CRISIS (A i)
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序章
徽章


初めまして。
一話です。
よろしくお願いします!


今日も雨が降っている。

これで三日連続の雨。

あたりは昼間でも薄暗く、空気もどこかひんやりとしている。

薄着では肌寒いくらいだ。

だが、今の俺にはこれぐらいの方が心地良い。

なぜなら俺はもう・・・かれこれ五分は全力で走り続けているのだから。

 

この町はスラムが形成されているため、複雑に入り組んでいる。

もちろん、そんな場所の道は舗装などされているわけもなく、気を抜けばぬかるみに足を取られ転倒してしまうだろう。

俺は今まで何人もそんな奴を見てきた。

こけたら最後、ゲームオーバーだ。

 

まあ、俺はそんなドジ踏まないがな。

心の中でそう息巻いていると、目的の場所が左手奥に見えてきた。

安心感がじわりと心の中に生まれるが俺は絶対最後の最後まで気を抜かない。

 

泥を蹴散らしながら全速力で駆けていると三叉路へとさしかかる。

最短距離はあえていかず一度そとに大きく膨らみ左へと折れる。

こうしないと足が滑りこける羽目になるのだ。

曲がり角を無事に曲がると、また前方にT字路が見えるのだが、そこには向かわない。

右足で踏ん張りそれを軸にしながら、俺は突如体を反転させる。

すると、とてつもない慣性力が掛かったが、その勢いをうまく利用し、物陰へと滑り込んだ。

 

「はあ・・・はあはあ・・・はあ。」

 

さすがの俺でも一キロにも及ぶ、広場とここまでの道のりを全力ダッシュすれば息は上がる。

だが、体力には誰にも負けない自信があり、事実、今も二三度大きく深呼吸するとすぐに落ち着いた。

 

呼吸を整えた俺はソッと外の様子をうかがった。

・・・・・・がどうやら追っ手の様子はないようでなんの物音もせず、ただ雨音が響くのみだった。

 

「ふぅーなんとかまいたか・・・・・。」

 

俺は額に浮かぶ雨だか汗だかをぬぐい大きく息をついた。

そのとき・・・。

 

「お疲れ!バルト!」

 

「うぉっ!!びっくりした・・・。」

 

後ろから突然声が聞こえ俺は露骨に驚いた様子を見せてしまう。

 

「えへへ~。おどろいた?」

 

振り返ると、そこには無邪気に笑う金髪の少女がいた。

 

「驚かすなよ・・・。死んだかと思ったぞ・・・。」

 

「あはは。」

 

この笑顔が大変可愛い彼女は俺の仲間であり親友の一人、ソフィア。

仲間達からはソフィーと呼ばれて、親しまれている。

この笑顔と優しい心がむさ苦しい男達の心をわしづかみにしており、とてつもない人気者だ。

服装こそ、麻でできた簡素で素朴なモノであるがそのまぶしいほどの笑顔と、整った顔立ちはまるでどこかの国のお姫様のように美しい。

 

それだけでも十分彼女は俺たちにとって大切な存在なのであるが実はそれだけではない。

 

「また俺の後を付けてきてたのか?ソフィー。」

 

「うん、バルト一人だけじゃ危なっかしくって心配だからね?ついて行っちゃった。」

 

「ついて行っちゃったって・・・そんなことできんのお前ぐらいだぞ。俺に付いてこれるのなんて。」

 

「えへへ~そんなに褒められると照れるなあ・・・。」

 

「褒めてねーよ・・・。」

 

ほっぺに手を当ててしなをつくるソフィーに俺は呆れながらに突っ込みを入れた。

 

俺は体力に自信があると先ほど言ったが、こいつの前では少しその言葉を撤回したくなるときがある。

 

俺の足の速さは仲間のみならず町の住人ならば誰でも知っている事なのだが、そんな俺の足よりも数段こいつの方が速く、今も気づかぬうちに後ろから付いてきて、しかもこの余裕なのだ。

おそらく、戦いになれば俺の方が強いとは思うのだが、こと足の速さや俊敏性に欠けてはこいつに勝てる気はしない。

いや、もしかしたらこいつの本当の力はこんなもんじゃないのかも、と思いすらする。

ほんとにこいつは底知れない奴なのだ。

 

よって、以上から分かるようにソフィーは美しさと強さの両面に於いて俺たちにはなくてはならない存在なのである。

 

――まあ、こんなホクホク顔の奴がそうだとはにわかに信じがたいんだけど・・・。

 

「どうしたの?」

 

「ん?なんでもない。」

 

不思議そうな様子でこちらをのぞき込んできた彼女になんでもない、と告げると彼女は立ち上がりながら座り込んでいる俺に手を伸ばす。

 

「そ?なら、行こっか。私たちのアジトに。」

 

「おう、そうだな。行くか。」

 

伸ばされた彼女の白い手を握りよっこいせ、と体を起こし、地下へと続く重い金属製の扉を開く。

ここが我らのアジトへと続く入り口になっていた。

だから俺はここへと逃げ込んできたのだ。

 

「あ、そういえば、取るモノは取ったこれたの?」

 

その入り口から続く地下道を歩きながらソフィーが聞いてきたので、俺はニヤリと笑みを浮かべて得意げに言った。

 

「もちろんだ。俺を誰だと思ってんだよ?」

 

「ただの悪ガキ?」

 

「ちげーよ!それいったらお前も悪ガキだろ?」

 

「私は違うよ?私は可憐で清楚なお嬢様だから。バルトとおんなじになんかしないでよね?」

 

フフン、といかにも得意げに言い放つ彼女にカチンときた俺は彼女が一番気にしているアレを言うことに決める。

 

「・・・・・・貧乳。」

 

「な・・・なんていま・・・。」

 

「だから、貧乳って言ったんだよ!このぺちゃぱい貧乳色けなし最強女が!」

 

「貧乳のことは言わない約束でしょ!?それに最強ってあんまりののしれてないし!」

 

「最強は余計だったな・・・ごめん。」

 

「そっちをあやまるなら貧乳のこと謝りなさいよ!?それに私はまだ十二歳だからこれからだし!」

 

「いーや、女の成長期は十二歳までですー!もう一生そのままですー!」

 

「そんなことないわよ!今に見てなさい!ボインボインのバインバインになってやるんだから!」

 

