Dr.ゲムデウス ((´鋼`))
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If ジェネレーションズ・ファイナル
IF NEW GENERATION FINAL first


映画見てきました……よって、IF物語投稿開始します!素晴らしかったです!またもっかい見に行こ

そして!映画の視聴でアイディアが沸き出る沸き出る!つまり投稿欲を抑えられません!

注意事項!
 *この物語には『平成ジェネレーションズfinal』のネタバレを含みます。まだ見ていない方は先に映画の視聴を!

 *もう1つの映画版という題名なので、映画とは違う進行になる場合もあります。


では本編どうぞ( ゚∀゚)つ!


 噴水公園にて。そこに1体のバグスターと戦いを繰り広げている2()()の仮面の戦士が居た。

 

 

「ゲムデウス!合わせ技行くよ!」

 

「承知!」

 

 

 白い装甲のレーザーターボと白い装甲のゲンム。しかし本人ではなく、別人が成ってバグスターと戦いをしている。

 

 白いレーザーターボの名は【ドクターマイティXX レベルXLゲーマー】と呼ばれ白いゲンムは【ドクターマイティXX レベルXRゲーマー】と呼ばれている。

 

 その装着者だが、XLゲーマーには『高山明』という医学生の1人が変身している。そしてもう一方のXRゲーマーには最強にして最悪のバグスター『ゲムデウス』が変身している。

 

 何かの運命なのか、高山とゲムデウスは共に過ごし“生きる権利”を得る為に戦い続けているのだ。

 

 話を戻そう。現在は1体のバグスター『カイデン』を挟み高山とゲムデウスが居るという構図となっている。カイデンとの戦闘では2vs1ということで、ゲムデウスがカイデンの腕を抑え高山が間髪入れずに蹴りを入れるというコンビネーションを駆使した戦法で追い詰めていた。

 

 

「ひ、卑怯なり!1vs1の真剣勝負をせいぃ!」

 

 

 カイデンが高山とゲムデウスを交互に見ながらそう叫ぶ。しかし高山とゲムデウスはその声を耳に入れていないのか、高山とゲムデウスはカイデンに接近すると両サイドから右拳を叩き込んだあと両者共にドロップキックを与える。【HIT!】と【GREAT!】のエフェクトが両サイドから発生しダメージを与えると高山は左足の回し蹴りで、ゲムデウスは右拳のストレートでカイデンを吹き飛ばす。

 

 

「ぐおぉ!」【【HIT!】】

 

「卑怯?コンビプレイは基本だろ!」

 

「それが邪道とは限らんしな」

 

 

 高山とゲムデウスの言い分もごもっともである。だが相手はどちらかと言えば1vs1を考えて作られたゲームの敵キャラであり、コンビプレイなどと言われてもピンとこないし納得できないだろう。

 

 しかし高山とゲムデウスはゲーマドライバーのレバーを閉じる。軽快な音楽が流れる中、高山とゲムデウスはそれぞれ左足と右足を前に出し構えた後レバーを開く。

 

 

【【ガッチョーン キメワザ】】

【【ガッチャーン!】】

 

【【DoCTER MIGHTY CRITICAL STRIKE!】】

 

 

「「ハアッ!」」

 

 

 高山とゲムデウスの両者が同時に飛び、前一回転して蹴りを叩き込む。蹴りを入れた後、カイデンを壁代わりにして後方一回転をして蹴りを叩き込む。そしてまたカイデンを壁代わりにして離れ、前回転を掛けた状態でお互いの足にカプセル錠剤を模したエネルギーが展開しカイデンに踵落としを叩きつける。

 

 

「「セェアリャアアァ!」」

 

「グアアアアァ!む、無念……」【【PERFECT!】】

 

 

 爆発と共にカイデンは消え失せたのを確認すると、高山がレバーを閉じて使用ガシャットである【ドクターマイティXX】を引き抜く。

 

 

【ガッチョーン】【ガッシューン】

 

 

 ガシャットが引き抜かれたことによりゲムデウスは高山の方に引き寄せられ1つとなる。特徴的なのはゲムデウスウィルスによって変色した黄色の目と髪。182㎝という高身長も合わさって外人に間違われそうだが、日本人顔なのでクォーターと間違われるだけである。

 

 

「終わったぁぁ」

 

『今回もお疲れだったな、宿主』

 

「まぁな」

 

 

 端から見れば独り言をしている変人と思われるかもしれないが、ちゃんと話し相手は居る。この高山に存在するゲムデウスウィルスが話し相手となっているが、何故一時期流行ったデスゲーム【仮面ライダークロニクル】のラスボスが感染したのかは知らない。というより調べられている途中である。

 

 そしてこの2名はゲムデウスウィルスによる他者への被害から、厳しい制約付きで生活をしている。だが本人たちは苦痛というよりも仲の良い2人を誘ったりと気がねなく生活を謳歌している。

 

 そんな経緯もありつつ、高山は大型バイクを走らせて聖都大学附属病院へと走らせる。

 

 

「しっかしさぁゲムデウス、今回のヤツも変だったな」

 

『だろうな。普遍的なバグスターとは言え()()()()()()()()()なんてのは聞いたことが無い。ましてや……』

 

「強制的にゲームエリアに介入させられたっていう訳でも無いのにね。何か多いよね、ここ最近」

 

 

 バイクを走らせながらゲムデウスと今回の話をする。今回のバグスターは最近、時々何処からともなく出現するバグスターの情報が後を絶たない。何かの原因調査として檀黎斗神も調査に当たっている。

 

 こういうのを嫌な予感というのだろうか。高山の心中には何か不安が蔓延(はびこ)っていた。高山の体の異変に気付いたゲムデウスが声を掛ける。

 

 

『何を考えている?』

 

「ん、あぁ……いやねぇ。何か胸騒ぎがしててな、嫌な予感がする」

 

『ふむ……宿主の脈拍数が微妙に上昇しているか』

 

「……ゲムデウス、バイタルチェックは良いから」

 

 

 そして聖都大学附属病院に到着しCRへと向かう。今回の出来事を黎斗神に報告し、そのまま衛生省から支給された家に向かった。

 

 家に到着しヘルメットを脱いで玄関の扉を開ける。

 

 

「ただいま~」

 

「おかえり~!」

 

 

 ドタドタと慌ただしく高山の方へ向かっていく足音は、高山の元に来たあと抱擁する。その足音の正体は高山が現在交際中、そして同棲している『藍原 優美』である。

 

 抱擁された際に高山からは藍原の発達した胸部がグリグリと押し付けられている。しかし至って冷静に高山は藍原の肩を優しく叩くと、すっと離れてくれた。

 

 

「ねぇねぇ明!ちょっと来て!」

 

「何かな~?」

 

 

 藍原が高山視点で可愛らしくその場でピョンピョンと飛び跳ね高山に催促させる。高山はそれに応じて靴を脱ぎリビングへと向かった。

 

 そこには机の上に並べられた料理の数々。高山は素直に驚き藍原の方を向け話す。

 

 

「優美、料理凄い美味しそうだよ」

 

「えっへん!今日は私が作ったのだ!」

 

 

 ドヤァ……と決めている藍原だが、実際の所藍原が料理を作るのは稀である。通常は高山が料理をするのだが、普通に素晴らしい出来栄えの一品を作り出せるのだ。今回は藍原の手料理となったが、見た目は良好。

 

 高山は斜め掛けバックを適当にソファに置くと、台所のシンクで手を洗い何時もの席に座る。因みにこの時、夜の7時頃である。

 

 

「それじゃあ……頂きます」

 

「どうぞ、召し上がれ」

 

 

 ニコニコと嬉しそうな表情を浮かべながら高山が食すのを見守る藍原。高山は最初の1口目であるチーズリゾットを口に運び、咀嚼する。高山の表情は喜びへと変わり、満足そうな様子を浮かべていた。

 

 

「美味しい!凄いね優美!」

 

「むふ~!私だってやる時はやるからね!」

 

 

 こんな他愛ないことで笑い合い楽しめる生活をしている。ある意味ではリアルを充実しているリア充という部類に入るだろうが、この2人はそんなもの気にする必要すら無い。

 

 一概に“リア充”という単語はあるが、そもそもの話リアルを充実しているからこそリア充と呼べる。だがその()()()を充実させる時というのは、(ひとえ)に彼女と幸せな時間を過ごすだけに収まらないだろう。

 

 人にとってリアルが充実している時というのは千差万別。例えるなら自分の好きな職業に就職する、自分の好きなことに没頭するなど挙げればキリが無い。しかし唯一リア充に当てはまっている共通点、それは“その時間に熱中できる”という点だ。

 

 人にはそれぞれ違う世界観があり、過ごす時間があり、熱中できるものがある。その自分だけが認識している世界で、何れ程の時間を熱中させられるかどうかこそリア充と呼べる。そんな哲学的な考えを高山、藍原、『茅場昌彦』、『神代凛子』は持ち合わせている。

 

 それはさておき、高山は藍原の作った料理を共に食べ終えゆっくりと寛いでいた。TVには法律関係のバラエティ番組が放送されており、2人は時に笑ったりしながら見ていた。ゲムデウスは高山の視覚から情報を受け取り法律のことを熱心に覚えている。1週間毎にしか放送されないのだが、その時に放送されていた法律をゲムデウスは覚えているのだ。

 

 この様な普通の出来事の最中、何を思ったのか高山が(おもむろ)にスマホを取りだし何かを検索し始めた。検索しているのは“何も無い場所” “突然の出現”とワードを打って検索した。

 

 検索結果から出てきたのは大方マジックの動画やその手のマジックのやり方などが現れるが、次のページに進むとオカルト界隈の物にヒットした。神隠しや異世界から訪れた話等々、何れもこれも現実的に無いような話ばかりだが高山が気になったのは“異世界”というワード。

 

 

『異世界……平行世界がどうかしたか?』

 

「(……ちょっと気になってね)」

 

『ほぉ?』

 

 

 ゲムデウスが少し興味あり気に高山に質問の意を込めた返事をする。高山はそれを汲み取ったのか、意見を思考する。

 

 

「(もしかしたら……バグスターが現れるのってワームホールが影響してたりするのかなぁと)」

 

『ワームホール……以前お前が読んだ文献にあったな』

 

「(うん。突如現れるバグスターっていう点からピンと来て、あれ何も無い所から生み出されるというより()()()()()()()()っていう説の方が納得いきやすいんだよね)」

 

『ふむ……ならば時空に歪みが生じているとでも?』

 

「(無くは無いんじゃない?)」

 

 

 かなり規模の大きい話になってしまったが、そろそろ時間も時間なので風呂に入ることにした。だが途中で藍原が乱入し、それどころでは無くなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、12月19日の朝。高山は何時もの様に朝食を作り2人揃って仲良く朝食を採っていた。そして今日は高山が受ける講義が休みというのもあり、1人で朝の散歩でもしようと準備していた。藍原は就職活動もあって忙しい時期なので連れていく訳にもいかない。夜の行為はストレス解消である

 

 

「それじゃあ、ちょっと行ってきます」

 

「行ってらっしゃい、明」

 

 

 高山は微笑みながら答え、靴を履いて玄関の扉を開き外に出た。

 

 

「(あら?……何だか妙に眩しい様な……)」

 

 

 高山の視界には何故か白い光しか目に映らなかった。腕で視界に影を作ったが、白い光が徐々に消え去ったかと思いきや……

 

 

「………………あれ?」

 

 

 複数の人物が居るカフェの様な内装の場所に出ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




余談

仮面ライダーアマゾンズ映画アァァァ!来春の3月公開予定!メッチャハイテンション‼Fooooo!⤴⤴

はい、すいません。調子乗り過ぎました。


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IF NEW GENERATION FINAL second

 高山は困惑している。何故か玄関のドアを開けて白い光に視界を遮られたかと思いきや、知らない内装の場所へと出たからだ。

 

 向こうの者たちも困惑している。彼方(あちら)側には冤罪とは言え()()()を匿っているからだ。だからこそ1人の青年は隣に居る脱獄犯の頭を押さえつけ机と椅子の影に隠し、作り笑いを高山に向けていた。

 

 

「ははは……ど、どうも~」

 

「………………は、ははは。お邪魔しました~」

 

 

 かなり気まずい雰囲気に耐えられなくなった高山は振り返りドアを開けて外に出た。しかし目に映った光景はビルの壁、現実逃避をさせてくれない。

 

 

「……いや、まさか…………」

 

 

 丁寧にドアを閉めて裏路地であろう場所から少し早足で出ていく。建造物は似てはいるが、何処か違う雰囲気を感じられる高山とゲムデウス。そして極め付けが……

 

 

『……宿主、少し言うことがある』

 

「(いや何?俺ちょっと困惑してて『バグスターウィルスが微弱ながら存在している』…………はっ?)」

 

 

 バグスターウィルスの存在。ゲムデウスが示す地点が見える場所まで走り、その光景を目撃した。

 

 高山とゲムデウスが見たことの無い“壁”が存在していたのだ。これには何がどうなっているのやら、さらに困惑する高山であった。

 

 

『バグスターウィルスの反応……あの壁から発生されているな』

 

「……あっはっはっはっはっ。じゃあつまり……こういうこと?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『平行世界(パラレルワールド)だ』ってか?」

 

 

 高山は頭を抱え(うずくま)った。時折人の視線が高山に突き刺さるが、そもそも気付いていない。徐にスマホを取り出して日付を確認すると“5月9日”であった。

 

 

「ここは……過去?それとも未来?」

 

『いや平行世界』

 

「知ってるよぉ」

 

 

 溜め息を吐いてこれからの事を思案していた矢先、ゲムデウスが反応をキャッチした。ゲムデウスが反応するのはバグスターウィルスのみ、とどのつまり反応がある場所にはバグスターが居るということだ。

 

 

『……宿主、話は変わるがバグスター反応が』

 

「……ふぅ。先ずは此方からか」

 

 

 高山は立ち上がり背を反らして背骨を鳴らすと姿勢を戻し、反応のある場所まで()()ことにした。ゲムデウスウィルスによる過剰適合者故の出来ることである。しかし他者から見ればかなり速い為、陸上選手が急いでいる様にしか見えない。

 

 その後ろから2人乗っているバイクが追い抜いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゲムデウスが示した目的地から少し離れた場所。そこから戦闘を行っている()が耳に入る。高山は走りながらバッグからゲーマドライバーを取り出し、腰に取り付ける。

 

 そして再度バッグからガシャットを取り出して起動させる。

 

 

【ドクターマイティXX!】

 

 

 ゲームエリアが展開され辺りにカプセルが出現していく。後ろのゲーム画面が消えたと同時に目的地に到着すると、バグスターがそこかしこに存在しているが何か様子がおかしい。

 

 

「ゲムデウス、これは?」

 

『通常見かけるバグスターでは無さそうだな……だがウィルスであることには変わり無い』

 

「だな!」

 

 

 高山はゲーマドライバーにガシャットを差し込んだ後、両腕を交差させてレバーを開き変身する。別の場所から()()()()()()()()が見ていることに気付かずに。

 

 

「MarkX-2!変身ッ!」

 

 

【ガッチャーン!レベルアーップ!】

 

【ドクターマイティ/!2人で作る/!ドクターマイティ/!2人でメイキーング/!X/!ウェアハッハアッ!いやノリノリだな神】

 

 

「えぇ…………」

 

 

 高山が2つのタッチパネルを選択するとゲムデウスと分裂しXLゲーマーとXRゲーマーに変身したのは良かったが、黎斗神と貴利矢の内蔵されていた音声で調子が狂ってしまった。

 

 

「へ、変身しやがった!?おぉい戦兔!一体どうなってんだよ!?」

 

「!?エグゼイド……か?でも何か白いな、俺が夢で見たのってピンクだったし」

 

 

 どうやら他の者がこのバグスターの戦闘中だったらしい。高山とゲムデウスは声のした方へと向くと赤と青の者と龍をモチーフとした者が武器を持ち戦闘を繰り広げていた様だ。

 

 

「ゲムデウス!赤と青の方に!」

 

「承知!」

 

 

 高山とゲムデウスは互いに離れて跳躍し、それぞれの者の近くに着地する。狭い建造物にバグスターが数体程来ているが、高山とゲムデウスは先ずバグスターを取り除きそれぞれ蹴りと拳でバグスターにダメージを与える。

 

 

「大丈夫ですか!?」

 

「おっ!おまっ!お前!仮面ライダーなのか!?()()()と同じ!」

 

 

 高山の方では交互に指先を高山の方に向けては自分を指差しという行為をしながら尋ねた。しかし先程の発言に気になった点があった為、高山も尋ねる。

 

 

「え、えぇ。というより貴方もなんですか?」

 

「お、おぉそうだ。って後ろ後ろ!」

 

「ッ!らぁッ!」

 

 

 目の前の仮面ライダーに指摘され高山は後ろ蹴りでバグスターから距離を取り、離れたバグスターに飛び膝蹴りを与えて消滅させる。

 

 バグスターが倒されたことを確認した龍の仮面ライダーは、高山の両肩を掴み少し揺らしながら尋ねる。

 

 

「おい!何でコイツら倒せたんだよ!?」

 

「えっ?……ッ!すいません!」

 

「のおわぁ!?」

 

 

 高山は龍の仮面ライダーを後ろに退かせ勢いのままに来ていたバグスターにドロップキックを与えた。一撃が入ったことで【GREAT!】のエフェクトが発生しバグスターは消滅した。

 

 高山は龍の仮面ライダーの方に視線を向ける。

 

 

「今はバグスターを倒すことが先決です!話はそれからにしましょう!」

 

 

 高山はバグスターに向かって走りヤクザ蹴りを与えると、そのまま猛攻を続けていった。

 

 

「ちょ、おい!スマッシュじゃねぇのかよ!?」

 

 

 龍の仮面ライダーはバグスターに翻弄されつつも、高山に向かって叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方ゲムデウスの方では……

 

「ふっ!」

 

「□□ッ!」【HIT!】

 

 

 ゲムデウスは向かってくるバグスターに対し肘打ちで牽制し、赤と青の仮面ライダーを庇う様にして後ろから来ていたバグスターに左ストレートを放つ。

 

 

「やっぱり違うなぁ……」

 

「ボサっとする暇があるならば戦え!」

 

 

  少しイラつきを覚えつつゲムデウスはバグスターの槍を掴み押し込んだ後、接近してアッパーを顎に叩き込んだ。

 

 ゲムデウスはゲムデウスで()()()()()()が気になって仕方がない。しかしゲムデウスがそんな考えをしている中、赤と青のライダーは白とピンク2つのボトルを用意し振り始めた。

 

 

「……これは?」

 

 

 ボトルが振られたことによって様々な数式が飛び出し空中に映される。赤と青のライダーは特殊なベルトに2つのボトルを差し込んだ。

 

 

【ドクター!】【ゲーム!】【ベストマッチ!】

 

 

 そして赤と青のライダーはベルトにあるハンドルを回していくと何やらフレームの様なものが出現し、パイプから着色されている何がが流れ形を作る。

 

 

【Are you ready!?】

「ビルドアップ!」

 

 

 そのライダーはハンドルから手を離すと、フレームとフレームが合体し別の形態に移った。だが、その姿はゲムデウスにとっては見覚えのある姿で……

 

 

【エグゼイド!マイティジャンプ!マイティキック!マイティマイティアクション!X!】

 

 

「なっ!?」

 

 

 

 そう、ゲムデウスが見ている姿というのは“エグゼイド”であったのだ。しかも本物とベルト以外は寸分違わずに。

 

 

「勝利の法則は決まった!」

 

 

 エグゼイド(仮)は建物から飛び降り地面にいるバグスターと敵対していく。ガシャコン・ブレイカーと他の装備の状態でバグスターにダメージを与えていく。

 

 

「□□□────!」

 

「ッ!ぬぅん!」

 

 

 向かってくるバグスターの片腕を掴み、一本背負いを行い倒れたバグスターの胸に拳を叩きつけ消滅させる。ゲムデウスはそのエグゼイド(仮)の元へと着地し、バグスターを消滅させる。

 

 ちょうど同じ頃、高山も地面に降り立ちバグスターを消滅させていく。ゲムデウスと高山はお互い背を預ける状態でバグスターと対峙する。高山もエグゼイドの姿を見て驚いている中、ゲムデウスと話していく。

 

 

「ゲムデウス、何でエグゼイドがここに居るの?」

 

「私が聞きたいくらいだ。若しくはそこのエグゼイドにでも聞けば良い」

 

「だな!」

 

 

 高山はエグゼイド(仮)に近付き肩を置いて注目を此方に向けさせる。そのエグゼイド(仮)は高山の方を見るが、バグスターの方に向かおうとして足止めをくらい腕を退けて再度高山を見た。

 

 

「ちょっとちょっと。何の様?」

 

「失礼。お聞きしたいことがありまして」

 

「今それどころじゃn……」

 

 

 そのやり取りの最中、高山とエグゼイド(仮)の間に何者かが通り過ぎダメージを受ける。

 

 

「ぐおっ!?」

 

「おぉ!?」

 

「ッ!宿主!」

 

 

 通り過ぎた際にエグゼイドのベルトから2つのボトルが外れ変身が解除される。高山の方は変身解除はされなかったが、ライダーゲージが少々減っていた。

 

 その者は左半身が青い機械で覆われていた。2つのボトルはその相手の手元に存在しておりそれを見た高山の隣に居る人間は驚きの表情を浮かべる。

 

 

「俺のボトル!」

 

「ッ!ゲムデウス、高速化!」

 

「言われずとも!」

 

 

 高山とゲムデウスはタッチパネルを操作し高速化を選ぶと、ゲムデウスの方に高速化のエナジーアイテムが出現しゲムデウスに付与される。

 

 

【高速化!】

 

 

 ゲムデウスはその者に一瞬で近付くも、構えられた銃らしき物で撃たれ怯んでしまう。

 

 

「くっ!」

 

 

 そしてその者は銃から発せられる煙によって消え去り、姿を消した。ゲムデウスは取り逃したことを悔やみつつ、高山とその人間を起こす為に手を差し出す。

 

 

「立てるか?」

 

「んまっ、何とか」

 

「ゲムデウスこそ、平気だったか?」

 

「私なら平気だ」

 

 

 そこで龍の仮面ライダーも合流し、変身を解除する。

 

 変身解除され、高山はゲムデウスと融合し1人の成り龍の仮面ライダーの方は先程喫茶店で出会った者だったようだ。

 

 

「お前!あの時の変な奴!」

 

 

 高山はズッコケて体勢を崩すが立ち直し咳払いして提案をする。

 

 

「ゴホン……えー先程ぶりですね、お二方」

 

「お前も、仮面ライダー……でもさっきの姿は。それに……」

 

「あー……その事も踏まえて、何処かで話しませんか。立ち話は何でしょうから。僕は高山明と言います」

 

「俺は戦兎、桐生戦兎だ。こっちの脳筋馬鹿は万丈龍我」

 

「宜しく……って誰が馬鹿だ!?」

 

「お前しか居ねぇよバーカ」

 

「テメェなぁ!」

 

「あーもう無茶苦茶」

 

『だんだん諦めてないか?ツッコミ』

 

 

 この様なやり取りがあったものの高山と戦兎、万丈の3人は戦兎たちの隠れ家である喫茶『nascita』へと赴いた。高山はゲムデウスに人格変更しモータスの能力でバイクを出現させたことで2人から質問攻めにされたが、ゲムデウスは適当にあしらいバイクを走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 




ヤバい……うろ覚えになってる。映画の内容ガガガガ……。

よし休みにもう1回見に行こう。何か新しい入場者特典も出たし。


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IF NEW GENERATION FINAL third

注意!この話にはネタバレ、if要素が含まれています。この話を読む前に映画で内容を知ってからでお願いします。

という訳で3回目、どうぞ


「……つまり玄関の扉を開いて潜ったら光に包まれて、何故かこっちの世界にやって来た。それで良いんだよな?」

 

「大方その解釈で合っています」

 

『寧ろこれ以外をどう説明すれば良いのだ?』

 

 

 現在、高山たちは先程のカフェ『nascita』に集い先程戦闘となったバグスターについての説明と高山が平行世界に住まう住人ということを説明していた。信憑性を上げる為に態々ガシャット2つとゲーマドライバーを見せて異世界のライダーであることを証明させた。

 

 そして何よりの証拠としてゲムデウスを見せた。人格変更によって口調や目付き、先程のバイク召喚や0と1の組み合わせからできた【宝盾 デウスランパート】と【宝剣 デウスラッシャー】を出現させると充分だったのかゲムデウスの行動を桐生戦兎が止めた。

 

 そして今この時、桐生戦兎が高山の起こった状況を簡単に纏めている。

 

 

「なぁ戦兎」

 

「何?今かなり頭がゴチャゴチャしてるんだけど?」

 

「アパレルワールドって何だ?」

 

 

 万丈の言葉でカフェ内に居た高山と戦兎以外が体勢を崩す。高山と戦兎は2人同時に頭をテーブルにぶつけ、嫌な音が鳴る。万丈は急な反応をした全員を見渡して疑問を浮かべていた。

 

 戦兎は頭を上げると万丈に近寄って頭を叩く。

 

 

「いった!おま、何すんだよ!?」

 

「お前バカか?アパレルワールドじゃなくて()()()()()()()()!何でファッションの世界になる理由!?」

 

「そもそもそのぱりれ……ぱらる……あぁメンドクセェ!それ知らねぇんだよ!」

 

「か、簡単に言えば別の世界って意味です……」

 

 

 何時もの調子を崩されつつも万丈に対し比較的簡単な言い方を伝える。何となしに分かったのか万丈は手をポンと叩き理解を示した。

 

 

「成程……って、それってコイツが別の世界から来たってことか!?」

 

「さっきからそう言ってるでしょーが」

 

「その……ゲーマドライバー?とガシャット?なんて見たこと無いし。ホントに別世界ってあるのねぇ」

 

 

 先程まで出されていたゲーマドライバーとガシャットを確認しつつ高山とゲムデウスが違う世界から来たことに感心するジャーナリストの滝川紗羽。因みに見ているのはドクターマイティXXとガシャットギアデュアルβである。

 

 

「絶対パラレルワールドに来た理由って何かあるよな?何なんだ……?」

 

「その……パラレルワールドって簡単に行けるものなのか?」

 

「いえ……恐らく何らかの要因が無ければ別の世界に干渉するなんて有り得ないですし。ましてや何の因果で……?」

 

『話は良いが宿主』

 

「ん、何?」

 

 

 既に高山とゲムデウスの関係は知っているので高山が話題から逸れた話をした場合、ゲムデウスと対話しているということを理解している。

 

 ゲムデウスが高山に話をする。が、それはそれは面倒な内容であった。

 

 

『バグスター反応が近付いている』

 

「はぁ!?」

 

「なになになに!?」

 

 

 高山が急に立ち上がったことでその場の全員が驚くが、そんなことを気にせず高山はガシャット2つとゲーマドライバーを持ち出して外へと出た。

 

 そんな高山を追い掛けて行くように戦兎と万丈も外に出ていくのだが、ドアを開けると直ぐに高山が居た。何故居るのかは聞きたかったが、高山の見ている方を見ると数十体のバグスターが居た。

 

 

「バグスター!?」

 

「ッ!……ゲムデウス!変身お願い!」

 

『承知!』

 

 

 高山はゲムデウスと人格を交換しゲムデウスはガシャットギアデュアルβのダイヤルを左に回して起動させる。

 

 

【Bang Bang Simulations!】

 

【I’m ready!for battleship!I'm ready!for battleship!】

 

 

「変身」

 

 

 ゲムデウスがギアデュアルβのスイッチを押すと音楽と共にパネルがゲムデウスの体を通り、姿を変える。

 

 

【DUAL UP!】

 

【Enemy is coming!Shoot down there!Bang Bang Simulations!】

 

 

 仮面ライダーゲムデウス『シミュレーションゲーマー』に変身したゲムデウスは両腕のクローと肩に取り付けられた砲台による砲撃で蹴散らす。

 

 

「ハァ!」

 

『□□□□────ッ!』【【【【【HIT!】】】】】

 

「す、スゲェ……」

 

 

 ゲムデウスはバグスターの槍攻撃を避けて背中を密着させて身動きを取れないようにさせる。今居るバグスターが何処から来ているのかを知る為に、後ろ蹴りをしたあと膝関節の砲台で砲撃し消滅させると右の方に続いていた。

 

 

「桐生戦兎!万丈龍我!このバグスター共を追え!恐らくボトルを奪った奴の可能性が高い筈だ!」

 

「お、おぉ……分かった!」

 

「さぁさっさと行くよ子羊君」

 

「お前準備早っ!」

 

 

 既に桐生戦兎は『仮面ライダービルド』に変身しておりバグスターを払い除けて進んでいった。それに続くかの様にして万丈も走りながら変身したあと、ビルドを追いかけるかの様にして進んでいく。

 

 ゲムデウスはガシャットをホルダーから引き抜きダイヤルを再度回してホルダーに差し込むと砲身を全てバグスターに向けて、両腕を前に出す。

 

 

【KIME WAZA! DUAL GASHAT!】

 

【Bang Bang!Critical Fire!】

 

 

 瞬間、ゲムデウスの出されていた両腕からエネルギーが蓄積されると放たれた。俗に言う超電磁砲(レールガン)を放つと殆どのバグスターは消えていた。

 

 ゲムデウスはウィルスの反応を追いながら戦兎と万丈が向かった場所に追い付こうと走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 100m2.3秒の走力で走るゲムデウスレベル50はとあるダムの様な場所に辿り着いた。戦兎と万丈が2人掛かりで押しているが、ゲムデウスは直ぐに2人の元に駆け付ける。

 

 しかしゲムデウスは、この場所にある青い手に注目していた。だが直ぐに考えを改める。

 

 

「桐生戦兎!万丈龍我!今来た!」

 

「遅ーぞ!コッチはとっくにボトル回収済みだぜ!」

 

 

 戦兎が奪われた2つのボトルを見せる。敵の方を見ると左半身が青い歯車に覆われた機械の者が離れて膝を付いていた。戦兎が持つ弓状の武器を構えて緊張状態を作っているが、機械の者はゲムデウスを見るなりフラフラしながら立ち上がった。

 

 

「漸く来たか……異常者(イレギュラー)

 

「私と宿主は元々異常者だ。……だが何故知っている?まさかとは思うが貴様の仕業ということか?」

 

「半分正解だが……半分外れている」

 

「…………どういう意味だ?」

 

 

 機械の者はゲムデウスを指差しながら話した。何故ゲムデウスと高山が異常者と言われるのかを。

 

 

 

 

 

 

「お前は2つの世界の()()()()()()()()()()だ。だからこそ言おう、お前は誰だ?」

 

「何……?」

 

「あーもうゴチャゴチャと!戦兎、行くぞ!」

 

「あ、おい待て万丈!」

 

 

 万丈は先に機械の者に向かって行き攻撃を仕掛けようとするが、その機械の者は姿勢を低くして避けた後左肩から青い歯車のエネルギーを万丈にぶつけてダメージを与える。

 

 

「ゴハァ!」

 

「ッ!万丈!」

 

「お前達はそこのライダーを誘き寄せる餌だと考えなかったのか?」

 

 

 機械の者は万丈を捕らえるとゲムデウスと戦兎の方を見て口を開いた。

 

 

「そろそろ……か。折角だ、コイツが()()()()に行く様子を見ておけ」

 

「何だと!?」

 

「エニグマ、起動!」

 

 

 その機械の者が言うと、先程見た青い手が開き中心に穴が開く。その機械の者は万丈を手の穴に投げた。

 

 

「ウォオオオオ!?」

 

「ッ!不味い!」

 

 

 ゲムデウスは万丈を救おうとしてジャンプした。だが万丈は先に穴に入り、ゲムデウスもその穴に入ってしまった。その2人が入ると穴は閉じてしまった。

 

 それを見届けたあと、その機械の者は煙に紛れて消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐおっ!」

 

 

 何故か変身解除されて地面に打ち付けられたゲムデウスだが、直ぐに立ち上がり近くに落ちていたギアデュアルβのガシャットを拾いバッグに仕舞う。

 

 しかし穴に吸い込まれたかと思いきや地面にいた、というのは可笑しい話である。だがそんな話でさえも可笑しいと全く感じない。何故ならばゲムデウスは感じていたからだ。

 

 

「バグスターウィルスが、ほぼ沈静化している?」

 

『ってことは……また別世界な訳!?』

 

「だがある方向にバグスターウィルスが密集しているのは確かだ。一先ずそこに向かうぞ」

 

『アイツの言ってた様に、俺は……すまんゲムデウス、交代してくれ』

 

「うむ」

 

 

 ゲムデウスから高山へと人格を変更すると高山はゲムデウスウィルスによる身体能力でウィルス反応のある方まで走り出す。バグスターとの戦闘になっても良い様にゲーマドライバーを腰に着け、ドクターマイティXXのガシャットを持つ。

 

 路地裏を潜り抜け、広い場所に抜けるとゲムデウスがバグスターウィルスのある方を示す。高山はその方向に顔を向けると広場で5人の白衣を着ている人物と仮面ライダーらしき者居たが、白衣の5人敵らしき反応に変身していない様子が伺えた。

 

 

「ッ!ゲムデウス、行くぞ!」

 

『再度承知!』

 

 

 高山は走り出すと、ガシャットを起動させる。

 

 

【ドクターマイティXX!】

 

 

 軽快な音楽と共にゲームエリアが展開され、高山の後ろのゲーム画面からカプセル錠剤が出現する。この現象に驚いている8()()は思考停止し、ゲームエリアが展開された後ろを振り向いた。

 

 

「Mark X-2!変身ッ!」

 

 

 走る高山はゲーマドライバーにガシャットを差し込みレバーを開いて2名の仮面ライダーへと変身する。

 

 

【ダブルガシャット!】

 

【ガッチャーン!レベルアーップ!】

 

【ドクターマイティ!2人でメイキーング!X!】

 

 

 高山とゲムデウスはバグスターの所まで跳躍し、ゲムデウスは拳を入れて消滅させ高山は蹴りを入れて消滅させた。

 

 爆発によって一時的に視界が遮られたが、爆煙が晴れると8名の目には白い()()()()()とレーザーターボが居ることに驚きを隠せなかった。

 

 

「なっ!?」

 

「あれは……白いエグゼイドと白いレーザーターボ!?」

 

「自分ここに居るよね、あれ何?」

 

「しかもガシャットを使って変身してやがる……」

 

 

 無論反応はこうなる。しかしそれは高山とゲムデウスの目の前に居る右半身が赤い歯車で覆われた者も同じであった。

 

 

「なっ……!?何でドクターライダーが此処に居るんだよぉ!?変身できない筈だろぉ!?」

 

「一体何だ!?変身ができないって、どういう意味だ!?」

 

「ぐぬぬぬぅ……!だ、だが世界の終わりまで後24時間!精々指を咥えて地球が消滅するのを待つんだなぁ!」

 

「おい待て!」

 

 

 その機械の者は煙に包まれたと思いきや姿を消した。消える前に言ったあの言葉が気になるが、高山とゲムデウスはゲーマドライバーのレバーを閉じてガシャットを引き抜き変身を解く。

 

 

【ガッシューン】

 

 

「あ、自分と神の声だ」

 

「というか、あの白いガシャットって……ドクターマイティじゃないですか?」

 

 

 永夢の発言により永夢以外の全員が階段から降りる高山に注目するが、降りていた高山は万丈と離れたことと自分のことをまた説明しなければならないと考えながら近付いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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IF NEW GENERATION FINAL fourth

 緊急に設置された仮設応急処置所で現在ドクターたちがせかせかと患者の対応に当たっている。原因は出現したバグスターの接触感染によるものであり、ウィルスが体内に紛れて人の体を蝕んでいる。

 

 しかし()()()()には今、その症状を軽減できる者が1人居る。正確には2名だが、ゲーマドライバーを装着しガシャットを差し込みながら患者の対応に当たるのは高山明。

 

 

『…………ストップ』

 

「ふぅ……サンキュ、ゲムデウス」

 

『これぐらいは構わん。それより次だ、まだ大勢居るからな』

 

「分かってる」

 

 

 先程の状態で患者の腕に触れていた高山はゲムデウスの合図と同時に手を離した。その患者はついさっきまで苦しそうな表情をしていたが、今では大分楽になっているらしい。

 

 高山は次へと移動する。優先順位は子ども、女性、男性の順番で移動している医学生の高山。しかしながら人の数が数なだけにあまり捗っていない様に見えてしまうのだが、ドクターたちにとって今の高山という存在は有難かった。

 

 ゲムデウスワクチンの投与調整。単にバグスターウィルスに対してゲムデウスワクチンを打てば良いという問題でもなく、人体に影響が及ばない様に量を調整しなければならないのだ。ワクチンとて本来ウィルス、つまり投与のし過ぎで毒となることもある。

 

 さらにバグスターウィルスとゲムデウスウィルスはそもそもの感染力が違い、発症した時の即効性において天と地ほどの差がある。そんなウィルスから作られたワクチンを与えればものの数秒でバグスターウィルスを消すことなんて造作も無いのだ。

 

 

『よし次』

 

「オッケー」

 

「高山さん!」

 

 

 離れた場所から永夢の声が聞こえると、高山は永夢の方まで駆け足で近付く。到着すると永夢の他に見知らぬ2人、1人は先程仮面ライダーに変身していた人物なのは知っている。

 

 さらに近くのタブレット端末には檀黎斗神が居る。今回の騒動のみ衛生省が活動を許可しているのだ。

 

 

「はい」

 

「高山明さん、君には色々と聞きたいことがあるんです。答えてもらえますか?」

 

「はい。ですが直ぐには理解できない答えかも知れません……それでも構いませんか?」

 

「大丈夫ですぞ。不可思議現象は私の専売特許ですから!」

 

「あの……貴方は?」

 

「あぁ、紹介もせずに失礼しました。私不可思議研究所に勤めております『御成』という者です。以後お見知り置きを」

 

 

 御成は懐から名刺を差し出すと、高山はその名刺を受け取る。少し困惑しながらというのが大前提だが。

 

 

「俺は『天空寺タケル』、仮面ライダーゴーストだ」

 

『幽霊のライダー……にしては生者か詐欺じゃないか』

 

「だーもうゲムデウス良いから」

 

「ッ!ゲムデウス!?」

 

 

 しまったと高山は変な表情をする。永夢の発言に釣られて他のドクターたちも永夢の方に注目を集めた。高山は頭を抱えて溜め息を大きくつき、自身の身の内のことを伝えた。

 

 大前提として高山は別の世界から来たこと、次に高山がゲムデウスウィルスの()()()()()であること。高山の住む世界では未だにバグスターウィルスは活性化しており、新種のバグスターまで現れていること。ゲムデウスウィルスによる弊害を防ぐためにドクターマイティXXのガシャットを使い、バグスターが現れると変身して戦うこと。

 

 それらを全て伝えていると何時の間にか高山の周囲に人が集まっていたが、高山の言うことが殆ど突拍子も無いので未だに信じにくいというのもあった。

 

 

『では高山さん、1つ良いかな?』

 

「はぁ」

 

『君はゲムデウスウィルスとの過剰適合者という訳だが……変身の他に証拠を出してくれないか?ガシャットとゲーマドライバーだけでは何分普通の適合者にしか思えなくてね』

 

「分かりました、ゲムデウス交代」

 

 

 高山がそう言うと高山の体が仰け反った。慌てて永夢が支えようとするがゲムデウスは永夢の行動を中止させ、0と1の2進数で形成したデウスランパートを見せると全員驚く。その反応を見たゲムデウスは盾を消して黎斗神と目線を合わせる様にしゃがんだ。

 

 

「これで良いか?檀黎斗」

 

『あ、あぁ……間違いない、ゲムデウスだ。まさか宿主との人格を交代できるとは……』

 

「ほぉ、察しが良いな。私がゲムデウスだということを気付くか」

 

『あのデウスランパートを見せられでもしたら否が応でも認めざるを得ない』

 

「……さて、話を進めようか。先程別の世界の話をしたが実を言うともう1人来ていると思う」

 

「もう1人って……ゲムデウスと同じ別の世界の人間ってことか?」

 

「あぁ、だが私と宿主が住まう世界の人間ではない。推測されるは……空から見える地球からの人間だ」

 

 

 恐らくもう1人来ているという内容に頭を抱える始末となったドクターたちと2人。ゲムデウスが仰け反って少しすると高山がキョロキョロと辺りを見渡す。

 

 高山は何かを見つけた様で駆け足で向かった。

 

 

「万丈さん!」

 

「おっ?おぉ!明か!」

 

 

 辺りを見渡していた万丈は高山の声に気付き高山との再開を喜ぶが、直ぐに本題に移り話をする。

 

 

「明、ここ【パラレルワールド】ってヤツなのか!?」

 

「その解釈であってます。ただ僕にとってもパラレルワールドみたいで」

 

「……えっと、つまり…………お前の世界じゃないのか?」

 

『おぉ。馬鹿が正解を言いおった』

 

「だぁゲムデウス!」

 

 

 話は主にこの世界のことと別の世界のこと。ゲムデウスが高山の中に居て聞こえないのを良いことにズバズバと言っている。

 

 その話の途中、後から足音が響いていると思いきや永夢が高山を退けさせて万丈と話し始めた。

 

 

「そのドライバー……ビルドなのか?」

 

「へっ……?って、何で戦兎のことを知ってんだよ!?」

 

「せんと?誰かは知らないけど、そのベルトを巻いたビルドが僕の力を奪って!「ちょちょちょ、待ってください宝生さん!」」

 

 

 永夢は高山の制止で尋ねるのを辞めて高山の方に向き合う。

 

 

「何ですか、高山さん?」

 

「実は僕が最初に訪れた世界に万丈さんが言ってた人が居るんです。ただ、その世界にもバグスターが蔓延っていて僕らゲームの力を使うライダーじゃないと倒しきれてないんですよ」

 

「えっ……?」

 

「それに僕が見たビルド本人はその力を知らないと言ってました。つまり別の誰かが奪っていった……いえ、()()()()()()()()()()()というのが正しいかと」

 

 

 高山の発言で混乱の状態になる永夢は2人に背を向けてガラス窓の方にゆっくりと歩いていく。高山とゲムデウス、万丈はその後ろ姿を見ながら話をする。

 

 

「なぁ、明。お前よく頭が回るな」

 

「ゲムデウスウィルスの侵食も相まってかなり……でも、未だに分からないんです」

 

「何がだ?」

 

「僕が何故ここに来たのか?そして今現在この世界で永夢さんたちが変身できない中、何故変身ができるのかとか……」

 

「……やっぱり、()()ってやつか?」

 

『かなり曖昧だが……無くは無いな』

 

「そうか……運命、か」

 

 

 高山は考える。何故自分が呼び出されたのかというのも気になる上、現在この中でバグスターに対抗できるのは高山のみである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「パラド!?」

 

 

 永夢のその発言で思考が一気に吹っ飛んだ高山。直ぐに永夢の方に注目した。

 

 パラドと交信している間永夢は胸に手を当てたままであったが、終わったのか手を離して事の詳細を伝えた。

 

 高山が最初に着いた世界。ビルドが居る世界だがそこでもバグスターウィルスの存在は確認されており、この事件の主犯である最上魁星による犯行であるとのこと。現れているバグスターはネビュラガスとバグスターウィルスを融合させたネビュラバグスターと呼ばれるものである。最上魁星は平行世界移動装置を制作し平行世界同士を繋げるという理論を生み出していた。

 

 つまり現在の状態がこれだ。高山とゲムデウスという異常者は分からないが、その装置を作動したということは最悪の結果になるのは火を見るより明らかであった。

 

 世界の融合。これが意味するのは……

 

 

「『世界の消滅』」

 

「明?」

 

「世界同士が融合したら……2つの世界は、完全に消えてしまうんです」

 

「……はぁ?」

 

『変わらんなオイ…………っと、宿主よ。バグスターが接近している』

 

「分かった……行こう、ゲムデウs『何処へ行こうというのかね?高山さん』」

 

 

 呼び止められたことによって急に足を止める高山。その声の主である黎斗神は檻から出るとウィルス態となって何処かへと向かい、高山もゲムデウスの指示で示された地点へと赴いた。

 

 

 

 

 

 

 高山が到着すると、黎斗神はバグスター相手に臨戦態勢を整えた。

 

 

「ネビュラバグスター共ォ……私が相手だァ!」

 

 

 失礼、単に背を思い切り逸らして体を折り曲げただけであった。後から来たポッピーが心配する表情を浮かべながら黎斗神に問いかけたが、問題ないと言いつつ1つのガシャットを取り出した。

 

 

「あの時……貴重なライフを削って、ビルドの戦闘データを取ったガシャットを製作してたのさぁ!このガシャットを使えばァ!」

 

 

 黎斗神はもう1つのガシャットを取り出して2つのガシャットを起動させゲーマドライバーに差し込む。

 

 

【デンジャラスゾンビ!】

【仮面ライダービルド!】

 

【ガッシャット!】

【がっしゃっと!】

 

 

 黎斗神はゲーマドライバーのレバーを開く。

 

 

【がっちゃーん!レベルアーップ!】

【ガッチャーン!レベルアーップ!】

 

【ラビットタンク!兎と戦車!ベストベストマッチ!イェーイ!】

【アガッチャ!デンジャラスゾンビィ!】

 

 

「「変身した!?」」

 

「そうか!ビルドのデータならネビュラガスの影響を受けない!」

 

「私こそ神だァ!」

 

 

 黎斗神がガシャコン・ブレイカーを持ってバグスターを殲滅していく。この暴れっぷりに高山とゲムデウスが入る余地も無く最後の1体となったその時、黎斗神が苦しみ始めた。

 

 

「うぐっ!?ぐぉおお!?」

 

 

 少しすると黎斗神の変身が解ける。

 

 

【がっしゅーん】

【ガッシューン】

 

 

 変身解除された黎斗神と目の前に居たネビュラバグスターは互いに暫く見つめあっていた。ネビュラバグスターはかなり不思議そうに、何もせずに見ていた。

 

 

【がっしゃっと!】

 

 

 黎斗神はガシャコン・ブレイカーにガシャットを差し込むと乱雑に叩き付け始めた。

 

 

【ライダー!クリティカルフィニッシュ!会心の一発!】

 

 

 音声が終わると同時にバグスターは消滅、そして黎斗神は最後の一撃で尻餅を着いて終了した。

 

 

「やはり慣れないガシャットだと……副作用が大きいかァ」

 

「カッコつけても最後の尻餅はどうかと?」

 

『単に滑稽でしかない』

 

 

 黎斗神が舌なめずりしながら言ったが、高山のツッコミがクリティカルヒットしたのかゆっくりと高山の方を向いた。その際にデンジャラスゾンビの音程が徐々に下がりながら聞こえてきたのは幻聴かもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




平成ジェネレーションズfinalを見た皆さんに質問。映画を見て気に入っているシーンはどれですか?因みに自分は最初のレーザーターボの戦闘シーンで高所から飛び降りる時に「思ったより高ーい!」と言いながら飛び降りるシーンと黎斗神のネタ満載シーン全般が好きです。


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IF NEW GENERATION FINAL fifth

 あの後、ビルドガシャットの併用ならばガシャットを使用して変身できることが判明し永夢やポッピーがガシャットの量産を求めた。が、最初は作る気が無かった。自分が神であるという証拠に1つしか作らないという何とも我を貫き通している黎斗神であった。

 

 しかしビルドガシャット量産の問題は御成の説得によって解決された。これには安堵の表情を浮かべるが、如何せん時間が足りない。この時高山の考えには平行世界移動装置を止めるのか、此処で守りに徹するのかを悩んでいた。

 

 そして時間は過ぎていき、この世界で夜を過ごすことになった高山とゲムデウス、そして万丈。ネビュラバグスターに感染していた患者はゲムデウスワクチン摂取による影響で大分楽になっていた。が、そもそものバグスターウィルス自体は消す事が容易では無かった。

 

 バグスターウィルスは人間の遺伝子を媒介として形ある存在に変化することから、ある意味人間と一体になった状態とも言える。だが人間側からゲムデウスワクチンを使うとなると消滅させるには繊細な作業が必要なのだ。

 

 ワクチンも元はウィルス、最強のワクチンとて人を殺すこともある。とどのつまり、人間の遺伝子に影響が及ばないぐらいに留めて置かなければならないということだ。

 

 閑話休題(話を戻そう)

 

 現在高山はこんな時間にも関わらず外に出ていた。空を見上げて星を見つつゲムデウスと会話している。

 

 

「なぁゲムデウス」

 

『何だ?こんな時間まで起きてるとは、交際相手と一緒に居る時以外無いのにな』

 

「おいバカ。……まぁ、今回は良いや」

 

『……ほぉ』

 

「それよりさゲムデウス、ちょっとした質問だ」

 

 

 星と地球を見上げている高山は少しだけ微笑みつつゲムデウスに対して話を続けていく。傍から見れば独り言かもしれないが、少なくとも高山とゲムデウスにとっては1つの会話である。

 

 

「平行世界って、どれくらいあるんだろうね?」

 

『ふむ……』

 

 

 ゲムデウスも少しだけ考えたあと、高山に話していく。

 

 

『恐らく()()()()()()()かもな』

 

「あ、やっぱり?僕もそうさ」

 

『お前の自論を思い浮かべただけだ。確か……平行世界は人間が空想、妄想として思い浮かべたものは全てあるのではないか?という考えだったな』

 

「そう。僕らがこの世界を現実と認識しなきゃこの世界は存在しない……なんて考えから逆を考えて“僕らが色んな世界を考えればその世界は何処かで現実となっている”っていう考え方さ。というより、よく覚えてるね」

 

『お前の脳にもウィルスが入っているんだ、応用すれば脳の何処が活性化してどんな考えをしているか何となく分かる』

 

「……んな簡単に言ってるけど、結構凄い事だからね?これ」

 

 

 この世界がもうすぐ終わるというのにも関わらず、高山とゲムデウスは何時もの様に談笑していた。ある意味ゲムデウスとの関係は変わらないものなのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いよぉ!異端者(イレギュラー)!」

 

「『ッ!?』」

 

 

 かなり陽気に、それも世界が終わるというのに関係ないという状態を貫いているかの様な声色は高山の前方に居た。

 

 高山は脚を戻す勢いだけで立ち上がり顔見知りの者に敵意を向けた。

 

 

「お前は……ライトカイザー!」

 

「Exactly!大方他のライダーから聞いたんだろうが……まぁ今は置いとくぜぇ」

 

 

 ライトカイザーは高山に近付く。高山はバッグからゲーマドライバーではなく、ガシャットギアデュアルβを取り出す。

 

 

「ほぉ!違うガシャットも使うか!」

 

「何故此処に来た?目的は何なんだ?」

 

「目的ィ?平行世界同士を繋げるとかじゃなくてかぁ?」

 

 

 高山の体が反れると、人格変更したゲムデウスが問いかける。

 

 

「貴様が此処に来る理由が知れんのだよ。今ここには私とゴースト、ビルドガシャットの併用によるドクターライダーの活動が可能だ。お前が来たとしても返り討ちにされると考えるのだがな?」

 

「……んまぁ、そう考えるわなぁ」

 

 

 ライトカイザーは持っている銃をゲムデウスに向けつつ言い放つ。

 

 

 

 

「今の目的はお前()だ。異世界のライダー」

 

「…………お前達?私は1人だが?」

 

「いんやぁ、お前にはもう1人居るだろ?正確にゃあ1つの体に2人居るが記憶の共有はされるんだろぉ?」

 

「…………察しの良い事だ。もう一度聞くぞ?()()の目的は俺()()の何だ?」

 

「おぉ!変わった変わった!やっぱ口調が変わると性格も変わるんだなぁ」

 

 

 未だに警戒態勢を取ったままの高山はギアデュアルβのギアを右に回して起動させる。

 

 

【Taddle Fantasy!】

【Let's going king of Fantasy!Let's going king of Fantasy!】

 

 

 ゲーム画面からファンタジーゲーマを召喚し臨戦態勢になる高山。ライトカイザーは溜息をつき高山に銃を向けながら言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「目的は……お前らだよ」

 

「変身ッ!」

 

 

【DUAL UP!】

 

 

 変身する寸前でゲムデウスに変わるとスイッチを押して変身する。ファンタジーゲーマが高山の体を包み込むとゲムデウスはファンタジーゲーマーとなり、デウスラッシャーとデウスランパートを召喚してライトカイザーに向かう。

 

 

【Satan appears!MaOU!Taddle Fantasy!】

 

 

「セァッ!」

 

「ふっとォ!」

 

 

 ゲムデウスは空中浮遊を使用してライトカイザーに向かいデウスラッシャーを叩きつける。ライトカイザーは右側に取り付けられた歯車から歯車状のエネルギーを出して相対する。

 

 剣と歯車から火花が飛び散り拮抗状態になること5秒間。ゲムデウスは歯車の回転も相まって右に逸れる様に離れていき、ライトカイザーは数歩退いた程度に収まった。

 

 ゲムデウスはデウスラッシャーをデウスランパートを前に出して隠し構えるとライトカイザーに言い放つ。

 

 

「私たちに何の用だ!?そして私たちの何が目的だ!?」

 

「おぉ、また変わった。それと目的かぁ?教えるとでも?」

 

「ならば直接お前の記憶から知ろうか!」

 

 

 ゲムデウスは盾で身を隠し突撃していく。ライトカイザーはそれを右へと避けて銃撃を仕掛けるが、ゲムデウスの視界に入ったことが仇となってエネルギー弾を盾で防がれる。

 

 その隙を逃さないゲムデウスはデウスランパートの伸縮攻撃を発動させて不意打ちする。それを受けたライトカイザーは地面に倒れ転がって離れる。

 

 

「ぐおっ!?」

 

「ぬぅん!」

 

 

 ゲムデウスは剣を上に掲げると上空から低級バグスターが降り立ちライトカイザーに襲い掛かる。

 

 

「まぁじかよッ!」

 

 

 ライトカイザーは向かってくる低級バグスターに対して回し蹴りや銃撃によって退かせる。ゲムデウスはその隙を狙ってデウスラッシャーでの剣撃と盾でのチャージアタックを繰り返す。

 

 

「ふっ!せあっ!らあっ!」

 

「あーったく忙しー!いって!」

 

 

 低級バグスターの攻撃が当たりダメージは入るが、それも微々たるもの。なのでゲムデウスは積極的に攻撃に回っていく。低級バグスター達もゲムデウスの動きに合わせて追撃を入れていき、遂にはライトカイザーの動きを止めて膝を着かせるまでに至った。

 

 

「ぬぉおおお!?」

 

「コイツで決める!」

 

 

 ゲムデウスはホルダーからガシャットを取り出すとギアを再度回転させてホルダーに戻す。

 

 

【KIME WAZA! DUAL GASHAT!】

【Taddle Critical Slash!】

 

 

 ゲムデウスは剣と盾両方を捨てると空中に浮かび上がり前回転すると、紫のエネルギーが蓄積された右足を突き出してそのままライトカイザーに向かう。

 

 

「ォオオオオオオオオオオ!」

 

「おいしょっとぉ!」

 

 

 ライトカイザーは右肩の歯車をエネルギー状態にさせてゲムデウスのキックと衝突させる。少しの間拮抗が続いていたが、徐々にゲムデウスが押していっている。

 

 

「セアアアアアッ!」

 

「ぐぉはぁッ!」

 

 

 最終的にはゲムデウスのキックの威力が上回りライトカイザーを吹き飛ばした。慣性の法則に従って着地したゲムデウスはホルダーからガシャットを取り出しギアを戻して変身解除する。

 

 

【GASHUーN】

 

 

 ゲムデウスはそのままライトカイザーに近付くが、直ぐにライトカイザーが起き上がった。だが満身創痍という所だろうか、ゆっくりとした動きであった。

 

 ライトカイザーはゲムデウスを見つめ、徐々に笑っていく。

 

 

「くはははっ……中々やるねぇ」

 

「まだやる気か?今の貴様ならこの体で充分だぞ?」

 

「いんやぁ…………俺の目的は達成したぜぇ」

 

「……何?」

 

 

 ゲムデウスはライトカイザーが何を言っているのか分からなかった。そのゲムデウスの表情を見てライトカイザーは笑いつつ1()()()()()()を見せた。

 

 それは今上空に見えている世界で桐生戦兎が持っていたボトルと酷似していたが、色は白いままであった。

 

 

「それは……あの世界の」

 

「知ってるよなぁ?これは【フルボトル】っつう代物だ。コイツは成分を吸収させて保存させる役目があってだな、ボトルを振れば中身の成分の力を使用できるんだよ」

 

 

 ライトカイザーはその手に持っているフルボトルを見せながら発言する。その表情は仮面によって見えはしないが、何処と無くニタニタとした表情を浮かべているのは予想している。

 

 ライトカイザーはゆっくりと立ち上がり話を続けていた。

 

 

「まぁ何が言いたいかっつぅとよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()ってことだ」

 

「何っ!?」

 

『んな馬鹿なッ!?』

 

「お前が高威力の技を使おうとした時、既にボトルを仕込んでいたんだよ。そしてお前と俺とで衝突した時、その成分の一部を奪った」

 

「貴様ッ!その中身が何なのか分かっているのか!?」

 

「分からねぇから採取したんじゃねぇか。……だが分かることは、お前は()()()()()()()()()()っつぅことだ」

 

 

 不快感が残る笑い声を挙げながら背を反らす。ゲムデウスと高山はこの状況に危機感を覚えざるを得なかった。

 

 成分の一部ということからゲムデウスウィルスの全てを奪えなかったのか、奪わなかったのかは判断しかねる。だが採取されたゲムデウスウィルスは、高山やこの世界に住まう人間が知っている。

 

 

「そいつを返せ!」

 

「おっとぉ!」

 

 

 ゲムデウスが向かうが先に銃撃によって進行を阻まれ歩みを止める。その隙にライトカイザーは煙に紛れてその場から立ち去った。

 

 ゲムデウスは辺りを見渡すが何処にもライトカイザーは居ない。

 

 

「ッ!…………くそっ!」

 

 

 ゲムデウスと高山は憤慨していた。ゲムデウスウィルスが使用されでもすれば、この世界はパンデミックに陥らせる可能性も無くは無いからだ。

 

 しかし現在ではどうしようもない状態であるのも事実。ゲムデウスは高山と人格を交代し、まだビルドガシャットの量産で起きているであろう黎斗神を訪ねていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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IF NEW GENERATION FINAL sixth

要らないかも知れない前書き

ガシャットギアデュアルとデュアルβ買ったどー!
(゚∀三゚三∀゚)計1万2200円!←オイバカ

では本編どうぞ。


 日の出近く、永夢と高山が建物内でライトカイザーの野望を阻止するべく準備を整えていた。永夢は命を守る為、高山はゲムデウスウィルスを採取されたことから自らの失態を取り返す為と平行世界同士の衝突を避ける為に向かう。

 

 そんな中、1人高山の準備を見ていた人物が居た。あの上空に見える世界から同じくやって来た万丈龍我であった。高山がドクターマイティXXのガシャットを体に突き刺しワクチン摂取を行っている様子を見たあと高山に尋ねた。

 

 

「なぁ……明」

 

「ん……何ですか?万丈さん」

 

「……お前も行くんだろ?」

 

「えぇ……それが?」

 

「何でそこまでして行くんだ?」

 

 

 高山からの反応は疑問のみであった。何故万丈がそう思うのかが理解できなかったが、万丈が話してくれた自身のことを聞いて理解を深めていった。

 

 

「俺さ……何でお前らがそこまでして命張れるのかが分かんねぇんだよ。仮面ライダーになったのも、本当に成り行きみてぇなモンだし……正直地球がヤバくなってるのは分かってるんだけどよ、実感が湧かねぇっつうかさ」

 

「あー…………ははっ」

 

 

 話を聞いた高山が少しだけ笑った反応を万丈は突っ込む。が、高山の表情は変わらずに笑顔のままであった。

 

 

「……何で笑うんだよ?」

 

「いえね、万丈さんの反応って本当はそれが()()()()()だなぁって」

 

「……はっ?」

 

 

 高山はドクターマイティのガシャットを片付けるとバッグを持って万丈の隣に座り、今度は自らの考えを出していく。

 

 

「そりゃあ、誰だってこんな規模の大きい事象に対して実感なんて湧きませんよ。万丈さんの反応は普通ですよ」

 

「……じゃあお前らの反応は、普通じゃねぇってことか?」

 

「えぇ、勿論。……まぁ僕の場合は宝生さんとは違う理由で行きますけど」

 

「人を助ける……とかじゃ無くてか?」

 

「えぇ」

 

 

 ゆっくりと頷いた高山は徐にゲーマドライバーとドクターマイティのガシャットを取り出し、それらを見ながらポツリポツリと話していく。

 

 

「僕の場合は……()()()()()()()()()()っていう感じです」

 

「生きる……為に?」

 

「僕はゲムデウスウィルスに感染して適合した。でも普通の適合じゃなくて、他人に害を成す適合なんです」

 

 

 “でもね……”と一言置いて話す高山の手は力強く握りしめられており、その時の目には過去を見つめ今を見る目があった。

 

 

「それでも僕らは生きていきたかった。例えどんなことがあっても、生きたいと願った。だからこそ、僕はこの2つを使って【贖罪】を……この罪を償い続ける義務を選んだんです。自分たちが生きる為に」

 

 

 その時の高山は笑っていたが、同時に悲しんでいる様にも見えていた。その2人に歩み寄る足音が聞こえたかと思い、見上げると永夢が2人の近くにやって来た。

 

 永夢の要件は高山であった為、高山は立ち上がり外へと向かおうとした。だがその途中、その2人を追い掛ける様にして万丈も付いて行く事となった。移動手段に関しては高山がゲムデウスの能力を使用することで解決し、平行世界移動装置に向かって駆けて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バイクでの移動中、永夢がパラドから“永夢の力を奪ったビルド”について話されていた。成分を採取したビルドは最上の目的を知っておりその対策の為にエグゼイドから採取したということらしい。

 

 大方高山の考えと合致している辺り、恐らくエグゼイドの力を奪ったのはそれが理由なのだろう。

 

 パラドからの通信が切れ暫く進んでいると、ゲムデウスがバグスターの反応を検知した数分後に人の悲鳴が聞こえた。高山と永夢は戸惑いなくバイクを走らせるが、永夢の後ろに乗車していた万丈が叫ぶ。

 

 

「おい!エニグマはどうすんだよ!?」

 

「今は助けるのが先です!高山さん!」

 

「ゲムデウス!行くよ!」

 

『承知!』

 

 

 高山がドクターマイティのガシャットを使用しXR・XLゲーマーに分かれてバグスターに対峙していく。永夢は高山が対処している間、救出に当たっていく。

 

 

【ドクターマイティ!2人でメイキーング!X!】

 

 

「セアッ!」【HIT!】

 

「シャアッ!」【HIT!】

 

「今の内に!早く逃げて下さい!」

 

 

 ネビュラバグスターの戦闘能力は大して高くは無い。ある程度の連打や数回の蹴りで対応できるが、ゲームの力を持つライダーのみでしか倒せない。

 

 だがその点を考えて尚、戦う者も居る。万丈が変身し永夢の手助けをしていく。それを見ていたゲムデウスが万丈のサポートに入り対処していく。

 

 人の救出が終わった所で、永夢もガシャコン・ブレイカーを使用して戦いに当たっていく。万丈は永夢の不可解とも取れる行動に目を見張るが、直ぐにネビュラバグスターの攻撃に意識を移す。永夢の方はゲムデウスが死守してくれている。

 

 永夢はガシャコン・ブレイカーにビルドガシャットを差し込むとバグスターに向けて振るう。

 

 

【がっしゃっとぉ!】

 

【きめわざ!ライダークリティカルフィニッシュ!】

 

 

 永夢の攻撃で2体のバグスターが消滅し次に行こうとした時、突如高山とゲムデウスの動きが止まった。そして直後……

 

 

 

 

「「アッ……がァ……!?」」

 

 

 高山とゲムデウスは頭を押さえて膝を着いた。それを見た永夢と万丈が声を掛ける。

 

 

「ッ!ゲムデウス!?」

 

「お、おい明!?」

 

「アグゥ…………!あ、頭が……!」

 

「これは……!?何だ……!?」

 

 

 高山とゲムデウスは二心同体。だからこそお互いの視覚や聴覚、嗅覚、味覚、触覚から得られる情報も共有される。例えば()()()()()()()()時など。

 

 

「くほっ……!かほっ……!」

 

「ッ!……不味いッ!」

 

 

 突然ゲーマドライバーから白い電流の様なものが流れると、ゲーマドライバーからドクターマイティのガシャットが排出され変身が解除される。変身が解除されたことで高山とゲムデウスが1つとなり人格は高山のものとなる。

 

 それを確認した残りのネビュラバグスターが永夢と万丈に襲い掛かる。

 

 

「くそっ!」

 

 

 万丈は装備している剣『ビートクローザー』のグリップエンドを2回引っ張り、ネビュラバグスターを退けようとする。

 

 

【ヒッパレー!ヒッパレー!】

 

 

「ハアァ……!おりゃああ!」

 

 

【ミリオンヒット!】

 

 

 剣から衝撃波を放つもネビュラバグスターには有効打にならず、押し返される。それにより衝撃波が万丈に衝突し変身が解除される。

 

 

「おあああ!」

 

「ッァ……!万丈……さん……!」

 

 

 高山がフラフラとした足取りで立ち上がり再度ゲーマドライバーとガシャットを用意し、ガシャットを挿そうとしたがまたも白い電流の様なものが流れて阻まれる。

 

 すると突然万丈の近くの地面が陥没し万丈が落ちそうになる。それを見ていた永夢が万丈の手を掴んだ。

 

 

「ァァ……永夢、さん……万丈さん」

 

 

 ふらふらに成りながらも高山はゲムデウスと人格を交代し、なけなしにソルティの能力で全身の力を強化させて向かう。だが如何せん距離が距離な為、間に合わない。

 

 そんな時、誰かがその場にやって来て万丈の手を掴んだ。ゲムデウスも高山からは理解できない中、永夢とその人物は万丈を引き上げ地面に座った。ゲムデウスは高山の体を酷使しつつ3人に歩み寄っていく。

 

 その人物はゲムデウスに気付くとボロボロの状態なのを気付きゲムデウスに駆け寄るが、ゲムデウスは手を出して静止させる。

 

 

「ちょっと君!大丈夫!?」

 

「あぁ……心配するな。あと来るな感染するぞ」

 

「か、感染……?」

 

 

 何が何だかよく分かっていない様子を見せる目の前の人物。ゲムデウスは手に持っていたドクターマイティのガシャットを差し込む……が、機能していない。

 

 

「!?」

 

 

 ゲムデウスがドクターマイティのガシャットを何度も挿すが、どうやってもゲムデウスワクチンが介入しない。ゲーマドライバーに差し込もうとしても白い電流の様なものが流れて阻害される。

 

 つまりゲムデウスウィルスの抑制が出来ないということだ。それを見ていた永夢と万丈も何かが可笑しいと感じてゲムデウスに尋ねた。

 

 

「まさか……!ゲムデウス、そのガシャットも!?」

 

「……使えん。機能すらしていない」

 

「うぇ!?じ、じゃあネビュラバグスターはどうすんだよ!?」

 

「ね、ねびゅら……何?」

 

「ネビュラバグスターは私の力でどうにでもなる。だが問題はウィルスの増殖だ、このままでは不味い」

 

「げ、ゲムデウス?ウィルス?増殖?ガシャット?」

 

「お前さんには関係無い、万丈を助けてくれたことは礼をしておこう。ではな」

 

 

 相変わらずゲムデウスは淡白な所があるが、そう言われたのに対しその人物は引けを取らなかった。ゲムデウス前に出て両肩を掴み歩みを止めた。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!そんなボロボロの体で!」

 

「……宿主には悪いが、それがどうした?」

 

「無茶はしないでくれ!それに、関係あるよ」

 

「何…………?」

 

 

 その人物は離れたあと、ゲムデウスに手を差し出してこう答えた。

 

 

「俺もこの現象を追って来たんだ。だから此処に居る」

 

「……成程。目的は同じ、か」

 

 

 ゲムデウスは渋々ながらも腕を伸ばしてその人物の手を握りしめる。相手もその反応に思わず手を握り返した。

 

 

「俺は火野映司。君たちと同じ『仮面ライダー』だ」

 

「私はゲムデウス、そしてこの体の本来の人格が高山明という。今は宿主を休ませている所だ」

 

「そっか、宜しくゲムデウス」

 

 

 そう答えた火野映司の表情は笑顔に溢れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暫くして火野の案内に従い歩き続けていくと1つの建物を発見した。曰く今回の件に『財団X』と呼ばれる存在が1枚噛んでいるとの情報を聞きつけ、火野はここまでやって来たのだという。

 

 そして4名はその建物の中に入り階段を上っていた。ここで万丈がゲムデウス以外のライダーに尋ねた。何故そこまでして他人を救うのかと。

 

 

「例え誰であろうと僕は患者を救う。だから助けるんです」

 

 

 そう言った永夢の表情は清々しいものとなっていた。それを見ていた万丈は言葉を詰まらせるも、火野とゲムデウスが万丈に告げた。

 

 

「君も見つけられると良いね」

 

「私たちみたくは成らないでくれよ」

 

「……何だ、そりゃ?」

 

 

 そう言う万丈の表情は楽なものとなっていた。

 

 そして……最上階らしき場所にて、目的の人物はそこに居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皆様、新年明けましておめでとう御座います。今年も宜しく、お願い致します。新年1発目は午前2時位に投稿する……大晦日に間に合わなかった(´;ω;`)

あと恐らく、この日中にもう1本出すと思います。思うので出さない場合も勿論ありますが今度ともこのDr.ゲムデウスを御贔屓にお願い致します。


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IF NEW GENERATION FINAL seventh

映画を見なければ……カイザーの変身音声が思い出せない……。なので今回は勘弁してください。


「漸く来たかぁ……仮面ライダー共ォ!」

 

 

 『ライトカイザー』もとい()()()()の『最上魁星』は赤を主体とした派手な内装の部屋に囲炉裏という似つかわしく無い場所に居た。全身白の服装で纏められ顔の左側には黒い傷模様がある。

 

 最上はかなり不気味な笑いをする。その不気味さに嫌悪を募らせるが、ゲムデウスが前に出て最上と話をつける。

 

 

「貴様……昨夜はよくもやってくれたなぁ!」

 

「おっほぅ!お前さんか!態々こっちに来るなんて、随分と殊勝なこったぁ!」

 

 

 状況を飲み込めない火野は近くに居た永夢に尋ねた。

 

 

「ゲムデウスに何が?」

 

「ゲムデウスウィルスの一部を採取されたんです。幸い一部だけなので支障は無かった様ですが……」

 

「いんやぁ……幸いも糞もねぇよぉ!」

 

 

 2人の話を聞いていた最上が割り込んで来た。2人は最上に再度注意しながら動きの1つ1つに警戒心を持つ。ゲムデウスは0と1の2進数から出来たデウスラッシャーとデウスランパートを装備し、デウスラッシャーを最上に向ける。

 

 

「貴様が奪った私のウィルスが入ったフルボトル……何処にあるか吐いてもらうぞ」

 

「ほぉ……こりゃすげぇな。まさか人間の体でも召喚できんのか」

 

 

 完全に会話が成り立って無さそうな状況だが、未だにゲムデウスはデウスラッシャーを向けているが最上は飄々(ひょうひょう)とした態度で対応している。

 

 最上はこの部屋にある永夢たちから見て右側の箱状の曇りガラスのある台まで近付くと、思いっきりそのガラスを割った。そしてその中に、フルボトルが1つ。

 

 4名はそのフルボトルを見て確信する。あれがウィルスの入ったフルボトルだと。

 

 

「お探しものは……これかぁ?」

 

 

 最上は右手でフルトルのキャップを持って、ヒラヒラと振って見せつけている。ゲムデウスは嫌悪の表情のまま尋ねた。

 

 

「貴様、それを使って何を()()?」

 

「……過去形ってあたりは、俺の細工に気付いてんのか」

 

「あの尋常なまでの“痛み”、私と宿主以外だとすれば採取したお前しか居らんわ」

 

「成程……感覚が共有されてんのかぁ」

 

 

 最上が手に持っているフルボトルを上下に振る。シャカシャカと小刻みに音が聞こえるが、それを掻き消すかの様な声をゲムデウスが挙げる。

 

 

「っぐ!?」

 

「ゲムデウス!」

 

「このボトルにはなぁ……お前から採取したウィルスにネビュラガスを配合させてんだよ」

 

「ネビュラ……ガス。それが、ネビュラバグスターの材料……という訳か」

 

「あぁ、あのネビュラバグスターはエニグマの大事な燃料なんだよ。お前らという異常者が現れたせいで計画に支障が出たんだが……逆にラッキーだったぜぇ!まさかバグスターウィルスよりも上位のウィルスが手に入るんだからよぉ!」

 

「つまり……私たちのドクターマイティが使えなくなったのは、ネビュラガス配合前のゲムデウスワクチンでは対応できないという訳か。つくづく神経を逆撫でする様な真似を!」

 

「ハッハッハッハ!鬼ファンキーな事だろぉ!?」

 

 

 ゲムデウスの言った対応。元々ドクターマイティXXのガシャットは九条貴利矢と檀黎斗神の活躍によって生み出されたもの。実際は黎斗神の体内でゲムデウスの抗体が生み出され、それを培養させてガシャットにさせたものである。

 

 とどのつまり今バッグに入れているドクターマイティのガシャットはその時のウィルスから作られたワクチンということだ。そして、ワクチンはウィルスから作られる。

 

 ドクターマイティのガシャットは、最上が採取したゲムデウスウィルスにネビュラガスを配合させたことで高山の体内にあるゲムデウスウィルスの特性が変化し使用出来なくなったということだ。

 

 未だに最上はフルボトルを振り続けている。ゲムデウスは剣と盾を捨てて頭と胸の締め付けに苦しむ。

 

 

「ァグッ……!かひゅっ……!あがっ……!」

 

「ッ!やめろォ!」

 

 

 万丈が変身しようとすると最上は止めた。それと同時にゲムデウスの頭痛と胸の締め付けが徐々に軽減されていく。

 

 最上は万丈たちに不敵な笑みを浮かべながら、自身の目的について軽口の如くペラペラと喋っていく。

 

 

「さてぇ……話は変わるが、このエニグマ。単なる平行世界世界移動装置じゃぁねぇ、あの上にある世界とこの世界を合体させる装置なんだよ。だが2つの世界がぶつかりゃぁ……ポーンって、2つとも世界が無くなっちまう。……だが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()。向こうの世界の俺とこの世界の俺が出逢えば、俺たちは()()()()を手に入れるんだよ!鬼ファンキーだろぉ!?」

 

「不老……不死」

 

 

 永夢がそう呟いた、しかし最上の最後の投げかけられた疑問には答えない。いや、答えられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい加減にしろよ、くそジジイ」

 

「……あぁん?」

 

 

 ゆっくりとゲムデウスが立ち上がる。しかし立ち上がろうとすると力が入らないのか滑って倒れてしまうが、また再度立ち上がろうとする。

 

 その様子を見ていた最上に()()は答えた。

 

 

「不老不死……だって?笑わせんな。そんなもん融合しても手に入らねぇよ」

 

「何ィ……?」

 

「良いか、よく耳かっぽじって聞けよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()!そんな御伽噺(おとぎばなし)、大の大人が信じんのかよ!バーカ!」

 

 

 出せる限りの声を出した高山。実は先程のゲムデウスがネビュラガスの影響を受けていた時、感覚共有された痛みや苦しみによって起こされた。そして言いたいことを言う為だけにゲムデウスと無理矢理変わった。

 

 そんな高山の言葉に微妙に怒りを見せるが、それ以上に無気力そうな表情をした。そんな最上は残りの箱状の曇りガラスがある台まで歩き、そのガラスを割った。

 

 その中にはメダルや何かのスイッチらしきものが存在しており、その内のメダルを全て投げた。それらは直ぐに人の形を取り、戦闘態勢に入った。

 

 

「グリード!?」

 

「財団Xの技術力を嘗めねぇ方が身の為だぜぇ?」

 

 

 高山はゲムデウスと再度人格を交代し、永夢、万丈、火野もそれぞれ戦闘態勢に入る。

 

 

「おっと。そこのお前さんは……こっちが良いか」

 

 

 最上は火野を指さすと服の袖の中から3枚のメダルを取り出す。そして投げるとメダルが集まり、赤い鳥をモチーフとした人型の様な何かとなる。

 

 

「それと……異常者ァ!お前は……ここで潰す」

 

 

 最上は特殊な銃の形をした機械に別のフルボトルを差し込み、その機械から煙を排出させる。

 

 

【Yeah!ファンキータイム!】

 

 

 その煙が晴れると最上はライトカイザーとなっており、その後ろで花火が上がる。ゲムデウスは再度剣と盾を召喚し、バグスターの能力を使う。

 

 

「“グラファイト”“ソルティ”」

 

 

 デウスラッシャーに赤い幻影が纏われ、次に高山の体に青い幻影が纏われる。ゲムデウスは盾を構え、その後に剣を突きの構えをする。ライトカイザーは右拳を前に出し、左拳を引いて構える。

 

 

「ッラァ!」

 

「『激怒龍牙』! 」

 

 

 ライトカイザーが走り出すと同時に周りに居たグリードも永夢たちに向かって走り出す。ゲムデウスはデウスラッシャーをXの様に切って赤い斬撃を放つ。

 

 ライトカイザーはゲムデウスの放った斬撃を右肩の歯車をエネルギー状にさせて回転することで相殺していく。相殺した場所から爆発が起きるも、その場所から銃撃が放たれる。

 

 ゲムデウスはデウスランパートで弾くと爆炎からライトカイザーが現れ肉弾戦を仕掛けていく。ゲムデウスはデウスラッシャーで対応するが避け蹴りを与えられ、ゲムデウスは退く。

 

 だがゲムデウスとてやられているばかりでは無い。体勢を立て直したあと、デウスランパートを捨て去りデウスラッシャーを逆手で持って走る。ライトカイザーに近付くと回転しながらジャンプして上から斬りつける。

 

 ライトカイザーは左に避けるがゲムデウスが着地した瞬間に左拳に赤い幻影を纏わせてアッパーの容量で殴り付ける。ライトカイザーはその拳に当たり打ち上げられ、デウスラッシャーに纏われた黒い斬撃を放つ。

 

 

「『黒龍剣』!」

 

「ぬあぁっ!?」

 

 

 ライトカイザーは黒い斬撃に吹き飛ばされ、囲炉裏の近くに倒れる。追い討ちを掛ける為にゲムデウスは倒れているライトカイザーに近付くが……。

 

 

「っぐッ!?」

 

「ヘヘッ……残念だったなぁ……」

 

 

 ライトカイザーはネビュラガス配合のゲムデウスウィルスの入ったフルボトルを振ることで、ゲムデウスの動きを止めた。倒れそうになるが、ゲムデウスはデウスラッシャーを杖替わりにしてギリギリ保っている。

 

 ライトカイザーは体勢を整えて座り、ゲムデウスの様子を見ていた。勿論、フルボトルを振り続けながら。

 

 

「タフだなぁ……」

 

「ぐぅ!……あぐっ!…………ハァ……アガッ!」

 

 

 どんどん倒れ伏していくゲムデウス。しかしフルボトルの振る音が聞こえなくなるとライトカイザーを見た。

 

 

「んぉ?」

 

 

 ゲムデウスもライトカイザーの見ている方向を見た。

 

 火野が赤いグリードと呼ばれる者を追い掛ける様に空に飛び込んでいったのだ。

 

 

「映司さんッ!」

 

 

 その飛び込んでいった様子を見て4名には疑問が浮かんだ。何故そこまでして追いかけて行ったのかが分からないのだ。しかしライトカイザーが呆気に取られている隙にデウスラッシャーで斬りつける。

 

 

「ッア!」

 

「ぬぉ!?……コイツゥ!」

 

 

 ゲムデウスの斬撃を銃型の機械で防ぎ、そのまま銃撃をゲムデウスの腹に当てる。

 

 

「ぐほぉ!」

 

「「ッ!ゲムデウス!」」

 

 

 ゲムデウスは銃撃で退く。倒れ伏したゲムデウスは強制的に高山へと人格が変わり能力全てが消える。永夢と万丈が高山に近付き守るように位置する。

 

 

「おい大丈夫か!?」

 

「っガボッ……ぼ、僕は大丈夫ですが……ゲムデウスの意識が……暫くすれば、何とか」

 

 

 倒れ伏した高山を守る為に集まったことで残り4体のグリードに囲まれる。かなり危険な状態に巻き込まれ、絶対絶命のピンチに陥っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな時、突如虫のグリードに攻撃が入る。続いて猫科の様なグリードにも攻撃が入る。攻撃をした人格は見慣れないが、その隣にいた人物は見覚えがある。

 

 

「火野……さん……」

 

「待たせちゃったね、皆」

 

「おい映司、ちゃんと今日の分のアイス寄越せ」

 

「だぁーもう分かったから!」

 

 

 かなり呆れている様子で応える火野。グリードが襲ってくるが火野とその人物は攻撃を避ける。火野は何かを腰に当てると、それは自動的に巻き付けられベルトとなる。

 

 見慣れない人物は火野に向かって3枚のメダルを投げると、火野はそれを掴みベルトに入れていく。最後に右横の機械をベルトにスライドさせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「変身」

 

 

【タカ!】【トラ!】【バッタ!】

 

【タトバ!タトバ!タトバ!】

 

 

 音楽が流れると同時に3つの円形のエネルギーが集い、火野の体を包み込んでいく。

 

 火野映司。またの名を『仮面ライダーオーズ』、ここに再誕せり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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IF NEW GENERATION FINAL eighth

「仮面……ライダー……」

 

「皆、ここは俺に任せて。ハァッ!」

 

 

 仮面ライダーオーズ、火野映司は構えてビルの空いた穴から飛び出る。グリードと呼ばれた者達はオーズを追いかける様に飛び降りる。

 

 地面に降り立ったオーズはトラクローを展開させてグリード達に立ち向かっていく。 残された万丈、永夢、高山は疲弊しているライトカイザーに向き合う。

 

 

「ハッハッハッ!目出度くオーズの復活ってかぁ!?……笑えねぇ冗談だ!クソッタレ!」

 

「何だアイツ……?急にキレて」

 

「仮面ライダーオーズの復活……それもまた予想しなかった事象(イレギュラー)なんでしょうね。ハハッ、ざまぁ」

 

 

 満身創痍で万丈に介抱されながらライトカイザーを嘲笑う高山。変身が出来ない上に暫くゲムデウスとの意識交換も出来ないのにも関わらずだ。

 

 そんな高山の発言を聞いたライトカイザーはネビュラガス配合のゲムデウスウィルス入りのフルボトルを振る。高山が頭を抑えて苦しみ始めた。

 

 

「はぐっ!」

 

「お、おい!」

 

「うるせぇ口だ……だがお前らもこれで、終いだ」

 

 

 ライトカイザーが銃型の機械でエネルギー弾を放つ。現在、誰も変身していない状況で放たれたため全員目を瞑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Rocket・オン】

 

 突如軽快な音声が流れると、誰かが3人を抱えて外に出た。芝生の上に投げ出された3人は誰かが着地した音の方向を見た。

 

 白い後ろ姿だったが今度はスーツの後ろ姿となる。その人物は永夢、万丈、高山の方に振り向くと3人に言葉を掛ける。

 

 

「大丈夫だったか?お前ら」

 

「アンタは……一体……?」

 

「俺か?俺は如月弦太朗、『仮面ライダーフォーゼ』だ」

 

 

 特徴的なリーゼントヘアーの人物『如月弦太朗』は、自身の胸を2度叩き、右拳を前に突き出した。何処か一昔前の熱血(かん)というのが正直な感想。

 

 ここで高山は自分も関わった患者の1人を思い出したが、それは置いておく。高山は万丈の手助けを貰いながら如月の案内について行く。

 

 

「ここは……?」

 

「俺の母校、天高だ」

 

 

 如月がこの場所の紹介をする。階段を上がろうと上を見上げると他にも人が居た。どうやら記者の様である。如月と慣れ親しんだ様子で挨拶をすると、万丈と高山の元までやって来て写真を撮る。

 

 ここからそのジャーナリストの“今回の事象に関する説明”をしてもらう。どうやらエニグマ同士を発動させるには()()()()とやらも借りなければならないのだそう。そしてジャスト12時に宇宙の力が集まるのが、この【天ノ川学園高等学校】らしい。

 

 如月が歩みを止めると後ろに居た万丈が衝突し、万丈の鼻にダメージが入る。だが如月は気にもとめず、何も無い空間に指を差す。

 

 

「エニグマは……彼処だ」

 

 

 

 

 

 

「「何も見えませんが?」」

 

 

 永夢と高山の発言が被る。確かに何も無い、全く……とまではいかないが何も見えない。というより高山は実物を見ている為、それらしき物が見あたらない。

 

 では逆に考えを変えてみてはどうか?

 

 

『そりゃ……見えんだろうな……』

 

「ゲムデウス!?意識が戻ったか!」

 

「うぉぅ!ビビったぁ……!」

 

 

 急に耳元で大声を出された為、万丈の体がビクリと震えた。しかしゲムデウスが復活したのは朗報である。

 

 が、この朗報に割り入ってくる存在が現れる。3人にとっては見慣れず、如月とそのジャーナリストにとっては嫌でも慣れてしまった相手。

 

 

「ゾディアーツ……!」

 

「最上の奴……また面倒なのを……!」

 

 

 高山が前に出て行こうとするが、疲れも相まって思う様に戦うことも出来ない。というよりも生身で怪人とやり合う者もそうそう居ないのにも関わらずだ。

 

 しかしここは高山を抑えて如月が前に出た。かなり大型のドライバーを手にして。

 

 

「お前らは先に行ってろ。ここは俺に……任せとけ」

 

 

 如月がドライバーを腰に着けるとベルトが巻き付く。如月はドライバーにあるスイッチを4つ押すと、構える。

 

 

【3!  2!  1!】

 

 

「変身ッ!」

 

 

 ドライバー横のレバーを操作し、構えていた腕を上げると如月の周囲に風圧が生じ4人とも目を瞑り風圧に耐える。目を開けると、如月が白い姿へと変貌を遂げていた。

 

 

「宇宙……キターーーーーーーーーーーーー!!」

 

 

 何故かジャーナリストの方も一緒に同じ行動をしているが、変身した如月『仮面ライダーフォーゼ』が4体の怪人に指差しをしながら数える。

 

 

「1!2!3!4!全員纏めてタイマン張らせて貰うぜ!」

 

 

 タイマンとは1vs1なのでは?という質問が不躾(ぶしつけ)かと思う程、勢いよく敵に向かっていく如月。戦っている最中、ゲムデウスが高山に語りかける。

 

 

『宿主……話を戻すが、()()見えないと思うか?』

 

「見えない理由……あっ、そうか」

 

「高山さん?」

 

 

【Giant Foot・オン】

 

 

 如月が1つスイッチを入れ替え、それを起動させるとヤクザ蹴りを1体の敵に当てる。その敵は飛ばされていくが、空中で止まってしまう。

 

 そこから何かザッピングの様な物が現れたかと思うと、徐々に高山と万丈が見知っている形が出現した。エニグマである。赤いが手の形をしたエニグマが現れた。

 

 

「やっぱり!見えないなら隠してるのが常識か!」

 

「おまっ!毎度毎度耳元で大声出すな!」

 

「あ、失礼」

 

「軽っ! 」

 

 

 その最中に如月が敵を足止めしつつも、3人に向かって大声で叫ぶ。

 

 

「お前たちは先にエニグマの方に行ってろ!」

 

 

 永夢は如月に対して頷きエニグマに向かう。高山は万丈の肩を少しだけ叩いて離れた後、ゲムデウスに人格を交代してエニグマに走っていく永夢を追いかけて行く。先にソルティの能力で身体能力を強化してだが。

 

 設置されていた足場を伝ってエニグマの中に入っていくと、中には大量のコンピュータ。やはりこの巨大な機械を動かすのにもシステムの制御として、この量でなければならないのだろう。

 

 調度良い時に永夢にパラドの交信が入る。話の内容的にこのエニグマを止める話……かと思いきや。

 

 

「出力を最大に……分かった」

 

「……はっ?」

 

『ちょ、ちょっと変わって!ゲムデウス!』

 

 

 ゲムデウスと高山が入れ替わり、高山が先程の永夢の発言に問いかける。時間は残されていないが、それでも疑問は解消したい。

 

 

「宝生さん!エニグマの出力最大って、一体何を!?」

 

「時間がありません。高山さん、そちらのキーを手伝って貰えませんか?」

 

「ですが!「高山さん」」

 

 

 永夢は高山の方に振り返り、柔らかい表情をすると高山に告げる。安心させる様に。

 

 

「信じてください。僕たちを」

 

『…………ハァ。宿主、変わるぞ』

 

「えっ、ちょまっ」

 

 

 またゲムデウスへと人格を無理矢理変わると、ゲムデウスが1つのキーボードの上に手を置く。少し経つとゲムデウスは理解の表情をしてキーボードを操作する。

 

 

「あの……高山さん?」

 

「このコンピュータ内に私のウィルスを潜入させた、何処をどう操作すれば良いかは分かる。お前はお前の仕事をしろ、宝生永夢」

 

「……分かった、ゲムデウス」

 

 

 永夢はパラド越しに伝えられる桐生戦兎の言う通りに、ゲムデウスはエニグマ内のコンピュータを調べ尽くしたウィルスからの情報を元に操作していく。

 

 そうして操作が終了すると、戦兎と永夢は離れていながらも同時に決定ボタンを押した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 刹那、地球同士がぶつかり合う。ぶつかりあった衝撃で様々な場所に地割れが発生し、煙が人々を包み込んでいく。先に降りた永夢と人格交代した高山は、そのエニグマの様子を見ていた。

 

 上空にあるエニグマと此方側にあるエニグマが繋がり結合させる。それは正しく平行世界を繋げる装置として。

 

 誰しもその様子を見つめていた。仮面ライダーが、ドクターが、ウィルスが見ていた。世界の破滅のカウントダウンを。

 

 永夢と高山の2人の元に駆け付けた万丈は、この惨劇に対して質問を投げかけてくる。かなり粗暴であるものの、その表情は本来人がするべきものであった。

 

 そんな時、突如上から何かが降りてきているのが分かった。エニグマを繋げている機械が一部剥がれつつ、バイク特有のエンジン音を響かせて向かって行っている。

 

 そのバイクは空中で飛びたち、3人の近くにバイクを停めるとヘルメットのバイザーを上げて一言言った。

 

 

「万丈、少し太った?」

 

「……って、太ってねぇし!」

 

 

 その2人の雰囲気は柔らかいものとなっていた。その後でザッピングから人が出現する。

 

 

「永夢!」

 

「パラド!」

 

「これで揃った……ですかね?」

 

 

 パラドは高山のことを知らないので勿論高山とゲムデウスの紹介をした。どうやら先に戦兎の方から伝えてくれた様だったので、理解はしてもらえた。

 

 そういえばと思い出した高山は、戦兎に尋ねた。ゲムデウスウィルスの一部が奪われネビュラガスと配合されてワクチンが使えないということを。ならばといった感じで永夢に2つのボトルを渡すと、それらを振る様に指示する。

 

 永夢は2つのボトルを上下に振るとピンクと白の粒子が体に沿う様に回って体の中へと浸透した。これを見ていた高山の視界には、戦兎が高山を見ていた。つまりはこれをすれば良いということ。

 

 そして後からバイクのエンジン音が響いてやって来る、4人の仮面ライダー。幽霊、鎧武者、宇宙飛行士、無限の欲望。そしてドクターと科学者。6名のライダーが此処に集結した。

 

 2人の最上魁星はエニグマの上で変身し、バイカイザーとなった。

 

 だが、仮面越しであるが決意を決めた目をしている様子の4名。永夢とパラドは融合しガシャットを用意する。戦兎は赤と青の2つのフルボトルを用意し、振ってキャップを正面に合わせる。

 

 

【マイティアクションX!】

 

 

 永夢は赤く目を光らせガシャットを起動させると、永夢と戦兎は同時に言い放つ。正義の戦士となる、たった1つの合言葉を。

 

 

「「変身ッ!!」」

 

 

【ラビット!】【タンク!】【ベストマッチ!】

 

【ガッシャット!】

【ガッチャーン!レベルアーップ!】

 

【Are you ready!?】

 

 

 戦兎はビルドドライバーのハンドルを回し、永夢はキャラクターセレクト画面からエグゼイドを選び変身した。永夢の方には同時にバイクが出現し、戦兎と永夢はバイクに乗る。

 

 

「世界を守る法則は……!」

 

「世界の運命は……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「決まった!」「俺たちが変える!」「命燃やすぜ!「俺たちのステージだ!」「タイマン張らせて貰うぜ!」「俺たちが守る!」

 

 

「「「「「「えぇ〜!?」」」」」」

 

 

 締まりが完全に緩んだが、それでも尚決意は変わらない。6名のライダーはバイクで駆けて行った。世界を救う為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




映画でのバラバラ決め台詞には恐らく見た人全員ツボ。でもね……SSに書こうとすると、映画の台詞バラバラ過ぎて何言ってるのか分からないんだ。

つまり最後の台詞集は完全に妄想の部分があるということだ。分かりますよね?

次回は少し展開を飛ばしていきます。


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IF NEW GENERATION FINAL ninth

もうそろそろラストスパートに入るんですよねぇ……。何が言いたいかって?伏線貼るんですよ←

では少し飛ばした所からどうぞ。


 『圧倒的』、その一言が現状に当てはまっていた。6名のライダーはバイクを走らせて敵を薙ぎ倒し、永夢と戦兎はエニグマに居るバイカイザーに挑み4名のライダーは他の被害を防ぐ為に戦っていた。

 

 エニグマと世界の連結部分は切り離され、融合も止まる……かと思いきやエニグマは生きていた。あの装置その物を破壊しなければ融合は続いていくということだ。その事からライダーたちは未だに戦い続けている。

 

 とあるビルの屋上に辿り着いた万丈と高山が、世界の惨劇を目撃した。そして同時に……仮面ライダーの意思を知った。

 

『この手が届く限り、その手を伸ばし続ける』という火野映司の信念。

 

友達(ダチ)を、守る』という単純だが真っ直ぐな如月弦太朗の意思。

 

『自分を産み、育ててくれた地球への感謝』という葛葉紘汰の大きな恩義。

 

『命には無限の可能性があると信じる』という天空寺タケルの死して尚生きた者の思い。

 

『命を守る為に戦っていく』という宝生永夢の医者であると同時に、平和を守る戦士の決意。

 

『愛と平和の為に、この力を使う』という桐生戦兎の願い。

 

 仮面ライダーの行動原理は、たったそれだけ。たったそれだけだとしても、彼らを動かす原動力となるには充分すぎる。だからこそ分からなかった者も居る。

 

 何の為に身を費やすのか──人類を守る為に

 

 誰からも賞賛されないのにも関わらず──例えそうだとしても人を助けない理由にならない

 

 

「皆バカばっかだ!」

 

「えぇ……同感です」

 

 

 万丈と高山はそう思った。万丈は決意が決まっていなかったからそう言えて、高山は自分とゲムデウスが生きたいという理由からそう言えた。

 

 

「でも……」

 

「それでも……」

 

 

 

「「凄くカッコいい 」」

 

「なぁ……明、俺決めたわ」

 

「そうですか……では聞かせてください。万丈さん」

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()!ただ、それだけだ!」

 

 

 高山とゲムデウスはその様子を見て感慨深く思っていた。あの時、自分の思いを話してくれた万丈の成長というのを心で感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだゲムデウス、エニグマにウィルス流したよね?」

 

「ほっ?」

 

『流したが……それがどうした?』

 

 

 急に口調が変わった高山に素っ頓狂(すっとんきょ)な声を挙げる万丈。ゲムデウスも答えるが、何か嫌な予感しかしないと直感が告げていた。

 

 

「ゲムデウスウィルスは情報の共有もされる……じゃあさ

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()と、どうなると思う?」

 

『ッ!……まさか、お前!』

 

「ゲムデウス」

 

 

 高山は優しい口調となって、ゲムデウスを論した。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()なら、安いものだよ。それに、僕だってゲムデウスに守られてばかりじゃ嫌だ」

 

『ッ…………』

 

「さぁゲムデウス、やってくれ。世界の為に!」

 

 

 高山がそう叫んだ数秒後、体が破裂しそうな勢いが内部から発生した。高山は苦しんで膝を着き、体の至る所にザッピングの様な現象が多発する。

 

 ゲムデウスが行っているのは【バグスター能力の全活性化】、即ち内包されているバグスターの能力を同時に全て使用している状態にある。高山が苦しんでいるのはゲムデウスウィルスが多量の情報を流している為である。

 

 だがゲムデウスウィルスが多量の情報を流すということは、あらゆる場所に付着・潜入させたゲムデウスウィルスが活性化するということ。

 

 情報が伝わってくる。エニグマに潜入させたゲムデウスウィルスがエニグマのコンピュータを侵蝕し、フルボトル内のウィルスが強制的に解き放たれたということも分かった。

 

 ここでたった1つ、【奇跡】とも言える現象が起きた。否、本来は膨大な情報の不要な物をを放出させようとする単なる()()のことであった。しかしその出来事は傍から見れば奇跡としか言い様が無かった。

 

 高山の体から1つのガシャットが出現した。ゲムデウスウィルスを抑える唯一のワクチン【ドクターマイティXX】のガシャットである。そしてウィルスから放出されている余剰分の情報が、ドクターマイティに集まっていく。

 

 白く光る()()()()()()()()()()()が、立ち上がった高山の手元に落ちてくる。手に持った状態でも、そのガシャットは未だに白く光り続けている。

 

 高山はそのガシャットを手にしながら万丈の方に顔を向ける。驚いた顔をしていながらも、万丈は頷き高山も応じる。

 

 万丈はビルドドライバーを、高山はゲーマドライバーを装着する。

 

 

 

 

 

 

 

 

【Wake up!】【CROSS-Z DRAGON!】

【Are you ready!?】

 

【デュアルガッシャット!】

【The illness cause!Who's the next patient?】

 

 

「「変身ッ!」」

 

 

【ガッチャーン!マザルアーップ!】

【患者治すドクター!人に感染バグスター!人とウィルスフュージョン!バ〜イラストリートメ〜ント!】

 

【Wake up burning!Get CROSS-Z DRAGON!Yeah!】

 

 

 万丈は龍の姿を模した姿に。高山は『仮面ライダークロノス』を素体した白と黒の姿へと変貌していた。

 

 

「行きましょう!万丈さん!」

 

「あぁ行くぞ明!……でもな、違うんだよ」

 

「奇遇ですね、僕も違いますよ」

 

 

 高山と万丈はビルの屋上を駆けて、飛び出していく。

 

 

「俺の名は……」「僕の名は……」

 

 

 

 

 

 

 

「仮面ライダークローズだああああ!」

「仮面ライダーゲムデウスだああああ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 仮面ライダークローズはビルドの乗っていたマシンに乗ってエニグマへと向かう。仮面ライダーゲムデウスはバイクを呼び出そうと念じると、両腕に描かれたインジェクターからウィルスが出現しオレンジ色のスポーツバイクが出現した為それに乗ってエニグマへと向かっている。

 

 クローズとゲムデウスがエニグマ近くでジャンプをするとエグゼイドとビルドがバイカイザーと戦っている現場を目撃した。クローズはビルドに“忘れ物”と称して1つのアイテムを渡し、ゲムデウスはバイクを足場にしてエニグマへと足を着ける。

 

 

「!お前は、クロノス!?」

 

「ん?……あ、僕か。宝生さん、どうも〜」

 

「って、高山さん!?」

 

「えっ!?」

 

「何っ!?」

 

 

 姿が変わっている高山だと知り流石の永夢でも驚く。何せ姿が仮面ライダークロニクルの伝説の戦士『クロノス』に似た姿をしているからだ。変身状態の違う姿というのは誰しも驚いてしまう。

 

 ゲムデウスはバイカイザーに目線を向けて話していく。

 

 

「どーだったかな?俺たちの膨大な情報量」

 

「ッ!……あれはお前が仕組んだのか」

 

「仕組む……は違うな。だが潜入させていたウィルスを利用したのは間違いない」

 

「道理でエニグマの様子が可笑しいと思っていた。だが分かれば……話は早い!」

 

「不味い!」

 

 

【ラビットタンクスパークリング!】

【Are you ready!?】

 

 

「ビルドアップ!」

 

 

【シュワっと弾ける!ラビットタンクスパークリング!イェイ!イェーイ!】

 

 

 ビルドはクローズから渡されたアイテムで強化し、ラビットタンクスパークリングへと変身する。その後でバイカイザーへとキックを仕掛けるが……

 

 

「ッしゃあ!」

 

「何っ!?」「ウェッ!?」

 

 

 ゲムデウスが一飛びでバイカイザーに接近すると、強烈な蹴りを腹部に当てる。それにより後退したバイカイザーだが、直ぐ横でビルドが飛んでいた。

 

 ゲムデウスは難なくビルドの腕を掴むと勢いを回転で殺して着地させる。その後エグゼイドが2名に近づく。

 

 

「その姿……それにその力は……」

 

「さ、サンキュー……」

 

 

 高山が頷いて応えると、物音のした方に3名とも向く。バイカイザーがフラフラとした足取りで立ち上がっていたのである。

 

 

「……ハァ。……パワーが、上昇している……だと?」

 

「えぇ。このガシャット、今までより強力みたいですね。実際使うの初めてですけど」

 

 

 3名が並び立ち、バイカイザーに対し戦闘態勢を取っていく。バイカイザーは3名のライダーを見据えていた。

 

 

 

 

 

 

「御二方、行きますよ!」

 

「言われるまでも無いね!」

 

「元からそのつもりだ!」

 

 

 3名が同時に飛び、バイカイザーへと接近する。一気に距離を詰められたバイカイザーは防御姿勢を取るが、エグゼイドのハイパームテキの攻撃で防御を崩されるとビルドとゲムデウスがバイカイザーの背後から攻撃を仕掛ける。

 

 攻撃されたことで地面に伏したバイカイザーは言い放つ。

 

 

「何故だ……何故だ!?私は不老不死の力を手に入れた筈だぁ!」

 

 

 そのバイカイザーの問いにエグゼイドとビルドが順に答えていく。

 

 

「分かってないなぁ。裏技だよ、う・ら・わ・ざ」

 

「何っ!?」

 

「あの時、エニグマの出力を12時になる前に最大にさせた。早めに起動させることでお前が完全体になるのを防いだ」

 

「くっ……!小癪(こしゃく)な真似を……!」

 

「成程、敢えてエネルギー放出させて完璧にさせない様にしたと。1杯食わされました。……さて」

 

 

 満身創痍のバイカイザーを見据えている3名は、もう終わりにしようと仕掛けていく。ゲムデウス、ビルド、エグゼイドの順に攻撃をしていきバイカイザーを追い詰めていく。

 

 

「ぐっ……あがっ……」

 

「これでフィニッシュだ!」

 

「これで決める!」

 

「終らせましょう!今、この瞬間に!」

 

 

 3名は同時に高く飛び立った。

 

 

【キメワザ!】

 

【Ready go!】

 

【ウラワザ!】

 

 

 

 

 

 

【HyPER CRITICAL SPARKING!】

 

【スパークリング・フィニッシュ!】

 

【INFECTION MEDICINE CRITICAL ENERGY!】

 

 

「「「ハァアア……!タアアアアアアアアアアア!!」」」

 

 

 金色、赤と青の炭酸、そして白と黒。3名の足に纏われた力はバイカイザーへと迫っていく。動けないバイカイザーは必殺技であるキックを食らい、爆発していく。爆煙を突き抜けた3名は並び立った。

 

 そしてバイカイザーが倒されたことによってエニグマも機能を失くし消えていく。世界の傷は消え去り、何事も無かったかの様に戻っていく。配置されたロボットも消え去り、残ったのは仮面ライダーたちが戦ったという1つの過程から生みだされた『2つの世界を救った』という結果だけである。

 

 上空の世界は消えて元の場所へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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IF NEW GENERATION FINAL epilogue

IF編最終回。本編の方に漸く移れる←
あっ、そうだ(唐突)。アナザートリロジーが届くまで期間が空くので、オリジナル書こう(急展開)。

では、どうぞ。


 先に降り立っていたエグゼイド、ゴースト、鎧武、フォーゼ、オーズにビルド、クローズ、ゲムデウスが歩いて近付いていく。全員がお疲れという状態にある中だが、この事件が終わった事で元の世界に帰らなければならない。

 

 “別れの挨拶’’それだけをする為に集まった。計7名の仮面ライダーが集合していく。

 

 

「皆さん、お疲れ様でした」

 

「全くだ。2つの世界を救うなんて滅多に無いし」

 

「あー……早く帰って休みてぇ」

 

「それは同感ですね」

 

 

 ゲムデウス、ビルド、クローズ、ゴーストの順に口を開いていき、各々の愚痴や感想を述べていく。そんな中、ゲムデウスのゲーマドライバーからガシャットが徐々に光となって体に入っていく。

 

 ゲムデウスのこのガシャットは、本来は余剰分のデータ。全ての能力を活性化したゲムデウスウィルスが、足りないデータを補おうとデータから作られたガシャットから貰っているのだ。

 

 そしてガシャットが消えると同時にゲムデウスが光に包まれ変身が解除される。高山が何を考えていたのかは分からないが、ガシャットの無いゲーマドライバーを見て何か呟いていた。

 

 

『おい!』

 

「ふぉい!?」

 

「うぉぅ!ビックリしたぁ〜」

 

『漸く繋がったか!世話の妬ける!』

 

「ちょ、ゲムデウス!そういや何で出てこなかったんだよ!?」

 

 

 暫く出ていなかったゲムデウスが高山の脳内で叫んだ。それにより高山も飛び跳ねる位驚くが、隣に居たビルドが高山の声によって驚いた。

 

 

『知るか!何故かお前があのガシャットを使ってから、お前に

()()届いてなかったわ!ましてや侵蝕による操作すらできなかった!』

 

「へっ…………?マジ?」

 

『私が嘘を言うタマとでも!?』

 

「ちょ!ごめんってばゲムデウス!許しt痛い痛い痛い痛い痛い痛い!」

 

 

 高山の右腕をゲムデウスが操作して高山の右頬を(つね)る。傍から見れば自分の腕で自分を痛め付けている変人にしか見られないが、幸い理解者が3名居るので問題は無い……と言いたい。オーズの方は何処か既視感を覚えている様子だが。

 

 漸く解放されると高山の脚が徐々に薄くなっているのが見えていた。

 

 

「「「「「「あっ」」」」」」

 

「ん?どうしました?」

 

「いや……お前……脚」

 

「脚?」

 

 

 下を向くと脚が徐々に薄くなっており、その状態を見た高山とゲムデウスは一時的に理解不能の状況に陥る。

 

 

「『何じゃこりゃあ!?』」

 

「あ、そうそう1つ言いたい事があった」

 

 

 ビルドが人指し指を立てて注目を集めると話し始める。

 

 

「恐らく高山さんが2つの世界にやって来た理由がエニグマの余波って考えたんだよ」

 

「余波?」

 

「そう。前もって平行世界を行き来していた葛城……まぁエニグマを作った科学者が通った時の余波だと思う」

 

「いやちょっと待って、何を言ってるのかサッパリ」

 

 

 高山が話を制止させるが、それを無視して話を続けていく。

 

 

「平行世界は時間の流れに差異が出る。つまり、その日にエニグマを使ったとしても必ずしも同時刻、同年月日に余波は現れないって事だ」

 

「あぁそういう事ですか」

 

「俺の説明……」

 

 

 かと思いきや鎧武に説明の機会を取られてしまった事で意気消沈しているビルド。現在高山の下半身が薄く、既に膝まで消えている。

 

 今度こそビルドが意気込みながら話をする。

 

 

今度こそ……恐らくあのエニグマを消滅させたことで、お前をこの世界に繋ぎ止めておく何かが消えたんだ。お前は勝手に自分の世界に帰れるって訳」

 

「何か聞こえましたけど成程」

 

『……では、あの時の光はエニグマ余波で私たちの()を繋ぎ止めていたんだ?』

 

「……さぁ?今となっては、その考えは野暮だったりして」

 

 

 どんどんと薄れていく体。元の世界に帰る為に消えていくが、高山は最後に告げる。

 

 

「皆さん……ありがとうございました!」

 

「宝生さん!僕らの世界でも宜しくお願いします!」

 

「桐生さん!万丈さん!最初はお世話になりました!また、何処かで!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「またな!」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ………んぅ?」

 

 

 高山が目を覚ますと、一面広がる青い空に所々浮かんでいる雲。体を起こそうとするが体に疲弊感があり、起き上がるのが困難になっていた。仕方が無いので高山は寝そべった。背中に伝わる草の感覚が、少し(くすぐ)ったく感じる。

 

 

「…………ゲムデウス」

 

『……何だ?』

 

「……覚えてる、よな?」

 

『あぁ……きっちり保存されている』

 

「………………そっか」

 

 

 

 徐に高山がスマホを取り出して時間を確認すると、家を出てから約1時間しか経っていなかった。平行世界の時間軸は違っているという事を実感していた。

 

 そしてゲムデウスの言った保存。これは紛れも無くウィルスに今までのデータを保存しているという事だろう。これ以上は何も言わない高山とゲムデウスは、ただ冷たい空気を味わっていた。

 

 

「……疲れた」

 

『……だな。腹も減っている様だ』

 

「……腹減ったなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほれ、食うか?」

 

 

 突然視界に入ったコンビニのおにぎりと、突然耳に聞こえた()()()()()()()()()が高山の意識をそちらに向けさせた。

 

 そしてその方を見ると、他にもう1人居た。何故だか知らないが高山の瞳は少しだけ潤んでいた。

 

 

「……構いませんか?」

 

「ま、腹減ってるって聞こえたからな」

 

「まぁコイツの御人好しに付き合ってくれ。コイツこういう事には頑固だからよ」

 

「……では、頂きます」

 

 

 おにぎりの味は、何処と無くしょっぱく感じていた。

 

 その3人は少し談笑をした後、お互い進むべき道に進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暫くして高山はとある人物に電話を掛けていた。お世話になっている身として少し気が引ける所もあったが、高山にとっては重要なことなのだ。

 

 暫く流れた保留音で漸く出ると、聞きなれた声がスマホ越しに聞こえてくる。

 

 

『お電話変わりました、日向です』

 

「日向審議官、高山明です」

 

『君か。君から掛けてくるなんて珍しいじゃないか』

 

「態々時間を取らせてしまって、申し訳ありません」

 

『いや、構わない。それよりも要件の方を聞きたい』

 

「では、失礼して……今回の要件なんですが」

 

 

 高山は今後の事を考えて、自分にも強化戦力の要望を出した。確かに現在は充分に戦えているし、今の所はバグスターに対処できている。

 

 だが()()()()()()を考えるとそうもいかない。ドクターが出動できない時は、高山とゲムデウスが対処に当たらねばならない。だが渡されたガシャット2つでは対処できない場合もある。

 

 ドクターマイティXXではワクチンによってゲムデウスウィルスを抑えられ、バグスターに対しても最強のワクチンは効果的。だが基本能力が足りない。

 

 ガシャットギアデュアルβは基本能力は高くバグスターには充分な戦力であるが、使えば侵蝕が進んでいく諸刃の剣。そして今後を考え、このLv.50では対処できない相手が現れる可能性も無くは無い。

 

 だからこそ檀黎斗神に()()()()()()()()()()()の許可を願い出た。最初は取り下げようとした日向であったが、高山はドクターライダーが出動できない時にレベル上昇したバグスターとの戦闘を予測したゲムデウスの言い分を述べると検討してみるとの返事を貰った。

 

 電話を切り深く息を付きつつも、高山は帰路へと着いていた。たまには歩くのも悪くないと感じ、辺りの景色を眺めていた。

 

 

「いてっ!」

 

「あふっ!?」

 

『何やってるんだお前は?』

 

 

 人とぶつかってしまったが。身長のこともあるのか、高山は胸でぶつかる。相手の方は見ると俯いており鼻に当たったのだと理解した。

 

 高山は相手のその様子を見て痛々しく思ったのか、心配していた。

 

 

「あの……大丈夫ですか?」

 

「へ、へーきだ……いって」

 

 

 顔を上げると青年の顔立ちの人物が鼻を抑えている。少し目を細めていて痛さを表現している様だ。

 

 その青年は腕時計を視界に入れると仰天した様子で慌てた。

 

 

あわわわ……ま、まずいぞこれ!と、とにかく急がねぇと……!

 

「あ、あの〜……」

 

「あぁ!ぶつかってすいませんでした!」

 

「い、いえいえ僕の方こそよそ見s」

 

「じゃあこれで!では!」

 

「iて………………えぇ……」

 

 

 そのまま駆けて行き、嵐の様に消え去った。残された高山は困惑の表情を浮かべたまま、その人物を見送っていた。

 

 

「……何を急いでたんだろ?」

 

『知らん。少なくとも、それ程の用事だという事は理解できる』

 

「それもそっか」

 

 

 漸く家に帰ると藍原の熱い抱擁が待ち構えていた。このパターンは何時ものお決まりというヤツで、高山もゲムデウスもこれは知っていた。

 

 だが今回は高山は藍原に体を預けた。少しだけ甘えた行動をした高山を確認した藍原は、恥ずかしそうにするが高山をその状態のままで連行していった。

 

 2人用ベッドに入る藍原と高山だったが、高山は疲れからか既に眠ってしまっていた。それを確認した藍原は高山の頭を撫でてベッドに寝かせた。

 

 この物語は本来ある筈の無い出来事が、何らかの要因で起こってしまった1つのある筈の物語(パラレルワールド)。高山からしてみれば、あの2つは数ある平行世界の内の2つであり、あの2つの世界からは数ある平行世界の内の1つである。

 

 それが何をもたらし、どの様な結果が巻き起こるのかは分からない。何かが変わるかもしれないし、何も変わらないかもしれない。そして平行世界に対して人は何をするまでもない故に、平行世界がどうなろうと知った事ではない。

 

 ただそれでも、この世界には多くの仮面ライダーと共に自分に関係の無い平行世界を救った1人の人間と1つのウィルスが居た。彼らはこの経験で何を理解したのかは誰にも分からないが、彼らは再度理解をした。

 

 

 

 

 

 

 どの世界にも【仮面ライダー】は存在する。【仮面ライダー】が存在し、己の正義の中に()()という誓いが存在しているということを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜IF NEW GENERATION FINAL fin〜




はい皆様お疲れ様でした〜!これにてIF編終了とさせて頂きます!でも皆さん、お気づきでしょうか?

実を言うと伏線は貼っています。それが後々の物語にどう影響するかはお楽しみに。

さて、今回のIF編で登場した主人公が変身したライダーの簡単な説明をば。


・音声
【The illness cause!Who's the next patient?】

【患者治すドクター!人に感染バグスター!人とウィルスフュージョン!バ〜イラストリートメ〜ント!】

※2つともガシャットギアデュアル(ゲーマドライバー使用時)と同じリズム


・容姿
『仮面ライダークロノス』の色違い。装甲の緑色は黒に、黒色が白くなっただけ。本編では違うかも。


とまぁこんな感じ。では皆様、本編の方も楽しんでみていって下さい。今までIF編を読んで下さり、ありがとうございました!(´∀`*)ノシ


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本編
第1話 逃げたdateはラスボス!?


 【仮面ライダークロニクル】。今ではほぼ廃止同然の“ゲームオーバー時に消滅する”ゲーム。現代の地形に合わせてゲームエリアが展開されバグスターを倒すゲーム。

 

 しかしそれは『仮面ライダー』と呼ばれる者たちが命懸けで止めることが出来た。この騒動を引き起こした幻夢コーポレーション“元”社長の『檀 正宗』は人間としての自分を消した。

 

 そんな事態を前に、さらに悲劇が襲う。人類が“仮想世界”に閉じ込められるという事件も起きた。此方も対処され漸く平穏を取り戻した。

 

 そう、思われていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その事件から2週間後、場所はCR。正式には【電脳救命センター】と呼ばれる場所に忙しい中集まっている医者たちが居る。しかし何故集められたのかは未だ理解出来ていない様である。

 

 

「それで……何の話があるんだ?檀黎斗」

 

「檀黎斗ではぬぁい!何度言えば分かる!?私は檀 黎斗s「はいはいさっさと話進めよーぜー」邪魔をするなあぁぁぁ!」

 

 

 『花家 大我』過去に医師免許を剥奪されるも現在はゲーム病専門医として活躍、仮面ライダー『スナイプ』と呼ばれるドクターライダーの1人。

 

 『九条 貴利矢』元人間であり、人間のデータが存在するバグスター。現在は人間だった頃と同じ様に監察医として活躍。仮面ライダー『レーザー』と呼ばれるドクターライダーの1人。

 

 『檀 黎斗』元に「檀 黎斗神だぁゥ!」Take2に続く。

 

 

 

 Take2

 『檀 黎斗神』元人間のバグスターであり、貴利矢と同じ様に人間のデータが存在するバグスター。何故神なのかというと過去に【ドクターマイティXX】というガシャットを文字通り命を削って作製した事から自らを神と改名。正直言って何言ってんだコイツ?という感想しか思い浮かばない。

 

 

「作者ああああアアアア!」

 

 

 黎斗神が何処かに向けて何かを発言したが、調度のタイミングで何かに吸い込まれる。

 

 

「黎斗うるさい!大体何処に向かって話してんのよ?」

 

「此処から出せぇ!作者(アイツ)に私の神としての才能を見せつけ」

 

 

 『仮野 明日那』バグスターとして存在しており、この状態は人間として活動する為の姿。本当はポッピーピポパポというバグスターである。「私を無視するなあぁぁぁ!」

 

 

「…………あれは無視して良いだろう。話を続けろ監察医」

 

「いやずっと叫んでて喧しい」

 

「パラド、ああいうのは無視するのが良いんだよ」

 

「そうなのか?」

 

「そういうものなんだよ」

 

 

 『鏡 飛彩』CR所属の血管外科医、その他の医療資格を取得している。仮面ライダー『ブレイブ』というドクターライダーの1人。大の甘い物好き。

 

 『宝生 永夢』現在は小児科医の資格やその他の資格を取得。仮面ライダー『エグゼイド』というドクターライダーの1人。ゲーマー界では天才ゲーマー『M』として知られている。

 

 『パラド』現在はMと同等のゲーマーとして知られているが、正体は永夢の天才ゲーマーとしての人格のバグスター。一時は敵であったが和解し協力している。仮面ライダー『パラドクス』に変身する。

 

 

「そうだな、んじゃあさっさと始めますか」

 

 

 貴利矢はCR内にあるTVタイプのモニターに“ある情報”を映し出す。まるで複雑な迷路の様に入り組まれた“それ”を説明していく。

 

 

「今回の話は先ずこれを見なきゃ話にならないからな」

 

「……貴利矢さん、これは…………?」

 

「言うなりゃクラウド込みのネットワークだな」

 

 

 騒がしかったCR内も貴利矢の一言で静まった。静まった空間の中、今度は黎斗神が口を開く。

 

 

『そのデータを見せたのは事情がある。どうやら幻夢コーポレーションから“あるデータ”が“逃走”したのだよ』

 

「……逃走?自我があるんですか?そのデータ」

 

 

 逃走の意味を永夢が言うと貴利矢と黎斗神は感心した様子を見せる。飛彩、大我、明日那、パラドはあまり意味は理解出来ていなかった。

 

 

『流石私が見込んだ男だ。その通り、そのデータには自我が存在する』

 

「ちょっと待てよ。俺たちバグスターならまだしも、普通のデータなら自我なんて存在しないだろ」

 

「ということは……逃げ出したデータというのはバグスターのことか?」

 

「せーかい。…………それも最悪なデータだ」

 

 

 少し間を置いて話したので、その指摘を大我はする。

 

 

「言い換えれば最悪のバグスターってことか。だが、最悪のバグスターなんて俺たちが戦ったゲムデウスしか居ねぇし、何よりソイツも倒した筈だ」

 

「…………!貴利矢さん、まさかだとは思いますが」

 

「察しが良いな永夢。そうだ」

 

 

 またもパソコンを操作していく。今度は別の情報となるが、それを見た貴利矢と黎斗神以外が驚愕の表情を見せる。

 

 

 

 

 

 

 

「逃げ出したデータってのは【ゲムデウスのデータ】なんだよ」

 

「「「「「ッ!」」」」」

 

 

 そう、逃げ出したデータというのは【ゲムデウスのデータ】であった。そして先程見せたクラウド込みのネットワークを隣に表示させると、ある道だけ白く塗りつぶされる。

 

 

「まさかこれって……逃走経路」

 

「ゲムデウスが逃げた経路をウィルスの反応が異常な箇所を調べたら出てきた」

 

「ちょ、ちょっと待って貴利矢!ゲムデウスのデータって、永夢たちが倒したゲムデウスは!?」

 

「あれもゲムデウスだ。今回逃げたのは所謂“コピーデータ”って所だ」

 

「コピーって……それを出来たのって…………」

 

『私はゲームクリアも考えて作った、それだけは保証しよう。つまりコピーを取ったのは檀正宗の仕業だ』

 

 

 一時の静寂。入り乱れる心には、憎悪などの感情が見受けられる。大我は机を思いっきり叩き、それを聞いた明日那が少し震えたのは仕方ない。

 

 

「檀正宗……大層な置き土産残しやがって…………!」

 

「癌は何処までも癌ということか……!」

 

 

 飛彩の意見は的を射ている。癌細胞というのは少量残しておくだけでも他の場所に移動し、増殖を続ける。正しく切除しきれなかった癌細胞だ。

 

 話を切り換える様に貴利矢が口を開く。

 

 

「……話を続けるぞ。ゲムデウス……ここじゃあ区別付ける為に『コピーゲムデウス』って呼ぶけど、その逃走経路を見たんだが可笑しい点があるんだわ」

 

「……なぁ永夢、分かるか?」

 

「……強いて言うなら、ひたすら真っ直ぐに進んでる所だと思うけど。流石に詳しくは」

 

「その謎にさらに情報を加えると……ホイッと」

 

 

 パソコンを操作すると、今度はネットワーク回路の白く塗り潰された道に時間が表示される。ここで永夢が可笑しな事に気付く。

 

 

「貴利矢さん……遅くないですか?」

 

「どういうことだ?」

 

「いえ、まるで……何かを探してるみたいにゆっくりと移動している様な」

 

「まぁ当たりだな。その証拠にファイヤーウォールだったりとセキュリティのある箇所は全て無視を決め込んでる様だしな」

 

 

 またもや情報の追加。全てのネットワーク機器にセキュリティがある場合、嗅ぎ付けられたくないということを思い付く。

 

 

「ん?」

 

「ん?どーした永夢」

 

「いえ、何か“人間染みてる”というか……」

 

「……というと?」

 

「ゲムデウスは仮面ライダークロニクルのラスボスです」

 

「ふん」

 

「僕たちが戦ったゲムデウスは少なくともラスボスの風格に相応しい態度をしていた。……この情報には、それが感じられないんです」

 

『……成る程、人間か。確かに檀正宗が何か思考ルーチンを変えたと見て良いだろうな』

 

 

 そんな会議の中、CR内の固定電話が鳴る。それに対応したのは明日那。

 

 

「はい、此方電脳救命センター…………はい。では症状の方を………………分かりました」

 

 

 電話を置くと明日那は全員に伝える。

 

 

「ゲーム病患者よ……ただ、今回のは特殊ね」

 

「どういうことだ?ポッピーピポパポ」

 

「はーい!……じゃなくて、兎も角人命救助が先。準備をして」

 

「了解しました」

 

 

 それぞれドクターライダーたちは準備を済ませていく。ただ、この時は気付きもしなかった。

 

 この選択が“ある1人”の人間に大きな罪を背負わせてしまうことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回『Dr.ゲムデウス』は!

