ふわふわふわわ (蕎麦饂飩)
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ゆるいどうぶつえん

ふわふわ系女子ふわわ

ゆるくたって、いいじゃない。


メソポタミアの神話において、

呪われた森を住処とする、原初の自然の力として、神々でさえ恐れおののく獣、

――――――と呼ばれているゆるふわ系女子がいた。

 

「おなかすいたよー。でももうすこしだけねよー」

 

彼女の名前はフワワ。いや、何かの間違えでゆるふわ美少女になってしまった()恐怖の獣ふわわだった。

ふんわりふわふわ生きている彼女は基本食べるか寝るかしかしない。

それ故に、自堕落な生活からマシュマロボディ(デブの隠語では無い。断じてっ!!)になっている、

小鳥や小鹿にも愛される、旧き厄災である。

 

今日もまた、彼女は朝日によって目覚め、しかし、少し眠たいので、地面を這うように寝床の洞窟の中で、

少しだけ移動して、日差しから逃れると、再び睡魔に身を委ねた。

僅かしか移動していないので、また少しだけ時間が経つと、日差しから逃れる為に少しだけ洞窟の奥に逃げ込む。

そんな何時も通りの生活を続けていた。

 

ここ最近、ウルクと言う都市の人間達が木々を刈ろうとして近づいてくるも、

ふわわの影響で呪われた木々に恐れをなして逃げ帰っている。だが、少しずつ人間達の脅威は近付いてきている。

そんなことを、ふわわの耳元で悪戯好きの仔リスのしっぽを押さえつけながら、リスのお母さんがふわわに話しかけるが、

ふわわさん@もうすこし眠っていたい、は正直、そっとして欲しかった。

 

ところで、フンババの呪いと呼ばれる木々への呪いとは何か?

それは、ふわわの住む森の木々は殆どふにゃふにゃして柔らかくなってしまい、建材にはとても耐えられなくなる呪いであった。

周りがキビキビとしていると、のんびり屋さんにはつかれてしまう。

だからこそ、メソポタミア一と称される、天に伸び建つような杉の森に、

ふわわがもう少し肩肘張らずに行こうよと言ったために、最高クラスの建材は、ゴムでできた太い柳の様になってしまった。

 

今、この森でキビキビしているのは、リスのお母さんを含めて数えられるほどしかいない。

まあ、リスのお母さんもそこまで真面目では無い。森の主に対して子供のお説教をしながら、森の危機を報告している所で察して欲しい。

 

そう言えば、昔ふわわの友達に、身長も体重も自由自在な、あるいみふわわよりもふわふわした者がいた。

ふわわの直感では、オレ様系の男にあっさり染められてしまいそうな女子っぽく思えた。

まあ、直感はふわわ的にあまり好きでは無いので、むしろ直感が働くとめんどくさいようだ。

ぼーっとしていたいのに、脳にピキーンと電流が奔る感覚がせわしくて仕方ないというのが主な理由だ。

 

 

そんなふわわのもとに、いつの間にか森に住み付いたペンギンのおじさんが酔っぱらいながら、

例の悪い男に染められて、かつての友人を裏切る様な女になったみたいな無性にして両性の友人が攻めてくるとふわわに教えた。

そして、ペンギンのおじさんは近くで同い年のキリンと朝から飲み会があるらしいので、またどこかに行った。

 

ふわわはその重大ニュースを聞いて―――、

あと一時間だけ寝る事にした。




NOTメソポタミア
YESめそぽたみあ


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ゆる~くうるく

呪われた原生生物に最古の英雄が挑む……かもしれない?


「なんだ、アレ(・・)は?」

 

人類最古の総合英雄譚の王ギルガメッシュは、エルキドゥに伝え聞いた完全生物フワワが支配する、

呪われた森に出向き、強大な力もをった呪いの獣が住む場所にも関わらず、

のんきに眠りこけている美少女…のような何かを見てそう呟いた。

 

「…うん、ギル。君がもしかしたら、いや、そんなはずはない。

その二律背反に苦しんでいるところをズバッと言ってしまうけど、

アレ(・・)が究極の原始生命体フワワなんだ」

 

ふわわは、彼らが此処に来ることを動物たちに伝え聞いて知っていたが、

その前にあと1時間だけ眠りたいと惰眠をむさぼったためにこのような状況になってしまっていた。

尚、既に二度寝の睡眠時間は3時間を超えていた。

 

 

ギルガメッシュ達が来ても未だに起きない彼女を、アヒルたちがつつきながら起こした。

その結果、ふわわは目覚め、ギルガメッシュ達をその双眸に納め、緩やかに体を動かした。

具体的には、寝返りを打つように体を動かして、もう一度寝始めた。

 

「…友を疑う訳ではないがもう一度だけ聞く。本当にアレ(・・)がフワワなのか?」

 

「うん、本当にアレ(・・)がふわわなんだ」

 

基本的に戦わない。故に敵がいない。つまり無敵。

それが究極原始生命体ふわわだった。

 

 

 

「…そうか」

 

ギルガメッシュはそう言った後、大きく息を吸い込んだ。

 

 

「――――起きろっ!!」

 

その覇気の凄まじさたるや、鳥達が一斉に周囲の木々から飛び立つほどだった。

リスのお爺さんも驚いて木から落ちてしまった事をどうして責められようか?

だが、リスのお爺さんの真下にはふわふわふわわがいたので、

ゆるふわの髪の毛の上に軟着地した老年の小動物に怪我も無いので安心して欲しい。

 

実は、ギルガメッシュの怒声では無く、リスのお爺さんがぶつかった衝撃でふわわは目を覚ました。

まあ、そんな真実はみんなの王様ギルガメッシュが可哀想なので内緒にしてあげよう。

 

 

至高の原生生物ふわわはゆるやかに起き上がった。

その美しさたるや、花のようではあったが、それで手心を加える様なギルガメッシュでは無い。

 

「ようやく起きたか」

 

そう不敵に武器を構えてふわわを睨みつける。

 

 

「…うん、おはよー」

 

対するふわわは敵愾心や警戒心と言うものとは無縁だった。

具体的には説明しづらいが、抽象的に言えばふわふわしていた。

 

 

「どんぐりたべる?」

 

ふわわは、白いワンピースのポケットの中から取り出した木の実を、頭に乗っているリスに渡すと、

自分もドングリを食べだした。

 

「……いっしょにたべる?」

 

そしてギルガメッシュたちにもドングリを与えようとしていた。

 

「…実は高度な策略家で、あの木の実には悍ましい呪いがあるのだろう?」

 

「残念だけど、あれは素なんだ。ギルの気持ちは解るけどね」

 

なんとなく、Fate的世界観とは大きく切り離されたふわわたちの世界に、

ギルガメッシュ達は疲れてきてしまった。ここで完全に疲れ切ってしまうと、ゆるふわの住人にされてしまう。

英雄王、S A N(そんなに あたまつかわ ない)値チェックの準備は十分か?

世界が彼にそう問いかけた。

 

ちなみにSAN値がZEROになると、馬と鹿の違いをいちいち追求する様な細かさを忘れて楽に生きて行けるようになる。

頭が空っぽの方が、いろいろ詰め込めるようになるアレであるが、

別に無理して詰め込むのも面倒なので、スカスカでも悪くないかもしれない。

 

かつてSAN値ZEROにされた経験を持つエルキドゥは、その経験をギルガメッシュに忠告した。

 

 

 

 

「ギル、忠告しておくよ。実はフワワは―――――アホなんだ」

 

「――見れば解る」

 

この会話の二人は酷くシリアスな顔をしていたが、話の内容はあまり頭が良いとは言えない。

彼らも少しずつSAN値が減ってきているのかも知れない。

 

 

取り敢えず、ふわわの恐ろしさの一端を知ったギルガメッシュ達は、戦意を立て直すために、

どんぐりを頬張りながらウルクに帰った。




どんぐりおいしいよ


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ゆるりとめがみさま

女神様にSAN値低下が利くと思っているの?


「ふわーわ」

 

愛と勇気の女神イシュタルの目の前で、ゆるふわい美少女があくびをしていた。

イシュタルはなんとなく、ふわわの名前の由来が解ったような気がした。

 

事の起こりは、イシュタルの牡牛グガランナがかつての獰猛ぶりを忘れたように日和り出した事であった。

天に恐ろしき牡の獣あり、地に呪われし牝の獣あり、と有名な怪物の片割れに喧嘩を売りに行こう。

そして、折角相手が牝なので打ち負かした上で自分のものにしてくれようとグガランナがいきり立っていた。

 

だが、イシュタルが何時まで経っても帰ってこないグガランナを確認しに行くと、

牡牛は『ればのんのゆ』とゆる~く書かれた布の向こう側にある温泉で、リスのお父さんとのんびりしていた。

余談だが、レバノンの温泉はとても良い湯である事で、ふわわとそのお友達の間でとても有名である。

 

グガランナはイシュタルを見つけると、

 

「もぉ~~」

 

と牧歌的に鳴いた。

其処にはかつて恐れられた凶悪なまでの威厳は微塵も存在していなかった。

腹に据えかねたイシュタルはグガランナの首にヒモを付けて天までドナドナしていった。

 

途中でグガランナがげっぷをした匂いが、かつての凶悪さを唯一思い出させる名残であったことも、

イシュタルの怒りに一役買っていた。

 

 

 

イシュタルは、その原因を究極生命体フワワだと断定して、ウルクの王ギルガメッシュに征伐させようとした。

だが、ギルガメッシュはどんぐりを頬張りながら、エルキドゥと歌いながらウルクに帰ってきてしまった。

 

元々少しばかりヒステリックな所があるイシュタルは、グガランナの事もあり、遂にふわわにブチ切れてしまったのである。

かくなる上は自らの手で無敵生命体フワワを滅すると。

 

そしてフワワが出現すると伝えられている森の真奥に入り込むと、其処に居たのは地上の穢れたグガランナとさえ言われる怪物では無く、

ゆるふわな美少女だった。

 

今起きたばかりらしく、イシュタルの前だというのにのんびりとあくびをしでかしていた。

イシュタルはその不敬の意味すら分かってなさそうな、あたまがふわふわの少女の名前を聞いた。

 

「貴女の名前を答えなさい」

 

 

 

その問いの答えが、またしても繰り出された盛大なあくびである。

そしてそのあくびの「ふわ~わ」の音を以って、ゆるふわい美少女こそがあの『ふわわ』だと、イシュタルはなんとなく理解できた。

 

そしてその事に気が付いたことでイシュタルは戦慄した。

少女の正体にでは無い。なんとなくで物事が理解できたという事にだった。

 

今、イシュタルの周囲、即ちレバノンの森の中では全てがなんとなく(・・・・・)で事足りるような気が、

イシュタルにはなんとなく解った。

全てがなんとなくまったりした緩くてフワフワした感じになっている。

 

これが、原初の穢れの力…。フワワ、恐ろしい子ッ!!

