就職したら世界が滅びそう (高菜チャハーン)
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1話 彼女だけでも

就職初日に大災害。うそだろ?嘘だと言ってよDr.


けたたましくアラームが鳴り響くなか、ただひたすらに少女を探す。

 

 

自分の知る限りただ一人の同僚、自分のことを先輩と呼ぶ、不思議な少女の名を喉が張り裂けんばかりに大声を出して呼ぶ。いや、叫ぶといった方が正しいかもしれない。

 

 

足元から聞こえる人の声、そのすべてにガン無視を決め込む。

 

 

コイツらは死ぬ、瓦礫に埋もれて。炎に焼かれて。やがて、そろそろ…………まぁ、近いうちに死ぬ。

 

 

彼女も同じ状況下に置かれているかもしれない。だとするならば、早いとこ見つけ出さないと。

 

 

タスケテ クルシイ イタイ アツイ イヤダイヤダイヤダ ダレカ ダレカダレカ タスケテ   タスケテタスケテタスケテ マダ、シニタクナイ  シニタクナイノニ

 

 

手を伸ばして助けを求める。身体を多い尽くす瓦礫に抵抗して痛みを軽減しようと試みる。

 

 

焼けた喉で助けを求めるその声をひたすらに無視する。

 

 

自分にはその声に応えることができないから。

 

 

その声に向き合えば、自分が殺していると自覚してしまうから。

 

 

その多くに応える事無く、彼女を救うことで贖罪としようとしている自分の浅ましさに、どうしようもなく死にたくなるけれど、この声を止めることは出来ない。

 

 

彼女を救うと決めたから。彼女だけでも救うと決めたから。どうやってなんか考えない、どうにかするのだと、声を荒げる。耳をすます。

 

 

――――聞こえた。

 

 

どうしてここにいるんですか。とでもいいたげな、驚きと疑問が。今にも消えそうでも、確かに、先輩と聞こえた。瓦礫が崩れる音が忌々しい。アラーム音がマジでうるせぇ。

 

でも文句を言っても原状は変わらない、幻聴という単語が脳裏をよぎるが、火災現場でそれは洒落にならない。慌てて彼女の名を呼ぶ。

 

 

「先、輩?どう、、し、て」

 

 

良かった。幻聴ではないようだ。なら、何処から聞こえたのかを探らなければ。いまだに降ってくる瓦礫に、燃え盛る炎。今は無事でも、いつ手遅れになるか分からない。

 

 

しかし、脳に送られるべき酸素が不足して景色が回る。上がった息が、呼吸音が耳につく。

 

 

どこだ、何処から?何処から聞こえた?必死になって辺りを見渡す。もう一度彼女の名前を呼ぶ。

 

 

居た。カルデアスの近くの瓦礫の下に半身以上埋もれながらも、自分の声に反応してこちらへ視線を向けている。

 

 

安堵から来る脱力感に足をとられそうになりながらも、彼女のもとへ駆ける。

 

 

 

「久しぶり、生きてるかい?」

 

 

 

そうでなくては困るし、何のためにここまでやって来たのかも判らなくなるけど。誰に向けるでもなく呟いて。彼女

 

 

 

 

―――マシュ・キリエライトの救助活動を開始した。

 




カッコつけてしまったと布団の上でゴロゴロするのは別の話


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2話 はじめまして

さて、次は藤見家ね、詳しい話をするためにも、交渉をするためにも、実家に出向く必要があるけど、ここって、森?森の中に家があるってことなの?


極東の地、日本の山間部にある一軒家。周囲は深い森に覆われ、人が出入りした形跡も見当たらない。

 

魔術工房があるとはいえ、ここまで人目を避けているとなると、交渉も難しいものになるかもしれないと、顔をしかめる。

 

しかし、この程度の障害に煩わせられる訳にはいかない。

 

人理保証継続機関カルデア、その更なる発展と栄光。そして何より、お父様から受け継いだこの組織を潰す訳にはいかない。

 

そのためには、優秀な魔術士によるマスター候補には精査と管理を徹底しなければならない。

 

魔術を生業とする家にとって、子孫がどのように成長し、どのような血族の配偶者と子を成すのか、というのは重要になってくる。それが名門ともなるとその傾向も顕著に現れるだろう。

 

その子孫である息子、それも兄妹の、跡取りとなる息子の身柄を預けてほしいと頼みに行くのだ。

 

 

それを思うと、此処までの道中で妨害、ないし攻撃を受けてもおかしくはない。それほどまでに無茶な要望をしたのだ。だとするならば、あの森を抜ける事。それこそが、私達を試す裁定だったのかもしれない。

 

 

所長を一人で行かせるわけにはいかない、僕も同行しよう。

 

 

そう言って私に付いてきた医療部門のトップは膝に手を付いてうなだれている。

 

交渉に来ている以上、身なりが乱れる様なことはしないでと、注意しようとしたら。もちろん、わかっているよ。と、タオルを渡された。

 

どうやら山道を越えたことで、私も汗をかいていたようだ。歩き慣れない道を歩いた事もあるが、所々に配置された魔術装置による幻覚、鏡像、他にも森林ならではの霧や距離感の狂い、磁場の乱れ等によって疲れが貯まっていたらしい。

 

とはいえ、目的地はもう目と鼻の先だ。先方も私達が森を抜けた事に気づいているだろう。

 

タオルを返しながら、気を引き締めるように促す。正直、あの深い森の中で迷う事無く進む事ができたのはこの男のおかげと言えなくもないが、それはそれ。

 

 

 

「気を引き締めなさいロマン。相手は日本でも有数の魔術の名門、藤見家よ。決して失礼のないようになさい」

 

 

古くから霊脈の管理を担うその家系は、魔眼と呼ばれる魔術を産まれ持つ者が比較的多く産まれたことで、富士見、節見とも呼ばれた。

 

富士山頂から視ているとも言い伝えられた視認能力や透視、時代の節目を予言するなどの未来視をしたという伝承も残っている。

 

人に害を加えたという話は聞かないが、警戒するに越したことはない。

 

魔眼には通常の魔術とは違い、神秘に近いものが多く。もし機嫌を損ねた際には、何もできずに殺されてしまうことも視野に入れなければならないのだ。

 

魔術を扱うことがあまり得意でないこの男は、なすすべなくやられてしまうかもしれない。

 

 

「ああ、わかっているよ。そのためにここまで来たんだ」

 

 

そのために?まるで私をフォローするために着いてきたとでもいうような口振りだ。

 

 

「どういう事かしら、私が交渉に失敗するとでも言いたいの?」

 

 

これまでにも何件か魔術士の名門を相手に交渉を成功させた私に何処か落ち度でもあるというのだろうか。

 

 

「とりあえず、髪に付いた蜘蛛の巣は取り除いた方がいいだろうね」

 

「っ!そういう事は早めに言いなさい!」

 

 

素早く手鏡を取り出して髪に付いているという蜘蛛の巣を取り除こうとするがなかなか見当たらない。普段から手入れを欠かさない自慢の銀髪も、今は少しその白さが腹立たしい。

 

 

 

気を取り直して、交渉に入ろう。

 

ちょっとしたアクシデントはあったが問題ない、二人で互いに服装に問題がないか確認しあったし、深呼吸もした。大丈夫、問題ない。私なら今回の交渉も成功差せることが出来る。

 

自分に鼓舞をして、意を決して玄関の呼び鈴を鳴らす。

 

 

「こんにちは、こちらは藤見さんのお宅で間違い無いでしょうか」

 

 

ここまできて、もし違う何て事になったら膝から崩れてしまいそうだ。ところで、なぜ、ロマンは笑いを堪えているのだろうか?

 

 

「はーい、合ってますよー、こんなところまで、どなたがなんのご用でしょうか?」

 

 

活発そうな女の子の声が後ろから聞こえて、少しビックリしたが、このくらいで取り乱す私じゃない。深呼吸しているのは空気が美味しいから。落ち着こうとしてるわけじゃないから。

 

 

「はじめまして。人理保証継続機関カルデアから参りました。オルガマリー・アニムスフィアと申します。先日送らせていただいた手紙に記させていただいた通り、藤見練さんの就職について、詳しい話をさせていただきたく参りました。家主様はいらっしゃいますでしょうか」

 

 

「いますよー、とりあえず上がって下さい。居間まではこの子が案内してくれますから。今、父を呼んで来ますので少々お待ちくださーい」

 

 

この子、と呼ばれた猫に付いていくと大きなテーブルと複数のソファにタンス、本棚といった調度品の数々が配置された部屋に着いた。扉は開いており、テーブルに男性が掛けているのが見えた。

 

 

「はじめまして、藤見練の父です。どうぞ、近くにいらしてください」

 

「はじめまして、オルガマリー・アニムスフィアと申します。藤見練さんの就職について、詳しい話をさせていただきに参りました。」

 

「いらっしゃい、立ち話もなんですし、お掛けください。わざわざ辺境の一軒家までようこそお越しくださいました。早速本題に入りましょう、跡取り息子の、将来について。」

 

 

 

 

 

 

 

 

その後の交渉はつつがなく終わり、藤見練はカルデアに2015年1月30日に正式な入社、事前知識の勉強やトレーニングのために1ヶ月前にはカルデアで生活、という形になった。

 

親御さんからは二つ返事で了承をいただき。拍子抜けしたところに、藤見練本人が登場。

 

なにやらロマンとの会話が盛り上がったようで、ロマンが終始楽しそうに話していた。マギマリとはなんなのだろう?

 

二人の会話に付いていけなかった私は、藤見練がどのような人間なのか、途中で参加した奥さんと妹さんに聞いてみることにした。

 

 

「練?練ねー、暇を見つけては魔術道具作って遊んでいるらしいよ?」

 

「兄さんはねー、気が付いたら何処かにいってて、気が付いたらそこにいるの、基本、何処にいるかわかんないんだよねー」

 

 

彼をマスター候補にしたのは正しかったのか、少し疑問に思ってしまった。

 

夜の森を帰るのは流石に危険だということで、一晩お世話になることとなった。あの森の中で一軒家、電気や水道は何処から引いているのかロマンが聞いていたが、すべて魔術でなんとかしているらしい。

 

 

「兄さんが作った魔術道具があれば何処に住むとか、ほとんど関係無いんだよねー」

 

「魔力使うだけだし、壊れもしないし、便利なのよ」

 

 

魔術って秘匿すべきものじゃなかったかしら?

 

 




主人公誰だっけ、俺だっけ、セリフ無いんだけど


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3話 疲れた

今日カルデアからお客さん来るから。あんたが仕掛けた魔術道具片付けときなさい。

………は?……把握してない?………バカじゃないのあんた!

はぁ、、、じゃあ誘導してきなさい。それくらい出来るでしょ。


我が家は深い森の中にポツンと一軒だけ建っており。家の周囲は畑やら工房やらで結構開けているので、空から見たら一発でわかる。つーか、バレる。

 

だから空からやって来ればいいんだから、わざわざ森を抜けようなんて思わないだろ?だから誘導って言ったって、ヘリコプターをどこら辺に下ろすとかさ、そういう事だと思ってたんだけどな?

