RozenMaiden If 〜白薔薇は儚く〜 (ЯeI-Rozen)
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〜プロローグ〜

プロローグなので語る事は少なく。
ヲタクで性癖は人形フェチな冴えない男の非日常で突飛な世界に引き込まれる物語で御座います。


─────眠る。

私は眠る。

……正しくを云えば眠る仕草をする、と言った方が正しいのでしょう。

ショーケースの中で、私を物欲しそうに見詰める人々を遇う様に目線をわざと逸らす。目を見開き、命が無い様に振る舞う。

そう。私は『人形』。

何故、自我を持っているのか、ですか?

ふふふ……それは後程、直ぐに解る事で御座います。

私の目的は、素敵な御方と逢い、その方と契約を結ぶ事。そして私の悲願たる事象を完遂する事。

その為並ば素敵な御方の命等捨てる事さえ厭わない。

─────そう。

誰に恨まれ、憎まれ様とも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────目を覚ます。

変わらない日常。

そう、変わらないのだ。

そんな社畜の日常。

何時もの時間に目覚め、何時もの時間に食事を用意し、何時もの時間に食事を摂り、何時もの時間に身支度をして。

そして何時もの時間の定刻の列車に乗り込んで職場へと向かう。

僕はそろそろ二十歳も半ばに差し掛かると言うのに彼女は居ない。ご察しの通り、年齢に倣う様な年月で。

そんな僕にも趣味が有る。

ゲームとアンティークドール鑑賞だ。

僕は典型的なヲタクである。

休日には行き付けのアンティークドール店に通い、商品である人形を眺めて、気に入れば購入して……の下りを休日の1日は費やす。2日目はゲーセン等に行き、音ゲーなり格ゲー等を嗜む。そんなヲタクの男だ。

そんな僕がまさか、現実離れした物語に引き摺り込まれるとは今は夢にも思っていなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

そんな僕は何時もの休日にアンティークドールを見に、行き付けの店に何時もの様に通う。

そんな中だった。

三軒目の店『Rose virgin』と言う名の店。直訳して、『薔薇の乙女』。

僕はそんな店でとある人形を見つける。

簡単に云えば、『一目惚れ』だ。

白い衣装。薄黄色の儚げな瞳。フリルの着いた動きやすそうで有り、上品さを醸し出すドレス。黄金に輝き波打つウェーブの髪が美しさを唆る。そして最大の特徴は右目に施された白い薔薇の意匠。

そんな人形には豪華で重厚な鞣し革の鞄、そして煌めく金の螺巻き。

とてもでは無いが手を出す事は不可能だと、簡単に察する事が出来る。推定では何百万、何千万とする人形だろうと、溜息を吐きながら『彼女』を眺める。

そして、その店を立ち去る。

他にも常連の店を回った。然し、『彼女』を忘れられない程目に焼き付いた。美しい。どんな人形を並べても負けぬ美しさを放つ『彼女』の虜になっていた。

そんなもやもやとしたやり切れない感情を抱えたまま、少々長めな家路に就く。道中、閑散とした公園で珈琲を飲んで一服をして。

そんなこんなで家賃6万程度のアパートで有る自宅に着く。

何時もの様に夜飯を作って今日は早々に寝る事にした。

 

翌朝、目覚めるとリビングの机に豪勢な手紙が置いてあった。その手紙の中身を見ようと開くと、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『まきますか』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『まきませんか』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、だけ書いてあった。

最初は悪ふざけだろう、そんな風に思い乱雑に『まきます』に丸を付けた。

まさか、この選択が非現実的な日常を呼び寄せる選択だとは今の僕は気づかないまま。




どうも、ЯeI-Rozenで御座います。
プロローグの後書きまで読んで頂き有難う御座います。
ローゼンメイデンを知っている御方は若しかしてご察しなのではと思いますがヒロインはあの娘です。はい。
私が大好きなので、「この娘しかねぇ!」と選んだ娘です。
僕自身、重度の人形フェチなもので、この作品は非常に琴線に触れた物でもあります。敬愛するPEACH-PIT先生は何という神作を……と常日頃思っています。
原作はローゼンメイデン0(ゼロ)が刊行中では御座いますが、読ませて頂いております。
やっぱり人形は尊いぜ!
さてさて、この辺で切り上げてさっさと1話を書き始めようと思います。
では、1話の後書きにてまたお会いしましょう。


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第1話 〜非日常への扉〜

そんなこんなで手紙の内容はよく分からない内容。

『まきますか』


『まきませんか』


乱雑に『まきますか』を選んだ、
彼の運命の歯車は静かに動き出す。








謎の手紙を乱雑に処理し、僕は近場のゲーセンに立ち寄る。

様々なゲームをやり、暇な時間を潰す。ハッキリ言って格ゲーは負け続き。それもそうだ。

僕は『彼女』に目を奪われて以降、何も彼もが手に付かない程、心を囚われていた。

 

「『彼女』が欲しい。」

 

ただ只管の願望が僕の思考を過ぎる。

言葉に出る程の願望だった。

それが邪魔をしてゲーム所では無かったのだ。

少々早めにアーケードゲームを切り上げ、昨日行ったアンティークドールの店に向かった。半ば本能の赴くままに歩を進めた様な物だった。その店に行く道中も、『彼女』の事が片時も頭から離れない。

そうして昨日『彼女』を見た店に辿り着いた。

足早に『彼女』の置かれたショーケースに着き、一心に見詰める。それだけで、欲望が満たされる様な感覚にさえ陥る程だ。そして閉店の時間まで、僕はへばりつく様にそのショーケースから離れなかった。否、正しくは離れられない程、『彼女』の虜になっていたのだ。

チリンチリン、と心地良い鈴の音が閉店の時間を促す。

然し僕は離れたくなかった。

そんな僕を見つけてか、店主が話し掛けてきた。

 

「お客さん、その人形がお気に召しましたか?」

「あ、えっと……はい。」

「…実はその人形、倉庫で見つけましてね。私はこんな人形、取り寄せた記憶が無くて……」

「そ、そうなんですか…」

「値段も何も分からない人形で、とても困っていまして…。」

 

店主が困った仕草で頭を軽く搔く。

そして少し思考を巡らせたした後に、店主はこう言ってきた。

 

「良ければ…この人形を引き取っては下さいませんか。勿論、御不満や不都合が御座いませんでしたらのお話しですが……」

「勿論です!昨日、此処に来てからと言う物の、『彼女』の事ばかり考えて居ましたよ……!」

 

そう言い、僕は子供の様に喜んだ。

玩具を買い与えられる子供の様に。

 

「有難う御座います…どうか、その人形は大切になさって下さい……」

 

そう言い、微笑みながら釘を刺すように告げる店主。

少しの時間を待っていると店主はショーケースの鍵を持って来てそそくさと鍵を開ける。そうして重厚な鞄と共に『彼女』を鞄に優しく仕舞う。その手付きは手馴れた職人の様だった。

然し僕はそんな動きよりも彼女を引き取れた事への喜びが圧倒的に勝っていた。

店主から『彼女』の入った鞄を受け取り、鼻高々で家路に就く。何時もなら途中の公園で珈琲を飲むが、あまりの喜びのせいか、そんな事も忘れていた。

 

そして自分の部屋に帰って来た。

一人暮らしにはピッタリの1LDKの部屋。リビングに拵えて有る簡素なテーブルの上で鞄を開ける。一目惚れした『彼女』が目の前に居る事への喜びがじわりじわりと滲み出て来る。笑顔が隠しきれないのだ。

そうして彼女の身体を眺めていると、金色の凸状螺子を見つけた。恐らく、螺子巻きを使えばなんらかの動作をするのだろうと察した。

螺子巻きを咬ませ、ゆっくりと螺子を巻く。カチカチと音が鳴る度に『彼女』の身体はカクカクと動く。そして最後にカチリ、と音が響いた。

 

────その瞬間、一際彼女の身体が跳ねた後に、僕は目の前に起きた事が信じられなくなった。

 

 

なんと、人形がひとりでに『立っている』のだ。

余りにも驚き過ぎて声すら出なかった。

『彼女』は辺りを見回した後、僕のほうを向いて

 

「貴方様が、私を目覚めさせてくれた方ですか…?」

「あ…え…?」

 

思考が追いつかなかった。どういう事?何故人形が喋れるのか?何故ひとりでに立つ事が出来るのか?と、頭の中をグルグルと様々な思考が回る。

 

「私はローゼンメイデン…第七ドール。名を【雪華綺晶】(きらきしょう)と申します……」

 

御丁寧に自己紹介までされた。理解出来ない目の前の事象にますます思考がグルグルと回る。

 

「貴方様の御名前を聞いても宜しかったでしょうか…?」

「あ…えっと……僕の名前…?」

「はい…左様に御座います…。」

「えっと、僕の名前は…『四方木シュウ』(よもぎ しゅう)って言うんだ。」

 

何を普通に答えているんだ、と半ば軽く絶望しながら頭を掻き毟る。此から何か起こるのでは無いのか、そんな不安と得体の知れぬ何かに押しつぶされそうになる僕を尻目に彼女はこう続ける。

 

「では、シュウ様……」

「───私の契約者(マスター)となって下さいませ。」

「ゴメン、その、『マスター』って何…?」

「マスターとは簡潔に申しますと私達、『ローゼンメイデン』の『力の媒介たる存在』。」

「『私達』、って事は他にも姉妹がいる訳か…。」

「左様に御座います…。そして貴方様には、私のマスターになって頂きたいのです…。」

「は、はぁ…」

 

戸惑った。焦った。困った。そして悩んだ。

そりゃあそうだろう。今、僕は現実離れした存在から、あまつさえ僕は普通の会社勤めの1社畜なのだ、そんな僕に突飛な出来事が起こるで有ろう事の兆しの目の前に居るというのだ。

僕は小さく溜息を付く。今までが平凡そのものの日常だったのだ、様々な考えで一杯になる。然し、深く考えてもしょうがない。物事の最優先は『契約するか、否か』

なのだ。

 

「御決断を聞いても宜しかったでしょうか…?」

 

雪華綺晶は可愛らしく儚い声音で僕に答えを聞いて来た。

僕はゆっくりとその口を開き、雪華綺晶にこう告げた。

 

「僕は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────僕は、君のマスターにはならない。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そう、ですか。」

 

雪華綺晶は顔を俯き、哀しげな表情を見せる。俯いているせいか、その表情は一層の翳りを帯びて感じる。

そんな風に思っていると雪華綺晶は震えた声で、恐る恐るこう言葉を掛けて来た。

 

「理由を聞いても、宜しかったでしょうか…?」

「理由…か。」

 

僕は少し言い留まる。果たして言って良い物なのか 然し、僕は僕の思いを止められなかった。

 

「…僕は君に目を奪われた。一目惚れだ。けれど僕は君のマスターにはなれない。僕は君を道具扱いしたくは無いし、そんな関係は嫌なんだ。だから……」

 

言葉に詰まった。自分の心情が言葉にできなかった。どうしようもない感情が流れ出て止まらない。自分の表情が次第に険しくなるのが解る。きっと僕の表情は皺くちゃなのだろうと思考が過ぎるがそんな事よりも、そんな事よりも。雪華綺晶の哀しい表情に突き動かされる様に僕の手がゆっくりと彼女に引き込まれて行く。そうして彼女の頬を触れた時に、はっ、と我に返る。恐る恐る彼女の見せる表情を眺めた時の彼女の表情は、鮮烈に焼き付いた。

頬を紅く灯らせ、儚い瞳は潤みを帯び、泪を流していた。

雪華綺晶はそんな表情をしながら、

 

「…私、そんな事、ッ…言われたの、ッ、ッ、初めてッ…」

 

言葉に詰まりながら言葉を紡ぐ雪華綺晶を、僕は気付けば懐で抱き締めていた。優しく、穏やかに。左手で背中を擦り、右手で頭を撫でてやりながら。

 

そんな時間がいくばくも過ぎた後に、『ローゼンメイデン』と言う人形の全てを雪華綺晶は分かりやすく話してくれた。そうして雪華綺晶はこう続けた。

 

「…私達は、惹かれ合う運命。私とて、戦に身を落とす事になるでしょう。」

 

寂しそうな、申し訳無さそうにそう呟く。そんな彼女の頭を僕はくしゃくしゃと撫でる。

 

「君は、君の望む時に僕を使ってくれ。君の事情は解った。けれど、『今』はマスターにはなるつもりは無い。君たちの『アリスゲーム』と言う物がどんな物か分からない時点ではそうとしか言えないんだ。でも君がもし、危険な立場だと解れば、僕は君に惜しみ無く力を貸そう。───────約束する。」

 

そう、彼女に告げた。その時の彼女の表情は僕の決意を揺るがぬ物とするには充分すぎる物だった。

 

 

それは、泣きじゃくった紅い目尻に残り泪を浮かべ、目一杯に微笑む、雪華綺晶の笑顔。

 

僕の掛け替えの無い宝物なんだと。

 

 

 

 




好きな人形は雪華綺晶と蒼星石。
身体を奪った奪われたの関係の二人が好きな、
ЯeI-Rozenで御座います。

さてさて、
一話目にしてもうエピローグで良いんじゃね?
的な雰囲気を醸し出してますが残念、此から続きます。

そうですね、まず僕が何故この物語を書いているか。
皆様に雪華綺晶の可愛さ、愛らしさを知って欲しいからなのです。アニメのみをご覧の方は雪華綺晶、と云えば悪い娘と言うイメージが強いそうで。然し知って欲しい。雪華綺晶は悪い娘じゃないんだよ、って。単に一途な一人の至高の少女の形なんだよ、という事をですね。

簡単に言えば雪華綺晶大好きな作者が雪華綺晶をプレゼンする様な小説ですね、はい。

此から物語が白熱していきます。読んで下さってる御方は誠に有難う御座います。趣味丸出しの僕のこの小説を読んでくれるの、めっちゃ嬉しいです。

さて、今回はこの辺で。
2話の後書きにてまたお会いしましょう。


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第2話 〜綺麗な薔薇には棘がある〜

あまりにも都合の良い運び方のする運命。
男はそんな事を気にする風もなく受け容れる。


〜それが、甘い蜜の罠だと知らずに〜












偽る。己の心を偽る。

そうすれば私の元に、勝手にやって来るのだから。

そして甘い誘惑に拐かされていく。

それが私の愛でも何でもない、虚無の罠だとも知らずに。

 

 

────全ては、私が至高の少女たらしめる為に。

 

 

 

そして、今回の人間もまんまと私の仕組んだ都合の良い幸せな運命を歩んでゆく。名前等、最早どうでもいい。全てはお父様の愛を一身に受ける為。それには至高の少女『アリス』に成る必要が有る。だからこそ詰まらない小賢しい手段を用いて己の力を蓄える。その為にはまずエネルギー源が必要。並ば此の人間が望もうが望まないが関係は無い。要は『供給源』にしてしまえばそれで良い。簡単に言えばそんな事であるのです。

 

然し、事はそんなに容易く動いてはくれないと1番、私が理解しています。

───そう、『姉妹』による『邪魔』が入らねば。

嘗て、私は「桜田ジュン」を『苗床』にし、私の存在を実態を持たせる事に失敗したのです。然し、今はそんな邪魔が入らない事を願います。私は必ず、私の思う至高の少女たらしめる為の糧になって頂かなければ。ある程度の細工はして置きましたが、何時破られるかは時間の問題。破られる前に『苗床』にしなくては……

 

そんな事を考えていれば、『カチャリ』と錠が開く音が誰も居ない部屋に響く。そして扉が軋む音と共に帰って来た人。確か、『四方木シュウ』と言う名だった筈……

その思考を巡らせ乍、20歳過ぎの青年を出迎える私。そう、健気に。美しく。そして可愛らしく。自身を偽って。

 