イシュタルはそう戦慄したが、なんとなくその戦慄も無駄な気がした。

それにより、順調に自身が汚染されてきたことを女神は理解した。

このままではシュメール牛として出荷してやろうとさえ考えた、あの駄牛の様になってしまう。

 

流石に7つの輝きを持ち、7つの捧げ物で気を惹き、8つの神風で封じなければ止められない獣は伊達では無かった。

でも、恐らく、出会ったものを昏睡させたり精神を歪める7つの輝きは、

人畜無害な、リラックス効果のあるα波とかそこら辺のものなんだろうなぁ、

イシュタルがそう思い至った時、イシュタルの肩を何者かが叩いた。

 

ふりむくと、そこにはぐがらんなとなったグガランナがいた。

ぐらがんなは肩にリス一家のお父さんを乗せて、げっぷをした。

 

その臭さにイシュタルはS A N(そんなに あたまつかわ ない)値を大きく回復したが、

その直後、目の前にいる少女が純白のワンピースのポケットから、リンゴを取り出した。

 

「たべる?」

 

 

 

 

 

イシュタルは禁断の果実を口にした。

流石呪われし獣の誘惑だけあって、その味は甘露だった。

こんなにおいしいものをくれるフワワは案外良いヤツだとイシュタルは思った。

 

そして気が付けば、リスのお父さん行きつけのキリンがマスターをしているバーで、

イシュタルはぐがらんなとリスのお父さんとキリンといっしょにハチミツ酒を飲んでいた。

ちなみにふわわにはオレンジジュースが用意されていた。

 

「まったく、あの男はどうして私に振り向かないのよぉ~~」

 

イシュタルは酒癖が悪かった。

ぐがらんなは草を食べていた。

リスのお父さんは新聞を読んでいた。

キリンは副業の引越し屋の準備をしようとして、面倒になって漫画を読んでいた。

ふわわは、寝ていた。

 

「こんなに世界一びゅーてぃほーでせくしーな女はそうそういないっていうのにっ!!」

 

色々と男性関係がゆるかったツケや、

そもそも女神たるイシュタルを受け入れた時点で、

神の陣営にギルガメッシュを、ひいては人類全体を神の所有物と当て嵌める事になる事により、

人類の裁定者たるギルガメッシュがそんなことを受け入れられる可能性はZEROだった。

 

そのあたりで、ふわわは目も覚ました。ふわわのポケットの中で寝かせていたアサガオの種が発芽してもぞもぞしてきたせいであった。

ふわわはトイレに行くついでに、キリンの家の周りにアサガオの種を蒔いてくると、再び帰ってきて水を飲んで寝た。

そして寝る前に、イシュタルに絡まれた。

 

 

「どうすればいいっていうの?」

 

「…まずはたべて~、あとはねる?」

 

 

何のアドバイスにもなっていなかった。

真面目に聞いていたイシュタルは若干SAN値を削られた。

だが、そこは腐ってもカビが生えても発酵しても女神。SAN値の貯蔵は十分だった。

 

「真剣に答えてよっ!! フワワならどうするっていうのよっ!!」

 

面倒な哭き上戸のヒステリーに絡まれたふわわは、至ってふざけることなく答えたつもりだったのだが、

取り敢えず食べて寝てのんびりしていればいいじゃないという答えは、イシュタルにとって解決にはならなかった様だ。

 

 

「たいせつなものをたいせつに」

 

とりあえず、そう言ったふわわはもう一度寝る事にした。

 

 

「大切なものを大切に…。私にとって大切なもの」

 

イシュタルは、その言葉を深く考えようとして、何だか眠くなって寝た。

…ただ酔いつぶれただけとも言う。

 

女神が翌朝起きると、何となく頭がすっきりした様な気がした。

頭の中の余計なものが掃除されたように、

それこそ、『大切なもの』以外が一掃されたようなすがすがしい気持ちになった。

彼女の気持ちを表す様に、首元のアクセサリーの愛と勇気の鈴が凛々々と鳴っていた。

 

 

 

「お父様、お話があるの」

 

イシュタルは父親たる至高神の所に出向いて、そう話を切り出した。

至高神にして天空の始祖アヌは、娘に甘いので基本的にイシュタルの言う事は、何でも聞き入れる。

ちょっと世界を滅ぼす程度のお願い位ならなんくるないさーだ。

 

アヌは娘のお願いがどのようなものか、その万里先の音を聞き取れる耳に意識を集中した。

 

 

「あのねお父様、私、

女神(アイドル)を止めて普通の女の子になります」

 

父親は卒倒した。天空が揺れた。

地上にもその音が響き渡った。

 

 

 

そのころ、ふわわは天が転げるような衝撃で、目を覚ましたが、

また、二度寝する事にした。レバノンの森は今日も平和だった。




いいゆだね、ればのんのん


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ゆったりのゆ

めそぽたみあはやさしいせかい。いいね?


原始の世界にはアプスーと言う淡水の神が存在した。後に自らに最も良く似た息子、エアによってその存在意義と魂を奪われた。

と、最古の文明にある文献の一、『エヌマ・エリシュ』に記されている。

 

そして、ここからが大事な所なのだが、キラキラ海水系美人ママ、ティアマトの夫と伝えられるアプスーが、何故地底の底に封じられたか?

その答えは、原始水神の特性故に低血圧で、アプスーが寝る事が大好きなぐうたらで、起こされる事で不機嫌になるダメ夫で、

子供たちと仲良く遊ぶ良いお父さんでは無かった事が原因の一つであった。

 

アプスー神は、エア神に封じられた時、ただあっさりと二度と抵抗できない様に封じられたわけでは無かった。

地下水が豊富なとある森に、自らの願いと祝福(呪詛)をかけた。

 

その願いは、『誰も争わずまったりと惰眠をむさぼり続ける穏やかさが許される事』。

その森自体が始まりの自然としての権能を持ち、守護者としての極限生命『フワワ』を生み出した。

 

絶対無敵のレバノンの守護獣『フワワ』。

その始まりには、ある父神の願望と、母神の未練と、新たな支配神の手心があった。

 

 

 

まあ、そんな事は『ふわわ』になった彼女にはあんまり関係ないし、どうでも良い事だった。

ふわわは、基本的にお仕事が無い。というか、レバノンの森に住んでいる動物たちにお仕事がある者はいない。

みんなニートで、みんないい。それがレバノンの森の住民であった。

 

一部引越し屋やバーを営む動物達も居るが、仕事としてでなく趣味でやっているのでカウントには含めない。

そんな森の住民たちは寝たい時に寝て、食べたい時に食べる。そういう生活を送っていた。

 

もし、ふわわに仕事があるのだとすれば、それは森の守護と種を蒔く事だろう。

森の守護に関しては本人の頭からさっぱり抜けている上に、

種を蒔く事も、食べようとした木の実が発芽してしまったから外に放る程度の話なので、大した仕事でもない。

やっている事は冬に備えて地面にドングリを埋めて、掘り出すのを忘れてしまうリスたちとそう変わりが無い。

それが、ふわわであった。

 

ふわわはある時、新しい温泉が湧いている事に気が付いた。

そーっと、指を入れるとちょっとぬるめの温度だったので、来ていた白い服を簡単に畳むと入ってみる事にした。

温泉の底は浅く、丁度寝湯の様になっていた。

無論、ふわわがその中で寝る事にしたことは言うまでもないだろう。

 

なんとなくふわわが、お湯で濡れた手で顔をふくと、あることにふわわは気が付いた。

 

「…しょっぱい」

 

それといつもよりふわふわとお湯に浮く気がした。

まあ、どうでもいいかとふわわはそのまま寝る事にした。

 

まるで母親の胎の中の様にあったかく、ゆらゆらとゆれる心地良さにふわわは思わず意識を手放した。

別にどんな状況でも寝ているだろうというツッコミは野暮である。

 

 

お湯があったかいのと、レバノンの森の癒しの効果でお風呂に入ったまま寝ても脱水症状にも風邪にもならない。

そんな素敵な『ればのんのゆいれぶん』に入って寝ていたふわわが目を覚ますと、

そこにはもう一人極上の女体を、若干黒色を含んだお湯の中に曝す者がいた。

 

()愛と勇気の女神イシュタルである。

 

 

 

「えっ、このお湯って、もしかして…」

 

イシュタルは何か困惑していたが、ここはレバノンの森である。難しい事を考えるだけ無駄である。

考えるな、寝ろ。ここはそういう所である。

 

世の冷え性の女性が喜びそうな保温成分の潤沢に詰まった温泉の癒し力に、イシュタルは考える事をやめた。

「気持ち良さには勝てなかったわ」とイシュタルは後に語る。

 

 

 

ふわわはゆっくりとお湯から出て白いワンピースを身に着けた。

少々シワが寄っているが気にしない。もともとパリッとしたアイロンがけの服とは無縁のふわわである。

 

ふわわは、服のポケットから、温泉饅頭の木になる、温泉饅頭の実を取り出した。

そしてイシュタルにそれを差し出した。

 

「たべる?」

 

 

イシュタルは食べようかどうか迷ったが、しばらく口を動かしながら考えてその後こう言った。

 

「おかわり、あるかしら?」

 

イシュタルは温泉饅頭の木の実を食べようか悩んでいたら、何時の間にか温泉饅頭の木の実を食べていた。

でも、大して恐ろしいものの片鱗とかは感じなかった。

 

このふわふわ生物にそういう恐怖を感じる方が無理である。

この森には恐ろしいものなんてない。故に無敵の森である。

 

 

 

イシュタルはふわわのポケットから出てきたとっくりのお酒を飲むと、オレンジジュースを持ったふわわと乾杯した。

その後、ふわわにイシュタルが『男にモテる女になる本』という本の内容を語っている内にふわわが寝ていたので、

寝冷えしない様に、ふわわのポケットに入ってあった折り畳みふとんを取り出して二人で仲良く寝る事にした。

 

 

レバノンの森は今日も平和である。




以下のルートが解禁されました。



→・たのしいめそぽたみあ
 ・愉しいメソポタミア←new!!


尚、後者は正規には選ばれない模様。


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ルート2におけるエンディング『レバノンが消える日』 (※ふわふわ度減少)

それはとあるひとつのかのうせい


メソポタミアがめそぽたみあを追いかけてきました。


決別ルート

 

ふわわは歩いているとある事に気が付いた。

 

「…まあいいか」

 

あることに気が付いたふわわは、その事について考える事が面倒だったので気が付いた事ごと忘れる事にした。

因みに、その気が付いたことは森の何処を歩いても地面がぬかるんでいる事であった。

実害は全くない。少なくともこのレバノンの森においては。

 

 

 

だが、ウルクを初めとするメソポタミアの都市に住む人間達は、水位が上昇し続けていく現象に右往左往していた。

訓練されたレバノンの民ならば、この程度気にせず寝て過ごすというのに。

いや、寧ろ訓練は全くされていないというのが正しいか。レバノンの民に訓練は不要。

そんなヒマが在ったら寝た方がマシだと言えよう。何故か? 単純に面倒だからである。

 

今回の事態は何故引き起こされたか?

その答えはひとえに『決別』である。これは良い言葉を厳選して使った言い方であって、

もっとストレートに言えば『使い捨て』であった。

 

自分の妻と娘と孫を嫁にした碌でもない神、エアや、ご近所に騒音被害で迷惑をかけて反省する気の無い暴れん坊パンクロッカー、

もといマルドゥクを良識派お母さんのティアマトが諌めようとした結果、

自分達の弟でもある末っ子のキングゥごと母を抹殺してバラバラにした、イカれた息子たちによる母との決別。

 

自らで環境を構築する事を覚えた驕れる人間達による、力への信仰と引き換えの神々への克服という名の決別。

 

もはや用済みとなった神々を必要としなくなる未来を微かに、そして確かに感知した世界の幻想に対する決別。

 

それらが神々たちを薄めていき、既に封じられた古代の巨神たちを虚無へと送り込む流れが確かに進行していた。

 

神々たちは苦悩した。どうすればかつての権勢を取り戻せるか?

否、如何すればとりあえずでも生き延びる事が出来るかと。

こういう時に取り敢えず行動指針に口を出す至高神の愛娘が女神を止めていたこともあって、

精神的に若くない神たちは、カビの生えたような思考を出し合ってその答えを探していた。

 

その答えは、呪われた森の中にあった。

 

 

 

地底に封じられた筈の、かつて頼りになる大黒柱だった父親がその封を破り、

愛する息子たちによってバラバラにされて世界の構築に使われた母親の一部を再生した。

 

そして世界に大地が生まれる前のかつて海水と淡水しか存在しなかった世界へと忍び寄る様に改変するように、

レバノンの森以外では水位が上昇し続けていた。

 

アトラ・ハーシスとかアトランティスとか呼ばれる世界沈没の伝説が作られようとしていた。

 

 

このままでは人間達はリセットされてしまう。

その事をある温厚な神はその事を嘆き、エンリルの様なMッパゲ王子気質の過激な神は良い様だと嘲笑っていた。

 

だが、世界もみすみす人間達を滅ぼす気も無かったようだった。

メソポタミアの神々の消滅速度はそれによって早まっていた。

 

かつて神であった少女は、その様を知り憐れんでいたが、

取り敢えずは意中の男から、緑色の美形をどう引き離すかを考える事でいっぱいいっぱいだった。

その結果、寧ろ緑色がいても良いじゃないと考える様になるが、それはまた別の話。

 

 

消えかかった神々は恥を忍んである場所に避難する事にした。

その土地の名は『レバノンの森』。守護獣フワワが治めるとされる呪われた地であった。

 

我先にと逃げ込みながらも、神々全員でかかれば倒せるはずのフワワへの警戒を忘れず、

マルドゥクやエンリルを中心とした武闘派の神々は各々の武器を強く握っていた。

 

そして辿り着いたレバノンの森。その入り口には全く覇気のないゆるふわお嬢様のような少女が立っていた。

 

 

「娘、そこをどけっ!!」

 

とてもではないが、その娘こそが元フワワだとは信じられない神々たちはそう言って障害物を排除しようとした。

消えかかる神々の様な世界の敵が森になだれ込めば、森も世界の敵と看做されレバノンは神々ごと消し去られる可能性がある。

ふわわはフワワとして森の守護者としてそれを止める使命があった。

 

頭を使わないふわわは、特にそれを考えていたわけでは無かったが、

彼女の魂がその使命を記憶していた。

彼女は森の娘にして、全ての森の民たちのおかあさんでおねえさんなのである。

 

 

エンリルはその武器をふわわに叩き付けた。

雲の様に儚い体つきのふわわにそれを防ぐ術は無い。

様子を見に来た森の動物たちは咄嗟にその目を覆った。

 

直後、この森には珍しい硬質な音が響き渡った。

全てを切り裂くとされるフワワの爪。今は先も丸くそんなに長くないその爪は、

エンリルの振るった武器を軽々と弾いた。

 

そこで初めてエンリルは気が付いた。

 

「貴様ッ!!-――――――――『全ての者の恐れ』かっ!!」

 

原始獣フワワ。またの名を『全ての者の恐れ』。

 

全ての者が恐れる存在であるといまここに改めてエンリルによってフワワは再定義された。

 

だが、忘れてはならない。此処にいるのはフワワではなくふわわである。

恐れられることが無い故に無敵(・・)の存在である。

 

 

「わたしはふわわ」

 

『すべてのもののおそれ』って何だろう? わたしはふわわだよ?

