お前はとっとと無に帰れ (燈祁)
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此処は何処で自分は誰だ

数少ないシリアス回全体的にシリアス多目にプロットがひん曲がりました。あらすじの注意書きがだいじょーぶそうな方はどぞー

追記:幾つか誤字修正しました
追記2:前書きの表記を現在のプロットに従って修正しました(16話投稿時点)



──頭が痛い。此処は何処だ。

覚えているのは、会社に向かうバスを待っていたら突っ込んできた車に轢かれて、いや、違う。友達と話していたらしつこかったストーカーにナイフで刺されて、違う、バイトに行く為にホームで電車を待ってたら突き飛ばされて線路に、違う、違う、××みたいになりたくて、**に死んで欲しくなくて、違う、違う、違う!

真っ白で、真っ黒で、誰かが見てて誰もいなくて、無になんてなくなりたくなかったからとにかくバラバラだったのを掻き集めて、集まって、きっと他の誰かが沢山混ざってたけど気にしてられなくて、とにかく足掻いて其処から逃げ出したのだ!

 

「ぁあぅ…うぁ…」

 

死ぬ瞬間が一気に何個もフラッシュバックする。

呻き声が漏れるがそんなのどうでも良い。

 

音がする。

何かとナニカがぶつかる鈍い音。知っていたような、全く知らないような声が上げる甲高い悲鳴。恨みがましく狂ったような誰かの言葉。ドチャリと音を立ててナニカが崩れ落ちる汚い音。

その全てが同時に聞こえる。

 

目の前の光景は幻覚と混ざりすぎていて、どれが正解かわからない。

 

苦しい自分とは別に思考する自分が居る。

彼処はきっと人が最後に行く場所で、天国でも地獄でもない終わりで、自分は終わり損ねの塊で。

では此処は何処だ?若しかして生まれ変わったのか?

でも赤ん坊ではない。じゃあ前世を思い出した系?

 

…前世ではない。

段々フラッシュバックも収まり、呼吸と頭痛が落ち着いてきて、思考がしやすくなるのが分かる。

前世ではないのだ。今ここに居る自分は、終わってしまった者達が残した、「××みたいに生きてみたい」と言う願望の塊だ。

先程から「自分」と称してはいるが、俺とも私とも僕とも、違和感を持ちながら自然と言えそうだ。

フラッシュバックの中にも、現実には有り得なさそうな風景や物が見えていた。きっと誰かが想像した××や**の死に様だ。

要するに、恐らく自分は造られたのだ。「誰かみたいに生きれる者」として。

 

「っうぅ…」

 

痛む頭を抑えて歩き出す。

周りは見るからに貧民街と言った様相で、豊かでは無さそうだ。

けれどこんな身寄りのない出来損ないが混ざるにはいいかもしれない。

 

出来るだけ生きやすそうな人格を選んでそれだけを真似してれば、いずれ人格も安定して、もっと生きやすくなるはずだ、多分。

 

とにかく今は飯をどうにかしないと。

折角あんなとこから逃げ出して、生きてるっぽくなれたのだ。

あんな死の記録を、今ここに居る自分の記憶にする気はない。

食い物と、どっか寝れる場所を探しに行こう。

 

 

そうして、当時は此処が死んだ魂が来る街で、死神なんてのがいるなんて知らなかった俺は、生き延びるための活動を始めたのだった。




根源(型月)みたいなもんを想定しています。
BLEACHのない現代(BLEACHの現代現世に非ず)の人や、死神や流魂街の住人が死んだら其処に行くってことにしておいて下さい。


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あっ(察し)


一寸ずつ書き溜めてたら思ってたより長くなった…



結論から言う。

寝床は街外れに崩れかかった小屋があったので其処の近くに住み着くことにする。…近くに小屋らしき物があるのに、態々周り探し回ったりしないだろ?

飯は普通の街の飯屋の裏を通ったときに、売れ残りを貰った。運が良かったのだと思う。

人格の方は、造り主達と「自分」を切り離す為に、某中学生超能力者………ではなく、その詐欺師系師匠を真似ることにした。

 

幾つか理由はある。

先ず一つ。

この体は女の子だった。付いてなかったのだ。

貧民街で後ろ盾の無い少女の辿る道なんて簡単に予想が付く。造り主達の中に裏通りで変態に襲われた挙句死んだ奴いるしな!あんな死に方ゴメンだ。そもそも死ぬの全般アウトだ。

よって男を選ぶこととする。青薔薇オネェはまんま女になってしまいそうなので除外。

男のふりしておけばまだマシかと思ったのだ。ショタホモ?知らんな。

 

二つ。

この体は「誰かみたいに生きれる者」、だ。

恐らくはその為に、中性的な容姿(それなりに整っている)と声、特徴の無い黒髪黒目の外見を与えられている。おつむの方も悪くはない筈だ。

…話が逸れた。つまりはトレスする人格によっては、其奴が持ってる筈の能力も再現できる可能性がある。

学園都市第一位とか、ブリュンヒルデとか、錬鉄の英雄とか、それこそ中学生超能力者でも良い。恐らく荒くれ者を倒して生計を立てられるだろう。

だが一寸待て。

下手に能力目当てで変人キャラを選んでみろ、「この世界の法則と合わないからその能力無しな」「良いけど子供の体だと全然強くないぞ」、なんて事になったら、ガキの体+生き辛い性格とか言う生き残り難易度がルナティックとか修正前フィナーレになりそうな組み合わせが出来てしまう。それは不味い。

更に言うなら、人間関係とか其奴に起きる出来事とかも再現してくる可能性がある。

俺は生き延びるために、人格を安定させたくて誰かを真似ようとしていたのだ。

なので、これといって命に関わる事項が無く、特殊能力無しで生き残れる…口と頭が良く回って、手先の器用そうな人格を探す事にする。

 

三つ。

俺が成れるのは、造り主達が憧れた奴だけ。

選択肢は限られている。

ヘタレパスタに浄化系強打者、イケニートとか犬科命の警視とか死天王の箆鹿とかKC社長とか妖怪首おいてけとかetc.

……大半が狂人、でなくともコミュニケーションが上手くいかなそうだ。

気持ちはわかるが、もっと真面な奴に憧れて欲しかったぞ、造り主様!

 

上三つを満たす中で、この人格は「弟子が関わらなければ命を張ったりしない」、「幼少期から体を鍛えていた、と言う描写がないので、鍛えれば強い体が手に入る可能性がある」と言う好条件だった。

特に後者は、この体が「バリバリの格闘系になるかもしれなかった体」であることを考慮すると、ほぼ確実と言えた。

例え世界の修正力・強制力的な何かが弟子を取らせようとしても、突っぱねれば済む話だ。

 

以上の理由から、俺はこの人格を基準にして生きることに決めた。

後から色々変わっていった時は、「自分らしく」なっていったということだろう。

 

……虚無の申し子もまあまあ良い線行ってたが、死にそうだし俺の現状と幼少期が被りすぎてて嫌な予感するし、何よりデスポエマーなので却下だ。

 

体の性別との不一致についてだが、選ばれた人格はトレスされる側であり、トレスする側の「自分」──少女の方に意志決定権はある。

多分男装女子の域に留まるだろう。

 

さて、取りあえず今日は拾った襤褸布被って寝る。日も落ちた事だしな。

明日はどこかで藁手に入れて草鞋でも作って売ろう。

飯は…まあ取りあえず同じ店の裏を通ってみよう。またおこぼれ貰えるかもだしな。

 

 

目が覚めると、体が小さくはなっていなかった。これ以上ちびだと本気で生き残れなくなるのでノーサンキューだ。

 

近くの田んぼ跡地らしきところに藁が残っていたので、それをちょろまかして草鞋を作って街で売る。

どうやらそれなりに上手く作れていたのか、昨日のではなく、貧民街寄りの安い店でなら一食分買える位には稼げた。

藁が無くなるまではこれで食いつないで、別の藁か金策をその間に探さねば。

 

街の遠くに見えた真っ白い建物群、それと白黒の服の帯刀している奴等についてだが、どうやら「死神様」とその住まいらしい。

此処はあの世(ソウルソサエティと言うらしい。和風じゃねーのかよ)で、彼等は現世でさまよってる霊をこっちに送ったり、刀で悪霊をバサッといったりするらしい。

俺達みたいな貧民でも、成ろうと思えば成れるらしい。公務員みたいなもんか?

まあツッコミどこはあるが、俺みたいなのが辿り着くには正しい場所だな。なんせ九割九分九厘死んでるようなもんだし。

…あ?残りの一厘はなんだって?死んだ奴等の残骸から生み出された、最初っから生きてすらないから死んでない存在であるこの俺に決まってんだろ言わせんな恥ずかしい。

 

 

…数日もすれば、草鞋作って売って食って、拾った刃物の欠片で木を削って根付けとか作って其れも売って、と言う生活にも慣れた。

今の所は順調に回っている。……ただ一点を除いて。

 

頭痛とフラッシュバックだ。人格の確定だけじゃどうもダメらしい。

多分誰かに名を呼ばれたら、それで俺が誰か本当に確定して、記録は記録だとすっぱり割り切れるんだろう。

 

因みに名前はある。

彼処が根源っぽかったので、その作品及びヒロインから文字を貰った。

 

ただなぁ…呼んで貰う人が問題だ。

多分俺は其奴に一生逆らえなくなる。

赤ん坊とか犬猫みたいな、存在が確定してる奴とは訳が違う。

其奴が呼んだ名が俺を俺たらしめ、此処に存在させる事になる。

そりゃもう其奴に名前呼ばれて命じられたら嫌が応にも従っちまうんでは?ってな具合だ。

貧民街に真っ当な奴がいるとは思えんし、かと言って死神様に話し掛けて不興を買って悪霊よろしくバッサリいかれてもなぁ……

そもそも死神様達にも色々いるらしく、見てる限り、こんなとこ来る奴は大半が柄の悪いやつだ。

脳筋とか馬鹿とか、従ってたら即死にそうな奴に従う気はねーんだよ俺は。

 

なんか解決策が見付かるまでは、頭痛とフラッシュバックはどうにか耐えて、名前名乗らねー方向で行くしかねーなー

 

 

と思ってた時期が俺にも有りました!!!(全ギレ)

 

「あ、キミですか?この根付け作ったの。面白い形ッスねー」

「あ、ありがとうございます。」

 

誰だ、俺こんなパツキンのにーさんに根付け売った覚えねーぞ!?

知恵の輪とか幾何学とかっぽくしたのがいけなかったのか!?

 

「どうです?ボクの弟子になってみません?

住み込みで三食おやつ付き、なんとお小遣いも付いてきますよ?」

「なります」

 

即答。俺は悪魔ならぬ死神の甘言に乗った。

頭回りそうだって目ぇ付けられたのな、成る程ね(白目)

酷い扱いするつもりなら、交渉なんてしてこない筈。当面の安全が約束されてしまった。

 

「交渉成立ッスね。えっと、名前あります?」

「あります」

 

世界はどうやら弟子を取る、ではなく、師弟関係を結ぶってとこを再現してきやがった。

畜生、この人格の弱点、弟子じゃなかった。

だってもうこれアウトだろ。

 

空式境(からしき けい)、です」

「空式境……境サンっスね。よろしくお願いします。」

 

例え名前を呼ばれなくても、あんまり代わらなかった気がする。

 

「……どうしたんスか?」

 

そう言って首を傾げ、固まってしまった俺を覗き込むこの人の為なら、多分命賭けれるだろうからな……ちくしょー……




この小説は草とネタと自棄になった主人公とクロスオーバーと「私生活ダメ人間な天才って最高だよね」、で出来ています!!!
圧倒的浦原さん贔屓目。

主人公の外見

【挿絵表示】

ほんとはもっと服が薄汚れている。
お前描いてる奴顔の方向全部同じじゃねーかって?
察して下さい(右利き)


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×弟子 〇お世話係

まだ斬魄刀の能力知らないのでネタ薄め

浦原さんの口調難しいなぁ

追記:師匠の漢字間違えてたので訂正



特に荷物もなかったので、そのままパツキンにーさんについて行く。

にーさんは浦原喜助さんと言うらしい。

敬語使わなくても良いッスよ-、と微妙な敬語で言われたので、タメ語+師匠呼びで対応することにする。

 

「あれ、俺って何の弟子になったんだ?」

「んー、ボクと同じ位頭回る人が居れば研究進むかなーって思ったんで、色々教えますよ」

 

道すがら尋ねると、そう返された。

成る程、学者さんかなんかか。

めっちゃ期待されてる(白目)

 

服がボロボロだからと服を買ってくれた。

やっすい古着で良かったのに、新品を買って貰ってしまった。

何とか店で一番安いの二セットにはして貰ったが、一寸申し訳ない。

 

ふと交渉の内容を思い出して気付く。

三食ってどうすんだ?

 

(料理するタイプには見えねーけどお手伝いさんでも居るのか?若しくは恋人か奥さん?

対応考えとかねーと…)

 

おやつにと饅頭を幾つか買って歩いて行くと、自宅兼仕事場とやらに着く。

街と同じで、The・日本家屋って感じだな。

近くの牢屋の管理も仕事だそうで。

道理で近くに民家が無い訳だ。

 

中に入ると、畳まれた布団以外は、あまり生活感の無い部屋が見えた。独り暮らしっぽいな。

台所は調理器具一式が揃っているものの、殆ど使用された形跡が無い。

 

「申し訳ないんスけど、布団譲って貰うのに手間取ってまして。

暫くはボクの使って下さい」

「えっ、師匠はどうすんだ」

「地下の研究室に毛布あるんでそれで」

「いやそこは俺が毛布だろ普通、寧ろ屋根あるだけで十分だわ」

「いやいや境サン子供ですし」

「いやいやいや、師匠より弟子が上とか駄目だろ」

 

……結局折衷案として、師匠が敷き布団+毛布、俺が床で掛け布団に挟まって寝ることになった。

布団縦に半分にしてもこの体格ならすっぽりだからな。

頭回るって言うだけあって師匠口喧嘩強いわ。

 

道中で買ったお饅頭をいただきつつ、さっきの疑問をぶつけてみる。

 

「師匠、飯どーしてんの?料理する人には見えないんだけど」

「近くの店で食べたり、日持ちするもの買い込んでますね。

研究ぶっ続けでやりたいときは仕事無い限り外出ないッスから」

「えっ」

「えっ」

 

あー…この人あれだ、私生活どーでも良いタイプの研究者だ(頭抱え)

雨戸閉めっぱとか万年床じゃないだけマシなのか?

 

「…師匠」

「何スか?」

「お小遣い無しで良いから食費に回してくれ、俺が材料買ってきて料理するから」

「え、良いッスよ別にそんな」

「師匠が体壊したら俺も困るから。

何だったら洗濯と掃除もやる、家事全般やる」

 

あれだ、正義の味方(幼)ってこんな気分だったのかね。

俺が家事やんないといけない感凄い。

 

何とか押し切って、食材費持って現在買い出し中。

序でに店の人に今って何年?と聞くと明治だと言われた。

現世の方は造り主達の歴史に近い進みをしてるのかもな。

 

師匠が肉食べる人か聞くの忘れたので、魚の煮付け、和え物とご飯、みそ汁を作る。

二人分弱なのでそんなに手間は掛からない。

造り主達の半分位は料理してたからな、どうにか暗くならない内に作り終わった。

仕事をしていた師匠を呼んで料理を囲む。

 

「「いただきます」」

「! 美味しいッスね。」

「おぉ、よかったー」

 

記録様々だな、これは。

師匠めっちゃ笑顔だわ。

 

「何処で料理なんて覚えたんです?」

「飯屋の人が作ってるの散々見てたから見様見真似」

「ふむ、覚えるのが上手いのは良いことッスね」

 

ひえっ……ごめんなさい嘘ですぅ…

記録閲覧してるだけですぅ…

いやまあ頭のスペックは多分良いと思うけどさ。

 

とりあえず飯屋にありそうなメニュー回しつつ新しいの小出しにしていけばいいか。

 

食べ終わったら食器を洗って風呂を焚く。鉄砲風呂ってやつ、か?

師匠、俺の順で入ったが、順番で一悶着あった。

「俺のがきたねーんだから少なくとも今日は俺が後!」とごり押ししたら通った。やったぜ。

 

風呂を出て、買って貰った襦袢・下ばきと着流しに着替える。

布一枚よりは落ち着くな。

着てた方は裂いて襷にでもするか?

 

日も落ちてるので先寝てろと言われる。

師匠はまだなんか仕事するらしい。

 

うし、寝よう

明日っから居候としても弟子としてもきっちり働くからな、睡眠はしっかり取ろう。

 

「お休みなさい、師匠」

「はい。お休みなさい、境サン」

 




この主人公にはとことん苦難を背負わせます。ごめんな!
食い物は20世紀序盤参考、服は江戸庶民ですかね……あんまり詳しくないので調べては居ますが、描写の正しさには自信が無いです…


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0/1D10

やりたいとこまでサクサク。
超ダイジェスト。

訂正:画面→空中
訂正2:鬼道→破道
訂正3:開位→冠位

追記:解号を「祈れ」から「開門せよ」に変更
追記2:破晶の形状描写から「少し」を消去



弟子になって数週間、分かったのは師匠が割と忙しい人だって事。

仕事と研究の合間を縫って、俺に死神の力とか悪霊──虚についてとか教えてくれるが、それよりも寝て欲しい。

仕事研究仕事仕事研究休憩研究研究仕事みたいな感じだ。

俺が来るまで飯作ってる暇がなかったっつーのも本当だろうな。

部下に慕われてるみたいだし、やっぱ有能なんだな。

それは十分わかったので寝て下さい。

 

 

上司兼幼馴染みで褐色巨乳のじゃ系お姉さんとか言う属性てんこ盛り美人が来た。

めっちゃ構ってくる。すっっごい構ってくる。

初めて会ったときは盛大に爆弾落としてってくれた。

 

「あの、自分に何かご用でしょうか夜一様…」

 

師匠の上司だ、敬語で礼を尽くさねば。

 

「いやなに。彼奴が子供を拾ってきたと聞いてな?

嫁にでもするのかと噂されとったんじゃ。

どんな奴かと見に来てみれば、結局弟子じゃったが、やってることはまんま幼妻じゃな」

 

嫁?いやいや、師匠には「女子のままだと街に出るのが恐い」ってちゃんと言ったけど、他の人には性別言わんまま通した筈なんだが?

少年だと思われてんじゃねーのか?

 

「性別が可笑しくはありませんか?」

「研究のし過ぎでとうとうお稚児趣味にでも目覚めたのでは、とか言われとるぞ?」

 

えっなに俺のせいで師匠変態扱いされてんの?

つーかそうか、造り主達の世界を参考にするなら、ギリギリ時代的に年齢とか性別とかそれでもOKなのか。

うわぁどうしよ……

 

「あの、そういうことはなにもされてないので…」

「わかっておるわかっておる、一寸喜助をからかってやろうと思ってな」

 

カラカラと笑いながら俺の頭をぐりぐり撫でてくる。

え?その後の師匠?

 

「えー?そう見えますー?」

 

乗るなよぉ!俺が困ってんの見て楽しまないでくれよ師匠ぉ!

たまに意地悪だなアンタ!?

 

 

何年か経ったが、あんまり体が成長しない。

まだ十二とか十三に見える。

師匠曰く、ここでは皆肉体の変化が遅いらしい。

 

師匠の部下として働けないかと思っていたが、死神にしろ隠密機動にしろ、霊術院とやらに行かないとなれないらしく、暫くは寮生活になるようだ。

 

「休みには帰って来ると思う…」

「退学処分で帰ってきたりしないで下さいよー?」

「師匠の弟子だからそんな恥は掻きませんー…多分」

 

……一寸寂しいが、まぁ仕方ないな。行って来まーす。

 

 

師匠の教えとこの体のスペックのお陰か、成績は良い方だ。

破道やら縛道やらもちゃんと扱うことが出来た。

飛び級も不可能ではないって言われたけど、今の所実現はしなさそうである。

 

理由は簡単。

まだ俺の斬魄刀は浅打のままなのだ。

空いた時間に刃禅に挑んだりもしてるが、一向に変化無し。

これでは飛び級する程ではないだろう。

だが此処で諦めては師匠の期待に応えられないので、今日も今日とて刃禅に挑む。

 

─────ん?

なんか周りが明るいか?

俺部屋ん中で窓に背を向けて座ってるよな?

 

恐る恐る目を開ける。

さっきまでいた寮の部屋とは全く違う景色が見える。

雲一つ無い青空に、青緑色の結晶で覆われた大地。

俺はその中の、一際大きい柱状の結晶の断面の上に座っている。

 

これが心象風景、精神世界ってやつか。

……なんか、どっかでこの景色見たような……?

 

目の前では空と同じ深い青の髪の男が正座している。

座っているから分かりにくいが、恐らくは身長がかなりある。

 

「えっと、お前が俺の斬魄刀の本体って奴か?」

「うん、ボクが君の斬魄刀だ。

魂と記録を写し取るのに時間が掛かっちゃって。遅くなってごめんね」

 

其奴はそう言って申し訳なさそうな顔をする。

 

「──記録があるって事は、俺がどういうものかも理解してるのか」

「うん。多分ボクも似たようなものだ」

「…具体的には?」

「『**に生きて欲しかった』願望の塊、がボクだよ」

「成る程、どーりでそんな格好な訳だ」

 

其奴の姿は記録の中にあった。

青い髪、赤白青黄で構成された革のジャケットにジーンズ、暗い色の瞳。

そう、『遊☆戯☆王5D's』のブルーノだ。

 

「選んだのか?」

「ううん、最初からこうだった。候補が少なかったのかもね」

「まあ死亡キャラはなぁ……お前はあの記録平気なのか?」

「いや、君の記録を読み取るって形だったから記憶との判別は出来たけど、内容は一寸…」

「だよな」

 

良かった、此奴のSAN値はあんまり削られなかったみたいだな。

 

「なんて呼べば良いんだ?」

「斬魄刀としての名前は、破るに結晶で破晶(はしょう)

ブルーノは人格の名前だから、出来れば破晶で呼んで欲しいかな」

「わかった。宜しく破晶」

 

どんな奴が斬魄刀かと思ってたが、良い奴、というか人格だな。

これと言った問題は無さそうだ。

 

「なぁ破晶、ここに呼んでくれたって事は、始解使えるようになんのか?」

「えっいや、その……」

 

待って、何で問題ありそうな返事すんの!?

めっちゃ目ぇ逸らしてくんだけど!?

怖い、が聞くしか無い。

 

「…なんか駄目なことがあるのか?」

 

うわぁなんか虐めてるみたいで凄く罪悪感あるぅ……

手握り締めすぎて震えてるよこの子。

 

「…………ナー」

「ん?」

「ファフナー、なんだ。ボクの力…」

 

えっ???

どういうことなの(困惑)

 

「…お前人型兵器になんの?」

「ならないよ!?……君に、SDPと新同化現象が出るんだ」

「えっ」

 

ファフナー原作のどれが出てもバッドエンドまっしぐらじゃねーのそれ?

いや待て、引き寄せと体重の増加なら能力使わなければ死にはしないのでは?

 

「多分複数のSDPが出て、同じだけ新同化現象も出ると思う」

「アッハイ」

 

終わったー!これ始解したら死亡ルート確定だわー!ガメオベラですわー!

もーやだ、何であんな記録持った上こんな茨の道歩いてんだよ!

平和に暮らさせてくれよ!!

 

「あああ、ごめんね、やっぱりショックだよね!?」

 

顔覆って固まった俺にめっちゃ優しく声掛けてくる。

うん、ごめんな。もう落ち着いたよ。

……体のスペックが高い理由はこれもあったか。多分天才症候群の再現だよな?

そっか、道理でこの風景見覚えある訳だ。

EXODUSの最後の方こんな感じだったわ。

あ?説明の続き?どーぞどーぞ

 

「種類は使うまでボクにもわからないけど、原作が違う能力がSDPに混ざってると思う」

「なんでさ」

「多分、ボクらが選ばなかった人格の分…」

「あー……」

 

特殊能力いらねってポイしたもんねー…

造り主達の能力への憧れがこっちに回ったのな…うへぇ。

その分の新同化現象もそのSDP関連になんのかね…

 

……ん?ファフナーって乗ったら同化現象と変性意識あったよな?

聞いてみよ。

 

「同化現象と変性意識はどーなの?」

「同化現象は多分ここに来た時点で始まってる、と思う。

ただの刀として扱う分には、肉体の変化が遅いのに合わせたのか、視力低下は凄くゆっくりしか進まないと思う。

目の色はもう変わってるかも……」

「……お前がここに俺を入れなきゃ良かったのでは?」

「ボクが存在する以上、何本浅打を変えても同じ事になるし、知っておくには早い方が良いかと思って…」

「あー、納得。ありがとな」

「どういたしまして。こんな能力の刀で申し訳ないけどね」

 

師匠──俺の名前を呼んだ人の期待には応えなきゃならんからなぁ。

破晶、お前のせいじゃねーんだから、そんな顔しなくて良いんだぞ?

 

「変性意識なんだけど、使うSDPに合わせて変わると思う」

「……それ戦闘中人格ごちゃ混ぜって事か?『俺』の元の人格にちゃんと戻れると良いがな」

 

俺がこの人格を選んで何年も経った。

やっぱ環境の違いがでかいのか、最初に選んだ人格からは大分離れてしまい、『今の俺』は何処にもバックアップが無い。

一回吹っ飛んだらお終いだ。

 

「結局始解は使えねーのか?」

「それなんだけど、これを見て」

 

うおっ、なんかVRデスゲームみたいに半透明のパネル空中に出して弄ってる…

おお、俺の前に移動させた。

こう言うの触ってみたかったんだよなー、記録で近未来系見る度にワクワクしてたわ。

 

「これは?」

「ボクの使える機能一覧。

今表示してる偽装鏡面なら、君の体に負担が掛からないし、始解って言って誤魔化せると思うんだ」

「確かに………成る程、お前は島のコアみたいな扱いなのか」

 

姿、熱……霊圧も隠蔽できるのか。

…姿以外は隠せないってことにした方が無難だな。

 

「偽装鏡面張る時用の解号とか決めとくか?つーか本来の解号って何?」

「…『開門せよ』、だよ。君が口に出さないままいられれば良いんだけど…」

「それフラグじゃねぇ?……まんま『隠せ』、とかで良いか」

 

機能一覧そんなにねぇな。

始解の分はロック掛かってんのか見れん。

……実体化?何ぞ?

 

「破晶、これは?」

「ああ、君の体の情報を基に、ボクが人間の姿を取れるんだ。

霊圧とかは君と全く同じになると思う。

実体化して別行動しても、斬魄刀を通して会話は出来るよ」

「刃禅しなくても?ああ、ジークフリード・システムか」

「そうそう」

 

まんまファフナーとアルヴィスの機能詰め込んだ感じだな。

死亡フラグまで詰めないで欲しかった!!

 

「そういやシステム名とかからすると、明けない夜とか外典とか冠位指定とか該当者一杯いるけど、そっちじゃなかったんだな」

「彼等は『人間として生きる』事を望まれたからじゃない?

『ブルーノ』は徹頭徹尾アンドロイドだったし、無機物になるには良かったのかも」

「……ふーん」

 

結構あっさりしてんのな。

実体化させて街連れ回してやったらどんな反応すっかな……

 

「境、そろそろ現実に戻りなよ。お昼過ぎちゃうよ?」

「へ?もうそんな?

……飯食ったら先生方に始解出来るようになりましたって言って見て貰うか」

「ちゃんと偽装鏡面張るよ。任せて!」

 

あーガッツポーズしてる破晶癒やしだわー、199cmの男だとか関係ないわー。

この刀で癒やしにならん人格だったら倍くらいSAN値削られてたんだろうなーあっははー

………はぁ

 

「じゃあ飯食いに行って来るよ、兄弟」

「兄弟?」

 

キョトンとしてるな、ほんと仕草が大男とは思えんわ。

 

「同じ所で同じような生まれ方したんだ、似たようなもんだろ?」

「───そうだね。いってらっしゃい、兄弟」

「おう」

 

 

目を開くと、俺は変わらず自室に座り込んでいた。

足に載せていた浅打はその形を変え、柄糸が鮮やかな浅葱色に染まっていた。

 




主人公のSAN値は多分6位減った。まだギリギリ40代。
アイデアロールは不成功。

この作品内では、BLEACH、ファフナー、5D's以外の作品固有名詞は極力出さない方向で行きます。

破晶の一人称二人称確認にTF動画久々見に行ったけど、やっぱ大好きブルーノちゃんヒロインだった。

主人公と破晶の状態はFateのアンリマユに近いですかね。
主人公の外見は違うけど、二人ともキャラの皮被って存在してます。


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みかづきのはねが欲しい


固有名詞出さないって言ってたけど型月も固有名詞出てましたわ、破綻したので吊りですね……
書きやすいのでこれからも色々一寸ずつ出します(開き直り)

なんかあらすじ書いた時の想定よりも主人公草生やさないな?……いつかあらすじ改訂するかもです
ラストまでの流れほぼ決まったけど思ってたより主人公も周りもSAN値削れました



飯食いに行く前に目の色確認してよかった。

もうね、真っ赤。吃驚するぐらい真っ赤だった。見た瞬間「うおっ」って言っちまったよ。

幸いにして染まったのは左眼だけだったけども。右はまだ真っ黒けっけでーす。

始解した訳じゃねーから軽く済んでんのかね。

 

『やっぱり…ごめん……』

「えっ、あ、破晶か!?」

『うん、吃驚させちゃってごめん』

「おうわ!?ああ、こんな感じなのね……

もー、いいって別に、お前のせいじゃないんだからあんま気にすんなよ」

 

赤い半透明の姿の破晶が鏡見てた俺の真後ろに突然出現、驚いたのも無理ないよな?

どうやら俺以外には見えないんだと。もう一人のボクかよ。

緊急時か、俺が呼ぶまでは静かにしてるって言い忘れたから言いに出て来たらしい。

まあヤバい奴扱いはごめんだしな、それが妥当か。

 

『じゃあ、必要になったら呼んでね』

「おう、またな」

 

手を振りながら破晶が消える。

英霊の使い魔が霊体化する時ってあんな感じなのかね…

 

染まった左眼についてだが、伸ばしてた髪と、ここ暫く切ってなかった前髪で隠すことにした。

眼帯は目立つし、眼鏡の類いもないから色を誤魔化すのも無理。

「気分転換に髪型変えたら始解出来るようになったのでこのまま行きます」で押し通してやらぁ!

 

 

先生方に始解(偽)を見せて、無事飛び級卒業が決まったは良いものの、ギリギリすぎて二番隊も隠密機動も採用枠が余ってなかったらしい。

だったら四番隊の枠を貰おう。

後方支援だから割と戦闘しないだろうし、回道ガッツリ学べれば師匠の研究にも役立てそうだ。

異動願い的な物もあるとは聞いたし、ちょっとの寄り道は許して貰いたい。

 

 

さて、卒業して隊舎に行くまでは家に帰れる。

家事すんのも久し振りだな、一寸楽しみだ。

……他の隊に入ったの報告するのは気が重いが。

 

「ただい……あ?」

 

引き戸が開かない、師匠は外出中か。

鍵は持っているので開けて入る。

 

「たっだーいまーっと」

 

前の休みに来たときとあんま変わってねーな。

まあ俺が居なくても師匠普通に生活してたし、そりゃそうか。

………あっ一寸泣けてきた、俺が来るまで師匠独り暮らししてたから当然だってーのに。

ええい本当に気分転換だ!師匠帰ってくるまでに掃除やら飯の仕込みやら済ませてやる!

 

 

師匠遅すぎない…?もう六時回ったぜ…?

飯は温め直せば良いだけにしてあるけど、食って帰って来ちゃったらどうしよ……ああいや、俺昼食ってないから二人分くらい食えちゃうか。

掃除全力でやり過ぎたわ、くっそ眠い………

 

 

「………?………!……」

 

離せ、嫌だ、痛いのは嫌なんだ

 

「…ン!………け………」

 

あぁ違う、待って、置いていかないでくれ、俺は

 

「境サン!」

「ッ!!……師匠?」

 

うっそ俺寝てたの?

畜生、あんな気分で寝ちまったから久々に記録の夢見ちまった…

あーあ、師匠帰ってくるまでは起きてたかったのに…

 

「随分と魘されてましたよ?」

「うっ……五月蠅くしてすいません、師匠」

「いえ、それは構わないッスけど……もしかしてボクが帰ってくるの待っててくれました?」

「おう……」

 

そーだよ悪いか!結局寝落ちしちまったけどな!あー言われるとすっげー恥ずかしいわこれ!

 

「……ありがとうございます。ただいま、境サン」

「お…おかえり、師匠」

 

……まあ師匠嬉しそうだし、いっか。

 

 

飯はやっぱり冷めていたので、火を入れ直す。

師匠はどうやら俺が帰ってくる日を覚えていてくれたらしく、出来るだけ早く仕事を切り上げてきてくれたらしい。

「結局九時頃になっちゃいましたけど」と言っているが、急いでくれたと言うだけで十分である。

飯も食べていなかったようで、作った分をしっかり完食してくれていた。

 

 

「すいません、師匠。俺の卒業が遅かったから、結局二番隊にも隠密機動にも入れなかった…」

 

食後に俺の今後について伝える。

やっぱ申し訳ないなぁ…

 

「良いんすよ、飛び級なんて凄いじゃあないですか」

「……師匠のご期待には添えたのか?」

「そりゃもう」

「なら、良かった」

 

良かった、失望はされてないみたいだ。

 

「異動願い、すぐに出した方が良いか?」

「んー……いや、出すのはまだ暫く必要ないですね」

「なんでだ?」

「一寸色々変えられそうなので」

「…よく分からんけど、師匠がそう言うなら出さないでおく」

「はい、そうして下さい」

 

まぁ師匠がいいってんなら良いけど、やっぱ一緒に働きてーなー。

 

「ところで境サン、どんな始解になったんです?」

「えっ!?ああ、えっと、『隠せ、破晶』」

「ほー、透明化ですか」

「縛道で同じこと出来っから、大した能力じゃねーけどな」

「霊力の消費量は大分変わるでしょう?良い能力だと思いますよ」

 

偽物の能力だからなぁ…褒められても微妙だ。

うぅ、師匠に嘘吐くのはなぁ…

 

「…その髪型は如何したんスか?」

「ああ、気分転換だよ。これで始解出来たから、当分これで行こうかと思って」

「ふーん、顔が見え辛いのは勿体ないですけど、それなら仕方ないッスね」

 

そりゃまぁわざと隠してるからね!