 告げられる真実!

「僕が……ウィルス感染者……?」

「しかも適合者だ、それも特殊な」


 絶対に治せない病となった主人公!そして愛する人に危害が加わる!

「僕は…………どうしたら良いんですか!?」

「その時は、俺たちが助けてやる」


 そして誕生する新たなライダー!

「永遠の贖罪を……果たしてやる!」

「Mark X-2!変身!」


『第2話 New Riderはラスボス!?』


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第2話 NewRiderはラスボス!

どうも鬼の半妖で御座います。

早速ですが、話をパート毎に別けると言ったな。あれは嘘だ。というのも話数が多いので纏めようかという話です。

後書きでは独自設定纏めの様なものを出しておきます。

では、本編どうぞ


 通報から数分かかり、アパートの一角から担架に乗せられた男が救急車に運び込まれていく。付き添いとして行こうとしている女性は、患者の事を聞き出すのに必要と決定し聖都大学附属病院に搬送される。

 

 またも数分かかり、その男はCRに存在する診療台に乗せられる。女性は寝かされている男の手を握って無事を祈り続けている。そんな様子を見ていた永夢たちは女性から話を聞くため落ち着けさせ、現在は椅子に座り対面している。

 

 

「では、優美(ゆうみ)さん。落ち着いて、ゆっくりとで良いので、患者の方に何が起きたか説明してもらえませんか?」

 

「…………はい」

 

 

 彼女の名は『藍原 優美(あいはら ゆうみ)』。先程運ばれてきた患者『高山 明(たかやま あきら)』と交際しており同じ大学の先輩・後輩の関係でもある。既に同棲はしていて同じアパートの一室で暮らしている。それにより患者の容態の悪化が早くなる前に駆け付けることが出来た。

 

 

「2人で暮らしてるアパートの一室に帰ると、明の凄い苦しんでいる様子を見て……体が薄れてきているのを見て、直ぐにゲーム病だと分かって通報したんです」

 

「そうだったんですか……」

 

「ただ…………」

 

 

 藍原優美の発言を聞くと、少し疑問の表情をする永夢たちドクター。その口から言われた内容は、にわかには信じがたいものでもあった。

 

 

「ただ、通報のあと彼の容態を見てみたんです。そしたら、急に元に戻っていて……糸が切れた人形みたいに動かなくなって…………それで…………!」

 

 

 明日那が藍原に寄り添う様にして安心させる。口を抑え泣きながらに言葉を綴っていく。

 

 

「彼に……何があったんですか…………。最初に見た時、目や髪の色が変わっていて苦しんでたのに……急に……」

 

「色……?」

 

「……はい。彼、元は普通の黒目と黒髪だったんです」

 

 

 その発言で貴利矢は高山明の様子を見る。藍原の証言では髪と目は共に黒色なのだが、今の場合髪は白が混ざった金色であった。さらに目を確認するため手袋を着けて上瞼を上げると角膜が全体的に淡い黄色に染まっている。

 

 

「その姉ちゃんの言う通り、だ。それと永夢」

 

「何でしょうか?」

 

「ちょっと来てみろ」

 

 

 永夢は一言だけ伝えて貴利矢の元に向かう。やって来た永夢に見せる様にゲームスコープを使い高山の感染状態を確認させる。

 

 映されたのは高山の感染状態。だが高山に感染したウィルスは銀色で、インフルエンザウィルスの形とそう変わりは無かった。これを見た永夢は確信する。

 

 

「貴利矢さん、これは……!」

 

「……ゲムデウスウィルス、コイツが感染者だったみたいだな」

 

 

 その場に居たドクターたちは一斉に患者『高山明』を見る。先程話に出ていたゲムデウスの感染者が、この高山明だと分かった瞬間誰も何も言えなかった。

 

 

「……だが今は、少し念を入れておかなきゃな。永夢、ドクターマイティのガシャットを」

 

 

 永夢は白衣の内ポケットから真っ白なガシャットを取り出す。これこそ、貴利矢が製作法を発見し黎斗神の体内で培養したワクチンが入ったガシャット。

 

 【ドクターマイティXX】である。貴利矢はこのガシャットを高山の体に刺すことで、体内にあるゲムデウスウィルスを抑制させようと考えていた。

 

 

「!」

 

「「ッ!?」」

 

 

 しかし予想外のことが起きる。“高山が目を覚ました”のだ。だが、それだけで終わるのならば本当に良かった。

 

 高山の左手が永夢と貴利矢に向けられると、その手から魔方陣が発生される。

 

 

『ッ!?永夢!避けろ!』

 

「うわっ!」

 

「おわわっ!」

 

 

 パラドによって素早く永夢と貴利矢がしゃがんだ途端、魔方陣から雷が発生し扉が損傷する。これを見ていた飛彩と大我、安心させる為に居た明日那や泣いていた藍原が注目する。

 

 

『今のは……アランブラの魔法!』

 

「ッ!?まさか、バグスターの力が!?」

 

 

 寝ていた体を起こすように高山は上半身だけを起こす。しかし何処か可笑しい。自身の左手で拳を作り、開く。その作業を3回行った後、今度は診療台から勢い良く降りて立ち上がり右手を出す。

 

 すると高山の右手が変化する。今度は重火器の様な形をしており、それを発砲する。明日那は藍原を連れて避難し飛彩と大我は咄嗟に避ける。

 

 

『今度はリボルの能力だ!』

 

「どうやら、ゲムデウスが乗っ取ってるみたいだな。だがゲームエリアも展開されてねぇのにバグスターの能力を使えるってことは……単なる感染者じゃなさそうだなっ!」

 

 

 貴利矢が高山に向かって走り出す。手に持っているガシャットを刺せば良いのだが、またも右手を向けられ発砲される。

 

 

「うおあっ!」

 

 

 避けようとして体を下に反らしたが、反らしすぎて逆に尻餅を付いてしまう貴利矢。その状態の貴利矢に銃口を向けていく。正しく絶対絶命のピンチ。

 

 

『ぶぅははははははははぁッ!』

 

「ッ!?」

 

 

 だが高山の後ろで両腕を拘束する誰かが居た。その誰かは御存じ、黎斗神である。急に拘束されたことで一瞬戸惑う高山。

 

 

「九条貴利矢ァ!さっさと刺せぇ!」

 

「!あぁ!」

 

 

 その隙を狙い一気に距離を縮め高山の体にドクターマイティXXのガシャットを差し込む。高山は苦しむ様子を見せていたが、徐々に力が抜けていき終いには床に倒れる。

 

 

「明ッ!」

 

 

 倒れた高山を心配し、藍原は高山を抱き締める。成功したと安堵した貴利矢は床に座り込み、黎斗神は危なげな表情をしていた。

 

 

「いーやー……今回ばかりは助かった」

 

「まぁな。私だから出来た作戦だったのだからなッ!」

 

「どや顔かよ……引くわ」

 

 

 訂正、やはり黎斗神はネタキャラの表情をしていた。

 

 

「……ッう……あ……」

 

「ッ!明!」

 

 

 高山の意識が戻る。目が覚めた高山は視線を移動させて現在の状況を確認する。ここが何処なのかはイマイチ理解していない。

 

 

「先……輩……此処は…………?」

 

「このバカー!!」

 

「むごふっ!?」

 

 

 高山は何がなんだか分からず、藍原の豊満な胸囲に埋もれる結果となり息ができていない。そんな様子を見ていたドクターたちは一気に緊張の糸がほどける様に脱力する。

 

 

「一安心……ってところか」

 

「どうやら、そのようですね。でも……」

 

「まーだ色が変わってねぇ所を見ると、抑制しただけみてぇだな」

 

 

 貴利矢の言う通り、まだ高山の目と髪の色は元に戻っていない。謂わば脅威そのものは去っていない。何時、何が起こるのかは全く分からない。

 

 

「優美さん、彼氏さん呼吸困難になってます」

 

「へっ…………あっ」

 

 

 気が付いたかの様に拘束を解くと高山は離れて呼吸を深くする。そんな様子を見ていたドクターたちも心なしか表情が柔らかくなっている。無事な様子を見ていた藍原も嬉しそうに微笑んでいた。

 

 しかし、そんな平穏というのは早く終わってしまう。

 

 

「ッ!?ゴホッ!」

 

「!?先輩!」

 

 

 心配している様子で藍原に近付く。藍原は突然咳き込み、胸を抑える。次第に床に倒れ込み飛彩がドクタースコープを使う。

 

 映された映像には銀色とオレンジ色の模様が存在するバグスターウィルスが確認できた。

 

 

「急患だ、急げ!」

 

「はい!」

 

 

 またも慌ただしくなるCR内。但し今度は高山ではなく藍原がゲーム病に掛かったということだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて……この様な部屋ですまないね。えっと……」

 

「高山です。高山明」

 

「失礼。宜しく高山さん」

 

 

 現在、高山はCRで目の前に居る黎斗神と対面している。今回ゲーム病に発症した藍原について、高山が発症したウィルスについて説明するのだ。

 

 だが何故黎斗神が選ばれたのか?その答えはただ1つ。“唯一”ゲムデウスウィルスに対する抗体が存在するバグスターだからだ。さらに言うなれば、人間にもバグスターにも発症するゲムデウスウィルスに発症しないのが黎斗神しか居ないためである。

 

 

「さて、君の発症したゲーム病についてなんだが……君のはとても特殊過ぎる」

 

「…………と、申しますと?」

 

「貴方は感染しているんじゃあない。貴方はそのウィルスに“適合している”。しかも“過剰”に」

 

「つまり…………【過剰適合者】で、合ってるんですか?」

 

「あぁ。それについては、先ずこれを見てほしい」

 

 

 用意されていたパソコンに高山が気絶していた状態の時の体の様子を映像を映す。

 

 

「これは…………?」

 

「君の体内にあるウィルスだ。だが普通は“有り得ない”んだ」

 

 

 黎斗神の言っていることが理解できない様子で首を傾げる。次、黎斗神は映像を縮小させる。すると、映像には黄色く染色された螺旋状のもの。

 

 

「これは……DNAですか?」

 

「正解だ。でも、この映像は本来おかしい筈なんだ。だが、それが君の体で起きているという事実だ」

 

 

 一息付いて、黎斗神は口を開いた。

 

 

「君は……体内でウィルスを培養できる体質になっている」

 

「ッ!」

 

「……酷だと思うが、もしかすると君の体内で培養されたウィルスが彼女の体内に侵入し、存在していたバグスターウィルスを活性化させたと私は考えている」

 

 

 高山の目から光が消えた様に見えた黎斗神。だが、これは仕方が無いとしか言い様が無い。自分の体内でウィルスが製造され、それが関係者に感染して今の状態になっているからだ。自分の性という訳ではない。だが人は自らを中心に不幸な出来事が起きた場合、自分が居たから起きたと勘違いする。

 

 この高山もその例に当てはまる。これ以上は何も言えない黎斗神は一言告げてCRを後にする。残されているのは高山1人のみ。

 

 外に出た黎斗神は待機していたドクターたちに報告をしていく。

 

 

「黎斗、どうだった?」

 

「……呆然としていた。罪の意識を感じているらしい。……だが、実に惜しい」

 

「黎斗神さん。どういうことですか?」

 

 

 黎斗神は永夢の質問を待っていたかと言わんばかりに答える。

 

 

「あのゲムデウスウィルスに感染したのに“適合”したという事実を踏まえると、新たなドクターライダーとして戦力になれるということだ。但し過剰適合者故に、もし外に出したとしよう……最悪、パンデミックが再発する可能性も十分だ」

 

 

 黎斗神が言うことは事実である。そんな話題や空気を変えたのは飛彩であった。

 

 

「……今はバグスターを捜すことが先決だ。行くぞ」

 

「…………はい」

 

「言われなくても」

 

 

 永夢、飛彩、大我の3名はバグスターを探す。命を預かる医者として、命を守るために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────Loading……──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 未だCR内に居る高山は1人呟いていた。何を呟いているのかは知り得ない。現在はゲムデウスウィルスの感染というのも相まって、もしもゲムデウスウィルスを散布でもされてしまっては患者がさらに増える一方だ。つまり1人。入ってきたとしても黎斗神だけである。

 

 高山は呟く。自分しか居ない部屋で、誰かに言うわけでもなく、自分に聞こえる声で。

 

 

「───俺は……どうしたら良いんだよ……………

 

 自分のせいで……先輩が危険な状態なのに…………何で?

 

 何で俺は………………“生きたい”んだよ?

 

 誰かに迷惑かけて、それでも生きたいって……虫が良すぎるだろ…………」

 

 

 高山は先程より声を荒げながら、自分の思いを吐き出す。本心では無い、誰かのことを考えた結果の思考であった。

 

 

「死にてぇよ……死にてぇよッ!こんな体!無くたって良い!このウィルスのせいで迷惑かける位なら!死んだ方がマシだ!」

 

 

 嗚咽や渇望に近い。これが高山の考えであった。だが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────生きる。私は生き延びてみせる。

 

「なぁ………………」

 

─────どんなことをしてでも、生き延びる。

 

「…………なぁ!」

 

─────生きて、生き続ける。

 

 

「お前がそうなのか!?お前が俺の中で思いを届けているのか!?お前が俺の中に居るウィルスなのか!?」

 

 

 

────犠牲が生まれようと、私は生きる。

 

 

 

「俺は死にてぇ!お前のせいで!お前が俺の中に入ったせいで!」

 

「どうしたんですか!?高山さん!」

 

 

 声を荒げていたのが外まで聞こえた為、黎斗神が駆け付け近寄った。体勢では高山は床に座り込んでいるため、それに合わせる様に黎斗神もしゃがむ。

 

 

「俺は犠牲なんて出したくねぇんだよ!そうまでして生きるのは嫌なんだよ!」

 

「ッ!…………」

 

「これ以上……誰かが苦しんでる姿を見るのは…………嫌なんだよぉ…………」

 

 

 涙が出る。目を押さえ、溢れ出る涙を見られたく無い様な状態であった。

 

 

「…………高山さん」

 

「ハァ…………ぁぐ…………ぅぐぃ…………」

 

「高山さん!」

 

 

 近くで、それも大声で名前を呼ばれた高山は思わずビクリと体を震えさせた。顔を上げれば黎斗神の顔が真正面にあった。

 

 

「黎斗神さん…………?」

 

 

 そして突如、黎斗神が高山の頬をビンタした。

 

 

「ッ!?」

 

 

 何が起きたのか理解出来ない高山はゆっくりと黎斗神の方に目線を向ける。そこには怒りが少しだけ露となった黎斗神の顔があった。

 

 

「……君は何を寝惚けているんだ?」

 

「黎斗神……さん?」

 

 

 少しだけ怒りが混じった様な声が、このCRに響く。

 

 

「君は、“犠牲を出してまで生きたくない”。そう言った。だが、犠牲を出さない生き方なんてこの世に存在すると思うのか?」

 

「ッ…………」

 

「生きるということは、何かを犠牲にして成り立っているのだ。誰かの苦しんでる姿を見たくない?違う、君が生きる為に誰かが苦しむのは当然のことだ!そして……自ら死ぬというのは、その苦しんだ人々を見捨てることと同じだ!」

 

 

 怒気を含んだ物言いに、何も言えなくなる高山。確かにこの世の摂理はそういうものだ。生きるというのは何かの犠牲の上で成り立っている。自殺をするということは、今まで犠牲となった者たちの1つの冒涜行為に等しいのだから。

 

 

「誰かが苦しむのを見たくないから自殺する!?違う!君がするのは自殺じゃあない!その犠牲となった人々の為にも、“生きなければ”ならないんだ!これは1つの義務だ!私たちに与えられた義務なんだ!」

 

「じゃあどうすれば良いんですか!?僕に出来ることなんて……何も、残されていない…………」

 

 

 高山がそう告げると、突如立ち上がり外へと出た。少しすると再び戻って来た。さらに黎斗神は何かを取り出し、それらを高山に見せる。

 

 

「これ……は…………?」

 

「【ゲーマドライバー】と【ガシャット】だ。この2つを使うことで、『仮面ライダー』になれる」

 

 

 一旦その2つを床に置き、高山の両肩に黎斗神は手を乗せて話していく。

 

 

「これで君の……贖罪を果たせる。そして……君が生きていくのに必要な“義務”だ」

 

「ッ!?…………なん……で…………?」

 

「あくまでも、これは義務だ。君が生きる為には、君自身が仮面ライダーと成り、バグスターを倒し患者を救う。これが君の課せられた義務だ。受け取りたまえ」

 

 

 床に置かれたゲーマドライバーとガシャットを手に取る。自分が生きる為には、自分が誰かを救わねばならないという義務の証として。皮肉にも自分のウィルスが原因の1つなのに、自分でケリを付けるという様なものなのだ。

 

 しかし、受け取った高山の目からは涙は出なかった。それどころか、涙を拭い息を整えて立ち上がった。黎斗神もそれに合わせて立ち上がる。

 

 

「……これが義務なら、僕はします。それが……僕の生きる義務にも成るのなら」

 

「そうか……なら話は早い。先ずはゲーマドライバーを腰に装着してくれ」

 

 

 そう言われて高山は左手に持っているゲーマドライバーを腰に当てる。するとベルトが自動で展開され腰に巻き付く。

 

 

「次に君が外でも活動できる様に、そのガシャットをゲーマドライバーに差し込んでくれ」

 

 

 コクリと頷くと、右手に持っているガシャットを差し込もうとした。しかし、それは不意に動いた左手によって止められ高山は苦しみ床に座り込んだ。

 

 

「うぐぅ!」

 

「やはりそのガシャットに反応するか……仕方無い、他のガシャットを「黎斗神……さん」なんだね?」

 

「ハァ……ハァ……大丈夫ですから……」

 

 

 立ち上がり、もう一度差し込もうと試みた。案の定またも左手によって止められ、もう一度苦しみ始めた。しかし、今度は倒れなかった。意地なのか、苦しんでいるのに立っている。

 

 

「あがっ!…………ぐぅ………!よく聞けよ!ウィルス!」

 

「高山さん!?」

 

「良いか!俺が……お前が……俺たちが生きるには!これを差し込まないと駄目なんだ!お前が生きていくには、これを差して患者を救わなきゃいけないんだ!」

 

 

 高山の体の色素がドンドン黄色に染まっていっている。進行が激しいのか、抗うかの様にウィルスを増やしていっている様だ。

 

 

「ッ!…………俺だって……本当は生きてぇよ!でも、今のままじゃ駄目なんだ!俺が本当の意味で生きるには、これが必要なんだよ!お前だって生きたいのなら、お前も俺も何かをしなきゃいけないんだよ!」

 

 

 今度はウィルスが徐々に体から排出されている。しかも目は淡い黄色から徐々に赤へと変貌しつつあった。

 

 

「ぁがぁ!……ハァ……ハァ…………こうしなきゃ……お前だって生き残れねぇんだよ!誰かに倒されるんだよ!お前だって生きたいんだろ!?生きたいのなら……生き続けたいのなら……コイツを差して、患者を救え!それが俺たちの生きる術なんだよ!それしかねぇんだよ!だからよぉ!」

 

 

 その瞬間、ゆっくりとだが左手が外れていく。そして一言だけ叫んだ。

 

 

「俺たちの生きる義務を……果たしやがれえぇぇ!」

 

 

 漸く、ガシャットは差し込まれた。

 

 

【ダブルガシャット!!】

 

 

 その音声は、2人の声が混じった様な音声であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 現在、外に出ている永夢、飛彩、大我はバグスターと対峙していた。一旦患者の藍原を大我が運営しているゲーム病専門病院に搬送されていたが、バグスターが出現し患者を救う為に戦っている。

 

 だが永夢たちは目の前のバグスターに既視感は感じられ無かった。つまり新種のバグスターであった。間接辺りにインフルエンザウィルスをモチーフとした様な模様が存在し、嘴が4方向に開くというグロテスク要素が含まれている。

 

 ただ、永夢たちは容姿がそれだけと思っていた。その考えは簡単に打ち砕かれてしまったが。

 

 攻撃する度にライダーゲージが徐々に減り、射撃武器での攻撃でもウィルスの様なものが散布されゲージが減る始末。挙げ句の果てにバグスターもウィルスの様なものを散布しゲージが減っていく始末。ガシャットを変えても同じで倒れる様子すら無い。永夢の持つ【ハイパームテキガシャット】でも散布は止められないので迂闊に手が出せない状況なのだ。

 

 

「ほれほれぇ~!攻撃しないのかよぉ~?良いのかなぁ~?」

 

「ッ!のヤロッ!」

 

「大我さん!相手の挑発に乗らないで!」

 

「分かってる!けどこのままじゃあ…………!」

 

 

 そんなピンチの中、何処から途もなくエンジン音が聞こえてくる。バグスターやライダーたちは、そのエンジン音の正体を知ろうと辺りを見渡す。

 

 どんどん近付いていき、その音は近くなるとブレーキ音が響いた。その音の方向を見ると、貴利矢ともう一人がバイクに乗って駆け付けていた。

 

 

「貴利矢さん!」

 

「よぉ永夢、待たせたな。助っ人呼んで来たぜ」

 

 

 『エグゼイド』に変身している永夢、『ブレイブ』に変身している飛彩、『スナイプ』に変身している大我は貴利矢の発言に疑問を浮かべる。そんなことを知ってか知らずか、後ろに乗っていた人物がヘルメットを脱ぐ。

 

 そこには淡い黄色の髪と目をした『高山明』が立っていた。腰にはゲーマドライバーが装着され、ガシャットも差し込まれている。

 

 

「た、高山さん!?何で此処に!?」

 

「おい監察医!何故コイツが居る!?」

 

 

 そんな永夢と飛彩の言い分を無視するかの如く、高山はバグスターにどんどん歩んでいっている。

 

 

「なんだぁ~?お前?」

 

「ッ!高山さん!」

 

「これでも食らえッ!」

 

 

 すると、バグスターが嘴を開く前に高山は右手をバグスターの方に向けて何かを散布し始めた。それを受けた影響なのか、バグスターはとても苦しんでいた。

 

 

「ギャアアアアアアアァァァ!」

 

 

 腰にあるゲーマドライバーには“真っ白なガシャット”が差し込まれていた。それを見た永夢たちは驚愕の表情をする。

 

 

「あれは、まさかッ!」

 

 

 高山の方はバグスターを見て、口を開く。

 

 

「皆さん……ここは僕にやらせてください」

 

「ッ!?しかしッ!」

 

「やらせて下さい。これは僕の贖罪なんです。これは僕が生きてくための義務なんです。…………僕は、生きる。生きていく!その為に、永遠の贖罪を、義務を!果たしてやる!」

 

 

 高山は両腕を前に交差させ“X”という文字を作り、戦う戦士となる為の合言葉を言い放つ。

 

 

「Mark X(エックス)-2!変身ッ!」

 

 

 ゲーマドライバーのレバーを開き、遂に変身する。

 

 

【ガッチャーン!レベルアップ!】

 

【ドクターマイティ!2人で作る!ドクターマイティ!2人でメイキーング!X(エーックス)!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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【ガッチャーン!レベルアップ!】

 

【ドクターマイティ!2人で作る!ドクターマイティ!2人でメイキーング!X(エーックス)

 

 

 高山は目の前に現れたキャラクターセレクト画面から2つの?マークを選択する。選択した画面からはドクターライダーである4人は見たことのある姿だが、違うことが理解できた。

 

 そして2つのセレクトパネルが高山の体を通ると、そこからもう1人現れた。それが誰なのかは直ぐには理解できなかったが、高山とそのもう1人は見たことのあるライダーへと変身する。

 

 一言で表すならば“白”。ドクターたちの白衣の色であった。見慣れた姿だが、何処か違う。

 

 現れたのは“白いレーザーターボ”と“白いゲンム”であった。違う箇所といえば、黄色や紫の装甲色が全て白で統一されていたこと。さらに言えば白いレーザーターボは左手首の辺りに、白いゲンムは右手首辺りに長方形のタッチパネルの様なものが装備されている。

 

 変身した高山もとい白いレーザーターボは自身の手の甲をマジマジと見つめ、自分の姿が変わったのだと自覚した。ふと視界にもう1人が入ったのか、高山は横を向く。同じ白い装甲色のゲンムであった。

 

 

「…………まさか、お前か?」

 

「………………」

 

 

 何も喋らなかった。白いゲンムは前方に居るバグスターに焦点を当てている。あまり意味は無いと感じたのか白いレーザーターボもバグスターの方向に向く。

 

 

「……ゲムデウス」

 

「んぁ?」

 

「私の名だ。何時までも“お前”呼ばわりされるのは面倒だからな」

 

「…………そうかよ」

 

 

 仮面の下だからこそ表情は分からなかったが、声からして高山は少しだけ嬉しさを感じている様だ。お互いの右腕と左腕を交差させてXの文字を作る。

 

 

「「これより製薬実験を開始する」」

 

「ま、俺精神科医志望だけどさッ!」

 

 

 2名のライダーはバグスターに向かって走り出す。

 

 

「たかが2人増えただけッ!食らいやがれ!」

 

 

 バグスターは嘴を開きウィルスを散布させる。だが1度攻略された技を再度放つのは愚の骨頂とも言える。白のレーザーターボは右手、白のゲンムは左手を出すと青い粒子の様なものを散布させる。

 

 その青い粒子はウィルスを消滅させ、その先に居るバグスターに当たるとまたも苦しんだ。

 

 

「ギィイヤアァァァ!?」

 

「ハァッ!」

 

「ぐぼッ!」【HIT!】

 

 

 白いゲンム(ゲムデウス)の右ストレートがバグスターの腹部に入る。

 

 バグスターは仰け反り後退するも、体勢を整えようとしたが。

 

 

「サアッ!」

 

「おぉぐッ!?」【HIT!】

 

 

 白いゲンムの後ろから走ってバグスターの腹部にヤクザ蹴りをかました白いレーザーターボ(高山明)。それにより体勢が崩れるバグスター。

 

 ここで思うことは攻撃した場合、ウィルスが散布される危険性があるのでは無いのか?という疑問だ。答えは……大丈夫だ。ウィルスは散布されていない。

 

 

「な、何でぇ?何でウィルスが……?」

 

「ウィルス抑制効果さぁ」

 

 

 白いレーザーターボとゲンムの後ろから声が聞こえたが、振り向いたのは白いレーザーターボのみ。

 

 

「黎斗神さん!?何故ここに!?」

 

「その話は後だぁ!そのガシャットで変身したライダーには、私と九条貴利矢のレベル0の力が備わっているゥ!つまりは……バグスターウィルスを抑制するゲームエリアとなったのだぁ!さらに補足するならば、先程散布したのはゲムデウスワクチンだぁ!並みのバグスターならば能力を無効化するなんぞ容易いワァ!」

 

 

 黎斗神が説明していた間、白いゲンムはバグスターに接近する。バグスターも反撃する様に大振りのパンチを放つが、最低限の動きで避け肘で反撃を加える。

 

 

「フッ!」

 

「ぐあっ!?」【HIT!】

 

 

 少しだけ後退したバグスターは体勢を立て直し左フックを放つが、白いゲンムはバグスターの外側に避け左腕を掴み後ろに回る。

 

 すると、バグスターの近くから何やら数字が載っている電子板が出現した。そして数字が60からドンドン減っている。

 

 

「あれは……レベルダウンしている!」

 

「あれはレベル0のゲンムが使ってたヤツじゃねぇか!」

 

「当たり前だぁ!ドクターマイティ自体のスペックは低いのだから、この様にレベルダウンすることで有利な状況を作ることが出来るゥ!」

 

「成る程……ゲムデウス!」

 

 

 白いレーザーターボはバグスターに向かって走り出し、ある程度の距離で飛び蹴りを放つ。

 

 

「フッ」

 

「んぉう?おぉわッ!?」

 

 

 白いゲンムはバグスターの拘束を解くとジャンプしてその場を離れる。バグスターは先程飛び蹴りを放った白いレーザーターボの攻撃に衝突し体勢を崩し倒れる。

 

【HIT!】

 

 白いレーザーターボはバックステップを取りバグスターから距離を取り、白いゲンムと合流する。

 

 

「高山明ァ!ゲムデウスゥ!君たちの手首に取り付けてあるタッチパネルに触れろ!」

 

「ふぁッ?とと……」

 

 

 白いゲンムとレーザーターボは取り付けられているタッチパネルに触れる。すると何やら円形の映像が出現した。さらにスクロールすると他の種類もある。

 

 

「黎斗神さん!これは一体!?」

 

「それがドクターマイティの固有能力の1つ、【エナジーアイテムの生成】だぁ!」

 

「エナジーアイテムの生成!?」

 

 

 永夢や他のドクターたちも驚くのも無理はない。本来エナジーアイテムはゲーム起動と共にゲームエリア内に展開される為、エナジーアイテムを“作る”という概念が無かったからだ。

 

 

「そのタッチパネルの右端には、エナジーアイテムを生成する為のエネルギーバーが表示されている!君たちの攻撃によってそれは蓄積され、御互いのエネルギーが満タンになればエナジーアイテムを1つ生成できる仕組みだぁ!使いたいエナジーアイテムはスクロールして選択したものをタッチしろ!」

 

「ならば……おい宿主」

 

「な、何っ?」

 

「高速化を選べ。黄色のエナジーアイテムだ」

 

「お、おう」

 

 

 白いゲンムが最初に、次にレーザーターボがタッチパネルをスクロールし高速化を選ぶ。するとレーザーターボのタッチパネルから黄色のメダルが排出される。

 

 

「これが……」

 

「それを私に使え」

 

「オッケー!」

 

 

 手に持っている黄色のメダルを白いゲンムに投げると、それは大きくなり白いゲンムに取り込まれる。

 

【高速化!】

 

 

「ハアァッ!」

 

「ウボァ!?」【HIT!】

 

 

 高速化の効果により移動速度が上昇され目で追い付けない程の早さでバグスターに攻撃を加える。高速移動によって異常な速さで攻撃されたことでバグスターは吹っ飛ぶ。

 

 

「スゲェ……俺も何か…………おっ、これは?」

 

 

 白いレーザーターボは辺りを見渡すと、近くに紫色のエナジーアイテムを発見し、それに触れる。

 

【予知!】

 

 

「ッ!?……こ、これは?」

 

 

 白いレーザーターボは何故かバグスターの方ではなく、その光景を見ていた永夢たちに向かって走る。

 

【HIT!】

 

 調度その時、白いゲンムがバグスターを吹っ飛ばす。その吹っ飛ばされたバグスターは見ている永夢たちに向かう。

 

 

「せあッ!」

 

「オボァ!」【HIT!】

 

 

 しかし先に着いた白いレーザーターボによって蹴られ地面を転がりながら離れていく。その後で白いゲンムが白いレーザーターボの隣に立つ。

 

 

「お前なぁ、人が居るんだから考えて攻撃してくれよ」

 

「それは俺たちが生きる為に必要か?」

 

「俺たちが生きる為には人を守る“義務”がある。これは必須事項だ、忘れんなよ」

 

「……ならば仕方ない」

 

「お、おのれぇ…………!」

 

 

 吹っ飛ばしたバグスターがよろよろと立ち上がる。この状態ではそろそろ終いという辺りであるが、調度黎斗神が声を荒げて言い放つ。

 

 

「レバーを閉じて開け!必殺技だ!」

 

「なるほど、フィニッシュは十八番で!ゲムデウス!」

 

「あぁ」

 

 

 白いレーザーターボとゲンムは御互い同時にレバーを戻す。

 

【【ガッチョーン キメワザ!】】

 

 軽快な音楽が流れる中、2名はベルトのレバーを開く。

 

【【ガッチャーン!】】

 

【【DoCTER MIGHTY!CRITICAL STRIKE!】】

 

 

 白いレーザーターボとゲンムは御互い右足にエネルギーが込められ、跳ぶ。そしてバグスターに一気に接近しエネルギーの込められた足で攻撃をする。

 

 

「「ハアッ!」」

 

「ォボォ!」【【HIT!】】

 

 

 さらに一旦距離を取ると空中で白いレーザーターボは踵で右回り、白いゲンムは膝蹴りで左回りをして挟む様に攻撃を入れる。

 

【HIT!】【HIT!】

 

 そして軸足で着地し再度回転しながら蹴りを放つ。

 

【HIT!】【HIT!】

 

 

「ハアッ!」

 

「テアッ!」

 

 

 白いレーザーターボとゲンムは同時に飛び上がり、バグスターの真上から踵落としを放った。

 

 

「「セアアアアアアッ!」」

 

 

【PERFECT!】【PERFECT!】

 

 

「ウガアアアアアアアアアアィ!」

 

 

【GAME CLEAR!】

 

 バグスターは最後の攻撃に耐えられず爆散。同時にGAMECLEARの文字がエリアに広がり、漸くバグスターは消滅した。それを確認した高山はベルトのレバーを閉めガシャットを取り出す。

 

【ガッチョーン ガッシューン】

 

 白いレーザーターボとゲンムは融合し、高山明という1人の人間に戻った。永夢たちも変身を解き高山の元に集う。

 

 

「高山さん!」

 

「えっ……あ、はい」

 

「すみませんでした!」

 

「へっ?はっ?…………はゑッ?」

 

 

 何故謝られるのかは理解できない高山。

 

 

「僕等が不甲斐ないばかりに高山さんに迷惑をかけてしまって、すみまs「あ、あの、大丈夫ですから」へっ?」

 

「それに……漸く生きる決意も芽生えましたから」

 

「そうかい……まぁこれだと警戒は厳重にしなきゃな」

 

「で、ですよねぇ…………ハハハ……」

 

「あー……その事なんだが、高山さん」

 

 

 ふと黎斗神が高山の後ろから声をかける。何なのかは予想が付かない。

 

 

「はい、何でしょうか?」

 

「君には暫くの間CRに居てほしい、この意味は分かるかな?」

 

「あー……唯一のゲムデウスウィルス感染者で、過剰適合者。体内でウィルスを培養できるからですよね?」

 

「理解が早くて助かる、出来るか?」

 

「強いて言うなら……明日受けなきゃいけない授業がありまして……」

 

「そうか……ならば早急に相談せねばな」

 

「あ、そうだ。すみません!彼女の方は?」

 

「それなら心配は無い。バグスターを倒したことで治っている筈だ」

 

「な、なら良かった……ホッ」

 

「では行きましょうか高山さん」

 

「はい。えーっと……」

 

「宝生永夢です」

 

「改めまして、高山明です。宜しくお願い致します、宝生さん」

 

 

 宝生永夢と高山明は握手を交わす。

 

 ここからは高山明の運命は変わり始めた。ゲムデウスに感染し、適合したことで予想もしていない未来に変わりつつある。

 

 ここから何が始まるのかは、誰にも分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




高山 明(たかやま あきら)♂ オリ主
・Age 21 ・182㎝ ・72㎏
SAO名『デウス』

東都総合大学3年生医学部所属。精神科を目指しているが、ゲムデウスウィルスに感染。そして適合した。顔は普通の部類に入るが優しさは他の追随を許さない程で、高校時代に生徒会で知り合った藍原優美に交際を迫られ承諾。今は藍原優美とアパートの一室を借りて同棲している。


藍原 優美(あいはら ゆうみ)♀ 
・Age 22 ・178㎝ ・75㎏  
 ゲームキャラ(コード・レジスタより)
 SAO名 『リーゼ・ロッテ』

東都総合大学4年生経済学部所属。何時か自身の会社というのを持つことを夢見ている。周囲からの評判は『頼れる(あね)さん』。しかし高校時代は周囲からの評判も合間って本音で話す相手も居なかった。しかし高山との“ある一件”により好意を持ち、交際を迫る。今は高山明とアパートの一室を借りて同棲している。





【過剰適合者】
 読んで字の如く過剰なまでに適合した者を指す。過剰適合者になった場合、バグスターの能力をゲームエリアを展開せずに使用可能。さらに体内でウィルスの培養もされ、接触感染で広まる危険性もある。

 しかし過剰適合者なだけに運動能力や情報処理能力は向上され通常の適合者や人物よりも遥かに性能は上。







オリジナルバグスター名

【バイラスバグスター】
・4つに別れる嘴と、間接にあるウィルスの形をしている模様が特徴。目は存在せず、これまでのバグスターよりグロテスク要素が追加されている。

・攻撃を受ける度にダメージを与えるウィルスを散布する。また嘴を開くことでもウィルスを散布する能力を持つ。







【エナジーアイテム生成】

ドクターマイティXXを使用しレベルアップした状態でのみ使える固有能力。装着されているタッチパネルには全エナジーアイテムが選択可能であり、ライダーの攻撃によって生成に必須のエネルギーを蓄積できる。

エナジーアイテムを生成する場合、御互いのエネルギーが満タンでなければ生成不可。さらに選択するエナジーアイテムが御互い違っていれば生成不可。

尚最後に選択したライダーがエナジーアイテムを持てる。誰に与えるかはどちらかの意思や選択。







次回!Dr.ゲムデウスは!

新たなライダーの誕生!


「仮面ライダー……ゲムデウス」


大学生活に元凶がッ!?


「私の神の才能を受けとれぇ!」


そして発現する、レベルアップのその先へ!

【ガッチャーン!ダブルアーップ!】


 『第3話 school lifeは波瀾万丈!』





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第3話 school lifeは波瀾万丈! 

 翌日CR内にて。このCRに不似合いな人物が1人、診療台での就寝もとい検査を受けていた。食事は病院近くのコンビニから九条貴利矢に買ってきてもらい、着替えは彼女である藍原に連絡すると持ってきてくれた。

 

 何故ここまで至れり尽くせりなのか。それは高山明という人間がウィルス適合者であり、そのウィルスが問題であったからだ。

 

 “ゲムデウスウィルス”。最強にして最悪のバグスターウィルス。ウィルス適合者以外の人間、黎斗神以外のバグスターには害となるウィルスをただ1人だけ“適合”という形にさせた例を見ないケースだからだ。

 

 つまる所、至れり尽くせりというより軽い軟禁状態。それは仕方が無いと分かっているが、今日は大事な授業もあって行かなければならない。ただ講義も10時からなので少しは猶予がある。

 

 そんなことを考えながら時間が過ぎていく。漸く検査も終わった様である。

 

 

「お疲れ様でした、高山さん」

 

「ありがとうございます、黎斗神さん」

 

「おーい繋がるぞ~」

 

 

 貴利矢がTVに視線を向けさせる様に誘導すると、突如オフィスらしき背景とスーツ姿の座ってる男。机らしきものに名前の書かれたプレートがある。

 

 

『初めまして、高山明さん。私は衛生省大臣官房審議官の『日向恭太郎』だ。宜しく』

 

「は、初めまして。高山明と申します」

 

「緊張しなくて良いぞー、緊張してんの向こうも同じだし」

 

「へっ?」

 

『……ゴホンあー今回は君の件について伝えたいことがあるんだ。聞いてくれるか?』

 

「き、聞きます!」

 

『…………先ずは君の処遇についてだが、1つ目。君には衛生省から支給される家に引っ越してほしい。過剰適合者故に万が一ウィルスが外に出された場合はパンデミックが起こりかねないことを考慮して、ということだ』

 

「それは大丈夫なのですが……彼女も同棲しているので、そこはどうすれば?」

 

『残念ながら、離れて暮らすしか無い。既に君の彼女もゲムデウスウィルスによって強化されたバグスターウィルスによってゲーム病を発症してしまったからな』

 

「そうですか…………(やっべ、どうしよ)」

 

『続いて2つ目。君には檀黎斗に「檀黎斗神だ」監視という形で付いてもらうことにした。これはゲムデウスウィルスの対抗策としての案でもある』

 

「…………また、無視かッ……!」

 

「あ、分かりまッ!」

 

 

 答えようとすると高山が上を向くと、雰囲気を変えて日向恭太郎に向かって話す。

 

 

「……信用が無いな、まぁ仕方あるまいか」

 

「……嘘ーん、何で簡単にゲムデウス出て来てんの?」

 

「ワクチンで抑制されているとはいえども、自我を保ち意識を変える事など造作も無い。力は制御されているがな」

 

『君が……ゲムデウスか?』

 

「如何にも。だが安心しろ、私たちは生きる為に人間を守ると誓った身。あのバグスター人間の監視なぞ無くともガシャットさえあれば良い」

 

『……すまないが信用に足る実績を伴わない発言は、信用できない』

 

「ふむ……そうか。ならば聞かなかった事にでもしておいてくれ」

 

 

 ゲムデウスが瞼を閉じると、少し慌てた様子を見せて目を見開いた。どうやら戻ったらしい。

 

 

「……すみません、日向審議官」

 

『いや、構わないさ。あー、君の監視の件については支給される端末に檀黎斗を入れ込ませることになった』

 

「分かりました」

 

『さて、最後なんだが……九条君』

 

「へーい」

 

 

 貴利矢が(おもむろ)に立ち上がり、階段を降りていく。そして少しすると階段を上る音が聞こえた。貴利矢が高山にある物を渡した。

 

 

「ゲーマドライバー……これが」

 

『3つ目の処遇だ。ゲーム病発症者から出現するバグスターを倒す【緊急時ドクターライダー】として活動してもらいたい』

 

「ガシャットはドクターマイティXX。ま、1度使ったから要領も分かるだろ」

 

 

 高山は頷く。そして手にしているゲーマドライバーを見つめる。最初に使用したのは黎斗神のゲーマドライバーであった為、自分専用というものはこれが初めて。

 

 

『以上が我々が君に出す処遇だ。あぁ、勿論そのワクチンの投与も忘れずに過ごしてくれ』

 

「はい…………って、不味い」

 

「講義か。なんなら送ってくぜ」

 

「良いんですか!?」

 

「良いの良いの、時間取らせちゃったしな。あと神も来い」

 

「私は神だ……誰もその事実を覆すことなど「ほいっと」アアアァァァァァ!」

 

 

 黎斗神は特殊なパッドに吸い込まれ、その場から居なくなる。しかし声がする方を見ると、そのパッドの中に吸い込まれている黎斗神を発見。

 

 

「貴利矢さん、これは?」

 

「ん、あぁ。CRに居た看護師のヤツ。借りてきた」

 

「それが……支給される端末ですか?」

 

「んま、そういうこと。普通の機械だと勝手に出られても困るしな。それに携帯とかだと容量足りなくなるからな」

 

「な、成る程」

 

「んじゃあ行きますか、何処の大学だっけ?」

 

「東都総合大学です」

 

「おっしゃ、んじゃあ乗ってけ」

 

 

 高山と貴利矢はCRから退出し、聖都大学付属病院の外へと出ていく。そして貴利矢がゲーマドライバーのホルダーからガシャットを取り出し起動させる。するとバイクが現れ、それに乗って目的地まで行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 それから十数分後、一旦アパートに戻り講義の用意をしてから暫くして目的の東都総合大学まで到着し貴利矢に礼を告げてから向かった。手持ちの肩掛けバッグの中には講義用の教科書やノート、そして黎斗神が入っているパッドとゲーマドライバー、ガシャットがある。

 

 少し駆け足になりつつ、階段も1段飛ばしで向かった先は医学部の講義。一息吐きつつ、お気に入りである教壇から見て10番目の外の風景が見える窓際の席に座る。用意していたノート等を出し一休みする高山。疲れが一気に押し寄せてきたという表現が良いだろう。さらに既に生徒の人数も多く見かける。

 

 

「ぃよっ!」

 

「うわぅ!……って、毎度毎度驚かすのやめてくださいよ、神代さん」

 

「ハッハッハッ、昨日居なかった罰とでも思ってよ」

 

「全く……昨日ゴタゴタしてたんですよ」

 

「彼女さんと?」

 

「何で先輩が出てくるんですか?」

 

「そりゃあ……………………ナニだよ」

 

「ナニしてませんから。頼みますから勝手に脳内捏造しないでください」

 

 

 『神代 凛子(こうじろ りんこ)』。大学で知り合った同級生。専攻は近年開発が進められているVR技術専門だが、時に別の講義を受けに行く変人。かなり頭は良い。

 

 

「つまんねぇなオイ……ってか髪の毛染めた?目もカラコン?」

 

「あー……ゲーム病は知ってますよね?そのウィルスに適合したとだけ」

 

「ほぇー……そうなんだ」

 

「アンタやっぱ楽観的じゃね?達観しすぎなんですけど?」

 

「知らん」

 

「一言で済まされても…………」

 

「ほれ、講義始まるぞ」

 

「この自由人め」

 

 

 仕方なくノートに講義内容や教授の言葉を書いていく。その際、神代から髪を(いじ)られたり、何故か背中に氷を入れられたり。そのせいで一瞬ゲムデウスに意識を無理矢理変えられたが何とか抑えた。

 

 講義が終わると昼食の時間帯なのでテラスカフェで食事を採ることにした。また神代が着いてきたが大学では見慣れている光景なのでどうでもよい。

 

 しかし戦慄はここから走る。

 

 

「あーきーらー!」

 

「うわばむッ!?」

 

 

 前方からジャンプしてきた藍原優美が飛び付く。急な出来事で対処できなかった為、そのままがっしりとホールドされる高山。豊満な胸囲によって呼吸路が断たれ徐々に苦しみつつあった高山は藍原の腕を軽く2回叩き緩めてもらった。

 

 

「ぶはッ!せ、先輩……いきなりは流石に」

 

「ごめんごめん。でもさ……………………昨日は何で帰らなかったの?」

 

 

 藍原が言い放った言葉にはこの場の空気を一瞬で冷やしたかの様な錯覚を思い知らされることとなった高山。蛇に睨まれた蛙の如く、威圧されて動けなかった。がっしりとホールドされているかでもあるが。

 

 

「あのですね先輩、昨日はウィルスの事もありましてですね?危険性を考慮してCRで寝泊まりして「言い訳は良いよ」!?」

 

 

 嫌な感覚が背中を伝わり、体中が警告を発しているのが分かる。脳が、細胞が、何故かウィルスまでもが警告を発している。そんな感覚を覚えた今日この頃。

 

 

「明、私はどんな人間か知ってるよな?」

 

「えーっと……表すなら“兎”……でしたよね?」

 

「そう、私は兎だ。1人で居るのは寂しい。1人になった部屋を見て寂しい。1人で寝るのが寂しい。明が居ない部屋を見るのが悲しい。満たされない感情が渦巻いて……明を求めて…………寂しさを埋めたくて写真にも手を出した。使用している明の物にも手を出した。明が居ないから満たされなくて……明が居ないから悲しくて……けど、やっと会えた。また一緒に過ごせるよね?明」

 

「はい勿論です(日向審議かーん!すみません!僕の彼女アレなんです!)」

 

「相変わらずお前ら2人は、周り見てたら嫉妬の視線ばっかで……何時ものことか」

 

「神代さんお願いHELP」

 

「無理だろ」

 

 

 しかし高山にも一筋の光明が!そしてその光から救いの手が!

 

 

「本当、君たちは相変わらず視線を気にしないことで有名だな」

 

「茅場先ぱ~い!」

 

 

 『茅場 昌彦』。僅か18歳にして開発したゲームプログラムで年収を億越えという異才。幻夢コーポレーションの年収とほぼ同等の金額をそのプログラムで得ている。量子物理学専門。神代とは現在は交際している。

 

 

「お願いします助けて下さい!HELP me!」

 

「悪いが、君の彼女の攻撃を食らいたくない」

 

「か~や~ば~せ~ん~ぱ~い!」

 

「ほら明、今日は私の我が儘を聞いてもらうぞ。明後日まで」

 

「僕に救いは無いのかッ…………!」

 

 

 結局、茅場と神代と高山と藍原の4名は注文をし、テラス席に座って寛いでいた。高山の膝には藍原が乗っている状況だが。

 

 

「そういえば高山君、君のその髪色どうしたんだ?目の色も違うのだが……」

 

「ウィルスに適合したってさ」

 

「大方その解釈で合ってますよ……あと先輩、人の目は?」

 

「何で気にするの?」

 

「そーでした」

 

 

 料理が来ても藍原は降りず、運んできたウェイターは嫉妬の視線を送っていたが藍原が黙らせて食事となった。終わっても雑談をしている所を見れば、この4名は中が良いのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 未だに食事中の4名。他愛ない雑談を交わしつつであるが、この4名はどちらかといえば曲者揃いな訳で。

 

 希代の天才『茅場昌彦』、大学で(変人として)知らない者は居ないとされる『神代凛子』。そこに不釣り合いとして捉えても良い2名も曲者である。

 

 最強にして最悪のゲムデウスウィルス過剰適合者『高山明』、そんなことお構い無しと思っているのかゲーム病発症したのに懲りてない『藍原優美』。

 

 しかしこの4名は意外に仲が良い。初めは高山と神代が出会い、そこから色々と知り合って現在に至る。

 

 

「あ、茅場先輩。そういえばなんですけど」

 

 

 突然高山が口を開く。予想は付いているのか、茅場は少し唸って質問に答えた。

 

 

「皆まで言わなくて良い…………やはり思い付かない」

 

「そうですか……茅場先輩も悩むこともあるものなんですね。やっぱり」

 

「私とて人間だ、悩み位ある。…………といっても今まで悩んだ事は1度も無かったからなぁ」

 

「「何の話?」」

 

 

 話の意図が分からないのか、尋ねてくる藍原と神代。

 

 

「茅場先輩、許可は?」

 

「……まぁ大丈夫だろう。どうぞ」

 

「了解。茅場先輩はゲームの事で悩んでるんです」

 

「「ゲームゥ?」」

 

「はい。でも僕そのゲームの案を見させてもらったんですけど、面白そうなゲームなんですよ!……ただ、最近起こったパンデミックとかも相まって悩まれていて」

 

「それって…………VRに閉じ込められたとか、ウィルスのヤツとか?」

 

「えぇ。茅場先輩の夢を叶えるにはVR技術に頼る必要性があったんですけど……今はVRも存続が危うい状態で、復興させようにも新たな革新が必要でして」

 

『だがゲーム案を出してみても会社側はVRよりも端末によるゲームを優先させると……そういう訳だな?』

 

「はい、そうなんで…………あれっ?」

 

「どうした?明」

 

「いえ……今誰が喋りました?」

 

「私じゃあ無いぞ」

 

「私でもない」

 

「えーっと……それじゃあ…………あっ」

 

 

 高山は徐にバッグを開き、貴利矢から渡されたパッドを見る。何故か画面には両腕を組んで仁王立ちしている黎斗神が居た。

 

 

「……できれば発言は控えてほしかったんですけど」

 

『悪かったね高山さん。でもゲームの話をしていたのに私を省くのもどうかとね』

 

「あ、テンションおかしかった人だ」

 

「先輩言い方」

 

 

 何があったのかと茅場と神代が高山の方まで近寄り、パッドを見てみる。茅場の方は驚愕の表情をしており、黎斗神に向かって尋ねてみた。

 

 

「あなたは……檀黎斗」

 

『ほぅ、私のことを知っているか……茅場さん』

 

「えぇ、あなたの偉業は当時の私の耳にも入っていましたよ。数々のゲームを作り出してきた至上最年少クリエイター檀黎斗」

 

 

 高山はゲームはするが開発スタッフなどは気に止めてもおらず初対面の様に接していたが、茅場の強ばった表情を見ていて少し不安が過っていた。というより、ゲムデウスがバグスター人間といっていた事を思い出して姿を晒しても良かったのかと気付いたのであったが今さらである。

 

 

「ですが、あなたはゲーム病で消滅状態に陥っていたのでは?」

 

「あーそういや、ニュースで衛生省からの会見があったな。そん時檀黎斗って名前聞いたような」

 

 

 本格的に不味いと感じていると、黎斗神はどうでも良いかの様に振る舞い始めた。

 

 

『まぁそれはさて置いてだ……茅場さん、君のゲームの案を幻夢コーポレーションに提出してみてはどうかな?』

 

「幻夢コーポレーションに……?」

 

『あぁ。君の出す案というのも興味深い。何せゲームプログラムでの年収で稼いでいる君の案を提出すれば会社としても潤いがもたらされ、君自身の夢を叶えることも可能だが……如何かな?』

 

 

 何やら急ピッチで話が進められているが、要はゲーム案を会社に渡し夢を叶える。噛み砕いて言えばその様な感じ。しかし……

 

 

 

 

 

 

 

「お断りさせて頂きます」

 

『ほぉ…………』

 

「茅場先輩……何故ですか?」

 

「……恥ずかしながら、私はあなたに憧れた。同時に嫉妬した。私以上にも、いや私よりも格上のあなたに。だからこそ、あなたを越えたい。あなた以上のクリエイターとして私の名を広めたい。それだけです」

 

 

 茅場から綴られたのは自分の気持ち。憧れと嫉妬という2つの感情の中、自分が憧れを越えたいという向上心の現れ。

 

 そして黎斗神は茅場に対して敬意を表し、拍手をした。

 

 

『素晴らしいじゃないか、そんな向上心嫌いじゃあ無いよ。だが、そうだな……そんな茅場さんに私からの助言を1つだけ与えよう』

 

「助言?」

 

『“ゲームはゲームであって君の夢を叶える場では無い”。ゲームというのは誰もが楽しみ、誰もが笑顔になる為のものだ。その為に私たちクリエイターは誰もが認めるゲームというのを目標に製作しなくてはならない。だが君は夢とやらに固執している風に見える、それはやめておいた方が良い。悪いという訳ではないが、何より優先すべきはプレイする全ての人々なのだから』

 

「…………ありがたい御言葉、感謝致します」

 

 

 少し思い詰めている表情をしている茅場。だがそこに付け加える様に高山も口を開いた。

 

 

「茅場先輩……良いですか?」

 

「……何だね?」

 

「僕はゲームクリエイターでも無いし、ましてや理系学者でも無い。でも何かしら物を作るという行為には、必ず“喜んでもらう為”っていう感情が関与してるんですよ。でも……さっきの黎斗……さんが言ってたこと間違ってはないと思います」

 

「……というと?」

 

「茅場先輩も自分の夢をゲームにするに当たって、本当に誰かを喜ばせる様なゲームにすれば良いと思うんです!茅場先輩の案を見てきたから……というのもあって黎斗さんの言葉で気付いたんです。確かに茅場先輩の案には自分の夢が殆どを占めている。でも、それでプレイする全員が喜ぶ訳ではないって……茅場先輩の意見を尊重してたのに、これは無いですよね。ハハッ」

 

 

 謝罪しながら不快にさせない様にと精一杯の作り笑いをする高山。だか茅場は少し考え事をしていた様で……

 

 

「…………かもなぁ」ボソッ

 

「へ?」

 

「いや、此方の話だ。……ふむ、話してたら少し案を思い付いてきたな。これがどの様になるかな?」

 

 

 どうやら新たな考えが浮かんできた様子だ。神代は高山に感心しながら高山の肩に腕を置く。

 

 

「へぇ~」

 

「神代さん?」

 

「いや……茅場(アイツ)が意見を聞くっていうのが珍しくてな。普段なら後沢博士の助言ぐらいしか聞かなさそうな奴だし」

 

「後沢博士ですか……」

 

 

 話程度なら聞いたことのある名前を呟く高山。何か思案している様だが、それは1人の行いによって頭の片隅に追いやられた。

 

 

「むぅ……明が無視してる」

 

「うぇ!?いやあの先輩、別に無視してたとかそんなんじゃなくてですね!」

 

「おーおーこの慌てっぷりよwww」

 

 

 ケラケラと笑う神代を他所に高山は必死に藍原のご機嫌取りを、藍原は反応を見て楽しみ、茅場はこの様子を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「■■■■■■■■───ッ!」

 

「「「「ッ!?」」」」

 

 

 そんな平穏も1つの音によって掻き消された。その音の方向を見ると、オレンジ色の巨大な“何か”が出現していた。発生源が分からないので、高山が周囲を見渡しても誰も何かが起こったとは考えにくい。

 

 

『バグスターユニオンか』

 

「黎斗さん、知ってるんですか!?」

 

『ゲーム病患者がストレスによって変貌した姿だ。兎も角、私を出してくれ』

 

「えーっとやり方が……」

 

『そうそうそこのボタンを押して……良し』

 

 

 パッドから黎斗神を出現させると高山はバッグに入れておいたゲーマドライバーとガシャットを手に取り、黎斗神と高山はゲーマドライバーを腰に当て装着する。

 

 

「すみません!茅場先輩、神代さん、先輩!避難誘導を!」

 

「高山君?」

 

 

 高山と黎斗神はガシャットの起動ボタンを押す。すると軽快な音楽と共にチョコブロックや、カプセルが出現し画面から飛び出す。

 

【マイティアクションX!】

 

【ドクターマイティXX!】

 

 高山は先にガシャットをドライバーに差し込み、両腕を前にしてXの文字を作る。

 

【ダブルガシャット!】

 

 

「Mark X-2!」

 

「グレード1(ワン)

 

「「変身ッ!」」

 

 

 高山はゲーマドライバーを展開し、黎斗神はガシャットをゲーマドライバーに差し込む。黎斗神は出現したパネルからゲンムのキャラを選択し、変身する。

 

【ガッシャット!】

 

【レッツゲーム!メッチャゲーム!ムッチャゲーム!ワッチャネーム!? アイム ア 仮面ライダー!】

 

 

 高山は2つのパネルを選択し、変身する。

 

 

【ガッチャーン!レベルアップ!】

 

【ドクターマイティ!2人で作る!ドクターマイティ!2人でメイキーング!X(エーックス)!】

 

 

 黎斗神はゲンムレベル1の2頭身の状態に変身し、高山は2人に別れて白いゲンムと白いレーザーターボに変身する。白いレーザーターボと白いゲンムは御互い右腕と左腕を交差させてXの文字を作り、ゲンムはライダーゲージの最初辺りに指を置き、なぞっていく。

 

 

「コンテニューしてでも、クリアする!」

 

「「これより製薬実験を開始する!」」

 

 

 その3名はバグスターユニオンに向かって走っていく。その変身を生で見ていた3名は驚愕の表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だがレベル1でなければ患者とバグスターを分離できない」

 

「早く言って下さいよ!」

 

 

 白いレーザーターボと白いゲンムは楯役に成りつつ黎斗神のサポートをしている。理由はバグスターユニオンの特性によるものである。

 

 バグスターユニオンは患者がストレスによってウィルスを増殖させたもので、その分離行為を行うにはレベル1でなければ無理なのだ。 

 

 なので白いレーザーターボと白いゲンムは【挑発】や【回復】などてサポートしつつ黎斗神が分離させるのを待っているのだ。

 

 そして黎斗神が何度目か分からない攻撃を入れると、バグスターユニオンは分離され人間とバグスターに別れる。

 

 そして現れたのはバグスターを連れた“妖精”であった。

 

 

「やっと分離できた……だったら「まぁ待ちたまえ」ヘグッ?」

 

 

 黎斗神に掴まれ強制的に歩みを止められると、黎斗神は気にしない素振りで高山に告げた。

 

 

「ここからは君たちも“次の段階”へと進み戦ってほしい」

 

「次の段階?何だそれは?」

 

 

 白いゲンムが尋ねた。それに答えていく黎斗神。

 

 

「無論、その状態よりもレベルアップした姿にだ」

 

「出来るんですか!?」

 

「あぁ。やり方は簡単、君たちはもう一度レバーの開閉を行ってくれ」

 

「それで……良いんですか?」

 

「ほら、早くやる」

 

「は、はい…………」

 

 

 白いレーザーターボと白いゲンムはレバーを閉じる。

 

 

【【ガッチョーン】】

 

 

 するとドライバーから軽快な音楽が流れると、2名はレバーを開いた。

 

 

【ガッチャーン!ダブルアーップ!】

 

【私が君を!自分がお前を!(We are!)何度も何度も倒して!(Hey!)XX(ダブルエーックス)!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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【ガッチャーン!ダブルアーップ!】

 

【私が君を!自分がお前を!(We are!)何度も何度も倒して!(Hey!)XX(ダブルエーックス)!】

 

 

 白いレーザーターボと白いゲンムの体が勝手に引き寄せられると思いきや、今度は勝手に白いレーザーターボは蹴りを白いゲンムは右拳で殴り付けた。

 

 

「のぉ!?」

 

「ヌグッ!?」

 

 

 衝突した途端、そこから中心に体が引き寄せられ人1人分のカプセルに包み込まれる。そしてカプセルが開かれ現れる新たな姿。

 

 ベースはハイパームテキゲーマーであるが、装甲やスキンが白く、ラインが赤に染められている。そして違いはハイパームテキよりもヘアーが短いという点。それでも量の時点でゲージが多くあるのは理解できる。次にタッチパネルが存在しない点。

 

 この新たな姿となった高山は手の甲をマジマジと見つめ姿が変わったことに対する感傷に浸っている。

 

 

「スッゲェ……新しくなってる……」

 

「それこそがドクターマイティゲーマー……レベルXX(ダブルエックス)だぁ!」

 

『レベルXX……成る程、力がみなぎっている』

 

「ゲムデウス……って、これは意識の共有なのか」

 

「では私も……グレード2」

 

 

 ゲンムはゲーマドライバーのレバーを開く。

 

 

【ガッチャーン!レベルアップ!】

 

【マイティジャンプ!マイティキック!マ~イティ~アクショ~ン!X(エックス)!】

 

 

 レベルアップした姿は黒の8頭身という姿。先程の2頭身の顔部分は背中に背負われているという形になっている。ゲンムは虚空に手を置くと、周囲に様々なアイテムが映し出された画面が現れる。

 

 ゲンムはハンマーの様な武器を選択すると、それがゲンムの手に渡った。

 

 

【ガシャコン・ブレイカー!】

 

 

「おぉ……その武器って僕らにも使えるんですか?」

 

「そんな欠陥品を作る暇は無い」

 

「成る程……なら!」

 

 

 同じ様に虚空に手を置くとアイテムの選択画面の様なパネルが出現し、その中の1つを手に取る。しかし“それ”は本来あるべき物ではない。寧ろゲンムが聞きたいぐらいのアイテムであった。

 

 

【ガシャコン・シールド!】

 

 

「ガシャコン・シールドぉ?何だそれは?」

 

「へっ?黎斗さんも知らないんですか?」

 

「私はそんな装備を実装した覚えは断じて無い!」

 

 

 ガシャコン・シールドは角が丸くなったひし形をベースに六角形のバリアの様な絵がマトリョーシカ式に描かれている。裏側は持ち手とその横にABボタン、さらに大きめのガシャットを入れるであろう箇所が持ち手の30㎝上辺りに設置されている。表の色は白をベースにバリア部分はそれぞれ中心に向かう程薄くなるオレンジ。裏は白。

 

 

『話は良いが来てるぞ』

 

「へっ?おおわっ!」

 

「ほっ?ぐぬぅ!」

 

 

 高山は直ぐに離脱し攻撃が当たらなかったが、ゲンムは反応が遅れたため妖精型のバグスターの攻撃を食らう。エネルギー弾が発射された様だ。

 

 そのエネルギー弾によってゲンムのライダーゲージが1.5割ほど減る。高山の方はライダーゲージが装甲によって隠されているが。

 

 

「くっ!ゲージの減りがッ!」

 

『おい宿主。お前楯持ってるんだから防御すれば良かっただろうに』

 

「あっ…………しまった、つい反射で」

 

『今度は楯の性能を見るぞ』

 

 

 高山は右手に楯を持ち、先端を妖精型のバグスターに向けて走る。妖精型のバグスターはエネルギー弾を放ってくるが、高山は持っている楯で弾いたりしているが傷1つ付いていない。

 

 

『防御特化型の武装か。成る程、接近して格闘戦に持ち込むか』

 

「ハアァッ!」

 

 

 高山は妖精型のバグスターにある程度接近した後、楯の先端で殴り付ける。どうやら楯でもHIT表示は出たらしい。

 

 

【HIT!】

 

 

『……お前、そう使うか?普通』

 

「誰も楯で攻撃できないなんて言ってないよッ!」

 

『成る程かなりの脳筋だな』

 

 

 すると、今度は妖精型のバグスターが空中に飛び地上に居るバグスターが代わりに高山に向かう。それに対応するかの様に高山はバグスターを排除していく。

 

 ゲンムも合流しバグスターを排除していくが、数が鬱陶しい様子である。

 

 

「あぁ!もう邪魔!」

 

「「「「□□□□□───!」」」」【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】

 

「こうなれば……賭けと行くか。高山ァ!その楯のAボタンを押してみろ!別形態になれる筈だぁ!」

 

「は、はい!」

 

 

 高山は指示通りに持ち手横のAボタンを押す。すると楯状態の持ち手が消え、楯の一部から長い持ち手の様な箇所が出現し身の丈ほどある両手斧の様な形となる。

 

 

【ド・ガーン!】

 

 

「うぉう!?楯が両手斧に!?」

 

『装備して凪ぎ払え。それなら出来る筈だ』

 

「お、オッケー……」

 

 

 試しに両手斧の持ち手部分を両手で握り持ち上げる。意外に重さはあるが負荷にならない程の重さであり、試しに両手斧を前方にスイングしてみる。

 

 

「ホッ!」

 

『『□□□□□□□□□────────!』』【【【【【【HIT!】】】】】】

 

「おぉ!これならッ!」

 

 

 今度はスイング終わりに後ろに方向転換し、勢いを付けて両手斧を振り下ろす。それは1体のバグスターに当たるが直ぐに消滅した。

 

 

「オラァ!」

 

「□□□□───!」【GREAT!】

 

「中々の攻撃力じゃあないか……気に入らないがな!」

 

「えぇ……」

 

「この私が作ったライダーシステムにぃ!そんな不正な武器があるなんぞ言語道断!今すぐにでも削除したいが、それは後回しだぁ!」

 

『テンション高いなオイ』

 

 

 そんな話があろうとも、バグスターを一気に蹴散らし消滅させていく高山とゲンム。時間が経つと妖精型以外は全て蹴散らした。残りは空に漂っている妖精型のバグスターのみ。

 

 しかし空中に居るとはいえ、ジャンプ力の関係で両手斧を振り下ろすと妖精型のバグスターは一気に地面に衝突し満身創痍になっている。ゲンムは着地した高山の隣に立つ。

 

 

「かなりの威力だな、そのガシャコンウェポン」

 

「そこまで重くないのでコストは良いですけど」

 

『おい、さっさとトドメをさせ』

 

「オッケー!……あ、黎斗さん。何か1つ何か入れる様な場所があるんですけど、これは?」

 

「そこはガシャットを入れる場所だ。同じ様に必殺技が撃てるぞ」

 

「成る程……それじゃあ!」

 

 

 高山はゲーマドライバーに差し込まれているガシャットを抜き取り、両手斧にあるガシャット入れに差し込む。

 

 

【ガッシューン】

 

【ダブルガッシャット!キメワザ】

 

 

 両手斧の刃部分に青い粒子とエネルギーが纏われ、その両手斧の持ち手部分を肩に乗せて左足を前に、右足を後ろに下げて構える。

 

 

「では私も……」

 

 

 ゲンムもゲーマドライバーからガシャットを引き抜き、ガシャコン・ブレイカーにガシャットを差し込む。

 

 

【ガッシューン】

 

【ガッシャット!キメワザ!】

 

 

 黎斗の持つガシャコン・ブレイカーから黒いエネルギーが纏われる。

 

 

【DoCTER MIGHTY CRITICAL FINISH!】

 

【MIGHTY CRITICAL FINISH!】

 

 

 高山はバグスターに接近すると両手斧を高速でぶん回しながら回転しバグスターの周囲を攻撃しながら移動していく。

 

 

【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】

 

 

 そして高山がバグスターの周囲を一周すると、上からゲンムの攻撃が待ち構えていた。それに対応できなかったバグスターは諸に食らう。

 

 

【GREAT!】

 

 

 最後にゲンムがしゃがむと、その上をスレスレで通りすぎる両手斧の一撃がバグスターに入る。

 

 

「ハアアアアアアアアァッ!」

 

 

【PERFECT!】

 

 

 妖精型のバグスターは爆発に呑み込まれ、終了を告げるかの様に何時もの音声と映像が出現する。

 

 

【GAME CLEAR!】

 

 

 爆発音が聞こえなくなると、ゲンムと高山はウェポンからガシャットを引き抜きゲーマドライバーのレバーを閉め元に戻る。

 

 

【【ガッシューン】】

 

 

「あ、しまった患者……」

 

「…………あぁ。何処やったっけ?」

 

『お前らなぁ…………』

 

 

 何やかんやで辺りを見渡すと倒れている人物を発見する。高山と黎斗はその人物の所まで駆け寄り、容態を見ようとしたが高山が何か気付いた表情を浮かべる。

 

 

「あ、この人……」

 

「知ってるのか?」

 

「えぇ。確か茅場先輩と同じ学科に専攻していた方と思われます」

 

「名前の方は?」

 

「えっと……それが……「須郷だ」茅場先輩!」

 

 

 ふと声がしたので後ろを振り向くと、茅場昌彦が居た。

 

 

「須郷伸之。彼は私の後輩、つまり高山君と同期さ」

 

「情報提供感謝するよ、さて私は「黎斗!?」ッ!」

 

 

 今度は駆け付けた看護師が黎斗の名を呼ぶ。高山は貴利矢が言っていた知り合いの看護師だと推測した。

 

 

「何で黎斗が外に出てんのよ!?」

 

「あーすいません、バグスター退治に僕が……」

 

 

 おどおどした様子で小さく手を挙げた高山を見て、看護師の方は納得した様子で頷いていた。

 

 

「あ、それだったらパッドの方は?」

 

「でしたら、これですよね」

 

「そうそう、これこれ」

 

 

 高山はパッドを渡すと看護師が黎斗にパッドを向ける。すると黎斗はその中に吸い込まれていった。

 

 

「アアアアアアアァァァァァ!」

 

「完了っと。あ、高山さんお疲れ様でした」

 

「あ、はい」

 

「あぁ。それと私は『仮野 明日那』、CRで見たことあるよね?」

 

「えぇ、勿論です」

 

「それじゃあ、高山君も患者運びを手伝って」

 

「了解しました」

 

 

 高山は意識が無い須郷を丁寧に抱え運んでいこうとすると、茅場に止められた。

 

 

「高山君」

 

「あ、はい。何でしょうか?」

 

「……君は、君の名は何だ?」

 

「え?」

 

「君の『仮面ライダー』としての名さ、聞かせてくれ」

 

 

 少しだけ唸って考えると1つだけピンと来たのか、それを答えた。

 

 

「僕は……『仮面ライダー ゲムデウス』です!」

 

「そうか。ありがとう、仮面ライダー」

 

 

 1度礼をして明日那の後を着いていく高山。遠く離れたので小さく見えているが、茅場には何処か成長した大きな姿が見えた様な気がした。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから時間が経ち夜の時間。須郷の方はメンタルケアのこともあり通院は必須というのが分かった。そしてCRに着いて暫くすると茅場が高山の電話に掛けてきた。内容は黎斗の才能の一部を欲しいと望む声だった。

 

 これだけでは黎斗も教えるのを拒否するかと思いきや、“神の才能が必要”と伝えると喜んで伝えた。ただし最高のゲームにしようという約束で。その時黎斗は「神の才能を受けとれぇ!」と発言しており電話越しの声が引いていたのが理解できたそうだ。

 

 そして現在、CRのアーケードタイプの画面内で1人思案する黎斗が居た。内容は、高山の使用したウェポンについてである。

 

 

「(もしあれがドクターマイティのウェポンだとすると……いや無いな。そもそもウェポンを付けるのは無しにしていた筈だ。となると……何かのバグか?)」

 

 

 しかし時間は午後11時。仕方ないので考えは一旦置いといて寝ることにした黎斗であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして高山の方では……

 

 

「明お帰りー!」

 

 

 何故か支給された家の中に藍原が居たことで頭痛を起こす羽目となってしまったそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




茅場 昌彦(かやば あきひこ)』♂
・Age 22 ・身長 184㎝ ・体重 78㎏

東都総合大学4年生物理学科所属。僅か18歳にしてゲームプログラムを開発し、それの印税等で年収億越えの異才。しかしそれよりも前に天才ゲームクリエイター檀黎斗の年齢を越えられなかったことから檀黎斗には若干嫉妬と憧れが混じっている。既にゲームの案は製作済みだが、最近こんなゲームでで良いのか悩んでいる。異世界に狂的なまでの渇望を示しており、その理想をゲームに当てはめている状況でもある。神代凛子とは交際している。


神代 凛子(こうじろ りんこ)』♀
・Age 21 ・身長 172㎝ ・体重 73㎏

東都総合大学3年生。VR技術を専門的に勉強しているが時に別の講義にまで現れる変人。良くも悪くも自由人であるが、時には真面目に何かを推察している姿も度々目撃されている。話によると医療系のVR技術を使った機械の製作案を練っているとか。茅場昌彦とは交際している。







【東都総合大学】

 工業をメインに医学、経済、文学、理学などを揃えた総合大学。高山、茅場、神代、藍原の4名はこの大学に通っている。設置されているカフェテラスからは昼に何時もイチャイチャするカップルが居るのだとか。







【仮面ライダーゲムデウス】

高山が茅場にライダー名を聞かれ、咄嗟に思い付いた名前。ラスボス名がライダー名とはこれ如何に?


【ドクターマイティゲーマーXR】

ドクターマイティXXのガシャットを使いレベルアップした1つの姿。装甲色が白くなったゲンムの姿をしている。変身者は『ゲムデウス』。

・身長 203.5㎝ ・体重 97.5㎏
・パンチ力 23.0t ・ジャンプ力 52.8m
・キック力 28.0t ・走力(100m) 2.2秒




【ドクターマイティゲーマーXL】

ドクターマイティXXのガシャットを使いレベルアップした1つの姿。装甲色が白くなったレーザーターボの姿をしている。変身者は『高山明』。

・身長 203.5㎝ ・体重 97.5㎏
・パンチ力 22.0t ・ジャンプ力 52.8m
・キック力 29.0t ・走力(100m) 2.2秒

【共通能力】
・エナジーアイテムの生成
・アンチバグスターエリアの展開
・四肢接触によるレベルダウン

※次回でレベルXXについて解説


【ガシャコン・シールド】

ドクターマイティゲーマーレベルXX時に使用したウェポン。楯の表にはオレンジ色で六角形のバリアの様な形をした絵柄があり、裏には持ち手とその横にABボタンが1つずつある。

Aボタンにより【ガシャコン・アックス】に変形可能。Bボタンで範囲防御。回数によって防御できる範囲は増え、10回押すと使用者の中心から半径5mの全方位防御となる。


【ガシャコン・アックス】

ドクターマイティゲーマーレベルXX時に使用したウェポン。楯の下側から伸びてきた棒の方を持ち両手で扱う両手斧。しかし重さはそんなに感じられない。

Aボタンで【ガシャコン・シールド】に変形可能。Bボタンで連撃回数が決まる。



【アルフバグスター】

 妖精の様な姿をしたバグスター。配下に低級のバグスターを連れており飛行能力を持ち合わせている。第一段階として地上で攻撃、第二段階で配下のバグスターに任せて空から見物。ただし時間経過でバグスターを増やす。

 第三段階は空中での機動戦であったが高山の一撃で地上に落とされ未使用。








次回!Dr.ゲムデウスは!

謝罪する高山明!

「こんな我が儘で申し訳ありません!」


久しぶりのデート!しかもペア!

「いや……マジっすか」


たまには休んで羽休め!

『人間とは分からんものだな』


     『第4話 大学生のdaily!』


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第4話 大学生のdaily!

 大学でのバグスター事件から10日程経ったある日のこと。その日までは発症していた須郷のメンタルケアに高山も微力ながら手伝おうとしていたが、学生にやらせる訳にもいかないので何時もの大学生活を送る様に言われた。

 

 また事件の翌日に日向審議官に支給された家に藍原が居たことを告げると頭を抱えてはいたが、藍原自身は大学内でもスキンシップで接触しているにも関わらず再度発症する様子すら見られない。そこは時間を掛けて様子を見ていくことになった。

 

 そしてこの日。再度CRで日向審議官に話をする。

 

 

『……その様子では、発症した様子は無さそうだな』

 

「はい……というより、発症前よりスキンシップが多くなった事に最近気付きました」

 

『恐らく、ストレスを感じていないことが要因だろうな。スキンシップによるストレス発散という訳だ』

 

「黎斗さん冷静に話さないで下さい」

 

 

 黎斗の考察が入ることで妙に納得せざるを得ない空気になっていたが、日向審議官が咳払いをして話を続けた。

 

 

『……逆に離れさせることがストレスになるならば、仕方が無いか。ゲーム病を再発症させない為に同棲を許可しましょう』

 

「……こんな我が儘ですいません」

 

『それは君自身のことかな?それとも彼女のことかな?』

 

 

 兎も角、藍原も同棲することが決まった。敢えて言うなれば藍原の再発症を免れさせる為の処置である。

 

 一通り話を終えた高山は聖都大学付属病院を出て駐輪場に停めてある大型バイクに乗り込もうとした途端、スマホのバイブレーション機能で着信が着たことを知る。

 

 スマホを取り出し電話に出る。

 

 

「はい高山です」

 

『あぁ高山君、私だ茅場だ』

 

「茅場先輩?珍しいですね、こんな時間に」

 

『それはどういう意味かな?』

 

「だってこの時間帯なら、何時も大学内の研究所に入り浸ってるじゃないですか。電話を掛けてくる事が珍しいですよ」

 

 

 電話の相手は茅場であった。本来ならば茅場は何時も研究所内でVRの新たな境地を開拓すべく日々研究三昧なのだ。その時は誰かに電話を掛けるどころか食事すら忘れるほどに熱中するのだ。最近は昼食は採っているが。

 

 そんな茅場が電話をしてきた内容とは…………

 

 

『まぁそうだな。話は変わるが少し頼みたいことがあるんだ』

 

「……これまた……何でしょうか?僕で良ければ構いませんが」

 

『あぁ、それじゃあ…………デートに行かないか?』

 

「……………はい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 大型デパート【EON(エオン)】、幾つもの商業施設が存在する場である。服、家具、食材etc……兎も角人々が多く訪れ賑わいを馳せている。

 

 そこに何故か茅場昌彦、高山明の男2人が居た。

 

 そして勿論、神代と藍原も居る。

 

 

「……茅場先輩、もう少し言葉追加してくださいよ。勘違いしますから」

 

「何がだい?デートには違いないだろう?」

 

「デートはデートでも、これは『ダブルデート』っていうんですよ」

 

「安直な名前だな」

 

「文句なら考えた人に言ってくださいよ」

 

「おいこらお前ら」

 

 

 茅場との話の中に神代が割り込む。神代の服装は白の半袖(袖にフリル付き)にジーンズ、肩掛けポーチを装備。

 

 対し茅場の方は何故か白衣、何時もの大学で見かける服装で出掛けていた。

 

 

「彼女放っぽって何喋ってたんだよ。というか茅場、お前その服装で来たのかよ」

 

「帰ってまた研究だ。それならば服装を変えるのは面倒だと思うのだが」

 

「かーッ!分かってねぇなオイ!」

 

「まぁまぁ」

 

 

 何時もの痴話喧嘩を行う神代と茅場、神代を宥める高山。そして何時もの如く足音を立てずに高山の背中に腕を回して抱き付く藍原。

 

 

「って先輩、毎度の如く」

 

「ダメなの?」

 

「…………いえ、大丈夫です」 

 

 

 ストレスを与えないという名目上で気を付けようとしていたが杞憂だったらしい。何時もとは違う甘え方によって困惑と共に保護欲が掻き立てられた高山。証拠に無意識に頭を撫でている。

 

 

「むふぅ~……明の撫で撫で……」

 

「(気持ち良さそうだなぁ……)」

 

「だぁもう!高山!優美!行くわよ!」

 

「ちょ、神代君。引っ張らなくても良いだろう」

 

「ちょ神代さん!先輩、手を繋いでも良いので一旦離れて下さい」

 

「は………………離れ……りゅ?」

 

「……分かりました、このままでも良いですけど神代さんと茅場先輩を見失わない様に行きましょう」

 

「……あい」

 

 

 普段見かけることの無い彼女の口調や仕草にたじろぎ仕方なく藍原の我が儘に付き合う事にした。

 

 

「(駄目だ、ギャップが凄い……理性持つよね?)」

 

 

 同時に葛藤を覚える高山であった。

 

 因みに高山の服装は薄生地の白の長袖、青のジーパンに何時もの肩掛けバッグ。藍原は白のワンピースを腰辺りのベルトで止め手提げポーチを所持している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「これ……これ……あーこれも良いや」

 

「なあ高山君」

 

「何でしょうか?」

 

「私はどうなっているか、状況を客観的に説明してもらいたい」

 

「着せ替え人形になってますね」

 

 

 只今現在、茅場昌彦は初の着せ替え人形化となっている。神代に連れられ半ば無理矢理に服をチョイス、服合わせされている。

 

 一方の高山は未だ後ろに藍原を連れている状態である。

 

 

『……何をしてる?』

 

「あぁ、服を合わせてオシャレしてる」

 

『オシャレ……?』

 

「簡単に言えば「明、何で独り言なの?」……あぁ、そうか」

 

 

 高山はゲムデウスと話していたが、それは周りから見れば単なる独り言としてしか捉えられない。

 

 

「……信じますか?僕の話」

 

「むぅ~、勿体ぶるな~」

 

 

 体を揺さぶられる高山。完全に玩具の様な扱いをされているが、そこは気にしていない。

 

 

『……一応脳にも私の一部は紛れ込んでる。それを応用して考えを読み取る方法があるのだが』

 

「(先に言ってよ)」

 

『タイミングの問題だ』

 

「(仕方ないかぁ……)先輩、後で好物のグラタン作りますから」

 

「う…………みゅぅ……」

 

 

 好物であるグラタンを作るというだけで高山の揺れは(おさ)まり、また腹部と背中に体温が感じられる。それは兎も角として高山はゲムデウスとの会話を続ける。

 

 

 

「(んでオシャレっていうのは……要は他人に好印象を与える為に人為的に魅力とかを操作する行為だよ)」

 

『……アイツの表情に関しては?』

 

「(茅場先輩は……まぁ服装とか気にしないし。そもそも茅場先輩、効率重視で同じ様な服3枚ずつしかないんだよ)」

 

『勝手に色々されているが?』

 

「(そりゃ神代さんは茅場先輩の服装を気に入らないからしてるんだよ)」

 

『……人間とは分からんものだな』

 

 

 最終的には神代によって選ばれた服を買って、次はフードコートへと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、成る程。ファストフードも悪くないな」

 

「まぁ簡単に食べられますからね」

 

 

 フードコートでは茅場はハンバーガー、フライドポテト、爽◯美茶を頼んで食していた。一方の高山はサイコロステーキを選択していた。あとの女子勢は人気のジェラートを買うために態々並んでいる。

 

 

「おっとそうだ」

 

「?」

 

 

 徐に高山はバッグからドクターマイティXXガシャットを取り出し、それを体に打ち込む。高山の体は微弱ながら青い光が出たが、ある程度してガシャットを外すと直ぐに消えた。そしてガシャットをバッグに戻して食事再開。

 

 

「高山君、あれは確か……」

 

「あれですか?……まぁちょっと厄介な適合ってだけですから大丈夫ですよ。あぁ、勿論さっきのは僕の変身する際に必要なアイテムですけどね」

 

「……そうか」

 

 

 改めてサイコロステーキを頬張る高山。美味しそうに食べている姿や表情というのは何処か安心させられる魅力があるのだろうか?

 

 そんな表情を見ていた茅場は少しだけ微笑みながら口を開いた。

 

 

「高山君」

 

「モグモグモグ……ゴックンふへー。あ、はいどうされましたか?」

 

「いや何、お礼を言いたいだけさ」

 

「それまた何故ですか?」

 

「あまり経験しなかった事をしたからなぁ」

 

 

 茅場は少し昔を思い出すかの様に上を見上げて言葉を綴った。

 

 

「私の過去の中で、こうして誰かと外で食事し、こうして誰かと話をし、こうして誰かと仲良くなる。前までの私には経験し得なかったことだからな」

 

「ふーむ……そうですか。でも楽しそうで良かったです」

 

「まぁデートに行こうと言ったのは神代の方なんだがな」

 

「あ、そうだったんですか」

 

「お待たせー!」

 

 

 話をしていると漸く神代と藍原の2人が帰ってきたが、席に座るなり藍原はスプーンでジェラートの一部を掬い取ると高山の方にそれを向けた。

 

 

「あーん」

 

「……へっ?いや、あの先輩?まだステーキが残って「イヤなの?」是非食べさせて頂きます」

 

 

 やはりどうしても藍原には敵わない。色々と。

 

 

「あーん」

 

「あ、あーん…………あ、グレープだ」

 

「美味しい?」

 

「えぇ勿論、美味しかったですよ」

 

「やった!」

 

 

 藍原は先輩だが、彼氏である高山には滅法甘くなる。時折見せる子どもっぽい純粋な言動に一喜一憂させられるので高山の心拍数は常に多め。

 

 

「おい茅場」

 

「何かね?」

 

「…………ほら」

 

 

 今度は神代も伝家の宝刀(あーん)を行った。しかし……

 

 

「……それを食えということか?」

 

「お前なぁ……アタシが食わせてやるんだから、もう少し喜べよ!」

 

「喜べと言われても…………」

 

「えぇい!一々面倒くさい!ほらよッ!」

 

「むぐッ」

 

 

 神代の方は茅場の口に強制的にジェラートを掬い取ったスプーンを口の中に入れる。変な声が出たが、そこは気にしない。

 

 

「あーきーらー、私にもちょーだい」

 

 

 今度は藍原がジェラートとスプーンを高山に渡すと、それを受け取った高山は苦笑しつつ一部を掬い取って藍原の口に運んでいく。藍原も藍原で口を開けて待っている。

 

 

「あーん」

 

「あー……んッ!ん~!おいひ~!」

 

「それは良かったです」

 

 

 嬉しそうな反応をする藍原に対し、神代の方は茅場に渡しても何も無かった。それどころか

 

 

「なぜ態々他人に食べさせてもらおうとするんだい?赤子じゃあるまいし」

 

「茅場先輩……マジっすか」

 

 

 高山が反応したが、直後にこの一言に反応した神代は何かがキレ、茅場に対し暴行(笑)(スキンシップ)をする羽目になった。

 

 かなり喧騒としていたが、充実した1日であったと感じていた高山と茅場であった。

 

 

 

 

 

 




【ドクターマイティゲーマー レベルXX】

・身長 206.0㎝ ・体重 99.0㎏
・パンチ力 51.0t ・走力 1.4秒
・キック力 81.2t ・ジャンプ力 61.5m

固有能力
・アンチバグスターエリア展開
・四肢による接触または攻撃でのレベル低下


使用武器『ガシャコン・シールド』
  ←→『ガシャコン・アックス』
  

 高山明がドクターマイティXXガシャットによってダブルアップした姿。ダブルアップ時にはXRとXLが御互い攻撃して融合する為、ライダーゲージを消費する。

 性能は謂わずもがなXXが上。戦闘スタイルはXR・XL時は格闘戦、XX時には武器による戦闘が基本となっている。

 ハイパームテキゲーマーと似た姿なのは、“最強のワクチン”ということから同じ“最強”繋がりのハイパームテキゲーマーの姿を参考にしたと思われる。(作者予想)







次回!Dr.ゲムデウスは!

ドクターライダーの講義として登場するのは!

「高山さん、お久しぶりですね」


高山がゲーム対戦で盛り上がる!

「負けてたまるかああぁぁぁ!」


そして勿論、こっちのゲームも!

「俺を楽しませてくれよ!」


『第5話 ラスボスと共闘するのはPARA-DXか!?』


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第5話 ラスボスと共闘するのはPARA-DXか!?

余談。ハロウィーンに漸く『タドルレガシー』と『ハリケーンニンジャ』と『プロトシャカリキ』のガシャットをゲットしました。

 それより前はネオアマゾンズドライバーが通販で来ました。やっぱりアマゾンズは良い(´ω`)最高です。


 それでは本編どうぞ。


 茅場・神代ペアと高山・藍原ペアのダブルデートから1週間が経過していた。相変わらず茅場の方は研究熱心で昼食以外に研究所から出ることは稀である。

 

 その稀な時は神代と共に色んな場所へと赴いている様だ。本当に稀であるが、それでも茅場と神代は距離が近付いてきていると感じられる。

 

 高山の方は何時もの様に藍原にハグされて窒息しかけながらも起床する等、大体は同じである。しかし今日は少しだけ違う所がある。

 

 

『……やけに嬉しそうだな』

 

「ん?あぁ、まぁ今日の講義が特別だからさ」

 

 

 大学講義室で1人(正確には2名)呟く高山。そう、今回の講義が楽しみという点である。何故ならば……

 

 

「皆さん初めまして、特別講習として来ました。宝生永夢です」

 

 

 宝生永夢の講義であるからだ。

 

 

『宝生永夢……同じバグスターを体内に宿している存在か』

 

「(あ、そうなの)」

 

『まぁお前らしい反応だな』

 

 

 今回の講義内容というものが、認知されている【ドクターライダー】の簡単な説明も含めた物やゲーム病についてであった。特に高山としては自らも一応ライダーの立場であるため、別視点の見方というのは新鮮な気分である。

 

 

「(実践経験でユニオンとかバグスターとか戦ってきたけど……宝生さんたちの方が経験豊富だから面白いな)」

 

『ふむ……今写し出されているバグスターに既視感を感じるな。何なのか……?』

 

「(う~ん……多分あれ【仮面ライダークロニクル】のキャラだと思う)」

 

『仮面ライダー……クロニクル……?』

 

「(前に近場を通り過ぎたことがあるんだけど、確かあんな感じのバグスターが居た気がしてね)」

 

『……ふむ、クロニクルについては後で聞くか』

 

 

 それから90分間、宝生永夢の講義が続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 90分の講義が終わり、生徒が講義室から出ていく。高山の方は永夢に近付き話をしていく。

 

 

「宝生さん」

 

「あ、高山さん」

 

 

 御互い挨拶を交わす。世話になった者として、高山自身が厄介な立場に居るにも関わらず変わらずに接する永夢に対するお礼としても。

 

 

「この大学だったんですね」

 

「えぇ。宝生さんの講義、とても良かったですよ」

 

「ハハ。喜んで頂いて何よりです」

 

「……あの、宝生さん。このあと時間ってありますか?」

 

「このあと……それなら大丈夫ですよ」

 

「そ、そうですか!でしたら食事でも如何ですか?行きつけのテラスカフェがあるんですよ」

 

「へぇ、楽しみです。因みに何がオススメですか?」

 

「主観になるんですが、シフォンケーキとかですね」

 

「なるほど!飛彩さんが好きそうだなぁ……」

 

「それじゃあ行きましょうか!」

 

 

 談笑しながら行きつけのカフェテラスに赴く。その後藍原や茅場、神代という何時ものメンバーと合流し少し賑わいながらもカフェテラスで食事をしていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『賑やかだな』

 

「(そだね)」

 

 

 昼食時、カフェテラスでは異様とも言える光景が映っている。最近漸く常識を覚えつつある茅場昌彦と、変人……というより茅場に対しツンデレしか出してない神代凛子。

 

 世界を救ったドクターライダー宝生永夢。最強にして最悪のバグスター(俗化)保持者の高山明。既に高山明に依存してる藍原優美。

 

 そんな者たちが大学内のカフェテラスでゆったりと過ごしているというのは可笑しいだろうか?

 

 

「檀黎斗に続き天才ゲーマーM……高山君、君かなり人脈が凄くないか?」

 

「…………茅場先輩」

 

「ん?」

 

「永夢さんってゲーマーだったんですか?」

 

「先ずそこからか……」

 

「いや高山ァ!」

 

「柱◯ァ?」

 

「◯ARUTOじゃねぇんだよ。ってかそれより!天才ゲーマーMを知らねぇのかよ!若干14歳で幻夢コーポレーション主催の大会で優勝した経歴がある奴なんだぞ!」

 

「ほへー…………凄いですね」

 

 

 茅場と神代がバランスを崩しかけ、当の宝生永夢は苦笑いしか浮かべていない。高山は何時もの様に白飯を頬張る。

 

 

「まさか……ここまでとは……」

 

「逆に知らなさすぎるというのも中々経験しないなぁ……ハハッ」

 

「疎すぎんだろ……高山」

 

「というより医者としての宝生さんしか知らないですし」

 

『ならば知るか?』

 

「うぇ?……んぐッ!」

 

 

 突如高山の体がドクンッと反れた後、ゆっくりと視線を下ろし永夢を見つめる。

 

 

「た、高山さん?大丈夫ですか?」

 

「……案ずるな、宿主と交代しただけだ」

 

「ッ!?まさか……お前……」

 

「悪いが危害を加えるつもりなんぞ毛頭ない、安心しろ。それと頼みがある」

 

「……何の用だ?」

 

 

 高山の人格からゲムデウスの人格に変わった途端、警戒心を強める永夢。高山の口調が変わったのか、永夢の異様な警戒心に驚いたのか。はたまたその両方なのか、その場に居る3人は驚いた表情をしている。

 

 

「大した用ではない。お前の内に存在するバグスターとゲームをしたいだけだ」

 

「ッ!……パラドのことを知ってるのか?」

 

「ふむパラドというのか……そうかそうか。存在は認知していたが名前は知らなかった。恩に着る」

 

「…………………うーん」

 

 

 急に永夢は警戒心を解いたと思いきや、溜め息をしつつ頭を掻き始めた。

 

 

「何か……調子狂うなぁ……」

 

「ふむ、すまんな」

 

「……ふぅ。それで、パラドとゲームがしたいって?」

 

「うむ。恐らく“天才げーまー”というのは、バグスターの方かと推測したまでだがな」

 

「成る程ね……パラド、お願い」

 

 

 今度は永夢の目が一瞬赤く染まり、前髪が上がったかと思いきや同じように人格が変わった。

 

 

「ふむ……お前が」

 

「パラドだ。今は永夢の体を使ってるけどよ」

 

「何、宿主を介してのみ意思疎通は出来んからな。気にするな」

 

「……一応永夢と分離はできるが?」

 

「ほぉ、そうか。珍しい事もあるのだな」

 

 

 これがラスボスか?と言われれば、100人中100人全員ラスボスじゃないと答えても可笑しくないだろう。

 

 

「……何か調子が狂う」

 

「宝生永夢にも言われたんだが。っと、それよりゲームだゲーム。ハテサテパズルでもやるか?」

 

「何でそんなピンポイントで来るんだよ?」

 

「細かい事は良しとしようじゃないか、ルールは簡単。5分タイムアタック1回のみ、スコアで勝負を決める」

 

「いや勝手に「それじゃあ始めるとするか」っておまっ!」

 

 

 ゲムデウスは高山のスマホを起動させアプリを選択する。序でにタイマーを設定し準備完了。あとは早かった。

 

 タイマーのスタートボタンを押した瞬間にゲーム画面へと行きスタートさせる。素早い指使いでブロックを移動させ同色3つを次々に揃えていく。しかも、何処をどう移動させ次の色が出てくると同時に別箇所も揃える。

 

 かなりの素早さに茅場と神代も席を立ち後ろに回って画面を見ていた。本当に揃えているのか怪しい位の素早さだが実際スコアがどんどん加算されていっている。

 

 パラドの方もゆっくりと移動しながらだがゲムデウスの後ろに回って画面を見るが、自分と同格かそれ以上かのスコアとなっているので驚いた表情をしている。

 

 これがラスボス(笑)である。最近高山の行動パターンの1つであるストレッチに興味を示している。

 

 そして5分後…………

 

 

「ふむ、こんなものか」

 

 

 スコア結果13240。それを“こんなもの”と豪語する辺り、これが当たり前だと思っているのか。はたまたよく分かってないのか。

 

 

「ではパラド、そちらもやってくれるか?」

 

「…………あぁ良いぜ。実力を見せてやるよ」

 

 

 そうしてパラドもゲームをし始める。ゲムデウスに負けじと素早く同色3つを揃えてスコアを叩き出す。ゲムデウスの方も画面を覗き込んでいたが、早さと正確さが異常ともとれた。

 

 そうしてまた5分が経過しスコアが出る。

 

 スコア結果24382。ゲムデウスよりも格上の腕前であった。それを見ていたゲムデウスは素直に感心していた。

 

 

「素晴らしいな、ここまでとは」

 

「フフン。見たか、俺の実力を」

 

「あぁ、しかとこの目で見させてもらった。“天才げーまー”とやらは実力が凄いな」

 

『ゲムデウス、もう良いか?』

 

『パラド、そろそろ交代』

 

「ふむ。了解した」

 

「もうちょっと遊びたかったけどなぁ……」

 

 

 ゲムデウスはもう一度体を反らし、パラドは目を閉じると元の人格となっていた。

 

 

「すいません宝生さん、ゲムデウスが我が儘を言ってしまって……しかもゲームまで」

 

「気にしないでくださいよ高山さん。意外にゲムデウスとも上手く生活している様子も見受けられましたし、何よりパラドが本気になれる相手が見つかって良かったです」

 

「そうですか…………っと、宝生さん時間の方は?」

 

「えっ?……あっ、しまった!」

 

「ちょ!宝生さん!」

 

 

 高山が時間を確認すると永夢は急ぐ様子で外へと出ていったが……

 

 

「うわっ!」

 

「宝生さん!?」

 

 

 盛大にずっこけたのだ。何もない場所で盛大に。医者であるが、こんな感じで良いのかと思いつつ倒れた永夢を立ち上がらせる為に手伝う高山。

 

 

「イッテてて……」

 

「大丈夫ですか!?」

 

「た、高山さん。いえ……何時もの事ですから。タブン」

 

「宝生さん最後なんて言いました?というより何時もの事って……」

 

「そうなんですよ……研修時代も怪我ばっかりで。お陰で子どもにもバカにされてたし」

 

「宝生さんェ……」

 

 

 というより、研修時代“も”なので恐らく今でもある時は在るのだろうと簡単に推測できるという事実。

 

 そして忙しなく宝生永夢は大学を出ていく。余談ではあるが、今度は大学の入り口近くでまた盛大に転けたらしい。大学内の女子生徒に心配されたが。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 それから暫くして、今日この日の夜の頃。支給された家のリビングで高山と藍原は2人TVを見ていた。身長差の関係で高山の胡座の位置に藍原が座り込んだが、少しキツいので足を崩して空間を作りその中に藍原を座らせる。

 

 藍原のお腹に抱え込む様に抱きしめ御互いの温もりを感じながら平和な一時を過ごしていた。

 

 そんな時、リビングにある固定電話が鳴る。藍原がそれに出ると高山に電話を変わってほしいとの連絡が。

 

 電話を変わると返事をする高山。

 

 

「お電話変わりました、高山です」

 

『あぁ高山君。私だ、日向だ』

 

「日向審議官!?……あ、あの何故この時間帯に?」

 

『簡潔に言えば、君に緊急要請を届けに来た。今からCRに向かってくれないか?』

 

「……分かりました」

 

『すまない、感謝するよ』

 

 

 高山は受話器を置くと藍原に内容を告げて、向かう為の準備に取りかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────Loading……──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

支度をしガレージ内にある大型バイクに乗り込みヘルメットを被る。バイクの横には藍原も居り、高山を見送る様である。

 

 ヘルメットのバイザーを上げ藍原を見る高山。心配そうな表情を浮かべている藍原微笑みながら話しかける。

 

 

「大丈夫、ちゃんと帰ってきますから」

 

「……ぅん、いってらっしゃい」

 

「いってきます」

 

 

 バイザーを下げ、アクセルをふかし公道へと向かった高山。向かう先はCR。

 

 

『何故この時間帯なのだろうか?』

 

「(そりゃお前、患者を救うのに1秒でも遅れたら不味いだろ)」

 

『他の者はどうしたんだ?』

 

「(それだと……用があって手が付けられない。かな?だから基本空いてる時間の多い俺を選んだんだろうし)」

 

『バイトもするのにか?』

 

「(そこら辺は色々手回ししてくれてるよ)」

 

『用意周到な事で』

 

 

 夜の町を駆け抜ける高山。その後ろでは通った道筋がライトの光によって僅かに示されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 5分ほどかかったが聖都大学付属病院に到着する。駐輪場へと置き、足早にCRまで駆ける。地下へのエレベーターに乗り込み、着いて扉が開いたと同時に早歩きで来ると宝生永夢と見慣れない青年が1人。

 

 

「宝生さん!?」

 

『パラドか?』

 

「うぇ!?」

 

「高山さん、お待ちしてました。あと此方の青年が「いや……えぇ?ちょまっ……えぇ?待ってパラドなの?あれパラドなの?」説明要らなかったね、パラド」

 

「ゲムデウスが言ったのか。だったら話が早い」

 

 

 パラドと呼ばれた青年が高山に近付き、右手を差し出す。則ち握手の意を持つ行動である。

 

 

「改めて、パラドだ。宜しくな」

 

「た、高山明です。どうも……」

 

「緊張してんなぁ、ゲムデウスとはまるで違う」

 

『違ってて何が悪い』

 

「(ゲムデウス良いから!)」

 

『ウェッホンッ!あー……全員、揃った様だな』

 

 

 声のする方向にはTVの画面に映っている人物からの声であった。

 

 

「日向審議官……」

 

『さて、高山君。君を呼んだのは他でもない、バグスターの討伐だ。明日那君』

 

「はい」

 

 

 明日那からタブレットを手渡される。電源を付け内容を見てみるとバグスターの大まかな様子などが書かれていた。勿論、写真付きで。

 

 

「……数が多いな」

 

『同じヤツだが、こうも居ると気持ち悪いな』

 

「…………ん?ゲムデウス、これって」

 

 

 タブレットをスクロールしていると、恐らく戦闘画像なのか見慣れないライダーがバグスターの1体を倒していた。だが、次の写真からはそのバグスターが復活していたのだ。

 

 

『ふむ……再生能力付きか?』

 

「にしては損傷具合が酷いぞ?……じゃあ何だ?」

 

『その事について、宝生先生。あなたの推察が頼りです』

 

「分かりました」

 

 

 日向審議官は宝生永夢にこのバグスターについて説明を求めた。高山にも知ってもらうという理由でもある。

 

 

「これは僕の推論なんですけど、恐らく“主要4体を同時に倒さないとクリアできない”バグスターだと思うんです」

 

「同時に…………?しかも主要を」

 

「まぁゲームに例えるなら“一気に本物の仕掛けを発動させる”っていうのが分かりやすいかもな」

 

『成る程……つまりは』

 

「相手を主要4体を同時に倒さなきゃいけないのなら、此方も4名揃える。だからですね」

 

「はい。高山さんのドクターマイティを使用して数のアドバンテージで倒すという作戦です」

 

「分身のエナジーアイテム使っても偽物の数にはキツかったからなぁ」

 

「了解しました。あ、明日那さんこれは……」

 

「それなら私が持っておくから」

 

「ありがとうございます」

 

 

 高山はタブレットを手渡すと永夢とパラドに向き合いバグスターの元へ向かう決意を示す。

 

 しかし高山に1つの疑問が。それは……

 

 

「宝生さん、バグスターは何処に?」

 

「あぁ、それなら“ゲームエリア内”にまだ居るよ」

 

「……ゲームエリア?」

 

 

 頭に疑問符を浮かべる高山。事実ゲムデウスも知らない。何故ならば前回、前々回と共に現実のフィールドで戦っていたのだ。知らないのも無理は無い。

 

 

「ゲーマドライバーを装着するとキメワザスロットホルダーっていうのが出てくるんだけど、そこのボタンを押すと【ゲームエリア】って言って現実とは違うエリアに行けるんだ。向かうには変身しなきゃ行けないけど」

 

「成る程。では……早速向かいますか」

 

「よっしゃ!リベンジと行こうぜ!永夢!」

 

「あぁ、そうしよう!」

 

『君たちの健闘を祈るよ。ライダー諸君』

 

 

 それからの行動は早かった。高山と永夢はゲーマドライバーを腰に装着し、ガシャットを起動させる。パラドはガシャットのダイヤルを操作し起動させる。

 

 

【マイティアクションX!】

【シャカリキスポーツ!】

 

【PERFECT PUZZLE】

 

【ドクターマイティXX!】

 

 

 それぞれのゲームエリアが広がり、永夢と高山はゲーマドライバーにガシャットを差し込む。パラドのガシャットからは待機音声が流れている。

 

 

【【ガッシャット!】】

 

【What's the next stage? What's the next stage?】

 

【ダブルガシャット!】

 

 

「「「変身!」」」

 

 

 永夢と高山はゲーマドライバーのレバーを開きレベルアップの姿をとり、パラドはガシャットのスイッチを押すことで姿を変える。

 

 

【【ガッチャーン!レベルアーップ!】】

【マイティジャンプ!マイティキック!マイティマイティアクション!X!】

【アガッチャ!シャカリキシャカリキ!バッド!バッド!シャカっとリキっとシャカリキスポーツ!】

 

【DUAL UP!】

【Get the glory in the chain! PERFECT PUZZLE!】

 

【ガッチャーン!レベルアーップ!】

【ドクターマイティ!2人で作る!ドクターマイティ!2人でメイキーング!X!】

 

 

 永夢は『エグゼイド・スポーツアクションゲーマー』に、パラドは『パラドクス・パーフェクトパズルゲーマー』に、高山はゲムデウスと分かれ『ドクターマイティXLゲーマー』と『XRゲーマー』になる。

 

 永夢がスロットホルダーのボタンを押すと画面が現れ、その内の工場らしき場所を選択する。

 

 

【STAGE SELECT】

 

 

 すると画面に吸い込まれる様な感覚を覚えると、目に映る景観がガラリと変わっていた。先程までCR内部だった筈が、一変して廃工場の様な場所になっていたからだ。

 

 高山とゲムデウスも不思議なことを体験した為か、周囲を見回す。

 

 

「スゴいな……これ、現実の世界じゃないのかよ?」

 

「ゲームエリアと言うだけの事はあるか。現実に存在しそうに無い場所だな」

 

「……おっ、居た居た。あれだ」

 

 

 パラドが指差した方向を見ると白い帽子に黒マント、青い装甲をしたバグスターに加え、色違いでそれぞれ黄帽子オレンジ色の装甲、緑帽子と紫の装甲、帽子と装甲が共に赤の4体。

 

 と、その4体のバグスターを確認していると……

 

 

「我が名はソルティ!」

 

「続いて爽やかに!サワー!」

 

「後味残す!ビター!」

 

「熱くしてやる!スパイシー!」

 

「全部味覚やん」

 

 

 何故か4体は横一列で並んで頼んでもないのに自己紹介をする始末。

 

 

「ソルティは知ってるけど……他のバグスターは知らないから、3体は新型のバグスターと見て良いよ」

 

「ソルティ……ソルティ……う~む、似た様なのあった筈だが?」

 

「それは能力のことか?」

 

「……すまん、今は患者を助けるのが先だな」

 

 

 左から永夢、パラド、高山、ゲムデウスの順に並んで対峙する。永夢は両肩のトリックフライホイールを両手に持ち、後の3名は戦闘態勢を構える。

 

 

「「「「我ら味覚4兄弟の力!見せてやる!」」」」

 

「結局味覚かよ!」

 

 

 ツッコミをすると同時に4兄弟は装備しているマントで姿を覆い隠す。すると、その4兄弟は消え白のマントを着けた4兄弟がウジャウジャと出現した。

 

 

「どうやらこれが偽物か。本物は何処だ?」

 

「ゲムデウス!コイツらを先に倒してからにするぞ!」

 

「ふ~む……やりながら考えるか」

 

「パラド、行くよ!」

 

「あぁ!リベンジ開始だ!」

 

 

 永夢、パラド、高山、ゲムデウスは一斉に走り出した。永夢はトリックフライホイールを装備した状態で接近戦を仕掛け、偽物に確実にダメージを与えていく。

 

 パラドは徒手空拳で牽制をしつつ片手でエナジーアイテムを操作していく。

 

 高山はゲムデウスとの連携で的確にダメージを与えつつ、生成に必要なエネルギーを貯めていく。

 

 

「エネルギー充填完了!ゲムデウス、マッスル化頼む!」

 

「了解した」

 

 

 装備しているタッチパネルを操作しゲムデウスのタッチパネルからマッスル化が出現する。その出現したマッスル化は高山に投げられた。

 

【マッスル化!】

 

 

「ッしゃあ!」

 

 

 高山はマッスル化状態で回し蹴りを前方に放つ。それが終わったかと思いきや、1度足を付けた後に今度は後方の敵に後ろ回し蹴りを放つ。そして今度は左足で回し蹴りを放ち、再度後ろ回し蹴りを放つ。全方位に攻撃が当たっているのは火を見るより明らかである。

 

 

「ゲムデウス!永夢!エナジーアイテム行くぞ!」

 

「むっ?」

 

「オッケー!」

 

 

 パラドは永夢のトリックフライホイールに【鋼鉄化】を、ゲムデウスには【ジャンプ強化】を、自身には【高速化】と【マッスル化】を使用する。

 

【鋼鉄化!】

 

【ジャンプ強化!】

 

【高速化!】

【マッスル化!】

 

 

 永夢は鋼鉄化されたトリックフライホイールを回転しながら投げ周囲の偽物を薙ぎ倒していく。

 

 

「オリャア!」

 

『ァァアアアア!』

【【【【【HIT!】】】】】

 

 

 ゲムデウスは敵の拳を払い除けた後、強化されたジャンプ力で跳び偽物の頭を踏みつけると同時にジャンプしていく。これを何度も繰り返している。

 

 

「よっ!」

 

「ぬぉ!?」【HIT!】

 

「ほっ!」

 

「オォア!?」【HIT!】

 

「っと!」

 

「へぶっ!?」【HIT!】

 

 

 パラドは高速化による速度強化で一気に懐に入り、マッスル化によって強化されたショルダータックルで吹き飛ばす。序でにその威力によって吹き飛ばされた偽物は他の偽物に衝突し実質全体攻撃をしている。

 

 

「いよっと!」

 

「ぐぼぉ!?」【HIT!】

 

「でぇい!く、来るナブゥ!」

 

「おい宿主!マッスル化頼む!」

 

「オッケー!」

 

 

 高山は先にタッチパネルで選択し、続いて空中に居るゲムデウスが選択する。タッチパネルから出現したマッスル化をゲムデウスは自身に使う。

 

【マッスル化!】

 

 強化された力で空中からの落下を利用し思いっきり地面を殴り付ける。

 

 

「むぅん!」

 

『おぉう!?』

 

「ってぇ!ちょ、ゲムデウス!俺ら居るの忘れてないよね!?」

 

「……効率が良いだろう?」

 

「本当は?」

 

「一瞬忘れてた」

 

「うぉい!」

 

「「「「のぉ!?」」」」

 

「「「「ん?」」」」

 

 

 何処からか4つの声が聴こえたかと思い、声のした方向である右を見てみる。

 

 そこには黒マントを着た4兄弟が居た。つまり本物を発見したということ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────Loading……──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「居たあああああ!」

 

 

 高山は指を差したと同時に4兄弟に向かって走り出した。

 

 

「ゲッ!おいビター囮になれ!」

 

「いやだね!サワーの兄者が逝けよ!」

 

「ここはソルティの兄者に」

 

「「それだ!」」

 

「何かコントしてるぅ!」

 

 

 そんなおふざけの途中でも高山は4兄弟との距離を縮めていこうと走るが、偽物による壁が邪魔で停止せざるを得なかった。

 

 

「くそっ!邪魔だ!」

 

「よっしゃナイス偽物!」

 

「俺たちはやってくれると信じてたぞ!」

 

「誰か1体でも欠けたら使えない能力だけどさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……?」

 

「「「「あっ……」」」」

 

 

 思わぬ所で弱点を聞いたので反応に一瞬困ったが、直ぐに永夢、パラド、ゲムデウスの3名に弱点を伝える。

 

 

「永夢さん!パラドさん!ゲムデウス!この偽物を消す方法分かりました!あの主要4体の内1体でも倒せば良いそうです!」

 

「本当ですか!?」

 

「だったら先にアイツらの中の1体を倒せば!」

 

「偽物の対処は任せろ!宿主!」

 

「オッケー!」

 

 

 目の前の偽物に向かい壁代わりに使用しジャンプしてゲムデウスの隣に立ち、ゲーマドライバーのレバーを一旦閉じると、軽快な音楽が流れる。

 

 

【【ガッチョーン】】

 

 

「「Mark XX!変身ッ!」」

 

 

 その掛け声のあと、レバーを開く。

 

 

【【ガッチャーン!ダブルアーップ!】】

【私が君を!自分がお前を!(We are!)何度も何度も倒して!(Hey!)XX!】

 

 

 高山とゲムデウスは融合しムテキゲーマーをモデルとした白く、短髪の『ドクターマイティXXゲーマー』となり戦闘態勢をとる。

 

 

【アイアムゴ~ッド】【いや喧しいな神】

 

 

「……いや黎斗さん、貴利矢さんェ」

 

『何がしたいんだアイツらは?』

 

 

 何故か黎斗と貴利矢の掛け合いがガシャットに保存されていたのかという疑問はさておき、虚空に右手を(かざ)すとウェポン一覧が展開され、その内の1つである楯を選ぶ。

 

 

【ガシャコン・シールド!】

 

 

「ん?……あれは?」

 

「見たことないな……楯って」

 

 

 次に高山は持ち手横にあるAボタンを押し、身の丈ほどある両手斧とさせ装備する。

 

 

【ド・ガーン!】

 

 

「今度は斧!?」

 

「デカっ!」

 

「暴れますよぉ!」

 

 

 高山は両手斧の軽々と片手で扱い右斜め上から左斜め下へと振り下ろし、遠心力を利用し同じ行動を1歩1歩と歩きながら偽物を倒していく。

 

 さらに遠心力を利用し両手斧をぶん回し続け偽物を一気に倒していく。

 

 

『ォアアアアアアウ!?』

【【【【【【【HIT!】】】】】】】

 

「永夢さん!パラドさん!」

 

「ッ!あ、あぁ!パラド、行くぞ!」

 

「だったら!」

 

 

 パラドはガシャットギアデュアルのギアを回転させ別の“ゲーム”をする。

 

 

【Knock out Fighter!】

【The stronger first!(Round 1!)Rock and Fire!】

 

 

「大変身」

 

 

 ガシャットギアデュアルの起動ボタンを押し、別の姿へと変貌を遂げる。

 

 

【Explosion hit! Knock out Fighter!】

 

 

 仮面ライダーパラドクス・ファイターゲーマーに変身し、両手に装着されたマテリアライズ・スマッシャーでの格闘戦を仕掛ける。

 

 立ちはだかる偽物をパラドは発火効果による爆炎で凪ぎ払い、永夢はトリックフライホイールによる範囲攻撃によって本物との距離を縮めていく。

 

 そして本物との御対面。

 

 

「げぇ!もうここまで!」

 

「漸くここまで来たぜ~!大人しくしろよ~!」

 

「にぃげるんだよおぉ!」

 

「おいスパイシー!」

 

「させるかッ!」

 

 

 漸く御対面かと思いきや、スパイシーバグスターが逃げたので永夢は左のトリックフライホイールで進路を塞ぎつつダメージを与えていく。

 

 

「のおぉぉッ!」【HIT!】

 

「「「スパイシー!」」」

 

「んじゃあアイツから!」

 

 

 パラドはホルダーからガシャットを1度抜き、ギアを戻して再度回しホルダーに戻す。

 

 

【KIME WAZA!】

【DUAL GASHAT!】

 

 

 パラドは右のマテリアライズ・スマッシャーに炎を溜め、一気に近付きパンチを放つ。

 

 

【KNOCK OUT! CRITICAL SMASH!】

 

 

「ハアアア!」

 

「オアアアア!し、辛辣ゥ……」【PERFECT】

 

 

 必殺技によってスパイシーが消えた事で偽物が全て消え、残るは本物のみとなった。それを確認した永夢と高山はパラドの両隣に立つ。

 

 

「す、スパイシー!」

 

「スパイシーがやられた!この人でなし!」

 

「ねぇバグスターがネタに走るの流行ってんの!?」

 

『知らんがな』

 

「と、兎に角!先ずは目の前の相手を!」

 

 

 永夢は赤いガシャットを取りだし、ゲーマドライバーのレバーを閉じた後シャカリキスポーツガシャットを抜き取る。そして赤いガシャットを差し込み、構える。

 

 

【ガッシューン】

【ガッシャット!】

 

 

「大、大、大変身!」

 

 

 ゲーマドライバーのレバーを開き新たな姿へと変身する。

 

 

【ガッチャーン!レベルアーップ!】

 

【マイティジャンプ!マイティキック!マイティマイティアクション!X!】

【アガッチャ!ぶッ飛ばせ!突撃!ゲキトツパンチ!ゲキトツロボッツ!】

 

 

 画面からロボットゲーマが出現し、頭から覆うと『ロボットアクションゲーマー』へと変身する。左腕に装着されたゲキトツスマッシャーが存在感を示している。

 

 

「っく!ま、まだ死んで……ない……!」

 

「す、スパイシー!生きてたのか!」

 

「そりゃそうでしょうよ!一気に倒さないと無理なんだからさ!」

 

「「あっ」」

 

「……何か墓穴掘ってるのスパイシーって奴だけっすね」

 

「で、でも!一気に倒さないとまた復活する事が分かったんだ!だったら一斉で倒せば良いだけだよ!」

 

「だったら、またパズルゲーマーに「あ、両手斧でなら2体同時にいけますよ」おっ、ならこのままで行くか!」

 

 

 3名は戦闘態勢を直ぐ様構えた後、4兄弟バグスターに向かって走り出す。

 

 永夢の方はソルティを、パラドはサワーを、高山はビターとスパイシーを相手取りに行く。

 

 永夢は左腕に装着されたゲキトツスマッシャーによる打撃を連続で放っていく。

 

 

「ふっ!」

 

「オォア!」【HIT!】

 

「はっ!」

 

「へぶっ!」【HIT!】

 

「おいしょお!」

 

「むごふぅ!」【GREAT!】

 

 

 パラドはマテリアライズ・スマッシャーによるラッシュの雨を食らわせる。

 

 

「ホラホラホラァ!」

 

「ちょ!おまっ!あかん!」

【HIT!】【HIT!】【GREAT!】

 

「ホラホラ!俺を楽しませてくれよ!」

 

 

 パラドの右ストレートからの左アッパーがサワーに炸裂する。それにより空中に飛ばされてしまうサワー。

 

 

「ノオオオォォァ!?」【GREAT!】

 

 

 高山は両手斧である【ガシャコン・アックス】により同時にビターとスパイシーの2体を相手どる。近付いて来たビターにリーチを短くした状態で袈裟斬り、そして左一回転したのち横一閃。序でにやって来たスパイシーにもダメージを与える。

 

 

「「ア"ア"ア"ア"ア"イ"!」」【【HIT!】】

 

「もうやだ、このバグスター……」

 

『と言いつつ攻撃の手は緩めないんだな』

 

「そりゃそうで……しょッ!」

 

 

 今度は持ち手の端を持って距離を稼ぎ、地面を思いっきり叩き付ける。何故かそこから砂塵混じりの風がビターとスパイシーに向かって放たれる。

 

 

「「ミギャアアアアアア!」」

 

「そういやBボタンって何だっけ?」

 

『じゃあ押してみろ』

 

 

 吹き飛ばされた2体を無視しガシャコン・アックスのBボタンを押してみる。

 

 

【1!】

 

 

「んぉ?」

 

 

 押しても何も起こらなかったと思っている高山は、連続でBボタンを押していく。

 

 

【2!3!4!5!6!】

 

 

「何にも起きないな」

 

『……ふむ、予想だがバグスターに攻撃してみろ』

 

「やってみっか」

 

 

 高山は吹き飛ばされた2体に向かって走りだし、ある程度の距離まで近付くと左から右へと一閃する。

 

 

「オラァ!」

 

「「ウボアァァァ!?」」

【【【HIT!】】】【【【HIT!】】】

 

「おぉ……」

 

 

【6連擊!】

 

 

『どうやら1度の攻撃で複数回攻撃できるのか』

 

「スゲェや……さて、ここいらでフィニッシュと行こうか!」

 

 

 永夢はゲキトツロボッツのガシャットを抜き取りキメワザスロットホルダーに差し込みボタンを押し、パラドはホルダーに入れてあるガシャットを一旦抜き取りギアを回して戻す。高山はガシャットを抜き取りガシャコン・アックスのガシャット挿入口に差し込む。

 

 

【ガッシューン】

【ガッシャット!キメワザ!】

 

【KIME WAZA!】

【DUAL GASHAT!】

 

【ガッシューン】

【ダブルガッシャット!キメワザ】

 

 

 永夢はゲキトツスマッシャーが装備された左腕を引き絞り、パラドはマテリアライズ・スマッシャーが装着された右拳を引き絞り、高山はガシャコン・アックスの持ち手を右肩に置き構える。

 

 

【GEKITOTSU CRITICAL STRIKE!】

 

【KNOCK OUT! CRITICAL SMASH!】

 

【DoCTER MIGHTY CRITICAL FINISH!】

 

 

 永夢はソルティに向けてゲキトツスマッシャーを放ち衝突させ、パンチをゲキトツスマッシャーに入れる。

 

 パラドは落ちてくるサワーに合わせる様にして炎を纏ったパンチを放つ。

 

 高山は青いエネルギーが纏われたガシャコン・アックスを右から左へと一閃する。

 

 

「しょ……しょっぱい人生だった……」

【PERFECT!】

 

「爽やかに……死にたかった……」

【PERFECT!】

 

「苦ァァァイ!」「辛く……辛かった」

【【PERFECT!】】

 

【GAME CLEAR!】

 

 爆炎を撒き散らせ四散するバグスターを確認すると、永夢とパラドと高山は変身を解除する。

 

 

【【【ガッシューン】】】

【GASHUN】

 

 

 変身を解除した3名は現実世界のCRへと戻った。しかし高山は何故か頭を抱えて溜め息をつく。

 

 

「何かネタ多かった!」

 

『気のせいではないか?』

 

「お、お疲れ様でした。高山さん」

 

「しっかしソルティに似たバグスターか……後々ゲンムの奴に話でも聞くか」

 

 

 現在午後11時。黎斗はもう寝ている時間帯である為、後々バグスターについての話をしなければならない。

 

 高山は永夢とパラドと別れた後、直ぐに家に帰ったが着いた途端に藍原によって寝付けなかったそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




【4兄弟バグスター】
ソルティ、サワー、ビター、スパイシーの4体のバグスターで構成された4体1組のバグスター。

4体の内、3体倒したとしても1体でも残っていれば復活する。但しダメージは少々残された状態。さらに4体揃っていれば同じ姿をした偽物を召喚できる。見破る方法はマントの色で偽物は白いマント、本物は黒いマント。







次回!Dr.ゲムデウスは!