そんな意味を込めた凄く間延びした声での返答だった。

だが、神々は後ろからは世界からの消滅が迫ってきている故に、

此処で引く事は出来なかった。ほとんど全ての神々がふわわに武器を向ける。

それは、武器の容をした明確な殺意だった。

 

 

こんな状況ではふわわは助からない。

対して危機感を感じてい無さそうなふわわに代わって森の動物たちがふわわを庇うように神々の前に躍り出た。

ナマケモノみたいに足が遅い動物は未だ移動中だが、それは仕方なかった。

 

 

だが、神々にとって神獣ならともかく、普通の有象無象の獣など幾らでも替えが利く存在でしかなかった。

ふわわは良く解らない状況だけれども、自分をも守ってくれる動物たちを護る為、更に彼らの前に出た。

 

 

神々は迂闊だった。

『レバノンの森』の守護者『フワワ』は、『ればのんのもり』によって『ふわわ』であったのである。

そして、今動物たちの前に踏み出したふわわは、森の敷地の境界線を越えてしまっていた。

普段なら森から出ても『ふわわ』は『ふわわ』でいられたが、

その元となる森のふわふわ感が神々のシリアスさによって壊されていたのである。

 

 

途端にエンリルがかつて知った、悍ましい原初の穢れとしての何かが溢れ出そうになっていた。

 

「森を傷つける者は、―――――このフワワ(・・・)が赦さない」

 

 

ゆるふわのカールのロングヘアが風になびくストレートに変わった。

白いワンピースは少しあったシワも消え失せて、ワイヤーが入った様にピンと張った。

地に在ってその名を恐れぬ者はいないとされた原始の厄災が目覚めようとしていた。

その狂気に呼応されたのか、森の奥から神々の誰もが知る懐かしい、それでいて恐れていた気配が姿を現した。

 

 

――――――大母神ティアマト。

神々がかつて殺した己たちの母が森の動物たちの後ろに姿を現していた。

その横にはアプスーの姿もあった。

父たる神と母たる神は、その口を開き、告げた。

 

 

 

「母さん、言ってやれ」

「けんかは、めっ」

 

 

 

 

 

 

………空気が、止まった。

勿論、別に母たる神の大権能とかそういうものでは無い。

その中で、唯一動いたふわわは返答した。

 

「そうだね」

 

 

 

――さて、こんな空気の中で戦争が続けられる奴がいたらよほどのKYである。

森の動物たちと、かつての両親もとい両神と天の神々たちは話し合う事にした。

それには多大な時間が流れる事になった。

時間にしてカップラーメンが出来る程である。ふわわならその間にレム睡眠にまで到達できる。

そう言う時間であった。

 

 

結局、森は神々を受け入れる事になった。

ふわわは会議中に眠ってしまっていたので、主にリスのお母さんとかがメインになって話し合いが進んだ。

神も獣も対等な同じ森の住人になることが決まったのである。

レバノンは世界を敵に回した神々をも受け入れた。

俗に言う、けものはいても、のけものはいないというやつである。

 

 

 

 

――――これにより、この時代よりレバノンの森は消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は流れ、ある場所のある時代において、ふたりの少女がいた。

少女たちは見知った森で遊んでいたはずだったが、いつの間にか見覚えが無い所にいた。

ぐずる妹を宥める姉は色んな昔話を思い出した。

 

森に入ると、神隠しの様に知らない世界に繋がる事がある。

そう、彼らの祖母が言っていた。

曰く、その幻想世界は常に世界と隣り合わせに存在していて、科学的には証明できない揺蕩う森だと。

曰く、たぶん恐ろしい獣がいるのだと。

曰く、美しい眠り姫がいるのだと。

 

姉の少女は、恐ろしい獣がいたらどうしようと不安に思いながらも、妹の手を握り締めておっかなびっくり森を進んだ。

途中でリスの親子が木の上から眺めてきたり、一瞬だけだがキリンの様な動物が見えた気もした。

 

そうして森の小道を進んでいくと、開けた場所があった。

そしてそこには奉げられたように眠るこの世のものとは思えないほど美しい少女がいた。

 

近寄ってみても身動き一つしないので、

一瞬死んでいるのかと思えたが、僅かに寝息が聞こえた。

それに姉妹は安心した。こんなところで寝ていられる様な少女ならきっとこの森の事を知っているはずだ。

そう安心した時、姉妹のお腹の虫がなった。

 

ぐ~っと大きな音がした。

 

 

そしてその音に気が付いたのか眠っていた少女は目を覚まし、緩やかに起き上がると、

ポケットの中からどんぐりを取り出して言った。

 

 

「どんぐり、たべる?」

 

 

 

今日も森は優しかった。




鬱な方のルートでした。
ふわわ世界ではこれでもかなり鬱な方です。

因みにこの世界線では、どこかの元アイドルはお目当ての男への接近に成功したようです。


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ゆんわりとろ~りどろどろり

もし、人が驕り高ぶらなかったら、せかせかと欲望に走らなかったら、
そんなふわふわふわわ正史ルート


イシュタルは森の北側の所に来ていた。

ウーパールーパーのおばさんが教えてくれた『ればのんゆめぐりまっぷ』に載っている、

『お肌スベスベ』と書いてある、レバノン13個目の温泉に来ていた。

 

見事な泥湯だった。温度は普通だが、泥湯の密封性を考えれば寧ろ高いとさえ言えるだろう。

それに泥が水分を多く含んでいる事の証左に湯気が物凄かった。

 

だが最近できた温泉らしく、まだそんなにお客さんは来ていない様子だった。

湯煙の向こうにも数匹しかいないのが見て取れた。

 

一人ではいるのも寂しいので、イシュタルは湯煙に映る影の方に近づいていく事にした。

其処では、コウノトリの若奥様と、アライグマのおばあちゃんと、とてもよく知った女性が其処に居た。

 

「イシュタルちゃん?」

 

「えっ、何で此処にいるの!? 母さんっ!!」

 

驚くイシュタルとは対照的に、「いちゃ、ダメだったかしら…」と残念そうなティアマト。

思わず、嘗ては傍若無神を地で行っていたイシュタルも罪悪感を感じてしまった。

 

「いや、そうじゃないけど…」

 

そう答えたイシュタルに、ティアマトの表情はころりと笑みに代わった。

 

「母さんうれしい」

 

折角だから洗ってあげる。そう母親に言われて照れながらも身体を洗って貰うイシュタルだったが、

此処の湯は泥湯。具体的には人畜無害のケイオスタイドだ。頭にかけられると落とす時が大変だ。

イシュタルの時に視野が狭くなるが、普段は幅広く物事を見通すだけの頭脳は、

この場において最も考えなければいけない事に思考を回転させた。

 

 

 

「おゆ、あるよ?」

 

そんなイシュタルの後ろから最近できたお友達の声が後ろから聞こえてきた。

言わずもがなふわわである。

 

一糸纏わぬふわわが指さす方向には滝があった。

勿論、この森の滝なのでそんなに冷たい訳でもない。水量はそこそこあるものの勢いもそこまでは強くなかった。

つまりどういう事かというと、滝もゆるゆるでふわふわだった。

 

 

母の圧倒的な女性らしい身体に負けを認めながらも、まだ成長期だからと自分を鼓舞するイシュタルと、

全ての生命の母として、子である娘と仲良く身体を洗うイシュタルにゆるやかで楽しい時間が流れていた。

 

だが、そんなのんびりした優しい空気は突如崩された。

 

 

 

「何時まで反抗期でいるつもりだ」

 

「いや、親父、俺達は親父を信仰的に封印したんだぞ?」

 

「ああ、そうだ。合わせる顔が無い」

 

「うるさい。とっとと風呂に入るぞ」

 

何故か、アプスーとエアとエンリルが其処にやって来た。

恐らくワザとでは無く男湯と女湯を間違えたのだろう。まあ、そもそも男湯とか女湯とか無いけれども。

 

 

アライグマのおばあさんが、「きゃーえっち」と叫んだことで、

女性陣は男達が泥湯に浸かりに来たことに気が付いた。

イシュタルはこうなったらこの男どもを社会的に封印してやろうかと、

具体的には地底の底の水に封じてやろうかと思ったが、湯煙&泥湯フィルターがあるのでやめた。あと面倒になったのもある。

 

 

エンリルは泥に鼻の下ギリギリまでつけて、寝ているふわわを見て、何処かで見覚えがあるような気がした。

イシュタルにはふわわを眺めるエンリルが厭らしいおじさんにしか見えなかった。

 

「おじさんサイテー。私の友達のふわわを厭らしい目で見ないでよ」

 

「いや、これは違うっ!!  …ん? フワワ……マジか」

 

 

そういう温泉回特有のイベントがあったりなかったりして、天の神々と古き神々は和解した。

ついでに森の獣たちとも仲良くなった。

 

 

丁度この時、アプスーの復活の余波で、ウルクの井戸水が美味しくなったりした事は、割と余談である。

信仰する女神がアイドルを止めてどうすればいいのかわからなくなったイシュタルの巫女たちが、

その井戸水でうどんを作り始めた事はもう完全に余談で良いのかも知れない。

ほぼ全てのイシュタルの神殿はうどん屋となった。

因みにそれを奨めたのは、あのぐがらんなである。

 

 

「おいしいね、ギル」

「ああ友よ、このうどんはコシが違う」

 

勿論、あの二人にも好評であった。




あったかいおうどんいかがですか?


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ゆるともだからゆるすとも

あんまりゆるくないのをおゆるしください。


「困った事になったわ」

 

獣を人に変える文明の象徴たる指定を受けた聖娼女シャムハトは、長老たちから言われた無理難題に悩んでいた。

彼女は他者と交わる事で、その身に含まれる自然を洗い落とし、文化に染める事が出来る。

かつてエルキドゥもあんまり言葉を知らぬ獣から、知性溢れる人間となった。

原始の自然そのものであるフワワと体を重ねる事で、自然そのものを文明へと変換する目論見があった。

勿論天然100%なふわわから天然成分を抜き取ると何も残らなくなってしまう。

フワワの消滅を以って、自然の改変と文明の勝利を証明しろ。そう使命を与えられていた。

しかし、

 

「でも無理~」

 

だって、可愛いんだもん。

シャムハト的には、フワワを消し去って、代わりに文明の支配を証明する事はやる気が起きなくなった。

 

因みに今現在シャムハトにひざまくらされて、ほっぺたをつつかれているゆるい美少女こそがふわわである。

先程、久しぶりに森に遊びに来たエルキドゥと水遊びをしていて、疲れて眠ってしまったようだった。

 

シャムハトがここでふわわに手を出せば、全てが終わる。

人類が獣と神に勝利する。

シャムハトは後ろに立っていたエルキドゥと視線を合わせた。

 

エルキドゥもその立場からすると、シャムハトの背中を押す必要があった。

だが、その言葉が出なかった。先程疑いも無く自分と遊んだふわわに対して、獣にも劣る、

否、獣には到底届かない人間の性根を出す事が出来なかった。

より正確に言うならば、そんな性根がそもそも無くなっていた。

 

故に無言。卑怯にもどちらの立場も選べずに苦悩する。

見て見ぬふりをして、友を喪ってその後で後悔する。後悔した振りをする。

そんな卑怯な自分にエルキドゥは嫌気がさしていた。

 

だから、今回だけでも無かった事にしよう。また、次回にしよう。

そう言おうとした時、シャムハトが口を開いた。

 

その言葉が冒頭の発言であった。

 

 

「ごめんよ、ギル」

 

エルキドゥはそう呟いた。

 

 

 

ギルガメッシュは周到に神が計画した事によって存在した、神々と人間達の楔である。

そしてエルキドゥはそんなギルガメッシュと神々の間の楔である。

 

だが、果たして強引に突き刺して縫いとめる楔として良いのだろうか?