 

初めて出会ってから何日かは経っていますが、彼は女ではないかと思うくらい几帳面なのです。

部屋は質素ではある物の、空白が美的に見える様家具の配置も拘るのです。そしてゴミを見つければすぐ様掃除機を掛けて仕舞う程。此れは几帳面、と言うより潔癖症と言った方が正しいでしょう。几帳面なのはそれだけでなく、私の為に私専用の食器まで買い揃える程の気回しをする迄に至ります。ちゃんと食事もその器に拵えて。

 

そんな事をされても私は嬉しく無いのです。

寧ろ一層の事、『苗床』になって欲しいと。ただ其れ丈を心に秘め、さぞ嬉しい様に振る舞う。そう、偽る。今迄やって来たように、心を偽る。

然しそんな私とは裏腹に、青年は輝く様な笑顔を魅せる。昔の私で有れば、どうとも思わなかったでしょう。ですが今の私は、そんな無邪気な笑みを見て心が苦しくなる…。まるで自分の胸ををもう1人の自分が締め付けてくる様な感覚に囚われるのです。

 

解らない。分からない。理解らない。全く理解出来ない。

何故こんな感覚に囚われるのか。自然と私は胸を摩っていた。そんな仕草を見てか彼は私を労る様に気に掛けて来る。私は何でもない様な笑顔を見せ、彼を遇う。けれど日に日に其の苦しみは増して来るのです。とても不愉快です。其れはとてもとても。謎の胸の苦しみ。始めて味わう此の苦しみに私は何もする事が出来なかった。

 

「何故…こんなにも……」

 

気が付けば鞄の中の暗闇で呟いていました。

暗闇の中なので解りませんがきっと私は苦虫を潰した様な表情をしているのだろうと、そう思考し乍胸を抑える。

 

そうして、何気無い1日が終わったのです。

 

ふと、目を覚めた時には朝。

柔らかい日光が眼に光を注ぐ。鞄を開いて窓の外を眺めていれば彼が私を見て微笑み掛けてくる。そんな微笑みを見て微笑み返す。そんな行動に私はとても違和感を感じたのです。私は自身を偽る事無く、自然に微笑みを返していたのです。頭の中で驚きつつも表情には微塵にも感じさせぬ様に振る舞い、何時もの様に朝食を召す。どうやら今日は彼の休日らしく私を連れて召し物を選んで下さる。それ自体何ら思う事は無かったのですが、やはり彼の笑顔を見る度に心が苦しくなるのです。

 

一通りの買い物を済ませ、昼中に家路につく。

態々私の食事を用意する為だけに炊事をしてくれるのです。彼が炊事をする中、私は朧気にテレビの番組を眺めるのです。他愛も無い事を話し、笑い声を上げる人々を達観し、哀れな物だと思考し乍眺めるのです。そして食事が出来れば昼食を召す。食事も終わり食器を片付けた時に自然と身体が動き、気が付けば洗い物の手伝いをしていました。まるで解らない。私は如何してこうも非合理的な事をするのか。その考えで頭を巡らせていれば直ぐに洗い物は終わってしまった。そうして彼は、

 

「手伝ってくれて有難う、雪華綺晶。君のお陰で早く洗い物が終わったよ。」

 

そう言って笑顔を見せる。屈託の無い、眩しい笑顔を。それを見る度に胸が苦しくなる。それを伏せる様に喜んだ振りをする。

 

──────その時だったのです。

『苦しみ』が『痛み』に変わったのは。

ぽっかりと心に穴が開けられて其処から痛みが走る。身体は傷一つ無い筈なのに痛い。理解が追い付かないのです。その痛みを隠す様に鞄に入り眠る事にしたのです。

 

 

 

「見つけましたですよッ!憎き末妹ッ!」

 

 

 

其の声が聞こえ、私は飛び跳ねる様に目を覚ますのです。

そう、『姉妹』。よりにもよって頭に響いて来たのです。鞄が突然開いた物音に驚いたのか彼が私に駆け寄って来る。私の身を案じてくれたのです。そして落ち着ける様にと、紅茶を淹れてまで下さいました。私は縋る様に紅茶を1口、味わって心を落ち着かせてゆっくりと溜息を付く。私が落ち着いた雰囲気を見せれば彼は微笑むのです。まるで自分の事の様に喜ぶかの様子で。

 

再び胸が苦しくなって来たその時だったのです。

 

突如、硝子窓が破られ大きな鞄が部屋の床に物音を立てて落下する。ゴソゴソと鞄が揺れればガタリ、と鞄が開くのです。

 

「遂に見つけましたですよッ!憎き憎き末妹ッ!」

「悪さをするつもりなのだろう?並ば僕達は君を放って置く事は出来ないんだ。」

 

私の計画の歯車が狂い始めるには充分過ぎる出来事だったのです。




どうもどうも、好きなダクソキャラはカタリナの騎士ジークバルド。ЯeI-Rozenです。
今回は雪華綺晶からの視点で御座います。
さて、どんな風に感じてくれたでしょうか?
一応物語として連結させるには雪華綺晶の闇の部分も触れなければならないので、其処も後々詳しく書かせて頂きますのでお楽しみに。

と言うかアレだよね、きらきーは闇の部分も含めて尊いんだよね、うん。けどやっぱり純粋な乙女なんだよね。純粋過ぎるが故に狂気とか、尊すぎですね。

因みに執筆ペースが落ちた理由はアレです。
Fate/Grand Orderの10連ガチャを3回回して爆死したのでメンタルやられました。

何だかんだと語らいをしたい物では有りますが、さっさと次話を執筆致したいと思います。

皆さん、ローゼンメイデンØ(ゼロ)是非是非買って読んでみて下さい!本当に面白いですから!

では、3話の後書きにてお会いしましょう。


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第3話 〜烈しさと切なさの双対〜

雪華綺晶の本性。
それは人を道具としか思わぬ事。

―――然しそんな彼女に異変が訪れる。

まるで、仕組まれた様に訪れる『痛み』。

其の痛みは一体何なのか。彼女が理解出来る刻を刻む歯車は静かに、正確に、無垢に廻り始める。












突然だった。

そう。文字通り唐突に。

普通の生活を送る人間には至極突飛な話なのだろうが僕は何となく起こるのでは、と察した様な冷めた態度でその事象を眺める。恰(あたか)も荒唐無稽な出来事かの様に。そうしなければ頭が追い付かないのだ。

 

何せ、二体の人形が僕の家の窓を突き破って侵入して来たのだから。

 

「やっと見つけたですよぅ……」

「お疲れ様、翠星石。」

「撫でて欲しいですよぅ、蒼星石ぃ〜……!」

「全くもう……」

 

そんな行(くだ)りをする二体の人形。

恐らく、雪華綺晶と同じく『ローゼンメイデン』の人形なのだろうと容易に察しが付く。そんな思考の最中唐突に甘えていた長髪の……『スイセイセキ』であろう人形はこう言い放つ。

 

「人間!末妹を捕まえたままにするですよぉ!絶対に逃がすな!ですよぉ!『ヒナイチゴ』のボディを取り返すんですぅ!」

 

驚いた。

それはそれは驚いた。

まさか雪華綺晶のボディは他の姉妹から奪ったボディなのか、と。目が点になったのだから。そうして続ける様に『ソウセイセキ』はこう続ける。

 

「僕からも宜しく頼むよ。で無ければ『シンク』の依頼は、借りは返せないからね。それに『スイギントウ』が来る前に何とかしなければならないからね。」

 

『真紅』?『水銀燈』?

恐らくまた『ローゼンメイデン』なのだろうと。

然し相変わらず突飛な話ばかりだ。理解するのに一々冷静な思考判断を入れなければ状況に呑み込まれる。そんな僕は思考をしながら雪華綺晶をちらと眺めた。

彼女は震えていた。恐れ?畏れ?慴れ?将又過ちを犯してどうしようもない事象に対しての嫌悪感?……いや、違う。此の表情はそんな物じゃない。そんな単純な物では無いのだ。彼女は此の状況に対してなにも思っていないのだ。単に『感情論』ではの話なのだが。

そんな事を察していると今迄伏せていた顔を上げる。

その顔を横目で覗いた時にはおぞましささえ覚えた。何故なら、追い詰められている事に対して、『笑って、嗤って、嘲笑って』居るのだから。クスクスと、そんなお淑やかな可愛らしい声で。

そんな状況を見てもたじろぐ事無く双対性を持つ二体の人形は疎ましそうな表情を浮かべ乍雪華綺晶に対峙する。

そんな静寂を打ち破る様に口を開いたのは『スイセイセキ』だった。

 

「相変わらず、気持ち悪い笑顔ですねぇ!末妹!そんな表情しか出来ないのですかぁ?まるで人形の皮を被った悪魔ですねぇ!」

 

まるで雪華綺晶を煽る様に述べる。

それに続く様に『ソウセイセキ』も、

 

「…不本意乍、僕も翠星石に同意の意見だよ。だからこそ、其の悪魔の様な所業は断じて許せないね。此処で、君を止める。」

 

そう言い、金色に照り光る園芸用であろう鋏を構える『ソウセイセキ』。それに倣う様に『スイセイセキ』も金色の如雨露を手にして構える。そんな状況を一通り眺めて居ると気付かぬ内に僕の身体には白い荊が絡み付いていた。僕が驚いた声を上げると『スイセイセキ』はそれを眺めて、

 

「あ〜っ!何やってるですかぁ!おマヌケ人間っ!早く振り解くですよぉ!死にたいですかぁ!」

 

非常に厄介な悪態を付かれた。そう思い乍、僕は荊を振り解こうとする。然しそんな力さえ込められない。何故だ?こんな物、普通に振り解ける筈なのに……。

混乱した頭を巡らせて居ると『ソウセイセキ』が『スイセイセキ』にこう諭し始めた。

 

「起きてしまった事を咎めても仕方無いんだ、僕達が助けてあげようじゃないか。彼は末妹の力も、此の状況にも良くは解らないだろうし。」

 

確かに、『ソウセイセキ』の言う通りだと自身乍も首肯してしまう。首は縦に振っていないが。

そんな事を考えて居ると二人は何かに頷く。

その刹那、『ソウセイセキ』が前に出て、僕を捕らえていた雪華綺晶の荊を切断していく。そんな『ソウセイセキ』を捕えまいと雪華綺晶は荊を使い、『ソウセイセキ』を捕らえに掛かる。それをさせまいと『スイセイセキ』は如雨露から水弾を飛ばして荊を近付かせない。そんな状況を眺めて居ると早々に白い荊の枷は解ける。

全身の力が元に戻った様な感覚だ。また囚われまいと早々に立ち上がり、戦いの場から退こうとする。然し部屋の扉は白い荊が生え蔓延り出られない様にされていた。無論、窓も。完璧に密室状態で逃げられる場所すらない状況だ。一先ずは書斎に逃げ込んだ。其処に隠れてやり過ごそうという魂胆だ。丁度隠れるに良い押し入れの中に這入り、静寂を噛み締めて、ほっと溜息を付く。……違和感。背中辺りだろうか。小さな人型の感覚だ。Tシャツを脱ぎ、確認してみる。暗闇故、良く分からない。目を慣らそうとしていれば唐突に、

 

「ふふふ…連れ去るならお姫様抱っこくらいして欲しかったかな?でも、ちょっと嬉しくはあるね。」

 

そんな声が聞こえた。

……恐らく『ソウセイセキ』だろう。

随分と肝の据わった人形だと、そう感じた。

はっと思い出し英国紳士の様な仕草で、

 

「僕は『ローゼンメイデン』第4ドール。名を『蒼星石』と言う。因みに一緒に来たのは第3ドールの『翠星石』と言うんだ。此れから宜しく御願いするよ。」

 

丁寧に自己紹介をしてくれた。

そんな行動に一入の安心をしている中、「さて、と」と一息付いた蒼星石はゆっくり立ち上がり、押し入れから出ていってしまった。然し外から、

 

「君は此処で隠れているんだ。末妹が此処から消える迄出てきては駄目だよ。絶対だからね?」

 

そんな諭しを受けた。現に雪華綺晶に命を狙われている僕がみすみす出ていく訳には行くまい。何せ何も理解しても居ないのに、雪華綺晶の元に往くのは自殺行為だと簡単に思考できる。然し考えて見ればかなり癪に障る物だ。此処は僕の家で部屋なのだ。自由を奪われる事はかなり癪に障る。だが、そんな子供の様な文句は言える状況でないのは歴然なのだ。

 

「見つけましたわ…。」

 

途端に雪華綺晶の声が聞こえて僕は驚き跳ねてしまい、押し入れから飛び出す。勢い良く飛び出した拍子に尻餅を付いてしまい、尻を摩る。光が差し込んだ押し入れの布団から白い荊が現れ蠢いていて。その中の一つから白薔薇が実り現れたかと想えば雪華綺晶の姿が現れる。そして少々哀しそうに、

 

「あらあら…哀しいですわ…私を優しく匿って下さった御方の反応とは思えませんわ…」

 

そう言い、右頬に手を当てる。

本来の主人公ならきっと此処で怯えるべきなのだろうが僕は此の状況に置かれて尚も、

 

「綺麗だ…雪華綺晶……」

 

と半ば自然に口走ってしまった。

それを聞いてか雪華綺晶は表情が見えぬ様に俯き、頬を紅くし、少々の時間を押し黙った。おや?これは?と思った途端、勢い良く扉が開く。

 

「させませんですよぉ!末妹っ!」

「今度は逃さないからね、末妹!」

 

決めゼリフらしき言葉を放つが雪華綺晶の状況を見て、

 

「「……あっ。」」

 

そんな呆気に取られた声が漏れたかと思えば、

 

「お、お邪魔しました、ですぅ…」

「済まない、野暮だったね…」

 

そう言い、ゆっくり扉を閉める。

…其処から数秒も立たない内に再び扉が勢い良く開く。

 

「お、思わず身を引いてしまった、ですぅ!何でこんな事になってるですかぁ!人間っ!白状するですぅ!」

「…うん、それは僕も気になるかな。」

「えっと、普通に『綺麗だ』と…」

「みなまで言わないで下さいまし……」

 

再び雪華綺晶は顔を伏せる。頬を紅潮させながら。

非常に気まずい空気。どれだけ過ごしただろうか。

そして気を取り直して再び戦闘に入る所を見ると『ローゼンメイデン』は律儀と言うか乙女というか……そんな事を感心しつつ見ていると手元に何かを感じた。

 

ふと手を持ち上げてみると黒い羽根。

 

嫌な予感しかしない物だった。

まるで絶望を告げられ、抗えぬ人間の様なそんな感覚に陥ったのだから。




どうも、好きなガンダムはX0とウイングガンダムゼロEW、ЯeI-Rozenでございます。
さてさて、第3話を読んでくださり有難う御座います。
いやぁ、3話目からもう大興奮しながら書かせて頂きました。何、きらきーと蒼星石のダブルサンド。なにそれ最高。もう死んでもいい。(おい)
とまあ冗談は置いといて。
今回はちょっとしたネタを入れてみました。
これでローゼンメイデンと言う作品に親しみやすさを持って頂ければ幸いで御座います。
きらきーは純真です故、こんな表情してくれるんじゃないかと。そんな妄想を織り込んだ話となっております。

さてさて、次回のお話で誰が出てくるか、そんな事はもうお解りの方はいらっしゃるかと思いですがネタバレはお止め頂きますよう御願いします。

ローゼンメイデンØ、読んでて死にそうになりました。
蒼星石、尊い。きらきーも好きだけど同じくらい蒼星石尊い。此れの出筆終わったら自己満足で蒼星石とひたすらイチャイチャする小説書こうかな(適当)。