 ゲーム病を治す気の無い患者!

「儂は生涯を全うした!悔いなんぞ無い!」


 高山と大我、ニコが患者の為に訪れた場所は!?

『ほぉ……これはこれは』


 そして判明する、新たなバグスターの関連性!

「君たちと縁の深い物が関連していたんだ」


 『第6話 懐かしきbattleship!』


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第6話 懐かしきbattleship! 

「あ"ぁ"~ぅ"」

 

「おい高山、おっさんくさいぞ」

 

 

 4兄弟バグスターの件が終了して早2週間が経過した現在。何時もの如く大学の構内にあるカフェテラスでゆったりと過ごしていた。少し違うのは未だ茅場と藍原が来ていないということのみ。

 

 茅場はキリの良いところまで終わらせようと必死のため遅れ、藍原は公務員司法試験の為に根を詰めているので遅れるということだ。

 

 

「眠いんですよ」

 

「…………お前ら、仲良いなぁ」

 

「神代さんも、最近茅場先輩と何処かに出掛ける機会とか多くなってるじゃないですか」

 

「誰が噂を流しやがった?答えろ」

 

 

 高山の発言は誰から聞いたというより話している集団の側を通り聞いてしまったというのが正しい。なので神代が望んでいる答えは出ない。

 

 しかしここ最近茅場と神代の仲は良好とも言えるのは確かである。というより1度見かけた事がある。

 

 

「スーパーの帰り道で見かけましたよ。茅場先輩は気付いてましたけど」

 

「……嘘だろオイ」

 

「あ、何ならその時の神代さんの表情言いましょうか?かなり惚けて「スタンガン」何で持ってるんですか?」

 

「護身用だわ」

 

「護身用を僕に向けないでくださいよ」

 

 

 談話(?)をしていると高山のスマホが着信のバイブレーションをした。何事かと思い高山はスマホからの着信を出る。勿論神代に断りを入れて。

 

 

「はいもしもし高山です」

 

『高山君、私だ』

 

「あ、黎斗s『檀黎斗神である!』……えっと黎斗神さん?どうされました?」

 

 

 戻ったかというのが率直な感想だろう。前回は黎斗という風に神と付ける事は無かったのだから。

 

 

『実は君にも伝えたいことがあってね。君は大学の講義が終わり次第来てほしいんだ』

 

「……君にも?ってことは宝生さんたちもですか?」

 

『あぁ。最近出没する“新型バグスターの特徴”だ』

 

「本当ですか!?」

 

「うぉぅ!びっくした!」

 

 

 急に声量を上げて椅子から立ち上がりそうになっていた高山を見て神代は驚く。普段からは聞きもしない声量だった為、周囲の生徒も何事かと驚く。

 

 

『あぁ。しかも君たちに縁の深い物が関わっているんだ。ということで宜しく頼むよ』

 

「はい!黎斗さん!」

 

『檀黎斗神だと言っているゥ"ゥ"ゥ"!』

 

「えっ?檀黎斗死んだ?」

 

『区切るなぁぁ"ぁ"!』

 

 

 中々騒がしい様子の檀黎斗で『私ヴァ!檀黎斗神ヴァと言"っヴェい"る"ゥ!』神(自称)であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という訳で!ポッピーピポパポからの連絡で~す!」

 

「いや黎斗さん何処ですか?というより貴女は?」

 

 

 現在午後5時半。講義も一通り終えて藍原を一旦家まで送りCRに向かった高山であったが、何故か居るのは派手な服装をした人物のみ。黎斗神は何処にも見当たらない。

 

 

「黎斗ならバグヴァイザーⅡの中に居るよ。何か名前をネタにされて少しショック受けて自分から入っちゃったよ」

 

「……いや、黎斗さん。メンタルが…………」

 

 

 脆い。木綿豆腐並みに脆い。まぁ名前をネタにされるというのは経験しなかったのかも知れないが。

 

 

「それと、私なら何度か会ったことあるよ!」

 

「……へ?」

 

『そいつ仮野明日那だぞ』

 

「はっ!?明日那さん!?」

 

「今はポッピーピポパポって呼んでね~!愛称でポッピーでもオッケー!」

 

「は、はぁ……」

 

『補足しとくが、そいつもバグスターだ』

 

「…………マジかよ」

 

 

 今日も今日とて驚きの連続である。思えば今日は驚くべきことが多すぎるのも事実だが。

 

 高山が少し上の空である時、ポッピーピポパポがタブレットを渡してきた。肩を軽く叩かれた高山は意識を戻し手渡されたタブレットを持ち、電源を着ける。

 

 すると画面が表示された。だが表示された画面には『新型バグスターとガシャットの関連性』という題名が表示されていた。

 

 さらに下へとスクロールしていくと、最初に高山が戦ったバグスター『バイラス』(黎斗神命名)、そして高山自身が使う【ドクターマイティXX】のガシャット。その関連性を纏めていた。

 

 

「…………このバグスターは、僕の持つドクターマイティのガシャットに保存されたゲームの敵キャラ。簡単な解釈ですが、これで合ってますか?」

 

「合ってる合ってる!でも黎斗も戦ったバグスターについては、まだ調べているんだよね」

 

「須郷伸之……ん~、何処かで聞いた様な?」

 

「あ、それなら簡単に纏めたのがスクロールすればあるから見ても良いよ!」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

 改めて下へとスクロールしていくと、妖精型バグスターの下に須郷伸之についての簡単なプロフィールが表示されていた。年齢、性別、誕生日、学歴、概要などが書かれていたが高山は概要の一覧に目を止める。

 

 

「……結城財閥とも関わりあり。現レクト社CEOの結城彰三とは腹心の息子、ねぇ」

 

『つまりは?』

 

「金持ちと知り合い」

 

『成る程』

 

 

 再度下へとスクロールすると、今度は4兄弟バグスターの画像。そしてドクターマイティと酷似した青とオレンジのガシャット。

 

 

「このガシャット……似てるな」

 

「それは永夢の使う【マイティブラザーズXX】っていうガシャットだよ。多分4兄弟バグスターは、そのガシャットに保存されてるゲームの敵キャラって予想はついてる」

 

「って事は……また新たに現れる可能性も」

 

 

 そんなことを呟いていると、机に置かれた機器から音が鳴る。

 

 

「うぉぅ!」

 

「おぉ!……ビックリしたぁ」

 

「す、すいません」

 

 

 急なことだった為、高山は驚くがポッピーピポパポは高山の発した声で驚いていた。ポッピーピポパポは慣れているのか、その机の上に置かれている機器を押した。

 

 するとTVから花家大我が映る。しかし表情から読み取るに、何処か疲弊している様子であった。

 

 

「あれ?大我、どうしたの?何か(やつ)れてるよ?」

 

『あぁ……対応してる患者が頑固な奴『儂は帰るぞ!何故こんな場所に居らねばならんのだ!?』『お願いですから落ち着いて下さい!』……ハァ』

 

「お、お疲れ……」

 

「かなり御高齢の方の声でしたね」

 

『……ん、あぁ。お前はゲムデウスウィルスの』

 

「高山明です。宜しくお願いします」

 

『花家大我だ。宜しくたのmゴンッ『あー!大我ー!』』

 

 

 話していると急に画面外から何かが投げつけられ、それが大我の側頭部に直撃する。それを見た2名は驚き慌てた。

 

 

「ちょ!大我大丈夫なの!?」

 

「何か色々不安なんですけど!?あ、俺花家さんの所行ってきます!」

 

「えぇ!?……あぁもう!ピプペポパニックだよ~!ゲーム病 花家医院の場所は知ってる!?」

 

「調べるんで大丈夫です!」

 

 

 CRから走り去っていく高山を見送り、映像に目を移す。まだ大我が起き上がってくる様子も無いのでかなり不安になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スマホの地図アプリのルート案内によって着いた高山はバイクを降りて医院の中に入っていく。少し古めかしい感じではあるが病院としての機能はある様子。

 

 

「えぇい!さっさと此処から出せ!何度言えば分かる!?このヤブ医者!」

 

「ですから、今の貴方は病気なんです。今は安静にしなければ」

 

「しなければ?ふん!どうせ老い先短い命、こんなものくれてやるわ!日本男子たるもの潔く死ぬのが一番じゃわ!」

 

 

 

 

 

「……あのー、お邪魔しまーす」

 

 

 高山は恐る恐るといった感じで大我や患者の前に姿を現した。

 

 

「ってこんな時に……何だゲムデウスか」

 

『私がゲムデウスなのだが』

 

「ライダー名はゲムデウスですけどね」

 

「成る程。んで、何で来た?」

 

 

 勿論何故来たのかは尋ねる大我。そもそも此処を訪ねてくる理由は決まってゲーム病感染者や怪我をした人々に対処する為の場所である。健康な人間、ましてやウィルス適合者の人間が来て良い場所ではない。

 

 

「いえ、先程頭に思いっきり何かがぶつかってたのを見て大丈夫かと」

 

「……態々それだけか?」

 

「えぇ」

 

 

 何の躊躇いも無く頷いた高山。この様な場合の対応は面倒なのか溜め息をついた大我であった。

 

 

「お前なぁ……「おいヤブ医者!」痛って……!」

 

「ちょ!大我さん大丈夫ですか!?」

 

 

 今度は患者の方から何かが投げられ、それが大我の背中に衝突した。その投げられた物を見ると茶色いボストンバッグであった。

 

 

「あぁ……平気だ」

 

『と言うわりには痛がってた様に見えるがな』

 

「(ゲムデウス、それはNG。言っちゃいけない)」

 

 

 その投げられたボストンバッグから中身もちらほら出ていたので片付けようとすると、ふとその中身が気になった高山。それを手に取り、患者に見せる。

 

 

「あの……これ……」

 

「んぉ?……!そ、それは返してくれ!頼む!」

 

「は、はい!ど、どうぞ」

 

 

 その物とはパンフレットであった。そのパンフレットには『甦る戦艦の歴史』という題名が書かれてあった。先程のボストンバッグの中身を片付けると、高山は未だにパンフレットを持っている患者に質問を投げ掛けた。

 

 

「……あの」

 

「……何じゃ?」

 

「戦艦……好きなんですか?」

 

「好きという枠に収まらんわ!儂は吹雪型駆逐艦朝霧の就役日に誕生したんじゃ!そこいらの者より愛着はあるわい!」

 

 

 かなりの声量だったが、これで分かった。この患者は戦艦にとてつもない愛着がある。しかもその展示が明日から開催するのだ。つまりは我先に行きたいという気持ちが強いあまり、この展示に行けないと勘違いしている。

 

 だがこの手の頑固さというのは、梃子(てこ)でも動くことを拒むという。

 

 

「……そうでしたか。先程の発言、失礼しました」

 

「ふむ、中々聞き分けが良いな」

 

 

 ここは先ず素直に謝罪する高山。そして次に大我の方に向き合い、こんなことを尋ねる。

 

 

「花家さん、1つお聞きしても構いませんか?」

 

「今度は何だ?」

 

「明日から戦艦が展示される場所に、この人を連れていきたいんです」

 

「…………一体どうしてそうなった?」

 

 

 高山はボストンバッグを降ろし、患者から見えない場所まで行くと大我をそちらへ招く様にした。大我は歩いて高山の元に着き話を続けた。

 

 

「あの人にとって戦艦というのは、とても愛着のある物が分かったんです。だったら逆に1度行かせる方がストレスの緩和になったり、後で治療に専念できると思うんです」

 

 

 これはどちらかと言えばごもっともな言い分であろう。あの患者の頑固さは戦艦による愛着の証。ならば1度スッキリさせた方が良いのでは?という考えである。

 

 この考えに大我は渋々といった感じで溜め息を吐き、答えた。

 

 

「分かった、そうする」

 

「ありがとうございます」

 

「但し、明日は俺も同行する。何かあった時にヤバイからな」

 

「分かりました!」

 

 

 高山はその患者『林田 玄太郎』の元まで近付き、外出の許可を得られたとして行きたがっていた場所に行こうと提案すると、何処か嬉しそうな表情をしていた。

 

 そして翌日、この日は午後からの授業だけだったので大我と玄太郎と共に展示場へと訪れた。

 

 そして中に入って目を注目を集めたのが……

 

 

『ほぉ……これはこれは』

 

 

 ゲムデウスが驚きのあまり呟いた。誰しもそんな反応をすると思えるが。

 

 何故なら、目の前に戦艦『長門』の巨大模型が堂々と展示されていたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ほぉぉおぉぉ……」

 

「デッケェ……」

 

『おい宿主、変な声出すな』

 

 

 目の前の大きな『長門』の模型を見せられて感嘆せざるを得ないだろう。ただ高山の場合は少し可笑しいだけである。大我は思った感想を述べていた。

 

 

「あぁ……懐かしき長門よ」

 

 

 玄太郎は昔を懐かしむ様子を見せながら大きな模型を眺めていた。御歳87の高齢であるが中々元気がある。見たことがあるのだろうか?という単純な疑問を高山は言ってみた。

 

 

「玄太郎さんは、この戦艦を見たことがあるんですか?」

 

「あるぞ。ちょうど儂が8つの時に出航したのを見かけたわい」

 

「凄いですね。生で見れるなんて早々無いと思いますよ?」

 

「いんや、あの時は出航の日時が分かれば普通に行けたからのぉ。いやはや懐かしいものよ。当時は人々がこぞって戦艦を一目見ようと集まっておったからのぉ」

 

「そりゃ凄いですねぇ」

 

「分かるか?」

 

「えぇ。本物をこの目で見るっていうのは心が踊りますからね」

 

「心が踊るか。上手いことを言いおって!」

 

 

 高山と玄太郎の会話は展示場巡りの時でも普通に続けられており、中盤に差し掛かった所でかなり仲良くなっていた。

 

 

「(アイツ俺より医者してねぇか?)」

 

 

 大我は大我で少しばかりの危機感を覚えたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやはや、やはり懐かしい。もうこの目で見る機会も無いと思うていたが今日は付いているのぉ」

 

「此方こそ、良い体験になっています」

 

 

 現在は展示場の中盤。ここからは戦艦が辿った軌跡というのが音声によって説明される。やり方は展示近くのボタンを押すだけで音声が流れるという仕組み。

 

 そんな中、玄太郎はポツリと呟いた。

 

 

「これが、孫と行く感じなのかのぉ?」

 

「……御孫さん、いらっしゃるんですね」

 

「あぁ」

 

 

 ゆっくりと頷いた玄太郎。昔を思い出す様にポツリポツリと言葉を綴った。誰かに聞いてほしいという願いを込めて。

 

 

「昔は孫によく戦艦のことを教えていたものじゃ。その時の時間が1番心地良くてのぉ、孫は帰る時間を過ぎてまで聞いていたものじゃよ。その度に儂と、今は居ない婆さんとで送って行ったわい……」

 

「……素敵ですね。楽しそうで」

 

「……じゃが今は婆さんも死んで、孫も最近会わなくなった。できるならば、孫と一緒に巡りたかったわい」

 

「因みに……御孫さんは幾つですか?」

 

「そうじゃのぉ……今は確か20歳じゃったか?ここ3年は会っておらん」

 

「そうですか」

 

 

 静かに聞いている大我も何となく分かっているのかもしれない。こんな風に懐かしむ様子を見せる辺り、本当は孫と行きたかったという願い。自分の中で、整理のつかなかった時に、ゲーム病の発症が起きた。

 

 だからこそ理解できた。ゲーム病で自分の人生の時間を、治療で残り少ない時間を使いたくなかった。だからこそ抵抗をしたのかもしれないと。

 

 

「……御孫さんに連絡は取れないんですか?」

 

「……取れるには取れるが、3年前から適当にあしらわれることが多くなった」

 

「……失礼しました」

 

「いや、構わん。どうせ学業や女のことで年寄りに構う暇なぞ無いということじゃ」

 

「ッ…………」

 

 

 高山は胸の奥が締め付けられる感覚を覚えた。何処か苦しく、辛い。寂しさや諦め、でも会いたいという葛藤の気持ちが伝わっている感覚がした。

 

 

「…………いやはや、それにしても。最後に見れて良かったわい」

 

 

 寂しそうな声だ。何処か遠くを見ているが、何処を見ているのか分からない様な虚とした感覚。高山と大我も、ただ黙ってるだけであった。

 

 

「これで心置き無く、婆さんの所に行けそうじゃ」

 

「玄太郎さん…………」

 

 

 既に高山と玄太郎、大我は最後の方まで歩き続けていた。もうすぐ終わる。それだけで何処か悲しい。

 

 その悲しさは、突如聞こえてきた悲鳴によって掻き消されたが。

 

 

「「「!?」」」

 

『宿主!バグスターの気配だ!』

 

「ッ!こんな時に!花家さん、玄太郎を頼みます!」

 

「何処に行くつもりだ!?」

 

「さっきの悲鳴の方からバグスターの気配がするんです!花家さんは医者として患者を連れて逃げてください!」

 

 

 今は得策と言えるだろう。大我には医者として患者を守る責任がある。だがその患者を守らずして医者は名乗れない。

 

 

「……分かった、だが俺も後で合流する。それまで耐えてくれよ」

 

「えぇ!」

 

 

 高山はゲムデウスが示した気配を辿って走り出した。バグスターを倒す為に。

 

 

「おぉい!君!」

 

「玄太郎さん、早く避難を!」

 

「は、離してくれ!あの子が!」

 

「てちょ!……のあっ!」

 

 

 引っ張られるが突如来た人の波に呑まれて大我は玄太郎の手を離してしまった。玄太郎は高山を追いかける様に向かって行く。大我は何とかしようともがくが、この人混みの中では一般人に怪我を負わせてしまう可能性もあったため身動きが取れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『居たぞ!』

 

「っと!」

 

 

 ブレーキを掛けて減速した高山はゲムデウスが示す方向を見た。

 

 そのバグスターの外見は一言で言うなれば戦艦の艦長の様な姿をしていた。軍服に幾つもの称号、被られた白いキャップには錨のマーク。そして肌が灰色であり、ガスマスクとモノクルを掛け合わせた物を装着している。

 

 

「コイツがバグスターか」

 

『気を付けろよ』

 

「分かってる!」

 

 

 高山は何時もの斜め掛けバッグからゲーマドライバーとガシャットを取りだし、ゲームを起動させる。

 

 

【ドクターマイティXX!】

 

 

 軽快な音楽と共に画面が後ろに出現し、その画面内からカプセルの様なものが散りばめられる。

 

 高山はガシャットをゲーマドライバーに差し込み、両腕を前に交差させてXの文字を作る。

 

 

【ダブルガシャット!】

 

 

「Mark X-2!変身ッ!」

 

 

 高山はゲーマドライバーのレバーを開き、その身に鎧を纏い姿を変える。

 

 

【ガッチャーン!レベルアーップ!】

 

【ドクターマイティ!2人で作る!ドクターマイティ!2人でメイキーング!X!】

 

 

 高山は2つのパネルを選択し、それぞれドクターマイティXL(高山明)XR(ゲムデウス)となる。高山は右足を下げて腰を少しだけ落とす構えを、ゲムデウスは右拳を前に左拳を後ろに下げて構える。

 

 相手は右から左へと手を横一閃すると“もや”が出現し、そこから小さな戦艦武装を装着した複数の低級バグスターを呼び出した。その後バグスターは後方に下がった。

 

 

「「これより、製薬実験を開始する!」」

 

 

 高山とゲムデウスは走り出す。低級バグスターの武装から放たれる砲撃を避け低級バグスターに打撃を与える。

 

 高山は1体の側まで来ると少し跳躍すると同時に思いっきり蹴る。両サイドから来る2体に対して、先に左から来る低級バグスターの懐まで近付き膝蹴りを与えたあと後ろから来る砲撃の楯にしてダメージを与える。

 

 

【HIT!】

 

【HIT!】

 

 

 砲撃が着弾した煙によって視界を遮られた低級バグスターの元に駆け付け、そのままジャンプして回転蹴りを放つ。

 

 

【GREAT!】

 

 

 ゲムデウスは砲撃を意図も容易く避けている。まるでボクサーの様にステップを踏みながら走って近付く。

 

 1体の懐まで入ると右アッパーを顎に食らわせ横から来る砲撃をアッパーを食らわせたバグスターを脚を持って移動させ楯代わりとさせた。 

 

 

【HIT!】

 

 

 先程攻撃してきた1体に向かうのかと思いきや、今度は5時の方向に振り向き避けながら接近していく。

 

 接近した所で右回転しながら上から肘を叩き付け、その肘を上へと上げ顔面に当てる。続いて近場に居た低級バグスターに両肘を使った連続攻撃をしていく。右肘の殴打を当て、勢いを殺したあと左肘の殴打をする行為を5回繰り返していく。

 

 

【GREAT!】【HIT!】

 

【HIT!】【HIT!】【GREAT!】【HIT!】【GREAT!】

 

 

 高山は向かってきた低級バグスターの1体をヤクザ蹴りでダメージを与えた後、後ろに向けて思いっきり蹴りを放つ。その放たれた蹴りはちょうど向かってきた1体の腹部に直撃した。

 

 

【HIT!】

 

【GREAT!】

 

 

「ゲムデウス!【高速化】行くぞ!」

 

「承知した」

 

 

 高山とゲムデウスはタッチパネルを操作し高速化を選択する。途中砲撃が襲ってくるが回避する。

 

 すると高山の方に【高速化】のエナジーアイテムが来た。高山は直ぐにゲムデウスの方に投げて付与させる。

 

 

 

【高速化!】

 

 

 素早さを強化したゲムデウスは、何故か小回りの効きやすい小型の低級バグスターから狙い仕留めていく。

 

 

『□□□□□───!』

【【【【【【【HIT!】】】】】】】

 

 

 続いてゲムデウスは他の低級バグスターに攻撃を仕掛ける。高山はゲムデウスが攻撃した先程の小型の奴等を順に蹴り倒していく。

 

 

「ふっ!」

 

「□□□───ッ!」【HIT!】

 

「ほっ!っと!」

 

「「□□□───ッ!」」【HIT!】【HIT!】

 

「はいはいはいはいッ!」

 

「「「「□□□───ッ!」」」」

【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】

 

 

 高山の攻撃によって対峙していたバグスターは消滅し、残りは数体の低級バグスターと本命のみ。

 

 

「ゲムデウス!一気に片を付けるぞ!」

 

「応ッ!」

 

 

 ゲムデウスが跳躍し高山の隣に立つ。そしてゲーマドライバーのレバーを閉じようとしていた途端……

 

 

「こ、これは何じゃ!?」

 

「「ッ!?」」

 

 

 レバーを閉じるのを辞めて後ろを振り返ると、玄太郎が居たのだ。

 

 

「玄太郎さん!?何で此処に!?」

 

「そ、その声はお前さんか!?」

 

「むっ!」

 

 

 ゲムデウスが何かを察知した様で後ろを振り向いた。すると残っている低級バグスター全てで砲撃を放とうとしていたのだ。

 

 

「来るぞ!」

 

「ッ!」

 

 

 砲撃が発射された。避ける事は容易いが、この砲撃の射線上には玄太郎も居るのだ。おいそれと避けて良い訳がない。そしてゲムデウスは高速化の効果が既に切れていた。

 

 

「「があああッ!」」

 

 

 砲撃を直撃するしか無かった。玄太郎に当たりそうな砲撃を一身に受けて高山とゲムデウスはライダーゲージを減らしながら飛ばされ、変身を強制解除してしまう。

 

 

【【ガッシューン】】

 

 

 2体から1体へと戻った高山とゲムデウス。しかし高山の左腕には傷が付いており頭から血が出ている。さらにゲーマドライバーとガシャットから離れてしまった。

 

 そのゲーマドライバーとガシャットを本命のバグスターが取り上げる。

 

 

「ッ!……ゲーマドライバーと、ガシャットを!」

 

『どういうつもりだ?』

 

 

 そしてそのバグスターは消え、戦っていた低級バグスターも消えた。

 

 玄太郎を連れ戻しに来た大我が高山を見つけると、大我は誰かに連絡していた。

 

 高山は傷を負ったまま大我に支えられ展示場をあとにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回!Dr.ゲムデウスは!

ライダーとして変身できなくなった高山!

「ガシャットとゲーマドライバーを奪われた!?」


圧倒的な数の多さに苦戦するスナイプ!

「アイツが必死になって守った患者を、俺が守らないでどうする!?」


そして新たな力を手に戦うのは!

「Destroy mission start」


 第7話『予想外のbuggle up!?』


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第7話 予想外のbuggle up!? 

 高山の手当ても終わり患者の玄太郎もCRに移して、明日那や大我は一段落しようとしていた。が、勿論。

 

 

「ゲーマドライバーとガシャットを奪われた!?」

 

「はい……」

 

 

 ゲーマドライバーとガシャットを何故かバグスターが奪っていってしまったことだ。しかも奪われたガシャットはゲムデウスワクチンであるドクターマイティ、それを奪われたのなると高山に存在するウィルスの危険性が高まる。

 

 そして接触感染によるパンデミック。接触感染については最初に藍原が高山に触れたことで発症した事から結論付けられた。

 

 

『高山明ァァア!何故君は負けたぁ!?君の身体能力はゲムデウスウィルスによって向上されていた筈だぁ!』

 

「えーっとですね……ちょっとドジっちゃって」

 

『ドジで済む問題では無いのだぞんッ!君は生きる為に戦わなければならないのだろぅ!?』

 

「うぐっ……すいませんでした」

 

 

 黎斗の『何度も同じことを言わせる気かぁ!?』黎斗神の変顔と共に高山は色々と説教されている。ぎゃあぎゃあと喧しいが、そこに大我が話を割り込ませる。

 

 

「おい檀黎斗」

 

『檀黎斗神だ…………私の名前を覚e「新型バグスターの件だ」……ほぉ』

 

 

 何故か急に黎斗神のテンションが真面目に戻っていった。やはりゲームクリエイターとしては聞きたいというのもあるのだろうか?

 

 

『ゲームマスターである私の知らない所でぇ!勝手に新型バグスターを作られるのが腹立たしいだけどぅあ!』

 

「誰に話してるのよ?黎斗」

 

『ここの作sy「はいアウト」

 

 

 アーケードタイプのゲーム機の電源を切られ、強制的にシャットダウンさせられたが直ぐに電源を着けた。

 

 

『ポッピーピポp「話を続けるぞ」……チッ、さっさと話せ』

 

 

 かなりご機嫌斜めである黎斗神。しかし新型バグスターの説明を聞かされるとなると話は別だ、真剣に取り合ってくれる。要は使い方に注意してもらいたい塩素系漂白剤である。

 

 

「俺とゲムデウスが戦ったバグスターだが、俺の場合はユニオンだった状態を第2フェイズに移行させたが……そのバグスターは何故か姿を消した。んで、ゲムデウスが戦ったのが」

 

「先程の司令官の様なバグスター……しかも戦艦武装を施したバグスターを呼び寄せる能力を持っていました」

 

『そして負けてガシャットとゲーマドライバーを奪われたと』

 

「……すいません」

 

 

 かなりしょんぼりと項垂れて表情を曇らせた高山。同じ様に後ろで玄太郎は表情を曇らせていた。

 

 

「兎に角、あのバグスターは俺がやる。ゲムデウス、お前は待ってろ」

 

「……はい」

 

 

 大我はCRをあとにした。バグスターを倒し患者を救うために。

 

 

『良いのか?』

 

「(何がだ?)」

 

『このままで本当に、本当に良いのか?宿主』

 

「……良い訳がないだろ」

 

「高山さん?」

 

 

 高山は立ち上がり、今すぐにでも外に行こうとしていた。しかし危険性を考慮とした考えとしては可笑しいとしか言いようがない。

 

 

『高山明、何処へ行く?』

 

「……倒しに行きます」

 

「!?でもガシャットが無いのに!そ、それにゲムデウスウィルスのことも!」

 

「……それでも、行かなきゃならないんです」

 

 

 何時もの斜め掛けバッグを背負いCRを出ようとしていた高山。だが患者の玄太郎によって声を掛けられ、動きを止めた。

 

 

「……なぁ、高山さんよぉ」

 

「……何でしょうか?」

 

「お前さんは、何故そこまでして……さっきのと戦おうとしておるんじゃ?」

 

「…………何故、ですか」

 

 

 高山は1度振り返り、玄太郎に目線を合わせて話した。

 

 

「……強いて言うなら、贖罪のため。ですかね」

 

「贖罪……何故かの?」

 

「…………本来、僕は今居てはいけない存在なんです。でも、こんな僕でもまだ生きていきたいんです。例えそれが他の誰かを苦しめることになったとしても、僕は生きていきたいんです。だからこそ……僕は戦い続けなければならないんです」

 

「ほうか……ほうか」

 

 

 年の功と言うべきなのか、これ以上何を言われても驚かないというものは楽な部分がある。しかし、勿論そこで痛いところを突かれる訳で。

 

 

「でも、どうやって戦うの?ゲムデウスの力は不味いし……」

 

「うぐっ……それなんですよねぇ」

 

 

 戦う術はあるにはある。だがゲムデウスの力を無闇に使いすぎるのは危ないのだ。ウィルスの培養によって意識が元に戻らなくなる可能性もある。

 

 

『心配いらん』

 

「えっ?ッ…………!」

 

 

 高山の体が少し前に反れたかと思いきや、直ぐに体勢を立て直した。

 

 

「使いすぎるのが不味いならば、これだけなら使っても構うまい」

 

「……って、ゲムデウス!?」

 

「うむ、ゲムデウスだ。おい黎斗とやら」

 

『檀黎斗神だと……!っと、今は悠長に喋っている場合ではないか。何だ?』

 

 

 意外にも黎斗神はゲムデウスの話を聞くつもりであった。ゲムデウスはそんな黎斗の表情を見て話を続ける。

 

 

「では聞こう。“偵察に適したバグスターの力”はあるか?」

 

「ふむ……偵察…………偵察…………偵sあっ」

 

「あるんだな?教えろ」

 

「……チィ!上から目線が癪だが仕方ない!バーニアバグスターの力を使え。飛行ユニットを飛ばせる筈だ」

 

「ふむ……では!」

 

 

 高山に憑依しているゲムデウスが集中していく。すると、ゲムデウスの頭上に5機の小さな飛行ユニットである零戦の姿をしたユニットが登場した。

 

 ゲムデウスはその飛行ユニットに対し、こう告げた。

 

 

「私と宿主に記憶されているバグスターの行方を捜せ」

 

 

 その5機のユニットはCRから出ていく。器用にエレベーターを使った様で音が響いた。

 

 

「少しだけ待とうか。さて黎斗よ、他のバグスターの能力について知りたい。資料を寄越せ」

 

『ゲムデウスゥ……この私に…………!この神に!何たる態度を取っているゥ!?貴様は私が居なければ生み出されなかったというのにぃ!』

 

「それでライダークロニクルを横取りされてパンデミックの元になったんでしょ!黎斗!」

 

「まぁ落ち着け。そうだ、ここは1つストレッチでもしようか。少し体を動かそうではないか」

 

 

 ゲムデウス(ラスボス)らしからぬ言動の数々。これが前は檀正宗の体に取り込まれて悪用されたのだから、今の状態はとても困惑するものであった。

 

 そして端から見ていた玄太郎は少しばかり微笑んでいた。

 

 

「あぁそうだ、1つ思い出した」

 

「『?』」

 

「パラドの持っていたガシャット、使えないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱ此処だったか」

 

 

 大我の辿り着いた先は、現在は閉鎖されている展示場であった。黄色の立ち入り禁止テープが入り口前に張られ、そこから外側に怪我をした警官が数名。

 

 そして『長門』の巨大模型をバックに立っているバグスター。それに対峙している大我。ゲーマドライバーを装着し、右手には1つのガシャットが握られている。

 

 そのガシャットをバグスターに向け、起動させる。

 

 

【バンバンシューティング!】

 

 

 ドラム缶が幾つも現れ、展示場一帯に広がった。大我はガシャットを指に引っかてくるくると回し、止める。

 

 

「変身」

 

 

 ガシャットをゲーマドライバーに入れ、レバーを開く。

 

 

【ガッシャット!】

【ガッチャーン!レベルアーップ!】

 

【ババンバン!バンババン!(Yeah!)バンバンシューティング!】

 

 

 大我は仮面ライダースナイプ、レベル2に変身するとウェポン選択画面から銃を選んだ。

 

 

【ガシャコン・マグナム!】

 

 

 そしてキメワザスロットホルダーのボタンを押し、ゲームエリアを選択した。

 

 

【ステージセレクト!】

 

 

 選んだのは工事現場で見かけそうな場所。しかし周りには何もなく、ただ広い砂と砂利を固められた地面だけ。

 

 バグスターは低級バグスターを呼び出し、大我は予めBボタンを連打し戦闘態勢を整えて向かった。

 

 

「ミッション……開始!」

 

 

 ガシャコン・マグナムを敵に向けて先ずは発砲する。Bボタンを押したことでマシンガンの様にエネルギー弾が放たれていく。

 

 勿論相手も避けて発砲はしていくが、大我は砲撃を避け的確にエネルギー弾を発射していると3体には当たった。

 

 

「「「□□□───ッ!」」」

【HIT!】【HIT!】

 

【HIT!】【HIT!】【HIT!】

 

【HIT!】【HIT!】

 

 

 一旦射撃を止め、前方右斜めから来る砲撃を避け後ろからの砲撃も避けていく。そしてまたエネルギー弾をマシンガンの様に放っていく。

 

 相手は集団での戦闘、大我1人だけであるが相手は数の多さによって的を増やしている様なもの。つまり撃っていたとしても必ず最低1体バグスターに当たるのだ。

 

 周囲全体への連続エネルギー弾を放つ。避けられるのも居たが、その内7体は当たったことを確認する。

 

 

「「「「「「「□□□───ッ!」」」」」」」

 

【【【【【【【HIT!】】】】】】】

 

 

 中々善戦している様子の大我。だが慢心はしていない。大我の過去のこともあるが、それ以上に突き動かしていたのは高山のことであった。

 

 

「……ったく、学生の癖して」

 

 

 砲撃を避けながらも、発砲しながらも呟き続ける大我。

 

 

「医者でもねぇのに、患者に寄り添って……エグゼイドかっつーの」

 

 

 マシンガンの如く放たれるエネルギー弾を低級バグスターに当てて消滅させている。

 

 

「だがなぁ……アイツが必死になって守った患者を、俺が守らないでどうする!?」

 

 

 ガシャコン・マグナムのAボタンを押し、ハンドガンからライフルへと変形させ後ろに居る低級バグスターに当て消滅させる。

 

 

「俺たちドクターが!ゲムデウスに負担を掛けさせてどうする!?」

 

 

 大我の思いは戦闘に表れていたのかもしれない。高山が身を呈して守ったからこそ、自分たちがやらなければならない義務を果たす為に。

 

 しかし、大我の後ろで発砲音がした。

 

 

「なっ!?がッ!」

 

 

 その攻撃を受けてしまった直後、周囲の低級バグスターの砲撃が一斉に大我に向かわれた。このままでは不味いと咄嗟にレバーを閉じてレベル1に戻った。

 

 

【ガッチョーン】

 

 

「ぐあっ!」

 

 

 しかし攻撃の威力が大我の変身を解かせた。その際、用意していたガシャットとギアの付いたガシャットが外に出てしまった。

 

 本命のバグスターが大我のゲーマドライバーとガシャットに近付く。必死の抵抗をしようと腕を伸ばそうとするが、近くの地面に小さく穴が開き手を引っ込めてしまった。

 

 そのバグスターはガシャットとゲーマドライバーに手を近付けた。そうした途端であった。プロペラ音が聞こえてきたのは。

 

 

「ッ!?あれは……!」

 

 

 そのプロペラ音の正体を大我は知っている。手を近付けていたバグスターに攻撃し意識を逸らした。

 

 

「あれは……バーニアバグスターの飛行ユニット!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、どうやら上手くいったか」

 

「「!?」」

 

 

 突如近くから声が聞こえた。その声の正体はバグスターを殴り付けて吹き飛ばし大我から離れさせる。

 

 

「お前、ゲムデウス!」

 

「うむ、私がゲムデウスだ。……と自己紹介はこれまでにしておくか」

 

 

 高山に憑依しているゲムデウスは大我が落としたギアの付いたガシャットを手に取った。

 

 

「お前……ゲーマドライバーも無いのに」

 

「まぁ待て。実はこの前面白い変身を見てな、ちょうど試したくなったのだ」

 

 

 そのギアの付いたガシャット─【ガシャットギアデュアルβ】─のギアを回した。

 

 

【BANG BANG SIMULATION!】

 

 

 するとガシャットギアデュアルβに白い電流の様なものが走り、画面から“シミュレーションゲーマ”を呼び出す。

 

 

【I'm ready for Battleship! I'm ready for Battleship!】

 

 

 ゲムデウスはガシャットのボタンを押した。

 

 

「変身」

 

 

【DUAL UP!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────Loading……──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【DUAL UP!】

 

 

 画面から出現したシミュレーションゲーマが高山に憑依しているゲムデウスに装着される。両腕の外側には砲身が半分ずつあり、その砲身の先端にはオレンジ色のクローが存在してる。肩には小さな砲台を両肩に装備し膝にも同じ様に装備されている。外装は灰色をベースに足は赤く、水兵帽を被り顔は緑色の円形の板によって覆われている。

 

 極めつけは胸に取り付けられた大きく胸に穴が空いた装甲。灰色に加え通気孔らしき場所は赤く染められている。

 

 

【Enemy is coming! Shoot down there! Bang Bang Simulations!】

 

 

 変貌したゲムデウスの姿に、大我は呆気にとられるしか無かった。そもそも大我の持つガシャットギアデュアルβはゲーマドライバー用に作られたもので単体で使える筈が無かったのだ。

 

 

「お前……その、姿…………」

 

「ふむ、上手くいったか。実験は成功ということか?」

 

 

 

 首を動かし自らの装甲や体を見ているゲムデウス。何か実験と称していたが、そんな事を考える暇を与えずにゲムデウスは大我に告げた。

 

 

「花家大我、お前もぼさっとするな」

 

「ッ………あ、あぁ。そう、だな」

 

 

 大我は落ちているゲーマドライバーと2つのガシャットを持ち、ゲーマドライバーを装着するとガシャットを起動させる。

 

 

【バンバンシューティング!】

【ジェットコンバット!】

 

 

 2つの画面が出現し、その内の1つからはコンバットゲーマが出現していた。大我は2つのガシャットをゲーマドライバーに入れレバーを開き変身する。

 

 

【【ガッシャット!】】

 

 

「第参戦術」

 

 

【【ガッチャーン!レベルアーップ!】】

 

【ババンバン!バンババン!(Yeah!)バンバンシューティング!】

【アガッチャ!ジェット!ジェット!イン・ザ・スカ~イ!ジェット!ジェ~ット!ジェットコ~ンバ~ット!】

 

 

 レベル2のスナイプからコンバットゲーマが頭から覆い被さり、レベル3であるコンバットシューティングゲーマーへと変身すると空へと浮遊する。

 

 

「さて……このレベル50(フィフティー)。もといMark 50の力、試してみるか」

 

 

 ゲムデウスは右腕を上げ、クローを相手に向ける。大我は両サイドのガトリングコンバットを低級バグスターに向けて合図を出し合う。

 

 

「Destroy mission start」

 

「ミッション……開始!」

 

 

 ゲムデウスは低級バグスターに向かって走りだし、大我は低級バグスターに上空による射撃を行う。低級バグスターは大我の射撃によってダメージが入る。

 

 勿論避けるバグスターも居るが、その場合は……

 

 

「花家!行くぞ!」

 

「ッ!」

 

 

 ゲムデウスが逃げている低級バグスターに攻撃を与え上空へと飛ばし連射によって消滅させていく。

 

 

【HIT!】

【【【【【【HIT!】】】】】

 

 

「□□□───ッ!」

 

「まだ行けるな!?」

 

「当たり前だ!」

 

 

 ゲムデウスは主にクローによる格闘戦で戦っている為、大我の援護射撃によるカバーが必須である。しかし大我にも撃ち洩らしというのは存在する。そこで、肩や膝にある砲身とゲムデウスの目の前にある緑の円形の板が役に立つ。

 

 

「……5時方向!」

 

 

 ゲムデウスがそう言うと右肩の砲身が移動し砲撃を開始する。すると近付いていた低級バグスターに衝突しダメージを与えた。

 

 

【GREAT!】

 

 

「□□□───ッ!」

 

 

「続いて7時方向、10時方向!」

 

 

 今度は左肩と左膝の砲身が移動し砲撃を開始する。砲撃を開始しようとしていた低級バグスターは、ゲムデウスの放った砲撃によってダメージを与えられ中止せざるを得なかった。

 

 

「「□□□───ッ!?」」

 

 

【HIT!】【GREAT!】

 

 

「何だありゃ……砲身が移動して全方位射撃可能かよ」

 

 

 そしてゲムデウスが何故バグスターの位置と距離が理解できるのか。その仕組みはゲムデウスの目の前にある緑の円形の板であった。

 

 ゲムデウスから見ると、これには敵の全ての位置が把握できるレーダーの役割を持っており相手が移動すると敵として認識している赤いマークが同じ様に動くのだ。

 

 クローによる接近戦に加えレーダー感知による遠方からの砲撃。ほぼ死角は無いと言える形態であった。

 

 

「ふむ、大分馴染んできたか。…………おい花家!俺の動きに合わせろ!」

 

「ッな!?」

 

 

 ゲムデウスは突如滑る様にして移動し始めた。まるで船が水の上を移動するが如く滑らかに移動しているのだ。低級バグスターたちも同じ様にい移動しゲムデウスの後ろを着き始めた。

 

 

「……アイツ、考えやがったな」

 

 

 大我は意図を読めたのか低級バグスターの後ろに着き同じ速度で移動していく。

 

 低級バグスターの一部はジェットの音に気付き後方を向くも、大我の射撃によってダメージを受けた。

 

 

『□□□───ッ!』

 

「!?」

 

 

 前方に位置しているバグスターが後ろを向いた。そして突如ゲムデウスが足を止め、全砲撃を低級バグスターに向けて放つ。これにより低級バグスターの全てに大打撃を与えた。

 

 

『□□□□───ッ!』

 

「花家!そのバグスターの殲滅は任せた!」

 

「お前はどうする!?」

 

「司令塔を潰すまでよ!」

 

 

 ゲムデウスは本命のバグスターにある程度の距離まで縮めるとホルダーからガシャットを引き抜きギアを回す。

 

 

【KIME WAZA!】

 

 

 大我はジェットコンバットのガシャットをゲーマドライバーから引き抜き、キメワザスロットホルダーに差し込みボタンを押す。

 

 

【ガッシューン】

【ガッシャット!キメワザ!】

 

 

 ゲムデウスはホルダーにガシャットを差し込み、大我は再度キメワザスロットホルダーのボタンを押して必殺技を発動させる。

 

 

【DUAL GASHAT!】

【Bang Bang Critical Fire!】

 

【JET CRITICAL STRIKE!】

 

 

 大我はガトリングコンバットと内蔵されているミサイルによる一斉射撃によって低級バグスターを殲滅させていく。

 

 

『『□□□□□────ッ!』』【PERFECT!】

 

 

 ゲムデウスは全砲身をバグスターに向けて構え、両腕を合わせ砲身の形を作ると胸の穴からエネルギーが蓄積される。ある程度のエネルギーが溜まった瞬間、エネルギーの発射と共に砲撃を行った。

 

 

「ハアアァァァァァァァァ!」

 

「□□□───ッ!」

【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【GREAT!】

 

【PERFECT!】

 

【会心の一発ゥ!】

【mission complete!】

 

 

 バグスターを倒したことでゲームエリアから解放されるとゲムデウスと大我は変身を解く。

 

 

【ガッシューン】

【GASHU-N】

 

 

 バグスターが居た場所には高山のゲーマドライバーとドクターマイティXXのガシャットが落ちており、ゲムデウスがそれらを拾いに行った。先にドクターマイティのガシャットを拾いガシャットを刺すと青い光に包まれた。

 

 少しするとガシャットを離し高山と意識を交換した。そしてゲーマドライバーを拾い、今度は大我の元へと行きガシャットギアデュアルβを返却する。

 

 

「ありがとうございました、花家さん」

 

「……あぁ」

 

 

 大我は手を伸ばそうとしたが、直前で止まってしまった。幾らウィルス適合者といえど、ガシャットに何か細工されては些か不安になるのも無理はない。

 

 

「あ、ゲムデウスから伝言です」

 

「ッ……な、何だ?」

 

「“ガシャットに関しては恐らく大丈夫”だそうです。流石にぶっつけ本番だったので保証はできませんが、何時も通りの変身をしても構わないって」

 

「……いや、1番安心できねぇよ」

 

 

 少しの不安と患者を救えた安心感を入り交じらせながらCRへと戻っていったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 CRに到着した2人は明日那と黎斗神に出迎えられた。明日那は兎も角、黎斗神が来たのは驚きを隠せない大我。黎斗は高山に近付き口を開いた。

 

 

「首尾よくやれた様だな」

 

「えぇ。でも……ゲムデウス、突拍子もないこと思い付いたんですよ?失敗したら不味いじゃないですか」

 

「だがゲムデウスの実験は成功した……内容は知らされて無いがなぁ!」

 

「すいません…………」

 

 

 高山は謝罪する。確かにゲムデウスの行動は何処か抜けていることが多く、勝手に大我の元に向かい勝手にガシャットギアデュアルβを使用したのだ。

 

 そんな時に患者であった玄太郎が高山の元に歩いてきた。

 

 

「高山さんや」

 

「玄太郎さん……良かったです」

 

 

 お互い声を掛け合いハグをする。離れた玄太郎は高山に話しかける。

 

 

「ありがとうなぁ……こんな老体にのぉ」

 

「いえ、お礼なら花家先生に。僕は医者じゃありませんから」

 

「……………フッ」

 

 

 大我は何処か顔を逸らした。玄太郎は大我に向き頭を下げた。

 

 

「すまんかった、花家先生。儂の横暴を我慢してくれて」

 

「いえ、医者なら必ず通る道ですから」

 

「ほうかい」

 

 

 突如CRのドアが開かれる音がした。何かと思って見てみると見慣れない男性が現れた。その男性は誰が聞いても良かったのか口を開いた。

 

 

「す、すいません!ここに、祖父が居る……って……」

 

 

 その男性は玄太郎を見ると言葉を詰まらせた様な表情をした。それは玄太郎とて同じな様で。

 

 

「こ、幸助……か?」

 

「じい……ちゃん?びょ、病気はどうしたんだよ!?」

 

「病気なら治ったわい!こ、幸助こそ……!今まで……何故……!何故今頃になって……!?」

 

 

 幸助と言われた男性は答えていく。

 

 

「俺は……今日、偶々仕事が休みだったから」

 

「……仕事じゃと?3年前から、か?」

 

「あ、うん……海上自衛隊で」

 

「…………ほ?」

 

 

 間の抜けた声であった。だが、次第にそれは喜びへと変わった。

 

 

「だ、だから海上自衛隊に所属してるんだ。俺、じいちゃんから聞かされた話が楽しくて……俺も船に関わる仕事してじいちゃんを驚かせようと……」

 

「そ、それで……連絡も無かったのか?」

 

「最初は忙しくて……でもじいちゃんにも喜んでもらいたくて!必死に頑張って、今は二等兵所属なんだ」

 

 

 玄太郎は目尻に涙を浮かべていた。まさか自分が話していた事が、孫の将来を決めていたのだ。だが孫が就いたのは玄太郎が好きであった船を乗り、国を守る仕事であった。

 

 玄太郎は幸助と呼ばれた青年を、自分の孫を力強く抱きしめた。

 

 

「ほうか……ほうかぁ……!やはり、儂の孫じゃあ……!」

 

「じ、じいちゃん……」

 

「林田幸助さん」

 

 

 大我が幸助の名前を言うと、幸助は大我の方を振り向く。

 

 

「は、はい」

 

「玄太郎さんの担当医であった花家大我です。治療を施し玄太郎は何時も通り元気になりましたよ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「あぁそれと、今回は玄太郎さんと少し訪れてもらいたい場所があるんです」

 

「ど、何処でしょうか?」

 

 

 大我は1つのパンフレットを幸助に手渡した。

 

 題名は『甦った古き良き歴史』と書いてあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




【アドミラルバグスター】

 戦艦の艦長をモチーフとしたバグスター。軍服に幾つもの称号、被られた白いキャップには錨のマーク。肌は灰色、ガスマスクとモノクルを掛け合わせた物を装着されている。

 固有能力として戦艦武装させたバグスターを呼び寄せることが可能。戦闘は殆どそのバグスター任せであるが故に、本体の戦闘能力は皆無。








【ゲムデウス シミュレーションゲーマー】
 変身者は高山明に感染したゲムデウスがガシャットギアデュアルβの『バンバンシミュレーションズ』によって変身した姿。

 スキンは灰色をベースに足は赤色。水兵帽を被り顔の前には緑の円形の板が存在している。

 武装には腕の外側に装着された半分ずつの砲身の先端のオレンジ色のクローと、肩と膝に装着された小さな砲台。胸の穴の空いた装甲のみ。だが肩の砲身は360度稼動でき、膝の砲身は180度稼動できる

 そして眼前の板はレーダーの役割を持っており、自分を中心に360度、半径5㎞に居る敵の位置を把握できる。

 必殺技として肩と膝の砲台。そして両腕を合わせ、胸の穴から発生する電磁砲(レールガン)の一斉総射。


※視聴者諸君!何故このSSにギアデュアルβの単体音声が流れたのかぁ!?何故私が第5話のパート2で後書きにギアデュアルβのことを書いたのかぁ!?何故今になって出てきたのかぁ!?

 その答えはただ1つ!あの時の後書きが、伏線だったからだぁ!ブゥーハハハハハハ!










次回!Dr.ゲムデウスは!

 ついに明かされるゲムデウスの秘密!

「やはり私は神ィ!」


 今度の相手は……パーティ!?

「くっそ!キリがない!」


 打ち破れるのは……魔王の力!

「貴様らは完膚無きまでに叩き潰すまでよ」



 第8話『Partyに勝つ為の力!』


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第8話 partyに勝つ為の力!

大変遅くなって申し訳ありません!m(_ _;m)三(m;_ _)m

少し話の展開か思い付かず、この様に遅れてしまいました。今度からは少し無理せず話を考えて投稿したいと思いますので、また遅くなるかもしれません。

御手数をかけますが何卒ご了承を。

では、本編をどうぞ。


 ゲムデウスによるギアデュアルβでの変身、そして患者の救助が終了し、ちょうど1週間が経過していた。しかしその前日、黎斗神はパソコンに向かい合ってゲラゲラと笑っていた。

 

 

「ブェヘハハハハハハハハ!そうか!やはり私の推測通りだぁ!」

 

 

 そのパソコンの画面にはゲムデウスがガシャットギアデュアルβを使用した時のデータ、ドクターマイティ使用時に使われるガシャコンウェポンの1つ【ガシャコン・シールド】のデータ。そして大我のギアデュアルβのデータが映し出されていた。

 

 未だに黎斗神は異常なまでに口角を上げ笑みを作り続けていた。

 

 

「ゲムデウスゥ……まさか貴様にこれ程までの能力が存在していたとはぁ。だが当初は気付きもしなかった……まだ永夢の力が不正だった分、此方は比較的まだ良い」

 

 

 檀黎斗神が辿り着いた1つの答え。あの時のギアデュアルβに流れた白い電流の様なもの、そしてガシャコン・シールド。「これらから導き出される答えは1つゥ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それこそが“バグ”だああああ!」

 

 

 この台詞、先程の翌日に。そして今、高山とポッピー、飛彩の目の前で言われていた。

 

 

「バグ……ですか?」

 

「そのとぅーり!ゲムデウスが何故ギアデュアルβのガシャットを使えたのか!?何故見知らぬガシャコンウェポンが増えたのかぁ!?その答えはただ1つ!ゲムデウスのデータによるバグなのさぁ!」

 

 

 いきなり目の前で言われて困惑している高山を除き、ポッピーと飛彩は何を言っているのか分からないままで黎斗神と高山を交互に見ていた。

 

 そして1体。このことを言われても平然としているのも居る。それこそが……この黎斗神の暴走の切っ掛けの1つでもあるゲムデウスである。

 

 

『ふむ、黎斗も辿り着いたか』

 

「ゲムデウス?何がなんなのか俺に説明して。でないと黎斗神さんが「では説明していこうかぁ!」ほら見たことか」

 

 

 若干黎斗神のテンションの流し方を覚えてきている高山。だが黎斗神がここまでテンションを高くするのは、あまり見ない光景である。

 

 

「先ず君が使っていた【ガシャコン・シールド】。これとゲムデウスの関連性だ」

 

 

 黎斗神はパソコンに2つの画像を提示させる。1つはガシャコン・シールドだが、もう1つは淡い黄色に染められた盾。

 

 

「盾……ですか?」

 

「そう。左のが君の使うガシャコン・シールド、右のはゲムデウスが使う【宝盾 デウスランパート】と呼ばれる盾だ。恐らくこれがガシャコン・シールドに“なっている”」

 

「…………なっている?」

 

 

 高山、そして話を聞いているポッピーと飛彩は何故その様な考えに至ったのか理解ができなかった。それを予想通りと云わんばかりにドヤ顔を決め、今度はグラフの様なものを出した。

 

 

「これは…………?」

 

「デウスランパートのウィルス量、そして一定の量まで減らすと……この通りだ!」

 

 

 グラフの最上部にはゲムデウスの使う【デウスランパート】が映し出されるが、グラフに沿って下へと下がっていくと画像にザッピングの様なものが現れる。そして次第にガシャコン・シールドへと変貌を遂げた。

 

 このデータに驚きを隠せないのは見ていた高山だけであった。

 

 

「……ってことは、僕が使ってたのってゲムデウスの盾だったってことですか!?」

 

「あぁ、その通りになる」

 

 

 再度ドヤ顔からの恍惚とした表情コンボが繰り出される。このコンボは何時見てもドン引きしか起こらないが、黎斗神は直ぐに次の話題へと移る。

 

 

「っと、次だな。ゲムデウスが変身した姿……あれこそゲムデウスウィルスによるバグだ」

 

「本来の変身方法ではない……ということですか?」

 

「実際には“そのゲームに存在しない仕様”という考えが当てはまっている。噛み砕いて言えばそうなるな」

 

 

 次に黎斗神はガシャットギアデュアルβのデータを見せる。高山にはあまり分からないのだが、黎斗はが見て可笑しかった所を指摘する。

 

 

「これは花家大我から調査の為に渡された時のデータだが……一部のデータが少々書き換えられているのだよ。ただ今はウィルスの活性化も無い辺り、ゲーマドライバーに差し込めば元に戻るのは間違いない」

 

「ほっ……一応安心しました」

 

『大丈夫と言ったろ』

 

 

 “ただ……”とそこで言葉を止める黎斗神。高山とゲムデウスが内心疑問符を浮かべる中、黎斗神は再度言葉を綴った。

 

 

「ゲムデウスウィルスが活性化した状態でギアデュアルβを使用し変身すれば……恐らく何らかのバグが起こる可能性が非常に高い。例えを1つ出すなら“壁抜け”も起こりうる」

 

「か、壁抜け…………ですか」

 

「勿論、可能性としてエナジーアイテムの使用不可になる場合も思うように移動できない場合も有り得る。使用する際は気を付けたまえ」

 

『使っても良いものなのだな』

 

「それと……君用にギアデュアルβの製作も取りかかっている。些かバグの問題を解決する為のデータ構成に時間が掛かってしまうがね」

 

「おい檀黎斗」

 

 

 高山と黎斗神の話に割り込んだのは、この場に居る飛彩であった。だが飛彩が割り込むのも無理は無いと言える。

 

 

「まだそいつは学生だ。それに今はドクターではないのにも関わらず、必要以外のガシャットを渡してどうする?」

 

「ま、まぁ……ドクターマイティの場合はウィルスの抑制という名目で使わせてもらってるだけですし。黎斗神さん、流石にこれ以上ガシャットを貰うのは……」

 

「ふむ、拒むと?」

 

「簡単に言えば…………」

 

 

 それを聞いた黎斗神は次第に笑みを作り、背を反らしながら大きく息を吸い……

 

 

 

 

 

「前回の戦いでガシャットを奪われたのにくぁ!?」

 

 

 声を荒げて高山にかなりの声量を浴びせた。それを諸に受けた高山は目を細めながら両手で顔を死守する。実際黎斗神からは唾が数滴ほど出ていた。

 

 

「ガシャットを奪われた!?」

 

 

 勿論飛彩は先日、高山がガシャットを一時奪われたことを知らなかった。その時は外科医としての案件を請け負っていたので知りはしなかった。

 

 その先日のことをポッピーが簡単に説明していく。

 

 

「高山さんが戦っていた時、ドジ踏んじゃったらしくて……それのせいで攻撃受けてゲーマドライバーとガシャットが離れて変身が解除されて。その時戦ったバグスターにガシャットとゲーマドライバーを一時的に奪われちゃって」

 

「だからこそ!君にはもう1つガシャットが必要なのだ!謂わば保険の様なものだ!」

 

 

 高山に指を指しながら黎斗神は作製目的を言った。過去に起こった事は消えはしない、そして過去から対策を学ぶ様に黎斗神は再度奪われたことを見通して3つ目を作製していた。

 

 

「檀黎斗、訂正しよう。奪われた経緯があるのならば仕方がない」

 

「あはは……では、すみませんが」

 

「あぁ。任せたまえ!」

 

 

 早速黎斗神がアーケードタイプのゲーム機に入り作業をしていく。高山は溜め息を吐いたあと、一礼してCRから退出しようとした。だったのだが……

 

 

「医学生、少し時間はあるか?」

 

 

 飛彩に呼び止められてしまった。医学生というのは高山しか居ないため数瞬だけ止まりすっとんきょうとした返事をしながら飛彩の方を向く。

 

 

「はぇ……?何でしょうか?」

 

「俺もこれから暇なんだ。良ければと思い君の大学のカフェテラスを案内してくれないか?」

 

「別に構いませんが……何故に?」

 

「小児科医からお前の大学にあるカフェテラスのシフォンケーキがオススメと聞いただけだ。1つ俺が味の方を確認する」

 

「要は食べたいだけでしょ」

 

 

 ポッピーのツッコミを聞きつつ高山は飛彩を東都総合大学へと向かっていった。心なしか飛彩の表情は柔らかいものとなっているのを、少しだけ後ろを見た高山が確認している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メス」

 

 

 そう言いつつ何処からかナイフとフォークを取りだしシフォンケーキ1ホールを丁寧に切り分けていく。

 

 

『いや何処から取り出した?そのメス』

 

「気にしたら負けだと思う」

 

 

 高山の意識に語りかけるゲムデウスは高山と同じく気にしたら負けなことを考えていたようだ。

 

 

「ゲムデウスか?」

 

「えぇ。かなり俗っぽくなってますけど、会われますか?」

 

「いや辞めておこう。今は……コイツだ」

 

 

 そして1ホールのシフォンケーキに手をつける。ほのかな甘味が飛彩の口に広がり、表情を和らげさせる。微笑ましそうに見る高山と、何故か地味に右腕を乗っ取ってフォークを取りに行こうとしているゲムデウスが居た。

 

 

「って、ゲムデウス?何勝手にフォーク取ろうとしてるの?というか然り気無く操作しないでよ」

 

『む、バレたか』

 

「……おい不味くないか?」

 

 

 唐突に飛彩から声が発せられたので、高山は飛彩を見る。シフォンケーキの最後の1切れをフォークに刺して持ったまま高山の方を見ていた。だが危機感と呼べるものを感じていなかった高山はどう答えて良いか分からない。

 

 

「う~ん……ゲムデウス、これって不味いかな?」

 

『う~む…………不味い、と言えば不味いのかもしれん』

 

「というと?」

 

『確かに私の様な存在が人間を操るとなれば不味いのかもしれん。しかしお前は少々“侵食”されているが故、ある意味仕方の無いことかもしれん』

 

「侵食?俺が、ウィルスに?」

 

「ウィルスの侵食だと?」

 

『1から説明すると、先ず侵食が進んだのはドクターマイティのガシャットを使用し変身した際だ。あのガシャットは私対策のワクチンと言えど、元は私のウィルスから作られたものに等しい。謂わば“毒をもって毒を制す”という諺が当てはまっているな。その毒による侵食が1つ』

 

「……なるほど。んで、まだあるのか?」

 

『勿論。次に私がギアデュアルβを使用し変身した際の事だ。あの時、私はギアデュアルβのガシャットに私のウィルスを紛れ込ませてバグを引き起こし変身した。勿論戦うのは私だが、同時にお前でもある』

 

「確かに体は俺のだ。ゲムデウスが戦おうと俺が戦おうと一緒だしな」

 

『そこなのだよ。あの変身は実質肉体に私のウィルスを流し込む様なもの。幾らワクチンの接種によって抑制されたとはいえ、あの時は時間経過も相まってワクチンが弱まっていたのだ。恐らく侵食の原因はその2つに絞れる』

 

「なるほど……じゃあさっきのヤツ鏡さんに話して良い?」

 

『構わん。どうせ何時か知る』

 

 

 高山はゲムデウスが言ったことを伝えた。飛彩は最後の1切れを皿に起きフォークをナイフを用いて抜き取ると、それらを皿に添える様に置いた。

 

 

「……かなり不味くなっているではないか」

 

「まぁ僕も知らなかったんですけど……ゲムデウスが言うの遅いというか」

 

『話せと言われてなかったからな』

 

「おい」

 

 

 簡単なボケとツッコミのやり取りの直後、高山と飛彩の見ている景色が一変した。2人は座っていた状態から移動させられた為、尻餅をついてしまった。

 

 

「いてて……鏡さん、大丈夫ですか?」

 

「平気だ。……それはそうと、此処は?」

 

 

 その景観は、まるでイタリアのコロッセオを思い出させるかの様な闘技場の中であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────Loading……──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここ……“コロッセオ”みたいですね、イタリアの」

 

 

 そう飛彩の問いに答えるかの様に周囲を見渡して呟いた高山。実際闘技場の中の様な内装の為、コロッセオの様に見えなくもない。

 

 

『だが瞬間移動でイタリアに来た……という訳でも無いだろう?』

「だが瞬間移動でイタリアへ到着した……という訳でも無いだろう?医学生」

 

「……ゲムデウスと声が重なったのは驚きましたけど、そうですよねぇ」

 

 

 後頭部から首の後ろをポリポリと掻きながら辺りを見渡し、座っている状態から立ち上がる。飛彩もそれを見て立ち上がり付着した砂を払う。

 

 

「もし瞬間移動だとしても、ここはコロッセオではない。1つ思い付くのは……ステージセレクトによる現象しか知りませんし」

 

「……いや、強ち間違っては無いのかもしれん。恐らくゲームエリアと考えて良さそうだ」

 

『その認識は間違いないな。実際人間の気配よりも……』

 

 

 そんな中、唐突に離れた場所から歓声の様なものがわき起こり咄嗟に身構えた2人。その周囲を見れば何故かバグスターが歓声を引き起こしていたのだ。

 

 

『バグスターの気配が主だ。人間はお前らだけだ』

 

「えぇ……嘘でしょ?」

 

『嘘を言う道理が何処にある?』

 

 

 やっぱりかと頭を垂れて失望の表情を表した高山。溜め息をつきながらなので堪えるものがあるのだろうか。

 

 一方の飛彩は一体何が起きているのか理解ができていなかった。そもそも何故バグスターから歓声が沸き上がっているのか知る由も無いので仕方がないのだが。

 

 

『……ふむ。おい宿主、ゲーマドライバーとガシャット』

 

「はいはい」

 

 

 高山はゲーマドライバーを腰に当て、ベルトを展開させ装着する。この一連の行動を見て不思議に思った飛彩だが同じくゲーマドライバーを腰に当て、ベルトを展開させ装着する。

 

 高山は右手にドクターマイティXXのガシャットを、飛彩は同じく右手に【タドルクエスト】を持った。

 

 

「……ん?鏡さん、分かるんですか?ゲムデウスが感じた気配が」

 

「いや。ただお前がゲーマドライバーを装着した時、恐らく手術(オペ)が始まるのだと思ってな」

 

「ですよね」

 

 

 そんな話を終えると高山たちの前方から扉の開く音が聞こえた。かなりの重厚音が響いてくるが、依然として“どの様なバグスター”が来るのかは理解できない3名。

 

 足音が4つ響く。重なっているものもあるので分かりにくいが、音の感覚からして4つと分かる。4つと言えば、高山とゲムデウスからはあの4兄弟バグスターが脳裏に浮かぶのだろう。

 

 しかし今回は違っていた。やって来たのはパーティー、しかも賢者の様な服装の女型バグスター、拳闘士の様なガチムチのバグスター、尖り帽を被った紫ローブの魔法使いの様なバグスターに青服を着た勇者の様なバグスター。全員顔は能面のようである。

 

 ここまで言えば分かるであろう。まるで勇者御一行の様なバグスターのメンバーであるからだ。

 

 

「□□□──!◆◎▲▽〒○★§♪♭──!」

 

 

 またも突如、離れた場所からスピーカー越しの様な声が聞こえる。高山はゲムデウスに翻訳を求めた。

 

 

「……ゲムデウス、翻訳宜しく」

 

『了解した。先程のは“勇者御一行が到着したぞー!”だ』

 

「まんまRPGじゃん……」

 

「医学生、変身の準備をしておけ」

 

 

 飛彩はタドルクエストのガシャットを起動させ、周囲に宝箱を展開させる。高山は何時ものようにガシャットを起動させ、カプセルを周囲に展開させる。

 

 

【タドルクエスト!】

【ドクターマイティXX!】

 

 

「¶●◎◇─!▲■◇※◎§♪〒♡□▽▼─!◆◎☆△○&*★、♭#@●◎─!?」

 

『“今宵の対決はー!勇者御一行vsチャレンジャー!かなり無謀だが、大丈夫かー!?”だ。どうやら我々はチャレンジャーとしての扱いらしい』

 

「成る程……飛彩さん、どうやら僕らは挑戦者という立場に居て、あの目の前の4体のバグスターを倒せば良いみたいです」

 

「説明ご苦労。……では、最終調整と行こうか」

 

 

 飛彩が先にゲーマドライバーにガシャットを差し込む。それに続くかの様に高山もガシャットを差し込み、両腕を交差させてXの文字を作る。

 

 

【ガッシャット!】

【ダブルガシャット!】

 

 

「術式レベル2」

 

「Mark X-2!」

 

「「変身ッ!」」

 

 

 飛彩と高山は同時にゲーマドライバーを開き変身する。

 

 

【【ガッチャーン!レベルアーップ!】】

 

【タドルメグル!タドルメグル!タドルクエストー!】

【ドクターマイティ!2人で作る!ドクターマイティ!2人でメイキーング!X!】

 

 飛彩はパネルを通り過ぎ仮面ライダーブレイブ『クエストゲーマーレベル2』に変身し、高山は仮面ライダーゲムデウス『ドクターマイティゲーマーXR・XL』に別れ変身した。

 

 

「これより、バグスター切除手術を開始する」

 

「「これより製薬実験を開始する」」

 

 

 飛彩は両腕を挙げ、高山とゲムデウスはそれぞれ右腕と左腕を交差させXの文字を作り決め台詞を言った。多少似ている所があるが、そこはご愛嬌。

 

 

「‡▲◆◇●@~………&☆─☆!」

 

「行くぞ」

 

「りょーかい!」

 

 

 高山とゲムデウスが走りだし4体のバグスターに向かう。

 

 

【ガシャコン・ソード!】

 

 

「俺もうかうかしてられないな」

 

 

 飛彩はアイテム選択画面からガシャコン・ソードを装備し4体のバグスターに向かって走る。

 

 先に到着した高山とゲムデウスは勇者服のバグスターと賢者服のバグスターと対峙する。

 

 相手はそれぞれ剣と盾、杖という装備であるが攻撃役が1体と回復役が1体。対し高山とゲムデウスは2名とも攻撃役、そして徒手空拳での戦闘だが“エナジーアイテム生成”の能力もあり回復も可能である。

 

 

「むぅん!」

 

 

 先にゲムデウスが右フックを仕掛けるが相手は盾で受け止め、持っている剣で攻撃しようとするが。

 

 

「おいしょっと!」【HIT!】

 

 

 高山がバグスターから見て左から現れ、横腹にヤクザ蹴りを放つ。それにより体勢の崩れたバグスターを見て、ゲムデウスはすかさず上から拳を叩き付ける様に殴る。

 

 

「ッ!チィ!」

 

「わっとと!」

 

 

 しかし賢者バグスターの方から素早い突風が発せられ、それに当たりかける2名。直ぐに気付いて避けたが、かすったのか微量にライダーゲージが減る。

 

 

「先に賢者から倒そうか、ゲムデウスは勇者の足止め頼むよ」

 

「分かった」

 

 

 高山が賢者バグスターに向かう所を勇者バグスターに阻まれそうになるが、ゲムデウスが相手どり高山は心置きなく賢者バグスターと対峙していく。

 

 

 一方の飛彩は拳闘士バグスターと魔法使いバグスターと対峙している。

 

 

「くっ……!忙しないなッ!」

 

 

 拳闘士バグスターからは徒手空拳による接近戦、魔法使いバグスターは遠距離から炎を杖から出している。その為、防御に手回るだけで精一杯なのだ。

 

 拳闘士バグスターの拳が迫る所を炎剣モードのガシャコン・ソードで凌ぎ、降り注ぐ氷魔法を後退して避ける。避ける際に1つのガシャットを取りだし起動させる。

 

 

【ドラゴナイトハンターZ!】

 

 

 ゲーマドライバーのレバーを閉じて起動させたガシャットを空いている場所に差し込みレバーを開く。

 

 

【ガッシャット!】

 

 

「術式レベル5!」

 

 

【ガッチャーン!レベルアーップ!】

 

【タドルメグル!タドルメグル!タドルクエストー!】

【アガッチャ!ド・ド・ドラゴ!ナ・ナ・ナ・ナーイト!ドラ!ドラ!ドラゴナイトハンター!Z!】

 

 

 画面からハンターゲーマが出現し両腕、両脚、頭部にハンターゲーマの武装が装備され『ハンタークエストゲーマーレベル5(フルドラゴン)』となる。

 

 向かって来た拳闘士バグスターに対しドラゴンガンの狙撃を使用し距離を保たせつつ、一気に接近しドラゴンブレードで一突きする。

 

 

【HIT!】【HIT!】【HIT!】

 

 

「ハアッ!」【HIT!】

 

 

 一方賢者を相手に戦闘をしている高山からは、かなりの焦りや苛つきが生じていた。それもその筈……

 

 

「当たらッ!ねぇッ!ちょこまか……とッ!」

 

 

 高山は賢者バグスター相手に回し蹴り、ハイキック、飛び蹴り等を使うもひらりと避ける賢者バグスターに手間取っていた。その間にも勇者バグスターや拳闘士バグスター、さらに自身や魔法使いバグスターにバフ支援を掛けている。

 

 フットワークの差で翻弄され、戦況が苦しい状態にある。現に賢者バグスターが隙を突いて杖での攻撃によってライダーゲージが微量ながら減っているのだ。

 

 

「ぐぬぅ!」

 

「ッ!?ゲムデウス!」

 

 

 突如ゲムデウスが飛ばされて高山の近くまで転がってきた。恐らく勇者バグスターの反撃が来たのだと感じられた。

 

 高山は賢者バグスターを攻撃するが距離を敢えなく取られる。攻撃の隙を突いて賢者バグスターも攻撃するが、高山は脇などを使い杖を封じ込める。

 

 

「ゲムデウス、平気か!?」

 

「かなり厄介だ。ゲージが半分切った」

 

「やっぱり……攻撃力UPのバフか」

 

「それだけじゃあない。防御力や速度の上昇もある、これでは埒があかない」

 

「じゃあ第2形態に……!「ぐはっ!」ッ!飛彩さん!」

 

 

 今度は飛彩が飛ばされながら高山たちの近くまでやって来る。直ぐに体勢を立て直したが、現状が不味いことになっていると分かると高山とゲムデウスに相談をした。

 

 

「俺は平気だ……!だが、非常に不味い……!」

 

 

 賢者バグスターが杖を押し込み高山から離れさせると距離を取った。周りを見渡せば4体のバグスターに囲まれているのだ。

 

 

「これは……不味いですね」

 

「XXになったとしても、これでは……」

 

「せめてバフ消去ができれば……」

 

「……もしかすれば」

 

「鏡さん?」

 

 

 飛彩はガシャットギアデュアルβを取りだし、ギアを回転させて起動させる。

 

 

【TADDLE FANTASY!】

 

【Let's going king of fantasy!

 Let's going king of fantasy!】

 

 

 画面からファンタジーゲーマを召喚し、2つのガシャットを抜き取ろうとした途端……

 

「ッ!?」

 

「ぐおっ!?まぶしッ!」

 

「ッ……!あの魔法使いかッ……!」

 

 

 魔法使いが杖を掲げ光を放つ。数瞬だけ辺りが光に包まれるが、次第に光が収まっていく。

 

 

「医学生、何か支障は?」

 

「いえ……特には…………」

 

『何も……って、おいおいおい!』

 

「ん?…………ふぁッ!?」

 

「どうした!?医学……生……何故!?」

 

 

 光が収まった途端、高山の変身だけが解除されていた。しかもご丁寧にガシャットごとゲーマドライバーが無くなっていた。辺りを見渡して確認していくと、魔法使いバグスターがゲーマドライバーを持っていた。

 

 つまりドライバーありきの変身はできなくなった。つまりは……

 

 

「またあれ!?」

 

『しかないな。借りるぞ』

 

「って、ちょまッ!」

 

 

 体を反らし人格を変更すると、ゲムデウスは飛彩の持つガシャットを掴んだ。突然のことに飛彩も少し驚く。

 

 

「すまんな、だが今は“そいつ”を貸してくれ」

 

「ッ……ゲムデウスか」

 

「あぁ、そうだ。そして……分かるよな?」

 

「……致し方ない。邪魔はするなよ」

 

「邪魔はせん」

 

 

 ゲムデウスがギアデュアルβを持つと、ガシャットから白い電流の様なものを流した。そしてガシャットのボタンを押して変身する。

 

 

「Mark50 変身ッ」

 

 

【DUAL UP!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────Loading……──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【DUAL UP!】

 

 

 ゲムデウスの真上からファンタジーゲーマが降りてくる。しかし本来胸に来るパーツが他と分離し、先にそのパーツ以外の武装が降りてくる。

 

 さらに大まかに5つに別れゲムデウスの両腕、両脚、胸に装着され胸には大きくスペードの輪郭を写した鎧が装着される。最後に本来胸パーツであったものがゲムデウスの顔に装着され、両側頭部に山羊の角の様なものが生えマントが現れる。

 

 

【Satan appears! MaOU! Taddle fantasy!】

 

 

 今ここに、仮面ライダーゲムデウス『ファンタジーゲーマーレベル50』が誕生した。

 

 マントをたなびかせ悠々と立っている姿は正しく『魔王』。ゲムデウス自体ラスボスなので、魔王という姿は似合っているだろう。

 

 

「ふ~む……嫌な程に馴染むな。ある意味“恐ろしい”ということだな」

 

 

 お前が言うか。恐らく飛彩の心境はこの様なものだろう。装着時のウィルスを物ともしない馬鹿げた耐性、ゲムデウスウィルスによる侵食というのも相まっているのか定かではない。

 

 手を開き、閉じて体の確認を念入りに行うゲムデウス。しかしその時にも魔法使いバグスターから雷魔法が発せられる。しかも狙いは飛彩に向けていた。

 

 

「!」

 

 

 ゲムデウスが突如バリアの様なものを張り、魔法攻撃を防ぐ。巻き起こる砂塵がゲムデウスと飛彩をバグスターから隠していく。

 

 そして砂塵が晴れていくと、ゲムデウスは虚空に手を翳し選択画面から盾を選ぶ。しかし選んだ盾からは白い電流の様なものが流れ、徐々に本来の姿を取り戻していった。

 

 【宝盾 デスウランパート】。ゲムデウスが持つ装備の1つが、今こうして目の前にあり装備されている。それが装備されていることを確認したゲムデウスは、とあることを思い付く。

 

 

「……成る程。恐らく“あれ”もセットかもしれんな」

 

 

 盾を左手で持ち右手を再度虚空に翳す。すると0と1の乱数の様なものが現れ、それが形を整えさせながら右手に装備させられる。

 

 【宝剣 デウスラッシャー】。ゲムデウスが装備する1つの装備を呼び出した。これを見ていた飛彩は仮面越しであるが驚きの表情を浮かべていた。

 

 つまる所、実質完全なラスボスになっている。魔王の力に加えボスの使用する装備をしている所は、完全にRPGのラスボスである。

 

 数回ほど手に馴染ませ、ゲムデウスは盾を前に出し剣を隠す様に刺突の構えを取る。

 

 

「さて……参ろうか」

 

 

 そこからの行動は早かった。ゲムデウスは先にバフ消去を行いパーティー全体のバフを打ち消した。そして盾から一部を伸ばし、賢者バグスターを掴み剣の射程距離内まで引き付ける。

 

 

「ハァッ!」【HIT!】

 

 

 ある程度まで引き付けると拘束を解除し、上から叩き付ける様に振り下ろす。地面に叩き付けられる賢者バグスターは地面に倒れ伏しているが、消えないことを見るとHPは残されている様であった。

 

 今度は後ろから拳闘士バグスターが迫るが、飛彩によって攻撃され僅かに退(しりぞ)く。

 

 

「ふっ!」【HIT!】

 

「では……お前も本調子ということで、やろうか」

 

「あぁ。この戦闘(オペ)は失敗できんからな」

 

 

 それだけ言葉を交わすと、ゲムデウスは勇者バグスターに向かい飛彩は再度拳闘士バグスターに攻撃を仕掛ける。

 

 ゲムデウスはある程度接近した後、盾で殴り付ける。予想外だったのかバグスターは盾で防御するもバランスを崩した。それを狙わないゲムデウスではない。

 

 

「フッ!ハッ!」【HIT!】【HIT!】

 

 

 盾の隙間を狙った上段からの切り下げ、続いて下段からの切り上げをしてダメージを与えていくゲムデウス。

 

 離れた勇者バグスターは剣を上に掲げ、ゲムデウスの上に魔方陣を作り出す。だがゲムデウスは勇者バグスターに向かって走りだし魔法から逃れる。

 

 これに驚きを隠せない勇者バグスターは向かって来たゲムデウスの刺突により吹き飛ばされ、続けざまに低級バグスターを突撃させ攻撃していく。

 

 

 飛彩の方はというと拳闘士バグスターを押している。ブレードとガンを用いた回転斬りや、ガンでの牽制とブレードの刺突によって着々とダメージが積み重なっていく。途中、魔法使いバグスターによる遠距離攻撃も来るが慌てずに避けガンで動きを阻害させる。

 

 途中、宝箱があり飛彩はそれを壊すと中からエナジーアイテムが出現した。勿論飛彩がそれを使わない手は無い。

 

 

【マッスル化!】

 

 

 マッスル化による攻撃力上昇のバフが掛かり拳闘士バグスターに攻撃をしていく。ダメージはかなりのものとなっているだろう。

 

 魔法使いバグスターが爆破魔法を仕掛けるが防御して防ぐ。しかし近くにあった宝箱が開いてエナジーアイテムが出現した。これは飛彩にとって好都合である。

 

 飛彩は左腕のドラゴンガンにそのエナジーアイテムを付与させる。

 

 

【鋼鉄化!】

 

 

 マッスル化の効果は無くなるが、ドラゴンガンを魔法使いバグスターに向けて放つ。するとエネルギー弾は鋼の様になっており魔法使いバグスターを吹き飛ばした。

 

 向かってくる拳闘士バグスターの攻撃を避け後ろに回り、またドラゴンガンでの攻撃を与える。拳闘士バグスターと魔法使いバグスターは合流した。

 

 ゲムデウスは盾の一部を伸ばし賢者バグスターを拘束し、勇者バグスターに投げ付ける。それにより2体ともダメージが入り地面に伏せる。

 

 

「貴様らは完膚無きまでに叩き潰すまでよ」

 

戦闘(オペ)を完了させる」

 

 

 ゲムデウスは腰のホルダーからガシャットを抜き取りギアを戻して再度回す。飛彩はドラゴナイトハンターZのガシャットを抜き取りキメワザスロットホルダーに入れボタンを押した。

 

 

【KIME WAZA!】

 

【ガッシューン】

【ガッシャット!キメワザ!】

 

 

 ゲムデウスは再度ホルダーにガシャットを差し込み、飛彩はボタンを押して必殺技を放つ。

 

 

【DUAL GASHAT!】

【Taddle Critical Slash!】

 

【DRAGO KNIGHT CRITICAL STRIKE!】

 

 

 ゲムデウスはデウスラッシャーに紫のエネルギーを溜め、2体のバグスターの元まで走り左から右へと一閃する。

 

 飛彩は頭部と両腕部にエネルギーを溜め、それを一斉に放ち2体のバグスターに向けて発射する。

 

 

「「ハアアアアアァッ!」」

 

 

 それぞれのバグスターに【PERFECT!】の文字が浮かび爆発が発生する。

 

 

【GAME CLEAR!】

 

 

 その文字が大きく出ると、ゲムデウスと飛彩はガシャットを抜き取り変身を解除する。

 

 

【GASHU-N】

【【ガッシューン】】

 

 

 ガシャットを抜き取ったことでゲームエリアから脱出し元のカフェテラスに戻る。ゲムデウスは辺りを見渡し高山のゲーマドライバーを見つけると、それを持ってガシャットだけを抜き取りガシャットを差し込む。

 

 青い光に包まれ、ある程度するとガシャットを離し飛彩の元に向かいギアデュアルβを渡した。

 

 

「ほれ、助かった」

 

「何、気にするな」

 

 

 ギアデュアルβを飛彩が受け取った途端、ゲムデウスと高山の人格が代わり少し息を荒げながらもゆっくりと座る。

 

 

「へぇ……はぇ……ふぇぇぇ………」

 

「……かなり疲弊しているな」

 

「……何か…………悟りそうです」

 

「……すまないが、CRに来てもらうことになるぞ」

 

「少しだけ……休ませて……下さい……」

 

 

 結局1時間近く休んでCRに向かったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そうか……態々報告ご苦労』

 

 

 TV越しに日向審議官と対話していたのはアーケードタイプのゲーム機内に居る黎斗神、椅子に座っている飛彩、そして高山とゲムデウス。ゲムデウスと高山には今回飛彩と話に出ていた侵食具合を確かめるべく居てもらっている。

 

 結果、高山の侵食度は少し進行している。ゲムデウスが意識すれば右腕だけスムーズに動ける様である。

 

 しかし今回の議題は急を要するものである。ゲムデウスの侵食ではない、“強制的にゲームエリアに介入させられた”ことに関してである。

 

 

『通常ゲームエリアに入る為には変身しなければならない……だが、今回の件で色々と変わった。檀黎斗、どう思うのか君の意見が聞きたい』

 

 

 黎斗神は大きく息を吸い溜めたものを徐々に多く吐き出す様に言い放つ。

 

 

『スゥ…………そんなもの、此方が聞きたいぐらいだぁ!』

 

 

 電磁バリアによって阻まれている檻を殴るが、電気が走って直ぐに引っ込めた。

 

 

『何故ゲームエリアが強制展開されたのかなんぞ、私が知りたいぐらいだ!そもそも変身しなければ介入なんぞ有り得ない!外部による影響が無い限り!』

 

 

 かなりの声量で語った黎斗神。言い終えて肩で息をしている黎斗神に日向審議官から1つの指令が言い渡される。

 

 

『檀黎斗、君にこの件についての詳細を調べてもらいたい。もしこの件が一般人にまで被害が及んでは不味い、一刻も早く解決へと導いてくれ』

 

『言われずともスルゥ!私に許可無く、この様な仕様を作り出した奴を徹底的に捜してやるゥ!』

 

 

 直ぐにパソコンを操作し始め作業に取り掛かる黎斗神。そんな熱意が側にある最中、日向審議官は2人に伝える。

 

 

『君たちもお疲れだった、今回の件のことは他のドクターたちにも伝えておこう。ゆっくり羽を伸ばしてくれ』

 

 

 一礼して高山と飛彩は階段に向かったが、その途中……

 

 

『この世にゲームエリアに強制介入させる技術を持つ者は2人も要らない……この神である私だけで良い!』

 

 

 かなり熱心にキーボードを叩きながら呟いているが、その声量が3名にも聞こえる程のものであった。階段を降りようと1歩踏み出そうとしたが……

 

 

『そうだ……私は神……私は神……私は神……!やはり私は神ィ!』

 

 

 何かに気付いたと思えば自画自賛。危うく踏み外しそうになった2人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………実験は、成功した……か。だがまだガシャットを持つ“使用者”のみ」

 

「不満があるならとっとと失せてほしいんだがねぇ。僕は何もかも手に入れたいだけだからねぇ……」

 

「まぁそう怒らないでほしい。君にはこれでも感謝しているのだよ?私と君の利害の一致、例えそれが一時的なものであったとしても今はこうして協力している立場なのだから」

 

「……チッ」

 

 

 とある男はタイピングしながら、もう1人は(くつろ)ぎながら話をしていた。

 

 だが関係は良いという訳でもなかった。

 

 

「さて……また君には仕事をしてもらわねば、ね」

 

 

 タイピングしている男は舌打ちをするも、作業だけは続けていた。男は……何処かに消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




【勇者バグスター】
青い衣を纏った勇者の様なバグスター。剣と盾を装備し、剣主体の特殊攻撃を得意とする。パーティーの中では一番バランスの取れているバグスターである。

【拳闘士バグスター】
筋骨隆々が形を持った様な姿。上半身はほぼ裸体であるものの、見かけ通り接近戦を得意とする。パーティーの中ではパワーに優れたバグスターである。

【魔法使いバグスター】
尖り帽を被り紫ローブを着た老人の様なバグスター。杖を装備し炎や氷などの属性魔法を得意とする。パーティーの中では攻撃魔力が優れたバグスターである。

【賢者バグスター】
白い服装と帽子を被り如何にも賢者の様な姿をしたバグスター。杖を装備し回復や支援魔法を得意とする。パーティーの中では回復魔力が優れたバグスターである。









【ゲムデウス ファンタジーゲーマー】
変身者は高山明に感染したゲムデウスがガシャットギアデュアルβの『タドルファンタジー』によって変身した姿。

色合いは変わらないが、ファンタジーゲーマが6つのパーツに分離しそれぞれ両腕と両脚、胸部と仮面という風に分けられる。両腕、両脚は然程変わってないが胸部にはスペードの輪郭を写した鎧となっており本来胸部装甲にくる筈のファンタジーゲーマの顔部分がそのまま仮面となっている。

武装にはゲムデウスが使用していた盾と剣を使う。タドルファンタジーによって魔王の力が入り込み、ウィルスを一部活性化させてしまった結果によるものである。

特殊能力として魔王としてのあらゆる事が可能。しかし敵味方区別無しのバフ消しに悩まされる。









次回!Dr.ゲムデウスは!

 発見された小さな異変!

「今までのバグスター、何か裏がありそうだ」


 徐々に繋がっていく点と点!

「出現したバグスターとガシャットの関連性……」


 しかし今度は!?

「ちょーっと乗ってもらうぜ、明」



 『第9話 slipには要注意!』


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第9話 slipには要注意! 

 前回の出来事から早1ヶ月。あれからの進歩というのは特に目ぼしいものというのは無かった。

 

 分かった事といえば、最近出没したバグスターとガシャットの関連性が色濃くなっていること。例えるなら『バイラスバグスター』は【ドクターマイティXX】、『4兄弟バグスター』なら【マイティブラザースXX】、最近命名された司令官の様なバグスター『アドミラルバグスター』は【バンバンシミュレーションズ】、そして命名『パーティーバグスターズ』は恐らく【タドルファンタジー】という風に繋がっていると思われる。

 

 だがそれでもガシャットとの関連性が分からないバグスターも居る。『アルフバグスター』である。分かることは、感染者が『須郷伸之』という結城財閥とコネクションを持つ人物のみ。

 

 そして冷え込みが加速した11月の中頃、ドクターたちは何時も通り患者の対応に追われている。特に宝生永夢は不安定な環境による影響で風を引いた子どもの対処に追われている。

 

 そんな中、高山はというと……

 

 

「ウラァ!」

 

『□□□───ッ!』【【【【【HIT!】】】】】

 

 

 現在とある広場でレベルXXの状態となって低級バグスターを相手している。使用しているガシャコン・アックスによって範囲攻撃が可能な為、圧倒的に不利な人数のアドバンテージを覆している。

 

 

「コイツで決める!」

 

『ほぉ……成る程』

 

 

 高山は黎斗神によって製作された“3つ目”のギアデュアルβをガシャコン・アックスに差し込み、構える。

 

 

【デュアルガッシャット!キメワザ!】

 

【FANTASY SIMULATIONS CRITICAL FINISH!】

 

 

 ガシャコン・アックスの刃と頂点にそれぞれ紫と青のエネルギーが蓄積され、その状態のガシャコン・アックスを低級バグスターに振るった。

 

 

「セアアアアァ!」

 

『□□□───ッ!』【【【【【PERFECT!】】】】】

 

 

 刃から紫の斬擊エネルギーが放出され、頂点からは青いエネルギー弾が幾つも発射されて低級バグスターを倒した。

 

 一息ついた後、高山はゲーマドライバーのレバーを閉じ、ガシャットを引き抜き変身を解除する。

 

 

【ガッチョーン】【ガッシューン】

 

 

「ああ"ぁ~……疲れた」

 

『ちょうど良い運動になったのでは?』

 

「あのねぇ……」

 

 

 そう、今は冷え込みが激しい日。体を動かした影響で体内から微弱ながら熱が発生し体を暖める結果となったが、高山本人は疲れから体温上昇のことはどうでも良かった。

 

 

「いやー!お疲れお疲れ!スゲーもん見せてもらったぜ!」

 

「同感だ。そしてバッチリ録れている」

 

「明!カッコ良かったよ!」

 

 

 離れていた場所からひょっこりと現れてきたのは、ちょうどダブルデートをしていた神代と茅場、そして藍原であった。しかし茅場の手にはスマホがあり、先程の発言からして動画として撮っていた様子であった。

 

 

「あのですねぇ……見世物という訳じゃないんですよ?」

 

「だが残念、アタシらはこういう人間なんで」

 

「言い方はあれだが、事実そうだな。私の場合はゲーム関係で参考となる動きをだな」

 

 

 この2人は最近こんな感じである。仲が良くなっていっている様に感じられるが、少なくとも1週間前に喧嘩して茅場が高山に相談に来たことに関してはどうなのだろうか。と内心思う高山であったが、呆れた様な表情で一息する。

 

 

「はい明」

 

「ん、ありがとう」

 

「いえいえ」

 

 

 高山にマフラーと手袋を渡してきた藍原。実を言うとこの2つは藍原の手編みである。その2つを手に取り手袋をした後マフラーを掛ける。ちゃっかりと藍原の手を握る辺り、高山の優しさというものが垣まみえる。

 

 そして少しタメ語で喋っている辺り、今は先輩呼びというのを無くしている。藍原と高山のルールだそう。

 

 

「さてと……再開と行きますか」

 

「おー!」

 

「……しまったメモリがヤバイ」

 

「SD買うか?」

 

「お二方ァ?」

 

 

 茅場の方は完全とまではいかないが、かなり俗っぽくなっていた。何処かで既視感を覚えたのは気のせいではない。

 

 

『……何だ私か』

 

「(早々思い付いた俺ェ……)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は進み午後7時頃。衛生省から支給されたウィルス隔離用の家へと帰宅した。

 

 

「ただいまーおかえりー」

 

「おかえりーただいまー」

 

 

 誰も居ない家の玄関で御互いに言い合う高山と藍原の2人。手を繋いでいる状態で帰ったが、靴を脱ぐために一旦離れる。居間と洗面所と分かれ手を洗った後、高山はソファーに座りガシャットを自分の体に刺す。

 

 少ししてガシャット体から離し、何時もの斜め掛けバックに入れて寛ぐ。

 

 

「明ー」

 

「んー?」

 

「グェヘヘ……とうっ!」

 

「ガホッ!?」

 

 

 ソファーに座っている高山が近付いていた藍原の問いに答えた途端、藍原が高山にダイブした。ぶつかった衝撃で肺の中の息が出され変な声が出る。

 

 衝撃で痛めた腹部を(さす)ろうとするも藍原がしがみついてる為、藍原の頭を撫でるという結果となる。

 

 その当の本人は満足げの表情を浮かべながら高山の撫でを堪能している。仕舞いには高山の腹にぐりぐりと頭を擦り付けている始末。

 

 

「優美さん……?痛かったんですが……」

 

「ごみ~ん」

 

「はぁ……全く」

 

 

 肩甲骨まで伸びたロングの綺麗な黒髪を撫でる高山。少しこの甘えように呆れながらも少し嬉しそうな表情をしている。

 

 そんな中ゲムデウスは『また何時ものか』と謂わんばかりに黙りを決めている。因みにこの2人の“とある行為”にも干渉はしていない、そして何かしら感情が芽生えることも無い。

 

 

「あーくん」

 

「はいはい」

 

「んふ~」

 

 

 ウィルスの侵食の影響もあるが藍原の脇を持って高山は自身の膝上に乗せる。かなりの怪力であるが、そこは大して問題でもないと言う2人。

 

 近付けた高山は藍原と顔を合わせ、ゆっくりと顔を近付けている。藍原も受けの姿勢で高山を待つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ノックしてもしも~し!」

 

「「!?」」

 

 

 突如玄関近くから発せられた声によって現実に引き戻されるが如く意識が別の方に向かう。声は聞き覚えがある為、藍原に断りを入れて玄関の扉を開ける。

 

 

「よっ、遅くに悪いな。彼女さんとの素敵な時間邪魔して」

 

「そこは……別段構いませんが。貴利矢さん、玄関のチャイムありますよね?何故口頭なんですか?」

 

「此方の方が絶対反応が面白いから」

 

 

 悪びれる様子すら無さそうな九条貴利矢と対面している高山。何故かゲムデウスが交代し、話しかける。

 

 

「で、何のようだ?態々そちらから出向くのは、何か理由があるのでは?」

 

「やぁやぁゲムデウス、久方ぶり。どうよ生活の方は?」

 

「用件を言え、用件を」

 

「連れないねぇ」

 

 

 世間話という形で話しかけるも、ゲムデウスは少し声量を大きくさせて本題に戻していく。

 

 

「まぁ良いや。本題なんだが明日また来るぜ、ちょっと進歩があったんでな」

 

「……CRではないのだな」

 

「あぁ。フィールドワークってヤツさ」

 

 

 「んじゃな」と後ろに振り返りながら手をヒラヒラと振って帰る貴利矢。ゲムデウスはゆっくりと扉を閉めた後、高山と交代する。

 

 

「……ゲムデウス、明日だよな?」

 

『何の進歩かは分からんがな』

 

「ん。了解」

 

 

 高山は居間に戻りソファーに居る藍原の頭を撫でた後、御詫びとして膝枕をすることになった。藍原は不服であったのか頬を膨らませながらも横になるが、高山の撫でによって表情を緩ませて心地好くなってしまう。

 

 その後はTVを見てゆっくり10時程まで時間を過ごし、風呂に入って寝るのだが……藍原が覚醒し寝るのは遅くなってしまったのは別の話。

 

 

『コイツらまたか』

 

「(断ろうとした時の上目使いと泣き顔には敵わなかったよ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、家のチャイムが鳴ると高山は返事をした後外へと出る。目の前には貴利矢が居る。

 

 

「よっ。準備は良いな?」

 

「大丈夫です」

 

 

 ガレージにある大型バイクのキーを回しエンジンを掛けて準備をする。貴利矢は停めてある黄色のバイクにまたがり発進し、高山は貴利矢に付いていく形で目的の場所へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 暫くして2人は噴水広場に到着する。ヘルメットを脱ぎエンジンを止めてハンドルの片方にヘルメットを掛け、高山は降りる。一見して何も無さそうな噴水広場を見渡す高山。

 

 

「……貴利矢さん、此処に来た理由は?」

 

「ゲムデウスに聞いた方が早いぜ。若しくは交代して見てもらうかのどっちかだ」

 

『いや……交代する必要はない』

 

「ゲムデウス?」

 

『此処に来て理解した。成る程、確かに何かしらの“進歩”とは言えるな……』

 

 

 ゲムデウスが高山を媒介として外の景色を見ているが、ゲムデウスのバグスターとしての能力によって見えている世界は高山には見えていないので何の事やら理解できていない。

 

 ゲムデウスはそんな高山の疑問に答えた。

 

 

『“バグスターウィルスの密集”……何故か此処だけバグスターウィルスが異様に密集されているのだよ』

 

「ウィルスの密集?……此処に?」

 

『あぁ。だが……おかしいのは変わりない』

 

「それは俺も思ったさ。何でウィルスが密集しているのに“人に感染しなかった”んだ?」

 

『この広場といえど人は必ず通る筈だ。だがそれらを無視して、この場に留まり続ける意味が分からん』

 

「どーやら分かったみたいだな」

 

 

 頃合いを見ていた貴利矢が高山に近付く。ある程度まで近付くと足を止めて話していく。

 

 

「最近分かったんだよ。何故かバグスターウィルスが異様に密集している場所が発見されたってのは。勿論おかしいって思って檀黎斗に調べさせた……そしたら大当たり」

 

「……それは?」

 

「新型バグスターの出現場所が“全てこの様な状態”で起きていたんだよ」

 

「つまり……新型バグスターがこの異様にウイルスが密集している場所で誕生した。そうですね?」

 

「あぁ。だが勿論新たな疑問も生まれた……だが」

 

 

 貴利矢は少し呼吸の動作をした後、再度口を開く。

 

 

「何れにせよ今までのバグスター、何か裏がありそうだ」

 

 

 それだけを聞いた後、高山は目の前の噴水を中心に周囲を見回していた。少しの落ち着きというのが欲しいのか、3分ほど続いていた。

 

 

「……ですが、害の無い所を見ると手出しのしようがありませんね」

 

「そりゃな」

 

 

 尤もな正論を述べた後、高山は停めてあるバイクの方に足を進めた。

 

 着いた直後、バイクが消え別の景色が見えたことに関しては2度目の驚愕の表情を表した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────Loading……──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あーらら、ゲームエリアじゃん」

 

「また……ですか。2度目ですが」

 

 

 またも強制的にゲームエリアに入場させられる事となった高山とゲムデウス。話には聞いていたが入るのは初となる貴利矢。今度はゲムデウスからの忠告無しでゲーマドライバーを腰に着けガシャットを起動させようとしていた。

 

 突如鳴り響くエンジン音、それも聞きなれたエンジン音であった。そして今居るエリアは“レース場”、これらから予測できるのは……レースゲームだということ。

 

 そしてエンジン音の正体が、やって来る。

 

 

「ブルゥン!ブルブルゥン!」

 

『開始早々ネタではないか』

 

「言うな」

 

 

 何故か低級バグスターの頭部がバイクのライト部分に装着されている黒いバイクに、それに乗っているエンジンのマフラー等を付けた黄色が主のバグスターが高山と貴利矢の周囲を回っていた。

 

 かなりうざったいと心中思う高山とは別に、達観した様子でそのバグスターを見ている貴利矢。腹立たしくなった高山はガシャットを起動させる。

 

 のだが、今度は貴利矢が高山の腕を掴み制止させる。何故この様な行動に移ったのか疑問を持った高山は口を開く。

 

 

「貴利矢さん?どうしましたか?」

 

「……おかしい」

 

「……はい?」

 

 

 頭にさらにクエスチョンマークが浮かんでいるのが容易く想像できる様な高山の表情、しかし高山の表情を見ていない貴利矢は続けて言う。

 

 

「“モータス”がエンジン音以外の言葉を言わねぇ……おかしいだろ」

 

「モータス?」

 

『黎斗から見せてもらった資料にあったぞ。確か【爆走バイク】というゲームの敵キャラだな。普通に言語を口にする他、特徴としてエンジン音を口で言うなどの変わったバグスターだ』

 

「ブルゥン!ブルゥン!ブルブルブルゥン!」

 

 

 未だにモータスは2人の周囲を回り続けている。高山はかなり御立腹な様子であるが、平静を保ちつつ貴利矢に話しかける。

 

 

「貴利矢さん……さっさと終わらせた方が……」

 

「あぁ、そうだな。だが明、お前はガシャットを使うな」

 

「…………はっ?」

 

 

 高山はさらに疑問と苛立ちを覚えつつあったが、貴利矢は知ってか知らずかゲーマドライバーを腰に装着したあと黄色のガシャットを持ち起動させる。

 

 

【爆走バイク!】

 

 

 現れた画面から優勝トロフィーが幾つも出現する。貴利矢は前に突き出した腕をその場で左回転しながら引っ込める動作をする。

 

 

「2速、変身」

 

 

 貴利矢はゲーマドライバーにガシャットを差し込むと直ぐ様レバーを開いてレベルアップの姿を取る。

 

 

【ガッシャット!】

【ガッチャーン!レベルアーップ!】

 

【爆走!独走!激走!暴走!爆走バイク!】

 

 

 レベル1のマスコットキャラの様な見た目から変貌したのは、何と貴利矢が噴水広場に向かった際に用いたバイクへと変貌した。両手に持っていた武器がタイヤの役割を持っていたのか自動的に2輪バイクとなった。

 

 

「…………はっ?」

 

 

 これには高山も驚きしか生まれなかった。何せ人がバイクへと変身した様なものだからだ。目の前の不可解な現象で頭が一時的に混乱していた。

 

 

『……お前も変身の手順ふんだだけで姿が変わるのと一緒だぞ』

 

「ごめん、これは受け入れられなかった」

 

「ちょいちょいちょい。今の聞き捨てならなかったぞ」

 

 

 バイクの前輪軸を用いて高山の方に視線を向ける貴利矢。ゲムデウスは高山の中でやれやれと呟き、高山は少し放心状態。痺れを切らした貴利矢が催促をし始める。

 

 

「あぁもう良い!おい明、俺に乗れ!」

 

「えぇ…………」

 

「何で引くんだよ!大丈夫だって!」

 

「いや……だって……ねぇ?」

 

『私に聞くな』

 

 

 そう人間がバイクになるということは装甲に覆われた体の一部が、その場所となること。つまり誰かの体の一部の上に乗るという方程式が成り立つのだ。勿論、高山は彼女持ちで同性愛者ではない。

 

 

「ったく……永夢の時は拒否って無かったぞ」

 

「…………」

 

『……はぁ、全く世話の焼ける』

 

 

 高山の体が反れたかと思うと、人格の変更としてゲムデウスが表に出た。その証拠に抵抗無くバイクとなった貴利矢に乗る。

 

 

「……おいゲムデウス、明に変われ」

 

「何故だ?」

 

「お前の場合だとウィルスの培養が増加傾向になるの、忘れてないよな?」

 

「……盲点であった」

 

 

 ゲムデウスは高山と交代する。先程の話の内容はゲムデウスが人格交代することによる高山の体内のウィルス培養速度に関してのデータを事前に取っておいたのだ。

 

 結果高山の場合とゲムデウスの場合と比べると、ゲムデウスの方がウィルス培養速度が速まっていた。貴利矢はそもそもゲムデウスウィルスに掛かった影響もあって再度感染するのが嫌なのだ。

 

 

「結局か……はぁ、乗り掛かった船だしなぁ」

 

「俺バイクだぜ?」

 

「言葉の綾ですよ」

 

 

 モータスは高山と貴利矢の会話中にスタート地点に居り、高山は貴利矢を操作してスタート地点に並ぶ。

 

 

「さてと……ちょーっと乗ってもらうぜ、明」

 

「こうなるなら、とことん付き合いますよ!」

 

 

 お互いエンジンを噴かしながらスタートの合図を待つ。

 

 1つ目の赤ランプが点灯する。高山とモータスはエンジンを短く噴かす。

 

 2つ目の赤ランプが点灯する。今度はブレーキを掛けつつエンジンを唸らせタイヤを回転させる。

 

 3つ目の緑ランプが点灯し、同時に低級バグスターの持つフラッフが下りた。瞬間、高山はブレーキを解除し発進する。

 

 先に前に躍り出たのは高山であった。そしてそれを最初の右曲がりのコーナーで保たせていた。

 

 

「明!運転変わるぞ!」

 

「了解!」

 

 

 操作が貴利矢に変更されると貴利矢は外角に避けていく。それもその筈、後ろからはモータスが何かを投げていた。それを避けると、地面に爆発が生じる。つまり爆弾を投げているのだ。

 

 

『流石、何でもありのレースだな』

 

「へぇ……だったら此方も!」

 

「ちょ明!?」

 

 

 高山は一直線の場所の所で後ろを見る。減速してモータスの動きに合わせており、ヒヤヒヤさせる所で爆弾を避ける。

 

 そして高山とモータスとの距離が近くなった所で……高山はモータスの真正面でブレーキを掛ける。

 

 

「!?」

 

「い"って"ぇ"!」

 

「うぉぅ!」

 

 

 かなりの速度を出していたモータスは貴利矢の後輪にぶつかり一回転しつつ高山たちの目の前で転倒する。上空に漂っていた際には、高山は勿論の如く頭を下げて避けていた。

 

 しかしぶつかった振動で高山に揺れが伝わり貴利矢には痛みと揺れが伝わっていたが、高山がアクセルを回してゴールへと向かっていく。

 

 

「おっまえなぁ!」

 

「失礼しました。ですが“何でもあり”というルールに乗っ取ったのは事実です、文句があるならルールを恨んでください。貴利矢さん」

 

「ねぇ何か悪いことした!?俺悪いことしたの!?」

 

『知らんがな』

 

 

 そんな会話の中でも既に高山と貴利矢はゴール目前までに到着していた。しかし何を思ったのか、高山はブレーキで止めて貴利矢から降りた。そんな高山を見て貴利矢は疑問を浮かべる。

 

 しかしそんな疑問も直ぐに解決に至った。高山がガシャットを起動させたことで、この後の予想がついたのだ。

 

 

【ドクターマイティXX!】

 

 

 画面からカプセルが幾つも出現し、腰に装着されていたゲーマドライバーに差し込んだあと腕を前に交差させてレバーを開く。

 

 

【ダブルガシャット!】

 

 

「Mark X-2!変身ッ!」

 

 

【ガッチャーン!レベルアーップ!】

 

【ドクターマイティ!2人で作る!ドクターマイティ!2人でメイキーング!X!】

 

 

 高山はXLとXRに別れて直ぐに2名はレバーを閉じる。そして2名はそれぞれ右腕と左腕を交差させてレバーを開く。

 

 

「「Mark XX!変身ッ!」」

 

 

【ガッチャーン!ダブルアーップ!】

 

【私が君を!自分がお前を!(We are!)何度も何度も倒して!(Hey!)XX!アイアムゴーッド! いや喧しいな神】

 

 

 高山はレベルXXへと変貌を遂げ、3回目のレバーの開閉を行い必殺技を準備する。一方のモータスは最後の一直線のみに差し掛かっていた。

 

 しかし高山はモータスをゴールさせない。苛立たせた罰であり慈悲は無い。

 

 

【ガッチョーン キメワザ】

【ガッチャーン!】

 

【DoCTER MIGHTY CRITICAL STRIKE!】

 

 

「ハアッ!」

 

 

 高山がジャンプをすると、ちょうど先にはモータスが迫っていた。つまり足に蓄積されたエネルギーはモータスに直撃することになる。

 

 

「オラアァァァ!」

 

「ブルルゥゥゥゥゥン!?」【PERFECT!】

 

 

 結果モータスは消滅した。それを確認した高山は変身を解除し、貴利矢に再度乗ってそのままゴールを突っ切る。

 

 それと同時に高山と貴利矢は現実世界へと戻された。高山は貴利矢から降りてゲーマドライバーのレバーを閉じガシャットを引き抜いて貴利矢を元に戻す。

 

 

【ガッチョーン】【ガッシューン】

 

 

 元に戻った貴利矢に高山はガシャットを渡す。貴利矢は受けとるが高山の左肩を背中を介して回すように掴み引き寄せて話をする。

 

 

「……おい明」

 

「はい?」

 

「さっきのメチャクチャ痛かったからな!何あれ!?あんなの俺の身が持たねぇよ!」

 

「そうですか」

 

「スンゲー興味なさそう!」

 

 

 何はともあれ漸く現実世界に戻れた高山と貴利矢は、CRへと赴いて黎斗神に事の詳細を伝えた。

 

 しかし黎斗神は慌てず騒がすといった前回とは違った対応をとっていた。それもその後……

 

 

「君たちのガシャットを監視していたのさぁ。そこでゲームエリアに緊急介入された時点で逆探知を行っていたのだよ」

 

「へぇー。じゃあ成果の方を聞かせて貰おうか?」

 

「……残念ながら滞在時間が短かったことで逆探知に失敗した」

 

 

 貴利矢は高山の方に視線を向けると、高山からは苦笑いしか出てこなかった。完全に効率重視で行った結果であった。

 

 

「そ、そういえば黎斗さ「神と呼べえぇ!」あー……黎斗神さん?どうやって逆探知してたんですか?」

 

 

 高山が先程の話題をはぐらかす様に話題を変えた。黎斗神はそんな疑問に答えた。悩める子羊を導く神(プギャー)として。

 

 

「君たちが強制的にゲームエリアに介入際に何者かの手が加えられていたのだ。それを追っていく形で逆探知していたさ。あとsakusy○!私の神の名を、汚すんじゃあない!」

 

「誰に言ってるんですかね?」

 

「さぁ?」

『さぁな?』

 

 

 黎斗神の凄腕技術を聞いたあとのCRは、かなり喧騒としていたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回!Dr.ゲムデウスは!

 聖なる日に急患発生!

「かなり精神的に参ってるのか……」


 急患の子どもは何処かネガティブ?

「おれ……家族じゃないのに……」

 
 果たして急患の心を救えるのか!?

「君は立派な……家族だよ」


『第10話 聖なる日はspeciallyに!』


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第10話 聖なる日はspeciallyに!

