ストライク・ザ・ブラッド 誓いの光の巨人 (カラムイラス)
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序章 光の継承

久しぶりの投稿です。週一投稿とつたない文章になりますが暖かい目で見守ってくれると幸いです。


俺の名前は暁光牙。父親は死都帰りと呼ばれる考古学者。暁牙城。母親はどこかの誰か。そんな俺には母親が違い、年が十離れている兄妹がいる。一人は暁古城。どこか父、牙城に似た風貌をしていて、怠惰な性格の今年で十六になる俺の弟。何の因果か今年の春を境に最強の吸血鬼と言われる第四真祖とか呼ばれる存在に成ってしまった。もう一人は暁凪沙。この子は兄とは違い、とてもかしましい娘だ。誰とでも仲良く出来、仲良くなった者にはマシンガントークを繰り出す。それでいて今は失っているが、祖母の巫女の力と彼らの母、暁深森の過適応者(ハイパーアダフター)のどちらの素養も持つ混成能力者(ハイブリット)であるという割とハイスペックな少女である。今考えると凄い事である。弟は世界最強の吸血鬼である第四真祖。妹は力を失っているとはいえ混成能力者。義理の母親は過適応者。父も昔の遺跡事故の弊害でそれらしき力を持っている。そんな特殊能力者ばかりの我が家族の中で俺一人だけ何の力を持っていない言っても誰も信じないだろう。事実俺にもそういう力はある。

 

 

 

 

 約十三年前。古城がまだ三歳の頃、俺は父、牙城の仕事である遺跡の調査の手伝いをしていた。そこは比較的安全な遺跡だった為、俺は一人で深部にまで潜った。しかしそこで運命の悪戯が起きたのだ。なんと俺が深部に潜っているその時に遺跡の近くを震源とする大地震が起こった。もちろん遺跡は崩落。通路は遮断。俺は深部に取り残された。あのときはさすがに死を覚悟した。幸い怪我は軽傷で済んだが、俺の現状は変わらないまま。非常食も持たないままそこに向った為、食べるものはなし。持っていた連絡機器は瓦礫に潰され、ご臨終。俺は壊れなかった懐中電灯を片手に俺は暗闇の中ただ助けが来るのを待った。しかし人間は動かない状態が続くと嫌なことばかり考える生き物。どうにかして動こうと考えた。まずはどうにかして瓦礫を取り除こうかと考えた。が、下手に触って二次被害に遭うかもしれないと思い立った。しかしどうにかして動いていないと変な考えが頭をよぎってしまう。どうした物かと頭を使っていた。

 

『ここに来たまえ。若き命よ』

 

 突然そんな声が頭に響く。遂におかしくなったかと急激に冷や汗を掻いた記憶が今でも残っている。どうにかしてこの状況を打開しようと頭を必死で動かす。

 

『ここに来たまえ。若き命よ』

 

 そうしようと考えた時、再び頭に謎の声が響いた。

 

「まさか。幻聴じゃないのか?」

 

 俺は言葉と共に深部に続く、ふさがれていない道に目を向けた。

 

「お前の所に向って何があるか知らないが。もしかしたら俺以外にも巻き込まれた奴が居るかもしれないしな」

 

 彼は言い訳がましく、一人ごとを呟くと、その道を歩き始めた。明かり一つ無い暗闇を頼りない懐中電灯の光だけで進んでいく。気持ちだけなら冒険家だが、状況が状況なだけに楽しい気持ちでは無かった。何分歩いたか分からない中、俺はある者を発見した。それは遠くに見える小さな光だった。それを見たとき、気持ちが少しだけ落ち着いたのを覚えている。

 

「ここは・・・」

 

 光が見えた所まで足を進めると、そこには祭壇らしき物があった。祭壇の周りは炎が灯されて居たため、それなりに明るい場所だった。

 

「こんなところがあるなんて。聞いてないぞ、クソ親父」

 

 内心、心を高揚させていたが、口ではあの父親への罵倒を口にしている。

 

「・・・・。どうやらここはそんなに被害は受けていないみたいだな」

 

 部屋を見渡し、先程の自身による被害が無い事を確認為ると、俺は壁に体重を預けながら腰を下ろした。正直体力の限界だったのだ。

 

「ここなら、安全そうだし。ここで救助を待つのも手だよな」

 

 俺は疲れた体で振り絞るように独り言を呟くと、そのまま眠りに落ちた。その時の夢は今でも覚えている。何せ俺とウルトラマンとの邂逅だったのだから。

 

 

 

 

「ん、ん? ここはどこだ?」

 

 俺はさっきまで妙に明るい祭壇の前に居たはずだぞ? それなのにここはどこだ。

 

「ここは私の意識の中だ。暁光牙よ」

 

 突然名を呼ばれた。しかも知らない声で。俺は慌てて、声のする方に顔を向ける。しかしそこには誰も居ない。

 

「上を見たまえ。暁光牙」

 

 異適された通り、俺は上をみる。

 

「うおおおお!」

 

 思わず驚愕の声を上げた。なぜならそこには銀色に輝く、光の巨人が居たのだから。

 

「でけえ!」

 

 そう叫ばずには居られなかった。なぜなら、この巨人の身長は見積もっても五十メートル以上。ビル並みの高さを誇っている。

 

「その反応。久しぶりだ」

 

 巨人は愉快そうに声だけ笑っていた。顔には変化が無いが。

 

「この声! お前が俺を呼んでいたのか?」

 

「いかにもその通りだ。暁光牙よ」

 

 俺の問いかけに答えるように彼は頷いた。

 

「何故、俺の名前を?」

 

「君を私の意識の中に飛ばす際に、君の記憶を見させて貰った」

 

「盗み見じゃねえか!」

 

 そう叫ばずにはいられなかった。それに対して、巨人は反省してる素振りを見せた。

 

「すまない。しかし、君には伝えておきたい事があったのだ」

 

「俺に聞きたい事? なんだそれは」

 

 どうやら少し焦った様子の巨人の声に俺はまず耳を貸すことにした。

 

「まず、私の自己紹介から始めるとしよう。私の名はアイン。ウルトラマンアインという」

 

「ウルトラマン? なんだそれは」

 

 俺のその返しにアインは笑って返してくれた。

 

「君が知らないのは無理は無い。何せ、ウルトラマンというのは異世界での私のオリジナルの名称だからね」

 

 そこから彼は語り初めてくれた。

 

「私は元々古代の人間。いや、君たちの言うところの天部の一人だった」

 

「天部って、親父が調べてる事か?」

 

「その認識であっている。話を続けるとしよう」

 

 彼がそう言うと、その空間の景色がいきなり変わった。そこはどこか森林のようだった。見渡していても、木しかない。そんな誰かの視線が突然上を向いた。そこにいたのは・・・・

 

「ウルトラマン。と、あれは何だ?」

 

 その光景はウルトラマンと魔獣らしき存在が組み合っている姿だった。

 

「これが私が初めて見た、ウルトラマンと怪獣の戦いだ」

 

「怪獣?」

 

 それを聞いている内に怪獣はウルトラマンに倒された。すぐに飛び立とうとするウルトラマンに世戦の主は声をかけた。

 

『待ってくれ! 銀色の巨人よ!』

 

 その声は先程から聞いている物と同じ物だった。その声は彼に訴えかけるように叫んだ。

 

『私に君の遺伝子をくれないか? 私も君のように戦いたい』

 

 その問いかけに彼は驚いた様子だったが、すぐに首を振った。視線の主はその拒否の理由にすぐに気付いた。

 

『今の我々には、まだ早いというのか』

 

 振り絞るようなその小さな声に彼はただ、頷いた。それを眺めた視線の主は再び彼に問うた。

 

『ならばどうしたら、貴方のようになれるのだ!』

 

 最後の問いかけになると言うことはなんとなく分かっていた。彼の胸に輝く物が激しく音を立てて点滅をしていたから。しかし彼は答えてくれた。

 

『君が力に溺れず、力の使い所を間違わない人間であるならば、いずれ君にも力が宿るだろう』

 

 彼はそれだけ伝えると、空に飛び出した。

 

 映像が終わった。アインは話し出す。

 

「私はそれから彼に言われた通りの人間になろうと決めた。そして、彼らの研究を始めた」

 

 再び映像が始める。

 

 そこには先程のウルトラマンとは違い、紅い体の戦士がいた。彼は頭にある曲線状のとさかのような物を頭から外し、怪獣に投げつけた。それはまるで刃物のように怪獣を切り裂き、ブーメランのように彼の頭部に戻ってきた。怪獣は爆発して、彼は空に飛んでいった。

 

 映像が変わる。そこには最初のウルトラマンと似た戦士がいた。しかし、体の模様が違う。彼は敵に向い、左腕に嵌めてあったブレスレットを投げつける。すつとブレスレットは槍へと形を変え、怪獣の胸部を貫く。怪獣はその場に倒れ、爆発を起こした。

 

 再び、映像は変わる。そこには頭のとさか部分に穴の開いた戦士がいた。彼は両手をクロスさせ、それを縦に勢いよく開く。すると、その軌跡上に光の刃が現れ、敵を真っ二つにした。怪獣は切られた断面から炎上を始め、最後には爆発した。

 

 そこで映像は終わった。

 

「私は彼らを研究し、時には彼らを助けた。そんな事を繰り返していった時だ。突然紅い玉が私に降ってきた」

 

 そこからここの景色がまた変わった。辺り一面、赤くなっていた。

 

『私の名はゾフィー。異世界の宇宙にて、宇宙警備隊の隊長をしている者だ。君の話は兄弟から聞いた。そして、私は感じたのだ。君になら、私達の力を授けてもいいと』

 

「私は内心嬉しかった。しかしそれと同時に不安にも成ったのだ。私は彼らと同じ、正義の味方でいられるのだろうか、と。私はそのことをゾフィーに話した。すると彼はこう言ってくれたのだ」

 

『君がそう悩むのは君が誰よりも力の危うさを理解しているからだ。そして、私は信じている。君ならウルトラマンになれると。そのためにこれを渡したい」

 

「その時渡されたのが、アインダガーとウルトラメダルと怪獣メダルだった」

 

『そのメダルで君はウルトラマンになれる」

 

『何故、怪獣メダルも』

 

『これからこの地球で起こることはウルトラマンの力だけでは対応出来ない。だから君にはウルトラマンの力と怪獣の力を両方持つウルトラ戦士になって貰いたい』

 

『これから起きること?』

 

 彼の呟きにゾフィーは頷き、説明を始めた。

 

『地球の闇が活性化を始めている。憶測の範囲を出ないが、おそらくとてつもない怪獣が出るだろう。しかし、私達兄弟はこちらになかなか来れない。そこで私達は君にウルトラマンになってもらうという特例を出した』

 

『そうですか』

 

 彼は噛みしめるように手元のアインダガーを見つめる。

 

『さあ、変身してみた前。新たなウルトラマンよ。君の名はアイン。ウルトラマンアインだ』

 

 彼の言葉に従うように彼はアインダガーにウルトラメダルと怪獣メダルを柄尻の挿入口から入れ、天に掲げた。すると、刀身が伸び、そこから光があふれ出し、彼の体を巨大化させた。

 

『新たなウルトラ戦士よ。地球は頼んだぞ』

 

「ゾフィーはそれを言うと、再び赤い玉になって帰って行った。そして彼が帰った後、彼の言葉真実である事が分かった」

 

 映像が真っ黒くなった。その中心には何やら生物がいたが黒い靄が掛かっていたため、詳細は確認出来ない。

 

「これが地球の闇」

 

「そうだ。名前は星死怪獣デスエンド。奴はこの地球で息を顰めていた。だが、頃合いと悟ったかのように姿を現し、地球を死の星に変えようとした」

 

 映像にアインが出てきた。彼は光を纏ったまま彼と戦い始める。

 

「私は戦った。奴を倒す為に。しかし・・・」

 

 彼が言いよどむと共に映像内でアインが窮地に立たされた。

 

「私は私では奴を倒し切れないと悟り、奴を封印した」

 

 映像内ではデスエンドは地中に戻っていった。そのすぐ後、アインは光の塵となって姿を消した。

 

「私は奴の封印に成功した。しかし私自身が消耗してしまった。そこで私は考えた。自分を封印し、デスエンドが出現の兆しを見せたら再び姿を露わそうと」

 

 彼はそう言うと映像が消えた。

 

「それと俺に姿を現したのは何か関係があるのかよ」

 

 俺は少しいら付いたように彼に声をかけた。

 

「君は死にかけていたんだよ」

 

 彼の言葉に俺は目を見開くのを感じられた。

 

「本来なら、君の体は今。あの瓦礫の中だ」

 

「おい、待てよ。だとすると、祭壇まで歩いていたのは何だったんだ?」

 

「君の魂だね」

 

「懐中電灯を俺は持てた。それは何だって言うんだ」

 

「思い出してみたまえ。この遺跡には電灯があった。懐中電灯は必要無いはずだ」

 

 俺はよくよく思い出していた。すると指摘通り、この遺跡の天井には電灯があった。本来なら懐中電灯がいらないほど明るいはずなのだ。それなのに俺は懐中電灯を持っていた。

 

「どういうことだ」

 

「私の光だよ」

 

 その言葉を聞いて俺は勢いよく彼の顔に目を向けた。

 

「私がその光を遠隔操作して君の元に届けた。そしてそれを懐中電灯に見えるようにした。それだけのことさ」

 

 彼はそう言うと、両膝を地に着けた。

 

