ハイスクールD×D ~Pagan Gods from the Old Testament~ (カイバル峠)
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第0章 目覚め
始動


始動

 

 

 

――――主を知らず、主がイスラエルに行われた御業も知らない別の世代が興った。

 

――――イスラエルの人々は主の目に悪とされることを行い、異教神(バアル)に仕えるものとなった。

 

―――― 彼らは主を捨て、バアルとアシュトレトに仕えた

 

―――― 主はイスラエルに対して怒りに燃え、彼らを略奪者の手に任せて、略奪されるがままにし、周りの敵の手に売り渡された。

 

――――彼らはもはや、敵に立ち向かうことができなかった。

 

                               土師記2:10~14

 

 

 

 

 

「随分と呆気ない結末だな・・・」

 

「まぁ、因果応報って奴じゃない?」

 

「そうね、こればかりは同情の余地なしね。」

 

紫色の空。

 

無数のクレーターに抉られた大地。

 

小高い丘の上から見下ろす3人の人物。

 

一人は男性、肩甲骨下まで届く燃えるような鮮やかな緋色の髪、日輪の如き黄金の瞳。恐ろしいまでに整った顔立ちはさながら美の極致ともいえる様相を呈している。

 

もう二人は共に女性で、一人はやや赤みがかった金色の長髪に紫苑の瞳、もう一人は白銀の長髪に紅玉の如き真紅の瞳で、二人とも神々しい程の絶世の美女である。二人の顔立ちはよく似ているが、金髪の方の女性は人懐っこくもややシャープな印象を受け、それに対して銀髪の女性は輪郭はやや柔らか目だがどこか理知的な印象を与えるなど、髪と瞳の色も相まって、対照的な姉妹のようにも見える。

 

外見上は皆10代後半から20代前半までだろうか。

 

「フフフ…しかし皮肉なものだな。あれだけあちこちの勢力に喧嘩売って信者を奪っておきながら魔王共々死ぬなんて」

 

緋髪の青年は皮肉気な笑みを浮かべつつ、目を細める。

 

「そうね。奪われた側はまだ多くが生き残っている上に私達まで実は生きていたのだから。」

 

銀髪の少女が青年の言葉に応える。しかしその表情はどこか複雑な心情を現しているようだった。

 

「まぁ、自業自得でしょ。バラバラな教えを広めた所為で信者同士で殺し合いは起きるし、勝手に戦争初めて魔王と共倒れして聖と魔のバランスを崩し世界のあちこちで問題起こす始末。これだけ問題起こして・・・まったくどっちが邪神だの疫病神かっての。」

 

二人の言葉を受け、金髪の少女はそうすることが当然とばかりに悪態をつく。

 

「しかしまぁ、本当に厄介なことをしてくれたもんだよ、アイツは。主神を失った神話ほど脆いものはないからな―――これから世界は確実に荒れる。」

 

「神を失った天使、魔王を失った悪魔。おまけに連中も今回の大戦で数を大きく減らした以上他の神話勢力に攻め込まれたらオシマイだものね。」

 

「でも魔王がいないってことは悪魔共はお兄ちゃん達を血眼になって探すんじゃない?連中が私達の生存を知っていればの話だけど。」

 

「そうでないことを願いたいね。奴らの政治問題につき合わされるなんて御免だ。」

 

青年は心底面倒くさそうに息をつき、暫しの間静寂が訪れる。

 

「・・・それで、これからどうするの?どうせ兄さんのことだから戻る気はないんでしょ?」

 

沈黙を破ったのは銀髪の少女の声。

 

「ハハハ・・・そうだな。あいつらはあいつらでまた面倒くさい。できるものならどこかで静かに余生を過ごしたいものだが。」

 

「何か年寄臭いわよ。」

 

「いや、事実年寄だし。」

 

「フフフ、でも変わったわよね。昔は寧ろ積極的に争い事にも首突っ込んでたのに。」

 

「若気の至りだ。それとも・・・こんな年寄り臭い兄は嫌か?」

 

「うっ・・・そりゃ、嫌じゃないけど・・・(うぅ、そんな目で見られたら嫌なんて言えないじゃないの///)」

 

少々寂しげで自嘲じみた、しかし同時にわざとらしくもある表情だが、そんな目で見つめられては少女もそう返さざるを得なかった。

 

「・・・で、結局どうするワケ?」

 

二人だけで良いムードになっていたのがさぞかし気に食わなかったのか、金髪の少女が半眼で口を尖らせながら切り出す。そんな少女の心中を察してか、青年は微笑みながら彼女の頭を撫でてやる。

 

「ハハ、悪い悪い。」

 

「むぅ・・・///」

 

撫でられた少女は頬を赤らめながら俯く。

 

「さて、これからどうするか、だが・・・お前達はどうしたい?」

 

青年は改めて問いかける。

 

「そうね、どの道特に行く当てもないわけだから任せるわ。どこへでも着いて行くわ。それに着いていけば退屈しなさそうだし。」

 

「私はお兄ちゃんに着いて行くだけだよ!」

 

二人の少女は躊躇うことなく答える。

 

「フフフ、そうかい。」

 

青年は口元に小さく笑みを浮かべると一言。

 

 

 

 

「ありがとうな」

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

彼らがどこへ向かったのか、それを知る者は誰一人としていない。

 

ただ一つ言えること、それは世界が大きな転換期を迎えようとしているということだけだった。

 

 

 




どうも、この度書き直させて頂きました、カイバル峠です。

第一話は若干前作一話の二番煎じみたくなってしまいましたが、前作からの方針転換及びキャラの性格・設定変更等々、次回辺りから本格的に変更点が現れてくると思います。

まだまだ至らぬ点も多いので、御指摘頂けると有り難いです。

それでは失礼いたしました。


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キャラ設定(1)

連投です。


キャラ設定(1)

 

 

アダド/バアル・ハダド

 

種族:神族

容姿:緋色の長髪(普段は黒くしている)、金色の瞳でかなりの美形

詳細:

嵐と雷を司り、天地の支配者として、カナン・フェニキアを始め、エジプト、メソポタミアに至るまで広く崇拝された天空神にして豊穣神。

太陽神、戦神、予言神としての性質も持つ。

カナン地域では主神であり、旧約聖書『イザヤ書』『エレミヤ書』にも異教神バアルとしてその名を記された。また、アヌンナキの50の偉大なる神の一柱として、アダドの名でも知られ、シュメール時代はイシュクルの名で崇拝された。

ゼウス、インドラにも見られる、稲妻を掲げる雷神というスタイルは彼が発祥とも言われる。

悪魔における旧魔王ベルゼブブ、元72柱序列1位のバアル家などは元を辿れば彼の分霊が闇に閉ざされた冥界で時代を下るにつれ神性と光に対する耐性を失ったものである。

聖書の神とは悪魔や堕天使の誕生以前から争いが絶えず、古来より絶大な力を誇り、力だけ見てもゼウス、インドラ、トールを大きく上回るも、遥か昔に聖書の神に後述のアスタルテらと共に滅ぼされたとされ、公式には死亡扱いになっている。(生命を司る神として不滅性があるために完全に滅ぼすことは不可能)

悪魔の間では祖神として崇拝の対象となっている。

昔は好戦的な性格であったが今では鳴りを潜め、少々ニヒリストじみた言動をとることもしばしば。

人間界では有馬崇哉(ありまたかや)と名乗る。

 

 

 

 

アスタルテ

 

種族:神族

容姿:白銀の長髪、真紅の瞳で絶世の美女

詳細:

世界の創造、破壊と再生を司り、霊魂の管理も担う太母神。

ギリシャの愛の女神アフロディーテらと同じく、神々の中でもとりわけ古い起源を持つバビロニアの太母神イシュタル(イナンナ)の系譜を引く女神で、カナン・フェニキアでは最高位の女神として崇拝され、聖書にもバアルと共に異教の女神アシュトレトとして登場する。『天の女王』『世界の真なる統治者』の異名を持つ。

悪魔における元72柱序列29位アスタロト家もバアル家等と同様の経緯で成立したものであり、悪魔の祖神の一柱として知られる。

アダドの妻兼妹分にして彼と同等の力を誇り、聖書の神とは非常に古い時代からの因縁があるも、彼と同じく現在では死亡扱いとなっており、その名が表舞台に上がることは少ない。

理性的で面倒見も良いが気分屋な一面もあり、時々腹黒い発言をする。

人間界では咲桐明日香(さかぎりあすか)と名乗る。

 

 

 

 

アナト

 

種族:神族

容姿:赤みを帯びた金髪、紫苑の瞳で絶世の美女

詳細:

カナン・フェニキア地域で崇拝された愛と戦い、そして死と再生を司る女神。

アスタルテと同様、イシュタルの系譜を引く女神で、彼女の妹。

『天后』の二つ名を持つ。

アダドの妻兼妹分で、戦闘力に限定した場合アダド、アスタルテを上回り、神格中トップクラスの実力を誇る。彼らと同じく公式に死亡扱い。

アダドに狂おしいまでの愛を捧げるブラコンであり、彼に仇名すものは神や魔王であっても抹殺するというヤンデレでもある。また、バーサーカーでもあるので、戦闘時には一度スイッチが入ると歯止めが利かなくなるとして夫や姉からは極力戦わないように言われている。

人間界では咲桐杏奈(あんな)と名乗る。

 




旧作だとオリヒロインが没個性的になってしまったので、今回はそちらの描写にも力を入れたいです。

お目汚しにどうぞ

アダド
【挿絵表示】


アナト
【挿絵表示】


アスタルテ
【挿絵表示】


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旧校舎のディアボロス
始まりの夕暮れ


遅くなって申し訳ありません。
リメイクとか言っておきながらこの調子で~_~;

本来はもっと長くなる予定だったのですが、あえて次話に回すことにしました。
そのため後半がやや中途半端に感じられるかもしれません。




始まりの夕暮れ

 

 

 

 

「私と付き合って下さい!」

 

俺の名は兵藤一誠、周囲からはイッセーと呼ばれている。

 

あの日、俺は唐突に、人生初の告白を受けた。

相手の女の子の名前は天野夕麻(あまのゆうま)ちゃん。

俺とは違う学校に通う子で、艶やかな黒の長髪、整った顔立ち、スレンダーな肢体、そして豊満な胸の膨らみを持った美少女だ。

 

俺が通う駒王学園は近年共学になったばかりの元女子高で、その為必然的に女子の比率が圧倒的に大きい。

それ故に女子の発言力が強いし、生徒会も会長を始め殆どのメンバーが女子生徒で構成されている。

 

では何故俺がそんな駒王学園に通っているのか?

 

答えは一つ。

 

女子に囲まれて授業が受けたかったからだ!!

 

女子生徒の比率が大きければ大きい程当然その確率も高くなる。

入学早々に一人目の彼女をゲット、そして出会いと別れを繰り返し、あわゆくばハーレムを…!!

 

そうなるはずだった。

 

 

 

しかし現実とは往々に無常だ。

 

 

 

実際のところ、この学校でモテているのは一部のイケメンのみで、俺のような奴は女子からすれば眼中にも入っていない、いや、それどころかその辺に落ちてるゴミと同等以下の認識しか持っていないというのに…

 

お蔭で未だに彼女の一人もできていやしない。

 

やはり世の中最終的には顔なのか?

 

クソッ!!

 

何たる理不尽!!

どうして神様は人間の顔の作りにここまで差を付けたんだ?!

何故だ?!

 

……それとも原因は俺の嗜好にあるとでもいうのか?

 

確かに俺自身、自分の性よ…ゴホン、異性に対する興味、とりわけ女性の胸への情熱が人一倍強く、同時にそれを生き甲斐としていることは自覚している。

この前も悪友二人に誘われて女子更衣室を覗こうと試みたくらいだ。

 

……まあ、結局覗けず、おまけに激昂した女子の報復まで受ける羽目になったが。

 

そんなこんなで俺の評判は件の悪友二人と共に変態だの性欲の権化だのとすっかり地に落ちてしまっている。

 

どうしてだ?それのどこがいけないんだ?

 

だが男が女を求めるのは自然の摂理、健全な男子高校生なら興味があって当然のことだろう?!

 

なのにどうしてここまで除け者にされないといけないんだ?!

 

ああ、揉みたい、おっぱいが!!

 

そんな煩悩に塗れて悶悶と日々過ごしていた俺にとってあの告白は正に人生の転機だった。

 

やはり天は俺を見捨ててはいなかった!!

 

あまりの嬉しさに悪友二人を始め、色んな奴に自慢した。

「あの兵藤が?!あり得ない!!」とか「きっと弱みを握って脅してるに違いない!!」だとか失礼なことを言う奴らもいた。

 

ハハッ、負け犬の遠吠えだな!!

 

悪友二人なんて血涙流して悔しがってたよ。

 

誰が何と言おうがこれで俺も晴れてリア充の仲間入りだ!!

 

そして今日は念願の夕麻ちゃんとの初デート。

念入りに練ったプランに沿って買い物、ランチと順調に進んでいった。

勿論フォローもバッチリだ!

 

そしていよいよデート終盤。

噴水のある小さな公園に差し掛かると、夕麻ちゃんは少し速足で俺と距離をとる。

そして俺達を祝福するかのように幻想的な色に染まる空をバックに、俺と夕麻ちゃんは向かい合う。

 

「今日は楽しかったね。ねぇイッセー君、私達の記念すべき初デートってことで、一つ私のお願い聞いてくれる?」

 

おお、これはッ!!

 

きっとアレ……キ、キスに違いない!!

 

「な、何かな、お、お願いって?」

 

多少声が上ずってしまったが何とか承諾の意を示す俺。

 

そして彼女の口から出た言葉は……

 

 

 

 

「死んでくれないかな?」

 

 

 

 

……はい?

 

気の所為だろうか?

 

今、何て…

 

俺は思わず聞き返す。

 

すると

 

 

 

「死んでくれないかな?」

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

ついさっきと同じ言葉がすぐ耳元で囁かれる。

とても先程までデートしていた人物が発するとは思えない言葉だった。

言葉ばかりではない。

その時の彼女の声音、表情、雰囲気、全てが全くの別人の如く変貌していた。

 

次の瞬間、彼女の服装は年相応の可愛らしいものからとても人前を歩けたものでないような露出過多なものへと変化する。

 

下にあのような衣装を着込んでいたというわけではあるまい。

その証拠に、彼女がさっきまで着ていた服は綺麗さっぱり無くなっている。

そう、まさしく変化としか言いようのない現象だった。

 

このような、他に誰もおらず、何の種も仕掛けもないような公園でそんな手品ができるなど、到底人のなせる業ではない。

そしてその裏付けとなる、先程まで確認できなかったモノが彼女の体より生じていた――――――――人外であることを示す一対の黒翼が。

 

彼女の変貌を間近で目にした少年―――兵藤一誠は変化の際、一瞬僅かに彼女の胸が見えたことに一度は歓喜するも、それを目にして現実に引き戻される。

 

「楽しかったわ。アナタと過ごした僅かな日々。初々しいままごとに付き合えて。アナタが買ってくれたコレ、大切にするわね。だから…」

 

腕に付けたアクセサリーを見せながら、冷淡な声音で告げる彼女。

しかしその目は明らかに言葉通りの思考は微塵も持ち合わせていないことを物語っていた。

そこには最早つい数時間前まで一人の少年に屈託のない笑顔を向けていた少女、天野夕麻の面影はない。

あるのは……冷酷な笑みを浮かべる異形の女の表情(かお)だった。

その表情はどこまでも蠱惑的で、淫靡で、そして美しい。

 

 

「死んで頂戴」

 

 

口より紡がれる死の宣告。

 

彼女は手に己が光力を収束させ、光の槍を創り出すと、そのまま目の前の少年に向けて放つ。

 

今日まで魔法のようなファンタジーとは無縁な世界に生きてきた少年は目の前の余りにも急すぎる、そして非現実的な展開に理解が追い付かず、ただただ動揺し、困惑するばかりで、当然のことながら回避行動にまで思考が回るわけがない。

 

そして――――

 

 

ドスッ

 

 

「っ?!」

 

 

――――少年の腹部に光の槍が深々と突き刺さる。

 

槍は躰を貫通しており、その槍が、彼が先程まで天にも昇る気持ちで共に時間を過ごした少女の手より飛来したものであることは、彼女の手からそれが無くなっていることから見ても明らかだった。

彼の躰を穿つその役目を終えると同時に霧散する。

後に残ったのは腹部に空いた大きな風穴と、槍が無くなったことで阻むものがなくなり、思い出したように吹き出す鮮血のみ。

 

素人眼に見ても致命傷は必至であった。

 

「ゴメンね。アナタが私達にとって危険因子だったから、早目に始末させてもらったわ。恨むならその身に神器(セイクリッド・ギア)を宿した神を恨んで頂戴。―――――素敵な思い出をありがとう」

 

既に意識も混濁し、物言わぬ屍となりつつある少年に全く悪びれる様子もなく死の理由を語ると、冷たい笑みを浮かべながら天野夕麻、否、黒翼の異形は飛び去った。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

マジかよ……

 

こんなちっぽけな公園で、こんなわけ分かんねぇことで俺は死ぬのかよ……

 

セイ…なんだっけ?そんなわけの分からないモノの所為で……

 

それにどうせ殺すならおっぱいくらい揉ませてくれたっていいじゃないか……

 

ハハッ、もうすぐ死ぬってのに、何考えてんだろう、俺……

 

それにしても薄っぺらな人生だったなぁ……

 

ふと、俺は血濡れた手を目の前に翳す。

 

―――紅い―――――

 

その時、脳裏に一人の美少女の姿が浮かんだ。

 

紅い髪をした、あのヒトが……

 

どうせ死ぬのなら、でももしも生まれ変われるのなら、あんな美少女の胸で死にたい……

 

急速に死が近づく中、そんな場違いなことを考えている時だった。

 

視界の隅に赤い光が映ったような気がした。

 

「あなたね、私を呼んだのは。」

 

誰だ……?

 

最早視界が霞んでしまって判別できない。

 

「へぇ…面白いことになっているじゃない。そう、あなたが…」

 

…一体何を言っている…?