……勿体ないって…まぁこの体の顔面偏差値そこそこ高いからな……うん、恋人とか作る気ねーしどうでも良いや。

あ、そうだ。

 

「師匠疲れたろ?風呂焚いてくるよ」

「境サンの方が疲れてるんじゃないですか?」

「寝過ぎて体力余ってんよ」

 

兎に角風呂入って寝よう、師匠居るからもう記録混じりの悪夢なんて見ないだろうし、な。

 

 

彼女が風呂を沸かしに行った後、お師匠さんが「まだ見てるんですね…」と呟いたのを、刀の中で聞いている。

 

彼女は名前を呼ばれた後から、時々悪夢を見ていた。

記録は切り離されても、「記録を見た記憶」は彼女の物だ。

記録の中の造り主達に彼女の姿を投影した悪夢が、ずっと彼女を苛んでいる。

そんな仕打ちを受ける理由など無いのに。

 

彼は悪夢の内容こそ知らないが、その譫言から、出会う前の事を見ていると推測しているのだろう。

寝るときに手を握ったり、頭を撫でてやったりして、恐怖を和らげてあげようとしていた。

その甲斐あってか、霊術院に行く前には殆ど見なくなっていたのだが。

 

(この人がそんな事しないって、まだ信じ切れないんだね、境)

 




SANチェックは失敗してますが師匠との会話が精神分析なので±0です。
主人公が主人公〔 リリィ〕である間にどれだけ削れますかね(ゲス顔)

帰ってきたら可愛がってる子供が部屋の隅で膝抱えて魘されていた。
SANチェック0/1、成功。

主人公の髪型

【挿絵表示】

双子の紫水晶の記録を見て、これでいっかと思ったが三つ編みにするには長さが足りなかったようだ。
後ろで纏めたところで、前に回した分が短く跳ねてしまっている。
※挿絵一寸手直ししました。某一族みたいな目になってたので……
前のは挿絵一覧の方に置いておきます

記録のせいで人間不信な主人公は、浦原さんを信じて居るのではなく、「この人になら何されても良いか」、と半ば諦めているだけである。
破晶は自分自身みたいな物なので、そもそも信用するしないの問題にならないし、なんなら主人公自身よりも現状を理解しているが、言っちゃうと高確率でSANチェック(1D10/2D10)なのも分かってるので言わない。

今回の記録:虐待の末部屋に閉じ込められて衰弱死
起きたときには覚えていなかったが、彼女を置いていったのは金髪の男であった。
彼女は何をされても良いから置いていかれたくなかったらしい。
笑って殴られた記録も、泣いて蹴られた記録も、謝って首を絞められた記録も混じってたので、上手く表情を作れないまま「すいません」を言ったときは割とビクビクしていた。


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何故医者みたいなもんなのに給料が安いのか

前話の挿絵一寸手直ししました。某一族みたいな目になってたので……
前のは挿絵一覧の方に置いておきます

今の所ダイジェストっぽくなっちゃってるので、抜かしてるところとかさらっとしか書いてないところは何時か番外編として書こうと思います。

結末はなぁ…師弟エンドと恋愛エンド、どっちも捨てがたい……
とりあえず師弟エンドを目指しますが、何時かIFルートとして恋愛エンドも書くかもです。
まあ、主人公のSAN値が更に削れる以外は大した違いが出ないと思いますがねHAHAHA
……因みにこの時点で恋愛エンドに入ろうとする(師匠ロ〇コンルート)と、某美人英語教師ルートの如く5秒で終わるので分岐はもう一寸後です。

追記:後書き重複して書いてたので訂正しました。
追記2:前書き一部抜けてたので訂正しました。



どうせ休みにはまた帰ってくるので、隊舎には寮に持って行っていたのと同じ、最低限の生活必需品だけを持っていく。

つっても其れ位しか「俺の荷物」って言えるもんは無い。私服も帰る時用に持って行っちまうからな。

強いて言うなら、ここに来てからずっとお世話になってる布団一式と、師匠が読み終わって俺に譲ってくれた本が、「置いていく俺の荷物」ってギリギリ呼べる。

……ぶっちゃけ生きていくことと師匠の役に立つこと以外にあんまり興味が湧かないんだよ、驚いたことに。自分用の嗜好品とか買った記憶が無い。

知識はあればあるだけ良いから欲しいし、旨いもの食べて味を盗めれば嬉しいとも思う。師匠の手伝いがしやすいし、「美味しい」って言って貰えるからな。

けど俺が何か物を得るのは師匠に影響がない。師匠に必要なさそうなもんを手に入れようと思えん。

我ながらつまらん奴だと思うが、まあ周りからしたら「読書・料理が趣味」って見えてるだろうし、変に目立たなければそれでいいさ。

 

「じゃあ師匠、また次の休みには帰ってくる。頑張って働いてきます!」

「無理はしないで下さいね」

「其れそのまんまお返しするわ。研究に根詰めすぎてぶっ倒れないでくれよ?」

「アナタが居るときに倒れるように、ちゃあんと計算してるんで大丈夫ッスよ」

「いや俺が居るとか居ないじゃなくて倒れないで欲しいんだけど?適度な休憩を挟むって選択肢はないんですかね師匠?………行ってきます」

「……はい、いってらっしゃい」

 

うし、師匠が態々見送りまでしてくれてんだ。やる気入れろよ俺。

師匠の下で働けるようになるまでに、「自慢の弟子です」って言って貰えるような功績おっ立ててやる!

 

 

…俺、四番隊って治療が主って聞いたからさぁ?優しい人が集まるとこだと思ってたんだわ。

何ぞこれ?上司大半恐い…マジで何で…?

副隊長が癒やしだ。他もいい人なんだけどね…威圧か小言かの2択とかさあ……

働き始めて早一ヶ月、異動願いを出す日が既に待ち遠しい。

 

…ただまあ、手当てと回道、薬学に関しては来て良かったと心底思う。

他とは知識量が桁違いだ。実地も兼ねてるから理解も深まる。

…漢方に凝ってる記録とかもあったが、記録はあくまで違う歴史を辿った世界線の知識だからな。見た目が同じ草でも、向こうで薬草、こっちじゃ毒草、なんて風に成分が変わってる可能性があるから使えなかった。こっちの知識を習えるのはほんとありがたいわ。

 

暇な時間には、記録の中で造り主達が対処できなかった怪我を書き出して、それらへの対処を考えている。

少なくとも、これで同じ末路を辿ることは無くなるだろうからな。

 

仕事の方は直ぐに慣れたが、怪我を見た時、夜に似た傷の出て来る記録を夢に見るようになってしまった。

そのものは平気なんだけどな……どんな傷であれ、記録の傷=致命傷よりはマシだからな。

破晶曰く魘されているらしいし、猿轡でもしてから寝るべきだろうか……いや、誰かに見られたらコトだしなぁ……ドMの変態野郎だとは思われたくねぇ。

布団を出来るだけ深く被れば良いか…?

 

 

そんなこんなで大体一年が過ぎた。

休みに家に帰ると、なんか何時もより師匠の機嫌が良さそうだった。

 

「なぁ師匠、なんか良いことあったのか?」

「ええ。境サンに異動願いを出して貰う先が今度出来るんスよ」

「! 新しい部隊って事か?」

「まだ他の人には内緒ですよ?」

「…それ俺に教えて良いのかよ?機密って事だろ?」

「境サン口固そうですから」

 

確かに固いね、喋るような相手も居らんし。

 

「……了解。成る程、まだ無い部隊には異動出来ないもんな。師匠も其処に入ってんのか。」

「そんなとこッスね」

 

環境整ったら呼んでくれるらしい。……楽しみだな。

 

 

休みが明けて、俺は底辺だけど席官に昇進。回道をそれなりに使いこなせてたから、だそうだ。

そんでもって、護廷隊は一寸組織図が書き換わった。

 

いや、確かに入ってるっちゃ入ってるけどさ?師匠局長じゃねーか!そんでもって隊長兼任かよ!そんなとことかいうレベルじゃねーよ…

趣味を仕事にしたかったから専門部署作るとかぶっ飛んでるわ。

環境整えるって言ってもこれじゃかなり時間かかりそうだな……年単位は覚悟しとこう。

俺は俺で文献漁ったり工学関係の記録見返しておくかね。

 

……今度帰ったらお祝いだっていってご馳走にしよう。プレゼントするもんとか思い付かんしな。

 

 

えー、こちら空式。只今副隊長殿に深夜の厠で吐いてる所を見付かった次第。

しやーねーだろ!?記録の夢ガッツリ見ちまったんだもんよ!久々にキッツい奴だったから気持ち悪くなっちまったんだよ!

始末を手伝って貰ったはいいが、膝詰めで説教は面倒だな……

 

「いや、一寸興味本位で酒飲んだら予想以上に強くって」

「まだ子供なんですから駄目ですよ!」

「…はい、すいませんでした……」

 

精神病の診断下されたくないから酒のせいにしてるが、まだ十四、五歳にしか見えねーからな…

…説教より部屋に帰って寝たい。よし、疑われる前に切り上げて貰おうそうしよう。

 

「大体こんな時間に…」

「あの、副隊長」

「あ、はい。なんですか?」

「俺、お酒飲めるようになりたいんです」

「?……何でですか?」

「格好良いじゃないですか、なんか渋くて」

「そう、ですかね?」

「そうですよ!…だから、その……俺がもう少し成長したら、お酒試すの付き合っていただけますか?」

「!…わかりました、でもそれまで勝手に飲んじゃ駄目ですよ?」

「はい!」

 

ウソ…俺の上司ちょろ過ぎ…!?

まぁ詐欺師の人格のスキルフル活用で喋ったから当然っちゃ当然だけども。副隊長マジ純粋。

……うん、とっとと寝よう。今度は吐いたもん喉に詰まらせる夢でも見るかもしれんが、寝ないよりはマシだ。

おやすみー。

 




悪夢によるSANチェックは0/1
今回の悪夢は失敗、1減少。

主人公は自分の出自から、かなり自己評価が低いです。
飯作ってくれて頭が回って手先が器用で見た目も整ってて飛び級まで決めた、そんな弟子が自慢じゃないわけ無いんですがね……

どの隊員がいつどの階級かとか、どっちが年上かとか、時系列あやふやな場合はぼかしたりします。

今回の記録:猟奇殺人の被害者
目隠し+拘束状態で、内臓を素手でいじくり回されたのが気持ち悪かった。
珍しく他の同系統の記録が混じらなかったが、一つでも十分キツかった。


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SAN値の減らない日

此処までの話で浦原さんの漢字全部間違えてたので訂正しました。おのれ予測変換。
前話の前書き一部抜けてたので追加しました。

4000UA、30お気に入り突破ありがとうございます!

この先は主人公のSAN値を出来るだけ削りつつ永久狂気までは行かないルートを目指します。
分岐で進まなかった方はどっかで大筋だけ書くと思います。

関西弁わからん……

追記:ひよ里→主人公の呼び名を苗字から名前に訂正しました。
追記2:単語が間違っていたので訂正(一寸→確かに)



今日は一日非番なので、十二番隊隊舎に差し入れを持っていく。

師匠が十二番隊に移ったことで、住まいもそっちの隊舎になったからな。

勿論師匠があの家を出ることが決まった時点で俺の荷物は四番隊隊舎に引き上げた。布団は売って、残りは本位しかなかったから全く苦労しなかったが。

 

 

「師匠、差し入れ持って来まし……あー…」

 

床。床で寝てる。これ何徹かしたんだろうな……

とりあえず布団に放り込んでおく。起きたら着替え持たせて風呂行かせるか。

……この作業、弟子になってからもう十年近くやってるから慣れたけど、俺成長したな…身長の関係で多少引き摺っちまうけど、昔より師匠持ち上げんの楽に出来るようになったわ。

昼には目を覚ますだろうし、それまで持ってきた論文確認しとくかな。

 

 

「喜助ぇ!書類持って……あ?なんや、境来とったんか」

「あ、ひよ里さん。お邪魔してます」

「……お前ホンマ物好きやな、態々それの世話焼きにこんなけったいな場所来て……うわクッサ…」

 

あんま他の隊の奴は近寄ろうとしないもんな此処。

 

「ははは……あ、これどうぞ。あと、差し入れに握り飯作ってきたんですけど…」

「お、大福か、おおきに。そっちは後でウチが配っとくわ」

 

師匠用の甘味付き弁当一式とは別に、ひよ里さんにもお菓子、他の隊員には簡単な間食。

弟子の俺の評価が上がれば師匠の評価も上がるからな、こういう所から印象操作していくべきだろ常識的に考えて。

 

「下手に触ったら不味いと思って部屋の掃除はしてないんですけど、今手伝える事ってあります?」

「じゃあ、廊下雑巾掛けしてくれん?暫くやってへんからな」

「了解です」

 

他の隊の奴には見せられないからな、書類整理とかはひよ里さんがやってる。

師匠の住まいが汚いのは俺も嫌だから、掃除はガンガン引き受けてるぞ。

 

 

うん、まあこの位でいいだろう。

隅っこの誰も歩かないとことか意外と汚れが酷いんだこれが。蜘蛛の巣張ってることもあるな。

 

「廊下終わりましたよ。他何かありますか?」

「ん?ああ、今はあらへん。おおきにな」

「いえ、好きでやってるんで」

「ホンマ物好きやな…ウチは仕事に戻るから、喜助起きたら書類に目ぇ通させといたってくれ」

「わかりました、お疲れ様です」

 

初対面でちゃんと年上の女性として接したからかひよ里さんには割と気に入られていて、何かと気に掛けて貰っている。

師匠に苦労させられている同類というのも一因か?ま、俺は好きで苦労してるんだけどな。

……弟分とでも思われてるんだろうけど、身長俺の方が高いからなぁ。なんというか微笑ましい。

 

 

「……?」

「あ、師匠おはようございます」

「あれ、境サン来てたんスね。おはようございます」

「また床で寝落ちてましたよ、普段からちゃんと寝て下さいって言ってるじゃないですか…」

 

…師匠が十二番隊の隊長になってからは、敬語で話すようにしている。

俺の見た目がもう子供ではないという事と、弟子にタメ口きかれてる奴が隊長として受け入れて貰えるか?ってのが理由だ。

俺が師匠の評判を落とす理由になるわけにはいかん。

 

「これどうぞ、弁当と大福です」

「お!これ最近人気だって噂の店の豆大福じゃないッスか」

「はい、丁度近くを通ったので。……食う前に風呂行ってきて下さいね?今度は何徹したんですか」

「いやー、ついつい……あははは」

 

師匠が風呂に向かったのを見送ってから、他の研究員の所に行く。

 

「失礼します、阿近さんいますか?」

「あ、空式さん」

「こんにちは阿近さん、頼まれてた論文持ってきましたよ」

「どうも」

 

この少年や他の所員の一部は、蛆虫の巣に居た経歴のせいで現世へ渡れないらしい。

俺は最新の薬やら情報の入手やらでちょいちょい行ってるから、序でに此処の人に頼まれた現世の論文を取ってきている。

俺自身の知識も増えるしwin-winって奴だな。

たまに俺が書いた物も一緒に渡している。今より科学が発展してる記録を元にしたアイデアが多いから、結構役に立つと好評だ。

 

「あの、医療品関係って今どんな感じですか?四番隊(こっち)で臨床試験したい物があれば自分から話を回しますけど…」

「…包帯の素材を一寸弄ってみたので試してきて貰えますか」

「わかりました」

 

お、確かに柔らかくなったし良く伸びる。巻きやすそうでいいなぁ。

おっと、流石に木箱に詰まってると包帯でも重い…

 

副局長が居ない間に師匠の所に戻る。

俺あの人苦手なんだよなー、典型的なマッドサイエンティストって感じで。会う度ジロジロ観察されるし、気を抜いたら実験体にされそう。

 

 

隊首室に入ると、既に風呂を出たらしい師匠が弁当を食べていた。

 

「あ、そうです師匠。ひよ里さんが書類を置いていかれましたよ。後で見ておいて欲しいそうです」

「了解ッス」

「…では。この間五番隊に行ったとき…」

 

師匠が大福を食い終わるまでに近況報告をする。

自分の事もそうだが、他の隊の様子も一緒に伝えてるんだ。

救急箱やら清掃用具なんかの備品の補充で色んな隊に出入りするからな。それなりに情報通だと思うぞ?

…まぁ、昔っから師匠はふらっと出掛けては情報取ってきたりしてたから、俺の情報は補足とかそんなもんなんだろうけど。

報告が終われば後はほぼ雑談だ。

 

「あ、そうだ。割引券貰ったんで、今度一緒に食べに行きません?」

「え、うわ、高いって有名な所じゃないですかこれ」

 

前から飯に連れて行って貰うことはあったが、隊長になって給料上がったのか一寸お高い店にも行くようになった。

全然私物増やさねぇから金余ってるし俺も払う、って言ってんのに、未だに割り勘だったことは無い。

…俺なんぞよりひよ里さんとか連れて行けば、と言えば「そりゃひよ里さんと行くときもありますけど、境サンともご飯食べたいんで」と返される。嬉しいが奢られっぱなしは脱却してぇなぁ…

 

「安い内に行きましょ?」

「…了解です。いつにします?」

「じゃあ……」

 

 

来週の約束を楽しみにしつつ、空の弁当箱と握り飯を載せていた皿と包帯の試作品を持って四番隊の隊舎に帰る。

 

あー…娑婆の空気は美味いなぁ。

いや、実はあの隊首室なんか嫌なんだよ。生理的に受け付けないって言うか、彼処にあるもんの中には見当たらないんだけど、如何しても壊さなきゃいけないようなもんがある気がしてな…

これについては破晶も同意してくれる。

「この気配の元が目の前に出たら、ボク達は始解してでも壊そうとするんじゃないかな…」、だと。

何が原因か知らんが、出来れば一生お目に掛かりたく無いな。

 




考査とセイレムがコンボかましてきたので大分書くのが遅いです、申し訳ない。

んー、予想以上に型月が混じる…でも設定はそれが一番筋通しやすいんだよな……
もう一寸型月設定出てきたらタグ付けますかね…

ん?此処までの話所々原作と設定変えてるよねって?バタフライエフェクトって事で見逃して下され……


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火の中水の中草の中(中略)あの子のスカートの中からでも脱出出来る


粗筋改訂したんですが、最初の構想だともっとこう、巫山戯ていくつもりだったんですよ。草を生やして。
どうして主人公のSAN値をギリギリまで削るチキンレースみたいな方向になってしまったんですかね……
楽しいから良いけど。
主人公ほんとゴメンな!死亡ルートも同化ルートも用意してるけど許してね!(満面の笑み)

日を跨いだ時間経過での改行の量、一寸増やしてみました。

お気に入りもUAも凄い伸びてる…!?5000UA、40お気に入りありがとうございます!

※感想の方、普通に書いてはいけない縛りも、普通に書かなくてはいけない縛りも無いですので、どなたもご自由にお書き下され…

追記:誤字修正しました



もう四番隊に勤めて十年になるか。

仕事滅茶苦茶頑張ったからな、今俺六席なんだよ。

虚の討伐に衛生兵としてついて行って鬼道で援護したりしたのも良かったのかもな。

白打やら歩法やらも含め、戦闘技能は一通り師匠や鉄裁さん、夜一さん──様付けは辞めさせられた──に仕込んで貰ってるから普通に戦闘も行けると思うが、俺はあくまで衛生兵だからな。矢面に立つわけにはいかないんだよ。

 

──近頃は平和だ。平和なんだが、一寸可笑しな噂が出回っている。

曰く、誰かが着ていたような形のまま服が落ちている。

曰く、それは昨日まで元気にしてた奴の服とよく似ている。

曰く、今日は其奴の姿が見えない。

 

「なあ、彼奴が何処行ったかあんたは見なかったか?」

「ごめんな、そういう特徴の奴は見てないんだ」

「…そうかい。あぁ、俺のダチはいったい何処に消えちまったって言うんだ、畜生…」

 

流魂街の古書店に掘り出し物が無いか探しに来た序でに師匠に土産話を持って帰れないか、とそこらの店を覗きながら噂に耳を傾けてたらこれだ。

今の俺は死覇装でなく着流し姿だから、あの男も探し人を尋ねてこれたんだろう。

死神が近くに居ると怖がって喋らなくなる奴も居るからな、情報が欲しいときは流魂街の住民の振りをするに限る。……破晶は偽装鏡面で隠しながら持ってるけど。

()()と違って球状以外の形、それこそ指定した物の表面に沿わせたりできるからな、何か隠し持つのにはうってつけなんだよこの始解(偽)。

ま、無いように見せれるだけだから、目の色を誤魔化すとかは出来ないんだけどな。

直接触れられるのにも弱くて、感触は誤魔化せない。

始解したら機能拡張するかもって破晶は言ってるが、知りたくねぇ……始解なんぞしてたまるかっつーの。

 

にしても消えた、ねぇ……

一応卯ノ花隊長に報告しとくか。

 

「境!」

「おかえり青乃。何処にするか決めたか?」

「うん。彼処のお蕎麦屋さんが良いな」

「はいよ」

 

こいつは青乃。昔にはぐれた俺の双子の兄弟で、最近再会してから現在流魂街に住んでいる此奴と俺は時々会っている。

……と言うことになっている、実体化した破晶だ。

ブルーノの姿ではあるが、あの体格じゃ目立つと言うことで俺と同じ位、十代半ばの少年の姿になっている。

…それでも身長180センチ近いんだよな……俺ももう少しで170に手が届くが、師匠といい此奴といい見上げなきゃいかんから少し首が痛い。

DNAとかは俺と全く一緒なんだが、実体を形作る時に調節してるから外見はある程度好きに出来るらしい。

あ?ブルーノなら「乃」じゃなくて「野」じゃないかって?

それじゃ苗字っぽいだろ。俺の兄弟って事で性は空式だしな。

それに此奴はブルーノそのものじゃないんだから、一緒にしちゃ駄目だろう。

 

……話が逸れちまったな。さっきのは他の死神に此奴の素性を聞かれた時に答えることになっている設定だが、まだ出番はない。

ああ、設定っつっても流魂街で暮らしてるのは本当だぞ。

俺が出現したところよりは治安がいいけどな。

本体は俺がずっと傍に置いているから、実体化した方──端末みたいなもん──は何処に居ても意思疎通に問題は無い。

元が斬魄刀だから食わなくても大丈夫らしく、霊力の素養が無い振りをして暮らしているらしい。

…一応仕送りしようと思ったんだが、「お金持ってたらちょっかい掛けられちゃうし、別にいいよ」と断られた。

美味いもんとか食わせてやりたいのに一人じゃ食わないんだよな、此奴…

 

そう言うわけで俺が此奴と出掛ける時は色んな店連れ回させてるんだが、どうやら麺類が好きらしい。

その内電波人形ロリみたいなかぷめん厨になっちまうんじゃねえか?

…そう、食の好みは割と人格に影響されたんだよ、俺達。

まだ出回ってないから自重してるが、ラーメンが広まったら自作してみようとは思ってる。

料理なら何だって作れるようになっておきたいからな。目指せ赤い弓兵。

 

 

お、この蕎麦屋は当たりだな。

麺が切れちまってないし、つゆも美味い。

 

『ねぇ、さっきの噂、一寸不味いかな』

"そうだな。噂の無いところに引っ越すか?"

 

…ジークフリードシステムも本物とは少々勝手が違う。

あっちと違って、こっちは逆に劣化版、単に通信用としての機能しか持ってないんだ。

実際は俺の頭の中に音と映像を送り込んでるだけらしいから、破晶は赤い半透明の姿を現さなくても俺にしか分からないように話し掛けたり画像を見せたり出来るけど、俺の方は声に出さなきゃならん。

まあ、再現にも限度ってもんがあったんだろ。

斬魄刀の何処を触ったらどの機能を使うかってのは決めてあるし、誰かに読み取られないよう、モールス信号やら点字を信号化したものやらを切り替えつつ斬魄刀の何処かを指先で叩けば俺の意思は伝えられるから、そこまで問題にはならない。

刃禅しなくても向こうと会話が出来る時点で十分だ。

そもそも思考・感情の共有なんてしてたら悪夢見ちまった時に二人して動けなくなっちまうからな。

彼奴まで精神削られる必要も無いだろ。

 

…噂の対象になった奴等は大半が身寄りの無い奴だけど、万が一「青乃」がそれに遭っちまったら不味い。

他の住人と違って元が斬魄刀だから、何が起こるか分かんねぇんだよ。

今日はこの後引っ越し作業だな……っていっても彼奴も全然荷物持ってない方だし、どっちかってーと家探しか。

 

『あ、じゃあボク成吊って所に住んでみたい』

"は?彼処治安悪いとこだろ?なんでだよ"

『ボクなら治安が多少悪くてもなんとかなるし、色んな所を見てみたくって。……駄目、かな』

"いいに決まってんだろ!けど絶対怪我すんなよ、何だったら実体化解けよ!"

『うん。ありがとう、境』

 

あざとい。青乃の方で首傾て上目遣いしながらとは、恐ろしい子……!

 

 

「「ご馳走様でした」」

 

きっちり手を合わせる。

この店の場所、ちゃんと覚えておこう。

後輩とか連れてくるのにいいかもしれん。

 

「大将、ご馳走様」

「ご馳走様でしたー」

「まいどー」

 

店を出て破晶が暮らしている家まで歩く間でも、例の噂が聞こえてくる。

……ほんと、大事にならなきゃいいんだが。

 

 

 

噂を隊長に報告して三日、とうとうあれは事件として扱われた。

六番隊が調査に行くんだと朝方には伝えられていた。

今現在はどこもかしこもピリピリしっぱなしだ、寝なくて済むから助かるっちゃ助かるけど。

 

…六番隊の霊圧が途絶えたそうだ。

上は追加で他の隊長格を行かせることにしたらしい。

俺達四番隊は、いつ怪我人が来ても対応できるように交代で仮眠を取りつつ夜を明かすんだとさ。

 

「空式六席、交代ですよ」

「お、もうそんな時間か?じゃあちょっくら寝てくるわ」

 

…上司、年上と護廷隊の先輩以外にはタメ口だ。

流石に全員に敬語だと、逆に舐められそうだったからな。

 

 

 

なんでさ。

起きて交代して仕事引き継いでたら突然自室待機を命じられた。

は?俺何もミスとかしてないよな?

いや、仮眠でまた記録見ちまったから顔色は悪いかもしんないけどさ、仕事は問題無くこなせるぞ?

くそ、訳わからん。

……え?いや、まさか。心当たりとかねーんだけど……

 

 

「破晶、俺の現状をどう思う」

「…この事件に関わりがあると疑われているから情報を遮断されている?」

「やっぱそう思うか」

 

待機中に何してろとか言われてないからな、絶賛刃禅中だ。

 

「疑われる原因って何だ?一寸思い付かん」

「噂の報告とか?」

「いや、それは俺の他にも何人か言ってたから俺だけ狙い撃ちなのは可笑しい」

「……犯人、だとは思われて無さそうだよね」

「それなら即拘束だろうからなぁ」

「だよね。四番隊で境だけが関連してる事…………え、ねぇ、それって…!」

「あー……師匠、か」

 

成る程、師匠が関わっていると俺が知れば、更に何か問題を起こしかねないからこの処置か。

…多分既に軽い監視はされてるんだろうよ。

直接見ずとも、霊圧の感知、なんていう便利なもんがあるからなぁ。

……今こうして俺が考え込んでいる時点で、妥当な対処としか言い様がない。詰めは甘いが。

 

「破晶、青乃に偽装鏡面フルに掛けて情報収集して来てくれないか」

「…ううん、最初から君が行くべきだ。君が自由に動けるように最初からしておいた方がいい」

「……けどよ、それは……」

 

監視を誤魔化す方法はある。

あるが、あれは破晶に嫌な思いをさせると思うんだ。

出来ればやらせたくない。

 

「大丈夫、無傷の綺麗な体だよ?記録を見た身としては、傷付いていなければそれで十分」

「何時間掛かるか分かんねぇぞ、トイレとかどうすんだよ」

「やり方は分かるし、それも記録で散々見たからね。」

「でも、嫌なもんは嫌だろ」

「……ボクは、君に後悔させたくない。こんな能力を持った以上、それがボクの『絶対』なんだ。その為だったらなんだってやる。だからどうか、君の『絶対』の為に、ボクを」

 

 

────使って。

 

 

ああ、成る程。納得いった。

俺が、此奴の『絶対』だったのか。

…まあ、それもそうだよな。俺の名前を呼んだのが師匠なら、此奴の名前を呼んだのは俺だものな。

うん、なんだって出来ちまうよな、わかるよ。わかるけど、その言い方はいただけない。

 

「わかった。だが、使うのは無しだ」

「え…」

 

向かい合ってた破晶に右手を伸ばす。

こう言う時は握手と相場が決まってる。

 

「俺に協力してくれないか、兄弟」

「……喜んで!」

 

 

"どうだ?隊舎の敷地外まで来たけど、結界かなんか通ったか?"

『いや、なにも。結界があってもちゃんとステルス工作はするから、気にしないで進んで』

"了解。そっちはどうだ?"

『副隊長が一度覗きに来た、ボクが偽物か怪しむ素振りは無かったけど、斬魄刀は何処かって聞かれたよ。

斬魄刀は布団の中が気に入ったみたいって言ったら凄い困惑してた』

"それは俺も困惑する。……あれ、もしかしてお前本当に布団好き?今度から部屋に居るときはそっちに置こうか?"

『いや、冗談だよ。……副隊長さん、凄い心配そうな顔してた』

"…早く情報集めねーと不味そうだな……とりあえず各隊舎には入らずに、そこらの死神の会話聴いてくるわ"

『了解、ボクの方でも隊舎内の音出来るだけ拾ってみるね』

 

脱出には成功した。やり方は割と簡単で、

 

①戸締まりを確認後、着流しに着替えて破晶を装備し直す。

②青乃の実体化を解いて、破晶に俺の姿でに実体化して貰う。

この時、破晶の方は霊圧の全くない、探査に引っ掛からない状態に調節しておかなければならない。

鏡越しじゃない自分の顔って一寸したホラーだな。

……服は実体に含まれないらしく、裸で出現するので俺の死覇装を着せる。

青乃の方も服が含まれないのは同じらしく、事件と間違われないように畳んでおいたって言ってるが、それって最後……いや、これ以上は止しておこう。

③出来るだけ互いに近付いてから、偽装鏡面を霊圧まで遮断するタイプで俺に張り、同時に破晶の方の霊圧を俺と同じだけ出るようにする。

近付いておかないと、位置が一瞬でずれたことになっちまって怪しまれ易くなる。

同時に作業するが、どっちも破晶が操作するからタイミングの問題は無い。

④人が少なく、ぶつからないルートを通って俺が外に出る。

結界があろうと、偽装鏡面が誤魔化してくれるので障害は無いも同然である。

それ以降は破晶が俺の振りをして、只管部屋で論文の確認をする。

 

ね?簡単でしょ?

………②が問題だったんだよな。破晶に女装、いや女体化して貰ったやつ。

異性の体の感覚ってさ、結構気持ち悪いんだ。

俺は夢で慣れたが、破晶にまでそれを感じさせるっていうのは嫌だったんだが……

うん、本人はそれでいいって言ってるけど、今度なんかで埋め合わせしよう。

 

 

 

よし、無事外まで行けたみたいだね。

…境ってば、ボクにまで気を遣わなくて良かったのに。

普段からずっと見ているから境の真似をするのは朝飯前ってやつだしね。誰にも気付かれない自信がある。

そもそも異性以前に、ボクは人格(ガワ)が男なだけで本来は斬魄刀だから性別とかないし、どっちの体でも気にならないんだよ。

 

…ボク達は、誰か一人に自分の名前を縛って貰って漸く存在出来る。

その人の言葉だったら、どんなに嫌なことを命令されたって従うしかないんだ。

境はそれを誰よりも分かっているから、予めボクに拒否権をくれたけど……

 

お師匠さんは、境に拒否権をくれるだろうか。

 




主人公が男の人格を被った少女なら、破晶は男の人格を被った無性の生き物、要するに万死に値する絶望マイスターみたいなもの。

主人公が破晶を大事にするのは、自分の片割れ、または同位体である、という以外に、自分がされたくないことをしない、というのを徹底しているのが理由。

主人公も破晶も某札集め人生ブレイカーに登場する百合系はとこに近い考えを持ってて、思い人の幸せが自分の幸せになるタイプ。

「設定」及び主人公はどっちが上かは自分達も知らない、としているが、実際に目を覚ましたのは自分の方が後だから主人公の方が姉だろうと破晶は思っている。


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戦力外通告

読んでほら胃ズーン状態になって貰えたら勝ちだと思ってます(サムズアップ)
まだファフナー要素が全然出せてないのは内緒。

6000UA、50お気に入りありがとうございます!
……評価とかも是非よろしくお願いします(小声)

言い忘れてましたが、前話までは「桜/前/線/異/常/ナ/シ」がイメージソングでした。
※※動画の方に当小説の名前を出すのはご遠慮下さい※※



さて、こう言う時は雑用してる奴等を覗くに限る。

雑談しながら出来る仕事だと、お互い知ってるからって箝口令なんか知るかとばかりに機密喋ったりするからな……ッ!?

 

「居たか?」

「いや。そもそもこんな中心地に居るのか?流魂街の方とか……」

「そっちは何があるか判らんから席官達が担当してるだろ」

「俺達じゃ力不足、か。隊長格相手じゃ誰だってそうだろうに」

 

あーびびった、直ぐ横が集合地点になってたのか。

ふむ、敵対する可能性のある隊長を広範囲で捜索している、と?

……他の所も行ってみるか。

 

 

俺に見えてる景色は記録として破晶にも流れてるので、俺じゃ認識できない細かい所や見逃した所は破晶がジークフリードシステムを利用して俺の視界に拡大表示してくれるから、望遠鏡要らずで便利だぞ。

今はその機能を使って十二番隊の隊舎をのぞいてるんだが、人が多い。

何時もは絶対に寄りつかない他の隊の隊員達だな、あれは。

……ガサ入れしてるのか。

特に隊首室は重点的にってか?明らかに人員が多く割かれてんな。

中心地だと流石に無駄口叩いてる奴は居ない、よなぁ。

うし、丁度いいのが居るし拉致ろう。

 

"偽装鏡面の範囲に彼が入るよう形状を調整"

『了解』

 

背後に降りて、と。

 

「ごめんなさい、一寸一緒に来て下さい」

「ッ!」

 

 

うし、この部屋なら隊首室から遠いし、気付かれにくいだろ……って痛っ、痛い!

おい蹴るな、今離すから蹴らないでくれっての!

 

「けほ……」

「あ、すいません…鼻まで塞いじゃってました?」

「……空式さん…なんでそんな格好でここに居るんですか」

 

廊下を一人で歩いてた阿近さんを抱えて人の居ない部屋に連れ込んだ。

局員の集められてるところを抜け出して、自分が使ってる研究室に向かおうとしてたっぽかったからな。

自分で気付かれないように行動してくれてたんで、攫うのは楽だった。

こらそこ、誘拐犯とか言わない!俺だって好きでショタ誘拐した訳じゃねーよ!

 

「昨日の午後は非番だったので流魂街の方に薬草の群生地を探しに行っていたんですが、今日の午前も非番と言うことで、そのまま夜を明かしてしまったんです。

仕事まで寝ようと思い隊舎に戻る途中で、此処に珍しく人が集まっているのが見えたので情報を貰おうかと思い立ち寄りました」

 

そう、この言い訳の為に着流しに着替えたんだよ。

流石に犯人ではないと思われてる一席官の動向なんて、他の隊には伝わってないだろうしな。

俺を待機扱いにしたのが卯ノ花隊長の独断って可能性も高い。

俺が師匠の弟子だっていうのは態々言って回ったりしてないからな。

四番隊の人間は俺が非番の日に師匠の所に行っているのを知っているが、他は師匠と一緒の時の挨拶でさらっと言う位だ。

俺の軟禁を上が決定するには理由が薄い。

 

「……局長の事ですか」

 

やっぱ何かあったんだな。

 

「ええ。何がどうなっているのか、教えて戴けますか」

 

 

………はああぁぁぁ?師匠がひよ里さん含む隊長副隊長複数名+鬼道衆の№2で人体実験しただぁ?流魂街の事件も師匠がやったってぇ?

んでもって鉄裁さんと四十六室に連れてかれて、夜一さんと合流して現在逃亡中ぅ?

……なんてこった、師匠ガッツリ冤罪ぶっかけられてんじゃねーか!(頭抱え)

そもそも師匠がひよ里さんを同意無くどうこうするわけ無いんだよ!俺ですらなにもされなかったんだぞ?

昔、俺で人体実験とかしないのかって聞いたら、「しませんよ」ってはっきり返してきたしな。

当時は拾われて直ぐだったから、何したって誰も気付かなかっただろうに。

……既に逃亡中かぁ、まだ尸魂界に居るなら探せるけど……現世に行くって選択肢もあるんだよな……

いや、兎に角探そう。現世に行ってたならその時はその時だ。

護廷隊に辞表叩き付けて一人で現世に行く事も考えておこう。

 

「…情報提供ありがとうございます、阿近さん」

「半ば脅しみたいなもんだったでしょう…そっちは帯刀してるんですし」

「それはその…すいません」

「此処に来たのは秘密にしておきますか」

「そうして貰えると助かります」

「…今度の差し入れ、俺にも甘味付けて下さい」

「ええ、それ位ならお安いご用です」

 

気ぃ遣わせちまったかな、これは。礼の菓子は高い奴買いに行かねーと。

 

 

元の場所まで一人で戻れるって阿近さんが言うので、俺はまたステルス状態で隊舎の外だ。

 

さて、師匠は何処だろう。

こんだけ人員投入されてて見つかってないって事は霊圧の遮断はしっかりやってるんだろうし、足で探すしかねぇな。

 

……師匠が隠れそうな場所…いや、夜一さんと鉄裁さんが一緒なんだったな。そっち関連の場所も考えるか。

四楓院の屋敷とか?長々とは居られないだろうが、一時的に立て籠もるには有り……いや、人が多すぎる。

あれだけでかい家なら正義感に駆られた使用人とかが居ても可笑しくない。

とっくに外と通じて居場所特定されてるな。

鬼道衆関連……はもっと駄目か。

トップ二人が関係者だ、ピリピリしてて警戒が上がってるだろう。

そんなとこに態々隠れに行くかね…?

 

……そうだ、彼処はどうだ?

前に師匠と夜一さんに連れてかれた「秘密の遊び場」。

誰かにバレたって話は聞いてないし、今捜索してる奴等もまさかあんなところに空洞があるなんて考えない筈。

況してや師匠達は逃亡中、瀞霊廷の中は捜索されにくい。

……うん、好条件だ。

「遊び場」の中を最初に探して、駄目だったら他だな。

 

 

確かこの辺に……あった、「遊び場」の入口。

中は……

 

『境、その入口侵入者感知用っぽい結界張ってあるよ』

「ッ!」

 

ヒェッ、入口に指掛けてたからそれに引っ掛かったのね。偽装鏡面あってほんと良かったわ……

…そんなもんが張ってあるって事は当たりか?

