戦姫絶唱シンフォギアー想いが貫くその先にー (saver)
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第1話「ゲイボルグの少女」
それとAXZ見終わった後に一期から見直してたら唐突にティン!ときたから書いただけなので、続くかどうかは期待しないでください。
思いつきを数字で語れるものかよ!
考古学者のパパとママは優しい人だった。
パパは厳つい顔と声ををしてたけど、その口で語り聞かせてくれたお伽話や神話が大好きだった。
ママは仕事一辺倒で家では失敗ばかりだったけど、いつか食べたフレンチトーストの味は今でも覚えているくらい暖かい味だった。
2人はいつも仕事で忙しかったけど、偶に発掘現場へ連れて行ってもらって、発掘物について教えてくれる時に見せるオモチャを買ってもらった子供のようなパパとママが大好きだった。
ーーだけど13歳の誕生日、手作りのペンダントを貰ったその日、全ては炎の中に消えて行った。
ある日から、思い出が消えていった。
大事にしていた骨董品も、発掘現場の悪路を越えた四駆も、読み込みすぎてボロボロになった辞典も、3人で座って映画を見たソファーも、テレビも、思い出がどんどん消えていった。
お金がないの、とママは言う。
社会が不安定なんだと、パパは言う。
EU連合失陥ーー他の国では、そんな風に呼ばれているらしい。
綺麗だった街並みも、優しかった人達も変わってしまった。
街は座り込んで俯く人、自棄になって酒を飲む人、喧嘩をする人、ものを盗む人、そんな荒れた人々で埋め尽くされた。
ママと通った本屋さんも、パパと買い物に来たスーパーも、花屋さんも、服屋さんも、何もかもが無くなった。
そんなある日、私は13歳の誕生日を迎えた。
ここ最近では考えられないくらい豪華な食事を3人で食べて、2人で作ったのだというペンダントを貰った。
私にかける声はいつになく優しくて、向けられる笑顔はいつになく暖かい、大好きな歌をみんなで歌っている時も、その裏に深い悲しみがあるのは分かっていた。
私は、それとなく死を察知した。
パパが、夕飯の食材と一緒にガソリンをいっぱい持って来たのを知っている。
ママが、仕事仲間に向けた手紙をいっぱい書いていたのを知っている。
食後に飲んだ紅茶に、睡眠薬が入っている事も知っている。
パパはいつになく必死になって、エアコンが使えなくなっちゃったからと誤魔化した。ウチには暖炉もストーブも無いのに。
ママは手紙の中身を見せまいと必死になって、ただの定期報告だと偽った。いつもはそんなことしてないくせに。
ママが入れてくれた紅茶はいつも渋くてミルクと砂糖を入れないと飲めないのに、その日はいつになく美味しくて、ちょっぴり薬の味がした。
全部知っていたけど、私は受け入れた。
パパとママと一緒なら怖くないと思ったから、微睡みの世界に落ちるその直前に「おやすみなさい」ではなく「また会おうね」と言った。
いつか来る幸せを夢見て、天国でまた会おうねと言ったのだ。
私はそれで良かった、これ以上街が、人々が、パパとママが苦しむのを見たくなかったから。
誰かが言った、世界はこんな筈じゃなかった事ばっかりだ、と。
本当にその通りだと思う。
ーーなぜなら、私は生き残ってしまったのだから。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ーー2年後
「ーーハァッーーハァッーーも、もうーー」
「だめ、早く走って!諦めたら死んじゃいますよ!」
日本は東京近郊に存在する都市、国内屈指の音楽学校である私立リディアン音楽院のお膝元でもあり、2年前の大規模なノイズ襲撃事件から復興したばかりの大型複合施設である巨大ドームが見下ろすこの街。
時は夕暮れ時、落ちかけた太陽が辺りを赤く照らしはじめた頃、海沿いの街道を走る幾つかの影があった。
「ーーハァッーーあぁっ!」
「大丈夫ーーじゃなさそう……」
そのうち二つの影は女性だった。
2人とも全身煤だらけで、1人は溝に躓いて転んでしまい、足を抑えて蹲っている。
もう1人は特徴的な藍色の制服を身に纏った眼鏡の少女だーー名を、
「私のことはいいから、あなただけでも!」
「そんな寝覚めの悪い事出来ませんよ!」
その様子は必死そのもので、まるで何かから逃げているようだった。
「ッ、ノイズが!」
「……!」
そして二人の女性以外の影、それは
色鮮やかでファンシーな見た目とは裏腹に、人間のみをピンポイントで狙って襲い、触れた人間を炭素分解してしまう世界共通の敵でありながら出現パターンも、元凶も、その一切が不明。
位相差障壁という特殊防護壁の存在により、既存兵器で有効なダメージを与えるには攻撃の瞬間を狙うか、障壁による減衰率を大幅に超過した大火力攻撃が必要である。
しかし、時間が経てば勝手に消える為、人々はノイズが出現すれば遠くに逃げるか息を潜めて隠れるしか方法がない。
「こうなったら、おぶってでも……!」
だが、転倒して足を怪我した女性に、もう走ることは叶わない。
平均よりも少し高い身長を有する彼女であっても、成人女性を背負って走る、ましてや疲れなど知らないであろうノイズからの逃走など無理だ。
「死んじゃったら、何もかも終わりなんだから!