 12月24日。この日は子どもたちにとって待ちに待ったクリスマス……というよりクリスマスイヴである。まぁ子どもにはそんな些細なことは関係ないだろう。

 

 クリスマス。それは子どもがサンタ(両親)からプレゼントを貰う日、そして非リア充にとって()()()()()()の日。何はともあれ、この日は人の往来も多くなるこの季節。

 

 勿論リア充であるカップルたちには、この日は告白などの日にちとして、うってつけな日である。勿論既に結婚や交際をしている2人にとっても良い思い出として残る日である。

 

 そして……この4人も同じ様にクリスマスイヴ当日は出歩いていた。ただ、今回は高山と藍原が住む支給された家でパーティーを行うため準備として何時ものEONに来ていた。

 

 

「えーっと……シチュー、チキン、フライドポテトにetc。宅配で頼んでも良いんですけどねぇ」

 

「残念ながら無理そうだぞ。それに……」

 

 

 高山と共に食品売り場を見て回っている茅場が前方を指差す。それを見てみると藍原が何故か手招きをしていたので、高山はカートを押して藍原と神代の元まで歩いた。

 

 

「どうした優美?」

 

「明、これ!」

 

「ん?」

 

 

 指差した物を見ると、丸々鯛一匹が鎮座していた。恐らく藍原は今回の料理にこれを使って作れというらしい。

 

 

「ふ~む……鯛かぁ。カルパッチョか、パエリアか、はたまたフライか」

 

『よく思い付くな』

「よく思い付くよなぁ」

 

「何時も家庭科の料理実習じゃ満点でした」

 

「これを主夫スキルというのだな」

 

 

 結局、悩みに悩んだ末にパエリアに決定したので魚を購入。シチューをキャンセルして買い物に(いそ)しむのであった。

 

 会計を済ませて支給された家へとバイクを走らせて向かっている高山。高山のバイクは2人乗りであるが、茅場は今回タクシーで向かっている。因にであるがプレゼントは既に用意されており、今日はお互いにプレゼントを3人分渡すのだ。

 

 そして家に到着するなりいそいそと料理の支度していく高山と神代。茅場はリビングでゆっくりとしてもらい、藍原は試験のこともあるので部屋で勉強をしてもらっている。勿論、茅場と藍原が介入すると厄介だからというのもある。

 

 担当としてパエリア、ミートパイなどは高山。その他は神代という風に調理を開始する。

 

 そんな中、リビングの机の上に置いてある高山のスマホから1本の着信が入る。電話の様だ。

 

 

「あー……すみません神代さん、ちょっと外しますね」

 

「あぁ高山君、私が出るよ。流石に何もしないというのは些かね」

 

 

 茅場が高山のスマホを手に取り着信に出る。

 

 

「はい、どちら様でしょうか?…………あぁ失礼、今高山君は取り込み中でして……緊急ですか。でしたら少し時間を下さい」

 

 

 茅場が電話を離すとスピーカーのボタンを押して机の上に置いて、話を続けた。

 

 

「では御用件をお願いします」

 

『あぁ』

 

「日向審議官!?」

 

 

 スピーカーによって音が大きくなっており、高山に日向審議官の声が聞き取れたことによって驚いた高山。日向審議官は特に何の反応も無く話を続ける。

 

 

『お取り込み中すまないが、高山君。今すぐCRへと向かってくれるか?』

 

「…………どの様な御用件ですか?」

 

『バイラスバグスターの出現だ』

 

 

 それだけを聞くと高山の雰囲気が変わった。バグスターの出現、それも()()()()()()()()()()()()()()()()()バグスターの出現であった。

 

 

「分かりました。どちらまで行けば宜しいでしょうか?」

 

『1度CRに来てくれ。患者の容態の確認も兼ねて』

 

「了解しました。すみませんが、茅場先輩」

 

 

 茅場は高山のスマホの通話を切り、高山は既に形を整えさせていたミートパイをオーブンの中に入れて設定させると手を洗って斜め掛けバックを持って外へと出ようとした。

 

 しかし予めに神代に少し頼んでからバイクに乗ってCRへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 聖都大学附属病院に到着した高山はバイクを駐輪場に停めておき、ヘルメットを外して直ぐ様CRへと向かう。到着した先には黎斗神が頬に打撲痕を残して両手を組んで、それの上に頭を乗せて俯いていた。

 

 CRの緊急診療台には患者が居ないことから、恐らく治療室に運ばれているのか今はそこには居なかった。高山は1度辺りを見渡した後、黎斗神に話しかける。

 

 

「黎斗神さん……その怪我は」

 

「……バイラスバグスターとの戦闘だ。レベルが上がっているのは承知の上でだ。今のところ私と君、九条貴利矢でしかウィルスを抑制できないが……予想が甘かった」

 

「レベル0のウィルス抑制効果があまり効いてなかった様なんです」

 

「宝生さん……」

 

 

 バグスターのレベルアップ。こればかりはどうしようも無い問題の1つである。黎斗神の様子からして多少厄介になっているのは容易に想像できた。

 

 そして次に、患者の件について。まぁ此処に黎斗神以外のライダーが来ているのであれば、既に分かりきったことだが。

 

 

「……失礼ですが、患者はどちらに?」

 

「僕の担当になってるよ。まだ10歳の子どもだからね」

 

「そうでしたか。では宝生さん、お願いします」

 

「了解しました」

 

 

 何時も通りの挨拶をこなし、永夢の後を付いていく高山。その途中、ゲムデウスが話しかけてくる。

 

 

『おい宿主』

 

「(何の用?ゲムデウス)」

 

『バグスターのレベルアップの件を踏まえて言うが……勝てる見込みが少ない』

 

「(…………随分と消極的だな)」

 

『この説明は部屋に着いてからだ』

 

「(そうかい)」

 

「高山さん、此処です」

 

 

 病室の前に到着した2人。その病室の名札には『桐ヶ谷和人』と書かれている。

 

 永夢が扉をノックして、入ることを伝えるとスライド式の扉を開けて中に入る。高山は小さく一礼をして中へと入った。

 

 備え付けのベッドには、まだ幼さの残る男の娘……失礼男の子が上半身を起こして窓の方を見つめていた。しかし扉の開く音によって視線は扉の方へと向かわれた。

 

 永夢は患者である和人に高山を紹介していく。

 

 

「和人君、具合の方は大丈夫?」

 

「……ふざけてるんですか?」

 

「あー……ご、ごめん。あ、そうそう!紹介したい人を連れて来たんだ」

 

「初めまして、こんにちわ。僕は高山明」

 

「……何で白衣着てないんですか?医者じゃないのに居ても良いんですか?」

 

 

 かなり辛辣な言葉を並べるので永夢と高山のメンタルに鋭い槍の様な言葉が突き刺さる。しかし、ここでへこたれては大人としての威厳が崩れてしまう。

 

 

「じ、実はね。高山さんも“ライダー”なんだ」

 

「……ライダー?あの“ドクターライダー”ですか?」

 

「僕の場合は緊急時が頭に付くけど、一応僕もライダーさ」

 

 

 その話題になると桐ヶ谷和人は上半身をベッドに倒して永夢と高山に背を向ける様にして横になった。小さく「あれ……?」と呟いた高山の声は桐ヶ谷和人に聞こえていたのか……

 

 

「早く帰ってくれませんか?うざったいたりゃありません」

 

 

 この言葉の槍が高山と永夢のメンタルを貫き、少し声を掛けて外へと退出した。永夢と高山の2人が同時に項垂れると、2人ともCRへと帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「かなり効いた…………」」

 

『お前らなぁ……というか宿主、お前精神科希望だろ。これしきの事でへこたれるんじゃあない』

 

 

 ゲムデウスからの言葉も今は少しも心に響かない。それどころか、かなり信念を揺さぶる結果となってしまう。

 

 そして2人は机に突っ伏した状態にあった。だが2人に慈悲は与えないかの様に緊急コールが鳴り響く。高山と永夢は直ぐに立ち上がり場所を確認する。一応永夢もあのバグスターに対して対策が無い訳ではないが、かなりのオーバーキルに成りかねない。そんな理由もあるが、今回ばかりは仕方ないと割り切り現場へと向かうのであった。

 

 因みに高山の乗るバイクに永夢も乗り、現場へと赴いている状態である。

 

 

 

 通信コールのあった現場である住宅前に到着する。かなり和風な家造りの玄関前に、目標であるバイラスバグスターは居た。しかしバイラスバグスターもバイクのエンジン音で気が付いたのか、高山と永夢の方を見る。

 

 高山と永夢はバイクから降りて腰にゲーマドライバーを装着し、用意したガシャットを起動させる。

 

 

【ドクターマイティXX!】

 

【マキシマムマイティX!】

【ハイパームテキ!】

 

 

 高山はゲーマドライバーにガシャットを差し込み、永夢は大型ガシャットを差し込んだ後、ゲーマドライバーのレバーを開く。

 

 

【ダブルガシャット!】

 

【マキシマムガッシャット!】

【ガッチャーン!レベルマーックス!】

 

 

「患者の運命は……俺が変える」

 

 

 永夢はそう言い終えたあと、両腕で『ム』の字を作り構える。高山も両腕を交差させてXの文字を作り構える。

 

 

「Mark X-2!変身ッ!」

 

「ハイパー大変身ッ!」

 

 

 高山はゲーマドライバーのレバーを開き、永夢はもう1つ特殊なガシャットを先程のマキシマムガシャットの横に差し込み、両手を拳にさせてガシャットの2つのボタンを押す。

 

 

【ガッチャーン!レベルアーップ!】

【ドクターマイティ!2人で作る!ドクターマイティ!2人でメイキーング!X!】

 

【パッカーン!ムーテーキー!】

【輝け!流星の如く!黄金の最強ゲーマー!ハイパームテキ!エグゼーェイド!】

 

 

 高山はゲムデウスと別れXLとXRの姿となり、永夢は最強の無双ゲーム『ハイパームテキ』を使用したハイパームテキゲーマーとなっていた。永夢の手には、かなり特殊な形状の剣が装備されているが、分かるだけで斧の様な刃も存在している。

 

 XLとXRはお互い右腕と左腕を交差させ、永夢は右手を左に差し出す様なポージングを取りながら決め台詞を吐く。

 

 

「「これより製薬実験を開始する!」」

 

「ノーコンティニューで、クリアしてやるぜ!」

 

 

 XLがキメワザスロットホルダーのボタンを押してゲームエリアへと移動させる。

 

 

【STAGE SELECT】

 

 

 場所は開けた工場跡地の様な地面ばかり。しかし何の隔たりも無いのでバグスターの姿を見失うことはなかった。

 

 

「永夢さん!先手は頂きますよ!」

 

「ここは我らの出番だからな」

 

 

 XLとXRは先にバイラスバグスターへと向かい、お互いに左手と右手を突き出して青い粒子をバイラスバグスターに向けて放つ。

 

 勿論バイラスバグスターは苦しむ姿を見せるが、その隙を狙いXLとXRは蹴りとパンチを浴びせ距離を離れさせる。

 

 しかしここからバイラスバグスターが予想しなかった状態へと移った。

 

 

 間接部位が嘴の様に長くなり、開いたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「なっ!?」

 

「関節がッ……!」

 

 

 突如バイラスバグスターの全関節が嘴の様に開かれる。つまる所レベルアップによる()()の影響が現れているのだ。そして全関節が開かれたということは、あの場所からウィルスが散布されるということ。

 

 

「下がるぞ!」

 

「序でだ!」

 

 

 XLとXRが同時に後退しワクチンを散布しながらバイラスバグスターから距離を取る。しかし全関節から散布されるウィルスの量に対しワクチンの量が足りず、ワクチンが消え去りバイラスバグスターの周りに多くのウィルスが漂っていた。

 

 2名が後退すると、その場所に永夢が駆け付ける。

 

 

「大丈夫ですか!?」

 

「僕らは大丈夫です。けど……」

 

「奴さんのウィルス量が前回より増している。先程散布させたワクチンも量の差で負けた」

 

「恐らく攻撃しても……ウィルス抑制効果の体をもってしても量で負ける可能性がありますね。宝生さんは大丈夫だと思いますが」

 

 

 永夢のハイパームテキゲーマーはあらゆる効果を一切受け付けない正に最強のゲーマー、攻撃するとウィルスの散布は行われるか至近距離でもダメージを喰らわないのだ。

 

 逆に高山とゲムデウスのXLとXRの場合、ウィルスの抑制効果はゲームエリアに展開できるもののバグスターが生成するウィルスの量によってワクチンの効果が薄れてきている。

 

 

「ちょっと……行ってくるよ」

 

「宝生さん……お願いします」

 

「此方からも頼む。出来る限りのサポートは……どうだろうか?まぁ必要となればだが」

 

「そうだね。その時は頼るかも」

 

 

【ジャ・ジャ・ジャキーン!】

 

 

 そう言って永夢はバイラスバグスターに向けて走り出す。未だに関節は開かれたままであるが、それでもバイラスバグスターは戦闘体勢を取る。

 

 永夢は右手に装備している【ガシャコン・キースラッシャー】のブレードモードでバイラスに攻撃を与える。それに合わせて体からウィルスが散布されるが今のムテキゲーマーには効いていない。

 

 しかし妙なことが起こっていた。永夢が攻撃しているのにも関わらず、ウィルスは辺りに散布されなかった。それどころかバイラスバグスターに纏わり付いているウィルスの多さが増している。その証拠にウィルスの量が多くなってバイラスバグスターの体が黒い(もや)によって見え隠れしていた。

 

 そしてまたしても異変が続く。そのウィルスの量が均衡に保たれていた。それは永夢が攻撃を続けている最中でも起きていた。

 

 

「宝生さん!一旦退いてください!」

 

「た、高山さん!?」

 

「お前と話をして攻略を円滑に進める為だ!さっさと来い!」

 

「あ、あぁ……」

 

 

 永夢はバックステップと同時に攻撃し、キースラッシャーの黄色のボタンを押してジャンプする。

 

 

【ズキュ・キュ・キューン!】

 

 

 ジャンプと同時に銃口をバイラスバグスターに向けて攻撃し、威力任せに後退し高山とゲムデウスの元に到着する。

 

 

「永夢さん」

 

「何で呼んだのかは想像が付くよ。相手が怯む様子すら無かったんだ、何かある筈でしょ?」

 

「恐らくウィルス量の増加に基づいたレベルアップの影響か。考えられるのは……回復」

 

 

 未だにバイラスは立ち続けており動きもしない。出方を伺っているのか、はたまた別の考えがあるのか。何にせよ未だに()()()()()()()この事実に直面しなければならなかった。

 

 ハイパームテキはあらゆるゲームの頂点に立つゲーム。つまり攻撃力も防御力もライダーゲージも全てのゲームを越えている代物。しかし目の前のバイラスはウィルスを纏い続け動かないが、それが逆に不気味さを与えている。

 

 

「回復かぁ……多分ウィルスで」

 

「恐らくな。何れにせよ、あのウィルスをどうにかせねばなるまい」

 

「……あー、お話の所悪いけどさ。バイラスの周りのウィルス、減ってる」

 

「「ほっ?」」

 

 

 間抜けた声を出しつつ、高山が示したバイラスの変化を知るために2名は見た。すると高山の言い分通り、バイラスの周りのウィルスが減っているのだ。視覚からは黒い靄が薄くなっている様に見えるが、ウィルスなので減っているが正しい。

 

 つまり“ウィルスによる回復”説は概ね当たっていると考えて良い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………や゛だ」

 

 

 ふと何処からか声が聞こえた。しかし永夢のでもゲムデウスのでも高山のでもない。呟いた記憶すらない。

 

 なら自ずと決まってくる答えであった。

 

 

「誰……か、だれ……か……」

 

「宝生さん、ゲムデウス」

 

 

 バイラスから発せられる悲痛な言葉。しかしこれは()()()()()()()()だったとしたら?高山の方を見ずに耳を傾けて聞いている2名。しかし思考は同じだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「たす……げ…………て…………」

 

「救いますよ、()()()()()

 

「そう言うと思っていたわ」

 

「僕は医者だからね、患者を救う責任がある」

 

 

 永夢はキースラッシャーの青いボタンを押してブレードモードにさせ、高山とゲムデウスはゲーマドライバーのレバーを閉じると軽快な待機音声が鳴り響く。

 

 

【ジャ・ジャ・ジャキーン!】

 

【【ガッチョーン】】

 

 

「「Mark XX、変身」」

 

 

 高山とゲムデウスはレバーを開き、別形態へと姿を変える。ムテキゲーマーをベースとした白いムテキへと。

 

 

【【ガッチャーン!ダブルアーップ!】】

【私が君を!自分がお前を!(We are!)何度も何度も倒して!(Hey!)XX!】

 

 

 何と気の効いた事か。後から発生する音声が鳴らなかった。しかしレベルXXへと変貌を遂げた高山は武器を出さずに徒手空拳で挑もうとする。

 

 

「先手、また貰いますよ」

 

「訳があるなら、構わないよ」

 

「ありがとうございます!」

 

 

 高山はライダーゲージそのものであるヘアーを回転の勢いに乗せて伸ばしバイラスを掴む。捕らえられたバイラスだが攻撃でも無い為ウィルス散布は行われなかったが、関節からのウィルス散布は再開されていた。

 

 

「散布してもダメ……なら直接はどうかな!」

 

 

 高山はブレードヘアーを媒介にゲムデウスワクチンを直接投与させる。するとバイラスは苦しみ始め、同時に関節が元に戻っていく。しかも最強ワクチンの直接投与はかなり効くので実質弱体化に成功している。

 

 周囲に漂うウィルスはバイラスに取り込まれていくが、それによる回復も無意味な状態にまで陥らせる。高山は頃合いだと感じたのか、回転をつけてブレードヘアーをバイラスごと回し地面へと叩きつける。バイラスのウィルス散布はワクチンにより停止されているので、これ以上増えることは無い。

 

 つまり今ならダメージは無い。そう考えた2人の行動は早かった。

 

 先に高山からゲムデウスへと人格を変え、バイラスを殴り付ける。するとバイラスの横にレベル表示がされ70から68に減った。攻撃によるレベルダウン効果を見つけたことでゲムデウスは攻撃を続ける。

 

 バイラスの右フックを接近して避け両手を合わせて掌打を叩き込む。それによりレベルが2減少した。バイラスが仰け反り離れると、ゲムデウスは上半身を地面と水平にさせる。そこから永夢がゲムデウスを踏み台代わりとしジャンプした後バイラスに一撃入れる。

 

 レベルダウンの効果、ゲムデウスワクチンの影響、そしてハイパームテキゲーマーの攻撃力。これによりバイラスはふらふらとしていた。それを見計らってか、ゲムデウスは高山へと人格を変えレバーの開閉を行った。永夢はムテキガシャットのボタンを2度押す。

 

 

【ガッチョーン キメワザ】

【ガッチャーン!】

 

【キメワザ!】

 

 

【DoCTER MIGHTY CRITICAL STRIKE!】

 

【HyPER CRITICAL SPARKING!】

 

 

 高山は左足に青いエネルギーを、永夢は黄金のエネルギーを右足に纏わせ飛ぶ。

 

 

「「ハアアアアア!」」

 

 

 2人の蹴りが炸裂し、バイラスを仰け反らせる。

 

【HIT!】【HIT!】【HIT!】【GREAT!】【HIT!】【HIT!】【GREAT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【GREAT!】【GREAT!】

 

 

 バイラスから多くのダメージが入りエフェクトが多数出現する。

 

 

【【PERFECT!】】

 

 

 そして終に大きくエフェクトが入るとバイラスは爆散し、ゲームクリアの合図であるエフェクトが登場した。

 

 

【GAME CLEAR!】

 

 

 高山と永夢はガシャットをゲーマドライバーから引き抜き、レバーを閉じて変身を解除する。それと同時にゲームエリアから現実へと戻される。

 

 

【【ガッシューン】】

 

 

 ふと高山はバイラスが立っていた家の前まで歩み家を眺める。この家が誰の家なのか知りたいという気持ちもあった。そして高山は表札を見て納得した。

 

 『桐ヶ谷家』。そう書かれていたからだ。

 

 不意に高山は近付いてきた永夢に尋ねた。

 

 

「……永夢さん、桐ヶ谷君は何故ゲーム病に?」

 

「……守秘義務もあるけど、家族問題だよ」

 

 

 永夢は桐ヶ谷家を見上げ、口を開いた。

 

 

「ここからは僕の1人言だからね。桐ヶ谷君は本来桐ヶ谷家の子じゃなくて、従兄弟夫婦の子だったらしくてね。でもその夫婦は今は居なくて2歳の頃に引き取られたらしいんだ。それを知ったのが今日で、突然の事を聞かされて信じれずに過度なストレスが貯まって……さ。黎斗さんが対処したけど、レベルアップによる苦戦を強いられて1度撤退。1回の治療で治せなかったから僕ら医者に当たりが強くなってるんだ」

 

「……やはり子どもか。八つ当たりではないか」

 

「こんな事は普通にあるんだよ、ゲムデウス。それにまだ成熟してない精神で真実を告げられて、そしてバグスターを倒せなかった。無理もないよ」

 

 

 そう言う永夢の雰囲気は何処と無く大人びていた。ゲムデウスは高山へと人格を変えて、高山は口を開く。

 

 

「でも……あの子の本心は違った。人を信じたい、でも信じられずにいる。歯止めが効かない状態に居る」

 

「それが分かれば……後はメンタルケアの方だけど。高山さん、僕良い案が思い付いたんですよ」

 

「奇遇ですね、僕もです」

 

 

 そんな2人の表情は柔らかかった。お互いの顔を見合わせてクスリと笑い、行動に移した。

 

 確かな思いを、本心を吐き出させる為に。そして患者を救う為に。高山と永夢の考えは何処か似ている様である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────Loading……──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高山と永夢が病院へと戻ってきた。高山の操縦で駐輪場にバイクを置き、ヘルメットを仕舞い病院内に入っていく。2人の目的はCR、そこへと向かっていた。

 

 エレベーターで地下へと降り、さらに階段を上る。見えた先の光景には黎斗神が何時ものアーケードタイプのゲーム機に紫の電子牢獄に入れられている姿であった。

 

 

『ご苦労だった……永夢ゥ、高山ァ』

 

「何でそんなネットリとした物言いなんですか?」

 

「ほら、あれじゃない?何で僕が最初からバイラスにハイパームテキで行かなかったのか……だし」

 

『要は……嫉妬か?』

 

「嫉妬ねぇ……近いかもな」

 

『ゲムデウスと話をするなァ……そして嫉妬なんぞするかァ!』

 

「んなこと言えねぇだろーが」

 

 

 階段からの足音が響くので高山と永夢はその場から離れて机の近くまで歩く。階段から出てきたのは貴利矢と飛彩の2名であった。

 

 

「神よぉ……今まで作ったゲーム誰からの案か、俺知って『さて2人とも、バイラスを倒してくれて良かったよ』この変わり身よ」

 

『……何か異様に知りたいのだが』

 

「言うな。それに……な」

 

 

 高山が永夢の方を見ると、純粋な子どもの様になって知りたがっていそうな天才ゲーマーMその人となっていた。かなり当初の目的からずれているので、先ずは軌道修正していこう。

 

 

「宝生さん、宝生さん。ちょっと準備に取りかかりますよ」

 

 

 高山が永夢の肩を数回叩いて意識を現実に戻させる。ハッとした様子で意識を引き戻すと、永夢はカルテの準備をする為に先に向かって行った。

 

 高山は両手を合わせて何か行動しようとしている。そこは飛彩が疑問を投げ掛けた。

 

 

「何処に行くんだ、医学生。小児科医も何故か早足で何処か行ったが」

 

「何々?面白そうな予感がするんだけど?」

 

「あー……そうですね。具体的には最初のメンタルケアですよ」

 

 

 高山が上を見ながらそう答えると、今度は黎斗神から質問が投げ掛けられる。

 

 

『永夢が担当している患者のことか……だが何故慌ただしいんだ?』

 

「少しだけ……考えがあるんですよ。それでは!」

 

 

 高山は早足で向かいCRから退出していく。それを見届けていた飛彩、貴利矢に黎斗神は高山の早足の速度に感嘆していた。

 

 

「……いや、まーさかゲムデウスウィルスでか?あれ」

 

『そうとしか考えられん。そしてそれを容易く使う程の器……高山明ァ、素晴らしいではないか。だがそれも私が作成したゲムデウスウィルスによるものだぁ!つまり大元を作った私はk「あ、俺ちょっち明ん所行くわ」サエギルナァ!』

 

 

 貴利矢は自身のバグスター体を利用してデータとなって高山の方まで行くことにした。残された飛彩は机に座り黎斗神と話をしていく。

 

 

「所でだ、檀黎斗」

 

『檀……黎斗神ヨォ!ワタシノナヲマチガエルナァ!』

 

「お前には幾つか聞きたいことがある。俺の質問に答えろ」

 

『…………フゥ。それで?鏡先生が私という神にお尋ねしたいこととは?』

 

「前々から気になっていたのだ」

 

 

 飛彩の以前から気になった内容、それは…………

 

 

 

 

 

 

 

 

「医学生の適合は本当に()()()()なのか?」

 

『…………ふむ』

 

 

 高山のゲムデウスウィルスの抗体、それに対応した過剰適合者。この今まで例を見なかったものでもある。過剰適合者故の培養体質、そして意思を持つウィルスとの対話。

 

 しかし飛彩が引っ掛かったのは()()()()()()()()()()()()()。そこであった。

 

 

「小児科医がゲーム病であり、尚且つパラドという人格を持っているのを知っているからこう思えた。あれは本当に適合しているのか、と」

 

『……だが実際に適合反応はあった。それは私が確認したからこそ断言できる』

 

「その適合が()()だったとしたら?」

 

『何……?』

 

「本来医学生が持つゲムデウスウィルスはコピー。そしてそのコピーが医学生の体に入り込んだ……ではどうやって逃げ出した?そして何故()()()()()()()()()()()()()?」

 

『…………成る程、確かに考えてみれば』

 

「幻夢コーポレーションから逃げ出した。つまり幻夢コーポレーションのセキュリティを熟知した人物が手を施したとしか考えがつかない」

 

『だからと言って私では無いがなァ!』

 

「他に思い当たるのは……可能性として考えにくい」

 

 

 2名は今の話の内容で思い当たる人物を1人だけだが思い出す。しかしその者は今は居ない。()してや、どうやっても存在しているのは不可能と断定できる人物。

 

 

 

 

 

 

「『檀…………正宗』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し時間が経ち、永夢はカルテの用意を済ませ高山に電話をしたあと高山と何故か貴利矢が来ていた。

 

 

「あの、貴利矢さん。何で此処に?」

 

「明に付いていったらこうなった。しっかしまぁ、お前ららしいというか。何というか」

 

「宝生さんと意見が合ったので。それに……僕だって医者を志望してますから。それも精神科」

 

「ほぉ~……ま、こういうのが通用するのは今ぐらいだかんな。今の内にやりたいことやっとけよ」

 

「えぇ。そのつもりですよ」

 

 

 3名は横1列で左から見て高山、貴利矢、永夢という順である。向かう先は当然の如く桐ヶ谷和人の名札がある病室であった。

 

 到着すると高山はスマホを手に取り時間を確認する。確認し終えると永夢は高山の方を、高山は永夢を御互い見合わせてノックしてから病室へと入る。

 

 

「桐ヶ谷和人君、宝生永夢です。入りますよ」

 

 

 病室のスライド式のドアを開き中へと入る3名。桐ヶ谷和人は上半身を起こした状態であり、見知った2人と知らない1人を見て何処か不機嫌(寂し)そうな表情を浮かべる。

 

 それを知ってか知らずか、はたまた無視しているのか。状況を伝える。

 

 

「桐ヶ谷君、君の病気はもう治りました。でも先ずお話しなきゃいけないから、先にするよ」

 

「……はい」

 

 

 幾つかの質問、幾つかの注意事項、幾つかの談話。談話には積極的では無かった辺り喋るのが苦手とも取れる。

 

 しかし話の途中に桐ヶ谷和人は辺りを目で見回しており誰かを探している様な視線がチラホラと見かけられる。ここで永夢が仕掛ける。

 

 

「あぁそうそう。桐ヶ谷君の両親も今此処に来てもらっているんだ。これが終わったら着替えて準備をしてね」

 

「ッ…………」

 

 

 顔を俯かせて黙ってしまう桐ヶ谷和人。仕方がないと言えば仕方がないのかもしれない。だがそんな桐ヶ谷に高山が桐ヶ谷和人のベッドの側に座り、口を開く。

 

 

 

 

「そんなに会いたくないかい?自分の家族に」

 

「…………」

 

 

 桐ヶ谷和人は無意識なのかベッドのシーツを握りしめていた。しかし畳み掛ける……というのは誤解を招きそうだが、敢えて高山は言い続けた。

 

 

「ずっと病気のままで良いから、会いたくないの?」

 

 

 未だに黙ったままの桐ヶ谷和人。何も言わないことを確認した高山は続けざまに言い放つ。

 

 

「君はそうまでして、家族に迷惑を掛けたくないの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………さっきから家族家族って、何なんだよ」

 

「……と言うと?」

 

「何でそこまで家族って言うんだよ!?一言二言言えば次に家族家族って!俺とあの家族とは関係ない!」

 

 

 かなりの怒声を浴びせられる高山。しかし高山からは、ほんの少しの微笑みしかしなかった。

 

 

「ッ……!何がおかしい!」

 

 

 桐ヶ谷和人は高山に掴みかかろうとするが、高山は瞬時に立ち上がり、桐ヶ谷和人を抱きしめる。突然のことで一時的に硬直した桐ヶ谷和人は何が何だか分かりもしない。直ぐに意識を戻すが、既に抵抗しようとする気力も無い。

 

 

「あー、ごめんね桐ヶ谷君。でもさ、君の言ったこと可笑しい所があるからさ」

 

 

 抱きしめられた状態で高山は桐ヶ谷和人の頭を撫でる。何故か本人は動かないままであったが、高山の言葉で高山を見上げる。

 

 高山も抱きしめるのを辞めて桐ヶ谷和人をベッドに戻させた後、口を開いた。

 

 

「君さ、君と桐ヶ谷家族と関係無いって言ったよね?」

 

 

 かなりゆっくりと、そして少し抵抗しながら頷いた桐ヶ谷和人。

 

 

「でもさ、それが本当なら()が可笑しいんだよ」

 

「……今?」

 

「そう、今。君は今、()()()()()()のにさ」

 

 

 桐ヶ谷和人が少し驚きながら、高山を見た。有り得ないという様な表情と、少しの知的好奇心から出た答え。

 

 高山は桐ヶ谷和人の目線に合わせて腰を低くし、口を開く。

 

 

「そっ、実はバグスターを倒した後に君の家に行って治りましたよって報告を宝生さんがしてくれたんだ。そしたら、どんな様子だったと思う?」

 

 

 高山はその時の様子を見ていて思い出したのか少しだけ微笑み、永夢も同じように思い出して少し笑っていた。

 

 

 

 

 

 

「スッゴく喜んでたよ。妹さんが君の両親を呼んで大騒ぎしてたんだ。『お兄ちゃんが治ったよー!』ってさ」

 

「スグ……」

 

 

 桐ヶ谷和人の中で何か壊れた様な感覚が走る。しかしそれは何れ孤独になってしまう鎖を解かれたような感覚でもあった。

 

 

「本当にオーバーリアクションさ!何せ慌てて準備してきたからなのかさ、靴を履き違えてたりとか変な格好までしてたよ。時間を掛けて落ち着けさせたからそろそろ……」

 

 

 病室のドアが思い切り開かれる。貴利矢が突然の音に驚いていた。

 

 

「お兄ちゃん!」

 

「ほら、来たよ」

 

「ッ……!」

 

 

 高山が離れると小さなおかっぱの女の子は桐ヶ谷和人に飛び付こうとしていた。ジャンプすると同時に高山が少しフォローを入れて桐ヶ谷和人の元に案内させる。

 

 

「ねぇ何処も悪くないよね!?お兄ちゃん大丈夫だよね!?」

 

「あ、あぁ……だい……じょうぶ……」

 

 

 桐ヶ谷和人が自身の頬に異変を感じる。触れてみると暖かい水が伝わっていた。手を使って大元を辿ると目から出ていた。

 

 

「お、お兄ちゃん。大丈夫?」

 

「えっ……?」

 

「だ、だだって。お兄ちゃん……涙出てるし……」

 

 

 涙、それが流れていたのだ。桐ヶ谷和人は必死に拭おうとするが何度やっても止まらない。涙で濡れた裾を見ると何故泣いているのか分からなくなっていった。

 

 そんな桐ヶ谷和人に永夢は口を開いた。

 

 

「桐ヶ谷君、君を心配して来てくれたんだよ。もし関係無いなら、君のことで喜んだり大騒ぎしたり此処まで来なかったと思うよ」

 

「……母、さん。父……さん、スグ……」

 

 

 ちょうど良い頃合いに桐ヶ谷夫妻も到着していた。桐ヶ谷夫妻は人目も(はばか)らずに桐ヶ谷和人を抱きしめていた。その温もりを感じている桐ヶ谷和人は、涙を流し続けた。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 桐ヶ谷和人の案件は終わりを告げた。親子仲は普通となり何時もの生活に戻っていった。

 

 しかし高山にはまだ用事が残っている。そして現在、家の中に居る。

 

 

「神代さんありがとうございます!」

 

 

 土下座をしていた。今回はパーティーということで集まっていた4人だが、高山の帰りが遅くなるのを予想してパエリアを神代が作っていたのだ。

 

 

「良いんだよ別に。遅くなりそうだったからな」

 

「それよりもパーティーだ。君がそのままでは始まらないぞ」

 

「さぁさぁ明!早く早く!」

 

 

 藍原に連行され強制的に席に座らされる高山。今宵のパーティーは大騒ぎしたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回!Dr.ゲムデウスは!

 新たな年に、新たな患者!

「まっさかの……かぁ」


 そして現れるのは……マキシマム!?

「レベル99……だと!?」


 対するのはゲムデウスの力の真骨頂!

「パワー増幅……ガットン!」


 『第11話 バグスターとのevolution!』


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閑話 彼女が出会った超人

はい皆様どうも、鬼の半妖で御座います。

今から掲載させて頂くのは閑話というヤツです。といってもネタが無くなったから書いたのではありませんからね?ウソジャナイヨ……

まぁ後々の物語に関与する人物を(  '-' )ノ)`-' )

では閑話をどうぞ。


 12月16日、午後3時15分頃。青森県のとある郊外の銀行に1人の男が挙動不審な態度で現れた。

 

 その男は足早に受付へと向かった。だが生憎とその銀行は順番待ちのシステムが存在し、機械が発注した紙を受付から貰わなければ対応してもらえる所か待っても意味の無いものになってしまうのだ。

 

 だが男は()()()()でそのシステムを覆した。だが強制的という点が挙げられるが。

 

 その男は受付に対応していた目の前の女性を持っている拳銃を向けて脅したのだ。とどのつまり強盗である。勿論、周りの客は叫び声を挙げる者も居た。逃げようとしたり叫ぼうとする客を銃声で黙らせ、その場に留めさせた。

 

 その中には親子連れや妊婦、老人などが人質として取られている事と同じである。この場に居る強盗は拳銃を突き付けながら大型のバッグを提示させ金を詰めろと脅した。

 

 だが、こんな時に限って妙な正義感が働いてしまう者も居る。女性が強盗に支持され金を詰めている間、ゆっくりと強盗の死角に隠れて捕らえようと考えている男が居た。

 

 男は元々正義感の強い人物であり、強盗から全員を救おうと必死になっていたのだ。勿論それ自体が悪いとは言い難い。ただ……相手の状態が悪かった。

 

 男が()てた物音に敏感に反応した犯人は、その方向に銃を向けた。その場所とは待合室と職務室を分ける為に設置された扉であった。しゃがめば容易に大人さえ隠せることのできる扉に銃を向けて、そこから出ろと大きく叫んだ。

 

 観念した男は犯人を刺激しない様にゆっくりと立ち上がり、様子を伺いつつ犯人と交渉していく。だが犯人の様子が普通の人間の()()では無かった。

 

 それもその筈、犯人は危険ドラッグ使用者で正確な判断が脳内で行われていないのだ。交渉なんて意味が無い上にあらゆるものが犯人の刺激と成りかねない状況に陥られていた。だが男も冷静な判断ができていなかった。

 

 元々持っていた正義感が話で応じない者と認識し、捕まえようとする事を決意させてしまった。それが仇となってしまったのだ。

 

 結果、その男は犯人を刺激してしまったが為に命を落としてしまった。その際に1人の女性がパニックを起こしてしまう。それも犯人の刺激となって脅しという行動を取った。

 

 その女性が急激に静まり隣に居る娘にしがみつくと犯人は受付の女性を再度脅し、金を詰めることを強要させる。

 

 だが少しして、先程の女性の(すす)り声が聞こえ始めた。男が捕まえようとした刺激、その女性がパニックに陥り叫び声を挙げてしまった刺激、そして最後の小さな刺激。だが犯人の逆上に触れるには充分過ぎた。

 

 犯人は苛立ちを見せて銃をその女性に向けた。

 

 同じ頃、その女性の隣に居た娘が決意を抱いた。母親を守りたいという一心のままに、彼女の体は動こうとしていた。チャンスは今、この瞬間にしか無い。犯人が此方に注目が逸れている今しかないと感じ、行動に移そうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「デェアアアアッ!」

 

 

 突然の声に一瞬思考を停止するが、気付けば犯人の体が大きく逸れて地面に倒れ伏した。頭にも痛みが走っている様で右手で銃を持ったまま頭を抱え悶絶している。

 

 女性の娘は声の主を見る為にその方向に視線を向けた。

 

 自分よりも高い身長、自分よりも鍛えられた体、自分よりも犯人に対する鋭い目付き。しかし顔は何処か幼さを残した状態の男であった。

 

 その男は犯人の持つ銃を強引に奪い取り遠くへと投げ捨てた。捕まっていた人質は解放されたも同然だが、急に現れた男に視線が行き避難どころではなかった。

 

 

「ったくよぉ……友達(ダチ)に荷物届けようとして行ってみれば、この有様。何か不幸だな今日は」

 

 

 そう言ってはいるが犯人への視線を逸らさない。痛みに耐えながらも犯人が起き上がり男へ殴りかかろうとする。

 

 

「クソがあぁぁぁ!」

 

「ふっと」

 

 

 犯人の右拳が迫っていたが、男は難なく避けて腕を掴み背を向けたかと思いきや顎に叩き込む様にして自分の上半身を倒して蹴りを入れた。

 

 犯人は顎を蹴られたことによって脳震盪を起こしその場でフラフラとしながら倒れてしまった。伸びていることを確認した男は早急に警察への電話を行った。近くにあった遺体も見つけ、その場に近付いて黙祷を捧げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 警察も到着し事情聴取を行っている会議室の中で先程の女性の娘『朝田詩乃』と呼ばれる少女が、ふとした疑問を婦警に投げ掛けた。

 

 

「あっ……あの…………」

 

「ん?どうしたの詩乃ちゃん」

 

「……銀行で、助けてくれた男の人は…………?」

 

「あぁ……あの子ね。今親御さんが迎えに来てくれてる途中で待ってるみたいよ」

 

「そう…………ですか……」

 

 

 今からでも言いたいのだ。何故あの様なことをしでかしたのかを。朝田詩乃としての考えはそんな事を考えていた。

 

 

「良ければ会ってみる?」

 

「は、はい」

 

 

 少ししどろもどろと成りながらも答えた。担当している婦警は一旦外に出て男を連れてくる。

 

 時間は3分程だろうか?たったそれだけだが、朝田詩乃には長く感じた。扉がノックされ開かれると婦警と、その後ろに銀行強盗を退治した男が居た。

 

 その男は朝田詩乃を見るやいなや気付いた表情で少し馴れ馴れしい様子で挨拶をした。だが不思議と不快感は感じず、寧ろ何処か安心できる様な雰囲気となっていた。

 

 婦警は気をきかせたのか部屋から退室し、残っているのはその男と朝田詩乃だけとなった。その男は朝田詩乃の前に座り口を開く。

 

 

「ぃよっ。さっきぶりだな」

 

「はい……あの…………」

 

「あぁそうそう。言っとくけど、俺まだ13だからな?この図体のせいで2ぐらい歳上に見られるんだよ」

 

「えっ…………そ、それでも私より歳上……じゃなくて」

 

「んぁ?じゃあ何?」

 

 

 かなり物凄いことをカミングアウトした男。13という年齢でありながら犯人の()()()()()()()という人間らしからぬ行動に驚かされる。が、朝田詩乃の本意は違っていた。

 

 

「あの……助けてくれて、ありがとう……ございます」

 

「あぁ……そっちか。なに、気にすんな。俺が勝手にしゃしゃり出ただけだからよ」

 

 

 やっと言えたと安堵する朝田詩乃。その後に会議室の扉がノックされ部屋に婦警と見知らぬ男が入ってきた。その男を見てその男子は少し萎縮(いしゅく)した。

 

 

「ゲッ!親父!」

 

「何がゲッ!だ?よくもまぁ言えるなバカ息子」

 

 

 何故かこの親子の間で言い知れぬ雰囲気が漂っているが誰も介入できずにいた。その男子の父は自らの子に近付き、高さを合わせて耳打ちをする。その際ビクッとその男子の体が震えたのが映った。

 

 次第に体の震えが増していき、椅子ごと震えていた。耳打ちが終わった様で、その男子の父は婦警と朝田詩乃に一礼をしてその男子の首根っこを掴まえて帰ろうとしていた。

 

 

「あっ…………あの!」

 

 

 帰る2人の足を止めるかの様に大声で呼び止める朝田詩乃。それに反応したのか、その男子の父とその男子は朝田詩乃の方に顔を向ける。

 

 

「あの……名前を、聞かせても……?」

 

「……ほれ、何時も通りに」

 

「おっと」

 

 

 首根っこを掴んでいた手が緩み落下のままに地面に着地する男子。1度だけ咳払いしたあと、その男子は名乗り始める。

 

 

 

 

 

「俺の名は関本 零治(せきもと れいじ)、俺の友達からは零の字から渾名で『ゼロ』って呼ばれてる」

 

 

 じゃあなと一言だけ告げて、その親子は会議室から去っていった。朝田詩乃はその男子の名前を頭の中で反復させていた。

 

 

「せきもと……れいじ。『ゼロ』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 関本零治とその父『関本(しち)』が車内に居る中、零治の持つスマホから1本の電話が鳴る。スマホを取り出して確認すると、零治の呼んでいた“友達”からの電話であった。

 

 漆に断りを入れて電話に出る零治。

 

 

「はいはいもーしもし」

 

『ネットは情報の拡散が速いね。直ぐにゼロの情報に辿り着いたよ』

 

「要件を言え要件を。お前がそんなタマかよ『バダン』」

 

『ふむ……要件だな?さっき他人のツイートからゼロの情報が発信されてな、見てみればゼロが映っていたという訳さ。そして犯人逮捕に1役買ったゼロに対するネットの反応が“えぐっ!何だコイツ!?”や“図体デケェ……柔道家か?”とか“ウホッ、良い男”とか』

 

「分かった、わーったから!ってか最後のヤツ完全にアウトじゃねぇか」

 

『兎も角君に対する評価が色々とあったのでな、それを君に伝えるのが僕の要件だ』

 

「こんのクソ暇ニート」

 

『株で生計は立てている。だからニートではない』

 

「どんな無茶苦茶理論だテメェのは」

 

『という訳だ。僕からは以上、では』

 

 

 勝手に通話を終了させるバダンと呼んだ電話相手に溜息をつきながらもスマホを片付けて車の景色を眺める零治。ただ、電話を終えた零治の目は何処か空虚になっていた。

 

 

「また何が言われたのか?」

 

「ん……まぁな。アイツは単に伝えたがっているだけだがよ」

 

「またネットの評価というヤツか。お前はお前なんだから背筋伸ばして生きていけ、ドラ息子よ」

 

「ドラ息子って……何時の時代だよ?」

 

「そうか、もう死語なのか。ふははっ」

 

 

 相も変わらず普段通りに我が道を行く父、漆を横目に溜息をつきながらも零治の心は少しだけ軽く感じていた。零治は言葉通り背筋を伸ばして、椅子にもたれかかった。今日あったことに対する疲れでも出たのだろうか?はたまた父親の出す雰囲気に落ち着いたのか、定かでは無いが零治の顔はスッキリしていた。

 

 

 

 

「だからと言って、今回の件に対する罰は受けてもらうぞ」

 

「おいそりゃねぇぜ親父ぃ」

 

「何とでも言え」

 

 

 赤い車を走らせて家へと帰っていく関本親子。車内では何処かしら和んだ雰囲気を醸し出しながらであるが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして後に、ゼロとバダンは数奇な運命を辿ることになる。とても現実とは思えない、そんなもう1つの現実をその身で味わうこととなるのを未だに知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 




『関本零治』
渾名『ゼロ』。年齢13でありながら15歳に見間違えられる程の図体の持ち主。父である『関本漆』と2人暮らしをしている。世に珍しい“ピンク筋”を筋肉の内の3割を持つ稀な人間、その影響で身体能力は武道経験者より遥かに上。母はゼロデイの日に亡くなっている。

『関本漆』
関本零治の父親。母を亡くしたことで零治の世話をしているシングルファーザー。元陸軍軍曹の階級に所属していたが辞任、しかし功績も相まって自衛隊員の育成に力を貸している。零治の師匠でもある。

『バダン』
本名『唐澤 成英(からさわ なるあき)』。両親は2人とも国際関係で仕事をしており滅多に帰らないことと、そもそも学校に意味を感じない性格から不登校となっている。だが株で儲けたりするなど頭はキレる。唯一外との交流を持つのが零治であり、唯一信頼出来る友である。





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第11話 バグスターとのevolution! 

 新年の正月疲れが抜け切ってない1月6日。普通ならば仕事を始めなければならないことから、大方の社会人ならば溜息をつきながら仕事へと向かうだろう。公務員ならば話は別……と言いたいが、案外休む人も居ると思う。

 

 しかし病院は休みを取る人も居ると思うが仕事として人の命や健康を預かり、治すことをしなければならない。故に急患が発生した場合などは休みを返上して仕事をしなければならない。

 

 ライダーである医者たちもそれに変わりない。そして勿論、ドクターライダーとなった高山明とゲムデウスにも()()()緊急となった場合のみ適応され休みを返上する羽目になる。

 

 そして今、高山は大型バイクを走らせて聖都大学附属病院へと赴いている。今回呼ばれたのは現在ドクター全員が患者を請け負っている状態の為、医院長である『鏡 灰馬(かがみ はいま)』から連絡を貰い現在の状況に至る。連絡を受ける前、高山は藍原と共に家で少しまったりとしていた。

 

 

『かなり多忙だな。医者になるというのは』

 

「まぁ……そうだな。人の命を預かるんだからさ」

 

『それを仕事として勤めを果す医者たちは、かなりタフでもあるな』

 

「確かに」

 

『お前も目指すのだな。かなりクル方の医者に』

 

「精神科って、かなりキツいしね。でも目指してるから突き進みたいよ」

 

『……お前もかなりタフな奴か』

 

 

 和んだ雰囲気を漂わせながら、高山は聖都大学附属病院に到着する。駐輪場に停めて地下にあるCRの患者隔離部屋へと急ぐ。

 

 自動ドアが開き診療台に寝ている患者の側に居る仮野明日那の所まで行く。明日那は高山が来たのを確認すると高山の方に向き口を開く。

 

 

「態々ありがとうございます、高山さん」

 

「いえ、他の皆さんが忙しいんですから。患者を待たせちゃ不味いですし」

 

「そうね。じゃあ早速だけど、このカルテの確認を」

 

 

 高山は手渡されたカルテを受け取り、確認していく。初めに名前を確認するのだが、少し奇妙な感覚に陥る。

 

 

「……『結城 明日奈』?」

 

『結城……確かお前の知り合いの後輩、つまり同級生とやらに結城の関係者が居たな』

 

「……って、見たら結城財閥だ。しかも“御令嬢”じゃないか」

 

『結城財閥御令嬢……これだけ確認すれば裏がある様にしか見えんぞ』

 

「結城財閥……確か須郷伸之が関係者だったな」

 

 

 カルテを読み進めていくと、感染したウィルスに『ガットン』のウィルスが存在している。その後、症状の様子や搬送直後の様子などが記されていた。

 

 それを確認し終えた高山はカルテを明日那に返し、患者である結城明日奈の側に立ち寄る。高山の目は患者を救けたいという1つの思いに心を染めていた。

 

 少しすると、寝ていた結城明日奈の目が覚めた。ゆっくりと瞼を開けて天井をボーッと見ていた。

 

 

「おはようございます、結城明日奈さん」

 

「…………私の、名前……何で?」

 

「貴女の担当医と成りました。ドクターライダーの高山明と言います」

 

「ドクター……ライダー?」

 

 

 少し寝惚けているのか興味をしていなさそうな反応を示すも、担当医という言葉を聞いて少し安心した様な表情を見せた。

 

 高山は笑顔を向けながら、結城明日奈に他愛ない雑談を交わしていく。寝惚けていた顔から徐々に楽しそうな表情になる患者を見て高山と明日那も笑顔になっていった。

 

 暫く患者とのやり取りをしていると、固定電話機から通報を受ける。明日那が通報を受け、高山も準備に入るが先に患者である結城明日奈の手を握り笑顔で告げた。

 

 

「心配しないで。君のゲーム病は必ず治すから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高山がCRから出て玄関口に向かおうとした際、とある2人の人物を見つけた。その内の1人は高山にとっては同級生であり、茅場昌彦の後輩というだけあって別に仲が良いという訳でも無い。

 

 しかし高山はその2人組に近付き声を掛けた。

 

 

「あの……須郷伸之さん、であってますか?」

 

「ん?……あぁ、君か。その節はどうも」

 

 

 見る限り“好青年”という言葉が当てはまっているその身なりや表情だが、どうにも高山はその表情に違和感を覚えた。しかしその表情を見せない様に高山は対応していく。

 

 

「……須郷さん、そちらの方は?」

 

 

 不意にもう1人の女性の方から声が聞こえる。高山が須郷を避ける様にして覗き込むと、目は赤く腫れ頬に涙の痕があった。

 

 須郷は表情を全くと言って良い程崩さずに、その女性に高山のことを紹介する。

 

 

「えー……此方の方は先日僕のゲーム病を治療してくれた方でして。何故k」

 

 

 説明途中であったが、その女性は高山の側まで近付き服の袖をガッシリと掴んでいた。その女性は高山と視線を合わせて病院内にも関わらず大声を出した。

 

 

「お願いします!娘を!明日奈を救って下さい!」

 

「京子さん……」

 

 

 高山はその言葉を聞いて少し微笑み、京子と呼ばれた女性の肩に手を置く。その手の温もりに気付き、そちらの方を見る結城京子。高山はその様子を見て、キチンと伝えた。

 

 

「患者を救うのが僕の役目です。貴女の娘さんは必ず治してみせます……ですから、治った時に娘さんが安心できる様に信じて待っていて下さい」

 

 

 屈託の無い笑みをしている高山は、京子からは救いの手を差し出す()として映っていた。高山は袖を掴んでいた手をゆっくりと握り袖から外すと一言だけ告げて目撃情報の場所に赴く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大型バイクを走らせて目撃情報付近に到着した高山。ゲムデウスからのウィルス反応を照らし合わせながら見渡すと、赤い機械の姿をしたバグスターが海浜公園の歩道の真ん中に居た。

 

 

「アイツがガットンか」

 

『あの右のアームには気をつけろ。下手すれば一気にゲージが減る』

 

「了解!」

 

 

 高山はバッグからゲーマドライバーとガシャットを取り出し、バイクのハンドル部分にバッグを掛ける。ガシャットを起動させると高山の背後にゲーム画面が出現し、辺り一面にカプセル錠剤がゲームエリア内に広がっていく。

 

 

【ドクターマイティXX!】

 

 

 ガシャットをゲーマドライバーに差し込み両腕を前に出して交差させてレバーを開き、変身する。

 

 

【ダブルガシャット!】

 

 

「Mark X-2!変身ッ!」

 

 

【ガッチャーン!レベルアーップ!】

 

【ドクターマイティ!2人で作る!ドクターマイティ!2人でメイキーング!X!】

 

 

 XLゲーマーとXRゲーマーに別れ、高山とゲムデウスはそれぞれ右腕と左腕を交差させてXの文字を作る。

 

 

「「これより、製薬実験を開始する!」」

 

 

 ガットンは2人に気付き右腕を回して向かってくる。高山とゲムデウスはガットンに向かって走り、両横に移動すると蹴りと拳の挟み撃ちを行う。

 

 しかしガットンは蹴りと拳を防ぎ払い除ける。ガットンの右側に居た高山は威力強めで払い除けられたことによって、かなりの距離を離れた。それによって高山のライダーゲージが3割ほど減っている。

 

 

「いってぇ!……何だよ、この力!?」

 

「チィ!やはりレベルアップはしていたか!」

 

「現在のレベル……99」

 

「ッ!99だと!?」

 

 

 ガットンがゲムデウスを払い除け右腕のアームで殴りつけようとするが、ゲムデウスはローリングすることで避けジャンプして高山の元に到着する。

 

 

「ここはXXでの対応が適切らしいな」

 

「攻撃さえ当てられればの話だけどよ……気の遠くなる作業じゃねぇか?」

 

「格闘戦は私が引き受ける。それならどうだ?」

 

「頼む!」

 

 

 高山とゲムデウスはゲーマドライバーのレバーを開閉させると、軽快な音楽と共に別の形態に移る。

 

 

【【ガッチョーン】】

 

 

「「Mark XX!」」

 

 

【【ガッチャーン!ダブルアーップ!】】

 

【私が君を!自分がお前を!(We are!)何度も何度も倒して!(Hey!)XX!アイアムゴーッド!いや喧しいな神】

 

 

 何時もの如くレベルアップ音が奇妙だが、今は目の前のバグスターに集中する時。高山はゲムデウスと人格を交代し、ゲムデウスは格闘戦の構えとして形意拳のポーズを取る。

 

 ゲムデウスはガットンに向かって走り出し先ずは1手、顎狙いのアッパーを仕掛ける。だがガットンは左手で受け止め右腕のアームで殴りつける。

 

 

「ッ!ぐおっ!」

 

 

 殴られたゲムデウスはガットンから少し離れてしまう。しかもブレードヘアーの色素が一部黒くなっていることから、かなりのパワーを有していることが分かる。

 

 

『ゲムデウス!俺が盾で様子見ながら隙を突く!変われ!』

 

「くっ……頼む」

 

 

 ゲムデウスは高山と人格を交代し、高山は虚空に手を(かざ)すとアイテム選択画面が出現する。その内の盾を選び装備する。

 

 

【ガシャコン・シールド!】

 

 

「行くぞ!」

 

 

 高山はガシャコン・シールドを右手に装備すると、走り出して盾で先ずは殴りつける。だが右腕のアームによって先端を掴まれ、そのまま後ろに放り投げられてしまう。

 

 空中で無理矢理体勢を整え着地すると盾を使ったチャージアタックを仕掛ける。不意を突けたことによってガットンにダメージが漸く入るが、それも微々たるものしか入っていない。

 

 間髪入れずに高山はガットンの膝裏を蹴り体勢を崩した後、頭上に盾の先端をぶつけてダメージを入れると次にガットンの左肩に左足を置き右足だけでジャンプした所をガットンの頭目掛けて右足で蹴る。

 

 ガットンは後頭部を蹴られたことによって前屈みの体勢となり、好機と捉えた高山が再度猛攻を仕掛ける。先程の蹴りでガットンのレベルは98に下がっており、できた隙を逃さない様に高山は踵落としを決めようとした。

 

 しかしガットンは自分の上半身を回転させて、右腕のアームで防いだ。

 

 

「んなっ!?ありかよ!?」

 

『機械のバグスターだからこそのアドバンテージ、虚を突かれたか!』

 

 

 ガットンは右腕のアームを振り払って高山の体勢を崩すと立ち上がり下半身が回転して元の状態に戻る。高山は崩された体勢を立て直そうとするが、痛みが走り中断する。

 

 

「ぐっ!」

 

『ッ!あの時の……!』

 

 

 ガットンが盾の先端を掴み高山を放り投げた時、高山は無理矢理体勢を空中で整えさせた。その影響が高山の体に痛みを引き起こした。

 

 好機と見たガットンが高山を右腕のアームで殴りつける。間一髪の所で盾で防ぐも、かなりの距離を飛ばされガシャコン・シールドは離れブレードヘアーも黒くなっている。

 

 

「ぐあぁ!ッ…………かはッ」

 

『……おい宿主』

 

 

 ゲムデウスが高山に話しかける。しかし痛みでそれどころではない高山は無理をしてでも立ち上がろうとする。

 

 

『これを使うのは渋っていたが……止むをえん。交代してくれ』

 

「……何か、あんのかよ?」

 

『私の力を使う。侵食が進むが悠長なことは言ってられん』

 

「……分かった。だが勝てよ」

 

『無論だ』

 

 

 高山とゲムデウスが交代し、ゲムデウスは左腕を引き絞り手を拳の形にする。するとゲムデウスの左腕が赤い幻影に包まれる。

 

 既に接近していたガットンはゲムデウス目掛けてアームを振り下ろした。しかしゲムデウスは頭を逸らすことで避け、左拳をガットンの腹部に入れる。

 

 ガットンはそれによって吹き飛び、5m程離れる。ゲムデウスは立ち上がりボクシングのファイトポーズを取りながら言った。

 

 

「パワー増幅……ガットン!私を止めてみせろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────Loading……──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「パワー増幅……ガットン!」

 

 

 ゲムデウスの左手でのパンチがガットンの鳩尾(みぞおち)に当たると、ガットンは5mほど吹っ飛んでいった。考えられる要因としては先程のゲムデウスの左腕に赤い幻影が現れた時に何か起こったのだろう。

 

 ガットンは先程の不意打ちをくらった為か、起き上がる時に少し抵抗がありながら起き上がった。それを見ていたゲムデウスと高山は確信していた。これならば倒せると。

 

 ゲムデウスは高山の体に無茶を掛けないようにゆっくりとガットンに向かって行く。

 

 

「ダメージ識別……損傷具合により速攻戦法に切り替え」

 

 

 右腕のアームを回して素早くゲムデウスまで近付く。がゲムデウスは自身の左腕の幻影を解くと、今度は別の力を使う。

 

 

「“パーフェクトパズル”」

 

 

 ゲムデウスが右腕を横に突き出し中指を挑発の様に動かす。すると1つのエナジーアイテムがゲムデウスの元までやって来ると、エナジーアイテムがを使用する。

 

 

【鋼鉄化!】

 

 

 ガットンがゲムデウスを殴る。が、先程のエナジーアイテム鋼鉄化によって固くなっておりダメージは無い。さらにゲムデウスは続けざまに別の能力を使用する。

 

 

「“ノックアウトファイター”」

 

 

 今度はゲムデウスの両拳に赤い幻影が纏われると、ゲムデウスはガットンにアッパーを仕掛ける。

 

 

「オォラッ!」

 

「!?」【HIT!】

 

 

 空中に放り出されたガットンは成す術も無く重力のままに落下していく。タイミングを合わせてゲムデウスは両拳によるラッシュをガットンに連打していく。

 

 

「オォオォオォオォオォ!」

【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】

 

「オラァッ!」【GREAT!】

 

 

 ゲムデウスのラッシュがダメージとして蓄積されたガットンは、最後のゲムデウスの一撃で今度は6m程まで吹っ飛ばされていった。

 

 

「……被害状況…………損傷具合 大……危険……」

 

「宿主!一気に終わらせるぞ!」

 

『オッケー!』

 

 

 ゲムデウスはゲーマドライバーのレバーの開閉をすると最後の一撃として構える。

 

 

【ガッチョーン キメワザ】

【ガッチャーン!】

【DoCTOR MIGHTY CRITICAL STRIKE!】

 

 

「スァッ!」

 

 

 ゲムデウスはジャンプをすると前回転しながらガットンまで接近しガットンの頭に踵落としを決めると、今度はガットンの左側頭部に膝蹴りを与え次に右側頭部に左足の回し蹴りを与える。

 

 トドメの一撃として後方回転からの踵落としを決めるとガットンは爆破して消え去る。ガットンが消えたことにより【GAME CLEAR!】の文字エフェクトが出現した。

 

 ゲムデウスはゲーマドライバーを閉じてガシャットを引き抜き、変身を解除する。

 

 

【ガッチョーン ガッシューン】

 

 

「…………ッアガッ」

 

 

 ゲムデウスは直ぐに高山と人格を交代するが無茶をしてしまったせいで高山は地面に膝を着き、ゆっくりと仰向けになって倒れてしまう。痛んでいる所は主に左脹ら脛(ふくらはぎ)や膝、右横腹が痛んでいる。

 

 実際これぐらいの怪我ならばある程度の我慢は可能だが、どちらかと言えば休んだ方が良いと言われそうな状態だろう。だが高山はこの後の報告もあって自分の体を動かさなくてはいけない。

 

 なので何とかゆっくりと立ち上がりバッグからスマホを取り出してCRに掛ける。事情を説明すると調度良い時に貴利矢が帰ってきていた為、貴利矢の世話となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイテテテ…………!」

 

「全く……どうやったらこんな無茶するのよ?」

 

「め、面目無いです……」

 

 

 高山は膝に異常を感じたので念の為に検査を受けた所、骨が微妙にズレているのを発見しギプスなどで矯正し治している。他にも脹ら脛は思いもよらない不可を掛けてしまったせいで肉離れも起きていたらしくその2つ共治療中。

 

 しかし高山はギプスを着けているとは言え患者を待たせている身、許可を取って松葉杖を使って移動している。傍には万が一の為に明日那が居るが、そんな機会は殆ど無く単なる話し相手となってしまっている。患者のことについては明日那が話しておくと言ったが、敢えて高山は患者の様子を見に行くことをした。

 

 

「ふっ、ほっ、よいしょ。ふへぇ……松葉杖疲れる」

 

『お前の無茶が来てこの様なんだろうが』

 

「ゲムデウスの策が通用しなかったから俺が行ったんでしょーが」

 

「はいそこ喧嘩しない。ゲムデウスも」

 

『私の声聞こえてないよな?』

 

「知らんがな」

 

 

 何はともあれ高山は地下CRの診療室まで到着した。その診療台の上には患者であった結城明日奈の姿、元気そうな姿であったが高山の姿を見ると血相を変える。

 

 

「せ、先生!?何ですかその怪我!?」

 

「あーこれ?大丈夫大丈夫気にしな……イッツゥ」

 

「絶対大丈夫じゃないですよね!?」

 

 

 患者に心配される高山はそんな事を他所に明日那が用意した2つの椅子の内の1つに座り、もう1方に怪我をしている左脚を乗せる。明日那に礼を言った後、高山は明日奈と面と向かい合って話していく。

 

 

「それじゃあ君の症状なんだけど……あ、この姿は気にしないでね?」

 

「あっ、はい」

 

「さてと……君の症状は確かに治ったよ。でも何時また感染する可能性もあるからね、少し質問をするけど良いかな?」

 

「……それなら、大丈夫です」

 

「…………ん、分かった。じゃあ先ずは……」

 

 

 高山は少しの間結城明日奈に対して幾つかの質問を投げつけた。バグスターウィルスはストレスに反応して活性化する為、酷ながらもストレスを最近感じた時の事を話してもらった。

 

 そして結城明日奈から口に出されることだが……驚いたことに須郷伸之との見合い中に手に触れられたことで発症したらしい。僅か11歳ながらにして家族関係から見合いが行われていることに、少しながら高山は困惑した。

 

 そして確信が持てた、高山が感じた須郷伸之に対する感覚。恐らく本能的に危険信号を発していたのだろうと推測された。このことに高山は目頭を押さえて唸った。

 

 

「ふぅ〜むぅ〜……これは参ったなぁ」

 

「あの……先生?」

 

「ん、あぁ。ごめんね。実は須郷伸之と知り合いなんだ。あぁ!でも直接的な関係は無くてね!その人の大学の先輩と交流があってたまたま知っただけで!別にあの人とは何にも無いから!ね!?」

 

「は、はい…………」

 

 

 かなり捲し立てて喋ったせいか何処が威圧感を与えてしまったらしいが、不思議と苦の表情は浮かべていなかった。

 

 高山は少しだけ思案した後、何が思いついたのか明日那に要件を伝えた。

 

 

「明日那さん、すみませんがこの子の母親を呼んでくれませんか?名前は確か……結城涼子さんを」

 

「ん、分かった」

 

「ッ!?」

 

 

 一瞬明日奈の体が震えたが、高山は診療台の壁部分を使って立ち上がり明日奈の手を握ると、その温もりを感じた明日奈は高山の方を見た。高山は明日奈に微笑みながら“大丈夫”などの言葉を掛けた。

 

 少しすると先程出逢った女性である結城涼子と須郷伸之がやって来た。明日奈の体が微妙に震えたのを見て高山が松葉杖を使って2人の前に立つ。

 

 

「ヨイショッ。すいませんね、態々来てもらって」

 

「あぁ……いえ……」

 

「あ、この怪我は気にしな……無理ですね。とまぁ話を戻して……」

 

 

 高山は須郷の前まで行くと、表情を変えて口を開いた。

 

 

「すみませんが、須郷さんには退出を願いたいです」

 

「……それは、何故?」

 

 

 能面の様に変わらない笑顔を少し引き攣らせるも、直ぐに戻して高山に尋ねた。高山は表情を変えずに言い続ける。

 

 

「今回は親御さんとだけで話を付けさせてください。親子間の話に見合い相手である貴方が介入するのは、些かどうかと?」

 

「………………」

 

 

 どうやら聞き入れる余地も無いのか、はたまた分かっていても納得出来ないのか。その状態を見ていた明日那が須郷に退出を願うと渋々ながら出ていった。

 

 その時高山の方をチラリと見ていたが高山も同じく須郷の目を見ていた。須郷が退出し明日那が帰ってくると高山は少し息を吐いて2人の方に向いた。

 

 高山は1度咳払いをした後、話をしていく。

 

 

「ゴホン……えーと涼子さん、でしたね?結城涼子さん」

 

「え、えぇ」

 

「僕もある程度しか知りえないんですが、御二人とも結城財閥の方ですよね」

 

「えぇ……それが何か?」

 

「…………」

 

「今回結城明日奈ちゃんがゲーム病を発症する前、何か特別なことは?」

 

「……お見合い、です」

 

「…………やっぱりか」

 

 

 高山は1度呼吸を整えて再度口を開く。

 

 

「恐らくなんですが、発症のトリガーとなってしまった原因がそのお見合いにあるかと」

 

「明日奈……」

 

 

 涼子は診療台に居る明日奈の方に顔を向ける。明日奈の表情は沈んでおり覇気すら感じられない。だが高山はその様子を見て涼子にある頼み事をする。

 

 

「……結城涼子さん」

 

「…………はい」

 

「……娘さんと、キチンとお話してください。単なる予想に過ぎませんが、財閥というだけあって中々本意を話せる状況が無かったのではありませんか?」

 

 

 涼子は黙ったまま頷くと、高山の表情は優しい笑みとなり話を続けた。

 

 

「調度良い機会です。親子水入らずで、娘さんと()()で話し合って下さい。秘めていた思いとか全部を聞いてあげてください」

 

 

 高山は明日那を連れて外に出ていく。松葉杖なので移動速度は遅くなるがそれでも会話の場を設ける為に外に退出していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 部屋から出ると近くで須郷伸之が待っており、高山が来たことで何を勘違いしたのか立ち上がり高山の両肩に手を置いた。

 

 多少ながら嫌悪感を覚えた高山は須郷の左手を見たあと顔を向けると、そこには未だに奇妙な笑顔のままの須郷の顔があった。

 

 

「……今はアフターケアの最中です。貴方の入る余地は何処にも「分かっているのかい?」」

 

 

 須郷はまるで脅しを掛けているかの様な声色をして、高山に言った。その時の表情は笑顔ながら醜いと感じてしまうものであった。

 

 

「君1人なんてどうにでも出来るんだよ?」

 

「…………」

 

「さっきからまぁ僕に対して随分とした物言いだったからねぇ。ただの学生の分際でよくもまぁ僕に「ハッ」」

 

「……高山、さん?」

 

 

 高山が嘲笑う様な声を出すと睨みつけながら話す。

 

 

「貴様も随分……幼稚だな」

 

「何……?」

 

「その程度、脅しにも入らんわ。それとだ……」

 

 

 人格を交代したゲムデウスがドスの聞いた声で須郷に忠告をした。それは正しくラスボスの風格を持ったゲムデウスそのものでもあった。

 

 

「今後あの娘に近付いてみろ。またゲーム病に感染するぞ」

 

「……一体何のh」

 

「結城明日奈から経緯は聞いた。大層な嫌悪感をお持たれのようだな須郷伸之、お前に手を触れられただけでゲーム病にさせたのだからな」

 

 

 暫くの静寂が続き、ゲムデウスが口を開いたことでその静寂は掻き消された。

 

 

「お前は早く帰れ。これ以上いても貴様には何のメリットすらありはしない」

 

「……じゃあ、先に断りを入れてから「私がしておこう、それで良い筈だ」」

 

 

 やけにあっさりと手を退いた須郷はそのまま病院へと戻っていく。ゲムデウスは高山へと人格を交代すると、その直後に明日那の説教を受ける。

 

 

「ちょっとゲムデウス!幾らなんでも表に出て何勝手な事を!」

 

『知らんな』

 

「……はぁ、でもまぁ良いや。今回ばかりはゲムデウスに言ってもらったし」

 

 

 そんなことをしていると、高山が突然思い出したかの様な素振りを見せると右手の松葉杖を離して右ポケットに入っていたスマホを取り出す。

 

 明日那は高山が離した松葉杖をキャッチすると注意しようとするが、高山が誰かと会話中なので注意できずにいた。

 

 

「すみません態々……えぇ、レベル99のバグスターの出現が確認されました。勿論手こずりましたよ……えぇ。ではお願いします」

 

 

 会話を終了すると高山はスマホをポケットに入れて松葉杖を貰い待ち続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 高山が設けた話の場に2人の人物。CRの診療台の上に結城明日奈が、その横で立ったまま黙っている結城涼子。この2人は結城財閥の者だが、それ以前に1つの親子である。

 

 しかしこうして話し合う場は無かった。それどころか恐らくゆっくりとした時間を過ごすということも無かったであろう2人。高山からは本音で話し合ってくれとのことだが、如何せん何を話せば良いのか分からない状況に陥っている。

 

 とどのつまり何も喋っていない。ただ単にお互い目を合わせる所か、口を開いてすらない。幾ばくかの気まずい時間が過ぎていく中、漸く口を開いたのは結城涼子であった。

 

 

「…………明日奈」

 

「ッ…………な、何?」

 

「……その、ね。あの…………」

 

 

 何とまぁしどろもどろになるのか。だがここまでになるということは、それだけ話すらキチンとしていなかったのだろう。弱気な自分を見せもせず、相手にバレない様に必死に。

 

 だがこの場では弱気な姿を見せても良いと悟ったのか、弱々しい自分のままで話した。

 

 

「…………ごめんなさい」

 

「ッ……お母さん」

 

「貴女がそこまで追い詰められていることに、気が付かなかった。……本当にごめんなさい」

 

 

 結城明日奈の目には娘に対して頭を下げるという()()()()()行動をしている母親として見て取れた。何時も厳しかった母親が、こんなにも弱気で謝ったという行動をした母親として。

 

 結城涼子は自分の思いを伝えていく。自分のことも踏まえて、ゆっくりと。

 

 

「思えば全部……貴女のこと何て考えて無かった。全部財閥の事ばかりだったわね……。前も、今回のお見合いも……全部。貴女の苦しみを…………分かってあげられなかった……!」

 

「ッ……!」

 

 

 感情の(かせ)に綻びが生まれた瞬間であった。結城涼子の目には、母の目には涙が浮かんでいた。拭い取るということもせずに、ただ話し続けた。

 

 

「いえ…………本当は、全部私自身を守りたかったのかもしれない」

 

「えっ……?」

 

「自分が田舎の出だからと、軽蔑されたくなかったからかもしれない。私を蔑みの目で見ていた人達に見せ付けたかっただけなのかもしれない……!でも、結局は……そんな考えで、明日奈を傷つけるばかりだった……!」

 

 

 涙を流した結城涼子。誰にも見せたことは無いであろうその姿を、明日奈はただ驚愕の表情のまま見つめていた。決して見せることの無かった姿を見て、明日奈は何処か安心と理解を覚えた。

 

 この人も涙を流す事情があるということ。そして弱さを隠し続けていた1人の人間であることを。明日奈は何故かそこに共感の様な感情が芽生えた。

 

 

「赦してもらえるなんて思ってない……!ただ、今まで迷惑を掛けてしまった、その……責任を……」

 

「もう良い」

 

 

 結城涼子は話すのを辞めて明日奈の方を見た。急に喋った明日奈は、結城涼子という母親を見ず下を向いてポツリポツリと話していく。

 

 

「もう……良いから……そんな顔……しないで……!」

 

「明日奈……」

 

「私こそ……今まで迷惑掛けて、ごめんなさい。でも、私は…………!ただ……ただ、お母さんに喜んでほしかった!だから何時も、嫌だと思っても続けてきた!言うことを何でも聞いた!だから!…………泣いてる顔なんて、見たくない……!」

 

 

 かなりの声量で言い続けた為か息は荒い、()れど自分の思うことを全て話した。子どもなりに、自分なりに。親に思いを伝えた。

 

 親も子も自分の事を伝え、非を改めた。今まで迷惑を掛けてしまった事に対するせめてもの責任として。その日彼女たちは泣いた。お互い涙を流して、共に抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かなりの時間が経ち、漸く涙も治まった頃。松葉杖をつきながら高山が入室してきた。高山の目に2人は何か憑き物が取れた様な感じを覚えた。

 

 高山はその2人を交互に見て表情を和らげると、こう告げた。

 

 

「もう大丈夫、みたいですね。通院も必要無さそうですし」

 

「大変、感謝しております」

 

「ハハハッ、敬語をするのは僕の方ですよ。まだ学生の身ですし」

 

「「えっ?」」

 

「えっ?」

 

 

 結城明日奈が大層驚いた様な表情をしている。それもそうだ。今まで医者だと思っていた人が、まさかの学生なのだから。

 

 結城涼子も大層驚いた表情をしている。須郷伸之と顔見知りとは言え、病院でゲーム病の治療をした経験を聞かれれば誰だって医者と勘違いするからだ。

 

 そんな高山は2人の表情を見て少し笑いながらも話していく。

 

 

「実はウィルスとの適合反応があるのでゲーム病の治療に参加しているだけで、医者という訳じゃ無いんですよ。あ、でも精神科医志望の身ですがね」

 

「精神科医……」

 

 

 その言葉を呟いた途端、結城涼子は顎に手を添えて何かを思案し始めた。その様子を見ていた高山と明日奈は首を傾げて疑問を浮かばせていた。

 

 少しの時間が経つと何か閃いたかの様に目を見開き、明日奈に耳打ちをして尋ねた。その後、急に慌てふためく明日奈の様子を高山とゲムデウスは各々の感想を述べていた。

 

 

『何をしとるんだこの2人』

 

「(知らない。でも何を言ったのかねぇ?)」

 

『それこそ知らん。というより、どうでも良い』

 

 

 明日奈が慌てふためいている中、高山は退院の連絡を伝えると結城涼子が明日奈の意識を呼び戻して帰って行く。だが高山とゲムデウスは知らない。この時、知らない所で何らかの話が進んでいたことに。

 

 松葉杖ながらも高山は2人を見送る為に病院の入口まで行き、車で帰っていく2人に手を振った。車内からは明日奈が小さいながらも手を振ったのが見えていた。

 

 やがて車が見えなくなると、今度は高山のスマホから着信が届く。電話に出ると日向恭太郎の声であった。

 

 

「はい高山です」

 

『高山君、君の要望通り檀黎斗には1つ新たなガシャットを正式に制作してもらう許可を受理した』

 

「大変感謝します。日向審議官」

 

『いや……レベル99のバグスターが出現したことで、現在の戦力に限界を感じたからこその処置だ』

 

「それでも、です」

 

『分かった。では私はこれにて』

 

「分かりました。ありがとうございます」

 

 

 電話が切れると高山は松葉杖でCRへと戻っていく。ゆっくりとしているが、これでも少しだけ急いでいるのだ。何せ新たなガシャットを誕生させる為に()()()()()が必要になってくるのだから。

 

 漸く高山は辿り着くと既に黎斗神がエビゾリ状態で待ち構えていた。

 

 

「いや何してるんですか黎斗神さん?」

 

「……君のガシャットを新たに作ると言われて外に出ていたぁ。だが…………」

 

 

 エビゾリ状態を直して普通に立つと黎斗神は高山に尋ねた。

 

 

「君の()()()()ガシャット、かなり危険だ。それこそ世界を自由にできる位にな」

 

「力の使い方はその人次第。それが世界を滅ぼすのか、世界の益となるか……それは使う僕次第ですよ。黎斗神さん」

 

「……そうでなくてはなぁ!早速ガシャットの制作に取りかかるぅ!君のドクターマイティXXを渡せぇ!」

 

「そう焦らなくても構いませんよ、ほら」

 

 

 そう言い高山はドクターマイティのガシャットを渡す。それを受け取った黎斗神は、すぐさまアーケードタイプのゲーム機の中に入り制作を始めた。

 

 キーボードの叩く音が素早く聞こえる中、高山は椅子に座って休憩する。そのBGMを聞いている途中、ゲムデウスが話しかけてくる。

 

 

『おい宿主』

 

「何?」

 

『本当に()()を作らせる気か?あれは平行世界の時の代物だぞ?』

 

「……ゲムデウス、俺はな」

 

 

 高山は立ち上がり珈琲メーカーまで松葉杖でつきながら向かい、珈琲を入れながら話を続けていく。

 

 

「あの出来事で少しは変わったんだぜ?もし今までの力で対応できたとしても勝てない奴等は居る。だったら此方も新しい力で有利に進めていくだけだ」

 

『それはそうかもしれんが……』

 

(くど)いなゲムデウス。ガットンのレベル99に負けたのは何処のどいつらだったっけ?」

 

『むぅ……』

 

「それにだ。ゲムデウスの力も侵食が進むんだろ?前にも普通に使ったのに侵食のことは言わねぇんだもんなぁ」

 

 

 ゲムデウスは少し押し黙ったが、直ぐに口を開いて話していく。

 

 

『確かに言わなかったが、あれは急なことであった為に言える時が無かったのだ。それに……』

 

「それに?」

 

『あの()()()()()の影響なのかは知らんが、私との意識交代も出来ず、宿主の身体能力だけが頼りになる。些か問題もあるのでは?』

 

「んーじゃあさ」

 

 

 高山とゲムデウスの1歩も引かない討論。だが高山のこの一言だけで、この討論も終わりを告げた。

 

 

 

 

「そん時はドクターマイティで分裂して、2人で変身しようよ」

 

『……まさか、私のウィルスに保存される()()()()()()()()を利用するのか?』

 

「利用……というより、1人でヤバくなった時の保険さ。これなら文句は言わせないよ」

 

『……そこまで言うのなら何も言わん。勝手にしておけ』

 

「やった」

 

 

 高山は少しだけガッツポーズをした後、珈琲を飲む。深く息を吐いた後、今度は黎斗神に別の場所へと移動する様に言われる。

 

 そして着いた先は……先程の診療台のある部屋。そこで黎斗神は機材を準備して出ており、高山にサングラス型のデータ計測装置を見せていた。高山はそれを受け取ると診療台の上に少し脚を痛めながらも寝そべり、それを付ける。

 

 黎斗神が用意した機材にはドクターマイティXXの入った機械と、それと繋げられている1つの()()()()()()()()()のブランクガシャットが存在していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結城明日奈と結城涼子の話し合いの時、とある実験室で座り込む男が居た。その男は机にある1つの機械を持ち、それを自分の手の平につける。

 

 するとその機械の画面からは白いウィルス体【ゲムデウスウィルス】が検出された。それをもう片方の手にもつけるとゲムデウスウィルスが全て取り込まれていく。

 

 

 

『よくやってくれた。まさかゲムデウスとの接触に成功させ、ウィルスを採取してくれるとは』

 

「お前の策に利点があったから実行しただけだ……あの財閥から金を奪うよりか、もっと良い手がね。だが関係は続けていくつもりだが」

 

『それで良い……。それこそ私の、いや!私達の開発するライダーだ。商品価値はかなりの物となる』

 

 

 その男はパソコンを操作して1つのデータを映す。

 

 

『手始めのゲムデウスウィルスを使って、バグスターのレベルをマキシマムにさせる実験は成功した。これを利用し全てのバグスターのレベルを上げたまえ、次の段階に進むにはデータが足りないのだからな』

 

「言われずとも、だ」

 

 

 【全バグスターマキシマム化計画】。それが世に出回ることは無く、知っているのは2名だけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




【バグスター能力の使用】
・ガットン 左腕にガットンアームの幻影を纏わせることでパワーが左腕だけ増幅する。他には頑丈さを付与させることも可能。

・パーフェクトパズル ゲームエリア内のエナジーアイテムを操作する能力。他には効果の重複も可能だが、高山の体に不可が掛かるため本当にヤバくなった時のみの使用

・ノックアウトファイター 両拳にマテリアライズスマッシャーの幻影を纏わせる能力。防御無視の攻撃は可能だが連打性を強化している為か威力は低い。








次回!Dr.ゲムデウスは!

ゲーム病に家族4人が同時発症!

「何で……こんなに遅れていたんだ?」


同じバグスター4体の超強化に苦戦!

「ゲーム病が治ったとしても……こればかりは」


そして試される、ドクターの決意!

「例え治らない物があったとしても!患者を救うことが僕らの使命だ!」


 第12話『決意のNew Form!!』


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第12話 決意のNew Form!! 

 時が経ち、1月15日。現在の高山は……!

 

 

「……ほへぇ。これ凄いですね、味覚再現」

 

「まだプロトタイプだが、発展すれば私たちが食べているもの全てが味わえるぞ。さぁ次だ次」

 

「えっと今度は……触覚ですか」

 

『待て待て待て待て』

 

 

 茅場の理論解明の為の実験台(お手伝い)として仮想世界での5感体験実験を行っていた。頭に特殊なヘッドセットを着けて脳波と同じ程の微弱な電流を神経シナプスに伝達する為に、丸型のパッドを額に着けて暫く横になっていた。

 

 結果は良好。何れかの神経に電流が流れた結果、高山の味覚からはステーキ、シチュー、ケーキが味わえた。序でに乾パンの味も再現されており体験していた。

 

 さて次の触覚体験を行おうとした時、ゲムデウスが高山の行動を口頭で制止させた。

 

 

何ゲムデウス?今忙しいんだけど?

 

『阿呆!お前の今の体質を忘れたのか!?バグスターに近い人間だぞ今!』

 

「…………あっ」

 

「どうしたか?高山君」

 

「……ちょ、ちょっと待ってて下さいね。ハハハッ」

 

 

 高山は一旦個室から出ると少し離れた場所でゲムデウスと対話していく。

 

 

「(確かに僕は被験体とは言い難いよな。そもそもゲムデウスが居てウィルスの培養体質なのに、何で電子機器で実験してたんだろ?)」

 

『お前の御人好しだ馬鹿者。兎も角何でも良いから他の被験体を探す様に促せ』

 

「(ラジャ!)」

 

 

 高山とゲムデウスの対話が終わると個室へと戻り、茅場と話していく。

 

 

「あの……茅場先輩」

 

「何か用かな?」

 

「いえ、茅場先輩なら知ってますから敢えて言いますと……僕ウィルス適合者です」

 

「うむ」

 

()()の人とは違う訳でして。実験データを取るなら僕以外の人も連れてきた方が良いかと……」

 

 

 高山がそう言うが、茅場は待ってましたと謂わんばかりに口角を上げて答えた。

 

 

「心配は無用だ、勿論他の人も選んでいる。高山君の場合はウィルス適合者のデータサンプルが欲しいというのもあるからね」

 

「用意周到過ぎませんかね?」

 

 

 そんな会話の中、高山のバッグからバイブレーションの振動音が聞こえてきた。断りを入れて高山がスマホを取り出すとCRからの連絡が入っている。

 

 着信に出るとスマホからポッピーの声が響いてくる。高い音と大きな声量で、高山の頭と鼓膜にダメージが少しだけ通った。

 

 

「はい高山です」

 

『アキラぁぁ!緊急事態だよぉ〜!』

 

「ッァ……!あ、あのポッピーさん?少し落ち着いt」

 

『お願い早く!このままだと患者さんが!』

 

「ッ!?……了解しました。今すぐそちらに向かいます」

 

 

 電話を切ると高山はスマホをスボンのポケットに入れバッグを肩に掛ける。茅場は高山の様子を見ながら尋ねた。

 

 

「緊急の用事か?」

 

「えぇ。人命優先ですからね」

 

「そうか。なら先に通常の被験体のデータを取ることにするよ。しっかりと仕事をしてきたまえ」

 

「了解しました!」

 

 

 高山は一目散に部屋を出ると大学内の駐輪場に停めてあるバイクを走らせて聖都大学附属病院に向かう。救うべき者を救わずして、何が仮面ライダーか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すいません!お待たせs…………」

 

 

 高山が到着しCR内に入るまでは良かった。だがCR内は些か暗い雰囲気に包まれていた。集まっていた永夢、飛彩、パラド、ポッピーが意気消沈している。

 

 かなり話しかけずらい雰囲気で、高山が入室した事で存在に気付く4名。ポッピーと永夢が高山に近付く。高山も雰囲気を悟ったのか話しかけずらかったが、見兼ねたゲムデウスが人格を交代させて話をする。

 

 

「随分と暗いな。何か失敗でもしたか?」

 

「ゲムデウス……」

 

「……どうやらかなり難航しているらしいな。患者のカルテを見せろ、恐らくバイラスの可能性だと思うが」

 

「これ……」

 

 

 手渡されたカルテは全部で4つ。その1つ1つを名前、性別、症状の項目を見ていく。

 

 

『……!?ゲムデウス、変わって!』

 

「む?承知した」

 

 

 ゲムデウスから高山へと人格を変えると、高山は症状の方に注目して全員分のカルテを拝見する。

 

 

「まさか…………こんな事あるのか?」

 

『……成程、お前の予想は分かった。だが先に話を聞け』

 

「お、おぅ……」

 

 

 高山はゲムデウスの言う通りに患者の発症したゲーム病についての説明を求めた。

 

 永夢からの話では発症したバグスターは『バイラス』、しかも4人同時発症である。発症した4名は家族であるがゲーム病同時発症はあまり例を見ないのだ。起きた事例を挙げたとしても檀正宗の起こした大規模ウィルスパンデミック位なのだ。

 

 今回の案件は考えられる可能性としては『バイラス』がパンデミックを起こせるバグスターなのか、はたまた()()()()()()()()()()したか。ゲムデウスの例があるので可能性があるのは後者だろうと予想は付く。

 

 そしてここからが本題である。患者についてなのだが……これがまた厄介であり、尚且つバイラス4体に手古摺(てこず)った原因である。

 

 【HIV感染者】これが最大の要因である。

 

 今までのバイラスはウィルス散布をあらゆる場所から行い、相手にダメージを蓄積させるというのが主な戦い方でありドクターマイティでのウィルス抑制を行わなければ安全に戦えない。

 

 だが今回は違った。予めバイラスの出現によって永夢がドクターマイティのガシャットを黎斗神に頼んで貸してもらっていたが、相手は弱体化する気配すら見えなかった。進化しているのは分かったが、ここまで早く進化するのは異例である。

 

 予想されるのはH()I()V()()()()()()()ということだろう。

 

 

「でも……何で感染したのに発症まで時間が掛かったんでしょうか?」

 

「そこなんだよ。普通なら感染して、ストレスを与えられれば活性化するのに。ましてや……」

 

 

 “ストレスを受けやすい状況にあった”という事を言い切る前に黎斗神がテレビ画面に現れ、発症までの空白期間について語り出す。

 

 

『恐らく手間取ったんだろうな』

 

「黎斗神さん」

 

「ねぇ黎斗、一体どういう事?」

 

『檀!黎斗神だぁ!……まぁさて置いてだ。HIVも1つのウィルスであり、ゲーム病発症にはバグスターウィルスが必須だ。だが何方も()()()()()()に寄生する、つまりは性質の似たウィルス同士だからこそ起きた拒絶反応だろうな』

 

「拒絶反応……」

 

 

 黎斗神の発言は発症までの空白の期間についての説明が不思議と合致している様に思えた。そして1拍置いて高山以外全員が黎斗神を二度見した。

 

 自分の名前を間違えられたら即効で訂正させようとするのは同じだったが、その後の“まぁさて置いてだ”という言葉に違和感しか覚えていなかった。

 

 

『何だ、この視線は?』

 

「いや……だって……」

 

「データに悪性腫瘍でも患ったか?切除するか?」

 

「黎斗がそう言ったの初めてで……」

 

『私を何だと思っているぅ!?』

 

「汚い大人」

「不治の病」

「神(笑)」

 

『君達ィ!』

 

 

 埒があかなくなってきたので高山からゲムデウスへと人格を変えて話題を元に戻していく。

 

 

「ゴホン……あー檀黎斗。お前が出てきたという事は何か解決策でもあるのか?」

 

『檀黎斗神だとぉお!言っているゥゥウ!』

 

 

 訂正、ゲムデウスによって更に埒があかなくなった。

 

 

『ハァー……ハァー……フゥ。ゲムデウス、先程の答えだ。ある』

 

「本当ですか!?」

 

 

 永夢が黎斗神に期待の眼差し(一時的なもの)を向けるが、黎斗神は“だが……”と言うと続けざまに言う。

 

 

『まだ完成していないのが現状だ。あと4%といったところか』

 

「ほぉ……つまりガシャットが完成してないと?」

 

「新たなガシャットだと!?」

 

 

 飛彩が立ち上がり黎斗神に言い放っていく。

 

 

「貴様!今度は何を企んでいる!?」

 

「黎斗!衛生省から許可は取ったの!?」

 

『既に高山明の要望を衛生省から受理したぁ……そして、これは高山明が望んだ!使()()()()()ガシャットだぁ!』

 

 

 腕を組んで徐々に背を反らしながら答えていく黎斗神。その発言で全員がゲムデウスに視線を集めるが、ゲムデウスは高山と人格を交代して高山が話していく。

 

 

「以前厄介事がありましてね。それに僕も戦力を拡大させなきゃ皆さんの負担に成りかねませんから」

 

「そんな!負担だなんて思ってません!寧ろ感謝してるんですよ!僕たち!」

 

 

 永夢に和らいだ表情で一礼する高山。顔を上げると黎斗神が口を開く。

 

 

『残るはインストールのみ、それが後5分で終了する。高山明には新たなガシャットで治療に……』

 

 

 その時、永夢と飛彩のゲームスコープからバグスターの発生を知らせる音が鳴り響く。確認をするとバイラス4体が表示されていた。

 

 そんな出来事に舌打ちをする黎斗神。高山が2人に一時的な足止めを依頼すると、2人とも頷いて現場へと急行する。その後、高山は残ったポッピーに4人の患者の部屋番号を尋ねた。

 

 それを聞くと今度は黎斗神にガシャットが後何分で完成するのか聞いた。見積もって4分30秒、充分だと言って高山は走ってCRから出ていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高山は先に患者のお見舞いの為に許可証を貰い、ポッピーから聞いた部屋番号に到着し入っていく。

 

 急に現れた高山に驚く4人。その内の2人は、まだ育ち盛りの子どもであった。

 

 

「すみませんが……どちら様でしょうか?」

 

 

 父親らしき人物が尋ねた。高山は何時も通りの笑顔と優しい物腰で対応していく。挨拶を終えて高山はCRの仮面ライダーと伝えると、姉妹と思える内の1人が表情を綻ばせて喜んだ。これには高山も嬉し恥ずかしといった表情をせざるを得なかった。

 

 高山は姉妹が居るベッドの中間に椅子を持ってきて腰掛けると、ゲーマドライバーを見せる。その時の表情が高山にとっても、姉にとっても、両親にとっても幸せそうだと感じる表情だった。

 

 

「ボクね!信じてるんだ!」

 

「何をだい?」

 

「仮面ライダーが、ボクたちを笑顔にしてくれるって!」

 

「そっか、じゃあ僕も皆を笑顔にしなきゃね」

 

「よーし!がんばれ!仮面ライダー!」

 

「おー!」

 

 

 こんな空気は家族にとって久しく味わっていなかったものであった。永夢が訪れた時はこの感染症の事もあって笑っているというより()()されている感覚を覚えていた。

 

 高山に対する見方は少し違った。同情というよりも、()()()()()()()()()のだ。普通に接するのと何も変わっていない。例えHIVの事を話したとしても。

 

 そして高山に連絡が入る、ガシャットの完成の連絡を聞き高山はポリ手袋に包んだ小指をその少女の小指をしっかり組んでおまじないを掛けた。

 

 

「皆の病気は、僕らが治すよ。だから安心して待っていてね、木綿季ちゃん」

 

「うん!約束だよ!」

 

 

 高山はそれが()()()()()()だと知っている。紺野家全員も、それを知っている。だが高山には希望があった。新たな力の判明された能力の内の1つ。

 

 高山は救う為に新たな力を手にする。例えそれが代償の大きい物だとしても。例えそれが()()()()()()()()()()()()()()能力だとしても。救うべき人の為に高山は力を手にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 高山がゲーム病患者が居る病室で話をしている中、4体の強化されたバイラスの元に大我と西馬ニコの2人が駆けつける。ニコが周囲に居る人を救助している間に大我はギアデュアルβで変身する。

 

 

「第五拾戦術」

 

 

【BANG BANG SIMULATION!】

 

 

「変身」

 

 

【デュアルガッシャット!】

【ガッチャーン!デュアルアーップ!】

 

【バンバンシミュレーションズ!発進!】

 

 

 シミュレーションゲーマがスナイプの体に装着され先手必勝と謂わんばかりに砲撃を開始する。だが大我もバイラスの能力を知らない訳ではない、寧ろ嫌という程体験した。

 

 今の目的は遠くに離れさせること。バイラスのウィルスが届かない範囲にまで本体を後退させようとしていた。だがバイラス達はビクともしていなかった。

 

 

「くそっ!話に聞いた通り強化されてやがる!」

 

 

 バイラス達を攻撃した為、ウィルスが散布されていく。徐々に距離を取りつつ連続で砲撃を浴びせていく。だがこのままではジリ貧なのは確実である。

 

 

「大我さん!」

「無免許医!」

 

「来たかッ!」

 

 

 遅れて現場に到着した永夢と飛彩の2人が駆けながらガシャットを起動させて変身していく。

 

 

「「変身ッ!」」

 

【マキシマムガッシャット!ガッチャーン!レベルマーックス!】

【タドルレガシー!】

 

【ドッキーング!パッカーン!ムーテーキー!】

【ガッシャット!ガッチャーン!レベルアーップ!】

 

【ハイパームテキーエグゼーイド!】

【タドルレガシー!】

 

 

 永夢がバイラス4体に特攻を仕掛け飛彩は大我と同じように遠距離から複数の光剣の攻撃を放つ。同時に大我に回復能力を使用してライダーゲージを回復させると、大我は連続で撃ち続ける。

 

 永夢の方はガシャコンキースラッシャーでの攻撃を行っている。飛彩や大我が遠距離攻撃の支援が来ている場合は、瞬間移動によってバイラスを盾にしたあと攻撃を続けていく。

 

 バイラス4体は何か行動しようとするが、その前に遠距離からの攻撃で少し体勢を崩され永夢の攻撃によってダメージが蓄積されている。このままの状態が続けば、バイラスは消滅する。

 

 勿論、そう簡単には倒させてくれない。

 

 

「ッ!?ォア!」

 

「ぐおっ!?」

 

「あがぁ!?」

 

 

 バイラス4体を中心に赤黒くなったウィルスが大量に放出された。これによって近くに居た永夢はダメージは入っていないものの吹き飛ばされ、遠くに居た飛彩と大我にはダメージを受けて吹き飛ばされる。

 

 それだけならまだ良かった。次の瞬間ウィルスが一斉にバイラス達に集まっていき、バイラス達に全て吸収されると、まるで活気を取り戻したかの様に永夢たちに襲い始めた。

 

 

「ッ!くそっ!」

 

「何だコイツら!?今までのとは何か違う!」

 

「くっ!埒が明かない!」

 

 

 永夢は襲ってきた2体のバイラスと対峙し、大我と飛彩には各々(それぞれ)1体ずつ対峙していく。だが以前よりも威力が上昇しており、大我の方は防戦一方の状態となっている。

 

 飛彩の方でも防戦一方の状態にある。1つ1つの攻撃威力はそこまでだが、連続で攻撃しているため隙が見当たらない。大我の方に回復能力を回したいが、それもキャンセルされる始末。

 

 永夢の方では一方のバイラスが永夢を押さえ付け、もう一方が永夢に攻撃を与えていく。無敵状態なのでダメージは通らないが、このお邪魔行為で飛彩と大我の加勢に行けないのが鬱陶しいと感じる。しかもこのままでは埒が明かないし終わりが見えない。

 

 永夢は一瞬だけGN粒子を解放させてバイラスから逃れ、飛彩と大我をバイラスから離れさせる。

 

 

「飛彩さん!大我さん!大丈夫ですか!?」

 

「すまない小児科医、助かった」

 

「まっ、感謝しといてやるよエグゼイド」

 

 

 実際は死の瀬戸際に立たされそうになった所を救われたのだが。飛彩は漸く大我に回復能力を発動させて態勢を立て直す。

 

 相手のバイラス4体は急激に体力の回復と凶暴性、攻撃力が増した事で厄介な存在となってしまった。恐らく次にあのウィルス放出を行えば、さらに凶暴性と攻撃力が上昇する恐れがある。

 

 だが分かった事もある。あのウィルス放出は自らが危険となった時に発動された。つまりそのギリギリのラインまでダメージを蓄積させて必殺技を放てばバイラスは倒せる。しかしかなり至難の技なので、出来るかどうかは分からない。

 

 然れど、やらねばならない。医者として有るまじき行為は絶対にしない。

 

 

「「「ハァアアッ!」」」

 

 

 3人同時に駆け出す。永夢は4体の集団の中に突っ込んで行き擦れ違い様に斬りつける。大我と飛彩は遠距離攻撃を続けてダメージを与えていく。違う所は遠距離攻撃に時間を開けていない所だろう。

 

 連続で発射される遠距離攻撃の数々にバイラス4体は動きを止め、その瞬間に永夢が攻撃を与えていく。

 

 バイラス4体は地面に倒れ伏せる所を確認すると、3人は必殺技の準備に入る。

 

 

【キメワザ!】

【ガッシャット!キメワザ!】

【ガッチョーン キメワザ!】

 

 

「フィニッシュは一斉に決める!」

 

 

【HyPER CRITICAL SPARKING!】

【TADDLE CRITICAL STRIKE!】

【BANG BANG CRITICAL FIRE!】

 

 

 永夢と飛彩が宙に浮かび、大我は全ての砲身をバイラスに向ける。永夢の合図で同時に飛彩もキックを行い、大我は放つ。

 

 一気に3つの最大威力とも言える必殺技がバイラス4体を襲う。これで終わりになる。

 

 

 

 

 

 

 

 筈だった。

 

 

「「「!?」」」

 

 

 バイラス4体が各々に攻撃を加えたのだ。つまり今まで蓄積されたダメージギリギリのラインを越したということ。それと同時に赤黒いウィルスが4体から同時に放射され必殺技と相対する。

 

 ウィルスと衝突した砲撃は余所へと弾かれ、飛彩はウィルスの量に負けて変身を解かれながら大我の元まで吹き飛ばされる。永夢の方はウィルスの中を突き進み近くに居たバイラスの1体に当てる。

 

 必殺技が当たったバイラスは、それだけで上限を超えたのかまたもウィルスを放出させた。永夢は直ぐに飛彩を庇い盾となってウィルスを防ごうとするが、これでは終わりが見えてこない。バイラスを倒せないのかと、そんな不安が頭を過ぎる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな時、この悲惨な現場に割り込んで来た白き1人の戦士。盾の特殊効果を発動させて永夢と飛彩と大我の3人の周囲を守る。現れた戦士に永夢は思わず声を出す。

 

 

「高山さん!」

 

「すみません皆さん!遅れました!」

 

 

 ドクターマイティゲーマーLv.XXの状態に変身している高山がガシャコン・シールドの能力によってウィルスを防いでいた。やがてウィルスがバイラスの元に全て集うと、周囲を取り囲んでいたバリアは消えた。

 

 高山は次にレバーの開閉を行い、レベルダウンして2名に分裂する。

 

 

【ガッチョーン ガッチャーン!レベルアーップ!】

【ドクターマイティ!2人でメイキーング!X!】

 

 

 分裂した姿Lv.XLの高山が1つのガシャットを取り出す。これこそ高山の経験と黎斗神の才能から産み出された奇跡の産物。それを見ていた3人は確信した。あれが策なのだと。

 

 高山はギアデュアルタイプのガシャットを使用する……前に、何故かLv.XRであるゲムデウスにガシャットを投げて渡した。ゲムデウスはそれを受け取ると、ガシャットを自らに刺した。

 

 

「アグァッ!」「くっ!」

 

「医学生!ゲムデウス!一体何をしている!?そんな事をすれば体が持たんぞ!」

 

 

 しかし聞き入れる様子は見当たらない。暫くしてゲムデウスがガシャットを離すと、高山の方が先に膝を着いてしまう。しかし高山は意地で立ち上がった。今高山が動かしている1つの意思から出来た意地でだ。

 

 ゲムデウスが高山にガシャットを投げて渡すと、次にゲムデウスの体から()()()()()()()が出現した。2つの同じガシャットを用いて変身手順を踏む。

 

 

【MEDICINE TREATMENT!】

 

【INFECTION VIRUS!】

 

【Who's the next patient?Who's the next patient?】

 

【The illness cause!(end world)finish creatures!The illness cause!(end world)finish creatures!】

 

 

 高山はギアを右に、ゲムデウスは左に回すと待機音声が鳴り、各々出現したゲーム画面から2つの新しいゲーマが登場する。1つは白く染まった()()()()()()()()()ゲーマ、もう1つは赤黒く変色した装甲1式であった。

 

 高山とゲムデウスは先にガシャットを引き抜き、手に持っている新たなガシャットを差し込む。

 

 

【【デュアルガッシャット!】】

 

【ガッチョーン】

 

 

「「Mark 50!変身ッ!」」

 

 

 レバーの開閉を行うと上空からゲーマと装甲が降りてきて装着されていく。

 

 

【【ガッチャーン!デュアルアーップ!】】

 

【メディスン!ワクチン!メイキングスタート!治療終了!お大事に!】

 

【感染進行!バ・バ・バ・バイラス!】

 

 

 高山は両脚にインジェクターが描かれた装甲を見に纏い、額に円形が半分に割れV字を(かたど)っている物を着けている。一方のゲムデウス両腕が赤黒く肥大化し、脚の一部が溶けている様なゾンビゲーマーの姿となっている。

 

 極めつけは両者共に白いインカムの様な物が高山には左側頭部に、ゲムデウスは右側頭部に装着されている。

 

 

「「患者を救う為に、僕/私は礎となろう!」」

 

 

 高山は左腕を前に突き出し、ゲムデウスは右腕を突き出して交差させながら言い放つ。目の前のバイラス4体は一斉に2名に接近していく。

 

 高山とゲムデウスは戦闘態勢に入ると、向かってくるバイラスに向けて蹴りと拳を放つ。瞬間、その攻撃が当たったバイラスの1体は他1体のバイラスを巻き込んで吹き飛ばされる。

 

 続いて回し蹴りとラリアットを各々のバイラスに当てていく。かなりの威力を有しているので、かなりの距離を飛ばされる。

 

 そして攻撃された事でバイラスからはウィルスが……放出されなかった。それもその筈、どちらも高山とゲムデウスの変身体の能力による効果が発動しているからだ。

 

 ゲムデウスが何やら電子パネルを出現させると、両手を動かして何か操作をし始めた。それらが終わって電子パネルが消えると、高山が突っ込んで1体のバイラスに蹴りを放った。

 

 そのバイラスは吹き飛ばされたが、同時に白い炎の様な物に包まれながら苦しんでいた。そして同時に他のバイラスまでもが同じ様に苦しみ始めた。

 

 高山とゲムデウスがレバーの開閉を行うと、両者の左足と右拳に各々白と黒のエネルギーが纏われていく。

 

 

【【ガッチョーン キメワザ!】】

 

【【ガッチャーン!】】

 

【MEDICINE CRITICAL CRUSH!】

 

【INFECTION CRITICAL PUNISH!】

 

 

「「ウォオオラァアアアアア!!」」

 

 

 一気に各々2体ずつ、必殺技を撃ち込んだ。バイラス4体は諸に食らって吹き飛ばされ、遂に爆発四散した。

 

 

【GAME CLEAR!】

 

 

 上空にはゲームクリアのエフェクトが映し出されたが、高山とゲムデウスは意識が保てなくなり、地面に倒れながら変身が解除され1つになる。

 

 それを見ていた3人は直ぐに高山の容態を確認する。単に意識を失っただけだが疲労が溜まって倒れた為、直ぐに休ませる為にCRに帰還していくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────Loading……──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 漸く目覚めた高山が目にした光景は、最初はぼやけていたが徐々にしっかりと見え始めた。CRの天井であった。起き上がろうとすると体の節々から痛みが走り、一苦労した。

 

 

『漸く目覚めたか』

 

「ゲム……デウス。やったんだな、俺たち」

 

『やった?(たわ)け大損だわ。私がガシャットデータを読み込ませた際に起きた連動、さらには能力使用と膨大なエネルギーによる急激な疲弊……よく生きていられたというのが奇跡だ』

 

「…………そっか。奇跡か」

 

 

 高山が起き上がろうとするが、関節が主に痛んで起き上がるのが困難な状況である為か診療台にまた背を預けてしまう。見かねたゲムデウスが高山の右腕を操って鳩尾に掌打を当てて強制的に寝させる。

 

 ゲムデウスによって腹に一撃を食らわされ、腹を抑えて悶えつつ横になる高山。かなり不服だそうだ。

 

 

「ゲ……ゲムデウス…………!おまっ、これは……無いだろ……!」

 

『お前みたいな馬鹿にはこれ程の処方でなくては無理矢理動くからな、さっさと休んで回復させろ』

 

「くそっ……!全部正当だから言い返せない……!」

 

 

 そう悶えているのも束の間、扉が開かれる音が聞こえると聞きなれた声が高山の心配をする。

 

 

「た、高山さん!?一体どうしたんですか!?」

 

「ほ、宝生……さん……」

 

「高山さん!……ハッ!まさかバイラスとの戦いで怪我を……!?」

 

「ぃや………違……」

 

「今すぐ精密検査の手続き済ませますから、高山さんは安静に!」

 

「だから……違……!」

 

「待ってて下さい高山さん!今すぐに「うおっ!?」あイッタァ!」

 

 

 高山の様子を見て永夢が勘違いを起こしたのも束の間、大我がやって来て永夢を避けると直ぐに転んで地面に倒れた。

 

 

「あっぶねぇな!急に来んなエグゼイド!」

 

「すみません大我さん!」

 

「あ、おい!」

 

「は、花家……さん……」

 

「あっ……?どうしたゲムデウス?」

 

「宝生さんを……止めて下さい……お願い……しま」

 

 

 高山が言い切る前にパタンと意識が途切れる。大我が高山の様子を見て心配を掛けるも、大丈夫だと分かると高山の言い付け通りに永夢を止めていく。

 

 暫くして高山の元に大我と永夢が駆け付けるが、その背後には他の医者と救急台が配備されていた。何とか永夢と大我にこの状態がゲムデウスによって起こった事だと言うと、永夢は安堵するが後始末をしなければと自分の思い込みを治そうとするのであった。大我も大我で永夢の言い分だけを聞いた事を反省している。

 

 そしてこの現状を作ったゲムデウス自身は無理矢理意識を変えて話せば良かったかと一部反省していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで?患者の方々の容態は如何でしたか?」

 

 

 時間が経って痛みも大分引いた頃、集まっていた4名に尋ねた。先に言っておくが高山が眠っていた時間は凡そ5時間弱、昼寝をする時必ず2時間ほど眠る高山にとっても寝過ぎと思わせる程の時間である。

 

 その5時間弱の間、他のドクターが現在の体調と精神状況の観察。今回は一部例外として血液検査の確認をした……そこまでは良かった。

 

 

「治ってました。でも……1つ不可解な事が」

 

「…………不可解、ですか?」

 

「えぇ。そこで高山さん、1つ質問させて下さい」

 

「質問……ですか。別段それは構いませんが」

 

「では……高山さん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうやってH()I()V()()()()()()()()()んですか?」

 

「………………ですよね」

 

 

 高山は状況を察し観念したのか、新たに作られたギアデュアルタイプのガシャットを取り出し全員に見せる。2つのゲームがあるが、一方は白い背景に様々な器具が散りばめられた表紙。もう一方は赤黒い背景に世界地図が赤く染まっている表紙。

 

 それらを見せた後、高山は口を開く。

 

 

「このガシャットには2つのゲームが入ってます。ゲーム名は【メディスン・トリートメント】と【インフェクション・バイラス】です」

 

「投薬治療と……ウィルス感染?」

 

「はい。簡単に説明すると『そこは私の出番だァ!』……あーもう面倒な」

 

 

 高山が説明しようとした途端、またもや檀黎斗神の傍迷惑な登場によって阻害され饒舌に自分の作ったガシャットについて話し始めた。

 

 

『高山明の情報を元に私が作り上げた傑作だ!それこそ……世界を思うがままにする事もなぁ!』

 

「世界を……って黎斗何作ってんのよ!?そんな事したら、どんな処分が下るか火を見るより明らかだよね!?」

 

「そこは……僕の使い方次第ですよ」

 

 

 ガシャットを振って注目させると、黎斗神は話を続ける。

 

 

『先ず始めに1つ目のゲーム【メディスン・トリートメント】。これはドクターマイティの進化系ガシャットとも言えるゲームだ。多種多様な患者に適切なワクチンや薬を与えて治していく、正に“人々を救う医療ゲーム”。もう1つは……【インフェクション・バイラス】。感染シミュレーションゲームでウィルスの効果を選択し世界中の人間をウィルスに感染させ、絶滅させる“人間を殺せるゲーム”だ』

 

「長ったらしい説明だったが、要は医療ゲームと感染シミュレーションを入れたガシャットって事か」

 

『そうだ。そしてそのガシャットに備わった特殊効果が、今回高山明が起こした事象の要と「まぁウィルス操作です」高山明貴様ァ!』

 

 

 ウィルス操作。高山がそう言った直後明日那の体が震える。他の3人も高山の言った事を余り理解出来ていない様子である。

 

 

「ウィルス操作……?」

 

「インフェクション・バイラスの能力です。このゲームはウィルスの効果を変えたり感染方法を変えたり……()()()()()()()()()()()()事が可能なんです」

 

「……まさか……!」

 

「えぇ、()()()()()()()()()()H()I()V()()()()()()()()()()()()()。ゲムデウスに性能の合成をして貰って、僕の使ったメディスン・トリートメントの能力“濃度調整”によって両方諸共消しました」

 

「濃度調整?」

 

「ゲムデウスワクチンの濃度を20倍にまで濃縮させたんです。勿論材料さえあれば()()()()()()()()()でも可能です」

 

「「「!?」」」

 

 

 今度は高山の意識を無理矢理変えて、ゲムデウスが話していく。

 

 

「これが私たちの新たな力、これこそ檀黎斗が“世界を変えるゲーム”と豪語する理由だ。……尤も、この馬鹿は体の負担なんぞ考えてもいなかったがな」

 

「成程、確かにそんなガシャット使ってたら自分の身が持たないのは何となく理解できるぜ」

 

 

 ゲムデウスの言い分に大我が答える。嘗てゲームエリアに連れ去られたニコを救う為に、クロニクルガシャットを用いてクロノスに変身したからこそ分かる負担。

 

 新たに作られたガシャットは医療ゲームと感染シミュレーションゲーム。つまり相対するゲームが一纏めとなっている為か、変身した場合は必ず訪れる副作用が生じるのだ。

 

 現在の高山の体がそれに値する。副作用によって満足に体が動かせず、動かしたとしても関節部分が錆びたロボットの様に遅い。にも関わらずゲムデウスはソルティの能力を使用して何とか立てる様にさせた。

 

 

「ふっ……と。全く、体の節々が悲鳴を挙げてるじゃないか」

 

「ってゲムデウス!高山さんの体に何してんの!?」

 

「心配せずともソルティの能力で何とか立っていられるが?」

 

「そういう事じゃなくて!」

 

 

 ゲムデウスのこの行動を永夢が指摘しつつ、ゲムデウスをベッドに寝かせていく。結局の所、1つの体を共有しているためゲムデウスが動けば体に疲労が溜まるのは目に見えていた。

 

 永夢の意見を聞いたゲムデウスはそのままベッドに寝そべり、高山と人格を交代する。意識が戻った高山は先程のゲムデウスの行動で悲鳴を挙げた全関節部位から痛みが走った為、悶えてしまった。

 

 思い出したかの様に飛彩が咳き込ませて注目を集めると、5名の視線が飛彩に集まった。

 

 

「医学生、お前に1つ伝えるべき事があった」

 

「は……はぃ…………?」

 

「お前の手術(オペ)によってHIVウィルス諸共消え去った現象を聞いた衛生省が、お前と檀黎斗に話をしたいそうだ。そのガシャットについても」

 

「……………別に構いませんよ。でも」

 

「でも?」

 

「……体治してからで良いですか?」

 

「分かった、そう伝えておこう。檀黎斗の方は先に衛生省に向かう様にするから、医学生1人の対談となるが」

 

「それでも別に……アイテテテテ」

 

「了解した。ゆっくり休んで早く治せよ」

 

 

 各々が高山に対し一言添えていくと大我は帰宅、永夢と明日那は高山を別の病室に運ぶ準備をしていた。黎斗神は先に衛生省へと向かっていったらしい。

 

 高山はまだ疲れが抜けきっていないのか、ゆっくりと瞼を閉じるとそのまま寝てしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして幾ばくかの日が流れ1月22日、高山は不自由無く体を動かせるまでに回復していた。そして衛生省の前に高山は現在立ち尽くしていた。

 

 まぁこのままでは何も始まりもしないので、高山は一歩踏み出して衛生省へと入っていく。予め指定された会議室まで入り日向審議官や他の役員共々からの視線を受けながらの話し合いとなった。

 

 今回は衛生省からの要件として1つ、高山の持つ【ガシャットギアデュアルγ(ガンマ)】のゲームの1つ【メディスン・トリートメント】を医療系統に使用させてほしいということ。要はメディスン・トリートメントの製薬能力が役に立つと考えたからである。

 

 しかし高山は断った。患者を救える大きな足掛かりになるにも関わらず、御丁寧にお辞儀をしながら。もし使ったとしても誰がそれを扱うのか。高山自身しか扱えない上に体に負担が掛かるガシャットをそう何度も使えないのは目に見えている。

 

 そしてガシャットに内蔵されている、もう1つのゲーム【インフェクション・バイラス】。感染シミュレーションゲームなだけあって変身すれば患者に潜伏しているウィルスの様子が丸分かりではあるが、ウィルスを操る事から一度制御を失ったウィルスが他者に感染する可能性もある。

 

 何よりこれを()()()使()()()()()()()()と考えている高山だからこその言い分。高山はこれを“自分が仮面ライダーとして救う為にある”と豪語した。

 

 かなり不服の様子を見せていた衛生省の者たちだったが、危険性や使用者限定などを言えば話はそれで済んだ。

 

 高山は帰り際にギアデュアルγの表紙を見ながら、それを握る手に力を込めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




【ガシャットギアデュアルγ】
・檀黎斗神が新たに開発した()()()()()ガシャット。今回の話ではゲムデウスと分裂し、ゲムデウスウィルスにガシャットデータを読み込ませる事で別形態にそれぞれ変身できたが、本来は高山の意識だけが表に出てゲムデウスとは遮断される。

【メディスン・トリートメント】
・高山の変身した形態。Lv.50

パンチ力 63.7t  キック力 72.1t
走力 100mを2秒  ジャンプ力 60m

特殊能力【製薬】【濃度調整】
・製薬は文字通り、材料さえ揃えば難なく可能。
・濃度調整はワクチンや薬の濃度を最小で¼、最大で20倍にまで濃縮させられる。

音声
・待機【Who's the next patient?】
   パーフェクトパズルと同じ音程

・変身【メディスン!ワクチン!メイキングスタート!治療終了!お大事に!】
   ←パックアドベンチャーと同じ音程


【インフェクション・バイラス】
・高山が変身する形態。Lv.50

パンチ力 64.2t  キック力 70.5t
走力 100mを2秒  ジャンプ力 59m

特殊能力【ウィルス操作】
・一纏めにするとこれ。内容にはウィルスに感染法や耐性、効果などを付与させたり消したり出来る。劇中にもある通り、ウィルス同士の合成も可能で引き継ぎたい能力を3つ選んで誕生させる。但しそうするにはポイントを使用しなければならない。今回はサービスとして黎斗神が入れてくれた。

ポイント獲得方法
・バグスターに攻撃 ・ウィルスを弱体化させる
・ウィルスを消される(リプログラミングは対象外)

音声
・待機【The illness cause!(end world)finish creatures!】←ノックアウトファイターと同じ音程

・変身【感染進行!バ・バ・バ・バイラス!】
   ←ギャラクシアンと同じ音程










次回『Dr.ゲムデウス』は!


 高山と檀黎斗、そしてラヴリカが揃う!

「勘違いしないで下さい。今の目的を思い出しただけです」


 檀黎斗が企むものとは!?

「私の神の才能にぃ…………不可能はぬぁあい!」


 探る為に、ドクター達を裏切る高山!

「ごめんなさい……!本当に……!ごめんなさい……!」


 次回【Ending of Parallel】
 『Braver 対 Sniper』





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閑話 超人が吹く音色

今回は閑話。零治君と詩乃のんの単なる小話。
なので短いかと思われますが、どうぞ読んでいって下さいませ。


 森の中から音が聞こえる。ハーモニカの音だ。誰かが吹いているのは間違いないだろう。

 

 そしてハーモニカを吹いている本人は、隣で手頃な岩に座っている少女という観客に聞かせていた。

 

 この少女は関本零治、渾名『ゼロ』の吹いているハーモニカの音色を聴いて心が安らいでいた。心地良い音色が朝田詩乃の心を駆け巡り、気付けば音楽に合わせてユラユラと体を揺らしていた。

 

 その演奏が終わるとゼロが詩乃に感想を聞いた。

 

 

「……という感じだが、どうだった?」

 

「…………スゴい安心できるわね、その音楽」

 

「そうか、なら良かった」

 

 

 ゼロと詩乃はあの事件以来に知り合う機会があった。そもそもゼロと漆の住むアパートと、詩乃の祖父母が住んでいる家が近かった所からである。

 

 あの事件以来、恐怖によって精神年齢が下がった母親は精神鑑定を受けながら福祉施設での生活を余儀なくされた。そのため朝田詩乃は祖父母の家で生活する事となった。

 

 そしてある日偶然、スーパー内で零治と詩乃と詩乃の祖母が対面。それが切っ掛けで稀に零治が夕食をご馳走になる関係になっていた。

 

 ゼロはゼロで父親の漆の帰りが遅いので1人で食事をする事が多かった為か、それを聞いた詩乃や詩乃の祖父母が一緒に食べようと提案してきたのが事の始まり。

 

 ゼロと詩乃はお互いが休みの日であったり、ゼロが夕食で厄介となっている時に趣味について語る事が多くなった。その中でゼロの特技がハーモニカである事を知った彼女は何が吹けるのか聞きたくなった。

 

 何度か頼んだが夜という事も相まって迷惑になりそうな行為として辞めていたが、今日の昼頃にゼロのお気に入りの場所に連れてこられた詩乃は漸く聴ける事ができた。

 

 

「良かった。これ母さんから教えて貰ったからよ」

 

「ゼロの……お母さん?」

 

「あぁ。もう居ないけどな」

 

 

 ゼロはハーモニカを握り締めている手を見ながら、そう応えると詩乃は表情を曇らせた。

 

 

「ごめん……なさい」

 

「いや、何で謝んだよ?」

 

「だって……」

 

「良いんだよ、んなモン。俺の母さんもそう考えてるし」

 

 

 そう言ってまた吹き始めるゼロ。たった1つしか教えて貰って無かったが、この音楽だけは忘れていなかった。既に亡くなって7年経つが、母親が気紛れに奏でたこの音楽だけはどうしても忘れることが出来なかった。

 

 どんな辛い時、苦しい時でも、この音楽を奏でるだけで不思議と安らいだのだ。だが今日は、人のために奏でていた。

 

 しかし彼らは知らない。この音楽を聞いている存在が、誰も知らない所からやって来ているのを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かなりの時が経った頃、高山は茅場からとある報告を聞いていた。話によればバグスターウィルスを通さないフィルターとしての役割を持つプログラムを開発し衛生省からの許可を受理したという。これでVRゲーム中にバグスターウィルスが潜入して感染するということが大幅に減るのだ。

 

 しかしそんな朗報に突如伝えられた悲報も、またあったことを忘れてはならない。

 

 ━━━檀黎斗の失踪

 

 事の始まりは些細な事であった。檀黎斗を連れてポッピー、永夢、パラドと共に遊んでいたが、永夢とパラドが遊んでいた間に逃走。

 

 逃走という事で高山にも連絡は入った。高山はゲムデウスを適合させているため、バグスターウィルスの反応を探せるという点で捜査に加わった。

 

 大型バイクを走らせながら捜索しているが、一向に反応と呼べる反応が見つからない。というより反応が微弱なため、バグスターウィルスの反応をゲムデウスが探知出来ないのだ。

 

 

「くっそ!一体何処に居るんですか黎斗さん?」

 

『焦るな、反応は微弱ながら存在するんだ。研ぎ澄ませれば反応の方向は分かる筈だ』

 

 

 高山が焦っている中、急にスマホが震える。2回震えると終わったため恐らくメールだと理解できた。路肩に停めてスマホを調べると一件着ていた。

 

 不思議がって恐る恐る開くと住所だけが書かれており、そこを地図アプリで調べると森の中を示した。

 

 まさかと思い高山はその住所までルート案内をする。暫くして道が険しくなっていた為バイクから降りて道を駆けていく。

 

 そして道が途切れた。その先には古びた館が存在していたのだ。

 

 

「ここ……は、一体……?」

 

『宿主、ここから反応が強くなっている。どうやら間違いは無い』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待ちわびていたよ」

 

「ッ!?」

 

 

 高山が瞬時に後ろを振り向き警戒態勢を取ると、そこには失踪した筈の檀黎斗が居た。

 

 

「君たちをね」

 

「黎斗さん……」

 

 

 ゲムデウスが無理矢理高山と人格を交代し、檀黎斗に質問していく。

 

 

「檀黎斗、貴様何の目的でここに居る」

 

「目的…………目的か」

 

 

 檀黎斗はゲムデウスに歩いて近付いていき、ある程度の距離になると口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君たちに手伝ってほしい事がある」

 

 

 

 

 

 

 

 



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閑話 バダンの秘密

どうも皆様、鬼の半妖です。

今回はDr.ゲムデウスの期間がアナザートリロジーが来るまで空きすぎるので、追々関わっていく人物の秘密を紹介していこうかと思います。先ずはバダンこと、唐澤成英からです。


 とある一軒家にて、1つの部屋にある男がキーボードをタイピングしている。その男『唐澤 成英(からさわ なるあき)』の視線には、広めのデスクに置かれた幾つものパソコン。映し出されている映像からは株価の傾向を見守っていた。

 

 

「(やはり中小企業にも視野を入れたのは正解だった。大企業も良いが、あちらは不正が存在した場合のリスクが酷い。何事も両立だな)」

 

 

 眼鏡をかけているが別段悪いという訳では無い。これはブルーライトカットタイプの眼鏡である。つまり1つの予防という訳だ。

 

 キーボードのタイピングだが、これはメールが来た為に返信しているだけである。その相手は知古という相手らしい。

 

 マウスを移動させて送信ボタンを押すと送信されたと連絡が入る。少し休憩を入れるのか、台所へと足を進めていくバダンであった。

 

 台所に到着すると飲料ゼリーのような袋を冷蔵庫から取り出し、蓋を開けて飲んでいく。序にテレビを着けて最近のメディアを確認、中身を全て飲みきると容器を捨てずにテーブルの上に置いた。

 

 

「ん…………?」

 

 

 ふと何かしらの気配を()()()()()感じ取り、警戒態勢を取るバダン。ズボンの後ろポケットにある()()のような銃を持ち、構えながら辺りを探っていく。

 

 その気配は2階から続いており、未だに警戒態勢の状態であるバダンはさらに警戒し気を張り詰めさせていた。

 

 そして2階に到着する。完全に物置となっている部屋から気配がしており、ゆっくりと足音を立てずにその部屋の扉の左側に位置する。

 

 ドアノブに手をかけ、ゆっくりと下げ一気に扉を開けると同時に自分も前に出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「酷いじゃないですか、同胞よ」

 

 

 下に視線を向けると、黒くずんぐりとした人型で耳の尖った悪魔のような顔をした()がそこに居た。同胞と呼ばれたバダンは険悪な顔をしており、銃を向けたまま目の前の者に尋ねる。

 

 

「貴様に同胞と呼ばれる筋合いは、これっぽっちも無いな。メフィラス星人」

 

「貴方も私と同じなのですが……何故そこまで毛嫌いするのでして?」

 

「決まってるだろう」

 

 

 その銃のトリガーを引くと、バダンにメフィラス星人と呼ばれた者の右手のすぐ近くに小さな穴が空いた。しかも穴からは焼け焦げた跡と煙が漂っている。

 

 バダンはメフィラス星人に嫌悪の表情を向けつつ言い放った。

 

 

「貴様らの様な者が此処に来て良い訳が無い。此処には地球人と、地球の文明に魅入られた者や私の様に()()()()()()()を望む異星人が住んでいる。そこにお前達の様な()()()()()()()を生み出す輩が来て良い場では無いのでな」

 

「……すっかりと地球に毒された様ですね、『バダン』」

 

「ぬかせ若造」

 

 

 メフィラス星人は降参したかの様に両手を挙げると、メフィラス星人はその場から消え去った。そのメフィラス星人が居なくなった部屋から、バダンの脳内に声が響く。

 

 

〔今回は油断しました、やはりメフィラスの中でもトップ3に入る実力者は違う。しかしこれで終わったと思わない事だ。次こそ必ずお前を倒して()()()を潰す!〕

 

 

 その声が聞こえなくなると気配も消えており、銃をズボンの後ろポケットに仕舞い込んだ。今度はシャツのポケットからカプセルを取り出すと、穴の空いた箇所にスライムの様な物を流し込む。

 

 その物体が穴を塞ぐと急速に固まり、バダンがコンコンと叩くと木材の音がした。それを聞いたバダンは1階に降りながらスマホを取り出して連絡をしていた。

 

 テーブルにある椅子に座ると同時に数回のコール音に電話相手が出た。

 

 

『はいもしもし』

 

「バダンだ。(そら)さん、少し話がある」

 

『どーしたの急に?何時もの通り声は不機嫌そうだけどさぁ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……光の子を狙いに同族が来た」

 

『ッ……!おいおい、じゃあ……!』

 

「安心しろ。既に追い払ったし、奴等も簡単に私の防衛網を突破できやしない」

 

『なら………………いや、此方もか』

 

「ああ」

 

 

 電話相手もバダンもお互い雰囲気から危機感を醸し出していた。そう、その光の子を潰す計画が着実に完成されていようとしているのだ。

 

 此方も相手に気付かれない様に策を練らなければならない。場合によっては()()()()で殺し合いも視野に入れなければならない事を考えると、必然と不安が過ぎってしまう。

 

 

『困ったなぁ……今は戦いは好きじゃないのに』

 

「…………それが天下のテンペラー星人の言うセリフ(戯言)か?」

 

『いやいや強いの君たちメフィラス星人だからね?というより君が強いんじゃないか』

 

「互角だった癖に何を今更」

 

『あれは戦闘じゃなくて勝負だから』

 

 

 互いに昔の話に思い出を募らせながら和気あいあいとしているが、バダンと天は同時に咳き込み話題を元に戻す。

 

 

「では、頼む」

 

『了解。そっちも連絡やれるだけやってね』

 

「了解した」

 

 

 電話を終えるとスマホを机の上に置いてため息をつく。迫る危機への対処に一時的な不安を募らせるが、何も動いて無いのならば先ずは出来ることをするまでである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……という理由で、君にも力を貸してもらいたいんだ。頼む」

 

『オッケー任せといて。…………あぁ〜眼福なんじゃぁ〜』

 

「……いや、何やってんの?」

 

『おっ気になる?いやさアキバ行ってきてね、エロg』

 

 

 その言葉を言い終える前にバダンは通話終了のボタンを押した。今度は頭を抱えながらため息をついた。

 

 

「……メトロン星人、順応し過ぎじゃね?」

 

 

 今日も今日とて、異星人はこの地球の文明に順応していた。その例がオタク化であったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




※この世界では宇宙警備隊は存在せず、代わりに地球人に友好的な異星人だけで結成された自治組織が存在している。友好的な異星人は多種多様だが数は少ない。そのため各地にバラけて異星人が配備されている。

尚、連絡手段は現代に合わせた物かテレパシーの使用である。


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Ending of Parallel
Braver 対 Sniper 


皆様お久しぶりです!鬼の半妖、ついにDr.ゲムデウスの連載を再開します!