 

「いいわ。どうせ死ぬなら、私が拾ってあげる。あなたの命―――――私

の為に生きなさい。」

 

気の所為だろうか……

 

意識が途絶える寸前、視界に紅と羽のようなものが映ったような気がした……

 

 

 

 

「ふぅ…いいねぇ、何事もないって言うのは。」

 

俺の名は有馬崇哉、今はそう名乗ってる。

“そう名乗ってる”というのは冗談じゃなく、本当の名は別にあるからだ――――――今となってはもう名乗る必要さえない真名が。

 

今は色々事情があって極々ありふれた高校生をやってる。

 

さて、授業も終わったことだしいつもの通りに約束の場所へ行くか。

 

そう思って席を立とうとした時だった。

 

「なァ!おい、崇哉!」

 

「んぁ?」

 

尋常じゃない様子で一人の男子生徒が俺に掴み掛ってくる。

コイツの名は兵藤一誠。

俺が通うこの学校、駒王学園ではその名を知らぬ者はいない――――悪い意味で。

年中発情期のような奴で、常に女の胸を求めてやまず、口を開けば卑猥な単語がマシンガンの如く次から次へと飛び出す、一言で表すのなら救いようのない変態なのだ。

おまけに性質の悪いことに松田、元浜というこれまた本能に任せて生きるているような連中とつるんで日々下品且つ卑猥なこと極まりない言動を繰り広げているのだから手に負えない。

だが何の因果かは知らないが、俺はそんな変態とクラスメートなのである。

 

……甚だ不本意だが。

 

思えば初めてコイツと話したのは、コイツが悪友二人と共に俺の連れ二人に色眼鏡使っていたので殺意が湧いて少々O☆HA☆NA☆SHIしたのが最初だったか……。

 

全く、彼女が欲しいとか言うのであれば少しは欲望を抑える術を学べというんだ。

話してみれば根は良い奴だし顔も別に悪くないんだからその卑猥な言動を慎めばモテなくもない…気がしないでもない、多分だが。

 

ハァ、仕方がない。

 

いつもだったら無視してやるところだが、いつになく真剣だから答えてやるか。

 

「それで、俺に何の用なんだ?常日頃から欲情し、女子更衣室を覗くような性犯罪者予備軍のイッセー?」

 

「ちょっ?!いくらなんでも早々にその発言は酷いだろ!!つーか何でそのこと知ってるんだよ?!」

 

「なんだ、本当にやってたのか。因みに今のはカマ掛けただけだぞ。」

 

「なっ?!」

 

まあ、からかうのはこの辺にしておこう。

 

「それは兎も角……結局何の用だ?」

 

取り敢えず話を聞くという姿勢を示すと再び真剣な表情に戻る。

 

「ああ、実は……お前、天野夕麻ちゃんて覚えてるか?」

 

天野夕麻……ああ、そういやコイツこの前彼女が出来たって自慢してきたっけ。

 

となると……やはりか。

 

「それで?その子がどうかしたのか?」

 

「それが……皆、誰一人として夕麻ちゃんのこと覚えてないって言うんだよ。松田も、元浜も、確かに紹介したはずなのに、デートだってしたはずなのに……。そればかりか写真もメアドも消えてるし夕麻ちゃんが着てた制服の学校にも行ってみたけどそんな子いないって言われたんだ。それでもしかしたら、お前なら覚えてるんじゃないかと思って。」

 

……ああ、確かに実在していたよ。

 

正直コイツに紹介された時は驚いた。

本人は上手く気配を誤魔化していたつもりだったんだろうが。

 

だが見たところコイツは真相を知らないようだな。

それどころかこの様子だと今自分がどういう存在になったのか知っているのかすら怪しい。

 

……いや、“主”が敢えて教えていないという可能性もアリだな。

 

なればここで覚えていると答えるのは得策ではない、か。

 

「いや、悪いがそんな子は知らない。」

 

「そうか、悪かったな……」

 

納得のいかなさそうな様子でイッセーは去っていく。

 

……さて、俺は当初の通り所定の場所に向かうとしよう。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

屋上に行くとそこには二人の少女がいた。

 

「あっ、お兄ちゃん!」

 

そのうちの一人が俺に気付いて声を上げる。

 

「すまないな、遅くなって。」

 

「いえ、全然問題ないわよ。でもどうしたの?兄さんが時間に遅れるなんて珍しいじゃない。」

 

最初に俺に気付いた方が咲桐杏奈で、次に俺に声を掛けてきた方が咲桐明日香。

二人は姉妹だ。

因みにこの二人は戸籍上(・・・)は俺と同い年となっているが、俺のことを兄と呼ぶのは昔からの癖のようなものだ。

この二人との付き合いは非常に長い。

ついでに言っておくと二人とも俺と同じく本名ではない。

 

「いや、ちょいとどこぞの変態に絡まれてな。」

 

すると杏奈の表情が一変する。

 

「はぁ?!あのケダモノ共が邪魔してきたの?!……ますます許せないわね。他人(ひと)のこといやらしい目で見るばかりでは飽き足らずお兄ちゃんを穢そうとまでしてくるなんて……!!」

 

杏奈の体から怒りのオーラが立ち上る。

 

頼むからここでキレるのだけは辞めてくれ……

 

「まあ落ち着きなさい。それで、その変態のことなんだけど」

 

そう言って杏奈を宥めつつも俺がついさっき言った変態について尋ねてくる明日香。

 

「……間違いないだろうな。“悪魔”になっていたからほぼ確実だ。」

 

「そう、やっぱり“堕天使”の仕業なのね。すると兄さんの言っていた通り…」

 

「ああ……神滅具(ロンギヌス)級のシロモノなんだろう。」

 

俺は頷きつつ答える。

 

そう、俺が変態―――イッセーと敢えて付かず離れずの関係を保っていた理由の一つはアイツがその身に厄介なモノを宿している可能性があったからだ。

 

「でも確かお兄ちゃんが言うにはアイツに宿ってるのってドラゴン系のなんだよね?それだと赤白くらいしか思いつかないんだけど……よかったの?」

 

明日香に宥められ、怒りの解けた杏奈が聞いてくる。

確かに彼女の言うことは尤もだ。

仮にイッセーの神器がドラゴン系の神滅具――――『赤龍帝の籠手』(ブーステッド・ギア)乃至『白龍皇の光翼』(ディバイン・ディバイディング)であった場合、使いこなすことができれば無類の戦力となる。

神滅具とは文字通りに極めれば神や魔王……一部例外はいるが……を滅ぼせるとさえ言われるものなのだから。

そしてアイツが悪魔へ転生したことはその神滅具を悪魔側が手にしたことを意味する。

 

「確かに、もし神滅具ならその戦力を悪魔側が保有したという点で三勢力間の均衡のみならず世界そのものに影響を及ぼすかもしれない。だが正直なところアイツのスペックでは現状、とてもじゃないが使いこなすのは不可能。それでも何かのはずみで暴走する可能性もゼロじゃない。」

 

『赤龍帝の籠手』と『白龍皇の光翼』はそれぞれ神や魔王をも凌ぐと称された二天龍、『赤い龍』(ウェルシュドラゴン・ドライグ)『白い龍』(バニシングドラゴン・アルビオン)を封じたモノであり、神器の究極と言われる『禁手』(バランス・ブレイカー)とは別に『覇龍』(ジャガーノート・ドライブ)が存在する。

しかしこれは『禁手』と違い一種の暴走に近く、生命力を対価に発動する。

事実、歴代所有者達はその多くが『覇龍』によりその命を散らしたというほどだ。

 

「つまるところ堕天使側が危惧したのは神滅具が他勢力の手に渡ること、及び神器の暴走なのだろう。それで始末した……しかし結果として悪魔の手に渡るという皮肉な結果になったわけだがな。だがまあそれはそれだ。結果として悪魔という(保護者)ができた以上野放しになるよりはマシだろう。」

 

「なるほどね、暴走すれば抑えるのは主……でも『覇龍』の力は余りにも絶大、今のこの町を管理する悪魔っ娘二人とその眷属では到底手に負えないから必然的に魔王の役目となるわけだものね。けれど兄さんの言う通りであるなら、もし堕天使側が彼が悪魔として転生したことを知った場合……また彼を狙うでしょうね。」

 

「問題はそこだよ。どのみちこの町では俺達はあまり自由には動けない。故に今回の件も黙認するしかなかったわけだが。」

 

「まあ、正直なところ無理して助けて連中に目を付けられるくらいなら助ける必要ないと思うけどね~。パッと見て思ったけどとりわけグレモリーの方はしつこそうだし。」

 

「確かにな……」

 

流石に目の前で、ともなれば話は別だが。

 

正直今あちこちから目を付けられるようなことは避けたい。

 

 

 

だが、

 

 

 

「……が、いづれは……正体を明かさねばならぬのやもしれんな……」

 

俺の言葉に二人が息を呑むのを感じた。

 

―――――――やっと見つけた―――――――

 

つい最近聞いた、あの抑揚のない声が脳裏で再生される。

 

 

 

 

しかし堕天使か……

 

俺は空を振り仰ぐ。

 

ならば“彼女”にももう人働きしてもらうことになるかもな……

 

 

休み時間の終わりを告げる予鈴が鳴り響いたのはその後間もなくだった。

 

 

 

 

 




一人称、三人称視点混合に挑戦してみましたが、如何だったでしょうか?

感想、御指摘等ありましたらお願いします。


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黒翼の救世主と邂逅

すみません、間が空いてしまいました……


黒翼の救世主と邂逅と

 

 

ハア、ハア……

 

クソッ、一体何がどうなってるっていうんだ?!

 

俺、兵藤一誠は混乱していた。

 

あの日―――俺が“夕麻ちゃん”とデートしたと思っている(・・・・・)日を境に俺の体には異変が起きていた。

 

まず、朝起きるのが極端に苦手になったこと、また日光が肌に突き刺さるような感覚に襲われるようになったことだ。

 

そんなことは今までになかった。

 

だがもう一つの異変はその比ではなかった。

 

朝とは対照的に、夜になると異常なほど活発になってしまう。

体の内から得体のしれない力が沸き起こる、強いて言い表すのであればそんな感じだった。

 

実際、闇夜では昼間以上に視界が冴え、周囲の家々や遠くの声が聞こえてくるなど、五感はありえないほどに鋭くなり、夜中にダッシュしたら信じられないほどの速度が出て、スタミナも増強されていた。

 

そんな変化に戸惑いつつ、数日が過ぎた後、悪友二人に誘われてエロDV…じゃなくて、紳士の円盤鑑賞に行ったが気分が乗らず、早々に分かれて家路に着いた時だった。

 

「ッ?!!」

 

体を走る悪寒。

 

背後から殺気を感じて振り返ると、そこにはスーツとトレンチコートに帽子姿の男が。

 

「ほう、これは数奇なものだ。こんな都市部でもない地方の市街で貴様のような存在に会うとはな。」

 

……何言ってやがる?

どう見ても不審者だ。

だが、この感じ、目の前のコイツがヤバいことだけは分かる……

 

「逃げ腰か?主は誰だ?こんな都市部から離れた場所を縄張りにしているような輩だ。階級の低い者か物好きかのどちらかだろう。今一度問おう。貴様の主は誰だ?」

 

わけ分かんねぇっつーの!!

 

気付けば俺は男に背を向けて走り出していた。

幸い今は日が沈んでいる時間帯だから例の如く身体能力が強化されている。

この状態ならなんとか逃げ切れる筈だ!

 

 

 

俺は無我夢中で走り続け、気付くとそこは――――――

 

 

――――――――あの夢に出てきた公園だった。

 

 

なんで……どうしてここへ……?

 

 

夢の中で、俺は夕麻ちゃんにこの噴水の前で光の槍のようなもので刺殺された。

 

その光景がここへ来て鮮烈にフラッシュバックする。

 

そして―――――

 

「羽……?」

 

視界に映ったのはカラスのような黒い羽根。

 

思わず羽が舞い降りてきた方を見遣ると――――

 

「逃がすと思うのか?これだから下級な存在は困る。」

 

「?!」

 

……先程の男が宙を舞い、俺のすぐ頭上を飛んでいた―――――背中から黒い翼を生やして。

 

ウソだろ?!俺はかなりの速度で走っていた筈なのに、こんな短時間でこうも一方的に距離を縮められるなんて?!

 

そして男は俺の頭上を飛び越すと俺の数メートル手前に着地する。

 

ゾクっ

 

男と目が合った瞬間、体がすくんでしまったのか、蛇ににらまれた蛙のように俺は動けなくなった。

 

「貴様の属する主を言え。さもなくば……いや、お前、もしや“はぐれ”か?なるほど。それならその様子にも説明がつく。」

 

さっきから何言ってんのか分かんねぇよ!

 

寧ろ聞きたいのはこっちだ!

 

一人で納得すんな!

 

「主の気配も仲間の気配もなし、消える素振りも見せなければ魔方陣すら展開しない。以上の結果から見て『はぐれ』と見て間違いないな。だが少々妙だな。主の元を逃げたか殺したかにしては魔力が微弱過ぎる上に抵抗する素振りすら見せない……これでは『計画』の足しにも妨げにもなるまい……。まあいい。殺しても問題なかろう。」

 

訳の分からないことを一通り喋った後、一瞬の耳鳴りと共に男は手に槍のようなモノを出現させる。

 

ゾワリ

 

ッ!!!

 

本能が警告する。

 

早く逃げろ、と。

 

そして俺はアレを知っている。

 

……もっとも、美少女ではなく男という違いはあるが。

 

話せば皆が夢だと笑った。

 

俺だって受け入れたくはないが現実ではあり得ないことだとは分かっていた。

 

それでも夢でないと信じたかった。

 

でも――――

 

――――今、この時、初めて夢であって欲しいと願った。

 

「ではな。」

 

男が槍を放つ。

 

ようやく体が反応し、回避行動をとる。

 

しかしそれは余りにも遅過ぎた。

 

気付いた時には俺と槍との距離は2メートルを切っていた。

 

プロのアスリートでもそうだが、走り出してからトップスピードに乗るまでは時間を要する。

 

今から走り出していたのでは到底間に合わない!

 

 

 

奴の光の槍が俺を貫く―――――――

 

 

 

 

パキィィン

 

 

「なっ?!」

 

「なんだと?!」

 

突如として横から飛んできた光の一閃により光の槍は儚い音を立てて砕け散る。

 

「これは……天使の、いや、それとも我らと同族のものか……ッ?!何者だ?!」

 

男は自身の槍を破壊した光の主についてあれこれと何か言っていたが、不意に気配を悟ったのか、声を上げる。

 

不意に、周りの空気の重圧が増したように感じた。

 

ふと、視界に黒い羽根。

 

それは深淵の如く深く暗い、夜の闇を凝縮したかのような、漆黒の羽。

 

さっきの男の羽とは比べものにならないくらい美しいものだった。

 

そしてその主が舞い降りる。

 

艶やかな橙色の髪、赤い瞳、そして神が自らの力を注ぎ込んで造り出した至高の造形とさえ言える程に美しい顔立ちをした美少女だった。

少女は白のブラウスに黒のミニスカートという一見今時の女の子風の服装の上から軽装甲(ライトアーマー)を着こみ、頭には角のような飾りのついたカチューシャをしていた。

 

両手には黒の双剣が携えられており、更にその凛とした佇まいは神々しくさえあり、俺には救世主のようにも思えた――――彼女の背の翼が黒くなければ。

 

「貴様ッ、名を名乗れ!何故堕天使でありながらそのような『はぐれ』を庇うような真似をするッ?!」

 

男は少女の姿を認めると激昂して声を張り上げる。

 

……仲間割れか?

 

しかしそこにはもう先程までの余裕な表情は無かった。

 

その時、少女が俺を一瞥する。

 

「!!」

 

目が合った瞬間俺でも分かった。

 

今、俺の目の前にいるこの少女はあの男とは全然強さの次元が違う。

 

殺意や敵意はなくてもその威圧感で分かる。

 

彼女は男と向き直る。

 

「何をボーッとしている?死にたいのか?」

 

「えっ?あ、ああ!」

 

どうやら助けてくれたらしいが、呆気にとられた俺は振り向かずに告げる彼女に間の抜けた返事しかできなかった。

 

「ええい、邪魔をするなッ!」

 

右手にさっきよりも大きな光の槍を創り出す。

 

 

 

 

だが

 

 

「そんなモノで何をするつもりだ?」

 

ジュワッ

 

「ぐ、ぐあぁぁぁぁぁぁっ?!」

 

液体が蒸発するような音の後、男が悲鳴を上げる。

 

見れば男の右腕が二の腕から槍ごと綺麗さっぱり無くなっており、切断面と思しき場所からは血が噴き出す代わりに煙が立ち上っていた。

 

「はぁ、はぁ……、き、貴様ァ!!自分が何をしたか分かっているのか?!我らは『神の子を見張る者』(グリゴリ)の、総督アザゼル様より使命を拝命した身であるぞ?!邪魔立てするとは組織への反ぎゃ…ごふっ?!」

 

「グリゴリ?アザゼル?さぁ、そんなものは知らんな。」

 

いつの間にか彼女と男との距離はほぼゼロに縮まっており、男の胸には深々と少女の黒剣が突き刺さっていた。

 

すげぇ…動きが全く見えなかった……

 

「お、おのれ……わ、我らが、総督まで、愚弄、するか……!」

 

男は息も絶え絶えに、口から血を吐き出しながら憎々し気な目で少女を見据える。

 

「ほう、これはまた奇妙なことを言うものだな?私から見れば総督を愚弄しているのは寧ろ貴様らの方なんだが……おっと、お喋りが過ぎたな。では」

 

そこまで言うと少女の剣の刀身が光り輝く。

 

「や、やめ……」

 

「さらばだ。ドーナシークよ。」

 

 

 

ジュワァァァァァッ

 

 

 

さっきよりも大きな音と共に、ドーナシークと呼ばれた男は完全に消失した。

 

 

 

……凄すぎる。

 

でも俺を狙ってきたのがこの子でなくてホントに良かった……。

 

放心している俺に見向きもせず、彼女は俺の横まで来てくると、徐に騎士の如く膝を着く。

 

「仰せの通りに対象の保護、及び敵の殲滅、完了致しました。ご主人様(マスター)

 

さっきとは打って変わって丁寧な口調で話す彼女に俺は拍子抜けしてしまう。

 

ていうかマ、マスター?!

 

この子を従えられるような奴が俺の後ろにいるってことか?!

 

マジかよ……なんか冷や汗出てきた……

 

その時

 

「ご苦労、よくやってくれた。オリヴィア」

 

「お疲れ様~」

 

なっ?!

 

呆気にとられていたところ背後から突如として聞こえてきた馴染みのある声に思わず振り向いてしまった。

 

そこにいたのは――――

 

「お、お前、崇哉?!それに……咲桐杏奈ちゃん?!」

 

俺のクラスメートの有馬崇哉とその従妹の咲桐杏奈ちゃんだった。

 

「うわ最悪!アンタにちゃん付けされるとかマジキモいんだけど?!」

 

開口一番に拒絶の反応を示す彼女。

 

うぅ、確かに良く思われてないのは分かってるけどここまで明確に拒絶されると流石に凹むぜ……それに比べてコイツは……!!

 

俺は美少女二人と何やら話し込んでいる同級生に視線を向ける。

 

二人とも俺に対する時と全然態度違うじゃねーか!!

 

クソッ!!コイツやイケメン王子の木場の野郎ばっかりモテやがって!!

 

あーあー、相変わらず見れば見る程にキレイな顔してやがるな、畜生めっ!!

 

俺の中で延々と嫉妬の炎が渦巻いていると、俺はあることを思い出す。

 

「お、おい崇哉、これは一体どうなってるんだよ?!」

 

すると三人の注意がこちらに向く。

 

「ん?おお、すまんすまん。こっちも色々と事情があったからな。因みに混乱しているだろうがコレは―――――夢じゃないぞ。」

 

?!

 

……待てよ?

 

それじゃあ……

 

「お前、もしかして夕麻ちゃんのことも……」

 

アイツは少し言いにくそうな様子を示したが、徐に口を開く。

 

「ああ、全部覚えてるよ。」

 

ッ……!

 

そうか、やっぱりアレは夢なんかじゃなかったのか……

 

「話せば色々長くなるし、それに話すに話せない事情があってな。例えば、そうだな……」

 

そこで一度息を吐き、続ける。

 

「……案外、通りすがりの赤の他人が一番良く知っているのかもしれないな?」

 

?!

