ようこそ電撃世界へ!いや、俺電撃使えないんだけど・・・。 (A i)
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プロローグ


第一話です!
プロローグという奴を初めてちゃんと書いた気がします笑
「プロローグ」ってグーグルで調べると前置き、とか話の暗示って書いてあったのでこんな感じで書いてみました。
どんな感じかはお読みになってからのお楽しみに!
結構この作品に関しては色々と伏線を張っているのでどこがどうなるのかも気にしながら読んでくださるとありがたいです。
また、感想ドシドシください。
待ってます!!
それでは、つらつらと長い前書きにも飽きたでしょうし、本編をどうぞお楽しみに!!


電灯の光がチカチカと明滅している。

あたりは深い闇に包まれ、東の空の低くに今出てきたばかりであろう月が浮かんでいる。

三日月よりも細く鋭い弧を描いている。

今にも消え入りそうなほどに細い月。

だけど、儚げな印象はない。

むしろ、その月は燃えるようなワインレッドの光を放ち、私に恐れを抱かせた。

いや・・・・・あるいは月の美しさに酔いしれていたのかもしれない。

いずれにせよ、ある種恐れを抱かせるその紅の輝きは人を魅了する魔力のようなものを放っているように思え、私はその月から目が離せなくなっていた。

 

どこをどう歩いたのだろうか・・・。

思い出そうにも思い出せない。

 

気づくと私はとある工場の脇道を歩いていた。

工場の建物で空は隠れ、赤い月も隠れていた。

私は自分の心がなぜこれほどまでに赤い月に引かれ恋い焦がれるのか不思議に思った。

研究所での研究生活に心が疲れていたのだろうか?

だからかもしれないな、これほどまでに自然の作り出す美に惹かれているのは・・・。

だが、その心労もここまでだ。

今日、ようやくこれは完成したのだから。

これを明日、所長に渡すことができれば、これまでの全人生が報われる・・・。

そうなれば私の人生はなおいっそう輝きを増すだろう・・・。

空に浮かぶ、この怪しく光る月すらも私を祝福しているように感じていたのかもしれない・・・・・。

だから、これほどまでにあの月を見たいと思うのだ。

 

誰もいない、暗く細い路地で私は一人納得の笑みを浮かべた。

研究所では数式や使えない部下とばかり顔をつきあわせていたため笑うこともなかった。

久しぶりに上げた口角はヒクヒクと震えた。

 

「こんばんは。神代博士。」

 

「・・・・・・!」

 

突然の背後からの声に私は飛び退きつつ振り返る。

物思いに耽りすぎたようで、背後からの接近に気づけなかった。

いつもの自分であればあるいは気づいていたかもしれない。

全神経を張り詰めて研究に没頭していた自分であれば。

だが、今はこれの完成の余韻に浸るあまり、背後や周囲に対する警戒心が薄れてしまっていたのだ。

月に見惚れ、この脇道に入ってしまったことも今となっては呪わしい。

襲撃者の存在も予測してもう少し見晴らしの良い道から帰宅するべきであった。

この脇道の両側は大規模な半導体生産工場になっていて、深夜になるとめっきり人影がなくなる。

叫び声をあげても誰も助けには来てくれそうにない。

 

現状の最悪に近いことを認識し私は唇を強くかみしめた。

後悔はあとだ。

今はこの襲撃者をどのように撃退するかに集中するのだ。

 

電灯の光は弱々しく、敵とおぼしき存在の顔を満足には照らしてくれていない。

だが、二十台半ばぐらいの若い女性に見える。

口元にはキセルだろうか・・・。

口づけでもするように、煙を吸い、実にうまそうにはき出している。

紫煙をくゆらせるその姿は見惚れてしまうほどに美しかった。

一見、彼女は戦闘員には見えない。

むしろ、その容姿の美しさと佇まいは花魁を思わせる。

だが、私の背中には冷汗が伝っていた。

頭ではなく感覚でこの女が普通ではないことを悟っていたのだ・・・。

 

私は腰のホルスターから拳銃を取り出し、親指でセーフティーを外す。

銃口こそ向けてはいないがすぐにでも発砲できる状態だ。

 

銃口を向けないのはすべて私の勘違いである可能性がまだなきにしもあらずだからだ。

万が一間違っていたときにはホルスターに収めようと思っていた。

もちろん、今にも銃を抜きそうな人物を見れば慌てもするだろうという打算もあってだ。

だが、この女は銃を見ても全く慌てるそぶりもなく悠然と紫煙をくゆらせ続けている。

 

――やはりこいつは危険だ・・・。

 

そう思い、私は銃口を彼女に向けて初めて口を開いた。

 

「お前は誰だ・・・。なぜ私に近づいた・・・!」

 

薄暗い路地に私の声がこだました。

 

女は最後に、細く煙を吐き出すと、その赤く燃える瞳で私を射すくめ、つぶやくようにこう言った。

 

「・・・・はぁ。うるさいじーさんだこと・・・。」

 

けだるげな女の声が耳朶に届いたと思った時には、腹部からなにか生ぬるい液体が流れ出ていた。

 

「うぐふ・・・・ごぽ・・・。」

 

口を押さえるとあまりにも鮮やかな赤色が目に飛び込んでくる。

そこでようやく私は自分が血を流していることに気づいた。

膝から力が抜け、手に持っていた鞄が地面をはねる。

中には私の人生のすべてが入っている・・・。

 

「うぐぐ・・・・。」

 

血だまりが大きく広がり、倒れた自分を飲み込んでいく。

だが私は必死に転がった鞄へと手を伸ばした。

 

――あと数センチ・・・・。

 

「う・・・!」

 

「残念だったね?これは私がいただくよ・・・・。」

 

女が屈み、私の鞄に手をかけた。

私は瀕死の重傷を負っていた。

それは自分でも分かっていた。

だが、それでも私はそれらすべてを忘れて見惚れていた。

 

彼女の口紅の艶めきに。

彼女の瞳の鮮やかさに。

 

そして、彼女の耳元に輝く深紅の三日月に・・・・。

 

――こんな形でもう一度あの月を見ることになるとはな・・・。

 

「ごふっ・・・・!」

 

大量の血液が口から飛び出す。

もう自分は長くないだろう。

だが、それでも私は懸命に手を伸ばし続ける。

 

次第に重く沈んでいく意識。

死にゆく体。

電灯の明かりも明滅をやめ、あたりは漆黒に包まれている。

 

だけど、それでもなお、深紅の月だけは女の耳元で輝き続けていた・・・。

 

 




いかがでしたか?

面白かったですかね?
楽しんで読んでくれてたらうれしいな笑

感想くださいねー、まってまーす!!


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学園都市編
ようこそ電撃世界(エレクトロニックワールド)へ!


第二話です。
不定期更新ではありますが週に一回ほどは更新していこうと思っています。
なので、そのぐらいの頻度で訪れてくれたら嬉しいな?笑
今後も応援よろしくです!!

話の内容としては前半はこの世界の設定。
後半はギャグテイストになっています。
少し、科学用語が多いので根気よく読んでくだされば嬉しいです笑

楽しんで読んでくれることを祈っています。
感想もくれると尚、嬉しいです。

では本編をどうぞお楽しみに~!!


列車の発射を告げるアナウンスが駅のプラットフォームに流れているのを背中で聞きつつ俺はエスカレーターを上がった。

エスカレーターを登り切ると、一面ガラス張りになっていてちょうどプラットフォームを見下ろせるようになっている。

見下ろすと、俺を運んできたリニアがプラットフォームを出て加速しだしている最中だった。

あの鉄の塊が数分後には、時速505キロにまでなるのだから電磁力の力は改めてスゴイものだと思わざるを得ない。

 

しばらく、眼下の風景を眺めていた俺はきびすを返して、改札を通る。

この改札口は俺のポケットに入ったパスを自動スキャニングしているのでなにもかざしたり、入れたりしないで済むのは本当に便利なのだが時折、残高が足りず改札を通れないと、スマートに通ろうとしている分だけ余計に恥ずかしさが増すのは気のせいではなく誰しもが経験したことがあるのではなかろうか。

今も後ろでビビー!という警報音が鳴り、赤面しながら精算機へと向かう女の子が見えたが、彼女の気持ちを慮って俺はできるだけ見ていなかったような振りをしつつ、我が学園都市、通称電撃世界(エレクトロニックワールド)へと続く出口に向かうのであった。

 

この春から通うことになった俺の高校は帝都第一工科高等学校。

一応この日本帝国随一の優秀な生徒が集まるエリート校だと言われている。

更にこの近未来型学園都市は日本に四つしか存在しない政令指定の学園都市であり、学校や研究機関が所狭しと軒を連ねている。

人口は約百五十六万人。

そのうちの約三十二万人が学生だというのだから驚きだ。

東京以外の政令指定の学園都市である大阪や博多、仙台でもこの学生の多さには敵わないであろう。

更に、学生の数だけではなく、この学園都市は電撃世界の異名通り、電磁気学が突出して発達した最先端の街である。

空には宅配をする「宅配用ドローン」が飛び交い、道路を走るバスもリニアモーターを搭載しているため、空中を浮いている。

電磁気の世界などと聞き及んでいたため、もっと荒廃したすすやオイル臭い街並みなのかと思っていたが、乗り物も空中を浮いて走行するので路面をアスファルトで固める必要がなくなり、至る所が緑地化されなんとも見ていて気持ちの良い景観になっていた。

もちろん、エネルギーなどは化石燃料や原子力などを用いない、クリーンな自然エネルギーですべてまかなっており、そこかしこのビルの屋上に太陽光パネルが備え付けてあるし、遠くに見える丘の上には幾つもの風車が回っているのが見える。

しかし、エネルギーをまかなう上で最も貢献の大きかったのはやはり超伝導技術の確立であろう。

従来の送電線ではエネルギーを電流として運んでいる間のロスが大きく、多くのエネルギーが熱として放出され無駄になっていたのだが、常温に近い温度でも超伝導が可能な合金の合成成功に伴って、エネルギー効率はほぼ100パーセントになった。

そのおかげで、この学園都市全体で消費される膨大な電力量を自然エネルギーだけでまかなえるようになったので、本当に超電導様様である。

 

待っていた信号が赤から青に変わり、俺は横断歩道を渡り出す。

周囲には学生とおぼしき姿がたくさんあり、俺と同じ高校に通う生徒もちらほらと見られる。

ただ、俺の高校は少し特殊で、なんと制服が二種類存在する。

 

俺の右隣で楽しそうに談笑する男子三人組が着ている制服の色は黄色。

襟元や袖口は少しあせた灰色のような色味であまり派手になりすぎない、エリート校らしい確かな品を備えた制服だ。

胸元には青色の校章が輝き、新入生である一年生だと物語っていた。

 

しかし、そんな彼らの制服とは対照的に俺の制服は全身真っ黒。

袖口や襟元は彼ら同様灰色であるが、彼らの制服と比べるとどうしても地味で陰気で暗い印象に見えてしまう。

胸元に光る校章も彼らと同じはずなのだが、どこかくすんでいるように感じる。

 

では、同じ高校の同じ制服でどうしてここまで制服が異なるのか、というと実を言うとうちの高校は専攻している科目によって規定されている制服が異なっているのだ。

 

我が高校には電磁気学専攻と重力学専攻の生徒二種類がいる。

そのうち、電磁気学専攻は黄色の制服を、重力学専攻の生徒は黒色の制服を着なければならないと学校の規則で定められており、その人がどちらの色の制服を着ているかでその人が何を専攻しているのかが一目瞭然となっているのだった。

まあ、自分と同じクラス、学科の奴らを見つけ出すことはこの制服のおかげで俄然やりやすいのだが、それにしても、同じ高校なのだから統一してもいいのではないかと思わずにはいられない。

 

電磁気学が発達したこの電撃世界では、当たり前だが、電磁気学が最もポピュラーかつ最も崇高な学問として扱われており、当然生徒たちもその聖なる学問を学ぶべく電磁気学専攻の道を進む者が多く、重力学はマイナーな科目という扱いになっている。

 

だが、望めばこの電磁気学を全員が全員専攻できるのか、というと残念ながらそうではない。

 

この高校は学力テストおよび実戦形式の模擬訓練、それに加えて適正検査の三つが入学試験となっている。

前者二つはおおよその検討がつくであろう。

我が高校は高校と言いつつも軍に所属する戦闘員および技術士の訓練所でもあり、しかも軍事訓練施設としては飛び抜けて高い評価を受けている。

なので、ここの卒業生および在校生は戦場でも一線級の戦力として扱われるらしい。

まあ、学内の序列上位者は一人で一小隊の戦力と同等と言われるほどなので、納得といえば納得である。

 

なので、この学校に通うに当たって戦闘力を測る模擬訓練は欠かせないし、もちろん学力テストも必要であるのだが・・・。

では、適正検査とはなんぞや、というと、簡潔に述べれば、文字通り電磁気学と重力学のどちらに適正があるか、という検査である。

そして、この適正が無ければいくら熱意があっても電磁気学専攻にはなれない。

つまり、重力学専攻の生徒には電磁気学にたいする適性がなかったと言うことになる。

 

では、適性検査では何を基準に適性を計っているのであろうか。

 

それは、因子の有無である。

電磁力因子「フォトン」と重力因子「グラビトン」。

このうち、「フォトン」を保有している者が電磁気学専攻となり、「グラビトン」を保有している者が重力学専攻となるのである。

 

この因子は力を発現するために必須の条件であるので、「フォトン」因子を持っていない場合にはどれほど焦がれても、電磁力を扱うことはできないし、電磁気学専攻にもなれないのであった。

 

だが、ご安心を。

この学校の生徒数は約千五百人であるがそのうちの約90パーセントつまり、約千三百五十人が電磁気学を専攻していることからも分かるように、ほとんどの人に宿っているのがこの「フォトン」である。

なので、この適性検査で落ちる事って言うのはほとんどない。

偶然、立ち寄った神社でたまたま買ったおみくじが凶だったことぐらい希有なことなのだ。

 

そして、俺はその凶を運悪くも引いてしまっていた。

俺には「フォトン」因子の影も形もない。

あるのはただ「グラビトン」因子。

それだけだ。

 

まあ、運悪くそうなってしまったものは仕方ない。

気にせず、自分のやれることをやっていくだけだと割り切れれば良いのだが、多くの人にとってそれはなかなか難しいらしい。

 

今も俺の黒色の制服を見て、先ほどの三人組が意地悪そうに嗤い、ヒソヒソと声を潜めて楽しそうに会話している。

おおかた、話の内容に察しは付く。

もちろん、あまり気分の良い話ではないだろう。

悪意というのは言葉を用いずとも伝わるものだ。

 

俺は彼らの粘つくような視線を振り切るため、歩みを早めて残りの通学路を急いだ。

 

 

十分も歩くと校門の前へとたどり着いた。

 

校舎は見上げるほどに高く、優に50メートルはあるだろう。

四本の塔が連なったような、中世ヨーロッパを思わせる珍しい造りであった。

中に入ると、精緻でかつ美麗な彫刻が至る所に施されており、高く伸びる天井は見事なステンドグラスがあしらわれていた。

おそらく、何か宗教的な暗示が隠されているのであろうが、科学者である自分には何のことかサッパリ分からない。

だけど、そのステンドグラスには見る者すべてを惹きつける魅力を放っていた。

 

しばらく、俺は建物内をふらつきつつ、いろんなところを眺めて回っていたのだが、さすがに定刻も近づいてきたため、あらかじめ指定されていた教室へと向かおうとした。

 

だが・・・・。

 

「・・・・・やばい、迷った。」

 

俺の独り言は高い天井へと吸い込まれ、あたりは静寂に包まれる。

周りを見渡しても誰一人いない。

 

いや、一人だけいた。

 

「失礼しました。」

 

お辞儀をし、扉を閉める少女。

 

「・・・・・・?」

 

少女は俺が見ていることに気づいたのか、不思議そうに首を傾ける。

 

彼女は黒縁のめがねにおさげをした典型的なメガネっ娘であった。

髪の色は少し茶色っぽい黒色。

全体的に地味な容姿であるが、目鼻立ちや顔の均整は取れているのでおそらく美人であることがうかがえる。

 

――この子に教えてもらうしかない!

 

あまり時間もないので俺は駆け足で彼女に駆け寄った。

 

「すみません。道に迷っちゃって、重量学教室0101号室ってどこかわかりますか?」

 

「あ、重力学教室に行きたいんですね。それだったら一号館分かりますか?」

 

「分からないです・・・。」

 

少し困ったように彼女は言う。

 

「そっかあ、まあ分かってたらこんなところまで来ないですよね。だってここ四号館ですし。」

 

「はあ・・・四号館・・・。」

 

俺の頭の中には全く学校の地図が入っていないため、いまいち要領を得ない。

そんな俺の様子を見かねたのか、彼女は苦笑しつつ説明してくれる。

 

「この学校は四つの塔からできてるのは分かりますよね?」

 

「はい、さっき外から見たんで。」

 

「その四つの塔の左から順に一から四まで番号が振られてるんです。」

 

「なるほど・・・ってことは・・・。」

 

「そう、君は真反対に来ちゃってるっていうことです。」

 

「そんな・・・。」

 

「あ、ちなみにこの四号館は最高学年の三年生と生徒会の役員しか原則立ち入りは禁止されてるんですよ。」

 

「え!!そうなんですか!知らなかったです・・・。」

 

「あはは、そこの入り口に注意書きが書いてあるんですけど、一応。」

 

「え・・・。」

 

俺は彼女が指さす方向に目を向ける。

 

「あ、本当だ。書いてある“関係者以外立ち入り禁止”って。」

 

「まあ、初日ですし気にしないでいいですよたぶん。」

 

「すみません。」

 

「いえいえ。ってまあ、私も一年だから偉そうにはできないんですけどね。」

 

そう言って彼女は胸元に輝く青色の校章を俺に見せてくる。

もちろん制服は黄色だ。

 

「一応自己紹介しときます。私、電磁気学専攻の椎名文(しいなふみ)。よろしくです。」

 

「俺は竜崎理(りゅうざきおさむ)。よろしく。」

 

彼女が手を差し出してきたので、俺もためらわずにその手を握る。

いや、断じて美少女の手を握りたいとかそう言うんではないぞ。

ためらうと余計に恥ずかしいからってだけで、ほんと他意は無い。

ホントだぞ?