ここまで待ち続けてくれた読者様、お待たせしました!アナザーエンディングならぬ【Ending of Parallel】スタート!


 この世界にはバグスターウィルスなるものが伝染している。それは今から6年前、ゲンムコーポレーションと呼ばれる会社の社長が意図的に発生させたバグスターウィルスによるパンデミックが起こり様々な場所に【バグスター】と呼ばれる存在が蔓延った。

 

 

 しかし5年という歳月を経てドクターライダーが本格的に活動し始め、バグスターの脅威は静まりつつあった。

 

 

 ()()()()()が登場するまでは。

 

 

 その名も【仮面ライダークロニクル】。ライダークロニクルと呼ばれるガシャットを使うことでドクターライダーが持つバグスターウィルスの抗体が無くとも変身できるA()R()()()()であった。

 

 

 だがゲーム病に感染するリスクが備わっていた禁断のアイテムでもあった。ドクターライダー達や衛生省の協力もありライダークロニクルは事実上の終了を迎え、その時社長『檀正宗』やライダークロニクルのラスボスである『ゲムデウス』を倒し、平穏は一時的に戻った。

 

 

 しかし後にVR空間に人々が閉じ込められる事件が発生。これに対応したドクターライダー達はゲムデウスとなった主犯者である『ジョニー・マキシマ』を倒す。

 

 

 そしてここからがこの世界特有の物語。マキナビジョンが起こした事件の後、ゲムデウスのコピーデータが流出。それが1人の男性に感染し、そして適合した。

 

 

 その男性の名を『高山 明』という。彼は当時21という若さであったがゲムデウスウィルスの感染、適合により“緊急時ドクターライダー”という仕事を衛生省から下される。中に居る意思を持ったデータの『ゲムデウス』と共に【仮面ライダーゲムデウス】として活躍する。

 

 

 さらにこの2名は平行世界に訪れた経験もあり、そこで別世界のドクターライダー達や仮面ライダー達と共に世界を救った。活躍は目ざましいと言えるが、一方で疲弊や生傷などが絶えないライダーである。

 

 

 この男性には女性の同居人も居り、衛生省が支給したウィルス放出を防ぐ家で2人暮しをしている。時たま彼の友人である天才『茅場 晶彦』と『神代 凛子』を招く様子も見られる。

 

 

 特殊な事例として、ゲムデウスに変わった時のみ【ギアデュアルガシャットβ】の単体使用による変身が可能。さらにゲムデウス内にあるバグスターの特性を利用する事も出来る。

 

 

 そしてこの高山明は学生としての傍ら、ドクターライダーとしても活躍し続けている。これはそれから2年弱経った頃の物語である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “檀黎斗失踪事件”そこからこの話は始まる。2 3ヶ月前に檀黎斗が失踪した事件である。未だ発見の目処は立っておらず、捜査も難航している。

 

 

 そんな中高山明は大学を卒業し、精神科医の研修を終えて今は新米の精神科医となった。彼女である『藍原 優美』も今は1会社員として働き、若くして部長のポストに位置する程の業績の持ち主となった。

 

 

 今高山は精神科病院で働いている。だが精神科医というのは主に人間の心を診察する役目を持つ為か、人の精神状態が様々で刺激を受けやすい故に疲れやすい。慣れてしまえば問題ないという訳でもない。だが高山も望んで仕事にしたのだから文句も言わない上に充実していると楽観的になる。

 

 

 勿論1人では疲弊していただろうが、生憎高山は1人では無い。中に居るゲムデウスが色々と体調管理もしてくれるので自分はそれを行ってリラックスしている。ゲムデウスも“自分が生きる為”と割り切って助言しているので、ある意味持ちつ持たれずの関係であった。

 

 

 食堂で焼き鯖定食を食べて落ち着く高山の様子を見て、ゲムデウスが話しかける。

 

 

 

『今回もお疲れだったな』

 

 

「(まぁね。流石に今回の患者さんは前回より良かった……何て言ったら不味いな)」

 

 

『思うだけなら何ともならん』

 

 

「(それもそっか)」

 

 

 

 これがいつもの様子である。衛生省経由でドクターライダーであることは大学を卒業してから既に伝えられており、バグスター関連の事では出動する必要性があった場合のみ行くシステムを取っている。

 

 

 

『……ん、宿主』

 

 

「(着たの?)」

 

 

『あぁ。動き始めた、休みはあるよな?』

 

 

「(勿論。その為に休暇届け出したし……黎斗さんが何をしようとしてるのか、突き止めなきゃ)」

 

 

 

 今から高山は休みに入る。外に出て駐輪場で大型バイクに乗り、とある場所まで向かう。

 

 

 

『しかし……本当に誰にも伝えないのか?確かに協力の要請をすれば、我々が檀黎斗に勘づかれる可能性は否定できんが……』

 

 

「その可能性があるからこそさ。黎斗さんは僕らを()()()……それはラヴリカバグスターを僕らの中にある【ゲムデウスウィルス】で復元させた事で分かった。

 

 

 でも、未だに僕らを()()()()が分からないんだ。復元が用なら終わったも同然、隙を突いて用済みにすることも出来た筈さ」

 

 

『だがそうしなかった……我々を使う目的があるから、か。成程、だからこそ敢えて1人になり檀黎斗の動向を探るのか』

 

 

「そういう事さ。さて、そろそろ気張って行くよ」

 

 

『了解した』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あまり目立たない場所に立てられた洋館に到着した高山とゲムデウスは、大型バイクから降りて洋館の中に入る。洋館の入口を開けると、目の前に檀黎斗が出迎えていた。

 

 

 

「約束通り来てくれてありがたい、高山君。早速だがランチを振る舞ってもらいたい」

 

 

「ランチ……ですか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おやおや、ラスボス様お手製のランチとは。ハッハッハッ!どんなジョークだろうか?」

 

 

 

 高笑いしながらやって来たピンクの服を着た『天ケ崎恋』が2人に歩み寄ってくる。この男は高山の体内に存在するゲムデウスウィルスを使用して復元された“ラヴリカバグスター”であるが、高山に対しては良い感情を持っていない。

 

 

 ゲムデウスとは、バグスターの頂点に立つバグスター。本来ならば仮面ライダークロニクルのラスボスであり、ラヴリカを含む他のバグスターを全員倒して降臨する存在。それがまさか1人の人間と共に暮らしていることに嫌悪感を持っている。

 

 

 

「減らず口なことで。キザな輩って大抵ナルシストでキモイウザイモテないのですがね」

 

 

「減らず口は君も同じじゃないのか?大して顔立ちも良くないのに……物好きな女性が居るm」

 

 

 

 高山がキレてすぐにゲーマドライバーとギアデュアルγを用意するとギアを左に回して起動する。

 

 

 

 

【INFECTION VIRUS!】

 

 

 

 同時にゲーム画面から赤黒く変色した装甲一式が出現すると、ラヴリカもバグヴァイザーを持って元の姿に戻ろうとする。だがそこに檀黎斗が割り込んだ。

 

 

 

 

「喧嘩をするのは良いが、それなら他所でやってくれ。それとラヴリカ、君は高山君の体内にあるゲムデウスウィルスによって復元された。私の才能があればゲムデウスウィルス無しでも復元できたが、その手伝いをした者に対する礼儀としてはどうなんだ?」

 

 

「あちらが戦いを望むのなら、私もそうするまで。私は負けまないから……なッ!」

 

 

「ウィルス操作で存在諸共消し去る事は可能ですよ。それと……流石に僕の彼女に向かってその発言だけは許せません」

 

 

 

 互いに嫌悪しあい、互いに戦闘態勢を取るこの状況であったが少しすると高山も落ち着きを取り戻しギアを元に戻してゲーマドライバーとギアデュアルγをバッグに戻す。

 

 

 

「おやぁ?何のつもりですかな?」

 

 

「誤解しないで下さい。今の目的を思い出しただけです」

 

 

 

 高山は厨房へと赴く為に足早に向かう。それを見たラヴリカもバグヴァイザーを戻して席に座るが、不機嫌そうな表情も1人の介入によって柔らかなものとなった。

 

 

 

「出来るまで、少しお散歩でもしよっか?」

 

 

「おぉ、そうだね。マイハニー」

 

 

 

 彼女の名は百瀬小姫、本来は鏡飛彩の……仮面ライダーブレイブの交際相手であった。だがゲーム病に感染しデータとなって姿を消した存在であった。

 

 

 何の偶然か、本来は檀正宗が消去したデータであったが仮面ライダークロノスのリセット能力によりデータが元の状態に戻った。そして檀黎斗がラヴリカと共に復活させた。

 

 

 だがラヴリカと百瀬小姫にはタイムリミットが存在する。復活のために洗脳された百瀬小姫は、今こうして存在していた。そのラヴリカと百瀬小姫は少し外に出て散歩を楽しんでいた。

 

 

 先程の高山とラヴリカのやり取りを少し溜息をつく檀黎斗であったが、ポケットから取り出したブランクガシャットを取り出すとニタニタと不気味な笑みを浮かべていた。

 

 

 そしてそれをこっそりと見ていた高山とゲムデウスであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ランチを作り終えて、ディナーまで時間があるので高山は自宅へと向かっている。そこでゲムデウスと高山は先程のについて相談していた。

 

 

 

「ゲムデウス、あのガシャットって」

 

 

『あぁ。宝生永夢が持っている、あのガシャットとそっくりだ』

 

 

「形だけだけど…………中身が決まってないとなると、何のゲームを作るんだ?」

 

 

『さぁな。だが今回のは碌でもないのは確かだろうな、恐らく厄介な事柄を起こすつもりだ』

 

 

「………そうか」

 

 

『……なぁ宿主よ、1つ良いか?』

 

 

「何さ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

『何故そこまで檀黎斗に拘る?既に利用されていると知りながら、態々檀黎斗の策略に乗るのは何故だ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()だからに決まってる」

 

 

 

 高山はその事を言うと、強くハンドルを握り表情を真剣なものにさせていく。

 

 

 

「黎斗さんは……僕にとっては大切な恩人なんだ。あの人が何の為に脱獄したのか、何の為に僕らに協力を申し出たのか知りたいんだ」

 

 

『そうか……大切な恩人、道標を()()()からか』

 

 

「そうさ。だからさゲムデウス、手伝ってくれるよな?」

 

 

『片足どころか全身突っ込んで後戻りなんぞ出来るか』

 

 

「違いない」

 

 

 

 高山とゲムデウスは、何時もの調子と普段見る事の無い決意を胸に抱いて家へと帰っていく。

 

 

 しかしこの時の高山とゲムデウスは知らない。この先、檀黎斗が再度世間を巻き込ませる程の事件を起こすことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この物語のエンディングを変える為の歯車になるのが自分たちだということを、未だに知ることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────Loading……──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その翌日、高山は日課となった2人分の朝食作りを行う。同棲している藍原は会社に行くので序でに弁当も作る主夫となった高山は、手際良く朝食と弁当のメニューを作っていく。時に鼻歌を歌いながら、時にこれからの事を考えながら。

 

 

 そうしている内に階段から降りてくる足音が少しだけ聞こえてくる。寝ぼけ眼でトタトタとゆっくりと歩きリビングの扉を開けるのは藍原であった。

 

 

 

()よ〜…………」

 

 

「おはよう。ほら、顔洗ってきて」

 

 

「みにゅ()〜…………」

 

 

 

 そんな高山の言い分を無視し藍原は後ろから抱き着く。出来ることなら今はやめてもらいたいと願う高山、また理性が崩壊しそうで怖いのだ。

 

 

 しかし藍原は頭をグリグリと擦り付ける。まるで先程の発言に対して拒否しているかのような行動であった。少し困った表情をする高山であったが、朝食作りは1通り終わったので藍原の腕の中で正面を向き合う。

 

 

 

「優美、今日は大事な接待があるんでしょ?早く支度しないと」

 

 

「…………めんどぃ()ょ〜、何であんな代表取締役(変態オヤジ)と接待しなきゃなんないの〜?」

「こら、その口はなんですか?」

 

 

「や〜あっ。ゆうきゅうとりゅぅ〜」

 

 

 

 頭を抱える高山。社会人になってから毎度毎度この調子であるのだが未だに慣れずに疲れてしまう。この対処に5分かかり、漸く朝食の準備と藍原の洗顔も終わった。

 

 

 

「いただきます」

 

 

「はい召し上がれ。あといただきます」

 

 

 

 白飯、ハムエッグ、サラダ。後は納豆キムチという内容だが、美味しそうに食べる2人の姿があった。何時もの光景に何時もの食事、何時もの2人に普段と変わらぬゲムデウス。

 

 

 しかし高山は内心、檀黎斗という恩人の動向を調べる為に態と協力しなければならない。多目に見てくれている箇所はあるとは言え、少し早めに食している。何時もは藍原、高山の順に食事が終わるが今回は2人同時に食事を終えた。

 

 

 

「ご馳走様でした」

 

 

「お粗末様でした。あとご馳走様でした」

 

 

「今日は珍しいねぇ〜。一緒に終わるなんて」

 

 

「ま、たまにはこんな時もあるさ」

 

 

 

 一緒に食器類を片付け高山は洗い物を済ませていく。藍原は会社に行く準備をしているが、休暇届けを出した高山は普段通りに終えるとソファに座ってTVを着ける。

 

 

 ニュースでは芸能人関係や事件事故など普段よく見るニュースばかりであるが、その中には檀黎斗の失踪事件は報道されていなかった。下手に事を荒立てるのを恐れているのだろうか。しかし真実を伝えたところで、それが何になるのかは分からない。

 

 

 元気の良い足音がリビングにやって来ると藍原が高山の首に腕を回して寄りかかる。高山は右手で頬を撫でて藍原を立たせ玄関まで一緒に行く。

 

 

 

「忘れ物は無いよね?」

 

 

「大丈夫、ばっちし!」

 

 

「はい、じゃあ行ってらっしゃい」

 

 

「行ってきます!」

 

 

 

 元気良く敬礼のポーズをしたあと、互いにキスをして藍原は仕事に向かう。高山はそれを見送った後、寝室に移動しゲーマドライバーを装着して斜め掛けバッグを持つと次に玄関に移動して靴を履く。最後にキメワザスロットホルダーのステージセレクトで場所移動をする。

 

 

 

【STAGE SELECT】

 

 

 

 ボタンを押すと景色が変わる。そこはあの洋館の庭であった。その庭の入口から高山は入ると待っていたかのように檀黎斗が視線の先にいた。

 

 

 

「高山君、頼んだよ」

 

 

「では」

 

 

 

 

 今回はモーニングを作る。と言っても食事をするのは天ケ崎恋(ラヴリカバグスター)百瀬小姫(鏡飛彩の恋人)であるが、朝食を作ることに抵抗を覚えている高山であった。特にラヴリカに対して。

 

 

 しかしこれも檀黎斗の策略に態と乗り、真相を暴こうとしているため。仕方ないと割り切り出されて文句の1つも言えないモーニングを作る。これで文句を出すのならばラヴリカの舌を疑わなくてはならない。

 

 

 予定通り朝食を作り終えて並べていると、ちょうどのタイミングで天ケ崎恋と百瀬小姫が階段から降りてきた。ドリンクの準備も怠っておらず、何時でもバッチ来いと謂わんばかりの高山であったが中のゲムデウスは“気張る所違う”とツッコミを申していた。

 

 

 天ケ崎と百瀬小姫が食事をしている間、高山は檀黎斗が言っている事柄について思ったことがある。

 

 

 ()()()()()()()は明日の午前0時だと。

 

 

 はて?と高山は考えた。内蔵されていたデータ()()で復元された状態ならまだしも、ラヴリカは高山の中にあるゲムデウスウィルスを使って復元された。つまるところラヴリカ構築の補強となっているゲムデウスウィルスに制限時間は存在するのだろうかと。

 

 

 それはゲムデウスとて同じであった。現にゲムデウスからはラヴリカの情報が伝わっており、ラヴリカを補強している事は自覚している。だがタイムリミットが決まっている時点で、まるで“その結末になること”が()()()()()様な言い草であった。

 

 

 そしてラヴリカと百瀬小姫が食事を終えて離れると、高山の元に檀黎斗が近付く。

 

 

 

「少し良いかい?」

 

 

「別に構いませんが……何の御用ですか?」

 

 

「なに、君に頼み事をね」

 

 

 

 高山にずいっと顔を近付ける檀黎斗。少しビックリした高山であるが、少し顔を離れさせるだけで終えると檀黎斗は続けて高山に言う。

 

 

 

「高山君、仮面ライダークロニクルは知っているね?」

 

 

「えぇ、クロニクルガシャットを使ったARゲームですよね。それが何か?」

 

 

「ならば話は早いな。私が言う時間に指定した地点まで行って、花家先生の持つクロニクルガシャットを回収してほしい」

 

 

「…………花家さんが、持っていると?」

 

 

「あぁ。花家先生も、目的があってそれを持っているのだからね。兎に角、時間通りに指定位置へと着いてくれ」

 

 

 

 高山は内心疑心暗鬼だが、それでも了承する。全ては檀黎斗の行動の真相に迫るため。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして時間だけが過ぎていき、現在午後11時30分。高山とゲムデウスは見つからない様に移動し終えて待機していた。そこにゲムデウスが違和感を感じ、高山に伝える。

 

 

 

『……宿主、少し聞いてくれ』

 

 

「……何さ

 

 

『私や宿主の様な状態では無いが、ゲムデウスウィルスに()()()()を察知した。ウィルスのデータから読み取るに、花家大我のデータが採取された』

 

 

「!…………ねぇ、それって」

 

 

『宿主の推測とは違う。流石に宿主は私が居るということもあって無茶が効く、だが花家大我にそれは無い。となれば……ゲーマドライバーからの感染が有効だろう』

 

 

 

 正直、高山も花家大我が何を考えているのかさっぱり分からない。何故そうまでしてクロニクルガシャットを使うのか、何故そこまで固執するのかが理解できない。そもそもゲムデウスウィルスと似たウィルス構成を体内に保存するだけでも体力を使う。

 

 

 高山の場合はゲムデウスという他の媒体があるからこそ利益を生み出せる。だが他の媒体が無い花家大我にとっては害悪しか及ぼさないはずなのに……何故か。

 

 

 そうしている内に先にラヴリカと百瀬小姫が時計塔前に到着する。現在午後11時35分、まだタイムリミットの午前0時にまで時間はあるが早いとこ済ませようとしている。

 

 

 

『宿主、来たぞ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「午前0時…………」

 

 

 

 午後11時35分、花家大我が到着した。邪魔されたラヴリカは憤慨しており花家大我に向けて怒りを示す。

 

 

 

「無粋な男だねぇええ!

 

 

 西馬ニコとの恋愛ゲームを放置して、僕達のアバンチュールを邪魔しに来るだなんて!」

 

 

 

 ラヴリカはバグヴァイザーを片手に持つ。潜んでいた高山はラヴリカの言っていた“恋愛ゲーム”に疑問を持った。

 

 

 

ヴぁいよう!

 

 

 

 バグヴァイザーのAボタンを押し、両腕を広げて元の姿に戻っていく。

 

 

 

 

【INFECTION!The Bugster!】

 

 

 

 花家大我はバグヴァイザーⅡを装着し、Aボタンを押す。軽快な音楽が流れる中、ラヴリカは花家大我に尋ねる。

 

 

 

【ガッチャーン】

 

 

 

「何のつもりだい?それは人間に扱える代物じゃ…………ッ?」

 

 

 

 問いかけには答えなかった花家大我であったが、その答えと謂わんばかりに取り出したのはクロニクルガシャットであった。花家大我は、それを起動させる。

 

 

 

【仮面ライダークロニクル!】

 

 

 

「変身」

 

 

 

 

 バグヴァイザーⅡにクロニクルガシャットを差し込み、赤いスイッチを押す。しかし拒否反応が起こっているのか、まだ完全な抗体を物にしていないのか花家大我が苦しみ始める。

 

 

 この時、高山とゲムデウスは一時的に焦っていた。このままでは体が持たないと直感した2名は、ゲムデウスと似たウィルス構成ならばゲムデウスが操れるのではと頼んでみた。

 

 

 だが檀黎斗にバレれば一巻の終わり。苦渋の決断だがある程度干渉するがバレないようにウィルス操作を施す選択を取った。苦しんでいる花家大我を嘲笑うかの様に、ラヴリカは言う。

 

 

 

「ハッハッハッハッ、勇気と無謀は違う。君が、檀正宗の様になれるとでも思ったのかい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ……ハァ………俺はドクターだ!

 

 

 患者も!ブレイブの恋人も!

 

 

 

 

 

俺が救う!」

 

 

 

 声を荒げながら立ち上がる花家大我。ゲムデウスはウィルス操作を終えて傍観者の立場に立つ。

 

 

 

【バグルアーップ】

 

 

【天を掴めライダー!(ウォー!)刻めクロニクル!

 

 

 

今こそ時は、極まれり!】

 

 

 

 

 ローマ数字が時計の様に並び、そして真上から花家大我を覆い『仮面ライダークロノス』となった。

 

 

 

【STAGE SELECT】

 

 

 

 場所が代わり、対決の場が作られる。

 

 

 

「いけ好かないねぇ、僕を消滅させたその姿を見ると!」

 

 

「相手してやっから……ちょっと黙ってろ」

 

 

「おのれぇッ!」

 

 

 

 ラヴリカが攻撃を仕掛けるが、クロノスがAとBボタン両方を同時に押すとクロノスは百瀬小姫の方に居てラヴリカの攻撃を回避していた。

 

 

 

「なっ……!?貴様ッ!」

 

 

「ミッション…………開始!」

 

 

 

 今ここに、1つの歯車(運命)を決める戦いが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────Loading……──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クロノスのガシャコン・マグナムでの牽制から、この戦闘は始まる。ラヴリカは数発ほど食らうがガシャコン・マグナムを弾き落とし攻撃を仕掛ける。しかしクロノスも紙一重で避けた後、拳を2 3発ほど叩き込み幾度と無く回転蹴りを与える。

 

 

 

「彼女は、お前のじゃねぇんだよ!」

 

 

 

 怯んだラヴリカに対して、クロノスはガシャコン・ソードを取り出す。時に斬り、時に叩き付け、時に突き、時に蹴り、ラヴリカを弱らせていく。だがラヴリカの体からは【HIT!】などの攻撃表示が出ていない。つまるところ、クロノスの攻撃は有効打とはなっていない。

 

 

 しかし、そうだとしてもクロノスは攻撃を続けた。百瀬小姫(零した過去)を取り戻そうと、飛彩が愛した人を救おうと、クロノス(花家大我)は自分を酷使し続ける。

 

 

 クロノスの体から緑のデータが出現し、ガシャコン・ソードから炎が噴き上がる。

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 

 

 そして斬りつけ、ラヴリカから爆発が巻き起こる。しかしラヴリカの方は倒れていない。だがダメージを与えた影響で疲弊しているのは確かだった。

 

 

 

なーんてね。例え僕のボディを傷付けても、暴力じゃ僕のハートまではブレイク出来ないよ!」

 

 

「ハァ…………しぶとい野郎が……!」

 

 

 

 クロノスがガシャコン・ソードを構えてラヴリカに飛びかかる。が、そこで異変が起きた。動きが止まると、クロノスの体から緑の電気の様なものが流れ始める。そしてクロノスは、強制的に変身を解除される。

 

 

 

【ガッシューン】

 

 

 

 

 クロニクルガシャットはそのまま高山の居る近くにまで飛び、それを回収する。本来なら高山とゲムデウスも、ここで帰っておけば良かったのだが……高山は元の位置に戻り様子を見続けた。

 

 

 フラフラに成りながらも変身が解除された花家大我の元にラヴリカは向かう。

 

 

 

「ハッハッハッハッ……僕の忠告を無視した報いだね。君は西馬ニコのハートを射止めようとしなかった」

 

 

 

 睨み付ける花家大我。ある意味大切なものを投げうって来た花家大我は、ラヴリカにとっては飛んで火にいる虫同然。しかしそれは花家大我が()()()()()を理解しているが故の行動でもあった。

 

 

 医者は基本的に私情に駆られてはならない。ただ患者を治し、救うことを目的としている。そこに私情が入ろうが命を見捨てる事はできない。高山は、すぐにでも行ける様にドクターマイティを構える。

 

 

 

「ハッハッハッハッ……レディのハートを掴めない男に、負ける気はなぁい!

 

 

 1人ぼっちのまま、あの世に逝くがいい!

 

 

 

 

 

お別れだぁ」

 

 

 

 ラヴリカは花家大我に向けて拳を振り下ろそうとする。すぐにドクターマイティの起動ボタンを押そうとしたが、寸前の所でラヴリカに白衣が掛かり視界が塞がれる。

 

 

 少し慌てた様子を見せつつも、白衣を払い来た方向を見る。高山もドクターマイティをゆっくりと仕舞った。

 

 

 白衣が投げられたと思われる場所には、鏡飛彩が立っていた。

 

 

 

「お前は……ッ!」

 

 

「その戦闘(オペ)…………俺が引き継ぐ」

 

 

「…………ブレイブ?」

 

 

 

 花家大我は鏡飛彩を見て驚く。

 

 

 

「お前は小姫を救おうとしてくれた。

 

 

 今度は俺の番だ。

 

 

 お前の患者は、俺が救う」

 

 

 

 

 鏡飛彩は、そうタドルレガシーガシャットを取り出しながら言った。しかしラヴリカが否定していく。

 

 

 

 

「無駄無駄。乙女心が分からない野暮な男にはねぇ」

 

 

 

 飛彩の視線に苦しげな状態の恋人が映る。

 

 

 

 

 

 

 

「小姫……本当にすまなかった。

 

 

 ドクターの勉強ばかりに気を取られて

 

 

 小姫を蔑ろにして…………!」

 

 

 

「今更後悔したって、1度傷付いたレディのハートは取り戻せないんだよ!」

 

 

 

 飛彩は、少しの間を置いた。ラヴリカの言うことにも確かに一理ある。だが1度傷付けてしまったのなら、償いさえすれば良いのも事実。つまりラヴリカのは単なる極論に過ぎない。

 

 

 タドルレガシーガシャットを構えて、起動させる。

 

 

 

【タドルレガシー!】

 

 

 

 画面が飛彩の後ろに現れ、ゲームが開始される。

 

 

 

「術式レベル 100!

 

 

変身ッ!」

 

 

 

 ゲーマドライバーに差し込み、レバーを開く。

 

 

【ガッシャット!】

【ガッチャーン!レベルアーップ!】

 

 

 

 

 

 

辿る歴史目覚める騎士

 

タドルレガシー!】

 

 

 

 白き翼から現れる勇者と魔王の力を持つ騎士(仮面ライダーブレイブ レガシーゲーマー)。ガシャコン・ソードを構えてラヴリカに相対する。

 

 

 

 

「これより、ラヴリカ切除手術を開始する!」

 

 

「フンっ、出来るかな!?」

 

 

 

 ラヴリカがブレイブに迫る。しかしブレイブはラヴリカの攻撃をいなし、避ける。

 

 

 

「フンっ!暴力じゃ僕のハートはブレイク出来nぬおっ!?」【HIT!】

 

 

 

 攻撃表示が出た。何かしら攻撃が通る理由があるのは確かだが、構わずブレイブは攻撃を続ける。

 

 

 

【HIT!】【HIT!】

 

 

 

「な、何故だ……?何故僕のハートがズタズタなんだ!?」

 

 

 

 ラヴリカが無数の花びらによる攻撃を加える。それにブレイブは直撃し花びらが囲んでいく光景を見て、ラヴリカはほくそ笑む。

 

 

 だが、白き翼をはためかせたブレイブが花びらを散らす。それを見ていた花家大我はまさかと思い、百瀬小姫の方を見る。表情がまるで安心しているかの様な表情であった。

 

 

 

【HIT!】

 

 

 

「な……何故だ……?」

 

 

 

【HIT!】【HIT!】

 

 

 

 ブレイブは思い出す。あの時、助けられなかった過去を。

 

 

 

【HIT!】【HIT!】

 

 

 

 ブレイブは思い出す。今まで過ごせなかった時を。

 

 

 

【HIT!】【HIT!】

 

 

 

 ブレイブは思い出し、後悔した。

 

 

 時は必ず進んでいく。ずっと止まらずに進んでいく。止まる事も、過去に戻ることさえも出来ない。

 

 

 

【HIT!】

 

 

 

「な……何故だ…………!?」

 

 

 

 ラヴリカは未だに理解が出来なかった。なぜ自分に攻撃が通るのか。なぜ百瀬小姫がブレイブを思うのか。なぜ自分は負けるのかと。

 

 

 

キメワザ!】

 

 

 

 ブレイブはガシャコン・ソードを地面に突き刺し、白き翼を広げて飛翔する。

 

 

 

「はあああああああッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

TADDLECRITICAL STRIKE!】

 

 

 

「ハアアアッ!」

 

 

 

 ラヴリカに衝突し、白き翼がラヴリカを包み込む。翼が消えると、ラヴリカには攻撃表示が幾つも表示されていた。

 

 

 

「ぐはぁっ!」【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】

 

 

「ッ……世界中に、I miss you……」【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】

 

 

 

【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】

 

 

 

「ぐぉほぉッ!」

 

 

 

【会心の一発ゥ!】

 

 

 

 ブレイブがゆっくりと降り立ち、変身を解除する。

 

 

 

【ガッシューン!】

 

 

 

 その後、ゲームエリアが解除されていく。高山はそれを見計らってキメワザスロットホルダーのボタンを押して、檀黎斗の待つ洋館に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 檀黎斗に花家大我の持っていたクロニクルガシャットを渡すと、その翌日に今度は何処か別の場所のデータを移される。もう一度キメワザスロットホルダーのボタンを押して、先程移入された場所までワープする。

 

 

 場所は“ネクストゲノム研究所”。そこに到着すると檀黎斗と、もう1人女性が共に居た。名を『八乙女紗依子』、彼女は遺伝子医療の権威と呼ばれる逸材とされるのだが何故に檀黎斗と共に居るのかは明かされていない。

 

 

 高山とゲムデウスは両者を見やる。檀黎斗と八乙女も高山を見やる。

 

 

 

「ご苦労だった……高山明ァ…………」

 

 

「……黎斗さん、そのガシャットを使って何をするつもりですか?そろそろ教えて下さっても宜しいのでは?」

 

 

「ふむ……そ う だ な。折角だ、見ていくと良い」

 

 

 

 高山にとある場所を指差す檀黎斗。そこを目指していく高山は、ある地点で()()()が見えた。何かと思い警戒しながら、ゆっくりと覗く。

 

 

 

「ッ!…………ゲムデウス、()()()って……!」

 

 

『……まさか、これの為にか?』

 

 

 

 漸く全体像が見えた。高山の瞳に映し出されたのは、普通では有り得ない人物が居たからであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『檀…………正宗……!』」

 

 

「その通り」

 

 

 

 不意に後ろから檀黎斗の声が聞こえたので、瞬時に振り返る高山。しかし何処吹く風と謂わん様な口振りで喋り続ける檀黎斗。

 

 

 

「君にクロニクルガシャットを回収して欲しかった理由、クロニクルのマスターガシャットを複製し内蔵されている檀正宗のデータを取り出す為にあったのさ」

 

 

「……成程、要は花家さんは1つの過程にすぎなかったと。ラヴリカのタイムリミットも、()()()()()()と決定づけなければならなかったと。始めから()()()()()()()()()()()()()()を信じて、ラヴリカに緊張感を持たせたんですか?」

 

 

「流石に気付くか……確かにゲムデウスウィルスの効果は素晴らしい、完全な復元に近い状態になるまで成功したのだからな。そして私の計画に必要なガシャットは、もしラヴリカが倒されなくとも別に良かった。

 

 

 

 ()()()()()()()()からなぁ」

 

 

 

 

 その笑みに、高山は少しだけ恐怖してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回『Dr.ゲムデウス』は!


 揃う2体のバグスター!

「高山さん!何で……何で協力してるの!?」


 そして高山の心境に、変化が……!

「それが……親の言う言葉ですか!?」


 絶望した黎斗を救う方法を捜す!

「お願いします!力を貸してください!」



 次回『Dual Bugster』





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Dual Bugster 

 その翌日、いつも通りの時間に起きるが今日はまだ休暇中である。朝早くに起きて朝食と弁当を作り、その途中で藍原がいつも通りのハグをして2つとも作り終える。その後は2人揃って朝食を摂る、いつもの食事風景であった。

 

 

 

「あ」

「急にどったの?」

 

 

 

 不意に高山が抜けた声を出した為か、藍原は何事かと聞いてみた。

 

 

 

「いや、そういえば今日で終わるなって」

 

 

「何が?」

 

 

「ほら、茅場先輩の」

 

 

「あぁー…………あ、そういえばこっちも」

 

 

「何なに?」

 

 

「ほら、一昨日に行きたくない接待があったんだけど。

 

 その会社がアーガスなのよ」

「ねぇちょっと!?なに!?茅場先輩の職場の所と接待だったの!?」

 

 

「だってさぁ……稀代の天才『茅場晶彦』と知り合いなら、最近注目されてるアーガスの投資もいけるんじゃね?っていう上の命令だったんだけど……」

 

 

「だけど……?」

 

 

「茅場の奴、話す度にドンドンテンションがおかしくなってさ。遂には“私の想像を遥かに越えたプレイヤーが現れた!こうしちゃおれんのでな、私のイマジネーションが滾るうぅぅぅぅ!”とかほざいてたし」

 

 

「茅場先輩ィィイイ!?ちょっと、それ不味いじゃん!」

 

 

「あー、だったら一緒に行く?今日もアーガスに行くし」

 

 

「そうさせて。あぁもう、茅場先輩ちゃんと栄養摂ってるよね?神代さんが居るし……あぁでも最悪周り見えてないかも」

 

 

「先に会社行くから、後で迎えに来てね〜!」

 

 

「分かった」

 

 

 

 藍原は既に朝食を摂り終え素早く準備を進めていく。藍原が席を離れた時、高山は疲れた様子で溜息をついて頭を抱えた。

 

 

 

『完璧イッてるな、茅場の奴』

 

 

「面倒事が増えた……」

 

 

 

 この7月半ば頃、また高山の用事が増えていった。檀黎斗もそうだが、茅場晶彦に関しても面倒事となってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少ししてバイクを藍原が勤めている会社に向かい、藍原を乗せると茅場晶彦の勤めているアーガスにまで向かって行く。高山は前にアルファテストを行っていた為、そもそもアーガス社には何度も訪れた事がある。

 

 

 アーガス社に到着して受け付けから藍原のICカード、高山は茅場に繋げて話してもらった後でICカードを貰い受け向かう。藍原は商談として、高山は開発されている場所まで向かうと茅場が待ち構えていた。

 

 

 

「待っていだぞ高山君!あぁ、君がベータテストに参加出来なかったのが残念だ!このベータテストで面白いプレイヤーを見つけたのさ!これはもう私に新たなシステムを開発しろと謂わんばかりに脳細胞が活性化されて素晴らしい“ユニークスキル”の誕生が今まさに始まろうとしているのだよ!それから高山君のデータを採取していると、やはり高山君はウィルスとの適合があるせいかゲーム内でも現実とそう変わらない身体能力が反映されている事が判明してだな!」

「分かりました、分かりましたから中で話しましょう!あと茅場先輩、寝てませんよね!?今からでも良いから早く寝てください!」

 

 

 

「断る!」

『完全にイってるではないか』

「ぁああ゛あ゛あ゛!」

『こちらもイッたか』

 

 

 

 茅場が言うことを聞いてくれないのはザラであり、その度に高山が一時的な発狂をしながら茅場を無理やり眠らせるか食事を摂らせている。高山の苦労が一気に増える瞬間である。

 

 

 呑気に高山の視界から眺めているゲムデウスは何もせず、この茅場の状態を最近面白く眺めている。協力してほしいと心から願う高山の思いはゲムデウスには届かず、気苦労が募る。

 

 

 30分丸々かけて漸く茅場を落ち着かせると、高山も疲弊した様子を見せており疲れていた。そんなことお構い無しと謂わんばかりに茅場が何故か寝台に寝かせて開発済みのナーヴギアを被せてきた。

 

 

 

「あの、茅場先輩?なぜ僕をここに繋げてるのですかね?」

 

 

「今日はベータテスト最終日、どうせなら高山君にはボスになってもらおうかと」

「(ねぇゲムデウス!茅場先輩が可笑しくなっちゃったよ!)」

 

 

『やったなたe』

「(それは言うな!それと何処でいつ調べたよ!?)」

 

 

 

 そんな高山とゲムデウスのお話も束の間、既に準備が整っている茅場は準備を終えているようであった。

 

 

 

「よし、いくぞ高山君!私に素晴らしいデータを見せてくれ!」

 

 

「ちょ茅場先輩ィ!」

 

 

 

 こうして高山は意識を()()()()に持っていかれる事となった。目の前に映り出す様々な模様やプログラム、0と1の2進数が高山の意識を刈り取るのであった。

 

 

 ちなみに外そうとしても無駄である。というより体全体が茅場のせいで寝台に縛り付けられている為である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さてこの層のボスとなってしまったが、それについての心境は如何かな?宿主』

 

 

「(最悪。雑巾の絞り汁が入ったバケツがひっくり返って服とかに掛かるみたいに)」

 

 

『目の前にはラスボスである宿主と戦うプレイヤーが多数、さぁ全員英雄(ヒーロー)になろう!』

 

 

「(ねぇゲムデウス、誰に話してんの?あと何を()()()()()()?)」

 

 

『……流石に理不尽すぎて苛立ったか、すまん』

 

 

 

 高山はかなり大型の、しかも人型らしい背格好になっている。そして装備は両手斧という高山が何時も使用する戦闘スタイルにあった格好であったが故に、茅場晶彦は仕組んだとも言えるだろう。

 

 

 兎も角、高山も何時もの戦闘スタイルでプレイヤー達を迎え撃つ。ゲムデウスウィルスによって現実空間と仮想空間との間に殆ど動きの差は無く、逆に高山は仮想空間に馴染みやすいと実感している。

 

 

 この戦闘スタイルに加えて、今のボスは仮面ライダー。ウィルスの過剰適合によって身体能力の差が殆ど無くなっているので鬼畜仕様なのにも関わらず、()()()2()()だけ互角に渡り合えている。

 

 

 

「デェェエエエヤアッ!」

 

 

 

 先程飛び蹴りを放った軽装のプレイヤー。その後ろで黒い刀身に緋のラインが入った大剣を装備する黒の鎧を着た人物の2人であった。高山が両手斧を勢いよく振ると、他のプレイヤーはぶつかった威力や衝撃波により悪くてポリゴンになるか良くてHPがギリギリレッドラインに到達するのが一般。

 

 

 しかしこの2人は物怖じしていないのか軽装のプレイヤーは縦横無尽に飛び回り、タンク役に徹するプレイヤーは大剣を軽々と片手で持ち脚が吹き飛ばされそうな程の威力を受ける。

 

 

 

「グッ!」

 

 

「おっしゃあ!行くぜ()()()!」

 

 

「気を引き締めろ()()、相手のHPは残り1本半だ。しかもヘイト的に私に向かう攻撃がゼロに向かった、【カーディナル】の進化が見受けられる」

 

 

「ヘヘッ!んじゃあ進化できねぇほどシステムを塗り替えてやんよ!」

 

 

「この脳筋めが」

 

 

「あ?」

「は?」

 

 

 

 すると突如2人が近付き額と額をぶつけて両者共睨みを効かせていた。

 

 

 

「おいこらバダンよぉ……テメェ今なんつった?お?」

 

 

「脳筋と言ったのだ脳筋。単細胞と言われないだけマシだろう?」

 

 

「何時もいつも喧嘩売りやがってよォ……今日という今日はデュエルで決着付けるぞ!」

 

 

「熱苦しいわ馬鹿者」

 

 

「おいこらテメェ!今馬鹿っつったな!?()()()に言われて結構傷つくんだぞそれ!」

 

 

「お前は学ばんかい、グ○ンファイヤーみたいに熱苦しくてやってられんわ」

 

 

 

 この光景を見ている高山とゲムデウスも、一体何が起こったのか皆目検討も付かなかった。そうこうしている内にゲームエリア内で放送が流れる。

 

 

 

〔ただいまを持ちまして、【ソードアート・オンライン】のベータテストを終了させて頂きます。皆様、お疲れ様でした。続きは製品版をお買い求め下さいませ〕

 

 

「あー!終わったじゃねぇか!」

 

 

「私の言った事に反応せずに突っ込めば良かったものを」

 

 

「んだとこ()

 

 

 

 最後に殴りかかろうとしたゼロというプレイヤーであったが、バダンというプレイヤーに届く前に光に包まれて消えてしまった。同じくして高山も光に包まれると現実世界に戻され、傍に拘束具を持った神代が立っていた事で現実だと理解する。

 

 

 上体を起こすと、神代の後ろに何やら見てはいけない状態の茅場が地面に寝かされて(気絶されて)いた。

 

 

 

「いやぁ、悪いな高山。このバカに付き合ってもらってよ」

 

 

「……まぁ少しは驚きましたけど、して後ろの茅場先輩は?」

「知らない方が良いこともあるもんだぜ?」

 

 

 

 持っていた拘束具であるロープをピンと引っ張ると乾いた音が何故か響き渡り、別れを告げると茅場を連れて(引っ張って)部屋から退出していった。

 

 

 高山も寝台から降りて部屋から出てロビー前に到着すると、既に待っていだ藍原と茅場を連れた神代がそこには居た。藍原は高山に駆け寄って腕を掴むと、腕を組みながら神代と茅場の所まで向かって会話をし始める。

 

 

 

「いやぁ優美、ホントにごめんね!そっちの旦那を色々と!」

 

 

「いやまだ結婚してn」

「大丈夫!茅場の場合、明が居るからここまでハイテンションになっちゃうの知ってるし!」

『おい変な解釈されてるぞ』

 

 

「優美は高山が居るから良いねぇ……それに比べて」

 

 

 

 襟首を掴んでいる神代は持っている手を揺らして茅場を起こす。

 

 

 

「ほら()()、早く起きなさいよ。重いったらありゃしないから」

 

 

(むぅ)……はっ!?わ、私は一体!?」

 

 

「ほーら早く家に帰るわよー」

「ちょ()()、襟首を引っ張ると伸びる!」

 

 

 

 何だかんだで大学時代より仲良くなっている茅場と神代の関係を、親目線の様な感覚で見送っていく高山と藍原であった。

 

 

 一方のゲムデウスは、また1つ学んでいた。“人間の女性は色々と強い”ということを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────Loading……──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの茅場の1件から翌日、高山とゲムデウスはまた“ネクストゲノム研究所”内に足を運んだ。流石に昨日のテンションは既に消えており、高山の瞳は真実を知ろうとする曇り無き目を携えていた。

 

 

 しかし目に入った存在に気付き、高山は表情を一変させる。

 

 

 

「パラドさん!?」

 

 

「ッ!明なのか!?」

 

 

 

 高山は何やら電飾の様なものが混入している透明なロープに縛られているパラドに向かって走り、パラドと目線を合わせる為にその場にしゃがむ。

 

 

 

「パラドさん、一体何でここに!?」

 

 

「それはこっちのセリフだ!最近お前を見ないと思ったら、何でゲンム達と協力してるんだ!?」

 

 

「そ、それは…………」

 

 

 

 高山の目的は、あくまで黎斗の計画している事を知る為に潜入している。だが実際は黎斗に勧誘されて表面上は協力している為に責められるのは構わないが、他の者が高山の思惑を知りそれが黎斗にバレるのを避ける為に敢えて言わなかった。故にパラドの1言でしどろもどろになるのだが、そんな場面にゲムデウスが高山と強制交代する。

 

 

 

()()()()パラド、今は私達からは何も言えん。()()()

 

 

「ゲムデウス……お前最近ネトゲで遊んでくれないと思ってたら……!」

 

 

『ゲムデウス、ネトゲってなにかな?僕知らないんだけど』

 

 

「暇潰しにパラドとやってみればハマってな。宝生永夢に許可も取ってお前が寝てる夜に」

『最近電気代増えたのそれかい!』

 

 

「そこまで支障は出ておらんだろ?現に余裕が出来る程度にしておる」

 

 

『……今度からはちゃんと伝えなさい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、来てたのね」

 

 

 

 ハイヒール特有の鳴り方と女性特有の声がゲムデウスとパラドの両者に近付いてくる。さらに女性フェロモン特有の匂いが加わった事で、今来ている人物は特定出来た。

 

 

 

「『八乙女紗衣子』……パラドがここに居るということは貴様、()()()()()()()()()を送り込んだという訳か」

 

 

「…………その口振り、ゲムデウスね」

 

 

 

 八乙女紗衣子は少し……否、かなり苛立ちを募らせた状態でゲムデウスとの対話を行う。もっとも八乙女紗衣子がバグスターに対して異常なまでの嫌悪感を持っているのは、様々な心情の患者を見てきた高山とゲムデウスでしか判明できない。

 

 

 

「幾つか質問をする。構わんよな?」

 

 

「…………えぇ。けど早く済ませて頂戴」

 

 

「了解した。まず1つはパラドを縛る、このロープはなんだ?」

 

 

「レベル0のウィルス抑制効果を組み込んだ物よ。あとは?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「何故そこまでバグスターを嫌う?確かに我らは一時は人類と敵対し、害をなした。だが我らとて償おうと我らなりの償いをしてきた……一体なぜだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前らバグスターには、絶対に理解できない事よ」

 

 

 

 

 

 

 八乙女紗衣子は後ろに振り返って来た道を戻って行く。ゲムデウスは何も語りかけなかったが、代わりにパラドが尋ねた。

 

 

 

「おい待て!お前は何がしたかったんだ!?」

 

 

「キチンと大人しくしてたか、確かめる為よ。それ以外無いわ」

 

 

 

 

 歩みを止めず、そのまま何処かへと向かって行く八乙女紗衣子。少し息をつくゲムデウスは、すぐにパラドの方に向き合い目線を合わせる様にしゃがむ。

 

 

 

「パラド、よく聞け。今我々は迂闊にお前らを助けるのは難しい状況にある。今は何も言わずに大人しくしてくれ」

 

 

「ッ……!待てゲムデウス!せめて何が起きてるのか知りたい!教えてくれ!」

 

 

 

 

 

 

「……私に分かるとすれば、今は宝生永夢の元に別のバグスターが居る事だけだ」

「別のバグスター!?でも、何で……」

 

 

 

 

 

 

 

「“バグスター育成ゲーム”のテストプレイヤーを」

「ッ!?」

 

 

 

 突然聞こえてきた、パラドにとっては久々に聞いた声。ゲムデウスと高山からしてみればある意味聞き慣れてしまったこの声に、3名は反応した。

 

 

 

「宝生永夢には手伝って貰ってるのさ、プァラドゥ」

 

 

「檀……黎斗…………!」

 

 

「勿論、宝生永夢は()()()()()()行っているのだろう?檀黎斗」

 

 

「 檀 黎 斗 神 だぁ……。だがゲムデウス、その通りだとも」

 

 

「お前!何でここに居る!?」

 

 

「残念だが、今から私は見たいものがあってなぁ……質問には答えない」

 

 

 

 そう言って檀黎斗は何処か別の場所へと歩き始める。ゲムデウスも黎斗について行く様で、1言断りを入れた後でついて行った。ついでにゲムデウスと高山は交代した。

 

 

 

「君も来るのか、()()()

 

 

「普通なら話し方の違いで漸く気づけるんですけどねぇ……雰囲気で分かりますかね?」

 

 

「君が飽きもせずに私達の前に現れるからな、しかも差し入れ付きときた。ゲムデウスの雰囲気と高山君の雰囲気は緊張感の差で分かる様になったのさ」

 

 

「……ゲムデウス、緊張してたんだ?」

『した覚えはまず無い』

 

 

 

 おそらくゲムデウスは何処か近寄り難い雰囲気を無自覚の内に醸し出していたのだろう。高山の場合はそもそもの性格も起因して優しげな物腰である為に雰囲気の差というのが生まれたのかもしれない。

 

 

 まぁそもそもバグスターのラスボスに君臨していたゲムデウスと、今は1人の精神科医として過ごしている高山との差はあるのだろう。そしてそうこうしている内に檀黎斗の歩みが止まる。

 

 

 止まった先には1つの扉があり、そこを開けると1つの部屋に続いていた。そこから見えるコンクリートの支柱、檀黎斗について行くと今度はもう1つのコンクリートの支柱が見えた。

 

 

 そしてパラドと同じ縄で縛られた檀正宗の姿もそこにはあった。しかし未だに目を覚ましてはいなかった。

 

 

 

「……これがあるって事は、この人もバグスターに」

 

 

「そうだな……バグスター、というよりもデータだ。君が回収した複製されたマスターガシャットから私が復元した。しかしバグスターもデータ体の人間にもウィルスが存在している事に違いは無い。レベル0の力で封じ込めさせて貰った」

 

 

 

 未だに起きない檀正宗の周りを周回しながら、檀黎斗は高山とゲムデウスに向けて話す。

 

 

 

「良いかぁ君達ィ……この男は、檀正宗は。私の才能を横取りし、私の作ったゲームを勝手に使用した“罪人”だ。この男は()()()()()()()()()()()()()()()()()()を作り上げたいという願いだけで数多の罪を犯した男だぁ……」

 

 

『……非常に言いづらいが、それは似たり寄ったりというものではなかろうか?』

 

 

「……でも、黎斗さん。この人は…………貴方の、黎斗さんの」

 

 

 

 

 

 

()()()の事を、そう思った事は無い」

 

 

「ッ…………」

 

 

 

 高山にとって、この言葉は唯一心にクルものがあった。あの言葉だけで理解出来るのは、本人が過ごしてきた過去の時間が、家族の時間が、誰かを見る目が消えていることの証拠でもあった。

 

 

 高山は一般的な産まれであった。普通に産まれ、普通にやんちゃし、そして学び、共に誰かと過ごし、助け合い、趣味に走り、恋をして、今があった。

 

 

 心が────曇って見えた時、高山の心も曇る。

 

 

 実際精神科医といっても多くの者が患者に寄り添う訳では無い。実際に患者の心情に付き合ってしまえば、自分の心が()()()しまうから。多くの者は忘却の一途を辿る。

 

 

 高山はその中でも例外であった。患者に寄り添い、あまつさえ患者の心境に立とうとする精神力の持ち主だ。実際は客観的に見て、自分の納得する答えが見つかるまで()()()()のだ。しかしこれは客観的に見る事が出来なければ永遠に考えるし、見つけたとしても自分が戻れなくなる。そんな賭け事をしているのだ。

 

 

 心の医者は、とてつもなく疲弊する。体の傷は治せても、心の傷は治すのではなく()()()()()()ならないものだ。完全に取り戻せないのだ。

 

 

 高山は檀黎斗の、今の精神状態を“あの一言”で読み取った。誰でも分かると思うが、あの発言からして父親である檀正宗には恨みしか無いと想像出来る。

 

 

 少しだけ、高山は拳を握る力を強めた。

 

 

 

 

 

 

 

 彼は苦しいのだ。人が人を大切に思えないのが。

 

 

 彼は憎いのだ。人の心を変えた環境が。

 

 

 彼は優しいのだ。自分よりも、他人を優先する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その感情は、時には自分を苦しめるのだが。

 

 

 

「ぐっ!?がヒュッ……!」

 

 

「!?高山君!」

 

 

 

 高山が苦しみ始める。この世界に蔓延るバグスターウィルスは感染者のストレスを得て実体化し、そして感染者が消滅すれば完全体となる。

 

 

 さてここで考えよう。高山が持つゲムデウスウィルスはバグスターウィルスの上位互換と捉えて良い。そんなウィルスが高山の発生する急激なストレスを受けたとしよう、彼は今どうなっている?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼は今、ゲムデウスウィルスによって消えかかっている。ゲムデウスが完全体に()()()()()()()()()()が偶発的に起こされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────Loading……──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高山の目が覚める。先程高山はゲムデウスウィルスの作用によって苦しんでいた筈なのだが、気が付けば寝台の様な場所に寝かされていた。

 

 

「…………ッ」

 

 

『目が覚めたか、宿主』

 

 

「ッぁ……ゲムデウス、俺……」

 

 

『喋るな、まだ私のウィルスの影響があるやも知れん。檀黎斗が【メディスン・トリートメント】を使って急速にガシャットの効果で抑制と過剰分の消去をしている時だ』

 

 

「……黎斗さん。ハハっ、またか

 

 

 

 また、助けられちゃったな……」

 

 

 

 右腕で両目を押さえて、()()()の分岐点を思い出す。あの時の檀黎斗の1言で、あの時の檀黎斗の行動で、あの時の檀黎斗の協力で(高山明)という男は救われたと言っても過言では無い。

 

 

 もしもドクターマイティを手に入れていなかったら、もしもあの言葉が無かったら、運命も変わっていたのかもしれない。それを思い出して、高山は右手を握りしめる。

 

 

 

「ゲムデウス……やっぱ、俺さ」

「気付いたか、高山君」

 

 

 

 何か言おうとしていた所に、檀黎斗が高山の元に現れる。言いかけた言葉を首の所に留めて置き、高山はこの寝台から体を起こす。

 

 

 檀黎斗も突然のアクシデントに少し慌てた表情であったが、高山が持っていたバッグからガシャットギアデュエルγを取り出し【メディスン・トリートメント】を使用する事で何とか大事には至らなかった。

 

 

 

「流石に驚いた。君がゲムデウスウィルスの侵食を諸に受けていた時はな」

 

 

「…………すいません。御迷惑をかけました」

 

 

「……なに、気にするな。君の為とまではいかないが、再度ゲムデウスウィルスの異常が公になってしまうのは不味い。ある意味、私の計画の支障と成りうるから対応したまでだ」

 

 

「そうですか……それでも、ありがとうございます」

 

 

 

 寝台から降りて辺りを見渡す。視界に入ったパソコンの側にガシャットギアデュエルγが差し込まれた機器を発見する。その隣には高山の持っていたバッグがあり、先にバッグを取ってギアデュエルγを取る。

 

 

 

【ガッシューン】

 

 

 

「所でなんですが、今時間は?」

 

 

「午後4時半といった所だ。まぁ少し外に出てもらえるか?病み上がりの所に申し訳ないが」

 

 

「分かりました」

 

 

 

 休んだおかげでゲムデウスウィルスの弊害も無く、高山は檀黎斗に案内されるがまま館の調理場の方に転移される。調理代の上にはジュースの材料があったので作れということを理解すると、高山は檀黎斗に一礼して開始する。

 

 

 そこまで時間も掛からず作り終えて、高山は庭の方で寛いでいると思われる檀黎斗の方まで運んでいく。しかし到着したところで視界に入った1名に対して両者驚いた。

 

 

 

「明日那さん……何故ここに…………?」

 

 

「アキラ……!何でここに!?」

 

 

「ッ!……まさか、あのゲームに!」

『止まれ宿主!』

 

 

 

 八乙女紗衣子の方に怒りと歩みを向けていた高山であったが、中のゲムデウスから制止がかかる。ぐっと堪えたが、まだ八乙女紗衣子に対する怒りはあった。

 

 

 

「何そんなにピリピリしてるのよ、高山先生?」

 

 

「……なぜ彼女まで捕らえているのですか?返答次第では……!」

 

 

 

 ゲーマドライバーを取り出そうとバッグのファスナーを引っ張って開けるが檀黎斗がこちらを見ている。その視線に気付いた高山は不服ながらもファスナーを閉じて、檀黎斗の方を見る。

 

 

 

「案ずるな。別に彼女の命までを取る気は無い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは()()()()()だからかしら?檀黎斗」

「ッ!?」

 

 

 

 高山はポッピーの方に振り向き、目を見開いた。確かにバグスターは宿主を媒体とし、宿主が消滅すると同時に完全体となる。だが、ポッピーの元宿主が檀黎斗の母親であることは聞いていないし知らなかった。今の今まで。

 

 

 高山は檀黎斗の方を再度見やると、早目にジュースを飲み干して檀黎斗は椅子に掛けていた上着を取って高山の方を見ていた。高山は檀黎斗に近付くと、それに合わせて洋館の方に歩いていく。

 

 

 洋館内に入るとその場で止まり、背を向けながら話し始めた。

 

 

 

「さて、檀正宗に色々と聞きたい事があるのでな。君達の事にも」

 

 

「僕ら…………ってことは、ゲムデウスのことですか?」

 

 

「その通りだ。今のところ、ゲムデウスのコピーを仕込んだ可能性の高い奴だ」

 

 

『……紛い物、というわけか』

 

 

「…………すいません、黎斗さん。少しだけ時間をくれませんか?」

 

 

「……早くしろ」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

 

 そう答えると、高山はゲムデウスに向かって思考し話す。何事なのかと思ったゲムデウスであったが、そこまで驚く様子は見せない。疑問には思っているが。

 

 

 

『何だ宿主、こんな時に』

 

 

「(ゲムデウス、さっきお前なんて言った?)」

 

 

『お前に対する質疑』

「(その前)」

 

 

 

 

 

()()()か?』

 

 

「(そ。それ。ゲムデウスはさっき、自分を偽物だって言ったよね?)」

 

 

『事実ではないか?(オリジナル)の私は消滅し、今の私は模造品であろう?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(逆に聞くけど、()()()()のゲムデウスは天然じゃないでしょ。性格的にさ)」

 

 

『……と、いうと?』

 

 

「(確かにお前はコピーされた存在だ。でもいままで培った“思い出”は()()ゲムデウスにしか無いわけだ。だったら今のお前も、特別な存在(オリジナル)なんじゃないかな?)」

 

 

『………………』

 

 

 

 ある意味的を射た事であった。高山は1人1人が特別であると信じている。誰であろうと、どんな境遇だろうと。今のゲムデウスもラスボスの風格は影も見えず、今や2年弱もの間を人と共に暮らしてきた。

 

 

 ラスボスのゲムデウスと今のゲムデウスは根本的に同じかもしれないが、育ちが違った。高山の体内に居るゲムデウスは、()()()()()為に人を救っている『仮面ライダー』の1人なのだから。

 

 

 

「(だからさ、紛い物なんて言わないでよ。お前はお前なんだからさ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

『何故、お前には勝てるビジョンが浮かばんのだろうか?』

 

 

「(そりゃ光栄なことで)」

 

 

 

 それで話が終わる。檀黎斗の方に視線を向けると待っていた黎斗は早くしろと謂わんばかりに高山の方を見ていた。ゲーマドライバーを取り出し装着させてステージセレクトの能力でネクストゲノム研究所まで転移する

 

 

 檀黎斗先に檀正宗が閉じ込められているコンクリート部屋に歩みを進めていく。高山もそれに続き部屋の中へと入っていく。

 

 

 そして暫く待つと、檀正宗が目覚めた。しかしレベル0の力によって身動きなどが取れない。目覚めたばかりの檀正宗はコンクリート部屋を見渡し、そして檀黎斗と高山を視界に入れる。

 

 

 

「ッ……!?なぜ私が…………生きている?」

 

 

「私が復元したのさぁ。ライダークロニクルに保存されていた貴方をねぇ」

 

 

「!……まさか、マスターガシャットを複製するとは…………」

 

 

「私の神の才能に、不可能はない」

 

 

「狙いは……私の体内に居た、パラドという訳か……」

 

 

()()()()と思ったか?彼を見ても」

 

 

「彼…………どういう事だ?確かに見慣れない者だが」

 

 

 

 

 

 

 

「“ゲムデウスの複製データ”、といえば分かるか?」

 

 

「!…………まさか、この男が……」

 

 

「彼は貴方が残したコピーデータの流出により、ゲムデウスと適合した存在。そこで問おう

 

 

 

 なぜゲムデウスのコピーデータが()()()流出した?吐け」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふっ…………」

 

 

「?何がおかしい」

 

 

「いや……なに、黎斗も()()()()()()考えられなかった。という事実に対する反応だ」

 

 

「なに……?」

 

 

「して、君の名は……何というのか?」

 

 

「高山明です」

 

 

「高山……明…………そうか、覚えたぞ」

 

 

「……話を聞け檀正宗ぇ!貴様は私の才能の結晶であるゲムデウスをぉ!私に許可無く勝手に利用した事に対する懺悔をしろぉ!」

 

 

「ゲムデウスというデータを作り出したのは黎斗、お前だ。管理をしていれば、その様な事も無かった筈だがねぇ……だが懺悔をするならば

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()を懺悔したいな」

 

 

 

 檀正宗のその一言で、檀黎斗と高山明の表情と心情が目に見えるほど変わった。続けざまに檀正宗は、こうも言った。

 

 

 

 

「お前は、この世界に産まれるべきじゃ無かった」

 

 

「ッ!」

 

 

 

 檀黎斗は少し躊躇い、2人に背を見せて消えていった。

 

 

 

「黎斗さん!」

 

 

 

 高山は叫んだが時既に遅し。すぐに高山は檀正宗の方に向き合い、檀正宗の首を左腕で押さえ付けて睨みを利かす。

 

 

 

「どういうつもりだ……アンタ!」

 

 

「どう…………とは?」

 

 

「なぜアンタは……アンタという父親は!なぜ子どもが産まれた事に後悔する!?応えろ!」

 

 

「……黎斗は、命の概念を誤解している。黎斗が作り出したガシャットで、どれだけの消滅者が居るのか君は知っているか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「知らない……知らないさ。けど!命を弄ぶゲームを、アンタは自分の思うがままにした!プレイヤーを集め!ウィルスに感染させ!命を奪う行為を、アンタは平気でやった!

 

 

 確かに黎斗さんの行為も、アンタのやった行為と比べてもなんの大差も無いと思う!けど今の黎斗さんは、変わっている!消滅者に対する念もある!贖罪をしようと、黎斗さんはやってきた!償おうとしてきた!僕はそれを知っている!」

 

 

「だが全ては、黎斗の招いた結果だ。黎斗の行為が、全てを引き起こした。そして、今の黎斗に償いの考えなど無い」

 

 

『……宿主、コイツは正直お前でも難しい。一旦檀黎斗を追え』

 

 

 

 ゲムデウスが助言を出し、高山は不服そうながらも檀正宗の首を押さえ付けていた左腕を自信が距離を取りながら離す。苛立ちの中、ゲーマドライバーを装着し檀黎斗が行くであろう場所に行く。

 

 

 

【STAGE SELECT】

 

 

 

 そして到着した先は洋館の庭。そこにパラドやポッピーに加えて八乙女紗衣子が居た。そして案の定、檀黎斗もそこに居た。

 

 

 

「明……!」

「アキラさん……!」

 

 

「君も来たのか、高山くぅん」

 

 

「黎斗さん……あの…………」

 

 

「今まで協力して感謝したよ。だがそれも今終わった。

 

 

 見せてあげよう……私の神の才能を…………!」

 

 

 

 そう言って檀黎斗はウィルス状態となり、何処かへと姿を消してしまった。その時、高山は腕を伸ばしたが届かなかった。届きもしなかった。

 

 

 

「明……」

 

 

 

 ふとパラドが高山の方に声をかける。それに反応した高山は何用かと尋ねた。

 

 

 

「パラドさん……なんですか?」

 

 

「明、何で今まで檀黎斗と居たのか話してくれないか?」

 

 

「私からもお願い、アキラさん」

 

 

「…………分かりました、僕が話せる事は話します。でも、1つだけ約束して欲しいことが」

 

 

「……それは?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「お願いします……黎斗さんを…………

 

 

 

 

 黎斗さんを助ける力を、貸してください……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回『Dr.ゲムデウス』は!


 始まった死のゲーム【ゾンビクロニクル】!

「さぁ、極限の命のやり取りを……楽しむと良い」


 檀黎斗に挑戦する2人のプレイヤー!

「お前を止める」「貴方を救う」


 これが、彼の答えだ。

「マキシマム大変身!」


 次回【God Dream】





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God Dream

 あれから2日後。高山は()()()()処遇を衛生省から通告されていた。ただこれでも随分マシな方であり基本的に自由、買い物等の外出も了承されている。但しライダーとしての活動は停止期限を設けられた。

 

 

 その停止期限も1日だけであったので、そもそも問題は無いのだが。その代わり檀黎斗が何を企んでいたかについて、高山とゲムデウスが知っている事を全て話す為に質疑応答があった。だが具体的な詳細すら分かっていないのは事実、そこに檀正宗の復活やパラドとポッピーからの情報ではパラドと似たバグスターを取り込んだとまでしか分かっていない。

 

 

 そのパラドに似たバグスターの正体は、檀正宗に存在していたバグスター。そして天才ゲーマーMの能力と天才クリエイターの能力が組み合わさった存在になったとだけ。

 

 

 そんな中、高山とゲムデウスはバイクを走らせて()()()()()()()()()場所に向かっている最中だ。しかしゲムデウスが感知した反応は、これまでに確認されていないウィルス反応であった為か今日は休みである藍原には外出を極力控えておく様に伝えた。

 

 

 

『宿主、反応が近い。…………むっ?』

 

 

「どうしたゲムデウス!何か反応でもあったか!」

 

 

『これは……ッ!宿主、恐らく相手するのは単なるバグスターではない!』

 

 

「!どういう事だ!?」

 

 

 

 目的地に向けてバイクを走らせている高山であったが、突然の報告により何が起きているのかは察せない。だがゲムデウスがこう言っている以上、警戒せねばならないのは確かである。

 

 

 続けてゲムデウスは、今反応しているウィルスの概要を分かる範囲内で伝えていく。

 

 

 

『確かにウィルスの反応は多く、そして私に反応した。だが当初分かったのは()()()()、しかし近付いてハッキリと分かった事がある!』

 

 

「さっさと伝えろ!もう着くぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()!その集合体だ!』

 

 

 

 高山はブレーキを掛けてバイクを横に滑らせながら停める。ヘルメットを脱ぐと、そこには異様な光景が広がっていた。

 

 

 過去に見た【デンジャラスゾンビ】と呼ばれる檀黎斗が変身する形態のゲンムが、そこには多く居た。しかし数が異常過ぎる故に、この光景を1つの“パンデミック”としてしか見れなくなっていた。

 

 

 そしてゲムデウスの言った、“人のデータが存在するウィルス”。これが何を意味するのかは、高山が疑問を持った瞬間理解する事となった。

 

 

 

「これは…………一体……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそ、私の創造した【()()()()()()】に」

 

 

「!?」

 

 

 

 高山が後ろを振り向くと、檀黎斗が誰も居ない歩道に立っているではないか。しかし高山が生んだ感情は警戒ではなく“安堵”の方であった。

 

 

 

「黎斗さん……良かった、一体どこに」

「やはり、ゲムデウスを持つ君が()()()()()する結果になってしまったな」

 

 

「あの……黎斗さん?」

 

 

「……君にはこれからゲームをしてもらう。私はそのナビゲートを務めよう」

 

 

「ゲームって…………」

 

 

 

 未だに分からない。否、分かりたくなかった。一昨日言っていた“あの一言”が脳裏を過ぎるまでは。それが分かった瞬間、高山とゲムデウスも理解してしまった。

 

 

 今、この瞬間に。()()()()()()()()()()ことを。

 

 

 

「このゲームの名は【ゾンビクロニクル】、不死身のゾンビと戦うサバイバルホラーゲームだ。プレイヤーは各々武器を手に取り、ゾンビと戦って生き残る……これがゾンビクロニクルの内容だ」

 

 

 

 瞬間、ゲムデウスが高山の意識を強制交代させて檀黎斗に質問していく。

 

 

 

「矛盾していないか?どうやって不死身のゾンビを倒せと?しかもバグスターであるゾンビに対してだ。我々の様なライダーやバグスターならまだしも、通常の人間がクリア出来るゲームでは無いだろう」

 

 

 

 しかしゲムデウスの疑問に、檀黎斗は首を横に振り否定した。

 

 

 

「不死身と不死は違う。不死は永遠に死ぬことは無いが、不死身は()()()()()()。急所を狙えば確実に死ぬからな。つまり人の手で()()()()()()()()()のさ」

 

 

 眉をひそめるゲムデウス。そんなゲムデウスにはお構い無しに、檀黎斗は続け様に言った。

 

 

 

「尚このゾンビを倒したあかつきには、ある特典を与えよう」

 

 

「特典?」

 

 

「今まで消滅した人間の“復活”さぁ」

 

 

「……成程。あのバグスターに人間のデータが異様に含まれていたのは、それ故か。ならば話は」

「んだがぁ……君達には制限を掛けさせてもらう」

 

 

「……なんだと?」

 

 

「君達のガシャットは、このゲームにおける()()()に相応しい。そうあってしまえばゲームが成り立たなくなるからな」

 

 

 

 そう言って檀黎斗は指を鳴らす。するとその横に数字が映し出された画面が現れた。これを見たゲムデウスも一瞬なんなのかは理解できなかったが、檀黎斗の説明が入る。

 

 

 

「これは……」

 

 

「1つのガシャットで変身できる制限時間さ。そしてこの制限時間を過ぎると強制的に変身は解除され、そのガシャットでは2()()()()()()()()()

 

 

「なっ……!」

『黎斗さん……何でこんな…………!』

 

 

「さぁ、消滅者の命を救うのが先か。はたまた人類が滅びるのが先か。……そのゲームを始めようじゃないかぁい!」

 

 

 

 両腕を高らかに挙げてその場から消えていく檀黎斗。すぐに追いかけるが間に合わず、その場で舌打ちするゲムデウスであったが直ぐにゲーマドライバーとドクターマイティXXを取り出して準備を行う。

 

 

 

「宿主、このゲームに参加してしまうが先に消滅者を救うぞ」

 

 

『……分かった。制限時間には気をつけるよ』

 

 

「承知しておる!」

 

 

 

 ゲムデウスはドクターマイティXXを起動させる。その背後にゲーム画面が出現すると、辺りにカプセル錠が散らばっていく。

 

 

 それに気付いた一部のゾンビがゲムデウスの方に向かって行くが、その足取りは遅い。しかし油断せず、ゲムデウスはゲーマドライバーを腰に装着するとガシャットを差し込む。

 

 

 

【ドクターマイティXX!】

 

 

【ダブルガシャット!】

 

 

 

 両腕を前で交差させXの形を作ると、レバーを開き変身する。

 

 

 

「Mark X-2!変身ッ!」

 

 

【ガッチャーン!レベルアーップ!】

 

 

【ドクターマイティ!2人で作る!ドクターマイティ!2人でメイキーング!X!】

 

 

 

 高山とゲムデウスはお互いXLとXRに分離し、お互いの右腕と左腕を交差させるポーズを取って開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「「これより、製薬実験を開始する!」」

 

 

 

 高山とゲムデウスは両者走り出す。それと同時に高山とゲムデウスの視界の端に“10分”の制限時間がカウントダウンされた。

 

 

 それぞれ分かれると高山は前方宙返りから踵落としを決めて相手を沈める。ゲムデウスもお得意の連打から上から下へと肘打ちを与えて沈めていく。

 

 

 

「「ッ!」」

 

 

 

 しかしそれでも立ち上がる。不死身な故に痛みが存在しない事を考慮すると、これほど厄介な相手は居ない。しかもそれが高山とゲムデウスの周囲に計6体。すぐに距離を取って離れて背中合わせとなる。

 

 

 

「ゲムデウス、不味いよこれ……」

 

 

「効いてないな……これではジリ貧か?」

 

 

「しかも制限時間が…………何かあ……った」

 

 

「むっ?」

 

 

「ゲムデウス、一気に必殺技できる?」

 

 

「ふむ……!そういう訳か。やるぞ」

 

 

「オッケー!」

 

 

 

 高山とゲムデウスは再度レバーの開閉を行い、必殺技を発動させていく。

 

 

 

【【ガッチョーン キメワザ】】

【【ガッチャーン!】】

 

 

【【DoCTER MIGHTY!CRITICAL STRIKE!】】

 

 

 

「「ハァッ!」」

 

 

 

 高山とゲムデウスは先ず2体のゾンビに向かって跳躍し、左ストレートと右ストレートを与えると後方宙返りをする。そのあと空を蹴り、その隣に居たゾンビ2体にそれぞれキックを与える。

 

 

 最後に後方宙返りし、空を蹴ったあと残り2体のゾンビにそれぞれ踵落としを決めると呻き声をあげながら6体のゾンビは消えていった。

 

 

 しかし他のゾンビは何処かへと行ってしまった為、高山とゲムデウスはガシャットを引き抜きレバーを閉じる。

 

 

 

【【ガッシューン ガッチョーン】】

 

 

 

 漸く表に出れた高山は辺りを見渡す。すると制限時間のある画面の数字が9:28で変化を止めていた。

 

 

 

『どうやら、あくまでも変身できる時間が限られているだけで制限時間内で変身解除をすれば時間も止まるのか』

 

 

「……それより、消滅者の方は」

 

 

『少し待て…………ふむ、ここから大分離れてはいるが大丈夫そうだ。だが今はあのバグスターを追わねば』

 

 

「だったら衛生省に。事情を話せば対応してくれる筈」

 

 

 

 ゲムデウスの元、地図アプリである程度の位置を把握するとすぐさま衛生省に電話。粗方の事情を伝えると、消滅者が復活したとされる場所を伝えると直ぐに対応された。

 

 

 高山とゲムデウスは、引き続き檀黎斗のゲームに参加することを決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────Loading……──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高山はバイクを走らせる。ゲムデウスが反応している地点まで行くのだが、そのゲムデウスは今まで以上に困惑している。その謎の理由は恐らく……否、確実にゾンビクロニクルによるものだろう。

 

 

 

『宿主、非常に不味い事が起きている』

 

 

「……見えた。恐らく、あの雑魚ゾンビみたいなのは」

 

 

『ご明察、()()だ。恐らくゾンビゲーマーのゲンムのものだろう』

 

 

 

 そんな会話の中、高山の電話が振動する。人が逃げていく中、高山はバイクを急停止させて電話に出る。

 

 

 

「はい高山です」

 

 

〔高山君、もうニュースは聞いてるだろうが〕

 

 

「……その事でしたら、今現場に。でも、ゲムデウスが感知するにしても数が多すぎて」

 

 

〔そうか、分かった。それと君が提示した場所に、“仮面ライダークロニクル”の消滅者が発見された。恐らく檀黎斗のゲームの“特典”とやらだろう〕

 

 

「そうですか……!良かった……」

 

 

『安心するな馬鹿者。まだゾンビが蔓延っているではないか、素早く終わらせるぞ』

 

 

「すみません、電話切ります!」

 

 

〔気をつけたまえ!〕

 

 

 

 着信を切ると高山はバイクから降りてヘルメットを脱ぎハンドルに掛けると、再度ドクターマイティXXとゲーマドライバーを構えて走り出す。

 

 

 装着し、ドクターマイティXXを用いて変身をする。

 

 

 

「Mark X-2 変身ッ!」

 

 

 

【レベルアーップ!】

【2人でメイキーング!X!】

 

 

 

 それぞれXLとXRに成りながら深緑色のゾンビ達に飛び付く。視界の端に制限時間が見えるが、そんな事を気にしている余裕は無い。1体ずつ抑えて様子を確認する高山とゲムデウスだが、状況が良くなったとは言い難い。

 

 

 心の中で舌打ちをする両者だが、突如抑えていた2体のバグスターが苦しみ始める。次第に顔が人間の物に戻っていく様を見て、高山とゲムデウスは確信を持つ。

 

 

 

「そうか、これが黎斗さんの言ってた……!」

 

 

「この雑魚ゾンビ共のッ、駆除も可能だからか。恐らくドクターマイティとメディスン・トリートメントなら人間に戻せる筈だ」

 

 

「だったらワクチン散布!」

「それしかなかろうて!」

 

 

 

 元に戻った2人を担いで高山とゲムデウスは背中合わせとなり、2人を降ろすと両手をゾンビに向けゲムデウスワクチンを放出させていく。すると周りに居るゾンビが連鎖的に苦しみ始め、最終的に元に戻った。

 

 

 ゾンビウィルスに今のところ対抗出来る唯一の力、ドクターマイティXX。元に戻った人々は自分の自我を取り戻せた事に歓喜していたが、喜んでいる暇は無いと高山が両手を叩いて注目を集める。

 

 

 

「皆さん、喜ぶのは後に!今すぐ都市部から離れるか、ご自宅に待機して下さい!」

 

 

「またゾンビウィルスに感染しても良いのか!?早く逃げろ!」

 

 

 

 声掛けによって蜘蛛の子を散らす様にして、この場で最善な行動を取った。高山とゲムデウスも再度ガシャットを抜き取り変身を解除すると、今度はゲムデウスが反応をキャッチする。

 

 

 

【【ガッシューン】】

 

 

 

『ッ!宿主よ、檀黎斗のウィルス反応が!』

 

 

「!それどこ!?」

 

 

『案内するから早く乗れ!』

 

 

 

 急いでバイクまで走り、ヘルメットを被ってエンジンを蒸かす。一気に爆走状態となったバイクだが、今は法律云々を提示されたとしても守れるかどうかは怪しい。

 

 

 さらに残り時間が8:46となっている。この制限時間で消滅者を全員救えるかと言えば無理難題だが、先に檀黎斗の元に向かい説得を試みようとしている。その途中、ゲムデウスがまたも反応をキャッチする。

 

 

 

『宿主、今度は九条貴利矢の反応だ』

 

 

「何処?」

 

 

『もうすぐ合流する。ほれ右を見てみろ』

 

 

 

 合流地点で高山と貴利矢が合流した。お互い目線を合わせて頷いた後、高山が先行してバイクを走らせていく。そして建造物に到着するとバイクを停めてヘルメットを脱ぐ。

 

 

 両者顔合わせ。高山は貴利矢に礼をしたあと上を指さして場所を示すと、向かいながら話す。

 

 

 

「明、今までどうしてた」

 

 

「……1番最初のプレイヤーとして、ゾンビクロニクルの説明は1通り。そこでゾンビに変えられた人達の治療を」

 

 

「流石ドクターマイティ、お手の物ってか。だけど何で」

 

 

「……あの人を、救いたいから」

 

 

 

 突如貴利矢は歩みを止める。階段の中腹辺りに居る貴利矢を見下ろす形で高山が振り向く。

 

 

 

「あの、貴利矢さん?」

 

 

 

 

 

 

「まだ、んなこと言ってんのかよ」

 

 

 

 サングラス越しに見つめてくる貴利矢の視線が高山に突き刺さる。それは何処か恨みが混じった様な、()()()()()()()()()()であった。普段の貴利矢からは感じ取れない感情でもあった。

 

 

 

「お前はまだ、あの犯罪者を庇うつもりか?」

 

 

「……例え犯罪者だとしても、僕にとっては生きる道をくれた恩人です。認識を変えるつもりはありません」

「だけど、それさえも嘘だったら?」

 

 

 

 

 

「あの時の、あの目と、あの声は……本物でしたよ」

 

 

 

 先に高山は広場の方に向かう。話している途中に人が降りてくるが、それらを避けて上に向かう。貴利矢も少し溜息をついて高山の後を追いかける。

 

 

 貴利矢は高山の隣に立ち、高山が見据えている場所に目線を向けて立つ。2人は先にゲーマドライバーを装着しておき、高山だけガシャットを用意して身構える。

 

 

 やがて人混みが消えていくと、その視界には檀黎斗が現れた。その檀黎斗は2人を見るとにこやかに微笑んだ。

 

 

 

「九条貴利矢と……高山君か……」

 

 

「脱獄犯が白昼堂々とお散歩とは……随分ノリノリだな」

 

 

「当然さぁ。私の神の才能が具現化されたのだからなぁ……」

 

 

 

 そう言って檀黎斗は1つのガシャットを見せてきた。紫が目立つギアデュアルとも違う大型のガシャットを見て、貴利矢が面倒くさそうな表情を浮かべながらサングラスを取る。

 

 

 

「また妙なモン作ってくれちゃって」

 

 

「このガシャットがあれば私のアイディア1つで、()()()()()()でも作り出せる。ゾンビクロニクルもその1つさ」

 

 

「へぇ〜……って事は

 

 

 

 

 

 そのガシャットをぶっ壊せば、ゾンビゲームも強制終了って訳か」

 

 

 

 貴利矢と檀黎斗との間にただならぬ意思を感じる。

 

 

 

「君達2人が私に挑む勇気に免じて、神の恵みを与えよう」

 

 

 

 檀黎斗は何処からか2つの黒いプロトガシャットを見せつけた後、貴利矢に向けて乱雑に放り投げた。次に檀黎斗が指を鳴らすと、高山の隣に制限時間が映し出された画面が出現し10:00に戻った。

 

 

 

「腹立つなぁ、その余裕」

 

 

 

 その2つを拾う貴利矢。その様子に少しだけ微笑んだ檀黎斗。既に勝負をしなければならない事を悟った高山。

 

 

 

「んじゃ、お言葉に甘えて」

 

 

 

【爆走バイク!】

【シャカリキスポーツ!】

 

 

【ドクターマイティXX!】

 

 

 

 

 

 

 

「爆速、変身」

 

 

「Mark XX 変身ッ!」

 

 

 

 両者は共にガシャットを差し込み、貴利矢はその場で画面を蹴って変身し、高山は一気にレベルXに変身した後にレバーを開きレベルXXとなる。

 

 

 

【爆走バイク!】

【アガッチャ!シャカ!シャカ!コギ!コギ!シャカリキスポーツ!】

 

 

【何度も何度も倒して!(Hey!)XX!】

 

 

 

 貴利矢はレーザーターボスポーツゲーマーに、高山はレベルXXにガシャコン・シールドを装備した状態で変身を完了する。

 

 

 一方の檀黎斗は、手に持っているガシャットを見せつける。

 

 

 

「思い知るが良い……最高神の力を」

 

 

 

 そのガシャットを起動させる。

 

 

 

【ゴッドマキシマムマイティX!】

 

 

 

「グレードビリオン…………変身ッ」

 

 

 

【マキシマムガッシャット!】

 

 

【ガッチャーン!フーメーツ!】

 

 

【最上級の神の才能!クロトダーン!】

 

 

 

 

 背後の画面から現れたのはエグゼイドのマキシマムマイティと同じような装甲。セレクト画面を通り抜けてゲンムになった黎斗がガシャットのボタンを押すと、その装甲に包まれて人型を取る。

 

 

 

【ゴッドマキシマーム!X!】

 

 

 

「ビリオン……?」

 

 

「私のレベルは……10億だ!」

 

 

「ヘッ、何が10億だ。数字なんてお前の匙加減1つじゃねぇか!」

 

 

 

 先に貴利矢が向かう。高山はガシャコン・シールドをアックスモードに変形して同じように走り出す。

 

 

 

【ド・ガーン!】

 

 

 

 貴利矢が初手に蹴りを放つも逆にカウンターを食らって数歩下がってしまう。しかし後からやって来た高山の攻撃が与えられる。それでも檀黎斗にはダメージ1つ与えた感触は無い。重い一撃が高山を襲い、かなり吹き飛ばされてしまう。

 

 

 

「ぐがっ!」

 

 

「チィ!明!」

 

 

「ハッハッ……平気ですよ!ゲムデウス!」

『承知した!』

 

 

 

 貴利矢が相手している合間に高山とゲムデウスは人格を交代し、ゲムデウスの持つ“他のバグスターの能力”を使用する。

 

 

 

「ガットン!ソルティ!グラファイト!モータス!」

 

 

 

 ゲムデウスに4つの幻影が纏われると、次に貴利矢はトリックフライホイールを1つ投げて高速で広場を周回し始める。ゲムデウスもモータスの能力を借りて速度を上昇させて檀黎斗に振るう。

 

 

 

「おぉいしょぉ!」

「むぅんッ!」

 

 

 高速のヒット&アウェイを行う貴利矢、隙を見てガットンとソルティで強化された炎を纏った重い一撃を放つ高山。戦況的には追い詰められているのは檀黎斗の方であった。

 

 

 それも直ぐに覆されてしまうが。

 

 

 

「コズミッククロニクル、起動!」

 

 

「!チィ!」

 

 

 

 檀黎斗が空に手を掲げた。ゲムデウスも悪寒を感じ取り直ぐにシールド状態にさせてBボタンを10回連続で押して自らの半径5mにバリアを作る。

 

 

 

【ガ・キーン!】

【1!2!3!4!5!6!7!8!9!10!】

 

 

 

「入れ貴利矢!」

「遅いッ!」

 

 

 

 まるで虫眼鏡で収束された様な太陽の光が走行中の貴利矢に当たる。再度立ち上がり立て直そうとしても追撃が来る。時にはゲムデウスを取り囲むバリアにも当たり、ダメージが僅かながらに受けてしまう。

 

 

 

「チィ……!ダメージがッ……!」

 

 

「コズミッククロニクルは、宇宙崩壊の危機を地球から救うゲーム」

 

 

「太陽使うとか……無茶苦茶かよ」

 

 

 

 あの太陽光線が終わると、貴利矢は体勢を立て直して別のガシャットを使用する。

 

 

 

【ジェットコンバット!】

【ガッシャット!】

【ガッチョーン ガッチャーン!レベルアーップ!】

 

【爆走バイク!】

【アガッチャ!フライハイ!スカイ!ジェットコ〜ンバッ〜ト!】

 

 

 

 貴利矢は空中戦に移行する。それに合わせて檀黎斗も跳躍によって対応していく。しかしゲムデウスは参加しようとする意思は無かったのだが、本人の()()が出た。

 

 

 

『ゲムデウス!体の事は良いから頼む!』

 

 

「……どうなっても知らんぞ!パーフェクトパズル!」

 

 

 

 ゲムデウスが5つ目の能力を使う。4つの能力を使用している事で高山の体には相当な負担が掛かっていた為にゲムデウスは能力使用を躊躇したが、高山からの要望で発動させた。

 

 

 パーフェクトパズルの能力でエナジーアイテムの1つを使用した。

 

 

 

【飛翔!】

 

 

 

「ハッ!」

 

 

 

【ド・ガーン!】

 

 

 

 飛翔のエナジーアイテムによって貴利矢と同じ様に空中戦を行うゲムデウス。貴利矢が両サイドのガトリングコンバットで撃ち、高山が檀黎斗に近づいてアックスモードの近接攻撃。時に炎の刃を撃ち出し追い詰めていく。

 

 

 檀黎斗が着地する。しかし余裕の表情だけは消えてなかった。

 

 

 

「私は、宇宙にコミットした」

 

 

「ッ!くそっ!」

 

 

 

【ガ・キーン!】

 

 

 

 直ぐにシールドに変形させた後、飛翔している貴利矢に向かいながらBボタンの連打。その後半径5mにまたバリアを作る。

 

 

 空からは隕石という予想外なものが降ってきたが。

 

 

 

「ガッ!グッ!ま、不味い!」

 

 

「あぁったく!」

 

 

 

 バリアにヒビが入った所で貴利矢はゲムデウスを庇うように覆いかぶさり、バリアが破られた事で隕石の攻撃が両者に当たり墜落していく。

 

 

 

「がふっ!あ……がっ……」

 

 

「う゛っ……ぐっ…………!」

 

 

 

【【【ガッシューン】】】

 

 

 

 墜落したと同時に2人の変身が解除され、貴利矢は仰向けになり、高山は俯せの状態のままであった。

 

 

 

「これが……神の力だ」

 

 

 

 そう言って立ち去ろうとする檀黎斗に高山は止めようと必死に声を絞り出そうとするが、それより前に貴利矢が口を開いた。

 

 

 

 

 

 

「ずっとCRに居て」

 

 

 

 檀黎斗の足取りが止まる。

 

 

 

「永夢とかポッピーとか過ごして……1ミリ位感じなかったのかよ。命の大切さとか…………被害者の無念を」

 

 

「だからこそ、消滅者の命を救うチャンスを与えているんだろう。ハッピーエンドかバッドエンドを決めるのは、君達次第……それがゲームというものだ!」

 

 

 

 突然、貴利矢が笑い始めた。徐々に立ち上がろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「何がゲームだ…………

 

 

 消滅した人の命はデータ保存されるかもしれねぇけど

 

 

 淳吾だけは違う……!

 

 

 幾らお前の神の才能でも…………

 

 

 アイツの命は……アイツの命は取り戻せねぇんだよ!」

 

 

 

 

 貴利矢は嘗て真実を伝えたが為に失った友の記憶が呼び覚まされていた。もう戻れない命は、誰にもどうする事も出来ない。

 

 

 

【STAGE SELECT】

 

 

 

「むぅ……?」

 

 

「あっ……?」

 

 

「ッ……?」

 

 

 

 突然景色が変わった。浮かぶ月が輝いていることから、夜なのは間違いない。だがここはゲームエリアだ。

 

 

 そして、檀黎斗の後ろから足跡が聞こえた。それに全員注目した。

 

 

 そこには、伝説の戦士『仮面ライダークロノス』が居た。巨大な時計版を背にして。

 

 

 

 

 

 

 

 

黎斗ォ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────Loading……──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗い夜の闇の中、伝説の戦士『仮面ライダークロノス』となった檀正宗が檀黎斗の前に立ち向かう。彼の父親として、止めるべき脅威として。

 

 

 

「その声は……檀正宗…………」

 

 

「ほぉ……危機を脱したか。ならば貴方も、ゾンビクロニクルに参加するがいい。貴方が愛した女性『檀櫻子』を取り戻す為に」

 

 

「何……?」

 

 

 

 正宗の記憶から、赤いドレスを着た1人の女性が思い浮かばれる。檀正宗にとって、掛け替えのない大切な()の思い出が。

 

 

 

(ぬぅ)………………」

 

 

「最早人間の命も有限ではない。私の存在が、この世界そのものをゲームに()()()

 

 

 全ての命が!コンテニューできる世界となった!

 

 

 私の存在こそが、真のルールだ!」

 

 

 

 檀黎斗は嗤う。その仮面の下で歓喜に呑まれる。しかし高山の意識はゲムデウスに強制交代され、ゲムデウスは辛うじて使えるソルティの能力を使って立ち上がろうとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ハッ」

 

 

「……何がおかしい?ゲムデウス」

 

 

「おかしいも何も…………滑稽としか……言いようが……ない……だけだ。檀黎斗よ……」

 

 

 

 今のでゲムデウスの意見も、貴利矢側に()()()。残された高山は未だに、檀黎斗を救いたいと思っている程の大馬鹿者であった。

 

 

 

「命がコンテニューできる?……巫山戯るな。

 

 

 命とは、限りがあるから輝くのだ。人間の生きる心地というのは、その命に限りがあるからこそ感じるのだ。

 

 

 だが、そんな永遠に続く命なんぞ何の価値も無い。

 

 

 永遠に続く命に、価値なんぞある訳が無いわ!」

 

 

「ゲムデウスの言う通りだ」

 

 

 

 そこに檀正宗が割り込む。というよりも、ゲムデウスの意見を尊重し檀黎斗に対する後悔と憤怒の混じった声色で、自身の意見を言い放つ。

 

 

 

「お前は狂っている。お前を産んだ私の手で、絶版にする!」

 

 

「何故だ……なぜ檀櫻子を救おうとしない?」

 

 

 

 

 

 

「彼女は、私の心の中で生きている!」

 

 

「…………ぁん?」

 

 

「彼女の命を弄ぶことだけは、この私が絶対に許さん!」

 

 

 

 嘗て他の命を仮面ライダークロニクルによって危機に追いやった檀正宗だが、彼にも彼なりの大切なものはある。それが自分の伴侶の存在であった。

 

 

 

「チッ……フッ!」

 

 

 

 檀黎斗は無駄たと感じ取り、コズミッククロニクルを使用して隕石を降らせる。4つの隕石が檀正宗に向かって放たれ、近場に隕石が衝突する。最後の隕石が落ちる前に、檀正宗はバグヴァイザーⅡのAボタンとBボタンを同時に押す。

 

 

 

【PAUSE】

 

 

 

 ゲームエリア内の時間が止まる。降ってくる筈の隕石も、人間の動きも止まる。しかし高山明の体だけは違っていた。ゲムデウスウィルスの効果は、既にグラファイトの存在もあって証明されている。

 

 

 

「これは…………止まってるのか……」

 

 

「やはり君の存在もあって、その体の持ち主も動けるのか……」

 

 

 

 仮面ライダークロノスの能力は()()()()()。【時間停止】【巻き戻し】という能力は時の神『クロノス』に由来する。しかし、時間停止に対応できるのがゲムデウスというラスボスの存在。

 

 

 ゲムデウスの正規攻略方がクロノス

 クロノスに対抗できるのがゲムデウス

 

 

 本来の仮面ライダークロニクルのラスボス戦では、この様な図が展開される筈だった。それも檀黎斗が作ったハイパームテキで崩されてしまったが。

 

 

 

「しかし……流石の黎斗もポーズには敵わなかったみたいだな」

 

 

 

 檀黎斗は動いていない。そもそも本来は動けない。ゲムデウスという存在を除けば、この時間はクロノスの独壇場である。

 

 

 だからこそ、この隙を狙って檀正宗は殴る。本来なら、当たる筈の攻撃を。

 

 

 

「ふっ!」

 

 

「なにッ!?」

 

 

 

 受け止めた。クロノスの攻撃を片手で。そして払い除ける。クロノスは地面を転がり檀黎斗を見る。

 

 

 

「何故だ……!?」

 

 

 

 クロノスが飛び膝蹴りを行うも容易く防ぐ。蹴り、拳と続いても防がれ、檀黎斗が一撃を入れる。それだけで地面が抉られ煙も上がるが、止まる。

 

 

 檀黎斗がその大型のボディの目からレーザーを放つが、檀正宗は跳んで回避し頭を蹴る。この時、初のダメージを与えたのはクロノスであった。

 

 

 しかしたった一撃だけしか入らなかった。その後は檀黎斗の裏拳によって地面に叩き付けられる。すると檀黎斗は檀正宗の首を掴み、拘束する。

 

 

 

「宇宙は……時の概念を歪める……」

 

 

 

 そして左拳に肥大化させたエネルギーを纏い、上空へと吹っ飛ばす。ゲムデウスの視線の先には、月があった。そして檀黎斗も宇宙に向かう。

 

 

 暫くすると、月が動いた。この突然起きた現象に驚かざるを得なかった。やがて大きな時計に向かって檀正宗が落ち、檀黎斗が地に足をつける。

 

 

 

【RESTART】

 

 

 

 そうして時が動き始めた。

 

 

 

「檀正宗ェ……貴方のライダーゲージは

 

 

0だ」

 

 

 

 

 ゲームエリアが解除され、現実の世界に戻る。檀黎斗も消えた後、檀正宗の変身が強制解除される。

 

 

 

【ガッシューン】

 

 

 

「マジかよ…………」

 

 

 

 貴利矢はクロノスの力をよく知っている。というよりドクターライダーならば誰もが知っている。時間経過による防御力上昇や、攻撃を当てる度に攻撃力が上昇されるなどスペックが強化される仕組みを持つクロノス。さらに100t以下の攻撃はダメージにすらならない装甲。

 

 

 それらを持ってしても、檀黎斗のゴッドマキシマムマイティには敵わなかった。

 

 

 

「爆走バイク……」

 

 

 

 檀正宗がゆっくりと起き上がる。既にライダーゲージが0になった事で、後の誰かに託そうとしたのだ。そして繋がりが長いのは、貴利矢であった。

 

 

 

「私と初めて会った時を……覚えているか……」

 

 

「…………あぁ」

 

 

「あの時、私は君に運命を託し……全てを話した」

 

 

「……でもそれはクロニクルの主導権を奪うために、自分を乗せる為の嘘だったんだろ」

 

 

「だが今は違う。私の言葉が嘘かどうか…………君なら、分かる筈だ」

 

 

 

 立ち上がった檀正宗は、最後の望みを貴利矢に託す。

 

 

 

 

 

 

「私の息子を止めてくれ

 

 

 アイツは………………産まれるべきじゃなかったんだ」

 

 

 

 そう言い終えた後、檀正宗の体が消えていく。残されたのは檀正宗が身に付けていたバグヴァイザーⅡだけであった。

 

 

 

【GAME OVER】

 

 

 

 貴利矢は残されたバグヴァイザーⅡを拾う。同時に、ゲムデウスの意識は闇に引き込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目覚めると知らない天井……という訳では無かった。目覚めた意識は高山のもので、何が起こったのか記憶を探っていた。そして気付いて、すぐに起き上がろうとする。

 

 

 

「ちょアキラ!」

「まだ動くな」

 

 

「ッウ……!あ、明日那さん…………パラドさんも……」

 

 

 

 側に居たパラドと明日那が高山を抑える。高山自身はこの2人に気付く様子も無かったのだが、少し時間を貰い冷静になれた。

 

 

 

「……ッ、そうだ。貴利矢さんの方は」

 

 

「今は永夢の所に居る。檀黎斗の言ってた新しいガシャットの事は聞いた」

 

 

「そうですか……でも、こうしちゃいられ」

『無理に動くなと言っとるだろうが馬鹿者』

 

 

「ゲムデウス……」

 

 

 

 今のゲムデウスと高山の間には意見の違いがある。ゲムデウスは大多数派の“檀黎斗を止める”思考を持ち、一方の高山は本当に極1握りの少数派の“檀黎斗を()()”思考を持っている。

 

 

 ある意味これが、2度目の対立とも言っていいのかもしれない。

 

 

 

『無理に動くな。お前が許可した上で上限を越えた能力使用をしたのだからな、私の意見は聞いてもらうぞ』

 

 

「今はそんな事……言ってる場合じゃ……!」

 

 

『正直に言うぞ宿主。私は九条貴利矢の意見を推奨する』

「ッ!?」

 

 

『聞いていただろう、あの言葉を。アイツの命の見方を。命の扱い方を。この世の法則を変える力を持ってしまったアイツを。

 

 

 私からすれば、檀黎斗は神ではない。1つの“害悪”だ』

 

 

「ッ……ゲムデウス、お前…………!」

 

 

『貴様はまだ擁護するつもりか?なぜそうする?

 

 

 貴様の言っている事は、その害悪を救う事と同じになるのだぞ?ましてや、害虫や害獣みたく複数によって被害が起こるものではない。

 

 

 アイツはただの1人だけで、この世界に異常を引き起こす存在になった。最早私は擁護する事も出来んし、貴様の意見にも賛同しかねる』

 

 

「でも……それでも、黎斗さんは…………僕の恩人だ……」

 

 

『その恩人がこの世に害をもたらそうとしてもか?恩人であれば、その“悪”を止めなければならないのではないのか!?我々が檀黎斗を“止める”事に、何の躊躇いがある!そうしなければ、世界そのものが檀黎斗の思うがままだ!

 

 

 それなのに貴様は、なぜその選択肢を取らない!?これで救われる存在が、どれ程のものか知らんのか!?』

 

 

 

 檀黎斗を“止める”ゲムデウスや貴利矢、永夢の意見は、この今の状況では正しい選択なのだろう。命そのものを冒涜し、命の有り方を間違えた人間に対して排他的になる思考が。

 

 

 檀黎斗を“救う”高山明の意見は、この今の状況では()()()()()()と誰しもが言うだろう。命の冒涜者だとしても救う、誰もが救われてほしいと願う慈愛の思考が。

 

 

 皮肉な事に、ゲムデウスは人間らしく、高山は人間らしくない考えを持っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでも……救いたいんだ。

 

 

 あの人は、確かに許されない事をした。

 

 

 でも、そんな事をしたのには、絶対に理由がある筈なんだ。誰しもが“悪”なんて心を持ってないことは、僕が1番知ってるから。

 

 

 僕は、黎斗さんを救いたい。

 あの人の心の支えになりたい。

 黎斗さんも、笑える様にさせたい。

 

 

 そんな事、思ってちゃダメか?ゲムデウス。

 誰かを救いたいって思ったらダメか?

 罪ある人を、許しちゃいけないのか?

 

 

 違う!止めるだけじゃ、ダメなんだ!

 誰かを救うことが、僕にとっては大事なんだ!

 大事なのは、許すことだ!そして理解者になる事だ!

 僕はそれを信じる!誰かを救う事に、黎斗さんを救う事に、僕は躊躇いはしない!

 

 

 これはゲムデウスであっても、誰であっても邪魔させない!あの人は、必ず救われなきゃ、意味が無いんだ!」

 

 

「アキラさん……」

「明……」

 

 

 

 こうもハッキリと自分の意見を言われると、少なからず影響される人物が居る。本当にそれで良いのかと、後悔のない選択をしないのかと。だからこそ、ゲムデウスも呆れる。こうまでしてハッキリと言われるのは、慣れていない様であった。

 

 

 

『……はぁ。堂々と言いおったなオイ、逆に清々しいわ。

 

 

 まぁどうせ、私は今の所能力使用も出来んしな。流石にバグスター反応は追えるが』

 

 

 

「………………(試したなコイツ)

 

 

『もう良い、さっさと行け。意識交代する気力が起きん』

 

 

「…………けど、ありがとう。ゲムデウス」

 

 

『はて、何のことやら?』

 

 

 

 高山の決意は、もう決まっていた。側に居た明日那から()()()を渡されると、高山は服に着替え、その上にCRから支給された白衣を着る。

 

 

 決意の為の力を、たった2つだけ持って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────Loading……──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 白衣を身に付け、ヘルメットを被りバイクを走らせる高山。目標にはまだ遠く、そして辿り着くには遅すぎる。普通に交通機能が活動し、高山の道を何かが邪魔しなければ早く到着する。今現在ではゾンビクロニクルによって出現したゾンビの大群によって、その交通機能は麻痺されている。

 

 

 残った問題は、そのゾンビなのだが……今のところ出会ってはおらず、順調である。ゲムデウスによる反応には、檀黎斗の他にもう2()()()のウィルス反応が存在している。よくよく調べてみれば、九条貴利矢の反応の近くにそのもう1つの反応はある。

 

 

 しかしこれに何か期待しているという訳でもない。逆に高山には不安しか起きていない。檀黎斗を救う身としては、今貴利矢に会っている状況は正直いって好ましくない。

 

 

 

「……ゲムデウス、やけに居ないな」

 

 

『確かにな……だが油断は禁物だ。ゾンビゲームでは大抵ゾンビの聴覚は優れている故に、先回りされる可能性も無くはない』

 

 

「……そうだろうね。それと…………俺達のフラグ回収も早く済んじゃったけど」

 

 

『…………不味いな、これは』

 

 

 

 高山とゲムデウスの進行方向に、ゾンビ化された人間が大勢居た。そして所々にゲンムゾンビが点在されている。まるで()の様に、高山とゲムデウスを阻んでいる。

 

 

 バイクから降りてヘルメットを外し、ゲーマドライバーを装着する。しかし持ってきているガシャットは1つしか無い。ならばどうするか?

 

 

 

「ゲムデウス、ガシャットデータをバグらせろ」

 

 

『ふむ……成程。賭けにはなるが、やってみる価値はある』

 

 

「んじゃま、先ずは……!」

 

 

 

 高山の体から1つのガシャットが出現する。それは唯一ゲムデウスウィルスを抑え込めるガシャット【ドクターマイティXX】のガシャットデータであった。しかしこのガシャットデータは、高山明の()()に存在しているデータの1つ。

 

 

 ガシャット本体の権限を持っている檀黎斗が、恐らく唯一()()()()データだ。しかしこのデータを使うことで、カウントダウンが開始される可能性も無くは無い。そこで高山は、ゲムデウスとの相談でガシャットデータにバグを引き起こし、制限時間を無しにしようと考えていた。

 

 

 

『いくぞ!』

「やれ!」

 

 

 

 高山の体から白い炎にも似たゲムデウスウィルスが、データガシャットを侵食していく。しかしこのゲムデウスウィルスの反応は、高山の体にも負担を掛ける諸刃の剣と同じ。故に高山の体力は削られる一方だ。

 

 

 

「ガッ……!あがっ!ガアッ!」

 

 

『そろそろ良いだろう!早く差し込め!』

 

 

「ッ!…………ァアッ!」

 

 

 

 ドクターマイティXXを起動させ、ゲーマドライバーに差し込みレバーを開く。

 

 

 

【ドクターマイティXX!】

 

 

【ダブルガシャット!】

【ガッチャーン!レベルアーップ!】

 

 

【ドクターマイティ!2人で作る!ドク■ーマイ■ィ!■人で■■キー■■!…………】

 

 

 

「ッ!くそっ!」

 

 

『予想はしていたが……やはり賭けになるか』

 

 

「……だったらゲムデウス!メディスン・トリートメントを!」

 

 

『いや、ここはインフェクション・バイラスにしろ!ウィルス操作を使えば或いは!』

 

 

「ッ……分かった!やれ!」

 

 

 

 ドクターマイティXXのガシャットデータを体内に戻し、今度はガシャットギアデュアルγのガシャットデータを取り出す。ゲムデウスは自身のウィルスを活性化させ、高山の体を伝ってガシャットに流し込む。苦しみながらも高山はギアを左に回転させてゲームを起動させる。

 

 

 

【INFECTION VIRUS!】

【The illness cause!(end world)finish creatures!】

 

「ッ!Mark 50!変身ッ!」

 

 

【デュアルガッシャット!】

【ガッチャーン!デュアルアーップ!】

 

 

【感染侵攻!バ・バ・バ・バイラス!】

 

 

 

 どうやら変身は成功した様で、高山はゲーム画面から現れた【バイラスゲーマ】を、XRの状態に変身して装着する。腕が肥大化し、脚の装甲が1部溶けたような姿となる高山は、そのまま腕でガードしながらゾンビの群れを駆けてゲンムゾンビに的確に拳を当てていく。

 

 

 

 

「オラァ!」

 

 

 

 吹っ飛ばされたゲンムゾンビは一撃で倒され消える。そして高山の視界の端には、バイラスゲーマー特有のポイントが映し出されていた。今ので、5ポイント。

 

 

 

「ゲムデウス!このゾンビの操作できるまでのポイントは!?」

 

 

『この数だと……停止させるのには、そこまで掛からん様だ。残りのゲンムを倒してポイントを稼げ!1ポイントで5体の計算だと、この場にいるゾンビの動きは足止め出来る!』

 

 

「残りと位置は!?」

『残り6体!それぞれ1跳びすれば到着する距離だ!』

「先ずは!?」

『9時方向!』

 

 

 このバイラスゲーマーのジャンプ力は、トリートメントゲーマーよりも低い。脚の装甲が溶けている事で、全体的に脚に関わる行動は制限される様なものになっている。しかし1跳び最大58mというスペックは、本当に弱体化補正が掛かっているのか怪しいところ。

 

 

 1跳びし、上から渾身の一撃をゲンムゾンビに叩き込む。やはり一撃で倒される設計になっているゲンムゾンビに、このバイラスゲーマーの一撃はキメ技と同等の威力を発揮するらしい。

 

 

 そして倒されたことでポイントが加算。高山はゲムデウスの指示に続くようにして跳び、次のゲンムゾンビを倒す。その行動が繰り返し、繰り返し、遂に30ポイントに到達したところで、高山は自分の目の前にホログラム画面を出現させ操作を始める。

 

 

 

「……!これで、止まる筈だ!」

 

 

 

 先程攻撃したゲンムゾンビから自動採取したゾンビウィルスの活動停止の項目を発見すると、それを選択しポイント全てを振り込んで実行ボタンを押す。

 

 

 すると他のゾンビが一気に苦しみ始めた。やがてそのゾンビは人間の姿に戻っていく。しかし活動を停止させただけで、ゾンビウィルスそのものは残されたまま。素早く処置をしなければ不味いのだが、生憎ドクターマイティXXのデータは先程の有り様となってしまった。

 

 

 人間に全員戻った所で、高山はゲーマドライバーに差し込まれているデータガシャットを取り出そうとした。

 

 

 

「ッ!?ガフッ!」

『!おい宿主!』

 

 

 

 その時、高山の変身は強制解除される。そして高山の口から生暖かい鮮血が吹き出て、地面に滴っていく。5mlにも至らないが、高山の体は急速に疲労を増していく。

 

 

 

「おごっ……!ごふっ……!」

 

 

『今度は人体のダメージか……!バグの効果とはいえ、ここまで人間の体に反映されるのか……!』

 

 

「ッバッ……!ペッ!…………行くぞ、ゲムデウス!」

 

 

『おい宿主!』

「こんな所で、立ち止まってられるか!」

 

 

 

 停めていたバイクまでフラつきながらも、高山はヘルメットを被ってバイクに搭乗し、エンジンを蒸して反応を頼りに進んでいく。自分の体の事なぞ放っておいて、ただ助けたい人を助ける為だけに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 九条貴利矢と檀黎斗の戦いは熾烈を極めていた。ゲンムから毒の霧が噴射され、ガシャコン・スパローの矢を溶かしていく。それに驚く九条貴利矢(レーザーX)は、檀黎斗から放たれる毒の霧を()()()()で避けてグレイズ、そして矢をまた放っていく。

 

 

 意図も容易く溶けていく矢だが、めげずに避け続け漸く矢を当てた。

 

 

「ッ……ペッ」

 

 

「へへっ」

 

 

 

【ス・パーン!】

 

 

 

 ガシャコン・スパローをサイズモードにし二刀流で向かう貴利矢。しかし檀黎斗は避ける避ける。代わりに蹴りがヒットしたが、微々たるものにしかなっていない。

 

 

 今度は足を集中的に狙ってサイズモードのガシャコン・スパローを振り回す。だが的確に片方を足で押さえ付け蹴りを与える檀黎斗。にも関わらず貴利矢は立ち向かう。

 

 

 

「来いよ」

 

 

 

 檀黎斗はガシャコン・キースラッシャーを装備し、飛んですれ違い様の斬撃に対応する。同じことがもう一度繰り返されると、貴利矢は次にフェイントを混ぜて攻撃する。しかしこれでも檀黎斗には届かなかった。

 

 

 蹴られて離れてしまった貴利矢に、ガシャコン・キースラッシャーを放り捨てて向かってくる檀黎斗。

 

 

 だが、その時バイクが両者の間に割り込む様にして来た。咄嗟に檀黎斗は後退し、両者はバイクの搭乗者に目を向ける。ヘルメットが脱がれ、高山の顔が顕になると檀黎斗は歓喜にも似た声を出す。

 

 

 

「高山明ァ……!随分と遅かったじゃないかぁ……!」

 

 

「明……お前…………!」

 

 

「……ッ!ハァッ!……ハッ……!」

 

 

「ん……?なぜ君は、そこまで苦しんでいる?」

 

 

「……ハッ…………あのゾンビの壁を……突破するのに…………ハァ……ゲムデウスウィルスにある、ガシャットデータを……使って……貴方の影響を……受けないように……バグらせた、代償ですよ……ハァ……」

 

 

「……やはり、このゲームの2つ目の攻略法を見つけてしまったか。だが、それでこそ高山明だァ!君とゲムデウスの両者の力が、このゲームのクリアの鍵ともいえるからなぁ!」

 

 

 

 檀黎斗は高笑いし始めるが、高山は苦しみながらバイクを降りる。しかしバランスを崩して倒れ、持っていたギアデュアルγが飛び出す。そのガシャットをほふく前進で取りに行き、手に入れたあと高山はバイクを支えにしてゆっくりと立ち上がる。

 

 

 それを見ていた檀黎斗も、次第に高笑いを止めて真剣な声で高山に問いかけた。

 

 

 

「……君は、なぜ自分自身を苦しめてまで、私に立ち向かう?先程のバグの効果で、君の体力は風前の灯火に近い筈だ……なのに、なぜ満身創痍ながらも私の前に立つ?」

 

 

 

 

 

 

 

「貴方を……救いたいからに、決まってる……!」

「!明…………」

 

 

「僕の道を……照らしてくれた…………貴方を!

 

 

 貴方の心を……救いたいんです!」

 

 

「なっ…………!君は、自分が何を言っているのか理解しているのか!?態々、私を救う為に来たのか!?それだけの為に!」

 

 

「それ以外に何があるんですか!?

 

 

 僕は、自分が後悔したくない選択肢を選んだだけです!貴方が嫌と言おうが、誰かが否定しようが!

 

 

 貴方を救うために!僕は来たんです!」

 

 

 

 ゆっくりとギアデュアルγを構え、ゲーマドライバーを装着する高山。

 

 

 

「黎斗さん…………

 

 

 

 

 僕は、貴方を救ってみせる!」

 

 

 

【デュアルガシャット!】

 

【The illness cause!Who the next patient?】

 

 

 

 ゲーマドライバーに差し込まれたギアデュアルγから変身待機音が鳴り響く中、高山は左腕を上に、右腕を下にして手首を交差させる。

 

 

 次に左腕を上に、右腕を下に移動させる。左腕はガッツポーズの様に立て、右腕はそのまま1回転させて止める。

 

 

 

「マキシマム大変身!」

 

 

 

 両腕を左右に広げ、広げるついでに右手でレバーを開けば……変身が開始される。

 

 

 

【ガッチャーン!マザルアーップ!】

 

 

【患者治すドクター!人に感染バグスター!人とウィルスフュージョン!バ〜イラストリートメ〜ント!】

 

 

 

 レベル99(マキシマム)。高山の最大戦力が、檀黎斗の前に立つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────Loading……──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高山明の姿が変わる。初のレベル99形態へと変身したのだが、その姿は誰もが忌むべきものであった。

 

 

 黒と灰。その2つの色をベースに右側は腕と脚の付け根辺りから灰色と黒めの赤のグラデーションが施され、右腕と右足は黒めの赤と黒に。反対に左側は腕と脚の付け根から灰色と白のグラデーションが施され、左腕と左脚は白と黒になっている。

 

 

 患者を治療するゲーム(メディスン・トリートメント)人間を滅ぼすゲーム(インフェクション・バイラス)の2つのゲームが混ざり合い、世界の()()を握る存在となったクロノスの姿となっていた。

 

 

 

「!その姿は……!」

 

 

「……黎斗さんが作ってくれた、このガシャットの最後の力です。今までよりも格段にステータスも上がってますが、その分……」

 

 

「レベル99……私が創り出した、“もう1つのクロノス”か」

 

 

「えぇ。貴方を救える、唯一の方法です」

 

 

「…………君には心底呆れた。このゲームの運営(開発者)に、その様な反応をすることにね」

 

 

「僕は、それで結構ですよ」

 

 

「……フンッ」

 

 

 

 高山はガシャコン・シールドとデウスラッシャーを装備し、攻撃型の態勢をとる。未だに立ち尽くしている檀黎斗は多少反応はするものの、結果が決まっている様な笑みを仮面越しに浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

行きます!

「かかって来い……高山明ァ!