 

 

「上から見たら一発でバレるなんて、そんなザル警備を魔術師がするわけないだろ?」

 

 

あのやろう許さん。だってさ、この森を抜けるのに徒歩で4時間かかるんだぞ?マジで陸の孤島。文字通りの消滅集落。俺達家族が移住したら誰も居なくなるからな。

 

しかも森を抜けるとなったら、俺が作った魔術道具をいくつか停止させなくちゃいけない。

 

蜃気楼を作り出して視界を歪めたり、霧を人口的に発生させたり、人避けの結界で巨大迷路作ったり。そんな感じのやつを森のいたるところに配置して、それが藤見家の魔力以外を察知したら発動するようになってるからな。

 

魔力を察知して発動した装置が何処にあるのか位はわかるから、カルデアからの客が森に入ったらどこら辺にいるとかはわかるけど、そのあとに誘導しろっていうのがめんどくさい。

 

だってさ、魔術道具が何処にあるのかわかってないから、客が何処にいるのかわかったらすぐさま向かって片っ端から装置を停止していかなきゃなんないし。

 

既に発動したあとだったら俺もその効果を受けるし。めんどくさい、だるい、やる気がでない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも帰られたら就職出来なくなる可能性が高いからやるしかない。そもそも把握してない俺が悪いんだろ?わかってるよ。

 

でもさ、しょうがないと思わないか?森の中だぜ?通学するときも、強化魔術をかけて最短ルートを選んでやっと30分まで時間短縮させたからな。めんどくさくて外出なんてしないし。

 

暇だから部屋で魔術道具作るか、読書するくらいしかやること無いんだよ。たまには森の中を素材集めしたり、魔術の鍛練するけどさ。

 

ようするに、暇な時間があるだけ、魔術道具が増える。数をこなせば製作時間は少なくなるし、素材と時間を使えば複雑な物も作れる。

 

けど、世界は平和で誰かを傷つける必要も無い。だから、家具や家電。調理器具や防犯グッズを魔術道具に仕上げる位しか作るものもない。

 

結果。森の中に防犯、索敵、足止め装置が一杯設置されるということになっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

藤見家は代々、魔眼を保有する者が多いらしい。だから、千里眼とか宿ってくれてたら、俺が苦労すること無く客の位置も、装置の位置も全てわかった筈なのに。

 

しかし、無い物ねだりをすることに意味は無く、この目に宿っているのは別物。

 

 

吸魔の魔眼というらしいそれは、対象の魔力を奪うという一見チートに見える代物。

しかし、人の体には魔力の許容限界というものが存在する。それを超えれば魔力は毒でしか無く、しかも自分に流れる魔力の質とは異なるのだから、使用には危険を伴う。

 

魔力とは生命力であり、それを奪うということはA型の血液にB型の血液を混入するようなもの。って言ってたし。

 

魔術回路って神経みたいなもんなのにそこに異物混入する魔眼なんて、使いたくないじゃん?

 

 

そこで、魔術道具だ。魔術は扱いが上手い人ほど様々な行程を短縮出来る。逆説的に、多くの行程を処理することができれば扱いが上手くなくても、魔術を使える。ということなら。

 

媒体、術式、魔力供給。これをこなせば、簡単なものであれば魔術を誰でも扱えるというわけだ。例えば、金属に術式を彫り込み、そこへ魔力を貯めた宝石類を組み込む。そうすれば宝石類に貯められた魔力分、術式に応じた魔術が使える。

 

俺が作ってた魔術道具はこの仕組みで動いているし。宝石類に貯められた魔力は俺のものなので魔眼を使っても問題なく停止させられる。

 

 

 

 

 

 

だから俺が自分で作った魔術道具は自分で停止しなきゃいけないんだ。……………わかってるよ?わかってる。いくら面倒でも、カルデアの職員さんに山登りを強いる状況になってしまっている上に、魔術道具盛りだくさんでお出迎えとか。俺の就職の話しに来てもらってるのに失礼過ぎる。

 

 

といっても、目の前まで出ていって案内するのは気が引ける。というより、緊張でおかしくなる。なので、

 

 

魔術道具(使い魔)を大量に山に放ち、反応が起きた地点から随時、宝石類を取り外すことにした。

 

 

猫とか鳥とかなら木の下も上も対応できるだろ。行ってらっしゃい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、客人は無事、我が家に到着。俺も宝石類の回収終了

 

 

さーて挨拶行きたくないな。だって話するの怖すぎ、でも話をしないと始まらないジレンマ。

 

 

 

 

 

 

 

……………もういいや、腹括って帰ろう。どうせ、泊まり込みだし、いつかは関わらないといけないわけだし。

 

誰か趣味の合いそうな人がいいんだけどな。

 

 

 

 

「ただいま-」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




3話目になっても未だセリフが一言だけってどういうこと


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4話 おはよう

ありがとうマギマリ、大好きだぜマギマリ。まさか職員さんもファンだったとは思ってなかったぜマギマリ。やっぱりサブカルは世界を繋ぐんだなぁ。


カルデラの職員さんといつの間にか話を付けていた親父曰く。

 

 

「お前、今日の昼には出発な。それまでに荷物まとめとけよ」

 

 

それを聞いたとき、頭がフリーズした俺を責めるやつはいないと思う。いや、最初の予定では12月30日くらいには到着しとけばいいみたいな話だったじゃん?

 

まぁ、わかるよ。そんな年末に行っても居づらいし。それよりは早く向かうつもりだったけどさ。唐突過ぎない?今日だよ、今日。一ヶ月前の予定が半年前になるなんて想像出来ないだろ。

 

そんな感じて文句を垂れると、意外にも親父はこの状況を説明してくれた。多少は同情していたのだろうか。珍しい。

 

話は昨日に遡る。

 

 

 

 

 

「では、入社一ヶ月前に我々が改めて藤見練さんを迎えに来るということで宜しいですか?」

 

「え。また、登って来られるのですか?」

 

 

と困惑したのも束の間

 

 

「あの子のために態々山登りする必要なんかありませんよ。明日、ここを発たれてカルデアに戻られるのでしょう?それなら、その時に連れていってくださいな」

 

 

と妻が言い。

 

 

「えっと、我々は問題ありませんが、藤見練さんにも準備とか……」

 

 

とオルガマリーさんが戸惑い。

 

 

「でしたら是非!あの子はあれでも部屋は綺麗ですから準備に手間取ることもないでしょう。私物も少ないですし」

 

 

と妻が食いぎみで後押ししたことで

 

 

「そ、それでは、明日の昼頃に練さんを連れてカルデアへ向けて帰投ということで」

 

「はい!ではそのように!」

 

 

オルガマリーさんが妻の勢いに押され、練の出発が瞬く間に早まった。妻が台所に行った後、ほ、ほんとに良かったのかしら。とオルガマリーさんが溢していたので、練は上司に恵まれたなぁと安心して、当の本人に伝え忘れt「オラァ!」

 

 

「何しやがる!」

 

「何しやがるじゃねぇよ!それ昨日の夕方の話だろ!もっと早く連絡しろや!報、連、相!社会人の常識じゃねえのか!」

 

「魔術師がまともな社会人なわけねぇだろ、何言ってんの?」

 

「そういうことじゃねぇ………まぁ、いいや、俺も職員さんに態々山登りさせたくねぇし。準備も大体済んだようなもんだからな」

 

「ん?いつの間に準備してたんだ?お前の場合、魔術道具の素材とか、いろいろ時間かかりそうなのに」

 

「それなら問題ない。触媒の金属は板状にしてあるし、宝石類、まあ、ただの水晶だけど。それは魔力操作で四角にしてトランクの中に入れてあったし、使い魔も分解すればリュックの中に収まるだろ」

 

「本は置いていくのか?」

 

「んなわけないだろ、全部持ってく」

 

「ふーん、まぁ、昼には準備出来るか、カルデアの人に挨拶しとけよ。随分と長旅らしいから、な」

 

 

 

そう言うと親父は何がおかしいのか爆笑しながら自室へと向かっていった。いや、ほんとに何がおかしいのかわからないから無性に腹が立つ。殴りたい、その笑顔。

 

さて、俺も挨拶したらさっさと準備しないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、彼は我々が責任を持ってお預かり致します。しばらく声を聞くことが出来なくなると思います。何か伝えたいことがありましたら、今のうちに」

 

 

 

「随分遠くらしい。ホームシックになっても帰れないからな!我が家の恋しさにむせび泣くがいい!」

 

と指を指して爆笑する親父

 

 

「仕送りはするから………ところであんた英語喋れるの?」

 

と心配を装って小馬鹿にする母さん

 

 

「給料貰えるんだよね、じゃあお年玉くれるよね!今のうちにちょうだい!!」

 

欲望のままに金をせびる妹

 

 

 

いや、感動の別れとかは望んでないし、期待もしてなかったけどさ。思わぬ反応にオルガマリーさん固まってんじゃん。

 

とりあえず親父よ。俺が居ないと家族内ヒエラルキー最下位だな、ざまぁみろ。

 

母さん、それは中高6年間ずっと英語の成績が悪かったのを知った上での発言ですね?

 

妹、一年間は帰ってこないの確定でねだるのやめて。てゆうか、君の方が俺より小遣いが多いの、お兄ちゃん知ってるよ

 

 

「じゃあ、ロマンさんよろしくお願いしますね。帰りは練が案内するので来たときよりは楽に変えれると思います」

 

「はい、任せてください。医療部門の名に懸けて。無事練くんを藤見家に帰すその日まで、責任をもってお預かりします」

 

 

いまだに爆笑している親父を放って母さんとDrは真面目な話をしていた。ちなみに、妹は親父に冷たい視線向けており。オルガマリーさんはまだ固まっている。うちの家族が一般的な魔術師と比べてかなり変わっているのはわかるが、そこまで固まらなくてもいいじゃないか。

 

 

「……はっ!……私は何を?確か、藤見家の皆さんが挨拶をし、て……?……挨拶?」

 

 

どうやら記憶が混濁しているらしいオルガマリーさんを近くへ寄せてDrが真面目な顔になる。そろそろ出発するのだろう。

 

 

「それでは。ご英断、感謝します。しばらく練くんをお預かりします。一晩お世話になりました。いくよ、オルガマリー。いつまでも固まってないで、挨拶して。練くんもね」

 

 

「え?あぁ、この度はお世話になりました。久々にのんびり出来ました。ありがとうございます」

 

 

完璧に誰これである。目の焦点も合ってないし、そんなにショックでしたか。そうですか。

 

 

「じゃあ、今度会うのはいつになるかわかんないけど。死なないように頑張るわ、そんな状況になんかならないだろうけど」

 

 

そんなことになったら、魔眼を使わないといけないかもしれないし。こんな俺でも、死にたくは無いからな。

 

Drとオルガマリーさんも出発の準備は出来ているようだし。

 

 

「じゃあ、行ってきます」

 

 

 

 

 

 

 

 




とりあえず帰ったら、親父ぶん殴る。


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5話 じゃあ、魔眼について

藤見君が魔眼を持っている。とは聞いているけど、いったい、どんなものなんだい?いや、話したくなければそれでもいいんだけど、これでも医療部門のトップだからね。デメリットがあるなら、それようの準備をしとかないといけないんだ


家を出発し、森を抜ける途中。とはいえ俺や妹が学校に通う時に使う道なので獣道のようになっており、雑草や木々が乱立していないのでDrとオルガマリーさんもまだまだ疲れは出ていないようだ。

 

そんな中、Drが魔眼について聞いてきた。それもそうだろう。魔眼といっても種類やその効力によって様々な効果がある。ひと括りにするほど、一貫性があるわけではないのだ。

 

まぁ、風邪みたいな括りかただと思ってもらえばいいだろうか。熱が出て、鼻水が止まらなくて、咳をすれば風邪、みたいな。その原因はともかく症状によって風邪と呼ばれるように。

 

魔眼は目の光彩が発動時に変色し、魔力によって神秘を起こす。その効果に限らず、その独特な現象によって魔眼とひと括りにされているだけで、停止とか操作とか、いろいろジャンルがあるらしい。詳しく調べた訳じゃないし、そこら辺はDrの方が詳しいんじゃないだろうか。