縫い付けられた大地の悲鳴は誰が聴くのだろうか?

エルキドゥはなまじ文明の知性を獲得した故に悩んだ。悩んでしまった。

かつてはそのような事も無く、悩む事も無く、他の獣たちと森を駆けまわっていたというのに。

 

 

「教えてくれふわわ、僕達は後どれだけ悩めばいい。

文明は言ってくれない。楔の役割を、何時まで突き刺せばいいのかを」

 

自身の存在意義にすら悩み始めたエルキドゥ。

神々に創られた故に、その精神が存在の根幹を造るが故に、作られた生命は身を削る痛みに襲われた。

 

「くさびじゃないよ、えるきどぅーだよ」

 

ふわわがシャムハトにひざまくらされたままそう答えた。

エルキドゥが悩み始めた所で、ふわわなら何とかするだろうとシャムハトが起こしたのだ。

 

 

「わたしはわたし。ぎるがめっすはぎるがめっす。えるきどぅーはえるきどぅー。

つきささなくても、てをむすべばいいんだよ」

 

それは当たり前の様に紡がれた言葉だった。

ふわわはそもそも複雑に物事を考えないので当然の事であったが。

 

自然と文明。互いを削り合うのではなく、手を取り合う。

そんな事が出来るのか?

いや、自然の象徴たるふわわの方からそう持ちかけてくれたのだ。

ならばこそ、自分も応えなければならない。

何、結びつける事に関しては存在理由レベルでの得意技だ。

 

エルキドゥはシャムハトのひざまくらが気持ち良かったのか二度寝し始めたふわわの顔を目に焼き付けると、

ふと空を見上げた。

 

 

エルキドゥの上方には木に腰かけたイシュタルがいた。

彼女は手に持った弓矢を隠す様子も無かった。

 

「…どうやら僕達は命拾いをしたようだね」

 

「別に、ふわわの事が心配で来た訳じゃないんだからね」

 

 

いつの間にか、人間的な方の意味のツンデレをマスターしつつあるイシュタルに、

ふと、エルキドゥは色んな意味で強敵だなと思った。

 

 

でも、バリボリとせんべいを口にくわえながら喋る辺り、

(ギル)が取られるとしてもだいぶ先だなと安心した。女子力の研究はまだまだ未熟そうであった。

 

「うん。大丈夫だ――――ところで、そのせんべい2枚もらっても良い?」




1枚はギルガメッシュ用のお土産です


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ゆるりとおねえちゃん

喧嘩しなくなるのも寂しいものですね


「いったい、どういう事なのだわ!?」

 

最近死ぬ者があんまりいなくなった。

より正確に言えば、悪意を持った事件で理不尽に死ぬ者が激減した。

エレシュキガルはその原因に頭を悩ませていた。

 

原因となっていたのは、呪われた森の穢れた獣フワワ。

最近、妹が神様を辞めて、神殿がうどん屋になったのもそれに関係しているのだという。

 

対偶に位置する女神イシュタルが女神(アイドル)を辞めた事で、

その神性部分はエレシュキガルに回ってきた。

 

最初こそ、

「これで私の勝ちなのだわー」

 

と言っていたが、ライバルというか犬猿の中というか、そんな関係の妹が女神を辞めると心なしか物足りないというか、

まあ、だいたいそんなところだった。

決して寂しいとかそう言うのじゃないのだわ、とは彼女の言である。

 

「これで、私の、勝ち…なんだから」

 

最近は張り合いが無くて、若干覇気が失われ気味である。

仕方ないので、エレシュキガルは原始獣フワワの様子を見に行くことにした。

 

 

 

フワワがいるレバノンの森の中に向かったエレシュキガルは、ふわふわした髪の毛の少女に、妹がふとんを被せている所でかちあった。

 

「…何をしているのだわ?」

 

そう問いかけた姉のエレシュキガルに、一瞬だけイシュタルは驚いたが、

ゆるやかに小さな寝息を立てている少女を指差すと、口元に人差し指を当てて静かにするように促した。

 

 

少女に布団をかぶせ終わったイシュタルは、ゆっくりと音を立てない様にエレシュキガルの方にやって来た。

まあ、実際には音を立ててもその少女はそうそう起きる事も無いのだが、いわゆる心遣いと言うやつである。

 

あのイシュタルが若干良い女になっておらっしゃるー!?

エレシュキガルは妹の意外な精神的成長に驚いた。

妹が以前は、どう見ても結婚できない女なのに、何故か既婚者みたいな女だった事もその驚きに拍車をかけていた。

 

 

 

「久しぶりね。で、何の用かしら?」

 

そう要件を促すイシュタルにエレシュキガルはフワワを探しに来たと答えた。

 

「この子に用事なの?」

 

「………えっ? その子が地上の厄災フワワ?」

 

 

「いえ、オレンジジュースが好きな自然体の自然、ふわわよ」

 

ちなみにふわわの好きな食べ物はドングリである。

探していたはずの猛獣が、のんびりした室内犬の様なふんわりした少女であった事にエレシュキガルは驚いた。

 

「…かわいい。欲しいわ」

 

何となく呟いたエレシュキガルの独り言にイシュタルは急にその目を鋭くした。

 

「あげないわよ。私は女神を辞めたから、もう領分の話で姉さんと争うつもりも無いし、

水に流してのんびり仲良くやっても良いとは思うけど、

それでもあの子を連れていくなら、戦争しても良いのよ?

私に勝ち目なんか無いでしょうけど」

 

「――――変わったわね」

 

 

「神から人間に変わったのよ。それで変わらない方が変わり者よ」

 

かつて神であった妹と、今なお神である姉の視線の火花が散った。

先に折れたのはエレシュキガルだった。

 

「…連れて行くのは諦めるわ。本当は凄く欲しいのだけど」

 

そう言って、去っていこうとしたエレシュキガルの背中に妹は声を掛けた。

 

 

「此方に出向く分には構わないんじゃない?

適当に待ってるわ。この子も、母さんたちも、…私も」

 

若干素直になった素直で無い妹の成長と、その原因でもある責務の解放に羨ましさを感じながらも、

冥界の女主人である誇りを胸に、自分は神であり続けるしかないし、

そうありたいと心から思うエレシュキガルは、妹の分も含めて冥界の神としてこれからも頑張っていく事にした。

 

まあ、取り敢えず今回はちょっと妹に負けた気がしたので、

悔しかったエレシュキガルは、元イシュタルの神殿で行われているうどん屋に対抗して、

そば屋を自身の神殿の一角に作る事にした。

 

 

 

 

冥界のそば職人たちのノウハウを凝縮して作ったレシピは、勿論ウルクの王様たちにも好評であった。

 

「おいしいね、ギル」

 

「ああ、何より香りが素晴らしい。ああ、店主、おかわり」

 

 

天空も地上も冥界も、今日もかねがね平和であった。




そば粉のひき方からこだわるのだわっ!!


そば処めーふ うるく店
営業時間 従業員が起きたら~カラスが鳴き始めるまで
定休日 不定期


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ゆるやかなけっとう

リスのお母さん「ふくしゅうの味は蜜の味っていうでしょ?」
リスの男の子「たぬきくんとあそんでからべんきょうするからいいでしょー?」


レバノンの森には七大罪の一つ『怠惰』の悪魔が眠っていると後世の人々は恐れたと言う。

尚、この場合の眠るという表現は封印されている、もしくは居を構えているという意味であり、

決して睡眠的な意味で寝てばかりいるという意味では無い。

 

この時代の人々も、多かれ少なかれその様な怖れを抱いていた。

だが確かに、レバノンの森の守護獣は寝る事に関してはそうそう右を譲る事は無いだろう。

ある意味恐ろしいと言っても良い。…主に饅頭怖いと同じような意味で。

 

『眠い』と心の中で思ったならッ!

その時スデに行動は終わっているんだッ!

 

ふわわという生き物を言い表す言葉の一つとしてそのような言葉がある。

因みにふわわ自体はそのような事を言った事は無く、

ふわわならこんな感じじゃないのかと、周囲が勝手に考えた言葉である。

 

とはいえ、ふわわだって年がら年中寝ているわけでは無い。

それは流石に失礼である。眠りたい時に寝ているだけだ。

ただ、眠たい時間が一日の殆どを占めるだけである。

 

そんなふわわは大体どこででも眠る事が出来るが、お気に入りなのは白のワンピースのポケットの中に入っているおふとんである。

ただ、おふとんをひく前に眠ってしまう為に、おともだちのイシュタルがわざわざふわわのポケットから取り出してあげている。

実に美しい友情である。

 

そのふわわとイシュタルの友情のエピソードは幾つもあるが、その中の一つを紹介しよう。

 

『エビフ山の復讐』である。

 

恐ろしげなエピソード名だが、結末は何時もの通りなので安心して欲しい。

 

イシュタルがかつて女神であった頃、彼女は驕り高ぶっていた。

その驕りの始まりには、昔好きになった男が引っ込み思案で、別の自己アピールが激しすぎる男が外堀を埋めて迫ってきた事とか、

父親の無条件な甘やかしなどがあるのだが、今回はそこは置いておく。

 

イシュタルが驕り高ぶっていたころ、同じように「オレ様さいきょー」と同じように調子に乗っている山があった。

それがエビフ山である。幾多の凶暴な魔獣を擁し、それによって神にさえ恐れられていた。

だが、エビフ山に舐められたままで我慢出来る筈が無いイシュタルは、七又の神剣を振るいエビフ山をやっつけて勝鬨を上げた。

 

彼等はイシュタルに何時か復讐してやらんと、その恨みを忘れない為に薪を枕にして眠った。

因みにその薪はレバノン産の薪でとてもふわふわしていて安眠効果は高い。

 

まあ、そんなエビフ山の面々はイシュタルが普通の女の子になったと聞いて、今こそ好機だとレバノンの森に押し掛けた。

その有志の数108体。いずれも劣らぬ猛獣であった。

そしてその中には擬人化したエビフ山、エビフヤマもいたという。

彼は張り手とはたき落としが得意な重量級ファイターだった。今までイシュタル以外に負けた事の無いつわものだった。

 

 

エビフヤマとその仲間達はレバノンの森にいたイシュタルを瞬く間に包囲した。

 

「我等の恨み、今こそ晴らさせてもらう」

 

その低く響く声にイシュタルは心のどこかで、女神であった頃には攻めてくる気配も無かったくせに、

私が人間になった途端に強気になるなんてホントだっさい。

 

そう思っていたが、空気が読める様になってきた彼女はあえてそうは言わず、

 

「ええ、憎かったでしょう。あなた達には憎む理由があるのだから」

 

そう答えた。だが、結局の所殺される予想だけはしていた。

だからこそ、イシュタルを殺した後無駄な暴れ方をさせない様にそのような言葉を選んだのだ。

 

 

――何を言った所で自業自得に過ぎないんだから。

そんな悲壮な覚悟をしていたイシュタル。その彼女のすそを引っ張るものがいた。

一緒におふとんに入っていたイシュタルがいなくなったので探しに来たのだろう。

もしかしたら、神々や人々の一般的なフワワ像を、フワワの名前を出さずに恐ろしい怪物の話として紹介したので、

恐くなってトイレについて来て欲しいのかも知れない。

どちらにせよ、大切なお友達に愛されてるなぁ。イシュタルはその事がとてもうれしく、少しさびしく思った。

 

とにかくこの場ではふわわを遠ざけなくてはならない。

これはエビフ山とイシュタルだけの問題だった。

 

 

「いしゅたる、ねよう?」

 

ゆるふわ美少女の添い寝の誘惑に耐えながら、イシュタルは決着を付けないといけないからふわわに一人で眠る様に伝えた。

これは自分が蒔いた種である。だからこそ決闘に応じなければならない、と。

ふわわも守護の獣である。イシュタルが勝てない戦いに挑むことを否定する気は無い。

だが、イシュタルを護らない理由もふわわには無かった。

 