伝えたかった事も、やりたかった事も……!」
それでも少女は諦めない。
走り疲れて乳酸の溜まった足は言う事を聞かなかった。
せめてもと、無駄だと分かっていても、少女は女性の前でノイズに立ち塞がる。
「だから、だから……!」
少女は諦めない。
少女は、世界は無情だと知っている、どんなに頑張っても報われないものがあると知っている。
だからこそ、少女は諦めたくなかった、それ以上に知っているものがあったからだ。
どんなに無情でも、どんなに報われなくても、この心に嘘をついてはならないと。
「だから、最後までーー」
この心だけは、この信念だけは、貫かなければならないのだと。
ーー生きるのを諦めないで
その時、声が重なった気がした。
咄嗟に紡いだのは、いつか叩きつけられた言葉。
「ーーえ?」
それは、聞き覚えのある暖かい声。
それは、両親が死に、迎えてくれた親戚すらも失い、失意に沈む私を包んでくれた、あの声。
大切な親友がくれた、言葉だった。
「ーー
続いて鳴り響いたのは、己の内に語りかけるような、心の奥底から溢れるような、そんな声ーーいや、これは"歌声"だ。
周囲のノイズが一様にして空を見上げる。
そこに居たのは、黄色と黒のスーツに身を包んだ親友の姿だった。
「ハァァアアーー」
彼女は遥か上空から白い籠手に包まれた拳を振り上げ、眼前に迫ったノイズを粉砕する。
「ーーでヤァッッッ!!」
続いて上段回し蹴り、後ろ蹴り、正拳突き、肘打ち、優しい彼女からは考えられないようなーーいや、最近何か特訓とか言ってトレーニングをしていたが、まさかこの為に?
「ーーフッ」
まるでカンフー映画の主人公のようなポーズを取り、ノイズに立ちはだかるその姿。
ウェーブがかった明るい茶髪を靡かせ、凛とした目付きで敵を見据えるその姿。
見間違うはずもない、彼女は私の親友ーー立花響だ。
「ひ、ヒビキ……?」
「ごめん唱、今は事情を話してる余裕、ないんだ……でも、必ず説明するから!」
「えっ、ちょ……!」
それだけ言って、響は駆け出していく。
ーーノイズへの対抗手段は現時点では殆どないのではなかったのか?
ーー何故ノイズに触れる事ができるのか?
ーーあの姿はなんなのか。
唱の頭に疑問が浮かんでは消えていく。
しかし、そんな事はどうでも良かった。
「ーーエナジーよッッッォォォオオオオオオ!!!!!!!」
「す、すごい……」
響は歌っていた、ノイズが弾け飛ぶ音、道路が砕ける音、響の拳や蹴りが空気を裂く音、この世界の音、それら全てがメロディーとなって、一つの音楽を奏でているように感じる。
そんな光景に見惚れていたからだろう。
すぐ横に迫る大きなノイズの存在に、ギリギリまで気がつけなかったのは。
「唱!」
「ーーッ!」
巨人のようなノイズが振りかざした腕を回避する事はできたが、大質量から発生する衝撃波までは回避する事ができなかった。
まるでマンガかアニメのように吹き飛ばされ、コンクリートの壁に叩きつけられる。
「ぐっ……痛ぅ……!」
腕や足を動かすのはおろか、身体を起こす事ですら苦痛だ。
打撲は当然、骨の一本や二本で済めば良い方だろうと、痛みのあまりに瞑っていた目を開く、するとーー。
「……ッッッ!!!」
己の胸から鉄骨が“生えている”ーーいや、刺さっているのか。
可愛らしくて気に入っていたリディアンの制服が、己の血で赤黒く染まっていく。
首から下げていたペンダントも千切れてどこかに行ってしまった、どうしよう、あれはパパとママの形見なのにと、場違いなことばかりが頭に浮かぶ。
「そんな、唱!ーーこンのォォォオオオオオオ!!!!!!」
霞む視界の中で、響がすぐそこまで迫る大きなノイズを殴って押し返した。
「唱!唱ぇ!死んじゃダメだよ!」
「ひ、びき……」
「絶対に助けるから!私頑張るから!だからーー生きるのを諦めないで!」
「いき、るーーのを、あ、き、らめーー」
そうだ、諦めちゃいけないんだ。
私はまだ、死んじゃいけないんだ。
そう、朦朧とする意識の中で強く思った瞬間、心に言葉が浮かんだ。
「……?」
「唱……?」
それは聞いたこともない言葉、でもずっと昔から知っていたような言葉。
胸が熱い。
鉄骨が刺さって痛いからじゃない、これは、心が熱いんだ。
「……づぅ!ああああああ!!!!!」
「唱……!?」
痛みなんか知るものか、出血がなんだ、今はこれが必要なんだ、そう直感して、胸から鉄骨を引き抜く。
出血を防いでいた鉄骨が引き抜かれたことで、ドクドクと血が溢れてくる。
このままでは数分と保たずに死んでしまうだろう。
ーー紡げ、生きる力を。
「ぁーーうーーゴホッゴホッ!」
「喋らないで!動いちゃダメだよ!あぁ、血が、どうすれば……!」
傷口の中に入り込んでいたペンダント、パパとママがくれたペンダント、私が生きる為に、信念を貫き通す為に必要なもの。
ーー奮え、力を。
「……Pe……」
ーー貫け、己が心を。
「……PeneーーGaeーー」
「ッ、それって!?」
ーー詠え、心に響く、信念の歌を。
「ーー
「これ……聖詠!?」
刹那、身体の内側から大きな力が溢れる。
内から溢れた力の奔流は全身を包み、形を成す。
やがて出来上がったのは、赤っぽい黒のメタリックなスーツだった。
……響とお揃いでないのは残念だが、ワガママは言っていられないだろう。
「ヒビキ」
「な、なに、唱」
「なんでノイズと戦えるのかとか、なんで戦ってるのとか、いろいろ聞きたいことはある
ホント、わかんない事だらけでどうにかなっちゃいそうだよ」
ただでさえそんなに頭は良くないというのに、知恵熱でも出てしまいそうだ。
しかし、そんなことはどうでもいい、重要なことじゃない。
「でも、それ以上に分かっていることがあるんだ」
「……それって?」
「私は今、ヒビキと同じ戦う力があるんだと思う
これは、きっと私が運命に立ち向かう為の力、世の中全部の不条理に、私の信念をーー想いを貫き通す為の力、それがある!」
気がついた時には手にしていたこの槍。
赤くて、黒くて、なんだか怖いけど、考えじゃなくて本能で感じる。
ーーこれは、私の力になってくれる。
「……うん、分かった!それじゃあまず、アレをやっつけちゃおう!」
「頼りにしてるよ、響“先輩”!」
「先輩!?なんかくすぐったい!」
ーー必ず穿ってみせる この世全ての不条理を
歌が溢れる、浮かんでくる。
知らないはずなのに知っているこの歌……歌えば歌うほど、力が溢れる!