 

まぁ、俺の場合はそのどれにも属していないわけだが。

 

 

「そうですね…まず、この魔眼の効果は魔力の吸収です。対象は人、物に関わらず。任意のモノに対して発動できます。対象レンジは俺がはっきりと実像を結んで視認出来る範囲で、威力の調節も出来ます。ここまでで質問はありますか?」

 

「吸収か、つまり、対象の魔力を自分の中に取り込む。ってことかな?そのためのプロセスは判明しているのかい?」

 

 

魔眼をただの神秘ではなく、強力な魔術であると仮定してくるあたり、医療部門といっても魔術に関わる人間なんだな。

 

 

「はい、魔眼とはいえ、理屈がない訳じゃないですし。段階としては三段階で行程は終了します。対象の魔力を空気中に溶出するのが一段階。その魔力を目を通して体内に取り込むのが二段階。そして魔術回路に組み込んで終了です」

 

 

うん、言葉にすればするほどチート。でも、あの激痛は使用を躊躇するには十分過ぎる。どこぞの大佐みたいに転がり続けたからなぁ

 

 

「そ、それは………痛くないかい?しかも、最悪の場合、魔術回路が焼き切れるんじゃ」

 

「あ、何度も経験してます。松葉杖は俺の親友」

 

「いやいや!もっと使用を躊躇うとかしようよ!体は大事!健康な体は魔術の基本だよ!?良好なバイタルでこそ安全に魔力を扱えるんだから!」

 

 

おおぅ、DrがDoctorやってる。マギマリ大好きお兄さんってだけじゃないのか。突然の医療部門トップでちょっとビックリ。

 

 

「まぁ、そうも言ってられないんですよ。この森って人里から離れすぎてて、その存在自体が軽く神秘でして、たまにですけど、魔獣とかゴーストとか、森から湧くんですよね」

 

 

そう、時間が経ったものは神秘が宿ると云われている。人の解析などによってその実態が明らかになっていないものは、そこに宿る年代や未知によって神秘を宿す。

 

つまり、人が踏み込んでいないこの森は、十分過ぎるほど神秘を宿す資格を持っている。実際、そこへ溜め込まれた生命力。つまり魔力は獣を魔獣に変え、ゴーストを引き寄せる。

 

 

「その撃退、あるいは消滅のために魔眼を使ったってことか。でも、自分の魔眼を理解するほどになるまで、いったいどれ程の戦闘をしたんだい?」

 

「そうですね…………週に2回は遭遇してますし。途中から魔術道具で応戦してたりしたんであまり覚えてないですけど。………松葉杖が親友になるくらい?」

 

「うん。結構な数をこなしたんだね」

 




ゴーストの下りからオルガマリーさんが辺りをキョロキョロしていた。Drのリュックの端を摘まんでいた姿が可愛いかったです(小並感)


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6話 寒い

あ、そろそろ山道も終わりですね。
お疲れさまでした。
魔獣もゴーストも出てきませんでしたし、今回はラッキーですね。
ところで、カルデアまでどうやって行くんです?

飛行機を乗り継いで………え?


外国、とは聞いていた。けど、詳しい位置は教えてくれていなかったし、それも当然だと考えていた。契約が締結するまでは部外者な訳だし、大きな組織というのは敵対者の影を気にするものだ。情報の流出を怖れるのは当然だと思う。

 

 

けど、せめて寒冷地だってことくらい教えてくれても良かったじゃないですか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山道を抜け、そういえばカルデアってどこにあるんだろうと思って質問したのが4時間前。

 

その後はバスとか徒歩とか飛行機とかでやっと日本の玄関口へ。この後はカルデアが保有する飛行機で向かうらしい。

 

 

 

 

そこで問題が一つ。

 

それは圧倒的暖房不足。いや、Drもオルガマリーさんもそんなに荷物もって無かったし、リュックの中もそんなに入ってないようだったから、そんなに準備が必要な訳じゃないだろうと思ってたし、厚めのコートもマフラーも、手袋にカイロにいたるまで全く持ってきてない。

 

この問題を解決するため、俺の凍傷を避けるため。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本からの空の旅、その機内で、大量のカイロを制作しています。オルガマリーさんに観察されながら。

 

 

 

いや、唐突に作り始めたら不信に思われるかな?と思って確認したら。自らの魔術の仕組みを公開することになるけれど、それでもいいの言うなら勝手にしなさい。とのことだったのでせっせと作っていたのだが。

 

長旅の暇潰しか、新入社員の実力を計るためか。少し離れたところからチラチラ様子を窺ってくる。それも小声でブツブツ言いながら。

 

機内はDrがキーボードを打つ音、パイロットの二人が安全運転のための現状確認のやり取り、それ以外は俺が作業をしている音くらいしかしないし、そもそも機体もそれほど大きい訳ではない。

 

つまり、何が言いたいかと言うと。

 

 

 

オルガマリーさんの声めっちゃ聞こえる。

 

いや、もしかしたら、俺が山育ちだからかもしれない。ほら、腕力とか体力とか、視力や聴力にいたるまで、山育ちってだけで、あぁ、だからか。なるほど。ってなるらしいし。学校通ってた頃も、「流石、山育ちは違うな」「いい意味でサル」とか言われたし。

 

いや、それ悪口じゃね?いい意味でサルってなんだよ。『いい意味で』って付ければ許されると思うなよ?

 

いかん、脱線した。まぁ、あれだよ。オルガマリーさんは所々の仕草とか言葉使いに育ちが良さそうな雰囲気あったし、実際、ウチがおかしいだけで魔術師の家系って基本的に貴族や華族みたいなとこあるし、オルガマリーさんも例に漏れずそうなんだろうけど。

 

そんな人がこんなガッツリ覗きをする?しかもオルガマリーさんの方に向くと何事も無かったかかのように読書してる感出すし。

 

でも2時間くらい前からずっと同じページなんだよな。何でわかるかって?本に貼ってある何枚ものカラフルな付箋、そのページに貼ってる位置も色もずっと変わって無いからだよ。

 

俺が作業をしている最中に聞こえてきたオルガマリーさん

の呟きがこちら。

 

 

「そうやって魔術道具を作っていたのね。お宅にお邪魔したとき、様々な属性の魔術が用いられているようだったから、触媒の方に工夫がしてあるのだと思っていたけれど。低級魔術の組み合わせだったのね」

 

 

「カルデアに集められる候補生はマスター適性の有無ではなく、レイシフト適性を持っているかを重要視しているから。その集められた48人が全員、前線で戦えるとは思っていなかったけれど」

 

 

「彼のように特殊技能を持っている候補生が他にも何人かいるなら、部隊に分けて訓練すれば。Aチームの補佐や援助がスムーズになるかもしれないわね」

 

 

「Aチーム以外の候補生の能力はあまり関心がなかったけれど、そうなってくると、単なる補欠としてではなく、48人の能力をしっかりと確認するべきかしら」

 

 

「いえ、協会から許可された使役サーヴァントの数は7体。別動隊を組むなら、Aチームの中から何人か保険のために同行させた方がいい。けれど。そうなると前線で活動するための戦力を削ぐことになってしまう」

 

 

「その結果、部隊の導入がデメリットになるようなら実用的ではないけれど。レイシフト先で何が起こるかわからない以上、藤見練のように応用性の高い能力の補佐があることはオーダーの達成率やAチームの安心感にも影響を与えるはず」

 

 

「Aチームは自らが48人の中から選ばれた7人であるという自信は有るでしょうけど。だからといって支援の重要性がわからない訳じゃない」

 

 

「とはいえ、藤見練のように応用性の高い能力を持つものが何人いるのかまだわからない以上。あまり実用的ではないわね」

 

 

聞き取れたのはこのくらいだけど、いくつか重要な情報が出てきた気がする。

 

マスター適性。レイシフト適性。48人の候補生。Aチーム。サーヴァント。レイシフト先。そして、オーダー。

 

レイシフト、というものがどういったものかはわからないが、レイシフト先では何が起こるかわからないらしい。レイシフトを単純に意訳すると粒子化、だろうか。いや、英語の成績悪かったからよくわからないけど。

 

たぶん、移動手段みたいなものだろう。

 

サーヴァント。使役とか聞こえたし、使い魔のことだと思うけど。カルデアという魔術師の家系からその子孫を預かることができるほどの大きな組織でも、7体しか運用を許可されていないようだし、それほどに強大な影響力を持っている。ということだろうか。

 

それにしても、日本を出発してから一時は暖かかったのに、ここ数時間は寒くなる一方なんだけど。エアコン仕事してる?

 

 

 

 

 

 

 




黙々とキーボード打って書類作ってるDrマジリスペクト。マジ社畜。


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7話 補欠最高

そろそろ到着しそうですね。

わかっているとは思いますが、カルデアではマスター候補生が訓練をするための施設や、生活を行うための設備が整っています。

主な作戦はAチームが担当しますが、貴方も訓練は怠らないで下さい。


きたる2015年1月30日……ファーストオーダーまでに十二分な用意をしておいて下さい。

 

 

そろそろ着陸しようという頃、どうやら調子を取り戻したらしいオルガマリーさんに怠けないよう釘を刺されてしまった。

 

しかし、先ほどオルガマリーさんが溢した言葉。レイシフト。その先では様々な危険が待ち受けているらしいし。事前情報の確保や基礎身体能力、魔術の扱いの向上は生還率に大きく影響するのだろう。

 

 

そういえば。オルガマリーさんとDrは俺を向かえに来たんじゃなくて、カルデアで何をするか、どんな目的で活動してるとかの詳しい説明をしに来たんだったな。

 

オルガマリーさんは母さんに振り回されてたし、Drは俺とオタ談義してたし、完璧に忘れてたな。

 

まぁ、カルデアに着いてから何も知りませんじゃあ、お話にならないし。Drに軽くでも聞いておくかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人理継続保証機関カルデア…………人類の未来を保証するための機関。この地球に魂があると仮定し、その魂をコピー、そして複写した擬似天体『カルデアス』そして、その魂を近未来観測レンズ『シバ』によって観測でき、

 

日本の冬木という町で行われた聖杯戦争、その魔術師の儀式を解析することで、英霊『サーヴァント』の召喚を応用した霊子ダイブ『レイシフト』により、時代への介入を可能した。

 

これらの神の御業とも言える技術を理論ではなく、実現させている擬似霊子演算器。

 

この他にも様々な説明をしてもらったが、多過ぎて覚えてない。ごめんねDr。

 

 

つまり、レイシフトとは人類の未来を継続させるための行為であり。文字通り、世界を救う戦いだ。

 

危険度は世界滅亡級。死亡率はレッドゾーン。Aチームがいくら優秀な魔術師を集めた7人だとしても、やがて欠員が出るだろう。

 

だが。いや、だからこそ48人もの人材を用意したのだろう。その中には一般人も居るようだし、レイシフトを行える残機は一つでも多い方が良いということだろう。

 

 

 

 

 

 

俺はもちろんAチームではないし。存在価値と言えばこの魔眼くらいなんだけど…………………もしかして俺って、マスター候補生としてじゃなく。この魔眼に関する論文発表を建前に時計塔から研究費の援助という名の財政管理の一貫だったらするのか?

 

そうだとしたら、シミュレーション室とかで毎日魔眼発動させなきゃなのか?

