける。見た限りでは原作の様な反応は見受けられない……原作ではモモンガさんは一人ユグドラシルを続けて運営資金を稼いでいたが…………なるほど、趣味に走っていたとはいえ私がいた事で決して一人ではなかったからか。

 ふむ……

 

 

 モモンガさん。

 

「っ、はい。なんですかネームレスさん?」

 

 ……ユグドラシル楽しかったですね。

 

「……そうですね。みんなと楽しく騒ぎましたね」

 

 そうだ。実はモモンガさんに隠してた事があるんです。

 

「……?なんですか?」

 

 実はですね。個人でとったウロボロスを五回ほど内緒で使ってました。

 

「は?」

 

 

 私の告白にモモンガさんは疑問符を浮かべ、しばし固まっている内に私は席を立つ。

 そして、次の瞬間私は遮れる訳では無いが耳を抑えておく。

 

 

「はぁァァァァアア!!??あんた、何してんですかぁ!?」

 

 私の課金だ。問題あるまい。

 

「いや、確かにそうでしょうけど。一言くらい言ってくれませんか!?ギルメン!報連相!」

 

 

 絶叫する骸骨。失笑。

 私はそんな彼を諌める様に言葉をかける。

 

 

 大丈夫。大丈夫。スキル名変えたりアイテム実装させただけだから。

 

「いや、何が大丈夫なんですか!?というか、いったいどんなアイテムを作ったんですか……」

 

 ウロボロス一つ素材に使う無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァザック)の超上位互換。通常のアイテムボックス二枠潰す代わりに無限の背負い袋の四倍入れられて且つ、入れてるアイテムの所持可能上限が無い。

 

「はい?ちなみにどういう理由で作ったんですか?」

 

 趣味と素材集め。

 

 

 正確に言えば、異世界転移した際に必要になるであろうアイテムを溜め込むために作ったんだがな。スクロールやらなんやらを大量に突っ込んである。

 まあ、ダークソウル的な装備品の為のデータクリスタルやら素材を入れるのにとても役立ったのは事実だな。

 

 

「な、なるほど……だから、あんなに副産物っていいながら稼いで来てたんですね」

 

 そういうこと。……と、そろそろか

 

 

 ふと、私はコンソールを開き時刻を確認する。別にわざわざコンソールを開かなくとも設定で視界の端に時刻が出るように出来るのだが、私はもっぱらそういう設定はせずにコンソールをいちいち開いて確認している。

 さて、時刻を見ればもう残り三十分を過ぎている。そんな私にモモンガさんは疑問符を浮かべているので私はきちんと教えておく。

 

 

「あ、ほんとだ。もう三十分ぐらいか……やっぱりネームレスさんは第六階層で終わりを迎えるんですか?」

 

 ええ。私にとって彼処がマイルームみたいなものですから

 

「わかりました。それじゃあ、私は玉座の間に行くんで」

 

 はい。あ、ギルド武器持ってていいですよ?何せ、作ってから使ってないんですし……最後ぐらい……ねぇ?

 

「そうですね。持っていくことにしますよ」

 

 

 そんなふうに話して私は指輪、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを使い円卓の間に来る前までいた第六階層の片隅にある私にとってのマイルームこと最初の火の炉へと転移した。

 

 

 砂とも土とも言える地面を踏みしめ、辺りに生える黒く焼けた岩、突き刺さる槍や剣に杖……さながら墓標の様に見えるそれら、そしてBGMは存在せず地面を踏む足音しか聴こえぬ静寂のエリア。

 その中心にある篝火へと私は近づく。

 

 そんな私に反応したのか篝火の傍らにて跪き祈っていた火防女が立ち上がり私を見る。

 ダークソウルなプレイをする為にやはり、かぼたんは必要だろうと他の人に手伝ってもらいながら作った私のNPC:火防女ことレティシア。名前の由来だが、ダークソウル3の火防女の容姿で見た目がジャンヌっぽいと思ったからだ。異論は認める。

 フレーバーテキストにはダークソウルな設定を色々書いた。名も無き灰と共に火を消し闇の世界ENDの後に消えたがしかし、蘇った名も無き灰────つまり、私によってこの最初の火の炉を模した場に蘇ったという旨を。

 まあ、分かる通り、私自身のフレーバーテキストにもダークソウル的な設定を書いた。無印から3まで経験してる的な…………。

 

 

 じき、世界は終わる。

 

 

 アイテムボックスを確認すればきちんと必要なスクロールやらアイテム、様々な防具や武器、指輪類、サービス終了日故に馬鹿みたいに安売りしていたワールドアイテムが一つ。

 

 

 再び火は消える。

 

 

 まあ、これで異世界転移出来なかったら…………仕方ないな。その時はリアルでペロロンチーノさんやぶくぶく茶釜さん、たっち・みーさん辺りを誘って何かしようか。

 

 

 しかし、どれだけ小さくとも、暗闇の中に火は現れる

 

 

 ふむ……できれば他にもダークソウルNPCを作りたかったな……確か傭兵NPCを自作できる課金アイテムがあった筈だ……カタリナのジークバルトを作っても良かったな。

 …………転移後はどうするかな。フレーバーテキストがアルベドの様に影響しているのであれば私も火防女もそのフレーバーテキストの影響を受けるのだろうか?ともすれば私は自らのフレーバーテキストに記した通り、様々な旅を経た不死人となるわけで……もしかすれば経験したことが無い不死人の記憶が流れ込むという可能性もありえる。

 二次創作の読み過ぎだ、と言われれば終わる話だが……しかし、この現実自体が私にとっては夢幻の体験と何一つ変わらない。さて、どうなるか。

 時刻を見れば既に五分を切ったようだ。

 

 いや、待て。モモンガさんはやはりアルベドのフレーバーテキストの最後の一文。

 『ちなみにビッチである。』を『モモンガを愛している。』に変えているのだろうか?変えていたら……下手すれば私は転移先でアルベドに敵対視される可能性が?いやいや、私は最後までモモンガさんと一緒にナザリックにいたわけだからそれはないだろう……ないと信じたい。

 とりあえずモモンガさんが魔王ルートを歩まないように注意していくか。

 

 

 

『────ネームレスさん』

 

『……モモンガさん、もう終わりですよ』

 

『はい、そうですね。……その、いままでありがとうございました』

 

『いえ、こちらこそ。アインズ・ウール・ゴウンだから今日まで私はやってけたんです。何時辞めてもおかしくなかったのに……』

 

 

 本音だ。

 異世界転移を知っていたが、それでも私はこのユグドラシルをサービス終了までやれたかどうかは分からない。もしかしたら辞めていたかもしれない。

 それを考えると彼に感謝の念を向けるのは当たり前な事だ。

 

 

『…………終わりですね』

 

『ええ……』

 

『その、ヘロヘロさんが言ってましたけど……』

 

『はい。ユグドラシル2があったら……』

 

『その時はまた』

 

 

────五十二、五十三

 

 

『それじゃあ、締めますか』

 

『ええ』

 

 

────五十四、五十五

 

 

 

『『アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!!!』』

 

 

 

────五十八、五十九

 

 

 

────零

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「灰の方、まだ私の声が、聞こえていらっしゃいますか────?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────カハッ」

 

 

「これで、希望をもって、死ねるよ……」「私は汚れ、声を出すべきではありません」「それでは奇跡の話をしましょうか」「不死の勇者よ。わしはここで待っておるぞ」「俺の太陽が……沈んでいく……」「あんたには期待してるんだ。しっかり働いてくれよ」「哀れだよ。炎に向かう蛾のようだ」「……死ぬんじゃねぇぜあんたの亡者なんて見たくもねぇ……」「棄てられた都とて、勇者に導きくらいは必要だろう?」「よく参りました、試練をこえた、不死の英雄よ」

 

「よろしい、ならば、汝はこれより暗月の剣となる」

 

「王たるものよ、玉座へ……その先は、貴方にしか見えないのです」「だが、だからこそ……霧の中の答えを求めるのか」「いつの日か、その旅に終わりが訪れんことを……」「火を求める者 王たらんとする者よ……力を手にするがよい そして、汝の望むがままに……」

 

「兄上は私の、ロスリックの剣 だから、どうか立ってください……それが、私たちの呪いです」「さあ、最後の乾杯だ 貴公の勇気と使命、そして古い友ヨームに」「ノーカウントだろ?ノーカウn」「……さあ、これより貴方は暗月の剣」「あるいは、私たちが最後となるか……『最後の王』とは、小人にすぎた栄誉というものだな」

 

「はじまりの火が、消えていきます。すぐに暗闇が訪れるでしょう…………そして、いつかきっと暗闇に、小さな火たちが現れます。王たちの継いだ残り火が…………」

 

 

 

「灰の方、まだ私の声が、聞こえていらっしゃいますか?」

 

 

 

 

 

 

 瞬間、私の頭蓋は軋む、割れる、砕ける、前世も今世も味わった事が無いほどの激痛に襲われ────しかし、何時か味わったであろう痛みに比べれば大したものではなかった。

 痛みより立ち直った私は気がつけば最初の火の炉ではなくまったく知らない何処かの草原に胡座をかいていた。

 そんな事態に対して私は冷静に対応する。

 間違いなく異世界へと転移出来たのだろう……しかし、ここはナザリックでは無い。ではナザリックの外に広がっていたという丘になる予定の草原か?となればこの周辺にナザリックがあるはず…………私はアイテムボックスから一定範囲内のエネミー及びプレイヤー、NPCを探知する事が可能な指輪を取り出しリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンと取り替えて指にはめる。

 

 

 ………………あぁ。なるほど。

 

 

 指輪をはめたことで理解する。私がいる場所はナザリックが転移した草原では無い、何故ならばおおよそ20レベル前後のエネミーの反応が無数にあるからだ。

 そして、私の視認できる距離に街……いや、都であろう場所が見える。そこへ迫っていく大量のエネミー……オーバーロードを知っているならば何となく察せられる。

 

 

 つまるところ獣狩り(Bloodborne)というわけか。同じフロムだが私と作品違うぞ。

 

 

 さて、どうするか。仮にも異業種である私としては人間が彼らに食われるのは別に何か感じる訳ではない……ないが……

 

 

 何、新たな世界。その初陣と考えれば良きものだ。

 

 

 すぐさま私は早着替えのローブを纏い、セットしておいた装備へと姿を変える。

 外見としてはファーナムの騎士装備だろう、特にこの両肩の毛皮部分が拘りでこれの為にいったいどれほどの神獣クラスを狩った事か……んん、指にはリング・オブ・サステナンスとリング・オブ・フリーダム、反応感知の指輪に人化の指輪をはめる……ついでに回数制限がある召喚系指輪をはめておこう。