「ハァッーー!」
槍なんて使った事もないし、戦い方なんて以ての外。
だから、漫画や映画で見た槍の使い方を思い出して、見様見真似で、我武者羅に戦う。
ーー絶対に貫いてみせる 過去に誓った信念を
ーー必ずなんてない 絶対なんてない
「せいっーーハァ!」
ーーでも諦められない 諦めちゃいけない
ーー報われなくてもいい 蔑まれてもいい
しかし、不思議と疲労感はなかった。
こんな大きな槍、ふるった事もないし、そもそもさっきまで疲労困憊だったのに、その疲れが嘘のように吹き飛んで、全身に力が漲ってくる。
ーーだから放て 私の想い この槍に乗せて
「っ、またノイズを!」
「あの大きいのを仕留めないと!」
「……ちょっと大きいの、ブン投げてみたいんだけど」
「分かった!私は小さいのを!」
ーー放て 貫け 闇を 不条理を
ーー刺して 穿て この力で
「ぜいっ!だァ!」
ヒビキが吶喊し、小さいノイズを片っ端から消滅させていく。
その隙に、私は槍を構え、投擲の準備をする。
すると、槍がその意思を汲み取ったからのようにジェットエンジンの様なものがせり出してきて火を吹き始めた。
「さっきの、痛かったんだからね!」
ーー嘘だ偽善だと言われても 心で唱えたこの想い
ーーそう これだけは絶対
「嘘じゃッないッーーーー!!!!」
「うぇ?ええええーーー!?」
槍投げの要領で前に大きく踏み込み、投げ放つ。
踏み込んだ衝撃でコンクリートは砕け、槍は凄まじい衝撃波を撒き散らしながら大型ノイズに向かっていく。
外れるとは感じなかった、寧ろ必ずあたるという確信めいた感触すらある。
「ーーえ」
投げた槍は途中で数十に分裂し、その全てがノイズの全身に突き刺さり、絶対に刺さるという確信の通り、貫いた。
「……あんなにエゲツないとは思ってなかったけど」
「次は投げる時言ってね!絶対だよ!」
「う、うん」
この槍、もしかしてゲイボルグとかって名前じゃなかろうか。
てゆうか、ほぼ無意識で歌ったあの歌でゲイボルグとか言ったような記憶がある。
「てゆうか唱凄いよ!ギアを初めて使ったのに!」
「えーと、なんかこう、必死だったからなんとも……あ」
「うぇ?」
「いや、なんか、急にーー」
「え?ええ!?唱!?ちょっとぉ!?」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「一般人に被害発生!直接ノイズに触れたわけではありませんが、胸部から深刻な出血、重傷です!」
「直ちに医療班を向かわせろ、彼女を助けるんだ!藤堯ァ!」
「既に救急機材とスタッフを積んだヘリを向かわせています、到着まであと5分!」
「なんとしてでも間に合わせろ!ヘリが壊れようと知るか!人命最優先だ!」
時は少し遡り、リディアン音楽院の地下、特異災害対策機動部二課と呼ばれる秘密機関のオペレーションルームは荒れていた。
主戦力であるベテランの風鳴翼はリハビリを行なっており、実質戦闘可能なのは他ならぬ司令官、風鳴弦十郎によって戦闘訓練中の新人シンフォギア装者、立花響のみ。
彼女が弱いというわけではない、教えている弦十郎も驚く程に飲み込みが早く、スポンジが水を吸っていくように戦術を己が物にしていく立花響はとんでもない逸材である。
だが、彼女はまだ戦闘経験が浅いが故に不測の事態に弱い。
不測の事態に強い人間というのもそういるものではないが、ある程度のレベルで落ち着いた対処を取れるか否かという話だ。
だが、次の瞬間モニターに映った光景、こればっかりは精鋭の二課も目を疑った。
『……づぅ!ああああああ!!!!』
被害者である少女が立ち上がり、胸に刺さった鉄パイプを引き抜いたのだ。
少女は深刻化した出血を意にも介さず、血が溢れる口をパクパクと動かして、何かを喋ろうとしている。
正直、異様な光景だった、ゴア表現の多い映画でも見ている気分だった。
それ程に、少女の行動は常軌を逸していたのだ。
「……これは!?」
「友里君、どうした!?」
そんな光景に絶句していた時、オペレーターの一人である友里葵はフォニックゲイン数値の計器が反応を示していることに気がついた。
「重傷の一般人から微弱なフォニックゲイン放出を計測ーーいえ、フォニックゲイン放出量、加速的に増大!」
「フォニックゲイン放出だと?響君のものではないのか!?」
「いえ、ガングニールのものと一致しません!」
ハッキリ言って、それは微弱な数値だった。
カラオケや音楽の授業であれば計測される数値、普段ならば無視するであろうそれは、この状況において明らかな異物だったのだ。
「ーーッ!?司令、聖遺物反応を検知!アウフヴェッヘン波形計測!照合の結果出ました、これはーー」
オペレーターの藤堯朔也は驚愕する。
端末に表示された聖遺物の名称、それはアイルランドに伝わるアルスター伝説を彩る大英雄が使ったとされる槍。
投げれば30の鏃となって 降り注ぎ、突けば30の棘となって敵を死に至らしめる。
敵軍に残らず刺さり、逃さず命中し、稲妻のような速さで一切合切を貫く、それの名はーーGAE BOLG。