とまあこの辺で切り上げましょう。
では、第4話にてお会い致しましょう。


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第4話 〜廻る黒き羽の輪舞曲ー第1幕ー〜

黒き羽。
其れは黒い羽。不幸の手紙の様な物に近いかもしれない。
然し、此処で起こる事象は果たして不幸か、幸せか…
















黒い羽。それに基づくは不幸の具現であろうか。

そんな物を見つければとても厄介な物を感じる。

然もそれが自分の部屋であれば尚更である。

ふと、僕のそんな感情を察してか翠星石と蒼星石、雪華綺晶が一斉にこちらを見やる。そうして今迄豊かだった表情を一瞬にして固くする。そしてぼそりと

 

「黒い羽…まさか……」

「あら…あら……」

「ちっ、案外早く此処に来る見たいですねぇ。厄介極まりない、ですぅ。」

 

一同がそんな言葉を述べていると。

頬に手を感じる。小さな手だ。とても小さな手。人の物とは思えぬ程だ。解った。『ローゼンメイデン』だ。思考を回していると、

 

「くふふ…随分と喜劇を演じる木偶人形となってるわねぇ?其の侭喜劇を演じて居れば良いのにぃ。」

 

そんな言葉を掛けられ、翠星石、蒼星石が渋面を創る。雪華綺晶は物怖じしてはいないのだが。そんな反応を見てさぞ愉快そうにクスクスと嗤い声を上げる。そうして、

 

「私は『ローゼンメイデン』第1ドール、『水銀燈』よ。」

 

銀髪。特徴的なゴシックドレス。頭に拵えたヘッドドレスは銀髪と相まって唆る。紅く光る瞳はまるで紅玉の様。そして背中に生える黒き翼は優雅さを際立たせる。そんな少女は僕を見て軽い自己紹介をした後に、

 

「さぁ、私と契約をなさい。人間。貴方の力が必要なのよ、アイツを倒すためにはね?」

 

と雪華綺晶を指差し乍そう続ける。僕が即答で質問に回答しようとすると遮る様に

 

「それは駄目ですぅ!翠星石と契約するんですぅ!そうして蒼星石とも契約して貰うんですぅ!」

「あ、因みに翠星石だけでも僕だけでも構わないよ。因みに後者を選んでくれると僕的には嬉しいかな。」

「そ、蒼星石は姉不孝ですぅ…」

「あッははは!愉快じゃない!翠星石!愛しの妹に決別を迫られるなんてェ!最高の喜劇じゃないのよォ!」

 

そんな会話が起こる。

(いや、なんでこんなにも話が盛り上がるんだろ。僕の回答は最早決められてるのか?これ?でも会話の内容的には選択権が有りそうな感じだけどな…)そんな風に思い乍、ガヤガヤとしてきた事の成り行きを眺めていると雪華綺晶がプルプルと震えている。其れを見た水銀燈は、

 

「あらあらぁ、一人だけ除け者にされてお怒りかしらねぇ?末妹、いえ、雪華綺晶?」

 

と煽り立てる。其れを聞いて声を荒らげるかと思えば存外な笑顔を見せる。まるで先程の言葉を聞いて冷静になったかの様に。そして端正で、優雅な仕草で僕に近付き、気が付けば僕の頬を優しく触れていた。

 

「此の御方は私の物…。例えお姉様方が乞い縋ろうとも譲る訳には行きませんわ…。」

「雪華綺晶…」

 

僕は溜息の様に自然と彼女を、雪華綺晶の名を口で紡いでいた。雪華綺晶は優雅な笑みを浮かべている。そんな状況に僕は思わずにやけてしまった。其の行動に一番早く反応したのはなんと水銀燈だった。

 

「はァ!?アンタ、殺す宣言喰らったのにニヤけるってどう云う事よ!何、アンタはそういう変態なワケェ!?」

「あ、いや…そう言う訳じゃ無いんだけど……」

「じゃあどう云う意味よォ!?」

「その…雪華綺晶が可愛くて……つい。」

「ふあっ!?」

 

雪華綺晶が赤面を見せ乍、僕の頬から手を離す。とても乙女らしい反応だ。またもやにやけてしまう。雪華綺晶の行動全てに愛しさを感じてしまう時点で僕は重症だろう。其の行動に一番嫌気を感じて居るのは水銀燈だった。

 

「アンタ、馬鹿ねぇ!!末妹はねぇ!人間なんか自分の贄としか考えて無いのよ!そんなヤツなんかが好きになるって馬鹿じゃないの!?」

 

声を荒らげ、僕に訴える。まるで、何かを引き留める様な仕草にも取れた。然し僕の答えは変わらない。

 

「僕はどの娘とも契約はするつもりは無い。無論、雪華綺晶とも。たとえ誰でも。それは揺るがない…はず。」

「最後の言葉はなんなのだろうか。其処を、詳しく。」

「そうですぅ!詳しく、ですぅ!」

「えっと……」

 

刺々しく翠星石と蒼星石が質問して来たせいかたじろいでしまう。(やはり、現状誰に付くとかというよりも雪華綺晶と平和に暮らしたいだけだからな…。だからこそ契約なんで物騒な物、したくないだけなんだけど…。)頭の中で意見を整理し、言葉に纏めようとしていれば、

 

「まァ、今は決めないって事でしょ?それだけ解れば充分よ。深堀りの詮索は野暮ってヤツだしィ?」

 

水銀燈が二人を窘める。(…ん?なんで水銀燈が二人を窘めるんだ?最初に聞いたのは水銀燈の筈だ。続きが気になる筈…いや、単に後々聞けば良いと云う魂胆かな?)僕はそんな事を思考する。そうして水銀燈は続ける様にこう述べる。

 

「末妹、アンタがコイツを苗床の糧にしない、そして私達『ローゼンメイデン』の姉妹のボディを奪わないと約束するなら、此処の戦いは私達3人は身を引いてあげるけれど、どうするのかしらァ?」

「こらぁ!勝手に私達も含めるな、ですぅ!」

 

勝手な水銀燈の提案に、翠星石が異論の声を上げる。

 

「蒼星石も、何か言ってやるですぅ!」

「……。」

「そ、蒼星石…?」

 

姉とは違い、聡明な蒼星石は顎に手を当て、何かを考えている。…此の一節を翠星石に話したら憤慨しそうな気はするが。そうして疑問の表情を浮かべたまま、

 

「…水銀燈、君から和平の交渉とは珍しい。頭でも打ったのかい?悪い物でも真紅に食べさせられた?」

「……ふん、偶にはイイじゃない。今この状況じゃ『アリスゲーム』なんて出来ない訳だしィ?私の目的は『ローザミスティカ』なんだからァ。『アリスゲーム』を続けられない今の現状をどうにかするのが先なのよ。単に其れだけよぉ。」

 

例外?どう云う事だ?水銀燈の言葉の意味が解らない。僕は水銀燈にその事を問おうとすれば、

 

「珍しい事もある物だね。成程、節は解った。確かに君らしい答えだ。」

 

そう蒼星石は首肯してみせる。

どうやら姉の翠星石は僕と同じく頭にはてなを浮かべている。僕より状況は解っている筈なのに。

 

「さァ、末妹。答えを聞こうかしらァ!」

 

少々、表情を苦悶に染める。然し答えは決まっていたかの様に雪華綺晶は、

 

「……約束致しますわ。ただ、シュウ様に触れられる許可は頂きたく思いますわ…。」

 

と、端的に述べた。其れを聞いてか水銀燈は、愉快そうに、

 

「ええ、それ位なら問題ないわァ。でも触れる時は私達の監視付きだと言う事を忘れないで頂戴?解ったわねぇ?」

「了承致しました…。」

 

淡々と了承する雪華綺晶。状況的に提案された要求を呑むしかないと思ったのだろうか。水銀燈は相当の戦闘力があるのか?然し多勢に無勢。例え姉妹の中でもあまり強く無いと言っても業が有れば別問題なのだ。

そんな思考をしていると笑いを創り乍、

 

「あらぁ、貴方がこの要求を呑むとは思わなかったわよぉ。末妹。断られるかと思ったんだけどぉ。ま、いいわぁ。最終的な論議は姉妹全員が集まってからって事にするわぁ。それなら異論無いでしょ、翠星石。」

「むむむ…それなら文句ねぇですぅ。水銀燈のクセに物事を仕切っていて腹立たしいですけどぉ!」

「姉不孝の妹を持つと大変だからねぇ?大変な姉に変わって仕切ってるワケなのよぉ?」

「うぐっ…」

 

そんな会話をして水銀燈は再び愉快そうにケラケラ笑い声を上げる。満面の笑顔で。僕はそんな状況を見てい乍、雪華綺晶の髪を撫でていた。雪華綺晶は恥ずかしそうに顔を伏せる。(可愛い…)そんな思考が過ぎる。そんな楽しい時間を過ごせるとは思わなかった。

 

何時までも、こんな時間を過ごせれば。僕は理想論で且つ平凡な考えをしていた。穏やかな時間。其れは僕にとって一番の幸せなのだから。

 

 

 




どうも、好きなFGOキャラは加藤段蔵ちゃん。
ЯeI-Rozenです。さてさて、早々に第4話を仕上げました。物事が動き始めると思いきやまだまだ動きませんね。まあまあ、結末とそれに至る過程の物語はこんな物にしようかみたいな事はもう決めているので書くだけなのです。そう。書くだけ。やる気下さい。
にしてもアレですね。此処でのきらきーめっちゃチョロインみたく見えますね。それもまた尊いって奴なのですがね?蒼星石とサンドしてたべちゃいたい。(おい)

残り出ていない姉妹は二人ですね。
…ん?あと一人?雛苺?知らない子ですねぇ…(おい)
まあまあ、雛苺は出てるじゃないですか。ほら。…え?『そんな出し方するな?』大丈夫ですよ。雛苺も大切なキーパーソンなので後々働いて貰いますとも。

実はTwitterで友人に創作小説とかの部類は書かないのかと言われましたが、僕はそう言う物を書くのがあまり好きでは無いのであります。それとか非公式チートでとか、異世界転生とか。FGOのスカサハ師匠が別世界行ってしまったら公式チートだから無双しちゃう的なアレなのでつまらないのではと。…師匠の珍道中なら書きたくは有りますけどね?

さてさて、今回はこの位で切り上げと致します。
では、第5話の後書きにてお会い致しましょう。


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第5話〜真紅は気高く美しく〜

全ての運命が決まっている盤上で神々が全てを操っているとすればそれは世界の神託。それ即ち、義務。

それがどれだけ残酷な運命で有ろうとも。

そんな貴方は抗いますか。抗いませんか?













─────何故だろうか。

何故こんなにも世界は残酷なのだろう。

私は何も悪い事をしていないのに。

私は一人の人間を守ろうとしただけなのに。

 

何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故。

 

でも私は諦めない。諦める訳には行かない。

一人の人間の生きられる未来を勝ち取る為には何度でも。

何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも。

 

そうして私は右手の拳を強く握り締める。

残酷な運命に幾らでも抗ってやる。

『至高の少女』に成る為では無く、一人の想い人を助ける為だけに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「紅茶を出しなさい、……早く。」

「っもう!真紅ったら!流石に出会ってそんなに経ってない人間に頼む態度が其れで良いのかしら!」

「煩いわよ、金糸雀。」

 

何故僕は紅茶を用意しているか。其れは当然の事だ。

紅茶を出さねば討論の場を設けないと我儘な紅い衣装を纏ったお嬢様の様な…『真紅』の言い分だからだ。其れを抑える様に隣の若草色の髪、黄色く明るい衣装が特徴的な『金糸雀』。

 

事を説明する為に少し時間は遡るとしよう。

 

 

 

丁度4人が来て、一日が経過した昼過ぎだっただろうか。

 

 

「シュウ様…♡」

「うおっ…!?雪華綺晶!?どうした急に!?」

 

抱き着いてきた。僕の頬に雪華綺晶の手が触れる。小さく尊い手だ。僕はそんな小さな手に僕の手を添える。然し見られている。水銀燈、翠星石、蒼星石の3人に。

 

水銀燈は斯くも疎まし気な表情を浮かべ乍前髪を弄り、羽根を弄りを落ち着き無く繰り返している。

 

翠星石は気分悪そうな表情でちらちらと此方を見やり乍僕がたまに世話をする観葉植物に水遣りをしている。

 

蒼星石は不思議な物を見る様な表情で顎に手を当て雪華綺晶の動向を探っている様にも見える。

 

そんな三者三様の非常にカオスな空気感の中を突如として打ち破る。リビングの鏡から大きな鞄が2つ、ニョキニョキと生えて来るかの様に出て来たのだ。

 

それに気付き、興奮した様に駆け寄ったのは翠星石だった。

 

「ああっ!もしかして!もしかして、ですぅ!」

「やっとか。本懐は遅くしてくる運命か何かかな?」

「フン、厄介なのが増えただけじゃないのよ。」

「……。」

 

反応もまた三者三様だった。

然し雪華綺晶は凍り付いた様にテーブルへ降り立てば不気味な笑を浮かべる。様子から見て、厄介そうな感じは察した。そうしてボクも多少なりと身構えていると、

 

「突撃!お前の食費でタダ飯!かしら!」

 

そんなに快活な声が聞こえれば後ろから紅い華やかな衣装を纏った人形が勢い良くもう一人の人形の鞄を足で閉じる。

 

「勘違いを招く様な表現は止めてくれないかしら、金糸雀。」

 

そんな異論の言葉を述べながら開かせまいと開き扉を自身の体重で押さえ付ける。中からは、

 

「何が勘違いを招く事なのかしら!カナは事実しか言わないのかしら!タダ飯をお得意のお嬢様口調で強制している事実はあるのかしら!」

「此処、一生開けなくてもいいかしら?」

「真紅はもう少し姉を敬う必要が有ると思うのかしら!」

 

……なんだ、喜劇かよ。

率直な感想はそれだった。ローゼンメイデンってこんな奴らの集まりなのか…。そう思うと先が思いやられた。真面目な奴は蒼星石くらいしか居ないじゃないか、真面目にそう思った。そんな思考をしていると、

 

「私はローゼンメイデン第5ドール、『真紅』よ。」

 

優雅なお姫様の様な挨拶を掛けてくる。

意外と真面目そうな…そう思っていると、

 

「さて、紅茶を淹れなさい。」

「……は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

とまあ、こんな行である。

 

兎も角無事に鞄の外から出られた、『ローゼンメイデン第2ドール【金糸雀】(かなりあ)』は真紅の失礼の数々を咎める様に愚痴愚痴と文句を告げる。然し軽く金糸雀は耳打ちして僕に『紅茶を出さなければ話を聞くつもりは無いから出して欲しい』と言ってきた為態々紅茶を淹れている訳である。

スマホで【美味しい紅茶の淹れ方】を調べる。割かし上手くは出来たと思しき紅茶を真紅に差し出す。スマホは真紅の目線からは見えない為調べた事はバレて居ないはずだ。そんな真紅が相変わらず優雅な仕草で紅茶を啜る。目を閉じてゆっくり味わう。そして、

 

「…調べて紅茶を淹れた割には上々の味ね。初心者並ば合格点、と言った所かしら。」

 

バレていた。寧ろ見抜かれた、と言った所か。

然し上機嫌そうに紅茶を啜る。美味いのだろうか。

 

「…ジュンの淹れる紅茶より美味いわね。」

 

ぽつりと真紅は小声で呟く。聞き返そうと思った瞬間に真紅は、「何でもないわ、忘れなさい。」と僕に釘を刺した。深掘りされたくない内容の事なのだろうと僕は頷く。そして痺れを切らした様に水銀燈が、

 

