高度20000フィートの大空で (イーグルアイ提督)
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【人物】

 

ハル 年齢22 職業:戦闘機乗り

 

F-14Dスーパートムキャットのパイロット。

見た目は茶髪のセミロング。

身長162cm。

好きな航空機はF-14。

恋愛など知った事かというレベルでF-14Dの事を愛している。

実はテキサス内ではファンクラブが密かに出来ているほどに美人なのだが本人は全く気づいていない。

操縦の腕は本人は認めていないがかなりのもの。

得意な事は格闘戦なのだが愛機のF-14そのものが格闘戦があまり得意な機体ではないため少し不完全燃焼気味。

それでも機体性能を補えるほど卓越した空戦技術を持つ。

空対地攻撃は基本的に苦手。

特に機銃掃射が苦手。

搭載武器等はAIM-120等のアクティブ誘導式のミサイルは好まず、AIM-7等のセミ・アクティブ誘導ミサイルを好む。

F-14の最大の特徴とも言えるAIM-54は重いという理由であまり載せたがらない。

ちなみに、セミ・アクティブ誘導を好むのはもし相手が戦闘機ではなく輸送機等だった時に誘導を止めればミサイルは当たらないという理由で好んでいる。

 

 

マヤ 年齢22 職業:回転翼パイロット

 

F-14DのRIO(レーダー迎撃士官)。

見た目は黒髪のショートボブ。

身長160cm

好きな航空機はUH-60。

普段はF-14Dの後席でレーダー等を見ているが本職はヘリコプターのパイロット。

輸送から偵察、奇襲、火力戦闘とヘリに関する事なら何でも出来るがヘリに乗る機会があまり無くて少し寂しい思いをしている。

家族は父と母、妹がいるが、父はVTOL機を愛し、母はロシア製もしくはソ連製以外の航空機は認めないと言っていてしょっちゅう喧嘩している。

妹は爆撃機を信仰する会の幹部。

ちなみにこの宗教団体にちょっかいを出した日には翌日そのちょっかいを出した人物が1人で歩いていたりふるとその場所が焼け野原通り越して石器時代に戻っているためこの国である意味1番恐れられている。

ちなみに集団で攻撃した日にはその集団がいる拠点のみならずその集団と繋がっている組織で教団に敵対行為をしそうな部署を調べあげて巡航ミサイルやクラスター爆弾、通常爆弾等を満載した爆撃機編隊に襲われる。

しかし、基本的に爆撃機を崇拝しているだけで無差別爆撃とかはしないのでテロ組織認定はされていない。

ただし、教団に敵対行為をすれば容赦なく石器時代に戻される。

 

 

 

リリア 年齢21 職業:戦闘機パイロット

 

MIG-29とSu-35BMのパイロット。

見た目は金髪のロング。

身長155cm。

好きな機体はSu-27。

ロシア製戦闘機をこよなく愛している。

ハルとは幼馴染で何かと勝負を持ちかけたりしていた。

今は一緒に飛んでいる。

実はかなりいい所のお嬢様だが何もかも決められたルートを歩むのが嫌で半ば家出で冒険者となった。

操縦は少し無茶をする傾向がある。

無誘導爆弾を用いた爆撃は天才的に上手いが攻撃機に乗り換えるつもりは無いらしい。

格闘戦は若干苦手。

 

 

トマホーク 柴犬

 

たまたま寄った放棄された飛行場で拾った柴犬。

毛並みは茶色。

人懐こい上に非常に賢く、完全に人の言葉を理解しているような行動をする。

 

 

 

【世界観】

 

魔王軍によって開かれた異世界への門により異世界技術が流入した世界。

通貨は世界共通でドル。

ちなみにドルと言っても我々の世界のドルと違い、1ドル=0.5円程。

生活水準は基本的に我々の世界と変わらない。

携帯電話などの小型の通信端末が普及し、インターネットなどの通信技術も発展している。

国は大陸を丸々国土としている王国と連邦の超大国とその周辺に公国、共和国と小国が散らばっている。

この世界では特に航空技術の発展が著しく、冒険者や一般人は基本的に航空機で旅をしている。

我々の世界で車が各家庭一台以上あるように各家庭に1機以上の航空機を保有しているような勢いで普及している。

ただ、陸と海はまだまだ強力な魔獣等が生息しているため、車や船といった技術についてはあまり積極的に新しい技術は取り込まれていない。

人々は街を高さ10m以上の壁で囲み、街の真ん中に空港を配置している。

空港は民間機、王国軍の軍用機、冒険者の所持する航空機が駐機してあるため滑走路1本の空港でも大きさだけなら街の30%程度の大きさがある。

そのため、時期にもよるが非常に混雑している。

また、空港には航空管制官も存在するのだが管制官の仕事は航空機の離発着の監視や調整と駐機場への誘導のみで、離陸した航空機等の管制は民間機を除いて行わない。

 

魔王軍は技術流入が始まってから50年程度経った時に人類に侵攻を始めたがその時はすでに人類側の装備は剣や槍から銃火器や戦車、戦闘機といった兵器に変わっており、対して魔王軍は50年前と変わらない魔法や棍棒、槍、魔獣等で、人類側の圧倒的な戦力差にわずか2ヵ月程度で魔王軍は壊滅的な被害を受け、魔王はどこかに隠れてしまった。

 

 

【組織等々】

 

 

魔王軍

 

異世界侵攻を夢見て異世界への門を開いたのはいいが自軍圏内のみならず、世界中に開いてしまう。

おまけに自軍の圏内にはマトモな世界に繋がらず人類側には多種多様な世界と繋がり、技術流入が始まった。

指揮官でもある魔王は異世界侵攻は諦め、この世界を征服しようとするも、技術流入で戦車や戦闘機等の兵器を使い始めた人類の圧倒的戦力差に2ヶ月程で敗退、その後はどこかに魔王軍の拠点を置こうものなら二日以内には大規模空襲を受けたり、特殊部隊を送り込まれて内部から壊滅されられた挙句、その拠点にある魔道具等、高く売れたり人類側にとって便利な物は根こそぎ略奪されたりと散々な目にあっている。

魔王は「お前ら人間の方がウチらよりよっぽど悪魔だわ」と捨て台詞を残してどこかに隠れてしまったという。

 

 

 

王国軍

 

この世界の国の軍隊。

主に空軍で編成されている。

しかし、広大な国土をすべて守りきれるほどの戦力はなく、基本的に王都とその周辺を警備している。

また、隣の大陸にいる連邦を仮想敵国として訓練もしているが一応、王国と連邦の関係は友好。

 

 

騎士団

 

王国軍所属の特殊部隊。

Navy SEALsをモデルにして訓練、編成されているが規模は海兵隊並。

独自に航空部隊も保有している。

基本的に王都以外の防衛はこの騎士団の派遣隊が各街に駐屯している。

そのため、冒険者でも対処できない事態にはこの部隊が動く。

 

 

空賊

 

主に民間の輸送機を襲い物資を略奪するならず者集団。

拠点は国中にある放棄された飛行場を利用している。

基本的に民間機を攻撃、撃墜することは滅多に無いが、たまに旅客機を撃墜して楽しむ集団も存在している。

この集団は同じ空賊からも忌み嫌われている。

普段は近くを通りかかった冒険者の戦闘機に襲いかかり空戦を楽しんでいる。

主な使用機はMig-21やMig-29など。

希にAV-8BやF-15を使用する空賊もいる。

また早期警戒機や早期警戒管制機を保持している集団もいる。

 

 

海賊

 

主に海上で活動するならず者。

海は強力な魔獣が非常に多いが、基本的に単艦で行動している。

並の船、練度では生き残れないため必然的に高い戦闘力を持った集団になる。

艦船も対潜水艦をメインに対水上、対空戦闘力にも優れた船を選んでいるため近づくだけでも危ない。

主に海洋魔獣を狩って生計を立てていて冒険者と変わらない面もあるのだが近くを通りかかる冒険者の戦闘機、もしくは輸送船に襲いかかるため海賊と呼ばれている。

ちなみに船をメインに運用する冒険者も存在する。

 

 

 

山賊

 

山や森で活動するならず者。

近くの村や通りかかった輸送車両等を襲ったり、村人を誘拐して身代金を要求したりして生計を立てている。

AKシリーズのような多少の汚れや錆程度では故障しない武器を好み、悪路に強い6輪や8輪の装甲車を保有している。

中には対戦車ヘリコプターを保有している集団もいる。

 

 

 

【魔獣等】

 

 

自爆魔獣パンジャンドラム

 

WW2時代のイギリス軍の兵器パンジャンドラムとそっくりの魔獣。

タブーとされる生物を作り出す魔法を習得した魔法使いにより生み出され、この魔獣を使って荒稼ぎしようとしたようだが試しに転がしてみた際にうまく転がらず自分めがけて突撃され文字通り粉微塵にされた。

特徴は体内で生成した高圧ガスを車輪のような足に着いた円筒状の器官から高速で排出して転がる。

自らが爆発しようと思うと爆発する。

また仲間が不慮の事故で爆死すると他のパンジャンドラムもショックで連鎖的に自爆する。

その肉と体液は非常に美味とされ、脂肪分は加工すると高性能爆薬となる。

 

 

Uボート

 

潜水艦Uボートに酷似した魔獣。

UボートVII型をベースにしているが1部群れのボスはXXI型に姿を変える。

見た目は完全に潜水艦だがちゃんとした生き物。

浮上した際に呼吸しと表皮で発電し潜行中は溜め込んだ空気で呼吸し溜めた電気で水を分解して酸素を取り出したりしている。

最大5時間は潜っていられる。

攻撃は主に体内の排泄物を魚雷状に成形しその際発生したガスを利用して艦首にあたる部分にある開閉可能な器官から発射する。

発射後は通常の魚雷とは違い、排泄物に溜まっているガスをゆっくり排出しながら進む。

これが何かに当たると爆発を起こし、威力は実際にUボートに搭載されていた魚雷G7aと同等の破壊力がある。

またこの魚雷状の物体を発射する時と航行中に放出に放出されるガスが酷い悪臭を放ち、有毒物も含まれるため海洋汚染が深刻化している。

また好物は艦船の素材とその燃料である重油なため輸送船がよく狙われている。

しかし最近はソナーの探針音を聞くと身を潜めるという習性が分かってきたため輸送船の護衛に駆逐艦等が付き、常にアクティブソナーを打ち続けている。

それでも近距離のUボートにしか効果はなく、遠距離に居るUボートはこちらを見つけると雷撃してくる。

 

 

 

ペンギン

 

空対艦ミサイルAGM-119ペンギンに酷似した鳥類系の魔獣。

別名「無慈悲なペンギン」

どこで繁殖して暮らしているのか全く生態が不明。

年に1度、フェアリィに向かって大量に飛んでくる。

何故フェアリィに飛んでくるのかは謎だが1部ではフェアリィを超えた先にある大きな湖に向かっているのでは無いかという説がある。

主に自爆することにより攻撃してくる。

威力は大したことないが希に小さな街なら一つくらい吹き飛ばせるほどの攻撃力を持った亜種がいる。

また、基本的に動くものを狙う習性があり、最近は航空機に対しても体当たりを仕掛けてきた。

その機動力はサイドワインダー並である。

 

 

【技術レベル等】

 

航空機

 

第一世代から第五世代までありとあらゆる航空機がある。

ただし第五世代のステルス能力についてはまだ研究段階。

 

 

 

我々の世界とあまり変わらないが電気自動車やハイブリッドカーは存在しない。

装甲車や戦車は我々の世界より一世代前といった程度。

 

 

 

タンカー等の民間船についても我々の世界とあまり変わらないが、対Uボート用にアクティブソナーと同周波数の音を発する機器や船によったら自衛用の単魚雷を装備する物もある。

軍艦は最新鋭がスプルーアンス級。

潜水艦については研究段階で放棄された。

またイージス艦であるアーレイ・バーク級も研究されていたのだがシステムが複雑すぎて放棄された。

海賊がこれを回収、運用しているとの目撃情報もある。

 

 

 

【職業等】

 

 

戦闘機パイロット

 

文字通り、戦闘機を操縦して旅をしたりする人々。

ちなみに、対地攻撃機に乗っても書類上の扱いは戦闘機パイロットになる。

主な仕事は民間機の護衛、空賊の撃退、翼竜の討伐、洋上における対潜哨戒機等だ。

 

 

旅客機パイロット

 

文字通りの職業。

冒険者向けというよりは民間航空会社の職業だが稀に旅客機を操縦する冒険者もいる。

この職になるためにはまず、戦闘機等の免許を取得した後に専門の学校に通い免許を取得する。

この学校でのカリキュラムは非常に厳しく、少しでも旅客機を操縦する素質が無いと判断された場合は退学となる。

そのため、操縦する者はエリート揃いで、操縦技術もかなり高い。

 

 

回転翼パイロット

 

 

ヘリコプターを操縦して旅をする冒険者の職業。

主な仕事は他の冒険者からの依頼を受けてその冒険者をクエスト開始地点へ輸送、墜落した航空機の捜索救難、機関砲等を用いて魔獣もしくは山賊の討伐または撃退、対潜哨戒等を行う。

またその機動力を生かして小さな村へ物資を輸送したり等もある。

 

 

ガンナー

 

銃火器を装備して地上で仕事をこなす人々を言う。

主な仕事は魔獣の討伐、山賊の撃退等、人が地上で出来ることは何でもやる。

またダンジョン探索もこの人たちがやっている。

 

 

 

ハンター

 

銃火器や魔獣から剥ぎ取った素材から作った武器を使い、魔獣討伐をメインにしている人々。

主な仕事は魔獣の討伐。

唯一、剣などの近接武器をメインに使う事がある職業。

必然的に屈強な人々が揃う。

 

 

メディック

 

昔はヒーラーと呼ばれていた職業。

基本的に回復魔法使いが多い。

異世界文化の浸透により、ヒーラーからメディックと呼ばれるようになった。

ちなみにメディック=衛生兵が表すとおり、医療系の知識が豊富な人物も多いため、診療所等が無い村で医療行為をしている者も少なくない。

 



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番外編
番外編『異世界に行きたかった少年』


思いつきで書いてみた。
なんか割とめちゃくちゃな気もするが許して!


「あー・・・異世界行きてぇ・・・」

 

俺はどこにでもいる東京の某所に住んでいる異世界に行きたいと24時間365日願い続けている高校生!

異世界行って美少女にチヤホヤされながら魔王をぶっ飛ばしたい!

常日頃からそんなことを考えていた。

 

「ちくしょう、どうやったら転移できるんだ・・・」

 

先週はいい加減学校以外でも外に出て何かしろと怒られ、『だったら異世界転生してやるよチクショー!!』と叫びながら首を吊ろうとしたらマジで精神科に連れていかれた。納得いかん。

俺は転生するために頑張ったというのに!!

と、心の中で叫びつつ学校に行く準備をしていた。

 

「学校じゃなくてエルフの村とか行きたいなぁ・・・」

 

叶わぬ願いを呟きつつ、家から出る。

学校に着くまでの数十分間、異世界に行ってどんな魔法を使い美少女にチヤホヤされるのかを想像しながら歩いていた。

 

「何だか今日は異世界に行ける気がする」

 

だって朝から妙な頭痛と耳鳴りが続いている。

友達にメールで今日こそ異世界行けるぜ!と症状と共に送ったら『はよ病院行け』とだけ帰ってきた。

解せぬ。

 

「こう・・・次を目を開けたら異世界とかないかなー・・・」

 

そう呟きながら目を閉じて自販機で飲み物を買った。

だが目を開けてもそこには自販機があるだけで俺の押したボタンをよく見たら『しじみみそ汁』とか書いてあった。

無論HOT。

ちなみに今は7月。

気温は30℃を超えていた。

 

「WTF」

 

俺のバカ。

そう思いつつも懲りずにまた目を閉じてボタンを押そうとした。

だが今度はいくら押そうとしても何も押せない。

 

「あれ、俺自販機から下がった記憶ないけど」

 

そして目を開けた時だった。

目の前に草原が広がっていた。

 

「え・・・何これ」

 

突然の事すぎて頭が追いつかない。

だが落ち着くにつれて心の底から喜びの感情が湧き出してくる。

ここは・・・ここは・・・ここは!!!

 

「ヒャッハー!!!ここ異世界じゃね!?」

 

日頃から願い続けるものだ!

やはり努力は報われるという事だ!

そして異世界あるあるその1!

見知らぬ土地から始まる!!

 

「ふはははは!!やったぜ!!」

 

ただ喜ぶのはいいが周りはだだっ広い草原。

目の前にちょっとした森があるだけだった。

 

「うーむ・・・とりあえず森に行って魔物に襲われる美少女を助けるか」

 

異世界あるあ・・・いや、まだ何も起きてないが魔物に襲われる美少女を助けてそこからストーリーが始まる!!

そう思いつくと嬉々として森に突入した。

 

「美少女ちゃーん、でておいでー!」

 

そう言いながら森を進むと目の前に見たことのない動物が出てきた。

明らかに魔獣のような見た目だ。

 

「よっしゃ来た!魔獣とエンカウント!俺の魔法を食らうがいい!」

 

俺は手をかざして何となく火が出そうな感じだったのでファイヤーと叫んでみた。

 

「ファイヤー!!!・・・あれ?」

 

出ない。

馬鹿な!!

 

「あれ?じゃあフレイム!!」

 

これも出ない。

そしておかしな事に魔獣が増えてる。

ヤバい。

 

「逃げるが勝ちという言葉が俺の故郷にあるんでな!」

 

一目散に適当な方向に向かって走る。

異世界あるあるその2!

いきなりピンチ!でもそこに冒険者のグループが助けに来てくれたりする!

ということを信じて走る。

 

「ハァ、ハァ、ハァ」

 

後ろから魔獣が追いかけてきていた。

ヤバいこれ結構ピンチ。

 

「森の切れ目・・・よっしゃこの先に何かあるぞ!!」

 

そこまで頑張れ俺!!

全力に走り抜けた先にあったのは無情にも崖だったが。

 

「マジかよ・・・おいおいおい!こんなの有り得ねー!!」

 

「グルルルル・・・」

 

「増えてるよ!増えちゃってるよ!!」

 

武器になりそうなものなんてカバンに入ってたカッターナイフしかない。

でも身を守れるならと取り出す。

 

「チクショー!!誰か助けてくれー!!」

 

そう叫んだ時だった。

遠くから羽音のようなものが聞こえた。

 

「竜か何かか!?」

 

もしドラゴンだったらヤバいが飛竜にのった冒険者だったら助けてくれる。

そう思ったが、俺の耳には別の音に聞こえてきた。

明らかに生き物の出す音では無かった。

というか、この世界で聞くはずのない音だ。

俺の頭が追いついていないのかなんの音か分からなかったが。

 

「な、なんだよこの音ー!!!」

 

そう叫んだ時だった。

崖の下からとんでもない物が出てきた。

・・・異世界ないないその1。

ピンチに戦闘ヘリが駆けつけてくる。

 

「へ、ヘリコプター!?」

 

しかもハリウッド映画で見るようなゴツイ戦闘ヘリだった。

胴体の下に大きなマシンガンが見える。

 

《そこの君!伏せて!!》

 

異世界あるあ・・・?その3

何故か言葉が通じる。あと声からして女の子。

でも戦闘ヘリに乗ってる。

 

「え、え!?」

 

言われた通りに伏せると耳を劈くような音がして目の前にいた魔獣が消し飛んだ。

 

「えええええ!?」

 

魔法は!?エルフの美少女は!?

何ここ!!剣と魔法じゃないの!?

 

「嘘だろ・・・」

 

するとヘリは何かを探すように上空を旋回して目の前に着陸した。

 

「これはあれか・・・異世界にアメリカ軍が行っちゃったパターンなのか・・・」

 

ここは・・・おれの望んだ世界では無かった・・・

だがヘリから降りてきたのはエルフの女の子だった。

 

「え、エルフ!?」

 

「初めまして!こんな森で珍しいね!」

 

「え、いや・・・珍しいというか・・・その・・・それ」

 

俺はヘリを指さす。

 

「ん?あ、これ?」

 

少女もヘリを指さす。

 

「AH-64Dアパッチだよ!見たことないの?」

 

ええありますとも。映画の中で。

というかそこじゃない。

 

「私達ってこういうの本当は使わないんだけどねー・・・村長様がグローバル化じゃとか言ってその時誕生日だった私へのプレゼントで村全体で買ってくれたんだよね」

 

誕生日プレゼント!?

その戦闘ヘリが!?

 

「でもこの子、ロングボウって愛称らしくて弓使う私達にピッタリよね!あ、ちなみに妹がガンナー席に乗ってるの!」

 

「・・・いやいやいや!!なんで!?魔法とかは!?」

 

「使えるわよ?」

 

「使えるの!?」

 

「うん、じゃあ・・・今から氷のヘルファイア出すから!」

 

「ヘルファイア・・・って何?」

 

「それ」

 

「それ?」

 

指したのはヘリに積んであるミサイル。

 

「ミサイル!?」

 

「うん、AGM114ヘルファイア」

 

なんかもう世界観が・・・

そう嘆いていたが女の子は何かを呟くと目の前に黄緑色の魔法陣が広がり、氷で出来たミサイルが出てきた。

 

「すご・・・」

 

出てきた物は別としてこれはすごい。

 

「すごい・・・けど、剣と魔法のファンタジーは・・・」

 

「あはは!あなた何年前の話してるの?」

 

「え?」

 

「魔法は別として剣の時代はもう百年前よ?今はこれよこれ!航空戦力の時代よね!」

 

異世界ないない。

剣と魔法の世界は終わり航空戦力の時代が来てる。

 

「あ!もしかしてあなた異世界の人でしょ!」

 

異世界ないない!!

異世界人って簡単にバレる!!

 

「え・・・な、なんで?」

 

「だって昔来た人もそんな感じだったもん!」

 

「え?む、昔?」

 

「昔って言っても去年だけどね!」

 

「きょ、去年?」

 

割と最近だった。

 

「あ!もしかしてあなた日本人だよね!」

 

「え!?」

 

異世界ないない!

日本人って何故か分かる!!

 

「東京?」

 

「え、あ、うん・・・東京」

 

「えー!いいなー!私あのスカイツリー行ってみたいの!でもいいなー・・・向こうは魔獣が居ないから・・・」

 

なんで、なんでなん?

なんで異世界なのに戦闘ヘリとか東京とかスカイツリーとかいうワードがでてくるん?おかしくね?

 

「そーだ!ここで会ったのも何かの縁だし村においでよ!」

 

「え、い、いいの?」

 

「うん!近くに仲間のパーティいるから呼ぶね!」

 

そう言っておもむろに無線機を取り出した。

 

「ハンター0-1からヴァイパー1へ」

 

《ハンター、こちらヴァイパー》

 

「今異世界から来たばっかな人を助けたから村に招待したいんだけど、迎えにこれる?」

 

《おい・・・リア。お前また余所者連れ込むのか?》

 

「いーじゃん、村長様だって歓迎してるしさ」

 

《はぁ・・・まったく・・・ヴァイパー了解》

 

「んじゃまた後で!」

 

そう言って無線を切った。

・・・異世界に来てこんな会話を聞くことになるなんて誰が思うだろうか・・・

そう思っていたら遠くから今度は甲高いジェットエンジンの音がした。

 

「今度は何だよ・・・」

 

「あれ・・・空賊!?」

 

リアと呼ばれた女の子は空を見上げてそういった。

 

「空賊?」

 

「ならず者だよ!どうしよう・・・」

 

よく見ると2機のジェット機が戦っているようだ。

いや、3機か?

追われているジェット機が劣勢に見える。

 

「な、なぁアレ助けなくていいのか?」

 

「アパッチじゃ無理だよ、自衛用のスティンガーがあっても・・・」

 

「スティンガー?い、いやでもアレどう見たってピンチだろ!ミサイル積んでるんだから助けようぜ!」

 

すぐ側の戦闘ヘリにはミサイルが見た感じ8発ある。

相手は2機。

余裕の弾数だ。

 

「貴方本気で言ってるの?」

 

「え?」

 

「あ、ミリー。下りてたんだ」

 

「うん、お姉ちゃんの話長そうだったから」

 

妹もヘリから降りてこっちに来た。

そして俺を睨むように見て言う。

 

「貴方、戦闘ヘリが戦闘機と戦って勝てると思ってるの?」

 

「い、いやだってミサイル積んでるだろ!」

 

「貴方ゲームのやり過ぎね。このヘリコプターが積んでるのは空対地ミサイル。空対空ミサイルじゃないのよ」

 

「え、ど、どゆこと」

 

空対空だとか空対地だとかよく分からんワードが・・・

というかミサイルってそんな種類あんの?

 

「はぁ・・・だから空の敵を撃てるミサイルは積んでないの」

 

「え!?だ、だってそれ戦闘ヘリだろ!?」

 

「戦闘ヘリを何だと思ってるの?」

 

なんて会話してると3機の戦闘機はこっちに迫ってきた。

 

「ミリー、危ないかも!」

 

「あれミグとホーネットだね」

 

「あのパイロットも大変そうだねー。あ、後ろとった」

 

「何呑気なことを・・・!」

 

そう言った時、後から爆発音がした。

さっきの戦闘機がやられたのか火だるまの戦闘機が落ちてきた。

 

「ナイスキル!」

 

「ホーネット相手にMig-21はキツいよねー」

 

「な、なんで平気なんだよ!そこで戦争起きてるのに!」

 

「戦争?あんなの日常茶飯事だよ」

 

「ここ中東なの!?」

 

「中東が何か知らないけど・・・いい加減慣れたら?」

 

「慣れるかこんなの!!俺は剣と魔法の世界を期待してたのに!!」

 

叫んでると近くにさっきの戦闘機が墜落した。

コックピットの部分が千切れてこっちに飛んでくる。

 

「わっ、危ない!」

 

「アパッチに当たったら大変ね」

 

俺はこっちに来たコックピットを見て吐き気がこみ上げてきた。

コックピットは真っ赤に染まっていた。

染まりきってない部分から中が少し見えたがそこには人のようなものがあった。

・・・血塗れで。

 

「う・・・おぇぇぇ・・・」

 

「わぁぁぁ!!ちょっと!大丈夫!?」

 

「こんなの俺の望んだ世界と違う・・・」

 

もう嘆くしかなかった。

異世界でチヤホヤされたいと思ったがこれどう考えったってこの子達の方がすごい。

魔法は使えてヘリの操縦は出来る・・・。

 

「まぁ・・・ほら、去年来た人もそんな事言ってたから」

 

「元気出しなさい。」

 

妹のほうは呆れ顔で慰めてきた。

なんてしてる間に次のヘリの音がしてきた。

 

「あ!来た来た!」

 

「世界観・・・」

 

これまた映画で見た事あるヘリコプター・・・

魔法は?剣は?しかも乗ってる人の格好剣士みたいだけど手に持ってるの銃やん・・・

アパッチの近くに着陸したヘリから人が降りてきた。

パーティのリーダーっぽいオジサンだ。

 

「こいつか?村に連れてくってのは」

 

「うん!日本人!」

 

「んだよ、またか・・・」

 

また・・・?また!?

なに?そんな頻度で日本人ここに来てるの!?

 

「どうする、またゲートまで連れてくか?」

 

「あれ、東京に繋がってるゲートあったっけ」

 

「んや、確かアレ下地島だな」

 

「あー、日本の端っこだねー・・・あとどっか無かったっけ」

 

「えーっと・・・俺が知ってるのは稚内と南鳥島と・・・硫黄島くらいだな」

 

なんで異世界まで来て日本の地名を聞くことになるのか全く理解できん!!

というかなんで極端に端っこの方しかないんだよ!!

 

「どうするかね」

 

「本人次第じゃない?」

 

「本人次第って・・・コイツにだって家族がいるだろ、友達だって」

 

「まぁそうだけど・・・とか言いながらこの前の人だってすごい喜んで戦闘機の免許取りに行ってたじゃん、今テキサスに住んでるけど」

 

テキサス・・・?アメリカですか!?

 

「とは言ってもなぁ・・・俺が知ってる日本人2人居たけど、結局空賊に落とされちまったからな・・・」

 

「まぁ、ウチの村に住んでくれる異世界人を村長様が探してたし!」

 

「あの物好き爺さんめ・・・分かったよ、連れてくか・・・リーダー様のご指示だしな」

 

え・・・このおっさんじゃなくてこの女の子がリーダーなの!?

という顔をしてたらリアは照れたようにこっちを向いた。

 

「あはは、私がリーダーって言われてビックリしてるでしょ。これでも村の航空隊の隊長なんだから」

 

「へ、へぇ・・・そうなんだ・・・」

 

とりあえず、俺は素直にヘリに乗り込んだ。

 

「じゃあ後でね!えーっと・・・」

 

「あ、名前言ってなかったか・・・俺はダイスケ、遅くなったけどよろしく」

 

「うん!よろしく!」

 

リアと自己紹介を済ませたあとヘリは離陸した。

・・・人生初のヘリに乗った体験が異世界になるなんてなぁ・・・

何だかんだ疲れた・・・

ヘリの振動が心地よく俺は気づいたら寝ていた。

 

「村まであと5マイル」

 

「ダイスケ、起きろ。もう着くぞ」

 

「んぁ・・・」

 

「ハンター、こちらヴァイパー。村に客人を連れて先に降りる」

 

《ハンター、了解》

 

村が見えてきた。

俺はきっと自分たちが住んでいるような現代的な街だとタカをくくっていたが、その村はファンタジー物でよく見る森の中にあるエルフの村だった。

 

「おぉ!これこそ俺の望んだ光景!!・・・ヘリさえ無ければな・・・」

 

「誘導員確認・・・OK、障害物無し」

 

「今日は花粉が舞ってるらしいから気をつけて行けよ、また村の8割が花粉症になったって怒られたら大変だ」

 

「了解です、任せといてください!」

 

村の8割が花粉症って・・・

パイロットはベテランなのかゆっくりと機体を静かに着陸させた。

だが・・・やはり少しヘリの起こす風で花粉を舞いあげたらしい。

無線で怒られていた。

 

「到着だ。ようこそ、ココ村へ」

 

ココ村・・・それがこの村の名前だった。

ヘリを下りると村長が出迎えに来てくれていた。

 

「おー、これはまた・・・お主は高校生かな?」

 

「え、あ、はい・・・そうです」

 

「ほっほっほ、若さってのはええのぅ・・・どれ、日本の話をワシにも聞かせてくれんか」

 

「え、あ、えっと・・・分かりました」

 

そうして案内された村長の家。

中は華美というわけでもないが色鮮やかな家具が置いてあり出来立ての木で出来た家のような香りがしていた。

落ち着く香りだ。

 

「じゃ、この部屋で色々話でもしようかの」

 

部屋に入り、椅子に座る。

程なくしてエルフの女の子が紅茶を運んで来てくれた。

・・・めっちゃ俺好みの美少女やん。

銀色のロングヘアに翠の目・・・小柄な体型と超俺好みだった。

 

「どうぞ、村特産の紅茶です」

 

あ、めっちゃ声可愛い。

最高。

異世界最高。

とか思っていたら外からさっきのアパッチのエンジン音が聞こえてきて色々と現実に戻された気分だ。

異世界だけど。

 

「んでじゃな」

 

そこからは日本のどこ出身なのか。

今はどんな事が流行っているのか、家に帰りたいかなどを聞かれた。

 

「お主・・・この村に住まぬか?」

 

「え?いいんですか?」

 

「うむ、まぁ帰るためのゲートも近くに無くての。帰したくても帰せない・・・って所もあるんじゃがな・・・」

 

「いえいえ!異世界に居れるだけで俺は!」

 

最高です!・・・って言いたいが、外の戦闘機と戦闘ヘリが俺の中の何かをぶち壊してくる。

 

「あ、そうじゃ。もし住んでくれるならじゃが・・・おーい、カナデ!」

 

「はーい」

 

カナデ?というか返事したのってさっきの美少女の声!?

これは何かのフラグか!?

 

「なーに?おじいちゃん」

 

「こやつと一緒に村の防人を頼みたいのじゃが」

 

「んー?この日本の人と?」

 

「うむ、やれそうか?」

 

「うん!ちょうど私1人だと村全体をカバー出来なくて・・・えっと、じゃあよろしくね!日本人君!」

 

「えっと・・・よろしく。俺はダイスケ」

 

「私はカナデ、この村のガードマンなの。えーっと、おじいちゃん予備の鉄砲ってあったっけ」

 

「ん?お前もっとらんのか?」

 

「あるにはあるけど・・・」

 

「それでいいじゃろ。任せるぞ」

 

「りょーかいです!村長殿!じゃ、こっちに来て!」

 

「え、あ、あぁ・・・」

 

カナデに連れられて家を出る。

 

「えーっと、そうだ、住む家無いよね」

 

「うん、何も言われてないからね・・・」

 

「じゃあ私の家においでよ!私とあの村長・・・私のおじいちゃんなんだけど家は別なの。おじいちゃんが私専用にって家をくれたんだけど一人暮らしだと広くって・・・」

 

「え、でもいいの?」

 

「うん!ダイスケ君いい人そうだし!」

 

これはフラグ来ました、来ましたよ。

ここはいっちょカッコイイ所見せないと!

 

「私の家はここね!」

 

そう言って案内された家は他の家と同じ大きさのごく普通の家屋だった。

木や草、石など自然の物で作り上げた家。

でも魔法の力なのか石や木は綺麗に切断してあり見た目も綺麗だった。

 

「じゃあ・・・どうしよかっかな・・・とりあえずダイスケ君の実力を知るためにテストをします!」

 

「えっ」

 

「とりあえず地下に行くよ!」

 

カナデに連れられて地下に行くと鼻を着くような火薬の臭いがした。

足元には金色の筒が・・・これ薬莢・・・?

 

「ダイスケ君って銃を撃ったことある?」

 

「いや、無いよ」

 

「じゃあ、撃ち方からだね。えーっと日本人なら・・・あった!」

 

カナデが近くにあるボックスから銃を一つ取り出した。

 

「じゃじゃーん!89式小銃ー!」

 

「はち、きゅう?」

 

「あれ?これ日本製の銃って聞いてダイスケ君にも合うかなって思ったんだけど」

 

「あ、ごめん・・・俺銃とか全然知らなくて・・・」

 

「そうなんだ!でも大丈夫、私が教えてあげるね!とりあえずこれ持ってて!」

 

そう言って銃を渡される。

人生で初めて持つ実銃。

銃の横を見ると89Rと刻印されていた。

そしてアレ3タという日本語。

 

「どう?気に入った?」

 

「なんか・・・日本語書いてあってちょっと安心したかな」

 

初めて触れる実銃に何となく日本語が書いてありほっとした感じがあった。

 

「あとこれ、弾と弾倉ね。弾は込めてあるから早速撃ってみよっか!」

 

「あ、う、うん」

 

射撃場の射撃位置に着く。

 

「えーっとじゃあまずは、銃を構えて」

 

カナデの言う通りに構える。

映画なんかで見た見様見真似だが。

 

「うーん・・・なんか違うなー・・・ちょっとそのままで!」

 

「え?ちょ、ちょ!!」

 

カナデが後ろから抱きつく形で一緒に銃に手を添えてきた。

 

「あはは!顔真っ赤で可愛い!」

 

「い、いやいやいや!そりゃ顔真っ赤にもなるから!」

 

童貞には刺激が強いんです!

あぁ・・・なんか凄くいい香りが・・・

 

「とりあえずはい、肩の力抜いてもう少し足を開いて・・・」

 

そんな感じのドキドキ!射撃訓練!が終わり色々と疲れきってカナデが案内してくれた部屋のベッドに寝転んだ。

 

「疲れた・・・けどカナデちゃんと一緒に冒険とか出来そうだし・・・これはこれで良かったかな・・・」

 

そんなことを呟きながら夢の世界へと入っていった。

俺の望んだ異世界ではないけど・・・これはこれでいいかな。



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【番外編】頑張れ魔王様

人間側がただのド畜生になっただけな気がする(


「暇だ・・・」

 

我輩はこの世界の魔王。

その気になれば人類など簡単に滅ぼせる力を持っている。

が、今はやることが何にもなく椅子にふんぞり返ってボケーっとしていた。

 

「魔王様!」

 

「何だ」

 

部下の1人が笑顔で我輩の前にきた。

 

「異世界への扉が開けそうです!」

 

「なに!本当か!」

 

兼ねてからの夢だった異世界侵攻。

それが叶いそうだった。

 

「明日には開けます故にお待ちを」

 

「ご苦労、大儀である」

 

我輩はニヤけが止まらなかった。

また、その異世界をどう統治してやろう・・・。

考えはつきなかった。

そんなこんなで時は流れ、異世界の扉を開く時が来た。

 

「では魔王様」

 

「よし、やれ」

 

「はっ!」

 

部下の魔法使いが呪文を唱え、魔法陣が目の前に現れた。

そして扉が現れる。

 

「ふふふ・・・はっはっは!!さぁ行くぞ同志諸君!」

 

我輩は扉を開いた。

眩しい光で思わず目を閉じた。

そして目を開けたら・・・

 

 

「ヒャッハー!!なんかよく分からん扉が開いてよく分からん何かが出てきたぜー!!」

 

目の前にモヒカン姿の男が数人。

何か炎が出る武器のような物を持っていた。

 

「ふははは!!虫けらどもめ!我輩が今日からーー『ヒャッハー!!汚物は消毒だー!!』アツゥイ!!!」

 

「魔王様ぁぁぁ!?」

 

「ちょっ、まっ、マジ熱い!!」

 

まずい、我輩のHPがどんどん削られていく。

と言うか普通、魔王とはいえ会ったばかりのヤツを焼く?これでも一応人間の姿を模してるのよ?それを会った瞬間焼いちゃう?君たち見ず知らずの人達を焼いちゃう系の危ない人達なの?

だがこの程度で斃れる我輩ではない。

爆発系の魔法を使う。

 

「砕け散るがよい」

 

「うんぬ!」

「こんなの狂ってる!」

 

目の前にいた男達は爆発で消し飛んだ。

 

「魔王様ご無事ですか!?」

 

「うむ・・・まぁちょっとローストされかけたが大丈夫だ」

 

若干自分が焦げ臭いがまぁ大丈夫だろう。

 

「では魔王様、先に進みましょう」

 

「うむ、そうしよう」

 

そして道無き道を歩いていく。

それにしてもなんだこの世界。

道端に白骨死体は転がってるしアンデットモンスターは彷徨いてるし、終いにはさっきの男達の同じ集団が死体で芸術作品を作っていたりとめちゃくちゃた。

 

「魔王様・・・人間とは何と醜いのでしょう・・・」

 

「まったくだ。」

 

そんな話をしながら歩いていた。

 

「魔王様・・・あの、ちょっと気分が・・・」

 

「む、大丈夫か同志」

 

「いえ・・・何とか・・・」

 

「とはいえ、何か顔色が悪いな・・・おい、そこの小川から水を取ってきてやれ」

 

「はっ、魔王様」

 

部下の1人が川から綺麗な色をした水を持ってきてくれた。

 

「これを」

 

「コイツに飲ませてやれ。ほら、水だ」

 

「ありがとうございます・・・」

 

そして勢いよく飲んだ。

すると・・・

 

「なんじゃこりゃぁぁ!!」

 

「な、なんだ!?」

 

「この水何か変な感じなんです!!」

 

「はぁ?」

 

するとそれを見ていた部下の賢者が何かを知っているようだった。

 

「魔王様、これ汚染されてる」

 

「汚染とな?」

 

「色々と魔法使って調べてたけど、ここは『核戦争』っていうのが起きた世界みたい。」

 

「核・・・戦争?」

 

「魔王様の使う爆発系魔法の威力を何倍にもしてさらに毒の効果を与えたみたいな武器を撃ちまくる戦争。あとこの汚染に晒され続けると変異するみたい」

 

「え」

 

水を飲んだ部下が青ざめる。

 

「ちなみにもう変異は始まってると思う」

 

「え、ちょっとまって・・・早くない?」

 

「魔物系の遺伝子は放射線っていうのに弱いみたい。ちなみに君の遺伝子は特に」

 

ちらっと部下を見ると何か微妙に体が大きくなってる気がする。

 

「・・・」

 

「あ、あの魔王様?」

 

「同志よ、君はここで名誉の戦死を遂げるのだ」

 

「は!?ちょ!?」

 

「君の勇姿は我が魔王軍の輝かしい歴史において永遠に語り継がれるであろう」

 

「う、嘘ですよね・・・?」

 

・・・変異を始めた部下を連れて戻るわけにもいかん。

それにこの世界は全く魅力を感じない。

 

「大丈夫、殺しはしないが・・・許せ」

 

我輩は転移魔法を使い、その部下以外を扉まで退避させた。

そして扉をくぐって城へ戻った。

 

「はぁ・・・なんなのだあの世界は」

 

「ハズレみたいですね。次を開きますよ」

 

「よろしく頼む」

 

その後、何回か扉を開いたが何が悪かったのか9割型核戦争後の世界や感染症のせいで文明が崩壊した世界を引き当てた。

唯一まともに見えた世界も扉を開いだ場所が戦争で文明が崩壊したロシアという国の街だった。

しかもそこに居た妙な服を着た男に偵察に出た部下の1人が倒され、あろう事かその男、部下の身包みを剥いで逃げていった。

その時、『やっべこれマジ、ゲロウマ装備じゃん。帰って売ろ。30万ルーブルくらい行くなこれ。ハッピーだぜなんだな』と言って逃げていった。

 

「・・・・・・・これはいったいどういう事なんだ」

 

「そんな・・・こんなの嘘でしょ・・・?何故なんですか!」

 

「それはこっちのセリフだ」

 

我輩は大きなため息をついて椅子に座る。

 

「つまりは卑怯な事せずに世界征服しろって事だな」

 

「は・・・」

 

「同志諸君、我輩は50年後にこの世界を征服しようと思う。それまでは準備期間だ。我が軍の圧倒的な力を持って敵を圧倒撃滅するのだ!」

 

「ウーラ!!」

 

「ふははは!!50年後・・・楽しみだ!はっはっは!!」

 

そう城で宣言し、あれやこれやとしているうちに月日は流れた。

 

「魔王様、約束の50年が経ちますが・・・人間達の偵察は必要ないのでしょうか?」

 

「必要ない。たかが人間如きに我らは止められはせぬ」

 

そして我輩は攻撃指示を出した。

 

「行くぞ同志諸君!人間どもを根絶やしにしてしまうのだ!」

 

「ウーラー!!」

 

転移魔法を使い、人間の街へと部下達が消えていった。

 

「さて、報告を待つとしよう」

 

我輩は椅子にふんぞり返った。

そして、待つこと3時間。

最初の報告が来た。

 

「報告します!」

 

「うむ」

 

「全滅しました!」

 

「え」

 

「全滅しました!」

 

「いや、2度も言わなくていいから」

 

「全滅しました!」

 

「3回も言わなくいい!どこの部隊だ!」

 

「全部死にました!」

 

「言い直すなや!!どこの部隊だっつってんだろボケ!!」

 

「全部です!」

 

我輩は絶句した。

全部?オール?オール壊滅?

 

「いったい人間どもは何を・・・」

 

一体何が・・・そう考えているとボロボロの部下が1人帰ってきた。

 

「ま、魔王様・・・」

 

「お前は・・・えっと・・・なんでもいいや、大丈夫か!何があった!」

 

「ち、近づかないで下さい!な、なぁお前これ・・・外せる?」

 

我輩に近寄るなといい、我輩に報告しに来た部下に腹に巻き付けられた何かを指さして外せるかと言い出した。

 

「な、なんだこれ」

 

変な紐まみれな物がくっついた服。

そして部下が近づいた時だった。

 

「ぬぉっ!?」

 

大爆発。

帰ってきた部下諸共爆発したのだ。

 

「な、何が起こっている!?」

 

「魔王様!敵がーーぐぁ!!」

 

「!?」

 

ドカンドカンと大きな音がした。

同時に・・・。

 

「突撃!!」

 

「行け行け行け!!!」

 

敵がなだれ込んで来たのだ。

我輩はあまりの進軍の速さに硬直してしまった。

しかし音を聞いた瞬間に上手く物陰に隠れたので少しは見つからないだろう。

様子を伺う。

 

「魔王を見つけろ!見つけ次第殺せ!」

 

「ケツ穴を増やしてやれ!」

 

「A分隊は魔王の捜索!それ以外は金目の物を運び出せ!コイツらの武器装具は高く売れるぞ!田舎の母ちゃんを喜ばせてやれ!」

 

「イエッサー!!」

 

嘘だろコイツら押し込み強盗しに来やがった。

というか何だあの武器は・・・音と同時に魔物の部下に風穴を開けた。

アイツは確か防御力が高かったはず・・・。

 

「おい見ろよコイツ、金のネックレスだ」

 

「すっげ、純金だぜ」

 

「ここに魔王は居なさそうだし盗れるもん盗ったら別の所いくぞ」

 

「へっへっへ、これで病気の母ちゃんの手術が出来るぜ。魔王軍さまさまだな」

 

「魔王を生かしとけばこうやって金を稼がせてもらえるもんな!はっはっは!!」

 

「それにしてもアイツらビビってるぜ、何せ俺らに異世界技術流入してるって気づいてないっぽいからな」

 

「まったくだ。いきなり街に来たと思ったら今からお前ら殺しますとか言い始めて出したの剣だもんな」

 

「あれな!傑作だったな!10秒とかからず蜂の巣だぜ!」

 

「あれは面白かったよ!はははは!」

 

・・・・・・・・なんだこいつらやべぇ。

しかも我輩生かしとけば金づるって。

我輩これでも魔王よ?

魔物の王様だよ?

男達は我輩の気持ちを知ってか知らずかどこかに行ってしまった。

というか今、異世界技術の流入って言ったか・・・?

まさか・・・。

我輩は最悪の事態を想像してしまった。

 

「まさかのんびりしていた50年のウチに人間どもは・・・」

 

我が軍の戦力を大きく上回った・・・。

そんなはずはない!

と言いたいが・・・。

それよりも何故、人間どもに異世界技術が・・・。

 

「クソっ、我輩の城が・・・!」

 

地響きと爆発音。

さらに部下の悲鳴、断末魔も聞こえる。

その時、2人のアンデット族の部下が入ってきた。

手には人間どもの武器を持って。

 

「魔王様!」

 

「無事だったか」

 

「何とか・・・人間どもの武器を奪いました!これで時間を稼ぎます。魔王様は今のうちに逃げてください!」

 

「お前らを置いて行けるものか!」

 

「行ってください、我々が敵を抑えてる間に!」

 

「だから置いては行けぬ!」

 

「魔王様が居なくなったら、私達はどうするんですか!今は逃げて、体制を整えて反攻に転じるんです!」

 

「・・・」

 

廊下から人間どもの声が聞こえてきた。

 

「魔王様!!」

 

「分かった、我輩は行く。貴様らの勇姿、忘れはせぬ!」

 

我輩は転移魔法を使って城の外へと逃げた。

燃える城を眺めていた。

 

「我輩は・・・負けたのか・・・?」

 

そう呟いた時だった。

 

「離せ!離して!!」

 

この声は・・・街に偵察に出ていたサキュバスの・・・?

隠れて様子を見てみよう。

 

「誰が離すかっての!サキュバスなんて初めて見たぜ!」

 

「おいおい、ヤると死んじまうぞ」

 

「それはお前が俺が殺されそうにならないように監視してればいい」

 

「チッ、俺は2番目か?」

 

「捕まえたのは俺だ」

 

「・・・へいへい」

 

「どうせ魔王軍だ、やる事やったらぶっ殺してほったらかしときゃいい」

 

「お前・・・軍人がいうセリフじゃないぞ」

 

「誰も見てねぇ、構うもんか。それにこんないい女見た事ねぇ!」

 

「・・・ったく・・・早くしろ」

 

「言われなくても」

 

「やめ・・・近づかないで!!」

 

見ていられなくなった我輩は飛び出す。

 

「やめろこの悪魔共!」

 

「魔王様!」

 

我輩は爆発魔法で2人を吹き飛ばす。

 

「大丈夫だったか?」

 

「ま、魔王様・・・ありがとうございます・・・」

 

「部下を助けるのは我輩の仕事だ」

 

そう言ってサキュバスを介抱していた時だった。

城が大爆発を起こす。

 

「お城が・・・」

 

「城なんてまた建てればいい。今は戦力を整えるのが先だ。もう我輩とお前・・・あと少しの部下しか残ってない」

 

我輩たちはその場を離れた。

その後、生き残った部下の報告によると城から運び出された魔法具等は人間の街で高額で取引されているとか。

おまけに盗る物盗ったから城は爆破処理されたとのことだった。

 

「悪魔共め・・・」

 

「魔王様・・・お言葉ですが分類上我々が悪魔です」

 

「知ってるわそんなもん!」

 

「まぁ・・・悪魔に悪魔って言われる人間も相当よね・・・」

 

「よく聞け、我輩たちはここから戦力を整え、人間に対して反抗を開始する。」

 

「了解!」

 

・・・と意気揚々と宣言したのはいいが、訓練キャンプが見つかるとどこからとも無く爆撃機というものが飛来して爆撃されるわ、爆撃されなくとも根こそぎ魔法具等を持っていかれるし・・・。

 

「もう・・・アイツらの方がワシらよりよっぽど悪魔だよな・・・」

 

「えぇ・・・それ、去年言ってましたよ・・・」

 

唯一生き残った部下のサキュバスを前に愚痴る。

 

「我輩が召喚すれば軍備くらい簡単に増えるけど・・・増えたら増えただけ殺されるもんな・・・」

 

「ついでに・・・押し込み強盗にもあいますし・・・」

 

「あいつら・・・我輩達が魔王軍だからって何してもいいってなってない?」

 

「街に偵察に出た者の話だと、魔王軍はクソザコナメクジな上に高く売れるものいっぱい持ってるから見つけたら最優先でぶっ殺して取るもんとってしまえってなってるみたいですよ?」

 

「・・・もう我輩魔王引退する」

 

「魔王様!?」

 

「もう無理・・・アイツらマジ悪魔だもん・・・ワシらの手に負えん・・・」

 

「ま、魔王様どうか気を確かに・・・」

 

その時我輩はふと思いつく。

あの核戦争後の世界にいけばいいのではないかと。

 

「そうだ!」

 

「!?」

 

「あの核戦争後の世界とやらに行き軍備を整えるのだ!」

 

そうと決まれば・・・と魔王城跡地に向かい扉に入る。

あれだけ大きかった城が残骸しかないとは・・・。

我輩は人間どもに復讐を誓い、そして新たな世界の王となり人間どもを滅ぼしてやる!

そう心に誓い、扉へと入った。

 

「世紀末の王に我輩はなる!!」

 

そう叫んで。



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【番外編】異世界転生してミリオタ無双しようと思ったら既に銃と魔法と航空機の世界だった

「・・・なんだ、ここ・・・」

 

気を失っていて目を覚ますと何も無い空間に居た。

いや、正確には俺の目の前には美しい女性・・・まるで女神のような女性が立っていた。

 

「おはようございます、カズキさん」

 

「なんで俺の名前・・・」

 

「混乱していますね」

 

「そりゃね・・・」

 

そりゃそうだ。

気を失って起きたらこんな所に居るのだから。

 

「いきなり受け入れられないと思いますが、貴方は亡くなりました」

 

「へっ?」

 

「貴方は死んでしまったのです。交通事故で」

 

「交通事故・・・」

 

それで俺は思い出す。

友達と街のミリタリーショップに行った帰りのところだ。

 

「良いもん買えたぜ!」

 

「まったく買いすぎだろ・・・」

 

隣で大きな袋を抱えた友人を横目に車を運転していた。

 

「あー・・・くそ、霧がでてきた」

 

「おーこりゃ不吉な」

 

「案外霧を抜けたら異世界だったりして」

 

「そしたら俺ら最強だぞ!銃を使えるチートで!」

 

「そんな上手い話があるか・・・」

 

交差点で信号待ちしながら異世界にもしも転生出来たらどんなチート能力が欲しいかと話し合っていた。

その間にも霧は濃くなり50m先も見えないくらい濃くなってきた。

何とか信号機の色を識別できるがこんなに霧が濃くなるなんて嫌な雰囲気だ。

 

「青・・・?」

 

「青っぽいな」

 

俺は車をゆっくりと発信させて左右に注意していた。

その時右の道路から光る何かが動いているように見えた。

 

「なんだアレ・・・」

 

俺は目を細めてよく見る。

それは赤信号に気づいていない大型トラックだった。

 

「あのバカ来やがった!!」

 

「避けて避けて避けて!!」

 

咄嗟にハンドルを切る。

友人は頭を守るような体制を取った。

その数秒後、とんでもない衝撃を受けて気を失った。

 

「あの時・・・」

 

「あ、ちなみにご友人は無事でしたよ。でも貴方の死因は聞かない方がいいと思います」

 

「え、なにそれ・・・」

 

でも友達が無事なら良かった。

アイツには悪い事してしまったが・・・俺は天から見守ることにでもしよう。

彼女が出来そうなら全力で脱糞する呪いでもかけてやるが。

 

「あ、あのちなみになんだけど・・・死因って何?」

 

「え、聞いちゃいます?」

 

「まぁ・・・自分の死因だし・・・」

 

「・・・焼死です」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

思った以上に酷かった!!!

気を失っていて良かったよ!!

 

「まぁ直接的な死因がってだけですが。なんだったら貴方がトラックとぶつかった時に頭に破片が突き刺さって神経を全部麻痺させましたから焼かれてる感覚は無かったと思いますよ」

 

「分かった!分かったからこれ以上言わないで!!」

 

「まぁ、そういう訳でして。あなたには転生をしてもらいます」

 

「何がどうそういう訳なのか小一時間くらい問い詰めたい」

 

「あら、不服ですか?貴方は生前望んでいた事だと思うのですが」

 

「いやまぁそうだけど・・・そんな事ある?」

 

そもそも異世界なんて存在するのか・・・。

 

「世界の面白いところですよ。それでよくあるチート能力も授けての転生でもよろしいですか?」

 

「待った待った!転生は強制なの?」

 

「強制です。というかココ最近転生予定者居なかったので勝手にやらせて頂いてます」

 

「なんだそれ!!」

 

「暇なんですよ。この場所って。転生者を見ることができる魔水晶とかありますけど、私転生させるの初めてですし」

 

「嘘だろ初めてなのかよ」

 

「私の初めてをあなたにあげます」

 

「なんかエロい」

 

話は通じにくいが、どうせ死んで第2の人生があるなら楽しませて貰おう。

チート能力はせっかくだしミリオタらしく現代兵器系で行こう。

俺はその能力を伝えた。

 

「え、ファンタジー世界にそんなもの持ち込んじゃいますか・・・」

 

「いいじゃん。チートなんだし」

 

「まぁそうですね・・・では、準備はよろしいですか?」

 

「OKだよ」

 

「分かりました。それではいってらっしゃ・・・あっ・・・」

 

「なにその、あっって」

 

「い、いえなんでもありまーーーー」

 

聞き終わる前に光で包まれた。

俺は目を覚ます。

 

「目を覚ました・・・?良かったぁ・・・」

 

「ここは・・・」

 

目の前には魔法使いのような女の子が居た。

 

「ここは、えと・・・」

 

女の子は近くの村の魔法使いだと言った。

ここはその村から近い洞窟で中には希少な薬草が生えているから採取に来たら倒れていた俺を見つけたらしい。

 

「あ、自己紹介遅れたね・・・!私は、サキ・・・あなたは?」

 

「俺はカズキだよ」

 

「よろしく・・・」

 

サキと名乗った女の子は少し人見知りらしく下を向きながら呟くように言った。

何この子くっそ可愛い。

 

「君1人なの?」

 

「ううん、まだ仲間が・・・」

 

すると奥からバタバタと急いでくる音がした。

出てきたのは2人の女の子。

この2人も魔法使いのような見た目だった。

 

「サキ!逃げるわよ!」

 

「え、え?」

 

「オークの連中が・・・あら、あなたは・・・」

 

「さ、さっき倒れてた人・・・」

 

「そうなのね、私はマオ。よろしく!」

 

「あ、えと、カズキ。よろしく」

 

「カズキね!あ、そうだ、それでオークの連中が居て・・・」

 

「サキ!マオ!来るよ!!」

 

「分かったマリ!逃げて!」

 

「カズキさんも一緒に・・・!」

 

「分かった、でも、俺にも戦わせてくれ」

 

「あら心強いわね。男の人はそう出なくちゃ!」

 

俺は武器を使えるチート能力がある。

そんなオークなんざ敵でもない。

武器を召喚する前に少し憧れていた敵の前で俺を倒してから女の子を襲いなという感じのセリフを言ってやろうと思っていた。

 

「来た!!」

 

「おい緑のバケモ・・・・」

 

「RPG!!」

 

おい緑のバケモノという言葉に重なるように聞こえたオークの様子を見ていた魔法使い、マリがそう叫ぶ。

しかもやたらと聞きなれた単語だ。

 

「ふせて!!」

 

サキに押し倒された。

女の子のいい匂いがした直後、頭上をロケット弾が飛んで行った。

 

「・・・はァ!?」

 

俺は驚愕のあまり大声を出す。

そりゃそうだ。

剣と魔法の世界に来てミリオタ無双をしようと思ったらRPG-7で攻撃されたのだ。

 

「クソっ!魔法じゃ間に合わない!」

 

マオはそう言ってスカートの下から拳銃を取り出した。

 

「9mmで効けばいいけど・・・!」

 

マオはM92Fをオークに指向して射撃するが、効果は今ひとつだった。

俺はそれを見て硬直している。

するとサキが俺に銃を渡してきた。

 

「カズキさん、私が魔法を準備する間に援護してください」

 

「え、あ、あぁ・・・」

 

俺は渡された拳銃、SIG P226を構える。

そして同時に、あれ?普通俺が銃を召喚してアイツら撃退して周りの女の子にチヤホヤされるんじゃないの?と思っていたのだが・・・。

 

「あんなクソでかいの拳銃なんかで・・・」

 

隣でサキは呪文を唱えている。

俺は彼女を守るために発砲した。

 

「クソっ!やっぱ拳銃じゃ当たんねぇ!!」

 

ならばと、俺は貰った能力を使わせてもらう事にする。

武器の召喚方法は分かる。

拳銃弾くらいじゃビクともしないならいっそ大口径で撃てば倒せるはすだ。

俺はバレットM82を召喚した。

それを見たマオは目を丸くした。

 

「え・・・あなた、どうやって・・・」

 

「俺の魔法さ!」

 

「い、いえ、それは分かるけど・・・」

 

「とりあえずアイツらぶっ倒すぞ!」

 

俺はオークの胸目掛けて射撃した。

12.7mm弾はオークの胸の中心に命中し、大きな穴を開けた。

オークはそのまま力尽きた。

 

「よし!さすが50口径!!」

 

次を撃とうと思った瞬間、サキがオークの集団に魔法を放った。

光の玉がオークに命中した瞬間、周りにいたオークは炎に包まれる。

洞窟内にオークの断末魔が響いた。

 

「い、今のうち!」

 

サキは俺たちを連れて走り出した。

 

「ねぇカズキ!あなた、どういう頭してるの!?」

 

「はぁ!?」

 

「武器をそのまま召喚なんて全てのパーツがどういう素材で出来ていてどういう動きをするのか完璧に覚えてないと無理なのよ!!」

 

「え!?なにそれ!?」

 

どうやら武器召喚魔法はあるそうだが、まさかの高難易度だった。

俺はそれを全ての武器に使えるようだ。

 

「な、なんか分かんないけど使えるんだよ!記憶ないけど!」

 

とりあえず記憶喪失ということにしておこう。

 

「ふふっ、あはは!!記憶喪失なのに武器の素材と構造覚えてるのね!あなた最高よ!私たちのパーティに入ってよ!」

 

逃げながらパーティの勧誘を受ける。

もちろんOKだ。

むしろこっちからお願いしたいくらいだった。

 

「じゃあ決まりね!よろしく!」

 

「こちらこそ!」

 

新たな1歩だ。

俺はそう思った。

俺たちは洞窟から逃げ出して一息つく。

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・」

 

「はぁ・・・ふぅ・・・インドア派にはきついよぉ・・・」

 

「サキ、これありがと」

 

隣で荒い息遣いをしているサキに拳銃を返した。

 

「あ、ありがと・・・」

 

サキは少し顔を赤くしながら受け取りスカートの中のホルスターに仕舞った。

その時のスカートをあげる動作がエッチすぎる。いっぱいしゅき。

 

「ここでひと休憩・・・?」

 

「そうね、そうしたら村に・・・なんの音?」

 

「・・・エンジン・・・?」

 

俺はまさかと思った。

剣と魔法の世界が銃と魔法だけでも十分なのに車まであるのか!?

 

「・・・偵察精霊を飛ばします」

 

「お願い、マリ」

 

マリは精霊を呼び出して飛ばした。

なんだか運用がドローンみたいな感じだが・・・。

そこから数分後、悪い知らせが入った。

 

「不味い、銃声を聞きつけた山賊だよ」

 

「まったく・・・どこにでも沸くわね・・・何乗ってるの?」

 

「ZSU-23-4」

 

「!?」

 

俺はぶっ倒れそうになった。

車かと思ったら対空自走砲だった。

 

「人狩り専用ってとこかしらね。どうする?」

 

「進路はこの洞窟。迎撃しか・・・」

 

「仕方ないわね・・・カズキ、あんたのバレットの弾薬は?」

 

「徹甲弾だけど・・・いやもっといいのあるよ」

 

俺はオークが使っていたのと同じRPG-7とその弾薬を召喚した。

 

「驚いた・・・あなたどういう魔法使ってるのよ・・・」

 

「さぁ・・・俺にも武器の召喚が出来るって事しか・・・」

 

「まったく面白い人ね・・・まぁいいわ、とりあえず隠れましょ」

 

俺たちは近くの茂みに隠れる。

それにしても銃と魔法の世界なだけあってRPGの後方には近づかない。

俺はRPGを構えて敵の出現を待っていた。

エンジンの音と木を踏みつぶす音が大きくなる。

 

「来たわよ・・・外したら命はないからお願いね」

 

「分かってる・・・」

プレッシャーがかかる。

 

「はぁー・・・ふぅー・・・」

 

呼吸を整えていると敵が現れた。

緑色の車体に凶悪な4連装の機関砲が見えた。

 

「カズキ!」

 

「あぁ!」

 

俺は引き金を引いた。

弾体は対空砲の砲塔と車体の隙間に直撃する。

 

「やった・・・?」

 

2秒もしない時だった。

砲塔のハッチと運転席のハッチが吹き飛び炎が吹き出た。

そして俺は見たくも無いものを見てしまう。

砲塔からは火達磨になった人が。

運転席からは燃えながら這い出そうとしている人が見えた。

そして車内から恐ろしい断末魔が聞こえてきた。

 

「うっ・・・!」

 

運転席の人はすぐに力尽きていたが砲塔から出てきた人は燃えながらこっちに助けを求め這ってきた。

するとサキは拳銃を取り出す。

 

「・・・楽にしてあげないと」

 

サキは這ってきた人に照準を合わせて引き金を引いた。

森の中に銃声が響く。

そして油の臭いと肉の焼ける臭いが周囲に漂う。

 

「うぅ・・・おぇぇぇぇ・・・!!」

 

俺は思わず吐く。

人を殺したという罪悪感もあるが、生きたまま焼かれるという最も苦しい死に方を与えてしまったという罪悪感が強かった。

 

「・・・カズキ、大丈夫?」

 

マオは優しく背中をさすってくれた。

 

「なんで・・・逆に大丈夫なんだよ・・・」

 

「こんなの日常茶飯事よ・・・」

 

マオは焼け焦げた死体を見ながらそう呟いた。

俺は余りのショックにそのまま気を失った。

 

「ん・・・」

 

目を覚ますとどこかの家の中だった。

周りを見渡すとテレビが置いてあった。

俺は一瞬、夢かと思った。

 

「あ、お、おきた・・・?」

 

声をかけられそっちを見るとサキが俺のための食事を運んできてくれた。

 

「あ、お、おはよ・・・」

 

「良かった、あのまま死ななくて・・・」

 

「まぁ・・・怪我はしてないから」

 

「びっくりしたんだから・・・」

 

サキは近くの椅子に座りベッドの上に食事を置いてくれた。

 

「ここね、私の家なの・・・」

 

「へぇ、そうなんだ」

 

俺はこの時気付いた。

もしかしたら俺の転生した世界、生前の世界と生活水準一緒なのではないかと・・・。

 

「えと、サキ?」

 

「なに?」

 

「ケータイってある?」

 

「うん、あるよ」

 

あるんかい!!

サキはスマートフォンを取り出した。

 

「あ、あるんだ・・・」

 

「そんなに不思議?」

 

「い、いや、記憶喪失で・・・」

 

「ふふっ、ケータイって言葉は知ってるのに?」

 

サキは優しく笑う。

何この子超可愛い。

しかも優しい。しゅき。

 

「そういえば他の人は?」

 

「みんな家に帰ったよ。私、この家で一人暮らしだったからカズキを私の家に連れてきたの」

 

「そ、そうなんだ・・・」

 

何これ、イベント?イベント来た?

 

「カズキの家は覚えてる?」

 

「いや、記憶喪失で何もかも・・・」

 

記憶喪失という設定にしておこう・・・。

その時、ふと本棚に見慣れた言語を見た。

英語で書かれた本だ。

 

「英語・・・?」

「英語読めるの?」

 

「多少は」

 

「ほんと!?」

 

サキは今までで1番大きな声を出す。

俺は昔好きで英語を勉強していたから多少なりともは解読できる。

 

「というかなんで英語の本なんか・・・」

 

「扉から送られてきたの」

 

「扉?」

 

「うん、異世界に通じる扉」

 

そしてサキに扉の説明を聞かされた。

嘘やん。

俺たちの世界はこちら側の世界から異世界として認知されていたようだ。

確かにここ数年、空軍基地から戦闘機が消えただとか銃が武器庫から消えたというニュースが出ていた。

記憶に新しいのはロシア海軍の駆逐艦が停泊中に忽然と姿を消したのだった。

乗っていた乗員はなぜか全員、桟橋に倒れていた。

無人の船だけが消えたのだった。

そしてそれはどうもこの世界に来ているようだった。

 

「そんなことあるんだな・・・」

 

「面白い話でしょ?」

 

「まぁ、ね」

 

「それで・・・これ、教えて?」

 

サキは本を持ってきた。

本はアメリカ軍に関する本だった。

内容は戦闘のやり方に関してという感じだった。

だが、ただ昔に好きで少し勉強した程度なのであまり翻訳は出来なかったが。

 

「ねぇ、今度私にも英語を教えて欲しいな」

 

「うん、俺なんかで良ければ」

 

「ほんと?じゃあ約束!」

 

サキは笑顔でそう言った。

あかん惚れた。

異世界バンザイ。

 

「そうだ、今日ちょっと手伝って欲しいことあるの」

 

「何?俺で良ければ手伝うよ」

 

「ありがと!ちょっと頼まれ事で街まで買い物があったから!」

 

「了解!」

 

俺はきっと馬車に揺られてサキとデート気分で街まで行くのだろうと思っていた。

・・・思っていたんだ。

 

「じゃ、無線の担当をよろしくね!」

 

 

「・・・うん・・・」

 

「あれ、なんか元気ないよ?」

 

サキは慣れてきたのか俺と話をよくするようになった。

そして今はかなり生き生きしている。

俺はサキと馬車でデートだと思ってルンルン気分でサキに着いてきた。

そして案内された先が・・・。

 

「大丈夫だよ、私こう見えても飛行時間は2000時間超えるベテラン機長なんだから!」

 

「普通にすごい」

 

俺はなぜかAn-12という旧ソ連製の輸送機に乗っていた。

 

「あ、そうそう、そこのディスプレイは後部機関砲の操作画面だから敵機が来たらお願いするね」

 

「マジかよ・・・」

 

ディスプレイを操作すると機関砲のカメラ画面が表示された。

武装は23mm連装機関砲が後部に一基だった。

 

「じゃ行こっか!空の旅だよ!」

 

「そ、そうだな」

 

まぁ形は違えどサキと空のデートと行こう。

サキは頭上のパネルを操作し始めた。

時々、肩くらいまである綺麗な銀色の髪をかきあげたりしていてその仕草にドキッとしていた。

 

「エンジン回転数・・・よし。アンチアイスは・・・適時使用っと・・・」

 

慣れた手つきで計器類を操作していく。

まさか初めて乗った軍用機(?)が旧ソ連製でしかも副操縦士として座って機長は超美少女ときた。

こんな体験することなんて想像できただろうか。

こればかりはあの女神に感謝だ。

 

「よし、行こっか!カズキ、フラップ15」

 

「えと、フラップ・・・」

 

「これだよ、ここまで下げて」

 

「りょ、了解」

 

「OK、フラップよしっと・・・」

 

元々あまり飛行機は詳しくなく操作に手間取ってしまう。

 

「サキはこの機体をいつも1人で飛ばしてるの?」

 

「うん、この村で飛行機の免許持ってるの私だけだから。それに元々この飛行機って5人必要なんだけど、改造してもらって1人でも飛ばせるようになってるの!あ、そうだ、カズキも免許取らない?」

 

「え!?」

 

「大丈夫だよ、取るの簡単だから」

 

嘘だろ。

飛行機の免許なんて難しい事で有名な記憶があるんだが。

 

「それに飛行機ないと生きていけないからね」

 

「へ、へぇー・・・」

 

「どう?」

 

確かに異世界でパイロット・・・それはそれで面白そうだしサキと飛べるなら幸せだろう。

 

「うん、取るよ。俺も」

 

「ほんと!?じゃあ今度パイロットスクールに連れて行ってあげる!3ヶ月もあれば取れるから!」

 

「そんな短いの!?」

 

「ふふっ、記憶喪失で忘れちゃったの?」

 

サキは優しく笑った。

 

「そうだ、巡航中に操縦を教えてあげる!」

 

「え、い、いいの?」

 

「うん!空を飛ぶって楽しいから!」

 

「じゃ、じゃあよろしく」

 

「うん!っと、それじゃ出発しよっか!」

 

輸送機はゆっくりと前進を始めた。

 

「離陸前チェックリストやっちゃおっか」

 

「チェ、チェックリスト?」

 

「大丈夫、私の言ったところを確認して。今日は簡単にするから」

 

「り、了解」

 

「えーっと・・・」

 

サキの指示通りにチェックしていった。

パイロットの仕事は憧れていたがまさかこんな形で体験するとは・・・。

 

「よし!チェックリストコンプリート!」

 

「結構やること多いんだね」

 

「安全に飛ぶためには仕方ないよ」

 

サキは計器を確認しながらそう言った。

走行してる間に機体は滑走路に到着する。

滑走路とは言っても真っ直ぐな土の滑走路だ。

 

「えっと、じゃあ80ノットに達した時に80ノットって読み上げて」

 

「了解、速度計は・・・これ?」

 

「うん、それ。お願いね!」

 

「了解」

 

機体はゆっくりと加速を始めた。

土の滑走路なだけあって少し揺れる。

 

「えーっと・・・80ノット」

 

「チェック」

 

サキは真面目な顔をして前を見ていた。

そしてちらっと速度計を見る。

 

「V1・・・ローテート」

 

ローテートという言葉と同時に機首を上げた。

 

「ポジィティブクライム、ギアアップ」

 

「え、えっと・・・」

 

聞きなれない言葉に困惑した。

 

「あ、ごめん!えと、車輪を上げて!」

 

「車輪か・・・了解」

 

「ありがと!えと、フラップも!」

 

「フラップ・・・はい、OK」

 

「ありがと!やっぱりカズキ居ると助かるよ!」

 

たぶん俺は今気持ちの悪い顔をしていることだろう。

こんな美少女にそんなこと言われてニヤケない奴がいるなら見てみたい。

 

「さてと、もうちょっと上昇したらカズキが操縦してみよっか!」

 

「えぇ!?」

 

「大丈夫だよ、私が見てるから」

 

「い、いや、でも・・・」

 

いきなり飛行機の操縦なんて心の準備が出来ていない。

だがサキは俺に操縦を薦めてきた。

 

「じゃ、じゃあ・・・ちょっとだけ」

 

「ほんと!?これでカズキもパイロットになってくれると嬉しいな!」

 

純粋に喜ぶサキ。

この子と飛ぶなら良いような・・・。

そうこうしてる間に高度は上がり水平飛行に移った。

 

「じゃあカズキ、私がユーハブって言ったらアイハブって言って操縦桿を握って」

 

「了解、アイハブだね」

 

「そうそう。それじゃ、ユーハブ」

 

「ア、アイハブ」

 

サキはゆっくりと操縦桿を離した。

俺は緊張しながら操縦桿を握る。

 

「ひえぇ・・・」

 

飛行計器を見ながら呻いた。

姿勢指示器はサキが手を離した瞬間風で煽られたせいか少し傾く。

俺は傾いた姿勢を直そうと操縦桿を強く傾け過ぎて予想以上に旋回してしまう。

 

「大丈夫、落ち着いて。もう少しゆっくりと」

 

「こ、こう?」

 

傍からみたらこの機体は突然安定性を失うように見えただろう。

だがサキから操縦を変わって数分。

何となく感覚をつかみ始めた。

 

「上手い上手い!カズキすごいよ!」

 

「ほ、ほんと?」

 

「うん!もう私、カズキを副操縦士として雇っちゃおうかな?」

 

「それは是非ともお願いしたい」

 

俺は思わず心の声が出た。

だがその心の声は電子音と共にかき消される。

 

「何・・・?」

 

サキは何かの計器を見て近く呟いた。

 

「うそ・・・レーダースパイク!?カズキ、操縦桿を離して!」

 

「え、あ、あぁ!」

 

「それから後部銃座のスタンバイ!」

 

俺はサキから教えてもらったディスプレイを弄り機関砲の画面を出す。

サキの口ぶりから不味いことが起きたのだろう。

 

「こんな所に空賊が居るなんて・・・!」

 

「空賊!?」

 

「護衛機も居ない・・・カズキ、急降下するよ!」

 

「え・・・うわっ!?」

 

サキは操縦桿を押して急降下を開始した。

高度が一気に下がる。

ほんの数十秒後、コックピットに警報が鳴り響いた。

 

『Sink Rate!』

 

なんて言っているかは分からないがとにかくいい意味では無さそうだ。

 

「カズキ!警報は気にしないで!」

 

「気にしないでって言っても・・・!」

 

『Terrain Terrain Pull Up!』

 

新しい警報が鳴り響く。

目の前には地表が迫ってきていた。

サキはそこで機首をあげる。

 

「あの空賊・・・積荷が目当てだね・・・」

 

「な、なんで分かるんだ?!」

 

「落とす気ならもう落ちてる!」

 

落とす気ならもう落ちてるという言葉で俺は恐怖を感じた。

そうだ、相手は戦闘機だ。

もはやなんで戦闘機が出てきたなんて考えてる余裕が無くなっていた。

 

『Traffic Traffic』

 

トラフィックという言葉が辛うじて聞き取れたがそう示す警報が鳴る。

機関砲のカメラを見ると真後ろにMIG-23が2機居た。

翼にはミサイルがぶら下がっている。

 

「カズキ!少し操縦桿を保持してて!」

 

「りょ、了解!」

 

言われた通りにするとサキは無線機のスイッチを弄り叫んだ。

 

「メーデー!メーデー!メーデー!空賊に絡まれた!誰か援護を!!」

 

そのメッセージを何回か繰り返す。

 

「誰か・・・援護を!!」

 

すると応答がある。

だが明らかに声はあの空賊機だ。

 

《なんだ乗ってるのは女の子か?そのまま着陸しな、殺しはしねぇよ》

 

《殺しはしねえって言ったが機関砲撃とうなんて考えんなよ》

 

隣を見るとサキは青ざめている。

 

「サキ・・・」

 

「ダメ・・・下ろしたりなんてしたら2人ともどんな目にあうか・・・」

 

「でも反撃は・・・」

 

「どうしたら・・・私・・・こんな目に会うの初めてで・・・」

 

サキは震えながら操縦桿を握る。

 

「そ、そもそもこの航路は安全なはずなのに・・・」

 

サキは計器を見つめながら震えた声でそう言っていた。

どうしたら・・・敵は2機。

機関砲じゃせいぜい1機しか相手に出来ない。

俺は何か方法は無いか・・・そう考えていた時だった。

 

『Traffic Traffic』

 

再び、トラフィックという警報。

そして後ろから爆発音が聞こえた。

俺はやられたと思ったが機体は正常、何が起こったか分からなかった。

そして、驚いて離れようとしたもう一機のミグがバラバラに砕け散った。

 

「な、何が・・・」

 

そして無線機から女の子の声が聞こえた。

 

《こちらエンジェル0-1。そちらの援護に入る。助けに来たよ》

 

「た、助かった・・・?」

 

「あ、ありがとうございます・・・!」

 

サキは震える声で答えた。

 

《そちらのコールサインは?》

 

「こ、こちらは、えと・・・イーストカーゴ1」

 

《了解、イーストカーゴ。どこまで守ればいい?》

 

「あ、えと・・・ソルトシティーまで・・・」

 

《了解》

 

「はぁ・・・助かったぁ・・・」

 

俺は一息つく。

そして援護に駆けつけた戦闘機を見て、俺は再び異世界に来てよかったと思う。

駆けつけた戦闘機はF-14。

生前の世界では退役してもう見る事なんて出来ない機体だったからだ。

 

「サキ、これで安心だな」

 

「うん・・・カズキのおかげで助かった」

 

「俺のおかげじゃないよ」

 

サキは涙目になりながらも笑顔でそう言った。

 

《そういえば、イーストカーゴの機長・・・もしかしてサキ?》

 

「え、なんで知って・・・」

 

《やっぱりサキなんだ。私だよ。パイロットスクールで同期だったハル》

 

「ハル!?」

 

《こんな所で会うなんてね。大丈夫だった?》

 

「う、うん・・・!助かった・・・!」

 

「知り合いなの?」

 

「うん、飛行機の免許取るための学校通ってた時のお友達」

 

《もう戦闘機は降りたの?》

 

「私は輸送機のほうが好きだったかな。村の人の役にも立てるし」

 

え・・・サキって元々戦闘機乗り・・・?

というか魔法使いで戦闘機乗りの美少女ってどんな属性だよ!

でも好き!

 

《相変わらず優しいね。あ、そうだ。下りたらお茶しようよ》

 

《えぇー・・・ハル、下りたら私とご飯の約束ー・・・》

 

《サキも一緒でいいでしょ》

 

「あ、えと、副操縦士のカズキも連れて行ってもいい?」

 

《カズキ・・・男の人?》

 

「うん!昨日、仕事で行った洞窟で助けた人!いい人だよ!」

 

え、何、これ女の子3人の中に俺だけって感じ?

なにそのハーレム的なの。

最高かよ。

俺の脳内は下心でいっぱいになっていた。

 

《了解、いいよ。4人でお茶しよ》

 

「ありがと、ハル!」

 

《どういたしまして。ところで副操縦士君は?》

 

「あ、えと、はじめまして」

 

《はじめまして。私はハル。さっき後ろで文句言ってたのが相棒のマヤだよ》

 

《なんか私悪者みたいな紹介なんだけど!》

 

《違うの?》

 

《違うよ!!》

 

賑やかな2人組だ・・・。

でも、楽しそうだった。

俺は自分がパイロットになり後席にサキを乗せる妄想を少ししてしまった。

・・・めっちゃあり。

戦闘機乗る。

 

「なぁ、サキ。戦闘機ってそんなに安く買えるの?」

 

「ピン切りかなぁ・・・ハル達が乗ってるF-14は品薄で高いけど、F-16とかなら300万もあれば・・・」

 

300って車を新車で買うのと変わらない。

そんなに安くていいのか・・・?

 

「ちなみになんだけど、戦闘機乗りで仕事ってなるといくら貰えるの?」

 

「んー・・・それもピン切り。ハルに聞いてみたらいいかも」

 

《安いので20万くらい。高いと1000万とか》

 

「そんなに!?」

 

《でも1000万の仕事なんてろくなの無いよ。無茶苦茶な場所飛ばなきゃ行けないし》

 

《狭い渓谷とかね・・・》

 

「マジかよ・・・」

 

《まぁでも相場は50~80万。サキが乗ってる輸送機の仕事なら40万くらいかな》

 

「私は村の依頼だから燃料代くらいだけどね」

 

この世界・・・そもそもの基本報酬が高めなようだ。

1回で80万なら仕事さえ選べばいい機体を買えるだろう。

 

「そうだカズキ、今から行くソルトシティーにはパイロットスクールあるから通ってみたらどう?」

 

「え?」

 

「3ヶ月は通わないといけないけど、村からここまでなら私が練習ついでに送り迎えしてあげる!」

 

「え、いいの?」

 

「うん!パイロット仲間は増えて欲しいから!」

 

「じゃあ・・・お言葉に甘えて・・・あ、でもパイロットスクールに通うお金が」

 

「私が出してあげる!」

 

「い、いやいやいや!!悪いよ!」

 

「大丈夫、免許取って仕事始めてから返してくれればいいから」

 

「な、なんかヒモみたいで・・・」

 

「ヒモ?」

 

「あ、いやなんでもない・・・。でも、いいの?」

 

「うん!さっきも言ったけど、パイロット仲間欲しいから!」

 

「じゃあ・・・うん、お願いしようかな」

 

こうして俺はまさかの転生先で戦闘機パイロットになる第1歩を踏み出した。

・・・本当なら俺がミリオタ無双する予定だったんだがなぁ・・・。

まぁ、戦闘機に乗るなんてひと握りのエリートしか出来ない事を簡単にこの世界で出来るならそれもアリだ。

サキの操縦する輸送機の目的地、ソルトシティーに到着するまでの間に乗りたい機体は何かとずっと話し合っていた。

サキの村は滑走路が不整地なのでVTOLがいいのではという話になっていた。

それにVTOLならヘリの免許も同時に取れるからヘリパイロットにもなれるそうだった。

そして俺はパイロットスクールを終えたらF-35Bに乗るという事になった。

生前の世界で最新鋭のステルス戦闘機だ。

これは楽しみになってきた。

これから第2の人生を楽しませてもらうとしよう。



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本編
冒険者¦職業「戦闘機パイロット」


割とツッコミ所しかない気がするけどなるべく気にしないように楽しんで頂けると幸いです!


「ひーまーだーよー」

 

「・・・うるさい」

 

「あと何時間かかるのー?」

 

「3時間。文句言ってないで見張ってて」

 

「はいはーい・・・どうせなら何か来ればいいのに・・・」

 

「やめてよ、縁起でもない」

 

そんな話をするのは雲より高い高度10000mの世界。

私は愛機のF-14Dのコックピットで文句を言うRIO(レーダー士官)のマヤと話していた。

 

「護衛クエストなのはいいけどさぁ・・・何で旅客機を戦闘機が守らなくちゃいかんのか」

 

「仕方ないでしょ。航空機の素材が主食の翼竜がいるんだから」

 

「知ってるけどさ・・・鉄なんか食べて美味しいのかな」

 

「さぁね。主食なんだから美味しいんじゃない?」

 

「ふーん・・・あ、ということはこのトムきゃんも!」

 

「やめて」

 

「はーい・・・」

 

すぐ近くを飛ぶ、旅客機B767を横目にそんな話をした。

この世界には昔、魔王と呼ばれる存在がいた。

正確には今もいるが。

ほんの百年前、その魔王の配下の1人が異世界を侵略してみようと思い立ち異世界へ繋がる扉を開いた。

そこからこの世界の歴史は大きく変わった。

元は剣と魔法の世界だった。

勇者や冒険者、魔法使いなどがパーティーを組んで魔物を討伐したり魔王討伐のために旅をしたりしていた。

だが、何かの間違いなのか異世界への扉がこの世界の至る所に開いてしまい、そこから異世界の技術が流れ込んできた。

その中でも大きく歴史を変えてしまったのは軍事技術だった。

今では剣や弓は廃れ、冒険者も勇者も小銃や機関銃で武装している。

そして人類の夢でもある空を飛ぶ技術、航空機も入ってきた。

賢者達や学者達は何としても航空機に乗りたい、そして作りたいと考え血も滲むような努力の末、航空機の操縦技術の習得と生産方法を作り出した。

最近は魔法で異世界で使われている航空機などをコピーして召喚するという、とんでもない方法をしている。

また異世界からの技術の一つに宇宙技術もあり、人工衛星などを打ち上げて日々の生活を便利にしていった。

 

「マヤ、レーダーに反応は?」

 

「なーし。あと少しでテキサスの街だよ」

 

「了解」

 

テキサスの街。

昔、この街が作られて名前がまだ無かった頃、異世界から流れてきた地図を見たこの街の地学者がこの世界の地図と異世界で似たような位置の場所を暇つぶしに探した時に偶然、この街と異世界のアメリカという国のテキサスという場所が一致したらしい。

それを領主に伝えてみたら、面白いと思った領主がそのまま街の名前にしてしまったのだと言う。

街には港と空港があり、街の周囲には比較的弱い魔物や簡単なダンジョンなどがあるため駆け出しの冒険者たちが集まっていた。

 

「まったく、街と街の移動に飛行機使わないといけないなんてね・・・大変なご時世だよ」

 

「街どうし離れてるからね。それに街の外は魔物が多いわけだし。昔なんて歩きか馬なんだからそれに比べたら便利なものだよ」

 

「まーね・・・あ、ハル。今日の報酬で何食べる?」

 

「お肉」

 

「だよね・・・」

 

「何か食べたいものあるの?」

 

「港近いから新鮮な海の幸とか!」

 

「でもお肉」

 

「結局お肉かい!」

 

晩ご飯の話をしていたら街の管制官が呼びかけてきた。

 

《エンジェル0-1、テキサスギルドタワー》

 

「エンジェル0-1」

 

テキサスの街は冒険者ギルドと空港が一緒になっている珍しい街だ。

 

《長時間護衛、お疲れ様でした。ワールドトラベル1665便に続いて滑走路17に着陸してください。風はほぼ無風です》

 

「エンジェル0-1、了解」

 

雲の切れ目から街が見えた。

街は昔ながらの美しい木組みの街並みで周りを少し高い壁に囲まれていた。

その街の真ん中には街並みに不釣り合いな空港と長い滑走路があった。

街の外壁には地対空ミサイルも配備されていた。

 

《エンジェル0-1、ワールドトラベル1665》

 

「エンジェル0-1」

 

《護衛、ありがとうございました》

 

「どういたしまして。あとは安全な着陸を」

 

《了解しました。お疲れ様でした。》

 

そうお礼を言われて無線を切った。

 

「一安心」

 

「そうだねー・・・あ、まった。安心できない」

 

「え?」

 

「3時方向からボギー・・・」

 

「ここで来るかな」

 

「まぁ、ほら。そういう日も、ね?」

 

「マヤが敵こいなんて言うから」

 

「うぐっ!・・・ごめんなさい・・・」

 

「いいから、迎撃するよ。エンジェル0-1からタワー。3時方向にボギー確認。例の翼竜の可能性があるため迎撃します」

 

《タワー、了解》

 

私は右に旋回して不明機と正対する。

 

「どうする?スパローしか積んでないけど」

 

「視界外でやりたいけどもし街に帰る航空機だったらまずい」

 

「だよね。」

 

「接近して確認しよう」

 

「了解、ターゲットの高度は7600ft」

 

「了解」

 

上昇してターゲットと同高度になる。

あとは相手が何か確認するだけだ。

 

「目標近づく・・・10マイル!」

 

「分かった。マヤ、翼竜相手に格闘戦は厳しいかも知れないから1度離れてからスパローで攻撃する」

 

「了解!相手が翼竜ならの話だけどね!」

 

そうこうしてる間に正面に何か黒い点が見えた。

何かが動いてるような感じだ。

 

「どうハル、分かる?」

 

「・・・翼竜」

 

「街に近づかれると厄介だし、迎撃しよっか」

 

「撃墜したら追加報酬の申請が必要だね」

 

「あはは・・・そこはしっかり持っていくのね・・・」

 

マッハ1で目標に近づいた。

数十秒もしないうちに目標とすれ違う。

あの航空機が主食の翼竜だった。

 

「エンジェル0-1、エンゲージ」

 

「マスターアームON!」

 

操縦桿を引いて約3.5Gで旋回する。

翼竜はもう離れてかなりの距離になっていた。

だが、AIM-7スパローの有効射程圏内だ。

 

「ターゲットロックオン!」

 

「FOX1」

 

「ファイア!」

 

翼下のパイロンからスパローが1発発射される。

マッハ4の速度でミサイルは翼竜に向かっていった。

 

「命中まで5・・・4・・・3・・・2・・・スプラッシュ!」

 

「撃墜?」

 

「レーダーから消滅・・・撃墜だよっ!」

 

「ふぅ・・・帰ろっか。燃料もそろそろ危ないから」

 

「そうだね!追加報酬で何買おうかなー♪」

 

後席のマヤは追加報酬の事で頭がいっぱいの様だった。

その後は翼竜の残骸を確認して写真撮影、テキサスの街へと進路を取った。

街は夕暮れ時で夕日がとても綺麗だった。

着陸して駐機場に機体を止めた時、夕日とF-14Dが重なり思わず写真を撮ってしまった。

 

「んん・・・くぅぅぅ!!やっぱ地上はいいよねー」

 

「じゃあマヤはガンナーになればいい。RIOは別に見つける」

 

「やめてよー!私ハルがいないと死んじゃう!」

 

「私は薬物か」

 

「似たような物!ハルの匂い嗅いでないとダメなの!」

 

「気持ち悪い」

 

引っ付いてくるマヤは引き剥がし、ギルドに入る。

受付で報酬と戦闘機の整備、補給の申請もして今日の宿を探した。

 

「それにしてもさー、ハルは新しい機体とか買わないの?」

 

「え?」

 

「トムきゃんに乗り始めてもう3年くらい経つでしょ?最近、複座のホーネットとか出てるしと思って」

 

「マヤは他の機体のほうが好きなの?」

 

「違うよ!さっき駐機場で複座のフランカーとか見て思ったの!」

 

「・・・私はあのトムキャットが1番だから」

 

「何かハルの彼氏みたいだね」

 

「トムキャットが墜ちる時は私の死ぬ時」

 

「やめてよ縁起でもないから!」

 

なんて会話しながら街を歩く。

街にある屋台からはいい匂いがしていた。

それにしても、この街は様々な人がいる。

パイロットの冒険者の他にガンナーと呼ばれる銃火器をメインに扱う冒険者、魔物を狩ってその素材で鎧や武器を作るモンスターハンターと呼ばれる冒険者・・・色々だ。

私達、パイロットの仕事はさっきのような民間機の護衛や行方不明になった冒険者の捜索、付近に点在する集落が魔物の襲撃を受けた際に航空戦力を持ってそれを撃退する航空支援や冒険者からの要請を受けて近接航空支援を行ったりだ。

またもう一つ重要な役割が発見された魔王軍の拠点や訓練キャンプを空爆する事だった。

魔法使いを後席に乗せて爆弾に結界を通過する効果を付けてもらって爆撃した事もある。

 

「この宿でいいか」

 

三階建ての宿に入る。

中はとても綺麗だった。

安宿とは違う雰囲気だ。

 

「あー!!」

 

入るや否や、いきなり1人の少女に指を指されて叫ばれる。

 

「あ、リリア」

 

それは昔からの幼馴染のリリアだった。

 

「久しぶり。ずいぶん可愛くなったね」

 

「え、か、可愛くなった?ほんと?」

 

「うん、その黒髪綺麗だよ」

 

なんて話をしていたら横でマヤが頭を抱えている。

 

「バカなァッ!!なぜ、なぜあのハルがァッ!!!」

 

「幼馴染だし」

 

「え、えへへ、可愛いだなんて・・・じゃなくて!!」

 

「褒めたんだからもういいでしょ」

 

「その冷たさやっぱりいつものハルだ」

 

何故か横で安心しているマヤ。

 

「今日こそ決着付けてやるんだから!」

 

「え・・・まだやるの?」

 

「そーよ!!」

 

リリアは私と同じパイロットだ。

幼馴染=勝負するものとでも思っているのかずっと勝負を挑んでくる。

最近は主に空中戦だが。

 

「この前、フルクラムを買ったのよ!これで勝ちね!」

 

「・・・」

 

そりゃ格闘戦に持ち込まれたらこっちの負けだ。

でもリリアは昔から格闘戦が苦手だと言っていた。

 

「・・・あんた昔から格闘戦が苦手だって言ってたでしょ」

 

「ち、ちがうしっ!!」

 

「まぁいいけど・・・せめて今日はやめてよ。さっきも6時間近く飛んでたんだから」

 

「ふふっ!怖くなって逃げるのね!」

 

「大切なライバルが目の前で死んでもいいならやるけど」

 

「・・・あのー、それもしかしてRIOの私も含まれてます?」

 

「うるさい」

 

「あ、はい・・・」

 

実際、かなり疲れていたのでこれ以上の飛行は危険だと思っていた。

 

「え、えと・・・ほんとに疲れてるの?」

 

「うん。これ見たら分かるでしょ」

 

私はクエストの詳細が載った書類を見せる。

 

「えと・・・じゃ、じゃあ明日勝負だからね!!」

 

「はいはい・・・ルールは?」

 

「ロックオンを10秒以上かペイント弾の被弾でどう?」

 

「乗った。いいよ」

 

「やった!じゃあ明日ね!」

 

そう言ってリリアは宿を出ていった。

というか何しに宿に居たんだこの子。

 

「マジでやるの?」

 

「マジでやる」

 

「いいけどさ・・・相手がいくら格闘戦が苦手だって言ってもMig-29だよ?こっちは大型のF-14だし・・・」

 

「大丈夫」

 

「まぁハルがパイロットだからいいけど・・・ま、いいや!とりあえず部屋とって休も!」

 

「うん」

 

「そーいえばさ」

 

「うん?」

 

「昔は魔王って居たらしいじゃん?今どこにいるんだろうなって」

 

「さぁ。ただ、出てこられたらみんな困るって事しか」

 

「まぁね」

 

昔学校で聞いた話だが、魔王軍は世界各地に開いた扉のせいで異世界の技術がこの世界に流入。

扉を開いたのは魔王軍だが日頃の行いでも悪かったのか自軍の圏内には一つか2つくらいしか開かず、しかも繋がった世界が核戦争で滅びた世界だった。

放射能汚染と言うものが酷すぎる事と、魔王軍からしてもまったく魅力のない世界のため扉を閉じたらしい。

おまけに世界各地に扉が開いている事にも気づいていなかった。

そしてそろそろ世界征服に乗り出そうとした時は扉が開いて30年後で世界は剣と魔法から銃と魔法という世界になっていた。

おまけに航空機も出てきて居て人間側の圧倒的な戦力差にすぐに壊滅的な被害を受けたらしい。

そこからは海底に逃げただとか異世界に逃げただとか。

 

「ふぁ・・・」

 

「あ!ハルの可愛い欠伸シーン!」

 

「なにそれ」

 

私の欠伸の何がいいのか。

部屋に入り、荷物をベッドに放り投げた。

 

「あ〜・・・ふかふか〜・・・」

 

「マヤ、先にお風呂」

 

「はいはーい・・・あ!ハルも一緒に入ろ!」

 

「そのつもりだけど」

 

「やったぜ」

 

「なぜ毎回私と一緒に入ることが嬉しいの?」

 

「そりゃ、こんな可愛い女の子と一緒にお風呂なんて天国ですよ!」

 

鼻息を荒くしながらマヤは言うが・・・

同じ女同士なのに・・・

 

「ほら!いこ!」

 

マヤは服を脱ぎ捨てながら部屋に付いている風呂場に向かった。

 

「いや、せめて服脱ぎ捨てるの止めようよ」

 

マヤが放り投げた下着が見事に頭に乗っかり、かなり滑稽な姿で私は言った。

 

「ハル!早く!」

 

「急かさないで」

 

私も風呂に向かった。

入るや否や洗いっこしようと言うマヤから何か恐ろしいモノを感じて断固拒否しておいた。

 

「はー・・・極楽極楽・・・」

 

「お年寄りみたい」

 

「まだピチピチの20歳ですもん!」

 

「知ってる」

 

「冷たいなー・・・」

 

「暖かいよ。マヤどこかおかしいんじゃない?」

 

「なんでよ!あ!もしかしてお風呂のお湯の話!?」

 

「もしかしてじゃなくてお風呂のお湯の話」

 

「私そういう話したんじゃないんですー!」

 

なんて話しながら1日の疲れを癒した。

明日はリリアとの模擬空戦。

戦闘機同士の空中戦など滅多に起こらないがたまに賞金首の排除というクエストで戦闘機乗りがいる事がある。

大体はバケモノみたいに強いヤツらばかりだが。

 

「マヤ、お先に出るよ」

 

「はーい、私はもうちょいのんびりして行くよ」

 

「のぼせないように」

 

「分かってる!」

 

私は体を拭いて着替え、ベッドに寝転んだ。

明日必要なモノを考えながら天井を見ていたらいつの間にか寝てしまった。

 

私は見慣れたコックピットに座っていた。

 

「ハル!後ろ後ろ!!」

 

「くっ・・・・!!」

 

F-14Dのコックピット。

操縦桿を目一杯手前に引いて上昇する。

 

「相手のガンレンジに入っちゃうよ!!」

 

「分かってる・・・!」

 

F-14とMig-29。

格闘戦能力が違いすぎる。

私は右にロールし降下に切り替えた。

Migもそれに着いてくる。

 

「振り切れないよ!!」

 

私は今度は左にロールしエアブレーキを開きながら上昇する。

急減速で相手をオーバーシュートさせようとした。

その時だった。

機体が大きく揺さぶられる。

同時にコックピットに警報が鳴り響く。

正面を見ると左の垂直尾翼の半分が無くなったファルクラムが現れた。

左エンジンをファルクラムの左垂直尾翼が切り裂いていった。

アフターバーナーを全開にしていたため、漏れた燃料に引火。

しかも一気に推力に差が生じたため、テールスライドを起こした。

 

「ハル!第1エンジンが!!」

 

「分かってるよ!!リリアは大丈夫!?」

 

「無事っぽい!!」

 

コックピットには火災警報が鳴り響く。

エンジンから出火していた。

 

「どうするの!?」

 

「ここは海の上!あと5000ftある!」

 

「だからどうだってのー!」

 

「錐揉みから脱出できるかやってみる!!」

 

私は思いっきりラダーペダルを踏み込み、エンジンの推力を落とす。

 

《ハル!脱出して!》

 

対戦相手のリリアの叫び声が入った。

 

「トムキャットを捨てれない・・・!」

 

「今はそんな場合じゃないから!!」

 

すでにトムキャットは回復不能な錐揉み状態に陥っていた。

エンジンの火災も止まらない。

 

「・・・マヤ!イジェクト!!」

 

「遠心力で手が届かない!!」

 

戦闘機は高速で左に水平に回転している。

遠心力のせいで手が上手く伸びない。

 

「マヤ!!」

 

「うぐぐぐ・・・!!あとちょっと!!」

 

高度はのこり3000ft。

 

「届いた!!」

 

その声の後で私はシートに固定される。

そしてキャノピーが吹き飛び一瞬強風を感じた後、シートが空中に向かって打ち出された。

私はその時ふと下を見た。

 

「マヤ・・・?」

 

後席だけが打ち出されていないF-14が視界に入ってきた。

マヤが何回もレバーを引いている様子が見えた。

私の心臓の心拍数が一気に上がるのを感じた。

戦闘機はその間にも一気に墜ちていく。

 

「マヤ・・・マヤァァァ!!」

 

直後にトムキャットは水面まであとすこしの所で爆発した。

 

「いやぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

私は自分でもこんな声が出るのかというくらい大声で叫んだ。

 

「なんで・・・なんで!!マヤァァァ!!」

 

無情にも開くパラシュート。

なぜ私だけ無事なのだろうか。

 

「マヤ・・・やだ・・・やだよ・・・!」

 

私は大粒の涙を流して泣いた。

その時やたらと体を揺さぶられる感覚がした。

 

「・・・ル・・・!ねぇ!ハルってば!!」

 

「んぇ・・・?マヤ・・・?」

 

「そーだよ!いきなり私の名前叫んだと思った魘されてるんだもん!」

 

「あれ・・・?夢・・・」

 

「まったくどんな夢見てたんだか・・・」

 

夢オチだと気付き一安心した。

だけど今日の模擬戦はどうにも気が乗らない。

あんな夢を見たせいだ。

 

「ねぇ、大丈夫?」

 

「うん、大丈夫だよ」

 

「本当に?汗まみれだし・・・」

 

「大丈夫、暑いだけ」

 

「いや今日寒いんですけど・・・」

 

「・・・・・」

 

マヤが死ぬ夢を見た・・・なんて言えない。

なんてしてたらリリアが部屋に飛び込んできた。

 

「決闘のお時間ですわよ!!」

 

「何故にお嬢様言葉なの?」

 

「気分よ!」

 

「あ、そ・・・元気だね・・・」

 

マヤは疲れた感じで言う。

とりあえず夢は夢だ。

 

「とにかくすぐに飛行場で集合よ!」

 

「はいはい・・・」

 

それだけ言ってリリアは飛び出していった。

仕方ないので私達も対Gスーツを用意して出発の準備をした。

・・・賑やかな1日になりそうだ。



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Dissimilar Air Combat Training(異機種間空戦訓練)

何かちょっと急展開な感じもしたけど許してください何でも(ry


高度5000ft、速度400ノット。

約700ノット近い速度でフルクラムとすれ違う。

 

「ハル!加速加速!」

 

「分かってる」

 

ヘッドオンでのガンキルに失敗した私はアフターバーナーを使ってミグを振り切ろうとした。

 

「やっぱミグ相手に格闘は無理だよねぇ・・・」

 

「だから一撃離脱戦法だよ」

 

「まぁそうだけど・・・っと、ロックされたよ!」

 

私は操縦桿を引いて上昇する。

ついでに減速も行う。

上昇とエアブレーキの展開で機体は一気に減速した。

その5秒後にミグが私達をオーバーシュートしていった。

 

「・・・貰った」

 

トリガーを引いた。

相手のミグからピンク色の煙が何ヶ所も上がり、エンジンと胴体の半分がピンク色に染まっていた。

 

「勝負あり・・・だよリリア。」

 

《にゃぁあぁぁぁ!!悔しいったらないですわぁぁぁ!!》

 

「だからなんでお嬢様言葉なのやら」

 

コックピットで喚き散らしている姿を見たくなり私は一つイタズラをしてみることにする。

 

「マヤ、カメラ準備してて」

 

「何するの?」

 

「ちょっとイタズラする」

 

「オーケー!何するか理解したよ!」

 

帰るための編隊を組む振りをして後方から接近、右にロールして背面飛行になる。

大型のF-14が背面飛行で近づいてくれば嫌でも気づくだろう。

リリアはこっちを見上げていた。

 

「はい、チーズ」

 

「お、これはベストショット!」

 

キャノピーとキャノピーが触れ合うのではないかと言う所まで接近して1枚写真を撮った。

コックピットで何をしたのか理解出来たリリアはこっちを指さして悔しそうに何か言っていた。

でも無線を私達は切っていたので何も聞こえない。

 

「おえ・・・胃の中のもの上がってきそう・・・」

 

ずっと背面飛行だったため、マヤが吐きそうだった。

私は操縦桿を押し込んで上昇、再びロールして水平飛行に移る。

そして無線のスイッチを入れた。

 

《何考えてんのよこのバカー!危ないでしょ!!》

 

「リリアのいい顔頂いたよ」

 

《にゃぁぁぁ!!!ほんっと昔っから嫌なヤツなんだからぁぁぁ!!》

 

リリアの機体はパイロットの気持ちを表してるかのようにフラフラと揺れていた。

 

「賑やかなお友達だよね・・・ってあれ、何これ」

 

「どうしたの?」

 

「レーダーに何か補足・・・UNKNOWN・・・IFF応答なし」

 

「魔獣?」

 

「それにしては速いし・・・飛行機かも」

 

「了解」

 

今ある武装は訓練用の模擬弾頭のAIM9ともしもの自衛用に積んできたAIM-9とAIM-7が2発ずつ。

バルカン砲にはペイント弾しか入っていない。

リリアのミグもR-73と赤外線誘導型のR-27が2発ずつだった。

 

「リリア、レーダーコンタクト。UNKNOWN。捕らえてる?」

 

《何も・・・こっちの範囲外》

 

「方位190・・・ヘッドオン。2分程度で交差するよ」

 

「分かった。回避」

 

右旋回して避ける機動をした。

リリアもそれに続く。

 

「あれ、上昇してる・・・ヤル気かな?」

 

「ヤル気って事は・・・冒険者じゃないよね」

 

「だね、しかも頭をこっちに向けてるっぽいし・・・賞金首かな」

 

「また面倒なのが・・・」

 

《レーダーコンタクトしたわ。こっちもIFF応答なし・・・》

 

「リリア、燃料は?」

 

《まだ30分は戦っても持つけど・・・》

 

こっちもまだ増槽の燃料を使い切っていない。

もし戦闘になっても大丈夫だ。

格闘戦にならなければ・・・の話だが。

 

「この辺の賞金首なんて居たっけ?」

 

「さぁ、分からない」

 

「まぁ機器の故障かも知れないしね」

 

だがその予感はすぐに無くなった。

レーダー警報が鳴り響いた。

 

「なっ!?」

 

「やっぱ敵じゃん!!」

 

「ブレイク!!」

 

左に反転し降下する。

下は山岳地帯だ。

稜線を利用して隠れようとした。

 

「リリア!アイツは敵だよ!」

 

《え、マジ?》

 

「いいから逃げて!」

 

《わ、分かった!!》

 

「ちくしょう!あれ誰だよー!」

 

「この近くにいる賞金首って誰か知らない?!」

 

「ちょっと待って思い出す!」

 

山に近づくと警報も途切れた。

だが、敵もレーダーから消えしまった。

 

「あのまま直進してくると・・・」

 

マヤは上を見上げていた。

そろそろすれ違う頃だった。

 

「あれかな・・・アレだ!!フリースタイル!!」

 

Yak-141フリースタイル・・・垂直離着陸が出来る戦闘機だ。

 

「そういえばこの辺で突然現れた戦闘機に撃墜されたって冒険者結構居たよね」

 

「アイツ・・・だね、垂直離着陸なら場所を選ばないし」

 

「パイロットがどんな奴なのか情報は?」

 

「ギルドで見た情報だと・・・尾翼に死神のマークが書いてあるからリーパーって呼ばれてたはず」

 

「死神か・・・大層な名前」

 

でも機体性能はリリアのMIG-29にも引けを取らないという話を聞いた事がある。

そうなると格闘戦になったらこっちの負けだ。

 

「リリア!敵はYak-141フリースタイル!!」

 

《それ私が来月買おうと思ってたのにー!》

 

「そこ?まぁいいや・・・格闘戦になったら援護よろしくね!」

 

《分かったわ!》

 

そういえばと私は昨日ギルドで50代くらいの男性パイロットが話していた内容を思い出す。

リーパーは昔は腕のいい冒険者でその時代からあのYak-141に乗っていたらしい。

そして冒険中に補給のため立ち寄った街で出会った同じ機体に乗る女性と意気投合しそのまま結婚、2人は二機編隊で数々のクエストをこなしていった。

だが、ある時その彼女の機体のIFFが故障していたが自分が近くにいれば仲間も気づくだろうと思い2人はクエストに出かけた。

だが突然現れた翼竜の群れと交戦する際に近くにいた冒険者も参加、こちらが6機に対して翼竜は何と15匹もいた。

大混戦の空中戦の際、味方機が誤ってリーパーのパートナーに空対空ミサイルを発射してしまった。

それはエンジンを直撃し、運悪く脱出する前に空中で爆発してしまった。

最愛の人を失ったリーパーはミサイルを撃った味方のみならず、その冒険者パーティの編隊機を全て撃墜、そこから人が変わってしまったらしい。

そして死神のマークを尾翼に書きリーパーと呼ばれるようになったとか。

 

「救えない・・・よね」

 

「何が?」

 

「あの敵機の話・・・」

 

「私は詳しく知らないけどね・・・ま、とりあえず今月の食費には困らないって話だよ!」

 

「・・・まぁいいか」

 

私は反転し、敵機を探した。

その時ふと上方を見上げると急降下してくる物体を見つけた。

 

「やばっ!」

私は思いっきり右旋回をするとさっきいた所に30mm機関砲弾が降り注いだ。

 

「ハル!」

 

私は後ろを振り向く。

ピッタリと後ろに食いついていた。

並の機動じゃかわせない。

 

「リリア!援護して!」

 

《分かった!突っ込むわ!》

 

フルクラムが上空からダイブして接近してくる。

だがそれをあっさり見抜いたのかリーパーはヒラリと避けてしまった。

代わりにリリアが後ろを取られる。

 

「リリア!チェックシックス!ブレイク!!」

 

《分かってる!クソ!逃げれないわよ!!》

 

「援護する!」

 

「ちょっと待って!トムキャットじゃ格闘戦で負けちゃうんじゃ・・・!」

 

「分かってるけどリリアが危ない!」

 

必死に低空で右へ左へと旋回するフルクラム。

だが敵機はぴったりと後ろにいた。

私は加速してもう1度敵の後ろに着いた。

 

「サイドワインダーなら・・・!」

 

兵装をAIM-9に選択し、ロックオンする。

 

「FOX2!」

 

これで落ちる相手だとは思っていないが・・・

だが発射することで相手は逃げる。

 

「リリア!今のうちに離脱して!」

 

《嫌よ!もう1度仕掛ける!》

 

「もう15分近く最大推力なんだよ!燃料を見てるの!?」

 

《あっ・・・》

 

「早く逃げなさい!」

 

《・・・帰って来なかったら許さないからね!》

 

「フラグどうもですー!今は余計だけど!!!」

 

マヤが無線に向かって怒っていた。

 

「ハル!どうするの!?」

 

「正面からタイマン決めてみよっか」

 

「はぁ!?」

 

「明らかにミサイルで攻撃すればいいのに何故か撃ってこない・・・ということは明らかにレベルの低い私達を見て遊んでるよ」

 

「性格わっる!!」

 

「どこかで曲がっちゃったんじゃないの?」

 

とにかく、ヘッドオンで攻撃しよう。

機銃はペイント弾だが正面から攻撃すれば相手のエンジンに吸い込ませる事くらいできるはずだ。

 

「行くよ!マヤ!」

 

「行くよって・・・あぁもういいや!覚悟決めた!!!」

 

機首を相手に向けると相手もそれに乗ってきた。

チキンレースのスタートだ。

 

「まるでチキンレースだよ!」

 

「そのつもり!」

 

近づく敵機、こちらのガンレンジに入る頃には向こうもこっちを射程に捉えているだろう。

ガンの残弾は残り200発。

2秒程度で撃ち切ってしまう。

 

「ガンの射程内!!」

 

マヤのその言葉と同時に相手から機関砲の発砲炎が見えた。

私も同時にトリガーを引く。

スローモーションだった。

発射された弾丸が見えてる気がした。

その直後に轟音と衝撃、警報の音が聞こえた。

あと視界が真っ赤になる。

 

「ハル!ハル!!大丈夫!?」

 

「だ、大丈・・・夫・・・」

 

横を見ると第2エンジンに繋がる空気取り込み口が大きく抉れ、破片がコックピットのキャノピーを貫いていた。

私のヘルメットにも直撃してバイザーが割れていた。

第2エンジンからは30mm弾の直撃で出火していた。

私は第2エンジンへの燃料をカット、消火に務める。

 

「ハル!血が・・・!」

 

「大丈夫・・・意識はしっかりしてるから」

 

ヘルメットを触ってみたが、破片がぶつかったせいで凹んではいたが何も刺さってなさそうだ。

バイザーが割れたのでその破片で怪我をしたのだろう。

 

「他に損傷は・・・?」

 

「ちょっとまって・・・右の垂直尾翼が半分消し飛んでる・・・あと右主翼のフラップが・・・」

 

でも何とか飛べている。

帰ることは出来そうだ。

 

「敵機は?」

 

私は意識がハッキリしてきたので上昇して旋回する。

すると山の斜面に滑ったような跡があり、その先にリーパーのYak-141があった。

機体は黒煙を上げていたが形を留めていた。

 

「・・・どうするハル?」

 

「撃墜・・・ってだけでも報酬もらえるんじゃないかな」

 

「だよね!」

 

私は旋回しつつ降下、マヤに機体と死神のマークを写真に収めてもらった。

 

「帰ろう。第2エンジンは消火できたけど長くは持たないよ」

 

「だよね・・・っていうか・・・運がいいというかなんというか・・・」

 

全くだった。

30mmの弾丸なんて1発でも被弾すれば撃墜される可能性があるのに運良くエンジンを貫通、尾翼と主翼のフラップを吹き飛ばされただけで済んだ。

強いていうならエアインテーク上部にも貫通弾があり、破片がキャノピーをぶち割り私が軽い怪我をしたくらいだ。

右目に血が入ってよく見えないが・・・まぁ何とか着陸は出来そうだ。

 

「帰ろ・・・ギルドで報酬と修理申請しなきゃ」

 

「そうだね!でもこれ・・・エンジンは交換だよね・・・」

 

賞金首報酬が飛んでいきそうだ・・・

 

「おかえり!」

 

空港に降りるとリリアが待っていた。

私たちを見るなり笑顔で駆け寄ってきた。

だが損傷したトムキャットを見て今にも泣きそうだった。

 

「ハル!怪我したの!?」

 

「ちょっとね、大丈夫だよ」

 

「ごめん・・・ごめんね、私があんな所で飛ぼうなんて言ったから・・・」

 

「大丈夫だって。運が悪かっただけだよ」

 

「まぁウチらめちゃくちゃ運良かった気もするけどね」

 

マヤは穴の空いたトムキャットのエアインテークを見上げていた。

 

「あの敵は?」

 

「インテークにペイント弾吸い込んで落ちてったよ。落ちたっていうか不時着だけど」

 

という話をしていたら修理の見積もりをしていたドワーフのお爺さんが話に入ってきた。

 

「リーパーを落としたのか!?」

 

「何とかね、運良く帰ってこれたけど」

 

「お前さんのような娘が落とすとはな・・・いや、良くやった!その功績を讃えてエンジンの交換はタダでやってやるぞ!」

 

「やった!今月なんとかなりそう!」

 

マヤは食費を削らなくていい事に喜んでいた。

ただトムキャットの損傷は思ったより大きく、ドワーフの整備員曰く、これで落ちなかったのが不思議な状況らしい。

被弾箇所は燃料タンクの近くにもあり、あと少しで機体が爆散していた可能性もあるようだった。

実際、燃料漏れも起こしていた。

また正面から1発私達の足元を貫通していった弾丸があったそうだ。

それはバルカン砲に当たって止まっていたらしい。

おかげでバルカン砲は完全に破壊されていた。

修理費だけで賞金首報酬の6割が飛んでいった。

おまけにトムキャットは当分飛べない。

 

「ねぇ、ハル。仕事・・・どうする?」

 

「ダンジョンでも漁りに行こっか」

 

せっかくなのでガンナーでもすることにした。

報酬の残りで銃とアタッチメント、弾薬は十分に買える。

 

「それしかないよねぇ・・・まぁいいや、どこかで宿探そうよ」

 

「そうだね、美味しい物食べたいし」

 

「私も・・・」

 

「リリアも行こ」

 

「やった!」

 

怪我をした額に包帯を巻いてもらい私達は傷だらけのF-14が置いてある格納庫を後にした。



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買い物

魔法がどうのこうの書いたのはいいけどどういう風にしようか本気で悩んでる作者です(


さてどうしたものか。

私はベッドから起き上がり考える。

隣でマヤは爆睡している。

少なくともトムキャットは2週間は飛べない。

 

「・・・買い物・・・」

 

私は寝起きでボケーっとしながら呟く。

とりあえずボサボサの髪だけでも整えよう。

何を買おうか考えながら髪にブラシをかけ歯を磨いた。

今日から2週間はパイロットとしてではなくガンナーとしてクエストを受けないとならない。

私達は自衛用の拳銃程度しか持っていなかったので何か買わなければならない。

買い物が終わったらギルドにでも行って仕事を貰おう。

 

「んー・・・」

 

「マヤ、起きて」

 

時間は朝の10時。

店も開く時間だ。

 

「んー・・・?」

 

「おはよ。買い物行こう」

 

「んー・・・あと1年・・・」

 

「そう、永眠する?」

 

「ひどいなぁもう・・・ふぁぁぁ!・・・ん・・・」

 

ベッドからマヤは起き上がって背伸びをした。

 

「ちょっと顔洗ってくる〜・・・」

 

「ん」

 

私はその間に着替える。

・・・私は着替えようとして荷物を探して気づいた。

フライトスーツ以外持ってない。

 

「マヤ、マヤ」

 

「なーにー?」

 

「服貸して」

 

「え?持ってないの?」

 

「フライトスーツしかない」

 

「マジか・・・いいよ、私何着かあるし」

 

「マヤと体系そんなに変わらなくてよかった」

 

「おい今私のどこを見て言った貴様」

 

胸。

とか言いたいけどやめた。

 

「とりあえずちょっとまってー、歯磨いてない」

 

「分かった」

 

その間に私は買おうと思っている銃のカタログを開いた。

 

「何にしようかな・・・」

 

全て異世界製の銃火器だが複製魔法で大量に流通しているので航空機同様に安い。

1度翻訳された異世界の本を読んだがこの世界では異世界で車が買えるお金で戦闘機が買える。

ただ複製魔法は複製するものの構造を完璧に記憶しどういう動きをするかまで知っていないと使えないため工場では何100人という複製魔法を使える従業員が小さいパーツから大きなパーツまでバラバラに作り組み立てるという作業をしていた。

魔力さえあれば生産出来るためかなりコストを抑えられるそうだ。

 

「これでいいか」

 

目に止めたのはソ連という国が製造したAK-74という小銃だ。

カタログには耐久性が高く、威力も高いという事だ。

銃床やハンドガードに使われている木が私的には気に入ったポイントだ。

弾は5.45mm弾で命中すると対象の体内で横転し回転しながら進むため筋組織や内蔵に大きなダメージを与えるようだ。

魔獣相手にはちょうどいいだろう。

 

「ただま〜」

 

「おかえり」

 

なんてしてるウチにマヤが帰ってきた。

 

「マヤはどうする?」

 

「んー・・・ハルは?」

 

「これにする」

 

私はAK74を指さす。

 

「じゃあ私は・・・これ!」

 

マヤが指さしたのはAK-105、それのモダナイズカスタムモデルだった。

弾薬は私と同じ5.45mm弾。

 

「これなら弾の共有出来るよね!」

 

「そうだね」

 

「じゃ私着替えるから買い物行こ!」

 

「うん」

 

私は財布や鞄を用意してマヤを待つ。

 

「お待たせ!行こ!」

 

マヤに手を引かれて宿から出た。

 

「待って、先に格納庫行きたい」

 

「トムきゃんの様子見に?」

 

「うん、心配だから」

 

「ハルは本当にトムきゃん大好きだよね・・・」

 

「私の恋人」

 

「んな!?お父さん認めんぞ!」

 

「いつからお父さんになった」

 

「今!はっ、まてよ!今性転換してホントに男になればハルのお父さんに!」

 

「いや待って、意味がわからん」

 

「つまりは子供を作るという事ですよ先輩」

 

「いっぺん死んでみる?」

 

私はマヤの首を掴む。

 

「ご、ごめんなさい・・・」

 

「それでいい」

 

手を離し空港へ向かった。

そのまま私達はトムキャットが置いてある格納庫に向かった。

 

「・・・」

 

そこには第2エンジンを取り外され、機首のレドームも開けられレーダーも取り外されたF-14の姿があった。

その下には弾丸が直撃し大きく破損したバルカン砲もあった。

 

「おじさん」

 

「おぉ!嬢ちゃんか!」

 

整備の指揮をしていたドワーフに話しかけた。

機体の状況を聞くためだ。

 

「トムキャットは大丈夫?」

 

「何で墜落しなかったのか不思議な状態じゃよ。30mm弾を6発以上食らってるのにな」

 

「まだこの子は飛べる?」

 

「まぁ直せば飛べない事はないがな・・・というか機体より中身じゃな」

 

「中身?」

 

「油圧装置にレーダー、バルカン砲、燃料タンクに燃料パイプそれにエンジンに翼・・・」

 

「・・・」

 

思ったより内部の被害が大きいようだった。

 

「エンジンとレーダー、バルカン砲は交換しないと治らんな・・・エンジンの交換はタダでいいがレーダーとなると・・・」

 

「予算オーバー?」

 

「そうじゃな・・・この機体の最大の特徴がこのレーダーじゃろ?」

 

「うん」

 

破損したレーダーを眺めながら話す。

予算オーバーならクエストでもして稼ぐしかないか・・・

 

「分かった、仕事して稼いでくるよ」

 

「しっかりな。あ、そうじゃ嬢ちゃん」

 

「何?」

 

「これとかどうじゃ?」

 

おじさんが出してきた書類にはF-14Dのアムラーム発射能力を持たせる改修について書かれていた。

 

「今なら安くしとくぞ」

 

「・・・やめとく」

 

「いいのか?」

 

「セミアクティブで慣れちゃってるから」

 

「そうか・・・ま、気が変わったらいつでもウェルカムじゃ!」

 

そう言って整備に戻っていった。

私達も仕事をもらいに行こう。

 

「ごめん、お待たせ」

 

「ん?あー、いいよー」

 

マヤはのんびりとコーヒーを飲みながら音楽を聞いていた。

 

「さて、なんのクエストがあるかな」

 

「ガンナーやるの久々だからなるべく簡単なの」

 

「ガンナーなんて何年ぶりなんだろ・・・」

 

昔、まだF-14ではなくF-4ファントムにマヤと乗っていた時、今と同じようにファントムが長期の整備に入った事があった。

たしかあの時はエンジンを酷使しすぎてボロボロになったエンジンを交換するためだった。

それももう五年前だ。

 

「クエストボードは・・・あった!」

 

ボードの目の前まで行くと色々なクエストがあった。

私はいつもの癖でパイロット用のクエストを見てしまう。

マヤも同じだ。

 

「報酬良さそうなのは・・・あっ!これとかどう?」

 

「これ、パイロット用だよ」

 

「あれ?あ、ホントだ」

 

マヤが持ってきたのはUボートと呼ばれる魔獣の撃破だった。

異世界の船、Uボートに形がそっくりだからそう名付けられた魔獣だ。

攻撃方法も魚雷だ。

海には強力な魔獣が多く、船はほとんど居ない。

だが大量の石油などを輸送する時は船を使う事があった。

海には石油を主食にする魔獣もいればこのUボートのように船を沈めた後、海底でその船を捕食するような魔獣もいる。

 

「んー・・・じゃあこれとか」

 

「何これ・・・」

 

次に持ったきたのは自爆魔獣パンジャンドラムの討伐。

ミシンのボビンのような形をしたそれは車輪のような部分に体内で生成されたガスを高速で噴出する部位があり、そのガスを吹き出すことで転がる。

ちなみにこの魔獣はどこかのマッドサイエンティストな魔法使いが異世界の文書を入手した時にこのパンジャンドラムというものを見つけ魔法やら何やらよく分からない事をして作り出したそうだ。

その魔法使いは作ったのはいいがどんな魔獣になったか確認するため試しに転がしてみた所、まったく上手く走ってくれず、しかも逆に自分の方に転がってきてそのまま自爆、魔法使いは粉微塵になったらしい。

しかもそのテスト前にノリに乗った魔法使いが1万匹くらい作っていて魔法使いが死んだことで野生化して勝手に増えていってるらしい。

ちなみに繁殖方法とか時期とか全て不明だった。

何しろ何か動くものを見かけたら物凄い勢いで転がってきて自爆するため誰も近寄らない。

ただ物凄い勢いで転がってくるのはいいが大抵は真っ直ぐ転がらず、途中で倒れたり、突然自爆したり、仲間が自爆したショックで自爆したりと色々あるがとりあえず物凄い勢いで転がってきて自爆するインパクトは凄まじく、その体験をした者はPTSDに侵されたような状態になるとか。

おかげでこの世界共通の社会問題だ。

よく街の壁に転がってきて自爆する事もある。

 

「・・・これいくの?」

 

「だってほら!パンジャンドラムのお肉って高く売れるし美味しいって噂じゃん!」

 

「いやまぁ・・・そうだけど・・・」

 

パンジャンドラムは中に流れている血液と脂肪分が爆発性らしく、強い衝撃や自身が自爆しようと思ったりすると爆発するらしい。

ちなみに血液そのものは大した爆発力ではないが美味とされるパンジャンドラムの肉を守るように覆っている分厚い脂肪がTNT爆薬1t分くらいの爆発力になるらしい。

そんなパンジャンドラムだが回転する車輪のような部位を破壊されると爆発すること無く突然大人しくなり2分程度で勝手に絶命するそうだ。

学者曰く、走れなくなった事に対するショックで心臓が止まるらしい。

 

「これいくの?」

 

「報酬もいいよ!」

 

「まぁそうだけど・・・あ、そうだ」

 

「どしたの?」

 

「ちょっとね」

 

私はケータイでリリアに電話をかける。

 

「もしもし、リリア?」

 

『ハル?どしたの?』

 

「クエスト行こ」

 

『今から!?い、いいけど・・・』

 

「じゃあ待ってる」

 

そう言って電話を切る。

 

「リリア呼んだの?」

 

「うん、パンジャンドラムの大群相手なら上からクラスター爆弾で攻撃したほうが早いから」

 

「・・・地形変わりそう」

 

「石器時代まで戻すことくらい慣れたでしょ?」

 

「慣れてないよっ!!というかハルはこの前、盗賊の集落を攻撃するクエスト受けたのはいいけど詰めるだけクラスター爆弾積んでくっておかしくない!?」

 

「あそこを石器時代まで戻してやれーっ・・・ふふっ」

 

「怖いよ!笑い方怖いよ!」

 

私は敵の拠点をクラスター爆弾とかでボコボコにするのが大好きだ。

なんかこう、心が洗われる感じがする。

楽しい。

 

「とりあえず受付に行こうよ」

 

「そうだね・・・」

 

受付でクエスト開始を申請して私達は武器屋に向かった。

 

「らっしゃい!」

 

店主は屈強そうなオジサンだった。

ガトリングガンとか似合いそう。

 

「AK-74とAK-105のモダナイズカスタムモデルってある?」

 

「ちょうど二つともあるぜ!あー・・・でもAKはウッドモデルだけどいいか?」

 

「むしろそっちがいい」

 

「なら良かったぜ!弾はサービスしてやるよ!AK105は何かサイト付けるかい?」

 

「ELCANのスペクターDR欲しい!」

 

スペクターDRとはスコープの倍率を1倍と4倍に切り替えれるACOGスコープのようなものだ。

 

「スペクターDR・・・あー、何とか1個あるな。これでいいか?」

 

「うん」

 

「はいよ、全部で10万ってところだな。カードで行くかい?」

 

「ううん、現金」

 

「最近の若いのはリッチだねぇ・・・」

 

札束をポンと出し銃と弾を受け取った。

 

「じゃあな!頑張れよ!」

 

「ありがと」

 

店から出て街の門へ向かう。

ここから数百メートルくらいだ。

 

「さてさて、一稼ぎだね」

 

「そうだね」

 

その時、ケータイが鳴った。

 

「もしもし?」

 

『もしもしじゃないわよ!!あんた何誘っといて先行くのよ!!今どこ!?』

 

「街の門」

 

『はぁ・・・分かったわ・・・』

 

「じゃあね」

 

「・・・友達の扱い割とひどくない?」

 

「そう?」

 

昔からこんな感じだが。

まぁ世間一般から見れば酷い気はする。

 

「それでリリアは来てくれるの?」

 

「フルクラムのタービンが回る音がしてたからすぐに来ると思う」

 

「そか」

 

私達は門の近くにあるレンタカー屋で軽装甲車を借りた。

そして街の外にでる。

外は街の中とは一変して街に繋がる舗装もされてない道のような所と森林が広がっていた。

森林には魔獣が沢山いる。

 

「さてと、一稼ぎ行こうか」

 

「パンジャンのお肉でBBQ!!」

 

「しないから」

 

「なんで!」

 

「食べるより売る」

 

「せめて!せめて!一つだけでも!」

 

「マヤは一つだけとか言いながら全部食べるじゃん」

 

「うぐ・・・」

 

「食べる割には大きくならないけどね」

 

「・・・貴女それ私のどこを見て仰いやがりました?」

 

「胸」

 

「ぶっ殺すぞ小娘」

 

「きゃー、マヤに殺されるー、リリア構わないから私ごとー」

 

「何その棒読み!!」

 

《・・・付き合ってられないわよ・・・》

 

リリアの呆れた声とMig-29のエンジンの爆音が上空を通り過ぎて言った。



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自爆魔獣パンジャンドラムの討伐

最後の方書いてて自分でも何言ってんだコイツとかなってた(


「・・・まったく居ない!!」

 

《居ないわねー・・・あ、増槽の燃料尽きた》

 

「ふぁ・・・」

 

パンジャンドラムを探し始めて4時間。

まったく見つからない。

 

「リリアー、上から見えないの?」

 

《まったく・・・森ばかりで》

 

「リリア、私が全責任を取るからあの森を石器時代に戻して」

 

「ハル!?」

 

《何言ってんの!?》

 

「頭にきた。ナパームで全部燃やし尽くしてやる」

 

いい加減イライラしていた。

ちょうどいい。

 

「まったまった!!」

 

《落ち着いてよ!てか私クラスター爆弾しか積んできてないわよ!》

 

「ちっ・・・役立たずのミグ野郎め」

 

《ちょっと待って今なんて言った?》

 

「役に立たないでございやがりますわリリアお嬢様って言った」

 

「・・・ハルが壊れた・・・」

 

「いい加減イライラしてる」

 

「その気持ちは分かるけど・・・」

 

そんな事を言った矢先に突然左の森の奥で大爆発が起きた。

それ釣られて複数の爆発も起きる。

間違いなくパンジャンドラムだ。

たぶん私達を見つけて転がってきたが木か何かに当たり爆発、その爆発に巻き込まれたか目の前で仲間が爆死して後追い自爆をしたのだと思う。

とりあえず大爆発のインパクトがすごい。

 

「ちょっと!来てるよ!」

 

「見たら分かる」

 

「パンジャンドラムってあんなに怖い生き物だったの!?無理無理!!!」

 

「見た目のインパクト凄いよね」

 

「あんたはホントに呑気だな!」

 

マヤは車の窓を開けて近づいてくるパンジャンドラムに小銃を向けていた。

 

「森の中に入れば一旦逃げ切れるかも」

 

《森の中にも複数のパンジャンドラムがいる!入ったらダメよ!!》

 

「待ち伏せ!?ちくしょー!撃っても撃っても数減らないし!!」

 

「文句言いながらパンジャンドラムの車輪撃ち抜いて止めてる辺り私は凄いと思う」

 

「あんたは冷静だな!!」

 

「リリア、私達の後ろにクラスター爆弾1個投下して」

 

《パンジャンドラムの群れを殺るのね!了解!》

 

「大丈夫なの!?」

 

「大丈夫、あの子ああ見えて無誘導爆弾の爆撃は天才的に上手いから」

 

昔、無誘導爆弾の爆撃で勝負した時、彼女は10回中10回とも誤差数10センチという精度で爆撃をした。

攻撃機にでも機種転換すればいいのだが本人は頑なに戦闘機から降りようとしなかった。

 

「クラスター爆弾の子弾は私達には1発も当たらないよ」

 

「それなら信じてみるけど・・・てか、何匹いんのよ!」

 

「20匹?」

 

「ざっと見て60!!」

 

「パンジャン1匹みたら30匹はいると思えとかよく言うけど・・・それよりもここまでコースアウトせずによく追ってくるよね」

 

「今年のパンジャンドラムは活きがいいんだよ!」

 

マヤは再装填を行った小銃で射撃を再開しつつ怒鳴るように言う。

 

「・・・マヤ、来たよ」

 

前をみるとフルクラムがアプローチしてきた。

投弾体勢だ。

 

《コースよし・・・レディ・・・Bomb's away!!》

 

フルクラムが爆弾を投下して上昇していく。

数秒もしないうちに爆発は空中で分解、小さな子弾が撒き散らされる。

その子弾は私達の上を通過、見事にパンジャンドラムの集団に直撃した。

小さな爆発の後パンジャンドラムが次々と爆発する。

 

「いやっほー!!リリア天才だよー!!」

 

マヤは上空のフルクラムに向かって大声でそう言っていた。

追ってきていたパンジャンドラム60匹のうち、50匹が連鎖的に後追い自爆し、のこり10匹程度は爆発せず、爆発の衝撃で車輪が壊れ、そのまま走れなくなりショックで絶命していた。

 

「リリア、お疲れ様。燃料は?」

 

《ビンゴ。私は先に帰るわね》

 

「了解、気を付けて」

 

《そっちも。じゃあまた後で、RTB》

 

街に向かうフルクラムを見送り、私達は絶命したパンジャンドラムに近づいた。

 

「・・・爆発しない?」

 

「もう死んでる。大丈夫」

 

マヤは恐る恐る近づいていた。

パンジャンドラムは完全に絶命していた。

あとは真ん中を切り開いて肉を採取するだけだ。

 

「マヤ、ナイフ」

 

「はいよ」

 

「ん、ありがと」

 

分厚い脂肪を切っていく。

その際に流れ落ちる血液は超高級な紅茶のような芳醇な香りがしていた。

 

「紅茶みたいな香り・・・」

 

「実際、爆発する以外は紅茶と同じ成分らしいからね。ただすぐに味も香りも落ちるから討伐した人以外飲めないけど」

 

「じゃあ飲も!」

 

「そう言うと思った。コップある?」

 

「はい!」

 

パンジャンドラムから滴る紅茶のような体液を採取してコップに注ぐ。

まるで入れたてのような温度で湯気も立っていた。

私達は近くにあった岩に2人で腰掛ける。

 

「じゃ、いただきまーす」

 

「いただきます」

 

しっかりとパンジャンドラムに感謝しつつ紅茶を啜る。

 

「おいっしー!」

 

「うん、ホントだね」

 

「初めてだよ!こんなに美味しい紅茶!」

 

「まぁ紅茶じゃなくてパンジャンドラムの体液だけどね」

 

「それ言わない!」

 

あっという間に飲み干してしまう。

私達は美味しさの余韻に浸りながら少しお喋りをする。

 

「ねえハル、そう言えば前の賞金首だけどもう上がって来ないよね?」

 

「リーパーの事?」

 

「うん、撃墜はしたけど本人は生きてたみたいだし」

 

「確かにね。でも私ならもう上がらないかな」

 

「戦闘機がないから?」

 

「ううん、私達がどういう手段で撃墜したか覚えてる?」

 

「あっ・・・なるほど・・・」

 

「もう噂になってると思うと。ペイント弾に落とされた死神って」

 

「あはは・・・私はレーダー扱う係だから分からないけど私がパイロットなら恥ずかしてくてもう飛べない・・・」

 

「マヤもパイロットでしょ」

 

「ヘリコプターのね。戦闘機は苦手だよ」

 

「ふーん・・・」

 

「あー・・・でもプロペラ機なら大丈夫だよ」

 

「でもなんでマヤはトムキャットの後席に乗ってるのに戦闘機苦手なの?」

 

「苦手って言うか戦闘機の操縦だよ。音速とかだと目が回っちゃって・・・トムキャットの後席ならレーダーガン見してるから気にならないけどね」

 

「そうなんだ」

 

何年も一緒に冒険者をしているが超音速が苦手なのは初めて知った。

なんて話をしているうちに紅茶も無くなる。

 

「さてと、お肉回収して帰りますか」

 

「うん。あ、そうだ。マヤ、脂肪も回収するよ」

 

「脂肪も?」

 

「水と塩と砂糖とイースト菌加えて発酵させたらプラスチック爆弾になるから・・・って資料で見なかった?」

 

「いや待って!それ工程パン作りだよね!?」

 

「うん。副産物?」

 

「パン作りで副産物がプラスチック爆弾なんて初めてだよ!!」

 

「そんなに言ったって仕方ないじゃない。そういう作り方なんだから」

 

「それはそうだけど・・・発酵の工程必要なの・・・?」

 

「なんかアルコールが発生しないとダメらしいよ」

 

ちなみに威力は一昔前の戦車の正面装甲程度なら20gくらいで爆砕できるらしい。

大体貫通力は110mmくらいだ。

電気発火しかしないので扱いも静電気に気をつければ比較的安全だった。

ただ、パンジャンドラム自体が勝手に自爆するため中々回収出来ないためパンジャンドラム製高性能爆薬はかなり高値で取引される。

 

「帰ったら爆薬作って売りに行かないと」

 

「ちなみにパンジャンドラム1匹で爆薬どれくらい取れるの?」

 

「大体500gくらい。大体200万くらいの価値になるかな」

 

「ということは10匹分で2000万!」

 

「でもレーダーとバルカン砲とかその他諸々の修理費が2000万だから・・・」

 

「うぇぇ・・・このクエストの報酬は?」

 

「18万」

 

「安い!!」

 

「パンジャンドラムの群れを攻撃して10匹以上爆発させるか討伐する事だったから」

 

パンジャンドラムは勝手に爆発するから正直大した報酬にならないが爆発させなかった場合、パンジャンドラムの肉や脂肪が高額で取引されるため上手くやると副報酬が基本報酬の100倍以上になることもある。

 

「じゃあさっさと回収して帰ろっか」

 

「そうだね!あー・・・疲れた・・・」

 

黙々と1時間ほど作業を行い肉と脂肪を集めた。

パンジャンドラムの紅茶液は帰りに飲むために水筒に集めておいた。

 

「じゃ、帰ろっか」

 

「帰りながら紅茶で乾杯だね!」

 

「そうだね」

 

車に乗り込みエンジンをかける。

ふと周りを見ると穴ぼこだらけだった。

 

「これに巻き込まれたら・・・うぅっ、怖っ!」

 

マヤは爆発に巻き込まれた事を想像して震えていた。

幸い、帰り道で何かトラブルに巻き込まれることも無くテキサスに帰ってこれた。

守衛さんに通行証を見せて中に入る。

 

「脂肪って宿で加工する?」

 

「さすがに危ないからギルドに委託するよ。すこし報酬減るけど」

 

「いくらくらい?」

 

「手数料が80万くらいかな」

 

「あれ、意外と安かった。200万くらい行くかと思ってた」

 

「ここの加工屋さん良心的だから」

 

「なるほどねー・・・あ、ギルド見えてきた」

 

「早めにクエスト完了報告して宿に帰ろっか」

 

「そうだね、お風呂入りたいし!」

 

「だね」

 

ギルドの駐車場に車を止め中に入ると受付のお姉さんが困った顔をしてこっちに来た。

 

「あの・・・クエスト直後で申し訳ないのですが・・・」

 

「どうしました?」

 

「おふたりに緊急クエストをお願いしたいのです・・・」

 

お姉さんは申し訳なさそうに言うがどうも本気で困っているようだ。

 

「何かあったんですか?」

 

「はい・・・実は最近、Uボートの活動が活発になってまして本来港に来るはずだったタンカーのうち10%程しか来ていなくて・・・深刻な燃料不足になっているです」

 

「空路は?」

 

「それがこの時期は翼竜の活動が活発で・・・陸路は製油所まで遠すぎて使えませんし・・・だからリーパーを落としたハルさん達にお願いしたいんです!」

 

「いいけど・・・私達の飛行機は飛べないよ?トムきゃんじゃ対潜戦闘も無理だし・・・というか街の騎士団は?あの人達にお願いしたほうがいいんじゃない?」

 

「実は国王様の式典参加のために出払ってまして・・・1チームしか・・・」

 

騎士団というのは国の首都から各街を防衛するために派遣された組織で昔は鎧に身を包み剣を持った凛々しく強い集団だったが今では剣を銃に変え馬は戦車や航空機に変わっている。

装備も鎧から軽く機動性に富んだボディアーマーやチェストリグなどで身を包み、見た目は異世界の特殊部隊のようだった。

ちなみに国の首都にしか居ないがしっかりと国軍も存在している。

 

「なるほど、それで賞金首撃墜の実績もあるし私達にって事ね」

 

「そうです!お願いします!飛行機はこちらから貸し出しますので!」

 

「ハル、どうするの?」

 

「燃料がないならトムキャットは飛べなくなるしやるしかないよ」

 

「ありがとうございます!報酬は弾みますので!飛行機は整備員さんが教えてくれますから!」

 

お姉さんはクエスト開始の処置のためかカウンターに急いで帰っていった。

 

「もうひと仕事だね」

 

「頑張ろ!正直疲れたけど・・・」

 

そんなことを言いながら格納庫に向かう。

 

「で、機体はどれかな」

 

「さぁ・・・」

 

すると私達に気づいたドワーフの整備員がこっちに来た。

トムキャットの整備をしてくれていた人だ。

 

「よう嬢ちゃん!Uボート狩りだってな!」

 

「うん、それで飛行機は?」

 

「おお!こっちじゃ!あー・・・でも気に入るかは分からんが・・・」

 

整備員が連れていってくれた先にあったのは2機の飛行機だった。

 

「お前さんらのはこれじゃ!ええっと・・・何じゃったかなコイツの名前は・・・」

 

それは昔、異世界の本で読んだ事があった機体だった。

確か、日本という国が開発した対潜哨戒機・・・でも最新型なんかではない。

双発レシプロエンジンの骨董品だった。

 

「きゅ、Q1W・・・東海・・・」

 

「おお!それじゃそれ!Q1W東海じゃ!ええのぅ・・・ロマンの塊みたいな見た目じゃわい」

 

「ちょ、ちょっと待って!横にP-3Cあるよ!」

 

私は珍しく大声を出した気がする。

 

「ハルが珍しく大きな声出してる・・・」

 

「なんでこんな骨董品なの!?横にいい機体あるのに!」

 

「あーそれな、それ騎士団の連中が乗るんじゃよ」

 

「せめて!せめてもっとマシな機体に!」

 

「何を言っとるんじゃ、この東海がただの骨董品な訳ないじゃろが。レーダーやその他諸々の電子機器は最近式に取り替えてあるしエンジンもターボプロップエンジンに換装してある。ソノブイだって搭載しとるしの。唯一、武装が少ないってことじゃが・・・まぁ今回、転移魔法を使う奴が乗り込むから武装は格納庫から補充して戦えるわい」

 

「もはや中身別物じゃん・・・」

 

「操縦システムも古臭いワイヤーとっぱらって光ケーブルのフライ・バイ・ワイヤ式じゃ!バックアップにパワー・バイ・ワイヤも搭載じゃ!」

 

フライ・バイ・ワイヤとは一昔前は操縦桿からの操作を直接ワイヤーなどで稼働翼面に伝達していたがそれを電気信号で油圧装置などに伝え操作する方式だ。

コンピュータ制御が可能なため安定性や操縦性が悪い機体でも安心して乗れる。

 

「しかもじゃな!射出座席も採用じゃ!どうじゃ!」

 

「いや・・・どうじゃって言われても・・・」

 

完全に別の機体だ。

というかこの機体のどこにそんなもの詰め込んだと言いたい。

 

「はぁ・・・で、肝心の武装は?」

 

「あ・・・えっと・・・それがじゃな・・・」

 

ドワーフのおじさんは何か言いずらそうだ。

 

「えっと・・・これ・・・」

 

そこに置いてあったのは少し小さめの爆弾だった。

 

「150kg対潜爆弾・・・」

 

あれだけ高度なシステムやらなんやらをぶち込んでおいて武装はまさかの航空爆雷だった。

 

「なんで!?」

 

マヤもさすがに口を出した。

 

「あれだけ高度なシステムぶち込んでおいて武装はなんで爆雷なの!?」

 

「いやでもこれあれじゃ!GPS誘導じゃ!」

 

「これJDAM!?」

 

「見た目はアナログ中身は最近!その名もQ1W東海じゃ!」

 

「そこまでするなら見た目も最新にしてよ・・・」

 

「それ実はワシも改造初めて2日目くらいに思ってた」

 

「思ってたの・・・?」

 

「いや、あれじゃ。最初は、うひょひょ!こんな面白い仕事久々じゃわい!ドワーフの血が唸るぞい!とか思ってたんじゃがな。電装系いじってる時に、あれ?これ別にこの機体でする必要なくね?ていうか横のP-3Cよりいい電子装備積んでね?とか思ってきての」

 

「P-3Cよりいい装備なんだ・・・」

 

「まぁいっか!とか思ってたら出来上がったわけじゃ」

 

「・・・」

 

まぁとりあえず・・・大丈夫そうだが・・・

私は久々に大きな声をだして疲れた。

 

「とりあえず・・・飛ぶよ・・・」

 

「え・・・これで?」

 

「仕方ないでしょ。マヤは武装をお願い」

 

「はいはい・・・」

 

「そう言えば転移魔法使いっていうのは?」

 

「あー、それならあと2時間後くらいにこっちに来るって連絡があったからの」

 

「そっか。了解」

 

私はそのまま機体に向かう。

 

「ハル?」

 

「ちょっとコックピットに」

 

「私も乗る!」

 

「おー、今ちょうど外部電力でコックピットの電装系動かしてるから見てみるといいぞー」

 

「分かった、ありがと」

 

私は東海のコックピットに乗り込む。

・・・完全に想像してたものと別物だった。

 

「グ、グラスコックピット化されてる・・・」

 

これもう東海である必要ないよね・・・という気持ちを抑えて私は仕事の準備をする事にした。



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Uボートハント

この世界の通貨単位をどうしようか本気で悩んでいる作者です(


「・・・この機体である必要あったのかな・・・」

 

「ないよねこれ」

 

コックピットの計器を弄りながら話す。

多機能表示ディスプレイにFLIRと呼ばれる赤外線探査装置のディスプレイまである。

マヤに頼んで下を見てもらったらコックピットの真下から小さな扉が開きそこからFLIRボールが出てきていた。

 

「中身が最近っていうかなんて言うか・・・」

 

もしこの機体の開発者が見たら泣いてたかも知れない・・・が・・・まぁ中身は完全に最新式なのでむしろ泣いて喜ぶかも知れない。

 

「あ、ハル。あれ魔法使いじゃない?」

 

「ん?」

 

この機体に近づくローブを着たいかにもな人がいた。

 

「おーい!魔法使いさんでしょー!こっちだよー!」

 

マヤは大声でこっちへ呼んだ。

すると魔法使いは顔を上げた。

 

「え・・・魔法使い・・・?」

 

「・・・魔法使いのイメージが私の中で間違ってたのかも知れない」

 

魔法使いという人をここ最近滅多に見ることが無かったが昔見た魔法使いは何というか、黒っぽいスーツを着て杖をついたおじいさんだったり、いかにもな服を着た少年だったりだった。

だが私達の目の前に来たのはお前今からどっかの汚染された戦場にでも行くのかと言いたくなるような見た目だった。

それは目ガラスがサングラスのように真っ黒なガスマスクにボディアーマーを着込んでいた。

しかも背中に酸素ボンベのようなものを背負っていた。

あとなんかシュコーシュコー言っていた。

 

「おー!来たな!」

 

おじさんは陽気に話しかける。

正直、私は怖くて話しかけたくない。

 

「怖がらんでもいいぞぃ、コイツは見た目は怖いが中身はイイ奴じゃからな!」

 

ガスマスクの魔法使いはグッと親指を立ててきた。

たぶん笑顔なのだろうが表情が何も見えないため怖い。

 

「あー。でもコイツな、何故か一言も喋らんから意思の疎通は難しいかもしれんの・・・」

 

何なんだこの謎の人物は。

いや、でも魔法使いという人は謎めいた人が多いからこれは普通なのかも知れない・・・

 

「とりあえずえっと・・・どうぞお乗りください・・・」

 

「ハ、ハルが珍しく敬語使ってる・・・」

 

「だってマヤだって怖いでしょこの人・・・」

 

「いやまぁ・・・怖い人なら過去に色々見てきたけどこれはまた別のベクトルで怖いね・・・」

 

なんて話してる間に魔法使いは乗り込んできた。

整備員のおじさんもコックピットの計器チェックのため乗り込んできた。

 

「ねぇおじさん・・・あの人なんて名前なの?」

 

マヤは小声でそう聞くと・・・

 

「ん?アイツか?ガスマスクじゃ」

 

「えっ・・・それ名前?」

 

「まあ本人が喋らんから勝手に名前つけられただけじゃがの!」

 

なんじゃそりゃ。

謎が多すぎて本当に何なんだこの人は。

 

「時間だね・・・行こっか」

 

なんてしてる間に出発の時間になった。

コックピットに座ってるとこの機体が昔に作られた機体なんて忘れてしまう・・・

何せ目の前にはMFDが沢山並んでいるし甲高いターボプロップエンジンの音はするし・・・

 

「マヤ、対潜爆弾の投下はなるべく機体が安定してからでお願い」

 

「GPS誘導っていっても完璧じゃないもんね・・・了解だよ!」

 

「じゃ・・・行こっか」

 

東海は夕暮れの空に飛び立っていった。

このまま海に向かう。

 

「Uボートってさ、どうやって見つけるの?」

 

「後ろにソノブイがあるでしょ?それを投下して後は音で探すんだよ」

 

「なるほどねぇ・・・あ、でも私Uボートの鳴き声知らないよ」

 

「私も・・・でも聞いた話だと異世界の言語でドイツ語って言うのがあるんだけどそれに近いんだって」

 

「ドイツ語なんて聞いたことないけど・・・まぁ分かるか!」

 

そう話しながらどこにUボートが居るかも分からない広大な海を飛ぶ。

クエスト成功条件はUボート5匹の討伐。

5匹だけなら楽に思えるが奴らは異世界の潜水艦という船を模して生まれた魔獣で生態も潜水艦とほとんど同じだ。

唯一違うのは魚雷や機関砲弾などの武器は体内で生成出来て撃沈した船を食べるという事、また哺乳類らしく呼吸するらしいが潜航中は浮上中に太陽光で発電し、その発電して電力を体内の器官に溜め込み、水を分解して酸素を作り呼吸しているらしい。

そのため、Uボートの表皮は太陽光発電パネルの代わりとしてかなりの高額で取引されるが何しろ航空攻撃で討伐することが多く、艦船で旅をする冒険者が少ないためUボートの太陽光パネルは1枚が数千万という値段で取り引きされる。

 

「出来ることならUボートの表皮欲しいよね」

 

「本当だよねー・・・あれがあれば当分生活には困らないのに・・・」

 

海を見ながらそう呟く。

その時、遅れて離陸してきた騎士団の哨戒機から無線が入る。

 

《エンジェル0-1、こちら王国軍騎士団派遣隊所属の対潜哨戒機ブルーハウンド》

 

「ブルーハウンド、こちらエンジェル0-1」

 

《これよりソノブイを投下、音紋分析を開始する。そちらもソノブイを投下、Uボートを探してくれ》

 

「了解」

 

私はスイッチを弄り、ソノブイの投下を準備する。

 

「マヤ、ソノブイ用意」

 

「了解!」

 

もう少し行ったところでUボートの目撃例がある場所だ。

一つ目はここにしよう。

 

「投下用意」

 

「用意!」

 

「投下」

 

「了解、ソノブイ投下!」

 

「あとはUボートがいてくれる事を願うばかりだね」

 

「そうだね、アイツら妙にすばしっこいらしいし」

 

旋回しながら暗くなってきた海を眺めた。

その時、ブルーハウンドから無線が来た。

 

《こちらブルーハウンド!Uボート発見!》

 

「了解、どこ?」

 

《そちらからは遠い、こちらで対処する》

 

「了解、お願い」

 

さすが訓練を受けているだけ違う。

仕事が早い。

 

「ハル・・・この音かな」

 

ヘッドホンを付けたマヤは目をつぶって音に集中していた。

 

「どんな音?」

 

「分からない・・・聞いたことのない言葉・・・」

 

「それたぶんUボート」

 

「じゃあそれだ!」

 

「了解、目標は?」

 

「ソノブイから東200m!深度・・・50!」

 

「分かった、対潜爆弾用意」

 

旋回して機首をUボートの方向に向ける。

 

「ガスマスクさん、2発投下した後再装填お願いします」

 

「シュコー」

 

ビシッと親指を立ててくる。

その際チラッと見えたのだか彼はコートを羽織っていてその下にボディアーマーを着込んでいるがよく見たらボディアーマーの左右にデザートイーグルが2つホルスターに入っていた。

・・・うん、なんか魔法使いながら50口径拳銃撃ちまくってる姿が容易に想像出来た。

 

「コースよし・・・」

 

「投下用意!」

 

下にチラッとUボートの体が光ったのが見えた。

間違いない、この下だ。

 

「投下!」

 

「Bomb's away!」

 

ガコンという音のあと機体が若干左に旋回した。

爆弾を1つ投下したためバランスが崩れたのだ。

幸い、コンピュータ制御のおかけでバランスが崩れた事をほとんど意識しなくていい。

 

「命中まであと2秒・・・」

 

「当たって・・・」

 

そう呟いた時大きな水柱が上がる。

同時にUボートのものと思われる浮遊物も上がってきた。

 

「やった!命中命中!!」

 

また命中したとき胴体の真ん中に当たったのか真っ二つになったUボートの頭の部分が上がってきた。

まだ生きてるのか叫び声をあげている。

 

『グァアアアア!!!』

 

水面をのたうち回るように動き絶命した。

そのまま沈んでいく。

 

「割とエグい・・・」

 

体長50m以上ある巨大な海洋生物が胴体を寸断されれば体の内容物やら体液やらが洋上にぶちまけられる。

海面は真っ赤になっていた。

 

「残り4匹」

 

「ハルは割と平気そうだね・・・」

 

「今夜、大きい赤身の魚を食べようなんて言い出したらブチ切れるレベルでは大丈夫だよ」

 

「割と大丈夫じゃなかった・・・」

 

新たにソノブイを投下しながら話す。

あんなエグいもの見せられたらちょっと当分、大きい魚は食べにくい。

特に赤身の魚は・・・。

 

《魚雷投下》

 

私達が必死にUボートを探していたら騎士団のP-3Cは練度が違うのかさっさとUボートを見つけて攻撃していた。

彼らの武装は対潜用の短魚雷である程度大まかな位置で攻撃しても誘導魚雷なため自動的に目標を攻撃してくれる。

比べてウチの爆弾は相手の位置さえ分かればこちらから誘導して正確な攻撃が出来るが、相手の位置を完全に確認しないと正確な攻撃は無理だ。

 

「せめて短魚雷欲しかったよねぇ・・・」

 

「同感」

 

そんな話をしつつ捜索をつづけているとブルーハウンドから無線が入った。

 

《こちらブルーハウンド、方位270に不明船・・・駆逐艦のようだ。エンジェル0-1、君たちのお仲間か?》

 

