真・誤解†夢想-革命?- 蒼天の覇王 (キンシャサ・ニーストライク)
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第一話.愛される弟

 彼は自室の扉を閉めて施錠した。この時代の、自室の扉に鍵とかあるのかな? まあそれは置いといて、さっきこそっと買ってきた新作の春画を彼はドキドキしながら履き物を降ろし、下肢の中央部に血流を貯めながら、貯めた情熱を吐き出す為、春画を舐め回すように眺める為に机の上に置いたその時だった。


「ぽち! ぽちはいるの!」
「華琳姉!?」


 施錠していたはずの扉があっさりと破壊音と共に開かれる。正確に言えば我が姉、華琳姉こと曹操孟徳と共に現れた春姉、夏侯惇元譲が蹴破った。いつもの事である。部屋の中に吹き飛んで来た扉だった残骸が床に飛び散るまでの間に、曹操の弟である曹柴犬、真名ぽちは一瞬で春画を破り捨て履き物を履き直した。いつもの事である。


「どうしたの……」
「こっちの台詞よ。また私塾さぼって何してるの」

 ナニしようとしてました。なんて言ったら瞬時にこの首が飛ぶことをぽちは理解していた。

「今はもっと大切な事を考えてたんだ。私塾に行くよりさ」
「……そう」


 昔から姉である曹操は、というより曹一門ほぼ全員は何故かこのぽちに対してだけはその確かな観察力と考察力が節穴となる。ぽちがこうやってぼかしながら言葉を吐くと、彼女らの素晴らしい頭脳は何故か彼の都合の良い方向へ解釈される事がとても多いのだ。


「……確かに今の都の情勢を見れば貴方が考えている事は間違いないじゃないわ」
「え? ああうんそんな感じだよね」
「でも今はしっかり基礎を身に付けるべきよ。分かるでしょ?」
「……でも私塾なんて行ってもなあ」


 だってほとんどさっぱり理解出来ないんだもの。意味無いと思うんだよなあと思うぽち。高い学費が無駄になるだけなのだ。曹一門の中に置いて姉がこの大陸最高峰のチートに生まれた。この弟の分の才能ほとんどは姉が吸い付くしたかの如くである。若干変な方向には才能を持ってはいるのであるが。但しその親類一同と同じく、容姿だけは良い。容姿だけは。名だたる将が女性であるこの世界では、容姿が良い男というだけで本来ならば超がつく程の勝ち組であるはずだった。ヒモで種馬になれば良いだけだもの。しかし彼は何故か期待され、その低脳っぷりを勘違いされ続けて今に至るのだ。


「そう、もう全て覚えたのね。流石だわぽち」
「へ? ああいやそうじゃ──」
「でもね、あの私塾に通っているのは名門士族の家柄の子ばかり。そういった子達と縁を結んでおくのは大事よ?」
「……華琳姉がやればいいだけじゃない」
「……貴方はそうやって私を立てようとする。ぽち、私は貴方にも私の隣に立って欲しいの」
「俺じゃ無理だよ、男だし。華琳姉に迷惑掛けたくないし」


 これだけはこの男の本音である。姉と一つ違いである彼は同じ私塾に通っている。


「それにどうせそのうちどっかに婿に出されるだけ──」


 破裂音がした。今まで黙っていた夏候惇が壁を殴ったのだ。壁が粉砕された。いつもの事である。


「ぽち様が婿に出されるだと!?」
「落ち着け姉者。まだ決まった訳ではあるまい」
「これが落ち着いていられるか!」

 夏候惇を宥める、静かに姉の横に立っていた妹であるクール美女、秋姉こと夏候淵妙才。だが妹の言葉にも姉の興奮は止まらない。

「じゃあ秋蘭はぽち様がどこぞの馬の骨の所に婿に行ってもいいというのか!」
「いい訳あるまい。どこぞの馬の骨の所になど行かせるものか。だがなあ姉者、そもそも華琳様がそのような事を一言でも言った事があるか?」
「そうよ春蘭。私はぽちを政略の為の婚姻などに使う気は無いわ」


 え? そうなの? 寝耳に水なんですけどとぽちは自分の耳を疑った。夢のヒモ生活が遠のいた瞬間である。


「簡単な話よ。他家と縁を深く結ぶ事より遥かに、ぽちには曹一門の一柱になってもらう事が遥かに有意義だわ」

 当然でしょ? と笑みを浮かべる姉曹操。曹操よ、それは無い。絶対にだ。

「……で、貴方はいつこちらを向いてくれるのかしら」

 ぽちはずっと曹操達に背を向けて椅子に座っていた。だって一物に血流が集中したままなんだもの。屹立しっぱなしなので振り向くなんて出来る訳がない。

「……空がね」
「空?」

 とりあえず窓の方を向いていたので適当に呟いた。ふむ、と華琳は窓から空に目をやる。

「風が……、なるほど。分かったわ。今日はいいから明日は一緒に私塾に行くわよ」
「華琳様……?」
「今から一刻程で恐らく雨が降るわ。ぽちはそう言いたいのよ。じゃあね、ぽち。二人共行くわよ」
『はっ!』


 え? そうなの? めっちゃ晴れてるけど。内心でそう思いながら三人が部屋から出ていった後、床に散らばる扉だった木屑や粉砕された壁、そして自身の息子を眺めながら、まあ良く分からんがいつもの事かとため息を付いた。そして一刻後、ちゃんと雨が降った。華琳姉すげえ。




 翌日、華琳姉に連れられて嫌々ながら私塾にやってきた。授業中、先生の問いに対して無視を貫いたりもしたが、答えが分からなかっただけである。


「ちょいとぽちさん?」
「ふぇ? ああ、何じゃらほい麗羽さんや」


 何故か私塾でしょっちゅう絡んでくる名門袁家のお姫様、袁紹本初こと麗羽さん。姉と喧嘩も多いが、それでも何故か仲が良いようで姉が真名を交換する際に何故か一緒に交換する事になった。真名ってついでに交換するもんじゃないと思うの。


「さっきの先生の問い、何故答えなかったんですの?」
「そんなの……分かってるでしょ?」


 俺の頭の出来では解答なんてさっぱり分かりません。ちなみに麗羽さんは頭すっからかんで夢詰め込めているように見えて、私塾で一番成績が良い。姉は二番手である。まあ姉はひねくれた解答や、自身が正しいと思った解釈、それも新しい解釈を貫き通すときがあるのでそこが減点対象になっているだけだが。それはともかく、勉強は出来る。頭はおかしい。素晴らしいおっぱい。それが麗羽さんなのである。


「ええ、分かっていますわ。貴方が一歩引き他の方を立てていることなんて。ですがぽちさん。確かに女性を立てる事も殿方の大切な役割かも知れませんが、貴方も自身に見合った評価をされるよう少しは動いても罰は当たりませんことよ?」
「ええ、良く言ったわ麗羽!」

 なんか勘違いしてる麗羽さんにいつの間にか横に並び同調する我が姉。二人とも金髪がくるんくるんで仲の宜しい事。

「そうよぽち。この前の試験、白紙で出したそうね。さっき先生から聞いたわ」
「まあ。ぽちさん? 流石にそれは駄目ですわ」
「確かに男より成績が下と言われれば誇りを傷つけられる人間は一定数間違いなくいるわ。でもそれで傷つく程度の相手に貴方が気を使う必要はなくってよ?」
「そうですわ。たまにはぽちさんの全力を見せて頂きたいものですわね」
「あら、ぽちが全力を出したらこの私塾の人間なんて貴方や私を含めても勝てるかどうか」


 なにそれ。姉の俺に対する評価が天元突破やばい。いや麗羽さんの評価もかなりおかしいけど。話題を逸らさねば。


「……勝ち負けなんて意味無いし。それより美味しい物食べたい」
「まあそれでこそ、ぽちさんらしいのかも知れませんわね。今日はうちに来ませんか? 美味しい茶菓子を用意していましてよ? おーっほっほっほっほ」
「じゃあ頂きに行きます」
「あら、じゃあ私も頂きに行こうかしら」
「良くってよ? おーっほっほっほっほ!」


 高笑いをする麗羽さんに即答するぽち。割りとゴチになりに行ってるからいつもの事なのである。金持ちの袁家のヒモになりたいとぽちは常々思っているのである。ぽちにプライドなんてないのかって? ないよ。




華崙と柳琳の姉妹が大好きです。あと秋蘭の新ボイスも好きです。個人的に違和感無かったし。声優変わって無いはずの恋が一番違和感を感じるという……。


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第二話.日向ぼっこ

「ぽっちー! 居るっすか~!」

 大きな声で叫びながら部屋へやって来る元気系天然美少女、曹仁子孝こと華崙。これは捕まったら面倒だと曹操の弟ぽちは部屋から脱出しようと窓から身を乗り出した。

「あー、居たっすー!」
「なんでそっちから来るの」

 部屋の窓から華麗に脱出しようとしたら、何故か窓側から現れた華崙に捕獲された。華崙は別にぽちの行動を先読みした訳ではない。なんとなく窓側からやってきた。なんとなくで行動しその動きが功を奏す女、華崙。ぽち程度がどうこうできる相手ではない。

「ぽっちー、今日は良い天気っすよー! 一緒に日向ぼっこするっすー!」
「華崙、また柳琳に怒られるよ?」
「じゃーあー、柳琳も誘うっす! 皆で一緒にするっすー! ぽっちが誘ったら柳琳も断らないっすよー!」


 満面の笑みでなんかぎゃーぎゃー言ってる華崙。この前屋根の上で二人で寝てたら柳琳に涙目で怒られたのをもうお忘れか。ぶっちゃけ何かに目覚めそう……じゃなかった、まあ忘れてそうだよな、この娘はと思うぽち。でもぽちは日向ぼっこは自体は嫌いではない。むしろ大好きである。時間を無駄に使ってる感がとても良いのだ。しかも柳琳の涙目とかいうご褒美付き……駄目だ。やはりぽちの中に何かが目覚めようとしている。


「姉ーさーん! 何処に行ったのー!」
「あ、柳琳! こっちっすよー! ぽっちの部屋っすー!」

 柳琳こと曹純子和が華崙を探して部屋にやってきた。いつもの事である。いつも大変だね柳琳。

「ああもう姉さんったら、またぽちさんに迷惑掛けて……」
「迷惑なんてかけてないっすよー? そーれーよーりー、今から三人で日向ぼっこするっすー!」
「姉さん、屋根に登るのは止めてってあれほど……」
「えー、いいじゃないっすかー。気持ち良いっすよー? ね、ぽっちからも言ってくれっすー!」

 そんな無茶なとぽちは思ったが、キラキラした目で見つめてくる華崙に逆らえず、とりあえず言うだけ言って、柳琳からの駄目! じゃあ解散! でいいかと言う思考で柳琳に声を掛ける。

「あー……、俺も柳琳と一緒がいいなー。日向ぼっこ気持ち良いよ?」
「……ぽ、ぽちさんがそう仰るのでしたら」
「あーそうだよね。じゃあしょうがな……え?」
「おー! さっすがぽっち! じゃあさっそく柳琳も行くっすよー!」
「きゃ! ちょ、ちょっと姉さんったら引っ張らないでー!」


 え? 柳琳止めてくれないの? と一瞬呆気に取られたが、自分で言って今さら訂正する訳にもいかず、しょうがなく華崙に引き摺られる柳琳を追い掛ける事にした。実に性格が似てない姉妹である。あれ? 周りに性格似てる兄弟姉妹居たっけか? えーっと、華琳姉と俺、春姉と秋姉、華崙と柳琳、異母だけど麗羽さんと美羽ちゃん。お? 麗羽さんと美羽ちゃんくらいしか似てないなこれ。などとどうでも良いことを考えながらぽちは二人の後を付いていった。



「皆で日向ぼっこ気持ち良いっすねー!」

 華崙の声が空に響く。ちなみに華崙が全裸になるのは柳琳が必死に止めていた。まあしゃあない。華崙は可愛いが色気が皆無である。実に健康的な肢体をしている。間違いなく脱がれたらフルに勃つな! 男の子なら当たり前! 色気ないって言ったじゃないかって? それとこれとはまた別なんです!

「たまにはこういうのも悪くないわね」
「まあたまになら……でも日射しで肌の日焼けが気になりますわ。お姉様やぽちの美しい肌が焼けてしまいます」
「ふふ、栄華らしいわね」

 屋根に向かう途中で出会った華琳姉と栄華こと曹洪子廉に、止めて欲しいと願いを込めながら一緒に日向ぼっこでもどう? と声を掛けたら何故か快諾された。解せぬ。ていうか日射し気になるとかぼやくならせめて断れや栄華。男嫌いであるはずの栄華、俺がいるから拒否してええんやで? まあ栄華から拒絶された事なんてないけど。少女趣味の危ない娘で、普段男性に対して物凄く辛辣である彼女だがはじめて会った時から普通に優しくしてくれている。俺の顔立ちが姉に似ているせいだろうか。


「はぁ……」


 お天道様を見上げて、ぽちは一人ため息をついた。いや、美女四人に囲まれて幸せですよ? しかし贅沢言うなら親戚じゃないほうが良い。後、振り回されないほうが良い。ついでに言えば寝転がって飯だけ食べさせてもらえるヒモになりたい。私は貝になりたい。


「どうしたのぽち?」
「いや……夢ってどうせ叶わないんだろうなって」

 華琳姉の問いに正直に答えた。曹家にいる限り、きっと働かされるんだろうなぁとぽちは考える。きっと何処かで大ポカをやらかすまでは労働を強いられる未来が待っているのだ。ヒモになりたい。働きたくない。

「このまま皆で居られたら幸せだろうなぁ……」

 この屋根に張り付いたまま、太陽を浴びぼーっと日向ぼっこを続けたい。そうすれば無理矢理仕事をさせられ、そのうち重大な間違いをやらかして皆に白い目を向けられる事もないだろう。そういう未来、絶対やってくる。考えるだけで憂鬱と、素直に告げるぽちに華琳が答える。

「何を言っているの? ぽち」
「華琳姉?」
「私達も、春蘭も秋蘭も、ずっと貴方と一緒よ」

 違うそうじゃない。そうじゃないんだ。後、それはそれで迷惑です。華琳姉は早く弟離れしてどうぞ。

「そうっすよ! ぽっちは不安なんすね! なんだか良く分からないけどぽっちの不安は私が取り除いてあげるっす!」
「華崙……」

 じゃあとりあえずいつも無理矢理連れ回すの辞めてくれないかな華崙。最近は華崙のノリに付いていけなくなりつつある。

「だっ大丈夫ですよ! ぽちさんには皆が付いてますから! 私も頑張ります!」

 グッと両の拳を握り、励ますように言ってくれる天使。じゃなかった大天使柳琳。癒し枠。どうか養って下さい。


「……もしかしてまたぽちに縁談でも来ましたかお姉様」
「……ええ、勿論断ったわ。知っていたのねぽち」

 勿論知りませんとも。ていうか本人に確認しろ。いい物件だったら喜んで寄生しに行くぞ俺は。そしてどう思ったら今の流れから察する事が出来るの栄華や。低脳を持って生まれた俺にどうか教えて。

「……それは断って良かった話ですの?」
「栄華、貴女ぽちを手放してもいいと言うの?」
「そんな訳! でもその手の話を無下に断れば曹家の立ち位置が危ぶまれますわ」
「大丈夫よ。……麗羽が、袁家が話を付けてくれるらしいわ」


 知らない所で何か話が進んでいる。もしかしてあれ? この前麗羽さんの所にお茶しに行った時に言われた「心配しなくても大丈夫ですわ」とかいうあの謎の言葉はもしかしなくてもこれの事かな?