 さて、足が必要だ。ダークソウルといえばこういう時はシフに乗って駆けるのがロマンなのだろうがしかし、残念ながら私の持つ指輪では狼系のモンスターは呼べない。

 

 

 まあ、レベルを考えれば何度か跳べば着くだろう。

 

 

 適当に屈伸し、私は大地を蹴りつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 竜王国の王都へと進行したおよそ五千ものビーストマン。

 それに対抗するべく竜王国の兵士らは決死の覚悟で迎え撃つこととなった。

 

 

「────!!」

 

「────!!!!」

 

 

 しかし、ビーストマンは一体一体が人間の成人男性十数倍もの力を持つ怪物。如何に兵士と言えどもビーストマン五千は並大抵の数ではどうにもならなかった。

 そもそもビーストマンにとって人間とは餌でしかなく、殺す事を目的とする人間に対してビーストマンは人間を食えればいいのだ。仮に兵士の剣がビーストマンの腕を切り落としたとしてもその間にビーストマンが兵士の首へ噛み付けばそれで人間は終わり。

 ビーストマン一体に対して兵士はいったい何人食われるのか、そんな事が分からない彼らではない。だが、それでも彼ら兵士は家族の為に戦うしかない、たとえ死ぬとしても。

 

 

 ああ、だからこそ。

 

 

 唾液を撒き散らしながらけたたましく吼えるビーストマンらが兵士へと躍りかかる瞬間、ただ稲光が迸った。

 

 

「は?」

 

 

 視界を焼く雷光に思わず兵士は目を瞑り、それを開けた瞬間視界に飛び込んできたのは目前のビーストマンが数十個の黒炭へと変貌したというもの。

 いったい何が。それを見た兵士もビーストマンもただそれだけが思考に満ちて────

 

 

────龍雷(雷の槍)

 

 

 戦場へと響く流麗なその言葉に兵士はその視線を向け、ビーストマンは沈黙を捧げた。

 都合六度迸った雷光はビーストマンを尽く蹂躙していく。

 ビーストマンだった黒炭が高野に溢れ、兵士は先程までビーストマンがいた場所に見知らぬ誰かがいるのを視認した。

 

 

 

 それは一人の騎士だ。

 

 色鮮やかな水色のキュレット、肩を覆う毛皮が目に付く流麗な装備。農民上がりで美術品などを見る目などないような兵士ですら、その装備が国宝級を遥かに凌ぐ素晴らしいものである事を理解した。

 左手には直剣が握られ、右手には稲妻の名残が残っており、兵士はその騎士がこの光景を作り出したのだ、と納得し同時に声を上げそうになった。それを止めたのはひとえに騎士の視線────と言っても兜を被っている為兜のスリットが向いている方向だが────が未だ生き残っているビーストマンの群れに向けられているのを知ったからだ。

 確かに雷光は多くのビーストマンを殺した。数にすればおおよそ七百を超えた辺り。つまり、全体の一割少しでしかない、ビーストマンはまだまだいるのだ。

 

 無茶だ、そう呟く者もいる。

 もしかしたら、と呟く者もいる。

 

 

 そんな兵士らの視線を背に受け、騎士はその右手で既に握っていた直剣と同じものを引き抜き双剣のスタイルをとって、一歩、一歩、ビーストマンの群れへと歩んでいく。

 そんな決して早くはない歩みにビーストマンは動けず少しずつ後退していく、がやはり獣なのかそんな緊張を、萎縮する自身を奮い立たせようと雄叫びと言うよりも悲鳴を上げながら騎士へと飛びかかる者が出た。

 

 

 ああ、やはり。振るわれる刃はいとも容易く飛びかかったビーストマンを解体し切り捨てた。

 騎士は切り捨てられたビーストマンの死体には一切目もくれず、ただ、ただ進む。

 もはやビーストマンにとって騎士は怪物だ。餌と似たような姿をしただけの怪物。むしろ、自分たちを鏖殺にする為だけに餌と同じ姿をしているのではないか?と錯覚させるほどに、だから、ビーストマンは逃げた。

 

 

 一切の恥を捨ててその場から逃げ出した。

 あの怪物から逃れられるのならば、プライドなんて捨ててやると言わんばかりのそれに兵士らは唖然とし、しかし騎士は見逃さない。

 大地を蹴り、騎士は跳ね飛ぶ。宙へと身を投げた騎士は大気を蹴りつけ逃げるビーストマンの真ん中へと着地しそのまますぐにビーストマンへとその刃を振るった。

 逃さないと言わんばかりのそれにビーストマンは恐れ、硬直しいったい何が起きたかビーストマンは逃げる事を止め、全員が騎士へと殺到した。

 しかし、四千いくらかのビーストマンがたった一人に殺到するなど同胞を踏み潰しかねない行為であり結果、同士討ちで半分近くのビーストマンが死んでいった。

 

 飛びかかったものは股下から切り上げられ、隙を突かんとしたものは短剣により首を切り落とされ、背後から来たものには脚で蹴り殺しすぐさま体勢を立て直し他のものどもへと対応していく。

 まさに尋常ならざる英雄が如き所業。

 自分たちが何人も束にならねば殺せぬ獣を次々と鏖殺していく様を見て兵士らは次々と叫んでいく。それは食われ殺された同胞たちへ捧げるもの、食われ殺されるだけだった自分たちに降りてきた希望への歓声、そして彼らが守る者らへ伝える勝利の雄叫び。

 それらを背に受けて鏖殺した騎士はその兜の下でぎこちなく笑みを浮かべた……が、それを分かるのはきっと騎士本人だけなのだろう。

 

 

 

 






 NPCが動くなんて……本当に異世界転移でもしてしまったんだろうか?…………いや、待て、そうだネームレスさん。
 ネームレスさんはどうなったんだ!?あの人は確かあの時、第六階層にいたはず……もしかしたら一緒に来てるかもしれない……でも、だとしたらどうして連絡をくれないのか……
 意を決して伝言を使い────


『《伝言》ネームレスさん、いまどこにいますか!?』

『────《伝言》現在暗月警察中なので後日おかけください』ブツッ

「………………はァ!?」


 え、あ、はァ!?あの人何してんの!?というかどこにいるの!?
 暗月警察ってPKKの事だった筈だが……というか伝言が通じたって事はそういうことなのか?少なくともネームレスさんはこの世界にいる……と。
 とりあえず言われた通り後日連絡しよう。
 そして会えたら文句でも言おう。


────────────────────

ダークソウル・リマスタード実はまだ買えてません!
月替わり……恐らく土日に買えるかな?

主人公であるネームレスはアンデッドの中でもゾンビ系の種族です。
基本的にアタッカーですが装備品の力で魔法(奇跡など)を使用してます。


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UNDEAD───不死人:2

「灰の方……灰の方はグウィネヴィア様とグウィンドリン様、どちらがお好きですか?」

暗月的に圧倒的グウィンドリン様だが?




 

 

 

 

 

 

 果たして何体ものビーストマンを切り殺しただろうか。

 はて、ろくに数えていないから分からんな。ひとまずはヘイトスキルを使用する事でこの戦場にいるビーストマンのタゲを集中させたわけだが……ふむ、こうも上手くいくとは思ってもいなかったな。

 曲がりなりにもこの世界は現実だ。ならば、たった一人に殺到すれば背後の味方に踏み潰されるのは簡単に予想出来る。だが、そんな事はタゲ取りされたこのビーストマンどもには分かりはしない。なにせ本能で生きてるのだから

 

 

 まあ、本能でなくともどうせ逃げられんからな。

 

 

 両の手に握ったゴットヒルトの双剣を振るいながら私は着実にビーストマンを葬っていく。戦ってわかるが、この世界の人間の実力は低いとしか言えない……いや、ユグドラシルやダークソウルを基準にしてはいけないな。

 そもそもダークソウルに至ってはフロムの死にゲーだ。死んで覚えるものだった……こちらではおいそれと死ねんだろう…………。

 と、どうやらあらかた切ったようだな。ひとまず剣を鞘に納め私はこちらを見ている兵士らのもとへと歩き始める。

 

 

「ぁ……ぁ、あああああ!!!!」

 

「おぉおおおおお!!!」

 

「「「────!!!」」」

 

 

 私へと向けられる歓声。それを聴きながら私はふと自分の鎧に視線を向ける。

 普段の火継ぎの鎧一式からファーナムの騎士鎧一式に着替えたはいいがもう少し別のでもよかった気がするな。少しビーストマンの血が目立つ…………お偉いさん……竜王国なら竜王の血を半分だか引いているという女王か、その人と会う前に鎧を変えておいた方がいいだろうな。

 はてさて、どうなるのやら……。

 

 ……そう言えば、モモンガさんから伝言来てたな……切ってしまったが大丈夫だったろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、こちらです……!」

 

 

 そんな緊張しつつも溌剌とした若者の言葉に私は浅く頷き、示された部屋へと入室する。

 ビーストマンの襲撃に対して暗月警察らしく人々を食らったビーストマンへの復讐代行────きっとグウィンドリン様には苦言を賜るだろうが────を行った私は竜王国の者らに歓迎されこうして王都のかなり質の良い宿屋へと案内された。

 流石に夜中の襲撃だった為、女王との謁見は明日ということらしい。

 

 

「そ、それでは……正午前にお迎えにあがります……!!」

 

 ああ、その時は頼む。

 

「は、はい!」

 

 

 緊張しつつも溌剌としていた彼に私は声をかけてから案内された部屋を見渡す。

 王都の中でも上位に入るほど質の良い宿屋、それは決して虚偽ではなく確かに部屋に飾られている調度品や日用品、さらには清掃などきちんと良く行き届いているようだ。

 しかし、ナザリックを見慣れている身としてはつい、ナザリックと比べてしまう。そのせいで少し物足りない気がするがそこはナザリックだから仕方ないと割り切る。

 内装に凝ったギルメンが何人もいたのだ、現実離れした美しいホームと比べるのは可哀想としか言いようがない。

 一応不眠不食不性の三大欲求全滅しているアンデッド種であるため、明日の正午前まで起きて色々とアイテムボックスを漁っているか……。

 

 

 …………む?……ああ、そういえば。

 

 

 しかし、感じる睡眠欲求に一瞬私は首を傾げたがすぐに自分が人化の指輪をはめている事を思い出し、ひとまず腰を落ち着けようとソファーへの腰掛ける。

 人化の指輪を取ればアンデッド種に戻り、三大欲求は失せるわけだが……それは亡者と変わらんようなものだ…………理性があれども人間らしいものがないのは駄目だ……モモンガさんに会った時は指輪を分けてやろう。彼もオーバーロードになって、人間らしいものがなくなっているだろうしな。

 