「てつだうよ」

 

どうみても戦いには不向きそうなふわふわしたお嬢様が戦いの土俵に上がった。

 

エビフヤマはその無知さを嗤った。

だからこそ驚かして追い払ってやろう。イシュタルには親友に見捨てられたという絶望を与えられるし、

別にその美少女には何の恨みも無いという紳士的な理由もあった。

 

 

エビフヤマはその呪詛を以って、森の中に直系4.55メートルの魔方陣『オォ・ズ・モー』を召喚した。

この魔法陣の中で土に手を付けたり、円陣から追い出された場合敗者となり勝者に命運を握られる事となる。

それをふわわにエビフヤマと仲間達はかみしばいを使ってわかりやすく説明した。

そして逃げるなら今の内だ。

そう言ったのだが、ふわわは逃げなかった。

 

そして――――――――決闘が始まった。

 

ふわふわした美少女が眠そうな目でずっとエビフヤマを見つめている。

エビフヤマはふわわに得意の突進からの掌底を繰り出そうとして、やっぱり罪悪感から自分から魔方陣から出た。

うん、何の罪も無い無垢な美少女に張り手をかますような最低な事は出来ない。

 

エビフヤマにも譲れないものはあった。

エビフヤマたちは約束通りふわわとイシュタルに負けを認めた。

 

以来、エビフヤマたちはエビフ山特産品の、特殊な泉からとれるスープ、ちゃんこなべを持ってレバノンの森に遊びに来たり、

リスの男の子やキリンさんの甥っ子に遊びを教えたり、

レバノンの森の住民たちから睡眠競争を挑まれたりする仲になった。

 

因みに睡眠競争は一番早く眠りに付いた者が勝ちであり、審判が存在しないバトルロイヤルなので、

皆が寝てしまって結局勝敗の判定ができないという、中々寝ない子供を寝かしつける為にリスのお母さんが考えた尊い遊びである。




リスのお母さん「勉強頑張ったから、今日はハチミツ味のホットケーキよ?」
リスの男の子「やったー」

よかったね


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ゆんわりおしょくじ

みんなは何が好きですか?


「おい、ふわわ(オレ)が遊びに来てやったぞ」

 

あなた何様? ウルクの王様!! を地で行く、元祖(オレ)様系イケメンのギルガメッシュ。

彼はエルキドゥを連れてレバノンの森に来ていた。

ギルガメッシュはこの日、いつもより早く目が覚めたので予定よりだいぶ早く出発する事にしたのだ。

 

折角なので王都の有名菓子店のクルミパイを持ってきたのだが、お目当てのふわわは寝ていた。

まだ、お日様が昇ってそんなに経っていないので当然である。

仕方ないのでギルガメッシュは起こそうとしたが、ふわわのお姉さん的ポジションになりつつあるイシュタルに止められた。

 

「変わったな。イシュタル」

 

「あなたも変わってきたわよ? ギルガメッシュ」

 

イシュタルと言葉を交わすギルガメッシュは、美味しそうなカラメルの匂いにつられて寄って来た小鳥やハムスターたちに、

クルミパイをちぎっては分けていた。

だいぶ、彼も変わったと言えよう。

 

ふわわの軟らかそうな髪をなでるイシュタルに、若干母性的何かを意識したギルガメッシュは余計な思考を追い出す様に首を振った。

それにより、たまたま、ギルガメッシュの頭に昇ろうとしていたプレーリードックの末っ子が落っこちそうになったので、

エルキドゥが踏み外した末っ子の足を支えて、もう一度ギルガメッシュの頭の上に登らせた。

今まできりかぶより高い所に登った事の無い末っ子は、初めての高さに興奮してジャンプした。

 

頭の上でそれなりの重さのものがとびはねるのでギルガメッシュは若干鬱陶しかったが、

まあ、仕方ないので許す事にした。英雄王は寛大で素晴らしい王様である。

 

 

そんなのんびりした空気の中に、更にお客さんがやって来た。

エレシュキガルだった。お近づきの印みたいなものなのか、おそばを持ってやって来た。

ちょっと鍋が大きいのか足がフラフラしているが、それでも彼女はしっかりとこぼす事無くおそばを持ってきた。

 

でも、ふわわが眠っているので仕方が無いのでどうしようかと考えていたところ、

ユキヒョウの姉妹がもの欲しそうにするのを必死に誤魔化しているのが視界に映ったので、

 

「仕方ないのだわ、せっかく作って来た蕎麦も伸びてしまっては美味しくないのだわ」

 

そう大きく独り言を言って、冥府の女主人の権能で猫舌のユキヒョウたちの為におそばを冷やすと、

綺麗に盛り分けて姉妹たちの前にドンブリをおいた。

因みに、冥府の権能、エレシュキガルの秘儀の17番。その名は『ふーふー』。

熱いものを息で冷やす御業である。

 

ユキヒョウの妹の方はドンブリで食べるのが苦手なようで少々お汁をこぼしていたが、

顔に付いたお汁はお姉ちゃんが舐めて綺麗にしていた。

 

そう言えば昔は私達もこんな時期があったかしら?

いや、顔を舐めたりしたことは無いけれど。

 

エレシュキガルはふとイシュタルの方を見ながらそういう事を考えていた。

そんなことは無かった気がするし、無かった気もする。

でも、良いのだ。思い出はこれまでだけのものでなく、これからのものだってあるのだから。

 

エアやエンリルたちもやってきて、特上の米の醸造酒やトウモロコシの蒸留酒を持って来ていたが、

ふわわにそれを飲ませてはいけないと反対する者達によって、それは叶わなかった。

それで落ち込んでいた神々に、マントヒヒのおじさんが「まあ、そういうこともあるぜよ」と煮ピーナッツをわけていた。

お酒のつまみとして凄く美味しかったので神々の気分は元に戻った。

 

 

そうこうしている間にふわわは目覚めた。

そして彼女のお腹が、ぐぅと可愛く鳴った。

 

でも、食べる物は全部みんなのお腹の中にあった。それは仕方ない。

ふわわはポケットを探った。だが、何も見つからなかった。

ふわわは少し悲しかった。みんなも少し悲しかった。

 

 

その時、救いの女神が現れた。

 

「みんな、ごはんだよっ」

 

ティアマトがおふくろの味がする優しいシチューが出来たのだと教えてくれた。

みんな笑顔になった。やっぱりおかあさんのシチューは美味しいね。

 

アプスーは無言で頷いていた。

ふわわも、イシュタルも、ギルガメッシュも他の皆もみんなお皿を空にしていた。

まだまだ、シチューは残っている。だから、こう言うのは必然だった。

 

 

 

 

「「「「「「おかわり」」」」」」




お母さんの料理はどれもおいしいよ。


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ゆらゆらこーひぃぎゅーにゅー

ごちゅうもんはこーひぃですね。
ミルクは入れますか?
シロップはどうですか?


淡水の神アプスーは神々のお父さんであり、みんなのお父さんである。

美味しい水にこだわる偉い神様である。

 

だから毎日気が向いたら新聞を読むし、コーヒーを飲んでいる。

みんなのお父さんだからである。

ちなみに、ればのんしんぶんは不定期発行で、チーターの夫婦がひまつぶしに作っている。

内容は、明日が天気だったらいいな、とか、そろそろ新しいドングリの時期だとか、そういう内容である。

 

レバノンの大人たちには割と好評である。

 

 

アプスーが何となくふわわの方を見ると、

ふわわはアプスーが飲もうとしていたコーヒーの入っているマグカップをじっと見ていた。

 

「…飲むか?」

 

アプスーの問いかけにふわわは頷いた。

アプスーと同じくコーヒーが大好きな息子の水神エアは、ふわわの為にコーヒーを用意した。

いわゆるすごーいバリスタであるエアは、コーヒーの豆を絶妙な煎り加減とひき加減で準備した後、

初心者向けに、今回は敢えて雑味を無くすために、細かい布でコーヒーを抽出した。

 

 

 

かくして、生まれて初めてコーヒーなるものの味を覚えたふわわは、こう告げた。

 

「…にがい」

 

ふわわにはコーヒーは苦すぎた。

仕方が無いなと、ぶっきらぼうに言い放った嵐の神エンリルがミルクを持ってきた。

かつて海水と淡水が混じった様に、大いなる風が合わさり渦を巻いたように、

スプーンがコップの中に作る渦で、コーヒーとミルクが混じり合う。

 

エンリルは序にさりげなく用意したミルクに、僅かに砂糖を入れていた。

ツンデレ的な気遣いの一種である。

 

 

ふわわはコーヒー牛乳にクラスチェンジした飲み物におそるおそる口を付けた。

そしてその飲み物がふわわの口の中を通り、のどに流れた途端、ふわわの表情はパァッとあかるく輝いた。

 

「おいしい」

 

アプスーも、エアも、エンリルも思わずニッコリした。

エンリルはおかわりのコーヒー牛乳には砂糖の代わりに、モミの木のはなのみつを入れた。

 

ふわわにはこの味はもっと美味しかったようで、ふわわの表情はきらきらした。

せっかくなので、ふわわはモミの木のはなのみつを直接なめてみた。

ふわわの表情はぴかぴかした。

 

 

さて、コーヒーを飲み過ぎると大抵ある事態に陥ってしまう。

 

「ねむく…ない?」

 

ようするに、そういうことだ。

いわゆるコーヒーの成分カフェインが眠りを阻害するのだ。

これによってふわわはいつものように、食べたり飲んだりしたあとなのに眠くなかった。

まあ、睡眠なんて眠い時にとればいいし、無理矢理眠る必要も無い。

明日にいろいろ仕事が控えているなんてことも無いのだ。

 

だから、ふわわはそんなに気にしないことにした。

 

ふわわはコーヒーのせいであんまり眠くなりにくかったので、いつもより眠りに落ちるのが2,3秒遅かった。

夢の世界ではみんなではちみつのプールでぷかぷかしていた。

 

 

つまり、どういうことかというと、――――結局すやすやと寝た。




みるくもしろっぷもりょうほうおねがいします。


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ゆるりとしまい

やさしいおねえちゃんはすきですか?


イシュタルは姉妹の妹の側だ。だからこそ、お姉ちゃんと言う存在に少し憧れを持っていた。

お姉ちゃんになってみたい。でもそれには妹か弟が必要だった。

 

かつては彼女に色を帯びた目を向ける男達と、彼女に嫉妬する女達。

イシュタルはおおよそそれらばかりを視界におさめてきた。

勿論、彼女自身にもそうなる原因が無かったわけではないし、

それが原因でいざこざが無かったともいえない。

 

そんな彼女は今、おともだちのリスとペンギンとライオンとウサギと鬼ごっこをしている妹分を優しく見守っている。

かつて彼女は大人として生きるしかなかったが、今は大人として楽しく生きている。

そんな尊い日常を与えてくれた妹分と、妹分のくらす森にそれとなく感謝の念を感じていた。

 

最近は、かつては見向きもしなかったゆるやかな生活こそに、大切さを感じている。

不思議な話だ。懸想する男の為に激情を持って神座を棄てたのに、

今ではゆるやかな感情で男以外の者も大切に思っている。

 

 

そろそろ、妹分のふわわたちが遊び疲れるころだからと、イシュタルはどんぐりとオレンジジュースを用意する事にした。

なぜかレバノンの森では年中実っているみかんをイシュタルは絞り始めた。

種は場所を見繕って撒いて、みかんの皮は砂糖水で透明感が出るまで煮込んでおやつにする。

かつてはおやつの作り方なんて知らなかった。貢がれることはあっても、手作りのおやつを自分で作る事は無かったのである。

 

尽くされることを期待せず、尽くす。

かつての自分ならその姿を惨めだと嘲笑っただろう。

だが、媚びる為でなく、自らの心の内に従ってやりたいことをしているだけだ。

今のイシュタルならそう言えた。

 

 

イシュタルは用意したおやつを遊び疲れたこどもたちに振る舞った。

もちろん、食べる前に手を洗うようにいう事もちゃんとわすれない。

ここはレバノンの森なので食中毒なんてものは無いが、それはそれ、これはこれだ。

手を洗った子たちは、みんなでイシュタルの作ったオレンジピールのおかしを美味しく頂いた。

 

そろそろ夕暮れになる時間がやってきたので、

どうぶつたちとバイバイして帰って来たふわわとイシュタルは温泉に入って体を洗ってあげた後、

おふとんで一緒に寝る事にした。

 

 