 

"偽装鏡面の範囲を俺と『遊び場』が丸々入るように変更"

『変更したら結界に引っ掛かっちゃうようになるけど…』

"引っ掛かんねー方が可笑しいし、堂々と感知されてやるよ"

『…了解』

 

………入り口を潜っても、結界を通ったってのは一切わからんな。張った人はかなりの使い手と見た。

 

底まで飛び降りながら一通り見廻すと、師匠と鉄裁さん、意識が無いのか重なって倒れてる死神複数が三重の結界に覆われてるのが見えた。

一緒に逃亡したらしい夜一さんの姿は見あたらない。

 

よっしゃ、当たりだ。

さっきの結界もあれも鉄裁さんが張ったのか?

それなら納得のクオリティだわ、専門家みたいなもんだもんな。

師匠が弄ってるのはなんだ?義骸っぽいけど…

まあ、とりあえず声掛けよう。

 

「師匠!鉄裁さん!ご無事ですか!?」

「………空式殿でしたか」

「え、境サン?」

 

うっわ鉄裁さん迎撃態勢整ってる……ガッツリ警戒されてたのか。侵入者が誰かまでは分かってなかったのな。

…いや、俺が師匠の味方かどうかも怪しむような状況って事か?

……なんか結界の中からあの隊首室みたいな嫌な感じがするな……

 

「境サン、今のボク達の状況を知ってて此処に来たんスか?」

「はい、罪に問われて追われているって所までは。

本当のところは流石に知りませんけど、なんにしろ俺は師匠の(がわ)に付きに来たので」

 

そう、俺は別に師匠が本当に犯罪者でも構わない。

師匠に俺の名が縛られた以上は、どうなろうとついて行く所存だ。

…師匠、ちらっとこっち見ただけで手ぇ止めねーな。それだけガチでやってるのか。

 

「…その服装は?隊舎を抜け出してきたんスか?」

「昨日の午後から非番だったので、元々外に居たんです。仕事は正午からなんで、今俺の居場所は誰も気にしてないと思いますよ。」

 

いや、本当は軟禁されてる筈なんだけどね。

 

「師匠、何か俺に手伝えることはありませんか?必要な物を取ってくるんでも、移動する際の囮でも、なんだってやりますよ」

「…本当に何でもッスか?」

「はい」

 

ぶっちゃけ鉄砲玉扱いされても良い、それで師匠の役に立てるなら本望だ。

 

「じゃあ、ボクらに会ったって気付かれないように四番隊に戻って下さい」

「? はい。それで、その後は?」

「何にもしなくて構わないッス」

「何もですか?」

「ええ」

 

俺の手伝いは必要ないって事か?

もしかしてもう冤罪を晴らす準備が出来てるとかそういう…

 

「境サンまで追われる身になる必要は無いッスから」

 

……え、なんだそれ。

その言い方だと、まるで師匠達は追われる身のまま逃走を続ける、みたいな………

 

「……師匠達は…師匠達はどうされるんですか」

「現世に隠れようかと」

「ッ!…俺を…ついて行かせてはくれないんですか……!」

 

置いて行かれたくない。だってそんな、それは「要らない」って事だろ?

師匠に要らないって言われたら、俺は、俺は如何したら良いんだよ!?

 

「境サンは疑われてないんでしょう?別に逃げなくても良いじゃないッスか」

「疑われてるとかは関係ないです!俺はただ師匠について行きたいだけで……!」

 

クソ、何か無いのか?何を言えば良い?

如何したら師匠は俺を連れてってくれる?

 

「……境サンにしては珍しく聞き分けが無いッスね」

「ッ……」

 

…師匠、怒ってる、のか?

……声が出ない。こう言う冷たい声は苦手なんだ。

あ…師匠がこっち来た。

結界越しに、俺と向かい合って立ってる。

 

「空式境サン」

 

え、師匠、なんで名前を改まって呼ぶんだ…?

…怖くて顔を上げられない。

 

「……は、い…」

 

クソ、声が掠れて返事すら上手く出来ん。

…師匠は一体何を考え、て………待て、まさか……

嘘だろ、嫌だ、そんな……!

 

「アナタを破門します。………これで、ついて来る理由は無くなったッスね」

「────」

「ボクは、境サンまで巻き込みたくないんスよ」

 

──師匠は優しい。俺を気遣ってくれているのは最初から分かっていた。

俺はそれを知らない振りをして駄々を捏ねていただけだ。

態々手を止めさせてまで対応させる意味は無かった筈なんだ。

 

…困らせてしまった。邪魔を、してしまった。

これ以上は……駄目だ。

 

「……我が儘を言ってすいませんでした。お気遣い、ありがとうございます。」

 

巻き込みたくない、それが師匠の願いなら、俺の感傷なんかどうでも良い。

何をおいても優先すべきはそっちだろ。

 

「数日前に破門された、ということにしても構いませんか」

「ええ、アナタの都合の良いようにして下さい」

「分かりました」

 

俯いていた顔を上げる。

…笑え、俺の人格は詐欺師(うそつき)だろ。

俺は師匠がいなくても大丈夫なんだって笑え(嘘を吐け)よ。

師匠が心配する必要は無いんだって、笑って(嘘を吐いて)みせろよ。

 

「喜助さん、今まで面倒を見て頂きありがとうございました。どうか、現世でもお元気で。」

「……境サンも、お元気で」

「はい。…鉄裁さんも」

「…ええ、空式殿も、どうか御達者で」

「はい。……では、失礼します」

 

一礼して、くるりと入ってきた入口の方に向いてから跳躍する。

 

"感知の結界を出たら、偽装鏡面の範囲を俺一人分に戻してくれ"

『……了解』

 

外に出て、四番隊の隊舎に向かう。

一度も、振り返ったりはしなかった。

 

 

隊舎の自室に戻ると、破晶が出迎えてくれた。

んな暗い顔すんなよ。

 

「…おかえり」

「ただいま。早速で悪いが、着替えたいから実体化を解いてくれるか?」

「…うん」

 

破晶の体が光になって空気に解けて行く。

残った服を拾い上げて着流しから着替える。

 

『まだ自室待機は解けてないよ』

"了解、論文はどうだった?"

『…ほぼ問題ないよ。誤字はメモに纏めておいたから、後でそれ見て直してね』

"サンキュ"

 

やること無いのか……今後の事破晶と直に話し合いたいし刃禅しよう。

 

 

「お前も一部始終は見てたよな?」

「…うん」

「何か聞かれたら、数日前夜中に呼び出されて破門された、って話そうと思うんだがどうだ?」

「……境」

「質の悪い冗談だと思った、いや、ショックで受け入れらんなかったから隠してた、の方が…」

「境!」

「うわっ!何だよ?急に大きな声出すなって…」

「…此処はボクしか居ないよ」

「あ?知ってるけどそれがどうしたってんだよ?」

「…泣いても良いんだよ」

「はぁ?…何、言って…」

「此処では、あの人が居なくなっても大丈夫な振りをする必要は無いんだよ、境」

 

………そっか、良いのか。

 

「……破晶、俺笑えてた?」

「…うん、凄く綺麗な笑顔だった」

「喜助さん、安心出来たかな」

「出来たよ、きっと」

「俺の事忘れても大丈夫だって位?」

「…うん」

「そっかぁ」

 

鼻を啜る。良かった、俺ちゃんと笑えてたんだ。

 

「もう師匠って呼べねぇなあ」

「此処の中だけなら良いんじゃない?」

「破門されちまったんだし、やめとく…」

「…そう」

 

破門は多分、犯罪者の弟子って言う肩書きを外してくれる為の物でもあった。

うっかり外でも「師匠」って呼んじまったらその気遣いを無駄にしちまうし、他の呼び方を慣らしていかないと、だよな。

 

「なぁ、破晶」

「…なんだい?」

「喜助さん、さぁ…俺の事、忘れないで居てくれるかなぁっ……」

「…大丈夫だよ、境。忘れるような人じゃないって、君が一番よく知っているでしょ?」

「っうん…そうっ、だよなぁ…!」

 

 

うぅ…これ現実にも反映されてんのかな…

擦ったから目元が腫れてるっぽいんだよ……

 

「すまん破晶、愚痴の相手なんてさせちまって」

「良いんだよ、別に嫌じゃないし。君が弱音を吐ける場所があるかどうかの方が重要だ。

…いつだってなんだって、此処では隠さなくったって良いんだからね?」

「…おう、ありがとな」

 

 

 

こうして俺は現実に戻り、そして、百年が過ぎた。

 




これも言い忘れてましたがっ!!今話からのイメージソングは「四/ツ/谷/さ/ん/に/よ/ろ/し/く」、です!!!
知ってる読者様は前話までとの落差でどうぞ胃を痛めて下され(営業スマイル)
某手描き動画で拝聴した、足/首と言う方の歌ってみたの雰囲気がピッタリ、というかそれを作業用BGMに混ぜていたが為にこの話の方向性が暗い感じになりました。
真綿で首を絞められていく感じが、すごく…いいです…

主人公は頑張りすぎて「一人でもやっていけるだろう」と思われたので置いていかれました。ある意味自業自得。


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視点次第で壊れ具合が大いに変わる

あけましておめでとうございます。本年も宜しくお願い致します。
初夢は青王を引いた後家がカメムシと蠅だらけになる夢でした。なんでさ。

今回はモブが一杯出ます。
インタビュアー(〇〇さん)も九番隊のモブ。性別すら決めてない。
五席(●●さん)も捏造。こっちはお好きなおっさんキャラを当てはめて下され。
男女比7:3位だと思ってるんですが、実際どうなんですかね?

追記:誤字修正しました



「え?瀞霊廷通信の取材?」

「本人じゃなくて良いんですか?……ああ、インタビューの前に他の隊員からも話を聞きに来たと」

「へぇ、色んな話が聞きたいから私達の雑談を書き留める形式で取材、ですか」

「あ、隊長から許可出てるんです?やったぁ、おおっぴらにサボれるぞー!」

「あ、じゃあ私お茶入れてきますねー」

「よろしくー」

「四席についてですよね?今外廻り行ってる五席とかなら昔の事とかも聞けると思いますし、戻ってきたら混ざって貰いましょうよ!」

「あ、外廻りってのは各隊への備品補充の事です。トイレットペーパーとか石鹸、救急箱の中身とかですね」

「にしても四席特集ってなんか珍しいなー」

「大体隊長格か、あって三席位だもんなぁ…」

「空式四席っつったらこれでしょ、『四番隊の兄』」

「それアレだろ?他に母ちゃんと長女と末っ子と叔父貴と先公がいるんだろ?」

「おいやめろ、他は兎も角母ちゃん呼びだけはやめろ、死ぬぞ」

「あの、今のオフレコでお願いします。命掛かってるんで」

「面倒見良いし性格男前だしで兄認定されたんだよなー」

「東に隊に馴染めてない新入りあれば行って構ってやり、西に仕事が上手く出来ない奴があれば行って教えてやり」

「身内が危篤だったり産気づいてたりしたら、『よし、今日から三日分のお前の仕事はこの俺が引き受けた!とっとと帰って顔見せてやれ』、だろ?」

「その間にそのあとの休みの手続き迄してくれてますね」

「でも兄貴とか姐さんとか呼ばれるのは嫌がるんだよな」

「『極道者じゃねーんだぞ』っつってたな」

「実際兄なの?姉なの?」

「あの人の性別は四番隊七不思議の一つだよ」

「俺達四番隊隊員の健康診断担当してるのは卯ノ花隊長なんですけどね?その隊長がだんまりなんで……」

「風呂とかトイレはアレだな、人に会わない時間見計らってるっぽい」

「縛道使ってるって話もあるぞ」

「書類仕事の途中でトイレに立たれたとき、こっそりついていったらいつの間にか後ろに回られてて『わっ』ってやられたわ。『先戻ってろー』って言われて、結局どっちに入ったかは見れてないのよね」

「喉仏はないよな?」

「無いけどそれは末っ子もだろ、判断材料としちゃ薄い」

「喋らなければぱっと見未亡人みたいな雰囲気あるけど、口悪いし背はあるしでなぁ」

「おい背丈の話はやめて差し上げろ、副隊長はそれで大分悩んでるだろ」

「男だと確定してる末っ子より格好良さあるのがまた…」

「でもゴ〇ブリは駄目なんだよな、誰かが潰す迄別の部屋に逃げてる」

「ギャップ萌かー…」

「お茶入りましたよー」

「お、サンキュー」

「調査員さんもどうぞ」

「…そういや俺外廻り一緒になったとき本人に『性別どっちなんですか』って聞いたことあるけど、『見りゃわかんだろ?』って言われた」

「わかんねーよ、眼鏡と前髪でほぼ顔見えねーもん…」

「髪の下がどうなってるかも七不思議に数えるんだっけ?」

「あの赤い太縁のクソダサ眼鏡を何故愛用してるのか……わからん…」

「俺も聞いたわ、同じ返答されて食い下がろうとしたんだけど……あ…ありのままその時起こった事を話すぜ!『俺は奴に質問していたと思ったらいつのまにかラーメンを奢られていた』な…何を言っているのかわからねーと思うが俺も何をされたのかわからなかった…」

「結構ご飯奢ってくれますよね、大体麺類、たまに焼肉って感じで。あ、でも飲みに誘われたことはまだ無いなぁ」

「多分今後もないぞ、あの人酒飲めないみたいだし。すぐ寝るか吐くかだっつってた」

「あの人ほんっと会話の持って行き方上手いよな、気付いたら向こうのペースに乗せられてる」

「だからお悩み相談室なんて開いてるんだろ?」

「上司の愚痴や恋愛相談、自殺を止めたって話も聞きますね」

「恋愛相談はなぁ、『四番隊の四席に相談して背中を押されたら告白は成功する』、なんて噂まである」

「可愛いコやイケメンに告られても、バッサリ切った上で其奴を好きって奴とさり気なく引き合わせたりしてキューピッドまでしてるよな」

「それキューピッドというか黒幕なのでは」

「相談室の面目躍如ですねぇ…」

「それで片思いの相手から恩人にジョブチェンジした結果コネが広がる、と」

「んでそれは仕事の為に使うんだろ?」

「書類仕事も外廻りも開発局との提携もやってるからな、人脈半端じゃない」

「外面完璧よね、後でほくそ笑んでたりするけど」

「皮肉も言うよなぁ、しかも結構キツい」

「でもキレたとこは見たことないですね」

「確かに。マジギレは見たことないね」

「…あの人仕事めっちゃしてるけど倒れたこととか無いよな?書類やってて寝落ちするのも全然見ないんだけど」

「仕事をするという鉄の意志と鋼の強さを感じる」

「休みも流魂街行ってる時以外は自室で医学書やら論文やらと睨めっこしてるからな、休みの数が俺達の半分くらいだと思った方が良い」

「ワーカホリックかな?」

「休日そんなことしてたのか」

「体調管理完璧すぎかよ」

「部屋殺風景だよな、本しかない」

「流魂街行ってんの?見かけたことないけど」

「タッパのあるイケメンと一緒に私服で居るのは見たわよ」

「え、誰だそれ」

「恋人?」

「いや、兄弟だって言ってたぞ。似てないけど双子なんだってさ」

「へー。……ん?何でお前が答えんの?」

「「あっ」」

「あって……ま、まさかお前等リア充か…!?デートなのか…!?」

「末永く爆発して、どうぞ」

「いっ、今は私達よりも空式四席の事でしょ!」

「二人して墓穴掘っちまった……」

「後で馴れ初めとか聞かせろよ?で、その兄弟と四席は何してたんだ?」

「ラーメン食ってた」

「…何?そんなに麺類好きなの?」

「別に他のモン食べるのは嫌ってない筈だけど……」

「美味しい物食べた時レシピ貰おうとかやってますもんね」

「夜食にもカップ麺系食ってるね、飽きないのかな」

「アレじゃね?選ぶ手間を減らしたいとかそんな」

「んで浮いた時間で仕事するんだろ?あり得る…」

「あーなるほど」

「お前等、何してるんだ?」

「あ、お帰りなさい●●五席」

「〇〇さん、あの人が五席の方で、空式四席よりも前から四番隊で働いてらっしゃるんですよ」

「空式四席についての取材らしいです」

「ほぉ、珍しいな」

「今は休日の様子について話してるんですけど、何かネタ持ってません?」

「あ、隊長から許可は貰ってますよ」

「そうか、それなら俺も混ざるかな。…しかし、休日ねぇ……ああ、あいつ午後と次の日の午前連続で非番にしてる日あるだろ?」

「ありますね、週に一回あるかないかのペースですけど」

「そういう日は兄弟の所に泊まりに行ってるか、徹夜で薬草の生えてるとこ探してるんだよ」

「ええ…後半俺の知ってる休みじゃない」

「それ隊長がやってるヤツ…しかも徹夜か…」

「働く事を強いられているのか…?」

「……泊まり……本当に兄弟なんですかねぇ……」

「おっと、恋人説浮上か」

「兄弟兼恋人とかもあるか?」

「禁断の恋なんです?というか異性?同性?」

「異性だろ、多分……異性であってくれ……」

「お前『女性でストレート』派か……俺もだ」

「告られても『仕事に集中したいしあまり興味ない』っつって全部断ってるからな、あの人。隠れて付き合ってるなら納得だわ」

「付き合ってなかったとしても、泊まりって時点で四席に片想い続けてる奴とか拗らせて『罵って下さい』『同性でも良い、寧ろ有り』って言ってる奴らとかの嫉妬の炎が燃え上がりそうだけども」

「兄弟ならセーフじゃね?」

「んー…でも既にお付き合いしているなら納得だけど、それならそれで『お付き合いしてる人が』ってちゃんと言いそうよね」

「あぁ確かに」

「…恋人では無いと思うぞ、多分」

「え、なんか根拠あったりします?」

「昔好きだった奴のこと今でも好きなんじゃないかと」

「う………うおおおぉぉぉ!?此処に来て色恋沙汰の確定情報発覚!?」

「『睡眠欲、食欲、労働欲』やら『似非朴念仁』やら言われてるあの四席に!?」

「あ、相手の性別どっちですか!?後年上?年下?場合によっちゃあ戦争になりますよ!」

「はぁ?んな大げさなことなのかこれ?」

「相手×四席か四席×相手かで揉めます、盛大に」

「おいやめろ巣に帰れ、というか四席の性別確定してない以上それ無駄だろ」

「妄想は全てを凌駕する」

「アッハイ」

「でも実際相手気になる…どうなんです●●五席?」

「其処まで気にされてるような情報勝手にバラさねぇよ…」

「そんなぁ、殺生な!」

「騒ぎすぎたか…藪蛇だったかな」

「くっ……本人に聞くわけにもいかないし…」

「おう、聞くな聞くな。…えっと…」

「〇〇さんですよ」

「お、ありがとな。……〇〇さん、すまんが口を滑らせちまったみたいでな。好きだった奴云々は書かないで貰えるか?…………ありがとう」

「……あとなんか話題あるっけ?」

「ストーカー野郎をぶん投げた話した?」

「あ、してない」

「それ結構前だよな?」

「はい。もう何十年も前ですし、最近入った奴等は知らないですよ多分」

「イエス、知りません!」

「そんな事あったんですねー…」

「……え、そろそろ本人のインタビューに行かなければ、ですか?じゃあこの話迄ですかね」

「あ、じゃあ俺話したい。さっきから相槌打ってるだけだったし」

「どーぞー」

「よっ、真打ち!」

「ヒューヒュー」

「うるっせぇ!●●五席もからかわんでください!……今もだが、あの人の恋人にって奴は昔から結構居る。それこそ他の隊にもだ。あれはそんな奴の一人で、無理にでも四席をモノにしようとしてつきまとったり手紙を送ってきたりしてたみたいだな。発覚したのは事が全部終わってからだったが」

「ホントにストーカーだな………」

「そこそこイケメンだったけど、だからこそすげなく断られたのが堪えたのかしらねー…」

「手紙って?」

「あぁ!観察記録みたいな物だったわよ。自分の職務そっちのけで四席を見に来てたみたい。四席も出来るだけ見られないように立ち回ってたみたいだけど」

「仕事の鬼の恋人には相応しくない所業ですね……」

「そうだな。当時はまだ六席だったけど、既に今と同じようなペースで仕事してたぞ、彼奴。まだ正式ではなかったが、もう他隊からの相談も受けてたよ。よく体壊さねぇな、とずっと思って…」

「話し続けていいですか、●●五席」

「おっとすまん!頼む」

「いえ。………其奴は無視され続けてとうとうキレたらしくて、ある日『一寸伺いたいことがありまして。空式六席はいらっしゃいますか?』と正面突破を仕掛けてきた。ストーカーだとは知らない俺は素直に応接間に案内して、あの人を呼んで来ちまった訳だ。」

「よくストーカーと知ってて会う気になりましたね、空式四席……」

「そいつの名前聞いて『ああ、確かに其奴は俺の客だな。対応するわ』って言ってたから、元々けりをつけるつもりではあったのかもな。……部屋に入ると其奴速攻で斬りかかって来てさ。俺は四席の後ろに居たからなんも出来なかったんだが、あの人は其奴の横をすり抜けて『いい加減迷惑なんだ。こっちはアンタに興味なんて一切無いし、とっとと自分の隊に帰ってくれないか?』って笑って煽りながら庭に降りてったんだ」

「笑ってってあれか、皮肉言ったり後輩からかってる時の凄い腹立つ笑い方か」

「ああ、あれは確かに煽りですねー」

「お前は無事だったの?」

「ストーカーはあっさり挑発に乗って庭に出てったからな」

「うっわ単純」

「…人を呼ぼうか迷ったが、好奇心が勝ったから庭側の廊下までそのまま追い掛けた。どうせ庭なら色んなとこから見えるし、と思ったのもある」

「いーけないんだいけないんだ、たーいちょうに言っちゃーおー」

「そっかそっか、続きは要らないか」

「すいません要ります続けて下さい」

「うん、くるしゅうない。…庭では四席が只管相手の攻撃避けてたんだけど、一寸距離取って相手が突進してきたら、それを避けた上で引っ掴んで上に投げたんだよ」

「全部避けてたの?凄いな」

「斬魄刀滅茶苦茶に振り回してたし、一寸距離を取って横にずれるのを繰り返してただけっぽいけどな」

「そのシーンなら見たわ、塀の外からギリ見える位だったか?」

「結構な高さじゃないですかそれ……」

「そのまま落下したらヤバいのでは?」

「いや、地面までは落ちなかった。空中に浮いてる間に、四席が縛道の……えっと…なんだっけあのやたら鎖って漢字使う奴…」

「六十三番の鎖条鎖縛か?」

「それです。…それで拘束したあと瞬歩で上に回り込んで引っ掴んで、自然落下じゃなく持って降りたんだ。だから怪我はなかった」

「よく持てたな、鎖の分重くなってただろうに」

「いや、『おっも!』っつってたし半分引き摺ってた」

「あ、やっぱり?」

「…あれ、何で投げたんだ?意味なくないですか?」

「『下でやると地面とか抉れそうだったし、あわよくば気絶してくれるかなって。というか此奴のせいで庭が壊れたとしても、予算出すのも直すのもどうせ四番隊(ウチ)だろ?こんなんの為にに予算回すのは癪なんだよ。…後はまあ腹いせだな。散々纏わり付きやがって…』って言ってた。案の定気絶はしてたぜ」

「腹いせ豪快だなぁ」

「あー、修繕作業とか面倒いもんねー」

「流石四席、隊への気遣いがありがたい」

「後半はガッツリ私情入ってたけどな。……しっかしお前さっきから四席の口調真似してるけど全然似てねーな!」

「うっせ、ほっとけ!……その後其奴は四席が保管してた手紙とかの証拠やサボりの記録のせいで何らかの罰は受けたらしいが、詳しいことは知らん」

「今は居ないって事は諦めたんですかね?」

「どうだろ、まあストーカーがシメられたって話が広まってからは表だってどうこうする奴は居なくなったよ。……話終わり」

「お疲れー。…あ、調査員さん、四席の所に行かれます?案内しますよ。……一寸行ってくる」

「おう、湯呑み片しとくぞ」

「サンキュ」

 

 

 

「ただいまー」

「おかえり、境。服出しといたよ」

「ありがと」

 

つっかれたぁ、ここ最近忙しかったから、青乃の家に泊まるのは三週間ぶりか。

結構前だが私服で隊舎から歩いて行くなって怒られたことがあるので、今は瀞霊廷を出たら偽装鏡面で移動して、この家で私服に着替えるようにしている。

「彼奴の家に死神が出入りしてる」、なんて青乃を悪目立ちさせたくないしな。

 

「境、昼ご飯何が良い?」

「あー……特に希望なし。強いて言うなら今一寸油モンは避けたい」

「了解。素麺まだ余ってるし、それでいい?」

「おー」

 

そうだ、食後にあれ読もう。

今日隊を出る前に渡された、俺含む四席の特集が載ってる瀞霊廷通信。

隊の奴等から見た俺ってどんな印象なのか、一寸気になるな……

 

 

 

「「ご馳走様でした」」

 

お粗末様でした、とは青乃は言わない。客じゃなくて家族として扱われてるって感じがして、少し嬉しい。

 

「青乃、瀞霊廷通信一緒に読まねぇ?」

「うん、ボクも気になってたし、付き合うよ」

 

気分はホラー映画の鑑賞会だ。

どんな事が書かれているかびびってるって意味では同じようなもんだと思う。

 

「じゃあ、行くぞ……」

 

 

~~~~~

 

瀞霊廷通信

各隊の四席特集

 

四番隊 空式 境

キャッチコピー:四番隊の兄

好きな物:ラーメン、焼肉

苦手な物:酒、G

紹介:面倒見の良さで他の隊の隊員にまで慕われており、『お悩み相談室』なるものも開いている。その一方で新薬の開発や医療関連の論文の発表もこなす才人。しかしそのプライベートには謎が多く、髪で隠された左眼は四番隊でも議論を呼んでいるらしい。

他の隊員からの印象:四番隊の兄、面倒見が良い、よく奢ってくれる、睡眠欲・食欲・労働欲、似非朴念仁、キューピッド、黒幕、性別不明、クソダサ眼鏡

インタビュー・Q&A(一部抜粋):

───「お悩み相談室」を開いた切欠は?

空式四席(以下空)「現世にはカウンセラーなんてものがあるのに、こっちにはありませんでしたからね。死神は命張ることも多い職ですし、少しでもストレスを減らそうと思いまして。恋愛相談とかも受け付けてますよ」

───カウンセラー、ですか。では何故「お悩み相談室」という名前に?

空「カウンセリング室よりは取っつきやすいかと思ったんです。心の病を持った人が行く、みたいにイメージされる方もいるでしょうし。それに精神的な物だけじゃなく、四番隊の活動に関わることも相談して貰えるので、色々改善できて良いですよ」

───「似非朴念仁」という呼び名については、どうお考えですか?

空「え、裏でそんな風に呼ばれてるんですか?ううん、上手いこと言うなぁ……一寸言い返せませんね。自分は仕事が第一ですし、気付かない振りをすることも多いですから」

───休日に男性と出掛けている、という話もありますが。

空「ああ、それは多分兄弟ですよ。全然似てないけど双子なんです。いい年してべったりし過ぎかな、と思わないでもないんですけど……大事な兄弟なので」

───なぜそんなにも仕事を?

空「今一番やりがいがあることなんです。まだまだ努力が足りないなぁって思ったりもしますけどね(笑)」

 

~~~~~

 

 

性別不明とクソダサ眼鏡はわかる。

昔から性別は誤魔化してたから、今更バラすのもなんかなって思って曖昧なままにしてるし、眼鏡は赤くなった左眼と近い色合いで縁の太い物を選んで、視力補助兼前髪の抑え兼目が見えちまったときに眼鏡の色を見間違えたと思って貰う用として付けてるからな。

格好良さは二の次だ。

……けどさぁ……

 

「……他は兎も角黒幕ってなんだ黒幕って。今度何話してたか聞かねーと……ん?青乃?なんで顔真っ赤にしてんだ?」

「いや、大事な兄弟とか公言されるの結構恥ずかしいなって……うん、ボクにとっても君は大事な兄弟だよ…」

「えっ……あーうん、確かにコレは、恥ずかしいな………」

 

くっそ、俺の兄弟可愛いかよ……今やブルーノ同様身長二メートルのデカブツだが相変わらず可愛い。

真っ赤になって目を逸らしながらとか、あざとい。あざとすぎる。

……眼や性別については聞かれなかったが、デリケートな話題だって事で避けられたんだろうな。

 

「…青乃、俺この後『昼寝』してて良い?」

「…うん、どーぞ」

「ありがと」

 

…他の隊の分はあとで読もう。

 

 

 

「う……うぅ……」

 

夕食のあと、風呂を出てすぐに境は寝てしまった。

『昼寝』と称した精神世界での鍛錬───どんな武器・体術でも使えるようにと記録を元に武器と仮想敵を再現する───は偽装鏡面内での組み手よりマシとは言え、現実の体にも疲労を溜めてしまうから仕方ないと言えば仕方ないのだけど。

 

……破門された日以来、結局彼女が泣くことは無かった。

三十分にも満たなかったけれど、あれが境が境らしくいられた最後だったようにも思う。

 

隊長さんに呼ばれて、「実は数日前に破門されていた」「何も知らなかった」と述べて、暫く監視が付くものの、無罪と判断された。

「知っていたら止めるなりついて行くなりした」という、計算ずくで漏らした本心もそれを後押ししたのだろう。

 

その後の彼女は、自覚はないんだろうけど百年前を再現し続けるように過ごしている。

お菓子の差し入れは阿近君に、ご飯に行くのは同僚と。

元々ボクと秘密でやっていた鍛錬だけは、少し回数が増えたけれども。

 

死にたくないという想いから生まれたが故に自殺は出来ず。

巻き込みたくないと願われた故に真実を探ることも出来ず。

百年前は倒れた事なんて無かったからと、体を壊すほど仕事にのめり込むことも出来ず。

そうして雁字搦めになって追い込まれて「境」では耐えられないと思ったのか、彼女は人格のオリジナルにもう一度近づいた。

……さっきの雑誌に書かれていた、他の隊員から見た彼女というのは、大分その影響が出ていたと思う。

 

最たるものはその笑顔だ。

あの人と居るときの、少しだけ微笑んだ、とても幸せそうな顔は長らく見ていない。

今の彼女が浮かべるのは営業スマイルか、皮肉気な笑みか、自嘲と諦念をうっすらと乗せた人形のような微笑みだけだ。

 

…悪夢を見る頻度も上がったが、もう以前のように吐くことも、夢の中で落とされた手足に走る幻肢痛擬きを気取らせる事も無い。

ボクですらわからないほどに、完璧に隠しきってしまっている。

今日の昼ご飯のように「油物は嫌」、と気持ち悪いのを匂わせたりして頼ってくれるのは嬉しいが、それでも明確な言葉にした事は無い。

 

悪夢を見ないように出来ないか、とボクも手を繋いで添い寝したりしてみたけど、そもそも自分で自分の手を握るような物だ。効果は薄かった。

 

……今日も彼女は魘されているが、起こす気は無い。

何故なら極稀にではあるが、彼女は譫言であの人を呼ぶからだ。しかも、もう呼ばないと決めて現実では一切使わなくなった、「師匠」という呼び方で。

制止しているのか、それとも助けを求めているのかは判らないが、皮肉なことに彼女があの人に縋れるのはもう悪夢の中だけなのだ。

それを取り上げるような真似はしたくない。

 

……目覚めたときに、「俺なんか言ってた?」と焦るような表情で尋ねてきて、「魘されてただけだったけど」と聞くと安堵したような表情を浮かべる事がある。

縋ってはいけないのだと思っているんだろう。

本当のことを教えてしまえば、きっと夢の中でさえ「境」を押し殺そうとしてしまうだろうから、ボクはこれについては嘘を吐き続けるつもりだ。

 

……そろそろボクも寝よう。

『青乃』を動かし続けるのは、少しとは言え彼女の霊力を消費するし負担が掛かる。

破晶としても、起動し続けているよりは思考を止めて休眠状態になっていた方が境に負担を掛けずにすむだろう。

 

布団を被り直して彼女と向き合ったまま目を閉じ、『青乃』の呼吸保持と境の体のスキャニング以外の機能を終了する。

──おやすみ、境。

 




長過ぎィ!上手く区切れなかった結果がこれだよ……

主人公がどれ位精神削れてるかは周りから見た方が判りやすいのでモブに出張って貰ったが、多分今後の出番はない。あってチョイ役。

普通の物語なら、依存対象が居なくなった奴に対して「もうその人はいないんだよ!」とか説得する展開になると思うが、この主人公の場合それやられると精神崩壊まっしぐら(依存どころではない)なので、破晶は絶対それは言わない。
主人公がどれだけ楽で居られるかの方に重点おいてる。

破晶は青乃として動いているときは、斬魄刀であることがわかるような言動をしない様にしている。
移動中に昼飯を聞いておくとか、インタビューを受けたときも観測してたから内容を既に知っていてて、それを匂わせる発言をする、とか。
あの人(師匠のこと。境に合わせてお師匠さん呼びをやめた)が陥れられる位だから、警戒し過ぎるくらいで良いと考えた模様。


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嘘発見器ならぬ怪しい奴発見器である。


9000UA、80お気に入りありがとうございます!
現実逃避って一番の創作意欲だと思うんですがどうでしょう?

申し訳ないんですが、映画版については見てない奴もあって設定わからんので総スルーします。
原作すらふわっとしか覚えてないからね、仕方ないね

追記:相談室の飲食物について一文抜けてたのを追加しました。
追記2:ルキアが朽木家に引き取られた時期勘違いしてたので訂正しました。



「…………」

 

目が覚める。今日はわりかしさっくり死ぬ夢だったのか身体に痛みはなく、楽に上体を起こせた。

あ、でも首痛い……折ったか?

 

…年を経るにつれて、夢の内容をハッキリとは思い出せなくなってきた。

ぼんやりと、どの辺が痛かったなー苦しかったなー、というのがわかる程度で、状況とかはもう点で駄目だ。

ただそれと反比例するように、夢で負った怪我で発生するだろう痛みが体の感覚として残りやすくなった。

怪我の程度にもよるが、最近だと長ければ昼頃まで続いてしまう事がある。

痛む怪我の種類も、前は四肢の切断とか規模のでかいやつだけだったんだが、段々骨折、裂傷、打撲と軽いものでも残るようになったし、この間なんて下半身と手首が痛くて全く覚えていない夢の内容が簡単に推測できてしまった。

手首がピンポイントで痛まなければ、下半身が事故か落石かなんかで潰れたかって思ってスルーできたんだけどなぁ……

朝っぱらから気持ち悪いもん想像させられるのはほんと勘弁して欲しいわ…

 

「ん……おはよう、境」

「はよ、青乃」

 

風呂上がって以降眼帯の代わりに巻いてた布きれを解いて髪を括っていると、俺の目が覚めたのを破晶が感知したんだろう、青乃も体を起こして目を擦っていた。

 

…うし、終わった。眼鏡は……ここか。

無いともう物の輪郭がハッキリ見えないんだよなぁ。

 

 

朝飯を食い終わり、午後から仕事だからと死覇装に着替えていると、青乃が後輩死神のことを話題に出してきた。

 

「そう言えばさ、今ルキアって任務で現世に居るんだよね?大丈夫かなぁ」

「死神になってまぁまぁたったし、任されるって事は実力も付いてきてるって事じゃねぇ?」

 

あのちびっ子が、とうとう現世の任務を当てられるくらいになったのか。

なんか年取ったって感じするなぁ……外見はまだピッチピチ(死語)の二十代って感じなんだけども。

 

「とか言って、境も心配なんでしょ?」

「そりゃ、同じ釜の飯を食った仲だし?……傷薬一式揃えるときにこっそり種類増やしたりはしたよ」

 

四番隊から支給されるセットに、手製の捻挫用とか火傷用の軟膏も説明書付けて突っ込んでおいた。

昔から俺も持ち歩きに使ってる掌サイズの薬壺だし、そんな嵩張らない筈。

 

ルキア、あと恋次って奴は昔この家に住んでいた子供だ。

腹空かしてたのを青乃が見かねて、霊術院に入るまで面倒見てやってたんだよな。

その間も俺は泊まりに来てたから、面識はガッチリある。

良い子達だったぞ?

「眼帯や前髪をどけて左眼を見ようとしない」なんていう、好奇心の強い子供には難しいだろう約束をきっちり守ってくれていたし。

「見た奴は食べてしまわなければいけない」とか適当言って一寸脅かしたりもしたのは些細なことだ。

……お陰で今現在の恋次には多少呆れられてるみたいだけど。

 

「…うし、どうだ?目ぇ見えちまってないか?」

「大丈夫、ちゃんと隠れてるよ」

「オッケー。じゃ、行って来るわ」

「いってらっしゃい」

 

挨拶を交わしたら破晶に偽装鏡面を張ってもらい、青乃について外に出る。

透明人間状態だからな、俺が扉を開けたりしたら変に見えるだろ?

青乃はそのまま散歩に行くらしい。目を合わせる素振りも無く、さっさと歩いて行った。

…まあ挨拶はしたし、破晶として傍に居るしね。

透明だから仕方ない。

 

"なんか買っていかなきゃいけないもんとか無かったよな?"