「こちらエンジェル0-1、MIG-29乗りなら私達の仲間だけど駆逐艦は分からない」

 

《了解。テキサスタワー、駆逐艦が方位270から接近中。間もなく街の管制圏に入るものと思われる。》

 

《ブルーハウンド、こちらテキサスタワー。駆逐艦の入港予定は確認されていません。進路は街に向かっていますか?》

 

《時速28ノットで街に向かって航行中》

 

何やら嫌な予感がしてきた。

まず、凶暴な海洋生物が多い海に出る冒険者は少ない。

たとえ乗っている船が巨大な艦砲を備えた戦艦であってもだ。

Uボートのように海に潜み駆逐艦程度なら一撃で葬り去る魚雷を放ってくる魔獣もいれば体は小さくても船の素材が好物な魔獣もいる。

空は人類が確保出来ているが陸と海はまだまだ魔獣のものだった。

石油類の輸送には仕方なく駆逐艦が護衛に着くことがあったが単艦で居ることは滅多にない。

 

《こちら王国軍騎士団、方位270を28ノットで航行中の船舶に告ぐ。貴船の船名、目的を知りたい。そのまま進むとテキサスの領海内に進入する。貴船の進入許可は下りていない。早急にテキサスタワーにコンタクトするか通信機器の損傷であれば当機に発光信号を送れ。》

 

「ねえハル、なんか嫌な予感がする・・・」

 

「私も・・・」

 

《繰り返す、こちら王国軍騎士団・・・》

 

私は双眼鏡で相手の船を探す。

だが暗くてよく見えない。

 

「シュコー」

 

「うひゃぁっ!?な、なになに!?」

 

マヤが大声を上げた。

ガスマスクはマヤに何かを差し出している。

 

「な、何これ・・・ナイトビジョン?」

 

ガスマスクはビシッと親指を立てた。

というかこの人の感情表現これしかないのか。

 

「あ、でも良く見えるこれ・・・あ!見つけた!」

 

マヤはナイトビジョンを双眼鏡の前に持ってきて無理やり見えるようにしていた。

だが何かを見つけたようだ。

 

「あの船・・・えっと・・・なんだっけな・・・前にハルが持ってた異世界の船が書いた本を見たんだけど・・・」

 

「見せて」

 

私もマヤと同じようにナイトビジョンを双眼鏡の前に持ってくる。

すこし持ちにくいが何とか見える。

 

「ん・・・え、あれってもしかして・・・」

 

「分かったの?」

 

「アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦・・・!?」

 

異世界ではよくイージス艦と呼ばれていた船だ。

イージスというのがどういう意味なのか私にはよく分からなかったが対空と対潜能力がかなり高い船だ。

凶暴な海洋生物だらけの海でも単艦で生き残れるほどに。

そしてその船のマストに高々と掲げられているのはドクロマークの旗・・・

つまりあれは・・・

 

「ブルーハウンド!それは海賊船だよ!!」

 

《何・・・?》

 

次の瞬間、船の先端で何かが光る。

そしてすぐに空中で爆発が起きた。

 

《メーデー!メーデー!!第4エンジンに被弾!第4エンジンに被弾!!火災発生!!》

 

「ブルーハウンド!逃げて!!」

 

《当機はこれより帰投する!!》

 

赤い炎を上げながらP-3Cが私達と反対方向に逃げていく。

 

「ハ、ハル・・・どうしよう」

 

「どうしようって言っても・・・」

 

この暗闇の中、高速で飛行している航空機に正確に攻撃できる船をどうしろと言うんだ。

こっちは対潜爆弾、向こうは主砲にミサイル、バルカン砲・・・勝てっこない。

だがこっちは完全に射程内。

その時無線が入る。

 

《そこを飛行中の航空機に告ぐ。本艦は貴機に危害を加えるつもりはない。こちらはUボートの素材を回収しているだけだ。街にも危害を加えるつもりはない。Uボートはこちらで片付ける。そちらは直ちに転進し当艦から離れよ》

 

警告だった。

つまりは、Uボートの素材貰っていくからとっととどっか行けバカ野郎という事だ。

だが攻撃してこないなら都合がいい。

帰らせてもらおう。

 

「ハル!?帰るの!?」

 

「あんなのとやり合って勝てるわけ無いでしょ」

 

「そうだけど・・・」

 

「まだ死にたくないなら帰るよ」

 

ミサイル駆逐艦を背に私達は街へと急いだ。



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人物警護

一昨日、仕事場の飛行場でリアルシベリア送り作業をしてきた作者です(
マイナス10℃近い中、木を数える作業は死ぬかと思った


「嬢ちゃん大丈夫じゃったか!?」

 

ギルドに着くなりドワーフのおじさんに詰め寄られる。

 

「何とか大丈夫・・・だけどあの海賊船・・・」

 

アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦・・・

異世界の国、アメリカという国が開発したイージス艦と呼ばれる船だ。

この世界にもイージス艦という概念が異世界から入っては来たが向こうでも最新型で機密性が高いのだろう、ほとんど情報が無かった。

ただ艦そのものがこの世界に送られて来たことがあったらしいが誰も中身のシステムを解明できずに放置されていたという話は聞いたことがあった。

そもそも、ミサイル駆逐艦を扱うには専門的な知識が必要な場面が多すぎて並大抵の冒険者等では航行させることすら不可能だった。

また、こちらで建造された船ならいいが異世界から送られてきただけなら中身は異世界の仕様そのままで言語の翻訳をしないとならなかった。

この街で唯一異世界の駆逐艦、オリバーハザードペリー級フリゲート乗りだった冒険者のパーティはその船に乗るために2年以上の歳月をかけて船を動かし戦闘させる事が出来たが、つい先月、Uボートから雷撃を受けて沈没。

その冒険者パーティは全員行方不明だった。

その船の対潜能力もかなり高いものだったがそれでも沈められていた。

そんな海を単艦で行動し悠々と素材を集めていくあの海賊船は一体どんな連中が乗っているのか・・・

 

「ほかの街や国にもまだ船乗りの冒険者は居るかも知れんが・・・単艦でのぅ・・・まぁ嬢ちゃんらとこの東海が無事で良かったわい」

 

「そもそもあんな海で単艦で生き残れる海賊なんて相手してらんないよ・・・」

 

「私も。一ヶ月前だっけ、ミサイルフリゲート乗りのパーティが行方不明になったのって」

 

「そういやそんな事もあったのぅ・・・あのグループの遺体は誰1人見つかっとらんから可哀想じゃ・・・」

 

彼らが撃沈されたと思わしき海域には船の残骸や彼らの持ち物が浮かんでいただけで生存者は確認できなかった。

その後の遺体の回収に出るも誰一人として見つかっていなかった。

 

「まぁとりあえず疲れただろう、機体の補給はワシらに任せて休むんじゃ」

 

「うん、ありがと」

 

私達は格納庫を後にした。

クエストは失敗、報酬は無かったがまぁ仕方がない。

それよりも攻撃を受けた騎士団のP-3Cは街に帰る途中でレーダーから消えたという話を聞いた。

主翼から妙な音がするという通信を最後に交信が途絶えレーダーから消えたらしい。

夜が明けてから捜索救難機が上がるらしいが・・・

彼らが心配だった。

 

「・・・騎士団の人・・・無事かな」

 

「・・・」

 

マヤは心配そうに呟く。

だが・・・正直、絶望的な状況かもしれない。

夜間の街の外はアンデッド系の魔物がうろつき始める。

たとえ不時着していたとしても負傷した乗員で対処できるか分からない。

また聞いた内容からして空中分解の可能性もあった。

 

「彼らの無事を祈るしかできないよ」

 

私はそう呟いた。

 

「マヤ、ご飯どうする?」

 

「この時間、どこも開いてないし・・・我慢して明日の朝ご飯いっぱい食べようよ!」

 

「そうしよっか・・・ふぁ・・・」

 

疲れた。

ご飯よりも早くお風呂に入って休みたかった。

マヤも同じ考えのようでさっさとチェックインを済ませ、部屋の鍵を受け取っていた。

 

「ねぇ、ハル。明日はどうする?」

 

「明日・・・明日か・・・」

 

パンジャンドラム討伐の報酬は全てトムキャットの修理費に当ててしまったために今現在はほとんどお金がない。

 

「何か良さげな仕事が探さなきゃね」

 

「そうだね!私は久しぶりにヘリに乗れる仕事あればいいんだけどなぁ・・・」

 

「そう都合よく無いと思うけどね」

 

「ねぇハル〜・・・ヘリ買ってよー!」

 

「無理」

 

「そこを何とか!!今月のお小遣い我慢するから!」

 

「元々お小遣いあげてない」

 

マヤは駄々をこね始めた。

 

「今何時だと思ってるの?」

 

「宴の時間!」

 

「ねぇ、マヤ。それ以上うるさくしたらフェニックスに縛り付けて火山に撃ち込むよ?」

 

「・・・ごめんなさい。いい子にしますので真顔で言わないでください・・・」

 

「よろしい」

 

騒ぐマヤを静かにさせて部屋に入る。

 

「ハルー!お風呂はいろー!」

 

「分かったから、待って」

 

マヤはいつの間にか全部服を脱ぎ捨てていた。

 

「こんなに散らかしてたらお嫁に行けないよ」

 

「ハルの嫁でいいよ!」

 

「会話になってない気がする」

 

マヤの脱ぎ捨てた服を片付けて私もお風呂に入る。

1日の疲れが抜けていくようだ。

30分ほどのんびりと2人でお風呂に入り、髪を乾かしてベッドに入り込んだ。

 

「いやー・・・今日は疲れたねー・・・」

 

「そうだね・・・もう寝よ、おやすみなさい」

 

「うん、おやすみなさい」

 

私は目を閉じてふと思った。

今日は運が悪かったら私達が落ちてたと。

たまたま、あの海賊船は騎士団の機体を攻撃、私たちには撤退勧告をしてきただけだった。

もしあれが私達まで狙っていたら・・・

そう考えると・・・

これ以上は考えたくもない。

私はなるべく考えないようにして眠りについた。

 

「ふぁ・・・」

 

窓から差し込む光で目が覚める。

時計をみたらもう朝の11時だった。

 

「やば・・・ふぁ・・・もうお昼だ・・・」

 

とりあえず顔を洗おう・・・

そう思って洗面台に行く。

 

「今日は・・・どうしようかな・・・」

 

報酬のいい仕事を見つけないとあと一週間もすれば食費だけで貯金が底を突く。

トムキャットが飛べるようになるのもまだ未定だった。

 

「とりあえずギルドかな・・・」

 

顔を拭きながらそう呟いた。

ふと、ベッドを見るとマヤが気持ちよさそうにまだ寝ていた。

 

「正直、もう銃を使う仕事はしたくないんだけどな」

 

ベッド脇に置いてあるAK-74を見ながら呟いた。

私は戦闘機に乗っている方がいい。

 

「さて・・・マヤを起こしてギルドにでも行こうかな」

 

ぐっすり寝ているマヤの布団を剥ぎ取った。

 

「マヤ、起きて」

 

「んー・・・やだ・・・」

 

「起きてってば」

 

揺さぶったり色々してみたが起きない。

なんで今日に限って・・・

 

「マヤ、起きないとマヤがこの前買ったシュールストレミングの中身をマヤにかけるよ」

 

マヤが魔物相手に使えそう!!とか言いながら武器屋で買ったシュールストレミングという缶詰を持ちながら脅してみた。

というか、なんで缶詰が武器屋で売ってるんだ・・・と思いながらこの前調べてみたら異世界でとても臭い食べ物だと本に書いてあった。

部屋の中で開けたら異臭騒ぎで警察が飛んでくるレベルらしい。

 

「ごめんなさい今起きます!!」

 

マヤが飛び起きてきた。

ただいつもちょっと脅しただけで飛び起きる。

これ私がマジでそういう事する人に見られてるのだろうか・・・心外だ。

 

「準備したら仕事行くよ」

 

「はいはーい・・・ってもう11時!?」

 

「そうだよ」

 

「お昼寝!」

 

それは15時くらいからするものだろう。

 

「張り倒すよ」

 

「冗談だよー・・・準備するから待ってて」

 

「40秒」

 

「え?」

 

「40秒で支度しな。出来ないと・・・ふふっ」

 

「怖い!何があるのか分からないけどとにかく怖い!!」

 

マヤは物凄い勢いで洗面台に向かっていった。

私はマヤが準備するまでの間にベッドに寝転んでケータイを取り出した。

昨日から行方不明のP-3C・・・新しい情報を確認したかった。

 

「・・・」

 

ニュースサイトを開くと1番上の記事に出ていた。

行方不明の航空機発見という見出しだった。

開くと現場の写真が出ていた。

・・・機体は森の中でバラバラになっていた。

ただ機体は見つかるも搭乗員全員の姿が見えないという事だった。

バラバラとは言え、胴体部分は比較的形を留めていて火災の痕跡も無く、生存者が居ても不思議ではなかった。

ただ、機内には自衛用の銃は無くなっていたが、薬莢が一つも見つからず、近くで倒れていたアンデッド系の魔物は明らかに魔法で倒されたような痕跡が残っていたらしい。

 

「魔法・・・ね」

 

ただ何故、銃があるのにわざわざ魔法なんて使ったのだろうか。

その疑問が残ったが・・・まぁいいか。

 

「おまたせー!」

 

「おかえり、いこっか」

 

「うん!」

 

ギルドまでのんびりと歩く。

今日はいい天気。

暑いくらいだ。

 

「どんな仕事があるかな」

 

「いいのがあるといいね」

 

報酬が良くて楽そうな・・・というちょっとした期待を胸にギルドに入った。

クエストボードにはかなり沢山の依頼があった。

 

「なんかいいの無いかな・・・」

 

上の段からゆっくり見ていくとマヤが1枚の紙を持ってきた。

 

「ねぇこれ!これどう?」

 

「どんなの?」

 

内容は人の警護。

しかもヘリの操縦資格を持っていると報酬20%増しだった。

確かにマヤはヘリパイロットの資格があるからいいかも知れない・・・が、場所が街から街へと移動する経路上の警護かと思ったが、どうもそうでは無かった。

依頼人はエルフの村の村長。

どうも、近くにエルフを目の敵にするカルト教団がいるらしくそれからある人を守って欲しいそうだった。

 

「・・・カルト教団ね・・・」

 

ろくな事が起きないのは目に見えていたが・・・報酬はダイヤモンドで支払うという事だった。

エルフ達が発掘するダイヤモンドは何故かとても大きな物が多く、また彼らの加工したダイヤモンドはとても美しいと評判で小さいものでも最低額は1千万以上だった。

 

「ハル!これいこ!」

 

「・・・やる気満々だね・・・いいよ分かった。」

 

「ヘリも貸し出してくれるらしいし!」

 

「そうじゃなかったらこの仕事出来てないよ」

 

早速、受付にクエスト開始を申請し、ヘリまで案内してもらった。

 

「おー!UH-1Jじゃん!」

 

UH-1J、異世界の国、日本の軍隊が使っているヘリだ。

正確には軍では無かった気がするが・・・。

まぁ細かい所はいいだろう。

 

「ハルは副操縦士と武器をお願いね!」

 

「分かった」

 

武装は2門のM2重機関銃のみだったが魔物相手なら問題ないだろう。

何気にチャフとフレアも搭載されているようなので少しは安心だ。

 

「じゃ、早速いこっか!」

 

「場所は?」

 

「ここから東に70kmくらいのところのエルフの村だね」

 

「了解、じゃあお願いね。機長」

 

「任されよ!」

 

マヤは鼻歌を歌いながらエンジンスタートの手順を踏んでいく。

 

「手馴れてるね」

 

「わたし、実家でお父さんがUH-1に乗ってたからね!覚えちゃったよ」

 

すぐにエンジンが動き始めた。

 

「私、この音好きかも。トムキャットほどじゃないけど」

 

「でしょでしょ!UH-1のエンジンの音っていいよね!トムきゃんのエンジンの音も好きだけど私はこっちかな」

 

「・・・裏切り者め」

 

「何で!?」

 

「冗談だよ。いこっか」

 

エンジンはご機嫌に回転数を上げ、離陸できる体制が整った。

 

「テキサスタワー、ハンター921」

 

《ハンター921、どうぞ》

 

「東への出発許可をお願いします」

 

《ハンター921。東への出発を許可。そのまま滑走路17手前まで移動、待機してください。747とその護衛機が着陸後滑走路へ進入してください》

 

「ハンター921、ラジャー」

 

「滑走路手前だね、了解!」

 

「ゆっくりね」

 

「分かってるよ!」

 

ヘリはゆっくりと浮き上がり高度6m程度の所を飛行しながら誘導路にそってホバータキシングする。

ふと上を見ると747と護衛のSu-27が最終着陸進入体制に入っていた。

 

「おー、降りてきた」

 

「だね」

 

私達が滑走路につく頃にはジャンボジェットと護衛機は滑走路に着陸していた。

あとは離陸許可待ちだ。

 

《ハンター921、滑走路に進入して待機》

 

「滑走路に進入して待機、ハンター921」

 

「ホバリングって何気に神経使うから早く飛びたい・・・」

 

「もうちょい待って」

 

《ハンター921、滑走路17より離陸を許可。風は無し》

 

「ハンター921了解。ありがとうございました」

 

「よっしゃー!テイクオーフ!」

 

滑走路を飛行機のように滑走するようにして離陸する。

 

「70キロって言ったらすぐだよね」

 

「そうだね、大体この速度だと30分かからないんじゃないかな」

 

エルフの村を目指して低空を飛ぶ。

 

「魔物さえ居なければ綺麗な場所なのに・・・」

 

下に広がる草原を見ながら呟く。

 

「本当に・・・リリアにお願いしてこの辺の魔物全部一掃してお昼寝でもしに行く?」

 

「その案採用」

 

「冗談だからね!?」

 

「なんだ、久しぶりにまともなこと言ったと思ったのに」

 

「いや、こんな事がマトモな事になるなら異世界の映画で朝のナパームは格別だとか言ってたおじさんどうなるの」

 

「気のいいおじさん」

 

「絶対ハルの基準はおかしい!!」

 

コックピットでそんな事を話しながら目的地に向かう。

いつも通り・・・というかいつもだが話は尽きなかった。

 

「あれかな?」

 

「あの村っぽいね」

 

「下りようか」

 

「了解、1度上空をパスして」

 

「おっけい!」

 

双眼鏡で村を見ながら低空で村の上空を通過する。

村にはエルフ達が沢山いた。

 

「あれに間違い無さそう」

 

「了解!着陸しよっか!」

 

ただ、一つ懸念事項があった。

村には私達とは別にMi-8が駐機してあった。

エルフ達が航空機を持っているとも思いにくい。

彼らはその手の機械を乗りこなす事を嫌っているからだ。

 

「別のパーティ・・・?」

 

ヘリはゆっくりと村へ進入していく。

 

「あれ?なんでヒップ止まってんの?」

 

「分からない」

 

着陸すると村長らしき人が迎えに来てくれた。

マヤはすぐにエンジンを停止させる。

 

「私が先に降りる」

 

「了解、気をつけてね」

 

降りると村長らしき人が駆け寄ってきた。

 

「よくぞおいでくれました!」

 

「依頼人の村長さん?」

 

「そうです!とりあえず詳しい話はこちらで・・・」

 

私はそのまま家に案内させる。

中にはすでに私たちとは別の人達が10人程いた。

 

「やぁ、初めまして」

 

「初めまして。私達だけじゃなかったんだね」

 

「あぁ、そうみたいだ」

 

聞くとここから北に200km行ったところにある街の冒険者のようだった。

 

「君たちと共闘する事になる、よろしくな」

 

M4を持った歴戦の兵士といった感じのおじさんはいい人そうだ。

 

「では集まったところで・・・」

 

「待って、マヤが・・・相方がまだヘリにいる」

 

そう伝えた瞬間のタイミングでマヤも家に入ってきた。

 

「おまたせー!ってあら?」

 

「君の相棒かい?」

 

「賑やかな相棒だけど」

 

とりあえずこれで全員揃ったようだ。

 

「では改めて・・・」

 

村長さんは依頼の内容を説明してくれた。

ここから少しのところに小さな村と大きな敷地をもつ洋館があるらしい。

そこにはこの村出身のエルフの少女がいる。

その子はその屋敷を中心に私たちのように大きな街、エルフ達の街を作ろうとして頑張っていた。

小さな村にはその協力者達が住んでいる。

まだ壁も出来ていないが少しずつ建設は始まっているらしい。

だが、エルフを敵対視するカルト教団がエルフの街など許さないと襲撃を企てているという情報を掴んだらしい。

この王国の政策は異種族も活躍できる社会ということでそういった異種族が街を作り上げたりするのを応援していた。

だから今回の襲撃の可能性があることを国王が知り、王国陸軍の地上部隊と技術者が街に向かっているらしい。

つまり私達は陸軍到着までその街と村を守れという事だった。

到着まで3日ということだ。

戦力は戦車20両、歩兵戦闘車30両、装甲兵員輸送車40両以上、輸送トラック50両、歩兵300名と大戦力だった。

また護衛にAC-130ガンシップに対空対地両方に対応できる武装を施したF-16が常について動いているらしい。

どうも国王様はエルフに思い入れがあるらしく過剰戦力気味の部隊を動かしていた。

対して敵のカルト教団は銃や戦車などを嫌っていて剣や魔法で攻撃してくるようだ。

ただし、そんな教団が今まで生き残れているにはそれなりの理由があるのだろう。

聞いた話によると最新型のAPFSDSやHEATに匹敵する威力の遠距離魔法を使ってくるらしい。

 

「ということです・・・この村は結界で外からは見えないようになります、でもあの子の家はそうもいかない・・・お願いします!」

 

「了解した。直ちに向かおう」

 

「こっちも行こっか。」

 

「そうだね!」

 

ヘリに向かう。

屋敷までは大した距離ではなかった。

 

「ねぇハル、あの人達だけでもよかったんじゃないかな」

 

「いきなり何を言うの?」

 

「いやほら・・・装備とか・・・経験とかね」

 

「まぁね・・・でも、私達だって賞金首撃墜の経験があるわけだし」

 

「そっか・・・そうだったね!」

 

「じゃあ行こっか」

 

マヤは頷き、エンジンを始動するための準備を始めた。

 

「燃料は・・・たくさんあるから大丈夫だね」

 

一通り点検を終えてエンジンをかけ始める。

彼らに負けないように・・・私達も頑張ろう。



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カルト教団の襲撃

一昨日くらいに路面がアイススケートリンクみたいになっていて調子乗ってひゃっはー言いながら普通の靴で滑ってたら盛大に転けて膝とか強打して2分くらいもがいていた作者です(


「あれ何人くらい住んでるんだろ・・・」

 

村から少し行った所にある屋敷。

敷地はさっきの村より大きい。

推定でも50人以上は住んでそうだ。

 

「というかさ・・・ハル、1つ聞きたいんだけどいい?」

 

「なに?」

 

「エルフってさ・・・銃火器とか兵器があんまり好きじゃないんだよね」

 

「そうだね」

 

「じゃああれ何・・・?とんでもない物見えるんだけど・・・」

 

「・・・」

 

屋敷には自衛用だろうか、門の近くに12.7mm重機関銃が置いてあった。

また、屋敷の屋根には12.7cm連装高射砲がドカンと2基配置してあった。

まぁこれはカルト教団や魔獣相手なら妥当な手段だろう。

というかそんなものはどうでもいい。

屋敷の庭にどう考えてもおかしい物があった。

こんな物所持する領主とか嫌だ。

 

「なんで・・・スカッドミサイルあるの・・・?」

 

移動式発射機に装備されたスカッドミサイルが堂々と庭の真ん中に置いてあった。

カルト教団相手に使う気だろうか。

 

「とりあえず降りよう」

 

「そうだね・・・私ちょっとあそこの主人と話すの怖くなっちゃった・・・」

 

ヘリは庭に着陸する。

するとメイドらしき女性が出迎えてくれた。

 

「お待ちしておりました」

 

「御主人様は中?」

 

「はい、出迎えの準備をしています」

 

「分かった、ちょっと待ってて」

 

ヘリのエンジン停止を待つ。

・・・それにしてもあのスカッドミサイルの存在感がヤバい。

あんなもの持ってる奴を襲おうなんて何考えてるんだカルト教団は。

 

「おまたせー!」

 

マヤはエンジン停止させてこちらに来た。

 

「では、お屋敷に案内します」

 

メイドさんについて屋敷に向かう。

それにしても・・・デカい家だ。

 

「おっきいね・・・」

 

「うん、いい家だね。あれさえ無かったら・・・」

 

「あ、あはは・・・弾道ミサイル置いてる家なんて怖いよね・・・」

 

なんて話しながら屋敷の中に入る。

そのまま一つの部屋に案内された。

 

「ご主人様、到着されました」

 

「あ、はーい!」

 

こっちに寄ってくる女の子。

銀髪の似合う可愛らしい子だった。

・・・庭に弾道ミサイル置くような子には見えない・・・というか見たくない。

 

「初めまして!」

 

「初めまして、えと・・・」

 

「あ、名前がまだだったね!私はカエデ!」

 

「カエデ・・・私はハルだよ」

 

「私はマヤ!」

 

「それで本題なんだけど、カルト教団ってのはどんな奴らなの?」

 

その話題を出すとカエデは面白くなさそうな顔をする。

 

「・・・酷い人達・・・としか言えないわ」

 

「分かった、それだけでいいよ」

 

「そうだ、それよりも気になってた事あるんだけど」

 

「なーに?」

 

「・・・あのスカッドミサイル・・・カエデさんの?」

 

「え?あ、あぁ!あれね!あれ村の人たちが危ない人達が襲ってきたらこれで戦うんだよって餞別でくれたの!」

 

「へ、へぇ・・・」

 

餞別・・・こんな破壊力のある餞別なんてあっただろうか。

そもそもどこからこんな物調達した。

 

「でもお父さんったらこういう物詳しくないからいちばん強そうなの持ってきたってドヤ顔で言っちゃって・・・私使い方分からないのに・・・」

 

いちばん強そう・・・まぁそりゃ強いでしょう。

弾道ミサイルなんですから。

1発しかないけど。

 

「そういえば、私達の他に人って来てないの?」

 

「あ、その人たちなら村の方にいってもらったわ。村の防御を固めたら何人かこちらに戻すって・・・」

 

「分かった。こっちも狙撃とか出来そうな位置を探そうか」

 

「そだね」

 

「カエデ、この家で高くてあの門が見える部屋を教えてもらえる?」

 

「それなら私についてきて」

 

カエデの案内で部屋に向かう。

 

「ねぇハル、狙撃って言っても私達の小銃だよ?」

 

「距離は大体300m無いよ。狙撃銃じゃなくても当たる距離」

 

「まぁそうだけど・・・」

 

「マヤにはスコープ付いてるでしょ、大丈夫」

 

「そうだね・・・頑張ってみるよ!」

 

なんてしてる間に部屋につく。

 

「ここ、私の部屋だけどここが1番見晴らしはいいと思うわ」

 

「確かに・・・正門まで距離約260・・・マヤ、260mは狙える?」

 

「静止目標なら何とか・・・相手の数にもよるけど門をこじ開けようとしてる連中の狙撃なら出来るかも」

 

「あ、そうだ!ハルさん、これ使う?これも餞別で貰ったものなんだけど・・・」

 

「え?どれ・・・?え?」

 

カエデがタンスから出してきたのはダネルNTW-20。

私達のF-14に搭載してあるバルカン砲と同口径のライフル・・・人というか生き物に対して撃つものじゃない。

マヤは若干引きつった顔でカエデにそれが何か分かってるのかと聞いていた。

 

「あの・・・カエデさん?これが何かご存知で・・・?」

 

「え?えーと・・・強そうな・・・鉄砲?あと重いわ」

 

「OK、分かった。とりあえずそれは人に対して撃つものじゃない」

 

「え、そうなの?」

 

「こんなの食らったらトラウマ級の状況が目の前で広がるよ!」

 

「でもお父さんがあの教団の人達の防御魔法を貫通させるならこれしか無いって・・・」

 

・・・なるほどね・・・まぁでもこんな物で狙撃されれば敵に対して強力な精神攻撃もできるはずだ。

・・・目の前で仲間が消し飛べば私なら逃げる。

 

「とりあえずそれはそこの窓に設置しよっか」

 

「分かったわ、そこね」

 

「それ・・・使うの?」

 

「相手の人数も装備も分からないからね。強力な武器はあったほうがいいよ」

 

「まぁ・・・でもそうだよね」

 

マヤは無理やり納得している感じだった。

 

「ハルさん、こんな感じ?」

 

「うん、あとは脚を窓枠にガッチリ固定だね」

 

あとは足元に20mm砲弾が入った弾薬箱を置いて準備完了だ。

 

「じゃあ私達はこの部屋で待機する。たぶん敵は夜間に来るからマヤと私はお昼に交代しながら仮眠とろ」

 

「了解、あと敵の偵察を見つけたらどうする?」

 

「そりゃもう・・・先手必勝一撃必殺で」

 

「了解!」

 

こっちの防御状況を伝えられる訳にはいかない。

なるべくこのダネルNTWは本襲撃のために温存しよう。

 

「じゃあ私はちょっとやる事あるから下に戻るわね。えと・・・何かあった時はよろしくね」

 

「任せて」

 

カエデは部屋を出ていった。

 

「さて、どうする?」

 

「どうするって・・・とりあえず見張りかな」

 

見張りに着こうとした時に後ろのドアが開いた。

振り返ると村で別れたチームのうちの4人ほどが戻ってきていた。

そのうち2人は女の子だ。

 

「あら、とんだゲテモノ置いてるのね」

 

「これ、あの子のだよ」

 

「・・・あの子、スカッドといいこれと言い・・・どうかしてますわ・・・」

 

お嬢様言葉な女の子は確か、カナという名前だった。

お嬢様言葉だが見た目は異世界の特殊部隊のような格好だが・・・

 

「・・・お姉ちゃん、この部屋の防御もうちょっと固めたほうがいいかも」

 

「ん、そうですわね。アキ、M2機関銃をあと2つ窓に設置で」

 

「分かった」

 

姉妹か・・・最初に自己紹介してなかったから分からなかった。

妹のアキは複製魔法が使えるようだ。

ただ工場の職員のようにパーツで作るのではなく、構造や機能を全て理解していないと出来ない、一気に作り上げる方式だった。

つまり彼女は少なくともM2重機関銃の全ての機能と構造を頭に叩き込んであるようだ。

 

「で、ローチ。あなたが私たちのリーダーなんだから作戦を決めましょうか」

 

「そのあだ名やめろと何度言えば分かるんだ」

 

「あら、あなた地雷踏んでもちょっと足折るくらいだったじゃない。異世界のゴキブリと同じくらい生命力が高いって褒めてたのに」

 

「そんな人を蔑む視線で言うんじゃない・・・」

 

ローチと呼ばれた男の人は顔を骸骨が書いてあるバラクラバで覆っているため顔が分からない。

 

「ま、作戦だな・・・とりあえず敵を見つけたら全部狩れ。撃滅しろ。以上」

 

「ふふっ、貴方らしいわ。でも・・・久々の狩りねぇ・・・うふふ」

 

「・・・狩りじゃー」

 

「楽しませてくれる獲物だといいわぁ」

 

何かこの姉妹雰囲気超怖い。

 

「・・・ねぇハル・・・このふたり怖い」

 

「私も同意見」

 

それもだが、あと1人さっきから全く喋ってない人がいる。

ただそいつは前、東海に乗ってきた奴と同じでガスマスクを付けていた。

ただ、それだけならいい。

なんでアンタはミニガン背負ってる。

それ人が扱える物じゃない。

 

「あら、どうしたの?」

 

「ひぇ!?え、えっと・・・」

 

姉の方に突然話しかけられとんでもない声が出た。

 

「あー、彼のミニガン気になってるんでしょ。彼、魔法で筋力とか上げてるからミニガンの反動とか押し殺せるのよ。あと彼、昔負傷した時に声帯やられてるから喋れないけど根はいい人だから怖がらないであげてね。人見知りだけど。名前はエコーよ」

 

「あ、あはは・・・分かりました・・・」

 

エコーはじっとこちらを見てくるがガスマスクのおかげで目しか見えず威圧感がやばい。

前のガスマスクは目がサングラスのようになっていて全く見えなかったが見えたら見えたで威圧感が凄かった。

 

「あ、えっと・・・私はF-14のパイロットしてるハル」

 

「私はRIOしてるマヤだよー!」

 

「F-14?ということは戦闘機乗りか?」

 

「うん」

 

「なんで戦闘機乗りがこんな依頼を?」

 

「前、賞金首とばったり会っちゃって・・・何とか撃墜したんだけどトムキャットはあと一ヶ月くらい飛べなくなった」

 

「賞金首撃墜したのか・・・ははっ、心強い味方だな」

 

ローチは気さくにそう話しかけてくれた。

このチームの人達は本当にいい人そうだ。

 

「さて、そっちの2人はどういう作戦だ?」

 

「え?えっと・・・」

 

考えてなかった。

だが思いつくとしたらこの広い庭で交戦するよりも会えて家の中に入れ、閉所戦闘を強いるという事だ。

広い庭だと魔法を使う場所が存分にある。

だが魔法を使うにはある程度の開けた場所で使う必要があり、それは強力になるほど広い場所が必要になる。

なら敢えて狭い場所におびき寄せ、銃撃したほうがいい。

私はそれを伝えた。

 

「なるほどな・・・ただ家の中に入られる前にある程度数を減らす必要がある」

 

「それならその重機関銃とダネルNTWで」

 

「それがいいな」

 

作戦も決まった。

あとは襲撃に備えるだけだ。

 

「そういえば他の人は村?」

 

「あぁ、他の連中は村で待機してる。ただ思った以上に村がデカくてな。子供が多いということで女性、老人、子供はヘリに乗せていったん俺たちの母艦に匿ってる。」

 

「母艦?」

 

「あぁ、アドミラル・クズネツォフ級だ。随伴艦にモスクワ級とウダロイⅡ級だな。本当はカシン級も居たんだが・・・二週間前にUボートに襲われてな。沈められた」

 

「・・・驚いた。船を使う冒険者が居たなんて」

 

「俺たちの住んでる場所は比較的海が穏やかでな。対潜専用の艦を連れてるから艦隊で動けてるよ。今回は近くまで移動してきて洋上で待機してる。絶えず対潜ヘリと駆逐艦が動いてるから魔獣の入り込む隙間もないけどな」

 

この冒険者パーティー・・・パーティーというよりももはやギルドだ。

1000人単位で人が居るんだろう。

 

「お喋りはこの辺にして、飯にでもするか。いい匂いもしてきてるしな」

 

「あ、そういえば」

 

「・・・お腹空いた」

 

なんて話してたらカエデのメイドが食事の準備が出来たと呼びに来てくれた。

時間はもう午後の6時だ。

 

「お客様、食事の準備が出来ましたのでこちらまで」

 

「よし、見張りを2名残して残りは食事に行くぞ」

 

「じゃあ私が見張ってるわ。アキも一緒に」

 

「うん」

 

「じゃあ残りは飯だ」

 

メイドに連れられて向かった先は大きな部屋だった。

長いテーブルに美味しそうな料理がたくさんあった。

入ると準備を手伝っていたカエデがこちらに気づいた。

 

「あれ?4人なの?」

 

「2人は見張りだ」

 

「そんな事しなくても良かったのに・・・」

 

「念の為だよ」

 

「・・・仕方ないわね・・・とりあえず座って座って!」

 

マヤの隣に座る。

もうお腹ペコペコだ。

 

「じゃあ頂きましょうか」

 

「いただきまーす!」

 

マヤは早速お肉に食いついていた。

私も美味しそうなステーキから手をつけた。

 

「美味しい・・・」

 

「うま・・・これうま・・・」

 

マヤは感動していたが・・・食べながら話すから何か汚い。

30分ほど食事を楽しみ、見張りを交代した。

 

「さて・・・今日は来てくれるなよ、準備がまだ出来てないんだからな」

 

「敵はヘリの音を聞いてるはず・・・来るとすれば今夜かも」

 

「・・・だよなぁ・・・」

 

待つこと1時間、当たりは真っ暗だ。

いつの間にか食事に言っていた姉妹も帰ってきていた。

すると双眼鏡を覗いていたマヤが小声で何かを伝えてきた。

 

「・・・ハル、なんか来た」

 

「・・・さっそくかな」

 

私も双眼鏡を覗く。

何やら黒ずくめの衣装を身にまとい剣のような物を持った人がいた。

その奥には本を抱え何かをみんなに伝えている司祭のような人物も居た。

 

「おいでなすった・・・ミスフィット1指揮官、こちらミスフィット1-2。おくれ」

 

《1-2、おくれ》

 

「屋敷の正門前、例の教団らしき人影。何かの儀式をしているようにも見える。交戦許可願う」

 

《1-2、それは敵か?おくれ》

 

「事前に確認した敵の服装、装備共に一致している。おくれ」

 

《ミスフィット指揮官了解、1-2へ。門に手をかけたら攻撃してよし。繰り返す、門を開けようとする動作を確認した時点で攻撃せよ。おくれ》

 

「了解、門を開けようとしたら攻撃する。おわり」

 

ローチは無線で村にいるリーダーと連絡を取っていた。

とりあえず門を開けようとするまで撃つなという事らしい。

 

「ハル、マヤ。聞こえたな。門を開けようとするまで撃つな」

 

「りょーかーい」

 

「了解」

 

マヤはAKを私はダネルNTWを構えてその時を待つ。

 

「司祭の奴・・・なんか泣いてるよ」

 

「泣いてるね。」

 

「ねぇ撃っちゃう?撃っちゃおうか」

 

「やめて」

 

「冗談だって。あ、門に来た」

 

その時ローチは少し笑っているように見えた。

そして攻撃命令を出す。

 

「オープンファイア」

 

「うふ、ふふふ、あはははは!!」

 

「・・・ひゃっはー」

 

姉妹は機関銃を門めがけて掃射する。

 

「ちょちょ!!いきなり始めたよ!」

 

「マヤ!」

 

「分かってる!」

 

私も呼吸を整え射撃する。

突然の銃撃に敵は混乱しているようだが、やはり想定内だったのか指揮官らしきポジションの司祭は落ち着いているように見えた。

だが・・・

 

「・・・!」

 

トリガーを引くと物凄い衝撃を受ける。

さすが20mmだ。

その砲弾は司祭の頭を捉えた。

 

「うわっ、グッロ!!」

 

指揮官の頭が消えた事で敵がとんでもない威力の物で狙っているということが分かったのだろう、まっすぐ屋敷に向かってくる。

 

「ひゃははは!!リロードですわ!」

 

カナはすごく嬉しそうな顔をしながら機関銃を撃ちまくっていた。

 

「何人か入ってきたな・・・」

 

その時、部屋にカエデとメイドが入ってきた。

 

「な、何があったの!?」

 

「襲撃だ。3人はここにいろ。他に人は?」

 

「わ、私達だけ・・・」

 

「分かった」

 

ローチは拳銃をメイドの1人に渡した。

 

「使い方は分かるな。敵が来たら胸に2発頭に1発だ。」

 

メイドはこくこくと頷くだけだった。

 

「よし、ここでの戦闘を中止。中に入ってきた奴を片付ける。狩りの始まりだぜ・・・」

 

「ふふっ・・・いいわぁ。ちょっと先にやる事やったら行くわね」

 

「何する気?」

 

「お楽しみよ」

 

カナは単独で離れていく。

 

「よし、弾はあるな。行くぞ」

 

廊下を慎重に進む。

したからは小走りで走る音が聞こえた。

 

「階段を警戒」

 

無言で階段に銃を向ける。

その時だった。

 

『きんこーん、カルト教団のみなさーん』

 

カナの声だ。

この家のスピーカーを使っているようだ。

 

『遠路はるばるご苦労さま。でも残念、ここでみんな狩られる運命ねぇ。でも安心して、あなた達にも家族が居るでしょう?私達優しいから貴方達を殺したあと、家族もちゃんと殺してあげるから。ふふ、ふふふ、あはははは!!あの世でしっかりと再会してね!もう何人かの家には爆弾を詰んだ戦闘機が向かってるかも!いいわねぇ・・・すぐ会えるわよ。ふふふ、あはは!』

 

なんだこのどっちが悪役か分からなくなる放送は・・・

 

「また始まった・・・余計な事まで・・・」

 

「また?」

 

「アイツ、この手の事になると毎回だ。しかも空爆に向かってる事まで言いやがって・・・」

 

「え、マジなの!?」

 

「家族をピンポイントで狙うわけじゃなくてヤツらの教会をな。ただ家族がそこにいる連中もいるってだけだ」

 

「そういうことね」

 

そんな話をしていると目の前の階段から音もなく4人ほど現れた。

全員顔をフードで隠してるため顔は分からない。

 

「コンタクト!」

 

銃撃を浴びせる。

敵の獲物は剣だ。

近づかれる前に撃たないと。

 

「こいつら速いよ!」

 

「速ぇっ!クソっ!!」

 

剣だけ・・・というわけではないだろう。

連中、魔法かなにかで自分たちの速度を上げていた。

だが・・・

 

「出番だぜ、エコー」

 

ミニガンの銃身を回転させながら前に出てきた。

そして獣の咆哮のような銃声が響く。

あっという間に敵は蜂の巣だ。

 

「うっへぇ・・・えぐい・・・」

 

「うん・・・これはちょっと・・・」

 

「・・・慣れた」

 

「アンタたくましいよ・・・おぇ」

 

なんて話していたらカナが帰ってきた。

 

「ただいまーって・・・あら、もう殺っちゃった?」

 

「4人だけだ。それより最高の演説ありがとよ」

 

「うふふ、褒めても何も出ないわよ」

 

「これが褒めてるように見えるか?」

 

「ええ、見えますわ」

 

「・・・そうかい」

 

ローチは呆れた感じで言った。

 

「アキ、近くに何人居そうだ?」

 

「・・・6人」

 

「分かるの?」

 

「あいつはあぁ見えても魔法使いだ。レーダーみたいな魔法が得意でな、敵の位置とか簡単に特定してくれる」

 

「魔法って便利だね・・・」

 

「マヤも修行してきたら?3年くらい」

 

「3年もハルと離れたくない!」

 

「そこか」

 

「ついでに勉強も嫌だ!」

 

「知ってた」

 

「喋ってないで行くぞ」

 

ローチにそう言われ、階段を降りる。

 

「通路クリア」

 

「・・・違う、廊下と同化してるのが3人いる。」

 

「また汚い真似を・・・どこだ?」

 

「そこ」

 

アキが指さす方向に銃撃を加えると死亡した事で魔法の効果が無くなったのか3人出てきた。

 

「まったく張り合い無いですわ」

 

「お前の出番はまだだ」

「・・・その角、5人隠れてる」

 

「ふふ、うふふ、ここは私に任せて欲しいですわ」

 

「・・・必要以上にちょん切るなよ」

 

「ふふふ」

 

カナは2本のナイフを取り出した。

・・・格闘でやる気かこの人

 

「援護お願いしますわね」

 

「分かった」

 

カナが走り出すと同時に廊下の角に数発射撃、頭を出せないようにする。

その数秒後、カナが廊下の曲がり角に消えた。

 

「あは、あはははは!!」

 

笑い声と共に聞こえるのは悲鳴か断末魔か・・・

 

「あーなったらもう手をつけられん・・・はぁ・・・」

 

「・・・お姉ちゃん怖い」

 

「あなたのお姉ちゃん、私も怖い」

 

マヤもドン引きしていた。

私もドン引きしていた。

だって廊下の角からそれ何のパーツ?って聞きたいような聞きたくないような物が飛んで出てきていたから・・・

 

「カナ!おい!だからバラすなって言ったろ!」

 

「あはははは!!」

 

「ダメだありゃ・・・」

 

絶対に敵にしたくない。

心の底からそう思った。

そんな事思っているとカナが出てきた。

・・・血まみれで。

 

「お前な・・・」

 

「ふふ・・・あはぁ」

 

「怖い!」

 

マヤが遂に言った。

いや私も言えるなら言いたい。

言ったら殺されそうだけど・・・マヤが今言っちゃったけど。

 

「あら、怖いなんて心外ですわ」

 

血まみれの格好に血まみれのナイフ2本持って目の前に出てきたら誰でも怖いって言うと思う。

 

「・・・後ろ」

 

「え?」

 

後ろを振り返ると刃物で切りかかろうとしている敵がいた。

狙いは後ろにいたマヤだった。

 

「マヤ!」

 

「お、やば」

 

マヤは冷静にそう呟いたと思ったら刃物を持った手の手首を掴み、捻る。

刃物を落としたところで空いている右手で拳銃をホルスターから抜いた。

 

「はい、終わり」

 

「え、マヤ・・・?」

 

こんな格闘する子だったっけ・・・

私はそんなことを思った。

 

「お父さんが格闘大好きでさ、何か私も一緒にやってたら覚えちゃったんだよね、あはは」

 

拳銃を相手の喉に押し付けたまま目線を逸らさずにそう言った。

 

「ハル、コイツどうする?」

 

「どうするって・・・」

 

どうしようかと思っていたらカナがマヤの掴んでいる敵に近づいた。

 

「どうするも処刑しかないですわね」

 

「え、ちょ・・・!」

 

カナは自分の拳銃を使って相手の頭を撃ち抜いた。

 

「・・・カナ、いい加減にしとけ」

 

「あらローチ。いつもの事ですのに」

 

「相手が何であれ、殺しを楽しむなと言われているだろ」

 

「ふふ、忘れてましたわ」

 

「・・・ダメだこりゃ・・・」

 

ローチは完全に呆れた感じであった。

その後もカナは敵を見つけては銃撃したりナイフで切りつけたり・・・しかも即死しない所を狙っていた。

もがいてる敵を見ては笑顔を浮かべているしこの人怖すぎる。

 

「あと何人だ」

 

「・・・最低でも20・・・待って、回復魔法を使っている敵を見つけた」

 

「じゃあそいつからですわね」

 

「・・・敵は正面玄関ホールを拠点にしてる。そこにあと全員。増援待ちかも」

 

「分かった、エコー。出番だぞ」

 

こくっと頷き、ミニガンを構えた。

正面玄関まではこの階段を降りたらすぐの所だ。

エコーが先に降りていった。

 

「こいつら片付けたら一眠りしたいよ・・・ふぁ」

 

「私もですわ」

 

「わ、私はちょっと眠れないかな・・・」

 

「・・・マヤと同意見・・・」

 

あんな光景ずっと見せられて寝ろと言われても無理だ。

 

「ねぇハル、帰ったらトムキャット飛べるようになってないかな」

 

「部品がまだ届かないって言ってたから・・・」

 

「あと何が届いてないんだっけ」

 

「レーダー・・・それの輸送とかにあと一ヶ月くらい何だって」

 

「あと一ヶ月はこんな仕事ばかりかな・・・」

 

「・・・そうだね」

 

敵は人のみを至上の存在とし、その他の種族は奴隷もしくは人の為に働くべきものだと考え、この世界を作った神は人であり人が世界を納めるべき存在だと信じている教団だった。

だから人の姿をし人より長く生きるエルフなどの種族を忌み嫌っていて見つけ次第殺せというのがその教団のやり方のようだ。

殺す以外にも捕まえて奴隷として売ったりなど外道としか言いようのない集団ではあったが・・・とはいえ、私達と同じ人を殺すという行為は気持ちのいいものではない。

 

「ハル、帰ったらさ。トムキャット直るまで新しい機体に乗らない?」

 

「それ・・・賛成かも」

 

「ありゃ、ダメ元だったのに」

 

「こんな至近距離で人を撃ったりするのはもう今回切りでいいよ・・・」

 

私とマヤでそんな話をしていたら下からミニガンの咆哮が聞こえた。

 

「仕上げだ」

 

ローチはそう言って下に下りた。

 

「・・・うわぁ・・・これ生きてる人いるのかな・・・」

 

エコーの足元にはまだ煙を出している金色の薬莢が落ちていた。

そして目の前には血の海・・・としか表現出来ない状況が広がっていた。

 

「・・・まだ何人か生きてる」

 

「なんだよまだ生きてるの居るのか・・・全くしぶといったらありゃしない」

 

「貴方みたいね、ローチ」

 

「うるさいサイコパスお嬢様」

 

「酷いわね」

 

「はぁー・・・さっさと終わらせるぞ・・・」

 

そう言うと同時に柱の影から何人か飛び出してきた。

 

「まだ元気なの残ってるじゃねーか全く・・・殺せ殺せ」

 

4人は銃撃を飛び出してきた連中に浴びせた。

私達は銃を構える気にもなれなかった。

この人達は場慣れしているのだろうが・・・私達には無理だ。

もう血の臭いで吐きそうだった。

 

「これで全部か」

 

「・・・まだあそこ、隠れてる」

 

「マジかよ」

 

アキの指さす方向に向かうと微かに緑色の光が見えた。

回復魔法特有の光だ。

 

「チッ・・・アイツか」

 

ローチはいい加減面倒臭いと言った感じの舌打ちをした。

というかこの人、殺しを楽しむなと言った割には嬉嬉として殺せ殺せと言ったり・・・めちゃくちゃだ。

 

「おい」

 

「ひっ!?」

 

そこには教団の人とは違う、普通の魔法使いの服装をした人がいた。

 

「や、やめ・・・私、教団に雇われて・・・!」

 

「雇われた・・・ね。なんだ、治療の途中か?」

 

魔法使いはこくこくと頷く。

よく見ると私達より一つか2つ年下に見える。

 

「じゃあ俺が治療してやるよ」

 

そう言ってローチは拳銃で先ほどまで治療されていた男の頭を撃った。

魔法使いは呆然としていた。

 

「治療終わりだ。さて、お前は雇われたから教団の人間じゃないと」

 

「何で・・・何で・・・!この人苦しんでたのに!」

 

「話を逸らすな。大体俺たちの仕事はコイツらの殲滅だ」

 

「この・・・人でなし・・・!」

 

「そりゃこっちのセリフだ。コイツらの所業を聞いた事くらいあるだろう。それなのに雇われてコイツらを助けた」

 

「お金に困って・・・でも・・・!」

 

「あー・・・でもとかじゃなくてだな・・・まぁいい、話は単純なんだよ」

 

ローチは拳銃に手をかけたまま話す。

彼は彼女の目を見たまま目線を動かなさない。

 

「要するに、お前は俺たちが撃った敵を治す魔法使いだよな?ん?」

 

「・・・?」

 

「・・・だったらお前も敵じゃん」

 

彼は素早く拳銃を頭に向ける。

 

「やめ・・・!」

 

私は体か勝手に動いた。

ローチに体当たりをした。

拳銃を発砲されたが弾は彼女を逸れて壁に当たった。

 

「何すんだ」

 

「何すんだってこっちのセリフだよ!この子が人を殺したの!?助けてただけなのに!」

 

「綺麗事か?そんなので生き残れるような場所じゃないぞ。それとも戦闘機に乗ってると綺麗事しか吐けなくなるのか?」

 

「この・・・」

 

山賊野郎め。そう言おうとした時だった。

 

「ハル!!」

 

マヤが叫んだ。

私はふと後ろを見ると魔法使いの女の子は近くに落ちていたナイフを私に向かって振りかざしていた。

 

「ほらな」

 

ローチはそう言うと同時に2発発砲した。

弾丸は胸を撃ち抜いていた。

 

「だから甘いんだよ」

 

「あ、あ・・・」

 

確かに・・・甘かったのかも知れない。

ただ彼女はこのままだと殺されると思いナイフを手にした・・・と考えたかった。

 

「ハル、大丈夫?」

 

「・・・うん、大丈夫」

 

マヤが心配そうに聞いてくれる事が何故か嬉しかった。

 

「終わりだな。ミスフィット1-2よりミスフィット指揮官」

 

《1-2、おくれ》

 

「屋敷での戦闘終了。全て片付いた」

 

《了解、村も片付いた。死傷者無し、そちらの損害送れ》

 

「損害無し」

 

《了解、1-2はそのまま村に戻れ》

 

「了解、おわり」

 

ローチは事後報告を終えて立ち上がる。

 

「よし、カナ、アキ、エコー。このまま村に向かう。ハルとマヤはこちらでの事を頼んだ」

 

「・・・」

 

「・・・嫌われたな。まぁいい」

 

「では、ごきげんよう。また会いましょう」

 

そう言って4人は屋敷を出ていった。

・・・2度と会いたくない。

 

「行こっか」

 

「そうだね」

 

カエデのいる部屋に向かう。

屋敷に入ってきた人数は100以上、庭で倒した数が60人・・・屋敷内で残り全部・・・

 

「カエデさん、終わったよ」

 

部屋に入ると3人は無事そうだった。

 

「ほ、ホント?」

 

「うん、4人は先に村に帰ったけどね」

 

「そ、そっか・・・じゃあ後片付けしないと・・・」

 

「私達も手伝う」

 

「え、いいの?」

 

「汚したのは私達だから。」

 

「じゃあ・・・お願いしようかな」

 

その後は落ちた薬莢などを片付け、残った遺体は庭に集めカエデが供養していた。

何だかんだ穴の空いた壁を埋めたりしている家に2日は立っていた。

 

「終わったー!疲れた!」

 

最後の壁を埋め終わりマヤが背伸びをした。

 

「眠い・・・」

 

「ハルずっと眠れてなかったみたいだもんね」

 

「マヤのいびきがうるさいから」

 

「んな!?マジで!?」

 

「嘘だよ」

 

私は戦闘の事を思うと眠れなかった。

直接私が撃ったのは2人だ。

狙撃で撃った司祭と廊下で出会わせた敵・・・

気持ちのいいものでは無かった。

 

「マヤ・・・ちょっと仮眠してくる」

 

「うん、了解!」

 

でも眠気も限界だ・・・カエデが貸してくれている寝室に向かいベッドに倒れた。

私はそのまますぐに眠りについた。

 

「・・・ル、ハルー!」

 

「ん・・・」

 

「晩ご飯!食べたら帰るよ!」

 

「え・・・?」

 

時計を見ると17時。

私が寝たのは確か10時過ぎ。

お昼も食べずに寝てたのか・・・

 

「ほら、いこ!」

 

「うん・・・ふぁ・・・」

 

マヤに手を引かれて食堂に向かう。

私はその最中にもう銃を握るのは魔獣相手にだけにしよう・・・帰ってトムキャットが治ってなかったら治るまでに何か新しい飛行機を買おう・・・

そう思っていた。というかそう決めた。



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東へ

新年早々、凍った路面で5秒くらい滑って女の子座りみたいな格好になってコケた作者です。
誰も見てなくて良かった・・・


「ハンター921、滑走路17への着陸許可を願います」

 

《ハンター921、テキサスタワー。着陸を許可します》

 

やっと帰ってこれた・・・その気持ちでいっぱいだった。

もう2度とあんな仕事やりたくない。

 

「あはは、ハル、すごい疲れた顔してるよ」

 

「実際疲れたよ・・・」

 

「お疲れ様、下りたらゆっくり休もうよ」

 

「そうしたい・・・」

 

肉体的にも精神的にも疲れた三日間だった。

そんな話をしながらマヤはヘリを着陸させ、格納庫前に移動した。

 

「お疲れ様、私はエンジン切ったら降りるよ」

 

「うん、ちょっとトムキャットの様子見てくる」

 

「はーい」

 

私はF-14のある格納庫に向かった。

 

「おじさん」

 

「ん?おお!嬢ちゃん!待ってたぞ!朗報もあるぞぃ!」

 

「朗報?」

 

「驚け!なんとじゃな、レーダーが届いたんじゃ!」

 

「え?あと一ヶ月は届かないって・・・」

 

「それがじゃな、ワシの知り合いにF-14乗りのパイロットが居たんじゃがそいつが引退するってことでな、部品取りでF-14をワシが買い取ったんじゃよ。D型で状態もかなりいいしな!」

 

「それでレーダーも・・・」

 

「そうじゃ!まぁ料金は機体を買い取った分があるからちょっと高くなるけどな」

 

「いくら?」

 

「まー増えても60万って所じゃな。」

 

「ん、分かった」

 

「お金は大丈夫なのか?」

 

「報酬でエルフのダイヤモンド貰った」

 

「おお!これがそれか!」

 

私はダイヤモンドを取り出して見せる。

 

「ワシは宝石の魅力は良く分からんが・・・でも良い値が付きそうじゃな」

 

「うん、今から換金してくる」

 

「おー!そうか!ちなみに修理費交換費はしめて3400万って所じゃな」

 

「分かった、これ換金したら払えるよ」

 

「待っとるぞぃ!」

 

そんな話をしていたらマヤがこちらに来た。

 

「おまたせー!トムキャットの様子はどうだった?」

 

「明日から飛べそうだよ」

 

「え?レーダー届いたの?」

 

「うん、明日はちょっと別の街に行ってみない?リリアも連れて」

 

「いいね!テストフライトも兼ねて!」

 

「そういう事」

 

「早速明日から飛ぶのか、じゃ、燃料とオイルはサービスでやっとくわい!」

 

「ありがとおじさん!」

 

マヤがそうお礼をいい、ダイヤモンドを換金しに向かった。

 

「しめて・・・5000万って所ですね」

 

「ご、ごせんまん!?」

 

「はい、かなりいい品ですね」

 

まさかこんな値段が着くとは・・・

私は小切手を受け取り、ちかくの銀行からお金を受け取る。

そのままおじさんにお金を渡していつもの宿に向かった。

 

「今日はもうゆっくり休もう」

 

「そだね」

 

「銃・・・どうしよう」

 

背負いっぱなしの小銃をどうするべきか悩む。

トムキャットに詰める大きさではあるが・・・

 

「まぁ何かあった時のために取っとこうよ」

 

「そうだね、もしもの時・・・いや、もしもの時は運命を共にするからいいや」

 

「せめてそれは私の同意の元で・・・」

 

「私と一緒に飛んでる時点で同意してると見てる」

 

「やめて!まだ死にたくない!」

 

「絶対に死なせないから大丈夫」

 

「・・・イケメンかよ・・・惚れてまうやろ・・・」

 

なんて話しながら部屋に入る。

荷物を適当な所に起きベッドに横たわる。

 

「疲れた・・・」

 

「ねぇ、お風呂はいろ!」

 

「いい時間だしそうしよっか」

 

外は暗くなり始めていた。

明日は直ったF-14で飛ぶ。

そのために疲れを取っておかないと。

 

「はぁー・・・あったかい・・・」

 

「うん・・・」

 

「ん・・・あれ?ハル、なんかでかくなってない?」

 

「え?」

 

「何か一ヶ月前と違う気がする・・・」

 

「いや・・・ちょっと待って・・・どこ見てるの」

 

「胸」

 

「即答か」

 

「何で!?何食べたらそうなるの?!誰かに揉まれてるの!?」

 

「何を言い出すの・・・てか、揉んできてるのはマヤでしょ。寝てる時に寝ぼけて」

 

「んにゃぁぁぁ!!なんでそんな美味しい事を覚えてないんだ私ー!!!」

 

「むしろ忘れてて」

 

二日に1回くらいのペースで寝ぼけてベッドに潜り込んでくる・・・。

 

「私、先に出るね」

 

「はーい」

 

湯船から上がり体を拭いて着替える。

もう寝たい・・・。

 

「明日は・・・とりあえず東のほうに行ったことあまり無いしそっちかな・・・あ、そうだリリアにメールしとかないと・・・」

 

彼女も誘って東の方に小旅行と言った感じで飛ぼうと思っていた。

確か、東の方には古い城などが立っていて空から観光するのに最適な所だった。

 

「これでよし・・・ふぁ・・・」

 

返信を待っているといつの間にか寝てしまっていた。

 

「・・・ん・・・?」

 

朝、誰かがベッドに座っている感覚がして目を覚ます。

うっすら目を開けると本当に人が座ってケータイをいじっていた。

私はビックリして飛び起きる。

 

「うわぁ!?」

 

「あれ?リリア」

 

「あれ?じゃないわよ!」

 

「なんでここにいるの?」

 

「あんたがメール送ってきて返信したのに何も返さないから!てか、起きなかったら起こしに来てって書いてたでしょ!」

 

「あー・・・そんな事書いたかも」

 

私はベッドから起き上がって洗面所に向かった。

 

「それで、今日はどんな仕事するの?」

 

「今日はしないよ。ちょっと東に飛ぼうかなって」

 

「トムキャット直ったの?」

 

「うん。レーダーも換装してもらえた」

 

顔を洗いながらそんな話をした。

時間は朝の10時。

 

「あ、そういえばマヤは?」

 

「私が9時くらいに来たけど入れ違いでどこか行ったわよ。朝ご飯買ってくるとか何とか」

 

「珍しいね」

 

「ハルが爆睡してるから起こすに起こせなかったんだって」

 

「・・・」

 

悔しい、マヤにそんな事言われる日が来るなんて。

 

「まぁもうそろそろ帰ってくるんじゃない?」

 

「1時間くらい経つからね」

 

なんて話してたらドアが開く。

 

「ただいまー!あら、ハル起きたの?」

 

「うん、おはよ」

 

「おはよ!爆睡だったね!」

 

「疲れてたから・・・」

 

「まぁあんな事あったしねー・・・とりあえずはい!朝ご飯!ついでにリリアのも買ってきたよ!」

 

「え?私のも?」

 

「うん、ついでにね!」

 

「ありがと・・・どれ貰ったらいいの?」

 

「適当にお店でパン買ってきたから好きなの取っていいよ!」

 

「じゃあ私は最後に残ったのでいいわ」

 

「じゃあハルからで!」

 

「うん、ありがと」

 

私は無難にとクロワッサンにした。

2人もそれぞれ好きなパンを取り朝食にした。

 

「そーいえばハル、いつ頃から出発するの?」

 

「んー・・・とりあえず食べ終わったら」

 

「アバウトね・・・」

 

「トムキャットはいつでも飛べるから」

 

「あ、私のミグの燃料まだ入れてないや・・・」

 

「何しに来たの?」

 

「メールの返信もしないで寝てるあんたを起こしに来たのよ!というか、なんで私が一緒に飛ぶのOKする前提なの!?」

 

「リリアは優しいから」

 

「え・・・そ、そう?」

 

「うん。ちょろい」

 

「それせめて私に聞こえないように言うべきじゃないの?!」

 

「いいから早く燃料入れて来いこのメス豚め」

 

「喧嘩売ってんの!?」

 

「ま、まぁまぁ・・・とりあえずハルはケンカ売らない!」

 

「新年の大安売り」

 

「煽るな!」

 

マヤに怒られた所でやめとこう。

 

「リリア、待ってるから燃料入れておいで」

 

「始めからそういう風に言ってよ・・・とりあえず食べたら行ってくるわ。集合は格納庫?」

 

「うん。そこで」

 

「分かった」

 

リリアは食べかけていたメロンパンを食べきり部屋から出ていった。

 

「じゃ、私達も準備?」

 

「うん、そうしよ」

 

いつものフライトスーツに着替えて私服は最低限だけ小さめのアタッシュケースにしまう。

あとは小銃やらを持って準備完了だ。

 

「ねぇハルー・・・もうちょっと大きい荷物積みたい・・・」

 

「無理言わないで。これでもギリギリなんだよ」

 

「私は!年頃の女の子として!オシャレしたいの!」

 

「じゃあSu-34でも買う?」

 

「え・・・ほんと?」

 

「嘘に決まってるでしょ」

 

「・・・」

 

マヤが珍しくしょぼーんとしていた。

 

「・・・簡易輸送ポッドなら取り付けれるからそれならいいよ」

 

「ほんと!?今度はほんと!?」

 

「ほんと。正直私も荷物詰める何か欲しかったから」

 

「やった!ハル大好き!」

 

「・・・暑い・・・」

 

マヤに抱きつかれてそのままベッドに押し倒される。

今日は少し気温が高いせいか暑い。

 

「おじさんなら在庫持ってそうだし聞いてみようか。どうせ機体下部は大体何も積んでないから」

 

確か、増槽を改造して500kg程度なら積める輸送用ポッドを作って売っていたはずだ。

値段も大したこと無かった。

 

「それじゃいこ!」

 

「うん」

 

部屋を出て格納庫のあるギルドに向かう。

久々の空だ。

楽しまないと損だ。

 

「そういえばさ、ハルってアムラーム搭載用の改装キット買わないの?」

 

「何で?」

 

「そりゃあれってアクティブレーダーホーミングでしょ?スパローのセミアクティブホーミングに比べたららくじゃない?」

 

「・・・」

 

確かにそうだ。

対象を命中までロックオンし続ける必要があるスパローと1度ロックオンして撃ったらあとは自由に回避行動を取れるアムラームではアムラームのほうが楽だし命中率も高い。

 

「だけど・・・私は人に向かって撃ちたくないから」

 

「?」

 

「魔獣相手ならスパローで十分って事だよ。アムラームは対戦闘機に真価を発揮するでしょ」

 

「まぁ・・・ね」

 

「AIM-9X改装キットならいいよ」

 

AIM-9Xとは私達が普段使っているAIM-9Mと同じ系統のミサイルだが機動性や命中率が桁違いのタイプだ。

魔獣の中には突然目の前に出てきてドッグファイトになる事も少なくなく生き物という事もあり機動性が戦闘機とは全く別物だった。

遠距離からなら一方的に攻撃できるが至近距離となると難しいものがあった。

だがこのAIM-9Xなら高機動で、機体を改修すれば使えるオフボアサイト機能でこちらの視線を合わせるだけでロックオンしてくれる機能のおかけで魔獣を正面に捉えなくても攻撃できるようになっていた。

 

「着いた」

 

「だね!じゃあ愛しのトムきゃんの所へ!」

 

「誰の許可得て愛しのなんて言ってるの」

 

「えーと・・・ハル?」

 

「許可してない。マヤは主翼パイロンに吊るして音速を超えて飛行する刑にする。」

 

「やめて!謝るからやめて!」

 

そんな事しながらトムキャットの近くに行く。

初めてトムキャットを見た時と同じように綺麗になったトムキャットがあった。

私は少しでも早くコックピットに座りたかった。

 

「ハルー!」

 

そんな事思ってたら名前を呼ばれて振り返る。

そこにはリリアがいた。

 

「もう準備いいの?」

 

「うん。リリアは?」

 

「燃料補給と飛行前の点検は終わったわ。いつでも大丈夫よ」

 

「分かった、私も今から点検して飛べるようにするよ。終わったら機内の無線で呼ぶから」

 

「分かった!」

 

リリアはフルクラムのほうに走っていった。

私は機体の周りをくるっと周り、異物や異常がないか触って点検もした。

コックピットは事前に整備員が点検してくれていたので大丈夫そうだがやはり自分で見たかったので乗り込んでスイッチ類やディスプレイの点検もした。

後席にはすでにマヤが乗り込んでいた。

 

「早いね」

 

「だって私の家みたいな場所だし!」

 

「そうだね。レーダーとかお願いね」

 

「うん!」

 

「あ、そうだ。輸送用ポッド。」

 

私はその事を思い出しおじさんの元に行く。

そしてそのまま輸送用ポッドを購入して機体に搭載した。

値段も2万程度で安いがそれでも500kgまで搭載可能ないい品だった。

 

「お待たせ」

 

「輸送用ポッド買ったんだね!」

 

「うん。マヤも欲しがってたし忘れないうちにね。さてと・・・」

 

私もコックピットに座り、ヘルメットをかぶる。

そのまま無線をリリアに繋ぐ。

 

「リリア」

 

《ハル?もう大丈夫?》

 

「うん、私からトーイングカーで引っ張り出してもらうからその後で」

 

《了解》

 

「マヤ、最終点検。ディスプレイは大丈夫?」

 

「大丈夫だよ。異常無し!」

 

「分かった。」

 

トーイングカーがF-14を引っ張っていってくれる間に私も最終点検を行う。

操縦系統、電気系統・・・油圧、燃料・・・大丈夫。

格納庫から外に出るとそこには雲一つない青空が広がっていた。

 

「絶好のフライト日和だね!」

 

「うん」

 

今すぐに飛びたい。

そんな気持ちが私の中を埋め尽くしていた。

 

「マヤ、エンジンスタートするよ」

 

「OK!」

 

順番にスイッチを押していき、エンジンをスタートさせる。

タービンの回る音が心地よい。

隣にはいつの間にかMIG-29も出てきていた。

横からもタービンの回る音がした。

 

「エンジン・・・異常なし」

 

その時、リリアから無線が入った。

 

《ねぇ、ハル。そう言えばなんだけど、管制呼び出す時のコールサインどうしたの?》

 

「あ、伝え忘れてた。二機編隊だしエンジェル0-1と0-2だよ」

 

《あんたの所のコールサインね・・・了解よ》

 

「不満?」

 

《いいえ、天使・・・なんてハルに似合わないコールサインだなって》

 

「決めたのマヤだよ」

 

《そうなの?》

 

「そーだよ!てか、ハルが天使じゃないとはどういう事だコノヤロー!!」

 

《そこか》

 

私はもはやツッコミもしなかったが・・・

まぁ、エンジェル・・・天使というコールサインは気に入っている。

そんな事してる間に2機ともエンジンが温まった。

 

「テキサスタワー。こちらエンジェルフライト。」

 

《エンジェルフライト、テキサスタワー。どうぞ》

 

「2機編隊で、東方向への出発許可願います」

 

《エンジェルフライト、誘導路A、Dを経由して滑走路35に向かってください。》

 

「エンジェルフライト、了解」

 

スロットルを少し開きタキシングを始める。

 

「操縦翼面チェックするよ。右エルロンとラダー」

 

「チェック・・・異常なし!」

 

「左」

 

「OK!」

 

ラダーと操縦桿を動かして翼面をチェックした。

 

「エアブレーキ」

 

「チェック・・・OK!」

 

トムキャットはご機嫌なようだ。

チェックも終わり、滑走路に近づいてきた。

 

《エンジェルフライト、滑走路手前で待機。王国軍輸送機の着陸後滑走路に進入してください。ローリングテイクオフを許可します。》

 

「了解」

 

ローリングテイクオフとは滑走路内に進入したあと一時停止せずにそのまま離陸できる事だ。

 

「リリア、OK?」

 

《全部聞こえてるからOKよ》

 

「了解」

 

数分もすると目の前を巨大なAn-124が着陸していった。

大きな輸送機だ・・・。

 

「あれタイヤ何個あるんだろ・・・」

 

「さぁ・・・」

 

輸送機に見とれているといつの間にか輸送機は滑走路から出ていた。

 

《エンジェルフライト、滑走路に進入してください。離陸を許可します》

 

「エンジェルフライト、了解」

 

滑走路に入りスロットルを全開にする。

アフターバーナーも点火し急加速した。

 

「おぅふ・・・この加速は久々・・・」

 

「これ好き」

 

トムキャットはすぐに離陸可能速度に達した。

操縦桿を引いて機首を上げる。

 

「テイクオフ・・・」

 

すぐにリリアのフルクラムも離陸してきた。

少しスロットルを緩めてアフターバーナーを切る。

 

「テキサスタワー、エンジェルフライト。離陸完了しました。」

 

《テキサスタワー、了解。いい旅を》

 

「ありがとうございました」

 

管制への通信を終わり、高度を上げていく。

 

「ねぇ、ハル。せっかくだし少し低めに飛ばない?」

 

「低め・・・」

 

下を見ると綺麗な草原が広がっていた。

確かに低めに飛ぶのも面白そうだ。

 

「リリア、上がってすぐだけどこのまま降下、低空を飛ぶよ」

 

《あ、それいいわね》

 

「じゃあ・・・ディセンド、ナウ!」

 

機体を反転させて操縦桿を引く。

 

「ちょっ!急降下はお願いしてない!」

 

「ふふっ・・・」

 

《急降下ぁ!?》

 

リリアもそれに付いてくる。

傍から見たら空中戦に見えるだろうか。

なんて思いながら高度2000まで下がり水平飛行に移る。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・おぇ・・・」

 

「マヤ、女の子が出しちゃダメな声出てる」

 

「ハ、ァ・・・久々の・・・ハイGで・・・ぜぇ・・・」

 

「ふふっ・・・」

 

「な、んで・・・笑うの・・・ぜぇ・・・」

 

「息が整うまで変な動きしないから安心して」

 

「そういう問題じゃないよ・・・うぇ・・・胃の中のもの上がってきそう・・・」

 

「吐かないでね」

 

暫くマヤは息切れしていた。

 

「エチケット袋・・・」

 

「やるならキャノピー開けて外でして」

 

「死んじゃう!」

 

「もう直ったみたいだね」

 

「なんとかね・・・」

 

私は草原を見ながら300ノットで飛ぶ。

下には野生の羊や人畜無害な魔獣など色々暮らしていた。

 

「草原・・・気持ちよさそうだね」

 

「うん、何も無かったら寝転びたい」

 

「あはは、お昼寝したら最高かも!」

 

そんな話をしながら東へ飛び続ける。

すると前に何か黒い点のようなものが見えた。

 

「ん・・・?マヤ、何かレーダーに見える?」

 

「ううん、何も」

 

その点は数十秒もしないうちに何か分かった。

 

「あ、珍しい。ウィッチだ」

 

「え!?うそうそ!?」

 

黒い服を着て箒に跨り飛んでいた。

冒険者や勇者などの移動手段がヘリや航空機になりつつあるこのご時世で箒で空を飛ぶ魔法使いの数は減ってきていた。

 

「あ!ほんとだ!おーい!」

 

マヤはコックピットから手を振る。

ウィッチの女性もこちらに気づいたようで笑顔で手を振り返してくれた。

私は手を振る代わりに翼を振ってバンクで答えた。

トムキャットはすぐにウィッチを追い越した。

リリアも同じように手を振る代わりにバンクで答えていた。

 

「ウィッチって何だかカッコイイよね」

 

「うん、箒で空を飛べるってすごいよ」

 

「何年くらい修行したら飛べるんだろ・・・」

 

《私の友達、ウィッチになろうとしてるけど1年くらいで箒で飛べるらしいわよ》

 

「1年なんだ。5年くらいかかるかと思ってた・・・」

 

《西に500kmくらい行ったところに箒で飛ぶための技術を教えてくれる学校があるそうよ。友達もそこに行ってたけど・・・でも何か入ったらクソ虫だウジ虫だ教官には全てサーを付けて答えろメス豚とか色々言われて最初の頃は毎日泣いてたんだって》

 

「え・・・箒で飛ぶ技術を得るためなのに・・・?」

 

《しかも教えてくれるのってウィッチだから女性かと思ったらゴリゴリのオッサンで箒で飛んでる姿はヤバかったって言ってた》

 

「なにそれ・・・」

 

「まぁ・・・箒で飛ぶだけなら男性でも出来るらしいけど・・・」

 

好んで飛ぶ人は居ないとか。

何かどこだったかのポジションが悪いと痛くて乗れないって聞いた事が・・・。

 

《まぁ、戦闘機の免許取りに行くのが無難で簡単だったわよね》

 

「まぁね。飛行機乗れないと生きていけないし」

 

本で読んだが、異世界では飛行機の免許を取るのはとても難しく並大抵の事では取れないらしい。

だが、こっちでは街どうしが離れていてしかも地上は人にとって危険な魔獣がいっぱい・・・。

異世界では車の免許を持っている人が沢山だがこっちでは車よりも飛行機の免許のほうが多かった。

むしろ車は街の中を移動するくらいでしか使わず、大体の場合は街中を無人運行のバスが走っているので車の免許を持っている人は少なかった。

冒険者になるとまた話は別だが。

 

「あれ?ねぇ、ハル。あれ滑走路じゃない?2時方向なんだけど」

 

「え?」

 

突然マヤにそう言われマヤが示した方向を見る。

すると確かに飛行場のようなものが見えた。

なぜ森の中に・・・

 

「管制から呼び出してこないし無人なのかな」

 

「みたいだね」

 

「ねぇ、ハル、降りてみない?」

 

「んー・・・リリアどうする?」

 

《私は面白そうだから賛成ね》

 

「・・・じゃ、行こっか。休憩も兼ねて」

 

「了解!」

 

少しだけ右旋回して滑走路と平行に飛ぶ。

そしてさらに180°旋回して滑走路に着陸進入を始める。

滑走路にはうっすらと15という文字が見えた。

文字が掠れるほど前から放置してあるのだろう。

ただ、滑走路そのものは堅牢なのかひび割れなどはほとんど見えない。

 

「50・・・40・・・」

 

徐々に高度を下げてなるべく優しく着陸した。

ただやはり、ひび割れがないとは言え、放置されていた滑走路。

着陸した後にかなり機体が揺れる。

 

「格納庫があるみたいだからそこまで移動しようか」

 

《了解》

 

普段より遅めにタキシングして格納庫前を目指す。

ふと管制塔を見上げると窓ガラスは割れ、近くには錆びて朽ち果てた航空機用のタンクローリーがあった。

 

「何か掘り出し物とかありそうだね!」

 

「こんな堂々と滑走路があるんだよ。もう残ってないと思うけど」

 

「やっぱそうかな・・・」

 

格納庫前に停止してエンジンをカットする。

 

「う・・・んー!」

 

マヤは早速背伸びをしていた。

 

「マヤ」

 

「何?」

 

「鉄砲」

 

「え?わっ!!」

 

すぐ下にいたマヤに小銃を投げる。

一応何がいるか分からないから自衛手段が必要だ。

 

「ハル、この格納庫あける?」

 

「うん。」

 

マヤは格納庫の扉を開けようと扉を調べに行った。

 

「あら、格納庫あけるの?」

 

「うん、何かいいものあるかもだってさ」

 

「そうかもね。見た感じ・・・この飛行場って魔王軍との戦闘に使ってた飛行場みたいだし」

 

「そうなの?」

 

「こんな放置されてる飛行場なんて他にないわよ。まだ色んなところに野戦飛行場として使ってた所が何ヶ所もあるんだって」

 

「へー・・・じゃあ昔はここから魔王軍と戦うために戦闘機が・・・」

 

「今みたいにジェット機じゃなくてレシプロ戦闘機だけどね」

 

「それもロマンあっていいと思う。たまにおじいちゃんパイロットとかはレシプロ機で旅をしてたりするし」

 

「そうね・・・でもあのレシプロエンジンの音っていいわよね。何か昔ながらって感じで」

 

「・・・私はタービンエンジンのほうが好きかな」

 

「あら、残念だわ」

 

なんてしてるとマヤが何かを見つけたらしくこっちに向かって走ってきた。

 

「開ける方法見つけた!」

 

「ほんと?」

 

「うん!見てて!」

 

再び格納庫に走っていく。

私達もそれを歩いて追いかけた。

 

「元気ね」

 

「元気すぎるけど」

 

「ハルはあの子とどれ位一緒に飛んでるの?」

 

「えっと・・・確か、私が戦闘機に乗り始めたばかりの時に一緒に飛ぶ人募集みたいな張り紙みて知り合ったから・・・5年くらい?」

 

「結構長いのね」

 

「まぁね」

 

なんてしてると大きな音がして格納庫の扉が開き始めた。

 

「おー、開いた」

 

ゆっくりと開く扉。

すると中には布のかかった飛行機のようなものがあった。

プロペラのような形も見える。

 

「何これ」

 

「わーい!おったからー!」

 

「いや・・・宝かどうか分からないから」

 

マヤは早速布を剥ぎ取り始めていた。

すると・・・

 

「ワンッ!!」

 

「うわぁ!?なに!?」

 

突然の鳴き声。

振り返るとマヤを威嚇してる犬がいた。

 

「わ、わんこ?」

 

犬は唸りながらマヤを威嚇していた。

 

「犬種・・・柴犬?」

 

「柴犬ね・・・可愛い・・・」

 

くりんっとした尻尾が愛らしい犬で頭が良いので街でもよくペットにしたり旅の仲間にしてる人もいた。

 

「わ、私は敵じゃないよー、怖くないよー」

 

マヤはそっと手を伸ばしてみた。

するとその柴犬はマヤに近づいて匂いを嗅ぎ始めた。

 

「可愛い!」

 

横でリリアが興奮していた。

でも確かに可愛い。

 

「くぅーん・・・」

 

犬はマヤにそう鳴きながら擦り寄っていった。

 

「え、なにこれ可愛い!!ほら、これ食べる?」

 

「ワン!」

 

クッキーをポケットから取り出すと犬は元気に吠えた。

そして美味しそうに食べる。

 

「懐かれてる?これ」

 

「懐かれてるわね」

 

マヤは笑顔で柴犬を撫で回していた。

私はその間に飛行機を覆っていた布を剥ぎ取る。

 

「え・・・これ・・・」

 

「・・・零式艦上戦闘機・・・」

 

レシプロ機乗りの冒険者ならヨダレを垂らして乗りたがる機体・・・異世界の日本という国が作ったレシプロ戦闘機だ。

魔王軍との戦闘では圧倒的な機動力を武器に敵の翼竜を撃墜し、すぐに制空権を確保したそうだ。

しかもよく見るとこの機体は異世界から何らかの理由でこちらに送り込まれたオリジナルの機体だった。

零式艦上戦闘機やほかのレシプロ機は需要と供給の理由でかなり高額で販売されていた。

その中でも零式艦上戦闘機は小回りが効き、航続距離も長い事で人気の機種だった。

そしてその異世界から入ってきたオリジナルの機体は大金持ちのマニアからすれば是非ともコレクションしたい機体だった。

ほかにもBf109やP-51、スピットファイアなどのレシプロ戦闘機の異世界製オリジナル機はとても高額で取引されていた。

 

「ハル!これいいお金になるんじゃ!」

 

「うん・・・そうだけど・・・」

 

コックピットを覗くと当時の持ち主が残した物か、ナイフと拳銃、計器盤には写真と小さな手編みの人形が貼り付けてあった。

 

「これは・・・ここに残しとこう。」

 

「うん・・・そうね。」

 

一緒にコックピットを覗き込んでいたリリアもそう呟いた。

この零式艦上戦闘機も状態はいい方だが放置されていた結果かサビだらけでマトモに飛ばせる状態ではない。

 

「まぁ、こんなに思い出の品みたいなのが残ってなかったら売ってただろうけど」

 

「あんたね・・・」

 

役目を終えた老兵は静かに眠らせておくのがいいだろう・・・というのも理由ではあるが。

 

「マヤ、そろそろ行くよ」

 

「まって・・・きゃっ!あ、あははは!くすぐったいよ!」

 

マヤは柴犬に舐め回されていた。

 

「やめ、やめてってば!」

 

相当懐いてるようだ。

 

「ねぇハル・・・この子・・・連れていけない?」

 

「・・・言うと思った」

 

だが、別にトムキャットに乗せれないほど大きい訳でもない。

正直、私も柴犬は好きだから連れていきたいが・・・

乗るのは戦闘機だ。

高いGがかかった時にこの子は大丈夫なのだろうか・・・

 

「私が面倒見るからぁ!!」

 

マヤはどうしても連れていきたいようだ。

・・・まぁ・・・いいか。

 

「分かった、しっかり後席に乗せてあげて。私もなるべく激しい機動はしないようにするから」

 

「やったー!!よし!お前の名前を決めよう!」

 

マヤは犬を抱き上げて名前を決めようとしていた。

 

「うーん・・・何がいい?」

 

「いや、私に聞かないで」

 

「ちぇー・・・」

 

マヤは数分悩んで答えを出した。

 

「よーし!お前の名前はトマホークだ!」

 

「巡航ミサイルの名前はやめて」

 

ぺしっと頭を叩く。

だが・・・それを聞いた柴犬は喜んでいるのかキリッとした顔でお座りをしていた。

 

「・・・トマホークで決定みたいね」

 

「・・・」

 

「んふふー、トマホーク〜」

 

マヤは早速抱き上げて可愛がってるし柴犬も柴犬で嬉しそうな顔をしているし・・・良かったのかな?

 

「じゃ、出発しよっか」

 

「ワンッ!」

 

トマホークが元気にそう答えてくれる。

・・・仲間が増えて賑やかなフライトになりそうだ。



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代用空港

遊びながらお金を稼いで暮らしたいとかクソ甘えた事を週に5回くらい考えてる作者です。
ついこの間ヘリに乗ってて気流が悪くて揺さぶられた時は死ぬほど怖かった・・・


キャノピーを伝っていく大量の雨粒。

捨てられた飛行場でトマホークと名付けた柴犬を拾った私達は東にあるというフェアリィという街を目指して飛んでいた。

その最中に急に天候が崩れ雨が降り出した。

フェアリィまではあと30分ほどの距離だった。

 

「ねぇーハルー・・・雲の上に出ようよー・・・」

 

「そうしたいんだけど・・・」

 

実は今いる高度がメートル換算で8000m以上だった。

上昇したいが到着寸前に急降下が必要になる。

危ないし何より雲はまだまだ上の方にあった。

 

「変な天気だね・・・」

 

「この辺りではたまにあるらしいよ」

 

「う〜・・・青空見たいー!」

 

急に天候が崩れてすでに1時間。

降水量は並の雨のため物凄く降っているというわけでもない。

 

《着氷しないといいけど・・・》

 

「この高度で今1℃程度だからね。少し下りればもう少し暖かくなるから凍らないかも」

 

《着氷も怖いし下りるに一票ね》

 

「私も!」

 

「ワンッ!」

 

《トマホークも高度下げてって言ってるわよ、編隊長どの》

 

「・・・分かった、高度4000mまで降下しよ」

 

《了解!》

 

緩やかに操縦桿を奥に押して機首を下げた。

高高度だったために良く見えていなかったが下は広い草原や森が広がっていて、小さな村が何箇所も見えた。

その村も多種多様で見ていて面白い。

古き良きという感じの石造りの家などが立ち、畑や井戸のようなものがある所もあれば、現代風の家に村を守るための対空火器や対戦車砲のような物を置いている村、少し大きめの集落にはその村の人が所持しているのかそれとも冒険者が訪れているのかは分からなかったがCH-46とAH-1が駐機してあったりした。

 

「この辺は村とか多いね」

 

「うん、比較的魔獣とかが少ないのかな」

 

「特産品とか美味しそうなのいっぱいありそうだよね!」

 

《たしかこの辺りはフェアリィって街が近いだけあって精霊関係のものが有名だったわよ》

 

「精霊・・・」

 

そういえば今から行く街は精霊使いや色々な種類の妖精が集まる街だからということでフェアリィという名前になっていた。

街にはしっかりと空港もある。

またここは精霊魔法などを習得できる学校のような所もあり様々な魔法を習得できた。

昔、精霊魔法を習得して使い魔と共に戦闘機を乗り回している人が居た。

火や水の精霊を使って機関砲の弾丸に水の属性や火の属性を付与したり風の精霊魔法で失速限界の速度になっても翼の空気が剥離して失速しないようにしたりしてVTOLでもないのにその場でホバリングしたりと割とメチャクチャをやっていた。

 

「精霊のお守りとか欲しいよね!」

 

「うん、ご利益とかありそうだもんね」

 

「あと使い魔って何かいいよねー・・・」

 

「トマホークがいるでしょ」

 

「わぅん・・・」

 

トマホークは言葉が分かるのかちょっと悲しそうな声で鳴いた。

 

「ち、違うから!そんな悲しそうな顔しないでよ!ほれ、よしよし!」

 

「わん!」

 

《賑やかね・・・》

 

「ごめんね、こっちは二人乗りだから」

 

《分かってるわよ!何よ!私がそっちに混じりたいとでも言った!?別にトマホークと遊びたいとか思ってもぬいんだから!》

 

「はいはい」

 

《ムカつくぅぅ!!》

 

「ちょっと、危ないよ」

 

リリアのミグはフラフラと翼を振っていた。

 

「ハルのお友達は元気だねー・・・ね、トマホーク〜」

 

「くぅん・・・」

 

「・・・後ろで楽しそうだね」

 

私だってトマホークをもふもふしたい。

心行くまでもふもふしたい。

 

「雨・・・止まないかな」

 

なんて思いながら飛んでいるとGPSに空港が表示された。

フェアリィの空港コードも表示されていた。

 

「マヤ、フェアリィが見えてきた」

 

「あ、ホントだ。管制呼び出す?」

 

「うん、燃料も増槽使い切ってるし早く降りたい・・・」

 

《私はもう残量70%程ね》

 

「了解。機体に異常は無い?」

 

《うん、計器に異常は無いよ》

 

「分かった、フェアリィも雨だろうから着陸した時にスリップしないように気をつけて」

 

《了解》

 

私は無線をフェアリィの管制に合わせる。

 

「フェアリィタワー。こちらエンジェルフライト。」

 

《エンジェルフライト、フェアリィタワー。どうぞ》

 

「フェアリィ空港への着陸を求めます。こちらはF-14、Mig-29の2機編隊」

 

《エンジェルフライト、フェアリィタワー。ネガティブ。こちらの滑走路は現在、着陸失敗事故で塞がっています。復旧の目処は経っていません。》

 

「着陸失敗事故?」

 

《賞金首と交戦した冒険者グループの内一機が着陸寸前で滑走路に激突、現在滑走路が使用不能の状態です。》

 

「了解。どこかに代わりの空港はありますか?」

 

《ここから北、300km先にこの街と交流のある村に農業用の滑走路があります。長さは1500m、アスファルト製の滑走路です》

 

「了解、そちらに向かいます」

 

《300km程度なら何とかなるわね》

 

「うん。でも燃料は節約して飛ぼう」

 

《そうね。》

 

《フェアリィタワーよりエンジェルフライト。村への着陸を許可します。現在、村近くに在空機は居ません。村には管制塔がありませんが村の精霊魔法使いが案内に精霊を使って滑走路まで導いてくれるそうです。現在村は悪天候により視程2000m、雨です。》

 

「了解、ありがとうございました。」

 

「精霊の案内ってすごいね!」

 

《インテークに吸い込んだりしないわよね・・・》

 

「精霊には実体が無いらしいから大丈夫だと思うよ。」

 

《そうよね・・・というか案内に使うくらいだから大丈夫よね・・・》

 

私達は街の上空を通り越して北に向かった。

通り過ぎる際に滑走路を見ると滑走路の真ん中付近に燃え上がる機体があった。

パイロットが無事な事を祈りつつ村を目指す。

 

「村かー・・・」

 

「どうしたの?」

 

「いや、私って出身が小さな村だったんだよね。その村が今はどうなってるかなーって」

 

「今度行ってみる?」

 

「うーん・・・どうしようかな・・・お父さんこの前ハリアー買って調子乗ってホバリングしてたら倉庫燃やしたって言ってたし・・・」

 

「・・・」

 

「お母さんはお母さんで戦闘機はソ連?製しか認めないってお父さんといつも喧嘩してたし・・・」

 

「濃い家庭だね・・・」

 

「私は妹がいるんだけど妹は妹でB-52こそ至高の存在、全知全能の神とか言って家の近くにB-52を祀った祠を建てたり・・・」

 

「妹・・・」

 

「何か爆撃機を信仰する会とかいう宗教の幹部だよ」

 

「なにその宗教怖い」

 

異教徒は爆撃されそう。

なんて話していたら突然目の前に赤い球体が現れた。

本で見た事があるが、精霊のようだった。

まるでこちらを誘うかのように前をひらひらと飛んでいた。

 

「お迎えかな?」

 

「たぶん。300kmならそろそろだろうから」

 

「了解、リリア。誘導が来たよ」

 

《私の目の前にも居るわ。視界が悪いからこの子が頼りね》

 

「うん、まだこの高度ならいいけど下は厚い雲だから気をつけて」

 

《了解》

 

誘導の精霊に従ってゆっくりと高度を下げていく。

すると精霊が何かをジェスチャーするようにフラフラと前を飛ぶ。

丸い円のような形を作り続けていた。

 

「ねぇハル、ギアダウンしてってことじゃない?」

 

「あー・・・なるほど。了解、ギアダウン・・・ロック」

 

精霊はギアダウンすると嬉しそうにまた前を飛び始めた。

フラップも下げて着陸態勢は整った。

ただ、滑走路がまだ見えない。

 

「見えないね滑走路・・・」

 

「うん・・・ん、あの光・・・」

 

何かが前方で点滅していた。

誘導灯のような感じだった。

 

「誘導灯かな」

 

「信じて行ってみる?」

 

「うん、念の為ゴーアラウンド出来る態勢でいくよ」

 

「了解!」

 

《了解、ゴーアラウンド出来る態勢ね!》

 

スロットルをいつでも全開に出来るようにする。

だが、その必要は無さそうだった。

目の前に滑走路が現れた。

 

「滑走路だ」

 

「あ!ほんとだ!」

 

高度が下がりすぎていたので少し高度を上げて進入する。

1500mしか無いのでなるべく滑走路端を狙って機体を接地させた。

 

「ナイスランディング!」

 

「ふう・・・天気悪いとドキドキするね」

 

リリアの機体も接地し、ドラッグシュートと呼ばれる制動用のパラシュートを広げていた。

 

「あれ、後で畳むの手伝ってって言われるよね」

 

「だろうね・・・あれ何回も使うものじゃないってハルが教育してあげてよ!」

 

「あの子ケチだから無理」

 

《聞こえてるわよ!誰がケチよ!》

 

「ワンっ!」

 

《犬語でも何言ってるか理解出来たわよ今!!》

 

「あ、トマホークが見たことないくらい笑顔になってる」

 

「犬にもバカにされてるね」

 

《うるさいわよ!泣くわよ!》

 

「泣いたらちゃんと慰めてあげるよ」

 

《あんたは優しいのかドSなのかどっちなのよー!》

 

「飴と鞭を使い分けれるから優しい」

 

《言うと思ったわ!》

 

なんて言い合いながら滑走路を出て駐機場らしき場所に機体を止めた。

エンジンを止めて外を見ると沢山の人が集まっていた。

ただ、何か困った様子だ。

 

「・・・なんか下りてものんびり出来ない予感」

 

「・・・私も・・・」

 

しかし下りないわけにも行かないのでタラップを下りた。

すると村長らしき人が駆け寄ってくる。

 

「よくぞおいでくださいました。ようこそ・・・と歓迎したいのですが・・・」

 

ほらきた。

予感的中だ。

 

「何かあったんですか?」

 

「実は昨日に・・・」

 

聞くと昨日、村の近くにある洞窟に最近住み着いた魔物が村へ献上品を求めてくるらしい。

それがもう三ヶ月前だが今月は降り続く雨のせいで狩りに行く事も出来ず、作物も降り続く雨のせいで出来るものも出来なかったそうだ。

それを村にやってきた魔物に言うと、食べ物が無いなら代わりにこの子を貰う。返して欲しければいつも通り食べ物を持ってこい。といい近くにいた女の子を攫って行った。

期限はその魔物の空腹が限界になる4日後。

街のギルドに救援を求めようにもこの辺りはまだ通信が確保されておらず、村の農業用飛行機用の燃料を運ぶ輸送機や定期整備のための人員や街からの交易品が乗った飛行機が降りてくる以外は街との交流も無かった。

飛行機で街に行こうにも悪天候のせいで農業用飛行機は飛べず車を使おうにも悪路のせいで街まで最低1日はかかっていた。

しかもギルドに救援依頼を出してもそれを受理して助けが来るまでに何日かかるか分からない。

困り果てている所にたまたま私達が悪天候と街の滑走路が事故で塞がり代用空港としてこの村に着陸してきたという事だ。

 

「どうする?」

 

「どうするって・・・」

 

洞窟があるのはこの先2キロくらいだ。

それに魔物がどんなものか分からない。

 

「マヤ、銃の弾は?」

 

「あと・・・300発ずつかな?でも弾倉は持てても6本くらいが限界だし・・・」

 

そう悩んでいるとリリアは私達より先に返事を返した。

 

「やるわ!化け物ぶちのめしてその子助けてくるわよ!」

 

正義感なのか何なのか・・・村人はその言葉を聞き喜びの声を上げたり泣いたりしていた。

・・・断るに断れなくなってしまった。

 

「リリア・・・」

 

「いいじゃない、この人たち困ってるんだし」

 

「そうだけど・・・」

 

私だって良心はある。

こんな話を聞いて嫌だとは言えない・・・けど、私達はパイロット。

地上で戦うのは本職ではない。

相手がもし銃火器を使うオークだったら逆にやられてしまう。

 

「リリア、気持ちは分かるけど私達はガンナーじゃないんだよ」

 

「そうだけど・・・ほっとけないわよ」

 

「私だってほっときたくないけど・・・だけど、相手の戦力も分からないんじゃどうしようもないよ」

 

「・・・」

 

私とリリアであーでもないこーでもないと悩んでいるとマヤが何かを思いついたようだ。

 

「ねぇハル、戦闘機を使えば?」

 

「戦闘機って・・・洞窟ごと吹き飛ばす気?」

 

「違うよ!街まで飛んで救援をお願いするとか・・・」

 

「でも街の滑走路は・・・」

 

「なにもフェアリィだけじゃないよ、テキサスでも!」

 

「テキサス・・・そっか、ここから真っ直ぐ飛んで3時間もかからない・・・」

 

「そういうこと!」

 

「でも報酬次第では来てくれない人が・・・」

 

言い方は悪いが結局は金次第・・・そういう事だった。

無償でいいと助けに来てくれる人もいるかも知れないが探すのに時間がかかる。

だがマヤにはアテがあるようだった。

 

「大丈夫!私の友達で人質救出とかで稼いでるパーティいるから!ちなみにもう連絡済みだよー!ふふふ、どや!」

 

「・・・こういう時だけ仕事早いんだから」

 

「そういう訳だから村長さんに話してくるねー!」

 

マヤは村長の所へ走っていく。

雨はさっきより強くなり始めていた。

視程も悪くなってきた。

おまけに風も出てきた。

早くしないと飛ぶに飛べなくなる。

 

「ハル、私のフルクラムじゃ航続距離が足りないかも。」

 

「分かってる、リリアはここでトマホークと待ってて。何かあれば無線で連絡するよ」

 

「分かった、気をつけて」

 

私はいつでも上がれるようにコックピットに乗り込む。

ここに到着前に増槽を使い切っているが道中に空中給油サービスをしている給油機が飛んでいたはずだ。

機内燃料もまだ1000km近く飛べるくらいには残っている。

テキサスまでは約800キロ。

道中で給油を受ければ充分だ。

燃料の計算をしているとリリアが戻ってきた。

 

「ハル!離陸!」

 

「分かってる、村長さんはなんて?」

 

「お願いします・・・それだけだよ」

 

「・・・分かった、行くよ」

 

「トマホークは?」

 

「リリアと待ってもらってる。今は時間が惜しいから急ぐよ」

 

「了解!」

 

急ぎつつも落ち着いてエンジンをスタートさせる。

ゆっくりと第1エンジンの回転数が上がっていき、第2エンジンもスタートする。

よし、トムキャットはご機嫌だ。

空を見上げると不気味なほど暗い空が広がっていた。

風もかなり強い。

 

「マヤ、アフターバーナー点火して一気に加速、離陸するよ」

 

「分かった。風は200から20ノット」

 

「強い・・・」

 

風の音がキャノピー越しにも聞こえる。

滑走路端までタキシングして一気にスロットルを開ける。

雷のような轟音を轟かせ滑走を始める。

 

「80ノット・・・・ローテート!」

 

ゆっくりと機首を上げると機体の斜め右から吹く強風で機体が揺さぶられた。

 

「おっと・・・結構風強いね」

 

「うん、早く風が弱くなる所まで上がろう」

 

目的地はこのまま真っ直ぐだった。

そうなると当分この向かい風と付き合わないといけない。

燃料の事も考えると早く風の弱い所に上がりたい。

 

「高度5000・・・マヤ、風速は分かる?」

 

「待ってね・・・えーっと・・・まだ強いよ、25ノット」

 

雨足もかなり強い。

前がほとんど見えないほどに視界も悪かった。

VFRは諦めて今は計器に頼って飛ぶIFRだ。

 

「マヤ、念の為周囲に警戒してて。なるべく回避して進むから」

 

「分かった!けど、敵より厄介なのが映ってるね・・・」

 

「なに?」

 

「前方に大きな積乱雲・・・ちょっとこのままだと避けれないかも」

 

「積乱雲のてっぺんは?」

 

「不明・・・どうする?」

 

「積乱雲は避けたいけど・・・」

 

頑丈な戦闘機だから近づいても強烈な乱気流で分解などはないだろうが・・・でも避けれない以上突入するしかない。

 

「マヤ、乱気流に備えて」

 

「やっぱ突っ込むしかないよねぇ・・・」

 

「気象レーダーでもあれば風の弱い所見定めれるんだけど・・・」

 

気象情報はマヤが携帯電話で収集していた。

機体がガタガタと揺れだした。

 

「来た・・・」

 

乱気流に備えて操縦桿をもう1度しっかりと握る。

目の前はほぼ視界ゼロ。

計器のみが頼りだ。

 

「マヤ、吐かないでね」

 

「ハルこそね!」

 

私は少しスロットルを開く。

一刻でも早くこの雲を抜けたかった。

 

「くっ・・・!」

 

機体が乱気流で上下左右に揺さぶられ始めた。

HUDや補助用の水平儀があっちこっち向き始めた。

 

「おっふ・・・これは酔う・・・」

 

「呑気な事・・・言ってられない・・・!」

 

操縦桿がガタガタと震える。

その時だった。

速度が突然ゼロになった。

 

「え?」

 

「ハル!ピトー管が凍った!」

 

「こんな時に・・・!着氷性なの!?」

 

私はピトー管の氷を溶かすピトーヒートスイッチを入れて、主翼や他の場所が凍らないように氷を溶かすヒーターのスイッチも入れる。

 

「どっちが上か下かわかんない・・・」

 

もはや空間識失調を起こしていた。

計器を見てもそれが本当に正しい表記なのか不安で仕方無かった。

計器は水平を示していても機体は真っ逆さまなのではないか・・・速度が分かれば降下してるか上昇してるのか分かるがピトー管が凍ってしまい正確な速度が分からなかった。

操縦桿を握る手が汗ばむ感じがした。

 

「ハル、がんばって!このまま真っ直ぐ行くと抜けられるから!」

 

「あと・・・あと少しだよね!」

 

私は計器を信じて飛ぶ。

すると数十秒もしないうちに機体の揺れが収まりだした。

また少し明るい場所が見えた。

私はそこを目指す。

 

「あと・・・ちょっと!」

 

その時、さっきまで止まっていた速度計に速度が表示された。

 

「溶けた!」

 

ピトー管の氷がちょうど溶けたようだ。

速度は500ノットだった。

 

「ハル、青空・・・」

 

「ほんとだ・・・」

 

積乱雲を抜けた・・・

その先には青空が広がっていた。

私は恋しく感じていた青空を少し眺めていた。

その時、マヤが何かを見つけて叫んだ。

 

「ハル!!前、前!!」

 

「え?」

 

前には箒にまたがったウィッチが3人飛んでいた。

彼女たちの姿形がハッキリ分かるくらい近かった。

私はとっさに操縦桿を左に倒して左にロールした。

ぶつかる。

そう思った。

景色がスローモーションに見える。

驚いた顔でこっちを見ているウィッチ3人の顔がハッキリと分かる。

トムキャットはギリギリの所で背面飛行になり、ウィッチの少女達の頭の上を飛ぶ。

真ん中の少女はギリギリで垂直尾翼の間を通った。

その間終始目が合いっぱなしだった。

 

「はぁ・・・ふぅ・・・・」

 

きっと2秒程度だっただろう。

それが何分にも感じた。

 

「・・・トムキャットの垂直尾翼が2枚で良かった・・・」

 

痛いほどそう感じた。

少し旋回して少女達を見ると無事そうだった。

 

「良かった・・・」

 

「ウィッチはレーダーで捉えられないから・・・間一髪だったよ・・・」

 

「うん・・・」

 

胸を撫で下ろして再び目的地に向かって飛んだ。

このまま少し行けば空中給油機がいるはずだ。



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テキサスへの空路

-20℃とか人の住める環境じゃない・・・。
この前外で作業してて凍りそうになってた作者です(


「給油機はレーダーに捕らえてる?」

 

「うん、KC-10・・・えーっとコールサインはミルキー1だっけ」

 

「そうだよ。交信できる?」

 

「うん、さっき給油できるように調整したよ!」

 

「分かった、ありがと」

 

給油機まであと30マイル。

燃料はあと500km分程度だ。

 

「この空域・・・何もいないといいけど」

 

「武装だって心許ないからね。」

 

「旧式機相手なら対処できるけど・・・」

 

お世辞にもトムキャットは格闘戦に強いとは言えない。

どちらかと言うと相手が補足できない長距離から長射程ミサイルで狙い撃ちという戦法を得意とする機体だ。

もし敵が出てきてそれが格闘戦能力の高い戦闘機だったら・・・それが不安だった。

幸いにもレーダーには給油機以外の影は無かった。

 

「早めに給油すませよ」

 

「そうだねー・・・」

 

兵装だってAIM-9が2発とAIM-7が2発。

バルカン砲に600発。

最低限の装備しかない。

 

「給油機を目視・・・」

 

前方に特徴的な3発のエンジンを積んだ給油機KC-10が見えてきた。

 

「ミルキー1、こちらエンジェル0-1」

 

《エンジェル0-1、どうぞ》

 

「給油を求めます、後方から500ノットで接近中」

 

《ミルキー1了解、そのままの速度で接近してください》

 

「了解」

 

ゆっくりと慎重に高度を合わせて近づく。

空中給油はあまりした事がないため神経を使う。

 

「ハル、頑張って!」

 

「分かってる」

 

ゆっくりと近づき、KC-10からぶら下がっている給油口にトムキャットの給油プローブを差し込んだ。

 

《満タンですか?》

 

「満タンで」

 

《了解》

 

燃料計の目盛りが増えていくのを見ながら一安心した。

これなら余裕でテキサスにたどり着ける。

 

《エンジェル0-1、給油完了しました。》

 

「了解、ありがとうミルキー1」

 

すこし離れて給油プローブを格納、旋回して給油機から離脱した。

テキサスまではあと600km。

 

「トムキャットもお腹いっぱいになれたし良かった良かった!」

 

「うん、これで給油できないって言われたら燃料足りなかったよ」

 

なんて話をしているとレーダーから電子音が聞こえた。

 

「ん?」

 

「どうしたの?」

 

「えーっと・・・うぇ・・・レーダーに空対空目標・・・IFF応答無し・・・速度600・・・距離・・・10km・・・ヘッドオン!」

 

「10km!?なんでこんな近くに!?」

 

「雲の中にいたみたい!あ、まった・・・3機補足!相手は3機編隊!」

 

とにかく回避だ。

右に旋回して避けようとすると相手もそれに追従した。

 

「やる気だよコイツ!」

 

「敵・・・敵なの!?」

 

「わっかんない!」

 

そしてその敵とはすぐに交差した。

敵は真っ黒に塗られたMIG-21だった。

 

「フィッシュベッド!」

 

「武器は見えた?!」

 

「翼に短射程ミサイルっぽいのが・・・でも相対速度が速すぎてほとんど分かんない!」

 

3機のMigは旋回して後方に付いてきた。

 

「マヤ!急降下で逃げるよ!」

 

「了解!トマホーク乗せてなくて良かった!」

 

思いっきり操縦桿を押し倒し機体を降下させる。

マイナスGで若干気持ち悪くなった。

 

「敵は?!」

 

「まだ・・・後ろ!」

 

アフターバーナー全開で逃げる。

相手のミグは統率の取れたパイロット達のようだ。

 

「ハル!あいつら空賊だよ!」

 

「なんで分かるの!」

 

「この付近に真っ黒に塗られたMigが出るって噂あったからね!」

 

空賊・・・通りかかった輸送機や民間機を襲い身代金などを要求するならず者だ。

また、自らの腕を試すためや、腕のあるヤツはただ楽しむために通りかかった冒険者を襲う事もあった。

 

「なんでミグがこっちを見つけれたんだろ・・・」

 

「何か思い当たる事でもあるの?!」

 

私は逃げるので精一杯のため声を荒らげてしまう。

後方には空対空ミサイルを装備した戦闘機が3機。

恐怖で操縦桿を握る手が震える。

 

「ミグのレーダーは良くて20km程度しか探知できないはず・・・」

 

マヤは何か独り言を言いながら考えているようだ。

 

「ハル!ロックオン!」

 

「くっ・・・!!」

 

RWR・・・レーダー警戒装置から電子音が鳴る。

ロックオンされた音だ。

すぐにその音はミサイル警報へと変わる。

 

「撃たれた!後方からミサイル!」

 

「フレア!」

 

発射されたミサイルは熱源を感知して飛んでくる物だったため、フレアと呼ばれる高熱源体をばら撒く。

 

「空賊め・・・!」

 

ミサイルはフレアに突っ込んでいった。

私は減速しつつ急上昇して敵をオーバーシュートさせた。

敵機が目の前に現れる。

武装をAIM-9に選択しロックオンした。

 

「この・・・!FOX2!」

 

ミサイルは極至近距離から発射され相手が逃げる余裕も無く命中した。

エンジンに命中し機体が爆発する。

搭乗員は撃たれた瞬間にベイルアウトしていた。

 

「あと2機!」

 

味方を落とされて頭に来たのか再びロックオンしてきた。

だけど、1機撃墜するために急減速したおかげで相手が苦手とする低速域の戦闘に持ち込めそうだ。

こっちは低速になり主翼が大きく開いた。

低速域での機動性なら負けない。

ただ、短射程のAIM-9はすでに1発撃ってしまい、あと1発しかない。

AIM-7は2発あるがこの距離からでは撃てなかった。

私はさらに減速しつつバレルロール、ミグの射線から外れた。

相手は一撃離脱を図るためか加速をしていたためF-14を追い越していった。

きっと例え1機撃墜されてもまだ1機残っているためその1機が攻撃を仕掛けるチャンスがあるからだろう。

 

「ロックオン・・・FOX2!」

 

必中距離からサイドワインダーを放つ。

相手は急旋回で逃れようとしていたが無駄だ。

 

「スプラッシュ!」

 

「マヤ!もう1機!」

 

「右から来るよ!高度2000!」

 

相手のミサイルはこちらがヘッドオン状態だとロックオンできないようだ。

私は機首を相手に向ける。

 

「距離は?」

 

「5km!スパローは撃てないかも!」

 

「分かった」

 

私は加速して敵とすれ違うようにする。

相手の機関砲に注意しないと何発も食らえばタダではすまない。

 

「そろそろ機銃の射程だよ!」

 

「分かってる!」

 

射線から逃れるように左に上昇しつつ旋回した。

その時に発砲炎が見えた。

 

「外れてっ・・・!!」

 

願いが届いたのか機銃弾はトムキャットを掠めていった。

 

「このまま引き離してスパローで攻撃するよ!マヤ!」

 

「了解!」

 

相手が再びこっちの後ろを取る前に全力で離れる。

だが相手のほうが少し早かった、ロックオン警報が鳴る。

 

「後方、ロックオン!」

 

「くっ・・・相手も手慣れだね!後ろ見ててね!」

 

「分かってる!後方機銃が欲しいよホントにもう!!」

 

降下しつつ速度を稼ぐ。

その時、ミサイル警報が鳴り響いた。

 

「6時方向!ミサイル!」

 

「フレア!」

 

フレアをばら撒きながら眼下に広がる森の木を掠めるくらい低空に逃げる。

 

「ミサイルロック!また来るよ!」

 

「次から次へと・・・!」

 

再び警報が鳴り響く。

木に接触するギリギリの高度を飛んでいると目の前に太く背の高い大きな大樹が見えてきた。

 

「あの木を盾にするから!」

 

「うわぁ・・・あれなんか神秘的な感じするけど・・・」

 

「そんな事言ってる場合じゃないから!」

 

フレアはもうほとんど残弾がない。

今は何かを盾にしないとダメだった。

全速で木に向かい、木が盾になるように飛んだ。

ミサイルは当然木を避けるプログラムなど無いため真っ直ぐ木に突っ込んでいった。

 

「ミサイル、木に命中だよ!・・・あとで祟られませんように・・・」

 

「これで相手のミサイルの残弾は尽きたはず・・・」

 

後ろを見ると残弾が無くなったミグは離脱するように上昇していった。

 

「ハル、どうする?」

 

「私は空賊じゃない。逃げる奴まで撃ち落とす気はないかな」

 

「うん!やっぱハルらしいね!」

 

「なにが・・・あ、そういえばさっき何か思い当たる事がありそうだったけど」

 

「あ!そうそう!ミグのレーダーって私達ほどじゃ無いにしろ、そんな遠くまで探知できないでしょ?ましてや分厚い雲の中でどうやって見つけたのかなって」

 

「確かに・・・」

 

可能性は低いが私は一つ思い当たる事があった。

ただ空賊がそんなもの持ってるかという話だが。

 

「ねぇマヤ、もし相手に早期警戒機がいた場合ってどう?」

 

「うーん・・・それなら向こうがこっちを簡単に見つけて誘導してきたって説明が着くね」

 

「レーダーに影はある?」

 

「・・・実は前方200km、高度20000ftに1機・・・IFFは応答無しだよ」

 

「給油機か民間機の可能性は?」

 

「さっきまでそんな気がしてたけど、あのミグはまっすぐそっち向かってるよ」

 

「・・・もし相手が民間機ならあのミグの機関砲でも落とせるよね」

 

「うん、たとえ7mm機銃でも・・・迎撃する?」

 

「当たり前でしょ。もし民間機でそれを無視して何人も死んだら夢見が悪い」

 

「そうこなくっちゃね!」

 

「燃料はまだ余裕がある・・・行くよ!」

 

加速してミグの後を追う。

 

「あとちょっとでスパローの射程だよ」

 

「うん・・・」

 

操縦桿を握る手が少し震える。

さっきの2機は至近距離だったため脱出出来たのかどうか確認が出来た。

だけど今度は視界外戦闘・・・相手の状態をレーダースクリーン上でしか確認できない。

私は相手を殺したか殺してないかの確認が取れない。

 

「ハル、相手は空賊・・・どれだけの命を奪った相手か分かるよね」

 

「分かってる」

 

マヤのいう通り、相手は空賊。

ならず者だった。

そう言って今から相手を撃墜する事を正当化できればいいが、簡単ではない。

でも撃たないともしあれが民間機だったら・・・

私は民間機を守るためと言い聞かせ、発射ボタンに指を置いた。

 

「レーダー・・・ロックオン!」

 

「FOX1!」

 

翼のパイロンからAIM-7が発射された。

白い尾を引いて目標に向かう。

 

「着弾まで20秒・・・相手は気付いてない・・・RWR積んでないのかな」

 

「見た感じ・・・使い古した旧型機だったからね」

 

そんな話をしているとミサイルはすぐに目標に到達、敵の反応が消えた。

遠くに爆発閃光を確認した。

 

「脱出しててよ・・・お願いだから」

 

「ハル、もう一機はどうする?」

 

「・・・早期警戒機だったら何人乗ってる?」

 

「10人くらいじゃないかな。でもあれ一機だけじゃ何もできないし」

 

「うん・・・そうだよね。テキサスに向かおっか」

 

「そうしよ!」

 

再び進路を正してテキサスに向かう。

残りあと400km程だった。



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仲間を連れて村へ

《エンジェル0-1、テキサスタワー。滑走路35への着陸を許可します。》

 

「滑走路35への着陸許可、エンジェル0-1」

 

「ハル、私の知り合いグループはもう準備してるってさ!空港に降りたら私が呼んでくるから補給とかしてて待ってて!」

 

「了解、調整はついてる?」

 

「おじさんが燃料とミサイル準備して待ってるって!」

 

「了解」

 

機体をゆっくりと接地させる。

激しい空中戦の後だ、正直言うと機体各所を念入りに点検したいが今こうしてるウチにもバケモノにさらわれた女の子の命が危ない。

慎重に飛ぶしかない。

 

「じゃあちょっと行ってくる!」

 

「分かった、エンジンはかけたままで待ってるから機体の後ろには行かないでね」

 

「りょーかい!」

 

トムキャットを駐機場に移動させて私は補給を始める。

 

「嬢ちゃん!フィッシュベッドと交戦したってな!」

 

「うん、空賊のね。3機居たよ」

 

「よくミグで探知出来たのぅ・・・」

 

「たぶん早期警戒機がいたよ。それっぽいのも補足してたから」

 

「空賊も贅沢な装備を持っとるもんじゃな。ならフェニックスも積んでくか?」

 

「ううん、代わりに地上支援するかも知れないからLGBお願い」

 

「よし!ペイブウェイはサービスしといてやる!」

 

「ありがと、おじさん」

 

おじさんはそのままレーザー誘導爆弾を搭載するために補給用の車両で倉庫に向かっていった。

 

「後は・・・あの子待ち」

 

増槽も満タンにし、待機する。

機関砲には20mmの曳光榴弾を搭載して対地攻撃に備えた。

数分もしないうちに整備員がF-14に爆装を施してくれた。

 

「料金はどうする?」

 

「引き落としで。」

 

「分かったぞぃ!まー、嬢ちゃんはお得意様じゃからまけておくわぃ!」

 

「ありがと」

 

補給も終わった。

あとはマヤを待って飛ぶだけだ。

 

「操縦系統・・・チェック・・・油圧・・・よし」

 

飛行に必要な装置類を点検しているとマヤが駆け足で帰ってきた。

 

「おかえり」

 

「ただいま!輸送機で行くから到着まで護衛してほしいんだって!」

 

「了解。でもよくOKしてくれたね」

 

「だって私の村出身の人たちのパーティだからね!」

 

「そうなんだ。」

 

「うん、私の舎弟もいるしね!」

 

「待って、舎弟って何」

 

「んー、なんか前から私のこと好きみたいで告ってくるんだけど面倒臭いから舎弟ならいいよって感じで」

 

「それ・・・いいの?」

 

「泣いて喜んでた」

 

「・・・」

 

マヤの知らない1面を見た気がする。

まぁでも、これであの村は救われるわけだしいいか。

 

「行こっか。輸送機は?」

 

「えっとね、確かC-1だよ。あ!あれあれ!」

 

マヤが指さす方向にはタキシングを始めたC-1輸送機が居た。

 

「コールサインは?」

 

「エアカーゴだったかな確か」

 

「エアカーゴって民間機じゃなかったっけ」

 

「うん、民間機借りて行くんだって!ちゃんと護衛の報酬も貰えるよ!」

 

「ちゃっかりお小遣い稼ぎするんだね・・・」

 

「ふふふ、お土産代くらい稼がないと!」

 

「そのお金で何か奢ってね」

 

「もちろん!」

 

なんて話をしてるうちにC-1が前を横切り私達もそれに続く。

 

「エアカーゴ、エンジェル0-1」

 

《エンジェル0-1どうぞ》

 

「そちらの護衛を担当します。目的地まで安全な航行を」

 

《了解、よろしくお願いします》

 

「テキサスタワー、エンジェル0-1」

 

《エンジェル0-1どうぞ。》

 

「前方の輸送機に続いて離陸許可を要請します」

 

《了解、現在着陸進入中及び離陸する航空機はありません。そのまま滑走路に進入し離陸してください》

 

「了解」

 

珍しく空港は空いていた。

運の悪い日は何分も待たされる時もあるから今日は運がいい。

 

《エアカーゴ、滑走路17から離陸を許可します。離陸後はそちらの飛行計画に従って飛行してください。》

 

《滑走路17から離陸を許可。エアカーゴ》

 

《エンジェル0-1、エアカーゴに続いての離陸を許可。離陸時は輸送機後方の乱気流に注意してください》

 

「エンジェル0-1、了解」

 

輸送機が加速し離陸していくのを確認してから私達も滑走路に入る。

 

「行こっか」

 

「ハル、疲れてない?」

 

「大丈夫、でも巡航中はオートパイロット使ってすこしゆっくりしようかな」

 

「分かった、監視は任せてね!」

 

「お願い、任せたよ」

 

スロットルを開きアフターバーナーに点火した。

轟音と共に加速する。

すぐに離陸可能速度に達し機首を上げた。

空は少し曇ってはいるがコンディションはいい。

 

「ギアアップ」

 

車輪をしまい、輸送機にゆっくりと近づいた。

ここから2時間ちょっとのフライトだ。

 

「そういえばハル、珍しく爆装してるんだね」

 

「もしかしたらに備えてだよ」

 

「久々の爆撃になるのかなー・・・」

 

「LGBだから誘導よろしくね」

 

「おまかせあれ!」

 

武装は短射程ミサイル2発に中射程のスパローが1発。

本来スパローを搭載するパイロンにはレーザー誘導用の装置を積んである。

あとは500ポンドレーザー誘導爆弾が4発だ。

 

「やっぱり爆弾積むと重い・・・」

 

おまけに満タンの増槽も2つぶら下げている。

空対空ミサイルの時だけならまだしも爆装も施しているためにどうも機体の動きが重かった。

最悪、空中戦になれば爆弾は投棄してドッグファイトに入るが・・・。

 

「何も来て欲しくないね」

 

「前にそう言って敵が来たけどね」

 

「それはマヤが暇だから敵こいなんて言うから」

 

「わ、私のせいじゃないもん!」

 

「はいはい」

 

なんて話をしばらくしていると巡航高度に達した。

高度35000フィート。

雲よりも高い。

見上げると青くて広い空が広がっていた。

 

「オートパイロットON・・・私ちょっと休憩する」

 

「うん、レーダーは見てるからね!」

 

「お願い」

 

私はシートのすぐ脇に付けたドリンクホルダーから差し入れで貰った紅茶を取った。

 

「いい天気・・・というかいい景色かな・・・」

 

私は紅茶を少し飲んでまったりとした。

その時私はふと絶望的な事を思い出す。

 

「・・・しまった。紅茶って飲んだらトイレに行きたくなる効果が・・・」

 

村からテキサスまで飛び、テキサスではトイレに行ってない。

そしてあと2時間は村まで飛ばないといけない。

 

「・・・・・・・・・」

 

ヤバい。

意識したら妙に尿意のようなものが。

 

「・・・マヤ、トイレ行きたかったりしない?」

 

「んー?さっき行ったから大丈夫だよ!」

 

「あ、うん・・・そう」

 

若干冷や汗をかく。

あと2時間。

たぶん耐えれるだろうけど、もし敵機が来たらヤバい。

というかトイレの事なんて考えるんじゃなかった!

 

「ハル?黙り込んじゃって大丈夫?」

 

「う、うん。大丈夫」

 

・・・今なら引き返せるか・・・

いや、トイレで引き返すってなんか嫌だ。

今はあのトイレが付いてるであろう輸送機が羨ましい。

 

「ま・・・まだ耐えれる・・・」

 

「ねぇ、ハル?もしかしておトイレ?」

 

「へっ!?え、い、ち、ちがう・・・」

 

「あはは、我慢しなくて良いのに!携行トイレなら私持ってるから!」

 

「・・・ありがと・・・借りるかも」

 

なんでこういう時に限って準備いいんだこの子は。

・・・いや、女の子が携行トイレ使うってどうなんだ。

隠せるものが・・・何も無いし何より自分が出したもの到着まで持っとくなんて嫌だ。

どうしよう・・・

 

「はい、ハル」

 

「え・・・あ、あり・・・がと」

 

・・・でも緊急事態に贅沢言えない・・・うん。

そう自分に言い聞かせて受け取った。

 

「ちゃんと女の子用買ってあるから!」

 

「・・・うん・・・」

 

・・・トイレ装備されてるって噂のSu-34がこんなに羨ましく感じるとは思わなかった。

 

「・・・とりあえず限界までは我慢しよ・・・」

 

そして私は喉が乾き無意識に紅茶を飲んだ。

そして飲んで気づく。

 

「・・・」

 

「ハル?」

 

「・・・飲んじゃった」

 

「え?う、うん。喉乾いてたんだよね?」

 

「・・・ちょっとトイレ行きたいって気持ちあったのに飲んじゃった」

 

「え・・・い、いやでもほら!携帯トイレあるじゃん!」

 

「使いたくない・・・清潔なおトイレがいい・・・」

 

「贅沢言わない!!」

 

まだ限界という程でもないがそこそこヤバい絶望感に飲まれ始める。

まだあと1時間以上・・・

頑張れ・・・為せば成る・・・為せば成る私の体。

 

「あ・・・ハル!」

 

「ん?」

 

コックピットに電子音が鳴る。

 

「ま、まさか・・・」

 

「対空目標・・・2!速度400!」

 

「・・・無視だよ無視」

 

「無視できたらいいんだけど・・・こっちに来てるよ!」

 

「・・・なんで!なんでこんなタイミングなの!!」

 

「おー・・・ハルがやり場のない怒りを爆発させてる・・・」

 

「エアカーゴ!退避して!こっちで対処するから!」

 

《了解!》

 

私はこんなタイミングで来た不明機に対して軽く殺意を覚えていた。

 

「ハル!?まだ敵って分かったわけじゃ・・・」

 

「私が女の子捨てる前に・・・確認して仕留める!」

 

「ヤバい・・・ハルが暴走してるかも・・・」

 

「こっちはトイレ行きたくて仕方ないんだよもう!!」

 

「・・・トイレを急いでる女の子に撃墜されるかも知れない敵さん・・・可哀想・・・」

 

呑気な事言ってる場合じゃない。

携行トイレを使いたくても戦闘機動中にそんな事する余裕はない。

しかもハイGのかかる空中戦だ。

・・・持つかな私の膀胱・・・

地味に尿意が増している。

 

「マヤ!敵は!」

 

「だから敵って分かったわけじゃ・・・」

 

その時、レーダー警報が鳴った。

敵だ。

 

「空賊ごときが私のトイレを邪魔しないでよー!!」

 

「必死だねぇ・・・」

 

そりゃ必死だ。

コックピットで漏らすなんて死んでも嫌だ。

私は涙目で操縦桿を握る。

 

「敵機は何!?」

 

「えーっと・・・AV-8ハリアー・・・かな・・・カラーは真っ黒・・・ついさっき交戦した空賊の仲間かも!」

 

「だったら機動性はこっちのほうが上だよね!」

 

爆弾を積んでいても何とかなりそうだ。

むしろ私の膀胱が何とかならない気がしてきた。

 

「トイレ行っとくんだった・・・!」

 

「正面!3マイル!!」

 

雲の中から2機のハリアーが出てきた。

距離は近い。

私は操縦桿のトリガーを引いた。

 

「落ちて!」

 

交差する前に機関砲で射撃する。

弾丸は敵の1機のエアインテークに吸い込まれた。

 

「撃墜!ベイルアウト確認!」

 

ハリアーからは搭乗員が脱出していた。

私はそれを確認して一安心した。

いや、まったく一安心出来ない。

コイツ早く落とさないと私の膀胱がマジヤバい。

 

「敵は!?」

 

「旋回して後ろにつこうとしてる!」

 

「くっ!」

 

敵がいる方向に頭を向けようと旋回する。

だが身軽な相手はトムキャットより旋回が早かった。

 

「後ろ!ロックオン!!」

 

警報がコックピットに鳴り響く。

私は旋回を止めて急降下に入った。

 

「もうなんでこの空域、空賊いっぱいなの!?」

 

「それは後ろの敵に聞いてよ!こっちはそれどころじゃない!」

 

「あ、うん・・・ハルは後ろの敵よりヤバいのと戦ってたね」

 

ただ確かに四時間前にもこの空域で空賊と交戦した。

仲間の捜索に来ただけの機体かも知れないが・・・

 

「相手はすばしっこいよ!どうする?」

 

「何とかして見る!」

 

最高速度はトムキャットより劣るとは言え、向こうもちゃんとした戦闘機・・・正確には攻撃機だが後ろにつかれたら簡単には振り切れない。

私は速度を落としつつ上昇する。

 

「オーバーシュートしてくれたら・・・」

 

思いが通じたのか接近していた敵機はトムキャットを追い抜いた。

 

「後ろを取った!」

 

機関砲のレティクルを敵機に合わせてトリガーを引こうとした時だった。

相手はエンジンノズルを真下に向けて真上に急上昇した。

垂直離着陸が出来るハリアーらしい機動だ。

再び後方につかれる。

 

「相手がハリアーなのが悪いねこれ!」

 

「余計な事して避けないでよ!落ちてよ!!」

 

「ハル・・・相手も必死だから・・・」

 

「私だって必死だよ!!」

 

私は無線を全周波数に合わせて叫ぶ。

 

「そこのハリアー!!卑怯な手で逃げないでよ!!こっちはアンタのせいでトイレ行きたいのに行けないんだから!!大人しく落ちろバカヤロー!!!女の子に撃たれたらご褒美でしょ!落ちて・・・落ちてよー!トイレに行かせてよー!!」

 

「ハル!?」

 

私の心の叫びである。

・・・本心からの。

すでに高機動のせいか軽く限界を迎えそうだ。

 

「ハ、ハル・・・気持ちは分かるけど・・・無線をオープンにしなくても・・・」

 

「うっさい!!こっちは限界なの!!」

 

すると突然コックピットの警報が鳴り止む。

 

「あれ、ロックオン警報が消えた。・・・ん?発光信号?」

 

「発光信号!?何!」

 

「えーっと・・・トイレ・・・え・・・」

 

「何!!」

 

「トイレ終わるまで待ってるって・・・」

 

「有難いけどふざけんな!!」

 

私はまた無線をオープンにして叫ぶ。

でももう限界なので待ってくれるならしてしまおう・・・

 

「え、ハル・・・?」

 

「もう無理!」

 

「あ、うん・・・後ろ・・・来てるけどね・・・」

 

マヤは後ろを見ながら何かボソッと呟いたがそれどころでは無い。

私は携行トイレを取り出して用を足した。

 

「・・・助かったぁ・・・」

 

その時だった。

何かが上空に来た。

私はふと上を見上げる。

 

「・・・な・・・!?」

 

「・・・まぁ・・・うん・・・」

 

私はきっと顔真っ赤だろう。

ハリアーが背面飛行で上空に張り付いていた。

パイロットはカメラでこっちを撮っていた。

フラッシュの量からして連写しまくっている。

 

「・・・そりゃ可愛い女の子が上から丸見えの所で今からトイレしますって宣言したら覗くやついっぱい居ると思うよ・・・」

 

「・・・ッッッ!!!!」

 

ハリアーのパイロットは写真を取りまくりながら親指立てている。

私が出来るのは顔を真っ赤にしながら中指を立てるくらいだ。

・・・だってまだ終わってないからね・・・。

 

「落としてやる落としてやる落としてやるぅぅ!!!」

 

こっちが終わったのを確認してハリアーは反転、全速で逃げていった。

私は旋回して全速で追いかける。

 

「そのコックピットにスパローぶち込んでやる!!」

 

「ハル・・・いやでも覗きはいけない事だからね。うん。成敗しなきゃ」

 

ハリアーはヒラヒラと逃げ回る。

射線を確保しても垂直上昇で逃げられる。

相当な手練のドスケベ野郎が乗っているようだ。

 

「ハル!もう引き返そ、ね?」

 

「もう私生きてけない・・・」

 

「だ、大丈夫だから・・・ね?」

 

「・・・」

 

燃料計を見て少し冷静になる。

まだ距離は半分以上・・・燃料は増槽を使い切りかけていた。

ここで反転しないと村まで燃料が持たないかも知れない。

 

「・・・村に向かうよ」

 

「いいの?」

 

「いいかダメかで言ったら今すぐアイツを叩き落とさないと気が済まないけど・・・村に行かないと・・・次会ったら許さない・・・」

 

「あはは・・・まぁ行こっか」

 

「・・・もう絶対余裕があったらトイレ行っとく・・・」

 

きっと私は涙目だろう・・・

進路を村に合わせて飛行を再開する。

・・・早く地上に降りたい。

 

 

 



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救出作戦

「あと何キロ?」

 

「あと・・・500kmだね。それより結構すぐに冷静に戻ったね・・・」

 

「・・・忘れて」

 

「あはは・・・りょーかい」

 

輸送機と合流して村に向かって飛行する。

 

「ハル、そろそろリリアと交信できるんじゃない?」

 

「うん、やってみる。」

 

無線の周波数を村のリリアのミグに合わせた。

 

「0-1から0-2」

 

《こちら0-2、ハル?》

 

「うん。あと1時間くらいで着くよ」

 

《了解!こっちは村の人たちが待ってるよ!あ、ちょっとトマホーク、くすぐった・・・あはは!》

 

「・・・こっちがどんな目にあったか知らないで・・・」

 

「・・・大変だったよねー・・・」

 

今すぐ消したい記憶ナンバーワンだ・・・

なんてしてるうちに村まであとちょっとだ。

 

「あとちょっとだね、ハル、頑張って!」

 

「うん、降りたら少し休憩したい・・・」

 

色々あり疲れきっていた。

村を出発した時と違い、風は少し強いが雲は無くりなり晴れていた。

それでももうそろそろ日没だ。

あたりは暗くなり始めていた。

 

「完全に暗くなる前には降りたいね」

 

「だねー、ナイトビジョン持ってきてないし・・・」

 

村から確認できるように着陸灯を点灯させて飛行する。

周りはどんどん暗くなる。

 

「村に滑走路灯ってあったっけ」

 

「んー・・・一応アスファルト滑走路だろうけど・・・上がる時には見えなかったかなー」

 

「だよね・・・」

 

ただ幸いな事に今日は満月。

雲は強風のおかけでほとんどない。

かなり明るい月明かりで着陸そのものは支障が無さそうだ。

 

「エアカーゴ、エンジェル0-1。村は確認できますか?」

 

《確認できます。これより着陸します》

 

「了解」

 

一仕事完了だ。

誘導の精霊が迎えに来てくれていて着陸は比較的簡単に終わった。

トムキャットを駐機場に移動させて航空機から降りる。

マヤは輸送機の中のパーティに用があると言い輸送機に向かっていった。

 

「おかえり、村長さんが一休みしてってさ」

 

「ありがと、疲れた・・・」

 

「明日の朝に村の魔法使いと一緒に魔物の住処を襲撃するってさ」

 

「航空支援は?私たちだけ?」

 

「ううん、攫われたこの子お父さんが飛行機を飛ばすんだって。えっと・・・ドーントレスだったかな」

 

「また骨董品を・・・」

 

「農業用に改造してあるんだってさ。でも爆装も可能だしM2機関銃もそのままだから明日それで飛ぶんだって言ってたわ」

 

「農業用に改造してる割には重武装だね・・・リリアは?」

 

「私は空賊が来ないように哨戒かな?」

 

「分かった、お願いね。そういえばトマホークは?」

 

「今はフルクラムのコックピットで寝てるわ。何だかコックピットのシートがお気に入りみたい」

 

そう言われてミグのコックピットを覗き込むとコックピットのシートの上でトマホークが丸くなって寝ていた。

 

「・・・気持ちよさそうだね」

 

気持ちよさそうに寝ているトマホークに少し癒されてからタラップを降りた。

 

「ハルー!作戦は明日のお昼だから寝てていいんだってー!」

 

「了解。白昼堂々と行くんだね・・・」

 

「あの卑怯者の魔物に正々堂々挑んでやるんだってさ」

 

「男らしい・・・」

 

とりあえず作戦開始までは疲れを取ろう。

きっと空に上がればまた疲れることの連続だろう。

 

「村長さんが用意してくれてる家はこっちだよ!」

 

マヤについて村長さんが用意してくれたという家に入った。

私は操縦の疲れもあってお風呂から出たあとすぐに寝てしまった。

 

「ん・・・」

 

朝日が眩しい・・・

 

「朝か・・・ふぁ・・・」

 

窓を開けると雲一つない天気だった。

ふと下を見ると色んな武器で武装した村人が村に迷惑を掛けてきた魔物を倒す準備をしていた。

・・・銃とかで武装してるのは分かるけどなんで1人だけ薄汚れたシャツとツナギ着て麻袋被ってるの・・・

なんでチェーンソー持ってるの。

ホラー映画なの?

 

「・・・怖い」

 

ホラー映画に出てきそうな雰囲気だ・・・

 

「マヤ、起きて。朝」

 

「んにゃー・・・」

 

「猫の真似しても可愛くない。起きろ」

 

「ひどい!!」

 

「起きてるじゃん」

 

「起きてるよ!というか起きたよ!朝から罵倒されるとは思わなかったよ!」

 

「はいはい。いいから準備」

 

「うぅ〜・・・朝からハルが氷のように冷たい・・・」

 

とぼとぼと洗面所に向かうマヤを尻目に耐Gスーツに着替える。

爆装を施してる私は地上から攫われた女の子を救助するチームを上空から援護する近接航空支援担当だ。

村からもその女の子の父親がドーントレスで一緒に支援する。

リリアは空賊が寄ってこないように周囲の哨戒だった。

 

「マヤ、先に行ってるから」

 

「ふぁーい」

 

計器類の点検をするために先にトムキャットの所へ向かった。

 

「早く終わらせて街に行かなきゃ・・・」

 

正直、対地攻撃は苦手だ。

その事もあるがさっさと街に行って遊びたいという気持ちもあった。

トムキャットが駐機してある場所に行くとトマホークが機体の下の日陰でのんびりとしていた。

 

「トマホーク、今から飛ぶから危ないよ」

 

「わんっ!」

 

「あんたはホント賢いね。マヤと違って」

 

「わう?」

 

「よしよし」

 

首を傾げるトマホークの頭を撫でてやりコックピットに乗り込んだ。

電子機器のスイッチを入れて異常がないか点検する。

 

「HUD・・・よし、水平義もよし・・・燃料計・・・警告灯・・・よし」

 

点検をしながらふと横をみると村人達がドーントレスを駐機場に出してきていた。

しっかりお腹の下に1000ポンド爆弾を積んでいる。

 

「本気だね・・・」

 

魔物が逃げたら逃がす気は無さそうだ。

 

「おまたせー!」

 

「遅い」

 

ドーントレスが駐機場に出てきて5分ほどした時にマヤが到着した。

 

「準備いい?」

 

「うん!あ、トマホークも乗せてっていい?」

 

「え?」

 

「ほら、このお仕事完了したらすぐに街に行こうかなって思って」

 

「いいけど戦闘機動は出来ないよ。さすがに6Gとかに犬が耐えれそうにないし・・・」

 

「うーん・・・やっぱ預けていく?」

 

「当たり前でしょ」

 

「ううぅ・・・あとで迎えに来るからいい子で待ってるんだよトマホーク・・・」

 

トマホークは戦闘機の下で分かりましたと言わんばかりにキリッとお座りをしていた。

 

「絶対マヤより賢い」

 

「んな!?」

 

「だってマヤはお座りって言ってもお座りしない」

 

「私はそんなハルのペットみたいな扱いされた・・・いや、されたい!」

 

「気持ち悪い」

 

「・・・バッサリ切り捨てるあたり尊敬するっすパイセン・・・」

 

「はいはい。とりあえず時間でしょ?飛ぶよ」

 

「りょーかい!」

 

エンジンを始動させる。

相変わらずのご機嫌だ。

回転数も上がっていく。

 

「0-1から0-2、聞こえる?」

 

《感明よし、OKよ。》

 

「今から離陸する、CAPはよろしくね」

 

《まっかせときなさい!》

 

「頼りにしてる」

 

タキシングを始めるとその後ろをドーントレスがついてきた。

パイロットは白髪の似合うおじ様といった感じの人だった。

聞くと昔は終戦間際に魔王軍と戦うためにパイロットをしていたそうだった。

その頃からの愛機がドーントレスだと言っていた。

それにしても連れ去られたという女の子の父親というよりは祖父といった感じだったが連れ去られた女の子は養子だと言う事だった。

昔から飛行機一筋で生きてきたが引退して一人暮らしをすると寂しいということで街の孤児院から引き取ってきたそうだ。

相当可愛がっていたらしく連れ去った魔物に対して強い怒りを露わにしていた。

 

「さて・・・ちゃっちゃと終わらせようか」

 

「うん!」

 

離陸して魔物がいるという森の上空へ向かう。

音で気づかれないように巡航するふりをして森の上空で旋回を続ける。

 

「マヤ、襲撃チームは?」

 

「えーっと、計画ならもうすぐ洞窟に突入だよ」

 

「向こうの状況は?」

 

「んーと・・・ちょっと待ってね、無線繋ぐ」

 

機内の無線機を弄って洞窟のチームの無線に繋いだ。

 

「これで向こうの声が聴けるよ。でも何か声は拾うのにこっちから送ることは出来ないっぽいんだよねー・・・」

 

「不具合かな」

 

「帰ったらおじさんに診てもらお!」

 

「そうだね。あとこの無線機もそろそろ古くなってるはずだから取替えないといけないかも・・・」

 

「わー・・・高くつきそう・・・」

 

「うん・・・ちょっと痛い出費になりそう」

 

電子機器はただパーツを組み合わせて出来る銃火器と違い、専門的な知識を持った人がプログラムなどを作り上げるため、かなり高価になる。

戦闘機の電子システムも正直、電子機器が価格の7割と言った所だった。

最近はミサイルに高価な誘導システムを組み込んでもどうせ爆発するからと魔術を研究している賢者などと協力し特定の電気信号を受けるとその信号で指示された目標を追いかける魔法をかけた石を弾頭部に組み込むという方法を開発中らしいが、魔法に電気信号を与えようにも上手くいかず、ミサイルが命中せずに1度目標を見失うと近くにある動くもの全てを標的と思い込み突っ込んでくるという危険な物に仕上がりそうだという話を聞いたことがあった。

成功すれば価格の大幅ダウンになるそうなのだが・・・。

誤射が多発しそうということでまだまだ開発に難ありと言うところだった。

 

「化け物もまさか増援連れて来るとは思ってなかったよねー」

 

「だろうね。完全に村の人だけしか来ないから大丈夫だろうって思ってたんだろうね」

 

「私達が来たのが運の尽きだぜぃ!的な?」

 

「まさにそれかもね」

 

雑談しつつ上空をゆっくり旋回していると無線から人質確保という言葉が聞こえてきた。

 

「お、やったっぽい!」

 

「うん、これでお仕事終わりだね。」

 

「だね!」

 

と気を抜いた所に今度は化け物が逃走を始めたという話が聞こえてきた。

また、化け物は魔法で見た目を化け物にして村に食べ物やお金を強奪していく盗賊団だったそうだ。

 

「卑怯者が逃走したんだって・・・どうする?」

 

「相手は車?」

 

「うん、車で逃げてるらしいよ」

 

「分かった、近いのは・・・あのおじさんだよね」

 

「うん、無線つなぐ?」

 

「うん。お願い」

 

無線をドーントレスに合わせて交信する。

 

「こちらエンジェル0-1。おじさん、娘をさらった卑怯者は車で逃走中。そこから近いけど・・・見える?」

 

《ちょっと待て・・・見つけたぞ、あのバカどもめ・・・!!》

 

ドーントレスは車に向かって降下を始めた。

攻撃するつもりだろう。

 

「マヤ、私達もやろう。」

 

「おっけー!」

 

卑怯者の盗賊団に情は無用だ。

ちゃっちゃと片付けよう。

 

《捉えた・・・この卑怯者どもめ・・・お前らの悲鳴を聞かせてみろ!!》

 

ドーントレスは急降下しつつ機銃掃射を始めた。

だが車のいる場所から魔法陣が広がる。

防御魔法だ。

物理防御力は弱いものでも400mmを超えている。

最新鋭戦車の徹甲弾でようやく抜ける防御力だ。

12.7mmの徹甲弾程度では貫通すら無理だった。

逆に気づいた盗賊団から火炎系の魔法で攻撃が始まった。

着弾した目標を火で包み込む魔法だ。

航空機が被弾すれば一瞬で火だるまだ。

 

「ペイブウェイで抜けるかな・・・」

 

「分かんない。とりあえず行動不能にさえ出来れば・・・」

 

「だね!よし、ロック!」

 

「投下」

 

胴体下からレーザー誘導爆弾を1個投下した。

翼を展開した爆弾はゆっくりと目標に向かっていく。

 

「着弾まで10秒・・・あ、ダメだ。アイツら気付いて魔法壁展開したよ」

 

「何とかあの壁さえ破れたら・・・」

 

「ALCMでもぶら下げて来てぶち込んでみる?」

 

「それ採用」

 

確実に防がれると分かってはいたが誘導は止めず、マヤと冗談を飛ばしあっていた。

ちなみにALCMとは空中発射型巡航ミサイルだ。

本来は爆撃機が発射するものだ。

 

「ハル、嫌がらせ程度に機銃掃射しとく?」

 

「勿体無いよ。とりあえず様子見かな。リリア?そっちはどう?」

 

《なーんにも・・・ふぁ・・・・》

 

「暇そうだね」

 

《実際暇よ。何もいないんだから・・・そっちはどうなの?》

 

「防御魔法がウザイかな。ちょっと近場の街からB-52引っ張ってこれない?」

 

《あんた何する気よ・・・》

 

「高度な文明に酔った現代人に古き良き時代というものを見せてあげようかなって」

 

「ハルさん・・・回りくどい言い方してるけどそれつまりは石器時代に戻せってことじゃ・・・」

 

「ぴんぽーん」

 

《あんたホント昔から無茶苦茶ね・・・》

 

なんて話してるウチに爆弾が命中する。

予想通り相手へのダメージは0だ。

 

「やっぱり・・・」

 

次の一手を考えているとドーントレスが急降下を始めた。

 

「ちょっとおじさん!!」

 

マヤが無線に向かって大声で言う。

 

《安心しろ、ワシには奥の手があるんでな!》

 

「奥の手って・・・」

 

その時一瞬、ドーントレスの1000ポンド爆弾に薄い黄緑色の光が見えた。

一瞬だったため見間違いかもしれないが・・・

 

《距離1500・・・OK、正面に捉えた!1000ポンドの火の玉を食らいやがれぇぇ!!》

 

「ドーントレスが爆弾投下!あぁ・・・でも魔法壁展開を確認!」

 

「何かきっと考えてるんだよ」

 

爆弾を目で追っていると爆弾は魔法壁に着弾した。

爆発も確認した。

だが爆発の炎と煙が魔法壁の中に充満していた。

 

「え!?貫通!?」

 

「違う・・・もしかしてあのおじさん魔法使い・・・?」

 

私の勘だがあの爆弾に見えた光は魔法壁を貫通させる攻撃系の魔法だろう。

習得するのに相当な時間と努力を要する魔法だが、習得出来れば例えそれが戦艦クラスの装甲厚の魔法壁でも紙同然だ。

しかもそれを爆弾に付与するということはかなりえげつない。

魔法壁は一箇所でも貫通弾が発生すると崩壊を始める。

しかも崩壊を始めた魔法壁は崩壊する前と違い内側からの物を全て通さなくなる。

弾丸などは勿論の事、熱や空気すら通さなくなる。

そしてあの爆弾は着弾後、貫通魔法で小さな穴を開け魔法壁の崩壊を始めさせた。

崩壊と言っても一瞬で終わるものでは無く、最低3秒程度はかかる。

そして魔法壁は着弾する寸前の物体を包み込んで爆発の威力を消す性質もあるため、小さな穴から崩壊が始まる前に爆弾は魔法壁に包み込まれる。

そして爆弾は爆発、破片は魔法壁に吸収されたが高温の爆炎と爆風は着弾時に空いた穴から中へと流れ込む。

そしてその頃には崩壊が始まり中は高温の爆炎でほぼ蒸し焼き状態になるという事だ。

 

「・・・戦果確認しにいく?」

 

「絶対やだ」

 

トラウマでは済まないレベルのものがあるだろう。

私は遠目に燃えている車を確認して旋回を始めた。

ドーントレスのおじさんは気が済まないのが機銃掃射を繰り返していた。

 

「村に戻って燃料補給しよ。そこからフェアリィだね」

 

「うん!恋愛成就のお守りとかあるかな!」

 

「あれ、マヤ誰か好きな人いたの?」

 

「失礼な!私だって年頃の女の子だよ!?」

 

「へー、誰なの?」

 

「ハルは知らない人!」

 

「いやそりゃ私は知らんでしょうよ」

 

「まーほら・・・アレだよ。私の故郷に居るの。私と同じで冒険者やってるけどアイツは戦車乗りでさ。」

 

「そうなんだ。連絡はとってるの?」

 

「ううん、どこに居るのかも分かんないから連絡先すら交換出来てないよ。」

 

「どこかで会えるといいね」

 

「うん!ところでハルは?」

 

「私はもう付き合ってる」

 

「はァ!?あ!待った!トムキャットとか無しだよ!」

 

「・・・チッ」

 

「図星かよ!!」

 

「リリアとかに聞いてみたら?あの子その辺経験豊富そうだし」

 

《聞こえてるわよ!ハルは知ってて言ってるでしょ!!》

 

「経験豊富なの?」

 

《彼氏どころか男の子と話した経験すらほとんどないレベルよ!!ウチの実家のせいよ!!》

 

「え・・・そうなの?」

 

「この子の実家、親が決めた男性以外と知り合うことも出来ないし付き合えないどころか結婚も出来ないレベルだから」

 

「あー・・・いいとこのお嬢様なんだ」

 

「いい所というかこの子の親はトップレベルの航空機メーカーだからね。」

 

「それでパイロットに?」

 

「いや、親はめっちゃ反対しててリリアは半分縁切りの状態で家飛び出したんだよ。ね?」

 

《そうよ!しかも飛び出して一週間後に帰ってきてくれ何でも言う事聞くからって言われてね》

 

「何それ・・・」

 

「ちなみに親の男の人選ぶセンスは凄かったよ。お見合い写真見せてもらったけど何処から探してきたんだってレベルのイケメンだらけ」

 

「勿体無い!」

 

「ホントね」

 

《イケメンだろうが何だろうが私は自分で探してそういう関係作りたいの!》

 

「最初は大変だったよね。男の人の管制官の声聞いて真っ赤になったりとか」

 

《なんでその話まだ覚えてんのよ!!》

 

「そりゃ私の後席に座ってたんだから」

 

「以外とウブなのね・・・」

 

《うっさいわよ!》

 

これ以上彼女の過去を弄るのも可哀想に思えてきたので村にさっさと戻ることにした。

村に着陸すると先に降りていたドーントレスのおじさんと攫われていた女の子が抱き合っている姿が見えた。

とりあえず無事で良かった。

 

「無事で良かったね」

 

「だねー・・・トマホークも乗せたしフェアリィに行こっか!」

 

「うん。リリア、行くよ」

 

《え、ご飯とか食べていかないの?》

 

「目的は街に行くことだから。向こうで食べるよ」

 

《はいはい・・・》

 

村人が何かお礼をと来てくれたが上で見てただけなので何も貰わずにお礼の言葉だけ受け取って離陸した。

今度こそフェアリィの街だ。



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定住

「あとどれくらいあるんだっけー・・・」

 

「あと20分くらい」

 

「もっと飛ばしていこうよー!」

 

「もう燃料カツカツなの。無理」

 

《私もちょっと節約していかないとヤバいかも・・・燃料が・・・》

 

何とか2機とも空港まで付ける燃料はある・・・と思っていた矢先だった。

コックピットに警報が鳴る。

 

「な、なに!?」

 

「待って、ミサイルとかの類いじゃない。」

 

警報のパネルを見ると燃料ポンプの圧力異常のランプが点灯していた。

 

「燃料ポンプ・・・燃料はまだあと30%は・・・マヤ、後ろの燃料計はどうなってる?」

 

「えっと・・・え、あ・・・ヤバい!左の燃料空になってるよ!!」

 

「左だけ?右は?」

 

「右はまだあと30%は・・・」

 

「リリア、後ろから私の機体を確認して」

 

《どうしたの?》

 

「左の燃料ポンプの圧力異常のランプがついてる。燃料が漏れてるかも」

 

《待ってて、確認するわ!》

 

その会話の10秒後、左のエンジンの回転数が落ち始めた。

 

「しまった・・・ヤバい・・・」

 

片方のエンジンがあれば空港に降りる事自体問題は無いが、下手に推力を上げるとバランスを崩すかも知れない。

 

《ハル!さっきまで機体から白い線みたいなのが見えてたよ!》

 

「やっぱり燃料漏れ・・・」

 

だが何故か前席の燃料計は残量30%を示していた。

 

「マヤ、整備記録がそこら辺にない?」

 

「えーっと待ってね・・・あ、これかな・・・」

 

「ここ一週間の記録で計器異常はある?」

 

「えっと・・・あ!左の燃料計の針のギアの状態が良くないから動かなくなる事があるかもって・・・」

 

「しっかり見とけば良かった・・・」

 

とりあえず後悔している場合ではない。

フェアリィに緊急事態を宣言しなければならない。

 

「フェアリィタワー、こちらエンジェル0-1」

 

《エンジェル0-1、どうぞ》

 

「燃料漏れにより左エンジン停止。緊急着陸を要請したいです」

 

《エンジェル0-1、スタンバイ》

 

「リリア、後ろで他にも異常が無さそうか見てもらってもいい?」

 

《分かったわ!そっちは大丈夫なの?》

 

「片方のエンジンが生きてるから何とか。でも両方止まるとやばいかも」

 

「ハル、武装の投棄は?」

 

「勿体無いけど・・・そうだね」

 

機体を重くするだけの爆弾やミサイルは捨ててしまうのが正解だろう。

機体から切り離す準備をした。

 

「リリア、武装を捨てるから気をつけて」

 

《了解、ちょっと待ってて!離れるから!・・・いいわ!》

 

「了解」

 

積んでいる武装を全て投棄した。

これで機体がかなり軽くなった。

 

《エンジェル0-1、フェアリィタワー》

 

「エンジェル0-1」

 

《滑走路35が使えます。着陸まで何分ほどかかりますか?》

 

「15分ほどです」

 

《了解しました。737も燃料系の異常でアプローチ中なのでそちらを優先させます》

 

「了解、最悪の場合、こちらはベイルアウトします」

 

《了解》

 

「ハル・・・ベイルアウトって・・・」

 

「トムキャットも大事だけど今は命も大事だし向こうは民間機。私達が無茶して罪の無い人を危険に巻き込む訳にはいかないよ」

 

「だね・・・トマホーク・・・耐えれるかな・・・」

 

「しっかり抱きしめてあげて。首はしっかり固定して」

 

「分かった・・・うん!」

 

前を見ると空港が見えてきた。

そして着陸前の737も視認できた。

 

「リリア、燃料は持ちそう?」

 

《なんとか・・・でもちょっとギリギリになりそう・・・》

 

「分かった、今からもし滑空状態になっても着陸できる高度まで上がって待機してて」

 

《でも・・・》

 

「大丈夫。まだトムキャットの燃料は残ってるから」

 

《・・・分かった、気をつけてね》

 

「うん。そっちこそね」

 

ミグがトムキャットから離れて上昇していく。

737は無事に着陸したようだ。

 

《エンジェル0-1、滑走路35への着陸を許可。消防車が待機中》

 

「了解」

 

滑走路脇に赤い灯火が見える。

風は強くない・・・大丈夫。

 

「マヤ、行くよ。楽しいランディングだからね」

 

「こちとら楽しくない!!」

 

トムキャットは翼を大きく開いて低速でも安定する状態になる。

あとはゆっくりフラップを下ろしていく。

 

「あと5マイル・・・マヤ、計器は?」

 

「大丈夫・・・異常なし!」

 

「了解」

 

そしてトムキャットは何事も無かったかのようにゆっくりと着地した。

 

「ふぅ・・・リリア、いいよ」

 

《ヤバい!もうマジでヤバい燃料が!》

 

「管制官、Mig-29が燃料切れで着陸するかも知れないのでトーイングカーをお願いします」

 

《フェアリィタワー了解。》

 

《いやぁぁぁ!!ポンプのランプがぁぁ!》

 

「落ち着いて」

 

《やだやだやだ!ハル助けてエンジン止まっちゃうよぉ!!》

 

「滑空できる高度まで上がったんだから落ち着いて」

 

《やだぁぁぁ!落ちるのやだぁぁ!!》

 

「・・・さっきまで落ち着いて飛んでたのに・・・」

 

「・・・いやハルは落ち着きすぎ・・・」

 

何だかんだ言いながらもリリアは何とか着陸でき、トーイングカーで駐機場に引っ張られていった。

 

「うーん・・・どこから漏れたんだろ・・・けほっ!油くさ・・・」

 

マグライトを持って機体をゆっくりと点検する。

ベテラン整備員のおじさんも付き添ってくれて機体の周りを点検した。

ちなみにこっちのおじさんはドワーフではなく人間だ。

 

「あー・・・ここだな。なんかがタンクぶち抜いてるぞ」

 

「え?あ・・・ホントだ・・・」

 

左の燃料タンク部分に小さな穴が空いていた。

よく見ると金属片らしきものが刺さっている。

 

「なんか心当たりは?」

 

「うーん・・・たぶん村の滑走路の状態が悪くてタイヤが踏んだのかも・・・」

 

「よくパンクしなかったな・・・」

 

「不思議と運だけは良いから」

 

「運ね・・・」

 

「30mm弾5発くらいまともに食らってエンジンとレーダーと機関砲持ってかれたくらいだから」

 

「運というか・・・まぁこれくらいならすぐ治る。任せとけ。明日の昼には飛べるようになってるはずだ。」

 

「うん、ありがと」

 

機体を後にして不貞腐れてるリリアの所に行く。

 

「リリア、元気だして」

 

「あんまりよ・・・死ぬかと思ったのよ・・・」

 

「だから安全な高度に上がらせたんでしょ」

 

「そうだけど・・・」

 

「もともと距離が距離だから仕方ないよ。何か美味しい物食べようよ」

 

「うん・・・」

 

「ところでマヤは?」

 

「近くにドッグランがあるからってトマホーク連れていったわよ。」

 

「そうなんだ。じゃあマヤが帰ってくるまであそこ行かない?マヤには私からメールしとく」

 

「どこ?」

 

「そこ。航空機ショップ」

 

「あ・・・ちょっと行きたいかも・・・」

 

「じゃあ行こ」

 

「うん!」

 

すこし元気を出したリリアを連れて店に入る。

 

「すごい・・・色んな機体が・・・」

 

航空機の実機は格納庫の中だが今ある在庫の機体の模型などがあった。

中には見た事ない機体も。

 

「みてみてハル!これ!」

 

「ん?どれ?」

 

「これこれ!」

 

リリアが指さすのはADF-01と書かれた機体。

何やらコックピットが無いようだ。

 

「これすごくない?!コックピットはモニターが並んでて全周を表示してくれるんだって!」

 

「へー・・・すごいね・・・」

 

それより気になるのは機体に高出力の魔法石を組み込み、そこから発する魔力を魔水晶に通すことでビルでさえ焼き切る事ができる高出力レーザーを発射できる装置が組み込んである事だ。

レーザーが放てるのは最大でも2発までで2発撃つと魔法石を交換しなければならないようだ。

機体の値段は最新のステルス戦闘機が100機は買えるお値段。

機体自体、複製魔法で作ったパーツをあまり使用していないために電子システム抜きでとんでもない額だ。

 

「高い・・・」

 

「あ!これもいい!」

 

次に指さしたのはSu-35BMだ。

これも説明を見る限り最近異世界から入ってきた戦闘機で、研究が終わったために売りに出されたオリジナルの機体だった。

 

「フランカーシリーズ・・・いいわよね・・・」

 

「フランカーは私も好きだよ。」

 

値段はオリジナルのため異世界語を分かる前提なので買えないことは無い値段だ。

 

「うー・・・欲しい・・・」

 

「ミグはどうするの」

 

「そっちも手放したくないけど・・・うぅぅぅ・・・」

 

「というかリリア、異世界の言葉分かるの?私でもやっと異世界のえっと・・・英語・・・?が少し分かるくらいなのに。これロシア語・・・なんて分かんないよ」

 

「勉強するわ!うぅぅぅ・・・同志が私を呼んでるの!店員さーん!」

 

「・・・大丈夫かなあの子・・・」

 

私ものんびりと商品を眺める。

この街はかなりF-14のパーツが豊富に売り出されていた。

中でもハードポイント搭載のガンポッドが豊富にあった。

7.62mmの小銃クラスのガトリング式の機銃が二連装で搭載されたガンポッドや、30mmクラスのガンポッド。

中でもとんでもないのは装弾数が5発と少ないが105mm無反動砲を組み込んだポッドだ。

砲弾は通常の徹甲弾から並の魔法使いの防御魔法壁であれば簡単に貫ける劣化ウランのAPFSDS、HEAT・・・

ちなみに並の魔法使いの防御壁の防御力は物理エネルギーに対して700mm、化学エネルギーに対しては900mm程だ。

ただしその厚さも攻撃を受ける可能性がある箇所のみでそこ以外は物理で400、化学で700程度だ。

それでもそれだけ厚い装甲だが・・・。

 

「105mm砲・・・ドラゴン狩りにはいいかも」

 

ドラゴンも最近進化してきて背中の鱗は空対地ミサイルを撃ち込んでも弾くレベルだ。

さすがに腹は簡単に貫けるが。

 

「他には・・・」

 

試作型だというAIM54のアクティブレーダーホーミング型が売っていた。

射程はそのままに打ちっ放しが可能性で推力偏向機構を取り入れたために推進剤があるうちはサイドワインダーに負けない機動力らしい。

誘導用の翼面も改良しAIM120には劣るもの従来のAIM-54より格段に命中率は上がるそうだ。

 

「・・・・・・・・」

 

アクティブレーダー式は使わない主義だったけど・・・。

 

「欲しい・・・」

 

しかもこのミサイル、母機側から自爆させることやミサイル本体が対象にある程度接近した時に相手の機体をスキャン、万が一民間機だった場合は自動的に自爆するシステムらしい。

ちなみに、このスキャンシステムを製造工場の専門員以外が触って取り外そうとすると爆発するらしい。

悪用する奴には死の制裁を・・・とか書いてある。

しかもロボットアームに触らせて自爆する映像を流している・・・。

 

「・・・」

 

ヤバいでも欲しい。

この安全装置がついて長射程でアクティブレーダーホーミング・・・買った!