「私は君の命が惜しかった。しかし君の命の火はとっくに消えてしまっている。だから私は決めたのだ」

 

 アインは一差し指を俺の胸元まで近づけた。

 

「君に私の命を遣ろう」

 

 その言葉にはさすがに唖然とするしか無い。なぜなら、自分は死んだという自覚が俺には無いのだから。それにもし本当に死んでいるのだとしたら俺はそれを受け入れる。

 

「そんな事、しなくていい。もし俺が死んでいるのだとしたら。俺はそれを受け入れる。それにあんた。デスエンドを倒すんじゃ無いのかよ!」

 

 俺は必死で叫ぶ。すると彼はゆっくりと首を振った。

 

「いいんだ。君は若い。まだ死ぬときじゃない。それに私もウルトラマンだ。目の前で命の危機に瀕している者を助け無いでウルトラマンは名乗れない。私が知っている彼らはきっと私と同じ行動を取るだろ」

 

「デスエンドはどうすんだよ」

 

 俺の言葉に彼は少し考えるように黙り混んだ。

 

「力は残しておくよ。必要になったときに私と同じ心を持つ者の手に渡るように」

 

 ここまで来て俺は悟った。彼は本気なのだと。本気で俺に命を与え、本気で彼と同じように正義感を持つ者が現れる事を信じているのだと。

 

「だったら俺にその力を寄越せよ」

 

 気がついたらそんな事を口走っていた。

 

「俺があんたの使命、引き継いでやる。だからその力っていうの。寄越せ!」

 

 俺は力いっぱいに彼に叫んだ。すると彼は一瞬笑ったような気がした。

 

「良いだろう。君には私の全てを遣ろう。その代わり、約束してくれ。決して力に溺れないと。自身が持つ力に疑問を持ってくれ。そして、たとえなんと言われようとも。守った者に裏切られようとも。人々を守るヒーローでいてくれ。これが君に力を渡す条件だ。誓えるかね?」

 

「誓ってやるさ! 俺はあんたの意志を継いでウルトラマンになるんだ!」

 

 瞬間、俺の手が輝き出した。

 

「これでお別れだ。暁光牙。最後に君に力を渡せて良かった」

 

 彼はそれを言うと、光の粒子となっていった。

 

「最後にこれだけ言っておこう。君の未来は明るさで満ちている」

 

 それだけ言うと彼の粒子は俺の中に入っていった。

 

 

 

 

 

 目を覚ますとそこは知らない天井だった。

 

「俺は・・・起きたのか」

 

「ああ、そうだ」

 

 俺の独り言に答えるように寝台の横に備え付けられた椅子に座った男が答えた。

 

「クソ親父」

 

 俺がそう言うと、クソ親父、暁牙城は呆れた顔をして立ち上がり、拳を振り上げた。

 

「痛っ!」

 

 その拳は俺の頭に直撃した。俺は起き上がり、痛そうに頭をさすりながら抗議の目を親父に向けた。

 

「瓦礫の中から救出されて、目を覚まして最初の言葉がクソ親父とは。お前も曲がっているね。あんまり期待していなかったが、せめてお父さんと呼んでくれると思っていたんだが」

 

「あんたに向ってそんな気持ち悪いこといえるか」

 

 俺は溜息を吐き、窓から外を見た。

 

「助かったんだな」

 

「そうだな。しかし、あんな崩落現場からがれきの下敷きになりながら生きて生還する所はさすがは俺の息子ってところか」

 

 親父はそんな思ってもいない事を思いながら徐ろに布団の上に物を置いた。

 

「お前に何があったのかは知らないが、お前が救出されたとき後生大事そうに持っていた物だ」

 

 置かれたのはアインダガーとウルトラメダルと怪獣メダル数種枚だった。

 

「悪いが、親父。少しの間だけ俺を一人にしてくれ」

 

 俺の言葉に親父は黙って従い、病室から出て行った。

 

「アイン。俺はやり遂げるぞ。必ず奴を倒して見せる。お前に貰ったこの命でお前に誓った事を守りながら。いつか、必ず。だからそこから見ていてくれよ」

 

 これが俺が力を手にした経緯。俺は彼の意志を受け継ぎ、ウルトラマンになった。




補足 この世界に来たウルトラマン達は皆、怪獣を追って次元を超えてやってきています。


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1話 海底にて

 短いです。


 絃神島の西方40キロメートル海底。そこでは怪獣とウルトラマンが死闘を繰り広げていた。

 怪獣は右腕に巨大なハサミ。左腕に鞭を持っており、中距離・近距離の射程を持っている。怪獣は近づくウルトラマンに鞭を打ち付ける。

 

「ヴィア!」

 

 それにはウルトラマンも悲鳴を上げる。怪獣は

 彼に続けざまにその攻撃をくり返す。しかしウルトラマンもただ遣られている訳じゃ無い。四回目の打ち付けの時、彼は鞭を掴む。この対応には怪獣も驚いた様子だった。 彼は鞭を手綱のように引っ張り、怪獣をこちらに引き寄せている。

 

「ヴィーーアー!」

 

 ウルトラマンは怪獣を引き寄せ終わると手に作った光輪で鞭を切った。

 

「ギュアアア!」

 

 怪獣は悲鳴をあげるもすぐに右腕のハサミをウルトラマン目がけて振るう。しかし、それは彼のバク転をしながらの後退によって避けられる。怪獣はめげずに彼に近づこうと勇み足で、彼を追う。ウルトラマンは無為に後退を止め、怪獣の迎撃に入った。

 

「ギュリュヤ!」

 

「ヴィア!」

 

 怪獣を再び、ウルトラマンに向けハサミを振るう。しかしその攻撃は先程切られた左腕の鞭によってふさがれる。彼はすぐに鞭でハサミを開かないように縛った。ここからは完全なウルトラマンのターンだった。彼は怪獣の胴体に蹴りを入れる。怪獣はその衝撃に耐えられず、後ろに吹き飛んだ。

 

「ギュアアアアアア!」

 

 怪獣は海底に転ぶ。しかし追撃は終わらない。ウルトラマンは怪獣に覆い被さり、胴体に攻撃を続ける。パンチだチョップだのを繰り出す。しかしこの怪獣はそれでは終わらなかった。突如口を開き、衝撃波をウルトラマンに食らわせる。怪獣に覆い被さっていた彼はまともにそれを受けてしまい、飛び退いた。怪獣はその隙に立ち上がり、ハサミを縛っていた鞭を口でかみ切った。それを振りかざし、ウルトラマンに攻撃する。

 

「ヴィアアア!」

 

 今度は直撃した。何故ならウルトラマンは先程の衝撃波のダメージから立ち直ってはいなかったから。しばらくウルトラマンは攻撃を食らい続ける。そこに追い打ちのように再び衝撃波を浴びせようとする。すると、彼はそのタイミングを待っていたように顎にパンチを食らわし、自身の口の中で爆発させるように仕組んだ。

 

「ギュリャヤヤヤヤ!」

 

 その戦法は見事に成功し、怪獣は自信にダメージを負う。そこでウルトラマンのカラータイマーが点滅し始めた。彼は勝負を付けるかのように必殺技を繰り出す。

 両腕を胸の前で掲げる。すると両腕が突如放電を始めた。彼はそれは腹の前まで下ろして、腕を交差させる。そのあと、両腕で半円を作るように回し、腕を広げる。そのまま自身の体の前で腕を十字にクロスさせた。すると、そこから光線が怪獣目がけて発射された。照射は数秒続き、徐々に怪獣の体が赤く膨張を始める。その数秒後、怪獣は海底で爆散した。ウルトラマンはそれを見届けると、腕を解いて海上へと飛び立った。

 

 

 

 

 

 俺は先程まで海底にて、ウルトラマンとなって戦っていた。ウルトラマンとしての俺の名前はアイン。あいつの意志を継ぐためにそのまま名乗らせて貰っている。そんな俺は戦った場所より割と近くにある島にいた。

 ここは絃神島。東京より南方海上330キロメートル付近にある島。カーボンファイバーと樹脂と金属と魔術によって作られた人工島。別名「魔族特区」。この島は絶滅寸前の魔族の保護と研究の為に作られた島だ。島は東西南北と中央のギガフロートによって構成されている。そんな俺は今、南方の島、アイランドサウスの大通りの路地裏でビルの壁に体重を預けていた。

 

「ギリギリだった」

 

 俺がそれを口にしたのには理由がある。なぜなら俺がウルトラマンに変身できる時間は三分。それ以上は勝手に変身が解けてしまう。そして今日戦った場所は海底。今の俺なら死なないが、それでも人間の姿で海底から脱出するのは苦労する。そのため、俺は今日。それなりに急いで決着を付けた。それでも正直ギリギリだった。

 

「随分と消耗しているな。木偶の坊」

 

 突然声をかけられ、俺はその方向に顔を向ける。そこには常夏の島に似つかわないフリル付きのドレスを身に纏う少女の姿があった。

 

「うるさいぞ。チビ。こっちの戦いに口出しするな」

 

 俺が息絶え絶えの声で抗議すると、彼女はこちらに近づく。

 

「今回はどこまで近づかれた?」

 

「40キロだ。これまでで一番近い。目的は竜脈の力だな。どう考えても」

 

 この島は竜脈が複数重なる場所の上にある。設計者である絃神千羅は竜脈の力でこの島を維持する設計をした。そのためか、竜脈の力を求める怪獣もこの島に近づいてくる。

 

「お前だけであと、どれくらい対応出来る?」

 

「っ!」

 

 不意に聞かれたその質問に俺は答えを詰まらせる。

 

「一生だ。俺を舐めるなよ。クソチビ。俺の使命は怪獣の脅威から人々を守ることだからな。それに俺は弟と同じで死なないからな」

 

 俺は不意に立ち上がり、大通りに出ようと立ち上がる。

 

「じゃあな、チビ」

 

「私をチビと呼ぶな。木偶の棒」

 

 それだけいうと、俺はその場から姿を消す。



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2話 暁宅

俺は那月と分かれた後、弟妹が住むマンションまで来ていた。理由としては姦しい妹からメールが届いていたのだ。内容は長いので省略するが、要約すると、お隣さんが引っ越してきて、その子が妹と同級生らしく。その子の歓迎会をするから来て欲しいとのことだ。一人暮らしの俺は夕飯をどうしようかと考えていたタイミングだった為、丁度良いと踏み、お呼ばれすることにした。

 

「おーい。凪沙。いるか?」

 

 部屋に入るなり、俺は妹を呼ぶ。するとリビングの方からこちらに向ってくる足音聞こえた。

 

「お帰り、光牙君。ちょっと早くない?」

 

 凪沙は首を傾げながら訪ねてくる。俺は手に持った紙袋を凪沙に押しつけ、リビングに入る。

 

「何だ? 早く来たらまずいのか? 俺の家でもあるのに」

 

 嫌み風に返すと、凪沙は「グヌヌ」と唸る。それをみて、俺は溜息を吐く。

 

「そう簡単に不機嫌になるなよ。その土産で機嫌直せ」

 

 俺がそう言うと、凪沙の眉が吊り上がり、訝しげに袋の中を覗く。瞬間、凪沙は笑顔を咲かせた。

 

「これって、絃神島一高級なアイスクリームだよね? 光牙君。これどうしたの? しかも六個も」

 

 機嫌を直したように興奮した様子で、姦しく聞いてくる凪沙。それもそうだろう。俺が渡したのは一個五千円はする高級アイスだ。それを六個も渡されて興奮しない方がおかしいだろう。俺は何事もなかったかのようにソファーに座りながら答える。

 

「だから買ってきたんだよ。お前達がお隣さんと食べられるようにな」

 

「ありがとう、光牙君。最高のお兄ちゃんだよ」

 

 凪沙は嬉しそうに礼を言うと、俺は鬱陶しげに適当に手を振る。凪沙は笑みをこちらに向けた後、いそいそとキッチンに向う。その足は軽かった。

 

「ん? 古城はどうした?」

 

 俺は疑問に思った事を凪沙に問うた。

 

「ん? 古城君。今ね、自室で宿題をしているんだ。また補修だったみたいで。雪菜ちゃんも古城君の宿題の手伝いをしているんだ」

 

 聞き慣れない名前を聞き、訝しげな顔になる。

 

「雪菜ちゃん?」

 

 そこで凪沙は何かに気付いた様子だった。

 

「そっか! 光牙君は知らないんだったね! 隣に引っ越してきた子なんだけど、凄くかわいい女の子なんだよ!」

 

「ん? あれ? たしかお前の同級生じゃなかったっけ?」

 

「そうだよ! どう思う? 中学生に宿題を手伝って貰う高校生」

 

 その言葉を聞いてこっちが情けなくなる。思わず頭を抱えたくなる。しかし俺は続けて凪沙に言葉を投げかける。

 

「大丈夫か? 古城とその子を二人きりにして・・・」

 

「大丈夫じゃない? さすがに古城君も会ったばかりの子に手は出さないでしょ?」

 

 呆気なく帰ってくる返答。しかし俺は知っている。古城はあの父親の素質を間違いなく継いでいる事を。それを考えると、再び、頭を抱えたくなる。

 

「なにもするなよ。古城」

 

 俺は頼りなく小さく呟いた。

 

 

 

 

 

「先輩ってお兄さんいらっしゃるんですか」

 

 雪菜は先程凪沙と話している声が気になり、古城に問うた。すると、古城は宿題に目を向けながら答えた。

 

「ああ、いるぞ。半分しか血繋がってないけど」

 