 

誰とも付かぬ人に言い訳していると、ガララ、と今椎名が出てきたばかりの扉が開く。

 

そこから出てきたのは紛れもない美少女であった。

しかも、銀髪・・・。

いや、白髪なのだが、艶やかに輝くその髪は銀髪にすら見えてしまう。

肌も抜けるように白く決めは細かい。

冬の澄んだ青空を思わせる碧眼が、大きなサファイアのように輝いている。

制服から伸びた手足はすらりと長く陶器のようになめらかだ。

 

俺はあまりにも突然の邂逅に息をすることすら忘れて彼女の美貌に見入ってしまっていた。

 

「あんた、何してんのよ~~!!!」

 

つんざくような声が俺の鼓膜を全力で震わせた。

そこでようやく俺の意識は戻り、声の主は今出てきた美少女の者であると認識できた。

当の銀髪碧眼の少女は顔を真っ赤にして俺に向かって犬歯をむき出しにしている。

 

なにをそんなに激怒しているのか、と頭をひねっていると更に怒りをはらませた声が俺の耳朶を叩いた。

 

「あんたに言ってんのよ!さっさとその手を離しなさい!」

 

「・・・・・・?」

 

手?

俺は言われたとおり自分の手がどうなっているかを見た。

 

――あ・・・・椎名の手握りっぱなしだったー・・・・。

 

「・・・・・!」

 

「あ・・・・。」

 

俺が慌てて手を離すと、椎名は小さく叫びをあげた。

 

すると、銀髪美少女はまるで俺から椎名を守ろうとでもするかのように、椎名をひったくり、両腕で堅く抱きしめる。

 

「うちの椎名に何してんのよ!この変態!」

 

「おい、俺は変態じゃねえ!道を聞いてただけだ。」

 

「でも、椎名の手握ってたじゃない!それだけで万死に値するわ!こんな腐れ男の手で触られて、もし椎名の柔肌に湿疹でも出たらどうしてくれんのよ!!」

 

「どんだけ汚いんだよ俺の手は。」

 

「汚いに決まってるでしょ?どうせトイレ行っても手洗わないタイプでしょ?その汚い顔に書いてあるわ。汚らわしい、恥を知りなさい!」

 

「めちゃくちゃ言うなこいつ・・・・。」

 

独断と偏見による明らかな名誉毀損であった。

つーか、なんで顔見ただけでトイレで手を洗わないタイプとか見分けられんだよ。

俺がほしいわその能力。

あと、トイレで手を洗わない奴はマジでキモい・・・。

 

俺は眉間にしわを寄せ、こめかみに青筋をばんばん浮かせて臨戦態勢に入っていたが。

 

「まあまあまあ。二人とも、落ち着いて。」

 

と、椎名が間を取り持ってくれたため、俺は少し頭が冷えた。

 

そんな俺に対して未だ怒り冷めやらずといった感じの銀髪野郎(美少女とは口が裂けても言わない)に椎名が丁寧に弁解した。

 

「・・・・・とまあ、そんなわけで竜崎君は悪くないんだよ、雷ちゃん。」

 

椎名の弁明が終わり、沈黙が横たわる。

雷ちゃんと呼ばれた銀髪野郎は瞑目し腕組みして、黙考していたが。

 

「・・・・・・考えた結果、やっぱり死刑ね!!」

 

「なんでだよ・・・。」

 

もはや怒りを通り越して呆れてしまうばかりだ。

つーか、手を握っただけでこの国における極刑をご所望とは。

ヒトラー閣下も驚きの独裁国家だぞ・・・。

 

この銀髪少女、椎名のこと好きすぎて頭おかしいんじゃねーの・・・?

 

そんな憎まれ口が頭をよぎるが、賢明かつ大人な俺はなんとかそれをこらえて聞いた。

 

「はあ・・・・もう何でも良いから道を教えてくれ。」

 

「あなたみたいな腐れ外道に教える道なんか無いわよ!」

 

「めちゃくちゃすぎる!」

 

フン!と鼻を鳴らした銀髪はきびすを返し、椎名を連れて歩き出す。

 

「おい!」

 

彼女達の背中に声をかけるがずんずん歩き去っていく銀髪。

なので俺はもう、道を聞くことは諦めた。

 

「おい!お前名前はなんて言うんだよ!銀髪!」

 

ぴくんと肩をふるわせた彼女は、かかとをうまく支点にして体をキュッと反転させて仁王立ちになった。

大きく息を吸い込み胸を膨らませたかと思うと、先ほどにも負けない大声で俺の耳をつんざいた。

 

「お前でも銀髪でもないわよ!私の名前は朝比奈雷(あさひないかずち)!次、変なあだ名で呼んだら許さないんだから!!」

 

フン!とここらでも聞こえるほど大きく鼻を鳴らし、ずんずんと歩き去って行く朝比奈。

彼女の脇に抱えられた椎名がひらひらー、と手を振ったのが曲がり角の最後のところで見えて消えた。

 

シンと静まりかえった誰もいない廊下にぽつんと取り残された俺。

あまりにも衝撃的な邂逅に俺は呆然としてしまっていた。

 

キーンコーンカーンコーン。

 

始業の合図であるチャイムが鳴り響く。

 

・・・・ん?チャイム?

冷汗が頬を伝う。

俺は信じられない思いで時計を見るが無慈悲きわまりない時を告げていた。

 

乾いた諦観が俺の心を凪ぐ。

 

――・・・・・・・・・まじで?

 

「・・・・・・やべぇぇぇえええええ!!!!!!!」

 

芸術的な建築様式の粋を集めたかのような美しい廊下に、あまりにも似つかわしくない汚い男の汚い叫びがこだましたのだった・・・。

 

その後担当教官に三時間説教されたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがでしたか?
もうね、ツンツンしまくりでしょ?
デレルことあるのかな?って思うぐらいにつんけんしてます笑
しかし、どこかでは必ずデレさせようと思っているのでそのあたりにも注目して読んでくれると嬉しいです。
では、また次話で会いましょう。
感想くださいね?笑


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授業風景

第三話です。
早めに仕上げようと思っていたら今日の内にできてしまった。
なので上げますね?笑

今回のお話はサブタイトルにもあるように重力学の授業風景です。
新たなメンバー達が出てきますのでお楽しみに。

では、どうぞ!!
あ、感想ちょうだいね?笑


カツカツ カツカツン

チョークが黒板を叩く硬質な音が、生徒五六人を収容する講義室に響き渡る。

生徒達は授業から乗り遅れないよう必死でその内容をノートに書き記す。

俺も一応ポイントとなることだけはメモを取り、ペンを置くと、重力学の講師、飯室菫(いいむろすみれ)先生がチョークを置くのと同時であった。

 

パンパンと手に付いた粉を払いつつ俺たち学生の方へと顔を向ける先生は控えめに言ってもかなりの美人である。

 

腰ほどまで流れる黒髪は鴉の濡れ羽のような艶めきを放ち、白い素肌とのコントラストがこれまた美しく、赤い縁の眼鏡が絶妙なアクセントを奏でている。

スタイルも大変よろしく、端的に言うとボンきゅっボンなナイスバディーだった。

 

だが、もちろん国内屈指の名門校であるこの学校に赴任するだけあって美人なだけではなく、頭も相当に切れるようだ。

今も飯室先生は講義をされているが、あまりにもレベルの高いその授業に大半の生徒達は付いていくだけで精一杯。

必死のパッチで食らいついている状態であった。

 

飯室先生は学生達のそんな様子を見回すと小さくうなる。

 

「ふむ・・・・少し授業内容が難しすぎたかな・・・。」

 

唇に人差し指を当て、独りごちる飯室先生はなんとも子供っぽく見える。

おそらく彼女はアラサーであろうが、その仕草は違和感なくしっくりきている。

 

飯室先生はうむ、と一人頷くと明るい声で切り出した。

 

「よし、ではこの辺りで一度基本事項を確認しておこうか。じゃあ・・・そこのお前。」

 

「わ、私ですか・・・・?」

 

「そうお前だ、立て!」

 

「はい・・・。」

 

心細げに立ち上がる女子生徒。

 

「名前は?」

 

飯室先生がその生徒に名前を聞く。

 

「瀬川小鳥(せがわことり)です・・・・。」

 

震えるような声でそう答えた女生徒。

肩も震えておびえているようだ。

そりゃそうだろ、あんな乱暴な聞かれかたヤンキーぐらいしか今日日しない。

 

だが、飯室先生はそんな瀬川さんの様子など全く気にしない様子で質問を浴びせた。

 

「よし、瀬川。では、質問だ。この世の中に存在する最も基本的な力は幾つある?」

 

その質問を聞くと女生徒は少し安心したのかホッと息を吐き応えた。

 

「四つです。」

 

「うむ、正解だ。お見事。まあこれは基本も基本の超基本事項だな。では、この四つの力は具体的になんだ?」

 

「えーと・・・電磁力、重力、強い力、弱い力、ですよね?」

 

「お見事素晴らしい!座って良いぞ。」

 

ホッと胸をなで下ろしつつ着席する瀬川さん。

小柄な彼女のそんな仕草は見ていて心が和む。

 

彼女が着席したことを確認した飯室先生はまたもや力強い声音で弁舌を奮いだした。

 

「今、彼女が言ったとおり、電磁力、重力、強い力、弱い力。たったこれだけの力でこの世界のすべての力が説明できるとされている。つまり、この四つの力をすべて使いこなせればそいつはもう神の領域、創造再生破壊分解。すべての現象を司る事ができるというわけだ。」

 

教団の上で飯室先生が雄弁に語る様子は不思議と惹きつけられる。

講義室にいる全生徒が飯室先生に視線を注いでいる。

 

「では、この四つの力すべてを扱える人間はいるのか?答えは断じて否だ!理由を応えられる者は?」

 

一人の男子生徒がピン!と姿勢良く手を上げたので飯室先生はその男子生徒を当てた。

 

「はい、そこのお前。」

 

指名された男子生徒は勢いよく立ち上がり大きな声で応えた。

 

「重力以外の力をすべて記述する、標準理論は構築されていますが、未だ重力を含めた四つの力すべてを記述する理論は確立されていないからです。」

 

「よろしい。座って良いぞ。」

 

男子生徒は着席する。

飯室先生はおもむろにチョークを持ち、ここまでのまとめを書きながら説明しだした。

 

「今、あいつが言ってくれたとおり、この三つ、電磁力、強い力、弱い力の統一理論はすでに構築されている。だが、未だなお、重力を統一してくれる理論は完成していない。理論の統一がなされなくては、もちろん、四つすべての力をコントロールすることはできないのだ。この四つの基本的な力を統一理論で束ねることには量子力学と一般相対性理論を根本的に見直す必要があり、困難を極めている。現状不可能とまで言われているほどだ。だが、もう一つこの四つの力の統一理論の完成が遅れている理由があるのだが、何か分かるやついるか?」

 

教壇から飯室先生が発した声に応える生徒は誰もいない。

それも当たり前で、こんなことは教科書には載っておらず、いくら勤勉な学生でも容易には分からないようになっている。

この質問は与えられた情報から推理、推察することが求められているのである。

だが、この教室には誰もそこまでできるものはいない。

沈黙が横たわる。

目立ちたくはないので放っておこうかとも考えたが、このままでは授業が滞ってしまう。

はあ、と俺は一つため息をつき手も上げずにしぶしぶ応えた。

 

「電磁力が最強だからでしょ?」

 

俺のいるほうへと顔を向けた飯室先生は両手を腰に当て若干前のめりになった。

彼女の豊満なバストが、その若干の傾斜によりさらに強調されとんでもない破壊力を持って俺の視界に飛び込んできた。

俺はあまりの迫力に生唾を飲み込む。

 

生徒を誘惑しかねないその魅惑の果実は教師としていかがな者なのかと思うが当の本人には、その自覚がないらしく、ニヤリと意地悪そうに笑って、からかうような調子で言った。

 

「お、遅刻魔、よく気づいたな、その通りだ。そして次は手を上げて発言するようにしろ。次、挙手しなかったら鼻毛引っこ抜くからな!」

 

「何でだよ!まず、遅刻魔じゃねーし、鼻毛も抜かれたくない!」

 

「何を言っている。初日からあれほどの遅刻をかますような奴、遅刻魔としか思えん。遅刻魔の鼻毛なんざ抜いてしまえば良いのだ。」

 

「はあ・・・もうどうにでもなれ・・・。」

 

飯室先生の鋭い叱責に俺は弁解の余地はないと悟り諦める。

 

対して、飯室先生は俺の発言などとうに無視してチョークを黒板に走らせている。

 

「そうだ、今この遅刻魔が言ったとおり、電磁力が最強過ぎるが故に、この重力統一理論の開発は遅れている。」

 

すると、それを聞いていた先ほどの男子生徒が挙手するので、飯室先生はそいつを当てる。

 

「はい、そこのお前、名前は?」

 

「近藤一(こんどうはじめ)です!」

 

「近藤か・・・で?質問は?」

 

「はい!すっごい基本的な質問なんですけど、なんで電磁力が最強だと重力統一理論の開発が遅れるんですか?」

 

自分の分からないことをごまかさずに、素直に質問してくる生徒は飯室先生にとって好ましい存在らしく、実に溌剌とした表情を浮かべて、近藤に顔を向ける。

 

「まあ、考えたら分かることだ。知っての通り、四つの力には力の大小が存在する。近藤、力の大きい順にこの四つを並べろ。」

 

「えー・・・・電磁力、強い力、弱い力、重力。ですよね?」

 

「正解だ。左から順に力が強いものになっている。」

 

カツカツカツッ

リズミカルなチョークの音が走り、四つの力が羅列される。

すると、弱い力と重力の間に線を引っ張り、左側をグルグルと丸で囲んで言った。

 

「今、理論として存在するのはこの三つの力。そして力の大きさは電磁力が最も強く、重力は見ての通り最弱だ。しかも、この左側と右側では全く力の大きさが異なる。つまり、私たちが学ぶ、そして用いる重力は突出してこの四つの力の中でも力が弱いのだ。さらに、君たちも重力学を学ぶ学士であるからわかるであろう?重力学があまりにも難解で複雑だと言うことを。」

 

片目をつぶるようにして問いかけられると、何人かの生徒が「確かに・・・。」「マジそれな」と同意を示す。

その様子を見て満足したのか、飯室先生は話を続ける。

 

「しかし、対して、電磁気学はどうだ。相対性理論よりも約百年早く打ち立てられたその学問体系は今や完全に成熟し、そしてかつ強力無比な力を誇る。見渡せばあちらこちらに電磁気学の恩恵があふれ、誰しもがその力を信頼している。そんな中で、なぜわざわざ根本原理の見直しまでして、どうして重力を使おうとするだろうか?力は電磁気学に及ぶべくもなく、さらに使い勝手も悪いとなれば誰も研究しようとは思わないであろう。だから、電磁力との統一は遅れているんだよ、近藤君。」

 

「なるほど・・・ありがとうございます。」

 

そう言うと着席して今聞いたことをメモり出す近藤。

見渡すと他の生徒もメモを取り出している。

俺も取った方が良いのか?と思ったが自分の発言から端を発した説明なのでそれほど必要性を感じず、ペンを置いた。

 

すると、見計らったかのようにチャイムが鳴り、授業の終わりを告げる。

 

「昼飯の後は能力値検査だからな~。ちゃんと四号館のトレーニングルームに来いよ~。では終わります」

 

起立 礼

 

日直の声が響き重力学の授業が終わった。

 

 

 




いかがでしたか?
授業風景を描いていると、高校時代の思い出がよみがえりました。
こういう横暴な先生いたなあ・・・。
今となっては良い思い出!☆

次話もよろしくー!


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昼飯と近藤

第四話です。
なんやかんやで毎日更新してます笑
このまま更新し続けられるかは読者様からの応援次第!
応援よろしくです。

お気に入りしてくださった方々ありがとうございます。
お気に入りが初めて付く瞬間はいつみても感動しますね。
その感動があったからこんなに早く次話を書けたと言っても過言ではない!
なのでホントありがとです。

うむ、前書きも良いぐらいに埋まったので謝辞もこの辺にして、これから本編です。
お楽しみにー!


飯室先生の授業を終え、教室に弛緩した空気が流れ出す。

皆銘々に好きな友達と集まって弁当を食べるのかと思いきや、初日ということもあってまだまだグループも出来ておらず、一人で食べているものも多い。

俺も彼らに倣って、鞄から弁当を取り出し、いざ実食!と今まさに箸を伸ばしたそのときだった。

 

「遅刻魔!いっしょに昼飯食べようぜ!」

 

という明るい声が聞こえ、見てみると先ほどの授業で多くの発言をしていた近藤と呼ばれる男であった。

気に入らない単語があったので、俺は眉間にしわを寄せて彼を睨み反論する。

 

「いや、遅刻魔じゃないから。今日はたまたましちゃっただけだから。」

 

「そうかそうか。とりあえず、ここいーか?」

 

「いや、まあ良いけど。」

 

「よっし、とりあえず、椅子持ってくるわ!」

 

俺が言いよどんでいることを良いことに、弁当を机に置き去りにして椅子を取りに戻る近藤。

なんという強引な奴なんだ・・・。

 

俺が唖然としている間に近藤は俺の机に椅子を付けて弁当を広げ出す。

 

「で・・・いったい何の用だよ、お前。」

 

「・・・・・・?」

 

おにぎりを口に頬張りながら不思議そうに首をかしげる近藤。

 

「いや、だから・・・なんで俺と飯食ってんの?」

 

「え?食いたいから。」

 

「理由になってねーし。」

 

俺が呆れつつそう言うと、口に残っていたおにぎりをゴクンと飲み込んで笑う。

 

「いやあ、なんつーか、ピピッと来たっつーのかな?なんか気になったんだよね俺、お前のこと。」

 

「遅刻魔だからか?」

 

「いやいや!違う違う。何というかもっと根っこに近い部分でさ。でさ俺たち、友達になろうぜ?」

 

「え・・・・・。」

 

「おい!嫌な顔すんなよ!!」

 

近藤がいかにも残念です、という顔をするので俺は思わず吹き出してしまった。

 

それを見た近藤は自らも笑みを浮かべて、俺に手を差し出す。

 

「俺は近藤一(こんどうはじめ)。よろしく!お前名前は?」

 

「俺は竜崎理(りゅうざきおさむ)だ。」

 

差し出された手を握ると、痛いくらいに握りしめられた。

本来、不快であるはずの痛み。

しかし、なぜかは分からないけどそれほど悪く無い気分だった。

 

 

「それにしても、お前賢いのな。さっきの授業ずっと退屈そうだったし。」

 

弁当に入った魚の小骨を箸で取ろうと苦戦している近藤が視線だけを俺に向けて言った。

 

「いや、まあ、一通りの勉強はしてきたから。」

 

俺が何気なく言った言葉に近藤は目を見開く。

 

「なっ!重力学の全部をか?」

 

「え・・・まあ。」

 

「特殊相対性理論も一般もか?」

 

「うん、やったぞ。量子力学も標準理論も一応押さえてはいるし、電磁気学もマクスウェルの方程式ぐらいなら使いこなせる。」

 

「おいおい・・・・・マジかよ・・・。」

 

あんぐりと口を開け呆然とする近藤は手に持っている箸から魚の身がポロポロとこぼれ落ちていることに気づきもしない。

 

「おい、俺の机!こぼれてる!」

 

「おお・・・スマンスマン!」

 