 

「店員さーん」

 

私も店員の所に急いだ。

マヤが合流したのはその1時間後だ。

私とリリアはホクホクした顔でマヤとペットと一緒に入れるカフェに入った。

 

「・・・ふたりしてどうしたの?というかハルの嬉しそうな顔久々に見たんだけど・・・」

 

「知りたい?」

 

「結構気になるかな・・・」

 

「こんなもの買いました」

 

「こんなもの・・・はぁ!?フェニックス買ったの!?」

 

「うん。毎月定額でどこの空港でも補給してくれるみたい。」

 

「え・・・でもハル、フェニックスはあんまり使わないって・・・」

 

「ここ、ここ」

 

「え?」

 

私は説明書のある欄を指さす。

 

「アクティブレーダー・・・アクティブレーダー!?」

 

「いい買い物した」

 

「またすごい物を・・・まぁでも・・・いいか・・・んで、リリアは?」

 

「んふふ・・・みてみてこれ」

 

「め、めっちゃ笑顔だね・・・」

 

リリアはある1枚の写真と書類を渡した。

 

「えーっと・・・所持証明・・・Su-35BMフランカー・・・はァ!?」

 

「買っちゃった♡」

 

「買っちゃった♡じゃねーよ!ミグはどうするの!?」

 

「私ここに住もうかなって」

 

「えぇ!?」

 

「ちなみに私も賛成。」

 

「ハルもなの!?」

 

「お金にまだ余裕あるし家と格納庫を借りるのもアリかなって」

 

「いや・・・アリだけど・・・まぁいいか・・・トマホークもこの街気に入ってるっぽいし・・・」

 

「わん!」

 

「じゃ、この街に居を構えるということで」

 

「さんせーい!」

 

「私がトマホークと遊んでる間に何があったんだろうか・・・」

 

ちなみにマヤを連れてさっきの航空機ショップに行くと激レア物が!!とか叫んでヘリコプターを1機購入していた。

AH-64のまだAH-64という形で正式採用される前のプロトタイプの異世界から入ってきたオリジナルの機体が売られていたようだ。

名前はYAH-64だそうだ。

またトマホークはペット用の食べ物を売ってる店でお気に入りのご飯とおやつを見つけて完全に街に住み着く気だった。

だがこれで格納庫も借りて複数の機体を保持して安定してクエストに出られるため少し楽になったかも知れない。

 



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ペンギンの季節

フェアリィに居を構えると決めてから数時間後。

・・・この街結構家賃高い・・・

 

「ハル・・・高くない・・・?」

 

「・・・うん。仕事して余裕作らないと・・・」

 

とりあえずギルドに向かって何かいい仕事を探していると受付嬢がスピーカーから緊急クエストがあると話し始めた。

 

「緊急?」

 

「みたいだね」

 

なんて話をしていると隣の厳ついおじさんが話しかけてきた。

 

「ついにこの時期が来たんだよ・・・」

 

「え?この時期?」

 

「ヤツらがやって来るのさ・・・」

 

「いや・・・ヤツらってなに・・・」

 

「・・・ペンギンさ」

 

・・・ペンギン・・・?

 

「別名、無慈悲なペンギン・・・動くもの全てに死を届けるペンギンだ」

 

「何それ怖い!」

 

するとおじさんは1枚の写真を出す。

 

「・・・ミサイル?」

 

「あぁ、ミサイル型の魔獣だ。海の向こうから毎年飛んでくるんだ。一匹の被害は大したことないが・・・動くもの全てを狙って突っ込んでくるんだ」

 

「・・・それをどうしろと」

 

「決まってるだろ。街に到達する前に撃ち落とすんだ。毎年の大イベントだぜ!」

 

割とヤバい状況のはずなのにイベントで済ませるあたりが凄い。

 

「嬢ちゃん達はどうするんだ?」

 

「私は・・・」

 

トムキャットの燃料漏れを直せればすぐにでも上がれる。

リリアのフランカーはすぐにでも飛ばせる状況ではあるが・・・何しろロシア語なんて彼女は全く分からないだろう。

彼女の戦闘機を借りようにも私だってロシア語なんて全く分からない。

英語ですらやっとなのに。

 

「ねぇ、面白そうだしやらない?」

 

「面白そうってマヤ・・・」

 

祭りみたいな雰囲気らしいが・・・一応、この街はミサイル攻撃に晒されるという事だ。

この街に住もうとしてる私からすれば面白そうなんて言えたもんじゃない・・・。

 

「ちなみに報酬は参加者全員に300万フェアリィドルだ」

 

少し面倒ではあるが街ごとに通貨単位が違うが通貨価値そのものはほとんど変わらない。

街ごとにあるお金はある意味ご当地通貨のような物だった。

 

「300・・・」

 

300万フェアリィドルもあれば格納庫と家を借りてもお釣りがくる。

ただフェアリィの物価は高めなので手元にはあまり残らないが・・・。

 

「生活費のため・・・やろう、マヤ」

 

「そうこなくちゃね!おじさん!どこで参加申請すればいいの?」

 

「あそこのカウンターだ。グッドラック」

 

「ありがと!」

 

おじさんと別れて受付に向かう。

 

「そういえば、ペンギンっていつ来るんだろ・・・」

 

「さっき周りの人が話してたけど明後日なんじゃないかって。今朝、海の上を飛んでたウィッチが飛んでくるペンギンを見たんだってさ」

 

「いやー・・・でもホント、ペンギンって怖いねぇ・・・」

 

「異世界のペンギンは可愛かったけどね」

 

「あれは動物であってミサイルじゃないもん・・・」

 

「魔獣だし一応動物」

 

「動物ってのはトマホークみたいな子のことをいうの!」

 

「可愛がってる割には巡航ミサイルの名前付けてるけどね・・・」

 

なんて話しながら受付で迎撃参加の申請を済ませた。

受付嬢からはもしかしたら明日出撃の可能性もあると言われたために機体のレンタルに向かう。

 

「レンタルか・・・」

 

「どうしたの?」

 

「トムキャットあればいいんだけど・・・」

 

「だねー・・・私は違う機体もいいかなって思うけどね!」

 

「裏切り者」

 

「なんで!?」

 

「嘘だよ。でも私はやっぱりトムキャットがいい。」

 

「うー・・・なんかハルが取られるからモヤモヤするぅ・・・」

 

「なんでよ・・・」

 

なんてしてる間に空港に隣接するレンタル機の店に到着した。

数十種類の航空機が展示してある。

 

「いらっしゃいませ!レンタルですか?」

 

「あ、はい・・・えっと明日もしかしたらペンギン迎撃にでるかも知れないから・・・」

 

「ご自分の機体は?」

 

「今、燃料タンクから燃料漏れがあって整備中・・・明日整備は終わるんだけど間に合わないかもしれないから」

 

「なるほどなるほど・・・了解しました!ではどのような機体がお好みですか?」

 

「えっと・・・」

 

店員のお兄さんに物凄い営業スマイルで話しかけられ若干引きつつ、機体のカタログを見る。

 

「複座で・・・えっと・・・F-14Dとかはあります?」

 

「あー・・・F-14Dですと当店には無くてですね・・・複座でしたらこの機がオススメですよ!」

 

オススメされたのはF-18Fスーパーホーネット。

対地、対空、対艦など相手を選ばず、空中給油機としても使える何でも屋だ。

武装もかなりの量が搭載できる。

 

「ハル、ホーネットとかいいんじゃない?」

 

「うん・・・」

 

ちょっと魅力を感じてしまいトムキャットに対して罪悪感が湧く・・・。

 

「どうでしょう、いい機体ですよ!武装と燃料はお客様持ちですが機体のレンタル料は1日どれだけ使っても2万フェアリィドルですよ!」

 

・・・これにしよう。

 

「じゃあ・・・この機体で」

 

「ありがとうございます!では明日からのご利用で大丈夫ですか?」

 

「もし今日ペンギンが飛んできたら今日から借りるかも。」

 

「でしたら今日から利用できるようにしておきますね!機体はこの店の隣の隣の格納庫、3番格納庫に置いてありますので!燃料については最初はサービスで満タンにしておきます!」

 

「ありがとう・・・じゃ、マヤ行こう」

 

「あ、うん!」

 

私は店を出てリリアがいる格納庫に向かった。

そこでは何かの本を持ってコックピットで唸ってるリリアを見つけた。

 

「リリア」

 

「あ・・・ハル〜・・・」

 

「・・・なんで泣きそうなの」

 

「難しいよぉぉぉ・・・・」

 

「・・・」

 

だから言ったのに・・・

リリアが手に持っていたのはSU-27系統の航空機のコックピットにあるロシア語を翻訳した本だった。

 

「その本があるのになんでよ」

 

「だってスイッチの所もこんなよく分からない文字だし・・・」

 

「・・・」

 

衝動買いするからだ・・・と言いたかったがさすがに可哀想なのでやめた。

 

「エンジンはかけれるの?」

 

「うん・・・でも無線機とか武装がまだで・・・」

 

つまりは飛ぶ事自体は何とかなりそうなようだ。

だが無線機が使えないなら管制と交信できないため、そもそも離陸すら出来ないが・・・。

 

「がんばれそう?」

 

「なんとか・・・」

 

「無理しないでね」

 

「ありがと・・・でもハルが優しいのが怖い・・・」

 

「・・・」

 

コイツ人をなんだと思ってるんだ。

 

「マヤ、行こ」

 

「リリアも大変だねぇ・・・」

 

リリアの機体の下で欠伸をしていたトマホークを連れて街に向かう。

とりあえず泊まれる所を探そう。

 

「ねぇハル!フェアリィのお守り買わない?」

 

「お守り?」

 

「うん!妖精族が作ったご利益たっぷりのお守りがあるんだって!」

 

「そうなんだ。最近トムキャットの調子悪い時が多いし買っといてもいいかな・・・」

 

実際、燃料漏れが起きたりエンジンの調子が悪くなる時が最近多かった。

航空安全のお守りを買っておくが良いかもしれない。

 

「・・・それでマヤが案内したお守り売ってる場所ってここ?」

 

「うん!何かご利益ありそうな物いっぱいありそうでしょ!」

 

・・・ご利益があるかどうかは置いておいて宗教絡みの物は沢山ありそうだ。

何しろ黒魔術でもしてんのかって感じの佇まいの店だった。

というかカラスいっぱいいすぎじゃない・・・?

 

「入ろ!」

 

「え・・・う、うん・・・」

 

中に入るとお香の匂いでむせそうになった。

それぐらい強烈な匂いがしていた。

トマホークもかなり嫌そうな顔をしていた。

 

「マヤ・・・平気なの・・・?」

 

「え?うん。幼馴染の家がこんな匂いだったし」

 

「私ちょっとキツいから外でてる・・・」

 

「わうん・・・」

 

「えー・・・じゃあ外で待ってて!いいの探してくる!」

 

「あんまり頑張って探さなくていいからね」

 

その言葉を聞く前にどこかに走っていった。

 

「行こっか、トマホーク」

 

「わん!」

 

店の外に出てマヤをのんびり待つこと15分。

小さな袋を持って出てきた。

 

「お待たせ!」

 

「うん。何買ったの?」

 

「これ!」

 

出してきたのは異世界のお守りだった。

聞くと日本のお守りらしい。

よく見ると日本の言葉で何か書いてある・・・読めないが。

 

「三人分と・・・トムきゃんの分もあるよ!」

 

「意外とまともなもの買って驚いた」

 

「ひどい!」

 

そんな話をしているとケータイが鳴った。

相手はリリアだった。

 

「もしもし?」

 

『ハル!フランカーの動かし方覚えたわ!これから一緒に飛ばない?』

 

「え、まぁ・・・いいけど」

 

『じゃあ格納庫で待ってるから!』

 

そう言って電話は切られた。

まぁホーネットの操作に慣れないといけないのでちょうど良かった。

 

「夕暮れ時に模擬空戦か・・・」

 

「いいんじゃない?キレイな夕日見れるかも!」

 

「・・・まぁ・・・そうだね」

 

キレイな夕焼けを見れるということにして格納庫に向かう。

すでに機体は借りているので私達のトムキャットの隣に駐機してあった。

 

「あ!ハル!」

 

「お待たせ。模擬空戦の許可取らなくちゃいけなかったんだねこの街って」

 

「あ・・・もしかして申請してくれたの?」

 

「うん。リリアの事だからしてないって思って」

 

「うぐっ・・・今回ばかりは言い返せないわ・・・」

 

「それで、フランカーの調子は?」

 

「まだ飛んでないから何とも。練習空域まで慣熟飛行って感じね」

 

「分かった。それじゃ、上で会お」

 

「うん!」

 

リリアはフランカーに向かって走っていった。

私達もホーネットに乗り込む。

 

「うわぁ・・・パネルだらけ・・・」

 

「うん・・・一応マニュアルに目を通してきたけど操作に慣れるまで少しかかりそうだね」

 

「私も・・・」

 

トムキャットの時より少し手間取りながらエンジンを始動した。

 

「えっと・・・航法関係がこれで・・・」

 

「レーダー・・・これかな・・・?」

 

あまりにもディスプレイとそれのスイッチ類が多く何がなにやら分からなくなってきた。

 

「マヤ、OK?」

 

「何とかね!」

 

「了解、飛ぶよ」

 

「オッケー!」

 

タキシングして滑走路に向かう。

その後をフランカーがついてきた。

 

「フェアリータワー、こちらエンジェル0-1。申請した空域への出発許可願います」

 

《エンジェル0-1。滑走路17より離陸を許可。》

 

「エンジェル0-1、了解」

 

久々の夜間飛行になりそうだ。

滑走路に入り、スロットルを全開にした。

 

「テイクオフ・・・F-14と違って軽い気がする」

 

「やっぱ最新型なだけあるね!」

 

「うん。でもトムキャットのほうが好き」

 

「それは知ってる」

 

なんて話してるうちに高度は3000ftまで上がる。

 

「フェアリータワー、こちらエンジェル0-1。離陸完了」

 

《エンジェル0-1、了解。そちらの計画に従い飛行してください》

 

離れていくフェアリーの街を見ながら左に旋回して設定空域に向かう。

後ろからはフランカーが離陸してついてきた。

 

「リリア、フランカーの調子はどう?」

 

《なんて言うか・・・動きやすい・・・かな?》

 

「結構、機動性高そうだもんね」

 

《かなり高いわ。これなら今日は圧勝ね!》

 

「・・・」

 

そりゃ、推力偏向ノズル搭載機と比べられたら当たり前だ。

だけど、ホーネットも機動力では負けてない。

いい戦いになるかも・・・私はそう思いながら飛んだ。

 

「オートパイロットあるっていいよねー・・・」

 

「うん。楽」

 

《オートパイロットなんてずるい!!》

 

「使えばいいでしょ。そのフランカーならあるはずなんだから」

 

《そこまで全部操作覚えてきれてないのよー!》

 

「・・・あのね・・・」

 

オートパイロットの操作も知らずによく飛んだものだ。

別に知らなかったからと言って飛べないわけではないが・・・

 

「もうちょいで設定空域だよね」

 

「うん!あと10マイルかな!」

 

《私が勝ったらギルドで一番いい料理奢ってもらうから!》

 

「じゃ、私が勝ったら同じもの私とマヤに奢ってもらう」

 

《2人分はおかしいわよ!》

 

なんて話してると管制から無線が入る。

 

《エンジェルフライト。こちらフェアリータワー》

 

「フェアリータワーどうぞ」

 

《そちらの設定空域付近でウィッチが肉食系の翼竜に襲われていると報告あり。確認に向かってください。方位300、高度2000。距離5マイル》

 

「了解、マヤ、リリア。行くよ」

 

「オッケー!」

 

《ちょっとだけ模擬戦はお預けね!》

 

降下しつつ右旋回して確認に向かう。

 

「ハル!ドラゴンっぽい影が映ってるよ!」

 

「了解。アムラーム積んできて良かった」

 

薄暗い空。

何となく翼竜のようなものが見える。

 

「リリア、一旦空中待機。接近して確認するから攻撃可能なら撃って」

 

《了解!》

 

アフターバーナーに点火して一気に加速する。

数秒で目標に接近した。

 

「リリア、翼竜」

 

《了解!0-2、FOX3!!》

 

フランカーから自衛用に積んできたR-77が発射された。

レーダー警戒装置など無い翼竜にミサイルの接近は気づかれるはずもなく、翼竜は直撃を受け、バラバラに砕け散った。

 

「お疲れ様、リリア。」

 

《ふふん!どうよ!》

 

翼竜撃墜を喜んでいる時だった。

 

《こちらバッドウィッチ。獲物が罠に掛かった。》

 

「ん?」

 

「混線?」

 

《こっちには何も聞こえないわよ》

 

「でも今獲物が網にって・・・」

 

その時、前から黄緑に光る矢が飛んできた。

 

「!?」

 

すんでのところで回避する。

 

「魔法!?」

 

「まさか今のって・・・」

 

「ハル!下からウィッチみたいなのが4人!」

 

下を見ると小さな魔方陣を展開して飛んでくる物体があった。

箒のようなものも確認できる。

 

「リリア!魔女だよ!」

 

《魔女!?》

 

魔女とは、主に悪さをするウィッチの俗称だ。

大概は魔術を使い、街で強盗や誘拐などをするのだが、姿を消すことが出来る魔法があるため発見されにくい。

またレーダーに補足されないため、輸送機などを護衛機に気付かれずに撃墜したりすることもあった。

だが、戦闘機・・・しかも戦闘機の2機編隊を襲う事なんて滅多になかった。

 

「さっきの混線もしかして・・・」

 

「そのまさかだと思うよ。この魔女連中、空中管制機がくっついてる」

 

「魔女だけなら音速で逃げれたけど・・・」

 

ステルス機ではないホーネットやフランカーは相手の機種は不明とは言え、早期警戒機のレーダーで補足されてしまう。

多少なりともステルス能力はあるのだが・・・。

補足されている以上、逃げても逃げた場所に長距離攻撃用の魔法を撃ち込まれる可能性もあった。

 

「マヤ、逃げれない以上はやるよ」

 

「やるって・・・どっち?」

 

「両方」

 

「嘘でしょ!?せめて空中管制機だけとか・・・」

 

「のんびり探してる暇はない。今は目の前の敵に集中」

 

「あー・・・もう分かった!!」

 

魔女相手にミサイルは使えない。

武装を機関砲に選択した。

人を撃つのは気持ちのいいものではないがこの際仕方ない。

 

《ハル!後ろに2人!》

 

振り向くと魔法を使おうとしている2人がいた。

 

「くっ・・・!」

 

気休め程度に高温のフレアを撒く。

驚いて魔女は離れていく。

その間に急旋回して相手を探す。

 

「暗い・・・!」

 

「見つけた!2時方向!」

 

右を見るとこっちに向かってきていた。

手には短剣のような物が見える。

 

「インテークに放り込む気!?」

 

機体をロールさせると同時に相手は短剣を投げてきた。

あんなものでも吸い込めばエンジンが壊れてしまう。

それを相手は分かってるようだ。

 

「器用な真似するよねホント!」

 

「人間相手じゃ分が悪い・・・!」

 

高速で飛行する戦闘機とただ箒に跨った人間とでは逃げてもどちらが先に発見されるか目に見えている。

それに相手は空中で自由自在に動き回れる。

こっちは航空機。

魔女の箒ほど自由は効かない。

 

「やっぱ警戒機を探す!?」

 

「そのほうが良いかもね!」

 

《ハル!後ろにつかれた!助けて!》

 

「分かった!」

 

魔法を放てるまでタイムラグが少しあり、機動性の高いフランカーは何とか逃げ回れている。

だが、相手も馬鹿ではない。

少しずつ誤差を縮めてきていた。

 

「当たらないでよリリア・・・」

 

フランカーの進路を予測して旋回、通り過ぎる一瞬を狙う。

通り過ぎるまで2秒ほどだっただろう。

すぐにフランカーが通り過ぎた。

私はフランカーが通りかかった瞬間を狙ってトリガーを引く。

一瞬とは言え、それでも30発以上の20mm砲弾が魔女目掛けて発射された。

また通り過ぎる際に見えた魔女は私達よりすこし年下くらいの女の子だった。

迫ってくる戦闘機と発射された曳光弾を見ていた。

 

「ッ!!」

 

命中・・・だった。

人体を掠めただけで致命傷を与える事が出来る20mm弾。

それが直撃した。

 

「うッぇ・・・」

 

「ハル!?大丈夫!?」

 

「何とか・・・」

 

その時また混線で敵の声が入る。

こんどは明瞭だった。

 

《ミカの反応が消えた。ミカはどうしたのか》

 

《あ・・・アイツ・・・ミカを殺りやがった!!》

 

《あのホーネット・・・》

 

《許さない・・・!》

 

聞こえるのは私達に向けられた憎悪の声だった。

 

「ハル、後ろ!」

 

「くっ・・・!」

 

仲間の敵かこっちを全力で狙ってくる。

 

「リリア!敵はこっちを狙ってる!そっちはAWACSを探して!」

 

《で、でも・・・》

 

「こっちは大丈夫!なんとかなるから!」

 

《分かった!》

 

リリアの機体が離れていく。

だが敵はこっちに集中しているため気づいていない。

 

「親玉を落とせばあとは逃げるだけ・・・」

 

そう思い、後ろを警戒しながら攻撃を避け続けた。



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無慈悲はペンギン

「後ろ!!地味に速いよコイツら!!」

 

「こっちは500ノットだって言うのに・・・!」

 

魔女3人が食いついて離れない。

だが食いついているのは都合がいい。

その間にフランカーが早期警戒機を探してくれている。

 

「そのまま狙ってこい・・・そうすればこっちのモノなんだから・・・!」

 

危険だが敢えて逃げきれないフリをして飛ぶ。

ただそんな飛行の仕方に慣れてないので敵の攻撃魔法がギリギリで外れていく。

ほんの数センチで命中という時もあった。

 

「AWACSは見つけた?!」

 

《待って・・・レーダーコンタクト!》

 

「民間機かも知れないから長距離攻撃は禁止だからね!」

 

《分かってる!》

 

あとは撃墜を待つだけだ。

それにしてもこの魔女連中、対戦闘機なのに良く付いてこれるものだ。

高温の排気ガスを避けて真後ろにくっつかないし積極的にエアインテークを攻撃しようとしてくる。

航空機の弱点をしっかりと理解してるようだ。

 

「マヤ、もう1度フレア炊いたら急降下するからね!」

 

「りょーかい!!」

 

フレアを3発ほど発射してアフターバーナーに点火、急降下する。

機内に対地接近警報が鳴る。

 

「この辺りで・・・引き上げ・・・!」

 

4Gほどの重力を感じ少し気持ち悪くなる。

ただ、速度は乗った。

すこし引き離そう。

加速しながら逃げていると再び、敵の無線が聞こえてきた。

 

《敵戦闘機が接近している。貴様ら何を見ていたんだ!》

 

《え!?あ、クソっ!!フランカーが居ない!》

 

《私が追いかけるわ》

 

見上げると1人が離れていく。

今リリアを追いかけられるわけにはいかない。

 

「逃がさないから・・・今度はこっちの番だよ!」

 

反転して離れていく魔女を追いかける。

発砲はせずに高速で近くを追い抜いてやろう。

 

《マイ!そっちにホーネットが!》

 

《私はフランカーを追いかける、後ろはお願い》

 

《分かっ・・・クソ!速い!!》

 

何故私達だけに敵の無線が聞こえるのか分からないがこれは運がいい。

相手が何をしようとしているか把握できる。

 

「全部筒抜けだよ、間抜けめ」

 

数秒で目標を追い抜く。

近くを高速で追い抜いたため、衝撃波をモロに体に食らっていた。

 

《ちょっと、後ろはお願いって言ったわよ》

 

《速すぎなんだよ!》

 

《こちらバッドウィッチ!!敵戦闘機が更に接近!!お前ら何をしている!はやく接近する戦闘機を落とせ!!》

 

《ホーネットが邪魔で行けないんだよ!!》

 

《だったら体当たりでもなんでもして落とせ!!》

 

敵の怒鳴り声が無線から聞こえてきた。

どうやら連携が上手く取れていないようだ。

 

「チームワークならこっちの勝ちだね、ハル」

 

「うん。リリア、そっちは?」

 

《対象を目視!E-2よ!》

 

「分かった、撃墜して」

 

《りょーかい!!》

 

《このクソガキどもが!!さっさとこっちに来い!!この敵機に体当たりでも――――・・・・・・》

 

遠くで爆発閃光が確認出来た。

 

《撃墜!!キルマーク1追加ね!》

 

《バッドウィッチ!バッドウィッチ!!ちょっと・・・お父さん!!》

 

《ちくしょう!!》

 

《・・・私達の負けよ。》

 

《待てよ!まだ私は!!》

 

《ミカもパパもやられた。これ以上家族を失いたくないわ》

 

《クソッタレ!!》

 

その無線を聞かなかった事にして私達は上昇した。

魔女達もそれには付いてこなかった。

・・・家族だったのか。

私達が撃ったあの魔女も・・・。

 

「帰ろ、模擬戦は中止だよ」

 

《仕方ないわね・・・》

 

旋回して街への進路をとった。

 

「あの子に無線が聞こえてなくて良かったよね」

 

「うん・・・家族だったんだね・・・」

 

「襲ってきたほうが悪いけど・・・」

 

私が撃った魔女の事が脳裏に焼き付いていた。

でも戦闘機に乗っていく以上、人と戦わなくちゃいけない時もある。

納得するしかない。

 

「それにしても空中管制機と魔女がセットって新しいよね」

 

「ホントだよねー・・・」

 

本来は戦闘機の部隊を指揮したりする空中管制機が魔女を指揮するというは見たことがなかった。

 

「はぁ・・・真っ暗だね」

 

「真っ暗だけど・・・あ!ほら!星がきれいだよ!」

 

「ホントだ・・・」

 

「なんかハル疲れてる感じだね」

 

「ううん・・・大丈夫」

 

正直大丈夫ではないが・・・

何しろ仲間を守るためとは言え、人間相手に20mm弾をぶち込んだのだ。

嫌でも記憶に残ってしまう。

 

《はぁ・・・私も疲れた・・・》

 

「そういえばこの前もリリアと模擬戦したら賞金首が出てきたよね」

 

《うぐっ・・・!》

 

「あの時はトムキャット壊れて大変な目にあった」

 

《・・・》

 

「お金もすごいかかった」

 

《何よ!悪かったわよ!あの時はホント心から反省したんだから!!でも帰ったらギルドのいちばん高いメニュー奢ってあげるからもう許して!!》

 

「さすがリリアお嬢様!」

 

晩ご飯を強引に確保して街へ戻った。

今晩からペンギン迎撃に出る冒険者は基本的にギルド内で待機らしい。

かわりに食事やギルドの設備の温泉などは無料だと言う事だった。

 

「食事・・・無料じゃん」

 

「無料・・・だったわね」

 

「奢ってくれないから許さない」

 

「酷くない!?」

 

空港に着陸し、ホテルに預けていたトマホークを連れてギルドに魔女が出たと言う事とその時のガンカメラの映像を提出して情報提供の報酬を5万フェアリィドルほど貰った。

そしていざリリアにめちゃくちゃ高い料理奢ってもらおうと意気込んでいたらまさかの無料提供だった。

 

「ま、まぁハル、ご飯タダで食べれるわけだし・・・」

 

「マヤは分かってない。人のお金で食べるタダ飯ほど美味しいモノは無いって」

 

「ハル!?」

 

「・・・私最近ハルが怖い・・・」

 

なんて3人でワイワイ言いながらご飯を食べる。

 

「それにしても・・・暇だね」

 

「うん。迎撃まで待機だからね」

 

「ふぁ・・・トマホーク連れてきてて良かったわね」

 

「くぁ・・・」

 

リリアの欠伸に釣られてトマホークも大欠伸をしていた。

時間は深夜の1時。

周りの冒険者も所々寝始めていた。

いつ飛ぶかも分からないため、お酒は禁止と言う事でいつもは賑やかなギルド内が静かだった。

 

「温かいお布団で寝たい・・・」

 

「ペンギン来たらすぐ飛ばなきゃいけないんだから我慢する」

 

「うぅー・・・」

 

私もそろそろ眠くなってきた。

寝れるうちに寝てしまおう。

 

「マヤ、もう寝よ」

 

「ハルと一緒の寝袋入る!」

 

「狭いから駄目」

 

「やだぁ!ハルと寝るのぉ!!」

 

「駄々こねるなら40000フィートくらい高さからスカイダイビングさせるよ・・・水着姿で」

 

「それは普通に死ねる!!分かったよ・・・1人で寝るもん・・・ぐすん」

 

大人しく寝袋にくるまったのを確認して私も寝袋に入った。

疲れていたからかすぐに意識が飛んだ。

 

「ハル!!ハル!」

 

「ん・・・」

 

目を覚ますと周りが慌ただしい。

 

「来たって!今受付のお姉さんが!」

 

「ん・・・分かった。リリアは準備いいの?」

 

「私はいつでも!マヤを起こさないと!」

 

「分かった。リリアは先に格納庫に」

 

「分かったわ!」

 

「マヤ、起きて」

 

マヤを起こそうと揺さぶるとスピーカーからペンギン接近のアナウンスが流れた。

 

《フェアリィの南、200マイル地点でペンギンの群れを補足しました!冒険者の皆さんは直ちに離陸、迎撃に向かってください!》

 

200マイル・・・かなり近い。

ただ、写真を見る限り小型のミサイルという感じなのに200マイルも先から街を狙ってくる・・・。

射程だけなら巡航ミサイル並だ。

武器ではなく魔獣ではあるが・・・。

 

「マヤ、起きてってば」

 

「んー・・・?」

 

「よくこの中で寝れるね・・・」

 

「ふぁぁぁ・・・んにゃ・・・どしたの?」

 

「どしたのじゃない。ペンギン」

 

「え!?マジで!?」

 

「周りが慌ただしいんだから気付こうよ」

 

まわりの冒険者は我先にと格納庫に向かっていく。

撃墜数が多い人、もしくはそのパーティには特別報酬が支払われるからだ。

毎年特別報酬の内容は違うが今年は異世界から入ってきた新型航空機だと言う。

 

「さぁ、行くよ」

 

「ちゃっちゃと終わらせて朝ごはんだね・・・ふぁ・・・あ!トマホークは私達が帰ってくるまで待っててね!」

 

「わん!」

 

トマホークは分かりましたと言わんばかりにキリッとお座りをした。

私達はそれを見て格納庫に急ぐ。

 

「出遅れちゃったね!」

 

「まだ間に合うよ。フェアリィタワー、エンジェル0-1」

 

《エンジェル0-1どうぞ》

 

「エンジンスタートの許可願います」

 

《エンジェル0-1、エンジンスタートを許可。準備が出来次第、タキシングを始めてもらって構いません。滑走路35に向かってください》

 

「了解」

 

素早く必要なスイッチを弄り、エンジンをスタートさせる。

 

「0-2、リリア。聞こえる?」

 

《こちら0-2!聞こえるわ!》

 

「先に上がって。上で合流しよ」

 

《分かったわ!フェアリィタワー、エンジェル0-2。離陸許可願います!》

 

《エンジェル0-2、滑走路35より離陸を許可します》

 

爆音とともにフランカーが離陸していく。

私達もエンジンの回転数が安定してきた。

 

「よし・・・行こう」

 

《ガーゴイルフライト、滑走路進入を許可。続けて離陸してください。全機、離陸後は空中管制機の指示を受けてください》

 

次々と戦闘機が離陸していく。

空はまるで戦闘機の見本市だ。

 

「トムキャットで出られないのが残念・・・」

 

空にはトムキャットの編隊もいた。

その中に交じれて飛べたらどんなに楽しいだろう・・・。

そんなことを思いながら滑走路に向かう。

 

《エンジェル0-1、離陸を許可します》

 

「離陸許可、エンジェル0-1」

 

滑走路に入るとすぐにアフターバーナーを点火、急加速して一気に離陸する。

 

《こちら王国軍所属、空中管制機サンダーヘッド。迎撃に上がった航空機に告ぐ。現在、ペンギンは150マイルまで迫ってきている。数は400以上確認。》

 

王国軍のAWACSが出てくるとは・・・随分と大きなイベントだ。

滅多な事が無ければ冒険者に関わる事がない王国軍が空中管制機を派遣するなんて珍しい事だった。

 

《なお、撃墜スコアについてはこちらと地上管制で記録している。各員の健闘を祈る》

 

「やるからには1位を目指すよ。マヤ、リリア」

 

「おっけー!」

《そう来なくちゃね!》

 

なんて話してると後ろからトムキャットの編隊が近づいてきた。

腹にはフェニックスが4発ずつぶら下げられていた。

 

《トリガーより全機、槍を放て》

 

無線からそんな声が聞こえると同時にミサイルが連続発射される。

トムキャットは同時に複数の目標を攻撃出来る。

4機から4発。

計16発が発射された。

 

「先を越されたよ!」

 

「大丈夫、まだ慌てなくて」

 

私は加速して目標との距離を詰めていく。

武装はサイドワインダーが2発にアムラームが8発。

スパローが良かったのだが在庫が無いと言われて仕方なくアムラームを積んできた。

 

「それにしても相手が相手だからただの鴨撃ちだよねー・・・」

 

「もしかしたらマヤみたいにしぶといのが居るかも知れない」

 

「何それ酷くない!?」

 

「ふふっ、嘘だよ」

 

「私傷ついた・・・もうハルのおっぱいでも揉まないと生きていけない」

 

「そう。分かった。マヤをベイルアウトさせる」

 

「ちょっ!!嘘だから!!」

 

「本気だったらベイルアウトさせたあとにインテークに吸い込ませる」

 

「ひどい!!色んな意味でひどい!!」

 

なんて話してるとレーダーに目標が映る。

 

「マヤの処刑は後にしといて目標補足だね」

 

「処刑・・・後回し・・・怖い・・・」

 

「全部冗談だからしっかりして」

 

「うぅ・・・ハルが怖いよ・・・」

 

なんて言いながらもマヤはしっかりと武装の準備を進めた。

 

「どれを撃とうかな・・・」

 

レーダーには無数の光点が映っている。

 

「この集団は?50以上集まってるっぽいし・・・上手く行けば誘爆で2〜3匹はいけるんじゃない?」

 

「だね。それを撃とうか」

 

「了解!マスターアームON!」

 

「射程まではもうちょっと・・・」

 

武装をアムラームに選択して射程に捕らえるのを待つ。

遠くではすでに爆発閃光が確認できた。

先に上がった戦闘機乗り達が交戦を始めたようだ。

 

「始まったねー・・・」

 

「出遅れた」

 

「まぁほら!300万フェアリィドル手に入ると思えば!」

 

「まぁね・・・」

 

その時、HUDの表示が変わる。

ロックオンしたようだ。

ミサイルの最大射程でのロックオンだが相手は直進してくる魔獣。

発射しても問題無く命中するだろう。

 

「マヤ、1発撃って様子を見るよ」

 

「了解!用意よし!」

 

「FOX3」

 

翼から1発のアムラームが発射された。

白い尾を引いて目標に向かう。

 

「飛翔時間20秒・・・」

 

時計を見ながらそうつぶやく。

周りも射程に捕らえた機からミサイルが発射されていた。

 

《捕らえたわ!FOX3!》

 

リリアもミサイルを2発発射していた。

周りを確認しているうちにミサイルは目標に到達する時間になった。

 

「さて・・・当たるかな」

 

そう思った時だった。

レーダーから自分が発射したミサイルが目標と重なり消えるのと同時に見たことないほど大きな爆発が起きる。

レーダーからは無数の光点が消える。

 

「え・・・!?」

 

「な、なにあの爆発!!」

 

《こちらサンダーヘッド、エンジェル0-1の撃墜数150以上を確認。トップだ。》

 

《ちくしょう!あのラッキーガール、無慈悲なペンギンの亜種を落としたみたいだ!》

 

「・・・・・・」

 

あまりの出来事に言葉を失う。

 

《ついに来たのか・・・あの伝説のペンギンが・・・》

 

《あんなもの落ちたら街なんて消し飛ぶぞ!!》

 

伝説やら無慈悲やらの単語が飛び交い1体なんの事か処理できない。

それよりもなんだあの威力は・・・。

 

「・・・ハルって強運なんだね」

 

「・・・それは撃墜数トップってこと?」

 

「色んな意味で・・・」

 

勘弁してくれ。

心の底からそう思った。

これから住もうという街にあんなもの来たらたまったもんじゃない。

 

「とりあえず・・・トップだし、撃墜数稼ごうか」

 

「了解!」

 

加速して目標に向かう。

 

《ラッキーガールに離されるな!男の意地だ!負けるなよ!!》

 

《了解、ボス!》

 

後ろからは多種多様な航空機が追いかけてきた。

その時、予想もしてない無線が入ってきた。

 

《ちくしょう!!今年のペンギン、航空機を狙ってきやがる!!》

 

《グール3!ブレイク、ブレイク、ブレイク!!》

 

《こちらサンダーヘッド、ペンギンの速度が上がった・・・航空機を狙っているペンギンが・・・ダメだ、速い!!数は複数、複数だ!!避けろ!!》

 

《避けきれない!!》

 

《うわぁぁぁぁぁ!!!――――・・・・・・》

 

《スピアフライトがレーダーからロスト。フェアリィ、SARヘリを発進させてくれ。》

 

《こちらフェアリィタワー、ネガティブ。ヘリは飛ばせません》

 

無線から聞こえた内容はペンギンが空対空攻撃をしてきたという事だった。

動く物全てを攻撃する無慈悲なペンギン・・・

実際に、狙った相手には慈悲のかけらもない体当たり攻撃をしてくるのだろう。

すでにペンギンとの距離はかなり近くなっていた。

 

「リリア!狙われたら逃げて!!」

 

《分かってるわよ!》

 

《誰か助けて!!ペンギンが!!うわぁぁぁぁぁ!!!―――・・・・・》

 

数キロ先で航空機が炎に包まれた。

機動力はサイドワインダー並だ。

 

「どうしたら・・・」

 

《2匹編隊からすり抜けた!街に行くぞ!!》

 

《こちらサンダーヘッド、迎撃に向かえる機はあるか?》

 

《分かった、分かった!今から行く!》

 

ペンギンを撃墜した時の爆発と撃墜された戦闘機の爆発で空が黒い煙で暗くなっていく。

 

「ハル!ペンギンがこっちに!!」

 

「え!?」

 

よそ見をしてる間にペンギンが後ろに食いついて来た。

 

「しまった!」

 

《ハル、援護に!!》

 

「私は大丈夫!街に向かうのをお願い!!」

 

《でも・・・》

 

「私は大丈夫だから!」

 

《・・・分かった!》

 

コックピットのミラーで後ろを確認すると2匹が食いついていた。

 

「食いついたら離さない上に無慈悲な体当たり攻撃なんてシャレになんないよー!!」

 

「喚いてないで後ろ見てて!!」

 

「しっかり見てるから!!」

 

フレアを撒いてみるがまるで効果が無かった。

 

「生き物だから当たり前か・・・!!」

 

「近い近い近い近いぃぃ!!」

 

「後部機銃付けてくれたら200万出してもいいよ!!」

 

「冗談言ってる場合じゃないから!!」

 

「冗談でも言わないと気が狂いそうなの!!」

 

ミサイル警報は当たり前だが鳴らない。

だからまだ向こうはこちらを補足してるのかすら分からない。

いつまで追いかけられるのか・・・頭の中は恐怖でいっぱいだった。

 

「避けれますように・・・!」

 

そう神頼みして右に旋回しながら急降下に入ろうとした。

だが、無情にもペンギンは左翼のすぐ近くで爆発した。

連鎖するようにもう1匹も。

左のエルロンが吹き飛ばされた。

コックピットに警報が鳴る。

 

「被弾!被弾!!」

 

《ハル!!》

 

「大丈夫!陸地まで飛べるから!!」

 

「ハル!燃料が漏れてる!!」

 

「クソっ・・・!!」

 

陸地まではほんの数十キロ・・・。

 

「マヤ、トムキャットじゃなくて良かったね!」

 

「どういうこと!?・・・って、火災!第1エンジン出火!!」

 

「エンジンカット!滑空で陸地までは飛べるから!」

 

「分かった!ハルを信じるよ!」

 

ガタガタと揺れる機体で何とか飛び続ける。

幸い、ペンギンから距離を取れたので狙われる事は無さそうだ。

交戦空域から少し離れられた。

 

「街まで帰れそう?」

 

「・・・無理かも」

 

「ベイルアウトは?」

 

「・・・この際仕方ない。陸地に入ったら脱出しよう」

 

「分かった!リリア、私とハルはベイルアウトするから救難ヘリお願いね!」

 

《だ、大丈夫なの?!》

 

「借り物の機体だけど・・・仕方ないよ」

 

「こりゃあとで弁償だよね・・・」

 

「・・・その時はフェアリィから別の街にでも行こう」

 

「・・・そうだね・・・っと・・・電気系統がなんか・・・」

 

「うん・・・ヤバいかも」

 

HUDがついたり消えたりを繰り返している。

レーダーはすでに消えていた。

 

「ベイルアウト・・・今からする?」

 

「うん。でももう少し高度を下げる」

 

鳴り響く警報の中高度をなるべくゆっくりと下げていく。

エンジンの火災は何とか鎮火したが操縦桿の効きが鈍くなっている。

 

「高度・・・3000フィート・・・マヤ、脱出するよ!」

 

「りょ、りょーかい!」

 

私は脱出レバーを引く。

その時脳裏に昔見た悪夢を思い出す。

私は脱出出来てマヤが脱出出来ない悪夢・・・。

だがレバーは引いてしまった。

キャノピーが吹き飛ぶ。

 

「ッ!!」

 

そして強烈なGを感じながら打ち出される。

目を開けると回転しながら落ちていくホーネットと無事脱出出来たマヤを確認できた。

 

「良かった・・・」

 

《ハル!!》

 

「大丈夫、リリアは交戦を続けて」

 

《必ず迎えに行くから!》

 

「分かってる」

 

下を見ると森が広がっていた。

降りたあと座席部分を探してサバイバルキットを回収しないと・・・

脱出した高度が低かったため、地上にはすぐに着いた。

だがそこからが運が悪かった。

木にパラシュートが引っかかってしまった。

だが幸いにもすぐ目の前に座席があった。

 

「こんな時に・・・」

 

「ハルー!どこー!?」

 

「こっち!木の上!!」

 

大声でマヤを呼んだ。

 

「どこー?っていた!」

 

「降りれない・・・」

 

「ナイフで紐を切らないと!」

 

「分かってるけど・・・」

 

その肝心なナイフが座席の中なのだ。

携帯しておけば良かった・・・。

 

「どしたの?」

 

「ナイフがないの。マヤは装備回収してきてていいよ。私は何とかするから」

 

「大丈夫?」

 

「うん、大丈夫」

 

マヤが自分の装備を回収しにいく間に何とかパラシュートを体から外した。

 

「よっ・・・と」

 

木を滑るように降りた時に何かが足に当たった。

当たった場所が焼かれるように熱い。

 

「あっッ!?」

 

見ると細いが尖った木の枝が足に刺さっていた。

 

「痛ッ・・・!なんでこんな時に・・・!」

 

傷を抑えているとそこにマヤが戻ってきた。

 

「ハル!?大丈夫!?」

 

痛そうにしている私を見るなり走ってきた。

 

「だ、大丈夫・・・」

 

「大丈夫じゃないよ!血が!!」

 

痛くて目を開けれなかったが下を見ると小さな血溜まりが出来ていた。

 

「止血しないと・・・!!」

 

マヤは装備品から止血帯と包帯、消毒液を取り出した。

 

「ハル、言っとくけど痛いよ!」

 

「わ、分かってる・・・」

 

マヤは先に刺さっている枝を抜こうとしてくれていた。

正直、枝に触れただけでも痛い。

 

「いくよ・・・1・・・2・・・」

 

私は痛みを想像して目を強くつぶった。

 

「3!!」

 

「いッた、あああぁぁ!!」

 

「抜けた!もう大丈夫!」

 

「あッ・・・ぐぁ・・・い、痛い・・・よ!!」

 

「痛いっていうのは生きてる証拠なの!」

 

「分かってるよ・・・!」

 

激痛で涙が止まらない。

汗も吹き出てきた。

 

「ハル、ごめん、傷の位置が悪くてズボン履いたままだと包帯が巻けない・・・」

 

傷は右足のほぼお尻に近いところにあり包帯がかなり巻きにくそうだ。

 

「ズ、ズボン脱げ・・・っていうの・・・?」

 

「えっと・・・うん」

 

「・・・いいよ、どうせお風呂だってたまに一緒にはいるんだし・・・」

 

ズボンをずらして傷が見えるようにする。

まだ出血は続いていた。

 

「消毒はしたからあとは・・・」

 

マヤは優しく包帯を巻いてくれる。

 

「キツくない?」

 

「んっ・・・大丈夫」

 

「ホントに?」

 

「うん。ちょっとくすぐったいだけ」

 

すぐに包帯は巻き終わった。

 

「ハルの装備も回収してくるね」

 

「うん・・・お願い」

 

マヤは目の前にあった座席の収納部分から色々と持ってきてくれた。

 

「これ、使わないと思ってたのにね・・・」

 

「面倒くさがってトムキャットから積み替えてないなんて事してなくて良かったね!」

 

そう言ってマヤはPDWくらいのサイズにカスタムしたM4A1を渡してくれる。

 

「なるべく私が頑張るから!」

 

「うん、でも無茶はしないように」

 

「分かってるよ!」

 

マヤは私に方を貸して移動を始める。

 

「とりあえず開けた所に言ってヘリを待とう」

 

「そだね!」

 

私は食料や医薬品を詰めたバッグを背負って歩き始めた。



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ベイルアウト

最近、Escape from Tarkovが楽しすぎて休みの日は1日中やってる人です(笑)
一昨日、InterchangeからスタンダードM4を4つ近く回収できた時は笑いが止まらなかった


「ハル、足は大丈夫?」

 

「痛いけど・・・大丈夫」

 

ベイルアウトして降りた森をひたすら歩く。

とにかく開けた場所にでて信号弾でも上げるか、村を探して助けてもらうか・・・。

 

「まったく運がいいのやら悪いのやら・・・」

 

「死ななかっただけ運がいいよ!」

 

「・・・まぁね・・・」

 

一歩間違えたら死ぬ状況だったのは間違いない。

 

「はぁ・・・結構寒いね」

 

「早めに休めるところ探そう」

 

「そだね!」

 

私はまだ痛む足を少し引きずりつつ進む。

その時、遠くから話し声が聞こえてきた。

 

「なんの声だろ・・・」

 

「村かも・・・行ってみる?」

 

「だね!」

 

声の聞こえる方向を頼りに警戒しながら進んでいく。

声からして複数人の男のようだ。

 

「ハル、足は大丈夫?」

 

「ん・・・何とかね」

 

「無理・・・しないでね」

 

「言われなくても分かってるよ」

 

マヤはかなり心配しているようだ。

私も正直、時間が経つにつれて痛みが増している気がする。

木が刺さったのだからもしかしたら破片が残っているかも知れない・・・。

 

「感染症になる前に帰らないと・・・」

 

まともに消毒も済ませてないので感染症が心配だ。

 

「マヤ、弾薬は?」

 

「どうしたの?」

 

「もし声の先に敵がいたら弾薬が必要でしょ」

 

「それなら大丈夫だよ!」

 

マヤは小型のチェストリグを指さして得意げな顔をする。

30発入り弾倉が6つは入っている。

私はそんなに要らないと4つほどしか持っていない上に怪我をしているから戦闘になったらマヤ任せになるだろう・・・。

 

「M4も買ってて良かったよね!」

 

「うん、まさか使うことになるなんて思ってもなかったけど」

 

「あはは・・・そだね・・・」

 

草むらをかき分けて進むとすこし前が開けてきた。

同時に声の主を確認できた。

耳を済ませて内容を聞く。

 

「そういえばさっきよ、この近くにホーネットが落ちてたぞ」

 

「ホーネット?あぁ、ペンギン迎撃隊のか?」

 

「あぁ、しかもパイロットは脱出してた。パラシュートを見たからな」

 

「なるほどな・・・んで、どうしたいんだ?」

 

「それがよ!パイロットが2人ともいい感じに若い女の子なわけよ!」

 

「ほぉ・・・」

 

「どうよ、捕まえて1発」

 

「森の中なら分かりゃしないわな。よし、コブラの準備だ」

 

「さすが兄貴!」

 

・・・ヤバい。アイツら山賊だ・・・。

しかも捕まるとろくな目に会わない・・・。

 

「ハル!ヤバいよ捕まると!」

 

「・・・想像もしたくない」

 

なるべくなら逃げたいが、運がいいのか悪いのか、目の前にはAH-1Sが駐機してある。

どうやらここは山賊のキャンプのようだ。

弾薬箱や燃料の入ったドラム缶があった。

パイロットらしき2人以外にも、もう3人ほど確認できた。

 

「マヤ、やれそう?」

 

「・・・サプレッサーでもあれば良かったんだけどね・・・」

 

「そんなものは無い」

 

「知ってるよ!でもAHを奪えれば・・・」

 

「そのままフェアリィに帰れる」

 

「・・・やるしかないかぁ・・・」

 

相手の武装を見た感じ拳銃メインのようだ。

離れたところにAK-74らしき小銃も確認できる。

いや・・・若干弾倉の曲がっている角度が大きいためAK-103かもしれない。

どちらにせよ、生身に弾丸なんてまともに喰らえば1発で致命傷だ。

 

「私は後ろから援護するよ」

 

「りょーかい、切り込みは私だね」

 

「・・・幸運を」

 

「ハルこそね!」

 

私はゆっくりと射線を確保できる位置に移動する。

 

「おーい!20mmの補給終わってねーぞー!」

 

「待ってくれ!まだASRの装填が終わってないんだ!」

 

敵はこっちの存在に気づいていないようだ。

私は太い木の後ろに隠れる。

ここならマヤを確認できるし射線も確保できる。

マヤからは準備よしのハンドサインが見えた。

それと同時に先に撃ってというサインも。

 

「すー・・・ふぅ・・・」

 

息を整えて狙いを定める。

最初に私たちを捕まえようと話していた男を狙う。

 

「これお前徹甲弾じゃねーかよ!榴弾だっつったのに!!」

 

「仕方ねーだろ、最近のパトロールは装甲車で動いてんだから」

 

「んな事言ったってこれじゃ狩りできねーよ・・・」

 

呑気に弾薬について話している。

ゆっくりと引き金に力を込める。

 

「・・・おやすみ」

 

弾丸が打ち出される。

それはまっすぐ男の頭を捉えた。

 

「んな!?て、敵襲!!」

 

倒れた男を見て敵は慌て始めた。

そこにマヤが突入した。

 

「女!?」

 

「ごきげんよう!そしておやすみ!!」

 

銃撃戦が始まる。

すでにマヤが1人倒した。

あと2人だ。

 

「闇雲に撃つな!狙撃手がいるんだぞ!!」

 

「ちくしょう!どこから出てきたあのアマ!!」

 

「さっきのホーネットの奴だろうよ!!」

 

「増援だ増援!!もう一機のコブラ呼べ!!」

 

大声で話してくれるおかげで位置はバッチリだ。

マヌケめ。

狙いを定めた時だった。

 

「いたぞ!あの木の裏だ!」

 

見つかった。

火力がこっちに集中する。

・・・それだけならよかったが・・・

 

「あぐっ!!?」

 

木の薄い部分を貫通した弾がお腹に当たる。

当たった部分が焼けるように熱い上に痺れてきた。

 

「う、撃た・・・れた・・・!?」

 

服が血に染まっていく。

 

「ハル!!」

 

「わ、私は大丈夫!!」

 

そう叫ぶが大丈夫なわけない。

 

「し、止血・・・!」

 

まだ痺れているおかげで痛みはあまりない。

アドレナリンが出ているせいかもしれないが。

 

「く、うぅ・・・」

 

それでも苦しい。

それに出ていく血の量を見ただけで気が遠くなる。

私は近くにあった小さめの石を傷口に入れる。

 

「ぐ、あぁぁぁ!!」

 

激痛が走る。

いくら小さいとはいえ、石だ。

そんなもの傷口に入れて痛くないわけがない。

 

「ハル!!ねぇ!!」

 

「はァ、はぁ・・・だ、大丈夫・・・」

 

気づけば銃撃戦の音は止んでいた。

マヤが仕留めたようだ。

 

「石じゃだめだ・・・そ、そうだ・・・」

 

傷口には泥を刷り込んだほうがいいという話を聞いた記憶がある。

血で泥になった所を取って傷口に刷り込む。

 

「い、つぅ・・・!!」

 

そのまま上着を脱いで傷口に強く巻き付ける。

お腹が苦しいが仕方ない。

そこにマヤが駆けつけてきた。

 

「ハ、ハル!?撃たれたの!?」

 

「う、うん・・・」

 

「ど、どうしよう・・・!」

 

「ダクトテープ・・・ないか見てきて」

 

「ダクトテープ!?わ、分かった!」

 

私はテープで傷口を塞ぐ事にする。

やはり服で締め付けたところで血は止まらない。

ただ、さっきよりは出血量が減っている。

幸い、大きな血管や内蔵は傷つけていないようだ。

 

「ハル!あったよ!!」

 

すぐにマヤが帰ってきてくれた。

 

「ありがと・・・うぐ、ぅ!」

 

痺れが引いてきて代わりに痛みが増してくる。

 

「ハル、とりあえずヘリに行こう!」

 

「うん・・・!は、ぅ・・・!!」

 

シャツを脱いで傷口にガーゼの代わりに当ててテープでぐるぐる巻きにする。

 

「これで・・・なんとか・・・」

 

マヤに肩を貸されてヘリまで移動した。

 

「ハル、すぐに街に帰るから頑張って!!」

 

「大丈夫・・・まだ・・・いける・・・」

 

マヤは急いでエンジンを始動させる。

「N1回転数アップ・・・ハル!痛いと思うけど頑張って!!」

 

「大丈夫・・・大丈夫だから・・・」

 

正直、大声だして泣きたいレベルで痛い。

 

「ふぅ・・・ふぅ・・・」

 

呼吸すら苦しい。

 

「よし!テイクオフ!!」

 

ヘリはゆっくりと上昇して加速していく。

 

「フェアリィまであと150km・・・!ハル!あと1時間もあれば帰れるから!!」

 

「大丈夫、出血は止まったから・・・」

 

幸いにも血は止まってくれたおかげで失血死だけは免れそうだ。

痛みで泣きそうだが。

 

「お願いもっと早く飛んで!!」

 

「焦らないで・・・マヤ・・・」

 

「でも!!」

 

その時、コックピットに警報が鳴る。

後ろを見るともう一機のコブラが追いかけてきていた。

おまけにサイドワインダーまで装備してある。

 

「ど、どうしよう・・・!」

 

「マヤ、機体を180度旋回・・・」

 

「ハル!?」

 

「大丈夫・・・やれる」

 

「違うよ!そんな事したら撃たれて!!」

 

「もうロックされてる・・・大丈夫・・・」

 

「大丈夫じゃないよ!逃げないと死んじゃう!!」

 

「・・・どうせ死ぬならさ・・・抵抗しないと・・・」

 

「え・・・?」

 

「どうせ、落とされて死ぬなら・・・抵抗しないまま落ちるのと抵抗して戦って落ちるなら・・・私は戦うほうがいい・・・」

 

「・・・あぁもう!ハルのイケメンさには心底惚れるよ!!帰ったら寝かさないから!!」

 

「・・・怪我人は労わってよ・・・」

 

マヤは機体を素早く180度旋回させる。

同時にミサイル警報が鳴る。

 

「発射・・・!」

 

バルカン砲を真正面に固定してトリガーを引く。

その射線には敵のコブラも入っている。

 

「ちくしょー!こっちも発射だ!!」

 

マヤもロケット弾をばら撒く。

すると機体の目の前で爆発が起きる。

対空ミサイルを迎撃できた。

同時に敵のコブラは火を吹いて落ちていった。

 

「ふぅ・・・はぁ・・・撃墜マーク1・・・だね」

 

「はぁ・・・だね・・・それよりもハルは大丈夫?」

 

「なんとか・・・血は止まったけど正直大声で泣きたいほど痛い・・・」

 

「頑張って・・・」

 

「大丈夫・・・私たちラッキーガールだから・・・」

 

「そうだね・・・ってハル、なんか元気ないけど・・・」

 

「わかんない・・・ちょっと疲れた・・・」

 

「え、まって!!寝ちゃダメだよ!!ハル!!」

 

「耳元で叫ばないで・・・起きてる・・・よ・・・」

 

何故だか意識が遠くなる。

マヤの声も遠くに聞こえてきた。

 

「ハル!!ねぇ!!ハル!!やだよ!死んじゃやだ!!」

 

勝手に殺すな。

そう言いたいがそのまま意識が飛んだ。

 

 

 

「・・・・・・?」

 

電子音が聞こえる。

ここが天国・・・?

目を開けると天井が見えた。

あと点滴も。

 

「・・・病院・・・?」

 

何かがお腹に乗っている感覚がしてそちらを見るとマヤが私のお腹の上で寝ていた。

時計を見るとあの撃墜された日から2日経っていた。

 

「マヤ・・・?」

 

「ん・・・」

 

軽くゆすると目を覚ましてくれた。

 

「ハル・・・?」

 

「うん。おはよ」

 

「ハ、ハルー!!うわぁぁぁん!!」

 

「わぷっ!」

 

思いっきり抱きつかれた。

 

「死んじゃったと思ったよぉぉぉ!!」

 

「大丈夫、生きてるから」

 

そこに医者が入ってきた。

 

「起きたみたいですね、ハルさん」

 

「おかげさまで」

 

「あなた、本当に幸運でしたよ」

 

「え?」

 

「弾は臓器をどこも傷つけること無く、しかも体内で破片を撒き散らすことも無く貫通してましたから」

 

「えぇ・・・」

 

「あと、途中で気を失ったのは足に刺さった木のせいですね。アレは睡眠薬になる樹液を持っているので」

 

「そうなんだ」

 

「とりあえず明日にでも退院出来るので大丈夫ですよ」

 

「良かった」

 

医者は部屋を出ていった。

 

「マヤ、心配掛けてごめんね」

 

「ううん、大丈夫!私はハルなら大丈夫って信じてたから!それよりもリリアがね・・・」

 

「どうしたの?」

 

「帰った時、とんでもないくらい大泣きしてて今日なんて泣きすぎて熱出して寝込んじゃってるよ」

 

「えぇ・・・あ、そうだ、ホーネットは・・・」

 

私の1番の心配事だった。

借り物のホーネットを落としたとなると幾らかかる事か・・・

 

「あー、それなら乗ってきたAH売って弁償したよ?何かあのホーネットも大量生産されてきたから安くなるんだって!でも今回は不慮の事故ってことで20万フェアリィドルで大丈夫だったよ!」

 

「そうなんだ・・・良かった」

 

「あ、それで家はどうする?」

 

「あ・・・えっと、やっぱテキサスに帰りたい」

 

「え?」

 

「・・・もうペンギンを見たくない」

 

「あ、あはは・・・そだね・・・」

 

とりあえず明日退院出来るなら良かった。

・・・ペンギン恐怖症になったのは間違いない。

 

「じゃあハル、ゆっくり休んでね!トムきゃんはもう直ってるから!」

 

「うん、ありがと」

 

私はもう一眠りする事にした。

はやくテキサスに帰りたい・・・。

 

 

 

「ん・・・」

 

朝日で目が覚める。

現在時は朝の5時。

まだ早いが目は覚めた。

 

「退院の準備・・・」

 

とは言ってももう荷物もまとまっているので特にすることもないが。

暇つぶしに携帯電話でも弄ろうかと思ったらベイルアウトした時に壊れたのを思い出した。

もう1度寝ようと思っても完全に目が覚めてしまっている・・・。

 

「暇だ・・・」

 

なんて思ってるとドアが開く。

 

「ん?」

 

「ハ、ハル・・・?」

 

「おはよ、リリア」

 

「ハルぅぅぅ!!!」

 

「うぐっ・・・」

 

リリアが飛びついて来た。

・・・地味に傷口付近に当たって痛い・・・。

 

「よかった、よかったよぉぉぉ!!」

 

「だ、大丈夫だから・・・」

 

「もう絶対にハルを落とさせはしないから・・・」

 

「だから大丈夫だって。それより、テキサスに戻るって聞いた?」

 

「うん、でもミグはどうしよう・・・」

 

「売れば?」

 

「酷くない!?」

 

「嘘だよ。確か、バラして空輸してくれるんじゃないかな」

 

確か民間のサービスでそんなのがあった気がする。

 

「でもそうよね・・・分かった!手配してくる!」

 

「うん。午後には出発しよ」

 

「分かったわ!」

 

リリアはそう言って病室を出ていった。

というかあの子はこんな朝早くに何をしてるんだ。

なんて思いながら天井でも見つめていると退院の時間になる。

手続きを済ませて外に出るとマヤが待っていてくれた。

 

「お待たせ」

 

「ううん、大丈夫!じゃ、いこ!」

 

時刻は昼の12時。

今から格納庫に向かって準備すればいい時間だ。

 

「そうだ、トマホークは元気?」

 

「うん!今日はハルの席で寝てたよ!」

 

「あの子ほんとシートの上が好きだね」

 

トマホークは気がつけばコックピットのシートの上で丸くなって寝ている事が多い。

相当お気に入りなのだろう。

 

「まぁインテークの中がお気に入りじゃないだけいいよね」

 

「・・・確かにね・・・」

 

なんて話しながら空港に向かう。

 

「そういえば撃墜スコアは?」

 

「あ、えっとね、私たちは2位だったよ」

 

「意外と高スコア・・・」

 

「1位はF-15Cの2機編隊で、1人なんて片翼失ってもそのまま20匹近く撃墜して無事に帰ってきてるからね・・・」

 

「なにそれ・・・」

 

「総撃墜数、200だったかな・・・」

 

「・・・そんな相手と戦いたくないね・・・」

 

「まぁ、同じ戦闘機乗りだし!」

 

そんな話をしつつ格納庫に入る。

中には綺麗になったF-14があった。

 

「さ、帰ろ」

 

「うん!」

 

「わん!」

 

トマホークもシートに座らせてエンジンを始動した。

ご機嫌な音だった。

 

「フェアリィタワー、エンジェル0-1」

 

《エンジェル0-1どうぞ》

 

「滑走路へのタキシング許可願います」

 

《了解、エンジェル0-1。滑走路17へのタキシングを許可》

 

「滑走路17へのタキシング許可、エンジェル0-1」

 

誘導路に出ると後ろにフランカーが着いてきた。

 

「3時間ちょいのフライトだね!」

 

「うん。天気もいいし最高だね」

 

《私もいい気分で飛べそう!》

 

「散々泣いた後だしね」

 

《誰のせいよ!!!》

 

「それだけ心配してくれてたんでしょ、ありがと」

 

《このツンデレめ・・・》

 

なんて話してるうちに滑走路に近づいた。

 

「タワー、エンジェル0-1。離陸許可願います」

 

《エンジェル0-1、離陸を許可します。現在の風速はほぼなし、無風です》

 

「了解」

 

滑走路に入って出力を上げていく。

 

「大空にただいまだー!」

 

後席でマヤが嬉しそうにそう言った。

空は雲一つない青空。

 

「こんな飛んでいて気持ちのいい日は初めてかも」

 

「だね!」

 

テキサスまではあと3時間。

大空の散歩だ。



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再びテキサスへ

タルコフで6Aアーマー2つにそこそこいいカスタムした74Mを2つ失った時は泣きそうになった作者です。
いい装備取られてムキになって出撃したらダメだね!


「テキサスタワー、エンジェル0-1。」

 

《エンジェル0-1どうぞ》

 

「テキサス空港への着陸を要請」

 

《エンジェル0-1スタンバイ》

 

懐かしのテキサスだ。

空はすこし赤くなり始めていた。

 

「あとちょっとだね。お疲れ様」

 

「ハルもお疲れ様!」

 

《ふぁ・・・あとは着陸だけね》

 

「最後まで気を抜かずに」

 

《りょーかいです、編隊長どの》

 

なんて話をしていたら着陸許可が降りた。

 

《エンジェル0-1、滑走路35への着陸を許可》

 

「エンジェル0-1、了解」

 

滑走路を正面に捉えてゆっくりと降下していく。

帰ったら家を探して格納庫も借りよう。

そう思いながら機体を着陸させた。

 

《エンジェル0-1、そのまま滑走路を出てエプロンに向かってください》

 

「了解」

 

「ただいまだね!」

 

「うん。何か食べに行く?」

 

「うん!あ、そだ!家はどうする?」

 

「お金は溜まってるし良さげな家を借りよ」

 

「そだね!」

 

機体をエプロンに駐機してエンジンを止める。

 

「おじさんの所に顔でも出しに行く?」

 

「そだね!なんか良いもの入荷してるかも知れないし!」

 

リリアにもそう伝え、機体から降りた。

 

「トマホークもお疲れ様」

 

「わん!」

 

大欠伸をしていたトマホークにそう声をかけて撫でてやる。

私たちはそのまま格納庫に向かった。

中では、いつものドワーフのおじさんが別の冒険者の機体を整備していた。

そして私たちに気づいてこっちを向く。

 

「お!嬢ちゃん!」

 

「お久しぶり」

 

お久しぶりと言っても1週間程度だが。

 

「どうじゃ、トムキャットの調子は」

 

「実はこの前燃料漏れ起こした」

 

「なぬ!?」

 

「まぁ、金属片を踏んで燃料タンクに穴開けちゃったんだけどね」

 

「な、なんじゃ・・・整備ミスかと思って寿命が縮まったぞぃ・・・っと、そうじゃ!いい話があるんじゃった!」

 

「いい話?」

 

「儲け話じゃよ」

 

「儲け話?!」

 

マヤが食いついた。

目を輝かせている・・・

 

「実はな・・・」

 

昔、魔王軍との戦闘で街全体が廃墟のようになってしまった場所がある。

廃墟のようというか廃墟になっているために人は住んでいないが、魔王軍との戦闘の際に使われていた武器や兵器などが大量に残っているらしい。

しかも街のどこかに異世界への扉が開いていて、そこから最新の武器や技術が入り込んでいるそうだ。

それを持ち帰ればいい儲けになる・・・という事だった。

 

「いいね!早速行こうよハル!」

 

「ちょっと待つんじゃ。話には続きがあっての・・・」

 

街全体が廃墟で、またアンデッド系モンスターが湧いているそうだ。

しかもそのアンデッドは昔の戦闘で戦死した兵士、もしくはそれを模したモンスターのために銃火器を使用してくる事があるそうだ。

おまけに戦車も操縦しているとか。

そして、そんな美味い話、山賊や盗賊が知らないはずも無く、1歩足を踏み入れたらそこは自分以外全て敵の戦場だそうだ。

また、そんな所で殺されたとしても山賊や盗賊、アンデッド系モンスターの仕業に出来るため、冒険者同士でも殺し合いが多発しているらしい。

特にいい装備を持っていると略奪するために襲いかかってくる冒険者もいるとか。

つまりは街全体がなんでもありのダークゾーンになっているそうだ。

おまけに街の地下には大量の鉱物が眠っており、通信障害も起きているそうだった。

 

「どうじゃ!いい話じゃろ!」

 

「どこが!?」

 

マヤが大声で突っ込む。

 

「冒険者同士の殺し合いとか色々恐ろしい単語並びまくってるのにいい話なわけないじゃん!!」

 

「何を言っとるか!リスク無くしてリターンは得られんのじゃ!」

 

「そうだとしても嫌だよ!ハルだって嫌でしょ!?」

 

「・・・うん」

 

そんな所死んでも行きたくない。

というかそもそもそんな場所に降りれる気がしない上に陸路から入る場合なんて1億ドル貰ったって行きたくない。

 

「なんじゃ、つまらんのぅ・・・じゃ、これはどうじゃ?」

 

おじさんは1枚の書類を出した。

F-14の改修についてだった。

 

「んーと・・・」

 

トムキャットに対潜水艦攻撃能力を持たせるというものだった。

フェニックスと同サイズの短魚雷を搭載出来るようにして、ソノブイなど対潜攻撃に必要な諸々の装備を搭載したりコックピットのシステムをアップデートするらしい。

 

「対潜攻撃能力・・・」

 

確かにあればUボートを狩る仕事をする時に楽かも知れない。

 

「ちなみにこれに改修した時のデメリットは?」

 

「そうじゃのぅ・・・短魚雷を搭載してる時はあんまり高機動は出来ないってとこかの。それに魚雷とソノブイ を投下する時は200ノット以下じゃないと無理じゃの。それ以外は特に変わらんよ」

 

悩む。

Uボート狩りのクエストは何気に報酬がいい。

 

「あ、そうじゃ。あとソノブイも投下したあとのデータを送れる範囲も限定されてるくらいかのぅ・・・」

 

対潜水艦攻撃時の行動範囲が制限されるということか・・・。

それでも魅力的な話ではあるが。

 

「そうじゃ、あとフェアリィでミサイル買ったんじゃろ?」

 

「うん。月額5万ドルでアクティブホーミング型のフェニックスを補給できるようにしてる」

 

「その補給はワシが担当しとるからいつでも言ってくるといいぞ!」

 

「ありがと」

 

「そういえばおじさんさ・・・整備員の割には何か、色々と商売してない?」

 

「そりゃそうじゃ!ワシのモットーは金さえ払えばティッシュから戦闘機までなんでも売る上に完璧に整備して更に改修をする。じゃからの!」

 

「・・・儲けてそうだね」

 

「ガッポガッポじゃ!うははは!」

 

おじさんは今までに見たことないくらいテンションが上がってるようだ。

 

「おじさん、対潜水艦改修については保留で。」

 

「了解じゃ!」

 

格納庫を出てリリアが待っているという近くのカフェに向かった。

 

「お待たせ」

 

「ううん、大丈夫よ」

 

「よーし、トマホーク、お座り!」

 

「わん!」

 

「よしよし!いい子だぞー」

 

マヤは椅子にトマホークを座らせて撫で回していた。

 

「それで、家はどうするの?」

 

「そうだね・・・考え中。リリアも一緒に住む?」

 

「え、いいの?」

 

「多い方が家賃の負担が少なくなるし」

 

「まぁそうね・・・じゃ、明日は家探し?」

 

「うん。そうなるかな」

 

「じゃ、今日は宿ね」

 

「あと格納庫もね。ミグとアパッチも格納出来るところ探さないと」

 

「あら、アパッチなんてもってたの?」

 

「マヤのだよ」

 

「うん、リリアがフランカー買ったお店でね!」

 

なんて話をしつつカフェで夕飯を食べて宿を探した。

それにしても綺麗な街並みだ。

 

「街灯が綺麗だね」

 

「街並みとマッチしてるものね」

 

「でも、フェアリィも良かったよね!」

 

「・・・ペンギンが来る時点でダメ」

 

「ハ、ハルは完全に恐怖症になっちゃったか・・・」

 

「2度と見たくない。」

 

2度とあんな魔獣見たくない。

そう思いながら街をあるく。

 

「あ、この宿いいんじゃない?」

 

マヤが指指したのは空港近くの宿。

何回か泊まった事もある場所だ。

 

「ここにしようか」

 

中に入って3人入れる部屋を取る。

 

「ふぁ・・・」

 

ベッドを見ると一気に疲れがきた。

 

「お風呂入って寝よ!」

 

マヤが元気にそう言った。

 

「もう今日はいい・・・」

 

「ハル、それ女の子が言っていいセリフじゃないよ・・・」

 

「私も・・・」

 

「リリアもか!」

 

「・・・マヤうるさい」

 

「待って、私今回は正論言ってると思う・・・」

 

「わん!」

 

トマホークも風呂に入れと言わんばかりに前足でペシペシ叩いてくる。

・・・この子ほんとに頭良すぎじゃない・・・?

 

「んもう分かったわよ・・・」

 

「早く入って寝よ・・・」

 

その後は三人仲良くお風呂に入ってベッドにダイブした。

一瞬で夢の世界に入った。

 

「ん・・・」

 

朝日と鳥の鳴き声で目を覚ます。

横ではまだ2人とも寝ている。

トマホークはすでに起きていて伏せの姿勢でのんびりとしていた。

 

「おはよ、トマホーク」

 

トマホークは敢えて吠えずに私に寄ってきた。

2人を起こさないためなのだろう。

 

「2人を起こさないためなの?本当に頭いいね」

 

「わぅ・・・」

 

撫でてやると嬉しそうに尻尾を振っていた。

 

「今日はどうしよう・・・」

 

何か面白いクエストでも無いものかと思っていた。

 

「とりあえず顔でも洗お・・・」

 

そう思い立って洗面所に行った。

 

「そうだ、お腹の傷」

 

服を捲ってお腹を見てみると弾丸が貫通した跡がしっかり残っていた。

 

「うぅ・・・これじゃ一生物の傷・・・」

 

なんて嘆いているとリリアとマヤがほぼ同時に起きた。

起きたというかトマホークがベッドに登って2人の上で飛び跳ねて叩き起していた。

 

「うぷっ!!」

 

「きゃぁ!?」

 

飛び起きる2人。

そして満面の笑顔で尻尾を振るトマホーク。

 

「ト、トマホーク・・・?びっくりしたぁ・・・」

 

「心臓止まるかと思ったわよ・・・」

 

「わん!」

 

イタズラ成功みたいな顔で喜ぶトマホーク。

 

「支度したらギルドでいい仕事でも探そ」

 

「家は?」

 

「終わってから」

 

「ハルが何かを後回しにする時ってろくな事起こらないよね・・・」

 

「そんな事ない・・・ような・・・はず・・・」

 

マヤにそう言われてふと昔のことを思い出した。

心当たりが多すぎてどうしようもない・・・。

 

「今回はそんな負の連鎖を断ち切る」

 

「大丈夫かな・・・」

 

「とにかく支度して。行くよ」

 

2人が準備するのを待ってギルドに向かう。

その前に格納庫で今日飛ぶことをおじさんに伝えて離陸前の点検をお願いしに行かなきゃいけないが。

 

「先に格納庫?」

 

「うん、トムキャットのことお願いしに」

 

格納庫に入るとおじさんが私達を見るなり手招きした。

何かを手に持っている。

 

「どしたの、おじさん」

 

「嬢ちゃんビッグニュースじゃ!」

 

「ビッグニュース?」

 

「これじゃ!」

 

渡された封筒には王国軍のマークが。

そしてこの国の評議院のマークも・・・。

・・・嫌な予感しかしない。

マークの部隊章は王国軍第102航空旅団・・・。

主にガンシップや爆撃機を運用する部隊だ。

ちなみに評議院というのは異世界でいうCIAようなものだ。

また警察力も持っているため、CIAとFBIが融合したような組織だった。

 

「・・・」

 

中にはクエストの書類が。

 

「魔王軍キャンプの航空偵察・・・」

 

「ハル・・・やっぱり・・・」

 

「私のせいじゃない・・・」

 

「ちなみに報酬は格納庫と家らしいぞい」

 

「やる!」

 

私は即答した。

航空偵察で家と格納庫。

もらった!!

 

「ハル!?」

 

「航空偵察で家と格納庫なら安いもんだよ!」

 

「・・・だって、リリア」

 

「やるしかないわね・・・」

 

「よし燃料はサービスしといてやる!」

 

すでに飛べるようにフライトスーツを着ていたので意気揚々と戦闘機に乗りこんだ。

 

「そういえばおじさん、なんでハルにこんな依頼来たの?」

 

「リーパー撃墜とフェアリィでのペンギン迎撃の腕を買われたみたいじゃよ。上に上がったら評議院の連中から無線が来るから対応よろしくな」

 

「了解!」

 

「あとこのワンコはワシのところで預かっとくからちゃんと迎えにくるんじゃぞ!」

 

「分かってるよ!」

 

「マヤ、行くよ」

 

「了解!」

 

トーイングカーが戦闘機を格納庫から引っ張り出してくれる。

となりにはフランカーも出てきた。

 

「リリア、相手は魔王軍だけど油断しないように」

 

《分かってるわよ》

 

今回の装備は偵察用のカメラポッドに短射程ミサイル2発と中射程のスパローを4発。

自衛の準備も大丈夫だ。

 

「タワー、エンジェル0-1」

 

《エンジェル0-1どうぞ》

 

「滑走路へのタキシング許可を求めます」

 

《了解、滑走路17へのタキシングを許可。現在、滑走路にアプローチする航空機、離陸する航空機はありません。そのまま離陸してください》

 

「了解」

 

朝も早く、航空機は近くにいない。

いいチャンスだ。

 

「それじゃ、行こっか」

 

「おっけー!」

 

《一稼ぎね》

 

何事も無く滑走路へタキシングし滑走路に入る。

そのまま出力を最大にして離陸する。

 

「タワー、エンジェル0-1離陸完了。ありがとうございました」

 

《了解エンジェル0-1。良い旅を》

 

上昇しつつ進路を3-3-0に合わせる。

この方角に魔王軍のキャンプがあるそうだった。

 

「高度30000から偵察でいいかな?」

 

「うん、こっちの爆音に気づかれると結界で隠れられるかも知れないから迅速にやるよ」

 

「了解!」

 

《私は少し離れてCAPに入るわ》

 

「了解、そっちも気をつけて」

 

《まぁ、まだもうちょっと一緒に飛ぶけどね》

 

なんて話をしていたら無線が入る。

評議院のようだ。

 

《エンジェル0-1。聞こえるか》

 

「こちらエンジェル0-1」

 

《私は評議院の者だ。仮名として・・・ラングレーとでも呼んでもらおう。》

 

「了解ラングレー。」

 

《仕事内容については掌握済かな》

 

「事前に確認済み」

 

《了解した。君たちの仕事は魔王軍キャンプの航空偵察後、王国軍ガンシップを現地まで護衛するとあうものだ。敵性勢力に遭遇した場合はこれを排除しろ》

 

「そういうのは王国軍でやってくれないかなぁ・・・」

 

「マヤ、気持ちは分かるけどそう言わない」

 

《君たちの腕を買ってのものだ》

 

「えっらそーに・・・じゃ、報酬はきっちり用意しといてね!」

 

《君たちが無事であればだ》

 

「へへん!お財布握りしめて待ってろよー!」

 

「まぁ、国が依頼主だしきっといい報酬だよ」

 

「どんな家かなー!ふふ!楽しみだね!」

 

「うん」

 

そう話しながら飛行を続けていた。

するとまたラングレーから無線が入る。

 

《エンジェル0-1、内容の変更だ。魔王軍キャンプには渓谷を低空で向かえ。どうやら相手には魔王軍の中でも屈指の目と耳が良い奴がいる》

 

「渓谷飛行か・・・了解、ラングレー」

 

「大丈夫?」

 

「大丈夫、行ける」

 

高度を下げていくと分厚い雲が眼下に広がってきた。

 

「うわ、これ全部雲だったんだ・・・」

 

「いつの間に・・・」

 

《目標が近い。いい兆候だ》

 

雲を抜けると下は大雪だった。

視界も悪い。

渓谷を飛べと言われて飛べないほどではないが。

 

「降ってきたね・・・」

 

「うん・・・」

 

「雪山でベイルアウトは悲惨だから、頼むよハル!」

 

「任せて。でもこれじゃ、報酬上乗せだね」

 

「だね!聞いたよね、ラングレー!」

 

《それは仕事が終わったらだ》

 

「リリア、そのままCAPを開始して」

 

《了解!》

 

《まて、2機で向かえ》

 

《私も?!》

 

《CAPが見つかるとまずい。渓谷は大型旅客機が2機飛んでも余裕があるほど広い。行けるはずだ》

 

《分かったわよ・・・ハル、私も行くから!》

 

「・・・了解」

 

2機で渓谷飛行・・・。

大丈夫だ、私もあの子も操縦の腕はいい。

 

「ハル、高度に注意!」

 

「分かってる」

 

大雪だが目の前は3000m以上見える。

おまけに渓谷が戦闘機の爆音を防いでくれる。

楽しい渓谷飛行になりそうだ。



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渓谷飛行

ちょっと盛り込みすぎたって思ってる(



先に進むにつれて段々と渓谷が狭くなってきた。

 

「ルートはこれであってるの?」

 

ところどころに分かれ道のようなところがあり、ラングレーの指示で飛行してはいるが・・・

 

《衛星から確認している。そのまま飛べ》

 

「了解・・・」

 

渓谷そのものは急に曲がったりしていないので飛行そのものは簡単だが、狭くなってきている事に不安を覚え始めた。

それでもまだ747型旅客機が飛行できるほどの広さはあるが。

当初の2機は余裕で飛べる広さから1機がようやく飛べる程度まで狭くなってきていた。

 

「ハル、大丈夫?」

 

「まだ大丈夫。マヤは?」

 

「外見ると怖いからずっとレーダー見てる!」

 

「・・・」

 

後席は気が楽でいい・・・。

 

「リリア、そっちは?」

 

《聞かないでよ!こっちも怖くて今すぐ上に出たいくらいなの!》

 

「本当に危なくなったら離脱して」

 

《分かってる!》

 

そのまま飛行を継続していると横から道のような物が見えてきた。

舗装も何もされていないが明らかに何かが通った跡がある。

それがそのまま奥へと続いていた。

 

「ラングレー、壁から道のようなものが見えてきた。見えはしなかったけど洞窟のような穴から続いてるみたい。」

 

《了解、それは輸送用の道路だろう。ターゲットはその先だ。》

 

「了解。マヤ、道に何か見えたら教えて」

 

「了解!怖いけど頑張る!」

 

道に沿って飛行すること数分、視界の奥から橋のような物が見えてきた。

橋桁も見える。

私は避けるためにすこし上昇した。

 

「あれ、ハル。なんか橋の上に居ない?」

 

「え?」

 

橋まではあと数秒。

私は軽くロールして確認できる姿勢を取った。

 

「なにあれ・・・奴隷商人・・・?」

 

橋上空を高速で通過した。

その時に見えたのは馬車とその後に鎖のようなもので繋がれた人々が見えた。

馬車の運転手のように見えたのは魔王軍の人形の魔獣のようにも見えた。

 

「マヤ、ラングレーにガンカメラの画像を送って」

 

「え?わ、分かった!でも今のって・・・」

 

「分からない・・・けど私達にはどうすることも・・・」

 

《私だけでも反転してあの馬車を・・・!》

 

「ダメ、30mmだと破片がほかの人に当たるかも」

 

《でも!》

 

「ラングレー、エンジェル0-1。魔王軍所属らしき馬車とそれに連れられた奴隷のような人々を確認」

 

《了解。外道どもが・・・とにかく君たちはそのまま飛行してくれ》

 

「了解」

 

《あれを放っておけっていうの!?》

 

《今、騎士団の航空部隊で強襲させる。あとは我々に任せろ》

 

「今は仕事に集中しよ、リリア」

 

《・・・了解》

 

私だって今すぐ引き返して先頭の馬車にだけ機銃掃射してあの人達を助けたいがこっちは高速で飛行する戦闘機。

おまけに武装は20mm機関砲。

しかも弾は破砕榴弾を装填してある。

もし破片が人にあたれば大惨事だ。

 

「・・・私、奴隷の人と目が合った」

 

「どうしたの?」

 

「いや・・・その・・・奴隷の人と目が合ったから何とか助けれないかなって・・・」

 

マヤは悔しそうにそう言った。

 

「大丈夫。あとは騎士団に任せよ」

 

「・・・うん」

 

私だって奴隷の人と目が合った。

こちらを見上げる1人の男の子と目が合った。

だけど、何も出来ないことに悔しさを感じていた。

 

「目標まであと少し・・・」

 

事前に戦闘機のコンピュータに入力したルートを確認すると目標まであと少しだった。

 

「マヤ、偵察カメラ起動」

 

「了解!」

 

渓谷が狭くなってくる。

さらに曲がる角度もきつくなってきた。

 

《エンジェル0-1、今だ!上昇しろ!》

 

「りょ、了解!」

 

突然の指示で操縦桿を引いて急上昇した。

すると目の前には森が広がっていてその中に小さな砦のような物が確認出来た。

 

「マヤ!」

 

「分かってるよ!」

 

マヤが偵察ポッドを操作して写真を撮影する。

 

「リリア!そのまま上空を哨戒して!」

 

《了解!何匹か翼竜が上がってきたわよ!》

 

「そいつらをお願い!」

 

《了解!エンゲージ!》

 

フランカーが編隊を離れて降下していく。

 

「ハル!隠れ始めた!」

 

「了解、何枚くらい撮れた?」

 

砦が結界で覆われていく。

肉眼で確認出来なくなる結界だろう。

あたりは完全に森だけになった。

 

「30枚くらい!ラングレーに送るね!」

 

「うん、お願い。これで報酬ゲットだね」

 

《こっちも翼竜撃墜よ!ふふん、最近ハルより撃墜数多いんじゃないかしら》

 

「調子に乗ってるとまた変なのに絡まれるよ」

 

《なによそれ!》

 

「ふふ、冗談」

 

なんて話をしているとラングレーから通信が入った。

 

《良くやってくれた。これより王国軍ガンシップが空域に進入する。だが・・・それよりも先に特別任務だ》

 

「まだやるの・・・?」

 

マヤが少し面倒くさそうな言い方をした。

だが、内容は私達がつい数十分前に望んだ事だった。

 

《近くの街から王国軍騎士団のヘリ隊が離陸した。今から先程の奴隷を引き連れた集団を強襲、奴隷を解放する。その後ガンシップの援護に回ってくれ》

 

「・・・了解!待ってました!!」

 

《それでこそね!ハル!行きましょ!》

 

「了解・・・上空から偵察支援でいい?」

 

《それでいい、まずは奴隷商人を見つけてくれ》

 

「了解」

 

旋回して谷を注意深く見ていく。

偵察ポッドも赤外線探知モードにして捜索を続けた。

 

「そういえばハル、さっき人形魔獣が乗ってた馬見た?」

 

「ううん、どうしたの?」

 

「一瞬だったけど、毛並みとか揃っててすごくいい馬だったよ!私もああいうのに乗ってみたいな・・・」

 

「どうしたのいきなり」

 

「ほら、騎士団の中にも女性だけの部隊あったでしょ?」

 

「あー・・・なんかあったね」

 

「あの人達、見た目はすごく綺麗な鎧とか着てるのに持ってるのって最新式の自動小銃だから何かカッコイイよね!」

 

カッコイイかカッコよくないかで言われたらカッコイイが、高貴な鎧に身を包んで馬に乗りながら自動小銃ぶっ放す貴婦人様なんて嫌だ。

しかも終いには馬からFGM-148ジャベリンと呼ばれる対戦車ミサイルをぶっ放していた。

 

「なんか憧れるよね!強い女の人って!」

 

「まぁ憧れはするけど・・・」

 

馬に乗りながら戦車を吹き飛ばす女性って強いとか弱いとかの次元じゃないような・・・・。

 

「・・・っと!目標発見!」

 

「了解、ラングレー」

 

《了解した。こちらもモニターしている。現在ヘリが急行中。コールサインはセイバーホークだ》

 

「了解」

 

偵察ポッドは確かにさっきと同じ集団を捉えていた。

 

「リリア、空中哨戒よろしく」

 

《まかせて!でも、その外道を月まで吹っ飛ばせなくて残念ね》

 

「次があるよ」

 

《次って・・・まぁいいわ。とりあえず敵影なしよ》

 

「了解」

 

そうしてるうちにヘリが交信可能圏内に入ってきた。

 

《エンジェル0-1、こちらセイバーホーク》

 

「エンジェル0-1」

 

《こちらはブラックホーク3機とミニガン装備のリトルバードで向かっている!奴隷の人数は確認出来るか?》

 

「大体・・・30人ほど」

 

《了解だ!これより接近する!到着まで五分!》

 

あの人達が助かるまであと五分・・・良かった・・・

安心感が湧いてきた。

 

《エンジェル0-1、こちらラングレー》

 

「エンジェル0-1」

 

《新たな情報だが・・・どうもその奴隷の中に捕まったウチの関係者がいるそうだ。そのアホ面を確認したいので写真を撮影してほしい》

 

「了解、きこえた?マヤ」

 

「了解!顔が見えればいいんだよね・・・よし!」

 

マヤは写真を撮影してラングレーに送る。

 

「どう?ラングレー」

 

《確認した。もう一週間前から連絡の着かない職員だったが・・・無事で良かった。これは報酬上乗せだな》

 

「やった!」

 

「太っ腹」

 

《帰ったらヤツにもビールの1杯は奢ってもらわないとな》

 

「私達が助けてやったんだから当然だね!」

 

《追加で燃料代もね!》

 

《分かった、すべてヤツの給料から天引きしよう》

 

などと上空では冗談を言い合っていた。

 

《こちらセイバーホーク、目標確認!》

 

「了解、セイバーホーク接近を確認」

 

《捕まってる人に当てるなよ!撃て!》

 

目標接近から制圧まで数分とかからなかった。

素晴らしい練度だ。

捕まっていた人がヘリに乗り込んでいく。

その時、さっきの評議院の関係者らしき人の声が無線から聞こえた。

 

《バッチリだ!上手くいったな!》

 

《1発で馬を仕留めた!それよりもアンタか、評議院の関係者は!》

 

《あぁ!感謝してるよ!それよりももったいねえ、いい馬だったのに!》

 

ヘリは離陸して渓谷を離れていく。

それと入れ違いのように王国軍ガンシップもレーダーに捉えた。

まるでここまで援護してないが無事なようだ。

 

「ガンシップ確認」

 

「さてと、最後のお仕事お仕事っと」

 

「燃料はあと・・・60%・・・リリアは?」

 

《燃料・・・ごじゅう・・・・えっと55%》

 

「了解。ビンゴ設定は?」

 

《30%よ。あと1時間もしないうちにビンゴになるわ》

 

「了解、ラングレー。空中給油機はいない?」

 

《待ってくれ・・・近くにいるが、交代で給油でよいか?》

 

「それでいいよ。リリア、先に行って」

 

《了解!》

 

《よし、こちらで手配する。燃料代は・・・さっき助けたマヌケ持ちだ》

 

《了解!ふふっ、助けられたのに可愛そう》

 

「まったくだね」

 

そう笑いながらガンシップと合流した。

それにしてもこのAC-130というガンシップ、異世界製ではあるが作った人は何を思って作ったのだろうか。

輸送機をベースにそのペイロードを生かして爆撃機にするなら理解は出来るが、機体側面に25mmバルカン砲、40mm機関砲、105mm榴弾砲・・・。

殺意の塊だ。

まさに上空からの死といったところだ。

 

《こちらスプーキー、エンジェル0-1。エスコート任せたよ》

 

「了解、スプーキー。でもこっちはちょっと燃料が危ういから途中でエスコートは交代するから」

 

《了解》

 

「リリア、給油したらなるべく早くね」

 

《分かってるわよ、給油機はここから10マイルくらいを飛んでるからすぐ行けるわ!》

 

「了解」

 

ガンシップを引き連れて魔王軍の砦に向かう。

聞くと、魔王軍の結界は肉眼から隠せても熱源探知装置からは隠れられないらしく、ガンシップから一方的に殴りまくるつもりのようだ。

・・・魔王軍には同情すら感じてきた。

 

「ねぇマヤ、魔王軍が可哀想に思えてきた」

 

「どしたの?いきなり」

 

「いや・・・異世界侵攻しようとしたのか知らないけど異世界への扉を開いたらそれがほぼ全部人間側に開いてそこから異世界技術流入して、圧倒的な力でずっとボコボコにされてるんだし」

 

「まぁ・・・数百年前は魔王軍も残虐行為ばっかりしてたっていうし・・・」

 

「まぁね・・・でもいまじゃ形勢逆転どころかちょっと顔を出したら、こんにちわでボコボコにされるんだから」

 

「あはは・・・まぁね・・・」

 

魔王はいったいどこで何をしてるのか・・・噂ではこんな所居られるか俺は異世界の王になるとかで核戦争後の世界に逃げていったとか聞いたことがある。

 

「ま・・・いっか。私たちにはそんな関係ないし」

 

そんなことしてる間に砦付近に到着した。

 

「スプーキー、このあたりだよ」

 

《了解した。よし、交戦準備だ》

 

《ハル、給油完了!いまから戻るわ!》

 

「了解、機影を確認したら私も給油に行く」

 

燃料計を確認してまだ少し余裕があることを見た。

それでも空中戦をしたら厳しいが。

 

「あとはガンシップがお仕事終えるのを待つだけだね!」

 

「うん、家と格納庫ゲット」

 

「んふふ、家具はどうしようかな!」

 

「とりあえず帰ったらお買い物だね」

 

「うん!」

 

なんてしてたら遠くからフランカーの機影が見えた。

交代だ。

 

「よし、交代だね」

 

「後よろしくね!」

 

《了解!任せて!》

 

給油機に向けて進路を変えた。

 

「帰った頃には終わっててほしい・・・ふぁ・・・」

 

「眠そうだね」

 

「家と格納庫って言葉だけで飛び出たから・・・ふぁぁ」

 

「ハルも結構無茶するよね」

 

「長い付き合いなんだからそれくらい知ってるでしょ」

 

「えへへ、そうでした」

 

なんて話をしているとガンシップが交戦状態に入ったという無線がきた。

 

《敵を確認、交戦を許可》

 

《砦に1名》

 

直後に砲声が聞こえた。

 

《ドカーン》

 

《グッドキル、木っ端微塵だぜ》

 

《敵が移動中》

 

《確認》

 

無線からは砲声やバルカン砲の音が聞こえてきた。

 

《うっへぇ・・・容赦ないわねあれ・・・》

 

「・・・今ほど地上に居たくないって思ったのは初めて」

 

私達の気持ちを知ってか知らずかガンシップは地上に死を降り注ぐ。

 

《へへっ、これは中々のスぺクタル映像になるな》

 

《聞こえてるぞ》

 

この人たち平然とやっているが言ってる内容とやってる事が恐ろしすぎる。

 

《105mm装填完了!》

 

《撃て》

 

《ワーオ・・・》

 

《おお、これは胸が痛むね》

 

《砦が派手に吹っ飛んだな、あれで幾らだ?》

 

ガンシップの無線を聞いている間に給油機が見えてきた。

 

「さて、私達は給油終わらせちゃおっか」

 

「そうだね」

 

「よし、プローブ展開っと・・・」

 

コンソールのスイッチをいじって空中給油用のプローブを出す。

 

「タンカー、こちらエンジェル0-1」

 

《こちらタンカー》

 

「給油要請」

 

《了解。そのまま接近。後部の気流に注意》

 

「了解」

 

プローブを給油口に差し込んで給油を開始した。

 

「これで空中給油何回目だっけ」

 

「数えてないから何とも・・・でも慣れてきたよね!」

 

「まぁね。最初に比べたら」

 

最初の頃は給油機に近づくことすら怖かった。

それが今では普通に給油を行えるくらいになってきた。

 

「さてと、トムキャットもお腹いっぱいみたいだし戻ろうか」

 

「そだね!」

 

帰る頃には仕事が終わっててほしい・・・

勢いで出てきたのはいいけど疲れた・・・。

そんな事を思いながら給油機から離れ、目標空域に向かった。



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我が家

ガンシップが暴れていた地域に戻ると残っていたのは焼け野原になった大地だった。

 

《総員、任務完了だ。帰投するぞ》

 

《了解、RTB》

 

・・・これ、下に動くもの残っているのだろうか・・・

なんてドン引きしながら旋回していた。

その時だった。

 

《こちらスプーキー、森の中に何か動いている》

 

「森?」

 

《旋回して確認する》

 

ガンシップが旋回を始めた瞬間、森の中から轟音を上げて斜め上に向かって何かが発射された。

 

「え!?」

 

《目標確認!》

 

《撃て!》

 

発射された飛翔体はみるみる上昇していく。

 

「ハル!追いかけよ!!」

 

「う、うん!リリア着いてきて!」

 

《りょ、了解!》

 

《エンジェル0-1!発射された飛翔体は巡航ミサイルだ!地上で残骸を確認した!》

 

「巡航ミサイル!?」

 

突然の出来事に頭が追いつかない。

いつの間に魔王軍はそんなものを・・・。

 

「ハル!巡航ミサイルは時速500ノットで飛行してる!今はブースターが切れて減速したよ!」

 

「了解、だけど・・・」

 

そのブースターで加速したせいでかなり離れてしまった。

スパローの射程外だ。

 

《ハル、私は他のが発射されないか警戒してきてもいい?》

 

「分かった。お願い」

 

《了解!》

 

《こちらラングレー、ガンシップより報告を受けた。巡航ミサイルが発射されたのか?》

 

「巡航ミサイルらしきもの・・・としか。今はブースターが切れて巡航に入ってる」

 

《それは魔王軍の物か確認できたか?》

 

「わからない。でも魔王軍の拠点から発射されたからそうかも」

 

《ヤツらいつの間に・・・》

 

いつの間に・・・と言っても技術流入が始まってもう100年近く経つ。

異世界の技術がすべて人類側ならいいのだがそんな上手い話あるわけがない。

魔王軍だってどうにかして異世界技術を手に入れるだろう。

それにそういった技術は高く買うはずだ。

貧困に困っている人が魔王軍の部隊に売ったりなどもあるだろう。

現に、銃火器程度なら異世界へ繋がっている小さな扉から吸い込まれてこちら側に送られてきていた。

それが森の中などにあり、たまに銃火器が落ちていることだってあった。

大抵は家庭用のゴミなどが吸い込まれてこちら側に送られてきているのだが・・・。

 

「ハル、もうすぐ射程に入るよ!」

 

「了解。ラングレー、撃ち落としていい?」

 

《待て、ミサイルの形状の確認を頼む》

 

「了解」

 

ミサイルに後方からゆっくりと近づく。

街まではあと150マイル。

まだ余裕はあった。

 

「マヤ、写真を撮ってラングレーに送って」

 

「了解!」

 

速度をミサイルに合わせて写真を撮った。

 

「見たことないミサイル・・・」

 

「うん・・・ずいぶん古い型みたいだけど・・・」

 

市場に流通している巡航ミサイルと違ってこのミサイルはまるで小さな飛行機だった。

昔の資料でこう言ったミサイルを見たことがあったので古いタイプだというのは分かった。

 

「よし・・・送ったよ!」

 

「じゃ、撃墜できる位置につこっか」

 

背後についてロックオンした。

すぐにラングレーから通信もきた。

 

《エンジェル0-1。対象はハウンド・ドッグと確認。かなり古いタイプのミサイルだ。だが弾頭はデカい。撃墜してくれ》

 

「了解」

 

ミサイルを発射しようとした瞬間だった。

ミサイルが急旋回を始めた。

 

「なっ!?」

 

まるで操縦されているかのような機動。

ミサイルがするはずない動きに戸惑った。

 

「追いかけないと・・・!」

 

ミサイルは降下しながら加速していく。

 

「ミサイルのくせして戦闘機みたいな動きを・・・!!」

 

ハウンド・ドッグはまるで戦闘機のように急旋回、急上昇を繰り返す。

 

「おまけに機動性もいいね!」

 

「マヤが撃墜してくれたら今夜のご飯奢ってあげる!」

 

「後席には操縦桿ないから無理かなー・・・」

 

「知ってる!」

 

下手に接近していたことと、ミサイルが思いのほか高機動なためなかなかロックオン出来ない。

 

「こうなったら減速して・・・!」

 

エアブレーキを開いて減速していく。

これで距離が開いた。

 

「サイドワインダーで・・・ロックオン!FOX2!」

 

翼からサイドワインダーを1発発射した。

戦闘機ではないミサイルにフレアなど搭載されているわけもなく、ミサイルは巡航ミサイルのエンジンを撃ち抜いた。

たがミサイルそのものは爆発せず、エンジンが脱落しグライダーのように降下していった。

下は1面の平原。

落ちても問題はない。

 

「ふぅ・・・ラングレー、巡航ミサイル撃墜」

 

《了解。よくやった。騎士団のヘリがあとで確認に向かう。ご苦労だった。報酬はテキサスのギルドに送ってある》

 

「了解」

 

《今回の働きは見事だった。それに見合う報酬を用意させてもらったよ》

 

「ありがと。ちなみに家以外に何をくれるの?」

 

《80万テキサスドルと、航空機1機だな》

 

「え!?飛行機も!?」

 

《複座の戦闘機だ。新しい型ではないが》

 

「どんな機体なの?」

 

《それはかえってのお楽しみだ》

 

「楽しみが増えたね!ハル!」

 

「うん」

 

どんな機体だろう・・・。

私はそれが楽しみで仕方なかった。

 

「ふぁ・・・疲れた」

 

時刻はもう夕方だ。

朝出たと思えばもうこんな時間だった。

 

「お腹すいたねー・・・」

 

「うん。今日は報酬の我が家でご飯だね」

 

「やった!ついに我が家だね!」

 

「うん、明日こそは家具を買いに行かないと」

 

「だね!」

 

明日の予定を立てながら滑走路に着陸した。

管制官の指示を受けて私達の格納庫に向かった。

それはいつもの整備をお願いしている横の格納庫であまり広くは無いがそれでも6機は格納できるサイズだった。

それに格納庫や駐機場はギルドから借りなくてはならなかったので経費もだいぶ浮く。

いい事ずくめだった。

 

「よし、停止・・・お疲れ様、マヤ」

 

「お疲れ様!」

 

トムキャットと降りるといつの間にか整備員のおじさんが近くに来ていた。

 

「あれ、おじさん」

 

「よく帰ったな嬢ちゃん!」

 

「まだリリアが帰ってきてないけどね」

 

「あの子はどうしたんじゃ?」

 

「もうすぐ帰ってくると思う」

 

「なんじゃ落ちたのかとおもったぞぃ・・・っと!嬢ちゃん喜べ!なんと新しい機体が届いたぞい!」

 

「ラングレーの言ってたヤツかな」

 

「なんじゃ、知っとるのか」

 

「まぁね。報酬上乗せって言ってたし」

 

「まったくいつの間にか腕を上げたのう」

 

「そんな事ないよ。賞金首だって1機しか落としてないし」

 

「そうか?嬢ちゃんギルドの撃墜スコア見てから言っとるのか?」

 

「ううん、最近見てない」

 

「撃墜スコアトップじゃぞ」

 

「え!?」

 

あまりの事にびっくりして大声を出す。

マヤはいつの間にかトマホークと遊んでいたが私の大声を聞いてこっちを振り向いた。

 

「い、いつの間に・・・!?」

 

「フェアリィでの撃墜スコアを加算したっぽいんじゃ。それでも賞金首1機、空賊のミグとハリアーを何機かと魔女を撃墜しとるじゃろ」

 

「あぁ・・・うん」

 

魔女撃墜については思い出したくなかったが・・・。

それでもこの街はまだ初心者が集まる街だ。

その中で撃墜スコアトップでもほかの場所にいったら下の下だろう。

 

「ま!とりあえずそんな話は置いといてじゃな!」

 

おじさんは手招きして歩いていく。

私もその後に続くとマヤもトマホークを連れて歩いてきた。

 

「新しい機体はこの中じゃ!」

 

おじさんの商売用の格納庫に連れていかれた。

中には布を被った航空機が。

 

「ぬふふ、驚くなよ・・・!」

 

おじさんは布を剥いだ。

中から出てきたのは・・・。

 

「フェ、フェンサー・・・」

 

Su-24MフェンサーD。

F-14と同じ可変翼を持つ戦闘爆撃機だ。

 

「どうじゃ!しかも改修されてて、本来は詰めないはずのAIM120AMRAAMやR-77が搭載できるぞぃ!それと・・・これじゃ!」

 

おじさんが指さすのは150mmはあるんじゃないかというくらい大きな口径のガンポッドだった。

 

「155mm榴弾砲を組み込んだガンポッドじゃ!しかもM982が使えるんじゃ!」

 

「M982?」

 

「GPS誘導の榴弾じゃよ。嬢ちゃん達がたまに積むJDAMの榴弾型って言ったらいいかの。とりあえずあまり高機動は無理じゃが爆弾より遥かに長射程からピンポイント爆撃できるぞぃ!まぁ欠点はこの砲を積んだらめちゃくちゃ重くなるのと砲弾は3発しか詰めないってとこかの。」

 

「ううん、充分だよ」

 

「砲弾はクラスター弾頭からフレシェットまでなんでもあるぞい!」

 

「分かった。ありがと」

 

私は今にも乗り込みたい欲を抑えていた。

F-14と同じ可変翼であり、それでももって爆撃機のように大きな胴体・・・まぁ戦闘爆撃機ではあるが。

トムキャットとは違う美しさを持った航空機だった。

一時期購入を検討していたが在庫がなく、王国軍で使用されているくらいしか見たことがなかったためかなり嬉しかった。

 

「ま、大切に使ってくれ!さて、ワシは嬢ちゃんの可愛いトムキャットでも見てくるぞい」

 

私はそれに返事をする間もなく機体に乗り込んだ。

 

「広い・・・」

 

トムキャットの縦列複座ではなく、この機体は並列複座。

横に広いため乗った時に広く感じた。

コックピットの機器も操作しやすい位置に配置されていて扱いやすそうだ。

私は座席に置いてあったマニュアルを持って機体から降りた。

 

「どう?ハル」

 

「いい。広々としてて」

 

「へー、そうなんだ」

 

マヤは少し悪い顔をして続けた。

 

「じゃあハル、初めての浮気・・・だね」

 

「え」

 

「この子に乗る時、生き生きとしてたよ?トムきゃんに乗る時くらい」

 

「あ・・・」

 

私は何故かとんでもない罪悪感に襲われた。

 

「マヤ・・・」

 

「ん?」

 

「私を殺して・・・」

 

「はぁ!?」

 

「トムキャットへの浮気は死を持って償う・・・」

 

「待って待って!ごめんって!ちょっといじってみただけだから!!」

 

「マヤのおかげで気づけた・・・私はクズ」

 

「そこまでか!!というか落ち着いてハル!」

 

「死ぬ・・・腹切る・・・」

 

私はナイフを取り出した。

 

「ちょっ待っ・・・!!生きろ!そなたは美しい!!」

 

なんてしてたらリリアがいつの間にか帰ってきていた。

 

「・・・なにこれ」

 

「ハルが突然ネガティブ思考に・・・!」

 

「死ぬ」

 

マヤに押し倒される形で押さえつけられていた。

 

「はぁー・・・マヤあんたこの子のネガティブスイッチ入れたでしょ」

 

「なんで分かるの!?」

 

「幼馴染なんだから。どうせ愛機から浮気とかそんな事じゃないの?」

 

「そ、そうなんだよ!冗談で言ったら!」

 

「私はクズ」

 

「ハルちょっと落ち着いて!!」

 

「マヤ、こうなったらもうどうしようもないから1時間くらい縛ってトムキャットのコックピットに乗せとけば大丈夫よ」

 

「縛るの!?」

 

「ほっとくとマジで死ぬわよハルは」

 

「なんてアンタはそんな冷静なの?!」

 

「これで4回目くらいかしら・・・」

 

「慣れっこなんだ・・・」

 

「まぁね」

 

その後、手際よく縛られてF-14のコックピットに3時間くらい監禁された。

寂しくないようにってトマホークも一緒にいてくれたがそもそもネガティブ思考になりすぎて何してたか全く覚えていない。

 

「・・・ちょっと、これ解いて」

 

「も、もう大丈夫・・・?」

 

「大丈夫だから解いて。お腹は空いたしトイレも行きたいの」

 

縄を解いてもらいコックピットから降りて少し駆け足でトイレを済ませた。

 

「ひどいよ、縛って放置は」

 

「だってほっとくと自殺しそうじゃない」

 

「私をなんだと思ってるの」

 

なんて話をしながら街の不動産屋に向かう。

ギルドから発行された報酬の明細書も持っていく。

 

「ま、まぁその話は置いといて!どんな家なんだろうね」

 

「うん、楽しみ」

 

「豪邸だといいわね!」

 

「お嬢様は言う事違うね」

 

「何よ!なんか嫌味な言い方ね!!」

 

「別に?」

 

「ケンカしない!」

 

「わん!」

 

トマホークが前足でペシペシ叩いてくる。

 

「ほらトマホークも怒ってるよ!」

 

「・・・この子ほんと頭良すぎない?」

 

「・・・私もそう思うわ」

 

「えー?賢いのはいい事だよねー」

 

「わぅ・・・」

 

なんてしてたら目的の不動産屋に着いた。

中に入るとおじさんが1人店番をしていた。

 

「いらっしゃい」

 

「報酬で貰った家の契約に来たんだけど」

 

「あー、評議院のな。この家だよ」

渡された家の写真と見取り図を見て目が飛び出るかとおもった。

 

「え・・・豪邸・・・?」

 

二階建ての石造りの家だった。

家そのものはそんなに大きくないのだが、家の裏にCH-47が駐機できる大きさのヘリポートと格納庫が着いていた。

・・・なんか裏がありそうで怖い。

 

「ハル!すごいよ!アパッチをここに駐機してられるよ!」

 

「ほんとね!VTOLでもいいわね!」

 

2人は盛り上がっているが・・・。

 

「ねぇこれ・・・事故物件とかじゃないよね・・・」

 

「ん?大丈夫だよ。誰も死んどらんし事件も起きてないんだが・・・まぁ・・・なんだ。」

 

「・・・何」

 

嫌な予感しかしない。

 

「いや、床下から何か謎の古代の遺物みたいなの出てきて掘ったヤツら全員死んだくらいだな」

 

「何それ!?」

 

「まぁなんだ。全員死んだが家では死んでないから事故物件じゃないぞ。あとその遺物はまだ埋まってる」

 

「怖いよ!」

 

マヤが大きな声で突っ込む。

 

「いやでも掘り当てて売ったらいいお金になるんじゃないかしら・・・」

 

「リリアはさっきの話聞いてた!?掘ってた人死んでるんだよ?!」

 

「まぁほっとけば実害ないんじゃない?」

 

「ハルはそんな不気味なものあっていいの!?」

 

「死にはしないから大丈夫」

 

「えー・・・」

 

マヤは不服そうだがこんな豪邸逃すわけにはいかない。

リリアは以外にも平気そうだったので2人とトマホークで嫌がるマヤを引きずる形で家に連れていった。

これで帰る家を手に入れれた。

明日こそは買い物だ。



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温泉旅行

「家だー!」

 

マヤははしゃぎながら門をくぐる。

空港から少し離れた場所に我が家はあった。

石造りのオシャレな家。

 

「いい家ね」

 

「うん、さっそく荷物入れようか」

 

街で借りた車に詰んだ荷物を搬入していく。

元々航空機で旅をする特性上、大して荷物はないから楽だった。

 

「寝室は・・・ここだね」

 

部屋を開けるとすでにマヤがベッドに転がっていた。

 

「早いね」

 

私は少し苦笑いしながら言う。

 

「私の寝室センサーを舐めたらダメだよ!そしてお布団ふっかふかー!」

 

「遊んでないで荷物の仕分け」

 

「えー・・・」

 

「トマホークも手伝ってくれて・・・あれ?トマホーク?」

 

さっきまで小さな荷物を咥えて運んでくれたトマホークが居ない。

ふと周りを見渡すといつの間にか寝室に置いてあった布団にダイブして自分のベッドを作り上げていた。

 

「・・・自分のベッドは大事だよね・・・」

 

「わふ!」

 

布団に顔を埋めながら返事をするように吠えるトマホーク。

 

「ねぇハル、お風呂は?」

 

「あぁ、そうだね。もういい時間だし入れとかないと」

 

「任せたよー」

 

「マヤも来る」

 

「やーだー!」

 

駄々を捏ねるマヤ。

 

「まぁいいじゃない。今日くらい」

 

「そうだそうだー!今日くらいいいじゃん!」

 

「はぁ・・・まぁマヤにはフェアリィで助けれもらったしいいか・・・」

 

ベッドで幸せそうにしているマヤを置いてリリアと風呂に向かう。

 

「お風呂はどこかしら」

 

「こっちかな」

 

なんとなくの勘で家を歩く。

そこそこ大きな家で部屋も多い。

大半を使う事が無いかもしれないが・・・

途中にあったリビングは大きな暖炉が置いてありいい雰囲気だった。

 

「ここかな?」

 

私は観音開きの扉を見つけて開けた。

中には脱衣所のような場所があったのでビンゴだ。

 

「ここだね」

 

「結構広そうね」

 

風呂場のドアを開けると大きな湯船があった。

湯船は木で出来ていていい香りがした。

お湯を張るスイッチは脱衣所にあり、なんと航空機のMFD(多機能ディスプレイ)を引っペがして貼り付けてあった。

温度やら量やらを調節でき、いろいろと確認できるシステムだった。

 

「MFD置いてるなんて凄いわね・・・」

 

「私もこれは予想外。」

 

お湯張りをすると壁側からお湯が流れてきた。

温泉みたいだ。

 

「温泉みたいね」

 

「私もそれ思った」

 

「そういえば温泉でも行きたいわ・・・」

 

「どしたの」

 

「いえ、確か北に行くとあるじゃない温泉で有名な街が」

 

「ホットウォーターだっけ?」

 

「うん、そこ」

 

たしかあそこの街の領主がそこそこの年の女性で自分の事をホットウォーターババアとか言ってたような・・・。

かなりユーモアな人だとは聞いているが。

 

「でも温泉か・・・いいね、明日にでもフェンサーの慣熟飛行って事で温泉旅行しようか」

 

「いいわね!」

 

「じゃ決定で」

 

寝室に戻るとマヤが気持ちよさそうに寝ていた。

 

「くー・・・」

 

「気持ちよさそうに寝ちゃって・・・」

 

幸せそうな寝顔までしている。

 

「これじゃ起こすの可哀想ね」

 

「うん。トマホーク・・・も寝てるね」

 

「ええ・・・ぷふっ、すごい寝顔」

 

トマホークは布団が相当気持ちいいのか熟睡している。

若干目が半開きなのが面白かった。

 

「とりあえずお風呂湧いたら入ろっか」

 

「そうね」

 

「それまで休憩ー・・・」

 

私もベッドに寝転んだ。

リリアもそのままベッドに寝転ぶ。

 

「あー・・・気持ちいい・・・」

 

「ほんとね・・・疲れが取れるわ・・・」

 

そのままいつの間にか意識を失っていた。

気づけば朝だった。

 

「んぁ・・・あ・・・朝だ」

 

寝ぼけた目を擦り起きる。

 

「あ・・・お風呂・・・」

 

入れたまま忘れていた。

たしか自動で止まるので溢れている事はないだろう。

 

「ふぁぁぁ・・・」

 

背伸びをして2人を見る。

まだ熟睡していた。

 

「まだ起きなさそうだし・・・」

 

とりあえずお風呂のお湯を抜いておかないといけない。

私は風呂に向かった。

 

「ふぁ・・・疲れ溜まってたんだなー・・・」

 

独り言を呟きながら風呂に入ると湯船からは温かそうな湯気がでていた。

 

「あれ・・・」

 

設定を確認すると一定温度を保つように設定されていた。

 

「そういうシステムか・・・じゃいいや朝風呂しよ」

 

1度寝室に戻り着替えを持っていく。

2人はまだ気持ちよさそうに寝ていた。

トマホークは起きてのんびりしていた。

 

「おはよ」

 

「わふ」

 

トマホークはお風呂に向かう私に付いてきた。

 

「どしたの?お風呂行くの?」

 

「わん!」

 

「そっか、じゃ入ろ」

 

脱衣所で服を脱いで中に入る。

トマホークも一緒に入ってきた。

 

「そういえばお風呂にまだ1回も入ってなかったよね」

 

「わん!」

 

「じゃあ私が洗ってあげる」

 

シャワーの前に私とトマホークが座る。

トマホークはこちらを向いて座っていた。

 

「そんなじっと見ないで恥ずかしいから」

 

「わう?」

 

いくら犬と言えど裸をじっと見られたら幾ら何でも恥ずかしい。

 

「シャンプーないから水洗いになっちゃうけど大丈夫かな」

 

少しぬるめのお湯でトマホークを洗ってやる。

トマホークは気持ちよさそうな顔をしていた。

 

「よしよし、気持ちいい?」

 

「わう・・・」

 

トマホークを洗っている時に私はふと思った事があった。

今まで気にしてなかった事だが・・・

 

「あれ、そういえばトマホークって性別何・・・?」

 

お腹を洗っている際に何かが手にあたってふと思った。

 

「わう?」

 

「・・・もしかして男の子?」

 

「わん!」

 

・・・男の子みたいだ。

 

「・・・トマホークはあっち向いてて」

 

「わう?」

 

「じ、じっと見ないで・・・ほんとに・・・」

 

犬でも異性と分かり余計に恥ずかしくなる。

 

「よし、終わり・・・私も洗わなきゃ」

 

私も体を洗って流す。

トマホークはいつの間にか湯船で泳いでいた。

 

「私も入ろ」

 

湯船に浸かるとちょうどいい温度だった。

心地よい温かさだ。

 

「ふぅ・・・」

 

天井を見上げているとトマホークが泳ぎながら突進してきた。

姿勢が楽なのか私の足の上に前足を乗せてリラックスし始めた。

 

「そこがいいの?」

 

「わん!」

 

「そっか」

 

そのまま10分ほどしたらトマホークは暑くなったのか湯船からでていた。

私も温まったので湯船から出た。

 

「お湯は・・・抜いとくか」

 

トマホークから抜けた毛が浮いているのでお湯は抜く事にした。

 

「トマホーク、おいで」

 

脱衣所に出てトマホークを拭いてやる。

さっぱりして気持ちよさそうだ。

 

「朝風呂もいいものだね」

 

着替えて寝室に戻るとリリアが起きてボーッとしていた。

 

「おはよ」

 

「あ、おはよー・・・」

 

「よく寝れた?」

 

「お風呂に入るの忘れるくらいには・・・ハルは今入ってきたの?」

 

「うん、トマホークと一緒に」

 

「そうなんだ。トマホークも良かったわね」

 

「わふ」

 

トマホークは自分の布団に帰って再び丸くなった。

 

「ごめん、リリア。トマホークとお風呂入った時にお湯抜いちゃったからお湯は無いよ」

 

「ううん、いいわよ。シャワー浴びてくるわね」

 

「それならマヤも起こして連れてって」

 

「りょーかい」

 

肩を叩くと目を擦りながら起きた。

 

「んー・・・」

 

「お風呂行くわよ」

 

「もーそんな時間ー・・・?」

 

「もうそんな時間」

 

「はーい・・・」

 

まだ頭が起きてないのかボケーっとしながら立ち上がった。

 

「じゃ、マヤをよろしく」

 

「はいはい、任せて」

 

寝ぼけて歩くマヤを見てもう1度ベッドに寝転んだ。

 

「温泉か・・・」

 

私は旅行の事を考えながらSu-24のマニュアルを開いた。

やはりトムキャットとは違う操作が多い。

 

「慣れるまでは時間がかかりそう」

 

そう思いながらマニュアルに目を通していた。

30分もすると2人が帰ってくる。

 

「ただいま」

 

「ただいまー!」

 

「おかえり、目は覚めた?」

 

「うん、最初寝ぼけてて気がついたら裸で知らない場所でお風呂入れられてたから心臓止まりそうになったけどね」

 

「それは寝ぼけすぎでしょ・・・」

 

「えへへへ・・・それより!温泉に行くんでしょ?」

 

「うん、慣熟飛行も兼ねて」

 

「じゃあ準備しないとね!」

 

「うん、リリアも準備して行こう」

 

「そうね」

 

機体に詰めるスペースは限られているので極力少ない荷物にする必要がある。

一応、簡易的な輸送用ポッドもあるので少々多くても問題はないが・・・。

 

「こんなもので・・・いっか」

 

私服と着替えだけでとりあえず大丈夫だ。

 

「2人ともOK?」

 

「おっけー!」

 

「いいわよ」

 

「それじゃ行こうか、トマホークもおいで」

 

「わんっ!」

 

空港に向けて出発する。

 

「そういえば温泉って何年振りだろ」

 

「そうだよねー・・・いつだっけ、ミヤコって街あったよね、異世界の・・・えっと日本風の街」

 

「三年前かな。その時振りだね」

 

「だね!」

 

車の中で色々と計画を立てながら空港に向かった。

空港につくと運航事務所にフライトプランを提出して格納庫に向かった。

 

「リリア、ちょっと時間かかるかもだけどごめんね」

 

「大丈夫よ!」

 

「じゃ、乗ろっか」

 

コックピットに乗り込んでマニュアルを開く。

 

「えーっとこれが・・・」

 

エンジンスタートの手順を空動作で実施する。

 

「なるほどね・・・ほんと使いやすいデザインだね」

 

「だね!あ、そうだ。自衛用の武装ってどうしたの?」

 

「R-73とR-77を2発ずつ。アクティブ誘導はあんまり好きじゃないんだけどね」

 

それにこの機体は戦闘爆撃機とはなっているが純粋な戦闘機ではない。

格闘戦になる前には逃げないと。

 

「よし、じゃあ行くよ」

 

「了解!」

 

「テキサスタワー、エンジェル0-1」

 

《エンジェル0-1どうぞ》

 

「エンジンスタート許可願います」

 

《エンジェル0-1、スタンバイ》

 

ほんの数秒後、許可が降りた。

 

《エンジンスタートを許可します。その後はタキシングを始めてもらって構いません。滑走路35手前で待機してください》

 

「滑走路手前で待機。エンジェル0-1」

 

もう1度マニュアルを見ながらエンジンをスタートさせる。

トムキャットとは違った音が心地よかった。

 

「回転数・・・よし、行こう!」

 

「うん」

 

いつもの縦列式ではなく並列式の座席なのでお互いの顔を見ながら会話できる。

旅客機に乗っている気分だ。

 

「今日は空いてるね」

 

「うん、珍しいよね」

 

「いつもなら戦闘機が何機か滑走路前にいるのにね」

 

「今日は私達だけみたいだね。運がいいのかな」

 

「だね!それよりもトマホークがなんかちょっと不満そうな顔してる」

 

マヤは苦笑いしながらそう言う。

いつもの座席ではないから座り心地がイマイチなのだろう。

不満げな顔だった。

 

「よしよし、そのうち慣れるから!」

 

「わぅん・・・」

 

マヤがトマホークを撫で回してるウチに滑走路手前に到着する。

 

《エンジェル0-1、そのまま滑走路手前で待機してください。タンカーが着陸します》

 

「了解」

 

空を見上げると大きな機影が見えた。

KC-767だ。

すでに最終着陸進入に入っているのでもう間もなく着陸するだろう。

スロットルを機体を動かせる程度に開いてブレーキを踏む。

 

「こう見ると旅客機だよねー」

 

「まぁ元が旅客機だからね」

 

給油機は何事もなく着陸し、滑走路から離れた。

 

《エンジェル0-1、滑走路に進入してください。離陸を許可します》

 

「離陸許可、エンジェル0-1」

 

ブレーキを離してゆっくり前進する。

 

「そのままローリングテイクオフで行こっか」

 

「ハルに任せるよ!」

 

「了解。リリア、先に上がってるね」

 

《了解、こっちももうすぐ上がるわ》

 

スロットルを目一杯開いてアフターバーナーに点火する。

急加速で機体はすぐに離陸速度に達した。

 

「テイクオフ・・・」

 

地面から離れていく。

目の前は大空だ。

 

「ランディングギア、アップ。マヤ、フラップ上げてもらっていい?」

 

「了解!フラップス、アップ」

 

《エンジェル0-1、フライトプランに従って飛行してください。安全なフライトを》

 

「了解。ありがとうございました」

 

離陸して進路を北に取る。

あとはリリア待ちだ。

 

「そういえばホットウォーターの天気ってどうだっけ」

 

「たしか晴れだったよ!でも道中で大雨だったかな」

 

「了解、リリア来たら高度をあげよっか」

 

「そだね!」

 

数分もしないうちにフランカーが編隊に加わる。

 

「リリア、いきなりだけど高度を上げようと思う」

 

《道中天気悪いらしいものね。了解よ》

 

「じゃあ30000フィートで」

 

《了解!》

 

「マヤ、レーダー見といてね。民間機居ると危ないから」

 

「ちゃんと監視してるから大丈夫だよー」

 

「了解、任せたよ」

 

操縦桿を引いて上昇する。

テキサスの近くはまだ快晴と言っていいほど天気が良かった。

 

「綺麗な青空・・・」

 

高度は30000フィートに近づいている。

ホットウォーターまでは予定だとあと2時間ほどだ。



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温泉の街「ホットウォーター」

「・・・ちょっと雲行きが怪しくなってきたね」

 

「うん・・・せっかく温泉行くのに雨はやだよね」

 

ホットウォーターまであと1時間。

すれ違う旅客機の量が多かったために雲の下まで高度を下げたのだが段々と雲行きが怪しくなってきた。

 

「まぁホットウォーターの天気は晴れだと信じよ」

 

「そだね!」

 

そう話していたらキャノピーに水滴がつき始めた。

 

「あーあ・・・降ってきた」

 

「視程の悪化には気をつけないと・・・リリア、あまりに視程が悪くなったら上に出るよ」

 

《了解、そっちに任せるわ》

 

天候に注意を払いつつ飛行を続ける。

 

「晴れてたらいい景色だったろうにね」

 

「ちょっと残念だけど帰りはきっと晴れてるよ!」

 

「そうだね」

 

ふと横を見るとトマホークは気持ちよさそうにマヤの足の上で寝ていた。

 

「いつの間にか寝てる・・・」

 

「あはは・・・」

 

しかもよく見たらリラックスしすぎているのか少し白目を剥いてる。

・・・ちょっと怖い。

 

「ふぁ・・・私も眠い・・・」

 

「マヤは起きてて」

 

「うー・・・私もワンコになりたい・・・」

 

「馬鹿なこと言わない」

 

「ワンコになってハルに飼われたい・・・」

 

「どういう事それ・・・」

 

「ハルに躾されたい・・・」

 

「ドMか」

 

「ハルの前ならドMでもドSにでもなります!」

 

「・・・・・気持ち悪い」

 

最近割とマヤの頭の中が心配になってきた・・・。

 

「とりあえずマヤのことは置いとくとして・・・レーダーに反応は?」

 

「うぅ・・・ハルのスルースキルが上がってる気がするよぅ・・・何もありませんよーだ・・・」

 

「なら良かった」

 

なんて話しながら飛行を続けた。

10分ほどすると空が明るくなってきた。

 

「あ・・・晴れてきた」

 

「ホントだね!」

 

《ねぇ下見て!綺麗!》

 

下を見ると1面の草原に川や小さな池等があり、そこで暮らす動物達の姿も見えた。

 

「こういう所でお弁当食べたら美味しいんだろうな・・・」

 

「魔獣がいるだろうから武装しないと無理だけどね」

 

「そこで現実に戻さないで!」

 

実際私もこんな所でのんびりしてみたい・・・。

そう思いながら地上を眺めながら飛んだ。

 

「あ、ハル。最後のウェイポイント。方位280に右旋回」

 

「了解、方位280」

 

「ホットウォーターってたしか空港大きかったよね?」

 

「うん。たしか街そのものが大きくて滑走路が3本あった」

 

「4本かー・・・大きいね」

 

「その分、混雑してるけどね。」

 

「まぁ観光地だし!あ!そろそろ管制圏なんじゃない?」

 

「ほんとだ。ありがと」

 

無線をホットウォーターの管制塔に合わせた。

 

「ホットウォーター、こちらエンジェル0-1」

 

《エンジェル0-1どうぞ》

 

「そちらの空港への着陸を要請します」

 

《了解エンジェル0-1。現在本空港の滑走路35L上で事故が発生したため、35Lは封鎖中です。滑走路22が空いていますのでそちらに向かってください》

 

「了解。事故の方は大丈夫なの?」

 

《着陸失敗事故です。整備不良だった冒険者の戦闘機が35L上で回転して滑走路外で炎上中です》

 

「回転したって・・・了解。滑走路22に向かいます」

 

「どんな整備不良なのやらね・・・ハル、気をつけてね!」

 

「大丈夫、おじさんの腕は最高だから」

 

遠くに街と空港が見えてきた。

それに黒煙も。

まだ炎上中なのだろう。

 

《エンジェル0-1、滑走路22への着陸を許可します》

 

「滑走路22への着陸許可、エンジェル0-1」

 

許可も降りた。

あとは落ち着いて着陸しよう。

事故機が近くにあるのが不吉だが・・・

 

「リリア、もし降りた時に駐機場が離れた場所だったら空港出てすぐの所にある航空機ショップで待ち合わせね」

 

《りょーかい!》

 

機体をゆっくり降下させていく。

 

「ランディングギアダウン・・・ロック」

 

「フラップは?」

 

「オートフラップにしておいて」

 

「了解」

 

「もうちょい空港が近づいたら着陸前チェックするから」

 

「おっけー!ほら、トマホーク起きて、もう着くよ」

 

「わぅ・・・?」

 

トマホークは眠たげな目をしながら起きた。

よくこんな戦闘機の中で寝れるものだ・・・。

 

「マヤ、着陸前チェック」

 

「はいよ!ランディングギア」

 

「チェック」

 

「フラップは・・・オート?」

 

「チェック。オートだよ」

 

「着陸前チェックリストコンプリート!オッケーだよ!」

 

「了解。」

 

滑走路が迫ってくる。

少し横風がある。

機体が若干揺れた。

 

「おっと・・・若干横風強いね」

 

「うん、少しラダー切らないと」

 

機体を少しだけ風の吹いてくる方向に向けた。

 

「500フィート」

 

もうすぐ地面だ。

ふと駐機場に目をやると今日は何かのイベントかというレベルでレシプロ機が駐機してあった。

B-17にB-29・・・零式艦上戦闘機・・・スピットファイアにBf109・・・あれは震電だろうか?