「真紅、アンタの趣味が終わったのだからさっさと話し合うとしましょう。ちゃんと姉妹があつまったのだからねェ。」

「あら水銀燈、アナタが積極的になるとはどう言う風の吹き回しかしら。」

「それ、蒼星石にも言われたわよ…。説明するのは面倒臭いから蒼星石から後々勝手に聞きなさい。」

「じゃあ水銀燈のイチャコラ話を蒼星石から聞くのかしら!」

「アンタは黙ってなさい金糸雀!」

「其れじゃあボクの捏造話でも一つ。」

「捏造なんてするんじゃないわよ蒼星石…」

「は、話についていけない、ですぅ…」

「雪華綺晶、可愛い…」

「シュウ様…/////」

「アンタも黙ってなさいよ、四方木シュウ。」

「雪華綺晶、イイゾ!」

「シュウ様ったら…♡」

「黙ってなさいって言ったわよ!?」

「ハイハイ、わっかりやした。」

「随分と騒がしい物だ事。悪くは無いけれども、端的に話し合いの結論を求めましょう。」

 

硬直して不気味な笑み浮かべていた雪華綺晶は僕の一言で感情の滞りが解ける。そして逸れに逸れまくった会話を真紅が本題に立て直す。何だかんだでまともなのは真紅なのでは、と思う。蒼星石は真面目な時は真面目なのだが、悪巧みが意外と好きな質を感じるからである。

 

「…で、水銀燈。貴方から見て『アレ』はどう見えたのかしら。」

「そうねェ…やっぱりアナタの言う通りかも知れないわ、真紅。」

「そう。並ば安心出来るものでは有るけれど流石に雛苺のボディを使われた儘と言うのは些か許し難い物なのよ。」

「僕から見ても水銀燈と同意見だよ。実際、あまり此方に敵意は無いと見られるし。馬鹿な姉はそれが理解出来てないみたいだけど。」

「今さらっと蒼星石に馬鹿にされたですぅ!?」

「ククク…w良いザマじゃない…w」

「水銀燈!笑うな、ですぅ!」

「話が逸れてるかしら。翠星石、後でケツバットかしら。」

「私だけ扱いが雑過ぎな気がするですぅ!」

 

一人だけで悲鳴に近い声を上げるが、気にした風もなく会話は進む。よく分からない単語ばかりだったので此処からはあまり会話の内容を覚えて居ないのだ。然し意見が纏まったかの様に蒼星石が、

 

「それじゃあ、末妹は現状として見れば善の面と悪の面が分離した状態で、雛苺の身体を媒介としているのは前者の末妹と言う事になるのかな。」

「そうね、私の推論がまさか寸分狂わず当たって居るというのは些か疑問では有るけれどそう云う事になるわ。」

「流石、『薔薇乙女の禁書綴』(ローゼン・アカシック)を読んだだけは有るじゃないの。」

「結局は『ラプラス』の手の上で躍らされている様に見えてしまう訳なのだけれど。非常に気に食わないわ。」

「それは分かるわよ、気取り屋だからアイツを相手にするのは面倒臭いのよねェ…。」

 

…ちょいちょいわかんない単語が出てくる。

何だよ、『薔薇乙女の禁書綴』とか『ラプラス』とか。

まあ、そもそも人形が動く時点で突飛な話なのでは有るのだけれども。

思考を回らせていると金糸雀が声を上げる。

 

「そうなるとやっぱりアレかしら。前に倒した時に悪の面の雪華綺晶は『消えて無くなった』と言う解釈で正しいのかしら?」

「…何とも言えないわ。然し今現状の情報網で結論を出すならそう云う答えになって来るわね。」

「兎も角、現状を見定める必要が有るけれど、白か黒で言えば……」

「間違いなく白ね。並ば次のステップに往きましょう。」

「ちょっと待ちなさいよ。これはアタシの推論だから頭にだけ残して置いて欲しいのだけれど、もし悪の雪華綺晶が生きているとなれば、何処に居るのかしら?」

「…!まさか…」

「あら、お察しねェ、真紅。そう云う事よ。」

「でも試して見る他無いわ水銀燈。」

「…確かに真紅の言う通りだと思うよ、水銀燈。」

「カナも同意見かしら。必ずしも起こり得るとは言い切れない訳だから試して見る事しか出来ないと思うのかしら。」

「確かにねェ…でも仮の事への対処は模索して置きなさい。今頼れるのは非肉にも真紅、アンタだけなのだから。」

 

意見は纏まった様だ。

僕には何を言っているかさっぱりでは有るが、きっと何れ解るだろう。そんな思考を巡らせていると金糸雀がもぞもぞと鏡から何かを取り出そうとしている。それを手伝う様に蒼星石と翠星石は同じ作業の補佐に入る。そんな様子を見ている雪華綺晶は不気味な笑みから安堵した様な表情に変わっていた。

 

「雪華綺晶…」

「何で御座いますか、シュウ様。」

「安心したか?」

「はい…有難う御座いました。とても嬉しいですわ。」

「そっか。もし緊張したら僕を頼って欲しいかな。」

「承知致しました、今後は頼らせて頂きます。」

 

そんな他愛の無い会話をしていると、

 

「……こほん、邪魔をして悪いけれど末妹、そのボディを返して欲しい。」

「勿論代わりのボディは有るのかしら!」

 

冷静な声と快活な声が僕と雪華綺晶の会話を遮る。そして声の方に目をやれば、銀色の鞄を3人で鏡の中から取り出した後であろう状況だ。

 

「──────代わりのボディ?ローゼンメイデンのボディは6つの筈…」

「残念だけれど『ラプラス』が本来貴方のボディになる物だったボディを見つけてたのよ。此れは紛れの無い本物のローゼンメイデンのボディ。ローザミスティカも有るわ。…どうか、雛苺のボディを返して。」

 

真摯な眼差しに戸惑いを見せる雪華綺晶。その状況に一層の打開を図るべく、銀色の鞄を開く。

 

そうした時に見えた物…それは。

 

1体の人形の身体。淡いクリーム色の髪。ロングヘアが唆る。純白の動き易そうなドレス。最大の特徴的なのは右目の白薔薇の意匠。

 

そう。雪華綺晶その物だった。

そんな身体を見て、目の色を変える雪華綺晶。

 

「────────…。」

 

雪華綺晶はそのボディをまじまじと見詰める。各部品の全てを事細か且つ真剣な眼差しで。かなりの時間を要し、全てを確認し終わったそして溜息で一拍置いて、

 

「────────確かに、本物のローゼンメイデンのボディですわ。お父様は私のボディを創って下さって居たのですね…。ちゃんと【No.7th doll】と云うサインも見つけました故、……信じましょう。」

「有難う、雪華綺晶。では雛苺のボディは返してくれるのね?」

「勿論で御座います。では、早速……」

 

そうして雛苺のボディから白き荊が移動し始め、徐々に雛苺で有ろう人形の姿が顕になって行く。そして片やのボディは雪華綺晶の身体に荊がウネウネと入り込む。危ない絵面にしかみえないのだが。一同がその様子を静かに淡々と眺める。そして。荊が完璧に抜け出たと同時に雛苺の身体は力無く倒れる。そして片やの雪華綺晶のボディはむくり、と立ち上がる。其の様子を見ていれば真紅が僕の服の裾を摘んで引っ張る。小さく「雛苺の螺子を回しなさい。ほら、螺子巻きが有るでしょう?」と指図を受けた。割と手元にあったのでリモコンケースの端から金色の螺子巻きを取り出し雛苺の螺子を巻き始める。

 

カチカチカチカチカチカチ、カチン。

 

びくり、と体が跳ねる。そうして僕は雛苺の身体を机に座らせる。真紅と雪華綺晶が不安そうな目線で雛苺を見詰める。むくり、と自立し始める。そして眺めていると。

 

 

 

 

───────僕に抱き着いてきた。

唐突に、そして幼く。可愛らしく。

 

「…雛苺?大丈夫だったかしら……?」

 

真紅が感情を忍ばせながら恐る恐る雛苺に問いかける。

 

「大丈夫だよ、真紅。ヒナは、大丈夫。心配掛けてごめんなさい。」

 

僕の胸に顔を埋め乍真紅にそう声を掛ける。

 

「あの〜、ヒナイチゴサン?」

「なあに、お兄ちゃん?」

「ふぐぁっ!?…お、お兄ちゃん、だと……」

「ヒナを大切にしてくれる人はみんなお兄ちゃんでお姉ちゃんなのっ!」

「此れは此れで尊い……」

「シュウ様っ!私と言う物が有りながら…!」

「はっ!雪華綺晶!?此れは浮気では…!」

「…ねェ、喜劇に向かう此の会話は何なのかしらァ。」

「まあ、いいじゃないか。堅苦しい事ばかりでは精神が病んでしまうからね。」

 

そんな会話を眺めていた真紅が「取り敢えず。」と言葉を掛け、

 

「一先ずは現状の開闢は終わったわ。並ば次の段階に駒を勧めるとしましょう。水銀燈。」

「えェ、次のやる事をさっさと済ませましょう。有るべきローゼンメイデンの時系列に戻す為に。」

「…と言うと?」

「簡単なのかしら、蒼星石。この世界を狂わせた原因、それの特定かしら。」

「そうなると末妹が狂わせた元凶の筈では?」

「いいえ、違うわ蒼星石。雪華綺晶が此方の世界に来られたのは此処の世界に歪みが生じたからこそ。本来は雪華綺晶は存在してはならないのよ。私達が根本から消し去ったのだから。」

「…じゃあ何故此処に末妹が存在して居るんだい、真紅。末妹は紛れも無い末妹じゃないか。」

「だからこそ原因を調べる必要性があるのかしら。この世界を歪めたのと、雪華綺晶が何故存在して居るのかって言う事を。」

「その為に有るのが『薔薇乙女の禁書綴』って事だね?」

「ええ。まあ、本来の時間軸に戻れば此の『薔薇乙女の禁書綴』は消滅するわ。そもそも此の綴自体が例外なのだから。其れに此れを見られるのは私だけと言う事にも特異性を感じられるの。」

「ふむ、それじゃあその『薔薇乙女の禁書綴』は何処に有るんだい?」

「言ったでしょう蒼星石、私しか見られないと。」

「んんん???済まない、よく分からないのだが…」

「……詰まり、紅薔薇のお姉様の記憶に呑み存在して居ると言う事でしょうか。」

 

此のよく分からない会話内容に推論を告げる雪華綺晶。その考えを首肯する様にも首を縦に振り、「ええ、そう云う事よ、雪華綺晶。」と続ける。そして、

 

「詰まり頼れるのは現状真紅だけッて事をなのよ。すッごい腹だだしい限りだけれどォ。」

 

と水銀燈が皮肉を漏らす。真紅は気にした風もなく、僕に小声で「追加の紅茶を淹れて欲しいのだけれど。」と告げる。僕は早速紅茶を淹れる作業を始めながら7体のローゼンメイデンが揃う様を見ていた。とても、理想的な画なのだ。僕のユートピアとも言うべきだろう。そんなどうでもいい思考をしていれば、

 

「では今回の元凶が解るまで彼の家で匿って貰う他無い訳だね?」

「…そうなるわね。」

 

一同が気不味そうな表情で苦悶する。雪華綺晶以外では有るが。然し僕の答えは決まっている。

 

「君達の気が済む迄僕の家に居ればいいさ。目的が何にしろ、根城ってのは必要なんだろう?僕は構わないから僕のルールにある程度従ってくれるなら僕は匿うよ。」

 

その答えを告げ乍淹れたての紅茶を真紅に出す。

一同が安堵した表情に変わる。そして、

 

「では、遠慮無く匿わせて上げるわ。感謝なさい。」

「真紅さん、其れは匿われる側の言える口調じゃないですよね!?」

「ふふっ…冗談よ。有難う、シュウ。」

 

クスリ、と儚く微笑む真紅。『薔薇乙女の禁書綴』と言う物を見ているせいか、他のローゼンメイデンより大人びて見える。美しさすら感じられる。そんな真紅に見惚れていると「私ばかり見ていると雪華綺晶が嫉妬するわよ?」と真紅が紅茶を淹れ啜り乍僕を揶揄う。少々、答えに困る会話だと僕は頭を掻く。

 

此からどうなろうとローゼンメイデン達の力が必要になる筈だと今の僕は思っていた。今はどんな状況かは分からない。だが、彼女達が居れば何でも出来る気がした。

 

 

 

 

 

 

 

然し此の時の僕は、運命の残酷さを知る由も無かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも、好きなキル姫はレーヴァテインとフォルカス、ЯeI-Rozenです。
いやぁ、大変でしたよ。はい。会話パート長過ぎでしょみたいに言われるかも知れませんが此れからこんなの続きますよ。覚悟して下さいね?←(おい)
とまあグダグダと書いた第5話で御座いますが、最初の冒頭何!?みたく言われるかも知れませんが此処でネタバレするつもりは御座いません。御座いません。
そして良くも分からない会話内容で御座います。Øの単行本読んでれば尚更解るでしょうが、ローゼンメイデン恒例の行事で御座いますとも。最初良くわかんねえよコンチクショウみたいになって読むのを諦める人が多いんですよね。諦めないで。道は(殴)
まあ、此から色々と解って来るので諦めずに読んで下さると嬉しいです。
にしてもね、僕自身此を続けると思うと先が思いやられるんですよ。かったるいと言うか何というか。でも僕は皆様にきらきーの尊さを伝える為に頑張ります。はい。
最近ですね、携帯の大体のデータがぶっ飛んでくれたせいでFGO引退ですよ、はい。辛いですネ。
辛うじてゴ魔乙は残ってくれたので良かったです。きらきーと銀様失ってたまるかよ。みたいな。

とまぁ近況はこの程度にして。評価とか付けて下さい。お願いします。感想とかお気軽に書いて下さいね?僕、結構読むんで。気が向けば返信とかするんで本当に気軽に感想書いてくれると嬉しいです。アンチでなければ。
じゃあこの位にして次回の話でも書き出すと致しましょう。


では、第6話、又は感想の返信にてお会い致しましょう。


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第6話 〜廻る黒き羽の輪舞曲ー第二幕ー〜

黒。其れは気高く尚且つ優美なる厄の象徴。
果たして、黒き薔薇は何を齎すのか。












運命よりも残酷な現実が今突き刺さる。

















失敗した。失敗したのだ。またもや失敗したのだ。

またなの…。私は膝を地に付き一入の絶望感を味わう。

何度この感覚を味わった事だろう。

 

「お嬢、またもや失敗してしまったのですね?」

 

そうよ。悪い?