『うん、無い筈。古本屋は?』

"寄ってく。まだ九時台だろ?"

『そうだね、九時三十七分だよ』

"じゃ、十時半になったら教えて"

『了解』

 

 

十時半、瀞霊廷にほど近い、死神も多く立ち寄るエリアの古本屋から漢方の研究書を一冊買って出た。

今は菓子屋で相談室用のクッキーを見てる。

此処のは個包装で一杯入ってるセットが多いからな、ピッタリだ。

 

なんか山で盛られてる菓子よりも、個包装で二、三個出された方が自分のだって明確に分かるから手が出やすいと思うんだよな。人のを取っちまったって思わずに済むし。あと個包装だと保存が楽。

一寸でも食い物を口にすれば多少は気が楽になるし、喋るようになるだろ。

 

そういう理由から、相談室には菓子も飲み物も結構な種類を揃えてる。

甘いのが苦手だったり、紅茶・コーヒーの香りが駄目って奴も居るからな。

次来る頃には茶葉が足りなくなるか?

 

「これ下さい」

 

青乃や同僚との飯代、本、自前の薬の調合器具の調達以外殆ど金使ってないからな、経費で落とすわけにもいかない相談室の飲食物はポケットマネーで賄ってる。

結構差し入れとかしてくれる奴も居るから、其処までかかってないけどな。

 

 

店を出るとどこぞの隊長だろうか、遠目に白い羽織が見える。

十二番隊の奴等の白衣って事は無いだろ、滅多に表に出てこないし。

 

"羽織着てる奴拡大してくれ"

『はーい』

 

……げ、「五」だ、五番隊。つまりは藍染隊長殿だ。

あの藍染隊長(伊達眼鏡お澄まし糞野郎)、苦手なんだよなー。

本音を笑顔で隠すのが上手いって言うか、如何にも猫被ってますって感じがする。

いやまあ俺が言えたことじゃねぇってのはわかるんだけどな?同族嫌悪じゃあないんだよ。

記録で散々色んな人間見てきた俺の勘が、彼奴は裏でヤバいこと考えてる奴だって言ってんの。

囁くとかそういうレベルじゃない、目覚まし代わりに打ち合わされるフライパンとお玉並みには煩い。

…触らぬ神に祟り無しってな、あっち通らないでおこう。いや神って呼ぶのは癪だけども。

 

…猫被ってるっつか、何考えてるかわからんのは市丸隊長も一緒だけど、あっちはヤバいのベクトルが違う。

一瞬、一瞬でしかなかったけど、命を賭けてる相手を見る目をしてた彼を見たことがある。

誰が相手かまではわからんかったが、間違いなく其奴が市丸隊長の中での「一番」で「絶対」だ。

其処までなら親近感も湧くってもんだが、ヤバいのは其奴の為に命賭けてすることが恐らく彼の独断と偏見に基づいちゃってるだろう所だ。そんでそれを自分で理解した上でやろうとしてるってのでヤバさ倍率ドン、だ。

じゃなきゃ憧れでも欲求でもない、諦めと謝罪と祈りを混ぜたような、手に入らない物を見る表情(かお)はしないはずだ。

……まぁなんにせよ、誰かのために命を賭けるってのは俺が出来なかったことなので一寸羨ましい。俺に影響のない範囲で是非頑張って欲しいと思う。

 

 

………仕事の休憩時間に後輩捕まえて、黒幕呼ばわりの真相を含めた瀞霊廷通信の取材の様子を一から吐かせていたんだが、「昔好きな人が居たって●●五席が」とか出て来やがった。

口止めでもされてたのか、うっかり言ってしまったって感じで「あああ違うんです、これはえっとその」なんて言いながら真っ青になってて一寸可哀想だった。

 

「●●五席も随分昔のことを……口滑らせちまったのは内緒にしとくから安心しろ、な?」

「は、はい。ありがとうございます……」

「代わりと言っちゃあ何だが、お茶のおかわりを淹れて貰えるか?丁度飲みきった所だったんだ」

「!…わかりました!」

 

よし、今現在がどうかは聞かれずに済んだ。

下手な貸し借りは火種になるからな、軽くても良いからさっさと返しを要求してチャラにしておくに限る。

他の隊の隊員?あれは俺の頼みを快く聞いて貰えるような関係を構築してるだけだから。大丈夫だ、問題ない。

 

……しっかし好きな人、ねぇ……

恐らく●●五席は喜助さんの事を指して言ったんだろうな。まだ弟子だった頃を知ってる人だし。

 

確かにある意味惚れ込んでいたって言うのは間違っちゃあいないし、今もそれは変わらない。

顔が良いな、イケメンさんだなってのは初対面でも思ったし。

あと恋人ってほら、その、そういうコトもするだろ?喜助さん以外が相手だったら急所を晒して抵抗しないなんてあり得ないので、消去法で恋人にしても大丈夫な人は一人になる。

 

…うん、当時俺を女の子と仮定してたんなら恋してるようにも見えたんだろうなぁ。

そもそも俺がなりたかったのは褒めて貰える弟子であって恋人じゃないから、結局のところ的外れなのだけれども。

 

「空式四席、お茶入りましたよ」

「ああ、ありがとう。……この羊羹は?」

「お裾分けです。人が少ない今のうちにと思って、人数分切り分けたんですよ」

「そうか、有り難くいただくよ」

 

…うし、切り替えだ切り替え。

これ食ったら書類一気に片そう。

………あ、美味い。

 




主人公は心理学(偽)持ち。
対象が師匠になると正確に読み取った上でネガティブな解釈をするので(偽)。
他人に対してでも負の感情の方が読みやすい。

色恋沙汰なんて死亡記録の原因上位にランクインしてるだろうし、全然記録にない「師弟」の方が主人公にとっては安心できる関係なので、態々自分から「恋人」になろうとは思わなかった。
破晶は自分自身or兄弟扱いだし、「人間の三大欲求とか無いよ?」と自己申告されているので考えに入れていない。
……恋愛ルート書くかもとか言ったけど自信なくなってきた、この主人公恋愛する気なさ過ぎるわ。

活動報告の方に要望云々書きましたが、なにもなくともおまけか、何本か纏めてとかで短編書いたりすると思います。というかすでに何本か溜まってます。

因みに前話時点の主人公は既に〔リリィ〕ではなく、二十代前半、と言った感じの外見。
身長は170ちょいで打ち止め。
髪が全体的に伸び、前から回した分が肩甲骨位、他が腰当たりまで伸びている。地面に座ってギリギリ下に付かない位。
今更だが基本方針は「向こうに勝手に勘違いして貰うだけで、嘘は出来るだけ言わない」である。
胸は聖剣持ってる方の騎士王と同じか少し大きい位で、絶壁ではないが巨乳でもない。
サラシできっちり潰してるので胸板か貧乳か、と見られている。
後輩からかってるときと営業スマイルおいときますが、作者の絵じゃうざさがわからんって方は亡軍国様か極楽満月の店主をご想像下され。

【挿絵表示】

死覇装の着方がおかしい?細けぇこたぁ良いんだよ!別に着崩してるわけじゃ無くて作者の技量が足りなさすぎるだけだからネ!


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過去を振り返らないのは若者の特権。尚死神の実年齢

お待たせしました!大分間が空いてしまってすいません
活報通り上旬に帰ってきました!
え?もう中旬じゃねーかって?上下で分ければ上旬だから…(震え声)

見ないうちにまたUAとお気に入りが伸びてる……ありがとうございます!
感想とかももっとくれても良いのよ(強欲な作者)

今回は百年前から原作開始頃までにあった出来事まとめみたいなもんです。
短編と長いのが一寸ずつ。合計だと今までで最長かもしれない。
主人公がどう変化したかってのを先に書きたかったので後回しにする形になりました。ややこしくてすみません。
……最初は百年全部すっ飛ばすつもりだったとかいやまさかそんなはははは。

何話か前のイメージソングに検索避け追加しました。
これからも書いてるときに聞いていた曲名を出すことがありますが、歌詞に沿わせた内容にするつもりはあんま無いです。雰囲気BGMとお思い下され。

その他修正点
・前話の相談室の飲食物について一文抜けてたのとルキアの引き取られた時期について間違えてたのを追記訂正
・あんまりにもゴッズ要素が薄いのでタグの「遊戯王5D's」を「ブルーノ(遊戯王)もどき」に変更、序でに「若干混ざる型月世界観」を追加
・何話か前のひよ里→主人公の呼び名を苗字から名前に訂正(既に喜助呼びだったので其方に合わせる為)

追記:ルビ編集忘れを修正しました
追記2:【きょうだい】の破晶の台詞を一寸修正しました
追記3:【弟子と部下】で同じ意味を繰り返してしまっていたので、言わないか→悪く言うかに修正
追記4:合う→遭う に訂正



※注:時系列の表記が無い物が多いですが、順番に並んでるわけではないです。書いた順。誰視点かもバラバラ。

ベべべ、別に後から辻褄合わせやすいようにとかそそそんなんじゃ((

主人公・破晶以外の視点物は番外扱いにしてます。

 

【利き手】

現在は昼休み。隊の何人かで近場のうどん屋に来ている。

此処の天ぷら美味いんだよなぁ、掛かってるタレも甘めで合うし。

 

「あれ?空式四席って左利きでしたっけ?」

「え、右利きじゃないの?」

「おう、右だぞ」

「だよな、左利きの人って何となく覚えちゃうから違うと思った」

「あるある」

「わかる。あっ、この人左利きなんだって思うと覚えちゃう」

「えー?でも今箸左手で使ってるじゃないですか」

「ああ、これか」

 

空中で箸先を二、三度開閉してみる。

うん、大分自然に動くようになってきたな。

 

「いざって時に左でも色々出来た方がいいと思ってな、仕事以外のことは時々こうやって左でもやるようにしてるんだ」

「あー、利き手怪我したら一気に出来ること減りますもんね」

 

…嘘ではない。が、メインの目的はそれじゃない。

 

家で破晶に頼んで俺の姿で振る舞ってみて貰ったことがある。どれ位似てるか興味があったからな。

ああ、勿論タダじゃないぞ。青乃の要求も聞くのが条件なのでイーブン……なのか?大体いつも「境の手料理が食べたい」って言うし、それ以外の要求してきたのなんて数える位しかないからなぁ……

 

んで動きについてだが、確かに俺が何時も意識してやっている仕草をしていたし、俺こんな癖あったのかって動きもしてた。

これならそうそう見破られないだろうと思ったが、一カ所だけ明らかに似ていないところがあった。

左手の動きの滑らかさだ。

破晶、及び青乃は左利きだし、右利きの俺よりも良く動いてしまうのは当然っちゃ当然だった。

 

無いとは思うが、もしまた破晶に俺を演じて貰わなければいけなくなった時バレる要素は少ない方が良い。

それに両利きにすることに特にデメリットは無いだろうし、左が使えるようになれば確かに便利だ。

 

そう言うわけで、俺は左手を動かせるよう一寸ずつ鍛えている。

……まあ細かい動きだろうと何だろうと動いてるのは端末だから破晶がやろうと思えばいくらでも精密に動かせるんだろうけど、掛かる負担が大きいみたい(「魂実装済み」のMM●と音声データを一瞬で作り続けるような感じ、らしい。「自分の身体」として動かす方が余程楽なんだとか)だし態々動きを抑えて貰わずともメリットずくめだしこれでいいと思う。

流石に本物の左利きと同じ位なんて高望みはしてなかったけど、まあ勘違いされるレベルまで持って来れたなら上出来だろう。

この努力が無駄になるのが一番だけどさ。

 

「ま、備えあれば憂い無し、ってな」

 

 

 

【番外編:心配】

現世に来て結構時間経ったけど、喜助のとこに境が居るのを見た覚えがない。

流石に置いて来たっちゅーことは無いやろ。

どーせ喜助になんか頼まれて忙しいとか……

 

「喜助、境は何処におるん?こっち来てから全然顔見とらんのやけど」

「尸魂界ッス」

「…………………マジか」

 

 

 

「破門したぁ!?何でそないな仕打ちしたんや!?」

「いや、付いてきちゃいそうだったんで。というか仕打ちって」

 

信じられへん、「なんか不味かったッスかね?」って、不味いに決まっとるやろが!

 

「いらん、足手纏いやって言われたようなモンやぞ!?」

「え、そうッスかね…?」

「ッこのアホォ!」

「ぐはっ」

 

あああ、蹴飛ばしてもスッキリせん!

置いて来ただけやなく真っ正面から破門言い渡すって、懐いた奴にそんなんされてどう感じるかわからんのかコイツ?

ウチも曳舟隊長に置いてかれたけども、破門やなんや言われてたらへこむどころやなかった筈や。

 

「彼奴ひとりにしてホンマに大丈夫やと思っとるんか!?」

「そりゃあしっかりした子ッスし、四番隊でも評判良いみたいでしたし」

 

しっかり……うん、確かにしっかりはしとった。ようこんなんに師事して真面に育ったな、と思う位には。

けどしっかりしとるんとこれは別やろ。

 

………え、もしかして、自分が入れ込まれとるのわかってないんか?

確かにアイツ分かり辛い奴やけど、あんだけひっつき回られてたんやぞ?フツーわかるやろ?

 

「………はー………愛想尽かされろボケ!」

「がふっ」

 

 

「何やひよ里、ご機嫌斜めやな」

「うっさいわハゲ!」

「ハゲちゃうわ!………なんや、どうしたん?」

「……真子、空式境って覚えとるか」

「ああ、四番隊の奴やろ?喜助と飯食ってんの見たわ」

「…彼奴下手したら首括っとるんちゃうやろか」

「……は?」

 

 

 

恐らく、程度は兎も角主人公の精神状態がヤバいってのに現世組で真っ先に思い至るのはひよ里さんだと思うのです。

置いてかれた経験あるし師弟で一緒に居るのを一番見てただろうお人なので。

某美術館ゲーの絵を見てて思いついた話なので題名はそこから。

 

 

 

【番外編:奇特な家主について】

「青乃、結び目が解けかけているぞ」

「え、うわ、ほんとだ。……よし。ルキア、教えてくれてありがとうね」

「うむ」

 

今は夕方、私は夕飯を作っている家主の青乃の手伝いをしている。

解けかけていたのは青乃が自作したらしい洋風の前掛け(えぷろんと言うらしい)の腰紐だ。

恋次は風呂用の薪を拾いに行っているが、もうすぐ戻ってくるだろう。

 

彼、青乃はどういうわけか私と恋次に飯を奢り、その上この近辺では珍しく襤褸で無いこの家に住まわせてくれている。

図体に見合わず穏やかな性格をしており、どこぞに売るために拾ったのかと聞けば「そんな酷いことしないよ!」と慌てて否定していた。小心者でもあるらしい。

本当の理由は自分の兄弟を私に重ねたから、だそうだ。

 

「ルキア、この葉っぱ何だかわかる?」

「……ほうれん草か?」

「正解、小松菜と見分け付くようになってきたねー」

「ああ、根元が赤いかどうか見ればいい、というのは覚えたからな」

「うんうん、ルキアは偉いねー」

「あっ、こらっ、頭を撫でるな!」

「わ、ごめん!つい……」

 

撫でられるのは嫌いではないが、子供扱いされているようで嫌だ。

友人だと言ってくれたのだから、対等でいたいと思うのは当然だろう?

 

「人参は切れた?」

「ああ。鍋に入れるぞ」

「うん。次は葱お願いね」

「わかった」

 

…たまに家に泊まりに……いや、本来の住人だから帰ってくる、の方が正しいのだろうか?

家に帰ってくる青乃の兄弟の境(全く似ていない。髪や目の色も違う。怪我のせいか片目を隠している)は死神をしているが、青乃が悪目立ちしないように、と此処ではその事を隠しているのだそうだ。

私達が死神になる為霊術院に入るつもりであるのを知って、青乃と二人である程度の勉学や武術を教えてくれている。

「何も知らないまんま行って嗤われるのは癪だろ?」と言われ、確かにそうだと思わされた。

二人に出会わなければ恐らく晒し者になっていただろう。

まともに飯を食えていることも含め、出会えたのは幸運だったと思う。………もう少し早ければ、と言うのはお門違いだろうか。

 

「んー……ルキア、味見して?」

「ん……うむ、美味い」

 

境と青乃の作るご飯はとても美味しい。

本人達はもっと美味く出来る筈、と言って満足していないようだが。

味見と言ってよくつまみ食いしているが、私も一緒に食べているので恋次には内緒だ。

 

以前、材料費が何処から出ているのか尋ねたことがある。

境の仕送りと、青乃が作る草鞋や木彫りの小物の売り上げが使われているのだそうだ。

物を作って売る、と言うのはあまり思い付かなかったな…

 

「じゃあ、盛り付けた奴から向こう持っていって」

「わかった」

 

料理はまだ手伝い程度だが、草鞋作りなら助けになれるだろうか……

今度青乃に聞いてみよう。

 

 

 

キリッとした口調の天然ボケの可愛さを昔の作者にぶち込んで………教え込んでいった朽木ルキアさん。

ぶっちゃけbleach女子キャラの中で1番好きなので沢山書ければいいなぁ。

見た目の問題で主人公&青乃より年下っぽく書いていますが、主人公達は出現した時点で十歳過ぎの姿だったので実際はルキアと恋次の方が年上なのです…

 

 

 

【番外編:長髪】

数十年前、まだ四番隊に入ってすぐの頃。私はとある先輩に恋をした。

 

「おーおー、派手に散らかしたな……△△、大丈夫か?」

 

備品の箱を持ったまま転けた私にそう言って手を差し出してくれたのは当時六席、現在四席の空式さんだった。

その日以降何となく彼、若しくは彼女──例え同性であっても良い、と思わせるくらいに空式さんは格好良いし綺麗だ。十代後半のような、まだあどけなさの残る姿をしていた当時からそう思っていた人間が私以外にも多くいるのは想像に難くない──を目で追うようになっていて、惚れたという結論に辿りつくのは早かった。

 

人一倍仕事をこなし、隊外や先輩にはにこやかで礼儀正しい人間として接する一方、後輩からは飄々とした兄貴分として慕われる。

そんなところに惚れられることがあるが難攻不落で、告白した人は男女関係なく全員フラれた。

そう言った話は知っていたが諦められず、どうにか距離を縮められないかと思っていたら、なんと同期と空式さん、他の先輩の何人かで一緒にご飯を食べることになった。

今思えば新入りが馴染みやすいように、と言う気遣いの一つだったのだろう。

当時の私はそんな事を理解せず、これ幸いと空式さんの隣に陣取った。

 

隊舎から然程遠くない焼肉屋と言うことも有り皆酒を嗜んでいたが、空式さんだけは麦茶だった。

どうやら呑めない体質らしく、多少酒の匂いに顔を顰めていたが意識はしっかりしており、吐き気を催す人が出たら対処できるように準備をしていた。

 

「……空式六席ー、髪短くしないんですかぁ?」

 

私も酔っていたのだろう、何時もだったら話し掛けることすら難しかったのに、すんなりと疑問を口に出せた。

…座敷の床に付きそうなくらいに長い、腰まで伸びた綺麗な黒髪。

何時も忙しそうに働いているから、効率を求めて短くしていても可笑しくないと思ったのだ。

 

「ん?ああ、多少揃えたりはするけど、短くしようってのは無いな」

「何でですかー?」

 

この時質問を切り上げていたら、きっと今の私は居ない。

四番隊隊員として追い付こうなんて目標を持つことも無かった筈だ。

 

「昔綺麗だって褒められたことがあってな。それ以来何となく切る気にならないんだ」

「!………」

「おい、そんな引かなくても良いだろ?流石に傷付くぞ」

「……あ、いえ、そういうのじゃ、ないんです。すみません」

 

とても驚いた。それこそ一瞬で酔いが覚めてしまう位に。

髪で顔を隠して性別を明かさない、謎めいて掴み所の無いあの空式六席が、「髪を褒められた」なんていう些細なことを、とても大事なことのように語ったから。

 

…この時点で私の恋は終わった。

昔と言いつつ髪を切っていないと言うことは、空式六席は褒めてくれた人のことが余程好きなんだ、勝てない、と思ったからだ。

先日瀞霊廷通信の取材を受けたときに●●五席が空式さんの好きな人に言及したが、きっとその人が髪を褒めた人なんだろう。

 

「△△、行くぞー」

「あ、はい!空式さん!」

 

今日は新入り達と夕ご飯を食べに行く日。

今度は先輩側としてそれに出席するのだ。

…もう恋愛感情はないが、今も同僚として空式さんを尊敬しているし、部下として恥じないように努力は続けてきた。

後輩達に、「四番隊は席官じゃなくても凄い」って思って貰えるようになれたら良いな。

 

 

 

多分インタビューの時にお茶汲んできたのはこの人。

 

 

 

【我が儘】

『境、今良い?』

"いいぞ。なんだ?"

『えっと、近所に子供が二人居てね?おなかを空かせてるみたいだから、一寸ご飯作ってあげようかと思うんだけど、食材使っちゃっても良い?』

"構わんが、珍しいな"

『…そうかな』

"おう。なんか理由でもあんのか?いや、言いたくないなら別に良いんだけど"

『う………えっと、ね?すっごい暗い雰囲気で見てらんないって言うか……片方の子が、その…黒髪黒目で……一寸境を思い出しちゃって……』

"……"

『顔真っ赤だね』

"うっせ、お前だって同じようなもんだろどうせ!見えなくてもわかるわ!……その子達気に入ったんなら家に住まわせても良いからな。あの辺じゃ建物としちゃかなり真面だし"

『え、いやそんな、いいよ。君がゆっくり出来なくなっちゃうし……』

"家主は青乃、つまりお前だろ?お前の好きにして良いんだよ。俺の為に遠慮とかしなくて良いって前から言ってるだろ?"

『でも……』

"色々やって貰ってるし、もう一寸我が儘言っても全然いいんだからな?俺もお前がお前の意思で動くのは嬉しいし"

『…………わかった。決めたらまた連絡するよ』

"おう"

 

そう言う境の方が我が儘言わないんだから、もう。

…あの子達にご飯のお誘い掛けてこよう。

 

 

 

【酒】

今日は境が帰ってきていて、たまには贅沢しようと言うことで少しお高い鍋の店に来たんだけど……

鍋も粗方片付いた頃、疲れているのかやけにテンションの高い境が「もっかい酒に挑戦する」と言いだした。

 

「と、言うわけで、これが飲んでも吐き気のしなかった日本酒です」

 

ことりと音を立てて置かれたグラス。

どうやらこれの瓶が棚に見えたから言いだしたらしい。

長年探してたんだけど、この銘柄は流通量自体が少ないらしくて中々見付からなかったんだよね。

 

「説明乙、だね。というか吐き気はなくともすぐに寝落ちちゃってたよね?」

「でも気持ち悪くならなかったんだぞ?ビール、カクテル、ワイン、他の日本酒と初心者向けや度数の低いの色々試したけど全戦全敗したし、後は実績のあるこれしか無いんだよ」

 

境はお酒を飲むとすぐに吐いてしまう。お酒や酒粕入りのお菓子も、甘酒すら駄目。

これも多少……うん、多少は人格に影響されたんじゃ無いか、とボクは思う。

 

「度数が弱いってわけじゃないのに、何でこれだけ大丈夫だったのか…」

「……さぁ?とりあえず飲んでみなよ」

「おう」

"もし俺が潰れて背負って帰らなきゃならなくなったら、ちゃんと偽装鏡面張ってくれよ?"

『わかってるよ』

 

ボクは飲まない。酔ってシステムの暴走を引き起こしたら不味いし。

 

「…………どう?」

「………………うぇ」

「駄目だったかー……吐きそう?」

 

まあ予想はしてた。

氷水が入っている方のグラスを渡す。

 

「サンキュー……其処までじゃない………あーあ、折角頼んだのに、勿体ねー……」

「ボクが飲むわけにもいかないからねぇ…」

「残すしか無いかー」

「だね。お鍋の残り食べちゃおう?」

「おー」

 

…これで確信できた。お酒を飲めない、人格以外の根本的な原因。

多分、喜助さんが傍に居ないと駄目なんだ。

 

前にこのお酒を飲んだのはあの人と二人で食事をしに行ったとき。

実年齢は兎も角体は未成年相当だったからまだお酒を飲んだことが無くって、「一口飲んでみます?」と言われた境はあの人が飲んでたのを貰った。

結果十数秒で撃沈。一舐め程度だったけど、がっつり酔ってしまったようだった。

おんぶされて店を出て、途中で目は覚めたけど足下がおぼつかないからって隊舎近くまで送って貰ってた。

後で散々"もう外で酒飲まねぇ"って言ってきたから、相当恥ずかしかったんだろうなぁ。

……ああ、迷惑掛けたって凹んでもいたっけ。

 

それ以降は全然飲まなくって、体が成長しきってから色々試すようになった。

睡眠薬代わりにと貰い物のお酒を空けて吐き、付き合いで飲むこともあるだろうから練習しようと家でビールを空けて吐き、結局真面に酔えたことはなかったけど。

 

で、吐いちゃう理由。

酔って身体の自由がきかないって言うのを無意識に避けてるんだと思う。

記録に酔わされて犯されるなり殺されるなりしたのが幾つかあった筈だし、それが影響してるのかな。

 

そんなだから、あの人の前でしか気持ちよく酔えないんだと思う。

危機感が無くなるわけじゃなくて、与えられる危機を享受するって感じなんだろうけど。

……ボクじゃ駄目っていうのはやっぱり一寸悔しいなぁ。

一人飲みにカウントされてるからなんだと思いたい。

 

「……どした?箸止まってるぞ?」

「あ、ごめん。一寸考え事してた」

「そう?あ、〆うどんでいい?」

「うん」

 

とりあえず食べよう。

……いつか境が安心して色々出来るようになればいいな。

 

 

 

【弟子と部下】

「っちょ、何っ、をっ!」

「煩いっ、其処を動くなっ!」

「動かなかったらっ、当たっちゃいっ、ますよっ!」

 

現在、俺は砕蜂さんに殴り………殴り?蹴り?…技を掛ける……?

あー……まあ、兎に角危害を加えかけられている。

 

今日は外回り当番の日で、俺の担当は二番隊だった。

だから大量のトイレットペーパー(竹籠入り)と幾らかの救急セットの補充を持って来たんだが、両手と視界が塞がってる状態で砕蜂さんに襲撃されるとか思ってなかった。

というか思ってたら怖ぇよ、予知能力とか持ってねーし。

トイペの容れ物が持ち手あるタイプだったらもう一寸どうにか出来たかもしれないが、手が出ない(物理)なので避けるしか無い。

初撃から今に至るまで目撃者が居ないままなので誰も止めてくれないし。

刀が抜けない状況なので偽装鏡面で逃げるわけにも行かん。

 

尚破晶(偽装鏡面で隠蔽済み。帯刀してると目立つからな)は次の鍛錬の仮想敵にするつもりなのか、砕蜂さんの動きを記録しているみたいだ。

殆ど夜一さんと似た動きだから、あんまパターン増やしにはならんのでは?

……いや、ちょっとしたタイミングのズレとかが逆に効くのか?

 

つーか、

 

「何で突然っ、攻撃されなきゃっ、いけないっ、ですかっ!?」

「わからんとは、言わせんぞ!」

「わかりませんよっ!!」

 

トイペ配りに来た善良な一般死神だぞ。

んなデンジャラスな目に遭わなきゃいかん理由とかねーだろ。ないよね?

 

そもそも砕蜂さんとは昔夜一さんが連れてた時に同年代の友人にと紹介されて、会えば話す位にはなった程度の関係だ。

多分友達に分類して良いんだろうけど、怒らせるような真似した覚えはない……ん?

 

「貴様のっ………」

 

しめた、手が止まった。

今のうちに籠地面に置いとこ。

 

「貴様の師のせいでっ!!夜一様が罪人等になられてしまったのだろうが!!」

 

あー……うん、喜助さんの逃亡幇助だもんね、夜一さんの罪状。

夜一さん命の砕蜂さんは当然キレて、本人がいないから元弟子たるこの俺に矛先が向いた、と。

 

事件以来一ヶ月くらい落ち込んでる振りしてたから、外回り回されなかったんだよな。

それでその間考え込んでた分を今ぶつけに来たのか?

 

……めんどくせー!!!

 

「知りませんよ!こちとらとっっっくに破門食らってんですよ!?無関係ですってば!」

 

そうそう、こう言う時の為の破門だもんねー!流石喜助さん先見の明あるぅ!(ヤケ)

…って、

 

「おわっ!今俺殴ってもっ、それっ、なんもっ、なんねぇですっ、よ!?」

「五月蠅いっ!」

 

しつけー!聞く耳持たずだな。

トイペは手放したけど、単に当たったらかなり痛そうだし攻撃食らいたくねぇんだよなぁ…!

 

「糞っ、このっ、いい加減にっ、しろぉ!」

 

怒りでキレの無くなっている砕蜂さんの動きであればギリギリ捕まえられる。

自由になった手で貫手を掴み取り、半ば突進するような勢いだった彼女を引きながら地面に倒れ込んだ。

 

「うあっ!」「っ……」

 

あー…受身しくった……

補充用の薬壺とか瓶とか、装備してる救急袋の中なんだけど…割れちゃってない?……あ、無事か。

というか悲鳴可愛らしいな砕蜂さん…

 

「ぐ……貴様っ……」

「も、勘弁して、下さいよ……貴女と違って……体力、無いんですよ……息、整わないんで……ほんと……一寸……タンマ……」

「む……」

 

生真面目な人だから能力の差を引き合いに出せば止まってくれそうっつー予想は大当たりだな。

フェアじゃねぇのはお好みで無い、と。覚えとこ……

 

因みに息切れしてんのはほんと。

幾ら天才症候群のお陰でそれなりに身体が動くと言っても、戦闘職カッコガチと後方支援だからねぇ。

どう足掻いたって素手じゃ差がでかいわ。

今回倒れ込む作戦が成功したのだって怒ってて隙があったからだし。

しかも夜一さんとか言う体術特化のお人が目標だもんなー、元々才能はあるんだろうし今後も襲い掛かられたらいつか怪我しそう……

 

よし、説得し(言いくるめ)よう。

 

息整ってからじゃまた襲いかかられるかもだし、途切れ途切れの方がしっかり言葉認識されそうだな。

まだ一寸肩で息してるがレッツゴーだ。

 

「……砕蜂、さん」

「…なんだ」

「夜一さんが、罪人になったことより、置いてかれた方に怒って、ますよね…?」

「っ違う!私はっ」

「いいと思い、ますよ?悔しいって、顔に、書いてます、し」

「……」

「…砕蜂さん、要らないって言われた訳じゃ、ないんでしょ…?」

「…だが、夜一様は私をお連れにならなかった」

「置き去りにされただけで、捨てられたわけじゃ、ないじゃない、ですか」

「っ!」

 

まあ俺も捨てられたわけじゃ無いって判っちゃ居るんだけども、他人からすりゃそう見えるんだろう。

実際、俺を励まそうとしたのか「犯罪者だったんだろ?縁が切れて寧ろ良かったじゃん!」みたいな巫山戯た事言ってくる奴居るもの。

全くもって良くねーよ畜生が。

巫山戯んなよな、舌打ちすら漏らせねーんだぞこっちは。

めっちゃイライラするし吐き気はするし……

 

っと、今はそんなん考えてる場合じゃねぇ。

 

「夜一さん、自分が居なくなった後のこと考えたんじゃないですか…?」

「…何?」

 

息整ってきたな。

話には食いついて貰えたみたいだから丁度良かった。

 

「だって、今砕蜂さんまで居なくなったら二番隊はどうなるんですか?」

「夜一様は私に隊をお任せになった、と?」

「多分。夜一さんは貴女を信頼してるんだと思いますよ、『何も言わずとも後を任せられる』って。常日頃一緒に居たんだから、そこの所は貴女の方が判ってるんじゃないですか?」

「私、は……」

 

素直な人だからな、割とちょろい。が、後一押し欲しいな。

 

「そんなに置いてかれて悔しいなら、いつか夜一さんに会ったときに見せつけてやれば良いんですよ。『貴女が置いていった二番隊は私が強くした』『私は貴女を追い抜く位強くなった』って言って。聞いてますよ、隊長候補に名前挙がってるって」

 

隊長・副隊長に一気に空席が出て、未だに埋まりきってないからな。

各所がごたついちまってて上手くいってないらしい。

 

「…いつか、か。会える保証も無いと言うのに」

「夜一さんはずっと行方不明で隠れんぼしてるタマじゃ無いでしょう。そのうち会えますよ」

「……まるであの男のような適当さだ。お前にしては珍しいな」

「…もしかしていつも通りのお前で居ろ的な励ましですか?」

「な!?誰が、そんな!」

 

わー真っ赤。

励ますの下手くそだなぁ砕蜂さん。

でも嬉しいのでちゃんとお礼は言っておこう。

 

「ありがとうございます」

「……ふん」

 

俺が励ますつもりだったんだけど……そんな違わない筈だが、やっぱ年上って事かなぁ。

 

「…にしても、喜助さんの事を悪く言わない励ましは珍しいですね」

 

もう完全に犯罪者扱いだからな。言及を避けるか悪く言うかのどっちかだった。

 

「適当は悪口では無いのか?」

「事実ですし」

 

ふわふわした物言いも多かったし、私生活壊滅状態だし、研究以外に関しては反論の余地無く適当だ。

 

「成る程な………私は、あの男が罪を犯したとは思っていない」

「え」

「私としては大いに不本意だが、夜一様が信を置いていたのだ。それが罪に問われるような悪行を働くとは思えん」

「あー、納得です」

 

疑ったら夜一さんを信じてないことになるから、か。

さっきも夜一さんの顔に泥塗りやがってって怒ってただけだったもんな。

この人のこういう所は俺と一寸似てるかな……いや、嘘つかんし俺よりも良い弟子、じゃねぇや部下だわ。

 

「…話が出来て良かったです。俺、そろそろ備品の補充に行って来ます」

 

よっこらせ、と掛け声と共に立ち上がり、ケツについた土を払う前に砕蜂さんに手を差し出す。

土着いた手を女性に差し出すのは失礼だろ?

 

砕蜂さんは一寸吃驚した顔をした後、「攻撃したのは、その、悪かったな……」とぼそりと言って手を取って立ち上がった。

 

「一寸ビビりましたけど、気持ちはわかるんで大丈夫ですよ」

 

じゃ、失礼します。と言って籠を回収して歩き出そうとすると、「空式」と名を呼ばれる。

 

「何です?」

 

振り返ると、砕蜂さんが据わった目で此方を見ている。

 

「私は、必ず夜一様を追い抜いて見せる。だから、お前も……お前も、お前の師を諦めるな!」

 

……この人との話題なんて、お互いの尊敬する人の事しか無かった。

本人の情報なんて殆ど知らない。知っているのは夜一さんへの想いだけだ。

砕蜂さんもきっと同じで、だからこそ俺が未だに喜助さんを慕っているのだと判っているんだろう。

 

「……はい。俺も、いつかもう一度『師匠』と呼ばせて貰うこと、諦めません。というか、諦められませんよ」

 

これは本音だ。

弟子としての、誰の模倣でも無い俺の一端を理解してくれた彼女だから言える本音だ。

 

「…ならいい。行け」

「はい、失礼します」

 

苦笑した俺に、一瞬、ふ、と笑った砕蜂さんは、次の瞬間にはいつも通りの仏頂面だった。

が、それで十分だ。

 

俺達は俺達なりに友達やれてたんだな、と思いながら、俺は備品の補充に向かっていった。

 

 

 

砕蜂さん書いてると元キンがちらつく……口調が悪いよ口調がー

初代も二代目もcvがドストライクでした。

ルキアに次いで好きな女子キャラなんで出番贔屓していきたいですねぇ。

え?三番目?ひよ里さんとネル(出ない)が同列ですかね……ロ〇コンじゃないですよ?ほんとほんと。

多分当作品での夜一砕蜂の主従戦は夕日と河原の幻覚がついて来る。最初から本音ぶつけて青春し(殴り合っ)て、どうぞ。(描写予定無し)

 

 

 

【きょうだい】

突然ですが、俺は友人が少ない。

え?言い直せ?友達じゃなくて友人だし略してないからセーフだろ。

で、そう。俺には友人が少ないのだが、逆に言えば少しだけ居るのだ。

今日はその内の一人である白哉と、朽木家の一室でサシで向かい合っている。

 

「で、何だよ。突然呼び出したと思ったら人払いまでして。昔みたいにタメで喋りたかったとか、そんな簡単な理由じゃ無いんだろ?……嫁さんについてなら会ったことねーしありきたりなお悔やみ位しか言えんけど、話を聞いて欲しいってんなら何時間でも付き合うぞ」

 

仕事終わったら朽木家に来い(意訳)とか書いた封書を同僚から渡されて、何事かと思ったわ。

来てみれば案内をしてくれた使用人さんもさっさと捌けちまって、辺りからは人の気配がしなくなった。

 

白哉とは夜一さんに拉致られて連れて行かれたお屋敷で出会い、彼女に苦労させられている同類とみたのか本人の希望もあって人が見ていないところではタメ・呼び捨てで話すことになったのだが、如何せん家が家だ。

喜助さんが罪人になってからは殆どこんな風に話してなかったし、結婚したときも無記名でお祝い葉書を出すくらいしか出来なかった。

ついこの間当の嫁さんが亡くなったって人伝に聞いたからそれじゃねーかと踏んでるが……どうだろ。

 

「弔慰の言は不要だ。兄の言うありきたりな言葉は聞き飽きた。……話とは、兄が保護者をしている空式ルキアのことだ。」

「ルキアに?」

「ああ。……私の妻にも関わる話だ」

 

今の口調使い始めてから、名前呼ばれてんのか兄呼びしてんのかよく分からん時があるんだよなぁ、此奴。

俺の事は元々境呼びしてたからそっちで呼ばれたって判るときもあるけど、どっちでもいける文脈の時はほんと判らん。

結局意味はあんま違わんから問題ないけども。

 

ルキアには俺のっつか、青乃の苗字を貸してるんだよね。

霊術院入るとき、無いと不便だからっていうことで。

保護者については、ルキアと恋次の緊急連絡先が俺になってるってだけ。

 

しかし、嫁さんとルキアねぇ……

 

「ルキアがどうしたっつーんだ」

「…私は、彼女を朽木家に迎え入れようと思っている」

「…養子縁組か?そりゃまた……ん?なんであの子なんだ?お前の跡継ぎにするってんなら男の方が良いんじゃねぇのか?」

 

嫁さんとくっつく時に大分ごたついたってのは噂になってたからな。

本人からも一寸聞いたし。

それでも結婚したんなら他の女は要らんってなるのもわかるが……ほんとなんでルキア?