とにかくレシプロ機の見本市だった。

 

「すごい量のレシプロ機・・・」

 

「ほんとだねー・・・っと、300フィート」

 

「了解」

 

もうすぐ滑走路端にさしかかる。

 

「降りたら何しようかなー!」

 

「まずは予約したホテル」

 

「そだね!」

 

そうこうしてるウチに滑走路端に差し掛かった。

機体をゆっくりと地面に接地させる。

 

「着陸っと・・・」

 

《エンジェル0-1、そのまま滑走路から出てください。駐機場はスポット15です》

 

「スポット15、了解」

 

「15、15・・・あ!あのレシプロ機・・・えっと・・・97式艦攻・・・の横だね!」

 

「了解、97式艦攻か・・・写真でも撮りたいね」

 

「だね!滅多に見ない機体だし!」

 

ゆっくりタキシングして97式艦攻の横の駐機場に機体を停止させた。

幸いリリアも隣の駐機場だったので待ち合わせの必要もなさそうだ。

 

「エンジンカット・・・ふぅ、お疲れ様」

 

「お疲れ様!トマホークもお疲れ!」

 

「わん!」

 

機体から降りるとお爺さんが1人フェンサーを見上げていた。

 

「こんにちわ。どうしたの?」

 

「あぁ、いや。美しい機体じゃなと思っての」

 

「ありがと、お爺さんのは?」

 

「ワシはこの97式じゃよ」

 

自慢げに97式艦攻を指さした。

 

「ワシも若ければジェット戦闘機に乗りたいんじゃが・・・何分もう歳がのぅ・・・目が回っていかんわい」

 

「まぁ細かい機器類もおおいからね」

 

「97はワシが魔王戦争の時から乗っとるから手足みたいなもんじゃがな!」

 

「魔王戦争にいってたんだ」

 

「うむ!魔王城に1t爆弾ぶち込んでやったわい!うはははは!!ま、今は老人会の飛行機同好会の旅行って感じじゃな」

 

「そうなんだ。今日は温泉旅行?」

 

「いやいや、今日は旅行が終わって帰る日じゃよ。今はお土産見に行ったばあさん待ちじゃわい!」

 

「仲いいんだね」

 

「ラブラブじゃよ!はっはっは!」

 

元気なお爺さんだ。

そんな話をしているとリリアのフランカーが隣に到着した。

 

「あ、ごめんなさいお爺さん。友達が来たから行かないと」

 

「おお、時間取らせて悪かったの!温泉旅行楽しむんじゃぞ!」

 

「お爺さんも安全なフライトを」

 

「うむ!」

 

お爺さんと別れてフランカーの近くに行く。

マヤもそこに居た。

 

「お待たせ」

 

「あのお爺さん、元気そうだね」

 

「まだまだ現役って感じだった」

 

「長生きっていいよね・・・ね、トマホーク」

 

「わん!」

 

「よーしよーし!」

 

マヤがトマホークを撫で回してるとリリアが降りてきた

 

「ふぅ・・・お待たせハル」

 

「ううん。じゃ、行こっか」

 

「うん!」

 

スーツケースを持って空港を出る。

温泉街の旅館を予約しているのでそちらに向かった。

 

「いい街だね!」

 

「うん、いかにも観光地って感じ」

 

屋台なども沢山あり、美味しそうな匂いがした。

 

「旅館に荷物置いて着替えたら温泉に入ろっか」

 

「賛成!」

 

まだまだお昼前の時間だがいいだろう。

のんびり入って美味しい物を食べよう。

 

「あ!ここの旅館じゃない?」

 

「うん、ここだよ」

 

「じゃ、入りましょっか」

 

中に入りチェックインして部屋に入る。

ペット同伴可なのがいい所だ。

しかも旅館の温泉にはペット用の所も用意してあった。

 

「良かったねトマホーク、ここでトマホークも温泉に入れるよ!」

 

「わん!」

 

楽しみなのか尻尾をぶんぶん振り回していた。

 

「じゃ、着替えよっか」

 

3人と一匹、楽しい旅行になりそうだ。



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温泉旅行1日目

「あー・・・いいお湯・・・」

 

「ほんとねー・・・」

 

「気持ちいい・・・」

 

3人でゆっくりと露天風呂に入っていた。

空は澄み渡る青空で雲一つない。

夜空を眺めながらというのもいいがこうして青空を眺めながらというのもいいものだ。

 

「ねぇねぇ、出たら何食べる?」

 

「たしかここはキノコ料理が美味しいって噂よね」

 

「うん、あと川魚を使った料理とか」

 

「楽しみね!」

 

「久々にお酒飲みたい・・・」

 

「いいわね!私も飲みたい!」

 

「私も私も!」

 

「まぁでも真昼間っていうのもアレだし夜にしない?」

 

「そうだね」

 

美味しい料理を食べて美味しいお酒を飲むのも最高だ。

何だかんだクエストの報酬を貯めていたので今回はパーっと使おう。

 

「ねぇねぇ、そういえばこの街って職人さんが一つ一つ手作りで銃を作ってる店あるんだけど行ってみない?」

 

「銃を?」

 

「うん、ネットで見たんだけどね」

 

その店は魔王戦争時代の武器をメインに一つ一つ手作業で銃を作っている店らしい。

M4やAK47等の自動小銃は作っていないのだが、モシン・ナガン、M1903、kar98k、三八式歩兵銃など、有名所のボルトアクション小銃をメインに作っているそうだ。

また、少し値は張るが、最新のボルトアクション狙撃銃も作っているとか。

一つ一つ手作業のため、部品の規格が微妙に違ったりと故障した際に部品を付け替える事は出来ないが、武器が壊れる前に使用者が寿命で死ぬと言われているほど頑丈らしい。

また300m先から魔獣の目を正確に打ち抜けるほど高精度だとか。

 

「お土産に良いかもね」

 

「ねぇハル、せっかくだしそれ持って何かお仕事しない?」

 

「旅行に来てまでしないよ」

 

「そうだよねー・・・」

 

この後の行き先などを話しながらのんびりとお湯に浸かる。

 

「そろそろ出よっか」

 

「そうね」

 

「出たらお昼だね!」

 

「そうだね」

 

露天風呂から出て脱衣所で着替える。

 

「あれ、ハルってそんな服持ってたっけ」

 

「マヤが買ってきてくれたでしょ」

 

「あー!前ハルが飛行服しか着ないから強制的に買ったやつだ!」

 

「強制的って・・・というかハルも女の子なんだからオシャレくらいしたら?」

 

「そんなお金あったらトムキャットの維持費に回す」

 

「恋人できた時困るわよ?」

 

「私は飛行機が恋人だから」

 

恋人なんて要らない。

私にはトムキャットが居ればそれでいい。

まぁトムキャットより魅力的な人が居るなら考えるが。

脱衣所を出ると外でトマホークがお座りで待っていた。

 

「あ!トマホーク!さっぱりしたー?」

 

「わん!」

 

「そーかそーか!気持ちよかったんだねー!」

 

「わん!」

 

トマホークは笑顔で尻尾を振る。

気持ちよかったのだろう。

 

「じゃ、部屋に行って荷物持って出掛けよっか」

 

「そだね!」

 

マヤが買ってきた服、紺色のスカートに水色のパーカーだがどうもスカートは下がスースーして気になる。

マヤもお揃いの!とか言って同じような格好だがリリアはお嬢様らしい白いワンピースを着ていた。

 

「ねぇリリア、それでカレーうどんでも食べよっか」

 

「え?カレーうどん?」

 

「うん」

 

「美味しそうね・・・ってちょっと待って!今ハルの思ってること分かったわよ!!」

 

「チッ・・・」

 

「ちょっと何よその舌打ち!!」

 

「冗談だよ。ご飯食べに行こ」

 

「ハルの冗談たまに酷いわよぉ・・・」

 

ちょっと凹んでいるリリアを横目に旅館の中のレストランに向かう。

夜はここの小さな宴会場のような所でご飯だ。

 

「何食べよっかな!」

 

「美味しそうなのあるといいね」

 

「だね!」

 

レストランに入って席についた。

 

「何食べるかなー」

 

「私はこれにしようかな」

 

私は蕎麦とキノコの炊き込みご飯セットにした。

異世界料理をそのまま再現したと書いてある。

 

「じゃー私もこれ!」

 

「私はこれかな」

 

マヤは同じものをリリアはキノコのパスタを選んでいた。

トマホークには店から犬用のご飯を出してもらっていた。

 

「蕎麦って食べた事無いよね」

 

「うん!初めてだよね」

 

「私のお父さんが美味しいって言ってたわよ」

 

「楽しみ」

 

待つこと10分ほど、最初にリリアの料理が来た。

 

「ごめんね、お先に頂くわ」

 

「うん、そんな気を使わなくてもいいよ」

 

さすがお嬢様というだけあって食べ方はお上品だ。

その足元でトマホークはこの近くで取れた鹿肉を美味しそうに頬張っていた。

 

「そういえばマヤの言ってた店って近いの?」

 

「えっとね、ここから歩いて10分くらいかな」

 

「じゃあその店行ってあとは街を歩いて回ってみよっか」

 

「そだね!」

 

そう話していたら私達にも料理が届いた。

 

「美味しそう!」

 

「うん、いい匂い」

 

「じゃ、いただきまーす!」

 

初めての蕎麦の味を楽しみながら時間は過ぎていった。

トマホークは鹿肉をすぐに食べ終わり次のをくれと言わんばかりに足を叩いてきた。

 

「もうトマホークは食べたでしょ」

 

「わぅん・・・」

 

「まだ食べたいの?」

 

「くぅーん・・・」

 

「もうしょうがないなー・・・」

 

マヤは店員を呼んでトマホーク用のお肉をもう一つ用意してもらっていた。

そして肉が来るや否や物凄い勢いでがっついていた。

 

「ふー・・・美味しかった」

 

「お腹いっぱいだね!」

 

「お金払って行こっか」

 

「だね!」

 

食べ終わって名残惜しさか容器を舐めまわしていたトマホークを連れて店を出た。

 

「じゃマヤの案内で」

 

「りょーかい!」

 

職人の店。

私達パイロットからすればいくら高精度でも狙撃銃など必要は無いがお土産にはいいだろう。

 

「えっとたしかここを曲がると・・・あった!ここだよ!」

 

マヤが指さす店は小さな銃砲店だった。

中に入ると店番なのか私達と同年代くらいの女の子が一人いた。

 

「いらっしゃいませ、ごゆっくり見ていってください」

 

女の子は笑顔でそう言ってきた。

店内には多種多様なライフルが飾ってあった。

 

「わー・・・すっごい・・・」

 

複製魔法を使わない全ての部品を職人が作っているライフル。

一つ10万ドル越えは普通だった。

 

「あ・・・お爺様が持ってたライフル」

 

「ん?どれどれ?」

 

「これ、99式小銃」

 

「へー・・・リリアのお爺さんが使ってたの?」

 

「うん、魔王戦争で戦死した戦友のライフルって大切にしてたから」

 

「そうなんだ・・・」

 

「私、これ買おうかな」

 

「お!いいね!買っちゃえ買っちゃえ!」

 

「マヤは?」

 

「私はー・・・これかな?Kar98k!」

 

マヤはKar98kというライフルを指さしていた。

 

「ハルは?」

 

「選んでる」

 

色々と置いてあるがその中でも気になった銃があった。

全て古めの小銃が多い中一つだけ場違いなライフルがあった。

マクミラン TAC-338

異世界の伝説の狙撃手が使ったとされているライフル・・・と説明文に書いてあった。

値段は30万ドル。

私は何故かこのライフルに惹かれてた。

 

「私はこれかな」

 

「お決まりですか?」

 

「あ、えっと、99式とkar98、あとこのTAC-338で」

 

「かしこまりました!弾薬はどうされますか?」

 

「どうする?」

 

「せっかくだし射撃しに行こうよ!買お!」

 

「じゃあ弾薬も」

 

「かしこまりました!あ、それとTAC338なんですけど、照準器が無いんですが・・・サイトも買われます?」

 

「あ・・・じゃあアイアンサイトとこの8倍スコープも」

 

「かしこまりました!えっと・・・合計で90万ドルになります!」

 

「先に2人が払って、私の多いから」

 

「りょーかい!」

 

ライフルとおまけでガンケースを貰い店を出た。

店の外でトマホークが暇そうに欠伸をしていた。

 

「どこか射撃できる所ないかなー・・・」

 

ふと周りを見るとすぐ横に屋内射撃場があった。

 

「ここにしよ」

 

「いいね!ここにしよ!」

 

中に入り受付を済ませる。

その時に店にトマホークを預けた。

この射撃場、地下に作ってあって最大400mまで射撃ができるようだ。

 

「じゃあせっかくだし勝負しようよ!」

 

「いいわね!」

 

「ルールは?」

 

「5発で何点取れるか!あ、ハルはスコープ無しだよ!」

 

「分かってるよ」

 

「じゃあやろやろ!負けたらケーキね!」

 

「乗った」

 

「私も!」

 

射撃レーンは一つだけ使うことにした。

ケースから銃を出して弾を込める。

 

「じゃあ誰からやる?」

 

「そこは言い出しっぺのマヤから」

 

「じゃあ次私いいかしら!」

 

「いいよ。私が最後だね」

 

順番も決まり、イヤーマフを付ける。

 

「私こう見えて射撃は上手いから!」

 

マヤは笑顔で射撃レーンに着く。

銃を構えるとさっきまでの笑顔は消え真剣な顔で標的を狙っていた。

 

「すー・・・ふー・・・」

 

ゆっくりと引き金に指をかけていた。

そして腹の底に響く銃声がした。

ボルトを引いて排莢するときの金属音が心地よい。

その後順番に射撃を繰り返し、私の番になった。

射撃の結果は最後に見ることになっていた。

 

「・・・よし」

 

薬室に初弾を送り込む。

マヤやリリアの銃と違って私の銃は純粋な狙撃銃。

アイアンサイトだと少し狙いづらい。

せめてドットサイトが欲しかった。

 

「はー・・・ふぅ・・・」

 

息を止め、ゆっくりトリガーを引く。

腹の底に響く銃声と衝撃。

ただマズルブレーキのお陰でそんなに反動は感じなかった。

ボルトを引いて排莢する。

 

「・・・2発目」

 

同じように狙い、射撃した。

集中していたからか2人の5発は長く感じたのに自分がやって見るとかなり短く感じた。

 

「ふぅ・・・」

 

「お疲れ!じゃあ結果発表!」

 

近くにある射撃結果を印刷してくれる機械に行き印刷した。

紙を裏返してまだ見えないようにする。

 

「せーので見るよ!・・・せーの!」

 

紙を表にした。

 

「わーい!真ん中に2発も当たってるわ!」

 

「馬鹿なァ!!1発しか当たっとらんだとォ!?」

 

「・・・」

 

「ハルは?」

 

「ん」

 

私はきっとドヤ顔をしている事だろう。

全弾まさかのど真ん中だ。

 

「ま、負けた・・・」

 

「マヤの奢りね」

 

「お慈悲をください!」

 

「マヤが言い出したルールだもの・・・しっかり守ってね♪」

 

「リリア、店の指定無かったしいいお店に行こうよ。紅茶とケーキの美味しい店」

 

「任せて!いい店調べてあるから!」

 

「お願いします!あんまり高いのは勘弁してください!」

 

「ルールだし店の指定なかったから」

 

「うわぁぁぁん!無慈悲過ぎるよぉぉ!!」

 

射撃場を出て、少し行った先にあるケーキ屋でティータイムをした。

さすがお嬢様なリリアだけあり、美味しい紅茶と美味しいケーキが出てきた。

少し値は張ったが・・・。

マヤはヤケクソ気味でケーキを3個ほど平らげていた。

トマホークも犬用のケーキがあったのでそれを美味しそうに食べていた。

いいライフルも買えて満足の旅行1日目だった。



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温泉旅館2日目

「地味に高いよぅ・・・」

 

「値段相応の美味しさ」

 

射撃の勝負で勝った私達は近くのオシャレなカフェでティータイムをしていた。

マヤは値段を見て嘆きながら机に突っ伏している。

 

「マヤも何か食べれば?」

 

「うん・・・そうする・・・」

 

トマホークを撫でながら起き上がる。

トマホークは犬用ケーキに夢中に食いついていた。

 

「あ、ねぇねぇ!ここ行かない?」

 

「ん?」

 

私が紅茶を飲んでいると机にあった観光名所の冊子を開いたリリアがあるページを指さしていた。

それはこの街の近くにある、大きな桜の木だった。

桜は湖の真ん中にポツンとある小さな島のような場所にある。

大きさは高さ60m以上。

木の太さは767型機の胴体並だった。

樹齢10000年はあるだろうと言われていた。

また湖の底にある鉱物が水に触れると発光する物質なのと、水の透明度がとても高いため夜間に行くと神秘的な桜が見えるそうだった。

また1年中花が咲いているためいつでも見れるそうだ。

ちなみに、桜の木から半径1キロ以内、高度5000ft以下は飛行禁止空域となっており、街のレーダーで常に監視されている。

最初は無線で警告されるが無視するようなら街から長射程の艦載型の対空ミサイルSM-2を改良した地対空ミサイルで撃墜が確認されるまで攻撃されるらしい。

 

「記念に写真とかいいんじゃない?」

 

「確かに、綺麗な感じだね」

 

「じゃあカメラ用意しないとね!」

 

いつの間にか機嫌が治ったマヤは元気にそう言った。

予定も決まり、ケーキを食べ終え店を出た。

ちょうど空が赤くなってきた。

いい時間だ。

 

「じゃあ空港に行きましょ!」

 

「うん」

 

歩いて空港まで向かう。

店からそんなに遠くはない。

 

「桜かー・・・綺麗なんだろうな」

 

「特に夜空だとね」

 

今から上がって桜の木まで行く頃にはいい感じに辺りは暗くなるだろう。

楽しみだ。

 

「今日はいい星空も見えそう・・・」

 

空を見上げてそう呟いた。

雲一つない空だった。

 

「ねぇハル、帰るのって明日だったよね」

 

「うん、明日のお昼だよ。どうしたの?」

 

「お土産買うのいつにしようかなって思ってたから」

 

「明日、お土産メインで行動しようと思ってるからその時探そ」

 

「うん!」

 

明日の予定を話しながら空港に入り、フライトプランを提出した。

その時に飛行禁止空域に入らないという誓約書を書いた。

エプロンに出て機体の前についた頃にはあたりは暗くなっていた。

 

「じゃ、行こっか」

 

「うん!トマホークもおいで!」

 

「わん!」

 

コックピットに乗り込んで補助動力装置を起動して無線機のスイッチを入れた。

 

「タワー、エンジェル0-1。エンジンスタートの許可願います」

 

《エンジェル0-1、エンジンスタートを許可。そのままタキシングを始めてもらって構いません。離陸は滑走路35Rを使用してください》

 

「了解。リリア、先に行くね」

 

《了解、上で会いましょ》

 

誘導路にそって滑走路に向かう。

さすが観光地の空港だけあってかなり広い上に混雑している。

滑走路に着くまでに10分以上かかった。

 

「エンジェル0-1、35Rに接近中」

 

《エンジェル0-1、滑走路手前で待機》

 

「了解」

 

滑走路手前で停止して次の指示を待っていると消防車が近くを通っていった。

何かあったのだろうか。

 

「どうしたんだろ」

 

「さぁ・・・緊急事態かな」

 

その時、管制塔から緊急着陸の旨を伝える無線が入った。

 

《滑走路35Rに戦闘機が緊急着陸します、近くの航空機は退避してください》

 

「これは・・・すんなり上がれそうにないかな?」

 

「緊急事態の度合いによるかな」

 

なんて話していると遠くで何かが光る。

炎のようだった。

火災により緊急着陸のようだった。

無線から声が聞こえる。

 

《ホットウォーター!こちらジョーカー0-1!》

 

《ジョーカー0-1、ホットウォーター》

 

《滑走路は空けてくれてますよね!》

 

《ジョーカー0-1、空けてます。消防車が待機中》

 

《 了解、こちらは射出座席も故障しています!レスキューもお願いします!》

 

《レスキューも待機中》

 

《了解!》

 

ここから見る限り交戦のあと損傷したようだった。

 

「大丈夫かな・・・」

 

「分からない」

 

マヤは心配そうに航空機を見上げていた。

 

《あと、あとちょっと・・・!》

 

戦闘機のパイロットの祈るような声が聞こえてきた。

だが、その祈りに答えたのは死神だった。

機体から更に炎が上がる。

 

《ジョーカー0-1!大丈夫ですか!?》

 

《メーデーメーデーメーデー!!操縦が・・・!》

 

《ジョーカー0-1諦めないでください!!》

 

管制官の励ます声が聞こえた。

だが戦闘機は機首を下げたまま落ちていく。

 

《そんな・・・こんなの嘘でしょ・・・?何故なんですか・・・!》

『Pull Up!』

 

警報の音がパイロットの声の後ろから聞こえた。

そして戦闘機は滑走路の端に墜落、爆発炎上した。

 

「・・・」

 

「・・・・」

 

私達はその炎を眺める事しか出来なかった。

 

《・・・エンジェル0-1、滑走路35Rより離陸を許可》

 

「エンジェル0-1・・・了解」

 

爆発炎上する航空機を背に離陸滑走を開始した。

 

「ハル・・・大丈夫かな」

 

「・・・」

 

どう答えていいか分からない。

確実にあのパイロットは生きてはいないだろう。

空を飛ぶものはいつかは落ちる。

そういった賢者の言葉を思い出した。

戦闘機に乗っていく以上、ああいった事故にも遭遇するだろう。

覚悟はしていたが実際に見るとなんとも言えない気持ちになった。

 

「戦闘機に乗っていく以上、ああいったことは何回もあるよ」

 

「そう・・・だよね」

 

「・・・私達だって何機も撃墜してるんだし」

 

少しばかり暗い気持ちになりながら離陸した。

高度を8000ftまで上げてリリアを待った。

 

《ハル、お待たせ》

 

「ううん、大丈夫。上がれて良かったよ」

 

《まぁ事故なんてしょっちゅう起きてるし、いつもの事よ》

 

「・・・目の前で人が死ぬってのには慣れないけどね」

 

《まぁ・・・ハルは優しいものね》

 

「そういうんじゃないと思うけど・・・」

 

上空で合流してそんな話をした。

 

 

「まったくせっかくキレイな桜が見れると思ったのに・・・」

 

「事故は起きるさ!・・・なーんて」

 

《笑えないわよ、それ》

 

「あ、あはは・・・和めばいいかなって思ったんだけど・・・あ!」

 

マヤが何かを見つけて大きな声を出した。

 

「見て見て!あれ桜じゃない?!」

 

マヤが指さす方向に薄いピンク色に光る何かがあった。

 

「ホントだ」

 

《確かあれが桜ね!》

 

「じゃ、飛行禁止空域に引っかからない程度に接近しよっか」

 

「賛成!」

 

少し加速して高度を下げた。

近づくにつれてその大きさが分かってくる。

 

「大きい・・・」

 

おまけに太い。

本当に767型機の胴体くらい太かった。

しかし湖のおかけでライトアップされたかのようになっていて綺麗だった。

 

「マヤ、写真よろしく」

 

「はいよ!」

 

トマホークも窓に近寄り外を見ようとしていた。

 

「お、トマホークも外見る?」

 

「わん!」

 

まるで見たいと言っているかのような返事だった。

マヤが抱き抱えて外を見せてやっていた。

 

「それにしてもさすが観光地なだけある・・・」

 

レーダーには無数の航空機が映っていた。

ここでは民間機も乗客に桜を見せるため、高度を下げて飛行している。

さらにそこに冒険者達の戦闘機なども飛び交うため非常に混雑した空域になっていた。

そのため希に空中接触事故等も起きていた。

 

「どう、写真はいいの撮れた?」

 

「バッチリ!」

 

「リリアは?」

 

《バッチリよ!ふふ、いい思い出になりそう!》

 

「良かった、じゃあ帰ろっか」

 

《もう帰るの?》

 

「正直、混雑した空域は苦手。もしあれだったらリリアは後から帰ってきて」

 

《分かったわ。もう少しだけ見ていくわね》

 

「了解、それじゃお先に」

 

「リリア、帰ったらお酒だよ!」

 

《ええ、楽しみにしてるから》

 

編隊を解いて私達は空港への帰路に着いた。

空港へ機首を向けると空はすっかり真っ暗になっていた。

街の灯りが良く見える。

 

「街の灯りもかなりキレイだね」

 

「だね!夜景も写真に撮りたい!」

 

「それじゃ、マヤの席側から旋回する形でアプローチするから」

 

「ありがと!ハル大好き!!」

 

「はいはい」

 

「うぅ・・・軽くあしらわれた・・・」

 

「わふ」

 

トマホークは、ドンマイとでも言いたげにマヤを前足でつついていた。

 

「ふぁ・・・」

 

「ちょっと、居眠りはダメだよ!」

 

「知ってるよ。ちょっと疲れただけ」

 

「本当に?」

 

「私、暗くなると眠くなるの」

 

「それはみんな同じなような・・・」

 

「そういうわけであとの操縦よろしく」

 

「はぁ!?」

 

「嘘だよ、そんなにびっくりしなくていい」

 

「だってハルなら本当にやりかねない・・・」

 

「・・・それこそ心外なんだけど・・・」

 

なんて話していたら街が近くなってきた。

 

「タワー、エンジェル0-1。空港への着陸を要請」

 

《エンジェル0-1、ホットウォーター。前方の737に続いて滑走路17Lに着陸を許可します》

 

「エンジェル0-1、了解」

 

「お!いい感じになってきた!」

 

マヤはカメラを構えて外を見ていた。

トマホークもマヤの肩に登って外を見ようとしていた。

 

「・・・楽しそう・・・」

 

私はボソッと呟いた。

着陸前で対気速度も落ちてきている。

いろいろと操作しなければならないのでマヤ達みたいに外を見たくてものんびりと見えない。

ちょっとだけマヤが羨ましい・・・本当にちょっとだけ。

 

「よっし!いっぱい撮れた!あとでハルにもあげるねっ!」

 

「ありがと、楽しみにしてる」

 

「うん!さて、あとは美味しいお酒が待ってるね!」

 

「うん、美味しい料理にお酒・・・楽しみ」

 

737が滑走路に降りるのを見ながらそんな話をした。

そして私達の順番が回ってきた。

 

「リリア、今どこ?」

 

《私も空港に向かってるわよ。ハル達より20分くらい遅くなると思う》

 

「了解」

 

滑走路を正面に捉えてゆっくりと高度を下げていく。

機体は何事もなく無事に着陸した。

 

《エンジェル0-1、そのまま滑走路を出てスポット20に向かってください。》

 

「エンジェル0-1、了解」

 

「スポット20・・・えっと・・・」

 

マヤが空港の地図を見てスポットを探してくれていた。

 

「あった!えーっと・・・あのターミナルの前だね」

 

「ターミナルが近いのはラッキー」

 

「ホントだね!」

 

いつもターミナルから離れていたので移動が大変だった。

今回は楽でいい。

 

「停止・・・っと。お疲れ様」

 

「お疲れ様!」

 

「わんっ!」

 

「トマホークもお疲れ様。いい子だったね」

 

「わふ・・・」

 

頭を撫でてやると嬉しそうに尻尾を振っていた。

 

「旅館に行こっか」

 

「だね!」

 

地上係員に燃料補給をお願いして空港を出た。

街は昼と違い、温泉から上がった人が多いのか浴衣姿の人達が多かった。

 

「この街ホントいい所だよね・・・」

 

「うん。いい街だと思う」

 

その時だった。

 

「待ちなさい!!」

 

正面からそんな声と共に男が走ってきた。

手にはカバン。

ひったくりだ。

 

「どけこの野郎!!」

 

ナイフを片手に走ってきた。

だが私達は戦闘機から降りたばかり。

それに何かあった時のために自衛用の拳銃を持ったまま乗っている。

そして降りたばかりの今もそれは持ったままだった。

 

「そういうあんたは止まったら?」

 

「そうそう」

 

マヤと2人で拳銃をホルスターから抜いた。

私は45口径のFNX-45、マヤはP226を構えた。

 

「なっ・・・!」

 

男は一瞬狼狽えた。

 

「大人しくしてれば撃たないよ」

 

だが男は近くにいた女性を捕まえ、首にナイフを当てた。

 

「て、てめえらこそ銃を捨てないとこの女を殺すぞ!」

 

「ちょっ・・・そんな絵に書いたような悪者みたいな事しなくても・・・」

 

私達は少し余計な事をしてしまったかもしれないと後悔した。

だが、距離は10mほど。

撃てば当たるはずだ。

・・・頭にだが。

 

「さっさと銃を捨てろ!!」

 

男は怒鳴る。

だが捕まってる女性は怯えるどころか小さな声で何かを呟いた。

 

「何ぶつくさ言ってんだ!」

 

男は女性に威嚇した。

だが・・・。

 

「・・・私に気安く触らないで頂けますか?」

 

「は?・・・なっ・・・!」

 

何もしていないのに男の腕が動く。

女性から手が離れる形になった。

 

「ちくしょう、ま、魔法使いめ・・・!」

 

「私に汚い手で触ったこと死んで詫びてください」

 

男はそのまま地面に仰向けに倒れたかと思うとナイフを自分の胸に向けてゆっくりと下ろし始めた。

 

「な、く、くそ・・・!!」

 

「抵抗しても無駄ですよ。むしろしない方が楽に死ねると思いますが」

 

あと数センチで胸にナイフが刺さりそうな所でマヤが止めに入った。

 

「ストップストップ!!やりすぎだよ!!」

 

マヤに止めに入られたおかげか男は体が動くようになっていた。

ついでに逃げようとしていたので私が銃を向ける。

 

「はい、あんたは動かない」

 

「・・・」

 

「命拾いしましたね」

 

魔法使いの女性はマヤの手を振り払ってそう吐き捨ててどこかに歩いていった。

 

「なにあの魔法使い・・・感じ悪っ!」

 

「それは同意」

 

幾ら何でも殺そうとするのはやりすぎだ。

なんてしていたら誰かが通報したのか街の騎士団の警務隊が駆けつけてきた。

男はそのまま逮捕されて連行されていった。

私は男が持っていたカバンをひったくりにあった女性に返して旅館へと向かった。

 

「まったくえらい目にあった」

 

「ホントだねー・・・それにしてもあの魔法使いしれっと居なくなってるし・・・」

 

なんて言いながら旅館に入って部屋に戻る。

部屋に料理とお酒を届けてもらうようにしていたので受付にそれを伝えた。

 

「さてあとはリリアを待つだけだね!」

 

「うん。でも・・・」

 

「うん?」

 

「先に1杯やっちゃわない?」

 

私は荷物から缶ビールを取り出した。

 

「さすがハル!」

 

「おつまみもあるよ」

 

簡単なものだが燻製チーズも広げた。

 

「じゃ、かんぱーい!」

 

「かんぱーい」

 

喉が乾いていたせいか一気に半分くらい飲んでしまった。

 

「んくっ、んくっ・・・ぷはー!うまい!!」

 

「チーズも美味しい」

 

「くぅん・・・」

 

トマホークが物欲しそうな目で見てくる。

 

「トマホークには後からご馳走くるから待っててね」

 

「わん!」

 

ご馳走という単語を聞いてトマホークはビシッとお座りをした。

そして、こっちを見たら欲しくなるからか別の方向を向いていた。

 

「ねぇ、帰ったら何する?」

 

「んー・・・せっかくだし狩りでも行かない?」

 

「お!いいね!」

 

「私、鹿とか猪くらいなら捌けるから取れたてのお肉でBBQとか」

 

「最高だよハル!」

 

「でもそうなるとヘリコプターいるかな・・・」

 

現在の貯金が1500万ドル。

ヘリコプターの相場が400万から800万ドル程度なので買えない事もない。

 

「もしかしてヘリ買っちゃう?」

 

「うーん・・・悩んでる」

 

ヘリはすでにYAH-64があるが、あれは二人乗りの戦闘ヘリなので狩りのために使うわけにもいかない。

 

「ねぇハル・・・わがままいいかな」

 

「ん?」

 

「ブラックホーク・・・欲しい」

 

「UH-60?」

 

「うん、私ブラックホークが大好きだからね」

 

「・・・いいよ、テキサス帰って探してみよ。お金もあるから」

 

「ホント!?」

 

「うん、ホント」

 

「やった!大好きハル!」

 

マヤは私に飛びついて押し倒してきた。

 

「マヤ・・・痛い・・・」

 

「あ、ごめん!嬉しくってつい・・・」

 

なんてしてたら部屋のドアが空いた。

 

「ただいまー・・・って、もうやってるの?」

 

「0次会!」

 

「見たら分かるわよ」

 

「リリアも、はい」

 

「わっ!・・・っと、ありがと」

 

リリアにもビールを渡した。

リリアも疲れていたのかすぐに開けて一気飲みしていた。

 

「ぷはっ!染み渡るわー・・・」

 

「チーズもあるよ」

 

「ありがと!」

 

そこから料理が届き始めて3人と1匹、今日の思い出を語り合いながら食べたり飲んだりしていた。

そして1時間ほどたった時、マヤが完全に酔っ払ってしまった。

 

「んふー・・・ハルー・・・」

 

「な、なに?」

 

「ハルってさー・・・可愛いよね」

 

「へ?」

 

「あ〜、私もそれ思う〜」

 

リリアも酔っ払って酒瓶片手にそんな事言っていた。

 

「ねぇねぇハルー」

 

「な、なに?怖いんだけど・・・」

 

「おりゃー!」

 

「わっ、ちょっ!!」

 

まさかの押し倒された。

 

「おーいいぞーやれやれー」

 

「見てないで助けて」

 

「んぇー?やーだよー」

 

「このやろう・・・」

 

するとマヤは服の中に手を突っ込んでくる。

 

「ちょ、マヤ!?」

 

「んふふ、ハル大好き」

 

「そ、それはやりすぎだから!」

 

「リリア、そっちを押さえるんだー」

 

「あいあいさー!」

 

「ちくしょうこの酔っ払いめ!」

 

リリアに手を押さえられマヤには馬乗りになられた。

・・・終わった。

 

「んふふ、お医者さんごっこでもしちゃう?」

 

「や、やめ、やめて・・・」

 

「わっしょーい!」

 

マヤに思いっきりシャツをめくられた。

 

「あれぇー?ハルまたおっきくなったー?」

 

「なってない」

 

「嘘だー、マヤ身体検査!」

 

「任されよー!」

 

「や、やめ・・・ひゃんっ!?」

 

・・・・そこから何が行われたか思い出したくもない。

トマホークに助けてと言っても、無理ですわコレって顔をされてそっぽを向かれてしまった。

3時間くらい2人にいろいろとメチャクチャにされて2人が力尽きた所で解放された。

私もそのまま力尽きたが・・・。

起きたらもう朝だった。

 

「ん・・・うぅ・・・いろいろベタベタ・・・」

 

汗やらなんやらで体中ベタベタだ。

帰る前に温泉に入ろう・・・。

そんな温泉旅行2日目だった。



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狩りの準備

「離陸前チェックリスト」

 

「フラップよし・・・えーっと・・・他のもよし!」

 

「了解」

 

「えーっと・・・ハル・・・あの・・・」

 

「なに?」

 

「怒ってらっしゃない?」

 

「・・・別に」

 

マヤは昨日の事で謝っているのだろうが・・・。

もうどうせ女同士だからいいやと思っていたのでたいして怒ってはない。

 

「ほんと・・・?」

 

「ホント。まぁ前にマヤには命を助けもらったし許してあげる」

 

「わーい!ハル大好き!」

 

「・・・タクシー中は抱きつこうとするのやめて・・・」

 

今日はテキサスに帰る日だ。

お土産も買い、今はテキサスに向けて帰るために滑走路に向かっている。

 

「帰ったらきっとトムきゃんが寂しそうにしてるね」

 

「たぶんね。でも帰ったら次は狩りに行くんだからね」

 

「分かってるよ!ライフルも買ったし楽しみだね!」

 

「うん」

 

私も狩りをするのは久々で楽しみだった。

狩り立ての獲物を捌いて大きな肉を豪快に焼いて食べる事を考えるとお腹が空いてきそうだ。

 

《エンジェル0-1、滑走路手前でホールド》

 

「滑走路手前でホールド、エンジェル0-1」

 

指示通りに滑走路手前に止まる。

リリアのフランカーも私の後ろに止まった。

 

《タワーよりエンジェル0-1。747の着陸後、滑走路に進入して待機》

 

「エンジェル0-1、了解」

 

ここから1分程度のところに747の機影が見えた。

 

「旅客機のパイロットっていうのも何か楽しそうだね」

 

「えー?私は戦闘機乗ってる方が好きだけどな」

 

「私もそうだけど、たまにはあんな大型機を操縦してみたいよ」

 

降りてくる747を見てそう言った。

民間機のパイロットになるには私達のような戦闘機の免許よりももっと難しい学校に入らなければならない。

旅客機パイロットの免許取得の過程は異世界と同じシステムを取っているらしく、並大抵の事では取得出来なかった。

それ故に旅客機パイロットは航空機を操縦する職業の中で1番のエリート職業だった。

何百人もの命を預かるのだから当たり前といえば当たり前だが。

 

「さてと、降りたの確認したし滑走路に入ろっか」

 

「だね!」

 

「リリア、横について来て。2機で上がるよ」

 

《りょーかい、フォーメーションテイクオフね》

 

「うん、私が左、リリアが右で」

 

《了解!》

 

フォーメーションテイクオフとは編隊を組んで離陸する事だ。

滑走路を半分ずつ使う形で離陸する。

 

《エンジェル0-1、0-2。離陸を許可します。離陸後は計画に従い飛行してください》

 

「離陸許可、0-1」

 

《0-2》

 

スロットルを目一杯開いて加速する。

十数秒で機体は地面から浮いた。

 

「0-1離陸」

 

《0-2、離陸》

 

《エンジェル0-1、0-2。良い旅を》

 

管制との交信を終わり巡航に入った。

ホットウォーターは観光地のため、空域が非常に混雑していた。

すぐに大型旅客機とすれ違う。

 

「んー・・・低空だと危ないか・・・」

 

「アプローチを待機してる航空機多そうだもんね」

 

「事故起こすわけにもいかないし、ちょっと気持ち悪くなるかも知れないけど急上昇するよ」

 

「そのほうが良いかも・・・どこまで上がる?」

 

「なるべくコースから外れたいから10000まで」

 

「りょーかい!リリアも聞こえてた?」

 

《聞こえてるわ、10000ね》

 

「じゃ、上昇で」

 

操縦桿を引いて迎え角40度まで引き起こした。

一瞬、強いGがかかる。

トマホークが突然のGに少し嫌そうな顔をしていた。

 

「トマホーク、大丈夫?」

 

「わぅ・・・」

 

「よしよし、もう変なことしないからね」

 

私は片手でトマホークの頭を撫でてやった。

高速で急上昇したのですぐに高度10000ftに到達した。

 

「ここから上に雲は無し・・・綺麗な青空」

 

私は空を見上げて呟いた。

 

「そういえばこの前読んだ小説に更に上のダークブルーの空は神秘的だって書いてあったよ!」

 

「ダークブルー・・・私は青黒い空は嫌いかな」

 

「えー?」

 

「なんだか吸い込まれそうな感じがして」

 

「んー・・・そうなのかな・・・」

 

「まぁでも綺麗だとは思うよ」

 

なんて他愛もない話をしながら順調に飛行を続けた。

久々だ、こんなに平和に飛べたのは。

 

「もうすぐテキサス管制圏だよね」

 

「うん、とは言っても着陸の前に交信するくらいだけど」

 

「旅客機は誘導したりしてくれるのに・・・」

 

「民間人と戦闘機乗りじゃ民間人のほうが優先に決まってるでしょ」

 

異世界の航空関係の雑誌を翻訳したものはよく出回っているが、異世界での航空管制はとても細かく規則なども細かく定められていた。

それに対してこっちの世界は民間機に対しては異世界と同様のシステムを取ってはいるが数の多い冒険者に対してはかなり雑だった。

管制は離着陸のみで行われ、空に上がってしまうとあとは自分の計画に従えばそれで良かった。

それに民間機の発着数は日に多くても5便程度であとは全て冒険者の航空機だった。

また着陸や離陸も緊急時を除き民間機優先のため、民間機の到着、出発時刻はタキシングの許可すら出ない事もあった。

 

「家に帰ったらとりあえずお土産開けないとね!」

 

「食べたいだけでしょ」

 

「えへへ、バレた?」

 

「早く食べたいオーラが買う時から出てた」

 

「ま、まぁほら、年頃の女の子ですし・・・」

 

「いくら年頃の女の子でも酒に酔って同性を襲ったりはしないと思うけどね」

 

「うぐ・・・て、てかそれ関係ないじゃん!」

 

「開き直り?」

 

「違う!でもごめんなさい!」

 

「素直でよろしい」

 

なんて話しつつ滑走路に機首を向ける。

 

「テキサスタワー。エンジェル0-1」

 

《エンジェル0-1どうぞ。》

 

「空港への着陸を求めます。現在地空港から南東20マイル」

 

《エンジェル0-1、確認しました。そのまま滑走路17に向かい飛行してください。》

 

「了解。リリアも続いて」

 

《りょーかい》

 

2機はゆっくりと高度を下げていった。

今日は風も穏やかで天気もいい。

それでももうあと2時間ほどで日没の時間だ。

 

「だいぶ空が赤くなってきたねー」

 

「日が落ちる前に帰れて良かった」

 

「そうだね!」

 

窓の外を見ながらそう言った。

ふと視線をトマホークに向けるとマヤの膝の上で気持ちよさそうに寝ていた。

 

「トマホーク、気持ちよさそうに寝てるね」

 

「うん、いい夢見てそうだよ」

 

「そっか。それにしても、よく戦闘機の中で寝れるよね」

 

「ハルの操縦が上手いんだよ!」

 

「褒めても何も出ないよ」

 

「えへへ」

 

「でも、本当に扱いやすい」

 

トムキャットに比べると機動性はないが、それでも安定感がある機体だった。

本当に飛ばしやすい飛行機だ。

 

「おっと、ハル、空港まで5マイルだよ」

 

「了解、タワー。こちらエンジェル0-1。空港まで5マイル」

 

《エンジェル0-1及び0-2。確認しました。滑走路17への着陸を許可します》

 

「着陸許可、エンジェル0-1」

 

あとは慣れた手順で空港へ着陸し格納庫にタキシングした。

 

「ん、くぅぅ・・・!」

 

「お疲れ様」

 

「お疲れ様、ハル!」

 

「お疲れ様、楽しかったわね」

 

「うん。じゃ、帰ろっか」

 

後のことは整備員に任せ私たち3人と一匹で家まで歩いた。

 

「ねぇマヤ・・・買いすぎじゃない?」

 

「えー?これでも我慢したほうなんだよ?」

 

マヤの手にあるのはお土産で買ったお菓子類。

チョコやらクッキーやらケーキやら・・・。

おかけで私が自分とマヤのライフルを持って帰っている。

・・・重い・・・。

 

「はぁ・・・マヤ、ちょっと持つからハルのライフル持ちなさいよ」

 

「ありがとリリア・・・重かった・・・」

 

「ごめんハル!」

 

「あとでお金請求する」

 

「勘弁してください!!」

 

荷物を分け合ったり旅の思い出を話しながら家に入った。

二日ぶりの家だ。

 

「ふぅ・・・ただいまっと・・・」

 

「おっふろー!」

 

マヤは真っ先に風呂を入れに行った。

トマホークもお風呂に行きたいのかマヤについて行った。

 

「ねぇハル、明日は狩りに行くの?」

 

「うん、そのつもり」

 

「じゃあバーベキューセット持っていかないとね!」

 

「あ、そうだね。でも私1回で良いから塊みたいなお肉を塩コショウだけで焼いて食べたい」

 

「あ!それ私もやりたい!」

 

「じゃあそのセットを持っていこっか」

 

なんて明日の予定を立てた。

まずはマヤのヘリを買うところからだが。

 

「移動はどうするの?」

 

「明日ブラックホークを買うよ」

 

「買うの!?」

 

「うん、マヤの機体で」

 

「あ、そっか。あの子ヘリパイだもんね」

 

「うん、ブラックホークは乗りなれてる機体だから」

 

昨日からブラックホークの話をするとマヤは目をキラキラさせて喜んでいた。

いままで私だけ好きな機体を飛ばせていたのだからマヤにも好きな機体に乗せてあげないと・・・。

なんてしていたらマヤが風呂を入れて戻ってきた。

 

「ただま!」

 

「おかえり。マヤ、明日はヘリを買ったらそのまま狩りに行きたいんだけど大丈夫?」

 

「うん、大丈夫だよ。ブラックホークなら操縦出来るから」

 

「じゃあライフルとか用意しましょうか」

 

私たちはガンケースにこの前買ったライフルを入れた。

それと、私とマヤはロッカーからAKを出した。

念の為の護身用だ。

 

「AKなんて使う?」

 

「念の為」

 

「そうそう!」

 

「私はこれだけでいいわ」

 

リリアはケースに99式小銃と弾薬を詰めていた。

私も弾薬とライフルのスコープをケースに詰める。

 

「あ、そっか。ハルのはスコープ付いてるんだよね」

 

「うん。弾薬も強力な338ラプアマグナム」

 

「じゃあ魔獣が出たらハルに任せましょうか」

 

「そこはリリアに全部任せる」

 

「何でよ!」

 

「なんとなく」

 

「ひどい・・・」

 

明日の準備をワイワイ楽しみながら進め、3人でのんびりと風呂に入った。

トマホークも付いてきて一緒に風呂に入っていた。

そして、トマホークの性別に気づいたリリアが顔を真っ赤にしてのぼせていた。

 

「ワンコなんだから気にしなくてもいいのにねー、トマホーク」

 

「わぅ・・・」

 

トマホークはマヤの太ももに前足を乗せてまったりとしていた。

そこから数分程度で風呂から上がり、旅の疲れもあってかスグにみんな寝てしまった。

気づけば朝だ。

 

「ん・・・ふぁ・・・」

 

時計を見ると朝の7時。

ちょうどいい時間だ。

 

「マヤ、リリア」

 

「んー・・・」

 

「くぁー・・・」

 

「起きて。朝」

 

「んにゃー・・・」

 

起きる気配がない・・・。

トマホークはもう起きて伏せてのんびりしていた。

 

「トマホーク」

 

「わぅ?」

 

「やれ」

 

「わん!」

 

トマホーク、満面の笑みでベッドへ飛び乗りふたりの上で跳ねだした。

 

「うわぁ!?」

 

「な、なになに!?」

 

「わん!」

 

「ト、トマホーク・・・」

 

「目覚ましトマホーク」

 

「名前だけのインパクトなら凄いわねそれ・・・」

 

確かに名前だけならインパクトがすごい。

 

「ほら、顔を洗って。準備して行くよ」

 

「はーい」

 

3人で洗面所に行き、歯を磨いて顔を洗う。

さっぱりしたら着替えて必要な荷物を持った。

 

「じゃ、行こっか」

 

「うん!ブラックホーク楽しみ!」

 

「トマホークはどうするの?」

 

「連れていくに決まってるでしょ」

 

「そうよね。トマホーク、行きましょ」

 

「わん!」

 

大荷物で街を10分ほど歩き空港に到着した。

今日は比較的涼しいから大荷物でも汗をかかなくてすんだ。

いつものおじさんの所に向かう。

 

「おじさん」

 

「おぉ、嬢ちゃん!」

 

「いきなりなんだけど、ブラックホークある?」

 

「ブラックホークか?それなら何機か在庫があるな・・・どうした?」

 

「1機買いたい」

 

「ほう、珍しいな」

 

「マヤの機体だからね」

 

「そうかそうか!分かったぞぃ!じゃあマヤ嬢ちゃん、こっちに来い!」

 

「あ、うん!」

 

「ハル嬢ちゃんはどうする?」

 

「私もちょっとヘリを見たい」

 

「リリア嬢ちゃんは?」

 

「私はトマホークと遊んでるわ」

 

「了解じゃ!じゃあ付いてこい!」

 

おじさんについて事務室のような所に向かった。

そしてカタログの様なものを出す。

 

「今の在庫はこの4機じゃな。ブラックホークじゃなくてシーホークでもいいなら7機はあるが」

 

「だって、マヤ」

 

「ううううぅ・・・悩む・・・」

 

カタログにあった機体はスタンダードなUH-60、空中給油用のプローブが着いたMH-60、30mm機関砲などが搭載されたMH-60DAP、捜索救難に特化し洋上迷彩という美しい迷彩色が施されたUH-60Jがあった。

 

「どれがいい?」

 

「値段は?」

 

「んー・・・そうじゃな。DAPは武装してるから600万ほどになるが他のはお得意様価格で300万でいいぞい」

 

「ほんと!?」

 

「ホントじゃホント。嬢ちゃんには儲けさせてもらってるからな!うははは!!」

 

「えっと・・・じゃあ・・・」

 

そしてマヤが選んだのはUH-60J。

 

「お!嬢ちゃんお目が高い!この機体はこの前量産され始めた新作じゃよ!」

 

「ふふん!でしょでしょ!この迷彩がカッコイイから選んじゃった!」

 

「中々良さそうだね」

 

この機体にも空中給油用のプローブが付いていて、増槽まで搭載されている。

それにホイストも付いているので何かあった時に誰かを助けられる。

捜索救難に特化した機体なだけある。

 

「嬢ちゃんの格納庫に10分ほどで届けてもらうから楽しんでくるんじゃぞ!あ、お金はどうする?」

 

「これでお願い」

 

私はカードを渡した。

 

「んむ、了解じゃ!」

 

「やったー!ハルありがと!!」

 

「いえいえ。じゃあリリアの所戻ろっか」

 

「うん!」

 

リリアの所に戻るまでにマヤはブラックホークに乗れる事が相当嬉しいのか私にキラキラとした目でブラックホークについて語ってきた。

 

「・・・でねでね!っと、もうこんな所まで・・・」

 

「マヤが熱く語ってくれたおかげで退屈しなくて良かった」

 

「ふふん!まだまだ足りないよ!」

 

「あらおかえり。買えたの?」

 

「うん。捜索救難機型のUH-60Jを」

 

「へぇ、捜索救難機・・・いいわね。人助けも出来そうだし」

 

「うん!これでリリアが落ちても助けに行けるね!」

 

「ちょっと縁起でもないこと言わないでよ!!」

 

なんて話していたら格納庫の扉が開く。

外から美しい青の洋上迷彩のUH-60Jがトーイングカーに引っ張られて入ってきた。

 

「わぁー・・・!」

 

マヤが今までに見たことないほど嬉しそうな顔をしてブラックホークを見ていた。



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ハンティング日和

エースコンバット7楽しすぎてヤバい。
VRモードの臨場感半端ないですよね!



「チェック・・・よし、離陸前チェックリストコンプリート!」

 

「了解、エンジンスタート」

 

真新しいブラックホークのコックピット。

私とマヤがコックピット、リリアとトマホークはキャビンにいた。

 

「へぇー・・・グラスコックピットなのね」

 

「計器が見やすくていいよ」

 

必要な計器を弄りながらリリアと話す。

マヤは黙々とエンジンスタートの手順を実行していた。

タービンの回転数が上がり始める。

 

「第1エンジン始動・・・回転数、よし。第2エンジン」

 

「始動」

 

順調に回転数は上がっていく。

今回の目的地はテキサスの近くにある森だ。

またその森の中には昔の野戦飛行場が残されているためそこを拠点に使う。

 

「よし、出力安定・・・ハル、交信お願い!」

 

「了解。タワー、エンジェル0-1」

 

《エンジェル0-1、こちらテキサスタワー》

 

「東への出発許可願います。」

 

《テキサスタワー了解。そのままその場で離陸してもらって構いません。ただし滑走路上空の通過は禁止》

 

「了解、滑走路上空を避けます」

 

「よっし!テイクオフ!」

 

コレクティブピッチを上げていくと機体がフワリと浮いた。

そのまま機首を東へ向ける。

 

「じゃあ宜しく、機長」

 

「まっかせて!」

 

ヘリは滑走路を避けて空港施設の上空を通過してそのまま東へと向かう。

距離は40kmほど。

すぐの距離だ。

 

「低空でいい?」

 

「うん、すぐだし1500ftくらいで行こう」

 

「了解!」

 

高度を1500ftで維持して猟場に向かう。

 

「そういえば野戦飛行場ってまた前みたいに何か無いかな」

 

「何かって?」

 

「高く売れそうな物」

 

「あはは・・・さすがに無いんじゃないかな?」

 

「だよね」

 

外を見ながらそんな話をした。

あわよくば・・・とは思ったが。

 

「あ、ハル!あの森!」

 

「ん?」

 

キャビンのリリアが森を指さしていた。

森の中に野戦飛行場らしきものも見えた。

目的地だ。

 

「マヤ、11時方向目的地」

 

「りょーかい!」

 

機体を左旋回させて目的地に向かう。

 

「1度上空をパスして。障害が無いか確認する。リリア、銃を撃てる準備して」

 

「了解!何も無いといいわね」

 

「念の為」

 

マヤは高度を維持したまま速度を落とす。

リリアはキャビンのドアを開けて銃を構えた。

 

「あ、ハル。この機体FLIR付いてるから使ってみて」

 

「了解、いろいろ付いてるんだね」

 

「捜索救難機だからね!」

 

私はFLIR、赤外線探査装置を起動した。

それを使って飛行場を見てみたが熱源は何も無かった。

 

「OK、リリア。ドアを閉めていいよ」

 

「了解、一安心ね」

 

「着陸するよー!」

 

「了解、エプロンに直接的降りよ」

 

「分かった!」

 

「着陸地点に障害物無し・・・OK」

 

「周囲の監視お願いね!」

 

「了解、リリア、鳥とか居ないか確認お願い」

 

「了解!両サイド・・・クリア」

 

「りょーかい・・・」

 

マヤはゆっくりとヘリを降下させていく。

 

「高度200・・・障害無し・・・クリア」

 

「キャビンから両サイドも確認したわ、クリア」

 

「了解」

 

地面が近づいてきた。

ふと管制塔の方を見るとイノシシ型の魔獣がこちらを見ていた。

突進の体制を取っていた。

 

「マヤ、着陸中止!!」

 

「えっ!?」

 

私の言葉に反応してコレクティブピッチを上げた。

降下が上昇に変わる。

同時にイノシシ型魔獣が走ってきた。

 

「リリア!」

 

「任せて!」

 

キャビンのドアを再び開けて銃を構えた。

 

「みんな腹ぺこよね?」

 

「冗談言ってないで早く」

 

「何よ、ノリ悪いわね」

 

リリアは照準から目をそらすこと無くそう言った。

そして銃声が機内に響く。

 

「あら硬いわね」

 

「当たった?」

 

「頭に当てたけど・・・ダメね、硬いわ」

 

「私のライフル使って」

 

「了解、じゃあ借りるわね!」

 

「イノシシは?」

 

「頭に当たったせいかフラついてるわ。マヤ、ホバリングよろしくね!」

 

「はいはーい!」

 

マヤは機体をその場にピタッと静止させていた。

この子のヘリパイとしての技術は相当高い。

ずっと後席に乗っているのが勿体無いくらいに。

 

「ハル!1発使うわよ!」

 

「はいはい、いいよ」

 

後ろを見ると弾を装填して私のTAC-338を構えていた。

そしてさっきの99式小銃よりも重い音のする銃声が機内に響く。

 

「ヒット!やった、ヘッドショット!」

 

「目標は?」

 

「ダウン!」

 

「了解」

 

「ハル、着陸地点は?」

 

「ちょっと待って。リリアも索敵お願い」

 

「了解!」

 

もう一度FLIRを使って索敵する。

 

「一匹だけってわけでも無いだろうし・・・」

 

「・・・いた!ハル!管制塔のそば!」

 

「了解、リリア撃てそうなら撃って」

 

「了解!」

 

そしてすぐに銃声が響く。

 

「標的ダウン!338強いわね」

 

「旧式とは違うのだよ・・・なんちゃって」

 

「ひどいわね!ロマンがあるでしょロマンが!」

 

「冗談だよ。あ、リリア。次、格納庫のよこ・・・左側」

 

「確認・・・マヤ、もうちょっとだけ右に回頭してもらえる?」

 

「了解!どのくらい?」

 

「ほんのちょっと!」

 

「はいよー!」

 

少しだけラダーペダルを踏んで右旋回した。

それで射線に入ったのだろう、銃声が響く。

 

「ダウン!えーと・・・あとは・・・クリア?」

 

「まって、確認する。マヤ、少し上昇して2回か3回ほど低速で飛行場上空を違う角度でパスして」

 

「了解、角度は私が決めていい?」

 

「うん、違う角度なら何でもいい」

 

「りょーかい!」

 

数回上空を飛行して確認した。

今度こそクリアだ。

 

「今度こそクリア。着陸しよ」

 

「了解!」

 

周囲を警戒しつつ着陸した。

前にトマホークを拾った飛行場と同じような荒れ具合だった。

 

「3匹も狩っちゃったわね」

 

「うん。確かあのイノシシ型の魔獣は血抜きをしっかりすれば美味しいって噂だよ」

 

「あら、じゃあせっかくだし捌いてみる?」

 

「うん。結構大きいから時間かかるかもしれないけど」

 

「大丈夫よ」

 

「ハル!格納庫の中調べてきていい?」

 

「うん、いいよ。リリア、ごめん。機内からナイフ持ってきて貰っていい?」

 

「いいわよ。ハルは?」

 

「先にイノシシのところ行ってる」

 

「了解!」

 

私とリリアはイノシシを捌きに、マヤとトマホークが格納庫を調べに行った。

 

「はい、ハル」

 

「ありがと」

 

すぐにリリアがナイフを持ってきてくれた。

 

「結構大きいわね・・・」

 

「うん、結構大型だもん」

 

私はイノシシを捌き始める。

その時に血が飛び散って服に付いたりしてしまった。

・・・マヤに貰った可愛い服でなくて良かった。

あの子の事だから悲しんだだろう。

そんなことを思いながら作業をすること30分ほど。

肉を剥いでいた時だった。

 

「ハルハルハル!!」

 

「なになになに」

 

「こっち!こっちきて!!」

 

「ちょっと待って」

 

「こっちは私がやっとくからいいわよ」

 

「出来る?」

 

「これくらいなら」

 

「じゃあお願い」

 

私は早く来いと興奮気味のマヤについて行った。

そして格納庫の中に入る。

 

「どうしたのそんな興奮して」

 

「これ!これ見て!」

 

「え?」

 

マヤが指さした先にあったのは戦闘機。

しかもジェット戦闘機だ。

 

「え・・・何これ」

 

「でしょでしょ!」

 

「こんな機体見た事ない・・・」

 

それは複座型で翼が前進翼だがV字型になっていて大きなカナード翼、そして斜めに角度の付いた尾翼がある機体だった。

エンジンを見ると推力偏向型に見える。

 

「なんて戦闘機だろ・・・」

 

「分からない・・・でもこれ、もしかしたら異世界から送られてきた機体かも」

 

「まさかー!」

 

「でもこれ、見て」

 

戦闘機の機首と翼に円の半分が青で半分が白、その円内に星が描かれたマーク、OADFという文字も見えた。

 

「こんなマーク見た事ない」

 

「じゃ、じゃあこれって・・・」

 

「うん。異世界から送られてきたオリジナルの機体。しかもこんな所にあるってことはまだ見つかってない」

 

「すごいじゃんハル!」

 

「うん・・・でも・・・」

 

私は欲に駆られた。

冒険者はオリジナルの戦闘機を見つけた場合、任意で研究機関に届ける事も出来るし自分だけが使うという事も出来る。

ただ研究機関に届けた場合、莫大な報酬を得る事が出来た。

報酬金+研究が終わったばかりの新型機を貰えるという噂だった。

でも私は・・・。

 

「・・・これに乗りたい」

 

「言うと思った」

 

マヤは分かってましたといわんばかりの顔でそう言った。

 

私は早速コックピットに乗り込んだ。

つい最近ここに送られてきたのか真新しい機体だった。

しかもご丁寧にマニュアルまで一緒にセットになっていた。

ただ異世界語・・・英語だったが。

辛うじてこの機体の名前だろう『X-02S Strike Wyvern』という名前が読めた。

ストライクワイバーン・・・カッコイイ名前だ。

マニュアルはわかり易く写真で解説されていたため、エンジン始動や操縦は何とかなりそうだ。

 

「ハル、もしかして乗って帰る・・・?」

 

「当たり前でしょ」

 

「狩りは?」

 

「中止」

 

「ちょっと!?」

 

「冗談だよ。でも乗って帰りたい」

 

「そういうと思ってた」

 

「ごめん、わがまま言って」

 

「大丈夫!私もその機体カッコイイって思うし!」

 

「ありがと、リリアの所行って手伝って貰ってきていい?」

 

「うん!」

 

マヤは格納庫からトマホークを連れて出ていった。

 

「すごい・・・ほとんどスイッチがない・・・」

 

あるのは無線とエンジンをスタートさせるために必要なスイッチのみ。

あとはパネルのみだった。

最近入ってきた新型機がそういうシステムだったという話を思い出して私もそんな機体を入手出来たことにちょっと優越感を覚えた。

 

「乗り心地もいい・・・」

 

私は一通りコックピットを満喫してリリアたちの所に戻った。

もう捌き終わって肉を焼く準備が整っていた。

 

「あ、戻ってきた」

 

「ただいま」

 

「いいわね、新しい機体見つけたらしいじゃない」

 

「うん、X-02Sストライクワイバーンって名前」

 

「名前が分かったの?」

 

「マニュアルがあったから」

 

「ストライクワイバーン・・・いい名前ね!ねぇ、今度私も乗せてもらえない?」

 

「いいよ、明日か明後日に慣熟飛行したいから」

 

「じゃ、私はたまには地上にいようかな?」

 

「いいの?」

 

「うん、たまにはね!」

 

「じゃあ今度は後席にリリアお願いね」

 

「うん!あ、準備出来たしお肉焼きましょ!」

 

「そうだね!」

 

一つ一つ串に刺してさっき火をつけた焚き火で焼く。

 

「豪快でいいわね」

 

「くぅーん・・・」

 

「トマホークのもあるから、待っててね」

 

「わん!」

 

トマホークはヨダレを垂らして目をキラキラさせていた。

 

「私たちのは塩コショウで・・・」

 

そこから1時間ほど3人と一匹で新鮮な肉でBBQをした。

イノシシ型魔獣一匹だけで食べきれないほどの量だった。

 

「はぁー・・・お腹いっぱい・・・」

 

「私も・・・」

 

「わぅん・・・」

 

「トマホークもお腹いっぱい?」

 

「わん!」

 

「そっかそっか」

 

火を消して後始末をした。

 

「さて、どうする?」

 

「どうするって・・・ハルから早く飛びたいってオーラが出てるけど」

 

「・・・出てない」

 

「出てるよ」

 

何故分かった・・・。

一刻も早く乗りたかった。

 

「まぁ今日はお腹いっぱいだし、いい物も見つかったし帰りましょ」

 

「うん、そうしよっか」

 

そしてマヤとリリアがヘリに、私はストライクワイバーンに乗り込んだ。

 

《先に上がって帰ってて!私たちはゆっくり帰るから!》

 

「了解、じゃあお先に」

 

トムキャットやフェンサーとは違ったエンジン音を響かせてタキシングした。

それにしても操作が簡単で扱い易い。

必要な操作はすべてタッチパネルで行うようだった。

兵装などはスティックとスロットルにあるスイッチのみで操作出来た。

 

「じゃあお先に」

 

《はーい!気をつけて!》

 

滑走路に入ってスロットルを開く。

加速性能はかなりいい。

すぐに離陸した。

 

「機動性も高い・・・」

 

ある程度の速度になりふとコックピットのミラーを見たらこの機体の特徴を目にした。

翼が畳まれ、尾翼も水平に可変して機体が矢のような形状になった。

減速すると畳まれた翼が出てきて前進翼機となる。

すごい機能だ。

 

「すごい・・・」

 

そんな言葉しか出なかった。

私は少しだけ旋回や上昇、降下を繰り返して街への進路を取った。

きっと顔は嬉しさでニヤケていただろう。



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密輸業者強襲

野戦飛行場を離陸して30分ほど経った。

そろそろ帰ろう。

 

「動かしやすくていい・・・」

 

機体の反応はとても素直で手足を動かすかのような軽さだった。

ただ高速域になると少し重くなる感じはあった。

その時だった。

 

《ハル!》

 

「どうしたの?」

 

焦ったようなマヤの声。

 

《空賊に絡まれた!こっちじゃ逃げきれないよ!》

 

「え!?」

 

そんな、レーダーには何も映ってない。

だが、嘘なはずがない。

 

「分かった!今から行くから待ってて!!」

 

武装をチェックするとウェポンベイに中射程ミサイルが4発、バルカン砲が980発だった。

短射程ミサイルは搭載されてないが何とかなるはずだ。

 

《ハル!敵はえっと・・・れ、零式艦上戦闘機とマスタング!》

 

「レシプロ戦闘機!?」

 

《とにかくヘリじゃ相手できないから助けて!!》

 

「分かった!!」

 

なんでレシプロ戦闘機を使う空賊なんて・・・

とにかく最大速力で向かう。

マヤたちの場所はここから20キロ。

すぐだ。

レーダーにも反応が出た。

 

「見つけた・・・マヤ!」

 

《まだ生きてるよー!》

 

「1度注意をこっちに向ける!その間に逃げて!」

 

《了解!》

 

「レーダー・・・ロックオン!UNKNOWN表記だけど・・・!」

 

レシプロ戦闘機にIFFなんて積まれてない。

敵味方識別装置は機能しないためレーダー上にUNKNOWNと表示されていた。

私は高速でヘリの近くを通過する際にヘリに攻撃を加えようとしていた零戦に機関砲弾を浴びせた。

 

「スプラッシュ!次!」

 

《ナイスキル!》

 

「敵の注意がこっちに向けば・・・!」

 

残りは4機。

空賊機は戦闘機が近づいてきたためか撤退を始めた。

だが私がそれを確認して離れた際にマヤ達に近づかないとは言いきれない。

中射程ミサイルを選択した。

このミサイル、4機まで同時にロックオンできるようだ。

 

「よし・・・FOX3、ファイア!」

 

ウェポンベイから4発のミサイルが発射されすべて別々の方向に誘導された。

レシプロ戦闘機にミサイルを避けることは出来ず、ミサイルは命中した。

 

「撃墜!マヤ、もう安全」

 

《ふぅ・・・了解、ありがとね!》

 

「帰ったら報酬貰うから」

 

《仲間じゃん!!》

 

「冗談だよ」

 

《でもご飯くらいは奢るよ!》

 

「ん、じゃあありがたく奢られる」

 

私は少しだけ周囲の安全を確認してヘリが街に近づいてから帰還を始めた。

 

「テキサスタワー、エンジェル0-1」

 

《エンジェル0-1どうぞ》

 

「空港への着陸を要請」

 

《エンジェル0-1・・・スタンバイ・・・えーと、そちらの機種を教えていただいていいですか?トランスポンダの応答がマニュアルに存在しない機種を示してます》

 

「あ、えっと、X-02Sストライクワイバーン」

 

《ストライクワイバーン・・・了解、回収した感じでしょうか?》

 

「街の近くの野戦飛行場で」

 

《了解。エンジェル0-1、滑走路35への着陸を許可》

 

少しだけ着陸までに手間取ったが無事に滑走路に降りられた。

マヤ達には先に家に帰ってもらった。

ヘリ用の格納庫は家についているのでそっちに直接帰ってもらった。

格納庫に戦闘機を止めると一目散に整備員のおじさんが飛んできた。

 

「嬢ちゃん!新型機じゃってな!」

 

「うん、X-02Sストライクワイバーン」

 

「ストライクワイバーンか・・・ふーむ・・・それにしても見た事ないな・・・それよりもなんじゃこれ」

 

「ん?」

 

「これじゃよこれ」

 

おじさんが指さしたのは尾翼だった。

野戦飛行場の格納庫では気づかなかったが何かが描かれていた。

 

「んーと・・・FGって文字を消すような感じで3本線・・・?」

 

「廃棄された機体・・・ってわけでも無さそうじゃしな・・・」

 

「うん、ピカピカの戦闘機だった」

 

「あとこのOADFってなんて意味じゃろうか・・・」

 

「分からない、異世界の表記だと思うけど」

 

「いやそれがじゃな・・・」

 

おじさんは神妙な顔つきで話す。

異世界と言っても私たちが存在を認識し技術を得ている世界は一つだけだった。

でも、その世界の資料にこんな戦闘機は存在しなかった。

機密の新型機という説もあるがあの世界から来た戦闘機にしては有り得ないギミックを沢山採用していた。

 

「なぁ嬢ちゃん、異世界は一つだけだと思うか?」

 

「うーん・・・私にはなんとも」

 

「この戦闘機、その異世界の異世界から来たやつじゃろうな」

 

「異世界の異世界・・・」

 

「まーなんじゃ、この世界に害を及ぼすような感じもしないし大丈夫じゃ。それ・・・見た感じ、材質や部品も既存の機体と変わらなそうじゃ。ただ、1週間ほど機体を貸してくれんか?」

 

「うん、いいけど、どうするの?」

 

「なに、整備用に調べないとな」

 

「そういう事ならいいよ。壊さないでね」

 

「分かっとるわい!」

 

「じゃあお願い」

 

「任されよ!」

 

私はおじさんに機体を任せて家に帰った。

家からはいい匂いがしていた。

 

「ただいま」

 

「あ、おかえり!今日はありがと!」

 

「ううん、仲間だから」

 

エプロン姿のマヤが出迎えてくれた。

トマホークも一緒に出迎えてくれるが口に何かをくわえていた。

 

「トマホークも出迎えありがと」

 

するとトマホークは私の目の前にくわえていた何かを置く。

それは骨のようだ。

随分とキレイな形だった。

 

「わん!」

 

トマホークはそれをあげると言っているような目を向けてくる。

 

「トマホークなりにお礼してるんだよ。今日、結構怖がってたからね」

 

「そっか。ありがとね、トマホーク」

 

「わふ・・・」

 

「よしよし」

 

嬉しそうに尻尾をふるトマホーク。

疲れも癒される。

 

「ねぇ、マヤが料理してるの?」

 

「うん、私とリリアでね!」

 

「そっか」

 

「パスタだけど、リリアがすごい美味しいボンゴレパスタ作ってくれてるよ!」

 

「マヤは?」

 

「私はケーキ焼いてみた!」

 

「いつの間に買い物を・・・」

 

「ハルが帰ってくるまでの間にね。配送サービス使ってみた!」

 

「・・・もしかしてあのロケットに商品積んで目的地に撃ち込む奴・・・?」

 

「うん、そうだけど?」

 

「あれ使ったの・・・?」

 

「何か商品が壊れないように特殊な加工してあるみたいだよ!それに着く前にパラシュートが開くし!」

 

「いやまぁ・・・そうだけど・・・」

 

しかしそのネットサービス、爆速配達というのを売りにしてるが使われているのがミサイルなのだ。

弾頭部に商品を搭載して着弾前にパラシュートを開いて減速して下ろす事で商品を傷つけないようにしてるとか何とか・・・。

しかも大きさに応じてミサイルの大きさも変わるため大きな物を頼むと大陸間弾道ミサイルで撃ち込まれる事もあった。

もちろん弾頭部に火薬等はないが・・・。

しかもそのネットサービスの本拠地と流通センターが密林の奥深くにあるとか何とかでどこにあるのかまったく不明という謎のサービスだった。

しかし速さと確実性が売りなので利用するユーザーは多かった。

・・・ただし家にパラシュートで降りてくるとはいえミサイルを撃ち込まれるが。

 

「とりあえず食べよっか。お腹空いたよ」

 

「うん!」

 

その後は3人で仲良く夕食をとりお風呂に入って、明日に備えて寝る準備をした。

 

「ねぇ、明日はどうするの?」

 

「何か仕事でもしよ。ストライクワイバーンの整備費用がかなりかかるかも知れないから」

 

「了解、じゃあ明日は撃墜マーク増やせそうね」

 

「それはどうかな」

 

「まぁ明日になれば分かるわね!」

 

「うん、じゃあ寝よ。おやすみ」

 

「おやすみー」

 

明日のことを考えているといつの間にか意識は飛んでいた。

気づけば朝だ。

 

「ふぁ・・・」

 

今日は珍しく三人同時に起きた。

トマホークがそれを見て少し残念そうな顔をしている。

 

「おはよ」

 

「おはよー・・・ふぁ・・・」

 

「んにゃー・・・」

 

マヤはまだ寝ぼけていた。

 

「珍しいわね、マヤが寝ぼけてるけど3人同時に起きるなんて」

 

「うん、何かありそう」

 

「・・・嫌な予感しかしないけど・・・」

 

「大丈夫だよ。きっと儲け話」

 

そう言って寝ぼけてるマヤを叩き起して仕事の準備をした。

時刻は0900。

天気は少し曇り気味だが雲高そのものは低くない。

事前に空港の観測値を確認したが問題は無さそうだ。

 

「じゃ行こっか」

 

「はーい!」

 

「今日はトムキャット?」

 

「うん、今日は乗りたい」

 

「了解!」

 

「RIOよろしくね」

 

「任せて!」

 

3人で空港までの道をのんびりと歩く。

 

「あれ、そういえばリリア、自衛用の拳銃って持ってたっけ」

 

「ん?あるわよ?」

 

「どんなの?」

 

「はい」

 

リリアが出してきたのは使い古されたP-08。

 

「また古いヤツを・・・」

 

「いいじゃない。お爺様からのプレゼントなの」

 

「あ、そっかお爺さんって魔王戦争に参加してたんだよね」

 

「うん、地上主力でね。魔王のケツ穴増やしてやったわ!とかよく言ってたわね」

 

「あれ、リリア意外と下ネタいけるの?」

 

「え?」

 

「ケツ穴って・・・」

 

するとリリアは自分で言ったことを理解して顔を真っ赤にした。

 

「な、なんてこと言うのよ!!」

 

「自分で言ったんじゃん!!」

 

なんてしながら空港に到着した。

私達はまず先に格納庫に機体の状態の確認に向かった。

・・・までは良かった。

手に何やら封筒を持って誰かを待っているドワーフのおじさんがいた。

そしてここは私達の専用格納庫。

 

「・・・行きなさいよ」

 

「・・・分かってるよ」

 

また評議院とかか・・・。

そう思いながらおじさんに近づいた。

 

「お!嬢ちゃん!」

 

「・・・おはよ」

 

「待ってたぞぃ!儲け話があるんじゃ!」

 

「・・・だと思った」

 

手にしているのはどこの部隊か・・・そう思ったがよく見ると書いてあるマークはこの街の領主のだった。

 

「あれ、領主から?」

 

「そうじゃ、これまた直々に依頼が来ての」

 

内容は密輸業者の基地を破壊するというものだった。

最近、この街に密造された武器を密輸してくる組織がいた。

しかし摘発しようにも使用している輸送機が民間機と同じ型で巧妙にフライトプランを偽装しているため、あたかも定期便のように街に堂々と侵入しているらしい。

だが積荷を下ろすだけ下ろしてそそくさと民間機に紛れて離陸していくためいつ何処から来ているのか分かっていなかった。

だがつい最近、魔王軍のアジトを探していた冒険者が渓谷から上がってくる輸送機を確認したらしい。

そしてその渓谷の先を辿ったところに工場のようなものが見えたとも。

しかし、その後この冒険者の乗る機体は空賊に撃墜されてしまった。

そこで今回の依頼は私達2機が夜間に渓谷内を低空で飛行し目標に接近、後続の騎士団強襲部隊が工場を制圧できるように対空火器を確認した場合はそれの破壊及び密輸用輸送機の破壊だった。

可能ならば工場施設への空爆もしてよいという事だった。

 

「・・・」

 

「どうじゃ!1000万ドルの大仕事じゃ!」

 

「1千万・・・」

 

かなり悩む。

1千万クラスの仕事なんて基本的にない。

せいぜい良くて100万ドルだ。

だが渓谷飛行・・・やれないことはないが・・・

 

「リリアは飛べる?」

 

「うーん・・・まぁでも私は自分のレベル上げだと思ってやるわよ」

 

「じゃあ・・・やろっか」

 

「情報だと輸送機はC-17でそれが飛べる広さはあるそうじゃ」

 

「了解、トムキャットでも大丈夫そうだね」

 

「なんじゃ、ワイバーンは乗らんのか?」

 

「今日はね。愛機に乗りたい」

 

「了解じゃ!武装はどうする」

 

私は対地攻撃ということで胴体下部にガンポッドをぶら下げていくことにした。

口径は40mm、その両脇に弾倉も配置して装弾数は30発ほどだ。

リリアは小さめの無誘導爆弾を10発以上搭載していた。

どちらも正直対空戦闘向きな装備ではないが、危なくなったら両方とも武装を投棄して逃げることにした。

お互い、短射程と中射程の空対空ミサイルを2発ずつ積んでいくので自衛くらいは出来るだろう。

 

「じゃあ、お互い幸運を」

 

「ハルもね!」

 

そしてお互いの機体に乗り込んだ。

儲け話とはいえ、危険な渓谷飛行・・・。

気を引き締めよう。



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基地強襲

Twitterで『#ふぎむに有志連合』っていう素晴らしいタグを見つけてしまった。
ふぎむに可愛い


「・・・で、なんで王国軍の管制機がセットなの?」

 

マヤが嫌そうにそういう。

空に上がって30分、王国軍機から通信が入ったと思えばいきなり指揮下に入れと言われた。

 

《こちらAWACSバンドッグ。今回の依頼は重要な任務だ。冒険者と言えど指揮下に入ってもらう》

 

「うぇー・・・」

 

マヤは後席で不服そうな声を出していた。

実際私も不服だが。

何が楽しくて王国軍機の指揮下に入らねばならないのか・・・。

まぁ、AWACSなので目は良いから空賊の対処は楽でいい。

 

《それと悪いが俺は飯を食いながらやらせてもらう。腹が減ってはなんとやらだしな》

 

「だからって食べながら離さないでよ・・・」

 

《帰るまでは我慢しようと思ったんだがな、テキサスのご当地空弁の魅力には負けたよ》

 

「食い意地の張った番犬様なことで・・・」

 

《そういうな。・・・あー、そこのコーラ取ってくれ。あ?お前、ゼロカロリーなわけないだろ。それだそれ》

 

・・・随分と自由な管制官だ・・・。

 

《王国軍にしては自由な感じよね》

 

「まぁね・・・」

 

マヤは呆れた感じで言った。

 

《エンジェル0-1、0-2。もう間もなく作戦空域だ。高度を下げて渓谷内に侵入しろ》

 

「了解」

 

高度を下げて渓谷にアプローチする。

気を引き締めよう。

 

「リリア、高度に注意してね」

 

《分かってるわよ、ハルこそ壁にぶつかんないでね》

 

「分かってる。でもなるべく低速で飛ぼう」

 

《了解!》

 

なるべく低速・・・300ノットほどまで減速した。

渓谷内は思ったほど狭くなく飛びやすいがそれでも渓谷内だ。

両側は壁に挟まれている。

 

《バンドッグよりエンジェル。そのまま渓谷を5マイルほど進んだ所に例の基地があるという事だ》

 

「了解、AWACSのレーダーでは何もなし?」

 

《無し。レーダークリア》

 

「了解」

 

「うぅぅぅ・・・壁・・・壁がぁ・・・」

 

「マヤ、大丈夫?」

 

「ハルぅ〜・・・怖いよぉ・・・」

 

コックピットのミラーから後ろを見るとマヤが顔の前で手を組んで震えていた。

 

「怖かったらレーダーを見てて」

 

「み、見てても外が渓谷内だって思うと・・・」

 

「・・・大丈夫、私を信じて」

 

「分かってるけど・・・うぅぅ・・・」

 

《マヤは怖がりね》

 

「怖がりっていうかこんな所飛行機の飛ぶところじゃないから!」

 

《あら?そうなの?この前読んだ異世界の本だと渓谷飛行はエース必修科目らしいわよ?》

 

「何その本・・・」

 

《んー・・・なんだったかしら・・・忘れちゃったわ。あ、あとトンネルか洞窟を飛行するのも必修科目らしいわね》

 

「トンネル・・・」

 

幾ら何でも渓谷飛行は出来てもトンネル飛行なんて人間のやる事じゃない・・・やる奴は命知らずの大馬鹿野郎だ。

 

「リリア、少し渓谷が狭くなってきてる。注意」

 

《了解》

 

先に進むにつれて少しずつだが渓谷が狭くなってきている・・・が、代わりに渓谷を削ったような跡が見えてきた。

目標は近い。

 

《エンジェル、こちらバンドッグ》

 

「エンジェル0-1」

 

《渓谷の上にバンディット。対象はMig-23フロッガー》

 

「パトロールかな」

 

《密輸業者のCAP機だろう。2機確認》

 

「了解・・・バレませんように」

 

狭い渓谷内で回避運動などしたくない。

だが幸いな事にうまくやり過ごせたようだ。

そしてある程度目標に近づいた時だった。

管制機から無線が入る。

 

《エンジェル、こちらバンドッグ。敵無線の傍受に成功した。これからは敵の無線も聞こえる》

 

「え、どうやって・・・」

 

《この機のクルーに盗み聞きが得意な奴がいるんだ》

 

「王国軍なのに・・・」

 

《空くらいは俺たちの自由にさせてくれ》

 

そんな会話をしていた時だった。

渓谷が一気に広がる部分がありその下に飛行場と工場のようなものを確認できた。

目標だった。

敵の無線も聞こえる。

 

《お、おい・・・あれはさっき上がった味方のCAPか?》

 

《違う!あれはF-14にフランカーだ!警報!!》

 

基地中に警報が鳴り響きだした。

 

《空襲警報!空襲警報!!敵襲!輸送機及び戦闘機は急ぎ発進!》

 

《こ、この中を飛ばすのか!?》

 

《あと数分もしないうちに離陸できなくなる!》

 

どうやら想定外の攻撃に大慌てなようだ。

混乱している今がチャンスだ。

 

《輸送機を1機たりとも逃がすな!ウェポンズフリー、交戦を許可する》

 

「了解、マスターアーム点火!」

 

《マスターアーム点火!・・・よし、捉えた!投下!》

 

「マヤ!やるよ!」

 

「分かってるよ!こっちも用意よし!」

 

「発射!」

 

ズドンという振動が機体に伝わる。

さすが40mm機関砲を組み込んでいるだけある。

着弾した輸送機が1発で破壊できた。

 

《ちくしょう!輸送機の5割が破壊された!!》

 

《工場地区で火災発生!!》

 

《馬鹿!消火なんていい!逃げないと焼き殺されるぞ!》

 

《弾薬貯蔵庫に引火!総員退ーーーー・・・》

 

・・・一気に下が火の海になった。

何人死んだのだろう・・・。

私は燃え盛る工場施設をみてそう思った。

 

《ちくしょう!ここの偽装は完璧じゃなかったのか!!》

 

《用心棒を上げろ!今すぐにだ!!》

 

「リリア、滑走路に注意。迎撃機が来るかも」

 

《りょーかい、爆弾も投下し終えたから軽くなったわ。迎撃機は任せて》

 

「了解」

 

私は旋回して飛行場地区の攻撃を再開する。

駐機してある輸送機はほぼ全て破壊した。

あとはハンガーだ。

 

《あれ、ハル・・・うそ!?プロペラ機!?》

 

「え?」

 

《プロペラ機が迎撃に上がってきた!》

 

《プロペラ・・・まずい、全機逃げろ!》

 

《え?!》

 

《そいつはティーチャーの名前で呼ばれる賞金首だ!ジェット戦闘機でも敵う相手じゃない!》

 

《で、でも!》

 

「リリア!上昇して退避!」

 

《わ、分かったわよ!》

 

基地はほとんど火の海だ。

これ以上の攻撃は要らないだろう。

それよりもティーチャー・・・?

 

《ちょ・・・!後ろに食いつかれてる!》

 

「今助ける!」

 

私はリリアに追従するティーチャーを追いかけて渓谷から飛び出る。

 

《エンジェルフライト!その敵機の特徴を教えろ!単に喋るだけでいい!》

 

《機体は・・・えと・・・えーっと・・・!わっかんないわよ!!》

 

「バンドッグ、敵は二重反転プロペラ、ターボプロップ」

 

《了解・・・間違いない、ワイバーンS4・・・ティーチャーだ!そいつは特殊な改造をされているのかジェット戦闘機並に速いぞ!》

 

《あぁもうクソ!しつこいわね!!》

 

「今援護に入る!」

 

《この・・・やろ!!》

 

「!!」

 

リリアは敵機躱すためにコブラと呼ばれる機動をした。

ほぼその場で高度を変えずに機体を垂直に立てる機動だ。

敵はリリアをオーバーシュートした。

 

《貰った!!》

 

だが次の瞬間、敵は右に減速しつつバレルロールした。

そして速度の早いリリアがまた敵を追い越してしまう。

 

《くっそ!また後ろ!?》

 

「射線が・・・!」

 

なかなかすばしっこい敵を捉えられない。

おまけに敵とリリアの距離が近すぎて下手に撃てない。

その時、敵のパイロットと思わしき無線が聞こえる。

 

《久しぶりに胸が踊りそうな動きをしてくれるな。だが・・・》

 

声は70代かそこらのお爺さんの声だった。

その声がした後に大量の曳光弾が発射される。

 

《きゃあああああ!!!》

 

「リリア!!」

 

「大丈夫!?」

 

なんとか間一髪で回避したようだ。

 

《ふむ、外したか。当てるつもりだったのだが・・・》

 

《ティーチャー!いつまで遊んでるんですか!》

 

《遊んでいるのではない。敵を知ろうとしているのだよ》

 

《ハァ、ハァ、ハァ・・・!くっ、うぅっ!》

 

激しいシザーズに入っている。

常に高いGがかかっていて苦しいのだろう。

 

「・・・リリア!スパローを撃つから!」

 

《了解・・・了解!!》

 

私は一旦離れて敵をロックオンする。

 

「ハル!ロックオン!」

 

「この・・・FOX1!落ちろ!」

 

相手にRWRはないはず・・・そう思った矢先だった。

急上昇したとおもったらそのままストールターンをしてミサイルをかわした。

ミサイルはまだ加速中でかなりの速度がでていたはずなのにあっさりと躱された。

 

「そんな馬鹿な!」

 

《聞こえるかね、トムキャットのパイロット》

 

「えっ!?」

 

《君と私とでは経験が違う。それに君たちはまだ若い女の子だ。こんな所で死んではいけない》

 

「な、何を言って・・・!」

 

《もし戦うというのならそれでいい。だが私はこことは違う世界で戦い、君たちのような子供を落としてきた。中には腕の立つパイロットもいた・・・その全てを落としてきたのだ》

 

その言葉にゾワっとした気持ち悪さを覚えた。

単にこの人が気持ち悪いというわけではない。

・・・嘘をついてるという感じが無かったからだ。

 

「リリア!逃げるよ!」

 

「え、ハル!?」

 

「いいから逃げる!」

 

《わ、分かったわ!》

 

アフターバーナーに点火して急上昇して離れる。

基地の破壊そのものは完了した。

仕事は完了だ。

 

《こちらバンドッグ、2機とも無事だな?》

 

「なんとか・・・」

 

「生きた心地しなかったよ・・・」

 

《・・・それ、後ろに付かれてた私の前で言う?》

 

「あはは・・・ごめんなさい・・・」

 

「無事だったから良かったよ。あのお爺さんの気が変わったおかげなのか・・・」

 

私はさっきの戦闘のことが頭の中をグルグルと回っていた。

なんでターボプロップとは言え、プロペラ機相手に苦戦など・・・いや、これはただ慢心していただけかもしれないが・・・。

それよりも、こことは違う世界で戦ったというのはどういう事なのだろうか・・・。

 

「ねえハル?さっきのお爺さん、なんでティーチャーなんて呼ばれてるのか知ってる?」

 

「ううん、何も」

 

《それはアイツの前のコールサインがティーチャーだったって噂だ》

 

「前の?」

 

《異世界での・・・らしいがな》

 

「なにそれ」

 

《空戦の腕は確かだがボケてるのかも知れん。異世界から物は来ても人なんて来ないからな。》

 

《ボケてるのにアレは怖いけどね・・・》

 

まったくだ。

それにあの言葉から嘘は感じられなかった。

それが1番恐ろしい。

何しろ、子供を何人も落としてきたと言っていた。

あの人のいう違う世界では子供が戦闘機を飛ばしているという事なのだろうか・・・。

 

「まぁ考えても仕方ないか・・・」

 

「そうそう!今は生きてることに感謝しながら帰ることだよ!」

 

「まぁね・・・」

 

《こちらバンドッグ、たった今セイバーホークが現場に到着した・・・らしいがどうやら工場施設は完全に焼け野原になっているようだ》

 

「・・・リリア、やりすぎ」

 

《私!?》

 

《とにかく、密輸業者の壊滅をセイバーホークが確認した》

 

「了解」

 

《セイバーホークが現場から離脱するまで上空警戒にあたれ》

 

「はぁ・・・やっぱすぐには帰れないか・・・」

 

《こちらセイバーホーク、俺たちは空の敵に対しては無力だ、頼むよ天使ちゃん》

 

「はいはい、分かりましたよ・・・」

 

「もう一仕事、終わったら甘いものでも食べに行こ」

 

「行く!」

 

《私も!》

 

《なら空港の近くにいいカフェがあるんだ、案内するから・・・》

 

「番犬様はお仕事しててください!」

 

「これは女子会だから」

 

《・・・バンドッグ、ウィルコ》

 

管制官はあからさまにガックリとした声を出した。

 

《振られたな、バンドッグ》

 

《・・・うるさいぞ》

 

なんて話をしていたらレーダーが2機の不明機を捉えた。

さっきのCAPか・・・?

 

《こちらバンドッグ、2機の不明機・・・さっきのフロッガーだ。ヘリに気付かれる前に落とせ》

 

「了解、リリア行くよ」

 

《了解!》

 

旋回して敵機とヘッドオンの状態になる。

 

「私は右の敵に攻撃する。リリアは左」

 

《了解!中射程ミサイルでいい?》

 

「今は先制攻撃したいから」

 

《了解!・・・ロックオン・・・FOX3!》

 

「ターゲットロック・・・よし、FOX1」

 

リリアからはアクティブホーミングのR-77を私からはセミアクティブホーミングのAIM-7を発射した。

気づいた敵は回避運動に入るが距離が近かったためか反転する前にミサイルが到達した。

 

《敵航空機の撃墜を確認、レーダークリア》

 

「これで撃墜マークがまた増えたね」

 

「ふふん!これでまたハルの強さが知れ渡るね!」

 

「なんでマヤが嬉しそうなのか・・・というか私はひっそりとやりたい」

 

「えー?」

 

「目立つのは嫌」

 

「そうは言っても・・・ね、リリア」

 

《えぇ・・・そうね》

 

「何」

 

「ハル、ファンクラブみたいなの出来てるよ?」

 

「誰の?」

 

「ハルの」

 

「はぁ!?」

 

《俺もその1人だ》

 

「バンドッグには聞いてないから」

 

《・・・ウィルコ》

 

いつの間にそんな物が・・・というか何でだ!

なぜ私なんだ!

 

「知らなかったんだ、本物の天使だー!って一部の人から・・・」

 

「どういう事・・・というか私のどこが・・・」

 

「言っとくけどハルは結構美人な部類だからね?」

 

「そんなこと・・・」

 

《それに、撃墜数だってテキサスでトップクラスだからね》

 

「私目立つの嫌いなんだけど・・・」

 

《そういうクールな所も人気だ》

 

「だからバンドッグには聞いてない」

 

《了解・・・》

 

さっきから聞いてもないのにバンドッグがやたらと反応してくるが・・・。

本当にいつの間にファンクラブなんて出来上がっていたのか・・・。

私はひっそりと飛んでいたいのに・・・。

なんて色々と話していたらセイバーホークが無事に空域から脱出が出来たようだった。

 

《こちらバンドッグ、セイバーホークの離脱確認。RTB》

 

「了解。エンジェル0-1、RTB」

 

《0-2、RTB》

 

私たちはテキサスへと機首を向けた。

空は太陽が沈みかけて少し赤くなってきていた。

 

 



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相棒の村へ

「し、死ぬかと思ったわ・・・」

 

格納庫でリリアがそう言った。

まさか着陸寸前にエルロンが外れるなんて運がない・・・。

外れた原因はティーチャー戦で被弾していたようだった。

主翼のエルロン付近に弾痕が残っていた。

 

「当分は修理だね」

 

「うぅー・・・私のフランカー・・・」

 

「たまにはフルクラムにも乗らないと」

 

なんて話してるとフランカーの状態を見ていたおじさんがこちらに来た。

 

「まーたこりゃ派手にやったもんじゃな、どこの誰にやられた?」

 

「密輸集団の用心棒っていうか賞金首っていうか・・・」

 

「賞金首?」

 

「えーっと・・・AWACSの管制官がティーチャーって呼んでたよ」

 

「ティーチャー!?お前アイツと戦って生き残ったのか!?」

 

おじさんは目玉が飛び出そうなくらい目を見開いてリリアに言った。

 

「え、な、なに!?私!?」

 

「そうじゃ!どうやったら生き残って・・・いや、生きて帰ってきただけ良しじゃな・・・」

 

「そ、そんなにヤバイ奴だったの?」

 

「ヤバイってレベルじゃないぞい。たとえ最新鋭の戦闘機を持ってしても勝てる相手じゃないんじゃよ・・・一説によると異世界人らしい」

 

「異世界人?」

 

「あぁ、しかも昔は嬢ちゃんらと同じ、冒険者だったんじゃ」

 

「うそ・・・」

 

賞金首が元冒険者というのは珍しい話ではないが・・・。

 

「まぁこれは噂なんじゃがな・・・」

 

「そういえば前の世界は子供が戦闘機に乗っていたって・・・」

 

「あぁ奴曰く、ショーとしての戦争が起きてて戦うのはみんなクローンの子供。大人のパイロットは自分含めてほとんどいないとかなんとかな」

 

「ショーとしての戦争・・・」

 

「戦争をショーなんて・・・狂ってるね」

 

「そういえばマヤ嬢ちゃんの村は昔魔王戦争に巻き込まれたんじゃってな」

 

「うん、巻き込まれたっていうか・・・誤爆されたんだけどね。私が生まれるずっと前だけど」

 

「そうか・・・まぁなんじゃ、とにかく無事でよかったぞい。リリア嬢ちゃん、エルロンの修理はタダってやっといてやるぞ」

 

「ほんと!?」

 

「ほんとじゃ、ティーチャーと戦って生き残ったパイロットは嬢ちゃんらが初じゃないかの」

 

おじさんは笑いながらそう言うがこちとら全く笑えない。

こっちはジェット戦闘機だから・・・と慢心していたのもあるが食いついたら離さない・・・しかも必中距離まで撃ってこないという食いつかれるほうからしたから恐怖でパニックになりそうな戦い方をしてくる。

それを狙っているのかもしれないが・・・。

 

「さってと、帰ろ帰ろ!」

 

マヤは元気にそう言った。

 

「そうだね、疲れたし」

 

「私は今日寝れないかも・・・」

 

「トマホークが隣にいてくれたら大丈夫なんじゃない?」

 

「わう?」

 

トマホークはリリアのほうを見て首を傾げた。

 

「それは逆に寝れないわね」

 

「なんで?」

 

「ぜったい夜通しモフモフしちゃうから」

 

「わぅ・・・」

 

「あはは!トマホークが嫌がってるよ!」

 

トマホークは嫌そうな顔をした。

 

「なんでよー・・・1晩くらい・・・」

 

「ぐるる・・・」

 

「威嚇するほど嫌なの!?」

 

「そりゃトマホークも寝れないもん」

 

「うぅ・・・トマホークに振られたわ・・・」

 

なんて話をしながらのんびりと家に帰った。

やっぱり家は落ち着く。

 

「さってと、ご飯はどうする?」

 

「もう暗いし食べに行かない?」

 

「そうね・・・私行きたい店あるの!」

 

「え、どこどこ?」

 

「気になってたお店なんだけど・・・」

 

リリアがケータイで店のホームページを見せてきた。

そこは異世界の居酒屋を真似た店で料理はもちろん店の雰囲気まですべて異世界風ということだった。

つい最近オープンしたばかりだった。

 

「いいね!ここにしようよ!」

 

「うん、私もお酒飲みたい・・・けど、マヤは飲み過ぎ注意」

 

「う・・・気をつけます・・・」

 

「決まりね!あ・・・でもトマホークは・・・」

 

「リリア、メニューよく見て」

 

「え?」

 

メニューには犬や猫用のメニューがあった。

魔法使いの使い魔のためのメニューでもあるが基本的に普通の犬に食べさせても問題は無い。

 

「じゃあ行こ!」

 

「良かったね、トマホーク」

 

「わん!」

 

美味しいものが食べられると分かっているのかいつにも増して嬉しそうだった。

家を出て15分ほど歩いたところにその店はあった。

 

「これが異世界・・・」

 

「風だけどね」

 

店の中には日本語で書かれた札のようなものがたくさんあり、テレビには扉からこちらに送り込まれた日本のテレビ番組のDVD等が再生されていた。

 

「テレビは何言ってるか分からないけど、異世界も私たちと変わらないのかな」

 

「でもあんなに大きな街は無いわよね」

 

言葉は分からないが少しテレビを眺めていると航空系の番組に切り替わった。

内容は・・・どうも航空事故関係のようだ。

 

「うわぁ・・・この前事故に遭遇してばっかだし縁起悪い・・・」

 

「ほんとに・・・」

 

「ま、まぁほら!料理を注文しましょ!トマホークもまだか!って顔してるし」

 

「あ、そうだね!」

 

とりあえずということでサラダとお刺身、串ものを注文した。

トマホークには鹿肉と鶏肉を炭火で焼いたものを注文した。

お酒も頼み、来るのを待つばかりだ。

 

「ねぇハル、明日は?」

 

「んー・・・ストライクワイバーンの慣熟飛行でもしようかな」

 

「ねぇ、それって遠くまで飛ぶ予定ある?」

 

「気分次第で・・・どうしたの?」

 

「んとね、ちょっと地元の村に顔出したいなーって思って」

 

「了解、いいよ。明日はマヤの村に行こっか。リリアもいい?」

 

「あ、ごめんなさい。私明日はちょっと実家に帰らないと」

 

「あれ?家出してたんじゃないの?」

 

「してないわよ!半ば家出だけど!」

 

「家出じゃん・・・で、何かあったの?」

 

「お父様が結婚しろ結婚しろってお見合いセッティングの話をずっとするからちょっと話つけてくるのよ」

 

「お嬢様だもんね」

 

「そうだけど・・・私は戦闘機に乗ってるほうがいいわ・・・あ、そうだ。ハル、フルクラムって空対地ミサイル詰めたっけ」

 

「確か積めたはず」

 

「じゃあ爆装はミサイルとクラスター爆弾でいいわね」

 

「・・・ちょっと待って実家に帰るんだよね?」

 

「ええ、帰るわよ。でもお父様の執務室の近くをこの状態で飛んでやるわ」

 

「・・・」

 

「娘の言うこと聞かないとここを石器時代に戻してやるってアピールしてやるわよ」

 

なんて恐ろしい事を・・・

 

「まぁ対地ミサイル1発程度じゃ家も崩壊しないだろうし物置に1発ぶち込むつもりではいるけど」

 

「やめたげて」

 

そんな盛大な親子喧嘩聞いたことがない。

死人が出そうだ・・・。

 

「あ、ハル来たよ!」

 

続々と頼んだ料理が届く。

美味しそうだ。

 

「じゃ、かんぱーい!」

 

「かんぱーい!」

 

「かんぱい」

 

そしてビールを一気に飲む。

一気飲みは体に良くないがグビグビと行きたい気分だった。

 

「んくっ・・・ぷはー!染み渡るぜー!」

 

「はー・・・美味しいわー・・・」

 

トマホークも運ばれてきたお肉にがっついていた。

 

「そういえばマヤはなんで村に帰るの?」

 

「んーとね、私の妹の話ってしたっけ?」

 

「うん、爆撃機を信仰する会の幹部なんでしょ?」

 

「そうなんだけど、どうも最近内部分裂が起きそうになってるらしくて・・・」

 

「内部分裂?」

 

「なんかね、空飛んで爆弾積めたら全部爆撃機だろ派と爆撃機ってのはB-52とかそういう専用の機体の事を意味するんだ派とで・・・あ、あとなんか第三勢力的な感じで戦闘爆撃機も爆撃機だよね?派が・・・こっちは大人しいらしいけどね」

 

「なにそれ・・・」

 

「妹は全知全能の神B-52さえ崇めていればなんでもいいって言ってるんだけど・・・最近、全部爆撃機派と専用機派がお互いの集会所上空を爆装した状態で威嚇飛行を繰り返してるとかなんとかで・・・」

 

なんだその一触即発の状況は。

というかそれマヤになんの関係が・・・。

 

「まぁそんな事でちょっと妹の事が心配になったから帰ろっかなって」

 

「・・・良かった、その内部分裂組をすべて撃墜しろって依頼受けたのかと思った・・・」

 

「いやさすがにないよ!」

 

「なら良かった」

 

「そっちも大変ねー・・・」

 

「家を爆撃するつもりのリリアほどじゃないかな・・・」

 

「だからしないわよ!あのクソ親父がゴネたら庭に1発大穴開けてやるくらいよ」

 

「さっき物置って・・・」

 

「それは挨拶代わりに吹き飛ばすつもりよ」

 

「過激すぎない!?」

 

「こうでもしないと分かんないわよ、お父様は」

 

「さっきクソ親父って・・・」

 

リリアの言動がお酒が入っているからか過激になってきている・・・。

 

「とりあえずお見合い相手が来てるならその送りの車も爆撃しようかしら」

 

「死ぬよ!人が!」

 

「大丈夫よ、死なないように爆撃するから」

 

「そういう問題じゃないからね!?」

 

死なないように爆撃・・・いったいどうやるのか見てみたい。

 

「でも、あのヒゲだけは引きちぎってやるわ。いえ、燃やそうかしら・・・」

 

「あ、あのリリアさん・・・?実の父親になんてことを・・・」

 

「大丈夫よお母様にそんなことしないから」

 

「そういう話をしてんじゃないから!」

 

「なによじゃあ火炎放射器で燃やせばいい?」

 

「お父さん嫌いなの!?」

 

「大好きに決まってるでしょ。顔面に30mm機関砲弾ぶち込みたいくらいに」

 

「それは好きって感情じゃない!」

 

マヤがリリアにツッコミまくってる中私はお肉にがっつくトマホークを眺め、時々撫でながらお酒を飲んでいた。

そして3人ともほろ酔いといった感じになり帰路についた。

家に帰るとそのまま寝てしまった。

 

「ふぁ・・・」

 

差し込む朝日で目が覚める。

だが起き上がった時に昨日お風呂に入ってないと言うことに気づいた。

 

「あ・・・」

 

寝起きでボサついた髪がすこしベタつく。

 

「シャワーでいいや・・・」

 

2人はまだ爆睡していた。

私は先に起きてシャワーに向かう。

今日はマヤの村に行く。

行くのは初めてだが、楽しみだ。

妹もどんな人物か会ってみたい。

・・・ただ所属している爆撃機を信仰する会がちょっと怖いが・・・



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爆撃機を信仰する会

「それじゃ、道中気をつけて」

 

《りょーかい!そっちもね!》

 

テキサスを同時に離陸して2機はそれぞれの目的地へと向かうために旋回した。

 

「今日初めて乗ったけど動きがトムキャットと違うね!」

 

「でしょ。ちょっと翼見てて」

 

「え?わかった」

 

加速していくとストライクワイバーンの可変翼が動き、矢のような形状に変形した。

 

「え、すご!」

 

「水中尾翼まで水平になってるからね」

 

「ほんとだ!すごいねこの機体!」

 

おまけにスーパークルーズ能力があるためアフターバーナーを使わなくても音速を突破できる。

このままの速度を維持すれば目的地まで1時間だ。

 

「でもやっぱり整備にはコストかかるよねー・・・」

 

「うん、おじさんがこの機体のこと色々調べてくれたけど可変翼の機構が難しいみたい。トムキャットの3倍の整備費はかかるって」

 

「えーっと・・・おいくらに?」

 

「月々20万」

 

「うっへぇ・・・」

 

「それでも今まで仕事してきて貯めた分があるから当分は大丈夫」

 

なんて話をしていると音速を突破した。

それにしても飛ばしやすい機体だ。

まだドッグファイトは経験してないがかなりの機動性があるだろう。

おじさん曰く、失速機動も可能らしい。

またこの機体のレーダーは同時に4つの目標を補足して同時攻撃ができるようだ。

ミサイルはアムラームやR-77などアクティブホーミングミサイルならなんでも搭載できるという。

ただ欠点は翼下パイロンが装着できないため兵器搭載量が少ないという事だった。

それでも胴体のウェポンベイに空対空ミサイルなら8発までのミサイルが搭載できる。

また、この世界で研究段階であるステルス機能も有しているとか。

どういった原理でレーダーから消えているのかまだまだ解明されていなかった。

 

「それにしてもハル、この機体の計器ってすごいね。全部タッチパネル」

 

「うん、画面も大きいから見やすい」

 

飛びながら色々と操作してみた。

オートパイロットも使い方は分かったので今は目的地を入力して自動操縦で飛行している。

 

「ねぇ、マヤの妹ってどんな人?」

 

「え?私の妹?んーとね・・・お姉ちゃんっ子・・・?」

 

「なんで疑問形なの」

 

「いや、他の姉妹を見たことないからね。私の村って1人っ子が多かったから」

 

「そうなんだ」

 

「そういうハルは?」

 

「私は・・・」

 

「え?あ・・・ごめん、そうだったね」

 

「いいよ、大丈夫」

 

私の家族は昔飛行機事故で全員死んだ。

正確には家の上に飛行機が落ちてきた。

それも旅客機が。

民間機を襲った空賊を撃退しようとした冒険者の戦闘機が誤射を起こし、民間機を撃墜した事件があった。

そしてその機体は私たちの住む村に墜落、私の家は家族ごと消えてなくなってしまった。

私はたまたまバイトのような形で村の連絡機を操縦して離れていたため無事だった。

・・・帰り道で村からの緊急無線、近づく救難ヘリ、立ち上る煙・・・今でも鮮明に覚えている。

 

「思い出させてごめん・・・」

 

「だから大丈夫」

 

思い出すと確かに辛いが、これが運命だったと割り切っている。

とはいえ、あの民間機を撃墜した冒険者はその後逃走したと聞いて今でも見つけたら撃ち落としてやりたいほど憎んでいる。

賞金首として手配されているからもう落とされてるかもしれないが。

 

「それにしても代わり映えの無い風景だね・・・」

 

外を見てそう呟く。

見渡す限り山や森や川・・・村がいくつかある程度だ。

 

「マヤ、両親に帰るって連絡はしてるの?」

 

「うん、昨日のうちにね!お父さん喜んでたけどお母さんからお父さんを何とかしてって言われちゃった」

 

「なんで?」

 

「お父さん、VTOL機が好きなんだけどハリアーの排気で建物燃やしちゃったり草原に火をつけちゃったり・・・」

 

「・・・無茶苦茶してる」

 

「しかも今度は最新型のF-35Bを買うとかなんとか」

 

「あれ、F-35Bってまだ市場に出てないんじゃないの?」

 

「それが最近廃棄された野戦飛行場に立ち寄った冒険者が20機くらい見つけたんだって」

 

「20機も?」

 

「どうもその機体を配備してる異世界の空軍基地か何かに扉が開いちゃったみたい」

 

「それ・・・向こうの人困ってるよ」

 

「あはは・・・たぶんエライ目にあってるね・・・」

 

とはいえ私の乗るこの機体も元は異世界の人の機体だ。

この尾翼の3本線がどういった意味なのか気になるところだが・・・。

 

「それで、何機か放出されたのとステルス機能はオミットされた機体が製造されて出てきてるんだってさ!」

 

「オリジナル機は高そう・・・」

 

「うん、5000万ドルだって」

 

「エルフから貰ったダイヤでも売らないと無理だね・・・」

 

「逆にステルス機能無しの機体は600万ドルらしいよ!」

 

安いのか高いのかよく分からない・・・。

でもこの世界でVTOL機はそこそこ人気のある機種だ。

特に舗装した滑走路を作れない小さな村からすればVTOLは貴重な村の航空戦力だった。

ちなみに滑走路を持たない村向けに攻撃ヘリなどに空対空ミサイルを搭載可能なように改造するプランなどが出ていたりする。

ミサイルもサイドワインダーからスパローなどのレーダー誘導ミサイルまで様々だ。

 

「VTOLか・・・」

 

「どしたの?」

 

「ううん、なんでも。」

 

正直私はVTOL機は苦手だ。

そもそもヘリコプターの操縦が苦手なため、ホバリングなどできない。

マヤは固定翼機も回転翼機も飛ばせるためマヤ向きかもしれない・・・が、彼女曰く、自分で操縦する機体があまりにも高速だと目が回ってしまうらしいためVTOLは乗りたくないそうだ。

 

「あ!ハル、このあたりで進路0-2-0に向けて!」

 

「了解。0-2-0」

 

右旋回して進路を020に合わせる。

 

「ここからあと30分ほど行ったら私の村だよ!」

 

「了解、レーダーは大丈夫?」

 

「なんにも・・・あ、待って何か捕捉」

 

「敵?」

 

「えと・・・IFFに応答が・・・かなり大型だから・・・あー・・・」

 

「早く教えて」

 

「これ、爆撃機を信仰する会の宣伝機かも」

 

「え?」

 

「妹・・・えと、名前はマイって言うんだけど、マイが宣伝機はスクラップから組み上げたB-29だからIFFなんてもん積んでねぇ!って言ってたの思い出して」

 

「・・・なんて危ないことを・・・」

 

「爆弾槽にたっぷりとビラ詰め込んで飛んでるんだよね・・・あはは・・・」

 

マヤは笑っているが・・・敵味方識別装置が無い状態で飛ぶなど自殺行為だ。

空賊にはもちろん、冒険者にだって撃たれても文句は言えなかった。

 

「まぁ大丈夫だよ。あの爆撃機を攻撃しようものなら100機くらいの爆撃機が飛んでくるから・・・」

 

「・・・恐ろしい・・・」

 

「前、どっかのカルト教団が爆撃機を信仰する会に異端者だなんだって攻撃したら次の日にはカルト教団の本拠地から支部まで焼け野原になってたそうだから・・・」

 

「・・・」

 

その話は聞いたことがある。

なんのカルト教団だったかは忘れたがとにかく好戦的で自分たち以外の宗教は許さないだから滅するみたいな考え方の連中だった。

そして色々な宗教団体に攻撃を仕掛けていたのだが爆撃機を信仰する会に攻撃を仕掛けたのが運の尽きだった。

目撃者によると攻撃を仕掛けた翌日の早朝から空を埋め尽くすほどのB-52やらTu-95などが飛来しカルト教団本拠地を跡形もなく消し飛ばしてしまった。

爆撃は何時間も波状攻撃で続き生きている者どころかカルト教団の構成員までも文字通り消えてしまって骨の一つも見つからなかったそうだ。

しかもあまりの爆撃に防御魔法すら役に立たなかったという。

そしてその次の日から国に点在する支部を片っ端から爆撃してものの一週間でカルト教団は壊滅したそうだった。

それだけの事をしておいて騎士団などが動かなかったのは民間人に1人も死傷者を出していないこと、居るよりは居ない方がマシのカルト教団を片っ端から空爆したことだった。

しかし、それでも派手に空爆をしていくこの集団が危険組織に認定されていないのは、確実に民間人への誤爆が無いこと、そして爆撃対象はこの国にとって居たら困る集団等だったためむしろ有効な戦力として見られていた。

教団側としては爆撃機さえ崇めてれば何でいいそうだった。

 

「敵にだけは回したくない・・・」

 

「戦闘機の護衛無しで来るからね・・・」

 

それについても聞いたことがある。

まさかの防空専用に改造したB-52とTU-95を使っているそうだ。

近づこうものなら馬鹿みたいな弾幕を張られるらしい。

 

「あ!ハル!あそこの村見える?」

 

「うん。あれ?」

 

「うん!」

 

「了解、西からアプローチするよ」

 

「了解!」

 

マヤが指を指した先には小さな村と長めの舗装された滑走路が見えた。

あれがマヤの村なのだろう。

 

「帰るの何年ぶり?」

 

「んーっと、3年ぶりかなー」

 

「そっか。じゃあ喜んでくれそうだね」

 

「うん!あ、でもトマホークを連れてこれなかったのは残念だな・・・」

 

「仕方ないよ。もしかしたら戦闘機動をすることになったかもしれないし」

 

「まぁね・・・」

 

なんて話をしてるうちに滑走路は目の前だ。

 

「さてと、着陸前チェック」

 

「はいはーい!ランディングギア」

 

「ダウン、チェック」

 

「フラップ」

 

「チェック、オートフラップセット」

 

淡々とチェックをこなして異常がないことを確認した。

 

「チェックリストコンプリート!」

 

「了解、ありがと。じゃあ降りよっか」

 

村は無管制飛行場だ。

レーダーと目視、必要なら無線で安全を確認した。

 

「着陸まであと1マイル」

 

ゆっくりと高度を下げていく。

この機体は低速度域でもかなり安定した飛行をするため着陸がやりやすくていい。

機体はゆっくりと確実に滑走路に着陸した。

 

「ふぅ、到着っと。燃料が・・・50%くらいかな」

 

「燃料なら補給出来るよ!」

 

「なら良かった。駐機したら先に降りていいよ」

 

「分かった!ありがと!」

 

「家族に会えるのが楽しみで仕方ないんでしょ」

 

「あはは・・・バレちゃった?」

 

「大体雰囲気で察してる」

 

そして機体を停止させてエンジンを切りキャノピーを開けるとマヤはすぐに降りていった。

マヤの家族・・・妹に会うのが若干怖いがどんな人達か楽しみだった。



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教団からの依頼

「おかえりなさい、お姉様」

 

「マイー!会いたかったよー!」

 

「私もですわ」

 

・・・想像と違う。

私がマヤの妹を見た瞬間に思ったことだった。

金髪のロングヘアで、いかにも聖職者ですと言った感じのシスター服を着ていた。

おまけに喋り方がお淑やか。

 

「ところでお姉様は何故ここに?」

 

「それはマイが心配になったからだよ。内部分裂だっけ?」

 

「えぇ、困ったものですわ・・・あ、それとハル様ですよね?初めまして」

 

「あ・・・初めまして」

 

「乗られている戦闘機は何ですか?見たことない機体・・・」

 

「えっと、X-02Sストライクワイバーンだよ。異世界からの新型機」

 

「ストライクワイバーン・・・いい名前ですね」

 

「私も気に入ってる」

 

「爆装は可能なのですか?」

 

「うん。JDAMとかも積めるようになってるよ」

 

「JDAMですか・・・あれは良いものです・・・」

 

・・・何故だろう。

爆弾の話になるとちょっと嬉しそうだ。

 

「実はこの前も精密爆撃に挑戦してみたのですが、やはりレーザー誘導もいいですがGPS誘導も良いものです」

 

「・・・ちなみにターゲットは何にしたの?」

 

「私達の教団に手を出した不届き者ですわ。なんて名前でしたっけ・・・あぁ、忘れてしまいました。でも・・・この世界から浄化されていくものを一々覚える必要などありませんわ」

 

・・・やっぱこの子ヤバい。

 

「・・・あの、ちなみになんだけど・・・浄化って・・・」

 

「空爆です」

 

「あ、うん・・・予想通り」

 

ある意味浄化だ。

・・・きれいさっぱり無くなるし。

 

「ねぇねぇ!立ち話もなんだし家にでも!」

 

「あ、それがなのですがお姉様。依頼をうけてくださいませんか?」

 

「え?」

 

「・・・嫌な予感」

 

「実はですね・・・」

 

一瞬、マヤから聞いていた内部分裂組の撃墜かと思ったが、教団に新しく導入される爆撃機の護衛をして欲しいという事だった。

 

「良かった・・・内部分裂組を撃ち落とせなんて言われなくて・・・」

 

「あら、そんな野蛮ではないですわ。あんなものほっとけば勝手に終わります」

 

「ほっとけば終わるんだ・・・」

 

「一応、この時まで終わらなければ・・・ふふっ・・・みたいな期間も設けてますよ」

 

「何その含み笑い怖い」

 

やっぱりマヤの妹すこしヤバい。

 

「あ、ねぇマイ。新しく入る爆撃機ってなに?」

 

「あぁ、それでしたらこれですよ」

 

写真を1枚取り出して見せてくれた。

機体はアブロ バルカン。

大きなデルタ翼が特徴の爆撃機だ。

でもこの機体は連邦の国防空軍しか保有していなかったはず・・・。

 

「あの、これ連邦の国防空軍のだよね?」

 

「えぇ、耐用年数が近くなってきたらしいのでうちで買い取る事にしたんです」

 

「でも連邦のって・・・」

 

「向こうの国にも教団の支部がありますし何より爆撃機好きに悪い奴は居ませんわ」

 

「いやまぁ・・・うん」

 

一応・・・一応だが連邦と王国は友好関係となっているが、連邦は王国を、王国は連邦を仮想敵国としていた。

国境線沿いまでは連邦軍機が護衛をし国境は超低空でレーダーに引っかからないように超えてくるのだとか・・・。

そして超えてきたところをこちらと合流、連れて帰れという事だった。

 

「もちろんお金は払いますわ。80万ドルでどうでしょうか」

 

80万・・・普通の仕事でもかなりいい部類だ。

護衛の仕事の相場は10〜20万ドル。

それが80万だ。

それに慣熟飛行の予定だったので小遣い稼ぎには丁度いい。

 

「分かった、それならいいよ」

 

「え、いいの?」

 

「護衛をしながらこの機体の能力を見たいし」

 

「りょーかい、ハルがそう言うならいいよ」

 

「契約成立ですわね。では二時間後に離陸は可能ですか?」

 

「二時間後!?」

 

「ええ、到着は今日の予定でして。ランデブーポイントはここ・・・えっとデルタ19の上空です」

 

「デルタ19って・・・」

 

デルタ19・・・それは戦争で放棄された街に付けられた略号だった。

放棄された街がある区域をアルファからフォックストロットまで各区域20個ずつに分けて地図に表していた。

ここはそのデルタ地区の19個目の放棄された街という事だった。

ちなみにこの国でもトップクラスに危ない街でもある。

国境に近い事、街の中には異世界からの扉が開いていること、街の近くには銃火器を扱える好戦的な山賊オークが住んでいること、街の中には山賊や一攫千金を狙う冒険者が常に戦闘をしているなど近寄るだけでも危ない場所だった。

そしてそれは王国軍も一緒で基本的にそんな場所には近寄ってこなかった。

だからこの街の上をランデブーポイントにしたのだろう。

 

「可能なら近寄りたくなかったけど・・・」

 

「あのあたり常に雷雲があるし不気味だもんね・・・」

 

「それもある」

 

「まぁ、空の上なら大丈夫だよね!」

 

まぁ・・・大丈夫ではあるだろう。

ただホントにあの辺は常に雷雲が発生している上に乱気流まである。

 

「まぁ何とかなるか」

 

私はそう呟いて機体に向かった。

 

「ハル、ごめんね」

 

「何が?」

 

「巻き込んじゃって」

 

「大丈夫だよ。それよりも内部分裂組を撃墜なんて言われなくて良かった」

 

「あはは・・・それは私も思った」

 

「まぁ、飛んできた爆撃機を護衛するだけだし、お金もたんまり貰えるし、慣熟飛行のつもりがいいお金稼ぎになったよ」

 

「そう言ってくれるとありがたいよ!」

 

「いえいえ。じゃあ行こっか」

 

「了解!」

 

私達はストライクワイバーンに乗り込んでエンジンを始動してタキシングする。

マイは私達が離陸していくのを見送っていた。

 

「ランディングギア、アップ」

 

車輪を仕舞って高度を上げていく。

デルタ19まではここから1時間の距離だ。

 

「さてと、のんびり巡航だね」

 

「だね!レーダークリア!」

 

「りょーかい」

 

目的地を機体のコンピュータに入力しようと思ったのだが表示される地図がどうもおかしい。

まぁそれもそのはず、この機体は異世界から来たオリジナルの機体。

この世界の地図はインプットされていなかった。

ただおかげでこの機体が来た国の名前が分かった。

 

「オーシア・・・?」

 

「何が?」

 

「この機体の航法装置の地図にそんな名前があった。たぶんこの機体が来た国の名前だと思う」

 

「ふーん・・・ねぇねぇ!それ以外にはどんな国がある?」

 

「えっとね・・・」

 

辛うじて読み取れる国だけ読み上げた。

エルジア、ベルカ、ユークトバニア・・・。

どれも普段私達が知っている世界の国とは違う名前だった。

 

「何か不思議だね、異世界が何個もあるって」

 

「異世界だから・・・とも言えるけどね」

 

通常ありえない事だからそんな事があっても仕方ない・・・と思えてきた。

ただいくら大量に異世界と繋がっても扉は物や小さな動物程度の生き物は通しても人等は通さない性質があった。

おかけで異世界の軍隊が攻め込んでくるなんて事がなくていい。

ただティーチャーのように何かの間違いでこの世界に送り込まれる人もいるのだろう。

 

「異世界か・・・」

 

「どうしたの?」

 

「いや、異世界の人からみたらこっちが異世界で・・・とか考え出したらキリが無くなりそうで」

 

「まぁね。宇宙がどうとか考えるのと一緒だよ」

 

「これだけで1日過ごせそうだね!」

 

「それするくらいなら仕事する」

 

なんて話しながら飛行を続けた。

もう間もなく合流時刻だ。

だが・・・

 

「ねぇハル、合流時刻的にはもうレーダーに映っててもおかしくないよね?」

 

「うん。もう国境は超えてるから高度を上げてるはず」

 

国境線沿いには無数の対空レーダーが設置されているが高度50m以下は探知出来なかったり、そこを超えてしまえば他のレーダー群はなかったりと割と雑な警備だった。

それも大陸が繋がっている連邦と王国が友好関係だから・・・ということとそもそも異世界のように国土全体に街があるというわけでは無いので何も無いところをいきなり航空機が入ってきたからと言って誰も気に止めなかった。

ただし、長距離を飛行できる戦略爆撃機のような航空機がレーダーに補足されると迎撃が上がってくる可能性はあった。

だから今回は低空で国境を超えるという手段を使ったのだった。

 

「マヤ、妹さんに連絡は取れる?」

 

「待ってね・・・えーっと・・・」

 

マイは無線機のある建物で待機しているという事だったのでその無線機の周波数に合わせていた。

 

「マイー?お姉ちゃんだよー」

 

《はい、何でしょうか》

 

「んとね、爆撃機がレーダーに映らないんだけど、どこ飛んでるか分かる?」

 

《・・・やっぱりですか》

 

「え?」

 

《実は国境線を超えた後から連絡が途絶えているのです》

 

「え、それって・・・」

 

《断定は出来ません。お姉様、可能でしたら国境まで飛べますか?》

 

「ハル、いける?」

 

「・・・無理かな」

 

燃料が足りない。

ここから国境まで行き往復となると、途中で燃料切れになる。

本当は捜索に行きたいがこのままだとこっちが捜索されるハメになる。

 

「テキサスまでギリギリ帰れる分しか残ってない」

 

《そうですか・・・分かりました》

 

「ごめんね」

 

《いえ、大丈夫です。ハル様はそのまま帰られますか?》

 

「マヤはどうしたい?」

 

「んー・・・まぁ妹の顔見れたし満足かな?」

 

「両親はいいの?」

 

「お父さんとお母さんは2人とも飛行機乗りで色んなところ行ってるからね。今回も居なかったみたいだし」

 

「そっか。じゃあこのまま帰投でいい?」

 

「うん!」

 

「了解」

 

「ということでマイ、またね!」

 

《はい、また近いうちに》

 

残念ながら依頼は失敗。

当然のごとく報酬は無しだが仕方ない。

私達はテキサスへの進路を取った。

 

「ねえマヤ」

 

「なになに?」

 

「ちょっと休憩してもいい?」

 

「うん!ずっと飛んでるから疲れたよね」

 

「うん。ちょっと自動操縦に切り替える」

 

私は進路、速度、高度維持装置の設定をした。

機体は自動的に安定した飛行に移る。

 

「何かあったら叩き起してくれていいからね」

 

「りょーかい!」

 

本来はダメだが私は疲れも溜まっていたので少し仮眠を取るようにした。

目を閉じるとすぐに意識が飛んだ。

 

「・・・ル!ハル!起きて!」

 

「ん・・・ん?」

 

「何か無線が・・・」

 

「無線・・・?」

 

《近くを飛行中の航空機居たら応答願う!!》

 

切羽詰まったような声と銃声が聞こえてきた。

 

《こちらは山賊と交戦中!航空支援求む!座標・・・》

 

聞こえてきた座標はここからすぐ近くだった。

燃料も何とか残っている。

 

「こちらエンジェル0-1」

 

《よかった!神よ・・・!》

 

「こちらはそちらからすぐの所を飛んでる。何があったの?」

 

《ダンジョン探索中のガンナーパーティだ!途中で山賊の集団と出会っちまったんだ!》

 

《アレン!こっちに来い!》

 

《行けるならそうしてる!!》

 

《またお友達だ!二時方向!!》

 

無線からは銃声と怒号が響く。

 

「そちらの状況を」

 

《状況・・・あぁ、クソッ!!さっきパーティリーダーが死んだ!ウチの回復担当の魔法使いも重症だ!》

 

「了解、すぐに支援するから!」

 

《了解!スモークを投げるからそこを掃射してくれ!》

 

「了解!頑張って!!」

 

私は急降下して目的地を目指す。

 

「ハル!燃料は大丈夫なの!?」

 

「何とかする!あの人たちを見捨てれない!」

 

「ハルらしいね!了解!助けよ!」

 

《スキフが撃たれた!!》

 

《大丈夫か!?》

 

《ちくしょう重症だ!!胸をやられてる!!アイツらの弾はボディーアーマーを抜いてくるぞ!》

 

《天使が来るまで耐えるんだ!》

 

《今じゃ天使なんて迎え以外に思いつかねぇよ!!》

 

《喋ってないで敵を殺せこのマヌケ!!》

 

無線から聞こえる状況は刻一刻と悪くなっている。

機関砲の残弾は980発。

20mmとはいえ詰まっているのは破砕榴弾。

効果はあるだろう。

 

「こちらエンジェル0-1!目標確認!」

 

《了解!やってくれ!》

 

《来たぞ!!》

 

私が狙っているのは人・・・そう考える間も無くトリガーを引いた。

引いた時間は2秒程度だが100発以上の20mm弾が敵の頭の上に降り注いだ。

 

「下はどう?!」

 

《エンジェル0-1!もう一度頼む!》

 

「了解!」

 

私は再度上昇して攻撃準備をした。

 

《20mm食らってまだ生きてんのか!!》

 

《何人かには当たってる!アイツら数が多いんだ!!》

 

《ここはもう持たない!移動する!!》

 

《援護する!》

 

まだ敵の数は多い。

下からは生々しい戦闘の状況が聞こえてくる。

 

《手榴弾!》

 

《ちくしょうこの蛆虫共が!!何人いやがる!!》

 

《そもそもここらで2番目くらいにでかい規模の山賊なんだ!これくらいいたって不思議じゃない!》

 

《ちくしょう何だってこんな仕事!!》

 

《いいから口より手を動かせ馬鹿野郎!!》

 

一刻も早く助けないと・・・。

そう思っていた時だった。

コックピットに警報が鳴る。

この警報は・・・。

 

「ハル!ロックオン!!」

 

「携帯SAM!?」

 

そしてミサイル警報が鳴った。

 

「ミサイルミサイルミサイル!!」

 

「分かってるよ!!フレア!!」

 

降下を止めてフレアをばら撒く。

ミサイルはフレアに釣られていった。

 

「ミサイルを持ってるやつがいて近づけないよ!!」

 

《バックブラストをこちらで確認した!片付ける!!》

 

《確認した!俺がやる!》

 

上空を旋回しつつ様子を見ていた。

その時だった。

 

『Bingo Fuel. Bingo Fuel.』

 

コックピットに自動音声が流れた。

ビンゴフューエル。

空港に戻るための最低限の燃料しか残っていないという警告だった。

 

「こんな時に・・・!!」

 

戦闘行動をしたため燃料の消費が激しい。

どんなに節約してもここからテキサスまでは1時間。

空港に降りる寸前か降りた後すぐに燃料切れを起こしてしまう。

 

「ハル・・・」

 

「クソっ・・・!」

 

燃料が持つ範囲に給油機は飛んでいない。

廃棄された飛行場はあるかも知れないが燃料はそこに無い。

私は、決断を迫られた。

 

「下のガンナーパーティ・・・ごめんなさい・・・」

 

《エンジェル0-1、どうした?!》

 

「燃料がもう・・・空港に帰れるだけしかない」

 

《・・・了解!支援に感謝する!》

 

「・・・ごめんなさい」

 

《なに、大丈夫だ!俺たちの街もテキサスだ、帰ったらビールの1杯くらい奢ってやるよ!》

 

《三時方向!!》

 

《確認!!》

 

私は旋回を止めてテキサスへ機首を向けた。

空域から離れるのが心苦しい。

 

《エンジェル0-1!帰ったらお茶か食事に行こう!》

 

「・・・うん、楽しみにしてる」

 

《その時は連絡先も・・・》

《RPG!!》

 

無線から聞こえたのは爆発音。

・・・その後は雑音しか聞こえなかった。

 

「・・・」

 

引き返したい。

その気持ちでいっぱいだった。

でも・・・それを出来るだけの燃料がない。

村で給油をしなかった事を後悔していた。

 

「・・・マヤ、帰ろう」

 

「うん・・・」

 

仕方ない・・・そう思うしかなかった。

彼らには運がなかった・・・。

 

「まさか・・・失敗続きになるなんてね」

 

「仕方ないよ。冒険者ってそういうリスクもあるんだから」

 

「まぁ・・・そうだよね」

 

「私達も急ごう。燃料が持たないよ」

 

「このままだと日光浴になっちゃうかな?」

 

「どっちかって言うと森林浴からの食物連鎖」

 

「それだけはやだ!」

 

「私も」

 

燃料計を見ると節約しながら飛べば着陸した後くらいに燃料が切れる。

滑走路の向きにもよるがギリギリ格納庫に戻れるかも知れない。

ただし・・・緊急事態宣言をしなければならないが・・・。

空港の運営者に緊急着陸時に全てにおいて優先してもらった事への料金を払わなければならないが・・・。

民間機なら何も費用はかからないのだが、冒険者で特に燃料切れという自分の責任になるものは料金がかなり高い。

150万ドルは持っていかれる。

でも自分の命と機体には変えれない。

 

「マヤ、緊急事態宣言」

 

「仕方ないかー・・・」

 

「ちょっとお金かかるけど仕方ない」

 

「だよね・・・了解!」

 

私は操縦に専念し、無線をマヤに担当してもらった。

 

「テキサスタワー、こちらエンジェル0-1。パンパンパン」

 

パンとは準緊急事態に陥った事を意味するコールだ。

メーデーは命に関わるような緊急事態を意味するが、パンは命に関わる程ではないが危険な状態を意味していた。

 

《エンジェル0-1、テキサスタワー。パンコール了解、どうされました?》

 

「えと、帰り道に戦闘を行ったために燃料がもうありません、緊急着陸を要請します」

 

《エンジェル0-1、了解。スタンバイ》

 

「これで大丈夫かな?」

 

「たぶん。燃料もまだギリギリ」

 

《エンジェル0-1、緊急着陸を承認します。滑走路はどちら側を使っても構いません》

 

「了解!ありがとうございます!」

 

「さぁ、降りるよ」

 

「任せたよ!ハル!」

 

空港はもう目視出来ている。

降下を開始した。

 

「燃料切れは恥ずかしい・・・」

 

「仕方ないよ!あんな事あったし・・・ね」

 

「まぁね・・・」

 

RPGという叫び声の後、無線機からは雑音しか聞こえなくなっていた。

銃声も何も聞こえなかった。

聞こえた内容からしてガンナーパーティは6人前後。

そのうち1人が死亡、2人が重症だった。

・・・生存は絶望的・・・そういう言葉が頭を過ぎったが考えない事にした。

 

「あと5マイル・・・」

 

その時コックピットに警報がなり始めた。

燃料ポンプの圧力異常だった。

 

「この高度なら・・・」

 

滑空も見据えて高めを飛行していたので滑空で充分降りられる。

そう思っていたら第一エンジンの回転数が下がり始めた。

続いて第二エンジンも。

 

「あー・・・ダメだったか」

 

「トーイングカーで引っ張ってもらうしかないね・・・」

 

「・・・変に目立ちそう」

 

誘導路をトーイングカーで引っ張られて格納庫に向かう姿を想像して恥ずかしくなる・・・がもうどうにもならない。

 

「タワー、エンジェル0-1。両エンジン停止」

 

《了解、着陸は可能ですか?》

 

「可能。トーイングカーをお願いします」

 

《了解》

 

「はぁ・・・」

 

ため息をついて操縦桿を握り直す。

その後は何事もなく滑空で着陸し、トーイングカーで引っ張ってもらった。

その間に今日あった護衛対象のロスト、救難要請をしてきたガンナーパーティからの交信途絶などを思い出していた。

 

「疲れた・・・」

 

でも今はその言葉しか出なかった。



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空賊基地の偵察

「・・・・・・」

 

「もー・・・ハルはいつまでそうやってるの?」

 

「・・・・・」

 

「まったくもう・・・・」

 

何もやる気が起きない・・・。

それが今の気持ちだった。

私はベッドに突っ伏していた。

 

「いつまで気に病んでるの?」

 

「・・・」

 

「ハル!」

 

「・・・そっちじゃない」

 

「え?」

 

私が今やる気を失っているのは一週間前に助けれなかったパーティのことではない。

確かにかなり落ち込みはしたが・・・。

 

「・・・トムキャット・・・」

 

「あ、あぁ・・・」

 

それはあの戦闘から帰った次の日のことだった。

F-14を定期検査に出したところ、色々な部分が傷んでおり、正直・・・もうこれ以上安全な飛行は保証できないということだった。

部品交換で騙し騙し使えないことはないが、主翼部分が部品交換でももう危ない状態らしい。

そして、私は泣く泣くF-14Dを廃機にし家の庭に置くことにした。

それが何よりのショックだった。

おまけに換えのトムキャットを買おうにもF-14シリーズその物が品薄だった。

 

「・・・トムキャットじゃなきゃ仕事しない」

 

「だからってふて寝しない!」

 

「・・・」

 

「ハルー!」

 

マヤは私を何としてでも起こしたいようだ。

 

「ほら!今からテキサスの航空機ショップに行ってみようよ!」

 

「・・・トムキャットが無いならやだ」

 

「子供かお前はー!!」

 

なんて事をすでに30分以上やっている。

そんな時、部屋のドアが開いた。

ちらっと見たらリリアだった。

 

「・・・何やってるの」

 

「あ!おかえりリリア!ちょっと手伝って!」

 

「ただいま。何があったのよ・・・」

 

「実は・・・」

 

マヤは起きた事をリリアに説明した。

 

「あー・・・それはもうそっとしておいた方が・・・」

 

「リリア分かってる〜」

 

「ハルはお黙り!!」

 

「くーん・・・」

 

「犬みたいに鳴くな!」

 

「わぅ?」

 

犬という単語に反応してトマホークが首を傾げていた。

 

「あ、そうだハル。いい話があるけど」

 

「・・・なに」

 

「さっき格納庫でおじさんから航空機ショップにトムキャットが入荷してたって話を・・・」

 

私はその話を聞いた瞬間飛び起きた。

 

「うわっ!?」

 

「マヤ行くよ」

 

「ハル!?」

 

トムキャットがあるなら行かなければ。

 

「でも、B型よ?」

 

「大丈夫、何百万積んでもいいからD型並にカスタマイズする」

 

「・・・あのハル?私達の食費は・・・」

 

「ここから数ヶ月はそこら辺のモンスター肉で」

 

「ちょっと落ち着いて!!」

 

「やかましい」

 

「なんで私がそんなこと言われなきゃいけないの!?」

 

「まぁ・・・行きましょうよ。多分今買わないとハルずっとこのままよ」

 

「だけど家計が・・・」

 

「あ、それなら大丈夫」

 

「え?」

 

リリアは笑顔でとんでもない事を言い出した。

 

「ほら、私実家に帰ったじゃない?」

 

「うん」

 

「それでお見合いがあるとか」

 

「そうそう。それで頭来たからとりあえず物置に対地ミサイルぶち込んだのよ」

 

「ごめん、ちょっと待って。リリアはなんの恨みがあってそんなことしたの!?」

 

「前に言ったじゃない」

 

「いや、聞いたけども!!」

 

「今回のマヤはツッコミ役」

 

「ハルはボケ担当になってるけどね!!」

 

「いぇーい」

 

「やかましいわ!!」

 

などと漫才のような事をやっていたが、とりあえずリリア曰く、父親を本気で空爆するぞと脅してみたらお見合いを見送る上に200万ドル渡すから爆撃だけは止めてくれ、実の娘に殺されたくないと200万ドル渡されたそうだ。

200万あれば半年は食べるものに困らない。

 

「まぁでも・・・お見合い相手には何故か気に入られちゃったんだけどね」

 

「・・・なんで?」

 

「なんかあんなアクティブな女の子が理想だー!って」

 

「へ、へー・・・変わった人もいるもんだね・・・」

 

「パッシブなら問題無かったかしら」

 

「まって、そんなレーダーみたいな話なの?」

 

「違うの?」

 

「どう考えても違うでしょ!!」

 

なんて事を10分近く続けていた。

 

「ねぇそろそろ」

 

「あ、そうね。行きましょ」

 

「はぁ・・・なんか疲れた・・・私お留守番でいい?」

 

「あら珍しいわね」

 

「誰のせいでしょうね!!」

 

「ハルじゃない?」

 

「ひどい。リリアでしょ」

 

「どっちもだよ!!いいから行ってきてよ!!」

 

「そんな怒らないでもいいじゃない。可愛い顔が台無しよ」

 

「やっかましいわ!!もう私を癒してくれるのはトマホークだけだー!!」

 

マヤはトマホークに抱きついていた。

仕方ないので2人で航空機ショップに向かう。

 

「あの子は元気ね」

 

「ホントね」

 

「ところであのトムキャットって何年乗ってたの?」

 

「確か3年。でも何回か墜落寸前まで損傷してるからこの時期が妥当なのかも」

 

「確かに・・・ハルは無茶するものね」

 

「1回は誰のせいでしょう」

 

「う・・・私のせいです・・・」

 

なんて仲良く話をしながら歩くこと20分。

店に着いた。

中に入り店員にトムキャットの事を聞くとどうも、おじさんが店に話を通していてくれたようですぐに機体の元に案内された。

 

「こちらになります」

 

「トムキャット・・・」

 

D型より少し古い型ではあるがそれでもF-14だ。

 

「これで」

 

「かしこまりました」

 

その後は淡々と手続きを済ませて明日には私たちの格納庫に納入される。

あとはここから2週間ほどかけてD型近くまでカスタマイズを行うつもりだ。

 

「良かったわね」

 

「うん」

 

「なんかハルが自然に笑ってるの初めて見たかも」

 

「なにそれ。人が無感情みたいに」

 

「実際そうでしょ?」

 

「違う」

 

確かにあまり感情豊かなほうではないと思う。

 

「で、これからどうするの?」

 

「んー・・・せっかくだし食費くらい稼ぎに行こっか」

 

「それがいいわね」

 

「マヤは・・・連絡してみるか」

 

そういうわけで電話をかけてみる。

 

「あ、マヤ?」

 

『なーにー?』

 

「今から仕事行くけどどうする?」

 

『うぇ!?トムキャットは!?』

 

「買った。食費だけでも稼ぎにいく」

 

『あー・・・どうしよ・・・』

 

「もしダメならいいよ」

 

『じゃあ今日はやめとくよ!リリアと行っておいで!』

 

「了解」

 

電話を切ってリリアにマヤは来ないという事を伝えた。

 

「あら、そしたら私が後席?」

 

「うーん・・・ねぇ、ミグを借りてもいい?」

 

「え?」

 

「せっかくだし、2機で行こうよ」

 

「んー・・・それもいいわね!あ、でもハルはミグ乗れるの?」

 

「マニュアルさえあれば」

 

「あるにはあるけど・・・まぁ飛ばせれない事はないわね」

 

「うん。初ミグだからちょっと楽しみ」

 

「じゃあ楽しんで。ミグもいい戦闘機だから」

 

リリアからミグについて熱く語られながらギルドのクエストボードに向かった。

 

「さて、何にする?」

 

「護衛は時間かかるし・・・あ、これとかいいんじゃない?」

 

内容は街から北西に約250kmのところにある放棄された飛行場が空賊の拠点になっている可能性が高いらしい。

そこでその廃棄された飛行場に向かい、どういう状況か偵察、空賊が使用している場合、可能なら空賊機を撃墜もしくは地上で破壊しろということだった。

報酬は25万ドル。

燃料代くらいは稼げそうだ。

 

「これで行こっか」

 

「了解!」

 

受付にクエスト申請を行い格納庫に向かう。

そこで武装を決める。

 

「武器はどうする?」

 

「AAMだけ搭載していこ。30mm機関砲なら数発で戦闘機くらい破壊できるから地上目標は機関砲で」

 

「了解、でもハルは地上掃射苦手なんじゃないの?」

 

「苦手なだけで出来ないわけじゃないよ」

 

「カッコイイこというじゃない」

 

「戦闘機乗りとして当たり前」

 

「ファンができる理由が分かるわ・・・」

 

「なにそれ」

 

なんて話をしながら搭載武器を決め、整備のおじさんに伝えた。

 

「なんじゃ今日はハル嬢ちゃんはミグか」

 

「うん。マヤも居ないし」

 

「そうかそうか。了解じゃ。でもなんでR-27なんじゃ?77は詰んのか?」

 

「セミアクティブ慣れしてるから」

 

「便利なんじゃがの・・・あ、でも27ETは積むのか」

 

「格闘戦に備えてね」

 

「了解じゃ!」

 

ちなみにR-27ETとは中射程ミサイルR-27の赤外線ホーミング型だ。

簡単に言うとサイドワインダーが中射程ミサイルになったようなものだ。

 

「搭載数は短射程が2、中射程が4・・・増槽1・・・リリア、弾薬が尽きた場合の援護お願いね」

 

「任せて、こっちはR-77をフルで積んでいくから」

 

「了解。じゃあ行こうか」

 

「うん!」

 

ミサイルと燃料の搭載を確認して乗り込む。

 

「意外と何とかなりそう」

 

マニュアルを見ながら空動作でエンジン始動をしてみるが何とかなりそうだ。

 

「よし。あとは飛びながら慣れよう」

 

《ハル、大丈夫?》

 

「うん。いつでもいいよ」

 

《了解、行きましょ!》

 

格納庫から引っ張り出してもらいエンジンを始動する。

当たり前だが慣れたF-14とは運動性能も何もかも違う。

そこを忘れないようにして飛行しよう。

 

「タワー、こちらエンジェル0-1。」

 

《エンジェル0-1どうぞ》

 

「北方向への出発を要請」

 

《了解、北方向への出発を承認します。滑走路35へ向かってください。》

 

「エンジェル0-1、了解 」

 

出力を上げてタキシングを始める。

今日は少し混み気味だ。

 

「今日は離発着が多いね」

 

《そうね。いつもながらの光景だけどね》

 

「まぁね」

 

滑走路に向かい2000mほどタキシングしたところで管制塔から無線が入ってきた。

 

《エンジェル0-1、現在位置で停止してください》

 

「了解」

 

《渋滞ね》

 

「仕方ないよ」

 

滑走路まであと800mほどだが前に旅客機、その後に戦闘機が3機並んでいた。

そして遠くからは着陸進入してくるB-767が見えた。

 

《滑走路本数増やせばいいのに》

 

「領主側は増やしたいらしいけど住民の反発があるんだってさ」

 

《あら、そうなの?》

 

「街の景観的にこれ以上飛行場が大きくなると・・・だって。それに滑走路を増やすなら家を少し潰さないといけないし」

 

《まぁそうよね・・・》

 

「でも飛行機無いと生きていけないし難しいところだよね」

 

なんて話しながら待つこと10分。

ようやく滑走路手前まで来たがここでも一時停止だ。

 

「ふぁ・・・」

 

《ちょっと、寝ないでよ》

 

「分かってるけど・・・今日暖かいし」

 

《いつもでしょ》

 

「コックピットにいると特別」

 

《だからって居眠りはダメだからね!》

 

「そんな言わなくても分かってるよ」

 

そうこう話してるうちに目の前にほかの冒険者の戦闘機が着陸していった。

 

《エンジェル0-1、0-2滑走路進入を許可》

 

「エンジェル0-1了解」

 

滑走路に進入してもう一度停止した。

もうここまでで30分はかかっている。

 

「ようやくだね」

 

《そうね、早く上がりたいわ》

 

そう言っていると離陸許可が下りた。

私達は出力を全開にして離陸した。

 

「空は自由でいい・・・」

 

《ハルは下でも自由だけどね》

 

「人とは自由であるべきなのだー」

 

《・・・何言ってるの?》

 

「ノリ悪い」

 

《どう乗ればいいのよ!!》

 

「そこは何となくで。で、北西だから方位300くらい?」

 

《話いきなり変えてくるわね・・・えーっと・・・方位300・・・でいいわね》

 

「了解。撃墜数増やして帰るよ」

 

《ハルが落ちないこと祈るわ》

 

「酷いな。私は今まで落ちたことがあるみたいな」

 

《何回かあるでしょ。落ちなくても落ちかけた事は》

 

「えーっと、そのうちの2回か3回はリリアのせいだったけどね?」

 

《うぐっ・・・》

 

「自分で言って墓穴掘ってやんの」

 

《う、うるさいわよ!!》

 

「ふふっ・・・」

 

リリアのフランカーは感情を表すかのようにフラフラと揺れていた。

目標までまだあと200km。

のんびりと行こう。



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格闘戦

離陸して20分。

目標近くの山岳地帯に来た。

もうそろそろだ。

 

「リリア、何かレーダーに映ってる?」

 

《なにも・・・なんかここまで近くに来てるのに居ないって不気味ね》

 

「警戒を怠っちゃダメだよ」

 

《分かってる》

 

そう言った瞬間だった。

レーダー警報が鳴った。

 

「レーダースパイク!」

 

《こっちも!補足された!?どこから!?》

 

「レーダー波は前方から・・・となると・・・」

 

少し上を見ると何かが太陽光を反射していた。

 

「見つけた!12時方向!上!!」

 

《上!?》

 

敵機を見つけたその時、警報の音が変わる。

これは断続的なレーダー照射を受けている時の音だ。

主にレーダー誘導式のミサイルを撃つ時にこの方法を使う。

つまり・・・

 

「発射煙!ミサイル!!」

 

《確認!ブレイク!》

 

チャフをばら撒きながら逃げる。

 

「リリア!高度を下げて!」

 

《稜線を使うのね!了解!》

 

「その通り!」

 

稜線に隠れて敵の視界から逃れる。

格闘戦に持ち込みたいが敵がどういう戦闘機なのか分からない以上下手に格闘戦に入れない。

 

「リリア、77は撃てる?」

 

《補足さえ出来ればね》

 

「分かった。私が1回急上昇して相手の視線をこちらに向けるからその時撃って」

 

《何言ってるの!危ないわよ!!》

 

「危険は承知の上!逃げてばかりじゃ勝てないよ!」

 

《あーもう!ホント、ハルにファンが出来るの理解出来るわ!了解!!》

 

私は一気に急上昇する。

山から出た瞬間レーダー警報がなりはじめた。

その時、すぐ近くに敵機を見つけた。

あれは・・・F-16・・・!!

 

「リリア!敵はF-16!」

 

《16!?ってことは・・・》

 

「アムラームっぽいのも翼に見えた!スパローかも知れないけど警戒して!」

 

《了解!》

 

なんで空賊がF-16なんか・・・と思ったが希にF-15を使う集団もいる。

なにも全部が全部Mig-21なわけがない。

 

《捕らえた!ハルの後ろのファルコンを撃つよ!》

 

「了解!」

 

《FOX3!》

 

撃たれたことに気づいたF-16はチャフをばら撒きながら右に急旋回した。

 

《行け行け行け!!》

 

敵機までの距離は約3マイル。

私もミサイルを目で追っていたが、ミサイルはギリギリの所でかわされた。

 

《外れた!》

 

「F-16の機動力、馬鹿にできないね!」

 

《同意見!》

 

そうこう話してるうちに敵機は2機から3機に増えていた。

増援・・・というよりは最初から居たが補足できていなかった敵だろう。

 

「リリア、援護に入る」

 

《分かった!後ろはお願い!》

 

「了解」

 

今散り散りで戦うより編隊で戦闘をしたほうが得策だろう。

私はリリアの援護位置についた。

 

「R-27ET・・・ある意味これが切り札かな」

 

ある程度の距離からミサイルを撃たれれば、敵はそれがレーダー誘導式のミサイルと思い込むはずだ。

乱戦になった今なら尚更だ。

きっとフレアではなく、チャフを撒くはず。

そこを狙う。

 

《フランカーを舐めないでよ!ロックオン!FOX3!》

 

リリアは捕らえた一機に向けてミサイルを発射した。

距離は2マイルもないほどだが・・・。

だが敵は腕がいいのだろう。

またギリギリでかわした。

 

「リリア、近すぎ」

 

《言われなくても分かってるわよ!》

 

「交代。私の援護に回って」

 

《分かったわよ!》

 

フランカーが援護位置に着こうと動いたのを確認して目の前にいるF-16を追いかける。

 

「IRミサイルなら・・・!FOX2!」

 

機動力の高いR-73ならこの1.5マイル程度の距離から撃てば逃げられないはずだ。

 

「いけいけいけ!当たれ!!」

 

ミサイルは願い通りか敵機に命中した。

エンジン付近に命中し大きく抉れ破損した機体尾部が見えた。

火を吹きながら落ちてゆく。

 

「撃墜!」

 

《グッドキル!》

 

「次行くよ!」

 

《了解!バンディット、3時方向に確認!》

 

「一機落とされてムキになってるよ、警戒!」

 

残り3機、今確認出来るのは2機だ。

あと一機はどこだ・・・。

 

「リリア!編隊を解くよ!あと一機が隠れてるからソイツを私が探す、リリアは2機をお願い!できる?!」

 

《大丈夫!やれるわ!》

 

「了解!」

 

私は急降下して稜線に向かう。

きっと稜線を利用して近づいてきているはずだ。

 

《よーしそのまま・・・ロックオン!》

 

チラッとリリアのほうを見るとすでに一機を補足し攻撃態勢をとっていた。

私はすぐに視線を前に戻す。

 

《撃墜!次!!》

 

上空ではすでに一機撃墜されていた。

私は低空を慎重に飛ぶ。

 

「どこだ・・・私ならこのあたりから狙うはず・・・」

 

集中して敵を探す。

すでに補足されているのでは・・・と少し恐怖心もあったが気にしないようにしていた。

 

「大丈夫、ミグなら格闘戦になっても勝てる」

 

自分に言い聞かせるようにそう呟いた瞬間だった。

前方にある山の隙間からF-16が飛び出してきた。

・・・ビンゴだ。

不意打ちを仕掛けようとしていた敵機は私の予想どうりの場所に飛び出してきた。

相手は慌てて急上昇した。

それに続く。

 

「ここで急上昇なんて撃ってくださいって言ってるようなもんだよ!!」

 

短距離ミサイルを選択し、ロックオンした。

 

「FOX2!」

 

発射ボタンを押す。

相手はフレアを撒いて必死に急旋回した。

その時、偶然か敵機の逃げた先にもう一機のF-16が突っ込んできた。

リリアに追いかけられていた敵機だった。

2機は不運にも空中衝突を起こした。

一機は左の主翼を。

もう一機はその主翼に機首から突っ込んだため、機首が潰れていた。

コントロールを失った敵機は炎上し錐揉みを起こして落ちていった。

ベイルアウトは確認出来なかった。

 

《わーお・・・これはひどい》

 

「運がなかった」

 

《そうね・・・えーっと、空域はクリア?》

 

「たぶんね。敵基地に向かおう」

 

《りょーかい・・・ってあら?》

 

「どうしたの?」

 

《レーダーコンタクト・・・一機だけ》

 

「敵?」

 

《分からないわ》

 

「了解、確認しよう」

 

《了解》

 

リリアが捕らえたという航空機の方向に進路を変える。

 

「距離分かる?」

 

《えーっと・・・4マイルね。なんでこんな近くに・・・》

 

「レーダー照射は受けていないから・・・でも警戒は怠らずに」

 

《了解》

 

輸送機かそれとも・・・と考えていたら目標をうっすらと確認できた。

機首で何かがキラキラと光っている。

プロペラ・・・?

 

「ねぇリリア・・・あれプロペラじゃない?」

 

《えぇ・・・ということは・・・!》

 

「・・・ティーチャー!!」

 

私達は高度を稼ぐために上昇すると目標もそれに追従した。

間違いない、ティーチャーでなくとも攻撃の意思がある戦闘機だ。

 

「相手がティーチャーでもこっちは2機、挟むよ!」

 

《了解!まだ残弾は残ってるから!》

 

「分かってると思うけど単機だと食われる。連携していくよ」

 

《食いつかれてた私が1番良くわかってるわ・・・》

 

その間にも距離は縮まり2マイルほどになった。

 

「牽制で1発お願い」

 

《了解!FOX3!》

 

リリアがミサイルを1発発射。

様子を見る。

 

「やっぱりティーチャーか・・・化け物みたいな動きしてる」

 

《ミサイルが効かないんじゃどうしようもないわよ》

 

「当たれば落ちるよ。当たればね」

 

《じゃあ手本見せてよ》

 

「無理」

 

実際、ミサイルを引き付け綺麗なバレルロールでかわしてみせたあの動きを見たら勝てる気がしない。

だが補足された以上背を見せて逃げるわけにもいかない。

 

「格闘戦に入るよ!」

 

高速で真正面からすれ違う。

間違いない、ついこの前見た戦闘機・・・ティーチャーの乗機だ。

簡単なクエストのはずが化け物相手の空中戦になってしまった。

 

「相手が化け物なんて・・・シャレになってないよ!」

 

《こっちはこの前と違って空中戦用の装備なのよ!負けないわ!》

 

「だからって油断は禁物!」

 

目で敵機追い旋回しつつそう話した。

相手は機関砲しか持たないプロペラ機・・・と信じたい。

距離さえ取れば空対空ミサイルで勝てるはすだ。

 

「残弾は短射程・・・もう残ってない・・・中射程が4・・・」

 

中射程ミサイルしかないなら距離を取りたいが下手に離脱しようとすると背後を取られる可能性がある。

 

「どうする・・・」

 

そう呟いた時だった。

敵機の機首がいきなりグンっと上がり急減速した。

敵はコブラを行い急減速した。

私は下手に考え事をしたせいで反応が遅れ背後を取られた。

 

「しまっ・・・!!」

 

《ハル!!》

 

直後に機体に衝撃が来る。

そして操縦桿の縦方向への反応が極端に鈍くなる。

後ろを見ると片方の水平尾翼が無くなっていた。

敵機は私を追い越して上昇して行った。

 

「尾翼が・・・!!」

 

《脱出して!!》

 

リリアがそう叫んだ。

私は急いで射出レバーを引いた。

だが・・・

 

「・・・反応しない」

 

レバーを引いてもキャノピーは飛ばず、シートも射出されなかった。

 

《なんで!!脱出してよ!!》

 

ほとんど金切り声だ。

脱出したいが・・・これじゃ無理だ。

 

「・・・リリア、逃げて」

 

《え!?》

 

「私が引きつける。逃げて」

 

《嫌!!》

 

「逃げて!!私は何とかするから!!逃げてマヤとヘリで助けに来て!!」

 

私は無線に怒鳴るように言った。

 

《・・・分かった》

 

フランカーが離脱するのを確認した。

私はティーチャーを再び探した。

だけどいつの間にか居なくなっていた。

 

「助かったのかどうなのか・・・」

 

ため息を付きつつ上を見上げると太陽を背にティーチャーの機体が見えた。

・・・反復攻撃・・・か。

 

「・・・やられた・・・ごめんね、マヤ」

 

もう回避も間に合わない。

最期の言葉くらい残す暇を与えてくれてもいいんじゃないか・・・。

そう思い目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん・・・」

 

体の痛みで目を覚ます。

 

「生き・・・てる・・・?」

 

痛む体をすこし捻って外を見た。

運がいいのか悪いのか・・・機体は墜落こそしたものの斜面を滑るように落ちたようだ。

それに火災も発生していないとはまた幸運だった。

だけど・・・酷く胸のあたりが痛む。

肋骨の1本くらいは折っているかもしれない。

ただ手足は無事だった。

あとは内蔵くらいか・・・。

 

「いた・・・とにかく脱出しなきゃ・・・」

 

火災は起きていないとはいえ、いつ火がつくか分からない。

幸いにもキャノピーは衝撃で破損し割れていた。

自衛用の拳銃と予備の弾倉を持って外に出た。

 

「はぁ・・・足も折れてはないけど痛い・・・走れないかな・・・」

 

とにかく離れよう。

私は危険ではあるが近くの森に逃げ込む事にした。

運良く近くには綺麗な小川もある上に木には果実が実っていた。

飢えや乾きですぐに死ぬ事は無さそうだ。

・・・すぐに・・・というだけだが。

 

「弾は・・・9mmRIPを込めてきてて良かった」

 

弾倉に詰まった弾を見て呟いた。

RIPとは弾芯の周りが鋭く尖った爪のようなもので覆われていて、それが標的に着弾するとその爪のような部分がそれぞれバラバラに標的の体内で散り非常に大きなダメージを与える弾丸だ。

簡単に言うならダムダム弾のような弾丸だ。

最近、魔獣に対して非常に効果のある弾丸と評価されていた。

 

「とりあえず木に・・・」

 

私は近くにあったおおきな木にもたれかかった。

 

「うぅ・・・いたた・・・」

 

足と胸が痛む。

服をめくってお腹も見てみたが・・・素人目には内蔵がどうなってるかは分からない。

 

「はぁ・・・」

 

いつ来るか分からない助けを待ちため息をついた。

その時だった。

草むらを掻き分ける音がした。

 

「嘘でしょ・・・」

 

拳銃を握って警戒する。

 

「お願い・・・山賊じゃありませんように・・・」

 

そう祈った。

だが・・・チラッと見えた格好はどうみても山賊だった。

墜落機の状態を確認しにきたのだろう。

 

「捕まったら割とマジでシャレにならない・・・」

 

特に若い女性なんて・・・。

私はゆっくりと拳銃を構えた。

 

「この辺か?戦闘機が落ちたのって」

 

「あぁ、原型が残ってれば回収して売っちまおう」

 

「パイロットは?」

 

「ほっとけ、どうせ死んでんだ」

 

なんて話をしながら私の前を通り過ぎた。

下手に手を出さないようにしよう・・・。

その時だった。

 

「・・・くしゅん!」

 

・・・・・・私のバカ。

くしゃみが出た。

 

「なんだ!?」

 

・・・気づかれた。終わった。

私は素早く相手の頭を撃った。

 

「うぉっ!?」

 

驚くもう一人も素早く撃つ。

倒れたのを確認した時、遠くから声が聞こえてきた。

 

「そりゃ2人なわけないよね・・・」

 

私は痛む足を引きずって森の奥へと逃げる。

だが足を引きずっているため移動が遅い。

 

「いたぞ!!」

 

見つかってしまった。

私は応射する。

 

「早すぎるよもう!」

 

さすがのRIP弾。

当たれば敵の動きは完全に止まる。

だが敵も撃ち返してくる。

 

「ひぐっ・・・!」

 

弾丸が掠めて反射的に身を縮めた。

 

「もうやだ・・・!!」

 

拳銃を撃ちながら泣き言を言う。

弾薬だってあまりないのに敵は多い。

捕まりたくもないし死にたくもない。

その時だった。

 

「あぐっ!!」

 

肩に強い衝撃、その後焼けるように熱くなる。

見ると血で染まっていた。

 

「うわぁぁぁぁ!!」

 

痛みと焼けるような熱さで思わず叫ぶ。

そして何人かの山賊が近くまで迫ってきた。

 

「やだ・・・!やだ・・・!!来ないで!!」

 

残った弾丸を敵に向かって撃ちまくる。

だが2,3人に当たりはしたが・・・そこで弾切れだ。

 

「う、うわぁぁぁ!やだ!来ないでってばぁぁ!!」

 

これから起こることを想像してしまい、叫びながら後ずさる。

 

「久々にいい女だ」

 

「安心しな、殺しはしねぇ」

 

じりじりと近寄る山賊。

弾切れだが私は恐怖のあまりトリガーを引き続けた。

 

「やだ・・・!誰か・・・助けて・・・!!助けてぇぇぇ!!」

 

半分狂ったようにそう叫んだ。

その時だった。

 

「コンタクト!!」

 

「右に敵!!」

 

「左に敵2!」

 

私が後ずさっていた方向から数人出てきた。

目の前に居た山賊を次々と射殺していった。

 

「大丈夫か!」

 

「え・・・?え・・・?」

 

「もう大丈夫だ、今診てやるからな!」

 

「大尉!そっちはどうだ!!」

 

「クリア!!」

 

この人たちの話している言葉・・・英語・・・?

異世界の言語だ。

学者でもない限り話す人は居ない。

私はマニュアルを読むために多少学んだ程度だったが。

私に話しかけてくれた人はこの世界の言葉を話していた。

 

「もう大丈夫、血は止まったから」

 

「あ・・・ありがと・・・」

 

何が起こったのか分からない。

だが助かった・・・。

私は緊張の糸が途切れたのかそこで意識を失った。



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救助

「ハルちゃん、ごめんねぇ。いきなり飛行機を飛ばせって言っちゃって」

 

「ううん。大丈夫。操縦するのは好きだから」

 

私は住んでいる村から近くの街の病院へと村の高齢者を定期検診に連れていった帰りだった。

飛ばしているのはホーカー100。

小型のビジネスジェットだ。

村のバス代わりの飛行機だった。

私はついこの間、戦闘機の免許を取得し、村で航空機を飛ばせる人が少なかったために私がバイトのような形で飛ばすことになった。

隣には飛行機乗りになって30年は経つベテランのおばさんが乗ってくれていた。

この機体ももう3000時間以上乗っていた。

 

「どう?飛行機は」

 

「楽しい。空って綺麗だなって」

 

「でしょ〜。ハルちゃんもそのうち、戦闘機で成層圏まで登ってみなさい。あのダークブルーの空は忘れられないわよ〜」

 

「うん。でもお金貯めないとだし・・・あとパパとママが許してくれるかな」

 

「2人とも飛行機は嫌いだったものね」

 

「うん。おじいちゃんが飛行機事故を起こしちゃったからね」

 

元々、レシプロ戦闘機乗りだった祖父はジェット機に乗りたいと言い出しF-86を購入してきた事があった。

そしてその機体に乗り始めて1週間も立たないウチに事故を起こした。

その事故も悲惨だった。

たまたま祖父の操縦する機体と同高度、同経路を飛んでいた魔法使いと空中衝突を起こした。

魔法使いはもちろん即死。

祖父も衝突の衝撃で気絶しコントロールを失った機体は地面に激突した。

それ以来、両親は飛行機に乗ることを強く反対するようになった。

私は半ば強引に戦闘機乗りになるため免許を取得した。

 

「まぁでもハルちゃんもいい大人の女性だし自分の考えで生きるべきよ」

 

「そのつもり。戦闘機を買ったら冒険者になる」

 

「あら、そしたら私のお古の拳銃でもあげようかしら」

 

「お古の?」

 

「ずっと使ってた護身用の拳銃。古いけどまだまだ動くわよ」

 

「じゃあ、ありがたく」

 

なんて話をしながら飛行を続けていると眼下を捜索救難機、U-125が。

それに追従して空中消火が可能な消防仕様のC-130。

またUH-60やCH-47も飛んでいった。

こんな大規模な緊急用航空機の編隊は飛行機事故・・・しかも旅客機が落ちたようなレベルの事故だった。

 

「やーね、縁起でもないわ」

 

「うん・・・でも向かってる方向が・・・」

 

「ええ、村の方向なのよね・・・」

 

「急ごう」

 

少し加速し飛行を続けると嫌な予感がしてきた。

立ち上る煙、そしてその煙があるのが村の近く・・・いや、私達の村のような気がしてならない。

 

「ハルちゃん、操縦をお願い。村長と話す」

 

「分かった」

 

「こちらシニアバス450。村長、聞こえますか」

 

無線からは雑音のみ・・・と思った時、応答があった。

 

《シニアバス450!緊急事態!》

 

聞こえた声は村の副村長だった。

 

「緊急?それよりも村長は?」

 

《村長は亡くなられた!》

 

「はぁ!?」

 

《飛行機事故だ!!旅客機が落ちてきた!》

 

「む、村の被害は・・・」

 

《家が1軒・・・あぁ・・・ハルはそっちにいるか?》

 

「あ、い、いるけど・・・」

 

心臓の鼓動が早い。

この後のことを想像してしまう。

嘘であってほしい。

その気持ちでいっぱいだ。

だが・・・

 

《落ち着いて聞いてくれ・・・君の家に・・・落ちたんだ》

 

「え・・・?」

 

《今・・・捜索してるが・・・すまない、絶望的だ・・・》

 

「え・・・え・・・?う、嘘・・・だよね・・・パパ・・・?ママ・・・?」

 

「ハルちゃん、操縦を変わって」

 

「そんな・・・リンも・・・?嘘・・・そんなの・・・」

 

「操縦を代わりなさい!!」

 

私は家にいた両親と妹のリンの事が頭の中でぐるぐると回っていた。

おばさんの声も聞こえていない。

私は操縦桿を強く握りしめたままだった。

 

「左に傾いてるの!ハルちゃん!!」

 

その時、右の頬に強い衝撃。

おばさんにぶたれていた。

 

「操縦桿を離して!!」

 

「あ、あ・・・ゆ、ユーハブ・・・」

 

「アイハブ!」

 

水平義を見ると左に酷く傾いていた。

どうやら無意識にこの場所から去ろうと思ったのか左に旋回させていたようだ。

しかも戦闘機を飛ばす勢いで。

そして村に正対し煙の上がっている場所を見つけた時、ショックのあまりなのか意識を失った。

おばさんが必死に起こそうとしていてくれた気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん・・・」

 

「あ!気づいた?よかった〜・・・」

 

「おばさん・・・?」

 

「はぁ!?誰がおばさんよ!!」

 

「え・・・?いたッ!!」

 

「あぁ!無理しちゃダメだよ!撃たれてるんだから!」

 

「撃たれた・・・あ・・・」

 

さっきまでのは全て夢だったようだ。

忘れたくても忘れられない記憶・・・。

それよりもここはどこだ?

 

「ねぇここ・・・」

 

「待っててね!」

 

私を看病していてくれた白衣の女性は部屋から出ていった。

・・・少し揺れる感覚がある。

・・・船?