妹分の世話をするイシュタルは、それ故にしっかり『イシュタル』でいなければならない。

大人として『いしゅたる』では務まらないとイシュタルは考えていた。

でも、

 

「おねえちゃん、だーいすき」

 

そう寝言を呟く、可愛い妹分を育んだ優しい森の中なら、少しだけ『いしゅたる』でいてもいい。

そんな気がした。




やさしいおねえちゃんはにんきものです。


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とくべつばんがいへんっ!! ふわふわしょうがくせい~かるであがくえん しょとうぶ~

この作品は本編とはあんまり関係ありません。
それと少々難しいかもしれませんが、特に難しい事を考える必要はありません。


「ふわわはね、きょうからにねんせいなの」

 

きいて、きいてっ、とお姉さんのイシュタルのエプロンのすそをつまみながら、ぴょんぴょんととびはねる、

ふわふわふわわ 7歳。

ふわふわは漢字で書くと不破々々と書くらしいけど、

かるであ学園では色々な国籍の子供たちがいるので、初等部では無理に漢字を使う必要はないようだ。

そんなふわわは、イシュタルお姉ちゃんに、

「そうね。でも、今は料理中だから少し待っててね」

と言われていた。ふわわは、ちゃんと言われた通りにした。ふわわちゃんはよいこである。

 

かるであ学園の卒業生であるイシュタルお姉ちゃんや、双子の姉のエレシュキガルお姉ちゃんを見るに、

高等部、もしくは大学を卒業するころには、数ヶ国語がペラペラになっている。

おともだち同士で言葉を教え合うのだ。楽しく学べるならその方が絶対に良いに決まっている。

無理に詰め込まなくても、ゆとり多く生きて行けば自然に何とかなる良い例であった。

 

そんな訳で、かるであ学園は今日もゆとり教育の最前線でゆるゆるのゆるゆるである。

 

 

今日の朝ごはんはどんぐりを粉になるように挽いて、焼いて固めたスコーンと、クロワッサン。そしてコーヒー牛乳である。

驚く事に、クロワッサンも手作りである。もはやいつでも嫁に行ける腕前だ。

因みに、昼ごはんはみんな大好きオムライスをティアマトお母さんが作ってくれる予定だ。

勿論、ちゃんとオムライスの旗は用意してある。

昨日の内にエレシュキガルお姉ちゃんが作っていた。

 

 

イシュタルお姉ちゃんはここ最近、どんどん料理の腕を上げている。

これも、高等部になって、給食からお弁当になった事で、

 

「どうして(オレ)がお弁当を自分で作らなければならぬ((オレ)、作ったことないぞっ!?)」

という、現在両親が海外旅行中の家事スキルが残念で、少々わがままな同級生の男の子に、

 

「全く、仕方ないわね(うきうき)」

 

とお弁当を作る事を承諾した事もそれなりに大きい要因だろう。

つい最近、『学園の女神』と呼ばれていて、

「私は女神なんかじゃないわ。ただの女の子よ」と宣言した美少女にお弁当を作って貰える男子に、

嫉妬ビームが飛んでいそうなものだが、実はそんなでも無い。

以前から家族ぐるみのお付き合いをしていて、男の子がふわわを自分の妹の如く肩車をしていたりする姿が知られているのは大きかった。

 

余談だが、美形すぎて性別があんまり良く解らない(オレ)様系男子の親友は、

友の恋愛サポートを欠かさない出来た友人で、恋愛シュミレーションに一人は欲しい頼れる相棒ポジションである。

 

 

 

 

さて、朝ごはんが丁寧に盛り付けられる。

ごはんを食べる前に、両手を合わせて頂きますを忘れるような事はない。

みんなで両手を合わせて頂きますを合掌した。

もちろん、食べ終わった後のごちそうさまも忘れない。

 

ごはんを食べた後は必ず歯を磨く。

ペットの牡牛の鳴き声で起きた後にも、歯を磨く。

ふわわはちゃんと手を洗ったり、歯を磨いたり、うがいが出来る良い子なのである。

 

 

お父さんが、仕事場に向かうのをお見送りしてから、こども達も学校へ向かう。

お母さんはその間お掃除とかを頑張ってくれている。お互いに感謝を忘れない事が夫婦仲良くの秘訣である。

因みにお父さんのお仕事は天然水の販売会社の社長さんである。とても凄いのである。

 

 

「ふわわちゃーんっ!!」

 

お母さんに手を振った後、家を出たふわわの元に同級生であるナーサリーライムちゃんやジャックちゃんが走ってくる。

後、少々背伸びがしたいお年頃で走っていくのが恥ずかしいのか、体力が無いのかわからないアンデルセンくんもいた。

因みに、アンデルセンくんとジャックちゃんは兄妹なのだ。

お兄さんのアンデルセンくんは将来作家になるんだと言っていて、考えたカッコいいワードを日記帳の中に書き込んでいる。

以前、ふわわも日記帳を見た事があるが、難しい外国語や、難解な言い回しが多くて良く解らなかった。

妹のジャックちゃんはブロック遊びの天才で、ブロックをバラバラにしたり組み立てたりするのがとても得意なのである。

後、プラレールやトミカのレールや道路の組み立ても上手だった。

お母さんのキアラさんにも良く褒められているようだ。

また、ナーサリーライムちゃんは絵がとても上手なので、将来アンデルセンくんが童話作家になったら絵を描いてあげるつもりらしい。

 

その他にも、ふわわたちのお友達や、イシュタルたちの同級生と一緒に学園の門までどんどん人が増えながら、

でも、ちゃんと歩道をはみ出ない様に交通ルールを守りながら登校した。

道路を横切る時は年長者が前後で黄色い旗を上に上げて、横断歩道を渡る事も忘れない。

学年が変わると、門をくぐる気持ちも新鮮になる。

 

学園の名前が書かれた突起の無い優しい設計の門がみんなを待っている。

スカートのプリーツはあんまり乱さないように、

白いセーラーカラーはそれほど翻さないように、

ゆったりふわふわと歩くのがここでのたしなみ。

私立かるであ学園。

ここは、ゆるふわの園。

 

 

 

 

「おはよう。まずはみんな、進級おめでとう」

 

1年生の頃から引き続き、担任のゲーティア先生がみんなに挨拶する。

 

「「「「「おはよーーうございまーーす」」」」」

「「「「「ありがとーーございまーーす」」」」」

 

妙に間延びした初等部特有の言い方で、こども達も先生に挨拶する。

ゲーティア先生は、赴任してきた時には真面目で融通の利かない所もあり、他の先生と衝突した事もあったような気がしたが、

今では随分と丸くなって、みんなに好かれる良い先生である。

 

 

「今日の初等部の授業は半日で、お昼からお休みだ」

 

やったぁ。

元々知っていたはずなのに(忘れていた者もそれなりにはいた)、喜びの声を上げる生徒たち。

実に素直で可愛らしい。

 

 

初日なので、授業も何時もに輪をかけてのんびりとした感じだ。

休み時間になる度に、休みの間の事を話したり、休み気分でのんびりしたり、やる事が色々あるのでそれで良いのかも知れない。

 

かくして、午前中で授業が終わり、帰りの会をして先生にまたしても間延びした声でさようならをした後、

ふわわは帰る事にした。

おともだちのアンデルセンくんたちは図書館に行くらしいので、今日は別々にお別れだ。

どうやら、ナーサリーライムちゃんの話では、司書のキングゥさんがカッコいいらしい。

なんでかはふわわにはわからないけれど、その話をしている時にはアンデルセンくんは少しムスッとしていた。

大人になれば、ムスッとしていると婚期を逃してしまうこともあるが、彼はまだ少年だ。生涯独身でいるつもりは無い。

 

 

 

そんな理由があって、ふわわが1人で帰っていると、突如見覚えの無い筈なのに、とても、とてもなつかしい森の中に迷い込んだ。

いや、入り込んだ。迷ってはいなかった。

ふわわにはその森の隅々までとたんに知っているような気がした。

木々の上を見ればリスたちが駆け回り、ふわわの肩に飛び乗ったり、くびすじをペロペロしたりしてきた。

ペンギンやハムスターたちもかけよってきて、ふわわの同年代の中では長い足に頬ずりをしていた。

普通に考えたら、ペンギンとハムスターが同じ環境にいる筈はないのだが、

ふわわにはそんな難しい事はわからない。

それに、むずかしいことはむりにかんがえなくてもせかいはまわるのだ。

 

ふわわがおともだち(・・・・・)のどうぶつたちとあるいていると、

ひらけたばしょで、ふわわにとてもよくにたしょうじょがねむっていた。

みためのねんれいはふわわよりもすこしおとなだった。

 

ふわわが、

「あなたは?」

 

そうきこうとしたのとどうじに、そのしょうじょもねごとでおなじことをいっていた。

もしかしたら、このせかいはふわわのゆめのなかなのかもしれないし、

むこうのふわわのゆめのなかのせかいにふわわたちがいるのかもしれない。

 

そんなむずかしいことをかんがえていたら、―――何時の間にかふわわは見覚えのある通学路にいた。

ふわわは先程の不思議な世界の事を難しく考える事はせず、お昼ご飯を作っているお母さんが待っているお家へ帰る事にした。

それに理由なんてない。あえて理由を言うとすればふわわのお腹が鳴ったということぐらいだ。

 

「ただいまー」

 

「ふわわちゃん、おかえりっ」

 

お母さんの声と、オムライスのいい匂いが家の中からふわわの方にとんできた。

ふわわは家の中に入ると、きちんと靴を揃えて置き、両手をしっかり洗ってうがいもした。

 

ふわわは、制服から着替えると、お母さんの美味しいオムライスを「いただきます」の挨拶を忘れずに食べる事にした。

ふわわは、オムライスの上の旗を見て目がキラキラした。

お母さんとお姉さんの合わせ技一本の勝利である。

尚、敗者はいない。みんなが勝ったっていいじゃない。ここはそういう世界である。

 

 

ふわわは、ごちそうさまの後、食べ終わったお皿をお母さんの所へ持っていくと、お母さんはふわわを褒めてくれた。

後片付けのできる子は良い子なのです。

 

ふわわはおひるごはんを食べると眠くなってきたので、おふとんにはいると、すやすやと眠る事にした。

ふわわは、何処かであったおともだちとどんぐりを食べる楽しい夢を見た。




難しく考えるな、寝るんだっ!!


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ゆっくりえにっき

えにっきころりん


ギルガメッシュ。その名は人類最古の総合英雄譚の主人公の名前であった。

神の血によって生まれながら、人間らしく生きて人間らしくその生涯を全うした王である。

 

彼はその強き意志ゆえに、()の王であらんとした。

その意志ゆえに、イシュタルを初めとする神々を拒絶し、フワワを初めとする自然を破壊した。

…もしかしたらそんな歴史もあったのかも知れない。

 

エルキドゥは、知らない人が見たら双子に見えるほどそっくりな、キングゥから『天命の書版』と呼ばれる、

遥か未来にまでおける歴史と、万能の叡智を記した絵日記を借りてその事を知った。

その絵日記の中では、森の守護者フワワをエルキドゥとギルガメッシュが排し、

レバノンの森は伐採され、豊富な地下水を抑えきれなくなり自崩れを起こし、

動物は狩られ、天の牡牛は解体されて、その欠片を飼い主のイシュタルの顔に投げつけ、

人間が万物の支配者となる始まりを記していた。

 

今のゆるやかな幸せを知るエルキドゥには、その絵日記がとても恐ろしく見えた。

そうして震えている手に力が入っていなかったのが悪かったのだろうか、

前方不注意で歩いていたふわわが悪かったのだろうか、

 

ふわわがぶつかった衝撃(たいしたことない)で、エルキドゥは天命の書版を落とした。

天命の書版はころころと転がって、浅いみずうみに落ちた。

ふわわはごめんなさいをした。

エルキドゥはいいよって言った。

 

とはいえ、これはキングゥからの借り物である。

みずうみに落ちましたで終わりにするわけには行かない。

ふわわは木の棒でみずうみのふちから天命の書版を取ろうとしたが、届かなかった。

エルキドゥが木の棒でとろうとしても微妙に届かなかった。

仕方ないので、エルキドゥは身体を変形させて伸ばそうとしたが、

その前に、ふわわがワンピースのすそを縛っていた。

 

ふわわは、勢いよくみずうみに飛び込んだ。

だが、みずうみはふわわが思った以上に深かったようだ。具体的にはリンゴ1つ分くらい。

そのせいで、ふわわは転んでずぶぬれになってしまったが、起き上がったふわわは天命の書版を手に持っていた。

 

防水加工処理をしているけど、微妙に濡れてしまった天命の書版だったが、

エルキドゥは僅かな違和感に気が付いた。

ふわわにケガが無いことを確認した後、天命の書版を受け取ってその内容を読み始めた。

 

エルキドゥが天命の書版を読んでいる間、ふわわはカエルさんと遊んでいた。

 

 

さて、天命の書版の中身は、大きく書き換わっていた。

とりあえず思いっきり表紙から違っていた。王様も、民たちも、自然も動物たちも仲良く手を繋いで踊っている絵だった。

なんだか大きさも変わったし、材質も心なしかやわらかくなった気がする。

その中身を開くと、中身はすっからかんになっていた。

 

「…未来は自分達で作るということだね」

 

エルキドゥは人の驕りでは無く、神の自惚れでもなく、ふつうにいきているものとして、そうひとりごちた。

一方ふわわは、みずうみで泳いでいた。というか浮いていた。

 

「えるきどぅもおいでよ。きもちいいよ」

 

そう告げるふわわにエルキドゥは「いいとも」と快く頷くと、本を木陰において、勢いよくみずうみに飛び込んだ。




みずあそびはたのしいねっ!!
(おんどもあんまりつめたくないよ)


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ぷかぷかみずあそび

ちょっと、ゆるい系で始まるタイトル縛りは緩めました。
まあ、ゆるくしても良いよね。

あと、ちょっとハラハラするかもですが、いつものノリなので大丈夫です。


ネコという動物がいる。その語源はよく寝る子(・ ・)であるという。

ならば、ふわわはネコであると言えるのではないだろうか?