 

 

 

 高山明が、檀黎斗に向かう。ゲムデウスに交代できない今、たった1人で戦わなければならない。しかし高山は()()に持つデウスラッシャーで檀黎斗のボディに向かって振るう。

 

 

 やはりダメージは通らない、しかしボディから火花は飛び散った。檀黎斗にダメージは届かないものの、その威力に仰け反った。

 

 

 

「チィ!」

 

 

「効いてる……のか!?」

 

 

「まだまだァ!」

 

 

 

 乱雑に、それでいて的確にデウスラッシャーを振るい()()に持つガシャコン・シールドで突く。その攻撃の応酬が徐々に檀黎斗に響いていく。

 

 

 このレベル99は、2つのゲームを合わせた形態。医療ゲームと感染シミュレーションの能力を全て備えているだけでなく、檀黎斗はあるシステムを搭載させていた。その名も【感応】。

 

 

 この感応の性質は左右で分かれており、左はステータス強化系のエナジーアイテムの効果を飛躍させる。例えるなら【マッスル化】は【剛力化】という風に飛躍させる。反対に右は弱体化系のエナジーアイテムの効果を飛躍させる。例えるなら【混乱】の継続時間を増やすなど。

 

 

 そしてこの感応に、ウィルス抑制作用によって生まれたガシャコン・シールドのウィルスが更に抑制され、バグスターの攻撃に対する耐性を上昇させた。反対にデウスラッシャーは強化ウィルスを流し込み、その威力や斬れ味を増幅させた。

 

 

 結果、高山の武器攻撃は99ながらも100t以上にまで上昇されているのだ。だが単に100tという威力だけでは檀黎斗の開発したゴッドマキシマムマイティには敵わない。だがこの現状は、どういう事なのだろうか。

 

 

 

「調子に……乗るなァ!」

「ッ!」

 

 

 

【1!】

 

 

 

 ゴッドマキシマムマイティの拳の攻撃を、ガシャコン・シールドの持つ防御機能で素早く防ぐ高山。本来受けるダメージをある程度まで減少させた防御力は、檀黎斗のカウンターの威力に高山を耐えさせた。

 

 

 

「まだだァ!」

 

 

 

【ド・ガーン!】

 

 

 

 シールドからアックスに変更し、デウスラッシャーとの高火力二刀流で攻める高山。両手斧であるガシャコン・アックスを意図も容易く片手で扱い、乱舞でダメージを与え続けていく。

 

 

 その舞は荒々しく、とても綺麗とは呼べない程遠いものであった。だがその1発1発の重みは、この世で誰にも負けていないと言えるであろう強さがあった。心の強さ、力の強さと……高山明の思いの全てが乗せられている一撃であった。

 

 

 

「ここまで強くなるかァ…………計算外だが、君という存在はこうでなくてはなぁ!」

 

 

 

 檀黎斗は高山と1番出会っていると自負している。そしてゲムデウスによる予想外な出来事や、高山とゲムデウスウィルスとの反応が起こす()()が檀黎斗はゲーム開発者として嬉しく思う面もあった。

 

 

 ゲームというのは正式に攻略されるシナリオで製作されている。だが世の中にはデータ改造やチート等によって、作られたシナリオから逸脱した攻略を行う者が居る。檀黎斗は、1ゲームクリエイターとして許そうとはしなかった。正規の攻略方法で、ゲームというものを楽しんで貰いたかった願いがあるからだ。

 

 

 高山の場合は異常すぎたが、1つのゲームシナリオとしては通用するだろうと考えられる。ラスボスは倒されたが実は生きており、新たな依り代を得て復活するという構成を。しかし敵としてではなく、新たな脅威が自身に不利益が生じてしまう為に、主人公達の仲間となるシナリオを。

 

 

 賛否両論あるシナリオであるが、檀黎斗はそのシナリオを意図的に作った訳ではない。だが別のシナリオを作る内に、急に閃いた妙案であったこのシナリオに作り替えた。結果、檀黎斗と高山明という対決のシナリオが生まれた。

 

 

 檀黎斗からすれば、高山は“良バグ”。想定されていなかったが、結果的に良い方向に持っていったバグであったのだ。

 

 

 

「フンッ!」

「ウラァッ!」

 

 

 

 上空から振り下ろされる両腕斧と剣の二刀流と、檀黎斗の拳が衝突する。どちらも本気であるが、檀黎斗は楽しんでいた。このゲームが、一体どんな結果になるのか楽しみな“プレイヤー”になっていた。

 

 

 拮抗した結果、檀黎斗が押し勝つ。高山は放り出され地面を転がる。

 

 

 

「ッア"ァ!まだd……」

 

 

 

 高山の変身時間が残り0となった。その瞬間、高山は変身が強制解除される。それがルールだと、それを認めないと高山はガシャットを押さえ付ける。

 

 

 

「ッ"!ガアアアア!」

 

 

「明!」

 

 

「死ぬつもりか?!既に10分の変身時間は終わったというのに!」

 

 

 

 

 

 

 

「まだ…………まだだ………………

 

 

 まだ……終われねぇ!

 

 

 

 高山の体から、白い電気にも似たものが放出される。その白い電気は、変身時間の画面を一気に()()()()()。残り時間、∞に。

 

 

 

「なにッ!?」

 

 

「ァ"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!」

 

 

 

 苦しい筈なのに、死にかける寸前なのに。高山は力を振り絞り、ドライバーのレバーを開閉する。

 

 

 

【ガッチョーン ウラワザ!】

【ガッチャーン!】

 

 

【INFECTION MEDICINE CRITICAL ENERGY!】

 

 

 

「ハァアアアア"ア"!」

 

 

 

 白と黒のエネルギーが両足に纏われ、高山は放つ。檀黎斗咄嗟に両腕を交差させて防御態勢を取り、高山の最後の一撃をくらう。

 

 

 

「ォ"オ"オ"オ”オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"!」

 

 

「くっ!こ、この威力……まさか!」

 

 

「デェアアアアア!」

 

 

 

 高山が檀黎斗の防御を貫く。瞬間、その場で爆発が巻き起こる。爆発によって放り投げ出された高山は、また地面を転がり変身が漸く解除される。未だに姿を保っていられている檀黎斗は、疲弊した様子を見せながらも高山に対して喜んでいた。

 

 

 

「クハハハッ……やはり君は、私の想像を良い意味で超えたなぁ……楽しかった。実に有意義な時間だった……あとは」

 

 

「……だろうな。俺と、お前で」

 

 

「このゲームのエンディングを……決める…………!」

 

 

 

 決意を固めた檀黎斗はレバーを閉め、貴利矢はBボタンを押す。既に覚悟は、決めていた。

 

 

 

【ガッチョーン カミワザ!】

【キメワザ】

 

 

【GoD MAXIMUM CRITICAL BLESSING!】

【CRITICAL CREWS-AD】

 

 

 

 檀黎斗と貴利矢の必殺技が、ぶつかり合う。高山も爆発の余波を受けるも耐えた。爆発が晴れると、檀黎斗は立ち、貴利矢は地面に落ちた。

 

 

 

「漸くか……終わったな。この私を楽しませた高山君には、感謝しなければな」

 

 

「ヘッ……その明は今、死んでも可笑しくねぇ状態にあるけどよ」

 

 

「……ァッ、まだ……です。まだ、やれ……!」

 

 

「良いや高山君、もうゲームは終わった……」

 

 

「あぁ……終わったな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お前がな」

 

 

 

「ぁん?ぐっ?!」

 

 

 

 檀黎斗が苦しみ始める。体から粒子状のものが放出され、終いにはアーマーが消えた。地面に倒れ伏せる檀黎斗と、起き上がる貴利矢。

 

 

 

「何をしたァ!?」

 

 

「お前のデータを初期化させてもらった」

 

 

「なんだと?!」

 

 

「このドライバーにはな、檀正宗が残したリセットの力が宿ってる。その力でガシャットのデータを初期化させてもらった。

 

 

 つまりは、今の俺はゲンム専用の攻略法って訳だ」

 

 

「有り得ない……!私は不滅だァアア!」

 

 

「往生際が悪いぞ神!たった1つのライフが無くなったらゲームオーバー……それがゲームっていうもんだろ!」

 

 

「私は……神だァアアア!」

 

 

 

 初期化されたゲンム(檀黎斗)が貴利矢に攻撃を仕掛ける。しかし躱され、カウンターを入れられる。貴利矢と檀黎斗は掴み合い、そのまま何処かへと向かっていった。

 

 

 残された高山は匍匐前進のまま、バイクに乗ろうとしていたが如何せん体の自由が効かない。体を動かすことさえままならない中、何も無い空間からバグスターウィルスが集合する。

 

 

 

「アキラ!」

 

 

 

 駆け付けたパラドが高山を保護する。

 

 

 

「しっかりしろ、アキラ!」

 

 

「……パラド、さん…………黎斗さんと……貴利矢さんが……」

 

 

「レーザーが?!どっちに!?」

 

 

「案内……しますから、バイクに……」

 

 

「今の状態わかって言ってんのか!?ボロボロじゃないか!」

 

 

「早くしないと……黎斗さんが…………!」

 

 

 

 高山の体から白い電流が流れ始める。意思に反応するが如く、高山の体に纏わり付いていく。

 

 

 

「アキラ……お前…………」

 

 

「パラドさん……早く、乗せて下さい。運転なら、大丈夫です」

 

 

 

 パラドは危険を察知して高山から離れたが、支えていた高山は崩れなかった。しかし満身創痍なのは違いない。それでも高山は、バイクに乗って檀黎斗と貴利矢の行き先に向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────Loading……──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日が沈み、夜の闇が既に広がった頃。雨が降る因縁の場所まで到着して尚、貴利矢と檀黎斗の戦いは行われていた。殴り殴られ、蹴って蹴られ、荒々しく的確に攻防戦が繰り広げられていた。

 

 

 そこまでして戦い続け、この因縁の決着を付けようとする2人。ある意味この時の高山は、関係ない邪魔要素みたいなものであったのだ。高山の助けたい気持ちとは裏腹に、檀黎斗の思いはケジメを付けようとしていた。精神科医としては患者の思いを無下にする様な真似はどうかと考えられる。

 

 

 だが高山も檀黎斗も意固地だ、譲れないし譲る気すら毛頭ない。だからこそ檀黎斗は離れたといっても過言ではない。そして貴利矢との因縁を終わらせるために、態々ここまで来たのだ。

 

 

 そして檀黎斗と貴利矢は、既にボロボロになっていた。立っているだけでやっとの筈が、2人ともどうしてか諦められなかった。高山と比べると色々度合いが違うが、2人とも満身創痍の状態で立っていた。

 

 

 檀黎斗が吠える。吠えた後、貴利矢に殴り掛かる。

 貴利矢も吠える。吠えた後、檀黎斗に殴り掛かる。

 

 

 2人の拳は、お互いの頬に当たった。しかし1歩も退こうとしない2人は、そのまま力の進行方向に任せて飛んでいった。

 

 

 そして2人のライダーゲージが……消えた。残り僅かだったゲージ残量も無くなり、変身が解除された。

 

 

 ここで漸く、貴利矢と檀黎斗の戦いは終わった。雨に打たれながらも2人は自覚した。そして檀黎斗が負けたことで、周囲のゾンビも元の人間に戻っていった。

 

 

 永夢が先に2人のいる場所まで到着した。本来はバイクで来ていた高山が先に来る筈なのだが、何故か来ていない。

 

 2人は立ち上がろうとする中、貴利矢は檀黎斗に指をさして告げた。

 

 

 

「最後に1つだけ……お前の大嘘を当ててやる。

 

 お前はずっと、自分の母親を救えなかった医療に失望していた。

 

 だから……信じるしかなかったんだ。自分自身の才能だけを……。

 

 

 

 もう良いだろ……後はこの国の医療に任せようぜ」

 

 

「私はただ、私自身の才能に……導かれただけだ。

 

 この時代の倫理が、私を拒絶するならば…………次に生まれた時……時代は、私に追いついているか?」

 

 

「ヘッ……だとしても、すぐにまた時代を追い抜いちまうだろうな。黎斗神なら」

 

 

 

 

 

 

 

 

「檀 黎斗神という名は、もう捨てた…………今の、私は……

 

 

 

 

檀……黎斗…………」

 

 

 

 そして話しが終わった。語り合いが終わった。あと残されたのは、自分達の消滅だけ。

 

 

 

「…………黎斗さん」

 

 

 

 雨の中、永夢がそう呟いた。檀黎斗は永夢を見た。そして1つの心残りが居ないことに気付いた。だが、そんなもので良いと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雨の中を突き進むエンジン音が3人の耳に入った。気付いた3人はその方向を見ると、雨に濡れながら高山がやって来たのだ。

 

 

 

「高山さん!?」

 

 

 

 ヘルメットを被っていなかったので、風圧や雨粒の痛さは異常な筈だ。しかし高山はそんな事を気にする間もなく、運転していた右手を離して白衣の内側に手を突っ込む。

 

 

 そして取り出されたものを、檀黎斗に向けた。

 

 

 

【GAME OVE…………】

 

 

 

 ゲームオーバーの合図が鳴る前に、檀黎斗は高山の持つものに吸い込まれた。そして姿が消えたあとバイクがスリップし高山は転けた。片足をバイクで押し潰されながらも、高山の意識はまだあった。

 

 

 

「ハッ……ハッ…………やっと……間に合った……!」

 

 

〔これは……ポッピーのバグヴァイザー……まさか、君は!〕

 

 

「ヘヘッ……やっと、救えた。貴方を、やっと……!」

 

 

 

 高山の表情は痛みから来ているのか、檀黎斗を助けられた事に対して安堵しているのかは定かでは無い。だが笑顔を浮かべていた。

 

 

 

〔君は……君はなぜ……!なぜ私にここまでする!?必要ない筈だ!君にとっても、この世界にとっても!私という存在は、必要ない筈だ!そうまでして私に構う理由は、一体何なんだ!?〕

 

 

 

 檀黎斗は高山に言い放った。至極当然のことを言った。もう檀黎斗は、この世界に居なくなったとしても必要とされなくなるだろう。

 

 

 しかし高山は、そのバグヴァイザーを自分自身の胸に近付けて抱きしめた。

 

 

 

「……そんなこと、言わないで下さいよ。

 

 今必要としてる人は、少なくとも僕が居るじゃないですか。

 

 僕は貴方の言葉で、貴方の行動で……救われた1人なんですよ?

 

 ゲムデウスウィルスの事で、死のう死のうって思ってたのに……貴方が止めたんじゃないですか。今生きていられるのは、貴方のお陰じゃないですか。

 

 必要無いのなら、僕だってそうだったじゃないですか。それを勝手に救ったのは、貴方じゃないですか。

 

 だから……そうまでして、自分を殺さないで下さいよ!

 

 勝手に死のうだなんて、僕が絶対許しません!貴方が救ってくれたように、僕も貴方を救いたいって思えた!

 

 

 もう1人で抱え込まないで下さい!

 もう勝手にケジメを付けようとしないで下さい!

 世間が許さないのなら、自分が許さないのなら……

 

 

 僕と、この世界で償いましょうよ!生きてる限り、何度も何度も償いましょうよ!貴方が僕に示しててくれた様に!あの時みたいに!どうか……どぅ()……」

 

 

 

 高山の意識が途絶えた。雨に濡れる度に、高山の命は減りつつある。バグヴァイザーからでは温度は感じられない筈なのに、檀黎斗は高山の体が少しずつ冷たくなる様な錯覚を覚えた。

 

 

 

〔高山君?……高山君、おい…………おい!高山君しっかりしろ!おい!〕

 

 

「高山さん!」

 

 

 貴利矢の体を支えて高山の元に向かった永夢は、ゲームスコープで緊急連絡を取った。意識を確認するも、目覚めない。闇の中に溺れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……ここは?』

 

 

『宿主の深層意識というヤツだ』

 

 

 

 暗闇の中で目が覚めた高山。ゲムデウスの声がした方に振り向き、ゲムデウス本来の姿と対面していた。なぜこんな場所に居るのかは、あまり理解していないようだ。

 

 

 

『何で僕……ゲムデウスと居るのさ?』

 

 

『檀黎斗を助けた後で、宿主がしでかした行動のツケが全部回ってきた為だ。大馬鹿すぎて呆れたわ』

 

 

『あーっ……そっか。そうだよな、うん』

 

 

『言っておくが、宿主の意識が此方に入ったせいで現実の情報は全く入っていない。時間感覚も曖昧だ。まぁその分体の方は理解出来たがな』

 

 

『……どんなだった?』

 

 

『内蔵器官の負傷、バイクで足を押し潰されたが運良く関節の部位だけ単純骨折、極度の疲労……真面に動けるのに1週間かかるぞ』

 

 

 

 それだけの事をしでかした。だが高山は、その暗闇の中でも気掛かりはたった1つだけであった。

 

 

 

『……黎斗さんは?』

 

 

『私にも分からん。その後の事は宿主自身が目覚めれば良い、早く行け』

 

 

『わかった……あと、ゲムデウス』

 

 

『何だ』

 

『ありがと、付き合ってくれて』

 

 

 

 それだけ伝えると、高山の意識は光に吸い込まれていき目が覚めた。ゆっくりと開かれる瞼、そして高山の瞳に映るのはボヤけた視界。

 

 

 漸く見れる様になった所で、誰かが高山の左側で寝ていたのが分かった。そちらに視線を向けると、藍原がスヤスヤと寝息を立てていた。

 

 

 

「優美……?」

 

 

「おーおー、漸く起きたのかよ寝坊助」

 

 

 

 右側にも誰か居た。だが聞きなれた声であった為、正体を確認せずに済んだ。

 

 

 

「貴利矢さん……」

 

 

「お前俺よりぐっすり眠りやがって、五日も寝てたんだぞ?」

 

 

「五日……そんなに」

 

 

「しかもまだ絶対安静だとよ、鏡先生からの伝言だ」

 

 

 

 貴利矢は自分の傍に置いていた高山のカルテを取って確認する。

 

 

 

「えーっと、内臓器官にダメージあり。左足の関節が綺麗に骨折、さらには筋肉痛まで……んで極めつけが」

 

 

 高山が見やすい様にカルテを移動させて見せる。

 

 

「ゲムデウスウィルスの侵蝕率、現在は68%にまで一気に上昇してる。ドクターマイティを使わなかったツケだな」

 

 

 

 

 

「あの、黎斗さんは……何処に?」

 

 

「お前な……もうちょっと自分の心配したらどうなのさ?ん?彼女さんにも迷惑かけてやがって」

 

 

 

 呆れた様子の貴利矢。カルテを台に置き、高山に目線を向けて語る。

 

 

 

「檀黎斗の入ったバグヴァイザーはすぐに衛生省に持ち込まれた、そこで檀黎斗の処遇をどうするか役員が会議()()()()

 

 

「……していたって、決まったんですか?」

 

 

「ん、まぁな。俺としちゃ決着付けたのに、どっかの誰かさんが余計な事をしたせいで何か不完全燃焼だし」

 

 

「……貴利矢さん?」

 

 

 

 高山からは少しだけ怒りの色を見せていたが、そんな事は知らないと謂わんばかりに貴利矢は話しを続けた。

 

 

 

「あぁ、そうそう。明、復活したら即仕事だぞ」

 

 

「……仕事なら行きますけど?」

 

 

「あぁそっちじゃなくてだな……あ〜、檀黎斗の処遇に関してだけどな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前が檀黎斗の()()()になった」

 

 

「………………へっ?」

 

 

「檀黎斗の精神状況も考慮した結果、精神科医である明にカウンセリングとか檀黎斗の監視を一任することになったんだよ。ある意味1番安全な監視としてな」

 

 

 

 突然の事に驚きを隠せない高山。それもそうだ、目覚めたら直ぐに檀黎斗の担当医として一任されたという事実、そうそう受け止められるものではない。

 

 

 だが高山は、何処かすんなりと事実を受け止めていた。それが何故だかは分からない。

 

 

 

「そう……ですか。僕が……黎斗さんの」

 

 

「……まぁ唯一違うことしてたのが、明だけだったからな。交流が深い点で言っても明が担当医になるのは会議で意見の一致があった。精神科医っていう点でも評価された理由だけどな」

 

 

 

 

 

「あぁ……でも良かった。黎斗さんを助けられて」

 

 

「まだ言うかコイツは……」

 

 

 

 高山の表情は、今何処の誰にも負けてはいなかった。

 

 

 1番輝いて、嬉しそうな笑みだった。

 

 

 かくして檀黎斗の起こした事象は幕を閉じた。そこには犠牲も違う思いもあったが、この様な結果になった。

 

 

 批判されるかもしれない、世間が認めないかもしれない。けれども、それでも高山は檀黎斗には生きてほしいと願った。その願いは、この様な形で叶えられた事にとても嬉しく思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




【制限時間】
・ゾンビクロニクルを行う際に高山とゲムデウスに設けられた“ガシャット1つ”につき“変身できる”時間。10:00しか設けられていないが、ドクターマイティ等は所謂“特効薬”としての意味を持つので檀黎斗が設けた。

 変身を解除すれば時間は止まり、制限時間が残っていれば変身可能。ただし制限時間が極端に少ない(例:00:01etc)場合は、檀黎斗によって強制的に使用不可になる。そして無理やり使用不可のガシャットを使おうとすれば高山の体にダメージが入る。


【感応】
・高山明がバイラストリートメントゲーマーに変身した際に常時使用される能力。左側はメディスン・トリートメントの力が発生し、左側で強化系エナジーアイテムを使用すると効果がランクアップする。

 右側はインフェクション・バイラスの力が発生し、弱体系エナジーアイテムを使用すると効果時間が伸びる。
 
 また使用武器への感応もあり、対応した箇所で武器を使うと威力などが上昇する。






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閑話 動き出す悪

 高山の復帰が確認されてから早4日が経過した。それまでの高山はゲムデウスウィルスの影響もあって体力だけは異常な回復速度であったが、体の方は治りが大して変わらず暇を持て余していた。

 

 

 その点はニュースを見ていた茅場や神代がお見舞いに来てくれたり、そのついでに茅場がナーヴギアのプレゼントをしたりと大盤振る舞い。もういっその事未発売の【SAO(ソードアート・オンライン)】までも渡そうとしたが、高山は復帰後は仕事に着かなければならない上に遊ぶ暇がある訳では無かった。

 

 

 そのことを理解した茅場であったが、高山は好意を受け取りナーヴギアだけ譲渡された。

 

 

 そして現在の高山はというと……

 

 

 

「ハッ!ハッ!……」

 

 

『2時間と40分経過……これは最早人間とは程遠いな』

 

 

〔既に42.195kmは越えているのにも関わらず、バイタルは殆ど変わらないまま……やはりゲムデウスウィルスの侵蝕効果が作用しているのは自明の理という訳か〕

 

 

「確かに……!これは……!不思議な……!感覚……!ですね!」

 

 

 

 ランニング中であった。一定ペースで動くランニングマシンに乗り、最高速度での持続力を計測していた。前回の戦いでゲムデウスウィルスが体に侵蝕されたことで、高山の体力や身体能力の向上が発見された。

 

 

 ただ、その分見た目に変化が訪れたことも念頭に入れて置かなければ、無闇矢鱈にウィルスの侵蝕を作用させようとはしない。実際高山の金髪度合いも濃さを増し、右目だけ薄らと赤くなっている。勤め先には事情を話しているものの、この状態では医者としてどうかと思われるので最近は黒く染めているのだが、これが特に面倒。

 

 

 

〔もうそろそろ良いだろう、終了だ〕

 

 

「はい……!っと」

 

 

『疲れ知らずになったな。これだとオリンピック目指せるのでは?』

 

 

「冗談、これだとスポーツマンシップに反しちゃうでしょーが」

 

 

『その制約も面倒だな』

 

 

「これが無かったらドーピングで弾劾される人も居ないんだろうけど……そうもいかないからねぇ」

 

 

 高山の出る汗が少ない。その分ベタつかないと高山本人は良いのだが、体そのものは不味いともいえる。発汗作用に遅れが出ているのか、はたまたゲムデウスウィルスが体内の水分を逃がさない様に機能しているのか。

 

 

 そんな高山は私服に着替えてタオルとバグヴァイザーⅡを持って外に出た。ある程度の計測をした後、自分の職場に戻って行く高山であった。

 

 

 

「不思議と疲れてないですもんねぇ……侵蝕されてるとはいえ、体的には殆ど問題すら無さそうなのに。蝕んでるってのがまた……」

 

 

〔事実、君はストレスを感じる事でゲムデウスウィルスの影響を受けただろう。そのストレスの発生源も限られてるとは言えども、一時的な行動不能どころか命に関わるからな〕

 

 

『こればかりは、どうしようもないからな。本来のウィルスの効果、つまるところ人に害を成す存在だからな』

 

 

「ちょっとゲムデウス、今一緒になってんのにさぁ……害を成す成さないとかじゃなくてね。こういうのは僕らがどう生きるかって事だし」

 

 

『お前はいつも共存の選択をするなぁ。そこまで行けばお人好しどころかド天然みたいだ』

 

 

「ちょ、ド天然って……これでもセキュリティ確りしてるのに」

 

 

〔私のお陰でさらにグレードアップされたがなぁ!〕

 

 

 

 これが高山という男。周りも自分も群を抜いて異常すぎるのだが、その中心にはいつも高山が居て周りを動かす。その影響は誰かの為に自分を動かせる誠実さにあったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし平和に忍び寄るのは、常に悪意と相場が決まっている。闇に惹き込まれた心は光に戻ろうとするのは容易ではない。ましてや既に悪意に染まったものと、吐き気を催す悪が共になれば、それは加速する。

 

 

 暗がりの部屋の中、1人でパソコンをタイピングしている者が居た。しかしそこに居るのは1()()ではない。

 

 

 

「……フフッ、これで良い筈だ。カーディナル・システムへの介入と……アンタの存在を()()()に移す事が出来た」

 

 

〔グッジョブ。そして…………これもだ〕

 

 

 

 パソコン内に居る人物は、その手に忌むべき物を持っていた。本来ならば忘れ去られるべきの力を、禁断の力を……その手に握りしめ掲げた。

 

 

 

〔このSAOと呼ばれるゲームは本来、あの茅場晶彦が望んだ通りの仕様になる筈だった。しかし途中で()()の介入が発生し、ただのゲームとなってしまった。

 

 

 ならば……我々が取り戻そうではないか。

 

 

 茅場晶彦が望んだ、()()()()の世界を!〕

 

 

「そう言うのは止してくれ……それで稼ぐ輩も居れば、本気でその世界を作ろうとする大バカも居ることだし」

 

 

〔望んだ世界……ということか。だが理想は綻びが生まれ、そして落胆せざるをえない。そして茅場晶彦も夢を諦めた人間、現実を夢で終わらせてしまった者の1人。

 

 

 その夢を我々が叶えたとしよう、彼にとっては憤慨物に等しいだろう。黎斗……いや、ゴッドマキシマムと同じ質の人間だ。取り返そうと躍起になり……彼もゲームの中へと飛び込む。しかし主導権はこちらにある……エンディングは決められたのだ〕

 

 

「だが邪魔が入るとなれば……キチンと進むかどうかも怪しい。だから賭けに出た、だろう?」

 

 

〔ゴッドマキシマムの介入も考えられるが、カーディナルの学習能力で阻止できる……完璧だ〕

 

 

「あのバグはどうするんだい?1番の懸念はそれだ。1番はSAOに入らせないのが良い、圧力を掛けるのは難しいぞ〕

 

 

〔……いいや、敢えて介入させる。あのバグは実に良い仕事をしてくれたからな。私の完全復活の為のな〕

 

 

 

 その男は背を向けて景色を見た。この景色が、この世界が……もうすぐで変わる。

 

 

 

〔私は諦めんぞ……私自身の夢をォオオオ!〕

 

 

 

 カーディナルが、男の呼び声に応えた。

 

 

 

 

 

 

 




 次回 Dr.ゲムデウス
 ─────────始動


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SAO───CAO
Nightmareの再来 パート1


お久しぶりの投稿です。






 時は過ぎていく。とどまることを知らず、流れの速さは常に普遍を保っている。流れが速く感じたり遅く感じたりするのは、人の意識が関与している為である。

 

 

 そう、時は過ぎて行ったのだ。あの【ゾンビ・クロニクル】から約3ヶ月ほど過ぎた、運命の日にまで。

 

 

 西暦2022年 11月 2日にまで。

 

 

 その日の高山はというと、殆ど何も変わらずに仕事……という訳では無かった。この日は珍しくCRに全員集合しているので、何か重要な事が日向審議官から伝えられるのだろうと思っていた。

 

 

 CRには所属ドクターが全員集まっている。中には1度ゲーム病によって消滅したが、この度復帰した『牧 治郎』も参戦していたりする。西馬ニコに関しては全員海外へ向かった事は花家大我から聞いており、その道を歩んだ事を受け止めた。

 

 

 さて話しを戻そう。今回招集された件……といっても緊急の件としか聞いていなかった全員は、何が伝えられるのかさっぱりであった。

 

 

 

「それにしても……恭太郎さん遅いな。呼んでもう30分経ってるし……」

 

 

「こうも暇だとピヨる〜……」

 

 

「まぁ分からなくもないですけど……何か準備でもしているんでしょうか?」

 

 

「何の準備なんだかねぇ〜……?どう思うんですかね先生方」

 

 

「バグスター関連であれば遅いのは違いない」

 

 

「だとしても、呼び出しておいて放置ってのも可笑しいだろうけどな」

 

 

「まぁ気長に待とうじゃないか。案外忙しくてドタバタしてるだけかもしれないよ?」

 

 

 

 テレビの電源が勝手に着いた。それを気に全員がテレビを見やると……

 

 

 

〔喜べ君達ィ!遂に発見したぞォ!〕

「紛らわしいなオイ!」

 

 

 

 テレビが着いたら檀黎斗であったそうな。これには誰しも紛らわしいと思いつつ、高山1人だけ苦笑いを浮かべており、あとは何処か全員チベットスナギツネみたいな顔を檀黎斗に向けていた。

 

 

 つまるところ、この場の空気どうしてくれんだ。という思想の現れだろう。そして檀黎斗の映った画面が消えたと思いきや、今度は漸く日向審議官の姿がお目見えする。

 

 

 

〔待たせてしまってすまない、先ずはここに全員集まってくれた事を感謝したい〕

 

 

「それは良いから用件を言え。もし厄介事だとすれば、たまったもんじゃねぇからな」

 

 

「ちょっと大我、君何て物言いを!」

 

 

〔まぁ確かに待たせるのは不味い。今この時にも事態は最悪な方向に向かっているのだから〕

 

 

「……最悪な方向、ですか?」

 

 

『もう最悪な方向は懲り懲りだぞ私は』

 

 

〔その事に関してだが、私よりも関係者から話しを聞くのが良い。今繋げる〕

 

 

 

 そして再度黒い画面に早戻り、かと思いきや再三画面が映った。映ったその()()に高山は大層驚いたが。

 

 

 

「茅場先輩?!」

 

 

〔久しぶり高山君、1ヵ月ぶりだな〕

 

 

「茅場って〜と……あの【SAO(ソードアート・オンライン)】の開発者だっけか?」

 

 

〔2年ぶりですね、宝生先生〕

 

 

「お久しぶりです」

 

 

「……そういえば、あの時小児科医に教えてもらったパンケーキのあった大学は精神科医の母校だったか。小児科医が講義に行った時に出会ったという訳か」

 

 

「正確にはカフェでですけど」

 

 

 

 茅場と出会った時を何気なく思い出していく永夢。しかしその思い出を今は留めて欲しい時であったが故に、茅場が話しを切り出す。

 

 

 

〔さて……CRドクター全員に集まって貰ったのは他でもありません。私から頼みたい事があるのです〕

 

 

「頼みごと……?俺達にか」

 

 

〔えぇ。その件なのですが、今1万人が一斉にプレイしている【SAO】についてお話しが〕

 

 

 

 すると高山からゲムデウスへと人格が交代する。しかし人格交代の所要時間が短くなったせいか、何時変わったのか誰にも分からない。

 

 

 

「何か不備でもあったのか、茅場晶彦。にしては大掛かりの様だが」

 

 

〔君は……ゲムデウスだったね。高山君のバグスターの〕

 

 

「かれこれ2年以上になるな。うむ」

 

 

 

 ゲムデウスが目を細めながら頷く。そして茅場は話しを再開した。

 

 

 

〔その不備が大掛かりだったからこそ、CRの皆さんに頼んだのです。このままではSAO……いやVR界の危機に陥ってしまう事になりかねない〕

 

 

「VR界の……」

「危機?」

 

 

 

 

 

 

 

 

〔SAOプレイヤー1万人が、()()()()()()()()()()()

「「「「「「 なっ!? 」」」」」」

 

 

 

 SAOというゲーム内に囚われた1万人……これ即ち、1万という命が閉じ込められたと同意義となる。今は午後2時前、流石に仕様なのであれば茅場を疑うが、流石に疑われそうな事を態々CRドクターや衛生省に伝える筈がない。

 

 

 つまり何者かによる人為的な行い、SAOというゲームを牢獄にする為の最悪な出来事が起こってしまった。

 

 

 

〔勿論、ナーヴギアも危険性が確認された場合即刻電源を停止させプレイを強制終了させる事も出来る様設計した……だが、その強制終了機能が全く作用しなくなってしまったのだ〕

 

 

「ピプペポパニックだよー!そんな状態が続いたら1万人の命が危ないよ!」

 

 

「確かに……強制的にナーヴギアを外すことは?」

 

 

〔システムを確認してみた結果、無理矢理外そうとすると高出力マイクロウェーブが脳にダメージを与えて……プレイヤーは死んでしまう〕

 

 

「って、それだと早くSAOプレイヤーを搬送しなきゃ不味いじゃないか!」

 

 

〔そう、だがそうしたとしましょう。そのままでは解決策にはならない……だからこそ、私から提案があります〕

 

 

「提案?」

 

 

〔SAOに敢えて参加し内部から解決する役割と、外部から直接解決させる役割と2手に別れて行動する……これが私からの提案です〕

 

 

 

 要は内部でプレイヤーを助ける為の()と外部から犯人を捜し出す人間に分かれることになる方法である。片や命の危機はあるが、少なくともプレイヤーの精神状態を把握し命を救う役割を。

 

 

 片や患者の命を救いつつ、突き止める役割を担う。この役割に分けられるとなると必然的に救えることが出来るのは少なくとも1人決まる。

 

 

 

「……マイティークリエイターVRXを使えば、救える可能性はあります。だったら僕が出ましょう」

 

 

「永夢!でもそれだと……!」

 

 

「大丈夫」

 

 

 

 永夢はポッピーの両肩に自身の両手を置き、安心させる様に真っ直ぐ見つめる。

 

 

 

「必ず救い出して、こんなゲームを終わらせる。ポッピーはそれまで待っててくれないかな?」

 

 

「永夢…………」

 

 

〔……1人は決まった様ですが、あと1人は〕

「僕が行きますよ、茅場先輩」

 

 

 

 ゲムデウスから高山へと人格交代をし、声を挙げた。それに対し黙り気味だった檀黎斗がテレビ画面に割り込んできた。

 

 

 

〔君はまたそうやって……!少しは自分の身を休ませたまえ!前回の事から時は経ったとはいえ、さらに酷使すれば君がもたない!〕

 

 

「黎斗さん……また心配かけちゃいますね、僕。

 

 でも行かせて下さい、VR空間でも僕なら現実と同じ様に動ける筈です。それに、ここは精神科医の出番ですしね」

 

 

〔……確かに君なら、だが正直私も気が進まない〕

 

 

「茅場先輩、今は悠長なこと言ってられませんでしょ?早くプレイヤーを救い出して、その巫山戯た牢獄から解き放ちましょう。全ての命を」

 

 

 

 少しの間静寂が訪れた、ここで今までの高山が死にかけた回数を数えてみよう。

 

 

 最初に死にかけたのはLv99のガットンと戦闘になった際。これはゲムデウスに存在する“他バグスターの能力使用”で乗り切るも、無茶な行いが生じて入院沙汰。

 

 

 次に死にかけたのは4体のバイラスバグスターとの戦闘に使ったギアデュアルγのデータ移植。ゲムデウスウィルス内にガシャットデータをコピーする際にダメージまでもフィードバックし、戦闘終了後気絶。

 

 

 その次に死にかけたのは檀黎斗のゴッドマキシマムマイティX対貴利矢との共闘による能力併用。様々なバグスターの能力によって体が耐えきれない状態にまで陥った。

 

 

 さらに次は対ゾンビ対決の際に使った2つのガシャットデータ。ゲムデウスウィルスによってバグを引き起こし何とか使おうと試みるも、変身解除後に吐血。

 

 

 そして次に死にかけたのは強制変身解除を無理矢理バグらせてキメ技を発動したこと。バグ自体が体に影響しやすいのに、侵蝕を進めさせた結果を作ってしまった。

 

 

 最後に、バイクの横転。死にかけるどころか死ぬ1歩手前の事故を引き起こしておいて生きてる高山の生命力を疑いたい。

 

 

 とまぁこの様に異常なまでの無謀さが目立つ高山。ほぼ全員の考えは、高山をここで行かせる訳にはいかない。ドクターなのに自分の命を考えないというのも、些かどうにかしている。

 

 

 すると高山からまたしてもゲムデウスへと人格が変わり、何とあろう事か高山を擁護する発言を取ってしまった。

 

 

 

「宿主を説得しようとしても無駄だ。底なしのお人好しで救い続ける面倒なバカだ」

 

 

『誰がバカだよ!?』

 

 

「まぁ、もしも危険だと判断した場合は私が強制的に止めさせる。確かに我々の場合であればVR世界にも対応はできる筈だしな」

 

 

〔……ゲムデウス、貴様の発言の重さは分かっているのだろうな?〕

 

 

「充分に理解している。だからこそだ、ここで有力な者を出さなければ不味いことになりかねんぞ。適材適所を怠るな」

 

 

 

 

 

 

 

〔……こうまで言う事は予想していたが、実に清々しいな全くもって。

 

 

 わかった。ゲムデウスと高山君の参戦を推そう〕

 

 

「よしきた」

 

 

〔他のドクターの方々は、何か異議の方は?〕

 

 

「……いや、正直俺でも精神科医は止められそうにない」

 

 

「俺でも無理だな。ゲムデウスの猪突猛進ぶりはこの目で見過ぎた」

 

 

「付き合いは浅いけど……僕も難しいかも」

 

 

「俺だって無理だわ。ケツにダメージ来そうだし」

 

 

「決まりだな。檀黎斗はどうだ?」

 

 

〔……正直気乗りはしない。だがそうしたいのであれば、私からも全力でバックアップしよう。不本意だがな〕

 

 

『黎斗さん…………』

 

 

〔ならば早く行動しなければな。早速ゲンムVRの用意をしろ!他はすぐに他の大型病院と連携して搬送の準備を行えぇ!〕

 

 

「「「 お前が指図するな! 」」」

 

 

 

 取り敢えず一悶着あったが、何とかチーム分けが決定した。ゲーム内に行くのは高山&ゲムデウスと、永夢&パラドの4名。他が外部チームとして定まった。

 

 

 これから始まるゲームの、()()()として。

 

 

 

 

 

 

 

 



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Nightmareの再来 パート2

 用意された寝台が2つ、そこに2人が【ゲンムVR】を被り寝そべっている。ここに永夢と高山が二人してSAOの世界に向かい救いに行くのだ。だが同時に命の危険性もある上に、1度入ってしまえばクリアするまで2度と戻れない仕様になっている。

 

 

 そこは檀黎斗が上手くやってくれると期待していたが、その檀黎斗でさえも2人が現実世界とVR世界を行き来することは出来ない結果となった。何が作用しているのかは既に檀黎斗は聞いていた。恐らく考えられるのは……

 

 

 

〔カーディナル・システム。学習をし続けるSAOの要によって、この私でさえもこのザマだ。AIというのは時として私のような才能の持ち主を越えるからなぁ……ひっじょうに腹立たしいがなァ!〕

 

 

「いえ、ありがとうございます黎斗さん。この様な介入が出来るのも、黎斗さんのおかげですから」

 

 

〔……そうか…………そうかぁ!やはり私はAIを越えるおt〕

『宿主、時間だ』

「了解。宝生さん、パラドさん」

 

 

「準備はOK。パラドの方も何時でも行けるって」

 

 

 

 高山は永夢に頷き、ゲンムVRを装着する。永夢も同じように装着した。

 

 

 

「それじゃあ……黎斗さん!お願いします!」

 

 

〔ガシャットの件は任せたまえ!では……2人とも行けぇえ!〕

 

 

 

 檀黎斗がキーボードのエンターキーを押すと、高山と永夢の2人は電脳空間へと誘われる。ピンクの幾何学的模様が2人の視界を覆い、そして到達すべき場所へと辿り着く。

 

 

 2人の視界に入ったのは、中世風の街並み。そこで人は殆ど見かけなかったが、居るには居る。恐らく何処か別の場所に訪れているのだろうと予想する2人であったが、その後自分達の姿を見た。

 

 

 

「……やっぱり、適応されてるか。この世界に」

 

 

「ゲムデウス、居る?」

 

 

『問題ない。パラドの方も居るぞ』

 

 

「取り敢えず……侵入には成功してと。この後はどうしましょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先ずはステータスを見てみると良い」

 

 

 突如後ろから声を掛けられてきたのだが、その前に高山と永夢はこの声を聞いたことがあった。それはあの時、自らこの事象に頼んできた人物ただ1人。

 

 

「茅場先輩!?」

「茅場さん!?」

「シーっ……出来れば本名は避けてくれ」

 

 

 そう、茅場晶彦その人である。しかし風貌は結構変わっており、白髪ロン毛の高身長……少し老けた様な姿をしていた。3人は集まって小さな声で話し始める

 

 

ちょっと、何で先輩が居るんですか!?待っててくだされば良かったのに!

 

 

ここは私のゲームだ。つまりはだな……

 私のゲームを、理想を!勝手に弄ぶ輩はこの手で捕らえるゥ!そしてその罪の重さを理解させてやるのだァ!」

 

 

「うわぁ……黎斗さんが2人居る……」

 

 

〔そいつと一緒にするなァ!〕

 

 

 

 ハプニングは色々あったものの、先ずはこの世界の創造者に色々と聞かねばならない事が幾つもある。というわけで茅場にレクチャーされる結果になった。

 

 

 

「さて、この世界に適応すべく私達は色々知らなければならい。先ずはだが右人差し指で下にフリックしてくれ」

 

 

 

 高山と永夢の2人は指示通り行うと、そこにはマネキンと様々なアイコン。そして予想通りログアウトのボタンは無く、この世界に閉じ込められた事を意味している。

 

 

 

「マネキンの方は現在の自分を意味している。HP残量などは自分の視界の左上にあり、そこで状態異常なども確認できる」

 

 

「あとは英語表記で……これがステータス…………」

 

 

「どうしました、高山さん?」

 

 

〔ここではプレイヤー名を言え。宝生永夢は英単語の『M』、高山君はゲムデウスから『デウス』と命名した〕

 

 

「僕そのまんまじゃないですか」

 

 

「因みに私は『ヒースクリフ』と名乗っているから、そこの所宜しく。さて……デウス君、何が?」

 

 

「あの……これ…………」

 

 

 

 高山に呼ばれるがまま永夢と茅場は高山のステータス画面を覗き込んだ。そして、その異常な()()に衝撃が走った。

 

 

 

「えっ……嘘ぉ!?」

 

 

「な、なぜ君のステータスが……レベル35相当のものなんだ!?これで5層は平気だぞ!?」

 

 

〔恐らくゲムデウスウィルスの侵蝕率で、その分高山君のステータスも上昇したのだろうな〕

『恐らく私のウィルスの侵食率で、その分宿主のステータスも上昇したのだろうな』

 

 

「ごめん、一気に言わないで」

 

 

「えっ……じゃあ僕のステータスは……あれ?」

 

 

〔恐らく永夢はパラドに侵蝕されてないからこそ、普通のステータスになったんだろう。それほどまでに高山君とゲムデウスの侵蝕が進んでいるということになるな〕

 

 

 

 高山とゲムデウスウィルスによる異常性を突き付けられた後は、色々ありながら用意された武器や防具などを装備していく。高山は両手斧とサブウェポンに片手剣と盾、永夢は片手剣、茅場は剣と盾を両方装備している。

 

 

 

「……物凄く軽いです」

 

 

「君のウィルスが、こうもVR世界に馴染むとは……あの時のデータはこれが理由だったのか……」

 

 

「と、ともかく!次はガシャットの方に!」

 

 

〔永夢すまない。少々厄介なことが起きた〕

 

 

「えっ?」

 

 

 

 

 

 

 

〔ガシャットデータを送ったには送ったが……今送れたのは、()()()1()のデータしか送れなかった〕

 

 

「「 !? 」」

 

 

「レベル1……4年前に見た、あの時の」

 

 

 

 現在レベル1のデータしか使えないとなると、様々な厄介事が多発してしまう。特に高山が使っていたガシャットは全てダブルタイプ……つまりレベル2桁ばかり=高山は活躍できないとなる。

 

 

 

〔やはりカーディナルが邪魔をしているらしい。面倒だ……打開策があれば即ガシャットデータを投入していくつもりだ。あとはデウスだけだが……その点は心配ない、他のレベル1のガシャットデータを送る〕

 

 

「あ、良かった……ホッ」

 

 

「これで一応、戦えますね」

 

 

「えぇ。けど心許ないのも確かですね……それまでは生身で戦う方が良いかと」

 

 

「確かに……それまで僕達はレベル上げをしなきゃ、戦えませんし」

 

 

「では1層で良い狩場は確か……あぁ着いてきてくれ2人とも」

 

 

 

 茅場(ヒースクリフ)に案内されるがまま、高山(デウス)永夢(M)は狩場まで移動していく。移動していくのだが……ダッシュの速さが高山の場合、ステータス補正が付いて2人より速く走れてしまった。

 

 

 そして筋力値も高いので……結局速く到達する為にデウスは2人を運んで移動していったそうな。

 

 

 

『中々シュール過ぎないか?』

 

 

「僕もそう思ってるよ。でもここは合理的に……!」

 

 

『無理しなくて良いぞ』

 

 

「無理しちゃう結果になっちゃったんでしょーが!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして狩場に到達し、早5時間が経過し夕暮れになった頃。デウスとM、ヒースクリフは1層の軽食屋に行った。流石に本物の再現とまではいかず、何やら似たような物を食べている感覚に陥っていた。

 

 

 そしてステータスの方だが、ヒースクリフはレベル5にまで上昇。Mもレベル5にまで上昇した。しかし高山だけ……レベル3までしか上がらなかった。

 

 

 

「…………それでも相変わらずステータスはエグいんですよねぇ」

 

 

「多分……ステータスが異常過ぎて、レベルの上昇が妨げられてるって解釈かもね。カーディナルもデウスのステータスに細工できなかったのかも」

 

 

「そして発見したことも1つ。どうやらガシャットはプレイヤーのレベルが上昇する毎に解禁されていくシステムだということ……その場合、高山君が使う形態に変身できるまで異常なレベリングが必要らしいな」

 

 

「あと個人的に1つ」

 

 

「「 ? 」」

 

 

 

 

 

 

「VR世界に適応しすぎて、VRでも()()()()()()()()

 

 

「なっ!?……そ、その様な弊害が……!?」

 

 

「……あぁ!だからお腹抑えて!」

 

 

 

 このSAO。疲労や疲弊が無い無限スタミナという仕様であるが、空腹感というのは現実から擬似的にプレイヤーに伝わる仕様である。しかしSAOは空腹感を真に満たす為には現実で食事しなければならない。さらにSAOの食事は1部好んで食べようとするものではない。

 

 

 しかしデウスだけは仕様が違っていた。食事をVR世界でもしなければ、現実世界でも()()のだ。単にVR世界に適応し過ぎるのも不味い……いやデウス(高山)自身が不味いのだ。

 

 

 そして現在、漸くお腹も膨れて落ち着いた。そして回復アイテムで増えるHPも、食事をして回復していた。これは便利なのか不便なのか……それは誰にも分かりはしない。

 

 

 

「さてっと……今使えるガシャットがぁぁ……」

 

 

「僕はレベル5までだから……【ドラゴナイト・ハンターZ】まで変身できるね」

 

 

「僕は……レベル3までの全て。ねぇゲムデウス、何が俺にあってる?」

 

 

『近距離戦と蹴り技が主流だったからな……良さげな所で【タドルクエスト】と【ギリギリチャンバラ】の組み合わせだな』

 

 

「タドルクエストにギリギリチャンバラね……遠近両用の攻撃ができるか……」

 

 

『少々難がある上に元の使い手の戦闘スタイルから選んだ分、そのギャップ差というのが顕著に出てくるからな』

 

 

「それもそうだよねぇ……こればっかりは慣れしかないか」

 

 

 

 そんな話しをしながら、やはり気になることは1つ。この異常性に対し、そろそろ誰もが気付き始めそうな頃合なのにも関わらず……未だに何も反応は無い。

 

 

 

「……しかし、何も起きないな。もう何か行動をするハズなのだがな……」

 

 

「……確かに。何もアクションが無いのも考えものですよね……」

 

 

『……なぁ永夢』

 

 

「ん、どうしたパラド?」

 

 

『いつもこんな物食ってんのか?何か微妙だった』

 

 

「あぁ……いや、何も現実世界はこんな味では無かったよ」

 

 

「それを私の前で言うのか。言ったんだな」

 

 

 

 その会話の最中に辺りのプレイヤー……そしてデウスやM、ヒースクリフにも該当している。プレイヤー全てに粒子状のものが発生した。

 

 

 

「!先輩これは!?」

 

 

「これは……転移時のエフェクト!強制転移か!」

 

 

「一体……何処に!?」

 

 

 

 そしてその場から消える、全員消えた。

 

 

 3人の次に映った視界は、最初の広場であった。

 

 

 

「最初の……!でも何d」

 

 

 

 そう言おうとして、周りの()()()()()()()感覚を覚えた。ゲムデウスウィルスによってデウスは動いたのだが、この光景に見覚えがあった。

 

 

 

「ゲムデウス、これって!」

 

 

『これは……ポーズ!だがアイツはあの時…………!宿主、そちらもだが右端を見ろ!』

 

 

「何…………って、あの人……動いてるのか!?」

 

 

 

 そう、デウスの他に動いているプレイヤーを発見したのだ。そして空の方から電子音が聞こえてくると、デウスとそのプレイヤーは空を見上げた。そこで2人は目にした。

 

 

 

 

 【仮面ライダークロノス】の姿を

 

 

 

 

 

 

 



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Nightmareの再来 パート3

「仮面ライダー……クロノス……!でもあの人は確か……!」

 

 

『あの場にクロニクルガシャットさえ無かったのは覚えている!だが……何故この世界に居る!?』

 

 

「『檀正宗!』」

 

 

 

【RESTART】

 

 

 

 目の前のクロノスがバグルドライバーのABボタンを同時に押すと、時が動き始めた。時が動いたことによって周囲の人間の時間も動き出し、ヒースクリフとMはデウスを見やる。

 

 

 しかしデウスだけ違った方向を見ていた為に、その2人もデウスが向けている視線の先を見た。

 

 

 

「ッ、クロノス!?」

 

 

『どういう事だ!?檀正宗なら既に!』

 

 

 

 Mが空を見て叫んだことで、全員がそちらを見やった。そして仮面ライダークロノスの姿に驚愕していくプレイヤーが続出し始めた。

 

 

 当たり前だ。仮面ライダークロノスとは4年前に震撼させた画期的なARとVRを融合させたゲーム【仮面ライダークロニクル】の中に登場する“伝説の戦士”、そんな存在が4年の時を経てSAOに現れたことが信じられないのだ。

 

 

 そして空に現れた仮面ライダークロノスは、下を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

〔諸君、()()のゲームへようこそ〕

 

 

「なに……?」

 

 

 

 その発言でヒースクリフが苛立ちを覚えたのも束の間、空に浮かび上がる仮面ライダークロノスは続けて言った。

 

 

 

〔このマスター権限は今や、私の手の中にある。この世界を私の思うがままにすること……そんなこと今は容易い。例えばだが

 

 

 ()()()()()()()()()こともなぁ〕

 

 

 

 そこでやはり騒がしくなる人間が多数いる。しかし騒がしくなる中でも、これはチュートリアルの1巻だとそう思っていた。だが茅場晶彦が、仮面ライダークロニクルのボスを参加させるのだろうかと予想するプレイヤーも居た。

 

 

 そして後者を予想した人間は、それが当たっていたことを知る。

 

 

 

〔半信半疑みたいだな諸君。ならば真実を見せてやる〕

 

 

 

 すると仮面ライダークロノスの両隣や、プレイヤー付近の上空にホログラム映像が流れ出した。しかしそれは単なる映像ではなく、()()()()ことを発表するニュースであると。

 

 

 

〔この序盤で死んだプレイヤーが居るだろう?そしてそのプレイヤーが何故帰って来なかったのか、疑問に思わなかったのか?

 

 

 もう既に()()()のだよ。そのプレイヤー達は〕

 

 

 

 そうして映し出される映像に、心当たりのある人物が発見することで……この映像にも仮面ライダークロノスの発言にも信憑性が高まった。同時に恐怖も与えた。

 

 

 

〔君達の装着しているナーヴギア……もしそれを無理やり外した場合でも君達は死ぬことが決められている。

 

 

 そして君達のHPバー……それが無くなったとしても、現実の君達は脳を焼かれて死ぬのさ。これが……私の決めたルールだぁ。

 

 

 ではこの事態を解決するにはどうするか?

 

 

 簡単な事だ。君達が100層にまで到達し、あるボスを倒してもらえれば君達は元の世界に戻る事が出来る。それが……コイツだ〕

 

 

 

 全てのプレイヤーの上空に、大きく映し出されるホログラム。そして映っていたのは……驚愕すべき存在であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()。仮面ライダークロニクルのラスボスだ……コイツを100層で倒せば、君達の命は保証しよう〕

 

 

「「「 なっ!? 」」」

『私……だとっ!?』

 

 

〔さぁ諸君!1万人のプレイヤー諸君!

 君達の運命を決めるゲームを始めようではないか!

 

 

 ソードアート・オンラインという微温(ぬるま)湯のゲームではなく!

 

 

 【クロニクルアート・オンライン】またの名を……

 

 

 

【CAO】を!

 

 

 

 

 もう1つの現実を!とことん楽しむが良いィ!〕

 

 

 

 そうクロノスが言い切ると、全プレイヤーが光に包まれる。

 

 

 

「ッ!?な、何が起きて!?」

 

 

 

 誰かがそう叫んだ途端、光が治まった。しかし治まった後で気付いたのは……最も面倒なことであった。

 

 

 

「……!先輩、顔!」

 

 

「顔……?一体どういう……」

 

 

()()()なんですよ!多分全員!」

 

 

「…………何だとォ!?」

 

 

 

 そう、全てのプレイヤーがリアルそのものとなっていたのだ。これではパニック所の騒ぎでは無い。全てのプレイヤーの個人情報とも言える“顔”が、仮想世界で暴かれた状態にあるのだ。

 

 

 特に著名人である茅場晶彦(ヒースクリフ)や、その他の有名プレイヤーの本当の性別や顔など……様々な問題が起きている。全員パニックに陥っている中で、ヒースクリフは素早く頭装備にフードを装備する。

 

 

 

「先輩、いつの間に……」

 

 

「慌てず騒がす不明のプレイヤーで行こうと予定していたが……とんだ誤算だった。まさかここで使うとは」

 

 

「用意周到ですね……でも今は全員を!」

 

 

 

 デウスとMは互いに頷いて、大声を出しながら広場を駆け巡る。

 

 

 

「落ち着いて下さい!皆さん落ち着いて!」

 

 

「CRから派遣されましたドクターです!皆さん落ち着いて!」

 

 

「ドクター……?まさか、CRって……仮面ライダーだ!仮面ライダーが来てくれた!」

 

 

 

 一先ずは……といった所だろうか。しかしまだ混乱は治まっていない。このままではパニックが蔓延して恐怖を与え、終いにはクリア出来ても後遺症が残ってしまう恐れがあった。

 

 

 そして今のドクターの数と、プレイヤーの数では割に合わない。仮面ライダーが駆けつけてきた事により安堵する者や、未だにパニックとなっている者と2分されていようと対応に追い付かない。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな時、広場の何処からか気持ちの良い音楽が流れてきた。ハーモニカの音色から始まり、次にギターの音色が流れる。その心地良さに誰もが足を止めて、その音色のする方向を見た。

 

 

 男プレイヤーが2人。それぞれ大剣と短剣を装備しているのだが、デウスとヒースクリフの両名はそのプレイヤーに既視感を覚えていた。というよりもあのプレイヤー2人に対しては特に覚えていた。

 

 

 デウスは1度、βテスト時に戦った相手として。ヒースクリフは自分の想像力を掻き立ててくれたプレイヤーの2人として。

 

 

 

「あの人達……って、まさかあの時の」

 

 

「あの2人は……『ゼロ』と『バダン』……」

 

 

 

 短くも体感時間では長く感じた。そしてその音楽に聞き惚れた全員が足を止めて、結果自殺者というのを殆ど出さずに済んだ。そう考えて良いと思ったデウスとMは少しだけ安堵した。

 

 

 

「お前ら!何しれっと自殺しようとしてんだよ!?

 アイツが言ってただろ!?あのゲムデウスとかいうボスを倒せば良い話じゃねぇか!

 

 

 お前らが自殺する度に、そんなチャンスが減っていって……終いには誰もラスボスを倒せはしねぇだろ!

 

 

 だが俺達には何がある!?

 お前らが装備しているのは何だ!?

 

 

 ()()()()()だろ!

 だったら武器を取れ!そして叫べ!

 俺達は必ず現実(リアル)に帰ると!

 そう信じて死なねぇ様に生き延びろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだ……そうだ!」

「俺達には今、武器がある!」

「100層目指してゲムデウスを倒せば、俺達は帰れるんだ!リアルに!」

「けど怖い……でも、怖いって言って現実で死ぬのはもっと怖い!」

 

 

「その気がありゃあ充分だ!だったら100層に辿り着くまでに鍛え上げろ!そしてラスボスにトドメをさして、ゲームクリアさせるぞ野郎共ォ!」

 

 

『『ぉおおおお!』』

 

 

「な、何て先導力……!」

 

 

「けど、これだと皆が頑張っていける気がするよ」

 

 

「…………」

 

 

 

 その先導力は約1万人の中の男衆の決意を固めた。

 その先導力は約1万人の中の女衆の決意をも固めた。

 

 

 彼、ゼロは特に人望に優れたプレイヤーだ。それは現実でも変わりなく、殆どの者が彼を頼ったりする。

 

 

 まるでそれは“光”、とても大きな光であった。

 

 

 しかし1万人を束ねようとして、打倒ゲムデウスの発言をしたのは……ある意味不味かった。ヒースクリフやM、パラドや檀黎斗が……そしてデウスと、ラスボスに指定されたゲムデウス自身もが“葛藤”を抱いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あき……ら……?」

 

 

「ッ!?」

 

 

 

 ふと、デウスの本名を知るプレイヤーから声を掛けられた。振り向くと、そこにはデウス(高山明)が愛する女性の姿があった。

 

 

 

「優美……優美なのか?」

 

 

「やっぱり……明だ……!」

 

 

 

 目に涙を浮かべながらデウスに抱き着く優美。それを優しく受け止めたデウスは、少し躊躇したものの頭を優しく撫でた。

 

 

 

「助けに来てくれた……私のヒーローが……!」

 

 

「……あぁ、助けに来たよ。僕が……()()が」

 

 

 

 人目をはばからずに抱き着いている2人を見て、女性陣は赤面し男性陣はポカンとしている。そして何やら、何処かで動きがあったみたいだ。

 

 

 

 

 

 

()()!」

 

 

「……この声は、確か」

 

 

 

 声のする方向を見ると、特徴的な栗色の髪の毛をたなびかせてやって来る1人の少女が。

 

 

 

「明日奈ちゃん!?」

 

 

「先生!やっぱり先生だ!」

 

 

「姉ちゃんほら!仮面ライダーの先生居るって!早く早く!」

 

 

「ちょ、ちょっとユウキ!」

 

 

「まさか……っ!」

『……おいおいマジか』

 

 

 

 そしてやって来る2人の少女。短髪と長髪の女の子2名がデウスの元へやって来る。

 

 

 

「木綿季ちゃん!?それに藍ちゃんまで!?」

 

 

「……せ、先生!」

 

 

『今度の声は……もう大方予想が付いてしまったが』

 

 

 

 そして現れてくる童顔の黒髪の少年。

 

 

「桐ヶy……!」

 

 

「しぃーっ!……こ、ここでは『キリト』って名乗ってます」

 

 

「あ、あぁ……そうだった。君達のアバターネームは?」

 

 

「ユウキだよー!」

「ランです」

「アスナにしました」

『己らアバターネームの意味わかってるのか?』

 

 

「おっ、んだよキリト。お前の知り合いかよ」

 

 

 

 そして集まって来たのは、何もこの4人ではない。先程1万人を導いていたゼロという少年とバダンという少年、そして他に少女も来ていた。

 

 

 

「君達は……」

 

 

「俺はゼロ。さっきそこで言ってた奴だ、宜しく頼むぜ。あとそのキリトとは知り合いだ」

 

 

「バダンだ……この馬鹿に振り回されてる。そこのキリトとは見知った関係だ」

「おいコラ」

 

 

「『シノン』よ。宜しく」

 

 

 

「あ、あと先生!他にも連れてきて良いかな!?」

 

 

「誰をだい?ユウキちゃん」

 

 

「ちょっと待っててね!」

 

 

 

 素早く人混みの中に入り混み、そしてまた素早く戻って来た。両手に2人の手を掴んでいる状態で。

 

 

 

「ほらこの子達!困ってたから、先生みたいに助けたの!」

 

 

「あ、あの……どうも」

 

 

「こ、こんにちは…………」

 

 

「大丈夫だよ2人とも!先生は信頼できるから!」

 

 

 

 その様子を見ていたデウスは微笑みながら、その2人に視線を合わせる様にしゃがんで質問を投げかけた。

 

 

 

「初めまして、仮面ライダーのお医者さんさ。良ければ君達の名前も教えてもらって良いかな?」

 

 

「り、『リズベット』です。宜しくお願いします!」

 

 

「あ、アタシは『シリカ』って言います!」

 

 

「宜しく2人とも。ここではデウス……“神様”って意味で名乗らせてもらってるよ」

 

 

「「 こ、こちらこそ! 」」

 

 

 

 こうしてデウスを中心に、また新たなチームが組まれていくことになった。だがこれは、デウスが積み重ねてきた1つの思いやりが形になったものだと推測しよう。

 

 

 

 

 

 

 




次回『Dr.ゲムデウス』は!

 新たに集いし仲間たち!

「スゲェ面子だな……こりゃ」


 しかしデウスには彼らに話さなければならない秘密が!

「そんな……そんなのって……!」


 そして初クエスト!に厄介な奴等が!?

「何でこの世界にコイツらが居るんだ!?」


 次回『デウスの話すsecret!』





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デウスの話すsecret! パート1

 翌日のことであった。始まりの広場内にある宿屋は全室埋まっており、結果的に始まり広場から先へと進んだ【ホルンカの村】にまで1行は到着した。そこの宿屋も広いとは言い難いが、あまりプレイヤーが訪れていないということもあって空き部屋は多かった。

 

 だが如何せん人数が人数だ。計13名という大所帯の様な人数での移動というのは骨が折れることもある。まだVRMMOに馴染めていない者も居れば、逆にステータス差に気付かれないように動くデウスも居る。

 

 

 そんな危険性を孕んだまま、ホルンカの村まで到着したのだ。それに疲れたデウスはヒースクリフとMと一緒の部屋に居た。

 

 

 

「……レベルが……上がらない……です」

 

 

「ステータスだけは異常なんだがな」

 

 

「移動中でも僕らが3か2レベまで上がったのに、デウス君だけギリギリレベル1だしね……」

 

 

「漸く4……そしてお腹が……」

 

 

 

 そう言った直後、デウスの腹の虫が鳴った。2人が少しだけ苦笑いを浮かべるが、当の本人は生死を分ける様なこと。流石に1食抜いて死ぬことは無いが、腹が減って力も出ない。

 

 

 

〔心配するなぁ……君にはとっておきを用意しているぅ〕

 

 

「とっておき……?」

「というか通信しててカーディナルに邪魔されたら不味いんじゃ?」

 

 

〔通信のことは心配なぁい!デウスとM!そこのヒースクリフにのみ聞こえる様に制限を掛けた!これであればカーディナルの監視も抜けたぞぉ!〕

 

 

「何故だか負けた気が……」

「先輩、今は気にしてる場合じゃないです。それより、とっておきって……?」

 

 

〔ゲムデウスウィルスに、新たなガシャットデータを読み込ませた。その名は……〕

 

 

「「「 その名は? 」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〔【ジュージューバーガー】だぁ!〕

「ジュージューバーガー!?何で黎斗さんがそのガシャットを!?」

 

 

 

 Mだけが驚く中、やはりというべきかヒースクリフとデウスだけは疑問符を浮かべている。しかし1度ジュージューバーガーをクリアしたMは、このガシャットを檀黎斗が選んだ理由は即座に理解した。

 

 

 

〔小星作からはデスゲームクリアという名目で気前よく借りることが出来た。あとはデウスの中にあるゲムデウスウィルスにデータをコピーすればOKだぁ〕

 

 

「じゃあ……バガモンも!?」

〔居るに決まっているだろう!バーガー製作の為にゲームしていてはキリが無いのでなぁ!〕

 

 

「あの、ジュージューバーガーって……?」

 

 

「あ、あぁごめん。ジュージューバーガーは()()()()()()()()()ゲームでね、黎斗さんはデウス君の為に用意したんだ」

 

 

「「 ハンバーガー!? 」」

『腹減ってるのならさっさとしろ宿主。体力が持たんぞ』

 

 

「そ、それじゃあ……フッ!」

 

 

 

 ゲムデウスウィルスからガシャットデータを取り出す感覚で、先程言われたジュージューバーガーのガシャットデータを取り出したデウス。

 

 

 表は黄色で裏は赤という色となっており、ガシャット読み込み部分にはハンバーガーの絵が薄らとある。迷わずデウスはジュージューバーガーのスイッチを押した。

 

 

 

【ジュージューバーガー!】

 

 

 

 すると手持ちのガシャットからバグスターウィルスが外に出現した。そのバグスターウィルスは形を成していき、遂にバガモンの姿が登場した。

 

 

 

「バガモン!」

 

 

「永夢〜!久しぶりだガー!」

 

 

「バガm」

「バガモン!」

「へぶっ!」

 

 

 

 永夢がバガモンに向かおうとしたが、それより先にパラドが永夢から出現し永夢は倒れる始末となった。

 

 

 

「ええ永夢さん!ちょ、大丈夫ですか!?」

 

 

「だ、大丈夫……」

 

 

「あ……永夢ごめん!」

 

 

「だ、大丈夫ガ?」

 

 

「あはは、平気平気……それよりバガモン、皆にハンバーガーを作ってくれないかな?」

 

 

「それならおまかせだガー!」

 

 

 

 バガモンの右腕に設置されているベルトコンベアにパティ、レタス、ミート、トマトなどを置いていくと、そのベルトコンベアが流れていく。そして材料が集まっていき、1つのハンバーガーが出来上がった。

 

 

 

「「 おぉ! 」」

 

 

「ハンバーガー出来たガー!誰から食べるガ?」

 

 

「あの金髪の人に渡してあげて。お腹空いてるから」

 

 

「わかったガー!」

 

 

 

 バガモンは出来上がったハンバーガーをデウスに渡すと、デウスは“いただきます”と言ったあとハンバーガーを頬張る。すると表情が目に見えて喜びに変わり、ハンバーガーを完食していった。

 

 

 

「ご馳走様でした!ありがとうバガモン!美味しかったよ!」

 

 

「それは良かったガー!」

 

 

「先輩も食べて下さいよ!本っ当に美味しいですから!」

 

 

「ほぉ……それなら私も1つ良いかな?バガモン」

 

 

「喜んで作るガー!」

 

 

 

 結果、ハンバーガーを食べて上手いと感じたヒースクリフもバガモンの作るハンバーガーの虜となってしまったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さてハンバーガーを食べ終えて、何故かは知らないが本日デウス、『リーゼ・ロッテ(藍原 優美)』、アスナの泊まる部屋に全員集まっている。なぜこの場に招集されたのかは未だに理解できない者は、集めたMとヒースクリフとデウスに疑問を抱いていた。

 

 

 そんな疑問をズバズバと言い切るゼロは、正しく豪胆不適とも言うべきなのだろうか。

 

 

 

「お医者さんよ。俺達をここに集めた理由は一体何よ?」

 

 

「それは今から……僕、デウスが話すよ。君達には知ってもらいたいと思っている事だから」

 

 

「知ってもらいたいこと……ですか?」

 

 

 

 シリカがそう尋ねる。それにデウスは頷いて応えると、両瞼を閉じて息を少し吐いた後で全員に伝える決心をした。迷いはまだあるが、それでも言わないよりかはマシだ。

 

 

 

「100層のラスボスであるゲムデウス……その事についてなんだ」

 

 

「……ゲムデウスが、どうかしたか?」

 

 

 

 

 

 

 

「僕の中に、ゲムデウスが居るんだ」

 

 

「……悪いが、冗談は無しにしてくれよ」

 

 

「今から証拠を見せるよ。待ってて」

 

 

 

 そう言ってデウスは右腕からゲムデウスウィルスを出すと、そのゲムデウスウィルスが形を成していく。作り上げていくのはゲムデウスが使用する剣、デウスラッシャーであった。

 

 

 急に取り出された剣に殆どが目を丸くする中、やはりと言うべきかMとヒースクリフは驚かなかったものの、1度デウスのライダーとしての活動を見ていたリーゼ・ロッテだけは目を丸くした後、デウスに向かって微笑んだ。

 

 

 

「これはゲムデウスが使う剣。名前を【デウスラッシャー】っていうんだけどね……僕もこれを召喚できるんだ。4年前に適合して以来」

 

 

「じ、じゃあ!先生が変身できるのは……」

 

 

「ゲムデウスが中に居るからさ。ドクターライダーはバグスターウィルスを弱毒化させたものを投与して、変身できているからね。……無論、バグスターウィルスそのものが居ても変身は出来るんだ」

 

 

「それがドクターライダーのシステム……成程、変身できれば適合者か感染者か。そしてデウスはゲムデウスとの適合を果たしたと……」

 

 

 

 纏めて伝えたのはバダン1人であった。デウスは頷きデウスラッシャーを消すと、真剣な表情のまま話す。

 

 

 

「皆にこれを伝えたのは、僕の違和感を後から感じる可能性が出てきた事と……君達なら信じられると思ったからだ。

 

 

 ゼロ、バダン。君達はあの始まりの広場の騒動を沈静化させた。そのリーダーシップを信じて、僕の秘密を話した。

 

 

 他の皆は……今まで出来た繋がりから信じたいって思ったんだ。キリト君、アスナちゃん、ユウキちゃん、ランちゃんは僕を知っている……でも他の3人は全く知らない。でも誰かが助けた人も、僕は信じたいって思っている。

 

 

 君達全員を、信用して……僕は秘密を話した。本来なら裏切られても良い位のことをね」

 

 

 

 そう。ゲムデウスがここに居るということは、隙を見てデウスを殺せばこのゲームはクリアとも言える。ラスボスであるゲムデウスを倒した……ということに当てはまるのだから。

 

 

 この世界でデウスが死んで、残りのプレイヤー全てを救うのか。100層にまで到達し、デウスが死ぬか……結局のところ死ぬことには代わりないが、早いか遅いかの問題である。人命救助とするならば、デウスを殺せば済む話であった。

 

 

 

「そして君達に、判断してもらいたかった。今ここで僕を殺すのか、100層まで到達して殺すのか……今すぐに帰りたいのなら僕の命を」

 

 

 

 

 

 

 

「ダメだよ」

 

 

 

 しかしデウスの言葉を遮る、優しい声が部屋に響いた。その声の主は、デウスの恋人。

 

 

 

「リーゼ……」

 

 

 

 ゆっくりと座っていたベッドから立ち上がり、デウスの元に歩み寄るとデウスに寄りかかった。デウスだけは成すがまま。

 

 

 

「ダメ、君はまだ生きてかなきゃ。

 

 

 君に救われた人達に、そんなことを言っちゃダメ。

 君が死んだら、悲しむ人が居るからダメ。

 

 

 それに……私が居るのに、それはいけないよ。

 君は人の為に……私達の為に()()()

 

 

「リーゼ……」

 

 

「まぁそれにだ」

 

 

 

 そのやり取りにヒースクリフが割り込んだ。

 

 

 

「このゲームを乗っ取ったのが仮面ライダークロノスだとわかった以上、我々が倒すべきはクロノスの筈だ。デウス、君が死ぬ理由はこれっぽっちもない」

 

 

「そ、そうですよ!私だって……先生に救われて……お母さんとも仲直りできて……!先生が助けてくれたのに、先生を殺すなんて……!」

 

 

「アスナちゃん……先輩……」

 

 

 

 

 

あーったくメンドクセェなぁオイ!

 

 

 

 突然声を張り上げたゼロ。一気に全員の視線がゼロに向くが、そのゼロに対しバダンとシノンは無言の腹パンを与えていたので腹を押さえていた。

 

 

 

「と、とにかくよォ……要はゲムデウスじゃなくて、あの仮面ライダークロノスを倒せばOKって事だろ!?簡単じゃねぇか!」

 

 

「ま、それ()()なら苦労はせんがな」

 

 

「けどそっちの方が良いのよね?だったらゼロの意見に賛同するわ。無茶苦茶だけど」

 

 

「ちょ、ちょっと待って!クロノスには時を止める厄介な能力が!」

 

 

「それでは聞くが……クロノスに対抗できるのは?」

 

 

「今の所は……ゲムデウスウィルスを持つデウス君だけ」

 

 

「ならば簡単だ。ゲムデウスと仮面ライダークロノスとの一騎打ちをさせれば良いわけだ」

 

 

「無茶苦茶な……でもまぁ、僕もデウス君を殺そうなんて微塵も思ってないけど。そうでしょ?皆」

 

 

 

 Mの問いに全員が頷いた。この中に救われた者が居るのに、仇で返すのは如何だろうか?そんなもの自分の心が苦しくなるだけだ。

 

 

 だから()()。デウスというプレイヤーを守る。全ての元凶が倒されるまで守り続ける。それが彼らの思いであった。

 

 

 

「そっか……そっか…………

 

 

 なら、お人好しの皆に……守られようかな。

 こんな僕を、守ってもらおうかな」

 

 

「お人好しは先生の方じゃないの?」

 

 

「こらユウキ」

 

 

「いや、あながち間違ってない」

 

 

「ははは、こりゃ1本取られた」

 

 

 

 

 

 

 

 



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デウスの話すsecret! パート2

 デウスが秘密を話してから少し時間が経った頃、1行は二手に分かれて行動を開始していた。このホルンカの村近くに“片手剣専用クエスト”が存在する情報から、メンバーを決めて決められた人数だけで行動する。

 

 

 そのクエストを受けるのはキリト、ユウキ、ヒースクリフ、デウスの4名。他はクエストで手に入る片手剣の強化素材を集める役割を担う。片手剣持ちは全部で5名だが、流石に大人が1人居なければ安全性にも問題が出るのでMとリーゼ・ロッテを残した。その代わりと言ってはなんだが、デウスがMの分の剣を手に入れる約束をした。

 

 

 そして道中でもモンスターは面倒な程出てくる。そして倒していくのだが、やはりデウス以外のレベルが1だけ上がったのに対し、デウスだけはレベルは上がらず。やるせない気持ちの中漸くクエストエリアまで辿り着いた。

 

 

 そのクエストエリアには小さな民家が1つだけポツンとあった。そしてその中に住む1組の親子、その中の母親からのクエストだ。子どもが病気にかかったが、どんな薬を試しても治らなかった。しかしその中で、付近の()()()()()植物系モンスターから手に入るアイテムを手に入れて来て欲しいという内容であった。

 

 

 そして漸くモンスターと遭遇して、花付きの【リトルペネント】と呼ばれるモンスターを倒している最中であった。

 

 

 

「あーもう!うざったい!」

 

 

「先生、そっち行ったよ!」

 

 

「はいっと!」

 

 

 

 ポリゴン片に変わるリトルペネント。デウスの苛立ちをぶつけられる憐れなキャラと成り果ててしまった。

 

 

 

「何で先生はあんなにイライラしてるんだ?」

 

 

「ゲムデウスウィルスのせいでステータスが可笑しくなってから、レベルの上がり具合が著しく低いのさ。しかもレベルが低ければガシャットにも制限が掛かるから死活問題なのだよ」

 

 

「よっしゃー!やっと5ー!」

 

 

「先生あっちに花付き居た!」

 

 

「「「 今すぐ向かうぞ! 」」」

『何だ、このギャグ?』

 

 

 

 そこで先ずは1体目の花付きを狩り終えて、目的のアイテムを1つ手に入れた。残り4つ手に入れれば片手剣持ちは揃う。

 

 

 因みにだが、片手剣使用者は5名に短剣使用者は3名。アスナがレイピア、ランが曲刀、バダンが大剣、リズベットは片手棍、デウスはメインが両手斧である。片手剣と盾はサブ。

 

 

 デウスの振るう一撃は素早く、本当に両手斧を振るっているのか理解し難い程。デウス自身はいつも使っていたガシャコン・シールドのアックスモードを振るっている感覚と似たような感覚に陥っている為、違和感は無い。

 

 

 レイピアには劣るが、片手剣並の素早さで振るわれる両手斧なぞ誰も想像したくないだろう。そんな感覚で振るえるデウスがある意味末恐ろしい。

 

 

 

「今度はボクの番ー!」

 

 

「ちょ!危ないから出すぎんなよ!」

 

 

「へーきへーき!」

 

 

「デウス君、こうしてゲームをプレイしてくれると……やはり製作者冥利に尽きるんだよ」

 

 

「オラオラオラァ!」

「ねぇ聞いてくれないか?」

『ここでも我々は変わらんなぁ……』

 

 

 

 ヒースクリフが感慨深くなっていても、プレイヤーはそんなこと気にしてない。それはデウスにも当てはまったらしい。

 

 

 そんな中、ゲムデウスが違和感を感じた。たった少しの違和感なのだが、どうにもこうにもゲムデウスは違和感を拭い切れずにいた。

 

 

 

『……むぅ?』

 

 

「ゲムデウス?」

 

 

『いや……何やら違和感をな』

 

 

「?……ゲムデウスが感じる違和感って、結構限られてくるよね。同じバグスターウィルスとか……」

 

 

『だがナーヴギアにはバグスターウィルス対策のファイヤーウォールを組み込んだ筈だ。……考えたくは無いが、檀正宗が仕組んだ可能性を捨てきれん』

 

 

「……それもそうか。後でMさんに相談して」

 

 

 

 

 

 

『ッ!?宿主後ろだ!』

「先生後ろ!」

 

 

「!?っとォ!」

 

 

 

 ユウキとゲムデウスの1声で後ろを振り向くと火の玉が迫って来ていた。素早くデウスは両手斧を振るって火の玉を切ると、その火の玉が発射された方向を見た。

 

 

 

「ッ!?アイツは!」

 

 

『やはり当たっていたか……そしてここでは面倒だぞ。

 

 

 【アランブラ】は』

 

 

「先生!…………って、アランブラ!?タドルクエストのボスキャラが何で!?」

 

 

 

 ゲーマーであるキリトは既に知っているらしい。そう、【タドルクエスト】のゲームに登場するキャラは普通SAOに来ることも無い。ならば来た理由は1つだけ。

 

 

 

「檀正宗ェ……!私のゲームをよくも汚しおってぇ!」

 

 

「私のゲーム……?」

 

 

「あぁもう!先輩、2人を避難させて下さい!」

 

 

〔ゲーマドライバーならアイテム欄に!〕

 

 

「ありがとうございます!」

 

 

 

 アイテム欄を即座に開きスクロールさせてゲーマドライバーを選択。実体化されたゲーマドライバーを腰に装着し、ゲムデウスが言っていたガシャット2つを取り出す。

 

 

 

「目には目を、歯には歯をってね!」

 

 

 

【タドルクエスト!】

【ギリギリチャンバラ!】

 

 

 

 2つのガシャットを起動させゲーム画面を出現させる。ギリギリチャンバラの方からは【チャンバラゲーマ】が出現し、アランブラに対し攻撃を加えている。

 

 

 デウスはその際に2つのガシャットを左手で一気に持つ。

 

 

 

「Mark 3!変身ッ!」

 

 

 

【【ガッシャット!】】

【【ガッチャーン!レベルアーップ!】】

 

 

【タドルメグル!タドルメグル!タドルクエストー!】

【アガッチャ!ギリ!ギリ!ギリ!ギリ!チャンバラ〜!】

 

 

 

 デウスはゲーマドライバーにガシャットを差し込みレバーを開くと、変身した。しかしクエストゲーマーにチャンバラゲーマという組み合わせは少し異質。ゲムデウスがこれが合っていると言っていたから変身したまで。

 

 

 デウスは右手にガシャコン・ソード逆手で持ち、左手にはガシャコン・スパローのアローモードを装備し構えた後アランブラを見据える。

 

 

 

「緊急手術、開始!」

 

 

 

 先手にアローモードのガシャコン・スパローで牽制を仕掛ける。紫の弓矢がアランブラに向かうが、アランブラは火の魔法で応戦する。

 

 

 

「【モエール】!」

 

 

 

 その弓矢は焼かれて消失し、その火の玉だけはデウスの元に向かってくる。しかしデウスが変身しているのは単なるクエストゲーマーではなく、()()()()()()()()装備のクエストゲーマーである。

 

 

 ギリギリチャンバラというゲームの特性を利用し、紙一重で火の玉を避けるデウス。そして追加で紫の弓矢を放つ。

 

 

 

「ほらよッ!」

 

 

「むっ!」【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】

 

 

「まだまだァ!」

 

 

 

【コ・チーン!】

 

 

 

 デウスはガシャコン・ソードのAボタンを押して炎剣モードから氷剣モードにチェンジ。まだまだ弓矢を放ちながら近付きアランブラに余裕を与えない。

 

 

 そしてアランブラの懐に接近しガシャコン・ソードの刃をアランブラに添えると、一気に駆けながら斬る。氷の属性を得た勇者の剣は、アランブラの1部を凍らせることが出来た。

 

 

 実戦での逆手持ちというのは、案外馬鹿にならないものだ。刃のある物を逆手に持つことで瞬時に攻防の転換が可能になる故である。隙というのが意外に少ない代わりに、その使い方は()()()でもある。

 

 

 

「ぬぅ!」【HIT!】

 

 

「まだまだ食らってくれよな!」

 

 

「【モエール】!」

「おっと!」

 

 

 

 アランブラが火の玉を発射するが、デウスはそれをバック宙で回避。着地する寸前にまたも紫の弓矢を放ちアランブラにダメージを与える。

 

 

 そこでアランブラが膝を着いた。勝機だと踏んだデウスは接近を仕掛ける。

 

 

 だがそれは、デウスに隙を生み出させる為の演技であった。

 

 

 

「【トマーレ】!」

 

 

「なni………………」

 

 

 

 デウスの動きが止まる。トマーレという魔法は相手の時間を止める魔法、即ち今のデウスの時間は止まっているに等しい。

 

 

 

「デウス君!」

「「先生!」」

 

 

「フハハハハッ!実に愉快だ!私の演技にまんまとハマってくれたからなぁ!今の私のレベルが幾つか知っているか?

 

 

 

 

 

99だ」

 

 

「なにっ!?」

「レベル99って……!そんなの無茶苦茶だよ!勝てっこないじゃん!」

「完全にクロノスの思うがままって訳か……!」

 

 

「この機を逃す私ではない!我が伝説の魔法をくらい、ここで命を落とすが良い!仮面ライダー!」

 

 

 

 アランブラが杖に力を込め始めた。収束されていくのは炎や雷、そしてその2つが纏わりついていく氷塊。それらが魔法の中で形成され始めていた。ここでデウスを失うのは……この3人にとっては、とても許し難いことであった。

 

 

「ッ!ヒースクリフ、ユウキ!耳貸してくれ!

何か策はあるの!?早くしないと!

簡単に伝える!作戦は…………

 

 

 

 そして3人が相談している中、アランブラの魔法陣がもう少しで完成する所まで来てしまった。このままではデウスの命が危うい。

 

 

 そしてちょうどその時、3人の作戦会議も終わった。するとユウキとキリトだけは左右それぞれに向かった。残ったのはヒースクリフのみ。しかしヒースクリフはその剣に光を宿させた。

 

 

 片手剣突進SS【レイジスパイク】。ヒースクリフは先手として、デウスを助ける為に突進技を仕掛けた。案の定、ヒースクリフの体は剣に連れられるがままアランブラに向かっていた。

 

 

 

「むっ!?おのれ、猪口才な!」

 

 

 

 アランブラは急に魔法を解き、ヒースクリフの攻撃を魔法の盾で防いだ。

 

 

 

「残念だったな!私には届かなかったぞ?」

 

 

 

 

 

 しかしヒースクリフは、そのままニヤリと口角を上げた。

 

 

 

「むっ……?」

 

 

「確かに私の攻撃は届かなかった…………だが、私以外はどうかなッ!?」

 

 

「なにっ!?」

 

 

「シィッ!」「デリャア!」

 

 

 

 片手剣垂直単発SS【バーチカル】、その2連撃がアランブラの背後を襲う。急なことでアランブラも魔法に掛ける集中力が途切れてしまった。つまり……

 

 

 

「ぬおぉ!?」【HIT!】【HIT!】

 

 

「ッ!?……動けたってことは……!」

 

 

「先生!大丈夫だった!?」

 

 

「俺達も手伝います!4人なら倒せる筈です!」

 

 

「少々骨が折れるが……デウス君!君の力が要となる!今使える最大の力を使ってくれ!」

 

 

「皆…………わかった!使わせてもらうよ!」

 

 

 

 デウスは体内から新たなガシャットを取り出し、ゲーマドライバーのレバーを閉めてギリギリチャンバラを外す。そしてガシャットを起動させた。

 

 

 

【ドラゴナイトハンター!Z!】

 

 

 

 

 

 

 

 



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デウスの話すsecret! パート3

【ドラゴナイトハンター!Z!】

 

 

 デウスの起動させた【ドラゴナイトハンターZ】のガシャット。そのゲーム画面から【ハンターゲーマ】が出現しアランブラに攻撃を与える。デウスはガシャットを空きスロットに差し込み、右手を左肩の近くに移動させ手を開くと同時に手の平をアランブラに向けた。

 

 

 

【ガッシャット!】

 

 

 

「Mark 5!変身ッ!」

 

 

 

【ガッチャーン!レベルアーップ!】

 

 

【タドルメグル!タドルメグル!タドルクエストー!】

【アガッチャ!ド・ド・ドラゴ!ナ・ナ・ナ・ナーイト!ドラ!ドラ!ドラゴナイトハンター!Z!】

 

 

 

 デウスがレバーを開くと、ハンターゲーマがブレイブに装着される。ファング、ブレード、ガン、クローの4つの部位が両腕両足、さらに顔などにも装着されフルドラゴンが完成した。しかしこのフルドラゴン、本来は4人プレイ用の為か1人が装着してしまえば暴走を引き起こすハメに……

 

 

 

「ちょっとビリビリするなぁ……!」

『ゲムデウスウィルス程では無いな。暴走の危険性は万が一でも無い限り大丈夫だろう』

 

 

 

 なりませんでした。膨大な負荷が掛かるのは既に他のガシャットで経験済みなデウスにとって、レベル5のガシャットの暴走など気にもならない。というよりレベル5の前にレベルXやレベル99を体験している時点で可笑しいのだが。

 

 

 デウスは体中に蔓延(はびこ)るデータの暴走を強制的に自分のものにし、フルドラゴンを1発で制御下に置いた。他にも1発で制御下に置いたのは花家大我等も居るが、デウスはそこまで負担にもなっていない。

 

 

 

「うぉっ!先生何それ!?着ぐるみ!?」

 

 

「そういや、あれのデフォルメVer.人気だったな……ホビーショップにも無かったし」

 

 

「成程……ゆるキャラか」

 

 

「いや皆こっちじゃなくてアッチ見て!ほら、アランブラ待ってる!ちゃんと待ってくれてる!」

 

 

「えぇい!仮面ライダーのフォローなんぞ要らんわ!」

 

 

『こうなる運命なのか?我々は』

 

 

 

 やはり待ってたギャグ調の雰囲気。一気に真剣なものから下降していったことでシュールさが醸し出されている。さらにシュールさはフルドラゴン状態のデウスが追加されている分、上乗せされている。

 

 

 

「ほら皆!早く終わらせるよ!(ゲムデウス!)」

『ふむ……やるか』

 

 

「“パーフェクトパズル”!」

 

 

 

 デウスがそう叫ぶと、ガンとブレードを操りエナジーアイテムを集める。集めたエナジーアイテムはそこまで良いものが無かったのだが、それでもデウスは適切だと思うエナジーアイテムを与えた。

 

 

 

「キリト君!受け取って!」

 

 

「え、えぇ!?」

 

 

 

【分身!】

 

 

 

 デウスがキリトに与えたのは分身のエナジーアイテム。このエナジーアイテムはランダムで2〜8人にまで増やすことのできる能力を持つ。リアルラックというよりバグで無理やり良い方向に持っていくようなデウスであるが、流石に無粋な真似はしない。

 

 

 のにも関わらずキリトは8人に増えた。

 

 

「「「「「「「「 ふ、増えたァ!? 」」」」」」」」

 

 

「うっわぁ……キリトがいっぱい居る……」

 

 

「「「「「「「「 引くなユウキ!俺だって増えたくて増えた訳じゃねぇ! 」」」」」」」」

 

 

「ステレオ音声か」

 

 

「先輩どうぞ!」

 

 

「ひょっ?」

 

 

 

【ジャンプ強化!】

 

 

 

 続いてデウスがヒースクリフに与えたのはジャンプ強化。その効果は名が示す通りジャンプ力を大幅に上昇させるエナジーアイテムだ。なぜこれをヒースクリフに与えたのかはデウスのみぞ知る。

 

 

 

「ユウキちゃん!これ!」

 

 

「やっほーい!ボクにも来たー!」

 

 

 

【高速化!】

 

 

 

 ユウキに与えたのはお馴染みの高速化。汎用性の高いエナジーアイテムで、ドクターライダー全員がお世話になっているスゲーイ!ヤツ。

 

 

 

「最後にッ!」

 

 

 

【暗黒!】

 

 

 

「ぬぉっ!?ま、前が見えん!」

 

 

 

 自分にエナジーアイテムの効果を付与させるのではない。エナジーアイテムは時にキャラクターに致命的な弱点を晒してしまうことにも繋がる。

 

 

 その典型例が暗黒のエナジーアイテム。対象の周囲を暗闇で覆い視界を奪うエナジーアイテムである。あまりデバフ系のエナジーアイテムを使う機会は殆ど無いが、ここは命を賭けたもう1つの現実。ならばここでデバフ系エナジーアイテムを使おうが卑怯ではない。

 

 

 

「デウス君の考えは……大体わかった!」

 

 

「よくわかったね先生!ボクのビルド!」

 

 

「医者だからね!キリト君先手お願い!」

 

 

「「「「「「「「 !成程……わかりました先生! 」」」」」」」」

 

 

「凄く頭に響く……」

『我慢をしろ、お前の選択だろ』

 

 

 

 暗黒によって視界が暗闇に包まれているアランブラの背後から、8人に増えたキリトがそれぞれ片手剣突進系SS【レイジスパイク】と垂直単発SS【バーチカル】を放つ。

 

 

 

「ぬぉぉおおお!?」【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】

 

 

「ユウキちゃん!」

 

 

「オッケー!先生!」

 

 

 

 ユウキが【レイジスパイク】を放つ。だがその速さは高速化によって異常なまでのスピードになっている。そのスピードがアランブラに襲いかかる。

 

 

 

「ぐぉっ!」【GREAT!】

 

 

「やった!キリトより上ー!」

 

 

「数は俺が多かっただろ!」

 

 

「あ、元に戻ってる」

 

 

「ぐぬぅ……!【ヒエール】!」

 

 

「「 ッ!? 」」

 

 

 

 暗黒が解けたアランブラが2人に向けて氷の魔法を放つが、キリトとユウキの2人は突然のことだったので魔法を避けるのに間に合わない。

 

 

 

「させないよっ!」

 

 

 

 そこにデウスがファングから火焔球を放つ。氷の魔法と相殺し水蒸気がその場に発生した。つまる所視界が両者共に塞がれる。

 

 

 

「目眩しか?私には通用せんぞ!」

 

 

 

 アランブラは自分の前方に火の魔法を放つ。一直線に発射された火球は()()()()()

 

 

 

「居ないッ!?」

 

 

「残念だったな」

 

 

 

 真上だ。ヒースクリフはジャンプ強化の効果を受けており、跳躍してアランブラの真上に位置していた。そして片手剣に光を宿している。

 

 

 落下しながら発動するのは片手剣垂直系SS【バーチカル】。盾の重さも加算された落下速度から放たれるSSは、アランブラのHPを削った。

 

 

 

「ぬぉおッ!?」

 

 

「デウス君!」

 

 

「“ノックアウトファイター”!」

 

 

 

 ガンとソードにマテリアライズ・スマッシャーの幻影が纏われると、デウスはアランブラに接近し殴り付ける様に扱う。防御無視の攻撃がアランブラに直接響いていくが、やはり一筋縄ではいかないのがレベル99である。

 

 

 

「なぁめるなァ!」

 

 

「ぐっ、がァッ!」【HIT!】【HIT!】

 

 

「「 先生! 」」

 

 

 

 レベル99の攻撃は牽制程度でも最悪な方向に持っていかれる。故に本来攻撃を食らうのは不味いが、今の所ライダーゲージは保たれている様だ。またもアランブラが氷魔法をデウスに向けて放とうとするが、ガンで牽制しキャンセルさせた。

 

 

 

「大丈夫だよっ……と!(ゲムデウス、どうする?)」

 

 

『私の力を使えば……は良いか。既に使っているのにも関わらずタフな奴だな。またエナジーアイテム操作をするか』

 

 

「(そりゃキツいわ……でもまぁ

 

 

 やらなきゃ、殺られるだけだ!

 “パーフェクトパズル”!」

 

 

 

 またもエナジーアイテムを操作するデウス。発見したのは運が良かったのか、はたまた土壇場でリアルラックが発動するのか。それは誰にも分からない。デウスは2つのエナジーアイテムを自分に付与させる。

 

 

 

【マッスル化!】

【分身!】

 

 

 

 効果の重複はパーフェクトパズルの利点。まずはマッスル化で攻撃力を上昇させ、分身で3人にまで増える。

 

 

 

「効果の重複!?そんなことまで!」

 

 

「いっけぇ!先生!」

 

 

 

 

 

「「「 行くぜぇ! 」」」

 

 

 

 マッスル化で強化されたデウス3人がアランブラに迫る。アランブラは魔法を放つが、1人がガンで牽制し魔法を相殺。残り2人はソードで斬りつける。

 

 

 

「「 オラァ! 」」

 

 

「ぐぬぉ!?」【HIT!】【HIT!】

 

 

「コイツで……!」

 

 

 

 3人から1人に戻ったデウスは、ソードでアランブラを斬りつけた。するとアランブラの動きが目に見えて鈍くなり、体から電気の様なものが走っている。

 

 

 

「こ……これは…………まさかっ……!」

 

 

「これで……終わらせる!」

 

 

 

 デウスはドラゴナイトハンターZのガシャットを抜き取ると、キメワザスロットホルダーに差し込みボタンを2回押した。

 

 

 

【ガッシューン ガッシャット!キメワザ!】

【DRAGO KNIGHT CRITICAL STRIKE!】

 

 

 

 デウスは背中からピンクの両翼が生えたかと思うと、今度は足に爪や両腕に青と黄緑のエネルギーが蓄積されていた。飛び立つとそのままアランブラに向けて急降下し、為す術もないままアランブラは食らった。

 

 

 

「スァアアア!」

 

 

「グオアアアアァァ……」【PERFECT!】

 

 

 

【GAME CLEAR!】

 

 

 

 アランブラからゲームクリアの音声が流れると、疲れた様子を見せながらデウスはゲーマドライバーのレバーを閉じてガシャットを抜き取る。

 

 

 

【ガッチョーン ガッシューン】

 

 

 

「ふぅ…………おっと」

 

 

「先生!大丈夫ですか!?」

 

 

「平気平気……あ、何だか疲れてきた」

 

 

「大丈夫じゃなかった!」

 

 

 

 デウスがよろめいた所、キリトが駆けつけて支える。いつもの無茶が響いたのか疲れた様子を見せていたが、デウスの目の前に画面が現れた。何かと思い見てみると、そこにはレベルアップの報告が。

 

 

 

「えーっと……レベル6も上がった!?」

 

 

「え、ちょえっ?……デウス君、嘘じゃないよな?」

 

 

「何でバグスターが……って、ちょっとごめん!」

 

 

「先生!?」

 

 

 

 自分のレベルが6()()上がっていた事は気に止めるが、自分の目の前に倒れている()()が居たとなれば話しは別だ。その倒れている人物に駆け寄ると、他の3人も駆け寄ってくる。

 

 

 

「大丈夫ですか?しっかり!」

 

 

「…………ッゥ……ここ、は?」

 

 

「良かった……気が付いた」

 

 

『……宿主、恐らくはこのプレイヤー』

 

 

「(……多分ね、どうやらこの世界にも感染者が居るみたいだ。すぐにMさんにも報告しないと)」

 

 

 

 倒れていたプレイヤー『コペル』を介抱しつつも、邪魔が入ったクエストをクリアし報酬である【アニール・ブレード】を手に入れると、デウスはMにメッセージを送りホルンカの村で集合するのであった。

 

 

 

 

 

 

 




※デウスの台詞にある()はゲムデウスとの会話を意味しています。流石にSAO内で無闇に言うと不味いので2人の練習として。




次回!『Dr.ゲムデウス』は!

 次なる街で迷宮区でのレベリング!だが……?

「何だか……とてつもない胸騒ぎがするの」


 一抹の不安はボス攻略会議と共に募らせる!

「僕には……彼の様なことすら出来なかったからね」


 待ち受けていたボス!しかし思わぬ事実が!?

〔諸君、私のゲームの醍醐味だ。とくと味わえ〕

「Mさん!」「わかってる!」

「「 変身ッ! 」」



 次回『最悪のfact!!』


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最悪のfact!! パート1

 時間だけが経っていく、今のところは。

 

 

 デウスがバグスターウィルスに感染していた『コペル』というプレイヤーを【ホルンカ】まで運び、先に到着していたM達に事情を話した。この世界でもバグスターウィルスが蔓延っている事が確認されたことと、何時何処で感染者が現れるのか検討すら付かないこと。

 

 

 今この仮想世界にドクターライダーは2人だけ。しかしバグスターウィルスが確認されたとなれば話しは別だ。そもそもバグスターウィルスは、茅場(ヒースクリフ)がナーヴギア開発時に最重要なバグスターウィルスの侵入を()()ファイヤーウォールを組み込ませた筈だったのだ。それもこれも全てクロノスの仕組んだ事だと認識した一同。

 

 

 そしてその翌日、デウスとMは2人だけで始まりの街に戻った。メッセージを送って経過報告をメンバーの全員に知らせた所、まだ対象年齢になっていない子どもまで居る始末。幸いバグスターウィルスには感染していなかったが、状況を慎重に確認してから攻略に入ることも知らせた。

 

 

 暫くしてデウスだけは始まりの街やホルンカの村を主に移動して活動、時折【トールバーナ】に居るMに経過報告を送り活動していた。それが25日ほど続いた11月27日のことであった。

 

 

 【迷宮区】と呼ばれる場所がある。その最深部には層ごとのボスが存在し、そいつを倒せば次に向かえるシステムだ。……しかしデスゲームと化した場所では、あまり進歩というのが目に見えてない状態が停滞していたのだ。初めはクリアしようと奔走していたプレイヤーも、徐々に活気を失せ始めたのだ。

 

 

 しかしそうだとしても、抗おうとするプレイヤーは居た。今はデウスとM、シリカとリーゼ・ロッテを抜きにした9人で、3人1組のチームを作り迷宮区を攻略していた。

 

 

 1組目はヒースクリフ、ラン、リズベット

 2組目はキリト、バダン、ユウキ

 3組目はゼロ、シノン、アスナという構成で攻略を行っていた。

 

 

 その3組目に居るアスナは、何やら思い詰めた表情で迷宮区の廊下をゼロとシノンと共に歩いていた。しかしそんなアスナの表情に気付いたゼロが話しかけた。

 

 

 

「おいアスナ」

 

 

「…………へっ?な、なに?」

 

 

「何かお前辛気臭い顔してんな〜ってな」

 

 

「そ、そんな顔はっ!……して、ない……」

 

 

「何か悩み事でもあるのかしら?」

 

 

「んな時は誰かにぶちまきゃ良いぞ。悩み事なんざ抱えてるだけ時間の無駄だしな」

 

 

「ゼロは悩む時間を増やしなさいよ。いっつも前に出て……」

 

 

「へへっ、悪ぃ悪ぃ」

 

 

 

 確かに悩みを誰かに話すのは効果的とも言える。だが未だ知り合って3週間以上経ったとしても、他人には言えない事というものは存在する。今のアスナは、そんな状態に陥っている。

 

 

 ふとシノンがアスナの顔を見た。そして何かを悟った様子を浮かべたシノンは、ゼロに振り向き耳を塞ぐジェスチャーを取ると面倒そうにシノンと同じことをした。そしてシノンはアスナの元に近付く。それに気付いたアスナは疑問符を浮かべている。

 

 

 

「し、シノンさん?何かな?」

 

 

「アスナ……貴女…………

 

 

 好きな人、居るのかしら?」

 

 

 

 アスナの体がビクッと震えた。図星らしい。

 

 

 

「な、何でそうなるのかなぁ!?」

 

 

「見たら分かるわよ、恋する乙女の表情位は。で、誰なのかしら?ゼロには耳塞いでもらったから、ここで言っても恥ずかしがることは無いわよ」

 

 

「うぅぅぅぅ…………」

 

 

 

 図星による恥ずかしさや思いを向けている誰かに対してなのか、アスナの顔は紅潮している。余談だが、フルダイブ型VRゲームは感情を隠すことは出来ない。脳からの信号をナーヴギアに伝えている為、感情という脳からの電気信号も素直に受理してしまうからだ。

 

 

 つまるところ、幾ら感情を隠そうと努力しても殆ど無意味。フルダイブ型VRゲームでも感情を隠そうとするとなると、感情の信号を受け取らせない様にすることが無難な選択とも言える。

 

 

 アスナは両手で顔を覆い、同性のシノンならと……自分の胸中をポツポツと話した。

 

 

 

「昔……病気にかかってた頃にね…………」

「ゆっくりで良いわよ」

 

 

「担当医の人がさ……凄く優しくてね……」

「うんうん」

 

 

「話してる内にね……安心…………してね。何だか、落ち着くなって思っちゃったの」

「成程」

 

 

「いつの間にか……その人の暖かさ……っていうのかな?気付いたら、ずっとその人を……考えてたの」

 

 

「病気が治ってもね……その気持ちだけは全然……変わらなくてね……」

 

 

「じゃあその人は……今何処に居るのかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「今は色んな人の為に努力してて

 今は他の人には言えない秘密を抱えてて

 それでも人を助けようとしてる……そんな人」

 

 

 

 シノンは考えた。今のところそんなプレイヤーは居そうだなと考えているし、もしかしたら現実世界で待っている人かもしれない。

 

 

 だがシノンは先に、仮想世界で思いつく辺りのプレイヤーを考えた。色んな人の為に努力している……ここでは何故かMとデウス位しか思い付かなかった。いや1番医者として活躍しているのは違いないのだが。

 

 

 次に秘密。秘密の時点で……何となく想像は付いた。そして最後の人助け、もうたった1人しか居ないと断言しよう。

 

 

 

「もしかして、デウス?」

 

 

 

 アスナは何も言わない。いや、何か行動はした。その場で蹲り、コクコクと2回だけ頷いた。因みにアスナはこれが初恋にも該当していた。

 

 

 元々の家柄が結城財閥とあって、かなり制限された生活を送っていた日々。そんな中で好意を向ける人物というのは殆ど居なかったと考えられる中で、唯一脳裏から離れなくなったのがその時担当医のデウス(高山明)であった。それだけである。そんなアスナを見てシノンは1言。

 

 

 

「……意外とアスナって、一途なのね」

 

 

「で、でも……ね…………時折先生を見てたら、何だか不安になってくるの」

 

 

「何に?」

 

 

「年齢差とか……こう、乗り越えられない壁っていうか。それに……」

「それに?」

 

 

「何かは分からないけど、何だか……とてつもなく胸騒ぎがするの……先生を思っていると……」

 

 

 

 こういうのを乙女の勘というべきか。否、恐らくアスナは自身の考えうる1つの可能性に一抹の不安があるのだろう。その時シノンは…………

 

 

 

「ともかくアスナ、デウスのことは好きなのよね?」

 

 

「うん……」

 

 

「だったら当たって砕けてきなさい。年齢差?世の中の愛に年齢差なんて関係ないと謂わんばかりの夫婦だってごまんと居るのよ?」

 

 

「ふうッ……!?」

 

 

「それにその嫌な予感かしら、デウス本人に直接聞いてみれば良いじゃない。それで解決出来るなら」

 

 

 

 普通こんなことを思い付くのだろうか。アスナの恋路を聞いたシノンであったが、核心とも言える部分を言う辺りどんな成長をしてきたのかが気になる。

 

 

 そんな時、シノンとアスナの目の前にメッセージが届く。差出人はバダンからで、内容は……

 

 

 

「“ボス部屋の発見”……か。バダンのチームが見つけちまったか」

 

 

「でもまぁ、これで攻略が捗るのも間違いは無いわよ。……競争には負けたけどね」

 

 

「アイツ頭は俺より良いんだよなぁ……けど次こそは!」

 

 

「はいはい、頑張れ頑張れ」

 

 

 

 そんなやり取りがあった中でゼロ、シノン、アスナの3名は迷宮区から抜け出しトールバーナの街に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ!?売った!?ボス部屋の情報を!?」

 

 

 

 トールバーナの宿の一室でゼロの声が聞こえてくる。その1室にはゼロと旧知の中であるバダンも居り、男2人だけで話し合っていた。

 

 

 

「落ち着けゼロ、最後まで話を聞け」

 

 

「いやボス部屋の情報を『ディアベル』に売ったつったよな!?アホかお前は!?アルゴに言えば良い話だったろ!」

 

 

「だから落ち着けと……あぁ良い、先に言おうか」

 

 

 

 面倒そうにバダンはあの時のことを話す。

 

 

 

「ディアベルに売ったのにも訳はある。1つはリーダーの分散とも言うべきかな。今のゼロはプレイヤーを導く光として見られているが、あの時の演説の効果も薄れてきたのは分かるよな?」

 

 

「まぁ……時間だけは、どうにも出来ねぇし」

 

 

「それに幾らお前でも約1万の数をクリアまで導くには骨が折れる。というより不可能と言っても過言では無い。そこでだ、アルゴすら知らない情報を後から来たディアベルに渡し攻略会議の際に言ったとしよう。どうなると思う?」

 

 

「……あぁ、お前の腹ん中がよ〜く分かったぜ。つまるところ頼られるプレイヤーを増やそうって魂胆だな?俺だけに重責を乗せず、ほかのプレイヤーでも導かせることで減らそうって魂胆か」

 

 

「理解が早くて助かる。それに、今回ばかりは……このガイドブックも役に立たん情報があったしな」

 

 

 

 そのガイドブックと呼ばれた手帳サイズの本を見せながら言うバダン。ボスの確認には全員でボスの攻撃を避けつつ確認したところ、βとは違う点もあった。

 

 

 

「ボスの【イルファング・ザ・コボルトロード】の持ち物に“刀”と思わしき装備があったとなればな」

 

 

「刀ってか……10層でお目に掛かる代物だぞ。俺達βならまだ可能性はあるが、ルーキー共は難しいぜこりゃ」

 

 

「この情報もディアベルに売った。キリトには怪訝な反応をされたが、あくまでも目的はリーダー的ポジションのプレイヤーを増やすことも兼ねている。ディアベルには悪いがな」

 

 

「まぁそん時は俺もフォローに入るか。2人のリーダーって感じでさ」

 

 

「お前らしいな……」

 

 

 

 そんなやり取りがあった様だ。

 

 

 そしてそれから翌日、この日はデウスも攻略会議を聴くために態々帰ってきたとも言える。他人から聞くより、自分で聞く方を優先した。しかしデウスは全員にあることも話した。

 

 

 このゲームの脱出ルート……謂わばデマ情報の対処に当たっていたことをデウス以外の全員が知る。誰が何故そうしたのかは知りえないが、デウスは精神科医の立場からの推察を披露した。

 

 

 

「見たいんだと思う、プレイヤーの絶望した表情を。

 そして楽しんでるんだ。プレイヤーが死にゆく様を」

 

 

「そんな……ことが…………」

 

 

「既にこれを確認しに行った12名は……もう…………」

 

 

 

 それだけ伝えた。だが既にデウスはこれを解決、来ていたプレイヤーや遭遇した情報屋の『アルゴ』に伝えて広めてもらっているらしい。

 

 

 そんな重い心境のまま、ボスの攻略会議が行われることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 







キリ×アスだと思った人挙手(・ω・)ノ
ここではデウス←アスナの一方通行なり。




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最悪のfact!! パート2

またも難産でした_(:3」 ∠ )_

何か複雑になってきたし……これ完結するかな?





「はーい、皆注目ー!」

「「うるさっ」」

「「我慢しなさい」」

 

 

 広場に集まったプレイヤーの視線の先には青髪の盾持ち剣士である『ディアベル』が大きく叫ぶが、ゼロとユウキが目を細めて小さく呟いた。それに対して保護者的立ち位置になりつつあるランとシノンが注意した。案外ゼロとユウキは似た者同士なのだろうと考えるMとデウスであった。

 

 

 さて、この広場に集まったプレイヤーの目的といえばだが……たった1つしかない。第1層のフロアボス攻略、ただ1つだけである。ゼロとバダンは何か揉め事が起きた場合のみ対処する方針で行くそうだ。

 

 

 

「今日は俺の呼びかけに応じてくれてありがとう!俺は『ディアベル』!職業は気持ち的に【ナイト】やってまーす!」

 

 

「あの青髪はデフォなのか」

 

 

「先輩、そこ気になるのは分かりますけど……」

 

 

「散々髪で弄られまくったんだろうね……多分」

「リーゼ?」

 

 

 

 もうこの様なやり取りはヒースクリフ デウス リーゼ・ロッテの中では最早普段と変わらない。1人居ないことを除けば特に変わりようのない普通の会話であった。

 

 

 

「今日皆に集まってもらったのは他でもない!第1層のボス部屋を発見したからだ!そのことについてなんだが」

「ちょぉ待ってんか!」

 

 

 

 突如会議の進行を妨げる関西弁の言葉遣いの声が響く。その声に全員が注目してみれば、刺々しい頭の持ち主が。あれでよくナーヴギアが被れたなと内心思う者は2人居る。

 

 

 

「その前にワイから言わしてもらいたい事がある!」

 

 

「意見は歓迎するよ!でもその前にプレイヤー名を名乗ってからにしてくれ!」

 

 

 

 その関西弁口調の男は今居る場所から1段ずつ勢い良く降りて行き、オーバーリアクション……ある意味ロールプレイの一環なのだろうが無駄が有りすぎる。

 

 

 広場に降りた男は顔を上げて自身を指さしながら発言を続ける。

 

 

 

「ワイは『キバオウ』ってもんや!こん中にも今、詫びをいれなあかん奴がおる筈やで!」

 

 

「その詫びっていうのは……誰が誰に対してだい?」

 

 

「決まっとるやろ!この1ヶ月弱で死んでしもうた7()0()0()()()()のプレイヤー全員に、自分らだけ甘い汁吸うてる元βテスター共にや!」

 

 

 

 その発言を聞いていた広場に居るプレイヤー全員が注目する。しかしバダンはゼロに視線を向け、ゼロもバダンに視線を向けてアイコンタクトを取る。ゼロが静かに頷くとバダンは瞼を閉じて立ち上がった。

 

 

 

「すまない、発言をしたいのだが……」

 

 

「お前……あん時のギター弾いてたプレイヤーか」

 

 

「バダンという。名乗った所で早速だがキバオウとやら……

 

 ()()()7()0()0()()()()で騒ぐな。面倒な」

「んなっ……!?」

 

 

 

 そのバダンの言葉に、この場に居たゼロ以外のプレイヤーが驚愕の視線を向ける。たった700人程度という傍から見れば多すぎる命が失われたのにも関わらず、このバダンというプレイヤーは平然とした態度で言い切った。

 

 

 

「お、お前自分の言ったこと理解しとんのか!?」

 

 

「あぁ勿論だとも。だが私が理解できないのは、その700人で喚き散らすお前の言っている事が理解出来ん」

 

 

「何やて!?」

 

 

「まさか死んでいった者が全員ニュービーだと思ったか?いいや違う。旧知の友の発言で希望が宿ったプレイヤー達だが、それでも時の流れには逆らえん。プレイヤーに宿った不安要素というのは必ず出てくる。例外なく誰でもな、元βテスターでさえも。

 

 

 それに元βテスターとはいえ、プレイヤーは()()だ。人間だという前提を入れたその発言は、どうにも聞いてて矛盾だらけなのだが?まさか参加した1万人の中にNPCが居るとでも?そしてニュービーに指導したと?そんな訳無いだろう」

 

 

 

 バダンを言い表すならば、“冷徹” “達観” “第3者視点”。傍から見れば血も涙もない冷えきってしまった人間として捉えられる。実際バダンは人間であるが、そもそもバダンは地球人というカテゴリーに入っていない。

 

 

 その冷徹さは、バダンの性格を知らない者にとっては憤慨ものでしかないのだが……バダンは地球人でないが故の、地球人の核心を突く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにだ、お前はその700人全員と知り合いだったか?違うだろう?知らないプレイヤーばかりだ、なぜ気にかける?お前には関係無いだろう?人間というのは関係の無い他人が死んでも、()()()()()()()という事実のみ受け止める。だが結局はそれだけにしか留まらん。自分とは何も関係が無いのだからな」

 

 

 

 バダンの冷徹な、それでいて地球人の核心を突く物言いにキバオウが押し黙る。他のプレイヤーも同じだ。結局は他人事であって、自分には関係ないと無視を決め込む。

 

 

 βテスターも同じような心境だったのだろう。自分には関係ないと決め込み、何もしなかったのだろう。ビギナーも誰が死のうが誰が生きようが関係ない、そもそも他人の事なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「んまっ、バダンの言うことにも一理あるわな」

 

 

「っ……お前、あん時ハーモニカ吹いてた」

 

 

「バダンの言ってた旧知の友人にして、元βテスターのゼロだ。因みにバダンもβ上がりな」

 

 

 

 瞬時にプレイヤーがざわついた。ゼロ自身を指すβテスターの単語を言った途端これだ、実を言えばただβなだけあって色々と言われるのはゼロとて辟易している。バダンの冷徹さに対しては昔から耐性があるようで、バダンの発言を肯定する発言をした後にβテスターだと公言した。バダンを道連れに。

 

 

 

「キバオウ、残念だけど俺はバダンの意見に納得しちまったんだわ。アンタがいちゃもん付けてるにしか思えねぇ」

 

 

「…………」

 

 

「それとだ、今は攻略会議だぜ?ディアベルの言った“意見”とは殆ど関係ねぇだろ。ついでに言えば、ここは現実の命がポロリするんだぜ。色々あると思うがお互い助け合って行こうや、な?」

 

 

 

 そうゼロが言ってから少しすると、キバオウはそそくさと自分の席に戻って座った。それが確認されるとゼロとバダンはディアベルに対し続けろとジェスチャーを出す。そこからは攻略会議が本当の意味で始まったと言えるだろう。

 

 

 このメンバーでの話し合いの結果、選ばれたのはキリト、M、ヒースクリフ、ゼロ、バダン、シノンとなった。何故シノンが立候補したのかは理解し難いが、強情だったと言っておこう。

 

 デウスは明日も見回りに向かい、リーゼ・ロッテとシリカとリズベットは始まりの街に戻るという。アスナ、ユウキ、ランはデウスのサポートをするつもりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前やりすぎ」

「道連れしといてよく言う」

「お前お医者さん2人にこっぴどく叱られてただろ」

「怒ってたのはデウスが主だったがな」

 

 

 

 デウスに内包されているジュージューバーガーガシャットからバガモンを呼び出して作ってもらったハンバーガーを、男2人外で並んで食している光景がそこにはあった。本人達からしてみれば誰得なのか、残念貴婦人方が得するのだよ。

 

 

 頬を張らせてハンバーガーを味わうゼロと、このハンバーガーに対してかなりの興味を示しているバダン。そんな対比される関係と思えるのだが、妙なところで意見があったりする。2人ともハンバーガーを食べ終えると一息ついて、なぜか一斉に同じ場所に向けて指をさした。

 

 

 

「「 貴様見ているなッ! 」」

「君たち仲良いねホント」

 

 

 

 現れたのはディアベルであった。両腕を上げて降参のポーズをとっているが単なるお遊びの範疇であったりする。そのディアベルはゼロとバダンの目の前に立った。

 

 

 

「で、用件でもあんのか?言っとくが文句ならバダンに言えよ」

 

 

「いや、文句を言える立場じゃないからね」

 

 

「ま、だろうな。アルゴに気付かれない様に動いたかいがあった」

 

 

「お前隠蔽とって何で次索敵なわけ?俺1人で良いだろうがよ」

 

 

「個人行動用にだ。別に構わんだろう?」

 

 

「流石、βテスターを15層まで導いた立役者様々だね」

 

 

「主にコイツは突っ走るばかりだったがな」

 

 

「お前は理屈で考えすぎだがな」

 

 

「もう少し頭を使え馬鹿」

「お前ちっとはすぐに攻撃しろよ頑固爺」

 

 

「単細胞」

「屁理屈製造機」

「残り僅かな脳細胞」

「頭でっかち」

「漫画でありがちなチョイ役」

「引きこもり」

 

 

「本当に仲良いね君たち」

 

 

 

 人が居るのにこんな悪態を言う始末。しかしディアベルはそこら辺はスルーしている。というよりゼロとバダンは色々とβの間では有名なので、こんな口喧嘩は見慣れていて唯一安心出来る要素でもあったりする。

 

 

 しかしディアベルも用がないのに来た訳では無い。咳払いをするとゼロとバダンがディアベルを見る。

 

 

 

「バダン、ボスの情報をありがとう。鼠に伝える前に教えてくれて」

 

 

「条件を呑むと言ったのはお前だ、ディアベル。お前の活躍はβ時代から目に掛けていたからな」

 

 

「それは光栄だ。お目に掛かられてたなんてね」

 

 

「んま、何かあったら言えよ?お互いにな」

 

 

「あぁ……そうさせてもらうとするよ。じゃあね」

 

 

 

 ディアベルはそう告げて立ち去った。

 

 

 

 

 

「…………わかってる。そんなの自分がよく知ってるじゃないか」

 

 

 

 ディアベルはバダンとゼロからある程度離れた場所で、そう呟いた。ディアベル自身はゼロと比べてカリスマ性は低いだろう。バダンと比べて冷静さは無いだろう。

 

 

 だからこそバダンが頼んできた時、一瞬の迷いがあった。困惑したのも事実だ。なぜならバダンの方が適任であったからだ。そして思惑を聞いた途端、ディアベルの中で歪な感情も生まれた。

 

 

 

「僕には……彼の様なことすら出来なかったからね。でも……あぁ、くそっ」

 

 

 

 ディアベルの抱える悩みやストレスは、本人にも知りえない。この思いは、この感情は……彼自身を蝕み続ける。

 

 

 だがディアベルにも知りえないストレスは、誰にも気付かれないまま攻略が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 



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最悪のfact!! パート3

かなり遅れました……申し訳ありません┏○┓


続きをどうぞ!






 ボス戦当日の迷宮区。多くのレイドがボス部屋への道を迷いなく進む中、キリト、M、ヒースクリフ、ゼロ、バダン、シノンの6名も何ら変わりなく向かっていた。Mだけは他のレイド中に交じり、ゲーム病の予兆を確認している。

 

 

 そうしてMがディアベルの所に来た所で、Mの表情が少し変わった。ここまで来ているのだが、ディアベルの様子がおかしい事に気付いた。

 

 

 

「ディアベルさん、疲れてませんか?」

 

 

「君は……Mだね。いや、僕は平気だ。安心してくれ」

 

 

「そうですか……けど、何かあったら無理しないで下さい。色々と手遅れになる前に」

 

 

「わかった、頭に留めておくよ」

 

 

 

 そんな会話を終えてMは仲間の居るレイドに戻り、ボス部屋まで向かう。先程のMの行為に関しては医療行為の一環として考えれば済む話しなので、別に気にしてはいなかった。

 

 

 道中の敵を倒していく内に、漸くボス部屋の前まで到着した。そこで全てのレイドが歩みを止めると、ディアベルはボス部屋の扉前の位置で後ろを振り返り全員を見る。そして1つ深呼吸をして全員に向けて言い放つ。

 

 

 

 

 

 

「漸くここまで来れた……ここまで来た皆に、俺が言いたい事はただ1つだけだ。

 

 

 

 

勝とうぜ!」

 

 

 

 約6名を除き雄叫びが迷宮区内に響き渡る。その声を聞いた後、ディアベルは運命の扉を開いた。目の前には仁王立ちし獰猛な目でレイド全てを見つめていた。

 

 

 

 

攻撃開始!