しばらくすると女性は白髪の男性を連れて戻ってきた。

青い海のような柄の迷彩服を着ていた。

 

「初めまして。無事でよかった。酷くうなされていたと聞いていたから」

 

「あ、えと・・・」

 

「私はこの船の艦長のトム。こっちは本艦の医者のベルだ」

 

「よろしくねー」

 

「えと・・・あの・・・」

 

「ハルちゃんでしょ?勝手に身分証見ちゃったからね」

 

「あ、うん・・・えと、それよりも船・・・なの・・・?」

 

「あぁ。駆逐艦ハルゼーへようこそ」

 

「ハルゼー・・・?」

 

「ふふふー、びっくりすると思うけどね。この船なんと!世界に1隻しかないアーレイ・バーク級なのです!」

 

「アーレイ・バーク・・・」

 

その時昔の記憶がフラッシュバックする。

騎士団のP3Cを撃墜した海賊船を。

 

「!!」

 

無意識に私は後ずさる。

 

「わわ!?どうしたの?!」

 

「か、海賊・・・!」

 

「海賊・・・?あ、トムの見た目が?」

 

「誰がだ」

 

「ふざけないで!テキサスの近くでP3Cを落として私達まで攻撃しようとしてきた!」

 

「P3・・・あぁ・・・君はあの時の・・・」

 

「私は・・・お金なんて持ってない・・・」

 

差し出せる物なんて何も無い。

そうなると・・・。

 

「すまない、あれは仕方なかった。私達は・・・この世界の人間ではない。ベルはこの世界の人間だが」

 

「え?」

 

「私達はこことは違う世界から来た。私達はアメリカ海軍だ」

 

「え・・・?扉の向こうの・・・?」

 

「訓練中に突然の悪天候から落雷を受けて気づいたらここにいた。」

 

そして艦長は海賊となってしまった経緯を話してくれた。

まず、この世界の言語は英語に似ているようで違い、言葉の壁があった。

そしてこの船をいきなり攻撃してくる航空機や艦船があった。

そのため、どれが敵でどれが敵ではないのか分からなくなってしまった。

敵味方識別装置も反応がない。

そして知らず知らずのウチに冒険者や王国軍までも手にかけていた。

そしてこの世界に来て半年程たち、ある程度言語を取得できた時、補給拠点として停泊させてもらっていた港町にある噂が届いた。

・・・この船は海賊船だと。

しかし、港町の住人は暖かくこの船とクルーを受け入れてくれた。

この船が近くを通る海賊船や空賊を撃退していたからだ。

それにこの世界には扉の向こうに異世界があるということが分かっている。

そしてその異世界から来たという事もすぐに分かってくれたそうだ。

また、海賊となってしまった経緯には彼らの所属していた軍での交戦規定のせいでもあった。

異世界では火器管制レーダーを相手に照射する行為は戦争行為なのだが、この世界では火器管制レーダーは敵味方識別の一つとしても使われていた。

つまり火器管制レーダーを警告無しに照射して撃ってくれば敵、警告があれば味方という事だった。

冒険者も王国軍も明らかに敵という目標以外には火器管制レーダーを照射されてもまずは警告を行う。

そしてその警告は1度きりなのだが、これに応答しない、もしくは撃ってくる場合は敵と判断して攻撃という事だった。

だから彼らは突然のレーダー照射を受け元の世界での規定に従い、反撃をした迄だった。

それにこの世界で例え異世界から来た人間だろうが冒険者や王国軍などに手をかけた者は無条件でお尋ね者になってしまう。

そもそも異世界から人が来るという事を想定していなかったからだ。

だから、気付けば海賊扱いだった。

 

「そうだったんだ・・・」

 

「君は信じてくれるのか?」

 

「ここまで手当してくれて信じない方が酷いと思うけどな」

 

「まぁ、そうだな。君は1人か?」

 

「ううん。本当なら迎えのヘリが来るはずだったけど・・・」

 

「迎え?もしかして墜落地点に向かうUH-60か?」

 

「たぶんそれ」

 

「了解した、本艦に誘導して君を拾ってもらう」

 

「え、でも・・・」

 

艦長は足早に部屋を出た。

 

「良かったね、迎えが来てて」

 

「うん。治療してくれてありがと」

 

「いえいえ。私これでも回復魔法使えるからね!肩の傷口とあとお腹に残ってた傷も直しておいたよ。男の人にその傷見られたら大変だもんね」

 

「男の人って・・・」

 

「お、その反応はまだ彼氏とか出来たことないなー?」

 

「そんなの飛ぶのに必要ない」

 

「おー・・・こりゃまた・・・」

 

「なに?」

 

「べつにー?」

 

ベルは笑ってそう言った。

その時、艦長が入ってきた。

 

「はやっ!!10分も経ってないよ!?」

 

「連絡がついた。今こちらに向かっている」

 

「マヤがまさか信じるとは・・・」

 

「最初は大変だったがな。とにかく、ヘリ甲板に向かおう。もうあと10分もあれば到着する」

 

「だってさ、行こっか!短い間だったけどまた会おうね!」

 

「うん。本当にありがとう。トム艦長も・・・」

 

「久々に感謝される事が出来て良かった。ただ私達と関わったとことは言わない方がいいだろう」

 

「分かってる。でもこれであなた達が悪い人じゃないって分かった」

 

「それが分かってもらえただけでも満足だよ」

 

ヘリ甲板まで色々と話しながら歩いた。

その時に、さっきは何か悪い夢でも見たのかと聞かれた。

私は、特段隠す必要もないので夢の内容と自分に起きた事を話した。

 

「誤射で民間機の撃墜・・・か」

 

「しかもそれが自分の家の上に落ちてくるなんてね」

 

「もう、大丈夫なのか?」

 

「私がってこと?もう踏ん切りはついてる。でも、あの旅客機を落として逃げた奴だけは見つけたら私の手で撃墜してやる」

 

もうどこかで死んでいるかもしれないが、それならば死んだ場所か埋葬されている場所を見つけて空爆してやる。

何年経とうとその気持ちだけは変わらない。

・・・あの犯人だけは私の手で殺してやる。

例えベイルアウトしようと逃がすつもりは全くなかった。

 

「では、そいつを見つけたならばすぐにでも報告するよ」

 

「ありがとう。でも、先に落としたりしないでね」

 

「大丈夫だ。任せろ」

 

そうしてるうちに甲板へと到着した。

遠くからヘリの音が聞こえてくる。

 

「あれか?」

 

「んーと・・・」

 

青っぽいカラーに胴体見えるのは増槽のようだ。

間違いない、マヤのブラックホークだ。

 

「じゃあ、ありがとう艦長」

 

「あぁ、また何時か」

 

私は数分もしないうちに着陸したヘリに乗り込んだ。

乗り込んだ瞬間、トマホークとリリアに抱きつかれた。

 

「ハルぅぅぅ!!この大馬鹿野郎ー!!!」

 

「野郎じゃないよ」

 

「うるさいわよ!!毎度毎度無茶して!!もう・・・ほんとに会えないかと思ったのよ・・・」

 

「ごめん、もう無茶はしない」

 

「・・・それ何度目?」

 

そう言うマヤの声色は明らかに怒っているようだった。

 

「ねぇハル。下手したら死んでたんだよ」

 

「・・・分かってる」

 

「分かってない。分かってるなら金輪際こんな事しないで」

 

「・・・うん」

 

「はぁぁ・・・もうほんとにどんだけ心配したと思ってるんだよー!!今日の晩ご飯ハルのおごりだから!!高い物とか関係なしだからね!!」

 

「喜んで」

 

「この前見つけたお高い焼き肉屋行くから!!」

 

「もしかして異世界風の?」

 

「異世界風の!!あの高いヤツ!!」

 

その店は雰囲気から何から何まで全て異世界風だった。

前に行った居酒屋と同じで手軽に異世界を味わえる。

また焼き肉屋そのものはそこら辺で獣を狩って焼いて食べれば一緒という認識が強いため店数は少なかった。

そして目玉は扉の向こうから月に2匹程度送られてくる和牛というものが食べれる。

 

「分かった、そこでいい。和牛たくさん食べよ」

 

「よっしゃー!!さっさと帰るぞー!!」

 

「マヤが元気そうで良かった」

 

「今私のこの感じが無かったら出会って2秒でハルに右ストレートかましてたレベルだよ!というか!そのレベルで私は怒ってるんだからね!」

 

「ごめんって」

 

「心こもってない!!!」

 

結局、テキサスまでの帰り道ずっとマヤから説教をされながら帰った。

また落とされてしまったリリアのミグは私が弁償する事にした。

リリアはそんな事しなくていいと言ってくれたが、はいそうですか、なんて口が裂けても言えない。

何か仕事を帰って探そう。

そう思いながらマヤの説教を聞いていた。



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無法地帯

Escape from TarkovのRAIDっていうドラマの見てたら思いついた(


「トムキャットー!!!」

 

「ハ、ハルが見たことないくらい笑顔だ・・・」

 

「この可変翼とかもう可愛い!!好き!!」

 

「こんなテンションのハルは見たことない・・・」

 

空港の格納庫で私はテンションMAXになっていた。

それもそのはず、注文していたF-14B・・・実質F-14Dが組み上がったとの連絡があったからだ。

ガワの機体はF-14Bのものだが、中身はD型とほぼ同じになっている。

おかげで元値は250万ドルだった機体は1000万ドルまで跳ね上がっていた。

F-14シリーズの部品そのものが高価な事もありこのような値段になってしまった。

しかも聞くといつもお世話になってるドワーフのおじさんが勝手にサービスだと言って対潜水艦戦闘能力を付与していた。

前に要らないと言ったのだが・・・。

おまけにAIM-9Xの運用能力もいつの間にか搭載されていた。

だがこれはおじさんが勝手にやりたいからやったと言っていたので料金はいらないそうだ。

 

「ねぇマヤ!仕事いこ!」

 

「お、おう・・・あ、リリアにお金も返さないとね」

 

「それも込みで!」

 

私はきっと今までで1番笑顔だろう。

それくらい嬉しかった。

 

「まぁハルは嬉しそうだし・・・で、何行くの?」

 

「それは行ってみてから考える!」

 

「えぇ・・・ま、まぁいいか・・・」

 

「というわけでリリアもね!」

 

「わ、私もなのね・・・」

 

3人と1匹でギルドへ向かう。

その前にと私はおじさんの元に向かおうとした。

・・・それが間違ってた。

 

「・・・・・・・」

 

「ほら、お望みの仕事よ」

 

「・・・・・・・」

 

「ハルがフリーズしてる・・・」

 

そりゃフリーズもする。

機体を整備してくれてるおじさんは誰かを待ってる様子で手には何やら依頼書のような物を持っているではないか。

しかも冷静になって気づいたがトムキャットの真横には何故かマヤのUH-60が置いてある。

・・・嫌な予感しかしない。

しかもトムキャットはいいとしてUH-60の増槽は取り外されその下に何さら妙な筒のような装置も置いてある。

 

「・・・・・」

 

「行きなさいよ」

 

「・・・・うん」

 

観念しておじさんの元へ行く。

すると私を見つけたおじさんは笑顔で手を振った。

 

「まってたぞぃ!!」

 

「待ってないぞぃ」

 

そう言いながらおじさんのところへ行くと書類を渡された。

もちろんそれは依頼書で、内容はまさかの領主からの依頼だった。

もちろん報酬は高い。

しかし・・・内容がハードすぎる。

依頼はテキサスから東に300km程のところにある放棄された街、ブラボー03がある。

そこに冒険者でもある領主の娘が仲間と共に行き消息不明になったそうだ。

そしてすぐに救助に向かった別の冒険者グループからも連絡が途絶えたために私達に依頼が来た。

無駄にこの街で有名になってしまったからなのだろうが・・・。

そしてこれは騎士団との合同任務で私とマヤはヘリで騎士団と共に街に行き、リリアはガンポッドを満載したフランカーで航空支援の待機だそうだ。

領主が上空待機と近くで補給が可能なように空中給油機と放棄された飛行場に輸送機を飛ばし武装を再装填できるように手配してるそうだ。

・・・そこまでするなら国でやってくれ・・・。

と思ったが、国防軍にそんなひとつの街の問題を解決するような余裕もなく、騎士団だけでは勢力が足りない。

一応、騎士団は異世界でいうところの特殊部隊なのだが・・・。

 

「まぁ・・・やるしかないよね・・・」

 

観念したようにマヤが言う。

しかも今回の依頼には犬の鼻が必要だということでトマホークも連れていくことになった。

 

「トマホーク・・・大丈夫?」

 

「わん!」

 

トマホークは任せろと言わんばかりの返事をする。

 

「今回の依頼で使った弾薬と燃料は全部領主持ちじゃ!」

 

「太っ腹・・・なのかな・・・?」

 

「それとじゃな!ブラックホークにガンポッドも搭載するぞぃ!」

 

「もしかしてそれ?」

 

私はブラックホークの下にある筒を指さした。

 

「そうじゃ!M134を組み込んだポッドじゃよ。あとドアにもこいつじゃ!」

 

「・・・なんで」

 

「MG42!どうじゃ!」

 

「どうじゃって言われても・・・」

 

なんであえて古い機関銃を・・・確かにこの機関銃は連射速度も早く制圧力は高いが・・・。

なんてしてる間に騎士団の人達が集まり始めてしまった。

これ私が拒否したらどうなるんだろ・・・。

 

「どうも、初めまして。ファルコンチームだ」

 

「あ・・・どうも」

 

「準備はいいか?」

 

「もうちょいじゃよ。フランカーにガンポッド積まないとな!あ、そうじゃ!フランカーのガンポッドは25mm機関砲と40mm機関砲ポッドを二門ずつ混載してるから使い分けるんじゃぞ!」

 

「わ、私対地攻撃苦手なんだけど・・・」

 

「苦手なだけで出来ないわけじゃないでしょ。リリアは出来る子だから大丈夫」

 

「うぅ〜・・・」

 

嘆いてはいるがもうどうしようもない。

私も準備をしてヘリに乗り込む。

その間にガンポッドは搭載してくれていた。

 

「ガンポッドは下に40°左右に20°までしか動かんからな。注意してくれ。あと・・・こいつも持ってくんじゃ!」

 

「・・・なんで」

 

「なんでって、騎士団に着いて行動するんじゃよ」

 

「そんな話聞いてない!」

 

「言ってなかったかいの?」

 

「聞いてないよ!!」

 

おじさんは私達に騎士団と同じ銃、M4A1を渡してきた。

照準器はブースター付きのXPS-3ホロサイトだ。

タンゴダウン型のショートタイプのバーティカルグリップ、AN/PEQ-15というレーザーサイトとフラッシュライトが混載された装置が乗ったカスタマイズが施してあった。

ハンドガードはフリーフロートタイプではない普通のKACタイプのレールハンドガードが装着されてあった。

フロントサイトは邪魔にならないようにレール付きのガスブロックに交換されていた。

弾倉は30発入りの窓付きP-MAGだった。

 

「・・・マヤ、覚悟決めとこう」

 

「なんの!?」

 

「神のところにいくか行かないか」

 

「そんな覚悟決めたくないよ!」

 

「でももう行くしかないから・・・」

 

「・・・だよねぇ・・・」

 

今から行くブラボー03は一攫千金を狙う冒険者や山賊で溢れている上にアンデット系モンスターの巣窟だ。

しかも放棄された街あるあるなのか冒険者同士の争いだってある。

 

「大丈夫だ、俺達がついてる」

 

「大事なヘリも俺達が見ててやるよ」

 

「・・・むしろその仕事を私達にさせてください・・・」

 

そんなこんなしてるうちに出発となった。

今回は騎士団も乗っているということもあり、リリアのフランカーと私達のヘリは最優先で離陸となった。

 

「リリア、援護よろしくね」

 

《了解。危なくなったら言ってね》

 

「頼りにしてる」

 

《ふふっ、任せて!》

 

私達は順調にブラボー03へと向かう。

トマホークは大人しくキャビンで伏せをしていた。

騎士団の人達に撫で回されていたが。

 

「ねぇハル。ブラボー03ってどんな街だったの?」

 

「えーっと・・・昔聞いた話だと魔法関係で有名な街だったみたい。魔法学校もあったとか。で、街の中にある教会に異世界からの扉が開いちゃってそこから異世界の物が色々と送られてきて・・・それを聞きつけた山賊とかに襲われて街はめちゃくちゃになったみたい。しかも街の領主は魔法使いで山賊に殺される寸前にこの街にアンデットモンスターが沸くような魔法というか呪いみたいなのをかけて死んじゃったらしいよ。それの効果があと何年続くのか分からないけどそこで死んだ人はアンデットとしてもう一度殺されるまでさ迷い続けるとか」

 

「こわっ!!」

 

「この街も怖いところだよ・・・」

 

なんて話しているうちに街は近づいてくる。

街の真ん中には2500m程の滑走路があり飛行場もあるが、もう廃墟となっていた。

そして街全体がなんだか暗い感じになっている。

表現的には街の真上に暗い雲が広がっていて雨は降っていないがとにかく不気味な雰囲気を出していた。

そしてその街の空港のエプロンにはまだ燃えているUH-1があった。

領主の娘のだろうか・・・破壊されたようだ。

 

「・・・マヤ、戦闘用意」

 

「了解・・・。リリア、よろしく」

 

《了解。でもかなり降りないと・・・厳しいわね》

 

「だね。地上には気をつけて」

 

《了解》

 

そんな話をしている時だった。

コックピットに警報が鳴る。

・・・ミサイル警報だ。

 

「ミサイル!?」

 

「見えた!2時方向!下から!!」

 

「確認!フレア!!」

 

急旋回と同時にフレアを散布、急降下する。

 

「どこからか分かる?!」

 

「発射炎は・・・あそこ!」

 

煙を追って発射地点を確認した。

 

「ハル!機銃をお願い!高速でパスするから!」

 

「了解!」

 

ミニガンを起動して攻撃準備に入った。

ヘリは高速で目標に近づく。

その時再びミサイル警報が鳴った。

だが近すぎたのかミサイルはヘリの真下を通り抜ける。

 

「発射!!」

 

獣のような咆哮をあげて銃弾が発射地点に降り注いだ。

そして2秒としないうちに上空を通過した。

そこからはミサイル警報ない。

弾が無くなったか・・・死んだか。

発射地点は空港のターミナル近くからだった。

ということはすでに空港のターミナルには『お友達』が居るということだろう。

 

「マヤ、着陸しよう」

 

「はいよ。でも、こんなところにヘリを起きたくないね・・・」

 

「・・・仕方ないよ」

 

「・・・まぁね・・・」

 

燃えているヘリより少し離れた場所に着陸し騎士団はすぐにヘリを降りて警戒に入った。

燃えているUH-1は燃料タンク付近に破口があり、着陸後にロケット弾を食らったようだ。

運がいいのか悪いのかヘリから全員が降りた後のようだった。

そして・・・ターミナル近くには空のRPG7を持った冒険者が倒れていた。

 

「ほんとに冒険者が・・・」

 

「このヘリは山賊のかもしれないよ」

 

「だけど・・・」

 

「いいから行こう。こんな所2人で居たくないよ」

 

「そ、そうだね」

 

私達は騎士団に着いてターミナルに侵入する。

中にはまだ新しい死体が何体かあった。

冒険者のもの、山賊のもの・・・アンデッドのもの・・・。

酷い有様だ。

 

「本当に殺しあってるのか・・・」

 

「その真実も確かめに来たんだろ俺たちは」

 

「・・・そうだな。ファルコンよりフォートレス。応答せよ」

 

「・・・クソみたいな街だ」

 

「フォートレス、ファルコン。応答せよ。・・・・ちくしょう、電波が悪い」

 

「悪いどころじゃないぜ」

 

騎士団は司令部に連絡を取ろうとしているようだが通じていない。

それは私達も一緒でこの街に入る寸前から無線が通じなくなった。

呪いなのかただの電波障害なのか・・・。

とにかく不気味だ。

しかし先に進むしかない。

私達はさっきの発射炎が見えたところに近づいた。

鼻をつくような臭いがする。

 

「・・・この近くだ」

 

「俺達を撃ってきたのが冒険者じゃない事を祈るよ・・・考え方を改めないといけなくなる」

 

「それは私達も・・・誰が味方か分からなくなるよ」

 

だが・・・その思いは無情にも届かなかった。

倒れていたのはスティンガーを持った冒険者だった。

身分証が近くにあった。

これが山賊ならいきなり撃ってきたことも納得が行く。

だが冒険者は?

そもそもヘリを見たからといきなり撃ってる人なんて居ない。

特にそれが乱戦でも起きてない今などだ。

そして・・・この冒険者の近くに落ちていたリュックサックには仲間か他の冒険者か・・・身分証が10枚ほど入っていた。

この身分証、持って帰ってギルドに届けると報奨金が貰える。

遺体は回収出来なかったが、貴方の家族のせめてもの形見です。

そういった意味で回収後、家族に届けられる。

しかし、仲間の身分証の場合は報奨金はない。

仲間が持って帰るのが当たり前というルールだからだ。

だがほかの冒険者の場合だと報奨金が出る。

・・・つまりは殺してもバレなければいかにも善行を働いたかのように振る舞い金を得られるということだった。

 

「・・・コイツは・・・早いところ娘を探そう」

 

「トマホーク、匂いは覚えてるよね」

 

「わん!」

 

トマホークはあたりの匂いを嗅いでいた。

 

「ねぇ・・・どうする?」

 

マヤは私達を撃ってきた死体を指さした。

 

「どうするって?」

 

「・・・身分証回収して持って帰るか見なかったことにするか」

 

「・・・見なかったことにしよ。私達まで同じになる必要ないよ」

 

「そうだね・・・」

 

撃ってきた死体を前にそんな話をしているとトマホークは少し先にある三階建ての建物をじっと見ていた。

 

「なにかあそこにあるの?」

 

「わふ・・・」

 

匂いを嗅いでその方向を見ていた。

この方向に歩いていったようだ。

 

「あっちみたいだよ」

 

「お宅らのワンコはいい鼻してるな」

 

「自慢のワンコですから!」

 

「わん!」

 

トマホークも得意げな顔をした。

 

「マヤ、一応銃の・・・なにあれ」

 

「え?」

 

「あそこ・・・」

 

私が見た先にはフラフラと動く人のようなものが。

手には銃のような物を持っている。

 

「リック、そいつで確認しろ」

 

「了解」

 

騎士団の1人が前に出て銃を構える。

持っているのはMk.12。

AR-15系のマークスマンライフルだ。

 

「・・・確認、アンデッド」

 

「撃てるか」

 

「ここでタイムカードを押してもいいのなら。撃ったら沸いてきますよ」

 

「・・・了解、気づかれたら撃て」

 

「了解」

 

銃を構えたままそう答えた。

私達はなるべく気づかれないように建物へと近づく。

 

「リック、マウスはあの建物に登って俺達を援護しろ。コールサインは1-2」

 

「了解」

 

目標の建物の反対側に二階建てのマンションのようなものがある。

そこの屋上で待機しろと命令を出していた。

 

「なーんか・・・やな雰囲気」

 

「私も思う」

 

「でも・・・トマホーク、ここなんだよね?」

 

「わふ」

 

「・・・行くしかないのかぁ・・・」

 

覚悟を決めて騎士団と一緒に建物に入った。

入るといきなり数人の死体があった。

見た感じ、山賊と冒険者で相打ちになったようだ。

 

「お友達が居ないといいが」

 

「友好的なお友達ならいて欲しいけど」

 

「同感だ」

 

騎士団はさすが訓練を受けているだけあり、クリアリングをスムーズに行っていた。

私達はその後ろを警戒して続く。

すると階段を登り始めたところで1人が拳を上に上げた。

 

「・・・足音、2人」

 

「敵か?」

 

「不明、近づいてくる」

 

「了解」

 

ヘッドセット越しに足音が聞こえてきた。

全員銃を構えてじっと待つ。

すると足音は階段を降り始めた。

 

「・・・」

 

緊張する。

敵だったらどうしよう。

撃てるか・・・。

そういった考えが頭に浮かぶ。

すると・・・

 

「・・・冒険者・・・?」

 

降りてきたのは山賊の少し汚らしい格好ではなく、しっかりと整った装備をした2人。

若い男が2人降りてきた。

だが2人は驚いた顔をしたあといきなり銃を向けてきた。

そして発砲までしてきた。

 

「敵だ!!」

 

こちらも応戦をする。

だが一番前にいた騎士団の1人に敵の弾が当たってしまった。

 

「ぐ、おぉぉぉ!!!」

 

「キースが撃たれた!!」

 

「私が引っ張る!!」

 

マヤは階段から転がってきた騎士団の1人を助けようと前に出た。

 

「危ないマヤ!!」

 

どこから湧いてきたのか敵は2人から4人になっていた。

弾丸が近くを掠める。

 

「同じ冒険者なのに・・・!!」

 

私はそう呟くか撃たないとこっちがやられる。

負けじと相手に銃を向けて引き金を引く。

 

「うぉぉぁぁぁ!!!」

 

「頑張って!!助かるから!!」

 

「やりやがったな畜生どもがぁぁ!!ぬぁぁぁ!!!」

 

「キースの容態はどうだ!!」

 

銃声と怒鳴り声、叫び声が建物にこだまする。

 

《1-1、こちら1-2状況おくれ》

 

「こちら1-1!屋内で交戦中だ!!畜生!!」

 

「キースの容態はどうだって聞いてんだ!!」

 

「ものすごい血が出てるよ!!それに銃声で何言ってるか聞こえない!!」

 

「マヤ下がって!!」

 

「下がれるならそうしてる!!」

 

めちゃくちゃだ。

そうとしか表現できない。

おまけに敵は1人も倒れていない。

 

「同じ冒険者でしょ!!なんで撃つんだよ!!」

 

マヤは撃ってくる相手に向かってそう叫ぶ。

だが当たり前のように返事はない。

 

「手榴弾!!」

 

「投擲!!」

 

階段の奥に向かって手榴弾が投げられた。

向こうからも手榴弾という叫び声が聞こえて爆発が起きた。

そして銃声が止む。

 

「終わった・・・?」

 

「キースは?」

 

撃たれた1人は途中から叫ばなくなった。

よく見ると背中が真っ赤に染まっていた。

跳弾が当たっていたようだった。

 

「ね、ねぇ・・・起きてよ・・・」

 

マヤは撃たれた1人を震えた声で揺さぶる。

騎士団の1人が首に手を当て脈を確認した。

・・・そして首を振る。

 

「・・・1-2こちら1-1」

 

《1-2》

 

「KIA、1名」

 

《・・・了解》

 

KIAとは戦死という意味だ。

・・・1人、死んでしまった。

トマホークは鼻を近づけて悲しそうな声を出す。

 

「・・・」

 

確認のため階段を登るとそこには4人倒れていた。

全員、近くの街のギルド所属の冒険者だった。

冒険者が騎士団や同じ冒険者を見間違える事なんてほとんどない。

持っている身分証には敵味方識別が可能なような魔法がかけてあるからだ。

視覚的にわかる訳では無いが、その人を見るとこの人は冒険者だと感覚で分かるようになっている。

仕組みはよく分からないが。

だから相手は分かった上でいきなり撃ってきたのだ。

 

「・・・無法地帯」

 

この街に最適な言葉だった。



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無法地帯 2

「ハル・・・腕、大丈夫・・・?」

 

「止血したし消毒もしたから大丈夫だよ」

 

あの冒険者との交戦の後、銃声を聞いて駆けつけてきた山賊とも交戦になった。

その時に弾丸が腕を掠めた。

すこし大きめの切り傷と言ったところだが・・・。

跡が残る傷だ。

今度、どっかに居るハルゼーまで飛んでベルに治してもらおうかな・・・。

 

「ゴミ漁りのヒトデナシめ・・・」

 

「・・・隊長、外から『お友達だったら嬉しいヒトデナシ』が来てますよ」

 

「敵か」

 

「この距離ではなんとも・・・ん、そういう事か」

 

「どういうこと?」

 

騎士団の1人が納得したように呟いた。

 

「全員疑心暗鬼なんだよ。なんで気づかなかった」

 

「え?」

 

「もし、仲間である俺がいきなりお前らに銃を向けてきたらどうする?」

 

「それは・・・反撃を・・・」

 

「つまりはそういう事だよ。仲間だと思ったらいきなり撃たれた。それが何回か繰り返す。するとどうだ?」

 

「冒険者を見ても信じれない・・・」

 

「そういう事。仲間なのか仲間じゃないのか分からない。俺は味方だと叫びたいかも知れないが叫ぶとどこから撃たれるか分からない。じゃあ身を守るためには見つけたら撃つしかない・・・そういう事だよ」

 

「・・・・」

 

「クソッタレなところだぜ・・・」

 

言われてみればそうだ。

今の私達はまだ騎士団の人達が着いているから誰が味方で敵かなんて疑心暗鬼にまでは陥らない。

だが周りはどうだろうか。

冒険者カードの効力で敵味方識別は出来るだろう。

だがそれまでに何度も味方だと認識した相手に銃を向けられて撃たれる。

それを繰り返せば誰が敵か味方かなんて分からなくなる。

そして自分を守るために味方であるはずの同じ冒険者にまで銃を向ける。

そういった悪循環がこの街で起きていた。

 

「早く帰りたい・・・」

 

こんな街、1秒でも長く居たくない。

私はそうボヤいた。

 

「この建物さっさと探して帰ろう。もう嫌だよこんな所」

 

「私も・・・リリアは良いよね、空の上で」

 

《・・・そう思うでしょ。こっちはこっちでヤバいわよ》

 

「どうしたの?」

 

《どうも下に対空陣地があるっぽくてね・・・ずーっとレーダー照射を受けてるわ》

 

「対空陣地・・・」

 

《ミサイルが飛んでこないからハッタリかも知れないし、照射してるのが対空砲のレーダーで射程外なだけかも知れないし・・・どちらにせよ、街に近づけないわ》

 

「・・・リリア、街に帰るまで何分?」

 

《20分ってところ》

 

「分かった、今からテキサスに戻って対レーダーミサイルを装備、SEEDをお願い」

 

《了解、でも換装に20分、帰ってくるのに20分で1時間はかかるわよ》

 

「大丈夫、何とかする」

 

《分かった、全力で帰ってくるから》

 

そう言って通信を切った。

SEEDとは簡単に言うと対空砲や対空ミサイルが置いてある陣地を破壊して脅威を無くす事だ。

そしてリリアが積んでくるのは対レーダーミサイル。

敵のレーダーを逆探知してそのレーダーに向かって飛んでいくミサイルだ。

威力そのものは大したことないが、敵が対空ミサイルを配備していた場合、レーダーが破壊されるともうミサイルは使い物にならなくなる。

対空砲であっても目視で射撃されることはあるだろうがレーダーを使用した射撃に比べたら屁でもない。

それに対空砲であれば対空砲そのものにレーダーが搭載されているので運が良ければ砲そのものも破壊してくれる。

 

「リリアが帰ってくるまでに1時間、それまでに娘さんを探そう」

 

「そうだな。どうせ敵が対空装備を持ってるならヘリでも危ない。街に降りれたのは本当に運が良かったよ」

 

「全くだよ・・・」

 

私達を確認してからレーダーに火を入れた可能性もあるが・・・。

そんな事今は考えてる場合ではない。

私達は薄暗い建物の中を進む。

すると上の階から物音が聞こえてきた。

ドアを蹴る音だ。

 

「お嬢ちゃーん、ここ開けてくれよ」

 

「殺しはしないからいい事しようぜ」

 

山賊かそれとも外道冒険者か・・・。

しかしお嬢ちゃんと呼んでいた。

中に居るのは女性だ。

領主の娘の可能性もある。

 

「上の階だな・・・」

 

「どうする?」

 

「とにかく行くしかない。フラッシュバンはあるか?」

 

「2発、フラグもあるぞ」

 

「完璧だ。何人いるか分からんがこの際何振り構ってられん。銃を向けてきたら撃て」

 

「・・・了解」

 

私は本来であれば仲間のはずの冒険者を撃つことも覚悟した。

 

「トマホーク、絶対に撃ち合いが始まったら顔だしたらダメだよ」

 

「わふ・・・」

 

「いい子だね」

 

マヤも真剣な顔でトマホークにそう言った。

私達はゆっくりと階段を上る。

先に上った騎士団の1人が親指を立てた。

 

「行こう」

 

上った先の廊下からはまだドアを叩く音がする。

 

「もういい加減爆薬でドア吹っ飛ばしちまうか?」

 

「んな事行ったって手榴弾しかねぇ」

 

「それで開けりゃいいだろ」

 

「中まで吹っ飛んだらどうすんだよ」

 

「どうせ生きてようと生きていまいとやる事変わんねーよ。深手負ってたし」

 

「・・・だな」

 

上の連中はドアを吹き飛ばす気だ。

そんな事させる訳にはいかない。

中の人も負傷しているようだ。

 

「よしみんな・・・3.2.1でいくぞ」

 

私達は頷く。

 

「3・・・2・・・」

 

私は銃を握り直す。

 

「1、行け!!」

 

廊下に飛び出す。

居たのは2人の山賊。

冒険者でなくて良かったと少し安堵した。

だがその安堵故か簡単に引き金を引いていた。

・・・私は相手が冒険者ではないからと簡単に殺せる人間だったか・・・。

そう思ってしまった。

その時だった。

 

「手榴弾!!」

 

撃たれた1人の手から手榴弾がこぼれ落ちる。

私達から手榴弾までの距離は約3m。

加害範囲内だ。

 

「あ・・・」

 

安全ピンは抜け、レバーも外れていた。

私は変な考え事をしたせいで反応が遅れた。

だが防弾チョッキの取っ手部分を思いっきり引かれて後ろに転ぶ。

直後に爆発が起きた。

 

「はぁっはぁっはぁっ・・・」

 

私が見上げた先に息を切らしたマヤが居た。

 

「あ、危なかった・・・」

 

「あ・・・あり、がと・・・」

 

「当然でしょ、相棒なんだから」

 

ニコッと笑うマヤ。

一瞬私はドキッとした。

なんか変な趣味に目覚めるかと思った・・・。

 

「廊下クリア」

 

「ドア・・・破損してる。中に入れるぞ」

 

私達はゆっくりとドアに近づき中に入ろうとした時だった。

銃声が1発聞こえて騎士団のひとりが崩れ落ちる。

 

「ぐぉっ!!」

 

急いでストラップを握って引っ張る。

 

「はァッはァッはァッ・・・!!」

 

苦しそうに息をしている。

弾が当たったのは胸の防弾プレート。

貫通はしていないから命に別状はなさそうだが被弾した時に息がしずらくなったのだろう。

 

「げほっ!うぇ・・・あぁ畜生・・・!」

 

「王国騎士団だ!武器を捨てろ!」

 

中に向かって1人がそう叫ぶ。

 

「嘘言わないで!!騎士団がこんな所に来るわけない!!」

 

中からは女の子の声がした。

 

「本当だ!俺たちは味方だ!いいか!俺は銃を置いて入る!信じれないならそこで撃て!」

 

「ちょ、ちょっと危ないよ!!」

 

「大丈夫だ、人間頭撃たれなきゃ死にはしない」

 

「そういう問題じゃなくて・・・!」

 

だが騎士団の1人は銃を置いてゆっくりと入る。

 

「いいか、銃は置いた。入るぞ」

 

私達は銃を構えたまま待つ。

銃声が響けば突入しなくてはならないからだ。

 

「・・・・」

 

ほんの数十秒だったが何分にも感じた。

だが中からは銃声は響かなかった。

そして笑顔でこちらに手を振る。

 

「入っていいそうだ」

 

「良かった・・・」

 

私達は中に入る。

すると中には女性4人が居た。

1人は重傷を負っているようだ。

 

「ごめんなさい・・・撃ってしまって・・・」

 

「いや、大丈夫だ。死ぬこと以外はかすり傷ってのが俺の中の座右の銘でな」

 

「ところでテキサス領主の娘さんってのは君たちの中にいるか?」

 

「あ、え、えっと私・・・」

 

重傷者を介護していた1人が手を挙げた。

銀髪のツインテールでコンバットシャツと防弾リグを装備していたが銃ではなく大きな杖を持っていた。

そういえば娘さんは魔法使いだった。

名前はたしかミーリだった。

 

「その人の容態は?」

 

「胸を撃たれて・・・治癒魔法で何とか命を繋いでるけど早く病院に連れていかないと・・・」

 

「了解、一刻も早く運びだそう。ところで全員パーティか?」

 

「ううん、この人は別・・・」

 

聞くとミーリが介抱しているこの女性はたまたま見つけた負傷者だったらしい。

山賊に襲われて負傷していた所を助けたということだった。

 

「分かった。だが航空支援の戦闘機が着くまでここで待機だ」

 

「・・・分かった。もうちょっとで病院に連れていくから」

 

女性は力なく頷く。

 

「君の弾薬はどれくらいある」

 

発砲してきた女性にそう問いかけた。

 

「マガジン2に手榴弾1・・・拳銃は銃に刺さってるのだけ」

 

「AK・・・それは7.62か?」

 

「ううん、5.45」

 

「それなら外でミンチになってるヒトデナシが持ってるぞ」

 

「・・・ミンチを漁れっていうの?」

 

「ふっ、冗談だよ。取ってくる。待っててくれ」

 

「今でたら危ないよ!」

 

「大丈夫だ」

 

「それ死亡フラグだから!」

 

マヤは必死に止めるが廊下に出てしまった。

そしてこちらに向かって弾倉を2つほど投げた時だった。

 

「!!コンタクト!!」

 

銃を廊下の奥に向けて発砲した。

そして中に飛び込んでくると同時に多量の弾丸がドアの前に飛び抜ける。

部屋の中にも何発か入ってくる。

 

「あっぶね!!」

 

「だから言ったでしょ!!」

 

「あぁ、しっかり聞いとくべきだったよ!」

 

そう言いながら今度は手榴弾を持ってドアに近づく。

 

「危ないってば!!」

 

「アイツらの位置はさっき見えた、とりあえずこれをお届けしてくるよ!」

 

銃声が鳴り止む瞬間に手榴弾を投擲した。

廊下の奥から手榴弾という叫び声も聞こえた。

 

「ミーリ、ここにいて」

 

「わ、私も・・・」

 

「大丈夫」

 

私はミーリに怪我人の介抱をお願いして廊下の制圧に向かう。

 

《1-1、こちら1-2。これより建物に侵入する。撃たないでくれ》

 

「狙撃はどうした!」

 

《そちらを挟む形でお友達が進入した。裏とって援護する》

 

「了解!」

 

手榴弾の爆発後、銃声は再びひびき出した。

 

「畜生!見た目冒険者だったぞ!!」

 

「冒険者だと思うよ!そんな感じするから!」

 

「ド畜生が!!」

 

狭い建物内で銃撃戦となる。

 

「ミーリ!攻撃魔法とかないの!?」

 

「あ、あるにはあるけど・・・」

 

「じゃあそれ使ってよ!」

 

マヤは撃ちながらそう叫ぶ。

だがミーリから言われた一言は想像していた攻撃魔法とは違っていた。

 

「わ、私の空間制圧魔法なの・・た、対空用の・・・」

 

「はぁ!?」

 

空間制圧魔法とは文字通り一定の空間を制圧する魔法だ。

原理は使用者が示した場所に大爆発を発生させ周りにあるものを全て吹き飛ばす。

戦闘機くらい木の葉のように吹き飛んでしまう威力なので戦闘機乗りからは恐れられていた。

そしてこの魔法の欠点は威力が大きすぎて狭い室内で使うと建物事吹き飛んでしまう可能性があった。

レベルが上がれば威力を調整し手榴弾よりちょっと強いくらいの威力で限定的な範囲を吹き飛ばしたりも出来るが、レベルが低いと威力と範囲の制御が上手くいかず、狙った場所を攻撃出来るがその威力は大きなもので小さな街1つが無くなるほどだ。

 

「ち、ちなみに制御できるほどレベルも高くないの・・・」

 

「・・・ぼ、防御魔法とかは・・・」

 

「治癒と攻撃にステータス全振りしちゃって・・・」

 

なんでこの子は自信なさげなお淑やかな女の子なのに中身は脳筋なのだろうか。

しかも戦闘機乗りの天敵みたいな魔法を使うし・・・。

 

「おい!喋ってないで手伝ってくれ!!」

 

「ご、ごめん!今行く!」

 

マヤが援護に行こうとしたその時だった。

 

「RPG!!」

 

「伏せろー!!!」

 

一瞬ロケット弾が見えた。

そのロケットは壁にあたり爆発する。

爆風と破片が室内に吹き込んで私は後ろに吹き飛んだ。

爆発の近くにマヤと騎士団の1人が居た。

 

「げほっ!げほっ!!」

 

ホコリを吸い込み咳が出る。

 

「マヤ・・・?」

 

室内は爆発の煙で視界が悪い。

私は相棒の元に駆け寄る。

 

「マヤ!!」

 

「うぅ・・・」

 

マヤは力なく呻く。

お腹にはロケットの破片が突き刺さっていた。

隣にいた騎士団の1人は首に破片が突き刺さり死んでいた。

 

「だ、大丈夫!?」

 

「見たら分かるでしょ・・・」

 

口から血を流してそう言った。

 

「ミーリ!!」

 

「う、うん!!」

 

駆け寄ってマヤの容態を見る。

 

「大丈夫、これなら治せる・・・けど、病院に連れてかないと・・・」

 

「マヤをお願い」

 

「ま、任せて!」

 

私は相棒を負傷させられた怒りが込み上げてきた。

 

「ふざけないで・・・絶対に許さない・・・!!」

 

私が撃たれた時もマヤはきっとこんな気持ちだったかも知れない。

私は足音が近づいてくるのを確認して銃を構えた。

 

「・・・・・」

 

セレクターはフルオートにセットした。

この部屋の入口は1箇所。

そこを掃射してやる。

そして少し待つと足音は部屋の前に来た。

そして・・・2人が入ってこようとした瞬間に引き金を引く。

弾倉内の弾薬が無くなるまで私は引き金を引いた。

部屋の前で崩れ落ちる敵。

相手は見た瞬間分かっていた。

・・・冒険者だった。

そして相手を撃ち殺したというのに私は何も感じなかった。

これが怒りでなのか・・・慣れたからか。

・・・いや、きっとここが無法地帯だから。私は正当防衛だ。と心が自己防衛してるだけなのだろう。

そう思いながら銃をリロードした。



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無法地帯 3

「マヤ、気分は・・・?」

 

「痛みは無くなったけど・・・気持ち悪い・・・」

 

「治癒魔法で痛みは感じない様にしてあるんだけど・・・内臓まで治療できなくて・・・」

 

「・・・マヤは大丈夫なの?」

 

「定期的に治癒魔法をかければ2日は確実に・・・でも、この人も・・・」

 

ミーリは今、2人の負傷者を看護している。

マヤは腹部にロケットの断片が突き刺さり内臓を損傷する重傷。

もう1人は胸に貫通銃創があり肺を損傷している可能性があった。

今は治癒魔法で何とか命を繋いでる状態だが、ミーリの魔力もいつまで持つか分からない。

応急的に魔力を回復する薬剤も持ってきてはいるが量もそんなにない。

もって半日あればいい方だそうだ。

本人の疲労度も大きい。

 

「リリアが帰ってくるまであと30分・・・移動できるかな・・・」

 

すでに騎士団は戦死者が2人も出てしまった。

 

「ハル・・・これ」

 

「え?」

 

「弾薬・・・使ったでしょ?」

 

「で、でも・・・」

 

マヤは私に弾薬を渡してきた。

 

「どうせライフルは持てないもん。使って」

 

「・・・うん。ありがと」

 

「私なら大丈夫だよ。ちゃーんと家に帰るから」

 

「・・・そう言われてもね・・・ううん、そうだよね」

 

お腹から尖った破片が突き出している状態では大丈夫なんて言葉は信じれないが・・・。

 

「とにかくヘリの近くに行こう」

 

「だがどこから敵が来るか分からないぞ。せめて戦闘機を・・・」

 

「でもこれ以上2人をこのままに出来ない」

 

「・・・それもそうだな・・・」

 

その時だった。

下の階から銃声と悲鳴が響いてきた。

私達は急いで銃を持つ。

 

「1-2、下はどうなってる」

 

《こちら1-2。友好的じゃないお友達を片付けた。現在2階クリア》

 

「了解、こちらは3階だ。下に降りても大丈夫か?」

 

《しっかり確保してる。行ける》

 

「了解した。負傷者を連れていく」

 

私はマヤのお腹に気をつけて肩を貸す。

ミーリの仲間2人がもう1人の負傷者を担架で運び出した。

 

「・・・あとで迎えに来る」

 

横たわる戦死した騎士団員にそう言って部屋を出た。

 

「ねぇミーリ。空間制圧魔法ってどこまでなら届くの?」

 

「え、えっと・・・この街全体なら・・・でも威力はこの街の半分は吹き飛んじゃうので・・・」

 

「じゃあダメか・・・」

 

「どうしたの・・・?」

 

「その魔法で対空陣地を吹き飛ばそうかなって」

 

「ハル名案・・・」

 

「マヤ、無理して喋らないで」

 

「けほっ・・・喋らせてよ」

 

「くぅん・・・」

 

「ごめんね・・・すぐ元気になるから・・・」

 

トマホークは心配してるのかマヤをずっと見上げている。

 

「1-2」

 

「どうも。お友達はこれで全部です」

 

「・・・了解」

 

スナイパーチームの足元に2人の冒険者が転がっていた。

 

「とりあえず1階に降りよう。そこで立てこもって航空支援を待つ」

 

「そうだね。マヤ、まだ耐えれる?」

 

「正直言うとキツいよ・・・けほっ・・・」

 

「絶対に連れて帰るから」

 

「うん・・・分かってる」

 

時計を見るとリリアが帰ってくるまであと10分。

無線を入れてみる。

 

「リリア」

 

《ハル?もうちょいよ!》

 

「分かった。でもマヤが負傷した。急いで」

 

《マヤが!?何があったの!?》

 

「ロケットの断片がお腹に刺さってる。治癒魔法で何とか持ってるけど急がないと」

 

《分かった、燃料は近くの飛行場で給油できるのよね》

 

「うん。準備してある」

 

《分かったわ。あと5分待ってて。そうしたらミサイルの射程に入るから》

 

「了解。頼りにしてるから」

 

航空支援はあと5分。

リリアの事だ。もっと急いでくるから3分くらいだろう。

 

「もうすぐ来るよ」

 

「了解。頼もしいね」

 

「自慢の仲間だから」

 

私達は1階に降りて負傷者を遮蔽物に隠す。

そして外の様子を見ようと騎士団の1人が出た時だった。

 

「コンタクト!!」

 

真正面の建物から銃撃を受ける。

こちらも応戦に入る。

 

「ミーリは隠れて2人の治療を!トマホークも隠れてて!!」

 

銃を撃ちながら叫ぶ。

 

「ちくしょう!!アイツいつの間に!!」

 

「俺らが騎士団って分かってやってんですかね!!」

 

「じゃあ俺たち騎士団ですって旗振ってみるか?!俺は絶対にやんないがな!!」

 

「口なんかより指動かせ!!」

 

見た感じ建物には30人近くいる。

冒険者という感じはしないから山賊連中だろう。

そして運が悪い事に音に釣られたアンデッドまで寄ってきた。

 

「おいおい!!ここにきてフルコースか!?」

 

「冒険者まで寄ってきたらフルコースっすね!!」

 

「ゾンビは後回しにしろ!アイツらの流れ弾に当たらなかった奴だけ殺せ!!」

 

激しい銃撃戦。

その最中に遠くからジェットエンジンの音が響いてきた。

 

《ハル!!射程に捉えた!!やるわ!!》

 

「分かった!!やっちゃって!!」

 

《了解!ターゲット・・・ロック!!マグナム!!》

 

数秒で真上をミサイルが通り過ぎる。

そして遠くから爆発音。

 

《レーダー・・・消失!おっけー、次は助けに行くわよ!!》

 

「了解!!銃撃戦が起きてる建物は見えてる?!」

 

《えぇ!分かるけど・・・でもどっちがどっちか分かんないわよ!》

 

「いっぱい撃ってきてるほう!」

 

《どっちもいっぱい撃ってるわよ!!》

 

上空からは見分けがつかないようだ。

どうすれば・・・

 

「RPG!!」

 

「っ!!」

 

とっさに伏せる。

幸いにもロケット弾は不発で壁に突き刺さって止まった。

よく見たら弾頭の安全ピンが抜けていなかった。

 

「下手くそめ、ばーか!」

 

聞こえてるか分からないが私はそう罵倒してみた。

 

「誰かスモーク持ってない?!」

 

「スモーク?!それなら1つあるぞ!」

 

「ちょうだい!」

 

「ほらよ!」

 

「なにするの!?」

 

「今撃ってきてる奴らの所マークする!」

 

私は敵の位置をスモークグレネードでマークしてリリアに攻撃してもらう作戦を思いついた。

それを騎士団とミーリの仲間にも伝える。

 

「よーし了解!アイツらをひき肉にしてやるぞ!!」

 

私は頷き、入口近くの太めの柱に取り付いた。

銃弾が柱を削る。

 

「やれ!」

 

私はこんな時に限って焦って投げてしまう。

ピンが半抜けの状態で。

誰かに渡せば良かった。

だがもうグレネードは宙を舞っていた。

 

「しまっ・・・!!」

 

着地の衝撃で外れる事を祈ったが祈りは虚しく正確に敵のいる建物の真下に落ちたはいいが煙が出ない。

スモークグレネードはあの1つだけしかない。

 

「どうした!!」

 

「焦ってピンが半抜けで投げちゃった!!投げ直しに行く!!」

 

「1人だけじゃ無理だぞ!!」

 

「え、援護して!!」

 

私は仲間に援護射撃をお願いして、グレネードを取りに行くことにした。

マヤが見ていたら往復ビンタを食らってるところだろう。

・・・いや今も見てはいるだろうが。

 

「よし皆!3つ数えたら一斉に援護射撃するぞ!!いいか!」

 

「了解!!」

 

「1・・・2・・・」

 

私はいつでも飛び出せる準備をする。

心臓の鼓動が早くなる。

 

「3!!行け!!」

 

1階にいる全員が同時に引き金を引き弾丸を敵がいるであろう場所に浴びせる。

走り出した私のすぐ真横を弾丸が何発も掠める。

不思議と当たらないが。

敵の弾丸なんて当たらない時は当たりたくても当たらないし当たる時はどんなに祈っても隠れても当たる。

その言葉を思い出した。

今は当たりたくて当たらない。

その時だろう。

 

「はァッはァッはァッ!!!」

 

建物に取り付きグレネードを探している時目の前に山賊が1人現れた。

私はすぐに照準し射撃する。

 

「ぐぅっ!!」

 

胸を撃たれて崩れ落ちた。

それを見て再度グレネードを探す。

するとすぐ足もとにあった。

 

「よし・・・!」

 

ピンをもう一度しっかりと抜きレバーを外す。

 

「吹っ飛んでしまえ・・・!」

 

足元にスモークグレネードを落として仲間の元に走る。

再度弾丸が何発も近くを掠めた。

 

「リリア!!やって!!!」

 

《了解!目標位置確認!!》

 

フランカーが目の前の建物にアプローチしてくる。

 

《ファイア!!》

 

ドゴンドゴンという腹に響く音がする。

フランカーの腹部に搭載された40mm機関砲だ。

目の前の建物をみるみる破壊している。

銃撃はいつの間にか止んでいた。

 

《そのままいて!もう一度行くから!!》

 

フランカーは今出せる最大の角度で旋回して同じコースをアプローチしてきた。

 

《ファイア!喰らえ!》

 

今度は25mmと40mmを同時に発射した。

元々壊れて強度が無くなっていた3階建てのアパートのような物は空爆を受けて完全に崩壊した。

 

「リリア!最高だよ!!」

 

「いやっほー!!嬢ちゃん帰ったら連絡先教えてくれ!!」

 

目の前の脅威が消え、全員が喜んだ。

あとはここから飛行場まで500m。

急いで移動だ。

 

「よし!さっさと脱出するぞ!!」

 

「了解!!」

 

私はマヤに再び肩を貸してヘリに向かう。

 

「ハル・・・ヘリ、操縦出来る・・・?」

 

「大丈夫。飛ばせるよ」

 

「そっか・・・良かった・・・」

 

突然マヤが崩れ落ちた。

 

「マヤ・・・?マヤ!!!」

 

揺さぶるが返事がない。

 

「ミーリ!!」

 

「これは・・・ショックを起こしてる・・・!」

 

「ハルさん!マヤさんは私達が連れていくからヘリに急いでエンジンをかけてて!!」

 

「わ、分かった!!」

 

「マヤさんに治癒魔法はしっかりかけてるから命に別状はないはず・・・!こっちは気にせず急いで!」

 

私は頷きヘリに急ぐ。

飛行場に着くとヘリは無事に駐機してあったがヘリを守っていた騎士団の1人が腹から血を流していた。

 

「だ、大丈夫!?」

 

「はぁ・・・はぁ・・・あんたのヘリ・・・守ってやったよ・・・」

 

「あ、ありがとう・・・」

 

「いいってことよ・・・げほっ!!」

 

私はとにかく今は急ぐというこでコックピットに乗り込みエンジン始動の手順を踏む。

マヤに操縦を教えて貰っていて正解だった。

 

「よし・・・エンジンスタート・・・RPM・・・安定!」

 

ヘリのエンジンが安定した所に全員が到着した。

マヤは依然として気を失ったままだ。

 

「ミーリ・・・マヤをお願い・・・!」

「わ、分かってる・・・!」

 

コレクティブを上げてヘリは離陸した。

テキサスに機首を向けて加速する。

 

「ここから50分・・・マヤ・・・頑張って・・・!」

 

マヤの容態はあまりよろしいとは言えない。

このまま病院に急行するルートをとるべきだった。

 

「テキサスタワー、こちらエンジェル0-1」

 

《エンジェル0-1、どうぞ》

 

「こちらは重傷者数名を連れています。病院に急行し着陸を要請します!」

 

《了解。スタンバイ》

 

このヘリが固定翼のようにもっとスピードが出せないのが恨めしい。

今はとにかく急ぎたかった。

 

《エンジェル0-1、中央病院にそのまま着陸してください。領主様が病院を確保しているそうです》

 

「了解!感謝します!」

 

《幸運を》

 

《ハル、マヤは・・・?》

 

「今、意識を失ってる・・・どうなるか分かんない」

 

《分かんないなんて言わないでよ!》

「気持ちは分かるけど本当に分かんないんだよ!」

 

私は無線に向かって怒鳴った。

マヤも必死に頑張っている。

とにかく今は助かると信じて病院に向かうしかない。

こんな時にハルゼーが近くにいてくれたら・・・。

そう思うがここは草原地帯の上。

艦船が通るような場所は無かった。

 

「あと20分・・・」

 

私は時計を見て呟く。

このあと20分という時間が何時間にも感じる。

 

「ミーリ・・・少し休んで・・・」

 

「わ、私なんかよりこの人たちの命が大事なの!」

 

「だけど・・・」

 

キャビンではミーリが必死に治癒魔法をかけていた。

もう1人の重傷者も意識はあるが先ほどからたまに問いかけに答えなくなり始めた。

体力が限界に近いのだろう。

 

「街が・・・街が見えてきた・・・!」

 

街の壁が見えてくる。

私はここで1つ心配事を思い出した。

・・・離陸は出来ても着陸をした事がない。

オマケに今は日も暮れて暗くなってきていた。

冷や汗が垂れるが出来ないなんて言えない。

 

「・・・やってやる・・・!」

 

そう決意して操縦桿を握る。

街はどんどん大きくなってくる。

近づくにつれて2人は助かるという安心感と降りれるかどうかという不安が大きくなる。

だがその時だった。

 

「なにあれ・・・」

 

中央病院に続く大きな一本道、その脇にライトが立っていた。

あれは・・・。

 

「滑走路・・・?」

 

街中に滑走路が出来ていた。

これならホバリングから着陸しなくても固定翼機のように降りることも出来る。

 

「・・・よし!着陸するよ!」

 

即席の滑走路目掛けてゆっくりと高度を下げていく。

速度もなるべく落として50ノットまで減速した。

機体が滑走路真上に来ると同時にヘリに随伴するかのように何台かの救急車がついてきた。

 

「30・・・20・・・10・・・!」

 

慎重に操縦桿を操り機体を接地させた。

そしてヘリは減速し停止する。

病院まではあと100mの距離だ。

 

「着陸!!」

 

「よし!重傷者から下ろせ!!」

 

真横についた救急車に重傷者を載せる。

救急車には治癒魔法使いが1人乗っていて応急的な治癒魔法をかけていた。

応急的とはいえ、最低限の生命維持を可能にする魔法だ。

救急車は大急ぎで病院に向かっていった。

私はそれを見送りもう一度離陸する。

機内にはトマホークだけが残っていた。

 

「トマホーク・・・お疲れ様」

 

「わふ!」

 

私は明かりが灯り出した街の上を少し低めの高度で飛び空港に着陸した。

ゆっくりとタキシングして格納庫に向かう。

 

「ふぅ・・・はぁぁぁ・・・」

 

大きなため息が出た。

今すぐにでも病院に向かいたい。

そう思っているとリリアのフランカーが隣に停止した。

 

「・・・お疲れ様」

 

「お疲れ様なんていいわよ!早く病院に行かないと!」

 

「うん」

 

私もリリアと共に病院に向かった。

マヤは腹部の断片を取り除くために緊急手術となっていたが、命に別状はないそうだった。

また、胸を撃たれた女性冒険者も1時的に危険な状態になったが今は一命を取りとめたらしい。

私はその言葉を聞いて気絶したそうだ。

気がついたらマヤと同じ病室で寝ていた。

医師からは緊張が溶けたせいだという話を聞いた。

その時リリアは大泣きしながらナースステーションに駆け込んだらしいが。

その話をするとリリアは怒った。

 

「ほんっとにびっくりしたんだから!!」

 

「ごめんって。それよりもまだマヤは寝てるから」

 

「あ・・・そ、そうね・・・」

 

マヤは麻酔が効いてまだ寝ていた。

どうもロケットの弾片は小腸を貫通し内部で大量に出血を起こしていたそうだった。

治癒魔法で出血量が少なくなっていたおかげで助かったらしい。

それでもあと1時間遅かったら危なかったそうだ。

 

「もうあんな場所こりごりだよ・・・」

 

「私も・・・」

 

「リリアは空の上だったでしょ」

 

「私だって無線から聞こえる銃声聞いて気が気じゃなかったのよ!」

 

「知ってる。私だって同じ立場だったらじっとしてられないし」

 

その後もマヤが目覚める3時間後まで他愛もない話をしていた。

こうやってこんな話をしていられるのが信じられないくらい壮絶な体験だった。

もう・・・二度とこんな仕事はしないと心に決めた日だった。



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ピクニック日和

あの無法地帯の街から帰ってきて1週間。

今日、ようやくマヤが退院した。

しかしまだ激しい飛行をすると傷が開くかも知れないという事だった。

 

「マヤ、調子は?」

 

「なんとかね・・・でも、何かしないと腐っちゃいそう」

 

「大丈夫、マヤは保存料たっぷり」

 

「それどういう意味!?」

 

マヤは久しぶりの家に帰りリビングのソファーでくつろいでいた。

私も隣で冗談を言い合う。

リリアは買い物に行くということでさっきトマホークと出ていった。

 

「はぁー・・・こういう時こそ何かしたいよねー・・・」

 

「そうは言ってもマヤの怪我が」

 

「まぁそうなんだけどさぁ・・・あ!」

 

「その、あ!は絶対ろくな事じゃない」

 

「ひどい!ていうか、飛ばなきゃいいんだよね?」

 

「まぁ、ハイGがかからなければ」

 

「という事は車なら!」

 

「却下・・・って動くの早」

 

いつの間にかどこかに急ぎ足で向かっていった。

ついこの間まで重傷者だったとは思えない。

 

「ま、いっか・・・」

 

なんて思ってると何かの本を持ってきた。

 

「なにそれ」

 

「車のカタログ!」

 

「ふーん・・・私、車ってもっと綺麗な色してスリムな物だと思うんだけど」

 

「何言ってるのさ!エンジンと車輪がくっついてればそれはもう車なんだよ!」

 

「・・・それ、一般的には暴論」

 

マヤが持ってきた本はテキサスの車屋にある車種が乗っているカタログ。

本なので最新の情報とまではいかないが基本的に全ての車種が載っている。

で、その肝心な題名だが、テキサスのAPC&IFV・・・

つまりは装甲兵員輸送車と歩兵戦闘車のカタログだった。

正直、街乗りで車なんてほぼほぼ必要ないので冒険者には重宝される車種ではある。

 

「1台買お!お金いっぱい貰ったし!」

 

「却下」

 

「なんで!」

 

「陸はヤダ」

 

なんて話してるとリリアが帰ってきた。

 

「ただいまー。今日はお肉が安かったわよ・・・ってマヤ何してんの」

 

「あー!リリア聞いてよ!ハルがぁぁ!!」

 

「ハルが正しい」

 

「まだ何も言ってない!!」

 

「どうせ空飛べないから装甲車か何か買って街の外行こうとか話してたんでしょ」

 

「え、なにリリアって人の心読めるの怖い」

 

「なんで私がハルに引かれるのよ!!ていうか本当にその話してたの!?」

 

「してた」

 

「ダメに決まってるでしょ!マヤは怪我治ったばっかりなんだから!」

 

「でも何かしたいぃぃ!!」

 

マヤは駄々をこねはじめた。

 

「はぁ・・・でも、なんにもしないのも暇だし・・・」

 

「え、ハル?」

 

「マヤ、体に異常が出たらすぐ報告。約束だよ」

 

「ハル・・・?ということは・・・」

 

「いいよ。車、買いに行こ。どうせ装甲車とかでも高くて300って所でしょ。報酬は1000出てるんだし」

 

「なーんか最近マヤに甘いわね・・・」

 

「そうかな」

 

「まぁいいけど・・・。で、何にするの?」

 

「今から話し合おうよ!」

 

「はいはい。了解」

 

というわけで3人でカタログを開く。

トマホークも何をしてるのか気になって近くで私たちの様子を見ていた。

 

「やっぱり定番のBTR?」

 

「荒野を走るんだったら装輪がいいと思う」

 

「でも走破性なら履帯じゃない?」

 

「うーん・・・でも燃費がね・・・」

 

「あとなるべく3人乗り」

 

「確かに。そうなるとやっぱり装輪のほうがいいんじゃない?」

 

そうこう話し始めて1時間。

決まったのはLAV-25。

街で1番流通している型だ。

オリジナルの車両と違って砲塔上部に自動化されたタレット式のM134があり、近づく敵に対して自動的に射撃する。

また後部の兵員区画はキャンピングカーのようになっておりベッドなどが着いている。

さすがに大型のキャンピングカーとまではいかないが野宿する時に便利だ。

値段は250万ドル。

装甲も12.7mm徹甲弾なら余裕で耐えるそうだ。

水上航行能力もあるので冒険するには持ってこいの車両だった。

 

「車も決まったし、行こっか」

 

「うん!」

 

目的のカーショップに電話をして確認してみると在庫もありすぐ引渡し可能なそうだ。

 

「そうだ!買ったら早速外行かない?」

 

「いきなり?」

 

「うん!ちょっとした冒険に!」

 

「分かった。この辺りに山賊も居ないし綺麗な草原でも見つけておやつでも食べよ」

 

「やった!」

 

「それじゃ冒険っていうか遠足ね・・・」

 

「似たような物」

 

「・・・似てる?」

 

なんて話しながら店に行き、早速契約をした。

車内も確認したが案外広々としていた。

オリジナルの車両からかなり内装を変えているようだ。

運転席にはモニターがありそこから周囲の様子を確認できるようになっていた。

ちなみに従来通りハッチから頭を出して運転したりもできる。

私はお金を払い、そのまま運転していく事にした。

 

「ハルが運転?」

 

「リリアやる?」

 

「私は助手席でいいわよ。マヤは砲手?」

 

「うん!砲手やりたい!」

 

「了解。じゃあ一旦家に帰って装備積んでから出よう」

 

「了解!」

 

というわけで安全運転で家に帰り銃と弾薬、食糧と水を最低でも三日分、予備の燃料を積んだ。

 

「ぜぇ…ぜぇ…しゅ、出発前から疲れたわ…」

 

「・・・張り切りすぎた」

 

「1時間ほど休憩していこうよ・・・死にそう・・・」

 

何を思って50ℓの燃料が入った携行缶を四つも積もうと思ったのか自分で自分を問いただしたくなる。

弾薬も余ってたからと私とマヤのAKの弾薬600発、リリアの実家から持ってきたというSMGのMPX用の9mm弾が300発。

今から拠点でも落としに行くのかと言いたくなるレベルではあった。

 

「ところでハル、どこまで行くの?」

 

「帰れるところ」

 

「アバウト過ぎない・・・?」

 

「冒険なんてそんなもん」

 

「まぁそうだけど・・・」

 

とりあえずここから北東に進んで200kmほどの所にある大きな湖に行こうと思っている。

比較的魔獣の脅威もなく、近く・・・とは言っても20kmは離れているが少々不気味な森と何故か綺麗な洋館が建ってはいるが。

悪魔が居るだとか幽霊が出るだとかヤバい噂が尽きないが湖から離れているのでそんなに気にする必要はないだろう。

 

「さてと・・・じゃ行こっか」

 

車に乗り込み、街の門に向けて車を走らせる。

行き当たりばったりな旅になるがそれもそれでいい。

 

「なーんか・・・息苦しいわね・・・」

 

「仕方ないでしょ。装甲車なんだから」

 

「まぁそうだけどさ・・・」

 

「やっぱりリリアみたいなお嬢様はオープンカーな装甲車がいい?」

 

「オープンカーな時点でそれもう装甲車じゃないわよ!」

 

「真っピンクなオープンカー装甲車」

 

「それ乗るくらいなら普通の車に乗った方がマシよ!」

 

「それは同感」

 

なんて話をしていた時だった。

ふと視線を前に戻すとなんだか真っピンクな物体が近寄ってきた。

対向車線なので当たり前だが。

 

「・・・・・・」

 

私はそれを視認して言葉を失う。

リリアもだったが。

それもそのはず、つい数十秒前に話していた真っピンクなオープントップ装甲車が走っていたのだ。

車体は恐らくBTR。

上半分が切り落とされ、車内には無反動砲と思わしき砲が一門着いていた。

そして乗っていたのは妙に派手な格好をしたガンナー集団。

全員が真っピンクな戦闘服を着て真っピンクな軽機関銃を持っていた。

そして全員男のくせして長いツインテールに無駄に男らしい口髭&顎髭。

ついでに筋肉隆々。

筋肉モリモリマッチョマンの変態だ。

 

「ヤバいのが乗ってる・・・・」

 

マヤが砲手席でドン引きしていた。

もっとヤバいのは装甲車の背面に恐らく賞金首であった山賊のリーダーが磔にされていた。

亀甲縛りで。

涙目で周りを見ていたので生きてはいるだろうがこんな変態集団に捕まるなんて運がない・・・。

 

「見なかったことにしよう・・・」

 

私たちは全員同じタイミングでそう呟き街の外に出た。

 

「とりあえず道沿いに進むかな」

 

「それがいい・・・っていうか結構揺れるわね・・・」

 

「仕方ないでしょ。舗装されてるわけじゃないんだし」

 

「まぁそうだけど・・・うっぷ」

 

「早くない?」

 

「戦闘機に乗ってるとこの揺れはちょっと・・・」

 

「はぁ・・・じゃあハッチ開けて新鮮な空気入れよ」

 

「そうするわ・・・」

 

「あはは、リリアは意外と弱いね!」

 

「うるさいわよ・・・あなたは平気なの?」

 

「うん!私はあと30秒くらいあれば吐きそうだよ!」

 

「あなた私よりヤバいじゃない!!」

 

「あはは!エチケット袋取ってヤバい吐きそう」

 

「ハル!その袋早く渡して!!」

 

「・・・なにこれ」

 

私は結構本気で引き返そうか悩み始めた。

 

「ねぇリリア、キラキラ加工ってできる?」

 

「え?何それ。ていうかマヤはもう大丈夫なの?」

 

「うん。大丈夫だからキラキラ加工がほしオロロロロ」

 

「うわぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「・・・・・・・・・・帰りたい」

 

「いやもうこれは帰りましょう!!引き返す!!」

 

「街出て10分だよ・・・」

 

「大丈夫あと10分あったらもう1回いけそうだよリリア」

 

「何がよ!!ていうかあなた女の子なんだからもうちょい気にしなさいよ!!」

 

「リリア、こんな格言を知ってる?」

 

「な、何よ」

 

「背に腹は変えられなオロロロロ」

 

「それ格言じゃなくて異世界のことわざでしょうが!!!」

 

「・・・ゲロイン」

 

「ハルはハルでそんな事言わない!!」

 

「・・・いい加減私おかしくなりそうだからどうにかして」

 

「どうにか出来たらしてるわよ!!」

 

「・・・もう車で外行かない」

 

車で旅は無理。

そうハッキリと分かったある日の午後だった。



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脱出の人

「たまにはトムキャット乗りたい・・・」

 

「あはは・・・ごめんね、まだちょっと傷の調子が・・・」

 

「いいよ、嫌味で言ってるわけじゃないから」

 

「まぁでも・・・ほら!ヘリもいいでしょ?」

 

「まぁね・・・」

 

私はトムキャットに乗れない不満を八つ当たりのようにマヤに言った。

仕方ないことだが。

今回受けたクエストはSAR。

捜索救難だ。

捜索救難とは言っても場所はほぼ特定されていて迎えに行くような形だった。

依頼者は要救助者のパーティメンバー。

妙に報酬もいい。

 

「で、助ける人が・・・伝説の人なの?」

 

「そうみたいだね」

 

「ハルはどういう伝説か知ってるの?」

 

「まぁ・・・うん。本で読んだことあるから」

 

伝説の人・・・というが伝説というよりもいい意味でも悪い意味でも化け物って感じだ。

何しろその人の格言は「本当の空中戦は脱出してからだ」だからだ。

戦闘機乗りとしての腕も確かな人物なのだが、撃墜数よりも被撃墜数のほうが多い。

ただしどんな損傷だろうが脱出し、隙あらば脱出した後に敵戦闘機を撃墜しているのだ。

その方法も、ポケットに入っていたスパナを敵機のエアインテークに放り込む、護身用の44口径拳銃でコクピットをぶち抜く、LAWという重さ2.5kgほどの対戦車ロケット弾を脱出後空中でぶっ放して敵機に命中させる・・・などなど。

1番聞いててヤバかったエピソードは脱出後背後の敵機のパイロットを持っていたスナイパーライフルで射殺したあとその機体に飛び乗って奪って帰ってきたという事があった。

その時、「クイックショットの練習してて良かった」と意味不明な発言もしていたそうだが、そんなのさすがに嘘だろうという人々も居た。

そういう人達に向かって彼は「戦場民ならこれくらい出来て当然」とさらに意味不明な発言をしていた。

そして、奪ってきた敵機のガンカメラに満面の笑顔でパイロットをぶち抜きキャノピーを破壊して乗っていたパイロットを放り投げる瞬間が撮影されており、これがきっかけなのか伝説の人と言われるようになっていった。

1部では脱出の人とか言われているらしい。

 

「賞金首じゃなくて良かった」

 

「う、撃たれて死ぬのはやだね・・・」

 

「同感」

 

「まぁとりあえず早く見つけて帰りましょう。ただでさえ装甲車分マイナス出てるんだから」

 

「う・・・ごめんなさい」

 

「べつにマヤのせいじゃないからいい」

 

「そうだけど〜・・・」

 

「・・・まぁ吐かないでね」

 

「もうそれは忘れて!!」

 

この前の装甲車を買ったはいいが外に出るとあまりに揺れが酷く、簡単に車酔いしてしまったために完全に街乗り専用になってしまった。

まあ・・・街自体はそこそこな広さだし飛行場までの足が出来たから良いか・・・とポジティブに考えていた。

・・・砲手席からは未だに酸っぱい臭いがするが。

 

「ていうか、SARで場所も分かるとは言え、自衛用の装備が貧弱すぎないかしら?」

 

「そう?そもそも救難機仕様のこの子に重武装もおかしい話だと思うけど」

 

「まぁそうだけどさ・・・」

 

リリアの言うことも分かる。

単機で武装と言えば、本来増槽がある部分に装着したM2重機関銃とホイストがある場所と反対側のドアの下に装備したスティンガーミサイル。

機関銃も装弾数は両方合わせて600発、スティンガーは2発しかない。

あとはチャフとフレア、私たちの個人携行火器くらいだ。

 

「これでも改造したほうなんだよー!」

 

「こうするくらいならDAP仕様のほうが良かったんじゃない?」

 

「私は救難機仕様のほうが好きなの!」

 

「そこはマヤのこだわりだからね」

 

「そうなのです!」

 

「私はしっかり武装してあるほうが安心感あって好きなんだけどね」

 

「じゃあリリアのフランカーには155mm榴弾砲を」

 

「私のフランカーに何する気よ!!ガンシップにでもしたいの!?」

 

「うん」

 

「ひどいわよ!!」

 

「実家に空対地ミサイルぶち込む人が何を言うか」

 

「あれは・・・えーっと・・・あの・・・事故だから・・・」

 

「・・・レーザー誘導だったよね」

 

「・・・はい」

 

「命中まで誘導してたって言ってたよね」

 

「はい・・・」

 

「有罪」

 

なんて話しながら目的地に向かう。

それにしてもリリアは本当に実家に向かってよく空対地ミサイルぶち込んだものだ・・・。

だが何故かその時のお見合い相手に気に入られ猛烈なアタックを仕掛けられているが毎回丁重にお断りしていた。

ちなみに丁重にというが、しつこい様なら500kg爆弾を頭の上に落とすぞと脅してるだけだ。

 

「ん・・・ハル、前に何か・・・フレア?」

 

「目標かも。急ごう」

 

「了解!」

 

「リリア、ホイストは使える?」

 

「えぇ!」

 

「分かった。マヤ、私は武装を担当する」

 

「了解!じゃ、いっちょやりますか!」

 

フレアが上がった位置に到着すると近くに戦闘機の残骸とパラシュートが落ちていた。

その近くに人が横たわっていた。

 

「まずい、重傷かも」

 

「マヤ!ホバリングして!降りるわ!」

 

「了解!」

 

ホバリングを開始するとリリアはホイストを使い降下していく。

 

《大丈夫ですか!?》

 

《あぁ・・・ちくしょう・・・やりすぎたぜ》

 

《ハル、命に別状はなさそうだけど骨折してるかも》

 

「了解、担架を下ろす?」

 

《いえ、ここに着陸できそう。着陸してそのままピックアップするわ》

 

「了解。マヤ、いける?」

 

「これだけ広ければね!」

 

「了解、行こう」

 

ヘリはゆっくり着陸しリリアが目標を担ぎこんだ。

 

「すまない、助かった・・・」

 

「あなたが伝説の・・・」

 

「あぁ・・・そう言われてるみたいだがな・・・しくったよ」

 

「?」

 

「まったく、パイロットぶち抜いて戦闘機奪ったまでは良かったんだがな・・・」

 

「待って。いきなり話がおかしい」

 

「こんなもん出来て当たり前だろうが。俺のパイセンは脱出したあとRPGで後ろの戦闘機撃墜してもう一度脱出した戦闘機に乗り込んで飛んでったぞ」

 

この人あれか。

新しい種族か何かか。

 

「いてて・・・あぁちくしょう・・・パイロット放り投げたら足が射出レバーに引っかかっててよ。一緒にイジェクトだよ」

 

「・・・・・・」

 

「あ、あの・・・ところで・・・お名前は・・・」

 

「名前・・・ふっ・・・遠い昔に捨てちまったぜ」

 

なんでそこだけ痛い感じなんだよこのオッサン。

 

「まぁ・・・そうだな。俺のコールサインはオメガだ。気軽に呼んでくれ」

 

「あ、うん・・・よろしく」

 

「ところで、3人揃いも揃って美人ばっかだな。俺のパーティに来て欲しいよ」

 

「丁重にお断りします」

 

「悲しいねぇ・・・まぁいいさ。姉ちゃんがくれた痛み止めが効いてきて助かったよ」

 

「いえいえ。たまたま持ってただけだから」

 

機内ではオメガの伝説の話で盛り上がっていた。

その時だった。

 

「ん・・・レーダースパイク・・・」

 

「ん?」

 

RWRに警告音が鳴る。

 

「しまっ・・・!!ミサイル!!!」

 

「チャフ?!フレア!?」

 

「どっちでも!!」

 

「了解!!」

 

私はチャフとフレアを同時に射出した。

 

「リリア!後ろなにが来てる!?」

 

「まだ見えない!!どこからなの!?」

 

「7時方向!高速!!」

 

「あれだ!!」

 

オメガは少し上空を指さした。

 

「ハル!見えた!フィッシュベッド!」

 

「空賊の標準機だね・・・マヤ!敵が追い抜いたら撃つよ!」

 

「了解!」

 

その時だった。

 

「おい!こいつ使っていいか?!」

 

「そ、それ弓矢だよ!?」

 

「あぁ!たまにはコイツ使ってみたくてな!痛み止め効いてるし行けそうだ!」

 

「なにが!?」

 

「パイロットの姉ちゃん!高度上げてあの野郎が下を通過するようにしてくれ!」

 

「えぇ!?わ、分かった!」

 

高度を少しあげる。

ミグはその間に急接近してきた。

 

「よーいいい子だ・・・そうだそこだ・・・」

 

オメガは弓矢を構えて呟いた。

 

「あらよっと!」

 

次の瞬間矢が発射される。

同時に・・・

 

「ちょっくら鹵獲してくるぜ!!」

 

「はぁ!?」

 

「ちょっ、オメガさん!?」

 

リリアの制止を振り切り飛び降りる。

そして数秒もしないうちに敵戦闘機も重なった。

一瞬だけ見えたコックピットにはさっき発射された矢が突き刺さっていた。

 

「あ、あれ死んだよね!?」

 

「い、いや、満面の笑顔で飛んだからたぶん・・・」

 

「笑顔だろうがなんだろうがあの速度だよ!?」

 

ドン引きする私と焦るマヤ。

だが次の瞬間キャノピーらしきものが吹き飛び、コックピットから乗っていたであろうパイロットが放り投げられた。

そしてそれまで操作されていなかった機体が急旋回してこっちに向かってくる。

 

《ほーら見たか!簡単だろ!》

 

「どこが!?」

 

「・・・人間のやることじゃない」

 

「・・・同感よ」

 

《はっはっは!!ニュータイプだからな!》

 

「ただの大馬鹿野郎だよ・・・」

 

「尾翼に三本線でも書いとく?」

 

「なんで三本線?」

 

「あら、知らないの?異世界のトレンドよ。馬鹿の尾翼に三本線は」

 

「何それ・・・」

 

「さぁ、異世界の事だし」

 

私たちはその後数分、キャノピーが吹っ飛んだミグを目で追いかけていた。

あとから聞いた話だとこの人の持ってる機体はこうやって鹵獲した機体ばかりだと言う。

・・・だから脱出するのに抵抗がないのか・・・。

だが飛んでる戦闘機を鹵獲なんてもうこの人そのものが魔獣ではないだろうか・・・。

人型魔獣イジェクトマン・・・。

私の中では勝手にそう呼ばせてもらうことにした。



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スイーツの街

「〜♪」

 

「ハルが鼻歌歌うなんて珍しいね」

 

「あれ、聞こえてた?」

 

「そりゃもうガッツリと」

 

《そりゃご機嫌にもなるわよ。トムキャットに乗ったの久々でしょ?》

 

「うん。でもごめんね、今日のテストフライトに付き合わせて」

 

《いいわよ。目的地の街にも行ってみたかったから》

 

「なんて街だっけ?」

 

「んーと・・・キャリアーって名前」

 

「あ!あの空母の!」

 

「そうそう。だからリリアにも申し訳ないけどシーフランカーに乗ってもらった」

 

《いきなり艦載機に乗れって言うからびっくりしたわ》

 

今日行く街はキャリアー。

海に浮かぶ街のような場所だった。

街には異世界から送られてきてそのまま放置されていた航空母艦が使われている。

浅瀬に送られてきたうえ、損傷していて軍艦として航行する能力はほぼ無かったが艦載機を離発着させる能力はまだ残っており、これを見つけた冒険者がここを街として開拓したのだった。

気候的に暑すぎず寒すぎず、フルーツがよく育つ環境が整っておりスイーツの街としても有名だった。

街は空母を中心として海上に建物を浮かべて街を形成していた。

おまけにUボートが入ってこれない浅瀬のため比較的安全な場所だったのも理由だろう。

ただ、空港として機能している場所が座礁して航空母艦であるため、ここに来るにはヘリもしくはVTOL、艦載機としての能力を持った航空機でないと無理だった。

おまけに駐機場もそんなに広いわけでない。

空母とその周囲に簡易的に駐機場を増築しただけだった。

 

「でもスイーツかー・・・楽しみだね!ね、トマホーク!」

 

「わん!」

 

「トマホークも久々だね。こうやって飛ぶのは」

 

「だねー、危険なところに連れていく訳にも行かないし」

 

そんな話をしながらのんびりと飛行を続ける。

空は雲のほとんどない青空。

気持ちいい天気だった。

 

「そういえば空母に降りるのって初めてじゃない?」

 

「うん。だけどなんか行ける気がする」

 

「嘘でしょ!?」

 

《ハルって変なところで大胆よね・・・》

 

「リリアだって空母処女」

 

《なによその空母処女って!!!》

 

「じゃあ何がいいの」

 

《普通に言ってよ普通に!!》

 

「処女」

 

《違うそうじゃなーい!!》

 

「この絡み方はハルが機嫌いい時じゃないとしないよー」

 

《機嫌とかの問題なのこれ?!》

 

こうやって賑やかに飛ぶのも久しぶりだ。

綺麗な海を眺めながら飛ぶ。

レーダーにも警戒装置にも反応はない。

 

「ふぁ・・・暖かいから気持ちよくなってきた」

 

「後席はいいよね。寝れるから」

 

「へへへー、後席の特権ですっ!」

 

「でも寝るのはダメ」

 

「なんで!」

 

「周りみてて」

 

「うぅ〜・・・分かりましたよー・・・」

 

なんてしてたら目的地の街が近づいてきたのか無線が入る。

 

《エンジェル0-1、こちらキャリアー航空管制センター。そちらをレーダーで捕捉しました》

 

「エンジェル0-1了解。街への進入を許可願います」

 

《エンジェル0-1、街への進入を許可します。滑走路の後端及び先端部のスラム街に注意してください》

 

「了解」

 

キャリアーという町は変わった街で、空母の先端部と後端、航空機の離発着上最も騒音が激しく危険な地域は低所得者のスラム街と化してきた。

騒音と離発着の危険があるために土地としての価値が低いのと海上都市なため拡張が比較的簡単であるということ、街の領主が元々こういった街出身だったためにこういった人達向けのサービスも充実しているからだろう。

また街は艦の左舷側が私たちが目的とするスイーツ等が有名な地域で右舷側は街を機能させるためのボイラー施設や工場等があり、街の中を配管が通りまくっていて独特の雰囲気を作り上げていた。

全くそんな事はないが、とにかく入ったら出て来れなさそうな迷路のような雰囲気があった。

おまけに右舷側は着陸進入上大して影響がないので空母の艦橋を超えない程度までの高さのある建物の建築は可能でありそこそこな高さの建物が連なる街中を配管が空中を通っていたりして、少しだけ漏れている蒸気が何だか少しワクワクする雰囲気をつくっていた。

 

「ギア、フックよし・・・」

 

ゆっくりと近づいてくる甲板。

初めての着艦だ。

 

《ハル、失敗して塞がないでね》

 

「ちょっと、冗談でも酷いよ」

 

《あら失礼》

 

「こういう時だけお嬢様みたいな言葉」

 

《たまにはいいじゃない。緊張もほぐれたでしょ》

 

「リリアのせいで余計に緊張してる」

 

《なんでよ!》

 

「なんでもやねん」

 

なんて話しながらアプローチしていくがこうやって話していると緊張もほぐれる。

 

《エンジェル0-1、コース適正》

 

「了解。上手いこと行ってるね」

 

「さすがハル!上手い!」

 

「今は煽てないで」

 

トムキャットはゆっくりと甲板に近づき接地した。

フックがワイヤーを引っ掛ける。

 

《2番ワイヤー、レッドデッキ》

 

「ふぅ・・・リリア、次だよ」

 

《りょーかい!》

 

「初めてなのに元気だね」

 

「処女ビッチ・・・」

 

《ちょっと!!おかしいでしょ!!!》

 

フラフラと気持ちを表すように翼を振ったがその後何事も無かったかのように綺麗に着艦した。

 

「意外と上手い」

 

「ふふん!才能あるのよ!」

 

「こういうことだけね」

 

「酷くない!?」

 

「冗談だよ。じょーだん」

 

「いい加減泣くわよ・・・」

 

結構本気で涙目になっていた。

少し私の良心が痛む。

 

「ごめんって。お詫びにケーキ奢るよ」

 

「やった!」

 

「マヤじゃない」

 

「しょぼーん・・・」

 

これから行く店を話しながら艦を離れる。

1歩艦から外に出たら甘い香りが漂ってきた。

甲板の上にいた時は油のような臭いが漂っていたのに大違いだ。

 

「いい匂い!」

 

「わん!」

 

トマホークも美味しそうな匂いを嗅ぎ喜んでいるようだ。

それにしてもどこを見てもお菓子屋かカフェばかりだ。

 

「じゃ食べ歩き開始!」

 

「待った」

 

「あぅち!!」

 

嫌な予感がして歩きだしたマヤの首根っこを捕まえて止める。

 

「どこから行くの」

 

「全部!」

 

予感的中。

そんな事した日にはトムキャットの最大離陸重量を超えてしまいそうだ。

 

「マヤ・・・せめて2、3軒にしましょうよ」

 

「なんでー!いっぱい食べたい!」

 

「わん!」

 

「トマホークも食べたいって言ってる!」

 

トマホークは目をキラキラさせてヨダレまで垂らしていた。

2人とも食い意地張りすぎだ。

 

「じゃあ・・・」

 

私は1つ思いつく。

むしろ好き勝手食べさせればすぐにお腹いっぱいになって暴走も止まるのでは・・・。

 

「私たちはお腹いっぱいになったら着いてくだけにするからね」

 

「え・・・いくの?」

 

「大丈夫、マヤのことだから2、3軒でお腹いっぱいになる」

 

「ん、そうね」

 

そういうわけで歩きながら色々な店を回った。

そして色々なお菓子を食べ歩いた。

アイス、クレープ、ケーキ・・・。

もう1年分は食べたのではないかというくらい食べた。

それに思い出作りに写真も沢山撮った。

久々にいい思い出になりそうだ。

 

「・・・まだいくの?」

 

「まだまだこんなもんじゃないよ!ね、トマホーク!」

 

「わふ!」

 

2人・・・いや1人と1匹だがお前らの胃はどうなってるんだ、と言いたいくらい食べている。

もう6軒目だ。

私とリリアは3軒目で満腹になり、入る店で何も頼まないのもダメかと思いコーヒーや紅茶を飲んだりしてはいるがそれすらもキツくなってきた。

 

「あと何軒行くの・・・」

 

「無限軒!」

 

「あんたアホなの・・・?」

 

リリアも呆れたように言った。

そして7軒目に入ろうとした時だった。

 

「誰か、私と飛んでくれる人いませんかー!」

 

店の前でそう言っている女の子がいた。

・・・エルフ?

長くとがった耳に綺麗な銀髪。

エルフの特徴と一致した。

 

「ねぇハル、あの子・・・」

 

「うん。声掛けてみる?」

 

興味からか声をかけてみた。

 

「こんにちは」

 

「あ、えと、こんにちは!」

 

「飛んでくれる人探してるの?」

 

「はい、えと、私まだ戦闘機乗り始めたばかりで・・・」

 

「エルフで戦闘機乗りって珍しいね」

 

「はい、村長さんがお前が第1号じゃ!っていって送り出してくれました」

 

「そうなんだ。良かったら私たちと飛ぶ?」

 

「え、は、はい!お願いします!」

 

「決まりね」

 

「だね!私はマヤ、よろしくね!」

 

「あ、自己紹介遅れた。私はハル」

 

「リリアよ」

 

「私はミオって言います!よろしくです!」

 

「とりあえずお店入ろっか」

 

仲間を1人増やして店に入った。

飲み物やお菓子を注文して色々と話した。

 

「ミオは何乗ってるの?」

 

「えと、おじい様がF・・・35・・・B?っていう戦闘機をプレゼントしてくれました!」

 

「え、F-35B・・・」

 

「しかもプレゼント・・・」

 

F-35Bとは垂直離着陸が可能な超音速機だ。

オリジナル機であればステルス機能があるが市場に出回っているF-35はステルス機能をオミットしたレプリカ品だった。

なんでも、ステルスという能力がどういう物か研究段階だからだ。

わかっている事はレーダーから消えること。

機体に塗られている塗料が特殊な事だった。

 

「皆さんは何に乗ってるのですか?」

 

「私とマヤはF-14だよ」

 

「私はSu-35ね。今は33に乗ってるけど」

 

「トムキャットもフランカーも私は好きです!」

 

「そっか」

 

「あの、もし良かったら・・・早い気もするのですがパーティって・・・」

 

「うん。いいよ。リリアもいいでしょ?」

 

「ええ、仲間が増えるに越したことはないわ」

 

「じゃ、決まりだね!よろしくミオ!」

 

「はい!えと、街はどこになるのですか?」

 

「テキサスだよ。家も持ってるからそこで暮らそ」

 

「了解ですっ!」

 

色々と話しながらケーキを食べ終え、まだ食べたいというマヤを引きずって空母に行く。

 

「いーやーだー!!かーえりたーくなーいー!!!」

 

「もうお腹限界だから帰る」

 

「ほら、また来ましょ。ね?」

 

嫌がる子供を無理やり帰らせるみたいだ・・・。

それでも何だかんだもう夕方だ。

 

「うぅ・・・ぐすん・・・」

 

「また連れてくるから」

 

「約束だからね!」

 

「分かってる」

 

《ハルさん、コールサインはどうしますか?》

 

「エンジェル0-3でお願い」

 

《了解ですっ!あ、エンジェル0-3、コピー!》

 

「ふふっ、可愛いね」

 

「見てて癒される」

 

《ハル、準備いいわ》

 

「了解。管制、こちらエンジェル0-1」

 

《エンジェル0-1どうぞ》

 

「カタパルトへの誘導願います」

 

《了解、2番カタパルトに誘導します。誘導員に従ってください》

 

「0-1、了解」

 

ゆっくりとタキシングしカタパルトに向かう。

カタパルトは目の前ですぐに到着した。

 

「マヤ、トマホークをしっかり抱えてて」

 

「了解!」

 

《エンジェル0-1、発艦支障なし。発艦を許可》

 

「了解」

 

私は推力を一気に上げる。

その数秒後、機体はカタパルトで急加速した。

 

「ぐっ・・・!」

 

初めての感覚。

シートに押し付けられるようだ。

 

《0-1発艦確認》

 

車輪とフラップをしまい、高度を上げていく。

数分後には3機とも揃った。

 

《普通に滑走路から上がる方がいいわ。時間かかるし》

 

「まぁね。おまけに首痛くなりそう」

 

「カタパルト甘く見てた・・・」

 

「どしたの?」

 

「後頭部シートにぶつけたぜ・・・」

 

「調子は?」

 

「大丈夫だよ。トマホークも大丈夫そう」

 

「了解」

 

《じゃ、帰りますか》

 

「だね。ミオ、編隊は組める?」

 

《大丈夫です!》

 

「了解。先に村だよね」

 

《はい!えと、降りたらすぐ上がってきますので待っててください!》

 

「了解。リリア、途中で給油の必要はある?」

 

《ここからテキサスなら2往復はできるわ。大丈夫》

 

「了解。こっちも大丈夫だね」

 

「夕焼け綺麗だねー・・・」

 

「うん。マヤ、写真よろしく」

 

「あ!待って、リリアとミオを夕焼けに重ねたい!」

 

「マヤにしてはセンスあるじゃん。おっけー、誘導して」

 

「一言余計だよ!えと、少し上昇して2機の左後方・・・リリアが1番機になる感じにして」

 

「了解。リリア、分かった?」

 

《ええ、大丈夫よ。太陽もその方向だし》

 

「ミオも了解?」

 

《了解です!この方位速度を維持でいいですよね?》

 

「うん。そのまま飛んで」

 

《ウィルコ!》

 

私は少し操縦桿を引き上昇しハイ・ヨー・ヨーの要領で後方につく。

 

「位置は?」

 

「んーと・・・ちょっとだけ離れて!」

 

「了解」

 

少しだけ左旋回して10mほど離れた。

 

「おっけー!そのまま!」

 

コックピットのミラーからマヤを見ると何枚も写真を撮っていた。

 

「完璧!」

 

「後で写真頂戴ね」

 

「もちろん!みんなにあげるよ!」

 

《楽しみね》

 

《楽しみです!》

 

私は加速して再び編隊の先頭に出る。

その時だった。

 

「ん」

 

コックピットに短い電子音が鳴る。

私は反射的にRWRを見た。

・・・反応がある。

 

「レーダースパイク!!」

 

《え!?》

 

《しまったこっちもよ!!》

 

「マヤ!後ろ見てて!」

 

「りょ、了解!」

 

《ハル!あなたはトマホーク連れてるんだから高機動はダメよ!》

 

「分かってる、私はミオを連れていくから援護お願い!」

 

《了解!》

 

「ミオ、着いてきて」

 

《わ、分かりました!》

 

リリアのフランカーはレーダー照射を受けている方向に上昇反転した。

私はミオを連れて高度を下げる。

下は広い森だ。

暗くなっているおかげで機体の色、特にミオのF-35は隠れやすい。

 

《ハル!見つけたわ!空賊よ!》

 

「楽しい旅行を邪魔しにきやがって・・・」

 

「言葉が汚いよハル」

 

「こういう時くらいいいでしょ」

 

《待った・・・まさかフォックスハウンド!?》

 

「え!?」

 

《敵機視認!Mig-31!》

 

MIG-31はマッハ3近い速度が出せる迎撃戦闘機だ。

機動性は高くないがとにかく足が速い上に積んでいるミサイルもマッハ4.5ですっ飛んでくる。

最大射程ならまだしもある程度近づいた距離で撃たれ、それこそ推進剤が切れた直後など最大速度のミサイルが飛んでくる。

見つけて回避はほぼ不可能だ。

 

「私たちを爆撃機か何かと勘違いしてるのかな!」

 

「向こうにはそう見えてるみたいだね」

 

《レ、レーダースパイク!》

 

「落ち着いて。撃たれたらとにかく動き回って」

 

《りょ、了解です!》

 

《FOX3!》

 

「リリア、そっちはお願い」

 

《分かってるわ!今2機落とした!あと一機・・・しまっ!!》

 

「どうしたの?!」

 

《フォックスハウンドがミサイル発射!》

 

《け、警報鳴ってます!!》

 

「ミオ!ブレイク!」

 

ミサイルはミオに向けて放たれたようだ。

ここからミサイルの煙が見える。

 

「動き回って逃げて!!」

 

《りょ、了解!》

 

《撃墜!!》

 

爆発閃光が見えた。

リリアがフォックスハウンドを落としてくれたようだ。

あのミサイルはセミアクティブだから母機が落ちれば問題ないはず・・・。

その時だった。

 

《きゃあああ!!!》

 

「ミオ!!」

 

ミオのエンジン付近で爆発が起きた。

母機が落ちてもミサイルの近接信管がまだ生きていたのか偶然飛んできた先にミオが居て信管が働いたようだ。

エンジンが大きく破損し炎が吹き出ている。

 

「ミオ!ベイルアウト!!」

 

《はぁっ、はぁっ・・・!了解です!》

 

「必ず迎えに来るから!!」

 

パラシュートが開いたのを確認してテキサスへの帰りを急ぐ。

ここから30分。

そのあとマヤのヘリで2時間だ。

 

「マヤ、ヘリお願い」

 

「分かってる!」

 

「リリアは帰ったら近接航空支援の装備!」

 

《了解!》

 

「待っててミオ・・・迎えに来るから」

 

空港に降り立つと私はすぐに格納庫にある私たちの武器庫から武器と装備を出した。

M4とP226。

M4にはXPS-3と呼ばれるホロサイトとハンドガード先端部の上面レールにAN/PEQ-15というレーザーとフラッシュライトが搭載された機器、アングルドグリップを装着した。

弾丸は通常の5.56mmと9mmRIPだ。

アーマークラス4相当のプレートをキャリアに入れてComtacと呼ばれる集音機能付きのヘッドセットを装着した。

おまけに寒くなってくる時期だ、OD色のソフトシェルジャケットを着て準備はOKだ。

 

「わぉ・・・気合い入れてるね」

 

「当たり前でしょ、人1人助けに行くんだよ。トマホークも連れていくけどいい?」

 

「いいよ!ワンコの鼻はいいからね!」

 

「わふ!」

 

トマホークもやる気満々のようだ。

 

「よし、行こう!」

 

予備の弾倉はバックパックに入れた4本と銃を合わせて9本。

270発と拳銃用の15発入り弾倉が銃と合わせて3つ。

救急品と非常食を詰めたからバックパックもそこそこな重さだがなんとかなる。

私はヘリのキャビンに乗り込んだ。

 

「マヤ、なるべく着陸できる所を選んで。ダメならロープで降りる」

 

「ファストロープできる?」

 

「やったことはないけど、この際やるしかないよ」

 

「全く男気溢れるね・・・いいよ!了解!」

 

ヘリはテキサスを飛び立ち墜落現場に向かった。

私は自分のM4を見て考え事をする。

もしあの現場に人がいたら・・・。

魔獣は必ず居るだろう。

そのための銃だ。

だけど人は・・・。

私は誰も撃ったことないなんて事はない。

もう何人も撃ち殺した。

私の中で相手は悪党だからと正当化してはいるが・・・。

戦闘機に乗って相手の戦闘機を撃つのとは訳が違う。

相手の顔だって見えるのだ。

私はずっとそんな事を考えていた。

だけど今はそんな事よりもミオの身が心配だ。

 

「無事でいて・・・」

 

あの損傷だ。

怪我ひとつない可能性なんてない。

それに魔獣が沢山居る森に墜落した。

武器を持っていないなら一刻を争う。

到着まであと1時間30分。

私はずっと無事なように祈っていた。



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捜索救難

《回収する時は教えてね!》

 

「了解。リリア、近接支援よろしくね」

 

《任せて!さっさと見つけて帰るわよ!》

「そうだね。よし、トマホーク行くよ」

 

「わふ!」

 

墜落機の残骸がある場所にロープで降下した。

残骸は当たり前だが粉々になり焼け焦げていた。

だが近くにはパラシュートもある。

無事を祈りながら小銃に初弾を送り込んだ。

 

「暗い・・・」

 

使いたくはないが銃に付けたライトを点灯させる。

何とか視界は確保出来た。

おまけに今夜に近い時間だ。

今日はほぼ満月なため月明かりでかなり明るいがそれでも森の中ではかなり暗くなる。

 

「NVG持ってくるんだった・・・って思うけどあんな高価な物買えないよね」

 

暗視装置はまだ量産体制が整っておらず研究が完了したオリジナル品か研究所に提出せずに売りに出されたオリジナル品しか出回ってないため非常に高価な物だった。

安い戦闘機なら一機くらい買えてしまう金額だ。

 

「トマホーク、臭いは分かる?」

 

「わふ・・・わん!」

 

周囲の臭いを嗅いで何かを見つけたのかそちらに向かい始めた。

 

「そっちだね」

 

時々後ろを振り返りつつトマホークは前に進む。

その時私は近くの木に違和感を感じてライトで照らした。

 

「これ・・・」

 

木には紋章のようなものが書いてあった。

・・・人間至上主義の連中のものが。

 

「まずい・・・リリア、マヤ。緊急事態」

 

《どうしたの!?》

 

「この森に人間至上主義の連中が潜んでる。恐らく拠点がある」

 

《それ・・・ミオの安否やばくない?》

 

「もし捕まろうものなら・・・マヤ、FLIRで捜索を続けて。リリアはいつでも航空支援可能なように。私の位置は把握出来てる?」

 

《上からライトが光ってるのが何となく確認できるわ。でも正確な位置は分からない》

 

「了解、その時は曳光弾を何発か発射する」

 

《了解》

 

しかしかなりまずい状況になってしまった。

ミオはエルフ。

人間至上主義の連中からすると敵だった。

捕まったらどうなるか・・・。

 

「トマホーク、急ごう」

 

「わふ!」

 

トマホークは匂いを頼りに進む。

私は周囲の音に気を配り進んだ。

 

「・・・増えてる・・・」

 

明らかに紋章の刻んである木が増えてきた。

私は最悪のパターンを想像してしまう。

その時トマホークが何かを見つけて立ち止まった。

 

「どうしたの?」

 

「わふ・・・」

 

トマホークが見ている方向には教会のような建物があった。

私はライトを消して様子を見る。

教会には人間至上主義の連中の紋章があった。

 

「トマホーク・・・ここなの?」

 

「くぅん・・・」

 

「分かった。トマホークはここで待ってて。分かる?」

 

「わふ!」

 

「いい子だね。帰ったら美味しいものいっぱい食べさせてあげるから」

 

トマホークは美味しいものという言葉に反応してヨダレを垂らしていた。

本当に食い意地の張ったヤツだ。

 

「・・・行くしかないか」

 

建物の入口に見張りが1人。

銃にサプレッサーなど付けてないが・・・。

 

「はぁ・・・ふぅ・・・」

 

距離は目測で100m。

ゆっくりと狙いを付ける。

 

「・・・おやすみ」

 

周囲に銃声が響き渡る。

同時に入口の見張りが崩れ落ちた。

 

「リリア!近接支援準備してて!森の中に教会があるから!」

 

《教会!?分かった!探すわ!》

 

《リリア!私のヘリに着いてきて!見つけたから!》

 

《了解!ハル!こっちの装備はクラスター2発、20mmガンポッド2門、無誘導爆弾6だからね!》

 

「了解、戦車が来ても追い払ってくれそうだね」

 

私は全力で走り教会の入口に張り付いた。

 

「・・・中で歓迎会の準備してなきゃいいけど・・・」

 

ドアをゆっくりと開けて入る。

その時真横から信者がナイフを振りかざしてきた。

 

「くっ・・・!」

 

血走った目でこちらを睨む信者。

だがナイフを突き刺そうとすることで一生懸命なのか腹ががら空きだった。

 

「このっ!!」

 

思い切り腹を蹴り引き剥がす。

そして同時に拳銃をホルスターから抜いた。

 

「うっ・・・!」

 

引き剥がされ拳銃を向けられた信者は小さく呻く。

私は引き金を引いた。

 

「がぉっ!!」

 

獣のような声を上げて倒れる。

信者の胸に9mmRIPが命中した。

体内で弾芯から剥がれた無数の破片が肺などの重要な臓器を破壊したのだろう、すぐに絶命していた。

 

「銃なんか使うな卑怯者め!神の裁きを受けよ!!」

 

「大声で叫んでたら位置丸わかりだよバカ!」

 

大声で叫んでいた男に向けて発砲する。

倒れるのを確認して索敵した。

 

「・・・クリア・・・かな」

 

その時近くから物音がした。

ライトを付けてその物音がした方向に行くと私より少し年上に見える女性信者が震えながら隠れていた。

 

「・・・ねぇ、エルフの女の子はどこ」

 

「し、知らない・・・!」

 

私は足元に発砲しもう一度聞いた。

 

「もう1回しか聞かないよ。戦闘機に乗ってたエルフの女の子。知ってるでしょ」

 

「あ、あっちの階段から・・・」

 

「素直にそう教えてよ・・・。私の気が変わらないうちに消えて」

 

こくこくと頷き逃げていった。

私は彼女が教えてくれた階段を見つけて下に降りる。

いかにもな地下室に繋がってそうだ・・・。

 

「弾薬は・・・まだ大丈夫」

 

まだ10発も撃ってない。

大丈夫だ。

 

「不気味だねホント・・・敵以外にも何か出てきそう」

 

ライトで階段を照らしながら降りていく。

悪い連中の本拠地の教会・・・下に降りてもろくなことは無い・・・。

そう思いながら降りていく。

 

「牢獄・・・?」

 

階段を降り着るとそこは牢獄のようになっていた。

壁を掘り抜き鉄格子が張ってある。

何人か入ってるようだが・・・さすがは人間至上主義のクソッタレ共。

全員、エルフや獣人、とにかく人以外をぶち込んでいた。

おまけに全員怪我だらけで衰弱している。

 

「ミオ・・・ミオ!」

 

少し奥の牢でミオを見つけた。

フライトスーツはボロボロになっていて鞭で打たれたような跡もある。

 

「大丈夫!?今鍵を壊すから!」

 

M4のストック部分で思い切り南京錠を叩く。

古びた鍵はそれだけで破壊出来た。

 

「ハル・・・さん・・・?」

 

「怪我は?!大丈夫なの!?」

 

「わ、私よりも他の人を・・・」

 

「分かってる。皆連れて帰るから」

 

その時だった。

パチパチと拍手の様な音が階段付近から聞こえた。

 

「美しい・・・」

 

真っ黒なローブに身を包んだ男が降りてきた。

 

「人と人ではない者の友情というのも美しい」

 

「・・・動くな!」

 

私は銃をその男に向ける。

見た感じ武器は無さそうだが・・・。

 

「ミオ、拳銃は使えるよね。他の子を助けて」

 

「わ、分かりました・・・!」

 

「両手を分かるように上げろ!」

 

男は静かにゆっくりと手を上げる。

 

「そのまま跪け!」

 

男は命令に従い地面に膝まづいた。

・・・ここまでしたはいいがどうしよう・・・。

考え無しに制圧したまではいいが、まさか無抵抗の人間・・・こんなクソみたいなヤツだとしても撃ち殺すわけにはいかない・・・。

一応、冒険者の法律のようなもので例えそれが山賊だとしても武器を捨て、無抵抗になった者を殺傷することは許されていない。

それをすれば即刻刑務所行きだ。

 

「ハルさん・・・これで全員だけど、1人・・・」

 

「どうしたの」

 

私は目を話さずにミオの話を聞く。

 

「足の筋を切られてて動けない・・・ヘリに直接収容しないと・・・」

 

「了解。0-2、聞こえる?」

 

《わお、コールサインで呼ばれるなんて何かあった?》

 

「良かった、通じたね。重傷者1名・・・緊急で収容したい」

 

《了解!そっちはいいの?》

 

「・・・これから。とりあえず教会付近で待機」

 

さてほんとにどうしたのものか・・・。

何しでかすか分からないヤツに近寄りたくもない。

 

「・・・なんでエルフや獣人を嫌うの」

 

突然そう聞いたのは捕まっていたエルフの少女だった。

 

「くくく・・・分からんか。貴様ら人外が我ら人の寿命を食らってその命を伸ばしているのだと」

 

「何それ・・・そんな意味不明な理由で私達を捕まえたの!?」

 

「意味不明・・・か。やはり分からんか」

 

男はゆっくりと立ち上がる。

 

「立つな!!動くな!!」

 

私はもう一度警告した。

たが男はそれを無視して話し続ける。

 

「あれは私がまだ少年の頃だった。人の何倍も生きるエルフを見て心底羨ましいと思っていた。永遠に近い命、それがあれば何でも出来る。だが年を重ね調べていくうちに知ったのだ。貴様ら1人が100人の人間の寿命を食らいその寿命を延ばしているのだと」

 

「そんな話私達は知らない!」

 

「知らなくて当然だろう。1部の長老クラスでないと知らない話だ。これで納得したか?貴様ら1人を殺すことで100人を救う事が出来る」

 

「救う?アンタがやってる事は人身売買、それに殺人・・・ただのクソだよ!」

 

「ふふ・・・やはり・・・救いようのない人間には分からんか。それに答えろ。私とお前、何が違う」

 

男は私に対し強めの口調で言う。

 

「お前は私に人身売買、殺人者と言った。だがお前はこの人外たち数人を救い、我等の同胞数十人を殺した。そしてお前らの仕事には人の命を奪い、捕まえて売り捌く。どんな理由があろうと山賊になったもの、お尋ね者になったものは悪だと言いな。何が違う」

 

「・・・」

 

答えられない。

それもそうだ。

私はこのエルフ達を助けるために何人も撃った。

戦闘機に乗っている時だって何人殺したかなんて分からない。

 

「ふん・・・やはり答えられんか。自分は正義だと信じてきた悪人には」

 

男は手を下ろしていたが私は考え事をしたせいで気づかなかった。

そして・・・。

 

「危ないッ!!」

 

私はその声を聞いて前をみた。

男は短剣のような物を持ちこちらに突っ込んでくる。

そして横からさっき助けた名前も知らないエルフが飛び出してきた。

 

「あぐっ!!」

 

「ッ!!!」

 

「これで100人か」

 

男は短剣をエルフの足に突き刺したままそう言った。

 

「この・・・クソ野郎!!」

 

私は正論を突きつけられた怒りと目の前で私を助けてくれた子が刺された怒りで男にフルオートで弾丸を浴びせた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・!これが私の答えだよ。私は正しいと思った事をする・・・!」

 

空になった弾倉を捨て新しい弾倉を装填した。

 

「大丈夫?」

 

刺されたエルフを見ると血が流れ出ていた。

動脈をやられている・・・。

 

「ハ、ハルさん!血が・・・!」

 

「分かってる!止血するからミオは周辺を警戒して!治癒魔法を使える子はいない?!」

 

「わ、私が・・・!」

 

「手伝って!大丈夫、すぐ血を止めるからね!」

 

メディカルポーチから止血帯を取り出して足にまく。

 

「あなたの治癒魔法の効果は?」

 

「ち、鎮痛と生命維持・・・!」

 

「分かった、今は鎮痛で痛みを抑えてあげて!」

 

「わ、分かりました!」

 

「ハルさん!今の銃声で上から人がくるかも!」

 

「クソ・・・こんな時に・・・!」

 

私は近くの牢屋に引っ張っていきそこに寝かせた。

 

「よし・・・止血帯を締めるけど少し痛いかもだから許してね」

 

「わ、分かりました・・・」

 

「大丈夫、必ず助けるから」

 

《ハル!教会の周辺に人が集まってる!》

 

《こちら0-2、FLIRで確認したけどコイツら教団の連中だよ!囲まれてる!》

 

「了解!リリア!近接支援!!追い払って!」

 

《了解、待ってました!!》

 

外から爆音が聞こえてくる。

私は急いで止血帯を締めた。

 

「ぐ、うぅぅぅ・・・!!!」

 

「ごめんね、痛いよね・・・!でも大丈夫、血の量は減ってるから!」

 

「は、はい・・・」

 

「生命維持・・・かけますか・・・?」

 

「まだ大丈夫。止血しないと生命維持は意味ないから」

 

「分かりました・・・!」

 

「クソ!降りてきた!!」

 

ミオは階段に向かって何発か射撃した。

拳銃だけでは分が悪い・・・。

 

「ミオ!ライフルは使える?!」

 

「使えます!!」

 

「使って!」

 

「はい!!」

M4を投げ渡して治療に専念する。

だけどまずい・・・血が止まらない。

 

「と、止まりました・・・?」

 

声も弱々しくなってきている。

 

「鎮痛は止めないで」

 

「わ、分かりました!」

 

「大丈夫、もう血は止まったからね。すぐ街の病院に行けるから」

 

「は、はい・・・」

 

「治ったら私が戦闘機で美味しいもの食べに連れて行ってあげるから」

 

「はい・・・あの・・・甘い物食べたい・・・」

 

「うん。行こうね」

 

・・・足の動脈を切られている。

おまけにその動脈が縮んだのかどこに行ったか分からない。

 

「あの・・・この子・・・」

 

「・・・動脈が切れてる。おまけに縮んでどこに行ったか分からない」

 

「そんな・・・」

 

「とにかく治癒魔法はかけ続けて。でもあなたの魔力が着きそうなら止めて」

 

「わ、分かりました・・・」

 

私はもう一度怪我をしたエルフに向く。

 

「ねぇ、名前聞いてなかった。なんていうの?」

 

「ハル・・・」

 

「驚いた。私と同じだ」

 

「ほんと・・・ですか・・・」

 

「うん。同じ。同じ名前同士だし一緒に戦闘機に乗りたいね。私の戦闘機、2人乗りだから」

 

「はい・・・絶対乗りたい・・・です・・・」

 

《ハル!周囲クリア!》

 

「了解」

 

《こっちもLZ確保!》

 

「ハルさん!こっちも入ってきた分は片付けました!でも念の為予備の弾下さい!」

 

「了解、投げるよ」

 

弾倉をミオに投げる。

ヘリは何とか到着したようだ。

もしかすると間に合うかも知れない。

 

「ハル、行くよ」

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

「ヘリが着いた。間に合うかも知れない。生命維持も念の為かけて」

 

「りょ、了解です」

 

「もうすぐ脱出だからね。頑張って」

 

「は、い・・・」

 

声がさっきより弱々しくなってきた。

すこしまずいかも知れない。

 

「ミオ、先頭で警戒して」

 

「了解です」

 

《ハル!トマホークが今乗ったから!あとはハル達だけ!》

 

「了解、賢い犬だこと」

 

急いで階段を登り外に出ると、辺り一面血の海だった。

 

「・・・リリア、やりすぎ」

 

《やりすぎくらいが丁度いいわよこんな連中》

 

「・・・まあね」

 

ヘリは目の前に着陸していた。

 

「マヤ、なるべく急いで帰ろう。あと病院に直行して」

 

「了解!」

 

「ハル、もう大丈夫だから」

 

「もう大丈夫・・・」

 

目が虚ろになってきている。

血は・・・止まっていない。

 

「ねぇ、起きて、私を見て!」

 

「おきて・・・ます・・・」

 

「ハルさん・・・」

 

治癒魔法をかけていたエルフがゆっくりと首を降った。

・・・もう間に合わない・・・。

その時だった。

 

「わふ・・・」

 

「トマホーク?」

 

トマホークがゆっくりと近づいてきた。

揺れる機内だから少しふらついているが。

 

「どうしたの?」

 

トマホークはハルに両足を乗せた。

すると治癒魔法をかけていたエルフの子よりも大きな黄緑色の魔法陣が広がる。

 

「トマホーク!?」

 

トマホークは魔法陣が消えると同時にパタッと倒れ荒い息で呼吸していた。

 

「トマホーク!?大丈夫!?」

 

「わふ・・・」

 

「ハルさん!血が・・・!」

 

呼ばれてハルのほうを見ると足の血が止まっていた。

本人も何とか意識がある。

 

「トマホーク・・・血を止めてくれたの・・・?」

 

「わふ・・・」

 

「そのワンコ・・・何回も使えないですけど強力な治癒魔法を覚えてるみたい・・・です」

 

犬の獣人の少女がそう教えてくれた。

 

「え・・・初耳なんだけど・・・」

 

「えと・・・ご主人が大変そうだから今しかねぇ!!って思ってやった。反省も後悔もしてないけど死にそうだから肉くれって言ってる・・・」

 

「なにそれ・・・ていうかトマホークそんなキャラなの・・・?」

 

「ご主人のためならこの身を捧げても惜しくねぇぜ。とりあえず今日一緒に風呂入ろご主人とも言ってる・・・」

 

「・・・なんで風呂」

 

「俺好みの女の子・・・らしい」

 

「・・・トマホーク」

 

「・・・わふ」

 

トマホークはそっぽを向いていた。

心無しか冷や汗をかいているようにみえる。

 

「というかなんで心の中も読めるの・・・?」

 

「私、柴犬の獣人だから」

 

「あぁ・・・そういう・・・」

 

トマホークは心を読むな!と言いたげな目でその獣人の少女のほうを見ていた。

 

「ハル、調子は?」

 

「大丈夫・・・です・・・」

 

「治癒魔法で生命維持出来てるから大丈夫だと思います、少なくともあと3時間は私の魔力が持つから・・・」

 

「了解、マヤ病院までは?」

 

「あと30分かな。腕によりかけて飛ばしてるから!」

 

「了解、安全第一でね」

 

「分かってる!」

 

《ふぁ・・・疲れたわ・・・》

 

爆音がして横をむくとリリアのフランカーが通り抜けていった。

その様子を何人か釘付けになってみていた。

 

「・・・私、戦闘機に乗る」

 

「私も!」

 

捕まっていた子達はそのフランカーを見て戦闘機乗りになる事を決めたみたいだ。

 

「良かったねリリア、今リリアの機体を見て3人くらい戦闘機乗りになるって言ってたよ」

 

《うぇ!?ほ、ほんと!?》

 

「うん。ちなみにリリアに言ったわけじゃなくてフランカー見てだけど」

 

《知ってるわよ!!》

 

「ふふ・・・」

 

重傷だった子が助かってくれ私は心底安心した。

私はあの男の問いがまだ頭の中を回っていたが、私は私が正しいと思った事をする。

でもだからと言って誰これかわまず撃つとかそんな事ではないが・・・。

 

「ふぁ・・・疲れた・・・」

 

「あの・・・ハルさん、本当にありがとう・・・」

 

「ん?」

 

「あんな場所まで探しに来てくれて・・・それに仲間も助けてもらって・・・」

 

「いいよ。仲間でしょ、みんな」

「・・・はい!」

 

「ふぁ・・・でもほんとに疲れた・・・」

 

病院に着くまでの数十分、私は疲れきっていつの間にか寝落ちしていた。

長い1日だった・・・。

 



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模擬戦

「増えたわねぇ・・・」

 

「増えたね」

 

「賑やかでいいじゃん!」

 

この前の人間至上主義の協会を攻撃し救出したエルフや獣人達。

全員村を襲撃され連れ去られておりその際村は全滅、住む家や家族を失った子ばかりだった。

それをウチで引き取った感じだ。

おかけでだだっ広い家が賑やかだ。

 

「で、今日はどうするの?」

 

「どうするってミオの機体を新しく買わないと。F-35はもう無いかもだけど・・・」

 

「大丈夫です!私は空を飛べればいいので!」

 

「じゃあ、フランカーね!」

 

「は?」

 

「今のハル怖かった・・・」

 

「なんでフランカーなの」

 

まるでフランカーが1番いいみたい。

納得いかん。

いや、フランカーもいい機体なんだけど。

 

「な、何よ!というかハル、3機もあるんだから1機くらいあげたらどうなの?」

 

「んー・・・全部複座だしワイバーンはあげたくないから・・・ミオ、副操縦士のアテはある?」

 

「副操縦士ですか?うーん・・・あ!」

 

ミオは小走りでどこかに向かった。

数十秒もしないうちに帰ってくる。

 

「この子です!」

 

連れてきたのは前トマホークの心を読んでいた柴犬の獣人。

名前はルイだった。

 

「え、乗れるの?」

 

「操縦は無理だけど・・・計器とかなら・・・」

 

聞くと村に航空機を導入した際に整備員として手伝いをしていたらしい。

その時、副操縦士席に座り計器類も操作していたことからマニュアルさえ読めればなんとかなる・・・だそうだ。

 

「じゃあ大丈夫かな・・・」

 

「何に乗せてもらえるんですか?」

 

「Su-24」

 

「フェンサーなら扱ったことある・・・」

 

「え、そうなの?」

 

「うん、村の人で乗ってる人が居た。整備も何回かしたことある・・・」

 

「それじゃ最適だね。ミオはいい?」

 

「はい!可変翼機ですね!大好きです!」

 

スホーイ仲間が増えるのはいいが可変翼のほうが好きと言われたリリアは少し悲しそうだった。

 

「ねぇ、ハル。せっかくだし2時間くらい練習飛行は?」

 

「いいね。教官機は私とリリア?」

 

「そうね。楽しそうじゃない?」

 

「楽しそうです!」

 

「楽しそう・・・」

 

「決まりだね!」

 

「だね。マヤ、後席頼むよ」

 

「任されよ!」

 

という訳で完全に街乗り専用となったLAV-25に乗り込み空港に向かう。

大型機が3機・・・。

楽しそうだ。

ワイワイと話しながら運転すること5分。

空港に到着する。

街の真ん中に空港までの大きく広い直線道路があるおかげでかなり楽だ。

 

「私はフライトの申請してくる。先に格納庫に行ってて」

 

「了解!」

 

ギルド内の受付にクエストでも何も無い飛行の申請を上げに行く。

正直、申請は別にしてもしなくてもいいのだが、この時間くらいまで飛びますという申請をしておくとその時間に帰ってこない、もしくはレーダーから消えた等の事があれば自動的に捜索依頼が出る。

それでも捜索は依頼形式な上、報酬もこの時点で決めていかなければならず、報酬次第では捜索されずに放置されることもある。

だが、何もしないとレーダーから消えようがいつまで経っても帰ってこない、行方不明になったとしても自己責任という形で処理される。

今回は初心者に新しい機体を扱わせるため、念の為の保険だ。

報酬は捜索救難の相場である50万ドル。

この額なら大体捜索に来てくれる。

私は申請を済ませて格納庫に向かった。

 

「さてと、準備いい?」

 

「OK!」

 

《OKよ》

 

《OKです!》

 

「じゃ、行こっか。マヤ、始動前チェック」

 

「了解!」

 

慣れた手順でエンジン始動前のチェックを終わらせていく。

 

「異常なし・・・OK!」

 

「よし、エンジン始動」

 

タービンの回転数が上がっていく。

心地よい音だ。

 

「テキサスタワー、エンジェル0-1」

 

《エンジェル0-1どうぞ。》

 

「タキシング許可願います」

 

《エンジェル0-1及び2.3、滑走路17へのタキシングを許可します。現在、誘導路が混み気味ですので注意してください》

 

「了解。みんな聞いた?」

 

《りょーかい》

 

《分かりました!》

 

スロットルを少しだけ開き、ゆっくりとタキシングを始める。

誘導路に出るとすでに前に3機ほど民間機が離陸待ちをしていた。

上空にはアプローチ中の定期便の輸送機C-5が居た。

それに連なって4機の護衛機も居た。

彼らの着陸街だ。

 

「結構かかりそうだねー・・・」

 

「仕方ないよ」

 

《それにしても、滑走路増やす気ないのかしら》

 

「前言わなかったっけ、景観がどうとかで増やさないって方向だって」

 

《景観ねぇ・・・私はそんなことより滑走路増やして欲しいわ。ただでさえ飛行機無いと暮らせないのに》

 

「まぁね」

 

《私の村は滑走路3本あった・・・》

 

「それ村より空港施設の方が大きいんじゃないの・・・?」

 

《うん・・・むしろ村が空港・・・》

 

そういえば時々そんな集落がある。

簡易的な施設にはなってしまうが、ターミナルにあたる部分を集落にして生活していた。

 

《もう無いけど・・・》

 

「・・・」

 

彼女の村は教団の襲撃のせいで壊滅していた。

稀に大きな廃棄された空港を空から見ることがあるがそこもそういった経緯があるのだろうか・・・。

 

《でも、ルイの家族はもう私達ですから寂しくないですよ!》

 

《・・・うん》

 

「そうだよ!」

 

そんな話をしながら離陸の順番を待つ。

待つこと30分。

ようやく滑走路が空いた。

 

《エンジェルフライト、風向150度、風速13ノット、離陸支障なし。離陸を許可》

 

「離陸許可、エンジェル0-1」

 

3機は滑走路に入り、編隊を組んだまま離陸する。

 

「ミオ、しっかり着いてきて」

 

《りょ、了解です!》

 

《ふらついてるわよ》

 

私が先頭、ミオは真ん中、リリアが最後尾の編隊で飛ぶ。

ミオはF-35とは違う機にのりやはり慣れてないからかふらつき気味だ。

 

「このまま300に旋回しよう」

 

《了解、それからどうするの?》

 

「特に決めてない。模擬戦でもしてみる?」

 

《も、模擬戦ですか・・・》

 

「大丈夫、手加減するから。機体に慣れるなら戦闘行動したほうが慣れやすいよ」

 

《まぁ一理あるわね・・・どうするの?》

 

「んー・・・リリアとミオが組む?」

 

《それ、ハルが不利じゃない?》

 

「リリアはミオの安全確認係。」

 

《それならいいわ》

 

「じゃ、決まりで」

 

《き、緊張します・・・》

 

「本当なら離れてヘッドオンで行きたいけど編隊を解いた瞬間からスタートで」

 

本当なら何十マイルも離れて行うが今回はスタートと共にお互いに旋回して戦闘開始だ。

 

「とりあえず高度25000からスタートだね」

 

《了解です!》

 

《ミオ、緊張しなくていいからね》

 

《そ、そうは言ってもですね・・・》

 

ミオの口調から緊張が感じられる。

さすがに本気で初心者と戦う訳にはいかないが、手を抜くにしてもその辺私は不器用でどうなるか・・・。

 

「ハル、ホントに手加減できる?」

 

「・・・約束できない」

 

「だよねぇ・・・スイッチ入っちゃわないように!」

 

「了解」

 

そうこう話してるうちに高度は25000フィート。

戦闘開始だ。

 

「それじゃ、ブレイク!」

 

お互い左右に急旋回した。

私はその後急降下する。

 

「さて、見つけられるかな」

 

「どうだろうね・・・ん・・・?」

 

マヤは後ろを警戒していると何かを確認したようだ。

 

「わーお、着いてきてる」

 

「意外とやるね」

 

私は降下をやめ水平飛行に移る。

向こうもそれに合わせて着いてきた。

 

「ハル!後ろ後ろ!!」

 

「了解!」

 

減速しつつ上昇、ハイヨーヨーを行ってみるが、まるでその行動を読んでいたかの様に着いてくる。

 

「回避出来てないよ!レーダースパイク!」

 

「まさかの・・・想定外!」

 

急旋回で振り切ろうとするが綺麗に追従してくる。

ミオは食いついたら離さないようだ。

 

「このままだと撃墜だよ!!」

 

「分かってる!バレルロールするよ!」

 

もう一度減速し相手をオーバーシュートさせるために螺旋状に宙返りした。

思いのほか接近していたため、ミオはそれに対応しきれず私たちの前に出てしまう。

 

「貰った!」

 

ガンキルのため照準を合わせようとするが合うと思った次の瞬間、向こうも同じようにバレルロールを繰り出した。

加速して逃げるものだと思っていた私は推力を最大まで上げてしまっていたのでまんまと追い越してしまう。

 

「嘘でしょ!?」

 

「ミオもやるね!!」

 

「また後ろ!!」

 

下手に戦闘機動を繰り返したせいで速度が失われている。

私は1度加速するために降下した。

 

「どうするの!?」

 

「フェンサーのほうがトムキャットより機動性は劣ってる!振り切るよ!!」

 

たがミオは絶対に離れない。

まるで飢えた肉食獣だ。

 

「クソっ!なんか猛獣に襲われてる気分!!」

 

「後ろ見てる私はずっと思ってる!」

 

何とかして振り切りたいが次の行動がまるで分かっているかのように追従してくる。

そして・・・。

 

「警告!!ロックオンされた!!」

 

「・・・やられた」

 

《スプラッシュ!勝ちです!》

 

《珍しい・・・ハルがやられた》

 

「ミオ、次リリアとやってみる?」

 

《うぇ!?私と!?》

 

「やってみたら分かるよ。色々と」

 

《リリアさんともやりたいです!》

 

《わ、分かったわよ・・・》

 

私は審判という形で編隊より少し離れた位置につく。

 

「それじゃ、スタート」

 

お互いに再びブレイクし、ミオはリリアに襲いかかった。

 

《うっそ、もう後ろ!?》

 

《ふふふっ・・・がら空きですよ》

 

今回は2人の無線が聞こえるようにしてある。

聞こえてきたミオの声はまるで別人だった。

 

《このっ・・・フランカーを舐めるな!》

 

リリアはフランカーが得意とする失速機動を行った。

機体をほぼ垂直に立てるコブラを行った。

急減速しミオはリリアを追い抜く。

 

《もらった!!》

 

《甘いですよ》

 

機体を立て直し照準を付けようとした瞬間だった。

ミオは反転に急降下する。

機体が立て直せれていないリリアはいきなりフェンサーが視界から消えたような状態だ。

 

《あ、アレ!?どこいったの!?》

 

「ミオ・・・エグいね」

 

「うん・・・あの子格闘戦は鬼だね」

 

ミオはリリアが必死に探してる間に真後ろに着く。

それに気づいたリリアも撃墜されないように必死に動き回った。

 

《い、いつの間に・・・!》

《ミオ・・・いつでも撃てる》

 

《もう少し相手の行動を確かめてからです》

 

《分かった》

 

ミオはリリアの機動の特性を見極めようとしているようだ。

 

《水平・・・ここで来ますね》

 

《来ると思う・・・》

 

何かを予想したミオは減速しフランカーから離れた。

 

《この・・・やろ!!》

 

減速し離れられた事に気づいていないリリアはクルビットを行った。

だが、フェンサーはフランカーより後方に着いていて、行動を予想していたため追い越すことも無かった。

 

《うそっ!?》

 

《悪くないパイロットだった・・・》

 

《ふふっ、ルイ、なんのキャラですか?》

 

《私の知り合いのおじいちゃん・・・》

 

にこやかに話しているようだが、ミオはその間もフランカーに食いついて離れない。

機動性ならフランカーがずっと上だがそれを感じさせない飛行をしていた。

 

《ミオ・・・そろそろ終わり》

 

《残念ですが・・・そうですね》

 

そして・・・。

 

《FOX2!》

 

《やられた!?》

 

「勝負ありだよ。ミオの勝ち」

 

《やりました!勝ちです!》

 

《優勝・・・》

 

《はぁっ、はぁっ・・・ふぅ・・・猛獣に食いつかれてる気分だったわ・・・》

 

「それ、私も」

 

ミオは1度食いついた獲物は絶対に逃がさず、どこまでも追いかけてきた上、相手の行動のパターンを学習し攻撃してきた。

1対1の格闘戦では化け物レベルで強い。

編隊になるとどうなるかは分からないが・・・。

ただ前のように長距離から攻撃されるのは苦手なようだ。

 

「帰ろ。ミオ、たぶん機体乗り換えた方がいいかも」

 

《え!?だ、ダメでしたか!?》

 

「ううん。違う。ミオならフェンサーよりももっといい機体に乗った方がいい」

 

《それ、私も思うわ。フェンサーは純粋に格闘戦をするような戦闘機じゃないから》

 

《そ、そうですか・・・でもお金が・・・》

 

《大丈夫、私たちで出してあげるわ。ね、ハル》

 

「うん。一機くらいなら」

 

《あ、ありがとうございます!》

 

《何がいいかしらね》

 

ちょうど、教団からエルフ達を保護したということで王国から戦闘機一機分くらいの報酬金が出た。

人道的行いをしたということでだ。

国王は人間以外も共存出来る国を目指しており特にエルフには思い入れがあるということでこうした行動は評価され報酬金も出ていた。

また、王国軍や騎士団を使って大規模な人間至上主義の連中の掃討作戦も行われているが、構成員が多く、拠点の位置も曖昧なため潰しても潰しても沸いてくるそうだ。

1度、教団の岩山に偽装された教会を見つけ、夜間に地中貫通爆弾、バンカーバスターで攻撃した事があったのだが、そこには構成員以外にも捕まっていた獣人やエルフも居て爆撃に巻き込まれたという事故もあり航空攻撃での拠点破壊より騎士団で強襲し構成員のみを排除という方針を取っていた。

そのため、あまり効率も良くないそうだ。

だからこうやって冒険者が教団の拠点を襲撃、構成員の排除と捕まっていたエルフ達の救助を行うと報酬が出ていた。

ただ、この報酬が高額な事もあり、これを目的に教団のみを攻撃する冒険者も増えてきてしまっている。

おまけに過激な者は構成員を捕まえて処刑する動画を撮りそれを教団本部に送り付けるという、もうどっちが悪者か分からないような行動を取る者も増えてきて国王の悩みの種となっているようだ。

一応、法律として捕獲もしくは投降するなど、戦闘の意思を無くすもしくは戦闘の継続が不可能になる等の状態になった相手は抵抗をしようとするか逃げようとしない限り攻撃してはならない。

処刑など以ての外だが・・・相手が相手という事もあり黙認されてしまっている部分がある。

山賊などは、そうなるしか生きていく道がない者もいる為山賊や空賊、海賊相手にこうした行為をすると即捕まるが、こういったカルト教団相手にはそれくらいしたっていいじゃないという考えを持つものが多く、教団狩りを行う冒険者も好き勝手始めてしまっている。

ただし、その後に捕まっていたエルフ達に手を出そうものなら証拠が1つでもある限り捕まる上に極刑だそうだ。

 

「ところで、何に乗りたい?」

 

《え、えっとですね・・・とりあえず複座で・・・ルイと乗りたいので!》

 

《ミオ・・・》

 

《もうバディですから!》

 

《・・・うん!》

 

ルイは普段あまり感情を出さないタイプのようだがミオからバディと言われ少しではあるが嬉しそうな声を出していた。

 

「複座かー・・・マヤは何がいいと思う?」

 

「んー・・・私は無難にホーネットかな」

 

《私はSu-30かしらね》

 

「そっか、複座のフランカーあるもんね」

 

《うん、おまけにカナードに推力偏向ノズルとかね!》

 

「ミオが乗ったら化け物みたいな事になるじゃ・・・」

 

なんて話をしていたら・・・。

 

《・・・私、フランカーに乗りたいです!》

 

「決まりだね」

 

《やったー!フランカー仲間ね!》

 

次に買う機体が決まり、ミオも喜んでいるようだ。

 

「っと、ハル、燃料がそろそろヤバいよ」

 

「了解、燃料も危ないから帰ろうか」

 

《了解!》

 

今日は短時間のフライトだったから増槽を積まずに出てきた。

おまけに戦闘でガンガンにエンジンを吹かしたからもう燃料があまり無い。

 

「寄り道せずに帰るよ」

 

《了解、こっちもあまり燃料に余裕ないからね》

 

私達は旋回して空港に機首を向ける。

今日の模擬戦・・・相手が実弾を積んだ敵戦闘機じゃなくて本当に良かった・・・。

心の底からそう思いつつ帰路に着いた。



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森の悪魔

「・・・・・・なんでこうなった」

 

暗い森の中、私とこの前助けたもう1人の柴犬の獣人、エルとトマホークと歩いていた。

私はAK74NとP226を持ち、エルはKar98kとP227、私の持っているP226の45口径バージョンを持っていた。

 

「ハルが報酬に目が眩んだ」

 

「いや、そうなんだけどさ・・・」

 

今回は・・・というか今回もだが、領主から直々に依頼された仕事をしている。

内容は、テキサスの近くに人間至上主義教団の教会らしきものが発見された。

それを地上から偵察し必要ならその教会の長を狙撃してほしいとの事だった。

今回は騎士団の支援があるそうだが、支援するなら本隊を出せと心の底から思っている。

しかし、依頼を受けた時は報酬のF-14Dという文字を見て速攻承諾してしまった。

なんでも領主がF-14Dを国中から探して新品の機体を用意してくれているそうだ。

 

「はぁ、私も結構チョロいのかな・・・」

 

「F-14って文字にはチョロい」

 

「言わないで・・・」

 

今回、リリアとミオ、ルイの2機のフランカーが上空警戒と近接支援、マヤとヘリに乗りたがっていたエルフのアヤがアパッチで支援してくれる。

そして私達の回収を騎士団が担当するそうだ。

 

「化け物が来ても追い返してくれそうな感じだね、上は」

 

「大丈夫、化け物が来る前に私が仕留める」

 

エルはライフルを手にそういった。

彼女は村で狙撃を得意として村を守っていたらしい。

だが、教団襲撃の時はあまりの物量に守りきれなかったそうだ。

 

「今度は大丈夫」

 

「期待してるよ」

 

私達は森をゆっくりと歩き、トマホークとエルが臭いと音で捜索してくれていた。

私は前と同じように集音効果のあるComTacというヘッドセットを付けてきたが、元々耳のいい2人は必要ないそうだ。

 

「こっち」

 

「了解」

 

森に入ってすでに2時間。

その時だった。

 

「人・・・」

 

「え?」

 

「あそこ・・・」

 

ここから100mほどの所に人が立っていた。

何かを探しているように見える。

 

「冒険者・・・かな?」

 

何となく感じ取る事が出来る。

身分証の敵味方識別のおかげだ。

 

「味方」

 

「たぶんね」

 

ゆっくりと近づく。

念の為だ。

距離が20mほどに近づいた時だった。

 

「うぉっ!?」

 

「!?」

 

相手はこちらを振り返りびっくりして銃を向けてきた。

 

「な、なんだ同業者か・・・音もなく近寄ってくるなよ・・・」

 

「ごめん、敵かどうか分からなかったから」

 

「いや、こっちもいきなり銃を向けてすまない。アンタらどうしたんだ?」

 

「仕事。人間至上主義の連中を探してる」

 

「なんだ、狩りの途中か」

 

「そんな所」

 

「だったらさっさと帰った方がいいぞ。そんな連中もう死んでる」

 

「え?」

 

男はその意味を話し出す。

ここには数ヶ月前から緑の死神という異名の賞金首が潜伏している。

そいつは狙撃を得意とし、正確にターゲットを撃ち抜いてくるそうだ。

やり方は残忍で、まずターゲットに仲間が居るならターゲットの足等、致命傷にならない部位を狙撃する。

そして助けに来た仲間の足をまた撃ち抜き、苦しんでいるところを眺めたあと、1人ずつ頭を撃ち抜いてくるそうだ。

男のパーティはそいつを狩りにきたそうだが・・・。

 

「な、悪い事は言わんから森から出た方がいいぞ」

 

私はその話を聞いて、さっさと森を出よう。

そう思った時だった。

 

「ハル伏せて!」

 

「え?」

 

エルに押し倒される。

そして・・・

 

「ぐおっ!?」

 

さっきまで話していた男が倒れた。

・・・膝を撃ち抜かれて。

 

「ぬぁぁぁ!!ちくしょう!!おい!お前らこっちに絶対に来るな!!」

 

「で、でも!」

 

「死にたいのか!!俺はいい!」

 

私達はすぐ近くにあった大きな岩に隠れる。

 

「誰か聞こえて・・・緊急!誰か聞いてる?!」

 

《ハル!?どうしたの!?》

 

「よかった・・・マヤ!この森に賞金首のスナイパーがいる!さっき1人賞金首狩りの冒険者が撃たれた!」

 

《え!?い、今ハル達は・・・》

 

「隠れてる!ヘリで探して!」

 

《りょ、了解!リリア、ミオ!聞いたよね!》

 

《聞こえてるわよ。そっちが見つけたターゲットに対して攻撃するわ》

 

《こっちも準備します!》

 

「了解!」

 

「なんだ、戦闘機がいるのか?!クソっ痛ぇ!!」

 

「止血は出来る?!」

 

「なんとかやってみる・・・ちくしょう痛ぇよ!」

 

助けたい・・・だけど、1歩も動けない。

 

「どうしたら・・・」

 

「おじさん!弾当たってから銃声まで何秒?!」

 

「エル?」

 

「当たってからだ!?確か4秒だ!!」

 

「分かった!」

 

「エル、どうしたの?」

 

「狙撃手の位置を割り出す。弾の角度さえ分かれば・・・距離はおおよそ割り出せた」

 

エルは概ねこの辺りだろうという所を監視しようと単眼鏡で覗こうとした時だった。

 

「っ!!」

 

「大丈夫!?」

 

「大丈夫、だけど監視されてる。でも・・・分かった」

 

「狙撃手の位置?」

 

「うん。あのバカ撃ってくれたおかげで。弾は・・・」

 

エルは地面に絵を描き始める。

 

「私達の位置はここ。距離はここから・・・概ねここ。弾丸は・・・この角度・・・」

 

さすが狙撃手・・・。

なんとかなるかも知れない。

 

「ちくしょう誰か血を止めてくれ!!」

 

「止血帯は!?」

 

「血が止まんないんだ!!ちくしょう、ちくしょう!!」

 

「仲間は呼べないの!?」

 

「そんな事したらみんな死んじまう!!クソ、痛えよ!!」

 

「だけど・・・」

 

その時、トマホークが男の方に走った。

きっと治癒魔法を使うためだろう。

だけど・・・狙われてしまう。

 

「トマホーク、ダメ!!」

 

私は反射的にトマホークを止めるために動いてしまった。

そして・・・。

 

「あぐっ!!」

 

足に強い衝撃と焼けるような熱さ。

 

「ハル!」

 

「このバカ!」

 

「ウチの・・・可愛い仲間を撃たせれない・・・!」

 

トマホークはその間に男に治癒魔法を使い倒れてしまう。

男の血は止まったようだ。

 

「ハル!早くこっちに!」

 

「ト、トマホーク・・・!」

 

私はなんとか手が届いたのでトマホークに腕をかけて引きずる。

 

「はぁっはぁっ・・・!!」

 

「お前の相手はこっちだ!!」

 

男は撃たれた方向に小銃を乱射した。

 

「そんな事したら狙われるよ!!」

 

「うるせぇ!!お前はさっさとその犬連れて隠れろ!!」

 

私は男にそう叫ぶが逆に怒鳴られた。

その間にも何とか岩まで逃げきれた。

だが・・・。

 

「がぁっ!」

 

短い悲鳴。

そして男の方を見ると頭を撃ち抜かれていた。

 

「そんな・・・」

 

「ハル!足が・・・!」

 

「痛い・・・!!」

 

撃たれた足を見ると酷いことになっていた。

直視したくない。

だが弾は抜けていない。

まずは弾を抜かないと治癒魔法をかけようが治る傷が治らない。

 

「トマホークもバカ!主人の命令に背くなんて!」

 

「わふ・・・」

 

「アンタのせいで撃たれたんだよ!」

 

エルはトマホークにそう怒る。

トマホークは申し訳なさそうにこちらを見ていた。

 

「大丈夫、トマホークは助けようとしたんだよ・・・悪くないよ」

 

私は頭を撫でてやる。

 

「はぁっはぁっはぁっ・・・」

 

焼けるように痛い。

弾を取り出すためにナイフで傷を触った。

 

「ぐうぅぅぅっ・・・・!!!」

 

感じたことない激痛。

 

「ハル・・・」

 

「大丈夫・・・そっちに集中して・・・!」

 

私は近くにあった太めの枝を咥える。

 

「ふぅ・・・ふぅ・・・」

 

意を決して傷にナイフを突っ込む。

 

「んぐぅぅぅぅ!!!」

 

地獄だ。

目の前が涙で歪む。

 

「ん・・・!ぐっ・・・!!」

 

時間にしたら10秒くらいだっただろう。

永遠にも感じたが、何とか足に入っていた弾丸は取り除けた。

 

「ぷはっ・・・!はぁ、はぁっ・・・」

 

幸いにも出血は大した事ない。

包帯で傷口を巻いて治療する。

 

「・・・ちょっとだけ顔見ないで」

 

「分かった」

 

涙と汗と・・・とにかく顔中の穴という穴から液体が出てきた。

 

「ごめん、ちょっと無線お願い・・・」

 

「うん、いいよ」

 

エルが代わりに無線でリリア達に支援を要請していた。

 

「これで撃たれるの何回目・・・?」

 

まったく疫病神でも着いてるのだろうか。

 

「ハル、救助に騎士団のヘリが来てくれる。あと2時間頑張って」

 

「うん・・・大丈夫」

 

大丈夫とは言うが、痛みでどうかなりそうだ。

下手に足の中で弾丸が止まったせいで傷口が大きく抉れてしまっている。

どうせならスパッと貫通してほしかった・・・。

 

「ごめん、治癒魔法は使えない」

 

「大丈夫だよ、それより敵は?」

 

「今音を聞いてる。恐らくずっと監視してる」

 

「移動してる感じは?」

 

「無い・・・とは言いきれない。距離はおおよそで1200m。でも周りは木ばっかりだから射線を確保できない」

 

「当たった弾は5.56だよ・・・足の中に残ってた奴」

 

「分かった、という事はAR-15系かな。連射速度からして」

 

「たぶん」

 

「了解。痛みは?」

 

「正直大声だして泣きたい」

 

「泣いていいよ。でもメソメソ系で」

 

「笑えないよ・・・うぅ・・・ホントに泣きそう・・・」

 

弾丸も抜いて止血もしたが痛みが消えたわけじゃない。

それどころか着弾したときの痺れが消えてきて余計に痛くなってきた。

おまけに頭には傷口が焼き付いている。

そのせいで更に痛く感じる。

 

「すこし横になってて。大丈夫、私が仕留める」

 

「まったく頼もしいよ・・・」

 

横になると涙が止まらなく溢れてきた。

それをトマホークが舐めとる。

慰めてくれてるようだ。

 

「ごめんね、トマホーク」

 

「トマホークはさっきからずっとハルに謝ってるよ。心読んで悪いけど」

 

「くぅん・・・」

 

私はトマホークを頭を撫でてやっていた。

ふとエルを見ると何かを作っていた。

 

「何してるの?」

 

「ダミー」

 

「ダミー?」

 

「まだ監視してるから見てみる」

 

棒に被っていた帽子を乗せて岩から出してみた。

すると・・・

 

「・・・っ」

 

帽子のド真ん中に穴が空き飛んできた。

しっかり監視してるようだ。

 

「相当自信あるみたい」

 

「え?」

 

「私が同じ立場の狙撃手なら絶対撃たない」

 

「なるほどね・・・移動してる感じある?」

 

「無い。弾の角度も距離も全く変わらない。すこし脅かす」

 

「脅かす?」

 

エルは無線を手に取り位置を伝えていた。

 

「空爆・・・」

 

「当たるかどうかは分からない。相手が調子に乗ってるならこっちには空の目があるって教えてやる」

 

「了解、ちょっと頼むよ・・・痛くて頭回んない」

 

「大丈夫。寝てて」

 

「寝れたら苦労しない・・・うぅ・・・」

 

ちょっと動かすだけで痛い。

激痛とまでは行かなくても動かしたくないレベルで痛い。

 

「投下」

 

エルがそう短く言うと、遠くで何度も爆発が起きる。

 

「弾着。何か見える?ヘリで見て」

 

私も状況を聞くためにヘッドセットを付け直す。

 

《何も・・・煙が激しくて・・・》

 

「了解、そのまま監視して。」

 

《マヤさんマヤさん!撃っちゃえば分かりますよ!》

 

《え、う、撃つの!?》

 

《生きてれば撃ち返してきます!死んでれば撃ち返してきません!》

 

《いや、アンタ無茶苦茶言うね!?》

 

《ヒャッハー!我慢出来ねぇ!ファイア!!》

 

《ちょっと!?撃ち方止め!!》

 

《ウェポンズフリー!》

 

《撃ち方止めつってんでしょうが!!》

 

《遠回しにOKって事ですよね!》

 

《ストレートにダメだよ!!》

 

・・・アヤはどうやらトリガーハッピーなようだ。

マヤの制止は全て無視し地上に30mmの雨を振らせていた。

 

《あー・・・エル?弾薬尽きたから1回帰るね・・・というかハルは?》

 

「撃たれた。今、隣で休んでる」

 

《え!?だ、大丈夫なの!?》

 

「足を撃たれた。重傷だけど止血出来たから大丈夫」

 

《わ、分かった・・・ハル、聞こえてるよね》

 

「聞こえてるよ・・・」

 

私は涙声で答える。

 

《・・・泣いてるの?》

 

「痛くて仕方ないの。お願いだから早く戻ってきてね」

 

《分かってる、騎士団のヘリももうすぐだから頑張って!》

 

「うん、ありがと」

 

真上をアパッチが通って行った。

 

「騎士団到着まであと何分?」

 

「1時間。だけどスナイパーがどうなるか・・・」

 

その時だった。

さっきとは違う方向から岩に着弾した。

破片でエルが顔に怪我をした。

 

「ッ!!」

 

「エル!!」

 

「大丈夫、かすり傷・・・ちくしょう、移動してる・・・」

 

エルは私を引きずって移動しようとした。

 

「ダメ!!私を引きずると撃たれる!!」

 

「でもあなたを置き去りには出来ない!」

 

「大丈夫、這ってでも移動する!トマホークをお願い!」

 

「・・・分かった、私が移動した所に来て、遠くへは行かないから」

 

「分かった。スモークあるから投げるよ!」

 

「お願い!」

 

私は持ってきていたスモークグレネードを投げる。

煙幕が展開させるとすぐにエルはトマホークを抱えて移動した。

私はエルが着いた位置を確認して銃を杖にして立ち上がる。

 

「ふぅ・・・ぐぅ・・・!」

 

ちょっとでも力を入れると痛い。

だけどそんな事言ってられない。

私は出せる限りの速度で急いだ。

 

「あと・・・ちょっと・・・!」

 

あと少しでエルの位置・・・その時だった。

 

「え・・・」

 

お腹に強い衝撃。

そして口の中に血の味が広がる。

私は気づけば倒れていた。

 

「なに・・・これ・・・」

 

腹部が真っ赤に染まる。

そしてまた焼けるような痛みがくる。

 

「うわぁぁぁ!!!」

 

「ハル!!」

 

「ふぅ、ふぅ、ふぅ・・・!!」

 

「ハル急いで!!こっち!!」

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・!」

 

腕だけで体を引きずりエルの近くに行くとエルが私を引きずり込んだ。

そこは少し坂になっていて敵方からちょうど死角になっていた。

 

「げほっ!」

 

「ハル!!お腹が・・・!!」

 

「うぅ・・・どうなってる・・・?」

 

そこに行くだけで体力を使い果たした。

 

「弾は抜けてる・・・止血しないと・・・!」

 

「げほっ!げほっ!」

 

「苦しいけど頑張って!服捲るよ!」

 

「うん・・・」

 

「大丈夫、今度は綺麗に貫通してる・・・傷口は小さい・・・」

 

私はこのまま死ぬのかな・・・。

そう思ってしまっていた。

トマホークが心配そうにこちらを見る。

まだ治癒魔法を使えるほど体力が回復していないのだろう。

悔しそうな顔をしていた。

 

「緊急!緊急!!リリアかミオ、聞いてる?!」

 

エルは無線に向かって叫ぶように言う。

 

「ハルが撃たれた!足と腹部に銃創!!救難ヘリをすぐ呼んで!!」

 

きっとリリアの事だ私に何か呼び掛けてるだろう。

倒れた時に外れかけたヘッドセットを付け直す。

 

《ハル!!お願い、死なないで!》

 

「げほっ!・・・生きてるよ」

 

《すぐにヘリが来るから!だから頑張って!!》

 

「分かってる・・・」

 

分かってはいる。

だけど・・・とにかく苦しい。

 

「止血剤・・・これで・・・!」

 

粉末状の止血剤を傷口に振りかける。

これがとにかく痛い・・・。

 

「ぐ、うぅぅ・・・!!」

 

「ごめん、痛いけど許して」

 

「だ、大丈夫・・・!」

 

その後は優しく包帯を巻いてくれた。

だが包帯はすぐに赤く染まる。

 

「お願い・・・止まって・・・!」

 

祈るように包帯を巻いていた。

 

「エル・・・いいから敵を狙って」

 

「でも!・・・いや、分かった」

 

「ここを安全化しないと・・・」

 

「・・・任せて。終わらせる」

 

エルは銃を草の隙間から覗かせる。

 

「距離も方位も分かる・・・あとは位置・・・」

 

幸い草のおかげで発見はされていない。

だが相手はゆっくり移動していたとは言え、1キロ以上先の目標を正確に射抜いた。

しかも全部命中させている。

 

「撃ってこい・・・そうすれば分かる・・・」

 

エルはそう呟きながら銃を構えた。

その時願いが通じたのか銃声が響く。

弾丸はこちらには飛んできていない。

別の目標を撃ったようだ。

 

「見えた・・・!」

 

森に銃声が響く。

エルはすぐにボルトを引いて次弾を装填した。

 

「当たった・・・?」

 

「・・・たぶん。木から何か落ちてきた」

 

「木?」

 

「木の上から狙撃してきてた。よくは見えなかったけど緑色だったからギリースーツ着てたのかも」

 

「そっか・・・」

 

「ハル、血は・・・」

 

「たぶん止まってる・・・」

 

包帯は最初に赤く染まったがそれ以上は染まっていない。

 

「良かった・・・」

 

エルは私の近くにしゃがみ込んだ。

 

「ねぇ、エル・・・ありがとね」

 

「ううん。狙撃手としての仕事しただけ。でも、相手が死んだかどうか分からない」

 

「うん・・・」

 

2度も撃たれたせいか私は今にも気を失いそうだった。

だが、痛みは全く消えていない。

おかげで気を失わずに済みそうだ。

 

「痛い・・・」

 

「痛いってことは生きてる証拠だよ」

 

「・・・まぁね・・・」

 

その時無線が入った。

騎士団のヘリだ。

 

《こちらセイバーホーク1、そちらの現在位置は?》

 

「現在位置の座標・・・」

 

エルはGPSを使って座標を伝えていた。

それから10分もしないうちにヘリは到着した。

 

「重傷だから急いで!」

 

「分かった!」

 

「あと何人か来て!それと2機目のヘリも待機してて!」

 

「どうするんだ?!」

 

「賞金首を仕留めたか確認したあと目標の教会に行く!仕事は終わってない!」

 

「了解!コブラチームが君に付く!」

 

「分かった!ハル、病院で安静にしててね!」

 

「・・・分かってる、仕事終わらせてトムキャットをよろしくね」

 

「任せて!」

 

そしてヘリは離陸した。

 

「腹部に貫通銃創と・・・大腿部に銃創!」

 

「点滴の用意だ!」

 

機内は慌ただしく私の治療をしてくれる。

 

「痛み止めを使う、眠くなるが安心しろよ!」

 

衛生兵が私に何かを注射してくれた。

すぐに私は眠くなり、そのまま意識を失った。

次に目覚めたのは病院のベッドの上だ。

 

「・・・・病院・・・」

 

「あ、起きた」

 

隣にはエルが居た。

 

「おはよ・・・」

 

「おはよ。ちゃんと仕事してきたから」

 

「・・・ありがと」

 

その後の話を聞いた。

エルはあの時賞金首の眉間をしっかりとぶち抜いていた。

結局あの賞金首は自分の腕を過信し調子に乗ったところで逆に狙撃されてしまったという事だった。

使っていたのはMk12。

その銃はエルが記念にと貰って帰ったそうだ。

そして人間至上主義教団の教会は想像通り、あの賞金首によって襲撃されていたそうだ。

あの賞金首は人を撃てれば何でもいいという考えだったらしく、とくに教会内部を漁ったりなどはしてないそうだ。

そして、教会の外に出てしまった、もしくは外にいた構成員は数人を除き、失血死だったそうだ。

全員足を撃たれ倒れているところを助けに来た仲間を狙撃、そして同じように・・・。

そして教会内にはどこから撃たれているか分からず、恐怖で閉じこもっていた司祭が居た。

エル達が教会内に踏み込んだ際、まず口にした言葉は「助かった・・・」だ、そうだ。

そのまま司祭は拘束、騎士団が連行していった。

また、教会には前と同じように地下室があり、数人のエルフ達を救出したそうだ。

そして、仕事は完遂。

おまけに賞金首を仕留めたということで多額の報酬まで貰ってしまった。

ミオのSu-30分の金額とさらにもう2機くらい買える金額が来てしまった。

当分お金には困らなさそうだ。

そして、F-14Dも受け取り、今は格納庫で整備中だそうだ。

F-14が2機・・・。

最高の気分だ。

 

「マヤ達は?」

 

「今別の仕事。というかハル。治療費知ってる?」

 

「え?」

 

「賞金首分の8割飛んだ」

 

「えぇ!?」

 

聞くとマヤとリリアが傷を残さないで!!と懇願し弾痕も綺麗に無くしてもらったそうだ。

その整形手術もあり賞金首分が無くなってしまった。

ただの手術なら大した額じゃないのだが・・・傷を無くすような整形となるととんでもない額になる。

・・・あの2人・・・

 

「まぁいいか・・・」

 

「ちなみにハルは運ばれてきてから4日は寝てた」

 

「そんなに・・・」

 

「うん。まぁでも良かった」

 

「助けられたよ・・・あの時1人だったら死んでた」

 

「それは間違いないね」

 

エルはそう笑顔で言った。

それにしても・・・もう数えたら4回は撃たれた・・・。

お腹を2回、肩と足を1回ずつ・・・。

よく生きてるものだ。

私はつくづくそう思いながらベッドに寝転がった。



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空輸のお仕事

「すまない、助かるよ」

 

「大丈夫。それに命の恩人だし」

 

私達は今、前に出会った駆逐艦ハルゼーの甲板に居た。

私は前回の傷がまだ完全には治っておらず、戦闘機に乗って激しい機動は控えろとの事だった。

そして今回は艦長から艦の整備部品を送ってほしいという依頼を受けてそれをブラックホークで輸送してきた。

しかし、一応海賊船と接触ということになるためなるべくバレないように飛行してきた。

途中からハルゼーが監視の王国軍機を警戒してくれていたため、まぁバレてはいないだろう。

しかしマヤは海賊船に近づく事を快く思っておらず少し不機嫌だ。

当たり前だが。

ちなみにこの後、前に警備の依頼を受けたエルフ達の街を作るために尽力しているエルフの少女、カエデの屋敷に物資輸送の依頼がありそちらにも行く。

・・・その物資はFGM-148ジャベリンを発射装置1つとミサイルを2基、何でもいいので口径7.62mm以上の機関銃2基と弾薬を2000発、カエデのメイドの1人が短く室内戦闘に適したカスタマイズのAR-15系ライフルと45口径拳銃を欲して居るということでその小銃と拳銃、あとカエデ本人が携行したいということで私が選んだ拳銃とホルスター、弾薬、マガジンポーチを持ってきて欲しいという事だった。

機関銃と小銃は艦長から報酬という形で弾薬や光学照準器などフルセットで渡してくれるそうなのでそこの調達はなんとかなった。

 

「ところで荷降ろしと給油に時間がかかる。本艦の見学でもどうだ?」

 

「どうする?」

 

「私は別に・・・」

 

「私は見たいです!」

 

「私も」

 

マヤはやはり信用できない部分があるのか警戒気味だが一緒に来たエルフのミオ、獣人のエルは艦内の見学に興味津々だった。

今回、リリアは実家に用事があるということで帰省していた。

・・・今回もいうか、対地兵装満載で。

 

「ここが本艦で最も優秀な部署だ」

 

艦長が案内してくれたのはCICという部屋。

それよりも艦内を見て至る所に書いてある英語、そしてクルー達の話す言葉を聞いて、ここだけ異世界にいるような感覚になる。

 

「すごい・・・」

 

部屋の中はレーダー等、とにかく色々な情報が表示されたディスプレイがあり、クルー達は一人一人何かを監視していた。

 

「どうだ?」

 

艦長は自慢げに聞いてきた。

さっきまで不機嫌だったマヤもCICを見て感動でもしたのか少し機嫌が治っていた。

5分ほど艦長から色々聞いていたりしていた時だった。

 

「艦長!レーダーが何かを補足しました!」

 

「何?」

 

クルーの1人が英語で艦長に話しかけた。

何か少し慌ただしくなる。

 

「何を補足した?」

 

「いえそれがまだ正確には・・・」

 

艦長がヘッドセットを付けたその時だった。

 

「ヴァンパイア、ヴァンパイア、ヴァンパイア!!」

 

「ミサイル捕捉!ミサイル高速、高高度!!」

 

ヴァンパイア。その言葉は辛うじて聞き取れた。

その後のミサイルという単語も。

たしか英語で吸血鬼という意味だったはずだが・・・ミサイル?