「それは楽しみだ。せいぜいがんばるが良い!無駄だとは思うがな!」

 

フン!とお互いに顔を背けて腕組みしていると、「また君たちはけんかしているのかい?仲良いなあ。」という声が聞こえた。

耳慣れたその声の主の方を向き、呆れたような口調で俺は言った。

 

「おい、ジーク。冗談はそこまでにしろよ。どこをどう見たらこれが仲良しなんだ。」

「そうよ、ジーク。こんな山猿と仲良しなんてやめてよね。」

俺の抗議に乗る形でソフィーも遺憾の意を示す。

しかし、俺とソフィーが猛然と反論しているのもお構いなしに、ジークは楽しそうな笑顔を浮かべて言う。

 

「どこからどう見ても仲良しだよ?」

 

「「仲良しじゃない!」」

 

「ほら仲良し。」

 

俺とソフィーの声がそろってしまい、ジークはなおさら満足そうに笑う。

もうこいつの中では俺と彼女が仲良しだという事実は覆せそうにもない。

はあ、と大きくため息をつくと横で同じようにため息をつくソフィーの姿があり、互いに笑みがこぼれてしまう。

なんだかんだでソフィーも本気で怒っているわけではないのである。

 

ジークのおかげもあって俺たちのしょうもない喧嘩は収束し、先ほどはなしかけていた話題に戻っていく。

 

ジークがにこやかに俺に向かって言った。

 

「バルト、目当てのモノは手に入ったのかい?」

 

「ああ、なんとかな。途中追っ手をまくのに手間取ったがなんとか手に入れる事ができたよ。」

 

「なら、見せてよバルト。」

 

目を輝かせてソフィーが食いついてきたので俺はなんだか照れくさくなり、ぶっきらぼうに「ほれ」といってポケットからその品物を取り出した。

 

「「おおー!!これが衛兵隊の徽章か~!綺麗~。」」

 

取り出した徽章を見てさらにいっそう目を輝かせた二人。

俺のものではなく町の衛兵隊員のものなのだがなんだか俺の方が得意げになってきてしまう。

 

「まあな。でもこれとってくるのすっげー大変だったんだからな。衛兵隊員のやつひとりにわざと肩ぶつけて取るつもりだったんだけど、しくじってそのバッチ落としちまって、そこからはもう全力で逃げ帰ったんだよ。感謝してほしいぜ。」

 

鼻の頭をこすりつつそう言い放った俺。

すると・・・。

 

「「ありがとう!!」」

 

とジークのみならずいつもは素直にお礼なんか言わないソフィーにまでお礼を言われてしまった。

いや、普通に照れる・・・。

素直な感謝の言葉に照れる俺なんかをよそに二人とも徽章の美しさと手に入れた感動でもうテンションがぶち上がりまくり、他の仲間のもとに駆け寄って「これみて!バルトが取ってきたんだよ!すごいでしょ!?」と自分のことのように喜びまくってくれている。

ここまでの歓び用は予想していなかっただけに俺は素直に嬉しくなってしまい、お立ち台に上がると。

 

「よーし!皆、今日は宴だ!!」と言い放ってしまった。

アジトには幸いにも全員がそろっていたので、仲間総勢二十二名が全員立ち上がり野太い声で

 

「「おお!!」」と叫び返す。

 

皆が歓び、叫んでいるこの景色はなんとも壮絶であり、非常に心震えるモノだった。

宴では、いつもからは考えられない豪華な食事やソフィーの美しい舞などの余興が催されじつに愉快なひとときだった。

普段しっかりもののジークが水と焼酎を間違って飲んでしまいベロベロになっているなんかは特に傑作だった。

なにはともあれこうして今日は盛大に宴を楽しんだ。

 

これが俺たち「鴉」の日常である。




いかがでしたか?
感想よろしくです。


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笑顔

二話です。
可愛い女の子の無垢な笑顔って最高ですよね!?
ソフィーちゃんのかわいらしさを表現したそんなお話になっております。
お話はあまり進んでいませんが個人的にはこういう身のないお話が大好きなのでこれからも少しずつこんなお話が入ってくるかもです笑
楽しんで読んでくれたら幸いです!
ではどうぞ!


徽章の奪取を祝う、開催した当の本人も趣旨のよく分からない宴から一夜明け、アジトから地上へと出てきた。

 

昨日まで降り続いていた雨はまだやまない。

軒の低いプレハブ小屋のような屋根の下から眺める空はどんよりと曇り、まだしばらくはやみそうに思えなかった。

だがしかし、かといって俺は雨が嫌いなわけではない。

むしろ、雨の音は好きでよくドラム缶の上に座り、目をつむって雨の音に耳を澄ましたりするほどである。

ソフィーに一度その姿を見られてしまったのだが「かっこつけすぎでキモい・・・マジでキモい。」と言われてかなりショックだったため最近は頻度もめっきり減り、人気の無いところでやるようにしている。

最近はこうやって落ち着いて雨の音に耳を澄ます機会に恵まれなかったので今日は彼らが起きてくるまでこうやって目一杯雨の音を楽しんでやろうと思っていた。

 

その辺に転がっているドラム缶の上に腰掛け、ボーと雨音に耳を澄ます。

こうしていると日頃の雑念や、ストレスさえも洗い落とされる気がする。

 

どれくらいそうしていただろうか・・・。

 

屋根から垂れ落ちてくる雨粒を見ていると、ふと昨日取ってきた徽章のことが頭をよぎった。

俺は昨日広場にいた衛兵隊員から徽章を奪取した。

だが、そもそも、なぜ徽章を取ってくる必要があったのか。

もちろん、立場の弱い市民達にいつも圧力を加える衛兵が嫌いだから嫌がらせをしようとしたのではない

いや、それも少しあるんだけど・・・あいつら調子乗ってるから懲らしめたいって常に思ってたし。

徽章無くしたらあいつら面目丸つぶれだろうしな。

でも、今回の動機はそんな私情だけではなく、俺たち自警団「鴉」の活動資金を調達するため、というのが一番の理由だった。

 