 

崇哉は俺から視線を外すと脇の茂みへと視線を向ける。

 

すると

 

「へぇ、気付いていたの。」

 

「リ、リアス、先輩……?」

 

凛とした声と共に現れたのは美しい紅色の髪をした学園のアイドル、リアス・グレモリー先輩だった。

 

 

 

 

 

 

 

私、リアス・グレモリーは駒王学園3年で北欧からの留学生としてオカルト研究部の部長を務めている。

しかしそれは人間社会に溶け込むための仮の姿。

本当は冥界に住む悪魔であり、その中でも古くから続く純血の上級悪魔の家系であるグレモリー家の次期当主、今は眷属らと学園を拠点に周辺一帯を縄張りとして活動している。

因みにオカルト研究部の部員は皆私の眷属、下僕悪魔だ。

 

そしてつい先日、新たに眷属に加わった少年――――確か同じ学園の2年生で名前は兵藤一誠と言ったかしら?――――がいる。

 

この前の週末、私は彼に夕暮れの公園に呼び出された。

 

普通人間に召喚される際は他の眷属――――私の下僕たちが呼び出される筈なのに、余程強い願いだったのか、主である私が直々に赴くこととなった。

 

そしてそこで私が見たもの、それは血だまりの中に倒れた、命尽きる寸前の彼の姿だった。

致命傷は恐らく腹部に空いた穴。

直前に微かに堕天使の魔力の残滓が感じられたことから恐らくは堕天使の仕業と見て間違いなかった。

以前から彼には少々違和感を覚えて調べてみたものの、両親は平凡なサラリーマンと主婦という極々一般的な家庭に育った普通の人間であった。

 

そうなれば理由は一つ、彼に堕天使側が危惧するモノ、恐らくは神器の類が備わっているということなのだろう。

 

そして私を呼び出した彼の願いは“死にたくない、生きたい”というもの。

 

 

――――――面白い

 

 

私が第一に抱いた感想はそれ。

 

私の取るべき道はそこで決まった。

 

私はポケットから紅いチェスの駒のような形をした『悪魔の駒』(イーヴィル・ピース)、その中の『兵士』(ポーン)の駒を取り出し、彼に近づけた。

 

するとどうだろうか。

信じられないことに、8つの『兵士』の駒全てを消費してしまった。

 

以前彼を見かけた時は何の変哲もない人間だったところを考えると、未覚醒であっただけで、彼の中には絶大な力が眠っていたということなのだろう。

 

かくして転生の儀式は成功、思わずほくそ笑んでしまったのを覚えている。

 

彼は私の下僕悪魔となった。

 

本来ならすぐにでも事情を説明すべきではあるけれども、裏とは無縁の世界で生きてきた彼はいきなり悪魔だのと言われても恐らく困惑するだけだと思い、しばらくは彼に接触せずに様子を見ることにしていたのだけれど……

 

 

 

 

 

「この反応……まさか堕天使?!」

 

「なんですって?!」

 

私は同じ3年でオカルト研究部の副部長、そして『女王』(クイーン)でもある姫島朱乃の言葉に思わす声を上げる。

 

通称『雷の巫女』、気配に敏い彼女はいち早く反応した。

 

堕天使の気配が感じたのは彼を下僕に加えて以来、数日振りだ。

 

一度ならず二度までも……

 

他人(ヒト)の縄張りに土足で入り込むなんて堕天使というのは随分と礼儀がなっていないようね。

 

普通なら争いを避けるために接触は避けるべきだけれど流石にそう何度も入り込まれていては私の面目は丸潰れ。

 

加えて今は新たな下僕となった彼は未だ何も知らずに日々を過ごしている。

 

おまけに反応があったのが

 

もしかしたら……

 

「行くわよ、皆!!」

 

「「「はい!!」」」

 

朱乃を含め、彼と同じ2年で『騎士』(ナイト)の木場祐斗、1年で『戦車』(ルーク)の搭城子猫と、部員全員に声を掛け現場に急行する。

 

 

 

 

 

私達が公園に転移すると、丁度堕天使の男が彼、兵藤一誠に向かって光の槍を放ったところだった。

 

こんなところで死んでもらうわけにはいかない。

 

私が滅びの魔力を撃ち出そうとするがその時、

 

「「「「っ?!」」」」

 

突如、周りの空気が重くなる。

 

刹那

 

パキィィィン

 

横からの光の一閃により男の放った槍は儚い音と共に砕かれる。

 

「あれは……光力?」

 

紛れもない、今のは光力。

 

私達悪魔の宿敵である天使や堕天使が使う力で、悪魔にとっては猛毒、触れるだけでたちまちその身を焦がすことになり、濃度が濃いものになれば最悪消滅する。

 

それが何故悪魔である彼を?

 

それにどこから……

 

「部長、あれを!」

 

朱乃の言葉によって我に返る。

 

すると空から彼と堕天使の間にもう一人、少女が舞い降りてきた。

 

悪魔の私から見ても美しいと思えるほどの容姿をしているけれど、背中から生えた漆黒の翼―――――あれは堕天使の証。

 

外見年齢は私達とあまり変わらないくらいで、両手に剣を携えているところを見ると双剣使いなのかしら。

 

でも、

 

「冗談でしょう?」

 

気付けば私はそう呟いていた。

 

突然舞い降りてきた彼女から感じられる力は軽く見積もっても上級以上、さっき彼を狙った男とは全く格が違う。

 

新手の敵?!

 

どうしてよりにもよってこんな時にっ!

 

しかし、

 

「貴様ッ、名を名乗れ!何故堕天使でありながらそのような『はぐれ』を庇うような真似をするッ?!」

 

?!

 

木霊する男の声。

それには明らかに正体不明の闖入者に対する怒りの色が現れている。

 

どういうこと?!仲間じゃないの?!

 

おまけに少女の方至っては私の下僕の方を一瞥しただけで更に警告までする始末。

 

一体どうなっているというの?!

 

「……部長、少し様子を見た方が宜しいのでは?」

 

朱乃が耳打ちしてくる。

 

「……その方がよさそうね。」

 

状況が分からない以上そうするよりほかない。

 

何よりあの少女が彼に危害を加える様子がないこと、加えて彼女の力が未知数である以上下手に介入しない方が良い。

 

私達は気配を消し、更に念のために自分たちの周りに認識阻害を張り巡らした後物陰に隠れ、事の成り行きを見守る。

 

男が槍を右手に形成し、少女に向かう。

 

「?!」

 

しかし次の瞬間、男の右腕はまるで蒸発するかのように消失する。

 

一体何をしたのか全く分からない……

 

ほんの一瞬にも満たない、刹那の出来事。

 

そして彼女は私達が気付いた時にはもう距離をゼロに縮めており、男の胸には深々と彼女の剣が突き刺されていた。

彼女が一言二言発したのち、剣が眩い光を放ち始め、余りの眩しさに私達は思わず目を閉じてしまう。

先程と同じように液体が蒸発するような音が聞こえ、目を開けるとそこにはもうあの堕天使の男の姿はなかった。

 

「……祐斗、彼女の動きは見えた?」

 

「いえ……正直早すぎて全く見えませんでした。」

 

祐斗は申し訳なさそうに答える。

眷属中最速を誇る『騎士』の彼でさえ全く彼女の動きを追えないなんて……。

 

「!……部長、誰か来ます。数は二人。でもこの気配は……人間?」

 

朱乃と同じく勘の鋭い子猫が新たな来訪者を察知する。

 

次から次へと……一体何なのよ?

 

どうやらさっきの少女のいる方に向かってきているみたい。

 

でも人間?

 

ここにはさっきの堕天使が残した人払いの結界がある以上、私達のような人ならざる者でもなければ、特殊な力を持つ人間でない限りは入ってこれないはずなのに……

 

そしてふと、彼と少女がいる方に視線を戻す。

 

やがて浮かび上がる二つのシルエット。

その正体は―――――

 

「あの二人、まさかうちの生徒?」

 

闇より現れたのは二人の男女。

 

見る者全てに最早畏怖の念さえ思い起こさせるほどの比類なき美貌。

 

私達と同じ駒王学園の制服に身を包んだその二人には見覚えがあった。

 

2年生の有馬崇哉と咲桐杏奈。

 

現れた二人ともう一人、咲桐明日香の三人はいずれもその類まれなる容姿と、外見とは裏腹に気さくな人柄、さらに成績優秀で運動能力も高いということで学園の生徒の間でも男女問わずにかなり人気がある。

 

三人共気配は(・・・)普通の人間のものであったからそこまで気にかけてはいなかったのだけれど……。

 

 

 

 

 

 

「仰せの通りに対象の保護、及び敵の殲滅、完了致しました。ご主人様(マスター)

 

 

 

 

「「「「?!」」」」

 

 

う、嘘……でしょ……?

 

圧倒的な強さを見せた堕天使の少女がたかが人間(・・・・・)でしかない彼らを主と呼び、王に仕える騎士の如く膝を着いて臣下の礼をとるなんて……

 

どうしてさっきの戦いで圧倒的な強さを見せ付けた彼女が?

 

分からない。

 

私はもう一度彼らを見遣る。

 

二人とも彼女に親しげに声を掛けている。

 

一体彼らは何者なの?

 

彼らにはあの少女を従えるだけの何かがあるというの?

 

……それとも私達の目を欺けるほどの力を持つ者なの?

 

見れば見る程、目の前の状況が理解できなくなる。

 

でも

 

 

 

 

 

「……興味深いわね」

 

そう、私はいつの間にか二人――――正確にはもう一人加えて三人だけれど―――――に興味が湧いていた。

 

堕天使との関係上警戒しないわけにはいかないけれど、それ以上にとある思いが私の心を支配していた――――― “彼らが欲しい”と。

 

 

 

 

「案外、通りすがりの赤の他人が一番良く知っているのかもしれないな?」

 

不意にそう言い、こちらに視線を向けてくる

 

「「「「!!」」」」

 

……気付かれているわね。

 

やはり彼らは只者じゃない。

 

「部長、如何なさいます?」

 

「……これ以上隠れていても無駄みたいね。」

 

私達は意を決して姿を見せることとした。

 




リメイクということでオリ主陣営にオリキャラ追加致しました。
因みに容姿の設定だけですが、とあるソーシャルゲームより拝借しております。

感想or御指摘等ありましたらよろしくお願いいたします。


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己が存在を以て・・・・・・

大変長らくお待たせして申し訳ありません!!

時間をかけた癖にでき上がったのは駄文の極みとなってしまいました……はぁ。




己が存在を以て……

 

 

「へぇ、気付いていたの。」

 

リアス・グレモリーは心の内に燻る感情を気取られまいと、平然とした態度を装いつつ答える。

 

「リ、リアス、先輩……?!」

 

依然混乱しているが、目立った外傷は見受けられない様子の少年、兵藤一誠。

彼女はそんな彼の様子を見て、自らの新たな下僕が無事であることに安堵の息を漏らす。

 

そして本題に入るべく彼女は問題の3人を見据える。

 

「下僕を助けてくれたこと、感謝するわ。」

 

薄く笑みを浮かべつつ、謝辞を述べる紅髪の姫。

しかしその笑みにはどこか含みがあった。

 

「それはどういたしまして。しかし放置プレイの挙句高みの見物とは些か冷たいのでは?」

 

感謝の意は素直に受けつつも、皮肉気に一言付け足す有馬崇哉。

細められた双眸には妖しい光が灯っていた。

まるで目の前の少女の思惑を見透かしているかのように。

 

そんなニヒルな笑みでさえ美しく映える少年の顔立ちに不覚にも見惚れてしまう。

 

だが当然のことながらプライドの高い彼女はそんなことは認める筈もなく、負けじと不敵な笑みを浮かべる。

 

「あら?戦いに水を差すような真似をしては悪いと思って敢えて手は出さなかったのだけれど。それはそうと……」

 

一旦間を置いて後、改めて崇哉を見据える。

 

「あなたも“裏”の関係者なら分かるでしょうけれど、私達悪魔と堕天使は敵同士、それにこの街一帯はこの私、グレモリー家次期当主リアス・グレモリーの管轄地なの。それをあなたは堕天使との関わりがあるにも関わらず何食わぬ顔で学園にも通っているようね……一体何者なのかしら?」

 

この時の彼女の心中では純粋に目の前の相手の素性を確かめたいという気持ちと同時に、引き込むに値する人材であるかどうか―――――ひいては自らの駒となる資格があるのかを見極めたいという欲とが入り乱れていた。

自分達の仇敵である堕天使と関わりがある点は容認できないが、悪魔と違い人間と契約し対価を得るということをしない堕天使、それもあれほどの技量の持ち主を従えることができている以上、それに足る何がしかの力を有した存在であると考えるのが自然だ。

 

そんな僅かな猜疑心と欲望で満ち満ちた視線を受け、当の本人は―――――

 

「何者か、ですか?ふむ、これはまた随分と抽象的な問いだ。強いて答えるなら……少々変わった知り合いがいるだけの極々一般的な高校生、といったところでしょうか?」

 

「ッ!!」

 

紅髪の悪魔は目元を引くつかせる。

 

わざとらしく考えを巡らすような素振りと芝居がかった口調。

 

それは自分の求めていた答えではない。

 

そこにあるのは素性を明かす気は毛頭ないという言外の拒絶の意。

 

「そんなわけがないでしょう?!堕天使が膝を折る相手がただの人間だなんてことがある筈がないわ!!ふざけないで!!」

 

激昂する紅い悪魔。

 

神器持ちでもない限り、ただの人間が悪魔や堕天使を凌駕しうるほどの力など持っていていい筈がない。

にも関わらず自分は一般人だなどと言い張る。

それもこちらが異を唱えることを見越したうえで。

 

そこから導き出された結論。

 

この男は自分を愚弄している。

 

プライドの高さ故に彼女はその手の物言いには敏感だった。

 

……もっともその真意にまでは気付くことはなかったのだが。

 

「いえいえ、こればかりは仕方のないことでしょう?“裏”に関わる以上不用意に身の上を明かすなど愚の骨頂。信頼関係のしの字もない状態の貴女方が相手であれば尚更ね。まして相手が敵対勢力の可能性があるなら必ずしも本当のことを語るとは限らないということなど初めから予想して然るべきだ。それに、激昂するくらいなら己で真贋を見極めるよう努めては如何?」

 

「……言ったでしょう?私はここの管理者であると。故にあなたの素性を知る権限があるの。答えなさい。これは命令よ。」

 

静かに、しかし確実にリアス・グレモリーの中で苛立ちが募りつつあった。

だのに向こうは皮肉気に笑むばかり。

ここまで思い通りにいかない相手はいなかった。

“裏”に通じる者の多くは『グレモリー』の名を聞けば余程の愚者でもない限りあっさりと白旗を掲げる。

しかしわざわざ隠しもせずに堂々と名乗ってやっているにも関わらず今自分が相対している者はへりくだる様子は微塵も見せない。

それどころかこの状況をどこか楽しんでいるかのような、一種の余裕のようなものすら感じ取れる。

ここまでされれば最早家名に泥を塗られたに等しい、彼女はそう思った。

 

「命令?お断りします。貴女の言う“命令”には正当性がない。」

 

「何ですって?」

 

「やれやれ、これだから三大勢力というのは……少し考えれば分かることですよ。他の神話体系の勢力圏に土足で上がり込んで図々しくも領有宣言、挙句その土地に住まう者の支配者気取り。傍から見れば迷惑千万。特に貴女方悪魔や堕天使は人間に信仰されるわけでもないのだから事実上人間界の侵略以外の何者でもない。御参考までに聞きますがこの国が本来どこの勢力の土地かご存じで?」

 

「……」

 

ドンッ

 

彼女から噴火の如くオーラが溢れ出す。

 

彼女の怒りは遂に頂点に達した。

 

先程からの遠まわしに挑発するような物言いの連続、それもなまじ正論であるだけにより一層腹が立った。

彼の態度は初めから取り合うつもりがないということの明確な意思表示。

何よりニンゲン(・・・・)の分際でここまで“悪魔”を小馬鹿にした以上何としてでも一矢報いねば気が済まなかった。

 

「そう……どうしても話す気はないのね。なら……」

 

その手に黒い魔力が収束する。

それは何も知らない素人の目から見ても本能的に生命の危険を察知できるほどに禍々しいモノだった。

 

「力づくでも聞き出すより他ないわね……いくわよ、私の可愛い下僕たち!!」

 

「あらあら、口は禍の何とやら、ですわね。」

 

「ハハハハ……こうなったらやるしかないね。」

 

「……正直に白状して下さい。」

 

 

 

 

夕闇の覆う空の下、何の変哲もない小さな公園で、異形の少年少女は主の言葉を合図に少々手荒な尋問を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

「……落第決定だな……」

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

目の前の状況が理解できない……

 

 

俺は悪友の一人、松田の家からの帰り道、運悪く黒い羽を生やした男に襲われ、そこをクラスメートの崇哉たちに救われた。

 

そしてその後茂みから現れた一段に驚愕のあまりつい間の抜けた声を上げてしまった。

 

しかし驚かない方が無理と言うものだろう。

 

その現れた人物は一年でマスコットキャラとして根強い人気を誇る搭城子猫ちゃん、そしてなんと俺の通う駒王学園の三年で、全校生徒の憧れの的、二大お姉様と称されるリアス・グレモリー先輩と姫島朱乃先輩だったのだから!

 

……あと一人、何故か知らないがイケメン王子の木場祐斗とかいう全男子生徒の敵もいたが正直コイツはどうでもいい……。

 

近寄ることさえ躊躇われるようなこの豪華メンバー(ただし木場は除く)が勢揃いしていることに普段なら発狂する程に興奮していたのだろうけども、生憎と今回は色々あり過ぎて混乱し、ただただ困惑するばかりだった。

 

さっきからリアス先輩と崇哉が何やら話し込んでいるみたいだがさっぱり理解できない。

 

なんでも先輩たちは悪魔で、俺を襲った男と俺を助けてくれた子は堕天使というらしい。

しかも悪魔と堕天使は敵同士なんだとか。

 

まずどうしてそんなファンタジーの中でしかお目にかからないような存在が俺の目の前にいるのかということからして理解不能だ……

 

ていうか崇哉、テメェ調子乗り過ぎだろ!!

相手はあの二大お姉様の一角、リアス・グレモリー先輩なんだぞ?!

誰もが憧れる学園のアイドルにあんな風に啖呵切る奴初めて見たぞ!!

 

……とはいえコイツも圧倒的過ぎるほどの美形だしウチの学校じゃあ木場よりも人気あるし、杏奈ちゃんも双子の姉の明日香ちゃんと並んで二大お姉様に負けず劣らずの人気っぷりだしな……って、よくよく見れば今ここ美男美女絶賛勢揃い中じゃねぇか!!

 

俺完全に場違いじゃん!!

 

何の公開処刑だよ?!

 

俺がそんな完全に場違いな自問自答を繰り返している時だった。

 

ドンッ

 

突然大気が震えた気がした。

 

見ればリアス先輩から物凄い量のオーラのようなモノが溢れ出ている。

しかも手に何か見るからに危なそうなモノが出現してるし!!

 

コレ完全に怒っていらっしゃるよ!!