 

「スタンダード4基用意!ターゲットにロックオン!」

 

「スタンダード了解!迎撃ミサイル4基、発射に備えます!」

 

「ミサイルはどこから発射された!」

 

「現在解析中!」

 

「対象を識別!!対象は弾道ミサイル!」

 

「弾種はスカッドミサイルです!!核弾頭かは不明!!」

 

「弾道ミサイル、マッハ12で飛行中!」

 

慌ただしくなるCIC。

私達には何が起きているのか全く分からなかった。

ただ、レーダースクリーン上にやたらと高速で移動する赤い光点があった。

 

「ダメです!迎撃できません!!」

 

「クソっ!!艦内を封鎖!核爆発に備えろ!」

 

艦内に警報が鳴り響きアナウンスが流れた。

 

《艦内封鎖!艦内封鎖!!核爆発に備えよ!これは訓練ではない!繰り返す!これは・・・》

 

「弾道ミサイルの軌道から弾着点割り出せました!弾着まで20秒!!」

 

「ブリッジ要員、目を覆え!!」

 

艦長は電話機で何かを伝えたあと手を組んで何かを祈るように呟いた。

 

「神よ・・・救いたまえ・・・」

 

そして数十秒の沈黙の後クルーが艦長に何かを報告していた。

 

「艦長、弾道ミサイルの着弾を確認しました。核爆発は確認できてないそうです。恐らく通常弾頭かと・・・」

 

「弾着点は」

 

「ここです」

 

「こんな森に・・・?いやまて、ここの航空写真はあるか?」

 

「スクリーンに表示します」

 

スクリーンに写真が表示されると艦長は私たちを呼んだ。

 

「ここに建物があるんだが何か分かるか?」

 

「んー・・・教会・・・?」

 

マヤがそう答えた。

確かに教会に見える。

 

「教会に弾道ミサイルなんて・・・罰当たりもいい所ですね」

 

「全くだ・・・発射地点は割り出せたか?」

 

「発射予測地点の解析は完了しています。トマホーク2基を準備中」

 

「了解。すまない、発射予測地点も写真を頼む」

 

「了解です。発射予測地点は・・・この屋敷です」

 

写真に表示された屋敷。

それを見て私とマヤは思わず声を上げる。

 

「ど、どうした?」

 

「ここ・・・知り合いの屋敷」

 

「知り合い!?」

 

「えと、エルフの街を作るために頑張ってる子が居るんだけど、そのエルフの村を出る時にこれで悪い奴らと戦えって弾道ミサイルを渡されたって・・・たぶんカエデさんブチ切れて撃ったみたい・・・」

 

「艦長、たぶんそこ人間至上主義教団の教会」

 

「・・・君らの知り合いに弾道ミサイルは気軽に発射するもんじゃないって言っといてくれ」

 

「了解、言っとくよ」

 

「はぇー・・・私の同志って弾道ミサイル配備してるんですね・・・さすがです・・・」

 

ミオは何かよく分からないところに感心していた。

 

「というか、君たち今からそこに行くんだよな?」

 

「うん。物資輸送でね」

 

「了解・・・。戦術、トマホーク発射中止」

 

「了解、トマホーク発射中止」

 

「これからその座標からの弾道ミサイルについては無視でいい」

 

「無視ですか?」

 

「彼女らの知り合いで悪い連中ではないそうだ。ただし本艦上空を通過もしくは港町に着弾する可能性が少しでもあるなら迎撃する」

 

「了解です。」

 

艦長はクルーに指示を出したあと、CICの中は落ち着きを取り戻した。

 

「すまない」

 

「大丈夫だよ。それよりもういいの?」

 

「大丈夫だ。それより、もう補給は終わる頃だな。次の場所に行くんだろ?」

 

「うん。ありがと。銃まで用意してくれて」

 

「お易い御用だ」

 

艦長に案内されてヘリ甲板まで行き、ハルゼーから受け取った物資を確認して発艦した。

 

「艦長、信頼できるでしょ」

 

「まぁ・・・ハルが信頼するなら信じる」

 

「じゃあ大丈夫」

 

そんな話をしていると後ろからミオが話しかけてきた。

 

「ねぇ、ハルさん。ミサイルが落ちた地点って教会ですよね?」

 

「うん、そうだよ」

 

「そうしたら地下にまた同志が・・・」

 

「・・・あ」

 

ミオから言われるまで忘れていたが地下室にはエルフじゃ獣人達が捕まっている事がある。

・・・教会そのものに直撃していなければ地下はたぶん無事だと思うが・・・。

 

「救助・・・行けないですかね・・・」

 

「・・・マヤ」

 

「・・・行くしかないかぁ・・・位置は?」

 

「機種方位300に向けて。ここら10分」

 

「了解・・・なーんかそっちほうから煙見えるもんね・・・」

 

少し気が乗らないが行くしかない。

何せミサイルが落ちた地点だ。

地獄絵図になっているに違いない。

 

「エル、銃は撃てる?」

 

「この位の揺れなら問題ない」

 

「了解。ミオと・・・私で行くか」

 

「ハル、無茶はダメだからね!」

 

「分かってる」

 

武器はP226しかない。

弾薬はいつも通り9mmRIPなのでまぁ大丈夫だろう。

ヘリはその間にも目標に近づく。

 

「エル、何か見える?」

 

「見える。一応動くものは無いけど・・・下に降りた時は注意して」

 

「了解」

 

「ハル、あそこに下ろすよ」

 

「了解、お願い」

 

ヘリは着弾地点のすぐ傍に降りる。

爆風で木々がなぎ倒されヘリが一機降りれるくらいの広さになっていた。

また着弾地点は教会より少しズレたところにあり、爆風で教会は1部を残し破壊されていた。

そして・・・想像通りだが周りには吹き飛ばされた構成員だったものが転がっている。

 

「はぁ・・・なんか慣れてきた・・・」

 

「慣れるなんて強いですね」

 

「そういうミオは?」

 

「慣れっこです!」

 

ミオはM4を片手に笑顔でそういう。

この場所でよく笑顔が出来るものだ・・・。

 

「地下は無事だといいけど」

 

「うーん・・・生きてはいると思うんですけど・・・」

 

ゆっくりと教会に近づく。

すると近くに倒れていた構成員が小さく呻いた。

 

「うぅ・・・助けて・・・」

 

「今助けますよ」

 

ミオは助ける。

そう言って銃口を相手に向けた。

私は一瞬何をしているのか分からなかった。

次の瞬間引き金を引いた。

森の中に銃声が響く。

 

「ミオ!」

 

「どうせあの傷じゃ無理です。下手に苦しませるくらいなら楽に死なせてあげた方が優しさだと思いますよ」

 

「・・・」

 

ミオの目には感情が篭っているように見えない。

 

「すみません、私の叔父からこう教わりました」

 

「叔父?」

 

「はい、この教団に昔家族を殺されたらしくて・・・昔からこの教団には容赦するな、生かして返すなって教えこまれて・・・」

 

「・・・そっか」

 

私は仕方ないと自分を納得させて教会内に入る。

10分ほど中を捜索してみたが、偶然と言うべきかここには地下室は無かった。

近くに檻のような物もないので本当にただの礼拝所か何かだったのだろう。

ただ、周辺に武器の破片のようなものが落ちており、ここからカエデの屋敷が近いこともあるので襲撃用の拠点だったのかも知れない。

何にせよ、救助しなければならない対象が居ないなら仕事に戻ろう。

私はヘリを呼び、乗り込んだ。

 

「ふぅ、ただの礼拝所だった」

 

「良かったー・・・」

 

「カエデもさすがに分かってるんじゃないかな」

 

「だと信じたいんだけど・・・」

 

ヘリはそのまま離陸して屋敷に向かう。

屋敷の庭には空になった弾道ミサイルの発射機があった。

・・・まぁ撃ったんだから当たり前だが。

着陸するとカエデが迎えてくれた。

 

「お久しぶり!」

 

「久しぶり。言われた品は用意したよ」

 

「ありがとう!ところで、あの子は?」

 

「あぁ、ミオ?この前出先の街で出会った」

 

「へぇー!そうなんだ!よろしくね!」

 

「あ、はい、よろしくです!」

 

カエデは立ち話もなんだから・・・と雇っていたお手伝いに荷降ろしを頼み私達は屋敷の中に案内された。

 

「今街の壁を作ってるの」

 

「へぇ、調子は大丈夫なの?」

 

「うん。国王様が軍を派遣してくれてその人たちも手伝ってくれてるからね!」

 

「あの物好き国王もすごいよね・・・」

 

何せ、エルフがエルフ達の街を作る!って言った瞬間、国王は王国陸軍の戦力の1部を警備と街づくりの支援で派遣したのだから。

おかげて教団は街には全く近づけないらしい。

だからストレートに領主になるカエデを狙ってくるようだが・・・。

 

「まったく執拗いから困ったものよ」

 

「・・・で、撃っちゃったの?」

 

「あ、あはは・・・ついカッとなって・・・で、でも凄いんだよ!」

 

「何が・・・?」

 

「協力してくれてる村人さん、潜伏斥候?っていうのやるって言って教会の位置を教えてくれたんだから!」

 

村人のスキル高くないですか。

 

「まぁ、元が騎士団の偵察部隊だったって言うからね」

 

納得。

なんて話をしていたらトイレに行きたくなりカエデにトイレの場所を聞いた。

 

「あ、えと、そこの角を曲がった先だよ!」

 

「了解、ありがと」

 

私は言われた通りに進むとトイレの近くの部屋から何かが聞こえてきた。

私は興味本位に少しだけドアを開ける。

すると・・・。

 

「恥じよ!我らの同胞への殺戮を!呼ぶがいい!人の敵と!人の敵はお前らだ!」

 

・・・なんだあれ。

よく見たら椅子に教団の構成員が縛り付けられ、横にはメイドの1人が立っていた。

 

「そしてこれが、その代償だ!」

 

メイドはナイフを出し構成員の首を切ろうとした。

私はビックリして声を上げてしまった。

 

「きゃっ!?」

 

メイドは可愛らしい悲鳴を上げる。

・・・でっかいナイフを持って。

構成員は涙目でこっちを見てきていた。

 

「な、何してるの・・・?」

 

「いえ、ちょっと処刑を」

 

「ちょっとじゃないよね!?」

 

私はいくらなんでもやりすぎだと近寄る。

よく見たらビデオカメラまで用意してる。

 

「・・・これ撮ってどうするの?」

 

「教団に送り付けます」

 

「過激派冒険者みたいな事しないで!」

 

私は縛られていた構成員の近くまで行く。

・・・当たり前だが酷く怯えている。

 

「だ、大丈夫・・・?」

 

敵にかける言葉でもないが・・・。

構成員は助けて・・・と目で訴えていた。

 

「法律で無抵抗の相手に危害を加えちゃダメってなってるんだからダメだよ」

 

「はぁ、仕方ないですね・・・命拾いしましたね。私が然るべき機関に責任を持って引渡します」

 

「お、お願いね・・・」

 

私は一安心したところで尿意が増し、急いでトイレに駆け込んだ。

 

「危なかった・・・」

 

私はさっさと用を足してカエデの所に戻ると机にはケーキや紅茶が置いてあった。

 

「どうぞ食べて!あ、そうだハルさん、お願いした品は全部あったから後でお金振り込んでおくね!」

 

「うん。ありがと」

 

「あとこれ・・・使い方教えて貰える?」

 

「うん。せっかくだしいいよ」

 

カエデは私が渡した私とお揃いの拳銃、P226を片手にどう扱っていいか困っていた。

少しの間、ティータイムを楽しみ、私達は庭に出た。

エルやミオは屋敷に居た他のエルフや獣人たちと庭で楽しそうに色々と話していた。

マヤは操縦の疲れがあるので少し寝たいという事で部屋を借りていた。

そのため今日はカエデの家に1泊して明日帰るというコースにした。

 

「そうそう、そう構えて・・・」

 

「こ、こう?」

 

「うん、そんな感じ」

 

1時間ほど拳銃の扱いと射撃の練習をしていたら夕食の時間になった。

久しぶりに平和に夕食が取れる・・・。

私は安心して夕食を楽しんだ。

今日は教団が来ませんように・・・。

心の底からそう願った。



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屋敷から脱出

夕食を食べてカエデの持ってきたケーキと紅茶を楽しんでいた。

 

「美味しいね、これ」

 

「でしょ!村から送られてきたクルミを使ってみたの!」

 

カエデは嬉しそうに言う。

しっとりとした生地にクルミの食感がいい。

 

「はぁー・・・幸せ・・・」

 

マヤは紅茶を飲みながら幸せそうな顔をしていた。

その時だった。

エルの耳がピクっと動き、窓の外をじっと眺めていた。

 

「どしたの?」

 

「静かに」

 

傍に置いてあったKar98kを手に取り窓の外をゆっくりと見た。

 

「・・・黒いローブを来た不審者3人が門の外を彷徨いてる」

 

「黒いローブ・・・」

 

まさしく人間至上主義の連中だ。

やっぱり来た・・・。

 

「クソ・・・何人か入ってきた」

 

「今回は派手に来ないのね・・・」

 

カエデは襲撃に慣れてきたのかそんなことを言い出した。

 

「ど、どうする?」

 

「マヤ、ヘリでカエデとメイドを連れて脱出するよ。ヘリは裏庭だよね」

 

「破壊されてなければ・・・」

 

「分かった、行こう」

 

この前みたいに戦闘に長けたパーティがいる訳でもない。

脱出するのが正解だろう。

だが、なにかやり返したいのかカエデはメイドにある指示をだした。

 

「ハナ、マユ。貴女達の得意な事をして」

 

「得意な事?」

 

マヤはカエデにそう聞いた。

カエデは少し笑いながらこう言った。

 

「・・・狩りよ。2人とも、ウェポンズフリー」

 

「分かりました、お嬢様」

 

すると2人のメイドはスカートの中から集音機能のあるヘッドセット、ComTacIIを取り出して装着する。

そして私たちが持ってきた拳銃もスカートの中から取り出してスライドを引いた。

 

「無線チェック」

 

「感明よし、お姉様」

 

「分かった。マユ、今回捕虜は要らないわ」

 

「分かりました。殲滅戦ですね」

 

「えぇ、手加減無しよ」

 

初めてあった頃の2人と違う・・・。

 

「あはは、驚いた?」

 

「そりゃ前に見た時は拳銃持って震えてたのに・・・」

 

「あのあとお嬢様を守るために修行しました」

 

「はい。王国軍に鍛えてもらいました」

 

「あはは・・・心強い」

 

心強いとは言っても動きにくいメイド服に持っているのは私の渡したP226のみ。

そんな事を考えていたら・・・。

 

「接敵」

 

「後ろに」

 

2人は静かにそう言い私達の前に出た。

目の前の階段からは2人の教団構成員が出てきた。

 

「邪魔です」

 

素早く2発連射する。

弾丸は胸に当たり構成員の1人は崩れ落ちた。

だがもう1人は懐から古いタイプのリボルバー式の拳銃を取り出した。

 

「あら、銃なんて使い始めたのですね」

 

相手は牽制するように連射してきた。

こちらは隠れるところの何も無い廊下。

だがマユと呼ばれたメイドはそのまま前に出て射撃した。

弾は相手に命中し崩れ落ちるがマユにも2発当たった。

 

「マユ!」

 

私が駆け寄るとマユはケロッとした顔をしていた。

 

「え、あ、当たってたのに・・・?」

 

「お客様、今回の服は社交用ですので」

 

「はい。裏地がセラミックとカーボンの防弾仕様です」

 

「何その戦闘用メイド服」

 

「私の手作り!」

 

作ったのアンタかい。

カエデはドヤ顔でそう言う。

 

「私も1着欲しいです・・・」

 

ミオはこのやたら防御力の高いメイド服が気に入ったようだ。

 

「じゃあ作ってあげる!」

 

「ありがとうございます!」

 

カエデは乗り気のようだ・・・。

 

「それにしても遂に銃使い始めましたね」

 

姉の方のメイドのハナは射殺した教団員の拳銃を拾い上げた。

持っていたのはコルトM1848。

パーカッション式のリボルバーだ。

薬莢を持たず、マスケット銃のような銃だった。

この銃はプレミア価格でかなり高く売れる。

 

「ハル様」

 

「何?」

 

「あげます」

 

「え?おっと・・・いいの?」

 

ハナは拳銃をこちらに投げてきた。

 

「はい。小遣い稼ぎにはなるはずです」

 

「そりゃどうも」

 

銃をベルトに指して落ちないようにした。

持ち主には悪いが今月の食費にさせてもらおう。

 

「ハル、ここからどうするの?」

 

ライフルを構えて後方を警戒していたエルがそう聞いてきた。

 

「さっき言った通り、屋敷から一旦逃げる。でも敵の数が分からないから慎重に行こう」

 

「カエデさん達はどうするの?」

 

「ハルゼーまで・・・受け入れてくれたらだけど」

 

「あの駆逐艦!?ハル、一応海賊船なんだよ!?」

 

マヤは大きな声でそう言った。

 

「分かってる。でもあの人達はアメリカ海軍で海賊じゃない。信用出来る」

 

「まったく何がどうしたらそんなに信用出来るのか・・・まぁ、ハルがそう言うなら従うよ」

 

「ありがと、マヤ」

 

「その代わり帰ったら何か奢ってよ!」

 

「任せて」

 

そう話していると下の階の状況を見に行ったハナが帰ってきた。

 

「お嬢様、2階クリア。行けます」

 

「分かった、行きましょ!」

 

後方をマユとエルが警戒し私とマヤがカエデの傍で警護、ハナが先行して警戒という体制を取った。

 

「妙に静かね・・・」

 

「うん。もっといてもいいはず」

 

そんな事を話していた時だった。

ハナに剣を持った教団員が襲いかかる。

 

「っ!!」

 

拳銃を構えて援護しようにも動き回って狙いが定まらない。

 

「狙えない・・・!」

 

銃で敵を狙っているとハナは掴みかかっている男の股間を蹴りあげた。

 

「がぉっ!!」

 

凄い声を上げて男を跳ねる。

すかさずハナは剣を奪い取り男の後ろから胸に剣を突き刺そうとした。

だが男を刺されて溜まるかと必死に剣を抑える。

 

「ハナ、後ろ」

 

エルはそう静かに言い、ハナに近づいてきたもう1人の教団員を撃つ。

慣れた動作で次弾を薬室に送り込んでいた。

乾いた金属音が響く。

 

「ぐぅ・・・!ナイス……ですっ!」

 

ハナはそう言いながら男を転ばし馬乗りになる。

そして全体重を剣に掛けた。

しかし男と女。

教団員は何とか剣を押さえつけていた。

 

「っこの!!」

 

「あォっ!?」

 

ハナは剣を上から思い切り叩く。

すると剣先が浅くだが男の胸に刺さった。

 

「ッ!!!」

 

「ひィッッ!!」

 

2発目で更に剣は深く胸に刺さる。

男は情けない悲鳴を上げた。

そして痛みで力が抜けたのかそこからズブズブと剣が胸に入っていった。

 

「はぁっ・・・はぁっ・・・!」

 

ハナは突き刺した剣を握ったまま荒い呼吸をしていた。

彼女の額には汗で髪の毛がベッタリとくっついていた。

 

「ハナ、大丈夫?」

 

「はぁっ・・・はぁっ・・・大丈夫です・・・行きましょう」

 

ハナは落とした拳銃を拾い上げ、前に出た。

 

「そういえば、カエデさん。書類とか大丈夫なの?」

 

「うん!マユ、持ってるよね?」

 

「はい、こちらに」

 

マユはポケットからUSBを取り出した。

 

「こんなしょっちゅう邪魔されるのに紙で記録なんて残さないよ」

 

「あ、あはは・・・しっかりしてる・・・」

 

たぶんマヤも思っているだろうが、本来エルフは電気機器等は使わない部族だ。

最近は使い始めているエルフもいるが・・・。

それでも少数派だった。

だからカエデのようなエルフは珍しかった。

・・・弾道ミサイルぶっぱなすような所もだが。

 

「ハナ、近くにいる」

 

「了解しました、エル様」

 

エルは鼻と耳が効く。

すぐに近くの敵の気配を感じとっていた。

そして廊下を確認しようとした時、奥から2人出てきた。

 

「ふっ・・・!!」

 

ハナは振りかざされた剣を持つ手を左手で押さえ、腹に向かって数発発砲した。

 

「ぐぅっ!!」

 

教団員は呻き声を上げて倒れる。

すると倒れた奥からもう1人飛び出してきた。

手には禍々しい形をした剣が握られていた。

ハナは左手を相手に向ける。

すると手のひらに小さな魔法陣が出て一瞬だけ暗かった廊下が昼間のように明るくなるくらいの光が魔法陣から出た。

 

「ぐぁっ!!」

 

まともに光を見てしまった教団員は剣を落とし顔を覆った。

そこにハナは弾丸を叩き込む。

頭を撃たれた教団員は崩れ落ちた。

そして後ろに倒れて苦しんでいたもう1人の頭も撃ち抜いた。

 

「わーお・・・容赦ない」

 

「ハナ魔法使えたんだ・・・」

 

「知らなかったの!?」

 

「うん!今知った!」

 

カエデは今の今までハナが魔法を使えると知らなかったようで純粋に驚いていた。

 

「ふぅ・・・久々でしたが使えるものですね」

 

ハナは空になった拳銃の弾倉を横に吹き飛ばしリロードする。

そして近くにあった時計のドアを開ける。

 

「いざと言う時のために準備してて良かったです」

 

「え・・・そんな所にあったの・・・?」

 

「なんでご主人様が知らないの」

 

カエデはハナが時計からショットガンと弾薬を取り出す姿を見てまた目を丸くしていた。

 

「いえ、お嬢様に言うと遊ぶかもと思いまして」

 

「遊ばないよ!」

 

一体私達の見てないところでカエデはどういうキャラなのだろうか・・・。

そう思っていた時だった。

1階からまた教団員が登ってきた。

それを素早くハナはショットガンで撃った。

 

「うぇ・・・」

 

「・・・やりすぎ」

 

詰まっていたのはスラッグ弾。

直撃を受けた教団員の頭に大きな穴が空いていた、

超グロい。

 

「これくらいがちょうどいいんです」

 

ハナはシェルを再装填しながらそう言った。

1階まで降りたらあとは裏口からヘリのある庭に向かうだけだ。

 

「お嬢様、ここは私が守ります。ヘリに向かってください」

 

「で、でも!」

 

「勘違いしないでください、飛べるようになったらすぐに行きます。エル様、無線は繋げますか?」

 

「うん。大丈夫だよ」

 

「了解しました。飛べるようになったら教えてください」

 

「了解」

 

ハナは玄関が見える位置に陣取り外を警戒した。

私達はその間にヘリに急ぐ。

幸いヘリの近くに教団員は居らず、すぐに乗り込めた。

 

「マヤ、行こう」

 

「了解!」

 

「ハルさん、逃げたあとは?」

 

「一旦、海の上の駆逐艦に行く。そのあとそこの人にカエデの警護をお願いしてまたここに戻ってくる」

 

「異世界の軍隊に任せるのね!分かったわ!」

 

「抵抗はないの?」

 

「うん!それに面白いじゃない、異世界の人も暮らせる街を作るのって!」

 

カエデは嬉しそうにそう言った。

あの駆逐艦もきっとこの街作りを助ければ海賊船と呼ばれなくなるかも知れない。

私はそう期待した。

 

「よし、エンジンスタート・・・」

 

その時だった。

無線機からハナの声がした。

 

《はぁっ・・・はぁっ・・・やらかしました》

 

「ハナ?」

 

《はぁーい、人外さんと裏切り者さーん》

 

妙に高い男の声。

・・・捕まったか・・・!

 

「ハル、助けに行く」

 

「待って、私も行く」

 

「何言ってるの?!」

 

「見捨てれない」

 

「拳銃しかないのに無茶だよ!」

 

「ハル様、使ってください」

 

「え?」

 

マユはスカートの中からさっき渡したMk18を取り出した。

そのスカートの中どうなってるんだ。

 

「あ、ありがと」

 

「・・・お姉ちゃんをお願い・・・ハル様」

 

「任せて。必ず連れ帰る。マヤ、何時でも飛べるように」

 

「あーもう!分かったよ!無茶はダメだからね!!」

 

「分かってる」

 

ヘリを降りて警戒しながら建物に入る。

そして2階に上り庭を見渡せる位置に着いた。

 

《人外が人外の街を作ろうなんて考えるのが間違っているのですよ。街は人だけの物。人外は野山で暮らすべきです》

 

《そういうアンタらが野山で暮らすべきですよクソッタレの原始人め》

 

「見つけた。噴水の近く」

 

「確認」

 

エルは気づかれないようにライフルを構える。

私は階段と廊下を警戒した。

 

《ほら、貴方達の仲間を殺されたくなかったら出て来なさい。エルフの人外》

 

《お嬢様がそんな事で出てくるわけないですよ。頭沸いてるんですか?》

 

《うーん・・・口汚いですねぇ・・・》

 

《ぐっ・・・!!》

 

無線機から何かを殴る音が聞こえハナのうめき声のような声が聞こえた。

 

「・・・あの野郎ハナを殴りやがった・・・!」

 

エルは怒りに震えた声を出す。

 

「撃てる?」

 

「撃てない、アイツが後ろを振り向きさえすれば・・・」

 

その時こちらの考えが分かっていたのかハナはこう言った。

 

《女の子を殴ることしか出来ないのですね。それも人間の女の子を。貴方みたいな低脳蛆虫が私と遊んでくれているおかげで仲間が貴方を後ろから狙える位置に着く時間を稼げました》

 

《なにっ!?》

 

ハナを殴った男は後ろを少し立って振り返った。

射線クリア。

 

《ふふっ、真正面ですよバーカ》

「真正面だよ、バカ」

 

ハナとエルの声が被る。

それと同時にエルが発砲した。

弾丸は男の首を撃ち抜いた。

 

《かっ、あぁぁぁ・・・!!》

 

即死できずに失血と気道を損傷した事で苦しむ声がする。

 

《苦しんで死ね》

 

「ハル、行こう」

 

「うん」

 

私はエルと階段を駆け下りハナのところに向かう。

ふと周りを見ると増援の教団員が集まり始めていた。

ハナの手に巻かれていたロープを切り、ライフルを手渡す。

 

「ありがとうございます」

 

「お易い御用だよ。これで血を吹いて」

 

ハンカチをハナに手渡した。

 

「ありがとうございます・・・いたた・・・」

 

「鼻、大丈夫?」

 

「ちょっと鼻血が出てるだけです。大丈夫」

 

そして私達は威嚇するように発砲しヘリに逃げる。

ヘリは何時でも飛べる状態だった。

 

「お待たせ!」

 

「ハナ!」

 

「お姉ちゃん!」

 

「お待たせしましたお嬢様。ごめんね、マユ。心配かけた」

 

「ううん、大丈夫・・・」

 

それでもマユは姉のことが心配だったのか涙目で抱きついていた。

 

 

「ふぅ・・・カエデ、ここの地形を変えていい?」

 

「・・・いいわよ。私もそうして欲しかったわ。この屋敷を壊すのは勿体無いけど・・・」

 

「あの・・・ハル?何する気・・・?」

 

「さて、ここでクイズです」

 

「なに!?」

 

「ハルゼーに火力支援を要請したらどうなるでしょーか」

 

「あぁ・・・そゆこと・・・」

 

マヤは私の考えている事が分かったようだ。

ハルゼーはこの近くの洋上にいる。

そしてここは主砲の射程内。

私は無線をハルゼーに繋ぐ。

 

「こちらエンジェル0-1、駆逐艦ハルゼーへ」

 

無線はすぐに繋がった。

出たのは艦長だ。

 

《こちらハルゼー。火力支援の要請かな?》

 

「なんで分かったの?」

 

《こんな事もあろうかと無人機を飛ばしていたんだ》

 

「なるほど。さすが艦長」

 

《さて、ご注文は?》

 

「効力射の1番強いヤツを適当にお願い」

 

《了解した!戦術、主砲発射。方位角2640、射角205》

 

《戦術了解、主砲発射。方位角2640、射角205。撃ち方用意!撃て!!》

 

無線機からは何発も発射される砲弾の音がした。

 

《こちらハルゼー、射撃終わり。初弾弾着まで30秒》

 

「了解。マヤ、砲弾が飛んでくるから少し離れて」

 

「りょーかい!」

 

下を見ると教団員が何人も屋敷に突入していった。

だがそこには今から砲弾が降り注ぐ。

 

《初弾だんちゃーく・・・今!》

 

庭の噴水に砲弾が直撃し土煙と水柱が上がる。

 

「あぁぁぁ!!いきなりアレにぶつける!?お気に入りだったのにぃぃ!!」

 

キャビンではお気に入りだった噴水をまさか初弾で吹き飛ばされると思ってなかったカエデが頭を抱えていた。

その間にも砲弾は次々と着弾する。

カエデには屋敷に当たってもいいと許可を取ったがハルゼーは気を使ってか屋敷に1発も当ててこない。

それに気づいた教団員は弾着の合間を縫って屋敷に逃げ込む。

 

《最終弾だんちゃーく・・・今!》

 

《エンジェル0-1、効果を評定してくれ》

 

「こちらエンジェル0-1、効果は・・・今ひとつ、屋敷に砲撃の合間を縫って逃げ込まれた。屋敷を撃って」

 

《屋敷?いいのか?》

 

「家主から許可貰ってる」

 

《了解した。戦術、トマホーク4機用意。屋敷を狙え》

 

《トマホーク了解。巡航ミサイル4機に諸元入力、VLS、発射に備えます》

 

「マヤ、次はトマホークが来る」

 

「わーお・・・」

 

「ハル、手加減してあげて」

 

「する必要ある?」

 

「ないと思います!」

 

「だよね!」

 

私とマヤ、エル、ミオはそう言って笑いあった。

 

《エンジェル0-1、本艦よりトマホークが発射された。直ちに退避しろ》

 

「了解。マヤ、少し高度あげて」

 

「了解!」

 

さっきより高度を上げてホバリングする。

そして数十秒後、次々とミサイルが屋敷に着弾した。

屋敷は完全に崩壊し瓦礫の山になった。

 

「わーお・・・」

 

「ふふ、マヤ、そのわーおって口癖になってない?」

 

「え、そ、そうかな・・・」

 

私がそう言うとマヤは少し顔を赤くした。

 

《エンジェル0-1、効果評定を待つ》

 

「こちらエンジェル0-1、やりすぎだよ。火力支援感謝」

 

《ふっ、了解した。この度は本艦の火力支援サービスをご利用いただき誠にありがとうございます。次回のご利用を心よりお待ちしております》

 

艦長は笑いながらそう言い無線を切った。

 

「ね、気さくな艦長でしょ」

 

「ま、まぁね・・・でも、悪い人じゃないのは分かってるから。ハルを助けてくれたし」

 

マヤもあの駆逐艦のことを信用してきたようだった。

 

「それじゃ、ハルゼーに向かおっか」

 

「うん!よろしくね!ハルさん!マヤさん!」

 

「まっかせて!」

 

ハルゼーまでここから30分。

・・・今日は疲れた。



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帰宅

「ハルゼー、こちらエンジェル0-1。合流地点まであと5分」

 

《こちらハルゼー、了解。そちらの機体を確認したら地上のチームがフレアを上げる》

 

「了解」

 

カエデ達を襲撃を受けた屋敷から脱出させて今は駆逐艦に保護してもらう為に駆逐艦のクルーと合流しようとしていた。

本当は船に直接行くはずだったのだが、近くを王国軍の哨戒機が飛行していたため、森の中で合流することになった。

私達まで隠れなければならないのは面倒ではあるが仕方ない。

 

「これ、王国軍に見つかったら私達も危ないんじゃ・・・」

 

「大丈夫、ここは対空ミサイルの射程内だから」

 

「なにその目撃者を消せば大丈夫みたいな理論!!」

 

「マヤ、バレなきゃ犯罪じゃないんだよ」

 

「そういう問題じゃない!!!」

 

コックピットでそんな話をしながら飛ぶ。

真夜中の森は暗くて不気味だ。

 

「はぁー・・・この森の上飛ぶの怖いよ・・・」

 

「同感」

 

早く帰りたい。

そう思っていると1キロくらい先に赤いフレアが上がった。

駆逐艦のクルーだ。

 

「見つけた」

 

「だね!はやく行って帰ろ!」

 

そのままフレアの発射地点に向かうと灰色のSH-60が何時でも飛べる状態で居た。

その周りには駆逐艦のクルーらしき人影が。

 

「降りよ」

 

「了解!」

 

周囲の木に気をつけてゆっくりと着陸する。

今日は満月だ。

真夜中とは言え視界はある程度確保出来た。

着陸するとハルゼーに乗っていた医者のベルが来た。

 

「この子?」

 

「うん、そうだよ」

 

「よ、よろしくお願いします!」

 

「うん!よろしく!これからあなたの街づくりを合衆国海軍が全力で支援するから!」

 

「ありがと!」

 

ベルとカエデが話をしている時にふと隣のヘリを見た。

パイロットは2人とも暗視装置を持っていた。

そして機体の尾部にNAVYという文字。

やはり、異世界から来たんだなと感じる。

 

「じゃあまたね!ハルさん!マヤさん!」

 

「うん、またね。何時でも依頼してくれれば物も運ぶし守るよ」

 

「ありがと!心強いよ!」

 

「マヤ、行こう」

 

「了解!」

 

離陸して帰路に着く。

ハードな1日だった。

 

「ふぁ・・・眠い・・・」

 

「私もだよー・・・帰ったら寝よ!」

 

コックピットではお互いに大あくびをしていた。

 

「このまま何も無ければいいけど」

 

「やめてくださいよエル!森の上飛んでるんだし!」

 

「何か起きない為にちゃんと見ててよミオ」

 

「分かってます!」

 

ヘリは来た時と同じく真っ暗な森の上をテキサスに向けて飛ぶ。

何か出てきそうな雰囲気だ・・・。

 

「帰ったらどうするの?」

 

「早く寝て、明日は休む。皆で何か食べに行く?」

 

「賛成!」

 

「私も行きます!」

 

「私も」

 

「じゃあみんなで行こ。どこに行きたい?」

 

帰ったあとの話をしながら飛行を続ける。

そんな時、ガンナー席で下を監視していたエルが何かを見つけた。

 

「ん・・・何あれ」

 

「何かあった?」

 

「ハル達から見て9時の方向、下に何か・・・」

 

「見間違いじゃないですか?」

 

「犬の獣人舐めないで。臭いも感じる」

 

私はコックピットの窓から下を見た。

すると確かに何かいる。

暗い森の奥に赤く光る2つの点のようなものを見つけた。

目・・・?

 

「まさか・・・!」

 

エルは何かを感じ取り大きな声を出した。

 

「マヤ!今すぐ上昇して回避!!」

 

「え!?」

 

「翼竜!!」

 

エルがそう叫ぶと同時に森から二匹の翼竜が上がってきた。

あれは航空機の素材を好んで食べる翼竜・・・。

しかも低速のヘリがよく狙われるのでチョッパーキラーとかいう俗称が付けられていた。

夜のせいで黒い色の翼竜は視認しにくい。

 

「ミニガンで牽制します!!」

 

本来であればこの機体にミニガンなど搭載出来ないが、捜索用の窓と増槽などを載せていたスタブウイングを外しそこにミニガンを搭載していた。

見た目は普通のブラックホークに洋上迷彩を施した感じだ。

 

「M61積めてて良かったね!」

 

M61とは7.62x51mm弾の徹甲弾だ。

ボディーアーマーのプレートくらいならぶち抜ける性能だ。

 

「喰らえ!!」

 

咆哮のような銃声が響き弾丸がばら撒かれる。

 

「うそ、弾かれた!?」

 

「後ろどうなってるの!?」

 

「翼竜に向けて撃ったんですが効果無しです!!」

 

「クソっ!!」

 

「どうする!?」

 

「とにかく街の防空圏まで引きずり込めば対空ミサイルで落としてもらえる!そこまで逃げるよ!!」

 

「了解!!」

 

「私は近くの航空機に援護求めてみる!!」

 

私は無線をリスクを承知で全周波数にする。

この時間帯に戦闘機が近くを飛んでいるとも思えないが・・・。

それに、空賊や山賊にも聞こえてしまうがこの際仕方ない。

 

「メーデー!メーデー!メーデー!こちらエンジェル0-1!!現在二匹のチョッパーキラーに追尾されてる!至急救援求む!!繰り返す・・・!」

 

何回も無線に向かって必死に叫ぶように言った。

 

「ダメ追いつかれる!!」

 

「マヤ!!フレア撒いて!!」

 

「フ、フレア!?」

 

「生き物なら火は怖いでしょ!!」

 

「わ、分かった!!」

 

エルからフレアを撒くようように言われマヤは急旋回しながらフレアを撒き散らした。

さっきから高機動を繰り返し機体から軋む音がする。

 

「効果あり!!」

 

「了解!もっかい行くよ!!」

 

もう1度旋回しながらフレアを撒く。

翼竜が驚き少しだけヘリから離れた。

その時だった。

 

《こちらエンジェル0-2。ハル、まだ生きてる?》

 

「リリア!?」

 

《あら、元気みたいね。翼竜に追われてるの?》

 

「そう!今どこ!?」

 

《そうね・・・もう近くよ》

 

そうリリアが答えた直後だった。

どこからともなく飛来した2発のミサイルが翼竜をバラバラに砕いた。

 

《スプラッシュ》

 

「イケメンかよ・・・」

 

《ふふ、後で何か奢りなさいよ》

 

その直後、爆音がして真上を音速でフランカーが飛び去っていった。

 

「カッコつけすぎだよ・・・まったく」

 

「私今惚れそうでした・・・」

 

《ふふん!今日は機嫌がいいから!》

 

「また何があったのか・・・」

 

《ふふ、聞きたい?》

 

「いや面倒くさそうだからいい」

 

《なんでよ!ていうか聞いてよ!!》

 

「どっちだよ・・・」

 

リリアはそのまま機嫌が良い理由を話した。

家に帰った理由はいつも通りお見合いの話だったそうだ。

そしていつも通りまずは音速で父親の執務室の横を飛び去り屋敷の窓ガラスを全て粉砕し庭にあった父親のお気に入りの盆栽棚に空対地ミサイルをぶち込んだそうだ。

父親は泣きながら頼むから1回だけ見合いをしてくれ、それ以上の事は求めてないからと懇願してきたので1回だけ見合いを受けたそうだ。

するといつも通りのイケメン君が居たそうだが、どうやらちょっとだけリリア好みだったそうだ。

おまけに本人も戦闘機乗りで乗っているのはSu-35BM。

つまり、リリアと同じ戦闘機に乗っていた。

そこで2人は意気投合して連絡先も交換したそうだ。

・・・つまりはリリアに春が来たということだ。

 

「・・・惚気話かつまりは」

 

《ち、違うわよ!!》

 

「それにしてもお父さん可哀想・・・」

 

「屋敷の窓ガラス全部割られて趣味を空対地ミサイルで爆破され・・・」

 

「毛根死滅しそう」

 

《大丈夫よ、私が帰る度に薄くなってきてもう無いから》

 

「リリアのせいじゃんそれ!!」

 

リリアのお父さん南無三・・・。

私は心の中でそう思った。

 

「まぁ、リリアもこれで落ち着くって感じ?」

 

《どうかしら・・・結局相手も企業の御曹司って感じだし・・・》

 

「飛ぶ機会減りそうだもんね」

 

《そうなのよね・・・》

 

「ちなみに相手は何してるの?」

 

《ミサイルのメーカーよ。異世界から入ってきたミサイルの生産と独自に新しいミサイルを開発してるんだって》

 

「へぇー」

 

《もうちょっとしたら新しい製品出すみたいよ。翼竜とかの魔獣のみを識別してロックオンする対生体誘導ミサイルだって》

 

「また凄いのだすね」

 

《逆に飛行機とかは攻撃出来ないらしいけどね》

 

使い道が難しそうだが、狩りをする時にはいいかも知れない。

 

「そういえばリリア、よくこんな時間に飛んでたね」

 

《私も帰り道だったの。思いのほか話が盛り上がっちゃって》

 

「幸せそうで良かったよ」

 

《そ、そんなんじゃないわよ!》

 

「その割には嬉しそうだけど」

 

《う、うっさい!》

 

その後はリリアの護衛のお陰で何事もなく空港へとたどり着けた。

 

「ホントにありがと。助かった」

 

「いえいえ。ホントにいいタイミングで良かったわ」

 

「明日は何か奢るよ。皆で何か食べに行こうって言ってたし」

 

「ほんと?じゃあ、お願い!」

 

人気の少なくなった道を歩き家に帰る。

途中の戦闘で疲れたのかミオはほとんど眠りながら歩いていた。

 

「ただいまー」

 

「おかえりなさい、ご主人様!」

 

「まだ起きてたんだ」

 

「うん、眠れなくて・・・。それに帰りも遅いから・・・」

 

出迎えてくれたのはこの前の救出の時に重傷だったエルフ。

名前は私と同じハルだ。

ハルは同じ名前だと呼びにくいし、この家でメイドをしたいという事で私のことはご主人様と呼ぶようになった。

 

「そっか。明日は皆で出かけるから今日は寝よ」

 

「ご主人様と寝ます!」

 

「それは私の特権なの!!」

 

マヤがハルに絡む。

 

「いつからそんな特権出来た」

 

「生まれた時から!」

 

「怖い」

 

「ミオ、ベッド行くよ」

 

「ふぁーい・・・」

 

エルはミオを連れて寝室に向かっていった。

 

「しっぽもふもふですー・・・」

 

「や、やめ・・・!尻尾は・・・!あっ、ちょっ!耳もダメ!!」

 

「んへへ〜・・・」

 

寝ぼけたミオはエルの尻尾や耳を触りまくっていた。

 

「あんな事したい!」

 

「私もご主人様とシたい!」

 

「おい1人字がなんかおかしかった」

 

身の危険を感じてきた・・・。

 

「もうなんでいいから寝させて・・・疲れた・・・」

 

私はクタクタだったので寝室に直行した。

 

「あ!ご主人様!お風呂!」

 

「明日朝入る・・・」

 

「わっかりました!」

 

元気な子だ・・・ホントに・・・。

私は疲れきっていたせいかベッドに寝転んだ瞬間意識が飛んだ。

 

「ん・・・んん・・・」

 

差し込む朝日で目が覚める。

 

「ふぁぁ・・・」

 

背伸びをしながら起きるとマヤはまだ爆睡していた。

リリアはいつの間にか起きて同じようにシャワーを浴びてきたのか髪の毛を乾かしていた。

 

「おはよ・・・」

 

「あら、おはよ。よく寝てたわね」

 

「疲れてたから・・・。お風呂行ってくる」

 

「はーい。あ、お風呂ならあのエルフの子が準備してくれてるわよ」

 

「分かった、ありがと」

 

私は着替えを持って浴場に向かう。

浴場に着くとハルが用意してくれたのか浴室内は程よい暖かさがあった。

 

「なんだか・・・お風呂に入らない日があるのダメだよね・・・」

 

私は服を脱ぎながらそう呟いた。

たまにだがこうやってもう朝でいいやとなる事があった。

女の子としてどうかと思うが・・・。

 

「はぁー・・・気持ちいい・・・」

 

体を洗って湯船に浸かる。

お湯の温度も丁度いい。

 

「今日はどこに行こうかな・・・」

 

近くに確かコーヒーの美味しいカフェがあった。

そこで軽く軽食でも食べるのがいいかも知れない。

あとは買い物でも行こう。

 

「賑やかになったし楽しいよね」

 

大人数で行くのも楽しいだろう。

私はそう思いながら湯船から上がる。

体も温まり気持ちいい。

そして脱衣所に出た。

すると・・・。

 

「はぁ・・・はぁ・・・これがご主人様が1日着てた服の香り・・・ふぁ〜・・・」

 

・・・・・・・・・・

 

「ほんのり汗の匂いとご主人様の甘い香りがマッチして最高です・・・ふぇへへへ・・・」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何してんの???

 

「おほっ・・・!これは・・・ご主人様の・・・!!」

 

ハルは私のパンツを持ち上げ匂いを嗅ごうとしていた。

 

「ちょ・・・」

「あんた何してんの」

 

私が止めに行こうとした時、同じように風呂に入りに来たエルがハルに話しかけた。

 

「あんたそれ、ハルのでしょ」

 

「はい、ですから私のです!」

 

「名前が一緒なだけで違う。この変態」

 

「あぁん!その目最高ですぅ!」

 

・・・なんだこの変態は!!!

 

「はぁー・・・見なかったことにしてあげるからそれ戻しなさい」

 

「お、お願いです!せめて!せめて、ここの匂いだけは!!」

 

「それを止めろっつってんのが分かんないの!?」

 

「あぁん!ひどい!!」

 

エルはハルから私の下着を奪い取り元の位置に戻してくれた。

 

「次やってるの見たらハルに報告するから。ハルならきっとアンタを追い出すよ」

 

「ご、ご主人様はそんな人じゃないです!」

 

この時点で既に君を追い出そうか追い出さまいか本気で考えてるよ。

もし私を命の恩人だからとそういう感情を持っているのなら直接命を救ったトマホークに持つべきでは・・・。

私はそう思った。

 

「・・・そこどいて」

 

「ご、ご主人様!お風呂どうでしたか?」

 

「気持ちよかったよ。入れてくれてありがと」

 

「お役に立てて嬉しいです!」

 

ハルは小走りで浴場から出ていった。

 

「・・・どうせ全部見てたでしょ」

 

「最初からね・・・」

 

「まったくあの子は・・・」

 

「ありがと、エルのお陰で助かった」

 

私は何となく撫でたくなりエルの頭を撫でる。

獣人とは言っても、顔はちゃんと人の顔でただ頭にその動物の耳が生えている。

それでも、柴犬の獣人であるエルは犬のような可愛らしさがあった。

 

「ちょ、ちょっと・・・撫でないで・・・」

 

エルは顔を赤くしながらそう言うが尻尾は嬉しそうにブンブン振られていた。

 

「口ではそう言うけど尻尾は正直だね」

 

「う、うるさい!私はお風呂行く!」

 

エルは顔を真っ赤にして風呂に入っていった。

 

「可愛いなホント」

 

「くぅーん・・・」

 

「トマホーク?」

 

エルを撫で回しているのを見たのか尻尾が垂れ下がったトマホークが悲しそうな声を上げてこっちに来た。

 

「よしよし、トマホークが1番だよ。私の戦友だから」

 

撫で回してやると嬉しそうに尻尾を振っていたがトマホークはよく見たら私の体を見ながら嬉しそうにしていた。

私は今バスタオル1枚だが、若干はだけて胸の辺りが見えそうになっていた。

 

「ト、トマホーク・・・?」

 

トマホークはじーっと胸の辺りを見ている。

 

「このエロ犬め・・・」

 

「わふ?」

 

私何も知りませんみたいな穢れなのない目でこちらを見るが何故かチラチラチラチラ胸を見ていた。

早くバスタオルはだけろと言わんばかりに・・・。

バスタオルを直してさっさと服を着ようと思ったがそれをまたトマホークはじっと見ていた・・・。

 

「あっち行ってて」

 

「わぅーん!!くぅーん!きゅーん!!」

 

「こんな時に必死の抵抗か貴様!確信犯じゃん!」

 

トマホークはモップのようになり抵抗していた。

だが、脇の辺りを持ち上げて外に出した。

トマホークは下ろしてと言わんばかりにこちらを見るが問答無用だ。

 

「次覗きに来たらおやつ抜きだから」

 

「・・・わふ」

 

どうやらおやつと覗きを天秤にかけた時おやつが勝ったようでそこからは大人しくなった。

 

「はぁー・・・朝から忙しい・・・」

 

そう呟くが、人も増えて賑やかになり楽しいのも本音だ。

今日は皆で出かける。

私はその事を考えながら着替えた。

 



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遊覧飛行

「今日は暇・・・」

 

特に何もすることが無く、リビングのソファーに座りながらテレビを見ていた。

 

「いいじゃないですかご主人様!こんな日もありですよ!」

 

「まぁね・・・ふぁぁ・・・」

 

今日はリリアとマヤ、ミオは3人で街に買い物に出かけていた。

家にいるのは私とハル、エル、ルイだった。

ルイはトマホークと遊んでおり、エルは窓際でボケーっとしていた。

たぶん寝ているが。

 

「そういえばご主人様、私を戦闘機に乗せてくれる約束してくれたじゃないですか!」

 

「あ、そういえばしてたね」

 

「乗りたいです!」

 

ハルは洗濯物を畳む手を止めキラキラした目でそう言ってきた。

ちょうど、F-14Dが格納庫に届いたばかりで乗っていないしいい機会かもしれない。

 

「それじゃ、行く?」

 

「行きます!」

 

私はリリアとマヤにちょっと飛んでくると連絡し窓際で全く動かないエルに一言声をかけた。

 

「エル、ちょっと出かけてくるね」

 

「すー・・・すー・・・」

 

「・・・寝てますね!」

「寝てるね。まぁ今日は暖かいし」

 

とりあえずポンポンと頭を撫でてやると耳が少しピクンっと動いた。

可愛い。

 

「むー・・・私も撫でられたいです・・・」

 

「頭?」

 

「ここをお願いします!」

 

何を思ったのかスカートをたくし上げ始めた。

 

「本気で言ってるならミサイルに括りつけて飛ぶよ」

 

「そ、そのゴミを見る目・・・最高です・・・」

 

「・・・乗せるのやめるよ?」

 

「ごめんなさい冗談です!」

 

「・・・冗談に聞こえないんだけどね・・・」

 

あの助けた時の感じはどこに行ったのか・・・。

まぁ重傷だったのもあるが・・・。

 

「とりあえずフライトスーツは・・・私のでいっか」

 

「ご、ご主人様のスーツ・・・」

 

「・・・匂いを嗅ぐな匂いを」

 

頭を叩いて止めさせる。

 

「とにかくさっさと着替えて」

 

「わっかりました!」

 

私達はフライトスーツに着替えて、空港へ向かう。

 

「ご主人様、なんだかちょっと嬉しそうですね!」

 

「ん?なんで?」

 

「そんなオーラ出てます!」

 

「オーラね・・・まぁ実際ちょっと嬉しいよ。こんなド変態になるとは予想外だったけど助けた時にした約束が果たせるし」

 

「・・・あの時は本当に助かりました」

 

「いいよ。人助けも仕事のうち」

 

今日は受付を通さずに格納庫に向かう。

入ると私の可愛い可愛いF-14が2機並んでいた。

来たばかりのF-14Dは最初の整備を受けてピカピカだ。

 

「乗るよ」

 

「あ、はい!」

 

タラップを登ってコックピットに乗り込む。

そこからトーイングカーでエプロンまで引き出してもらった。

 

「後ろ、よろしくね」

 

「任せてください!」

 

私はエンジンをスタートさせる。

聞きなれたF-14のエンジン音・・・それもF-14Dの。

懐かしい音だ。

 

「回転数・・・よし。計器・・・異常なし。後ろは?」

 

「チェックリスト通り見ましたが大丈夫です!」

 

「了解。じゃあ行くよ」

 

管制に許可を貰いタキシングする。

今日は少し風が強い。

 

「いいお天気ですね」

 

「うん。ポカポカ。どこに行きたい?」

 

「とりあえずご主人様の飛びたい方向にお願いします!」

 

「了解」

 

念の為、空賊に遭遇した場合に備えてサイドワインダーとスパローを2発ずつ搭載してきた。

戦闘をする気は無いが、あって困るものでもない。

 

《エンジェル0-1、前方のトーネードが離陸したら滑走路に進入してください。進入後は滑走路上で一時停止》

 

「トーネード離陸後、滑走路に進入、滑走路上で一時停止。エンジェル0-1」

 

前にはトムキャットと同じ可変翼の戦闘機、トーネードが居る。

爆装を施しているので仕事だろう。

 

「ご主人様!前の戦闘機ってなんですか?」

 

「トーネード。えっと・・・異世界のイタリアって国が開発した戦闘機らしいよ」

 

「お詳しいですね・・・でもカッコイイです!」

 

「可変翼は正義」

 

なんて話してる間にトーネードは滑走路に進入、離陸した。

私達もそれに続き滑走路に入る。

 

《エンジェル0-1、離陸を許可》

 

「離陸許可、エンジェル0-1。行くよ」

 

「了解です!」

 

アフターバーナーに点火して急加速する。

速度は直ぐに離陸速度に達した。

 

「ギアアップ・・・ちょっとハイレートクライムするから」

 

「はいれーと・・・うわっ!!」

 

操縦桿を引いて約40度の角度で急上昇した。

いきなりの急上昇にハルは短い悲鳴を上げた。

 

「ご、ご主人様!びっくりしますよ!!」

 

「ふふっ、びっくりした?これから雲の上まで上がるよ」

 

そのまま上昇し、高度は25000フィートに達する。

キャノピーの上は雲のない青空。

 

「綺麗・・・」

 

「でしょ。この眺めはいつ見ても最高だよ」

 

「はい!最高です!」

 

「良かった、喜んでくれて。次は・・・どうしよ」

 

「あの、お願いいいですか?」

 

「うん、いいよ」

 

「私の・・・村に飛んでくれませんか?」

 

「村・・・」

 

ハルの居たエルフの村は襲撃を受けて壊滅していた。

だがハルはその中連れ去られ状況を見ていないのだろう。

 

「分かった。案内して」

 

「えと・・・テキサスから北東に進んだ森の中です」

 

「了解。」

 

降下して森を目指す。

 

「・・・ねぇ、村に行ってどうするの?」

 

私はどうしても聞きたい気持ちを抑えきれずに聞く。

 

「村の人に・・・祈りを捧げないと・・・です」

 

「・・・了解」

 

私はなるべく速度を落として飛行した。

ハルに言われた森は目の前だ。

 

「このあたり?」

 

「えと・・・少しだけ左に・・・」

 

「了解」

 

少しだけ左にロールしてラダーを踏む。

戦闘機はゆっくりと左に曲がった。

 

「このまままっすぐです」

 

「了解。もうちょい速度落とす?」

 

「大丈夫です!」

 

私はそのまま飛行を続ける。

すると下に開けた場所が見えてきた。

・・・壊れた建物も。

 

「・・・」

 

徹底的に破壊され、焼かれたような跡があった。

コックピットのミラーで後ろを見るとハルは手を組み祈りを捧げていた。

私も心の中で祈る。

 

「・・・ありがとうございますご主人様!」

 

「ううん。大丈夫。次はどうする?」

 

「もう満足したのでご主人様の飛びたい方向に!」

 

「了解。とは言っても・・・燃料そんなに積んでないし帰ろう」

 

燃料計は半分以下を示していた。

頃合だろう。

 

「了解です!」

 

「じゃあ帰るよ」

 

旋回して街を目指す。

久々ののんびりとしたフライトが出来た。

 

「ご主人様、今日はありがとうございました!」

 

「ううん。私も飛べて楽しかった」

 

「その、村に人にもお別れ出来たので良かったです」

 

「ちゃんと長生きして、村の人の分まで」

 

「分かってます!」

 

そして帰ったあと何か食べに行こうと話しながら飛ぶ。

するとレーダーを見ていたハルが何かに気づいた。

 

「あれ?ご主人様、なんか変な動きしてる飛行機が・・・」

 

「え?」

 

MFDを弄ってレーダーを表示する。

すると確かに右へ左へとフラフラ飛ぶ光点があった。

まるで制御不能のように・・・。

街の周波数に合わせた時に意味を理解した。

 

《離陸準備中の機体は注意してください!タンカーが緊急着陸します!》

 

《タワー!注意しろったってありゃ制御不能だぞ!!》

 

《滑走路から離れろ!!1mでも遠くに逃げろ!!》

 

遠くには黒煙を吐く物体があった。

 

「な、なにあれ・・・」

 

「給油機で火災・・・?」

 

絶望的な状況だ。

燃料満載の空中給油機・・・それで火災だ。

 

《おい・・・タンカーの尾翼なんかに噛まれてないか!?》

 

《クソッタレ!!チョッパーキラーの群れだ!!》

 

《街の防空は何やってんだ!!》

 

《そんなもんレーダーに何か写ってから起動するって知ってんだろ!!アイツらレーダーに映らない高度から入ってきやがった!!》

 

状況を理解してきた。

空中給油機はトラブルを起こして空中で火災が発生、それを見た航空機の素材が好物のチョッパーキラーは墜落を待って飛んできたのだ。

そして街に近づくと撃たれるということも学んでいたんだろう、低空で侵入してきた。

だが腹を空かした1匹が我慢できずに給油機に食らいつき群れが見つかったということだろう。

 

「ハル、レーダーに味方機は?」

 

「ち、近くには私達だけです!」

 

「クソっ・・・」

 

数は少なくても10匹、地上には民間機を含めて30機以上の航空機がいる。

翼竜からしたら宝の山だ。

オマケに街の防空網は突破されていた。

街の対空ミサイルは翼竜を相手にすることを想定されていて、あまり機動性の高いミサイルではない。

それに遠くから狙い撃ちするためのもので至近距離での使用を想定していなかった。

街には自走対空砲も配備されてはいるが・・・。

 

「今、初動で対処できるのは私達しかいない。やるよ」

 

「ご、ご主人様!?」

 

「私達の家もある。皆を守らないと」

 

「わ、分かりました!!」

 

使える武装はAIM-7スパローと機関砲のみ。

サイドワインダーは翼竜の体温ではシーカーが作動せず、最悪スクランブルしてきた味方機に飛んでいく可能性もあった。

武装は正直少ない。

だが今はとにかく戦闘機が上がってこれる時間を稼ぐ必要があった。

 

「テキサスタワー、こちらエンジェル0-1。現在街から50kmの位置にいる。翼竜を撃退する」

 

《こちらタワー、了解!現在近くには貴方の機体しか居ません!頼みます!》

 

「了解」

 

とにかく今は数を減らす必要がある。

スパローで先制攻撃しないと・・・。

 

「ハル、突っ込んだ後格闘戦になるから警戒お願い」

 

「了解です!」

 

「よし・・・やるよ。FOX1!」

 

ミサイルを翼竜にむけて発射する。

最大射程ギリギリだが翼竜なら大丈夫・・・。

そう願いながら撃った。

 

《タンカーが間もなく着陸!!》

 

《あれじゃ無理だ!!落ちるぞ!!》

 

《消防車をはやく!!》

 

空港から大きな火の玉が上がった。

・・・給油機が墜落した。

 

《滑走路上に落ちたぞ!!》

 

《クソっ!!落ちるなら場所くらい選べってんだ!!》

 

《こちら管制塔!滑走路閉鎖!上がれる機は誘導路からでも構いません!離陸してください!!》

 

《誘導路にも破片が飛散してるのに飛べってのか!?》

 

街はパニックだ。

それよりも滑走路が塞がれてしまった・・・。

最悪、この機は地上にワイヤーを引いてもらいフックで引っ掛けて降りることは出来るが・・・

この街に降りようとしている民間機はそうもいかない。

翼竜をはやく撃退して空港の安全を確保しないと。

 

「スパロー・・・命中です!」

 

「よし!もう1発!FOX1!」

 

2発目のスパローを発射した。

これでミサイルは弾切れだ。

バルカン砲しかない。

 

「なるべく節約しないと・・・」

 

バルカン砲の発射速度をLOWに設定した。

これなら普通に撃つよりは節約できる。

だが・・・中身は20mm榴弾。

撃つ場所を考えなければ・・・。

 

「ご主人様・・・1つ、いいですか?」

 

「なに?」

 

「相手が生き物なら音速で横を通過すれば・・・」

 

「音速・・・そうか・・・それなら」

 

マッハで飛ぶと機体から衝撃波が出る。

それは漁船くらいならひっくり返ったり地上の建物が損傷するレベルだ。

それを生き物のすぐ近くでやれば気絶・・・最悪内蔵を損傷して死に至るはずだ。

 

「OK、やろう。タワー、こちらエンジェル0-1。これから音速で通過します」

 

《音速!?》

 

「衝撃波で翼竜を気絶させる。そのあと対空砲で処理して」

 

《・・・了解!今は貴方達が頼りです!やれることは全てお願いします!》

 

私はスロットルを全開にして加速する。

速度はどんどんと増していった。

 

《クソっ!頼れるのはあの戦闘機しか居ないのかよ!》

 

《今あの戦闘機が俺たちが上がる時間を作ろうとしてるんだ!やれることをやれ!》

 

《大体上がった他の機体はどこで何してんだよ!!》

 

《そんなもん仕事に決まってんだろボケ!!》

 

下からはそんな声が聞こえてくる。

確かに上がった他の機体は・・・と思うが、その機体は帰ってきたところで武装と燃料が満足にあるとは思えない。

オマケに滑走路は閉鎖されてしまった。

 

「私達だけか・・・」

 

私はそう呟いた。

そんなこと言ってるうちに機体は音速を超えた。

そして狙い通りに翼竜の近くを通過した。

すると・・・。

 

《うおっ!?音速で通過しやがった!!》

 

《おい、翼竜が・・・》

 

《落ちてきた!狙え!!》

 

《エンジェル0-1!効果あり!!》

 

「了解!もう1回行くよ!」

 

《翼竜がビビって散った!今だ上がるぞ!!》

 

《本気で誘導路から行くのか!?》

 

《管制から許可だって出てんだ!行くぞ!おら、どいたどいた!!》

 

《あの野郎、マジで誘導路から離陸しやがった・・・》

 

《俺達も行くぞ!女の子だけに戦わせるな!》

 

戦闘機が何機か誘導路から離陸してきた。

だが今は頭数が増えるのはありがたい。

 

《エンジェル0-1、助けに来たぞ!》

 

《バカ助けられてんのは俺達だ!》

 

2機のF-16が離陸してきた。

だが他の機体は上がれていなかった。

だが、翼竜はあと8匹ほど。

 

《対空砲のレーダーが翼竜を補足できないってどうなってんだ!!》

 

《知るかそんな事!》

 

《乗ってるのがシルカだけに?》

 

《てめ、ぶっ殺すぞこの野郎!!》

 

《おー怖い怖い》

 

下にいるZSU-23-4からそんな声が聞こえてくる。

冗談は聞き流してレーダーが翼竜を補足できないのは少々問題だ。

目視射撃で撃つしかない。

 

《落ちてきたヤツを狙ってミンチにしてやろーぜ》

 

《どうせ上に向けて撃ったって味方機がいるんだ、その方がいい》

 

《そういう訳で頼むぜ上の飛行機野郎!》

 

《1人は女の子だがな》

 

下にいる対空砲はZSU-23-4のみ。

そもそも街の対空砲配備数は少なく、この対空砲も冒険者たちだった。

 

「なんだか・・・賑やかですね、ご主人様」

 

「こんな時だからだろうけど・・・」

 

私はある程度離れて旋回し、再度加速した。

 

「翼竜に向かって突っ込むのは結構怖いね!」

 

「ご主人様を信じてます!」

 

機体は再びマッハで翼竜の横を通過した。

翼竜は衝撃波は気を失い、地上に落ちる。

 

《なぁ・・・これ、撃たなくても死んでねーか?》

 

《あー・・・なんか曲がっちゃいけない方向に首曲がってんなこれ・・・》

 

《念の為撃っとくぞ》

 

《おぉ、これは胸が痛むね》

 

《言葉と顔が合ってねーぞ。嬉しそうな顔しやがって》

 

《サイコかよ》

 

どうやら頭から落ちたせいで首を折っているようだ。

これ、翼竜を狩るときに使えるんじゃ・・・とか思ってきた。

 

《こちらタワー、翼竜が逃げ始めました!エンジェル0-1、ありがとうございます!》

 

「ふぅ・・・良かった・・・」

 

《なぁ、そっちのパイロットさん、良かったら帰って今日の戦果を語り合おうぜ》

 

《ナンパか?ファンクラブのヤツに殺されるぞ》

 

《安心しな!俺はファンクラブの会員だ!》

 

「・・・」

 

「人気者ですね!ご主人様!」

 

忘れていたこのクソファンクラブの事を・・・。

 

《やっぱりあんたは天使だ!》

 

「・・・・・・・」

 

「わっ、ちょ・・・ご主人様!?」

 

《ん?なんでRWRが反応?》

 

「・・・遺言なら聞く」

 

《レ、レーダー照射は冗談が過ぎないか!?》

 

《ははっ!ほら見ろ!》

 

私はファンクラブがどうのこうの言うF-16の真後ろにつき、ロックオンした。

 

「ご主人様!落ち着いてください!」

 

「・・・はぁ・・・また目立つ・・・」

 

私は街を救ったのに憂鬱な気分になっていた。

 

《こちら消防!タンカーのパイロットを救助!無事だ!》

 

《こちらタワー、了解》

 

良かった・・・。

あれだけの大爆発の中生きていたのは奇跡だ。

旋回して墜落機を見ると偶然、コックピットのみが切り離されるように落ちたようだ。

そして柔らかい芝生の上をコックピットは滑って止まった。

機体は大爆発して焼け焦げていたがコックピットは無事で形を保っていた。

だから助かったのだろう。

 

「あ、ご主人様、燃料が・・・」

 

燃料警告が出ていた。

たがどうやって降りたものか・・・。

 

《こちら管制塔、エンジェル0-1、滑走路17の端にワイヤーを設置しました》

 

「こちらエンジェル0-1、了解」

 

《風はほぼ無風、着陸地点に残骸はありません、着陸を許可します》

 

「着陸許可、エンジェル0-1」

 

左旋回してフックを下げる。

ついこの間、空母に降りた。

それに比べたら地面のワイヤーは簡単なものだ。

いつもより少し手前を狙って着陸した。

 

「ふぅ・・・お疲れ様」

 

「お疲れ様でした!」

 

機体を格納庫に持っていき機体から降りたらそこにはみんな揃っていた。

 

「ハル!お疲れ様!」

 

「お疲れ様」

 

リリアとマヤ、エルが駆け寄ってきた。

 

「ただいま。とんだ遊覧飛行になった」

 

「おかげで助かったよ!意地でも上がろうとするリリア止めるの大変だったんだから!」

 

「そりゃあの状況なら上がろうとするでしょ!?」

 

「リリアはもっと冷静になるべきだったと思うけど」

 

「そういうエルが1番冷静さ失ってたじゃない!」

 

「なっ!?」

 

「あー・・・確かに、急いで家に帰ったらハルが居ないー!ってパニックになって泣いてたもんね」

 

「な、泣いてない!」

 

「トマホークに泣きついてたじゃん」

 

「あ、あれはトマホークが翼竜にビックリして・・・!」

 

私は賑やかな仲間を見て嬉しくなる。

この街を守りきれて良かった。

そう思った。

ただ、私は1つやらかした事を思い出す。

音速で何度も街の上を飛んだのだ、窓ガラスとかが大変な事に・・・。

私は恐る恐るギルドに顔を出すと窓ガラスは全て街が補償するとの事だった。

そして街の領主から直接報酬を受け取った。

ついでに街の英雄だと勲章まで渡されて・・・。

 

「ただ偶然居ただけだから・・・英雄とかでも・・・」

 

「いいからいいから貰えるもんは貰っとけ!」

 

領主は勲章を渡す側とは思えない事を言いながら勲章を押しつけきた。

おかげで目立ちたくないのに更に目立ってしまった・・・。

引っ越してやろうか・・・。

そんな事を思いながら家路に付く。

 

「ねぇ、エル?さっきの話はほんと?」

 

「え!?な、なんのこと?」

 

「私が居なくてパニックになったの」

 

「ち、違うから!」

 

「はい、これ見てハル」

 

マヤからケータイを渡され、動画を見せられた。

 

「な、なんで撮ってんの!?」

 

「リリア、押さえてて!」

 

「うぇ!?わ、私が!?」

 

マヤは動画を再生した。

 

『わぁぁぁ!!こんなときにハルどこ行ったのー!!』

 

『エルが取り乱してる・・・』

 

『翼竜が来てるのに・・・どうしよう・・・どうしよう・・・!!』

 

尻尾を垂らして耳はしょぼんとなった姿のエルが映っていた。

 

『もし翼竜にハルが襲われてたら・・・ううぅぅぅ、そんなのやだぁぁぁ!!』

 

『マヤ、あんた止めなさいよ・・・』

 

『リリアが止めれば?』

 

『あ!2人ともハルがぁぁぁぁ!!』

 

『エルが泣いてるの珍し・・・』

 

『翼竜に食べられちゃったぁぁぁ!!うわぁぁん!!』

 

・・・なんで食われたことになってんの私。

そこで動画は止まっていた。

ふと横を見ると顔を真っ赤にしてプルプルしているエルが。

 

「エル」

 

私はエルの方に行って軽く抱きしめて頭を撫でてやる。

 

「ごめんね、心配かけて」

 

「ハル・・・」

 

「ずるいですー!!」

 

「私もそんな事された事ないのにぃぃ!!」

 

「マヤは一緒によく寝てるでしょ」

 

「マヤさんもですか!?こ、こうなったらマヤさん殺して入れ替わります!!」

 

「どういうこと!?」

 

賑やかな2人は置いといて、家でそこまで私を心配してくれているのは思わなかった。

 

「まったく忠犬だね、エル」

 

「あ、当たり前でしょ・・・ご主人と決めた人に忠を尽くすんだから・・・」

 

「そっか。ありがとね」

 

エルの頭を撫でてやる。

今日は耳をペタンと伏せて尻尾はブンブン振り回していた。

 

「ずるいですぅぅぅ!!!」

 

後ろではハルがこっちを見てそう叫んでいた。

ほんと賑やかな仲間だ・・・。



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食費稼ぎ

「さてどうしたものか・・・」

 

空港のターミナルに張り出された張り紙。

それには空港がいつまで閉鎖になるか未定だと書いてあった。

滑走路の損傷は思った以上に酷く、周囲に飛び散った翼竜の死体や給油機の残骸の回収で手間取っている上、墜落した時の火災でコックピットボイスレコーダーとフライトデータレコーダーが完全に破壊されていて事故調査が思った以上に進んでいないそうだ。

出来ることなら異世界に持って行って解析してもらいたいと事故調査委員会は嘆いているそうだった。

 

「しばらくは飛べないか・・・」

 

そう呟いていた時だった。

 

「嬢ちゃん嬢ちゃん」

 

聞きなれた声。

振り向くと整備員のおじさんがいた。

 

「またろくでもない仕事?」

 

「ろくでもないとはなんじゃ!ていうか仕事じゃないわい!」

 

「じゃあどうしたの?」

 

「なに、ちょっと面白いもの作っての」

 

おじさんは着いてこいと言い、格納庫に案内された。

するとそこから車に乗せられて破壊された滑走路の無事な部分に向かう。

 

「何作ったの?」

 

「着いてからのお楽しみじゃよ!」

 

おじさんはニコニコしながらそう言った。

そして車で走ること数分。

滑走路に到着した。

そこには・・・

 

「・・・なにこれ」

 

「電磁カタパルトじゃ!動力源は暇してた魔法使い雇って動かしてるぞぃ!」

 

なんだそれ。

私は本気でそう思った。

 

「嬢ちゃんのトムキャットならここから離陸出来るぞぃ!なんならワイヤーもこの先と滑走路の反対にも設置してるから艦載機なら運用できるって寸法じゃよ!」

 

「またいつの間に・・・」

 

「ドワーフの力じゃな!うははは!!」

 

・・・まぁここから飛べるなら仕事が出来なくて干からびることは無さそうだ。

ただ、離陸可能な機体は限られてくる。

リリアやミオのように艦載機としての能力を持たない機体では離発着は不可能だった。

 

「あ、それとじゃな。空港運営から滑走路に並行して伸びてるターミナルと反対側の誘導路を滑走路として使っていいとお達しが出てるぞい」

 

「え、なにそれ」

 

「旅客機は無理じゃが戦闘機ならアフターバーナーさえ炊かなければ大丈夫だと言っておったの。まぁ正規の滑走路じゃないから事故ったら自己責任とは言っておったが」

 

また無茶苦茶を・・・。

ただ、それならリリア達とも飛べるか・・・。

私はとりあえず帰るとおじさんに言ってギルドでお茶をしているマヤ達の所に向かった。

 

「ただいま」

 

「おかえり!どうだった?」

 

「なんかおじさんが滑走路に電磁カタパルトと着陸制動用のワイヤー設置してた」

 

「なによそれ・・・」

 

「とりあえず艦載機なら飛ばせるみたい。あ、でも一応誘導路からの離発着もいいって通知でてるみたい」

 

「それならさっき放送で言ってたわね。事故ったら自己責任らしいけど」

 

「まぁ正規の滑走路じゃないからね。で、どうする?」

 

「なにが?」

 

「このまま空港の閉鎖解除を待ってたらお金が底を着いちゃう」

 

「調子に乗って買い物しすぎよ」

 

「経済を回してるんだからいいでしょ」

 

「まったくハルったら・・・まぁ、そうね。私は・・・閉鎖が終わるまでのんびりしようかしら」

 

「え、干からびない?」

 

「ハルと違って貯金してるの!私は!」

 

「私に黙ってそんな事してるなんて見損なった」

 

「ひどくない!?」

 

「冗談。でも整備費とか大丈夫なの?」

 

「なんとか賄えるわ。お父様から揺すったお金もあるし」

 

「揺すったって・・・」

 

そういえばこの前家に帰った時に200万近く貰ったと言っていた。

 

「マヤはどうする?」

 

「私はハルが行くなら行く!」

 

「了解、頼もしいよ」

私はとりあえず食費分でも稼ぎに行くことにする。

簡単な魔獣の排除で行こう。

 

「エルは?」

 

「私は家でまったりしてる。私が見てないと変態のほうのハルが何しでかすか分からないから」

 

「・・・それはかなり重要任務だからよろしく」

 

「私もお家でトマホークと遊んでます!」

 

ミオもそう言った。

そうなると飛ぶのは単機になるが、まぁ仕方ない。

 

「じゃあ、夕飯までには戻るよ」

 

「了解、気をつけてね」

 

「ありがと、エル」

 

私はクエストボードにマヤと向かう。

 

「何か魔獣撃退系はない?」

 

「んー・・・あ、これとかは?」

 

マヤが取った依頼書はテキサスからそんなに遠くないソルトシティーという街の近くの塩田地帯にデーモンと呼ばれる魔獣が出現しているそうだ。

デーモンは肉食の魔獣で人も襲うのでかなり危険な魔獣だった。

それでも街までは近づいてこないが。

一説によるとデーモンは本来は森に生息していた熊だったのだが、熊の住んでいる地域に扉が開き、その扉から放射線が出ていて突然変異したらしい。

その容姿は体長が小さくても10メートルもあり突然巨大化でもしたのかところどころ皮膚は裂け、そこから羽のような物が生えていた。

その羽はそもそもが小さく飛行できるようなものではないが、これからまた進化した際に飛べるようになるかもしれないという研究結果が出ていた。

顔もその皮膚が裂けた場所から小さな羽や目玉が出ていたりと非常に恐ろしい顔立ちとなっている為デーモンと名付けられた。

とにかく見た目が醜悪な上に非常に凶暴な魔獣だった。

攻撃は素手で行ってくるが、装甲車くらいなら引き裂く怪力な上、30mmクラスの徹甲弾なら頭に喰らわない限り1発は耐えるそうだった。

さすがに戦車には無力だが移動速度は巨体の割に素早く、砲身くらいならもぎ取る怪力なので1匹にたいして戦車2両というのが鉄則らしい。

弱点は背中の皮膚が裂け、羽が生えている部分だそうだ。

そこなら戦闘機の20mm機関砲でも効果がある。

個体によっては脊椎近くが裂けているのでそこを狙えば即死させることが可能かもしれない。

 

「これにする?」

 

「ハルがよければ!」

 

「報酬は70万・・・2週間分の全員の食費分くらいにはなるね」

 

「だね!」

 

「じゃあこれに行こ。マヤ、私は戦闘機の準備するから申請お願い」

 

「了解!」

 

私は格納庫に向かった。

武装は今回はガンポッドを積んでいこう。

翼のハードポイントに2基の20mmバルカン砲のガンポッド、そして自衛用のサイドワインダー2発とスパローを4発。

あとは増槽だ。

これで十分だろう。

私は武装をおじさんに伝えた。

 

「さっそく使ってくれて嬉しいぞぃ!20mmの弾薬はオマケしといてやるぞ!」

 

「ありがと」

 

「嬢ちゃんはお得意様じゃからの!うははは!!」

 

機体の準備をしていると、マヤが戻ってきた。

 

「お待たせ!」

 

「おかえり。もうちょっと待ってて」

 

ミサイルを積み終わり今はバルカン砲に給弾していた。

弾薬は徹甲榴弾と曳光焼夷弾の組み合わせだ。

生き物相手なら焼夷弾は効果的だろう。

 

「よし!給弾終わりじゃ!じゃ、気をつけての!」

 

「ありがと」

 

私達はコックピットに乗り込み、滑走路に向かう。

滑走路が使えないとあり誘導路にはほとんど航空機が居なかった。

ものの数分でカタパルトに到着し機体を接続した。

 

「タワー、エンジェル0-1。離陸許可願います」

 

《こちらタワー、離陸を許可します。行ってらっしゃい》

 

「マヤ、頭打たないでね」

 

「了解!」

 

私は出力をあげる。

その数秒後、機体は射出され一気に加速した。

カタパルトが切れる頃には280ノットになっていた。

すぐに機体は地面を離れる。

 

「カタパルトでの射出はやっぱキツイ・・・」

 

普段は経験しない加速度。

首が痛くなる。

 

「マヤ、大丈夫?」

 

「今回はね!」

 

「なら良かった」

 

私は旋回してソルトシティーに進路を合わせた。

ソルトシティーはその名の通り、塩作りで有名な街だった。

そこの街では色々な塩を作っており、その塩を使った料理で有名だった。

特に有名なのが色々なスパイスを混ぜた塩で、1部の熱狂的ファンからは合法ドラッグとまで言われていた。

これさえ使えば肉や魚料理はソースも何もいらないくらい美味しくなるんだとか。

ただ、ソルトシティーの塩田は街の外にあり、魔獣の襲撃に会うことがあった。

そして街の冒険者達でも対処しきれない依頼が近くのテキサスにも回ってくる。

テキサスからソルトシティーまでは片道30分ほどの距離なので比較的近いのも理由だろう。

せっかくだし、ソルトシティーに仕事終わりに着陸してお土産として買って帰るのもありだ。

 

「ソルトシティーの塩買ったら皆喜ぶかな?」

 

「きっと喜ぶと思う。エルに狩りに行ってもらって新鮮なお肉取ってきてもらうのもありかも」

 

「それいいね!えへへ、なんか楽しみになってきた」

 

「まぁ、それも仕事を終わらせてからね」

 

「分かってるよ!」

 

私達は目的地を目指して飛行する。

ソルトシティー近くの空域はテキサスからの冒険者たちもよく通るルートなので空賊が少なく比較的安全な空域だった。

ただ、テキサスの滑走路が塞がれてしまっているので今はどうかは分からないが・・・。

 

「あと10分かな」

 

「だね!えと、デーモンを3匹以上排除で依頼達成だから!」

 

「了解。じゃ、戦闘準備しようか」

 

私は機体のバルカン砲とガンポッドを何時でも撃てるようにする。

発射速度は最初様子を見るためにLOWに設定した。

HUDに機関砲のレティクルが表示される。

 

「マヤ、地上をよく見ててね」

 

「了解!」

 

塩田上空に到着し、ゆっくりと旋回を始めた。

すると塩田から少し離れたところに巨大な熊のような生物が見えた。

ターゲットだ。

 

「見つけた。なるべく上から行くよ」

 

「おっけー!任せるよ!」

 

「0-1、エンゲージ」

 

私はデーモンの真上に到達すると宙返りをして急降下する。

そして、デーモンが照準に収まった時引き金を引いた。

3基のバルカン砲から20mm砲弾の雨が降る。

 

「このあたりで引き起こしっと・・・」

 

高度低下の警報がなり始める前に引き起こした。

旋回してデーモンを見ると、背中に弾丸が集中したためか背中が裂け、焼夷弾の影響で火が付き燃え始めていた。

しかし動く様子はないので絶命しているだろう。

 

「よし、1匹排除」

 

「えーっと次は・・・あ、居た!3時方向!こっちみてるよ!」

 

マヤに言われた方向にはこちらを見上げるデーモンの姿があった。

だがこのデーモン、私達が攻撃しようとした瞬間、近くにあった岩を投げてきた。

 

「嘘!?」

 

「まぁ向こうだって脳みそくっついた生き物だもんね」

 

しかしいくら攻撃してきたとはいえ、投げられた岩。

300mも離れれば脅威でない。

ただ、攻撃の為に降下してる最中は危ないだろう。

 

「よし、もっかい行くよ」

 

しかし上から撃たないと弱点を効率よく攻撃出来ない。

私はもう一度急降下しながら先程より早めに引き金を引いた。

デーモンは攻撃に気づき頭を庇うような動きをしたが頭を隠した手の間を通り抜けた焼夷弾が裂けた皮膚部分に命中した。

デーモンは顔を抑えて転がり周り動かなくなった。

念の為もう一度、掃射したが焼夷弾で火がついた以外は動きが無かった。

これで2匹だ。

 

「結構スムーズに狩れてるね」

 

「いいペースだよ!」

 

「これなら観光する時間も稼げそう」

 

再び旋回してターゲットを探す。

すると今度は走って逃げているデーモンを見つけた。

巨大なくせに時速60km近くは出ているようだ。

私はそこに背後から接近し機関砲弾を浴びせた。

すると急所に当たったのかデーモンは突然力を無くし転がりながら絶命した。

これで終わりだ。

 

「ふー・・・お疲れ様」

 

「お疲れ様!じゃあ着陸を・・・」

 

その時だった。

全周波数で助けを求める声がした。

 

《メーデー!メーデー!メーデー!!空賊に絡まれた!誰か援護を!!》

 

「ハル!」

 

「分かってる」

 

《誰か・・・援護を!!》

 

震える声で助けを求めていた。

レーダーにはそれらしき航空機も映っている。

 

「マヤ、敵機に接近を悟られたくないから返答はしないよ」

 

「了解!敵機は・・・Mig-23だね!」

 

「分かった、もうひと仕事行くよ」

 

私は加速して目標に向かう。

すると遠くに輸送機、An-12が見えた。

2機のミグに絡まれている。

輸送機は急降下でもしたのかかなり低高度だった。

私は輸送機に当たらない角度からミグを狙い、ロックオンする。

 

「捕らえた、行くよ。FOX1」

 

ミサイルを発射した。

ミサイルはすぐにミグに到達しミグはバラバラに砕けた。

攻撃に気づいたもう一機は離脱しようとしたがもう遅い。

もう1発を発射した。

 

「よし、撃墜マーク2追加だね」

 

「グッドキル、ハル!」

 

「さてと、こちらエンジェル0-1。そちらの援護に入る。助けに来たよ」

 

輸送機の横を通過し、無線で伝えた。

それにしても悪い勘は当たるものだ。

空賊もテキサスが滑走路閉鎖になったのを知っていたのだろう。

そのタイミングで狙いに来たようだ。

 

「そういえば、あの輸送機の声って女の子だったよね!」

 

「うん。なんか知り合いの声とよく似てる」

 

私は輸送機に安否を聞くためにコールサインを聞いた。

輸送機はイーストカーゴ1と答えた。

そしてその声で私はほぼ確信した。

 

「もしかして・・・機長はサキ?」

 

そう聞くと輸送機はそうだと答えた。

サキはパイロットスクールの同期だ。

彼女は戦闘機の免許を取りに来たが戦闘機はあまり好きでないと言っていた。

それに本人は魔法使いでもあったのでよく覚えている。

 

《久しぶりだね!》

 

「うん。元気そうで良かった」

 

久々の旧友との再会。

嬉しかった。

そしてサキと話していると副操縦士は男の人だそうだ。

あの人見知りのサキが男と一緒に乗ってるなんて・・・。

人は変わるものだ・・・私はそう思った。

そして私の提案で私とマヤ、輸送機の2人でソルトシティーでお茶をすることにした。

 

「じゃ、先に降りて待ってて」

 

《うん!ありがと、助かったよ!》

 

「ちゃんと報酬は貰うから」

 

《うぅ・・・それは少しまけて・・・》

 

そう話しながら私は輸送機から離れた。

そして数分後輸送機は着陸し私たちの番になる。

 

「じゃ、降りるよ」

 

「はーい!」

 

やっぱり普通の滑走路はいい。

ワイヤーで急停止するのはあまりいい気持ちはしなかった。

私はトムキャットと指定されたエプロンに駐機し機体から下りた。

 

「んー・・・!はぁ・・・背伸びが気持ちいい」

 

「私もー・・・!ふぅ・・・」

 

2人で少し背伸びをしてサキ達が待つ場所に向かった。

そこには昔より少し大人びた雰囲気のサキと緊張しているのかぎこち無い副操縦士のカズキがいた。

何故か珍しそうにこちらを見ている。

 

「お待たせ」

 

「ううん!大丈夫!」

 

そしてこの街に詳しいサキにオススメのカフェに案内された。

私達はそこでお茶をする。

 

「それにしても久しぶりだね。魔法使いのほうは順調なの?」

 

「うん。魔法も使えて輸送機も飛ばしてるよ!」

 

「そっか。カズキは?」

 

「へっ?俺?」

 

「うん。パイロットの免許も持ってないって言ってたし」

 

「あー・・・えと・・・」

 

「カズキも魔法使いなの。でも凄いよ!武器の召喚も出来るし英語も読めるし!」

 

「え?」

 

英語も読めるという言葉を聞き、私は一瞬ハルゼーの艦長達の事を思い出した。

 

「ねぇ、カズキ君!その魔法見せてよ!」

 

マヤは興味津々でそう言った。

 

「え、えと・・・何を召喚したらいい?」

 

「何を?え、そんなに種類出せるの?」

 

「うん、たぶん存在してる銃火器なら」

 

「カズキ君どんな頭してるの!?」

 

「ひどい!」

 

それには私も同意見だ。

武器を召喚するにはその構成素材と全てのパーツの寸法や動き、機能を覚えていないと不可能な魔法だった。

どれだけ頭のいい人でも召喚できる銃は多くて2種類くらいだった。

 

「でもほら、コレ見て」

 

カズキはM1911とAK-74を召喚した。

しかもAKに至ってはドットサイトのアタッチメント付きだ。

 

「こんなんでも俺、記憶喪失なんだけどね・・・あはは・・・」

 

カズキは何かを隠すように笑った。

照れ隠しだろうとは思ったが。

 

「でも凄いよね、記憶喪失なのに英語も読めるんだから!」

 

「え、あ、いやまぁ・・・」

 

その時私は少し思い当たる節がありカズキにストレートに聞いてみた。

 

「ねぇカズキ」

 

「ん?何?」

 

「・・・もしかして異世界人?」

 

「ぶふっ!!」

 

・・・カズキは思いっきりコーヒーを吹き出した。

 

「な、何を!?」

 

「銃火器は分からないけど、記憶喪失なのに英語読める人なんてそうそう居ないよ。それに私、異世界人の知り合いいるから」

 

「え、ま、マジで?」

 

「うん。アメリカ海軍の駆逐艦とそのクルー」

 

「あー・・・ハルゼーの艦長ね・・・」

 

マヤは微妙な顔をして言った。

 

「カズキ・・・異世界人なの?」

 

サキはカズキのほうを見てそう言った。

 

「あの・・・聞きたいんだけど、異世界人って何か酷い扱い受けてるの?」

 

「ん?別に。ハルゼーの艦長は知らずに王国軍とも交戦してるから海賊扱いになってるけど」

 

「そ、そうなんだ・・・でも・・・その、確かにハルさんの言う通りだよ」

 

「え・・・?でもどうやって・・・」

 

「俺・・・1回死んだんだ。実感は湧かないけど」

 

「え・・・」

 

1回死んだという言葉に私達はショックを受ける。

冗談で言ってるようにも聞こえない。

 

「俺さ、交通事故起こして目が覚めたら目の前に女神が居て、転生だって言われて目が覚めたらサキに助けられてた」

 

「えと・・・」

 

「冗談っぽいけど本当なんだ・・・」

 

カズキはきっと信じてくれないだろうという感じに言う。

だが、私含めてマヤ、サキの反応は好意的なものだった。

何より私は知り合いが異世界人だ。

転生はよく分からないが異世界人だからと別に差別とかもあるわけじゃない。

マヤはただ単に興味津々だった。

そしてサキは目をキラキラさせながら異世界の事を聞いていた。

サキは昔から異世界の文献が好きでよく集めていた。

 

「意外と異世界から来る人って多いのかな」

 

「さぁ、分からない。駆逐艦のクルーは突然この世界に来たって言ってるから」

 

「そうなんだ・・・」

 

「帰りたいの?」

 

神妙な顔つきのカズキにそう聞いた。

 

「いや、俺はさっき言ったけど死んでるんだ。これが第2の人生だしこの世界で楽しむよ」

 

「ん、そっか。それで、パイロットにもなるんだもんね」

 

「うん、せっかくだし生前の世界でも出来ないようなことをね」

 

「そっか。パイロットスクールは楽しいから安心して」

 

「それ聞いて安心したよ」

 

そして1時間ほど4人で色々とお喋りをし店を出た。

サキとカズキはパイロットスクールへ。

私達は空港でお土産を買い、再び機体へ戻った。

燃料はまだ増槽を使い切っておらず、補給も不要だ。

このまま離陸しよう。

 

「じゃ、帰るよ」

 

「はーい!なんだか今日は楽しかった!」

 

「異世界の人とも会えたしね」

 

「マトモな異世界の人とね!」

 

「ひどい、ハルゼーだってマトモな人達」

 

「でも初対面の時のイメージが強くて・・・」

 

「・・・まぁ、確かに」

 

確かに初対面ではこちらは攻撃を受けている。

正確には同行していた哨戒機だが。

撃墜され、乗員全員が行方不明となっていた。

あの時こそ敵対していたが今では私の命を救った恩人でもある。

 

「まぁ、ティーチャーみたいな人でもないから」

 

「あれは別格でしょ!」

 

「まぁね・・・二度と会いたくない」

 

あのターボプロップ機だけはこの先ずっと会いたくないものだ。

マヤと色々と喋ってるうちに離陸許可が下りた。

 

「じゃ、帰りますか」

 

「ほーい!帰ろ帰ろ!」

 

とりあえずこれで食費は稼げた。

あとはこの食費が尽きる前に滑走路が直ってて欲しい・・・。

そう思いながらテキサスへの帰路についた。



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薬草採取

未だに直らない滑走路。

街の物流は輸送ヘリによってなんとか確保されているが、低空を低速で飛ぶ輸送ヘリは翼竜や中に積まれた物資目当ての山賊に撃墜されていた。

一応、対戦車ヘリか戦闘ヘリが護衛についてはいるが・・・。

林内に配置され偽装を施された対空機関砲や携行式地対空ミサイルの餌食になっていた。

 

「輸送ヘリの護衛クエストばっかり・・・」

 

ギルドで依頼を確認するが、あるのは輸送ヘリの護衛、護衛、護衛。

見渡す限り輸送ヘリの護衛ばかりだ。

 

「マヤ、アパッチあるけどどうするの?」

 

「うーん・・・正直ハルと違ってあまり戦闘慣れしてないから・・・」

 

確かにマヤはヘリの操縦なら右に出る者は居ないと思うほどだが、戦闘になると話は別だった。

ブラックホークに乗っている時も基本的にマヤは操縦に専念し武器の使用は副操縦士やドアガンナーに任せていた。

どうも、操縦と武器の使用の両方を同時に行うのは苦手だそうだ。

 

「ハル、これ」

 

依頼ボードの前で悩んでいるとエルは1枚の紙を出してきた。

それはここからそう遠くない所にある森に自生している薬草の回収。

この薬草は強い鎮痛効果と止血効果があり、乾燥させ粉末状にし傷口に擦り込むと動脈出血すら止めることができる。

ただし、動脈出血の場合は出血している血管に擦り込まないと吹き出る血で流れていってしまい効果が薄くなってしまう。

それでも、現場で大量出血を止めることが出来る手段なので重宝されていた。

その薬草が今、空港の閉鎖で入ってこなくなっており病院や薬屋での在庫が切れそうだった。

 

「これなら簡単だし、ヘリで行けばそこそこな量が持って帰れるかも」

 

「確かに。やる?」

 

「私はいいよ!」

 

「私も行きます!」

 

「じゃ、決まりだね」

 

今日のメンバーは、私、マヤ、エル、ミオ。

リリアや他の子は家でまったりとするとの事だった。

 

「武器はどうする?」

 

「いつも通りの装備。マヤとミオはヘリの警戒でもいい?」

 

「私はむしろそっちのほうがいいかな!」

 

「私もマヤさんとヘリを守ります!」

 

「じゃあそれで」

 

私とエルが薬草の採取、マヤとミオがヘリの警戒となった。

私達は格納庫で武器と装備を整えた。

私とエルはジーパンにOD色のソフトシェルジャケット、プレートキャリア、ComTacを装備した。

銃は何も装着していないAK-74NとP226。

エルはKar98kとホロサイトを装着しハンドガードをRIS2に換装したM4、M1911だった。

 

「重くない?」

 

「慣れたから」

「それならいいけど」

 

マヤ達はいつの間にかお揃いで購入していたMP7を装備していた。

 

「それじゃ、お仕事と行こうか」

 

「了解!」

 

格納庫からトーイングカーでエプロンに出る。

管制からはエプロンからそのまま離陸していいと言うことだった。

 

「よし、エンジンも操縦系も異常なし!行くよ!」

 

「よろしく、機長さん」

 

今日はミオが副操縦士席に、私とエルはガンナー席でM2重機関銃を握っていた。

増槽を装備しているので上方の射界は狭いが仕方ない。

 

「ねぇエル」

 

「何?」

 

「今度、戦闘機乗ってみる?」

 

「え?戦闘機に?」

 

「うん。どうかなって」

 

「戦闘機・・・」

 

エルは少し考え込んだ。

だが次は笑顔で答えた。

 

「うん、乗りたい」

 

「了解、それじゃ明日何もしないしちょっと飛ぼ。おじさんが作ってくれた電磁カタパルトがあるし」

 

「分かった、楽しみにしてる」

 

明日の予定を立て翌日が楽しみになる。

エルを乗せて飛ぶのは初めてだ。

 

「それにしても・・・いい天気ですね・・・」

 

副操縦士席で辺りを見ながらミオが呟く。

天気は雲ひとつない青空。

下は広大な草原だ。

寝転べば気持ちよさそうだ。

風もいい感じに吹いている。

 

「帰りに余裕あったらちょっとだけこの草原で遊んで帰る?」

 

「賛成!」

 

昼食も持ってきている。

この草原に降りて昼食を取るのもいいだろう。

 

「それじゃ、さっさと採取を終わらせよっか」

 

目的地まであと10kmほど。

目の前には森が見えてきた。

薬草がまとまって自生しているのは古代の遺跡群の近く。

その近くは比較的開けた場所がありブラックホーク1機なら簡単に下ろせるはずだ。

 

「ねぇねぇ!薬草なんだけど、少し多めに取らない?」

 

「多めに?」

 

「加工するだけなら街の加工屋に依頼すれば簡単だし持っとけば突然の怪我にも使えるし!」

 

「まぁ・・・確かに」

 

確かに私は撃たれた経験は何回もあるし、出血で死にかけている人を助けようとした事だってある。

その時はこの薬草を持っておらず、魔法と止血帯に頼るしか無かった。

だがこれさえあれば自分も他人の命も救える。

持っていて損は無いだろう。

 

「えっと、採取は5kg分ですよね?」

 

「うん、5kg採取して病院に納品」

 

「じゃあ1kgくらい多めに取りましょう!」

 

「そうだね」

 

今回は依頼主が街の総合病院。

報酬は1kg1000ドルの5000ドルだ。

あまり高い報酬とも言えないが、この仕事をしないと困る人もいる。

どうせお金はまだあるし人助けも良いだろうと選んだ。

それについでに自分たちの分の薬草の採取も出来るしいいだろう。

薬草の採取自体は大した難易度でもないし、ヘリがあれば簡単だ。

 

「ハル、もうすぐ着くよ」

 

「了解。ミオ、ドアガンよろしく」

 

「了解です!ハルさんを邪魔する奴らをぶっ飛ばします!」

 

「了解。頼もしいよ」

 

ミオは席を少しずらしキャビンに移動した。

私はドアを開けて着陸の準備をする。

 

「エル、弾薬装填」

 

「了解」

 

チャージングハンドルを引いて初弾を薬室に送り込む。

この金属音が心地よい。

 

「じゃあ警戒よろしく」

 

「了解!気をつけてね!」

 

私とエルは地面より少し高い位置でホバリングするヘリから薬草を入れる木箱を投げたあと飛び降りた。

ヘリは少し離れた位置に着陸する。

 

「回収地点はここだからこの箱に詰めて置いとこ」

 

「了解」

 

ヘリから降りる時に外に投げた木箱を回収した。

これに薬草を詰めるが木箱そのものが少し大きくヘリまで運ぶのは大変そうだ。

 

「さてと、集めますか」

 

「薬草はどんな見た目?」

 

「こんなの」

 

ケータイで画像を表示する。

エルはそれを見て写真を覚えたようだ。

 

「じゃあ探そ」

 

私たちは目の前の林に入っていく。

近くには昔の人が作ったと思われる石の置物などがあり、幻想的な雰囲気だ。

 

「暑い・・・」

 

寒いかと思ってソフトシェルジャケットを着てきたのは失敗だった。

降りた場所は湿度が高く、蒸し暑く感じる。

 

「エル、上脱がない?」

 

「賛成。暑くて集中できない」

 

私たちはジャケットを脱いで腰に巻いた。

上はシャツだがまぁ、大丈夫だろう。

 

「あれ、エルって着痩せするタイプ?」

 

「え?」

 

「そんなに胸大きかったっけ」

 

「な、なに言ってんの!?」

 

上半身がOD色のシャツだけだから大きく感じるのかもしれないが、エルは中々のものをお持ちのようだ。

Dくらいだろうか・・・。

というか私は何をまじまじと観察してるんだ・・・。

 

「変なこと言ってないで探すよ!」

 

「はいはい」

 

エルは顔を赤くして前に進んだ時だった。

バシュッという音が聞こえエルの前に何かの物体が飛び上がった。

 

「!!」

 

エルを守ろうにも何が起こったか分からずに固まってしまった。

そしてその物体が破裂した。

中からは薄いピンク色をした粉塵が撒き散らされる。

 

「エル!!」

 

「げほっ!!げほっ!!」

 

咳き込むエル。

私は駆け寄ってエルの容態と足元を確認した。

 

「大丈夫!?」

 

「だ、大丈夫・・・」

 

エルは大丈夫というが顔が赤くなっている。

まるで風邪をひいたような赤さだ。

 

「体は?」

 

「痺れとかはないけど・・・暑い・・・」

 

「分かった、少し横になって」

 

エルを地面に寝かせ、エルが踏んだものを確認する。

 

「これ・・・」

 

初めて見る植物だった。

そこら中に生えている。

見た目は普通の花のようだが、どうやら触れると跳躍地雷のように地中にある球根が跳ね上がり顔の高さで破裂する。

そして中の粉塵を撒き散らすようだ。

私は花と球根の残りを回収して戻ることにする。

 

「マヤ、緊急事態」

 

《どうしたの!?》

 

「エルが踏んだら跳ね上がる植物を踏んでその粉塵を吸ったみたい。容態が分からないから急いで帰るよ」

 

《りょ、了解!》

 

「エル、行くよ。掴まって」

 

「ありがとう・・・」

 

エルは荒い息使いで私の肩に掴まる。

 

「大丈夫?」

 

「分からない・・・でも、体が暑い・・・」

 

「すぐに病院に行くから頑張って」

 

「うん・・・」

 

着陸地点に行くとヘリはちょうど上空に到着していた。

すぐに降りてきたヘリに乗り込み病院に直行する。

 

「エル、体の調子を教えて」

 

「体が暑い以外は・・・なんだか・・・変な気分も・・・」

 

「ど、毒でしょうか・・・」

 

「憶測はやめて。とにかく病院に」

 

「分かってる!すぐに着くから!」

 

病院までは20分ほどで到着した。

すでに連絡をしていたのでヘリポートでエルを担架に載せ替えて私も医者たちと病院に入った。

 

「今から検査をします、ここでお待ちください」

 

エルは処置室に担ぎ込まれて検査を受けていた。

1時間くらいだろうか、マヤたちも合流して検査が終わるのを待つ。

すると医者が出てきた。

 

「ハルさん、エルさんの容態ですが命に別状はありません」

 

「よかった・・・」

 

「恐らく、粉塵を吸い込んだ際のアレルギー反応でしょう。ですが、何かあればまた病院に来てください」

 

「分かった。ありがとう、先生」

 

数分後、エルも処置室から出てきたがまだ顔が赤い。

私たちは街中でタクシーを広い、家に戻った。

 

「エル、良かったね、何も無くて」

 

「うん・・・ごめん、ハル」

 

「ううん、あれは不可抗力。大丈夫だよ」

 

家に戻るとエルは自室に入りベッドに寝転んだ。

私も今日は看病のためにエルのそばに居ることにした。

マヤたちには買い物を頼み、今家には私とエルだけだ。

 

「ねぇハル・・・」

 

「なに?」

 

「着替えたい・・・」

 

「あ、汗だくだもんね。待ってて」

 

クローゼットからエルの服を出して持っていく。

その間にエルは服を脱ぎ下着姿になっていた。

「ありがと・・・」

 

エルはまだ荒い息使いでそうお礼を言った。

 

「大丈夫、大事な仲間だから」

 

そしてエルに近寄ったその時だった。

 

「ハル・・・ごめんなさい・・・」

 

私は腕を掴まれベッドに押し倒された。

そしてエルは拳銃を私に突きつけた。

 

「・・・なんの真似?」

 

「ごめん・・・ハル・・・」

 

エルは荒い息使いと紅潮した顔でそう言った。

 

「ふざけてないで着替えて」

 

「ううん・・・いい。それよりハル・・・脱いで?」

 

「・・・は?」

 

「脱いで」

 

「・・・・・?」

 

なぜ私が脱がねばならん。

頭に?が出ていることだろう。

 

「私・・・あの花粉吸って・・・来ちゃった」

 

「・・・あの・・・何が?」

 

「・・・発情期・・・」

 

「はぁ!?」

 

どういう事だ!!

私は本気でそう思った。

 

「あの花・・・故郷で聞いた事がある・・・強力な媚薬作用があるからって・・・」

 

「・・・嘘でしょ」

 

「だから・・・ハル・・・」

 

「まてまてまてまてまてまて」

 

エルは拳銃のフロントサイトに私の服を引っ掛けてめくり出した。

 

「動かないで」

 

「動くよ!おかしいでしょ!!」

 

「お願い・・・1回すればスッキリするから・・・!」

 

「そういう問題じゃない!!」

 

私は抵抗するがやたらと力が強い上に拳銃をお腹に突きつけられている。

しかも記憶が正しければ装填されている弾薬はRIP。

もし発射されでもしたら致命傷だ。

 

「お願いだから落ち着いて・・・」

 

「落ち着いてる、私、ハルとがいい」

 

「何が!?」

 

「発情してもそこらへんの男は嫌だ。ハルがいいの」

 

「ま、待って待って待って・・・!」

 

どうやって逃げ出すが考えている間に妙に素早い手つきで手をベッドに縛られた。

ちょっとでも動こうとすると拳銃をお腹に深く突きつけるし動くに動けない。

・・・これかなりヤバいんじゃ・・・。

 

「これでよし・・・っと」

 

「何一つよしじゃない!!」

 

私は両手を広げた姿勢でベッドに縛り付けられた。

そしてエルはついに下着すら脱ぎ捨てる。

獣人の発情期って同性にも発情するのか!?

 

「ハル・・・」

 

「んぅぅぅ?!?!?!」

 

思いっきりキスされた。

・・・初めてなのに!!!

まぁ・・・別にいいっちゃいいのだが・・・。

 

「・・・ご主人様・・・」

 

「ご主人様の言うこと聞いて!!」

 

せめて1人くらい家に置いておくんだった!!

そこから10分近くエルからキス責めされた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

「ハル可愛い」

 

「も、もう満足でしょ・・・?」

 

「まだ」

 

「ちょ、ちょっと待った!!せめて顔とかに・・・!」

エルは私の服を剥ぎ取り胸の辺りに顔を持っていった。

・・・そして舐め始めた。

 

「んふ・・・汗の味・・・」

 

「舐めるなぁぁぁ!!」

 

トマホークが私の手を舐めてくるようにぺろぺろと舐めてくる。

 

「や、やめ・・・くすぐった・・・ひゃん!!」

 

「可愛い声だね、ハル」

 

「お願いだからもうやめてぇぇ!!」

 

そう懇願するが、マヤたちが帰ってくるまでの1時間、散々な目に会った。

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・・大丈夫ですか?」

 

エルはマヤに連れていかれ生まれたままの姿にされベッドに縛られていた私はミオが助けてくれた。

もう身体中色んな液体でベトベトだ。

・・・獣人の発情期ってあんなに凄いのか・・・。

ほとんど私が一方的に責められただけだったが・・・。

 

「お、お風呂・・・」

 

「す、すぐ準備します!」

 

ミオが大急ぎで風呂の用意をしにいった。

そして風呂に入り私は自室に鍵をかけてベッドに潜り込んだ。

頭まで布団をかけて寝たが、夢でエルとしている夢を見て叫びながら起きたりした・・・。

そして翌日、媚薬効果で発情期になっていたエルはなんとか元に戻ったが私を見るなり全力で土下座をしていた。

 

「ごめんなさい!!」

 

「・・・」

 

「お願いです・・・私を捨てないで・・・」

 

エルは泣きながらそう言ってきた。

私は元からエルを捨てる気なんてないし、あれはあの花のせい・・・そういうことにしておいた。

 

「大丈夫だよ。エルは大切な仲間。昨日の事は怒ってないよ」

 

泣いているエルを抱きしめて頭を撫でてやった。

エルは嬉しそうに尻尾を振っていた。

とりあえずこれで良かったかな・・・・?

それよりもこの後の、エルフのほうのハルが大変だった。

この話を聞き、目のハイライトが消え包丁を持ってエルを探し始めた。

 

「エルさん・・・出てきてください、お話しましょう」

 

「ひぇ・・・」

 

私はハルを見て小さく悲鳴を上げた。

普通に怖い。

だが放っておくとこんな事を叫び出した。

 

「私だってご主人様とあんなことやこんな事したいのぃぃぃ!!!嫉妬で狂いそうですぅぅぅぅ!!!!」

 

「大丈夫、あんたはすでに狂ってる」

 

「嫉妬のちからぁぁぁ!!!」

 

そう叫びハルは家から飛び出して言った。

そして3時間後にどこから入手したのか弾頭が発射されたパンツァーファースト3を装備して帰ってきた。

聞くと街から飛び出して近くにいた山賊を襲い装備を奪って追撃してきた山賊の装甲車4両を蹴散らして帰ってきた。

そこまでしてスッキリしたそうだ・・・。

とりあえず、エルは発情期になると私がヤバいのとハルは嫉妬させるとバーサーカーになることがよく分かった日だった・・・。



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旅行 1

「・・・・・」

 

いつも通りの朝・・・なのはいいが一昨日の事のせいで気まずい。

あの後エルは念の為病院に連れていき検査のため1日入院した。

とりあえず命に関わるものでもなく本当にどぎつい発情期が来ただけだそうだ。

そのせいで色々とあったのだが・・・。

 

「・・・エル?」

 

「ひゃいっ!?」

 

普段のエルとは思えない声を上げた。

 

「どうしたの、そんなに私の方チラチラ見て」

 

「え、えと・・・」

 

エルはさっきからチラチラと私を気にするように見ていた。

まぁ・・・理由は分かっているが・・・。

 

「・・・もう、怒ってないし気にしてないからいいよ」

 

「そう言われても・・・・」

 

エルが見た方向には末代まで呪ってやるという目でこっちを睨みまくっているエルフのハルがいた。

ドアから顔だけ出しているがショットガンの銃口が見えている。

・・・殺る気だコイツ・・・。

 

「リリア」

 

「・・・はいはい、私がやるのね・・・」

 

パンを食べ終わったリリアが呆れた感じに立ち上がる。

そしてハルのほうに歩いていった。

 

「ハル、あんたいい加減にしなさいよ」

 

「な、なんですか!私はご主人様を見守ってるだけです!!」

 

「普通、ショットガン持ちながら見守る・・・?」

 

「守ってるんです!警護です!!」

 

「はぁ・・・分かったからこっち来なさい」

 

「な、なんでですかぁ!!」

 

リリアはハルを引っ張って行く。

 

「ち、ちくしょう!!覚えててくださいよエル!!」

 

「あんた全然見守ってないじゃないの!!」

 

「ご主人様とのチョメチョメをするのは私の特権なのにぃぃ!!」

 

「あんたホント何言ってんの!?」

 

そのあと3時間くらいハルは帰ってこなかった。

帰ってきた時は何があったのかエルに謝り倒していたが・・・。

 

「それで、今日は暇だけどどうする?」

 

「んー・・・」

 

私はどうしようと悩んでいた時だった。

マヤが1枚のチラシを持ってくる。

 

「ここ行きたい!」

 

差し出してきたのはこの国の観光地のチラシ。

オールドウエストという街だった。

この街はつい1年ほど前に作られた街で異世界の国、アメリカの昔の風景を再現した街だった。

この街が作られたのは異世界好きの大金持ちの権力者が西部開拓時代の本を読んだことから始まったらしい。

その魅力に取りつかれ、5年かけて街を作った。

そして街は居住エリアと観光用のエリアに別れており、観光用のエリアでは、その西部開拓時代の様々な体験ができるそうだ。

一般人を体験することも出来れば、ガンマンや保安官なども体験できると話題の街だった。

私もこの街はテレビで見てから1度行きたいと思っていた。

 

「いいね、どうせ滑走路直るまで仕事出来ないし」

 

「でしょ!」

 

せっかくだ、2日ほど旅行しよう。

 

「もちろん、全員でいくよね!ね、ハル!」

 

「当たり前。だから気まずそうな顔しない」

 

「え・・・」

 

旅行の話を聞いていたエルはずっと気まずそうな顔をしていた。

きっと置いていかれると思い込んでいたのだろう。

 

「まったく、被害妄想が過ぎるよ。行かないって言っても強制的に連れていくから。ね、マヤ」

 

「うんうん!拒否権無しだよ!」

 

「・・・うん!」

 

エルは元気を取り戻したのか笑顔で返事をしてくれた。

そうと決まれば早速準備だ。

普段は家事をしてくれているアヤとルイにも声をかけた。

2人とも行くと返事をしてくれた。

 

「ねぇハル。ここから街までそんなに遠くないわよね」

 

「うん。だいたい260kmくらい」

 

「じゃあちょっと提案なんだけど・・・」

 

リリアはそう言って、道中模擬戦をしたいと言い出した。

格闘戦になった時の機動を自分なりに研究していて試してみたいということだった。

それと・・・という感じでリリアは小声で一言付け加えた。

 

「・・・エル、元気なさそうだし乗せてあげなさいよ」

 

「え?」

 

「街に行くにはヘリで行くしかないでしょ。そうなるとパイロットでマヤが取られちゃうから」

 

「なるほどね・・・でもエルを乗せるとなるとあんまり激しい機動は出来ないからリリアの思うとおりの動きは出来ないよ」

 

「大丈夫、今回は空戦機動を試してみたいっていうだけだから」

 

「分かった、それじゃそうしよ」

 

ということで、今回の後席はエルに決まった。

エルに後席に乗ってもらうことを伝えると少し戸惑っていたが喜んでくれた。

 

「リリアは優しいね、ほんと」

 

「あら、どっかの誰かさんほどじゃないわよ」

 

「誰のことやら」

 

そんな話をしながら旅行の準備をした。

久々の旅行ということでみんなウキウキとしていた。

そしてお昼ご飯を皆で食べ、14時ごろに空港に向かった。

荷物を格納庫でヘリに積み込む。

私はその間にエルにトムキャットの事を教えた。

 

「えっと、これがレーダーを操作するためのスイッチ。マニュアルもここにあるから飛びながら見て」

 

「分かった」

 

「あとは途中にリリアと模擬戦するからキツくなったら言ってね」

 

「分かった、そうする」

 

「じゃあ乗り込もっか」

 

タラップを登ってコックピットに入る。

 

「カタパルトで射出される時はしっかりと取っ手に捕まっててね」

 

「大丈夫、マヤみたいにぶつけない」

 

《エル、聞こえてるよ!》

 

「事実でしょ」

 

《そうだけどさ!!》

 

エルはマヤと笑顔で冗談を言い合っていた。

前みたいに元気になってくれて良かった。

心からそう思う。

 

「じゃ、行こっか」

 

今回リリアは誘導路から離陸するつもりだった。

離陸用に用意された誘導路はカタパルトの近くにあるため、リリアが先に離陸しその後に私たちが離陸する。

どっちが先に上がってもいいのだが、誘導路に被るようにカタパルトが設置されてあるのでもし離陸のタイミングが被ってしまうと衝突の危険もあった。

まぁ、管制塔からの指示があるので大丈夫だとは思うが・・・。

 

「戦闘機なんて初めて」

 

「楽しいよ。あとで綺麗な空も見せてあげる」

 

「楽しみにしてる」

 

ゆったりとタキシングしてカタパルトに向かった。

リリアは離陸位置までまだかかるのでタキシングを続けていた。

マヤ達のブラックホークは私たちの頭上を飛び越え、先に模擬戦のエリアに向かっていった。

 

「カタパルト接続っと・・・」

 

作業員がカタパルトに接続してくれた。

あとは作業員の指示に従って翼面をチェックした。

 

「よし、異常なし」

 

チェックが終わると作業員が頭の上で拳をクルクルと回した。

出力を上げろというサインだ。

私はエンジンの出力を全開にする。

アフターバーナーに点火されると前方、後方と作業員が確認しその場にしゃがみ、左手を前に伸ばした。

すぐにカタパルトから射出される。

 

「うわ・・・っ!」

 

後ろからエルの小さい悲鳴が聞こえた。

カタパルトから離れると機体はすぐに上昇した。

 

「どう?大丈夫?」

 

「だ、大丈夫だけどびっくりした・・・」

 

確かに初めて戦闘機に乗る人があんな加速経験すればビックリもするだろう。

私はもう慣れたが・・・。

 

「さて、リリア待ちだね」

 

街を離れて少ししたところでリリアを待つ。

ゆったりと旋回しているとエルはキャノピーの外を眺めていた。

 

「街が小さい・・・」

 

「ヘリだと基本低高度だからね。どう?」

 

「楽しい、空っていいね」

 

「でしょ」

 

そう話しているとリリアのフランカーも合流した。

 

《お待たせ!》

 

「ううん、大丈夫。それじゃどういう風にやるの?」

 

《んー・・・とりあえずヘッドオンからの交差でスタートでいいかしら》

 

「いいよ。エルは大丈夫?」

 

「大丈夫、ハルに任せるよ」

 

「了解」

 

そういうわけでお互い離れて再度向き合う。

交差した瞬間開始だ。

 

「エル、準備いい?」

 

「大丈夫、監視は任せて」

 

「頼もしいよ」

 

その会話の数秒後、高速でお互いの機体がすれ違った。

 

「行くよ」

 

「上昇して反転してる」

 

「了解」

 

私は右旋回して振り切ろうとするがフランカー相手ではさすがに無理があった。

 

「後ろ!」

 

「見えてるよ」

 

私は少し減速する。

エアブレーキは開かずにスロットルの調節でフランカーに接近した。

機内には模擬戦用の機材から相手のシーカー音が聞こえてくる。

10秒以上照準に収めるとロックオンし撃墜判定となる。

 

「ハル!」

 

「分かってる。捕まってて」

 

私は操縦桿を一気に引きスロットルを全開にした。

機体は急上昇と同時に急減速する。

その機体の下をフランカーが通り過ぎた。

 

「こっちの番だよ」

 

「ハルやっちゃって!」

 

少し熱くなってきたのかエルは大きな声を出す。

初めての空中戦、すこし興奮しているのかも知れない。

 

「逃げたって無駄だよ」

 

フランカーは左へ急旋回し逃げようとする。

機動性が違うとは言え、トムキャットだって負けてない。

私はフランカーをレティクルに収めようとした時だった。

 

「!?」

 

フランカーはコブラをするように機体を立てつつ少し上昇、そのまま左にラダーを切り機体はぐるんと一回転する。

ほとんど錐揉みに近い。

急減速したフランカーを私のトムキャットは追い越してしまった。

そして錐揉みから回復したフランカーは再び後ろにつく。

 

「嘘でしょ!?」

 

私も思わず大きな声を出した。

再びシーカー音がコックピットに響く。

 

「新しい空戦機動ってこの事?!」

 

「真後ろ!」

 

「分かってる!」

 

私は今度は操縦桿を思い切り引き、機体を無理矢理失速させる。

その時に少しだけラダーを踏み、錐揉みを起こすように機体をぐるんと回転させた。

ロールする際にフランカーを見るとフランカーは機体の下を通り過ぎた。

 

「もらった!」

 

すると今度はリリアは反転し降下する。

私もそれに追従した。

 

「よーし・・・そのまま・・・」

 

もう少しでシーカーが重なる。

そう思った瞬間だった。

フランカーが降下中にコブラをするような機動を行い視界から消えた。

 

「嘘!?」

 

上を見ると上昇し反転して背後につく。

 

「あんな機動はトムキャットじゃ無理・・・!」

 

かわそうにも降下中で速度も乗りすぐには出来ない。

とにかく上昇して引きはがそうとした時だった。

ロックオンされた時の電子音がコックピットに鳴り響く。

 

「嘘でしょ・・・」

 

「ハ、ハル?」

 

「負けた。撃墜」

 

《ふふっ、どう?》

 

「負けたよ。リリア」

 

《シミュレーターで練習したかいがあったわ!》

 

「でもそんな曲芸、機体は大丈夫なの?」

 

《・・・たぶん》

 

「ちょっと・・・」

 

さっきの機動を見る限り、リリアは基本的に操縦桿を思い切り引きリミッターを解除して機動を行っている。

そんなに何回も何回もあんな曲芸飛行をしたら機体にガタが来てしまうだろう。

 

「まったく・・・ちゃんと考えてよ」

 

《わ、分かってるわよ!》

 

《ねぇー、おわったー?》

 

「あ、うん。今ね」

 

《りょーかい!ていうか、模擬戦見に来たのは良いけど、高度高すぎて分かんなかったよー!》

 

「ごめん、今度はもっと低くするよ」

 

《それはそれで危ないからいい!》

 

「どっち・・・」

 

なんて話をしながら私たちはマヤ達と合流した。

合流とは言っても速度は私たちの速いので追い抜き旋回してもう一度ヘリの近くを飛ぶ。

さすがにマヤのブラックホークを追い抜いたまま放置は出来ない。

地対空ミサイルを持った山賊からしたら低空を単機で飛ぶヘリなどいい射撃練習の的だった。

 

「あと20分くらいかな」

 

「街まで?」

 

「うん。時間的にお昼時だしまずはお昼ご飯かな」

 

《賛成!お腹空いちゃったわ》

 

《こっちも!みんなお昼したいって!》

 

「了解、それじゃ降りたらお昼だね」

 

無線では何を食べるかという話で盛り上がる。

街に到着する寸前まで話は続き、結局多数決でステーキということになった。

 

「さてと、それじゃ着陸体勢に入ろうかな」

 

「分かった、手伝うことは?」

 

「んー・・・基本は私がやるから大丈夫だよ、景色眺めてて」

 

「分かった」

 

私はエルにそう言うと着陸の準備に入る。

その間に管制から許可ももらい、あとは降りるだけだ。

 

「よし、OK」

 

私はゆっくりと機体を下ろしていく。

リリアのフランカーもすぐ隣を飛行していた。

 

「エル、念の為鳥を監視してて」

 

「了解」

 

バードストライクを起こせば下手すると大事故になる。

わざわざ近づいてくる鳥もいないが稀に旅客機がバードストライクを起こして緊急着陸をしていたので念の為に監視をお願いした。

 

「200・・・」

 

残り200フィート。

もう滑走路は目の前だ。

 

「50・・・」

 

機体は何事もなく滑走路に接地する。

そこから指定された駐機場に向かい、エンジンを止めた。

 

「ん、くうぅぅ・・・!」

 

「お疲れ様、エル」

 

「ふぁ・・・!お疲れ様、ハル」

 

ずっと座っていたからキツかったのだろう。

エルは思い切り背伸びをしていた。

 

「で、この後は?」

 

「マヤ達が来るまで待機。ターミナルで待っとくって連絡はしたからお土産でも見よ」

 

「分かったわ!」

 

先に着いた私達はターミナルに向かい、そこにある土産屋に向かった。

そこはさすが西部開拓時代を模した街だけある。

その時代の料理を再現した店や服屋、銃砲店があった。

エルは銃砲店が見たいようでずっとそっちを見ていた。

 

「エル?銃砲店行く?」

 

「え?え、いや・・・私は・・・」

 

「行ってきなさいよ、私はそこの服屋にいるから」

 

「分かった、じゃあ行こ、エル」

 

「わ、私は行くなんて・・・」

 

「じゃあ私が行きたいから行く。それでいいでしょ?」

 

「も、もう・・・分かったよ・・・」

 

しぶしぶ・・・という顔はしているが尻尾は嬉しそうに左右に振れていた。

そして銃砲店に入るとそこには最新式の銃器もあるが大半はリボルバーやレバーアクション式のライフルだった。

 

「すごい・・・」

 

エルは目をキラキラさせて眺めていた。

さっき以上に尻尾が動いている。

 

「・・・すごい・・・けどこれは何・・・」

 

私が見たのは人間が撃てる銃では無かった。

モデルはダブルバレル式のショットガンだが弾薬が何回みてもおかしい。

30x173mm弾。

A-10攻撃機の機関砲の弾丸だ。

そしてその巨大な弾を撃てるのは筋骨隆々のオークくらいだった。

魔法で自身の筋力を100倍くらいにすれば撃てるだろうが・・・。

 

「これ・・・オーク専用じゃん・・・」

 

オークと言えば山賊などが主で敵という印象も強いが、大半のオークは普通に街で暮らしている。

何しろ3m近い身長に100kgくらいなら軽々持ち上げる筋力、大口径の銃でも軽々扱う彼らは建設業や街の防衛隊で重宝されていた。

またそのため王国軍にもオークの部隊があり、基本的に敵地への殴り込み部隊だった。

 

「ねぇハル、これすごい!」

 

「どれ?」

 

エルが指さしたのはレバーアクションタイプのライフル、ウィンチェスターM1895のようだが使用弾薬は.50AE。

デザートイーグルの弾薬を使うようだ。

 

「ここの店は大口径至上主義なの・・・?」

 

私は若干引いていたがエルは楽しそうだった。

そして興奮が冷めず、エルは1つ購入することにしていた。

選んだのはコルト シングルアクションアーミー。

私も本で読んだことはあるがこの西部開拓時代に主流だったリボルバーだ。

 

「買っちゃった!」

 

「良かったね。でも、使うの?」

 

「ううん、これは飾りと射撃して遊ぶ時用だよ」

 

「そっか。でもエルが楽しそうで良かった」

 

「ハルが連れてきてくれたお陰だよ。ありがと、ハル」

 

「どういたしまして」

 

そして店を出るとそこにはヘリ組も到着していた。

 

「お待たせ」

 

「ううん、今ちょうど来たところ!エルは何買ったの?」

 

「コルトSAA。カッコイイでしょ」

 

「お、これまた渋いね!」

 

「エルさんにお似合いですね!」

 

「え、そ、そんなこと・・・」

 

「ふふ、顔真っ赤ですよ?」

 

エルは似合うと言われて少し恥ずかしくなったのか袋で顔を隠していた。

 

「よし、それじゃご飯にしようよ!」

 

「賛成、行こ」

 

私達は空港を出てステーキハウスを探す。

するとこの後行く予定だった、観光地区の目の前に1件あった。

ここで昼食にしよう。

 

「ここでいいんじゃない?」

 

「うん、私は賛成」

 

「私も!」

 

皆ここで良いということだった。

旅行にきてまだ3時間くらいだがエルも元気を取り戻し皆楽しそうだ。

どうせテキサスの滑走路はまだ治らない。

存分にこの旅行を楽しもう



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旅行 2

「それではお好きな役割をお選びください」

 

昼ご飯も食べてお腹が幸せになり、私達はお目当ての観光地区に来た。

そしてそこでガンマンや保安官など好きな役職になりきれる。

 

「えと・・・どうする?」

 

「私は保安官!」

 

「私も」

 

「私も保安官に1票」

 

どうやら皆街を守る保安官になりたいようだ。

私もガンマンよりはそっちのほうがやってみたい。

 

「ところでこの、5万ドルコースっていうのは?」

 

「こちらはお持ちの武器をこちらのパーク内で使用できるようにするプランです」

 

「どういうこと?」

 

「このパーク内では基本的に空砲とそれの発射に連動したレーザービームを使う事で標的への当たり外れを表示します。そのため、その装置を予め付けた銃をお貸ししても良いのですが装置の取り付けだけなら既存の火器にも可能でして」

 

「なるほど」

 

とは言っても・・・持っているのは護身用のP226。

マヤとエルも同じ226だ。

リリアはGlock19。

ミオとルイはFNX-45。

あとのエルフのアヤとハルは銃は持ってきていない。

 

「どうする?」

 

「んー・・・私はこのプランでいいわよ。正直リボルバーは苦手だし」

 

「私も慣れない銃よりはこっち!」

 

銃を持参している私達6人は自分の銃を使うことにした。

アヤとハルは銃を借りるそうだ。

 

「それではこちらで込めてある弾薬を全て抜いてください」

 

係員に案内された場所で銃から弾薬を全て抜きとる。

すると空砲とレール部分に取り付けるレーザーポインターのようなものを渡された。

 

「これを引き金部分に貼り付けてください」

 

薄いテープのようなものを引き金に巻き付けた。

何かのスイッチのようだ。

 

「これで引き金を引くと連動してレーザーが発射されます」

 

「なるほど、よく出来てる」

 

「それと・・・空砲ですね。パーク内でもパーク内通貨を使用することで弾薬の補給が可能になります」

 

弾倉に空砲を込めている最中にパーク内での行動について説明された。

このパーク内では外で使えるドルは限定的だが使えず、パーク内通貨であるルーブルが使える。

・・・ルーブルって異世界の国のロシアの通貨だったような・・・。

とにかくそのルーブルを使って弾薬の補給や中の購入が出来る。

パーク内の飲食店や土産屋は普通にドルを使用することになるが。

またこのルーブルは入場時に渡されるパーク専用のクレジットカードに保存されるようだ。

そしてそのルーブルの稼ぎ方はパーク内で役職に応じた仕事をこなす事だそうだ。

例えば保安官なら賞金首の確保や犯罪の制圧等になる。

またこちらのダメージ判定は入場時に渡される小型の携帯端末 に人体の各部所のダメージが表示される。

死亡判定を受けると仲間が死亡判定者の端末を操作することで蘇生される。

1人だけの場合、もしくは全滅した場合は最寄りのパーク受付で復活可能だそうだ。

 

「説明は以上になりますが、ご質問はありますか?」

 

「ううん、大丈夫」

 

「了解いたしました。ではこの保安官バッチをお付けください」

 

言われた通りにバッチを胸元に着けた。

 

「それではお楽しみください」

 

係員はゲートを開けた。

 

「じゃあ行こう!」

 

マヤは楽しそうに進んでいく。

ゲートをくぐるとそこにはまさに本で見た光景が広がっていた。

乾いた砂の道に木造の街。

転がる草の塊。

 

「すごい・・・!」

 

「ねぇねぇ!さっそく何かしようよ!」

 

「うん、まずは保安官の施設に行こ」

 

「了解!」

 

「とりあえず、初弾だけ込めときましょ」

 

そう言ってリリアは拳銃のスライドを引く。

ふと思うが、この時代にこんな拳銃無かったはず・・・。

まぁ、本の知識しかないのでもしかしたらこんなタイプの銃も存在していたのかも知れない。

 

「せっかくだしまとまってよりは別れていかない?」

 

「あ、それもいいわね。じゃあマヤ、行きましょ」

 

「うぇ!?」

 

「あら、嫌だった?」

 

「い、嫌じゃないけど・・・」

 

「じゃあエルは私と行こ」

 

「え、あ、う、うん」

 

「私もご主人様と・・・!」

 

「ハルはこっち。トマホークも」

 

「な、なんでですかぁ!!」

 

「あんたハルとエルが居ると何するか分からないからよ」

 

「な、なにもしないですよ!!」

 

「いいからこっちに来なさい。ほら、トマホークはいい子だから来るわよ」

 

「わふ!」

 

トマホークはこっちに来いと言う目でハルを見ていた。

 

「う、うぅ〜・・・」

 

「じゃあルイとアヤは私とですね!」

 

「・・・リボルバーしかないけど・・・」

 

「ふっふっふ・・・甘いですねルイ、私はショットガンですよ」

 

「なんでアヤはそんな重武装なんです!?」

 

「力こそパワーだよ?」

 

「いやそんな私達がおかしいみたいな顔して言うのやめてもらっていいですか・・・?」

 

「9mmなんて豆鉄砲です!偉い人にはそれが分からんのです!あ、でもエロい人は分かるらしいです!」

 

「なんの話ですか!?」

 

などと賑やかなチーム分けを行って私達は別々に別れた。

 

「さてと、それじゃ街の治安を守ろっか」

 

「そうだね」

 

そう話して歩いている最中だった。

 

「だ、誰か!誰か来てー!!」

 

「何?」

 

「わかんない、あの家から」

 

入る前の説明でもあったが、パーク内ではランダムイベントとしてパークの従業員が役者として状況を作り出してくれる。

その状況を解決すると報酬にルーブルや記念品が貰えたりする。

 

「行こう」

 

「了解」

 

私達は悲鳴の聞こえた家に向かう。

そこは街の裏路地のような場所だった。

近くには人が集まっている。

もちろん全員役者だが。

 

「おぉ、保安官!大変なんだ、この家に銃を持った男が・・・」

 

「分かった、私たちで対処する」

 

保安官・・・と呼ばれるのはいいが私たちの格好は下は青いジーンズ、上は白いTシャツと灰色のパーカーだ。

エルは少し灰色がかった黒色のスカートに犬のワンポイントがある薄い水色のトレーナーにポニーテールと街歩きの女の子の格好だ。

 

「OK、行くよ」

 

私達はドアに手をかける。

ゆっくりとドアを開け警戒する。

 

「・・・クリア」

 

「確認」

 

素早く中に入りしゃがむ。

・・・なんか仕事の動きに・・・。

 

「階段の上から物音。たぶん部屋に立てこもってる」

 

「了解」

 

ゆっくりと階段を登ろうとした時だった。

階段を昇った先の廊下にある左側の部屋のドアが勢いよく開き、男が2人でてきた。

 

「保安官だ!お出迎えしてやろうぜ!!」

 

「コンタクト!!」

 

ここは家というよりBARのようだ。

私達は机をひっくり返して遮蔽物にする。

 

「エル、撃てる?」

 

「相手はリボルバー、弾切れを起こさせたら仕掛ける」

 

「いいプラン」

 

2階の男たちはパンパカパンパカよく撃つものだ。

もちろん向こうも空砲なので着弾はしない。

 

「おら!保安官なら撃ってこいよ!!」

 

「撃てよ!臆病者!」

 

さすが役者・・・妥協のない演技だ。

 

「エル、2・3発撃ってみる?」

 

「任せる」

 

「了解」

 

私は机の影から顔を出して2発射撃した。

 

「ぐわぁ!!」

 

「ひゃはは!死んでろマヌケ!」

 

クスリでもやってるのかこの悪党は・・・。

そう思いたくなる演技だ。

 

「ほーらプレゼントだ!」

 

そう言って何かを投げ込んできた。

 

「・・・!?」

 

それはダイナマイトの形をした物体だった。

表面にはタイマーのようなものがあり、恐らく爆発判定になると範囲内の物にダメージ判定を与えるのだろう。

私は思わず叫ぶ。

 

「グ、グレネード!グレネード!!」

 

「この、やろッ!!」

 

エルはそれを思い切り上に投げ返す・・・が上はそもそも人質がいる可能性が・・・。

 

「ぬぅ!?」

 

ダイナマイトは2階の廊下に転がったところで大きな音を出し煙を吹き出した。

 

「・・・エル・・・上、人質居るんじゃ・・・」

 

「・・・あっ・・・」

 

転がっている悪党の横を通り出てきた部屋を見る。

 

「・・・・・・・・・巻き込んでるじゃん」

 

「・・・これはコラテラルダメージというものに・・・」

 

「・・・エル?」

 

「だ、だって仕方ないでしょ!?あぁするしか無かったんだから!」

 

「まぁ・・・咄嗟の判断だし・・・」

 

「・・・どうしよ・・・」

 

エルは一緒にドアの近くで転がっている人質の女性を見て頭を抱えていた。

 

「とりあえず・・・」

 

「ハル!?」

 

「貰えるものは貰っとこ」

 

「ちょ、ちょっと・・・これじゃ悪党と・・・」

 

「エル、素晴らしい言葉がある」

 

「な、なに?」

 

「死人に口なし」

 

「無茶苦茶だよ!!」

 

私は死亡判定の悪党を漁り合計で200ルーブルを入手した。

ちなみにここの通貨で200ルーブルは2万ドルくらいの価値になる。

 

「で・・・どうするの?」

 

「悪党が自爆、人質死亡。状況クリア」

 

「何キメ顔で言ってるの!?」

 

「エルがダイナマイト投げ返さなきゃ人質KIAなんて無かった」

 

「うぐ・・・」

 

「そういうわけで・・・」

 

私はそこそこな額を手に入れて満足し立ち上がる。

 

「あとは何食わぬ顔で出るよ」

 

「嘘でしょ!?」

 

「エル・・・正義に犠牲は付き物なんだよ・・・」

 

「おかしい!おかしいから!ていうかハルめちゃくちゃ楽しんでるよね!?」

 

「あ、分かる?めっちゃ楽しい」

 

初めてのテーマパーク。

そりゃ楽しいに決まってる。

 

「まぁ、ほんとに死んでる訳じゃないし行こ」

 

「これじゃどっちが悪党か分かんないよ・・・」

 

「人質からは取ってないでしょ。悪党はコイツら」

 

「まぁ・・・そうだけど・・・もういいや!私も楽しむ!」

 

「その意気だよ」

 

そして2人して激戦だったぜ・・・みたいな顔をして建物から出た。

 

「保安官!人質は・・・」

 

「悪党が自爆、人質KIA。まったく最近過激派が多くて困るよね、相棒」

 

「うぇ!?あ、相棒!?」

 

「そういう事にしようよ」

 

「わ、分かったよ・・・え、えと・・・ボス?」

 

エルは少し恥ずかしそうにそう言った。

何だかそれがめちゃくちゃ可愛く感じる。

 

「え、えーっと・・・人質は・・・」

 

「死んだ。死亡。KIA。OK?」

 

「お、OK・・・」

 

「んじゃ掃除屋によろしく」

 

なんて本当に保安官が言わないようなセリフを吐いてその場を去った。

 

「さて、それじゃ戦利品も手に入れたしガンショップ行ってみようよ」

 

「うん、賛成」

 

「そうだ、マヤ達に連絡して何してるか聞いてみよ」

 

私は入る時に渡された端末を使う。

これは同じグループ内なら通信もできるようになっているのではぐれた際や何か作戦を行う時に使える。

 

「マヤー?」

 

《こちらエコー3-1!激しい攻撃を受けている!》

 

《3-1援護するわ!》

 

《2階に敵!》

 

《グレネード!》

 

・・・・・・何やってんだ向こうは・・・。

 

「・・・西部劇ってこんなのだったっけ」

 

「こんな端末使ってる時点でアレだけど絶対違う」

 

マヤ達の会話は敵に遭遇したガンナーグループのそれだ。

 

「向こうは向こうで楽しんでるからこっちはこっちで楽しも」

 

「そ、そうだね・・・」

 

ということでとりあえず弾薬の補給と出来れば長物が調達したいので武器屋に向かった。

 

「それにしてもいい街並みだね」

 

「うん。獣人族でも発展してる村は似たような雰囲気だったよ」

 

「そうなんだ。そういえば獣人族ってエル達みたいに柴犬がモデル?みたいなの以外にも暮らしてるの?」

 

「うん、基本的に獣人は獣人で固まってるから。私は柴犬だけど、シェパードの娘とかも居たよ。カッコ良くてモテモテだった」

 

「やっぱり元となった動物で顔つき変わるの?」

 

「どうなんだろ。でも人間から見たら獣人族って顔つきが凄い好みって人多いけど」

 

「確かに美男美女がほとんどだもんね」

 

「私は人間みたいに色んな顔もいいと思うけど。獣人って似た顔が多いから」

 

「それ、一部の人が聞くとブチ切れちゃうよ」

 

「だから美人のハルにしか言ってない」

 

「そんなこと言っても何も出ないからね」

 

「否定しないんだ」

 

「いつもしてるけど・・・皆しつこいから・・・」

 

「あー・・・」

 

ファンクラブの事を思い出してしまった・・・。

あのクラブの本部が街にさえ無ければ爆撃してやったのに・・・。

 

「あ、ハル、あれ」

 

「銃砲店だ」

 

「行ってみよ」

 

「うん」

 

銃砲店に入るとおじさんが1人だけいた。

店内には色々な弾薬がある。

 

「やぁ保安官!武器の調達かい?」

 

「うん。ごつくて正確なのが欲しい」

 

「ごつくて正確・・・そうなるとこれだな!」

 

おじさんは銃を1つ取り出す。

 

「M1891、いわゆるモシン・ナガンってやつだ」

 

「エルにはいいんじゃない?」

 

「うん・・・これなら慣れてる」

 

「お、ワンコの保安官にピッタリじゃねーか!似合ってるぞ!」

 

「そりゃどーも・・・」

 

ちょっと照れくさそうだ。

それにしても慣れた手つきで操作している。

 

「慣れてるね」

 

「まぁね。村にいた頃Karと一緒に使ってた」

 

「そうなんだ。どう、買っちゃう?」

 

「いいの?」

 

「ほくほくだから」

 

モシン・ナガンの金額は180ルーブル。

手に入れた額は200ルーブルなので買える額だ。

弾薬も追加で15発購入したところでお金が無くなった。

 

「それじゃ、ありがと」

 

「あぁそうだ!この辺りに近くの街で銀行を襲った連中が潜伏してるらしいんだ。保安官の詰所に行けば情報があると思うぜ」

 

「了解、ご協力どうも」

 

さっそく新しいミッションだ。

ただ銀行強盗の集団か・・・。

 

「とりあえず詰所に行こ」

 

「そうだね・・・って待って、モシンを背負わないと・・・」

 

エルは長いライフルを何とか背負っていた。

そしてのんびりと詰所に歩いていた時だった。

 

「ん?」

 

「どうしたの?」

 

「今、保安官って声が聞こえた」

 

「気の所為じゃないの?」

 

「私の耳舐めないでよ。パッシブソナーなんだから」

 

「いや、そこは普通に犬耳でいいでしょ」

 

「・・・忘れてよ」

 

「はいはい」

 

「えと・・・それでその2つ目の建物・・・2階から視線も感じるし保安官がどうとかって聞こえた」

 

「おっとそいつは怪しい」

 

「どうする?」

 

「悪党に情けは無用。ドアぶち破って入るよ」

 

「ちょっと本気!?」

 

「いいじゃん、テーマパークだし楽しもうよ」

 

「まぁ・・・そうだね・・・」

 

そしてその怪しいと言った建物に近づいた。

するとエルは確信を持ったようだ。

 

「逃げる準備してる。逃げられるよ」

 

「OK、エルはやれる?」

 

「もちろん」

 

「よし。行こう」

 

私達はドアに近づく。

そして開けようとするがもちろんカギがかかっていた。

ルール上は鍵のかかったドアの破壊はOKだったので遠慮なくやらせてもらおう。

 

「エル、そこのハンマー取って」

 

「はい、どうするの?」

 

「ドアブリーチだよ」

 

「派手に行くね・・・でも楽しくなってきた」

 

「ふふ、楽しそうで良かった。それじゃ・・・」

 

私は大きなハンマーを横に大きく振る。

 

「ブリーチ!ブリーチ!」

 

思い切りドアの鍵部分を叩き破壊する。

そこにエルが突入した。

 

「コンタクト!」

1階に数人が居た。

 

「ちくしょうバレたぞ!!」

 

「相手は2人だ!」

 

エルは的確に悪党を撃っていく。

 

「がぁ!」

 

「ぐぁっ!!」

 

撃たれた悪党は見事な演技で倒れていく。

そして1人がショットガンを持っているのに気づいた。

 

「エル、ショットガン貰っていい?」

 

「はい、弾は?」

 

「入ってるやつでいい」

 

渡されたショットガン、M1897 トレンチガンを持ち、少しだけスライドを引いて薬室を確認した。

 

「よし、弾は入ってる」

 

「あ、いいもの見っけ」

 

「なにそれ」

 

「ダイナマイト」

 

「・・・また?」

 

「今度は人質居ないでしょ」

 

「確定じゃないけど」

 

「そしたら巻き込まれた方が悪い」

 

「エルも中々悪党になってない?」

 

「吹っ切れた。楽しまなきゃ」

 

「よし、それじゃ悪党始末したら家の中隅々まで漁り尽くして戦利品探そう」

 

「大賛成」

 

もうこの時点で誰が悪人で誰が保安官か分からなくなってきた。

そんなこと思いながら2階で物音と声のする部屋の前に静かに向かった。

 

「・・・いるね」

 

「だね。鍵が・・・まぁかかってるよね」

 

「鍵の破壊ってショットガンで出来る?」

 

「出来るみたいだよ。鍵にもレーザーを検知する装置入ってるみたいだから」

 

「それじゃハルの出番だね」

 

「任せて」

 

私は少し離れて鍵を狙う。

 

「開いたらダイナマイトよろしく」

 

「了解」

 

私はエルがダイナマイトを用意したのを確認して鍵を破壊する。

ドアは開きはしなかったが鍵は破壊され何時でも開く。

そこにエルが少しだけドアを開けダイナマイトを放り込んだ。

 

「爆発するよ!」

 

「はいよ!」

 

私達は少し離れて伏せる。

部屋の中からダイナマイト!!という声が聞こえ爆発音がした。

 

「突入!」

 

拳銃を構えて部屋に入ると中にいた強盗連中は全員ダイナマイトで死亡判定になっていた。

 

「クリア」

 

「こっちもクリア」

 

「さて、それじゃ戦利品の回収?」

 

「うん。よし、エルは2階を。私は1階を探す」

 

「了解」

 

お互い悪い顔しながら建物を漁った。

漁ること20分、私は500ルーブルを、エルは400ルーブル近い額を手に入れた。

そしてお互いホクホクした顔で建物から出た。

旅行1日目、パーク内で保安官になったはいいがさっそく悪党に成り果てていた。



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旅行 3

「いやー遊んだ遊んだ」

 

「なんか・・・最後の方は逃げる奴は悪党だ!逃げない奴も悪党だ!とか言って事件解決に向かった先で動くもの全てに撃ってた気がするけど・・・」

 

「民間人には当ててないから」

 

「そういう問題なの!?」

 

「そういう問題」

 

まぁ確かに最後の方は2人してテンションおかしくなって事件だからって言われて向かった先にいた悪党を生かして返すな!なんて言いながら銃撃していた。

 

「暗くなってきたし予約してあるホテル行こ」

 

「そうだね。ところで明日はどうするの?」

 

「んー・・・明日は食べ歩きになるんじゃないかな?マヤが楽しみにしてたし」

 

「了解。それにしても・・・まさか貯めたルーブルで銃が貰えるなんて・・・」

 

「お土産には丁度いい」

 

私とエルは貯めたルーブルで記念品としてちゃんと使える彫刻入りの銃を貰った。

私はM1887 レバーアクション式のショットガンを。

エルはM1873 後装式の単発ライフルを貰っていた。

エルのライフルは見た目がマスケット銃にそっくりだった。

どうやらこの見た目がエルは気に入ったようだ。

 

「マヤ達は?」

 

「さっき連絡したときはまだ遊んでるみたい。ミオ達はパークから出て買い物だって」

 

「そっか。私達はそのままホテル直行?」

 

「うん。帰ってくるまでのんびりしよ」

 

「分かった」

 

そしてホテルまで2人で今日あった事を話しながら帰る。

途中にあった店で他のみんなが帰ってくるまで飲もうということでお酒を買った。

 

「どんなお酒買ったの?」

 

「カルーア。ミルクで割るとコーヒー牛乳みたいで美味しいよ」

 

「楽しみ」

 

「おつまみもナッツを買った」

 

「最高だよ。早く行こう」

 

そして予約してあるホテルに到着しチェックインする。

ホテルは温泉付きの20階建てのビルだ。

私達は15階の部屋を何部屋か借りていた。

 

「私とエルと・・・あとミオだね」

 

「3人部屋なんだ」

 

「まぁどうせ寝る前までは誰かの部屋で遊んでるだろうけど」

 

「マヤがトランプとか持ってきてたもんね」

 

そう話しながら荷物を部屋に置く。

大半の荷物は運び込まれていたので手荷物くらいだ。

 

「はー・・・ふかふか・・・」

 

「ねぇハル。お酒の前に温泉行かない?」

 

「最上階の?」

 

「うん。最上階の」

 

「いいね、みんなまだ帰ってこないし」

 

「じゃあ準備して行こ」

 

「おっけー」

 

着替えを持ってエレベーターで最上階に向かう。

エレベーターを出た先はすぐ温泉だった。

 

「おー・・・ウチより広い・・・」

 

「逆にウチのお風呂が無駄に広いだけ」

 

報酬で貰った屋敷だが今の人数ですらまだ広いくらいだ。

だからと言ってこれ以上増えるのもどうかと思うが・・・。

 

「ふー・・・遊び疲れたあとのお風呂は最高だね」

 

「ほんと。寝ちゃいそう」

 

「寝ないでよハル、溺れても知らないから」

 

「そこは助けてよ」

 

さっそく体を洗って湯船に浸かる。

熱過ぎず温過ぎず、いい温度だ。

それこそ寝てしまいそうなほど。

 

「あ、ねぇねぇ。サウナ行かない?」

 

「サウナ?」

 

「あそこにあるよ」

 

「私サウナ初めてだから行ってみたい」

 

「あれ、そうなの?」

 

「私村からあんまり出たことなくて」

 

「じゃあ行ってみよ、先に出た方がジュースを奢るってことで」

 

「いいよ。負ける気しないけど」

 

「甘く見てのぼせないようにね」

 

そして私達はサウナに向かう。

 

「・・・なにこれ」

 

「サウナってこういうもんだよ」

 

「暑い・・・」

 

「そりゃ汗かく施設だから」

 

2人で並んで座る。

とりあえず5分くらい入ってるか・・・そう思ってエルを見ると入って数十秒なのにもうプルプルしていた。

 

「ふふ、限界?」

 

「ま、まだまだ・・・」

 

「まぁ、5分くらいで出よ」

 

「先に出た方がジュースっていうのは・・・」

 

「横でプルプルしてるエル見たらなんかその話はいいやって」

 

さすがに初めての相手にそんなの酷だと自分でも思う。

それに2分くらい経ったがエルは既に顔が真っ赤だ。

普段腰まである髪の毛のせいで余計に暑いのだろう。

 

「ハル・・・限界・・・」

 

「それじゃ出ようか」

 

3分くらいでエルは我慢の限界に達したようだ。

そこから水風呂に入る。

 

「ひっ・・・!」

 

「どしたの?」

 

「つ、冷たくて・・・」

 

「あはは、ゆっくり浸かるといいよ」

 

そして水風呂に入り、露天風呂などに入ったあとに温泉から出る。

 

「どうだった?」

 

「良かった。でもサウナは当分いい・・・」

 

「髪の毛長いから暑かったでしょ。私みたいにセミロングくらいにすればいいのに」

 

「長い方が色んな髪型出来るでしょ」

 

「まぁ確かに。でもエルって普段そんなに髪型変えてた?」

 

「変えてないけどリリアにたまにオシャレしろって弄られる」

 

「まぁリリアも髪長いしオシャレ好きだからね」

 

「それに髪型変えるのちょっと楽しくなってきた」

 

「そう?私は短いくらいが好きだけど」

 

「ハルも伸ばすと絶対似合うよ」

 

「ありがと、考えとくよ」

 

そしてエレベーターに乗って部屋のある階に戻り部屋に入るがまだ誰も帰ってなかった。

時刻は夜の21時。

 

「まだ遊んでる・・・」

 

「ミオ達も初めての観光地だし買いたいもの多いんでしょ」

 

「そういえば・・・ミオは家族も居るよね」

 

「え?あ、うん・・・ミオはね」

 

「何も嫌味で言ったんじゃないよ」

 

「分かってるよ。エルがそんな嫌な子じゃないのは知ってる」

 

確かに私たちの仲間で家族がいるのはリリアとマヤ、ミオだけだ。

私は飛行機事故で亡くしてるし他のみんなはカルト教団に襲われて亡くしていた。

 

「なんか暗い雰囲気になっちゃった・・・ごめん」

 

「エルのせいじゃないよ。ほら、とりあえず飲も」

 

私はお酒を出してグラスに注ぐ。

 

「初めて飲む・・・」

 

「昔飲んだことあるけど美味しいよ」

 

初めてということもありエルのお酒は少し薄めにした。

すると気に入ったのかグイグイと飲む。

 

「美味しい?」

 

「美味しい!」

 

「じゃあこれもお食べ」

 

私はナッツを出して広げた。

そこからは今日の思い出やまた戦闘機に乗りたいなどと話していると酔いが回ったのかエルは口数が少なくなり寝てしまった。

すーすーと規則正しい寝息が聞こえる。

 

「・・・寝ちゃった」

 

ベッドに移そうか考えているとミオが帰ってきた。

 

「ただいまですー!ってあら、エル寝ちゃいました?」

 

「飲んでたら。ミオも飲む?」

 

「飲みます!あ、でしたらマヤさん達の部屋に行きませんか?」

 

「エルは寝ちゃったしそうだね。でも椅子で寝かす訳にもいかないからちょっと手伝って」

 

「了解です!」

 

ミオと協力してエルをベッドに寝かせ布団を掛けてやる。

幸せそうな顔して寝てる。

 

「じゃ起こさないように・・・」

 

私はミオと大きな音を立てないようにマヤ達の部屋に入った。

するとマヤ達もお酒とおつまみを買っていたのでちょっとした宴会だった。

エルフのハルとアヤは遊び疲れたのか温泉に入ってお酒をちょっと飲んだらすぐに寝てしまった。

 

「また酔っ払って暴れないでよマヤ」

 

「あ、暴れないよ!」

 

「どうだか・・・あ、そういえばふと思ったんだけど」

 

私はお酒を持って笑っていたミオを見て思う。

エルフはとんでもなく長寿だ。

いったいミオは何歳なんだろうと・・・。

 

「エルフってさ、寿命すごく長いでしょ?」

 

「んー、そうですね。人の3倍以上は・・・」

 

「・・・ミオって幾つなの?」

 

「・・・乙女にそれ聞きます?」

 

「興味本位」

 

「えー・・・まぁ・・・そうですね・・・長すぎてあんまり数えてないんですけど180年くらいは生きてますね」

 

「ミオで180!?」

 

「ハルは100ちょっとですよ」

 

「ち、ちなみに獣人は?」

 

「・・・獣人は人よりちょっと短い・・・私は18」

 

「まって、未成年!?」

 

「獣人族の成人は10歳なので問題ないですよ」

 

「そ、そうなんだ・・・」

 

「なんか・・・長寿って憧れるわね・・・」

 

「じゃあリリアの来世はエルフ?」

 

「なんでよ!」

 

「・・・でも長寿も辛いですよ」

 

ミオは少し下を向いて話す。

 

「私の寿命が来る前に・・・皆さんとはお別れしないといけませんから・・・」

 

「・・・」

 

長寿のエルフなりの悩みなのだろう。

人と知り合い、例え仲良くなっても長寿のエルフはほとんど老いることも無くその人の死を見届けなくてはならない。

 

「まぁ・・・仕方ないですよ、こういう種族ですから!」

 

「うん・・・」

 

「ほら、暗い雰囲気はダメダメ!」

 

マヤは暗い雰囲気に耐えきれずそう言った。

 

「まだお酒あるんだし飲もう!」

 

「そうだね」

 

そしてそこから日付が代わり朝の2時くらいまで夜更かしをしていた。

お開きになりミオと部屋に戻る。

 

「明日はどこいくんでしたっけ」

 

「明日・・・というか今日はマヤが美味しい物食べたいって言ってたから食べ歩き」

 

「それもいいですね!」

 

そして部屋のドアを開けた。

すると中から呻き声が聞こえた。

エルだ。

 

「エル・・・?」

 

うなされているようだった。

私は近寄るとエルは涙を流していた。

そして寝言で叫ぶ。

 

「お前ら許さない!皆殺しにしてやる!!」

 

「エル!?」

 

「母さん・・・父さん・・・」

 

涙を流しながら叫びまた寝始めた。

 

「・・・たぶん昔の夢でも見てるんだろうね」

 

「ですね・・・」

 

何となく私とミオはエルにくっつくようにして寝始めた。

するとエルはまた寝言を言い始める。

 

「んぅ・・・そこ・・・」

 

「?」

 

「・・・そこの338ラプア取って・・・」

 

「なんちゅー夢を・・・」

 

寝言で弾薬を要求されるなんて思いもしなかった・・・。

まぁでも悪夢が終わったならそれでいい。

私も寝ることにしよう。

 

 

 

〜エル 数ヶ月前〜

 

「ふぁ・・・」

 

「エル、眠そうだね」

 

「昨日、アルが寝かせてくれなくて・・・」

 

「エ、エル・・・まさか・・・!」

 

「違うから」

 

「なんだ、エルの事だから旦那のアルと夜な夜な・・・」

 

「夜な夜な何もしないし旦那でもないから」

 

「ラブラブな癖にぃ〜」

 

「ここで脳天ぶち抜いてあげようか」

 

「ごめんなさい冗談です!!」

 

「まったく・・・」

 

なんて話を見張り塔でする。

最近この近くにカルト教団の人間至上主義団体が彷徨いているということで銃を扱える村人は交代で見張りや巡回をしていた。

だが昨日の夜、私の家にゲームさせてくれと隣に住んでいる幼馴染のアルが訪ねてきた。

そして2人でゲームしていたら気づくと明け方だった。

お陰で寝不足だ。

 

「それにしてもエルは古いの使うね」

 

「ナユみたいに最新式は苦手なの」

 

「そのわりには拳銃は新しいの使うんだね」

 

「弾は多い方がいいでしょ」

 

「まぁね・・・」

 

そう言って私が持っているのはM1903とP226。

となりのナユが持っているのはSR-25。

7.62mm口径のセミオートライフルだ。

あとは念の為にAKMが2丁見張り塔に置いてある。

 

「それにしてもこの村襲うなんて何考えてるんだか」

 

「人以外を滅ぼそうとしてるんでしょ」

 

「そういう意味じゃなくて銃で武装してる村をってこと。エルフなら昔ながらの剣とか弓だけど」

 

「そう?最近は銃で武装してるところも多いみたいだけど」

 

私達獣人族は狩りをすることが多いので銃が出始めた当初から銃を使っている。

弓や罠で狩りをするよりもずっと高威力で簡単だからだ。

 

「はぁー・・・王国軍も掃討してくれればいいのに」

 

「基本的に王都以外は我関せずでしょ。騎士団なら別だけど」

 

「その騎士団も村まで守りきれませんってなってるし・・・酷い世の中だよ」

 

「だからこうやって守ってるんでしょ。っと、定時連絡」

 

「はいはーい」

 

ナユは無線機を使って村の警備係と定時連絡をする。

 

「CPこちら03ポスト」

 

《こちらCP》

 

「定時報告以上なーし」

 

《CP了解》

 

私はため息をついて森を見張る。

獣人・・・特に犬の獣人の私達は耳と鼻が効く。

何かあれば気づくはずだ。

 

「それにしても先週から村人の大半がAKで武装って山賊かなここは」

 

「あとRPGにM2機関銃もね。まぁ何も知らない人がみたらそうじゃない?」

 

「ひぇー怖い怖い」

 

「そういうアンタもね」

 

「なぁっ!?こんな美少女に向かって!」

 

「7.62mmのライフルもった美少女なんて居ないよ」

 

「居るよ!たぶん!どっかの街の冒険者とか!」

 

「冒険者なんて大抵飛行機乗りでしょ」

 

「まぁ・・・そうだけど・・・というより来てくれるのかな」

 

ナユは空を見て不安げにそう言った。

ここからすぐ近くの街に村の警備の依頼を出している。

一応依頼を受けた冒険者グループが居るということなのだが、近い街でもここから300kmはある。

攻撃されて来てくれと要請して何分かかるか・・・。

 

「ふぁー・・・」

 

ナユも眠くなってきたのだろう。

大あくびをしたその瞬間だった。

黄緑色の光が見張り塔の屋根を吹き飛ばす。

 

「ぶぁぁぁぁ!?」

 

「襲撃!!」

「む、無線機!こちら03ポスト!!襲撃を・・・」

 

「いままで何処に・・・!」

 

私はライフルを構えて光が飛んできた方向を見る。

すると杖をこちらに向け魔法を打とうとしている魔法使いが見えた。

 

「すー・・・はぁ・・・」

 

私は引き金を落ち着いて引く。

弾丸は魔法使いの心臓を撃ち抜いた。

胸を抑えて崩れ落ちた。

 

「あのクソども魔法で匂いを消してたんだ・・・!」

 

「おーおーやること卑怯だね!」

 

「情け無用だよナユ!」

 

「任せて、地獄を見せてやろうよ」

 

そう言ってナユは銃を構えて発砲する。

その弾丸は指揮をしているようにも見えるカルト教団の信者の足に命中した。

足を抑えて崩れ落ちる信者。

そしてそれを救おうと近づいた信者の足をさらに撃つ。

 

「ナユも大概残酷だね」

 

「まだ優しいよ。生きてるんだから」

 

「それもそっか」

 

私はなるべく1発で敵を仕留めているがナユは足を撃ち敵を行動不能にしていた。

だが助けようとしたら撃たれると分かったのだろう。

誰も助けに来なくなった。

するとナユはもう用済みだと言わんばかりに倒れている信者の頭を撃ち始めた。

 

「ちょっと、それこそ残酷」

 

「これぐらいが丁度いいよ!」

 

「あーあ・・・アイツら怒ってこっち来るよ・・・」

 

私も射撃しながら敵の様子を見る。

明らかに敵は怒っているようだ。

そりゃそうだ。

仲間を助けようと思ったら撃たれ、撃たれないように様子を見ていると用済みのごとく殺されたのだから。

 

「お隣は・・・派手に行くね」

 

となりの見張り塔には私達のお父さん世代のおじさん達が機関銃やロケットランチャーを持って昇っていた。

ロケットや機関銃で地上を掃射している。

 

「・・・!!エル伏せて!!」

 

「えっ?」

 

ナユに押し倒された瞬間、見張り塔に何かが当たる。

そして木で作られた見張り塔は簡単に倒れた。

私は衝撃で一瞬意識を失う。

 

「げほっ!ぐ、うぅ・・・」

 

全身に走る鈍い痛み。

意識がゆっくりとだがハッキリしてくる。

 

「ナユ・・・ナユ!!」

 

私に覆いかぶさっていたナユは頭から血を流していた。

 

「ナユ!!」

 

脈を確認すると生きてはいるが意識を失っているようだ。

私は見張り塔のガレキから這い出て銃を探すが使っていたM1903は銃口から地面に突き刺さっていた。

これでは銃身内に土が入り最悪暴発する。

周りを見るとAKMが近くにあったのでそれを広い予備の弾薬も2弾倉見つけ着ていたリグに入れる。

 

「ナユ・・・すぐに運ぶから!」

 

私はAKMを背負い、拳銃を抜いてナユを引きずる。

 

「ナユ・・・頑張って・・・!」

 

見張り塔が潰れたことでそこからカルト教団が侵入してきた。

私はすぐに拳銃で射撃する。

 

「クソっ・・・!何人いるんだよ・・・!!」

 

射撃、引きずる、射撃、引きずるという行動を繰り返していると聞きなれた声が聞こえた。

 

「エル!」

 

「アル!ナユが・・・」

 

「俺が連れてく!お前はAKで援護してくれ!」

 

「分かった!」

 

ナユを引き渡すと私はAKを構えた。

 

「ナユ、頑張れよ!お前は強いヤツなんだからな・・・!」

 

射撃しながら2人の様子を見る。

その時大きな爆発音が響く。

その方向を見るとおじさん達が居た見張り塔が爆発系魔法をくらい、さらに弾薬が誘爆して大爆発を起こしていた。

 

「おじさん・・・!」

 

あそこに居たのは私に銃の扱いを教えてくれた人が居た。

 

「クソっ!!」

 

「今はナユを助ける方が先だ!!」

 

「・・・分かってる!」

 

何とかナユを村の集会所に連れてこれた。

 

「ナユ!ナユ!起きろ!」

 

アルがナユを起こそうとしていた。

私は窓から銃を構えて入ってきた敵に向けて射撃していた。

 

「エル!」

 

「母さん?!父さんは・・・」

 

「お父さんは外で機関銃で戦ってるわ、あなたは大丈夫?」

 

「私は大丈夫、母さんは安全なところに」

 

「あら、銃の扱いならあなたより長いわ」

 

そう言って母さんはすぐ近くに置いてあったM16A4を手に取った。

 

「さすが母さん・・・頼もしい」

 

「子供を守るのが親の役目よ」

 

窓から2人で射撃する。

たが・・・いったい何人いるんだ。

撃っても撃っても数が減らない。

その時だった。

 

《敵は泥人形だ!!森の中の魔法使いが作ってる!!》

 

「ダミー!?」

 

《村長!航空支援はいつ来るんですか!!》

 

無線機からは冒険者の航空支援を求める声で溢れている。

おまけに敵はダミーの泥人形。

 

「だから撃っても数が減らないわけだ・・・!!」

 

よく見ると倒れた後溶けるように消えている。

泥人形が死んだ時の特徴だ。

 

「ナユ!良かった・・・大丈夫か!?」

 

「う、うん・・・わたし・・・」

 

ナユが目を覚ました。

私がふと後ろを振り向いた瞬間だった。

 

「・・・!!エル伏せなさい!!」

 

ナユと同じように母さんが私を押し倒す。

そしてその数秒後、爆発の衝撃で意識を失った。

 

「ん・・・う、うぅ・・・」

 

意識を失ったのはほんの数十秒だろう。

まだ辺りでは銃声が響いていた。

だが・・・

 

「母さん・・・?母さん!」

 

私に覆いかぶさっている母さんが返事をしない。

 

「そんな・・・母さん!!」

 

母さんを仰向けに寝かせると首に木片が突き刺さり血を流していた。

・・・どうみたって・・・死んでいた。

だけど、戦闘でアドレナリンが出ているせいだろう。

何も・・・感じなかった。

その時当たりを見ると集会所に大きな穴が空いていた。

爆発系の魔法の直撃を受けたようだ。

 

「エル!母ちゃん!」

 

外から父さんがM249を持って入ってきた。

 

「父さん!母さんが・・・!」

 

「くそ・・・!!俺が近くにいれば・・・とにかくお前が無事ならいい!逃げるぞ!」

 

「村を捨てるの!?」

 

「もう守りは限界だ!村長、そうだろ!!」

 

「・・・そうじゃな」

 

村長がそう言った時だった。

集会所に何人か入ってきた。

 

「くそ!」

 

父さんが機関銃を撃とうとした時、また爆発が集会所を襲う。

私は破片の直撃を受けたが何とか意識を失わずに耐えた・・・。

だが視界がボヤけて耳鳴りがする。

 

「と・・・父さん・・・」

 

爆風で機関銃を吹き飛ばされた父さんは拳銃で応戦しようとしていた。

そこに襲ってきたカルト教団のリーダーらしき人物が入ってくる。

 

「まったく人外が手間をかけさせる・・・。奴隷になりそうなのを集めろ男は労働、女は・・・まぁ変態共に高く売れるぞ」

 

「このクソ野郎、娘に手を出すな・・・!」

 

銃を向けようとした瞬間だった、魔法か剣しか使わないと思っていたカルト教団のリーダーは拳銃を抜いた。

 

「がっ・・・!」

 

「父さん!!」

 

「このクソッタレよくもおじさんを!!」

 

アルがナユのホルスターからグロックを抜き構えた。

 

「犬畜生が・・・」

 

相手は素早く2発撃ち1発がアルの眉間に当たった。

 

「そんな・・・」

 

私は銃を取ろうと手を伸ばすが手を踏まれた。

 

「余計なことをするな。犬は人間に従うべきだろ?」

 

「このクソ野郎・・・!」

 

「神父様、怪我をしてますがこのメスなら」

 

そう言って気を失っているナユを引きずってきた。

 

「ナユを離せこの野郎!!」

 

「口が悪いぞ」

 

神父と呼ばれた男はそう言って私の腹を蹴った。

 

「がはっ・・・!!」

 

「あまり私に手を出させるな。お前の商品としての価値が下がるだろ」

 

「この・・・野郎・・・よくも・・・」

 

よくも・・・父さんと母さんを・・・!!