見た目はどちらかというと、ボルゾイ犬やレトリバー犬っぽいが。

 

「今日は面白いものを持ってきたのだわっ!!」

 

エレシュキガルはふうせんをたくさんもって森にやって来た。

冥界はふうせんの特産地でもあるのである。つい最近からだが。

レバノンの森にある風船の木の実が冥界の風土に思いの外フィットしたのである。

 

ぷかぷかとエレシュキガルの周囲を浮かんでいる風船に対し、

好奇心旺盛な動物たちは飛び付こうとするし、それほどでもない動物たちはふうせんを眺めながらも触ってみたくてうずうずしていた。

ふわわは後者の方であった。

 

たぬきさんの所の次女がふうせんを欲しがった。

たぬきさんの所は子沢山だ。だからここにいない兄弟の数も持って帰ろうと6つ貰おうとしたのだが、

5つめを貰った時点でたぬきちゃんは風船の軽さに負けてぷかぷかとお空に引っ張られて足が地面から離れそうなので、

おともだちのきつねちゃんがその内の3つを持ってあげる事にしたようだ。

たぬきちゃんときつねちゃんはそれぞれふうせんを3つずつ持ってたぬきさんのお家へ帰っていった。

たぬきもきつねも騙し合ったりはしない。ここはそういう世界である。

 

動物の子供たちにふうせんをせがまれるエレシュキガルは、口では少々照れ隠しのような事を言いながらも、

その表情は完全に緩んでいた。

エレシュキガルがみんなにふうせんを配り終えたころ、ウサギの女の子が泣きそうになりながら帰って来た。

その手には割れたふうせんがあった。多分何かしらかあって割れてしまったのだろう。

 

ふわわは、しばらく考えた後、

 

「ふわわのあげるよ」

 

自分のふうせんをあげる事にした。

ウサギの女の子は笑顔になった。ふわわもみんなも笑顔になった。

 

エレシュキガルはその光景を見て、少し感動した。

でも、周りの皆もニコニコしているので、ニコニコする事にした。

その笑顔の目元には優しい涙が浮かんでいた。

 

エレシュキガルは一流のそば職人でありながら、一流のふうせん職人でもある。

いわゆるデキる女であり、多芸なカッコいい女である。

割れた風船をコネコネして直すと、もう一度膨らませた。

でも、ここは空気が軽い所が多々ある冥界で無いので、ふわふわしても、ぷかぷかはしなかった。

要するにボートの様に横に長い楕円形のバランスボールみたいになったのである。

元のふうせんより大きくなっている上に、つなぎ目も無くなっている。

何度も言うようだが、エレシュキガルは一流のふうせん職人なのでこれが出来るのである。

 

折角なので、水には浮かぶだろうからみずうみに持って行って、浮かべてみんなで乗る事にした。

イシュタルもやって来た。手にはふわわの水着とバスタオルも持って来てある。

水に濡れても良い様にとの配慮である。流石はお姉ちゃんである。

 

今のふわわはビーチドレスに身を包む、避暑地にやって来た麗しのお嬢さまのようであるが、

イシュタルとエレシュキガルを除いて、避暑地のお嬢様がどのようなものか良く解るものが、この場にはいないので割愛する。

さて、ふわわが着替え終わるまでみんなが待ってくれていたので、ふわわはみんなとせーのでボートに乗った。

 

 

ボートはゆらゆらと水面に揺れる。沈む気配は一向にない。大成功である。

ボートの上にはこどもたちが楽しんでいる。

イシュタルとエレシュキガルはその様子を見ながら昔の事を語り合っていた。

 

さて、動物のこどもたちは思う存分ボートを体験してある事に気が付いた。

…岸から離れて戻り方がわからない。

 

こどもたちは困った。見ていた元女神と女神の大人たちも困った。

どうしようかと悩んでいると、水面に列に並んだ突起が特徴のうろこが見えて、また沈んだ。

そしてボートに近づいてまた浮上してきた。

その正体は巨大なイリエワニだった。

 

ボートから顔を出しているヤギのこどもが水の中に落ちた。

それを確認したイリエワニは水中に潜った。

 

暫くして水面にまたイリエワニが浮かんできた。

ヤギのこどもも一緒である。ヤギのこどもはイリエワニのお爺さんの背中に乗っていた。

ヤギのこどもはワニのお爺さんの背中の上を歩くと、再びボートに乗った。

 

その後、ワニのお爺さんが背中の鱗の引っ掛かりにボートを乗せて、熟練の泳ぎで岸まで運んできた。

余談であるが、このとても大きなイリエワニのお爺さんは、昔はバリバリだったらしい。

具体的には、キリンさんのお父さんと一緒にサーファーをしていたのだ。

因みにお爺さんはボート役である。

ふたりの前に、波など敵では無かった。あの時は水面を支配するかのようにキリンさんのお父さんは滑っていた。

――尚、今日も昔もレバノンのみずうみは波も無く穏やかで平和である。

 

こうして、ふわわたちの初めてのボート遊びは終わった。

水に濡れたこどもたちはイシュタルお姉さんとエレシュキガルお姉さんに拭いて貰うのだ。

そして楽しく遊んだら、楽しくお家に帰って、美味しくごはんを食べて、気持ちいいお風呂に入って、すやぁと寝るのだ。

人も、神も、ふわわも、ヤギも、ワニもおともだち。

ここはそんな優しい世界である。




ぷかぷかしてるとねむたくなるね。


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ぴかぴかあくせさりぃ

レバノンの女性は美しい――


おなごとカラスは昔から光り物が好きだという。

イシュタルも女の子であるから、キラキラしたものが嫌いな訳では無い。

…別に金ピカだからギルガメッシュを好きになった訳ではない事は彼女の名誉の為此処に記しておくが。

 

イシュタルは元女神である。

よってその装飾品にも安物はなく、高級品で揃えられていた。

最近はそんなに派手なものを身に着けているわけではないが、だからと言ってオシャレと無縁になったと言う訳でもない。

人間の街に出かける時にはオシャレをしていく事もある。

その理由は敢えて言うまでもないだろう。

 

ふわわはイシュタルお姉ちゃんが大好きである。

そこまで無理に背伸びはしたりしないし、する必要も無いが、

ちょっとだけ、全く無理のない範囲で背伸びしてみる事も無い訳では無い。

ふわわだって女の子なのだ。

 

いつものワンピースにどんぐりマークのアクセサリーをつけたりする程度のオシャレはする。

尚、ほんもののどんぐりで作られており、食べられるようにもなっている優れものだ。

 

もともと美少女なふわわにオシャレが加わって、無敵に見えるとはイシュタルやシャマシュの談である。

シャマシュとは誰だという話になるが、イシュタルたちのお兄さんで、天と冥府の相反二重属性と少しばかり大地の属性をも持つ、

誰かに似てギルガメッシュが大のお気に入りなチート太陽神である。

 

シャマシュはふわわのふわふわお嬢様な容姿に一目ぼれをしたが、

占いの神でもあるという職業柄行った、占い師が喋る様な難解なプロポーズがふわわには理解できなかった事と、

そもそもふわわの3大欲求が、睡眠欲、次いで食欲に大きく振られている為に効果が無かった。

第一、実の妹が最大の障壁である。守護者ふわわの守護者は強すぎた。

 

結局は、所謂おともだちからということで落ち着いたが、ふわわにとって、おともだちはおともだちであって、

それ以上の何かは無い。敢えて言うなら親友だとかそういうものにしか進化しない。

ふわわはふわわなのである。誰か1 人のふわわになることは無いので安心して欲しい。

 

 

 

ふわわは、珍しくいつもよりだいぶたくさん歩いていた。

とはいえ、本人が知ってか知らずかは何となく知らない方で見当はつくが、

森を守護するフワワの特性を考えればパトロールなどはおかしな話では無い。

 

森の中を歩いていると、ある木の根っこのところにピカピカ光る石があった。

丁度木の根っこの成長の邪魔にもなっていたようだったので、ふわわはその光る鉱石を持っていく事にした。

キラキラが似合うお姉ちゃんに持っていこうと思ったのである。

 

だが、そのピカピカ光る石だったが、イシュタルの所に持っていく前にはその光は弱くなっていた。

恐らく、そのまま放って置けば光は失われてしまうだろう。

 

もしかしたら、この石は元の所に戻りたがっているのかも知れない。

そう思って、ふわわは元の所に返しに行ったのだが、残念ながらその判断はあまり関係なかった。

途中で、光るものに詳しいカラスのお姉さんが教えてくれたのである。

 

その石は、そもそも明るい所に置いておくと、木陰とか夜とかの暗闇で少しの間だけ光る石だから――と。

ついでに、持って帰ってもいいんじゃない? 根っこに引っ掛けられても木も困るだろうし。

そうカラスのお姉さんは言った。

 

もう一度、イシュタルの所に帰った時には普段と比べればだいぶ遅くなっていた。

イシュタルにふわわはプレゼントしようとした石を見せようとしたが、その石の光は完全に失われていた。

ふわわはしゅーんとしたが、イシュタルは大変喜んで、大切にすると言った。

 

2人は遅くなったばんごはんを食べて、一緒にお風呂に入って寝る事にした。

 

 

 

イシュタルの持つ輝く装飾群の中に1つだけ地味な石ころがある。

それはイシュタルの大切な大切なたからものである。

ぴかぴか光って見えるいしよりも、心をぴかぴか光らせてくれるいしの方が、

大切なたからものなのである。




こういう時にルミナ・ストーン(蓄光石)を充光させにいかない間の悪さが、
シャマシュの恋愛が上手くいってない理由なのよ、と妹のイシュタルは語る。


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ふわふわなてんくう

神々の暴走――始まる。

※尚、いつものふわふわふわわなのでご安心ください。


ふわふわとはなんだろう。それは哲学であった。それは技術であった。それは魔法であった。

それは何でもなかった。それは――――わたあめだった。

 

ふわわは、わたあめを初めて食べた。

古代に存在したユルク、またはウルクでは、わたあめは、甘き雲と信じられたという。

即ち、天の雲は砂糖でできており、天の神々はわたあめを食べて生きているという。

 

無論、そんな事は無い。わたあめばかり食べていては身体を壊すからである。

それに女性的にも色々と問題がある。まあ、黄金の肉体美を持つ神々には肥満は無縁なのかもしれないが。

 

レバノンの森は今日も平和である。

だが、森にシドゥリという女性がやってきて、少々問題がややこしくなった。

森にやってきて、ゆるふわな美少女を見つけた彼女は、

天の国のわたあめ食べ放題なお話をふわわに話した。

無論、これはおとぎ話の類だった。

 

だが、ふわわがそれを信じて『わたあめ』なるものを食べたいと言い出した事で事態が動いてしまったのだ。

ふわわと一緒に居たオウムさんや、カピバラさんも『わたあめ』を食べてみたいと言い出した。

とてもあまくて、ふわふわっとした『わたあめ』はぜったいにおいしいはずなのだから。

 