「聖遺物、ゲイボルグです!」
「ゲイボルグだとォ!?」
「装者、既にアームドギアを展開しています!」
聖詠を終え、ギアを纏った姿がモニターに映る。
赤みがかかった黒を基調としたギアは額までをすっぽりと覆い隠すフードの様なヘッドギア、肩から伸びるマントが風に靡いている。
そして目を引くのは2mはあろうかという長く、禍々しくも神々しさすら感じさせるアームドギアだ。
ガングニールがランスならば、ゲイボルグはスピアといったところだろう。
まるで死神のようだと思ったが、女の子に対する評価でないことは明らかだと即座に判断して口に出さなかったのは緒川である。
そんな間にも、状況は推移する。
「装者、傷の再生を確認!」
「適合係数は高レベルを維持!」
「ゲイボルグ装者、響さんと共に戦闘を開始!」
おそらくは付け焼き刃、それも映画や漫画の真似だろうと風鳴弦十郎は結論づける。
槍ーーというよりも、その棒術にどうも見覚えがあったのだ。
「すごい……初めての戦闘であんなに……」
「付け焼き刃なのは丸わかりだがな、動きに無駄が多過ぎる」
「素人に何求めてんのよ、あれだけ出来れば十分天才って奴じゃないかしら?」
「ああ、素質は十二分……会話を聞く限り、本人もやる気満々と言ったところか、こりゃ前回に引き続いて歓迎会の用意だな」
「用意は戦闘が終わってからにしてくださいよ、まだ終わっちゃいないんですから」
「分かっているさーーだが、もうキメにかかるようだぞ」
現場のLive映像には槍を大振りに構えるゲイボルグ装者の姿が映っている。
フォニックゲイン数値を見れば一目瞭然、大技で決めようとしているようだ。
チャージが終わったのか、タイミングが見えたのか、装者は大きく踏み込んでアームドギアを投擲しーー無数の鏃へと変貌したアームドギアが大型ノイズを蹂躙した。
「大型ノイズ、消滅しました!」
「大型ノイズをたった一撃で!?」
「流石はかのクー・フーリンが使った魔槍ゲイボルグ、威力はお墨付きってところでしょうか」
「しかし、初回起動でこの適合係数……紛失したはずの聖遺物……傷口の再生……まさか響君同様、融合症例だと言うのか!?」
「……」
色めき立つ二課の面々を尻目に、櫻井了子ーーフィーネは思案する。
ゲイボルグは嘗てアイルランドはコノート近辺の遺跡で発見したが、憎きパヴァリア光明結社との戦闘で紛失してしまった聖遺物だ。
二課にはイチイバルと同時に紛失したと伝えてあったが……まさかこんな形で見つかるとは思わなかった。
おそらくは何処からか市場に骨董品として流れたか、それとも何者かによる意図的なばら撒きがあったのか……今となっては分からないが、ゲイボルグの出現は己の計画の妨げになるであろう……だが、時は既に満ち欠けている、今更計画を練り直すことはできない。
ならば、なんとかこちらに引きずり込むか、計画実行の前に無力化する他にない。
「あの子のこと、ちょっと調べてみる必要がありそうね」
「ああ、制服からしてリディアンの生徒のようだが……」
「データ出ました、響さんのクラスメイトで名前は久瀬・ヒンデミット・唱、ドイツ出身のハーフで2年前に来日、現在は寮で一人暮らしのようです」
「……彼女もまた、ノイズ災害の被害者だったか」
情報によれば、一年前に一緒に生活していた親戚をノイズ災害で失っているようだし、そもそもドイツからの来日も家族が一家心中を図って失敗した結果だとされている。
……ギアの展開と共に剥がれた絆創膏から見えるのは右頬の大きな傷痕、隙間から見える地肌にも幾つか痕が見える事から、だいぶ壮絶な経験をしていそうだ、彼女の過去に付け入る隙はいくらでもあるだろう……クリス同様、使えそうだ。
「(協力するならばよし、計画を妨げるならば……その時はその時だ)」
「……ああ!装者のギアが解除、昏倒しました!」
「医療班は響君と共に彼女を回収!到着次第メディカルチェックを行う!了子君、準備を!」
「はーいはい、分かってるわよ」
取り敢えず、今は櫻井了子としての業務を全うするとしよう。
お楽しみはそれからだ。
何故私が小説を書こうとすると主人公の過去が重くなるのか……MGNの棗に続いてキズモノ系女子です。
……うん、好きなんだ……キズモノ系女子が……。
続きについては反応を見て続けるかどうかを考えたいと思っています。
仮に続ける場合、イラスト描いてもらってるぶんMGNの方優先なので遅い更新になりますが……。
聖詠である「Penetrate Gae Bolg glint torn」のリズムは
「タタターン・タタ・ターンターン・タタタターン」みたいなかんじで、セリフっぽく直すと
「ペネテェー↑ィト↓、ゲィボォー↑ルゥーグ↓、グリーント↑トローン↓」みたいな感じです。
イチイバルとイガリマの聖詠リズムを足して2で割ったのがイメージとして近いです。
ギアの見た目に関してはFGOのクー・フーリン[オルタ]をマイルドにしてギアにしたようなイメージで書いてます。