 

「いえいえ、そもそも、この決められた運命に抗う事こそ無謀その物です故。悪く等御座いません。ただ、わたしに出来る手助けこの程度程しか出来ぬのです。」

 

…そう。

 

「また、やり直しますか?」

 

当たり前じゃない。

 

「準備は出来ています。何時もの『扉』から始めて下さいませ。…御武運を願ってますよ。」

 

そう云うテンプレは飽きたわ。二度と言わないで頂戴。

 

「ははは、相も変わらず手厳しい事です。」

 

 

 

そう云い、私は再びやり直す為に扉を開ける。

 

 

 

 

大好きな『彼』を助けるが為だけに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…き………い……ウ………なさ………シュウ………きな…………………シュウ。

 

 

 

目覚めた。そして真紅の顔が視界にに現れる。

一瞬、ドキッとするが眠さがやはり勝った。

 

「やっと起きたのねシュウ。さ、モーニングティーを用意して頂戴。」

「今何時なんだ……?」

「朝の4時よ。」

「……寝ていいですか?」

「駄目よ。」

「ええ…。まだ寝たいんですが。」

「駄目よ。」

「寝ますね。」

「駄目よ。」

「……。」

「(べち)」

「……。」

「(ぎゅむ)」

「いててててて!?」

「はい、起きたわね。じゃあモーニングティーの用意をして頂戴。」

「……解りましたよ。」

「理解が良くて宜しい。」

 

そんなこんなで(無理矢理起こされて)目を覚ました僕は朝食の準備を始めている。料理の品が出来上がるに連れて面々が鞄から姿を現す。真紅の次に起きて来たのは雪華綺晶だった。

 

「お早う御座います、シュウ様。」

「嗚呼、お早う。雪華綺晶。」

 

雪華綺晶の頬を優しく撫でてやる。さぞ嬉しそうな表情で喜んでくれている様だ。

続いて起きて来たのは翠星石、蒼星石、金糸雀の3人だった。翠星石は僕が料理をしている行動を見遣り、

 

「むむ、気が利くですねぇ。人間。」

 

相変わらずの偉そうな口調で述べる。

 

「匿われてる人の言い分じゃないぞ、翠星石。」

「そうだよ翠星石。失礼じゃないか。礼儀ぐらいちゃんとしないとさ。」

「蒼星石が言うなら改めるですぅ。」

「あ、思い出したかしら!」

「金糸雀、何をですぅ?」

「翠星石のケツバットかしら!」

「それは忘れてて良かった奴ですぅ!?」

「金糸雀、其れは後日僕が責任を持って執行させて貰うさ。」

「蒼星石までも敵ですぅ!?」

 

そんな下らない話を聞き、自然と笑みが零れる。相も変わらない普通の日常の風景。こんな穏やかな生活を何時までも続けたい。そう思うのは僕だけではない筈だ。

そして最後に水銀燈、雛苺が起きて来た。

 

雛苺がまたもや僕に抱き着いてきた。

 

「おにいちゃん〜♡」

「う、ちょ、雛苺…」

 

僕が雛苺の扱いに困っていると真紅が制し、

 

「こら、雛苺。シュウは今料理をしているから危ないわ、此方で遊びましょう?」

 

然し雛苺は言う事を聞かず、

 

「ヒナはおにいちゃんと一緒にいたいの!」

 

と駄々を捏ねる。子供その物だなぁ、と僕は脂汗を滲ませる。何せ僕は子供の扱いが本当に苦手なのだ。困った。どうすれば良いだろうか。困り果てて居ると、

 

「い、いたい~っ!」

 

雪華綺晶が雛苺の頬をぶつ。

 

「シュウ様は私の物ですわ貴方風情がが勝手に触れられるとでも思いですか?其の様な思い上がりを考える等甚だしい程傲慢ですわね今直ぐにでも絞め殺したくも御座いますが今は痛みだけで赦して差し上げますが二度目は有りませんわ良いですわね?」

「…ひっ」

 

恐怖で引き攣った表情を浮かべる雛苺。うっすらと涙を浮かべて震えている。

それを呆れる様に水銀燈が、

 

「……雪華綺晶、流石に言い過ぎじゃないかしら。まァ、雛苺にも非が無い訳じゃないから深くは咎める事は出来ないんだけどォ。」

 

今にも雛苺が泣きそうな状況に水銀燈は庇うでも無く達観した言葉を雛苺に掛ける。……一瞬雪華綺晶が怖く感じたのだが、其れはスルーして置こう。

 

 

 

そんなこんなで料理が人数分(7名は人形なのでサイズも彼女達に合わせている料理)を拵えた。其れを見て非を唱えるかも知れないと思っていた人物とは裏腹の存在だった。因みに僕は真紅かと思っていた。

本当に非を唱えたのは、水銀燈だった。

 

「ねェ、ヤク○トは無いのかしらァ?」

 

他愛ない咎めだった。僕は噴き出しそうだったが何とか堪え、冷静に返した。

 

「ヤク○トは無いけど、マ○ーなら有るよ。」

「なら其れを頂戴。」

「了解、……好きなんだな。」

「ええ。好きよ。唯一じゃないかしら。好きな物なんて。」

「そっか。」

 

水銀燈が初めて笑顔を魅せる。普段クールな水銀燈がこう、笑顔を魅せると惹かれる物が無い訳では無い。なんと言うか、美しい、や可愛い等では無く。表現しにくいが、そんな笑顔を見ていたいと思えてしまうのだ。と、そんな事を考えていると水銀燈がニヤニヤと僕を見詰め返すのと同時に雪華綺晶からの痛い目線を感じる。そそくさと水銀燈のご所望である飲み物を出す。

 

「末妹は貴方に御執心なのだから、他の姉妹に目移りしてたらやきもちを妬かれるわよォ?」

 

水銀燈はクスクスと笑い乍僕と雪華綺晶をチラチラと見やる。さぞ愉快そうだ。

 

「兎も角、さっさと食事にしましょう。時間は限られているのだから。」

「そうねェ、時間は有限なのだしねェ。」

「僕も同感だよ。成るべく対策は早めに練って置いた方が良いからね。」

 

食べる前に少し騒がしくなる。然し直ぐに落ち着きを取り戻す。

そしてそそくさと僕達は食事を済ませる。僕は味の感想を試しに聞いてみたのだ。

 

水銀燈の感想は、

「中々だったわよォ?此からは之以上の物が食べられると良いとかは思ったわねェ。」

との事。普通に嬉しかった。

 

金糸雀の感想は、

「とても美味しかったのかしら!もう少し量はあっても良かったのかしら!美味しい料理ありがとうなのかしら!」

元気良く、満面の笑みを浮かべ乍褒めてくれた。

和んでしまう。うん。可愛い。

 

翠星石の感想は、

「ふん、馬鹿な人間にしてはまぁまぁですぅ。褒めてやらんでもないですぅ。感謝するですよぉ!」

うん、分かってた。こう言われるのは。

其の感想を聞いた蒼星石が申し訳無さそうに頭を下げてくる。其処迄畏まらなくとも良いのに。

 

そんな蒼星石の感想は

「男性なのに随分と達者な腕だと思うよ。モテそうな気もしないでもないかな?」

揶揄い口調では有るが褒めてくれたのだ。

やはり嬉しい。うん。

 

そして最大のツンデレこと真紅の感想は、

「…とても美味しかったわ。何にメインを持ってくるかは些か気にはなったけれどまさかのホットサンドとはね。紅茶との相性も抜群だったわ。主張し、且つ紅茶を引き立てる後味の良さ。素晴らしいわ。私、感動してしまったわ。前のマスターとは大違いよ。ええ。」

なんと最高の褒め言葉を貰った。圧倒的な安堵と歓びに身体が震えたのだ。解りやすく云えば、メチャクチャ嬉しい。

 

雛苺の感想は、

「とぉっても美味しかったの!シュウお兄ちゃんの料理もお兄ちゃんも大好きっ!」

うん、尊い。なんと言う妹力。可愛い。愛でたい。

 

そして雪華綺晶。

「とても美味しかったですわ。2度目とは云え、感動してしまいましたわ。やはりシュウ様は料理を作るのは御上手でしたのね。矢張り私の目は間違いではありませんでしたわ…。ええ、とてもとても感服致しました。勿論シュウ様の事はだいす(以下略)」

との事。以下略の後はあまり必要なさそうだったので省略したのだ。あまり倩々と同じ話題の長文を続けていては流石に飽きるであろう。そう思い省略したのだ。

 

 

ともあれ好評で良かった。

食器をさっさと片付け、自身の部屋に赴き気分良く僕が私服に着替えていると、

 

「お邪魔するわよォ?」

 

この声は水銀燈だ。唐突な客人に僕は

 

「唐突にどうしたんだ、水銀燈。」

「ねェ、何処かに出掛けるのかしらァ?」

「嗚呼、そうだな。念の為に食料品の買い出しでも。」

 

「────駄目よ。少し時間をずらしなさい。」

 

僕の部屋の扉を開けた真紅が会話を遮る。

怪訝な表情で僕を見つめる。とても心配してくれている様な、そんな表情だ。

 

「なんでだ?さっさと食料品とか色々買出しに行きたいんだけどさ。」

「駄目よ。【薔薇乙女の禁書綴】が示した未来が有るのよ。貴方は今から昼の13時迄家から出ないで頂戴。理由は…何れ解るわ。」

「真紅がそう言う並ばしょうがないわねェ。それと、出掛けるので有れば私の欲しい物も買ってくれないかしらァ?」

「あ、嗚呼、構わないけど…」

「決まりね。では今は朝の9時半。昼まで待っていなさい。ニュースを見れば理由は分かるから。」

「あ、えっと…解った。」

 

13時迄暇な間は割と自堕落に過ごした。

ゲームで遊んだり、読書をしたり。

 

そんなこんなでもう13時になっていた。

ゲームを止め、ニュースを見れば速報が流れていた。ニュースを見ていればそれが近場だと言うのが解った。強盗殺人事件らしい。

…!?

僕は驚いたのだ。そう。驚かざるを得ないのだ。何せ食料品等々を買いに行こうとしたスーパーでその強盗殺人事件が起きていたのだ。まさか。まさか。真紅は【薔薇乙女の禁書綴】から見た未来から之を予想して…!?

 

「…やはり起きたわね。」

 

達観する様にニュースを眺める真紅。

まるで必然事項の事柄を連ね眺める管理者の風体で。

…驚いている僕が馬鹿馬鹿しく思える程落ち着き払っていたのだ。

 

「…出掛けて良いわよ。」

「は……あ、う、うん。えっと、聞きたい事が増えたのだが…」

「そう。でも時間がないのではないのかしら?」

「…確かに。」

 

他の近場のスーパーは片道30分掛かる場所で、買う物がなければ致命傷だ。僕は真紅の咎めを受け入れ、急いで出掛ける準備をしていると水銀燈が肩に乗って来て、

 

「ねェ、急ぐのは解るけどォ…私も連れて行くって話は忘れられると困るのだけれどォ。」

「あ、嗚呼…済まない。」

「シュウ様、私も連れては貰えぬでしょうか?」

「雪華綺晶も?」

「私は構わないわよォ。」

「じゃあ、一緒に行こうか。」

「…有難う御座います。」

 

そんな会話をし、僕は二人を自分の車に案内する。アパートとは言え、割と給料がいい僕は広い部屋に住んでいるし、車もスバルのインプレッサスポーツを買える程だ。ちょいと株を手を出して儲けた結果でもあるのだけれど。

そんな事を考えている暇は無いと思い水銀燈、雪華綺晶を車に乗せる。二人は感嘆の声を漏らしていたが僕は急く様に車を走らせる。だがやはり事件の起きた道を通らねばならない。事件が発生したのだ。案の定、車の通りが規制されていた。だが案外と早く其処を通る事が出来た。そして何時もより10分遅れで目的地のスーパーに着く。二人は大きめのリュックサックに入り、僕に声が聞こえる様に調整までしてくれた。

 

然し、気になるのは水銀燈の欲しい物。

聞くべきか否かを迷っていれば食料品を買い終えてしまった。ほぼスナック菓子や保存食だったのだか。僕は意を決して水銀燈に問うた。

 

「所で水銀燈、欲しい物って何なの?」

「嗚呼…良いわよ、また今度で。」

「欲しいなら今買えばいいじゃないか。」

「今度が良いのよ。」

「……??????」

「……運命は巡るのだから。」

 

ボソリと呟く言葉の意味が解らない僕。

雪華綺晶も困惑を示している様だ。雪華綺晶も疑問を水銀燈にぶつけているがはぐらしているのだ。

そして車に荷物を積み終え、いざ帰ろうとした時に水銀燈が急に車の発進を阻害した。

 

「…今日は、此処に泊まれないかしら?」

「なんで泊まる必要が有るんだ?」

「…………泊まらないと殺すと言ったら?」

「黒薔薇の御姉様。流石に其れは許容しかねますわ。」

「何よ雪華綺晶。例えばの話よ。んで、答えは?」

「…真紅たちを置き去りには出来ない。」

「……………………そう。」

 

悲しそうに俯く水銀燈。まるで何かを止められなくて後悔している表情だ。僕自身にやりきれない気持ちが渦まく。然し真紅達に何かあっては遅いのだ。助けられるのであれば僕は助けたい。現状誰が黒幕なのか。其れすらも解らぬ状況下に置いて情報線が絶たれるのは致命的だと思ったからだ。然しなんだ?水銀燈の言葉の意味が良くわからないのだ。そう。色々な意味で。

 

「…ごめんなさい、私はまた失敗してしまうのね…ごめんなさい……」

 

俯き顔を隠し乍小さく呟くその声は震えていた。そう。隠している手の淵には涙が浮んでいる。きっと誰かを護りたいのだろう。…にしては少々辻褄が合わないのは確かなのだが誰かの為に動いている事は容易に想像出来た。そんな湿っぽい雰囲気が車内を包んだと思えば家に着いた。その時には水銀燈は泣き止んだ様ではあったが目尻が赤くなったいる。泣きじゃくった後故にだろう。

 

僕は荷物を持って自分の部屋に駆け上がり鍵を開ける。この時僕は途端に異常さを覚えた。

 

あまりにも静かなのだ。そう。異常な静寂が部屋を支配していた。玄関に荷物を下ろし様々な部屋を探し回っても何も証拠が掴めない。然し一つだけ確かな事があった。『ローゼンメイデンの待機組が誰一人居ない』事であった。その事に考えを巡らすも何も考えが浮かばない。然し水銀燈、雪華綺晶は鏡に対して身構える。

その行動の真意が何を示しているか僕には考えが至らなかったが恐らく戦闘になる事は間違いないのであろうというのは容易に考えが付く。

 

そして鏡が、水面の様に歪む。其処から顕れた存在。其れが目に入った時に驚愕に思考が埋まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────それは。紛れも無い、『真紅』だったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも、好きな艦娘は龍驤とGraf Zeppelin
ЯeI-Rozenです。
おまたせ。第6話なんだぜ。物事が遂に動き出すで有ろうお話なんだぜ。とまあここまでゆったりまったり感の有る物語を綴ってきた訳ですがこれから激動の物語を見せることでしょう。ええ。そうしますからね。
今回の悪役って誰?みたいになりますよね?まだ伏せて置きましょう。其れがイイヨネ!的なアレですとも。
ちなみに考察をして下さっていますがとても嬉しいですね。はい。アンチでなければお気軽に感想を書いて下さるととても嬉しいです。それとギリギリセーフで2週間の期限を守れましたとも。やったぜ。
それとご報告を一つ。オリジナルの物語をこのお話と共に同時進行で書き記して行きたいと思っております。どんな物語かは出てからのお楽しみという事で。

そして最近アズールレーン始めましたが良くわからないです。特にやり方。資金がどんどん飛んでいって建造出来ないですはい。

駄弁りはこの辺にしましょうかね。
では、違う物語の後書き、又は第7話にてお会い致しましょう。



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第7話 〜禁忌の果実〜

黒幕は如何様に。
黒幕とはその通りに黒を演じるとは限らない。
はてさて、今回の黒を演じるのは一体誰なのだろうか。

物語は最後まで見ないと解りませんよ?
ええ。其れが物語なのですから。
















「あらシュウ、意外と早かったじゃない。」

 

静寂を破ったのは真紅だ。悲しそうな表情でそんな出迎えをされても嬉しくは無く寧ろ哀しみを受けるばかりである。凍り付いた様に静寂が蔓延る。言葉を探し紡ぐ様に真紅が口を開いた。

 

「…お願いが有るの。」

 

何かと思えば至極普通な言葉だった。一々身構える必要は無かったと胸を撫で下ろす。其の様子を見てか真紅は続ける。

 

「私の頭を、撫でて頂戴。」

 

笑顔で、僕を安心させようと云う事が見え見えな程の引き攣った笑みだ。目尻に涙が浮かんでいるのが丸分かりだ。然し断る義理は無い。僕は優しく真紅の名を呼び乍頭を撫でてやる。嬉しそうだ。とても嬉しそうだ。然し何時もと違う感覚だ。まるで之が『最後』と思わされる様な感覚に囚われる。何故真紅は此処まで哀しむのだろうか。非常に理解し難かった。