今、俺たちの活動拠点はやまあいのへんぴで小さな町“コルト”であるが、この町はスラムがはびこっていることからも分かるように非常に貧しい町だ。

だが、それにたいしてこの町の所属する国”ザフスト”の中心地には文明が発達しこの時代の最先端技術が集まっており、俺たちの町とは比べ用もないほどに豊かなのだ。

それなのに俺たちの町には国からなにもその豊かさや文化の恩恵を与えられず、それどころかコルトの町は厳しい税徴収によって金を搾取され、衰退の一途をたどり続けている。

このことは断じて許すわけにはいかない。

それならばこの町は国から独立して自らの力で運営していく方が賢明であると俺は思うのだ。

幸い、土地は余っているし、農作物も取れる。

水もあるし、工業だってやろうと思えばできるだろう。

 

つまり、この町の再興にはザフストの支配から抜け出すことが最善手なのだ。

そのための活動を俺たちはしている。

この町を変えるために。

 

今一度決意を再確認した俺は「よっ」というかけ声とともにドラム缶から降り、大きくのびをする。

先ほどから座りっぱなしで少し固まっていた体がほぐれていくのを感じた。

と、そのとき・・・。

 

「あ、こんなところにいたのね、バルト。探したわよ。」

 

という呆れた様子の声が後ろから聞こえたので俺は振り返って、少し不満そうな声で言った。

 

「なんだよ・・・別に良いだろ、どこにいたって。」

 

「いいけど、一言ぐらい言ってくれたっていいじゃない。心配するでしょ?」

 

と寝起きらしいソフィーはこれまた俺と同様に不満そうだ。

唇を少しとがらせてるのがなんか少し可愛らしいと思ってしまったからか。

 

「お、おう。まあそうだな。悪い。」と弱気に謝ってしまう。

 

すると、俺のそんな返事が意外だったのか一瞬不思議そうな顔をした彼女だったが。

 

「・・・分かれば良いのよ。分かればね。私も怒ってるわけじゃないし。」と柔らかい笑顔でそう言った。

 

こいつのこういう笑顔は素直に美しいと思える。

しばらく声もなく彼女の笑顔に見とれていると、彼女は照れたようにしなを作って言った。

 

「な、なによ・・・そんなに見られると照れるんだけど・・・。」

 

「・・・あ、す、すまん。」

 

「・・・いや、別にいいんだけど・・・。」

 

互いに顔を背けて、しゃべらないため沈黙が訪れる。

ちらとソフィーの方を見ると、彼女の横顔はほのかにあかね色に染まっていてなおさら恥ずかしかった。

 

気まずい・・・なんとかしなくては・・・。

 

そう思い、なにかないかと話題を探すとひとつ思いついたので、いまだ両頬を手で押さえて顔を赤らめている彼女にできるだけ平静を装いつつ提案してみた。

 

「・・・なあ、昨日取った徽章を質屋に出しに行こうと思うんだがいっしょに行くか?」

 

「え・・・、あ、行く!行きたい!いっしょに行こ!」

 

「お、おう。行くか。」

 

「うん!」

 

なんだかめちゃくちゃテンションが高いソフィー。

俺の腕に抱きつきそうなくらいに距離が近く、少し驚いた。

 

そんなに質屋に行きたかったのか?と思わなくもないけれど、ソフィーの無邪気なこの笑顔を見ていると何もかもどうでもよくなってしまい、俺たちはソフィーの持っていた傘に身を寄せ、歩き出したのだった。

 

 

 

俺たちがこれから向かう質屋「アーツ」は店主とも親しく、ごひいきにさせてもらっている店だ。

まあ、特に変わった店ではない。

ただ、ある一点だけが違う。

それは・・・・どんなものでも買う、というただその一点だ。

これは非常にありがたいことで、この町はかなり貧しく不正がばんばんはびこってはいるモノの、ある程度のモラルが存在しており、そのモラルの一つとしてというか自己保身のためというかは定かではないが、一応、犯罪のにおいのするものは質として買い取らない、という不文律が存在する。

なので、こんな窃盗罪の匂いがぷんぷんする徽章を他のお店へと持って行くと大体質入れを断られてしまう。

しかし、「アーツ」は違う。

品物さえしっかりしていればどんなものであろうと買い取るし、事情も深くは聞いたりしない。

しかも結構良い値段で買い取ってくれるため非常に俺たちとしてはありがたいのである。

 

というわけで、俺たちは例のごとく「アーツ」にまでやってきた。

ソフィーは道中とにかくご機嫌で、今もるんるんで俺の横を歩いている。

どうしてこんなにご機嫌なのか、不思議でしょうが無いが機嫌が悪いよりは全然良いので深くは考えないで置き、お店の扉の前に立つ。

 

お店の店構えはぼろぼろの一言に尽きる。

立て付けが悪いのかあちこちゆがんでいるし、店の看板は汚れ、文字もかすれて店名も分からない始末。

この町の中でも酷い部類の建物だった。

 

すると、ソフィーがこの建物を見て。

 

「うわあ、いつ見ても汚いお店だね~。」と少し引き気味に言ったので。

「それは同感だが、店の前で言うのはダメだろ?」と俺は呆れ気味に返した。

 

そんな俺の忠告も聞こえていないのか、うわあ、と小さくつぶやきつつお店を眺め回すソフィー。

俺は何度も来ているから慣れたモノだが、ソフィーはあまりこういうところには来ないのでもの珍しいのだろう。

まるで、珍獣をみるかのように興味深そうにいろんなところを観察していた。

 

だが、そんな観察も少しすると満足したのか、「よし、入ろっか?」と首を傾けて俺の方を向きつつ聞いてきたので俺は「おう」と小さく応えた。

 

その反応に少しほほえみを漏らした彼女はお店の扉に手をかけて勢いよく開き元気よくこう言った。

 

「こんにちわ!ダイゲンさん!今日もよろしくお願いしますね?」

 

すると、店のカウンターにたたずむ大男が野太い声で応える。

 

「おお!ソフィー、久しぶりだな。」

 

「はい、お久しぶりです。」

 

「しかし、うちの店を汚いとは言うようになったな?え?」

 

ドスのきいた声でそう言うダイゲン。

さすがのソフィーも申し負けなさそうに言う。

 

「あ・・・聞こえてたんですね?ごめんなさい。」

 

「まあ、事実だから全然良いんだけどよ。これがバルトのクソガキならぶっ殺していたがな!」

 

「何でだよ!」

 

「がっはっはー!」

 

「はあ・・・。」

 