最後の方のシーンで歌っている曲ですが、安直に「魔槍・ゲイボルグ」です、作詞は兎も角作曲センスがないのでメロディーは私の頭の中にのみ。
それとシンフォギアの魅力は歌ですが、こういった二次創作だとそれの殆どを表現できない悲しみ……。
続きを書くかどうかは反応と気分次第ですが、感想等お待ちしております。
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第2話「I for all」
時系列的には、1話がアニメ9話にあったデートの直後くらいです。
「ーー知らない天井だ、とでも言えばいいんですかね」
「起きた第一声がそれなら、案外大丈夫そうだな」
目が醒める。
真っ先に視界へ飛び込んできたのは真っ白な天井とシーツ、次いで文庫本を読む筋骨隆々な男性だった。
ゴリラめいた見た目に反し、読んでいる本は古典純文学であるからしてインテリなのだろうか。
場所は鼻をくすぐる消毒液や薬っぽい臭いからして、病院だろう。
「……ところで、どなたです?」
「俺は風鳴弦十郎……君の上司になる男だ」
「上司……?よく分かりませんが、久瀬・ヒンデミット・唱です」
「うむ、突然だが唱君、君は何故自分がここにいるのか理解しているかな」
「なぜ、ですか……?」
確か学校が終わって、ヒビキとミクと分かれて本屋に行って、その帰りにノイズが出てきて、逃げ遅れてた女の人を連れて逃げて、追い詰められて、何からかっこいい格好したヒビキが出てきて、それでーー
「……あっ」
「思い出したようだな」
病衣をちょっと捲くって胸元を見る。
鉄骨だか鉄パイプだかが刺さって、感情に任せて無理やり引っこ抜いた傷は跡形もなかったが、なにやら痣のようなものが胸元にあった。
「……色々質問したいんですが?」
「分かっているさ、君のシンフォギアーーゲイボルグの事だろう?」
「それと、ヒビキについても」
「ああ、説明しよう、先ずはーー」
そこからは、アニメ好きなユミが聞いたら喜びのあまり卒倒しそうな内容だった。
シンフォギアとは、歌をエネルギーに変換して戦う力とする兵器の総称で、現時点で効果的且つ効率的にノイズへ対抗できる唯一の手段であること。
そして
厳密に言えばもっとあるらしいが、それらはシンフォギアシステムへの加工をせず、日本のどこかに保存してあるのだという。
そしてそれら聖遺物を極秘裏に研究、収集しノイズへ対抗すべく行動する政府直轄の秘密機関ーー認定特異災害対策機動部二課の存在。
私とヒビキは融合症例という極めて稀な存在であるーーというかそもそもシンフォギア装者が私と敵の未確認含めて4人という少ない状況で稀も何もないのだが。
「で、なんか国家機密っぽい事を沢山聞かされたんですけど、大丈夫なんですか?」
「勿論だ、君は他ならぬ二課に所属してもらうことになるのだからな」
「……
「
思わず、最近は使わなくなって久しいドイツ語が飛び出す程度には驚いた。
今思えば、遭遇率こそ低いとはいえ世界的な脅威に対抗できる手段を有しているのだから、当然と言えば当然であるのだが。
「その通りだ、急な話ですまないが今は猫の手でも借りたいほどなでな……だが、ただ君を戦わせるわけじゃない、我々二課は全人類守護の防人であり、装者を全力でバックアップするために存在する」
「考える時間はーーなさそうですね」
「常々不甲斐ないと感じている、子供を矢面に立たせるなど……」
風鳴さんは、本当に申し訳ない、と告げて頭を下げる。
最近では見なくなって久しい、誠心誠意の謝罪の言葉と態度だった。
「仕方がないと思います、こんな世の中ですから」
それなら、私もその誠意に答えるとしよう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「仕方ないと思います、こんな世の中ですから」
そう呟いた唱君の顔はどこか悲しげで、高校一年生とは思えない程達観した感情、諦観が見て取れた。
子供がそんな顔をしてはいけない。
翼にも思う事だが、子供とは大人びていて尚、子供らしくあるべきだ。
未来を夢見て、明日は向かって元気に駆け出すのが子供だ。
そんな子供が駆ける道を整えて、転んだら助けてやるのが大人なのだと、風鳴弦十郎は思う。
「それはーー」
「でも」
「……でも?」
だから、それは違うぞと反論しようとした瞬間、その言葉ですら否定する言葉が他ならぬ彼女から紡がれる。
「でも、だからこそ、諦めちゃいけないんです
仕方がないって諦めちゃう人がいる、どうしようもないって嘆く人がいる……そんな人達のために、力を持つ人が立ち上がらなきゃいけないんです、こんな世の中だからこそ、戦わなくちゃいけないんです
だから私は戦いますーー私に、その力があるのなら」
その表情は先程とは打って変わって明るく、決意と力強い意思に満ちた瞳が爛々と輝いていた。
そして、昨日オペレーションルームで聞いた彼女の言葉を思い出す。
ーー私は今、ヒビキと同じ戦う力があるんだと思う
ーーこれは、きっと私が運命に立ち向かう為の力
ーー世の中全部の不条理に、私の信念をーー想いを貫き通す為の力、それがある!