 

見れば姫島先輩、木場、子猫ちゃんも皆それぞれスタイルは違うけれどやる気満々のようだ。

 

木場なんて剣構えてるし、姫島先輩に至っては何か物凄く妖しい笑みを浮かべてるし!!

 

超怖ぇええええ!!

 

オイ、崇哉どうすんだよ?!

 

よりにもよってあんな風に挑発するなんて!!

 

向こう完全にやる気じゃん!!

 

殺されるぞ、コレ?!……でもイケメンなんだから多少は痛い目見るべきかな?

 

 

 

 

「……落第決定だな……」

 

 

 

?!

 

しかし崇哉の反応は俺の予想だにしないものだった。

 

響き渡る恐ろしい程に冷たい声。

余りの冷たさに思わず身も凍ってしまいそうだった。

そしてその顔を見た途端、指一本動かせなくなった。

 

 

 

全くと言っていいほど感情を映していない顔。

美しすぎる程の造形が見る者に対してより一層の恐怖を掻き立てる。

普段のコイツからは想像もつかない。

 

……いや、それともこれが崇哉の素顔なのか?

 

思えば、普通に周囲とも会話はしているものの、容姿ばかりでなく雰囲気までもがどこか浮世離れしていたような気もする。

 

気付けば空気も心なしか冷たさを増したようにも思えた。

そういえばさっきリアス先輩も崇哉が本当に人間なのかを疑ってるような口ぶりだった。

表情一つ変えるだけでこれほどまでに場の空気を変えることが果たして普通の人間にできることなのだろうか?

 

「そこまでして知りたいのなら知ると良い……己が存在を以てしてね」

 

 

……存在を以て?

 

どういう意……

 

 

ズンッ

 

「?!」

 

 

 

 

な、何なんだよ……コレ……?

 

 

 

 

 

 

 

俺は級友の変化に戸惑うばかりだった。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「くっ……」

 

思わず膝を着いてしまう。

 

今、この場を支配する重圧、木々も、草花も、空も―――――空間自体が震えているとさえ思える程だ。

 

殺気を向けられているわけでもなければ幻術にかけられたわけでもない。

 

 

 

 

なのにどうして、私は怯えているの?

 

この私が、こんなにも……

 

 

 

 

それも、自分を人間と称する(・・・・・・)相手に……

 

 

 

 

 

……認めない、認めてたくないッ……

 

 

 

 

 

 

 

 

それなのに体の震えが止まらない。

 

 

背中を嫌な汗が伝う。

 

 

少しでも気を抜けば息の仕方すらも忘れてしまいそう。

 

 

そして本能が警告する。

 

―――――近づいてはいけない―――――

 

―――――近づけば確実に飲み込まれる――――――

 

 

私は彼の正体を暴こうとした。

 

それは領主としてのプライドから?

 

それとも上手くすれば下僕にできると思ったから?

 

けれどもそんなことはもうどうでも良かった。

 

今、こうしているうちにも私という存在全てが飲み込まれていくようにさえ感じる。

 

例えるなら渦巻く海流に飲まれる雨粒みたいに。

 

徐々に徐々に、自他の存在の境目が曖昧になっていく……

 

私は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“私”?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ……“私”って……

 

 

 

 

 

なに……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん、その辺にしといたら?あんまりやるとコワレちゃうよ?」

 

 

 

 

「ッ!!」

 

 

突如として聞こえてきた透き通るような少女の声。

 

有馬崇哉のすぐ隣にいた少女、咲桐杏奈の声だ。

 

それと同時に急に現実に引き戻されたような、意識が戻ってきたかのような気がした。

 

その瞬間、私の体は絞首台より解放されたかの如く、酸素を求める。

 

荒い息と共に徐々に思考がクリアになっていく。

 

少し余裕が出てきたところで周囲を見渡す。

 

すると私の下僕たちも皆同じような状態だった。

 

そして気が付けば、さっき声をきっかけに先程から感じていた重圧が薄れていくのを感じた。

 

けれども……

 

 

 

 

 

 

私、一瞬、“自分”が分からなくなった……?

 

“自分”というものの存在を疑った?

 

 

 

 

 

……怖かった

 

 

ただひたすら……怖かった……

 

恐怖と畏怖とが綯交ぜになったような良く分からない感覚、しかしそれが『畏れ』であることだけは辛うじて分かる……。

 

そしてそれは同時に“自分”というものが消えてしまうことへの恐怖。

 

汗が頬を伝い、地面に落ちる。

 

その時、私は無意識のうちに自分の肩を抱いていたことに気付いた。

 

認めざるを得ない。

 

自分が目の前に佇む相手に戦慄したことを。

 

 

しかし顔を上げて前を見据える気にはなれない。

 

 

――――――そこまでして知りたいのなら知るといい……己が存在を以てしてね――――――

 

あの時の彼の、有馬崇哉の顔を忘れることはできない。

 

どこまでも冷たく、無機質で、感情そのものが欠落したかのような顔だった。

 

私、いえ、私達などまるで眼中にないとその瞳が物語っていた。

 

 

「だな……そうなったらそうなったで後が面倒だ。それで……お分かり頂けましたかな、グレモリー先輩?」

 

「―ッッ!!」

 

私はハッとなり、今の己の置かれた状況を認識する。

 

私は思わず声の主を睨む。

 

屈辱だ。

 

この私が堕天使や人間風情の前でこんな無様な姿を晒すなんてッッ……!!

 

でも私が言葉を紡ぐことは叶わなかった。

 

先程の光景がフラッシュバックする。

 

あの重圧。

 

アレは到底人間にできるものじゃない……

 

迂闊に近づけば、間違いなく食われる。

 

「お、おい、崇哉!」

 

不意に私の新しい下僕、兵藤一誠が声を上げる。

 

「一体どういうことなんだよ、これは?!何でお前とリアス先輩たちが対立してるんだよ?!第一何で俺が「イッセー」っ」

 

事情が呑み込めず混乱する彼の言葉を有馬崇哉は遮る。

 

「色々と聞きたいことはあるだろうが生憎それを話すのは俺の役目ではない。どの道近いうちに知ることにはなるだろうが今どうしても知りたいことがあるなら……」

 

そこまで行って私に一瞥をくれる。

 

「あの女に聞くと良い。まぁ、これに懲りたら今度からは寄り道せずに真っ直ぐ家に帰るこったな。」

 

それだけ言うと踵を返して立ち去ろうとする。

 

「ま、待ちなさい!」

 

私は彼を引き留める。

 

このままで済ますわけにわいかない。

 

彼は歩みを止め、振り向きもせずに答える。

 

「……まだ何か?」

 

その声からは心底うんざりした様子が伺える。

 

「……今日のところは見逃してあげる。明日、この子に事情を説明するわ。使いを出すからその時にあなたたちも来なさい。いいわね。」

 

しかし彼はそのまま答えもせずに再び歩き出す。

 

相変わらず何て態度なのかしら。

 

 

 

「……見逃されるのはどっちだか」

 

その時彼が何か呟いたような気がしたが何を言ったかまでは聞き取れなかった。

 

 

まったく……明日は覚悟してもらわないとね。

 

けれどその前に今は―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり兵藤一誠(アレ)の飼い主はリアス・グレモリー(赤毛の方)だったね。」

 

帰路の途中、すぐ隣を歩く杏奈が唐突に口を開く。

 

「ああ、予想はしていたが……それよりお前は本当に良かったのか?俺とオリヴィアだけならまだ言い訳は効いたんだが。」

 

今回の目的はイッセーの主が誰で、どんな奴かを見極めること。

それが必要だった。

現時点ではまだ仮定であるとはいえ、神滅具(ロンギヌス)の所有者を眷属にする以上その主が下手な輩であっては困る。

特に最近の純血上級悪魔という連中は質の低下が著しいからな。

そしてその達成には対象と接触し言葉を交わす必要があった。

それも“表”ではなく“裏”の顔で。

その為にはできる限り自然な形での接触が不可欠――――結果としてああなったわけだが。

 

当然リスクもついて回る。

今回のケースで言えば間違いなく悪魔側に目を付けられるということだ。

俺だけならともかく、出来るものならなるべく彼女たちにまで類が及ぶのは避けたかった。

 

「はぁ……」

 

杏奈は一つ溜息を吐くと立ち止まり俺を見据える。

 

「言ったでしょ?私はお兄ちゃんにならどこへでも着いて行くし、必要なら助けるって。それに万に一つ、ううん、億に一つでもお兄ちゃんが間違った道へ進もうとしているのなら止める。これは紛れもない私自身の意思。それはお姉ちゃんもあの子達も同じ。だからお兄ちゃんは自分の信じるままに進めばいいの。」

 

「……僭越ながら私からも一言申し上げさせて頂きます。今回マスターにどのようなお考えがあったにせよ、私は自身の意思でマスターの命に従いました。そしてこれからもそれは変わりません。私が貴方様に剣を捧げたあの時からマスターの意思は私の意思なのですから。」

 

オリヴィアが杏奈に続く。

彼女たちは俺に微笑みかけていた。

その眼差しは暖かくも確固たる意志を宿したものだった。

 

「ハハハ……お前らには敵わないね。」

 

 

 

……つくづく俺は果報者らしい。

 

 

 

「ああ、でも明日からは面倒なことになりそうだよね~」

 

杏奈が場の雰囲気を変えるように唐突に呟く。

 

「そうですね……如何なさるのです?現状我々はグレモリーの一党から堕天使側に与する者と見られている可能性もありますが。」

 

「確かに……あの紅髪のお姫様が無罪放免にしてくれるとは考えにくいしな。まあ今日のこともあるから返答次第で即戦闘という可能性は低いだろうが……最低でも監視下に入れ、あわゆくば下僕になれとか言ってくるかもな。」

 

「うふふ、大丈夫だよ、お兄ちゃん。もしあの小娘がそんな調子こいたことしようもんなら……私が一族郎党根絶やしにしてやるから♪」

 

最早眩しい程の笑顔で宣言する杏奈。

コイツは本当にやりかねないから恐ろしい……

 

「そうか、それは頼もしいな……だがほどほどにしてくれよ?それじゃあ本末転倒だからな。」

 

「あはは、やだな~もう。分かってるって、そのくらい。流石に私も乳臭いガキ相手にそこまではしないよ。せめて10分の9殺しくらい?」

 

「あまり変わらないだろ……なら仕方がない」

 

恐らくこの時俺は引きつった笑みを浮かべてたんだろうな。

 

「明日はそうならないように頑張るとしよう」

 

 

 

 

 

 

さて、悪魔共はどう言い寄って来るのかねぇ?

 

 

 





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紅の悪魔、白銀の女神

長らくお待たせしました。

話の展開上途中で切るわけにもいかず、ダラダラと書き続けてしまいました(;´Д`A

今回はもう嫌になるほど長いです。

それではどうぞ。


紅の悪魔、白銀の女神

 

 

「やあ、どうも。」

 

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁ!木場君よ!!」

 

「ホントだ!こっち向いて~!!」

 

放課後、サラサラの金髪に爽やかな笑みを浮かべた男子生徒が教室にやって来た。

イケメン王子こと木場祐斗だ。

 

そして女子の人気を二分する、駒王学園二大イケメンの片割れにして俺達全男子生徒の敵だ!……因みにもう一人は崇哉なんだがアイツはもう色んな意味で次元が違うと見做されているから実質敵意はコイツに集中している。

 

コイツがやって来たお蔭でクラスの女子共が黄色い歓声を上げていてウザったいことこの上ない。

 

ん?嫉妬だって?

 

ああそうだよ、悪いかよ?!

 

木場祐斗(イケメン)がいなけりゃ俺は今頃キャッキャッウフフの薔薇色スクールライフを送っていた筈なのにッッ!!

 

世の中全部イケメンが悪いんだ!!

 

クソッ、爆発してしまえ!!

 

そんな風に俺が心の中で嫉妬と羨望と劣等感が入り混じった毒を吐いていると

 

「兵藤一誠君と有馬崇哉君はいるかな?」

 

木場の野郎がそう言った瞬間、周囲の視線が一斉に俺の方に向く。

 

その大半が信じられないものを見るような目か、もしくは虫けらを見るような目だった。

 

チッ!

 

どうやらイケメンという人種はとことん俺達モテない組を弄ぶことが好きらしい。

 

木場(コイツ)が俺の視界に入っているだけでも腹立たしいって言うのに!

 

そんな俺の心中も知らずに野郎は俺の席までやって来る。

 

「あー、何だよ?」

 

出来る限り不機嫌そうな様子で返答する俺だが奴は爽やかな笑みを崩すことなく続ける。

 

「リアス・グレモリー先輩の使いで来たんだ。」

 

―――っ

 

そうか、コイツが昨日先輩が言ってた使いか。

 

「……OK、OK。それで、俺はどうしたらいい?」

 

「僕に着いてきて欲しい。それと――――」

 

そこまで言うと木場は俺から視線を移す。

 

 

 

 

「有馬崇哉君、キミもいいかな?」

 

 

 

 

木場が視線を向けた先、そこにいたのは崇哉だった。

 

「……2秒で済むならな。さもなくば断固拒否だ。」

 

「に、2秒って……」

 

苦笑いする木場。

 

おおっ、でもイケメンが困っている姿を見るのは中々面白いな。

流石は崇哉だ。

そのブレなさは最早尊敬に値するぜ!

 

「冗談だ。行くならさっさとしてくれ。俺は早く帰りたいんでね。」

 

それだけ言うと崇哉は席を立つ。

 

「え、あ、ちょっと?!」

 

狼狽する木場をよそに、崇哉は教室を出て行こうとする。

完全にアイツのペースだ。

 

追いかけるようにして出て行く木場の後に続いて俺も教室を出る。

するとその時だった。

 

「いやあああああ!!」

 

「木場君と兵藤が一緒に歩くなんて?!」

 

「有馬君となら分かるけど何でよりにもよってエロ兵藤と?!」

 

「木場君が兵藤に穢されてしまうわ!!」

 

「それを言うなら有馬君もよ!!」

 

「木場君×兵藤なんてカップリング絶対に許せない!!」

 

「ううん、もしかしたら木場君×有馬君×兵藤かも!!」

 

「ああ、神よ!何故あなたはこのような残酷な仕打ちをなさるのですか?」

 

「「「「「「「「どうか兵藤(ヘンタイ)に神の裁きを!!」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウゼエェェェェェェェェ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

意味分かんねぇ事ばっか好き放題言いやがって、畜生ッッ!!

 

特に何なんだよ最後のは?!

 

そんなに俺が生きてちゃ悪いのか!!

 

やっぱりイケメンなんて嫌いだ!!

 

 

 

俺は泣く泣く二人の後を追ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

木場に連れられて俺と崇哉がやって来たのは校舎の裏手にある木々に囲まれた木造の古い建物。

俗に旧校舎と呼ばれる建物だった。

現在は使われていないはずなのだがガラス窓が割れているようなこともなく、手入れが行き届いている感があった。

中に入ると廊下にも塵一つ落ちておらず、当然蜘蛛の巣や積もった埃すらなかった。

そして階段を上がり、二階の最奥まで歩を進めたところで木場が立ち止まる。

 

「ここに部長がいるんだよ。」

 

部長?

先輩のことか?

すると何かの部活に入っているということになのか?

ふと見上げるとそこには『オカルト研究部』のプレートが。

 

「部長、連れてきました。」

 

木場が中に向かって確認を取ると

 

「ええ、入って頂戴。」

 

という返事が返って来た。

 

 

 

 

「……何だこの部屋?」

 

中に入ると床、壁、天井に至るまで部屋一面に見たことない文字や魔法陣らしきものが描かれていた。

 

何か最大級の不気味さと妖しさを感じるぜ。

それから高級そうなデスクにソファーが数台……?!

 

あ、あの子は……

 

「ん?ああ、彼女は一年の搭城子猫さんだよ。」

 

俺の視線に気づいた木場が答える。

するとソファーの上で羊羹を食べていた子がこちらを向く。

 

な、なんと。

 

小柄な体型、無敵のロリフェイス。

一部の男子のみならず女子からの人気も高い我が校のマスコットキャラ的な存在である塔城子猫ちゃんではないか!!

昨日も見たけどやっぱり超が付くほどの無表情だな、この子。

 

「既に知ってるかもしれないけれど、こちら2年生の兵藤一誠君と有馬崇哉君。」

 

木場が俺達二人を紹介すると、子猫ちゃんもペコリと頭を下げる。

 

「あ、これはどうも。」

 

「……よろしく。」

 

俺も頭を下げ、崇哉も軽く会釈する。

 

するとその時、部屋の奥からシャワーのような水音が。

 

ん?

 

シャワー?部室に?

 

思わず音のする方に目を向けるとそこにはシャワーカーテンに映る陰影、それも女性のものだった。

 

「部長、これを。」

 

奥から先輩とはまた違う人の声が。

 

「ありがとう、朱乃。」

 

続いてカーテンの向こうから聞こえてくる先輩の声。

それと同時に衣擦れ音が聞こえてくる。

 

おおっ、なんと!

この向こうでは先輩が着替えていらっしゃるのかッ!!

 

その光景を想像すると思わずにやけてしまう。

 

「……嫌らしい顔」

 

「ああ、全くだ。」

 

ボソリと呟く子猫ちゃんとそれに呆れ顔で同意する崇哉。

 

ぐぅっ……二人の辛辣な言葉が心に突き刺さるぜ。

 

そしてシャワーカーテンが開くと同時に制服に着替えた先輩が出てきた。

 

「ゴメンなさい、昨日イッセーのお家にお泊りしてシャワーを浴びていなかったものだから今汗を流していたの。」

 

ああ、なるほど……

 

それから先輩の隣にいた黒髪の人物に視線が移る。

 

おおっ?!

そこにいるは姫島朱乃先輩ではないかッ!!

リアス先輩と共に『二大お姉様』と呼称されるお方で和風な佇まいと常に絶えることのない笑顔は正に大和撫子!!

この人とも昨日会ったけど、間近で見れるってやっぱりいいな~!!

 

「あらあら、昨日振りですわね。では改めて自己紹介させて頂きます。私、三年の姫島朱乃と申します。オカルト研究部の副部長も務めておりますわ。以後お見知りおきを。」

 

思わず聞き惚れてしまいそうな声音。

 

「こ、これはどうも。兵藤一誠です。こ、こちらこそ初めまして!」

 

緊張のあまりぎこちない挨拶になってしまった。

 

「これはどうも御丁寧に。まぁ、今更言うまでもないかとは思いますが二年の有馬崇哉です。どうぞ宜しく、先輩。」

 

「オイ!流石に姫島先輩に対してそれはないだろ?!」

 

柔和な笑みを浮かべつつも、明らかに芝居がかった調子で皮肉を交えた挨拶を返す崇哉に思わず俺は声を上げる。

コイツつい昨日そんな風にやり取りした所為で先輩達怒らせたの覚えてないのかよ?!

 

「あらあら、余り良い心象は抱かれていないようですわね」

 

「心当たりが無いと仰るのならご自身の胸にお聞きしては?」

 

どこか思わせぶりな素振りを見せる先輩に対して先程のわざとらしい笑みを崩さず答える崇哉。

でも何だろう?