大笑いをするこの大男はダイゲン。

「アーツ」の店主だ。

この大笑いからも分かるように性格は粗暴で、直情的。

体格も大柄で今にも天井に頭が付いてしまいそうである。

もちろん、この体型と筋肉を見れば分かるとおりめちゃくちゃ喧嘩強い。

一度、店に入ってきた酔っ払いを追い出すのを見たが、とんでもなかったのを覚えている。

顔面無くなってたからね?いや、マジで。

 

だから、俺のことぶっ殺すとか言われるとホントに冗談に聞こえないのでやめてほしい。

でも、そんな無骨なおじちゃんもこのソフィーには非常に優しく彼女のすることは全て許してしまえるようだ。

わからんではないけど、俺とソフィーへの態度が違いすぎる。

もう少し俺へのあたりもマイルドにしてくれないかなあと思わないでもないがやはり男は皆、可愛い女の子に弱いのであると再確認したのであった。

 

 

「いやあ、結構いい値段つけてくれたね~。」

 

両手を後ろ手に傘を持つソフィーが足取り軽く俺の横を歩きながらそう言った。

 

今、雨は止んでいるがついさきほどまで降っていたからか道にはところどころ水たまりがある。

 

彼女の前にも一つそこそこ大きな水たまりがあったのだが、ソフィーは軽やかにそこにあった水たまりをヒョイと飛び越えた。

飛び越える際に、ひらりと彼女のスカートが舞い、不覚にも少し見惚れてしまった。

 

すると、俺の視線に気がついたのか振り返りつつ不思議そうに首を傾けるソフィー。

俺はごまかすように「いやいや、何でも無い」と、軽く手を振る。

彼女はそんな俺の仕草をさらに不思議そうに眉根を潜めていたが、俺の応える様子がないことを見て諦めたのか、一つ息を吐き、笑顔でこう言った。

 

「またいっしょに来ようね?」

 

「・・・・・・お、おう。また今度な。」

 

言葉に詰まりながらもなんとか応える俺だったが、にこやかに笑いかけるソフィーの笑顔のまぶしさに俺は今にも浄化され消えてしまいそうだった。

なんだよ~、いつものつんけんしたソフィーはどこ行ったんだよー!

ホント俺が地縛霊なら三回は昇天してるぞ・・・・二回は彼女の笑顔がもう一度見たいという後悔の念からまた戻ってきてるまである。

いや、まあ幽霊ってそんなことできるのか知らんのだけどさ。

 

それにしても、なんだか今日のソフィーはホントに素直で可愛らしいように思う。

思えば昔はこんな感じで俺とジークとソフィーの三人でいろんなところに遊びに行ってたっけ。

そのときのソフィーの嬉しそうな顔ったら、形容しがたいくらいに嬉しそうだったんだよな・・・。

でも、最近は組織のほうの仕事ばっかりでこんな風にゆっくりいっしょにお出かけすることもなくなってたっけ。

もちろん、一番は組織の運営なのだけれど、でも俺にとってはこの世の中で一番大切な二人な訳だからもう少し二人と過ごす時間を作っていこう・・・。

そんな決意を固めていた。

そのとき・・・・。

 

「勘弁してください!」

 

そんな悲痛な叫びが俺の耳に届いたのだった・・・。

 

 

 




どうでしたか?
金髪ツンデレちゃんって可愛いですよね?
次からもよろしくでーす!!


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ハイエナ

第三話です。
今回のお話は戦闘シーンになります。
なかなか苦戦しながら書いていましたが途中で楽しくなってきてしまい、分量が多めになってしまいました!
スミマセン!
でも、楽しんで読んでくれると嬉しいです。
また感想くれたら励みになります。
ではどうぞ、お楽しみに!


「勘弁してください!」

 

そんな悲痛極まりない叫びが俺の耳に届いた。

俺は声のした方向に視線を向ける。

すると、そこには齢50は超えているであろう初老のお婆さんが屈強な三人の衛兵たちに囲まれていた。

誰がどう見ても穏やかではない。

 

衛兵の男の一人が信じられないとでも言いたげな口調で言う。

「おいおい、勘弁してくださいって、それはないだろおー?」

それに続く形でもう一人の男も大仰に手を広げながら言う。

「こっちはもう3日も待ってやってるんだ、これ以上待てるかよ。」

吐き捨てるような言い方に、おばあさんは怯えたのかガクガクと肩を震わせながら、両手を拝むように合わせて言った。

「お願いします!どうかどうか堪忍を~!」

 

老婆の叫びを聞いて黙っていられる俺たちではない。

正義感の強いソフィーは俺よりも先に動いていた。

 

「待ちなさい!」

 

「ああ?」

 

老婆と衛兵との間に割り込み、そう叫んだソフィー。

屈強な衛兵三人に睨みをきかされてもまったくひるんでいない。

 

俺も彼女の横に走り込み老婆を衛兵達から隠した。

 

改めて三人の衛兵を観察してみると、一人はでっぷりと太った巨漢、もう一人は全身が骨張った細身の男、もう一人は筋肉質な巨漢である。

三人ともに腰には警棒をぶら下げている。

対してこちらは、ソフィーは片手に傘を持っているだけだし、俺に至っては完全な丸腰。

更に、俺たちはどちらも十二歳なので端から見ると大人が子供をいじめているようにすら映るであろう。

 

今も、後ろの老婆も心配そうな声で俺たちに向かって言っている。

「僕ちゃん達、私にかまわんでにげなさい・・・。」

俺とソフィーはそんな老婆にほほえみかけてこっちは大丈夫だと暗にほのめかす。

老婆が落ち着いたのを確認して俺たちは振り返り、衛兵三人と対峙する。

 

衛兵三人は自分たちを邪魔した俺達の事をもちろんよくは思っていない。

三人とも口元をひくつかせたり、眉間にしわを寄せたりして自分たちの怒りを表している。

だが、俺たちはそれくらいの威圧には仕事柄慣れっこだ。

一週間前も町で薬を裁いていたマフィアのアジトをつぶしてきたところだし、これくらいのメンチはいつも切られているのでこんなことでビビっていちゃ仕事になんかならない。

 

俺たちのそんな動じない様子に腹を立てたのか、おなかの出た太った衛兵が俺たちの前に一歩踏み出て、いらだった声音で言う。

 

「おい、ガキども。そこをどけ。今ならけがしないで済む。おじさん達も君たちみたいな子供をけがさせたくはない。」

 