「どういうことですか」

 

 首を傾げながら雪菜は聞き返す。そこで古城はペンを置いた。

 

「兄貴は親父の連れ子なんだよ」

 

 古城は特になにもなさそうに答えた。それを聞いた雪菜は少し驚いたよう中おつきになった。

 

「あの、お兄さんは知っているんですか? その。先輩が第四真祖だって」

 

 雪菜は恐る恐るそれを口にした。それに対して、古城は溜息をついた。

 

「兄貴は知っていたな。っていうか俺が伝える前に知っていたみたいだ」

 

「それはどういうことですか?」

 

 警戒するような口調で雪菜は聞いてくる。すると古城は呆れた様に答えた。

 

「俺が第四真祖になった後に会った時に『難儀な運命背負ったな』って半笑いで言われた」

 

 それを耳にした雪菜は驚愕のあまり、目を見開いた。古城は半笑いで話を続けた。

 

「どうやって知ったのかは分からない。だけど忠告はされたな」

 

「ど、どのような忠告だったんですか」

 

「いや、大したことじゃないんだ。ただ『暴れすぎるなよ』とは言われた」

 

「・・・・・。あの、言われたことは本当にそれだけだったんですか?」

 

「そう思うだろ? だけどそれだけ言って兄貴は立ち去っていったんだ。それ以降会ってもその件には触れてこなかった。まったく。なにを考えているんだか」

 

 古城は呆れた様に溜息を吐いた。そんな古城を呆然と雪菜は見つめた。

 

「先輩のお兄さんは、どことなく先輩に似ているのかもしれませんね」

 

 彼女は笑みを作って古城にに向けた。その表情に彼は一瞬心を奪われた。しかし、古城は雪菜に言われたことを噛みしめて、苦笑いした。

 

「そうかもな。俺と凪沙は兄貴に育てて貰ったようなもんだからな」

 

「そうなんですか?」

 

「そうだな。親父も母さんも多忙だったからいつも家にいなかったからな。小さかった俺と凪沙は兄貴が面倒を見てくれてたからな」

 

 彼はそう口にすると、真面目な顔をした。

 

「だからこれ以上は兄貴には面倒をかけられない」

 

 古城はそう言った後に目の前の宿題を見て項垂れた。

 

「とは思っているんだがな」

 

「先輩はお兄さん想いなんですね」

 

 雪菜はそんな彼に笑みを浮かべながら見守っていた。

 



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3話 同居人

 俺は自身の住むマンションに帰っていた。古城達がすんでいる場所から割と近い所にあるマンションに俺は部屋を借りている。あの後、俺は古城と一緒に部屋から出てきた姫柊雪菜に挨拶をした。彼女は何故か驚いたような顔をしていた。何故だろか? それを聞いてみたら想いの他常識人で驚いたらしい。どうやら古城との最初の邂逅の時、古城は不真面目な態度で彼女を煙に巻いたらしい。それを聞いた俺は無言で古城に腹パンを食らわす。彼女を慌てた様に古城に駆け寄る。腹パンを食らった古城は恨めしそうにこちらを睨むも「お前がそんな事をするから俺まで変な目で見られたろ」と睨み返したらぐうの音も出ない顔をした。俺は古城に駆け寄っていた姫柊ちゃんに笑みを浮かべながら忠告した。

 

『こいつは目を離すとすぐに女の子と仲良くなるから、君も気を付けておくんだよ』

 

 と。古城からは「何の通告だ!」と言われたが、姫柊ちゃんは「そうなんですか」とと首を傾げて古城に訪ねた。おや? もう遅かったかな。その様子を眺めて、俺は溜息を吐いた。その後は凪沙の鍋をごちそうになり、俺は食後すぐに帰宅した。

 

「ただいま」

 

 俺は扉を開けるなり、覇気の無い声でそう口にした。すると、リビングの扉が開いていくのが分かった。

 

「随分早いお帰りね、コウガ」

 

 そしてそこから出てきたのは赤毛で金の瞳を持つの女だった。彼女は壁にもたれながらこちらに目を向けてくる。

 

「俺がいつまでもいるわけにはいかないだろ? 夕飯だけ済ませて帰ってきた」

 

 俺は足を進めて、彼女の脇を素通りしてリビングに入っていく。

 

「それで? 今日はどの怪獣のミックスだった?」

 

 赤毛の女は俺がリビングに入ったあと、その扉を閉めながらそんな事を聞いてくる。

 

「多分だが、グドンとレイキュバスだな。あの鞭とハサミからみて」

 

「そう。ご苦労だったわね」

 

 一応労いを言ってくれている赤毛の女。彼女はそれを言うと、キッチンに姿を消した。

 

「で、例の物は届いたのか? エイリ」

 

 俺は赤毛の女。エイリにソファーに腰掛けながら問いかける。すると、少しの時間も経たないうちに、両手にマグカップを持った彼女が姿を現す。そのカップからは湯気が立ちこめており、ホットコーヒーを入れてくれた様子だった。

 

「ええ、ちゃんと届いたわよ。態々ゼロさんが届けてくれたの」

 

 そう言うと、彼女はあるところに徐ろに目線を送った。俺はそれに釣られてその方向を見ると、そこには俺が持っているアインダガーと形状が似ている短剣が飾られていた。

 

「ゼロさんか。一度会ってみたいな」

 

「そのうち会えるわよ。何せ、貴方もウルトラマンなんだから」

 

 それもそうかと納得すると俺はその短剣をまじまじと眺める。

 

「しかし、本当に似ているな」

 

 懐から出したアインダガーと短剣を見比べて思った感想を述べる。すると、エイリは徐ろに短剣に近づき、それをそっと撫でた。

 

「アインダガーと兄弟のような物だもの。形状が似ているのは当たり前だと思うわ」

 

 彼女はそういうと、短剣を手にした。

 

「思えば変身能力を失って三年。随分と長く感じたわ」

 

 彼女はある事を思い出しながら悔しそうに顔を歪めた。

 

「だけど、これでようやく任務を果たせる。貴方の役にも立てるはずよ」

 

 その言葉を言う彼女はこちらに目を向け、微笑を浮かべた。

 

「お前と初めて会ったのは五年前か? あのときは驚いたよ」

 

 そう、あのときは本当に驚かされた。何せ、空から突然巨大な赤い玉が現れて俺目がけて落ちてきたのだ。瞬時の出来事だったため回避も出来ずに俺は目を瞑る事しか出来ずにその赤い玉に飲み込まれていた。その中で目を開けると俺はアインの姿になっていた。そして目の前にいる彼女に出会ったのだ。

 

『私の名はウルトラウーマンエイリ。貴方の補助役として別宇宙ののM-78星雲から派遣された戦士よ。以後よろしく」

 

 銀の女性の体に赤いラインが走っている。女性の為かカラータイマーの位置は俺の場所より上の場所にあった。顔もアインより少し優しげであり、ウルトラマンの特徴の頭の丸みを帯びたとさかも小さめ。その代わりに後頭部から赤い髪のような部分が存在した。

 

『あなたの事情は知っているわ。先代のアインから力を受け継いだのよね』

 

 どうやって調べたのか分からないがこちらの事情にも詳しい様子だった。

 

『だったらこの地球に存在する生物たちも知っているよな?』

 

 俺がそんな事を訪ねると彼女は頷く。

 

『吸血鬼やら獣人やらは宇宙では珍しくはないわ。実際私も何回かそういう能力を持つ怪獣とは戦ってきた。けれどもこの地球の吸血鬼は特別みたいね。能力の一つに怪獣使いがあるなんて』

 

『怪獣じゃなくて眷獣だけどな。まあ、どっちでも変わらないか』

 

 それを言い終わると、俺は自主的に本来の姿に戻った。

 

『その姿のままじゃ目立つよな。どうするんだ』

 

『見ていて頂戴』

 

 そう言うと彼女の体は段々縮んでいき、赤髪の二十代前半の女性の姿になった。

 

『貴方も知っていると思うけど。地球ではあの姿のままでいられる時間は三分だけ。だから私達ウルトラ族は地球で過ごすときは人間の姿に変わることができるの』

 

 俺は『へえ』とと口にした所で思い出旅行から帰還した。

 

「貴方には感謝しているわ。地球に不慣れな私に不自由をさせないようにこの部屋の一室を貸せてくれて」

 

「お互い様だ。俺はこの力の意味をそこでやっと理解出来たんだ」

 

 礼などいらないと手を表す。それを見た彼女はいきなり位かお就きになった。

 

「だけど、迷惑もかけたわね。私が変身能力を失ってばっかりに」

 

「気にしてないし。あれはしょうがない事だった。誰も予想出来なかった出来ごとだ。それに・・・」

 

 俺はそこで一度区切り、彼女を励ます言葉を贈る。

 

「変身できなくても、エイリはちゃんと俺の補助をこなしていた。それは事実だ」

 

 エイリに向って少し気取った風にそれを贈る。俺がそれを言い終わると少しの間部屋が静寂に包まれた。すると突然彼女は堪えきれないとばかりに声を上げて笑い出した。

 

「格好つけすぎ。態々少し低い声まで出して」

 

「はあ。そう言われると思ったよ。それで?」

 

 疲れ他様子を露骨に見せ付けながら俺は彼女が持っている短剣に目を向ける。

 

「使えるのにどのくらい掛かるんだ?」

 

「まだ、私の波長と同調させないと仕えないみたいね。しばらくは変身は出来ないわ」

 

 少し残念そうに彼女は口を開く。それを聞いた光牙は「そうか」というと、言葉を続けた。

 

「もうしばらくは俺一人か」

 

 もう一踏ん張りとばかりにしみじみとその言葉を呟いた。



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4話 訪問者

 弟妹の家で姫柊ちゃんの歓迎会をしてから数日たったある日。古城が突然俺の部屋に訪ねてきた。姫柊ちゃんと共に。俺はとりあえずこいつらをリビングに通し、適当に座るように促した。

 

「何のようだ? お前らが来るなんて。何かやらかしたのか?」

 

「何もやらかしてねえよ」

 

 俺がからかうように言うと古城は少し向きになった様に声を荒げた。しかし俺はそれを止める事はしなかった。

 

「まあ、お前が何かをやらかしても自己責任だ。俺は責任は取らない」

 

「だからやらかしてないって。いや兄貴には姫柊のこと言っておこうかなと思っただけだ」

 

「ああ、そう」

 

 そう返事を返すと、俺は姫柊ちゃんに目をやる。彼女は少し警戒した面持ちで俺の事を伺ってくる。

 

「改めまして、獅子王機関より暁先輩の監視の命を受けました。剣巫の姫柊雪菜です」

 

 その言葉を聞いて俺は納得のいったように手を叩いた。それにはさすがに彼女は驚いた様に一瞬方を震えさせた様子だったが、そんな事を気にせずに俺は彼女の横に置いてあるギターケースに目をやる。

 

「もしかしてギターケースに入っているのは、武神具か?」

 

 俺がその言葉を発すると姫柊ちゃんの表情は驚愕に染まっていた。それは彼女の隣にいた古城も同じだった。彼女は咄嗟にそれに手をかけ、中身を出そうと試みるが、

 

「はい、ストップ」

 

 俺が彼女に声を掛けると、その動きは中止されその体勢のまま硬直した。

 

「何が、起こって・・」

 

「おい、動けねえぞ」

 

 どうやら効果は古城にも聞いたらしく、彼も座ったまま動けなくなっていた。

 

「世の中にはこんな力を持つ存在もいる。勉強になったな。古城。それに姫柊ちゃん?」

 

 俺が彼らを自由にすると姫柊ちゃんから非難の目を向けられる。

 

「どういうつもりですか?」

 

「どうもこうも、凶器を人に向けないようにしただけだが?」

 

「何か問題でもあるのか?」と逆に問うと彼女は気まずそうにした。

 

「っていうか、なんで、ギターケースの中身が違うって分かったんだよ!」

 

 今度は古城が疑問の声を上げる。その発言が来たとき、俺は思わず溜息を吐いて、それを説明した。

 

「獅子王機関の剣巫がギターケースに普通にギター入れている訳がないだろ。攻魔師だぞ? 普通に考えて武器を携帯為る為のカモフラージュだろ」

 

 苛ついた口調で正論を突き返すと、反論出来ないのか悔しい顔をした。すると今度は雪菜が質問をしてきた。

 

「何故、中身が武神具だと?」

 

 彼女の質問に俺は頭を掻きながら答えた。

 

「獅子王機関に知り合いがいるんだよ。其奴から武神具という存在があるということを聞いただけだ」

 

 光牙は言葉を続ける前に一回息を吐いた。

 

「古城はこれでも第四真祖だからな。その監視に付けられた姫柊ちゃんはこいつを抑える為の武神具を渡されないはずが無い」

 

「・・・・・・・・」

 

 彼女は俺にただ険しい目を向けてくる。俺は一度息を継ぎ、徐ろに立ち上がった。

 

「さて、疑問は晴れたかな? 古城。何が飲みたい? 出してやるよ。姫柊ちゃんも飲みたいものがあったら言って良いよ」

 

 俺がそう言うと、古城らはお互いの顔を見合った。

 

「じゃあ、水で」

 

「私も同じので結構です」

 

「了解」

 

 俺はキッチンに向い、冷蔵庫からペットボトルに入った水を取り出して、三つのコップに注いだ。それをお盆の上に乗せ、再び古城達のいるリビングに足を進める。

 

「はい、要望の水だ。冷たい内に飲むことをおすすめする」

 