二人ともどこか目に妖しい光が浮かんでいるような……

お蔭で視線をぶつけ合う二人の間には異様な空気……何かこう、本能的に足を踏み入れてはいけないと感じるような領域が形成されていた……。

 

そのせいで俺は崇哉に対して先に挑発したのお前だろ、と思っても口には出せなかったワケだが……。

 

そんな俺達の様子を見ながらリアス先輩は一言「うん」と呟く。

 

「さて、これで揃ったわね。私達オカルト研究部はあなたたちを歓迎するわ―――――悪魔としてね」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「粗茶です」

 

「あ、どうも。」

 

「お構いなく。」

 

ソファーに座る俺達にお茶が出される。

 

うん、流石に毒を盛るような真似はしていないようだな。

 

「美味いです。」

 

「結構なお手前で。」

 

「あらあら、ありがとうございます。」

 

笑みを浮かべる姫島朱乃。

 

姫島に座るよう促すとグレモリーが切り出す。

 

「単刀直入に言うわ。私達は悪魔なの。」

 

それはまた随分と単刀直入だな。

 

 

 

それからイッセーはグレモリーから裏の事情について色々と説明を受けており、初めは信じられないという様子を見せていたが、『天野夕麻』の名を聞いた途端場の空気が凍る。

冗談ならここで終えてくれ、そう漏らした時のイッセーの声には明らかに怒気が込められていた。

 

まあ無理もないな。

 

誰に聞いても返って来る反応は覚えてないという答えか、さもなくば夢だと一笑に付されるかのいずれかだったのだから……

 

「そういえばあなたも当然覚えているわよね?なんてったってより上位の堕天使を従えてるくらいなのだから。」

 

不意にグレモリーがこちらに話を振る。

 

するとイッセーがゆっくりとこちらを振り向く。

 

……なるほど、この女、イッセーの怒りの矛先をこっちに向けようって魂胆か。

 

昨日のことと言い……まったく、大した主様だ。

 

その証拠に奴の目がしてやったりと物語っている。

 

「……なあ、崇哉、お前、あの時覚えてないって言ってたよな?」

 

絞り出すような声。

 

「ああ、言った。」

 

俺の返答を聞くと

 

「あれは嘘だったのか?」

 

「……嘘か真で答えるのなら……嘘だ。」

 

「ッ!!」

 

ガタッ

 

「崇哉ッ、テメェ!!」

 

イッセーが俺に掴み掛って来る。

 

「落ち着け」

 

「これが落ち着いてられるかよ?!」

 

「では聞くが、お前、いきなり悪魔だとか堕天使だとかって言われたら……信じられるのか?」

 

「っ?!」

 

「ついこの前まで普通の人間として生きてた奴がいきなり悪魔になりました、とか言われても当然信じられるわけがない。むしろ混乱させるだけ。それよりかは自身の変化に自分で気付かせる方が良いと考え敢えてしばらく放置することにした。その通りだな、リアス・グレモリー?」

 

「ッ!!……ええ、そうよ。あなた、まさかそこまで読んで敢えて彼に本当のことを言わなかったというの?」

 

「一応は、な。そちらに何らかの思惑がある以上下手に介入するのは得策ではないからな。まあでも俺個人としてはそのような意図があったにせよもっと早くに知らせるべきだったと思わなくもないが。そうすれば昨日のようにイッセーが襲われることも防げたはずなのだから。」

 

さっきのお返しに少々非難じみた視線を送ってやるとグレモリーはきまり悪そうに眼を逸らした。

 

「じゃ、じゃあ、崇哉はそこまで考えて敢えて知らないって言ったのか?」

 

「ああ。それでも納得できないというのなら……俺を殴ってもいい。」

 

「「「「「?!」」」」」

 

俺がそう言うと全員が驚いた顔をしていた。

まあ普段はアイツらがいるからまず言えないことだしな。

 

ああ、因みに言っておくが別にそっち系の趣味があるわけではない。

 

これはあくまでもけじめだ。

 

「……いや、やめておく。お前には助けられたし、それに先輩にもお前にも考えがあってのことだったんだろ?それにお前を殴ったりなんてすればそれこそ杏奈ちゃん達に殺されそうだしな……悪かった。」

 

そう言うとイッセーは手を離した。

 

「……説明を続けてもいいかしら?」

 

機嫌を損ねた様子のグレモリー。

目論みが上手くいかなかったことが気に入らないようだ。

どうでもいいことだが。

 

「そうだな。そもそもの説明の義務はそちらにあるのだから。」

 

「っ……まあいいわ。続けるわよ。」

 

そう言ってグレモリーは説明を再開する。

 

 

 

 

 

それからグレモリーはイッセーに悪魔のこと、それからイッセーが殺される原因となった神器のことについて説明していた。

グレモリーはイッセーに神器発動の際に自分が最も強いと感じるものを思い浮かべろと言ったが……その際の奴の取った行動に関してはノーコメントにしておこう。

 

そしてイッセーは神器を発動したわけだが……

 

「な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」

 

イッセーが絶叫する。

イッセーの左腕には赤い籠手のようなものが装着されていた。

 

ふむ……見かけは龍の手(トゥワイス・クリティカル)、力を倍加するというだけの神器の中では極ありふれた部類のものだが……僅かに漂ってくる気配はそんじょそこらのドラゴンのものとは明らかに違う。

 

この気配は……間違いないな。

 

かなり弱い弱しくしか感じられないが――――――赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)ドライグ。

 

どうやらこれは本当に……

 

「さて、一通りの説明は済んだことだし――――聞かせてもらうわよ、有馬崇哉君?」

 

グレモリーの一言でその場にいた全員の視線が俺に集まる。

 

ハァ……本当に面倒だ。

 

「それなら昨日既に話したはずだが?」

 

もうわざわざ敬語使うのも面倒だ。

 

「あのねえ、普通の人間は堕天使を連れていたりしないし、あんな風に威圧できたりしないの。それにあの時あなたから感じた波動は明らかに人間のものではなかったわ。ふざけてないで真面目に答えなさい。」

 

グレモリーは眉を吊り上げて突っかかって来る。

 

苛立ってはいるが下手にキレたりしないあたり昨日の経験は生きてるらしいな。

 

それに免じて少しだけなら教えてやるとするか。

 

「何か勘違いをしていないか?俺は“一般的な高校生”とは言ったが別に人間だとは言っていない。それと昨日からそちらの発言を聞いていると随分と人間を軽んじているようだから一つ忠告しておこう。神器を宿せるのは人間、もしくはその血を引く者のみ。現に元人間であるイッセーが神器を宿しているのが良い証拠だ。そして神や魔王をも屠れる神滅具もまた然り―――――あまり舐めてると足元掬われるぞ?」

 

「ッ――――そう。それなら昨日の答えは嘘ということだったのかしら?」

 

目元を引くつかせるグレモリー。

沸点が低いのは変わらんようだ。

 

「だから勘違いをするなと言っただろう。俺が言ったのは高校生としては一般的だということだ。」

 

「なら具体的には何者だというの?それに昨日あなたと一緒にいたもう一人はどうしたのかしら?私は彼女にも一緒に来いと言ったはずよね?それにあなたが堕天使を連れていた理由、それもまだ聞かせてもらっていないわ。」

 

かなりご立腹のようだ。

勝手な真似を、とでも言いたげな目をしている。

 

「それは言えないね。生憎と俺の正体は魔王でもない、一悪魔が知ってていいようなものじゃないんでな。それについては杏奈も同じだ。それと……堕天使が云々というのであればそちらにも半堕天使(ネフィリム)がいるようだが?」

 

「「ッ?!」」

 

俺がそう言った瞬間グレモリーと姫島の表情が一変する。

二人とも明らかに動揺していた。

 

が、それも一瞬。

 

すぐさまグレモリーの表情は元に戻り、一方の姫島は憎悪の籠った瞳で見据えてくる。

 

最早怒りを隠す素振りさえ見せない。

その証拠に滲み出るオーラが乱れに乱れている。

 

 

「……今そのことは関係ないでしょう……。それにしても舐められたものね。言ったはずよ?私はグレモリー家次期当主リアス・グレモリー、即ち現ルシファーの縁者だと。それでも答えられないと白を切るつもりかしら?」

 

「ほう?これは驚いたな。冥界では魔王と魔王の縁者を同列に扱うのか。しかも本来の魔王の血筋でもない者が王族気取りとは中々滑稽だな。」

 

「ッ……あなた、それは現魔王派への挑戦と受け取ってもいいのかしら?」

 

……よくもまあそんなことが言えたものだ。

 

それ即ち

 

「……最後は結局魔王(兄上)頼み、か?」

 

「ッ」

 

そう言うとグレモリーは押し黙る。

 

実際この女が色々と好き勝手出来ているのは現魔王の一角である兄、サーゼクス・ルシファーの後ろ盾があることが大きい。

魔王の威光を傘に脅しをかけたつもりだろうが俺達みたいなのにとってはそんなモノは無意味だ。

 

第一リアス・グレモリーが昨日見せたあの力。

 

悪魔の大王バアル(・・・)家に伝わる滅びの力。

 

触れたモノを消滅させる特殊な魔力。

 

あれは実態の有るものであれ力を具現化したものであれ触れればたちまち消えて無くなる。

 

聞けば現魔王のサーゼクスもあの力と桁外れの魔力量を武器に新旧魔王派のいざこざで戦果をあげ、現魔王の地位に着いたという。

 

だがもし俺とやりあうのならその力、更に言うなればバアルの血を引くことは逆に大きな障害にしかなりえない。

 

 

 

 

 

なんせあの力を使う者の血筋は全員……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンコン……

 

 

 

 

 

「失礼します。」

 

 

 

 

 

 

ふう、あの二人には感謝しないとな。

 

 

 

 

 

ガチャリ

 

 

不意に扉をノックする音が聞こえ、扉が開かれる。

 

そして入ってきたのは……

 

 

 

 

「ソーナ?!」

 

「会長?!」

 

グレモリー達が声を上げる。

 

彼女のみならず俺以外の全員が驚いた表情で扉の方に目を向ける。

入ってきた人物は黒のショートヘアに眼鏡をかけた女子生徒。

3年の支取蒼那、真名をソーナ・シトリー。

この学園の生徒会長にして、シトリー家の次期当主でもある。

 

「どうしてあなたがここに?」

 

グレモリーがソーナ・シトリーに尋ねる。

 

「頼まれたからです。そこの彼と……」

 

「お兄ちゃん!!」

 

続いて入ってきたのは我が妹分の杏奈。

 

杏奈は俺の姿を見るや否や駆け寄って来る。

 

「大丈夫?コイツらに何かされなかった?」

 

心底心配そうな様子だ。

 

「まあ落ち着きなさい。兄さんが無事なことくらいアンタが一番よく知ってるでしょう?」

 

そして杏奈の次に明日香が入って来る。

 

二人が入るのを確認するとソーナ・シトリーは続ける。

 

「……とこちらの二人にです。グレモリーの下僕を助けたら揉めたので仲介して欲しい、と。時々ですが彼らには生徒会の仕事を手伝ってもらったりもしているのでそのお礼と言うわけではありませんが。」

 

「ということはソーナ、あなた彼らと知り合いだったの?」

 

未だに状況が呑み込めない様子のグレモリーが尋ねる。

 

「ええ。正確には私のではなく私の姉の知り合いになりますが。」

 

その言葉を聞いて一同はより一層驚いた面持ちとなる。

 

まあ、セラフォルー(アイツ)と出会ったのは本当に偶然だったが。

 

今のところ魔王の中で俺達のことを知ってるのは彼女だけだろう。

 

それでも素性までは語っていないが。

 

「セ、セラフォルー様の?!それじゃああなたは彼らの正体についても知ってるの?」

 

グレモリーに尋ねられると彼女は首を横に振る。

 

「いえ、私どころかお姉様でさえ彼らの素性は知らないそうです。」

 

そりゃそうだ。

 

言えるワケがない。

 

これは相手が信用できるとかできないとかそういう問題じゃない。

俺達の素性が知られたら間違いなく今の三勢力の均衡は崩壊する。

ただでさえ聖書の神と本来の魔王が消えて色々と影響が出てきているのだから。

いや、それどころか他の神話体系の連中を刺激しかねない。

そうなればセラフォルーにのみ真実を告げたとしてもそう言った事態を防ぐべくして隠蔽せざるを得ないが、そうしたらそうしたで後々公になった際に後々糾弾されかねない。

現に“奴”は知っていた。

現状最も厄介なあいつが。

 

結局のところ話したところで彼女の立場が危うくなるだけ。

それはサーゼクス・ルシファーだろうとアジュカ・ベルゼブブだろうとファルビウム・アスモデウスだろうと変わりはない。

知らない方が互いの、いや、この世界の為だ。

 

時が来るまではね。

 

「それってかなり問題じゃない!!セラフォルー様でさえ素性を掴めていないだなんて!!というか知っていたならどうして私に教えてくれなかったのかしら?お兄様からもそんな話は一言も聞かされていないわよ?」

 

詰問を浴びせるグレモリー。

 

そこはキレるよりも事情を察して欲しいものだが。

 

「それについてはお姉様との間で個人的に色々と取決めがあるそうですから。実際彼らの正体を知ることは色々と問題が付き纏うようです。それ故に彼から自身のことをあまり口外しないよう言われたと聞きます。因みに私も彼のことを姉に尋ねたところ追及は不要だと言われました。」

 

「あの方がそこまで……ますます怪しいわね。それならこの学園にいる理由は何?」

 

そう言うとグレモリーこちらを一瞥する。

 

「なんでもお姉様が勧めたそうです。彼らは三勢力のどこにも属していないけれど実力は確かだとも聞いています。現にこの前も今の私達では到底太刀打ちできないレベルのはぐれ悪魔の討伐も無傷で果たしてくれましたし。」

 

ああ、そうそう。

事の初めはセラフォルーに勧められたからだった。

でもまあシスコンのアイツのことだ。

おそらく真意としては妹の手助けをしろという意味も含んでいたのだろうが。

それもまた一興と思って承諾した。

 

「それならどうしてあなたは知っていて私には知らせの一つもないのかしら?それに彼は堕天使を連れていた。仮に神の子を見張る者(グリゴリ)の関係者でなくとも本当は私達の敵でないという保証はないわ。大体あなたも知っていたならどうして教えてくれなかったのよ?」

 

「私も彼のことを知ったのは偶然でした。最初は私もあれこれ聞きましたが結局詳しいことは分からず仕舞、結果生徒会の仕事を手伝う代わりに彼らのことは追及も口外もしない、という条件で妥協しました。これも一種の契約です。無論悪魔稼業については対象外ですが。あとその堕天使についても説明は受けています。確かオリヴィアさんといいましたか?彼女は彼の直属の部下だそうで、神の子を見張る者(グリゴリ)には属していないそうです。それにもし仮に彼らに私達と敵対する意思があるのならこんな回りくどい上に一文の得にもならないような方法はとらないでしょう。」

 

「ッ……そう。まさかあなたがそこまで言うなんてね……。」

 

一度諦めにも似た表情を見せた後で何やら考えるような様子を見せるグレモリー。

 

「ソーナ、一つ聞きたいのだけれど……彼らは別にあなたの眷属でもセラフォルー様の眷属でも何でもないのよね?」

 

「ええ、そうですが……ッ!!リアス、あなたまさか?!」

 

 

……やはりそう来たか。

 

 

案の定、グレモリーはこちらを向いて言う。

 

「この際、セラフォルー様が追及不要と仰られている以上私もあなたたちのことは追及しないわ。でも私としてはあなたたちのような存在を見過ごすことはできない。それに私は個人的にあなたたちに興味があるの。」

 

まあ、次に何を言うかぐらいは分かっているが……一応念の為聞いておくか。

 

「それで、何が言いたい?」

 

するとリアス・グレモリーは口元に笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

「あなたたち、私の眷属になりなさい。」

 

 

 

 

 

 

 

……やっぱりね。

 

ここまで予想通りだと逆に拍子抜けしそうなくらいだ。

 

 

 

 

 

だが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「断る」

 

「絶対に嫌」

 

「無理な相談ね」

 

 

 

 

 

異口同音、口を揃えて各々の拒否の意を示す俺、杏奈、明日香。

 

「……あら、どうしてかしら?悪魔になれば寿命も延びるし、功績を上げれば上級悪魔に昇進して爵位と領地も貰えるし、自分の下僕を持つことだってできるのよ?それにあなたたちの力ならすぐに認められるでしょうし何よりセラフォルー様とのコネだってあるんでしょう?」

 

余程断られたことが癇に触れたのか、やや不機嫌な様子で聞いてくる。

 

だがこればかりは致し方ない。

 

俺達神格はまず悪魔にはなれない。

 

それになれたとしてもメリットがないどころかデメリットしかない。

 

「理由は色々あるが大きく分けて二つ。一つは悪魔になるメリットがない、そして二つ目は……俺達は悪魔にはなれないからだ。」

 

これにはその場にいた全員が驚いたようだった。

 

「メリットがない、というのも気になるところだけれど……悪魔になれないとはどういうことかしら?」

 

今度はかなり訝しげな様子で聞いてくる。

 

「どういうこともなにも、そういう体質みたいなものだ。なんなら試してみるか?」

 

「ッ……分かったわ、そうさせてもらうわ。」

 

そう言い、グレモリーは赤いチェスの駒のようなものを取り出す。

 

あれが『悪魔の駒』(イーヴィル・ピース)、形状からして『騎士』(ナイト)『戦車』(ルーク)か。

 

そして俺に近づけるが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、嘘……どうして……?」

 

 

 

 

 

駒は全く反応していなかった。

 

聞いたところではそもそも『悪魔の駒』(イーヴィル・ピース)は転生させる対象として神格は対象外としているのだからまあ当然と言えば当然の結果だが。

 

それに悪魔に転生させるには対象の力量に見合うだけの駒数を消費することになるし、中には通常複数の駒数を要する対象を一つで済ませる『変異の駒』(ミューテーション・ピース)なるものも存在しているが、それでも神仏クラスの対象を転生させるにはいくらあっても足りない。

 

「そういうわけだ。それに、自分と力量がかけ離れた者を強引に従わせたところで寝首を掻かれるのがオチだ。」

 

そう言うとグレモリーが眉を吊り上げる。

 

「ちょっと。それ、どういう意味よ?」

 

「そのままの意味だが?」

 

「つまり……私たちがあなたたちよりも弱いと言いたいのよね?」

 

「おや、自覚がないのか?まさか昨日のことを忘れたわけでもあるまい。」

 

あれでまだ分からないというなら本当に救いようがないモノだが。

 

「ッ……、いいわ。そこまで言うのなら見せてもらおうじゃない、あなたたちの力を……!」

 

「……正気か?」

 

「あら、でも昨日あなたは直接戦ったわけじゃないでしょ?それにあなた以外の二人はどうか分からないもの。」

 

不敵な笑みを浮かべ、挑戦的な物言いをしてくるグレモリー。

だがその実自身のプライドをコケにされたと感じて苛立っているに過ぎない。

 

「ふうん……アンタ、私達とやる気なの……」

 

ここへきて初めて口を開く杏奈。

感情の籠っていないその声は完全に取るに足らないものを前にした時のものだ。

 

「昨日お兄ちゃんに軽く威圧されただけですぐに戦意喪失する程度なのに、今度は直接戦えですって?そうしたら……死ぬよ?」

 

杏奈がスッと目を細め、ほんの微かに殺気が滲み出る。

これは警告。

『お前など取るに足らない雑魚だ、失せろ』という言外の通告。

 

「?!リアス!!お止めなさい!!今のあなたたちが太刀打ちできる相手ではありません!!」

 

ソーナ・シトリーは杏奈から発せられる殺気を感じたのか、すぐさまグレモリーに静止を促す。

その額には冷や汗が浮かんでいた。

 

「あら、ソーナ、勝負は水物。実際にやってみるまでどうなるか分らないものよ?」

 

しかし当のグレモリーの方は頭に血が上っているのか、引く気はないようだ。

戦って打ち負かす他折れてはくれなさそうだ。

 

「……もう一度だけ聞いたげる。死ぬ覚悟はできてるんだよね?」

 

杏奈から発せられる殺気が僅かに強まる。

 

これは少しマズいか……

 

アイツは一度戦いだすと歯止めが効かなくなる。

下手をすれば本当にグレモリー達を血祭りにあげかねない。

 

何としても杏奈(アナト)を戦わせることだけは避けたいんだが……

 

「望むところよ」

 

?!