「……なるほど、君にゲイボルグを手にし、適合したのは必然なのかもしれんな」
「え?」
「いや、ただの独り言だ……まったく、響君といい唱君といい、最近の若者は捨てたもんじゃないな」
暇つぶしに読んでいた文庫本をポケットにしまい、椅子を片付けると二課専用の通信端末を取り出す。
繋がる先はオペレーションルームだ。
「唱君が目を覚ました、例の準備を始めろ」
『了解しました』
「……例の準備、とは?」
「それは行ってからのお楽しみだ、君が着替え終わり次第、我々の本部へ向かってもらう
案内は友里君がやってくれるから、ここで少し待っていてくれ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その後、ものすごく早く急降下するエレベーターで腰を抜かしたり、如何にもな感じの廊下を歩いたり、プシューとかって音が鳴るSFな扉を幾つか潜った先にそれはあった。
ーー認定特異災害対策機動部二課本部。
これから私がお世話になって、自身に宿った力を振るうために必要な事を学び、戦う為のサポートをしてくれる場所。
風鳴司令を見る限りでは悪い人たちではないのは分かるし、類は友を呼ぶなんて言葉もあるからには優しい人たちがいるんだろう。
だが、人類守護の防人などと大仰な事を言われた手前、緊張するなというのは土台無理な話である。
案内役の友里さんはニコニコした表情を崩さず、多くを語ろうとしない。
「……(ゴクリ)」
様々な不安や疑問、憶測と猜疑が渦となって極大の緊張を生み出す。
心臓の鼓動が聞こえてきそうなくらいだ。
だが、緊張してばっかりではいられない。
虎穴に入らずば虎児を得ず、ええいままよと自動ドアを潜ったその瞬間ーー
「ようこそ!人類守護の砦、認定特異災害対策機動部二課へ!」
「……は?」
パパパーーーン、と破裂音が鳴り響く。
その音がたくさんのクラッカーによるものであると気がついたのは、顔にカラフルな紙テープが降り注いでからだ。
ご丁寧なことに、『ようこそ二課へ!』とか『熱烈歓迎!久瀬・ヒンデミット・唱さま!』と描かれた横断幕まで用意してあるし、それ以外にも花輪やらダルマやら紅白幕やら、取り敢えずなんか置いとけみたいなヤケクソ気味なテンションをひしひしと感じる。
「いやあ、まさか一ヶ月もしないウチに歓迎会を二回もやるとはな!」
「いぇーい!唱ちゃんホラ笑ってー!」
「い、いぇーい」
なんだこのフレンドリーさは、MI6とかCIAとか公安みたいな憮然とした組織を想像していたのに……ハッ。
「これが私の知らない日本流の歓迎……?OMOTENASHIの精神だとでも……!?」
「違う、決して違うからな久瀬」
そう言って、声をかけてきたのは件の防人アイドル風鳴翼である。
なにやら少々無理をしたようでリハビリをしていたが、最近になって復帰したと聞いている。
様子を察するに、彼女も周囲の空気に溶け込めないようである……溶け込める方が珍しいとは思うが。
「初めまして、久瀬・ヒンデミット・唱と言います
色々あってゲイボルグに適合しまして、二課で働くことになりました……まさかこんな形でお会いできるとは、光栄です」
「風鳴翼だ、話は聞いている……同じ無辜の人々を守る防人として、期待しているぞ」
やはりというか、ツバサさんは歌手として歌っていたりインタビューを受けている時とは違う印象を受ける。
言葉遣いが厨二病っぽーーいや、時代がかっているのはそのままだが、幾許か雰囲気が柔らかい気がした。
「はい、よろしくお願いしますね、先輩!」
「先輩……先輩か……ほんとうに、もう無様は晒せんな」
「と、言いますと?」
「なに、些細なすれ違いや思い込みで勝手に事態を拗らせていた、それだけの話だ」
「はあ」
そういえばと、ツバサさんとヒビキがなにやら関係を拗らせていたと、先ほど司令から聞いたのを思い出す。
「ーーと、噂をすればか」
「遅れましたァー!」
「すいません!」
「って、ヒビキ!ミクも!?」
肩で息をしながら扉を潜ってきたのはヒビキとミク、私の親友だった。
ヒビキは兎も角、なぜミクまで……?
