この凄まじい闘球に突撃を! (毒スライム)
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プロローグ

 享年17歳、ラグビーにこれまでの人生を捧げてきた俺は死んでしまったらしい。

 今俺がいるのは見渡すほどに白い空間であり、その空間にポツンと置かれた2つの椅子の、その片方に俺は座っている。

 

 どうしたものか、と椅子に座ったまま辺りを見回していると、俺の背後から1人の女性が現れた。

 透き通るサファイアのような美しい髪に、澄んだ湖のような水色の瞳。 そしてそれらを包むかのように身につけられた薄紫の羽衣が、彼女の美しさ強く強調していた。

 

「不幸にも、あなたは亡くなってしまいました。 勇敢なことに子供を庇い、二台のトラックに挟まれてね」

 

 その女性は対面にある俺の物と作りの同じ椅子に座った。

 歩く動作から椅子に腰掛ける動作、その全てに美しさがあった。

 

「どうしました?」

 

「……あ、いえ申し訳ない。 見惚れていたもので」

 

「ふふ、ありがとうございます」

 

 手を口元に当てて、笑顔を浮かべる女性。

 ここが死後の世界であるのならば、彼女は天使か女神なのだろう。 そうすれば、あの人間離れした美しさにも説明がつく。

 

「子供は…… 俺の助けようとした子供はどうなりましたか?」

 

「ご安心ください、あの子は小さな擦り傷を負っただけですよ。 ……それにしても、あなたには勇気と力が溢れていますね。 見ず知らずの子供の為に2tトラックを受け止め、更に後ろから来る大型車との間に挟まって二台を止めてみせるだなんて」

 

「大したことでもありませんよ。 1人の子供を救っただけです。 あ、俺の止めた二台に乗っていた人は生きていますか?」

 

「ええ、二台とも無事ですよ。 それに、あなたが救ったのは1人の子供だけではありません」

 

 女性は微笑みながら、何かの映像を俺に見せる。

 

「あの時、あなたが二台の車を止めていなければ、当然子供は轢かれて、更にあの二台が正面からぶつかって横転、歩道を歩いていた人が巻き込まれた上に車の燃料に引火し、爆発が起こってしまう運命でした。 あなたが救った人間は1人の子供だけではありませんよ」

 

 その映像に映るのは、おそらく女性の言う俺が車を止めていなかった場合の未来だろう。 確かに、凄惨な事故が起こっていた。

 

「そう言って貰えると助かります。 ……俺はこの先どうなるんですか?」

 

「あなたには、2つの道があります。 1つは、全く新しい人物として現代日本で再び生まれること、この際にはあなたの人格も記憶も肉体も全てが無くなってしまいます。 そして2つめは天国へ行き、そこで暮らすことです。 しかしこれはおすすめしません」

 

「何故でしょうか?」

 

 天国が勧められないと言うのはどう言うことだろうか。

 俺が及ばず、天国へ行くべき人物ではない、だとかそんな理由だろうか?

 

「天国には本当に何もないんです。 娯楽も、それを作るための材料も、肉体もありません。 できることは天国へ行った他の魂たちと世間話をすること、それを永遠に続けるだけなのです」

 

 まるで地獄のような場所だと思った。 そんな何もないところで永遠を過ごすなど、拷問のようなものだろう。 少なくとも俺はごめんだ。

 

「かといって1つ目も余りよろしくないです。 人格、記憶、肉体が無くなってしまうと言うのはあなたと言う人間が全く無くなってしまうことと同義です」

 

「……なるほど、2つ中2つがおすすめできない、となると3つ目の道があると?」

 

「はい、その通りです。 ……あなたがいた世界の他にもいくつか世界があります。 そのうちの1つの世界に行って欲しいのです。 その世界では魔王軍と人間の戦争の真っ只中で、当然魔王軍に酷い殺され方をする人間も出てきます。 そんな彼らは『また殺されるのは嫌だ』と、転生を拒否して天国へ行ってしまうのです。 そのせいでその世界では人口が不足しているのです」

 

 女性は悲しそうに語る。

 天使か女神からすれば、下界での戦争など悲しみのタネでしかないのだろう。

 

「そこで、私の管轄する日本で若くして死んだ人をその世界に送り込むことになったのです。 あわよくばその人間が魔王が倒すことを願って、人知を超えた力や武器、防具を渡して。 ……申し遅れました。 私、水の女神アクアと申します」

 

「そうですか、ではアクア様、俺はその世界に行きます!」

 

 アクア様は俺の言葉を聞き、表情を明るくして何処からともなく本を取り出してみせた。

 