「あの、お姉様」
「言わなくても分かってるわ柳琳。……あまり麗羽に借りは作りたくないわね」
「まあ借り返せなくなったら俺が袁家に──」
「「「「駄目よ!(っす!)((です!))」」」」


 凄い剣幕の皆に怒られたぽち。曹一門、やはりぽちに対してめっちゃ過保護である。


「……やはり家の力を上げなければぽちさんを守れませんね、お姉様」
「ええそうね栄華、その為には皆の協力が必要よ。皆も聞いたでしょう? ぽちの願いを」
「皆一緒っす!」

 ああ違うんだと思うぽちだが、この場で否定してもろくな事にならないというのが自身の経験で分かっている為、だんまりする事に決めた。

「ぽちさん、良かったですね」

 ニコッとぽちに笑いかける柳琳。そんな笑顔見せられたら実は出ていきたいなんて言えねえ。言える訳ねえ。もうなんかなんて言えばいいか分からないし、やるせなくなってとりあえず皆にやけくそでニコッと笑って見たら皆笑顔を返してくれました。

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第三話.金持ちにタカる男

「ぽち兄様、この蜂蜜も食べるのじゃ!」
「美羽さん、ぽちさんに無理矢理勧めはいけませんよ?」
「うう……、麗羽姉様。ぽち兄様は妾に蜂蜜を勧められて喜んでおるに決まっておるのじゃ!」
「ごめん美羽ちゃん、もう結構お腹一杯かな」
「なんと!」

 驚く美羽ちゃん可愛い。
 ぽちが割りといつもどおりに袁家にお茶しに来たら、美羽ちゃんこと袁術公路が来てました。袁家にお邪魔すると美羽ちゃんにもよく出会います。ぽちが出会った頃は、美羽ちゃんは麗羽さんの事苦手だったのだけれど、ぽちが誘い三人で一緒にお茶を繰り返してたら徐々に打ち解けて仲良くなってきているようだ。しかも麗羽の高飛車な性格が美羽の面倒を見る事でお姉さん補正が掛かり少しずつ矯正されつつあるという。
 タダで美味い物を食べにきているだけのぽちだが、麗羽と美羽の仲の悪さが次世代の懸念であった袁家にとって二人を繋ぐ鍵となり麗羽の成長にまで繋がったぽちの存在はとても大きかった。茶菓子が美味いからというだけで四世三公の名門である袁家に出入りしまくっている男は袁家の懸念を晴らす救世主となり元来優秀であるその血が覚醒しつつある切っ掛けとなったのである。

 後、袁家に出入りする頻度が上がるに連れて、見た目だけはいいぽちに沢山来ていた縁談が落ち着いてきました。皆、下手に袁家に目をつけられたくないからね。美味しい茶菓子をタカりにくる事で名家の後ろ盾を知らずに得た男、ぽち。


「うう……、ぽち兄様、ごめんなさいなのじゃ」
「あはは、でも美羽ちゃんに勧められて嬉しかったよ?」
「ほんとかや? もっと誉めてたも!」
「美羽さん?」
「わっ分かっておるのじゃ、調子に乗ってはいかんのじゃな」
「はい、良く出来ました」


 窘めつつも誉める麗羽と、麗羽に頭を撫でられ嬉しそうにする美羽。二人共にぽちが出会った頃よりほんと人格がまともになってきている。これ二人が成長した後、袁家に隙は無いなと他人事のように考えるぽち。将来姉と対立する可能性なんて微塵にも考えてないぽちは、頭すっからかんでも数で押してくるだけで強敵だった相手を超強化した上で大陸最大最強タッグを作ろうとしているなんて塵程も思いもしないだろう。頭残念だからね。

 普通に考えたら袁紹が優秀になったら曹操が詰みそうである。覇王様が覇王出来ない。あとついでにこのまま美羽が麗羽と共に人格が成長すれば登場していない孫策も詰む。ていうか謀反企む必要が無くなる程度にまともな娘になりそう。三国志ってなんだっけ。
 お茶菓子を摘まみに来るだけで本来の恋姫の歴史を大幅に変えつつある男、ぽち。恐ろしい男である。



「そういえばぽちさん、貴方の家の推薦や袁家の推薦を辞退なさったそうですね?」
「あー、その節はごめんなさい」
「いえ、気になさらずとも大丈夫ですわ。ぽちさんの器量を思えばあの位では確かにわたくしも低いのではと思いましたから。ですが、まさか文官として下級仕官の試験をお受けになっていたなんて思いもしませんでしたわ」
「兄様、何故兄様がそのような位の試験を受けたのじゃ!?」
「美羽さん。ぽちさんはね、男性の身で自らの力だけで駆け上がって行くつもりなのですわ」
「なんと! さすが兄様なのじゃ!」


 違います。まずうちの家や袁家に用意された地位が高すぎて仕事こなせる自信がまったくなかったんです。特に袁家な。雑用係である舎人とかでええねん。書庫の整理とかがええねん。いくら官位なんて金で買える時代だからっていきなり司馬とか出来るか! 軍統括、賞罰、人事、祭祀などを行う軍事行政官なんてド素人にやらせる発想頭おかしいと思う。袁家が与している派閥の編成に組み込まれるのは間違いないだろうけど、俺が派閥崩壊の切っ掛けになる未来しか見えない。殺されるわそんなもん。

 ていうかそもそも働きたくない。なのでこの間受けた試験も白紙で出したので就職失敗は確定的……!! まあどうせ真面目に受けても分からなかったけど。いやー国の為に働きたかったわー! でも落ちたらしょうがないわー! 残念だったわー!


「ぽちさんなら当然の事ですが、筆記は合格だったようですからあとは面接だけですわね」

 ……は? 白紙で出したのに?

「試験、かなりひねくれていたそうですわね。合格者がまさかぽちさんお一人だなんて」

 そうかそうか。まさか正解が無回答とか誰も思わないだろうね。え? ほんとに?

「不思議そうな顔をなさってますわね。周りがぽちさん程優秀では無かっただけですわ」

 いやいやいやいやいや。ていうかおかしくない?下級文官の採用試験で筆記一人だけ合格とかおかしくない? 採用枠イカれてる。

「本来ならコネや金銭の無き者を落とす、建前だけの試験だったそうです。それを知った時は流石に呆れましたわ。まさか正面から突破する者が現れるなどと思っていなかったようで宮廷ではちょっとした騒ぎになっていますわ」

 まさかの悪目立ちですやん。

「兄様なら当然なのじゃ!」


 何故か自慢気な美羽ちゃん可愛い。ていうかこれ面接すんごく嫌な予感がしてきた。

「今回の試験、袁家とか曹家から何かしてないですよね」
「いえ、わたくし達も、貴方の家もぽちさんを信じていますから」

 なんてこった。くそ、それを理由に辞退しようと思ったのに!



 この時のぽちは、まさか司馬のほうがましだったと思う事態になろうとは露程も思っていなかった。まあ普通に考えたらそうだろうね。

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第四話.国の重鎮の圧迫面接

─────袁家

「麗羽姉様ー」
「なんですか美羽さん」
「姉様はぽち兄様と結婚せんのかや? 兄様にはそういう話が沢山来とると聞いたのじゃ!」
「……美羽さん」
「麗羽姉様?」
「わたくしはぽちさんを必ずや手に入れてみせますわ。ですが今はまだその時ではありません。今のわたくしは袁家の娘、世間からそう見られています。わたくしの事を袁家という家柄しか世間は見ていないのです。ああ、ぽちさんはわたくし個人を見てくれていますが。ですがそれではあのぽちさんと釣り合いませんわ。わたくしが自身で地位も名誉も手にしてぽちさんを向かえに行きますわ!」
「おお! さすが麗羽姉様なのじゃ!」

 釣り合っていないのは見た目だけの低能のぽちさんのほうだと突っ込む人間は袁家にはいない。縁談の相手を選ぶ権利を持つ、それだけの力が袁家にはある。次期当主がそう定めているのであればそれに向かって袁家は動く。ちなみに麗羽や美羽と真名を交換した際に、麗羽に付き従う袁家を支える家柄の顔家の顔良、文家の文醜とも真名を交換し、二人がぽちを様付けで呼んでる時点でお察しである。それをぽちは気付かぬフリをしている。鈍感なフリをして問題を先伸ばしにして誤魔化す駄目人間である。



 さてさてその袁家で噂をされてるぽちに場面は移る。

 ぽちは遂に面接にやってきたのだが、入室を躊躇っている。なんせその部屋の中から嫌な空気感がびんびんにしている。ぽちにはこの空気は経験がある。春蘭から無理矢理拉致られて山賊狩りに同行させられた時のような嫌な予感だ。


 腕試しとか言ってならず者をぶったぎる春姉の後ろで無心になる俺ぽち。剣も持たず無手の俺は春姉が山賊相手に無双する様を後ろから能面のような顔でジッと眺めていた。春姉に何かあったらとか心配なんてしない。絶対無いからだ。だって春姉くそ強いもん。剣持っていたら戦ったかって? 俺が戦える訳無い。春姉に剣渡されたけど、いらねっつって返しました。「流石はぽち様」とか何故か言われましたが、少しでも俺の事思ってくれるなら連れてくるんじゃねえ。なんでそんな顔してたかって? 怖かったからと、さっさと帰りたかったからだよ。なんで俺が鉄火場に立ち会わなくちゃいけないんだよ。あの後しばらく肉食べられなくなったやんけ。
 家に帰った時、「まあぽちも一緒なら問題無い事は分かっていたわ」とか華琳姉が言ってましたが何が分かってたんですかね。


 まあ部屋の前でぼーっと立っていてもしょうがないので、仕方なく部屋の外から声を掛ける。

「曹犬、面接に参りました」
「来たか、遅いぞ。入れ」

 高圧的な声が聞こえて来た。憂鬱だなと思いながら部屋の扉を開け、俺は固まった。数秒固まった後、部屋に入らず扉を閉めた。

 ……見間違い? あり得ない人居たような気がする。

「何をしている! 早く入れ! 私も暇ではない!」
「……曹犬、入ります」

 覚悟を決めて扉を開く。うん、見間違いじゃない。何度か偉そうにしているの街で見た事ある。

「その顔は私が誰か分かっているようだな?」
「はい、何遂高大将軍のお顔は街で何度かお見掛けしました」

 何進遂高大将軍。おいこの国の最高権力者の一人何してんだよ。

「……ここは下級文官の面接の部屋、だと思い参ったのですが」
「ああ、合っておるぞ? 暇だからな。戯れだ」

 おおい、暇ではないって言ったばっかりやんけ。くそ、これだから上の人間は嫌いだ。失言したら理不尽な理由で殺されそう。早く帰りたい。

「貴様が曹犬か。ふむ、噂通りなかなか良い見目の男ではないか。」

 あかん。獲物を見る目してる。このエロそうな姉さんに狩られそう。いや正直貞操に関してはむしろばっちこいなんだけど、華琳姉や麗羽さんが斬り込んでくるような気がする。大将軍の所にカチコミとか洒落にならんとか言う次元を遥かに越える。どうしたものかと黙っていると更なる災難が扉の向こうからやってくる。


「あら、姉様。こちらでしたか」
「おお、瑞姫か」


 何進の妹、つまり何太后が現れた。めっちゃ可愛い。何この部屋。仕官すらしてない小市民である俺と国の心臓を握る二人が対面するとか太公望だって読めはしないと思うよ。

「あら? あらあらあら~? 姉様? そちらの男性は?」
「ああ、ほら、少し噂になっておっただろう? 金髪碧眼の見目良い男が曹家におると。そやつだ」
「姉様、確かその曹家の嫡男は袁家の庇護を受けているという話ではありませんでした?」
「そうだ。こやつは自ら仕官してやってきたのだ。こやつの面倒を見てやるのは旨味が多いとは思わんか。ついでに男の喜びでもこやつの身体に教え込んでやろうと思ってな」
「もう、姉様。その子の扱いを間違えると大変な事になりますよ?」
「ふん、私が喜びまで教えてやろうと言うんだ。何の不満もあるまい? なあ小僧」


 やったぜ。じゃなかった多分色々不味いです。

 というかそもそも働きたくないです。しかし今の会話にこの場から逃げ出す手掛かりがあった。袁家の庇護を受けているからと言った。ならば多少の無礼はいける。後で麗羽さんに泣きつけば首跳ねられなくてすむかも。もうこうなったら暴言吐いて逃げよう。


「は? 何が嬉しくてお前みたいな年増のババアに抱かれなくちゃいけないんだよ」
「……なんだと?」

 やべ。多少どころじゃない暴言が口から出た。この場で打ち首にされるかも知れない。もうやけくそだぜ。

「何も嬉しくないっつってんだよ。調子乗ってんじゃねえよババア」
「な、なにを……言って──」
「……へえ?」

 何やら様子がおかしい何進。何太后がやるじゃないといった具合の表情を浮かべこちらにやってきて耳打ちをしてきた。ああ~美人の吐息が~じゃなかった、正直内容に耳を疑った。は? ほんとにそれを言えと? それ言ったら相手が大将軍とか関係無く誰に首を跳ねられても文句言えない。あ、そっか。もうそれくらいの暴言吐いてたわ。死ねって事か。良いですよ。最後は超可愛い何太后の言う事聞いて死にますよ。

「なぁ傾」
「き、貴様我が真名を……!?」
「あ? 喋って良いって誰が言った? 黙れよ傾」
「……ハァ、ハァ、貴様……許しても無いのに真名を……ハァ、ハァ」

 息遣いが荒い。顔が蕩けて朱色掛かってきた。これ……もしかして……罵られて喜んでるよな?

「姉様の性癖を一見で見抜くなんて凄いじゃない」

 ニコリと笑う何太后。あ、やっぱりそうですか。

「でも、これ俺やっぱり打ち首ですかね。真名なんて……」
「大丈夫よ。姉様こうなった後、何故かその時の記憶無いもの。自分の性癖認めたくないんでしょうね」
「……いやでも凄く後ろめたいんですが」
「気にしないで? ほら姉様凄く喜んでるでしょう?」

 なんか赤面しハァハァ興奮して床に伏せてしまった一匹の雌犬。じゃない何進大将軍。……いいのかなあ。ていうか死を覚悟したとは言え真名を呼んだ俺も相当だけど、姉の真名を呼ばせるとかいう妹、何太后、畜生だなコイツ。姉より性質が悪いわ。関わってはいけない人種。

「私以外にこの事を知っているのは貴方一人だけ。……分かるわね?」
「はい、誰にも言いません」
「宜しい」
「あの……じゃあ帰ります」
「はい、またね?」
「あはははは……」


 もう会いたくないです。笑って誤魔化しながら帰路につきました。後日、連絡が家に来ました。面接の結果、大将軍補佐を命じられました。補佐て。え? ほんとに?



袁家の庇護を受ける男、ぽち。
大将軍の弱味を握り一気に権力を手にする(笑)


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第五話.名将

 何故か大将軍補佐とかいう新しい役職に任命された俺は、城内で色んな噂が飛び交う今一番話題の熱い男となりました。まあ売男とか色情魔とか誰とでも寝るとか何進の肉便器とか顔と身体で地位を手にいれたとか、そんな話ばかりだけれども。

 そして若干否定しにくい。なんせあの面接の時の何進の記憶は、何太后によって、俺は何進にあひんあひんにされた事になっている。どっちだよあひんあひんになってたのは。でも事実が何進にばれると打ち首である。幸いな事は華琳姉や麗羽さんは噂を鼻で笑い、姉からは「実力で手にいれた地位だもの。実力で黙らせなさい」と無茶振りが飛んできました。なので何進と二人きりや、何太后もいる時は出来るだけ何進を罵ってびくんびくんさせてます。姉の言い付けだから仕方ないね。ま、何進の頭の中では俺がびくんびくんなってる事になってるから問題あるまい。


 ま、仕事らしい仕事してないけどね! 何進をびくんびくんさせてるか、何太后……秘密を共有する仲って事で真名交換した瑞姫や、何度も閨を共にする仲(一度もしてない)と交換した傾と恐らくこの国最高級の茶菓子やお茶を楽しんでるだけである。でも袁家で食べる茶菓子のほうが美味しい……。あれ俺の好みに合わせてたんだなと実感する。ちなみに真名は他人の前では呼んではいけない事になった。とくに瑞姫なんて他人の前で呼んだら大変な事になるからと。まぁそれはそうだろうと納得している。ていうか交換したくなかったけど圧力に負けただけなんだが。



「なあぽち、城内の噂を知っておるか?」
「ん? なんの?」

 大将軍の問いかけにタメ口で返す男、ぽち。恐らく大陸広しといえどもこの男だけである。

「お主が私の肉便器だの呼ばれている事だ」

 普通言いにくい事をズバッと言う傾。ヒューっ。男らしいぜ。

「まあ、事実だがな」

 いやいやいやいや無実です。あんたの頭の中だけだよ。

「だがあまりにもうるさいと面倒でな。お前ちょっと手柄を立ててこい」
「……は?」
「何、私の代理として賊狩りをしてこいと言っているだけだ。お前なら簡単だろう。先日袁紹と話をしたが、貴様の才覚を偉く高く評価しておったからな。」

 ……麗羽さん何してくれてるんですかね。

「安心しろ。討伐の際はお前には私と同等の権限を与える。故に勝ったも同然だ。お前の声は私の声という訳だ」
「いやその理屈はおかしいだろ頭の中まで発情したのかクソババア」
「な──」

 最近、傾の発情スイッチ入ってからあひんあひんになるまで時間が短くなってきて助かる。調教が行き届いてる模様。




 まあ残念ながら賊討伐には行かされる事は決定事項であり、何故か総大将に命じられた俺。何進大将軍の代理である。今この国の軍事の頂点は、一度も軍を率いた事がなく、剣も槍も使えぬ俺である。頭おかしい。相手の規模は三千程度。こちらは正規兵六千を率いて出立である。そしてあからさまに軍内で腫れ物扱いされる俺。俺、賄賂要求しないし発言気に入らないからって首刎ねたりしないよ? 俺がそっちの立場なら関わりたくないから残当である。


 出立一週間前、未だに軍議していない事に気付いた。あれ? 俺ハブられてる? いや別にお飾りでいいんだけどさ。きっと周りが既に全部把握してるやろうと能天気に城内を散歩していると薄紫色髪の少女から声をかけられた。ある意味事案である。

「……あ、あの、曹犬大将軍代理であっていますか。シャンは……私は姓は徐、字を公明と申します。この度は共に遠征を……えーっと」

 可愛い幼女が現れたと思ったら、どうやら賊討伐の遠征を共にする一人のようだ。堅苦しい挨拶が苦手らしい。まあ俺の悪名がひどすぎるというのが多分にあるだろうが。そしてそんな俺の元に恐らくお前行けよと無理矢理貧乏くじ引かされたであろう、徐公明。可哀想。

「徐公明か、宜しく!」

 笑顔で挨拶し、右手を差し出したらビクっと一瞬驚かれた。大丈夫、握手で妊娠した人間はいないぞ。恐る恐る握手を返す徐公明可愛い。

「あ、あの……遠征についてなんですが……」
「うん?」
「まだ何も手配されていないようですが、その……」

 言いづらそうに話す徐公明から衝撃の事実が告げられる。まじかよ。全部終わってると思ってたわ。無能ここに極まり。そうだ。

「委細任す」
「……へ?」
「委細徐公明に任す。あ、兵糧だけやっとくから! 後は大将軍代理命って事で宜しく!」


 そう言って大半を目の前の少女に投げて逃げ出し、俺は兵糧の管理をと兵糧庫に向かった。が、どれくらいあれば足りるか良く分からなかった。どうすんべと悩んでいたが、考えても分からないのでとりあえず保留にしてまた城内を散歩する事にした。明日やろうは馬鹿野郎とはよく言ったものだと他人事のように感心していると、麗羽さんに出会った。


「あらぽちさん。この度は賊討伐の総大将の大任、おめでとうございますですわ」

 ますですわっておかしくない? まあそれはおいといて、実におめでたくないですわ。

「……あら? どうかしました? なにやら浮かない顔をされているようですが。わたくしで良ければ相談に乗りますわ」

 うわーい。私塾一の天才なら間違いないと兵糧どれくらい持っていくか悩んでると話す。

「そんな事ですか。ぽちさんの悩み、この麗羽にお任せあれ。手配はわたくしがしておきますわ」
「麗羽さん、ありがとう」
「初の遠征での総大将の就任祝いと思って下さいませ。おーっほっほっほっほっほ」