 各々の前にコップを置くと、俺はさっき座っていた場所に再び腰を下ろして、古城らの様子を伺う。古城は何か不満げな顔をしながら水を飲む。姫ら義ちゃんはどこか警戒しながらちびちびと口に水を含んでいく。

 

「で、話って言うのはそれだけなのか?」

 

 俺が面倒ながらそれを口に出す。すると古城がそうだったと思い出したかのようにある事を聞いてくる。

 

「兄貴はなんで俺が第四真祖だって事知ってたんだ?」

 

 弟のその発言に俺は内心息を詰まらせる。しかしそれを表に出すような事をしなかった。

 

「お前の担任のチビだって知っていただろ?」

 

「チビ? ああ、那月ちゃんか。っていうか兄貴は相変わらず那月ちゃんとは中が悪いんだな」

 

 古城が苦笑いをすると姫柊ちゃんが一つ咳ををする。俺はさすがに古城に呆れた顔を見せ付ける。

 

「話逸らした事に気づけよ」

 

 古城に聞こえるようにあからさまに溜息を吐く。すると姫柊ちゃんが一つ咳を入れて、俺に問いかけてきた。

 

「私からも良いですか? 何故、光牙さんは先輩が第四真祖になっても態度を変えなかったんですか。怖いとか、そういう恐怖の感情は湧かなかったんですか?」

 

 すると彼女からも質問を問いかけられた。彼女の目は真剣にこちらの言い分を知りたがっている目だった。俺は古城達に一言だけ送ることにした。

 

「古城。残念だが、お前の質問は答えられない」

 

 俺は心底残念そうにそれを口にする。

 

「なんでだよ!」

 

 古城は何故か拍子抜けしたようなな口ぶりで言い返してきた。

 

「いずれ知るときがくる。その時まで待ってろ。そして、姫柊ちゃん」

 

「はい」

 

 俺は彼女の目を見据えてこう答えた。

 

「君への回答はこうだ。弟が第四真祖になったくらいで何故、恐怖の目で見なければ成らないんだ? 怪物と言われようがこいつが弟であるという事実は変わらないだろ。そういうことだよ」



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5話

その後も古城と姫柊ちゃんはしばらく居座った。これ以上話す事は無かったが、折角来たのですぐに返すのも偲び無いと思い、俺は冷蔵庫にしまってあった菓子を出した。

 

「二人とも、そんなに警戒するなよ。俺は古城ほど危ない力は持っていないんだぜ」

 

 俺は内心「嘘だけど」と思いながら虚言を吐いた。、テーブルに菓子を置いた。しかし二人はまだ此方の様子を警戒しているように伺っている。それはその視線に思わず肩をすくめた。

 

「そんなに信用されて無いのかよ。姫柊ちゃんはともかくとして古城。お前はもっと俺の事を信用しろよ。俺はお前をそういう風に育てたつもりは無いぞ」

 

 俺は額に手をやりやれやれという仕草を取る。すると古城は反論の言葉を返した。

 

「だったら教えてくれよ。なんで兄貴は俺が第四真祖になった事を知っているんだ? そしてさっきのあの力は何なんだよ。あんな力を持っているなんて俺は知らなかったぞ」

 

 古城は訴えるようにその言葉を言った。すると姫柊ちゃんが古城を応援を出すかのように追撃を出す。

 

「先程の拘束術。あれからは魔力を感じませんでした。それに呪術も。だとすると光牙さんは過適応者という事になりますが、そういう事は資料には書いてありませんでした」

 

 彼女は問い詰める様に鋭い目を突きつけてくる。俺は思わず溜息を吐いて弁明する。

 

「悪いけどさっきのは所謂手品みたいな物だ。そんな大それた事をした訳じゃ無い」

 

 俺が先程古城らにやったことはただ一つ。動かないように促しただけ。ただそれだけだ。

 

「俺は過適応者では無いよ? 俺はどこにでもいる二十六の一般男性だ」

 

 俺が問いかけるようにそれをいうと彼女は不服そうにした。

 

「君は信じられないよね。弟は第四真祖。妹は今は力を失っているとはいえハイブリット。古城の母親である義母さんも過適応者。あのクソ親父は死都帰りと呼ばれる考古学者。そんな異常な家系に何の能力も持たない俺がいることが」

 

 彼女の確信を突くような言葉を発する。すると途中から不思議そうな顔をした。どうやらそこまで教えて貰っていなかったらしい。そこは墓穴を掘ったと反省した。

 

「ご免ね。今の言葉は忘れてくれて良い。ただのたわいも無い障事だから」

 

 彼が不思議そうな顔をしている姫柊ちゃんに弁明すると今度は古城が追求してきた。

 

「母さんはともかく。なんで親父と凪沙が話に出てくるんだよ。おかしいだろ?」

 

 こいつは忘れさせられたらしい。どうやらアヴローラが消した記憶の中に凪沙の力の事があった様子だな。まあ、古城と凪沙はより深くアヴローラに関わっていたから当然と言えば当然だ。

 

「お前は何も思い出せないのなら今はそれでいい。そのうち思い出すだろうよ」

 

 俺はそう言うと、目の前に置いてあるペットボトルを取り軽く口を付けた。

 

「さて、このままだとお前達は納得してくれないよな。だから少しだけ種明かしをしよう」

 

 徐ろに自身の懐に手を突っ込み、俺はある物を取り出した。

 

「これは昔、親父の手伝いで行った遺跡で拾った物だが。これはどうやら不思議な力があるらしい」

 

 俺が取り出したそれはクリアな黄色に頭部に、に三日月のようなアンテナがある生物が描かれたメダルだった。それを目にして古城と姫柊ちゃんは怪訝そうな顔をした。

 

「これが俺がさっきお前達の動きを抑制させた物の正体だ」

 

「これがか?」

 

「とてもそうとは思えませんが・・・」

 

 そんな否定的な意見が古城らから聞こえた。しかし俺はそれを鼻で笑った。

 

「ただのメダルにしか見えないんだったらお前らには資格が無いって事なんだろう。触ってみるか?」

 

 俺は古城に向け、メダルを弾く。古城をその行為を見て慌ててメダルを取ろうとする。しかしそれは寸での所で邪魔された。彼女が途中でメダルをキャッチしたから。

 

「遊びも大概にする事ね。しかも大事なメダルを弾くなんて考えられない」

 

 どこか冷淡な声の非難が俺に向けて行われた。古城も姫柊ちゃんは驚いた様子で声の主。エイリに目をやった。

 

「初めましてね、古城くん。そして姫柊さん。私はエイリ。光牙のルームメイトよ。貴方達の話は光牙から聞いているわ」

 

 彼女は俺に向けた事も無いような笑みを古城らに向けた。姫柊ちゃんは少しエイリに警戒していたようだが、古城は少しの間、呆然としていた。

 

「グットタイミング。で、どこに現れそうだ?」

 

 俺は徐ろに立ち上がり、彼女の肩まで歩み寄った。古城達に聞こえないほど小さな声で俺は問うた。

 

「気付いているでしょ。アイランドイーストの沖合い30キロ。猛スピードで進行している。上陸するまであまり時間が無いわ」

 

「わかった。その間、古城達の相手でもしててくれ」

 

 俺は彼女からメダルを受け取ると、古城達に向き直った。

 

「すまん。急用が出来た。すぐに帰ってくるが、その間こいつと話でもしていてくれ」

 

「ちょっ、兄貴! まだ話は終わってない」

 

「悪いが帰ってきてからにしてくれ。あまり時間が無いみたいなんだ」

 

 古城は制止しようと声を掛けてきたが、俺は適当に言い訳をすると急ぎ足で玄関を飛び出した。




追伸 次の更新は12月20日となります。


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6話 巨人

 先日は投稿したのに何も言わずに削除してしまってすいませんでした。ですが言い訳をさせてください。実はあれは保存と投稿を間違えてしまい、まだ作成途中の物だったのです。気付いたのが少し遅くて、その中途半端な作品が掲載されているときはとても焦りました。誠に申し訳ありませんでした。今回のような事が無いように今後気を付けていきたいと思います。


 俺はマンションを出た後、その足でアイランドイーストに向け、駆けていた。

 

「くそ! 今回の怪獣は早すぎるだろ!」

 

 俺は怪獣の気配を察知すると、その近さに思わず顔が歪む。それはそうだろう。マンションを出てから今まで五分と掛かっていない。それなのに今、怪獣がいる場所は絃神島沖合い5キロ。一分で1キロ進んでいる。このままだと、あと五分もしないうちに上陸を許してしまう。それだと今後、面倒な事になるだろう。何せ絃神島は魔族特区。怪獣の存在が確認でもされたら、保護という名目で捕獲しようとするだろう。しかしそれは無理だ。何故なら、怪獣は魔獣や眷獣と違ってこの星の生き物ではなく、宇宙より来た未知の能力を持つ物が多い。そんな存在がこの星の住人である吸血鬼や獣人が向って勝てる勝算は著しく低い物だろう。それに加え、これから現れるであろう怪獣は合成獣で有ろうから、抵抗も虚しく蹴散らされるであろう。放っておけば、この島自体沈められるかもしれない。もし倒せたとしてもだ。その後が怖い。研究者が怪獣の細胞を研究して新種の魔獣が誕生しかねない。その場合、この星の脅威が増えるだけだ。それを起こさせないために俺は今まで、この島を狙う怪獣は未然に始末してきた。ウルトラマンの力を行使為れば、怪獣は細胞一つ残さないで退治できる。しかし、今回ばかりは間に合わないだろう。その事実が俺を苛立たせる。

 

「あと、一分」

 

 走りながら、俺は徐ろに時計を見る。思わず舌打ちをしてしまう。

 

「怪獣と共に姿をさらすことになるが、しょうが無いよな。今回ばかりは」

 

 俺は走ることを止めずに、身につけているジーンズに備え付けられている、細長の容器からある物を取り出した。

 

「頼むぜ」

 

 そう口にして、俺は取り出した物。アインダガーを胸の前に突き出す。為ると、俺は今まで走っていた町とは違う景色が目に入る。そこは辺り一面が黄金の光りで満たされている。俺はその景色に目もくれずにウルトラマンになるためのメダルを二枚取りだした。

 

「流れる星!」

 

 そう呟きながら銀色のメダルをアインダガーに柄尻の挿入口に入れる。

 

『ウルトラマン!』

 

 すると、アインダガーから渋い声が聞こえる。刀身が透明になっている剣元の部分からそのメダルが見える。

 

「走る稲妻!」

 

 次に先程古城達に見せた黄色のメダルを挿入する。

 

『エレキング!』

 

 そのメダルが剣元に見えると俺はアインダガーを天に向けて突き上げる。

 

「アイン!!!」

 

 言葉と共にアインダガーの柄にあるトリガーを引いた。

 

『ミックスアップ! ウルトラマンアイン! タイプ・スターボルト!!』

 

 そこから俺の身体は変化し始める。身体は銀色に染まり、そこに赤と、黄色と黒の斑のラインが入る。顔もウルトラマン特徴の物になった。

 俺は光りの玉につつまれて、怪獣のいる方法に向っていく。

 

 

 

 

 

 アイランドイーストの港。そこには今日もいつもと変わりない平穏な日常が続いていた。先日起きた落雷被害により大分被害を受けたが、それでも人々は魔族特区ではいつもの事と割り切って、過去の事とばかりに忘れ去り、通常通り仕事に勤しんでいた。しかし彼らは知らないのだ。もう近くまで魔族よりも恐ろしい存在が近づいていることに。

 

「今日も疲れたな!」

 

 海沿いの倉庫に勤めている男がくたびれたように座りながら部下の男にそういう。部下は「そうですね」と苦笑いを浮かべながら返した。

 

「どうだい? この後これでも」

 

 徐ろに親指と人差し指で円を作り、それを口の高さで軽く動かす。

 

「良いですね。もちろんここは上司の奢りって事で」

 

 調子よさげに部下の男がそういうと、上司は愉快に笑った。

 

「調子の良い奴だ。良いだろう。今日はおごってやる!」

 

「やった! それじゃあ、帰り支度を早めないとですね」

 

 部下の男は活き活きと、帰り支度を始める。それを眺めて、男は呆れた様に海の方に目を向ける。

 

「ん? あれは・・・」

 

 海を見ると、なぜか泡立っており、湯気のような物まで発生している。それを男は怪訝そうに見ている。

 

「お、おい! こっちに来てみろ。海がなんかおかしいぞ!」

 

 それが異常な物だと分かると、男は想わず叫んだ。その声に引かれるように数人が男の近くまで来て、海の様子を見て、驚愕していた。

 

「何が起こっていやがる・・・」

 

 戸惑って思わずそんな声が漏れた。

 

「GIGAAAAAAA!」

 

 甲高い、獣の鳴き声が泡立っている所から聞こえる。それと同時に海が段々せり上がった。

 

「な、なんじゃこりゃ!」

 

 思わず叫びながら、後ずさりする。他の集まった人達も同じような行動をした。

 

「GIGAAAAAAAAAAAA!」

 

 その咆哮と共にそれは海から現われた。体長五十メートルを超える獣じみた存在の姿を。それを目にした人達は方向を変え、我先にと逃げ始めた。

 

「ま、魔獣だああ! それも巨大の」

 

 そんな声が近くから聞こえた。男も駆け足で逃げていた。魔獣かどうかも分からない存在のはずなのにその声はある程度知っている存在に勝手に押し込めた。これはこの世界ならでわの光景だった。

 