 ……と、まずは鎧を脱ぐか。ある程度落としたとはいえ血濡れの部分も決して少なくない、今はまだ大丈夫だが何時このソファーなどが汚れるか分からんからな。

 とりあえず私はアイテムボックスからローブを取り出し纏って、この鎧を着込んだ時のように予めセットしておいた装いへと早着替えを行う。

 着替えたのは特にダークソウルでもない私服のような衣服。今までは鎧の下にあるのはアンデッド種のそれだったが人化の指輪によりきちんとした生気溢れる人間のそれになっている。

 

 

 さて、どうするか。始まりとしては竜王国だが…………モモンガさんと連絡を取り合って行き先を考えるか。

 

 

 机の片隅に置かれている地図を広げて、私はこれからの行き先を考え始める。

 北西へと進めばカッツェ平野に出るのか……ならばそのままエ・ランテルへと入りナザリックへ帰還する……ふむ、しかしな。

 これはとても個人的な話だが私としては帝国に行きたい。原作を考えればモモンガさんは王国で冒険者をするだろう、その際に私は帝国に…………む。

 

 

『────《伝言》ネームレスさん、通じてますか?』

 

『《伝言》もしもし……モモンガさん』

 

 

 何か糸のような繋がりが頭に繋がったかのような感覚に私は、つい少し前に来たものと同じつまりは伝言である事を理解し、すぐさま応答してみればやはりと言うべきかモモンガさんからの連絡であった。

 

 

『さっきはすいませんね。ちょっと戦ってたもので』

 

『…………えっと、ネームレスさんも異世界にいるんですよね?』

 

『ええ。最初の火の炉で終わったと思えばユグドラシルじゃないどこかに来てしまったことは事実ですよ』

 

 

 私の言葉に伝言越しのモモンガさんから何やら安心したような雰囲気が伝わってくるがどうやったらそんなのが出来るのだろうか……不思議だ。

 

 

『あ、慎重派なモモンガさん。モモンガさんの事ですからこの世界の生物の強さに警戒してるようですが、ユグドラシル基準で兵士がだいたい十レベルと少しいくかいかないか……時折強くて二十前後ですよ』

 

『え?弱くないですか?……というか何故にレベルがわかるんですか……ああ、いやネームレスさんはそういう探知系の指輪持ってましたね』

 

『ええ。ちなみに何をしてたかと言いますと……草原にいて困惑中に一応指輪付けてたんでそしたら範囲内に色々いましてね……レベル的に問題ないだろうなぁ……と思って近づけば人間の街……いや、王都か。それを襲う五千ぐらいのビーストマンの群れがいまして、明らか人間が不利と思い暗月警察的に助太刀という名の無双してました』

 

『エンジョイしすぎか、おい』

 

 

 もちろん、そんな理由じゃない。しかし、モモンガさんに原作知識なんぞ教えるつもりはないので嘘を多分に含んだ話を作った。

 ユグドラシルでの私の行動からモモンガさんは普通に納得するような話だ。

 

 

『……王都って言いましたよね?それで窮地を救った?もしかしてお偉いさんと謁見とかするんですか?』

 

『ええ。とりあえずもう遅いので次の日、正午前に迎えが来る予定です』

 

『……なるほど。あ、一応聞きたいんですけど…………』

 

 

 モモンガさんからの質問に答え、手元にある地図の情報を伝えるなど互いに情報のすり合わせを二、三時間ほど私たちは行った。

 

 

 

 

『────と、いうことなので……あー、すいません。いま人化の指輪付けてるんで結構眠気が……』

 

『え、あ、そうなんですか?それはすいません……って人化の指輪きちんと使えるんですか』

 

『ええ。生気溢れる身体になってます……あ、モモンガさん、合流したら余りの指輪を渡しますよ』

 

『ほんとですか?よかった……なんか、眠気とかが無いと本当に自分が人間じゃなくなったって打ちのめされてるようで…………』

 

『…………はい、それじゃ。次はこっちから伝言使いますんで』

 

『はい、わかりました。おやすみなさい』

 

 

 

 

 ふぅ。モモンガさんとの情報整理も上手い具合に出来たな。さて、合流後の目的はその時に考えるとしてひとまずは明日の謁見か。

 竜の血を引いている女王……プリシラを想起させるな…………あの腐れ聖職者、しこたま殴り殺したい……いや、とりあえずなんかいい感じの瓶に本体詰め込んでシェイクしてやるか……。

 ああ、あの腐れ聖職者を思い出した途端に苛立ってきたな…………落ち着こう。深夜テンションで作ったグウィンドリン様(二分の一)像が確か入ってたはず、出して跪こう。

 

 

 嗚呼、グウィンドリン様……

 

 

 アイテムボックスから取り出したグウィンドリン様像に人間性が溢れそうになりつつも抑え、跪く。

 もうね、なんというかアレなんだよ。グウィンドリン様は女神として育てられた男神だけどさ……男でも良くね?いや、普通に女神でもまっっったく問題ないんだがな!?

 

 

 暗月の使徒として、御身に復讐の証を……

 

 

 ……む、ビーストマンの耳は……むむむ、グウィンドリン様に獣の耳を捧げるのはどうか……、ひとまずクレマンティーヌの耳は捧げよう。

 立ち上がり、寝室へと足を向ける。

 ひとまずは今日はもう寝よう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おお、貴公!どうやら亡者ではないらしいな。俺はアストラのソラール。見てのとおり、太陽の神の信徒だ」

「不死となり、大王グウィンの生まれたこの地に俺自身の太陽を探しに来た!」

「む、貴公は太陽よりも月が好きなのか?そうかそうか、月も太陽とは切っても切れないものだ。否定などするものか」

 

 

「おお、貴公。貴公とは奇妙な縁があるな……む、貴公、そういえば名はなんという……何?名がわからない……そうか……よし、ならば俺が貴公にピッタリの名を考えよう!」

「確か貴公は月が好きだ、と言っていたな……ううむ……セレネというのはどうだろうか。異邦では月を示すそうだが……」

 

 おいおい、女みたいな名前だな。なんだ、貴公は私を女々しいと言いたいのか?

 

「ウワッハッハハハ!!すまんすまん、だが決して俺は貴公を女々しいとは思っていないぞ?貴公は立派な騎士だ、そんな男を女々しいなどとは口が裂けても言えんよ」

「さて、俺はもう少ししばらくここで太陽を眺めていくよ」

 

 

「どうだろう?俺と同じ太陽の戦士にならないか?……悪い悪い、冗談だ。俺は知っているとも貴公は決して信仰を鞍替えするような安い男でない事を」

「俺は太陽の、貴公は暗月の、互いに強き信仰を胸に、前へと歩んでいく……うむうむ、しかしそう考えれば考えるほど共に太陽の信徒として戦ってほしいと思ってしまうな。ウワッハッハハハ!!」

 

 

「……なぜだ……なぜだ」

「……なぜ、これほどに探しても見つからないんだ……」

 

 

「……ついに、ついに、手に入れたぞ、手に入れたんだ…………俺の、俺の太陽……俺が太陽だ……」

「太陽万歳!」

「やった……やったぞ……どうだっ、俺は……やったんだ」

 

 っ…………!

 

「……ああ、駄目だ」

「……俺の、俺の太陽が、沈む……。……暗い、まっくらだ…………」

 

 

 

『火は陰り、王たちに玉座なし…………貴公、俺の声が、聞こえているか…………?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………ッ!!??……ハァハァ

 

 

 夢……なのか?

 ひとまず休息をとるために用意された部屋のベッドで眠りについた……だが、寝ている間に私は……何かを見た。

 前世も今世も私にはそんな記憶は無い。そんな体験はない。だが、だがしかし…………

 

 

 この身体が、ソウルがそれを憶えている……のか。

 

 

 現実と化すフレーバーテキスト。重要視していた……と思っていたが思いのほか私はそれを軽く考えていたようだ。そもそも昨晩、私がこの世界に来た際にも似たような現象……と言ってもアレは勢いよく記録がある流れ込んできただけでまるで本を読むようなものだった。

 だが、さっきのは違う。アレは明確な記憶だ。意識すればするほど、アレがただの夢と振り払う事が出来なくなっていく……はっきりと私が経験したものだ、と断言できてしまう。

 精神の異形化も恐ろしいものだが、これもまた恐ろしいものだ。

 

 

 …………時間は……そろそろ着替えた方がいいか。

 

 

 アイテムボックスからローブを引っ張り出し、纏う。早着替えする装いは…………アレでいいか。

 選んだのはファーナムとは違うシンプルな騎士鎧。青いサーコートに首周りを覆う赤い布が特徴なそれを着て私は妙に満足感を憶え、アイテムボックスから適当な特に効果があるわけでもないし飲料を取り出しグラスに注ぐ。

 

 口に含んでみれば口の中に満ちていく甘い柑橘系の味、確かギルメンと一時期こういった特に効果があるわけでもないアイテムを作るのにはまっていたな。確か名前は……………………みかん太郎だったな。よそで言うのはやめよう。

 

 

 

────トントントンッ

 

 

 どうやら、迎えが来たようだ。

 

 

 飲み終わったグラスと飲料の入った瓶をアイテムボックスにしまい私は部屋のドアを開け、迎えに来た兵士に笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

「戦場に突如として現れた謎の騎士……のう」

 

「はい、戦場の兵士らは口々にその勇猛さと武勇を讃えていましたよ」

 

 

 竜王国・王城の玉座の間にて女王ドラウディロンは昨晩のビーストマンによる王都襲撃の際に現れビーストマンを蹂躙したという騎士の話をしていた。

 兵士長からの報告書によれば国宝と言ってもいい様な武具に身を包み、一撃で数百ものビーストマンを消し炭に変える稲妻を放つ謎の騎士。

 

 

「名は名乗らなかったようだが、まあもうすぐ来るらしいしその時に聞けばよかろう」

 

「そうですね。出来ればそのままこの国に仕えてくれるとありがたいのですが」

 

「まあ、難しいじゃろうな」

 

 

 宰相と謎の騎士について話していると伝令がやって来て、じき来ることを伝える。

 それに対し宰相は頷き、ドラウディロンはやや緊張する。

 それを見た伝令は幼い女王が自国の危機を救ってくれた騎士と会える事に緊張しているのだろう、と微笑ましく思ったがしかし実際のところはその騎士が一体どういう目的でやって来たのか、など一国を治める王として思考を巡らせているためなのだが。

 

 

「────陛下」

 

「うむ、来たようだの」

 

 

 伝令は下がり、玉座の間への扉が開く。

 そして、入ってくるのは一人の騎士。

 シンプルな騎士鎧だが、その青いサーコートや赤い布、鎧に使われているであろう金属、その腰に下げている直剣といいどれもが国宝級のそれを凌ぐものだ、とドラウディロンはその身に流れる竜の血が訴えているのを感じ取り、同時にその騎士から感じる力に竜の血が警鐘を鳴らしているのを理解した。