手刀を切りながら笑う近藤を睨め付ける。

俺の鋭い視線に戸惑っているのか、から笑いとともに頭を掻く近藤であったが切り替えるように明るい声で話し出す。

 

「いや、でもそれにしてもすげーよ。いくらこの高校が優秀だって言ってもそこまで勉強している奴は初めて見たよ。」

 

「そうか?まあ・・・俺の場合少し環境が特殊だったからな。」

 

「どんな?」

 

興味津々な様子で目を輝かせる近藤。

期待に満ちた視線に俺は若干の戸惑いを覚えた。

 

「残念ながら面白い話ではないぞ。」

 

「もったいぶらないで聞かせろよー。」

 

「おい、やめろ、突っつくな!」

 

「ほれほれー、ほれほれー。」

 

近藤がしきりに俺の肩を突っついてくるのでめちゃくちゃ鬱陶しい。

 

「うざ・・・。」

 

「おい、真顔でそれはきつい・・・。」

 

「お前がしつこいからだ。」

 

「う・・・・でも聞きたいしさ。」

 

ガタイの良い近藤がしおらしい態度でこちらを見てくるので、俺は大きくため息をついて話しだす。

 

「はあ・・・・まあ、言ってもいいがあんまり他言するなよ?」

 

「もちろん!」

 

グッとサムズアップしてくる近藤はどこか胡散臭いが、これ以上引っ張っても諦めなさそうなので仕方なく話し出す。

 

「実は俺の父が警察なんだよ。しかも、特殊犯罪対策課。」

 

「あー・・・・あの最近発足したとかなんとかってやつか?」

 

「そう。電磁気学の発達に伴って、当然その科学技術悪用のリスクも高まるだろ?そこで、発足したのがその特殊犯罪対策課、っていう部署なんだ。」

 

「ほほん、それで?なんでお前がそんなに賢くなったわけ?危ない薬とか?」

 

「違うわ!」

 

「じゃあ、なんで?」

 

「父の方針として、俺をその特殊犯罪対策課に入れたいみたいなんだよ。科学技術を応用した犯罪に対する抑止力としてな。実際、この学校からも複数人親父に引き抜かれてるし。」

 

「まあ、この学校の生徒ほど適役はいないわな。電磁力の知識も実践での立ち回りも序列の最高位の方々はピカイチだろうし。」

 

「まあ、そういうこと。」

 

ふーん、とつぶやく近藤は何かを思案していたが、ふいに二カッと俺に笑みを向けて言った。

 

「なんかお前すげーな!テストの時はよろしく!」

 

「おい、お前、俺を良いように使おうとか考えてないだろうな?」

 

「そ、そんなことカンガエテナイヨ。」

 

「よーし、今すぐ絶交だ。」

 

「あー!ウソウソ冗談だから。まあ、テスト勉強は手伝ってもらうかもだけど・・・・。」

 

「はあ・・・。」

 

俺は何度目かも知れないため息をついた。

だが、近藤は急にまじめな顔つきでこう言った。

 

「でも、お前のその感じだと重力が電磁気に負けてるなんて一つも考えてなさそうだな。」

 

「当たり前だろ。なんでそんな事を聞く?」

 

「いや、俺もさ、この電磁気を学ぶ奴の方が優れてて、重力を学ぶ奴は落ちこぼれだ。みたいな風習が嫌いでさ。そりゃ、確かに力の強さも理論の成熟も電磁気には敵わないかも知れないけど。でも、それだけで、負け犬の烙印を押されるのだけは絶対嫌なんだ。」

 

そう語る近藤の言葉は真剣みを帯びていた。

 

この学校の中でも、今近藤が語った差別意識のようなものは根深い。

制服の色が違う上、少人数。

しかも、電磁気が最強だという世間の認識は強固。

となれば、自ずと、重力学を学ぶ学士は負け犬だ、というイメージは拭いがたいものになってしまう。

一部の生徒などは露骨に蔑み、クリープ(地べたを這いずる者)などと呼んで侮蔑する者もいるそうだ。

まじめで実直な性格の近藤にはそれが耐えられないのであろう。

俺もそれには同感だ。

 

「俺もそれは嫌だな。」

 

「そうだよな、だから俺はここでめちゃくちゃ勉強して、実践を積んで電磁力のやつらよりも強くなるって決めてる。」

 

「そうか。」

 

だからこいつはさっきの授業でも一人意識が高かったんだな・・・。

こいつの自己中心的な押しつけがましさは苦手だが、こういう向上心を持っているところは好ましく思える。

たぶん、飯室先生もそこを気に入っているんだろうし。

 

しかし、こいつの言っている“負け犬の烙印”を払拭する、という目標はなかなかに厳しいものであると言わざるを得ない。

少なくとも学園内の序列"CR;Combatant Rank"で上位に食い込んでいかなくてはならないだろう。

それには筆記試験はもちろんのこと、学期末に開催される模擬戦で上位に入賞しなくてはならない。

電磁力に重力では勝ち目がないと言われており、実際、この学園創立以来重力学専攻の学生が優勝したことはただの一度もない。

もちろん、こいつもそれを分かって言っているのだろうから下手に水を差すようなことは言わないが・・・。

 

近藤は決意を固めるように一つ頷き、まっすぐな視線を俺に向けて言う。。

 

「だから、竜崎これからもよろしくな。」

 

あまりにもまっすぐなその目に俺は少し照れくさくて頭をポリポリと掻きつつ応えた。

 

「まあ、こちらこそよろしく。あ、でも勉強は自分でやれよ?」

 

「おい!一番お願いしたいところそこ!!」

 

こうして、俺と近藤の昼休みは過ぎ去っていったのであった。

 

 

 




いかがでしたか?
男友達のあほな感じが伝わっていれば幸いです。
ではまた次話でお目にかかりましょう!
またねー。


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真の邂逅

第五話です。
だんだんと登場人物が増えてきて楽しくなってきました。
ただ、読者様を置いてけぼりにしてひとり楽しくなっちゃっていないかスゴイ不安!!笑
ただただ楽しんで貰えていることを祈るのみです。

今回からようやく異能力っぽいところが出てきますのでそれもお楽しみに!!

ではどうぞ!!


四号館のトレーニングルームは大きく、縦100メートル横55メートルを誇る。

ちょうどサッカーのコートと同じぐらいの大きさだ。

ここでは模擬戦闘や能力値の測定などが行われている。

模擬戦闘などはこの大きなトレーニングルーム全体を使って行われる。

障害物も設置され、あたかも実戦のようなリアルな戦闘を体験できる。

しかし、今日は模擬戦ではなく、部屋の至る所に配置された最先端機器を駆使した能力値の測定だ。

ここでの成績はもちろん記録され、学内序列CRにも当然影響してくる。

生徒達はできるだけ良い成績を取りたいので皆やる気満々で今日を望んでいる。

 

能力値はランク分けされており、非能力者のFが最も低く、F E D C B A Sの順番に能力は高くなる。

更に細かくA(エー)AA(ダブルエー)AAA(トリプルエー)と、三つに分かれるが、アルファベットが増えれば増えるほどに上位の能力であると思っていただきたい。

ただ、この高校の生徒がいくら優秀だとはいえランク上位の者は限られており、最高ランクのS到達者にいたってはこの学園に五人しかいないと言われている。

その五人の力はまさに突出していてこの学園には比肩する者はいない。

そこで、誰がそう呼び出したかは定かではないが、彼ら五人のことを尊敬と畏怖の念を込めて“五賢帝”、とそう呼ぶ。

 

もし、近藤が本当に上を目指していくのであれば“五賢帝”は避けては通れない敵であるがまだまだ先の話であった。

 

目下は、自分がどれぐらいの力を保有しているのかを測らなくてはならない。

俺も自分の力を正確には把握できていないので良い機会である。

目一杯測定してもらおう。

 

この能力値測定では大きく分けて三つの観点が測られる。

一つは力の大きさ。

どれだけの威力を持っているか、どれだけのエネルギーを持っているかのこと。

二つ目は正確性。

能力のコントロールのこと。

三つ目は速さ。

これは能力を発現させるまでの時間。

 

以上三項目を以てして評価を付ける。

 

俺たち重力学専攻一年生の平均能力値はDだそう。

 

見渡すと、皆この平均能力値を目標としているみたいだ。

 

「よっしゃ!俺能力値DDだった!」「マジかよ・・・俺Eなんだけど・・・。」「俺も・・・。」

 

と、結果に一喜一憂している姿が見える。

あんなに自分の能力値を口に出して恥ずかしくないのか、と思わずにいられないのだが当の本人達はいたって楽しげに話しているので彼らはあまり恥ずかしいとは思っていないのだろう。

彼らは「恥」の文化をどこかへ置き去りにしてきたのだろうか・・。

ああ、あはれなり。

心の中で合掌していると、横にいる近藤が俺に話しかけてきた。

 

「おい、竜崎。早く並びに行こうぜ、時間が無くなっちまう。」

 

「分かってるよ・・・。」

 

近藤に急かされながら、測定所の列に並ぶ。

測定を終えた生徒が皆銘々の表情を浮かべて部屋から出て行くのをボーと眺めていると、逆にトレーニングルームに入ってくる生徒の姿が目に映る。

流れる銀髪、涼やかな表情、日本人離れした美貌。

朝方、最悪の邂逅を遂げた人物の登場に俺は目を見開くと、向こうも気づいたらしい。

 

「あっ・・・・・。」「あ・・・・。」

 

互いに人差し指を向け合い、次の瞬間、言葉を吐き出した。

 

「銀髪毒舌女!!」「変態男!!」

 

うん?聞き捨てならない言葉が聞こえたぞ?

変態男って、あいつまだ俺が椎名さんの手を握っていたこと根に持ってんのか。

俺はあまりにも不当なあだ名に反論を試みる。

 

「おい、変態男ってなんだ!まず、俺は変態じゃねー。」

 

「そっちこそ、銀髪毒舌女ってなによ!私のどこが毒舌なのよ。」

 

「どこもかしこもだよ!」

 

俺が声を荒らげそう答えると、朝比奈は考え込むようにあごに手を添える。

しかし、次の瞬間には表情に不敵な笑みが浮かび、辛辣な言葉を次々に浴びせ出した。

 

「まあ確かに、変態であるあなたには少し厳しい言葉遣いになってしまっていたことは認めてあげる。でも、それはあなたが私の椎名を汚い便所のような手で、彼女の美しく繊細な柔肌を犯そうとするからよ!あなた以外にこんな事を言ったりなんてもちろんしないわ。よって、あなたは死刑!Q.E.Dね!」

 

「めちゃくちゃだ・・・・。」

 

屈託無い笑顔を浮かべて胸を張る朝比奈に俺は呆れてものも言えない。

すると、近藤が俺の肩を揺すり、焦ったような様子で聞いてきた。

 

「おいおいおい!お前なんで朝比奈さんと知合いなんだよ!」

 

「いや、俺もよくわからん。行きがかりというかなんというか。」

 

俺が近藤の質問にしどろもどろになって応えていると、朝比奈はすたすたと俺たちに近づいてきた。

悔しいが、銀髪をたなびかせた彼女の歩き姿は異様に様になっている。

近藤なんて俺との会話もそこそこに見惚れまくり。

鼻の下が伸びまくっている・・・・キモい。

対して、朝比奈は不敵な笑みを口元に浮かべつつ俺に人差し指を突きつけ、最後の毒を吐く。

 

「あと、椎名にはあのあと三回手洗いさせたから、ね?」

 

「酷すぎだろ・・・。」

 

パチンとウィンクを決める朝比奈のその顔は言葉とは不釣り合いなほどに愛らしく見えた。

だが、愛らしさと比例して心のダメージもすさまじいことになっている。

笑顔って凶器にもなるんだ、知らなかったぜ!!

 

朝比奈は俺が心に傷を負った姿を見て満足そうにほほえむと列には並ばず、誰も使っていないスペースにある一画へと向かう。

 

「おい、お前どこ行くんだ?ここで能力値測らねーの?」

 

俺が大きくそう叫ぶと、彼女は余裕の笑みを浮かべつつヒラヒラと手を振りつつ答えた。

 

「いーのいーの。」

 

「・・・・・・?」

 

俺も近藤も首をかしげていたがそうこうしているうちに近藤の順番が回ってきたようで彼は肩を回しつつ気合いを入れる。

 

「よーし、やるぞ!」

 

「まあ、がんばれ。」

 

「おう!」

 

ガッツポーズで答える彼に俺も同じく答えた。

 

近藤は能力値測定官に学生証を渡し名前を名乗る。

 

「重力学専攻、近藤一です。」

 

「近藤君ですね。では測定を始めますが、IDは持っていますか?」

 

「はい。」

 

そう言って近藤は銀色の指輪を見せた。

そう、これが彼のInjection Device 通称IDである。

このIDと呼ばれる装置は「グラビトン」因子を受け取って力を具現化する装置だ。

人によって形が違うので一様には言えないが、近藤のように指輪などの形にしている者が多い。

使い勝手も良く、そしてなんといっても力のイメージがしやすいのである。

 

どういうことかは見てもらった方が速い。

 

近藤は緊張しているのか目をつむり、大きく深呼吸をしてから手を前方へと突き出す。

 

地面には“五キロ”と書かれた鉄球が置かれている。

今回の測定ではこの鉄球を20メートル先のあの印のところに持って行く、というものになっているみたいだ。

古典的でありながらももっとも正確に能力を測れるとして今でも使われている。

 

俺は腕組みをしつつ近藤を見守っていた。

 

すると、カッと目を見開いた近藤。

それとほぼ同時に鉄球が動き出す。

近藤は額に汗を浮かべつつ、手を突き出して鉄球を運んでいる。

五秒ほどで印からわずかにそれたところに鉄球が着地した。

 

これだけの動きでなんの能力が分かるのだ、というと言ってしまえば“すべて”であった。

 

まず、俺たち重力使いがどのように力を発揮しているかを簡単に説明する。

俺たち「グラビトン」因子保有者は脳波によって「グラビトン」因子を操作している。

脳内で物理法則を展開して、「グラビトン」因子に関数を託し、IDへと入力。

物理現象を引き起こすためのすべての関数が入力されて、初めてIDから重力が出力され、己の思い描いた物理現象が具現化するのである。

よって、脳内での関数の展開、計算の速さ、正確性が能力発現の速さ、正確性を決め、脳波の出力が、力の大きさとなる。

 

今回の鉄球の動きは「力の大きさ 正確性 速さ」の三点をすべて評価できるようになっていた。

まず、IDの因子感知から物理現象発現までの時間経過で“速さ”。

鉄球の移動速度によって“力の大きさ”が。

最後に鉄球の置かれた位置で“正確性”が分かるようになっていた。

 

要は、これらの能力は訓練の多寡によって決まるのでしっかりと努力を積めば成績はドンドン上がっていくことだろう。

 

近藤が自分のIDをスキャンに通すと結果がプリントアウトされて出力される。

 

「うーん、・・・。」

 

あごをさすりながら神妙な顔で戻ってくる近藤に俺は声をかける。

 

「おい、近藤。どうだった?」

 

「見てくれCCCだったぜ!」

 

さっきまでの神妙さはどこへやら。

満面の笑みで結果を俺に見せつける近藤。

 

「なんだよ、便秘の時みたいな顔してたから能力値Fでもでたのかと思ったぞ。」

 

「なわけあるか!」

 

笑う近藤を俺は軽く小突き測定所に向かう。

すると近藤が拳を上げて「頑張れよ」と言ってきたので俺も「おう」と答えながら拳を合わせた。

 

能力値測定官のもとに行き、学生証を渡す。

 

「重量学専攻一年竜崎理です。」

 

「竜崎君ですね。ではIDは持っていますか?」

 

と聞かれたので正直に答えた。

 

「いや、技師に調整してもらっているんでないです。」

 

「おい!!なんでだよ!!」

 

「あん?なんだよ近藤。」

 

振り返ると鬼の形相で突っかかってくる近藤。

 

「お前バカなのか!?普通持ってくるだろう、今日は。」

 

「忘れたんだから仕方あるめーだろ?」

 

「いやいやバカなのか?お前はバカなのか?」

 

「バカとはなんだバカとは。大馬鹿者のお前にだけは言われたくない。それに大体IDもってこいなんて学年便りに書いてなかっただろ?だから、俺は悪くない。社会が悪い。」

 

「なんだその中学生の言い訳の出来損ないみたいなのはー!!」

 

まるで自分のことのように頭を抱えている近藤。

だが、そろそろ、後ろの人たちにも迷惑なので手で押し返し、能力値測定官にIDを借りる。

 

「すみません、貸し出し用のID貸していただけますか?」

 

「ええ、どうぞ。」

 

銀製の指輪型IDを嵌め、鉄球の前に向かう。

一応、呼吸を整えるために深く息を三回吸って吐いてしてから、手を伸ばす。

目を閉じ、鉄球の移動させるイメージを強固にしたのち、俺は刮目し力を解放した。

 

すると、鉄球は目にもとまらぬ速さで移動し、音もなく動きを完了している。

終点の位置も印の上ドンピシャ。

今、俺にできる最大限の能力を解放したといっても過言ではない。

 

俺はふぅー、と詰めていた息をはき出しながら後ろを振り返ると、そこには目を丸くした近藤がいた。

 

口をあんぐりと開け、目を見開く彼はいつにもまして滑稽である。

俺は笑みを浮かべて近藤を呼びかけるが反応がない。

 

「近藤・・・。近藤?」

 

何度目かの呼びかけでようやく反応を示す。

 

「・・・・・・・・・・・・・・竜崎。」

 

「ん?」

 

「お前・・・・めっちゃすげーじゃん!!早すぎて見えなかったぞ、俺には。」

 

「お、おう、そうか。」

 

自分のことのように嬉しがる近藤の様子に俺は少し引き気味に答えた。

こいつの声は響くのでフロア中が俺に注目している。

多数の目から逃れるために俺はIDをスキャンにかざし結果を出力。

すると、横合いから近藤がひったくるように俺から結果を奪った。

 

「な・・・・なんじゃこの能力値・・・。」

 

そうつぶやくのもムリはない。

当の本人である俺でさえも少し驚いているのだから。

 

結果はこんな感じ。

 

力の大きさ BBB

正確性   AA

速さ    S

 

総合評価  AA

 

うん、ビビるね、普通は!!

近藤なんて白目向いて泡を噴いてる。

器用な奴だ。

 

そんな俺たちの騒ぎ方がこれほど大きいともちろん騒ぎを聞きつけた野次馬が群がってくる。

 

「うわ!まじかこれ。」「さすが変態男。」「うんやっぱり変態ね。」「変態。」

 

というように俺の能力値を褒めそやしている。

うん?後半の方はなんか誹られている気がする。

 

だがまあ、とりあえず、恥ずかしながらも俺の成績で場は大いに盛り上がっていた・・・。

 

そのときだった・・・・。

 

ズドーン!!