 

 

それは………………嫌だな。とても嫌だ。

 

目が痛くなることもそうだが。そもそもこれは乱発して良いようなものじゃないからだ。

 

 

 

 

この魔眼の能力は『相手の魔力を奪う』だが、それは魂食い等と比べるとそもそも奪う対象が違う。

 

古来より、処女の生き血や心臓等と魔力は深い関係にある。それは魔術を行使するための触媒だったり、幻想種や魔獣の魔力リソースとして捧げられたりと様々だ。それは一重に、処女の生き血や心臓が多くの生命力を持つからに他ならないからだ。

 

生命力は魔力とイコールと言っていい。魔術回路が 変換する際の収率は100%だからな。

 

生命力を直接奪う魔眼もあるらしいが、この『吸魔の魔眼』は恐らくそれの上位にあたるものだろう。

 

何しろ魔力であれば何でも吸収できる。その上、生命力を魔眼の魔術回路で変換して魔力を奪うことも出来るのだ。その代償か、魔力を奪う際に激痛が走るようになっている。

 

 

目は最も脳に近い臓器だ。そこに激痛が走るとなれば脳に影響を及ぼす可能性もある。半身不随や記憶喪失が起こることは滅多に無いと思うが。長時間の魔眼発動ではそれもあり得る。

 

 

極端な話、この魔眼の限界を試そうと実験されたら、激痛によって意識が薄れている俺が魔眼を乱発して周囲の生物が全滅。その上俺は記憶喪失でその実験のことは全て忘れてる。

 

なんてこともあり得る。

 

 

いや、そもそも実験体としてじゃなくマスター候補生としてカルデアに来たわけだし。Aチームが頑張ってくれれば、訓練した記録を残すだけで給料貰えそうだし。その間カルデアの施設を使いまくれるのは良いな。

 

レイシフトでは過去に直接向かうようだから、その記録を閲覧したり。図書室に籠ってひたすら読書も出来るとか。

 

補欠最高じゃね?

 

 

 

 

 




貴方も、いや、Aチーム以外のマスター候補生のことだよな。今は俺が一人だから貴方達って言わなかっただけだよな


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8話 先輩

そろそろドクターとオルガマリー所長がお帰りになる時間ですね。

ドクターが、帰ったらすぐにバイタルチェックをすると言っていましたが。

どうせならゲートまで向かえに行った方が良いでしょうか?


飛行機の窓を見ると、そこは銀世界でした。

 

荒々しい山肌は降る雪によって白く塗られ。何処までも続く峰は龍の背を思わせる。パイロットの話を盗み聞きするところによれば、連日続いていた吹雪が弱まっているとのこと。

 

安心して着陸出来る。と嬉しそうに笑っていた。

 

 

けどね?パッと見、滑走路無いよね。

僕知ってるよ?飛行機が飛ぶための浮力はその速度によって生まれてるってこと。そして、その速度を安全に落とすためには直線距離がとても必要だってこと。

 

気づけば、Drもオルガマリーさんもシートベルトをガッチリ締めて。穏やかな表情でシートに身を預けている。手が震えているように見えるのは気のせいだろう。

 

 

 

……………気のせいだと、いいなぁ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死ぬかと思った死ぬかと思った死ぬかと思った。マジで死ぬかと思った。もうダメだと思った。山肌に沿うように旋回を始めたときは事故るかと思った。操縦席から聞こえる笑い声がめちゃめちゃ怖かった。四方八方に引き寄せられる感覚の後に窓ガラスから覗くWelcomeとこちらに振り向いたパイロット二人のドヤ顔がクソうざかった。

 

 

 

殴りたい!

その笑顔っ!

 

 

 

 

 

恐怖のアクロバット飛行も終わり、カルデアのゲートへと向かうDrとオルガマリーさんについていく。つけていく、ではないのであしからず。

 

 

「次からあの二人には必要以上の飛行は止めさせましょう。セルフ・ギアス・スクロールを使って」

 

 

そう言ったオルガマリーさんの目は潤んでいながらも、強い決意を感じさせるものだった。それはまるで両親の仇を打つことを決心したヒロインのようで………

 

いや、アクロバット飛行が怖かっただけでしょう?

 

 

「いや、水を差すようで悪いけど……無理だよ?」

 

「どうしてよロマニ!私はここの所長なのよ?我が職員があんな危険行為を無断で行ったとなればそれを正すのは責任者で有る私の役目でしょう!?」

 

 

………ん?ワタシハココノショチョウナノヨ?

 

 

「うん、それはそうなんだけどね?セルフ・ギアス・スクロールは使えないんじゃないかな、と思って。彼らはカルデア職員ではあるけど、魔術師ではないからね」

 

 

……わたしはここのしょちょうなのよ?

 

 

「…っ!じゃあどうすれば良いのよ!天気が良い日はパーっとアクロバット飛行でもしたいって言ってたの通路で聞いたことがあるけど、とても怖かったし!けれどカルデアという閉鎖空間ではストレスの発散はとても重要であることも確か!どうすれば良いっていうのよ!」

 

 

私はここの所長なのよ!?いかん、あまりの衝撃に頭がフリーズしてた。しかし、オルガマリーさん。いや、所長と呼んだ方が良いか。所長って随分と若いんだな。魔術師の家から子孫を預かったり。人理を保証するなんて、とてもじゃないが所長ほどの年齢で成し遂げられるものだとは思えない。いや、でも、魔術の世界って年齢よりも実力遵守だからなぁ。もしかして所長ってスゴい人?

 

 

「なにも、一人で抱え込まなくても良いんだよ?ここは君がマリスビリーさんから受け継いだ施設だけど、君だけの組織じゃないだろう?だからさ、まずは話し合って見れば良いんじゃないかな?」

 

 

Drの包容力が収まるところを知らない。優しさの塊かよ。医療部門のトップはカウンセリングも上手いんだなぁ。まぁ、カルデアの仕事内容って精神的にクるものばかりだろうし。必要技能なのかもな。

 

それにしても、所長が若いのは前任から引き継いだからだったのか。魔術師の研究を引き継ぐのは実力じゃなく血筋で決まるからなぁ。だとしても所長みたいな若い女性にお鉢が回って来るのは珍しい。血筋だとしてもオルガマリーさんの他に男性や年上がいたらその人が引き継ぐだろうからな。

 

 

「お帰りなさい。所長、ドクターも。長旅お疲れ様でした。ところで、その方はどなたでしょうか」

 

 

ゲートを抜け。暖かい所内へと入った俺たちを迎えたのは音声アナウンスではなく。淡い桃色の髪にメガネが似合う。白衣を着た美少女だった。

 

所長といい、Drといい、顔面偏差値高すぎでは?

 

 

「ただいま、マシュ。こっちは今日からカルデアに移ることになった藤見練よ。予定より随分と早くなったけれどね」

 

 

所長の先程までの様子も鳴りを潜め。出来るお姉さん感が半端ない。表情は穏やかで声色は凛としていながらも柔らかい。この少女、精神安定剤かな?

 

 

「そうでしたか。では、初めまして、私はマシュ・キリエライトといいます。これから、よろしくお願いします」

 

「えっと、ご丁寧に有り難うございます。藤見練です。こちらこそ、よろしくお願いします」

 

「いえいえ、こちらこそ」

 

 

至らない点が、いやいやそんな、そんな事言ったら私なんて、そんな感じでお互いにペコペコ頭を下げていると、Drが笑いながら話しかけて来た。

 

 

「ほらね?言ったでしょ?藤見君は君の思う魔術師とは随分と変わってるって」

 

「はい。ショートメールが送られて来たときは半信半疑でしたが、こうして話してみると他の魔術師の方々とは違う雰囲気を感じます」

 

 

そう言ったキリエライトの顔は驚きで満ちていた。今にも本当に魔術師の方なのでしょうか?とでも言い出しそうだ。

 

 

「そうそう藤見君。これ、所員証。カルデア内の施設を利用するときとか、マイルームの鍵として使ったりとか。重要なものだから無くさないようにね。マイルームの場所は区画と番号で記されてて、今居るのが君のマイルームがある区画。番号は扉に書いてあるから。まずは荷物を置いておいで」

 

 

そう言ってDrが渡して来たのは、会社員が首から下げるような長方形のカードだった。そこには名前と顔写真。生年月日やマイルームの場所も書かれていた。個人情報てんこ盛りだな。絶対落とさないようにしないと。

 

 

「それじゃあ、三時間後くらいにマシュがカルデアを案内するために向かえに行くから。それまでゆっくり休んでおくといいよ」

 

 

 




マイルームに入って思う。台所、トイレ付き。エアコンに掃除機まで付いて、風呂まであるとか、こんなん引きこもるぞ?


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9話 そもそも魔術師は引きこもり

やっと着いた………おんなじ景色が続きすぎなんだよな

さ、て。まずは荷ほどきか?えーーっと?こ、れ、が?本と本と本と本?こっちがマンガで?これが水晶?じゃあこれが金属板でー?……あ、これが魔術道具か


荷物多いわ………家から出たときはそんなに気にしてなかったけど。しかも本棚が無いから本は持ってきたトランクに入ったままだし。やけにマイルームが清潔だから金属板とか広げて作業部屋にするのも気が引ける。

 

一応、この部屋の設備は一通り見てみたけど。こんなん引きこもるぞ?それに、そもそも魔術師は引きこもりなんだ。

 

でも全ての施設が所内にあるならそれってインドア?まぁ、こんな雪山でアウトドアとか死ぬけど。外に出たら本能的にハウリングとシバリングが止まらないんじゃないか?

 

具体的には寒いって大声で叫びながらブルブル震える。

 

なんて下らないことを考えていると。控えめなノックが早いテンポで三回鳴った。そういえば、マシュがカルデアを案内してくれると言っていた気がする。

 

 

「先輩。そろそろ約束の時間になりますが、準備はよろしいでしょうか?」

 

「あぁ、大丈夫ですよ。わざわざ部屋まで来て貰って、すみません」

 

「いえ、気にしないで下さい。先輩はまだ、カルデアに慣れていらっしゃらないでしょうし。私にとってカルデアは家のようなものですから。案内も大船に乗ったつもりで任せて下さい」

 

 

そう言ったマシュの顔は自信に溢れており。やはり一番のオススメは多くの書物と様々な映像資料を楽しめるライブラリだとか。食堂の料理は定期便で送られており。世界各国の既製品を味わうことが出来るとか。多くのことを教えてくれた。

 

 

「次はシミュレーションルールへ行きましょう」

 

「はい。よろしくお願いします」

 

 

しばらく廊下を歩いていると、マシュが窓の外に目を向けながら話しかけてきた。

 

 

「そういえば先輩、実はカルデアから見える景色が吹雪じゃない日は珍しいんですよ?」

 

「そういえば、パイロットの方もそんな感じのことをおっしゃってましたね」

 

「はい。こんな日は職員の方やマスター候補生の皆さんはどこか、安心したような表情をされることが多いのですが、どうしてなのでしょうか?」

 

 

これは。話題の提供というよりは単純な疑問だろうか。ふと、気になったことを聞いてみた。といった印象を受ける。

 

答えとしては。吹雪は人間にとって生命活動に危機を及ぼす悪天候であり、その脅威がカルデア内の窓全てを埋め尽くして《いない》。という視覚情報からなる本能的な安堵からなのだが。どう言って説明したらいいんだ?「……い」

 

質問からして、マシュは吹雪というものに慣れきっている。初めは雪国の出身なのかと思ったが、だとすれば、吹雪が脅威であると知らないのはおかしい。雪国に住む人々は、寒さによる死が身近にあることを知っているからだ。「……輩」

 

いや、もしマシュが蝶よ花よと大事に育てられた相当な箱入り娘なのだとしたら、それはそれで納得なのだが。だとしたらこんな危険度の高い職場に親が送るだろうか?そういえば、オルガマリーさん。つまりこの施設の所長とずいぶん仲が良さそうだったし、もしかしたらアニムスフィア家の系列なのだろ「先輩!!」