 

「まだ何か言いたいか?」

 

「お前ら許さない・・・!!皆殺しにしてやる!!」

 

「ほう?今のお前にどうやってできる?」

 

男は私の顔を掴みニヤリと笑ってそう言った。

 

「何年かかったって・・・追い回して・・・追いかけ回して殺してやる!!」

 

「はっ、犬らしいな。だがお前はもう私達を追いまわそうと思っても無理だがな。せいぜい白馬に乗った王子様の助けを夢見て待ってろ」

 

そう言って銃の底で殴られ意識を失った。

 

 

 

「はぁっ・・・!?」

 

「すー・・・すー・・・」

 

「んぅ・・・マヤさんまだ食べるんですかぁ・・・?」

 

「・・・夢・・・」

 

なんて悪夢を・・・。

私はベッドに寝転がろうとした時だった。

 

「んぅ・・・エル・・・」

 

ハルが寝言で私を呼んだ。

 

「何があっても味方だよ・・・すー・・・すー・・・」

 

「・・・ありがと、ハル」

 

よく見たら私の手をずっと握っていた。

 

「ナユ・・・」

 

あの襲撃で私が知る限りの唯一の生き残りの事を思い出す。

私は売り手がつかないという理由でずっと閉じ込められていたがナユはどうなったか分からない。

 

「・・・探さなきゃ・・・」

 

今言い出す訳にもいかないが、この旅行が終わったら協力して貰って探しに行こう。

きっと帰ったら滑走路も直ってるはすだ。

 

 

 

〜ハル〜

 

「ん・・・んうぅ・・・はぁ・・・」

 

よく寝た・・・。

起き上がるともうエルは起きて顔を洗っていた。

 

「おはよ。昨日はうなされてたけど大丈夫?」

 

「大丈夫、ちょっと昔のこと思い出しちゃったくらい」

 

「・・・」

 

エルの昔の話は私の過去よりも残酷なのは分かっている。

だから返す言葉がなかった。

 

「・・・ねぇ、ハル」

 

「うん?」

 

「私の依頼・・・聞いてくれる?」

 

「・・・もちろん。なんでも聞くよ」

 

「ありがと・・・あのね、村の襲撃から友達が1人生き残ってるはずなの。今はどこにいるか分からないけど・・・助けたい」

 

「・・・それを私たちが断ると思う?」

 

「え?」

 

「大切な仲間の友達が酷い目に会ってるかもしれないのに放置なんて出来るわけないでしょ。きっと皆同じ事を言うよ」

 

「・・・うん」

 

「でもとりあえずここから帰らないとだし・・・マヤがご飯食べれないと文句言うから」

 

「わかってる、それに滑走路のこともあるから」

 

「じゃあ本格的な作戦は今日の夜練るよ。艦長なら協力してくれるかな・・・」

 

「あの駆逐艦?」

 

「うん。ハルゼーなら協力してくれるはず。それにこの事でもしかしたら国王様が恩赦をくれるかも」

 

「ふふ、エルフや獣人好きだもんね」

 

「そういうこと」

 

私はエルの依頼を聞き、ハルゼーに協力を依頼することにした。

エルの友達・・・絶対に助けに行く。



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旅行 4

「いやー食べた食べた!」

 

「食べ過ぎ」

 

「仕方ないじゃん美味しいんだもん!」

 

「マヤを乗せたら最大離陸重量に引っかかりそう」

 

「それは普通にひどい!!!」

 

旅行2日目、マヤの提案で今日は食べ歩きをした。

いつも通りというか・・・とんでもない量を食べた。

 

「まったく・・・んで、満足した?」

 

「満足である!」

 

「なら良かった」

 

「それで、もう戻る?」

 

「うん。戻ったらちょっと大事な話あるから私の部屋に集まって」

 

「大事な話?」

 

「超大事な話」

 

「ん、分かったわ。お酒もそれが終わってからね」

 

大事な話、それはエルの友達の救出だ。

エル自身、友達については単独でどこに居るかを調べていたそうだが昨日の悪夢を見て何か嫌な予感がしたのかもしれない。

私たちはホテルに戻り私の部屋に集まった。

 

「それで、大事な話って?」

 

「うん。エルについてなんだけど」

 

「ちょっと、本人いるのにいいの?」

 

「ううん。本人が居ないとダメ。今から話すのはエルの友達の救出だから」

 

「・・・どういうこと?」

 

私はエルから聞いた話を話す。

そしてエルがそれを補足してくれた。

 

「つまりは・・・あのクソッタレ共が売ったエルの仲間を救出すればいいんですね」

 

「ちょっとハル、言葉汚いですよ・・・!」

 

「いいじゃないですか。クソッタレがお似合いですよあんな連中」

 

「とにかくエルの友達・・・えと、ナユって子がどこに居るかを探す必要がある」

 

「でもどうするの?この国の法律だと奴隷なんて厳罰・・・それこそ獣人なんて死刑レベルの重罪よ?そんな奴が痕跡残さないと思うけど・・・」

 

「それなら大丈夫、協力を得たから」

 

「ハル・・・協力って・・・」

 

何かを察したマヤは渋い顔をした。

 

「たぶんマヤの想像通り。駆逐艦ハルゼーに協力をお願いした」

 

「やっぱり・・・」

 

「でも、獣人を救助ってなるとハルゼーの乗組員に国王様から恩赦が出ると思う」

 

「・・・あの物好き国王ならやりそうね・・・」

 

実際、国王は例え偶然とは言え、捕らわれていたエルフを救出し街に引き渡した山賊に罪を許す恩赦を出し、さらにその街で暮らす権利と冒険者として仕事をする権利を与えた。

 

「それで、ハルゼーはもう動いてるの?」

 

「うん。さすが異世界とはいえ一流の軍艦ってところ。何件か目星を付けてくれた」

 

「早いわね、まだ半日よ?」

 

「隠れてる奴を探し出して排除するのは慣れてる軍隊だからって言ってたけど・・・まぁ、でもとにかく捜索するのは私たちは4件」

 

「4件?ほかにもあるの?」

 

「うん。ハルゼーの乗員がのこり5件を探してくれる。それと必要に応じて艦砲とミサイルとドローンで支援してくれるって」

 

「ドローン?」

 

「無人偵察機って言ってた。たまに精霊使いが使ってる戦術妖精ってあるでしょ?」

 

「・・・ごめんハル、知らない」

 

「あら、マヤは精霊に興味無いの?」

 

「専門外!」

 

戦術妖精とは文字通り偵察等を行う戦闘支援のための特殊な訓練を受けた妖精だ。

この戦術妖精は精霊使いと視界を同期し必要なら弾着の観測や空間制圧魔法を撃ち込むための観測、航空機のレーザー誘導爆弾を誘導するために必要なレーザーと同じ周波数のレーザーを照射出来たりと戦闘を支援するために必要な事のほとんどが出来る上に音を出さない、目に見えないということで敵に発見されることなく攻撃を誘導できる・・・が、この戦術妖精はとにかく人見知りが激しく、懐いた精霊使いじゃないと全く仕事をしてくれないという欠点もある。

 

「とにかく、ハルゼーは偵察機を上げてくれるから敵の情報は全部分かるよ」

 

「なるほど!」

 

「・・・ほんとに分かってる?」

 

若干マヤに不安になるがとにかく作戦は私とエル、ミオ、エルフのハルが地上で行動する。

リリアがフランカーで近接支援、マヤはアヤとルイ、もしナユが重傷だった場合に備えてトマホークをブラックホークに乗せる。

ブラックホークはミニガンで武装して必要なら近接支援だ。

 

「これで行くよ。明日早速帰りたいんだけど・・・いい?」

 

「もちろん、ここに来るなんてあと何回でも出来るけどエルの友達はその楽しんでる間にも苦しんでるかもしれないんでしょ?それなら助ける方が先だよ!」

 

「マヤ・・・」

 

「私もマヤに同意見。どうせ遊ぶならナユちゃんも連れてきましょ」

 

「・・・リリア」

 

エルはどんどん目が赤くなり涙を浮かべていた。

 

「エルには貸しがありますけど、これも貸しということにしときますよ!」

 

「ちょっと待った、その貸しはなに」

 

「ご主人様とチョメチョメしたことです!」

 

「・・・あんた地上じゃなくて家で留守番にするよ?」

 

「じょ、冗談ですよご主人様!・・・でも、これは成功したら貸しですから。ちゃんと、貸しにさせてくださいね」

 

「分かってる」

 

みんな、エルの為なら協力しようということだった。

トマホークもやったるで!って顔をしていた。

していたと言うかそう言ってたらしい。

ルイから聞いただけだが。

 

「・・・ね、みんなやってくれるでしょ?」

 

「うん・・・うん・・・」

 

「あはは、泣いちゃった」

 

「違うの・・・嬉しくて・・・」

 

エルは顔をおおって泣いていた。

 

「ほら、じゃあ飲も!」

 

そう言ってマヤは持ってきていたお酒を出す。

 

「ほら、エル」

 

「もうちょっと待って・・・」

 

まだエルは涙が止まらないようだ。

私たちはエルが泣き止むのを待ってお酒を飲んだ。

明日はもうすぐにでも仕事に取り掛かろう。

そう思い私たちは寝る準備をした。

 

「おはよ」

 

「おはよ。寝れた?」

 

「私は。エルは?」

 

「ばっちり。クソ野郎を今なら月まで吹っ飛ばせる気がする」

 

「頼もしい限りだよ」

 

私より先に起きていたエルは帰り支度を済ませていた。

きっともう早く行きたくて仕方ないのだろう。

 

「よし、マヤたち起こして行くよ」

 

「了解」

 

他の部屋を回るともう皆起きていて準備を始めていた。

寝てると思っていただけにびっくりする。

そして皆口を揃えてエルのためだからと言っていた。

 

「ほんと・・・いい仲間」

 

「でしょ」

 

エルはまた少し泣きそうになっていた。

私たちはそのまま準備を終えるとチェックアウトして飛行場に向かう。

そのまま一旦帰宅して装備を整えて再び出発だ。

目標の情報は私たちのケータイに直接送られてくる。

 

「ところでエル、そのナユって子以外には捕まってる子は居ないの?」

 

「・・・分からない。あの後私も気絶させられて捕まったから・・・」

 

「・・・そうなんだ」

 

「1回捕まった後にナユと一緒に変態野郎の家に売られたんだけど、その時何とか逃げ出せて・・・でもその後また捕まって・・・」

 

エルは私たちと出会う1週間前の話を始めた。

 

 

 

〜エル〜

 

・・・揺れる馬車の車内。

このご時世に馬車とは洒落ている。

・・・洒落ているのは見た目だけだが。

 

「・・・エル・・・」

 

私と一緒に捕まり奴隷服を着させられたナユが不安そうにこっちを見ていた。

 

「・・・大丈夫、私が何とかするから」

 

私は自分の手元を見る。

足枷と手枷を付けられてはいるが・・・。

手枷はある程度手が動くくらいの長さの鎖で作られている。

・・・まったくこれを付けたやつに感謝したい。

これなら人ひとりの首をへし折る事くらいならできる。

 

「到着したらなるべく相手に従うふりをして」

 

「・・・・わかった」

 

ナユは震え声でそう言った。

そして馬車に揺られること1時間。

森の中の小さな屋敷に到着した。

下ろされて連れていかれた先にはでっぷり太った金だけは持ってそうな中年男性が立っていた。

 

「これが商品かね?」

 

「えぇ、収穫したてですよ」

 

「さすが獣人・・・美人ぞろいだ」

 

舐めまわすように私たちを見る家主。

私は目を逸らしつつ警備の数を確認した。

恐らく山賊を雇っているのだろう。

AKMで武装した男が2人・・・。

腰には拳銃もある。

何とか奪えれば・・・。

 

「では来たまえ。これが君たちの家だ」

 

そう言われ首輪に着いた縄を引かれる

 

「っ・・・・」

 

強引に引くため少し痛いが・・・。

私はこの男の首をへし折るチャンスを伺う。

そして男が私たちを部屋に入れようとした時にチャンスが訪れた。

 

「では警備の君たちは屋敷の周辺を頼むよ。なに、ちゃんとあとで君たちの分もある」

 

「頼みますよ旦那。これが楽しみで警備してんだ」

 

「分かってるよ、さぁ頼むぞ」

 

「了解しやした」

 

「では君たちはこっちだ」

 

縄を引かれて中に入る。

その部屋は見ただけで何をする気か察しがつく。

妙な薬品にムチや雑誌でしか見たことない大人の玩具などが大量にあった。

ナユはそれを見て涙目になり始める。

 

「さてでは・・・どちらがいいかな?」

 

にやりと笑い私たちを見た。

 

「・・・」

 

ナユと目が合う。

・・・警備の足音は遠ざかった。

今なら・・・殺れる。

 

「・・・私が先に相手する。だからナユは助けて」

 

「いい友情じゃないか!感動したよ!」

 

男は喜んだのか大きな声を出した。

そして・・・私に背を向けて服を脱ぎ始めた。

 

「では、君の体でまずはマッサージしてもらおうか」

 

上着を脱ぎながらこちらを振り返った瞬間だった。

 

「ふっ・・・・!!!」

 

「ぐっ!??!」

 

体格上抱きつく形になってしまうが鎖を男の首に引っ掛け思い切り引き、捻じる。

 

「かっ・・・がっ・・・あっ・・・!!」

 

男は窒息の苦しみから逃れようと体を捻った。

だが私は鎖を外れないように捻り首に巻き付けている。

そして男が私を背負い投げの容量で投げようとした時首に思い切り力をかけて体をねじった。

 

「おッ・・・!」

 

ゴキンっという鈍く嫌な音を立てて男は崩れ落ちた。

 

「はぁ・・・はぁっ・・・はぁっ・・・」

 

私は少し息を整えて首から鎖を外す。

 

「ナユ・・・鎖を外して逃げるよ・・・!」

 

「う、うん!」

 

私は男の上着を漁る。

すると懐のポケットからM1911と予備の弾倉1つが出てきた。

薬室に弾は無し。

私はスライドを引いて弾を装填した。

そしてそれをナユの足枷に向ける。

 

「ナユ、銃声が響くと警備がすぐに来る。いい、迅速に鎖を撃ち抜いて破壊するよ」

 

「わ、分かった!」

 

「足開いて!」

 

鎖の限界まで足を開かせる。

鎖の長さは走るのに支障が出る程度なのでそこそこ長い。

そこを撃った。

そして手の鎖も。

 

「ナユ!私のも!」

 

銃を渡し私も同じように足を開いた。

そして鎖を破壊する。

 

「・・・逃げるよ!」

 

ナユから銃を受け取り残弾を確認する。

銃に3発と弾倉の7発。

10発・・・だが山賊の銃を奪えればそれに越したことはない。

外からは走る足音が聞こえてきた。

私は部屋の入口に銃を向ける。

 

「旦那!どうし・・・!」

 

ドアを開けた瞬間に2発射撃、胸に2発の弾丸を撃ち込んだ。

私は弾倉を捨て新しい弾倉を入れる。

そして倒した山賊からAKMとトカレフを奪った。

 

「ナユ!トカレフ!」

 

「私トカレフ嫌い!」

 

「文句言わない!」

 

トカレフをその弾倉を渡す。

私は山賊のポケットからAKMの弾倉を1つ奪った。

 

「居たぞ!!」

 

廊下に出ると2人の山賊がこちらに射撃してきた。

私は壁の柱に隠れてセミオートで射撃する。

だが・・・日頃からの手入れがされていないのか弾丸は思った通りに飛ばない。

それでも当たる時は当たるが・・・。

ほぼ1弾倉を空にするころに2人の山賊は倒れた。

それを確認し警戒しながら出口に向かったときだった。

 

「ぬぅぉら!!」

 

廊下の角から銃口が見えた。

こちらに拳銃を突きつけようとして手が伸びてきていた。

それに空いてる手でAKを押さえつけてきていた。

 

「このッ!!」

 

右手で銃を持っている手を弾く。

そして思い切りスネを蹴った。

鎖がちょうどスネに当たる。

 

「ぐっ・・・!!」

 

男は一瞬痛みで目を瞑るが次の瞬間には銃を抑えていた手で顔面を殴られた。

 

「うぐっ!!」

 

私も銃を投げ捨て負けじと顔面を殴った。

そしてそのままマウントを取ろうと思い切り押した。

 

「ぐぅぉぉぉ!!」

 

「・・・・!!」

 

男はすごい声を上げて抵抗する。

男は倒れずに壁に背中をつけていた。

私は撃たれないように密着して銃の弾倉を外そうとする。

ちらっとその時ナユを見たが銃を構えて撃とうか撃たまいか悩んでいた。

 

「ふっ・・・んっ!!」

 

「は、なせ・・・!このクソ犬が!!」

 

なんとかマグリリースボタンに手が届き弾倉を外す。

その時銃口がこちらを向こうとしていた。

私は咄嗟に足を蹴る。

だがその時トリガーを引かれて1発撃たれた。

弾は肩を掠めたがアドレナリンのせいか痛みを全く感じない。

それよりも耳元で撃たれて耳鳴りがする。

私が手を離すと男は弾倉を回収し弾を込めようとしていた。

ナユが慌てて射撃するが当たらない。

私は逃がすとまずいので追いかけてタックルをする。

 

「このやろ!!」

 

今度は上手く馬乗りになれた。

何発か顔面を本気で殴ってやるが向こうも同じだ。

私も何回も顔を殴られた。

 

「くたばれクソ野郎が!!」

 

私は罵声を浴びせながら殴る。

 

「こっちのセリフ・・・だ・・・!!」

 

男は私の首に腕を回す。

位置的に気道が締まる。

 

「かっ・・・は・・・!」

 

「そのまま、大人しく・・・!!」

 

私はこのまま死んでたまるかと男の股間付近を思い切り蹴りあげる。

 

「ぐぅぅぅ!!!」

 

男は悲鳴を上げる。

だがその時私のお腹を本気で殴った。

胃の中の物が込み上げてくる。

 

「げほっ!!」

 

私は思わず男の上から転げ落ちる。

たがすぐ近くにAKMがあったので手を伸ばすと男は逃げようとした。

私は銃を手に取り逃げる方向に数発射撃した。

そして弾薬が尽きる。

 

「くそっ!!」

 

近くに落ちていた弾倉を拾い上げて弾倉を交換した。

 

「アイツだけは殺してやる・・・!!」

 

私はそう言って銃を持って追いかけようとしたときだった。

 

「エル!」

 

「・・・・!」

 

ナユに大きな声で呼ばれて我に返った。

 

「もういいよ、エルもボロボロなんだし逃げようよ」

 

「・・・うん・・・そうだね」

 

少し冷静になる。

すると顔が痛み始めた。

殴られたお腹も・・・。

 

「あの野郎・・・顔ばかり殴って・・・」

 

私は裏口を探しながらボヤいた。

 

「とりあえず村かどこかに着いたら冷やそ?」

 

「うん・・・あたた・・・」

 

口の中も何ヶ所か切れてしまっている。

これじゃ明日はきっとご飯を食べると痛いな・・・。

 

「あ、裏口かな・・・」

 

「たぶん・・・私が先に行く」

 

「わかった」

 

ドアをゆっくりと開けて外に出る。

・・・これで自由だ・・・。

私とナユは周りに誰もいないことを確認して走り出す。

 

「ナユ、怖い思いさせてごめんね」

 

「なに言ってるのさ!エルのおかげで助かったんだよ!」

 

「そんなこと・・・」

 

私たちは走りながらそんな話をする。

その時遠くから食べ物の匂いがした。

シチューのような匂い・・・人が近くにいる。

話し声や笑い声・・・規模は分からないが近くに村がある。

 

「ナユ・・・分かる?」

 

「うん、たぶん村だよね」

 

「行こう!」

 

歩きだそうとした時だった。

 

「いたっ・・・!」

 

「ナユ?」

 

「ん・・・んぅ・・・」

 

「ナユ!?」

 

ナユは突然力なく倒れた。

急いで確認する。

 

「ナユ!」

 

「んん・・・すー・・・すー・・・」

 

「寝てる・・・?」

 

首元に違和感を感じて見る。

すると麻酔針のような物が刺さっていた。

 

「麻酔!?」

 

銃を構えようとしたその時だった。

私にも首にチクッとした痛みが走りすぐに強烈な眠気に襲われた。

 

「くそっ・・・!!」

 

体が言うことを効かない。

倒れ込んでしまった。

狭くなっていく視界には麻酔銃を持った人間至上主義の構成員が近寄ってきていた。

 

「逃げれたと・・・思ったのに・・・!」

 

私は薄れていく意識の中でそう呟いた。

 

 

 

 

〜ハル〜

 

「・・・で、その1週間後くらいにハルが見つけてくれた。」

 

「・・・そうだったんだ・・・」

 

「でももう大丈夫、さっきも言ったけどハルがいてくれるから」

 

「うん。絶対に1人にしないよ。約束」

 

「私ももう二度とハルが撃たれないようにする」

 

「頼りにしてるよ」

 

「マヤに取って代われるくらいになってやるから」

 

「ふふ、それはどうかな。マヤが居ないと私はダメだから」

 

「う・・・なんかそれはそれで悔しい・・・」

 

空港に向かう道中でそんな話をした。

マヤはちょっとだけ私の話を聞いたのか満足気にマヤも私が居ないとダメとか言い出し、エルフのハルがハンカチ咥えて悔しがっていた。

・・・若干目が血走っていたが・・・。

でも、そんなお気楽ムードもあと少しだ。

今からハルゼーの支援の元、エルの友達を救出する。

相手はどんな奴かも分からない。

だけど、私たちならきっと出来る。

そう思いながら空港へと歩いた。



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救出作戦

「なんじゃ嬢ちゃん、そんなおめかしして」

 

「これがおめかししてデートに行くようにでも見える?」

 

「デートならデートで相当物騒な所に行くようにしか見えんがの」

 

テキサスの私たちの格納庫。

つい2時間前に帰ってきた私たちはすぐに装備を整えた。

エルと私はダニエルディフェンスというメーカーのRIS IIを装備したM4A1・・・一般的にM4A1 BLOCK2と呼ばれるカスタムを施しサイトはハイマウントT-1ドットサイト、銃口はNT-4サプレッサー、フラッシュライトを銃に装備した。

拳銃はマヤがいつの間にか買っていたGLOCK19を持っていく。

弾薬は9mmAP弾。

M4の弾薬はM855A1を詰めてきた。

そしてミオとエルフのハルは後方警戒ということでエルが賞金首から奪ったMk12をミオが。

ハルが私のAK74を装備した。

 

 

「ちなみに、何しに行くんじゃ?」

 

「この子の友達を助けに行く」

 

「犬の嬢ちゃんのか?」

 

「うん。売られたらしいからね」

 

「・・・そうか。ならワシからも頼むぞぃ。無事に連れ帰ってきてくれ」

 

「おじさんらしくないね」

 

「なんじゃ!ワシだってそう言いたくなる時くらいあるわい!」

 

「ばっちり証拠も撮ってくるから」

 

私は今回、バリスティックヘルメットを被りカメラも装着してきた。

これで証拠を集めて奴隷商人を追い詰めてやる。

 

「じゃあおじさん、時間だから」

 

「それならちょっと待ってろ!」

 

おじさんは小走りで格納庫の事務室に消えていく。

そして何かを抱えて戻ってきた。

 

「これも持ってくんじゃ!」

 

「なにこれ」

 

おじさんが持ってきたのはガバメントのようなハンドガンだった。

 

「これ何?ガバメントみたいだけど・・・」

 

「実は街の中の小さい山みたいなのあるじゃろ。あそこ散歩してたら扉がちょっとだけ開いてての。名前はTTI 2011 Combat Masterって銃じゃ」

 

「弾は?」

 

「9mmじゃよ。9mmホローポイントじゃ」

 

「それはまた強そうなのを」

 

「予備でマガジンも持っていくといいぞぃ!」

 

「じゃあエル使う?」

 

「うん、せっかくだし」

 

そう言ってエルはおじさんから受け取ったホルスターと一緒に装備した。

 

「じゃ、今度こそ」

 

「頑張ってこいよ!」

 

おじさんにそう言われてヘリに向かう。

ヘリはもうエンジンを始動し、私たち以外は乗り込んでいた。

 

「お待たせ!」

 

「行くよ!」

 

マヤがそう言ってヘリは離陸した。

まず私たちが捜索するのはここから西に250kmの森の中にある小さな屋敷だった。

そこは滅多に人が通らない場所でもある。

また噂によると近くに奴隷商の拠点もあるのだとか。

ハルゼーの調査によると最も可能性がある地点だと言う。

 

「みんな、先に言っとくけど・・・絶対に容赦しないで」

 

エルは静かに、でも強い口調でそう言った。

みんなはもちろんと頷く。

 

「もう1つ、情報を持ってるやつならいいけど後は要らないから」

 

「エル?」

 

「ごめんハル。今回だけは法律を守れない」

 

「・・・」

 

きっとエルは友達を酷い目に合わせているヤツを許せないのだろう。

投降しようが生かしては帰さない・・・口では言わずとも目がそう言っていた。

私は複雑な気持ちになりつつもケータイに新しい情報が送られてくるのを待つ。

今回ハルゼーは、イーグル、コブラというコールサインのチームを展開している。

ドローンのコールサインはレイブン1。

また、私たちが捜索すべき屋敷は艦砲の射程には入り切らず、支援はトマホークミサイルのみだった。

あまりに過剰威力のためなるべく使用は控えたい・・・が支援要請から弾着まで最低でも20分はかかる位置にいる。

使い所に悩んでしまう・・・。

 

「ご主人様・・・ご主人様は人を撃つ時何か考えてますか?」

 

「え?」

 

「私・・・あの・・・初めてで・・・」

 

「私・・・」

 

私はその時ふと思う。

何か考えているか?

・・・答えに悩むということは何も考えてはいない。

強いて言うなら・・・今撃たなければ死ぬ。

それくらいだ。

 

「・・・今撃たないと誰か死ぬ。そう思うくらいだよ」

 

「そうですよね・・・!私が引き金を引くことで誰か助かると思えば・・・!」

 

「ううん・・・違うよ。確かに助かるけど誰かの命も奪うんだから・・・」

 

「・・・・」

 

「大丈夫、撃たせないから。私たちだけで十分だよ」

 

「いえ・・・私はご主人様を守るためなら地獄にでも行きます!ご主人様を守れない方が嫌なんです!」

 

「うん・・・分かった。頼りにしてるよ」

 

ハルは覚悟を決めたようにいう。

私は窓の外を眺めていた。

するとケータイが震える。

新しい情報だ。

 

「あ・・・みんな、ハルゼーのイーグルチームが目標1つ制圧、エルフを3人保護だって」

 

《さすが一流の軍隊ね》

 

「ばっちり証拠も回収したらしいからこれで艦長達も安泰かな」

 

「だといいけど・・・」

 

「マヤはまだ信用出来ない感じ?」

 

「なんというか・・・自分たちに砲を向けた人を信じれなくて」

 

「気持ちは分かるよ、でも今は味方」

 

「それは分かってるよ!だから葛藤してるの!」

 

まぁでもマヤの気持ちも分からなくはない。

1度自分たちに砲を向け、しかも私たちは異世界人だから仕方ないんだと言われても簡単には信用できない。

 

「まぁでも、あの人たちのおかげでエルの友達を助けに行けるんだから信用してもよかろう!」

 

「ずいぶん上から目線だね・・・」

 

「そんなことないと思うけどなー?あ、ハル!あの森の中の屋敷じゃない?」

 

「どれ?」

 

私はドアを開けて外を見る。

確かに事前情報と一致する形の屋敷だ。

それに位置も情報と一致する。

間違いない。

 

「マヤ、開けてる場所ある?」

 

「えーっと・・・このあたりなら・・・」

 

周りを見ると屋敷から3kmくらいの所に少し開けた場所があった。

そこに着陸することになった。

 

「それじゃ、上からの支援はよろしく。でもなるべくバレたくないから呼んだら来て」

 

「りょーかい!」

 

私たち地上組は初弾を装填して着陸を待つ。

そしてそこから数分後に着陸、展開した。

 

「それじゃミオとハルは初めてだろうからしっかり着いてきて」

 

「分かりましたご主人様!」

 

「了解です!」

 

かなり濃い森だ。

私たちは慎重に進んでいく。

 

「エルの耳と鼻が頼りだからお願いね」

 

「分かってるよ」

 

「あとはレイブンか・・・」

 

この森じゃハルゼーに無線を送ることは難しい。

だがさっき届いた情報だと屋敷の外の警備は3人。

そして屋敷の裏に地下への入口があるという情報も得た。

私たちは地下から行くことにする。

レイブンからの情報はケータイに直接、画像で送られてくる。

それをチェックしながらになる。

 

「みんな、ナユの命も大切だけど何かあったら自分の命を優先して」

 

「・・・」

 

エルは静かにそう言った。

 

「でも・・・」

 

ハルはそんな事言われても・・・という感じに呟く。

 

「私は私のお願いでみんなを傷つけたくない。だから、もし危なくなったら逃げて」

 

「まぁ、危なくなったらの話ですけどね」

 

ミオは後ろを警戒しながら静かに言う。

 

「つまりは危なくならければいいんですよ、あんな連中ぜんぶやっつけて美味しいもの食べに行きましょう」

 

「ミオの言う通り。さっさと片付けよ」

 

私たちは薄暗い森を進む。

さすがに屋敷の人間もヘリには気づいてはいないと思うが・・・。

 

「ちょっと待って」

 

エルが右手を上げて止まれの合図をする。

 

「何かいる」

 

「敵?」

 

「分からない。でも話し声が聞こえた」

 

「内容は分かる?」

 

「ちょっと耳を済ませてみる」

 

私たちはなるべく音を立てないようにする。

エルは目を閉じて集中していた。

するとエルは目を開けてこう言った。

 

「大丈夫だった。近くの村人みたい」

 

「村人?」

 

「薬草の採取。護衛に冒険者もいるみたい」

 

「了解、それなら大丈夫だね」

 

確かこの森は鎮痛剤の材料になる薬草が豊富に自生している。

それ目当てなのだろう。

ただ・・・この薬草、生のまま食すと麻薬と同じ症状が出るので1部のジャンキーたちにも人気だった。

ただし麻薬と同じ症状が出て幸福感を味わえるのはいいが、ひとたび効果が切れると強烈なうつ状態になるらしいのでわざわざ食べようという人間も少なかった。

 

「このまま進もう」

 

ケータイに送られてくる情報を頼りに目的地に進む。

すると森の奥に白い建物が見えてきた。

しっかりと手の入った綺麗な屋敷だ。

・・・それに事前の情報とも一致する。

 

「・・・着いちゃったね」

 

「ここまで接敵しなくて良かったよ。ハル、カメラ準備お願い」

 

「了解。バッテリーは持って3時間だから」

 

「分かった。まずは警備を調べよ」

 

エルがそう言うとミオは銃を建物に向ける。

 

「見える?」

 

「・・・1人入口に居ます。武器は・・・クリンコフですね」

 

「AKSか・・・ほかは?」

 

「えと・・・あ、待ってください屋上に1人」

 

「屋上?」

 

「屋根にある窓から監視してるみたいです」

 

「屋根か・・・」

 

上から見られているとなると少々めんどくさい。

だが撃って排除する訳にもいかない・・・。

 

「あー・・・またどえらい物持ってますよ」

 

「武器は何?」

 

「パッと見ですが・・・M82ですね」

 

50口径の対物ライフル・・・そんなもので撃たれたら即死だ。

 

「分かった、迂回して行く」

 

「私たちはどうしますか?」

 

「この場で待機。いつでも撃てるように」

 

「了解」

 

「ご主人様・・・気をつけて」

 

「分かってる。」

 

「エルも必ず帰ってきてください」

 

「分かってる。任せてよ」

 

後方を任せて私たちは迂回して建物の裏に回る。

そこには警備が1人と地下に通じていそうな入口があった。

そして警備が持っているのはM4A1。

しっかりとカスタマイズが施されているし本人の装備も奪ったと言うよりはこの家から支給された装備とも思えた。

入口の警備と違い、プレートキャリアを着込み、ヘッドセットも装着していた。

明らかに雇われ山賊というよりは傭兵だ。

だが・・・。

 

「まだバレてない上に射程内。やる?」

 

「ハルからそんな提案来るとはね・・・」

 

「どうも意味ありげに守ってるし、やらないと進めないよ」

 

「・・・だよね。分かった、私が撃つ」

 

「いいの?」

 

「狙撃には慣れてるから」

 

エルはゆっくりと銃を構えた。

私はミオ達に今から射撃すると連絡する。

 

「ミオ、こっちはタイムカード押すから」

 

《分かりました。お仕事開始ですね》

 

「いい?」

 

「おっけー」

 

「了解」

 

エルはゆっくりと呼吸をして照準を合わせた。

そして引き金を引く。

サプレッサーを付けていたおかげで銃声はほとんど響かない。

あとは倒れたアイツの体を隠すくらいだ。

 

「ターゲットダウン」

「確認、行こう」

 

私たちは小走りで警戒しつつ入口前に到着した。

入口の扉を開けるとハシゴがあり、地下に進むようになっていた。

下には人の気配はない。

敵の死体は一緒に入口に放り込んだ。

これなら見つからないだろう。

 

「エル、先に行って」

 

「了解 」

 

ハシゴを降りていく。

深さは15mくらいだろうか。

そこそこな深さだ。

 

「いかにも何かありそうだよこれ」

 

「奥には光も見えるし・・・何か音というか呻き声も聞こえる」

 

「声は?」

 

「・・・女の子の声」

 

「急ごう」

 

私は薬室に弾薬があるか確認して行く。

カメラもばっちり録画している。

もうこれで相手は言い逃れできない。

 

「・・・ひどい」

 

光の漏れていた場所に到着する。

そこには簡素な作りの牢が幾つも並び、中には獣人やエルフ、人・・・その若い女の子ばかりが閉じ込められていた。

奴隷服のようなものを来ている子もいれば、もはや何も着ていない子もいる。

ただ1つ幸いなのは・・・辛うじてみんなまだ生きている。

 

「エル、ナユがいるかどうかは置いといてみんな解放するよ」

 

「言われなくてもやるよ!」

 

エルは少し大きな声になる。

そして手分けして鍵を破壊する。

 

「大丈夫?今助けるからね!」

 

「・・・」

 

中の女の子は生気の抜けた顔でこちらを見上げた。

衰弱している・・・。

 

「鍵は・・・撃つしかないか・・・」

 

鍵自体は南京錠だが、物が新しいので撃って破壊するしかない。

M855A1なら貫通させて破壊することも出来るだろう。

 

「離れてて!」

 

女の子はゆっくりとだが移動した。

その時見えたのはエルとは違い少し黄色の尻尾だった。

この子も獣人・・・

私はとにかく今は助けるべきだと思い、鍵を撃つ。

南京錠は簡単に破壊できた。

 

「よし・・・これで1人・・・」

 

「・・・・」

 

女の子は私を見るだけで何も言わない。

この子は下着すら着ていないので衰弱も激しいのかもしれない。

 

「大丈夫、今助けるからね」

 

「たす・・・かる・・・の・・・?」

 

「うん、そうだよ。これから連れて帰るからね」

 

女の子は小さな声でそういった後、安心したのか大粒の涙を流し始めた。

私は来ていたソフトシェルジャケットを脱いで渡す。

 

「寒いから着てて」

 

女の子は泣きながら頷いた。

私はそれを見て腸が煮えくり返りそうなほどの怒りを覚える。

なんでこの子達がこんな目に会わなければならないのか。

その気持ちでいっぱいだった。

エルもきっと同じだろう。

 

「エル、そっちは?」

 

「順調。衰弱してはいるけど命に関わるほどでないと思う」

 

「了解」

 

私は最初に助けた子の所に行く。

 

「ねぇ、ここにいるのはこれで全部?」

 

「えと・・・1人連れていかれた・・・のじゃ」

 

「1人?」

 

「名前は・・・ナユとか言ってたの」

 

「ナユ・・・!」

 

エルはその言葉を聞き今にも駆け出そうとしていた。

だがその気持ちを押さえ込んでいた。

 

「ねぇあなた狐の獣人だよね」

 

「そ、そうなのじゃ・・・」

 

「銃は使える?」

 

エルはそう言っておじさんから貰った2011 Combat Masterを渡す。

 

「つ、使えるには使えるが・・・」

 

「それならクソ野郎が来たらみんなを守って。いい、胸を狙って。ホローポイントだからそれだけでノックダウンできる」

 

「わ、わかったのじゃ・・・」

 

狐の女の子は銃と弾倉をエルから受け取っていた。

 

「最初からビンゴだね」

 

「・・・殺してやる」

 

「エル?」

 

「私の友達に・・・何かしてたら何を言おうと殺してやる・・・!」

 

エルは呟くようにそう言った。

だが・・・気持ちは同じだ。

こんな事をする奴は生かしておけない。

人を殺す理由を作っているようだが・・・。

 

「行こう」

 

「うん」

 

警戒しながら階段を上る。

するとすぐに1回に出た。

そして・・・

 

「ん・・・!?だ、誰・・・・!!」

 

目の前に1人警備が居たがすぐに頭を撃ち抜く。

床に倒れたがもう回収なんてしなくていい。

そしてミオに連絡する。

 

「ミオ、狙撃手を排除していいよ。ウェポンズフリー」

 

《了解》

 

外からガラスの割れる音がした。

私たちはナユが連れていかれた可能性のある場所を探す。

何をされているか考えたくはないが・・・恐らく寝室だろう。

 

「寝室はどこだと思う?」

 

「屋敷は3階建て。2階と3階を分けて探そ」

 

「了解、私は3階に」

 

エルは2階、私は3階に行く事にした。

ゆっくりと階段を上る。

 

「・・・階段クリア」

 

《2階廊下クリア》

 

《こちら待機組、2階と3階の廊下に敵影ありません》

 

「了解」

 

私は何か音がするはずだと、ドアに近づいて音を聞く。

幸いここの廊下は絨毯張りなので足音が立たなくていい。

何部屋か探った時、ひとつの部屋から声が聞こえた。

 

「・・・ここかな・・・」

 

ゆっくりとドアを開けようとするが、鍵がかかっていた。

それなら・・・。

 

「・・・」

 

銃口を鍵穴に向ける。

そして引き金を引いた。

ドアを蹴り開ける。

中に入ると思った通り寝室で中には中年太りした男とベッドに四肢を縛り付けられた獣人の女の子がいた。

・・・予想通りお楽しみの最中だったようだが。

 

「床に伏せろ!」

 

私は大声でそう言う。

下の階からもサプレッサーの銃声が聞こえた。

 

「な、なんだお前!」

 

「いい、今私は気が立ってるから余計なことしたり喋ったりすると撃つよ」

 

「お前、俺を誰だと思っ・・・」

 

私は無言で膝を撃った。

 

「が、ああぁぁぁぁ!!!」

 

獣のような声をあげる。

その時隣の部屋から山賊が2人出てきた。

 

「おいどうし・・・!」

 

私は素早く2人を射殺した。

それを見て男は青ざめる。

 

「た、たすけ・・・お、お金ならあるから・・・!」

 

涙に鼻水、ヨダレまで垂らして酷い顔だ。

 

「待機組、こちら実働隊。ターゲット確保。0-2、回収よろしく」

 

《了解です!》

 

《こちら0-2、りょーかい!庭に降りるよ!》

 

《こちら0-3・・・なんかないのー?暇で仕方ないわよ》

 

「じゃあここのオッサン的にして爆撃訓練でもする?」

 

《あら、いい提案ね。そしたらちょっと脅かしてみようかしら》

 

リリアはそう言うと無線を切った。

そして上空から爆音が近づいてくる。

 

《0-3、ガンズガンズガンズ》

 

庭に向けてフランカーの30mm機関砲を発射した。

それをみた男はさらに青ざめる。

 

「た、頼むから命だけは・・・」

 

「それはこの子次第」

 

恐怖で痛みを忘れたのか男は必死で命乞いをしていた。

 

「大丈夫、怖かったよね」

 

私は縄を切りながら声をかけた。

女の子は泣きながら私の方を見た。

そこにエルが入ってくる。

 

「ちょっと、リリアに支援要請出てないって伝えてよ・・・って・・・ナユ・・・?」

 

「エル・・・?」

 

女の子はエルを見てさらに大粒の涙を流した。

 

「ナユ!」

 

「エル!会いたかった・・・会いたかったよぉぉ・・・!!」

 

「ごめん、ごめんね・・・!遅くなった・・・!」

 

「ううん、いいよ・・・こうやって助けにきてくれたんだもん・・!」

 

2人は泣きながら抱き合っていた。

そしてすぐにエルは表情を戻す。

銃を男に向けようとした。

 

「・・・お前ナユに何をした」

 

「エル、落ち着いて」

 

「た、頼む・・・!い、命だけは・・・!ほ、ほら!金だってある!」

 

男は膝の痛みを忘れて顔をぐしゃぐしゃにしながら命乞いをした。

 

「金なんていい。私が聞いているのはナユに何をしたかだこのクソ野郎」

 

エルが男にそう問い詰めている時、駆逐艦から通信が来た。

 

《こちらハルゼー。聞こえるか?》

 

「聞こえるよ」

 

《今、3件目の捜索を終えた。そちらはどうか?》

 

「1件目。でも主目標確保」

 

《了解。それならこちらはまだ余力がある。残りは任せてくれ》

 

「いいの?」

 

《友達を早く連れ帰ってやってくれ。あぁ、それとこの国の国王・・・でいいのか?その方から本艦に連絡がきた》

 

「早いね。なんて?」

 

《君たちの活動に感謝し、恩赦を与える。また可能なら証拠と生け捕りにした奴を引き渡して貰いたいという事だ》

 

「了解、良かった。これで海賊からおさらばだね」

 

《あぁ、これも君たちのおかげだ。そちらの犯人は捕らえたのか?》

 

「確保。でもあと3分くらいで死にそうだけど」

 

《了解、怪我か?》

 

「エルがブチ切れて殺しそう」

 

《分かった、こちらで回収するので出来れば生かしておいてくれ》

 

「了解。」

 

そう言って通信を切った。

 

「エル、聞こえてたよね」

 

「聞こえてたけど、1人くらい死んでてもいいんじゃない?」

 

「・・・ちょっとそれだと悪役」

 

「・・・まったくハルの優しさには負けた。私はナユを連れて戻るよ」

 

「了解」

 

「じゃあ、ナユ、行こ」

 

「うん・・・」

 

2人はそう言って部屋から出た。

 

「はぁ・・・」

 

私はため息をつく。

外からはヘリの音も聞こえてきてマヤが回収に来てくれたようだ。

 

「まったく・・・くだらない事して人生終わっちゃったね」

 

私はある程度離れた所から銃を向けて話しかけた。

 

「・・・・・・」

 

「別に黙ってるならいいけど。どんな刑になるかな」

 

私はあえて相手の恐怖を煽るように言う。

 

「あんたがどんな大金持ちだろうが地位だろうが国王様はこんなことする奴許さないもんね。火炙りにでもされるのかな」

 

男は小さく震えていた。

 

「ねぇ、焼かれるって1番辛い死に方らしいよ。女の子買って酷い目に合わせたツケだね、かわいそ」

 

「・・・・・・やめ・・・やめろ・・・」

 

「しかもカメラで証拠の映像も撮ったからね。明日には焼かれてるだろうから今のうちに少しでも楽に死ねるように刑罰軽くしてもらえる言い訳考えたら?」

 

「やめろぉぉ!!やめてくれぇぇ!!」

 

男は想像でもしたのか泣き叫ぶ。

そして逃げようとしたのか動くが膝を撃たれたせいで動けないようだ。

コイツ意外と小心者だな・・・。

一応国王様はこんな事する奴は問答無用で死刑にするような人なのだが、さすがに火炙りは王都民から反発があって取りやめにしている。

・・・とは言っても、ブチ切れた国王様は塵も残すなと言う命令で自走砲の射撃の標的にしたり空爆の標的にしてみたりとかなり酷いことをしてるが・・・。

 

「泣き叫んで後悔するなら初めからやるなっての・・・街に行けばそういう店いくらでもあるのに・・・」

 

全裸で泣き叫ぶいい歳こいたオッサンを横目に深いため息をついた。

その間にもマヤのヘリは庭に着陸し助けた女の子を乗せていた。

その数分後にはハルゼーからのヘリも到着した。

回収に来たクルーを見て男は子供のように泣き叫びながら許しを乞うていた。

問答無用で連れていかれたが。

私はそれを見てマヤのヘリに向かう。

ヘリには無事に助けることができた女の子達が乗っている。

それに積み残しもない。

・・・今日は大勝利だ。

誰も戦闘で怪我をしていない。

帰ったら宴会だ。

そう思いながらヘリへと向かった。



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チャーター機運航

「・・・やばい」

 

私は貯金残高を見て頭を抱えた。

あの救出作戦から1週間。

奴隷として女の子達を売った商人は騎士団によって全員逮捕。

そこから芋ずる式に関わりのある組織が摘発されていった。

しかしなんでそんなに早く商人が仲間の居場所を吐いたのか気になったのだが、噂によると喋りそうなやつの家族を誘拐してそいつの前に引きずり出してぶん殴ったり、殺そうとしてみたりと極悪非道もいい所の事をしていたようだ。

・・・それを国がやるのはどうかと思うが・・・。

とにかく、かなりの数の奴隷商人が捕まり、捕まっていた奴隷達も解放された。

そして、私たちにも報酬が・・・と思っていたのだが、恩赦を得たとは言え仮にも海賊と協力していた事がバレてしまい一時は逮捕までされかけたのだが、テキサスの領主が何とか交渉してくれ、国王様も奴隷解放の功績を認めて逮捕だけは免れた・・・が、代わりに報酬無しだった。

冒険者権限の剥奪が無いだけマシだと思おう・・・。

 

「仕事しないとヤバい・・・」

 

「まったく、後先考えないからよ」

 

「仕方ないじゃん・・・あの方法が手っ取り早かったんだから・・・」

 

私はどうしようかと考える。

仕事に・・・とは思うがまず幾ら必要かを考える。

何とか私とリリア、ミオの機体を飛ばす燃料は買える。

だが、食費や弾薬費がどうなるか・・・。

最悪、食費は切り詰めれる。

ただ弾だけは譲れない。

 

「まぁ悩んでても仕方ないしギルドに行きましょ」

 

「そうする・・・」

 

「今日は戦闘機?」

 

「うん。エルはどうする?」

 

「じゃあ私はナユのお見舞いに行ってくる」

 

「分かった」

 

助けたエルの友達のナユは精神的に深い傷を負っていて今は入院して療養中だった。

エルが行くと嘘のように元気になるらしいが、居なくなると途端に精神的に不安定になるそうだ。

 

「今日はこの5人でお仕事かな」

 

「私は良いわよ。飛べるなら」

 

「私もフランカーに乗りたいのでいいです!ね、ルイ!」

 

「・・・うん」

 

「ハルは私が居ないとダメでしょ!」

 

というわけでみんなOKのようだ。

家事は家にいるエルフの子達に任せて仕事に行く。

 

「そういえば戦闘機で仕事するの久々じゃない?」

 

「確かに」

 

「滑走路も直ったみたいだし良かったよね!」

 

「ほんとです!フランカーに乗れなかったらどうしよって思いました!」

 

「そういえば買ってからあんまり乗ってないよね」

 

「そうですね、かなり久々です!」

 

ミオが買ったのはSu-30M

リリアのフランカーのように推力偏向ノズルが搭載され、カナード翼も装備されたタイプのフランカーを購入した。

今はリリアとミオの機体がメインで戦闘を行い、私のトムキャットが簡易的なAWACSとして運用している・・・と言うことになっては居るが結局私も気づいたら敵に突っ込んで行ってるのであんまりそんな頭のいい運用は出来ていなかった。

 

「今日は碌でもない仕事がありませんように・・・」

 

そう祈りながら格納庫に入ると、悪い方に祈りが通じたのかおじさんがまた笑顔でこっちにきた。

 

「待ってたぞい!」

 

「全くもって待ってねーぞぃ・・・クソが・・・」

 

「ハルの口が段々悪くなる・・・」

 

「なんじゃ!そんな邪険にせんでもよいじゃろ!いい仕事の話じゃよ!」

 

「おじさんが斡旋してくれる仕事でマシなのひとつも無かったんだけど」

 

大体酷い目にあってるので・・・たぶん今回もだろう。

しかも大体断りづらい依頼だ。

 

「・・・一応聞いとくけど・・・内容は?」

 

「これじゃ!」

 

おじさんは紙を私に渡す。

それを皆で見た。

内容は、チャーター機を飛ばして欲しいという内容だった。

このテキサスから南に200kmも行ったところにある廃棄された飛行場を改装した村に行き、人と郵便物などを積んで王都まで飛ぶという内容だった。

ここから王都までは北に片道600km。

村からだと片道約800kmというところだ。

途中の燃料費は依頼者側が持つということだった。

ただし、護衛機を引き連れていてもそっちの燃料費までは持てないということだった。

報酬は60万ドル。

そんなに高い仕事でもないが、機体の整備費などを引いても私たち全員分の1週間分の食費にはなる。

なにより、民間機を操縦する機会はほとんどないのでこの際引き受けてみるのも良いだろう。

 

「ちなみに使用する機体は767じゃよ」

 

「旅客機なの?」

 

てっきり小型のリアジェットだと思っていた。

767に乗るのは初めてだ。

しっかりマニュアルを読まないと・・・。

 

「王都で売るものとかがあるんじゃろ。それに乗るのが80人とか言ってたの」

 

「それなら737とかあったんじゃ・・・」

 

「この街で機体を貸してくれる航空会社が無かったんじゃ。だからこの後ガンシップに改装するついでに中古で安かった767を買い取ったんじゃよ」

 

「・・・あの、何かとんでもない言葉が聞こえたけど」

 

「ん?767ガンシップ計画か?」

 

「なんでわざわざそんな事するの!?」

 

「いや、面白そうじゃから」

 

「そうだった・・・おじさんはそういう人だった・・・」

そして私たちはその依頼を受けることにした。

操縦は私とマヤ。

護衛機でリリアとミオ、ルイのフランカーだ。

 

「私、旅客機は初めて!」

 

「私も。副操縦士よろしくね」

 

「任せて!」

 

リリア達とは自分の機体の準備で一旦分かれた。

出発時刻になったら無線で連絡をすることになった。

私たちはおじさんに案内された格納庫に向かう。

そこには中古というにはあまりにも綺麗なB767-300が駐機してあった。

真っ白な機体に尾翼だけ青く塗られている。

戦闘機とは違った美しさがあった。

 

「じゃコックピットで打ち合わせしよ」

 

私たちはタラップを登って操縦室に入る。

そこには戦闘機にはない計器やスイッチ類が沢山ある。

しかし全て見やすく配置されておりマニュアルを見ながらどれがどの計器かを確認していった。

 

「んーと・・・これして・・・こーしたら・・・エンジンスタート・・・」

 

「これどっちかがチェックリスト読み上げた方がいいかも」

 

「じゃあ今回ハルが読んでよ!私エンジンスタートしてみたい!」

 

「分かった、じゃあマヤに任せる。」

 

そうやって準備していくと出発時刻になる。

機体はトーイングカーでエプロンへと出た。

 

「よし、じゃあバッテリー」

 

「えーっと・・・バッテリー・・・あった、オン」

 

「APUスタート」

 

「APU・・・よし」

 

APUの始動音が響いてくる。

私はAPUが動くまでに無線機の設定をした。

「リリア、準備いい?」

 

《いいわよ。コールサインは?》

 

「変わんない。私たちが0-1、リリアが0-2、ミオたちが0-3」

 

《了解》

 

《了解です!》

 

「それじゃ、マヤ、エンジンスタート」

 

「了解!えーっと・・・まずどれ?」

 

「んと・・・」

 

私はマニュアルを読み上げてスイッチの位置を示した。

エンジンは問題なく始動し回転数を上げていく。

 

「ナンバー1・・・始動。よし、大丈夫だね」

 

「ナンバー2も異常なしだよ!」

 

「おっけー、そしたら管制に連絡するね」

 

「了解!」

 

「テキサスタワー、こちらエンジェル0-1。南方向への出発許可願います」

 

《エンジェル0-1、タワー。南方向への出発を許可します。誘導路に従って滑走路17に向かってください。タキシングを許可》

 

「滑走路17にタキシング、エンジェル0-1」

 

私はゆっくりとスロットルを開いて前進を始める。

 

「ねぇマヤ。上に上がったら操縦してみる?」

 

「え?」

 

「これなら戦闘機ほど早くないから操縦しやすいと思うよ」

 

「うーん・・・そうだね・・・うん、ちょっとやってみるよ!」

 

「それじゃあ上に上がったら交代する」

 

「了解!あ、離陸前チェックリストやっとく?」

 

「そうだね。マヤが読み上げてくれる?」

 

「了解!えーっと・・・まずはフラップ15」

 

「ちょっと待って」

 

フラップはまだ下ろしていないのでフラップを15度まで下げた。

 

「フラップ15」

 

「チェック、えっと・・・アンチアイス」

 

「アンチアイス、オフ」

 

「チェックリストコンプリート」

 

「結構少なくていいね」

 

「異世界のパイロットだともっと多いのかな」

 

「どうだろ。それでもチェックリストとかは基本的に向こうの基準だと思うし」

 

「ま、ウチはウチ、よそはよそ!って感じだね」

 

「それでいいのかな・・・いや、その方が楽か」

 

事故りさえしなければ・・・だが。

 

《エンジェル0-1。滑走路上で一時停止》

 

「滑走路上で一時停止。エンジェル0-1」

 

「そういえばこれ、私が無線担当したほうがいいんじゃない?」

 

「なんで?」

 

「マニュアルだと作業分担みたいだし」

 

「じゃあ次の交信からお願い」

 

「任せて!」

 

滑走路に入り一時停止した。

するとすぐに許可が降りる。

 

《エンジェル0-1、風向180度風速6ノット、滑走路17から離陸を許可》

 

「えと・・・離陸許可、エンジェル0-1」

 

普段無線交信をしないマヤは少したどたどしく答えた。

私は許可を聞き少しスロットル開けてエンジンを吹かす。

 

「いくよ」

 

「了解!」

 

ブレーキを離して加速する。

ある程度加速した時スロットルを全開にした。

 

「えーっと・・・80」

 

「チェック」

 

機体はどんどん加速していく。

そしてある程度加速したところでV1の自動音声が入る。

 

『V1』

 

「ローテート」

 

マヤのローテートという言葉で機種上げをする。

機体はふわっと地面から浮いた。

 

「えと、ポジティブクライム・・・ギアアップ」

 

一つ一つ呼称しながら操作を行っていく。

 

「フラップ10」

 

ある程度加速したのでフラップを1段階上げる指示をした。

 

「スピードチェック、フラップ10」

 

マヤもそれに従ってくれる。

それを繰り返し高度は8000フィートまで上昇した。

本来ならもっと上に上がるのだが今回はかなり低空の8000を飛行する計画になっていた。

だが、管制圏を離れてしまえばあとは自由に飛行できる。

・・・だが、200kmなんてすぐそこなのであまり上には上れない。

 

「高度8000・・・マヤ、操縦してみる?」

 

「じゃあちょっとだけ・・・」

 

《あら、そしたらちょっと離れようかしら》

 

「なんで!」

 

《危ないからよ》

 

「ば、馬鹿にして・・・!」

 

《ふふ、珍しくマヤさんが怒ってますね》

 

「なんだよー!ミオまでそんなこと言うの!?」

 

《冗談ですよ、ちゃんと後ろで見守ってますから!》

 

「ほ、ほんと?」

 

《見守ってますよ!遠くの方から!》

 

「珍しくマヤが弄られてる・・・」

 

2人にいじられマヤは涙目になりながら操縦桿を握った。

 

「うぅ・・・ヘリと違うから怖いよ・・・」

 

「でも速度は倍程度しか出てないから」

 

「そもそも操縦桿の形も違うしヘリはもっと動き違うから・・・」

 

「そりゃね。大丈夫そう?」

 

「もうちょいやってみる!」

 

《後ろから見てる分には安定してるわよ。結構センスあるんじゃない?》

 

《なんだかんだ言いましたけど操縦上手いですよ!》

 

「い、今褒められても喜べない・・・」

 

マヤは真剣な顔で操縦桿を握る。

やはり普段トムキャットではレーダーを見ていて、航空機となってもヘリを飛ばしていたマヤにとっては苦手な航空機だったかも知れない。

 

「マヤ、疲れちゃうし交代するよ」

 

「お、お願いします・・・」

 

「りょーかい。アイハブ」

 

「ユーハブ・・・はぁ・・・旋回とかした訳じゃないとけど怖い・・・」

 

「お疲れ様。どうだった?」

 

「わ、私には固定翼は無理だよぉ・・・」

 

結構怖かったようだ。

マヤは下を向いたまま呟くように言った。

 

「さて、そろそろかな」

 

離陸して20分。

もう間もなく目的の村だ。

 

「んーと・・・あ、あったあった!」

 

マヤは右を指さした。

そこには森の中に少し古びた飛行場があった。

それでも3000m級の立派な滑走路が見える。

 

「確認、エアポートインサイト」

 

「自動で飛べたら良かったのに・・・」

 

「普段手動で飛ばすのに慣れてるから」

 

「そうだけど、旅客機の自動操縦ってすごいんでしょ?」

 

「まぁほっとけば目的地までは行ってくれるから。っと、それより着陸体勢」

 

「了解!チェックリスト?」

 

「そうだね」

 

私たちはチェックリストに示された通りに操縦し着陸体勢を整えた。

村は無管制飛行場らしく私たちは目視と護衛機のレーダー情報を頼りに安全を確認して進入する。

 

『2500』

 

機体の対地接近警報が高度を読み上げる。

滑走路に正対し落ち着いて降下する。

 

「速度注意!」

 

「了解」

 

マヤには計器の監視をお願いして私は窓の外を見て操縦する。

少し速度が下がりすぎていたようだ。

 

『1000』

 

高度は1000ft。

もう空港は目の前だ。

 

『Approaching Minimums』

 

「ランウェイインサイト」

 

進入時の最低ラインの警告が鳴る。

ここで滑走路が見えなければ着陸を中断するが・・・今回はそもそも晴れなので問題ない。

 

『500』

 

500ft・・・。

周りは森なので鳥が少し怖い。

だが幸いにも飛んでくる鳥は居ないので今のところは安心だ。

 

『minimums』

 

「コンテニュー」

 

「了解!」

 

『200』

 

「優しくお願いね、ハル!」

 

「分かってるよ」

 

『100』

 

高度は100ft。

もう滑走路の端に到達する。

 

『50』

 

細かい高度の読み上げが始まる。

落ち着いてゆっくり・・・。

 

『30』

 

『20』

 

私はゆっくりと機首を上げてフレアの姿勢を取る。

 

『10』

 

10ftの読み上げの数秒後、機体が接地する。

私はスロットルについているもうひとつのレバーを引き逆噴射を作動させる。

 

「リバースグリーン」

 

逆噴射とブレーキで機体は急減速する。

 

「60」

 

「チェック。んーと、どこ曲がればいいんだっけ」

 

「そこじゃない?えと・・・もうひとつ先の誘導路!」

 

「了解」

 

駐機場に到着するとそこには人や荷物がもう集まっていた。

間違って荷物を吸い込まないように少し離れた場所に止まってエンジンを停止する。

 

「リリア、ミオ。空中待機できる?」

 

《燃料に余裕はあるから大丈夫よ》

 

《こっちも大丈夫です!》

 

「了解。1時間以内に離陸するから」

 

《了解。焦らなくていいから》

 

「お気遣いどうも」

 

私はコックピットを出て機外に出る。

すでにマヤが村長と話をしていた。

 

「初めまして」

 

「おお!依頼を受けてくださって感謝します!」

 

「旅客機に乗れるなんて滅多にないから。えと、これで全員?」

 

「そうです、村人80人と・・・これですな!」

 

村長が指さすのは後ろにある貨物。

 

「中身は?」

 

「王都で買い取ってもらう火薬の原料です」

 

「了解、じゃあ乗り込み次第出発するから。マヤ、それでいい?」

 

「うん、いいよー!」

 

そう返事するマヤは村人の飼い犬と遊んでいた。

呑気なものだ・・・。

 

「さてと・・・」

 

私はコックピットに戻りエンジン始動の手順を復習する。

初めての機体だから1回では覚えきれない。

 

「スターター・・・よし、これでスタートだね。えとAPUは回ってるから・・・」

 

色々とチェックしているとマヤが帰ってきた。

 

「なんで顔濡れてるの?」

 

「えへへ、ワンコに舐め回されちゃって・・・村人さんから顔を洗ってきなさいって言われちゃった」

 

「まったく楽しそうだね・・・」

 

「帰ったらトマホークにしてもらったら?」

 

「アイツ意外と下心すごいから却下」

 

エル曰く、トマホークは私とマヤが好みらしく、隙あらば胸にダイブしたり太ももに埋まろうとしたりお風呂を覗こうとしたりとエロガキか!!と言いたくなるような事をしていた。

 

「マヤ、1度キャビン見てきてもらっていい?」

 

「了解!全員着席してたら戻ってくるね!」

 

「お願い」

 

私はマヤにチェックをお願いし、リリア達にもうすぐ出発だと伝える。

 

「0-2、0-3。もうすぐ出発するよ」

 

《了解》

 

《0-3、コピー!》

 

無線交信を終える頃マヤもコックピットに戻ってきた。

 

「客室異常なし!」

 

「了解。貨物も村専属のロードマスターがやってくれたから大丈夫だね」

 

「うん!私が付き添いしてたけど大丈夫そうだったよ!」

 

「了解、そしたら行こっか」

 

「はいよー!任せたよ機長さん!」

 

私はエンジンをスタートさせた。

ここはプッシュバック出来ないが駐機場が広いのでそのままUターンするとこにする。

風は150度から約3ノット。

穏やかだ。

ゆっくりとタキシングして滑走路に到達する。

 

「よし、左右大丈夫?」

 

「こっちはよーし!」

 

「こっちもよし」

 

16と大きく書かれた滑走路に入った。

風も変わらない。

 

「ヘディング157・・・ランウェイクリア」

 

スロットルをゆっくり開いて離陸推力にする。

 

「80」

 

「チェック」

 

《V1》

 

「ローテート」

 

私はゆっくり操縦桿を引いて地面を離れた。

ふわりと機体は空に上がる。

 

「ポジティブレート、ギアアップ」

 

ここまで異常なし。

そこからも何事もなく機体は巡航高度まで達した。

 

「ふぁー・・・いい天気」

 

「30000まで上がると日差しがキツいね」

 

「サングラスかける?」

 

「うん」

 

「はい!」

 

「ありがと」

 

私はマヤから渡されたサングラスをかける。

するとマヤが笑いだした。

 

「あははは!何かすごい厳つくなったよ!」

 

「どこが」

 

「顔!あはは!でも似合ってる!」

 

「そういうマヤも掛けてみなよ」

 

私はサングラスを外してマヤに渡した。

マヤはそれをかける。

 

「・・・ぷふっ」

 

「ちょっと!!何その笑い!!」

 

「いやだって、絶望的に似合ってない」

 

「ひどい!!」

 

《そっちは楽しそうね・・・》

 

「だって見てよ、面白いから」

 

《あんたの機体に異常接近していいなら見るけど》

 

「そりゃ危ないから禁止」

 

なんて楽しく話していると目的地が近くなってきた。

 

「そういえば降りたらどうするの?」

 

「村人の用事が終わるまで待機。王都観光でもする?」

 

「する!」

 

《賛成です!》

 

《私も!》

 

「じゃあ王都観光で」

 

「やったー!」

 

王都到着後は約6時間は待機しなくてはならない。

その間はせっかくだしお土産を買ったりしてもいいだろう。

なんて到着後の話で盛り上がりながら王都へと進入していった。

なんだかんだ生まれて初めて王都に行く。

せっかくだし観光も楽しもう。



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防衛戦闘

「・・・報酬分は買いすぎた」

 

「・・・ごめん」

 

「・・・いや、私も調子に乗りすぎた・・・」

 

王都から村、そしてそこからテキサスに帰る帰り道で私たちはコックピットで嘆く。

さすが王都というだけあって様々な店と豊富な品揃えがありしかも、物価がそこまで高くなかったので色々と買い込んでしまった。

私はふらっと立ち寄ったガンショップで滅多に出回ることの無いアサルトライフルであるAK-12、しかも従来のAKシリーズと同じ操作に改良されたいわゆるAK-12 2016verがあり購入してしまった。

弾倉も弾薬も私の74Nと同じ5.45mm弾。

さらにこの銃を作った国のホロサイトである1p87も購入した。

この1p87は普段使っているEotechと違い、流通数が極端に少ないのでかなりのレアアイテムだった。

普段は銃に対してこだわりは無かったのだが雑誌を読んでる最中に見つけたこの銃に私は一目惚れしていた。

自分でも何でかは分からないが。

 

「まぁでも、軍拡も大事だよね」

 

「オシャレもね!」

 

そういうマヤは銃を買った私を服屋に連れていった。

私が普段からあまり女の子らしい格好をしないからと色々と試着させられて3着ほど購入することになった。

ズボンやらパーカーやらスカートやら・・・。

まぁそのうち着るだろう。

なんて思いながら次は航空機ショップに行ってみたらF-14Dのアップグレードキットが販売してありそれも購入してしまった。

内容はF-14Dの対地攻撃能力を向上させるものだった。

近接支援のために機首のカメラを最新式のサーマルカメラにアップグレードしそのカメラが捉えた映像をHUDやHMDに投影できるようする。

また事前に攻撃する対象や機銃掃射する範囲を設定しておくとそこを攻撃できるタイミングで自動的にバルカン砲が発射される、もしくは爆弾や対地ミサイルが発射されるようになっていた。

そのアップグレードキットが約40万ドル。

服や銃を合わせると55万ドルほどになった。

 

「・・・まぁ必要な物だし仕方ない・・・」

 

《食費くらい何とかしてあげるわよ》

 

「まった、お父さんを脅すとかじゃないよね」

 

《違うわよ!!お見合い相手の人のお父様が副業で農家やってるらしくて私に食べたいものがあったら送るからいつでも言ってって言われてるのよ》

 

「・・・すごい可愛がられてるね」

 

《実の娘のようだ!って喜んでたけど》

 

《リリアさんリリアさん!結婚はいつですか?!》

 

《ぶっ!!》

 

「それ気になってた」

 

《ま、まだあの後会ってないのよ!!忙しくて!!》

 

「なんだ、もう愛の一晩を過ごしたと・・・」

 

《マヤあんたした事ない癖に何言ってんのよ!!》

 

「はぁ!?」

 

「私たちは純血だから」

 

《私が穢れてるみたいな言い方やめてくれない!?》

 

「だって実際・・・ん?」

 

《何?》

 

突然コックピットに警報がなる。

そしてMaster Cautionが点灯した。

 

「Master Caution」

 

「なんで!?あ、待って・・・やばい!」

 

《だ、大丈夫ですか!?》

 

「第2エンジン推力低下・・・外から見える?」

 

《いえ、煙とかは・・・》

 

「なんでいきなり・・・」

 

その次の瞬間だった。

次は第1エンジンの推力が低下し始めた。

 

「嘘!?第1エンジンも!?」

 

「なんで両方が・・・でもエンジン自体は停止してない・・・」

 

「ど、どうする!?」

 

「この高度だと滑空でもテキサスまでは・・・マヤ、操縦桿を保持してて」

 

「え、えぇ!?」

 

「落ちないように機体を支えるだけでいいから!」

 

「わ、分かったよ!」

 

私は無線で緊急事態宣言をする。

 

「テキサス、こちらエンジェル0-1!メーデー、メーデー、メーデー!両エンジン推力喪失!繰り返す、両エンジン推力喪失!」

 

《エンジェル0-1、こちらテキサス。メーデー了解。現在位置を教えてください》

 

「現在位置・・・テキサスから160km南!」

 

《了解。どこかに着陸できる空港は・・・》

 

「無理!今のままだと滑空してたどり着ける場所ない!」

 

《了解・・・乗客、乗員、貨物の量を教えてください》

 

「乗客と貨物は無し、乗員2人!」

 

《0-1、了解。草原に降りますか?》

 

「このままだと・・・」

 

《了解。救難依頼は発注します》

 

そう言って無線は途切れた。

そうだ・・・いくら民間機に乗ってるとはいえ、これは正規の民間機ではない。

冒険者としての仕事だ。

捜索となると依頼になってしまう。

 

《ハル・・・》

 

「ミオ、アヤはヘリ飛ばせるんだっけ」

 

《と、飛ばせると思います!》

 

「飛ばせるよ!私が教えたから!」

 

「分かった、ミオ!今すぐ帰ってアヤとマヤのブラックホークでここに来て!」

 

《りょ、了解しました!》

 

「リリアは警戒お願い!」

 

《了解、でも出来てもあと3時間よ》

 

「・・・分かってる」

 

私は必要な指示を終えて操縦桿を握る。

 

「ありがと、マヤ」

 

「う、うん・・・」

 

マヤはかなり怯えていた。

それもそうだ。

戦闘機と違って脱出なんて出来ない。

パラシュートも積めば使えるだろうがそれを使うために後方まで移動しなければいけないしそんなことしてる余裕もない。

不時着するしかない。

 

「くそ・・・なんでエンジンは回ってるのに・・・!!」

 

何故かエンジンは突然アイドリング状態まで戻ってしまった。

スロットルは70%の位置で止まっているのに・・・。

私はゆっくりとスロットルを戻しもう一度ゆっくりと開いた。

その時・・・

 

「うわぁぁ!?今度は何!?」

 

新たな警報音とベルの音。

火災警報が点灯した。

 

《ハル!!第2エンジン出火!!》

 

「分かってる!!マヤ、合図したら消化剤のレバー引いて!」

 

「ど、どれ!?」

 

「上のパネル!」

 

「あ、あった!」

 

「第2エンジンカットオフ・・・!引いて!」

 

マヤが消化剤のレバーを引く。

10秒ほど経つと火災警報が消えた。

 

「ふぅ・・・リリア、損傷はある?」

 

《見たところだと・・・エンジンが焦げたくらいね》

 

「了解・・・」

 

これだと第1エンジンも同じかもしれない。

早いところ降りてしまおう・・・。

幸い下は街まで続く草原だ。

 

「マヤ、ここに降りるから」

 

「あぁもう全部任せた!」

 

「・・・任せて」

 

私は第1エンジンも切る事にし着陸体勢に入る。

 

「マヤ、第1エンジンに愛着は無いよね」

 

「こんなクソの役にも立たないエンジンに愛着なんてないよ!!」

 

《酷い言いようね・・・》

 

「事実でしょ!!」

 

マヤは逃げ場がないという恐怖からか涙目だった。

 

「大丈夫だよマヤ、絶対に地上に下ろしてあげる」

 

「イケメンかよ抱いて!!」

 

「冗談言ってないでAPU動かして」

 

私は第1エンジンを停止してAPUを始動させた。

これで飛行計器は見れるしランディングギアも動かせるはずだ。

 

「高度3000・・・」

 

「ほ、ほんとに大丈夫だよね・・・」

 

「信じて。何があってもマヤだけは助けるから」

 

「やめてよ!それだとハルに何かあるみたいで・・・!」

 

「操縦桿を握ってる私の責任だよ」

 

《まったく相手が男なら即落ちよ》

 

「女の私でも落ちそうです!!」

 

「飛行機は落ちて行ってるけどね」

 

「笑えないよ!!」

《それは笑えないわよ!》

 

2人が同時にそう言った。

 

『2500』

 

2500ftの読み上げが聞こえた。

抵抗が増えるがそろそろギアを下ろそう

 

「マヤ、ランディングギアダウン」

 

「りょ、了解!」

 

「ブレーキは・・・使わなくていいか」

 

下は広大な草原。

地面の抵抗で停止するだろう。

 

「風も穏やか・・・行けるね」

 

私はいつもの何倍も慎重に操縦する。

高度はいつの間にか200ftだ。

 

『200』

 

「200・・・」

 

「神様・・・どうか私とハルを助けて・・・!」

 

『100』

 

「マヤ、耐ショック姿勢」

 

「とっくに耐ショック!」

 

「・・・操縦桿には頭押し付けないでよ」

 

「わ、分かってるよ!!」

 

『50』

 

地面がゆっくりと近づいてくる。

私は機首を少しあげてフレアの姿勢を取る。

 

『30』

 

『20』

 

私も衝撃に備えた。

備えたと言っても・・・心の準備だが。

 

『10』

 

10ftの読み上げの数秒後に機体の右が跳ねる。

右のメインギアが岩か何かを踏んだようだ。

機体は少しバランスを崩し強めに左から接地した。

 

「うっ・・・!!」

 

「きゃぁぁぁ!!!」

 

左のメインギアが地面に埋もれたのだろう。

鈍い音と共に機体は左に回転した。

たぶん左のギアが折れたようだ。

 

《ハル!!》

 

衝撃で右が浮き、左が下がる。

その時に主翼を地面に擦り付けた。

バキンっという嫌な音もする。

そして10秒ほどたった時に機体は停止した。

 

「・・・止まった・・・」

 

「うぅ・・・」

 

隣を見るとマヤが頭から血を流していた。

操縦桿に頭をぶつけたようだった。

 

「マヤ!!」

 

呼びかけるが応答がない。

恐らく気絶したのだろうが負傷箇所が頭だ、何が起こるか分からない。

 

「私は・・・大丈夫、リリア!マヤが負傷!!」

 

《大丈夫なの!?》

 

「わかんない・・・頭を怪我して意識不明!」

 

《了解・・・ミオ達が戻ってくるまであと2時間、私はあと2時間と30分はここを飛べるわ!》

 

「分かった、でも絶対に燃料で嘘はつかないで」

 

《分かってる、救助の手間は増やさせないわ》

 

私はシートベルトを外してマヤに近寄る。

機体は左に傾いてしまったので少し歩きづらい。

 

「マヤ・・・ごめんね、怪我させて・・・」

 

そう言うがやはり返事はない。

怪我の程度は頭部の打撲だけのように見えるがもしかしたら頭蓋骨を骨折している可能性もある。

ただ呼吸もあるしさっき少し呻いていたのですぐに命に関わる事はない・・・と思いたい。

 

「とにかく銃を取らないと・・・」

 

私は買ったばかりのAK-12を取る。

コックピットの後ろに置いておいて良かった。

弾がフルで入ったプラスチック製弾倉が4本・・・それと旅客機が不時着した際に備えて元から機体に搭載されていたMP7とその40発入弾倉が2本。

副操縦士と合わせて4本ある。

 

《・・・ハル、やばいわ》

 

「どうしたの?」

 

《どうやらここはアンデットが湧くポイントだったみたいよ》

 

「嘘でしょ!?」

 

アンデットは俗に言うゾンビだ。

何故かは分からないが死後に突然蘇り生者を襲う。

基本的に街で死亡した場合は火葬され遺骨のみを埋葬する。

だが、例えばこう言った草原で死亡した冒険者や山賊、村人などは土葬されたり放置されたりしていた。

研究では精霊・・・その中でも人を襲うような悪霊が死体に寄生し動かしているのではとなっていた。

厄介なのは頭を撃っても死なず、足を破壊することで移動できなくするか完全に遺体を焼却しないと倒すことは出来ない。

リリアのフランカーの30mmならバラバラに出来るので一撃だが、5.45mmやMP7の4.6mm弾ではそんな簡単な話ではない。

ショットガンや対物ライフルでもあれば話は別だが・・・。

 

「なんだってこんな場所に・・・」

 

《・・・ここら辺は元々墓地よ。大昔の・・・何百年も前の》

 

「だったら骨に・・・」

 

と思ったが悪霊に寄生された遺体は腐敗が止まるという事が研究で分かっていた。

おまけに異世界映画のゾンビみたいに肉を食うよりも略奪や女性を攫い強姦したりと山賊のような事をする。

犯されるのも嫌だが個体によっては人を殺すことを楽しむアンデットもいる。

それに、いくら腐敗が止まってるとはいえ何年も、何十年も草原や森を徘徊しているのだ、よく分からない病原菌やウイルスを持っていたりする。

何が嫌かというとただ略奪して帰っていくだけならいいがよく分からない病気を感染させられたらたまったものじゃない。

 

「くそ・・・ホントに来てる・・・」

 

窓の外には30体以上のアンデットが居た。

機体は傾いているせいで翼を登ればドアに到達できる。

確認まではしてないがドアが破損し開いている可能性だってあった。

 

「リリア!掃射できる?!」

 

《やってみるけど・・・あまり弾は無いわよ!》

 

「大丈夫!」

 

リリアのフランカーがゾンビの群れに2秒ほど機関砲弾を浴びせた。

その攻撃で半数以上は動けなくなっていた。

 

「Goodhit、いい腕だよ」

 

《これじゃいくら弾があっても足りないわよ・・・!》

 

私はコックピットの窓を開けてそこから銃を出す。

 

「セミオートで・・・」

 

私は足を狙って何発か射撃した。

だが元々貫通力の高いライフル弾。

おまけに痛覚の鈍ったゾンビだ。

1発2発では止まりもしない。

 

「・・・ん・・・いたッ・・・!」

 

「マヤ!」

 

マヤが目を覚ました。

頭を抑えていた。

 

「大丈夫?!」

 

「な、なんとか・・・」

 

「良かった・・・今、アンデットの群れがこっちに来てる・・・MP7は使える?」

 

「ちょっとボーッとするけど、大丈夫・・・」

 

「分かった。手伝って!」

 

弾薬を確認するとMP7の弾薬はホローポイント弾。

肉体へのダメージが高いなら足を撃てば動きも鈍るだろう。

 

「マヤ、足を狙って」

 

「わ、分かった・・・!」

 

応戦を始めること20分。

数は減ったが別の緊急事態だ。

騒ぎを聞きつけた山賊が寄ってきた。

 

「次から次へと・・・!!」

 

「リロード!」

 

マヤは完全に意識を取り戻し応戦を続けていた。

頭の怪我は思ったほど深くはないようだ。

その時だった。

コックピットのドアがドンドンと叩かれる。

 

「クソ!!」

 

私はドアに向かって射撃する。

貫通した弾丸は向こうにいた何かに命中した・・・と思う。

その次の瞬間、応射されドアを貫通した弾がコックピットに流れ込む。

 

「山賊!?」

 

「きゃぁぁぁ!!」

 

突然の銃撃に悲鳴を上げるマヤ。

私も負けじとドアに向けて射撃する。

その時だった。

 

「ぐっ・・・!?」

腹部に鈍い衝撃と焼けるような熱さ。

・・・もう経験しないと思っていた。

お腹が赤く染まる。

 

「ハル!!!」

 

「うっ・・・!!」

 

私は思わず銃を落とす。

そこにドアを破って山賊が2人入ってきた。

 

「よくもハルを・・・!!」

 

マヤは山賊に銃弾を浴びせた。

倒れた2人の後には山賊は居ない。

とりあえずこの2人だけのようだが・・・。

 

「ハル!!大丈夫!?」

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

「ねぇ!!何か言ってよ!!」

 

「だ、大丈夫・・・」

 

マヤは私のお腹を押さえる。

その手はすぐに真っ赤に染まった。

山賊が持っていたのはAK-47。

7.62mm弾をお腹に食らってしまった。

痛みと気持ち悪さ、色んなものが混じって今にも気絶しそうだ。

 

「リリア!ハルが撃たれた!!」

 

《え!?》

 

「お、お腹から血が止まんないよ!!」

 

《な、なんとか出来ない!?》

 

「なんとかって・・・」

 

《今はハルの治療に専念して!!そとは私が何とかする!!》

 

私は息苦しさを感じ始めた。

そして血の味が口に広がり始める。

 

「げほっ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

「ハル・・・苦しいよね・・・今何とかしてあげるから・・・!」

 

マヤは座席の後ろにあったファーストエイドキットを取り出した。

 

「マヤ・・・」

 

「今は集中させて!」

 

マヤは注意書きを読む。

そして大きな包帯を取り出した。

 

「悪いけど脱がすよ!」

 

「うん・・・」

 

出血のせいか体が怠くて仕方ない。

腕すら満足に動かせない。

私はもうこれまでか・・・覚悟を決め始める。

 

「マヤ・・・」

 

「何?」

 

マヤは私のお腹に止血剤を入れて包帯を巻き始める。

 

「・・・みんなに、ごめんって・・・」

 

「今そんなこと言わないで!!それにお腹に1発だけだよ!!大した事ないでしょ!!」

 

マヤは怒鳴るようにそう言った。

外からは爆発音が響く。

リリアが必死に戦ってくれていた。

 

《くそ!どれだけ居るの・・・って!今度は空!?》

 

リリアがそう言った時、無線が聞こえた。

 

《お姫様の救出に来たぜ》

 

《街で姫様の救助要請みて速攻飛んできたよ》

 

《ファンクラブ会員が役立てる最高のシチュエーションだぜ!》

 

そう言って私のファンクラブだと名乗る冒険者が来てくれた。

私は失いかけた意識が少し戻る。

 

《さて、どうしたらいい?》

 

《機内でハルが撃たれた!それに外は敵だらけなの!近接支援を!!》

 

《な、う、撃たれただと!?》

 

《近接支援なら任せろ!A-10の出番だ!》

 

遠くからはジェット音が響いてくる。

 

《さて、そしたら俺はお姫様を助けに行くかな》

 

《そんなこと言ったってお前、どうやって降りる気だよ!》

 

《こうすんだよ!》

 

《ベ、ベイルアウト!?》

 

《機体なんざ幾らでも買えるがハルちゃんの命はひとつだろうがよ!!》

 

ベイルアウトまでしてこっちに降りてくる人がいるようだ。

私は内心呆れてしまう。

機体のほうを大切にしてくれ・・・。

そう思った。

 

「どうしよう・・・血が・・・」

 

だが無情にも血は止まらない。

 

「マヤ・・・いいよ」

 

「いやだ!!」

 

「私が居なくても・・・マヤは大丈夫・・・」

 

「そんな事言わないで!!!」

 

マヤは私の肩を掴んで叫ぶ。

その時、さっきベイルアウトした冒険者がコックピットに入ってきた。

マヤはびっくりして銃を向ける。

 

「うぉっ!?バカ撃つな!!」

 

「ハルに近寄るな!!!」

 

「お、俺は助けに来ただけだ!ほら、医療バックだ!」

 

そう言って男は医療バックを置き何かの注射器を出す。

 

「これは止血剤だ、患部に直接注入すれば動脈出血も止めれる」

 

「ハ、ハルは助かるの・・・?」

 

「もし助からなかったらそれで俺を撃て」

 

マヤは銃を下ろし男の前から退けた。

 

「その可愛い下着姿、こんな時に見たくなかったよ」

 

「げほっ・・・!どんな時だろうが・・・見せない・・・よ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

「・・・かなり失血してるな・・・マヤちゃん、輸血バック取ってくれ!」

 

「だ、誰がマヤちゃんだ!!」

 

「いいから早く!」

 

マヤはそう言われて輸血バックを取る。

 

「ちょっと待った、なんで全部ハルの血液型なの」

 

「こんなこともあろうかと調べて保管しておいたのさ!」

 

「・・・げほっ!!・・・変態・・・」

 

「今罵られても嬉しくないから元気になってから言ってくれ!」

 

そう言って男は私のお腹の包帯を優しく取り注射器を銃創に入れた。

 

「少し痛いぞ」

 

そう言って薬を注入するが少しなんてもんじゃない。

撃たれた時と同じくらい痛い。

 

「ぐぅぅぅぅ・・・!!!」

 

「暴れるな・・・!今薬で強制的に血管が締められてるんだ!」

 

「はぁっはぁっはぁっ・・・!!うぅっ・・・何が少し・・・だよ・・・!」

 

「痛いって言われて打たれる注射よりはいいだろ」

 

「あの・・・ハルは・・・」

 

マヤは心配そうに私を見て言った。

 

「ひとまずは大丈夫だが・・・それまでの失血が酷い、急いで病院に運ばないとな・・・」

 

「・・・うん・・・」

 

《クソっ!山賊ども、やたらと護衛の多い旅客機だからお宝あると思って大量に来やがる!!》

 

《A-10で掃射できないの!?》

 

《無理だ!あいつら散開してるせいで効果的に攻撃できない!》

 

《そんな・・・!でも・・・絶対にハル達を守るから!》

 

「頼もしいよ・・・リリア・・・」

 

《その声が聞けたから余計に頑張れるわよ、ハルも頑張って》

 

「げほっ!・・・・うん、分かってる」

 

そう答えるが、痛みと気持ち悪さで頭がクラクラする。

目の前もチカチカする・・・。

 

「ハルちゃん、これ借りるぞ」

 

そう言って私を助けてくれた人はAK-12を持った。

 

「うん・・・使って・・・けほっ・・・」

 

《こちらノーマッド。ブラックホーク3機で墜落地点に接近中。お姫様の状態はどうだ?》

 

《ずいぶんと早いな!》

 

《なに、飛ばしてきたのさ!》

 

《ハルさん!もうすぐヘリが到着します!》

 

「了解・・・けほっ・・・うぅ・・・」

 

《ど、どうしたんですか!?》

 

《ハルが撃たれた、今容態は安定してるけど急がないと・・・》

 

無線のやり取りを聞いている時だった。

無傷で機体に近づいていた山賊が機内に入ってくる。

 

「来やがった!!」

 

「ハル!」

 

マヤは私を引っ張って遮蔽物の後ろに隠してくれる。

 

「クソ!元気な山賊だなオイ!」

 

「リ、リロード!」

 

「あいよ!カバー!」

 

激しい銃撃戦が機内で起きる。

壁を貫通した弾丸が何発もコックピットに入ってきた。

その時だった。

 

「あっ!?」

 

「大丈夫か!?」

 

「だ、大丈夫・・・!」

 

「マヤ・・・!!」

 

貫通した弾丸がマヤの足に当たった。

 

「クソッタレども・・・可愛い女の子2人も怪我させやがって!!」

 

「うぅ・・・撃たれるってこんなに痛いの・・・?」

 

「だ、大丈夫・・・?」

 

「ハルよりは大丈夫だよ・・・!」

 

そう言って銃を敵に向けようとした。

 

「ぐぅっ!?」

 

「え・・・?」

 

さっきまでAKを持っていた男が倒れた。

・・・頭から血を流して。

 

「そ、そんな・・・!」

 

私は何とか体を動かして倒れた男から拳銃を取る。

 

「・・・ごめんなさい・・・借りるね」

 

ゆっくりと近づいてくる山賊に向けて発砲した。

人数は3人。

 

「くそ!まだ生きてやがる!!」

 

「殺すな!相手は女だ!」

 

機内は絶望的な状態だ。

 

「マヤ・・・」

 

「ま、まだやれる・・・!」

 

銃を構えた時、マヤは腕に被弾した。

 

「あうっ!!」

 

「マヤ!」

 

「ぐぅぅ・・・!!」

 

低い声を出して痛みに耐えるマヤ。

私は撃たれた痛みも忘れるほどの怒りに襲われた。

絶対にマヤを撃った奴を許さない・・・!!

 

「殺してやる・・・!!」

 

そう言って銃を向けようとした時、突入してきた山賊のひとりに腕を蹴られた。

銃を落としてしまう。

 

「あっ・・・!」

 

「おら大人しくしろ!!」

 

「やめ・・・!やめて!!離して!!」

 

コックピットに入ってくる山賊。

もう何されるかなんてお察しの状態だった。

私は満足に動くことすらできない。

 

「へへ、こりゃ久々の上物だな」

 

「外の連中には悪いが先に味見させてもらおうぜ」

 

「離して!離せ!!この野郎!!」

 

「おいおい、そんな動くと怪我が広がるぜ」

 

1人はマヤを押さえつけ、もう1人が服を脱がそうとしていた。

 

「マヤ・・・」

 

私はそれを見ることしかできない。

1人が私の服を脱がそうとしてきたが抵抗する体力なんて無かった。

 

「・・・ごめんね・・・」

 

「お、どうしたお前は大人しいな」

 

私もマヤも下着まで取られ、もう終わりだと思った時だった。

コックピットの窓ガラスにクモの巣状のヒビがはいり、私を襲おうとしていた男が首から血を吹き出して倒れた。

そして立て続けに3発の弾丸が撃ち込まれ山賊は全員射殺された。

 

《・・・ターゲットダウン》

 

無線機からは聞きなれた声が聞こえる。

あたりが静かになるとヘリの音が聞こえていた。

いつの間にかヘリが到着していたようだった。

そしてその1機が状況に気づき、コックピット内を狙撃したようだった。

 

《ハル、マヤ。お楽しみのところごめんね》

 

「な、何が・・・お楽しみだよぉ・・・!」

 

マヤは泣きながらそう答えた。

 

「エル・・・来てくれたんだ・・・」

 

《うん、病院から帰ってる時にファンクラブの人に連れ去られた》

 

「ふふっ・・・なにそれ・・・けほっ・・・」

 

《すぐ回収して病院まで運ぶから》

 

その数分後機内に何人もの人が入ってきた。

私とマヤを担架に乗せてヘリまで運んでくれる。

この戦闘で私たちを助けてくれた勇敢な冒険者が1人死んでしまった。

名前も聞く前に・・・。

だけど、彼のおかげで私とマヤはこうして生きて帰れた。

後で必ず調べて彼のお墓には行こう・・・。

そう思いながらヘリの機内で墜落した767を眺めていた。



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懐かしい声

「・・・・ん・・・」

 

私は目の覚ます。

なんだろう、懐かしい匂いが・・・。

 

「あれ・・・マヤ・・・?」

 

体を起こすと私はベッドの上だった。

それに何だか懐かしい家具がある。

ここって・・・。

 

「私の家・・・?」

 

その時ドアが空いた。

 

「あ、お姉ちゃん起きた!」

 

「え・・・リン・・・?」

 

「どうしたの?幽霊でも見たような顔をして」

 

「い、いや・・・」

 

「とにかく早く来て!今日は皆でお出かけでしょ!」

 

私は混乱する。

忘れもしない、あの長く綺麗な黒髪でメガネをかけた可愛らしい顔を。

・・・あの墜落事故で死んだリンだ。

でもなんで・・・。

 

「夢・・・?」

 

私は頬をつねる。

 

「いたっ・・・ということは夢じゃない・・・」

 

「ハルー!早く降りてきなさい!」

 

「あ、う、うん!待ってて!」

 

私はとっさにそう言った。

聞こえてきたのはママの声だ。

 

「もしかして・・・今までのが全部夢だったのかな・・・」

 

匂いも感覚も全部本物。

お腹を見ても撃たれた傷もない。

 

「はぁ・・・」

 

私はため息を着いてベッドから起きる。

 

「・・・マヤ・・・エル・・・きっとどこかに居るよね」

 

私は夢の中で出会った友達の名前を呼んだ。

私はそのまま私服に着替えて1階に降りる。

何故だか私服も夢の中で買った服だった。

 

「酷くうなされてたって聞いたが大丈夫か?」

 

「うん、大丈夫だよパパ。悪い夢だったから」

 

「えー、お姉ちゃん幽霊でも取り憑いてるんじゃないの?」

 

「それは絶対にない」

 

「どんな夢だったの?」

 

「飛行機を操縦してたら墜落して山賊に襲われた」

 

「そりゃまた悲惨だな」

 

「ということはお姉ちゃん、無理やりされたい願望・・・いたっ!!」

 

「ちょっと、食事中に変な事言わない」

 

「ははっ!リンだって年頃だもんな!」

 

「お父さんは黙って食事しなさい」

 

「ふふっ・・・」

 

いつもの風景なのに懐かしく感じてしまう。

私も席について朝食を食べた。

 

「今日はどこにいくんだっけ」

 

「あら、言わなかったかしら」

 

「ド忘れ」

 

「近くにいい街があるの。そこまでハルに飛行機を飛ばしてもらうって約束でしょ?」

 

「お姉ちゃん、もしかして年?」

 

「・・・次言ったらその口縫い合わすから」

 

「ひぇっ!」

 

「・・・まったく」

 

そう言われても何故だか思い出せない。

どこの街だったか・・・。

 

「どの街だっけ・・・」

 

「あら、ほんとに忘れたの?リゾートよ、リゾート」

 

「あ、リゾートか・・・」

 

確かにこの村の近くにそんな名前の街があった。

とにかく娯楽施設が多く料金も格安で観光するにはもってこいだった。

 

「ほら、食べたら歯を磨いて顔も洗ってきなさい」

 

「うん」

 

私はパンを食べ終えて牛乳を飲み干し、洗面所に向かった。

そして、両親と妹と村の飛行場に向かう。

 

「どれを飛ばせばいいの?」

 

「リアジェットを借りたからそれだな。家族で免許持ってるのお前だけだし」

 

「パパも取ればいいのに」

 

「俺は飛行機が苦手でな」

 

「ふーん・・・ねぇ、お姉ちゃん!私副操縦士席に座りたい!」

 

「いいよ。補佐よろしく」

 

「了解!」

 

リンは笑顔でそう答えた。

私は飛行場の担当者に案内されてリアジェットに乗り込んだ。

 

「さてと、始動前チェック・・・」

 

「さすがパイロット・・・」

 

「リンは取らないの?」

 

「私はこの村の役場で働くって決めてるの!」

 

「ふふ、どうして?いい人でもいた?」

 

「なっ・・・お姉ちゃんには関係ないしっ!」

 

「リンったら、隣の幼馴染の子と付き合い始めたのよ」

 

「お、お母さん!!っていうか、お姉ちゃん知ってるでしょ!」

 

「知ってるよ。わざと」

 

隣にはリンと幼馴染の男の子、ダイが住んでいる。

その子もリンもまだ16歳だがダイは村1番のガンナーで村の防衛を担っていた。

2人は幼い頃から仲が良く、ほとんど気付いたら付き合ってたような感じだ。

村公認カップルのようなものだ。

 

「早く孫の顔が見たいわね」

 

「ま、まだ早いよ!!」

 

リンは顔を真っ赤にしてママに抗議していた。

私はその間にもエンジンを始動して滑走路へタキシングする。

 

「えーっと・・・フラップ10・・・風向240度風速10ノット・・・滑走路24、ヘディング238・・・ランウェイクリア」

 

私は滑走路に到着し出力を上げる。

ゆっくりと機首を上げて離陸する。

 

「おぉー・・・さすがハル・・・」

 

「た、頼むぞゆっくりな!」

 

「お父さんはビビりすぎよ」

 

コックピットのすぐ後ろの席でパパは冷や汗をかき、ママはそれを見て笑っていた。

その時だった。

 

《・・・ル・・・!ハル・・・!》

 

「ん?」

 

《起きてよ!!帰ってきて!!》

 

「なに・・・?」

 

「どうしたの?」

 

「いや、無線から・・・」

 

《待ってろ!電圧よし!クリア!!》

 

その時、体に電流が走るような感覚がし、何かを思い出しそうになる。

 

「なんでかな・・・なんだか懐かしい声」

 

「・・・ハル、あなたはどちらを選ぶの?」

 

「え?」

 

《いかないで!!帰ってきてよ!!ハル!!》

 

《離れて!もう1回だ!!》

 

私の名前を泣きながら叫ぶ女の子の声。

夢の中で出会った友達の声に似ていた。

 

「・・・このまま飛べば、ママ達とずっと暮らせる気がする・・・」

 

なぜか私は本能的にそう思っていた。

だが、同時に飛行場に引き返したいという気持ちもあった。

 

「なんでだろ・・・」

 

その時もう一度体に電流が走るような感覚がする。

そして、その時夢の内容を思い出した。

 

「あれ・・・私・・・なんで・・・」

 

いや、あれは夢じゃない、現実だ。

私は767の機内で撃たれて、救出され、意識を失った。

 

「・・・・」

 

「・・・戻りなさい、ハル」

 

「ママ?」

 

「そうだよ、お姉ちゃん」

 

「・・・まだ間に合う、戻れハル」

 

「戻るって・・・どこに・・・」

 

「飛行場、そこでお姉ちゃんのお友達だって待ってるよ」

 

「友達・・・」

 

私はその名前を呟く。

 

「マヤ・・・エル・・・リリア・・・それに・・・ミオ・・・」

 

《クソっ!!まだ戻らない!!》

 

《ハル!!お願い!!やだよ・・・!死なないでよ!!》

 

《大丈夫だ・・・大丈夫、戻ってこい・・・死なせないぞ!!》

 

私はその無線を聞いて決意した。

 

「・・・ごめん、ママ・・・パパ・・・リン・・・一緒には行けないよ」

 

「ふふ、そう言うと思ったわ。ほら、帰りなさい」

 

「・・・うん」

 

「着陸するまでは一緒だよ!」

 

「た、頼むから落とすなよ!」

 

「パパはいつまで怖がってるの?ふふっ」

 

私は涙が溢れてきた。

懐かしい家族の声を聞いたせいだろう。

それに、もう会うことは無いから。

 

「ハル、次会うときはちゃんとお婆さんになってからよ?」

 

「そうだよ!そのときは私が肩揉んであげる!」

 

「リンに介護されたら逆に殺されそうだよ」

 

「ちょっと!!なんでよ!!」

 

「あはは!」

 

機内は懐かしい私の家族の笑い声と笑顔で満たされた。

飛行機はまるで自動操縦をしているかのように滑走路へと降りていく。

 

『500』

 

500ft。

もう皆といれる時間も少ない。

 

「リン、ランディングギアダウン」

 

「ほーい!」

 

「さぁ、ハルのお手並み拝見ね」

 

「任せてよ、ママ」

 

『300』

 

『Minimums』

 

「コンテニュー」

 

滑走路は目の前だ。

私はもっと皆と居たい気持ち、そしてマヤ達に会いたい気持ちでいっぱいだった。

願うことならもっと家族と居たい。

でも、それは絶対にできない。

それは・・・この世から去るということになるから。

 

『200』

 

「そろそろお別れね」

 

「まだ200ftだよ」

 

「滑走路で停止したらだから!」

 

「じゃあ止まらずに突っ走る?」

 

「それは絶対にダメだよ!」

 

「・・・分かってるよ」

 

『100』

 

「・・・ありがと、みんな」

 

「まだ早いわよ、ほら、お父さんが震えて声出せないから」

 

「う、うっせぇやい・・・!」

 

「あはは!お父さん泣いてるー!」

 

「娘の成長が嬉しいのと飛行機怖いのと混じってな・・・」

 

「そこは娘の成長で泣きなさいよ、まったくもう・・・」

 

「ふふっ、パパらしくない」

 

「そういうお前だって泣いてるだろ・・・!」

 

「だってみんなと会えて嬉しいし?」

 

私は涙を流しながらも笑顔でそう答える。

 

『50』

 

私はいつもよりずっとゆっくり降下する。

・・・もっと長くみんなの声を聞けるように。

 

『30』

 

もう本当にこれでお別れだ。

私は寂しさを堪えて操縦する。

 

『20』

 

まるでお別れのカウントダウンだ。

このGPWSはそう聞こえてくる。

 

『10』

 

機体は滑走路に接地した。

私は逆噴射装置を作動させる。

 

「リバースグリーン・・・」

 

機体はゆっくりと減速していく。

 

「60・・・ぐすっ・・・」

 

下がっていく速度を見て涙が再び溢れてくる。

 

「やだ・・・やだよ・・・みんなと離れたくない・・・!」

 

私は思いをぶちまけた。

 

「親孝行だって出来なくて・・・反対を押し切ってパイロットになって・・・」

 

「ううん、ハル。あなただけでも生きていてくれた事が私たちは本当に嬉しいの。だから、これからもしっかりと生きて」

 

「うん・・・うん・・・」

 

「私たちは空から見守ってるよ!空飛んでるお姉ちゃんを!」

 

「お、俺も見守ってるからな!」

 

「お父さんはいつまでビビってるの?あ、泣いてるのか・・・」

 

「・・・ハル!お前は強い子なんだ、それにこんなにお前を待ってくれる友達だっているんだからな、父親として誇らしいぞ!」

 

パパは涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらも無理やり笑顔を作ってそう言った。

私はふと駐機場のほうこうを見るとこの飛行機を見て手を振っているマヤやリリア達が居た。

 

「ほら、もう時間よ」

 

「バイバイ、お姉ちゃん!」

 

「・・・次婆さんになる前に来たら、張り倒すからな!」

 

「・・・うん、分かってる・・・ありがと、パパ、ママ・・・リン・・・」

 

そう言うと同時に機体の速度はゼロになる。

そして目の前が急に明るくなった。

 

「・・・はっ・・・!?」

 

「よし!!心拍数と呼吸が戻った!!・・・ふぅ・・・」

 

「ハルぅぅぅ!!!うええええん!!」

 

「・・・マヤ・・・?」

 

「そうだよマヤだよぉぉぉ!!」

 

目を覚ますと病院の手術室だった。

 

「・・・ただいま、マヤ・・・」

 

「おがえりぃぃぃ!!うぉぉぉぉんんん!!」

 

「・・・なんちゅー声を・・・」

 

意識を完全に取り戻した私は医師から状況を聞いた。

私はここまで運ばれる機内で意識を失い、病院に到着してすぐに心肺停止になったそうだ。

そして私が意識を取り戻してから数分後リリア達が病院に駆けつけた。

私はリリア達と話しながら、夢の中で出会った家族のことを思い出す。

きっと、皆は空から見てくれる。

だから私は精一杯頑張って、仲間たちと生きよう。

そう思いながら心の中で今はもう居ない家族に、私は頑張るよと伝えた。

 

「まったく・・・心配したんだから・・・」

 

「うぉぉぉぉんんん!!リリアァァァ!!」

 

「マヤは泣き止みなさいよ!ていうか汚なっ!!」

 

「お、女の子が出しちゃダメな声と顔になってます・・・」

 

「だっで・・・だっでぇぇぇ!!」

 

「はいはい・・・ていうかアンタも重症なんだから寝てなさい」

 

私たちはその後、様子を見るために2人部屋に入れられた。

2日後の検査で異常がなければ普通の病室で傷が癒えるまで入院だ。

 

「でもリリアさん、フランカーは大丈夫ですか?」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「どうしたの?」

 

ミオに聞くと私が意識を失ったと聞いた瞬間、泣きながら私の名前を叫ぶように呼び、早く病院に行きたいがあまりハードランディングでギアをへし折っていた。

そのまま滑走路外に出たらしいが・・・。

 

「・・・落ち着いてよ・・・」

 

「誰のせいよ!!」

 

そのせいでリリアのフランカーは1週間は入院だそうだ。

幸い、損傷したのは左のギアと左の翼の先端部のみで大した損傷ではないそうだ。

また、ヘリの機内ではエルが取り乱し大変だったそうだ。

今はこの前助けた同じ獣人のナユのところに行っているそうだ。

とはいっても私たちがいる病院と同じなのだが・・・。

 

「・・・大丈夫かな」

 

「なにが?」

 

「エル。伝えた方が良いんじゃないかなって」

 

「ハルが一瞬あの世に行ったって伝えていいの?」

 

「う・・・それ伝えるとヤバいかも・・・」

 

エルの事だ大泣きしてたぶん傍を離れなくなる。

そうなると今度はナユが精神的に不安定になってしまう・・・。

 

「で、あの世は行ったの?」

 

「ちょっと!そんな事聞いちゃダメですよ!」

 

「いいじゃない、こうやって生きてるんだから」

 

「あはは・・・」

 

「ほんどによがっだよぉぉぉ!!うえええん!!げほっ!!ごほっ!!うぉえッ!!!」

 

「いつまで泣いてんのよ!ていうか汚なっ!!吐きそうじゃないの!!」

 

「だっでぇぇぇ!!」

 

「あ、あはは・・・マヤさんハルさんが大好きですもんね・・・」

 

「だいすきぃぃぃぃ!!!」

 

泣き叫ぶマヤを何とか宥めながら私は恐らく行ったのがあの世だった話をする。

家族に会って温かい気持ちになれた話を。

それを聞いてリリアとミオも涙を流す。

 

「うっ・・・うぅ・・・いい話ね・・・」

 

「ぐすっ・・・ほんとですね・・・」

 

「うぉぉぉぉんんん!!いい話すぎるよぉぉぉ!!!」

 

「いや、あんたは落ち着きなさいよ」

 

「い、いつまで泣いてるんですかね・・・」

 

泣きそうになっていた2人の涙を引かせるほどの大号泣をするマヤを見ながら私は帰って来れて良かった。

そう思った。

これからきっと1週間くらいは病院生活だ。

まぁ・・・この生活も3回目くらいだが今回も今回でのんびりと過ごさせてもらおう。

・・・それよりも泣き叫びすぎてマヤが死なないか心配になってきた・・・。



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ストロベリー防空

「魔法がすごいのか医学がすごいのか・・・」

 

「私はどっちもだと思うよ」

 

あの事故から1週間、傷も完全に治り家へと帰ってきた。

私たちが知らない間にリリアが医者に膨大なお金を払って傷跡を残さないようにしてくれていた。

リリアは大したお金じゃないとは言ってくれたが・・・。

 

「撃たれた跡なんて残ってもないし・・・」

 

「この手の医療魔法って確か結構お金かかったよね・・・あはは・・・」

 

2人揃って傷跡なんてキレイさっぱりだ。

まぁ・・・傷跡がキレイさっぱりなのはいいが、とにかく今はお金が無い。

結局あの767は廃機になってしまった。

廃機・・・というか、私たちが救助されたあと、機内を探索していた山賊が金目のものが無いことに怒り銃を乱射した結果、燃料に引火して全部燃え尽きてしまった。

そのせいでなんでエンジンが壊れたのかも分からず仕舞いだった。

そして一応借りた機体であった為におじさんへの弁償が必要となってしまった。

それでもおじさんは馴染みだからと、一応金は取るが50万で良いとのことだった。

 

「どうする?お金も無いし・・・」

 

「何かいい依頼でもあればいいんだけど・・・」

 

2人でそう悩んでいると、エルがコーヒーを飲みながら1枚の紙を出てきた。

 

「なにこれ」

 

「依頼書。結構ハル好みだと思うけど」

 

「私の好み?」

 

私は依頼書を手に取った。

内容は指定空域のCAP。

報酬は200万ドル。

CAPにしてはいい方だ。

依頼内容の指定空域は近くにストロベリーという名前の小さな街がある空域だ。

そしてこのストロベリーに対して金を払わなければ攻撃すると匿名の脅迫が届いたそうだ。

また若くて美人の女数名も引き渡せとの事だった。

恐らくこの街がこういった連中に狙われた理由はジェット戦闘機が離発着できる飛行場を持っていない事だろう。

飛行場・・・というよりはヘリポートしか無かった。

そのため、運航しているのはヘリコプターのみだった。

稀に給油や休息のためにVTOL機が立ち寄るらしいが。

 

「なるほどね・・・」

 

「防空なら好みの仕事じゃない?」

 

「まぁね。守るのは好きだよ」

 

「その守るのは好きって言葉ちょっと録音させて」

 

「マヤは何言ってるの・・・」

 

「ケータイの着信音にしたい!」

 

「アホか」

 

なんて話をしながら依頼書を見ているとリリアとミオが買い物から帰ってきた。

 

「ただいま」

 

「おかえり。仕事の依頼あるけどどう?」

 

「仕事?」

 

そう言ってリリアは依頼書を見る。

 

「指定空域のCAP・・・」

 

「どう?私1機じゃキツイから」

 

「いいんだけど・・・私のフランカーは飛べないし・・・」

 

「飛べるのは私のフランカーだけですね」

 

「複座は?」

 

「ハルのを使うってこと?」

 

「うん。F-14BとX-02Sならあるけど」

 

「でもWSOが・・・」

 

「それならド変態の方のハルが使えるよ」

 

そう言った途端どこからともなくハルが出てきた。

 

「ご主人様からのド変態扱いはご褒美なのです!それで、呼びました?」

 

「・・・呼んでないと言えば違うけど・・・」

 

内心呼ばなきゃ良かったと思ったのも本心だ。

とりあえず私はハルにWSOの件を伝えた。

 

「いいですよ!トムキャットなら前乗りましたし!」

 

「あぁ、そういえば」

 

いつだったかハルを乗せて飛んだ事を思い出す。

その時に一通りの操作を覚えてくれたのでなんとかなるだろう。

 

「どうする?」

 

「んー・・・じゃあ私も行くわ」

 

「了解。それじゃ準備して行こう」

 

「今から!?」

 

「善は急げ。それよりもこの街、脅迫されてるみたいだし」

 

「ちょ、ちょっとだけ待って!」

 

リリアはそう言って自分の部屋に戻る。

10分ほどで準備したリリアが出てきた。

 

「お待たせ!」

 

「じゃあ行こ」

 

空港へと急ぐ。

今回はもしかすると防空戦闘の可能性があるのでAIM-54、フェニックスを積んでいこう。

せっかくだ、昔買ったアクティブホーミングタイプのフェニックスを持っていこう。

それを私とリリアのトムキャットに4発ずつ。

ミオはR-77とR-73を積んでいくみたいだ。

依頼書によると地上から敵が来た場合は対戦車ヘリと戦闘ヘリで対処するそうだ。

 

「ろくでもないのが飛んでこなきゃいいけど」

 

「ろくでもないのが飛んでくる以前に何も飛んでこないのが1番ありがたいけどね・・・」

 

「まぁ確かに」

 

依頼内容としては金の支払い期限である今日を上空から街を警護し夜が明けたら依頼は完了という感じだ。

そのため最低でも12時間以上飛び続ける必要がある。

近く・・・それでも300kmは離れているが、空中給油機が飛んでいる空域がある。

そこまで行けば燃料補給は可能だが・・・。

 

「トイレと食事だね・・・」

 

「それ。近くに街があるにはあるけど・・・」

 

近くにある街、ラズベリーはちゃんとした飛行場が整った街ではあるのだが、存在する場所が非常に高所で街自体が山を削って作っている。

さらに雲が発生しやすく悪天候や乱気流が発生しやすい上に飛行場自体も着陸寸前まで滑走路が山に隠れて見えない。

非常に着陸の難しい飛行場だった。

一応、雲の中でも視認出来るくらい強力な光を放つストロボが滑走路までの道案内に設置されていたり、管制塔の精霊使いが精霊が滑走路まで誘導してくれはする・・・が、この精霊は基本的に民間機に使っていてよほど暇な時でなければ冒険者は誘導してくれない。

そのため、頑張ってストロボを目印に降りてこいということだった。

 

「ラズベリー・・・」

 

「名前だけならいい街なんだけど・・・」

 

「あら、名前だけじゃなくていい街よ。あそこに降りてくる人少ないから降りてくる人にはすごい温かいし」

 

「そうじゃなくて着陸の難易度」

 

「まぁそうね・・・何だかんだストロボも雲の中じゃ地表スレスレに降りてこないと視認できないみたいだし」

 

「だいたいどれくらい?」

 

「確か電波高度計で200ft」

 

「・・・結構低い・・・」

 

「実際怖かったわよ」

 

「行ったことあるの?」

 

「1人で飛んでた時に、仕事でね」

 

「じゃあ今日の1番機はよろしく」

 

「なんでよ!」

 

「だって初めてだし」

 

「着陸時は私が先頭に立つからハルがやってよ!」

 

「・・・そんなに1番機は嫌か・・・」

 

まぁいいや、と思いながら格納庫へ急ぐ。

依頼を受けるという申請はエルにお願いしておいたので私たちはすぐに機体に向かった。

その時におじさんに武装のお願いをする。

 

「おう嬢ちゃん!怪我は大丈夫なのか?」

 

「なんとかね。武装のお願いをしたいんだけど」

 

「お、なんじゃなんじゃ、好きなの乗せてやるぞい!」

 

「そしたら私とリリアにAIM-54、あの前買ったアクティブホーミングタイプを」

 

「あぁあれな。1回も使ってなかったじゃろ」

 

「忘れてた。いい加減使わないとね」

 

「了解じゃ!ていうか、リリア嬢ちゃんは何に乗るんじゃ?」

 

「私の14B。フランカーはまだでしょ?」

 

「まぁの。派手にギアへし折ってるからのぅ・・・」

 

「うぐ・・・」

 

リリアはランディングギアをへし折ったという言葉を聞いて小さく呻いた。

格納庫の奥にはジャッキで持ち上げられたフランカーの姿があった。

 

「他の武器はどうするんじゃ?」

 

「9Xって使えたっけ」

 

「あぁ、14Dのほうならの。ワシが勝手に弄り回したからの!はっはっは!」

 

「勝手にはやめて欲しかったんだけど・・・14Bは?」

 

「ソフトウェアさえアップデートすれば使えるぞぃ、HMDにも対応させれるように改造されてるからの」

 

「んじゃ、そっちもお願い」

 

「了解じゃ!何発ずつ積むんじゃ?」

 

「私は9Xを2発、スパロー2発、胴体下に54を4発かな」

 

「了解じゃ!ちなみにリリア嬢ちゃんの14Bはどうする?」

 

「AMRAAMってどうだっけ」

 

「それもソフトウェアさえアップデートすれば大丈夫じゃよ」

 

「じゃあリリアにはスパローの代わりにAMRAAMで」

 

「え、いいの?ハル」

 

「アクティブホーミングのほうがいいでしょ?」

 

「まぁ・・・そりゃね」

 

「じゃあそっち」

 

「ありがと!」

 

スパローに比べたらアムラームのほうが値段は高いがそれでも1発2万ドル程度。

大してお財布に影響もない。

 

「じゃあちょっとコーヒーでも飲んで待ってろ!」

 

おじさんは早速作業に取り掛かる。

 

「ねぇハル、そういえばラズベリーってお菓子が美味しい街だよね」

 

「確かね。ベリー系タルトが絶品だとか」

 

「帰りに寄りたい!」

 

「いいわね!私も行きたいわ!」

 

「私もです!」

 

「んー・・・まぁいいんだけど、天候次第かな」

 

ほぼ1日飛んで降りる気力が残っていれば・・・だが。

ただでさえ難しい飛行場にクタクタで降りなければならない。

それに編隊機だって降りれるか分からない。

 

「準備も終わったみたいだし行こっか」

 

機体に武装や燃料が積み込まれた。

増槽も満タン、それでもなるべく節約して飛ぼう。

 

「リリア、戦闘時以外はなるべくアフターバーナー禁止で」

 

「燃料カツカツになるものね。了解」

 

分かれて機体に乗り込む。

 

「マヤ、今日はマヤの腕にかかってるから」

 

「任せて!たとえ虫でも見落とさないから!」

 

今回はF-14が目となって全ての兆候を警戒する。

攻撃はミオのフランカーだ。

ミオは自分で買っていたハードポイントに搭載出来るボックス型の兵装庫を搭載していた。

重量の関係で2つしか詰めないが、中には4発のAIM-120かAIM-7が搭載出来る。

R-77やR-73と合わせて10発以上のアクティブホーミングミサイルを積んでいる。

こっちにもフェニックスがあるし、可能な限り先制攻撃で撃破したいところだ。

 

「それじゃ、行くよ」

 

エンジンを始動してタキシングする。

街はここから約1時間。

補給地点のラズベリーまではストロベリーから20分・・・。

今日は長い1日になりそうだ。

 

《エンジェル0-1、離陸を許可》

 

「離陸許可、エンジェル0-1」

 

加速して離陸する。

目的の街はここから1時間と30分ほど。

そこからは補給以外は降りることなくずっと空中待機だ。

 

「マヤ、食べ物は大丈夫?」

 

「チョコレートにジャーキーにスナックもあるよ!」

 

「お菓子ばっかじゃん・・・」

 

「お腹には溜まるし!」

 

「・・・行きに食べすぎないでよ」

 

「分かってる!」

 

《隊長!おやつにバナナは入りますか!》

 

リリアの14に乗っているハルからそんな無線がくる。

 

「ちょっとまった、なんの話」

 

《行きがけは遠足みたいなものですよ!》

 

《今日は天気もいいですから、確かに行きは遠足気分ですね》

 

「まったく・・・調子乗って後で食べる分がないとか言わないでよ。みんな複座なんだし」

 

《大丈夫よ、特に私はしっかり管理してるから》

 

《私はご主人様に何もかも管理されたいです!!むしろ監禁されたい!》

 

「リリア、地下室作って閉じ込めたいんだけど手伝って」

 

《いいわよ。出口も塞ぐ?》

 

「そのまま埋葬する」

 

《処刑はやめてくださいよ!!》

 

「死ぬまでは監禁だよ」

 

《せめて!せめて!ご主人様も一緒に!》

 

「・・・なんで私も死ぬ事になるの・・・」

 

賑やかな話をずっとしながら目的地に向かって飛ぶ。

その時だった。

 

《ん・・・あれ?》

 

「どうしたの、ミオ」

 

《警告灯が・・・えと、油圧系に点灯しました》

 

「何か操縦に異常はある?」

 

《今のところは・・・念の為、降りたいです》

 

「分かった、けど近くってなるとラズベリーになるけど・・・大丈夫?」

 

《うーん・・・異常が出てる機体で難しい飛行場に挑戦するか遠くてもテキサスまで戻るか・・・》

 

《ハル、ラズベリーまで私が連れて行って誘導するのはどう?》

 

「リリアは行ったことあるんだもんね」

 

《えぇ、その後戻ってくるわ》

 

「了解。じゃあ任せるね」

 

《任せて。ミオ、私が連れてくから》

 

《了解です、でももし操縦不能になったらベイルアウトしますので》

 

「その時は仕事中止してでも助けに行くよ」

 

《頼もしいです!それじゃ、点検と整備終わったら戻ります!》

 

そう言ってフランカーとF-14Bは離れていく。

 

「1機だけ・・・か」

 

「まぁほら、最初の頃だってそうだったし!」

 

「まぁね・・・」

 

その頃に比べたら練度も上がってるし装備も良くなっている。

だが、そうは言っても弾が無くなればただの飛行機だ。

どれだけ頑張っても戦闘機相手なら6~8機が限界だ。

それ以上は対処出来ない。

単機でそれだけ撃墜できればいいのだが・・・。

それにこの計算はミサイル全てが命中し1発で撃墜出来てる前提だ。

 

「今から悪いことは考えないようにしよ・・・」

 

「悪いことって?」

 

 

「あ、ごめん、聞こえてた?」

 

「そりゃ無線が繋がってるし」

 

「不安にさせてごめんね」

 

「ううん、大丈夫。それよりどうしたの?」

 

「大した事・・・いや、大した事なんだけど、私1機の状態で戦える数を考えてた」

 

「・・・そっか・・・いつ帰ってくるか分からないもんね」

 

「うん。なるべく敵機が来たらビビらせて追い返そうかなって」

 

「そうだね!無理に攻撃する必要ないし!」

 

今私が考えているのが、もし敵が明らかにこちらより格上の機体でもない限り背後に食いつきロックオンしたままにする。

それもなるべく至近距離でだ。

そうすれば撃たれるとまず回避できないという恐怖心を与えられる。

そしてさらにロックオンを続ける事でいつ撃たれるのかという恐怖心も与えられる。

よほど自分の命を投げ出したい奴でもない限りそんな時間が続けば逃げるはずだ。

 

「でもこの戦法・・・敵の数が少なくないと無理・・・」

 

「確かに・・・何機も居たら撃てないことがバレちゃうね・・・」

 

「・・・とりあえず、リリアとミオ・・・最低でもリリアが帰ってくるまでの時間稼ぎだね」

 

「そうだね!」

 

そうして目的地に向けて飛行を続けること20分、ミオ達から無線が入る。

 

《ハルさん、無事にラズベリーに着陸出来ました。今日は天候が穏やかみたいなので着陸に支障はあまりなさそうです。でも少し気流が荒めです》

 

「了解、ストロベリーの上で待ってるから」

 

《了解です!》

 

「あ!ミオ!お土産でベリータルト買っといて!」

 

《今ですか!?》

 

「うん!帰って食べる!」

 

「・・・Gで潰れるよ・・・」

 

「お腹に入れば一緒!」

 

「・・・どうせ食べるなら綺麗な方がいいんだけど・・・ミオ、マヤの事は無視で」

 

《あ、あはは・・・了解です》

 

「無視はひどいよぉ!!」

 

「バカなこと言うから。ちゃんと帰りに寄ってあげるから」

 

「わーい!!」

 

「だから今は仕事に集中。レーダーは?」

 

「ちょっと待ってねー、レンジ切り替えるから」

 

ストロベリーまであと200kmも無いところまで来た。

この辺りからなら街上空をレーダーで監視できる。

F-14の本領発揮だ。

 

「どう?」

 

「んー・・・っとねー・・・」

 

私もディスプレイの1つをレーダー画面に切り替える。

特には何も写っていないが・・・。

 

「なーんか今一瞬写ったんだよね・・・ハル、ちょっとだけ高度下げてもらえる?機首をマイナス5度くらい下げる感じで」

 

「了解」

 

私は言われた通りに機首を下げた。

すると・・・。

 

「なにこれ・・・高度9000に何かいる!」

 

「え!?」

 

街に機首を向けているシンボルが表示されていた。

距離は約180km。

私は急いで街に連絡を取る。

事前の話ではこの街に今日は離発着機は居ないはずだ。

居るなら居ると連絡が入るはずだった。

 

「ストロベリー!こちらエンジェル0-1!」

 

だが応答がない。

 

「ストロベリー!こちらエンジェル0-1!」

 

《・・・・・・・・・・》

 

何かの声と雑音しか入らない。

 

「クソ・・・もう始まってるの!?」

 

「ハル!シンボルが増えてる!」

 

「こんな時に・・・!」

 

その時やっと無線が通じた。

 

《エンジェル0-1!こちらストロベリー!》

 

「良かった・・・状況は?」

 

《骨董品のV-1ロケットが大量に飛んできてる!迎撃は何とか出来ているが発射地点が分からない!》

 

「V-1!?」

 

資料でしか見た事ない物だった。

巡航ミサイルの始祖のような物だ。

飛行速度はレシプロ機程度なので何とか迎撃出来ているのだろう。

私は急いでリリア達に連絡する。

 

「リリア!今すぐペイブウェイを乗せて来て!」

 

《え、えぇ!?》

 

「街が巡航ミサイルに攻撃されてる!」

 

《りょ、了解!1時間で行くわ!》

 

「了解・・・何とかやってみる」

 

私はアフターバーナーに点火して加速する。

 

「ねぇハル、V-1って何十年も前のミサイルだよね」

 

「記憶が正しければ」

 

「そんなに昔のミサイルならソニックブームをマトモに喰らえば損傷するじゃ・・・」

 

「・・・・なるほど、マヤ帰ったらよしよししてあげる」

 

「ぬへへへ、やったぜ」

 

古いミサイルなら衝撃波を喰らえば何かしら損傷するはず。

確か弾頭部のプロペラで距離を測りそこまで飛ぶと自動的に突っ込む装置があるはずだ。

そのプロペラさえ破壊出来ればV-1は街を通り越すか墜落するはすだ。

 

作戦を決めて飛行を続ける。

街が見えてきた。

 

「何機いるの・・・?!」

 

見える限りでもV-1は20発以上。

街からは曳光弾が花火のように打ち上がっていた。

街の外壁にある対空砲が必死にミサイルを機関砲で撃っていた。

 

「こっちはどうする!?」

 

「もしかしたら発射母機がいる可能性もあるから撃たない!」

 

「了解!」

 

音速を突破した機体はV-1の何機かとすれ違う。

後ろを見ると衝撃波でV-1がひっくり返ったり破損したりして最低でも3機はあさっての方向に飛んでいったり墜落していた。

ただ、それは私が通り過ぎた時至近距離にいたV-1で他のV-1は無事だった。

 

「どこから飛んできてる・・・」

 

レーダーで捜索しているとここから120kmほどの場所からレーダー上に表示され始めていた。

 

「見つけた!!」

 

マヤは大きな声でそういう。

 

「発射機を潰すよ!」

 

リリアが来るまであと40分。

それまでに潰せるだけ潰すしかない。

 

「ストロベリー、こちらエンジェル0-1、発射地点を特定!これから発射機を破壊する!」

 

《了解!こっちはもうそろそろ限界だ!持ってあと1時間だ!》

 

「・・・1時間もかけないよ」

 

音速なら10分以内に発射地点に到着できる。

 

「マヤ、急減速して降下、機銃掃射するから掴まってて」

 

「了解!任せるよ!」

 

音速で飛行を続けたため目標にすぐに到達した。

減速し降下を始める。

 

「罪もない人を狙うクソ野郎め・・・!」

 

減速しながら降下をする。

その時私は自分の目を疑った。

巨大な化け物がV-1を投げていた。

その近くにはV-1を召喚する魔法使いのような姿が。

 

「まさか・・・」

 

魔王軍・・・?