まるで俺達の事を思って言っているのだとでもいいたい口調に俺は激しいいらだちを覚えたがそれよりも先にソフィーが一歩前に出て言った。

 

「・・・・おじさん達こそ怪我したくなかったら今すぐ回れ右して帰った方が良い。私たち戦い出すと手加減できないから。」

 

毅然とした態度でそう言い放ったソフィー。

味方である俺でさえもしびれるような言い方で、かっこいいと感じてしまった。

しかし、彼女にばかり良いかっこをさせているわけにも行かないので俺も彼女の横に踏み出して言った。

 

「そういうことだ。ま、死にたい奴から掛かってこいよ?相手してやるからさ。」

 

右手を前に突き出して、チョイチョイと指で挑発する俺。

 

こんな安い挑発に乗らないかも、と思いはしたが・・・。

 

「なんだと、このガキども・・・!ぶっ殺してやる!」

 

と効果覿面。

顔を真っ赤に紅潮させて俺たちに飛びかかってきた。

迫り来る赤い大きな丸顔。

 

こんなぜっぱつまった状況であるはずなのに、この男の顔があまりにもトマトに似ていて笑いがこみ上げた。

男はこの状況で俺が笑ったことに侮蔑を感じたのか、いっそう憎々しげな表情へと変わり、本当に俺を殴り殺そうとしている。

 

大ぶりな右のストレート。

確かにこいつの体格はかなり大きく、当たればいくら俺といえどただでは済まない威力をはらんでいる。

ただし、当たればの話だが・・・。

 

「・・・・っ!」

 

俺の目は男のパンチを完全に見切り、体を一足半右へとずらしただけで容易に躱した。

予備動作があまりにもわかりやすすぎて避けることはたやすかった。

だが、男は自分のパンチがあまりにも簡単に躱されたことに驚いたのか目を大きく見開いている。

 

しかし、驚きや戸惑いはこの戦場に於いて致命的な隙を敵に与えてしまうことを意味する。

男の体は今の驚きによって、微かに硬直し、隙を生む。

そして俺がその隙を見逃すはずなどない。

 

「フンッ・・・!」

 

男の体がパンチの勢いを殺しきれず前に流れていたので、俺は短い裂帛とともに左ストレートを男の顔面に向かって全力で振り抜いた。

 

「ガフッ!!」

 

男の前進する力と俺の膂力が加わった凄絶なる威力をはらんだ一撃に彼の体は一回転し、雨上がりの泥水へとたたきつけられた。

 

あまりにも衝撃的な一幕に一同は騒然とし、場が静まりかえる。

 

俺はその静寂の中、振り抜いた拳を引き戻し、自然体へと体勢を整え、衛兵達を見ると、二人とも俺のことを憎々しげな目で見ている。

俺はそんな彼らに勝気な笑顔で笑ってやった。

 

すると、激高したがりがり衛兵(勝手に命名)が警棒を振りかざし俺の脳天へと一撃くらわさんとした。

俺が微動だに動かないことを見て彼の口元にイヤラシい笑みが浮かぶ。

このままでは頭をかち割られてしまう。

そのとき・・・。

 

「シッ・・・!」

 

「ウグフッ・・・!」

 

短い気迫の声を漏らしながらソフィーが傘でがりがり衛兵の胸にすさまじい突きを見舞ったのだ。

あまりの衝撃にがりがり衛兵は数歩たたらを踏み後退している。

それもそのはず。

ソフィーは独学ながら、レイピアや細剣の天賦の才ががあり、、いくら傘といえども、ソフィーの手に掛かればあたかも鋼鉄のレイピアのごとく、堅く強く、鋭い一撃へと変貌してしまうのだから。

さきほどの一撃も見惚れてしまうほどに美しい一撃でありながらも、全体重が威力へと変換された、まさに必殺の一撃。

今の一撃を食らっては立ち上がることは難しいだろう。

がりがり衛兵は水たまりの中に、不自然な体勢で倒れ込み、ぴくぴくとけいれんしている。

 

日頃の任務で見慣れている俺でさえも戦慄する技の切れ味。

これが傘でなかったならばどれほどの威力になるのか想像も付かない・・・。

 

ソフィーは男の胸元を一衝きにした傘をクルクルと軽やかに回し、俺にちらとほほえみを向けた。

俺もそのほほえみに軽く頷きを返し、残り一人となった衛兵を見やる。

 

その男はポリポリと後ろ頭を掻き、倒れた二人の衛兵に目を向けていた。

 

「・・・・はあ。こいつらホントに使えない愚図どもだな・・・結局俺がやらなくちゃならんのか・・・。」

 

ぼそぼそ、と独り言のようにつぶやいていた男だったが、突然、俊敏な動きで腰のホルスターに手をかけ、警棒を抜いた。

 

カシュンッ!

 

そんな軽やかかつ硬質な音を立てて、警棒が展開される。

男は二度三度と確かめるようにぶんぶんと警棒を振ると、俺たち二人に顔を向けた。

口元にはどう猛な猛禽類を思わせる笑みが浮かべられ、ぴくぴくとこめかみは震えている。

明らかに先ほどの二人とは俺たち、とくに俺に向けられる視線の質が異なる。

 

男の顔を見ていると、俺は少し引っかかりを覚えた。

 

「お前・・・どこかで・・・。」

 

不覚にもそんなつぶやきを溢していた。

男はそのつぶやきを聞くと、彼は憤怒の色を浮かべて叫んだ。

 

「ふざけるなっ・・・!昨日、徽章を取ったのはお前だろう!!」

 

「ああ・・・!昨日の!気づかなかった!」

 

俺は本当に顔を忘れていたのだが、男は俺のそんな適当さが気にくわなかったらしい。

地団駄を踏みながら不平を垂れ流す。

 

「お前のせいで、俺はこんなへんぴなところで、こんな愚民どもを相手に租税を徴収するクソのような仕事に派遣されちまった。もう、あと少しで都暮らしの順風満帆な生活がまっていたというのにだ!あと少し、あと少しだったのに・・・それなのにお前が徽章を取ったりするから、俺の信用は失墜!すぐに出世の話は取り下げられ、どぶ仕事行きだ!こんなこと許されると思うか!?否!断じて許されるわけがない!お前の命以外にはな!」

 