こうなると、レバノンの森に遊びに来ている天の神々が質問を受ける事になる。

天を司るアヌ神とか、風を司るエンリル神とかが主に質問に答える事となった。

人選、いや神選が良くなかったのかも知れない。

 

子供に甘かったり、見栄っ張りだったりする2柱が、

なまじ最高神クラスの神々という立場と力を有している事が大きな問題だった。

 

彼等は、純粋な彼ら彼女らの夢を壊さない為に、そして少々の自尊心の為に、

――――メソポタミア上空の雲をわたあめに変えて、地上近くまで降ろして来たのだ。

 

ふわわは、いつもより色が濃い雲にさわると、手にべっとりと着いた甘い匂いのするそれをゆっくり口に含んだ。

 

 

 

「――おいしいっ」

 

ふわわの目はきらきらした。

周りでも動物たちが顔や前脚にわたあめを引っ付けながら、

きらきらおめめでおいしそうにわたあめを食べていた。

レバノンの森の外の人々も、その恩恵にあずかり、天の神々への感謝と尊敬を益々深めたという。

 

メソポタミア中をふわふわにして、ところどころベッタリにしたわたあめの雲は、夜遅くなると普通の雲になって天に還っていった。

夜遅くまでおかしを食べるのはあまりよくない事だからだろう。神様はまじめなのである。

 

 

メソポタミアに住まう者達は、その夜、ふわふわで甘い夢を見たという。




北風が太陽に負けた理由がハッキリとわかるよね。


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すやすやえいぷりるふーる

楔の役目は達せられず、人々と神々は別たれる――――
余所のFate世界ではサービス残業に次ぐサービス残業で疲れ果てて、
実家に帰って来たしりあすくんが、
おふとんでゆっくり寝て元気になったようです。快復おめでとう。


あっ、もちろんいつもどおりの優しい世界なのでご安心ください。


「本来、フワワという生き物はとても恐ろしいものなんだ」

 

天命の書版を読んだことのあるエルキドゥに良く似た容姿のキングゥは、ギルガメッシュにそう告げた。

 

「アレが、恐ろしいだと? ははは、お前は我が友に似ているが、

たいそう臆病なのか、たいそう冗談が好きなのだな」

 

ギルガメッシュはそう笑った。

 

「友よ、お前はこの発言をどう見る?」

 

そして、エルキドゥにスルーパスを出した。

ギルガメッシュとエルキドゥは例えるなら翼くんと岬くんである。

パスの取りこぼしなどそうそうあるはずも無かった。

まあ偶にはあるが、その時には笑って許してあげるのも大切だ。

 

 

「…ギル、残念だけど彼の言っている事は間違ってはいないんだ」

 

だが、エルキドゥはキングゥの意見をそのまま肯定した。

ギルガメッシュはそれを受けて、

 

「何だと? …二人して(オレ)を謀ろうとしているな?

嘘が許される祝日は、恐らく四千年後位にしか作られないぞ?」

 

ギルガメッシュは双子のような容姿の二人が自分をからかっているのだと認識していた。

 

 

だが、エルキドゥも天命の書版を読んだことがあり、決して嘘のつもりは無かった。

だから真剣な表情のまま告げる。

 

「神々の森を護る、神々に人々に恐れられる事を定められた完全な人間。

完全を自認して、不完全な人々の守護者たる君の怨敵だ。

そして――――いや、やめておこう」

 

本来は、ギルガメッシュはフワワにビビりまくって、エルキドゥのがんばれ、がんばれ、という応援でようやく立ち向かえた事など、

敢えて言う必要も無かった。そこまでKYになったつもりは無かった。流石は結びつける楔として生まれただけはある。

 

もう一つ言わなかった事がある。本来はフワワに止めを刺す様にギルガメッシュに告げたのもエルキドゥだった。

そして、雛鳥はさえずりを失い、木々は伐採され、土砂崩れと洪水がウルクを襲うのだった。

 

だが、その可能性を知らず、今のふわわしか知らないギルガメッシュからすれば、

ふわわこそ、『全ての人々に恐れられる事の無い者』である。

 

(オレ)とふわわが殺し合う?

寧ろあの(・・)ふわわとどうやったらそうなるのか、説明が出来るのならして貰おうではないか?」

 

エルキドゥとキングゥはその問いの答えを探す事が出来なくて黙り込んだ。そして見合わせて笑う事にした。

「からかってごめんね」と。

ギルガメッシュにはそもそも探す必要が無かった。

知らぬゆえに、なり得なかった可能性に気が付かない。

だが、それで良いのである。

今現在、ふわわはふわふわしている。だから、ふわふわしていないフワワの事を考えるだけ無駄なのである。

 

知り得ぬ無知は時として、知り得る叡智を超える賢者となる。

無論、『全てを見た人』という原題を持つ『ギルガメッシュ叙事詩』の主人公たる彼は無知とはかけ離れているのだろうが、

起こり得なかった可能性に怯えるような無様な賢者よりは、知らぬ事で前を向ける賢者に近かった。

 

寧ろ、別の可能性の中の自分に罪悪感を覚えるエルキドゥが、繊細過ぎるだけなのだ。

記された物語の登場人物である操り人形で無く、

自らの意志で歩く真の人間であるために神々と決別したギルガメッシュを友とした事を喜んだことを、

エルキドゥは一連の会話の中で改めて思い出した。

 

 

 

エルキドゥは、人と神を結ぶギルガメッシュを、神と結ぶ役割を与えられて生を受けた。

結局その任務は失敗したと言っていい。

今、――――人々は神々と別たれて行っている。

 

 

 

だが、別れると言っても様々な形がある。

喧嘩別れもあれば、仲良く別れてまた明日という事もある。

親殺しと言う決別の形もあれば、親から独立の門出を祝われる形もある。

 

人間だから劣っている。神々だから古臭い。

その様に別れるなら、神話の親殺しの様な、冷たく激しい別れもあるだろう。

新たな支配者となる為に、人間は旧き支配者を殺さなければならない。

 

だが、みんな違ってみんな良いと認め合えるからこその他者としての別れであるのなら、

そこにどんないざこざが起きようか?

親元を離れて、いずれ誰かの親になる為に、家庭を出て新たに作った家庭に入る事に如何なる悪があると言おうか?

 

 

人間は一人立ちできるまでに成長した。ならば神に対等な大人として語り合い盃をかわし合う事もできるだろう。

成人になった子と親が祝いの酒を飲むように。

時折、親が子ども扱いしても、子どもが背伸びをしても、そこには優しさがあるのだ。

 

優しさから生まれた行動は優しさに還る。

ここはそんな優しい世界だ。

 

 

エルキドゥはその優しい世界の中で、かつて受けた定めとは良く似ていて、どうにも違う決意を改めて誓ったのである。

 

僕はただのエルキドゥで、ただのギルガメッシュや、ただのふわわたちの友達だと。

鎖で無く、握手で結び合おう――と。

 

 

 

今日もメソポタミアの空は気持ちいい。

僅かにひんやりと冷える感覚からして、今日降りて来ている雲は親友(ギル)も大好きなソフトクリームだろう。

しかも僅かに黒い雲からして、あんみつの混ぜ合わせだ。

空を見上げたエルキドゥは、なんとなくそう思った。




此処は優しい世界。黄砂が飛ぶなんて事は無く、
ソフトクリームの雲に、きな粉が被さってやってくる。


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ふわふわふわわ

ゆっくり眠って、元気になったシリアスくんが、辞表を出す前に最後のお仕事をすることにしたようです。


ふわわは眠る事がとても大好きである。

どれくらい好きかというと、とてもとても大好きなのである。

 

ふわわの夢の中はいつもふわふわしている。

優しくて、柔らかくて、ふわふわした温かい夢なのである。

 

だけれど、時折少しさびしい夢を見る時がある。

ふわわは起きた時にその夢を覚えてもいないし、無理に思い出そうと悩む事も無いけれど、ちょっと寂しかった気がするのだ。

 

ふわわが起きている世界では、みんなが仲良く楽しく生きている。

時折けんかもするけれど、ごめんなさいで仲直り。それがればのんのもりから広がるともだちの輪である。

 

寂しい時もあるけれど、最後にはみんなニコニコ笑って終わるのだ。

だから、ふわわの夢の中に寂しさがあるなんて何かの間違い――――では無かったのである。

 

 

確かに『寂しい』は時折ふわわの夢の中に表れていた。

それは何だったのか、ふわわは少しだけ真剣に夢の中で考えてみた。

 

ふわわの『寂しさ』の正体。それは―――――――『フワワ』だった。

 

 

 

夢の中で繋がる幾つもの別の世界のフワワ。

自然の守護者として、神々の所有物として、人々の王と争い敗北し、滅んでいく。

友に裏切られ、神々に失望され、人々に踏みにじられる。

そして全てがバラバラになっていくのだ。

 

フワワ達は、その結末を『寂しい』と感じていた。

だがフワワ達に全く非が無かったかと言えば、そうでは無い。

自然の側の人間であるフワワは、文明に生きる人々を拒絶していた。

互いに拒絶し合って、独り占めし合って、奪い合う。その結果敗北と言う結末があったというだけだった。

 

だが、その全てのフワワ達はその命の消え去る間際、儚い夢を見た。

夢を、見てしまった。

 

 

誰もが縛り合うことなく、手を繋ぎ合う優しい夢を。

だからこそ、怒りでも憎しみでもなく、その優しい世界と同じように在れなかったことに『寂しさ』を感じてしまったのだ。

 

 

 

ふわわは、その夢を起きた後も覚えていた。

だから今度こそ、その夢をふわふわにするためにもう一度寝ようとした。

だが、眠れなかった。コーヒーを飲んだ時のように、いや、その時よりも眠れなかった。

 

それは、ふわわが寂しい夢をもう一度見る事を恐れていたからに他ならない。

ふと、周囲を見ると、イシュタルが心配そうに見ていた。

それはふわわが暗い表情をしていたからだ。

 

「だいじょうぶ、だよ…」

 

ふわわは、そういうともう一度寝ようとした。

でも、体が震えて眠れなかった。

かつて、自然そのものの守護者であったフワワは、全ての人々を恐れさせる側であったフワワは、

自分の夢にさえ怯える弱さを知ってしまった。

 

ふわわは困った。

だから頼る事にした。ふわわは弱くなったかもしれないが、独りではなくなった。

大切なみんながいるのだ。

 

ふわわは不安の正体をイシュタルに打ち明けた。

イシュタルも一生懸命考えたが、答えは見つからなかった。

だからイシュタルはエレシュキガルに相談した。

エレシュキガルも一生懸命考えた。

 

それでも答えは見つからなかった。

エレシュキガルもまた別の者に相談して、その者もまた別の者に相談した。

結局、かみさまも、にんげんも、どうぶつたちも、それいがいのものたちも、

めそぽたみあのみんなでかんがえることになり、みんなでいろいろかんがえたけっか、

みんなはなんだかねむたくなってきた。

 

みんなでおたがいにてをつないでみんなでねむった。

ねむるちょくぜんにかみさまたちが、みんなではいれるような、

おおきなおおきなくものおふとんをよういした。

 

 

夢の中にはたくさんのフワワたちがいた。

その誰もが寂しそうで、羨ましそうだった。

今までのふわわならその寂しさが伝染して、夢の中から逃げていったかもしれない。

でも、今ここにはふわわのたくさんの、たっくさんのおともだちがいる。

 

もう寂しくなんてないのだ。

ふわわのたくさんのおともだちは、沢山のフワワ達の手を取った。

皆、みんなおともだち。

 

たのしくてやさしくてふわふわするおともだち。

 

夢の中のフワワたちは心がふわふわしてきたので、みんなえがおになった。

 

 

 

えがおになったふわわたちは、それぞれの世界へ帰っていった。

喧嘩しているギルガメッシュ達と、仲直りの握手をするために。

おともだちになるために。

 

 

 

えがおとあくしゅで、ともだちのわはどんどんひろがっていく。

もりのなかへ、ちいきのなかで、ほしのなかで、そしてべつのせかいへと――――。

 

 

そうやってみんながゆるゆるのふわふわのやさしいせかいのおともだちになるのだ。

これはそのはじまりのはじまり。そんなゆるゆるでふわふわのやさしいものがたり。

 

おしまい




これで一応最終回。
もしかしたら、番外編的な追加があるかもしれませんが、一応はおしまいです。
でも、ふわわたちのものがたりと、ともだちのわのひろがりはおわりません。
それではみなさまよいゆめを。


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