そう思いつつも機関砲のトリガーを引いた。

 

「ガンズガンズガンズ!」

20mm榴弾が地面に降り注ぐ。

地面に召喚し置いていたV-1が誘爆し魔法使い事化け物は吹き飛んだ。

 

「GoodHit!ナイスだよハル!」

 

「よし・・・これで・・・」

 

新しく発射されるV-1は無くなったはずだ。

だがまだ空中発射するための母機が居るかもしれない。

 

「マヤ、レーダーは?」

 

「残りのV-1しか・・・っと、ちょっと待ってね」

 

何かを見つけたマヤはレーダーを操作していた。

街に向かうV-1は残り7機。

街の防空火器のみで何とかなるだろう。

そう思っていた時だった。

 

「ハル!街の東、20kmの位置から新たに出現!」

 

「20km!?」

 

「あ、まった・・・なにこれ・・・」

 

「どうしたの?」

 

私は街の方に旋回しミサイルを探す。

その時マヤはまた大きな声をあげた。

 

「ミサイルが1度レーダーから消えて20kmの位置で再補足・・・アイツら転移魔法を使ってるよ!」

 

「転移魔法!?」

 

「あっちは囮か・・・!」

 

「マヤ、発射地点をリリアにデータリンクできる?」

 

「任せて!」

 

「私たちは発射されたV-1を落とすよ!」

 

「待った!V-1より転移魔法を使うために転移先を観測してるやつをやっつけたほうが良いかも!」

 

「そんな事できる?」

 

「大丈夫、高度25000に何か飛んでるよ」

 

転移魔法は転移させたい先の地形等が正確に分からないと使えない魔法だ。

転移先の情報さえ分かればどんな物でも転移させる事ができる。

ただし、転移させる前の速度のまま転移先に送られるため、航空機等は1度離陸してあとに魔法をかける必要があった。

難しい魔法な上に転移先の情報を観測する手段が必要だが、航空機や通信手段が発達した現代なら現地に観測機や観測員が居ればどんな物でも送ることが出来る。

逆に観測手段を奪ってしまえば転移魔法は使用不可能になる。

それを狙う。

 

「マヤ、相手は航空機だと思う?」

 

「思わないかな。速度20で飛行してるし。ヘリはあの高度まで上がれないよ」

 

「という事は魔王軍の翼竜か・・・」

 

「魔王軍って決まったわけじゃないけど・・・たぶん翼竜だと思う」

 

「それならフェニックスの最大射程から撃っても大丈夫だね」

 

「RWR搭載した翼竜じゃなければね!」

 

「そんなハイスペックドラゴンいるかな・・・」

 

とはいえ相手は生き物。

下手な航空機より機動力は高い。

なるべく気づかれない距離から撃ちたいが・・・。

まさかミサイルへの対策を何もしてないとは考えにくい。

1発撃って様子を見よう。

 

「マヤ、最大射程で1発撃つよ」

 

「了解!ロックしたよ!」

 

「了解・・・20秒後に発射するから」

 

「発射権はパイロット側?」

 

「うん。私がやる」

 

「了解!何時でも撃てるよ!」

 

そう話しているうちに射程に入った。

 

「行くよ、FOX3」

 

発射してレーダーを見る。

今のところ動きは無いように見える。

 

「思いこみすぎかな・・・」

 

そう思った矢先にレーダーからミサイルが消失した。

マッハ3を超えて飛んでくるミサイルを迎撃したようだ。

 

「嘘でしょ!?」

 

「迎撃は予想外・・・」

 

「ど、どうする!?」

 

「こうなったらさっきと同じことする」

 

「まさかまたやるの!?」

 

「ついでに機銃掃射もしてやるよ」

 

私は音速で通り過ぎるついでに機銃掃射をしてやることにした。

相手が生き物ならいつかのテキサスのように落とせるかも知れない。

やる価値はある。

 

「しっかりレーダー見といてよ」

 

「わ、分かってるよ!」

 

私は加速して目標に向かう。

ここから50kmほど。

ほとんど直ぐに到達する。

私はロックオンしたマーカーを目印に飛行する。

 

「さて・・・何がいるかな・・・」

 

遠くに何か羽ばたいているように見える。

間違いない、大型の翼竜だ。

しかも恐らく魔王軍が生み出した新しいタイプの翼竜だろう。

 

「衝撃波と弾丸のお届け物だよ」

 

私はトリガーを引き、翼竜に弾丸を浴びせる。

すれ違う時に翼竜を見ると背中に通信機のようなものを背負った人のようなものが居た。

そいつはまさか航空機がこの速度で突っ込んでくると思ってなかったようで驚いた顔のままこちらを見ていた。

そして、衝撃波をモロに食らった敵の通信手はそのまま翼竜から転げ落ち地面に落下していった。

翼竜は20mm程度では効果が薄かったようだがそれでも数十発が一気に着弾した上にソニックブームを受けてバランスを崩し1時は落下したもののそのまま逃げていった。

 

「よし、上空クリア!」

 

そのあとレーダーには新たに転移魔法で送られてきたV-1は写っていなかった。

代わりに観測員を失ったためか地面からの発射に切り替えたようだ。

これで相手の位置がほぼ正確に分かる。

 

《ハル、もうちょいよ!》

 

「了解。データリンクは届いてる?」

 

《確認済、石器時代に戻してやるわ》

 

遠くからリリアのトムキャットが見える。

 

「それにしても、予定より早いんじゃない?」

 

《飛ばしてきたのよ!戦闘機だけに!》

 

《リリアさん・・・寒いです》

 

「これは有罪」

 

《ちょっと!!!ねぇ、マヤなら分かってくれるわよね!?》

 

「・・・リリア」

 

《な、何よ・・・?》

 

「有罪」

 

《うわぁぁぁぁん!!!》

 

満場一致でリリアの寒いジョークに有罪判決を渡した所で交差する。

私たちは残りのV-1を迎撃する。

 

「そっち任せたよ」

 

《任せてください!リリアさんはちょっと精神病んで喋れなくなってるので私が代わりに通信します!》

 

《喋れるわよ!》

 

そういうリリアは涙声だった。

 

「さてと・・・これ以上飛んでこないといいけど・・・」

 

「どうする?街の方は迎撃出来てるみたいだから新しい観測機が居ないか警戒する?」

 

「それもあり。街に連絡してみる」

 

飛来してくるV-1の数が減り花火のように打ち上がっていた曳光弾も少なくなってきた。

街にも余力が出てきたかもしれない。

 

「ストロベリー、こちらエンジェル0-1」

 

《エンジェル0-1、こちらストロベリー!》

 

「転移魔法観測機が居るかもしれないからそっちの警戒に回りたいけど、大丈夫?」

 

《こっちは何とかなる!あ、ちょっと待ってくれ・・・》

 

「どうしたの?」

 

《迎撃したV-1は街に落ちた!》

 

「え!?」

 

逆にここまで街に墜落したV-1が居ないのも奇跡ではあるが・・・。

だが、この後聞こえた無線は火災が起きただけだろうと思っていた私たちの想像を超えていた。

 

《何・・・もう一度・・・》

 

「ストロベリー、被害は?」

 

《墜落したV-1から何かの魔道具のような物が散らばった!》

 

「魔道具・・・?」

 

なぜそんな物が弾頭に・・・。

 

《自警団から報告が・・・あの魔道具にはアンデット化の呪いがかかっていたようだ!ちくしょう!!着弾地点の住人がアンデット化した!!》

 

「!?」

 

「なにそれ・・・!?」

 

私は急いで高度を下げて街の上をゆっくり通過する。

着弾は街にあった建物のようだ。

破片が見えた。

だが、今言われた通り下には明らかに人とは思えない動きをする何かが無数にいた。

アンデット化させる魔法やその道具を持つ事は人道に反する罪として禁忌とされていた。

それこそ、人間至上主義者の連中ですら使わない魔法だ。

 

「マヤ、この通信記録は残しといて」

 

「録音はレコーダーに入ってると思うけど・・・でも・・・」

 

「・・・これ以上やらせない・・・!!」

 

V-1の大半が空中で爆散しているが街以外にも墜落している。

恐らく飛散した魔道具はずっと効果を維持できるとも思えないが・・・それでも数日は付近が汚染されてしまう。

 

「マヤ、観測機は後回し。なるべく遠くで落とすよ」

 

「分かった!」

 

「こうなったら武器を使わないなんて言ってられない・・・」

 

私はバルカン砲で狙い撃つ事にする。

攻撃準備をしているとリリアから目標に近づいたと報告が入った。

 

《エンジェル0-2、投下まで30秒》

 

《ターゲットにレーザー照射します》

 

《了解、ハル》

 

向こうの攻撃終了後はこっちの手伝いに回ってもらおう。

私はすれ違いざまに何機かのV-1を撃墜する。

 

《エンジェル0-2、ペイブウェイ》

 

爆弾投下のコールが入る。

発射機さえ潰せばそれ以上は来ないはず・・・。

こっちのV-1はあと15機・・・。

 

「マヤ、撃墜数記録してる?」

 

「やってるよ!ていうかミサイルって入るの?!」

 

「巡航ミサイルは撃墜数に入るよ。もう20は落としてる」

 

「またランク上がっちゃうね!」

 

「今は素直に喜べないけど」

 

街の様子が気になって仕方ない。

街から聞こえてくる無線は守っていたはずの住人が牙を向いて襲いかかってくる事に対しての悲鳴や怒号など地獄絵図だった。

アンデット化の呪いは解くこと自体は出来るのだが、1度アンデット化されられてしまうと脳に深刻なダメージを受け、運が良ければ記憶障害程度で住むのだが重篤な後遺症の場合、突然自分が何をしているのか理解出来なくなり人や動物を襲ったりする。

そうなったら最後、もう殺すしか手段が無くなってしまう。

 

「・・・ねぇハル」

 

「何?」

 

「今話すことじゃないかもなんだけど・・・いい?」

 

「うん、いいよ」

 

「私がもし突然アンデット化したら迷わず撃ってね」

 

「・・・それは私もだよ」

 

「・・・うん、分かった」

 

そんな事・・・ないと信じているが。

 

「フラグじみてるからやめやめ!」

 

「言い出したのそっちでしょ」

 

私は話しながらもV-1を撃墜していく。

その時ストロベリーからアンデットを鎮圧したと報告が来た。

 

《アンデット化した住人を何とか鎮圧した・・・こちらの死傷者は13名、アンデット化した住人の3名が死亡、残り30名は捕獲した》

 

「0-1了解。この後は?」

 

《ラズベリーの教会で何とかしてもらう。そこまでの護衛をお願いしたい》

 

「了解。ヘリはあるの?」

 

《輸送会社のCH-46を2機借用できた。被害者ともしもと時の為に武装した自警団員を搭乗させる。2時間後には離陸予定》

 

「了解、こちらの燃料はギリギリ持つはず」

 

《了解、そちらの燃料を優先してもらって構わない。・・・協力に感謝する》

 

「いえいえ。仕事だから」

 

「だから、報酬は弾んでね!」

 

《払える限り払わせてもらうよ。君たちは街の英雄だ》

 

「最後まで油断しないで。まだV-1は飛んでるよ」

 

《分かってる。だが、先に感謝の言葉を述べておく》

 

そう話しているうちにリリアから破壊の報告が入った。

 

《0-2、BDA100%。動いてるものは何もなしよ。誘爆して派手に吹っ飛んだわ》

 

《ざまーみやがれです!》

 

「了解、リリア合流して残りのV-1を落とすよ」

 

《了解!あ、そうだ。ミオなんだけど・・・》

 

リリアはミオの機体に起きた事を教えてくれた。

どうやら点検の結果、単にセンサーが誤作動して警告灯を点灯させたらしい。

念の為、油圧系統を今調べているので離陸まであと最低でも3時間は必要だそうだった。

 

「了解、2機でやるよ」

 

《遅れた分撃墜数稼がないとですね!リリアさん!》

 

《そうね、ハルに負けてられないわ》

 

「今日は勝負とか無しだよ。下の無線聞いてたでしょ」

 

《分かってる。もしするならこいつらの本拠地爆撃した時のスコアね》

 

「それ私が勝てない」

 

《いいじゃない、ハルだって苦手を克服するべきよ?》

 

「まぁそうだけど・・・」

 

2機で残りのV-1を次々と撃墜していく。

残りはもうあと数機だ。

コイツらを落としてしまえばとりあえず新しいミサイルは居なくなる。

・・・ここからが長い仕事だ。



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依頼完了

「ふぁぁ・・・」

 

「マヤ、大丈夫?」

 

「なんとかね・・・」

 

V-1襲来から8時間。

そこからは何も来ず街上空を行ったり来たりしている。

 

《あ・・・こちら0-2、フュエルビンゴ。一旦ラズベリーに向かうわ》

 

《0-3、入れ違いで0-1と合流します》

 

「了解。こっちもあと30分でビンゴ」

《0-3、了解》

 

依頼完了まであと6時間とちょっと。

あたりは真っ暗で飛行の疲れもあり私も眠くなってくる。

 

「マヤ、起きてる?」

 

「・・・・」

 

「マヤ?」

 

「ふがっ!?ご、ごめん!寝てた・・・」

 

「大丈夫だよ。レーダーの範囲を150kmくらいに切り替えて」

 

「どうするの?」

 

「パイロット側で監視する。ちょっと寝てて」

 

「え・・・でも・・・」

 

「大丈夫。戦闘になったら起こすから。それまで寝て体力回復させて」

 

「・・・ごめん」

 

「謝らない。マヤも頑張ってるから」

 

「うぅ〜・・・ハルのママ味がすごいよ〜・・・」

 

「冗談言ってないで休める時に休む」

 

「ありがとう、じゃあちょっとだけ寝るね・・・」

 

「うん。おやすみ」

 

インカムからはマヤの規則正しい寝息が直ぐに聞こえだした。

 

「ふぁ・・・私も眠い・・・」

 

眠気覚ましのガムを噛んではいるがそれでも真っ暗な空を見ていると急にガクッと眠気がくる。

 

「いっそ何か来てくれればいいんだけど・・・」

 

来たらきたで困るが・・・。

そう思った時RWRが電子音を鳴らす。

一瞬ビクッとなって表示を見ると30と言う表記が。

ミオのSu-30だ。

 

《レーダーでハルさんを確認しました。もうすぐ合流します》

 

「了解。でも突然RWR鳴ったからびっくりした」

 

《ふふ、目が覚めましたか?》

 

「今夜は寝なくて済みそうだよ」

 

遠くにミオの機体が見えたその時、燃料警告が出た。

念の為ラズベリーからストロベリーまで往復できるくらいの燃料で設定はしてあるがそろそろ給油しないとまずい。

 

「ミオ、燃料ビンゴ。」

 

《了解です。交代ですね》

 

「リリアがすぐに来ると思うから」

 

《了解です。ラズベリーは少し雲が出てき始めたので気をつけてください》

 

「了解」

 

交代に来たミオとすれ違い、ラズベリーに急いだ。

今日は月明かりすら無いくらい曇っている。

ラズベリーに降りるにはストロボが頼りだ。

 

「マヤは・・・起こさなくていいか」

 

着陸だけなら大したことない。

このまま寝かせておこう。

 

「なんだってこんな山の中に街を作るんだろ・・・」

 

ラズベリーが出来たのはつい10年前くらいのことだ。

険しい山の中に作ることで魔獣や山賊に襲われにくくする事が狙いだったらしいが・・・。

その代償として着陸の難しい飛行場が出来上がってしまった。

ILSを整備しようとしているらしいが、滑走路前の岩山が思ったより硬く、設置に手間取っているそうだった。

 

「はぁ・・・早く帰りたい」

 

そうボヤきながら飛行を続ける。

30分くらいでラズベリーに到着した。

 

「ラズベリー、こちらエンジェル0-1」

 

《0-1、こちらラズベリー。滑走路13への進入を許可。先程から雲が出てきているため視程が2000mほどです。13手前の岩山に注意してください。岩山の頂点は気圧高度計で5300ftです》

 

「0-1了解」

 

4回目となるこのやりとり。

着陸にも慣れてきた今が1番危ない。

 

「ほんとに見えないし・・・・」

 

夜間の上雲で視程も悪い。

せめてもの救いはストロボの光が確認できることだ。

 

《エンジェル0-1、滑走路13への着陸を許可》

 

「着陸許可。エンジェル0-1」

 

そこからはストロボに沿って飛び、何事もなく着陸した。

 

「ふぁ・・・降りたの・・・?」

 

「うん。燃料補給とトイレ済ませたらまた上がるよ。お腹は減ってない?」

 

「大丈夫ー・・・」

 

着陸の衝撃で目を覚ましたマヤだったがかなり寝ぼけている。

私は機体を駐機場に止めるともう一度マヤを起こした。

 

「ほら、1回降りるよ」

 

「うん〜・・・」

 

「まったくもう・・・」

 

フラフラするマヤを見ていると心配になるがなんとかタラップを降りてくれた。

 

「ふぁぁ・・・」

 

「ちょっと休憩していく?」

 

「ううん、私は大丈夫だけど・・・ハルは?」

 

「大丈夫」

 

「でも・・・」

 

マヤはずっと操縦している私を心配してくれているのだろう。

 

「分かった。すこし休んでから行くよ」

 

私たちは補給担当に給油と点検をお願いして近くのカフェに入る。

そこにはちょうど休憩を終えようとしていたリリア達がいた。

 

「あ!ご主人様!」

 

「お疲れ様。私たちは今から戻るわ」

 

「お疲れ。もういいの?」

 

「2時間はゆっくり出来たから。ハル達も休んで」

 

「了解。お言葉に甘えさせてもらうよ」

 

「ストロベリーの空は私たちにお任せ下さい!」

 

「頼もしいよ。ちょっとだけ休憩してくね」

 

そう言って別れて席に座る。

とりあえず2人で軽食を取る。

 

「ねぇハル・・・あの人たち大丈夫かな・・・」

 

「・・・」

 

マヤが気にかけているのはアンデッド化した住人のことだ。

2機のCH-46でこのラズベリーに輸送中、1機の檻が破損しアンデッドが機内に出てきた。

同乗していた警備員がやむを得ず発砲するも貫通した弾がエンジンを損傷させヘリはラズベリーの滑走路脇の芝生に不時着した。

この事故でアンデッド化した住人の5名、警備員1人、パイロット1人が死亡した。

残りのヘリは無事に着陸し教会に住人を運びこめたが、まだ呪いを解く儀式の最中でどうなるか分からない。

 

「たぶん大丈夫。ここの教会に任せて私たちは街を守ろ」

 

「そうだね!ふぁ・・・」

 

「ふぁぁ・・・マヤにつられた・・・」

 

「えへへ・・・あ!きたきた!」

 

私たちが注文したのはイチゴやブルーベリー、クランベリーなどのこの街特産のベリーがふんだんに使われたパンケーキだ。

ホイップクリームもこれでもかと言うくらい使われている。

深夜のカロリー摂取、背徳感があるが今回は食べないと動けないからと自分に言い聞かせて欲望に従った。

 

「んー・・・!おいしー!」

 

「おいしい・・・深夜にこれは罪深い」

 

「いいじゃんいいじゃん!」

 

「仕事だからね。仕方ない」

 

お腹が空いていたのと疲れもあり直ぐに完食した。

あと1時間30分ほど仮眠しよう。

 

「ちょっと寝る」

 

「ふぁ・・・私も・・・」

 

アラームを設定し目を閉じた。

座っているから寝づらいかと思ったが意識は直ぐに消えた。

 

 

 

「ん・・・」

 

「ふぁ・・・」

 

アラームで目が覚める。

窓から外を見ると朝日が登り始めていた。

 

「マヤ」

 

「んー・・・」

 

「起きて。行くよ」

 

「んー・・・そんな時間ー・・・?」

 

「そんな時間。あと3時間頑張ろ」

 

時計を見ると依頼完了まであと3時間とちょっとだ。

私たちは機体に急ぐ。

 

「街上空までは寝てていいよ」

 

「起きる!ハルにはさんざん寝かせてもらったから!」

 

「そか。じゃあ監視よろしくね」

 

「うん!」

 

朝焼けに照らされる空は快晴だった。

昨日の夜と打って変わって雲ひとつない。

代わりに風が強いが。

 

「じゃあ、行こっか」

 

若干強風でふらつきながらも離陸し街に向かう。

 

「こちらエンジェル0-1。みんなお待たせ」

 

《おかえりなさいご主人様!》

 

《おかえり。何も無かったわよ》

 

《こちらも何もなしでした!》

 

「了解。あと3時間だね」

 

《さすがに疲れたわ・・・》

 

「ラズベリーで宿取って休んでから帰ろ」

 

《賛成です!》

 

長かった依頼もこれで終わる・・・。

そう思った矢先だった。

 

「ん・・・?ハル、レーダーに何か・・・」

 

《こちらもレーダーでなにか捉えました。速度80・・・》

 

《ヘリ?》

 

「それにしては高度が高すぎる。10000だよ」

「こんな時に勘弁してよ・・・」

 

私はボヤきながらも警告する。

 

「ストロベリーに接近中の航空機、直ちに反転しコースを変えなさい。近づけば敵と判断して撃墜する」

 

「う、撃つの!?」

 

「民間機ならフェニックスの安全装置が働く」

 

「そ、そうだけど・・・」

 

私だって撃ちたくない。

通信機や航法装置の故障だって考えれる。

だが、応答も転進もせず、降下し始めた。

 

「何考えてんの・・・!?」

 

《0-2、ターゲットロック》

 

「撃つの待って!」

 

《でもあの降下角度だと街に突っ込むよ!》

 

《こちらストロベリー管制。進入中の航空機、進入は許可してない直ちに反転せよ》

 

「クソ・・・!こうなったらやるしかない・・・」

 

「嘘でしょ!?」

 

《ハル、私たちでやるわ》

 

「待ってよリリア!民間機かも・・・!!」

 

《今待って街の人が死ぬよりマシよ!マヤ!》

 

「リリア、撃って!」

 

「ハル!」

 

《了解、FOX3》

 

数十秒後、遠くに爆発閃光が見えた。

黒煙を上げて落ちていく何かも見える。

 

「ハル・・・ほんとに大丈夫なんだよね・・・」

 

「マヤの気持ちも分かる・・・けど、街を守るためには必要だったって分かって」

 

「うん・・・」

 

マヤは完全に識別できてない状態で撃ったことに納得がいっていないようだ。

当たり前だろう。

もしかしたら民間機だったかも・・・私だってそう思う。

でもミサイルの安全装置は働かなかった。

あのフェニックスの安全装置は機体と乗っている人が武装しているかどうかもスキャンできる装置が積んである。

それでも着弾したのだから敵だったのだろう。

 

《ストロベリー、こちらエンジェル0-2。撃墜した機体はAn-2と確認。残骸から人型魔獣の破片が見える》

 

《ストロベリー了解。クソ魔王軍め・・・》

 

魔王軍はどうしてそこまでしてストロベリーを狙うのか・・・。

ただ今回厄介なのは民間機に偽装した航空機を街に突入させようとした。

魔獣は召喚してしまえばいくらでも替えが効く。

倫理的にはアウトだが・・・。

《あの・・・なんで魔王軍はこの街を狙うんでしょう・・・》

 

「恐らくはちゃんとした飛行場を持ってなくて防空能力もほかの街と比べたら低いから・・・だと思う」

 

ストロベリーの防空設備は街の外壁に設置された対空機関砲のみだ。

地対空ミサイルは携行式しかない。

一応、領主邸を守るためにHAWKが2基配備されているがこれは領主邸を狙った攻撃しか使われない。

魔王軍としては今使える戦術でどこまでやれるか試した・・・という感じだろう。

今のところ明るいうちしか攻撃も出来なさそうだ。

 

「まぁでも、弱いものイジメしようとしたら返り討ちにあったっていう感じだけどね」

 

《あはは・・・でも向こうからしたら弱いものイジメしてるのはこっちですけどね・・・》

 

「それは言えてる」

 

なんて冗談を交わしていると街から無線が入った。

内容は魔王軍の件で王国軍が動き、ストロベリー上空に戦闘機が派遣される。

それに墜落したV-1やAn-2の回収にも来るそうだった。

そのため依頼は終了、帰ってもいいとのことだった。

 

「帰っていいっぽいし帰ろっか」

 

《そうね!報酬も振り込まれたみたいだし!》

 

「それじゃお疲れ様も兼ねてラズベリーでご飯にしない?」

 

《大賛成です!》

 

みんな声を合わせてそういった。

 

「決まりだね。じゃあ行こっか」

 

コースをラズベリーに合わせる。

終わったことで気が抜けて少し眠気に襲われているが今は頑張らなければ・・・。

 

《ハル、ちょっとふらついてるわよ》

 

《そういうリリアさんもですよ?》

 

《なっ、だ、だって結構難しいのよ!?トムキャット乗るの初めてだし!》

 

「本音言っちゃえば?私は眠い」

 

《うぐ・・・わ、私も眠いです・・・》

 

《ふぁ・・・私も眠いです・・・》

 

ここまで20時間近く飛んでいる。

休憩を除けば14時間くらいだが・・・。

とにかく降りて寝よう。

 

「んー・・・風が強い・・・」

 

「え、えと、ラズベリーには行きたいけど無理しないでね・・・?」

 

「大丈夫。なにもマヤのわがままで行ってるわけじゃないんだから」

 

「そ、そうだけど・・・」

 

空港が近づくにつれて風に煽られ始める。

もう下は山岳地帯だ。

山から吹き上げてくる風で機体が揺さぶられる。

 

「ちょ、ちょっと怖くなってきた・・・」

 

「大丈夫。ちゃんと降りれるから」

 

安心させるためにそうは言ったものの、さすがにゴーアラウンドするようなら着陸を諦めてテキサスに帰ろう。

 

「リリア、ミオ。もしゴーアラウンド必要になったら教えて。無理に再チャレンジするより安全に帰りたい」

 

《了解、再チャレンジ必要ならテキサスに直帰ね》

 

《了解です!燃料は十分ですからね》

 

「そうしよ。空港の天気は?」

 

《えーっとですね・・・あ、ご主人様。風速50ノットですって》

 

「えぇ・・・」

 

《風向どうなってます?》

 

《風向が・・・卓越180からですね》

 

《・・・ほぼ横風・・・》

 

《だって。トムキャットだとふらつくんじゃない?》

 

「ん・・・まぁ・・・」

 

この機体は通常の着陸でも少しふらつく癖がある。

ミオのフランカーなら電子制御で落ち着いて操縦出来るが・・・。

 

「トムキャットには電子制御で安定させれる改造もしてないしテキサスに直帰しよ」

 

《そのほうが安全よね》

 

「マヤはそれでいい?」

 

「おいしいスイーツも食べれたから大丈夫!お土産買えなかったのが残念だけど・・・」

 

「また来よ」

 

「うん!」

 

《じゃ決まりね。我が家に帰りましょ》

 

「了解」

 

管制塔には進入をやめコースを変えると連絡してテキサスに進路を合わせる。

ここから約1時間・・・。

天気はいいからのんびりと帰ろう。

 

《それにしても・・・爆弾が重いわね・・・》

 

《もう積みすぎですよ!》

 

《仕方ないじゃない!発射機出たら潰さなきゃいけないんだから!》

 

そういうリリアはGBU-31JDAMが2発、フェニックスが1発。

2000lb爆弾2発も積んでかなり重くなっている。

私のトムキャットもGBU-12が2発とフェニックスが2発積んでいるのでそこそこな重量だ。

それにリリアも私もサイドワインダー2発とAIM-120かAIM-7を1発積み、ターゲティングポッドも積んでいる。

 

「手頃に狩れそうな魔獣でも居ればいいけど・・・」

 

《魔獣に誘導爆弾ぶち込む気?》

 

「そのほうが機体も軽くなるしお金も稼げるでしょ」

 

《跡形も無くなりそうなんですけど・・・》

 

「TGPの映像は録画してるから大丈夫」

 

このご時世、討伐対象が塵も残らないなんて事象がかなりの頻度で生起する。

そのため目標を攻撃し討伐した映像を提出することで報酬を得ていた。

たまに魔獣狩りで生計を立てているハンターから突然強力な魔獣が出てきた時の対処で護衛を任されるのだが、大抵の戦闘機乗りの冒険者はペイブウェイやマーベリック、下手するとAC-130のようなガンシップを持ち出してくることがあり、ワンチャンでレア素材が欲しいハンターからはなるべく威力の低い武器で頼むと言われていた。

とは言っても元々戦車を吹き飛ばしたり敵の施設を破壊するための空対地兵装は魔獣相手では強力すぎるため、いくら威力を抑えてもバラバラに吹き飛んだりしていた。

《それにしても・・・辺りの村人からしたら大迷惑よね》

 

「なんで?」

 

《魔獣の素材ってものによったら高く売れるでしょ?それを跡形もなく吹き飛ばされるんだから》

「まぁね。でもそろそろ魔獣用の爆弾とかミサイルも出るでしょ?」

 

《そういえばあの人の会社で開発中みたいね》

 

「あの人じゃなくてダーリンでしょ?」

 

《はぁ!?マヤは何言ってんの!?》

 

「話する時楽しそうじゃん。名前なんだっけ?」

 

《お、教えない!!》

 

《リリアさん照れまくりですね!》

 

《うるさいわよ!》

 

《・・・これぞガールズトーク》

 

「どうせならオシャレなカフェでしたいけど・・・」

 

ごっつい戦闘機の上でしたら雰囲気台無しだ。

なんて途中からみんなの恋バナになり私の話になりかけた。

 

「だから私は何にもないから」

 

《うそ!絶対あるわよ!》

 

「ない。非モテ」

 

「どの顔が言うか!」

 

「それめっちゃ悪口言われてるみたいなんだけど・・・」

 

なんて話してた時だった。

 

《誰か!助けてくれ!!》

 

「ん?」

 

《助けてくれって聞こえたわね》

 

「一応、応答しとくか・・・こちらエンジェル0-1。爆装を施したF-14が2機、対空兵装満載のフランカーが1機で飛行中」

 

《よかった・・・こちらはテキサスのハンターパーティだ!今あんたらの機体の爆音が聞こえる!》

 

「それなら近くだね。どこ?」

 

《あぁ・・・えと、そこから大きな1本の木が見えるか?》

 

「1本の木・・・」

 

周りを見ると2時方向にポツンと生える木があった。

 

「確認」

 

《その近くの岩場の影に隠れてる!》

 

「岩場・・・木から100mくらいのところ?」

 

《そこだ!助けて欲しいんだ!》

 

必死な声が無線から聞こえた。

 

「了解。何に襲われてるの?」

 

《戦車の群れだ!》

 

「戦車の群れ!?」

 

《戦車乗りの山賊連中に会っちまった!!》

 

「・・・了解!」

 

《こっちは魔獣狩り用の装備しかない!助けてくれ!!》

 

「分かった。戦車はどこ?」

 

《森の中に隠れてる!最低でも3台だ!》

 

「了解、こちらの武装はGBU-31が2発、GBU-12が2発。機関砲は1機が徹甲弾を装填。支援可能時間は約1時間」

 

《了解!空のことはよく分からんが頼む!》

 

このハンターパーティは運が悪いとしか言えない。

魔獣狩りのハンターは銃や対戦車ロケット弾を装備している人もいるが基本的に対機甲戦闘をするような装備でない。

魔法使いも同行しているだろうが、ガンナーパーティに着きそう対空戦闘や対戦車戦闘用の攻撃魔法ではなく魔獣を捕獲したり動きを鈍くするような魔法を使う。

 

「リリア、JDAMでは移動目標は狙えない。先制攻撃で2台吹っ飛ばすよ」

 

《了解。とは言っても自由落下でもいいのよね?》

 

「まぁ・・・できるよ」

 

《だったら自由落下でやるわ》

 

「了解。じゃあまずは戦車を炙り出すよ」

 

《了解!》

 

《私たちはどうしますか?》

 

「ミオ達は爆弾が無くなった時に機銃掃射して。弾は徹甲弾だよね?」

 

《徹甲弾を装填してます》

 

「それなら天板をぶち抜けるはず。それでお願い」

 

《了解です!》

 

作戦も決まった。

まずは敵戦車の位置を見つけないと。

 

「ハンターパーティさん、そのまま隠れてて。」

 

《了解!こっちは1人負傷してる、足を撃たれて動けない!》

 

「了解。敵戦車の位置を何かで知らせれない?」

 

《ちょっと待ってくれ・・・メル、やれるか?》

 

《こ、怖いけど・・・やれるよ!》

 

無線からは女の子の声が聞こえた。

 

《うちの魔法使いが敵戦車に雷を落とす!》

「了解。一旦退避する」

 

森の中を注意深く探す。

ターゲティングポッドも熱源探知出来るように設定し隠れていそうなところを探した。

その時、森の中に雷が落ちる。

そしてすぐにその周囲の木が踏み倒されるように倒れた。

敵の戦車だ。

 

「ターゲット確認。マヤ、マークよろしく」

 

「了解!」

 

旋回しコースに乗る。

投下まで30秒だ。

 

「エンジェル0-1、投下まで30秒」

 

「サーマルで見えた!T-72!」

 

「了解」

 

私も画面で確認した。

恐らく上空の私たちに気づいてはいるだろうが、森の中なら見つからないと思っているようだ。

 

「停止したって・・・サーマルで見えてるんだけどね」

 

そう呟いてるうちに投下時間になった。

私はペイブウェイを投下する。

 

「エンジェル0-1、ペイブウェイ」

 

「着弾まで20秒!」

 

《了解!こっちは戦車相手には無力だ!頼む!》

 

「任せて。誰一人怪我させないから」

 

そう言った数秒後、森の中で爆発が起きる。

そして砲塔が空に舞い上がった。

 

「GoodHit!」

 

《こちら0-3、敵確認!ガンズガンズガンズ!!》

 

《いやっほー!!やったぞ!ナイスだ飛行機野郎!》

 

《の、乗ってるの女の子なんだから失礼だよっ!》

 

《なんだよ、細かいこと言うなって》

 

《だからトロはモテないの!》

 

《んなぁ!?》

 

「あ、あはは・・・痴話喧嘩は無線を切ってね・・・」

 

「私は賑やかで好きだけど」

 

敵戦車を2台吹き飛ばしたところで山賊は撤退していった。

周囲の安全は確保できた。

 

「こちらエンジェル0-1、敵影確認できず。地上からなにか見える?」

 

《こちらも何も見えない。ありがとう!命の恩人だよ!》

 

「良かった。じゃあ帰り道は気をつけて」

 

私たちは挨拶を兼ねてフレアを放出してテキサスに向けて旋回した。

 

「魔獣狩りの話しててまさかハンターに出会うなんてね・・・」

 

「助けれたから大勝利」

 

「まぁね!」

 

《それにしても、珍しいですよね》

 

《ハンターは少なくなってるから貴重・・・》

 

《オマケに基本空からぶっ飛ばすからね。希少な素材とか台無しよ》

 

「じゃあ今度みんなで魔獣狩り行く?」

 

《上からの援護があるならね!》

 

「ふっふっふ、リリア。ここにヘリパイが居るよ」

 

《アンタのアパッチでしょ。吹き飛ばす気?》

 

「失礼な!ブラックホークに20mm機関砲を乗せるだけですぅー!」

 

「それでも十分だと思うけど・・・」

 

街を守り、ハンターを助け、今日は大勝利だ。

あとはこのヘトヘトの体を早く休めたい。

そう思いながらテキサスの飛行場へと向かった。



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個人的な仕事

「ひーまー・・・」

 

「わたしも・・・」

 

「ハルがこういうのに同意なの珍しいんだけど・・・」

 

「仕方ないでしょ。実際暇なんだから」

 

ある日の朝。

今日はトムキャットが定期整備に入り、明日までは飛ばす事が出来ない。

そのため今日と明日は完全にお休みだ。

 

「なんにもしないのも腐りそう・・・」

 

「ヘリでも乗ってどこかいく?」

 

「んー・・・」

 

マヤの提案もいいなと思っていた時、エルが私たちのいるリビングに来た。

・・・明らかに今から戦闘に行くような装備で。

 

「・・・どしたの?」

 

「仕事。個人的な」

 

「手伝うよ?」

 

「大丈夫。私がやりたいから」

 

そういうエルの目は何かに怒っているような目だった。

 

「仕事内容聞いてもいい?」

 

「・・・ある人物の排除」

 

「!?」

 

「大丈夫。相手はあのカルト教団だから・・・私の父さんと母さんを殺した奴・・・」

 

「エル・・・」

 

「ハル達に迷惑はかけれない。けど、トマホークを借りていっていい?」

 

「いいけど・・・」

 

私はエルを本当に1人で行かせていいのか不安になった。

まるで復讐さえ出来れば自分はどうなってもいいような目をしていたから。

 

「あ、それと迎えはお願いしたいかな。マヤのアパッチで」

 

「あれは2人乗りだよ?」

 

「乗ろうと思ったらスタブウイングにも乗れるでしょ。それよりも近接支援が必要になったら助けて欲しいし」

 

「まぁそうだけど・・・あ、そうだ!おじさんに言って乗れるようにしてもらうよ!」

 

「ありがと。とりあえず行ってくるね」

 

「行ってらっしゃい・・・気をつけて」

 

「うん。行ってきます」

 

そう言ってエルは家を出ていった。

その後をトマホークが走って追いかけていった。

 

 

 

〜エル〜

 

無理言って乗せてもらった輸送ヘリに揺られること1時間。

目的の山の前に到着した。

ここは私の村からほんの10kmほどの所だった。

パイロットにお礼のお金を握らせてヘリから降りた。

 

「ふう・・・」

 

私は地図を開く。

私の家族を殺したやつのいる場所はここから5kmだ。

 

「楽しい登山だよ。トマホーク」

 

『ワイにとっちゃ楽しくないんだがな・・・』

 

「いいでしょ。アンタを頼りにしてるんだから」

 

『報酬はきっちり用意しとけよ』

 

「ハルとお風呂に入らせてあげる」

 

『っしゃあ!!ご主人とお風呂入れるならなんだってするぜ!!』

 

「エロ犬め・・・」

 

私は山に向かって歩き始めた。

装備は動きやすさを重視してタンカラーのTV-110プレートキャリアに黒色のコンバットシャツ、OD色のニーパッド入りのコンバットパンツ。

銃は愛銃のKar98kに自衛用のMP7A2、SIG P226だ。

Karはカスタムを施し、サプレッサーとボルトに干渉しないようにレールマウントを装備して7倍から20倍まで切り替えれるスコープ、オフセットマウントにRMRを装備、MP7にはEXPS-3ホロサイト、サプレッサー、ライト、RVGフォアグリップを装備してきた。

KarとMP7には徹甲弾、226にはホローポイント弾を装填してきた。

 

『ところでお嬢、ワイが着いてきたのはいいが何すればいいんだ?』

 

「あんたはスポッター。前に教えたでしょ」

 

『犬の仕事じゃないんだがな・・・』

 

「異世界では犬がスポッターやってるところだってあるんだよ」

 

『ワイの生まれが異世界じゃなくて良かったよ・・・』

 

「あんたの祖先は異世界産だけどね」

 

『それ言い出したらお嬢だってその異世界産の犬が獣人化したやつだろ』

 

「言えてる。じゃあ異世界コンビってことで」

 

なんて話しながら山を登った。

事前に偵察を依頼し得た情報によると目標は集落になっている。

ただしそこにいる全員が人間至上主義の連中だ。

中には子供もいるが・・・。

 

「・・・邪魔をするなら容赦しない」

 

『お嬢、気持ちは分かるがターゲット以外を撃つのはただの殺戮だぞ』

 

「分かってる。さすがに無抵抗の女子供を撃つほど悪魔じゃないよ」

 

『それならいいんだがな・・・』

 

「まぁ、司祭みたいな教えを説こうとする奴は容赦しないけど」

 

私はそう言いながらKarのチャンバーをチェックした。

いつでも撃てる。

狙撃に適した位置はここからもうすぐだ。

トラップがないか慎重に探さなければ・・・。

 

「トマホーク、しっかり鼻を効かせてね」

 

『分かってる。お嬢だって鼻効くだろ』

 

「まぁね。1人より2人だよ」

 

山を登り始めて既に3時間。

トラップを警戒しながら進む前に休憩をすることにした。

 

「ふう・・・トマホーク、お水」

 

『いやっほー!!新鮮な水だー!』

 

「わたしも水分補給・・・」

 

靴紐を解き、プレートキャリアを脱いだ。

装備を外すのはあまり良くないが、蒸れて仕方ない。

 

「結構汗かいちゃったな・・・」

 

『いい匂いだぜ』

 

「嗅ぐな」

 

『なんだよ、匂いを嗅ぐのは犬の本能だぜ?お嬢は汗の香りもするがやっぱり普段使ってる石鹸の甘い香りだな』

 

「分析しないで・・・恥ずかしいから・・・」

 

『それにしてもご主人の所はいいよな』

 

「なんで?」

 

『あそこにいるのは揃いも揃ってみんな美人』

 

「はぁ・・・」

 

『それにマヤお嬢は一緒に風呂に入ってくれるんだぜ?最高だ!』

 

「あんたが好みなのはハルでしょ」

 

『それはそうなんだが・・・なんか最近ガードが固くてな』

 

「当たり前でしょ・・・」

 

『うぉぉぉ!!ワイはご主人と風呂に入ってイチャイチャしたいんじゃぁぁ!!』

 

「欲望が出てるよ欲望が」

 

『だってよお嬢!あんな可愛い娘にシャンプーされる気持ちが分かるか!?この世にそんないい事があるのかってレベルだぜ?!』

 

「あんたは何を熱弁してるの・・・」

 

『なぁ・・・だからよぉ・・・帰ったらご主人と風呂に入れるように頼むよぉ・・・』

 

「それはあんたの働き次第。そろそろ行くよ」

 

『あいよ。喉も潤ったしな』

 

私たちは再び歩き出す。

警戒しながら進むこと30分。

目的の集落が確認できる岩場に来た。

ここまで何もトラップが無かったのが拍子抜けだった。

 

「ここからは姿勢を低く・・・」

 

岩場の近くの茂みに隠れる。

そこからスポッター用の望遠鏡を覗かせてトマホークを配置に付かせる。

私もライフルを構えた。

 

「・・・何かいる?」

 

『お嬢から見て左、人の集団が見えるか?』

 

「確認」

 

『そこの近くの壇上に司祭っぽいのがいる。見た感じお説法中だな』

 

「だね。撃つ前にカウンタースナイパーが居ないか探すよ」

 

『了解』

 

私はゆっくりと辺りを探す。

すると集落の中にある教会のような建物の1番高いところ・・・鐘のある場所に何かが居た。

 

「おっと・・・そこに居た」

 

『確認、教会に1人。武器は・・・』

 

「恐らくM700。教団も銃を使うようになったか・・・」

 

『教会前にはAKS74Uを持った人員』

 

「確認、警備員だね」

 

『他には・・・居ないな』

 

「恐らく最低限の警備なんでしょ。もしくは家に武器が置いてあって何かあると全員戦闘員になるとか」

 

『ありえるな。んで、どうするお嬢』

 

「先にカウンタースナイパーを片付ける」

 

『了解』

 

「徹甲弾だと貫通して音が出ちゃうから・・・」

 

私は念の為に持ってきておいたソフトターゲット用の弾を取り出し、薬室に入っていた徹甲弾と入れ替える。

この弾は弾頭の先端にプラスチックのカバーをつけて普通の弾丸のように尖らせてはいるが人体に命中するとカバーが外れその下にあるホローポイント弾のような弾が変形しながら筋組織や内蔵を破壊する。

貫通はほぼしないだろう。

 

「ヘッドで行くよ」

 

『任せる』

 

「すぅー・・・」

 

私は呼吸を整える。

そして静かに引き金に指を添えた。

 

「・・・・おやすみ」

 

引き金を引く。

サプレッサーで減音されたとは言え音が山に響いた。

だがここからターゲットまでの距離は約500m。

聞こえてはいないだろう。

 

『GoodHit。ターゲットダウン』

 

「次、目標は説法してる司祭」

 

『どこ狙う?』

 

「次の弾は徹甲弾、心臓ぶち抜いて頭抜いてやる」

 

『いいねぇ、スナイパーっぽいぞ』

 

「スポッターよろしく」

 

『まかせな』

 

私はゆっくりと照準を合わせる。

司祭は手を大きく広げて喋っていた。

 

「ずいぶんと気持ちよさそうに話してる」

 

『自分の考え広めるのが好きなんだろうな』

 

「だろうね。でも、私がもっと気持ちよくしてあげる」

 

私はそう言って引き金を引いた。

 

『ハートショット、Hit。ターゲットは崩れ落ちた』

 

「次、ヘッドショット」

 

『狙え』

 

「・・・」

 

司祭は弾丸が入っていった右の肺の当たりを抑えて不思議そうな顔をしていた。

まだ何が起きたのか頭が追いついていないようだ。

 

『撃て』

 

私は再び引き金を引く。

 

『ヘッドショット、Hit。標的ダウン』

 

司祭は崩れ落ちた。

それをみた信者たちは悲鳴をあげて走り出す。

 

『新たなターゲット、そこから右に20』

 

「確認。警備兵?」

 

『そいつだ』

 

「了解」

 

小さな銃声が山に響く。

弾丸は恐らく雇われ山賊の警備兵が着ていたボディーアーマーを貫く。

心臓を撃たれた山賊はそのまま倒れた。

 

「片付いた」

 

『確認。Good Kill』

 

新しい標的を探そうと照準を左にずらして行った時だった。

 

『RPG!2時方向、450m!』

 

トマホークが吠えた。

私は言われた通りの方向を見るとこちらにRPG-7を向けている教団信者が居た。

恐らく盲撃ちだろうが・・・。

 

「警告ありがと」

 

私はそうトマホークに言うと引き金を引いた。

弾丸は同時に発射されたRPG7の弾体を撃ち抜いた。

 

『わーお・・・ナイスショット』

 

発射され安全装置の外れた弾頭に弾丸が直撃したせいで弾体は爆発を起こし射手に破片の1部が襲いかかった。

死にはしなかったものの顔に破片をくらい顔を抑えてしゃがみ込んだ。

私はそこを逃さない・・・が弾切れなので素早くクリップで弾丸を弾倉に押し込んだ。

そして再び照準を合わせる。

 

「・・・死にたくないなら逃げるべきだったのにね」

 

私は引き金を引く。

弾丸は射手の頭を撃ち抜いた。

 

『クリア』

 

「他は?」

 

『今のところ無し』

 

「さて・・・ちょっと移動して様子見ようかな」

 

『着いてくぜ、お嬢』

 

ほふく移動でゆっくりと茂みの後ろに移動し、山を下る。

集落からは人の怒鳴り声や悲鳴が続いていた。

 

『お嬢、ここからなら見えるぜ』

 

「いいね。1度監視しようか」

 

私は再びライフルを構えた。

スコープの先には建物の影から様子を探るおとこの姿があった。

それにしてもこの教団の信者達はなんて皆揃いも揃って赤黒いローブを着ているのか・・・。

まぁでも、そんなことはどうでもいい。

スコープの先にいるターゲットはマスケット銃のような物を持っていた。

絶対にこっちに届きはしないが・・・。

 

「武器を持ってると・・・脅威って見なされても文句言えないよ」

 

私は頭に照準を合わせて引き金を引いた。

弾丸は男の頭を撃ち抜き男は崩れ落ちた。

 

『GoodKill』

 

「・・・・・」

 

私はスコープの先を見て少し固まる。

さっき射殺した男に1人の女性信者が駆け寄っていた。

男の服を掴み泣いていた。

 

『・・・武器を取ったら撃て』

 

「分かってる」

 

私は恋人か友人・・・もしくは夫の死に悲しむ女性の頭に照準を合わせていた。

 

「・・・お願いだから銃に触れないで」

 

私は祈るように呟く。

だが祈りも虚しく、女性は銃を拾った。

そして恐ろしい形相で山の方を見ていた。

私はスコープ越しに目が合うのと同時に引き金を引く。

 

『・・・ターゲットダウン』

 

「・・・」

 

胸糞悪い。

自分のした事は自分の身を守るための行為・・・と思いたい。

だが、私があの女性の家族を目の前で奪ったのも事実だ。

特にスコープ越しにそれを全て確認出来てしまうのは精神的にも来るものがある。

 

「はぁ・・・」

 

私はため息をついて新しい目標を探した。

教団信者は私が恐らく山にいてそこから撃って来てるというのは分かっているっぽいが、何処から狙っているのかまでは分かっていないようだ。

肝心のカウンタースナイパーも倒され、信者達は家などに閉じこもり始めた。

 

『お嬢、奴ら家に隠れ始めた。どうする』

 

「想定内。降りて戦うまでだよ」

 

『それじゃ、ひと狩り行くとするか』

 

「弾には当たらないでよ。さすがにハルが悲しむ」

 

『それはお嬢もな』

 

私はライフルに弾を込め直し、山を下る。

 

「ここまで順調に進みすぎてる気もする・・・」

 

『何か悪い予感でも?』

 

「なんとなく」

 

そう言った次の瞬間、弾丸が耳元を掠めた。

 

「っ!!」

 

『マジかよ!!』

 

私たちは急いで伏せた。

 

『どこだ!?』

 

「集落なのは間違いない・・・」

 

弾丸が掠めた約2秒後に銃声が聞こえた。

恐らく距離は700m程度なはず・・・。

 

「ここを狙えるような場所ってなると・・・」

 

私はゆっくり伏せて草の隙間から銃を覗かせた。

私は教会のカウンタースナイパーがいた場所を見る。

すると突っ立ったままライフルを構えているやつが居た。

・・・予想だが、ライフルを拾ってスコープを覗いたらそれっぽいのが居たから撃ったって感じみたいだ。

それが偶然私の耳元に飛んできた。

 

「・・・偶然で死にかけたけど・・・」

 

『死ぬのはお前だってな』

 

「そこまで言ってない」

 

私は引き金を引く。

弾丸は信者の眉間を撃ち抜いた。

崩れ落ちた信者はライフルを握ったまま塀から垂れたような格好になっていた。

 

「もう一度使われると困る」

 

私はM700の機関部を狙い狙撃した。

弾丸は機関部を撃ち抜き破損した弾倉部からキラキラ光る弾薬がこぼれ落ちた。

 

「全く……いい加減こんな事やめればいいのに」

 

『こんなことって?』

 

「人以外を敵とか言うの。こういう目に会うって分かってるはずなのに」

 

『まぁな。でも世界中にこいつらの支部があって国によったら国ぐるみで獣人やエルフを迫害してる国だってあるんだぜ』

 

「……人ってほんと……」

 

ため息をつきながら集落に到着した。

ここからはMP7を使っていく。

私はライフルを背負った。

 

「さて・・・」

 

『どうするんだ?』

 

「一軒一軒全部見てやる」

 

『マジかよ……』

 

私はまず手始めに目の前の家のドアを蹴破った。

 

「う、撃たないで・・・」

 

「死にたくなかったらあんたらの長の居場所を吐け」

 

「……」

 

「……そう、死にたいんだね」

 

私は震える中年の女性に銃を向けた。

その時家の奥から夫らしき人物が包丁を持って歩いてくる。

私はそっちに銃を向けた瞬間だった。

 

「今だよやっちまいな!!」

 

女は私の足を掴んだ。

私はバランスを崩す。

 

「うおぉぉぉ!!!」

 

そこに男は包丁を構えて突進してくる。

私は素早く男に照準を合わせて引き金を引く。

徹甲弾が心臓を撃ち抜いた。

 

「邪魔」

 

私はそのまま足を掴む女の頭を撃つ。

 

『素直に言えばいいものを……』

 

「考えを改めるべきかな。命乞いをしても容赦しないって」

 

『そりゃ危ない冒険者の思考だからやめとけ』

 

1部の冒険者はこういった国として敵と認めている組織に対しては何やってもいいと勘違いし負傷させて命乞いをする姿をひとしきり楽しんだあと殺すという行為が横行していた。

国王様もさすがに頭を悩ませているらしい。

 

「次の家」

 

そこからはもう作業だった。

3軒ほど見たがドアを破れば必ず中で待ち伏せをしていた。

こっちとしても撃たない訳にはいかないので撃つ……。

 

「はぁ……やってらんない……」

 

『そのでっかい家でラストだな』

 

「いかにもなんだけど……」

 

『見つけたらどうするんだ』

 

「殺す。なんと言おうとね。父さんと母さんを殺したやつを生かしてはおけない」

 

私は大きな家のドアを蹴破った。

中は綺麗な内装だった。

そして私が来ると分かっていたのか忘れもしない、私の村を襲撃に来た奴が出迎えるかのように待っていた。

 

「よく来たな。殺戮は楽しかったか?」

 

「楽しかったよ、クソどもを掃除できてスッキリ」

 

私は銃を向けたままそう言った。

 

「それにしても、やはり人外は人の敵だな。無抵抗な人間を何人殺した?」

 

「そのままそっくりそのセリフを返すよ。無抵抗なエルフや獣人を殺すクソ野郎が」

 

「まぁ……無抵抗な獣人やエルフ達を殺したのは認めるよ。だが、教祖様からの教えでな」

 

「死に損ないのクソ教祖の教えなんて聞きたくもない」

 

「なんだ、つまらんな。それにしても、貴様らは何故そんなに偉そうな態度が取れる?」

 

「?」

 

「お前たちの文化はすべて人が作ったものを真似、取り入れて今に至っている。もっと人に感謝すべきではないか?」

 

「それが私たちを奴隷にしてもいいって考え方なのね。ほんとクソ野郎ども」

 

「だがそうだろう。貴様らは何も作り出せないし作り出す力もない。現にお前が持っているその銃、誰が作った?お前たちか?……違うよな、人だ。異世界からの文化とはいえ人が作ったものだ」

 

「だったら?私はこれが便利だから使う。作った人にも勿論感謝してる……あんたみたいなのを簡単に撃ち殺せるからね」

 

私は引き金に力を込める。

それをみた男はニヤッと笑った。

 

「撃つのか。まぁいい。だが聞かせろ、なぜ私を狙う?」

 

「……覚えてないよね。私の事なんて。私の父さんと母さんを殺したことを」

 

「……覚えてないな。色々とありすぎた」

 

「そう。ならいい。気兼ねなく撃てるよ。罪悪感でも感じてたら少しだけ撃ち辛かった」

 

「そして、私と同じことをするわけだ」

 

「同じこと?何が言いたいの?」

 

「私にだって家族はいる。この家にな。隠れてろと伝えては……」

 

その時だった。

 

「パパから離れろ!!」

 

階段を登った2階部分から声がした。

 

『お嬢!』

 

トマホークに思い切り突き飛ばされ転ぶ。

そこに弾丸が撃ち込まれた。

私は反射的に撃ってきた方向に撃ち返した。

……そして撃ち返した後に気づく。

私は……今、子供を撃った。

 

「……」

 

「……やってくれたな」

 

男の声は震えていた。

悲しみなのか怒りなのかは分からないが。

 

「お前も私と同じだ!命を奪うことしかでき……」

 

私は無言で男の眉間を撃ち抜く。

これ以上話なんてしたくもない。

崩れ落ちた男に数発さらに撃ち込んでトマホークの元に向かう。

 

「トマホーク!無事!?」

 

『危うくワイの息子が死ぬところだったぜ・・・』

 

弾丸の着弾位置はトマホークの股間付近。

ギリギリで外れてはいるが……。

 

『……子供はどうなった、お嬢』

 

「分からない。見たくもない」

 

『……そうか』

 

反撃も無ければ声もない。

弾痕が残る2階部分のバルコニーからは血のようなものが垂れていた。

 

「……帰ろ」

 

私は家を出た。

その時だった。

また弾丸が掠める。

 

「また!?」

 

『時間がかかりすぎたんだ!増援だ!』

 

「クソっ!長話し過ぎたよ!!」

 

外には銃を持った信者が集まっていた。

こうなったらこの家に立てこもってマヤ達を呼ぶしかない。

私は祈る気持ちでケータイで電話をかける。

 

「お願い……!」

 

《もしもし、エル?》

 

「ハル!マヤと迎えに来て!カルトに囲まれ始めてる!」

 

『お嬢!扉の前!!』

 

私はそう言われてドアに向けて何発か射撃した。

 

《今どこなの》

 

「テキサスから南東300km!私の故郷の近くの山の中にある集落!!」

 

《分かった、アパッチとブラックホークで向かう。それまで耐えて》

 

「了解!頼んだから!」

 

テキサスからここまでは約2時間。

耐えきれるか……。

 

「トマホーク、家の中から銃と弾薬をあるだけ探してきて」

 

『分かった』

 

トマホークが離れていく。

私は階段を登ってバルコニーに向かった。

……そこには私が撃った子供が倒れていた。

まだ10歳くらいだろう。

 

「……ごめんね」

 

撃ってきたから撃ち返した。

言い訳なんていくらでも出来た。

自分自身に対しても。

 

「はぁ……元からだけど、これで天国で父さんと母さんには会えないかな」

 

私はため息をついて子供が握っていた銃を取った。

持っていたはグロック19。

弾薬は通常の9mm。

あとはポケットに予備の弾倉が2つあった。

それを取った時扉が開けられた。

信者たち数人が中に入ってくる。

 

「……来た」

 

信者たちは倒れている男に近寄ると小さな声で何かを呟いていた。

恐らく祈りでも捧げているのだろう。

 

「神父様に手をかけた異教徒はこの中だ!捕まえろ!」

 

1人がそういうと信者たちは家の中に散らばった。

そして1人が階段を登ってくる。

私はさっき子供から取ったグロックを構えた。

 

「……」

 

階段の軋む音が近づく。

そして……

 

「うっ!?」

 

階段を登りきり私を見た信者が驚き声をあげた。

私はそいつの胸と頭を撃つ。

信者は崩れ落ち階段から転げ落ちた。

 

「上だ!上にいるぞ!!」

 

束になって登ってくる信者たち。

私は何発か射撃して足止めする。

 

「足、足がぁぁぁぁ!!」

 

転げ落ち、叫ぶ信者。

それに信者たちは怯んでいた。

私はMP7を構えてフルオートで射撃した。

 

「ぎゃあっ!!」

 

「ぐあっ!!」

 

5人いた信者全てに弾丸が当たる。

即死した者も居ればまだ生きてる奴もいた。

私は家から脱出するために階段を降りる。

 

「うぁ……助けて……」

 

弱々しく助けを求める信者。

私はそいつの頭を撃つ。

 

「たす、助け……」

 

「……」

 

私は無言で生きてる信者、死んでる信者に射殺確認のために弾丸を撃ち込んだ。

そこMP7がちょうど弾切れになる。

弾倉を投げ捨て新しい弾倉を挿入した。

 

『……こりゃひでぇ』

 

「おかえり。いいのはあった?」

 

『お嬢が気に入るか分からんがな』

 

トマホークは袋を引っ張ってきて私の前に置いた。

中に入っていたのはM45。

M1911の近代化モデルだ。

その弾倉が1つと予備の弾薬が30発。

銃と予備弾倉に弾は込められていなかった。

 

「少ない……」

 

『どうする?』

 

「今なら信者達が離れてる、教会内を捜索して捕まってる仲間が居ないか確認する」

 

『そりゃいい、報酬もしっかり出そうだ』

 

「お金なんてどうでもいい」

 

『ま、お嬢はそうだろうな』

 

私はトマホークが持ってきたM45をズボンに挟み、家を出た。

そして弾薬の残りに余裕があるKarに持ち変える。

 

「敵が来る前にやるよ」

 

『了解』

 

私は協会まで走り、ドアを開けた。

中はもぬけの殻だったが……

 

『お嬢、臭いを感じる』

 

「……いる」

 

確実に誰かがこの中に隠れている。

私はゆっくりと歩き出した時だった。

 

「この!!」

 

「ッ!!」

 

斧を振りかざした信者が襲いかかってくる。

それを何とか銃で防ぐ。

 

「ッ……!!トマホーク!!」

 

『任せろ!!』

 

トマホークは思い切り信者の足に噛み付いた。

 

「ぎゃぁぁぁぁ!!!!」

 

痛みで斧を落とす。

私はそこに銃床打撃を加えた。

衝撃で気絶する信者。

 

「ふぅ……」

 

『うぇ……まっず……』

 

「意外だね、血の味でも覚えるのかと思った」

 

『ワイをなんだと思ってんだ』

 

「人が犬と話せないのをいい事にハルたちにセクハラしまくる変態犬」

 

『長いしひどい』

 

「事実でしょ」

 

私はそう言いながら気絶した信者を蹴って起こす。

見た目は20歳後半の女性だった。

どことなくハルに似た顔立ちだ。

 

「うぅ……」

 

「おはよ」

 

「!」

 

「足の具合はどう?」

 

「ケダモノが……!!」

 

信者は落とした斧を探そうとした。

私は先に斧を見つけて撃って破壊する。

 

「頭ぶち抜かれたくなかったら答えて。この教会に獣人たちはいるの?」

 

「……」

 

「……もう一度聞くよ。獣人たちはいる?いない?」

 

私は引き金に力を込める。

 

「誰が……」

 

「ん?」

 

「誰が人外なんかに答えるか!!くたばれ!!」

 

信者は足を押さえながら叫ぶ。

 

「そう……じゃあいい」

 

『お嬢、やめろ』

 

私は引き金を引こうとする。

信者はぎゅっと目を瞑った。

 

『やめろお嬢!!』

 

トマホークが吠える。

 

「なんで」

 

『抵抗する気の無いやつを撃つのは違うだろ!!』

 

「じゃあコイツが抵抗しないって確証は?」

 

トマホークが吠え、私がそれに答えるところを不思議そうに信者は見ていた。

だが銃口だけは逸らさない。

 

「なんで……話して……」

 

「獣人は動物の声が聞こえるんだよ」

 

「…………」

 

信者は何かを悩むような顔をして下を向いた。

そして決意したように私を見る。

 

「この教会に捕らえられてる獣人たちの場所を教える。だから……助けて」

 

「なに?取引したいの?」

 

「……」

 

「はぁ……いいよ、分かった。何をして欲しいの」

 

「私の友達と話して欲しい……」

 

「友達?」

 

「犬なの……でも昨日から様子が……」

 

「病気かな……分かった、約束は絶対に守る。でも先に獣人たちのところに案内して」

 

私は信者の足を消毒し包帯を巻いて応急処置した。

痛み止めも渡し、歩けるようになった信者の後ろについて歩く。

 

「ねぇ、ひとつ聞きたいんだけどなんでこんな事してるの?」

 

「え?」

 

「あなたは他の信者みたいな感じがしないから」

 

「あ……私……その、お父さんとお母さんが教団幹部で……」

 

「そういうことね……」

 

「ずっとエルフや獣人は敵だって……でもここで捕まった人達の世話係をやった時に間違ってるのは私たちだって……」

 

「それが聞けたらいいよ。あなたは絶対に守ってあげる」

 

私は信者に向けていた銃口を下げた。

嘘を言ってるようにも感じなかった。

 

「この先……」

 

そう言って彼女は鍵のかかったドアを指さした。

 

「鍵は?」

 

「えと……ない……」

 

「わかった」

 

『こりゃワイルドなやり方だな』

 

私はトマホークが持ってきたM45を取り出してスライドを引く。

45なら鍵くらい簡単に壊せるだろう。

 

「ちょっと離れてて」

 

2人が離れたのを確認して引き金を引く。

鍵が壊れるのと同時に中から悲鳴が聞こえた。

私はドアを蹴破る。

 

「大丈夫だから落ち着いて!」

 

「こ、この人誰……!」

 

近くにいた獣人は私を指さして信者にそう聞いた。

 

「この人は大丈夫……!酷いことしないから!」

 

「ほ、ほんと……?」

 

「ほんとだよ、大丈夫」

 

「アメリアがそういうなら……」

 

私はそこで初めて信者の名前を知った。

 

「アメリアっていうの?」

 

「そういえば名前言ってなかった、あなたは?」

 

「エル。こっちのエロ犬がトマホーク」

 

『おい!!』

 

「とにかくここから皆を連れ出すよ」

 

「わ、わかった!」

 

中にいたのはエルフ1人と猫の獣人2人。

比較的健康そうだった。

 

「アメリア、もしかしてきちんと身の回りの世話してたの?」

 

「え?」

 

「みんな健康そうだから」

 

「だ、だって私は他の信者達みたいなことできない……」

 

「アメリアはケーキとかくれるからいい人」

 

「優しいじゃん。ところで、アメリアのお友達は?」

 

「私の家に……」

 

そこでアメリアは少し渋い顔をした。

 

「あの家……入った?」

 

アメリアが指さすのは2軒目に突入した家だった。

 

「入ったよ。待ち伏せが1人居ただけ」

 

「それって……白髪の男の人?」

 

「ううん、40代くらいのおじさん」

 

「……まだ中にいる……」

 

「え?」

 

「お父さんとお母さんがまだ中にいる……きっとこっちを……」

 

そうアメリアが言った瞬間だった。

銃声が響く。

隣にいたエルフが胸を撃たれた。

 

「物陰に隠れて!!」

 

「そんな……!!サナ!!」

 

「ダメ!!もう死んでる!!」

 

倒れたエルフはピクリとも動かない。

 

「クソ……!!アメリア達はここに居て。トマホーク、行くよ!」

 

『あいよ!』

 

私は隠れた家の近くにスモークを投げる。

目標はロッジのような二階建ての家。

銃弾は屋根裏部屋のような小窓から飛んできた。

 

「グレネードはない……突入して排除するよ」

 

『アメリアの家族をいいのか?』

 

「アイツらは同胞を殺した。容赦しない」

 

『おー怖……』

 

私はスモークで辺りが白くなり始めると家に素早く近づいた。

恐らく相手はこっちにくると分かっているだろう。

 

「トマホーク、私が先に行く」

 

『了解』

 

私は深呼吸をするとドアを蹴り開けた。

入口とその入口と繋がっている部屋はクリアだ。

 

「クリア……」

 

MP7を構えてゆっくりと銃を撃ったと思われる場所に向かう。

 

『お嬢、近いぞ。火薬の匂いだ』

 

「分かってる」

 

2階に登る階段を登りきった時だった。

廊下の奥からこちらに銃口が見えた。

とっさに身をかがめると同時に銃声が響く。

その後ボルトを引く音がしたので私は飛び出した。

 

『お嬢待て!!』

 

トマホークは後ろから待てと吠える。

私は次弾を撃たれる寸前で相手の銃を蹴り飛ばした。

 

「クソっ!!」

 

「はぁ……はぁ……終わりだよ、諦めて」

 

私は銃を白髪の男性に向ける。

アメリアが言っていた彼女の父親だろう。

 

「あんただよね。エルフの子を撃ったのは」

 

「脱走した人外を撃って何が悪い!!私のバカ娘のせいで商品が1つ台無しになったんだぞ!!」

 

「商品……今商品って言った?!」

 

私は胸ぐらを掴む。

そして思い切り顔面を殴った。

 

「もう一度言ってみろこのクソ野郎!!」

 

私は男に怒鳴る。

 

「何が商品だよ!!あの子が何をしたって言うの?!エルフや獣人ってだけで迫害して!!」

 

「教祖様の教えだ!守って何が悪い!!」

 

「殺してやる……!!殺してやるこの野郎!!」

 

私が拳銃を抜こうとした時だった。

トマホークが吠えて走る。

 

『危ないお嬢!!』

 

「あぁぁぁぁぁ!!!」

 

「ダリア!?」

 

男の奥でトマホークに噛みつかれて叫ぶ中年の女性がいた。

手には刃物を持っていた。

 

「……」

 

私は男を突き飛ばすように離し女の元に向かう。

 

「ま、待て!妻には手を出すな!!」

 

「……なに?よく聞こえない」

 

私は女の頭に照準を合わせて引き金を引いた。

薬莢が床に落ちると同時に男が発狂したように叫ぶ。

 

「や、やりやがった……やりやがったな貴様!!」

 

「だから?あんたはあの子の命を奪ったのに」

 

「殺してやる!!絶対に殺して・・・」

 

私は叫ぶ男の胸に2発発射した。

男は崩れ落ちた。

 

「……トマホーク、行くよ」

 

『あいよ』

 

「アメリアには悪いことしたな……」

 

『攻撃してきたのは向こうだ。それに……あの子だって殺された』

 

「まぁね……」

 

誰かの家族を殺した……。

いくら相手がド外道のカルト教団とはいえ、知り合いの家族に手をかけてしまったことに罪悪感を感じていた。

 

「みんなの待ってるところに行こ、あと1時間くらいで着くはずだから」

 

『了解。アメリアにはなんて言うんだ?』

 

「……考えてる」

 

私は深いため息をついた。

 

「トマホーク、アメリアの友達を探してきて」

 

『了解。お嬢は?』

 

「……アメリアの所に行ってくる」

 

私は重い足取りでアメリア達の所に向かった。

 

「あの……エルさん……」

 

心配そうな顔をしてアメリアは私に話しかけてきた。

……こんな時どんな顔をしていいか……。

 

「……ごめんなさい……」

 

「……いいんです。お父さんもお母さんも悪いことをしてたので……」

 

私は謝ることしか出来なかった。

……容赦しないと思っていたがやはり誰かの家族と分かるときついものだった。

 

「あの……私の友達は……」

 

「今トマホークが探してる。安全なところに隠れてて、トマホークと合流して連れていくから」

 

「わ、分かりました」

 

「・・・あと1時間・・・」

 

私は時計を見て呟く。

恐らくコイツらは増援を呼んでいるはずだ。

カルトの増援でなくても山賊たちが呼んでいる可能性がある。

残弾はあと僅か・・・。

 

『お嬢!』

 

「ん?」

 

『アメリアの言ってた犬を見つけた!来てくれ!』

 

「はいはい」

 

私は急ぐトマホークについて行く。

トマホークが入った部屋に行くと1匹のゴールデンレトリバーが居た。

ただ少し具合が悪そうだ。

 

「大丈夫?」

 

『一昨日からお腹の調子が・・・』

 

「お腹・・・何か変なもの食べた?」

 

『あの・・・ご主人のケーキをちょっと・・・』

 

絶対それだ。

人間の食べる高カロリーな物を犬が食べたらそりゃお腹の調子も悪くなる。

でも念の為病院に運んだ方がいいだろう。

マヤのヘリに乗せてもらおう。

 

「アメリア」

 

「わ、私の友達は・・・」

 

「大丈夫。それより、ケーキなんてあけだらダメだよ」

 

「ケーキ?」

 

「あの子が食べたって」

 

「あぁー!!食べちゃダメだって言ったのに!?」

 

アメリアは大声を出した。

そして犬の方へ向かう。

 

「もう!人のもの食べちゃダメだって言ってたでしょ!」

 

『だ、だって美味しそうだもの!』

 

「そんなガウガウ言ったってダメなものはダメなの!めっ!!」

 

・・・まぁ大事にはならなさそうだ。

 

『お嬢』

 

「ん?」

 

『足音、複数だ』

 

「増援か・・・アメリア、他の子達をこの家に」

 

「わ、分かった・・・!みんなこっちに来て!」

 

そう呼んだ時だった。

銃声が響く。

 

「クソっ!!」

 

私は急いで応戦した。

だが・・・。

 

「うあぁぁぁぁぁ!!!」

 

「!!」

 

外で猫の獣人が足を抑えて倒れた。

 

「待ってて!!」

 

駆け出そうとするアメリア。

私はそれを急いで止めた。

 

「何してんの!!今はダメ!!」

 

「でもあそこで助けを求めてます!!」

 

「そんなの分かってる!!でも今行ったら負傷者が増えるだけだよ!!」

 

私は応戦しながらアメリアに怒鳴った。

・・・こんなの戦闘の基本だ・・・といいたいが彼女は一般人。

今出来ることは急いで奴らを排除する事だ。

 

「クソっ!!30人以上居る・・・!!」

 

私は無線でハル達に連絡した。

 

「ハル!今どこなの!?」

 

《到着まであと10分。リリアのフランカーがあと2分もあれば着く》

 

「了解!みんな、2分耐えて!そうしたらあの野郎共を月まで吹っ飛ばせるから!!」

 

私はそう叫ぶ。

その時だった。

 

「痛い・・・!痛いよぉぉ!誰かぁぁ!!」

 

「っ・・・!!」

 

アメリアが走り出した。

丸腰の状態で。

 

「馬鹿!!」

 

「ルナ、もう大丈夫だからね!」

 

ルナと呼ばれた獣人の元にたどり着いたその瞬間だった。

 

「あぐっ!!」

 

短い悲鳴と共に倒れるアメリア。

やはり撃たれた・・・。

 

「クソっ!!だから言ったのに!!トマホーク!!」

 

『はいよ!!』

 

「今からスモークを投げて2人をこっちに引きずる!そしたら重傷の方に治癒魔法をかけて!!」

 

『了解!!ワイの出番だな!!』

 

「ぼ、僕も治癒魔法掛けれるよ!」

 

そう言って獣人のの少女が申し出てくれた。

 

「分かった!治療は任せるよ!」

 

私はスモークグレネードを取り出す。

 

「アメリア!ルナ!すぐ行くから!!」

 

私はスモークを投げて敵のいる方にMP7をフルオート射撃する。

スモークが十分に展開されたのを確認して走り出した。

距離は約10m。

 

「引っ張るからね!!」

 

2人の服の襟元を掴んで引きずる。

 

「げほっ!」

 

「苦しいのは分かるけど我慢して!!」

 

そして何とか家の中に引きずり込んだ時だった。

 

《こちらエンジェル0-2!》

 

「リリア!いいところに来てくれたよ!」

 

《エル、攻撃目標を教えて!》

 

「スモークの炊かれてる近くの家以外なら何でも攻撃してよし!」

 

《了解!目標確認!!》

 

数秒後大きな爆発音が響く。

私は2人の状態を確認する。

 

「アメリア、アメリア!」

 

「うぅぅ・・・・」

 

小さく呻くがヒューヒューという音が聞こえる。

 

「まさか・・・」

 

私はアメリアの胸を見ると赤黒い服が1部濃くなっていた。

 

「胸ってことは・・・開放性気胸か・・・!」

 

他の出血は・・・

 

「足に1つ・・・」

 

『お嬢、どっちに治癒魔法をかける!』

 

「待って」

 

ルナは腹部に貫通銃創。

出血自体は大した事ない。

重傷は胸を撃たれ足から大量出血を起こしているアメリアだ。

 

「アメリア、痛いけど我慢してよ!」

 

私は止血帯をアメリアの足に撒いて締め上げる。

 

「うぁぁぁっ!!」

 

「治癒魔法使えるって言ったの誰!」

 

「ぼ、僕!鎮痛と体力回復なら・・・」

 

「分かった!アメリアには鎮痛をお願い!」

 

『ワイはどうする』

 

「アメリアがこの怪我だと治癒魔法を使っても効果ないかも。今は出来ることをする」

 

『・・・分かった』

 

トマホークの治癒魔法を使ってもさすがに肺の怪我までは直せない。

まずは止血して胸の穴を塞がないと・・・。

 

《こちら0-2!敵が逃げてくわ!》

 

「了解!」

 

《念の為、上空で待機する。ハル達はブラックホークでこっちに向かってるわ》

 

「了解、その方が助かるよ」

 

「けほっ・・・けほっ・・・」

 

「アメリア、頑張って」

 

足の出血が止まらない・・・。

私はもう一本の止血帯を取り出した。

 

「アメリア、また痛いかもだけどごめんね」

 

弱々しくこくりと頷く。

その時、一緒に助けたルナがアメリアの手を握っていた。

 

「止血帯を締めるよ」

 

「ぐ、うぅぅぅぅ・・・!!」

 

2本の止血帯を使ったおかげで出血は減ってきた。

次は胸だ。

 

「アメリア、悪いけど服を脱がせるからね」

 

アメリアには申し訳ないが、下着も剥ぎ取って上半身を露出させた。

胸の傷口からは泡のようになった血が出ていた。

 

「チェストシール・・・あった」

 

胸の傷口を塞ぐためのチェストシールを取り出す。

救急品を大量に持ってきていて良かった。

 

「アメリア、息を吐ききって」

 

「は、はい・・・ふー・・・」

 

素早く傷口の血をふき取ってチェストシールを貼った。

これで呼吸をしても傷口から空気が入って胸内が圧迫されることはないだろう。

 

「次、ルナ」

 

ルナは比較的傷口が綺麗な上、銃創も左の端の方だったため内蔵へのダメージは少ないだろう。

清潔な包帯で何とかなるかもしれない。

 

「そこのボクっ娘猫」

 

「ぼ、ぼく!?」

 

「名前しらないの。アメリアには鎮痛と適時体力回復をかけて」

 

「僕はマーナっていうの!」

 

「了解マーナ」

 

2人の治療を続けていると遠くからヘリの音が聞こえてきた。

私は外に出る。

 

「はぁ・・・ようやく来た。」

 

私は目印のスモークを投げた。

その時だった。

バチンッ!!っという音と共に腹部に強い衝撃、その後遠くから銃声が聞こえた。

 

「けふっ・・・」

 

口の中に鉄の味が広がり血を吐いた。

その後胸に強い衝撃。

また遠くから銃声が聞こえた。

私の意識はそのまま途切れた。

 

 

〜ハル〜

 

「見つけた!スモーク!」

 

「ふぅ・・・無事で良かった」

 

そう言った瞬間だった。

エルが突然崩れ落ちる。

 

「エル・・・?」

 

そして明らかに撃たれたような動きで倒れた。

 

「エル!!」

 

「な、なに!?」

 

「エルが撃たれた!!」

 

私は叫んだ。

 

「エル!!エル!!」

 

《どうしたの!?》

 

「エルが撃たれた!!弾は3時方向から!!」

 

《3時方向・・・見つけた!!スコープの反射光を確認!!》

 

フランカーがスナイパーの排除に向かった。

私は銃を持って降りる準備をした。

 

「エル・・・待ってて・・・!!」

 

着陸すると同時に副操縦士席から飛び出す。

 

「エル!!」

 

エルは腹部から出血し血を吐いていた。

でも呼びかけても返事がない。

 

「エル・・・!!お願い・・・死なないで・・・!!」

 

私は祈るようにエルの来ていたプレートキャリアを剥ぎ取る。

プレートキャリアに弾痕があったが幸い貫通はしていなかった。

ただ腹部の出血が多い。

 

「急いで病院に運ばないと・・・」

 

「わんっ!!」

 

「トマホーク!良かった、無事だったんだね・・・」

 

「わんっ!わんっ!!」

 

「ごめん、今は構えない」

 

トマホークは必死に何かを訴えていたが・・・。

 

「マヤ!!そっちでエルが助けた人たちを乗せて!」

 

「了解!!」

 

「エル、必ず助けるから」

 

するとトマホークはエルに両足を乗せた。

大きな魔法陣が広がる。

・・・忘れていた、トマホークは1回だけ強力な治癒魔法を使える事を。

 

「げほっ!げほっ!!」

 

「エル!」

 

「うぅ・・・ハル・・・?」

 

「そうだよ!もう大丈夫だから!」

 

「私より・・・アメリアを・・・」

 

エルは苦しそうな声で家の方を指さす。

だが今はエルを安全な場所に運ばないと・・・。

 

「今はエル。ヘリに乗せるから」

 

私はエルの装備を脱がせてかつぎ上げる。

急いでヘリに戻ってキャビンの床に寝かせた。

息を整えたトマホークも横に乗る。

 

「トマホーク・・・なんて私なんかに・・・」

 

「わん!!ぐるる・・・」

 

「怒らないでよ・・・」

 

苦しそうだが腹部からの出血は止まった。

意識もある。

今のうちに家の方に向かう。

 

「リリア、他に敵はいない?」

 

《捜索中。でも早く逃げた方がいいわよ》

 

「了解」

 

私は急いで家に入る。

そこには重傷の獣人の女の子が1人とカルトの服を着た女が1人。

そしてそのカルト信者に治癒魔法をかける猫の獣人が1人。

・・・それと胸から血を流したエルフの遺体も。

 

「・・・こんな奴に治癒魔法なんて必要ない・・・!!」

 

私が銃を向けると猫の獣人が怒鳴る。

 

「やめて!!アメリアは悪くない!!」

 

「ふざけないで!!こいつらのせいでエルが死にかけた!!」

 

するとマヤに銃を抑えられる。

 

「ハル、やめようよ。ホントに悪いやつならこうやってこの子は助けようなんてしない」

 

「・・・っ!」

 

仲間を撃たれたやり場のない怒りをどうしていいか分からず近くにあった木片を壁に向かって投げつけた。

 

「・・・ヘリに運んで。私はエルの様子とヘリを見てくる」

 

「ハル・・・この子だけ運んで」

 

「・・・」

 

マヤはそう言ってエルフの遺体を触った。

 

「・・・分かった」

 

お姫様抱っこの容量で持ち上げてヘリまで急ぐ。

この子が撃たれたと思われる場所に大きな血溜まりが出来ていた。

 

「エル、大丈夫?」

 

「けほっ・・・なんとか・・・」

 

「エルはすごいよ。1人で戦って皆を助けた」

 

「助けてない・・・けほっ・・・この子・・・サナは殺されたし私は子供を殺した・・・」

 

「子供・・・?」

 

「あそこの家・・・」

 

エルが指さすのは二階建ての大きな木造の家。

 

「ねぇ・・・父さんと母さん・・・村のみんなの敵討ちでこんな事正しかったのかな・・・」

 

「・・・」

 

エルは涙を流しながらそう言った。

私はどう答えようか悩む。

 

「・・・それはエルの決めることじゃないよ。それに、撃ちたくて撃ったんじゃないんでしょ?」

 

「・・・うん」

 

「じゃあ大丈夫。ほら、よく言うじゃない。銃を撃つなら撃たれる覚悟を持てって」

 

「・・・」

 

「だから、大丈夫」

 

そう話しているうちにマヤがみんなを連れてきた。

その時犬も1匹連れてきていた。

 

「この子は?」

 

「アメリアって子の友達らしいよ。猫の子に乗せてあげてって言われたから・・・」

 

「了解、これで積み残しはないよね?」

 

「たぶん大丈夫!」

 

何とか全員を乗せてドアを閉める。

 

「帰ろう」

 

「急がないと・・・!」

 

「安全運転でね」

 

「分かってる!」

 

マヤはヘリを離陸させて低空で飛行を始めた。

燃料は十分。

 

「・・・エルはすごいよね」

 

「え?」

 

「1人でこんなに戦えるんだもん」

 

「まぁね・・・マヤも1人で戦う練習してみたら?」

 

「私は可愛い乙女なので無理です!」

 

「ちょっと、それじゃエルが可愛くないみたい」

 

「いや、エルは可愛いよ!」

 

「・・・聞こえてるよ・・・まったく・・・」

 

トマホークの治癒魔法のおかげである程度回復したエルはそう答えた。

その後は空賊に絡まれることも無くテキサスまで帰りつき病院に全員を下ろした。

 

「はぁ・・・大変だったね」

 

「まったくだよ・・・」

 

空港まで帰ってコックピットで2人ともため息を着いた。

格納庫にヘリを仕舞い、2人で病院まで歩く。

 

「ねぇハル。あれはダメだよ」

 

「え?」

 

「アメリアって子を撃とうとしたの」

 

「あ・・・」

 

「理由がどうであれ、無抵抗の人を攻撃するな、法律であるでしょ?」

 

「・・・うん」

 

私は思い出して手が震えた。

私は怒りに任せてなんてことを・・・。

 

「まぁ、私もハルの立場だったら同じことしてたかもだけど」

 

「・・・」

 

「わぁ!ちょっと!泣きそうにならないでよ!責めてるわけじゃないから!!」

 

「・・・」

 

「えーっと・・・えと・・・ほら、よしよし!」

 

「私は犬か・・・」

 

マヤに撫でくり回されながら病院に到着した。

1時間ほど待った時に医者に呼ばれた。

その時エルは重傷だがトマホークの治癒魔法のおかげで何とかなったということだった。

それでも絶対安静で1週間は入院だそうだが。

それと・・・アメリアが死んだ。

アメリアは足と腰、胸を撃たれていた。

足と胸には適切な処置が施されていたが腰の銃創を見落とされていた。

骨盤を損傷し、そこから大量出血を起こしていたそうだ。

ただ治癒魔法のおかげで何とか持っていたが時間がかかりすぎたようだった。

 

「・・・」

 

「間に合わなかったんだね・・・」

 

「マヤのせいじゃないよ」

 

「うん・・・」

 

「悪いのはカルト。エルも、マヤも悪くない」

 

後味の悪い仕事になってしまった。

後から病院に駆けつけたリリアもその話を聞き暗い顔をしていた。

 

「・・・こんな日だからこそ、お酒飲まない?」

 

「賛成、くたくただし飲みたいわ」

 

「私も飲む!」

 

「じゃあいい感じのお店探そ」

 

時刻は午後6時。

飲むには早いが今日くらい良いだろう。

私たちはテキサスの中でもかなりオシャレな店に入り久々に夜遅くまで飲んだ。

明日はゆっくり休もう。

3人とも同じ意見だった。



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旅客機護衛

《エンジェル0-1、風向320風速5、滑走路35、離陸を許可。先行機の後方乱流に注意》

 

「離陸許可、エンジェル0-1」

 

飛び立っていく旅客機、B-777を見ながらスロットルを全開にする。

今日は旅客機の護衛依頼だ。

ここから王都までの航路を一緒に飛ぶ。

 

「ギアアップっと・・・うわっ!!」

 

久しぶりの護衛の仕事。

対象に近づきすぎて後方乱流に巻き込まれた。

一瞬で機体が反転する。

 

「あぶなっ・・・!」

 

「ちょ、ちょっと!!管制官だって気をつけてって言ってたじゃん!!」

 

「ご、ごめん・・・」

 

なんとか機体を立て直す。

 

《エンジェル0-1、こちら管制塔。機体に異常はありますか?》

 

「異常なし、依頼の続行は可能。エンジェル0-1」

 

《タワー了解》

 

さすがに焦った・・・。

久しぶりとはいえ後方乱流を舐めていた。

 

「ハルがなんか素直にごめんって言ってくれたの珍しいし許してあげる!」

 

「ちょっと、それだと私が普段謝りもしない女みたいな感じなんだけど」

 

「実際そうでしょ?」

 

「泣きそう」

 

「あはは!嘘だよ!」

 

なんか最近マヤに弄られ始めた気がする・・・。

まぁいいか・・・。

 

「ねぇハル、そういえばエルの治療費ってこの仕事で賄えるの?」

 

「うん。元々お金自体は足りてたけど払うと生活費が危ないってくらいだったから」

 

「そっか!でも・・・あの、残念だったよね」

 

「何が?」

 

「あの教団の子・・・」

 

「・・・・」

 

エルにあの後、その事を伝えると涙を流して悔しがっていた。

それもそうだ。

エルの応急処置はお手本のように適切だったが腰の銃創を見逃してしまっていた。

でももし見つけていたとしてもヘリが来てからでは間に合わなかったそうだ。

 

「でもこれであの教団が根っからの悪者ばかりじゃないって分かった」

 

「あの子みたいなのも稀だと思うけどね・・・」

 

「まぁね・・・ほんと、空飛んでてよかった」

 

ガンナーならそういう状況によく遭遇する。

つくづく戦闘機乗りで良かったと思う。

 

「さて、そろそろ雇い主とコンタクトしようか」

 

「そうだね!」

 

「ワールドトラベル058、こちらエンジェル0-1」

 

《エンジェル0-1、こちらワールドトラベル058。王都までの護衛よろしくお願いします》

 

「こちらこそ。こっちはF-14が単機、武装は機関砲フル、サイドワインダー2、スパローが6。燃料は王都まで持つけど戦闘になると給油が必要になるかも」

 

《ワールドトラベル058、了解。戦闘時の行動はどうしますか?》

 

「なるべく私たちから離れないで。でも相手次第では低空に退避してレーダーに見つかり辛い動きをお願い」

 

《了解》

 

敵機のスペックにもよるが低空まで逃げればレーダー波が地表面で乱反射してレーダーに映らなくなるはず。

まぁ、何も無いのが1番だが。

 

「なるべく私たちは後方上空でそちらの乗客に見えない位置にいる」

 

《了解しました》

 

私たちは上昇して旅客機後方3マイル、高度差は2000フィートほど取った。

この位置なら後方乱流の影響も少ないし乗客からも見えないだろう。

王都では何やら一般客を招いてのパーティもあるらしく、この便は満席だった。

・・・逆に私たちを撃墜しこの便を強制着陸させられれば身代金はガッポリ取れるので空賊から狙われやすくもなるが・・・。

ただ、この便はなるべく途中にある全ての街の近くを飛ぶので何かあれば応援がスクランブルしてくれるはずだ。

 

「あ!そうだハル!今日のお昼いいの持ってきたよ!」

 

「え?」

 

「じゃーん!テキサスで1番美味しいと噂のサンドイッチ!」

 

「あれ買えたの?」

 

「うん!ハルがトムキャットの準備をしてる間にね!今日が朝早くて助かったよ!」

 

「そういう所はちゃっかりしてる・・・」

 

「まぁまぁ!ほら!ハルの分もあるから!」

 

「ありがと」

 

このサンドイッチは販売開始から1時間もあれば売り切れるという超人気の品だ。

正直、私はこう言ったものには疎く、なんでこんなに人気なのかは知らないが中身に入っている生ハムとチーズがとにかく絶品なんだとか。

それとホイップクリームとカスタードクリームたっぷりのフルーツサンドも買ってくれていた。

・・・美味しそうだが胸焼けしそうだ。

 

「あと4時間・・・ふぅ・・・」

 

「のんびり行こうよ!」

 

「そうだね」

 

オートパイロットをONにして、ウェイポイントを自動で辿るようにする。

あとはレーダーと周りを目視で監視だ。

 

「そういえばこの先の街って・・・」

 

「何かいい街でもあるの?」

 

「ううん。いい街っていうかやばい街っていうか」

 

ここから約2時間ほど飛んだところにテックという街がある。

ここは主に航空機やそれに搭載する武器、独自の新兵器を開発していて良くそこら辺に向けてぶっぱなしている。

最近は火薬と物体を加速させる魔法を併用し80cmクラスの砲弾をとんでもない勢いで発射するバケモノ砲を開発しているらしい。

マジカルキャノンとかいう可愛らしい名前をしているが、飛んでくるのは通常の榴弾、クラスター弾、フレシェット弾、化学砲弾・・・とにかく砲弾そのものがデカいのでいろんな物が飛んでくる。

おまけに射程も1000km近いとか。

 

「そんなバケモノキャノンがあるんだね・・・」

 

「まぁその代わりに発射には加速魔法が使える魔法使いが居ないとダメだけどね」

「ていうか・・・それもう撃てるんだよね・・・?」

 

「前ニュースで見た時は試射までは成功してるって」

 

「それで射程は1000・・・?」

 

「スペック上は。どうしたの?」

 

「それってその・・・ここは射程内だよね・・・?」

 

「ギリギリね」

 

「怖すぎるんだけど!!!」

 

「大丈夫だよ。味方なんだから」

 

「そうだけど試験中のバケモノの射程内なんて怖すぎるじゃん!!どこ飛んでくるか分かんないし!!」

 

「まぁ、一理ある」

 

実際、精度はあまり高いものでは無いらしいが砲弾の性能で賄っているそうだ。

クラスター弾なんて目標の近くで炸裂しVT信管の着いた子爆弾がその辺に散らばって空域を制圧するとかなんとか。

 

「何も来なければ何も無い」

 

「まぁね・・・そういう時に限って来るけど・・・」

 

「やだやだ」

 

そう言いながら快晴の空を飛ぶ。

高度は38000ft。

上を見上げれば綺麗な青が広がっていた。

 

「いい天気だねぇ〜・・・」

 

「そりゃこれ以上上に雲なんて無いからね」

 

「まぁそうだけど・・・っていうかそんなマジな事言わないでよ!」

 

「私にもっとオシャレな表現できると思う?」

 

「できる!ハルならできる!」

 

「なにを根拠に・・・」

 

「ほら!なんか言ってみてよ!」

 

「んー・・・」

 

10秒ほど考えてやっと出てきた。

 

「スゴク キレイ」

 

「なんで棒読みなんだよっ!!!」

「ソラ キレイ ニンゲン ソラ ヨゴス」

 

「心優しいがために人間に敵対してるバケモノやめてよ!」

 

「あははっ」

 

なんて話しながら順調に飛行していた。

そして例のバケモノ砲がある街から200kmほどの距離に来た時だった。

 

「・・・あー・・・ハル?お客さん・・・かも」

 

「はぁ・・・まぁ来るよね・・・」

 

「対象は正面・・・IFF・・・敵!」

 

「了解。ワールドトラベル058、こちらエンジェル0-1。敵と遭遇、少しだけ私たちから離れて」

 

《ワールドトラベル058了解》

 

なるべく戦闘に巻き込まないように旅客機を少し遠ざける。

そして敵の詳細を確認しようとした時だった。

 

《はろー!はろー!そこの旅客機!今すぐ俺たちに従いギアダウンしやがれ!》

 

《こっちは5機!そっちの護衛は1機!妙な真似すんなよ!》

 

相手はオープンチャンネルで呼びかけてきた。

確かにレーダーに映る機影は5機だ。

 

「ハル・・・!さすがに5機は・・・」

 

「大丈夫。賭けになるけどいい考えがある」

 

「な、何するの?」

 

「今ケータイに送った情報をテックのギルドに転送して」

 

「え!?こ、これまさか・・・」

 

「そゆこと」

 

「あ、危なくない!?」

 

「大丈夫。旅客機連れてるんだから変な狙いはしないよ」

 

私はマヤにテックのバケモノ砲に支援砲撃を要請する旨を伝えるように言った。

最悪砲弾が外れても敵は驚いて編隊を崩すだろう。

そうすれば勝機はある。

それにRWRに映る敵機のレーダー波はMig-23。

トムキャットのほうが性能は上だ。

ただ、ここから砲撃まで時間を稼ぐ必要がある。

それに砲がこちらを狙いやすいように真っ直ぐ飛ばなければ・・・。

 

「ハル!送った!」

 

「了解・・・さて、時間稼ぎでもしようかな・・・」

 

私は無線周波数をオープンチャンネルに合わせた。

 

「あ、あの・・・私たち初めての仕事で・・・み、見逃して貰えないですか・・・?」

 

私は精一杯の弱い子アピールをしてみる。

後ろで思わずマヤが吹き出しそうになってるのを見てちょっとムカついた。

 

《おいおいなんだよ!ずいぶん可愛い声だな!》

 

《お前ら護衛機を落とすんじゃねーぞ!》

 

「お、お願いします・・・この仕事を終わらせないと生活が・・・」

 

《そうだな・・・じゃあ気が変わった、嬢ちゃんが相手してくれるなら旅客機を逃がしてやるよ》

 

《こちとらご無沙汰だからな!》

 

空賊機は私たちの後方に周り何時でも撃てる位置について余裕をぶっこいていた。

 

「な、なにをしたらいいですか・・・?」

 

《何って・・・ナニだよ》

 

《い、言わせんなよ・・・》

 

なんだよコイツら思春期の子供か。

なんで旅客機襲う度胸があるのにこういうこと言えないんだよ。

 

「それなら後席に座ってる子が経験豊富だから・・・」

 

「うぇ!?」

 

「わ、わたし初めてだから・・・」

 

《な、なんだよ・・・初めて・・・》

 

《ゴクリ・・・》

 

予想外の反応にこっちも驚いていた。

これ・・・砲撃無くても落とせたかも・・・。

 

「ハル、砲撃まで10秒だって!」

 

「良かった、支援要請受理してくれた」

 

「まぁ、こっちは旅客機連れてるからね!」

 

「さて、このダルい演技は終わりだね。マスターアームON」

 

《な、なぁ嬢ちゃん?好みの男性とか・・・》

 

《おい抜け駆けずるいぞ!!》

 

「・・・好みね、こういう演技に引っかからない男の人かな」

 

《え?》

 

私はちょっと悪い笑みを浮かべていることだろう。

・・・相手があまりにマヌケ過ぎてというのもあるが。

 

「知ってる?地獄への直行便は足が早いんだよ。ほんの数十秒稼げるだけでもいいってこと」

 

《な!?お前ら・・・!!》

 

「今すぐ逃げる事をオススメするよ、大間抜け」

 

その直後に空賊機のいる場所で大爆発が起きる。

街から発射された対空用の80cmクラスター砲弾だ。

 

「3機は落ちたか・・・さて、後片付けだね」

 

「やっちまえー!」

 

私は思い切り操縦桿を引き後方にいたMigをやり過ごす。

 

「ベイルアウト出来ればいい女の子と付き合う機会あるかもね」

 

必死に逃げるMigにサイドワインダーのシーカーが重なりロックオンの音が鳴る。

 

「FOX2」

 

ミサイルはフレアを撒き散らして必死に逃げるミグの背中に刺さった。

機体は錐揉みを起こして落ちていくが幸いパイロットは脱出出来たようだ。

 

「あと1機」

 

「Goodkillハル!」

旋回して残りのミグを狙おうとした時だった。

 

《ま、待った待った!!降参!降参だ!!》

 

「なに?ここまで来といて?」

 

《た、頼む!頼むから命だけは!!》

 

「はぁ・・・分かったよ。別にあんた達を殺したいわけじゃないし。さっさとそこのベイルアウトしたマヌケ君を連れて帰ってあげてよ。責任もって」

 

《分かった!分かった!!》

 

「・・・ほら、早く行った行った」

 

ミグは脱出した僚機の場所を確認するように旋回し逃げていった。

 

「撃墜1・・・ふぅ」

 

「お疲れ様!ていうか・・・何あの演技」

 

「上手かったでしょ」

 

「上手かった・・・のかな・・・?」

 

「なんで疑問形なの」

 

「だってあんなハル見た事ないし!っていうか経験豊富ってなに!!」

 

「え、夜な夜な1人で・・・」

 

「し、してない!!・・・たまにしか」

 

「え?何してるの?私が経験豊富って言ったのはいつの間にか夜食1人で作って食べてるから料理の話なんだけど」

 

「・・・ッッッッ!!!!!!!!」

 

声にならない悲鳴を上げるマヤ。

 

「だ、騙したなぁ!?!!?」

 

「騙したも何も勝手に勘違いしたのそっちでしょ」

 

「ハ、ハルだってたまにしてるでしょ!!」

 

「・・・さて、なんの話やら」

 

「今度盗撮してファンクラブの連中に売ってやるからなぁぁ!!!」

 

「そんな事したら・・・分かってるよね?」

 

「報復!!報復攻撃だよ!!」

 

「・・・それ私へのダメージがえげつないくらい高いんだけど・・・」

 

「じゃあ私の撮っていいよ!!」

 

「いやどういう理屈・・・っていうか需要な・・・いや、あるか」

 

「もういっそ一緒にヤる!!」

 

「待ってマヤ今怒りかなんかでおかしくなってる。落ち着いて」

 

「うわぁぁぁ!!ムラムラするぅぅぅ!!!」

 

「なんで!?」

 

なんて戦闘も終わりよく分からない雰囲気で護衛対象の旅客機と合流した。

あと王都までは1時間・・・。

のんびり行こう。



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王都

「さて、報酬も入った事だし観光でもしてく?」

 

「大賛成!!」

 

旅客機護衛の仕事を終え王都の空港で完全にフリーになった。

とは言ってももう夜だが。

それでもせっかくの王都だし観光していこう。

前回来た時は仕事のついでだったしあまり色々見て回る時間も無かった。

 

「それでどこいく?」

 

「せっかくだし王都にしかない美味しいもの!」

 

「言うと思った・・・まぁいいけど」

 

マヤは早速ケータイで情報を探す。

そして早速見つけたようだ。

 

「ここ行こ!」

 

「どこ?」

 

「ピザ!」

 

「いいね、美味しそう」

 

釜焼きの本格的なピザを出すカフェのようだ。

コーヒーも美味しそうだし楽しみだ。

 

「そういえば前に王都に来た時は大変だったよね・・・」

 

「あー・・・そういえばね・・・」

 

飛ばしてきた旅客機は落ちるしせっかく買った銃は山賊のせいで燃えてなくなった。

 

「ねぇ、あの時買った鉄砲って買い直す?」

 

「え?」

 

「ほら、たまにガンナーの仕事もあるし」

 

「んー・・・」

 

私は悩む。

やりたくないが実際たまにガンナーの仕事が回ってくる。

さすがに自宅にあるAK-74NとカスタムしてあるとはいえM4の2つだと厳しいところがある。

拳銃もP226しかない。

 

「ついでに新しいの新調しようかな。新型もありそうだし」

 

「そうだね!」

 

そう話しながらカフェに入る。

私はスタンダードなマルゲリータ。

マヤは生ハムがたっぷり乗ったピザを注文した。

 

「楽しみ!」

 

「うん。写真もすごく美味しそう」

 

「ここね、さっき調べたらレビューが☆5だったの!」

 

「へぇ。それっていいの?」

 

「ちょっと、ハルって戦闘機のこと以外疎くない?」

 

「それはちょっと最近気にしてる」

 

「ほら、もういい年なんだから」

 

「ちょっと。まだ20代前半」

 

「だからだよ!」

 

マヤに色々と流行りやなんやをレクチャーされているとピザが運ばれてきた。

 

「いただきまーす!」

 

「美味しそう」

 

早速食べると酸味の効いたトマトソースとチーズがよく合う。

ピザ生地も香ばしくて美味しい。

マヤも幸せそうな顔をして食べていた。

 

「ん〜っ!」

 

「幸せそうだね」

 

「幸せ〜・・・」

 

作った人もこの顔を見れば・・・と思ったら厨房からチラチラこちらを見ているおじさんが居た。

たまたま厨房から見える席に座ってピザを食べて幸せそうな顔をしているマヤが気になったのだろう。

 

「ほんと、美味しい・・・」

 

美味しいものはすぐ無くなり、あっという間に食べ終えてしまった。

 

「ふぅ、美味しかった」

 

「あと3枚は食べれそうだよ!」

 

「食いしん坊だね・・・帰りに機内で食べればいいんじゃない?」

 

「え、いいの?」

 

「汚さなければ。どうせ帰るの明日だし」

 

「そうする!ていうか明日帰るなら宿で食べようよ!」

 

「私はそんなに食べれないよ」

 

「大丈夫!私が食べる!」

 

「はいはい・・・んで、次は銃?」

 

「うん!ハルが行きたいんでしょ?」

 

「まぁ・・・うん」

 

そういうことで近くの銃砲店に入る。

さすがは王都。

いろいろな銃があった。

私は店員にオススメを聞く。

 

「なにかいい銃はある?その・・・例えばゴツくて正確なのとか」

 

「ゴツくて・・・正確・・・ふむ・・・」

 

初老の店員は顔を少ししかめた後に壁から1つ銃を取る。

 

「んじゃコイツなんかどうだ?SIG MCXだ。」

 

「MCX?」

 

「最近異世界から.300ブラックアウトって弾が伝わってきたの知ってるか?」

 

「ううん。普段は戦闘機乗りだから」

 

「なんだ、戦闘機乗りなのか。まぁいいか。それでこの弾は7.62x39に近い威力を持っててな、しかもサプレッサーとの相性がすごくいいんだ。マガジンもM4に使えるタイプならそれが使える」

 

「へぇ、5.56mmでそんな威力が・・・」

 

「んや、お嬢ちゃん。これは7.62x35mm。5.56mmのバレルで撃とう物ならその綺麗な顔が吹っ飛ぶぞ」

 

「7.62なの?」

 

「口径はな。でもM4タイプのマガジンに30発装填できる。どうだい、威力はAK、消音効果も高い。精度はどうか知らんが、ゴツイし仕事を静かに終わらせれるぞ」

 

「・・・」

 

「今ならサプレッサーとKey-modレールつけて30万ドルでどうだ」

 

「うーん・・・」

 

私はどうしようとマヤを探すと他の店員に捕まっていろいろと話していた。

 

「じゃあ・・・購入で」

 

「お!いい買い物したぞお嬢ちゃん!AP弾150発と300BLKって記入したP-MAG2つ付けてやるよ!」

 

「ありがと」

 

ガンケースに詰めてもらいマヤのところに行く。

 

「あ、ハル!買ったの?」

 

「うん。SIG MCXって銃」

 

「あれ、SIGって事はハルのよく使ってる226と同じ異世界メーカーじゃない?」

 

「あ、確かに」

 

これも何かの縁だ、ハンドガンは変えずに使おう。

 

「マヤは?」

 

「んー・・・私は・・・あ、そうだ!ハルにプレゼント上げるよ!」

 

「え?い、いいよ」

 

「いいのいいの!まだスコープとか買ってないよね?」

 

「うん。まだ」

 

「じゃあ似合うの買ってあげる!店員さーん!」

 

「・・・ありがと」

 

店員を呼びに走るマヤに向かって呟いた。

そして10分ほどで戻ってくる。

 

「これ!」

 

「いいの・・・?」

 

マヤはせっかくだからとSIG製ドットサイトROMEO4HとマグニファイアJULIET4を買ってきてくれた。

サイトもSIG製とはオシャレなものだ。

 

「ありがとう・・・!」

 

「えへへ、ハルが嬉しそうな顔してくれるからそれで満足!」

 

さっそくつけてみたい欲に駆られるがさすがに今日は休もう。

そう思った時だった。

 

「あ!ねぇねぇ!ここだけ行ってから宿に行かない?」

 

「え?」

 

マヤが指さすのはお化け屋敷の広告。

内容はお化け屋敷というが出てくるのは幽霊やアンデッドではなく屋敷内に立てこもった殺人鬼のようだ。

そして、銃火器の使用が出来る。

この殺人鬼は魔法使いが作った泥人形なので何処に弾をぶち込んでも大丈夫なようだ。

さすがに実弾は使えないが、訓練用プラスチック弾が使用出来る。

ちょっと楽しそうだった。

 

「ねぇ!行かない?」

 

「じゃあ、宿に行く前に1回だけ」

 

「やった!」

 

歩くこと20分。

目的の施設につく。

そこは本物の廃墟を使用した施設で私たち以外にも3チームが同時に遊べる。

クリア条件は殺人鬼を排除し持っている鍵を使って脱出する。

失敗条件は殺人鬼にHPをゼロにされたらこちらの負けだ。

HPは腕時計型の端末に表示される。

ただ同時に別のチームも入るので誤射がありえるがそこは自己責任らしい。

誤射自体ではHPは減らない仕様だそうだが・・・。

とにかく誤射で怪我しても施設としては責任をおわないという誓約書を書かされた。

 

「誓約書なんてすごいね・・・」

 

「ここまですると逆に楽しみになってくる」

 

「そだね!」

 

このお化け屋敷、設定はプレーヤーは賞金首の殺人鬼の調査をしていた冒険者でこの屋敷にいるのを突き止めたはいいがトラップにより閉じ込められ、殺人鬼を排除して脱出するしか無くなったということらしい。

 

「マヤ、銃は?」

 

「私はハンドガン!でもほら!ハルとお揃いのメーカーだよ!」

 

「知ってる。ずっとそればっかりだもんね」

 

「だって初めてハルと組んだ時から使ってる銃だもん!」

 

「思い入れのあるってことね」

 

「そういうハルもでしょ!」

 

「まぁね・・・」

 

私もマヤと初めて組んだ時からずっとSIG P226を使っている。

稀に別の銃を使うが結局気づけばこの銃を握っていた。

使いやすいのも理由だが、やはり思い入れがあるのは間違いない。

 

「ハル、これ終わったら帰りにお酒買って帰らない?」

 

「いいね、ちょうど飲みたかった」

 

「じゃあ帰りに買って帰ろ!」

 

なんて話していると私たちの順番になる。

受付で注意事項を聞き弾薬を受け取る。

弾薬は1人120発。

威力は人に当たるとアザと内出血、運が悪いと出血するが貫通するほどの威力はないようだ。

弾は先端が丸いゴムになっていて訓練用のプラスチック弾と聞いていたがプラスチック弾というよりはゴム弾のようなイメージだ。

 

「では、お楽しみください」

 

係にそう言われてドアが開けられる。

中は薄暗く、若干埃っぽい。

雰囲気抜群だ。

 

「マヤ、ライトを任せる」

 

「了解!」

 

ライトを付けようとした時だった。

廊下の奥からガリガリという音が聞こえた。

 

「なに・・・?」

 

「て、照らすよ?」

 

「うん」

 

ライトで前を照らすとそこには溶接用のお面を被り、胸にはプレートキャリアを装着して大きなハンマーを引きずりながら近づく大男がいた。

 

「自分から出てくるなんてね」

 

私はセミオートで顔を狙って撃った。

すると弾は顔面のお面で弾かれる。

 

「うそっ!?」

 

「ご、ゴム弾だから!?」

 

「普通に防御力高いんだと思う!!」

 

プレートキャリアで守られてない腹部を撃つがあまり効果が無さそうだ。

うめき声のような声をあげたあと走り出した。

 

「うわぁぁぁ!?!?」

「ぎゃぁぁぁぁ!!!」

 

私とマヤは叫んで逃げる。

左にあった階段を駆け上がった。

 

「な、なにあれ!?」

 

「やばいでかいこわいぃぃぃ!!」

 

ハンマーを振り回しながら追いかけてくる。

私はワンチャンを狙って足を狙って撃ってみた。

するとさすがに足には効いたのか動きがトロくなる。

 

「逃げるよ!」

 

「あの状況でよく当てれるね!?」

 

「なんか当たった!!」

 

私たちは近くの部屋に逃げ込んで鍵をかけた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

「ぜぇ・・・はぁ・・・やべぇあれ・・・」

 

「作戦を考えないと・・・」

 

恐らく顔面と胸部は弾丸を通さない。

狙えるのは腹部と脚部、腕だ。

さすがに何発も喰らえば倒れるはず・・・。

そう考えていると・・・。

 

『ひぎゃぁぁぁ!?』

 

『うおぉぉぉぉ!?!?』

 

他のプレーヤーの悲鳴と銃声が聞こえてきた。

そしてアナウンスが流れる。

 

《第2チームの方々、HPがゼロになりました。お近くのドアから退出してください》

 

「はや・・・」

 

「て、ていうか相手強くない!?」

 

「そりゃあんなハンマーでぶん殴られたらね・・・」

 

「どうする・・・?」

 

そこで私は1つ思いつく。

階段なら・・・。

 

「階段なら動きが遅くなるし避け辛いはず・・・」

「う、上手くいく?」

 

「やってみないと」

 

「そ、そうだね!」

 

そしてドアを開けて出た時だった。

 

「・・・わお・・・こんちわ」

 

「・・・はろー」

 

目の前に殺人鬼が立っていた。

ハンマーを振りかざしている。

 

「ほわぁぁぁぁぁ!?」

 

「ひやぁぁぁぁぁ!!!!」

 

私は自分でもこんな悲鳴を上げれるのかとびっくりするくらいアホみたいな悲鳴をあげ、マヤは逆に女の子らしい悲鳴を上げていた。

もちろんというか・・・2人とも思い切りハンマーでぶん殴られ死亡判定だ。

ハンマーは柔らかいスポンジでまったく痛くは無かったが死ぬほど怖かった。

 

「ひぐっ・・・ごわがっだよぉぉ・・・」

 

「ゆ、夢にでそう・・・」

 

出口から出て受付で弾薬を返納しながらそう嘆いた。

入って10分でやられるとは・・・。

というかどうやらこの施設、生存率1桁らしい。

オープンしたのは半年前だが脱出できたのは片手で数えれるほどのようだ。

 

「まぁ、楽しかったね」

 

「うぅ〜・・・」

 

「はいはい、泣かないの」

 

マヤの頭を撫でながら帰り支度をする。

あとはお酒を買って帰ろう。

 

「宿の近くの商店でいい?」

 

「どこでもいいよー!」

 

ここから宿までは片道10分。

のんびり歩きながらいろいろと話す。

 

「ねぇハル」

 

「んー?」

 

「ハルってさ、初恋は?」

 

「なに、いきなり」

 

「なんとなく」

 

「そういうのはお酒を飲みながら」

 

「おぉ・・・乗ってくれるなんて珍しい」

 

「今日はマヤが良いものプレゼントしてくれたから。こんな安っぽいお礼で申し訳ないけど」

 

「ううん!こうやって話せるだけでいいよ!」

 

「そっか」

 

そう話しながら歩くこと数分、目的の商店に到着し中に入る。

今回はせっかくなのでワインを買ってみた。

甘めの赤ワインのようだ。

 

「おつまみは?」

 

「チーズとローストビーフとか」

 

「じゃあ私はスナック買うね!」

 

「了解」

 

ワインのボトル1つと好きなおつまみ何個か買って店を出た。

宿は目の前だ。

 

「ふぁ・・・」

 

「眠そうだね、ハル」

 

「そりゃオートパイロット入れてたとはいえ結構な時間飛んでたから・・・ふぁぁ・・・」

 

「・・・お酒をやめて寝る?」

 

「ううん。飲む。それより先にお風呂入ろ」

 

「そうだね!ここのお風呂、各部屋に小さい温泉みたいなの着いてるみたいだし!」

 

「いい宿だね」

 

この宿は依頼を受ける時に航空会社が取ってくれた宿だ。

報酬にこの宿に宿泊できる権利が含まれているので遠慮なく泊まらせてもらおう。

宿に入りチェックインを済ませると部屋に入る。

荷物を置いてさっそくお風呂だ。

 

「わー!温泉だー!」

 

「ほんと、小さいけどしっかり温泉だね」

 

「おっさきー!」

 

マヤは勢いよく湯船に飛び込んだ。

湯船はヒノキで作られていて浴室には木のいい香りが漂っていた。

窓からは空港がよく見える。

飛び立っていく戦闘機や旅客機の灯りが見えた。

 

「マヤ、先に体を洗う」

 

「じゃあ洗いっこしよ!」

 

「いいよ」

 

「じゃあ先に私がハルを洗う!」

 

「変なことしないでよ」

 

「ぬふふ、どうかな?」

 

「やめてよホントに・・・」

 

とりあえずシャワーの前に座る。

マヤは背中から優しく洗ってくれていたが何故かやたらと脇腹をくすぐりたがる。

 

「んっ・・・ちょっと・・・」

 

「んふふ、ここがええんかー?」

 

・・・あとで覚えてろ

 

「んぁっ・・・」

 

「あ!今の声色っぽい!」

 

「やめてって・・・」

 

「いいじゃん女同士なんだし!ほら、前!」

 

「前!?」

 

そう言って前に回り込んできた。

そのまま押し倒された。

 

「ちょっと、危ないよ・・・!」

 

「だってこうでもしないと暴れるじゃん」

 

「そりゃ暴れるよ・・・」

 

「じゃあ洗っちゃうよ!」

 

「や、やめ・・・」

 

その後10分近く洗ってんのか洗ってないのかとりあえず触られたり揉まれたり・・・

 

「はぁ・・・はぁ・・・ゆ、許さない・・・」

 

「んふふ、ごちそうさま」

 

「こ、今度はこっちの番だから!!」

 

「うひゃあっ!?」

 

「はぁ・・・はぁ・・・覚悟しなさい・・・」

 

「ハ、ハル?い、いきなり前から洗うタイプ?」

 

「さぁ?どこからでしょう」

 

私は思い切り脇から洗ってやる。

 

「あ、あははは!!や、やめ!そこ弱いからぁ!!」

 

「ふーん、弱いんだ」

 

「ひぃぃぃぃ!!!」

 

そのまま20分近くやられた事をほぼ倍にして返してやった。

 

「はぁ・・・はぁ・・・うぁ・・・」

 

「これでおあいこ」

 

「うぅー・・・大事なものを失ったよ・・・」

 

「それはこっちもだよ・・・」

 

2人して遊んでたせいで体が冷えてしまった。

私たちは湯船に入る。

 

「あったかー・・・」

 

「きもちいい・・・」

 

「明日は何時に帰るの?」

 

「お昼すぎ。じゃないと疲れも取れないしお酒も抜けないでしょ」

 

「そうだね!」

 

そのまま10分くらいゆっくりと温まりお風呂から出る。

ここからは楽しいお酒タイムだ。

 

「じゃ、かんぱーい!」

 

「かんぱい」

 

ワインを1口飲む。

 

「んー!おいしー!」

 

「うん、飲みやすい」

 

「だね!」

 

思い出話や面白かった話で盛り上がっているとマヤが思い出したように私の初恋の話をしてきた。

 

「そうだ、ハルの初恋の話聞いてなかった」

 

「・・・忘れてて欲しかった」

 

「でもほら!飲んでる時に話してあげるって言ってたじゃん!」

 

「はぁ・・・あんまりいい話じゃないよ?」

 

「いいの!ハルのそういう話聞いてみたい!縁がなさそうだし!」

 

「一言余計だよ・・・」

 

とはいっても・・・初恋どころか恋らしい経験がない・・・。

 

「んー・・・あ、そうだ」

 

「お!思い出した?」

 

「うん、アレは私がたぶん12歳くらいの時だと思うんだけど・・・」

 

それは私がやる事も無く、暇だったので拳銃片手に行くなと言われていた森の中に探検に行った時の話だ。

私は案の定森の中で迷い、帰り道を探していた時に狼と遭遇、銃で追い返そうにも怖くなり撃てなかった。

その時偶然近くを通りかかったガンナーが助けてくれた。

純粋な私はその時助けてくれた人を見てちょっとキュンとした・・・というくらいだ。

 

「・・・それだけ?」

 

「それだけ」

 

「も、もっとこう何か幼なじみがーとか無いの!?」

 

「ない。ていうか私の生まれた村に同い年の男の子居なかった」

 

「ほんと・・・村生まれってそういうの無いからつまんないよねー・・・」

 

「都会生まれだってきっとそんなに変わんないよ。ところでマヤは?」

 

「え?」

 

「初恋の話。ていうか前に何かいい人居るって言ってたじゃん」

 

「う・・・覚えてた・・・?」

 

「まぁね」

 

いつだったかに同じ村出身の戦車乗りの男の人に気があるとか言っていたのを思い出す。

 

「・・・振られた」

 

「え!?」

 

「なんか・・・パーティの通信士の子といい関係みたい」

 

マヤはちょっと悲しそうな顔だった。

私は気まずい気持ちになる。

 

「ごめん・・・知らなくて」

 

「ううん!いいのいいの!はー・・・まったく私の魅力に気づかずにほかの女に行くなんてね!」

 

明るく言うがどこか悲しそうだった。

 

「マヤ」

 

「ん?・・・んーっ!?」

 

私はマヤを抱きしめた。

 

「ど、どうしたの!?」

 

「なんとなく。でも辛かったよね」

 

「・・・うん」

 

「じゃあほら、こういう時は泣いたっていいんだよ」

 

「うぅ・・・ハルの優しさが身に染みるよぉ・・・」

 

「今日は好きなだけこうしてあげる」

 

「じゃあ・・・寝る時にしてほしい・・・」

 

「わかった、これだけ飲んだら片付けて寝よ」

 

「うん!」

 

ワインを飲み干し、食べかけのおつまみを食べきって片付けた。

歯を磨いたらそのままベッドに入る。

 

「ほら、こっちおいで」

 

「うぅー・・・ママー・・・」

 

マヤは私にガッシリと抱きつき少し震えていた。

初恋で今までずっと思い続けて振られたんだ。

そのショックはきっと大きかっただろう。

私もマヤのことをしっかりと抱きしめているとお互いの体温で暖かくなったのもあり寝てしまった。

 

「ん・・・」

 

差し込む朝日で目が覚める。

 

「くぁ・・・」

 

マヤはいつの間にか離れて寝ていた。

 

「ふふ・・・気持ちよさそうな顔してる」

 

抱きついていて落ち着いたのか気持ちよさそうな顔で寝ているマヤのほっぺたをつついてみた。

 

「うにゅ・・・」

 

「ふふっ」

 

しっかり寝れて疲れも消えてお酒も抜けた。

あとは安全に帰れるように気をつけよう。

私はベッドから起き上がって洗面所に向かった。



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スクランブル

ある日の昼下がり私たちは翼竜の撃退依頼を受けて空港をタキシングしていた。

 

いつもの食費稼ぎ程度の簡単な仕事。

 

そのはずだった。

 

 

 

「なんか、騒がしくない?」

 

 

 

「確かに……って、なにあの機体」

 

 

 

左の誘導路から許可もでてないのに割り込むようにF-2が高速で突っ込んできた。

 

私はぶつからないようにブレーキを踏んで無線で警告する。

 

 

 

「ちょっと、許可も出てないのに危ないよ」

 

 

 

しかし応答が無かった。

 

 

 

「感じ悪っ!!」

 

 

 

「全くだよ」

 

 

 

マナーのなってない冒険者も居たもんだ……。

 

F-2はそのまま滑走路に進入して急いで離陸していく。

 

まるで何かから逃げるように。

 

 

 

「あらら、上がってった」

 

 

 

「ありゃ帰ってきたら罰金ものだね……」

 

 

 

「私達も割り込まれた慰謝料くらい取っとく?」

 

 

 

「大賛成!」

 

 

 

「ふふ、怒られて罰金取られて慰謝料も払ったらすっからかんになっちゃうね」

 

 

 

なんて話をしながらタキシングしていく。

 

滑走路まで後ちょっとのところだ。

 

すると管制塔から無線が入る。

 

 

 

《エンジェル0-1、こちら管制塔。緊急依頼です》

 

 

 

「緊急?」

 

 

 

《さきほど、街で強盗を働いた犯人が冒険者のF-2を強奪し離陸しました。直ちに追跡してください》

 

 

 

「さっきのF-2?」

 

 

 

《それです。離陸後はこちらで誘導します。現在受けている依頼はこちらでキャンセル申請とキャンセル料を支払います。強盗犯を最優先で追跡してください》

 

 

 

「まぁ、キャンセル料まで支払ってくれるなら……。0-1了解」

 

 

 

《滑走路は空いています、直ちに離陸してください》

 

 

 

「了解」

 

 

 

《対象機は離陸の仕方から見て燃料が十分に搭載されていないものと推測します。恐らくアフターバーナーを使用しての超音速飛行は不可能と思われます》

 

 

 

「了解、武装は?」

 

 

 

《翼端にAAM-5が2発、機関砲600発です》

 

 

 

「了解。ちなみに、追いついたらどうするの?」

 

 

 

《警告射撃をして空港に引き返すように指示してください。従わない場合は撃墜を許可します》

 

 

 

「了解」

 

 

 

「盗まれた冒険者は可哀想だねぇ……」

 

 

 

「まったくだね」

 

 

 

「もしハルのトムキャットだったらどうする?」

 

 

 

「燃料の入ったドラム缶にぶち込んで火をつける」

 

 

 

「残酷すぎる……」

 

 

 

なんて話してる間に滑走路だ。

 

私はスロットルを全開にする。

 

 

 

「さて、行きますか」

 

 

 

《ターゲットは北に向かって飛行中、方位360。速度400、20マイル、高度800》

 

 

 

「了解」

 

 

 

私たちのF-14Dなら簡単に追いつけるしレーダーも強力だ。

 

これなら逃げられても簡単に見つけられる。

 

 

 

「エンジェル0-1、エアボーン」

 

 

 

《目標は低空を飛行しています、翼竜や鳥との衝突に注意してください》

 

 

 

「了解」

 

 

 

「はい、みーっけ」

 

 

 

「早いね」

 

 

 

「ふふん!トムキャットのレーダー舐めたらアカンぜよ!」

 

 

 

「知ってる。目標はどう?」

 

 

 

「変わんないかなぁ、高度500まで下がってる以外は」

 

 

 

「レーダー探知から逃げるつもりかな」

 

 

 

「多分ね!どうする?ロックオンしてビビらす?」

 

 

 

「あり。やってみよ」

 

 

 

「おっけー!STTロック!」

 

 

 

これで目標のRWRは警報を鳴らすはずだ。

 

……RWRの電源が入っていればだが。

 

 

 

「回避機動は?」

 

 

 

「うーん……それがまったくなんだよねー……」

 

 

 

「燃料に余裕がないから動けない……のかな」

 

 

 

「どうだろ……もしかしてRWRの電源入れてないとか」

 

 

 

「そんなことある?」

 

 

 

「でもほら、強盗犯なんでしょ?急いでて入れ忘れてるとか」

 

 

 

「それは有り得るかも……」

 

 

 

それよりも無線機の電源さえ入っていない可能性もある。

 

とにかくエンジンだけ始動させて飛び立った可能性がある。

 

 

 

「とりあえず近づいて警告射撃を……っと、見つけた」

 

 

 

相手は速度400、こっちはマッハ1で近づいていた。

 

すぐに目標を視認した。

 

 

 

「管制塔、こちらエンジェル0-1。タリホー」

 

 

 

《了解、接近し警告射撃を実施してください》

 

 

 

「0-1了解」

 

 

 

回避する気配のないF-2に後方から接近する。

 

またオープンチャンネルで呼びかけた。

 

 

 

「そこのF-2。もう終わりだよ。指示に従って反転しなさい」

 

 

 

「撃ち落とされたくなければね!」

 

 

 

反応を見るがまったく動く気配がない。

 

さっきからずっとロックオンしているのでRWRが警報を鳴らし続けているはずだが……。

 

 

 

「まったく……弾薬費払ってよ。高いんだから」

 

 

 

私は斜め後ろから警告射撃をした。

 

曳光弾がコックピットから見えたはずだ。

 

 

 

「ほら、もう終わりなんだから観念してとっとと帰るよ」

 

 

 

そう無線で言った時F-2は突然バレルロールをして急減速しようとした。

 

完全に後ろを取る気だ。

 

 

 

「やる気なの!?」

 

 

 

「相手がその気ならこっちもやるまでだよ!!」

 

 

 

「あーもう分かったよ!管制塔!こちらエンジェル0-1!対象機に明らかな攻撃の意志を確認!反撃します!」

 

 

 

《こちら管制塔、了解》

 

 

 

F-2をギリギリ追い抜きそうなところでこっちも減速しオーバーシュートだけは避けれた。

 

だがドッグファイトになってしまった。

 

こっちはAIM-9Lが2発とAIM-7MHが4発。

 

対して向こうはAIM-9Xと同等かそれ以上の性能を持った異世界の日本が作った04式空対空誘導弾、AAM-5。

 

おまけに機動性は向こうの方が高い。

 

 

 

「こうなったら燃料に余裕のあるこっちが引きずり回してガス切れにしてやる……!」

 

 

 

「いい案だね!!採用だよ!」

 

 

 

敵機は十分な燃料がない。

 

それならなるべく相手のエネルギーを削ぐ動きをして燃料の消費を増やさせれば勝機はある。

 

あとは動きが鈍くなったところを撃つかもう一度降伏勧告すればいい。

 

 

 

「さぁ、追いかけっこだよ!」

 

 

 

急旋回するF-2の動きに合わせようと操縦桿を動かす。

 

しかしやはり軽量かつ機動性の高いF-2はこちらよりも動きが早い。

 

おまけに燃料が少ないためにさらに軽くなっているだろう。

 

 

 

「ハル!このままだとミサイルが来るよ!」

 

 

 

「OK!後ろしっかり見ててよ!」

 

 

 

私は赤外線ミサイルに備えてフレアをばら撒く。

 

赤外線画像誘導のAAM-5にどこまで有効か分からないが……。

 

 

 

「撃ってこない……?」

 

 

 

敵機は明らかにこちらを攻撃できる位置に居るのに撃ってくる気配がない。

 

機関砲はおろかミサイルすら撃つ気配がなかった。

 

 

 

「もしかして操作が分かってない……」

 

 

 

「なんか閃いたの!?」

 

 

 

「あのF-2、操作が分かってないのかも」

 

 

 

私は回避機動を取りながらそう言った。

 

相手はこっちを攻撃できる位置に居ながら撃ってこない。

 

恐らく本当に飛ばせるだけの技量しかないのだろう。

 

そして敵の後ろを取ってビビらせて逃げさせる作戦かもしれない。

 

 

 

「マヤ、どっかに捕まってて」

 

 

 

「え?!」

 

 

 

「急減速してやり過ごすよ!」

 

 

 

敵が真後ろに付き、少し接近したところでエアブレーキを開いて操縦桿を思い切り引く。

 

その時にラダーを踏んで機体を回転させた。

 

バレルロールのような形で敵機をやり過ごして背後を取り返す。

 

敵は慌ててアフターバーナーを吹かした。

 

 

 

「そんなに吹かしたら……燃料持たないよ!」

 

 

 

私はサイドワインダーを選択してロックオンする。

 

撃つ前にもう一度だけ警告した。

 

 

 

「そこのF-2、もう終わりだよ。撃ち落とされたくなかったら抵抗をやめなさい」

 

 

 

警告して返事を待つ。

 

だが待っても返事は無かった。

 

それどころかさらに逃げようと高機動を繰り返した。

 

 

 

「はぁ……気が乗らないけど……FOX2!」

 

 

 

至近距離でAIM-9Lを発射する。

 

敵は回避する間もなくミサイルはエンジンに突き刺さった。

 

機体後部が激しく破損し錐揉みを起こして墜落していく。

 

幸い、強盗犯は脱出方法は分かるらしくベイルアウトしていた。

 

但しここは街からかなり離れた草原。

 

魔獣が沢山いる。

 

早く救助のヘリが来ないと魔獣に食べられてしまう。

 

 

 

「テキサスタワー、こちらエンジェル0-1。対象機を撃墜、パイロットはベイルアウト」

 

 

 

《こちら管制塔、回収のヘリがすでにそちらに向かっています。到着まで10分》

 

 

 

「了解、仕事の早いことで。」

 

 

 

《回収機の到着及び、逃走犯の収容をもって依頼完了となります。現在位置で警戒待機してください》

 

 

 

「0-1了解」

 

 

 

「はぁー……ひと段落だね」

 

 

 

「うん。でも見た感じ降りた時か私が落とした時に怪我したみたい」

 

 

 

「え?あ、ほんとだ。うずくまってる」

 

 

 

「……重傷じゃなきゃいいけど」

 

 

 

私はゆっくりと左旋回しながら逃走犯の様子を見守る。

 

手が動いているように見えるので死んではいなさそうだが……。

 

 

 

「そういえば落としちゃったけどこのF-2の持ち主にはどういうの?」

 

 

 

「え?」

 

 

 

「ほら、撃墜しちゃったわけだし」

 

 

 

「あ……」

 

 

 

確かに持ち主にはなんて言おう……。

 

盗まれたことによる補助金はギルド側から出るだろう。

 

ただこの機体がもし私のトムキャットのような存在だったら……。

 

そう思うと申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

 

 

 

「まぁ……頑張ってみる」

 

 

 

なんて話してるウチにヘリは到着して逃走犯を回収した。

 

逃走犯は着地に失敗して足を骨折した以外は命に別状はなさそうだ。

 

 

 

「はぁ……終わり終わり。帰ろ」

 

 

 

「帰ろー!ちょうどお腹減った!」

 

 

 

「お昼食べたでしょ」

 

 

 

「おやつ!!」

 

 

 

「まぁ……私もちょっと小腹がすいた」

 

 

 

「じゃあ帰ったらカフェでも行って何か食べよ!」

 

 

 

「そうだね」

 

 

 

進路をテキサスに向けて飛行する。

 

食費稼ぎの簡単な仕事がこんな事になるなんて……。

 

報酬はもちろんしようとしていた仕事の3倍以上は出て燃料弾薬費もギルドが持ってくれた。

 

普通に仕事をすれば燃料弾薬費は自費だから運がいいのか悪いのか……。

 

なんて考えながら空港に着陸した。

 

格納庫に機体を仕舞い戦闘機から降りるとおじさんが駆け寄ってきた。

 

 

 

「嬢ちゃん!大変だったの!」

 

 

 

「うん、まさかの事態だったよ」

 

 

 

「まったく迷惑な事してくれるもんじゃい……あ、それはそうとお客さんじゃぞ」

 

 

 

「お客さん?」

 

 

 

「言い難いんじゃが……あのF-2の持ち主じゃ」

 

 

 

「うげっ……」

 

 

 

「あ、あはは……私も行く?」

 

 

 

「わ、私ひとりで大丈夫……マヤは帰ってて」

 

 

 

おじさんは私たちの格納庫にある休憩室に案内してくれた。

 

そこには20代そこそこの若い男性がいた。

 

今にも泣きそうな顔で。

 

 

 

「あの……」

 

「あの……」

 

 

 

声が被る。

 

 

 

「あ、えと、そちらがお先に……」

 

 

 

私は噛み噛みでそう言った。

 

 

 

「あ、いえ……あの……僕のF-2は……」

 

 

 

「えと……あの……」

 

 

 

すごく言い辛い。

 

ちくしょうあの強盗犯め。

 

アイツのせいでなんで私がこんな目に会わなきゃならないんだ。

 

 

 

「ごめんなさい!」

 

 

 

私は謝るしかなかった。

 

 

 

「明らかにこっちも撃とうとしてきたから……反撃するしかなかった」

 

 

 

「いえ、いいんです……しかたないですよね」

 

 

 

「本当にごめんなさい……」

 

 

 

そのあと1分くらい無言でいると見かねたおじさんがカタログを持って来た。

 

 

 

「まぁなんじゃ、災難な話じゃが新しい機体のための補助金もでるんじゃろ?」

 

 

 

そうだ、冒険者なら撃墜された時などにギルド側から一定額の補助金が出る。

 

特にこう言った機体を盗まれ、やむを得ず撃墜措置になった時は乗っていた機体を買い直せる額が支給される。

 

申請はちょっと面倒ではあるが……。

 

 

 

「そ、そうですよね!」

 

 

 

「それになんじゃ!ワシの所なら安く……」

 

 

 

「ちょっと、商売しない」

 

 

 

「なんじゃ!ちょっとくらい良いじゃろうが!」

 

 

 

「まぁおじさんの売ってくれる機体なら安心だけど……そういうの良くない」

 

 

 

「しょぼーん……」

 

 

 

なんてやり取りしてると相手側も少し気が紛れたのか笑顔になっていた。

 

そしてギルドに補償金の申請に向かっていった。

 

 

 

「それにしても、嬢ちゃんも災難じゃの」

 

 

 

「なにが?」

 

 

 

「出かけようとしたら必ず何かあるもんな」

 

 

 

「……気の所為だよ」

 

 

 

だと思いたいが本当に大抵何かあるのでもういっその事この街から引っ越してやろうかと思っていた。

 

 

 

「ま、無事に仕事も終わって撃墜数1増えたし良しとするかの!」

 

 

 

「ぜんっぜん良しじゃないけどね……」

 

 

 

モヤモヤしたまま休憩室を出るとマヤが待っていてくれた。

 

 

 

「あれ、帰ってなかったの?」

 

 

 

「んー……まぁ、気分でね!」

 

 

 

「……ありがと」

 

 

 

「いえいえ!」

 

 

 

マヤはニコッと笑って出口の方に歩き出した。

 

 

 

「さ、帰ろ帰ろ!」

 

 

 

「うん。今日は私の奢りで何か食べよ」

 

 

 

「え!?いいの!?」

 

 

 

「待っててくれたお礼。それとさっきの愚痴でも聞いて」

 

 

 

「はーい!任されよ!」

 

 

 

そう言って少し空が少し赤くなってきた中歩いて近くのステーキ屋で早めの夕食にした。

 

まったく災難な1日だ……



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狙撃のお仕事

ある日の夕方。

私とエルは山の中に居た。

 

「ねぇ……復帰1発目からこんなことしなくていいんじゃない……?」

 

「ハルが払ってくれた治療費くらい稼がないと」

 

「じゃあ私を連れていかないでくれますかねぇ……?」

 

「相棒でしょ」

 

「そういう問題じゃない」

 

エルがどうしてもかかった治療費を払うと稼いで返すと言い出し、仕事を持ってきた。

……持ってきたはいいが何故か私も一緒に行くことになってしまった。

まあ……行く前にまだケガがとか心配だからとか散々言ってたらじゃあ一緒にという話になったのだが……。

 

「さてと……この辺で休憩だね」

 

「この辺でっていうけど……どこまで行くの……?」

 

「んー……あと1日歩いてこの位置まで」

 

「あと1日ぃ!?」

 

エルはそう言って地図を広げた。

私はまさかの単位に驚いて声を上げてしまう。

 

「だって仕事は狙撃だよ?」

 

「いや……そうだけど……そうなんだけど……」

 

私は戦闘機のパイロットでガンナーではない。

さすがに何日も山はキツい……。

 

「ハルだってベイルアウトしたらこんな場所で過ごすことになると思うよ」

 

「何回か経験あるからこそ嫌なんだよ……」

 

とはいえ今回は撃墜された訳でもないしターゲットはアンデッド系のモンスター。

それを召喚して自らの仲間としてこの辺で悪事を働いてるネクロマンサーの排除だ。

このネクロマンサーも元は人だが何百年も前の人物で今は骨だけらしい。

だがその状態でも魔法の力で生きているらしい。

正直、何百年も前の人物なんてそうそう居ないため排除するのも惜しいが悪事ばかり働いているのでさっさと頭に弾丸ぶち込んで成仏させてしまえという依頼だった。

エルはその為に今回私が昔買ったTAC-338を持ってきた。

弾薬は338ラプアマグナムの死霊用の弾薬だ。

祈祷師が何ヶ月も祈りを捧げ、魔法使いが死霊系魔獣に効く魔法を掛けた特殊弾だ。

ちなみに魔法がかかっている以外は通常弾の為、死霊以外にも効果はある。

ただしアンデッド系モンスターの場合はこの弾丸が着弾すると二度と復活できないらしい。

 

「とりあえずここまで行って狙撃出来るタイミングを探す」

 

「でもだいぶ前目標から遠くない?」

 

「1kmは離れてないと感ずかれるかも」

 

「でも1キロの狙撃は……と思ったけどエルなら出来るか」

 

「1.3kmまでなら確殺」

 

「頼もしいね……」

 

「ところでハルのその銃は初めて見る」

 

「これ?Sig MCX」

 

「Sig?これと同じメーカー?」

 

そう言ってエルはP226を出す。

 

「そう。そのメーカー。私のお気に入りの異世界メーカーかな」

 

「ふーん……でもいいね、短くてサプレッサー付きだし。弾は5.56?」

 

「ううん、弾薬は300ブラックアウトってやつ」

 

「300ってことは……7.62mmくらいのやつなの?見た目5.56だけど……」

 

「M4のマガジンで使える弾みたい。結構強力だし魔獣相手には強いんじゃないかな」

 

そう言って私はエルに新品のMCXを見せた。

 

「ところで……あと1日だよね……」

 

「まぁ1日っていっても休憩とか含めたらの話。今日はもうここで終わる」

 

「良かったぁ……」

 

「ハルが弱音吐くの珍しいね」

 

「そりゃ半日こんなところ歩いてたらね……はぁ……」

 

私はプレートキャリアを脱ぐ。

上着の胸付近は汗でびっしょりだ。

 

「蒸れちゃった……臭くない?」

 

「全然。むしろいい匂い」

 

「……臭いって言われるのも嫌だけどいい匂いって言われるのもなんか……」

 

「珍しく顔が真っ赤」

 

「やかましい」

 

なんて話しながら夕飯の準備をする。

火を起こしてまるでキャンプだ。

 

「はー……火って落ち着くねー……」

 

「うん。ほんとだね」

 

「エルは大丈夫なの?」

 

「え?」

 

「動物は火が苦手」

 

「私を普通の動物と一緒にしないでよ」

 

「ふふ、だよね」

 

私たちは持ってきていた鹿肉を焼いて軽く塩コショウで食べる。

シンプルだが焚き火で焼いたからか普通に焼くより美味しかった。

食べ終わるとエルは少し離れると言ってどこかに行った。

私はトイレだろうと思い少し横になった。

 

「はぁ……疲れた」

 

装備だけでも15kgを超える。

そこにリュックの中身も合わせて25kgはある。

 

「それにしても……よくこんなに荷物持てるようになったな」

 

戦闘機を操縦するためには体力が必要だがそのおかげでこれくらい余裕になったのかもしれない。

 

「ただいま」

 

「おかえり。トイレ?」

 

「ううん。地雷埋めてきた」

 

「あ……ごめんね。聞いちゃって」

 

「ちょっと!?違うからね!?」

 

「え……地雷ってそう言う……」

 

「違う!!!」

 

なんて冗談を言い合いながら夕飯を食べて焚き火で温まる。

 

「ふぁ……」

 

「寝てていいよ。ハルには無理に付き合わせてるし」

 

「ん……じゃあお言葉に甘えて……」

 

そう言って私は寝袋に入る。

1日歩き通した疲れですぐに寝てしまった。

 

「……起きて……ハル」

 

「ん……」

 

「……何かいる」

 

エルに揺さぶられて起きる。

エルは拳銃を手に周りを警戒していた。

 

「どうしたの……?」

 

「変な臭いと足音がした。アンデッド系のモンスターかも」

 

「分かった」

 

私も起きて近くにあったMCXを手に取る。

そしてなるべく音を立てないようにチャージングハンドルを引いて初弾が入っているか確認した。

 

「……最低でも音は2つ……」

 

エルは目を閉じて音に集中する。

私はその間に寝袋から出て周囲を警戒した。

 

「……腐ったような臭い……あと呻き声……」

 

「……それ完全にゾンビの特徴だよ」

 

「はぁー……だよね。臭いったらありゃしない」

 

「う……なんか私も今気づいたかも……」

 

鼻を突くような悪臭が漂ってきた。

肉が腐った臭い。

ゾンビだ。

 

「どうする?」

 

「……倒して逃げるか……そのまま逃げるか……」

 

「でもこの臭いがこっちまで来るってことは近寄ってきてるんじゃ……」

 

「だよね……」

 

私はなるべく口で息をしながら銃を構える。

すると森の奥に動く影が見えた。

 

「エル」

 

「見えてる」

 

エルはいつの間にかライフルに持ち替えていた。

そしてすぐに発砲する。

 

「ダウン」

 

「ナイスキル」

 

「どうする?」

 

「なにが?」

 

「アンデッドなら何年も前の貴重品とか持ってるかも」

 

「……この臭いの中行くの?」

 

正直、あのゾンビが何万ドルもする貴重品を持っていたとしても近寄りたくない。

バチクソ臭い。

あと汚い。

 

「冗談だよ冗談。私だってこの臭いの相手に近寄りたくない」

 

「じゃあ早く行こ」

 

一刻も早くこの場から離れたかった。

 

「……ねぇ、臭いついてないよね」

 

「んー……」

 

宿営地を速攻で片付けて歩き出して数分。

なんだか体が臭い気がしてならない。

 

「……ハルってほんといい匂い」

 

「……そういう分析しないで」

 

「臭くないよって言っただけなのに」

 

「じゃあ臭くないでいいよ!」

 

「恥ずかしがり屋め」

 

「やかましい」

 

なんて話しながら山道を歩く。

するとエルは地図を見ながら立ち止まった。

 

「ねぇ、いいニュースと悪いニュースどっちから聞きたい?」

 

「……いいニュースからで」

 

「目的地はここから直線で500mないくらい」

 

「……ねぇ……悪いニュースって……」

 

私たちの目の前には50mはある高い崖のような山があった。

幸いにも傾斜が急なだけで木も生えているし登るには登れそうだが……

 

「この山を登れば500m。迂回したらあと3km」

 

「……」

 

……50m我慢すれば終わりなのと、あと3kmアップダウンのある山の中を歩き続ける……

 

「どうする?」

 

「……エルに任せる」

 

「じゃ、行こっか」

 

エルはそのまま山に向かった。

……分かってたけど……。

 

「ハル、大丈夫だよ。いい感じの木も生えてる」

 

「はぁ……はぁ……そういう……問題じゃ……ない……」

 

登り始めて2分。

すでにキツい。

足は滑るし体は重いし……。

そして下を見て絶望する。

まだ5mくらいしか登ってない。

 

「迂回すれば良かった……ぜぇ……はぁ……」

 

「ふぅ……なんか懐かしいな」

 

「私も……獣人なら……行けたかな……はぁ……はぁ……」

 

「んー……私は狩りとかするときにこういう崖登ったりしてたからね。慣れっこ慣れっこ」

 

「私は……慣れて……ない……!!」

 

文句を言いながら登ること20分。

最後の10mくらいは半分キレながら登っていた。

 

「ぜぇ……ぜぇ……」

 

全身汗だくだ。

 

「あ」

 

「ぜぇ……はぁ……なに……」

 

「第2ラウンド」

 

私はエルが指さす方向を見て泣きそうになった。

20mくらいのさっきよりは傾斜がマシな崖があった。

 

「もうやだぁ……!!」

 

私は恐らく軽く泣いていただろう。

何が悲しくてこんな特殊部隊みたいなことをしなければならないのか……。

 

「大丈夫、登りきったらロープ垂らして上げるからそれを掴んで上がってきて」

 

「キツくない……?」

 

「さっきよりはマシ」

 

さっきがキツすぎたのでもうどのレベルか全く分からない。

でも登るしかない。

だってここ降りる方がキツい。

エルは私が休憩してる間にひょいひょいと登りロープを垂らしてきた。

 

「はぁ……がんばろ……」

 

私はロープを掴む。

たしかにさっきより楽だが……キツイものはキツい。

 

「はぁ……はぁ……」

 

10分くらいで何とか登りきった。

 

「お疲れ様」

 

「疲れた……」

 

「あとちょっと。がんばろ」

 

「遠回り選んどけば良かったよ……」

 

私は嘆きながら歩く。

しかし残りはほとんど平坦な道だったのでそこまで疲れずに済んだ。

目的地に着くとエルは双眼鏡を取り出す。

 

「さてと……」

 

「目標は……」

 

私はスマホでターゲットの画像を検索する。

目標はまぁ予想通りの格好だった。

真っ黒いローブに水晶の着いた杖、そして全身が骨だ。

なんでこう、悪い魔法使いはこんな格好ばかりなのだろうか……。

 

「ハル、居たかも」

 

「はやっ。どこ?」

 

「牧草が置いてある小屋から2時方向20m」

 

「んーと……」

 

その方向を見ると確かに黒い服を着た何かが動いていた。

しかしこれだけで狙撃は出来ない。

 

「あれはターゲット?」

 

「恐らくね。これだけの情報じゃ撃てないけど」

 

「もうすこし観察かな……」

 

そして動きを見ること数分、黒服の何かは立ち上がった。

 

「……確認、ターゲット」

 

「撃てる?」

 

「動きが止まったら撃つ」

 

「りょーかい」

 

そして呼吸を落ち着けていた時だった。

 

「……ん?」

 

エルがなにかに気づく。

 

「こっちを見て……」

 

その時だった。

急に体が浮くような感覚がする。

 

「ッ!!!ハル!!」

 

「え……?」

 

目の前が眩しく光を目を閉じた。

そして次にを開けると小屋の中にいた。

 

「ここどこ……って、え!?」

 

何故か両手は頭の上で縛られて天井から吊るされていた。

 

「やばっ……!!」

 

逃げないとと暴れてみるが全くダメだった。

すると小屋の扉が開く。

 

「クソっ……!!」

 

よく見たら足まで拘束されている。

これじゃ逃げられない。

そして扉からはあのターゲットのネクロマンサーが入ってきた。

 

「……離してよ」

 

ダメ元で言ってみるがネクロマンサーはゆっくり歩いて私の前に来た。

完全に骨なのに動いているのが怖すぎる。

するとネクロマンサーはカタカタという音を立てながら口を動かした。

何かを喋っているつもりらしい。

 

「……?」

 

私が首を傾げるとネクロマンサーは何かを閃いたような素振りを見せて紙とペンを取ってきた。

……筆談か……

 

『喋るの久々で声出ないの忘れてた』

 

「でしょうね……」

 

『それよりも悪い事をしに来た娘にはお仕置をするべきだ』

 

「…………」

 

そう伝えるとネクロマンサーはどこかに行く。

まずい……さすがに拷問とかされたら……

 

「エル……はやく……」

 

私は祈るように呟く。

だが先に来たのはネクロマンサーだ。

……というか何でお鍋持ってきた……?

 

「あの……なにそれ……」

 

私は恐る恐る聞いてみる

 

『おでん』

 

「おでん!?」

 

どういうこと!?

するとネクロマンサーはその鍋の中から湯気の立つタマゴを取り出してきた。

すごく美味しそうな匂いがする。

 

『あーん』

 

「ちょっとまっ……絶対熱いやつ……!!」

 

『おいしいよ』

 

「あっつぁぁぁぁ!!!」

 

熱々のお出汁の滴るタマゴを口の中に放り込まれる。

しかもコイツ骨だから熱さを感じないのか素手でねじ込んでくるので吐き出せない。

 

「はふぅ……!」

 

私は、はふはふ言いながら食べるしか無かった。

ていうか普通に美味しいのがめちゃくちゃ腹立つ。

 

『お大根もどうぞ』

 

「いりません!!」

 

私は拒否したがまたねじ込んできた。

 

「あっちぃぃぃ!!!」

 

『おいしい?』

 

美味しいじゃねえ。

熱くて味もわからんわ。

私は心の中でそうツッコんだ。

 

「あぅ……美味しいのが腹立つよぉ……」

 

そこから20分ほどかけて鍋の中にあった熱々おでんを全部食べされられた。

お腹は空いてたのでちょうど満腹になったのは良かったが何だこの謎の状況は。

 

「エルぅ……はやくぅ……」

 

私は涙目で呟いた。

するとネクロマンサーは次のものを持ってきた。

謎のイボイボの板だ。

 

「なにそのイボイボしたやつ!」

 

『足ツボマッサージ』

 

「や、やめ……なにするの!」

 

そのイボイボの板を私の足の下に置いた。

その瞬間とんでもない痛みが足裏から来る。

 

「いったぁぁぁぁ!!」

 

『きもちいい?』

 

「いいわけないでしょ馬鹿なの!?」

 

私は全力で腕に力を込めて体を持ち上げる。

すこしは痛みがマシになった。

すると……

 

「あはははは!!!や、やめてぇぇ!!」

 

ネクロマンサーは脇をくすぐってきた。

私は堪らず体を下ろす。

 

「いだだだだだだ!!!!!!」

 

『綺麗になれるよ』

 

「ほんと後で殺してやるから覚えてろ!!」

 

『もう死んでる』

 

「うるさーい!!!!!」

 

そこからまた30分は足ツボマッサージ拷問を受けた。

そしてまたネクロマンサーは次の道具を持ってくる。

 

「もう勘弁して……」

 

『今までのはお遊び』

 

「もういやだぁ……」

 

地味にキツイ……。

普通に体力も限界だった。

だが次に持ってきた道具は普通のマッサージ器に見え……

 

「あれ……それなんかリリアが持ってるの見た事あるような……」

 

『これ?』

 

「それ……」

 

夜に部屋から変な声とこのマッサージ器の音がしていた。

そして私は察する。

 

『これエッチな使い方するやつ』

 

「やめ……やめろぉ!!」

 

ネクロマンサーは電源を入れて私に近づけてくる。

ろくに動けないので諦めかけていた時だった。

 

「ハル!!」

 

扉が破壊されてエルが突入してきた。

そしてネクロマンサーに数発の銃弾を浴びせる。

ネクロマンサーは倒れて動かなくなった。

 

「大丈夫!?怪我は!?」

 

「大丈夫……なんとか……」

 

「はぁ……良かった……」

 

エルは安心した顔をしてネクロマンサーに対死霊弾を撃ち込んだ。

そして私の拘束を解く。

 

「よくここが分かったね」

 

「ハル、私は犬の獣人だよ」

 

「あ、そういえば」

 

「忘れないでよ」

 

「ウソだよ。ちゃんと分かってる」

 

そう言って私はエルの頭を撫でた。

エルは嬉しそうに尻尾を振った。

 

「ていうか何これ」

 

「リリアがよく使ってるやつ」

 

「あー……お土産に持って帰ってあげる?」

 

「たぶん見たことないくらいブチギレるよあの子」

 

「ふふ、だろうね」

 

私たちはネクロマンサーの写真を撮って小屋から出た。

それにしてもまさか転移魔法で転移させられて縛られるなんて思ってもなかった。

 

「ところでハル、何されてたの?」

 

「……聞かないで」

 

「なんか拷問みたいなことされてた割には余裕そうな声聞こえてたし」

 

「……思い出したくないから本当に聞かないで」

 

私は恐らく今後数年はおでんが食べられない気がする……。

 

「マヤも呼んだからここで待と」

 

「分かった。あ、そうだ。時間あるなら……」

 

「どこいくの?」

 

「小遣い稼ぎ。酷い目に合わされたし漁ってやらないと気が済まない」

 

「それはいいアイデア。私も行く」

 

そしてマヤが迎えに来るまでの2時間ほどをネクロマンサーの寝床を漁って戦利品を集めた。

これで当分の生活費には困らないし戦闘機のアップグレードも出来そうだ。



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テキサス空襲

ある日の深夜。

みんな寝静まっている中私は何故か寝つけれずに起きていた。

 

「ん・・・」

 

何だかすごく嫌な感じがしたからかもしれない。

 

「なんでだろ・・・」

 

とりあえず水でも飲もう。

そう思ってベッドから起き上がったその時だった。

街中にけたたましい警報が鳴り響く。

 

「な、なに!?」

 

隣で寝ていたマヤが飛び起きた。

そして大音量でアナウンスが流れる。

 

《く、空襲警報!空襲警報!!所属不明の大型機数機が南西から接近中!!距離60km、速度50!》

 

「60km!?なんでそんな近くに・・・」

 

「それより速度50ノット・・・?」

 

「と、とにかく空港に急ごうよ!」

 

「な、なにごとなの!?」

 

「聞いた通りだよ、急ごう」

 

急いで身支度を始めた。

そして続々とみんな起きてくる。

 

「ご、ご主人様!」

 

「ハル、少し家を空けるかも」

 

「家ならお任せ下さい!」

 

「あと、誰か今日この前の怪我の検査で入院してるエルを迎えに行ってあげて」

 

「それなら私が行くよ!」

 

「分かった、アヤは一応銃を持っていってね」

 

「了解!」

 

まったく検査入院が終わったエルの快復祝いをしてやろうと思ったのに……

まぁいい、とにかく早くその所属不明機を確認して仕事を終わらせよう。

 

《敵襲!敵襲!!壁の外に多数の戦闘員!》

 

「なんだってこんな街を・・・!」

 

「ハル!壁の外なら私のアパッチを使えば・・・」

 

「そっか、アパッチならこの家に置いてあるし・・・じゃあ街の防衛のお手伝いに行こうか」

 

「了解!」

 

「リリア、ミオは迎撃任せたよ。私達も外が終わったら行くから」

 

「分かったわ!」

 

「了解です!」

 

私とマヤは家の格納庫に急ぐ。

こんなこともあろうかとアパッチにはフル武装を施してあった。

初動で戦闘ヘリが使えれば敵を追い返しやすいだろう。

 

「マヤ、操縦よろしく」

 

「了解!」

 

エンジンのスタートアップを始めている間に無線を街の緊急周波数に合わせる。

 

《壁の砲台が1つ破壊された!》

 

《アイツら中に入るつもりだぞ!!》

 

《押し返せ!!》

 

《撃ちまくれ!!》

 

私は壁の防衛隊に今から行く事を伝える。

 

「こちらエンジェル0-1。AH-64が一機、武装はヘルファイアミサイル8、70mmロケット38、機関砲1200。これから壁に向かって移動する。支援可能時間は1時間」

 

《助かった!敵が多すぎるんだ!》

 

すぐに離陸して壁に向かう。

テキサスは直径50km程度の円形の街で、西側が海に面している。

敵は東側から地上部隊、南西から低速の飛行部隊が迫ってきていた。

 

「まったく何処のバカなんだか・・・」

 

「早く片付けてエルの退院祝いしないとね!」

 

「そうだね」

 

ヘリは10分程で目的の場所に着く。

目的地はいろいろな場所から炎が上がっていた。

その時、私は壁の外を見て異変に気づく。

恐らくマヤも気づいたかも知れない。

敵側から銃火器を使った時に見えるマズルフラッシュが見えない。

全員がサプレッサーを付けているなら分かるが。

代わりに見えるのは緑や赤の線が壁に向かって一瞬見えたりしていた。

 

「魔法・・・」

 

「相手はなんなの・・・!?」

 

「サーマルで確認する」

 

ガンカメラで目標を確認するとそこに見えたのは人の形はしているものの、明らかに人やエルフとは違う骨格、鎧の様な装備が見えた。

これは・・・。

 

「嘘でしょ・・・昔本で見た魔王軍とそっくりなんだけど・・・」

 

「と、とにかく助けなきゃ!」

 

「そうだね、マスターアームON!」

 

私はまずヘルファイアを選択した。

壁の防衛隊に警告する。

 

「こちらエンジェル0-1、レーザー誘導ミサイルで攻撃する」

 

《了解!全て任せる!なんでもいいから1番強い武器で適当に攻撃してくれ!!》

 

「了解、レーザー照射」

 

壁に向かって攻撃魔法を放っている魔法使いの集団にレーザー照射した。

 

「3…2…1…ライフル!」

 

「防衛隊へ!ミサイル発射!」

 

《了解!》

 

ミサイルはトップアタックモードで魔法使いの頭上に命中する……そう思った時、ミサイルは何かに弾かれるように明後日の方向に飛んで行った。

 

「外れた!?」

 

《エンジェル0-1!こちらガーディアン2-5!ミサイルは命中せず!繰り返すミサイルは命中せず!!》

 

「ガーディアン2-5!魔法か何かでミサイルが弾かれた!確認できる?!」

 

《確認できない!》

 

《エンジェル0-1!デカい化け物がこっちに迫っている!支援求む!!》

 

「クソっ……!ほかの人は何してるの!?」

 

「まだ離陸できてないんだよ!機関砲ならいけるんじゃない?!」

 

「分かった!機関砲で攻撃するよ!」

 

壁に向かって大きな斧を振り回しながら接近するオークに対して急降下で接近する。

 

「30mmを喰らえ!!」

 

オークに向かって30mm機関砲弾を叩き込む。

さすがに機関砲までは防御が間に合わなかったのか30mm砲弾を浴びた10mはあるオークの体は所々がちぎれ飛び絶命した。

 

「ターゲット排除!」

 

《了解!確認した!》

 

《こちら2-4!戦車が到着した!》

 

《こちらガーディアン6-4!騎兵隊の到着だぜ!!》

 

《頼んだぜ戦車野郎!》

 

《任せな!おらどいたどいた!!》

 

壁から10台ほどのT-90が現れた。

一斉に砲撃を開始し突撃部隊だったオークの群れは一掃された。

さすがに分が悪いと思ったのか魔法使いは防御魔法を展開して撤退を始めた。

 

「こちらエンジェル0-1。敵が撤退を開始」

 

《了解!助かった!》

 

「ハル、私たちはどうする?」

 

「ほかのヘリも上がり始めた、私たちは空港に行こう」

 

「了解!」

 

空港に進路を向けて急ぐ。

無線を聞く限りやはり襲撃に来たのは魔王軍のようだ。

ただし100年前の魔王軍とは違う。

昔は剣やちょっとした攻撃魔法をメインに戦っていたが、今回は遠距離攻撃魔法と防御魔法をメインに攻撃してきた。

防御魔法は物によったら戦車の砲弾すら弾く。

おまけに古い銃がメインとはいえ、銃火器も使いだした。

 

「魔王軍……」

 

「100年前に負けたんじゃなかったの!?」

 

「魔王は生きてたみたいだからね……」

 

でも今回の攻撃は前のような大規模な世界同時攻撃かどうかは分からない。

実際、前から小さな攻撃自体は何回もあった。

恐らく今回も戦術研究だとは思うが……。

 

「とにかく魔王軍がどうのこうの言う前に撃退するよ。私たちの家を守るためにも」

 

「そうだね!」

 

時刻は朝の4時。

もうすぐ明るくなってくる。

もしかすると今回は深夜を狙った夜襲で夜明けと同時に撤退するつもりかもしれない。

敵の通信装備がどうかは分からないが逃がせばデータを持ち帰られる。

それは阻止したい。

 

「ハル!おじさんがトムキャットのエンジンをかけてくれたって!」

 

「ほんと?それはありがたい」

 

それなら降りてすぐ乗り込んで飛べる。

管制塔からは格納庫前に着陸していいと許可を受けたのでそのまま降りて機体に走った。

 

「ありがとうおじさん!」

 

「お易い御用じゃ!嬢ちゃんには悪いが今回は敵襲だから勝手にアムラームを積ませてもらったからの!」

 

「大丈夫。むしろ有難いよ」

 

「リリア嬢ちゃんとエルフの嬢ちゃんはもう上がってるぞぃ!」

 

「了解、あとは敵を追い返してくるから」

 

「おう!気をつけてな!」

 

私たちはタキシングを始める。

誘導路は急いで飛び立つ航空機で溢れていた。

 

《管制塔より待機中の全機!滑走路が空き次第進入して離陸してください!離陸間隔は無視して構いません!》

 

《こちらガーゴイル、離陸するぞ!》

 

《バケモンどもを追い返すぞ!》

 

次々と離陸し私たちの順番は10分ほどで来た。

 

「離陸するよ」

 

「了解!」

 

「レーダーはもう起動してて」

 

「もうしてるよ!」

 

「おっけー」

 

私たちはすぐに離陸してリリア達を探す。

 

「リリア、ミオ。こちらエンジェル0-1。いまどこ?」

 

《ハル!こちら0-2、今街に近づいてる飛行物体に向かってるところ!》

 

「了解、私達も向かうよ」

 

空には多種多様な航空機が並んで飛んでいた。

恐らく魔王軍はどのくらいの時間でどのくらいの航空機が飛んでくるのかも測っているかもしれない。

 

《こちら王国軍AWACSキングアイ。テキサスからスクランブル発進した飛行隊へ、先行していた騎士団航空隊より連絡あり。敵は帆船のような船型の物体、周囲に防御魔法を展開している模様》

 

《防御魔法!?そんなのどうやってぶち抜けばいいんだよ!》

 

《誰かー、こん中に貫通魔法使えるやついるかー?》

 

《おいおい、天下の騎士団様だろ。そいつらが相手に出来ないんじゃ無理だぜ》

 

確かに、王国軍の中でも精鋭部隊が先に突っ込んで倒せないのにどうしろと言うのか……。

そう思っているとAWACSからある命令をされた。

 

《防御魔法でぶち抜けないから数で押す。いくら鉄壁の防御魔法とはいえ、今ここにいる全機から攻撃されれば持たないはずだ》

 

《なるほど、飽和攻撃か》

 

《面白いじゃねーか、やったろうぜ!》

 

《はっはー!見てろよクソッタレのバケモンどもめ!》

 

確かにこの量の航空機から同時にミサイルを撃ち込まれれば御魔法も臨界状態になり崩壊するかもしれない。

やってみる価値はある。

 

《全機、同時攻撃に備えろ》

 

「同時攻撃か、面白くなってきた」

 

「魔王軍に人間様の方が強いって教えてやろうよ!」

 

「そうだね」

 

同時攻撃は5分後。

目標がレンジに入ったら攻撃開始だ。

レーダーに目を落としたあとふと前を見るとリリアとミオのフランカーがいつの間にか隣に並んでいた。

 

《探したわよ》

 

《見つけたのは私です!》

 

《……ミオは見つからないって騒いでただけ》

 

《ちょっと!それ言わないでくださいよルイ!》

 

「あはは……」

 

いつもの賑やかなメンツが揃う。

やっぱりこのメンツで飛ぶのが1番安心するし楽しい。

 

《そうだ、ハル。今回の報酬聞いた?》

 

「ううん、すぐにヘリに乗ったから。いくらなの?」

 

《参加者全員に1000万ドルで1番貢献した冒険者には豪邸とオリジナルのステルス戦闘機らしいわよ》

 

「豪邸はいらないけど、ステルス機は欲しいね」

 

目立たずに飛べるし……。

 

「じゃあちゃちゃっと片付けて報酬貰って美味しいもの食べに行こうよ!」

 

「そうだね」

 

なんて色々と話してる間に敵は射程に入った。

それにしても帆船型とは聞いていたが、普通の帆船なんかじゃない。

全長1kmはあるんじゃないかと言うくらいに巨大だ。

 

「バカでかいのが……」

 

《デカけりゃいいってもんじゃないってこと教えてやるわ!》

 

「その通りだね……ロックオン」

 

《0-3、ターゲットロック!》

 

《キングアイより全機、射程に捉えたものから順次攻撃開始!》

 

《待ってました!FOX1!》

 

《FOX3!!》

 

「私達も遅れないようにっと……FOX3!」

 

《FOX3!FOX3!!》

 

何十発ものミサイルは魔王軍の船に向かって突っ込んでいく。

そして数十秒後……。

 

「3…2…1…命ちゅ……嘘……!?」

 

《キングアイ!ダメだ!ミサイルは目標に到達せず!》

 

《攻撃効果なし!誰だよ飽和攻撃ならできるって言ったやつ!!》

 

「魔王軍も昔のままじゃないってことか……」

 

「ど、どうするの!?」

 

「どうするっていったって……」

 

相手は強力な防御魔法を展開している。

100発近いミサイルを同時に被弾して無傷なんてどうしていいか……。

そう思っていた瞬間、船からレーザーのような物が発射された。

近くにいた戦闘機がその攻撃を受けて爆散した。

 

《グリフィンロスト!ちくしょう!!》

 

《なんだよ今の!!》

 

《強力な攻撃魔法だ!弾速が恐ろしく速い!!》

 

「狙われないように逃げないと……!」

 

船からはそれを皮切りに攻撃魔法が何発も発射され、まるで蚊でも落とすかのように味方機が落ちていく。

 

《クソっ!!全機一時退避……ちょっと待て、IFFに応答のない機体が……ふざけやがって空賊か!!》

 

《速いぞあの空賊機!!》

 

《全機!邪魔者を撃ち落とせ!!》

 

AWACSからそう指示が出たと思った時、その空賊機から無線が入る。

 

《おい撃つな!別にあんたらを攻撃したいわけじゃねえ!》

 

《空賊だって住む場所くらい守りたいんだ。今はあんたらの味方だよ》

 

《機体が古いからって舐めるなよ、こっちはベテランばかりだからな》

 

《……了解、ただし妙な真似したらまとめて叩き落としてやるからな》

 

レーダーを見ると20機ちかい空賊機が接近していた。

この数ならもしかすると……。

 

《よし、全機もう一度飽和攻撃をしかける》

 

《了解!》

 

1度離れた機体が旋回して横一線に並び始める。

 

「これで……終わるといいけど」

 

《何言ってるの、終わらせるのよ》

 

「そうだね」

 

もう一度敵をロックオンしてAWACSの合図を待つ。

そして……

 

《全機もう一度だ!やれ!》

 

「FOX3!」

 

《FOX1!》

 

《ガーゴイル、FOX3!》

 

《よっしゃやったれー!!FOX3!》

 

再び100発近いミサイルが帆船に向かった。

 

「よし……いけ!」

 

「命中まで3…2…1…」

 

今度こそ……そう思ったが再び船の周りに魔法壁が展開された。

1発も船に届かなかった。

 

「クソっ……!」

 

《ダメか……》

 

《ダメならダメでさっさと街から貫通魔法使える魔法使い連れてこいよ!!》

 

《誰かこん中に貫通魔法使えるやついねぇのか!!》

 

無線は怒号で溢れていた。

それもそうだろう。

今度こそやれる、そう思った矢先だった。

 

《今、街に貫通魔法を使える魔法使いを探してもらっている。少し待て!》

 

《んな事してたら全滅……おいちょっと待て……アイツ動いてないか……?》

 

「え!?」

 

《こちらエンジェル0-3!敵船が移動開始!速力は……150ノット!》

 

《進路をテキサスに向けてるぞ!》

 

《クソ……全機!なんでもいいから攻撃しろ!》

 

「なんでもいいからって……」

 

「効果がないのにどうしろっての!!」

 

マヤが後ろでそう怒鳴る。

何とかしてでもヤツを落とさないと……。

街の民間人も心配だが、何よりもまだエル達が街にいる。

彼女らに何かあったら……。

でもどうやってアイツを攻撃する……。

そう悩んでいた時だった。

 

《こちらテキサス管制塔!魔王軍が壁を爆破して街に進入しています!近接航空支援を要請!!》

 

「そんな……!!」

 

《おい俺たちの出番だ!行くぜ野郎ども!》

 

《了解!》

 

5機のホーネットが旋回して街に向かった。

5機で足りるか……。

そう思っていた時だった。

 

《クソっ!また新しいレーダー反応が……なんだよコイツ……Mig-31が単機!高速接近!》

 

「MIG-31!?」

 

《テキサス近辺でそんなのに乗ってるのって……》

 

《リリアさん、知ってるんですか?》

 

《知ってるも何も賞金首よ!マッハ3で迫ってきて輸送機なんかを落としていくやつだわ!》

 

そいつの事は私も知っている。

スピード狂の山賊がMig-31を徹底的に改造してマッハ3まで出せる。

おまけに本来は5Gまでしか負荷をかけれず、格闘戦が苦手なこの機体だが改造と強化を施し9Gまで耐えれるようになっているらしい。

賞金首の名称もスピードスターとそのまんまな名前だ。

 

《こちら王国軍AWACSキングアイ!接近中の航空機!それ以上近づければ敵と判断し撃墜する!》

 

魔王軍で手一杯の私たちに賞金首まで突っ込んでこられたら溜まったもんじゃない。

そう思った時だった。

その賞金首から無線がはいる。

 

《いや、遅れてすまねぇな!オイラもほかの空賊と同じで住む場所を守りたいだけだ!それに無線聞いてたぜ!貫通魔法使えるやつ探してんだってな!》

 

《探してはいるが、お前になんの関係がある》

 

《そう邪険にすんなって。オイラはその貫通魔法使えるぜ。1発ぶちかましてやる!》

 

思いもよらない事態だった。

今ここで頼れるのはこの賞金首という事になる。

だが、このまま彼が嘘をついていると決めつけて放置すれば街が危ない。

ここは賭けるべきだろう。

 

《賞金首が何様だよ!どうせ撹乱するための嘘だろうが!》

 

《俺の仲間は昔お前に落とされた、あの時のお前の笑い声がまだ耳に残ってるぞクソッタレ!》

 

ほかの冒険者達は無線に向かって怒鳴る。

それもそうだろう。

彼に仲間を落とされ、そして自身も撃墜された経験のある者だっている。

でも今は彼しかいなかった。

 

「……私は信じるよ、貫通魔法使えるって」

 

「ハル!?」

 

「これが嘘なら取り囲んで落とせばいい。そうなるって分かってるのに自分から言ってきたんだよ」

 

《……》

 

《私も信じるわ》

 

《私もです!》

 

《……嘘だったら叩き落としてやるからな》

 

私たちの声を皮切りに皆が彼の話を信じると言った。

そしてAWACSから指示が出る。

 

《よし、非常に不本意だが賞金首を援護して船に接近させろ!ほかの機体は攻撃を引きつけるんだ!》

 

《了解!》

 

Migはアフターバーナーを全開にして突っ込んでいく。

 

《っしゃあ!オイラに任せとけ!》

 

船からは防空攻撃のように攻撃魔法が放たれていた。

その攻撃で何機も落ちていく。

 

《照準よし!》

 

その直後、彼の機体から魔法陣が広がった。

そして……

 

《FOX1!》

 

ミサイルが放たれた。

ミサイルは吸い込まれるように船に直撃する。

しかし……

 

《嘘だろ!?》

 

「どんだけ硬いのあの魔法壁……!!」

 

ミサイルは魔法壁を貫通出来ず、船の目の前で爆発した。

 

《クソ……!!》

 

《硬すぎるだろ!!》

 

この場にいる全員が絶望し始めた。

 

《こうなったら俺は帰らせてもらうぜ。家族連れて逃げないとな》

 

《あぁ、俺もそうさせてもらう》

 

何機か反転し始めたと思うとそれにほかの機体が続いて戦闘から離脱しようとしていた。

 

「ハル……私達も……」

 

「ダメ……そんなことしたらエル達が……」

 

「帰ってみんなを連れて逃げようよ!ヘリだってあるし!」

 

「そんなこと言ったってもう街に入られてるんだよ!?それにこの数の戦闘機が降りるの待ってたらあの船が到達するくらい分かるでしょ!?」

 

「じゃあどうやってあんなの落とすの!?あれだけやって無理なんだよ!!」

 

「そんなこと分かってる!」

 

私は感情的になってマヤと言い合う。

その時、賞金首から無線が入った。

 

《……なぁ、テキサスにオイラの家族がいるんだ。調べたら分かるだろう。娘がそこにいるんだが、愛してるって伝えてやってくれ》

 

《待て、何を考えてるんだ》

 

《それと、オイラの家族を守ってやってくれ。父親が賞金首だって虐められてるかもしれない》

 

《何をする気だ!》

 

《……あのデカブツの魔法壁を抜くには質量が足りないんだ。でもこの機体なら確実に貫ける》

 

「待って!そんなことしたらアンタは!」

 

《へへ、女の子もいるのか?いい声してるねぇ》

 

「冗談言ってないで他の方法を考えようよ!!」

 

マヤが無線に向かって叫ぶ。

この賞金首は自身の機体に貫通魔法をかけ、突入するつもりだろう。

 

《ふ、ははは!最高じゃねえか、賞金首が街を救う!いいシナリオだ!》

 

Migはアフターバーナーに点火して加速する。

 

《よぉし待ってろクソッタレの魔王軍共!!テメェらのケツに大穴開けてやらぁ!!》

 

Migの周りには魔法壁が広がり機体が黄色の光に包まれた。

 

《行くぜ!とっつげきぃぃぃぃぃ!!!!》

 

「……頼んだよ」

 

私はそう呟くしか出来なかった。

機体はどんどん船に近づく。

 

《ふははははっ!!よう、バケモンども!!人間舐めんなよぉ!!》

 

その声が聞こえた直後、機体が爆発する。

そして、魔法壁が砕け散り崩壊した。

 

《あのバカ本当にやりやがった……!》

 

《全機今だ!!攻撃開始!!》

 

「これで終わりだね!FOX3!」

 

《FOX3!》

 

数は少なくなったがそれでも50発以上のミサイルが突っ込んでいく。

数十秒後、ミサイルは魔法壁に阻まれることなく船に到達した。

鉄製ではなく木製の船は50発近いミサイルの直撃を食らい巨大な船体が崩壊を始めた。

 

《やったぞ!撃墜だ!》

 

《賞金首に助けられるなんてな……》

 

《お尋ね者が英雄か……クソ》

 

お尋ね者に街を救われた。

そう思うとあまりいい気分ではないのだろう。

彼に仲間を落とされた冒険者だって少なくない。

でも私は何よりも仲間を守れた事で安心していた。

 

「はぁ……終わった終わった」

 

《こちらキングアイ、街に侵入した魔王軍は母船が墜落したことで撤退を始めた》

 

《よっしゃあ!おとといきやがれってんだ!!》

 

《可能な機は残敵を掃討せよ。相手は魔王軍だ、捕虜にしたって1ドルにもならんぞ》

 

《それならストレス解消させてもらうとするか。賭けに負けて不機嫌なんでな》

 

《俺も参加させてもらうぜ。弱いものイジメなら得意だ》

 

何機かの戦闘機は街に向かって旋回していった。

街に侵入した魔王軍部隊の掃討だろう。

私たちはそこまでして攻撃する気が起きずに帰ることにした。

 

「はぁ、終わり終わり」

 

《終わったわね……まったくいい気分で寝てたのに……》

 

《皆さん皆さん!帰ったら温泉行きましょうよ!》

 

「いいね、私はミオに賛成」

 

「私も!」

 

《決まりですね!》

 

《じゃあ帰ったらエルも迎えに行かないといけないわね!》

 

「うん。今日は温泉でゆっくりしよう。1000万ドルも出たことだし」

 

《いえーい!》

 

予定も決まり私たちは街に向かって旋回する。

その時に私はあの賞金首が墜落した場所に敬礼した。

 

「ハル?」

 

「……街を守ってくれたからね」

 

「……そうだね!」

 

マヤもそう言って賞金首が墜落した場所に敬礼した。



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