ハアハア、と息を乱しながらそこまで言い切った衛兵。

右手に握られた警棒を俺たちに向け、敵意をむき出しにしている。

 

だが、俺の悪癖にこういうやつはもっとおちょくりたくなる、というものがあり、今もむずむずと欲求が去来していた。

 

だが、さすが幼なじみ。

ソフィーは俺のそんな心の内を読み切っていたのかコツンと肘で俺のことを小突く。

チェッ、と小さく舌打ちした俺はそれでも一言だけ言ってやりたかったので、先ほど同様に右手を前に突きだし、腰をかがめる。

そして・・・。

 

「・・・ご託は良い。さっさとやろうぜ?俺のこと、殺すんだろ?やってみろよ?」

 

と挑発したのだった。

 

ぷちん

 

そんな音が聞こえた気がした。

男は俺の挑発に堪忍袋の緒が切れ、すさまじい勢いと明確な殺意を持って俺に警棒を振りかざす。

なるほど・・・確かに、出世頭だっただけに警棒の振りは先ほどの二人とは比べものにならないくらい速く、正確だ。

しかも、、突進付きときている。

 

実に巧妙だ・・・。

 

警棒を躱そうと、身をかがめるだけでは彼の突進の餌食になる。

もちろん、警棒は丸腰の俺にはガードなどできるはずもない。

一見どうしようもない強烈かつ巧みな一撃。

 

だがしかし、それは普通の相手ならば、でありましてや今こいつの相手は俺たち二人、である。

 

迫り来る警棒。

勝利をかくしんしたのであろうか・・・。

男はニヤリと口角を上げた。

そのときだった。

 

ガキン!

 

硬質な金属音があたりに響き渡った。

見ると、振り下ろされようとしていた警棒が横から突き出された傘のによって腹を衝かれ、パリイされている。

俺はその驚くべき現象をなかば確信していたので驚くこともなく次の行動へと移れたが、男は驚くあまり、目を見開くばかりで動けていない。

俺はその隙に男の懐近くまで入り込み両手を極限まで引き絞り・・・。

 

「ハッ・・・!」

 

という短い気迫とともに男のみぞおちを強打した。

 

「ぐふぉっ・・・!」

 

俺の強烈な突きを喰らい浮き上がった男の体は五メートル近くも吹き飛び、地面へとたたきつけられる。

 

「まだ、まだおわりじゃな・・・い・・・・・・。」

 

バタリと突っ伏すようにして倒れた衛兵の男。

最後の捨て台詞を吐きだしたのは敵ながらにあっぱれと思わざるを得ない。

普通の奴ならばあんなの喰らったら失神している。

 

「ふうー・・・。」

 

俺は深く息を吐き出すと、ソフィーの方へと拳を向ける。

相手も何をするのか分かっている様子で近づき、「グッジョブ!」と拳を合わせたのだった。

 

戦闘を終えた俺たち。

少し、泥汚れが目立つ俺に対して、なぜか彼女にはシミ一つも衝いていない。

あれほどの戦闘をこなしているのに、彼女の様子はあまりにも整然としすぎていて、やはりこいつにはかなわないかも、とは思わずにはいられない。

まあ、口には出さないけど、絶対!

 

俺は頭を軽く振り、思考を切り替えると、目の前には涙目で感謝を告げるおばあさん。

 

「ありがとよ・・・本当にありがと・・・感謝しています。」

 

「いえいえ。おけがはないですか?」

 

「ええ、おかげさまで。」

 

「そうですか、良かった・・・。」

 

胸に手を当てて心底安心したような様子を見せるソフィー。

雨上がりの湿気を含んだ、でも暖かな風が彼女の金髪を優しく撫でる。

フワリと広がったその髪はキラキラと輝き、彼女はまるで天使のようだ・・・。

 

「ありがとう。」

 

おばあさんは最後に俺にもお礼を言って、家の中へと戻っていった。

その姿を見送り、俺たちは歩き出した・・・。

 

「まだだあ・・・まだ俺は動けるぞ!こんどこそ、しねー!!!」

 

そう言って俺のすぐ後ろで倒れていた衛兵が立ち上がり、警棒を振りかざしている。

俺も不意を突かれて動けず、ソフィーも同様だ。

 

――やられる!

 

そう思った時だった。

 

「ぐふっ・・・!」

 

今にも襲いかかろうとしていた衛兵の頭がなにかにぶん殴られたかのように横にすっ飛ぶ。

俺は身をかばっていた腕をどけ、珍入者の姿を確認した。

 

「・・・ジーク!」

 

「やあ・・・!」

 

さわやかに手を上げながらこちらに近づいてくるジーク。

今のはジークの回し蹴りだったみたいだ。

あいつ、さわやかな顔して手加減とか容赦とかしないからな・・・。

 

俺は彼の行動と容姿の不一致にため息をつきつつ、近づく。

 

「おい、ジーク!もうちょっと加減ってのを知らないのか?めちゃくちゃ吹っ飛んでるだろ。」

 

「おいおい。油断してやられそうになっていた友を助けたのにその言いぐさはないんじゃないのかい?」

 

「それはそうだけど・・・まあ、とりあえず、助けてくれてありがとよ。」

 

「いえいえ、どういたしまして。」

 

恭しくお辞儀をする彼に俺はため息しか出ない。

彼はこういう恩に対する礼なんかを律儀にさせるタイプでここでお礼をしなかったらめちゃくちゃ怒ってめんどくさいことになるのだ。

そういうところもこいつの律儀でまじめなところなのだが、俺にはまじめすぎる気がしてならない。

 

しかし、ソフィーはそんなこと気にした様子もなくジークににこやかに近づき話しかけている。

 

「ジーク!あれどうしたのこんなところで?」

 

「ソフィー。あ、そうだ、忘れてた。大変なことが分かったんだよ!」

 

ジークが慌てた様子で言う。

 

「なんだ、大変な事って・・・。まさか・・・。」

 

「そう、そのまさかだよ・・・「バッドダーティー」はまだ死んでいない・・・。」

 

「な・・・!」

 

ソフィーも驚いた様子を見せている。

「バッドダーティー」とは、一週間前につぶしたといったマフィアの集団。

討ち漏らしたつもりはなかったが、そんな予感はしていた・・・。

 