「それでは、この本の中から欲しい能力や装備を選んでください。 この本の中に無いものも用意できますが、この本の中にあるものはかなり強力ですので、この中から選ぶといいでしょう」

 

「あ、いえ。 その本はなくても大丈夫です」

 

「欲しいものが決まっていると言うことですね? それでは何がいいですか? 余り度を超えたものは用意できませんが、それなりのものならば叶えて差し上げましょう」

 

「では、これから行く世界で一週間だけ生活ができるだけのお金をください」

 

「強大な力でなくて良いのですか?」

 

 不思議そうな顔をするアクア様。

 

「そんな風に一朝一夕で手に入れた力に頼るのは俺の趣味では無いので…… 一週間分の資金さえあれば、その間に何か仕事を見つけて一先ずは暮らしができるようになるでしょうから」

 

「無欲ですね…… よろしいでしょう、一週間分の資金ですね。 それでは、あなたとしては2回目の人生をお楽しみください。 そして、願わくばあなたが魔王を滅ぼさんことを。 その暁にはなんでも一つ褒美を与えましょう…… それではまた会いましょう、佐藤(さとう) 和樹(かずき)さん!」

 

 白い光の中に、体が飲み込まれて行く。

 そして気がつけば、俺の目の前には実際に見たことがあるわけでは無いが、中世の田舎町のような、そんな見た目の街並みがあった。



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第1話

 気づけば、俺は中世風の街並みの、大通りらしき場所にいた。

 土が剥き出しの地面の上を、馬車や人々が歩いている。 その中にはファンタジー感溢れる獣耳やエルフとやらのようなトンがった耳を持つものもいる。

 

「ふぅむ、一先ずは仕事を得なければ……」

 

 アクア様から頂いたお金は一週間。 それまでに仕事を見つけなければならない。 さてどうしたことか……

 

「ん? おい兄ちゃん、見ねえ顔だな! 冒険者になりに来たのかい?」

 

 急に背後から声を掛けられて、振り向くとそこには紫色の髪をモヒカンにして、肩パッドからサスペンダーを垂らしてズボンを釣った強面の男がいた。 目線は身長195の俺と同じくらい、かなりの巨漢だ。

 

 しかし、背後から話しかけて"見ない顔"ってのはどう言う意味だろうか…… いや、細かいことはどうでも良い。 取り敢えず彼に仕事を聞いてみるとしよう。 それが合法なのかの確認も忘れずに。

 

「いや、仕事を探してここに流れ着いてな! 冒険者ってのは儲かるのかい?」

 

「儲かるも何も、この街で新しくなるとしたら最も給料のいい仕事だぜ? その代わり、当然きつい仕事だ。 モンスター相手に命懸けで戦うことになるし、給料は基本的に依頼達成での報酬のみ! つまり手前でこなせる依頼がねえ時は収入も当然ねえってわけだ! それでも良いってんなら今から案内するぜ?」

 

 冒険者、か。 決まるべき魔王討伐のためにも、モンスターとの戦いになれた方が良いかもしれない。

 それに給料が依頼達成による報酬ならば、恐らく兼業もありだろう。

 それならば、冒険者になるだけなって依頼がない時は他のところで働くと言うのが上策か。

 

「おう、頼むぜ兄ちゃん! 稼ぎのアテが全くなくてな! 取り敢えずその冒険者になっておくとするぜ!」

 

「うっし、じゃあついてこい! ギルドに案内してやる! ここはアクセルの街、冒険者は大体がここで冒険者になり、そして旅立って行くんだ。 ま、ある理由でここに残る奴らもいるがな!」

 

 豪快に笑いながら歩く彼の後をついて行くと、2分とせずに目的地に着いた。

 意外と近かったんだな…… そして彼はギルドの戸を開け、近くにあったテーブルにドッサリと腰を下ろした。

 

「お、そうだ兄ちゃん。 金はあるかい? 冒険者になるためには1000エリスの登録料が必要になるぜ」

 

「1000エリスか…… 1000エリスって言ったらどれくらいだ?」

 

「何だよお前、通貨の価値も知らねえのか? そうだな……」

 

 モヒカンは数秒考えこみ、口を開く。

 

「まあ1000エリスもあればショボいもん二.三食は食えるくらいだろうな。 どうだ、持ってるか?」

 

「それなら多分問題ない、ありがとな」

 

 恐らくは大まかに1エリス=1円くらいの価値で考えて良いだろう。

 そして当然、一週間分の生活費の中に1000円は含まれている筈だ。

 