「GIAAAA」

 

 その間も魔獣は上陸しようとしてくる。男は想わずその姿見たさに振り向く。そこにいたのは両腕がちがう形のハサミになっている頭が二つに割れている四本足の獣がいた。その姿はこの世の物とは想えなかった。

 

「もう終わりなのか・・」

 

「ヴィアアー!」

 

 男が諦めかけたその時ちがう声が聞こえた。その咆哮に急いで目を向けると赤い玉が魔獣に向っていくのが見えた。赤い玉の魔獣に体当たりを駆ける。魔獣はその体当たりに耐えられず、横に倒れる。赤い玉はゆっくりと魔獣地面に降りると姿を変えた。

 

「何なんだよ。今日は」

 

 球体だった赤い玉は段々と巨大な人の形になっていく。その間に色を変え、赤かったそれは白に近い色を放っていた。いや、色ではない。それは光りを放っていた。

 

「ヴィア!」

 

 やがて光りが薄れていくと、そこには銀の身体に赤と、黄色と黒の斑のラインが入っている五十メートルを超える巨人がそこにいた。



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7話 スターボルト

『天空より光りと共に現われり。ウルトラマンアイン、スターボルト。』

 

 俺は自身の姿を現すと、それを口にする。それはこの姿になったとき、自ずと出てくる言葉だった。しかし目の前の怪獣は此方の言葉など一切聞いているはずも無く、体勢を立て直すなり、此方を睨んでくる。それに対して俺も怪獣を睨む。どの怪獣と宇宙人が合成されているか観察するように。

 

『これは・・・・。バルタン星人か? それにあの下半身。あれはレットキング? いや、四足だからEXタイラントか。面倒な』

 

 愚痴りながらも俺は戦うために、構えた。

 

「GAAAA!」

 

 怪獣は雄叫びを上げ、再び、上陸しようと足を進めてくる。

 

『させねえよ』

 

 俺はその進行を阻止するため、駆け足で海に入る。

 

「ヴィア!」

 

 こいつの動きを止めるため、力強く怪獣の両肩を掴み、怪獣の腹にキックを繰り出す。

 

「GIAAAA!」

 

 もろにキックを受けた怪獣は徐ろに下がろうとする。しかし俺はまだ両肩を掴んだまま。

 

「ヴィィ、アア!」

 

「GYAAAAA!」

 

 今度は怪獣を片手で押さえ、チョップを繰り出す。しかしそれはあまり聞いていない様子だった。

 

「GIBOOOOO!」

 

 怪獣は俺の腹に両腕のハサミを開いて向けた。つぎの瞬間、咆哮と共に開かれたハサミが卑しい光りが放たれた。

 

「ヴィアアアア!」

 

 その光りをまともに受けてしまい、俺は湾岸まで吹き飛ばされた。

 

「GIBOGA!」

 

 怪獣は愉快そうにうなり声を上げる。俺はすぐに立ち上がって、構えた。

 

「GIBOOOOO!」

 

 奴は再び、開いたハサミを此方に向け、光線を浴びせてくる。しかし同じ業を二度も食らわない。俺は横に飛ぶことでそれを回避する。

 

「GIBOOON」

 

 だが怪獣もしつこかった。奴は俺が飛んだ着地したところに再び光線を浴びせた。俺は再び横に回避する。

 

「GABOON!」

 

 怪獣は三度同じように攻撃してくる。それに対して俺は今度は避けなかった。

 

『しつこいぞ!』

 

 俺は両腕を頭の上で合わせ、それを胸の前まで降ろす。

 

『これでも食らえ!』

 

 両手を為るように右腕を回す。すると右手には電気を纏った光輪ができた。

 

『エレキ光輪』

 

 おれはそれを怪獣目がけて投げつける。光輪は俺の手を離れると、すぐに加速して怪獣目がけて飛んでいく。

 

「GIGAAAA!」

 

 その攻撃には危機を覚えたのか、怪獣は回避行動を取った。

 

「GIGAN」

 

 回避はギリギリ間に合った。しかしこの攻撃はそれだけじゃ無い。俺は右手を前に突き出して、それを横に振った。すると、怪獣に回避され、行き場も無く進んでいた光輪が突然軌道を変えた。光輪は再び、背後から怪獣目がけて襲いかかる。それには怪獣は気付いていない様子だった。

 

「GIGAAAAAA!」

 

 返ってきた光輪は無防備な怪獣の背後を抉り切る。それには怪獣も悲鳴を上げ、歩みを止めた。

 

『もうちょっと、削っておくか』

 

 そんな事を考えて、俺は先程と同じ要領で光輪を作り、投げつける。

 

「GIGYA!」

 

 しかし、同じ攻撃が二度も聞かないのは怪獣も同じだった。奴はハサミを広げ、飛んでくる光輪目がけて光線を浴びせ、光輪を消す。

 

「ヴィアン!」

 

 怪獣が光輪に目を向けているそのうちに俺は高く飛び、怪獣の背後に回る。奴は俺後背後にいることに気付き、急いで振り返る。

 

「ヴィア!」

 

 だが、奴が振り返るその習慣を狙って、背中に蹴り入れた。その攻撃を避けれるはずも無く怪獣は前に体勢を崩した。だが、ただで倒れた訳では無かった。やつは倒れざまに背後の足で俺にも蹴りを入れてきた。それをもろに受け、海に叩き付けられた。。

 

「GIAAAA!」

 

 怪獣は俺がいなくなった思い、島に上陸するため急いで体勢を立て直そうと声を上げる。だが、俺はそれを許さない。何故なら今俺は海中から怪獣の足を持って立ち上がれないようにしている。

 

「GIGAN?」

 

 驚いた様な声を上げる。だが、俺はこの攻撃のチャンスを逃さない。俺は直ぐさま右手に光輪を作り、それを怪獣の足に叩きつけた。

 

「GIGAAAAAAAAN!」

 

 その攻撃は成功し、奴の足の一つを切り取った。怪獣はそれに悲鳴の様な声を上げ、体勢を崩す。俺は海上に出て体勢を崩しきっている怪獣に目をやる。

 

 ヴィーン! ヴィーン!

 

 突如おれのカラータイマーが音と共に点滅を始めた。

 

『時間切れか。なら』

 

 俺は徐ろに曲げた両腕を胸の前で平行に構えた。

 

『これで決めるしか無いわな!』

 

 両腕は突如放電を始め、腕を行ったり来たりしている。それを確認すると、腕を腹の前まで降ろして、それを交差させる。そこで放電は入り強くなった。俺はそれを大きく半円を描くように回し、腕を広げた。

 

『シューティング・スペシウム!』

 

 俺はそれを声と共に顔の前で十時に構えた。すると、両腕から電気を纏った光線が怪獣目がけて発射された。

 

「GIGYAAAAAAAAAAAAAA!」

 

 怪獣は光線を避けることもできずに身体にたたき込まれた。それにはさすがに大きな悲鳴を上げた。まるで断末魔の様に。しかし俺は決して光線を弱めることはしなかった。数秒の照射の後に、怪獣は声も上げずに爆発した。

 

「ヴィア!」

 

 怪獣が完全に消滅したのを確認し、俺は構えを解いた。そして、周りに被害が出てないか、見渡した。

 

『大丈夫だな』

 

 それが無い事を確認して、俺は身体を粒子にしていって、後を残さないように光りと成って消えた。

 



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巨人の噂

 絃神島の人々は噂話が好きなのだろう。少し前まで第四真祖の噂が街に飛び交っていた。魔族特区であるこの島ならでわの噂とも言えるかもしれない。そんな絃神島で新たな噂話が出回っていた。

 

「ねえ、知ってる? この島の謎の巨人が出たんだって!」

 

 モノレール内で登校中の女子学生が隣の友人にその話題を振る。

 

「ああ、知ってる!」

 

 友人の女子学生はその話を聞いて、頷いた。

 

「何でもその巨人。ビル並みの大きさの魔獣を退治したんだって!」

 

「そうなの? 凄いね!」

 

 二人はその話をして楽しそうに笑った

 

 

 場所は変わり、町中。二人の男女が厚みを合わせて歩いている。

 

「何でもその巨人。巨人種族じゃないんだと?」

 

 男の方が女に自慢げに語る。

 

「そうなの? 巨人種族だと想っていたのに・・・・」

 

 

 再び場所は変わり、小さな路地裏。そこでは数人の不良が溜まっていた。

 

「奴は何でも、赤い玉に成って現われたらしい」

 

「それは本当なんでですかい?」

 

 一人の男が訝しげに聞いてくる。それに対して、話を振った男は肩を竦めた。

 

「分からん。実際見たわけじゃないからな・・」

 

 

 絃神島のビル一郭のオフィス内にて。

 

「その巨人は何でも、様々な技を駆使して魔獣を退治したそうです」

 

 秘書の女が手に持っている端末に目を向けながら淡々と説明した。

 

「それで、その後の巨人の行方は?」

 

 おそらく社長と想われる男は仰々しく言葉を発する。それに手視する秘書はゆっくりと首を横に振った。

 

「巨人はその場で霞の様に消えたとの事です」

 

「そうか」

 

 男は椅子を反転させ、狭く感じる絃神島の空を眺めた。

 

 

 

 

 

「っていう噂があるらしいぜ!」

 

 彩海学園の食堂にて、古城と雪菜は昼食を取っていた。その場には彼らの他にも、古城の友人の矢瀬基樹。藍場浅葱。古城の妹でもある暁凪沙の姿もあった。古城は不意にこの話をしていた矢瀬に怪しげな目を向けていた。

 

「それ本当なのかよ?」

 

 疑っている様な口ぶりをする古城。

 

「おいおい、信じてないのかよ」

 

 矢瀬は言葉の後、肩をすくめて話を続けた。

 

「実際目撃者がいるらしい。アイランドイーストの倉庫街に魔獣が出たという通報もあったらしいしな」

 

「投稿サイトでも動画が上がってたわよ。ほら」

 

 矢瀬の話を補足するように浅葱は端末を古城にに見せた。そこには巨人が魔獣と戦闘をしている映像が流されていた。

 

「身長は大体50メートル前後かしら」

 

 動画を横目で眺め、箸を進めながら淡々と言葉にする浅葱。

 

「魔獣の方も同じくらいの大きいね!」

 

 凪沙はその動画を見て驚いた様に目を見開いている。

 

「もしかしてこいつ。魔獣じゃなくて眷獣なのか?」

 

 動画を進めていく内に古城は不意にそんな事を口にした。その言葉に雪菜は肯定するように頷く。

 

「可能性はあるかもしれません。このくらい大きな眷獣を操れるんですから、相当な吸血鬼ですけど」

 

 どこか深刻そうな声音で雪菜は古城に抱け聞えるように呟く。

 

「もし吸血鬼が関わっているのなら、この案件は獅子王機関の案件ですね」

 

「そうなんだろうな」

 

 どこか面倒そうな事に巻き込まれるかもしれないと想って。古城の疲れた様な声を出す。

 

「にしても、この巨人。何なんだろうな・・・」

 

 矢瀬が不意に動画を見ながら呟く。

 

「こいつはアインだ」

 

 不意に彼らの後ろから声が聞えた。古城らは咄嗟に後ろを振り向くと、見慣れたフリル付きのドレスを着た担任。南宮那月がいた。彼女は動画に目をやり、映されている巨人鼻で笑う。

 

「那月ちゃん。この巨人の事、知ってるのか?」

 

 古城は驚いた様子で彼女に問いかける。

 

「教師をちゃん付けで呼ぶな。馬鹿者」

 

 那月は手に持った扇子で古城の頭を叩き、不機嫌そうな顔をする。

 

「まあ、知らない事はないな」

 

 鼻をならし、彼女は椅子に座りがてらにそういう。

 

「こいつの名前はアインだ。ウルトラマンアイン」

 

 動画の巨人を扇子で指し、巨人の名前を口にする。

 

「ウルトラマン?」

 

 聞き慣れない言葉に古城は訝しげに呟く。

 

「詳しくは私も知らんが、どうやらこいつは危険な魔獣を退治するために現われた宇宙人だそうだ」

 

 興味なさげに語る那月。彼女の言葉に皆が首を傾げた。

 

「宇宙人ですか?」

 

「私達から見たらの話だが」

 

 古城は再び動画に目を向けた。場面はもうクライマックスを終えた所らしく、巨人は光りと成って消えていった。

 

「消えた?」

 

「そうみたいね。でもどうやって?」

 

 浅葱と矢瀬はその映像を目にして目を火開いて驚いている。そんな彼らに那月は最後の言葉を口にした。

 

「この話は本人から聞いた。それ以外は答える義理はない」

 

 彼女はそう言うと、立ち上がる。

 

「詳しいことが聞きたかったら、本人から聞け。奴は魔獣が出たとき以外人間の姿だからな。精々探してみろ」

 

 そう言うと彼女はこれ以上の事は話さないとばかりにその場を立ち去った。

 

「この巨人。本当に宇宙人なのか?」

 

 古城は巻き戻して映された巨人の姿を見て、面倒そうな声を出した。

 

「さあ、分かりません」

 

 古城の呟きに雪菜は同意の言葉を困惑したような声で口にした。



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8話 疑問

「また強い混合獣だった」

 

 俺は、自身の住むマンションのベランダから夜の町並みを目にしながら独り言ちる。

 

「これも、デスエンドからの刺客なのか?」

 