 

 

「うぇ!?」

 

「すみません先輩。いくら呼び掛けても反応がなかったので、大きい声を出して意識の回復を試みたのですが。三度目の挑戦で成功です。ずいぶん考え込まれていましたが、それほどに難しい疑問だったのでしょうか」

 

「いえ、疑問自体はそれほど難しくはないのですが、どう説明したものか考えてまして……なぜ安心した表情をするのか?でしたね。皆さんは単純に、吹雪に馴れていないだけだと思いますよ」

 

「そういえば、ライブラリで調べた資料でも吹雪がここまで長く続く地域は多くありませんでしたね。カルデアには多くの国からエンジニアや魔術師が来られていますし、中には雪自体、見ることが少なかった方もいらっしゃるかもしれません」

 

「そういった馴れの問題の他にも、この施設に緊張やストレスを溜めやすい要素が多いことも関係しているかもしれませんね」

 

 

それを聞いたマシュは少し考えるような仕草をした後、小首をかしげていた。

 

思い当たる節がない。ということだろう。

 

 

「先輩、それはどういったものなのでしょう?」

 

 

例を挙げよう。

 

一つ、施設全体が緊張色である[白]だということ。

人の精神状態は色によって大きく変化するが白は特にストレスを与える色だと言われている。

 

一つ、植物が見当たらないということ

人は生物だ。その起源が自然にある以上、植物があるというだけで、安らぎが生まれることもあるという。

 

一つ、マイルーム以外、職場であること

生活に労働は欠かせないものではあるが、すぐ側にあったら気を休めることも儘ならないだろう。いや、俺が仕事したくないだけかもしれないが。

 

一つ、[魔術師]があふれていること

魔術を使えるということは、容易く命を奪えるということだ。それに加え、魔術師は他者の命を軽んじる傾向がある

 

一つ、[魔術]の秘匿を行わなければならないこと

本来、魔術は秘匿すべきものだ。それは幼い頃からの常識であり、絶対のルールだ。易々とひけらかすものではない。しかし、その魔術こそが戦闘力及び生存確率に直結するとなれば、鍛錬は欠かせないだろう。

 

一つ、所長が若すぎること

多くの国からエンジニアや魔術師を集めた本人、マリスビリー・アニムスフィア氏はもうこの世に居らず。その一人娘、オルガマリー・アニムスフィア元所長がこのカルデアの総責任者だ。しかし、彼女の精神が重責を受け止めるには、未だ経験と自信が足らない。

 

自己肯定感の低さと他者からの不満。双方が合わさったことで、今。彼女の精神は不安定過ぎる。

 

組織のトップに求められることは、明確な実績や多くの人を束ねるカリスマ性だろう。

 

 

「自分でもパッと思い付くだけで結構な数ありますし、纏まった時間が取れる時にしましょうか」

 

「はい。今日は先輩の案内以外の用事はありませんし、自分の世界を広げることは良いことだ。とドクターもよくおっしゃっています」

 

「じゃあ、案内が終わった後でライブラリにでも行きましょうか」

 

「了解です。そろそろシミュレーター室が見えてきますね。仮想エネミーとの戦闘をすることもできます、利用の手続きも含めて試しに練習していきましょう」




仮想エネミー、ね。
魔術道具持ってくんの忘れたな……
身体強化と水晶の形状変化でなんとかなるか


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10話 全力で狩ってしまおう

ステージは森。敵対エネミーの数は十体。魔猪とゴーストが5体ずつです。
それと、所長から「戦闘能力の確認も兼ねている」と、言伝を預かっています。
それでは、開始してください。


眼前に広がる空間の姿が変わっていく。

 

全面が白に塗りつぶされた正方形の部屋から。不規則に多様の樹木が根付く森へと変わっていく。

 

スピーカーから聞こえるのはシミュレーション室の制御担当スタッフの声だ。

ステージが森であったり、敵が魔猪とゴーストなのは、いつもの俺の戦闘スタイルを知るためだろう。

 

 

そうこう考えていると視界は全て森へと変移しており、魔猪が5体、こちらを見て様子を窺っている。

所長からの伝言もあることだし、全力で狩ってしまおう。

 

 

脚部へと強化魔術を施し、魔猪へと接近する。驚愕の表情を浮かべたその目に向かって、手に持った水晶を見せつけるように前に出し。

 

水晶へ魔力を送り、形状変化させる。

 

 

 

 

 

どんな生物だろうと、臓器を鍛えることは出来ない。

 

どれだけ固い鱗に覆われようと。どれだけ強靭な筋肉を鍛え上げようと。内側というのは弱点なのだ。

 

 

眼球も、その例には漏れることはない。

形状変化によって針のように尖った水晶は魔猪の眼球を貫き脳漿に到達する。

内部に入ってしまえばこちらのものだ。水晶に再び魔力を送り、針の先を急激に膨らませると、魔猪は断末魔もそこそこに崩れ落ちた。

 

 

では次だ。

大口を開けて飛びかかってきた猪の口に、許容魔力を越えた小石程の水晶を放り込み。頭蓋を両足で踏みつける。

 

水晶の破裂によって頭が弾けとぶ。

爆発の勢いのまま木の枝に捕まり。敵の位置を探ろうと方々へ視界を巡らせている猪へ直下型ライダーキックを眉間にお見舞いする。

脳震盪の起こしている間に口をこじ開け、今度は水晶を杭のように形状変化させ、口内に突き刺す。

 

いまだに姿を見せないゴーストを釣るためにも、この猪には餌になってもらおう。《死》の匂いに敏感なヤツらなら生命力を楽に吸い取るために群がって来るだろう。

 

足に掛けていた強化魔術を全身に回し猪棒を地面に突き立てる。

すると、強化魔術による光でこちらの位置がばれてしまったようで、残りの猪が突進してくる。

 

 

正面に一匹。左方に一匹。ここに着くのは正面の方が先だろう。素早く目測を終えると、真上に水晶を投げ上げる。

右足を大きく引き下げて、腰を落とす。左手を標準代わりに向け、狙いを定めると、右手で拳骨を作り大きく引き絞る。

 

そして、猪の眉間。落下してきた水晶。左手を直線に正眼で捉えると、左手と入れ替わるように強く出した右手で水晶を振り抜くと共に、強化魔術を水晶に掛け、強度を上げる。

 

強化魔術をかけた全身での一撃は水晶を弾丸の如く打ち出し。猪を貫いた。

 

 

すぐ側まで迫ってきていた最後の一匹の牙を掴んで飛び乗り。耳へと水晶を突き刺し。すぐさま飛び降りる。猪は鼓膜から鼓膜までを直線に貫かれ、慣性の法則にしたがって勢いのまま前方へ崩れて行く。

 

 

これで猪は全て片付けたな。残ってるのはゴーストだけだが、これが一番面倒だ。

ゴースト。正確には魔力によって一時的な器を手に入れた幽霊だが。ヤツらを倒すには手段が限られてくる。

 

例えば。聖水や塩、錫杖といった除霊にまつわるものが挙げられるのだが、手持ちには無い。

 

 

かといって、取れる手段が無いわけではないのだ。好き好んで使うわけでも無いし、他に手があるなら選びはしないが。ごく一部の存在だけが取れる手段がある。

 

ゴーストの霊ではなく、器。魔力に作用することで器を壊し、ゴーストとして存在させなくする方法がある。

 

 

それが俺の場合、魔眼による吸魔で魔力を吸い取ってしまう。というものなのだが、これの反動がいかんせん強すぎる。ただ宿っているのではなく、既に形を持っているモノを強引に奪うことになるのだから当然ではあるのだが。

 

 

取れる手段がある以上、それを使わないで無理ですなんて言えないし、やるしかない。

 

 

嫌だなー、嫌だなーと溢しながらも、先ほどのハンゴロ猪のもとに着くと。五匹のゴーストがうじゃうじゃとまとわりついていた。正直言ってキモい。とっとと終わらせよう。そうしよう。

 

 

そうと決まれば魔眼を起動させるとしよう。

眼を閉じて、眼球へ魔力を送り視力強化を施す。次に眼球の魔術回路を起こし、眼球自体の魔力を全体に行き渡らせ、前準備を終える。

 

眼を開く。平時よりも鮮明な視界。そして、猪の死体から溶け出す淡い光。そしてそれを吸うのは、ベールのような帯を頭に掛けた下半身の無い骸骨。

 

それ自体も淡い光を放っており、それが魔力を帯びていることが解る。………俺には、だが。

 

 

吸魔の魔眼の効果は、実像を結べるほどハッキリと《見える存在》の《保有する魔力》を空気中に溶かし、それを魔眼を通じて《魔術回路に取り込む》だ。その行程に詠唱は必要ない。触媒も、術式すら必要としない。

 

魔眼始動

 

ただ、視られたものは奪われる。

 

 

それだけに、反動は仕方ない、仕方…ない…………

 

 

 

 

 




魔猪5体の無力化につぎ、ゴースト5体の消滅を確認。同時にマスター候補生藤見練の意識消滅を確認しました。
ドクターロマン。至急バイタルチェックに来て下さい。


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11話 男で女という芸術

プシュー、とスライド式のドアが気の抜けた音を出す。正確には、内部機構であろうの気圧式密閉装置が真空状態にあった所へ空気が入ったことによってドアが開くのだから、気の抜けた。ではなく、気の入ったと表現するのが正しいのだろうか?しかし、ここで言う[気の抜けた]とは覇気の無いモノ又は状態を指すがゆえに[気の入った]つまり空気が入った。とは別物であり、そもそも論点からいって比べる事は間違いなのだが。

 

 

 

目の前にモナリザが居て、喋ってるなんて何かの間違いですよねDr。

 

いや、もしかしたら魔眼使用の影響で頭が混乱しているのかもしれない。いや、そうに違いない。これまでは意識は飛んでも幻覚の類いは見なかった。ここはメディカルチェックを受けたら早々にマイルームへ駆け込み、今日から大変お世話になるベッド様に挨拶もかねて昼寝するしかないそうだろう?そうだと言え。

 

 

「こんな美女を目の前にして急激に目が死んでいくなんて、流石に失礼じゃないかな?」

 

「モナリザ?喋って…いや……え?あの、Dr。メディカルチェックを……って、何笑い堪えてるんですか」

 

 

どこか異常でも発生したのかもしれない。そう思いDrへ視線を向けると手で口を押さえ、肩をプルプルと震わせながら耐えていた。

しかも時々フフッとか漏れてる。

 

「アハハハハハハ!」

 

 

もう大声で笑っちゃったよ。ゴスッ。あ、殴られた。籠手で。大丈夫なのか?血とか出てない?あ、魔術で治すのか。え?そういう問題じゃない?