「良いってことよ! そんじゃ、ようこそ地獄の入口へ! 歓迎するぜ、新参者(ニュービー)!」

 

 ギルドの奥へ入って行くと、受付らしい場所があった。 何人もの男たちが、なぜか三つほどある窓口の中で一つだけに列になっている。

 気になってその列になっている窓口を見てみると…… なるほど、そこの受付はウェーブのかかった金髪の、巨乳のお姉さんだった! こりゃ男が並びたがるわけだ。

 まあしかし、俺は今は良い。 一先ず並んでいる人がいない窓口の近い方に行く。

 

「いらっしゃいませ。 登録ですか?」

 

「はい」

 

「でしたら、登録料として1000エリスを頂きます」

 

 受付のお姉さんの言葉を聞き、ポケットの中に手を突っ込んだ。

 そういや、俺がきちんと金あるか確認もしてなかった…… わかりやすい場所にありゃ良いが…… そういや俺は今ジーパンに黒のTシャツっていう風体だ。 着ている物にはどちらも見覚えがある…… 恐らく、休日に外出していた時に死に、その時の服でやって来たらしい。

 

 しばらく体を弄っていると、尻ポケットの中に財布を発見した。 これは見たこと無いな…… 黒くて光沢のある、滑らかな革製だ。

 取り敢えずその財布の紐を解いてみると、その中にはぎっしりと紙幣と硬貨とが詰め込まれていた。 まあそりゃ、一週間分の生活費を1つの財布に詰め込もうと思ったらそうなるか。

 

 その財布の中から、取り敢えず1000エリスっぽい感じのを取り出そうとすると、紙幣とは違う感じの一枚のメモが入っていることに気づいた。 それを取り出し、読んでみる。

 

【無欲なあなたは、女神からのオマケとして丈夫な財布を贈ります。 因みに、通貨の価値は1エリス=1円と考えてください。

 

 P.S 言語については転生の過程で学習しているのでご安心ください。】

 

 やはりあの女神様は優しい方のようだ。 しかし、円とエリスとの関係がわかっても、どの硬貨あるいは紙幣が1000エリス分なのかがわからない。

 

「あの、1000エリスって言ったらどんな感じのですか?」

 

「え? えぇ…… 金色の硬貨です」

 

 さすがに金の価値もわからない奴が来るとは思っていなかったのか、お姉さんは少し狼狽えながら教えてくれる。

 なるほどこれか、と一枚の金貨を引き抜いてお姉さんに渡す。

 

「はい、1000エリス確かに受け取りました。 それでは、冒険者カードを作成しますのでこちらの書類に身長、体重、年齢、身体的特徴のご記入をお願いします。 モンスターの討伐状況やレベルの確認、スキルの取得には冒険者カードを使いますので、失くさないよう注意してくださいね」

 

 お姉さんの言う通りに、差し出された書類に情報を書き込んで行く。

 にしても身体的特徴か…… 自分のを挙げるとなると難しい…… そうだなぁ…… デカい、でいいか。

 にしてもスキルなんてものもあるのか、何を取るのかで悩みそうだな。

 

「はい、結構です。 では、こちらのカードに触れてください。 それであなたのステータスがわかりますので。 その数値に応じて、お好きな職業を選ぶことができます。 選んだ職業により、経験を積むことであることができる専用のスキルが違いますので、それを十分に留意した上で選んでくださいね」

 

 なるほど、職業で取れるスキルが分かれているのか……

 と思いながらカードに手を触れると、そのカードを見たお姉さんが何かに驚いたのか大声を上げ、多くの客で賑わっていたギルドの注目が俺に集まる。

 

「あ、あのこれ…… 生命力と敏捷性は平均よりかなり上で、それで魔力と運は平均よりも下なんですが…… 筋力が異常に高いんです。 多分、筋力に秀でた職業であるクルセイダーが最大までレベルを上げた時と同じくらいに……」

 

 受付のお姉さんがいい終わり、少しギルドがシンとした後に、凄まじい騒音に包まれる。 声だ、周りの人たちの声だ!

 

「すっげえなあんた! なあ、うちのパーティーに入らねえか!? 丁度前衛探してるところでよ、可愛い女魔法使いもいるぞ?」

「いやいや、うちに来てくれ! うちのパーティーは金があるからきちんとした宿屋に泊まれるぜ!?」

「私のところに来てよ! パーティーメンバー4人で女性率100%だよ、ハーレムだよ!」

 

 等、勧誘の内容が殆どである。

 俺が慌てていると、目の前の受付のお姉さんが話しかけてくる。

 

「これなら1番最初から上位職のクルセイダーになれますよ! 全職業中最高の防御力を持つ職業です! あとは武闘家ですね…… あと、その上位職の…… 狂戦士(バーサーカー)……とか?」

 

 今の間は一体なんだろうか。 っていうかなんで武闘家がいきなり狂うんだ? 職業のレベルが上がるまでの間に何かあったのだろうか?