「私は外部協力者として二課に登録されてるの
装者同士の戦闘に巻き込まれちゃって、それからね」
「立花は私と違って、仕事だからと言い訳が効かないからな」
ツバサさん曰く、装者の身近な人間が協力者になる事で、緊急の自体が発生した際の連絡手段の確保や、情報が錯綜したり不備が発生するのを防ぐ役割があるんだそうだ。
「でも、まさか唱までシンフォギアを使うことになるなんて……」
「心配しないでって言うのは無理だろうけど……私は私に出来る事をやりたい、それだけだから」
傲慢かもしれない、自惚れかもしれない。
でも、思いを形にする力が私にあるのなら、私は止まることはできない。
「……ほんと、唱と響ってソックリだよね、顔が違うだけで姉妹みたい」
「それなら私がお姉ちゃんかな」
「えぇー!?なんで!?」
「私の方が身長高いし」
「唱はドイツと日本のハーフだしね、顔立ちも大人っぽいし、憧れちゃうなあ」
「ぐぬぬ、ヨーロッパの血は強い……!」
ドイツ系の血を多く引き継いだ私は、同い年の日本人と比べて高身長である。
年上のツバサさんと同じか、少し高いくらいだろう。
……響から溢れ出す小動物オーラが凄まじいのも大きいが。
ぐぬぬと悔しがるヒビキを横目に渡されたジュースを飲む。
うん、こんな日常を守る為にも、この力をキチンと使いこなして頑張ろう、そんな風に考えた時、響がとんでもない事を言い放った。
「でも、おっぱいなら私の方がおっきいもん!」
ーーざわ、と空気が揺れる。
「な、なにを!?」
「ひ、響?」
「了子さん!私の方がおっぱい大きいですよね!」
「そうねえ、響ちゃんの方がサイズ一つ分は大きいわねえ」
「ほら!」
「わ、私はほら、着痩せするタイプだひ」
「ふふふ、思わぬ反撃に動揺してるよ唱……!」
自分の胸は確かに大きくない、大きくないが無いわけでは無い、ものすごく丁度良いサイズだと自負している
しかし、響がこれ見よがしに持ち上げる胸は、平均的な日本人女性のソレを大きく凌駕しており、私よりも大きい。
……なんだ、なんだこの敗北感は。
「案ずるな久瀬」
「つ、ツバサさん……?」
「まだ我々には未来がある!成長することを諦めるな!」
「まさかの慰め!?」
「ははは……話は変わるが唱君、君は武術の心得はあるかね?」
意味の分からぬ敗北感に打ち拉がれていると、司令が唐突にそんな事を聞いてきた。
「いえ、ありませんね……両親の仕事に着いていく事が多かった事もあって、基礎体力にはそこそこ自信がありますが」
考古学における発掘作業とは某ジョーンズ博士やミイラと運動会をする某オコーネルさん程ではないが、体力勝負である。
遺跡が山にあらば登り、海にあらば潜る、砂漠にあらば砂嵐をかき分けてでも進む、車やヘリも使うが貴重な先史文明の遺跡というものは何故か険しい環境にこそあり、結局は自分の足が頼りとなるものだ。
その上、見つけた後も発掘は手作業によるところが大きいので、非常に体力を使う。
「そうかそうか……それともう一つ、アクション映画は嗜む方かね?」
「へ?」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「……ふむ、融合症例としてある程度は予想していたが、確かに体力はあるようだな」
「ハァッーーハァッーーそれは、どうも」
翌日、一昨日に大怪我をしたとは思えない程の快調ぶりに驚きつつも、二課のトレーニングルームである。
アクション映画は好きか?と聞かれたので何事かと思ったが、要は映画に限らずアクション系の作品を観てその動きを真似してみろ、という事だそうだ。
本来ならば映画故の脚色を含んだアクションであったり、実現可能なものであっても気の遠くなるような修練が必要であるが、装者ーー特に私と響のような融合症例は身体能力の劇的な向上があるらしく、やろうと思えばどんな技でも習得出来るのだと司令は言う。
だが、そういった特殊な状況であろうとも現在どの程度まで動けるのかをチェックする為にちょっとした運動をするーーという話だったのだが、アレの何処が"ちょっとした運動"なのだろうか。
「流石に、腕立て腹筋その他諸々を"出来なくなるまで"に加えて、距離無制限耐久マラソンは応えますね……」
「456ゥ!ーー大丈夫だよ唱!457ァ!ーー私もやったから!458ァ!」
「それなんの慰めにもならないよヒビキ……」
そんなヒビキは司令特製の特訓メニュー真っ只中である。
やっている事はごく単純、頭に括り付けたお猪口に注がれた水を溢さないように正拳突き500回、溢したら最初からやり直し。
私と同じメニューをこなした後に響と同様のメニューをやっている司令はなんだか輝いているように見える。
……師弟揃いも揃って頭がおかしいのではなかろうか。
「さて、この体力を鑑みた上でのトレーニングメニューだが、君のアームドギアが槍な事を考えれば、短距離の走り込みや筋トレを中心に棒術と槍術を収めるべきだろうな」
「シンフォギアがゲイボルグですし、槍投げとかも覚えておきたい所ですね」
「うむ、勿論だ……では、ギアを展開してくれ」
「了解です」
「了子君、そちらの準備もいいな?」
『問題なし、いつでもいいわよ』
分厚い対衝撃ガラスの向こうには櫻井了子女史と何人かのオペレーターが端末を前にして座っている。
フォニックゲインとやらの計測を行うようである。
「それじゃ、いきます」
目を閉じ、胸に手を当て、大きく息を吸って、聖唱を口にする。
唱えるのは、心に響く歌。
紡ぐ詞は、己の心象風景。
「ーー
聖唱が終わるのと同時に、胸の内から力が溢れる。