乗り込んだアジトは薄暗く、何人ものマフィアを拘束したがその中にリーダーとおぼしき人物は含まれていなかった。

仲間の報告によると、俺たちの襲撃後すぐに建物の裏から辻馬車が走り去っていったという目撃情報も寄せられている。

なのでもしや、と思いはしていたのだが、まさか本当にまだ活動していたとは・・・。

 

「・・・まてよ。ジーク、なんでお前は奴らがまだ死んでいないと分かったんだ?」

 

「俺を舐めないでくれよ、バルト。この町に俺の情報網で捉えられない奴はいない。本気を出したまでさ。」

 

そう、こいつは諜報員のリーダー。

諜報班は五人しかいない。

だが、その後人は特に優秀な仲間で、情報集収に特に秀でたモノタチの集団である。

その優秀な班員の筆頭がこいつ。

だから、まあ優秀なのは分かるのだが、それにしても情報が速すぎる気がしてならない。

怪訝な目つきで俺が彼を見ていることに気づいているのだろう。

彼はバツが悪そうに鼻頭を掻くと、観念したように白状した。

 

「・・はあ。やっぱり、バルトには敵わないな。」

 

「当たり前だろ。何隠してやがる。あいつらを探し出すのにこれだけ時間が掛からないわけがない。いや、言い方が違うな。ずっと疑問に思っていた。お前達がいながらどうしてあいつらが逃げ出せたのか。」

 

「やっぱり気づいていたのか・・・。」

 

「もちろんだ。でも、なにか理由があるんだろ?例えば、誰かを引き釣り出すためとか・・・。」

 

ジークは目を閉じ、瞑目していたが俺の仮説を聞くと、目を開き応えた。

 

「バルトの言うとおりだ。俺は「バッドダーティー」の背後にいる奴らを引き釣り出すためにある程度泳がせておく必要があった。あいつらを完全に根絶するには必要な事だったからだ。」

 

「ああ、そうだな。あいつらは後ろ盾を持っているはずだ。あれほどの資金をどこから入手しているのかずっと疑問だった。で、どこの誰なんだ。どんな組織だ・・・?」

 

俺の質問にジークはまたもや瞑目する。

俺とソフィーはジークに注目し、あたりは静けさに包まれている。

再び目を開けたジークは、絞り出すようにしてこう応えた。

 

「通称「ハイエナ」。ダイヤルージュキングダムの傭兵集団だ。」

 

「・・・・・・!」

 

ダイヤルージュキングダム――それは俺たちの属する国の隣国。

圧倒的な武力を持ち、今、世界の中心とも呼ばれている国。

 

その国の傭兵集団「ハイエナ」の名前の通り、彼らは金のためならばどこからでも現れ、食い散らかしてはどこかへ消えてしまう。

そんな恐ろしい傭兵集団がこのへんぴな地域のマフィアと提携しているなんて・・・。

 

「本当なの・・・?ジーク。」

 

心細げにそう聞いたソフィー。

それに対してジークは小さく首を振り残念そうな声音で言う。

 

「ああ・・・おそらく確実だ。今日も他の諜報員から確かな情報を手に入れている、ほぼ間違いない。」

 

「そうか・・・じゃあ、いつになる、決戦の日は。」

 

「情報の裏取りにあと二日かかる。だから、三日後が決戦の日だ。」

 

「そうか・・・。」

 

こうしてハイエナとの直接対決が相成るのであった・・・。

 




いかがでしたか?
ハイエナとの対戦。
魔法や特別な技、などはまだ出てきていませんがお楽しみいただけているでしょうか?
序盤は喧嘩みたいな戦闘シーンが続きます。
しばらく辛抱してください。
また、感想くれたら嬉しいです。
では次話もよろしくお願いします。


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バッドダーティ討伐戦
潜入


第四話です。
このお話は「バッドダーティー」のアジトをつぶす前のお話になっています。
主人公はジーク。
彼がどのようにいつも情報集収しているのか、また諜報班の仲間がどのようなメンツなのかが分かるようなお話になっています。
潜入の緊迫感や情報戦の難しさなどを表現できるか分かりませんががんばって書こうと思いますのでどうか応援よろしくです。
感想くれたら励みになります。
ではどうぞお楽しみに!


今や一週間と迫っている「バッドダーティー」討伐戦。

この作戦の大目標はもちろんリーダーであるレンリ・アルバートの捕縛、もしくは殺害。

もちろん、できるだけ捕縛して情報を吐かせたいのだが、、戦いは凄絶を極めるであろうし、殺害をためらっていればこちらがやられてしまう危険性もあるため、場合によっては殺害も可となっている。

今のところ分かっているのは、彼らの人数と本拠地とみられるアジトの位置だけ。

まだまだ謎の多いマフィアだ。

だが、襲撃するだけならば位置と人数さえ分かっていればとりあえず、大丈夫だという判断の下、作戦決行は一週間後となっている。

なので本来であれば、これ以上情報を集める必要はそれほど無く、一週間後を迎えれば良いのだが、まじめさ故か俺の性分がそれをよしとしない。

できるだけ多くの情報を手に入れたい!、と俺の血が騒ぐのだ。

バルトなんかがそれを聞いたら「うへえ・・・、ジークってホントクソまじめだよな。」とバカにし腐った顔で言うだろうが、そういう性格なんだから仕方ないと思う。

でも、知らないことがあるのって皆気持ち悪いだろ?

たとえば、自分以外の友達全員が「だよね?」「うん、そうだよ、絶対。」「あれは絶対そう。」などと言っていて気にならない奴はいないであろう。

そんな状況になれば「なにがそうなの?」ときっと聞きたくなるに違いないのだ。

 

それとこれとは話が違う?