 

おいおい……

 

こちらの懸念を他所に当の本人は完全にやる気だ

見れば主の戦意に呼応して下僕の方もすっかりその気になっているようだった。

 

「ハァ……」

 

グレモリーより改めて宣戦布告を受け、一つ溜息を吐くと、杏奈、いや、アナトが立ち上がる。

その顔はとにかく目の前の雑魚を黙らせたくて仕方がないという半ばうんざりしつつもどこか不愉快そうな色をたたえていた。

 

「決まりね。ならさっさt「ちょっと待って」ッ?!お姉ちゃん?!」

 

「「「「「「?!」」」」」」

 

これからつまらない狩りに赴こうとするアナトを引き留めたのは予想外の人物――――――――――――(アスタルテ)

 

これにはアナトばかりではなくグレモリー達も驚いている。

 

「……何かしら?まさか今更になって戦うなと言うわけじゃないでしょうね?」

 

グレモリーが横やりを入れるなと言わんばかりの様子で問いかける。

 

「まさか。今更何を言ったところで戦うのを辞める気はないんでしょ?だったら……」

 

彼女は一泊置く。

 

そして

 

 

 

 

 

「私がやるわ」

 

 

 

 

「っ」

 

 

 

これまた予想外だったのか、その場にいた者達は息を呑む。

 

「……それはあなた一人で相手をするということかしら?」

 

「そうよ。」

 

アスタルテの返答に顔を顰めるグレモリー。

 

「……どういうつもりなの?舐めてるのかしら?」

 

グレモリーの体から怒りを表すかの如く紅いオーラが湧き出る。

他の眷属達も愚弄されていると感じたのか、表情を険しいものにしていた。

 

「あら、別にそういうわけじゃないのだけれど。ただ私達が全員で戦えばあなたの言う私達一人一人の力は知れないわよ?それに聞いたところだとあなたたちは昨日兄さんには威圧されただけで戦意喪失。つまりその時点で少なくとも兄さんはあなたたち全員が束になっても敵わないレベルということ。それに杏奈もその時同じ場所にいたはずだけれど……あなたたち同様に戦えないような状態だったのかしら?」

 

「それは……」

 

返答に詰まるグレモリー。

その様子を見て満足そうに続けるアスタルテ。

 

「なら杏奈も少なくとも兄さんの威圧に耐えれるレベルだということよ。そうすると今のところあなたたちにとって一度もその力量が分かっていないのはその場にいなかった私だけ。つまりどうでも私達の力を知りたいというのであれば私一人と戦うのがベストだと思うのだけど……どうかしら?」

 

なるほど、アナトを下がらせる代わりに自分一人で打ち負かして黙らせるということか。

 

反論は帰ってこない。

 

そして

 

「……わかったわ。そこまで言うのならあなたの言う通りにしてあげる。ただし負けても言い訳は聞かないわよ。」

 

「フフフ、今度こそ決まりね。」

 

満足気に笑むアスタルテ。

グレモリーの一党は今やすっかり彼女に言いくるめられていた。

 

「よろしいのですか?」

 

釈然としない様子でソーナ・シトリーが尋ねてくる。

 

「ええ。それと審判はお願いできます?」

 

アスタルテは何の躊躇いもなく答える。

グレモリーの方は言わずもがな。

 

「はぁ、分かりました。私が勝負の行く末を見届けましょう。」

 

彼女も承諾した。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

沈みゆく夕日が空を茜色に染める中、旧校舎の裏の開けた場所で紅髪の悪魔率いる悪魔の一団と白銀の女神は相見える。

 

「それでは、始めて下さい。」

 

ソーナ・シトリーの掛け声で開戦が伝えられる。

 

「さあ、私の可愛い下僕たち!!私達の力、思い知らせてあげましょう!!祐斗!!子猫!!」

 

「「はい!!」」

 

先手を取るのはリアス・グレモリー。

味方を鼓舞しつつ、近接戦闘を得意とする下僕二名に指示を出し、相手の動きを牽制しにかかる。

 

主の声と共に飛び出した金髪の『騎士』(ナイト)、木場祐斗は常人なら目視することも叶わぬ速度で確実に距離を詰めていく。

一方、『戦車』(ルーク)、搭城子猫は『騎士』(ナイト)ほどの速度は出ないため、同時に飛び出したにも関わらず彼との距離は開いていくが、それでよかった。

当然、先に敵に肉薄するのは彼。

そしてこれまた当然ながら相手は先に自身のところに到達した木場祐斗の攻撃から対応することになる。

刀剣など獲物を持っているのであれば彼と切り結ぶなども可能なのだが今の相手は獲物となるものは何も持っていない、丸腰の状態。

敵の戦闘スタイルは不明だが、必然的に剣による攻撃の対処は避けることの一択に絞られ、反撃するにも格闘攻撃であれば隙を伺わなくてはならず、魔力の類を使うにしても相手と一定の距離を保ち続けることを意識し続けなくてはならない。

そして敵が彼との戦闘に集中しているところに時間差でやってきた塔城子猫の拳打の応酬というダブルパンチを見舞う。

無論、二人ともただ闇雲に戦う訳ではなく、敵を誘導し、離れた場所から『王』(キング)、リアス・グレモリーと『女王』(クイーン)姫島朱乃による魔力攻撃とを加える。

本来ならここにもう一人の下僕、兵藤一誠が何らかの形で加わるはずなのだが彼は悪魔に転生したばかりで力の使い方すら知らない状態であるが故に戦力外であり、この形が下僕の特性上それが最も理想的な采配であった。

グレモリー眷属の各々がその連携を念頭において進めていた。

 

木場祐斗は加速する世界の中、急先鋒として己が役割を全うすべく、ただひたすらに敵を目がけて直進する。

 

「へえ、流石は『騎士』(ナイト)。結構速いじゃない。」

 

「なっ?!」

 

突如として背後から聞こえた女性の声。

それは先程まで部室で耳にしたもの。

一瞬、耳を疑う。

彼女は目の前にいたはずなのに……

しかしすぐに思考は切り替わる。

僅かに肌で感じた不自然な空気の流れ、遅れて鼻腔に届く甘い香り。

刹那

 

バリン!!

 

「ッッ?!」

 

「でも惜しいわね。筋は悪くないけど動きが単調。そして何より……」

 

響き渡る破砕音と再び背後から聞こえた声、それと共に視界に広がる何かの破片。

その正体が何であるか理解するのに時間はかからなかった。

気付けば手にした刃の刀身が消えていた。

そして先程感じた妙な感覚。

何か特殊な力を用いたような感じは一切しなかった。

となるとそれらを総合して導き出される結論は一つ。

 

彼女は彼の認識限界を超えた速度で彼の前後を移動するという、文字通りの神業をやってのけたということ。

 

「くっ……!!『魔剣創造』(ソード・バース)!!」

 

速度で負ける。

それは『騎士』(ナイト)として己が高め、磨いてきた力を否定されるようなもの。

これ以上の屈辱はない。

即座に振り向き己が内なる神器の力を解放し、破壊された手中の刃の代わりに新たな魔剣を生み出して迎撃を試みる。

しかし天を衝かんばかりの勢いで現れた剣山の中にはどれ一つとして敵を捕らえたものはない。

 

そして視界の隅に白銀が映る。

剣士は目を見開く。

 

「遅い」

 

白銀の女神は地に付けた足に力を籠め、上体を捻り、右肘を叩き込む。

 

ドゴンッッ!!

 

「がはッッ?!」

 

背中より全身を駆け巡る鈍い衝撃。

肘という接する面積が小さい部分であるために力が一点に集中し、破壊力を増す。

無論手加減はしているものの、意識を刈り取るには十分な威力だった。

意識を失った剣士はそのまま崩れ落ちる。

 

刹那の攻防、僅か数秒にも満たない間の出来事であるが故、傍から見れば、何が起きたのか分からず、ただ気付けば剣士がやられていたというようにしか映らないだろう。

 

「祐斗!!」

 

木霊すリアス・グレモリーの叫び。

しかしそれは届かない。

 

搭城子猫は目を疑う。

木場を倒した相手の動きは何一つとして見えなかった。

彼女が辛うじて相手がそこにいると把握できた手掛かりは遅れて耳に届いた音のみ。

そして彼は戦闘を開始したと思われる時から数秒と経たずに彼は倒れた。

 

これが意味することは即ち、眷属内で最速を誇る『騎士』(ナイト)の彼をも上回る速度が出せるということ。

 

「戦闘中に考え事は命取りよ?」

 

「!!」

 

気付けば相手(アスタルテ)は既に目と鼻の先にいた。

高速戦に特化した木場でさえ目の前の彼女の動きに対応できず敗れた。

然らば彼に速度で劣る自分は拳を振り抜くより先に意識を飛ばされる。

そんな思考が彼女の脳裏を埋め尽くす。

 

その時

 

「え?」

 

ほんの一瞬、敵であるはずの彼女が微笑んだような気がした。

それはこれから自分を打ち据えることに悦びを見出す嗜虐的なものでも、どこか含みのある打算的なものでもない、ただただ純粋なもの。

母親が我が子に向けるような慈愛に満ちた笑み。

 

そして彼女は相手が額に指を伸ばしていることに気付いた。

 

「おやすみなさい」

 

その一言と共に体中を何かが駆け抜ける。

だが、不思議と悪い気はしない。

むしろ包み込まれるような安心感。

予想していた痛みはいつになっても訪れない。

 

そしてそのまままどろむ様に意識が遠退いていった。

 

ドサッ

 

『戦車』(ルーク)はここに陥落した。

 

ここまでの経過時間、およそ30秒。

 

「子猫ッ!!くっ……よくもッ!!」

 

ギリッ

 

彼女らの主は歯噛みする。

下僕を倒されたことに怒りを感じないわけではない。

しかしそれと同時に焦りも感じていた。

最初に『騎士』(ナイト)『戦車』(ルーク)の二人を先鋒として行かせたのは自分たちが各々の特性を把握した上で最も効果的と判断し、磨いてきた連携プレーを実現するため。

だがそれは飽くまでも敵の速度が『騎士』(ナイト)の速度で対応可能な範疇であった場合の話。

今回のように相手が余りに速すぎる場合は初手からして既に詰みであったと言う他ない。

そればかりか開始から一分と経たないうちにただでさえ少ない下僕の内全ての近接戦闘要員を下される羽目になった。

残ったリアス・グレモリーと姫島朱乃はいずれも魔力攻撃主体の中~遠距離戦特化型であるが故、接近戦に持ち込まれた際には苦戦を強いられることは必定。

特にゼロ距離にでもなれば、自爆覚悟で相手に一撃見舞うことは理論上は可能でも、間違いなく相手が自分たち以上に速く動いて止めを刺されてしまうので、事実上全ての抵抗手段を奪われ無力化されてしまう。

 

一方、当の相手(アスタルテ)はというと、その気になれば先の二人と同様すぐに沈められるのだがそれでは味気ないと思い一計を案じる。

そして彼女は不意に歩みを止め、残った二人の悪魔の前に姿を現す。

 

「さて、残りはあなたたち二人だけね?」

 

柄じゃないなと思いつつも兄のように皮肉気に笑んでみせる。

 

「くっ……祐斗と子猫の敵、討たせてもらうわ!!朱乃!!」

 

「はい、部長!!」

 

陸上では圧倒的に不利と判断し、二人共悪魔の翼を展開して空へ舞い上がる。

 

「雷よ!!」

 

「消し飛びなさい!!」

 

 

ピシャァァァァン

 

ギュパァァァァン

 

宙より雷と赤黒い魔力の奔流が放たれる。

 

しかし地上で空を見上げる白銀の女神は微動だにしない。

それどころかニヤリと口角を吊り上げる。

 

彼女は手を翳す。

 

ゴウッッ

 

その瞬間、凄まじいまでの暴風が発生し、空中にいた二人を襲う。

 

「「キャッ?!」」

 

余りに激しい気流の流れにその場に留まることができず、風にさらわれた木の葉の如く吹き飛ばされ、やっとのことで姿勢制御が可能になった頃には既に敵の姿を見失っていた。

 

「うっ……彼女は…どこ?」

 

激しい回転を繰り返した所為で眩暈がする中必死に辺りを見渡すが一向に見当たらない。

 

刹那

 

 

 

ブウゥゥゥゥゥン

 

 

 

「「?!」」

 

彼女を探すことに気を取られていた二人の悪魔は自身の身に起こった変化に気付く。

 

「な、何よ……、これ……?」

 

「か、体が……動きませんわ」

 

見ると小さな結界のようなモノで手足、翼がそのままの姿勢で空中に固定され、体の自由が奪われていた。

 

 

 

 

 

「ハイ、捕まえた。」

 

 

 

 

 

「「!!」」

 

ジジジジ、バチッ、ジジジジ……

 

ギュオオオオオオ……

 

聞き覚えのある声と共になにやら不可解な音が耳に飛び込んでくる。

声のする方へと視線を向けると探していた人物が。

そして彼女の頭上には二本の槍。

 

「う、嘘……」

 

「こんなことが……」

 

二人の少女は目を見開き、絶句する。

無論それはアスタルテに、ではなく彼女の頭上に浮かぶ二本の槍――――――それは紛れもなく先程自分達が放った雷と滅びの魔力、それも何倍にも増幅されて。

 

 

 

 

 

 

 

 

王手(チェックメイト)、ね。……己の浅はかさを後悔なさい。」

 

 

 

パチン

 

 

 

ビュオオオッ

 

 

 

アスタルテが冷淡に告げ、指を鳴らすと同時に雷と滅びの槍が主目がけて飛で行く。

身動きの取れない悪魔二人は躱すことは勿論、障壁を生み出すことお叶わない。

 

「「っ……」」

 

二人の少女は轟音を轟かせながら迫りくる自分自身の力によって貫かれる未来を脳裏に思い描き、思わず瞑目する。

その時彼女たちは何を思ったのか。

一人は生まれ持った力を呪い、もう一人は自身のプライドに任せて実力で遥かに勝る相手に力量差を図ることなく挑んだことを悔やんだのか。

 

しかし、彼女らが思い描いたクライマックスは訪れない。

 

いつまで経っても、何の痛みも感じないことを不審に思い、恐る恐る堅く閉ざした目を開く。

 

すると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「!!」」

 

 

 

 

 

 

 

二人はまたもや絶句した。

 

射出された槍は二人のすぐ眼前で静止していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんて、するわけないでしょ。」

 

 

 

 

そして再びアスタルテが指を鳴らすと二本の槍は消滅する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……勝負ありましたね。」

 

 

勝負の行く末を見守っていたソーナ・シトリーが試合終了を告げる。

 

どこからともなく戦場を吹き抜ける風が呆気ない結末をより際立たせていた。

 




まさかの16000字オーバー……

そして時間をかけた割には読み返してみるとかなりつまらないという始末……

はぁ……

余り長すぎても読者の皆様の負担になるだけでしょうから、以後長くなり過ぎないよう気を付けます。

御感想or御指摘等ありましたらお願いします。


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黒き陰謀

済みません、またダラダラと書き続けてしまいました。

本当はもう少し続く予定だったのですが、余りに長くなっても読みにくいだけなので2話に分けることに致しました。

それではどうぞ。


黒き陰謀

 

 

悪魔共との邂逅から数日。

俺達三人はオカルト研究部に仮入部という形になった。

勿論グレモリーの独断だ。

それも「あなたたちを放っておくことはできないからここで監視させてもらうわ」とかなんとか言って。

どう見ても負けたことへの腹いせだったが。

だがアイツの妹もいることだからまあ良しとしよう。

 

そんなこんなで面倒だとは思うが(仕方なく)部室には顔を出している。

 

 

そして

 

 

 

「いい?二度と教会に近づいては駄目よ?」

 

 

グレモリーがいつになく真剣な表情でイッセーに説教をしていた。

なんでもイッセーが登校中に偶然道に迷った外国人シスターに出会い、教会まで道案内してきたと言うのだ。

 

「教会は私達悪魔にとって敵地、踏み込めばそれだけで神側と悪魔側との間で問題になるわ。今回は向こうもあなたの厚意を素直に受け取ってくれたみたいだけれど天使達はいつも監視しているわ。いつ、光の槍が飛んでくるかわかったものじゃないのよ?」

 

イッセーも相当堪えてる様子だな。

まあこればかりはどうしようもない話だが。

 

「それから教会の関係者にも関わっては駄目よ?特に『悪魔祓い』(エクソシスト)は神の祝福を受けていて私達悪魔を滅ぼせる力を有しているし、更にいえばその中には神器所有者もいるわ。故に教会関係者と関わることは正しく死と隣り合わせなのよ?」

 

イッセーを見据え、語気を強めながら言い聞かせるグレモリー。

確かに奴ら『悪魔祓い』(エクソシスト)は聖剣使いのように直接悪魔を滅する力を持った者もいるし、十字架や聖水だけでも悪魔にとってはダメージになる。

因みに天使や堕天使の光の攻撃を受けても消滅する。

……よくよく考えたら弱点だらけだな、悪魔は。

本当に、どうしてこうなったのか疑問で仕方がない……

 

しかし『悪魔祓い』(エクソシスト)が機能している以上『システム』が動作していることは確かなわけだが……

聖書の神が消えた今、それを動かせる者となると自ずと限られてくる。

 

恐らくは神の如きもの(ミカエル)……

 

クククク……文字通りの神の真似事か。

 

果たしてどちらが“偽の神”なのやら……

 

 

 

それにしてもその教会というのはどこのだ?