 

でも魔術師ってそういう所あるからなぁ……結果が全てっていうか。道徳は二の次、みたいな。だから嫌いなんだよ一般的な魔術師。

 

一応、俺も藤見家の次期当主な訳で。横とか縦とかの繋がりの場に顔を出すこともある。しかも両親共に魔術師の家系だからその量も二倍だ。

 

親父の付き合いで会合に行ったこともあるし、母さんの護衛でパーティーみたいなのに参加したこともあるけどさ。耳に入ってくる会話の理解出来ねぇもん。

 

姉妹のどちらもに素質があるから養子に出すとか、魔術刻印の継承のために孤児を引き取ったとか。良質な触媒にウン千万払ったとか。

 

とりあえず価値観が俺とは違うってことは解ったけど、関わりたくは無いな。いや、この施設には魔術師だらけらしいし、そんな事は言ってられないのか。

 

「はぁ、気が重い」

 

「ようし、分かった!君にはダヴィンチちゃん特別講義を開いてあげよう!座学と実技、合わせて10科目の全100コマだ!修学した際には私の事を先生と呼んでいることだろう!」

 

ナニソレウラヤマ……いや、何でそういう結論に至ったかは知らないけど、個人的には大助かりだ。なにせ最終学歴は普通科の高校で、魔術に関しては親の見よう見まねか独学か、きちんとした仕組みは理解できてないからな。

 

「これから宜しくお願いします。モナリザ先生」

 

「違うそうじゃない。だけど、自己紹介をしていないこちらにも非はある。改めて、私は天才にして芸術家。万能の人レオナルド・ダ・ヴィンチ。カルデアに召喚されたサーヴァントだ。自分で言うのもあれだけど、上手く出来てるだろう?」

 

 

レオナルド・ダ・ヴィンチといえばモナリザで有名だが。あれは自画像ではないはず。「つーか男だよねダヴィンチ」伝承がうんぬんではなくれっきとした自画像も教科書で見たことがあるはず?

 

「うん、外見はモナリザでも中身はれっきとしたオッサンだyガフッ!

 

「安心するといい、峰打ちだ。さて、早速だけどひとコマ目は君のマイルームへ行くとしよう。どうせ荷ほどきもまだなんだろう?そのついでに、まずは君がどんな人間でどんな魔術を使うのか。それを教えて貰うとしよう」

 

「まさかのマンツーマン。至れり尽くせりですか?」

 

 

 

それにしても、杖で峰打ち。要はフルスイングでは?

 

 



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12話 絶対に阻止しなければ

待って先生!そのトランクは駄目だから!
開けるならこっちにしてください!
冗談でも薄い本でもありませんから!!


部屋に着いた途端にレオナルド・ダ・ヴィンチもとい先生が発した「さぁ、宝探しといこうじゃないか!」という言葉に、俺は尋常ではない危機感を感じた。

 

決して紳士の嗜み的な物証が露になるのではとか、魔術の秘匿とかではない決して。

ただ、危険物の存在を思い出しただけだ。

 

端的に言って浮かれていた。希代の天才、かの有名なダヴィンチに魔術を習うことができる。その奇跡に、その誉れに舞い上がっていたのだ。え?そんな素振りはなかった?

ソンナコトナイヨ、ヒャッホウ!

 

分かりやすく言うとアレだ。

勉強嫌いなあの子が赤点ギリギリでもないのに予習をしてるわ!まぁ!復習まで初めちゃったわ!!

 

みたいな?今まで必要最低限しかやってなかったのにめっちゃやる気出てる感じ。

 

俺の場合は魔眼があったから、「魔術を使えないと魔術師に殺されるぞ?あと、魔力制御がしっかり出来ないとお前の場合ウッカリで人殺しになるんだぞ?」と両親に何度も言い聞かせられて育ったこともあって。

 

必要最低限は魔眼を完全に支配下に置くことと、魔猪位は片手間に倒せる程の技量の習得だった。

 

それが出来るまでは我が家御用達であるガイア眼鏡なる眼鏡をかけ。登下校は麓まで親に担がれて山を越えていた。

徐々に魔術や魔眼の特訓を兼ねながらの登校になっていったから、学校に着いたら既にボロボロの日もあった。

 

そういえば、破けた制服を縫ってくれた女子がいたな。男子より活発で、情に厚くて可愛くて、生活力の高い。ラノベのヒロインみたいな女子。

 

あの子は今、元気にしてるだろうか。笑顔が似合う子だったから、平穏無事に暮らしていて欲しいんだけど。

 

 

いや違う。現実逃避してんじゃねぇよ俺。今は人より自分の心配しないと。

問題はその必要最低限の途中で読み漁った魔術書がギッシリ詰まった段ボール箱や、俺の魔力ストックに使ってる魔術鉱石の入ったトランク。

 

藤見家は他の魔術師みたいな秘匿するべき魔術式みたいなものは魔眼位なものだし見られて困る物はない。

 

だが。魔術書とトランクは駄目だ。いや、魔術書は正直どっちでもいいんだけど。トランクは駄目だ。

 

 

そのなかにはサイコロ状にした鉱石が隙間なく入っており。それらは形状が崩れないギリギリを攻めに攻めた魔力蓄積量の、謂わば魔製手榴弾とも呼べる危険物なのだ。杜撰な管理だと言ってくれて構わない。俺もそう思う。

 

トランクを開き、もし衝撃を与えたなら爆発は爆発を引き起こし、原子爆弾さながらに火力は上昇するだろう。

 

 

絶対に阻止しなければ。

 

 

「先生、今時お宝なんて現物で残しませんよ。だからその強化魔術でガチガチに固めた段ボール箱の解体初めないで下さい」

 

「いいや、最初はそのつもりだったんだけど。この段ボール箱がどうやって梱包されているのか気になってね。凹まないどころか傷ひとつ付きやしない、ガムテープで縛られてもいないし、魔術の痕跡は強化魔術がかかっているだけ。どうやって梱包しているんだい?」

 

 

そういいながら杖でコンコン叩いて見せる先生。叩く場所を変えたり、力を込めてみたりと試しているが段ボールはズリリと動かされるだけでその形を変えない。

 

「その段ボールに鉱石でコーティングしてあるんです、強化魔術は鉱石の方にかけてます。そうすれば中の本が痛むことは無いので」

 

「成る程。段ボールの硬度を上げるのではなく鉱石を利用することで段ボール自体は緩衝材としての役割を失わない訳か。そういえばシミュレーションの戦闘を観たけど、藤見家は宝石魔術を使うのだったかな?そういった話は聞いたこと無いけど」

 

 

よし、話はそれた。まぁ、偶然ではあるけどトランクは無事だろう。

 

「使うのは自分だけです。というより、家族で共通して使う魔術は強化魔術位なものですね」

 

「うん?ちょっと確認させてほしいんだけど。君の家族は何人中何人が魔術を使うんだい?」

 

「?四人全員ですが。それがなにか………あー両親が共に魔術師で、魔術刻印を継承したのは妹です」

 

「え?君が藤見家を継ぐんじゃないのかい?」

 

「当主を継ぐのは自分です。魔眼持ちなので魔術刻印を継承しなくても魔眼の神秘だけで十分ですし。藤見家の魔術刻印は魔眼特効というか、抑止力のようなものなので。第一子が魔眼持ちだったら必ず第二子以降に継承されるんです」

 

もちろん、生まれ持った魔眼のランクが低かったりすれば刻印を継ぐことになっていただろうが。俺が魔術回路を開いて、魔眼を持っていることが分かったのは4歳の頃だったし。その2年後に妹が開いた魔術回路は俺より何本も多かったのだから、両親からすれば俺達兄妹は悩みの種そのものだっただろう。

 

「魔術師の家系は魔術を教えるのは一人だと聞いていたんだが、変わっているのは家系?それとも両親かな?」

 

「どちらもでしょうね。魔眼を持つかどうかを他の家では考慮しないでしょうし、親も魔術師っていうよりは魔術使いの考えに近いですから」

 

「そういえば、オルガマリーが君の両親と話をしてから様子がおかしい、というか面白いことになってたそうだけど。何か心当たりはあるかい?」

 

面白い?そういえば家を出る頃に可笑しなことになってたな。親父の話だと一日目は特に問題なく過ごしたようだし、何かあるとすれば二日目か。

 

確か母さんと妹の部屋で一緒に寝たはず。家に客間は無いし、かといってリビングや物置小屋に客を寝させるわけにはいかないとか言ってた。となると朝のしたくとか結構な間一緒に居ただろう。家の家電は全部俺が魔術道具として作り変えたから、使い方も解らないだろう…し…

 

あれ?神秘の秘匿ってなかったっけ。あった気がする。山が神秘だし目も神秘だから気にしてなかったけど、普通の魔術師からしたら卒倒ものなのでは?

 

「朝起きると、家電が全て魔術道具だった。つまり一家全員魔術師だと気づいて、その上神秘の秘匿について話を聞いたら歩いてきた山が神秘だった」

 

「彼女、ぶっ倒れたんじゃない?」

 




ックシュン!誰かが噂でもしてるのかしら?でもこのカルデアで私の噂なんて、ろくでもないものばかりでしょうけど。……というか、見られて無いわよね?


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13話 謝意の極致、懇願の果て

マスター候補生藤見練。至急所長室へ出頭しなさい。五分以内に入室しなかった場合、相応のペナルティが課せられると思いなさい。


繰り返します。マスター候補生藤見練!さっさと来なさい!食堂をはじめとした全ての館内施設の使用を禁じるわよ!!

 

 

館内のスピーカーから所長の声が響き渡る。怒気が多分に含まれており、とても怖い。正直逃げてしまいたいのだが、そもそもカルデアというオルガマリー家所有の檻の中であり。その食堂が使えないとなると、行く末は残飯処理か餓死。

 

カルデアでの生活を一週間経とうとしており、今日もダヴィンチ先生に授業を受けた後、シミュレーションルームで戦闘訓練をしたのだが。帰ってゴロゴロしようとした矢先に館内放送が流れてきた。

 

なんとしてでも回避せねばと、強化魔術フル活用で所長室へ急行しているのだが。普通に廊下を走っては職員やマスター候補生とぶつかりそうになるので、魔眼を発動させ、魔力を感知することで曲がり角での追突事故を避けている。

 

実家に居たときは周囲の森に魔力が溢れていたので出来なかったが、このカルデア内の空気は神秘を帯びておらず。人や物の魔力を感知することができたのは幸いだった。

 

 

考えてみれば実家がおかしいんだよな。と、所長室にたどり着き。スライドドアが開ききる前にスルリと体を滑り込ませ、そのまま体を膝から順に綺麗に折り畳み。流れを殺さぬまま上半身も床へと伏せ、額を床に付ける。

 

この動きのポイントは相手の機嫌に関係なく、自ら謝罪の意を示すこと。そして見苦しく見えないよう、丁寧且つ慎重に無駄な動きを排した自然な動きをすることだ。

 

何より重要なのは相手の言葉より先に謝罪の言葉を告げること。不満はあるけど一応謝る、なんてものは相手の精神を逆撫でするだけ。自分自身の心からの言葉なのだと思ってもらうためにも先手必勝なのだ。

 

これが出来るかどうかで相手の心情は大きく変わってくる。

 

入った瞬間に所長とマシュ、あと知らない人が一人居たけど気にしてはいけない。羞恥心が襲ってくる前に全力ダッシュで分泌されたアドレナリンに身を任せて一言。

 

 

「すみませんでした!!食堂だけは勘弁してください!何でもしますから!!!」

 

視界は一面床なので所長の表情は窺えないが、前方から魔力の波が襲ってきた。この人感情次第で放出魔力の量変わるんだ、何て考えてるのは現実逃避です。ホント怖い

 

知らない人がいた辺りからズリ、と小さく音がしたのでおそらく半歩後ずさったのだと思われる。まぁ、気持ちは解る。俺もそっち側に立ってたら後ずさりする。

 

けどマシュ。カルデアで生活していく内に、君がわりと天然だってのは解ってきたけど。興味深そうに「これが極東の地日本に伝わる最終謝罪形態。DOGEZAなのですね」とか言うんじゃない。

 

 

泣きたくなるだろ?