 

「いや、跡継ぎでは無く義妹としてだ」

「え゛」

 

あっれー?今此奴義妹って言わなかった?

まさかグラサンアロハの如く義妹趣味に目覚めたりしないよね?

 

「待って、マジでなんで?理由次第でルキアにあること無いこと吹き込んでこの話断らせなきゃいけなくなるんだけど」

「止せ。……彼女は妻の遺言の為に探していた、妻の、緋真の実の妹だ。」

「…わーお。生き別れの姉妹って奴?顔がそっくりだったりするのか?」

「ああ。名前も一致している」

 

人違いって線は無さそうね。

ルキアなんて名前、相当珍しいだろうし。

…此奴の嫁さんがルキアの姉とか世間狭すぎるだろ…

 

「けどさ、俺も兄弟もルキアからそんな話一言も聞いてねぇぞ?てっきり天涯孤独かと思ってたんだけど……生き別れになった理由って聞いても良いか?」

「…緋真は、貧しさからルキアを捨てたのだと言っていた」

「捨てた、ねぇ……遺言は?」

「姉だと明かさず、ルキアを守ってやって欲しい、と」

「家の力でか」

「ああ」

 

うーん、それってどうなんだ?

捨てた事に対する罪滅ぼし、とか?

にしては白哉の負担がでかいし、ルキアは面識の無い貴族に引き取られて戸惑うだろうし、貴族の振るまいに慣れるには時間が掛かるだろうし………後此奴良く結婚できたなって位スーパー口下手マンに育ったしなぁ。

昔はもう一寸元気だった気がするが……

 

おっと脱線脱線。

俺よりはルキアと仲の良い破晶にも意見を聞いてみるかね。

 

"どう思う?"

『話を受けるかどうかはルキア次第、かなぁ。ただ白哉がちゃんとお兄ちゃん出来るかっていうのも心配だし、少なくとも今いきなりってのは避けたい』

"デスヨネー……一寸言ってみる"

 

「白哉、お前はルキア引き取った後如何するつもりなの」

「如何とはなんだ」

「だからさ、こう……お前兄貴になるわけだろ?俺んとこみたいにべったりしろとは言わんが、最低限悩み、たとえば貴族に馴染めないとか、自分の実力や成績についてとか…そう言うのを聞いてやれる位には仲良くなれないといけないと俺は思うんだけどさ。お前そこまで構える?時間もそうだし、お前口下手だってのは自覚あるんだろ?」

「む……」

 

白哉は育ちが良い故に人の話を遮ったりしない。

だから俺みたいな口が回るタイプ相手、しかも友人とあって疑いも少ないと来れば、説得の難易度は低い。

 

…お貴族ってのはいつの時代だって異分子が嫌いなもんだ。

流魂街出身の嫁さんとの結婚でごたついたってことは、ルキアとの養子縁組でもなんかある可能性が高い。

休みに青乃が聞いた話だと霊術院でもちょっかいかけてくる奴が居て若干ダメージ受けてるみたいだし、更に大人のジメジメした悪意とかそう言うのに遭うなら、近くに居る白哉が支えてやれた方が良い。

朽木の家に引き取られたら青乃や恋次とも会い辛くなるだろうしな。

 

俺も破晶(と青乃)が居て大分助かってるし、相談室にも兄弟仲がでかい影響を(方向性は兎も角)及ぼしてる話がくる。

だから兄妹仲良い方が絶対楽だと思うんだよね。

 

「俺としてはいきなり引き取るより、養子縁組を前提として伝えた上で霊術院卒業まで何回かきっちり時間を取って交流を持って、しっかり仲良くなってからがいいと思うんだわ。理由を言わんなら尚更。どう?」

「…反対する訳ではないのだな」

「意外か?俺も弟も名前貸してるだけで、実際は友達枠だからな。道を整えこそすれ、選ぶのは本人に任せるよ」

 

一回だけ、結婚して嫁さんが亡くなるまでの間に白哉に会った。

趣味の散歩に俺の薬草探しからの帰宅が被ったみたいで、その時に改めてお祝いを言って、ごたごたについて聞いて、序でに惚気を聞いた。

年食って表情が乏しくなってきた此奴にしては幸せそうだったんだよ。

そんだけ惚れてた嫁さんの遺言だ、視野が狭くなってたんだろう。

でなきゃ相手の気持ちが全く考えられてない案とか此奴はそうそう出さん。

 

「……そうか」

「ま、俺のは助言程度に思っとけ。お前にしか判らん事もあるんだろうし。あ、保護者としての返事は『本人同士でやり取りしてくれ』ってことで」

「分かった。……助言については礼を言っておく」

「おー。じゃ、今日は帰るわ。なんか手伝うことあったら言えよ」

「ああ」

 

誰が見ているかわからんし、一応作法に則ったやり方で部屋の外に出てその場を離れる。

 

"これでいいか?"

『うん、大分良くなったと思う』

"そっか。……一寸ルキアには申し訳ないな"

 

多分この話、ルキアにとっちゃあ面倒なもんなんだよな。

多分聞かない方が精神衛生上は良い。

 

『別に良いんじゃない?先に君と友達になってたのは白哉なんだし、そっち優先でいいと思うよ』

"そうかな"

『そうだよ』

 

 

青乃の言葉に安心してその日は隊舎に戻ったんだが……

 

後日ルキアと恋次が仲違いをしたと聞いて俺は頭を抱えたのだった。

 

 

 

主人公の名前決めたときには白哉を出すつもり無かったんで、如何するか苦労しました。

原作だとルキアの引き取られた後のアフターケアが少なすぎないかな、と思ってたので手を入れてみました。もっと兄妹で会話しとけよぉ!

作法については全くわからんので言及しませんでした。ゆるして。

BLEACHにおける緋真さんは型月の水銀先生ポジだと思っております。嫌いなわけじゃ無いんですが生存してるとその先が……

尚、友人が少ない、というのは師匠を悪く言った奴を除外している為です。相手には言わんけど。

 




数週間前頭の中だけでプロットこねくり回してると展開が変わる変わる。
聴いてる曲が明るいか暗いかもすっごい影響しますね。

恋愛ルート、まだ諦めてはいないんですけど……今の所本編に反して若干ギャグ感あるし、オチを綺麗に持って行けなさそう……もう一寸展開弄らねば……


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俺カウンセラーだから。患者じゃないから。

プーサー来ません(挨拶)

UA13000、お気に入り110突破ありがとうございます!
前話更新時の伸びが凄くて驚いて(びびって)ます。
また訂正点前書きに追加したので、余裕のある方はご確認下され。

長らく間が空いてしまいすいません。
まだリアルがゴタゴタしてるので当分はゆっくり更新になりそうですが、プロットは完結まで一応立ってるし飯や風呂の間ずっと捏ね回してるので失踪はしないです。
ただ捏ねすぎて粗筋に続きタイトル変えねばならんくなりました…ままならない…ラスボスが変わってしまったのがいけない……
変更後のタイトル決まったら変更する一話前の後書きに載せます。ご迷惑をお掛けして申し訳ありませぬ。

追記:マジでなんだこれ。の前一文抜けてたので追加しました
追記2:「~隊長~」のルビが抜けてたので追加しました
追記3:タグのラスボス表記を修正しました
追記4:いや…いい を繰り返してコピペしてしまっていたので訂正
追記5:後書きから (青乃) を消去
追記6:主人公の口調に違和感があったので訂正



「こんにちは、雛森副隊長」

「あぁ、こんにちは空式さん」

 

外回りの帰り、向こうも仕事終わりと思しき雛森副隊長に遭遇した。

 

「またお菓子溜まっちゃってまして…良かったら消費、手伝って頂けませんか?」

「はい、是非!」

 

 

相談室に置いているカップに紅茶を注ぐ。

ゴールデンルール程きっちりしてないが、それなりに気は遣っているので不味くは無い筈だ。

 

「どうぞ」

「ありがとうございます」

「いえいえ、此方こそ。お菓子をただ腐らせるのは勿体ないですし」

 

皿に盛ってあるのはクッキー類。

それなりに持つしどれ位購入するかは考えているんだが、たまーに余らせる。わざとな。

余った菓子ってのは人を呼び出す理由として丁度良いんだよ。

ほんとは四番隊内で配っちまえば一瞬で消費できるが、カウンセリングするから来いって言うよりは幾分か心証が良いからな、いい口実なんだ。

 

「ところで、この間お教えしたストレッチ。あれどうでした?」

「凄く楽になりました!あれだけでも随分変わるものなんですね…」

「肩の力を抜くって大事ですから」

 

仕事の効率が悪い、と悩んでいたので一寸した気分転換として教えたのだが、ちゃんと効果はあったみたいだな。良かった良かった。

どうしても人によって差があるからな。

雛森副隊長は素直、というかあまり深く考えない印象があったから効きやすそうとは思ってたけどね。

 

「これで、もっと隊長のお役に立てます!」

 

あー………うん………

これだ。俺が理由を作っては度々彼女を相談室に呼んでいる理由。

俺みたいな生まれって訳でもないのに一人に入れ込み過ぎてる。

しかも相手があの藍染隊長(101匹にゃんちゃん被り野郎)だ。看過出来ん。

 

幼馴染みやら同期も大事にしてるみたいだから、自分以外に寄り掛かってないと不安なんだろうな、とは思うが藍染隊長(暫定最低屑野郎)に対する盲信が宗教まで行ってそうなのが怖い。

多分善悪の判断まで委ねてるぞこの子。

 

ん?ブーメランじゃないのかって?しかもすっごくでかい奴?

いやいや、俺は自分で判断つけれるから。わかってても体が勝手に~って感じなんだよ。

絶対がないのは記録で十分知ってるし、「『ありえない』なんて事はありえない」とも言うだろ?

だから何でもまず疑って掛かることにしてる。

疑うっつか事実を精査するのは信じたい気持ちがあるからだし、悪い事じゃないと俺は思うね。

 

「雛森副隊長、あまり根を詰めないで下さいね?というか、藍染隊長を信じ切っちゃ駄目ですよ?」

「え?それはその…どういう意味ですか?」

 

此処で不信感を持たれるのは想定の範囲内だ。いけるいける。

というか、不信感程度で済ませる為に何回も交流してきたんだよなー。

 

「雛森副隊長は、藍染隊長が『なんでも出来る凄い人』と思ってますよね?」

「それは…」

「藍染隊長も人の子ですよ?思いもよらない事っていうのは誰にだってあるものなんです」

 

あの藍染隊長(信用99の狂信者野郎)が千里眼EXみたいなの持ってなければ絶対穴はある筈なんだよ。

俺や破晶だって吃驚することとか多々あるしね。

 

「『思いもよらない事』の中にもっと仕事の効率なり成果なりを上げる方法があれば?若しくは、間違えてしまっているのに気が付いたら?…ただ従うんじゃなく進言するべきですよ。俺達部下は、上司の補助、そして思考の穴を埋めるのも仕事ですから」

 

これは俺の持論みたいなもんだ。お手本は地獄の№2。

いやまぁ進言ってレベルじゃないけどなあれは。

 

俺と破晶二人で考えてても違う発想が出て来ることがあるし、他人である上司部下ならもっと色んな方向に考えて思考の隙を無くせると思うんだよな。

 

「藍染隊長は間違えたりなんかっ…」

「そうですね、藍染隊長が間違えることはそうそう無いかもしれませんけど、他の人を経由してきた件であればその時点で間違ってるって事もあると思います」

「……」

「それについて本人が既に気付いていたんだとしても他人からも指摘されればより確実になりますし、言わないよりは言った方が絶対に良いですよ」

「……はい……」

 

…手応えはある、が…うっすいなぁ……

まあ「自分の尊敬(すうはい)する隊長(かみさま)は完璧超人」みたいな思い込みに一寸でも罅を入れられたんなら取っ掛かりとしては十分か。

警戒されただろうけど、少しずつ雑談に交えて楔を打ち込めば良い。

 

「ああ、気が回らなくてすみません。紅茶お注ぎしますよ」

 

俺はまだ半分位カップに残ってるけど、雛森副隊長は飲み終わってた。

気付いてたけど話題転換に丁度良いから話の後にやろうと思って放置してたんだ。

 

「あ…ありがとうございます」

 

ふむ、礼も言えないくらい考え込むかと思ってたけど…微笑める位には余裕あるのか……

え、もしかして思考停止してない?してたら次も糞もないんだけど?

…思ってたより難易度高いかなぁ、これは……

 

 

それから暫く雑談して、日の暮れる前に五番隊の隊舎に雛森副隊長を送っていく。

彼女は門の近くで一度立ち止まり、俺に向き直った。

俺はさり気なく下げた左手で破晶の鞘をカリ、と爪で引っ掻いてからそれに応じる。

 

「送って頂いてありがとうございます。お菓子もお茶もすごく美味しかったです!」

「いえいえ、お礼を言うのは此方の方ですよ。手伝って頂いた訳ですし。また余らせてしまったらお願いしても良いでしょうか?」

「はい、楽しみにしてます!」

 

次の約束は取り付けられた、が……やっぱり俺に対する敵愾心とかも含めて丸々無かったことにしちゃってない?

立ち直りが早いって言うか、あれだ、「なんかの間違いだ」って思い込むタイプの自己防衛だ。

 

藍染隊長(韓流俳優激似野郎)がこういうタイプだってわかってて誑し込んでるんだとしたらすげーわ。

駒としちゃあすっごい扱いやすいだろうな…

 

 

ではまた、と会釈を交わし、そこから足早に立ち去る。

途中角を幾つか曲がり、それにタイミングを合わせて偽装鏡面を張った。

隊舎が完全に見えなくなった頃、何度も建て直しを繰り返したせいで瀞霊廷に沢山ある行き止まりの一つで蹲る。

 

『境、前より酷い?』

 

もう話し掛けても問題ないと判断したのだろう、破晶が声を掛けてくる。

 

"うん……がんがんする……探知は?どうだった?"

『駄目。誰が、何処から、どういう目的で干渉をしてるか。どれもわからなかった』

"…了解"

 

もう何十年も前からの話になるのだが、俺は突発的な頭痛と吐き気に悩まされている。

原因は病気の類いじゃなく────それだったら破晶にわからない筈がないしとっくに対処してただろう────誰かが俺の精神、若しくは脳に干渉してきている事だ。

いや、もっと正確に言おう。

誰かの干渉と、俺の身体で年々進行する同化現象がかち合って反発、拒否反応のような物を起こしてるんだ。

同化現象の進行に合わせてこの症状も重篤化してるから、発症(で良いのだろうか)する度に頭痛も吐き気も酷くなっている。

まだ呻き声を上げる程じゃないが急に始まるのは、も、ほんっっっとに勘弁して欲しい。迷惑にも程がある。

 

同化現象関連とはいえ、破晶にも探知以上の事は出来ないらしい。

まあ精神干渉に対処する為のファフナーだからね、始解し(乗ら)ないと意味ないよな…

 

何で夢のと違って破晶にちゃんと教えているかって言うと、俺より先に破晶が干渉に気付いて「体に異変はない?」って聞いてきたからなんだよ。

誰かに訳のわからん干渉されてるのは恐すぎるので正直に話して探って貰ってるが、成果は無し。

場所やタイミング、周りに居る人間もバラバラ。マジでなんだこれ。

 

そうそう、さっき鞘を引っ掻いたのは破晶に「症状出てます」って合図。

これのためだけに新しく決めた。

 

『ごめんね、力になれなくて』

"いい……原因わかるのだけでも十分"

『…ね、もう一寸書類仕事残ってるでしょ?ボクがやろうか?』

"いや…仕事は自分でどうにかする……"

『そう?』

 

あー…うん、なんかして貰おう。頼っとこう。

罪悪感感じさせたまんまは駄目だわ。

 

"……仕事はどうにかする、けど……復活するまでもうちょい掛かりそうだから……隊舎近く迄抱えてってくれる…?"

『わかった!』

 

青乃の姿で実体化した破晶に半ば縋り付く形で寄り掛かると即効で軽々と横抱きにしてくる。まあ体格的に余裕だよね。

 

あぁ、今の青乃は裸じゃないぞ?

消えるときに服が残ったり裸で出て来たりは流石に不便だってんで色々試した結果、決まった服やアイテムなら破晶の自由に出し入れ出来るようになった。

斬魄刀本体若しくは端末から一定距離離れると消える、というデメリットが付与されるが、まあたいしたもんじゃない。

薬関係は全滅だが、服・破晶本体に似せてあるポン刀・俺に変装する用の装備一式は持たせられた。

今回は私服着て出てきたな。

 

 

隊舎につく頃には症状は治まった。

人気の無いところで下ろして貰って、書類はちゃっちゃと終わらせられた。

 

今日は精神的にも肉体的にも凄い疲れたわ……全部藍染隊長(外面オバケ野郎)のせいって事で良いわもう……

帰って寝よう……

 




ぶっちゃけ藍染隊長に対する呼び名を考えるのとても楽しい

なんと、つな*さんから主人公ちゃんのイラスト(本家寄り絵柄)を頂きました!
(利用許可申請忘れてたのでDLさせて頂いた物を自垢で出しております。申請通り次第修正致します、申し訳ありません。)※自垢で上げていた貰い物画像を取り下げましたので現在公開していません
すっごく美人にして頂いて嬉しいです!
自分は画風寄せれる技量無いんでとても羨ましいです…!

""内の主人公の台詞は文字打ちなので結構言葉遣いがしっかりしてますが、実際声出せるなら「うあーがんがんするぅー…あー…」みたいな感じだと思ってます。

建て直し云々は独自設定です。組織図が書き換わる度に隊舎とか増えたり移動したりしてたと思いますし。

破晶のイメージソングは「命/の/ユ/ー/ス/テ/ィ/テ/ィ/ア」です。
元々は今作全体のイメージだったのですが主人公がもっと泥臭くイカレてくれそうなので今は違うの聞いてますね。


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お上は一体何考えてるんだ


CBCで金髪の美男子引いたぞ!!なんか髪長いしランサーだし3人目だけどな!!!
色性別関係なく☆5の我が王は全然来てくれません(半ギレ)
アナスタシア楽しみですなぁ……(ギリギリ)

16000UA、130お気に入りありがとうございます!
活報にも書きましたが、暫く此方の作品メインで進めさせて頂きます。もう一つがメインですって散々言ってたのに、勝手ですいません!

前話までの修正点
・歌/い/手/さんの名前にも検索避け
・その他前話前書きに追記

追記:ルビ作成ミスを訂正



現世の任務からルキアが帰ってきた。それはいい。破晶も喜ぶ。

だが頭に「捕縛されて」が付くのは一寸待って?

更に「白哉と恋次に」が付くとか理解できないししたくないんだが?

 

人間に霊力の譲渡をしたとかが引っ掛かったんだと。

……まあ、法には触れてる…のか?

けど平隊員の捕縛に隊長副隊長出すのはどーなんだよ。過剰戦力過ぎるわ。

 

そもルキアが罪人ってのがわからん。

多分なんかやらかしても致し方なくって感じだろ?

そこに朽木家の人間って肩書き付いてんだよな……白哉も抗議するだろうし不当な捕縛として後々命令した奴の汚点になると思うんだけど…………やだーきなくさーい……

 

「ぅわあっ!」

 

そんな事を考えていると、廊下からドンガラガッシャン、と形容するに相応しい騒音が聞こえてきた。

うわ、とか言ってた声は花太郎か?

 

「花太郎ー?大丈夫かー?」

「あうぅ……はい……」

 

廊下に出るとそこに居たのは案の定花太郎───反応が一々ドジッ子ヒロインなんだよな此奴。男だけど。ケツ狙われてるって聞くが大丈夫なのか?───で、辺りには運んでいたと思しき掃除用具一式が散らばっている。

 

一人に持たせるには一寸多いよな、あの機材の量。雑巾とかちゃんと紐で纏まってないし、その上箒まで持たせるのは一寸酷じゃないか?

一度運べば後は嵩張る箒以外置いてこれるとは言え、命じた奴は人数をもう少し考えるべきだったな。

 

機材の種類的に、どっかの清掃を命じられたんだろうけど……白哉か恋次捕まえて話聞く方が優先かな。

すまん花太郎、手伝いは出来んわ。

…まあ見てしまったもんは見てしまったもんなので機材を拾い集める位はするけど。

 

「お前一人でこの量運ぶの大変だろ……二回に分けて運んだ方が良いんじゃないか?」

「いえ、急ぎらしいので…それに担当僕だけなんで、お手伝いも頼み辛くって……」

「急ぎの仕事なんてあったか?俺は聞いてないが」

 

出勤時に四番隊員の仕事一覧一通り見たけどいつも通りのやつしか無かった。

十三番隊に薬を届けてってのは不定期だが以前からある仕事だし、掃除は副隊長二人がやってるから此奴が機材を運ぶ必要は無い。

……イレギュラーって事だよな。

 

「あ、えっと、六番隊の牢の清掃を命じられて……」

「成る程、じゃあ急がなきゃだな。機材運び俺が手伝うわ」

 

前言撤回!!!前言撤回!!!!!

っはー…このタイミングで牢屋とかさぁ……

ルキアが居ますって言ってるようなもんじゃん。

本人から話聞ける大チャンスだよ、逃すかっての。

 

「ほんとですか!?わ~っ、助かります~!」

 

あーごめんそんな無邪気に喜ばないで……口実として利用させて貰うだけだから……凄く申し訳なくなってくるから……

 

 

そんな訳で、機材を半分…より一寸多目に持って六番隊の隊舎へ二人で向かう。

体格も腕力も俺の方が上なのよね……

今日の俺の仕事は書類だけだったから、夕頃までに戻れれば大丈夫だ、問題ない。

 

あー、利用するって言っても人からの印象が良ければ自分の行動がしやすいし、いい人でいようってのはちゃんと考えてるぞ。

打算的だが、「だって助けることそのものは素晴らしいことじゃないか!」っつー名言もあるしね。

 

 

隊舎に入ろうとしたら止められた。

まあ一人呼んで二人来たら止めるよなそりゃ。

 

「あぁ、突然人数を増やしてしまい申し訳ございません。急ぎの御用命と聞き、手が空いていた自分が彼を手伝えば速さも内容もご満足頂ける物になると思ったのです。自分も中に通して頂けませんでしょうか?」

「は、はぁ…そう言う事なら、まあ……」

 

うし、今日も俺の舌は絶好調だ。

ほんと詐欺師(この人格)選んで良かったわー。色々楽。

 

やっぱ隊員は隊長の影響がでかいのか、六番隊は言いくるめ易いんだよな。

素直で大変よろしいがもう一寸警戒して欲しい気もする。

 

 

白哉に問い詰めることが増えた。事っつか、事案じゃねぇのコレ?

 

「よう、ルキア」

「……境……後ろのは……」

「俺の後輩。此処のお掃除担当だってさ。俺は機材運びの手伝い」

「よ、よろしくお願いします…」

「ああ……よろしく頼む」

「…一寸痩せたか?ちゃんと飯食ってる?」

「……瀞霊廷に戻って来てからは食べていないな……」

「…確認するけど、飯運ばれてきてない訳じゃないんだよな?あ、花太郎バケツに水汲んできてくれ。あっちにトイレあったろ」

「はいっ」

「私が、手を付けていないだけだ」

「そっか。青乃におにぎり作らせたら食べる?」

「……いや、遠慮しておく。今は何も喉を通らなそうだ」

「わかった。食いたくなったらいつでも言えよ?配達するから」

「ああ、ありがとう」

 

滅茶苦茶暗いじゃんルキア。白哉と恋次は一体何やらかしたの?愛想尽かされるぞ?

……ああいや違う、これは予想できてた。問い詰めるのは別の事だ。

ベッドもそうだが、主にトイレ。WC。便所。お手洗い。──────そう、厠である。

 

見た所ルキアの霊力めっちゃ弱まってるから生存は最低限の水で事足りるだろう。

けどさぁ、ベッドもトイレも無し?はぁ?

ルキアが女の子で、まだ成長の余地のある身体だってのを考慮しろや。

椅子で寝かせるとかアホかっつの。身体おもくそ傷めるぞ。

というか掃除係呼んだのってコレが理由なの?プライバシーとかデリカシーとかの横文字白哉に叩き込んじゃうぞ?

とっとと改築して、どうぞ。

………いや、待てよ……トイレの度に牢の外に出してる可能性もあるな。檻房の入り口より内側に一カ所共用トイレあったし。

それはそれで囚人に甘過ぎるだろ。

 

つーか牢屋作った業者も水回りのこと聞けよな。

敵対組織や捕虜に関する規定が無いからって捕らえた人間への対応がガバガバ過ぎだろ護廷隊。

 

牢を開いて中に入る。

……やっぱ鍵無いな。トイレは自由説が濃厚か……この監獄緩すぎだろ……クハハ系復讐鬼から「監獄じゃない」って判定食らいそう……

 

…周辺の観察はこの位にして、本題に入ろう。

こんな状態のルキアに根掘り葉掘り聞くのは駄目だし、白哉捕まえたときに聞きゃあ良い。

 

「…ルキア、一個だけ聞かせてくれ。現世(向こう)でお礼って言われた?」

「礼…?」

「誰でも良いし、一回でも良い。『ありがとう』って、言われたか?」

「……言わ、れた…………だが、私は結局ッ」

「ならいい」

「……は……?」

「いいっつったんだよ。後々のこととか善悪の判断なんぞ神様にしか決められんもんなんだし、あんま考えんな。ルキアはお礼を言われるようなことをした。それでいいんだ」

「────」

「とっととこんなとこ出れるように俺も手を回してみるからさ、あんま自分を責めるなよ」

 

何やら考え込み始めたルキアの頭を撫でる。

きな臭さマシマシになったなーとかは頭の片隅に置くだけにして、言葉を続けた。

 

「俺はあんまり来れないけどさ、さっき俺と一緒に居た奴はいい奴だから色々喋ってみたら良い。一寸した気晴らしにはなるだろ」

「……ありがとう、境」

「まだなんもしてねーよ。でもまあ、どういたしまして」

 

うん、少しは雰囲気マシになったか。

目的は果たしたし後は花太郎に任せよう。

 

「じゃ、また来るよ」

 

それだけ言って、牢屋を後にする。

途中花太郎とすれ違うが、「隊長さんに用があるから、後は一人で頑張って」と声を掛けて隊舎の奥に進む。

ぶっちゃけ掃除そのものだけなら花太郎一人でも余裕だろう。

ルキアの友達が増えることになりゃ良いんだけど……

 

 

廊下を曲がって、その先に目的の人物はいた。

 

「………兄か」

「こんにちは、朽木隊長。少々お時間頂けますか?」

 

さーって、どんなヤバい話が出て来るんでしょうね……

 

 

いや、トイレはどっちにしろヤバいだろうけどね!!

 




一寸短いですが二部始まる前に上げたかったんです(ワガママ)
続きは一章が一段落したらですかね……

今回の作業BGMは「何/で/生/き/て/ん/だ/ろ/う/っ/て/す/げ/え/思/う/ん/だ」の地/球/屋さんの歌って/みた です。
相談に乗った主人公が言いそうだなーと思います。(尚本人のストレス)

おまけ:弟子と部下の会話
「あ、どうも」
「空式か」
「今日そっちなんか行事ありました?それ正装ですよね?」
「ああ。貴族の集まりで夜一様の警護役をやらせて頂いたのだ」
「てことは夜一さんも珍しく正装なさってたんですか」
「そうだ!…あぁ……とてもお綺麗だった……」
「普段と違う服ってのもいいですよねー。師匠は面倒くさがっていっつも死覇装ですけど」
「お前が服を贈れば喜んで着るのではないのか?」
「手間取らせるのもなんですし……それに着ない服贈ったって邪魔なだけですよ。というか砕蜂さんこそ服贈れば良いじゃないですか。しまう場所に困ったりしないでしょうし」
「私が選んだ服を……夜一様が………いや、一から仕立てねば………」
「……砕蜂さん?」
「…そうだな。仕立屋に作らせよう」
「金持ちの選択肢……」
「なんだ?」
「いーえ何でも。…じゃ、失礼します」
「ああ」

例えるなら同じアイドルグループの違う人が推しのファン仲間ってのが近そう。
ガチ恋とガチファンの差はあるがお互いに布教してこないので話しやすい。


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そんな情報で俺が釣られクマー!!

VR決闘一年目最終回→二年目一話の流れずっと語彙力0で「いい……最高……好き……」しか言ってませんでした。
何だかんだでちゃんと相棒になってるの良い……好き……
OPEDで早速闇堕ち裏切りフラグだの記憶関連フラグだの立ってて先が楽しみですね!!!(決闘では良くあること)
……二年目に出てくる記憶喪失マッチョ枠がヒロイン枠とイコールでは無い可能性あるってマ?

二部一章はマジで最高でした……パツシィさんすこ………
サリエリさんの真名公式が出してきたのにはマジで驚きました。
ネタバレ配慮して喋ってた意味がねぇな!!

18000UA、150お気に入りありがとうございます!
一寸新生活でバタバタして更新ペース乱れるかもですが忘れたりはしませんのでご勘弁を……

前回までの修正点
・曲紹介に注意書きを追加(今話にも同じ内容付いてるので読み返し不要)

追記:ルビ指定忘れを訂正しました(爆弾、処理)
追記2:呼び名が百年前のものになってしまっていたので訂正しました



六番隊隊舎の中でも外れの方にある一室へ白哉に案内された。

「此方だ」だけ言ってさっさと歩いて行くのは正直口下手極め過ぎだと思うけど、気配消して歩いてたとこを見るに「人に見られたくないから急ぐよ」って意味も含んでたんだと思う。

 

「入れ」

 

俺も白哉に倣って気配消してたんだが、目の前の扉がある通路周辺からは人の気配がしない。

言われた通り中に入ると、白哉も部屋に入って引き戸を閉めた。

 

「……」

「喋っても構わぬ」

「…ぉぅ」

 

ギリギリ白哉に聞こえるだろう声で返事をすると、白哉が小さく嘆息する。

なんだよ、外に聞こえないようにっていう配慮だぞ。

ご不満なのか?それとも内容がそんだけ不味いのか?

 

「……此処は私以前の代から使われている密談用の部屋だ。戸をしめれば内部の音声を遮断する結界が貼られるようになっている」

『確かに結界は作動してる。普通の声量で大丈夫だよ』

「…おう」

 

前者かよ!!!破晶は補足ありがとね!!!

そりゃまあ朽木みたいな家が長く使ってる隊舎なら色々仕掛けられてて当然っちゃ当然だがな、そんなん知るかよ………俺の気遣いを返せ、ボンボンめ。

 

破晶の柄の菱の1つを指でなぞる。

「サンキュー」を伝えたいときはこうって決めてあるんだ。

…この合図を利用して偽装鏡面を張れば、俺だけでも気配を消すよりもっと人目を避けるのに確実性が出たとは思うが、生憎破晶を持ち歩いていることは白哉に伝えていないので使用できない。

……勘付かれてはいるかもだけど…念の為、な。

あ、縛道を使うのは論外だぞ。

使う時点で誰にも見られてないってのが確定してないのに使っても意味がないからな。

 

破晶を所持してて可笑しくない状況だったら、瞬歩で立ち去った振りをするとかして偽装鏡面張ってただろう。

普通始解は鞘から刀を抜いてからするものと思われているが、必ず抜かなければならないのは形状が変化し、攻撃に使用するものだけだ。

俺の破晶は一切形状変化無し、攻撃以外の用途があるのでそのままでも出来る。

なんならずっと始解したままってのも可能だ。

………っていうこじつけ理論を白哉には言ってある。

一応筋は通ってるし、普段から帯刀の有無に関わらず漏れる霊力はほぼ一定にしてるから、ずっと始解しているのか全くしていないのかはわからないだろう。

 

しっかし、この部屋が昔から使われてるってのには納得だわ。

くるりと部屋を見廻す。

年季入ってるが元が高そうな座布団が幾つか置いてあるもんな。

如何にもお偉い共の密会用ですって感じ。

まあまあ掃除はされてるが、直近って訳じゃねぇだろう。

多分隊の中でも朽木家に仕えてるタイプの奴に時々掃除を命じてるって感じだろうな。

誰かが使ってるときに掃除に行ったら不味いから、仕方ないっちゃ仕方ないのかもだけど。

 

「これ座って良いか?」

「ああ」

「んじゃ、失礼」

 

置いてあった座布団の一つから埃を払い、その上に胡坐をかく。

……正面に据わった白哉は正座だ。優雅さが比べものにならない。

良家の坊ちゃんだけあって所作が丁寧で完成されてるんだよなー。

 

「ふぅ………こんな部屋連れてきたって事は、ルキアについて聞かせてくれるって事で良いんだよな?」

「ああ。……兄は、現状を何処まで知っているのだ?」

「……現世任務中に生者に死神の力を受け渡したからっつって朽木家の人間を捕縛し続けてる上に平隊員に対して隊長副隊長とか言う過剰戦力ぶち込んでたってとこまでか。あ、ルキアがやらかしたのは誰かを助けるためにやむなく、だと思ってるぞ」

 

うん、此処まででも大分頭可笑しい。

ツッコミ処多過ぎだろ。

 

「そうか……死神の力を受け渡したのは事実だ。虚に襲われた際、その場にいた人間に力を与えて倒させたと言っている。その後は暫くその子供と行動を共にしていたらしい」

「ふーん……よく対処できたな、其奴……元々見えるタイプだったのか?…………待て、ルキアが彼処まで落ち込んでんのは何でだ?それだけ聴くとわからんのだが」

 

行動を共にする位だ、別段仲が悪いとか相性が悪い訳では無かったのだと思う。

子供って言ってるが、どれ位の歳なんだろうか。

死神の寿命的に子供って呼ばれる範囲が広すぎるんだよな………俺は記録にある生者の方が基準だからな……わからん。

ルキアと外見年齢が近いってのは十二分に有り得るか。

 

「恐らく、私がその子供を斬り捨てたからだろう」

「………………えっ、何してんのお前……?」

 

子供っつってるよねお前?それを?何で?しかも生者だろ?………えぇ(ドン引き)

つーか少なくともルキアは斬られたことを知ってて、最悪目撃してる…?

そりゃあんなんなるわ。

大好きなお兄様が自分と関わった子供(実年齢比)斬ったらSANチェック掛かるよ。

 

「斬った理由は」

「妨害に遭った」

「お前無傷じゃねーか、なら怪我させずに制圧できただろ」

 

別に縛道が不得意って訳でも無いだろうに。

 

「……あれは異質だった」

「………」

 

異質。異質ね……

俺も人様のこと言えんし、此奴にそう思わせるだけの何かがあったっつーんならまあ、斬って良かった……のか?

 

「…わかった。じゃあ別の話だ。……何でルキアはまだ釈放されてないんだ?」

 

白哉が恩赦を要求しないとは思えない。

席官にすらしてないのも含めて滅茶苦茶過保護だからな。

 

「理由も酌量余地あると思うし、四十六室とは言え朽木家(お前んち)の子に平然と罪ひっ被せてきたとは思えんのだが……」

「……いや、四十六室は本気のようだ。減刑は既に求めたが、受諾されなかった」

「……朽木家の名前でも?」

「ああ。逆に『家を潰したくなければ何もするな』と返答が来た」

「…そりゃあ大きく出たな………そこまでされる理由に心当たりは?」

「四十六室の全てを敵に回すような事はしていない」

 

だよなぁ。

貴族間はギスギスしてるだろう、とは思ったけど、朽木家に味方する奴も少なからず居る筈だ。

だからやっぱり今の四十六室は可笑しい。

 

上が可笑しい組織で働くとろくな事にならないからな。

情報収集と関係各所への干渉でこっちへの被害を防げれば良いんだが…………ん?