 

この近辺で教会と言うと町外れの廃れたのくらいしか思い当たる節がないんだが。

 

それにあそこは……

 

「人間としての死は悪魔への転生で免れるかもしれないけれど悪魔祓いを受けた悪魔は完全に消滅する。つまり、無に帰すのよ?“無”。何もない、何も感じない。それがどれだけのことかあなたには分かる?」

 

イッセーに詰め寄るグレモリー。

一方、当のイッセーの方は対応に困って困惑するばかりのようだ。

 

“無”ねぇ。

 

厳密にいえば少し違うな。

悪魔祓い、または強い光を受けた悪魔はまず次元の狭間へと飛ばされる。

人間界と冥界、天界といった異なる世界間に広がる何もない、“無”の空間。

今は赤龍神帝グレートレッドが支配する領域。

そして厄介なアイツの生まれ故郷でもある。

次元の狭間は文字通りの無。

そこを漂うものは次第に次元の狭間の無にあてられてやがて本当の無に帰ることとなる。

余程の力がない限りはな。

 

「ごめんなさい、少し熱くなり過ぎたわ。兎に角、今後は気を付けて頂戴。」

 

「はい。」

 

……おっと、そろそろ時間だな。

 

「取り込み中すまないが今日はこれで失礼するよ。」

 

イッセーとグレモリーの視線がこちらを向く。

 

「どうしたの?」

 

グレモリーが訝しげな瞳を向けて来る。

 

「少々約束があってな。」

 

「そう。」

 

返答は至って簡素なものだった。

 

「……珍しいな、追及しないとは。」

 

「あら、あなたに聞いてもどうせ皮肉しか返って来ないでしょう?無理に口をこじ開けようとしても疲れるだけだって何となくだけど分かって来たし。それに悔しいけど力ずくで喋らせるのは尚更無理っぽいもの。」

 

その言葉には幾分諦めたような響きがあった。

この前アスタルテに散々にやられたこともあってか最近はそこまで突っかかってこなくなったな。

 

「……そうかい、それならまた明日。」

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

道行く雑踏の絶えない表通りの喧騒を他所に、裏路地の奥の奥、ひっそりと佇むバーがあった。

この一帯は『裏』に通じる者でも極僅か、知る人ぞ知る隠れ場とでも言うべき場所で、その所為か人々の往来は日中であっても極めて少ない。

相応の実力を持たぬ者が足を踏み入れれば生きて出られる保証はないという不文律の支配する無法地帯でもあった。

 

そんな中、月夜にそのような危険地帯をバーに向かって歩みを進める人物が一人。

 

月明りに照らされる肌は新雪に喩えるもおこがましいほどに白く、肩甲骨の下、背の中ほどまで伸びた緋色の髪は純銀に赤色を溶かし込んだかのように見えるほどの艶と輝きを有し、流れるように風に靡いていた。

髪と同色の、長い睫に縁取られた切れ長の目から覗く金色の瞳は日輪を思わせ、相対する者に全てを見透かされるような印象を与える。

それに加え細い鼻梁は高過ぎず低過ぎず、絶妙な反り具合が至高のラインを描き、思わず吸い付いてしまいたくなるほどの艶やかでみずみずしい口元が細めの輪郭を浮かび上がらせ、長身痩躯の体型も相まってどれほど才に恵まれた芸術家の手を以てしても再現することは叶わぬであろう、美の極致とさえいえる造形美を体現していた。

 

一見、この人物が男性とは夢にも思わないだろう。

 

「ここか」

 

彼は一言呟くと、ところどころ切れかかったネオンサインが彩る看板の下、中へと続く扉を押し開ける。

 

中に入ると幸いなことに客は少なく、彼はすぐに目的の人物を探し出す。

 

奥のカウンターに腰掛ける人物。

 

彼はその人物のすぐ隣まで行き、隣の席に腰を下ろす。

 

「遅かったじゃないか」

 

如何なる鈴の音も掠れて聞こえる程に凛とした、澄み切った声。

 

声と共に彼の隣に腰掛けていた人物は振り向く。

 

座っていたのは純白のパンツスーツに身を包んだ絶世と形容するもなお足りぬ程の美女。

背は女性としてはやや高めでスレンダーな体躯をしていた。

肌は着ているスーツよりなお白く、輝いてさえ見える程で、腰まで伸ばした髪は純銀より一層無色に近い、眩いばかりの白金色。

長い睫が縁取る切れ長の目は眦がスッと上がり、シャープな印象を与え、瞳は男性と同じく金色だが、彼の瞳が日輪だとすれば彼女の瞳は宵の明星を連想させる色彩であった。

通った鼻筋は細く、描き出すラインも筆舌に尽くしがたい程に美しく、朱の引かれた口元は瑞々しく、妖艶であるもその線は理想の具現化と呼べるほどの極上の造形であった。

凡そ美の完成型。

神も二つとして同じものを作れぬであろうほどの造形美がそこにあった。

 

「すまないな。少し立て込んでしまって。」

(首尾はどうだ?)

 

「またお守りか?」

(いきなりだな。まあまあ、と言いたいところだがそうも言ってられなくなってきた。)

 

二人は表面上は取り止めのない会話を演じつつ、言外の部分で念話による意思疎通で必要な情報のやり取りを行う。

この裏の裏ともいえる世界ではふとした一言から素性がバレることも珍しくない。

特に彼らのように存在自体がトップシークレットのような者達に限っては尚更警戒せねばなるまい。

なれば口に出す会話は自ずとこのようなものに限り、本当に重要なことは他人に五感で察知されることのない形式で行う、それが暗黙のルール。

もっといえば今の二人の意思疎通のやり方でさえも安全面からすればギリギリであるが、店内の客の少なさと彼ら自身、心を覗ける者はこの世界で10人いるかどうかというレベルであることから念話という方法をとっているに過ぎない。

 

「そんなところだ。」

(……動き出したのか?)

 

「フフッ、嘗ての貴殿からは想像もできんな。」

(ああ。それも近頃急速にな。時に貴殿は『改造変異悪魔』(ミュータント)というのを御存知か?)

 

「年月は人を変える。お前さんこそ昔に比べれば随分丸くなったじゃないか。」

『改造変異悪魔』(ミュータント)?初耳だな。)

 

「私といえど年月をへれば多少はどこか変わるさ。この世に何一つとして不変なものなどない、と常々仰っていたのは貴殿であろう?」

(最近人間界を単独でうろつくお尋ね者……いわゆるはぐれ悪魔だが、そいつらが最後に姿を確認された場所から一時的に姿を消したかと思いきや奇妙なことにまた戻って来るんだよ。それも力を何倍にも増してね。)

 

暫しの沈黙。

 

「しかし、こうしてお前さんと会うのはいつ以来だろうか?」

(そいつらが『改造悪魔』(ミュータント)……力の倍増というのはどれくらいになる?)

 

「さあ?でも、昨日振りでも十年振りでも一万年振りでも大差は無いよ。我々にとっては時の経過の概念はあまり意味を持たないからね。」

(一概には言えないが仮に素体が下級悪魔であっても上級悪魔クラスの力を得られるようだ。だが強制的に心身の限界以上に力を底上げする分当然リスクも大きい。改造されたが最後、知性も心も失いただただ破壊本能に任せて暴れ回る、命尽きるその時までね。事実多くの個体が討伐隊との交戦中、或いはそれ以前に“自壊”しているそうだ。)

 

「それもそうだな。」

(なるほど。確かにきな臭いことこの上ないな。生物の改造など連中なら好んでやりそうだ。)

 

(これは飽くまで私の私見だがはぐれの改造はまだ序の口だ。ソイツらを生み出したのも何か事を起こす為の一過程に過ぎない。近々また厄介なことが起きるかもしれないな。)

 

耳に聞こえる会話は途絶えても念話による水面下のやりとりは絶えない。

 

(厄介事、ね……しかしその技術を連中が独自に開発したものなのかそれとも外部から齎されたものなのかが気になるな。)

 

(まあ奴らと三大勢力との関わりを意識するのであれば自ずと漏洩元は絞られるが……まさか貴殿、あの子の復讐に加担するつもりか?)

 

不意に女性の視線が彼の方を向く。

 

(復讐、ね。確かに本人から見ればそうなるか。だがしかしそれは彼女自身が乗り越えるべき問題。結果復讐という形になったとしてもそれで本人が先に進めるというのなら助力は惜しまないさ。)

 

彼女の訝しげな視線に男性はグラスを呷ると答える。

 

(ハァ……私としては元とはいえ同胞間の殺し合い、共喰いを見ているようで些か気分が優れないがそれもまた真理か……。その相手にしても野放しにしておけば害にしかならないだろうからその形で締めくくるのが確かに最善だな。)

 

(意外だな。お前さんならてっきり反対するものかと思ってたが。)

 

(貴殿が保護者でなければそうしたよ。復讐者にとって本当に大切なのは復讐を成し遂げた後だ。自らの唯一ともいえる生き甲斐を喪失し、新たな生の意味を見いだせずに命を投げ出す者も多い。だがあの子は貴殿を好いているようだからな。フフフ、この女たらしが。)

 

彼女は笑った。

 

(おいおい、好かれていることに悪い気はしないが流石にたらしとまで言われれば凹むぞ?)

 

彼もまた苦笑する。

 

(事実だろう?二柱もの女神を妻にしておきながらそれ以外の種族の娘も侍らせているじゃないか。聞けば魔王レヴィアタンとその妹とも懇意にしているというし。)

 

(別に意図してハーレムなど囲ったわけではないが?)

 

(そんな顔をしておいてどの口で言うのだ?美の女神さえ虜にしたほどの男が。)

 

彼女は少々からかい交じりの笑みを送る。

 

(ほう?顔ならお前さんも他人のことは言えんだろうに。お前さんの前では花も月も、女神さえも恥じらうとさえ謳われた身であろう?)

 

(ん?ああ、そんなこともあったようななかったような……ところで貴殿が子守をしているという現ルシファーの妹というのはどのような輩だ?仮にも赤龍帝を拾ったのだろう?)

 

(ああ……一言で言えばかなりのじゃじゃ馬だね。優秀な方ではあるし血気盛んなのはいいが些か王としての自覚が足りない部分もあるのでな。)

 

(おや?良かったじゃないか。どうやら血気に逸る部分は確かに遺伝しているみたいで。グレモリー兄妹の母親は貴殿の末裔を称する一族の出であるし従兄弟に当たる次期当主も中々に血気盛んな男子であると聞き及んでいるからな。)

 

(正確には俺の分霊の、だけどな。それを言うなら初代のグレモリー、確か名前はレヴェナだったか?あれも相当お転婆だったと思うが。)

 

(これは随分と懐かしい名前が出たものだ。死んだアイツとかなり懇意にしていたようだったが……おや、いつの間にか話し込んでしまったな。)

 

(ああ、あまりこの場に長いするのも良くないだろう。)

 

二人は立ち上がると会計を済ませ、店の外へと出る。

 

「では、私はお先に失礼するよ。奥方らによろしく。」

(ではな、バアル・ハダド(カナンの神王)。)

 

「ああ、またいつか、な。」

(息災でな、ルシフェル(暁の子)よ。)

 

 

簡素な挨拶を交わした後、二人は別れる。

夜の闇が深まる中、緋色と白金の姿は闇に溶けるように消えていった。

 

 

 

 

 




ああ、遂に今日で休みが終わってしまいます。
明日からまた学校です、はい。
長期休暇でさえこんな更新ペースなのに新学期始まったらどうなるんだ?と思わずにはいられない駄作者です。

次話は途中まで出来上がっている状態なので恐らくもう少し早目に仕上がると思います。

こんな駄作と駄作者ですがこれからもどうか宜しくお願い致します。


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はぐれ悪魔

二日連続更新です。




はぐれ悪魔

 

 

俺達は町外れの廃墟に来ていた。

 

崇哉の奴は用事があるとかで依頼が来る前にどっか行っちまったが……

 

部長によるとここに“はぐれ悪魔”がいるらしい。

はぐれ悪魔というのは爵位持ちの上級悪魔の下僕悪魔に転生した者で、主を裏切ったり、主を殺して逃亡した悪魔のことを指す。

特に人間から悪魔に転生した者は人間だったころとは比べ物にならないほどの強大な力を手に入れることになり、その力を自分の為に使いたくもなるのだろう。

そうした“はぐれ悪魔”は各地で暴れ回っては甚大な被害をもたらすため、見付け次第討伐或いは捕獲するのが悪魔に限らず天使や堕天使の間でもルールとなっているという。

そして今回、そのはぐれ悪魔が部長の縄張りであるこの町に潜伏しているため討伐して欲しい、とのことらしい。

しかも今回討伐するはぐれ悪魔は既に何人もの人間を喰らっているらしい。

 

人間を喰らう悪魔。

 

いや、それが悪魔本来の姿なのかもしれない。

 

ただ制約があるから大人しくしているだけ。

こうして考えると改めて自分が悪魔になってしまったんだと感じる。

 

だがそれでも俺は悪魔になったことは後悔していない。

 

何故なら……

 

 

 

上級悪魔になれば自分のハーレムが作れるからだッッ!!

 

 

 

部長曰く、上級悪魔に昇格できれば『悪魔の駒』(イーヴィル・ピース)を貰って自分の下僕を持つことが出来る。

そこで下僕を美女美少女で囲めばハーレムを作れるんだッ!!

そうすればあ~んなことやこ~んなことも……グフフ……

 

 

悪魔最高じゃねえか!!

 

 

ハーレム王に俺はなるッッ!!

 

「血の匂い……」

 

子猫ちゃんがボソリと呟く。

 

気付けばそのはぐれ悪魔がいると思しき廃屋に随分と近づいていた。

でも周囲に満ちた敵意、殺意が半端じゃない。

足がガクガク震えてら……

 

「イッセー、良い機会だから悪魔としての戦いを経験しなさい。」

 

ええっ?!

 

「マ、マジすか?!お、俺戦力にならないと思いますよ?!」

 

「そうね、それはまだ無理ね。でも悪魔としての戦闘を見ることはできるわ。今日は私達の戦闘をよく見ておきなさい。ついでに下僕の特性を説明してあげるわ。」

 

それから部長は悪魔の歴史、そして悪魔の駒(イーヴィル・ピース)開発の経緯を騙り始めた。

悪魔と堕天使は冥界、人間界でいう地獄の覇権を巡り大昔から争いを続けていた。

そこへ天使を率いる神も加わり三竦みの対立状態になったという。

そして永久ともいえる時の中争いを続けた結果どの勢力も疲弊、その際純血の悪魔も多くが亡くなり、一族ごとに率いていた何十という軍勢もその殆どが瓦解。

最早軍勢を維持できなくなった。

しかし悪魔は永遠に近い寿命を持つ代わりに出生率が非常に低く、元の数に戻るには時間がかかり過ぎる。

そこで悪魔は少数精鋭制度をとることにした。

力のある他種族を悪魔に転生させることで数の回復を図るということらしい。

 

 

「来た」

 

子猫ちゃんが呟く。

 

その声に全員が表情を引き締めると同時に辺りに漂う殺気がより一層濃くなる。

 

 

 

 

 

「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

 

ピシィィ

 

パリン

 

 

 

ッ?!

 

 

なんつー声だ?!

 

 

咆哮だけで廃屋のガラスが割れて壁や天井に罅が入ったぞ?!

 

 

 

 

 

そして現れたのは……

 

 

 

 

バケモノだった……

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

はぐれ悪魔討伐に訪れたグレモリー眷属の前に咆哮と共に現れたのは、鋭い爪を備えた四肢を持つ4、5メートルはあろうかと思われる獣の下半身に人間のような上半身が合わさり、上半身の腕は両方共槍のような獲物を持ち、更に上半身の首に当たる部分から更に裸体の人間の女性が生えているといった様相のバケモノだった。

そしてその凶暴性を示すかの如く、全身至る所に巨大な杭のようなものが打ち込まれていた。

 

「はぐれ悪魔バイサー、あなたを消めtッッ?!」

 

リアス・グレモリーが言い終わるよりも早く、バイサーは片手の槍を投擲し、槍は辛うじてリアスを避け、壁に大穴を穿つ。

 

「くっ、問答無用というワケね……祐斗!」

 

「はい!」

 

間一髪で槍の直撃を免れたリアスはすぐさま自身の『騎士』、木場に指示を出す。

木場は主を狙った不逞の輩を両断せんと、『騎士』の特性である俊足で間合いを詰める。

 

「ハァッ!!」

 

狙うは人型の上半身より生える腕。

片方はつい先程槍を投擲していたが故にがら空きになっている。

目にも止まらぬ速さで剣を振り下ろす。

 

ガキィン

 

金属、或いはそれに準ずる硬度を持つ物質同士が衝突する音。

 

「何ッ?!」

 

木場の振り下ろした剣の軌道はバイサーの爪により阻まれていた。

 

ゴウッ

 

「ッ?!」

 

振り向く木場が目にしたもの。

それは轟音と共に迫る、バイサーのもう片方の手に握られていた槍。

 

「……させません」

 

ドゴッ

 

木場を穿つはずだった槍は横合いからの『戦車』、子猫の拳打の一撃で軌道を逸らされる。

その隙に彼女は木場を連れて離脱、一旦距離を取る。

 

「朱乃ッ!」

 

「はい部長。」

 

バチバチッ

 

「おイタの過ぎる子にはお仕置きですわねッ!!」

 

ピガガガガッ

 

近接戦闘要員二名が飛び退くと同時に『女王』朱乃が手に雷を纏わせてバイサーに向けて大質量の魔力を練り込み雷を放つ。

 

大気を劈く音と共に一条の稲妻がバイサーに迫る。

 

バイサーの双眸が迫る雷を捉える。

するとバイサーの全身に打ち込まれた杭が光始める。

 

光と同時にバイサーの前に魔法陣が展開される。

 

雷が着弾すると同時に吸い込まれるように消える。

そして次の瞬間、魔法陣に吸い込まれた雷が吐き出され、元来た道筋を辿る。

 

「嘘?!」

 

朱乃は即座に結界を展開、自身の放った雷を凌ぎ切る。

雷を凌ぎ切った朱乃は主の下まで下がる。

 

「部長、これは……」

 

「ええ……大公より聞かされた情報とは全く違うわ……」

 

リアスは形の良い眉を顰める。

冥界から伝えられた情報でははぐれ悪魔バイサーの力は飽くまでも下級悪魔クラス、今の彼女達だけでも十分に対処可能な相手な筈であった。

しかし目の前のはぐれ悪魔は明らかに下手をすれば並の上級悪魔を超えるほどの力を有している。

 

木場のスピードへの対応の速度、対魔法反射用魔法陣、いずれも下級悪魔クラスの力では到底なし得ないものばかりだ。

 

「出し惜しみしている場合ではなさそうね……それならこれはどうかしら!!」

 

ギュパン

 

リアスは赤黒い魔力弾をバイサー目がけて打ち出す。

滅びの力。

被弾したものは物体のように実体のあるものであれ、魔力や光力のように実体のないものであれ関係なく無に帰る特殊な魔力。

バイサーの力が如何に上級クラスに跳ね上がっていようと、被弾してしまえば消滅は免れない。

 

「グルルル……ガアァァァッ!!」

 

バイサーは低く唸った後咆哮を上げる。

魔法陣が展開され、大質量の魔力が放たれる。

放出された魔力はリアスが放った滅びの魔力と激突、相殺する。

しかしバイサーの放った魔力弾のうち、滅びの魔力が相殺しきれなかった分は未だ勢い衰えることなく迫って来る。

 

「そんな……!!くっ!!」

 

リアスは一瞬、自身の滅びの魔力が押し負けたことに唖然とするがすぐさま思考を切り替え、防御魔法陣を展開して守りの体勢に入る。

障壁に魔力が衝突し、衝撃で砂埃が舞い上がり、視界を遮る。

そして砂埃が収まった時、彼女は絶句した。

 

「ッ?!」

 

バイサーの前面一帯に幾重にも展開された無数の魔法陣。

その様はさながら魔法陣の壁であった。

それは点ではなく面の攻撃を意図したものであるために回避はほぼ不可能。

しかも見たところ魔法陣の壁は複数の層に渡って展開されており、第一波を凌いでも第二派、第三波が襲ってくるのは明白だった。

 