 

 




DOGEZAって書くとGOZIRAみたいでカッコいいよね。


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14話 つまりそういうことだ

所長から感じる魔力の流れは収まっては沸き上がり、精神の乱れを感じさせた。マシュが居なかったら危なかった。


長い沈黙を破ったのは所長のため息だった。

 

「はぁ~~~~~~~~~~~~」

 

とても長いため息だった。陰鬱な気持ちがこれでもかと詰め込まれたそれは、貴方も私に悩みの種を持ってくるの?。そう言外に物語っていた。

 

ホントにご迷惑おかけしますすみません。

個人的には、所長みたいな厄介事に巻き込まれる体質の人には少しでも休んで貰いたい。命じられれば何でもするのだが、「貴方のためなら何でもする」と言われてもドン引きというか警戒されるだけだろう。

 

俺の顔がイケメンだったらそこから少女漫画的な物語が始まるのだろうか。いや、道端でぶつかっただけでもラブコメが始まるくらいだから多分始まる。

 

 

「今回、貴方を呼び出したのは貴方の魔眼についてです。戦闘データもいくつか貯まってきたので、改めて貴方自身から詳細を聞くためです。とりあえずそのままの状態で聞きなさい」

 

「了解です」

 

「貴方の戦い方は、奇襲と強襲による臓器破壊を中心とした一撃必殺。それを補う形で我流の武術があり、魔眼は奥の手。そういった見解でいいかしら」

 

「はい。一体のかける時間が多くなるほど囲まれる危険性は高まります。また、半端にダメージを与えることも同様です。しかし、それだけでは足らなかった場合は魔術鉱石を用いてリーチを変動させながらの戦闘に移行し、再び強襲の機会を作ります。魔眼はデメリットがあるので基本的に使わないようにしています」

 

 

魔眼はデメリットが目立つし、反撃を食らいたくないから、最小限の接触で成果を出せる戦闘スタイルになった。

実家に居たときは魔猪に遭遇することも稀では無かったし。洗濯が面倒だから返り血を浴びるなと母さんに愚痴られたことも要因のひとつだ。

最初は魔術鉱石をレインコートみたいに変形させてみようとしたが、当時の俺にはフルアーマーが限界だった。魔術操作も上達してきたし、明日はレインコートに挑戦してみよう。

 

 

「それで、ドアを通るときに目が青白く光っていたように見えたのですが。日常的に使用してるんじゃないでしょうね?最近マシュに貴方の様子を見てもらっていたけど、貴方。魔眼殺しは身に付けないの?視ることで他者に影響を与える魔眼を所持している以上。そう言った物を身に付けることはマナーだと思うのだけど、反論があるなら言ってみなさい」

 

 

ヤバーーイ!魔力の流れが超激しくなってる!台風直撃レベルで大荒れしてる!所長マジギレしてる!

土下座の状態で良かった、顔を上げてたら動揺が即座にバレてた。

「ファルムソローネ、頼みます」

とりあえず魔眼の魔術回路を閉じてこれ以上起こらせないようにしないと…うおっ!?

 

 

「はい。事象・照準固定(シュフェンアウフ)、私はその目が変わる様を見ない!」

 

 

急に顎を手で引っ張り上げられると、そこには右目が輝く美少女が。

 

あ、この人さっき土下座にドン引きした人だな?所長は椅子に座ってるしマシュは若干気まずそうに目を逸らしてるからそうだな。

 

ピントを合わせるわけにはいかないからぼやけて見えるけど、綺麗だな。魔眼の輝きも、顔も。自分でも判るくらい俺の顔真っ赤なんだけど、免疫無いんだから止めてくれない?美少女は全員、童貞特効持ちなんだぞ?

 

 

 

 

それより、さっきから魔眼の魔術回路閉じようとしてるのに全然反応しないんだけど。もしかしてさっきの死刑宣告?

 

 

 

 




勿論童貞だとも、なんなら引きこもりボッチだ。


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15話 死んでしまいます

やっぱり使ってたんですね。先輩の顔が赤いようですが、体調が優れないのでしたら医務室に向かわれた方が良いのではないでしょうか?


マシュが呆れながらも体調の心配をしてくれる。その事に感謝すると共に、申し訳なく感じてしまう。

 

マジギレ所長と見知らぬ美少女。俺のストレスマッハでSAN値がピンチ。発狂しないでいられるのは、間違いなく彼女のお蔭だ。けれどこの赤面は体調不良ではなく、ただ美少女の顔が眼前にあるという、生まれて初めての経験にドギマギしているだけ。

 

優しさが胸を抉るの。女性経験皆無のチキンで申し訳ない。小学生の頃ならこんなに動揺することもなかったはず………いや、単純に好みのタイプとか皆無だっただけですね。フェミニストの極みというか、人類皆友達みたいな無垢がオーバーフローしてただけだわ。

 

目の前にある顔を絶対に見ないよう、瞼を閉じて。次に赤面を押さえるために、今日の戦闘訓練で脳漿をぶちまけた魔猪の姿を鮮明に思い出す。

 

 

………キッモ。ただでさえ魔術鉱石の形状変化に流体操作の魔術と投影魔術を使い続けてるのに、想像なんてするんじゃなかった。無駄に鮮明なのがイメージ出来てしまった。

 

 

「赤面したかと思えば遠い目をして、今度は青ざめるなんて、やっぱり体調が優れないのではないでしょうか?」

 

「いいえ、大方ファルムソローネの顔を見てドギマギして赤面して、現実逃避で昔を思い出して遠い目。最後は無理矢理平常心を保とうとして、赤面とは逆に青ざめるような想像をしたら思った以上だった。というところでしょう」

 

所長が呆れたような、いや呆れてる口調で俺の状態の説明をする。一から十まで合ってるんだけど。

 

「なんでそんな完璧に言い当てられるんですか」

 

 

「貴方の反応がロマニとそっくりだからよ。それとファルムソローネ、もう結構よ。ありがとう」

 

「………いえ、感謝される程の事ではありませんから」

 

 

そう言って美少女はようやく俺の顔から手を離して下がっていった。見つめられていた魔眼の魔術回路がやっと反応して、閉じることが出来た。

 

シュフェンアウフがどう言った意味かは解らないが、彼女の魔眼による影響であることは確からしい。発動してからずっと俺の魔眼を見ていたが、目を逸らしたら効果が消えるような仕組みなのだろうか。

 

家にあった魔眼に関する書類は読み漁ったけど、あんなに綺麗な色になる魔眼は記されてなかったな。そうなると宝石クラスの貴重な魔眼、またはそれ以上になるんだが。

 

 

「それでは、藤見練」

 

「はい」

 

所長の呼び掛けに返事をすると共に速やかに土下座へと移行する。魔眼を使ってたのバレたし、やっぱり食堂は使用禁止なんだろうか。

 

 

「脱線はしましたが、本来。貴方をここに呼んだのは、貴方が持つ魔眼についてです。その効果、発動条件。リスクや、貴方がその魔眼をどのように扱っているか。改めて書類に起こして、後日所長室へ持ってくるように」

 

「了解です」

 

「それと、共同エリアでの魔眼の使用を今後一切禁止します。それと、魔眼殺しは早急に用意して着用するように。食堂等の利用時は必ず着用すること、いいですね?」

 

「はい」

 

「これでもう用件はありません。退室しても結構よ」

 

「了解です」

 

食堂を利用するには魔眼殺しの着用が必要か、最近は魔眼殺しに頼らないで、魔力コントロールで制御してたから。久々にかけるな。

 

カルデアの制服のポケットから、魔眼殺しのレンズを取り出し、魔術鉱石を流体操作と投影魔術を併用してメガネのフレームを形作って着用する。

 

 

「それでは、失礼しました」

 

 

「ちょっと待ちなさい」

 

 

 

 

 




正直、レンズさえ持ってればすぐにかけれるから身に付けてなかっただけで、必要ならかけますとも


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16話 死んでもいいわ

死にたくない、殺してしまいたくない。そんなことを考えて人と接するようになって十数年。魔眼を開眼してからの訓練や修行は、そんなエゴイズムに満ちていた


「その眼鏡は何?もしかして、ずっと持っていたのかしら?」

 

所長の呼び掛けに振り返るととてもイイ笑顔をしていた。青筋が出ており激オコである。弁明しないと危険が危ない

 

 

「わ、我が家の家訓に常在戦場というのがありまして。いつでも戦場にいる心構えで事をなせ。という意味なのですが、両親いわく魔眼殺しを常用は甘え。とのことで、普段から魔眼を手足の様に扱えるよう鍛えるために、魔眼殺しをかけないようにしているんです」

 

所長の顔から怒気が薄れていく、代わりにジト目になったけど。まぁ、聞いてやろう。ということか?

 

 

「加えて、藤見家は代々魔眼を有する人間が多く生まれているのでそれに群がるクズども、もとい魔術師に狙われて来たんです。それに対抗するために、自らも魔術を習得したり山奥に移り住んだ訳です」

 

「あぁ、あの山。濃霧に大幅な気温の変化、磁場の乱れ。まるで迷宮だったわ、聞けば神秘を有していたとか。日本によくそんな場所が今まで残ってたわね」

 

うんざりというか、呆れるような声色で所長がため息混じりに呟く。普段はあまり運動はしないのだろう、思い出すだけで疲れが滲み出る。といった感じだ

 

 

「元はただの山でしたが、認識阻害とか人避けを先祖がかけたらしいです。そこに神秘が宿って、罠は自分が」

 

しまった。所長がすごい睨んできた。そんなに堪えたんですか。制作者としては嬉しい限りです。

 

 

「ま、まぁ、そんなこんなで山に神秘が宿り。魔猪やゴーストが自然発生するようになり。藤見家の人間は狙ってくる魔術師の他に、エネミーとも戦う日々を過ごしてきた訳です」

 

「それでやけに戦い慣れていたのね………?…っ!」

 

所長が我が家に着くまでの間に魔猪に襲われる可能性があったことに気づいてしまった。まぁ、所長達が通ってきた道は魔猪の縄張りから遠いし、大丈夫。

 

 

「そんな、魔術師から狙われ続けた一族としてはこのカルデアはまさに戦場。魔眼殺しなんてかけてられないんです。素材にはなりたくないですし」

 

隣で聞いていたマシュの顔に緊張が走る。ファルムソローネさんは途中で気付いていたか?包帯でしっかりと魔眼を覆っているのは、魔眼の力を抑えるためだと思うが。同情の眼差しで軽く頷いているので、機会があれば魔眼保持者の苦労について愚痴り合いたいものだ。所長は何かを考えているようで、目を伏せ、顎に手をやっている。

 

 

「つまり、カルデアで襲われる可能性が無くなれば良いのね?」

 

「自分から喧嘩売るような真似はしません」

 

根源に興味もないし、そんな時間があったら自分の魔眼の分析でもした方がよっぽど良い。こっちから手を出す理由もないし。

 

 

「所で、貴方のシミュレーション室での戦績だけど、マスター候補生の中でもどのくらいの成果だと認識してるかしら」

 

「は?いや、中頃ですか?…えっと?なんの質問ですか」

 

成績が悪いとか毎日通ってるわりに目に見えた成果が挙がっていないとか、貴方真面目にやってるの?的な確認だろうか。ふと、進捗どうですかとかいうフレーズが頭をよぎった。なんだか無性に嫌な予感がする。

 

 

「今後行われるオーダーではAチームを現地での活動要員とし、カルデアがこれをバックアップ。Aチーム以外のマスター候補生は万一に備えての鍛練やカルデアスタッフとしての勤務。そうロマニから聞いたわよね」

 

「そうですね。また、Aチームのメンバーは既に決定済みで、ファルムソローネさんもその一員だと聞いています」

 

というのも、ダヴィンチ先生から授業を受けているときに魔眼保持者が俺の他にも所属していると言っていたからだ。聞けば魔術搭の学生だったとか、よく生きてたなと思わず溢してしまった程だ。

 

 

「あの、話が見えて来ないんですけど」

 