 ありがとう麗羽さん。次回以降は今回を参考にさせてもらおうと三日で忘れる誓いをぽちは立てるのであった。



 遠征当日。

「あの……曹犬様」
「なんだい徐公明」
「その……兵糧が……」
「ああ……うん」

 麗羽さんに手配してもらった兵糧。くっそ多い。流石に俺でも分かるくらいくそ多い。将と兵も全員唖然とするくらい多い。適当に誤魔化すしかない。

「これはな……余った兵糧は皆の褒美として山分けするからだ」
『!?』

 ぽちの言葉を聞いていた皆が耳を疑う。
 兵に兵糧? 現地調達で良かろう。ああ欲しければ賄賂を寄越せ。何、金が無いだと? お前らの兵最前線な。くらいが常識な漢王朝において、遠征当日まで一切賄賂を要求しなかった所か、明らかに多い兵糧を皆で山分けすると言ったのだ。

「賊討伐を早く終わらせればそれだけ皆の褒美が増えるぞ。将だけではない、兵もだ。全員に兵糧を配るぞ。さあとっとと討伐済ませて皆で山分けしよう」
『おおおおおおおおお!!!!!!!』
「あ、あの……シャンの所にも貰える……んですか?」
「当たり前だろう?」
「!?」

 徐公明は現体制にうんざりしていた。何かあれば賄賂、賄賂。昇級も自身の兵の待遇を保つのも。今回だって、最低限ではあるがなんとか自身の兵を守る為の金銭を四苦八苦用意していたのだ。でなければいつもなら捨て駒確定は明らか。徐公明はその武勇天下に響いてもおかしくなき武芸者であるが、自身の率いる兵を守る為に現体制では埋もれている人材である。

「シャン……頑張る!」
「お、おう。頑張ったら頑張った分だけ渡すからな」
「うん!」

 これで自身についてきてくれている兵にお腹一杯にご飯を食べさせてあげられると徐公明は気合いを入れた。ぽちは自身の懐具合には興味がほとんど無い。美味い物を食いたければ袁家に行くだけだから。くそ野郎である。




 何もかも徐公明に押し付け自身は号令くらいしかしなかったぽちの初遠征は、異常な程の士気の高さに加え、異常な行軍速度と異常と言える被害の少なさで敵を殲滅した。悪名ばかりであったぽちが、名将と言われるようになるまで時間は掛からなかった。全部他人に任せた結果がこれだよ。ただ賄賂などは一切受け取らず、自分で戦場を見て自身なりにちゃんと周りを評価して褒美を配った事だけはきちんと仕事をしたと言えるかも知れない。もちろん評価筆頭は徐公明である。

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第六話.武勇、天下に響き渡る

 都度四度。賊討伐の遠征軍の総大将として文字通り大勝で終えたぽちは希代の名将、皇帝の懐刀、竜の牙と呼ばれるようになっていた。本人が聞いたら憤死するかも知れない。二度目の遠征から副官として徐晃公明を指名した。それに際し、騎都尉であった徐晃は裨将軍を任ぜられた。この飛び級昇進は徐晃も驚きである。

 ぽちが何進に頼んだら「ああ、いいぞ」の一言で決まった模様。そして自軍(というか徐晃軍)の編成に、徐晃の負担が大きい事を案じたぽち(自分で働く気が無い&自分が働くと邪魔でしかない思いと引っ込んでいる)は、賄賂を拒み干されていた盧植子幹を取り込んだ。

 何進には「余ってるならくれ」と言い、何進も流石に盧植はと躊躇したものの最終的には首を縦に振る。その時の交渉テクニックはこの大陸でぽちと何太后しか持っていない。尚、盧植をぽちが指名した理由は大人しそうだし眼鏡枠とか貴重なのではとかいう良く分からない理由である。

 何故か指名された盧植は、困惑しながらも賊討伐時に献策を書簡に纏め名将と噂されているぽちの元へ行った際に「じゃあ採用で」と即答され更に戸惑う事となる。「大丈夫。信頼してるから。責任は全部(何進が)取るから任せて」と初めての献策で全て信頼すると言ってのけたぽち。そして徐晃と盧植に渡せる物がろくにないがと、真名を預け信頼し命を預けると言った。それは行動に現れていた。何故ならぽちは行軍の際、帯刀しないのだ。剣も槍も、二人がいくら言っても持たない。だって使えないもん。だが事実はどうであれ、二人はそれを信頼と受け取り、二人がぽちに心酔し彼の為の剣となり盾となる決意を固めたのも当然と言えたかも知れない。



 まあそんなこんなで過ごしていたある日。

 何故か皇帝陛下の御前で華雄と試合をする事となった。

 俺は今日、死ぬんだと思う。

 事の切っ掛けはこうだ。俺と何進、あと徐晃が城の中を歩いていた。大将軍と大将軍補佐、周りは皆道を譲る。まあそんな中に華雄がいた。譲ってはくれたものの、俺に向かって「何進の腰巾着めが」と小声で呟いた。俺は無視した。小言など慣れているからなんとも思わない。が、「ぽち様を……悪く言った!」と徐晃がキレた。徐晃がキレたのなんて初めて見た。普段はのんびりしていてふわふわした空気を持つ穏やかな娘なので、ぽちは徐晃が怒る事なんて想像もしていなかった。「やるか」と得物を構える華雄。応じ構える徐晃。どうしたら責任を全て何進に押し付けられるか考える俺。

 三者三様の場面で、何進が言った。

「華雄、貴様そんなに不満ならぽちと一戦交えるか?」
「ふん、そこの男が私と戟を交えると? 笑わせてくれる」
「なら負けたら分かっているな。ふさわしい場を用意してやる。首を洗って待っていろ」
「首を洗うのはそこの腰巾着だろう」

 は? と口を挟む間もなく俺が華雄と戦う事になった。この時はまだ軍同士の模擬戦かなと思っていたのだが、何進から皇帝陛下が見守る御前試合となるとか後で言われて素直に何進死ねと思いました。死ぬのは俺ですね分かります。


 まあそんな事があり、ほんとに最悪な事にちゃんと場が整いました。霊帝に少帝が豪華な椅子に座り退屈そうに眺めています。観客も割りといます。ていうか城の中の主要な将や文官皆いるんじゃねえかな。華琳姉や麗羽さんもいるな。みんなそんなに俺の惨殺ショーみたいのかそうかそうか。


「曹犬、よく逃げずに私の目の前に立ったと誉めてやろう。だが、貴様どういうつもりだ」
「……なにが?」
「剣も槍も持たず、この私を舐めているのか!」
「いや必要無いし」
「なんだと!」

 そう、フル装備の華雄に対し俺は普段着で無手である。だって剣も槍も使えないし。戦場にだって一度も帯刀して行った事ない。徐晃や盧植にも何度も護身用に帯刀をと言われた事があるが、全部断った。必要無い、皆がいるからと剣なんて振れないなんて今さら言えず、信頼してると言って誤魔化し続けて今に至るのだ。
 この場ですら帯刀していない事に驚いていたが、徐晃は「ぽち様……信じてる」と言っていた。いや負けるの分かってて信じてるとか言われても。もしかしてこの試合賭博やってる? もし誰かやってたら俺の負けに全額ぶっこめばいいよ。

 とかなんとか現実逃避していると、俺の格好と武器を持って来なかった事に華雄がキレた。あれ、おかしいな。あわよくば手加減してもらえるかもと思ったのに。


「始め!」

 何進の合図と共に駆ける華雄。棒立ちの俺。相手の烈帛の気合を目の当たりにし、死を確信した。



 華雄が大戦斧を全力で横凪ぎに振るう。「ぶぁっくしょおおい」大戦斧が空気を切り裂く豪音で、声だけ掻き消されたクシャミで腰が90度曲がり不格好にぽちは屈み込む。大戦斧の下を、まるで様子を見ながらさっと掻い潜ったように周りからは見えたであろうぽちは、「うっわ……恥ずかし」と慌てて立ち上がる。立ち上った際にぽちの後頭部がやや前屈みの体勢であった華雄の顎先を掠める。例えるならボクサーの右フックが顎先を捉えたかのように。ぐらんっと華雄の脳が揺れる。華雄の意識を身体が無視し、膝が崩れ背中から地面に落ちる。



「お?」

 立ち上がったら華雄が倒れた。訳が分からないぽちは咄嗟に華雄の背と腰を抱いた。俗に言うお姫様抱っこの体勢。顔だけは良い男、ぽち必勝の形である。

「~~ッ!!」

 何故倒されたか分からないが今の自分の体勢が、周りからどのように見えるか気付いた華雄の顔がゆでダコのように真っ赤になる。猪武者華雄、間近に接近したぽちの顔を見て一瞬自分が武将である事を忘れ、女である事を自覚する。

「は、離せ!」
「あっはい」

 離せと言われ、優しく地面に華雄を降ろすぽち。華雄は立ち上がりたくてもまだ腰から下が言うことを聞かない。

「あの、続き……やります?」
「……私の負けだ」

 え? そうなの? ぽち的にはよく分からないうちに勝負が決まった。何故か勝ったらしい。これ周り納得するのかなと周りを見渡す。


「今の見えたか?」
「多分……あの屈んだ瞬間に腹部に一撃を入れた……ように見えたが」
「いや、屈みながら側頭部に拳を入れたように見えた」
「そうなのか……ただ屈んだようにしか見えなかった」
「凄まじい速さの一撃だった」
「それに加え、一撃を加えた後のあの優美な振る舞いよ」
「あれ幾ら払ったらやってもらえるのかしら」
「羨ましい」


 周りがなんか勝手にガヤガヤ言ってるが、とりあえず勝ったって事で良いらしいとぽちは考えるのを辞めた。猛将華雄を正々堂々と正面から鮮やかに破ってみせたぽちの武勇は、瞬く間に大陸中に知れ渡る事となるのであった。ほんとかよ。




「ぽちさんが勝ちましたわね。当然ですわ!」

 分かっていたと大きな胸を堂々と張り、まるで自身が勝ったかのように誇る袁紹。

「ま、当然ね」

 こちらも当然と話す曹操。がそんな曹操の表情に何か引っ掛る袁紹は訝しがる。

「華琳さん、何か意外そうな顔をしていますわね?」
「あら、そうかしら? 私は元々ぽちが負けるはずがないと言っていたでしょう? 信頼しているもの」
「それもそうですわね」

 確かに常日頃から弟を溺愛しているこの姉が弟を信頼しないはずがないかと、自身の思い違いと直ぐ様思いを改める。

「さ、忙しくなるわよ麗羽」
「分かっていますわ」

 賭け事は胴元が儲かる物。そして胴元は信頼が大事。袁家の名を借り今回の勝負の胴元を務めた曹操と、名を貸し協力した袁紹が今回一番金銭的に儲けを出した。そして男が勝てるはずが無いと大穴であったぽちに無二の信頼を寄せている二人が、売り言葉に買い言葉と乗せられて、まんまと賭けさせられたが大勝したのは言うまでもない。



感想ありがとうございます。


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第七話.聖人君子

 権力を手にして人が変わったと言われる人はとても多い。いきなり漢王朝の軍事実質ナンバー2となったぽちは、曹家の出でありながら本質の小市民っぷりは相変わらずであった。
 華侖から「すっごい美味しい点心の店見つけたっすー!」と言われれば華侖や柳琳と一緒に普通に行列に並ぶ。周りがぽちに気付き、譲ろうとしても「いいからいいから」と普通に並ぶ。店の人間が気付き「お代は結構です」と言えば「いやいや美味しかったよー」と少し多目に払って出る。
 街中で子供が迷子になっていれば手を繋いで一緒に親を探す。子供達とはしょっちゅう華侖と一緒に遊んでいるので扱いは慣れたものである。
 自身が黒と言えば白であろうが黒となる程偉いはずなのに、余所見していてぶつかれば咄嗟に「あ、ごめんなさい」と謝る。下端役人がぽちと気付かずに高圧的な態度を示した際はどこからともなく徐晃が現れぽちと身分を明かし、「……俺死んだ」と諦めた役人に対して「次からはお互い気をつけようね」の一言でなんのお咎めも無しで終わらせる。

 賄賂献金その類い一切受け取らぬぽちではあったが、市民であった時に比べれば遥かに手持ちの金が多くなっていた。小市民ぽちは小金を持てば気が大きくなる。ぽちは軍事の際の報奨を、何進がケチれば身銭を切る。「俺金持ちだし平気平気」と予算をあまり考えずに報奨を出す。なので当然褒美として出すつもりだった金が足りなくなるのは必然だったと言える。ぽちは袁家に金を無心した事は一度もない。援助も全て断っている。お腹一杯食べられれば満足出来る男なのだ。しかしなんとか金を捻出したぽちは褒美を渡す為に皆を集めた会議に出る。

 集められた人間は一様に絶句する。とても役人とは思えぬ、一市民でも着るかなというボロ着。そして何より美しく長かった髪が坊主に近しい短髪となっていた。その変わり果てた姿に皆が言葉を発せず黙る中、盧植が言葉を絞り出し「ぽち様、その……お髪は……どうされたのですか」と聞けば「皆に褒美出す為に売ってきたよー」と笑い話のように答える。ぽちが身銭を切って出していた事を知らなかった一同、余りの出来事と事実に気付き言葉を失う。ぽちが賄賂を拒否している事は既に周知の事実。曹家にも袁家にも、どこからも金銭を頼りにしているとは聞かない目の前の我らが将軍は、皆に褒美を配る為にその美しい髪まで犠牲にし金銭を捻出してきたのだ。その出来事に泣き出すものまで現れる。その場にいた全員完墜ちである。信者といえる人まで現れ始める始末である。あざとい。ほんまあざとい男やで。

 ぽちのこの行動、一気に噂が拡がり「何それ……聖人?」「え、やだ格好良すぎ」「まじかよ真似しよう」となんと部下に献金を要求するのが当たり前の風潮から、部下に褒美出すのマジ格好良すぎという一大ブームがやってくるのである。腐敗した漢王朝を自らの行動で変えつつある男ぽち。

 腐った洛陽、俺を誰だと思ってるんだと無銭飲食する役人も多数いる中で、常勝不敗にして自身の武勇も凄まじいと言われているぽちの変わらないマイペースっぷりは大陸中の噂となり、いつの間にか聖人として持ち上げられ漢王朝は曹犬様がいる限り滅びぬとまで言われる始末である。どうしてこうなった。


 洛陽中の人気を背負うぽち。ここまであからさまになれば、流石に何進も自陣営とはいえ己の立ち位置の邪魔となるかと思い始める。ぽち本人は素直に言うこと聞いているだけなのに。何進もぽちは自身の魅力の虜だと思っているが、ぽちの周りがぽちを持ち上げ巻き込めばクーデターも余裕の様相になってきたから何進的にはしゃーない。しかしぽちを切るのは愚策も愚策だと理解している。己が使える手駒でここまで軍事が優秀な人間などいない。ならば使い潰すしかあるまいと何進は今後の方針を決めた。


「ぽち、長安で馬騰軍と合流しそのまま涼州に行って羌族共の反乱を抑え、返す刀で幽州へ行き幽州軍と共に烏丸の奴らを討伐してこい」
「は?」


 こうして新たに対異民族軍として編成された軍の総大将となったぽち。軍の出立に際し、洛陽中の市民が集まり「護国の英雄、曹犬様万歳!」とまだ対異民族戦をこなす前から護国の英雄扱いに困惑を隠せぬぽちと、軒並みぽちの為ならば自らの命など投げ出す覚悟の将軍並びに兵達、曹芝犬の為なら死ねる会会員一同は洛陽の地を後にするのであった。



短めです。

革命の新キャラ達とイチャイチャさせたくて始めたはずなのに、そこまでなかなか行けない。


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第八話.長安

 長安に着き、のほほんとしたぽちを除く周囲の人間は殺気立っていた。馬謄が病気だから行かないと言ってぽちに会わないのだ。何進の命令なんか聞くかボケという感じが透けて見えすぎである。娘の馬超猛起が代役として立つという話だ。何進の代役のぽちと馬謄の代役の馬超。ぽちは親近感を覚えた。

「お前が曹犬か、あたしは馬超猛起。宜しくな」

 仮にも立場が上のぽちに対する馬超の礼を失するってレベルじゃねーぞ的な歯に衣着せぬ態度にぽちの周囲は殺気立つ。馬超はそれに対してなんだこらやんのか的な空気を出しているが、馬超と共に来た横に立つ馬岱の顔は「は? 何やっちゃってんの姉様」と驚きと焦りとふざけんじゃねーよ的な複雑な表情になっていた。

「おー宜しくー」

 馬超の態度を特に気にせず軽く返事をし、握手を返すぽち。ぽち側も、己の主がそう返すのであれば殺気を引っ込めるしかない。が。

「涼州はあたし達の庭だ。あたし達にはあたし達のやり方がある。邪魔すんなよ?」

 無礼不躾不作法粗野。馬超の言い様にぽちの周囲がキレたのは当然だろう。馬岱の顔が青ざめる。だが周りが口を出す直前にぽちが口を挟む。

「あ、そう? じゃあ邪魔しないからそっち主力で宜しく」

 なんだ楽出来るじゃねえかと特に考えずに任せる発言をしたぽち。こっちの戦力減らさないからそっちでやれよと言った趣旨の発言で、無礼を許す懐の深さを見せつつしてやったりと言ったぽちの周囲は少し熱が下がる。

「中央の連中は融通が聞かないって母様が言ってたけど、なんだ分かってるじゃないか! 任せろ! この錦馬超の槍の冴え、その目に焼き付けてやるぜ!」

 この勇ましい馬超の発言に、ああなんだこの娘アホの脳筋娘かとぽち側の人間が全員気付いたのはいうまでもない。ぽちの馬超に対する思いは会話の途中から一つだけしかない。そんな短かい丈の服で馬乗ったら中身見えるよね? 見せてるの? 見ていいんだよね? これだけである。男なら仕方ないよね。