 

「…有難う、シュウ。」

 

そう、微笑みを掛けてくる。其の表情を見て再び悲しみに襲われる前に真紅が意を決した様に、

 

「シュウ、どうか此処から逃げて頂戴。理由は話せないの…兎も角逃げて……」

 

真剣な眼差しで声を上げるが震えている。まるで何かに抗うかの如く。とても不愉快だが僕に何が出来る訳でも無いのだ。然し見捨てる訳には行かない。

 

「僕は、皆を見捨てる事はしたくない。だから理由を教えてくれ、真紅。」

 

僕がそう言うと真紅は俯く。言葉にし難いのだろうか、少しの間を置いて真紅は顔を上げる。

 

「……じゃあ教えてあげるわ。」

 

ゆっくりと僕に右手を向ける。何かが有るのかと待つ。真紅は笑顔を見せる。安堵をしようとした瞬間だった。

 

 

黒い翼がの塊が僕の視界を遮り、舞い散る。

 

「甘かったわねェ、真紅。私が察知出来て無ければシュウを殺される所だったわよォ!!」

 

水銀燈の怒号と共に赤い薔薇の花弁と黒い羽根がぶつかり合い凄まじい轟音が辺りに響く。然しこの状況になって尚僕は理解が出来ない。何故真紅が僕を攻撃してくるのか。甚だ理解できない。思考が完全に其の考え呑みに埋まる。そうして呆然と立ち尽くす僕に水銀燈が、

 

「何をやってるのよォ!早く逃げなさいよ!今の状況が解らない程お馬鹿さんなのかしらァ!」

 

怒号を飛ばしてくるが僕の身を案じてくれている事にはっと我に返る。今の真紅の狙い、其れは僕だ。然し気掛かりなのは一つ。

 

「真紅ッ!何故僕を狙うんだッ!教えてくれ!」

 

ぽつりと、真紅が告げる。先程とはまるで別人の様に。

 

「貴方の存在は【禁断の蜜】(パライソ)に必要不可欠なのよ。だから、貴方を捕らえる必要があるの。だから、『殺す』。」

 

其れを聞いた雪華綺晶はすかさず真紅の身体を白荊で拘束する。憎々しく真紅を睨み付け乍。

 

「殺す等、赦しは致しませんわ。シュウ様は命に替えても守る。私に、そうして下さった様に。」

 

そして雪華綺晶は思い付いた様に水銀燈に、

 

「黒薔薇のお姉様、どうかシュウ様と共に行って下さいまし。恐らく現状としてシュウ様を支えられるのは黒薔薇のお姉様の方が何かと都合が良いですので。」

「待ってくれッ雪華綺晶!」

 

僕が制止を掛ける。

 

「どうされました…?」

「雪華綺晶はどうするんだよッ!」

「私はこう見えて逃げるのは得意ですから、シュウ様の元に舞い戻りますわ。私を信じて下さいまし。」

 

強い決意に何も言えなくなる。奥歯を噛み締め乍僕は、

 

「…分かった。必ず戻って来てくれ。約束だ。」

「ええ、勿論ですわ。」

 

其れを聞いてか安心した様に微笑み掛けてくる雪華綺晶。水銀燈は焦り急く様に、

 

「早くしなさいシュウ!時間が無いのよ!」

「あ、嗚呼!」

 

僕は半ば反射的にそう答えていた。そして急いで駆け出した。久し振りに走ったせいで直ぐに息切れしてしまう。車に辿り着けば落ち着く暇も無くエンジンを掛け、何処か遠くへ走る。

 

「雪華綺晶…ッ。」

 

無事で居てくれ。只管にそう願うばかりであった。僕は無力感に囚われていた。だが雪華綺晶は言った。『信じてくれ』と。並ば信じるしかない。僕にはそれしか出来ないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから何日経っただろうか。

解らないというのは嘘になるが感覚的な問題だ。水銀燈はあれから憶測に全神経を注いでいる所為か毎日疲れ果てて眠っているのだ。とても申し訳無い気持ちに苛まれるが今僕のやるべき事は仕事をしてどうにか食いつなぐ事だけだった。

その為会社(中小企業のデスクワークで会計事務所が大きくなった様な会社だが)には毎日働きに出る。辛うじて車内に置きっぱなしだったデスクワーク用のノートパソコンで株を毎日覗く様にもなった。

兎も角生きる事を再前提として今は行動しているのだ。真紅に見付かる訳には行かないが、まずは金が無ければ何も買えないし暮らしても行けない。故に大胆だが会社には出向いている訳なのだ。

そして今日も仕事終わり。10月23日、18時15分を指している。水銀燈の提案でミラーを全て取り外し、駐車は全てカーナビ頼りだ。スマートアシスト、こんな時に役に立つとは。感慨に耽り乍企業の月極駐車場で水銀燈と二人の空間を過ごす。

 

「なぁ、水銀燈。」

「何かしらァ?今私はとぉっても忙がしいのだけれどォ。」

「ヤク〇ト買いに行こうか。」

「行くわァ。」

 

即答だった。

 

「所で黒幕に付いてはどうだい?」

 

近くのスーパー目掛けて車を走らせ乍、水銀燈に核心を迫る問いを掛けてみた。

 

「そうねェ、まだ解らずって所かしら。でも現状として断定出来る事は真紅は敵で末妹の行方も不明って所かしらァ?」

 

つまり進捗はしていない訳だ。僕はそう解釈しようとした時に水銀燈は「でもォ、」と続けた。

 

「でもねェ、気掛かりな事が一つ有るのよォ。」

「気掛かりな事?」

「えェ、そうなのよ。」

「と言うと?」

「何故真紅は私に対して『ラプラス』との干渉を阻害して来ないのか、なのよォ。一番の情報網を絶って仕舞えば私達はてんてこ舞いにされてバッドエンドに出来ると云うのにねェ…?」

「済まない水銀燈、『ラプラス』って誰だよ?」

 

僕が話の内容に理解が出来ず『ラプラス』なる人物に問い掛ける僕。水銀燈は反射的に僕を叱責しようとしたらしいが思い留まり、30秒程思考した後に、

 

「嗚呼、確か説明してなかったわねェ。『ラプラス』は世界の管理者且つ、ローゼンメイデンのアリスゲームに対しての管理者でも有るのよ。でもねェ、諄い会話回しだから毎回疲れるのよ。でも今の私達には唯一無二の情報源。だからこそ断てば私はもう終わりなのよ。でも何故その情報源からのバイパスを絶つ事をしないのかが疑問なの。理解出来たァ?」

「嗚呼。詰まりはその『ラプラス』は面倒臭い性格で出来れば関わりたくはないが今の状況下ではそんな駄々は捏ねられない。けれど何故真紅がその情報を絶つ事をしないのかが疑問なんだろ?」

「そうそう。」

 

よく出来ましたと言わんばかりに僕の頭を撫でる。心地好くは有るが少し思い至った考えがある為、

 

「僕の意見を述べていいか?」

 

水銀燈にそう問うた。

 

「えェ、良いわよ。憶測に過ぎなくとも現状としてはその考えを淘汰するには勿体無いもの。」

「そうか。じゃあ先ず、真紅達の行動についてだけど恐らくは僕の部屋からは動かないだろうさ。」

「何故そう言い切れるのよォ?」

「言い切れるとかじゃなくて、単なる憶測の話しさ。んで話を続けると彼方には【薔薇乙女の禁書綴】が有るんだろ?なら俺達の行動は読まれている。そうは思わないか?」

「…確かに。其れに対抗する力も無い訳で、手詰まり状態なワケねェ?」

「だからどうせ向かって来るだろうと考えているという事。それに対して僕達が出来る事、其れは現状打破なんだ。特に雪華綺晶が必要不可欠。」

「そうねェ、末妹が何処に居るか解らないというのは困るし。」

「そして2つ聞きたい事が有る。」

「何かしらァ?」

「まずは真紅が言っていた【禁断の蜜】、アレについては解るか?」

「…それについてはラプラスと共にサーチ中なのよ。」

「そっか。それじゃあ水銀燈、君はもしかしてだけどこの事象を経験してはいないかい?」

「はァ!?頭おかしいんじゃない!?そんなんだったらもっと良い状況なってるでしょ!?」

 

確かにそうだ。凄く怒らせた様なので謝るとしよう。

 

「えっと、その、ゴメン…」

「……ぷっ。」

「は?」

「ぷふふふふふふッ!」

「えっと水銀燈サン?」

「…………ふぅ、笑わせて貰ったわ。でシュウ。貴方は何で私が何度もこれを経験していると思ったのか、聞いて良いかしらァ?」

 

水銀燈がさぞ愉快そうに笑い飛ばした後に真面目な口調で僕に事の内容を問い掛けて来た。

 

「だってアレだよ。あの真紅に対して咄嗟に対応出来たのは君だけだった。雪華綺晶も僕を守ってくれ様としたけれど君が早かった。まるで読めたかの様に。其れに…」

「其れに?」

 

僕の繋ぎ言葉に相槌を打つ様に水銀燈が問いを僕に向ける。

 

「君の『運命は巡る』、という発言と『また失ってしまう』。この二つに気がかりを覚えてね。もしかしたらと思ったんだ。突飛なはなしだが『ラプラス』が管理者ならきっと失敗したら又何処かのターニングポイントに戻ってやり直しての繰り返し…って事になるのじゃないかと思ってね。」

「…ふ、まさか其処迄考えが巡るなんて頭がおかしくなったのォ?」

「そうかもな。」

「そうねェ。もし貴方が『ラプラス』に逢えたら事の全てを話して上げるわよ。」

 

意地悪く微笑む水銀燈。

 

「なら、逢う為に生きないとな。」

「そうねェ。生きてみなさい、人間サマ?」

「言ったな?」

「ふふふふふふ!!良いわねェ、気概の有る人間って!私は好きよォ!」

 

高らかにケラケラと笑う水銀燈。嘲笑われている様にも感じられるが寧ろ躍起になってくる。

 

そんなこんなでスーパーで水銀燈御用達のヤク〇トを購入(本当にヤク〇トだけしか買わなかった)し、車内でとても心地好く飲み干す水銀燈。その仕草が可愛く見える。そして頑張っている水銀燈を半ば自然に撫でていた。一瞬驚いた表情になるが僕を嘲笑うかの様な表情を浮べ、

 

「もし、末妹が今の状況を見たら嫉妬間違い無しねェ?」

 

と言いクスクスと笑う。確かに前、僕に対する愛が怖く感じたのだが其れは其れで良いかもしれないという僕が居る。嫉妬してくれる程僕を愛してくれているなんて嬉しい事此の上無いじゃないか。そうしてニヤニヤしていると僕を見た水銀燈は馬鹿を見る様な目線で呆れている様だ。

 

僕は早々にスーパーを後にし、勤めている会社の月極駐車場に戻って来る。其処からは雪華綺晶が帰って来てくれる迄待つだけの作業だ。ラジオやカーナビがあるので待つには困りはしない。どうか。どうか雪華綺晶。帰って来てくれ。最近は其れしか寝る前に考える事が無い。

そして僕は眼下を暗闇に満たし、眠りに就く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…感覚だ。頬に小さい手の感覚だ。水銀燈か?ん?唇に何か触れている。何だ?気にはなるが然し眠い。目を開けるのが億劫だ。もう少し寝たい。

 

愚図る様に唸ると僕は寝返りを打つ。唇に生温かい感覚。寝られない。思い切って目を開ける。辺りを見やるが異変を感じない。但し僕の眼下以外の話では有るのだが。見覚えのある。先ずは抱き締めてやるべきなのだが、其れよりも今されている事にフリーズする僕。僕の唇を丹念且つ丁寧に舌でなぞる人形。勿論お察し。雪華綺晶…かと思ったのだが違った。まさかの蒼星石だ。

 

「やぁ、おはようシュウ君。よく眠れたかい?」

「えっと、蒼星石……?」

「ふふ、驚いた?こう言うのは末妹の方が似合うのだろうけど、たまには僕も良いだろう?」

 

何時も通りの揶揄い口調の蒼星石。いつも通りだ。

 

「蒼星石、翠星石は?」

「馬鹿な姉はまだお休み中だよ。何せまだ朝の4時だからね。」

「そうか。にしては蒼星石、早起きだな?」

「正しくは君を探してたんだよ、シュウ君。Nのフィールドに囚われて何とか抜け出したら、皆はバラバラの所に飛ばされてって奴さ。厄介極まりないよね、真紅もそういう事に小細工を施すなんてさ。」

「そう、だな。現状、俺もかなり困ってる。下手に外を出歩けないってのは本当に困るかな。」

「そうだよね。いきなり僕達を囚えるとか対応に困ったよ。何か企んでるに違いないよね。」

 

そして会話を続けようとした瞬間だった。

 

「シュウ!動かないで頂戴ッ!!」

 

その怒号と共に蒼星石が黒い羽根に包まれ、その流れに逆らえず車のフロントガラスにぶつかる。苦痛に顔を歪ませた蒼星石が水銀燈に対してさぞ嫌悪感を抱き乍

 

「…痛いなぁ、全く。あともう少しで【禁断の蜜】の糧を手に入れられたのに。そうしたら僕が一番乗りだったのになぁ。」

 

と言い、胸を摩る。手には金色の鋏が握られている。僕は咄嗟に車内から駆け出る。

 

「外に逃げられると困るんだけどなぁ?」

 

凄まじい速さで追い掛けてくる蒼星石。然し其れを阻害する水銀燈。

 

「思惑通りにはさせないわよォ!!」

 

僕はその隙に会社の入口カウンターの物陰に隠れる。

外では轟音と共に凄まじい戦闘が起きているに違い無い。僕は気配を消す様に息を潜める。

其処から何分か後に突如静寂が顕われる。

……扉が開いた。徐々心臓の鼓動が激しくなる。一入の恐怖が身震いを起こす。だが足音は遠のいた。と同時に激しい鼓動が収まっていく。そして入口から出た。水銀燈が倒れている。僕は絶望に思考が埋まり、声にならぬ叫び声を上げてしまった。水銀燈の身体は左腕、右足を失っていたのだから。

 

「水銀燈ッ…!!」

「…お馬鹿さん…ねェ……さっさと…逃げれば、良かった…のに……全く…本当に、お馬鹿…さん……」

 

苦しそうに言葉を紡ぐ水銀燈を見て僕は怒りと悲しみに身が震える。悲しみに囚われてしまう自身の心を宥める様に水銀燈の身体を精一杯抱き締める。

 

「私は……いいから、ァ…早く……逃げ………て……」

 

だが僕は手負いの水銀燈を抱き締め乍自分の車に向かって走る。見捨てられるものか。僕は意固地になるも車に向かって走る。

 

……胸が熱い。何故か気になり僕は自分の胸部を見やる。赤い?何故僕の……。そこまで考えた瞬間、言葉に成らぬ痛みが僕を襲った。深々と突き刺さった金色の鋏。

 

痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。

 

思考がその言葉で埋め尽くされた。堪らずその場に蹲る僕。その時胸に当てた手を見やると赤黒い血に染まっていた。抱き抱えていた水銀燈の服も血染めになっていた。

 

「悲しいね。人形としての命を賭して守った人が目の前で殺される様を見るのはさ?でも僕は【禁断の蜜】を手に入れる為には厭わないさ。ふふふふふふ……」

 

そう云い痛みを味合わせるかの如く僕に突き刺さった鋏をゆっくりと引き抜く。僕は壮絶な痛みに叫び声狂う事を抑える様に全身に力を込め、太腿を力一杯抓る。蒼星石が鋏を抜き終えたと同時に力を込め血だらけの身体で覚束無い足取りで車へ向かう。死んでたまるものか。死んでたまるものか。