「ここで話を戻しましょう。貴方の戦績についてよ、まずAチーム以外のマスター候補生。つまり今の貴方と同じ立場の者達ね。この中でも殲滅速度やコストパフォーマンス、魔力の制御力は郡を抜いているわ」

 

……お、おう?誉められたのか?それとも他のマスター候補生の出来が酷いのか、こんなこと言われたこと無いから反応に困る。………取り敢えず頷いておこう。

 

 

「なんて顔してるの、しゃんとなさい!貴方の実力を認めているということよ、そしてそれはAチームにも迫る、いえ戦闘力に限ればトップクラスよ?大体、サーヴァントさえ倒しかねない魔猪を倒すなんてこと自体本来異常なの。そんな貴方に手を出すような身の程知らずはカルデアには居ないわ」

 

それなら一安心。久々に魔眼殺しをかけれるってものだ。家訓はあるが、所長にマナーとして指示されたならかけるべきだろう。魔眼の制御に回してた意識を他の事にも使える分、より細かな造形を魔術鉱石で出来るかもしれない。

 

 

………つーか誉められてました?誉められましたか?俺としては死にたくなかっただけで、ただの結果だが。こうして認められるのは初めてだけど悪くない、むしろ良い。死んでもいいわ?いや良くない。口元は弛んでくるし、何なら泣きそう。一生貴女に就いていきます。どんな仕事でも任せてください

 

 

「あの、先輩の戦績は多くの方々が閲覧なさっていて。他のマスター候補生の方の参考や刺激になっているとドクターが仰っていました。無茶な体の動かし方をするから湿布の補充が間に合わないとも、嘆いておられましたが」

 

「…Aチームでも時折話題に挙がるわ。ペペが楽しげに話すものだから、少なくとも皆名前は知ってると思うわよ。私自身、興味がないわけではないもの」

 

 

所長の言葉にマシュ、ファルムソローネさんが続く。さらっと言ったけど戦績の閲覧ってなに?そんな話聞いてないよ?体の動かし方ってことは全部動画に納められてたの?俺の場合は単純な魔術しか使ってないけど、そんな事したら解析される奴居るんじゃないの?あと、ファルムソローネさんは思わせ振りな言い方しないでくれます?ドキがムネムネしちゃうでしょ?

 

 

「誤解の無いように言っておくけれど、戦績の開示がされているのはレオナルドが許可を出した者だけよ。本来なら当人の許可も取るのだけど、貴方の場合は……何も説明が無かったのね」

 

「結果としてカルデアで襲われる事は無いだろうって分かったんですけど………釈然としませんね?」

 

感謝すべきだとは思うんだけど、こう。やっぱり一言くらい言ってくれても良かったんじゃないかなぁ?

 

「…まぁ、一言くらい文句を言っても良いんじゃないかしら。話は以上よ。魔眼についての報告書、魔眼殺しの着用。忘れないようにすること、良いわね」

 

「了解です」

 

 

所長から許しも出たし、早速明日の講義で問い詰めよう

 

 

 

 

 




あ、忘れてた。てへっ☆

許した


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17話 [吸魔の魔眼](仮称)の考察

当報告書は魔眼保持者[藤見練]以下甲とするの提案、協力の下。実験、実証を重ねたものである。
尚、甲に発現した魔眼の性質上、被験者の必要性があることから英霊[レオナルド・ダ・ヴィンチ]以下乙とするに協力を要請。快諾の下研究に移った事をここに記す


前提として、魔眼とは視覚によって世界を写し脳へ情報を与える、つまり影響することが転じ、視覚によって情報を世界に与える魔術である。

また、人工的に生産したものと自然的に発現したものでは明確な違いがある。後者では魔眼自体に魔術回路が備わっており、保持者の意識とは無関係に術式が発動する恐れがある一方で、扱いに卓越すれば魔眼の持つ魔術回路まで自らの魔術回路として行使することが出来る。

 

実験対象甲からの聴取により、甲の保有する魔眼は後者、自然的に発現したものであり。既に魔眼の魔術回路を行使出来る事が判明した。

 

また、計測器で魔術回路の数を測定したところ甲自身の魔術回路が16、魔眼の保有する魔術回路が左右合わせて12であり、甲は計28本の魔術回路を有している事が判明した。

 

この事から、甲が以前より魔眼を発動した際における副作用と思われる激痛は、吸引口である魔眼と容器である肉体を比べた時、魔力の許容保有量に大きな差分が無いことから。肉体の魔術回路の保有量が許容範囲を越えた事が原因だと推測できる。

 

そこで、甲の肉体の魔術回路の残存魔力量を極限まで使いきった後、乙に対し魔眼を発動したところ、魔術回路に軽度の損傷、肉体疲労が見られたが、それ以上の被害は見受けられなかった。

 

この事から、推測は正しかったと言える。

 

しかし、甲が魔力を蓄積させた魔術鉱石に対し同様の実験をしたところ、一切の損害を出さなかったことから、

 

甲が魔眼を発動したことによって生じる痛みとは。

自らの魔力と異なる性質の魔力を吸収すると拒否反応が起こり、魔術回路に損害を与えること。そして許容量を越えようが、自然には吸収が収まらないことによる供給多過が原因だと思われる。

 

しかし吸収する魔力が自らの保有する魔力と同質だった場合、消費量を補うかのように許容保有量限界で魔眼による吸収が停止した。

 

この事から甲には大規模魔術の行使の際、魔力供給等を目的とする登用で成果が期待できる。

また、甲の戦闘スタイルとの相性も良く。敵性体との接触時のみ強度魔術を施し、必要性が無くなれば武具に送った魔力を吸収する。魔眼を発動することで長時間連戦することが可能であると思われる。

 

 

 

甲の保有する魔眼、吸魔の魔眼(仮称)の発動対象は甲の申告から[実像をとらえることが出来る物体]だということが判明しているが、より細かな発動対象の解明のため、幾つか実験を行った。

 

 

実験対象①魔猪の血液

対象が液体であっても可能であるか、また、流体となっても発動可能であるかの実験。視認できる固体ではないもので、魔力を帯びたものであるため採用

 

実験対象②イフリート

プラズマ体であっても発動可能であるかの実験。火属性の魔力で構成された敵性体であるため、魔眼の発動対象外だった場合の懸念はあったが、乙の指導により甲がガンドを習得したため採用

 

実験対象③乙が射出する魔力弾

実体を持たないが高濃度のため存在を確認することが可能なため採用

 

 

 

 

結果、実体対象①のみに魔眼の発動が確認された。

 

しかし、飛沫や霧状になると発動出来なかった事から、発動には甲が個体として認識する必要性があると考えられる。実際、血液を幾つかのコップに分けたところ、最大で4ヶ所同時に発動が確認された。

また、対象のサイズは約1㎝以上で発動が確認出来た。対象が小さくなると確認は出来てもハッキリと視認することが出来なかったために発動しなかったと思われる。

 

実験対象②については物体を持たないことに加え周囲が高熱による陽炎によって揺らいでいた事が原因により、視認することが出来なかったのだと推測できる。

 

実験対象③では射出された魔力弾は実験対象②同様に視認することが出来なかったため発動しなかった。

しかし、魔力弾を射出する直前の乙の腕部に集積した魔力の吸収に成功した事からサーヴァントに対して魔眼が適用されることが判明した。

 

 

今回の実験により、当カルデアにとって未知数だった、吸魔の魔眼についての貴重な実証データを得ることが出来た。

 

今後も定期的に実験を行い、更なるデータを集める方針ではいるが、このレポートは決して外部に漏れることなく厳重に保管することが重要であると思われる。

 

よってムネーモシュネーにのみ記録し、閲覧権限をAチーム含むグランドオーダーの主要各員にのみ与えることをここに提言する。

 

 

 




当然よ。こんな規格外な性能、時計塔に知られたら代行者が飛んできても可笑しくないわ。それよりも気になるのは、いままでその時計塔の目を掻い潜ってきた存在をなぜ前所長は知っていたのかしら。いえ、あんな子もいるんだもの。そんな事気にしてたらきりがないわ。

さて!次のお茶会はきっと賑やかになるわね!私も気合い入れなくちゃ、死人を出すわけにはいかないものね~


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18話 少女

この現代社会で最も希有で美しいものはなんだと思う?100カラットのダイヤ?大自然の絶景?100万$の夜景?いや、違うね。



無垢な善性さ


それは人間を知らなかった。

 

 

無関心を、醜さを、嘘を、脆弱さを。

 

愛を、美しさを、真実を、力強さを。

 

知らなかった。知らされなかった。

 

檻の外を知らない小鳥のようだった。

 

 

器となるには無色でなければならない。

染まるモノで居なければならない。

人工生命では耐えられる強度を持ち合わせていない。

只の人では運命力が、素質が無い。

 

 

魔術師とは、倫理と常識を、命と野心で打ち砕くものだ。故に、無いモノを作り出そうとするのは当然の帰結だった。

 

失敗と時間、命を礎に人形は生まれた。

とはいえ、その組成はヒトのそれに近しく、真たる目的である器となるには時間を有した。

 

人形には箱が宛がわれた。異変はないか、失敗作ではないか。常に状況を確認するため、一つの面にはガラス越しに人形を観察する白衣の大人が並び。蓋の四隅には目が付いている………人形とベッドだけが入っている、全て白い色をした箱だ。

 

コミュニケーション能力や基礎学力が無ければ器としての役割を果たせないかもしれない。そういった理由で、人形には教育が施された。らしい

 

 

 

 

 

 

らしい。というのは聞いた話だからだ。俺がこの施設に来て、Aチームとしての権限やら、俺を雇った雇用主との世間話やらで集めた断片的な情報でしかなかったが、知れば知るほど俺は興味を抱いていった。

 

そんな中、俺の雇用主。マリスビリーが消息を断ち、その娘、オルガマリーが所長に据えられた。実力ではキリシュタリアに劣り、人徳でロマニに劣る。

お飾りって訳だ。

 

そんなティアラよろしく見てくれだけの所長だが、前所長、つまり実父の研究成果である少女に対して、ひどく怯えているそうだ。

 

何でも。恨まれているだとか、殺そうと思ってるに違いないだとか、律儀にも罪悪感を感じているらしい。やっぱ魔術師向いてねぇよあの嬢ちゃん。

 

ほっといたら「殺される前に私が殺す」とか言い出しそうだったんで、ペペやロマニに軽く匂わせたら速攻メンタルケアしてやんの。「やっぱり、笑顔が一番よねぇ」なんてペペは言っていたが。まさか、部屋を飛び出していった先で本人に泣きながら謝罪するとは思わなかったろう。

 

「やだ、あたしの上司情熱的」とはよく言ったもので、その話をペペから聞かされたAチームの面々の反応は多少の違いこそあれど、似たり寄ったりなものだった。

 

そんなのでこれから先大丈夫かよってな

 

まぁ、そんな経緯を経て。少女は晴れてAチームの補佐役となったわけだ。

 

 

製作秘話を聞いたときは、どれだけ狂ってんだって笑いだしたが、まさかここまで歪なものが俺と同じ時代を生きてたなんて思いもよらなかった。

 

どんなモノなのか無菌室に行ったとき。

一目見たときから、俺はずっと想ってたんだ。

 

この娘は俺にとって特別で、大切にしなくちゃって。だから誰にも傷付けさせない。絶対に死なせない。

 

 

 

それは、俺の、■■だった。




俺がマトモだなんて微塵も思ったことはなかったが、まさかこんな俺にも■■なんてものが備わっているとは。それこそ気狂いでも起こしたかと思ったが、この熱が、この欲が、何よりの証明ってやつなんだろ。じゃあ、しょうがないよな


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