「あの、蒲公英は……じゃなかった、私は馬岱と申します。先程は姉様が失礼な態度を取り、本当にすみませんでした」

 馬超を若干ロリ気味に寄せた容姿の馬岱が、馬超が気分良くその場から離れて直ぐに謝ってきた。どうやら涼州側の良心はこの娘のようだと理解した。

「いいよいいよー、実際対羌族はそっちに一日の長があるのは間違いないから。勉強させてもらうよ」

 嫌味もなく笑いながら話すぽちに、これまで出会った中央の官僚とはまったく違う人物だと馬岱は理解した。

「これが"聖人"曹犬様の人となり……。聞いてたよりも素晴らしい人だね曹犬様は!」

 聖人って何? と若干の引っ掛かりを覚えつつも褒められて悪い気はしないぽち。

「ところで馬岱も出立するんだよね?」
「うん、じゃない……はい、蒲公英も姉様に負けないよう頑張ります!」

 まじか。この娘もこんな短かい丈の服で馬に乗るのかと今回の遠征に来て良かったと思い始めたぽちであった。思考が最低である。




 長安にて少しの滞在の間に筆を取るぽちの元に、主に用があった盧植が訪ねてきた。

「ぽち様、今宜しいでしょうか?」
「どうぞー」
「失礼します……あら、仕事中でしたか」
「これ? これは文通相手に文をね」
「文通……ですか?」
「そうそう、ほら、雑誌の阿蘇阿蘇で文通相手募集みたいな項があってさ、栄華……うちの従姉妹が読んでて面白そうだったから始めてもう三年かな。しばらく文出せないだろうし出しとこうと思って」
「そうでしたか」
「この文通相手凄くてさ。よく色々相談してるんだよね」
「ぽち様が相談を……?」
「まあ軽い話だけどね」


 ぽちがこの文を交換している相手にしている相談、実はまったく軽くないし割りと重大な事が多かったりする。しかし相手からの返答はまるで未来を予想したかのような適切な解答がよく返ってくるのである。文通相手、その名を諸葛亮孔明という。


「で、用事?」
「はい、実は教え子でぽち様に紹介したい娘がいまして……桃香ちゃん、入ってきて」
「は、はい」

 盧植に促され部屋に入ってきたのは桃色髪の巨乳で大人しそうな娘。百点ですね。

「あの、私は劉備玄徳って言います。真名を桃香って言います」
「いや初対面で真名言われても困るんだけど」

 いきなりの出来事に困惑するぽち。ぽちの周囲で言えば、華侖も自身の真名を渾名程度にしか考えていない人間なのでいきなり真名を名乗る人物が元々周囲にいない訳でもないが、やはりぽちにはいきなり真名を名乗られても抵抗があった。何姉妹に強制された過去は忘れた。まあ言っても何姉妹だって出会ってしばらくしてからの交換だからね。

「もう、桃香ちゃんったら……。ぽち様、桃香ちゃんを少しうちで面倒見てあげられないかと思いまして」
「あの、私色々曹犬様の噂を聞いて、どうしても一度お会いしたくて来ちゃいました」

 来ちゃいましたとか言われても。でも巨乳だし大人しそうだし、盧植の教え子なら問題無いだろう、なんかあったら責任は盧植が取るやろ、巨乳だしとなるべく顔に視線をやりつつ視界の端でデカさを確認するぽち。

「いいんじゃない? 文官?」
「はい、私の補佐をしてもらおうかと」
「そう、じゃあ宜しく劉玄徳」
「はい、宜しくお願いします曹犬様!」

 何この子の笑顔太陽可愛い。とこうして何故か涼州に行く前に魅力チートが合流した。真名の交換にはちょっと早いよ。ちょっとだけだけどな。後、文を見てはわわ軍師があわわ軍師を巻き込みアップを始めました。



尚、次の話までには交換している模様。

お気に入りが900突破したと思ったら1300突破してた。皆様ありがとうございます。感想も毎回楽しく読ませてもらってます。きっとウキウキしながら書いてる私が一番楽しんでいる事でしょう。多分文章からノリノリ感が滲み出ているだろうなと思います。


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第九話.馬超、心酔する

 聖人、その噂に偽りなく。

 名将、その采配に曇りなく。

 皇帝の懐刀、その尋常ならざる切れ味に留まること知らず。


 馬超軍のぽちに対する評である。

 まず出会いで礼を失する態度で接した馬超にその器の大きさをぽちは示した。サボれるやったーなんて思ってたなんて馬超は気付かない。

 涼州に入り、少数の武装した羌族がこちらを見て逃げ出したのを見つけた馬超が強襲しようとしたのをぽちは止めた。ふざけんな今だろと憤慨する馬超。しかし斥候を出してその少数が罠だった事を知る。こちらを誘い挟撃する為の布陣を敷いていた。ぽちの制止にて馬超軍は罠を回避する。ぽちは長い乗馬での移動で尻が痛くて急ぎたくなかっただけである。

 次の少数の羌族はぽちが蹴散らすだけでよいとの指示を出す。馬超は指示を疑い、無視し羌族を捕らえ尋問するも相手は羌族の中でも既に群れから独立していた集団で何の情報も持っていなかった。そこまで分かるのかと驚く馬超。面倒だっただけである。

 再び少数の武装した羌族が逃げ出す様を馬超が見つける。今度も馬超を止めるぽち。そしてまたも斥候にて羌族の罠であった事が分かる。

 そして三度、またかと馬超が今度も羌族を見逃すのであろうと考えるもぽちが全軍に号令を掛ける。殲滅せよと。馬超は半信半疑ながらも羌族を苛烈に追う。追った先にはどうせ漢の奴らは臆病風に吹かれ追ってはこまいと油断した羌族の集団がいた。油断した相手に遅れを取る筈も無く一網打尽と打ち倒すのは簡単であった。次から次へとズバリ的確な采配を振るうぽちに本当に羌族を相手にするのは初めてかと驚く馬超。尻の痛みに慣れてきたので一回くらい行っとくかと思っただけです。


 まあぽちの内心は置いといて、その迷いなく的確な采配は大打撃を負いかねなかった馬超軍を救い、当初の予想より遥かに少ない被害で最大限の戦果を上げたといえよう。そしてその采配に一切の迷いなく従う曹犬軍。強い。馬超は第一印象でただの優男だと決めつけた自分を恥じた。いやそれで大体合ってるんだけど。そしてこれ程の采配を振るうぽちに反抗的な態度を示した己を恥じる。いや適当に采配振ってるんだから本当なら怒っていいのよ? 曹犬、尊敬すべき人物であると馬超は考えを改めた。一度そう思えば馬超は全てぽちの言うことを素直に聞くようになった。脳筋だからね。

 強襲した羌族の集団から涼州内で暴れている羌族の本体の位置を把握した曹犬軍と馬超軍は、一路敵の本体へ向かう。だがぽちは思う。やはり尻が痛いので休みたいと。



「曹犬様、近くに董卓の街があるがどうする?」

 言葉遣いは相変わらずだが、ついに様付けで呼び出した馬超は一応ぽちに聞く。常識で考えれば遊牧民族相手に余分な時間を与えれば相手が移動していなくなる公算が高い。一刻も早く相手を捉え叩くべきである。だが。

「よし寄ろう」

 ぽちは即答した。尻が痛いからだ。寝台で寝たいのだ。馬超は、そして馬超軍はもはやぽちを疑わない。ぽちがそう言うのであれば、自分達には分からないがそれが正しい事なのだろうと考える。いやどう考えても間違ってるんだから誰か止めろよ。曹犬軍、特に軍師やってる盧植、お前だよ。「なるほど……、先に董卓と接するほうが利が有るとお考えですか。流石です」とか納得してんじゃねえよ。軍師ならちゃんと助言して止めろ。後、尻が痛くならない馬の乗り方誰か教えてあげて下さい。鐙とかいうチートアイテム? 無いよ。よく三国志系のチートもので出てくるけど無いよ。そんな物考えつく頭なんてぽちにある訳がないのだから。

 急遽官軍が街に大挙して押し寄せる事になったその董卓達は焦る。普通に考えれば食料の現地調達だと思うであろう。官軍に差し出さないのであれば逆賊の汚名を着せられ街ごと襲われる危険がある。しかし街に余分な食料などない。寒冷地であり痩せた土壌が広がる涼州。懐事情が明るい訳がない。それを知りながら官軍を連れてきた馬家を呪った。同じ涼州の民でありながら自分可愛さに仲間を売るのかと。

 しかし、しかしである。例のごとくめっちゃ余計に糧食を持つ曹犬軍。なんと現地調達どころか食料を配り始める。ぽちが「なんかみんな痩せてない? 飯分けてあげてもいいかな?」と自軍の皆に相談する。糧食を分ける。それは自軍の取り分、つまりそれぞれの報酬が減る事。喜ぶ人間がいるだろうか。むしろ自軍のやる気を削ぐ行為と言えよう。その愚行に反対する者、勿論一人も居る訳がない。
 皆、喜んで協力して糧食を分ける。元々総大将たるぽちが相談する必要などないのだ。しかし皆一人一人に、ただの一兵卒にまで「いいかな?」と確認していくぽちに反対する者がいる訳もなく、むしろぽちの行いに協力出来る事に喜びを皆覚えるのであった。曹犬軍、ちょっと狂ってきてませんかね?

 喜んで食料を受け取り感謝する街の人々。何事かと驚き、その曹犬軍の行動を董卓軍の人間が何の企みかと怪しむのは仕方のない事だろう。ただ、100%良かれとぽちは善意でやってるのでいくら怪しんでも何も出てこないよ。何も出てこないのだが、疑惑の目は向けられたまま董卓の館にぽちは迎えられた。
 
 現漢王朝実質No.2と目される曹犬に対し董卓の軍師賈詡文和は出来る限りの金を集めて董卓に便宜を図ってもらう為に渡そうとした。が、当然ぽちは受け取らない。額が足りなかったのかと賈詡は聞く。しかしぽちは「そんなに金があるなら子供達に少しでも食べさせてやってくれ」と賈詡に頭を下げ頼む。賈詡は驚愕したと言っていい。辺境の、官位も何も無い己に、漢王朝の将軍たる曹犬が頭を下げ頼むなど誰が考えるというのか。賈詡は慌ててそのようにするから頭を上げてくれとぽちに願う。ぽちは「ほんとに? ありがとう」と心から喜び笑顔で賈詡の手を握った。賈詡文和、そのぽちの笑顔を間近で見て顔を赤らめ慌てる。惚れたな。なまじ地位があるせいか、ぽちの笑顔の効果がどんどん上がってる気がしないでもない。「あんなの反則よ……」とは後の緑髪の眼鏡軍師、賈詡の談である。



日刊一位に自分の書いた物が凄く久しぶりに載りました。とても嬉しいです。お気に入りと評価の伸びが凄すぎてびっくりしてます。本当にありがとうございます。


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第十話.涼州の救世主(童貞)

「食糧の件、本当にありがとうございました。本当に何も受け取っては貰えないのですか? 全額は厳しいのですが、せめて気持ちくらいは受け取って頂かないと……」
「いいよいいよ、勝手にやった事だし。うちの皆いいって言ってたし。むしろ勝手にやっちゃって申し訳ないというか」


 董卓仲穎と会談に望んだぽちは食糧の件を一切恩に着せず、勝手にやってごめんと謝った。完全に想定外の行動しか取らないぽちに董卓は困惑しながらも感謝を示す。まあこんな将軍いるとは思わないだろうしね。


「いえそんな、私達からは感謝しかありません。何せ涼州は土地柄食糧事情が厳しいので……」
「そっか……、じゃあ今日はソバの実の粥でいいか」
「……あの、ソバの実、とは?」


 曹犬はグルメである。袁家にて散々色々な料理を食してきた男である。また袁家はどちらかというと家庭的な料理を好むこの男に楽しんで貰うため、その強大な力を家庭的な料理のレシピ探しに使った事がある。その激レアレシピの一つ、ソバの粥。ソバは超臭い花を付ける植物である。誰が食べるかというくらい臭い。が、冷涼な気候、雨が少なかったり水利が悪かったりする乾燥した土地でも、容易に生育し二、三ヶ月で実がなる救荒食物として5世紀頃から栽培されている、現代ではロシアが消費量一位の食物である。ただ、花が凄く臭い。人の食べ物なんて思わないと思う。


「あのくっさい花付ける奴。実を粥にしたら意外と美味しいよ。この辺で自生してるの見たし。あれ育てたら? その辺で育ってるならいけるでしょ」
「あの、詳しく聞かせてもらえませんか!」


 袁家はこの男がいなければソバの粥なんて絶対作らなかったであろう。袁家の甘やかしによるレシピ発見で三世紀程前倒しで救荒食物の栽培が開始される事になるなんて誰が思うだろうか。そしてこれにより、涼州の食糧事情が徐々に改善されていくなんて誰が思うだろうか。魚をやるより魚の釣り方を教えてやれとは誰が言ったか、ぽちは魚を与えた上で魚の釣り方まで教えているのである。ただ袁家で食べた物を袁家で料理人から説明されたの覚えていて、あれ食べればいいかと思っただけだよ。「パンがない? じゃあケーキで」くらいのノリで言っただけだよ。ソバの説明ちゃんと覚えていたぽち、ファインプレーである。

 え、あんな糞みたいな匂いする花の実を食えとと困惑の涼州の民、大恩ある曹犬様が言うならと食した結果、ロシアや東欧の伝統料理カーシャ、中華伝統料理に切り替わる。カーシャが広まるにつれ、曹犬を救世主として崇め始める。もはや涼州民にとって神扱いである。そして涼州民が遊牧民から農耕民に切り替わっていくなんて誰が予想出来たであろうか。これ涼州から西に伝わったらこの世界モンゴル帝国生まれるのかな。万里の長城消滅不可避。



「あの、本当になんと言ったら良いのか感謝をいくら言葉で並べても足りず……」

 感謝? そんなに夕飯用意出来ないくらい困ってるのか。ソバの粥でいいやと言って良かったと一人納得するぽち。民を救う発言だったと本人が気付いてない。

「まあほら、こんなに美味しいお茶を入れてくれたお礼っていうか? こんなに美味しいお茶、毎日入れてもらえたら幸せやろうなあ」
「へぅ……」

 その言葉に赤面し顔を伏せる董卓。ぽちよ、それ求婚と思われても仕方ないぞ。いきなり現れて国に施しを与え国を救う知識を与える男、しかも見返りは何も要らぬという。話せば分かる人の良さに加え、容姿まで美形という。何やこいつほんとに童貞か。聖処女ならぬ聖童貞誕生。オルレアンの乙女は響きが美しいけど洛陽の童貞とか呼ばれたら引き込もっていいレベル。尚、もはや周りが手を出せないレベルになってきているのでしばらく童貞を守り続ける模様。後、何進が弄んでる自慢をしているので何進にヘイトが溜まってる模様。



「で、では私達も羌族の本隊との戦いに同行させて下さい。せめてそれぐらいはさせて頂かないと」
「いいの?」
「はい。私達の軍は最前線で常に戦い続けています。決して曹犬様のお邪魔にはなりません」




「っていう訳で董卓軍が加わる事になったけど、良かった?」

 会談を終え、主だった将を集め会議を開いたぽち。事後報告ごめんねと董卓軍の参戦の経緯を告げる。戦力アップやったねと告げた筈なのに一同、無言となる。

「あ、あれ? もしかして駄目だった? ごめ──」
「ぽち様」

 徐晃が口を開く。

「……シャンは恥ずかしい。……シャンは異民族と戦い勝てば涼州を救えると思った。ぽち様は本当の意味で涼州を救いに来たのにシャンはそれが分からなかった」
「ん? 香風、何の事──」
「徐晃」

 今度は華雄が口を挟む。

 華雄いたの? 一騎打ちの後、何進に華雄の処分をどうするか聞かれたぽち。華雄はどのような沙汰でも甘んじて受けるつもりだったが、ぽちが「いや別に……、そうだ、仕事頑張ればいいんじゃないかな」と仕事を頑張るのが嫌いなぽち的には罰ゲームだったのだが、そんなの割りと当たり前なのでなんの罰にもならず華雄は恩を返す為に今回の行軍に直訴し参加した。一応勇将にして猛将と名高き華雄は、今のところ曹犬軍の活躍の場が無い為に無駄飯食らいにしかなっていないんだなあこれが。

「我々武将の本分はその武で忠義を示すことだ。主の事を誇りに思うのであれば、貴様の武で主の期待に答えることこそ本意と知れ」

 華雄の言葉に無言で頷く徐晃。なんか口を挟み辛い雰囲気になったので余計な事を言わず黙るぽち。


「あの、ぽち様」
「ん、何かな桃香」

 暫しの沈黙の後、劉備が口を開いた。

「その人はどなたですか?」
「……恋は恋。……宜しく」

 誰も突っ込まなかったのでずっと黙っていた、ぽちの後ろに控えていた呂布奉先がやっと喋った。実はずっとぽちの後ろにぴたりとくっついていたりする。

「また真名をいきなり言う。あ、この娘は呂奉先って言うんだ」
「……宜しく」

 呂布奉先。武を志す者なら誰もが知る最強と名高きビックネームである。何故呂布がぽち様にくっついているのだと皆、疑問符を浮かべる。が事は単純である。

「なんか懐かれちゃった。皆宜しくね」

 気が付いたら懐かれていた。ただそれだけである。呂布は董卓に一言言う。「……曹犬についていきたい」と。呂布の武、それを知る董卓は曹犬に恩を返せるならと承諾する。呂布の武を知らぬぽち、よく分からんが可愛い娘が来るなら拒む訳がない。



 こうして良く分からない展開で自陣に呂布を迎えた(後、ちんちくりんの軍師も後からついてきた)曹犬軍は馬超軍と董卓軍と共に涼州に巣食う羌族の本体に対峙する。
 数、士気、共に敵の圧倒的に上を行く最高の環境を用意して見せたぽちは馬超と董卓に言う。「じゃあ指揮は任せるから」と。