いーや、俺にとっては同じなのだ。

むしろ、仲間の命を預かっている分、よけいそう感じているのかもしれない。

俺の情報一つで仲間の命が失われるかもしれない、と思えば誰だって慎重にだってなる。

いや、そうならない奴は諜報班失格である。

 

幸運にも俺の周りの奴らは、まじめで責任感の強い仲間ばかりで頼もしい。

 

俺の我が儘にも素直に衝いてきていっしょに調査してくれている。

今も横にはリンダースとサイがいる。

リンダースは小柄だが、活発で賢く、子リスのように可愛い女の子。

サイは寡黙で冷静な黒髪男子だ。

二人とも、俺と同じ黒のローブに身を包み、黒のフードをかぶっている。

俺たちは隠密なので、満に一つも敵に見つかってはならない。

だから、夜闇に紛れる黒のローブを着て、身を隠している。

 

リンダースが声を潜め俺に話しかけてくる。

 

「今日はまだ来ませんね・・・。」

 

「ああ、そうだな。まだ来ていないようだ。」

 

サイが双眼鏡から顔を離しながら言った。

 

「もうそろそろ来てもいい頃なんですけど・・・。」

 

そうつぶやいたそのとき、林の小道にチラチラと馬車の灯りが見えた。

 

「おい、来たぞ!」

 

「はい、見えます、アレですね。」

 

サイが手に持っていた双眼鏡を使い、そう応えた。

どうやら俺たちの今日の目当てだった馬車が来てくれたらしい。

 

「よし、ではこれからあの馬車に近づく。サイ、リンダースはここで待機、見張りを頼む。何か異常があればすぐにリンダース、お前が伝えに来い。俺はあの積み荷がなんなのか、そしてどこから来ているのかを確かめてくる。」

 

「はい!お気を付けてください!」

 

「おう。じゃあ、行ってくる。」

 

ピシッと二人そろって敬礼のようなポーズを取ってくるので俺も苦笑しながら敬礼し、眼下に広がる敵の本拠地に身を躍らせた。

 

ここから俺の潜入捜査が始まる。

 

 

 

 




いかがでしたか?
短すぎ!という方、ごもっともです。
次話からはもう少し長くなるのでご容赦願います。
ではまた次話で!
感想くださいね?


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第五話です。
もう少し長くすると良いながらそれほど長くなっていません。
申し訳ない。
しかし、精一杯書いているのでお読みいただければ嬉しい限りです!
感想くださいね?
ではどうぞ、お楽しみに!


「バッドダーティー」のアジトはコルトの町南東にあり、ダイアルージュキングダムとの国境“ナルン山脈”の麓に存在する。

盆地の地形をうまく利用したアジトだ。

アジトは洋風の赤煉瓦を基調とした作りとなっており、屋敷の広さは縦横に五百メートルは優にあるであろう。

正直かなり大きく一日ですべての建物のマップを作ることはできそうにない。

だがしかし、最終的にはすべての地形を地図に起こしたモノを一週間後に間に合わせたいと思っている。

そうしてようやく敵との条件がイーブンもしくはまだこちらが劣勢であると思っているからだ。

 

でも、今はとにかく、先ほど到着した馬車が何を積んでいるのか、そしてどこから来ているのかが重要だ。

 

彼らの悪行の数々を上げればきりが無いが、だが俺の予想が正しければあそこにはアレが載っているはず・・・。

でも、あのサイズの馬車に乗せているとなるととんでもない量になる。

事態は俺が考えているよりも深刻なのか・・・?

 

そんな漠然とした不安が心を覆いだしていた、そのときだった・・・。

 

「おい、おい。そんな飲んで大丈夫なのか?ドンに見つかったらただじゃ済まないぞ?」

 

という声が聞こえたので俺はすぐに物陰へと身を隠し、耳をそばだてた。

どうやら、二人の男が会話しているようだ。

明らかに酔っ払った、うわずった声が聞こえる。

 

「いーんだよ・・・ヒック・・・どうせだれも来やしねーんだ、ヒック。見張りなんか飲まずにやれるかよ・・・ヒック。」

 

「ほどほどにしとけよ。最近はドンの機嫌が悪い。見つかりゃただじゃ済まねーぞ。」

 

「分かってるよ・・・ヒック。」

 

「なら、良い。俺は向こうを見てくるからな。」

 

「ああ・・・頼むよ・・・ヒック。」

 

ソッと伺うと一人の男が向こうへと歩いて行き、酔った男だけがその場に残り酒瓶を傾けている。

距離は十メートル強ってとこか・・・。

俺は黒のローブを目深にかぶり、準備を整えた。

 

「よし、行くか・・・。」

 

小さくそうつぶやき俺は手近にあった小石を、酔っ払いの奥二メートルほどのところに投げる。

すると、コツンという小さなでも確かな音が響き酔っ払いの注意がそれた。

 

「ん・・・?なんの音だ・・・?」

 

音の鳴った方へと顔を向けた酔っ払い。

俺はその隙に彼の背後へと近づく。

 

そして・・・。

 

「んぐぅっ・・・!!」

 

俺は男の口を右手でふさぎ左腕で首を締め付けた。

空気を求めるようにあえいでいた男であったが、俺はなおいっそうきつく口元を覆い、首の締め付けも強くする。

すると、一瞬けいれんしたと思った時には男は失神していた。

 

白目をむいて失神している男を俺は酒瓶の置いてある樽の影に引き釣り隠す。

 

ちらと進行方向を確認すると、五十メートルほどあるこの通りには人影は見えない。

だが、この通りには隠れるための遮蔽物がない。

仕方ない、そこの曲がり角をひだりに折れて行くしかない。

 

俺は素速く曲がり角にまで身を寄せてソッと伺う。

今のところ人影は見えない。

 

次の曲がり角でも人影はなかった。

 

妙だな・・・総勢五十人にも及ぶ、マフィアのアジトにこれだけ見張りが少ないなんて。

どこかに出張っているのか・・・?

 

なんとも漠然とした不安が俺の心にわき上がる。

 

だが、そんな俺の心の内とは反して順調に馬車へと俺は歩を進める。

 

そして、俺はついに馬車を視認することが叶った。

 

馬車の周りにはこれまた見張りは見えない。

 

しかも、馬車の両脇は壁が切り立ち、うまい具合に隠してくれている。

今しかない。

俺はそう思い、素速く馬車の近くにまで寄り、積み荷を覆い隠していた布を取り払った。

 

「な・・・・・!」

 

そこにはなんと―――なにもなかった。

麻薬のかけらさえも見当たらない。

 

俺の見当はまったく外れていたという訳か?

そんなはずはない。

しかし、現実にはここに載っていない。

どういうわけだ?

 

俺は戸惑いを覚えていたが、ここが敵の本拠地であることを不覚にも忘れていた。

 

気づかぬうちに、ジークの背後には不穏な影が二つ忍び寄っていたのだった・・・。

 

 

 




いかがでしたか?
次回は戦闘シーンです。
「鴉」の諜報班、班長のジークの得意な戦闘スタイルが分かります。
どうかお楽しみに!笑


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