「きゃっ!」「なに?」「今のなんの音?」「大砲・・・?」

大砲でも撃ったかのような音が部屋に響き渡り騒然とする。

 

俺は今音のした方に嫌な予感を感じながらも近づいていくとさっき朝比奈が入っていったブースだった。

ちらりと中をうかがうと。

 

ズドーン!!という爆音が再度鳴り響き思わず両手で耳をふさいでしまう。

音のした方を見ると、朝比奈が左手を前に突きだしたままこちらに流し目を送ってきている。

いかにも、勝気な表情に少々むかつきながら俺は軽口を叩いた。

 

「お前、何してんだよこんなところで。つーかさっきの爆音何?おなら?」

 

俺の末尾の言葉を聞くと、朝比奈は耳まで真っ赤にして猛抗議する。

 

「信じられない!どこまでデリカシーのない男なの、あなたっていう人は。やっぱりあなたは真性のド変態だわ。」

 

「違うわ!」「竜崎さん女の子に向かっておならはダメですよ?」

 

俺も敢然として言い返していると、朝比奈の背後から声が聞こえた。

見知った顔がひょっこり覗く。

まじめメガネっ娘の椎名さんだった。

 

「こんにちわ、竜崎さん。」

 

「お、椎名さん、こんにちわ。こんなところにいたんだ。」

 

「はい、いました。雷ちゃんのデータを収集しないとダメだったんで。」

 

椎名さんは柔和な笑顔を浮かべながら、胸に抱いた何かのカルテのようなものをコツコツとペンで叩く。

 

「そうなのか。でも、なんでこんなブースで?」

 

「それはですね・・・。」「私が最強過ぎるからよ!」

 

椎名の後を引き取るようにかぶせてきた朝比奈。

両手を腰に当て、エッヘンと胸を張る朝比奈だったが要点を得ないので椎名さんに説明を求める。

 

「どういうこと?」

 

「あ、はい。つまりですね、雷ちゃんの能力値、特に力の大きさですね。これが高すぎてあちらの測定方法では正確な値が出せない、と言うことだったのでこちらの特殊緩衝材に鉄球を打ち込むという方法で計測していたって事なんです。」

 

「そういうこと!」

 

パチコーンとウィンクを決める朝比奈はとても可愛らしいのだが今はそれどころではなかった。

奥に見える黄緑色のスライムのような塊が椎名さんが言った特殊緩衝材であろう。

で、そこに打ち込まれた鉄球はスライム状の緩衝材に10メートル近くめり込み、衝撃のすさまじさを物語っている。

俺はその様子をあんぐりとしながら見ていたが、どうしても気になることがあったので質問する。

 

「あれで測定できないっつーと、ランク的にはどうなるんだ?」

 

「えーとですね・・・。」

 

椎名さんがカルテに目を落とし、確認すると顔を上げた。

 

「はい、雷ちゃんの力の大きさはランクSSSですね。」

 

「と、トリプルエスぅううう!?」

 

俺の結果がかすむほどの衝撃的な結果だ。

ランクSSSの項目が一つでも存在するなんて普通あり得ないぞ。

こいつ、学園内でも最強の部類なんじゃねーのか・・・?

 

俺の嫌疑は運悪くも当たってしまう。

 

「もちろん、総合評価もSです。」

 

「なっ・・・!」

 

「当たり前よ、だって私学内序列CR二位だもん。」

 

「・・・・・・。」

 

もはやリアクションすら取れない。

 

これこそが俺と朝比奈雷、通称“雷の女帝”との真の邂逅であった。

 




いかがでしたか?
色々と新たな設定が出てきてややこしいですが楽しんで貰えてますかね?
がんばってわかりやすくしようとしているんですがなかなか難しい。
でもこれからもがんばりますので応援よろしくー。
ではまた次話でお目に掛かりましょう。


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裁きの雷

第六話です。
ようやく話を前進させることに成功しました。
延々、ダラダラと日常を描写したくなってしまうタチなので気を付けないといけない。
一応バトル系を名乗っている以上そろそろバトル描写を入れたいんですが、もう少し先のことになりそうです・・・。
しかし、読者様に楽しんで読んでいただけるよう精一杯書きましたので楽しんで読んでくれると嬉しいです!

ではながながとした前置きもこの辺にして本編です。
どうぞ!
あ、感想くださいね?


朝比奈はサラッとなんでもないことのように言ったが、総合ランクSというのは紛れもなく“化け物”クラスである。

特に、力の大きさSSSランクはもはや軍事兵器をもしのぐ威力をはらんでいることを示している。

“雷の女帝”と呼ばれる朝比奈を筆頭に“五賢帝”のようなSランク能力者は一人で世界の軍事バランスに影響を与えうるとされている存在なので、まあSSS能力値を保有していることもあるのかもな、と頭では理解しているのだが、それでもやはり信じられない思いはぬぐえない。

こんな奴らがまだ朝比奈の他に四人もいると思うと空恐ろしい。

 

しかも、この学園のトップ、つまり序列一位はなんと、個々の能力値だけでなく総合SSSランクを誇るらしい。

世界に三人しか存在しないSSSランク能力者。

ドイツ、アメリカ、そして日本。

この三カ国にそれぞれ一人しか存在しない彼らは“到達者”や“シンギュラリティー”、“特異者”などと呼ばれる存在で、彼らはすべての能力値がSSSランク評価の者達である。

各国の秘密兵器であるため、彼らの情報は厳しく統制されほとんどが秘密にされているのだが、どうも一人はこの学園にいるらしい。

どんな奴がこの学園の、ひいては世界のトップに君臨しているのか大いに気になる。

 

そんな考えを頭の中で巡らせていると。

 

「おーい、竜崎君?起きてますか?」

 

椎名さんが俺の目の前で手をフリフリと振りながら呼びかけているのが目に入り、そこでようやく我に返った。

 

「お、起きてるぞ。」

 

「それなら良かったです。」

 

呆然としていたことに少し、恥ずかしさを覚えた俺は頭を後ろ手に掻きながら軽口を叩く。

 

「・・・・・・・朝比奈がそんなにスゴイ奴だったとは思いもしなかった。ただ、口のめちゃくちゃ悪い女だと思ってたぞ。」

 

俺のつぶやきを聞いていた朝比奈が言う。

 

「フフン、まああなたみたいなゲスで貧弱で幸薄そうな男とはDNAレベルで違うって事よ。」

 

両手を上げてヤレヤレというポーズを取る朝比奈。

ここまで人の神経を逆なでする人種も珍しいだろう。

俺はピクピクと怒りにこめかみを震わせていたが、椎名さんがまあまあと取りなしてくれているのでなんとか溜飲を下げる。

 

「ふぅー・・・まあ、お前がすごいことには納得した。しかし、俺はお前の力をこの目で見たわけではない。」

 

俺がきっぱりとそう告げると、朝比奈は整った口元を器用に片方だけ持ち上げてニヤリと笑う。

 

「へえ。この私の力を疑っているって訳?」

 

「ああ。俺は自分の目でみたことしか信じないからな。」

 

「なるほど・・・ならその趣味の悪いめがね越しにしっかりと見ておく事ね。」

 

フンと一つ鼻を鳴らし、鉄球へと向かう朝比奈。

だが、正直あまりにもあっさりと能力を見せてくれることになって俺は驚いた。

あと、俺の眼鏡そんなに趣味悪い?

結構気に入っていた眼鏡を思いっきりダメだしされたダメージを一人喰らっていると、椎名さんがクイッと眼鏡を押し上げて言う。

 

「始まります。」

 

彼女の視線を追うとそこには左手を前に掲げて瞑目する朝比奈の姿がある。

人差し指にはIDが嵌められているのが遠目にも分かる。

近藤や俺は中指にはめていたがそれは力の大きさに特化した付け方で、方向線をはっきりとさせるのには人差し指に嵌めるのが一番良いのだ。

そして、嵌められたIDも少し他の奴らとは違う。

銀のリングであることは変わりないのであるが、その真ん中には飴色の宝石が輝いている。

あの輝き、そして彼女の能力から考えるとあの宝石はあれしかないだろう・・・。

 

「あの宝石・・・琥珀(こはく)か。」

 

「はい。よく気づきましたね、竜崎君。」

 

椎名さんが視線を朝比奈の方に向けたまま淡々と語る。

 

「琥珀。ご存じでしょうが、この宝石は装飾品であると同時に電磁気学の発展に貢献した偉大な宝石。なぜ偉大かというと紀元前七世紀の哲学者タレスによって琥珀の“帯電性”を発見されたことを契機に電磁気学は発展を遂げてきたからです。今ではその神聖な宝石である“琥珀”の帯電性を利用したIDが開発されています。」

 

「その開発されたIDがあの朝比奈が着けている指輪だって事か?」

 

「はい、そうです。なので、雷ちゃんのIDは琥珀の帯電性を利用し、力の大きさを増幅することができます。しかし、空気中の分子量を正確に操作しなくてはならなくなるので通常のIDよりも操作難度は数倍高くなります。なので、並の能力者ではかえって能力は落ちてしまいます。雷ちゃんの知識量、経験値、正確性。これらすべてがそろってようやくあのIDを用いることができるのです。」

 

椎名さんの口調は相変わらず単調だったが、朝比奈を見つめるそのまなざしには熱が帯びているように見える。

口元にはうっすらと笑みが浮かんでいた。

 

椎名さんの横顔を見ていた俺だったが、不意にパリパチッという何かがはじけるような音が耳に届き慌てて音のした方に顔を向けた。

 

青い稲妻が鉄球の周りを縦横無尽に駆け回る。

朝比奈の銀髪がフワリとたなびいたと思った時には、鉄球が浮き上がり彼女の伸ばされた左手のすぐ前で静止。

電撃が激しさを増す。

閃光が瞬く。

朝比奈の口元にはどう猛な笑みが浮かんでいる。

 

「あれが、帝都第一工科高等学校序列第二位。雷の女帝の“裁きの雷”です。」

 

次の瞬間には閃光が迸り俺の視界を真っ白に染め上げた。

閃光。

轟音。

衝撃。

次々と五感を揺さぶる強烈な刺激が去来。

 

まぶたを上げると、パチパチッと至るところが帯電し放電している。

 

「ふぅー・・・。」

 

細く息を吐いた朝比奈は肩口に掛かった銀髪を振り払う動作をして、俺に視線を向ける。

あれほどの大出力放電を行ったはずなのに、彼女には微塵も疲れた様子はなく、やはり彼女はどこまでも美しい朝比奈雷であった。

 

そんな俺の驚いた様子を見て彼女は勝気に笑う。

しかし、すぐにその笑みを収め手を後ろに組むと数歩俺に近寄ってきた。

 

「な、なんだよ・・・。」

 

俺が驚き冷めやらぬ様子で問うと、ニコッと無邪気に笑い、そして・・・。

 

「これからもよろしくね。りゅ、う、ざ、き。」

 

パチンと器用に片目をつむる朝比奈は、素直に可愛くて、トドメのウィンクを受けた俺は引きつった笑みを浮かべるしかないのであった・・・。

 

 

 

~しばらく後~

 

「おい朝比奈。」

 

「何?」

 

そう答えて彼女は振り返り、鬼の形相を浮かべる。

椎名さんとの会話に割り込んだのが気にいらなかったのだろう。

しかし、俺もさすがにこいつのこういう態度にはなれてきたので特に気にせず話し出す。

 

「なんでお前ら、朝はこの部屋から出てきたんだ?」

 

俺はそう言いつつ今し方通り過ぎようとしていた部屋を指さす。

すると、朝比奈はめんどくさそうに答える。

 

「ああ、それはね私たち生徒会役員だからよ。」

 

「生徒会?」

 

この学校に生徒会があったとは知らなかった。

しかし、初日から生徒会に入るなんてできるのであろうか?

そんな俺の疑問に図らずとも答える朝比奈。

 

「そ。私は入学試験の時に「是非とも生徒会に来てほしい」って言われちゃって、仕方なくね。でも、私に生徒会に入ることのメリットがなかったら入るのもばからしいし。で、そのときに条件として椎名も生徒会に入れてくれなきゃ入らないって言ったの。そしたら、特例で二人同時に入学時から生徒会として正式に迎え入れてくれるてくれたのよ。だから私たちは初日から生徒会役員なの。」

 

こともなげに朝比奈は言うがこれはそんな何でも無いことではなく、むしろ異常である。

しかし、彼女にそんな自覚は全くなさそうで、俺は思わず苦笑しながら言う。

 

「よくそんなの認めてくれたな。」

 

「まあ、それだけ私の力がすごいって事よ。」

 

フフンとどや顔で流し目を送る朝比奈。

しかし、椎名さんのことを抱きしめながらそんな顔されてもなんか緊張感に欠けてあんまりかっこよくないですよ、お嬢さん?

だが、口に出すと碌な事にならないと分かっているので言わない。

 

俺は一つ咳払いをして話を続ける。

 

「じゃあ、その生徒会って言うのは具体的には何をやっているんだ?」

 

俺の疑問に対して少し考えるそぶりを見せる朝比奈。

少しとんがった唇が可愛い。

チイ!クソどうでも良い情報が俺の頭にアップデートされちまった。

 

「うーん・・・まあ、私も細かくはまだ分かってはいないんだけど、学校運営や風紀の取り締まり、あとはこの学園都市全体での連携強化、だったと思うわよ。あとは、この学園都市における安全管理。そういえば、つい三日前に奇妙な殺人事件が立て続けに起きたらしくて、生徒会の先輩達がかり出されている、って言ってたわね。」

 

「おいおい。そんな事件、新聞にもネットにも載ってなかったぞ。」

 

「まあ、そうでしょうね。一応報道規制掛かっていたみたいだし。」

 

それを口に出してしまうのはいかがな者なんだろうか?

と思わないでもないが、詳細については一切分からないので、問題はないか・・・。

 

「なるほど。生徒会ってのは大変なんだな。」

 

「まあね。そんじゃ、あたし達はここだから。」

 

見ると知らない間に二号館に付いていたようだ。

電磁気学教室とプレートに書いてある。

 

「おう、そんじゃあまたな。」

 

「竜崎君またね。」

 

「ふん!」

 

椎名さんは手を振り、それに対して朝比奈は鼻を鳴らして教室に入っていく。

あいつと俺はいつかわかり合える日が来るのだろうか、と思わずにはいられない。

 

「はあ。」

 

俺はため息をつき、一号館へと歩を進めるのであった。

この間、近藤はずっと白目をむいて失神していたそうな。

 

 

 

 

~そのまたしばらく後~

 

俺は帰宅し、ソファーに腰掛けていた。

鞄から携帯電話を取りだし、ある人物に電話をかける。

 

「・・・・・・・・はい。」

 

数コールでその人物が電話に出た。

 

「あ、親父?」

 

「なんだ、理か。どうした?」

 

そう俺が電話していたのは親父。

どうしても今日の内に聞いておきたいことがあったのだ。

 

「いや、実は聞きたいことがあるんだけど。」

 

「おう、いいぞ。」

 

ふうー、という息を吐き出し音が聞こえるので親父はたばこを吸いながら電話しているらしい。

 

「三日前に起きたっていう連続殺人事件の事なんだけど。」

 

「おい、お前なんでそれ知ってんだ。一応機密事項ってことになってたんだが・・・。」

 

呆れたような口調が聞こえる。

俺も苦笑しながら答えた。

 

「いや、生徒会の奴がぽろっと口を滑らせて、知っちまったんだよ。」

 

「かあー・・・。なんとずさんな情報管理体制なんだ。まあ、いいんだけどよ。明日のニュースで報道されるからな。」

 

「え、そうなのか?」

 

「おう、そうだぞ。まあ多分だが生徒会の奴もそれを分かっててお前に教えたんだろ。」

 

絶対朝比奈はそこまで考えてない・・・。

 

「まあ、そういうことにしとこう。で、だ。その事件なにが不可解なんだ?」

 

「不可解とまでいったのか、そいつは。」

 

「いや、俺の予想だが。でも、ただの連続殺人であれば報道規制されているのはおかしい。であれば、まだ警察が何かを懸念していると睨んだんだが。」

 

そこまで聞いた親父が電話越しにスパーとたばこを吸う音が聞こえる。

少し考えた後に親父は言った。

 

「まあ、お前になら言っといても良いかもしれんな。将来のためにもなる。だが、電話だと危ない。明日、お前学校休みだよな?」

 

「ああ、土曜だし。」

 

「なら、学園都市駅前に十時に集合しよう。そこで話す。」

 

「分かった。“朝”の十時だな?」

 

「“夜”の十時のほうがいいか?」

 

「いや、朝で。」

 

「そんじゃあ、また明日朝十時に。」

 

「おう、お休み。」

 

「お休み。」

 

プツッと切れる電話。

俺はソファーにボフッともたれ、体の力を抜く。

 

「今日は怒濤の一日だったな・・・。」

 

そうつぶやいた俺は今日あった出来事を走馬燈のごとく思い返す。

飯室先生はめちゃくちゃだったな。

近藤はちょっと鬱陶しい奴だけど悪い奴ではなかったな。

椎名さんはまじめな子だったな。

 

いろいろな出来事に思い巡らしていると、まぶたが次第に重く垂れ下がってきた。

 

あらがいがたいまどろみへ落ちていく最後の瞬間。

俺が思い出したのは、朝比奈の無邪気なあの笑顔だった・・・。

 




いかがでしたか?
親父登場です笑
ここから事件解決までがんばっていきます!!
では、また次話で会いましょう。
またねー!!