 

 

「────お、お主が」

 

 

 声が震える。

 目の前のそれが騎士という形をした全く違う埒外の何かなのだ、と理解してしまったが故に。

 もしも、ここにいるのが騎士ではなくその友人ならば問題はなかった。しかし、目の前にいる騎士は如何に人化していようともその身体は、そのソウルは……古の竜すら屠る怪物なのだ。

 そんな戦慄いているドラウディロンを無視して、宰相は跪いた騎士へと視線を向ける。

 戦士ではない宰相だが、目の前の騎士が英雄に類する傑物なのだ、と感じ取り礼を示し竜王国に籍を置いてもらわねば、と思考を巡らす。

 

 

 此度、お招き頂き感謝します。女王陛下

 

「う、うむ……わ、私はドラウディロン。ドラウディロン・オーリウクルス、この竜王国の女王じゃ……き、騎士殿は」

 

 

 騎士の言葉にドラウディロンは意識を戻し、冷や汗を垂らしながら目の前の怪物と言葉を交わす。そんな事はないのだが、一瞬でも目を離せばその瞬間に腰に下げている直剣が自らの首を断つのではと想像し緊張の中対応する。

 そんなドラウディロンの心境などいざ知らず、騎士は誇る様に照れ臭い様に自らの名を告げる。

 

 

 セレネ。アストラのセレネと申します……女王陛下。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 さて、行くか。

 

 

 竜王国の王都を背に、騎士は女王より貰い受けた駿馬の上で地図を広げていた。

 既に伝言で目的地を決め、今はそこへ向かうための道のりを思考していた。

 本来ならばその指にはめている召喚系の指輪を行使し騎乗用のモンスターを召喚、それにより早々に目的地へと向かうつもりだったが女王より報酬として得たものを考えれば多少ゆったりとしても良いだろうと考えた。

 

 

 まずはカッツェ平野だな。……人化の指輪は外せないな……私が原因でとんでもないアンデッド種が発生されては困る。

 

 

 マッチポンプはモモンガさんの十八番だしな。そう、苦笑し地図を折りたたみ懐へしまって手綱を動かす。

 この駿馬も何れはアンデッド化……ソウルイーター辺りにでもしよう、と不穏な考えをしつつ騎士は竜王国を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 






────鐘の音が聴こえる

 身体が軋む。まるで何年も、何十年も、何百年も、いや何千年も身体を動かしていなかったのように身体が軋み悲鳴をあげている。
 視界が暗い。どうやら、何処か狭い場所にいるようだ……そして穴はない。……棺桶だろうか、石造の棺桶なのだろう。

 ふむ、どうするべきか。

 ひとまずはここを出よう。軋む身体を動かし腕を前方、いやこの場合上なのだろう。立っているのではなく横たわっているのだから。
 掌を壁に押し付けそのまま力を加える。すればどうした事だろうか、壁は……いや蓋は容易く動き、そのまま横へとズレて落ちた。


 ぬぅぅ。


 眩しい。溢れんばかりの光が視界に差し込んでくる。いったいこれはなんなのか、いや、これは……もしや……。
 すぐさま軋む身体を無理矢理動かし、棺桶から立ち上がる。空を見ればそこには清々しい程の青空が広がり、そして眩いばかりの雄々しく全てを照らさんばかりの太陽が輝いていた。


────────────────────────────

女神グウィンドリン様も男神グウィンドリン様もどっちも好きです。
リマスタード、買いました。諸事情でまだやってませんが、とりあえずいつも通り暗月警察する予定です。

これは気の迷いみたいなものですが、竜王の異世界転移よりもこっちの方が連載向きでは?と闇撫でのカアスが囁くのですが……



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戦士絶唱シンフォギアRG

書きたいから書いた!
正直ブラッドギアよりこっちの方がいいと思ってる。


 

 

 

一人の少女の前に立つ、一人の少年がいた。

 

 

「どうしても、ですか」

 

「ああ、どうしても」

 

 

遠慮がち、いや今から行う事を出来れば可能ならば避けたいという意思を感じさせる声音の少女に少年は逃げる事など決して認めないと言わんばかりの声音で応じる。

歳頃の男女、そんな二人のその言葉は聞く者からすれば二人が恋人かはたまたそれになる関係なのか、と勘ぐるやもしれない。

だが、残念な事にこの二人の間にそんな関係は無い。

 

 

「……わかり、ました」

 

「約束は守る」

 

 

悲痛そうな表情で拳を握る手に力がこもる少女。

冷静に決意に満ちた瞳を少女に向けながら左手を少女に伸ばしまるで心臓を握り潰すように手を握る少年。

この二人の間に色恋のそれはなく、あるのは嘗ての勝者と敗者という因縁のみ。

 

 

「私が勝ったら、未来の居場所を────」

 

「俺が勝てば、その勝利こそが報酬」

 

 

言葉を交わし、少女は目を瞑り聖詠を歌うために口を開き、少年は懐から取り出した紫色のひび割れの模様があるボトルを取り出し捻る。

 

 

────デンジャー!

 

 

鳴り響く機械音。少年は自身の腰に巻かれた水色と金色のドライバーの真ん中へとボトルを差し込む。

 

 

────クロコダイル!

 

 

待機音が流れ始め再び少女は目を開かせ、少年と視線を交差する。

 

 

「―――Balwisyall Nescell gungnir tron」

 

「変身」

 

 

紡ぐ聖詠、告げる台詞。

そうすれば、次の瞬間に暖かな光が少女を包み込んでいき、同時に少年のを中心に人間大のビーカーの様なモノが現れ中にいる少年ごとビーカー内に紫色の液体が満ちていく。

 

 

────割れる、食われる

 

 

そして、ビーカーの両サイドから機械のアームさながら鰐の顎が現れビーカーを噛み砕く。

 

 

────砕け散る!!

 

 

砕けたビーカーから姿を現すのは少年ではなく紫と黒のスーツを纏った何某。

 

 

────クロコダイルインローグ!!

 

 

そんな少年に応じる様に少女を包み込んでいた暖かな光は消え、その中からオレンジと白のスーツを纏った少女が姿を見せる。

互いの視線が交差し、互いに自身の拳を握る手へ力を込める。

 

 

「シンフォギア:ガングニール―――立花響!行きますッ!!」

 

「仮面ライダーローグ―――氷室幻冶……」

 

 

どちらが先か、など分からず互いに地面を蹴り、目の前の相手へと駆けその拳を握りしめる。

 

 

「オォォオオ!!」

 

「ウァアアァア!!!」

 

 

互いに勝たねばならぬ故。止められない戦いがここに始まった。

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

さて、勘のいい者なら分かるだろう。

これから起きるのは予定調和。

大体の者が予想出来、テンプレ的な出来事ではあるが決して外す事は出来ないお約束。

 

 

 

 

 

 

何の変哲もない日常。

変わらない人生。

時折、そんな変わらない平凡極まりない普通な日常がいきなり、小説漫画アニメさながらの非日常になったら、と抱いた事が誰しもあるだろう。

だがしかし、そんな事がいきなり起きたら……果たして喜べる人間がいったいどれほどいるというのだろうか。

 

 

「と、まあ……そんなわけで、だ」

 

 

横目で印刷した講義の資料内容からポイントとなる記述を確認し、つらつらとペンをノートに走らせながら彼は目の前に座る友人を見る。

一々ポイントとなる記述をノートに写さずとも資料に目を通せばわりかし、理解出来ると言ってはばからない友人に胡乱な視線を向けつつ、ドリンクに差したストローに口をつける。そんな彼に友人はにへらと笑いながらフライドポテトを口に運ぶ。

 

 

「―――はどう思うよ」

 

「……いきなり非日常が始まったとしたらどうしようもないだろ。喜ぶとか嫌がると関係無く、そんな非日常に抗う術がないならそのまま何しても無駄、諦めるのが一番」

 

「夢がないなぁ」

 

 

まるで彼が可笑しい様に笑ってみせる友人に彼は目頭を揉みながらため息をつき、ペンを置く。

 

 

「夢より今は単位だ」

 

「単位なんて普通に過ごしてりゃ取れるもんだって」

 

「…………試験は勉強しろ」

 

 

そう呟き、ペンをペンケースへとしまい込みノートや資料と共に鞄へ放り込み、空になったドリンクとゴミが乗ったトレイを持ち上げ席を立つ。

友人は残念そうな表情を彼へと向けるが彼はそれを無視してそそくさとテーブルから離れていく。

 

 

「んー、帰るのか?」

 

「帰る。ここにいたら、お前に時間割いてろくに勉強出来なさそうだ」

 

 

ゴミを捨て、トレイを片付けた彼は友人に後ろ手でひらひらと振るいそのまま店を出ていく。

 

 

 

「……非日常なんて、いきなり起きてたまるか」

 

 

寮への帰り道。

夕陽を背に住宅街にあるやや急な長い坂を下っていく彼。

そうしながら、彼はつい少し前に友人が口にした事を否定する呟きをしながら今夜の夕食を何にするかを考える。

 

非日常……確かにそんなものは普通に生きていれば到底訪れることは無い。だがしかし、何事にも例外はあり、逃れられない運命というのもある。

それがどれほどありえないような事でも起きる時は起きるのだ。

 

 

「今日の夕飯は……あー、農業科から貰ったのがあったな……あれ消費しよ」

 

 

背後になんて一切気を配らない。

 

 

「となると、夕飯はカレードリアにでも────ッアガッ!!??」

 

 

突如として彼は悲鳴を上げる。その背中、腰には直径30cm程のチーズ塊が叩き込まれていた。一体誰が……という考える暇はない。

チーズの形を見ればそれが彼が歩いてきた坂道を転がりながらやってきた事が理解出来る。チーズは円形、坂を転がりながらスピードに乗りそして途中の石に跳ね上がりそのままこうして彼の腰へと直撃しあろう事か腰の骨を砕き彼の生命を奪ってしまった。

 

正しく非日常。

日常では決してありえない出来事が彼を襲った。

普通に考えて円柱型のチーズ塊が住宅街の坂を転がってくるものか。

憐れ。ありえないと断じた非日常が彼を見事に殺してしまった。

そう、これこそ予定調和。

こんな運命を決めた者はきっとぎこちなく笑っているだろう。

 

 

 

 

と、いうわけでこうして彼は死んでそして転生する事となった。

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

「…………運命なんて、死んでしまえ」

 

 

そう、呟きながら俺はノートにペンを走らせていく。

どうして、こんな恨み言を呟いたのか……それは一重に昨晩見た夢が原因なのだろう。

思い出すのは夢の内容。その日の大学での授業が終わり、学期末の試験に向けて勉強する為に某バーガーショップで友人と話し合いそして、その帰り道に…………チーズの塊に恐らく腰の骨を砕かれて死んだ、手短にいえばチーズぶつかって死んだという恥ずかしすぎる死に方をした前世の最後の記憶。