あれ、白哉は俺がそれ位しか動けないのわかってるよね?情報開示し過ぎてない?

ルキアの事に関して朽木家(四大貴族)がどうにも出来ない事を平民にやれっつーのか?無理無理。

 

悪いけど俺は自分が可愛いから、この件に命やら立場やらは賭けない。

ルキアに「手を回す」って言った手前安全を確保した範囲でやれることはやるけども、成果が出ることは十中八九無いだろう。

……流石に処刑されることは無いだろうから勘弁して欲しい。

 

「なぁ、何でこんなに情報くれるんだ?情報は幾らあっても足りないから有り難いけど、これ俺が関われる範囲超えてるぞ?お前が覆せない四十六室の決定なんて、俺にどうしろってんだよ」

「兄ならどうとでも出来るだろう」

「出来ねーよ、なんなんだお前のその謎の信頼」

 

あれか?透明人間になれるから潜入とか出来るでしょって?バレたときが怖すぎるだろ。

感知されないだけで実体のある結界張られたら即御陀仏だからな。やらんぞ。

 

「……手段を選んでいるから出来ないのだろう」

「………何が言いたい」

 

白哉の伏せられていた目が此方をひたりと見据える。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

三秒。その言葉を理解して舌打ちするまでに三秒掛かった。

いや本当はもう一寸掛かってたのかも知れないが、少なくともそれだけの時間を掛けて、俺はその爆弾(情報)処理(飲み下)した。

 

「お前っ………あぁクソ、俺が冷静な内に叩き込めるだけ情報叩き込んで、そんでそれから静観の道を潰すってか」

 

括っていない右目側の前髪をくしゃりと握る。

畜生思いっ切り嵌められた。

これじゃあ命懸けにならざるを得ない。

 

もしかしたら偽物かも知れない?承知の上だ。

本物である可能性が0.000001%でもあるなら、俺に動かない選択肢は無い。

 

「腹芸立派にこなしやがって……」

「当主としての嗜みだ」

「そーかよっ………」

 

じろりと白哉を睨むが動じない。

ほんっっっと可愛げ無くなったなぁ此奴!?

……無罪を勝ち取る為だけに俺を嵌めた?それは流石にねーだろ。

 

「……まだ開示してない情報あんだろ。寄越せよ」

「……ルキアへの罰は極刑に決定した。二十五日後に執り行われる。兄が来なければルキアにそれを告げに行っていた」

「………………っは……」

 

思わず笑い声が漏れる。

なんだそれ、頭可笑しいにも程があるだろ。

そりゃ此奴も必死になるわ。

 

「成る程ね……それで平民()か」

 

もう貴族は信用出来ねぇってとこまで来てんだな?

あーあとあれか、餌が手に入ってたからか。

 

「…喜助さんの情報は?」

「駄菓子屋に偽装して義骸や内魄固定剤を販売していたそうだ。握菱鉄裁と思われる男性と、未確認の少年少女が共にいる。四楓院夜一や連れ去られた隊長格は見ていないらしい」

 

もう出し惜しみ無しか。

最低限の餌であっさり釣れたからか?悪かったな単純で。

…………少年少女、な………

 

「……此処までの情報、上には」

「既に報告した」

「そりゃいい」

 

百年前に喜助さんを嵌めた奴がわかるかも知れん。

……「偶然知った」なら許されるだろ……多分。

今回のは基本的に上からの自己防衛の為に動くのであってあの事件を探るためじゃないからな。うん。

 

ふと下を向いてしまっていた顔を上げると、白哉が眉を寄せて苦しそうな表情をしている。

親しくない奴からすればいつも通りの仏頂面なのかもしれんが、百年来の付き合いだ。それ位は読み取れる。

 

「……家とルキアを比べたのか」

「………ああ」

 

更に眉間のしわが増える。

当主と兄の立場で板挟みになってんのか。

……此奴真面目だからな、余計辛いんだろう。

 

「お前の立場ならそう言うこともあるだろ。つーかお前が当主なんだから、お前の好きにすればいいと思うけど?」

「私が勝手をして、家の者達は如何するのだ」

「んなもんそいつら次第だろ。お前についてくなり離反するなり…自己判断出来ない奴ばっかって訳じゃないだろうよ。栄えるも滅びるも当主の意思一つで決めて良いんじゃねぇの?」

 

当主ってそう言うのを決めれる立場のことを呼ぶと思うんだわ。

決定権がないならそれはただのお飾りだ。

というかそんなに家を巻き込みたくないならいっそ貴族やめちまえよ、とも思う。

別に貴族じゃなくても隊長やれるだけの力はあるんだしな。

 

「…家を守るのが当主の務めだ。」

「そーかよ」

 

ならルキアも家の一部って言い張って守ってやりゃあ良いのに。

 

……そろそろ行こう。

書類片した後は忙しくなるだろうしな。

立ち上がって白哉に言う。

 

「そろそろ隊舎に戻るわ。情報は有り難ーく受け取っとく。……言っとくが、喜助さんがルキアを殺そうとしてるなら俺もそれに倣うからな」

 

予想はしていたのだろう。

白哉も立ち上がると、意外そうな顔をするでもなくあっさりと返答が帰って来た。

 

「だろうな。……そうなれば、私が兄を斬るまでだ」

 

そう言って白哉は部屋を出て行く。

うーん、普通に戦ったら十中八九俺が負けるから敵対したくないな…………懐に飛び込めればワンチャンあるか?

 

「うへぇ、おっかねー………そうならないよう祈ってるわ」

「……ああ」

 

背中越しの返答ではあったが、確かに言葉は伝わった。

……本当に、友人(白哉)とは殺し合いたくねぇなぁ………




改題先決まりました。
次回更新時から「お前はとっとと無に帰れ」になります。
ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

作業用BGM:「小/鳥/ち/ゃ/ん」
遊/戯/王/U/T/A/Uで某メドレーをカバーした動画。音源素材が良いのかとても聴きやすいU/T/A/Uなのでオススメですぞ。
※※今更の注意書きですが、動画の方に当小説の名前を出すのはご遠慮下さい※※


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作戦会議ってなんかワクワクするよな

改題しました。旧題は作品説明のところに残しておきます。(次話投稿までタイトルにも残しておきます)
また、それに合わせて始解の詠唱を「祈れ」から「開門せよ」に変更しました。
ご不便をお掛けしますがこれからもよろしくお願い致します。

来ない人斬りより来る人斬り!!以蔵さんおいでませ!!!復刻したら後三人引いて宝具マにするぜ!!!!!※但しおやつは沢庵!!
そんなこと言ってたら二部二章とか言う少女漫画に焼き殺されました……お待たせして申し訳ない………リアルの方の課題とか仕事が結構立て込んでしまってました。
この先は大分展開決まってるのでもうちょっと書きやすくなる…筈……
おまけくっっそ長くしたので許してくだせぇ

お気に入り・UAに加え感想・評価ありがとうございます…!!滅茶苦茶嬉しいです!!!

追記:解け のルビミス訂正
追記2:精神世界 のルビミス訂正
追記3:おまけ内の「」に誤挿入字があったので一文字消去
追記4:おまけ内の脱字を訂正しました
追記5:○八○○のルビミス訂正
追記6:透明の→使っていた
追記7:ひときわ→一際
追記8:余分に入っていた 破晶 を削除



白哉についてルキアの檻房の入り口まで戻ってくると、花太郎にぽつぽつとルキアが現世の話をしているのが微かに聞こえた。

邪魔しちゃ悪いとは思ったが、あんまり長居するのも拙いので花太郎を呼び戻さねばならない。

……けどなぁ………

 

「作業を切り上げさせて構わぬか」

「…ええ、お願いします」

 

白哉だけが俺を置いて檻房の中に入っていく。

……動揺してる俺を会わせて不安を煽らない為か。それとも喜助さんの事を聞き出そうと尋問みたいな真似をするのを防ぐためか。

………うん、もう一寸落ち着いてからじゃねぇとルキアには会えないな。今会えば情報源としてしか扱えない気がする。

 

「く、朽木隊長!?ししし、失礼しました!!!」

一際大きな花太郎の声の後、バタバタと駆ける音がだんだんと近づいてくる。

 

「お疲れ、花太郎」

「空式四席!えっと、そちらこそお疲れ様です!!お話は終わったんですか?」

「終わった終わった。ほら、帰るぞ」

「は、はいっ」

 

そういって俺と歩き出した花太郎の手には大きな竹箒がひとつあるだけ。

他の機材は既にトイレ───道すがら白哉に聞いたがやっぱり囚人用だった。駄々甘である───内の掃除用具入れの中なのだろう。

一応金属製品は避けてあったが、檻房の中にあっていいんだろうか………

 

「どうだ、暫くやっていけそうか?」

「あ、えっと、はい。怖い方ではなかったので」

 

そういってえへへ、と微笑む花太郎はやはりヒロイン枠だと思う。

…これならルキアのメンタルケアはこいつに任せて、俺はここへ来ないようにした方が良いんだろうな。変に白哉との繋がりを掴まれても困るし。

 

「ならよかった。……これからもルキアの話し相手になってやってくれ」

「はい!……知り合い、なんですよね?」

「おう。俺の兄弟繋がりでな」

 

 

そうして和やかに談笑しつつ四番隊隊舎に戻り、不穏な噂にざわつく中で残していた仕事を片付けた。

普段通りに寝る支度をして、破晶を抱えて布団に潜って。

そうして瞼を閉ざし──────開く。

 

「来たね」

「おう、作戦会議するぞ。でかめのボードと地図、あと何か手元で書き込める奴が欲しい」

「わかった」

 

精神世界の大まかな操作は破晶が権限を持っているからな。

必要なものは言えば出してくれるが、どうやってってのはよくわからん。

 

「なんか刑事物みたいだな」

「会議ならこっちの方が盛り上がるかと思って」

「一理ある」

 

大きな机に表示された地図は触れれば拡大したり動かしたりできるようになっている。

ルキアや白哉の現状が纏められて表示されたボードと配られた板はどちらも半透明で、やっぱファフナー寄りの謎技術を再現しているんだな、と思うが、如何せん青空会議室なので緊張感はやや足りない。

 

「じゃあまず、目標だが…」

「はい」

()()君、どうぞ」

 

もう結構前の話になるが、破晶は「青乃」と呼ばれたがるようになった。

理由は聞いていないが……まぁ見当はついている。

一寸したお互いへの気遣いだ。

 

「第一にあの人の思惑の確認、それに沿う行動」

「うん」

「第二に境の友達への被害の削減。但しこれは余裕が有れば、で構わない」

「うん」

「第三に今回、並びに百年前の事件の首謀者探し」

「…うん、オーケー。じゃあ次、気になった点」

「はい」

「どうぞ」

「四十六室が圧倒的に怪しいと思います」

「だよなぁあ……」

 

顎に手をやる。

こればっかりは無茶をしないと情報が降りてこない。

 

「忍び込むのが手っ取り早いけど……」

「見付かった時がヤバイからなぁ………」

 

俺は破晶無しだとそれほど上手く隠密行動出来ないからなぁ……

いざって時に、見付かっただけで詰みってのは避けたい。

後ろに手が回っちまえば、行動の幅が一気に狭くなるからな。

 

「ボクが行くのは?」

「……頼んでいいか?」

「勿論!」

 

破晶は何時でも実体化を解けるから、捕まっても冥土の土産貰いまくってからドロン、が出来る。大変便利だ。

 

「怪我はするなよ」

「ダメージは残らないよ?」

「お前に痛みの感覚が行くんだろ、やめとけ」

「…はーい」

 

此処何十年かでわかったことだが、破晶はあんまり体が傷付く事に頓着しない。

仮初めだからってのはわかるが、痛覚を遮断したりは出来ないんだし、もう少し自分の精神も大事にして欲しい。

 

「俺は………普通に仕事しながら………そうだな、各隊の上級席官突っついてみるか」

 

地図の四十六室に然程近くない隊舎を指でなぞる。

隊長・副隊長に接触するのは目立ちすぎるし腹の探り合いにも慣れている手合いが多いだろうから避けたい。

その点、席官同士ならそれなりに上の方である俺の階級も相まって余り気に留められないだろうし、心理戦に慣れていない奴もいるだろう。

手頃な相手だ。

 

「青乃、席官の一覧これに出力して………は?」

 

俺が絡みに行けそうな席官をピックアップしておくため破晶にデータを要求しようとしたら、そこに居たのは二メートルの長身ではなく、俺より頭一つ半位小さい子供だった。

 

「どうしたんだよ、その格好」

「ほらぁ、忍び込むなら私達そのままの姿は不味いでしょう?ステルスは謎技術って事にしても、光学迷彩なんて使ったら境さんとの関連を疑われちゃうじゃないですか!他に使える姿を幾つか参照してみたんですけど、小回りが効くしこれで良いかなって」

「それでロリ……?身体能力は?」

「スペックは境さん基準になると思いますよ?」

「んー……なら良いか。席官のデータ一覧くれるか?」

「はーい!」

 

後で聞いた話だが、破晶が使える実体化には俺のデータを使用することだけじゃなく、外見にもそれなりに縛りがあるらしく、殺人機械(州知事)は出来るが多脚戦車は無理、らしい。

元素収集白髪ロリがその縛りをクリアしてるってことは、機械・犠牲・人型って感じか?

……俺としてはいつもの青乃の姿が一番落ち着くので余りコロコロ変えて欲しくはなかった。いや可愛かったけどさぁ!

 

「……一貫坂四席、綾瀬川五席辺りが妥当だな。可城丸六席は一寸遊びが無さすぎるし避けるか」

「ならボクは四十六室を調べ終えたら一番隊にでもいってみようかな」

 

俺がリストを見ている間に戻したのだろう。

既に破晶の姿は青乃のそれに変化していた。

 

「……どうかした?」

「あ、いや……なんでもない」

「そう?」

 

……俺、破晶が俺と青乃以外の姿を使うのに、思ってるよりショック受けてたのか……?ガン見しちまった……

 

ボードに二人の特徴や懐柔案を纏め終わり、標的の居そうな場所を俺が地図に書き込むと、破晶が最適な行動ルートを計算して書き足していく。

 

逃走経路は破晶の動き優先の経路にして、適度に逃げたら実体化を解くことにした。

どこへ逃げるかってのも情報になっちまうからな。出来る限り撹乱していこう。

もし逃走中に俺と破晶が接触してしまったら敵対行動を取って、関係を見破られないようにする手筈だが………うん、青乃の姿じゃなくて良かった。振りとはいえ青乃から敵意を向けられるとか嫌だわ。

……破晶は俺の姿見えてるんだし、出来るだけ鉢合わせにならないように動こう。

 

「作戦開始時刻は何時にする?」

「……俺の業務開始が七時半だから……〇八〇〇(マルハチマルマル)開始で。朝っぱらだし警戒も薄いだろ。」

「わかった」

 

保管よろしく、と使っていた板を渡すと、破晶はそれを棚にしまうかの様な動作をする。

俺の方からは板が透明になって消えたようにしか見えないが、破晶が立っている方からは他の板が何枚もしまわれた棚が見えている筈だ。前に後ろに立って見させてもらった。

こうして物体のイメージとして扱った方が記録や記憶は管理しやすいらしい。

 

地図に書き込まれたデータを写し取った板が収納されるのを待って破晶に声を掛ける。

 

「じゃあ、後は臨機応変にってことで。おやすみ、青乃」

「うん。おやすみ、境」

 

俺の言葉を受けた破晶がふんふんと鼻唄を歌いながら、出現させていた大机を床に押し込むようにして仕舞う。

俺は普通の睡眠に切り替えようと思い、少し離れた場所に胡座をかいて目をゆっくりと閉じ───

 

「あ!」

「うぇっ!?どした!?」

 

──れなかった。

俺を驚かしてくれた張本人は会議室擬きの跡地からパタパタと駆けてきて、俺の頬、というか頭を両手でガッと挟んで自分の方を向かせてきた。

 

「ん!?」

「境!」

「何…?」

 

痛くはないが一寸喋りにくいな………

破晶が膝立ちになってるとはいえ、若干上向きで固定されんのも辛いし。

唐突になんだ?

 

「ボクは絶対に境の味方だから……!幻覚とか見せられても、君の兄弟は命乞いなんてしないし裏切らないから、ちゃんと自分優先で動いてね!!」

「…………知ってるよ。ちゃんとわかってる」

 

頬に当てられた破晶の左手に触れる。

自分を蔑ろにするのも、裏切れないのも、全部俺と同じ思考の先にあるものだろうからな。わかってるよ。

 

……一瞬、「破晶が俺の"一番"だったら楽だったかもしれない」と思ったが、即座にその考えを棄却する。

そんな事を考えても俺の"一番"は揺らがないし、今考えるべき事は他にある。

 

「ありがとな、青乃」

「……うん。引き留めちゃってごめんね。今度こそおやすみ、境」

「おやすみ」

 

そのまま目を閉じて微睡みに身を任せる。

明日からはいつも以上に働くことになるんだ。余り痛くない夢がいい、な…………

 

 

 

ふ、と境の体から力が抜け、そのまま精神世界(このせかい)での形を失っていく。

光の欠片に(ほど)けていく様を、しっかりと見据える。

境が精神世界に来る度、ボクは現実の彼女がこうならない為に居るのだと、こうして確認する。

……決して、殺す為ではないのだと、確認している。

 

 

 

 

 

おまけ:弟子について

「じゃあ師匠、俺は部屋で読書してるから。何かあれば呼んでくれ」

 

失礼致します、と来客に一礼する。

いつものようにお茶と茶請けの菓子だけ置いて、彼女は二つ離れた自室(として与えた筈だが私物が殆どない)に下がっていった。

 

「じゃあ、報告をお願いします」

「はっ。先日の件ですが……………」

 

 

 

「境サーン、終わったッスよー」

 

報告を終えた部下を帰らせ、弟子の名を呼ぶ。

ととと、と控え目な足音と共に部屋に戻ってきた彼女は先程持っていたのと同じお盆を手にしていた。

 

「師匠、もうこれ菓子の方は出さなくていいんじゃないか?夜一さん以外誰も手ェつけないだろ、勿体無い」

 

彼女の視線の先には、置かれたときと全く同じ様子で練り切りが鎮座している。

無論隣の湯飲みの中身も減っていない。

 

「いいんスよ、これはこれで。…………でも確かに勿体無いッスから、今日のおやつにしましょうか?」

「毎度毎度良いのかよ?ちゃんと仕舞えば二日三日は持つけど」

「また新しいの買ってきますよ」

「…………わかった。……俺お菓子も作れるように頑張るわ……」

「楽しみにしてますよ」

 

天気が良いから縁側で食べましょ、と同じく手を付けなかった自分の分を持って移動する。

……これらは毒を入れるかどうかを見極める為に用意しているのだが、彼女の作った物をそう使うのはそれこそ勿体無い気がする。

 

「いただきます」「いただきます」

 

楊枝であんに切り込みを入れ、一口大の大きさだけを口に運んでいく。

この店は練り切りもそれなりに美味しいが、先週買った饅頭の方が美味しいように感じる。練り切りは他の店の物を選んだ方が良いだろうか。

毒がなければ自分達の口に入るのだ。美味しい物を用意したい。

 

自分の分を食べ終ってしまったので、まだ練り切りを食べている彼女を見詰めていると、ふと顔が上がって目があった。

首を傾げるも、まだ飲み込みきれていないのか口をモゴモゴさせるだけで何も言っては来ない。

 

「もうそろそろ上着があった方がいいッスかね」

 

初めて会ったときより大分伸びた髪を撫でる。髪留めも一緒に購入するべきだろうか。

 

「師匠の襤褸くなった奴とか無いのか?俺がそれ繕って着て、師匠が新しいの買った方が良くねぇ?」

 

ごくり、と練り切りを飲み込み終わった口から発されたのは予想通りの言葉だった。

この子は卑屈ではないが、自分を蔑ろにする癖がある。

 

「ありませんね、ボク物持ちはいい方ッスから」

「……研究費に回した方が良いんじゃないのか?」

「それは隊の方で出してもらってるので十分賄えますし。風邪対策と思って下さい」

 

ね?と首を傾げてやれば、一瞬苦い顔をしてから了承の意を示してくる。

風邪を引けば看病やら薬代やらでより負担が掛かる、と判断したのだろう。

こうして言い負かしてやればその後はそつなく事を成す方に専念し出すので、恐らく今彼女の中では古着の購入と自作用の布の購入のどちらが安く済むか算盤が弾かれている。

新品を買うつもりだと言えば自作すると言い出すのだろうな、と考え、そこで思考を切り替えた。

 

彼女に対してボクが教えたのは死神の力についてと、発明に関連する分野だけ。

家事、況してや裁縫なんて一切教えていないし、生活費を稼ぐ為の小物類も、簡素ではあったがしっかりとした造りだった。

読み書きについては初めて会ったときから出来ており、「え、皆読み書き最初から出来るんじゃないのか」と言い放った彼女は、ボクと会う数週間前に路地裏で目覚める以前の記憶がない、らしい。

嘘を吐いている様子ではなかったが、其れが本当ならばこれだけの知識をどこで得たのか。

それに加え、茶菓子を用意する意図も、部下が来たら部屋から離れさせる理由も自分で正解に辿り着き、「拐われたら見捨ててくれ」と申し出て来ている。勿論断った。

この聡明さと自己優先度の低さは一体何が原因なのだろう。

 

「………しょ………………師匠?」

「…ん、ああ、すいません。ちょっと考え事してました」

「なら、いいんだけど…」

 

無意識に撫で続けてしまったせいで境サンの髪は乱れてしまっていたが、彼女は其れを気にする素振りもなくもう一度前を向いた。

そのままにしておくのもどうかと思い手櫛で軽く整えてやる。

 

「え、あぁ、ありがと、師匠」

「いえいえ、ぐちゃぐちゃにしちゃってすいません」

 

癖のない髪は程なく真っ直ぐに戻り、今度は乱してしまわないよう注意しながら髪に触れる。

 

「…境サンの髪は珍しい色合いをしてますよね」

「え、只の黒だろ?」

「いえ、ちょっと青っぽいと言いますか………」

 

指摘を受けた彼女は毛先を摘まんで眼前に持っていくが、良くわからないと言うかのように眉を寄せる。

陽光に当てられている部分は確かに黒髪に見えるので、自分で直接見たのではわからなくても当然だ。

陰になっている部分を比較すれば、花紺青のような暗い青が其処に有ると一目で分かるだろう。

……いや、花と言うには余りに密やかだ。

例えるなら、そう、

 

「夜空みたい、ですね」

「…………夜一さんの方がよっぽど『夜』じゃないのか?」

 

少し驚いたような声で帰って来た言葉に、また少し考えを巡らせる。

 

「夜一サンはどちらかと言えば夕暮れでしょう」

「……日が落ちた直後とかか」

「ええ。夜ではありますが、暗くは無いでしょう?」

「確かに」

 

髪色もそうだが、本人の気質や言動は明らかに昼に傾いている。真夜中には例えられない。

その点境サンは髪も眼も暗い色をしている上、物事に対して冷めたような対応を取ることがある。

夜空と言うならこちらの方が近いだろう。

 

うんうん、と頷いた境サンはそのまま此方に顔を向ける。

 

「じゃあ師匠は月か」

「……えっ、月ですか?」

「あっいや、そっか、そう…だよな………」

 

自力で発光してる訳じゃないもんな、と呻くように漏れた声が届く。

特段発光しているかどうかに興味は無いのだが。

てっきり夕焼けか日の出辺りを言われると思っていたので驚いたのだ。

空の種類ですらない物を当てはめられるとは思わなかった。

 

「どうして月だと思ったんです?」

「師匠の金髪滅茶苦茶綺麗だし……えっと…あー……」

 

再び呻き始めた彼女は後頭部に手を遣ろうとして、途中で首へとその方向を変えた。

どうも乱暴に頭を掻く癖があるようなのだが……先程ボクが髪を整えたことを思い出したのだろうか。

 

「…その、さ……師匠が他の空だったり、太陽だったら、()と少しも一緒に居てくれないんじゃないかって………………ごめんなさい、やっぱ朝焼けの方が良いや。明るいし人に好かれやすいし…」

「月でいいです」

「え」

 

見開かれた目がボクを映す。

この眼は星だ。キラキラと光が散って、暗い髪色に良く映える。

初めて会った時から変わらないこの光を、ボクは好ましく思っている。

 

「ボクはアナタの師匠ッスから。四六時中とはいきませんけど、ちゃんと一緒に居ますよ」

「………ありがと、師匠」

 

ふわ、と綻んだ笑顔が曇らなければ良いと願ってしまう様になった。

こんなに入れ込むつもりはなかった筈だが、まあ、今の生活も悪くはないので良しとしよう。




もうそろそろファフナー要素濃い目になってきます。
d/ア/ニ/メ/ス/ト/アとかでシリーズ全部無料で見れたりするので、ブリーチしか知らんわって方は履修して頂けると読みやすいかと思います。
余裕があれば用語の簡単な説明を今後のあとがきに載せるとは思いますが……

破晶が机をしまう動作は某PCソフトの終了時アニメーションを参考にしました。
今はもうわかる子減ったでしょうねぇ……

今回の作業用BGM:「O/V/E/R/R/I/D/E」
聞いてるとテンション上がるのでやる気の欲しいときにおすすめの一曲です。アツい。

おまけの作業用BGM:「惑/星/ル/ー/プ」
大/盛/り/合/唱さんのを主に聞いてるんですが、あのシリーズは滅茶苦茶聴きやすい音源編集で作業時によく流してます。おすすめです。


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不思議ちゃんと思われがちな奴ほど本質を理解していたりする

同人力高めてたと思ったら「公式が同人」みたいなイベントが復刻していた。やったぜ。

お久しぶりです。バイトバイトでくたばってましたが大体一ヶ月で帰ってこれました。じわじわ増えるお気に入り数に元気をもらっております。ありがとうございます。
各話の一寸した手直し(シナリオ変更なし。単語レベルの変更・改修)とかもしましたので、気にしていただける方は改訂日時が変わってる話の前書きをお読み下さい。

訂正:舞踊→不要
訂正2:脱字(最も)・誤挿入(、)を訂正



「トイペと包帯は持ったか?」

「えっと……大丈夫です。トイレットペーパーは背負い籠、包帯は手提げ籠に、それぞれ満杯です。……十一番隊も回る時は手当て道具多目、でいいんですよね」

「おう。薬品関連は俺が背負ってるから、包帯半分頼むな」

「はい」

 

現在時刻は07:35。

今日は先輩の△△さんと二人で外回りに行く予定だったのだが、急遽変更が入り空式四席と組むことになった。

なんでも相談室の用だとかで行かなければいけない場所が今日の僕達の回るルートと被っているらしく、先に出勤していた△△さんと交渉していたらしい。

 

 

相談室内での会話は、担当した隊員一人の判断に基づきその内容の殆どを秘匿されている。

犯罪や病などで他部署や他隊に協力を求める際も、相談者に辿り着かせない事を重視し、全ての情報を開示することは稀だ。

その為、少なくとも隊内では「相談室関連」とされた事柄については、例え他の相談室職員であっても問い質さないのが暗黙のルールになっている。

最初は反発もあったが、うっかり職員同士の会話の一部を聞いた隊員が、相談室案件とは知らずに話を広めてしまった事例───幸いな事に隊外に話が広まる前に終息したらしい───が出てからはルールが徹底されている。

 

以上の理由から、今日も四席に詳細は尋ねない。

仕事の合間に案件を片付けようとシフトを変える職員は珍しくないしね。

 

「じゃ、行こうか。十一番隊から回って、とっとと荷物減らしちまおう」

「わかりました」

 

四番隊と十一番隊の隊舎は、お互いが最短距離に建造されている隊舎となっており、倉庫や消火用の水路・水槽を挟んではいるものの入り口から入り口まで500メートルも無い。

建造当時から負傷者が多い隊だったから隣にされたのだろうか。

 

「あ、二番隊も回るんだよな?」

「はい。十一番隊の次にいこうかと」

「わかった。俺二番隊内だと一寸自由に動けないから、向こうから出してもらう代わりの人と作業してくれ」

「あ、噂は本当だったんですね」

「噂?」

「空式四席と二番隊の砕蜂隊長は仲が悪いって聞いてます」

「あー……違う違う。多分それは「あ~っ!かららんだぁっ!何しに来たの?」っ……おはようございます、草鹿副隊長」

「お、おはようございます」

「おはよーかららんと……知らない人!」

「部下ですよ、俺の」

 

突然横道から飛び出してタックルを決めてきた十一番隊の副隊長に動揺することなく────少しふらつきはした────空式四席はしゃがみこんで彼女に右腕を掴ませた。

良くあることなのか、四席は難なくバランスを保ち、よじ登って来る副隊長と会話を続けながら立ち上がっている。

 

「何しに、は仕事しに、ですよ。だからこんな大荷物なんです」

「ふーん、つるりんとか良く怪我するもんね」

「加害者は更木隊長でしょう、手当て道具も無限じゃないんで程々にして欲しいんですけどね。………おい、立ち止まるなー、行くぞー」

「あ、はい」

 

慌てて二人に駆け寄る。

草鹿副隊長は僕に興味が無いのか、一瞥しただけですぐ視線を四席の方に戻してしまった。

 

階級通りの実力はあるのだろうが、どうあがいても子供にしか見えない。同じく子供に見える十番隊の隊長の方は話せばそこらの大人よりもしっかりしているとわかるが、此方は中身も外見相応のような気がする。

今だって、四席が持ち歩いている菓子を目敏く見付けたようだし。

 

「かららん、今日は沢山持ってるんだねぇ」

「はぁ…ガッツリ触られたら流石にバレますか。今腕動かせませんし、懐でも袖でも好きに漁ってお菓子取って下さい。他の物は弄らないで下さいよ」

「ありがとー!」

 

よいしょ、と四席の首に回されていた手が外され、肩を回り込むようにして四席の抱える箱にぽすりと座り直す。器用だなぁ。

すぐに()()の袖口に副隊長の手が差し入れられ、引き出されたときには個包装の煎餅が一つとチョコが三つ、飴が二つ握られていた。

煎餅がぬれせんべいなのは割れにくいよう配慮した結果のラインナップなのだろうか。

 

「チョコ美味しいけど溶けちゃってるね。全部あおあおに持って貰えばいいのに~」

 

包みの一つが開かれ、口に放り込まれたチョコの感想が述べられる。

あおあおとはもしや僕の事だったりするのだろうか。青二才が由来かな?草鹿副隊長と空式四席に比べればまだまだ若手と言える方だし、席官でもないからそうっちゃそうなんだけどさ……

 

「彼奴には持たせられないですよ。駄目にしちゃいますから」

「ふーん」

 

お菓子の運搬位出来ると思うんだけど……というか溶かしてるのは駄目ではないのか。

何か一言言ってやろうか、と一矢報いる為の言葉を探しつつ二人に目をやると、今度は懐を捜索している所だった。いやちょっと待って下さいよ。

特段お互いが恥じてないので変な雰囲気になったりはしていないけれど、その、良いのか?

事案、若しくは僕が見てはいけないモノなのではコレ?幼女が……えぇ?

 

 

 

新たな収穫物なのか、クッキーの齧られるサクリという音が聞こえ、ハッと前を見る。

既に合わせから腕は抜かれ、会話内容も変わってしまっていた。混乱で完全に気をやってしまっていたみたいだ。これだから青二才は。ちくしょう。

少し遅れていた歩みを早め、もう一度四席の隣に陣取る。

 

「で、何か知りません?」

「あの辺は剣ちゃん行かないし知らなーい」

 

モグモグ、サクサクとクッキーが消費されていく。

水を飲まなくて大丈夫だろうか。噎せてしまわないと良いんだけど。

 

「あー、なるほど。でも気を付けて下さいね、全体的にキナ臭い感じになってきちゃってるみたいなので」

「あおあおはいいの?」

「……協議の結果、最低限の安全は確保してるんで」

「そっか」

 

女児とは言えずっと荷物を抱えたままその体重を支えるのは苦ではないのか、と思い交替を提案しようとするが、二人が余りにも仲良さげに話しているものだから(四席の敬語が隊外で珍しく崩れている)口を挟むことが出来ない。後なんか内容が怖い。

あおあお僕じゃないね?安全確保の為の協議なんてしてないですよね?

 

その後は近況報告に変化していった会話を聴きながら道なりに進んでいくと、程無くして十一番隊の隊舎の門が見える。

突然、とん、と軽い音がしたが、草鹿副隊長が地面に飛び降りた音だったようだ。

 

「お帰りですか」

「うん!そろそろ剣ちゃんのとこに帰らなきゃ」

 

お菓子ありがとかららん!とだけ言い残してパタパタとかけていってしまう少女を二人で見送り、門までの残り少ない道程を進む。

 

「ご友人なんですか?」

「まぁな。……そうだ、お前此処初めてだよな?」

「……はい」

 

死神になって数年が経っているが、十一番隊を訪れるのは初めてだったりする。

何故なら「最も難易度が高い」とされ、ある程度経験を積むまで此処への外回りは割り当てられないからだ。

十一番隊の外回りをこなして初めて、一人前の四番隊隊員として認められる。そんな風潮がある。

因みに難易度が二番目に高いとされる十二番隊には先々月から外回りに行っている。兎に角隊長に見付からないのが肝だと教え込まれたので、それを出来るだけ心掛けて動くのだ。

目を付けられたら多分実験動物(モルモット)まっしぐらだから、とは今隣を歩く四席の言である。何があったのだろうか。

 

「嘗められたら終いだからしゃんとしてろよ。手を出したらヤバイのは向こうもわかって……少しは理解してるだろうし、堂々と仕事こなしてけ。なんか言われたら『糞を隊服で拭く羽目になっても良いならもう少し聴きますけど』ってトイペの重要性アピールしてみろ。それなりに効く」

 

ああ、だから僕がペーパー係なのか。

薬だと根性論で不要と断じるかもだけど、紙は替えが無いもんね。生理現象を引き合いに出すの強いなぁ。

 

頑張ろう、と気を引き締めて門の前に立つ。

一旦籠を置いて出入り用の戸を開くと、目の前に木刀の切っ先が迫っていた。

やっぱり僕、ダメかも……




今回の作業用BGM:「廃/墟/の/国/の/ア/リ/ス」
某マッシュ/アップ/歌って/みたのラスサビ入りがインストを引き立てていてとても楽しくなる。

今回の主役には名前も外見設定もまだ特にありません。描写迄にはイメージを固めねば………。
周りからは本意がわからないシーンを書きたくて出てもらっています。ヒントは置いてるので本当の意味を是非探してみてください。その内本編で明言します。


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親友と言うよりは腐れ縁

リンクスにゴッズ実装おめでとうございます!!!!!!
お久しぶりですすいませんデュエルしてました!!!!!(土下座)
ブルーノちゃんと謎Dと各種満足さんの実装待ってます……
あとアロマvsアロマは当分やりたくないです(げっそり)

いつの間にか全体UAも一話UAもガンガン増えてるしお気に入りが250を越えている………凄く嬉しいです、今話が難産+イベント続きで遅れた分次のは出来るだけ早く仕上げます……!!!