『おぉー!』

 

 

 

 今ここに、運命の幕開けとも言える戦いが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いんやにしてもっ……!ディアベルの奴っふ!乗ってきたんじゃねぇか?」

 

 

「そう出ないと困るのだがなっ」

 

 

「ちょっとそこ2人、喋ってる暇があるなら取り巻き倒す」

 

 

「へいへいっと」

 

 

「いつ見てもスゲェ連携だな、バダンとゼロは」

 

 

「僕とパラドみたいな感じだね。喧嘩はするけど」

 

 

「あれは異常過ぎるだけだと思うが……」

 

 

 

 とか何とか言いつつも目の前に来る【ルイン・コボルド・センチネル】を倒しつつ、ボスへの攻撃をローテしながら役割を全うしているこの6名。バダンはそこかしこに目が付いているかの様に両手剣を振るい、時にゼロの足場として利用させながらサポートを行っている。

 

 

 ゼロはバダンとの付き合いが1番長いので、思考を読んで取り巻きやボス関係なく攻撃している。引き合いを見極める事が出来る()()なのだから、出来るのは当たり前と自他ともに認めている。

 

 

 そんなゼロの無茶を監視するが如く同時に攻撃を仕掛けているシノン。元来のVRの才があるキリトは、ゼロやバダンとのアイコンタクトを行い攻撃対象を変えていたりする。

 

 

 ヒースクリフとMは慣れていないペアとはいえ、製作者と天才ゲーマーのペアだ。本来ならば新鮮な気持ちでSAOを楽しみたかったヒースクリフは、自分の作ったキャラに八つ当たりとも捉えられる一撃を与える。Mは周りが見えていないヒースクリフのフォローを担当している。

 

 

 順調であった。そんな中、キリトはMに対して質問を投げかけた。

 

 

 

「先生、仮面ライダーの変身は?」

 

 

「あぁ、あれね。あれはバグスターと対面した時に使うって決めてるよ。だって……」

 

 

 ━━━ネットゲーマーの嫉妬深さは異常だ。あまりライダーの力を公に出してしまえば、ライドプレイヤーの二の舞になりかねん。……おのれ壇政宗ェ!VRXまでも使えないだとぉ!?何処までこの私を侮辱すれば気が済むのだァ!?

 

 

 

「…………まぁ流石に無いだろうけど、ライダーシステムを勝手に使われたら不味いからね。今のところ僕らにしか使えないし」

 

 

「確かに……でもこんな非常時だと」

 

 

「そんな非常時だからこそだ、キリト君」

 

 

 

 そう言ったのはヒースクリフ。キリトとMは二人してヒースクリフに視線を向けた。

 

 

 

「ここは今や“もう1つの現実”だ。生き残ろうとするあまり、強大な力に手を出し自滅するオチが見えている。それを防ぐ為でもあるからな。そして今はボスを躍起になって倒そうとする者とて居る……もしそんなプレイヤーに渡ってしまえば、とてつもなく面倒だ」

 

 

「……そう、だよな。分かった、デウス先生にその事は?」

 

 

「既に知ってるよ。協力者がイライラしながら言ってくれたからね」

 

 

 

 その協力者がイライラしている理由を聞かなかったキリトは、まだ純粋な状態だと思いたい。

 

 

 そんな話しが終わると同時に、ボスが咆哮する。見ればゲージが残り1本の赤色の状態となっている。

 

 

 

 

 

 

「来るぞ!全員下がれ!俺が先行する!」

「「ッ!?」」

 

 

 

 ディアベルのその言葉に嫌な予感を覚えたヒースクリフとバダンが、コボルドロードにSSの光を纏わせた剣を持って接近しようとしている所に、バダンとヒースクリフが血相を変えて走り出す。

 

 

 

「ヒースクリフ!?」「バダンおい!?」

 

 

 

 

 

 

 

 突如、ディアベルの体が前に倒れた。なぜ唐突に前に倒れたのかはM以外誰も知りえないが、それよりもコボルドロードだ。やはり情報通り刀武器の【ノダチ】に切り替えて、動けなくなっているディアベルに向けて赤い光を纏わせながら前身する。

 

 

 しかしディアベルとコボルドロードの間に割り込んだ2人のSSによって、コボルドロードは体勢を崩した。その2人とは、バダンとヒースクリフであった。

 

 

 

「ッ、重い……!」

「ヒースクリフ、分かるよな?」

「……あぁ、勿論だとも」

 

 

「ゼロ!シノン!」

 

 

「っあぁたく!しゃあねぇ!」

「同感よっ!」

 

 

 

 武器や防具の重量を考えて、速度的に速い2人にSSを発動させた。名はそれぞれ、【ラピッドバイト】【ラウンドアクセル】と呼ばれている。先にラピッドバイトを放ったゼロがコボルドロードのアキレス腱を切り裂き、追撃として逆のアキレス腱を切るシノン。

 

 

 一応それで少しは時間が稼げた。だがディアベルの様子がおかしい、Mはディアベルを支えて後方に下げながら容態を確認する。結果はやはり……

 

 

 

「ゲーム病……やっぱり…………!」

 

 

「は、ははっ……ゲーム病か…………お似合いかもな」

 

 

「っ!…………今すぐ助けを呼びますから!少しの間安静に!」

〔その必要はなぁい〕

 

 

 

 Mがデウスにメッセージを送ろうとした途端、このボス部屋から忌むべき声が聞こえた。それと同時にコボルドロードの動きも止まるのだが、好機と見たプレイヤーが攻撃するもダメージは一切入っていない。

 

 

 

「壇政宗……!」

 

 

〔今、その彼の体内で増殖したウィルスを消されるのは勘弁したい。それに……これで私の作る()()()()()()()が出来るのだから、邪魔はしないでくれたまえ〕

 

 

 

 そう言い終えた直後、ディアベルの体内からバグスターウィルスが全て分離される。体を離れていったバグスターウィルスは、コボルドロードの方に向かって移動し……遂に辿り着いた。

 

 

 

〔諸君、私のゲームの醍醐味だ。とくと楽しみたまえ〕

 

 

 

 嫌な予想は、当たっていた。コボルドロードのデータにバグスターウィルスが侵入し侵蝕していく。そしてバグスターウィルスが全て消えると、コボルドロードが咆哮を挙げる。

 

 

 確認すると、コボルドロードのHPバーが徐々に回復の一途を辿っている。つまり、このボスを殺させない為の鬼畜仕様。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰かデウスにメッセを飛ばせ!ここは()がやる!」

 

 

 

 そう言い終えたMはディアベルを他のプレイヤーに見てもらうと、真剣な表情でゲーマドライバーとダブルガシャットを取り出す。ゲーマドライバーを腰に装着させると、ガシャットを起動させた。

 

 

 

【マイティブラザーズXX!】

 

 

 

「変身ッ!」

 

 

 

【ダブルガッシャット!】

【ガッチャーン!レベルアーップ!】

【マイティブラザーズ!2人で1人!マイティブラザーズ!2人でビクトリー!X!】

 

 

 

 ガシャットを差し込みレバーを開くと、パネルを選択。マイティブラザーズレベルX(10)という、ずんぐりむっくりとした姿になると、体型に見合わない素早さでコボルドロードにキックをする。

 

 

 しかしコボルドロードは的確にMの攻撃に合わせてSSを叩き込ませる。発動したSSは先程ディアベルを襲おうとした【浮船】。

 

 

 

「ッ、不味いっ!」

「「させるかっ!」」

 

 

 

 キリトとヒースクリフが先回りしていたのか、SSの光を纏わせてSSを相殺させる。そこで体勢の崩れたコボルドロードは、運良くキックを逃れた。後ろに位置したMがすぐにキリトとヒースクリフを避難させると、2人に怒鳴る。

 

 

 

「おい2人とも!何で無茶な真似をした!?」

 

 

「危なかったのは、君の方なんだがね。寧ろ感謝してほしいよ」

 

 

「そういうことじゃ!」

「Mさん後ろ!」

 

 

「あぁもう!説教は後でな!」

 

 

 

【ガシャコン・キースラッシャー!】

【ズ・キュ・キュ・キューン】

 

 

 

 武器選択画面からガシャコン・キースラッシャーを装備したMは銃撃モードに移行させると、コボルドロードに連射する。その間に避難した2人は、傍観者の立場になろうとは思わなかった。

 

 

 コボルドロードのノダチがSSもなく振り下ろされるが難なくジャンプして避けたMは連射。着地と同時に剣モードに移行させて対応を変える。

 

 

 

【ジャジャ・ジャ・キーン!】

 

 

 

「ぉぉおおお!」

 

 

 

 コボルドロードの身長に届く跳躍力と、体型に見合わない素早さで撹乱しながらダメージを確実に与えていくMであったが、生憎とこのボスは既に鬼畜仕様のHP回復を得ている。しかも攻撃した分のHPが回復しているので、キリが無い。

 

 

 

「くそっ!これじゃジリ貧になる!」

 

 

『さっき見た時、エナジーアイテムも無かった!多分ここだけ壇政宗が操ってる可能性がある!』

 

 

「これじゃ本物の糞ゲーじゃねぇか!」

 

 

 

 そう愚痴っていると、攻撃を受けながらもSSを発動しようとしているコボルドロードを見て直感で危険と捉える。だがその時は既に突撃中、コボルドロードの放つ【旋車】に当たり吹き飛ばされて変身が解除された。

 

 

 

【ガッシューン】

 

 

 

「があっ!」

 

 

「先生!」「M君!」

 

 

「くっそ……!バグスターウィルスの影響なのか……!?」

 

 

「チィっ!Mを守るぞ!」

「言われなくても!」「やらなきゃ駄目だろ!」

「あぁったくよォ!」「俺達も加勢する!」

 

 

「っ!駄目だ来るな!ボスの力は、とっくに!」

 

 

 

 そう言ってはいるが、やって来るシノン、ゼロ、バダン、外国の()()のプレイヤーと赤いバンダナが特徴のプレイヤー。しかしここで幾ら束になったとはいえ、強化されたコボルドロードの力を貰えば一溜りも無いことは分かった筈だ。

 

 

 だがそうはしなかった。結局このプレイヤー達も、本質は単なるお人好しなのだろう。

 

 

 【浮船】で邪魔者を蹴散らそうと、試みるコボルドロード。無慈悲にも赤い光がノダチに纏われ、M目掛けて突進を仕掛ける。

 

 

 

「やめろぉぉぉおおお!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぉおおりゃア!」

 

 

 

 この世界では聞き慣れない音と、聞きなれた声の来訪がコボルドロードの顔面を吹き飛ばし倒れさせた。それはMの隣に着地すると、息を吐く。そのあとMにポーションを渡し、逆の手を差し伸べる。

 

 

 

「お待たせしました、Mさん!」

 

 

「デウス……!」

 

 

「どうやら緊急事態みたいですが……Mさん、まだやれますか?」

 

 

「…………あぁ、まだやれる」

 

 

「なら良かった。じゃあ……行きましょうか」

 

 

 

 バイクに跨ったデウスの手を掴み立ち上がったMは、再度ゲーマドライバーを装着し、今度はピンク色のガシャットを起動させる。

 

 

 

【マイティアクションX!】

 

 

 

 デウスはバイクから降りてゲーマドライバーを装着したあと、愛用の白いダブルガシャットを取り出して起動させる。

 

 

 

【ドクターマイティXX!】

 

 

 

 そうして彼らは、医療チームを結成する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「Mさん!」「わかってる!」

 

 

「「 変身っ! 」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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最悪のfact!! パート4

 2人同時にゲーマドライバーにガシャットを挿し込み、レバーを開く。

 

 

 

【ガッシャット!】【ダブルガシャット!】

【【ガッチャーン!レベルアーップ!】】

 

【マイティジャンプ!マイティキック!マイティマイティアクション!X!】

【ドクターマイティ!2人で作る!ドクターマイティ!2人でメイキーング!X!】

 

 

 

 Mは仮面ライダーエグゼイド【アクションゲーマーレベル2】に変身し、デウスは仮面ライダーゲムデウス【ドクターゲーマーレベルXR/XL】と分離しながら変身を遂げる。

 

 

 

「せ、先生が2人に増えた!?」

 

 

「落ち着けキリト君、あれがデウス君の愛用スタイルなのだよ」

 

 

「アイエエエ!?増えた!?何で増えた!?」

「いや、どうなってんのよあれ……」

「ふむ……ガッツ星人のものとは別か

「何か言ったかバダン?」

「いや何も」

 

 

 

 ギャラリーが騒がしい中、Mとデウス&ゲムデウスはそれぞれお決まりのポーズと決め台詞を言い放ち、コボルドロードに向かって行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ノーコンティニューで、クリアしてやるぜ!」

「「これより、製薬実験を開始する!」」

 

 

 

 先にデウス&ゲムデウスのペアがコボルドロードに向かい、振るわれるノダチの軌道から外れると、ゲムデウスはノダチを持つ手を両手を握り叩き付け、デウスはジャンプして飛び蹴りを出っ腹に放つ。

 

 

 

「フッ!」

「オラァ!」

 

 

 

 ゲムデウスの攻撃はコボルドロードの攻撃を封じつつ体勢を前のめりにさせ、デウスの攻撃が腹部より上の鳩尾辺りにクリーンヒットする。コボルドロードのHPが赤色に変わるまで減らされる。

 

 

 だがその2撃が無かったことにされる程の自動回復(リジェネレイト)が邪魔をする。面倒だと思う2人は一旦下がり、今度はMがガシャコン・ブレイカーによる打撃を与える。ハンマーモードの使い勝手の良さを活かしダメージを与えていくが、途中でコボルドロードが暴れ出し下がらざるをえなかった。

 

 

 コボルドロードは3人にヘイトを集中したのか、刀武器突進系SS【辻風】を放つ。危なげにデウス、Mとゲムデウスという風に別れると、次々に放たれる攻撃を避けながら作戦を立てていく。

 

 

 

「くっそ……ホントにクリアさせる気はあるのかよ?」

 

 

「前もこんな感じだったよ、壇政宗のはっ!」

 

 

「エナジーアイテムが見当たらん……ならば!」

 

 

「それより先にMさんにゲキトツ渡して!Mさん、ダメージディーラーお願いします!」

 

 

「わかった!」

 

 

 

 ゲムデウスの体から赤いガシャットが取り出されると、それをMに放り投げる。攻撃を避けたMがガシャットを受け取ると、空きスロットに挿し込みレバーを再度開閉する。

 

 

 

「大大大変身!」

 

 

 

【ガッシャット! ガッチョーン】

【ガッチャーン!レベルアーップ!】

【マイティマイティアクション!X!アガッチャ!ゲキトツロボッツ!】

 

 

 

 Mは【ロボットアクションゲーマー】へと変貌を遂げると、コボルドロードの持つノダチの腹を左腕のアームで殴り付ける。ノダチの向きが一気に変わったことでコボルドロードのバランスが崩れた所を、一気にデウスとゲムデウスがジャンプして落下しながら、それぞれ拳と蹴りを連続で与えていく。

 

 

 

「「ォォオオオオオ!」」

 

 

 

 地面に着地した瞬間、デウスとゲムデウスは後退し腕に取り付けられているパネルを操作。ゲムデウスのパネルの方に黄色のエナジーアイテムが生み出されると、自身にエナジーアイテムを付与させる。

 

 

 

【高速化!】

 

 

 

「行くぞM!」

「おっしゃあ!」

「俺も忘れんなよ!」

 

 

 

 Mは振るわれるノダチを真っ向から左腕のアームで弾き返すと、ゲムデウスが先程よりも素早い速度で拳の連打を叩き込んでいく。デウスは遅れながらも負けじとコボルドロードの顔面に位置しストンピングを行う。

 

 

 顔面を蹴られたコボルドロードは顔を押さえて体勢が崩れながらノダチを振り回す。危なげにデウスとゲムデウスは後方に退避するとMとアイコンタクトを取り頷いた。相手の残りHPは非情にも回復していくが、その速度と量はこの状況に於いては足りなかった。

 

 

 

「フィニッシュはやっぱり!」

「「必殺技で決める!」」

 

 

 

 デウスとゲムデウスはゲーマドライバーのレバーを閉じ、Mはゲキトツロボットを取り出してキメワザスロットホルダーに挿しこみ、ボタンを押す。

 

 

 

【【ガッチョーン キメワザ】】

【ガッシューン ガッシャット!キメワザ!】

 

 

 

「行くぞ!」

「応!」「はいっ!」

 

 

 

 Mがもう一度ボタンを押すと同時に、デウスとゲムデウスはレバーを開いた。

 

 

 

【【ガッチャーン!】】

【【DoCTER MIGHTY CRITICAL STRIKE!】】

【GEKITOTU CRITICAL STRIKE!】

 

 

 

 初めにMの左腕に装着されたゲキトツスマッシャーが射出され、コボルドロードのノダチと拮抗する。しかしMは跳躍し、ゲキトツスマッシャー越しに殴り付けるとノダチが破壊され、そのままコボルドロードへと向かう。

 

 

 デウスとゲムデウスは跳躍し、そのまま2人でキックを与えに行く。パンチでのキメワザと、キックでのキメワザが同時にコボルドロードに衝突し目に見えるほどHPを削った。

 

 

 そしてコボルドロードのHPがゼロになった。コボルドロードは爆発し、その爆発の中を3人は通り抜けて地面に着地した。

 

 

 

【GAME CLEAR!】

 

 

 

「「「ホッ…………」」」

 

 

 

 3人同時に息を吐くと、Mとデウスは変身を解除する。

 

 

 

【【ガッチョーン ガッシューン】】

 

 

 

 終わった事による疲労からか、その場に座り込んでしまうデウスとMの2()()。ゲムデウスはデウスの中に戻っている故に2人である。

 

 

 

「先生!大丈夫ですか!?」

「デウス君、立てるか?」

 

 

「キリト君……僕達は大丈夫だよ」

「あー……先輩、手伝って下さい」

 

 

 

 もう立てないとジェスチャーをしたデウスは、ヒースクリフに支えられて何とか体勢を立て直し、Mは『エギル』とキリトと知り合いの『クライン』によって支えられる。

 

 

 少し遅れて全プレイヤーのレベルアップの通知と、LABの報酬が表示される。デウスはレベル13に上がり、Mはレベル17にまで上昇した。LABの方は同時にLAを決めた事が理由なのだろうか、2つあった。

 

 

 Mが入手したのは【コート・オブ・ミッドナイト】というもの。デウスのは【バイキング・ハット】という攻撃力上昇のバフを持った防具であった。

 

 

 

「ったく、無茶をするお医者様だな」

 

 

「貴方達こそ、無茶し過ぎのプレイヤーですよ……」

 

 

「今日はこのまま寝たいです……」

 

 

「ふむ、有効化(アクティベート)は別の誰かにしてもらうとするか」

 

 

 

 だがしかし、Mにはまだやるべき事が残っている。クラインとエギルに頼むと、のっぴきならない理由があると分かったのか了承し、ディアベルの元に辿り着いた。

 

 

 ディアベルの元に辿り着くと、Mはディアベルに向かって言い始める。

 

 

 

「ディアベルさん、何故あんな行動に出たんですか?1人で突っ走って行くのは危険な事だと理解している筈です。なのに……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

LAB(ラストアタックボーナス)に目が眩んだか」

「っ…………」

 

 

「バダン……」

 

 

 

 ディアベルの元にゼロとバダンが歩み寄る。バダンの言っていたLABとは、恐らくMとデウスが入手した防具のことだろうと推測したまま、バダンは語った。

 

 

 

「強くあろうとした。その為には他のプレイヤーに差を付けなければならない……だからこそ無謀でお粗末な行動に出た、違うか?」

 

 

「んなぁディアベル、俺達言ったよな?何かあったら言えって。今回ばかりは運が良かったがよ、次は無いかもしれねぇんだぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、そうさ。LABを狙っていたさ」

 

 

 

 そう言って、少しの間ディアベルは自嘲気味な笑い声を小さく出して……胸の内を吐き出した。

 

 

 

「強くなりたかった。君達の言う“リーダー”になるには、強さが僕には足りなかったからね。

 

 

 

 

 けど君達には分からないことを、僕は感じていた」

 

 

 

 ゼロとバダン、ディアベルの周囲に居たプレイヤー全員が疑問符を浮かべる。

 

 

 

「重責だよ。責任の重さだよ……それは僕にとって重すぎた……あの時、死ぬことも選んで特攻に移したんだよ」

 

 

「っ……おいディアベル」

「君達には分からないだろうね!ゼロ!君は始まりの町で約1万人のプレイヤーの心を変えた!それだけの技量は君にはあって僕には無い!

 

 

 バダン!君は賢い!常にプレイヤーにとって最適な行動を選択できる賢さがある!けれど僕にはそんなものは無い!君達の様に特筆したものなんて、何一つ無いんだよ!

 

 

 この辛さが分かるか……?僕には無くて、君達にあるものが……どれ程の責任の重さがあるのか考えた事はあるのか!?

 

 

 僕には……とても重すぎたんだよ。辛かったんだよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先に2層の町に移動したヒースクリフ、シノン、キリトの4人は転移門の有効化を終えたあと宿屋に入る。そのあと他のメンバーがヒースクリフの泊まる部屋に集まり、デウスがディアベルの精神状況を話した。

 

 

 

「本人は面会謝絶状態、苦しそうだった。でもこればかりは僕も……手の出し用がない」

 

 

「……あの人、もう攻略に参加しないのかな?」

 

 

「難しいね……カウンセリングは検討するけど」

 

 

「ちょっと2人とも、どうしてディアベルって人にそんなこと押し付けたわけ!?」

 

 

「リズちゃん、落ち着いて」

 

 

 

 この1ヶ月弱で色々と吹っ切れているリズベットが怒り、リーゼがそれを宥めている。ゼロとバダンは考え耽っている最中、バダンだけが口を開いた。

 

 

 

「……確かに、ディアベルの言い分も分かる。劣等感を感じていた故にゲーム病も発生し、死のうとした……人が死のうとする理由としては、確かに充分だ」

 

 

「だったら!」

 

 

「……だがそれでは、この世界のプレイヤーは私達だけに頼ることを覚えてしまう。それだけは避けなければならないのだ」

 

 

「ディアベル君も本当は他力本願に頼りたかった……ゼロ君が攻略会議を開くと、心の何処かで望んでいたのかもしれないな……」

 

 

 

 こうして第1層攻略は終了し、第2層の攻略に進まなければならなくなったが、そうする為にディアベルの感じていた劣等感を(にえ)にしなければならなかった。それ故に、素直に喜ぼうとする者は誰1人として居なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回!『Dr.ゲムデウス』は!

 特殊スキルを習得する為に、岩石を破壊!?

「いや硬っ!」
「ハアアアアアア!」「「「いや速っ!?」」」


 そんな中ゼロは、あるものを手にする。

「これは…………何だ?」


 そして第5層のエリアボスは……何と巨大生物!?

「あんなモンスター、実装した覚えは無い!」







 そして目覚める 【光の戦士】


 次回『目覚めのtime』





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目覚めのtime パート1

・活動報告更新しました。次回作アンケートとなっていますので意見の方を宜しくお願いします。


 1層攻略から10日以上経ったある日、Mとキリトとゼロの3人は主街区である【ウルバス】付近の圏外エリアでやって来るモンスターを倒しながら人を待っていた。ゼロの方は欠伸を1つすると、Mに尋ねる。

 

 

 

「なぁM、ホントに良いのか?患者探しやらねぇの」

 

 

「一応デウスと見回ったけど居ないから大丈夫だよ。ただ、1人にさせて大丈夫だったかなっては思ってるんだ。リアルでも無茶ばっかりするし……」

 

 

「そりゃ心配になるわな……」

 

 

「皆、お待たせ」

 

 

 

 後ろからデウスの声が聞こえたので振り返る。先程まで1層に残っているプレイヤー達の容態を見まわってきたデウスは、にこやかに両手斧を肩に担がつ片手で持っていた。

 

 

 

「先生、お疲れ様です」

 

 

「ありがとうキリト君。Mさん、ディアベルさんの方なんですけど……少しは精神的にも落ち着きを取り戻してきました。ですが1度感染したので再発する可能性も考えられます。一応フレンド登録して連絡できるようにしましたけど……」

 

 

「いや、それで充分だよ。今はその位が良い」

 

 

「おーい御二人さん、早く行くぞー」

 

 

「「わかった」」

 

 

 

 なぜこの4人が集まって、そして何処に行くのだろうか。実を言うとこの層には“エクストラスキル”と呼ばれる、習得条件が特殊なスキルが存在するのだ。そのスキル名は【体術】と呼ばれ、その名の通り生身でのSS使用を可能とするものだ。

 

 

 このスキルを習得する為に2層にあるクエスト受注指定所まで向かう。その途中、『アルゴ』というプレイヤーが2人のプレイヤーにストーキングされていたので追ってみれば体術スキルを習得したいので情報が欲しいと追いかけていたらしい。

 

 

 しかし途中でモンスターと邂逅したので倒し終えると、見た目相応の安堵した姿を見せたアルゴ。話をしてアルゴはデウスとキリトがウルバスまで送ることを決めると、二手に分かれた。

 

 

 といっても最近実装されたらしく場所が分からない……かと思えばゼロが勘で探し当てたので、後から到着した3人は色々とツッコみたかったが、アルゴと別れて体術スキルを取得していく。

 

 

 

「いや硬っ!これ硬っ!」

 

 

「こんな大岩……どうやったら壊れるんだろうか?」

 

 

「そりゃ……何度も壊れるまでやるとか」

 

 

 

 そう、壊れるまで何度も何度も生身で攻撃しなければならない。その回数がどれ程になるのかは誰も知らない。知らないのだが……約1名だけ進行状況が異常であった。

 

 

 皆さんご存知、デウスであった。

 

 

 

「ハアアアアアア!」「「「いや速っ!」」」

 

 

 

 ゲムデウスウィルスの侵蝕率の高さから、VR内で異常な身体能力を発揮しているデウス。デウス自身がお得意の蹴り技を連続して放ったり、時にゲムデウスと交代して打撃技をして……クエスト受注から5時間が経つとデウスはクリアした。

 

 

 

「終わったー」

 

 

『楽だったな今回は、まぁ既に現実でも人間から遠のいてはいるがな』

 

 

「うそーん……普通ここまで早くねぇぞ」

 

 

『永夢、俺達もゲムデウスみたいに交代するか。それだと早く終わるぜ』

 

 

「そうしよっかなぁ……」

 

 

「あー、ハンバーガー美味しい」

「先生!そこでハンバーガー食うのは飯テロですよ!」

 

 

 

 別の岩の上に居る仙人と思わしきNPCが驚きの混じった、しかし表には出さない様に笑顔を取り繕っていたそうな。普通は日単位で終わるものらしいのだが、呆気なく終わらせてしまった故にだ。

 

 

 そして色々とあって、次にMとゼロが僅差で終了した。既にデウスは見回りなどに精を出す為にモンスターを倒しつつプレイヤーを見回っていた。

 

 

 

「っだぁ!つっかれたぁ………」

 

 

「精神的に疲れた……しんどい」

 

 

「ほっほっほっ、よくぞ終えたの」

 

 

 

 岩の上の仙人が2人に歩み寄る。顔に描かれた猫髭のペイントが消えると、その仙人はゼロの方を凝視する。何かと思ったゼロは仙人と視線があった。

 

 

 

「あっ?何か顔に付いてるか?」

 

 

「…………のぉお前さん、儂の話を聞いていかんか?」

 

 

「うぇっ!?まだクエスト続くのかよ!?」

 

 

「えっ、続くのか?でも先生帰って行ったし……ゼロ、何かフラグ建てたんじゃないか?」

 

 

「建てた覚えはこれっぽっちもねぇよ!」

 

 

「なに、話を聞くだけで構わん。どうじゃ?」

 

 

「絶対何かフラグ建てただろ羨ましい!」

 

 

「何処をどう見れば羨ましいんだよアホ!」

 

 

「ま、まぁまぁ。でも折角のクエストなんだし、受けなきゃ損だと思うよ。僕も以前気付いてなくてクエスト1つ消化しそびれて全クリじゃなくて……ノーマルエンドを2回見せられたし」

 

 

「「あー、それあるあるっすよね」」

 

 

 

 ゼロとキリトがハモった。キリトは取り敢えず殴り続けろと言いたいのだが、言っていることはゲームプレイしている者にとってあるある行為に妙に納得するのでお咎め無しとしよう。

 

 

 ゼロも消化しきれなかったことは幾らでもある。小学5年の頃、柔道の大会で決勝戦に登りつめたが相手が怪我をして棄権したため満足のいく結果では無かったことを思い出す。元軍人の父を持つゼロは、ある時を境に強くなる為に父親に訓練を頼み込み、今ではそこいらの学生より遥かに強い。

 

 

 そんなゼロは昔を思い出し、怪訝な表情をするも仙人の話を聞くことを決めた。

 

 

 

「……ハァ、その話ってのはなんだ?」

 

 

「ふむ、では話そうかの。あれは昔、儂が修行中の身であった頃じゃった……」

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━

 

 

 その昔、先程も言ったが修行中の身であった儂は様々な場所を転々としながら日々鍛えておった。それはもう辛く厳しい修行なのを覚えておった。

 

 

 ある時、儂は修行中に大怪我を負ってな。腹に大穴が開き、両脚を動かすことが出来なくなったんじゃよ。死にかけの意識なぞ、すぐに消え失せて死ぬのかと思われた時じゃった。

 

 

 変な夢を見たんじゃ。暗い闇の中、一筋の光が現れてな。その光は急激に大きくなり儂の視界を覆ったが、不思議と安らぐ気持ちを覚えた。

 

 

 その光の中を見ていると、儂でも見たことの無い存在を見た。その光からゆっくりと姿を表したのは、何とも形容し難かったが……人の様な形をしておったのは分かった。

 

 

 不思議なことに、その存在は儂を見下ろすほどに大きくなっていった。大きくなったその手を儂に向けて暫くすると、その存在は消えていったのだ。

 

 

 目が覚めてみれば生きているのが分かった。そして儂の体にあった大穴と両脚の傷は全くといって良いほど無かった。気が付けば儂にとって見慣れない場所に居たのじゃ。

 

 

 大きな湖じゃった。この世の物とは思えぬほどの澄み切っておったのを覚えている。じゃが直ぐに修行に戻らねばと思い立ち、すぐに湖から離れた途端じゃ……

 

 

 振り返ってみれば、湖なんぞ何処にも無かった。そもそもそんな場所がなかったかの様に、木々だけが生い茂っておったわ。

 

 

━━━━━━━━━━━━

 

 

 

「とまぁ、そんな話じゃ」

 

 

「……いや、不思議なんだけどよ。何で俺に話したんだよ?」

 

 

「何故だか、お前さんには話しておかなければならんと思ってな。……何故だか、前に見たその存在と似ておると感じていたからの」

 

 

「はぁ……?」

 

 

 

 ゼロは何がなんだか分からなかった。傍から聞いていたMやキリトでさえも疑問符を浮かべていた。それを話し終えた仙人は、また岩の上へと上り座った。

 

 

 ゼロは一息付くと、そこから立ち上がり洞窟から出る。

 

 

 

「何処に行くんだい?」

 

 

「ん、あぁ……ちっとブラブラするだけだ。安全マージンは越してるから別に良いだろ」

 

 

 

 疲れた様子を見せながら何処かへと出かけたゼロ。短剣を持ち、放り投げて遊んでいた。途中向かってくる敵を的確に倒していくと、ゼロの嗅覚に水の匂いが入ってきた。

 

 

 

「……水?けどこの近くに水なんて……」

 

 

 

 そう重いマップを開いて調べてみると、何故か湖と思わしき場所が映った。不思議に思ってマップを閉じ先へと進むと、湖に出た。大きな湖だった。

 

 

 

「……こんな場所、あったか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────よくぞ来た。光の子よ

 

 

「っ!?」

 

 

 

 ゼロは急に聞こえた声に警戒し、辺りを確認していく。だが人影は今のところゼロしか居ない上に、人の気配もゼロ以外しなかった。

 

 

 

 ────この日を待ち侘びていた。幾度も、この出会いを待ち望んでいた……運命の歯車が噛み合う時を。

 

 

 

「運命……?待っていた……?何の話だよ……」

 

 

 

 ────光の子よ。過酷な運命を背負わせることを、許して欲しい。しかしこれは、我らの使命である。それをどうか、受け入れてほしい。

 

 

 ────理不尽が君を襲うだろう。困難が立ちはだかるだろう。力を得て苦しむこともあるだろう……だが、我らは1人ではない。互いに助け合い、互いに守りあえ。それが我らの願いである。

 

 

 

 湖から球体の光が飛び出た。その光はゼロに高速で向かい、ゼロの体に入った。

 

 

 

「うおっ!?」

 

 

 

 そしてゼロの体から、小さな光が出てくる。その光に手を添えると徐々に光が消えていく。光が消えると、中から小さな円柱状の物体が現れる。落としそうな所を素早く掴んだゼロであったが、違和感を感じていた。

 

 

 

「んぁ?…………」

 

 

 

 何か思ったことがあったのだろうか、短剣を取り出して振るってみた。

 

 

 目に見えて素早くなっていた。振るう速度が急激に速くなり、短剣の重さを感じなくなっていた。それを不思議に思ったゼロであったが、次に短剣をしまって持っているアイテムを確認してみる。

 

 

 

「……【Planet ark】何じゃこれ?」

 

 

 

 次にゼロの視界にスキル習得の通知が入った。新たなスキルを手に入れたことに疑問を覚えたゼロだが、スキル欄を確認してみる。

 

 

 

「ん?……【ultimate human】、超人……ってか?」

 

 

 

 ゼロはスキルの説明を見た。

 

 

 全ステータス上昇補正と【Planet ark】の使用条件。それだけしかなかったが、ゼロにとってもプレイヤーにとっても良いものであった。

 

 

 最後にゼロは、【Planet ark】の説明を徐に見た。

 

 

 “この世界に蔓延る悪から人々を守る時に使う時、その願いが叶う力。この世界に残された希望の1つ。光の戦士となりて、人々と世界を守り抜け”

 

 

 まるで、ゼロに対して戒めているかの様な説明であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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目覚めのtime パート2

 ゼロが【ultimate human】というスキルと、【Planet ark】と呼ばれるアイテムを手に入れてから早1ヶ月半。現実はクリスマスやら正月やらというイベントがあるだろうが、このSAO──もといCAO──でもそのようなイベントはあった。ただプレイヤーの殆どは攻略に徹するあまり、イベントというイベントを楽しんでいなかった。

 

 

 それでも楽しもうと努力していた者は居た。レベルの低さの割にステータスがゲムデウスウィルスによって異常な物になっているデウスが先行しつつ、クリスマスはリーゼ・ロッテと2人きりで楽しんだり、正月限定のクエストで餅つきの様なものをしたりと案外楽しんでいた。

 

 

 その気に乗せられたゼロも楽しんだ。クリスマスは男女ペアのクエストでシノンと協力してクリアしたりと楽しもうとしていた。因みに他のメンバーはというと、アスナは落胆しリズベットがそれを慰めたり、ランとユウキとシリカの3人は街を巡っていたり、キリトとバダンとヒースクリフは攻略に明け暮れていた。

 

 

 その1ヶ月半で、攻略は一気に5層にまで進んだ。順調といえば順調だろう。残された約9000人以上のプレイヤーの中の攻略組が、誰1人として欠けなかったことを踏まえると。

 

 

 メンバーの平均レベルも上がった。相変わらずデウスだけ上昇率が著しく低いが、それでも現在の安全マージンを越えていることに変わりはない。漸くデウスはレベル20に到達し、Mもレベル22と随分上に位置している。これでダブルガシャットの本領が発揮できるのだ。

 

 

 そして現在、攻略組は5層のボス部屋を発見しており道を進んでいた。今回のメンバーはデウス、ユウキ、ラン、ゼロ、アスナ、ヒースクリフの6名がレイドを組み攻略に参加している。

 

 

 そんな移動の最中、というよりも今の今までゼロは自分の得たスキルについて悩み惚けていた。珍しくバダンにも話さず、ただ1人悶々と考えていた。何故だかバダンにも相談し難いと感じており、普段とは違う感覚を覚えているゼロ。

 

 

 

「どうしたのゼロ、何か暗いよ?」

 

 

 

 不意にユウキが話しかける。ゼロは一旦意識をユウキに向けて考えを止めて話をする。

 

 

 

「あ、あぁ……いんや。って暗いってどーいう意味だコラ?」

 

 

「えーだってさぁ、いつものゼロのハッチャけ具合がまるでないっていうかさぁ……いつもはボクとハイタッチするのに最近はしないし」

 

 

「何お前?俺のことよく見てんのな、視姦趣味か?」

 

 

「しかん……?」

「「ユウキ、知らなくて良いから。ゼロ?」」

「へーいへい」

 

 

「ゼロ、そういうのは歳が経ってから言うものだよ。流石に女性に対してだと、どうかとは思うけどさ」

「私も何やらセクハラ紛いの事を言って彼女に粛清されたことがあるんだ……ゼロ、悪いことは言わない」

「お、おう……苦労してんのな」

 

 

 

 攻略中に話す内容ではないと思うのは自分だけだろうか、そう思いながらボス部屋を目指す攻略組であった。一部和気あいあいとしているせいか、次第に攻略組の中にもそのような雰囲気が漂い始めていく。

 

 

 さてそんな話しも弾む中、漸くボス部屋の前に到着した。そこでレイドの足取りも一旦止まり、何やら前方で色々と話しているが聞いていても注意しろ的なことしか言わないので特に聞こうとも思っていない。

 

 

 

「さてっと、そろそろ準備しなきゃ不味いな」

 

 

「おーし、張り切って行こー!」

 

 

「ちょっと落ち着こうかユウキちゃん」

 

 

「あぁもう、すみません先生。この子久々に先生と一緒だから、ついついはしゃいじゃって」

 

 

「姉ちゃんも先生のことで昨日“眠れないー”とか言ってた癖に」

 

 

「ちょっ!ユウキ!」

 

 

「中々モテてるじゃないか、デウス君」

 

 

「はははっ、勘弁して下さいよ。リーゼが居るのに」

 

 

「…………むぅ

 

 

 

 色々と気を引き締めろと言われているのだが……今この世界はHPが無くなれば死ぬというシステムの中、このような雰囲気が漂われているのは少し異様とも取れる。

 

 

 そんな話しの最中、漸くボス部屋の扉が開かれる。その中に居るのは……何とプレイヤーであった。カーソルは緑色に表示されているのだが、そのプレイヤーは上半身の装備だけが何も無かったのだ。

 

 

 

「お、おい!プレイヤーが居るぞ!?」

 

 

「!?ちょっとすいません!通らせて下さい!」

 

 

 

 いち早くデウスがレイドを掻き分けて、そのプレイヤーに近寄る。一言だけそのプレイヤーに断りを入れると質問を幾つか投げ掛ける。

 

 

 

「大丈夫ですか?この部屋で何があったんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『宿主!そいつから離れろ!』

「えっ…………うおっ!?ガッ!?」

 

 

「「「先生!」」」

 

 

「デウス君!?」

 

 

 

 デウスの首に何か締め付けられる感覚を覚えた途端、その体がこの部屋の壁にまで押し付けられる。HPはそこまで減ってはいないものの、首を拘束されておりダメージの蓄積が入る。

 

 

 

 

 

 

「馬鹿な奴だ。この男も、ここに居る()()も」

 

 

「人間……?」

 

 

「何で俺がここに存在するのかは分からないが……そんなことはどうでも良い』」

 

 

 

 目の前のプレイヤーの体が変質していく。内側からボコボコと膨れ上がると、体内から青い光が発せられていく。その光が収まると、本性を現した。

 

 

 誰もが初めて見るモンスター。βテスターのゼロでさえもこの姿を見るのは初めてで、ヒースクリフでさえもこのモンスターを知らない。言葉では形容し難いその姿の真上には、こう名前が記されていた。

 

 

 

【Beast the one】と

 

 

 

「っう……うぉアァ!」

 

 

「『ッ、何っ!?』」

 

 

 

 デウスは両手斧を片手で持ち、デウスの首を締め付けている尻尾を斬りつけて落とす。ゲムデウスウィルスとて便利なだけではない、その証拠に首を締め付けられた感覚が現実にも反映しているようで……

 

 

 

『宿主、危機一髪だったな。心臓のバイタルが一時的に呼吸困難の状態になっていたからな』

 

 

「っはぁ!はぁ……!はぁ……!何だよ……あれ?」

 

 

『私にも分からん。未知のモンスター……いや、私でもモデルすら見たことがない』

 

 

「デウス君、平気か!?」

 

 

「先輩……!」

 

 

 

 デウスの容態を確認するためにヒースクリフが来る。攻略組は既にBeast the oneに対して攻撃を始めている。尻尾の攻撃の風圧がデウスとヒースクリフの近くにまで来るが、ダメージはない。

 

 

 しかし危ないと判断して、一旦離れる。

 

 

 

「先輩、あれは一体……」

 

 

「いや……私は、あんなモンスターを実装した覚えは無い!おのれ檀正宗ェ……!」

 

 

〔いいや、檀正宗でもあんなヤツは知らん〕

 

 

「黎斗さん……じゃあ、あれは一体誰が?」

 

 

〔それもあるだろうが、そのことは私が調べてみよう。今は君たちの使命を全うしてくれ〕

 

 

「分かりました……それじゃあ、行きましょうか!」

 

 

「あぁ、そうさせてもらおう!」

 

 

 

 デウスとヒースクリフはそれぞれの武器を手にし、目の前のBeast the oneに向けて攻撃を開始し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『えぇい!死に損ないどもめがァ!ウロチョロと引っ掻き回しやがってェ!』」

 

 

「ハンッ!図体がデカいだけかよボンクラ!デウスの速さが鬱陶しいだろぉなぁ!?」

 

 

「フッ!」

 

 

「『ぐおっ!たかが人間風情が……!この俺に何度も傷を付けやがって……!』」

 

 

 

 時間が経過し、攻略組の面子も大分Beast the oneの動きに慣れていった頃、そのBeast the oneのHPバーは既に3本目の半分にまで到達していた。主な火力であるデウスの一撃必殺型のSSが、この層のボスにとっては非常に厄介なのだが、デウスは攻撃に当たったのは1度だけである。

 

 

 このBeast the oneの攻略に対して、誰もが希望を持っていた。そう、このまま進んでいけばの話だが。

 

 

 

「『ならば…………■■■■■■■■!』」

 

 

「っ!?」「ぐっ!?」「み、耳がっ!」

 

 

 

 突如雄叫びをあげたBeast the one。またも形容し難いと思わせる雄叫びは、1つの叫び声にも似たようなものを感じていた。

 

 

 と、ここでだがヒースクリフが妙なものを見つけた。それはSAOに実装されている鼠型のモンスター【Iron un topo】と呼ばれるのだが、そのモンスターがBeast the oneに向かって行っている。

 

 

 ここで不思議な出来事が起きた。そのモンスターを取り込んで、Beast the oneは新たな形態に変化したのだ。大きさは既に部屋に収まりきらず、カーディナルの作用なのか一瞬にして部屋から居なくなった……かと思いきや、外から咆哮が聞こえる。

 

 

 つまりカーディナルがこの部屋では容量超えが起きると結果を出した故の行動。

 

 

 

「くそっ!全員ボスを追いかけろ!フィールドに出たら不味いことになる!」

 

 

「行こう、みんな!」

 

 

 

 レイド全てが一気にフィールドへと駆け出す。しかし誘導したデウスは、1人残っていたゼロを見つけると不思議に思い、ゼロに近寄る。

 

 

 

「ゼロ、どうしたんだい?早く行かなきゃ」

 

 

「あ、いや……わかってはいるぜ。けどちょっと待ってくれねぇか?何か通知が届いてんだよ」

 

 

「通知?」

 

 

 

 ゼロがメニュー画面を開き、通知欄を開く。題名は()()()()()()()()についてとだけ。それを開いたゼロは中身を1通り読み終えると、持っていたアイテムである【Planet ark】を取り出す。

 

 

 

「ゼロ、それは一体……」

 

 

「俺でも何か分かんねぇけどよぉ……多分、やれって意味かもしれなくてな」

 

 

 

 ゼロはそう言うと、そのPlanet arkを回した。そのアイテムはバネが内蔵されているみたく一瞬で伸びると、中から見えるボタンらしき場所に左手で触れた。

 

 

 ゼロはPlanet arkを左手で持つと、ゆっくりと弧を描く様に上に向けて、そのボタンを押した。その刹那、Planet arkの先端から視界が潰される程の光がボス部屋に充満していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







・活動報告更新しました。次回作アンケートとなっていますので、ご協力お願いします。





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目覚めのtime パート3

 現在、フィールドは大いに荒れていた。突如出現したBeast the oneが突如出現したことで皆は逃げ仰せていた。だが先程攻略組が戦っていたエリアボスに対して、そこまで(おそ)れるものなのだろうか。今までのエリアボスと大差無かった筈だ。

 

 

 だが今居るBeast the oneは、その規模が違っていた。ボス部屋にも収まりきらない程の大きさ……しかし全員の予想を悪い意味で裏切っていた。

 

 

 体長は凡そ4()0()()()()()以上は見受けられるであろう大きさにまで成長しており、その異様な姿をプレイヤーは見て、恐怖した。あの様な化け物が居て良い訳が無い、逃げるしかない……そうとしか考えられずにいた。

 

 

 そんな中バダンはフィールドに居るBeast the oneに向かっていた。唯一の宇宙人プレイヤーであるバダンは、あの化け物のことを昔見たアーカイブで知っていた。あの化け物がなぜ居るのかは、まだ知る由もない。だがあの化け物をここで倒さなければ多くの犠牲者が出てしまう。それだけは避けなければならない。

 

 

 

「(ビースト・ザ・ワン〈ベルゼブア〉……アイツが何故この世界に居るのかは知らんが、このまま蹂躙されるのは御免だ!)」

 

 

 

 バダンが標的に近付いていくと、今度はバイクのエンジン音が聞こえ始めた。Beast the oneもその音に気付き、音の方を見下ろすとバイクに乗って移動しているデウスを発見する。

 

 

 そのデウスは前方に居るBeast the oneの向こう側に居るバダンを見つけるとバイクを全速力で走らせる。途中厄介な妨害もあったが、デウスはそれらを避けきるとバダンの近くに到着する。

 

 

 

「デウスか」

 

 

「バダン、ゼロは何処に居る!?」

 

 

「ゼロ……だと?悠長な事は言ってられんが、フレンド登録したから分かるのでは?」

 

 

 

 

 

 

()()()んだよ、何処にも!」

 

 

「なにっ!?」

 

 

「ゼロが急に変なアイテムを取り出して掲げたと思ったら、ボス部屋に光が広がって……光が収まって目を開けたらゼロが居なくなってたんだよ!」

 

 

()……だと?」

 

 

 

 Beast the oneはデウスとバダンを見ると、“手始めにお前達2人からだ”と謂わんばかりにニタリと嗤うと青白い光線を2人に向けて放つ。

 

 

 その光線に気付いた2人は対処が遅く、咄嗟に防御の姿勢を取っていた。Beast the oneからしてみれば滑稽以外の何物でもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし一向に攻撃が当たらない。なぜ攻撃が当たらないのかを確かめるべく、2人は恐る恐る見た。

 

 

 2人の視線に映っているのは、2人を庇うように背を向けて攻撃に耐えた()()()()()であった。その巨人は2人と視線が合うと、少し驚いた様に頭を引いた。

 

 

 バダンはその銀色の巨人を見上げてただ一言、こう言った。

 

 

 

「ウルトラマン……」

 

 

 

 そう言った直後、ウルトラマンの背中に何かダメージが入ったらしく苦痛の声を挙げた。その後ろではBeast the oneがウルトラマンの背中に尻尾で執拗に攻撃していたのだ。

 

 

 

「ッ、シュオッ!」

 

 

「『なっ!?』」

 

 

 

 ウルトラマンはBeast the oneの攻撃を、後ろに振り返る勢いを利用して受け流し尻尾を掴み取る。そのまま立ち上がったウルトラマンは、尻尾を掴んでいる方とは逆の手で拳を作りBeast the oneに攻撃した。

 

 

 

「デュアッ!」

「『おごっ!』」

 

 

 

 攻撃が当たると直ぐにウルトラマンはハイキックを与えて倒れさせる。倒れたBeast the oneの尻尾を利用し、ウルトラマンはハンマー投げの要領でBeast the oneを回し続けると、主街区とは逆方向に投げ飛ばした。

 

 

 

「デュォア!」

 

 

「『ぐぅ……!何故……アイツと同じ存在が、ここに居る!?』」

 

 

 

 ウルトラマンは投げ飛ばした後、自分の両手を見つつ開いたり閉じたりと繰り返し再度Beast the oneを見据え、攻め始めた。

 

 

 よろよろと起き上がるBeast the oneであったが、起き上がった隙を狙われウルトラマンに顎と首を右、左のワンツーで殴打される。ウルトラマンはその後、Beast the oneの腕に自分の両脚を組みつかせ腕を捻らせることを利用してBeast the oneの体勢を崩した。

 

 

 バダンは何やら気付いたみたいだが、そのようなことを考えていてもウルトラマンの猛攻は止まらない。すぐに拘束を解いたウルトラマンは、Beast the oneの近くで空中前一回転すると顔面に右足の蹴りを入れた。

 

 

 

「『調子に……乗るなァ!』」

「ッ!デュオッ!?」

 

 

 

 Beast the oneは倒された状態であの青白い光を放つと、ウルトラマンはそのまま後ろに倒れる。その間にBeast the oneが立ち上がると、ウルトラマンの首を尻尾で締め付けた。

 

 

 

「デュアッ…………!」

 

 

「『今度は……俺の番だァ!』」

 

 

 

 尻尾で拘束し空中に上げると、Beast the oneは連続して青白い光線をウルトラマンに放つ。何度も何度も攻撃が当たり、ウルトラマンは先程より苦痛の声を挙げる。

 

 

 その拘束をどうにかしようとプレイヤー達が考えても、あのスケールでは助けようがない。しかしウルトラマンは頭部にある3つの飾りの内、両端の2つを手に取る。すると頭の飾りと思わしきものはウルトラマンの手元に渡り、短刀の様に扱って尻尾を切った。

 

 

 

「『ッ!テメェ……死に損ないの癖しやがってェ!』」

 

 

 

 ウルトラマンは2つの武器を投擲する。回転しながらBeast the oneの身体を斬りつけていくとウルトラマンの頭に戻った。

 

 

 しかしそれと同時にウルトラマンの胸の青いタイマーが赤色に変わり点滅している。警告すべき状態になっている故に、そうせざるをえないのだろう。ウルトラマンは疲弊した様子を見せながら体勢を崩す。

 

 

 

「デュォ……」

 

 

「『やはり貴様も、不完全な形で同化しているんだな……だから限界が来るんだよ馬鹿が!』」

 

 

「ッ!デュッ!」

 

 

 

 尻尾での薙ぎ払いをウルトラマンは下に屈んで避けると、Beast the oneは狙い通りと謂わんばかりに青白い光線を放つ。結果、ウルトラマンに直撃しダメージを負わせることに成功した。

 

 

 だがウルトラマンも立ち上がる。しかし点滅のペースが早くなっているので、時間が足りない。ウルトラマンは今放てる威力の高い攻撃として、頭部の真ん中にある湾曲している角にエネルギーを溜めると勢いをつけて発射させた。

 

 

 Beast the oneも負けじと光線を放つ。だがウルトラマンの意地が光線を割って入りこませ、ウルトラマンの放った攻撃がBeast the oneの元に届いた。

 

 

 

「『グオォッ!……っ、ダメージが多いか。ここは一旦、引いてやる』」

 

 

 

 Beast the oneは青白い光に包まれると消えていった。残されたウルトラマンは体力の限界だったのか、膝を着いて姿を消した。

 

 

 

「おいデウス、急ぐぞ」

 

 

「えっ、ってバダン。何で勝手に」

 

 

「置いていくぞ」

 

 

「でぇっ、ちょっと!」

 

 

 

 何故かバダンがバイクを操縦し、デウスが後ろに乗るということが起きつつもバダンはバイクを走らせた。あの状況にたった1人で対処しきれる存在に、心当たりがあるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッウ…………っ?」

 

 

「目覚めたか、ゼロ」

 

 

「ゼロ、大丈夫かい?」

 

 

 

 バダンとデウスが、あのウルトラマンが居た場所に()()()()()ゼロを介抱していたらしい。感じる疲弊状態からゼロは起き上がるのも億劫だと感じている。

 

 

 

「っ……!おい、あの化け物はっ!?」

 

 

「落ち着け、お前が追っ払っただろ」

 

 

「っあ……あぁ、そうだっt

 

 

 ってバダン、お前何で知ってんだよ?」

 

 

 

 ゼロはバダンの発言に確かな疑問を持った。あの時戦っていたウルトラマンと呼べる存在は、確かにゼロ本人が戦っていたが誰にもそんなことを言っていない。勿論バダンにもデウスにも。

 

 

 バダンはデウスとアイコンタクトを取ると、バダンはゼロに歩み寄る。視線をゼロに合わせるとバダンは今言える真実を話した。

 

 

 

 

 

 

「私達“地球外生命体”は、先程のゼロの状態のことを【ウルトラマン】と呼んでいる。それだけだ」

 

 

「…………はっ?いやいや待てよオイ、さっきなんつった?は?」

 

 

「地球外生命体のことか……それならば」

 

 

 

 バダンは立ち上がり、ゼロから少し離れると本当の姿を現す。人間特有の体付きや顔立ち、声質から全く別のものへと変化したバダンを見てゼロは口をパクパクさせて驚いている。

 

 

 

「……これが私だ。先程デウスにも見せたが、私は本来地球に住まう存在では無く地球に移住してきた()()()なのだよ」

 

 

「…………え、ちょまっ……えっ?なに、何々々?ドッキリじゃないよな、ほぇ?」

 

 

「残念ながら……!本当の事だ、ゼロ」

 

 

 

 バダンは地球人に姿を変えると、デウスがゼロに近付いて少し落ち着かせる。精神科医だけあって人を落ち着かせることに長けている故に、ゼロも少しだけ落ち着いた。

 

 

 その落ち着いたゼロに再度目線を合わせてしゃがんだバダンは、ゼロに向けて言った。

 

 

 

「ゼロ、お前はこの世界でウルトラマンとなった。ウルトラマンとは宇宙を守る為に日々戦い続ける者を指す。

 

 

 ゼロ、これは私の忠告だ。私とデウス以外に秘密を洩らすな。先のウルトラマンがゼロと知られれば混乱を招く恐れがある、この事は秘密にするんだ。良いな?」

 

 

「……お、おぅ。秘密、秘密なんだな?誰にも」

 

 

「私たち以外、誰にもだ。わかったな?」

 

 

 

 ゼロは未だに思考回路が纏まっていないが、バダンの言い分に従うこととなった。疲れているだろうがゼロを連れて主街区に戻って行く3人の間には、何やら疲れた様な気が漂っていたそうだ。

 

 

 

「(ウルトラマン……ねぇ。あのスキルの名前と似てんだなぁ)」

 

 

 

 ゼロはゼロで、今思い出したことを少し楽観的に受け止めていた。本人の体感では、この考えはどうにも出来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 




※次回作アンケートを行っております!
 良ければ意見を下さい!お願いします!








次回!Dr.ゲムデウスは!

 17層にて、盲目の男と邂逅するラン!

「あの……名前は?」
「……ただの、流浪者だよ。お嬢さん」


 ランは訳あって男を目的地まで案内するが……

「お嬢さん、何を急いでいるんだい?」


 ランが秘めていた感情とは!?

「私は……ただ…………!」


 次回『blindnessの旅人!』


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閑話 光と影

 ウルトラマンが出てきた
 ビースト・ザ・ワンも出た()
 じゃあビースト・ザ・ワンを出したのは誰だ?

 それが少しだけ分かる回でもある閑話。


 ウルトラマンとなったゼロであったが、未だに力の使い方を素早くスキル欄を見て何となく理解し何となく発動させてきた。しかしゼロにも力の使い方で不安はあるため、先にスキル欄を見て技の発動モーションを理解しようとするのだが……

 

 

 

「バダン助けて」

 

 

「いきなりなんだ?またシノンでも怒らせたか?」

 

 

「そんなんじゃねぇよ」

 

 

 

 料理店のカウンターで前にぐでっと倒れているゼロ。バダンはゼロに無理やり連れてこられたようなものだが、ここ最近で悩み事といえば……となるとバダンも理解できる。というより理解している故にジョークを混じえたと言える。

 

 

 

「怒るな、どうせあの関係の話だろう。確かに昔のお前は先日みたいなことはなかったからな」

 

 

「そりゃあなぁ……つか、あんなモンいきなり使えたことに驚きだわ。んでもってスキル欄に技の使用法あったけどさぁ、これが変でよ」

 

 

「変?」

 

 

「これ」

 

 

 

 ゼロがバダンを手招きしバダンがゼロに近付くと、ゼロはステータス欄からultimate humanを選択する。ウルトラマンとなった影響なのか、全ステータス上昇の他に使用可能な技の名前が幾つかあった。

 

 

 だがそこにある技名の下の説明欄は全て、最後に“本来の力を発揮できていない”と書いてある。これを見たバダンは何か心当たりがあるようで、小さく“成程……”と言いつつ数回ほど小さく頷いた。

 

 

 

「何か分かるのか?」

 

 

「この最後の1文、恐らくだがゼロ自身が光……ウルトラマンに馴染めてないのが原因かもしれん」

 

 

「???」

 

 

「先日の件、あの時お前は急に戦う羽目になっただろう?その時の心境を今どう思う?」

 

 

 

 バダンの言葉にゼロが悩む。といってもそこまで時間はかからなかったらしく、不意に“あぁ”とゼロが言うと答えを出した。

 

 

 

「ビックリして訳分からなかったな……しかも鍛えてる筈なのに精神的にも、変な話し肉体的にも疲れたな。疲れるまでの時間も早かったし」

 

 

「ビンゴだ」

 

 

「何がだよ?」

 

 

「ゼロ、お前はウルトラマンとしての身体とキチンと馴染めていないのだ。接触が悪ければ充電速度が遅くなる充電器と携帯の関係みたくな」

 

 

「分かりやすいのか分かりにくいのか判別つかねぇな、その例え」

 

 

「まぁその様な関係と思っておけ。だが馴染むにしても……こればかりは訓練どうこうで出来るものでは無いんだがな」

 

 

「はい?」

 

 

「……少しフィールドに出るか。ご馳走様、行くぞゼロ」

 

 

「お、おう……ご馳走さんっした!」

 

 

 

 ゼロとバダンが店から出ていき、素早くフィールドに向かう。ゼロもultimate humanのスキルによってステータスが向上されている故に、現段階のデウスには劣るものの負けず劣らずといった素早さを出していた。

 

 

 一方バダンはゼロの腕を掴み、ドロップ品の盾を使ってボードの様に滑っていた。ある意味楽といえば楽な移動方法だろう。あとでメンバー全員にでも伝えておこうかと考えたバダンであった。

 

 

 暫くして殆ど人通りの無い場所にまで辿り着くと、ゼロはそこで止まりバダンはブレーキを掛けてゼロより前に出るものの止まった。盾から降りて足で盾を持ち上げて回収するとストレージにしまった。

 

 

 

「なんか気持ちよさそうだな、それ」

 

 

「お前もデウスかバイクに乗った大人に頼むといい。気持ち良かったぞ」

 

 

「マジか、あとでデウスに頼も」

 

 

 

 

 

 

 

「さて、保留していた話しになるが……ゼロ、ウルトラマンの身体を馴染ませる方法だが」

 

 

「おう」

 

 

「こればかりは本人の()()()()だけが頼りになるのだよ」

 

 

「心の成長……ってか?」

 

 

「例えるなら、ウルトラマンとして戦うことを決意したり、“運命を受け入れる”ことと“運命に抗う”ことを身を持って弁えなければならんからな」

 

 

「……何だかよく分かんねぇけど、戦うことを決意すれば良いんだよな。だとすりゃ簡単じゃねぇのか?」

 

 

「言うは易く行うは難し。単に決意だけしても……というヤツだ、恐らくはゼロの性格面の問題もあるだろうがな」

 

 

「そうか……って俺の性格がなんだって?」

 

 

「お前はどちらかといえば楽観的だろう?今はウルトラマンとなったのだ、戦う覚悟と守る覚悟ぐらいは覚えておいてほしい」

 

 

 

 バダンの言葉を聞いたゼロだが、今ひとつ理解していないみたいだ。まぁウルトラマンとなったからとはいえ、元は人間として暮らしてきたのだ。失礼だとは思うが、厨二病患者や正義のヒーローに憧れている者ならば覚悟の意味が分かるだろうが、生憎とゼロはそのカテゴリーに入っていない。

 

 

 力を扱う際の注意事項は元軍人である父親から嫌という程教えられたが、“覚悟”となると話しは別だ。覚悟とは、何かに対して吹っ切れる状態になることと考えているからこそであろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある日を境にゼロが付き合い悪くなってしまった様に思える、逆にバダンとは未だに付き合いは保ったまま。やはり旧知の仲というだけあって、隠し事でさえも気軽に話せる方が良いのだろうか。

 

 

 

「という訳で、ゼロとの関係を進行させるには何をすれば良いと思いますか?」

 

 

「いや……僕に聞かれても。というより話しが飛躍してない?」

 

 

 

 今私はリアルで精神科医をしているデウスに話しをしに来た。なんでもリーゼと恋人同士の関係らしく、リーゼ・ロッテ自身の話しからデウスは告白された側であったものの今でも良好な関係が築けているみたいだ。流石にアスナに聞かせるのはアウトだろうけど。

 

 

 

「けどゼロのこと好きなんだねシノン。良いねぇ、若いってさ」

 

 

「っ……はい」

 

 

 

 改めて誰かに言葉として言われると、どうやら私でも恥ずかしいみたいだ。というより精神科医だからという理由だけで、何故女性であるリーゼ・ロッテじゃなくてデウスに話したのだろうか。少しだけ後悔した。

 

 

 微笑んでいるデウスであったが、息を1つだけ吐くと質問に答えてくれた。

 

 

 

「んまぁ、さっきの答え……という訳でもないかな。まぁアドバイスみたいなものさ」

 

 

「それは…………?」

 

 

 

 

 

 

 

「ゼロを支えてあげること。どんな時でも、どんな事があったとしても……ね。こればっかりはリーゼに感謝してるから言えてるんだけどね」

 

 

「というと?」

 

 

「ドクターライダーになってからというものの、幾つもの無茶をして心配されることが多くなったんだよね。でもそんな僕を心配して、ずっと支えてくれたのがリーゼなんだ。懐かしいなぁ……前にパンデミックの件で無茶し過ぎて血反吐吐いちゃったこととか」

 

 

 

 いやドクターライダーの活動って、そんなものだったかしら?そんなことを思いつつ、デウスの言ったアドバイスを実行することを決めたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わって現実世界、株式会社【レクト】の1角。そこには多くのPCや様々な計器などが設置されている。だがそんなものよりも、もっと奇妙奇天烈で摩訶不思議すぎる()()がその場所に、隣に『須卿伸之』を立ち会わせていた。

 

 

 

「あのウルトラマンは地球人の科学ではどうしようもない存在だ。ここでは“神”という立ち位置が当てはまっていると考えても良い」

 

 

「……そのウルトラマンという存在を、お前がどうにか出来るから僕が採用した。特例でな」

 

 

「えぇ、それは勿論感謝していますよ……こうして実験を行うことも出来るんですから」

 

 

 

 目の前のPCのエンターキーを押すと、画面にインストールを表すパーセンテージが表示されているバーが出現すると、その者は何も言わずに()()()して何処かへと消えていった。

 

 

 隣に居た須卿伸之は、先程の()()()に対しての見解を持ち合わせているが言葉にはしない。何時何処で聞かれているのかが本当に分からないのだから。

 

 

 

「(見た目通りの頭でっかちみたいな奴だったが……あの頭脳は本物だ。あの化け物をデータとはいえSAOというゲームに組み込ませた。あれほどの大きさ、普通はラグや容量の関係で正常には機能しない筈なのにだ……)」

 

 

 

 須卿伸之が本心から恐ろしいと感じ、尚且つ敵対したくない相手と認識している存在。それ程の存在だと言うのが何となくだが分かる。

 

 

 先程までその存在が弄っていたPCがインストール終了の合図を出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “プレイヤー『PoH』の人格消去、ならびに【ヤプール】のデータをインストール完了しました”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




活動報告にてアンケートを実施しています。

お願いします。1人でも多く、意見をくださいまし……えっ、本編進めろと( 'ω')?

あぁ分かったよ!(本編に)連れてってやるよ!連れて行きゃ良いんだろ!?どうせ後戻りは(ry





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blindnessの旅人! パート1

 あれから月日も経ち20層まで到達したプレイヤー達は、普段と変わらず攻略組とそうでない者との区別をつけたまま毎日を過ごし続けていた。

 

 

 ただこの日、1人だけ決意を持って17層に降りていたプレイヤーが居る。しかも何故だか知らないが……隣に盲目の男を連れて。

 

 

 そんなプレイヤーの名は『ラン』。最近攻略組でも活躍し、ヒースクリフが創設したギルドのメンバーの1人。しかも厄介なことにメンバーの中で所謂“二つ名”持ちまで居る始末。

 

 

 中でも注目されているのは【二面相】の『デウス』、【最強ゲーマー】の『M』などが主。他にもキリトが二つ名を持っているものの、そこら辺は省略しよう。今はランというプレイヤーの物語なのだから。

 

 

 話しを戻そう。事の始まりはアルゴからの情報であった。何でも、17層の森林地帯の奥深くに不自然に置かれた刀らしき武器があるという。これだけを聞いてランはすぐにアルゴから情報の詳細を買った。なぜそこまで必死だったのかは、ランのみぞ知る。

 

 

 その刀を手に入れるのにはクエストで受注しなければならないシステムだったらしく、アルゴから聞いたNPCに出会うまでの午後11時まで待ちぼうけであった。

 

 

 漸くNPCとの話しが終わったと思いきや、今すぐに森の奥にある墓場まで受け取った花を添えてくれないかと頼まれた。時間にして午前0時、それでもランは墓場まで目指した。

 

 

 その墓場を目指す道中、その盲目の男が森の入口らしき場所の近くで佇んでいた。話を聞く限り男も墓参りに行く様子だったのだが、この森の臭いが強すぎることと何年もの間人の往来が無かったせいで獣道しかなくて迷っていたという。

 

 

 ランはその男を連れていき、今は獣道を進んで行っている途中である。

 

 

 

「鬱蒼としてるねぇ、嬢ちゃん」

 

 

「そうですね……こんな所に刀なんてあるのかしら?

 

 

「何か、言ったかい?」

「いえ何も」

 

 

 

 鬱蒼と生い茂る中、ランは邪魔だと思った(つた)や枝などを刀で斬る。本当に獣道しかないことを知った時、近くに居る盲目の男が不意に話しかけた。

 

 

 

「そういや嬢ちゃん、何でこんな場所に来てるんだい?もうとっくに夜だってのに」

 

 

「頼まれたんですよ。すぐにお墓に届けてくれって言い分で」

 

 

「へぇ、そりゃちょいと……怪しくないかい?」

 

 

 

 言われてみれば、確かにそうだ。普通ならば午後11時に現在13歳の少女に頼み込んで今すぐ墓場に花を添えに行ってくれ等と言わないのだから。だがここはゲームの中、それ故に元の開発者の適当さが現れている。

 

 

 実際にクエストを生成しているのはカーディナルなのだが。

 

 

 

「……まぁ、思いますけど。ただ」

「ただ?」

 

 

「その墓場に……刀があるらしくて」

 

 

「刀……ってぇと、()()のことかもな」

「知ってるんですか!?」

 

 

 

 ランが驚きそう叫んだ途端、狼型のエネミーが何体も現れてしまった。どうやら声で此方まで来たらしい。

 

 

 

「…………えっと」

 

 

「はっはっはっ、一先ず厄介事を済ませちまうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 狼型エネミーはものの15分で片付けられた。ランの実力が攻略組の前線レベルにまで到達していることも考えられるが、1番の要因はあの盲目の男だ。

 

 

 盲目故に持っていた杖が実際は仕込み杖であったのだが、刀身を抜いてやって来る狼型エネミーを()()()斬ったのだ。何も見えていない筈なのに、どうしてそこまで出来るのかがランの中で疑問を生み出した。

 

 

 

「……凄い、目が見えてないのに」

 

 

「はっはっはっ。目が見えてなかろうが、耳や鼻、空気を感じ取れば大概のものは分かるぜ、お嬢ちゃん」

 

 

 

 お互いに帯刀を行いながらそう語る男、この男は色々と変だと思えるものが幾つかある。まず盲目なのにも関わらず、昔から墓参りに行っていたのかということ。次にその手に持つ仕込み杖、最後に刀を振るう鋭さ……まるで鍛え上げられた1つの技のようで。

 

 

 しかしそんなことよりも、今は先にその墓場のある場所にまで行かなければならない。男に対する疑問を呑み込み、墓場を目指す。

 

 

 

「おっ、もう行くのかい?」

 

 

「えぇ……」

 

 

「…………ふぅん。なぁお嬢ちゃんや、ちょっと良いかい?」

 

 

「なんですか?」

 

 

 

 盲目の男がランを引き止める。少し声の質が荒ぶった様子だが、それを聴き逃さない男ではなかった。それを踏まえた上で、男はランに訪ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何をそんなに焦っているんだい?」

 

 

「っ…………」

 

 

 

 現実世界なら感情を隠せたかもしれないが、生憎とここは仮想世界。フルダイブの影響により脳の微弱な電気信号を受け取り反映させてしまうシステムがある。故にランは、図星を貫かれたような表情を浮かべていた。

 

 

 ランは考えに考え抜いた結果……その男に話した。墓場を目指しながらも、ランは思い耽ながら語り始めた。

 

 

 

「……私、人の役に立ちたいんです」

 

 

「へぇ……でも、人の役に立つことと刀を手に入れることは関係ないんじゃないのかい?」

 

 

「いえ、必要なんです。

 

 

 私達の知り合いに、本当によく頼れる大人が何人も居るんです……でもそこで甘えている内に、自分はここで指を咥えて待っていて良いのか悩んでしまって。

 

 

 少しでも負担を減らせるのなら……あの人達に迷惑を掛けたくないから、私は強くならなくちゃいけないんです」

 

 

 

 それこそがランの思い。足でまといになることを恐れたあまり、ラン自身がデウスやM、ゼロやバダン、キリトやアスナ達の様に力を求めて行った結果が、これであった。

 

 

 新しい武器を手に入れて、強い力を欲する……これが今のランをつき動かしている信念である。

 

 

 その話しが終わると、いつの間にか墓場の近くへと到達していた。遠目からして墓場が見えているので、どうやら当たりだと踏んだランは急ぎ足になるのだが…………

 

 

 

 

 

「そりゃ思い込みだよ、嬢ちゃん」

 

 

 

 男の声がランの歩みを止めた。ランは一体何を言っているのか一瞬分からなかったが、一瞬経てば男の言い分も分かった。だが納得がいかない。

 

 

 

「……どういう、意味ですか?」

 

 

「言葉の通りさ。お嬢ちゃんは今でも充分に強いって断言するぜ?あっしが言うんだ、間違いねぇ」

 

 

「……ありがとうございます。でも、そうだとしても私は」

 

 

「そんな力なんてなぁ、本当は何処にも必要ないもんさ。今の世の中じゃなぁ」

 

 

「っ……!でも、この世界のモンスターを倒す為には!」

 

 

「嬢ちゃん、よく聞いてくれ。所詮刀や剣なんざ人斬り包丁っていう物よ、そんなモン振るうのは……あっしみたいな輩か、処刑人だけで良いもんさ。

 

 

 本当はそこにある命を殺すだけの、()()()()()()()() ()包丁さ」

 

 

 

 ゲームの中と分かっていないNPCという存在は、通常ならば誰にも理解されることなく忘れ去られていくのだろう。だがNPCにとってここは現実、故に現実味を帯びた言葉が出てくる。

 

 

 男はランより前に出で何も躊躇うことなく墓場まで行く。仕込み杖で地面を探り、音の反響で道を選び到着した。その男の行動力にランも驚きはしたが、兎にも角にも墓場まで向かっていく。

 

 

 墓場に辿り着いた。しかし墓石は1つしか無いのだが、その墓石に供えられているかのように刀が1本あった。先に到着した男はゆっくりと膝を着き、何かを唱えるように呟いていた。

 

 

 ランは目の前にある刀を見て心が揺らぐ。あれこそが自分の求めていた力なのだと、そう実感できる瞬間であったからこそ心が揺らいでいた。目の前の()を自らの物としようと手を伸ばして……途中で止めた。

 

 

 ランは止まった手を見て思い出した。ここに来た理由は受け取ったNPCから花を添えてくれと頼まれたから、そしてそのクエストの報酬が刀であったから来ただけだ。もしも目の前の刀が、ランの求めていなかった物であったとしたら……そう考えるやいなや、話しは早かった。

 

 

 ランは何か念仏を唱えている男の隣に座り、アイテム欄から花束を選択し取り出す。それを少し迷いながらも墓の上に置き、両手を合わせる。

 

 

 ランの家族はキリスト教を信仰している。あまりこういった日本式の墓参りをする機会も無く、ランは男のする動作を真似てしているだけ。ランはその場で立ち上がり、辺りを見渡すと生い茂っている雑草を引っこ抜き始めた。

 

 

 

「……嬢ちゃん、何をしてるんだい?」

 

 

「いえ……!こう生い茂ってたらっ……!フゥ、故人も鬱陶しく思いませんか?」

 

 

 

 キリスト教の墓参りは故人に対して祈りを捧げるのではなく、あくまでも神に祈りを捧げるものとされている。クリスチャンは全員天国に行けるということを前提としているが故にだ。

 

 

 だが墓参りに関しては先にやるべき事と留意すべきことがある。先に墓周りの掃除をして花を添えるのが本来の手順、今回は逆になってしまったがランはやるべき事をやろうとしていた。

 

 

 

全く……墓参りだと聞いてたものの、何で白い花じゃないんですか

 

 

「……はっはっはっ、嬢ちゃん。ちょいとへっぴり腰過ぎねぇかい?」

 

 

「……私、3年前まで病気だったので」

 

 

「おっと、こりゃ失敬」

 

 

 

 そう言い終えると、男も雑草を引き抜き始めた。子どもがやっているのに大人がやらないというのも、NPCとはいえ些か気が引けるのだろう。

 

 

 結局終わった頃には朝日が出始めていた。仮想空間では汗をかかないとはいうものの、既に精神的に疲弊しているラン。だが男はどちらも疲弊しているのだが。

 

 

 

「嬢ちゃん」

 

 

「なんですか?」

 

 

「……刀は良いのかい?欲しかったんだろ?」

 

 

 

 男は座り込んだ状態でランに問いかける。ふとランは墓にある刀をじっと見つめると、ため息をついて引き抜いた雑草の山に寝そべった。

 

 

 

「……いえ、もう良いです。疲れましたし」

 

 

「そうかい。ならちょっと寝たら、すぐに行くか」

 

 

「えぇ……そう、しま…………」

 

 

 

 ランは疲れた様子で、その山の上で寝た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




活動報告にて次回作アンケートを募集中です!

投稿チカレタ(´・ω・`)もう止まりたい……「アシヲトメルナァー!」

幻聴が聞こえてきた……


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blindnessの旅人! パート2

ザ、グダグダ!()
もう自分が何を書いてるのかさっぱりだぜ!(`・ω・´)

あ〜、早く75層の重要イベントまで行きたいんじゃ^〜
でもそうだよね!タカキだって頑張ってたし、俺も頑張らないと!(タカキ休め)

ではホンヘ、どぞ〜







 ふと自分自身が上下に小さく揺れていることに気が付くラン。嗅覚が人の臭い、それも男性の臭いを受け取り暖かさが触覚を刺激している。ゆっくりと目を開くと先ず目に入ったのは金髪、少し変なくせっ毛になっているものの艶のある髪質なのは間違いない。

 

 

 周囲からは近くで剣を振るいモンスターが倒された音が聞こえてくる。ランは寝ぼけているものの辺りを見渡すと、目の前の人物がランの起床に気付いた。

 

 

 

「あ、良かった。おはようランちゃん」

 

 

「ふぇ?……」

 

 

 

 デウスであった。そういえば金髪のプレイヤーといえばデウスぐらいしか居なかったということと、今思い付く限り自分の今の状態……デウスにおぶられていることを知るやいなや、ランは直ぐに意識を正した。

 

 

 

「せ、先生!?ななな、何でここに!?というより、何で私!?」

 

 

「ちょっと落ち着こうか。あ、降りる?」

 

 

「あ、はい」

 

 

 

 デウスはその場に座り、ランが降りると体を伸ばしてパキパキと背骨を鳴らす。仮想空間との区別がないデウスは、現実世界となんら変わりない身体状況にあると言える。

 

 

 伸び終えたデウスはランの方に振り向いて手招きをする。ランも手招きに応じてデウスに近付き、少しだけ離れた位置で止まる。それを見たデウスは未だに微笑みつつ理由を説明する。

 

 

 

「ランちゃんの帰りが遅かったから、フレンドの位置情報から探して来てみたら……寝ているランちゃんを発見して、このまま起こすのもあれだし、ゆっくり寝てもらいたからね」

 

 

「あ、あの……ごめんなさい」

 

 

「謝らなくて良いよ。ただ、何であの場所に居たのか教えてもらえる?」

 

 

「はい……」

 

 

 

 ランは自分が受けたクエストの内容を話し、今までの経緯を伝える。デウスは全て聞き終えると少し安堵したような、そして心配する表情でランと目線を合わせて伝える。

 

 

 

「それなら良かった。でも、クエストに行く時は必ず2人以上で行くことを覚えておいて。最近は少し物騒になってきたしね」

 

 

「はい……」

 

 

「先せーい!」

 

 

 

 ランとデウスに走り寄るのはアスナ。装備している【スパークル・レイピア+6】を抜き身のままであることから、先程までモンスターを倒していたのだろう。

 

 

 

「おはよう、ランちゃん」

 

 

「おはよう……ございます」

 

 

「ここじゃ敬語は……まぁ、いっか。さてっと、アスナちゃん交代ね」

 

 

「はい!」

 

 

「うん、良い返事だ」

 

 

 

 デウスは両手斧を装備し2人の前を先行すると、ポップするモンスターを片手間で蹴散らす。レベル上昇率が低いとはいえ、ステータス面でいえば上の層でも活躍できるほど高い。だからこそ17層のモンスターも通常攻撃1回で大体終わる。

 

 

 他愛ない雑談を交わしつつ17層の主街区に戻った3人は、そこから最前線の20層まで転移し全員が待っている宿屋に戻る。ユウキから特に心配されたランは謝罪した後、その日のランはゆっくりと過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして月日が流れる。2023年5月、20層から24層まで難なくエリアボスの撃破をしてきた攻略組は、遂にクォーターポイントと呼ばれるエリアに到着した。

 

 

 ヒースクリフ(開発者)からは、クォーターポイントのエリアボスは通常のボス攻略では歯が立たないほどの強さを持つと聞くと、ここはステータス的にゼロとデウスを行かせて様子見を行うと、ポップされる敵は対処のしようが可能なので翌日は他のメンバーを連れて行くことにした。

 

 

 そして現在、キリトとバダンとランの3人が迷宮内を攻略していた。キリトもバダンもモンスターの攻撃を避けたりパリィなどをしてカウンターを与えて倒している。しかしラン1人だけ、モンスターがある程度ある程度近付いたところで刀を一気に抜刀する行動を何回も繰り返している。

 

 

 居合……という点からしてみればまだまだ粗が目立つものの、ランのSTRとDEXの高さからしてモンスターへのダメージリソースは大きいものとなっていた。モンスターを倒し終えたランは息を吐く。

 

 

 

「(このスキルを手に入れてから……私も強くなれた気がする。これで皆の足でまといにならないし、攻略の最前線でも活躍できる…………でも)」

 

 

「ラン、戻るぞ」

 

 

「(まだだ。まだ強くなれる……もっと速く、正確に、相手の弱点を狙えれば……ボスの弱点を探って、私も役に立たなきゃ……!)」

 

 

「ラン?……おいラン!」

 

 

「っ!……え、えっと?」

 

 

「街に戻るぞ、今日はここまでだ……あと、考え耽るのは良いが話は聞けよ?」

 

 

「ご、ごめんなさい……」

 

 

「構わん。行くぞキリト」

 

 

「おう」

 

 

 

 帰り道の途中でやって来るモンスターをそれぞれ斬り伏せながら街に帰っていく3人、しかしランだけはずっと思いつめていたままであった。

 

 

 

「(……夜に出かけて、モンスターを倒そう。穴場の狩場もあったから、そこに行けば)」

「避けろラン!」

 

 

「えっ……?」

 

 

 

 ランが考えている間、目の前にモンスターが迫る。棍棒がランの顔面に迫り……咄嗟に両腕で防御し目を閉じたランであったが、一向に衝撃が来ない。何かと思い目を恐る恐る目を開けると、モンスターが動きを止めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「間一髪、ってところかね」

 

 

 

 モンスターの首が落ち、続いて体が倒れた。ランの目の前に居たのは、ランがクエストの最中で見た()()()の姿だった。

 

 

 

「貴方は……っ」

 

 

「久しぶりだな、嬢ちゃん。元気してたか?」

 

 

 

 急に現れた男に対して、バダンとキリトは警戒せざるをえなかった。だがランが武器を抜かない様子を見る限り、ランの知り合いなのだろうと考えている。

 

 

 

「ラン、そこの輩は知り合いか?」

 

 

「うん……クエストで。でも、NPCの筈なのに……」

 

 

「NPC?……コイツが?」

 

 

「はっはっはっ、まぁ今はんなこたぁ些細なことよ」

 

 

 

 ランと出会った盲目の男は目が見えないながらも、ランの方に向けて笑顔になり口を開く。

 

 

 

「あれから随分……修行を重ねたみてぇだな、嬢ちゃん。良い感じに強くなってやがる。目の前の誘惑に勝って、自分だけの力でな」

 

 

「はい……」

 

 

「そして()()()()()()を手に入れた……あん時とは、比べもんにはならねぇなぁ……」

 

 

 

 男の一方的な会話が続く。

 

 

 

「あっしが来たのは理由があってな。嬢ちゃん、お前さんに忠告だ」

 

 

「忠……告」

 

 

「先ず1つ、“手に入れた力に溺れるな”

 その力ばかりに頼るんじゃねぇぞ。腕が鈍るかんな。

 

 1つ、“使い所を見極めろ”

 この世界じゃあ、力を何処でどう使うかも重要になってくる。冷静に、的確に使えよ。

 

 最後に、“あっしみたくなるな”

 あっしは既に引き返せねぇ所まで来ててな。嬢ちゃんにはそこまで行ってほしくねぇってのが本音よ」

 

 

 

 盲目の男というNPCの人格が現れていた瞬間でもあった。言い終えた途端、その男の体が徐々に粒子状となり消え始めていく。3人は目の前で起こっている事象に釘付けであったが、盲目の男はヘラヘラとしながら告げた。

 

 

 

「はっはっはっ、これで……あっしの()()も終わりになりやがったな。まぁ元々、これが()()()()だってこたぁ、知ってんだけどな」

 

 

「っ……最後に1つ良いか?」

 

 

「おぅ、なんだい兄ちゃん。何でも言ってみな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「問おう、お前は誰だ?単なるNPCとは言わせんぞ」

 

 

 

 そう問うたバダンに対して、その盲目の男は答えた。

 

 

 

 

 

「この世界の中枢の1部さ。あっしは力を届けに来た、紛れもない()()……敢えて名乗るとすりゃあ

 

 

 

 

 あっしの名は『座頭市』、単なる流浪者さ」

 

 

 

 そう言い終えると、盲目の男『座頭市』は姿を消した。残された3人は座頭市が居た場所を見続けるが、ふとキリトが漏らす。

 

 

 

「座頭市って……完璧日本っぽい名前だよな。普通アインクラッドというかこのゲーム、西洋の要素とかが多いのにな」

 

 

「……座頭市か。また懐かしいものを」

 

 

「……知ってるんですか、バダンさん」

 

 

「まぁ、な。座頭市……そういう名の映画が昔、1960年代にあってな。私も見たことがあるが、特に主役の殺陣が圧巻であった記憶がある」

 

 

「……茅場昌彦の趣味?」

 

 

「に、なりそうだな。しかし……あの座頭市、有益な情報を与えたな」

 

 

 

 バダンは既に気が付いており、キリトは何となく“こうなのでは?”と予想をつけている。未だに理解が及んでいないのはランだけであった。

 

 

 

「あの、有益な情報って……」

 

 

「座頭市が言っていたであろう。彼奴はこの世界の中枢の1部といった……ということはだ、どうやらこのゲームは簡単に乗っ取らせてくれないらしいな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カーディナルが、()()()()()()()()ってことか?」

 

 

「あぁ、恐らく」

 

 

 

 キリトとバダンの中で話しがどんどん進んでいくものの、それを止める手立ての無いランは続いていく2人の仮説立てを聞いていく羽目になってしまう。

 

 

 

「彼奴は“力を届けに来た”と言っていた。つまり、ランに何かしらの力を与える為に作られた存在ともいえる」

 

 

「しかも会話から察するに、かなり高度なAIだ。自分自身を偽物と理解して尚、カーディナルの与えられた役目を果たした……でも逆を言えば、カーディナルも高度なAIを出して力を与えることしか出来ないのか」

 

 

「だが我々にカーディナルが味方しているとなれば心強い。他にもデウスとMの協力者も手伝っているとなれば、解放されるまでの時間も短くなる筈だが……」

 

 

 

 バダンが唯一懸念しているのは、前回出現したビースト・ザ・ワンとウルトラマンという存在だけ。この地球にはウルトラマンという存在を知られては居ないはずだが、もしも宇宙人が協力していたら……

 

 

 だが今は、そんなことを考えていても現実世界では自分達の体のみにしか影響が出ない。そう言って話しを終わらせたあと、3人は迷宮内から脱出する。

 

 

 

 

 

 

 

 




活動報告にて新しくアンケート追加。しかし新作案の方は未だに続行中なので、どしどしご参加下さい!

あぁ、そうだ(唐突)。俺達が今まで積み上げてきたモンは、全部無駄じゃなかった。これからも、俺達が立ち止まらない限り……道は続く

訳:色々有りすぎてモチベダウンしました。続けたいけど続けられない……でも終わらせよう。なので感想ください(本音)


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blindnessの旅人! パート3

俺は何を言ってたんだ……(後悔)。

前回の前書きや後書き見てたら、“あ、俺狂ってたな”って感想しか来ねぇ……。しかも感想くれとか、毎回毎回感想してる方居るのになんちゅう発言をしとんのじゃ俺は……。

はい。おおよそ夏バテとかで頭がどうにかなってたみたいです。それと更新遅くなりました、すいません┏○┓。

たまに壊れる自分ですが、これからもご贔屓にしてくださいませ。





 第25層の迷宮区内で、集団がゾロゾロと何処かへと向かっている。この人数で何処へ向かうのかというと、このデスゲームと化した世界で、尚且つ迷宮区内に大勢で仕掛けることといえば……エリアボスを倒し上へと向かうこと。

 

 

 100層に到達し、最終エリアに待ち構えている()()()()()を倒せばこのゲームから人々は解放され、現実に戻れるのだ。しかしそのゲムデウスは今、『デウス(高山明)』の中に存在しており、倒すとなればデウスを殺さなければならなくなるということと同意義。

 

 

 故にデウスのことを知るメンバーはゲムデウスではなく、SAOというゲームを乗っ取りデスゲームに変えた『仮面ライダークロノス』を倒すことを決意している。が、今現在の状況では勝てないことを知っている。

 

 

 レベルに応じたガシャットしか使えない点が、M(永夢)やデウスに不安を過ぎらせる。ましてや【マイティクリエイターVRX】が使えないとなれば、早く人々を解放しなければならないと責任感が募る。

 

 

 しかし現在そのデウスやMは迷宮区には居らず、メンバーはラン、キリト、バダン、ヒースクリフ、ユウキ、アスナという見慣れた編成になっている。リズベットとシリカはリーゼ・ロッテを中心に生産職などで励んでいる。

 

 

 向かってくるエネミーを斬りつけ、貫き、時に豪快に両断し、盾で防いで剣で斬りつけ、抜刀の勢いで斬りつけ、アスナの素早さに負けず劣らず……もしくはそれ以上か、それぐらいの素早さで刺突。交互に行われる攻撃でエネミーは次々にポリゴン片へと変わっていく様子を見ながら、前へ前へと進んでいく攻略組。その怒涛の進撃の様子に、攻略組のプレイヤーからはこうも呼ばれていたりする。

 

 

 【百鬼夜行】と。流石に百の鬼とまではいかず、夜に何処へとも行く訳では無いが。そしてギルド名は違っていたりする。

 

 

 主に目立つその6人組。1番の要ともいえるデウスは今は居ない。いやこのゲーム内に居ないという訳ではなく、現在のパーティーメンバーの中に居ないというだけであって、決して死んだ訳では無い。

 

 

 ただ、デウスが参加していないというだけで少し緊張感が攻略組に走っているのは否めない。そもそもデウスはメンバーにしか言っていないが、ゲムデウスウィルスによってステータスが1層の頃から異常なのだ。しかしその異常性は今の攻略には無くてはならなくなってしまったのだ、皮肉なことに。

 

 

 そう心中で嘆く中であろうと、攻略組は足を止めない。進まなくてはならない。それが課せられた1つの使命とも謂わんばかりに。

 

 

 そして漸くボスの居る部屋前に到達した。今回の偵察でボスは巨大なゴーレムとあった為か片手棍や両手斧に分類される巨大なハンマーを持つプレイヤーがチラホラと居る。

 

 

 ボス前で全員気構え、先頭のプレイヤーが扉を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかしボス部屋に居たのは、ゴーレムとは程遠い存在であった。

 

 

 

 

「来たか…………」

 

 

 

 攻略組の目の前に居るのは、ゴーレムにしては体格も小さく風貌が和風だ。そして極めつけは、その手に刀武器を持っていたということ。

 

 

 その目の前の存在は刀の峰を右肩に乗せて左手を前に出し、首を1週させながら名を出した。

 

 

 

「我が名はカイデン!最強にして最大の位を持つ者也!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 攻略組に参加していたクラインが口を開いた。

 

 

 

「嘘だろオイ……!何で【ギリギリチャンバラ】の敵キャラが居るんだよ!?」

 

 

「ということは、バグスターで間違いなさそうだな。直ぐにデウス君とM君に連絡してくれ!」

 

 

「分かった!」

「ええ!」

 

 

「まぁ向こうはどうやら……ッ!」

 

 

 

 アスナとキリトがヒースクリフの指示でメッセージを飛ばそうとする最中、バダンがガード体勢で先頭に躍り出た直後にバダンの両手剣から異常な衝撃が与えられた。

 

 

 ガードを崩されながら吹き飛ばされるも、バダンは無理やりブレーキをして足にダメージエフェクトが発生しながらも勢いを殺した。

 

 

 

「重いな……」

 

 

「……!もしかして、またレベルが!?」

 

 

「だとすれば不味い!全員を退避させろ!もしかするとソイツは……!」

 

 

 

 カイデンは刀を帯刀し鞘に収めると腰を低くし抜刀の構えを取る。舌打ちをしつつもバダンは両手剣にSSの光を纏わせて突撃、カイデンも走った。

 

 

 

「バダン!ソイツのレベルは99の可能性が高い!」

 

 

「っ!不味ったな……!」

 

 

 

 SSはシステム上で設定された動きでしか活動できない上に、SS発動後の硬直まである。例え技硬直の時間が少ないSSでも、たった数瞬あればカイデンは相手の首を掻っ捌くことなぞ容易い。

 

 

 そしてSSでの攻撃と、カイデンのレベル99の攻撃。ここまでは言わなくても分かるだろうが、圧倒的な力の差がある中で武器と武器がぶつかり合えば……残りは使用者の技量と力のみ。

 

 

 バダンの攻撃が弾き返される。ある意味力任せの荒業ではあるものの隙を見せるのには丁度良い。カイデンの素早い2度目の攻撃がバダンに襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

「……ッ?」

 

 

 

 バダンは無理やり両手剣を引き戻し粗の目立つ防御をした筈だった。しかし何時まで経っても衝撃は来ない上に、その前に先程何かがぶつかる音が響いていたのを思い出す。

 

 

 バダンはゆっくりと防御に使用していた両手剣を退けて目の前の光景をハッキリと見た。

 

 

 空色の花が幾つも刺繍されている白い着物をを着たプレイヤーが、カイデンの攻撃を同じ刀武器でいなした後の光景がそこにはあった。

 

 

 

「お姉ちゃん!?」

 

 

「ラン……お前……」

 

 

「ぬぅ……我の一撃をいなすとは」

 

 

「バダンさん、下がって下さい」

 

 

 

 バダンはランの言う通り数歩下がって両手剣を構え、何時でも良いように態勢を整える。ラン自身のAGIは平均程度なものの、持ち前のDEX値の多さから足捌きに繊細な注意を払い()()を使ってカイデンの背後を取る。距離は離れたが。

 

 

 

「女……名を何と言う?」

 

 

 

 カイデンは刀に鞘を仕舞いながら問うた。ランは腰帯に携えている鞘を引き抜き、刀と鞘を横一直線に並べ剣先を鞘の入口に少しだけ入れた。

 

 

 

「お姉……ちゃん?」

 

 

 

 何処か不安そうな表情を浮かべる(ユウキ)に、(ラン)は少しだけ微笑む。そして視線をカイデンに移し、真剣な表情で答えた。

 

 

 

「私の名はラン。……またの名を」

 

 

 

 ランの持つ刀の刀身が鞘に7割入っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()よ」

『!?』

 

 

 

 刀身が全て鞘の中に収まり、カチャンと唾と鞘がぶつかる音が響いた後、ランはデウスとMが使う言葉を静かに言い放つ。

 

 

 

「変身」

 

 

 

【変身シークエンス、起動します】

 

 

 

 その様な機械音声が響いた直後、ランの体にアーマーのシルエットが浮かび上がり実体を成した。

 

 

 白と空色が特徴的な色遣いのアーマーに表情が見えない顔全体を覆う藍色のバイザー。両肩の端から端に取り付けられた留め具のようなものは、背中が見えない程の長さのあるマントを留めさせていた。

 

 

 

【シークエンス完了。№004『ゼロレンジ』起動します】

 

 

 

「仮面……ライダー…………」

 

 

「ぬぅ……あの忌々しき奴等と、同じ名を名乗るか。女」

 

 

「この名前を名乗るだけで、私は光栄だと思うけど」

 

 

 

 声が多少こもっている。変身したランは先に抜刀術の構えを取り、頭を下げて静かに待った。カイデンは意図を察し、笑いながらも同じく抜刀術の構えを取った。

 

 

 

「この我に抜刀で挑むか、女。果たして我に敵うかな?」

 

 

「御託は良い。何ならこのまま斬るわよ」

 

 

「当てられるのならばな」

 

 

 

 このボス部屋の中に、1つの緊張が走り攻略組に伝わる。加勢すべき筈の光景で、今では隙だらけと思える光景で、誰1人動こうともしなかった。固唾を呑むばかり。

 

 

 ただ静かにランはそのままの体勢で構える。カイデンはランの様子を観察しながら静かに構えていた。両者共違う構え方をしているものの、誰も何も言わなかった。ただ見守るしかなかった。

 

 

 自分の息遣いと相手の息遣い、そして見守る攻略組の息遣いしか木霊しないボス部屋で……遂にランが動き出した。顔は下げたまま何処を見るともなく、愚直で真っ直ぐに。

 

 

 カイデンも動いた。相手の目線は分からないために何処に来るかはよそうできないが、それでも一挙一足等から見極めるのは容易いことだ。

 

 

 ランとカイデンが接近する最中、ランは突如顔を上げた。その瞬間、両者の距離がお互いの得物の射程距離内に入った。

 

 

 両者が擦れ違った途端、刀が抜刀される。射程距離内に入ったとはいえども、致命的な打撃を与えるには両者共に不十分な距離に居た。だからこそギリギリまで近付いて斬りつける必要があったのだ。

 

 

 勢いのままランとカイデンは通り過ぎた。抜き身の刀身がキラリと輝く中、事態は動き始める。

 

 

 ランの左腕に大きく傷が付き、刀身が綺麗に半分へと別れた。既にランは……

 

 

 

「勝ったな。最早戦うことすらできまい」

 

 

 

 

 

 

 

「よぉく自分の得物、見てみなさいよ」

 

 

「なに…………っ!?これはっ!?」

 

 

 

 先程までニヤついていたカイデンが自分の得物を見た途端、驚愕へと変わった。それもその筈、カイデンの武器も同じように()()()()()からだ。

 

 

 

「……まぁ、私の方も危なかったのも確か。ギリギリレッドに留まってくれたからね……そしてお互い、防げる物は無い」

 

 

 

 ランはカイデンに振り返ると、右足を前に出し弧を描きながら後ろへと下げた。

 

 

 

「ライダーキック」

 

 

 

【ライダーキック】

 

 

 

 右足に集約される空色の光を纏いながら、ランはカイデンに向かい走る。そしてその場でジャンプし、カイデンに向けて足を突き出した。

 

 

 

「何っ!?ぐおっ!」

 

 

 

 ある種の不意打ちにカイデンは吹き飛ばされ地面を転がる。その場で立とうとするも、カイデンは自分に伝わる苦しみが次第に大きくなっていくのが分かった。

 

 

 

「ぐ……あぁ……馬鹿……なっ……!我が……何故……!?」

 

 

「少しは体術でも覚えときなさい。剣だけじゃなくてね」

 

 

 

 カイデンから爆発が巻き起こり、マントがたなびく。

 

 

 この25層を突破したのは、他の誰でもない……ただランというプレイヤーが、ただの1人のプレイヤーが25層を()()0()で終わらせた。

 

 

 

 

 

 

 

 




何か急展開っすねぇ……(他人のふり)

既存のキャラが仮面ライダーになるって、何か良いよね!(多分俺だけ)

まだまだ活動報告でアンケートを行っていますので、宜しくお願い致します。あと新しい案も追加しました。

ついでに宣伝……みたいなヤツですね。取り敢えず新案の説明みたいなものを出しました。そちらも更新したりしますので見てください。

あ、次回は閑話になります。次回予告はまた次に。


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閑話 システムの逸脱

 25層というターニングポイントを通過されたその時、その25層の宿屋の1室で集まっている人物が4人。今回の攻略に参加したヒースクリフと、参加しなかったデウスとMが居る。残りの1人は、現在熟睡中の功績者であるランだけ。

 

 

 ヒースクリフがデウスとMの2人を集めて、この部屋で寝ているランに起きたことについて話そうとしている。それだけの為に呼び出されただけ。

 

 

 

「先輩、ランちゃんの件はユウキちゃんから聞いてますが……他に何かあるんですか?」

 

 

「あぁ。といっても、あの【VRシステム】そのものについてだが」

 

 

「VRシステム……?」

 

 

「ラン君が変身したあの姿のことだ。もっとも、本来は別の形で活躍させる筈だった」

 

 

「それって一体……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【VRシステム】は略称、本来の名は【Virtual Riderシステム】と呼ばれている()()()()()()()()()()()()()だ」

 

 

「「!?」」

 

 

「もっとも、漸くこのVRで試験的な運用が出来るとデータを取ろうとしていた最中に、このような事態が起きてしまったがね」

 

 

 

 話しを続けていくヒースクリフ。何でもあのVRシステムは、ドクターライダーの活躍の記録を取り研究したものであり、本来はPCではなくNPCとしてしか活動できないシステムである。仮面ライダーという存在をVR世界でも見られる様に、開発していた【MHCP(メンタルヘルスカウンセリングプログラム)】他と同じように、A()I()()()()N()P()C()としてこの世界を巡ってもらおうとしていたらしい。

 

 

 しかしSAOを乗っ取られ、そのMHCPでさえも確認できない始末。初めて確認されたVRシステムでも、ランの持つ【抜刀術】というエクストラスキルの一部として扱われていた。このような事態に、ヒースクリフも()()()()()()()()()という一つの考察に行き着く。

 

 

 そのVRシステムを作った理由だが、念には念をというヤツで作ったらしい。あのフィルタリングプログラムでも対処できなかった場合の保険としてだ。

 

 

 

「ちょ、ちょっと待って。だとしたら僕の中に居るパラドに関してはどうなってるんだ?パラドだってバグスターの筈だし」

 

 

「あくまでもナーヴギアに搭載されているのがそのプログラムであって、別の機器でログインしている2人には機能していない可能性がある……単なる予想に過ぎないがね」

 

 

「先輩、そのVRシステムって……もしかして幾つかあります?」

 

 

「……単なる予想として受け取って置くが、その質問の答えだと幾つか作った。といっても数は7しか無い」

 

 

〔出来ればだが、残りのVRシステムのプログラムコードを教えろ。なるべく私も協力せねばなるまいからな〕

 

 

「ありがとうございます、黎斗さん」

 

 

〔最近出てなかったからなァ……〕

 

 

 

 何はともあれ、ヒースクリフから全てのVRシステムを聞き出すことは出来た。

 

 

 №001【ジャック・ザ・ビヨンド】

 №002【ホーリー・グランデ】

 №003【アブソリュート】

 №004【ゼロレンジ】←所持者:ラン

 №005【プラネット・アーク】

 №006【シャドウ・ダークネス】

 №007【へカマティア・ノア】

 

 

 というので全てだ。ランは【ゼロレンジ】保持者と断定しても良い認識であり、【プラネット・アーク】保持者のゼロに関してはデウスは未だに誰にも言っていない。他のVRシステムは現在判明していない。

 

 

 ランが保持者となった理由だが、恐らくヒースクリフが考えた特別なエクストラスキル、【ユニークスキル】の発現によって手に入れられるのだと推測。つまりユニークスキルが手に入らなければ、VRシステムも手に入らない。その間に向こう側からVRシステムが削除される危険性もあるのだ。焦ってしまう。

 

 

 

「……うぅん

 

 

「ちょうど起きたみたいだな。デウス君、すまないがラン君から聞き出してくれないか?色々とね」

 

 

「了解です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 起きてから間もなくして、ランはデウスから幾つか質問し答えるとデウスと共に宿屋を出た。結果としてはヒースクリフの推測通りであった。

 

 

 本来プレイヤーに持たざるべき力を手にしたランとゼロに、一抹の不安をデウスは覚えていた。今まで隠されていた秘密であり、ヒースクリフの話ではレベル99のカイデンを倒したと聞いた。その力は強大なもの……周囲のランを見る目が、変わっていく様を思うのが()()()()()()()

 

 

 

「先生……?」

 

 

「……ん、どうしたランちゃん。ちょっと疲れた?」

 

 

「いえ…………先生の方こそ、疲れてませんか?」

 

 

「僕?大丈夫大丈夫、ぜーんぜん平気」

 

 

 

 空元気だとデウス自身でも思っている。だがこうしてないと、自分の心が崩れそうで、相手にも迷惑をかけそうで、自分が辛くなりそうだから。

 

 

 なぜこんな少女に力を持たせるのか。なぜ重荷を負わせるのか。自分達が守らねば。そう思っていると、町外れの場所に居た他のメンバーに合流した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〔ライダーシステムか……茅場晶彦も厄介なものを作ってくれる〕

 

 

「どうする。このままでは……」

 

 

「心配はご無用ですよ」

 

 

 

 会話していたクロノスと須卿伸之の元に、あの頭でっかちを再現したような人物が割り込んできた。

 

 

 

「あの世界には【ヤプール星人】が居る。しかし現実の肉体は地球人の()()()()()()()()()()が居る。ですが、場を乱させるにはちょうど良い」

 

 

〔……君のいうヤプール星人とやらが、如何程なものなのかは私には知らない。だが、期待はしていいんだな?〕

 

 

「えぇ、構いませんよ。何せ、極悪宇宙人の中でも指折りの存在ですから」

 

 

 

 他にもこの宇宙人は、様々な手を考えてはいる。だがあの世界にウルトラマンが現れたことで、多少の危惧はしている。しかし人間として暮らしていたウルトラマンの心を折るのは容易い。

 

 

 絶望を、叩き込むだけだ。ウルトラマンを倒すには。

 

 

 

 

 

 




【久々の独自設定】

・ゼロレンジ
 ランがユニークスキル【抜刀術】を手に入れた瞬間に得た変身形態。ある一定の動作をしつつ音声コマンドを入力すると姿を変える。

・この距離なら……!
 この能力使用時の地点から相手との距離が近づく程、×3t/5mの倍率でSTRとDEX補正が上昇する。

身長:190.8cm 体重:82.2㎏
パンチ力:12.5t キック力:22.9t
ジャンプ力:35m 100mを4.2秒



※書き忘れてたので

・仮面ライダーゲムデウス レベル99
【バイラストリートメントゲーマー】

 ガシャットギアデュアルγをそのままゲーマドライバーに差し込み変身する高山明の()()()()。この状態になるとゲムデウスとの交信は不可となる。代わりに異常なスペックを手に入れることが可能。


身長:206.8cm 体重:108㎏
パンチ力:98.6t キック力100.5t
ジャンプ力:98m 100mを0.95秒







次回『Dr.ゲムデウス』は!

ゼロに試練!ランにも試練!そして……!

「僕らに……一体何ができる……」


その責任の重さは彼らの心を削る!

「もう…………戦いたくない……」


そしてまた、1人……1人と

「戦いたくないのなら、誰かに任せてみるのもありだと思うの」


次回 『rejectと覚醒』
※パート数が長くなります!


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rejectと覚醒 ラン

はい、遅くなってすいません。

一応生きてます。遅れた理由に関しては……色々と重なって疲れたんです。大学受験のこととか、合宿のこととか。そして意欲が薄れてきたということとか……。

取り敢えず今後については後書きで話そうかと思っています。

それでは、どうぞ。


 22層は殆ど敵対モンスターが出ないことが判明している層である。自然が盛り込まれ、プレイヤーと憩いの場としても知られている。その1角に少し広めの家屋があるのだが……その家屋には現在、デウスとランが居た。

 

 

「ぅぁ…………!ユウキぃ……!」

 

 

「大丈夫……大丈夫だよ……」

 

 

 

 デウスに慰められている様子になっている理由、事の始まりは約1週間以上前に遡る。

 

 

 ━━━

 ━━━━

 ━━━━━

 ━━━━━━

 ━━━━━━━

 

 

 

 

 

 26層への到達をした攻略組やその他のプレイヤー達は、上にある層というものに興味を持つ故に上る。攻略組はそれぞれ武器や防具、新たなクエストを探しに26層を探索する日々にあった中で、25層のカイデンを倒した功績を持つランは妹のユウキ、保護者としてリーゼ・ロッテと一緒に22層へと赴いていた。

 

 

 なぜ22層に居るのか。家を買うためである。といってもギルドホームと呼ばれるものであるが。

 

 

 始まりはデウスとMの1言からであった。

 

 

 

「「施設が欲しい」」

 

 

 

 それだけである。まぁそれだけしか言ってない訳では無い。このゲームに閉じ込められている中で、26層もの数を2人で巡って行き続けるのは困難になってきている。ならば病院とまではいかないものの、患者を一つの場所に集める場所が欲しいと思うのは自明の理。

 

 

 そして出来れば、環境的にも患者の精神状態が安らぐ場所で診察したいというのが2人の我儘であった。

 

 

 

「できれば22層の中が良いですよね。あそこ病院建てるのに良い条件だと思いません?」

 

 

「確かにあの場所は良いよね、娯楽を楽しむならあんな場所が良いし。患者の精神面にも安定性を与えてくれるし」

 

 

「……で、私の前でそう言うのには理由が?」

 

 

「先輩、逆に無いとでも?」

 

 

「……できる限り内密に頼む。22層の北東エリアに普通と比べて大きいハウスがあった筈だ」

 

 

「「ありがとうございます!」」

 

 

 

 という会話があったとか。しかしホームを買うとなれば色々とメンバーに都合良く“病院代わりの施設が欲しい”といっても渋るだろう。故にギルドホームを兼任した病院代わりの施設という名目でメンバーに言った。勿論少しだけ嘘を混じえて。

 

 

 取り敢えずメンバーの許可は貰えたので、ヒースクリフから目的のハウスの値段を聞いて全員に伝えると資金を一部貰って、誰が買うかを決め……今に至る。

 

 

 ランが行く理由となったのはデウスの提案でもあった。先に攻略組の連中に気付かれないように転移門まで連れて行くことが必須であったが、出かける前にデウスがフードを買い、ランに与えることで杞憂には終わった。

 

 

 さて3人の方なのだが、デウスが(開発者の助言で)言っていたハウスを目指している。そのハウスは暫く北東エリアを探索していると見つかった。まだ誰も買取手は居なかったので、即購入。

 

 

 そして買ってから1週間経過、この日の昼に事件が起きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!待ちなさい!」

 

 

「俺のテクニカルな動きを見やがれ!」

 

 

 

 ランは22層で発見したチャーリーバグスターを追っていた。AGIは低いものの、DEXの高さを生かして足さばきを上手く使用し何とかチャーリーに追いついている。一方のチャーリーはスポーツバイクで悪路の多い道を難なく突破して距離を取っている。

 

 

 ランは鞘を取り出して刀身を7割ほど入れつつ、チャーリーを追いかけ続ける。

 

 

 

「変身!」

 

 

 

【変身シークエンス、起動します】

 

 

 

 白い鎧が一瞬で纏われ姿を変えたランは、そのまま能力を発動させる。

 

 

 

「フッ!」

 

 

 

 居合の型を取りながらチャーリーとの距離を徐々に詰めていくラン。その様子に後ろを1度振り向いたチャーリーは、2度見した。

 

 

 

「は、はえぇ!?」

「ライダースラッシュ!」

 

 

 

【ライダースラッシュ】

 

 

 

 チャーリーとの距離が0になった瞬間、ランは抜刀する。空色に光る刀身がチャーリーと衝突すると、バイクから転倒した。

 

 

 

「おぐぅ!?」

 

 

「ッハっ!と、届いた……」

 

 

「ィギィヤアアァァ!」

 

 

 

 チャーリーの消滅が確認されると、ランは変身を解除し息を吐く。何故このような場所でバグスターが確認されたのか、なぜ感染者と思わしき人物が居ないのかは気になってしまったが、()()()()()()()()()と決めてギルドホームへと帰ろうとした。

 

 

 突如後ろからやってくる飛来物に、気が付けなかった。いや飛来物があるということは、その先にプレイヤーが居ることになる。ランとて探索(サーチ)スキルを上げてはいるものの、反応できなかった。

 

 

 

「くがっ!?」

 

 

 

 反応が遅れたことで右肩に何かが刺さる。顔だけ動かして見てみれば、肩にはナイフが刺さっているが、引き抜こうと手を動かしてみても筋肉が硬直したかのように動かない。自分のHPバーを見てみれば、麻痺を示すアイコンが。

 

 

 そしてランの耳に足音が聞こえてくる。その足音と同時に、ランの耳には不快極まりない声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっ、良いじゃーん。まだガキみてぇだけどな!」

 

 

「仮面ライダーみたいっすけどねぇ……ま、変身さえ解けりゃ問題ねぇっすけど!」

 

 

 

 目に映るのはプレイヤー2人。素顔は見える、しかしそのプレイヤー達の頭上のアイコンは、普段とは見慣れない色へと変わっていた。

 

 

 

「オレンジ…………!」

 

 

 

 カーソルの色がオレンジ色であるということ。これを意味するということは、このプレイヤー達は()()()()()()()()プレイヤーということ。 この色では主街区や町に入ると守護者(ガーディアン)の攻撃対象となってしまうので、迂闊には入れない。

 

 

 この色を元に戻すには贖罪クエストと呼ばれるクエストを受注し、クリアしなければならない。ただしそのクエスト場所が所々にしか存在していない上に、難易度も高いのでデスゲームとなったこの場所では危険性が伴う。

 

 

 そんな命の綱渡りをしている状態になるプレイヤーなんて、このデスゲームでは存在しないと思っていた。だがここは本来MMORPG、自分だけのロールプレイをするゲームである。ならば彼らは、本来のゲームをしているとも取れる。

 

 

 しかし2人のプレイヤーはランを見下ろしながら、こう口走る。

 

 

 

「しっかし……まだまだ青くせぇガキなのに、どうしてこうも…………欲情を唆られるのかねぇ!?」

 

 

「っ!」

 

 

 

 最初に言い忘れていたが、ランの何処とは言わないがある部分は妹のユウキよりも大きい。しかしまだまだ発展途上という点もあるので、成人すればそれなりの大きさとなるだろう。もっとも、今この状態ではそんなこと考えていても恐怖心が煽られるだけであるが。

 

 

 その2人のプレイヤーはステップを踏みつつ、倒れているランの元へと向かい……

 

 

 

「ごかーいちょー!」

 

 

「ヒッ!」

 

 

 

 服を縦に引き裂いた。胸元からへそまで見えるほど裂けてしまった装備であったが消滅までには至っていなかった。そしてランの中に1つの恐怖が芽生えてしまった。

 

 

 

「おぉ……こりゃ良いっすねぇ。兄貴、勿体ぶらずにさぁ」

 

 

「わーってらぁよぉ、今やるからなぁ」

 

 

「あ………………あっ…………!」

 

 

 

 ランの表情が歪む。怖いと思って涙目になる。恐怖に駆られたランは、動かない体を何とか動かそうと必死になる。だが現実は非常であった。

 

 

 1人のプレイヤーがランの上半身の一部を顕にさせた。それによって2人の欲情が益々ヒートアップし、ランは青ざめて恐怖の底へと叩き落とされていく。

 

 

 

「ぃや………っ!やめて…………っ!」

 

 

「おっ?何か命乞いしてまっせ兄貴」

 

 

「あぁん?無視しろ無視、んなもん聞く必要すらねぇだろ」

 

 

「っ…………!」

 

 

 

 ランの上半身の防具が消滅する。柔らかく白い肌が全て顕となった様子を見て舌舐めずりをしたプレイヤー2人は、今度はもう一方に代わり、下半身へと手を伸ばしていく。

 

 

 

「いやっ…………!やめてっ!

 

 

 いやあああああ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「姉ちゃん……?」

 

 

 

 ふと、2人のプレイヤーの背後から聞こえてきた幼い声。振り向くと、短髪の黒髪少女がそこには居た。だがその少女の体は次第に震え始めた。

 

 

 その2人のプレイヤーは面倒だと思った。そしてどちらかが拉致、または口封じするかを決めると最初にランに手を掛けた男が近寄ってきた。

 

 

 

「お嬢ちゃん、こんな所で何をしに来たのかなぁ?」

 

 

 

 しかし少女(ユウキ)は答えない。というよりも、何かが壊れそうな、そんなぐらいにまでユウキは知らず知らずのうちに殺意が芽生えていた。

 

 

 

「おいおいおい、そんなに黙ってちゃあ……おじさん怒っちゃ」

 

 

 

 そこから男の言葉は途絶えた。ほんの一瞬の出来事であったが、男はもう言葉を発せなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 ユウキが自分の剣で、男の首と胴体を失恋させたからだ。

 

 

 ドサッという音を立てて落ちた男の頭と、動かない体はそのままポリゴンとして消えてしまった。そのポリゴンの消滅音を聞いたランともう1人の男は、咄嗟にその方向を見た。

 

 

 

「っ!?テメェ……!」

 

 

「ユ……ウキ?」

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、そこの人…………お姉ちゃんからさ……」

 

 

 

 ユウキは剣を払うともう1人の男へと歩み近付いていく。先程の相方は殺されたと理解した男は、咄嗟に自分の獲物である片手剣を引き抜きランの首筋に剣先をあてた。

 

 

 

「おぉいそこの嬢ちゃん!動くんじゃねぇぞ!お前の姉ちゃんがどうなんのか……!」

離れろ

 

 

 

 ドスの効いた声で、一気に男との距離を縮めたユウキは、そのまま勢いで男の体を斬る。クリティカルが()()出てしまったのか、レベル差も相まって男は一撃でポリゴンへと変貌した。

 

 

 この時点でユウキは、人を2人殺したことになる。だが緑色のカーソルのプレイヤーがオレンジを攻撃したとしても、攻撃側はオレンジにならない設定となる。故に、人殺しをしようが今のユウキはオレンジにならない。

 

 

 

「……お姉ちゃん、大丈夫」

 

 

「ユ、ウキ…………」

 

 

 

 ランの声は震えていた。そしてユウキを見て、ランは一抹の恐怖を覚えてしまった。

 

 

 家族が、妹が……人を殺してしまったことに対して、あの時のユウキを恐れてしまった。

 

 

 そしてユウキも気付く。姉のために、姉を助けようとして……その身を目に見えぬ血に染めてしまったことを。

 

 

 

「……あっ…………ああ………!」

 

 

 

 一気に顔を青ざめていくユウキ。恐る恐るというふうに姉を見ると、恐らく同じように怖がっていた。

 

 

 

「ごめ……んなさい…………!ごめん、なさい………!ごめんなさい……!ごめんなさい……………!」

 

 

 

 整理がつかないまま、ユウキは姉の元から走り去った。

 

 

 

 

 

 

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!」

 

 

 

 自分の罪を後悔しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、後書きです。

えーとですね、このDr.ゲムデウスのことについてです。一応どこまで進めようかとは決まってはいますが、一旦75層でのイベントが終わり次第、次回作の方を書こうかと考えています。

理由としては、Dr.ゲムデウスの終わりが長くなってしまいそうだからというのがあります。このままだと来年以上に持ち越してしまいそうなので、ここでストップ掛けとかなきゃと思い立った次第です。

何ぶん自分本位でありますが、今後ともどうぞ宜しくお願いします。

次回作のアンケートは、まだまだ続いていますのでドシドシご応募ください。





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rejectと覚醒 ゼロ&ユウキ

はい。ドーモ読者=様、作者の半=妖デス。

最近更新頻度がどんどん落ちていっている点……こればっかりは色々と面倒で。大学受験も一応終わりを迎えたので、書けるには書けるんですけど、意欲が湧かない……。

そんでもって、アンケートは未だに4票。そして2つの作品に2票ずつ……あれですか?この私に2つとも書いて希望の花を咲かせたいのですか?