ここから分かる通り、そう俺はチーズで死んだと思ったらまさかの転生をしていた。

言ったところで信じられんだろうが事実だ。とりあえず俺は諦めた。でも、運命は恨む。

 

 

「記憶もとい自我がある状態で赤ん坊からリスタートはもう、筆舌に尽くし難い」

 

果たしてこの感情を理解出来る人間は何人だろうか。

二次小説の主人公らの気持ちが俺には理解出来たよ……転生先の母親が美人とは限らないからな…………いや、アレだよ?俺の母親は普通だったよ?別に美人ではないけどそれでも文句を言うようなモノはなかった。

普通に優しかった。

 

 

「……父さんも父さんで前世の親父とは違う方向で尊敬出来るしな」

 

 

前世は武道家。今世は科学者。

どちらも聡い父親で文句は言えども馬鹿にはできない俺には出来すぎた父親だと思っている。……いや、親父、アンタはとりあえず母さんにはっ倒されろ。俺知ってたからな、アンタ幼馴染の未亡人と時折イチャついてるの。もはや、俺には関係ないから

……と、それでだ。

 

 

「俺が転生したこの世界。……自由に動けるようになって僅か数分で理解した」

 

 

それほどこの世界は分かりやすかった。

生まれてまもない頃は周囲の環境から前世の日本と大して変わらない……無論、年代は変わるが……何やらファンタジーな世界ではなかった為、最初よくあるなんかの作品を原作にした異世界転生ではない可能性を考えた。

だがそれでも考えるのは自由だ、と現代日本を舞台とした作品を色々と考えてみた。

例えば『とある』、『SAO』、『ハイスクールD×D』、『型月』、『仮面ライダー』色々と考え、自由に動けるようになった俺はふとテレビを付けてみたら……ニュースが映り、そこで出てきた単語に思わず真顔になってしまった。

 

『ノイズ』

 

シンフォギアの世界じゃねえか、おい。

少女が主役の作品で男の俺がどう参加するというのか。

OTONA枠で参加しろとでも?無理。

残念な事にシンフォギア男転生オリ主二次小説の様に何やら転生の間的な場所で特典なんか貰ってないわけで彼らのように共に戦うことは出来ない。

 

 

「ところがどっこい、あるんだな。その手段が」

 

 

そう、あるのだ。転生特典として貰ったわけでもないが何故かこの世界に無いはずのものが俺の手元に存在している。

それを手に入れたのは一年ほど前の事。とある事情で父さんの書斎の片付けをしていた際に見つけたものだ。どうしてそれが父さんの書斎から見つかったのか、当時は酷く悩み疑問に思った事だが今は納得している。だが、だがしかし……

 

 

「氷室泰山…………可笑しいな、アンタやられる側だろ」

 

 

そう呟きつつ、走らせていたペンをペンケースへとしまい込み俺は席を立つ。

時計にチラリと視線を向ければ案の定そろそろ予定の時間。

 

「仕事の時間だ」

 

 

机の引き出しからそれを取り出しコートで隠れた腰に吊るし、もう一つのモノを左の掌で弄ぶ。

この世界に転生してはや十六年。

色々な事があった……主に一年前の話だが。

その際に俺はとある人物と契約した。

単純にこの世界で起きる出来事の中心、その近くに行きたいのと父さんの残したものを完成させたいがために技術力を求めて。

 

 

────〜〜〜

 

「と、噂をすればなんとやらか」

 

 

鳴り響く黒電話の音……の着信音。一瞬、全裸変態人形を思い出したがそれを記憶の片隅の片隅へと放り投げ電話に出る。

 

 

「もしもし?」

 

『そろそろ観客入りが始まる。会場へさっさと迎え』

 

「ああ、分かってるとも」

 

『……仕事だ、と言った筈だ。なんで今日も今日とてお前は自室で勉強をしてるんだ』

 

 

電話の相手である契約者はまるで呆れたような声音でそんな事を言ってくるが、どうしてそんな事を言ってくるのだろうか。そんなの簡単な話だ。

 

 

「勉強すればするほど、目的に近づくんだから仕方が無いだろう?」

 

『……それもそうだが。まあ、いい……さっさと来い。予定に遅れたら容赦はしないぞ』

 

「ちゃんと、予定には間に合わせるさ。フィーネ」

 

 

そう言って電話を切りながら俺は左の掌の中にある一本のボトルを見て笑う。そして、そんな俺の笑みに応えるように蝙蝠のボトルは淡く光ってみせた。

 

 




この作品にはビルドドライバー及びエボルドライバーは出ません。
マッドローグやるのにエボルドライバー出さなきゃ、と思ったけどエボルト入れるには流石にアレだったから!


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漫画家と主夫高校生のD×D

心はとろけるチーズ、どうもカチカチチーズです。
UNDEAD書いてた途中でふと、書きたくなったんで書きました。
他にも色々考えたんですけど、アレですね。一話目ってなんか段々と難しくなってきますね。

短めですが、どうぞ。


 

 

 

 

 

 

 

男の話をしよう。

 

 

憐れな男の話を。

 

 

男は何処にでもいるただの凡人だった。

 

 

友人と笑い、遊び、喧嘩する。

 

 

本当に何処にでもいる男だった。

 

 

非日常とはまったくもって関係の無い人間だった。

 

 

しかし、ある日、男はとある、悲劇を迎えた

 

 

…………それ、は、

 

 

 

 

 

 

 

 

チーズを頭にぶつけた事で死んでしまった!」

 

 

「人の死因で笑ってんじゃねえよ!?」

 

 

今日も今日とて俺の主夫生活が始まる。

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

本名、宗像鴎。

高校二年生、年齢十七歳。精神年齢、三十七歳。

趣味、読書、コンビニデザートの食べ比べ。

好きな物、プリン。

嫌いな物、頑固な油汚れ。

そんな、きっと何処にでもいるに決まっている、いや何処にでもいるのは当たり前な俺は現在高校に通いながら主夫をやっている。

いったい俺が何を言ってるのかいまいちよくわからないやつもいるだろう……多分な。だから、まあ、簡単にだが説明してやる。

居候の為に俺が主夫をしてる、以上。ん?簡単すぎてよく分からない?…………仕方ないか、よしもう少し噛み砕いて説明しようか。転生者で一般高校生よりも精神年齢も経験もある俺はある日からウチに居候している家事が最低限且つ放っておくと食事も睡眠も風呂もやらない憐れな居候の為に高校に通いながら主夫をやっている、という訳だ。わかったな?

まあ、散々酷く言った訳だが……居候はきちんと仕事をして、ちゃんと家賃とか電気代とか食費とか払ってくれてるし、なんというか放っておいたら駄目だから別に俺が主夫してるのは文句がある訳じゃなくてだな?……べ、別にあいつの世話が好きなんじゃなくて、あいつ俺がいなかったらどうなるんだろって心配で……。

 

んん、忘れろ。

さて、先程何気に重要事項を言ったが……俺は転生者だ。

死因は伏せるが哀れにも前世で死んでしまった俺は別になんか神様とか天使とか何かとかには一切出会わずこうして普通に生まれた。当初はこの世界に何の特典というか力もなくて転生したことによってなんというか唖然としていたが……まあ、今ではいい思い出だ。

ん?ああ、そう言えばこの世界がどんな世界か言ってなかったな。

『ハイスクールD×D』一般人にはとんと縁のない世界だよ。

 

 

「おーい、その読者への説明風な独白はあとどれぐらいかかるー?」

 

「人の独白もとい心中を察すな」

 

 

んん、さて。この『ハイスクールD×D』を元にした世界に転生した俺は一体どんな不幸か哀れにも原作の舞台である駒王学園へと入学してしまった。

これも全て乾巧って奴の仕業なんだ。

 

 

「なんだって?それは本当かい?」

 

「ナチュラルに心読むのやめーや」

 

 

まあ、原作になんて関わる気なんざさらさらなく、こうして家で居候の世話もとい主夫をする方が俺としてはしょうに合ってる。

 

 

「それなりに収入がある美少女がいるから仕方ないね」

 

「憐れな子羊たる俺は悲しい事にエロ親父インストールしてる美少女漫画家に売約されてるわけだな」

 

「エロ親父だなんて、失礼しちゃうなぁしょーねん」

 

 

年齢差五歳が何言ってんだ、おい。

まったく……あ、ちなみにだが『ハイスクールD×D』の世界に転生しただけあって一応俺にも神器は宿っている。まあ、神滅具じゃないが流石に……。

さて、そろそろ話は終わりにしよう。居候が腹を空かせているからな

 

 

「箸用意……してんのかよ」

 

「モチのロン」

 

 

用意しておいた皿に煮込んだ角煮と大根をよそい、カウンターへと置けば即座にテーブルへ運ばれ俺は茶碗に米をよそってキッチンからリビングへと向かう。

何が楽しいのか……いや、夕飯がか。ニコニコと笑みを浮かべる彼女の対面の椅子に腰を下ろし彼女の茶碗を手渡す。

角煮と大根にレタスのサラダ、ニラと卵の味噌汁、そして普通のご飯。

どこにでもある家庭の食卓。相も変わらずこれを見ては僅かに笑みを浮かべそうになるがそれは置いといて、俺は目の前の彼女が夕食を食べる様を見る。

 

 

「うーん、やっぱり角煮と大根は最高だねぇ。ビール飲みたい」

 

「今書いてるのが終わったらな」

 

「はぁー頑張るかにゃー」

 

 

転生者という本来有り得ない存在である俺。決して表には出さない……いや、表に出さなかったから辛かったのだろう。真の意味で同類がおらず自分の素性を明かす事の出来ない人生はあまりにも俺に対してストレスだった。そもそも中身が周りと違う。

気にしなければいい事を気にしすぎて何度も吐いた。

そんなある日の事だ。中学校から帰宅途中に吐き気がして、近場の人気の無い公園で吐いた俺は公園の水道でうがいし帰ろうとしたあの時、アレに出会った。今思えばはぐれ悪魔だったんだろう、人気の無い公園の林を巣にしてたはぐれ悪魔に襲われた彼女に助けられた────という訳ではなくむしろ、首を突っ込んできた彼女を結果的に俺が助けたわけなんだが。

その日から俺たちの関係は続いている。

漫画家と世話役。

異物と異物。

似た者同士。

 

 

「あ、しょーねん。銃の細かい所書きたいから後で見せて」

 

「ん、任された」

 

 

俺はこの本条二亜との生活をどうしようもなく気に入っている。きっと何処にでもあるようなこの当たり前な家庭を日常を俺は尊いと思ってる。

奪おうとする奴は容赦なく殺してやろうと思う程度には。

 