 不意にそんな事を考える。これまで現われる混合獣。あれはデスエンドの能力によって生み出された存在だ。実際、光の国からやってきたエイリから、デスエンドには怪獣や宇宙人の魂を混ぜて新たな怪獣を作る能力を持つと聞いている。

 

「お前は自分の作った怪獣を使って、何がしたいんだ?」

 

 その疑問が最近頭を良く巡る。最初は混合獣を使って自身を復活を企てているのかと考えた。しかし、混合獣を生み出す時点で相当の力を取り戻していることは明白だ。それも徐々に力を強めて言ってる。

 次に考えたのは、自身の代わりに混合獣を使って、全生命体を絶滅させようとしているという事だ、しかし、それは意味が無い。なにせ、相当の力を戻しているデスエンドだ。そんなちまちました方法を取らなくても、自身がそれをやってのければ良い。

 

「本当に、何を考えているんだ?」

 

「あなたこそ、何を考えているの? コウガ」

 

 不意に、室内からエイリによる呼びかけの声が聞える。

 

「エイリ。お前は混合獣達の目的をどう思う?」

 

 向きを変えないまま、俺はエイリに問いかける。

 

「混合獣を使って、デスエンドは何を企んでいるんだ?」

 

 投げつけられた言葉に、彼女は少し困ったような顔をする。

 

「あいつは、何を思ってここに混合獣を送ってくるんだろうな?」

 

「それは、今の所分からないわ。だけどね」

 

 彼女は言葉を続ける前に俺に近づく。

 

「私たちのやることは変わりはないわ。そうでしょ?」

 

 語りかけてくるその声からは強い意志を感じられる。

 

「人類を。いえ、地球に住まう全生命体を守るために私達は力を持っているの。悩んでいる暇なんて無いわ。そんな暇があるのだったら、私は、鍛錬をする。それによって、守れる力が増えるんだから」

 

 彼女は俺と同じ街の夜景を眺めながら、語ってくれる。

 

「悩む暇はないか」

 

 確かにそうだな。デスエンドがどんな目的で混合じゅうを送り込んできても、それを倒していれば、デスエンドの目的は決して果たされない。

 

「迷ってないで闘えってことか」

 

「そういうことよ。分かってくれたかしら」

 

「分かったさ。嫌という位にな」

 

「そう。なら、今日はもう休みなさい。休養も戦士には必要なんだから」

 

 彼女はそれを伝えると、部屋の中に入っていく。

 

「もう少し、風に当たってから寝る」

 

「分かったわ」

 

 その言葉をいと、彼女は別の部屋に向っていく。

 

「お前には、感謝しているぞ。エイリ」

 

 彼女に聞えない位の声で呟くと、俺は街の明かりに負けてしまっている夜の星空を見上げる。

 

「だがな、嫌な予感が為るんだよ。俺たちの与り知らぬ所でそれが行われてしまっている。そういう予感が」

 

 不穏な声がその場に響かず、そっと消えていく。彼が街に目を向け、ある事を懸念する。

 

「出来れば、古城と凪沙に危害が及ぶことがないことを祈りたいね」

 

 それを口にすると、俺はベランダを後にする。

 

 

 

 

 

「光りの巨人ね。それはまた面白いじゃないか!」

 

 自身の所有する船、オシアナス・グレイブの中でディミトリエ・ヴァトラーは部下より、その噂を耳にして獰猛な笑みを浮かべる。

 

「これから向う、絃神島。相当、楽しそうな所じゃないか! トビアス。君はどう思う」

 

 グラスを口に煽りながら、彼は部下のトビアス・ジャガンに意見を求める。

 

「絃神島にヴァトラー様を楽しませるような存在は無いと思いますが」

 

 彼は少し拗ねたような口調で言葉を返す。彼の言葉にヴァトラーは愉快そうに笑う。

 

「君はそう思うのかい! しかし、残念ながら僕は凄く楽しみだ! あの島には何たって愛しの第四真祖。焔光の夜伯がいるんだからね。それだけでも楽しみなのに、光りの巨人という存在までいるんだ。僕はもう楽しみ過ぎて、寝られないよ」

 

 子供のように、声高らかに宣言するヴァトラー。その言葉を聞き、トビアスは余計不機嫌になる。

 

「聞いた話じゃ、光りの巨人は50メートルくらい有るそうじゃないか。それほど巨大な相手との戦闘は長く生きていても少ないからね。本当に楽しみだよ」

 

「お言葉ですが、ヴァトラー様」

 

 嬉々としているヴァトラーにもう一人の部下であるキラ・レーデペデフ・ヴォルティズロワは言葉を挟む。

 

「どうやら、光りの巨人は同サイズの魔獣が現われないと、姿を露わさない様子なのです」

 

「おや? そうなのかい? それは困ったな・・・・」

 

 彼は心底困った様な顔つきを為る。しかい次の瞬間には晴れやかな顔つきになった。

 

「なら、僕の眷獣を暴れさせよう。それできっと出て来てくれるだろう」

 

「それは御名案ですね」

 

 キラはヴァトラーの意見に賛成為る。

 

「さあ、楽しみの地。絃神島はもうすぐだ」

 

 彼は徐ろにその方向に目を向けた。



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9話 待ち時間

「こんな仕事、受けるんじゃなかった」

 

 この日俺は、自身の仕事を行うべくアイランド・イーストの港に来ていた。港湾地区である、ここは言ってみれば絃神島の玄関口。それ故、輸入を行う船や豪華客船などあちこちに見える。しかしそれらではなく、俺は海上に目を向けながら、後悔の念を口にして項垂れる。

 

「客人の絃神島の案内。少し報酬が良いと思ったが、どうやら客人はマイペースなようだな」

 

 そうなのだ。俺の仕事上、そういうことを度々やっている。服装もいつものだらけきった紳士服もきちんと着こなしている。そして、それが結構暑い。一応南国使用の物なのでそういう対策はしてあるが、それでも暑い。しかし問題はそれじゃ無いのだ。一番の問題は未だに客人が乗っているであろう客船が姿を見せないことだ。予定では客人がここに着くのは十時となっていた。しかし左腕に付いている時計を見ると、そこには12時30分と刻まれている。これから現われる船の主は相当厄介な御仁のようだと悟る。すると、真後ろから魔力の流動を感じ取る。その魔力は自身の知っている人物の物だと感じ取ると、俺は嫌な顔をする。

 

「何の用事だ。南宮」

 

 嫌味たっぷりの声で魔力の主、南宮那月に言葉を投げるすると、彼女は傲慢そうな言葉使いで応答してくる。

 

「久しぶりにお前が仕事を請け負ったと聞いてな。その様子を見にいた」

 

「そんな物はいらない。すぐに帰れ」

 

 彼女の言葉に俺はすぐに否定する。こいつとは昔から馬が合わない。しかし、南宮は俺の言葉など聞かずに俺の真横まで来る。

 

「貴様に指図される謂われはない」

 

 そういうと、彼女は俺と同じく海上に目を向ける。

 

「コウモリのお守りか。そのコウモリの素性は知っているのか?」

 

 馬鹿にしたような言葉使いをしてくる。その言葉に俺は鼻で笑う。

 

「馬鹿に為るなよ。これでも調べてきたんだ」

 

「ほお!」

 

 仏頂面のまま南宮は感嘆の声を上げる。それが益々俺の機嫌を落とさせるが、今は気にしないで、客人の素性を口にしていく。

 

「客人の名前は、ディミトリエ・ヴァトラー。第一真祖の所の吸血鬼で戦王領域の自治領の一つアルデアル公国を納める領主様。肝心の本人の性格はとにかく好戦的であり、長老を二人ほど食ったとか」

 

「そうだ。お前も気を付けないと奴に食われるぞ」

 

 面白がるような視線を横目で向けながら、扇子で口元を隠す。

 

「確かに、俺も気をつけないとな。だが、」

 

 再び、海上に目を向ける俺は、未だ姿を現さない客人の事を考えながら、言葉を続ける。

 

「ディミトリエ公に俺は食えないだろうな。俺の体は魔族からしてみればただの毒だからな」

 

 視線を南宮に向け、おもむろに口角を上げる。

 

「お前だって、俺が食われると思っていないだろ? 俺の強さを知っているお前なら」

 

 それを言うと、彼女は少し思考したような間を空ける。

 

「ふん。お前の強さならそうかもな。お前はあの姿にならなくても十分強い。ただ用心はしておけと言っただけだ」

 

「分かってる。調べた限りじゃ、客人は娯楽に飢えてる様子だったしな」

 

 彼女の言ったことを肯定するように溜息を吐く。

 

「お前の弟は間違い無く巻き込まれる。そして転校生もな」

 

「そうだろうな。巻き込む事が主目的なんだろうが」

 

 それを口にすると、何故か自然と溜息が零れた。

 

「まったく。俺の家族はなんでこうも厄介事と縁があるんだろうな」

 

「私が知るか」

 

 引き捨てるようにそれを言うと、彼女は扇子を閉じる。それを見計らって俺は南宮に問いかける。

 

「お前、なんで古城らに教えた?」

 

 結構真剣な声音でそれを口にする。すると南宮はとぼけるように笑みを浮かべた。

 

「さて、何のことかな?」

 

「しらばっくれるなよ。もうネタは挙がってんだ」

 

 髪を掻き、呆れていることを伝えると、彼女は扇子を弄び始める。

 

「別にたいした意図はない。彼奴らは知りたがっていたからな。それを伝えたまでだ」

 

 彼女は一度いきを吐くと言葉を続ける。

 

「それに教えたのは名前だけだ。それ以外は何も言っていない」

 

「そうじゃなきゃ困る。彼奴らを巻き込む気は無いんだ。ただでさえ厄介な運命背負っているんだ。これ以上の事は背負わせる訳には行かない」

 

「過保護だな。相変わらず」

 

「言ってろ。俺はこういう物だ」

 

 そういうと、さすがに経ってるのが辛くなった俺はその場に屈んだ。

 

「ところで、居候はどうしてる?」

 

 その言葉に俺は首を傾げるが、すぐに誰のことか分かった。

 

「あいつは今、家で調整中だよ」

 

「この前届けられたという物をか」

 

「ああ、そうだ。・・・・」

 

 その言葉を発して、俺らの間にしばらくの静寂が訪れる。しかしその空気に耐えきれなかった俺は、思わずそれを口にしてしまう。

 

「あいつは。エイリはお前に会いたがっていたぞ。南宮」

 

「・・・・・・」

 

 俺の言葉に彼女は微塵の反応もしなかった。その反応が辛くて、俺は言葉を続けた。

 

「今のは忘れてくれていい。ただ、あいつが会いたがっているっていうのは頭に入れておけよ」

 

「分かっている」

 

 彼女は自身の真下に空間転移の魔方陣を構築させる。

 

「気が向いたらな」

 

 その言葉を言い終えると彼女は転移した。俺はその様子を目にしないで、おまだ客人が現われないか、海上に目を向け続ける。



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10話 アルデアル公

 南宮と話をしてから約三十分後。ようやく客人の所有する豪華客船が港に着いた。俺は早速客人を迎えるために、その船に近づいていく。近くまできて、その大きさにあっとされる。戦王領域で自治領を任せられる人物だ。これくらいの船ならいくつもM逐っているのだろう。そう考えながら今、船より下りてきた白いスーツを着こなした金波油の客人に近づいていく。

 

「ようこそ、絃神島へ。自分は今回、貴方の案内役を受けたまりました。攻魔師の暁光牙といいます。以後お見知りおきを」

 

 俺が自己紹介をしながら、そっと握手を求めるように手を伸ばす。すると、彼の背後に付き従っていた男が、その行動に警戒したのか、客人を守護しようと前に出ようとする。そかし、それは客人の手によって、阻まれた。客人はこちらの意図を感じ取ったように、俺の手を握る。

 

「へぇ! 君も暁なんだね。ボクはディミトリエ・ヴァトラーだ。初めまして、光牙」

 

 客人であるディミトリエ・ヴァトラーはフレンドリーの言葉を返してくる。彼から発せられた言葉あまりにも流暢な者で少し驚く。だが、あくまで内心で。

 

「日本語がご上手ですね。さすがは古き世代といった所でしょうか」

 

「そんなんでも無いさ。やはりこういう物は日頃から使い慣れている日本人の方に長があるものさ」

 

 彼は謙遜した様子を見せる。しかし口に笑みを浮かべながら、好奇心を宿した目を向けてくる。

 

「ところで、光牙。君に聞きたい事があるんだけどさ」

 

 先程の彼の自己紹介の時に発せられた言葉である程度予想はしていた。だからこの後、彼が何を口にしてくるかはおおよそ想定していた。

 

「君は暁古城っていう少年を知っているかい?」

 

 彼から発せられた言葉は想定した物通りだった。俺は彼に微笑みを向けながら、正直な事を話す。

 

「暁古城は自分の実弟です。アルデアル公は弟にどのような用件があるのでしょうか」

 

「やはり、というべきか。君に名字を聞いてもしやとは思ったが。まさか本当に血縁者だったとはな」

 

 彼は驚きを隠せないように自分の世界に入り込む。しかしすぐに此方に戻り、含みのアル笑みを見せ付ける。

 

「君の弟に逢いに来た。といったら君はどうする?」

 

 まるで此方を試すような質問を投げかけられる。

 

「貴方と会うかを決めるのは、あくまで弟です。自分にあいつを止める権利は存在しません」

 

「おや、意外だね」

 

 アルデアル公は何故か口の笑みを深めた。

 

「君は古城がどういう存在なのか、ご存じの様子だ」

 