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神代博士殺人事件編
親父


第七話です。
いよいよ、主人公が事件に巻き込まれ出します。
プロローグでの事件の詳細がだんだんと分かるようになっているので楽しんで読んでくれたら嬉しいです。

お気に入りしてくれた方。
本当にありがとうございます。
これからもがんばりますので応援よろしくです。

では、本編のはじまりはじまりー。


見上げると、春らしい青空が広がっている。

日差しは柔らかで暖かい。

小鳥のさえずりも聞こえる。

穏やかな風を感じながら、俺は遠くにたなびく霞のような雲を眺める。

 

「ああ・・・・良い天気だ。」

 

「何、かっこつけてんだ、お前・・・・?」

 

背後からの声に慌てて振り返ると、実の息子をかわいそうなものでも見るような表情でこちらを見ている俺の親父、竜崎徳馬(りゅうざきとくま)がいた。

 

今のを見られていた、と思うと急に恥ずかしい感じがしてきたので、俺は咳払いを一つして話題の転換を図る。

 

「よう、親父。来てたのか。」

 

「いや、今降りてきたところだが・・・・まあいい。お前も色々あるんだろう・・・。」

 

一人で勝手に納得したように頷く親父に俺はなんだか釈然としない気持ちになりながらも、この話題を引っ張ることに危機感を覚えていたのでとくに否定することもなく話を続けた。

 

「で、親父。これから、どうするんだ?」

 

「ん?言ってなかったか?これからお前といっしょに現場に行くんだよ。」

 

なんでもないように言う親父に俺が聞く。

 

「いいのか、それ?俺が行っても。」

 

「大丈夫だろ?俺の息子だって言えば。」

 

たばこにカチカチとライターで火を付けながらそう言い放つ親父。

電子たばこが主流となった今でも、火を付けるタイプのたばこを吸うのは俺の親父ぐらいだろう。

親父曰く「こっちの方がたばこを吸ってる感があって旨い。」のだそう。

思いっきりプラシーボ効果じゃねーか、と思わないでもないが、実際、分からなくもない。

バーベキューの時の方が肉が旨くなる原理だろう。

外で食べるだけでなんであんなに旨いのか。

人類にとっての永久命題だ。

 

「行くぞ?」

 

たばこをくわえながら歩き出す親父。

俺の予想では、肉親であろうと現場に連れて行ったりはしちゃダメなんだと思う。

だが、親父のこの適当かつ変にこだわりの強い性格からして、正論をぶつけても無駄だと判断し、俺は素直に親父の背中を追いかけたのだった。

 

 

現場付近は半導体工場になっている。

都市部の華々しさから一転、このあたりは、昼間であるにも関わらず人通りが少なく、道も狭いし入り組んでいる。

工場が両脇を固めているため、高い塀に囲まれており、遮蔽物となる箇所も多いように思う。

電灯の数もまばらで夜になれば薄暗くなることは予想に難くない。

確かに、この先を抜ければ住宅街となっているので、ここを近道として利用する人も多いのであろうが、正直、俺自身、夜にこの道を使おうとは思えなかった。

 

そんな小道を二度、三度、右に左に折れていると、立ち入り禁止のテープが見えてくる。

おそらく、あそこが犯行現場なのだろう。

 

俺は生唾を飲み込み歩みを進める。

 

前を歩く、親父がテープの下をくぐり、十数メートル歩くと振り返り言った。

 

「ここが現場だ。」

 

「ここが・・・・・。」

 

俺は親父の横に立ち、目の前のアスファルトに視線を落とす。

だが、もちろんのことそこには遺体もないし、凶器らしきものも確認できない。

しかし、血痕だけが生々しく残っている。

 

俺が赤黒くなったアスファルトに視線を注いでいると、親父が胸元から一枚の写真を俺に見せる。

 

「これを見ろ。」

 

「なんだ・・・これ?」

 

俺は小さくそうつぶやいた。

親父がそのつぶやきに答える。

 

「この写真はガイシャの左手の甲の写真だ。」

 

「それは分かるがこのマークは一体・・・?」

 

おそらく被害者が力尽きる寸前に、自分の血で描いたもののようだが、これは・・・。

 

「月か・・・?」

 

「おそらくな。俺たちの間でも議論になったが、おそらくそのマークは“三日月”である、と判断された。」

 

「何かの手がかりにはなったのか?」

 

「いや、俺たちも何か手がかりがないかと思い、データベースを洗ってみたが、それらしき組織、団体は存在しなかった。」

 

「そうか・・・。」

 

このダイイングメッセージが何かを伝えようとしているのは明白だが、警察の情報網に引っかからないとなれば手詰まりだ。

 

親父がたばこをふかしながらに被害者の情報を俺に伝える。

 

「被害者は58才。重力学電磁気学総合研究所(GECI)の研究員だ。かなり優秀な研究員だったようで、こいつの研究成果は数々の賞を受賞している。」

 

「へえ。それでこいつは主に何を研究していたんだ?」

 

俺が聞くと、親父はスパーと煙を吐き出し、俺を見つめて言った。

 

「アンチマテリアル。つまり反物質だ。」

 

「反物質だと・・・?」

 

「いや正確に言うと、反物質の操作だな。」

 

「なるほどな・・・。」

 

反物質。

それは、この世を構成する物質である“正物質”の対極に位置する物質で、非常に不安定な物質として知られており、これまで存在は確認されていても、保存や性質を利用した製品などはまだ存在していない。

しかし、反物質と正物質の反応“対消滅”は多量のエネルギーを放出するとされており、近頃反物質研究は脚光を浴びている。

 

そんな反物質研究界の著名な研究者が襲われたとなると、いよいよ話はややこしくなっている予感しかしない。

 

「じゃあ、被害者はなにか重大な研究結果を持っていて、その情報、技術を誰かに盗まれた、と考えるのが妥当だって事か・・・。」

 

「ああ、そういうことだ。だが、肝心の被害者が携わっていた研究資料は一切なくなっている。」

 

「な・・・!その研究所に行けば少しくらい・・・・。」

 

「その研究所は何者かに爆破され焼失したんだ・・・。つい、一昨日な。」

 

「マジかよ・・・・。」

 

犯人達はぬかりなく証拠隠滅を謀っていたようだ。

これは侮れない敵である。

俺があごに手を当て、頭の中で情報を整理していると、親父が思い出したかのようにつぶやく。

 

「あと、被害者の殺害方法だが、これも奇妙でな。」

 

「奇妙・・・?どういうことだ?」

 

俺がそう尋ねると、親父は顔を憎々しげに歪め、はき出すように言った。

 

「なぜかガイシャの腹部が内部から破壊されているんだ。しかも、なかで爆弾が爆発したみたいに、腹部が無残に裂け、内蔵が飛び出していやがった。あんな酷い遺体を見たのは生まれて初めてだ。」

 

警察に勤めてもうかれこれ二十年以上の親父がそう言うのだから、相当酷かったのだろう。

もはや想像することすらしたくない。

 

だが、そんな殺害を可能にするものなど、あるのだろうか?

人体を内部から破裂させるなどと言う外道きわまりない殺し方が。

 

電磁気、重力の両面から考察してみてもなかなか思いつかなかった。

 

すると、親父はそんな俺の様子を見て言った。

 

「やはり、お前でもなにも分からないか。」

 

「ああ・・・残念ながら。」

 

「そうか。まあ、いい。なにか分かれば、そのときに教えてくれ。」

 

親父はそう言って来た道を戻っていく。

 

俺は親父を追いかけようと、一歩踏み出したがその前にもう一度、写真に目を落とす。

そこには、黒々とした三日月が血の海に浮かんでいるだけでなにも教えてくれるものはない。

だけど、なにかが起き始めている。

そんな漠然とした不安が俺の体をぶるり、と震わせたのだった・・・。

 

 

 




いかがでしたか?
次話でようやく初戦闘が起きる予感!
楽しみにしといてください。


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劫火

第八話です。
いよいよ、主人公、と敵との対面です。
楽しんで読んでくれたら嬉しいです。

では、本編をどうぞ!


腹拵えを済ませた俺と親父は今、反物質研究を行なっている機関、高エネルギー加速器研究機構へと足を向けていた。

時刻は昼の2時過ぎ。

少し歩いているとポカポカと体が暖まり、若干汗ばむぐらいの気温。

歩き続けていると喉も渇いてくる。

少し先の右手に自販機が見えたので、俺は自販機に向かい、小銭を入れた。

 

「俺、コーラで。」

 

親父が後ろから当たり前のようにコーラを奢らせようとするので、俺は振り向きもせずにソーダを押す。

 

「はあ、ホント冷たい息子だな。」

 

ため息混じりに自分も小銭を入れる親父。

ホント自分のジュースくらい自分で買って欲しい。

いつもこのやり取りするのも飽きたし。

 

プシュッという軽やかな音を立ててキャップが開く。

 

俺と親父はゴクゴクと喉を鳴らして、喉の渇きを潤した。

 

「ぷはあ!うめー!」

 

口を拭いながらうまそうに唸る親父。

俺は同じ動作をしようとしていた自分の右手をありったけの意思によってセービングしなんとか耐えた。

親父とシンクロするなんざ絶対いやだからな。

 

キャップを閉め、一息つくと、俺は親父に聞く。

 

「確か、今から行く高エネルギー加速器研究機構ってところは主に反物質に関する研究をやってるんだよな?」

 

「ああ、そうだ。今日のメインはどっちかというとこっちだからな。本当なら俺一人で話を伺わないといけなかったんだが俺じゃサッパリ理解できん。だから、お前を呼んだって事だ。」

 

「なるほど・・・そうですか。」

 

俺は苦笑しながら歩き出す。

 

「ここから少し行ったところにあるのか、その場所は。」

 

「ああ。確か、あと十分くらいだったかな。」

 

「結構歩くな。」

 

「文句言うな。俺も歩いてるんだから。」

 

「はあ、まあ良いけどさ。」

 

親父の横暴ぶりに呆れた俺は後ろ頭を掻き、残りの道のりを急いだ。

 

目的地に近づいてくると、人通りは少しまばらになった。

商業施設はこの辺にはなく、住宅街もあまりない。

あるのは、だだっ広い研究施設や工場のみ。

 

「着いたか・・・・。」

 

見上げれば、そびえ立つコンクリートビル。

おそらく五階建て。

門扉は大きく立派だ。

 

俺は横目に“高エネルギー加速器研究機構”のプレートを見つつ敷地に足を踏み入れた。

 

「すんません、神代博士の件で話を伺いに来た竜崎なんですけど・・・・。」

 

俺は守衛に許可をもらおうと声をかけたのだが、様子がどうもおかしい。

机に突っ伏している守衛。

地面に視線を落とすと赤い液体がしたたっているのが見えてしまった。

 

「・・・・・!おい!大丈夫か!?あんた!」

 

「どうした!?理!?」

 

俺の叫びに駆け寄ってくる親父。

 

「親父!これ・・・。」

 

「不味いな・・・手遅れかもしれん・・・。とりあえず救急車を呼ぶ。」

 

「頼む。」

 

親父が急ぎ携帯で救急車を手配。

俺はその間に、守衛所の裏口をこじ開け、進入。

 

「う・・・・・!」

 

むっとするような臭いが鼻をつんざき口を押さえる。

見ると、彼の腹からは血が尋常出ない量こぼれ落ちている。

どう見ても命に関わる出血量だ。

 

「どけ、お前。」

 

後から入ってきた親父に突き飛ばされるようにして俺は横にどかされる。

みると親父は止血の応急処置を施そうとしているようだ。

 

親父は今親父にしかできないことをやっている。

なら、俺も俺にしかできないことをやるしかない。

 

そう決意した俺はきびすを返し走り出す。

 

「クソッ・・・・!」

 

「おい、お前どこ行くんだ!」

 

親父が俺の背中に叫ぶので俺は振り返りもせず叫び返す。

 

「決まってるだろ!これやった奴を捕まえに行くんだよ!!」

 

「おい!理!」

 

叫ぶ親父を振り切るようにして俺はコンクリートビルへと向かった。

 

 

 

 

クソ!やられた・・・・!

 

俺は悔しさをはき出すように駆ける。

敷地は広く普通に走っていては埒があかない。

 

「フッ・・・・・!」

 

脚部IDを起動し、一歩を踏み込む。

すると、緑黄色の円環式句が脚の周りに現れ、同時に、昨日の鉄球を運んだときの要領で自らを思いっきり吹き飛ばす。

あり得ない加速力と浮遊感を感じながらもう一歩、更に一歩と駆ける。

一歩ごとに加速していく体。

すると、一キロにもわたる道のりをたった十秒足らずで駆け抜け、ビルの入り口に到達。

タックルでもかますようにドアを開き、飛び込んだ。

 

ギュギュギュッ!

 

靴底のゴム素材が、廊下との擦過音を奏でる。

 

轟音。

 

「・・・・・・!」

 

今の音、上だ。

 

キッと上階を睨み、俺は階段を飛ぶように駆け上がる。

音がしたのはおそらく最上階。

二階、三階、四階、と駆け上がり、廊下に飛び出す。

 

「・・・・・・マジかよ、ウソだろ・・・。」

 

絶句だった。

俺にはこれがこの世の光景とは思えなかった。

 

燃えさかる炎。

至る所に散乱する血。

屍。

 

侵入者を排除しようとした警備隊の無残な死に様がそこにあった。

 

「う・・・・。」

 

「おい、大丈夫か!?」

 

うめき声を上げた一人の男に俺は駆け寄る。

見ると、そいつの体は至る所にやけどを負い、かなりの重傷。

だが、内部からの破壊は施されていないようで、まだ息があるし意識もはっきりしている。

 

「おい、大丈夫か?しゃべれるか?」

 

「・・・ああ。なんとか・・・。」

 

頭を痛そうに押さえながら俺を見るそいつの目は何かにおびえているように揺れている。

 

「誰にやられた?」

 

「わからねー・・・・だが、女だ。おそろしく美しい女。」

 

「女?」

 

「ああ、気を付けろ・・・・俺の部下はそいつに全員やられた。」

 

「な・・・・あんた以外皆死んだっていうのか?」

 

「そうだ。部下が命を張って作った隙を俺は生かし切れず、このざまだ。あの女は紛れもなく化け物だよ。」

 

苦笑を漏らすそいつの声はあきらめを含んだように乾いている。

しかし、これ以上、時間をかけてもいられない。

 

「おい、そいつはどこへ向かった!何が目的だ!?」

 

「それは分からない。だが、研究資料室に用があるとか言っていた。」

 

「その部屋は!」

 

「一番奥だ。」

 

「そうか。協力感謝する。一人で脱出できるか?」

 

俺はそいつに肩を貸しながら聞く。

 

「ああ、大丈夫だ。・・・死ぬなよ。」

 

俺の肩から降り、階段へと向かうそいつは痛々しい笑みを俺に向けて去って行く。

俺は後ろ髪引かれる思いで駆けた。

 

最奥の研究資料室。

 

そこにこの一連の事件の犯人がいる。

 

幾つもの屍を乗り越え、ようやく俺は目的の部屋へとたどり着いた。

 

扉を蹴り破り侵入。

 

「・・・・・・・・・!!」

 

炎が燃えさかり、顔を叩く熱気。

血と焦げの臭い。

けたたましく鳴り響く警報音。

折り重なる屍の山。

 

――まさしく地獄。

 

だが、逆巻く炎の向こうにそいつはいた。

悠然とキセルをくゆらせ、、最後の一人を葬ったそいつが。

ずるりと倒れゆく警備員。

グシャリ、という絶望的なまでに悲惨な音が耳に届く。

 

プツン

俺の中で何かがキレた。

 

あらん限りの力で脚を踏み込む。

地面が陥没する。

刹那、俺は一弾の弾丸となって飛び出した。

 

音が消え、周りの動きがスローにでもなったかのようにはっきりと感じられる。

刻々と距離が縮まる。

従って、そいつの顔もはっきりと確認できる。

 

ピリッ!

 

首筋に感じた悪寒。

そいつの口元には笑み。

真っ赤に燃える二つの目が俺を捉えた・・・・・!

 

「マズイッ・・・・!」

 

「遅い・・・。」

 

次の瞬間、凄絶な爆風が俺の体を襲い、後方の壁へと叩きつけられる。

 

「かはッ・・・!」

 

衝撃で肺から空気が漏れる。

 

気づくのがあと少し遅ければ、おそらく死んでいた。

爆風だけでこの威力とは・・・・。

 

「へえ・・・あの一瞬で動きの方向ベクトルを変換して威力を減衰させるなんて。やるわね、坊や。」

 

感心するような響きの声。

大きな声ではないのに、不思議と通る声。

 

体は痛みで動かない。

だが、俺はそいつの顔を見ようと視線を上げる。

 

かすむ視界に陽炎のように揺らめく女。

うまく焦点を結ばない目。

だけど、その女が美しいことだけは、はっきりと分かった。

 

その女はふぅー、と煙を吐き出すと、視線を窓の外に向ける。

 

「でも、残念ね・・・・坊やとの楽しみはまた今度みたい。」

 

遠くから間延びしたパトカーのサイレンが聞こえる。

 

「くぅっ・・・・!」

 

あと少し、時間を稼げれば俺の勝ちだって言うのに、体が言うことをきかない。

いくら気力を振り絞ろうと指一本動きそうになかった。

 

女はそんな俺の様子を満足げに眺めながら、歩み寄ってくる。

 

至近距離にまで歩み寄ると、かがみ込み顔を近づける。

耳元には赤くきらめく三日月。

 

――こいつだ、こいつがこれまでの殺人事件の犯人。

 

頭では理解している。

こいつは今すぐに捕まえなくてはならない。

しかし、俺の体は動かない。

目の前にあまたの罪なき人間を殺した宿敵がいるのに届かない。

どれほど願っても届かない。

俺はもどかしさに歯がみし、唇からは血が一筋。

 

そんな俺の顔を満足げに眺めていた女は顔を更に近づけ、耳元に唇を寄せる。

しなやかなその指を俺のおとがいに触れさえながらこう囁いた。

 

「残念だったね・・・・・坊や?」

 

「・・・・!」

 

「またね?」

 

蠱惑な笑みを俺に向けた女はきびすを返し、歩き去って行く。

逆巻く炎の渦中を闊歩する女。

 

俺は己の無力をかみしめながら、意識を手放していった・・・・。

 

 

 

 

 




いかがでしたか?