んなこともありつつ、どうぞ。


 ユウキが失踪してから早2週間が経過していた。当時のランの保護にあたったのはMである。しかしランの精神状態が酷く不安定なため、デウスが付きっきりで診察していたりもした。時にはランがユウキを捜そうとフラフラとした足取りでホームから出ていくこともあったため、様々な心労がデウスには絶えない。にも関わらず、ランへの献身を努めていった。

 

 

 既にユウキはフレンド欄から名前が消されており、捜索しようにも範囲が広すぎる上にデウスは捜索にあたれない。故にユウキを捜すメンバーをローテさせて、層をくまなく(しらみ)潰しに手探りで捜索を行っているのだ。

 

 

 そして現在の捜索メンバーは、ゼロとバダン、キリトの3名であった。他にもアルゴにも頼んで捜してもらっているものの、未だにユウキらしき人物を発見した情報は無かった。

 

 

 話しを3人の方へと戻そう。現在3人が居るのは15層の迷宮区、隠れられる場所としてはうってつけ……ともいえなさそうな場所を念の為捜索していた。時折現れてくるモンスターに鬱陶しさを感じつつも、的確に弱点を突いて倒す。そして捜索を再開するというループに入っていた。

 

 

 

「…………なぁバダン、やっぱ迷宮区には居ねぇと思うんだけどよ?」

 

 

「隠し部屋とてあるだろう。そこに逃げ込んでいる可能性とてある」

 

 

「いや否定はしねぇけどさぁ……籠るには面倒な場所だろ。しかもだ」

 

 

「未だにそんな場所すら見つけられてないってことなんだよなぁ……」

 

 

 

 キリトの溜め息。幾ら虱潰しとはいえ、解放された27層を含めるとかなりの範囲を捜さなければならないのが現実。故にメンバーには焦りと不安が3:7、そして気疲れも含まれている。こうも気が滅入りそうなことを、自分たちがしていることを考えると益々滅入ってしまう。

 

 

 バダンやゼロはともかくとして、キリトの気疲れは尤もな意見だ。捜しても見つからない上に、希望的観測で足取りを追わねばならないのだ。リアル年齢15歳のキリトは、気疲れを隠そうとは思わないだろう。

 

 

 

「いぃや有るはずだ、必ず何処かしらに……」

 

 

「お前な…………ぁん?」

 

 

「?…………これは、金属音っぽいけど……」

 

 

「ユウキかもしれん、行くぞ」

 

 

「ってちょまっ!はえーよホセ!」

 

 

「使い所が違う気がする。あとホセって誰だよ?」

 

 

 

 バダンが先行し、ゼロ、キリトという順に音のする方向へと走っていく。やがて音が近付いているのを聞き取ると、曲がり角を左に曲がって音の正体を見た。

 

 

 だがその金属音、予想して武器と武器がぶつかり合う音はユウキのものではなかった。それどころか複数人であった。しかしゴブリンの群れに襲われていて、悪戦苦闘している様を見ると放ってはおけない。

 

 

 

「……フーっ。バダン、キリト、行くぞ」

 

 

「了解」「オッケー」

 

 

「3……2……1……GO!」

 

 

 

 一気に加速する3人は、そのままゴブリンの群れに突っ込んで弱点を突き、大剣で薙ぎ倒していく。そしてゴブリンの群れを掃討するまで、そこまで時間はかからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何がどうしてこうなった?」

 

 

 

 キリトの一言、それは今現在視覚に捉えている光景を見てそう呟いたのだ。誰にも聞こえないように。

 

 

 ゼロが持ち前の明るさから【月夜の黒猫団】メンバーとの距離を縮め、話して、飲み食いしてと……バダンはゼロが困った時のお助けマンとして活躍している。一瞬、どこの21世紀ロボットだとツッコミたくなったが、今ツッコんでも特に変わりなさそうなので言わないでいた。

 

 

 この事の始まりは、先程迷宮区で月夜の黒猫団を助け終えた時のことだった。お礼をしたいと考えているリーダー『ケイタ』の誘いを勝手にゼロが承諾したということのみ。今は本来それどころではないのだが、「たまには羽伸ばすのも悪くねぇだろ」と耳打ちして直ぐにゼロに連行されていった。

 

 

 そして何やかんやで3人が月夜の黒猫団のメンバーに奢られ、パーティームードとなっているのが今の状況。本来ならユウキを捜しに行かなきゃならないのだが、この状況で出ていって帰ってこないのは色々とぶち壊しそうで苦手だと内心思っているキリトであった。

 

 

 しかしながら、パーティーをしているゼロや月夜の黒猫団が眩しく見える。元々訳あって人付き合いを自ら避けてきたキリト(和人)にとっては、ゼロのような人物は羨望と同時に面倒にも見える。黒という厨二心を燻られる色を好む(キリト)にとって、ムードメーカーでリーダーシップを発揮できる(ゼロ)は眩しくて直視できない誰もが憧れる人物像(絶対に自分ではなれない幻)なのだ。

 

 

 内心そんなことを思っているキリトは、仲良くなっているケイタとゼロを見つつ、食事を堪能している。と、ゼロとケイタを見ているとケイタが自分のメンバーの紅一点の『サチ』を呼んでいた。少し話していると、今度はゼロがキリトとバダンを呼んだ。2人はゼロに近付くと、そのゼロに肩を組まれて近寄る結果となった。

 

 

 

「バダンは大剣使ってパワーでゴリ押しタイプで、キリトは敵の攻撃を避けて弱点狙い。大体が自分だけの戦術を持っているけどよ、馴染んだ戦術を急に変えることなんて難しいんじゃねぇの?危険性だって上がるぜ?」

 

 

「それじゃあ前衛はどうすれば良いんだ?ウチのメンバー5人しか居ないし……」

 

 

「そこはあれだ。えーっと…………」

 

 

「先ずはお前達の動きを1通り見てからだ。キリト、お前さんも付き合え」

 

 

「……話が見えないんだけど?」

 

 

 

 そして後日、11層の植物地帯でアドバイスを貰う月夜の黒猫団が居たらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人が寝静まる丑三つ時に、たった1つの人影が荒野にある比較的大きな石、人間大の大きさの石にもたれかかっているのが分かる。顔はフードを被っていて見えず、分かるのはエリアボスのドロップ品である剣【ディープ・ヴァイオレット】の深紅の装飾が月明かりに照らされている。

 

 

 そんなプレイヤーに1人、歩み寄るプレイヤーが居た。ポンチョの赤いフードを被っていて同じように顔の全体像が見えないものの、口元が少し歪んているのは分かった。

 

 

 

「……珍しいなぁ、こんな場所で思わぬプレイヤーに会えるなんてよぉ」

 

 

「…………誰?」

 

 

「その濃い紫の剣…………あぁ、そうだそうだ。思い出した、あの仮面ライダーとかいう奴等の集まりに居たんだったな。なぜここに居る?」

 

 

「……関係ない。ほっといて」

 

 

 

 頑なに拒絶していくが、そのポンチョのプレイヤーは口元を歪めたまま話し始める。

 

 

 

「…………そうだ、予想。予想をしてみようじゃないか。俺が、お前が何でこんな所に居るのか当ててやる。当たったら何かお前からくれ、外れたら……また後日来よう」

 

 

「来るなって……言ってるのが聞こえないの?」

 

 

 

 剣を握る手に力が込められる。いつでも迎撃態勢は整っている。いつモンスターに襲われても対処出来るようになった癖が、簡単に()()()()()()使()()()()ことに気付いていなかった。

 

 

 

「ふむ…………俺の予想だとなぁ……

 

 

 お前、プレイヤーを殺したか?」

 

 

「っ…………」

 

 

「おおっと!?その表情、もしかして当たりか?こりゃあ傑作だ!」

 

 

「いい加減にして……!さもなきゃお前を……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

「…………あっ……」

 

 

 

 突如その手の力が緩められた。いや、強制的に意欲や力を削減させたというべきか。立つと少女ぐらいの背丈のプレイヤーは、その言葉を聞いて右手が震え始めた。そんな様子を確認すると、追い打ちをかけるように言葉を綴る。

 

 

 

「哀れだよなぁ。守りたかった存在から畏怖の念……恐ろしいもので見つめられた視線、それがお前に対する見方になっちまったってことにさぁ」

 

 

「……あっ…………あぁっ……!」

 

 

「プレイヤーを殺して、仲良しこよししてた奴から、そんな目で見られてたんだよなぁ?実に滑稽なことだ」

 

 

「ちがっ…………!あれちがっ

 

 

「違わねぇだろ?

 何プレイヤーを殺して周りから離れたのに

 何故また同じことを繰り返そうとしていた?

 お前、さっき俺を殺そうとしたのってさぁ……

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()……だろ?」

 

 

違う……違う違う…………!ボクは……そんなこと…………!」

 

 

「何が違うっていうんだ?お前がプレイヤーを殺したのには変わらないし、幾ら逃げても付いてくるんだぜ。

 

 

 

 

 お前が

 

 

 

 自分の為に

 

 

 

 他人を利用していたのはよぉ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黙れぇええええええ!」

 

 

 

 突然、黒に近い紫色の()()()がプレイヤー……『ユウキ』の周りに発生し始める。

 

 

 唐突に訪れた絶望。姉を守るためにした行為が、結果的に姉を傷付けてしまったことに対する“絶望”と、なぜその行為に及んでしまったのかという自己嫌悪によって“絶望”し続けるユウキ。

 

 

 運命とは酷な事に、絶望に染まったユウキに力を与えてしまった。

 

 

 

 

 

〔ユニークスキル【()()】、強制修得〕

 

 

 

 

 それは()()()()()()ではなく、ましてや()()()()()()でもない。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()であった。

 

 

 

 

 

 

 



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rejectと覚醒 ゼロ 2

活動報告で新しくお知らせです。ぜひ見ていって下さい。







 2023年5月17日。今日この日、遂に……!

 

 

 

「ホームゥ…………きたああああああああああ!」

 

 

「長かった……!漸く、漸く広々とした部屋が使える!」

 

 

「おっしゃあ!今日はとことんまで飲むぞォ!」

 

 

「「「「いよっしゃあ!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だこれ?」

「男の子の……テンション?」

「まぁた何かやってると思ったら……」

「たまには良いと思うがな」

 

 

 

 この月夜の黒猫団のホームで仕切っているのは何故かゼロ、そしてここに集まったのは月夜の黒猫団メンバーとゼロ、キリト、バダン、そしてシノンの4人。シノンがここに居る理由、ただ単に3人が何をしているのか見てきたというだけ。

 

 

 本音はゼロの姿が見えなかったのでゼロを捜しに来ただけなのだが。見てきてみればこの有様、紅一点のサチを置いてけぼりにして男だけで盛り上がっているではないか。そしてシノンはサチに様々な意味で注意の対象として見ているのは誰も知らない。

 

 

 まぁたまには、こんな空気も悪くない。ここ最近ピリピリしていたりドンよりとした空気感が何とも面倒だと思っているシノンは、この月夜の黒猫団から垣間見える和やかな雰囲気を味わっていた。

 

 

 ゼロの破天荒ぶりに思わずサチとキリトが苦笑する場面も見受けられたりと、あの場よりかは明るかった。それがホッとしていて……気が付けば午前0時を回っていた。酒……を模した飲料物(ジュース)を飲んで騒ぎまくっているゼロに近付いてギルドホームに帰らせようとする。

 

 

 

「ほらゼロ、もう帰った方が良い時間よ」

 

 

「おぁ?…………おっとこりゃ不味い、わりぃなお前ら。俺ら帰るわ」

 

 

「オッケー、じゃあな」

 

 

「おやすみー」

 

 

「失礼する」

 

 

「ふぁ…………ねむっ」

 

 

 

 こうして1行は22層のギルドホームへと帰って行った。暫くしてギルドホームに到着すると、静かにこっそりと中へと入り、それぞれの部屋で眠りに向かった。

 

 

 そのゼロ達が部屋に入った時、診察室になっている部屋の椅子で座りながら眠っていたデウスが目を覚ました。時間を見れば午前0時過ぎ、しかも眠気が中途半端に無くなっているので、デウスは台所へと向かい蛇口を捻って水を出して顔を洗う。

 

 

 洗い終わった水はポタポタと下へと落ちていき、やがてポリゴンへと変わっていく。その様子をずっと見ていたデウスは、顔を上げてまた診察室へと戻っていく。だが足元が覚束無(おぼつか)い様子であったため、バランスを崩して前に倒れそうになる。

 

 

 そんな時、後ろから手を引っ張られて無理やり姿勢を元に戻される。ふらつきながらも後ろの人物にぶつかると謝りながら振り向く。

 

 

 

「ご、ごめんなさい。急に…………って、優美……」

 

 

「……明、大丈夫?」

 

 

 

 ここ最近時間を作っていない2人、プライベートな会話はこれが久しく思えてくる。心配そうに見つめるリーゼ(優美)と、無理に微笑んでいるデウス()。様々な立場の違いから生まれる、1つの壁がそこにはあった。

 

 

 

「眠れなかった?」

 

 

「ううん、違うよ」

 

 

「だったら……用事済ませたら、早く寝てね。僕は……まだあの子の傍にいて様子を見なきゃ」

 

 

「……明、無理してる。明こそ、ちゃんと寝ないと」

 

 

「分かってるよ。僕なら……ちゃんとしてますから」

 

 

 

 別れる前にリーゼを少しだけ抱きしめるデウスは、少しだけ穏やかな表情を取り戻して一言だけ言って診察室へと帰って行く。ただ、その時のデウスの感情を、リーゼだけは何故か()()()()()()()

 

 

 辛い、苦しい。でも、デウスにはやらなきゃならないことが一杯ある。自分の身を削ってまでも、やらなければならないことがたくさん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日、何故かゼロだけがサチにお呼ばれしていた。18層のフィールドで捜索と偽って2()()()()でモンスター退治に勤しんでいた。

 

 

 

「そこ!スイッチ!」

 

 

「うん!やぁあああ!」

 

 

 

 槍SS【トリプル・スラスト】を発動させ、突属性の攻撃が効きにくい敵モブを最後の一刺しで倒した。ふぅ、と一息吐くゼロとサチは、お互いを見やって笑った。笑って、2人が少しだけ収まると、サチから話していく。

 

 

 

「ははっ、何でこんなに笑っちゃうんだろ?」

 

 

「さぁねぇ?俺が知りたいわ」

 

 

「そっか。……ねぇ、ゼロ」

 

 

「んぁ?どしたよ」

 

 

「…………ううん。ただ、改めて凄いなって思って」

 

 

「俺がか?」

 

 

「だってあの時、ハーモニカを吹いて皆を落ち着かせたでしょ?あの音色、綺麗だったのよーく覚えてるから」

 

 

「あぁ……まぁ、あれはバダンのギターか無かったら出来ねぇ音だぜ。俺なんぞバカみてぇに突っ走ってるだけだわ」

 

 

「あ、バカだって自覚はあったんだ」

 

 

「そうそう俺ってホントバカ……っておい!」

 

 

 

 和やかな雰囲気に包み込まれて、サチとゼロはまた笑いだした。この殺伐とした世界で和やかな空気になっている2人の間は、誰もが見ているだけで気持ちのいい物になっていた。しかし気になることが1つだけ、ゼロはそれを聞いてみた。

 

 

 

「なぁサチ」

 

 

「ん?何かな」

 

 

「あのさぁ……お前は何で俺に頼んで、態々レベリングに?生産職はどうしたよ?」

 

 

「…………聞きたい?」

 

 

「……んまぁ、な」

 

 

 

 勿体ぶっている様子でサチがどうしようかと悩んでいる様子を見せる。やがて暫くして漸く決めたのか、サチは笑顔でゼロを見て一言。

 

 

 

「なーいしょっ!」

 

 

「んだよそれ……」

 

 

 

 困惑したゼロの表情を見て、益々和やかになるサチ。出来ることならば、この時間を少しでも味わいたいと願っていた。そう、願っていた。

 

 

 突如地面が大きく揺れだし、バランスを保つのが難しくなっていく。サチやゼロ、その他のプレイヤーも同じような状態に陥っている中、ゼロは1人空を見た。

 

 

 それは1度戦いながらも、撤退していった()。その怪獣……【ビースト・ザ・ワン】が主街区の方へと歩み寄っている姿を目撃した。迷わずゼロはザ・ワンの方へと走っていく。その際、サチがゼロを呼んでいたことには殆ど気付いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前に怪獣が現れると、人が見ていないのを確認すると【Planet ark】を取り出し、上部を回してスイッチを出現させる。【Planet ark】を天に掲げてスイッチを押すと、辺りに視界が真っ白に塗り潰される程の光が満ちる。

 

 

 

「デュォアッ!」

 

 

「『ぬぐぉおッ!?』」

 

 

 

 下から姿を変えて巨大化したゼロ(ウルトラマン)の拳がザ・ワンの顎を捉える。仰け反って後ろへと倒れるザ・ワンであったが、今日こそは倒すためにウルトラマンは間髪入れずにザ・ワンに攻撃を仕掛けていく。

 

 

 マウントを取り頭から2つの切断武器(スラッガー)を装備し、逆手で持って連続で斬りつけていく。ダメージが入っていくザ・ワンであったが、尻尾を使って背後から不意打ちしウルトラマンにエネルギー弾を当てる。

 

 

 

「デュォオ!?」

 

 

「『チイ……よくもやりやがったな畜生が!』」

 

 

 

 ザ・ワンが吹き飛ばされ体勢を立て直したウルトラマンに接近する。ザ・ワンの右フックを両手で防ぎ、次に来る左フックを蹴りで防ぐ。だがザ・ワンの右手が離れた瞬間、尻尾攻撃がウルトラマンに直撃する。モロに受けたウルトラマンは体を回転させて仰向けに倒れる。

 

 

 

「デュオッ!」

 

 

「『おらよッ!そらッ!』」

 

 

「デュオッ!デュアッ!」

 

 

 

 何度も踏みつけられるウルトラマン。そんな時、ザ・ワンがこの戦いの場であるものを見つけた。

 

 

 

「『……人間発見、こりゃあ面白くなりそうだなァ!』」

 

 

「ッ!ジュアァ!」

 

 

 

 ザ・ワンの足を無理やり退かせ、回転して離れるウルトラマン。だが体勢を戻したザ・ワンは、この戦いの場に居たプレイヤー……『サチ』に向かってエネルギー弾を発射した。

 

 

 ウルトラマンはサチを守るようにして背を向けてエネルギー弾を請け負った。目を瞑って怯えていたサチは、一向にエネルギー弾が来ないことを知って恐る恐る目を開けると、ウルトラマンが守っていたことを知る。

 

 

 しかしウルトラマンの両足首に何かが巻かれた感覚を覚えた。

 

 

 

「デュ!?デュォア!」

 

 

「『オラ、大人しくしろってんだよ!』」

 

 

 

 ザ・ワンはウルトラマンを背負い締めし、動きを固定させる。そして口にエネルギーを溜めていく。必死に藻掻くウルトラマンであったが、ビクとも動かない。そして……エネルギー弾が発射されると同時に、ウルトラマンの拘束を解く。

 

 

 

 

 

 

 瞬間、エネルギー弾に当たったウルトラマンは落下していき…………

 

 

 

 ()()()()()()()に、上から伏せてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一瞬なのか、はたまた長い時間なのかは定かではなかった。その光景を、サチが小さな物言わぬポリゴンの破片となった瞬間……ゼロは…………

 

 

 

 

 

『…………………あっ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!

 

 

 

 言葉に出来ない怒りと、後悔の渦に呑み込まれた。その叫びに乗じてザ・ワンが嗤う。

 

 

 

「『こりゃあ良いぜ!お前の使命とやらが潰された瞬間だ!』」

 

 

『ぉおおまぁあぇええええええ!』

 

 

 

 怒りに呑み込まれたゼロが、ウルトラマン態の右腕に赤黒い炎のようなものを纏わせる。跳躍力に任せて思いっきり上へと飛ぶウルトラマン。そのウルトラマンを拘束しようと仕掛けるザ・ワンであったが、ウルトラマンがスラッガーを投げたことで別の場所へと逸れた。

 

 

 そして真上からその拳を叩き付けるようにして、ザ・ワンの体に食い込ませる。力任せにザ・ワンを捩じ伏せて地面に叩き付けると、今度は足に先程のと同じ力を纏わせ何度も踏み付ける。

 

 

 胸のタイマーが危険を知らせる為に赤く点滅する。しかしそれには気にも止めず、力ある限りザ・ワンに“暴力”を振るい続けていくウルトラマン。そして何時しか、ウルトラマンの胸のタイマーが色を無くしゼロへと戻っていく瞬間、ザ・ワンも消えた。

 

 

 元に戻ったゼロが最初に言った一言は、悔やんでも悔やみきれない自責の念が込められていた。

 

 

 

 

 

 

 

「サ……チ…………」

 

 

 

 

 

 




───不思議……ゼロと居ると、何だかとても安心してくる。何でだろ?知り合って間もないのに……いや、あの1層の時も、ゼロは自分なりに頑張っていたんだろうなぁ。

───……その頼り甲斐が、安心するのかな?ふふっ、何でだろ?私、ゼロとは接点なんて無いのになぁ。

───でも……もしゼロが居てくれたらって思うと、どれだけ楽しい時間を過ごせたんだろうかなぁ。


───…………ゼロに、また会えるかな?


───また、一緒に狩りをして……一緒に楽しみたいな。







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rejectと覚醒 リーゼ・ロッテ

活動報告でアンケート実施中です!

因みにしてくれたら私がキーボウノーハナーになります。


 高くなった視界、見下ろせば緑色に広がる大地が見えていて、そこに赤い風船を持った少女が居た。なぜ少女だと分かったのかは定かではない。しかしその少女を見下ろしているとは理解した。

 

 

 唐突に、赤い風船が少女から離れていく。徐々に上がってきた赤い風船の紐を、自分の()()()の手で掴んだ。しかし、その手は本当に自分のものなのか疑った。こんなにも自分の手は、こんなにも不気味な色だったのかと。

 

 

 赤い少女が呼んでいる。聞こえてくる言葉は、“ありがとう”と、そう言っていた。その少女は天を見上げて、そう言っていた。屈託のない笑顔で、不気味な存在に向かって言っていた。

 

 

 しかしその不気味な手は、赤い風船を潰した本人でさえ気付かなかった。そして足が上がる。その不気味な足は、少女の真上を取り、その足を━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ────────!?」

 

 

 

 飛び起きたゼロが険しい表情のまま辺りを見渡す。どうやら自分の部屋……ではなく、診察室のようだ。仕切りに使われているピンクのカーテンが学校の保健室を思い出させるが、今のゼロにそんな考えまで及ばなかった。

 

 

 

「はぁ……はぁ…………はぁ………………ここって……」

 

 

「目が覚めたか」

 

 

 

 カーテンが開かれると、ゼロの視界にはバダンが映る。しかしそれよりも、なぜ自分がこのような場所に居るのかを思い出そうとして……すぐに思い出した。そしてゼロが不安気に尋ねた。

 

 

 

「なぁ…………バダン…………あの怪獣は……どうなった……?」

 

 

「…………私が来た時は、ウルトラマンに攻撃されているザ・ワンを見ていた。だが赤色に点滅してもウルトラマンは攻撃していたのは確認している。まるで狂ったかのようにな…………」

 

 

 

 そこまでバダンが言って、漸く自分が陥っていた状況に震え始めた。あの時のゼロはただ怒りに呑み込まれただけの攻撃をしていた。銀色の体色のウルトラマンに、自分の手に赤黒い炎のようなものを纏わせてザ・ワンを殴りつけていた自分。

 

 

 不可抗力……とはいえども、ウルトラマン態の自分の胸で、サチをこの手で殺したこと。その光景がフラッシュバックし、言い様のない不安がゼロを襲った。

 

 

 ウルトラマンに変身して……それからどうなっていくのかが分かるのが怖いのだ。もしもまた怒りに呑み込まれて、また誰かを自らの手で殺してしまうことをした途端……サチのことを思い出して、動けなくなる。

 

 

 

「なぁ…………サチは?」

 

 

「……サチ、か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………生き続けてるだろうな、データとして」

 

 

 

 それがバダンに出来る、精一杯の伝え方であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幾ばくかの日が経ち、攻略は第30層にまで及んでいた。迷宮区内で敵モブを斬りつけ、壁を蹴って方向転換し背後に攻撃するというアクロバティクな動きで両手斧を振るい、トドメは強力無比なステータスに任せてSSを放ち終える。一息ついたデウスは、安全エリアでもないのにも関わらず腰を下ろした。

 

 

 

『…………辛いなら変わるぞ』

 

 

「……いや、良いよ。それにゲムデウスらしくないじゃん」

 

 

『らしくない……か。宿主の陥っている状況を考えてみれば確かにそうだな。私にとっても不味い状況なのだからな』

 

 

「……ごめん、無理させてるみたいだね」

 

 

『だったら大人しく変われ、そして休め。ここに来て何回()()()()()()?』

 

 

「…………あら?覚えてないや」

 

 

 

 ゲムデウスと高山明(デウス)の会話には、いつも通りの雰囲気すらなかった。本人とゲムデウスだけが知る秘密を抱えていることを、誰にも悟られたくは無かった。

 

 

 現在、ランにはMが付き添いに居るのである程度の心配は無い。だからこそ自分の抱えるもう1つの秘密について、久々に思い耽ることが出来た。

 

 

 

「……()()()()()()、か。この世界でもガタが来るなんて思ってもなかった」

 

 

『私のウィルスとの適合が及ぼしたデメリット……茅場が製作したペインアブソーバーというシステムでさえも、私達には反応しなかった。宿主にとっては……なんら現実と変わらぬ世界になってしまった』

 

 

「…………フゥ、あぁもう無し無し!ほら、まだまだ続けるよ!」

 

 

『……あぁ、そうするか』

 

 

 

 デウスは両手斧の柄を右肩に置き、右腕で持ち手を支えて警戒態勢を取りつつもボス部屋を見つける為に探索を続けていく。

 

 

 

「……そういえばさ、リーゼ……優美には心配されちゃったね。不味いな、もう少し隠すの上手くしなきゃ」

 

 

『…………コイツは』

 

 

 

 そして第30層のボス部屋に到着したのは、それからおよそ5時間後のことであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第30層のエリアボスは少々特殊であった。鏡が部屋中そこかしこにあり、その鏡を伝って移動したり、別方向から攻撃を仕掛けてきたりする魔女のようなモンスターであった。といっても、ゲムデウスとの連携とレベル32+34のステータスで難なく回避や攻撃を加えられたことで、攻撃パターンのアルゴリズムは全て確認できた。

 

 

 この情報は攻略組にも伝えた。だが、またあの時のようにバグスターウィルスが介入してくる可能性も無きにしも非ず。だからこそ今出動できる仮面ライダーの2人、またはどちらか一方が必ずボス部屋に行かなくてはならない。

 

 

 その注意を払いつつも、(つつが)無く進んでいくボス部屋への道。モンスターだって現れるのにも関わらず、攻略組のレベルを考えると苦なく突破できるだろう。

 

 

 だが攻略組にとっても、仮面ライダーであるランの不参加やユウキの失踪。そして極めつけはゼロの不参加による攻略組へ向けられたプレッシャー。このような原因がある中で、ヒースクリフ、キリト、デウス、バダン、アスナの5名が参加している。

 

 

 それだけでも安堵できるというのが、このギルドメンバーのもたらす影響力の大きさというのだろう。

 

 

 攻略組一行はボス攻略へと挑んでいく。到着したボス部屋の中に入り戦い始めた。鏡には1部破壊可能なものもあるが、逆にバラバラな小さな鏡を作り出すことになり攻略が難しくなる。なのでペアを作って遠距離攻撃は防御か回避、近接攻撃をしてきた時を狙って地道に作業紛いの攻撃を続けなくてはならない。

 

 

 だが1本目のHPゲージを削り切った途端、ボスの行動パターンが変化した。その行動パターンとは……安全地帯から出ずに遠距離攻撃、とどのつまりイモった。

 

 

 

「うっわ!イモリやがったぞあのボス!」

 

 

「うぜぇ!そしてクリアさせる気がねぇなコイツ!」

 

 

「あんなもんどうやりゃあ良いんだよォ!?」

 

 

「デウス君、何か考えは?」

 

 

「ちょっと待って下さい!あれパターンに組み込まれてなかったですもん!」

 

 

 

 遠距離攻撃が飛び交う中タンクプレイヤーは移動速度は遅いながらも、ローリングなどでギリギリ回避したりとてんやわんや。アタッカーは逃げたり攻撃を弾いたりと様々。

 

 

 

「……ぁん?弾いた?」

 

 

『…………使えるな、宿主』

 

 

「可能性は低いけど……やんないよりかはマシか!」

 

 

 

 遠距離攻撃を避け続けていたデウスであったが、突如目の色を変えて危険地帯に向かっていく。ムーンサルトや側転で回避するデウスであったが、魔女はプレイヤーが対処しにくい面攻撃を放つ。

 

 

 

「(いけるか!?)」

 

 

『いいや、やるぞ!』

 

 

「(オッケー!)」

 

 

 

 ゲムデウスのサポートを受けて高速でドクターマイティの武器であるガシャコン・シールドを展開し素早く両手斧にチェンジ、デウスの体からゲキトツロボッツとドレミファビートのガシャットを取り出して装填させる。

 

 

 

【【ガッシャット!キメワザ!】】

 

 

 

「行くぜぇエエエエ!」

 

 

 

【ROBOT!BEAT!CRITICAL FINISH!】

 

 

 

 ガシャコン・シールド斧モードを振るうと斧から爆音が、それも周囲のガラスにヒビが入りプレイヤー全員が耳を塞いでも聞こえてくる程の音が、魔女の放った攻撃と激突する。

 

 

 少しの間拮抗を見せていたが、ゲキトツロボッツによって高威力となった音は魔女の攻撃を押し返し、逆に魔女への攻撃と化した。しかし自分自身の攻撃が跳ね返されるパターンを想定していなかったのか、鏡を貫いてダメージを与えた。

 

 

 

「よっしゃ!成功です!」

 

 

「攻撃を高火力の技で跳ね返すか……ならばタンク勢と高火力アタッカーで攻撃を跳ね返すぞ……!」

 

 

「でも先生……さっきのはキツイ……!」

 

 

「あ、ごめん。僕も無理だったわ。HPレッドに入ってた」

 

 

『一時的な聴覚機能の低下が見られるな。休め』

 

 

「それじゃあ皆、あとは頼んd」

 

 

 

 

 

 

 

 

【PAUSE】

 

 

 

 突如その音声が聴こえると、周りの時間が止まった。やがてデウスだけがその静止された時の中を動き出し、辺りを見渡した。

 

 

 

「これは……っ!クロノス!」

 

 

「その通りだ、ゲムデウス」

 

 

「っ!?」

 

 

 

 背後からの僅かな声で振り返ると、そこには緑と黒を基調とした仮面ライダークロノスが居た。しかしクロノスの傍にはデウスにとって見慣れた……いや、何よりも大切な人が居た。

 

 

 

優美(リーゼ)!?クロノス、なぜ彼女をここに連れてきた!?」

 

 

「なぜ?……彼女は力が欲しいと願っていたからさ」

 

 

「質問の答えになってな…………うぐっ!?」

 

 

 

 突然デウスの体に痛みや苦しみが走る。体に流れる電流のような痛みがデウスの仮想の肉体を駆け巡り、脳に痛みと認識させている。

 

 

 

「ゲム……デウス…………!」

 

 

『っ……!す、すまん……何故かは知らんが、私の制御が……っ!』

 

 

「!?ちょっと待って!私は貴方に!」

 

 

「自分の恋人を守れる程の、隣に立てる程の力が欲しいのだろう?」

 

 

「っ!?……リー、ゼ……!君は……!」

 

 

 

 こんな場所で唐突に聞かされた、リーゼの真意。彼女とて守られる存在だけでは無いという存在になりたかった。自分の大切な人が苦しんでいるのにも関わらず、ただ指を咥えてじっと見て待っていることなんて耐えられなかった。

 

 

 クロノスはまず、デウスに近付いて何やらパネルを出現させて操作をすると、デウスからゲーマドライバーと【バンバンシューティング】のガシャットが現れそれを取るとリーゼの元へ届ける。

 

 

 

「さぁ、君が欲しがっていた力だ。彼を救いたくば……君も仮面ライダーとなれ」

 

 

「止めてくれ……!リーゼ!」

 

 

「静かにしたまえ」

 

 

 

 さらにデウスの痛みが増してきた。その苦痛から地面を転がって痛みを紛らわすかのような行動をしていることから、デウスの生死を分けるような痛みなのだろう。

 

 

 

「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!」

 

 

「っ!」

 

 

「さぁ、早くしたまえ。君なら変身できる筈だろう?君が始まりの街で止まった時の中を()()()こと……この意味は分かっている筈だ、藍原優美」

 

 

 

 

 

 

「……分かった、でも明に掛けているものを無くしてからにして」

 

 

「ふむ…………まぁ良いだろう。暫くは動けない筈だからなぁ」

 

 

 

 クロノスがデウスに向けて手を出し、払う動作をすると痛みは瞬時に消えた。だがデウスが動けないのには変わらない。それを確認したリーゼは、ゲーマドライバーを腰に巻き付けガシャットを起動させる。

 

 

 

【バンバンシューティング!】

 

 

 

 本来ならドラム缶が出現するが、時が止まっているせいかドラム缶の出現がない。それでもリーゼはガシャットを逆さにして構える。

 

 

 

「リー……ゼ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「明…………今度は、私が……守るから」

 

 

 

 無慈悲にもガシャットはゲーマドライバーのスロットに差し込まれ、軽快な音楽と共に選択画面が出現。その中でスナイプのものを選ぶとリーゼに近づき、リーゼの姿が変わる。

 

 

 

 

【ガッシャット!】

 

【レッツゲーム!メッチャゲーム!ムッチャゲーム!ワッチャネーム!? I'm a 仮面ライダー!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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rejectと覚醒 リーゼ・ロッテ 2

 仮面ライダースナイプLv1の状態へと変貌したリーゼを確認すると、クロノスはバグヴァイザーⅡのABボタンを同時に押す。時が動き出し、ボスやプレイヤーの動きが再開するものの、新たに現れたデウス以外の仮面ライダーとクロノスの姿に驚いて一瞬だけ動きを止めてしまった。

 

 

 

「っ、クロノス!?それに……デウス君ではない仮面ライダー……だと!?」

 

 

 

 リーゼの変身したスナイプは、髪の部分に当たるパーツがピンク色に変化している。故に花家大我が変身するスナイプとの区別は付けられるものの、誰が変身しているのかは未だに理解はできていない。

 

 

 

「ガシャコン・マグナムを取り出したまえ。君が望めば、その手に渡るぞ。仮面ライダースナイプ……いや、仮面ライダー『E(エボル)・スナイプ』」

 

 

 

 リーゼの体からデウスの物と同質の水流にも似たエネルギーが奔流する。スナイプレベル1の白い体に黄土色の色彩が宿され、目の色も赤色から黄土色へと変化を遂げた。

 

 

 スナイプの素体を、リーゼの持つ()()()()()()()()()が活性化された影響で通常のスナイプよりも異常なステータスにまで上昇していくスナイプ。そして装備であるガシャコン・マグナムを取り出す。

 

 

 

【ガシャコン・マグナム】

 

 

 

「っ!くそっ!」

 

 

 

 デウスが自身の非力さに嘆く。レベル50の単体変身をするには未だにレベルが足りない。ステータスが上乗せされているとはいえレベル上昇率が著しく低いデウスは、これ以上ないまでに無力なことを実感していた。

 

 

 何も言わずにE・スナイプが戦地へと飛び込む。魔女はタゲを変えて遠距離攻撃をE・スナイプへと放つが、ガシャコン・マグナムのBボタンを3回押して連射モードにさせて打ち消していく。

 

 

 安全地帯である鏡を移動して鏡を割らせようとする算段なのか、鏡を移動しながら遠距離攻撃を放っていく魔女。数発が鏡に当たりヒビを作るが、一切慌てた表情を見せないE・スナイプ。やがて全ての鏡にヒビが入ったことを確認したE・スナイプは連射を止めてAボタンを押す。

 

 

 

【ズ・キューン!】

 

 

 

 ライフルモードへと変化させると静かに銃身とグリップを持って佇む。魔女は未だに鏡の中をグルグルと移動している様子であった。

 

 

 だが一向に進行しない状況を見かねた魔女が、1つのヒビ割れの鏡で止まり攻撃を放とうと仕掛ける。

 

 

 E・スナイプが動き出した。魔女が止まったヒビ割れた鏡に来た瞬間、その魔女の方へと構えた。そしてライフルモードのスコープを覗き狙いを定めると、反動を殺しながらエネルギー弾を放った。

 

 

 エネルギー弾はそのまま鏡に……否、()()()()に向かって行き、エネルギー弾は魔女へのダメージへと変わる。しかし鏡そのものには全く変化が見られなかった。あのヒビが境界の役割を失った今、遠距離攻撃同士の対決に決着は着いた。

 

 

 怯んだ魔女であったが、間髪入れずにライフルモードの銃撃を放ち魔女を疲弊させていくE・スナイプ。文字通りハメとなっている状況だが、相手も充分にイモったのだ。ハメ技ぐらい構わないだろう。

 

 

 10数発全てを魔女に当てると、当然相手も傷付いて動きが鈍くなる。その隙を逃さないE・スナイプはガシャットをドライバーから取り出し、キメワザスロットホルダーにガシャットを差し込んでボタンを2回押す。

 

 

 

【ガッシャット!キメワザ!】

 

【BANBAN CRITICAL STRIKE!】

 

 

 

 E・スナイプはジャンプするとキックのフォームを取る。そしてその状態で魔女の居る鏡に、()()()()()()向かっていく。その速さは正しく弾丸に相応しい。

 

 

 正確に狙ったこともあるのか、鏡のヒビにちょうどエネルギーが流し込まれ魔女が苦痛の声を挙げる。その瞬間鏡が割れてポリゴンへと変換される。それと同時に他の鏡もポリゴンへと変わり、攻略が終了した。

 

 

 リザルト画面が攻略組の前に表示されてレベルが上がったのも束の間、やはり注目はE・スナイプに集まった。その視線の中変身を解く。現れた女性プレイヤーに驚愕する攻略組であったが、すぐにリーゼは後ろへと倒れていく。

 

 

 

「リーゼ!」

 

 

「リーゼさん!?」

 

 

「なぜ……君が…………」

 

 

 

 デウスは倒れていくリーゼを支える。痛みが走る体でリーゼのもとまで走って来たせいか、それともリーゼの中にあったゲムデウスウィルスを知ったせいか……苦しそうな表情でデウスは涙を流した。

 

 

 

「(……ゲムデウス、リーゼのことは)」

 

 

『……このような状況になることを、想定していなかった訳では無い。此奴の状況を今まで話さなかった私に非がある、だが休ませる為に連れていくぞ』

 

 

「(……分かった)先輩、皆。ギルドホームで」

 

 

「…………了解した」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギルドホームに集った今居る全メンバーが診察室前の待合室に居る。といっても休んでいるリーゼと落ち着かせているラン、ゼロはこの場に居ない。それ以外が集まり、デウスの言葉を待つ。

 

 

 

「……ゲムデウスは事情を知っていたみたいだ。でもこんな風になるなんて思っても無かったみたいなんだ、その辺りは知っておいてほしい」

 

 

 

 全員頷いた。それを見たデウスは一息ついて、全てを話し始めた。

 

 

 

「……元々、ゲムデウスウィルスを持つ僕とリーゼが同棲していて、感染する筈がないって考えは持っていなかった。恐らく飛沫感染とか接触感染とかでウィルスは入り込むことだって有り得たんだ」

 

 

「同……棲…………」

 

 

 

 アスナが項垂れてしまったが、それでも構わずに話を続ける。

 

 

 

「でもリーゼの感染自体は微々たるものってのもあった。ただ、僕の力の行使とかでリーゼの中にあるゲムデウスウィルスの侵蝕率が、彼女の方でも上がっていたらしい。それでもライダーシステムに直接関わりを持たなければ平気だって考えた……それでも、このゲームで……クロノスによって仮面ライダーになれることが判明してしまった」

 

 

「それほどまでに侵蝕率があったという訳か。因みにだがデウス、その侵蝕率とやらはどのぐらいだ?」

 

 

「おおよそ25%だって言ってた。ゲムデウス調べだから間違いは無い」

 

 

 

 1つ息を付く。ただ、この場にある雰囲気は暗いままであった。

 

 

 

「変身できると知った攻略組は、恐らくリーゼの介入の意を示すと思う。そして……リーゼもそれを拒む理由も無い。僕が居る限りは」

 

 

「というのは?」

 

 

「クロノスの止まった時の中で、リーゼの真意を聞いたんです。僕を守りたいってだけで……その力を使ってしまった」

 

 

「デウスを思って、力を使った……か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰もが寝静まった夜、1人デウスは診察室の椅子に座って人工の灯りに照らされた机を思いっきり叩く。机の耐久値が異常な速度で減らされ、ギリギリ耐久値が持ったのか壊れる様子は無かったが、それでもヒビが入るぐらいには力がこもっていた。

 

 

 

「……っ!…………何やってんだ俺は……!」

 

 

 

 椅子から立ち上がり部屋中を徘徊するデウス。焦り、緊張、不安、怒りなどの心情が駆け巡っている。どうすれば良いのか、どうすれば心を元に戻せるのかと。

 

 

 ユウキの失踪によってランの精神状態も不安定になり、ゼロがウルトラマンと知る者として、バダンから聞かされたあの事でゼロにも不安が生まれている。そして極めつけに今回のリーゼの件によって、さらなる不安が襲っていた。

 

 

 

『…………焼け石に水だと思うが、少し落ち着け。今の宿主の精神状態では正常な判断は』

 

 

「っ……!分かってる…………!分かってるさ……!でも!」

 

 

 

 

 

 

〔ゲムデウスの言う通りだが、少し落ち着け高山君〕

 

 

「っ……黎斗さん…………」

 

 

 

 聴くのが本当に久々と感じている黎斗の声で、多少精神状態は安定し始めた。といっても一過性の物なので、暫くすればまたデウスは自己嫌悪などで悩みの渦に落ちていくだろう。

 

 

 だがここで黎斗との通信が入ることは、何かしら報告があることは事実。

 

 

 

「……黎斗さん、何かやれたんですか?」

 

 

〔良い知らせと悪い知らせの2つがあるが…………先に良い知らせから言うぞ〕

 

 

「良い知らせ……?」

 

 

〔これは私がカーディナルの包囲網を潜り抜けて、漸く貢献できたものだがね。MHCP(メンタルヘルスカウンセリングプログラム)のことは知っているな?〕

 

 

「……えぇ。ランちゃんの持つVRシステムの本来の姿と同じく、AIが組み込まれたNPCだとは」

 

 

 

 

 

 

〔そのMHCPだが、一部解放させることに成功した〕

 

 

「っ!本当ですか!?」

 

 

〔私は嘘は言わん!これで君の悩みの種の解決策が見つかる!…………方が良かったんだが、ここで悪い知らせが2つある。

 

 1つはそのMHCP、数は2体なのだがその2体がそれぞれ別の階層で出現させてしまったことだ。

 

 もう1つは、カーディナルの侵入対策プログラムの向上が見られた。通信できる時間も限られてくること、以上だ〕

 

 

「それでもです!黎斗さん、ありがとうございます!」

 

 

『……宿主、そこまで溜め込んでいたのか』

 

 

「へっ?」

 

 

 

 話しの途中なのにも関わらず、デウスの頬に幾つもの生暖かいものが伝わっていくのが分かる。鼻も詰まりに詰まって呼吸が出来ないぐらいで、少々過呼吸気味になりかけている。

 

 

 デウスは、泣いていたのだ。黎斗からの知らせを聞いたことで、1つの安心感が生まれて、心の中にあった苦痛が消えたような感覚があって枷が外れていたのだ。

 

 

 

「す、すみません……ちょっと……通信を…………切ってもらっても……?」

 

 

〔……分かった、私は暫くカーディナルの攻略に励もう〕

 

 

 

 黎斗との通信が切れる。その瞬間、顔を歪に歪ませてデウスは泣いた。声が漏れないように必死に抑え込みながら泣き始めた。漸く、救えるチャンスが生まれてきたと喜びの感情を持って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何処かの岩肌が露出し、自然に出来たと思われる洞穴で1人火を焚きながら座って、ずっと火だけを見ている少女が居た。だがそんな空間の中に、入口の方から気配がすると慌てて火を消して剣を構えた。

 

 

 

「……そこに居るのは誰?」

 

 

 

 威圧的な態度を取る少女の声に、相手の方はゆっくりと顔を覗き込んだ。覗き込む目は暗闇によって見えやしないが、敵対する意思もなさそうに感じる。だが警戒は解かない。

 

 

 ゆっくりと入口の方に姿を現す存在。火も消えているので全体像は確認できないが、その存在はただ一言だけ発した。

 

 

 

 

 

 

 

「お腹……空いちゃって…………食べる物無いかな?」

 

 

 

 これが少女との初めての邂逅の瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




?「何か最近暗いですねぇ……」

?「不機嫌そうだな」

?「そりゃそうですよ。こんなに暗いんなら、皆不機嫌になりますし。タカキだって不機嫌になるし、俺もなりますよぉ」

?「次回はちょっとだけ希望が見えるらしいぜ、まぁ気長に待っ……(♪〜)ヴッ!」


キーボウノハナー ツナイダーキズーナハー


「だからよ……(モチベ維持の為にアンケート書くの)止まるんじゃねぇぞ……」






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rejectと覚醒 ユウキ 2

こっから希望ターン


 誰にも知られていない場所に居る1人のフードを被ったプレイヤーがモンスターを狩っている。ただその場に居る()()()()()()()()()()()()が1人というだけであって、他にもう1人プレイヤーは居る。

 

 

 

「あーやばっ!こっち手伝ってー!」

 

 

「あぁもう!ちょっと待って!」

 

 

 

 被られていたフードが反対側に居るプレイヤーの元へと向かう際に反動などで落ち、そのプレイヤーの顔が顕になる。黒のショートヘアーに、まだ幼い顔立ちにも関わらずその瞳は真剣そのもの。

 

 

 彼女のこの世界での名前は『ユウキ』。ユウキはステータス内で1番高いAGIを駆使して素早く()()()()()()()()()()()()()()の元まで向かい、対峙している大型ボア系モンスターに向かって【ヴォーパル・ストライク】を放つ。

 

 

 

「わわっ!」

 

 

 

 現時点で共闘しているプレイヤーが慌てて避ける。薄紫の髪色と真紅の瞳が目立ち、何処がとは言わないがユウキよりも主張している部分があるプレイヤー、『ストレア』。

 

 

 大型ボアはポリゴンへと変貌し、リザルト画面が2人の前に現れる。1つ息をついたユウキはチラとストレアの方を見て、小さく舌打ちをしたあと剣を収めてスタスタと歩き始める。

 

 

 

「あー、待ってよー!」

 

 

「……はぁ、あの脂肪もぎたい

 

 

「ゑっ!?」

 

 

「あ、聞こえてたんだ。じゃあどっか行って、今度はそれ切り落とすよ」

 

 

「や、やめて!色んな意味で洒落にならないから!」

 

 

 

 ユウキには無いものを両腕で隠して少し泣き顔になりつつあるストレア。また舌打ちして足早にストレアから距離を取ろうと歩き始めたユウキであったが、後ろから足音が聞こえた途端ゆっくりと振り向いてフードを被ったあと威圧的な眼差しを見せる。

 

 

 

「どっか行ってって……言ったよね?ボク。聞こえてなかった?」

 

 

「ううん、聞こえてたよ」

 

 

「じゃあ付いて来ないで。邪魔になるから」

 

 

「えー!でも2人だったら生き残りやすいでしょー?」

 

 

「足でまといは要らないよ。さっきボア系に苦戦してて、それを助けたのは誰だったっけ?」

 

 

「むぅ…………それを言われちゃお終いなんだよねー」

 

 

 

 どこ吹く風と謂わんばかりに飄々とした態度で、ユウキの威圧的な態度ものらりくらりとしつつ事実は肯定するストレア。一応両手剣使いなのだが、STR的にも装備的にもユウキの持つ【ディープ・ヴァイオレット】と比べても若干威力は上なのだ。

 

 

 だが正直微妙といった所であった。戦い方に粗がある、とでも言えば良いのだろうか。両手剣を振るっているというよりも、両手剣に振るわれている。とどのつまり両手剣に支配されているような感じであった。もっと分かり易くすれば、犬の飼い主が犬に引っ張られるといったところか。

 

 

 そんな両手剣使いはユウキにとっては、かえって邪魔にしかならない。バダンのような技術がないストレアを、パーティーに入れるのは気が引ける。

 

 

 

「だったら早く」

「でも大丈夫!今度は上手く倒しちゃうからさ!」

 

 

「…………めんどくさっ

 

 

「あー!いま悪口言ったなー!失礼しちゃうなー!プンプン!」

 

 

「…………もう、勝手にして」

 

 

 

 ユウキはスタスタと歩き始めた。フードに覆われて顔は見えないけれど、とても面倒そうな表情を浮かべているように見えた。

 

 

 

「ねぇ待ってよー!」

 

 

 

 ストレアはユウキを追いかけていく。身長的にも体の発育的にもユウキよりも成長しているけれど、どこか妹っぽい様子が見受けられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 20層の森林地帯で、ユウキはストレアと別れて1人モンスター狩りに勤しんでいた。ストレアは主街区で、ユウキから貰ったコルと自分のコルを使って消耗品を買っている最中である。

 

 

 ユウキが行う狩りの仕方は、完全にステルスプレイに偏っていた。幾らレベル制のMMORPGとはいえども、弱点を狙いさえすれば一撃で終わらせることなぞ容易い。木の上からマンティス系のモンスターの頭を、タイミング合わせて【レイジスパイク】で一撃。

 

 

 モンスターを見つけては木に登り、誘導させて終わらせる。これがユウキの狩りの1通り。効率的にも横取りの可能性に関しても悪手といえるのだが、本人はこのプレイで素早く静かに終わらせたいという思いがあるらしく、変えることは無かった。

 

 

 

「……ふぅ」

 

 

 

 武器を収める。あれからどれぐらい時間が経ったのだろうか、目覚めた力が知らず知らずの内にユウキの記憶を蝕んでいる。ただスキル欄に突然現れた【絶剣】の名前に見合った通り、自分が()()()()()だけは鮮明に覚えていた。

 

 

 

「っ…………」

 

 

 

 頭が痛む。それと同時にユウキの体から瘴気にも似たものが微量ながら流れ始めていた。苦しむ記憶を必死に忘れようと別のことを考えるのだが、思い出すのは厄介な事に、自分を見て恐怖していた(ラン)の表情であった。

 

 

 それを思い出す度に、嫌われたくない。怖がらせたくない。もう誰も殺したくはない……そんな思いだけが募り続けて、終いにはユウキの周囲に瘴気が漂い周りの植物を枯らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気持ち悪いなぁ、お前」

「っ!?」

 

 

 

 声は聞いたことがあった。ただこの声は耳に入れたくはない、ユウキにとって不吉そのものといえる声。()()()をぶつけても尚、死ぬことさえ無かった相手。

 

 

 

「お前……!何でここに…………!?」

 

 

「暇だったからなぁ……様子見ってところだが、随分とまぁ侵蝕されまくってるなぁ」

 

 

 

 プレイヤー相手に剣を抜くのは怖い。また死なせてしまうことだって有り得るし、ストレアが来たらまたあの目で見られてしまう。()()()だけは、絶対に嫌だ。

 

 

 

「っ…………!っ……!」

 

 

「まだ恐怖があるみたいだな…………仕方無い。少しばかり手を加えるか」

 

 

 

 現れたプレイヤーは姿を変えた。この世のものとは思えない姿、本性を現した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユーウキー!どこー!?」

 

 

 

 ストレアが買い出しから戻ってきたのも束の間、ユウキが居たであろう場所に赴いたのだがユウキは見つかりはしなかった。フレンド登録もしていないので尚のこと探そうとしても見つかる可能性はほぼ有り得ないのが常識だろう。

 

 

 しかしながらストレアの他にもプレイヤーがユウキを探している。ただし探索側のプレイヤーの顔はやつれており、どこか生気まで無くしかけている様子みたいだが。

 

 

 

ユウキー!お姉ちゃんだよー!……お願いだから、でてきてよぉ…………!また一緒に……一緒にぃ……」

 

 

 

 徐々に声にも覇気が無くなっているユウキの姉のラン。だがこの状況は重症としか言い様が無い。まるで生きている人間を探し出しているゾンビにも似たような歩行、そしてその目には大量の涙が浮かんでいることから、ユウキ無しでは到底普通の生活ができそうにない様だ。

 

 

 因みに他のメンバーにさえ言わずに出ていったので、実質脱走に近いのだが。しかし見ていて痛々しく、そして可哀想に見えてしまうのが今のランであった。そんなランは鬼気迫る表情でストレアに近付いて両肩を掴み、激しく揺らしながら問う。

 

 

 

「ねぇ貴女!本当にユウキと一緒に居たのよね!?そうなのよね!?だったらユウキとフレンド登録ぐらいしてるわよね!?そうだと言ってお願いだからァ!」

 

 

「え…………えっと…………そのぉ………………」

 

 

 

 正直ストレアもここまでとは予想外であった。片っ端からユウキのことを聞いて回るプレイヤーにたまたま声を掛けられて、そしてユウキと共に行動していると知れば人の目を気にせず大騒ぎ。

 

 

 果てにはストレアの首根っこを掴み、そのまま素早く主街区を出て走りながらストレアに質問攻めしていくことまでする始末。ストレアは1つの思考におさまっていた。

 

 

 ━━━━━シスコンが過ぎる、と。

 

 

 そんな中、パキッと小枝が折れる音が響く。その音のした方向へと視線を向けても、誰も居ない。だが気配探知系スキルを発動させると、誰かが居ることは理解できた。

 

 

 

「……ユウキ、なの?」

 

 

「ユウキー、君のお姉さん連れてきたよー。メッチャ疲れたんだけど……

 

 

「あ?」

 

 

「ねぇこの2人スキルに【地獄耳】でもあるのー!?」

 

 

 

 ストレアのキャラが崩壊しかけている中、木の影に隠れていたプレイヤーが姿を現す。しかしその現れたプレイヤーは、まず人間とは思えない姿をしていた。

 

 

 黒に近い紫の体色で、顔面であろう部分には彩度の高い赤紫色のバイザーのようなものがある。右手にはユウキが持っている筈の【ディープ・ヴァイオレット】があることをストレアが知る。

 

 

 

「まさか……ユウキ…………VRシステムが……」

 

 

「VRシステム……それって…………っ!」

 

 

 

 突如【ディープ・ヴァイオレット】を2人に向けて振るうユウキと思わしきライダー。ランとストレアは左右に避けて間一髪回避したものの、ランは突然の行動に驚愕している。

 

 

 

「ユウキ!そんなにお姉ちゃんが嫌いになったの!?」

 

 

「いや違う……これは…………!多分暴走してる!敵味方見境なく……!」

 

 

 

 ストレアが両手剣を取り出して真上から勢いよく振るう。威力の高さが剣の重さと振るった地点の位置エネルギーが加重されて上昇する。だがユウキと思わしきライダーは両手剣をいなしてストレアに攻撃しようとする。

 

 

 

 

 

 

 しかしストレアの後ろから何者かが飛んできてライダーと衝突する。ストレアは何事かと後ろに振り向くと、そこに1人のプレイヤーが居た。

 

 

 

 

 

「おい()()()()、まだ終わりじゃないぞ……!」

 

 

 

 同じく両手剣……いな、大剣を持ったバダンであった。

 

 

 

 

 

 

 

 




活動報告でアンケート実施してまーす。そういえば、つい最近PS4スパイダーマンを買ったんですよね。

ゲームの進行状況100%にしましたけど。


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rejectと覚醒 ラン&バダン

「バダン……!」

 

 

「ここに居たのか、ラン。それと…………」

 

 

 

 誰かを投げ付けたバダンがストレアの方へと視線を向ける。ランと一緒にいる時点で多生なりと警戒はしていたのだが、バダンでさえも気配探知スキルを使っても気付くことのなかった()()()()()に警戒するよりも、他のことに対処しなければならないとして、バダンはバダンの用事を優先する。

 

 

 

「話は山積みだが……今回ばかりはそうも言ってられんようだな」

 

 

「っ…………おのれッ……!私の邪魔をするな!」

 

 

「ふっ!」

 

 

 

 バダンは大剣でガードしたままフードを被るプレイヤーに突進していく。STRの対抗はバダンに優先されるようで、そのままバダンとフードをかぶったプレイヤーは森の奥へと向かっていった。残されたストレアとラン、そして起き上がったユウキ。しかし依然として一言も発さないユウキは、2人に向かって【ディープ・ヴァイオレット】を振るう。

 

 

 

「っ!」

「おわっ!」

 

 

 

 冷淡に振るわれる度に生まれる剣閃を避けるも、ランは未だに変身せずユウキに対してどうすれば良いのか延々と考え続けている。ストレアは迷いなく防御から攻撃に移っていく。先ほどまでとは打って変わって、足腰を重点的に置いた剣閃での攻撃を放つストレスであったが、ライダーと通常プレイヤーの差は歴然。反応速度やSTRの差から見ても受け流され防がれる。

 

 

 ストレアが両手剣に光を纏わせる。両手剣SS【カスケード】を放ち重い一撃を与えるが、ユウキの顔面にあるバイザーが紅く光るとその一撃を確実に受け止めた。

 

 

 

「っ……!さっすが、名前が()()なだけあるか……固有能力を知らない訳じゃ無かったけど…………でも!」

 

 

 

 ユウキは何も言わずに受け止めた状態からスルリと流れるように拘束状態から抜け出すと、手際よく剣の位置を変えて左上からの袈裟斬りを放つ。SSの膠着状態がギリギリのところで解除されたストレアは瞬時にバックステップで避け、前髪が少しだけ切り取られたものの、今度は【トーレント】を使用し柄で攻撃する。ユウキはノックバックによって2人との距離を空けさせられた。

 

 

 しかしストレアが目に見えて疲弊しているのが分かる。そもそもの能力値から考えてみても、無謀としか言い様の無い戦いに対してかなり時間は稼げた上に生きている。遠慮なしの攻撃一つ一つを適切に対処し、ダメージを受けることなく戦えている。それだけでも、かなりの戦力になれる逸材だ。

 

 

 そんな逸材であろうと、精神的な疲労だけはどうしようもない。既に両膝が笑うぐらいにユウキに対して神経を注ぎ込んだ。徐々にストレアの焦点が合いそうになくなってしまう最中であろうと、ユウキは無慈悲にも素早く接近し、右逆袈裟斬りを放つ。

 

 

 

「しまっ─────!」

 

 

 

 無慈悲な剣閃がストレアを斬り裂く

 

 

 

 

 

 

 

 

 筈だった。ユウキの持つ【ディープ・ヴァイオレット】が止まり、ユウキの動きも止まる。そしてユウキと対峙するように剣を受け止めたのは、他の誰でもない。

 

 

 姉であるランであった。

 

 

 

「…………ユウキ」

 

 

 

 静かにそう呟くラン。あらゆるステータス値は今現在ではユウキの方が圧倒的に優勢であった。なのでランは素早く鞘を抜き刀を収めながら魔法の言葉を口にする。

 

 

 

「────変身」

 

 

 

【変身シークエンス、起動します】

 

 

 

 ランの体が【ゼロレンジ】へと変わると、上昇されたSTRとDEX値で上手く力加減を調整して押し返し、その隙にストレアは撤退する。押し返されたユウキは数歩後ずさるも、標的をランに変えて見据えた。

 

 

 ランも同じようにユウキを見据える。ただし今のユウキとランには決定的な違いが1つだけあった。その信念、思いがどのような結果になるのだろうか。おそらく見ているであろう監視者(仮面ライダークロノス)は興味深そうな目をするのだろうか。

 

 

 先にユウキが仕掛けた。AGIはランよりも早い故に射程圏内に入ったユウキは、その素早さを生かして突きを放つ。剣先がランの元へと吸い寄せられるように向かっていくが、ランは刀をぶらりと下げた状態のまま動きはしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ランは刀を手放した。攻撃する意思なんてサラサラ無かったランの腹部に深く【ディープ・ヴァイオレット】が突き刺さる。ダメージの減りは恐らく継続されていく筈、このままでは命が危ないのは目に見えていた。だがランは深く突き刺さったままの状態で、ユウキの顔に触れる。

 

 

 

「ユウキ───────

 

 

 ()()()()。お姉ちゃんなのに、貴女に対して何にも声を掛けてあげられなかった。

 

 

 ()()()()。貴女を孤独に、1人にさせてしまったこと。本当はすぐに引き止めたら良かったのに。

 

 

 ()()()()。ユウキ……本当に、ごめんね」

 

 

 

 仮面越しにランの思いが吐露されていく。姉とて、あの時の悲しみを知ってしまった。大切な人はいつも近くに居て、離れ離れになった途端にわかってしまうことに。ユウキと離れていた暫くの間、本当にランは苦しかった。こうも食欲が無くなってしまうことも、こうも生きる気力が起きないことも、若干13歳にして経験してしまった。

 

 

 以前のようにHIVウィルスに感染していた時は、家族一同キリスト教徒であったが故に“これも神様が与えてくれた試練なんだ”と家族で割り切れた。だがユウキが殺人を犯し、離れてしまったことでランの何かが崩れてしまった。

 

 

 ランも孤独を恐れていた。ユウキを失う痛みが、耐えられなかったが故に壊れかけてしまった。

 

 

 ランの体が意識を失ったかのようにユウキの方へと倒れ込む。腹部に剣は刺さったままだがユウキが支えとなり、ランの体は膝から崩れてそのまま倒れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おねえ…………ちゃん……?」

 

 

 

 第一声が、それだった。それを見たストレアはすぐにランの腹に刺さっている【ディープ・ヴァイオレット】を抜き取り、鞘に収めて変身を解くとアイテム欄を操作して回復結晶を取り出す。体力は全快したものの、継続ダメージが続いている。ストレアはさらにポーションをランの口へと流し込み何とか減少量を抑えようとする。

 

 

 後ずさる音が聞こえる。ユウキがその場から逃げようとしていたが、すぐにストレアがユウキの右手首を掴み捕らえる。逃げようとユウキは身じろぐも、STRの差が脱走の障害となった。

 

 

 

「……ダメだよ、ユウキ。お姉さんが折角捜しに来てくれたのに、逃げちゃダメだよ」

 

 

「離して……離してってば…………」

 

 

「ずっとユウキを探してたのに?心配そうにしてユウキを探してたのに、それでも──」

 

 

 

 

 

 

「離して!ボクはお姉ちゃんに会う資格もないのに!

 

 

 お姉ちゃんの前で人を殺して!今度はお姉ちゃんやストレアを殺そうとした!

 

 

 もういやなんだよぉ……ボクの周りで、ボクが人を殺しちゃうことが…………いやなんだよぉ……!怖いんだよぉ……!」

 

 

 

 若干13歳にして、殺人という大罪を犯してしまったことへの重さがユウキを孤独の苦しみへと追いやっていた。もうあんな顔も見たくないし、殺されていく人達の顔だって見たくもないし思い出したくもない。毎晩毎晩悪夢となって蘇ってくるから。

 

 

 今にも崩れそうなユウキであったが、ストレアはユウキの体を引っ張って真正面に対面させるとユウキの頬をおもいっきり引っ叩く。突然のストレアの行動に頭が一瞬空っぽになるが、すぐに顔を見合わせられるようにストレアが両手で押さえて向けさせた。

 

 

 

 

 

 

 

「ふざけないで!貴女のお姉さんは、ずっと貴女を探していたんだよ!?これがどんな意味なのか分かってて言ってるの!?

 

 

 ()()()()()()()()()()()()の!例え誰かを殺してしまったとしても、お姉さんにとって貴女は大切な“家族”なのよ!?この世界で1番大切な家族で、たった1人の妹なんだよ!?

 

 

 人を殺してしまうのが怖いのなら、誰かに助けを求めたら良いじゃない!それこそ、貴女の姉や、頼れる仲間たちに!貴女にはいっぱい居るでしょ!助けてくれる大切な人達が傍にたくさん!これでもまだ分からないの!?ユウキ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユウ……キ…………」

 

 

「っ……!おねえ……ちゃん…………!」

 

 

 

 ストレアの声が、ユウキの悲痛な声が聞こえいたのか。一時的に意識を失っていたランが目覚め、ユウキを呼ぶ。ランの手はユウキへと伸ばされていくが、倒れているためどうしても届かない。

 

 

 その余白を、ストレアが埋めた。ユウキをランに近付けさせて、ランの手を握らせる。例え仮想世界であろうと、この手の温もりだけは本物だと思えた。その温度に、ユウキは留めていた枷が崩壊していく感覚を覚えていく。

 

 

 

「あぁ……良かった。また、一緒に居られるね。ユウキ」

 

 

「っ…………!」

 

 

 

 遂にユウキにも限界が訪れる。頬には涙が伝わり、地面へと落ちていくとポリゴンへと変貌する。その煌めきが2人の再会を喜ばしく思っているように思えた。

 

 

 

 

 

 

「ごめ……ん……なさい…………!お姉ちゃん……!ボク………………ボク!」

 

 

「良いのよ……私は、ユウキが無事で安心したわ。私の大事な大事な妹なんだもの、お姉ちゃんは心配しましたよ」

 

 

 

「ボク……も…………!怖かった……!1人は……寂しかった……!お姉ちゃんが、居なくて……!悲しかった……!」

 

 

「それじゃあ…………これからはずっと、一緒に居ようね。ユウキが苦しかったら、私が傍に居てあげなくちゃ」

 

 

「あり……がとう…………!ありがとう……お姉ちゃん…………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユウキが2人を襲っていたあいだ、フードを被ったプレイヤーとバダンが森の奥で戦っていた。かなり大きめな鉈と、黒き大剣。両者とも拮抗していたが、優勢であったのはバダンであった。

 

 

 

「チィ!貴様、この私と互角に戦うか!」

 

 

「貴様をこの世界から消すためだ!この地球にお前(ヤプール)を存在させてなるものか!」

 

 

「っ!」

 

 

 

 大剣が縦横無尽に振るわれる中、その剣閃を必死に避けるヤプール。防御に徹していたヤプールであったが、何かに気付いた様子を見せると舌打ちをする。

 

 

 

「……チッ、洗脳が解かれたか。やむを得ん」

 

 

「させるかっ!」

 

 

 

 剣先をヤプールに向けて距離を詰めるバダン、だがヤプールは素早くテレポーテーションを駆使しその場から退散するが、すぐにバダンの頭に声が流れ込んでくる。

 

 

 

〔まぁ良い、この世界にはまだまだ多くの人間が居る!貴様の仲間である()()()を絶望に落とすのも容易いわ!〕

 

 

 

 不吉な笑い声だけがバダンの頭に木霊していく。それっきりヤプールの気配が無くなったことが分かると、バダンは舌打ちをして3人の方へと急いで向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい先ずはユウキちゃん救助。ついでに姉妹仲も格段に良くなって……あら?こんな所に百合の花が植えられて


お次はゼロの希望ターン。


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rejectと覚醒 ゼロ 3

ふぃー(ウィザード風)。ようやっとこさ、ここまで来た。褒めて。褒めろ(暴論)。

ウルトラマンとしての零治君の在り方とは。


 第40層にまで攻略が進んでいく攻略組。その背景にはユウキの発見と攻略組への返り咲きが大きかったりもしている。当のユウキは参戦していたリーゼに驚いて、攻略組の反応を一々確認していなかった。

 

 

 そしてユウキが戦線復帰したことで、ランもまた戦線へと復帰した。その活躍ぶりはユウキが失踪する前よりも凄味があったといえる。時折ランがユウキに抱きついていく場面を見て一部のプレイヤーがタワーを作っていたが、それは別の話し。

 

 

 そんな中唯一自身の秘密をバラしてはならない状況で、尚且つ自らの過ちによってサチを殺してしまったゼロ。未だに自責の念によって追い詰められている最中、何を思ったのかシノンがギルドホームのある22層を巡ろうと誘った。というより強制して付き添わせた。

 

 

 ゼロ自身気分転換がしたかった、ということはない。自分みたいなのが外に出て危害を加えてしまったならば、それこそ多くの犠牲者が出てしまう恐れがあったからだ。これがゼロに課せられた1つの壁、ウルトラマンという存在として今を生きるゼロの()()()が、未だに見つけられないという不安。

 

 

 2人は巡り終わって、22層の主街区の転移門前まで来ていた。シノンが様々な場所を案内し終えたところで、提案された。

 

 

 

「ゼロ、久々に2人で攻略……行く気はないかしら?」

 

 

「攻略……か」

 

 

 

 暫く思案するゼロ。何かしら思うところでもあったのだろうかと疑問に思って首を傾げるシノンだったが、溜め息のような息を1つ吐くとゼロはシノンの方を見て答える。

 

 

 

「──行くか、久々にな」

 

 

 しかし、シノンはゼロの覇気の無さに疑問を抱いた。

 

 

 ゼロは攻略へと向かう際に、胸に手を当てて眉を(ひそ)めた。

 

 

 そうして現段階で最上層の第40層に到着し、そのまま迷宮区へと入ったゼロとシノンであったが少々トラブルが起きた。『ノーチラス』と名乗るプレイヤーが助けを求め、ユニークスキルによって身体能力が強化されているゼロが向かい『ユナ』というプレイヤーと1人の少女を救ったという出来事。

 

 

 ゼロはノーチラスの助けを聞いた瞬間、彼が示した部屋へとすぐさま突入して2人を連れてモンスターの群れから離脱した。戦うのではなく、離脱という選択肢を選んだのだ。

 

 

 シノンは益々訳が分からなくなっていった。シノンが見ていた普段のゼロは、もっと好戦的で、バカで、明るくて────あの時の“朝田詩乃”という少女にとっての光そのものであった。希望であったのだ。

 

 

 だが今はどうだ。希望とは言い難い、不安を抱えた姿が今のゼロにあった。そんなシノンの考えは、徐々に1つに纏まっていく。

 

 

 

「───だいじょうぶ?」

 

 

「…………っ、何かしら?」

 

 

「おねえさん、おかおがこわかったから……」

 

 

 

 しまった、と内心毒つく。今は他にもプレイヤーが居るのに、ましてや小さな子どもまで居るのにも関わらずゼロのことに意識を集中させすぎた。当のゼロはノーチラスと話しをしているみたいだ、その内容が何なのかはシノンは知りえなかったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「強くなる方法……か?」

 

 

「教えてほしいんだ。僕はどうしても、それが知りたい」

 

 

 

 ノーチラスとゼロは、どうすれば強くなれるのかという議題のもと話し合っていた。なんでも、ノーチラスはモンスターと戦闘しようとして体が動かなくなったと、ゼロが聞いたことも無い状態にあることを聞かされた。

 

 

 あの時ノーチラスはユナを救おうとした。だが体が、手が、剣が──ピクリとも動こうとしなかった。そんな時、助けを呼んだゼロの活躍が、自分にも出来ればと心底後悔していたらしい。

 

 

 だからこそ強くなりたい。モンスターに立ち向かえるほどの強さを持って、ユナを守りたいと願いゼロに聞いた。何か強くなる方法を持っているのか、ただそれだけを聞くために。

 

 

 

 

 

 

 

「────俺が知りてぇよ、そんなもん」

 

 

「えっ────?」

 

 

 

 返ってきたのは予想外の答えであった。ゼロは虚ろな目で上を見上げて何かを堪えているようにして、握り拳を作る。

 

 

 

「俺だってな…………守りてぇモンを、守れなかった──いや、違うな。俺が殺したといっても良いぐらいだ」

 

 

「それは……何で…………?」

 

 

 

 

 

「あん時、俺がヘマしなけりゃ……アイツは生きていたのに。

 

 

 あん時、俺がアイツをキチンと守ってやれば──死なずに済んだ筈なのに。

 

 

 あん時、それが全く出来なかった。

 守りたいものを、守れなかった。

 

 

 それどころか、俺は奪ってったんだよ。人の命を。

 

 

 それ以来、俺は俺自身が怖くなった。

 もしまた俺のせいで死んでしまうことがあるのなら、そん時俺は……もう耐えられそうにないんだよ──」

 

 

 

 ノーチラスは不謹慎だと思われることを覚悟しながらも、あの時の()()()()()()を夢想していた。もしあの時、あの状況が何も変わりはしなかったら。

 

 

 もしもあの時、助けが居なかったら。もしもあの時、その場から動くことさえ出来なかったらと──そう思いつめて、ゼロの体験してきたことを頭の中で整理する。そうすると、ノーチラスも同じように心が痛んだ。

 

 

 

「だから悪いがよ、俺からは何にも教えてやれねぇ。

 

 

 俺でさえも知りたいことなんだからよ」

 

 

 

 そういって迷宮区から抜け出していく5人組、しかしその内の2人──ゼロとノーチラスは頭の中が霞みがかっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 漸く纏まった時間が出来たことで、ギルドホームの1室。デウスの部屋でストレアとヒースクリフ、Mとデウス本人が集まっていた。この集まりでの会話といえば──最早1つしかない。

 

 

 

「先輩、話しをしてもらえませんか。このストレアという【MHCP】について。そして、他の同じプログラムのことも」

 

 

「…………檀黎斗、彼には頭が上がりそうにないな」

 

 

 

 ヒースクリフが鼻で息を吐いて1つ間を置くと目を瞑り、暫くして目を開いて話し始めた。

 

 

 

「先ずはこの彼女の説明からといこうか。彼女は──」

 

 

「MHCP制作番号2、名称【ストレア】 2番目に作られたプログラムだよ、よろしくね」

 

 

「うん、宜しくストレア」

 

 

「彼女の説明はこれで良いとして──次の問いだが、恐らく他にも何処かに居るはずだ。しかしバラバラになってしまった以上、誰が何処の層に居るのかは皆目検討もつかない。

 

 

 が、名前なら覚えている。私が最初に作り出したプログラムの名は──────『ユイ』」

 

 

「ユイ……それがストレアの、いえストレア達のプロトタイプですか」

 

 

「少々予測が入るが、ユイだけはエラー蓄積量も多く何かしら機能していない可能性かあると考えている。もしも私達が見つけ出す前に消されでもしたら」

 

 

 

 それだけは絶対に避けなければならないことだと、既に分かりきっている。ある意味、心のケアを行うシステムを消してしまえば……この精神状態の安定していない者達にとっては後々大きな痛手になるのだから。

 

 

 

 

 

 話しが1通り終わって、ヒースクリフとストレアが退室していく。残っているのはMとデウスのみ。こうして2人して残っているのは、デウスがMと2人だけで話しがしたかったからだそうだ。

 

 

 

「それで、僕に話って?」

 

 

「…………Mさんにしか、言えないことです。ジャンルは違えども、同じ医者として、貴方に」

 

 

 

 おもむろにデウスはアイテム欄から投げナイフを取り出す。何をしているのかとMは少々嫌な予感が頭を過ぎったのだが、それは正解であった。

 

 

 勢いよく、デウスが自分の腕に投げナイフを差し込む。

 

 

 

「ぐっ!ッ────!ぎっ──!」

 

 

「何をしてるんですか!?」

 

 

 

 Mが取り除こうとするが、それより先にデウスが抜き取る。苦痛の表情となって顔を歪ませているデウスであったが、息をすぐさま整えて何とかゆっくりとした呼吸が出来るまでに落ち着いた。

 

 

 

「ハァ───!ハァ───!ハッ──ハッ……っ、Mさん。

 

 

 どうやら僕、この世界でも痛みがあるみたいです」

 

 

「!?……それって、まさかゲムデウスウィルスの……!」

 

 

「恐らくは……それと、これの影響でこの仮想の肉体も、ガタが来ているみたいで……」

 

 

「何でそれをもっと早く────!」

 

 

「こんな非常事態に……僕のことを言える機会が、無かったってだけです。漸く伝えることが出来た……今、この時に」

 

 

 

 デウスの呼吸が漸く落ち着きを取り戻した。苦痛の表情に変わりはなかったが、これで多少なりと重荷は誰かに話せてスッキリした。

 

 

 

「出来ればですが、Mさん。僕の状態を、外見──他者の目から見た状態を伝えてほしいんです。まぁ、診察となんら変わりませんよ」

 

 

「──本当に、貴方は……!こんなになるまで、黙っているんですか……!手遅れになるかもしれない……そんな状態なのに…………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「何かを成すには、犠牲が居る。

 

 

 だったら、その犠牲は自分で良い。

 

 

 それが僕の、たった1つの思いですから」

 

 

 

 

 

 

 




次回、ゼロ君wake upします。


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rejectと覚醒 ゼロ 4

 ゼロ達が40層に到着した途端、低い場所から小さな腹の虫が鳴った。4人全員がユイの方を見てみると、ほんのり頬を赤く染めて照れていたユイの姿があった。様々な心境などを考えず()()()()当たり前の欲求を目の当たりにすると、一旦考え事を抜きにして食事にしようとするのは自明の理。

 

 

 

「ぁぅ…………」

 

 

「……そういや、昼飯まだだったわな」

 

 

「もうそんな時間だったのね……ねぇ、2人もどうかしら?一緒に」

 

 

「それじゃあ……お言葉に甘えさせてもらおっか、えーくん」

 

 

「ちょっ、まっ!ユナ、それは不味いって!」

 

 

「おーう、お惚気ごっそさん。先行っとくぜー」

 

 

「の、惚気じゃない!」

 

 

「えーくん……私のこと、きらい?」

 

 

「えぇっ──あー……何でそうなるのかなぁ?」

 

 

 

 ゼロはシノンとユイを先に連れて適当なレストランへと向かい、それをユナとノーチラスが追いかけるの構図が出来上がっていた。ゼロとシノンに付いているユイは駆け足ながらも2人の歩幅に合わせながら、ゼロの顔を見ていた。

 

 

 その視線に気付いたゼロは、ユイを見る。少女であるが故に体格差などを考慮せず歩き続けていたゼロは少しだけ後悔すると、足を止めてユイの目線に合わせるようにしゃがんだ。

 

 

 

「……ユイ、つったっけか?」

 

 

「……うん」

 

 

「……背中、乗るか?俺らと合わせてると疲れるだろ」

 

 

「……良いの?」

 

 

「良いぞ」

 

 

「ん…………」

 

 

「ほれ」

 

 

 

 ゼロはユイに背中を向けると、両手を後ろに回す。ユイは自分よりも大きなゼロの背中に乗り、自分の目線が高くなっていく様子に新しい発見をした無邪気な子どもの反応を示した。

 

 

 ゼロも17歳になる。あのメンバーの中で未成年ではバダンしか同じ歳の()()が居ない。1番の年上であるからこその背の高さの視線は、ユイにとっては初めて見る景色であった。

 

 

 そのキラキラとした目が、今のゼロには眩しく見えていた。こんな無邪気な、それでいて初々しい反応をこの世界に来てから感じなくなっていたゼロにとっては。この世界から抜け出すために多くのプレイヤーの“希望”となってきた1つの責任の重さが、無意識に苦しめていた。

 

 

 それにゼロは気付いていない。自分では分からないのが1つだけあるとすれば、それは意外にも自分自身の心であるのだが、ゼロは今そんな状況に陥っていた。だからこそ気付ける存在が必要であった。

 

 

 だが気付ける存在がいたとしても、人数が少ない。それでいて、1人はウルトラマンを知りウルトラマンとしての宿命を教えられた。1人は仮面ライダーとして活躍し、この世界から人々を救うことを厭わない。ウルトラマンとなったゼロはその身を犠牲にしても戦うことを知らず、またウルトラマンとしての宿命も理解していなかった。

 

 

 ウルトラマンであることがゼロの苦しみとなり、その苦しみを表に出させたのがあの時の出来事であった。悔やんでも悔やみきれない辛さがゼロに無力さを痛感させていた。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな時、地面が揺れた。轟音を立てながら主街区が揺れる異常性に全員恐怖へと駆られる。そしてその轟音の正体を、ゼロは知っていた。

 

 

 

「ッ────!まさか……」

 

 

「──ゼロ?」

 

 

「シノン、ユイを頼む!」

 

 

「って、ちょっと!」

 

 

 

 ゼロはユイを降ろしシノンにバトンタッチすると、2人から離れていく。向かうは主街区とフィールドの出入口であり、その門から見えるものに対して、ゼロは【Planet ark】を操作する。

 

 

 

「ォオオオオオオオオ!」

 

 

 

 ウルトラマンへと変身し、50m近くにまで巨大化したゼロは不意打ち気味に顎へのアッパーカットを【Beast the one】へと振るう。だがその拳を払いのけたザ・ワンは尻尾の攻撃で横へと吹き飛ばす。

 

 

 

「デュオッ!?」

 

 

「『馬鹿が!2度も同じ手が通じる訳ねぇだろ!』」

 

 

 

 受身を取ったウルトラマンは怒りを顕にするかの如く、両拳に赤黒い炎のようなものを纏わせるとザ・ワンに接近して穿つようにして殴りつける。

 

 

 

「デュアッ!」

 

 

「『ごぉッ!?』」

 

 

「ジュオッ!」

 

 

「『ゴアッ!?』」

 

 

「デュオアアアッ!」

 

 

「『ガッ!……貴様ァ!』」

 

 

 

 拳の3連撃がザ・ワンの腹部と顔面に当たると、威力の高さに堪えて苦痛の声を上げた。だがすぐに反撃の準備へと取り掛かるザ・ワンは、その場で超音波にも似た音を出した。

 

 

 その音に耳を塞ぐウルトラマンや他のプレイヤー達。しかしその音に集まるようにして他のモンスターがザ・ワンへと集っていく。集まっていく全てのモンスターは、()()()ばかりであった。

 

 

 やがてザ・ワンの体に集まった飛行系のモンスターは、ザ・ワンの体内へと入り込む。やがてザ・ワンの体が青く光り始めたかと思うと、その姿が変わり始めた。

 

 

 肩の顔が鼠から鳥へと変わり、ザ・ワンの背中に翼が生えた。その音が聞こえなくなると、ザ・ワンは生えた翼を羽ばたかせて飛び立つ。その風圧は今のウルトラマンでも耐えるのが精一杯であった。

 

 

 ザ・ワンが空へと飛び立つと、ウルトラマンに青いエネルギー弾を何度も放つ。一方的な攻撃になりつつも、頭にある2つのスラッガーを投げ付けるも弾き落とされる始末。それによりウルトラマンは攻撃をくらい続け、ついに胸のタイマーが鳴り、点滅を始めた。

 

 

 その点滅速度と音も次第に早くなっていき、ウルトラマンの両手にあった赤黒い炎は消えつつあった。

 

 

 

「『コイツで…………トドメだァ!』」

 

 

「!デュァア!」

 

 

 

 口からの青いエネルギー弾がウルトラマンに直撃し、主街区方面へと倒れていく。だが背中に当たる前に変身が解除され、街は壊されずに済んだ。しかしザ・ワンの脅威はまだ去っていなかった。

 

 

 

「『これで漸く……人間どもを絶望に叩き落とせられる!滅びろォ!』」

 

 

 

 フィールドに降り立ったザ・ワンは、その巨体で地面を揺らしフィールドに居るプレイヤー達の脅威となっていた。その脅威は何れ、この主街区にもやって来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 変身を解除されたゼロは、体の痛みによって充分に動けない状態にあった。それでも何とか体を起こそうとしては、腕の力が抜けて地面に伏せることになってしまう。

 

 

 

「ッ────!くそ、がっ!動け……動きやがれ!」

 

 

 

 そう願っても、ゼロの体は疲弊し過ぎて体を起こすことも難しくなっていた。体に鞭打とうが、その肉体拒否していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゼロー!どこに居るのー!?」

 

 

「シノン──ッ、不味い……!」

 

 

 

 また起き上がろうとするが、立てない。シノンは辺りを探していくと、左の路地裏らしき場所に倒れているゼロを付いてきた()()が発見する。 

 

 

 

「!あっち!」

 

 

「っ、ゼロッ!」

 

 

 

 ゼロの元まで駆け寄ると、シノンは肩を借しゼロを支えようとする。STRの低さが仇となっていたが、そんなことお構い無しにゼロを助けようと必死になっている。

 

 

 

「しっかり……して!大丈夫!?」

 

 

「あぁ……俺は、平気だ。ってか、お前ら何で……?」

 

 

「ゼロが勝手にどっか行くからでしょ!早く……ここから逃げないと!いつあの化け物がここに来るのか分からないのに……!」

 

 

 

 

 

 

 

「悪いシノン、ちょっと用事が終わってねぇんだわ」

 

 

「っ、こんな時に何を言って────!」

 

 

 

 ゼロは左手に握られた【Planet ark】の感触を確かめて、シノンの支えを手放しフィールドへと向かおうとする。だがその足取りは重く、すぐにシノンにとめられてしまった。

 

 

 

「ちょっと…………、ゼロ!そんな体でフィールドに行こうとしないで!あの化け物がここに来る前に早く!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──それじゃあ、アイツを倒すのは……誰になるんだよ?」

 

 

「倒すって……ゼロ、貴方何を────」

 

 

 

 シノンは視線を下げて、ゼロの握っていた【Planet ark】を見てしまった。まさかと思い、シノンは驚愕の表情を浮かべゼロに訊いた。

 

 

 

「ゼロ──まさか……それって…………!」

 

 

「──分かったんなら、そこを退け。アイツを……っ、倒さなきゃ……いけねぇんだよ…………!」

 

 

 

 ゼロは足を引きずる様子を見せながら、シノンを無視して行こうとした。だが今度はゼロの脚にユイが抱きついて止めた。

 

 

 

「──ユイ、離せ。俺がアイツを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダメ!いっちゃヤダ!」

 

 

「ッ─────!お前…………!」

 

 

「しんじゃうのやだー!」

 

 

 

 

 

 

「アイツを止めなきゃいけねぇのは!俺しか居ねぇんだよ!ユイ!」

 

 

「ひっ───」

 

 

 

 急に発せられた怒声がユイに小さな悲鳴を挙げさせた。その怯えた姿を見てまた後悔したゼロは、すぐに顔を俯かせて左手の【Planet ark】を握る力を増やす。

 

 

 

「アイツの暴虐を止められんのは、俺しか居ねぇんだよ……同じ大きさになって、アイツと同等の力を持ってる俺じゃなきゃ、絶対にアイツは止められねぇんだよ……」

 

 

「ゼロ……貴方は…………」

 

 

 

 

 

 

 

「だから────アイツは俺が、絶対に……殺す!完膚なきまでに叩きのめして、アイツを────」

 

 

 

 不意にゼロの両頬に暖かみが伝わる。その暖かみは、シノンの手の暖かさであった。そしてそのシノンは、愛おしそうにゼロの頬を撫でながら───

 

 

 

 

 

 

 

「ゼロ…………貴方が気負う必要は、ないのよ」

 

 

 

 バダンやデウスの言葉を否定した。その言葉はゼロの心に響いてはいなくとも、それでもとシノンは言葉を綴っていく。

 

 

 

「貴方は、そんな重荷に囚われなくて良いのよ。ゼロ。

 

 

 それに……私は今の貴方に、戦ってほしくない。

 ましてや、今の貴方に、あの化け物に勝てるなんて思わない」

 

 

 

「──ッ!じゃあ、どうすりゃあ良いんだよ!?今アイツを止められるのは俺だけなんだよ!仮面ライダーでも無理なアイツを、俺しか止められるのが居ねぇアイツを、野放しにしろってのか!?ふざけんなよシノン!」

 

 

 

 

 

 

「貴方こそふざけないで!ゼロ!」

 

 

「ッ────!?」

 

 

「貴方が今までどんなに辛かったのか、どんな思いで戦ってきたのかは分かった。確かに貴方しか、あの化け物を倒せるのは居ないのかもしれない。

 

 

 けど!アイツと戦って、貴方が死んでしまうことだってあるでしょ!貴方が死ぬことは……私が耐えられないのよ…………!

 

 

 父親を亡くして……お母さんを亡くしそうになった時、貴方が救ってくれた!もしかしたら、あそこで私の運命が違う物に、私があの殺人犯を殺そうとしてたかもしれない!私を救ってくれた貴方が居なかったら!

 

 

 でも今!貴方は自ら死にに行こうとしてる!

 

 

 …………それだけは、嫌なのよ。

 

 

 貴方が死んだら、私は…………!もう、生きる力が持てない…………!」

 

 

 

「シノン…………お前…………」

 

 

 

 話している途中で、シノンは涙を流していた。怖さがあった。例えそれが、この世界を滅ぼす結果となろうとも、想い人(ゼロ)がこの世を去るのだけは我慢ならない。この世界で、初めてシノンが真実を聞かされた時の本音であった。

 

 

 

「お願いだから……!貴方は、戦わなくても良いの……!」

 

 

 

 こんなシノンを見るのは、初めてだった。どうすれば良いのか悩みに悩んだゼロであったが、体は無意識にシノンを抱きしめていた。ゼロはシノンの耳元で、本音を語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「──サチが、死んだだろ」

 

 

「──うん」

 

 

「──あの時、俺がヘマしたせいで……俺のせいで死んだんだよ。サチは」

 

 

「サチなら、そんなこと絶対に言わない」

 

 

「──辛かった。苦しかった……誰にも話せないのが、しんどくて…………!」

 

 

「もう、背負わなくて良いのよ」

 

 

「もしかしたら、また俺のせいで殺してしまいそうで……怖かったんだ…………!でも、アイツだけは俺が……倒さなきゃ…………!」

 

 

「────そっか。でもゼロ、もう無理はしないで」

 

 

「……あぁ」

 

 

「必ず、帰ってきて。無事で」

 

 

「っ…………あぁ……!約束する……必ず…………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暴虐の限りを尽くす【Beast the one】の居るフィールドに、そんな死地へと赴く真似をするバカが居た。けれどその表情は、自ら死にに行こうとする表情ではなかった。

 

 

 必ず倒して、戻ってくるための決意をした顔であった。

 

 

 

「──シノンには助けられたな、随分と」

 

 

 

 左手の【Planet ark】が鼓動するように光を発する。それを見て1つ頷いたゼロは、胸に近付けて目を瞑りながら誓う。

 

 

 

 

 

 

 

「もう、誰かを死なせるのもごめんだ。

 

 

 誰かが死んでいくのだけはごめんだ。

 

 

 だからよ、もう一度力を貸してくれるか?

 

 

 俺が、俺であって、ウルトラマンであるために」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────乗り越えたか、光の子よ。

 

 

 ────ならば、この力を貸そう。共に、倒すぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ…………行くぞ!」

 

 

 

〔名称変更。変身シークエンス起動します〕

 

 

 

 

 ゼロは【Planet ark】の上部を回転させてボタンを出現させると、掲げてボタンを押した。先端から100万Wのような眩い光が辺りに包まれる。

 

 

 

 

〔【ウルトラマンラーク】起動します〕

 

 

 

 

 

 

ラァァァーク!

 

 

 

 

 光が広がり、そして消えていく。だがそこには新たな光が待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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rejectと覚醒 ゼロ 5

ゼロ、真の意味でウルトラマンとなる。


 フィールドに現れた眩い大きな光が辺りを包み込み、やがて消えていく。だがその光が消えていく中、中心に居たであろう()()()姿()が姿を現す。

 

 

 3本の角、内2本は武器(スラッガー)としての機能を持つのは変わらない。だが体色は銀1色から、黄 赤 銀という風に色付けされている。全体的に黄色が両腕両脚、果てはタイマーの周囲の胸部の色までも黄色であった。その黄色に沿って赤いラインが走っており、両足や手のひら、顔は銀色のままであった。

 

 

 だが姿が変わったウルトラマンを見て、人々は1つの希望を見出しつつあった。あの時とは違うウルトラマンを見て、もしかしたらと思う(願う)。あの化け物を、あの見たことも無い化け物を、倒してくれるのではないのかと。

 

 

 

「『き、貴様っ──!その姿はッ──!?』」

 

 

 

 ザ・ワンも、姿が変わったウルトラマン(ゼロ)に驚愕する。以前にも増して何かが変わったことをヒシヒシと肌で伝わり、力が上がっていることも分かった。

 

 

 だが、ザ・ワンには負ける要素が微塵も感じられなかった。この強さは例え相手が誰であろうと揺るぎはしないと考えていたから。そして()()()()()()()()はこの世界には居ない。チョコマカと鬱陶しかったあの鉄の鳥は何処にも居ないのだ。

 

 

 だからこそ、ザ・ワンは狼狽えたもののすぐに元の心情へと戻り、青いエネルギー弾を放った。その数、およそ30弱。

 

 

 だがウルトラマンは避けようとはしなかった。それどころか片手で円を描き両手両腕を突き出す。その円に沿ってバリアが張られ、青いエネルギー弾は全て防がれたのだ。

 

 

 

「『なにっ──!?』」

 

 

「『今度は……俺の番だ!』」

 

 

 

 頭部のスラッガーを手に取り装備すると、ウルトラマンはザ・ワンに接近していく。青いエネルギー弾をまた放つが、スラッガーの二刀流によって全て斬り伏せられ消滅していく。

 

 

 その事実に、ザ・ワンは信じられないものを見たような表情となる。だがウルトラマンはお構い無しにスラッガーで腹部を斬り付ける。その攻撃は以前よりも断然力が、斬れ味が増していた。

 

 

 

「『ば、馬鹿なッ──!? この力はッ──!?』」

 

 

「『オォラッ!(デュアッ!)』」

 

 

「『ゴアッ!?』」

 

 

 

 ザ・ワンの腹部に蹴りがくい込まれる。数歩後ろへと行くが、連続したウルトラマンの攻めに成す術が無くなりつつあった。

 

 

 

「『クソッタレがァアア!』」

 

 

「『ッ!? しまっ!』」

 

 

 

 スラッガーの攻撃を止め、ウルトラマンの腕を封じるとザ・ワンは尻尾で首絞めに取り掛かる。ウルトラマンの体が宙に浮くと、ようやくチャンスが来たと謂わんばかりにザ・ワンはウルトラマンの胸のタイマーからエネルギーのようなものを吸い取り始めた。

 

 

 

「『がぁッ……! ッ、くそ……力が…………吸い取られて……!』」

 

 

「『お前に勝ち目なんて、元から無かったんだよ!諦めて俺の一部になりなぁ!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『悪いが────それだけは御免だ……なッ!』」

 

 

「『ぬぐぉおッ!?』」

 

 

 

 ウルトラマンが左のスラッガーで下から上へと尻尾を斬り上げ、今度は上から下へと斬り下ろす。尻尾へのダメージがあったのか、苦しげな声を出すザ・ワン。ウルトラマンは拘束を逃れて脱出し、ザ・ワンから離れると2つのスラッガーを投擲する。

 

 

 縦横無尽に駆け巡るスラッガーは、ザ・ワンの様々な部位を斬りつけていく。鬱陶しくなったザ・ワンは翼を広げる風圧でスラッガーの接近を阻止し、上空へと逃れる。

 

 

 スラッガーが両方頭の方に戻ると、ウルトラマンは上を見上げた。せめて、あのザ・ワンと同じように飛べることが出来たらとつくづく思っていたのだが、ゼロはウルトラマンから1つのビジョンを受け取った。ただそれは、鳥が飛び立つ瞬間の映像。

 

 

 しかしゼロは感じるものがあったのだろうか。ザ・ワンの居る上空へと目配せする。今にもザ・ワンはエネルギー弾を発射しようとしているが、その向きが若干ウルトラマンからズレていることが分かった。

 

 

 

「『────ッ! まさかアイツ……! 周りのプレイヤーに!?』」

 

 

 

 狙いがそれらだと分かると、ウルトラマンは決心したように上へと高くジャンプする。そしてゼロが感じるのは、飛び立つ瞬間の鳥の映像、このウルトラマンが見せてくれた切っ掛けであった。

 

 

 ウルトラマンが、()()()()()()()。たったそれだけのことで、他のプレイヤー達は歓喜に震えた。そうしている間にもザ・ワンはチャージを終えて、フィールドの1箇所に攻撃を放つ。

 

 

 だが先にウルトラマンが回り込み、円形のバリアを作って防ぐ。ザ・ワンもイラつきを覚え始め、ウルトラマンへと50弱の数ものエネルギー弾を放つ。しかしそれぞれバラけていて、1箇所を守れば他にも被害が出てしまう範囲であった。

 

 

 

「『こっちにも飛び道具あるのを忘れたのかよッ!』」

 

 

 

 スラッガーを両サイドに投げ飛ばしエネルギー弾を切り裂き、自身に向かっているものは大きなバリアを作って防ぎきる。全て斬り捨てたスラッガーが元に戻りバリアが消える。

 

 

 しかしザ・ワンの姿が見えない。あの防御中に何処へと行ってしまったのかが分からなかったが、ウルトラマンやゼロの危険察知能力がいち早く気付いた。その瞬間、ウルトラマンはアインクラッドの端の()()()にまで向かって行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウルトラマンが防御に集中していた間、ザ・ワンがアインクラッドの外へと飛び出していた。ザ・ワンの視界には宙に浮かぶ鋼鉄の城があり、その城に向かってエネルギーをチャージしていた。

 

 

 

「『ここを消しゃあ、あの憎い奴と人間どもを一掃できる! 俺をここまで追い詰めた、テメェが悪いんだぜぇ!?』」

 

 

 

 エネルギーのチャージが完了し終える。そしてザ・ワンの口から先程のとは比べ物にならない大きさのエネルギー弾が、アインクラッドに牙を向いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「『テメェの自業自得だろぉがァアア!』」

 

 

「『んだとぉ!?』」

 

 

 

 ウルトラマンは2つのスラッガーを合わせて回転させ、エネルギー弾を削ぎ落とすように防御していく。自身にも火の粉が飛ぶが、それでも大したことではない。寧ろこの世界に今生きる全てのプレイヤーを守れたという事実に、ゼロの心が満たされていく感覚が覚えられていく。

 

 

 

「(俺、嬉しいのか? 人を守ることが、こんなにも心が満たされると感じているのか?

 

 

 でも、もしそうだとしたら……俺は、物凄い幸せモンだな)」

 

 

 

 全て削り終えると、スラッガーを戻しザ・ワンへの接近をする。エネルギー弾が削られ動揺していた所に素早く胴体に拳が入り込むことでダメージが入り、ウルトラマンはそのままザ・ワンをアインクラッドから遠ざけていく。

 

 

 

「『だってよぉ! また人の希望になれんだからよぉ!』」

 

 

「『何をほざいてやがるゥ!?』」

 

 

「『テメェには分からねぇだろぉな! この気持ちが!

 

 

 誰かの為にこの力を使えることの喜びを! 大切さを!

 

 

 知らねぇのなら、その体と脳ミソに叩き込んでおけ!

 

 

 俺はウルトラマン! 人間を、この世界に生きるプレイヤー達を! 守り抜く思いが詰まった希望の姿だ!』」

 

 

 

 ウルトラマンが止まり、慣性の法則でザ・ワンが少し離れた場所で止まる。

 

 

 ウルトラマンが左腕を上に、右腕を下に交差する。両腕を内側へと回しながら移動させ、その両腕にエネルギーを蓄積させる。その両腕に流れ行くのは希望の光、ウルトラマンの持つ誰かを守る力。

 

 

 両腕を大きく左右に広げ、そして両手首を合わせて小さなL字を作った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「『ライトニング・シュトロォオオーム!』」

 

 

 

 放たれるは、力。雷にも等しき大いなる自然の力。眩い光と、膨大な熱量。そしてザ・ワンの吸収量を大幅に越すエネルギーの量。

 

 

 ザ・ワンがその必殺技を受けて、この世から消えるのにはそう時間が掛からなかった。

 

 

 

 

 

 

「『ァアアアアアアアアア!』」

 

 

 

 ザ・ワンの断末魔が爆発とともに広がる。その日、アインクラッドの外に1つの叫び声の混じった爆発と、その爆発を背景に佇む巨人の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1つの光が2人の元に辿り着くと、その光が消え去ってゼロが姿を現した。希望に満ち溢れたあの姿と、帰ってきたゼロを見て、帰りを待っていたシノンがゼロを抱きしめる。

 

 

 

「おかえりなさい、ゼロ」

 

 

 

 

 

「あぁ────ただいま、シノン」

 

 

 

 そうしてしばらくの間、2人で抱きしめ合っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 そして時間が経っていく。ザ・ワンの悲劇は犠牲者を多く出させてしまったのが現状であったが、それでもプレイヤーの面々は突如現れたウルトラマンの登場で、また攻略への希望を咲かせることとなった。

 

 

 死んで行った者達の名前は、第1層の石碑に刻まれた名前の上に1本線が引かれてあった。勿論そこには、ゼロの後悔であるサチにも同じことが言えていた。だが、もうゼロは迷わなかった。

 

 

 第1層の石碑に両手を合わせて長い時間頭を下げる。追悼の意と、今後の未来。彼が背負うべき物を、彼自身が再確認していく。ウルトラマンとしてやるべきことを果たす、その使命を胸に刻みながら。

 

 

 そしてウルトラマンのことを知ったシノンと、バラしてしまったゼロはというと…………。

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、どういう事か説明しなさいよバダン。ほら早くしなさいよねぇ」

 

 

「ちょおいシノン……!バダンが完全に引いてんだけど……!何やったんだよ……!?」

 

 

「やはりどんな場所でも、女が強いに変わりはないのか……」

 

 

 

 シノンがバダンに脅迫して真実を知ろうと躍起になっていたそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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rejectと覚醒 リーゼ・ロッテ 3

 月日が経ち、最前線である44層のフィールドで1人背丈以上ものハンマーを振り回しモンスターを薙ぎ倒していくプレイヤーが居た。その目は何かを目指して、ただひたすらに我武者羅に突き進んでいくような錯覚を与える。

 

 

 

「しぃっ!」

 

 

 

 背丈以上ものハンマーを()()で振り下ろし、体重を移動させて薙ぎ払う。デウスだからこそ出来るステータスとプレイヤースキルを合わせた芸当、仲間を呼び寄せるモンスターであろうと倒しきれる唯一無二の戦闘法。

 

 

 最後に残った8体の植物系モンスターを倒しきると、ファンファーレと共にデウスの目の前にレベルアップを知らせる画面が現れる。上昇したのは計560以上の数に見合わない1レベルのみ。それでもデウスは漸くといった様子で1つの安堵を覚えていた。

 

 

 

「(黎斗さんからゲーマドライバーのデータは貰った。今ので僕の使えるガシャットも増えた……これなら)」

 

 

『……本当に呆れるな、この異常な行動力は──っ!』

 

 

「ッ!?」

 

 

 

 デウスの体が一瞬仰け反るが、すぐに体勢を元に戻してハンマーを仕舞う。表に出ているのはデウスではなくゲムデウスであるので何とかこの仮装体を保てているのだが、操作するのは傷付いた体である故に多少補強しなければすぐにでも崩れそうである。

 

 

 

「“ソルティ”────全く、この身体強化を使わねば敵と戦うどころか、帰路にも着けんとはな」

 

 

『──ごめん、いつも迷惑かけて』

 

 

「自覚があるなら気を付けてほしいものだがな」

 

 

『うん──』

 

 

「何か不満か?……まぁ宿主の考えも分からんでもない、心境を知らないという訳でもない。だが些か度が過ぎる、自分を労われ宿主」

 

 

『────終わったらね』

 

 

「ハァ……もう良い、帰るぞ」

 

 

 

 ゲムデウスが夜のフィールドを横断し、主街区まで歩く。転移結晶なり何なり使えばすぐに終わるが、デウスが使用することを渋るのでゲムデウスとて無理に使おうとは考えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜遅く、午前2時ぐらいになってゲムデウスが帰宅する。まだ部屋に着くまではゲムデウスが身体強化で補強しなければ体が思うように動かないので、その提案にデウスは甘えて、体がベッドに着いた途端眠ってしまっていた。

 

 

 そして気が付けば午前11時という時刻にまで迫っていた。やり過ぎたと過去を思い出してほんの少し後悔するも、先ずは診療所の方をしようと体を動かす。戦闘によって節々や身体機能の一部が悲鳴を上げているが、自分のことより他人の方を優先するデウス。

 

 

 多少の無茶が効く体とはいえ、限度というものだってある筈なのに……全く体の不調に対して見向きしようともしない。1階の診療室に赴こうとすると、既に起床していたユウキとラン、ヒースクリフがリビングに居た。というより待ち構えていたといった方が良いのだろうか。

 

 

 

「随分と遅かったじゃないか、デウス君」

 

 

「先輩……おはようございます」

 

 

「おはよ、先生!」

 

 

「おはようございます」

 

 

「…………うん。まぁそれより──通りたいんだけど」

 

 

「「「 ダメだ/だよ/です 」」」

 

 

「…………うん?」

 

 

 

 そう言うやいなや、デウスの両腕にユウキとランが組み付きヒースクリフが背後へと移動して逃げ道を失わせる。何やら逃れられそうにないと思うのも束の間、ユウキとランに連行されて用意していたソファに座らされる。一体自分をどうするのだろうかと疑問に思ったが、目の前の3人はにこやかな笑みから一転し真剣な表情へと変わった。

 

 

 

 

 

 

 

「デウス君、何か私達に隠していることがあるんじゃないのかい?」

 

 

「────隠し事……ですか?」

 

 

「しらばっくれてもダメ。最近先生、夜に出かけてるでしょ?」

 

 

「何の事かな? これでも23時には寝てるんだけど」

 

 

「ユイちゃんが寝ぼけて降りてた時に、玄関の方に先生が居るのを目撃しています」

 

 

「…………見間違い、っていう訳じゃないのかな? ほら、夜暗くて誰だか分からないし」

 

 

「台所からこっそりと覗いていたアスナさんの証言もありますよ」

 

 

「あら〜?」

 

 

 

 デウスは完全に追い詰められた。というよりも先程の反応で確かなものとなってしまったので墓穴を掘ったとも言える。そんな反応を見せたデウスに、追撃と謂わんばかりの口撃が繰り出されていく。

 

 

 

「夜中にレベル上げなんて感心はしないがね。だがまぁ、デウス君は何も考えずに無謀な真似はしないと分かってはいるんだが」

 

 

「あ、それって前言ってたガシャットのレベル制限ってヤツだったよね。先生のレベルって今は……」

 

 

「────あぁ、もう。わかった、わかりました。僕の負けです」

 

 

「「「宜しい」」」

 

 

 

 デウス個人は“ちっとも宜しくないのだけど”、と内心毒づくものの逃れられないので自身のステータスを可視化モードにして3人に見せた。

 

 

 画面にはレベル50、にも関わらず50よりも遥かに上のステータスが映し出されている。そもそもレベル1の時点でレベル35相当のステータスであったのだから、成長しても加算されていくのは別に不思議なことではない。

 

 

 だがこのステータスの異常性は、既に攻略組トップに君臨することの出来るものだ。このステータスであれば、本来なら70層以上まで通用する。だがそんなステータス任せで進んでいけば、クロノスによる妨害工作も介入する可能性とてある。

 

 

 しかしながらデウスには、このレベルにまで()()()成らねばならなかった。その理由は先程ユウキの言ったガシャットのレベル制限という、仮面ライダー対策と謂わんばかりの制約。故にデウスは先ずレベル50を目指した。他のガシャットを使うために。

 

 

 

「そうですよ────僕の使用するガシャットは全てレベルが高いもの。自分のレベルを上げなきゃ使う事さえ危うくなるものですから」

 

 

「……確かに先生のレベルは他のプレイヤーよりも上昇率が著しく低いですけど、それでもステータスの強さがある。仮面ライダーには今のところ私とユウキ、それにリーゼさんが変身できますし、Mさんだって居るんですよ?」

 

 

「足でまといには成りたくなかっただけだよ。それに、医者は患者や他人のために精力的に尽くすのが使命だしね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当はリーゼ・ロッテ(君の恋人)のためなんだろうけど」

 

 

「────絶対分かってて質問しましたね、先輩」

 

 

「当たり前だ。あんな様子になった彼女を、私とて今まで見たことがない。そんな状態になっている彼女を放っては置けないのは予想できた」

 

 

 

 ため息のようなものを1つ吐き、ヒースクリフはデウスに訊ねた。

 

 

 

「何故、私達を頼ろうとしない?」

 

 

「────」

 

 

「私達とて力になれることだってある筈だ。それこそ、暴走している彼女を止めてくれ。ということも言えた筈だ」

 

 

「──────」

 

 

「付き合いは君と彼女の2人と比べては、私と君の関係は短いのかもしれない。だが1人で抱え込んでしまうほど、私という人間との関係は信用できないか?」

 

 

「───────ホンット、先輩には敵わないなぁ」

 

 

 

 疲れた様子となってソファにもたれ掛かるデウス。その様子をただ伺う3人であったが、デウスの口からポツリポツリと発せられる言葉に耳を傾ける。

 

 

 

 

 

 

「先ず、巻き込ませることに罪悪感がありました。

 

 

 昔っからこうでした。怪我した時も、小さな交通事故にあった時も、誰からも迷惑をかけないように。

 

 

 まぁ結局、両親にバレるか自分で告白する結果になるんですけどね。ははっ…………。

 

 

 先輩のこと、信用してない訳じゃありませんよ。

 

 

 寧ろ逆で、先輩の手を煩わせたくなかった。それは何者であろうとも……僕自身で解決しなければならないと躍起になってました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でと、こうなって秘密や胸の内を話していることってさ……先生がやっと助けを求めてるってことだよね」

 

 

「────助け、か。あってるかもね……」

 

 

「かも、じゃなくて“あってる”んですよ。先生」

 

 

「──そうだね。ッあぁ〜!何か話したらスッキリしてきたなぁ……!」

 

 

「ふむ、それならば良い。どれ、たまにはレベル上げから離れてラーメン屋でも」

 

 

「ラーメン擬きですよね、あれ。それと担々麺が無かったのは辛かったです」

 

 

「意外に君、辛党なのか」

 

 

「以外〜」

 

 

「僕だって辛いもの食べてテンション上げたくなりますよ。最近アスナちゃんと作るホットサンドが唯一辛いものですし……やっぱり激辛ラーメン作ろっかな?」

 

 

「臭いがキツそうだな」

 

 

「そりゃあ、辛いものなんですから当たりまe」

 

 

 

 突如会話の横槍として、デウスにメッセージが届く。差出人はキリトとあり、何事かと思って開けば……デウスの表情が一変して驚愕の表情となり、すぐに画面を閉じて外に出ようとする。

 

 

 

「ちょっと、先生!? どうしたんですか急に!?」

 

 

 ランが声を荒らげて止めた。すぐにデウスはその場に留まり、3人に告げた。

 

 

 

 

 

「リーゼが────1人でエリアボスに挑んでいると」

 

 

 

 何を馬鹿なことをしているのだろうかと、この場に居たら問い詰めてしまうことを告げられた3人は、すぐに顔を見合わせて準備を始めた。

 

 

 

「デウス君、君は先に。後から私達も行く」

 

 

「分かりました」

 

 

 

 3人にお辞儀すると、デウスはギルドホームから飛び出していく。全ては何を馬鹿なことをしているのかと、恋人に問いただして…………その後、藍原優美(リーゼ・ロッテ)を救うことに尽力するために。




……短くなったなぁ(´・ω・`)


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rejectと覚醒 リーゼ・ロッテ 4

最近クォリティが落ちてるみたい…………はっ(・ω・ )!

まさかゴルゴムの仕業かっ!?(違う)







 ただ1人密室空間に佇む女性プレイヤーが1人、その手にはガシャットとゲーマドライバーが握られていて、眼前にそびえ立っている(つた)や苔か体の隙間から侵蝕されている巨大なゴーレムを見やる。

 

 

 女性プレイヤー、『リーゼ・ロッテ』はゲーマドライバーを腰に装着しガシャットを起動させる。背後に出現した画面から青と黄緑色のドラム缶がその部屋一帯に広がっていく。

 

 

 

【バンバンシューティング!】

 

 

 

「変身」

 

 

 

 ガシャットをゲーマドライバーに挿し、レバーを開いて姿を変える。セレクト画面をタッチして仮面ライダーE・スナイプレベル2に姿を変えると、ガシャコン・マグナムを装備する。

 

 

 

【ガッチャーン!レベルアーップ!】

【ババンバン!バンババン!バンバンシューティング!】

【ガシャコン・マグナム!】

 

 

 

「────はぁっ!」

 

 

 

 ガシャコン・マグナムの引き金を引きエネルギー弾を当てる。だがボスであるゴーレムはビクともしていなかった。その証拠にHPゲージも殆ど変動していない。

 

 

 ならばと思い立った次の策は、関節を狙い連続で撃ち抜くこと。仮面ライダーとしてのスペックを発揮し接近していくが、ゴーレムの拳が来る。その影が見えた途端、リーゼはローリングで回避し手首に1発ぶち込む。

 

 

 しかし狙いは少しズレたようで、特に何の反応も示していない。だが手首はついでで、本来の目的は足の近くへと向かうことであった。故にリーゼは素早く体勢を整えて走る。

 

 

 ゴーレムは踏み付けを行う。但し挙動が遅いので十二分に避けられる速度だ。接地点から離れてガシャコン・マグナムのAボタンを押してライフルモードに変形させる。

 

 

 

【ズ・キューン!】

 

 

 

 振り返り照準を足首に定め、狙い撃つ。そのエネルギー弾がゴーレムの足首に歩行不能のデバフを与えられたのが確認できると、すかさず逆の足にまで向かう。なるべく最短距離で、ゴーレムの足元を掻い潜る。

 

 

 そして振り返り倒れながら照準を定めて足首を狙い撃つ。ゴーレムの移動法を潰したことでその場から動けなくなったことによって、リーゼは弱点と思わしき頭部の宝石を狙う。

 

 

 Bボタンを3回押し、スコープを覗いて弾道を合わせる。そして一瞬だけ息を止める。それに合わせてトリガーを引き、反動とともに息を吐き出す。エネルギー弾は弱点を狙い撃つことに成功し、若干ではあるがボスのHPバーが減った。

 

 

 

「これなら──いける!」

 

 

 

 またBボタンを3回押して狙いを定め、撃つ。ゴーレムは動こうにも足首を潰されている故に、まともに動くことさえ出来ない。ゴーレムが足掻いている内に、エネルギー弾が当たりHPを減らした。

 

 

 それの繰り返しで、最初のHPバーが半分を切った。微々たるものでも繰り返し、ゲームで言えばハメ技をすれば絶対に倒せることは出来る。

 

 

 しかし忘れてはならないのは、このゲームの今だ。

 

 

 

「!?」

 

 

 

 ゴーレムが叫ぶ。口も無いのに叫ぶというのは可笑しいと思うが、ゴーレムが仰け反った途端部屋が揺れたというのだから叫んだという以外に何が言えるのだろうか。

 

 

 そして叫んでいく中で、ゴーレムが立ち上がっていく。足首を狙い破壊、または損傷を与えて動きを封じた筈なのにも関わらず、ゴーレムは立ち上がる。

 

 

 その足首にはオレンジ色の粒子のようなものが漂っている。あれは見たことがある、とリーゼは思い出す。デウスが現実世界で仮面ライダーとして活動していた時に見た、忘れもしないウィルス。

 

 

 

「バグスターウィルス────!」

 

 

 

 ゴーレムは、バグスターウィルスに()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからは圧倒的な差があった。バグスターウィルスに感染したゴーレムは前回よりも移動速度やパワー、そして特殊技を放っていく。プログラムによるアルゴリズムで形成されたパターンではなく、適切な判断が下せられる“人工知能”みたいな相手に変貌した。

 

 

 対しリーゼは苦戦を強いられる。確かにE・スナイプのスペックはレベル3や5を凌駕する程ではあるものの、結局はそこ止まり。早く、重い一撃が繰り出されては避けるしか術を知らない。

 

 

 

「ッ!」

 

 

 

 破片を避ける。衝撃波を避ける。蹴りを、拳を、レーザーを避ける。避け続けるしか方法がなかった。入口の扉はリーゼの真正面にあるが、ゴーレムが接近を許さないことで離れすぎていた。

 

 

 そしてリーゼにも、疲労が現れ始めた。肩で息をしており、照準も定まらないほど腕や脚に負担が掛かる。幾らゲムデウスウィルスによって強化されていようとも、現実と一部同化しているようなもの。そんなものを体内に存在したままこのような世界に赴けば──そこは現実と何ら大差ない世界へと変わる。

 

 

 ゴーレムがリーゼを漸く殴り飛ばした。長きに渡る鬼ごっこもここまでだと告げるように飛ばされたリーゼの方に向かっていく。

 

 

 

「ゴホッ! ゲホッ!…………ッ!」

 

 

 

 このままではリーゼが殺されてしまう。しかしリーゼ本人は動けなかった。つまる所……リーゼは2度目の死の実感を味わっていた。全ての行動には、デウスへの想いから。

 

 

 だが、リーゼは諦めかけていた。私が死んでも、彼が無事ならば────それで、良いと考えて目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ッァァアアア!

 

 

 

 ゴーレムの頭部に、おもいっきり殴りつけられるのは背丈以上もあるハンマー。そしてそれを振るったのは、デウスであった。

 

 

 ゴーレムは先程の一撃で地面へと倒れると、着地したデウスはリーゼの元へと駆け付ける。

 

 

 

「リーゼ! 大丈夫!?」

 

 

「ッ────何で……!?」

 

 

「それはこっちの台詞だ! 何でたった1人だけで無茶したの!? 他に攻略組との作戦会議だってあった筈だ! その後でも行けば良かったじゃないか!」

 

 

 

 

 

「──そうしないと、貴方の負担が増えるから……」

 

 

「ッ───!…………そう、そうなんだ」

 

 

 

 デウスは立ち上がり、リーゼに背を向ける。アイテム欄からゲーマドライバーとギアデュアルガシャットを取り出し、ガシャットのギアを左に回転させる。

 

 

 

【INFECTION VIRUS!】

【The illness cause!(end world!)finish creatures!】

 

 

 

 ゲーマドライバーにギアデュアルガシャットを挿しこみ、レバーを開いてデウスも変身する。

 

 

 

【デュアルガッシャット!】

【ガッチャーン! デュアルアーップ!】

【感染進行! バ・バ・バ・バイラス!】

 

 

 

 仮面ライダーゲムデウス【バイラスゲーマー】へと変貌したデウスは、その剛腕を合わせると両足で跳躍。起き上がろうとしていたゴーレムの宝石部分に叩きつけた。結果、ゴーレムは再度倒れる。

 

 

 たったの一撃でゴーレムの1本目の残りを全て消滅させ、2本目のHPバーを削りきる。しかしバグスターウィルスによって回復されているのも事実であり、早急にデウスは駆除を行う。そのためにゲーマドライバーを開閉させる。

 

 

 

【ガッチョーン キメ技!】

【ガッチャーン!】

【INFECTION CRITICAL PUNISH!】

 

 

 

「ッア!」

 

 

 

 両腕に紫に近い黒のエネルギーを発生させると、デウスは跳躍してゴーレムの頭部に接近する。ゴーレムも負けじとレーザーを放ち、迫り来る右拳に当てるも無意味。宝石部分に衝突しゴーレムのHPが殆ど消え失せていた。

 

 

 そしてトドメの一撃は、逆の左拳のストレートが顔面と思わしき部分に当たった。リーゼの活躍があったとはいえ、ここまで異常な力を持ったデウスは最早人間とは思えない。

 

 

 

【ガッチョーン ガッシューン】

 

 

 

 ゲーマドライバーのレバーを閉じてガシャットを引き抜き変身を解いたデウスは、次にリーゼの元に向かって行く。そして近くに来たところでしゃがみ、リーゼの変身を解除させる。

 

 

 

【ガッチョーン ガッシューン】

 

 

 

「リーゼ」

 

 

 

 真剣な声色で面と向かってデウスが言った。その緊迫さに少しだけリーゼも内心不安に駆られていた。だがその不安は、デウスがリーゼを自身の胸に引き寄せることによって失せてしまうのだが。

 

 

 

「君は、さ。あの時……僕の力になりたいって言ったよね」

 

 

 

 少しだけ震えた声で、綴るようにデウスは言う。リーゼもただ、その言葉に耳を傾けるだけ。

 

 

 

「────僕の力になりたかったことは、分かった。僕がそんなリーゼに気付かずに、無意識に苦しめられていたから……力を手に入れたかった。

 

 

 でも……! 今のリーゼはどうなんだ!? 態々君が危険な目にあって、今にも死んでいきそうだった!

 

 

 それを見た途端────怖かったよ。

 

 

 君が消えていく未来が、君のいない未来を過ごすことが、たまらなく嫌になった。

 

 

 もう、良いんだ。君は1人で頑張らなくて良いんだよ。というか、もう絶対にしないで。こんな真似は絶対にしないで。

 

 

 僕だって……君を失うのが怖かった。でも1人で抱え込んでしまっていたことが……1番ダメだって、先輩やユウキちゃん、ランちゃんが思い出させてくれた。

 

 

 お願い。どうか君も…………君も、1人で抱え込まないで。今度から……いや、今からだ。辛くなったら、相談しよ。苦しかったら、誰かの好意に甘えよ。約束……だよ……」

 

 

 

 泣きながらリーゼを抱きしめるデウスの温かみが、リーゼの冷たくなった心を溶かしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 46層への扉も開けずに、デウスとリーゼは迷宮区から帰還し22層のギルドホームに居た。他に誰も居ないのは、皆がデウスとリーゼを気遣って外へと退散したからだ。

 

 

 診療室……ではなく、デウスの自室でカウンセリング──と称した仲直りが行われていた。互いに悪い所を指摘して、その改善点を述べていく。そして、その改善点と悪い所を忘れないように────

 

 

 

「あっ」

 

 

「……どうしたの?」

 

 

「────そういえば、キリト君を置いてきちゃってたって」

 

 

「ゑっ────?」

 

 

 

 哀れキリト、案内したのにも関わらず2人だけで事がドンドン進んで行ったようだ。余談ではあるが、仲直りしたあとキリトが酷い形相で帰ってきたのは全員知ることとなった。

 

 

 

 

 

 

 



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