 その言葉に、彼の後ろに控えていた部下であろう、二人の青年が警戒を見せる。

 

「あいつがどういう存在であろうと、自分の弟という事実は変わりませんよ。アルデアル公。弟に恐怖を抱くようでは、兄なんか勤まりません」

 

 俺は自分の考えを笑みを浮かべながら口に出す。

 

「君も相当面白い人物のようだ。アハハハハ!っ」

 

 そう口にすると、彼は愉快そうに笑う。

 

「楽しんでくれたようで何よりです。さて、これより絃神島をご案内いたしましょう。配下の方々もご一緒に。そして、君も一緒に来るといい」

 

 俺は方向も変えず、先程から背後に感じていた気配の人物に声を掛ける。すると、アルデアル公は益々楽しそうな笑みを浮かべる。背後の人物は、俺の言葉に一瞬体を震えさせ、少し考えた末に姿を現す。俺はアルデアル公との握手を離して、背後に目を向ける。そこには長い髪をポーニーテールにした、どこかの学校の制服を身につけている顔を強ばらせた少女の姿があった。彼女は俺に警戒の目を向けたあと、此方に近づいてくる。俺の横を素通りして、彼女はアルデアル公の前で立ち止まり、彼に軽く頭を下げた。

 

「初めまして、アルデアル公。獅子王機関より、御身の絃神島滞在中の警護の任を承った煌坂紗矢華です」

 

「ああ、よろしく頼むよ。さあ、行こうか」

 

 アルデアル公は彼女に一瞥だけして、此方に近づいてくる。煌坂と名乗る彼女は何故か此方に鋭い視線を向けてくる。何故だ? 獅子王機関から来たということは、姫柊ちゃんと何か関わりがあるのだろうか? もし、この考えが正しかったら、俺は第四真祖の兄貴ということで警戒するのも当然だな。まあ、それはさておきだ。

 

「車は此方で用意した物を二台ご用意させていただきました」

 

 俺がそれを言いながら、車の方に手を差し伸べる。その方向にあったのは、黒塗りの二台の高級車。

 

「一台には案内役の自分とアルデアル公。そして彼女が乗り合わせることにいたします。すいませんが、配下の方々は二台目にご乗車していただきたく思います」

 

「ああ、構わないよ」

 

 アルデアル公に許可を取り、俺は彼を車に乗れるように後部座席のドアを開き、乗るように促す。彼はその要求に反論すること無く、素直に乗ってくれた。次に彼の護衛役である煌坂ちゃんにも乗るように目配せを送る。彼女は反抗的な目を向けながらも、素直に乗車してくれた。そんなに警戒すんなよと思いながら、ドアを閉め俺は運転席のドアを開く。

 

「おや? 君が運転してくれるのかな?」

 

「はい。これでも案内役ですので、この方が都合がよろしいのです。ですが何か度不満でもありましたでしょうか?」

 

「いや、不満はないよ」

 

「そうでございますか」

 

 俺は作った営業スマイルを浮かべて、運転席に乗り込んだ。すぐにドアを閉め、シートベルトを填めて、エンジンをつける。

 

「それでは参りましょうか」

 

 俺はそっと、アクセルと踏み込んだ。 



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11話昔話

ほんの少しだけ改定しました。


その日の絃神島の案内は物の三時間ほどで終わりを見せようとしていた。此方としてはもう少し時間があったらもう少し他の場所にも案内しようと思っていたが、それは仕方が無い。全ては予定時間に来なかったアルデアル公が悪いのだから。

 

「今日はここまでですね。予定されてた残りは後日に案内するといたします」

 

 後部座席のドアを開けながら、丁寧語でそれを伝える。するとアルデアル公は含み笑いを浮かべてくる。

 

「もう少し案内してくれても良いじゃないか? ボクはもう少し楽しみたいね!」

 

 口角は上がっていても目は脅しているように、獰猛な目つきを向けてくる。

 

「すいません。しかし、此方にも予定という物がありまして。定刻通りに来ていただけましたら、もう少し楽しんでいただけたかも知れません」

 

 そんな彼に俺は申し訳なさそうに頭を下げつつも皮肉を口にする。もとわと言えばお前が遅れたせいだろうが。とは言えない。今の彼は客人なのだ。機嫌を悪くして貰っちゃ困る。そんな俺はせめてもの抵抗としてその皮肉を口にしたのだ。すると彼は一瞬より一層笑みを浮べた。今度は目も笑っている。彼は笑いを含ませた声で話かけてくる。

 

「ふふっ。どうやら此方に非があったようだね。そのせいで君たちがボクを楽しませようと考えてくれた予定を狂わせてしまったのか。済まなかった。以後時間には気を付けるとしよう」

 

 彼は笑いながらそれを口にすると、後部座席に座る。次に煌坂ちゃんが乗ろうとするタイミングで彼女は此方に鋭い目つきで睨んできた。

 

「どういうつもりなの? あんな挑発するような言い方をしてアルデアル公がお怒りに鳴ったらどうするつもりよ!」

 

 彼女は俺にだけ聞える声で責め立てる。そんな彼女の意見に耳を貸すわけでもない俺は笑みを浮かべ、早く乗るように促す。彼女は自分の意見を無視されたことに怒りを見せたようだが、状況を判断して大人しくしたがってくれた。彼女は座席に座るのを見届けるとドアを閉め、俺は運転席に乗り込み、エンジンを掛けた。

 

「今日は楽しかったよ光牙。そのお礼に君にあるおとぎ話を教えよう」

 

「・・・・。それは光栄です

 

 彼が乗ってきた客船に向け走り出して直ぐのことだ。アルデアル公は得意気にある話題を投げかけてきた。俺はそれを謙遜した素振りを見せつつ運転を続ける。

 

「この話は我らが真祖から聞いた話何だけどね。昔々、天部がまだ繁栄していたぐらい昔。それも真祖達が生れる前だ。この星は一度滅びけているというんだ」

 

 それを耳にして、俺は目を少しだけ見開いて驚愕する。まさかあの人。この話を教えていたのか。

 

「それは、随分と壮大な話ですね。凄く興味深いです」

 

 俺は動揺を見せないように言葉を返す。すると、アルデアル公は此方の意見を肯定するように意外そうな口ぶりをする。

 

「そうだよね。ボクも最初その話を聞いたとき耳を疑った。あの方は冗談は好きだけど、決して嘘をつくような方ではないからね。まあ、今はその話はいいか! 話を続けよう」

 

 気分が乗ったのか、彼はその内容を話てくれるようだ。

 

「ボクも少ししか聞いていなかったんだけどね。この星が滅びかけたのはどうやら巨大な魔獣が空から現われたせいなんだそうだよ。その魔獣は全長が100メートルぐらいアル巨体だそうで、それが吐息をするだけで半径3キロの生物は死に絶えるらしい。そしてボクが何よりの驚いたは、当時の天部の技術が全く効かなかったそうなんだ。当時生きていた人達は絶望してたみたいだよ」

 

 まるで体験談を話ているみたいに彼は活き活きと話している。しかし話している内容はとても活き活きと話す事ではない。これはきっと彼の性格のせいなのだろう。

 

「そんな時に、当時の天部の一人が突然巨大化し、光りの巨人となった。周りにいた誰もがその姿に目を奪われた。なんと巨人と化したその天部はあろう事か例の魔獣と互角の力を持っていた。その巨人の活躍によって、その魔獣は退治された。そして光りの巨人と化したその天部も姿を消したそうだ」

 

 彼はそれを話終えると満悦した顔つきになった。

 

「ボクが聞いた話はここまでだけど。どうだい? 面白い話だっただろう」

 

「・・・・。そうですね。とても興味深い話でした。そのような貴重な話をお聞かせいただき、ありがとうございます」

 

 俺はありがたいお話をしてくれた事に感謝を口にする。実際にしている訳ではない。もちろん演技だ。俺がその話を知らない訳が無いだろう。だが、ここは演技をしててもご機嫌を伺ってた方が今後の対応が明らかに楽になる。そう判断してのこの行動だ。

 

「そういえば、この島にもある都市伝説があるんだったね。たしか、光り輝く巨人が現われるとか」

 

 彼の言葉に内心どきりとする。しかし俺はそれを知らない風に装う事に決めた。

 

「そうなのですか? すいません、自分そういう物に疎いあまり情報がなかなか耳に入ってこないんです」

 

 まあ、嘘だけど。それも俺が一番耳に為ることだからな。何せ、あの姦しい妹が何故か俺にその話をして来たことがあった。何故なのかと聞いてみると、あの面倒くさがりの弟に話してもつまらないとのことだ。少しは役に立てよ。

 

「そうなのかい? それはよかった。今後君がそれによって恥をかかなくて済んだね!」

 

 彼は小さい声で愉快そうに微笑む。俺にはその声が得物を求める狼の咆哮ように聞えて成らなかった。



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閑話

 ストブラ三期決定! 嬉しすぎます。知ったとき、思わず声を上げてしまいました。しかも今度は聖殲篇完結までやると言うことで凄く楽しみです。自分的には十四巻の話が凄く好きなのでそこは絶対にやって欲しいです。


「どうしましょう。やることが無くなってしまった」

 

 私は現在居候をしている暁光牙の部屋にてやることが無くなってしまったことへの喪失感に苛まれながら、リビングにあるソファに腰を下ろす。そもそも私は一体何をやっているのだろうか? 私は別宇宙にあるM-78星雲の光りの国の宇宙警備隊よりこの星に派遣されてきたウルトラ戦士だ。授かった指令は嘗て力を授けたこの星の者の援護という物だった。当時私は宇宙警備隊の中で別宇宙追撃班という部署にいた。そこは別宇宙に移動できる凶悪な怪獣や宇宙人し対抗し、作られた部署だった。設立者は宇宙警備隊隊長のゾフィー隊長で主な任務は別宇宙に逃亡を図った凶悪な宇宙人。又は怪獣を逃げた宇宙まで追って退治するという物だ。もしその逃げ込んだ宇宙にもウルトラ一族やその役目を負った者たちがいた場合は、その者達と協力し、その逃亡を図った宇宙人。又は凶悪怪獣を退治する。しかし、その宇宙にウルトラ一族やその役目を負った存在がいなかった場合、その宇宙に留まりその役目を負う存在になるという使命を持った部隊なのだ。この部署は宇宙警備隊の中でもあまり人気が無い。それもそうだろう。もしかしたら一生生まれ故郷の光りの国に帰れなくなるかも知れないのだ。調べたところこの宇宙にはその存在が確認出来なかったため、私は死ぬまでこの宇宙に留まることになるだろう。しかしそれを覚悟して、私はここにやってきた。私だけでは無い。別宇宙追撃班に所属するウルトラ戦士は皆、それを覚悟している。別宇宙追撃班はその役目上から、相当な実力者が必要とされる。それも宇宙警備隊最強といわれる勇士司令部の上位と真面に戦える程度には。私がこの宇宙に派遣されていることはそれだけで名誉な事なのだ。それだけ実力を認められているという証拠なのだから。

 

「まあ、今はその実力も発揮出来ていないのだけれど」

 

 自分でもびっくり為るくらい声の生気は弱かった。不意にテレビの棚に飾ってある金色の剣身をもった短剣に目が行く。あれは宇宙警備隊の実力者。ウルトラマンゼロがとある事情で変身能力を失った私に持ってきてくれた新しい変身アイテム。ゼロとは昔なじみであった為、彼に頼るのは少し癪だったが背に腹は代えられない。別宇宙より単独での移動手段を持っている彼が態々送り届けてくれた物だ。今はまだ調整中のため使えないが、もう少ししたら使えるようになる。そうしたら少しは彼の負担は減るでしょうね。

 

「・・・・・。買い物しなきゃね」

 

 しばらくぼうっとしていると、食材を切らしていたことを思い出し、私は軽く腰を上げる。そんな変身能力を失った今の私に出来る事はこの家の主負担を減らすこと。それ故に、家でのあらゆる家事をこなしている。元々家事は光りの国に居たとき、好きで積極的にやっていた。最初は光りの国とは扱い方の違う家電に少し手間取ったけれど、成れれば簡単だ。すぐにポケットに財布を入れると、私は近くの大型スーパーに向うため、玄関の扉を開ける。

 

 

 

 

 

 マンションから出て物の数分で大型スーパーに着き、私は早速入り口前で買い物かごを手に為る。

 

「ああ、そういえばいろいろと足りなかったわね」

 

 思い直してカートに手を伸ばし、その中に今さっき取ったばかりのかごを中をのせ、それを押して店に入っていく。

 

「買う物は米と出汁の素。それと今日の夕飯の材料とトイレットペーパーくらいね。あと、コーヒー豆とお茶請けも買っておかないと」

 

 小さく独り言ちりながらまず最初に米の販売エリアに向う。スーパー内は夕方の時間帯もあり、それなりに人が多く、その場所に行くのは少し時間を取られると思っていたが、意図も簡単にその場所に着くことが出来た。私は積み重ねられた一番上の米を持ち上げカートの下部に置く。たかだか10キロだ。あまり重く感じることはない。今度はトイレットペーパーを取りに行くことにし、カートを推し進める。

 

「エイリさん?」

 

 不意に後ろから呼びかける声が聞える。私を知っている風に声を掛けてきたため誰かと思い、後ろを振り返るとそれは納得した。

 

「少し前ぶりね。コジョウくんにユキナちゃん」

 

 そこに居たのは私と同じ買い物をしていたであろう二人だった。一人は光牙の弟で世界最強の吸血鬼だという暁古城。もう一人は彼の監視役という名目で日本政府によって派遣された姫柊雪菜。彼らとの初めての邂逅は少し前に彼らが光牙の家を訪問してきた時だ。その時には少し気まずい雰囲気の中私が光牙の後を引き継いで行ったもてなしをし、丁重に帰した。二人は私を見つけると、此方に近づいてきた。

 

「エイリさんも買い物か?」

 

 古城くんは少し不思議そうに首を傾げつつ効いてくる。私はまず頷き、少し笑みを浮べつつ返答を返す。

 

「ええ、そうよ。主に家事は私がやっているから、こういう買い出しも私の役目」

 

 私がそれを口にすると、彼は何故か驚いた表情を見せる。私は何か彼にそんな驚かせるような事を言ったかしら?