 

「悲しいよ、僕はとっても悲しいよ。死ぬと解って居るのに受け容れられない君を見ていると悲しい。だからさ?」

 

然し僕は歩き続ける。あともう少しで辿り着く。生きるんだ。生きて、雪華綺晶に…!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────────だから、楽にしてあげるよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その声が聞こえてから、プツリと僕の意識が途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも、好きなモンストキャラはルシファー、
ЯeI-Rozenです。

いやぁ、アレですよ。残酷ですね。運命って残酷ですよね。僕もよく思いますよ。特に10連ガチャで最高レアが一切来ない時とか。どうしようも無く「ん゙ん゙ん゙ん゙ん゙ん゛ん゙ん゙ん゙ん゙ん゙ん゙ん゙ん゙ん゙ん゙ん゙ん゙ん゙ん゙ん゙ん゙ん゙ん゙wwwwwwwwwwww」みたいになります。
とまあ超スピードで仕上げた第7話でございます。どうだったでしょうか?お気に召して下さったのなら幸いです。誤字脱字は極力気をつけましたので気付き次第改定して行くつもりです。最近更新し過ぎじゃね?とか思って下さるのでしょうけど僕は大丈夫です。大丈夫です。
幾らかは疲れますけどでも小説書いてる時が一番楽しいので休めとか言われると傷つきますね、はい。

さて今回はこれにて。
では、また新しいお話の後書き、又は感想の返信にてお会い致しましょう。


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第8話 〜虚無たる混沌の円舞曲〜

一重に味わう苦しみ。希望も潰えるこの残酷な世界。






歯車に噛み殺される運命だとしても、






それでも抗うのは、何故なのだろうか。









「……駄目だったわ。」

 

俯きがちに私はラプラスに告げる。

 

「成程、つまりその結果を見るに敵は複数であると。」

「そうなるわねェ、悔しいけれど。」

 

私は奥歯を噛み締め、後悔の感情が顕れ出る。

その表情を見てか、雪華綺晶は柔らかだが冷静な口調で

 

「黒薔薇のお姉様、もしかしたらですが恐らく敵は姉妹を『あの時刻』で全員を操っている可能性も充分に有る事を判断材料として残しておくのも。」

 

確かに1つの定説としては充分な時間だと思える。

 

「じゃあ詰まり、敵は姉妹を操れる程の存在と言えるのね?」

 

「左様に御座います。そして『禁忌の蜜』は恐らく…」

 

「厄介極まりない。此れ程とは。」

 

敵の用意周到さ、各々がこの牙城を崩すのには何度もやり直さねばならないだろうと改めて覚悟を決める。

 

「……では、改めて過去の変革をお願い致します。」

 

ラプラスが意を決した様に告げ、真上に漂うドアの扉がひとりでに開く。

 

 

 

必ず彼を、シュウを助ける。雪華綺晶と私は一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

やぁ、お前さん。どうして泣いているんだい?

 

 

 

 

おじさん、だって、私の姉妹が、私を置いてきぼりにしたの。義理の姉妹? だから私たちの妹じゃないの、って。

 

 

 

 

でも、義理でも姉妹なんだろう?

 

 

 

 

 

お姉様方は認めてくれないの。私は不完全だからって。

 

 

 

 

 

じゃあ、お前さんはそんなお姉様方は好きかい?

 

 

 

 

 

私は、お姉様方の事は....

 

 

 

 

 

 

 

 

『大っ嫌い!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

 

 

目が覚めた、と言うよりは起こされた。

 

「シュウ、起きなさい。朝食の用意をなさい。」

 

真紅にそう言われて起こされたのだ。

だがまだ時刻は朝の4時。不貞寝に入ろうとすると真紅は僕の頬を抓る。痛みに耐えていると呆れた様に真紅は溜息を漏らし往復ビンタを僕にお見舞いしたのだ。

流石に堪えかねて飛び起きると真紅は、

 

「さ、シュウ。朝食の用意をしなさい。次に不貞寝するのなら『力』を使うわよ。」

 

と半ば脅し文句で叩き起されたのだった。

 

「……分かったよ、真紅。」

 

欠伸混じりの声で真紅にそう告げると、

 

「解れば宜しい。」

 

と短く述べられた。

 

 

溜息を吐き乍、ベッドから出る。そんなやり取りに僕は何処と無く、違和感を覚えたのだ。

最初は気の所為だと思い、朝食を用意した。

 

───────だが、違和感は募るばかりだった。

 

今日、用意した朝食のラインナップをつい昨日の朝食に作った様な、そんなデジャヴを強く感じるのだ。

だが昨日の朝には真紅と金糸雀、雛苺は僕の家には居なかった。寧ろ昼頃に来たのだからそんなデジャヴを感じるのはおかしな話だ。まるで同じ時間を繰り返してる様な違和感……

 

「シュウ様、御顔の色が宜しく有りません…大丈夫ですか?」

 

と不安気な表情と声音で僕に問い掛けてくる雪華綺晶。

彼女に心配されるのは僕にとって嬉しい事だ。

 

「嗚呼、大丈夫だよ。心配してくれて有難う、雪華綺晶。」

 

そう僕は告げ、優しく雪華綺晶の頭を撫でる。

満更でもない表情で微笑む雪華綺晶に、僕の硬かった表情も自然と綻んでいた。そのまま時に流される様に彼女の髪に触れる、其れを嬉しそうに彼女も享受していた。

 

 

「...こほん。」

 

「!? 真紅!? 居たのか!?」

 

「ええ。先程から。イチャつく前にやる事はごまんと有るのだけれど。」

 

そんな事を真紅が告げると雪華綺晶は恥ずかしさで顔を真っ赤にして直ぐに顔を手で覆う。僕自身も恥ずかしいが、

 

「居たならもっと前に声を掛けてくれても...」

 

「あら、他人様の恋慕に声を挟む程、私は無粋では無くてよ。認識を改めなさい。」

 

「えっと、その...ごめん。」

 

「ごめんなさい、でしょう?」

 

「....ごめんなさい。」

 

「宜しい。では本題に入ろうかしら。」

 

再び咳払いをした後に真紅は告げる。

 

「これを見て頂戴。」

 

と、TVの画面を点けると近所のスーパーで起きた強盗殺人事件の緊急ニュースが流れている。こんな事も有るのだと戦々恐々として...

 

「....ん????」

 

「どうしたの、シュウ。」

 

「これって、昨日もやらなかったか?」

 

其れを聞いて真紅は 「はぁ...」と深い溜息。

 

「何を言ってるの。緊急のニュースなのだから今日起きた事よ。頭でもおかしくなったの?」

 

「いや、だって...」

 

「兎も角。私はこれを予想していたのよ。」

 

そう。真紅はこの強盗殺人事件を昨日の時点で発生する場所、正確な時間まで言い当てていた。

 

「これを予言出来たのはこの【薔薇乙女の禁書綴】(ローゼン・アカシック)のお陰よ。之はローゼンメイデンが関わる総ての世界の記録を過去、未来共に1000年単位で記録する優れ物。故にこの記録に記された事は必ず起きる。寸分の狂いもなく、ね。」

 

と、説明をしてくれた。だが。

 

「其れは確かに凄いんだけどさ、朝起きた時から何だか同じ日を過ごした事がある気がしてならないんだけど...」

 

僕は朝から感じる謎の違和感を口にすると真紅は何度も思考したのだろう。目尻や眉尻を上げて深く思考する。そして腑に落ちはしなかったのだろう、然し、

 

「...ふむ。気の所為、と切り捨てるには惜しい情報ね。」

 

「然り、ですわ。赤薔薇のお姉様。」

 

雪華綺晶がすかさず口を挟む。

 

「...雪華綺晶、貴方、何か知っているの?」

 

「詳しくは申し上げられませんが、シュウ様の言葉は真実ですわ。この時は輪廻し続けている。在る時間を起点に。」

 

「...【薔薇乙女の禁書綴】にはそんな事、記されていないのだけれど。」

 

「では赤薔薇のお姉様、不躾乍、1つ質問を。」

 

「何かしら。」

 

「その【薔薇乙女の禁書綴】は、何方から受け取ったのですか?」

 

「それはラプラスから...」

 

真紅はそこまで言葉を紡いで、何か違和感を感じていた。

 

「...本当に【薔薇乙女の禁書綴】をラプラスから受け取ったのかしら、記憶が曖昧だわ。」

 

「そう。其所ですわ。そんなに大切な物並ば、記憶が曖昧になる筈が無いのですから。」

 

「確かにそうね。では【薔薇乙女の禁書綴】は何処で...?」

 

「其れは私にも分かりかねます。ですが一つ、私から提言させて下さいませ。」

 

続け様に雪華綺晶は告げる。

 

「本物の【薔薇乙女の禁書綴】は、黒薔薇のお姉様がお持ちですわ。はてさて、赤薔薇のお姉様がお持ちの【薔薇乙女の禁書綴】は一体何物なのでしょう...?」

 

そこまで聞いて真紅は何かに感付き、焦りを表した表情で

 

「シュウ!」

 

真紅が珍しく怒号に似た声を上げて僕を呼ぶ。

 

「【薔薇乙女の禁書綴】を破壊するわ!燃やす物を持って来なさい!」

 

その気迫に僕は急いでライターを取りに行って、ベランダで【薔薇乙女の禁書綴】を燃やした。燃え盛る本の炎をぼうと見詰める。あの本は見た目も材質も唯の本にしか見えなかったが、あの真紅の焦り様は只事ではなかったのだ。でなければ真紅があんなに焦る筈が無い。

 

「雪華綺晶、聞きたい事が有るのだけれど。」

 

「はい、何なりと。」

 

雪華綺晶の声は先程の初心な反応をしていた娘とは思えない程に冷静で、総てを見据える様な冷たさを感じた。

 

「貴方、何時から感付いていたの?何故それを共有してくれなかったの?」

 

「申し訳ありません。ですが【黒幕】が赤薔薇のお姉様の可能性も有りました故、不要に情報を開示すべきでないと思いまして。」

 

「確かにそうね。でも、開示するに至った理由は?」

 

雪華綺晶は静かに言葉を紡ぎ進めた。

 

「赤薔薇のお姉様は、今でも自身をお疑いでは有りませんか。其れが【黒幕】たらしめぬ確たる証拠に御座います。」

 

「...見抜かれていたのね。」

 

真紅は、雪華綺晶に本質を見抜かれて、少しだけ不得手を取った事が不満だったのだろう。そんな声音をしていた。然し、その考えは早々に払拭し、

 

「で、その様子だとラプラスはまだ【黒幕】を見つけられていないのね?」

 

「はい。ですが何れ、【黒幕】が此方にコンタクトを取る必要が必ず出てきます。その可能性に辿り着く為に今はラプラスの魔、黒薔薇のお姉様、そして私は試行錯誤している、という状況になりますわ。」

 

「...思った以上に巧妙に仕組まれた罠がそこら中に張り巡らされているのね。」

 

様々な話を重ね、真紅と雪華綺晶は互いに情報交換をしている。現在の進行状況から何故にも謎解きを解かされている気分だと嫌味を連ね乍に。

 

「あのさ、ちょっといいかな。」

 

僕が口を挟むと雪華綺晶は朗らかに微笑みを返し乍、

 

「はい、何かご質問でしょうか。シュウ様。」

 

「さっき、試行錯誤している、って言ってたよな。」

 

「はい、確かにそう申し上げました。」

 

「って事はこの日も繰り返しているって事だよな。」

 

「はい。」

 

「それってこの出来事も【薔薇乙女の禁書綴】に記されてるんじゃないか?」

 

「本物の【薔薇乙女の禁書綴】は斯様に万能では無いのです。」

 

「え?どういう事?」

 

「簡単に説明しますと本物の【薔薇乙女の禁書綴】は、運命の選択を明確化してくれるだけのお助けアイテムに近しい存在、ですわ。先程の偽物の【薔薇乙女の禁書綴】とは違い、過去も未来も予言してくれる、そんな得物では無いという事です。」

 

「...でも、偽物の予言は確かに起こる事ではあったんだろ?」

 

「はい、あくまでも赤薔薇のお姉様を騙す為に。」

 

そう告げる雪華綺晶の横で真紅は顔を顰めた。普段は気分の悪そうな顔をしないが、余程癪に障ったのだろう。

 

「私を信用させて、何をしようと言うのかしら。何か利点でも無い限り、そんな事はしないと思うのだけれど。」

 

1人考え込む真紅に少し、雪華綺晶は思案してから言葉を選ぶ様に告げた

 

「“総ての姉妹を操り、シュウ様の宿す【禁忌の蜜】を殺し、手に入れる”と云う事が目的の一つとは存じています。」

 

真紅は押し黙って何度も思考する。だが、その【禁忌の蜜】と云う単語には聞き慣れはしていなかったのだろう思案する度に表情が澱んでいく。そうして耐えきれなかった様に雪華綺晶に聞き返した。

 

「...【禁忌の蜜】?」

 

「はい。黒幕に操られた時に姉妹が宣うていました。然してその詳しい意味についてはラプラスに調べさせている途中に御座います。」

 

「【禁忌の蜜】...またよく分からない物が出てきたわね...」

 

真紅の表情が困惑に淀む。...待て、今、僕にその【禁忌の蜜】が宿ってるとか言ってなかったか!?

 

「な、なぁ雪華綺晶、今その【禁忌の蜜】は僕が持ってるとか言ってなかったっけ...?」

 

「はい、左様に御座います。」

 

...聞き間違いでは無かった。じゃあ黒幕の目的は確実に僕じゃないか。僕を守る為に雪華綺晶や水銀燈は思案をしてくれたのか。なんと言うか、感謝をしないとな。

 

「その、僕を守ってくれてるなんて嬉しいよ、ありがとう。」

 

素直な言葉を告げると最初は呆けた顔をしていた雪華綺晶だったが、理解した様に微笑んだ。

 

「雪華綺晶、また一つ、聞きたい事が有るのだけれど。」

 

「はい、何で御座いましょうか。」

 

「先の偽物の【薔薇乙女の禁忌綴】は、予言の内容が変わった、なんて事はあるのかしら。」

 

真紅は物事を見据える能力が高く、何時も冷静だ。そんな彼女は精神的に疲れないか不安だ。先程の騙されたと云う事は相当ショックな筈なのに...

 

「そうですね、多少なりと変わる事象は有りました。」

 

「成程、では、何かしらのトリガーが有れば、その内容は変わっていたという事かしら。」

 

「そうですね、予言の行動に背けば変わります。しかも、事細かに。まるで運命の総てを知り得る様に、です。」

 

「なら、偽物を破壊する事も予言されている事だったのかしら。」

 

「恐らくは...」

 

雪華綺晶が悔しそうに口を噤む。まだ、黒幕の尻尾すら掴めていないのだ、悔しがるのは当然か。

 

「もし、仮にその予言が誰かの記憶なら、私を騙せるのも筋が通せると言うものだけれど。どうなのかしら。」

 

真紅は、表情は不愉快極まりないと言った様子だが、語り出る言葉は至極冷静だった。

 

「そうとなればさっきの偽物は、多数にある運命を観測した誰かの記憶を予言として写し出してるって事...なのかな?」

 

僕が口を挟むと雪華綺晶は最悪の意味を口にする。

 

「その可能性は十二分に有り得ますわ。その記憶は恐らく、【黒幕】の記憶の可能性が大いに。」

 

段々、話が大きくなっていく。【黒幕】とは誰で、どんな目的を以て、こんな時間を何度も繰り返し、僕の命を狙っているのだろうか。まるで意味がわからない。...待て、何で同じ時間を繰り返す必要があるんだ?