楽しんでいただけていれば幸いです。
ではまた、今度会いましょう!
シーユー。


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蠢く闇

第九話です。
今回は黒幕サイドの風景を書いてみました。
悪者感は少し薄めかもしれません笑

楽しんでくれたら幸いです。
ではどうぞ。


「おい・・・・。おい・・・大丈夫か?」

 

耳元で聞こえる大声と揺さぶられる体。

 

「おい、理!大丈夫か!」

 

「く・・・・。」

 

まぶたを上げるとそこには心配そうに俺を見つめる親父の顔があった。

 

「親父・・・・。」

 

「理、お前無茶しやがって!怪我は!?」

 

「大したことない・・・・痛っ!」

 

体を起こそうと地面に左腕を突くと、激痛が走り、俺は顔をしかめた。

すると、見かねた親父が俺に肩を貸しながら言う。

 

「ほら、つかまれ。」

 

俺は言われたとおりに身を預ける。

 

「行くぞ・・・・・。」

 

「ああ・・・。」

 

神代博士殺人事件の情報を得るために訪れた高エネルギー加速器研究機構。

しかし、実際には、情報を提供してくれるはずであった研究資料および職員は火の海に沈み、犯人とおぼしき女の確保にも失敗し返り討ちに遭っている。

結局、俺はなにも得られず、何も守れなかった。

 

「クソッ・・・・・。」

 

こうして、俺は満身創痍の体を引きずるようにしてその場を後にしたのだった・・・・。

 

 

心許ない暗緑色の光に照らされた暗闇。

そこに女はいた。

 

「・・・はあ!疲れたー。なーんで私ばっかりこんな働いてるわけー?あんた達ももっと働きなさいよ。」

 

女がキセルをくゆらせながら不満げにこう言い放つ。

 

すると、暗い影のなかからその言葉に応える者がある。

 

「俺たちには俺たちのやることがある。別にさぼっているわけではない。」

 

「そうですよー!私たちが仕事してないと思ったら大間違いなんですから!」

 

「私はもっと働きたいんですけど・・・・・。」

 

それぞれが思っていることはバラバラでまとまりがない。

女もそれを分かっているのか、はあ、と一つため息をつき頭を押さえる。

すると、更に奥。

黒々とした闇の中から声が降る。

 

「ご苦労だったな・・・・お前達。」

 

女はキセルから口を離し、闇に視線を向けた。

 

「計画はお前達のおかげで至極順調に来ている。あと少しだ。あと少しで、私たちの宿願が叶う。」

 

「ようやくね・・・・。」

 

女と残りの三人も首肯する気配。

 

沈黙が横たわるこの空間を低く重い重低音が響く。

闇は震え、じわりと広がる。

あたりの光を飲み込み浸食する。

まるで意思を持った生き物のように胎動する。

 

その闇の中心。

男の周りはいっそう濃い闇に包まれて姿も形もはっきりとしない。

だが、確かに男はニヤリと笑みを溢し、つぶやく。

 

「次が・・・・最後のピースだ。学園都市の終焉はすぐそこだ・・・・・。」

 

大きくはない声。

だけど、不思議と響き包み込むような声音だった。

 

「で?次はどこに行って何をすればいいわけ?」

 

女がけだるげに問う。

すると、男は苦笑を漏らしながら言う。

 

「せっかちな奴だな。」

 

「さっさと終わらすに超したことはないでしょ?それに、今日思わぬ出会いもあったし・・・・。」

 

「ほお・・・・婚期を逃した消費期限ぎりぎりのお前に出会いがあったのかそれは良かったな?」

 

「おい、喧嘩売ってんのかあんた!?違うわよ!私たちの計画に勘付きだしている連中がいるって事。」

 

「殺したのか・・・?」

 

確認するような口調。

対して、女は少し上機嫌に答える。

 

「いーえ。面白そうな坊やだったから殺してないわ。」

 

それを聞いた男は何かを察したようにつぶやいた。

 

「なるほど・・・・年下好きなのか。」

 

その言葉に、女はキッと鋭い視線を射る。

 

「あんたぶっ殺すわよ?」

 

「冗談だよ。許してくれ。」

 

凄みを帯びた真紅の瞳に睨まれても、男は全く動揺するそぶりすら見せない。

 

「しかし、本来であれば目撃者は皆殺しにする決まりであったはずだ。」

 

「あー、そうだっけ?忘れてたわ。」

 

男はそれほど気にはしていないらしく苦笑して答える。

 

「・・・・・まあいい。次で始末すれば許してやる。」

 

「あら、寛大なお方。でもまあ最初からそのつもりだったけど。」

 

「ならいいんだ。その程度ならば、計画に差し支えはない。むしろ順調に来すぎているぐらいなんだ。少しぐらいイレギュラーがないと面白くないだろう。すべてはゲームなんだからな・・・・。ま、お前が年下の男に惚れることは予想外だったがな。」

 

さも面白そうに言う男。

それに対して居心地悪そうに答える女。

 

「惚れてはいないわよ。」

 

「惚れてはね・・・?」

 

「ふん・・・・!」

 

完全にへそを曲げてしまった女に男は苦笑。

周りの仲間も苦笑を漏らしている。

 

だが、そのうちの一人の男は笑っている様子もなく、至ってまじめな口調で聞く。

 

「では、次の作戦決行はいつになるのですか?」

 

「お前はいつもまじめだな。」

 

「いえ。普通だと思います。ただ、ここの人は僕以外常識人がいないのでそう感じるのだと思います。」

 

「あんたナチュラルに腹立つのよね・・・・。」「マジそれ。」「ホントですよね。」

 

「・・・・?」

 

女の言葉に他の仲間も首肯。

しかし、当の本人は不思議そうに首をかしげるのみだ。

周りの反応の真意を理解することを諦め、闇の中に質問を投げかける。

 

「で、いつに?」

 

闇の中から答える声。

 

「知っているか?一週間後に何があるか?」

 

仲間達は一様に首をかしげ知らないというそぶりを見せるが、一人だけはさも当然のように答える。

 

「学園都市元帥サミットが大阪の学園都市で開かれます。」

 

暗闇の中で感心したように答える声。

 

「そうだ。」

 

「なに、その学園都市元帥サミットって?」

 

さほど興味もなさそうに聞く女に、一人が答える。

 

「四大学園都市、博多、大阪、東京、仙台。それぞれのトップである元帥が一つところに集まる会合だ。」

 

「へえ~。」

 

これまた興味なさそうにキセルに口を付けつつ言う。

 

更に続けて一人が言う。

 

「元帥が集まり会合する、ということは勿論そこには優秀な護衛がたくさん付き、学園都市のトップを守ろうとする。つまりだ。元帥が出て言った学園都市の防衛網は常よりも惰弱になる。今回の作戦はそこに付け入ろう。そういうことですね?」

 

闇の奥から苦笑する気配。

 

「やはりお前はまじめだな。私の意図をくみ取ることを怠らない。その通りだ。今お前が言ったように、学園都市は一週間後四年に一度のサミットで防衛網が緩む。本来、学園都市で犯罪を働く事はかなり難しい。先ほども言ったが、これまでがうまく行きすぎている。そして次の作戦ではさらに防衛網の強固な帝都第一高校を狙う。サミットの際には鬱陶しい生徒会の猛者たちも駆り出され手薄だ。そこを我々は衝く。」

 

「ほほーん。で?結局は何をするのよ?その一週間後にさ。」

 

じれったそうに聞くキセルの女。

 

男は女の言葉を受けて楽しそうに答えた。

 

「帝都第一工科高等学校一年のこの女生徒を拉致する。」

 

暗緑色の光を放つ大きなスクリーン映し出される女の生徒の顔。

黒縁の眼鏡に特徴的なお提げ。

 

そこに映っているのは、正真正銘、紛れもなく、椎名文であった。

 

「さあ、ラストダンスといこうか。」

 

こうして闇は本格的に蠢き出すのであった。




いかがでしたか?
楽しく読んでくれてたら嬉しいです。
では、また今度!
しーゆー。


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仲間

第十話です。
ようやく二桁の大台に乗りました。
感無量です!笑

これからもがんばって書いていきますので応援よろしくです!!




ドタドタとした足音が聞こえた、と思った時には勢いよく扉が開かれていた。

 

「おい、竜崎!大丈夫か!?」

 

入ってきたのは近藤だった。

俺はあまりにも焦った様子の彼に小さく手を上げて言った。

 

「よお。近藤。」

 

「よお、じゃねーよ!!大けがしたって聞いたぞ!」

 

ベッドのそばに駆け寄って心配そうに見つめる彼に俺は苦笑して言った。

 

「そんなおおげさなもんじゃねーよ。」

 

「ホントかよ?」

 

「心配しすぎだ。お前は俺の母ちゃんか?」

 

「友達の入院を心配しない友達はいない。」

 

近藤は一人したり顔でうなずく。

俺は少し驚いたが、すぐにこいつがこういう熱い奴だった、と思い出す。

やはりここまで素直に厚意を表す奴は俺の知合いの中には残念ながら珍しい。

どちらかというと、俺の知合いには傷口に塩を塗りつけて喜ぶドSの方が多い気がする。

どっかの銀髪を筆頭にな。

 

不慣れな厚意に俺は照れくさくなり、鼻を掻きつつ感謝を告げる。

 

「ま、心配してくれてありがとよ。」

 

「良いって事よ!」

 

グッとサムズアップしてくる近藤は二カッと良い笑顔を浮かべた。

 

そのとき、コンコンと控えめなノックが聞こえ、俺は「どうぞ」と声をかけた。

すると、ゆっくり扉が開かれる。

そこから見えた顔に俺は驚きを表した。

 

「な、なんで・・・お前が。」

 

「な、なによ。来ちゃ悪いの?」

 

「い、いや悪くはないが・・・・。」

 

俺が動揺を隠せないのもムリはないだろう。

なぜなら、例の銀髪女である朝比奈がお見舞いに来たのだから。

 

「こんにちは。竜崎君。」

 

ひょこっとその朝比奈の背後から顔を出すのは椎名さん。

 

「あ、椎名さんまで来てくれたのか。ありがとな。」

 

「いえいえ。」

 

「なーんか、反応違くない?」

 

朝比奈が不満げにそう言うので、俺は苦笑しつつ朝比奈にも感謝を伝える。

 

「朝比奈も、ありがとな。」

 

「・・・・・・ふ、ふん!まあ、あんたみたいな奴のところに私がお見舞いに来てあげてるんだから本来、泣いて喜ぶべきところなんだけどね。」

 

「そうかよ・・・。」

 

まあ、こいつはこういう奴だ。

 

お二人さんは扉を閉め、近づいてくると、手に持った紙袋を手渡してくる。

 

「これ、お見舞いの品よ。ありがたく受け取りなさい。」

 

「中にはベタですけど果物が入っています。」

 

憮然と手渡してくる朝比奈に補足説明をする椎名さん。

俺はその紙袋をありがたく受け取り、近藤の横にある椅子を勧める。

 

「で、あんた誰?」

 

近藤に気づいた朝比奈が聞く。

聞き方があまりにも恐ろしい。

もう少し丁寧な言葉遣いとかできないのかな、と思うが彼女からすると別に悪気はなく、いつもの調子で聞いただけだ。

でも、それを近藤が分かるはずもなく、嫌われていると思ったのかめちゃくちゃビビりつつ答える。

 

「あ、あの私、重力学専攻一年近藤です。よろしくお願いします。」

 

「そ。よろしく。私の事は知ってるの?」

 

「はい。朝比奈さんですよね!?」

 

「ええ。そうよ。こっちの超かわいい女の子は椎名文っていうの。」

 

そう言って椎名さんを見る。

すると、紹介にあずかった椎名さんがぺこりとお辞儀して言った。

 

「よろしくです。」

 

「あ、どうもよろしく。」

 

近藤は恐縮しっぱなしであったがとりあえず、三人の顔合わせも終わったようなので、話を本題に写していく。

 

「で、だ。まず、なんで俺が入院してること知ってんの?」

 

今、一番気になったことを聞いてみた。

すると、先ほどもらった紙袋の中の果物をむきながら椎名さんが答える。

 

「えーと、ですね。」

 

「いや、待て。まず、なんで果物剥いてんだ?」

 

「食べようかと思って。」

 

「え・・・・自分で?」

 

「はい、雷ちゃんの分も用意しようと思ってましたけど。はい、あーん。」

 

「あーん・・・うん、おいしい!さすが青森のリンゴは最高ね!甘みと酸味のバランスが絶妙だわ!」

 

椎名が剥いたリンゴをおいしそうに頬張る朝比奈。

なんとも仲むつまじい美女同士の戯れで、見ている側としては目の保養になる。

実際近藤なんて瞳孔開いてガン見してたからな、今のあーん。

 

だけど、美しさとか目の保養とかは置いといて、言いたいことがある。

それは・・・・。

 

「それって、俺のお見舞いじゃないの!?」

 

俺の絶叫にも近いツッコミに朝比奈は不思議そうに首をひねって答えた。

 

「あれ?そうだっけ?」

 

きょとんとする朝比奈に俺は頭痛を感じ、こめかみを押さえる。

 

「お前は今すぐMRI検査で脳に異常がないか見てもらえ。海馬が死んでるぞ、絶対。」

 

「うるさいわね!冗談よ、冗談。ただ単に味見してあげただけよ。これだから食い意地張った下民は嫌だわ。」

 

そう言って、フフンと鼻で笑う朝比奈。

整った顔がバカにし腐った顔をするとどうしてこうもイラッとするのか。

不思議だ・・・。

 

俺は朝比奈の様子にこめかみをピクピクと震わせていたが、椎名さんが俺の前にズイッと何かを差し出してくるのが見える。

 

「ほら、あーん・・・・。」

 

至ってまじめな顔でぐいぐいリンゴを近づけてくる椎名さん。

どうやら俺にもあーん、をしようとしているらしい。

 

「え・・・。」

 

「だから、あーん、してください。ほら、あーん・・・。」

 

爪楊枝に刺したリンゴをぐいぐい唇に押しつけてくるので俺はついに口を開こうとしたそのとき。

 

「ちょっと、何しているのよ椎名!別にこんな奴あーん、しなくて良いって。」

 

「えー・・・。でも、竜崎君、怪我してるし。」

 

「いや、でもあんたがやる必要は・・・。」

 

「なら、雷ちゃんがやって上げれば?」

 

「え?」

 

「私がやっちゃダメっていうのなら雷ちゃんやってあげなよ。」

 

「嫌よ!なんで私がこいつなんかに・・・。」

 

「なら、私がやるよ。」

 

そう言って椎名さんが爪楊枝に刺さったリンゴを俺の口元に持っていこうとするので急いで朝比奈がそれを止める。

 

「あー!もう!分かったわよ。私がやれば良いんでしょ!やれば!貸して!」

 

ひったくるようにしてつまようじをつかむと、俺にリンゴを近づける朝比奈。

 

「そ、それじゃあ、行くわよ・・・・。」

 

「う・・・ああ。」

 

訳もなく高鳴る心臓。

呼吸も少し荒くなっていると自分でも分かる。

顔も熱いので、もしかしたら赤くなっているのかもしれない。

だけど、それも仕方ないだろう。

性格はともかく見た目だけは美少女の整った顔がすぐ近くにあり、しかもその美少女にあーん、をして貰えるのだから。

 

見ると、彼女の頬も桃色に上気し、瞳は潤んでいる。

微かに開いた唇から漏れる吐息が俺の鼻孔をくすぐった。

 

意を決したように彼女は俺の口元にまっすぐな視線を注ぎ、そしてついに・・・。

 

「あーん・・・・。」「あー・・・っ!」

 

気づくと、喉の奥にリンゴがあり得ない深さで入り、気道を塞いでいた。

 

「うぐ!ゴフゴホッ!!死ぬ!」

 

「竜崎!大丈夫か!?」

 

「しまったわね・・・緊張で突き刺しすぎたみたい。」

 

「雷ちゃん!?のんきなこと言ってないで助けないと竜崎君死んじゃいますよ!!」

 

「仕方ないわねー・・・ほい!」

 

空気を求めてあえいでいた俺だったが急につっかえていた塊がなくなった。

 

「かはっ!死ぬところだったー。」

 

「大丈夫か?竜崎。」

 

「いや、まじで命の危機を感じた・・・。」

 

呼吸を整えること数秒。

その後キッと視線を彼女に向けて言った。

 

「おい!!お前俺を殺す気か!?」

 

「う・・・・でも、助けて上げたでしょ!しかも、別にわざとじゃないし。私だって緊張したんだからおあいこよ!」

 

「どう緊張したらあんなに深くまでリンゴ突っ込むんだよ・・・。」

 

「う・・・ごめん。」

 

呆れてものも言えない俺に対して、珍しくしょんぼりした様子を見せる朝比奈。

俺は彼女の珍しくしおらしい姿に驚いた。

今回は本当に少し反省しているようだ。

俺はそんな彼女の姿に苦笑を溢しつつ、切り替えるように明るい声を出した。

 

「いやまあ、助けてもらったからもういいよ。でも、今どうやってリンゴが消えたんだ?」

 

「え、普通に電気分解だけど?」

 

「うん、聞かない方が良かった。」

 

前言撤回。

反省とか以前の問題だった。

口腔内で電気分解なんて何を考えているんだ、こいつは・・・。

 

「一つ間違えば俺、死んでたんじゃないのか?」

 

「大丈夫よそれは。基本の電気分解程度の操作ミス、私はしないわ。こんなのでミスっていたら人間失格でしょ?」

 

「そう言う問題じゃない気がするんだが・・・。」

 

長い銀髪を振り払う動作とともに不遜な表情になる朝比奈に俺は呆れ半分につぶやいた。

文句の続きを言おうかとも、思ったがこれ以上言っても埒があかなそうなので、諦めて話題の転換を図る。

 

「あ、そうそう。話がずれたな。で、なんで俺が入院したことを知ってんだよお前ら。」

 

「ああ。それは、あんたの父親が生徒会に連絡してきたのよ。例の研究所襲撃についてね。」

 

「昨日のか?」

 

俺がそう尋ねると椎名さんがうなずく。

 

「はい、そうです。その話の関連で竜崎君も怪我したって聞いて・・・それで、雷ちゃんがどうしても竜崎くんの様子を見に行こうって聞かなかったのでこうしてやってきたのです・・・。」

 

「椎名!!」

 

神妙な顔でとんでもないことをカミングアウトした椎名さんに朝比奈は見ていても分かるほどに顔を紅潮させた。

椎名さんにくってかかる朝比奈の焦り方が面白い。

俺が少しほほえんだのを見た朝比奈はベッドに乗りかからん勢いで言葉を吐き出す。

 

「あんた、勘違いしないでよ!?別にあんたが心配なんじゃなくて、事件についての話が聞けると思ったから来ただけだから!!別に他意とかないから!!」

 

「分かったよ、そんな鼻息荒く言わなくても・・・。」

 

「鼻息荒くない!」

 

ゼーゼー荒い息を吐きながらそんなこと言われても・・・・と思わなくもないが、それを口に出すとややこしくなりそうなので、口には出さず、俺は近藤に同じ事を聞く。

 

「二人は分かったけど・・・じゃあ、お前は?お前生徒会でもないし。」

 

「ん?俺か?俺は飯室先生から連絡が来たんだよ。お前が怪我して病院にいるからお見舞いに行ってやれってな。私は行くのがめんどくさい、とも言ってたな。」

 

「あの先生、まじめそうな生徒に面倒を押しつけるなんて。なんてゲスなんだ。」

 

「まあ、俺はそのおかげでお前の見舞いに来れたんだし全然気にしてないんだけどよ。」

 

「そうか。ありがとな。」

 

「よせよ。気にすんな。」

 

照れたように頭を掻く近藤に俺は感謝を述べた。

 

「で?」

 

声のした方に目を向けるとムシャムシャとリンゴを頬張る朝比奈がいる。

 

「で?とは?」

 

俺が彼女に顔を向けながら聞くと、リンゴをゴックンと嚥下した朝比奈が強い語調で再度問うてくる。

 

「だから、あんたはなんでそんな大けがをしたのかって言う話よ。」

 

「あれ?事の顛末は親父から聞いてるんじゃなかったのか?」

 

さっきこいつらは確かにそう言っていたと思うのだが。

だが、椎名さんがその疑問に答える。

 

「いえ、私たちが知っている事はそう多くありません。生徒会でも新人の私たちには伝えられる情報が少ないので。」

 

「ホント、腹立たしい限りよ。」

 

脚を組み銀髪を振り払う仕草があまりにも似合っているので、不覚にも一瞬目を奪われるが、鋼の精神力とわずかなプライドによって見惚れることはなく、話を続けることがなんとか叶う。

 

「・・・まあ、仕方ないんじゃないか?組織なんてどこもそんなもんだろ?」

 