追記:後書きで言った手/描/き/動画はガ/ジ/ェの方でした
ネガはU/T/A/Uのみです、すいません



ぐぇ、と余り聴き心地の良くないであろう音声が僕の喉から飛び出した。

くるくると回転しながら眼前を通りすぎていく木刀の風圧が凄い。前髪が数本持っていかれた気がする。

 

「…っぶねぇな!怪我無いか!?」

「は、はい……」

 

空式四席が咄嗟に後ろ襟を掴んで仰け反らせてくれたお陰で顔面を貫かれる事態は避けられたが、心の方はポッキリ行く寸前である。なにこここわい。

 

僕が起き上がる間に四席が回収した木刀を見ると、通常の半分程度の長さしかなかった。端は木片がバキバキと出てしまっており、僕の物らしき髪が二本程引っ掛かっている。問題はスピードだけではなかったらしい。掠ってもアウトでしたか。

刀身をよく観察すれば元来の表面部分は凹みや削れが少なく、余り使い込まれていない印象を受ける。

 

「新入りの方の、ですかね」

「どうだかな。此処はよく手合わせで武器駄目にするから」

「え、そうなんですか?」

「ついこの間俺が此処を担当した時も使い始めたばっかの折ってたからな」

 

その時も破片飛んできたから気を付けろ、と恐ろしい忠告。先に言って欲しかったです。

確かに此処が最高難易度の隊舎なのだと再確認させられた。

 

あ、そういえば。

多少パニックになっていたからか、地面に落とすことなく抱え続ける事に成功したのにすっかり忘れてしまっていた腕の中の箱を確認する。

内部に泥は入らなかったようだ、良かった。傷口に直に接触する物だから汚さないようにしなくては。

背負い籠も四席に確認して貰うが、問題なさそうだ。

 

「やっぱ俺が先進むわ。最短距離で補充箇所回っちまおう」

「はい」

「あと次なんか飛んできたら出来るだけ自分で避けろよ。戦場に衛生兵として随伴する時の予行演習とでも思っとけ」

「わかりました」

 

僕の試験のような物なので少し申し訳ないが、このままでは命が幾つあっても足りなくなってしまう。此処に何度も来ているであろう四席に先導してもらえれば幾分かは安全だろう。幾分かは、だが。

自力で回避って、何処まで出来るんだろうか。僕は戦闘が不得手だから四番隊に来たという面が大きいのだ。

 

 

上がり込んだ室内を四席は慣れた様子で進んでいった。

道中に居た十一番隊の隊員にも臆せず声を掛けて人探しをするのは流石と言うべきか。僕は強面の人々に対し会釈位しか出来ない。

 

興味本意で覗いた道場で目が合った斑目三席───つるりんと呼ばれていたのは恐らくこの人だろう───に絡まれる(空式四席が木刀の事を引き合いに出して退かせてくれた)とか草鹿副隊長(on更木隊長)に再遭遇する(間近で見ると思ってた以上に背が高くて怖かった)とかのイベントが発生したがなんとか補充を済ませ、僕達は四席の目的の隊員に辿り着く事が出来た。

 

「すまん、待たせたな」

「いえ。……もしかして急がせてしまいましたか?」

「ん?ああいや、そんな複雑な話じゃないから大丈夫だ」

「そうですか」

 

綾瀬川五席に会う際、相談室案件だからと僕は少し離れた所で待機していたのだが、別れる際の二人の遣り取りが「常に何らかの含みがあります」な闇属性の会話だったので同席しなくて良かったと思っている。

ダーティな取引、若しくはアダルティな展開でも始まるのかと思ったし。

相談室の人は皆、あんな遣り取りが出来るのかな。それとも空式四席特有の技能なのか?

出来れば特有のものであって欲しい。僕は相談室で働くのが目標の一つなのだ。必須とか言われてしまうと諦めなくてはならなくなってしまいそうじゃないか。

 

「次は二番隊だったな」

「はい」

「よし、じゃあ此方から抜けるぞ」

「わかりました」

 

 

出来るだけ道を覚えようと観察しつつ、建物を出る。

二番隊の方向は把握しているので、再び四席の隣を歩いて行く。

 

「あ、そういえば結局聞けてないんですけど、二番隊で動けない理由ってなんなんですか?」

「あぁ、話の途中なんだったな。すまん」

「いえ、別に」

「で、理由だな?模擬戦闘をしているからだ」

「は?……あ、いや、すいません」

 

模擬戦闘?隊長格と非戦闘員が?なんで?

思わず声が出てしまったが許して欲しい。訳わかんないんだもの。

 

「あー、戦闘じゃあ正しくないな。俺は大半逃げてるだけだし」

「何故そんなことに………」

「隊長になってある程度自由に隊員を動かせるようになったからだろうな。やるなら俺の代わりに補給手伝う奴用意してくれって言ったし。立ち会いとかなら他の二番隊隊員でも良いけど、逃亡者捕縛の訓練だと他隊の俺が適任なんだと。俺も始解が戦闘向きじゃない、から……攻撃を捌く練習ってことで利用させてもらってる。多分仲が悪いってのもそれをちらっとだけ見た奴が言ったんだろうな」

「な、なるほど…?」

 

わかったようなわからないような。

非戦闘員が適任と言うのも謎だ。そもそも要求を言えるということは、昔から親交があったのだろうか。

相談室の人達は何処に伝があるかわからないな………

 

「二番隊は初めてって訳じゃないんだろ?」

「はい」

「さっきも言ったが代わりの人もいるし、よろしく頼むわ」

 

その後は何処の出口で合流するか、一度四番隊の隊舎に戻って物資を補充するかとかとかを話し合いつつ二番隊の隊舎を目指した。

一瞬だけ足を止めた理由は、結局教えて貰えず仕舞いだった。

 

 

「今日はあの四席が来る予定はなかったよな?なんで急に来たんだ」

「さぁ、急にシフトが変わってしまったので僕も良く分からないんです」

「ふーん。補給で彼奴が来ると俺が荷物運ばされるから極力他の奴に来て欲しいんだけどな」

 

十一番隊の人々とはまた違った威圧感───主に横幅について───の有る大前田副隊長が、四席の言う「代わりの人」だった。

敷地内に入った瞬間に四席が荷物を地面に下ろし、「それじゃあ後はよろしく!!!」と残して駆け出していってしまい、数十秒後には副隊長がやって来た。

荷物を背負いながら「四番隊の補給だな?」と確認を取る様子から、これが頻繁に起こっている出来事なのだと理解出来る。

相談室案件で、と言うのは避けた。当事者でもない部外者には伏せるべきでしょ?

 

「単品で来る分には隊長の息抜きになるみてぇだし良いんだがな………俺の仕事が増えるのは嬉しくねぇな」

「息抜き、ですか」

「ああ」

 

四席が去っていった、恐らく二番隊の隊長も居るであろう方向を見て、彼は言う。

 

「あれがあの人達なりの遊び方なんだろうよ」

 

 

 

 

 

「………どういう心算だ」

「いや、普通に負けただけですよ。砕蜂さん手加減しないし」

「だけ、な訳ないだろう。報せも無しに来た挙句態々霊圧を揺らして私を誘い出し、かと思えばあっさり捕まって………何か企んでいるとしか思えん」

「手厳しいな………いや、本当に此処の当番になったのは偶然なんですよ、シフト変えたらそうなったんです」

 

疑わしげな目を砕蜂さんに向けられる。確かに最後に手抜いたけども。

仰向けでマウントを取られ喉元には手刀、で完全に追い詰められた状態なんだしもう少し優しくしてくれても良いと思うんだが。

……これを見られたら今度は仲が悪いどころか付き合ってるって噂が立つんじゃないか?

 

森に入った瞬間上空からのドロップキックを喰らいかけ、その後も追撃を避け森を三分程本気で走り回りつつ良さそうな茂みを探し、発見した此処に転がり込んで逃げるのを止めた。

体術のみで周囲の物を使うのは有り、一番遠回りの門に俺が辿り着ければ俺の勝ち、というルールで始まった鬼ごっこなのだが今回で二〇四八敗目だ。

今までは交互に勝ち負けを繰り返していたので俺も二〇四六勝はしているが、前回に続き砕蜂さんの勝ちなので此れはもう俺の負けなのではないだろうか。

 

「でも丁度良かった。…………今誰か周り見てますか」

 

声のトーンを幾らか落として囁けば、周囲に視線を走らせた後で「誰も居らんな」と返された。

 

「隠せ、破晶」

 

極々小さな声で解号(偽)を呟き、同時に懐(と見せ掛けて破晶のストレージ)から小振りなノートとボールペンを二つずつ取り出す。

向こうは向こうで俺の上から降りて、俺に渡されたノートを開き、ボールペンを持って俺が筆記するのを待っている。慣れたもんだ。

 

ああ、前に取っ組み合った時に無意識に左の太腿を庇ってしまっていた結果、破晶を所持しているのはばれている──序でに感触で性別もばれて機嫌を損ねた。同性愛者仲間だとも思われてたらしい──ので始解(偽)の使用は問題ないぞ。この遣り取りも初めてじゃ無いしな。

……余談だが、破晶の事は卯ノ花隊長にも多分ばれてた。以前「重心が変ですね」と笑顔で言われている。

見た目と実際の装備の差を姿勢から見抜けるのは人体を知り尽くしているからなんだろうが、卯ノ花隊長以外には早々出来る事でもないだろう。

直接言える訳も無いが、当時は「頭可笑しい」と思ったもんだ。よくよく考えれば破晶も計算出来るんだけどな。

………最低でも三人にばれてるのか。いや、百年ちょいで三人なら少ない方か?

 

〈朽木の件は二番隊にも伝わってますか〉

 

そう書いた頁を見せると首肯が返される。

数行開けて次の文を書く。

 

〈あれの指示を出してるの、四十六室じゃないです〉

《根拠は》

〈半分位死んでます〉

 

一層鋭くなった眼光を向けてくる砕蜂さんに、破晶が紙にストレージからインクを出力して作った写真擬きを見せる。

そこに写っていたのは、過半数が血溜まりに沈んでいるにも関わらず、残りが平然と椅子に座っている四十六室の老い耄れ共の集まりだった。




今回の作業用BGM:「ネ/ガ/ポ/ジ/* /コ/ン/テ/ィ/ニ/ュ/ー/ズ」
某U/T/A/U動画を見て以来、「ガ/ジ/ェ/ッ/ト/チ/ー/ト/!」に次ぐブルーノちゃんのイメソンと化してます。トラップ発動!!!

今回は十一番隊の描写丸々一回没ってるのでどっかに消し忘れなどがあったら申し訳ありません。
プロット詰め直す度に砕蜂さんの出番が増える………通常ルートがそのまま砕蜂さんとの友情エンドになりそうな勢いです。ライバルポジって凄い。


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設定:金目当ての犯行

アロマセラフィ実装ありがとうございます!!!!!魔導書もよろしく!!!!古代の機械?青眼デッキにシステムダウン一枚差しでいけるいける(震え声)

お久し振りです(土下座)
冬コミとソシャゲと期末とけもの2でコンボ食らって死んでただけなのでエタではございません。煙草ありがとう……
また、今話はプロット全没した回なので特に時間かかってました。
次はもっとさくさく書きたいです(希望)

前話の後書き訂正しました。
手描きがあるのはガ/ジ/ェの方でした。脳内で考えすぎて勝手に/ネ/ガ/ポ/ジにも手/描/き/動画存在することになってました………
U/T/A/Uはどっちもあります。失礼しました。

※関西弁も原作キャラ同士の呼び方も二人称も多分正確ではないです※

追記:ご指摘いただいた『ファフナー』と言う単語についての描写を訂正しました。
追記2:セラフィーじゃなくてセラフィやんけ、植物族だけに草
訂正しました



十五分程前の話だ。

 

ボクは八時きっかりに四十六室の外壁を乗り越えて内部に侵入した。

通り抜けた不活性の結界の枚数が以前より増えていた事については籠城能力が高そうだと思ったが、今考えると内部の秘匿強化も兼ねていたのだろう。

 

 

建物内は驚く程静かで本当に人間が居るのか疑ってしまったけれど、何分謎の多い場所だ。普段からこうなのかもしれない。

本来は罪人が通されるだろう廊下を通って、先ずは議場を目指した。

 

あぁ、ボクも付き添いが居ないだけで罪人ではあるのかな。不法侵入だもんね、これ。

 

 

そうそう、これをやるって決まって、久々に身体を構成し直したんだけどね?直近数十年はずっと青乃としての身体を実体化させたままだったから、視線やリーチの違いに慣れる為に朝はこの身体で一通り動いて調整してたんだ。

ちゃんと時間に間に合わせられて良かったよ。

 

 

枝分かれの少ない道を小走りで通過していく。

本来は抜き足差し足忍び足、とするべきなのだろうが、老朽化の為に軋みそうな床での足音の殺し方に気を使う───ただ足音を殺すだけなら簡単なのだが───手間を考慮して地面から数センチの高さに足場を作って走っている。気分は青狸だ。

 

 

議場の入口の扉は開いていた。

偽装鏡面は張っているけれど、行成り突入するのも怖いので端から少しだけ顔を出して中を覗く。

………この位置からだと階段と議場の底しか見えない。だが呼び出しがあったのか白い羽織が底で揺らめいているのは把握できた。朝から隊長が居なくて六番隊は大丈夫だろうか。

 

肝心の四十六室達が上の方に席を置いているのは、百年前に境の視界を通して知っている。

突入前に内部の音を拾えないかと耳を澄ますも、ぼそぼそとした声は微かに聴こえるが、途切れ途切れで内容が欠けている。余程声の小さい賢者か裁判官が会話の相手なのか。

 

 

姿は隠す必要がないので衣擦れの音にだけ注意を払って歩を進める。といっても装備品は流魂街の子供達と物々交換で手に入れた擦り切れて破れる寸前の甚平のみ。老人達の耳も遠そうだ。

仮にあの隊長に見付かっても、陽動の役を果たせるので問題無い。

……無かった筈なんだけど。

 

東仙要と目、ではなくサングラス越しの目線が合ってしまった。

即座に此方に向かって歩いて来る。

見付かったのではなく只退室しようとしているのなら、ぶつからないようにしなければ。そう思い壁際に避けるが、視線が外れない。

確かに偽装鏡面は音を遮断できないが、それでも反応が良すぎる。盲目ゆえに聴力が異常発達したのだろうか。

やはり本物のようなスーツを用意すべきだった。あれなら陽動時に人目を惹くし、衣擦れも少なかった筈だ。

 

「何者だ」

 

問い掛けはボクに対してのものと見て間違い無いだろう。

……まだ何も情報を得ていないし、退けない。

 

「わ、私は書類を届けるように言われて」

「私を見付けられる者は此処には来ない」

 

四十六室へ入れるのは最低でも席官以上と規定されている。別段彼は気配を消していた訳では無いのだけど……それら全員の認識を外れる手段があるのか。

先程から上の老人達が此方を一顧だにしないところを見ると、既にその手段は彼等にも適用されているのかもしれない。

 

……これなら陽動と情報収集、同時に出来るかな。

 

見えないだろうがにっこりと笑い、さも『すでに情報は得ているのですよ!』と言うような声音を作る。

 

「…違いますね。認識されないのは貴方だけではないでしょう?私の声も、さっきからずうっとしてる血の臭いも全て、届かないんじゃあないですか?」

 

 

ザシュ、とボクの足があった場所を刀が通る。

言い終えた瞬間に跳躍していなかったら機動力が大幅に削がれてしまっていただろう。

着地先は最上段の席で議論真っ最中の老人の眼前の机上だ。

 

「ほらやっぱり!私がこそこそする必要無かったんですねぇ」

 

ボクが完全に視界を塞いでしまったと言うのに、老人は騒ぎ立てることもなく議論を続けているし、他の老人達も同様だ。

見れば隣の席が血染めになっていると言うのに、時折其方に話題を振って、まるで会話が成り立っているような振る舞いをしている者もいた。

……認識されていないと言うよりは、議論が出来る環境である、と誤認させられているように感じる。

鬼道や十二番隊の道具では血の臭いまで誤魔化し切れないだろうから、複雑な隠蔽方法を使っているんだろう。

貴族が秘伝の道具を使って云々、なんて事も有るかもしれない。

 

態々声を出したせいもあるだろう、即座に寄られて第二撃が放たれる。今度はストレージから出した無銘刀で受けるが、斬魄刀相手に長くは保たない。複数本を持ち替えつつ戦わねば。

 

 

今度は議場の反対側の席に跳躍し、その間に見えた視界情報から立体マップを作成し状況を記録・分析する。

会議中らしき老人が座っている椅子の数が二十三、事切れた老人が座っている椅子が五、肉片が散りばめられた椅子が六、血で色付いた椅子が四、誰もいない椅子───訂正、他の席の老人達と同じ作りの衣服が脱ぎ捨てられた椅子が八。良く見れば血や肉片の中にも赤茶に染まった布切れが点在していた。

 

着地してすぐに連続で切りつけられ、キン、と高い音を立てて刀が折れる。

相手に見えないのでストレージから好きな角度、タイミングで出すことが出来るのは幸運だった。間を空けずに二本目を握り直す事が出来る。

 

 

次は何処に跳ぶかと考えながら分析を続行する。

血が有る席は殺されたのだと推測出来るが、幾つかの衣服置き場と化した席が気になる。

服をああまで綺麗に残して、中身はどうしたのだろう。

他所に連れ出したとして、態々脱がせる必要性は?

死んでいるなら何故服が消えていない?

 

記録から類似の事件を探そうとして、自分で設定したキーワードに引っ掛かりを覚える。

服だけ。そう、服だけ残って、遺されているのだ。

 

 

───()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

流魂街の失踪事件の真犯人は判明したか───いいえ

真犯人の目的は判明したか───いいえ

真犯人の手口は判明したか───いいえ

二度と事件は起こらないと確定したか──────いいえ

 

蒸発死なんて、そう何種類も原因が有る訳ではないだろう。

百年も前の、しかも瀞霊廷外の事件ではあるが、同じ人間の犯行でなくとも手掛かり位は掴めるのではないか。

 

 

何か痕跡がないか調べる為、遺体がそのまま残っている席に降りる。

隣の席は議論に忙しいようだが、肉盾に出来るとは思わない方が良いだろう。

東仙要は老人達を斬らない様にしているが、ボクの排除を優先して彼等ごと斬り捨てる可能性が否定できない。

 

老人は机に突っ伏す形で死んでおり、肩甲骨の中心だっただろう場所に空いた孔の位置と背凭れの破損部分が一致している。

破損部分は球面の一部と思しき形状で滑らかな断面だ。

焦げたような色が表面塗装と違わなければ、装飾の一部だと思っていただろう。

腐臭はしないものの周囲に散っている血液は乾いて久しいように見えるので、遺体に防腐剤でも使用したのかもしれない。殺害自体は数週間前だろうか。

 

跳躍の為に身を屈め、その際に遺体の孔を覗き見ようとするが、暗くて部屋が薄暗い為に詳細がわからない。視界情報を解析して明度を上げる。

 

東仙要が距離を縮めて来たので再度跳躍し、処理を終えた画像の分析を始めた。

穴は胸部の方まで一部貫通しており、背凭れの傷と合わせるとやはり球状になるようだった。

血や脂肪は焼け焦げて歪に固まっているものの、骨の断面は背凭れ同様滑らかだ。

通常の鬼道でこんな芸当が出来る物は思い当たらないので、恐らくは斬魄刀、若しくはそれに類する固有の能力だろう。

 

 

着地した先、此方も遺体が残っているが、損傷箇所は胸部ではなく頭部だ。倒れ込むこともなく、辛うじて残った後頭部と下顎の骨を晒している。

薄らと周囲の風景を反射する白い骨の断面と焼けた肉から、先程の死体と同様の手段で殺害されたと推測出来た。

 

両隣の席が肉片の有無以外に特筆すべき点が無いのを確認し、もう一度跳躍。東仙要からの攻撃がそろそろ捌ききれなくなってきた。無銘刀も既に五本目を握っているし、掠り傷も増えている。

 

もう少し調べたかったが、この部屋に居続けるリスクや他を調べる時間を考慮すると退室するのが正解だろう。最後にもう一度部屋を見回してから、立ち去るべく入り口を目指して跳躍した。

 

 

この時、もう少し着地地点に気を配っておくべきだったんだ。何も姿を隠すのは破晶(ボク)の特権ではないんだから。

 

 

 

 

 

「射殺せ、『神鎗』」

「がっ………ぁ」

 

唐突に腹部が熱を帯び、一息遅れて強烈な痛みを感じた。原始的な反応なのか恐怖で思考が阻害される。

手応え有りや、と言う声がやけに遠く聴こえていた。

 

「市丸」

 

東仙要に呼ばれた市丸ギンが其方を向き、同時に端末(ボクのからだ)を埋めていた刃物が抜けて、空いた孔から血が噴き出した。

 

「なんや追いかけっこしてはるみたいやったから手ぇ出してしまいましたわ。あかんかったやろか?」

「いや、構わない。お陰で取り逃がさずに済んだ」

 

微かに聴こえる会話を他所に、支えを失ったボクはどちゃっと汚い音を立てて床に落ちる。

痛みで考えが纏まらない。

衝撃で肺から空気が抜けてしまったのか呼吸が苦しい。

 

「………ぅあっ…………ひっ、ぁ………」

 

端末の直接操作を切り、痛覚を含めた感覚全てをボクの意識から遠ざける。

 

「見えんから当てずっぽうやったけど、もう死んでしもたかな」

「………ぅ……っふ、う………ぁ……」

「ああ、まだ生きとるね」

 

どうやら縛道か何かで姿を隠していた三番隊の隊長に不意を討たれたらしい。……正常な思考が戻ってきたようだ。

此方の位置は東仙要の顔の向きから推測されたのだろう。

前々からこのような事態を想定していた可能性が高い。………咄嗟にやって成功されたとは思いたくない。

 

流れ出た血は偽装鏡面の範囲外だから、血溜まりに人型の空きが出来た様に見えるのだろう。近付いてきたギンはちゃんと顔の位置を補足して覗き込んでいる。

 

「これ、どうやって入り込んだんです?」

「不明だ。只、ある程度隠密と戦闘の心得が有る様だった」

「へぇ…………せやったら尋問せなあかんやん。なぁんも言わんと死なれるんは困るなぁ」

 

痛覚を切った今は生理的な反応を返すだけの肉人形であり、例え拷問されても痛くも痒くもないが、反応しないという事自体から何かを読み取られると困る。

一番怖いのは此方の自覚が無いままに情報を抜かれる事なのだ。

こうなっては仕方がない。探索は不十分だが、端末を放棄した方がいいだろう。

 

 

……いや、もう少し様子を見ようか。冥土の土産位は強請りたい。

喀血の量が少ないから、内臓も殆ど傷付いていないだろう。まだ保つ筈だ。

 

「じゃあ、一回手当てしましょ。すぐには死んでしまわんようにせんと」

 

血溜まりに投げ出していた腕をギンに取られる。

 

「そっ……の、ひつよ……ぅ、は、ありま、せん」

「あれ、お喋り出来る元気あるん?手当て、ほんまにいらなそうやね」

「ええ……いり、ませっ…ん、よ」

 

直接操作でないまま喋らせるのは中々に大変だが、痛みと喀血で上手く発声できない前提なのが功を奏した。不自然な部分が誤魔化せる。

 

「だっ…て、わたし、な、にも………しらっ…ぁ!」

「嘘吐きやなぁ。キミ、多分まだ子供やろ。誰かに言われて此処来たんやないの?……な、誰に何言われたん?教えてくれたら見逃してあげてもええよ」

 

ぐい、と言葉を遮るように腕を高く持ち上げられ言葉が詰まる。懐柔の為か柔らかくなった声で囁かれた。

 

痛覚を切った後で良かった。上半身を一気に浮かされたのだ、恐らく傷が引き攣れて更なる激痛に襲われていただろう。

 

「……市丸、そろそろ隊に戻る。侵入者の報告は一旦私がしておこう」

「おおきに、お任せしますわ」

 

報告?誰に?

 

六番隊や三番隊、況してや他隊では無いだろう。市丸の報告を代行するような言い回しだったが、他隊の隊長が何を報告すると言うのか。

一番隊の可能性もあるが、であれば代行なぞ認められないような内容だろう。

 

つまり報告先は彼等の上役なのではないだろうか。

………貴族の助力を受けている可能性が排除しきれない。厄介だ。

 

「……このまま喋らんまんまやともっと痛いことするんやけど、言う気にならん?」

 

考えている間に東仙要の気配は大分遠ざかっていた。

丁度良い、これなら他の人間に聴かれることも無いだろう。

 

 

()()()()()()()()()

 

 

「まっ……もと、らんぎ、く」

「…指示した人ん名前?」

 

返す言葉に間が空いた。それだけだ。

笑顔も声も先程と遜色無いので、ただ情報を咀嚼していたとか、顔を思い出していた、とかでも通じるかもしれない。

けれど状況証拠としては十分だ。鎌掛けは成功した、と言って良いだろう。

 

 

境が彼を見掛けて「こっわ………関わらねぇ方がいいなアレ……」と言ったあの日、彼の視線の先にいた人物は全員リストアップしている。

その後境もボクも多少探りを入れたけど、結局相手はわからなかった。………そういう事にした。本当はあと数人と言うレベル迄絞れていた。

 

ボクは境の五感で得た情報を解析して、人間では感じきれない些細な音、判別出来ない程遠くの風景を調節し、境の脳にクロッシングで返すことが出来る。

この件だって解析して情報を集めた。けれど境には「特筆すべき所は無し」として何も開示していない。

彼へのカードはボクが握っておきたかったのだ。

 

「ちがぅ、っあ」

 

痺れを切らしたのかもう一度体を揺さぶられる。気管が閉まったのか声が跳ねた。

 

「……もっかい聞くで。誰が此処に行け言うたん?」

「……」

 

境と砕蜂さんが似ているのなら、ボクと似ているのは彼である。勝手な親近感を懐く位にはそっくりだ。

 

独善、それが僕達の共通点。他の誰かに止められるような物じゃない。彼女達よりずっと配慮や思い遣りに欠けた───境も大概だがボクよりは真面だろう───、陸でもない指向性の人格だ。

だからこそ境を近付けるのは危険だけど、ボクであれば共存の道がある。

 

一番大事なもの以外どうでも良く、それの為なら他人を救うも殺すも大差は無く。

それなら利害の一致さえあれば、裏に何が居ようと交渉の余地があるのだ。

 

「…こあ」

「………コア?」

「ふぁふな、あっ……の、こ、ぁ………」

 

血液を失い過ぎたからか、実体化を保つのが難しくなってきた。声も一段と出しにくくなる。

 

「ふぁふなあ……こあ……コア?人の名前には思えんなぁ?」

「………」

 

これで次に会ったときに『コア』を引き合いに出せば取引の取っ掛かりにはなるだろう。

 

…………もういいか。

境に報告──一部は伏せるが──せねばならない。自然に消えるのを待たず端末を破棄してしまおう。

元々その心算だったし、土産話も十分だろう。

 

「その『こあ』は何処に………ありゃ、限界なん?手当てやっぱり必要やったんやん………まだ聞きたい事──────」

 

 

端末の破棄を実行──感覚情報の取得及び操作を終了。実体破棄成功。

分析結果、補足を記録と共に分類、保存。

───全工程完全終了。

 

 

ぐ、と組んだ手を前に突き出し、「んー」と言う声と共に体を伸ばす。

ずっと境の精神世界に居たし、そこにある体が疲労している訳でも無い。只の気分だ。

 

破棄された端末は空気中の霊子に溶け込んでしまうので、死んだにしては早すぎる遺体の消失だとギンにはわかっただろう。流れた血も消えてしまった筈だ。

其れも含めて此方の情報を伏せておいてくれると良いが………

彼個人に対する脅し……交渉材料になっていたから大丈夫だと思いたい。

 

……まぁ『ファフナー』なんて単語に繋がる情報は、尸魂界内では他に無いし、何年も掛けてこの世界に『蒼穹のファフナー』が無いと確めてある。

仮に話されてもボク達には辿り着かないだろう。

 

 

……出来る限りの保険を掛けておきたかったんだ。『破晶(ボク)』が使われないように。

敵を取り込むって、謀略としては基本でしょう?

ボクじゃなくて、彼が武器にならないかなって。

 

 

あ、境が十一番隊隊舎を出たみたいだ。

境に報告と………砕蜂さんにもある程度情報を流すと言っていたし、見せる画像の選定をしなきゃ。

……内緒にしてる事、事件が終一段落付いたらちゃんと謝ろう。

 




手直しする度に型月要素がゴリゴリ入ってくる……世界観しっかりしてて他作品の事象への対応力が強すぎる……一話で根源擬き出したから今更だけどな!!
鰤:鮒:決闘:型月:その他 が2:2:1:2:1位になりそう……摂取してる文章の割合に左右されすぎじゃろ……その他と鮒の割合増やしたいね…………

今回の作業用BGM:「ラ/ブ/レ/タ/ー/・/フ/ロ/ム/・/メ/ラ/ン/コ/リ/ー」
原作市丸っぽいなぁと思って聴いてました。(作文)
尚当作ではツッコミとボケを両立して頂く予定。


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暗部のトップなのに光属性

お亡くなりになったり作品全非公開引退とかとてもつらい

お久しぶりです、新年度の出費の多さにバイト増やさざるを得なかったんです許して下さい何でもはしません(フライング)
なんとか平成の内に上げられました
帝都のしんどみから抜け出せないままロンドン走ってます………第四ぐだイベ待ってる………

※今回書き言葉故に変換してない漢字とかあります※

追記:追い掛けっこの時か を消去/鈍った→注意散漫に訂正
追記:青乃→破晶に訂正



《下手人の手がかりは無いのか》

〈今のところは ただ特殊な術・無認可の斬ぱく刀・非合法な道具のどれかを持っているのは確定でいいと思います〉

 

話を聞き終えた砕蜂さんは、協力者が忍び込んで撮ってきたと言って渡した写真を俺に戻し筆談を再開させた。

 

〈何かされた感じあります?〉

《いや 異常は感じられない 状況は分かった こちらでも裏取りと貴族の調査をする》

〈まって〉

 

慌てて出した三文字に砕蜂さんが怪訝そうな顔をするが、気にせず続きを書いていく。

 

〈まだ動かないで 通常時の 貴族の身辺調査だけにして下さい〉

 

 

四十六室内の様子は全て話した訳じゃない。下手人らしき人間達が隊長格という事と破晶(きょうりょくしゃ)死亡を偽装した(しんだ)事は伝えていない。

貴族が関連している疑惑は兎も角、同じ隊長格が相手となると対面した時に怒りでボロを出しそうでな……

諜報方のトップではあるんだが、如何せん元々味方(の筈)の人間の前だと感情が漏れやすい直情型だ。下手に侵入者との繋がりを疑われても不味いし、隊長だから警戒されて動きを把握される可能性もある。

食らったっぽい四十六室の目眩ましの内容も判らんから、早い内から深入りされるのは不味いと思うんだ。

 

まぁ例え洗脳されても表面上の行動が変わらなければ利用は出来るので、匇々の情報は渡すんだけどな。

 

《私も動く方が早くカタが付く》

〈別の事をお願いしたいんです まだ報告したいことあるので〉

 

納得が行かない、と思っているのだろう。眉間に皺が寄ったままではあるが、《なんだ》と書いてくれる。そういうとこだぞ砕蜂さん!

ツンデレ年上ムーブは頼りたくなってしまうから控えて欲しい。

 

〈朽木ルキアが現世で関わった人物って隊長格に告知されてます?〉

《されていない》

 

ふむ……隠密機動の現長に知らされてないとなると、砕蜂さんがハブられたのでなければ四十六室(うえ)で握り潰されたんだろうな。

 

……これ、喜助さん達を陥れた奴本気で関わってたりしないか?今の四十六室の意向を決めてる奴にとって喜助さんたちの存在を伏せとくメリットがそこ以外で生まれない気がする。

冤罪を暴かれたくないんでなければ、明かして士気上げた方が良いだろ。

 

〈喜助さんと鉄裁さんの名前が出ました〉

 

砕蜂さんは一瞬目を見開いて、すぐにペンを走らせた。

 

《夜一様は》

 

バッと見せられた一言は予想通りの物だった。

いつも綺麗に整っている筈の文字が崩れている。まぁ、そうなるよな。

声を上げないでくれるだけ上々だろう。

 

〈二人以外は未確認です〉

《わかった》

 

数拍置いて、いつもの字体──少し線がぶれているが──で返答が返って来た。

これ以上の情報の持ち合わせがないのは少し申し訳無いが、()()()()()()()()()()()()()()()()は解って貰えたと思う。

 

〈俺はこれから仕事を理由に怪しいところガサ入れしようとおもってます 砕蜂さんには俺がトチった時のカバーをお願いしたいです〉

《具体的には》

〈俺が処刑対象になったら後押しして上からの信用確保 まともに動ける状態保ってて下さい 死亡偽装は自分でやれます 後はできる限り砕蜂さんが中心になって対処できるようにちょっかい出します〉

《弟と朽木はどうする》

〈青乃はその時の様子によります どうなろうと一回砕蜂さんのところに顔出しさせます ルキアは拐います 喜助さん達がわざわざ関わった死神ですから みすみす殺させられません〉

 

百年尻尾を掴ませなかった人達が今更気紛れで死神に近付く訳がないからな。何故関わったのか分かるまでは死なせられないし手元に置いておきたい。破晶には悪いが、もし殺す心算だったなら確実に殺せるようにしておいた方が良いんだ。何方にしろ、他の人間から隠すのは間違いじゃないだろう。

 

〈わかった 私が表、お前が裏だな〉

《ありがとうございます はい、真っ当な方からも摘発よろしくお願いします 俺からは以上です》

 

了承に軽く頭を下げると、数秒見つめられた後もう一枚頁が消費される。

 

〈名前はどこから手に入れた〉

《朽木白哉》

 

俺と友人関係ってのは前に話した、というか引き合わせた話を夜一さんから聞かされてたらしいんだよな。

 

白哉と砕蜂さんを会わせるのはどうもタイミングが無かったみたいだが、夜一さんが目を掛けていたのは知っているだろう。

これで二人が貴族対策とかで協力してくれると良いんだが。

……あれ、もうそろそろ補給終わる時間じゃないか?今日は西門から時計回りに逃げてたから南門で合流だな。筆記具返してもらわ………まだ書いてるのか。なんだ?

 

〈ここ数ヶ月 貴族の息がかかっていると思しき者達の動きがおかしい〉

《死んだ四十六室のですか》

〈それ以外もいる 方針が変わったのか派ばつの拡大をやめている 気味が悪いほど静かだ 二番隊や隠密機動内にもいる 私と連絡を取るなら直接来い〉

《わかりました》

 

うーん、隠機も駄目……情報源にはなるか。敵さんどれだけ手広くやってるんだよ。

 

 

返してもらったノートとペンを仕舞い、瞬歩で南門の近くまで移動する。

森を抜けるギリギリで偽装鏡面を解除したから、俺達が何処に居たか傍目からは判らない筈だ。

今日は地面に手をついてないし、洗わなくてもいいだろ。

 

そのまま門の方に歩き出そうとした時、後ろから「空式」と声を掛けられる。

 

「なんですっ………か、ほんと」

 

ぱし、と軽い音がした。

俺の右手が受け止めた砕蜂さんの手刀はきっちり項に向けて放たれていたようだ。

突然なんだ?殺気がないから跳び退きはしなかったけど、あんまりいい気分では無いな。

 

「なんだ、防ぐのか」

「……は?」

 

思ったより低い声が出てた。

勝負外で不意討ちされたのは云十年振りだけど、此処迄緩い攻撃捌けない訳無いぞ。流石に。

 

「先刻首を晒しただろう」

「手っ取り早かったんで」

 

一応反撃手段は持ってるから、あのまま殺されかかっても問題無いと言えば無かったし。

 

大体殺す心算なら他隊に居るところを強襲するだろう。該当隊のセキュリティ批判と一石二鳥のセットメニューだ。

 

「……貴様、自分が焦っていると自覚しているのか」

「安心して下さい、自覚は有ります」

 

何時もは急所最後まで庇うからな………注意散漫と思われるのも道理だ。

でも焦るのは仕方ないだろ。

敵の全貌は判らねぇし破晶は一回殺されるし喜助さんの確定情報っぽいの出たし。

事態が手遅れになる前に、出来る限りのスピードで動きたくなるさ。

 

「有る癖に其の様か。臆病さと狡猾さがお前の武器だろう。活かせ」

「用心深くて賢いって言ってくれません?」

「お前のは悪どい」

「役職的にはあんたの方がそうあるべきだと思うんですけど」

「お前が私を表に充てたんだろうが」

「権力ありますからね」

 

門に向かい歩き出し、軽口を叩く。

何時も通りの遣り取りに落ち着かされる。

砕蜂さんは昔からブレないから、話してる内に自分を調節出来るんだ。俺のセーブポイントと言っても良い。

 

破晶は大体その時の俺に合わせてくるからなぁ…………其れは其れでありがたいけど。

 

「はぁ………ご指摘ありがとうございます、気を付けますよ」

「よし」

 

砕蜂さんが勝ち誇ったような顔をする。

負けず嫌いだからなぁ………議論とかにムキになってる時とかも子供っぽくなるんだよ。

此処数十年で隊長としての威厳出て来たのに治らないから、一生もんだろうな。生者の一生分はもう生きてるし。

 

「あ、四席」

「お待たせ。大前田副隊長、今回もありがとうございます」

「おう、次は事前に知らせろよ。隊長の仕事調整すんのあぃたあ!」

「五月蝿い。だが其の通りだ、次は一筆書いて部下に持たせろ」

「了解です」

 

合流されるなり蹴られる副隊長哀れだな……可愛がり方が雑だぜ砕蜂さん。パワハラって言葉はもう尸魂界にも有るんだぞ。広めたの俺だけど。

 

「後今回は引き分けで良い」

「え、俺完全に負けた心算で居るんですけど」

「手を抜かれて拾う勝ち等要らんわ」

「あー」

「次こそ勝ち越してやる」

「……負け越さないよう頑張ります」

 

 

 

二人に見送られて門を潜る。次は五番隊だったか。

…………隊長も副隊長も面倒だし不在であってくれ、頼む。




作業用BGM:セ/カ/イ/再/信/仰/特/区
某悪属性MMDのラスサビに心臓ぶち抜かれたので

他の隊も行きたかったけどこれ以上喋らすと先のプロットに遊びが無くなるので巻きで行こうねぇ
こそうしの詳細明かされるより先に設定提示しておきたいです……後戻り出来なくしとかないとプロット弄りたくなってしまう……


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ゾンビでも出て来るのかと思った

VRAINS最新でブルーノちゃんとZーONEを混ぜたような√を歩み始めてるかもしれんキャラがいてハチャメチャに動揺している

お久しぶりです
推しコンビが死別した衝撃で呆けてました
プロット改定進んだんで頑張って清書します……いやほんと人型AIとかブルーノちゃんでは…………

追記:今確認したらお気に入り300越えてますね!?ありがとうございます!!!
追記2:後書きに抜けあったので再投稿してます
追記3:サブタイ抜け、私達→我々に修正



息をごくりと飲み込み顔を向けると、真剣な表情で頷かれた。

 

「四席………あの……」

「ああ、異常事態だな」

 

そう言った四席は僕と共に覗いた部屋の入口を離れ、運んでいた物資を廊下の端に下ろして薬箱を漁っている。

僕も四席に倣って、足元の水溜まりを踏まないように気を付けながら漸く量が減ってガサガサと鳴るようになってきたトイレットペーパーの籠を置いた。

煩わしい音が無くなったので、もう一度耳を澄ます。

 

 

門を潜った時から違和感はあったんだ。

五番隊には補給で何度も来たけれど、普段は書類を持った隊員と数十秒毎にすれ違うような、そういう場所だった。

優秀な隊員が沢山仕事をこなしていて、霊術院の同期達から「彼処で働けたらなぁ」という声を聞いていた隊だった。

こんな、静かで怖い所じゃなかった筈だった。

 

 

紙が擦れる音がしない。すたすたと歩く足音が聞こえない。同僚と話し合う声が聞こえない。

 

………人の気配が、無い。

 

 

全員で出動したりする隊ではないから奥で集会でも開いているかと思ったのだけれど門番からそんな事を言われた記憶は無いし、現在地が庭に面した建物の端の部分だという事を差し引いても人員が足りてなさ過ぎだ。

 

四席と覗いていた部屋をもう一度見る。

お盆ごと落ちて割れただろう湯飲みから溢れたお茶が廊下まで流れており、まだ淹れたてだったのか一帯に上質そうな茶葉の香りを漂わせていた。

僕の影に覆われてしまう位の細い水溜まりだったけれど、その異質さは十分に伝わってきている。

 

普段なら染みる前にと拭き取られていたと思うけど、割れた湯飲みすら片されていないんだ。

そんな暇も無く姿を消さざるを得なかった、のかもしれない。

理由は……わからないけど。

 

 

目当ての物を見付けたのか、腰にずらしていた救急袋に何かを放り込んで四席が振り向く。

 

「▼▼、逃げるぞ」

「え、此処放置して良いんですか」

「良いんだよ。俺達は後方要員であって探索担当じゃない。異常を他の隊員に周知して、それから前衛出来る奴と合流出来たら探索に参加するさ」

 

袋を背中に背負い直しつつ話された内容は、成る程正しいと思う。

誰も居ない隊舎なんて気味が悪くて仕方がないし、僕も離脱に賛成だ。

あ、荷物を放棄するから劇薬だけ確保してたのかな?