インナースーツが体に張り付き、その上から肘、腰、膝、つま先に刺々しいアーマーが展開、腰部のアーマーからは大きな尻尾が生え、フード付きのコートが体を覆う、それらの色は鮮血のような赤と黒のツートンカラー。
最後に全長2m程の槍が現れ、ギアの展開を終えた。
「……」
「……どうしました?」
「ああ、いや、翼と響君のギアに見慣れたせいか、相変わらず凄い見た目だと思ってな……」
「ああ、どう見てもヴィランですよねこれ」
赤黒いカラーリング、デッカくてトゲトゲした槍、似たような見た目の尻尾、顔を覆うフード。
爪先も四足動物ーーそれもネコ科かイヌ科の猛獣を思わせるもので、同様に両手の指先も鉤爪のようである、どっからどう見ても人類の希望というよりは悪役だ
……そういえば、ギアを展開すると服はどっかに行っちゃうのに、眼鏡はそのままなの、なんでだろう。
そもそも、例の一件から0.2程度だった裸眼の視力が1.5くらいまで回復したので眼鏡とかいらないのだが、長年に渡って慣れ親しんだ黒いノンフレームの相棒を手放す事など出来なかった故、レンズの度を抜いた伊達眼鏡なのだが。
「まあ持ち主であるクー・フーリンは兎も角、ゲイボルグ逸話的にも正義ってよりは悪役寄りなんじゃないですかね、影の国とかありますし」
「ギアの見た目には装者のイメージや心が強く反映される
君のそういったゲイボルグ対するイメージか形で現れているのだろうな」
私はそんなにゲイボルグに対するイメージが悪かっただろうかーーいや、あの槍にカッコいいといったイメージは抱いても正義っぽいイメージを抱けと言うのが無茶ではなかろうか。
担い手であるクー・フーリンやスカサハならまだしも、ゲイボルグそのものに関しては材料がそもそも魔獣の骨だし、その性能に関しては後世における脚色である部分を含むとされるが、その殆どが血生臭い逸話ばかりである為、どうやっても良いイメージを抱けと言うのが無理な話である。
「……まあギアの見た目はさておき、これからこのトレーニングルームで対ノイズ戦闘シミュレーションをやってもらう……準備はいいな?」
「はい!」
それからややあって、トレーニングルームの風景が市街地へ切り替わる。
異端技術を用いた空間投影が云々と櫻井女史が説明してくれたが、何から何までチンプンカンプンなので殆ど聞き流した。
要は「異端技術スゴーイ、それを理解して応用した私スゴーイ」である。
「相手はあくまでもノイズを模したハリボテだが、実戦だと思って頑張ってくれ!」
『仮想空間だから何やっても大丈夫、今の全力を見せてちょうだい』
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「どう思う?了子君」
「どうって、数字が示してる通りよ
アルスター伝説の勇者クー・フーリンが振るった魔槍ゲイボルグ……その名に違わぬ性能ね」
本格的な戦闘訓練を受けていない上に病みあがりの身、だというのにゲイボルグは非常に強力なシンフォギアだと、仮想空間を縦横無尽に駆け抜ける唱は十二分に示してくれた。
「言うならば、最速のシンフォギアってところかしらね
古代ケルトの戦士が有した"鮭とびの秘術"、その一端を垣間見れるとは思わなかったわ」
「同感だ、とても参考になる」
「(これ以上強くなってどうする気だ……?)」
隣のゴリラは兎も角、ガングニールの立花響、アメノハバキリの風鳴翼は近接戦闘を主に扱う装者であるからして、移動速度はそれなりに速いが、それでも車両の最高速度や航空機に勝てるものではない。
「(ゲイボルグに染み付いたクー・フーリンの戦闘経験を
別にありえない話ではない。
霊魂や残留思念と呼ばれるものが存在しているのは己自身の存在が証明しているからして、あのゲイボルグに使用者の思念が宿っていないなどと言い切ることは出来ない。
そして、なにより唱のポテンシャルがそれの証左でもある。
融合症例と化した結果、身体能力が常人を遥かに超えるものであるとはいえ縮地法に代表される体術による高速移動術を覚束ないながらも再現しているのだから。
古代ケルトの戦士が厳しい修練の果てに得る鮭とびの秘術、それを手中に収めるのもそう遠くはないだろう、あの子にはそれが出来るだけの"センス"がある。
「(生まれる時代を間違えているのかもしれないな)」
クー・フーリン、フェルグス・マックロイ、フィン・マックール、ディルムッド・オディナ……名だたるフィアナ達が彼女を見たらなんと言うだろうか……あの豪傑達のことだ、大喜びで新たな戦士として迎え入れるに違いない。
「(問題はいつ"フィーネ"として接触するかだ……早い方が良いのは確かだが)」
完全聖遺物であるネフシュタン、クリスのイチイバル……現状ではまだ手駒が足りない。
私がネフシュタンを使って出向けば良い話ではあるがそれはあくまでも最終手段として取っておきたい……しかしクリスは不安定だ。今こそ私の命令を聞いてはいるがそれがいつ綻ぶか、それも時間の問題だろう……ならば、行動を起こすタイミングはーー
「ーー1週間、だな」
「なにか言ったかね?」
「ううん……何でもないわよ、ただの独り言」
フィーネは己が悲願を叶えるその時を夢見て、笑った。
唱の胸は防人よりは大きく、ビッキーより小さく、きねクリ先輩には絶対に勝てません、貧乳ではないが巨乳でもない。
そういや、シンフォギアシステムの和名であるFG式回天特機装束の回天ってなんぞやと思ったら、字は廻天とも書き、「天下の形成を逆転、一変させる」「衰えた勢いを取り戻す」等の意味があるそうです。
漠然と特攻機の名前としか認識していなかったので今回初めて知りました。
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