 二人は驚く。後は号令を掛けるだけ。それだけで勝つこの状況で、この此度の遠征の最も誉れといえる局面で、この曹犬という漢王朝が誇る将軍は手柄を譲ると言ったのだ。二人は必死に固辞するも、「だってこっちが手柄立ててもさあ。地元の人に悪いし任せるよ」と言うぽち。この人は、この人にどうすればこの大恩を返せるというのだと二人は涙を流した。涙で目が曇った二人よ、そいつ面倒臭くなってるだけだからな。

 ここまでされて本気を出さない訳がなく、馬超軍と董卓軍は敵を蹂躙した。大人しくて可愛いと思っていた董卓をチラっと見たら、董卓が恐ろしく怖い闘気を纏っているように見えたぽち。ぽちはその時の事を振り返る。「もうほんと怖くて。魔王っていう言葉が似合うっていうか。後、酒池肉林とか好きそう」とKOEI董卓が乗り移ったように見えたようだ。こうして涼州遠征は圧倒的大勝で幕を閉じた。董卓が怖くなったぽちは、そそくさと涼州を後にした。

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第十一話.なんだかんだ姉が好き

「どうかしら? 疲れているようだったから少し味付けを濃い目にしてみたのだけれど」
「華琳姉の作る御飯は中華一だと思う」
「そう、それは良かったわ」


 涼州から一度、長安に寄り馬超軍と別れそのまま幽州へ直行するはずだった曹犬軍は、というかぽちは何進の命令を無視して洛陽に戻っていた。洛陽へ着くやいなや、「皆頑張ったから一週間休みな!」と言ってぽちは何進に報告に行く。「馬超軍と董卓軍まじすげえ。うちいらなかったと思うよ? 損害ほぼ無しで大勝」と簡単に報告した後、「褒美で一週間休み貰うから」と勝手に休暇に入った。何進は「手柄もあまり立てず何が褒美だ」とキレたがぽちは無視した。ずっといつもの笑顔で行動していたぽちだが、尻は痛いし董卓は怖いし、何よりそもそも戦場が嫌いな男は心労が溜まっていた。ストレス耐性が余り高くないので、もういいやと勝手に休む事にした。ぶっちゃけ、勝手な事をするならクビって言ってくれないかなと思いながら無理矢理休んだが、何進がキレたくらいで意外と休みが通ったので、実家で曹操にその中華一の万能をぽちの好みに料理を作る方向に全力を傾けて貰いめっちゃ美味しい料理を食べていた。才能の無駄遣いをさせる男である。


「ぽち、戦場はどう?」
「血生臭いの嫌い。皆が傷付くのが嫌い。そもそも戦なんてさせないようにすればいいのに」
「漢王朝一の名将と言われてもそういう所は変わらないわね」
「辞めてよ、その言い方はさ」
「でもそうね、戦なんてさせないようにすれば、ね。今この大陸でそう言う資格があるのはぽち、貴方だけかもね」
「……戦無くならないかなぁ」
「理想を語るなと切り捨てるのは簡単だけれど、貴方ならばと私は思うもの。私はぽちが戦を無くすと言うのであればそれを信じてあげるわ」
「いや無くすのは俺じゃなくていいんだけど」
「じゃあ無理ね、それを出来るのは貴方だけよ」
「いやなんでさ。華琳姉ちょちょっと大陸制覇してどうぞ」
「あら、漢の臣下として謀反の教唆は見逃せないわよ?」
「実家でまで堅苦しいのは嫌!」
「ふふ、それでおかわりはどうするの?」
「頂きます!」


 軽口を叩きながらとても美味しいそうに食べるぽちを、華琳は幸せそうに眺める。この姉弟、なんだかんだとても仲が良い。


 実家でだらだら袁家でだらだらしてぽちに会いに来た、正確に言えば媚びを売りに来た連中に会わずひたすらグータラするぽち。ぽちはもう仕事いかなくていいんじゃないかなとたった三日で完全に駄目人間思考に切り替わっていた。流されて働いていたが、やっぱりこうして引き込もっているのが一番自分らしいなと改めて思い直していた。


「ぽち、また人が会いに来たわよ」
「帰ってもらってー」
「いいの? 水鏡女学院から来た彼女は貴方の文通相手のようだと記憶しているけれど」
「……え、諸葛孔明? わざわざ来てくれたの?」
「ええ、そう名乗ったわ。連れもいたけれど」
「会う」


 何故わざわざ来たのだろうとは思ったが、もう文のみとはいえ三年の付き合いになる相手である。色々相談も重ねた相手を気にならない筈もなく、ぽちは直ぐ様会う事にして応接間に孔明を通してもらった。


「は、初めまして。姓を諸葛、名を亮、字を孔明と申します。初めましてというのも不思議な気もしましゅが……はわわ、噛んじゃった」
「……わ、私は姓をホウ、名を統、字を士元と申しましゅ。……あわわ、朱里ちゃん……」
「雛里ちゃん、どうしよう……」


 会いに行くと、凄まじく緊張した様子の噛みまくっているロリっ娘が二人。え? こんなロリっ娘に色々な事相談していたの? まじかよと面喰らうぽちに脅えた様子の二人。ああ、いかんいかんと気を持ち直し笑顔で二人に返答する。


「初めましてだね。丁寧な挨拶ありがとう。俺が曹芝犬、君の文に助けられていた男だよ」


 笑顔で返したのに、その言葉にビクッと震えた孔明。はてどうしたのかと不思議にぽちは思う。


「どうかしたの?」
「あ、あの、今まで大変失礼な文を送り続けて申し訳有りませんでした!」
「え、何の事?」
「曹犬様が漢王朝の将軍となり、その活躍は大陸中に響き渡っています。そんな曹犬様に今まで偉そうに文を送っていたかと思うととても恥ずかしい思いです……」
「いやいやいや、色々相談乗ってもらってずっと助かってたんだよ? 最近で言えばさ、文にも書いたけど髪の件とか!」


 髪の件、その言葉に真っ青になる孔明。ぽちの手紙には『最近働きだしてお金持ちになってきたから使うにも悩まずにすむよ』と書いてあった。それに対して孔明は『調子に乗って使い過ぎて衣服や、最悪髪など売らなくていいように気を付けて下さいね』と返した。その文を見て、なるほど、最悪衣服や髪を売ればいいのかと納得したぽち。孔明はまったく悪くない。


「その、お髪の件は……」
「いやー助かったよ、褒美出すお金足りなくなっちゃってさ」
「はわわ……やはりそうでしたか……」


 ぽちの言葉に身を小さくし項垂れる孔明と、その様子になんで? と首を傾げるぽち。

 ぽちの文の内容は常に何処かをぼかしたような内容であった。孔明はそのあやふやな内容から推測し返答する楽しみを持っていたし、ぽちはただその言葉が足りないだけである。ぽちが将軍となるずっと前から文通をしていたのに、ぽちは就職したとしか書いた事もないし、曹犬の名が有名になってきても孔明は同名の人くらいの認識だったのは仕方がないかと思える。

 徐々に孔明が何かおかしいと思い、文通相手が漢王朝の名将と呼ばれるその人だと気付いた時は自分がまるで上から助言してたかのような文を送り続けていた事に恥ずかしくなったものだ。その助言全部正しかったよ。そして髪の件、見目麗しき男性と噂が聞こえたその将軍に、振り返れば暗に髪を売れと言った内容になってしまっていた事に気付いた孔明はなんて失礼な事をしてしまったのだと思う。そしてあの噂が聞こえてくる。示唆してしまったのは自分だと目の前が真っ暗になった。勝手にやったのはぽちなので孔明は何も悪くないよ。すぐに謝罪をと、しかし幼い彼女は一人では勇気が出ず親友の士元に相談して勇気を振り絞り、少し時間は掛かったが二人でここまでやってきたのだ。


「あの、本当に申し訳有りませんでした。私に出来る事ならなんでもします」
「ん? 今なんでもって言った?」
「は、ひゃい」
「あわわ……」


 ぽちの返答に、あれ、とんでもない事言ってしまったんじゃないかとちょっと後悔する孔明と行く末が不安になってきた士元。しかしぽちの考えは孔明の斜め上だった。


「じゃあ、俺の軍師にならない? 漢じゃなくて俺の。良ければ士元、君も」
「「!!」」


 漢王朝の名将、曹犬がいれば漢王朝は滅びぬと言われた男が言った、漢ではなくて個人に仕えて欲しいとの言葉。漢王朝をその行動で善き方向へ確実に変えている筈の聖人が言った言葉。二人は瞬時に悟る。それほどまでに漢王朝内部の腐敗は進んでいるのかと。そして、目の前の人物は漢王朝に見切りを付けたのだと。二人は幼いながらも伏龍、鳳雛と言われている才女である。その言葉の重みが分からぬ筈がない。ごめん、ぽちは二人が才女って事知らないんだ。文のやりとりで頭良い事だけは知っているから代わりに色々仕事してもらおうとしてるだけなんだ。頭良い娘に付いてきてるからこっちも頭良いだろうと両方誘っただけなんだ。


「私と雛里ちゃんの力が必要ですか?」
「当然(俺がサボる為には)必要だとも」


 人となりは散々噂で聞いているし三年も文を交換していればその人の良さも知っている。ここまで請われれば断る筈もなく。


「あー、でも一応一緒に仕事する為には二人共公的には俺の従者扱いになっちゃうんだけどさ、お願い出来ないかな」
「はい、私で良ければ御力添えさせて下しゃい……はわわ」
「わ、私も頑張りましゅ……あわわ」


 可愛い。癒される。殺伐とした職場でもこれなら癒されるわと安心したぽち。流石にぽちは幼女を戦場に連れていこうとかいう発想は無かったが二人がどうしてもと志願した為、二人の幼女を従えた上で曹犬軍は再び洛陽を後にした。勝ったな(確信)





 曹犬軍が離れた洛陽で事件が起こる。
 とある酒宴で何進が言う。

「何、ぽちは私の前では発情した雄犬の様なものだ」

 その言葉に激昂したのは曹操と袁紹である。恐らく帯刀していればその場で切っていただろう勢いでキレた。「今の言葉を取り消せ」と怒鳴る。「誰にものを言っている」と何進も怒鳴る。「あら、年を取ると誰に話を掛けられているかも分からないのですか?」と袁紹が煽る。「麗羽、もしかしたら大将軍は耳が遠いのかも知れないわ。年増だし」と曹操が更に煽る。激怒した何進とキレている袁紹と曹操を周りがなんとかその場を納めたが、正直その場は地獄だった。

 そして後日、ぽちの漢王朝の影響力の大きさも危惧であった何進はその影響力を削ぐという意味合いも兼ね、二人を中央から遠ざける決定を下した。流石に袁家という巨大な力や、余りに理不尽な人事ではぽちがぶちギレるであろうと考えた何進は袁紹を州牧に、曹操を県令とし洛陽から追い出した。まあぽちが文句を言ったら、官位でも正式に与え俸緑を増やし多少なり甘い蜜を吸わせてやれば納得するだろうという己の価値観での判断だった。

 何進はぽちの我欲の無さを完全に見誤っていた。

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第十二話.幽州到着

 幽州を目指す曹犬軍。その主だった将軍達の心はざわついていた。


「この娘達、俺が個人的に雇った軍師だから。いや、三年前に(文通を)はじめて会った時この娘達しかいないと思ってさ」


 ぽちの言葉から文通の一言が足りないだけで、まるで三年前初めて会った時から二人を見出だしてやっと迎えたかのような言い方になった。三顧の礼ならぬ三年顧の礼とか凄いですよね。しかも曹犬その人が、である。そこまで請われた二人の少女に、皆嫉妬と羨望の目を向けた。仕事を出来るだけ押し付けるぞやったぜと笑顔のぽちを見て、この二人を迎えた事はぽち様がそこまで喜ぶ程の事なのかと驚く。そして、盧植が気付く。

「その二人はまさか……伏竜と鳳雛と言われていたあの……」

 周りの者が盧植に尋ねる。

「伏竜鳳雛とは?」

 盧植が返す。

「伏竜と鳳雛を手に入れれば天下を握れる、とまで言われている二人よ」
『!!??』

 天下を握れる。天下を? ぽち様はまさか……。皆、一様に口を紡ぐ。漢王朝の臣下としてその先は口に出して良いものではない。でもぽちがまさか仕事サボりたいだけとは皆思うまい。

「……じゃあ恋も」
「あ、私も私も~」
「……ぽち様、シャンは駄目?」

 話を聞いた呂布、劉備、徐晃が私も個人的に雇ってくれと声を上げる。劉備までいつの間にぽち大好き勢に加わったの? さすがに大人な盧植は漢王朝の臣下として直ぐ様声を挙げるような真似はしなかったが、内心は己を助けてくれたぽちに追従する事にこの時決めた。

 ぽちは思う。そんな金無いよと。

「ま、その辺は帰ってからね?」

 と適当濁して、問題を後回しにする男。仕事出来ない奴の典型みたいな男である。





「久しぶりだな、ぽち君!」

 幽州に着き、袁紹を通じて知り合いとなっていた州牧を務める公孫サン伯珪に迎えられた。

「や、久しぶり白れ──」
「あーパイパイちゃん久しぶりー!」
「ちょ、桃香」

 挨拶中に劉備が公孫サンに抱き付いた。ぽちは思う。あれ? 真名、白蓮じゃなかったっけ。白白だっけ。やべえ。真名間違うとかやべえ。なんか知らんがこの二人仲良さそうだし桃香のおかげで助かったぜとぽちは思う。

「あはは、仲良さそうだな白パ──」
「久しぶりね白蓮ちゃん」
「風鈴先生!」

 盧植の事を先生と呼ぶのであれば公孫サンは劉備と同門なのだろうとぽちは推測した。そしてこれで問題が発生した。白蓮と白白、どっちが正しいのか分からなくなった。いっそ間を取ってパイ○ンちゃんと読んで見るべきか。いやそれでは下の毛が生えてない人みたいだ。困ったのでもう真名で呼ぶのは諦めた。


「……再会出来て嬉しいよ、伯珪」
「あ、あれ? なんで真名で呼んでくれないんだぽち君?」
「あはは、どうかしたかい伯佳」
「え、もしかして私何かしたか? ごめん分からないけど謝るよ!」


 だって二分の一で当てる自信無いんだもんと笑って誤魔化すぽちと真名を呼んでもらえなくて焦る公孫サン。公孫サンは今回ぽちを迎えるに当たり、私は曹犬とは真名を交換している仲なんだと周りにちょっと自慢していた。なのに呼んでもらえなくて公孫サン側の周囲から白い目で見られ涙目になっていた。全部真名を間違った劉備が悪い。何でアニメの時、わざわざ真名間違える設定にしたんだろう。あれのおかげで大徳のイメージ無いんだよなあ。


「冗談だよ白白蓮」
「なんだ冗談か……っていま一文字多くなかったか!?」
「気のせい気のせい、いいね?」
「そ、そうかな?」


 最終的にくっ付けて力業で誤魔化したぽち。勢いに任せて誤魔化される公孫サン。そんな感じだから残念さんとか公式に煽られるんだと思うよ。


「で、後ろに控えてるのが白白蓮のとこの?」
「ああ、うちの──」
「白蓮殿の所で"客将"、をしております趙雲子龍と申します。どうぞお見知り置きを、聖人殿?」
「同じく、"客将"をしております関羽雲長と申します。お会いできて光栄です」
「鈴々は、じゃなかった、えーと、張飛翼徳! 愛紗と同じで"きゃくしょう"、なのだ! 宜しくなのだ!」
「なんで皆客将をそんなに強調してるんだ!?」
「いやいや白蓮殿、ただ私は事実を申しただけの事」
「そうです。強調などしておりません」
「してないのだ」
「いや絶対してるだろ!?」


 なんで将じゃなくて客将ずらっと並べてるんだよとか突っ込む所はたくさんあるのだが、ぽちはとりあえず公孫サンの肩にポンっと手を乗せて慈愛を込めて言った。


「なんか州牧になっても相変わらずで安心した」
「どういう意味だよそりゃ……」

 意味はそのまんまです。


 とにかくやたらぽちに対して売り込みを掛けるというか、大陸を駆け巡った噂からか興味津々な公孫サン客将組と、辿り着く前の経緯からか客将組を牽制しながら、私達のほうがいいですよねとアピールする曹犬軍の将軍面々。ぽち、美女から人気は嬉しいが流石に面倒臭くなり現実逃避する。具体的に言えば対烏丸対策を考えるから時間をくれといって勝手に城の一角を貸し切り、引き籠った。勿論対策なんて思いつかないからちゃんと伏竜鳳雛も連れて。


「ぽち様の烏丸対策、聞かせてもらえませんか!」

 目をキラキラさせながら聞く孔明。何も考えてないなんて言えないぽちは質問に質問で返す。

「ん、でもその前に何か策はあるかい?」
「はい! 雛里ちゃんと三つの策を考えました! まず……」

 それは上策、中策、下策、それぞれローリスクローリターンからハイリスクハイリターンなものまで幅広い策を二人は献策した。ぽちに仕えて初めての献策。二人の練りに練った策である。それをぽちは、ぼーっとしていたのであまり聞いていなかった。

「ふむ……」

 とりあえず思案する振りをした。振りだけである。だが、そのぽちの様子を見て伏竜鳳雛の精神は大きく揺さぶられた。何せ今まで聞いていた話だとぽちは即断即決で軍師の策に任せて全て委ねていたと聞いていたからだ。それが二人に対してはそれをしなかった。信用されていないのでは。それとも気に入らなかったのか。はたまたその程度かと思われたのではとぽちの悩む様子にはわあわと気が気ではない二人。ほんとに聞いてなかっただけだからね。あと「じゃあそれで」っていつも言ってたのは大体皆一つだけ献策してきたから聞いてなくても決められただけなんだからね。

「なあ、朱里」
「は、はい」
「旨い酒、用意してくれない?」
「はい! ……はい?」
「旨い酒、宜しく」
「わ、分かりました」


 長考の末、現実逃避しかねえなと思ったぽちは酒を所望した。慌てて酒を取りに部屋から出る二人を見ながら、やっと一人になれたと思うぽち。戻ってきた二人に「一つ目の策で行こう」と思いついた無難な返答を告げ、幼女二人にお酌をしてもらった。