 

「説明しますと、狂戦士(バーサーカー)っていうのは『いたら助かるけど自分はなりたくない』みたいな感じの職業です。 専用のスキルは下位職業である武闘家からは増えませんが、その代わりにある固有のスキルが初期から習得されています」

 

「そのスキルは?」

 

怒髪天(アングリー・ゲージ)…… 敵から攻撃を受ければ受けるほど、攻撃力が上がっていくというスキルです。 当然、そのスキルを持つ狂戦士(バーサーカー)は場合によっては盾の役割を果たすクルセイダー以上に被弾をする、それもわざと敵の攻撃に当たるような立ち回りを求められるような場合があります。 当然、大多数の人は痛いのが嫌なのでなりたがらないんですが……」

 

 今受付のお姉さんから感じる視線と、周りの奴らから感じる視線は多分『狂戦士(バーサーカー)になってくれたら嬉しいな〜』っていう感じの視線だ! ……しょうがない、痛みにはなれてるし、なってしまおう!

 

「では、狂戦士(バーサーカー)でお願いします!」

 

「本当ですか! なってくれますか! ありがとうございます! それではギルドのスタッフ一同、今後の活躍を期待しています!」

 

 受付のお姉さんが言い切ると同時に、周りから拍手だの歓声だのが沸き立つ。

 色んな大会で優勝したり優秀選手賞を取って、注目を浴びることがあったが…… 何故だろう、今が1番照れ臭い。

 

「……ん? 何でしょうかね、このスキル」

 

 と、その拍手は受付のお姉さんの言葉によって疎らになり、消えた。

 

「武器破壊? 相手の武器を壊すスキルでしょうか? なんにせよ、前例のないスキルですね、これは本部に報告しないと……」

 

 そしてその言葉で、もう一度沸き上がるのであった。

 

 ♢

 

 そして俺は、いつの間にか街の外に出ていた。

 結局あの後、1つのパーティーと一緒にちょっとしたクエストに行くことになって、そのクエストの内容が討伐であり、それは当然街の外で行われる。

 

 確かにジャイアントトードとか言ったはずだ。 巨大蛙か…… ちっこいやつなら愛嬌もあるんだが、あまりでかいのは勘弁だな…

 

 因みにパーティーメンバーは3人、盗賊の若い男、魔法使いの少女、そしてプリーストの老人だ。

 最近戦士が実家の事情により地元に帰ることになり、前衛職を募集したいるらしいので、ちょいとついて行くことにした。

 

「んじゃ、よろしく頼むぜカズキ! 取り敢えず色々お古の武器とかもあるから、好きなのを使ってくれ!」

 

 盗賊の男が背負っていた荷物を降ろし、中身を見せる。

 短剣、直剣、曲剣、大剣、槍、棍棒など選り取り見取りだ。 聞けば、パーティーを抜けた戦士が大体の武器を使えたらしい。 その戦士が以前まで使っていた装備が余っていたので、俺の手に馴染む武器を見つけるためにも貸してくれるそうだ。

 

「じゃあまず…… 短剣から行ってみるか、それで、敵はどこに?」

 

「この辺に生息してるから、ちょっと探せばすぐに出てくるはず…… お! いたぞあいつだ!」

 

 盗賊の男の指差す方には途轍もなく巨大な蛙がいた。

 ……え? なにあれ想像の5倍はでかい。 羊くらいなら丸呑みにできそう。

 

「さっきも言ったがあいつはジャイアントトード! このシーズンの稼ぎやすいモンスターだ。 まあ、見ての通りめちゃくちゃでかくて、家畜の羊だのを食っちまって被害が出るんだよ。 あと、何故かこいつのいっぱい出てくる季節には人間の子供とかも行方不明になるらしい……」

 

「お、おう……」

 

 怪談チックに語る盗賊の男。

 しかしあんなでかいのを倒せんのか……

 

「じゃあ、俺たちも援護するからあいつと戦ってみてくれ! 打撃系は効きにくいから注意してくれよな!」

 

 盗賊がサムズアップをして、短剣を構える。

 

「魔法なら任せてね!」

 