 

「……ん?おい、俺の角煮」

 

「美味しかったよ?」

 

「…………ビール次の分書き終わるまで無しな」

 

「なん…だと…!?」

 

 

 

日常系主人公が一番安牌な筈。

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

『ロー〇ンのプリン買ってきてー』

 

 

さてさて、場面もとい時間も移り変わって今な訳だが。

深夜十二時現在、二亜が原稿と向き合い始めてかれこれ四時間少しが経って唐突に二亜がアイスを食べたいと言い始め冷凍庫に入っていた俺のパピコを与えようとした所、某お高いカップアイスが食べたいと主張しあろう事かそこにロー〇ンのプリンを追加するという暴挙を行った為に俺はこうして時間外労働をしている事になる。

まあ、金はあっち持ちで好きな物買っていいと言われたら行くしかないが……ロー〇ンはウチからそこそこ遠くてな……。

 

 

「……でもまあ、夜の散歩と考えれば丁度いい距離、か」

 

 

それにLチキよりもファ〇チキの方が好きだが、から〇げくんが美味しいからな。

…………暇だな。

さて、どうするか。ウチから遠いってことはそれだけ暇な時間が長いわけで、行きは二亜から電話来てたから問題なかったがで。

にしても深夜か、最近不審者が多いって学校で言ってたしな………………でも、俺みたいな高校生を狙う不審者なんているわけもないし……いや、いるかもしれないな。人間、だいたいが自分は狙われないと信じてるからな。

大量殺人や拉致被害、そういったモノをニュースとかで見ても人間ってのはだいたいというか殆どが対岸の火事として見て、自分とは関係ないモノとして見るからな。きちんと考えうる可能性として見ないとな。

 

 

「まあ、本当に来たら種類によるがタマを潰して終わらせるか」

 

 

やるにしても買ったものがぐちゃぐちゃにならない程度でな────

 

 

「宗像鴎だな?」

 

 

フラグゥゥゥウウ!!!

独白しながら帰路を歩いていたら、目の前には黒スーツに黒いシルクハットという満場一致で不審者扱いされるであろう初老の男が前方からいきなり現れた!

俺はどうする!?というかこいつ俺の名前知って────

 

 

「黙りか、まあいい。貴様はここで死ぬのだからな」

 

 

そんな事を言って不審者はその手に光の槍のようなモノを手にして……こいつ堕天使か。

…………あー、そうか、原作だとこの時期は原作開始時期。

んじゃ、神器所有者云々のアレか。

 

 

「あー、なんで?って聞くのは野暮なんだろうが教えてくれないか?せめて」

 

「ほう……無駄な足掻きはせず受け入れるのか。いいだろう、貴様の神器は我々にとって邪魔になるかもしれないだから、貴様を殺す」

 

 

はい、ビンゴ。

ひとまず俺はレジ袋を道に置いて、不審者に向き直り

 

 

「オーケー。でもまあ、ウチにはプリンとアイスを食べたいと煩い漫画家が待ってるわけでさ―――――だから殺す」

 

 

瞬間、俺はその手に黒い銃身の短機関銃を握り不審者へと銃口を向けた。

H&K社の作製した9mm口径の短機関銃、UMP9。本来ならば9×19mmパラべラム弾を使用する所だが今回は堕天使が相手という事でガワは同じだが中身をとっ変えた銃弾を装填してある。

 

 

「ッ!神器―――ガァッ!!??」

 

「今回選んだのは汞でさァ。ちと無理矢理作ったもんで、着弾すると割れて中身が出てきてな―――――生物相手だと体内に水銀が溜まるって寸法だ」

 

 

堕天使も生物、汞が効くのは実験済みでね。

そんな言葉を付け足しながら、俺はUMP9の引き金を引き続ける。本来ならそんな早くに毒性は出ないかもしれんが色々弄ってるからなぁ。効果が出るのも早くて助かる。

 

 

「ァァ、ああ、……」

 

「いやぁ、堕天使は処理が楽で助かる」

 

 

UMP9で蜂の巣且つ汞の毒性に殺られた不審者はその場で仰向けに倒れ、その口からいかん色こ泡を吹き血塗れになったのを見下ろしUMP9を腰に吊り下げ道脇に置いておいたレジ袋を持ち上げる。

 

 

「次からはどんな神器持ってるか調べてから来ような?……まあ、次回なんて無いけどな」

 

 

そう、最後に呟いて血溜まりも遺体も消えて羽根だけどなった不審者の横を通り過ぎた。

 

 

 

 

この後、無事家に着いたわけだが本っ当に残念な事だが俺のパピコを食べていた二亜を目撃した為買ってきたロー〇ンのプリンとハー〇ンダッツは仕方がなく俺の胃袋へと収まる事となった。

憐れ二亜。

 

 

 

 

 

 




主人公説明
・宗像鴎
・男
見た目:灰髪ポニテな鶴喰鴎
神器:武器製造(ウェポン・ワークス)
……魔剣創造や聖剣創造の下位互換。魔剣や聖剣といったものは造れないがその代わり武器であるなら銃弾から魚雷まで製造出来る神器。
……あくまで武器である為、戦艦やヘリなどの武装付きのモノは造れない。
主夫

・本条二亜
宗像家の居候。言わずもがなデート・ア・ライブの本条二亜。
この世界には本来いないはずの異物。
エロ親父インストール。
宗像鴎とは一緒の墓に入る予定(確定事項)


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漫画家と主夫高校生のD×D:Ⅱ

筆が乗った以上。
二亜は可愛い。

あ、そういえばドールズフロントライン、ようやくUMP45がうちに来てくれましたやったね。



 

 

 

 

主夫系男子高校生の朝は早い。

郵便受けに朝の新聞が投函される頃に起床、なにゆえか下着姿で俺の隣で寝ている自称美少女漫画家の顔にペンギンクッションを被せ、寝間着からそうそうにワイシャツと学生ズボンに着替えてから自室を後にする。

部屋を出れば真っ先に目指すのは洗面所。

顔を洗い、寝癖を軽く整えれば洗面所を後にし玄関を出て、外の郵便受けへと向かう。やはり、朝早くだからかほんの少し冷えた空気に頬を擦りつつ郵便受けを開いて新聞等を取り出してから家の中へと戻る。

 

リビングのテーブルに新聞等を置いてそのままキッチンへ。

軽く冷蔵庫を覗き今日の朝食から夕食までをどうするか考えていく。

今日の朝食は北海道の大叔父が送ってくれたすじこがあるから、すじこご飯に付け合せとして玉子焼きと昨日のニラと卵の味噌汁にしよう。

ふと、ビール棚を見れば違和感がある。あながち有り得ない話ではない為、すぐさま俺はビール棚のビール缶の本数を確認するとやはりというか記憶にある本数と数が合わない。

そうすればどうして二亜が俺のベッドにいたのか自ずと答えが導けてしまう。いや、二亜が俺のベッドに侵入もとい寝ているのはそこそこ有り得る話だが、流石に下着姿なのはそういう事なのだろう。

ひとまず二亜の朝食からすじこと玉子焼きを没収し、焼き海苔とご飯にニラと卵の味噌汁そして朝っぱらから肉も無いのにサンチュを食わせることを決定しフライパンに油を引く。

流石に弁当へすじこを入れるという暴挙は出来ない。

二亜にサンチュを食わせるついでに今日の俺の弁当は焼肉弁当にしよう。一昨日の夜に下校中、値下げしていた為に買ったプルコギ風の味付けをされた肉をフライパンへ投入、それと同時作業にヤカンに水を注ぎ込み麦茶のパックを放り込み火にかける。

適度に火が通ってきた肉を見て、弱火に調節し弁当箱を用意する。

あらかじめ用意しておいたサンチュをまず先に敷き詰め、その上から肉を乗っけていく。

別の容器には昨晩の角煮の煮汁で煮詰めた大根を入れ、白米も用意する。

 

何か男子高校生の弁当としては物足りない気がするがそれは登校中に学校近くのコンビニでデザートを買えばいいのでこれで良しとしよう。

さて、時計を見てみれば時刻はまだまだ六時前。

俺はヤカンにかけていた火を少し弱め、グラスに砂糖を大さじ一掬い放り冷蔵庫から出したコーヒーのボトルを軽く降ってからグラスに注ぎ込み次に牛乳を注ぐ。

おおよそ、コーヒー4の牛乳6の割合なコーヒー牛乳を作って軽くスプーンで混ぜ、何口か飲み喉を潤してから、茶の間にかけている洗濯物を次々と洗濯バサミから外していき一つ一つ種類ごとに分けて畳んでいく。

途中、当たり前な事だが二亜の下着類も出てくるがそれも構わず畳んでいく。そもそも今更下着の一つ二つで動揺するほど初心でもない。なんなら、この前二亜が買ったという馬鹿みたいに透け透けな下着ですら、それを着て見せた二亜ごと鼻で笑ってやった。

童貞を殺すセーター?DIOが似たようなの着てたな。透け透けな下着?素っ裸の方がマシなのでは?とまあ、そんな風にだが。

 

 

 

「あおはよぉーしょーねん……あ」

 

「ぁ?」

 

 

リビングの扉が開いた音がすればその数瞬後に声が響く。

視線を動かさば案の定、寝惚け眼な二亜がいるわけだが……訂正寝惚け眼じゃあないまるで面白いものを見つけたかのような喜悦の浮かんだ面倒な眼をしている。

 

 

「おや?おや?どうしたの?しょーねん、私の下着なんか手に持って!」

 

「黙れエロ親父」

 

 

とてつもなく面倒くさいもといウザったい表情で近づいてきた二亜の頬を先程から地味に食べていたサンチュのまだ口をつけていないモノで叩く。

 

 

「チシャッ!?」

 

「そういや、お前俺が寝た後ビール飲んだろ」

 

 

だから、お前秘蔵の大吟醸はもれなく神社の不知火爺行きな。

そんな俺の宣告に二亜は文句を言おうと口を開けたのでそこにサンチュを突っ込み、沸いて音が鳴っているヤカンのもとへ向かう。

 

 

まったく、朝から大変だ。

これだから主夫系男子高校生の朝は早い。

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

主夫系男子高校生の学校生活?普通に前世と何も変わりませんが?