「……これ旨いな」
「趙雲さんから酒ならこれをと渡されました。あとこれもと。秘蔵のメンマらしいです」

 何故メンマなのかと思いながら渡された箸をメンマに伸ばした。その時からぽちはメンマ党になりました。趙雲超良い奴じゃねえかとぽちも名前をばっちり覚えました。白白蓮さんよりはっきりと覚えました。旨いなと酒を呑むぽちを見ながら、伏竜鳳雛は考える。私達の策には恐らく至らない点があったのだろうと。しかしぽち様はそれを飲み込み託してくれたのだろうと。だがもしかしたら烏丸と対峙した際にそれが分かるかも知れない。此度の私達の初陣でしっかりと見極めなければと二人は密かに気合いを入れた。
 しっかりと見極めるといい。今、二人の前にいるのはただ酒に逃げてる駄目人間だからな。



今週入って頭痛が引っ込んでくれなくてロキソニン漬で死んでて更新遅くなりました。まだ治ってないので次も遅くなったらすいません。

感想の返信は後で纏めて返します。頭痛はいつも目にくるから嫌いです。偏頭痛この世から消えないかな。


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第十三話.戦場の盃

 対烏丸の方針を孔明が公孫サンに伝えそれを公孫サンが了承した為、今まで会った襲撃の情報を元に伏竜鳳雛が予測を立て次に襲撃されるであろう地点に陣を構えた曹犬軍と公孫サン軍。

 戦場に向かうぽちは険しい表情を崩さない、それは曹犬軍の誰しもが見たことの無い顔だった。いつも笑顔で飄々としているぽちが初めて見せる顔。厳しい戦になるかも知れないと皆一様に思う。そしてその思いは曹犬軍の兵にも伝染する。兵士一同の心は一つ。いざとなれば我が身を盾にして曹犬様を守り抜くと。



 皆、ぽちは二日酔いなだけだからな。



 伏竜鳳雛の予想通りに、烏丸が現れた。今まで神出鬼没だと思っていた公孫サンは半信半疑で、しかしぽちの言う事ならばと陣を構えていたのでこの結果は驚きを少なからず隠せなかった。けれど予想外の事があった。当初の予定では二軍を持って烏丸の倍の数で当たる想定であったが、烏丸の数が予想を上回り同数、または少し相手のほうが上といえる兵数だったのだ。

 将や兵の質、気力共に曹犬軍のほうが圧倒的に上ではあるが、将の質はともかく兵の質、気力という面では公孫サン軍に若干の不安がある。また曹犬軍は騎馬隊が多くない。対して烏丸はほぼ騎馬で揃えている。そして一番不安なのは横の連携が取れるかである。即席連合と言って良い布陣であるこちらは細かい連携を取る事は難しいだろう。勝つには勝つだろう。だが多くの犠牲を強いるかも知れない。ただ勝てばいいのか。ぽち様の性格であれば犠牲が多く出る事をきっと悲しまれるだろう。恐らくぽち様は予見出来ていたのだ。これから出る犠牲を悲しみ、しかし総大将として一言も弱音は吐かず凛々しい姿で鼓舞してくれているのだろうと曹犬軍は考える。この方の為に少しでも犠牲を少なくせねばと得物を握る手にいつもより力が入った。

 吐かずに我慢しているのはゲロなんだけどね。


「……ぽち様」
「ちょっと行ってくる」
「ぽち様!?」

 涼州の時は任せていたけど、戦の前はたしか舌戦だよねとぽちは一人、ゆっくりと馬を前に出した。烏丸という蛮族相手に舌戦なんて聞いた事ないぞと驚く公孫サン陣営はぽちの姿を見て更に驚く。帯刀していないのだ。ぽちは己の陣から誰も連れずに一人対陣している中央まで行くとあろうことか馬を降りてその場に座り込んだ。まさしく豪胆としか言えない行動である。曹犬軍の面々は、見れば全員何かあればいつでも弾丸の様に飛び出せるよう構えていた。

 ぽちは疲れてるだけなんだけどね。



 烏丸の陣から一人、馬を走らせぽちの前までやってきた。丘力居、単于(君主)であり女性である。

「貴様らが蛮族と罵る我等の前に単身で姿を晒した馬鹿の顔を見に来てやったわ」 

 啖呵を切った丘力居の言葉を何処吹く風と気にせず腰に手をやるぽち。腰には大きな瓢箪が下げられていた。こいつこんな場所で迎え酒する気である。瓢箪を腰から外し、杯を取り出し酒を継ぎ一気に飲み干したぽち。呆気に取られる丘力居。そしてその杯を差し出してぽちは言う。

「呑む?」

 丘力居は笑った。先に飲み毒が入ってない事を示した上で、更に同じ杯で酒を呑もうと言っている男が目の前にいるのだ。蛮族と称し我らと戦い続けている漢民族の男が、しかも戦場のど真ん中である。そして良く見れば何千という烏丸の集落の長である丘力居も見た事が無い良き見た目の男であった。これは応じねば怖じ気付いたと見られるであろうなと馬から降りぽちから杯を受け取った。ぽちが注いだ酒を一気に飲み干し丘力居は問う。

「私は丘力居だ。貴様名はなんという」
「曹芝犬」

 この男が曹芝犬かと丘力居は驚く。稀代の名将、聖人、その人となりの噂は風となり烏丸まで聞こえてきていた。

「ねえ、戦辞めない?」
「降伏するならば応じてやるぞ」
「降伏はしないけど、なんで戦しなくちゃいけない?」
「知れた事、我らの土地では育たぬ食糧を奪いに来たまでの事」
「食糧? 育たぬって寒いから? 水不足?」
「なんだと言うのだ貴様は」
「それなんとかなるんじゃないかな。涼州と一緒で」


 舌戦であればお互いの陣営に届く声で言葉の応酬が会ったはずなのだが始めの丘力居の言葉のみがお互いの陣営に届き、その後は二人して座り一つの杯で酒を交わしあっている様子しか見えない。その様子自体が両陣営からしたら信じられない事である。しばらく様子を見守っていると丘力居が笑いながらぽちの背を叩き肩を組んだ。この様子に曹犬軍が違う意味で殺気立った。だいたい一つの杯とか何様だと。ぽち様にお酌してもらうとかふざけてんじゃねえよと漆黒のオーラが立ち上ったように公孫サン軍からは見えた。

 それからもしばらく二人で話し合っていて、ようやく終わりぽちが戻って来て一言。



「戦は無いよ。話せば分かるっつー事だね。じゃあしばらく烏丸の所行くんでどっか近くで待ってて」

 流石に言葉が足りな過ぎてどういう事かと皆が問い詰める。ぽちは言う。「食糧問題解決するまで向こういるから。収穫終わる二、三ヶ月後には帰るよ」と。つまりだ。戦を回避し向こうの食糧問題の目処が立つまで、自らを人質として烏丸に差し出すと言うのだ。誰しもが反対をする。「御身自ら行かなくとも」「せめて護衛を」と口々に言うがぽちは聞く耳を持たなかった。「ならうちに収穫終わるまでいるなら最大限の歓待をしよう」とか言われたからではないと思う。決して「上手い酒を用意しよう」とか言われてほいほい蛮族と呼ばれる民の元について行くような馬鹿はいないだろうし。……いないよね? しばらくニートだ万歳とか思ってる馬鹿いないよね?



 三ヶ月後、戦場で交わした杯の誓い通りにぽちは烏丸の地に実りを与え幽州に帰って来た。烏丸は漢王朝に降伏、いや曹犬に降伏を申し出た。単于となり烏丸を治めて欲しいと願ったが曹犬が断った為、曹犬に服従を誓った。不毛の地に実りを与えた衝撃が大きすぎた模様。烏丸でも相変わらず子供達と遊んだりして食べて飲んで寝ていただけなんだけどなんでだろうね。ソバって凄い。どうしても何かさせてもらえないかと言われたぽちは、「じゃあ軍馬売って」と独自の交易ルートを開拓。烏丸、曹犬を通してのみ軍馬を売る事を了承。精強な軍馬を容易に仕入れる事が出来るようになりました。後、曹犬に烏丸史上最高の汗血馬の白馬、緑牧場王が贈られた。なのね~って鳴きそう。

 戦をせず烏丸を降伏させた曹犬。伏竜鳳雛は己を恥じる。振り返れば初陣でいかに相手を圧倒的に下すかという考えに固執していたのではないかと考える。勝つ事に固執した時点で視野が狭くなった。戦になれば勿論勝ったであろう。それにいかに視野を拡げようとも、己の主を人質に差し出す真似など出来る訳が無い。恐らくだから何も言わなかったのであろうと考える。己が仕えた曹犬という人物がいかに高潔で器の底知れぬ人物かという事を思い知らされた二人は、伏竜鳳雛と言われ自らの才に思い上がっていたと恥じ、曹犬に相応しい軍師となれるよう心に再度誓うのであった。

 ぽちは食べ物に釣られてあっちで遊んでただけだけどな。


 こうして烏丸を降した曹犬軍は何故か付いてきた元公孫サン軍の客将三人を新たに加え、洛陽へ帰るのであった。



孔明チートからバグ化フラグ。


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第十四話.洛陽激震

 王都洛陽。遠征から帰ってきたぽちは、門を抜けた時点で違和感を覚えた。いつも迎えてくれる華琳姉や麗羽さんの姿が無かったからだ。仕事かなとぽちは思ったが、なんとなくではあるが街の雰囲気も暗い気がした。洛陽の人々はぽちの顔を見ると皆「帰ってきて下さった」と喜びの声を上げる。曹犬軍面々一様に洛陽で、というより王城で何かあったなと悟る。皆がぽちを見るとぽちは飄々といつも通りの表情を浮かべていたので騒いでは駄目だなととりあえず平静を保つ事が出来た。こういう時、トップがどっしりと構えていると安心するよね。ぽちは久しぶりに華琳姉の飯食べられるって事で頭が一杯なんだよ。……なんだよねえ。


「ぽっち~! 大変っす~!」

 夕飯何かなと呑気に考えながら移動中、城に着く前に曹仁がぽちを捕まえた。慌てた様子の曹仁に何事かと尋ねる。

「どしたの華崙。何進に報告したら家に帰るよ?」
「それどころじゃないっす! 実は華琳姉が────」
「……は?」
「じゃああたしは伝えたっす! あたしも明日洛陽から出るっす」
「……分かった。ありがとう華崙」

 曹仁の話を周りで聞いていた曹犬軍の一同は心配そうにぽちを見る。一同がぎょっとした。そこにはいつもとまったく違う感情を削ぎ落とした無感情な表情を浮かべるぽちがいた。
 何も言わず、馬をそのまま城に進め始めたぽちに誰も声を掛ける事が出来なかった。



「────この度の活躍で、正式に驍騎将軍として─────勿論褒禄も─────おい、聞いているのかぽち」

 何進の元へ一人報告しに来たぽち。部屋へ入るなり何進がいつもより大袈裟にぽちを誉める。そしてその褒美にと驍騎将軍、ようは文官でいう三公の地位に正式に任ずると話すもぽちは完全に上の空といった様子だった。驚かせようと地位を用意した何進は肩透かしを喰らったようでまったく面白くない。

「おいぽち貴様────」
「お疲れ様でしたー」

 急に何か決めたように顔付きを変えたぽちが、一言だけ言って部屋から出ていってしまった。呆気に取られる何進に側に居た何太后が声を掛ける。

「ぽち君遠征で疲れてるのよ」
「ふん、ならそう言えばいいだけだろう」
「あらあら、困った姉様。そろそろ私がぽち君頂いちゃおっかなあ。疲れてるなら癒してあげないと♪」
「くくく、なら二人で今度相手をしてやるか」
「あらあら~♪」

 何太后が軽口で何進の毒気を抜きながら、ぽちに対しての姉の方針ではきっと上手い事にはならないだろうと考える。何太后はどうしたらぽちを上手く懐柔出来るか考えていた。時既にお寿司である。



 ぽちが何進の部屋から出ると、護衛にと呂布と徐晃が控えていた。ぽちが何進の部屋からある程度遠ざかり周りに人がいない場所で徐晃に頼む。

「香風。至急、集められるだけでいいからいつもの所に皆集めてくれないかな」
「……分かった」

 言葉を受けすぐに徐晃は駆けた。至急、とぽちが言った。それはぽちに仕えて今まで一度も聞いた事のない言葉だった。勿論ぽちの様子に動揺していた曹犬軍の将達は城に着き解散したばかりであったが直ぐ様一人残らず集合した。皆を見渡し、ぽちが喋りだす。

「曹犬軍は今日で解散します。皆、今まで本当にありがとう」
「ぽち様! それはどういう────」



 破砕音。誰かがぽちに意見を言おうとしたその時、呂布が戟を床に突き立てた。


「恋、大丈夫だから」
「……ん」
「俺、姉の居る頓丘に行くからさ。まあ皆優秀だから俺なんていてもいなくても変わらないと思うけど」

 ハハハと笑うぽちに皆口々に言う。そんな事は絶対にない。我々には、洛陽には、漢にはぽち様が必要だと。まあぶっちゃけ今まで仕事ほとんど周りに振ってたから仕事回るのは回るんだけどね。周りが悲鳴にも似た声で引き留める中、孔明が聞く。

「いつ発たれるおつもりですか?」
「明日」
「分かりました」
「……朱里?」
「私は、そして雛里ちゃんもぽち様の"個人的な"軍師ですからね?」
「……残ってたほうが待遇良いよ?」
「私も朱里ちゃんも、ぽち様が雇い主ですから」

 明日。随分急な話である。皆困惑する中、真っ先に伏竜鳳雛がぽちに追従すると言った。これをわざわざ口にした事でぽちに追従組の中でイニシアチブが確保されたのである。さすが孔明である。そこからは皆、私も私もと追従すると誓いを口にする。孔明の一言から会話の流れが完全に変わった。これ孔明の罠とも言う。

「いや、皆正直残ったほうがいいと思うけど。うちの姉に雇ってもらう事になるけどそれでもいいの? 立場今までより下だよ?」

 全員が頷く。この場にいる人間が今さら立場や報酬など気にする訳がない。ぽちが曹操に付くというならそのぽちに付いていく事に疑問を持つ筈がないのだ。


 翌日、ぽちに伝える為に洛陽に残ってくれていた華崙と、曹犬軍の将達、ついでに噂を聞いた洛陽の人間の十分の一程度、五万人くらいがぽちに付いてきた。民族大移動です。流石に不味いと思った孔明が曹操に五万人の住居と食糧が必要ですと早馬を出す。民の数は国力であると言ってもいきなりこんな人数増えても受け入れられる筈がない。普通は。

 だがここで予想外の展開が起こる。なんと涼州や幽州、洛陽に残っているぽちを慕う官僚などから食糧や金銭の寄付が集まる事となったのだ。そしてぽちもじゃあ皆で畑を作ろうと言い出し、姉より先に屯田兵を生み出す始末である。住居に関しても元曹犬軍が中心となり木材の伐採から始め皆協力して作り、城塞都市の周りにもう一段階城塞都市を新たに作り上げ巨大都市がしれっと誕生する事になるのはもうちょい後の話である。最終的に洛陽の人間の四分の一がぽちを慕って移住してくるからそりゃあ都市も出来るってもんよ。


 ぽちや曹犬軍、更に大量の民がまるっと居なくなった洛陽は混乱の極みである。軍の増強をと何進は董卓を洛陽に呼びつける。が、ぽちが居ない事を知った董卓なんとこれを仮病で拒否。次に馬一族を呼びつけるも当然同じく拒否。更に公孫サンも人材不足を理由に拒否。最終的にKOEIで言うと知力、武力共に50くらいの微妙な人材を後釜に据える事になり王都は更に混乱する事になるのであった。



聖杯戦争に呼ばれそうとの声を幾つか頂きました。呼ばれるとしたら調停しない事で有名なルーラーですね分かります。うちのカルデアにはルーラーはジャンヌしかいません。でも邪ンヌと邪ンタちゃんと三人揃っているのでほっこり出来ます。


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幕間.賢姉愚弟

 姉、曹操孟徳は神童であった。弟、曹芝犬は凡人であった。

 姉の優秀さから次に生まれた弟も大層な期待をされた。が上役のほとんどを女性が勤めるこの世界で、弟の才は一般的な男性のそれ程度しかなかった。姉に似て、というより曹一門の血を受け継いだ弟は容姿だけは端麗であった。将来、政略結婚の為にどこかに婿に出す男。幼少の頃、ぽちは一族からそう思われて育った。

「犬、私が貴方の真名を呼ぶことなど絶対に無いわ!」
「近寄らないで。私は貴方と仲良くする気など無いわ」

 姉齢七つ。弟齢五つの頃、姉が弟に言った言葉である。姉は既にその大器をあらゆる方面に発揮していた。勉学を学べば教師を論破し武術を学べば大人を倒す。対して弟は凡庸にして凡庸。年相応のただの子供であった。姉は嫌悪した。将来、家から只の駒として扱われる血の繋がった弟が、その事実を受け入れ抗う努力をしない事に対してだ。姉は弟を突き放した。弟に自身の才を見せつけ、少しでも近づいてくれるよう高みを目指す事を決めた。

 弟はただただ寂しそうであった。



 事件が起きた。弟を連れて他家へ向かっている際、賊に襲われた。勿論二人の姉弟を守る為の護衛や世話役の大人もいたが、抵抗したが殺された。路地裏に追い込まれる。相手が一人であるならば幼き姉とて自信があった。だが、相手は五名。そして親しき人間の流血した死体を初めて見た。幼き姉はどうすれば生き残れるか必死に考える。剣を取り震えながら構えた姉の前に手を広げた弟が立った。