 

「主婦みたいですね」

 

「ちょっ! 先輩!」

 

 彼が呆けた顔をして言ったことに隣にいた雪菜ちゃんは慌てて彼を諫める。そこで彼も自分が言ったことに気付いたらしく、慌て出す。

 

「いや、そういう訳じゃ無くてですね」

 

「分かってるわよ。そんなに慌てなくて大丈夫よ。君がそういう先走った考え方をするって事はコウガから聞いているから。安心しな」

 

「安心出来ねぇよ!」

 

 私はからかう様にそれを口にしてそっと向きを変え、足を進める。数歩進んだ後、私は再び振り返り、彼らに言葉を投げかける。

 

「二つ言いたいことがあるわ。一つは私はコウガに全くそういう意識を持っていないという事。もう一つは二人の方が夫婦に見えるから気をつけた方が良いわよ」

 

 それを口にして私はその場を去る。去り際に雪菜ちゃんに目を向けると少し顔が赤くなっており、それをみて、余計微笑ましい気持ちになった。

 

「あの子も私と同じなのよね」

 

 不意に考えが頭に過ぎり、溜息を吐く。彼女と私の境遇は少し似ている。彼女も私も上の命令によってこの場所に派遣された。私は後悔などは無いが彼女はどうなのだろうかと思ってしまう。

 

「私が考えても仕方が無いな」

 

 そう結論付けて、私は買い物を続けた。



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12話

「朝か」

 

 少し思い上半身を起こして、痒みの走った頭を掻く。時間を確認しようとデジタル仕様の時計に目をやると、まだ六時を回ったところ。まだ速い時間だと言うことDえ俺は一つ欠伸をして、再びベットに横になった。

 

「結局四時間くらいしか寝てねえのにな。この体になってからあまり眠れなくなったのが難点か。その分睡眠での回復は速くなったが」

 

 寝ぼけた様な声で呟き俺は気分だけでも二度寝しようと瞼を閉じる。昨日は結局自宅に帰ってきたのは深夜の一時頃だった。あの人物の絃神島観光が終了した時間はおよそ九時頃。家に帰るまでの時間。俺は後処理などに負われていった。昨日行けなかった場所への謝罪と今度窺えないかという提案の電話。昨日行けた場所へのお礼のメールの送信。そして報告書のまとめと借りていた車の返却などの雑務をこなしてようやく終わった時間が一時過ぎ。そこから自宅に帰り、エイリが作り置きしておいてくれた夕食を取り、風呂を済ませた後にようやくベットに横になることが出来たのは二時頃。思い返してみて我ながらよくやったなと呆れてくる。

 

「今日は休みでよかった。さすがにあんな重労働の翌日は働きたくないからな」

 

 二度寝することを諦め、最早軽くなった瞼を開ける。

 

「今日は一日のんびり過ごすか。まあ、出来るか分からないが」

 

 最後の方は投げやりな言葉になる。しかしそんな事を気にせず俺は頭の後ろで両手を組み、ベットの上から部屋を見渡す。不意に枕元の台に置かれている縦長のメダルホルダーに目が行く。

 

「久しぶりに綺麗にするか」

 

 不意にそれが思い立ち、俺は再び上体を起こし、メダルホルダーに手を伸ばし、此方にたぐり寄せる。

 

「・・・・・・」

 

 カバーを外し中を見ると少し汚れた数々のメダルに目が行く。

 

「これは少し強力そうだ」

 

 言葉にしながら俺は足を床に降ろして重い腰を上げる。

 

「さて、何かメダルを拭くものを探さないと」

 

 それを口にしながら俺は脱衣所に向う。そこならタオルがあるし、ついでにそこでの用事を済ませてしまおうという想いがある。

 

「おはよう。今日も早いのね」

 

 扉を開け、併設しているリビングに出るとそこにはコーヒーを注いだであろうコップを手にしているエイリの姿があった。彼女は此方に挨拶を済ませるとすぐにソファに腰を下ろしてテーブルの上に置いてあるリモコンに手を伸ばして、テレビの電源を入れた。映し出されたのは日本本土のテレビ局の朝のニュース番組で、アナウンサーが顔に貼り付けたさわやかな表情が画面いっぱいに広がった。

 

「お前の方が早いだろ。朝食の準備か?」

 

 おもむろにソファに近づき、コーヒーに口をつけているエイリに問いかける。すると彼女は振り返りゆっくりと頷く。

 

「ええ。もう大体終わっているわ。後は火を通すだけよ」

 

「そうか」

 

 そう口にすると俺は脱衣所に用事があったことを思い出し、そちらに向おうと方向を変える。

 

「朝食は何時頃をご所望?」

 

「七時半くらいで頼む。その間ちょっとメダルを磨着たいからな」

 

 彼女からの言葉に俺は希望の時間帯をいうと、彼女はそれを頷き、言葉を続けた。

 

「もうちょっと頻繁に磨いた方が良いわよ。貴方の管理は少し杜撰だからメダルに傷が沢山つくんだから」

 

「分かっているよ。だから今やるんだろ」

 

疲れた様な声を出して、俺は足を進める。僅か数秒で目的の場所につくと、俺はまず歯ブラシを取り出して、適当な量の磨き粉をつけ、口に突っ込む。歯を磨きながら屈みに目をやり、顎辺りに手を添え、髭のチェックをする。俺はあまり髭が濃い方では似た目それほど気にしているわけでもないが、身だしなみ的にあまりよい物では無い。幸いそれ程というか、全くといって良いほど髭がないことを確認する。俺はその手でコップを手にして中に水を入れていく。粗方入れ終わると俺はそれに口をつけ、口内をゆすぐ。その作業もあまり時間を掛けないで終わる。その後、俺はタオルにテを掛けそれを濡らしていく。全体が濡れると水を止めてそれを絞り軽く顔に当てる。軽くタオルを動かし顔全体を拭くと俺はそのタオルをすぐに洗濯機にいれ、違うタオルを手に取る。それを先程と同じように全体を湿らせて、絞り終えると俺は自信の部屋に足を進める。部屋に戻る際、エイリの様子が目に入ったが、彼女は此方に気を向ける様子など無く、ただ無言でコーヒーを飲みながらテレビに目を向けている。その光景に特に何も思わなく、俺は自信の部屋に入っていった。部屋に入るなり、俺は備え付けの椅子に腰掛け、メダルホルダーに手を掛ける。

 

「今日は時間があるからな。これをやり終えたらどうするかな」

 

 何枚かメダルを取りだして持ってきたタオルで磨きながらそんな事を考えていた。ふと目をタオルにやるとメダルは結構土埃を被っていたのか、拭いた箇所が黒ずんでいた。そこで結構な汚れだったと自覚して、一度溜息をして今日は徹底的にメダルを綺麗に磨こうと心に決める。すると自然と手に入る力が強くなった。

 



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13話 食後の雑談

十一話のヴァトラーが語っている部分を少し抱け改訂しましたので、避ければそちらもご覧になってください。


「暇・・・」 

 

 食後のコーヒーに目を向けながら、溜息交じりな声が俺の口から漏れ出た。ふと目を上げると朝のニュースも終わろうとしていた。もうそんな時間になるのかと考えると、キッチンからのエイリの声が耳に届く。

 

「メダル磨きはどうしたの?」

 

「朝食前に終わった・・・・」

 

 それを口にし、彼女に目をやるとどこか納得がいったという表情をしている。

 

「だから部屋から出て来たとき、肩を落としていたのね。また急に仕事が入ったのかとおもったのだけど」

 

 彼女がそう言うと、俺は過去の事を思い返す。確かに俺が肩を落としながら自室から出てくるときは大体、突然仕事を押しつけられた時だった。それを思い出して、苦笑いしか出ない。しかし、よく見てるな。いや、俺が分かりやすいだけか。

 

「今回ばかりは彼奴も配慮してくれたんだよ。何せ接待相手は戦王領域きっての曲者だからな。次の日くらい休ませてくれんだろ!」

 

 むしろ休日をくれなかったら、抗議の裁判を起こしてやる。これまで彼奴が俺に課してきた仕事の証拠は全部取ってあるんだ。きっと勝てるだろう。・・・やっぱ止めよう。相手はこの島の権力者一家の男だ。勝つのは凄く難しい。

 

「どのくらいの強さだった?」

 

 エイリが興味本位でそれを聞いてくる。そうだな・・・・。

 

「お前より弱くて、俺と同程度だろうな」

 

 もちろんウルトラマンの力を使って。もし戦闘になった場合、俺の不完全な力ではアルデアル公を倒し切れる保証はない。何せ、俺はまだ十三年しか闘ってないのだ。戦闘に置いて、経験が物を言う。今の俺はその経験の権化である吸血鬼の実力者と闘って、五分に闘えるだけのレベルなのだ。これに関してはしょうが無い。俺は積極的に戦いを仕掛けることがないからな。いつも防衛の為に力を行使しているに過ぎない訳だし。

 

「それ程なのね・・・。全く、この次元の地球はパワーレベルが可笑しいわ」

 

 疲れた様な声を吐き捨て、呆れた様な表情を浮べるエイリは額に手を宛てた。

 

「他の地球はここまでじゃなかったのか?」

 

 彼女の発言に興味を持った俺は、自然とその質問を口にした。すると彼女は「ええ」と応え、言葉を続ける。

 

「そもそも私がいた次元の地球には魔族という存在が空想の産物だったらしいから。人間しかいなかったのよ。それにこの世界より科学も進んでなかった。この世界が以上なのよ」

 

「・・・・・。そうなのかもな」

 

 異次元から来た彼女の発言は自然と受け止められる。人間しかいない星か・・・。それはそれで面倒が多そうだ。何せ、人間が一番残酷で、好き勝手なのだから。きっと星に害を与えていたに違いない。そう思うとその地球は可哀想だと感じるし、人間を邪魔に思って居るかも知れないな。もしかしたら怪獣を送り出してくるかも知れない。もし俺がその地球出身で、同じようにウルトラマンの力を授けられていたらどうしてたであろう。多分、人間達を助けていたんだろうな。それは直感で分かるような気がする。

 

「だけど、コウガ。貴方は少し自己評価が低いと思うわ。三年間のブランクがある私と、その三年間も戦い続けてきたコウガ。多分今貴方と闘ったら、私も勝てないかもね・・」

 

「それは過大評価しすぎだろ。正式に訓練を受けたわけじゃない俺がお前ほど強くなれているとも思えない。今でも必死になって戦っているだけだ」

 

 俺が苦い顔してそれを言うと、エイリは呆れた表情を見せる。

 

「貴方こそ、私を過大評価しすぎよ」

 

 彼女はそう言うと、悲しげな表情を見せる。

 

「とにかく、今の貴方はそのヴァトラーという人物よりも強いはずよ。何だったら、今度戦ってみたら?」

 

 彼女は微笑みながら、そう告げる。俺はその言葉日溜息を吐いた。

 

「ウルトラマンは私的なことで力を使うのは駄目なんじゃなかったのか?」

 

「ええ、そうよ」

 

 彼女は笑みを浮べて言葉を続ける。

 

「だけど訓練という名目を使えば、きっと彼も喜んで受けてくれると思うけどね」

 

「嫌だよ。訓練だとしてもあの人とはあまり関わりたく無い」

 

 俺は全力で拒絶のこと名を吐き捨てる。その様子が珍しかったのか、エイリはきょとんとした顔を見せる。

 

「珍しい。貴方がそこまで拒絶するなんて。なんかされたの?」

 

 彼女は含みの楽しげにある笑みを浮べつつ、それを聞いてくる。正直に話すべきかどうか。悩むところだ。だが、これは離しておいた方が良いんじゃないのか? そういう考えが頭を過ぎる。

 

「あいつは俺とも戦いたいみたいだ」

 

「・・・バレたの?」

 

「初対面名相手にそんなヘマはしない。ただ、彼奴は明らかに俺と闘いたがっている。それは昨日の話を聞いていて分かった」

 

 戦闘狂と噂になっている人物が、島の人間である俺にわざわざこの島で噂になっている光の巨人の事を聞いたんだ。確定だろ。彼奴は古城だけじゃなく、俺まで暇つぶしの玩具にしようとしている。

 

「巻き込まれたら面倒だからな。今後の彼奴の対応は古城に任せる。っというか、一緒にいると疲れるから今後俺はあの人の接待はしない。変に目を着けられる訳には行かないからな」

 

 ああいう人物には関わらないことが一番だ。そして、ウルトラマンについても昔話と噂程度しか知っていない。俺がぼろを出さなければ、バレることはないだろ。

 

「結構厄介な相手なのね・・・」

 

「本当にそうなんだよ・・・」

 

 俺は溜息交じりに疲れがにじみ出した声でそういった。



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