いや、元が女子高だった為か女子生徒の人数が多いな、その分前世の普通の共学高とはまた違った感覚はある。

まず、男の同級生が少ない事だろう。俺のクラス内での比率としては女子8

男子2というモノ、まあその辺は適当にやっているから問題は無い。別にコミュ症という訳でもないから普通に女子生徒とは接してるというかぶっちゃけ対応が歳下へのソレなんだよなぁ、と自覚している。

成績は……まあ、英語が些か悲しいが世界史と国語は基本的に上位を走っている。入学した頃は卒業後は大学へ進学せずに専業主夫として二亜の世話をするつもりだったんだが、その二亜本人に大学へ進学しろと言ってきた為に仕方がなく、誠に不本意ではあるが大学進学をする事にその為に成績はそれなりの所を維持している。英語を除いてだが。

さて、そういった些事は置いといて、だ。

『ハイスクールD×D』と言ったら……やはり気になるは主人公だろう。

 

兵藤一誠。二天龍もといウェールズの赤き竜を封じた神器の持ち主にしてこの世界の主人公、どうして捕まらないのかいやそれ以前に何故に退学になっていないのか分からないほどの変態・性犯罪者。教室内で女子生徒がいるにも関わらずそういった本やDVDを取り出し同じ阿呆共と猥談を始める男。

ふと思ったが高校二年生は十七歳だからそういった本やDVDは購入出来ないのでは?ただの猥談ならば思春期の男子高校生として割り切れるが……いや、周囲の女子生徒の事を一切考えずに猥談をするなど普通の男子高校生でも流石にしないか。

あと覗きは普通に退学または停学案件な気がするのだが。

 

 

「────!」

 

「────!!」

 

「────!」

 

 

さて、まあ、件の変態三人衆だが。悲しい事に俺とアイツらは同じクラスというまあ、二次創作ありがちな関係にあり、朝から猥談をかましている三人衆に五月蝿いなぁと感じているわけだ。

ここでオリ主ならだいたい……まあ、兵藤一誠とそこそこの関係とかアンチ系オリ主ならば朝っぱらから猥談かましてる奴らに文句の一つや二つ、正論または奴らが持ち込んでいるそういう本やDVDを破壊する等の強行手段をするのだろうが、残念ながら日常系主人公な俺はあんな変態三人衆のもとに首を突っ込むなんてノーサンキュー。

というわけでアレらは無視して俺は自分の席で大人しく主婦のお役立ちグッズ本を読み耽る。……うーん、買ってもいいんだが似たようなのが家にあるからなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

授業風景?アイツらは良い奴だったよ。英語以外はな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は夕方、既に帰りのホームルームは終わり部活動に勤しむ者、図書館で勉強する者、そのまま帰宅する者、頭が痛くなるような事をする為に馬鹿をしに行く者。各々が各々の目的で教室を後にしていく。

無論、俺は帰宅する者だ。

今日の夕食はどうしようか。朝、冷蔵庫を見たは良いがいまいち決めてないんだよな。

 

 

「二亜に聞くか」

 

 

ポケットからスマホを取り出し、そのまま二亜へと夕食の注文を聞く。

と、すぐに返信が届き確認する。

 

 

『女体盛り』

 

「…………」

 

 

女体盛り……女体盛りねぇ。そうだな、別にそれでもいいか……確かまだプルコギ風の味付け肉が残っているから、昼食と被るが仕方がないプルコギ風の焼肉丼を女体盛りでやってやるか。

その旨を二亜へと送ればすぐさま、先程よりも早くに返信が来た。

 

 

『すいませんでした』

 

「まあ、メインはそれでいいとしておかずは何にするかだな。帰りに惣菜でも買ってくか」

 

 

ポテトサラダ……いや、生ハムが食べたい。昨晩のロー〇ンでの二亜の金の余りでそこそこ高い生ハムを買ってサラダの上に乗っけるか。

あー、あとついでに明日の弁当のおかず買わないといけないな。

……唐揚げにするか。てことは鶏肉買わんと……安かったら嬉しいな。

 

 

 

 

この次の日、兵藤一誠に彼女が出来たという常日頃の彼を知っているものならば有り得ないと断ずるであろう出来事を耳にし、俺は一人細く笑みつつも面倒くさくなる事にため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




武器製造。武器ならいける。
戦車とか軍艦とかヘリとか戦闘機とか乗り物系兵器とか神の杖とか皇帝爆弾とかは無理だけれども軍用バイクとかはまだ武器の範疇。
ところで何処からが兵器なのか、それが一番の問題だけれどもそこはやっぱり宗像鴎の認識による。


さて、アンドロイドは兵器なのか武器なのか


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鴉は中天を舞う:IS



 供養致しまする



 

 

 

 

 それは宙空を翔ける。

 自由に空を飛ぶ鳥のように、その背から黒翼を広げ悠々とそれは宙空を飛ぶ。

 眼下を睥睨するそれはまるで嘲笑うかのようにその鋭利な爪を擦り鳴らす。

 

 眼下にあるのは橙の華。されど華と笑うな、それは充分に鴉を殺す毒を孕んだ華であるのだから。

 

 ギチギチと爪が掻き鳴り、異形にも似たアイラインより覗かせる非生物的な瞳が眼下の華をどのように散らすか思案する。

 何処までも冷徹に冷静に。

 鴉は嗤う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 視線が突き刺さる。いや、実際に突き刺さっている訳では無いのだがただ、そう表現しても問題ない程の視線が俺へと集中してしまっているのは事実だろう。

 心もとい肝の弱い小心者がこの場にいれば即座にこの視線で緊張し倒れかねないが図太さだけはあるのを自覚しているだけありこの程度の視線など大したものでは無い。

 さて、何故ゆえに俺がこうして視線という針のむしろとなっているのか説明しよう。いや、説明しなくても分かる人間には分かる気がするがそれでも一応の説明は必要だろう。

 

 

 俺は、崇宮渡は転生者だ。

 いや、もしかすれば憑依者かもしれない。だが、少なくとも俺は前世で確かに死んで、そしてこの今世で黒羽渡として生を受けた。ならば、それはどう言い繕っても転生者である他ないだろう。

 ちなみに死因だがなろう系や笛吹でよくあるようなトラックから他人を守ったとか神のミスとやらでもなく、かといってSAN値を削ってくるような邪神の気まぐれという訳もなく、一人バレンタインにチーズフォンデュのチェダーチーズで喉を火傷しそして、チェダーチーズが喉や気道を塞いで死んだに過ぎない。と言うよりもそれ以外の理由で死んだとは思えない。

 そこ、笑うな。いいか?世の中どんなもんでも下手すれば凶器に変わるんだ。マフィアのヒットマンとか知ってると納得出来るだろ?だから、人間はチーズでも死ねる。

 それを女王メイヴが物語っている。

 

 さて、話が脱線していた。

 チェダーチーズによりご臨終した俺ははれて別世界へと転生した────五、六歳まで殆ど前世と変わらない世界と思っていたがな。

 どうして?それはだな、十年前に起きた事件ととある発明が原因だ。

 白騎士事件。とある天災が世界中のミサイルをハックしぶっぱなしてそれを撃ち落とさせた事件。

 宇宙空間での活動を目的として開発されたマルチフォーム・スーツを注目させようとしてその事件を引き起こした結果、哀れな事に飛行パワード・スーツつまるところ軍事用に転用されてしまった作成者の理念を無視された発明品。

 

 この二つまで言えば分かるだろ?

 そう、この世界は『IS───インフィニット・ストラトス』の世界だ。

 あの基本的に女性しか動かす事の出来ないISが出てくるライトノベルが元の世界だ。

 あの女尊男卑の色々と面倒臭い馬鹿がいる世界だ。そして、ナノマシンやら試験管ベイビーなんて存在する世界だ。転生したいって奴はいるだろうが少なくとも俺は転生したくない世界の一つなわけだが………既に転生して十数年。俺は高校一年生、後片手の指で足りる年数で成人だ。

 今更どうこう文句も言ってられない。

 

 

 さて、ここまで言って俺の状況が理解できない人間なんぞそうそういないだろう。

 俺、崇宮渡はIS学園へと入学してしまった。

 

 思い出すのはここに入学するきっかけとなったこと。原作主人公もとい唐変木ことワンサマーがISを動かした事による弊害を被ったわけだ。二度目の高校受験を終え、合格発表を待つ身の上となった頃に近場の施設でIS適合の有無を判別する検査を受けさせられ、そして物の見事に適合してしまった。

 そうして、あれよあれよと気がつけば祖父に荷物を詰められこうしてIS学園へと来てしまった…………なんともいつも通り豪快でついため息とも言えぬ何かをついてしまう。

 

 さて、説明終わり。

 

 

 俺が在籍するクラスは一年三組。織斑一夏や篠ノ之箒にセシリア・オルコットが所属する一年一組や凰鈴音の一年二組、更識簪の一年四組ではなく一年三組。やったね!原作ヒロイン誰もいないよ!

 ヴァカめ!そんな都合がいい事あるわけなかろう!

 

 状況が状況な為にあまり首を動かせない。そして、俺の座る席は一番前の席だ。『た』から始まるのが前の席って……少しあれだがその辺りは意外とあったするからとやかくは言わないが。

 まあ、それはともかく。かれこれ既に自己紹介と言えるイベントは終わりを告げひとまずこのクラスに所属する人間の名前を全部とはいかないまでもそれなりに覚えた筈だ。そして、その中で俺の心中を揺さぶる名前が二つ。というより二人。

 

 ヴィシュヌ・イサ・ギャラクシー。

 ロランツィーネ・ローランディフィルネィ。

 

 片やムエタイ……ムエタイだったっけ?ともかく母親がその辺の世界王者でそれの英才教育受けたタイキック少女。

 片や宝塚地味たレズビアンな少女。別に俺自体はレズビアンに対して特に何も言わない。というか過度に男に対して愚痴愚痴罵詈雑言さえしなければ基本的にその辺は個人の自由なのだから。

 兎にも角にもそんな二人の少女の名を聞いて、もう俺の胃は疲れている。

 ああ、アーキタイプもあるのか……なんだったかアーキタイプに出てきた敵……アレは出ないでくれるととても助かるんだが。アレ、やろうと思ったらいつの間にかにサービス終了してたから詳しく知らんのよな。

 

 と、どうやら軽い担任からの連絡も終わったようだ。少し短いが休み時間でひとまず原作主人公の顔でも見に行くか────あ、無理ですね。

 

 

「ねえ、どうする?」

 

「声かける?」

 

「無愛想っぽそうだけどもそこがいい!」

 

 

 背後より何となく聞こえてくる女子の声やらに俺はここで一組に顔を出すのは危険というか無理と判断して、ひとまず今日のあたりは予習に勤しむとしよう。ああ、当たり前な話だが。流石に織斑一夏のように参考書を電話帳と間違えて捨ててなどいない……というかそもそも電話帳と間違えたからといって捨てるか?

まあ、それは主人公補正によるマイナスという事で……………………正直に言おう、こんな風に平気そうな地の文だが、わりとガチめに俺の胃はツラい。キリキリしてる。死にそう。

 多分下手したら吐血するのでは?