「どうかお姉ちゃんを助けて下さい」
「犬! 何を言っているの! 引っ込んでなさい!」
「どうかお姉ちゃんを助けて下さい。どうかお姉ちゃんを」



 袈裟斬り。幼き少年は斬られる。胸から腹に掛け切り裂かれた傷から大量の血が流れる。だが少年は倒れない。泣きながら少年は言う。

「どうか、どうかお姉ちゃんだけはっ」

 異常であった。少年は血と涙を流しながら、それでも姉の前に立ち懇願した。姉だけは助けてくれと。賊はその異常な少年に気圧された。姉は混乱した。弟は何を言っているんだと。優しくした覚えなどない。冷たくあしらい続けた弟が、何の才能も感じなかった弟が、それを受け入れている事に嫌悪すら示した弟が、弱き弟が何故必死に自分を助けようとしているのだと。

 遠くから声が聞こえた。幼き弟に気圧されていた賊達が、どうやら騒ぎを聞き助けに駆け付けたその声を聞き逃げ出した。幼き弟が倒れる。慌てて弟を抱き締める。

「ぽち!」

 思わず叫んだ。

「ぽち!」

 泣きながらぽちの名を叫んだ。

「……お姉ちゃんが、真名、呼んでくれた」

 傷だらけの弟が姉に笑った。

「馬鹿! ごめん、ごめんなさい!」

 姉は弟を抱き締めながら、泣きながら謝った。

「……お姉ちゃん、暖かい」

 弟はそれだけ言って気を失った。

「ぽち! ぽち! 駄目よ! 私まだ貴方に真名を呼んでもらってないんだから!」

 弟は三日生死の境をさ迷った。姉は弟に付きっ切りだった。姉は家族に「ぽちが守ってくれた」と話した。家族は、そして一族はもしかしたらぽちは姉を立てる為に昼行灯を演じていたのではないかと話した。姉はそれを否定しなかった。この姉が否定しなかった事で弟に対する一族の見方が変わっていく切っ掛けとなった。

 弟がやっと目を覚ました。

「ぽち、おはよう」
「あれ、お姉ちゃん……」
「華琳よ。真名で呼ばないと許さないんだから」
「うん!」

 ぽちの笑顔を見て、華琳は泣きながら笑った。

「華琳姉、泣いてる?」
「嬉しいの」

 ぽちが華琳が手を握ってくれている事に気が付いた。

「えへへ。華琳姉暖かい」
「ぽち、今までごめ────」
「華琳姉」

 ぽちが華琳の言葉を遮った。

「仲良くしてくれる?」
「勿論よ」

 華琳にとって口にした"絶対"を覆した初めての、いや最初で最後の相手が凡庸だと評したぽちだった。この出来事以降、華琳は無条件でぽちに対して信頼を口にし続けた。華琳が結果を出せば出すほど、優秀だと評される程、ぽちは一族の中で単なる駒扱いされる事は無くなった。ぽちは、才は確かに凡庸であったが人を惹き付ける魅力がある事を弟と接するうちに華琳は理解した。誰とでも分け隔てなく接する事が出来るぽちは、自分が持っていない別の才と特別な運を持つのだと華琳だけが理解した。

 この世界中で、華琳だけがぽちを正確に理解しながら応援し続けている。


 ただ、夜な夜な寝ているぽちの所に行き胸の傷をぺろぺろする妙な性癖に目覚めたのは内緒である。

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第十五話.曹一門合流

「まったく、将軍ともあろうものが地方の県令を頼ってくるだなんて」

 ぺたぺたぺたぺたぺたぺた。

 多少の嫌みを言った姉がぽちの身体をぺたぺたと全身を隈無く触る。そこまで近づく必要無いくらい至近距離でぺたぺた触る。セクハラである。


「貴方の事だから心配ないとは思うのだけれど、怪我はないみたいね。疲れてるでしょう? 長旅でついた埃、湯を湧かしてあるから落としてらっしゃいな」
「華琳姉、なんか近い」
「あらあらまあまあ~♪」


 歓喜の声が聞こえたので横目で見ると、生粋のロリコンという某有名漫画家と同じ立派な趣味を持つ曹洪が徐晃、孔明、ホウ統、陳宮、張飛を捕獲していたので見て見ぬ振りをする事にした。徐晃と張飛が逃げ出せないってすげえな栄華。


「ま、とりあえず貴方が湯浴みしている間に自己紹介は済ませておくとして、諸葛孔明だけ借りていいかしら。先に早馬をくれたお蔭で大分助かったのだけれど、これから先の打ち合わせをしたいの」
「……栄華が捕獲しているから栄華に聞いて」
「……そう、まったく、あの娘ったら」
「とりあえず皆華琳姉のとこに再就職って事で話済んでるから華琳姉の好きにどうぞ。皆優秀だよ。あ、孔明とホウ統だけは俺個人で雇うけど」
「あら、伏竜鳳雛は手元に置くのね」


 口元に手をやりクスクス笑う曹操。その様子に若干困惑するぽち。二人盗られたら俺の仕事誰がするのさと心の中で思っている。てめえでやれと言いたい。


「ならいっそ連れてきた全員貴方が面倒見なさいな」
「いやいやいやいや」
「貴方を慕ってついてきたのでしょう? いいじゃない」
「俺、ここで派閥とかそういうの嫌だよ?」
「何言ってるの? 私の所で曹犬派というのが出来るのであれば、その筆頭は私よ!」
「いやいやその理屈はおかしい」
「おかしくないわよね? 春蘭、秋蘭」
「は! 華琳様が筆頭であるなら私がこの剣でその道を切り開きましょう!」
「よく言ったわ春蘭!」
「ぽち様、あきらめたほうが早いかと」


 明後日の方向に盛り上がり意気込む夏侯惇と、ぽちに諦めを促す夏侯淵。お馬鹿な惇ちゃんは可愛いってはっきり分かるよね。夏侯淵は若干肩を震わせている。おい秋姉、確信犯やんけとぽちは溜め息をついた。曹操の元で曹操派と曹犬派に別れたら曹犬派筆頭は曹操だったとかこれどういう事。派閥争いなんて起きないんですね。分かります。


「というかぽち、貴方のほうが漢王朝での立場は上なのよ? 私が貴方の下に入れば何の問題もないと思うのだけれど?」
「……やだ。立場とか、そういうのじゃない。人の上に立つのは華琳姉がやるべき」
「……そう。ま、今はそう言う事にしておきましょうか。秋蘭」
「は、ぽち様。城内を案内します」





「ふぃいいいい……」

 城内をざっと案内してもらい、湯浴みでじっくり疲れを癒すぽち。湯船に浸かり旅の埃を落とす。この至れり尽くせり感、やっぱり姉の所は最高だわと今日のご飯をワクワクしながら鼻歌を歌っていると、外が急に騒がしくなってきた。

「ぽっち~! 入ってるっすか~!」
「華崙、入ってるよーってちょ」

 真っ裸の曹仁、躊躇無く推参。ぽち、目を逸らす振りしてガン見である。しゃあない。誰か曹仁に羞恥心を教えて……って無理か。

「姉さん! 勝手に入っちゃって……ああ! ご、ごめんなさい!」

 おそらく曹仁を案内していたであろう曹純が曹仁を追い掛けて入ってきた。そしてぽちを見て赤面、顔を両手で覆って蹲ってしまった。やはり柳林は天使、間違いない。

「柳林、お風呂に服着て入っちゃ駄目っすよー?」
「も、もう姉さんったら、ぽちさんほんとごめんなさい!」

 曹純が曹仁を怒りながら慌ててその場から連れて出ていった。……柳林と一緒に入りたかったなあとか考えながら、これがいつもの騒々しさだと、ぽちは皆の所に帰ってきたんだなあという実感が凄く沸いてきて嬉しくなった。



 風呂から出たぽちは夏侯淵にぽちの自室に案内された。っていうか風呂場の外にいて曹仁止めないとか完全に確信犯な夏侯淵。ある意味空気読んだとも言う。

「皆、ぽち様が帰ってきて浮わついているのですよ」

 そ、そんなんで誤魔化されないんだからね! イケボで言われても口元がニヤニヤしてるの分かってるんだからね! と少し抗議するも出来る女秋蘭にぽちが勝てる訳もなく。

「私物も全部そのまま持ってきているそうですよ」

 との夏侯淵の一言でぽちが一瞬固まり硬直を脱した後、一人で慌てて部屋に籠った。私物も全部。という事はである。部屋の様相は洛陽にいた時の自室が完コピされている。ぽちの春絵艶本コレクションはどうなっているのか。大切に集めた妹系巨乳物である。ぽちの好みは大人しい控えめな感じの巨乳である。ドキドキしながら元々隠していたはずの場所を探ると、そこにはちゃんと艶本が隠されていた。ただし、全部貧乳物にすり替えられていた。

 ぽちは泣いた。全部姉が悪いんやで。



短めです。

感想の中で大分考えさせられるものがありプロットをじっと眺めていたのですが、今更プロット弄るとエタる気しかしないので予想通りだったり気に食わなかったりという事があるかも知れませんが元々考えていた流れで完結まで書くつもりです。

途中からプロット弄るとか無理……。
今まで書いた中で一番お気に入り登録してもらってるし、評価もたくさん貰えて凄く嬉しいねん。作者として返せる事なんて完結させる事くらいしかないから……。


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第十六話.曹犬軍の日常

 徐晃は誓っている。その魂、身体、髪の毛一本まで、己の全てをぽち様の為に捧げ、主の為に命を懸ける事を。
 その徐晃が今最大の危機に直面している。全力を持ってしても、自分の全てを掛けても、自身の持つ実力以上を振り絞っても勝てない相手がいる。しかし、闘いが始まる前にぽちに言われた言葉、「がんばれー」だけを胸にここまで最強の強敵相手に食らいついてきた。
 しかし、もう限界であった。徐晃は手に持つ得物を落とした。その意識は朦朧としている。


「香風!」

 ぽちが徐晃に駆け寄る。

「……ぽち様、シャン……頑張れるだけ頑張った……よ?」
「香風!」

 徐晃がゆっくりと意識を手離した。ぽちが徐晃を抱き締め急ぎ医療班を呼び、運ばせた。ぽちは言う。

「何で皆こんなに頑張っちまうんだ……」

 戦場では闘いが続いている。

「ま、負けないのだ~!」

 唯一、食らいついている張飛もどうやら限界が近い。それほど相手は強大である。誰もが、勝てない。

「恋殿に勝てる訳がないのですぞ!」

 呂布側に付いている陳宮が既に勝ったかのように勝ち誇る。それは正しい。ぽちの周りは、限界を越え倒れた将軍達で死屍累々である。誰しもが、呂布に敗北している。

「もう入らないのだ……」

 最後まで残っていた張飛が倒れた。この瞬間、勝者が決まった。勝利を告げる銅鑼が鳴り孔明が告げる。



「第一回、曹犬軍大食い大会、勝者、恋さんです!」



 食糧の備蓄が怪しい中で何やってんですかね?



 曹犬軍の面々はかなり忙しい毎日を過ごしていた。急に人が増えすぎた、元々居た住民よりも多い人間の衣食住の確保が現在の曹犬軍が総出で取り掛かっている仕事である。というかここまでくればもう街を新しく作っているのと変わらないレベルである。孔明とホウ統、盧植に陳宮が計画を練り、ぽちが「じゃあそれで」と丸投げして他の武将が指揮を取る。周りが忙しそうなのでさすがにアレだなと思ったぽちはいつも書簡をざっと眺める振りだけだったのをたまに書簡を見ながら「これは……どうかな?」と思わせ振りに、しかし具体的な事は一切言わない質問をしたりする。するとどうでしょう。全員で再検討し元々見事な計画が更に立派になって返ってくるのです。


 暇なくせに周りの仕事増やしてんじゃねえよ。


 そんな忙しい皆やまだ落ち着かない生活を送っている元洛陽の住民に何か見ていて楽しいような催し、祭りみたいなモノをやろうとぽちは提案した。くそ忙しいのに。しかしぽちは気付いていなかったが若干の疲れを見せていた皆はぽちの息抜きの提案に、この気遣いこそがぽち様だと感謝したらしい。ぶっちゃけ皆には休みを上げて欲しい。

 そして行われた犬祭りのメインイベントが大食い大会である。備蓄? やったからにはなんとかなるんやろ。ともかく曹犬軍の将がこぞって参加したこのメインイベント、景品はぽちと一日自由に過ごす。ただそれだけである。つまりだ。ぽちは祭りを開いた挙げ句更に誰かと一日休むつもりなのである。お前まじで働け。まあ、提案したのは孔明とホウ統だけれども。その景品を巡って文字通り死闘となった大食い大会は呂布が無双しただけで終わった。



「……恋さんや?」
「……ん?」
「どうかしたの?」

 という訳で今日は一日ぽちと呂布は一緒である。それはいいが呂布がさっきからぽちの背中に抱きついて離れない。そしてなんかくんかくんか匂いを嗅いでいる。ぽちは思う。あれ、昨日湯浴みしたから臭くないと思うんだけどと。

「……ぽち様、昨日、華琳様と……寝た?」
「いや普通に一人で寝たけど?」
「……そう」

 何言ってんのこの娘とはてなマークを頭に浮かべるぽちと再度匂いを嗅いで不審がる呂布。ほんとなんでやろうなあ。

「姉弟だから匂いが似てる……とか?」
「……そうじゃないけど……いい」

 そう言って呂布がその身体を、胸をぽちの身体に擦りつける。

「ちょ」
「……匂い、上書き」

 そんな事して童貞が耐えられると思ってるんですかね? すぐに何処かが固くなるよ。ぽちはやべえと思って前屈みに座り込む。

「……恋じゃ嫌?」

 その行動を避けられたと思い悲しそうな顔をする呂布。

「いやむしろばっちこいだけど、今はちょっと待って」
「……わかった」

 二人が街に出掛ける前の一幕である。デートの日に他の女の臭いを付けてくるとか最低ですぽち様。
 二人で街をぷらぷら歩いていると、女性向け衣服店から何やら騒がしい声が聞こえてきた。気になって覗いて見ると曹洪がロリっ娘達を連れ着せ替えさせて楽しそうだった。これは面倒だとぽちは見て見ぬ振りをして呂布を連れてそそくさとその場を後にした。

「……ぽち様、良かったの?」
「ん、皆楽しそうで良かったね。女の子の服とか分からないし、栄華はお洒落だから間違いないと思うよ」
「……ん」

 ぽちが適当に言って呂布は納得し頷いた。お洒落は間違い無いかも知れないけど性癖が間違ってるんですがそれはいいんですかね。


 衣服店をスルーしてそのまま適当に歩いていると、広場に人だかりを見つけた。何か皆熱心に聴いているようだったのでなんだろうとぽちが覗いて見ると、人だかりの中心には劉備がいた。


「それでね、ぽち様は、曹犬様は戦場のど真ん中で丸腰で烏丸相手にこう言ったの! 『今まで敵対していた、それがどうした。私達はお互いこうやって盃を交わす事が出来る。ならば友になれぬ道理は無いであろう』って!」
『おおーーー!!!』
『さすが曹犬様だ』




 ど真ん中で民衆相手に劉備が布教活動をやっていたのでこれもぽちは見なかった事にした。スルー安定である。劉備さん何で話盛って捏造してるんですかね。見つからないようさっさと逃げたぽちは精神的にどっと疲れてきたので休憩して腹を満たす事にした。ちょうど曹仁が「あそこの角の店の点心、すごく美味しかったっすよー!」とか言っていた店があったのでそこで休憩しようと呂布に言って店に入る。

「恋、お腹空いてる?」
 
 こくりと頷いた恋に、財布これで空になるなと思いながらぽちは店主にありったけ点心持ってきてと頼み席に着いた。

「おや? ぽち様、奇遇ですな」

 声を掛けられ振り返ると、趙雲と関羽が二人で点心を食べていた。

「ああ、今日は恋と二人でしたな。これは悪い事をした。恋、すまない。私の事は気にせずゆっくりしてくれ」

 意外と気遣いが出来る女、趙雲が呂布に声を掛けた事を謝る。関羽がチラチラチラチラ見てるのはスルーする。こちらに声を掛けた後、趙雲が関羽を嗜める。


「愛紗、その様なはしたない姿を見せては愛しのぽち様に嫌われてしまうぞ。今日は恋の日だ。私とてぽち様と共に食事をしたいが我慢しているのだぞ?」
「わ、分かっているから黙っているだろう!」
「おやおや、分かっていると言っている人間の態度ではないな」


 くっくっくと笑いながら酒を飲み始めた趙雲にぶつぶつと文句を関羽が顔を赤らめながら言う。ぽち、全力でスルーしている。


「……皆で一緒に食べる?」
「恋、私達に気を使わなくて良いぞ」
「……皆で一緒に食べたほうが、ご飯は美味しい」
「ふむ、恋にそう言われては断るのも失礼かな。宜しいですかなぽち様」
「恋が良いならいいんじゃないかな」
「だそうだ。良かったな愛紗。愛しのぽち様のお顔をたんと眺めると良い」
「星! お前飲み過ぎじゃないか。まったく……」


 趙雲に怒りながらもぽちの顔を良く見られるベストポジションに付く関羽。分かりやすいですね。趙雲はその様子を見ながらからからと楽しそうに笑った。そうこうしている内に卓に山盛りの点心が運ばれてきた。

 もきゅもきゅと呂布がひたすら食べ始める。呂布の食べている様子はとても可愛い。ぽちを眺めていた関羽も、いつの間にか呂布がもきゅもきゅ食べている様子を眺めて顔が蕩けてきている。

 関羽と趙雲の分までお金足りるかなとぼーっと考えていたぽちに趙雲がこそっと声を掛ける。

「おや、ぽち様。……ぽち様の身体から恋の匂いがしますな」

 横で聴いていた関羽がぶふぅと噴き出して顔を赤面させた。

「ああ、出会い頭に抱きつかれたからかな?」
「なんだ、それだけですか。ふむ。では今度機会があれば私も……」
「星!」
「愛紗、自分もやりたいのであれば素直に言うと良いだろう」
「~~っ!」


 とても騒がしくなってきた卓をぼーっと眺めながら、明日小遣いをくれと姉に言わなければと現実逃避し始めたぽちだった。



ぺろっ

??「ぽちの身体から他の女の匂いがする……ですって!?」


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第十七話.こうきんのらん?