 

「わかりましっ、何!?」

 

突然遠くからカンカンと半鐘音が響き、瀞霊廷の中が騒つき始めた。……それでもこの隊舎の中から聞こえる音は無いが。

どうやら外でも異常が起きたらしい。

 

「不味いな………行くぞ」

「はい」

 

返事をしつつ、背を向けた四席の右手首を掴む。

 

「あ?何だよ……おい、そっちは出口じゃねぇだろ、待てってッ…………」

「四席、此方(こっち)です」

「違うっつってんだろ!止まれ!あと痛いから手ぇ離せ!」

「早く、逃げましょう」

「俺は今お前から逃げたい気分なんだが!?パニくってんのか!?」

 

空式境を連れていく(早く外に出ないと)次の角を右(五番隊の異常を)直進して三つ目を左(とりあえず門番と)もう一度右に曲がって奥へ進んで(それから他隊の人間にも知らせないと)

 

「四席、此方に」

「行かねぇわ!ほんと一回止まれお前!!」

 

僕の手首が握り返され、ぐいっと引っ張られる。

バランスを取ろうと後ろを向けば、四席の驚いたような顔が目に入った。

 

「……その目、如何したんだ」

「行きましょう」

「無視か!あああもっかい歩き始めんな!!」

 

あと少し(僕の目)空式境が左手を下げて何かに触れている(充血でもしちゃってるのかな)対処は自分の役割ではない(次の休みにでも検査を受けた方が良いのかも)あの角の先に連れていくだけ(朝鏡を見たときは)そこで我々の主が待っている(特に変なところは無かったと思うんだけど)

 

 

 

夢でも見てるみたいだった。

余りに現実感が無くって、朧気で、それでも与えられた役目が僕の……僕のだった体を動かしてたんだ。

 

 

 

 

目標の曲がり前を見る。

突き当たりの部屋の襖は開かれていて、その前にそれは在った(いた)

ここは何処とか先刻まで何を考えていたとかもうどうでも良くなって、たった一言だけが、口から滑り落ちる。

 

 

 

「綺麗……」

 

 

 

顔に余計な凹凸が一切無い白い面を着けていて、その中央に孔が一つ。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「なんで」と、呆然とした四席の声が聞こえる。

きっと僕と同じ物を見ているんだろう。そうだ、どうしてあんなに美しい物がこんな所に在る(いる)んだ。

薄暗くて、閉鎖的で、人の居ない場所に、どうして。

 

 

 

 

そうして目を逸らせないまま立ち尽くしていたら、突然頭の中に声が響いて。それを聞いた瞬間ふっと力が抜けて膝から崩れ落ちちゃって、そのまま気絶してしまった。

黄金に向けていた目が最後に捉えたのは、見たことの無い武装で斬り掛かる空式四席の後ろ姿だった。

 




次回からまた主人公視点に戻そうねぇ
そろそろどういう解釈とロジックで動いてるかはっきりしてきたと思います

今度この小説を某支部にマルチ投稿しようかと思っているのですが、内容は全く同じにするつもりなのでそうなったらお好きな方でお読み下さい
投稿したらリンク作品説明に追加します

向こうの小説機能が貧弱貧弱ゥ!!なので諦めました………傍点すらルビ機能でゴリ押し再現せねばならんので………

今週の作業用BGM:超/常/現/象
某手描きの音ハメが格好良すぎてだな………


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実質一択

満足さんがとうとうリンクスに来た…………ガン対策しなきゃ…………

お久しぶりです
そろそろリアルルルハワの季節ですね
一般参加で薄い本を沢山………買うんだ…………

今回の雰囲気BGM:「W/h/i/t/e/ /P/r/i/s/m」

追記:ルビ範囲ミス、脱字訂正
追記2:を→、



少し力を入れただけで、するっと力の抜けた▼▼の手が右手から離れる。

けれど俺もそれに構わず、▼▼の視線の先を、廊下の奥を見詰めていた。

いろんな意味で頭が痛いが、抱え込んでいる暇は無さそうだ。

 

 

なんで、と俺は言った。何故此処にあれが在る(いる)のか俺は知らなかったから。

だが何故俺が此処に在る(いる)のかは理解出来た。出来てしまった。出来ればしたくなかったが。

 

まぁ考えればわかることだったんだけどな。単体で存在している事がおかしかった。

いや本当に、何で今まで思い付かなかったんだ?

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

十数歩しか離れていない距離に、大柄な人間程度の大きさのスフィンクス型が空中で静止している。

仮面を被ってはいるが、その他の特徴はフェストゥムのそれだ。

 

 

『境』

"観測結果"

(ホロウ)と断定。ただ今まで観測した種別とは合致しない。突然変異かも』

"了解"

 

コマンドだけを打ち込み、ゆっくりと、確かめるように最初の一歩を踏み出す。

お馴染みの頭痛に別れを告げる時が来たらしい。呆けている▼▼は置き去りにする。守ってる余裕は多分無い。巻き添え食わねぇといいけど、操られてたんだよな。どうなるんだろう。

 

 

敵地に連れていかれるなら手間が省ける、なんて途中から考えていたが……あと少しで到着、そんで処理も完了だったんだろうな。

見た瞬間に棒立ちってことは、▼▼はあれ初見だったんだろ。俺もああなってたのか?

 

 

「ごめんな、青乃。此処迄だ」

『……うん、大丈夫。』

 

破晶も同じ結論に達したんだろう。柄と鞘を固定していた紐がストレージに仕舞われ、カチカチと鍔鳴りが響き出す。

……同化抑制薬(ヘリオギュレ)の研究、しとくんだったな。

あと十歩。息を吸って。

 

 

「開門せよ──『破晶』」『対数スパイラル係数、入力』『シナジェティック・コード、認証』『ニーベルンゲン、動作確認』『ジークフリード・システム、接続』『ファフナー・マークモドゥロ、発進スタンバイ』

 

刃を晒して、俺が命を使う為の魔法の言葉、破晶がずっと呼ばせまいとしてきた名前を呼ぶ。

途端に激痛に襲われるが、一瞬だ。

「死にたくない」と唐突に感じたが理由はすぐに解った。今は無視で良い。俺じゃない。把握はした。

重なって聞こえるコマンドコールの中、詰まった息を整え直して速度を上げる。あと五歩。

 

 

『マークモドゥロ、発進』

 

あ、そうか。剰余(モドゥロ)って俺の機体名か。開示されたんだな。

握り直した柄がガチンと金属音を鳴らす。

何の前触れもなく、肘までが青と灰紫の金属で覆われていた。籠手にしては手の部分が薄いので、「そうなった」って事なんだろう。

頭にも何か付いてるが、多分シナスーのヘッドセットだな。放置。

あと二歩分を跳躍してすっ飛ばす──────接敵。

 

 

「 あなたは そこにいますか? 」

「見りゃわかんだろッ!!!!」

 

 

両手で差し出した直線的な造形の小刀は、碌な抵抗もなく真っ直ぐスフィンクス型に突き刺さった。

直ぐ様柄を折り取り傷口を蹴り飛ばして遠ざかると、ボンと言うの軽い爆発音の後に黒い球体の発生を確認した。

 

今のでコアを破壊出来たのかと呆気なさに驚く暇もなく、黒球のさらに奥から伸びてきた触手を避ける。

 

始解した瞬間に精神干渉が切れて見えたからな。

隠れていた二人分の人影、それぞれ見たことのある顔だったからびびったぜ。

………うーん、やっぱり一寸したホラーだな。けどこれで確定で良いんじゃねぇか?

 

 

流魂街の失踪事件、喜助さんの冤罪、ルキアの不当逮捕、そんでもってこの五番隊の現状。

あんたなら、うまく立ち回れるよな。

 

 

「犯人は、お前だ」

 

 

柄を握り込んだままの右手で人差し指を向ける。

 

 

「そうだろ、藍染惣右介」

「……興味深いね」

 

 

何時もの胡散臭い笑顔ではなく、冷酷さを孕んだ薄笑いを浮かべた男が、金の羽の生えた子供を一人侍らせて立っている。

此方が本性なんだろう。俺の糞野郎センサー大当たりだったな。

………子供ほぼ裸なんだが、変態……いや、双方気にしてなさそうだけど。服着せろよ。俺が気になる。

先刻触手───多分あの羽が伸びた───ぶっぱしてきたのは此方だと思うが、藍染惣右介(ほぼ確定犯人野郎)が手で制して以降は大人しくしてるな。

 

 

「そりゃ此方の台詞だ。そいつの(ツラ)と格好は兎も角、使い道どうなってんだよ。世界征服でもすんのか?」

「結果的にはそうなってしまうかもしれないが、主たる物ではないね」

「へぇ、随分とソイツの操縦がお上手な様で。密造虚なんていつ暴走するかわからんだろうに」

 

破晶が更新した観測結果は、そいつもさっきのと同じ新パターンの虚であると示している。

格好からしてコア型だろう。

……攻撃能があって人間の戦略の一部として動くコア型とか人類軍かよ。厄介極まりないもん作りやがって……

 

野生の可能性は考えないのって?こんなん自然発生してたら誰も斬魄刀手離せねぇわ。

元が野生だとしても今に至るまでに大分弄くられてるだろうな。

 

「ふむ……これを虚だと判別するのか」

「体にくっついてんの、仮面の成れの果てだろ。先刻の金ぴかも面してたしな。もっと変な生き物ってんなら知らん」

「いや、これは確かに虚だ。フェスティマと呼んでいるよ。中々に面白い新種に育ったんだ」

「……なぁーにが祝祭だ、虚はどっちかってーと(マルディシオン)だろっての」

 

ドンピシャで名付けられてるとはな。

久々に運命の強制力って奴を感じる。

 

 

「私からも一つ、良いだろうか」

「……どーぞ?」

「何故君は私達の影響を受けていないのかな」

 

私達のって、目眩ましはそっちの仕業か。

……そうか、知らねぇんだな?アレは俺程覚えてる訳じゃないのか?

それとも分析が進んでないのか……どっちにせよラッキーだ。

 

「それはな」

 

右手の中の柄を胸元まで持ち上げ、視線を真っ直ぐ子供……フェスティマに向ける。

 

「俺が」

 

破晶のカウントに合わせて腕を振り抜く。

投げナイフの要領ですっ飛んでいく柄と、その後ろにもう一つ。

 

「そいつの」

 

距離限界で(おとり)が消失する。

フェスティマがシールドを張ってるだろうが、多分無駄だろう。

 

「天敵だからだよ」

 

 

───ッキイイイイィィィィィィン

 

 

甲高い不快音と過剰な光量。

俺の袖から飛び出した手作り現代兵器(フラッシュバン)が、丁度俺と向こうの中間地点で炸裂した。

 

「む………」

 

感覚器官がみた目通りかわからんフェスティマには効かないかも知れなかったが、こんな薄暗い場所に長時間居た藍染惣右介(陰気な黒幕野郎)には効果あるだろ。

話が出来ていたからシールドも遮光・遮音はしていなかっただろうし、時間稼ぎにはお誂え向きの状況だったな。

 

……まぁ普通の対死神戦なら、弾くのは霊力と物体だけで十分だもんな。異端だよな、これ。

 

 

 

さて、稼いだ一手でフェスティマをどうにか討ち取る───訳ではない。

 

『発動を確認、逃走するよ』

「………」

 

向こうに防がれない為にグラサンも耳栓もしなかった俺を、実体化した青乃が抱えて走り出す。返事はしない。極力気配を殺す。

三十六計逃げるに如かず、だ。

 

 

 

 

 

偽装鏡面を張って移動したからか、それとも逃がされたのか。

入って来た所とは別だが、特段追撃もなく五番隊を出ることが出来た。

途中で別れた青乃も無事、S()D()P()()使()()()()()()()。多分態と見逃されたんだろう。挑んだら殺しに掛かられてた。

 

 

慌ただしく動いている死神達と鉢合わせないよう、上空五十メートル程に座り込む。こういう時空中の何処でも足場が作れるってのは便利だよな。

 

……ん、何で逃げたかって?あの場で戦うことに全くメリットを見出だせなかったからな。

此方のメインウェポンは剣にしろ槍にしろ銃にしろ狭い場所で取り回せるもんじゃないし、かといってあの小刀(マインブレード)は低威力な上折ること前提の耐久力しかない。

加えて少なくともニ対一、本気出されりゃ段幕ゲーで即死もあった。

……そうしなかった辺り遊ばれてたというか、スリルを楽しんでたのかもしれん。情報もバラしてたしな。

一体倒しただけってのは残念だが、リターンもあったんだ。これで良い。

 

 

"現状報告"

『逃走成功、かな。関知範囲に非寄生型フェスティマは居ないみたい。僕が家迄運ぶから、此方で話そう』

"了解"

 

現実に青乃の姿が現れるのを視認してから目を閉じる。開く。

 

 

 

 

「破晶」

「うん」

 

目を合わせる。俺は赤、破晶は花紋。

 

「飛べるか、破晶」

「飛べるさ、ボクと君となら。そうでしょ?」

「……そうだな。………その為の………」

 

これから如何するかはもう決まっている。

だからこの問い掛けは、俺が踏ん切りを付ける為の確認に過ぎない。

それでも答えてくれる、破晶。

兄弟、相棒、俺の片割れ──────もう一人、の。あぁ、成る程な。だからブルーノなのか。

 

 

「………よし。先ずはスペック把握と情報整理だ。机出してくれるか」

「はーい」

 

 

ふ、と上を見上げる。

そう言えばずっと、現実もこんな風に晴れていた。

目覚めた日も、拾われた日も、破晶に会った日も、置いていかれた日も、今日も。

どうやら頭が馬鹿になりそうな位鮮やかな青空が、俺の居場所らしかった。

 

 




やっっっっっと出せた!!!藍染と代わったラスボス!!!クロスオーバーのメタ理由!!!!よろしくな!!!!!
情報小出しにしてるんでまだまだ伏せカードあるけど、取り敢えずは発動出来た………二枚くらい墓地に送れた気分です…………
バイトで死ななければ次は早めに行ける……筈………



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一角獣流してくれ

※※滅茶苦茶でかいミス見付けたので再投稿です※※
※※追記で訂正一覧付けてるのでご確認下さい※※

アイエエエエ!?一日で三十件位お気に入り増えたりした!?ナンデ!?ありがとうございます!!!!!?!!!!感想とかも滅茶苦茶嬉しいです……ありがとうございます………

モソモソ書いてます……摂取してる版権が地獄展開キメててそっちに精神持ってかれてました……光の中に完結しそうにない……タスケテ……

追記:改行ミス、脱字(銀縁の)訂正
追記2:背広の発言→半袖の発言に訂正 半袖と背広が入れ替わっていたところも訂正
追記3:ズボンの描写を追加
追記4:後書きを訂正



あいつらと初めて会ったのは、一角との決着が着いた直後だった。

 

「其処のオレンジの髪の青年、少し時間を貰えないか」

 

バッ、と声のした方へ振り向く。

 

「っんだお前ら!どっから湧いた!?」

「………虫みたいな言い方はよしてくれ」

 

 

突然何も無い所から出て来た二人組は、尸魂界で初めて見た洋装の人間だった。

服自体はワイシャツと背広と言う見慣れた物だったが、見た目が俺と同じか少し下位の子供なのでコスプレにしか見えない。

 

 

僕は虫が苦手だ、と続けた方は夏だと言うのに───尸魂界も日本と同じ四季があるらしく、現世よりはマシだが暑い──灰色の背広を着込み黒色のネクタイを締めている。

長い茶髪は背中の半ばで毛先を括っているようだ。

やたら縁の太い銀縁の丸眼鏡を掛けており、こちらからは殆ど目が見えなかった。

 

もう一人は半袖のワイシャツに同じデザインのネクタイを緩く付けている。ズボンは背広と揃いの灰色で、中高生の制服に見えなくもない。

ふわふわした藍色の髪を顔の片側だけ伸ばしており、一角の方を指して何か話している。

 

二人とも揃いの日本刀を携えていたが、抜く様子は無い。敵対するつもりでは無いのだろうか。

 

 

「……悪ぃな、けど突然出て来られたらビックリするだろ。死神じゃねーのか?」

「これの事?見せ掛けだけだよ、斬魄刀ではない。質問に答えてくれるなら治療をするつもりだ。だからその……刀、で合っているかな?それを納めてくれないかな」

「………わかった」

 

少なくとも今すぐどうこうしようという訳では無いらしい。言うだけ言って半袖の方は一角の手当てをし始めた。

 

 

 

 

背広の方に包帯を巻かれる。やけに手際が良い。

一角の方の処置は終わったのか、もう一人は背広のが下ろしたリュックサック───ゴトン、と矢鱈重そうな音を響かせていた───を持つでもなく、周囲を警戒するように歩き回っている。

 

「きつくはないか?」

「お、おう。大丈夫だ。上手いんだな」

「現世の医療を少し齧っているだけだ」

「現世の?」

「そちらの方が発展しているからな。それで、聞きたい事なんだが」

 

包帯の端は留められた。しかし腕から手を離さないまま、そいつは口を開く。

 

「先刻浦原喜助が師と言っていたな」

「それ聞こえてるって、結構前から居たんだな」

「まぁ、そうだ。それで、本当なのか」

「聞いてたんだろ、教えて貰ったっつってもそんな長い期間じゃねーよ」

「期間は関係無いさ。……弟子か、そうか」

 

穏やかな笑顔が見えた。

すぐに元の仏頂面に戻ってしまったが、まるで『ああ──安心した』とでも言うような顔だった。

何かを堪えるように、決意するように深呼吸したそいつがもう一度口を開く。

 

「僕は浦原喜助に大恩があるんだ。……向こうはもう覚えていないだろうが。良い機会だし、君を助けて勝手に恩返しした事にしたいのだが、どうだろうか」

「助けてくれるってんならありがてぇけど……」

 

ちらりと横を見る。

半袖の奴が平然と歩き回っているが、こっちの奴とだけ勝手に話を進めてしまって良いんだろうか。そもそも俺達の目的を知っているんだろうか。

 

「あぁ………アッド、構わないか」

 

俺が見ていた方向で察したのか、極々短い問い掛けが成される。

アッド?も聞こえていたのか「いいよ」としか返さない。

 

「此方は気にしなくて良い。君で恩を返させてくれないか」

「……死神を敵に回すけど、いいのか」

「問題ない。冤罪でお尋ね者になっている身だからな、僕達は」

 

通りで服の端々が汚れている訳だ。

死神の追っ手を撒くのはお手の物、なのかもしれない。

 

「マジか………いや、分かった。それなら遠慮なく助けてもらうぜ」

「此方こそ助かる、宜しく頼む」

 

差し出された手を取って握手をする。

……冷たい。厚着しているし冷え症なのかもしれない。

それとも()()()()()()()()()()()血の巡りが悪いのだろうか。

 

 

 

 

手当て道具はすぐに仕舞われ、そいつは荷物を取りに立ち上がった。

と、同時に名前を知らない事に気付く。

 

「なぁ、まだ名乗ってなかったよな?俺は黒崎一護。あんたらは何て言うんだ?」

「僕は白血球、あいつはAdd(アッド)

「あんたのは絶対偽名だろそれ」

「その通りだ」

 

リュックサックを背負ったそいつがこちらに向き直る。

何枚もレンズが重ねられた眼鏡の奥に、茶色い目が小さく見えた。

 

「白血球は見敵必殺的な意味で付けてみたんだ」

 

見敵必殺、つまり殺されていない俺は敵ではないのか。

……本当に死神連中の仲間じゃないんだな。

 

「にしたって言い辛ぇよ、長ぇし噛みそうじゃねぇか。あと白要素無くないかあんた」

「ツッコミのキレが良いな……分かった、ちゃんと教える」

 

妙なポイントに感心した後、スッと自分を指差す。

 

「僕は霊幻新隆」

 

アッドに指先を向け直す。

 

「彼奴はあい。僕の兄弟だ」

 

兄弟ってことはあいつも霊幻姓………ん?れいげん、あらたか………?

 

「霊験あらたか?」

「偽名みたいだろう」

 

そう言って笑う。

今度は外見相応の子供っぽい笑い方だった。

 

「新隆、そろそろ彼が起きる」

「了解」

 

あいが新隆の隣に歩いてくる。

兄弟と言ってはいたが、似ている要素が見当たらない。

強いて言うなら顔が中性的、という所か。

 

「オレはあい、よろしく」

「あ、ああ。よろしく」

 

あいとも握手をする。

冷たくはなかったが、新隆と同じく細くて女子の手みたいだった。

 

 

 

 

二人にルキアを取り戻しに来たと簡単に伝えると、

 

「それなら僕達は隠れた方が良さそうだ」

「これ以上話をややこしくする必要も無いだろう」

 

と頷き合っていた。どうやら彼らの冤罪と話が繋がっているらしく、解決の為に密かに動いているようだ。

 

だがしかし、隠れると言いながら二人はその場を動かずにいた。

「ちゃんと着いていくし会話が可能な範囲にいる」とだけ言って、そのまま姿を透明にしてしまったのだ。

 

 

「一護」

「!?どっから……」

 

さっきまで居たところを手で探っても何も感じない。それなのに声がしっかり聞こえるのだ。

最初に声を掛けてきた時も同じように隠れていたのだろうか。

 

「静かにしろ。……其処で倒れてる斑目一角は死神の中でもそこそこ偉いから、君の知りたい情報を持っている筈だ。僕達はそこまで戦闘がこなせる訳ではないから、サポートという形で同行する」

「秘密裏に、ね。オレ達の所在は伏せておいた方が死神の意識を分散させられる」

「分かった。……一角の手当てをお前らがやったのも伏せといた方がいいよな?」

「うん、そうしてくれ」

 

虚空に向かって話すというのは、現世で霊達と話していたのとはまた違う感覚だ。落ち着かない。

瓦礫に座って、あいから渡された中身の無い薬壺を手で弄ぶ。

これを一角に見せて誤魔化せ、という事だろう。

俺しか知らないはずの事だから、筋は適当でも良いか。

 

 

 

………ルキアが似たような容器を使っていたような気がする。よくある物なのだろうか。

 




今回の作業BGM「C/a/s/e/a/m/a/n」

一護が単なる脳筋じゃなく成績優秀設定のある主人公だから助かる………原作死神連中素直すぎて心配なんじゃ………

あいのガワ、結構役回りをメタってるので是非考えてみてくだされ
※※まだ伏せてる情報ありました!!!考察の材料足りないですごめんなさい!!※※


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アリバイ作りはマスト

お待たせしてます!!!
前話のミスについては誠にすいませんでした!!!!!!!!
今回で足りない考察要素補完するからユルシテ……ユルシテ……

追記:句読点調整



一護が渡した容器を手に何事か考え出している頃、俺はコロンビアをキメていた。

偽装鏡面のモードが()()()()()()()ので堂々と両手を突き上げる。

青乃の目が若干生ぬるい。なんでさ。良いだろ嬉しいんだから。

 

抗議の為に両手を構えてキーボードの表示を要求する。

俺の視界への干渉で空中に表示してもらうのだが、これ実質ARだよなぁ………メガネ由来じゃないから犬は見えんけども。

 

 

 

周囲の警戒を青乃に任せ、半透明の青白い板に指を滑らせる。

打った感覚も音も無い───カチャカチャカチャ…ッターン!という効果音は索敵の邪魔なのでオフだ。隠れてる今は最適なコミュニケーションツールと言える───が、キーボード上部に文字列が出力されていく。

 

 

〔なんだよ、嬉しいんだから良いだろ〕

『うん、けど演技(ロールプレイ)からの落差が凄いなって思って』

 

俺の視界から読み取っているのだろう、青乃の目も向けずシステム経由の音声で破晶が返答してくる。

 

〔変装の一貫だからな、差はでかくしとくに限る。つーか、それ言ったらお前だって身長縮めるっていう反則級の変装してるし〕

『人間は老い以外じゃ中々縮めないからね。変装というより換装っぽいけど』

〔丸々取っ替えてるしな〕

 

 

現在の俺達は協力者達へコンタクトを取り終わり、後は逃げ隠れしつつ仕留めるチャンスを探るだけとなった為に外見を変えて過ごしている。

 

俺は始解によって拡張された偽装鏡面の機能で髪と目の色を変化させていた。詐欺師(オリジナル)漫画(オリジナル)に合わせて赤茶だ。

前髪と横髪は切って整えたんだが、後ろは括る場所を変えるだけで切らないで欲しいと破晶が言うので緩く束ねている。

……毛が抜け始めたら下ろしておきたいな、一気に抜けそうだし。

 

言動は性格の差が分かりやすい虚無の申し子だ。

あわよくば変性意識として防壁にならんかな、と思っているが……只の演技だから無理か。

 

 

青乃の方はこれまた拡張された実体化機能で新しい姿を使っている。

ロボット縛りが消えたようなのだが、非生物であることには変わり無いらしい。被造物縛りとでも言うべきか。

コアとしての役割と俺のSDPを考えれば正にドンピシャの姿だった。

 

目の紋様だけはもうどの姿でも出る様だが、そんなに目立つものでもないから大丈夫だろう。

元々の背丈が二メートル前後だから、今の姿では青乃だとは思われない筈だ。顔も違うし。

 

 

 

『それで、何がそんなに嬉しかったの』

〔一護が喜助さんの弟子ってこと〕

 

そう、弟子。俺は見事用済みになったのだ。手間が省けた。なので嬉しい。

 

『………いいの?』

〔いいぜ。死亡工作が楽になるしな〕

『そっか』

 

気遣いありがとな、けど大丈夫だ。

今はそれよりも発言を分析される方が怖い。

 

〔俺今から別行動するから。一護には出て来ないだけでここに居るって言っといてくれ〕

『了解。一護の陣営の人間にはどう対応しようか』

〔あいが表に立って欲しい。俺は早めに面が割れると怪しまれそうだ〕

『わかった』

 

青乃の返答を聞き届け、キーボードから手を離し走り出す。

腰に軍刀式で佩いていた無銘刀は、既に破晶が本体だけ回収してくれたようだ。接触音が減るよう加工済みのベルトと鞘だけが残されていたので、最初から全力で一護の側から遠ざかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

斑目一角と別れた黒崎一護を、囁く事で敵の少ない道に誘導していく。

こっそりと言ったから気を遣っているのか、返事は極々小さな声でしてくれるので助かった。

お仲間───志波も巻き込み済み確定か───や花太郎君にはボク達の事をすぐ言っていたけれど、情報量は抑えていたし姿を見せろとも言わずに済ませた。やはり頭の回転は良い方らしい。

 

 

 

と、思ったんだけどね。

強さで言えば中ボス以前だろう恋次とボロボロになるまでやり合うとは…………感情的というか、彼なりの筋を通すタイプって事なんだろう。

あと崖から突き落とされたら戻るどころか勢い余って上空にすっ飛んでくタイプ。

人としての境と比べても圧倒的な才があるのに………とても危うい子だ。

 

 

ボクの仕事は境の代理として彼を死なせないよう立ち回らせる事と、彼を送り込んだあの人の意図の把握/達成なので、花太郎君に黙って回道を重ね掛けした。

霊力の質で怪しまれようとも言い訳は考えてあるから、認知されても本当は構わないのだけど………彼は馬鹿じゃないから与える情報は選びたかった。

 

 

 

そうして出来る限り存在を伏せて隠していたお陰で、()()()()()()()()()()あいと言うカードを切る事が出来たのだった。




ギリギリ年越し間に合いました………来年も宜しくお願い致します。

今回の作業用BGM:「救/済/の/サ/イ/レ/ン」

恋次戦は特に介入しないのでバッサリ行きます
マルチ投稿の件は忘れてください………向こうの小説機能貧弱すぎてこっちで使ってる(使う)ギミックが半数以上再現不可になるので………


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口を無くすなら死人になるのが手っ取り早い

謎Dの新規情報が来るとか聞いてないんですけどリンクス!!!!!!!!!!

お久し振りです、ペース落ちまくってますがエタはしません(鉄の意志)
遊戯王が黒咲さんエンドを再現したのにぶちのめされてたのが主な要因なのでそろそろ復帰したいです……………ええ…………まさか主人公でやるとは…………世界滅亡が初期構想ってマジかよ…………

原作の行動確認しながら書いてるけど問題児とガバガバ規定多過ぎてどうしましょうね……藍染が有能なのもあるけど組織として大分危ういぞ護廷隊……



懺罪宮の塔前にて、旅禍と死神とが向き合っていた。

夜一の行動で全員の動きが止まるも、均衡は一瞬で崩れる。

黒崎一護(大荷物)を抱えた彼女に向けて白哉が半歩踏み出した──────────が、彼は中途半端な姿勢で動きを止めた。

怪訝な顔をする浮竹隊長と夜一だったが、白哉の額に小さく膨らんだ血玉を見付けたのだろう。

すぐにその理由を察し、互いに険しくなった表情から結論を出したようだった。

 

「なんとまぁ……見事な隠行じゃな。おぬし、少なくともこの場では儂らの味方と思って良いな?」

 

夜一は虚空──白哉の眼前へ向けて声を掛けてきた。

隠れ切るのは諦めるしか無いだろう。

偽装鏡面を解除し、無機物(遠隔操作)から生物(直接操作)に切り替わる。

そうしてあいの姿を晒したボクは、無銘刀を白哉に突きつけ、目線を逸らさぬまま彼女に返答した。

 

「ああ。オレは黒崎を助けなければならないからね」

 

そう、ボクはここで彼を喪う訳には行かない。例え死んでしまえと思っていたとしても。

 

「退却するなら早めにお願いするよ。先刻まで居た場所は把握してるから」

「ほう…………なら、そうさせてもらおうかのぅ」

 

目を細めた夜一が屋根に跳ぶ。

死神達は動けない。まだボクと言う詳細不明の脅威、及び情報源が留まっているから。

 

「三日じゃ。三日で此奴をおぬしより強くする。それまで、勝手じゃが暫しの休戦とさせてもらうぞ」

 

────貴女が、そこまで言うのか。

彼とはそんなに長いこと関わったって話でも無かった気がするけど、随分と重い期待と信頼だね?

本当に、勝手な話だ。

 

 

 

 

 

夜一が死神達の感知範囲外まで出た頃を見計らって、捕まらないよう欄干に跳び移る。少し離すが、無銘刀は白哉に向けたままだ。

 

「………君は一体誰なんだい?殺気もないし、かといって敵でない訳でもなさそうだけど」

 

冷静な振る舞いを心掛けているのか、ボクの状態を正確に見極めて浮竹隊長が尋ねてくる。

助かった、こちらからは言い出し辛かった。

 

「オレは水晶機巧(クリストロン)が一体、霊幻あい。旅禍の護衛と朽木白哉への言伝を任ぜられて来たよ、浮竹十四郎」

「くりすとろんにれいげんあい、聞かない名前だね」

「だろうね、数日前に考えられた名だ。護衛は()()()()()し、もう一つの方も済まさせてもらおう。ね、朽木白哉?」

 

少し首を傾げて見詰めると、白哉は不快だったのか眉間の皺を少し深めていた。

額に怪我をさせたのは悪いと思うけど、皺は年取った時に残るから早急に止めた方が良いんじゃ無いかな。

 

「言伝ならば牢で聞く」

「それほど手間も時間も掛けさせる訳には行かないね、今すぐ言わせてもらうよ」

 

スゥと息を吸って、彼女が言いそうな声色で。苦しそうな声の出し方を心掛けて。

 

 

「『お前は兄妹を死なせるな、』」

 

 

ぴく、と白哉が反応した隙をついて納刀する。

 

 

「『俺は、失敗した』」

 

 

それだけ言って、揃えた足で欄干を軽く蹴る。

高所からの紐無しバンジーを躊躇なく行えるのは一種の強みだろう。

 

「ッ……待ちなさい!」

 

待てと言われて待つ奴はいない!と言いそうになったが既の所で押し留め、口の端だけで笑って偽装鏡面を発動した。

 

 

 

 

偽装鏡面内で端末を破棄して、本体の近辺───双殛の丘近くの林の中で再構築する。

瞬歩で移動した訳じゃないから、追っ手の事は考えずに済む。

 

〔お疲れ。白哉まだ元気だったか?〕

 

そう予め出しておいたキーボードで発言した境は、洞窟の入り口から目を逸らさない。

そこに彼等以外が入らないか見張っているのだ。

変わるよ、と声を掛けてボクも壁に向き合う。

 

『うーん、仏頂面保ててるからまだ大丈夫かな。ルキアも憔悴はしてたけど壊れるような感じではなかったよ』

〔わかった 合流も任せていいか?〕

『いいよ。境はこの後どうするの?』

〔他の旅禍探すかな 逃がすか穏健派に押し付けると思う〕

『穏健派なら八番隊か十三番隊かな。ボクと遭ってもまず会話しようとしてたし』

〔覚えとく〕

『うん。あ、あと少佐ごっこ楽しかったから今度精神世界の方でもやろうね』

〔やったの?いいな 楽しみにしとく〕

 

それだけ言って装備の位置を直すと、境は瀞霊廷の中心部に向かって跳躍していった。

どれだけ離れようと彼女がボクの本体を所持している限りコミュニケーションは可能だけど、ずっと逃げ隠れしているせいで暫く彼女の声を聴いていない。先刻白哉に言った言葉なんて完全に捏造だ。

そもそもアピールの必要があったのは水晶機巧の存在の公表、集団であることの強調、そして旅禍に対する姿勢の三つのみで、あれは()()()()()()()()()()()()()()なんだけどね。

……早く彼女が精神世界に潜れる時間が空いて欲しい。彼女の声も記憶ももっと沢山残しておかなければ。

 

 

 

 

 

 

 

失敗したのはボクだった。

これから彼女を死なせる事になったから、同じ轍を踏まないように忠告してあげたかったんだ。

 




今回の作業用BGM:「覚/醒」

某SFミステリで青い髪の概念存在の長身男子にぶち当たったので今青を見ると推し達の死に様がフラッシュバックする発作が出る(限界オタク)
護廷隊のガバを砕蜂さんが何とかしてくれる道筋頑張って見付けます…………


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