 

「待ってくれ、そうなると黒幕ってのは僕を何度も殺す必要があるんだ?【禁忌の蜜】ってのは一つじゃ事足りないのか?」

 

「確かにそうね。1回で済むならそんな回りくどいやり口をしなくても良い物ね。その考えはお手柄よ、シュウ。」

 

真紅が微笑んで僕の手を握る。張り詰めていた緊張が解けた様に微笑んだ笑顔は素敵だった。

 

「確かにそうですわ。何故に何度もシュウ様を殺さねばならないのか。其れを知らねばなりませんね。」

 

雪華綺晶は腕を組んで思考している。何かまだ気になる事が有る様だ。だが決して口にはせず、考えるだけに留めている。先程からずっとそんな調子だ。そんな態度を見た真紅が、幾許かの時間の後に痺れを切らして口を開いた。

 

「雪華綺晶、話したい事が有るなら早く告げなさいな。情報交換をするのは現状では必要不可欠な事よ。」

 

「...此処では、話しにくい事が多々有りまして。」

 

「何よ、場所なら変えれば...」

 

そこまで真紅が言葉を紡ぐとドアが勢い良く開く音で会話が遮られた。と、同時に凄まじい勢いで水銀燈が吹っ飛んできた。水銀燈は辛うじて置いてあったぬいぐるみに吹っ飛んだのでダメージは無さげだ。

 

「真紅ッ!雪華綺晶ッ! 第0世界に逃げるわよッ!前の時より“アレ”が早くなってるわよッ!」

 

水銀燈が直ぐに体制を立て直すと、すかさず声を荒げて退却を命ずる。真紅は何が起きたか理解が出来ていない様子だ。無論僕も理解出来てない。

 

「ちょっと、水銀燈、何をそんなに焦って...」

 

「承知致しましたわ、黒薔薇のお姉様。」

 

「ちょ、雪華綺晶ッ、なにをしてッ...きゃぁッ!?」

 

「な、な、なにこれ!?」

 

「今は、御容赦を...ッ!」

 

そうして瞬く間に白い茨に引っ張られよく分からないまま鏡の世界に引き摺り込まれた。そして今、重力に引っ張られて落下している。

 

「お手柄よ、末妹。そのまま第0世界へ飛びなさい!」

 

「左様に御座いますわ、黒薔薇のお姉様!」

 

雪華綺晶が真後ろに手を翳すと、白い茨がドアを形成し、そのドアが開く。真っ黒な所に続いているが大丈夫なのか!?...いや、雪華綺晶がやっているのだから信用しよう。取って食われるのなら本望だ...ッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

...そうしてどれくらいの時間がたったのだろう。

一段落しては各々落ち着くまでは終始無言だった。

僕の決意は何だったのだろう。取って食われる訳では無かった、恥ずかしい。雪華綺晶がそんな事をする子では無いと解ってたのに、信用出来なかった僕が恥ずかしい。

 

「おや、おやおやおや。皆様お揃いで御座いますねぇ。」

 

「え、誰...」

 

様々な思考をしていたが故に、目の前に現れた兎頭の男には反射的にそんな風に呟いてしまった。それを聞くと兎頭の紳士は大仰にリアクションを取ってきた。

 

「おお!悲しいですなぁ...!前の世界では共に趣味趣向を語らった仲では有りませんか!」

 

「そんな事してないじゃない、事実を捻じ曲げる癖は直しなさいジャンク。」

 

すかさず水銀燈が毒を以て突っ込む辺り、まともな扱いはされていないのだろう。

 

「おやおや、そうでしたかな?さてさて、では再び自己紹介をば。」

 

しらばっくれて毒舌を受け流すと綺麗な所作で僕に向き直って自己紹介を始めた。

 

「私の名はラプラスの魔。世界を観測し、管理する者に御座います。」

 

そうして紳士的な様相でお辞儀をする。

 

「あ、丁寧にどうも...」

 

としか言えなかった。相手は僕を知ってるし改めて自己紹介しても意味無いからどうしろってんだこれ...

 

「嗚呼、大丈夫ですとも。私は貴方様を知っていますので自己紹介は省いて下さって結構。」

 

節々は礼儀正しい。悪い相手では無さそうだ。

 

「で、貴方。」

 

水銀燈が誰よりも早く一番最初に口を開く。

 

「例の【黒幕】は誰か分かったの?」

 

「其れは分かりませんでしたねぇ。」

 

「ッち、使えないジャンクが...」

 

水銀燈はラプラスなる紳士にそっぽを向けて【薔薇乙女の禁書綴】を取り出しては頁を開く。そんな水銀燈の【薔薇乙女の禁書綴】を覗き込む様に後ろから、

 

「然し、解った事が有ります。タダでは起きぬのがこのラプラスの魔ですからね。」

 

「ならさっさと言いなさい、回りくどいのよ貴方。」

 

「はっはっは、せっかちなのは相変わらず...」

 

「殺すわよ。」

 

「おぉ、怖い怖い...」

 

水銀燈の殺意が更に高まったのだろう、巫山戯るのを止めて内容を話し始めた。

 

「【黒幕】に操られた姉妹が使っていた単語、【禁忌の蜜】の意味と集める理由が解りました。」

 

ラプラスは口を割り込む猶予も与えず続けて論じ始めた。

 

「【禁忌の蜜】、其れは“媒体”です。そしてそれは不完全。【禁忌の蜜】とは心の断片。其れを集め、凝固させて“とあるモノ”を模倣しようと言う所でしょう。」

 

ラプラスが順序立てて話をしているのは解るが、水銀燈はイライラとしている様子だ。その様子を見ては肩を落とし、ラプラスは話を続ける。

 

「その“とあるモノ”とは至極簡単な結論。其れは...」

 

「「「ローザミスティカ。」」」

 

真紅、雪華綺晶、水銀燈の声が同時に重なる。

 

「左様です。」

 

ラプラスは杖を僕に向け、再び話を続ける。

 

「然し、ローゼンメイデンの父たるローゼン様の様に、最初からローザミスティカを形成出来る器はなかなか現れる筈も無く。技師としての才はローゼン様を超えた桜田ジュンですら、ローザミスティカの生成たる器には相応しくなく、新たなローゼンメイデンは創る事は終ぞ叶わなかった。然し!」

 

杖で僕の頭をポンポン、と叩くと、

 

「此処に!その断片ではある物の器たる存在がいるではありませんか!そう!四方木シュウ様!貴方なのです!」

 

大仰に、まるで誰かに向けての発表の様に、訴えかける。僕が言葉を話そうとする前にラプラスはまた話を続ける。

 

「とは言えど。何故にローザミスティカを【黒幕】は求むのか、其れは分からぬままでは御座いますが。【黒幕】は確実にローザミスティカを求めている事には違い有りません。四方木シュウ様、貴方の命を糧にして。」

 

...話について行けない。まるで理解が及ばない。自分の頭が悪いのかとすら感じる程に理解が出来ない。

 

「...之は、仮説なのですが。」

 

と、口を開いたのは雪華綺晶だった。

 

「ですがその前に、先に聞きたい事が。私が初めてこの世界に受体して、この身体を手にした時、“もう1つの身体”はあちら側に残っている...其れは確認して居るのでしょうか?」

 

「私が調べて、お答えしましょう。」

 

ラプラスは手鏡を取り出しては何度も鏡を叩いている。

そうして何分か経った後にラプラスは口を開いた。

 

「そうですね、少なくともですが、雪華綺晶嬢が四方木シュウ様の世界に干渉した時にはまだ無垢の身体は存在していました。」

 

「...今は存在しないのですね?」

 

「ご明察です、雪華綺晶嬢。」

 

雪華綺晶は至極気不味そうな、苦虫を噛み潰した様な顔をして苦悶とした表情をしている。

 

「どうしたのよ雪華綺晶、何か危惧すべき事でも起きたの?」

 

真紅が心配になって雪華綺晶に寄り添う。だが雪華綺晶は俯いて口を噤んでいる。微かに、身体が震えている。

 

「申し訳、有りません...」

 

雪華綺晶が、突如涙を零して服の裾を強く握り締めている。

 

「え?」

 

「はァ...?」

 

「ちょっと...」

 

「はて...?」

 

各々、その言葉の意味が分からなかった。

 

「私の...私のせいですわ...私が、この世界に来なければ...こんな事にはならなかったと言うのに...ッ!」

 

「ちょっと雪華綺晶、貴女、理由を言いなさい。物事は順序立てて話さないと理解出来ないわ。」

 

真紅は困惑顔のまま、雪華綺晶に諭す。その言葉を聞いて我に返った様で、涙を拭っては物事の詳細を語り始めた。

 

「...此方の世界に私が来た時に、善と悪の精神体に分かたれた、と云う話は以前もした通り。ですが“とある時刻”を境に【苗床の世界】に干渉が出来なくなりました。つまり、何者かが【苗床の世界】の掌握権を持っている。そして【苗床の世界】は私以外には掌握不可能。以て、答えとしましては、“悪の私がこの世界に干渉し、復活を目論んでいる”可能性が高いのですわ。」

 

と、何かを察した様に水銀燈が言葉を繋ぐ。

 

「つまり、ローゼンメイデンのボディではなく、無垢のボディを使って、此方の世界に何らかの方法で干渉している。そして其れは末妹の【苗床】を強制的に奪って復活を目論んでいる。其れは解るわ。でもねェ...」

 

水銀燈は【薔薇乙女の禁書綴】を読み乍、思案を続けている。

 

「その方法が分からない、のですわ。何故に【苗床】が必要なのか。其れに、姉妹を何故“操る”ことが出来るのか。その謎も深まるばかりです。」

 

そうして悩む各々に真紅はあっけらかんと告げる。

 

「あら、簡単な事ではなくて? 姉妹に“裏切り者”、若しくは“姉妹に擬態した【黒幕】”が居る可能性だって捨てきれないわ。」

 

さも残酷に、然して的を射た意見を述べる。

どんな状況に置いても冷静に物事を見計らう彼女はとても凛々しい。だが、そんなにも精神を尖らせて大丈夫だろうか...

 

「ざァんねん、アンタの考えは外れよ真紅。」

 

異を唱えたのは水銀燈だ。

 

「擬態していたり裏切り者が居たとして、そうしたら何故直接手を下せる距離に居るのに手を下さないのかしらァ?手短に終わらせられるなら其れに越した事はないでしょうにねェ?」

 

「...そうね、確かに水銀燈の言う通りだわ。そうなると、まだ自身で手を下せない、若しくはしたくても出来ない、と考えるのが妥当かしら。其れに、不完全な状態で現れた所でリスクは計り知れない物ね。」

 

話は1歩ずつ進んでは居るが、その1歩が遠い。

思考する。思考する。皆、己の知識を振り絞って最大限に考える。無論、ローゼンメイデンに知識のない僕もだ。

 

「なぁ、僕から提案なんだけど。」

 

「何かしら、シュウ。」

 

僕は考え込んで思い付いた事を告げる。

 

「僕の提案したことでもしかしたら【黒幕】の意図や、【黒幕】が誰かを明確に出来るかもしれない。けれどかなりリスキーだと僕は思うんだ。」

 

僕は覚悟を決める様に言葉を続ける。

そう、僕は死ぬかもしれない、かなりリスキーな提案なのだ。だが今更尻込みする訳にも行かない。

 

「僕を餌に、【黒幕】を釣るんだ。【黒幕】が誰か解れば、もしくは詳細な目的が解れば対策が出来る筈だと思うんだ。」

 

真紅も、水銀燈も、雪華綺晶も、反対の言葉を紡ごうとしたのだと思う。だが、それ以外に此方の切れる手札が無い事には、容易に察したのだろう。何も言わずに、深く考えていた。恐らくは僕を犠牲にしない方法を。

 

各々思考していたが意見が纏まらなかったのか暫くしてから、真紅と水銀燈、雪華綺晶はヒソヒソと話し始め、10分程度会議をしていた。だが矢張り、此方から出来る事は僕の提案した事以外は打開の糸は見つからないとの結論に至った様子だった。

 

「...私達的には反対をしたいのだけれど、【黒幕】の情報を知り得るにはそれしか無いのは確かだわ。シュウ、貴方の提案を呑むわ。」

 

悔しそうな顔で、真紅は告げる。悔しそうなのは真紅だけでは無い、水銀燈も雪華綺晶も。

 

「私も、現状を打開するにはシュウ様のしか無いと思いますな。此方から切れるのはジョーカーのカードしか無いのです。切るしかありませんとも。」

 

ラプラスも苦渋の決断という意見だ。

其れを首肯する真紅と水銀燈。

 

「では、シュウ。必ず生きて帰ってきて頂戴。貴方が死ぬのを見るのは御免だわ。」

 

悲しい表情をする真紅。水銀燈は顔を背けて【薔薇乙女の禁書綴】を黙読してはいるが肩が震えている。相当悔しいのだろう。雪華綺晶もずっと足元を見ている。

 

「じゃあ、準備が出来たら僕を元の世界に...」

 

「シュウ様。」

 

雪華綺晶が意を決した様子で僕の言葉を遮った。

 

「雪華綺晶、どうしたの?」

 

雪華綺晶は震える声で“契約の指環”を僕に提示した。

 

「もし、本当に命の危険に遭った時には。この指環を食んで下さいませ。この中で、平行世界や複数のNのフィールドを多干渉出来る者は私しか居ません。私並ば、シュウ様を命の危機から助けられます。シュウ様にこの様な不躾な方法で契約を迫るのは失礼極まりないですが、どうか...」

 

水銀燈と真紅が反論を口にしようとするが雪華綺晶の意見を聞けば、口を噤んだ。恐らくはその通りだったのだろう。反論が出来なかったみたいだ。

 

「...心配してくれてありがとう、雪華綺晶。そして真紅、水銀燈も。僕は大丈夫。でも危なくなったら、この指環を食むから、助けて欲しい。雪華綺晶、お願いするね。」

 

雪華綺晶は無言で深々と礼をした。

 

「用意は出来ましたかな、シュウ様。」

 

ラプラスが僕に声を掛ける。

 

「うん。決意は元から出来てる。」

 

「では、元の世界にドアを繋ぎます。ドアを開いた先は危険です。どうかご武運を。」

 

「僕が出来ることは最低限やってくる。」

 

僕は自分に言い聞かせる様に、ドアを開いて元の世界に戻った。【黒幕】の情報を絶対に引き出してみせる。

 

 

 

 

 

 




どうも皆様お久しぶりです、ЯeI-Rozenです。

端末を変えたらそのままログインが出来なくなって更新が出来なくなっていましまが、ひょんな事からまたログインが出来るようになったので続きを投稿させて頂きました。

待ってたぞ!なんてコメントは届く訳もないと思いますが待ってるぞ。私は待っています。(断固たる意思)

さて、何故こんなにもこの第8話が長いのかという話なのですが伏線を拾いつつ、読者の皆様にもある程度顛末を理解して頂こうと思ったのと此処でどうしても真紅を主人公側の方に寄せたかったので、会話パートが多めで文章も多めな話となってしまいました。
とは言えど何故真紅を主人公サイドに持ってきたかったのかはアニメも見た原作のローゼンメイデンファンの方ならお分かりかと思います。

それと、物語がどういう風に進むのかをお楽しみ頂ければ幸いです。是非、ブックマークをして読んで下さるだけでも結構です。それだけでも励みになります。

しかもですね、この話、なんと一日と半で仕上げました。我ながら頑張った。然しです、そんな急ピッチで仕上げたので誤字等は是非とも教えてください。すぐに治しますので。

では、また次のお話を作りますので、それまでお待ち頂けると嬉しいです。

次は9話の後書きにて会いましょう。


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