 と、魔法使い少女。 それにしても魔法か…… 魔力は低いらしいが、なんとか使えないだろうか。

 

「必要ないかもしれないけど、回復は使えるから安心して戦って来なさい」

 

 プリーストの爺さんが言う。 この人はなんて言うか、紳士的で清潔感のある聖職者らしい人だ。

 

「よし! 行くぞ!」

 

 近くまで寄って来た蛙に、躊躇いながらも短剣を振る。

 因みにその躊躇は生物を殺すことへの忌避感が5割、こいつ殺したら体液被りそうで嫌だなぁ、って言うのが5割である。

 

「うおぉぉぉぉ!!」

 

 短剣を振るのには相応しくない雄叫びをあげながら、横長に短剣を振るう。 高い筋力により振るわれたその短剣は弧を描き、蛙の肉を切り裂く……… 前に、ポキッと折れてしまった。

 

「はぁ!?」

 

 急に折れてしまった短剣に目を奪われている隙に、蛙の舌が俺を絡めとり、口の中にぶち込まれてしまう。

 

「カズキィ!?」

「「カズキさん!?」」

 

 臨時のパーティーメンバーの驚く声を聞きながら、閉じられた蛙の口をこじ開け、新鮮な空気を確保した状態で蛙の口内を蹴る、蹴る、蹴りまくる。

 ゲコ、ゲゴォ!? と情けない声をあげ暴れ回る蛙が大人しく…… 多分死んで地面に横たわったときに、その口の間から這い出た。

 

「あぁ…… ビックリした。 まさか折れるとは思わなかった……」

 

「だ、大分ガタがきてたみたいだ…… すまん!」

 

「いや、いいよ…… むしろ武器壊しちまって悪いな」

 

 地面に両手をつきながら立ち上がる…… うわぁ…… 蛙の体液だらけだぁ……

 

「だ、大丈夫なの? カズキさん」

 

「回復かけようか?」

 

「いや、多分体力は減ってない…… 精神にはキてるけど……」

 

 粘液塗れだよこんちくしょう……

 

「気を取り直して次に行こう! 次は大剣借りていいか?」

 

「あ、いいよ! 次は折れても直ぐに助け出せるように用意しておくから!」

 

 荷物の中から大剣を取り出し、丁度良く現れた蛙の方へ走る。

 次こそはきちんと倒す!

 

「そおぉぉぉぉぉぉい!!」

 

 渾身の力で大剣を振り下ろす。 人間離れした筋力により、凄まじい勢いで振り下ろされるその剣は蛙の肉を切り、骨すらも両断する…… 前に、根元からポキッといった。

 

「またかよ!?」

 

 大剣に目を奪われている隙に、再度ジャイアントトードの舌が巻きつく。 だがしかし、今度の俺は飲み込まれはしない。

 その下を逆にひっ掴み、そして全力で引っ張る。

 ゲコォ!? と驚きの声をあげながら、蛙が俺の上を飛んで…… 否、飛ばされて行く。 そのまま舌を強く掴み、全力でぶん回して地面に叩きつける。

 ドォン! 途轍もない音が響き、地面が揺れた。

 蛙は何度か身じろぎをすると、微動だにしなくなる。

 

「ハァ… ハァ…」

 

 また粘液がついて少しばかり精神にきたダメージを回復させていると、盗賊の男が駆け寄ってくる。

 

「カズキ! だ、大丈夫か!? なんでこうも簡単に武器が……」

 

 そんなの俺が聞きたい、とそう返そうとした時、頭の中に俺の冒険者カードに示された1つのスキルが思い浮かんだ。

 まさか……

 

「なぁ、俺のスキルにさ、武器破壊ってあったろ?」

 

「ああ、あったが…… もしかして……」

 

「あれ、自分の武器をぶっ壊すやつだったんじゃないか……?」

 

「……嘘だろ?」

 

 驚きに包まれた表情になる盗賊の男。

 遅れてやってきた魔法使いの少女とプリーストの爺さんが事情を聞いてくる。 ので、それに対して今の推測を話してみる。

 

「まさか…… そんなことが……」

 

「いや、武闘家の上位職なのだからありえるかもしれない。 カズキさん、ちょいとこの直剣を振ってみてくれないかな?」

 

「あ、ああ…」

 

 爺さんから手渡された直剣を適当に振ってみる。 そうすると…… その直剣は根元からポッキリと割れ、刃の部分が回転しながら飛んでいった。

 

「どうやら、本当にそのようだな……」

 

 その後、俺は怒りのままに素手でジャイアントトード10体ほどを討伐してアクセルの街に帰還した。



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