「そうだけど・・・。」

 

釈然としない朝比奈の様子に俺は苦笑を漏らしつつ言う。

 

「ならどこまで知っているんだ?」

 

「大規模な爆破テロにあんたが巻き込まれたことしか知らないわ。」

 

「そうか。でも俺も知っている事はそんなに変わらないぞ。」

 

「それでもいい。聞かせて。」

 

「なら・・・・・。」

 

そこから、俺は三人に一連の事件の流れ、神代博士の殺害、反物質捜査の研究所の爆破、今回の高エネルギー加速器研究機構の爆破を説明し、そして犯人の女の能力、そして耳元に輝く深紅の三日月についてを話し終えた。

 

「てな、感じなんだが・・・・。」

 

「なるほど、反物質か・・・。」

 

「危険な香りしかしないですね。」

 

「でも、要はその女をぶっ飛ばしたら良いのよね?簡単じゃない?」

 

一同がマイナス思考に囚われる中、一人あまりにもポジティブな、いやアグレッシブな考えの方がおられる。

もちろん朝比奈だが・・・。

 

「お前な。そこまで簡単な話じゃ無いと思うぞ?」

 

「そう?次の狙いを予測して先動き。女が登場してきたところを取り押さえれば良いんじゃない?目的とかは捕まえたあとに聞けば問題無いでしょ?」

 

「まあ、それはそうだけど。肝心の次の狙いの予測はどうするんだよ?」

 

「それはこっから考えるわよ!」

 

「はあ・・・。」

 

頭がいたい。

朝比奈は基本的に向う見ずだとようやくわかってきた。

おそらく、頭の回転や思考の明晰さ、という以前に、もしかしたら彼女は「不可能」という言葉を知らないのかもしれない。

このまま行くと、そのうち「我が輩の辞書には・・・。」などと言いかねない。

そうなれば、この国はこの銀髪女の手によって独裁国家になってしまっているであろう。

あな恐ろしや。

 

ぞっとしない未来予想図に一人頭を抱えていると、話は知らぬ間に朝比奈の突飛な案を基軸に進んで言ってしまっていた。

 

「ということは、次の敵の動きにあたりをつけなくてはいけませんね?」

 

「そうだな。」

 

「ええ。でも、敵の動きに関連性はあるのかしら?」

 

「反物質関連である、と言うことぐらいしか分からんな。」

 

「はい。しかも、反物質関連の研究所は今となってはかなりの数存在していますし絞り込むことは難しいかと思います。」

 

「そうだな。今回だけではなんとも言えないな。」

 

「そうね。」

 

学年ではそれなりに優秀な三人でもやはり情報が少なすぎて敵の目的にはたどり着けない。

ちなみに俺はこの会話には参加していなかった。

 

「ま、警察が動いてくれているから俺たちが何かをやる必要はないと思うぞ?」

 

俺がそう言うと、椎名さんが黒縁の眼鏡をクイッと押し上げて言う。

 

「いえ、そういうわけにもいきません。今度の日曜日何があるかご存じですか?」

 

「いや・・・・。」

 

俺が首をひねっていると、横合いから近藤が答える。

 

「学園都市元帥サミット・・・。」

 

「お見事・・・その通りです。」

 

感心したように小さく手を叩いた椎名さんが説明をしていく。

 

「学園都市元帥サミット。今回は大阪で開催されます。と言うことはつまりこの東京に元帥はいなくなる。学園都市のトップがいなくなるのです。これがどれだけ危険な事かおわかりで?」

 

ちろり、と視線を向けられるので、つっかえながらも答える。

 

「ま、まあ。トップの護衛に少なからず精鋭もここを離れなくちゃ成らないだろうし、こっちは手薄になりがちだわな。」

 

「ええ、まさにそうです。このサミット中には多くの生徒会メンバーがかり出されますし、もちろん警察もかり出される。敵もバカではない。二つも大がかりな襲撃をすれば少なからず警戒されると踏んでいるはず。ならば、次に動くとするとこのサミット期間しか考えられません。」

 

「なるほどな・・・・。」

 

「はい。なので、この期間中に何かが起きれば私たちでなんとかしなくてはならない可能性が高まります。だから、今のうちに知っておけることは知っておいて準備しておかなくてはならない。他人事として捉えていては生徒会の仕事は勤まらないんですよ。」

 

柔和な笑みを浮かべる椎名さん。

彼女のプロ意識の高さには舌を巻くしかない。

 

「そっか・・・・さすがだな。」

 

「椎名かっこいい!!」

 

「い、雷ちゃん苦しいよ・・・。」

 

「えへへー・・・。」

 

朝比奈が目をハートにして椎名に飛びつく。

椎名は抱きつかれて苦しそうに見えるが朝比奈がとんでもなくだらしない顔をしているので全体的には幸せそうな光景だ。

 

ほほえましいその光景に目を奪われていた俺と近藤であったが、朝比奈の腕の中にいる椎名さんの言葉に我に返る。

 

「竜崎君。」

 

「なんだ?」

 

「竜崎君は敵の姿を見たんだよね?どんな姿だったの?」

 

三人の視線が俺に注がれる。

俺は記憶をたどる。

 

「俺もそのときは戦いに夢中であんまり覚えていないんだが・・・。」

 

「はあ!?覚えてないの!?」

 

朝比奈がわかりやすくキレる。

俺は「でも・・・」と続ける。

 

「でも、そいつは赤い三日月のイヤリングを着けている女だ。しかも、かなりの美人。」

 

ピクッと方を震わせ朝比奈がドスのきいた声を出す。

 

「かなりの・・・・美人、ですって?」

 

「ああ。」

 

俺は正体不明の悪寒に襲われながらそう答えると、椎名さんが言う。

 

「そうですか・・・。今のところはその情報だけが有力な物ですね。」

 

「そうだな。」

 

ブツブツと何かを呪怨のように唱え続ける朝比奈を放っておいて俺たち三人は話を続けていたが・・・。

 

「少し調べたいことができましたので私たちはそろそろ行きます。ありがとうございました竜崎君、近藤君。」

 

「おう、役に立ったなら良かったよ。」

 

「はい。では・・・行きますよ?雷ちゃん。」

 

「あう・・・・」

 

なぜか、魂の抜けたような状態になっている朝比奈を引きずるようにして病室から出て行く二人。

俺と近藤はヒラヒラと軽く手を振り見送ると、近藤も立ち上がり言う。

 

「それじゃあ、そろそろ、俺も帰るわ。」

 

「そうか。気を付けてな。」

 

「お前こそ、早く退院しろよ?」

 

「ああ、任せておけ。」

 

「じゃあな。」

 

「ありがとよ。」

 

「良いって事よ。」

 

最後にグッとサムズアップして近藤も病室を後にし、俺は一人残される。

 

窓から見える、青空は春らしく霞がかった水色。

俺は入院したというのに、あいつらと会ってからはなぜか晴れ晴れした気分だった。

そんな自分の気分がおかしくて知らず知らずのうちに笑みが浮かんでいた。

 

 

 




いかがでしたか?
日常の描写が楽しいので多めに書きました。
楽しんでくれてたら嬉しいです。


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生徒会

第11話です。
登場人物がまた増えます。
まだまだ話は続きますので、引き続きよろしくお願いします!
主人公がこのお話は椎名さんになっているので大変でした。
楽しんでくれてたら嬉しいです!
では、どうぞ!



「雷ちゃん?」

 

「ん?」

 

「竜崎君、元気そうで良かったね?」

 

私はちょっぴりひねくれた、でも優しい女の子に意地悪にもそんなことを言った。

すると、案の定、彼女は顔をほんのり赤く染めて慌てる。

 

「そ、そんなこと一ミリも想ってないわよ!」

 

「ホントかな?」

 

「ホント!」

 

素直じゃないなあ、と想わなくもないけど、こういうところも彼女の可愛いところなので二人っきりになるとすぐにイジリたくなってしまう。

竜崎君の前ではさすがにいじらないんだけどね?

 

そうやってクスクスと私が笑っていると、彼女も私につられてプッと吹き出した。

声をそろえて笑う私たち。

 

そんな彼女の笑顔を見て想う。

 

――やっぱり雷ちゃんは笑っている顔が一番可愛い。

 

もちろん、いつもの雷ちゃんももちろん綺麗なのだが、私は彼女の笑った顔の方が好きだ。

いつものキリリとした表情に時折浮かぶあどけない笑顔。

そのギャップにキュンキュンしてしまうのである。

 

特に、あの彼女の口元に浮かぶえくぼや、猫が飼い主に甘えるときのようなあの目を細める仕草がたまらない!

彼女の笑顔を見ると、ムギュウーと抱きしめてあげたくなる。

 

だがしかし、身長や彼女の性格上それを許してくれるはずもなく夢はいまだに叶っていない。

いつか私が彼女を抱きしめてあげたいものだ・・・・。

 

叶わぬ夢に想いを馳せていると目的地の生徒会室に着く。

 

「失礼します。」「こんにちは。」

 

二人そろって挨拶をしながら生徒会室に脚を踏み入れた。

 

そのとき、生徒会室には日曜日と言うこともあってか四人の先輩しかいなかった。

 

「お、二人とも来てくれたんだ?ありがとう。助かるよ。」

 

野太い声で嬉しそうに笑うこの巨漢は武田武(たけだたけし)先輩。二年生だ。

彼はどこぞのアメフト選手のように体が大きく、顔も濃い。

だけど、すごく優しいしいい人だ。

眉毛なんかでっかい毛虫が付いているんじゃないかと思うほどにぶっといので、皆からはげじまゆと呼ばれいじられる、いわゆるいじられキャラであった。

 

今も柔和で温厚そうな笑みを浮かべ私たちを出迎えてくれている。

私たちは武田先輩にも軽く挨拶をする。

 

「こんにちは、武田先輩。」「相変わらず眉毛濃すぎでしょ、あんた。」

 

「朝比奈さん、僕一応先輩なんだけど・・・。」

 

困ったような表情で笑う武田先輩に朝比奈は半眼で睨みつつ呪詛を吐く。

 

「そうだったわね、げじまゆ先輩?」

 

「酷い!」

 

わーん、と顔を押さえて泣き真似をする武田先輩の様子に、雷ちゃんは鬱陶しそうに顔をしかめる。

 

「チッ・・・・。」

 

この子今、舌打ちしたよね!?したよね!?

さすがにそれは酷いんじゃない?

 

私が彼女の横顔に無言でツッコんでいたのだが、彼女はもちろん気づくこともなく渋面を崩すことはない。

それに気づいた武田先輩はあはは、力なく笑い、部屋の奥に案内する。

 

「じゃ、じゃあ、今日もよろしく・・・。」

 

肩を落として自分のデスクに向かう武田先輩の背中はやけに小さく見えた。

私はガンバ!先輩!と心の中でそんなかわいそうな武田先輩を応援した。

 

「お前ら。今日もよろしく頼むぞ?」

 

キッチリと刈り込んだ短髪に、銀縁の眼鏡、鋭い眼光。

制服の上からでもわかる引き締まった肉体。

間違いなく、私たち生徒会のなかで二番目に偉いお方。

副会長の大鷲光(おおわしひかる)先輩。

その人であった。

 

私はできるだけまっすぐに彼の眼を見て返事をする。

 

「はい、がんばります。」「了解です。」

 

雷ちゃんもこの先輩にはちゃんと返事をする。

武田先輩の時みたいに軽口を叩けば鉄拳制裁は免れられないほど厳しい先輩で、初日なんか武田先輩が寝坊したことにたいして全力のげんこつをお見舞いしていたのを私たち二人は目撃している。

あの巨漢の武田先輩が宙に舞ってたからね?

あんなの映画でしか見たことなかったよ・・・。

 

とにもかくにもこういういきさつもあり、私はもちろん雷ちゃんでさえこの大鷲先輩には最低限の敬意を払うようになったのである。

 

「あら?今日も二人、来てくれたの?ありがとう。」

 

お盆に湯飲みを二つのせて現れたのは、セミロングの黒髪が美しい、眼鏡才女の花園千(はなぞのせん)先輩であった。

 

私たちが座るデスクに寄り、その湯飲みを一つずつ置いてくれるので私は頭を下げる。

 

「あ、ありがとうございます。」

 

「いいのよ。今日もよろしくね?」

 

「はい。」

 

ニコッと柔和な笑みを浮かべる花園先輩の包容力は半端じゃない。

ここまで母性が全面にでている高校生は他にいないのでは?と思う。

お盆に押し上げられた二つの膨らみも高校生離れした大きさであるのだが・・・・。

自分のものと見比べるとなんだかすごくむなしい気持ちになってきたので、私は湯飲みに入った熱々のお茶に口を付ける。

 

「あち・・・。」

 

むしゃくしゃしていてもやはり猫舌は直っていなかったので、私は諦めてフーフーと息を吹きかけて冷ますことにした。

 

「椎名ちゃんって猫舌なの?可愛いねー?」

 

ほんわかした声が聞こえ、私は顔を湯飲みから上げるとそこにはピンク色にも見える色素の薄い茶髪をした巨乳の女の子がいる。

前屈みになっているのでもう谷間が嫌というほどに見えてしまった。

クッ!悔しくないもんね!

 

心の中で負け惜しみを吐いてから私はその声の主に言う。

 

「そうなんですよ、私、猫舌で・・・。でもかわいさで言ったら先輩にはとうてい叶わないです。土岐乙女(ときおとめ)先輩?」

 

「えへへ~。そう?そうかな?嬉しいな~。」

 

このいかにも可愛い女子高生といった感じの女の子は土岐乙女先輩。

童顔で、巨乳で優しい彼女がしなをつくって照れる様子は女の私から見てもすごく可愛い。

 

「とちおとめ。仕事しろー。」

 

「とちおとめじゃないです!土岐乙女です!」

 

唇をとがらせて、花園先輩に言い返す土岐先輩であるがシブシブ自分のデスクに向かう。

私はそんな彼女達に向かって今日聞きたかったことを聞く。

 

「あの、スミマセン。聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」

 

「なんだ?」

 

大鷲先輩が銀縁の眼鏡をクイッと押し上げながら問いかける。

私は彼の威圧感に萎縮しないように気張りつつ答える。

 

「昨日の、高エネルギー加速器研究機構の襲撃事件についてです。」

 

「で?その何をしりたい?」

 

「私の友達がその犯人を目撃しました。」

 

「え!?」「ホントに!?」

 

花園先輩、土岐先輩の二人が驚きをあらわにする中、大鷲先輩は至って冷静に聞いてくる。

 

「ほお・・・で、犯人の特徴は分かったのか?」

 

「はい。赤い三日月のイヤリングをした女らしいです。」

 

「赤い三日月・・・・。警察からは黒い月が何かの手がかりかもしれない、と聞いていたが。」

 

「はい。ですが、赤い三日月らしいのです。調べて貰えますか?」

 

「いけるか・・・・土岐?」

 

「はい、少しお待ちください。」

 

土岐先輩がPCを起動させ、おびただしい量の検索をかけていく。

すると、ある一つの組織名が浮かび上がった。

 

「ワルプルギスの夜・・・・?」

 

「はい。しかし、この組織・・・存在しているのか。」

 

「どういう組織なんだ?」

 

大鷲先輩の問いに土岐先輩があごに手を添え、思案しながら答える。

 

「いえ・・・残念ながらここには赤い三日月をモチーフにする秘密結社としかありません。他にめぼしい情報はないに等しいです・・・。」

 

「そうか・・・・まあ警察が頭を抱えて俺たちに頼ってくるぐらいだ。それほど期待はしていない。」

 

「スミマセン・・・いや、少し待ってください。」

 

「どうした?」

 

土岐先輩がスクリーンに顔を近づけ何かの文面を追っている。

 

「これ・・・・。」

 

何かを指さし口を押さえる土岐先輩。

大鷲先輩は立ち上がり彼女のPCを後ろからのぞき込んだ。

 

「・・・・紅か?」

 

私も近づきスクリーンを覗くと、そこには一人の美女の顔写真が載っていた。

雷ちゃんも横に近づきまっすぐなその瞳をスクリーンに注ぎ言う。

 

「この美人・・・お知り合いですか?」

 

「・・・・ああ。」

 

「どういう・・・・?」

 

大鷲先輩はその問いかけを聞くとその鋭い視線を私たちに向けてこう言った。

 

「元生徒会役員の一人だ・・・・。」

 

 

 




いかがでしたか?
椎名さんも雷ちゃん大好きなんですね笑笑
女の子の仲がいい感じもたまらなく好きなんでこれからもイチャイチャさせていきたいと思います。
地味にとちおとめこと土岐乙女ちゃんが僕は好きです笑笑
では、また次のお話で会いましょう!


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紅と戯れ

第十二話です。
敵の紅(くれない)はどんな過去を持っているのか。
椎名と朝比奈はいつもどんな感じなのか。
それを書いたお話です。

楽しんで読んでくれたら嬉しいです。
では、どうぞ!


「元生徒会役員・・・・?」

 

私は副会長の言葉に反応する。

すると、花園先輩が両手を組み、真剣な声音で答えてくれる。

 

「ええ、そうよ。この子は紅陽向(くれないひなた)。私たち三年生と同級生だった役員。」

 

「え・・・でも、それじゃあなんでここに・・・?」

 

私がスクリーンに映し出された写真を指さして問うと、副会長が怒気をはらんだ声で言う。

 

「わからない・・・・。」

 

何かを押し殺したその声に私はなんとか言葉を絞り出す。

 

「そうですよね・・・友達がこんなところにいるなんて思わないですよね・・・。」

 

私がそう言うと、沈痛な面持ちの土岐先輩がゆっくりと首を横に振って言う。

 

「違うの。椎名ちゃん。この子、死んだの・・・二年前のある事件で。」

 

「え!?でも、ここに・・・!」

 

私が驚きをあらわにして指さすが、土岐先輩も困ったような表情で言う。

 

「だから分からないのよ・・・どうしてこんなことになっているのか・・・。」

 

途方に暮れる先輩方。

同様に私も、頭の中の混乱が収まらないでいた。

 

どういうことなの?

死んだはずの人間がどうしてこの組織の構成員の候補に挙がっているの?

生きているはずのない人がどうやって今回の事件を起こしたの?