 

 

「すまない、少しいいかな?」

 

 

 ────。

 声をかけられた。先程の自己紹介で聞いた声であり、印象的だったからよく覚えている声だ。

 声の持ち主に応えるために身体ごとそちらを向けばやはりそこにいるのは予想通りの人物。

 

 

「ああ……なんだろうか」

 

「いや、なに。二人目でこのクラス唯一の男子に少し挨拶を、と思ってね」

 

 

 ややカールしている銀髪に何処と無く男装が似合いそうな麗人。そんな印象を抱かせる彼女の名は────

 

 

「ロランツィーネ・ローランディフィルネィ……だったか」

 

「ああ、ロランと呼んでくれ」

 

「崇宮でも渡でも、好きに呼んでくれ……」

 

 

 曰く九十九人の恋人がいるというオランダの国家代表候補生。

 原作ではおらず、なんかいつの間にかに始まっていつの間にかに終わっていたアーキタイプ・ブレイカーというアプリに出てきたヒロインの一人。確か、篠ノ之箒を百人目の恋人にしようとしてたらしいが…………まあ、その程度しか知らない。

 さて、そんな彼女がいったい俺なんぞにどんなようなのだろうか。……いや、もうその用済んでるのか。あくまで挨拶しに来ただけなんだからな.......いや、流石に挨拶だけなわけはないのか?

 その辺について軽く疑問を抱いているとロランは微笑みながらこちらに手を伸ばしてきた。

 

 

「では、ワタルと呼ばせてもらうよ。これから一年間よろしく頼むよ」

 

「……そうだな。こちらこそよろしく頼む」

 

 

 どうやら杞憂だったようで、俺は彼女の手を取りそのまま握手を交わした。まあ、仲良くは出来そうかな?

 

 

 

 

「はい、それじゃあクラス代表を決めようか」

 

 

 原作主人公の顔を見ることなく、休み時間は終わり次の時間が始まって早々に担任───小野川千聖先生が黒板にクラス代表と書いてから言い放った。その言葉に俺は軽く疑問を抱いた。

 クラス代表決めるのって確か、一回授業挟んでからじゃなかったっけ?という疑問だが……すぐにそれはあくまで織斑一夏のクラス、つまりは一年一組の話であった事を思い出した。

 そうだな、クラスが違ければ流れも多少は違うものか。俺はそれに納得しつつ今回の件に関してはスルーすることを決める。

 わざわざクラス代表になる理由がないのだから。

 

 

「はい、先生。クラス代表ってなると何があるんですか?」

 

「そうだね、まあクラス委員長みたいなものかな?でも、クラス委員長とは違うのはクラス代表戦に参加するってことだね」

 

 

 代表戦で優勝すればその恩恵をクラス全体が受けれるわけだが……原作が原作だからなぁ。原作知識だけじゃあその恩恵は詳しく分からない。

 少しその辺りが気になるが……まあ、多分、代表戦なくなって関係なくなるんだろうなぁ。

 

 

「まあ、代表戦があるから専用機持ちが基本的に代表になるんだけども、別に専用機持ちじゃなくても代表になって大丈夫だから。代表になれば、アリーナと訓練機使用での優先権が貰えるから練習に関しても大丈夫だよ」

 

 

 ま、それぐらいなきゃどうしようもないもんな。専用機と訓練機っていう差は言わずもがな、稼働時間もあるからな。優先権でも貰えなきゃ瞬殺で終わる。

 まあ、俺にはまったくもって関係ない話なんだけどな!

 

 

「へぇ、じゃあ私やろうかなぁ」

 

「専用機に勝てるの?」

 

「うぐぅ……」

 

「流石に稼働時間や性能差が大きすぎると思うのですけど?」

 

「それね」

 

「じゃあ専用機持ちの人に頼む?」

 

「それしかない」

 

 

 どうやら、専用機持ちに任せるようだ。勝ったな。

 

 

「専用機持ちはこのクラスに三人いるから、とりあえず聴いてみないと」

 

 

 三人?ロランとヴィシュヌ・ギャラクシー以外に専用機持ちがいるのか……知らなかった、イレギュラーか?

 

 

「まず、オランダ代表候補生のローランディフィルネィさん。タイの代表候補生のギャラクシーさん。そして、崇宮くんだね」

 

 

 …………?………………!?

 

 

「……先生、いまなんて?」

 

「あ、崇宮くんに実は専用機が用意されててね」

 

「…………あ、はい」

 

 

 うせやん。

 嘘だと言ってクレメンス。みんなで俺を騙そうとしてる……!

 うわぁぁぁぁあああ!!!

 

 

「えっと、私としてはあまり目立ちたくないんですが……」

 

「私もあまり荒事は好まないんだが……」

 

「…………専用機と言っても明らかに経験が断トツでないんですが」

 

 

 主人公と違って補正ないんで、普通に無理です。ぶっちゃけ甲龍に対してスモグレでも焚いて、白式には引き撃ちするぐらいしか勝ち目なさそうなんですけども。特に後者は絶対に卑怯とか言ってくる人いるの知ってるよ!

 いや、それよりも。それよりもだ、専用機?Why?

 一体どこの物好きが俺に専用機なんざ提供してきたって言うんだ?まあ、その辺のことは早くて今日中に知れるんだろうが……。

 

 

「まさか、全員がやりたくないとは思わなかった……こう、専用機持ちって我の強いイメージが…………いや、忘れて今の」

 

「「「えぇ〜どうしようかなぁ〜」」」

 

「今日担任になったばかりの先生強請る気満々なのかなぁ!?」

 

 

 憐れ。さて、どうなるのだろうか、もしかしてもしかすると総当たり戦とかやらされるのではなかろうか。

 それは断固拒否するのだが、さて。

 

 

「仕方ない。仕方ないなぁ.......じゃあ専用機持ちで総当りして勝った人の意見を聴こうか」

 

 

 フラグだったか.......!!

 

 

「.......それはそれで目立ちそうなのですが」

 

「自分の意見を押し通すには時として強硬手段を取らざるを得ないか」

 

「つらい.......」

 

 

 間違いなく俺の二乙で終わるだろう未来から逃れたい。助けて。

 そもそも初心者が訓練機もとい量産機じゃない専用機なんかで経験者に勝てるわけがないんだよ、わかるか?専用機なんていう使えば使っているほど慣れ親しみ力を引き出せるけど性能がピーキーなやつと違って量産機は使い易いんだよ。凡俗が使って安定した結果が出せるから量産機なんだ。

 それを考えたら初心者な俺が使うとしたらどっち?当たり前に量産機の方だろ普通。にも、関わらず専用機?死にますね、間違いない。

 初めての専用機なんぞで経験者に勝てるのはそれこそ物語の中だけなんですよ。え?織斑一夏?いや、アレは養殖ものだから、そもそも性能違うでしょ………………アレ?もしかして、俺は天然の男性IS適合者?やだぁ!養殖ものよりも研究されるじゃないですかァ!

 まあ、そんな事分かるのは多分、篠ノ之束だけだろうけど……いや、一番知られてちゃ駄目な人やんけ!?

 

 

「はい、それじゃあ総当たり戦ってことで。それじゃあ他の係等々決めてこうか」

 

 

 はよ。このIS世界を焼くようなイレギュラーはよ。

 この後、普通に係が決まっていった。なお、俺は特に何も係にはならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 さあ、放課後ですよ放課後。

 後は帰るだけ!……まあ、寮生活なんですけどね。はぁ、辛いわ。

 どこぞのワンサマー同様、先生から鍵を受け取って俺は一人、寮に向かう。

 流石はIS学園と言うべきか、女子しかいない。まあ、男子なんて本当に俺とワンサマーしかいないからな、仕方ない。いや、ほんと……視線が痛い、帰りたい、むしろ別の世界に転生したかった。

 例えばオーバーロードとか。あの世界に転生してたらやりたいことがいっぱいあった……ダークソウルしたり、ブラッドボーンしたり、なんならライダー的なオーバーロードになってもよかった。

 例えばポケモン……ガラルのジグザグマを愛でたかった…ダンゴロ、モノズ、メラルバ、タツベイ、チルット、タマザラシ、ユキワラシ、ヨマワル……よよよよ…。

 例えば……いや、言うまい。ようよう考えたら、ポケモンが一番無難だったわ。とりあえず、主人公らよりも早くに旅初めてルチアと旅したいんだけども。俺、悪タイプメインで使うから。なんならメスのチルタリス育てるから、おじさん倒して恋人関係認めさせるから。

 まあ、そんなもしもは置いておいて、俺は一人、寮を進んでいく。

 途中でワンサマーの背中を見かけた際はこのまま逃げようとも考えたがしかし、遠回りする事とかを考えたら嫌な為、大人しくワンサマーを通り過ぎる事にした。

 ワイヤレスのイヤホンを両耳に着けるものの音楽はかけずにそのまま早歩き気味に歩き、ワンサマーの横を通り過ぎる。

 何やら、ワンサマーが驚いたか、声をかけてきたのかは知らないが何やら言ってるが残念ながら耳にイヤホンを着けてるから普通気づくはずがないんだよねぇ。音楽流れてないけども。

 既に担任に部屋は男子同士では無いことを謝罪されている為、ワンサマーとは同室じゃないし、記憶通りなら俺の部屋番号とワンサマーの部屋番号はそれなりに離れてる。だから、無視しても問題ないな。

 

 

 

 そうして、階段をいくつか登って部屋番号通りの部屋の前に立ち、俺は目を細める。

 まあ、男女部屋なわけだがこれが一番不安なんだよなぁ。

 相手の女子がいったい誰なのか、流石に原作ヒロイン勢というのは無いだろう。ともなれば、一般女子生徒という事になり、下手を打てばその女子生徒が女尊男卑に塗れた女子生徒の可能性が大いにあるという事だ。

 辛い。

 もしや、奴隷扱いされるのでは?抵抗?そんなことしてみろ、女子生徒が俺に襲われたとかのたまって大変なことになる未来しか見えないからな?

 とりあえず、女尊男卑に塗れてない事を願って俺は扉をノックする。

 しばし遅れて、入室の許可が聞こえて来る。

 

 

「……ふぅ、お邪魔します」

 

 

 一度深呼吸をしてから、俺は扉を開けて────

 

 

「おかえりなさい。ご飯にする?お風呂にする?それとも……わ・た・し?」

 

 

「…………入水してくるか」

 

 

 とりあえず転生ガチャをしよう。

 

 

 





 え?戦闘?何それ美味しいの?
 流石に書けん·····そもそも、この話は書きかけの奴を書くかぁと思って書いたもので·····ええ、戦闘は今の頭の中にないのです。

ちなみに、この話の主人公の見た目はFateのデイビットを思い浮かべてください。見た目と中身が乖離する男。


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