「みんな大好きーー!」
『てんほーちゃーーーーん! ほわあああああ!』
「みんなの妹ーー!」
『ちーほーちゃーーーーん! ほわあああああ!』
「とっても可愛い」
『れんほーちゃーーーん! ほわあああああ!』

 張三姉妹が声援に応え、手を振り笑顔で返す。そして。

『そしてー!!! 我らのーーー!!! 曹犬様ーー!!! ほわ、ほわあああああ!!! ほわあああ! ほわあああああ!!!』
「あ、どうも」


 この日一番の大歓声を受けた我らがぽち様が遂にステージの中心に立つ。



 なんだこれ。



 最近売り出し中の旅芸人、数え役満☆姉妹こと張三姉妹がこの地にやって来たのは必然だったと言える。曹操の治めるこの地は賊がいない。いやほんとにいないのだ。元々曹操の治世は評判が良く他の地域と比べても格段に少なかった。そこにぽちが入り込んだ。もちろん、それだけで賊が消えるはずがない。

 ぽちが行った賊狩りが今の事態を生んだ。「一番活躍した人には一つ何か言う事聞くよー。出来る範囲で」と言ったぽちの発言に目の色が変わった曹犬軍の将軍達は人を超え鬼となった。そして一番やばい呂布もやる気を出した。戟を一振りすれば大地に大穴が空き百人単位が宙に舞う、リアル無双を始めてしまったのだ。賊は恐怖した。恐怖は風に乗り噂となり伝染した。そんな馬鹿な事あるはずがないと言った賊達はその姿を目撃し、僅かに逃げ切れた者は曹操の地から逃げろと言い残し自害した。そんなこんながあって賊は皆逃げ出してしまった。という訳でこの地域からはとりあえず賊は殲滅された。なので他の地域には賊はちゃんといる。

 まあそれは置いといて、賊に襲われる心配がほとんど無いこの地に三姉妹の旅芸人が噂を聞いて流れてくるのは当然だと言えよう。街の広場で三姉妹が歌を披露していると街の見廻り(散歩)をしていたぽちがその歌を暇潰しに聴いていた。別にただ立ってぼーっと聴いていただけである。その様子を見た街の人々が、「あのぽち様が聞き入っていらっしゃる! きっと素晴らしい歌に違いない!」と話題にしたために三姉妹は一気に人気になった。その話題は曹操の耳にも入り、三姉妹は城で曹操やぽち、その他皆の前で歌を披露する事になった。


「ふむ」

 歌を聞いた曹操は、周りで歌を褒める将軍達を尻目にこの娘達の利用価値を瞬時に、正確に見抜いた。兵の心の癒し、戦意高揚、興行による収入、話題性による流民等だ。が、正確に見抜いた後に完璧超人華琳様が弟馬鹿華琳ちゃんモードに切り替わってしまった。


 こういうキラキラな衣装をぽちに着せて歌わせたらどうだろう。絶対イケるわ!


 その意識は伝染した。チラっと目配せをすると曹洪が頷きその場を離れた。衣装の準備である。更に孔明に視線をやる。無言で万事承知してますといった具合に力強く頷いた。更に曹操が面々に視線を送る。ぽち以外の皆の心は一つとなった。曹操が口を開く。


「見事な歌ね」
「わーい、ありがとー」
「とーぜんでしょ!」
「天和姉さん、地和姉さんも失礼よ。……失礼しました。曹操様、お褒め頂きありがとうございます」


 姉二人を制し、三女の人和が礼を言う。これだけで姉妹の関係がはっきり分かるというものだろう。そして、今の会話を聞いたぽちが微妙な顔をした。え? この娘ら芸名を真名と同じにしてんの? 頭おかしいの? と初対面の人間とは真名絶対交換しないマンであるぽちはどん引きした。まあこれに違和感無いのは初対面の相手でも誰にでもわりと真名を名乗る曹仁や張飛くらいなものである。


「ええ、褒美を取らせたいのだけれど?」
「褒美だってー! お姉ちゃんお金欲しいなー」
「ちょっと天和姉さん黙ってて。ありがとうございます曹操様。それで褒美とは一体」
「そうね、朱里。今新しく作ってる街に一画用意出来るかしら」
「ちょうど人が集まりやすい一画を用意出来るかと」
「ならいいわね。張三姉妹。数え役満☆姉妹と言ったかしら。貴女達専用の劇場、欲しくない?」


 曹操の言葉に三姉妹が食い付いた。行政公認の劇場を用意してやるというのだ。あの聖人と呼ばれる人間がいる今大陸で一番人で賑わっている、恐らく一番安全なこの街で。しかも今の話振りからすればかなり好条件の土地で。


「わーすっごーい! 劇場だって!」
「わ、私達ならそれくらい当然よね!」
「ちょっと姉さん達、いくらなんでも話がうますぎるわ」
「ま、そう思うのも当然でしょう。貴女達の歌が良いと言ってもいきなり劇場なんて与えられても客を集めるなんて出来ないでしょうし?」
「むっかー! 何よ! ちぃ達を舐めてるの! 私達なら劇場なんて常に満員にしてやるんだから!」
「ぷんぷん! 私達ならそれくらい余裕だよ! ね、人和ちゃん!」
「ちょ、ちょっと姉さん達」
「へえ? 見ず知らずの土地で劇場を常に満員に、ねえ? 出来なかったらどうするのかしら?」
「ふん! 私達が出来ない訳ないでしょ!」
「あら、じゃあ初公演で満員に出来たら劇場をあげるっていう条件にしようかしら」
「姉さん達やめて。まだここでそこまで顔も売れてないのにいきなり劇場を満員なんて無理よ」


 姉二人を止める三女を見ながら曹操はチラっと孔明を見た。孔明は頷きぽちに言う。

「ぽち様……なんとかあの姉妹に協力してあげられませんか?」
「うん、そうだね」

 急に話を振られたぽちは完全に途中から話を聞いてなかった為、適当に相槌を打った。その返事を聞いた孔明は横にいたホウ統に合図を送る。ホウ統も頷き呂布に話し掛ける。

「そ、そういえば恋さん、この間の賊討伐の褒美保留にしてましたよね!」

 呂布は一瞬なんでこのタイミングでその話をと首を傾げたが、話を理解し合わせた。

「……ぽち様、三姉妹に協力してあげて」
「え、褒美それでいいの?」
「……うん。いい」

 一番手柄を挙げた呂布がそう言うのであればぽちが断れるはずもない。

「いいけど、協力って何を──」
「良いそうです華琳様!」

 ぽちから求めていた返答を引き出した孔明が曹操に即座に報告する。そしてこのタイミングでこの場から離れた曹洪がバタバタと書簡片手に戻ってきた。

「出来ましたわ!」
「栄華、良くやったわ! 見せて頂戴!」

 曹操が曹洪から書簡を受け取り勢いよく広げた。そこに書いて合ったのは、ぽち用のステージ衣装の原案である。

「栄華……完璧よ」
「仕立てもお任せ下さいませ!」

 興奮している曹操達をよそに、完全に話から置いていかれている三姉妹とぽちがポカーンとなっているが多分気にしてはいけない。

「ふふ……楽しくなりそうね!」

 曹操が笑みを浮かべた。将軍一同も笑みを浮かべた。当人達は何の事だかさっぱり分かっていないというのに。



 集客の手伝いとしてぽちも初回のステージに立つように言われたのはこのすぐ後である。もちろん三姉妹は文句を言った。素人と一瞬に、しかも女三姉妹のユニットに男を混ぜるなど普通に考えて暴挙である。しかし三姉妹も初めに文句を言っただけで受け入れた。なんせ相手はあの天下の曹犬である。顔が良い曹犬である。一曲くらいなら一緒にやっても役得ってやつよねという精神が働いたのである。ぽち本人は呂布から褒美として頼まれたので断れない。かくして記念すべき初公演にぽちがステージに立つ事が決まった。


 言うなれば張三姉妹は宝石である。ステージ上でいつまでも輝き続ける美しき宝石である。その輝きは見る者を魅了する。しかしその真ん中にぽちが立った。言うなればぽちは太陽である。輝きそのものである。歌の上手い下手いでは無い、魅力チートどころかバグである。アイドル三姉妹のユニットに異性を混ぜるとか暴挙? 現在大陸で一番信仰を集め、一部地域から神扱いされているぽちと現在地下アイドル程度の知名度の三姉妹、どちらかと言えばおこがましいのは三姉妹のほうである。来た客からすればバックダンサー扱い、安室奈美○とスーパーモ○キーズ以上の差がある。

 ま、その辺りは置いといて初公演は当然成功した。元々実力のある三姉妹である。ファンも当然根付いた。ぽちも何故か一曲限定でたまにステージに立つ。褒美としてせがまれる事があるからである。ぽちの歌を聞いた人々は口々に言う。

 全漢王朝が泣いた。
 腰痛や四十肩が治った。
 豊作になった。
 不作だった頭皮まで豊作になってきた。
 寿命も伸びた。
 隣の人がいきなりテクノブレイクした。

 等々まことしやかに噂が大陸中に広がっていった。もちろん三姉妹の公演の素晴らしさもついでに広がった。なので大陸から更にこの街に人が集まってくる事になった。

 え? こうきんのらん? 何それ知らない子ですね。



わい、今日が誕生日なんだ……。


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第十八話.曹一門の金庫番

 ぽちが曹操にお小遣い下さいと言いに行くと、曹洪に話通しておくから後で向かうように言われた。曹洪は曹一門の金庫番なのです。


「ああ、それと新しい娘が入ったから紹介するわ。季衣、自己紹介しなさい」
「あ、はい! 僕は許緒仲康、真名を季衣っていいます! 曹犬様が初対面の人とは真名交換しない事は聞いてるので、曹犬様と呼ばせて貰いますね!」
「うん、宜しくね許緒」


 また曹洪が喜びそうなロリっ娘が来たなとぽちは思った。しかし既に姉と真名を交換している辺り相当な実力を持ってるんだろうなとぽちは思う。ま、実力あろうが無かろうが素直そうないい娘だからいいかとぽちは特に深く考えない。今度点心でも奢ってあげようとぽちは思う。ぽち、その娘も胃袋ブラックホールだからな。

 その後、ぽちは言われた通り曹洪の元へ向かう。曹洪の執務室の前に立つと中から喧騒が聞こえてきた。


「予算に余裕はありません! これは煮詰めればもっと予算を削れるはずです! こちらは計算が間違っています! それからこちら、なんですかこの項目は! きちんと説明して下さいませ! これだから使えない男は嫌いなんです! なんですの? きちんと利を説いて説明出来るならやってみなさい! 出来ないならさっさと作り直しなさい!」


 曹洪の怒号が聞こえバタバタと文官が複数名部屋から逃げるように飛び出してきた。それを見ながら、また後で来ようかなと部屋の前から立ち去ろうとしたら曹洪から声を掛けられた。


「あら? ぽちさんではないですか?」

 見つかったのでしょうがなくぽちは入室したが、先ほどのやりとりの後でお小遣いくれはさすがに言いづらい。

「ああ、お小遣いですわね。お姉様から聞いていますわ。そんなに畏まらなくてもぽちさんのお小遣いは別枠できちんと用意してますわ」

 それ給金を管理してもらってるのと何も変わらないと思うが、ぽちが気付いてないから何の問題も無い。

「あら? 衣服が乱れていますわ」

 曹洪がぽちの衣服を正し始める。

「服が乱れてはだらしなく思われてしまいますわ。……髪も寝癖がついていますわね。民にも部下にも、ぽちさんは憧れの人なのですからシャンとなさらないと……。これでマシになりましたわね」

 ぽちの衣服や髪をささっと直していく曹洪。まるで新妻……!曹洪の嫁力が上がっていく……!
 その様子を偶然報告にきた曹純が目撃した。おどおどした様子で書簡を手に曹純が話しかける。

「あ、あの……何してるの栄華ちゃん」
「あら柳琳。何ってぽちさんの服と髪の乱れを直していただけですわ?」
「あ、そうなんだ……」
「どうかしましたの?」
「いえ、なんでもありません……」

 ま、普通勘違いするよね。曹純が勝手に勘違いした様子をぽちと曹洪は不思議そうに眺めていた。その後、曹洪は曹純に何を何故勘違いされたか気付き顔を赤らめながら曹純に違うんです! と必死に弁解していた。



「華琳様、お疲れのようですが……」

 いつも神速で政務に取り組む曹操の手がまったく動かず、机に肘をついて頭を抱える様子に、仕事の報告に来た夏候淵が心配そうに声を掛ける。

「ああ秋蘭、違うのよ。疲れてる訳じゃないわ」
「では華琳様、何か悩み事でも……。私で良ければ話を聞かせて頂けませんか」
「……そうね」

 あの曹操に悩み事というだけでも驚きだったが、それを打ち明ける事に内心驚く夏候淵。普段弱味を見せぬ曹操だけに何事かと身構える。

「……ぽちの貞操、危なくないかしら」
「……は?」

 一瞬呆気に取られるも、考え言葉を絞り出す夏候淵。

「華琳様。ぽち様の周りには今、魅力的な娘達がたくさんおります。さすがに誰か既に御手付きであるかと思いますが……」
「まだ無いわね」
「何故判るのでしょうか」
「あの娘達の好意は信仰に近いもの。ぽちが手を出すなら拒まないでしょうけど、ぽちは手を出さないわ」


 だって童貞だものと断言する曹操。


「ならば何をお悩みですか?」
「……一人だけ危ない気がするのよ」
「それは?」
「恋よ」

 呂布だけは流れのままそうなりそうな予感がすると曹操は言う。

「ですがそれならぽち様も恋と既に至っている可能性も───」
「無いわ。皮膚と汗は嘘をつかないわ。童貞の(味と)匂いをぷんぷんさせているもの。あの童貞臭はまだ間違いなく童貞よ」

 匂いは比喩と受け取れるが皮膚と汗とは一体……と目を瞑り聞かなかった事にしようと頭から切り捨てた夏候淵。

「はぁ、童貞とは匂うものなのですか?」

 いつの間にやら部屋に入ってきていた夏候惇が曹操に尋ねた。

「当然でしょ」
「なんと」

 驚く夏候惇と同じく内心驚く夏候淵。二人共に曹操としか閨を過ごした事がないので男に関する知識が足りなかったのかと思うに至る。違うよ? そこにいる弟馬鹿がおかしいだけだからね?

「よし」

 何やら決断した夏候惇が部屋から出ていった。まあいいだろうとそれを流した夏候淵に曹操は言う。

「やはり貴女にぽちの初めてを頼んでおくべきかしら」
「ぽち様の好みというのであれば柳琳かと思います。私は少し外れているかと」
「柳琳だとまずいのよ。なんとなくだけれど」
「まずい……ですか?」
「ええ」

 曹操の勘は当たっている。ぽちと柳琳だともうゴールしちゃってぽちは本当に引きこもるだろうし、そんなぽちを甲斐甲斐しく柳琳は世話をするだろう。完璧駄目人間完全体となるのは明らかである。柳琳が天使過ぎるので仕方ないね。しかしその裏で栄華の新妻力が上がっている事はさすがに読めなかったようだね。

「ではその……華琳様が……」
「駄目よ。その……だって……無理矢理そういう事して嫌われたくないじゃない……」

 夏候淵がキュンっと来たのは仕方ない事だろう。恥ずかしそうに悩む華琳様可愛い。

「……私とてぽち様には嫌われたくはありません」
「……とりあえず保留ね。」

 ぽちの貞操に関して曹操が悩む際、いつも保留で話が終わる。政務に関しては即断即決の曹操もこの話題にのみ二の足を踏みまくっているのは嫌われたくないからである。夏候淵辺りが夜這いに行ったら拒否しないと思うけど自分からぽちが動く事はない。童貞だから。





「ぽち様はいるか~!」

 ドオオオオンと執務室の扉が吹き飛び直線上の壁にドカーンと叩き付けられ扉がお亡くなりになりました。わりといつもの事なので一緒に仕事している孔明もホウ統もこの程度で驚く事は無い。夏候惇は何故扉を蹴破るのか。そこに扉があるからなのか。わりといつも扉が吹き飛ぶので扉から壁までの直線上は空白を作っておくのが、この部屋の常識です。

「春姉、また栄華に怒られるよ?」
「う……それより!」

 部屋に入ってきた夏候惇がぽちの元へ駆け寄る。

「匂いを嗅ぐぞ!」
「へ?」

 いきなりぽちの匂いを嗅ぎ出す夏候惇に困惑するぽちと呆気に取られる孔明とホウ統。なんだろう、ぽちの匂い嗅ぐの一大ブームなの?

「なるほど、これが童貞の匂いだな。覚えたぞ」
「 」

 ふふんと鼻を鳴らす夏候惇と、その一言で日向一族の如く白目になったぽち。

「あ、あの、春蘭様?」

 ホウ統が一体何してんのと夏候惇に尋ねる。

「ああ、ぽち様が童貞の匂いがぷんぷんすると華琳様が仰っていたからな。童貞とはどういう匂いがするものなのか嗅いでおこうと思ってな。これが童貞特有の童貞臭というやつか。参考になった」
「 」


 華琳姉ひどいと思いながら魂が抜けたぽちと、やはりぽち様はやおい! と顔を赤らめ興奮する孔明とホウ統。孔明とホウ統は無言でアイコンタクトを取りその夜熱い二人の会議が行われ、謎の同人サークル『はわあわ☆軍師』から新刊『曹犬×虎豹騎 犬から女豹に変わる夜』が発売され、裏でめっちゃ売れたのは内緒だよ。そして夏候惇は満足そうに帰っていきました。



日常パート書いてたら話が進まない……。

皆さま誕生日祝って下さりありがとうございます!
あの日は仕事帰りにコンビニでケーキ買って皆さまのコメント見ながら一人でケーキ食べるというリア充な日を過ごしました。


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