分からない分からないわ・・・。

 

誰もが驚き混乱している中、一人この沈黙を破る者がいる。

 

「でも、この写真かなり古くないですか?」

 

やはり、その声の主は雷ちゃん。

彼女は人差し指でスクリーンの顔写真を指さしながら疑問を口にしていた。

私たちはその指の先を見て納得したように頷き言う。

 

「確かに・・・二、三年前の写真には見えませんね。」

「ああ、十年は経っていそうだ。」

「ということは、紅さんじゃない?」

「だが、他人のそら似にしては似すぎている。」

「では、こいつは誰なんだ・・・?」

「分からない・・・。どうなっていやがる。」

 

先輩方は確かに、と納得する一方でやはり見知った友の顔に似過ぎているという点でまだ疑問が残るようだ。

だが、今の私たちには分かることがあまりに少なく、歴戦の先輩方でさえもこれ以上は手詰まりのようであった。

 

それからはひとしきり、他人のそら似である可能性を考えたり、更に情報が無いかと土岐先輩を中心にPCで検索をかけてみたりしたのだが、これら諸々の疑問を解決してくれるような有力な情報も見当たらず、すべての作業が一段落した時点で今日は解散となったのだった・・・。

 

 

 

「ああー!!なーんかもやもやするー!!」

 

生徒会室から寮へと帰る道中。

隣で歩く雷ちゃんが自分の髪の毛をクシャクシャとかき混ぜながら発狂した。

私はあまりにも素直に自分の感情を吐露する雷ちゃんに苦笑を漏らす。

 

「そうだね。あんまり進展無かったね・・・もう少し何か分かると思ったんだけど。」

 

「ホントそれ!なんか余計にややこしくなった気がする!どういうことよ。死んだ女の子が実は生きてるかもって!しかも、その死んだっていう事件については先輩達一向に口を割らないし・・・。」

 

不満そうにフン・・・!と鼻息を漏らす雷ちゃん。

だが、私も同感で、なにかを先輩達は知っていて隠している気がしてならない。

私たちには言えないような秘密があるのか・・・?

 

胸中、わだかまりだらけではあったが、雷ちゃんの気持ちを落ち着けるためにも私はほほえみながら言った。

 

「まあ、先輩達にしたら嫌な思い出なんだと思うよ・・・。言いたくない過去ぐらい誰だって一つくらいあるもんだよ。」

 

「そりゃそうだけど・・・。」

 

しかし、釈然としない様子の雷ちゃん。

そんな彼女の素直な様子に私は苦笑しながら言う。

 

「ま、私もなんか怪しいとは思っているから、今度生徒会に行ったときにはそれとなく聞いてみるよ。でも雷ちゃんはやめときなよ?」

 

「なんで?」

 

キョトン顔で首を傾ける雷ちゃんに、私は意地悪そうに笑って言う。

 

「雷ちゃん不器用だからめんどくさいことになりそうでしょ?」

 

「う・・・。否定はできないかも。」

 

言葉に詰まる彼女に私は笑いながら言う。

 

「でしょ?だからその辺は私がやっとくから、雷ちゃんは竜崎君のお見舞いに行ってあげなよ。」

 

「なんであいつが出てくんのよ!行かないわよ、絶対!」

 

「行きたいくせにー?」

 

「行きたくない!」

 

顔を真っ赤にしてそう抗議する彼女のあまりの必死さに私が笑い出すと、彼女も恥ずかしくなったのか更に顔を赤く染めてそっぽを向いてしまう。

 

「ふん・・・!」

 

「ごめんごめん。雷ちゃん。謝るから許して、ね?」

 

「むぅー・・・ホント椎名は性格悪いんだから。」

 

「ごめんって?」

 

私が手のひらを合わせて謝ると、彼女は横目に私の方を見ながらこう言った。

 

「プレミアムロールケーキ一個で許してあげる。」

 

「ふふふ、ありがと。」

 

「うん。」

 

私が彼女にほほえむと彼女も機嫌が直ったのか元気いっぱいになって。

 

「よーし、コンビニまでダッシュで行くぞー!!」

 

そう言って走り出そうとするので私も。

 

「おおー!!」

 

と叫び、沈む夕日に向けて二人で駆けだしたのだった・・・・。

 

 

 

 

私と雷ちゃんはおんなじ寮のおんなじお部屋に住んでいる。

お部屋はかなり広くて、二人が生活するのには十分すぎる空間があり、調度のセンスも私好みで基本的には何も文句が付けられない。

強いて言うなら、門限の時間をもう少し遅くしてほしい。

門限が七時なんて今日日、小学生でも聞かない。

せめて、これが九時になってくれれば言うこと無しなのになあ・・・。

でも言ってしまえばそれぐらいだ。

ご飯もおいしいし、ベッドもふかふかだし、お風呂も広くて使いやすいしであとは大満足だった。

 

「ふぅー・・・。」

 

大きく息を吐きながらベッドに背中から倒れ込む。

柔らかな感触に包み込まれ、身も心も弛緩する。

 

「ほにゃあ~・・・。」

 

「すっごい蕩けてるわね。椎名?」

 

柔らかな笑みを浮かべこちらを見下ろす雷ちゃん。

 

「うーん・・・今日はなんか疲れたんだよお~・・・。」

 

「私もぉー・・・。」

 

そうつぶやくと彼女もボフッと布団にダイブする。どうやら彼女もかなりお疲れモードのようだ。

そりゃ疲れるよね、朝からいろんなところに行って大変だったし・・・。

今であれば五秒と掛からず眠れる気がする。

しかし、ポカポカと陽気な天気だったのでかすかに汗で全身がべとついている気がする。

このまま眠れば起きたときに気持ち悪い想いをすることは確実だ。

 

「はあ・・・。」

 

私は大きくため息をつくと、汗を流すべく立ち上がる。。

 

「すぴー・・・すぴー。」

 

すると、すでに規則的な寝息を立てる雷ちゃんが横目に入った。

 

「もう寝てる・・・。寝かしといてあげよう・・・。」

 

そう決めると、私は脱衣所につながる扉の奥へと歩を進めた。

 

「ふぃー・・・生き返るー。」

 

私は体をシャワーで洗い流した後大きな浴槽に身を沈めていた。

少し熱めのお湯だったが、疲れた体にはこれぐらいでちょうど良い。

良い湯加減だ。

 

「ふわぁ・・・。」

 

湯につかりしばらくしていると全身のこわばりがなくなり、リラックスできる。

天にも昇る気持ちとはまさにこのことであろう。

 

「極楽極楽ー。」

 

そうつぶやきながらぷかぷかとお湯にラッコのように浮かぶ。

浮力が重力と釣り合い、無重力のようだ。

 

「はあ・・・最高。」

 

究極的にリラックスして油断していたそのときだった。

勢いよくお風呂場の扉が開かれる。

 

「椎名!」

 

「え!?」

 

私は生まれたままの姿でお湯に浮かんだままそちらを見る。

すると、こちらも生まれたままの姿の雷ちゃんが仁王立ちしている。

 

「ど、ど、どうしたの!?雷ちゃん寝てたんじゃ!?というか、前隠してよ!」

 

「ふっふっふー・・・ついにこのときが来たなあ。」

 

ワキワキと両手の指を閉じたり開いたりする動作を見せながらそんなことを言う雷ちゃんはかなり不気味だ。

じりじり、と歩み寄る雷ちゃん。

後ずさる私。

 

「い、雷ちゃん?」

 

私がそうつぶやいた、次の瞬間。

雷ちゃんが宙を舞い、私に飛びかかってきていた。

 

「天誅ーー!!」

 

「うにゃぁー!!」

 

バッシャーン!という大きな水しぶき。

 

「う・・・なにするのよ、雷ちゃ・・・ヒャアッ!!」

 

「今日はよくもからかってくれたなあ?意地悪な椎名にはこうだー!!」

 

そう叫んだ雷ちゃんは私のあんなところやそんなところをなで回す。

 

「や、やめてー!!」

 

「よいではないかー、よいではないかー・・・・ぐへへぐへへへ。」

 

悪代官のような台詞を吐きながら私の体をまさぐる雷ちゃん。

 

「雷ちゃんが壊れたー・・・!!」

 

「ぐへへ~~!!」

 

「戻ってきてよぉお、いかずちちゃぁあん!!」

 

私の悲壮な叫びが学園都市の夜にこだまする。

学園都市の終焉が近づいていることも知らず、美少女二人は無邪気に戯れる。

こうして私たちの一日は過ぎていく・・・。

 




いかがでしたか?
主人公が次のお話からは出てくるのでよろしくです。
では、また次のお話で会いましょう。


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技師

第十三話です。
今回もまたもや新しいヒロイン登場です。
雷ちゃんのポジション危うし!
これからは彼女達の熾烈な恋も描けていけたら良いなあ、と思います。
最近バトルモノと言うよりもラブコメもの、といった感じになってきてしまっていますがどうでしょうか?
趣旨と違うじゃねーか、と思われるかもしれませんが、そこのところは寛容に許してください。ごめんね?笑
どうか楽しんで読んでくれたら嬉しいです。
ではどうぞ!


窓辺から桜並木を見下ろしていると、大きな音を立てて病室の扉が開く。

視線をそちらに向けるとそこには一人の女の子が片手を上げていた。

 

「よ。」

「静・・・?」

 

突然の幼なじみとの再開に俺は口をポカンと開けて惚けてしまう。

すると、彼女は俺のその顔が気に入らなかったのか両手を腰へと当て、視線を鋭くさせて言った。

 

「なに、その顔は?来ちゃダメだったの?」

「い、いや、そんなことないぞ!」

 

俺は慌てて顔の前で手を振り、否定。

 

「ホント・・・?」

「ホントホント・・・。」

 

半眼で睨む静。冷汗を流す俺。

しばらく、眉根を潜め俺の様子をつぶさに観察していたが、フン!と鼻息をはき出しながら後ろ手に扉を閉める。

そんな彼女の様子を俺はキモを冷やして見ていたが、なんとか彼女の逆鱗に触れることはなかった、と胸をなで下ろした。

 

彼女の名前は工藤静(くどうしずか)。いわゆる幼なじみという奴だ。

 

彼女は昔からこうで、俺は彼女の地雷がどこに埋まっているかわからないのでいつもひやひやしていたものだ。

だけどかれこれ、十五年以上そんな調子なのだからよくここまでこいつとやってこられたと今になって自分の事ながら感心する。

 

しかし、ここまで見てきたとおり彼女の性格はだいぶキツいが、容姿だけなら抜群に良い。

小さな卵形の顔に、大きな黒い瞳がダイヤのように輝き、肌のきめは細かく極上の絹で紡いだようになめらかで白い。

更になんといっても目を引くのは、陽光にきらめくと紫紺にすら見える艶やかで豊かな黒髪だろう。

見慣れたはずの俺でさえ、彼女が動くたびに揺れるその長い黒髪には目を奪われる。

それほどに彼女の髪は美しかった。

これでスタイルが悪ければ天は二物を与えないのだ、わっはっはー!と笑い飛ばすこともできたのだが残念ながらその夢は破れる。

身長は167センチもあり、引き締まった脚や二の腕は健康的な溌剌さと女性的な曲線美を併せ持つ究極のシルエットを描く。

しかしながら細くしなやかな四肢に対して、胸とおしりは適度にむっちりと、ウエストはキュッと引き締まることで見事な女性らしいプロポーションを作り出し、もはや芸術作品の域に達している。

なんでモデルや女優業をやらないのか不思議だ。

 

――しかも、彼女の飛び込んだ世界は血と鉄と男の臭い漂う技師の世界。

 

この国でも有名な技師のところに弟子入りし、最近ようやく免許皆伝を取得した。

そしてその初のお客さんが俺、と言う訳なのである。

まあ、こいつの幼なじみであるから一番最初にお客として、IDの調整をして貰えることはやぶさかではないのだが、彼女はいささか俺に対してとげがあり、「入学前にあんたのIDよこさないとぶっ飛ばすから。」などと脅される始末。

そのせいで初日の能力値検査では借り物のIDでやらねばならなかったし、一昨日の戦闘でも使い慣れない予備のIDを使わざるを得なかった。

これでもし、調整がいまいちだった日にはついに俺はこの手を人の血で汚すことになる。

そうならないことを祈るばかりだ。

 

静は俺が横たわるベッドのそばに腰掛け脚を組む。

見下ろされる形になった俺は居心地が悪い。

 

「おい、静。」

「ん?」

「そこの椅子に座れよ。あんだろ椅子。」

 

俺が椅子を指さし指摘すると彼女はバカにし腐った顔で俺を見下しつつ言う。

 

「いいのよ。あんたの間抜け面を見下すことができるんだから。案外良い眺めよ?」

「おい・・・喧嘩売ってんのか?」

「あら、やるの?」

 

底冷えのする声でうっすらと笑う静。

先ほどまでの春の陽気が一転、凍てつく冬のようにあたりの気温が下がったように思える。

ガタピシ、と窓が突然音を立てた。

 

そんな彼女のあまりの迫力にちびりそうになりながら俺は首を振る。

 

「いいえ。」

「よろしい。」

 

嗜虐的な笑みを向ける彼女はなんだか心底楽しそうに見える。

人を震え上がらせて喜ぶとはこいつ真性のドSだな。

これならばいっそドMに目覚めたい。

そんな事を真剣に考えるほどには彼女は怖い。

美人が怒るとめちゃくちゃ怖いのはマジだ。マジで怖いから気を付けろ!!

 

しかし、そこでふと疑問に思うことがある。

それはそんな彼女がどうして俺の病室に来ているのか。

俺の事を虐げ、弱る姿を楽しみに来たわけではないはず・・・・ない、よね?

あ、あと断じて彼女ではない。

冗談でもそんなことを口にすれば、翌朝俺は東京湾の海の藻屑と化しているだろう。

うかつな一言が俺の寿命を縮めかねないのだ。

 

俺は細心の注意を払いつつ、おずおずと彼女に向かって問う。

 

「あの、じゃあなんで静は来てくれたんだ?」

 

長くしなやかな脚をひらりと持ち上げ組み替える静。

短めのスカートが少し持ち上がりどきりとしてしまう。

いつもならズボンしかはいていないのにどうしてスカートなんだ?という今はどうでもいいことに気を取られ肝心の答えを聞き逃しそうになった。

 

「あんたが心配だったからだよ、理。」

「・・・・・へ?」

 

あまりにも間の抜けた返事を返した俺にイラッとしたのか静はその整った顔を俺にくっつくほど近づけて今度はさっきよりも大きめの声で言った。

 

「だ、か、ら!あんたが心配だったって言ってんの!分かる?」

「お、おう。」

「恥ずかしい事何回も言わせないでくれる?」

「す、すまん・・・。」

「それだけ?」

 

至近距離で見つめる静に俺は戸惑いつつも言葉を探す。

 

「え、あ・・・・あのまあなんだ。そのありがとよ。」

「ふふ、どういたしまして。」

 

静の今日初めて見せる満面の笑みに俺は不覚にも目を奪われた。

いつもはクールで端正な顔が見せる、こんな可愛らしい笑顔。反則だろ・・・?

ぷっくりとした唇が艶やかで、キスしたら柔らかいんだろうな、とかほっぺを人差し指でプニプニ突っつきたいなあとか。

そんな邪な欲求が頭を一瞬にして駆け巡り俺は固まってしまう。

 

「おーい・・・どうした?」

 

面白いものでも見るみたいに無邪気に笑う静が俺の目の前で手を振る。

しばらく、反応できていなかった俺だが、彼女の様子が目に入ってきたことでようやく時間が動き出す。

 

「あ、おう。悪い。ぼうっとしてた。」

「あら・・・理。あんた少し顔が赤いよ?大丈夫?熱でもあるんじゃない?」

「いや、だ、大丈夫だよ!!」

「ううん。一応私に見せてみなさい。これでも少し医学をかじっているんだから。」

 

ポンと胸を叩き誇らしげな様子を見せる彼女。

確かに彼女は技師であり、医学の知識も修めているはずだが今回のはそういう病による者ではないと断言できる。

俺はジリジリと距離を詰める静から逃げるようにして後退する。

 

「静、待て。お前が診断する必要はない。」

「それは私が決めるわ。さあ、額を差し出しなさい。」

「いや、だから良いって・・・。」

「いいの!ほら貸して!」

 

残り数十センチの距離を一気に詰めた静の額が俺の額にピトッとくっつく。

彼女のひんやりとした額の温度が火照った体に心地良い。

 

「む・・・やっぱりちょっとあつ、い、わね・・・・。」

「・・・・・・。」

 

語尾に行くに従って消え入るように小さくなる彼女の声を不思議に思った俺はまぶたを持ち上げる。

冷静に考えれば当たり前だ。

だけど、そのときの俺には静の顔がほんの数センチのところにあることが本当に驚きで、あまりの衝撃に息をすることも忘れて彼女の美貌に見とれていた。

 

不思議なことに彼女の吐息の音すら聞こえる距離にあって俺の目には一つの毛穴すら見当たらないなめらかな肌。

長いまつげに縁取られた爛爛と輝く大きな瞳。

吐息を漏らすたびにプルンと震える柔らかな唇。

微かに香る彼女の匂い。

 

それらすべてが俺の脳髄を揺さぶったのだ。

これでどうにかなってしまわない方がおかしい。

 

「し、ず、か・・・。」

「ん・・・。」

 

うっすらとほほえみを浮かべた静は何かを感じ取りゆっくりと目をつむる。

俺の手が無意識のうちに吸い寄せられ彼女の肩に触れるその寸前。

大きな音を立てて扉が開かれた。

 

「竜崎!なにしてんのー!!」

「朝比奈!?」

 

怒気をはらんだ朝比奈の声に俺は我に返り、ツカツカと歩み寄ってくる彼女に驚きを表した。

 

「なんで、お前が!?」

「なんでもなにもないわよ!この私がわざわざお見舞いに来てあげたのに女を連れ込んで呑気にいちゃこらしているなんて。最低よ!変態!ゲス!痴漢!」

「おい待て誤解だ!朝比奈!お前からも言ってやってくれ静。」

 

俺一人が朝比奈に抗議していても埒があかないと思い、静の方に顔を向ける。

すると、静は先ほどまでの艶めいた印象なんてどこへやら。

涼しい顔で脚を組み朝比奈を睥睨している。

 

――これはなんて頼もしいんだ!

 

俺がそう思った矢先。

彼女はぐるりと顔を反転。

凍てつくような視線を俺に射る。

蛇に睨まれた蛙のように俺はすくんで動けない。

朝比奈も静同様に絶対零度の視線を向けている。

そして。

 

「理?この女は誰?」「竜崎?この女誰?」

 

二人の声が揃い破壊力も倍増。

窓ガラスが俺の恐怖を表すかのようにカタカタカタカタ、と小刻みに震えている。

こりゃダメかもしれない。俺はここで死ぬかもな・・・。

 

「「ねえ!?答えなさい!!」」

 

ズイズイ!と二人の顔が近づき先ほどとは違う意味で心臓がバクバク言っている。

 

「「ねえねえねえ!!」」

 

「勘弁してくれえー・・・・。」

 

情けない男の声が春の病院に響く。

その後こってり竜崎君は二人にいじめられましたとさ。

めでたしめでたし。

 

 




いかがでしたか?
今回は結構力入れてラブコメっぽく仕上げてみました。
ドキドキしてくれましたか?
こっからはこう言うシーンも盛り込んでバトルあり、ラブコメありの作品にしていこうと思っているので暖かく見守っていただけると嬉しいです。
ではまた次のお話であいましょう!!


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