「グゥオオオオオオオオッッ!!」

 

廃屋に木霊す絶叫。

それを合図に魔法陣が発動。

バイサーが両手に握っていたのと同じ槍が全ての魔法陣より出現する。

 

「?!部長!!この数は流石に防ぎきれませんわ!!」

 

「くっ、ひとまずここを脱出するわ!!その際私と朱乃で障壁を展開しながら後退するから祐斗と子猫はイッセーの護衛に回って頂戴!!」

 

「「「はい!」」」

 

リアスと朱乃は眷属の逃走ルートを確保するため、翼を出して宙へ舞い上がり、攻撃に備えて障壁を展開する。

如何に後退することで衝撃を多少は緩和できるとはいえあの質量の槍があの本数放たれればそうそう長くは持たない。

一刻でも早くこの場を脱出し、体勢を立て直す必要があった。

 

「ゴガアアアアッッ!!」

 

バイサーが再び咆哮を上げると共に槍が一斉に放たれる。

飛来する膨大な数の槍。

最早槍の奔流と言っても過言ではない怒涛の進撃にリアスと朱乃は一秒でも長く押しとどめるべく、最大限の力を障壁に注ぎ込む。

木場と子猫は主の命に従い、一般人から転生したばかりでまだ自身に眠る力はおろか魔力の使い方すら殆ど知らない新人のイッセーを連れ、ただひたすらに廃屋の出口を目指し突き進む。

 

しかしいくら障壁を展開しようとも余りに量が多すぎるが故に全てを防ぎ切ることはできず、押し寄せる槍の内数本が障壁の有効範囲を超えて彼女たちの後ろへと飛んでゆく。

 

「祐斗、子猫、後ろに行ったわ!!」

 

後方の3人に自分達が取り逃がした槍の接近を知らせ、注意を喚起するリアスの声。

三人は主の声に後方を振り返り、木場と子猫の二人は即座に反応して飛来する槍を切り落とし、叩き落とす。

 

「あっ?!」

 

だが何たる無情かな、最大の危機はその時訪れた。

 

木場と子猫がそれぞれ剣と拳を振り抜き切った後に生じた一瞬の隙、その絶妙なタイミングを縫って現れた槍。

 

丁度がら空きになった二人の隙間を縫うようにして通過した槍の軌道の延長線上にあったもの。

 

それは皮肉にも、全員が守ろうとした新たな仲間―――――兵藤一誠だった。

 

「イッセー!!」

 

胸が張り裂ける程に悲痛な声で叫ぶリアス。

見れば槍は既に足が竦んで動けないでいる彼の目と鼻の先にまで迫っていた。

 

今からではリアスと朱乃は当然、木場も子猫も間に合わず、仮に間に合ったとしても位置的に確実に彼を巻き込んでしまう。

 

その場にいた誰もが最悪の結末を思い描いたその時、

 

 

 

 

 

 

「お困りのようだな」

 

 

!!

 

突然、激流の如き速度で飛んでいた槍の全てがピタリと静止する。

まるで時が止まったかのように。

これにはグレモリー眷属のみならず槍を放ったバイサー自身も驚きを隠せない。

 

そして現れた第三者の声。

しかしそれはグレモリー眷属にとっては聞き覚えのある声だった。

 

「崇哉?!」

 

イッセーが思わず声を上げる。

 

「あなた、どうしてここに……?」

 

リアスも唖然としつつも問いかける。

 

「野暮用が終わって帰って来る途中不穏な気配を感じて来てみたら……なるほどね。まさかこんなに早く出くわすことになるとは思わなかったが。」

 

そう言って乱入者―――有馬崇哉はバイサーに目を向ける。

 

「あなた、コイツが何なのか知っているの?」

 

リアスが訝しげな目線を送って来る。

無理もないだろう。

敵対する様子はないとはいえ自分達も碌に素性を掴めていない相手がこの状況で知っているような素振りを見せたとなれば当然の反応だった。

 

「恐らくだが……コイツは改造変異悪魔(ミュータント)だ。」

 

全員が聞き慣れない単語に首を傾げる。

 

改造変異悪魔(ミュータント)?何なの、それは?」

 

「俺もついさっき知ったばかりで詳しいことは良く分からないが肉体改造を施すことで強制的に力の底上げをされた悪魔のことらしい。性質の悪いことにやりようによっては僅かに残った心と知性を代償に素体が下級悪魔でも上級クラスに引き上げることも可能なんだとか。」

 

それを聞いて一同は顔を強張らせる。

下級悪魔を改造して上級悪魔並の力を持たせるなど一見冗談としか思えないような話だが、一笑に付すことはできなかった。

事実バイサーは未成熟とはいえ仮にも上級悪魔であるリアスがいる状態で眷属全員をあしらったのだから。

仮に他のはぐれ悪魔についても同様のことが言えるのであれば下級クラスのはぐれ悪魔の討伐でさえ危険度が大幅に上昇してしまうことになる。

 

「はぐれ悪魔を改造……一体誰が……」

 

考え込むリアス。

しかしそんな彼女を他所に彼はバイサーと向き合う形となる。

 

「さて、終わりにしようか。」

 

彼がパチンと指を鳴らすと同時に空中で静止していた全ての槍の穂先が180度回転する。

 

「全員動くなよ?」

 

その場にいた全員に低い声で警告し、全員が動きを止めるのを確認し、そして軽く指を振る。

 

ゴウッ

 

反転した槍の全てが唸りを上げながらバイサーが発射した時を遥かに上回る速度で今度はバイサー目掛けて空を駆ける。

 

 

ズドドドドドドドドドドッッ

 

ピキッ

 

ドオオオオオオン

 

全ての槍が元来た道を引き返すと共にバイサーのみならず廃屋の柱や壁に大穴を穿ち、建物のバイサーのいる側が倒壊を始める。

 

「ゴギャアアアアアア?!」

 

流石のバイサーも自分の放った槍がこのような形で返されるとは予想できなかったのか、それとも速度に対応できなかったのか、死を運ぶ槍の嵐と瓦礫の山に飲み込まれていった。

 

バイサーの断末魔が聞こえなくなった時には辺りはすっかり土煙で見えなくなっていた。

 

「や、やったの……?」

 

目の前で繰り広げられた光景の凄まじさに半ば放心状態のグレモリー眷属。

 

「いや、まだだ」

 

「「「「「?!」」」」」

 

彼の言葉に驚くのと化け物が方向と共に飛び出すのはほぼ同時だった。

 

「グ……グヴォアアアアアアアア!!」

 

バイサーが瓦礫の山より姿を現す。

全身に槍が突き刺さり、胸や腹には大穴が空き、片腕は骨が砕かれて皮一枚で繋がっている状態であるなど満身創痍の状態であったが、その目は未だに闘争心を失っていない。

その姿は正に自身の死期が近いことを悟った生き物が最後に全ての力を解放する、生命の摂理そのものであった。

 

「そ、そんな……あれだけの攻撃を受けてまだ動けるというの?!」

 

目の前の光景が理解できず、声を上げるリアス。

その顔に映るのは驚愕、そして絶望。

 

「チッ……オートで結界を形成して衝撃を和らげたのか。」

 

彼がそう言うや否や、至る所に打ち込まれていた杭が放っていた不気味な輝きもやがて明滅を繰り返して消えた。

 

 

「ガァアアアアアアアアア!!」

 

 

キュオオオオオオ……

 

バイサーは再び咆哮を上げると、バイサーの前に膨大な魔力が収束し始める。

 

「嘘……」

 

「あの状態でまだこれほどの攻撃が可能ですの?!」

 

「くっ……馬鹿なッ」

 

「……まさかここまでとは」

 

グレモリー眷属は口々に驚嘆の念を表す。

傍目に見てもバイサーが致命傷を負っているのは明らかだった。

 

 

「はあ……仕方ない」

 

 

崇哉はフッと息を吐く。

 

そして詠唱を始める。

 

 

 

 

“汝、魔の力に弄ばれし哀れなる魂よ”

 

 

 

 

“その罪に汚れし身を清め今再び輪廻の輪に戻らん”

 

 

 

 

 

 

 

“破魔魂浄”

 

 

 

 

 

 

 

 

突如、眩い閃光が辺りを包み込む。

 

「キャッ?!」

 

「一体何ですの?!」

 

「これは……」

 

「……眩しい」

 

「うわっ」

 

余りの眩しさにグレモリー眷属は思わず目を閉じる。

 

 

「グ、グオォォォォ……」

 

 

辺り一面が光の世界となる中、バイサーは自身の身も心も洗われるような感覚と共に全身を襲う苦痛が和らぎ、ゆっくりと意識が遠退いていくのを感じた。

 

 

やがて光は収まる。

 

そこにバイサーの姿は影も形なく、代わりに何か小さな光の球が天に昇って行くような光景が見られた。

 

 

 

 

до свидания(ダス・ヴィダーニャ)(さようなら)」

 

 

ただ一言、彼はそう呟く。

その表情はどこか悲し気だった。

 

 

「あなた、何をしたの……?」

 

 

リアスが尋ねてくる。

その表情は問い詰めるというよりも寧ろ困惑の色が濃かった。

 

「……魂を浄化して解き放った。無理な改造を施されて肉体ばかりでなく魂にまでガタがきていたし、現世で少なからず罪を犯した以上そのままでは輪廻の輪に戻ることはできないからな。肉体の方もかなり“穢れ”が溜まっていたからついでに浄化しておいた。」

 

「そう……そんなことまで……」

 

「……兎に角、今日のところはもう帰った方が良い。特にイッセーは初めてだったにも関わらずこのような結果になってしまった以上、下手をすればトラウマになりかねないからな。」

 

「そうね……」

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

夜がすっかり更けた頃、町外れに佇む廃教会。

燭台の心細い炎が照らし出すのは埃の溜まった祭壇、放置されたままの頭部の欠けた聖人の像。

それらが背徳的・退廃的な雰囲気を醸し出す中、背より鴉のような一対の黒翼を生やした女性が3人、膝をついて首を垂れていた。

彼女たちは俗に堕天使と呼ばれる存在、すなわち聖書の神に反旗を翻し、天界より追放されし罪人である。

 

「申し訳ございません、我々が至らぬばかりに貴重な被検体を失ってしまいました。」

 

先頭で首を垂れていた黒の長髪の堕天使は謝罪の言葉を述べる。

彼女らが跪く先には一人の人物が。

ローブを纏い、フードも被っているために素顔を窺い知ることはできない。

 

「いえ、今回のことは不可抗力。それに如何にあの個体がこれまでの被検体の中では最も出来の良いモノだったとはいえ所詮は失敗作、どの道自壊するのは時間の問題だったでしょう。寧ろ成果を喜ぶべきでしょう。第三者の乱入という予期せぬ事態が発生しましたがそれでも良いデータが取れました。やはりリアス・グレモリーとその眷属と戦わせたことは無駄ではありませんでした。」

 

フードの人物は凛とした声で淡々と述べる。

声からしてこの人物も女性のようだった。

 

「それでは……」

 

黒髪の堕天使が顔を上げる。

そこには何かを期待する色が含まれていた。

 

「ええ、今回の被検体の敗死については責任を問いません。ですが」

 

フードの女性の言葉に堕天使は表情を強張らせる。

 

「決してこれまでのあなたの失敗が帳消しになるという訳ではありませんよ、中級堕天使レイナーレ。現にあなたは監督不行き届きで自身の部下、ひいては我らの同胞ドーナシークを死なせているのですから。それに」

 

そこまで言うと彼女は一旦切ってから続ける。

 

「あなたが組織より抹殺を命じられた標的の少年、生きていますよ?彼は。それも悪魔となって。」

 

「!!」

 

堕天使――――レイナーレは衝撃の事実に目を見開く。

 

「そんな?!その子供はこの私が確かに始末致しました!!何かの間違いでは?!」

 

そう、このレイナーレこそが以前人間であった時の兵藤一誠に恋人の振りをして近付き、彼を欺き殺した張本人であった。

 

「間違いなどではありませんよ?これが証拠です。」

 

そういってフードの女性は自分の足下に一枚の写真を落とす。

レイナーレは膝を着いたままその写真を拾い上げる。

 

「ッ!!これは……」

 

そこには紅色の髪をした少女をはじめ眷属と思しき者達と映る兵藤一誠の姿が。

しかもそれはちょうど彼らがはぐれ悪魔バイサーの討伐に赴く際、転移してきた瞬間を捕えたものだ。

だがそれ以上に決定的な証拠となったのは彼らが通って来た魔法陣。

それも現ルシファー輩出の名門、グレモリー家の魔法陣の中に彼はいたのだ。

堕天使が危険と判断した神器所有者を殺害するのと同様、悪魔は強い神器や異能を持った人間を自陣営に引き込んで先の大戦で失われた人口を補填し、天使や堕天使に備えるということをする。

即ち写真が意味するところとは、兵藤一誠はグレモリー家の悪魔の下僕として転生したということだった。

 

「調べたところあなたが去った後、彼は瀕死の重傷の中で主であるリアス・グレモリーを呼び出して悪魔に転生したそうです。即ちあなたが止めを刺し損ねたことが最大の原因なのですよ。」

 

「ッ!!」

 

レイナーレは突きつけられる事実に項垂れ、自分がたかだか人間一人を殺し損ねたという屈辱に身を震わす。

もし彼女の言うことが事実なのだとしたらレイナーレは危険な神器を有する可能性がある標的の殺害という、組織直々に下された任務に失敗したどころか、みすみす敵に塩を送るような大失態を演じてしまったこととなる。

 

「ですが」

 

レイナーレが己の失態を目の当たりにして恥辱に塗れ悶えるところにフードの女性は言葉を紡ぐ。

 

「まだ汚名を濯ぐ方法が残されていないわけではありません。」

 

レイナーレはハッとして顔を上げる。

 

「そ、それは一体如何なる方法にございましょうか?!」

 

レイナーレは最早縋るような目でローブの女性を見上げる。

そんな彼女に対し、フードの女性は口元をニヤリと笑ませる。

 

「“彼女”をお使いなさい。」

 

「?!彼女を、ですか?」

 

「ええ、確かに彼女は我々にとってもあなた個人にとっても不可欠な要素。ですが少し小耳に挟んだところによるとそれ以外にも使い道を模索できそうなのですよ。彼女はここへ来る途中彼、兵藤一誠と接触し、面識があるというのです。」

 

「それは、つまり……」

 

レイナーレが自身の望む答えに至ったことに気を良くしたのか、フードの女性は笑みをいっそう深める。

 

「そういうことです。彼女を餌としてお使いなさい。具体的な方法は……事前調査で彼の性格や嗜好を調べたあなたの方が分かるでしょう?」

 

女性の言葉にレイナーレは邪悪な笑みを浮かべる。

 

「フフフ……分かりました。このレイナーレ、必ずやご期待に応えて見せましょう!!」

 

フードの女性はレイナーレの言葉に満足そうに笑みを返す。

 

「ウフフ……期待していますよ。ああ、それと言い忘れていましたが」

 

途端に彼女の顔から笑みが消え、冷徹な眼差しでレイナーレを見据えた。

 

「今回のバイサーの件に関しては目を瞑りますが……次はありませんよ?」

 

「っ」

 

彼女の雰囲気の変化を感じ取り、レイナーレは息を呑む。

それは事実上の最後通告。

ただでさえレイナーレは元から組織内でも窓際族だというのに、いざ任務を与えられても黒星ばかりだ。

今度失敗すれば出世はおろか追放、最悪始末されかねない。

 

「……ご忠告、痛み入ります。」

 

「“あのお方”もいつまでも寛容ではいらっしゃらないことをゆめゆめ忘れぬよう……それでは私はこれで」

 

そう言ってフードの女性は転移魔法陣を展開して去って行く。

 

「~ッ、何よあの女!!澄ましちゃって、偉っそうに……マジむかつく~!!」

 

彼女が去った後、レイナーレの後ろに控えていたゴスロリ衣装を纏った金髪の堕天使が抑えていた不満を爆発させる。

外見上はまだ少女だった。

 

「しかしレイナーレ様、ドーナシークも死んだ今、我々にはもう後は残されていないのもまた事実ですよ?」

 

同じくレイナーレの後ろに控えていたもう一人の堕天使。

こちらは容姿は成人女性でグラマラスな肢体に露出の多いボディコンスーツを纏っていた。

 

「フフフ……案ずることはないわ、ミッテルト、カワラーナ。確かにあの女の言う通りにするのは癪だけど汚名も返上出来る上に成果も上げられるわ。加えて力も手に入れれば私達は疑う余地のない功労者。今まで私達を見下してきた奴らを見返してやれる!!そしてゆくゆくは至高の堕天使に……ッ!!」

 

レイナーレの邪悪な野望に染まり切った笑みを頼もしく思い、ミッテルトもカワラーナも笑みを浮かべる。

 

「さっすがレイナーレ姉様!!」

 

「フフフ……このカワラーナ、どこまでもついてゆきますッ!!」

 

「ええ、あなたたちには期待してるわ。それに……」

 

 

レイナーレは足下の床、否、更に深いところに視線を向ける。

 

 

 

「あの女も随分といいモノを置いて行ってくれたものね」

 

 

 

打ち捨てられた教会では黒い陰謀が進行しつつあった。

だがこれはほんの始まりに過ぎないことは知る由もなかった……。

 




今回は早目に投稿できました。

後期始まったんで多分これまで以上に間が空いてしまうかもしれませんが、気長にお付き合い頂けたらと思います。

御指摘、ご感想等ありましたらお願いします。


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シスターと悪魔祓い(1)

今回も長くなったんで二話に分けます。


シスターと悪魔祓い(1)

 

 

真夜中の街を俺はチャリで駆け抜ける。

依頼主の下へ行く為だ。

先日のはぐれ悪魔事件の折、部長に俺の駒の種類、つまり下僕としての役割について聞いたら……

 

兵士(ポーン)よ。」

 

……だそうだ。

 

要するに一番下っ端の捨て駒。

『悪魔の駒』(イーヴィル・ピース)を貰って自分の下僕を持つには最初から上級悪魔である部長と違って俺達転生者は力を認められて昇格しなくちゃならない。

それなのに……

 

俺はひたすらチャリを漕ぎ続ける。

 

本来なら魔法陣を介して一瞬で依頼主の下までジャンプできるらしいが俺の魔力は何と子供以下。

魔法陣での転移に必要な最低限の魔力すらないらしい。

 

子猫ちゃんには“無様”なんて言われるし……

 

はぁ……ハーレム王への道はまだまだ遠いな……

 

それにしても……上級悪魔になるためにははぐれ悪魔の討伐の依頼をこなしたりレーティングゲームで戦果を上げるなどして功績を上げなきゃならないらしい。

レーティングゲームっていうのは元は大戦で多くの悪魔が亡くなった後、戦争をせずに下僕悪魔に実戦経験を積ませることを前提に始まったものらしいけど、それがここ数百年爵位持ちの悪魔の間で流行し、いつしかゲームでの成績が爵位にも影響するようになっているんだとか。

因みにレーティングゲームには成熟した悪魔でないと参加できないらしく、部長はまだ成熟していないから俺達が出場するのはまだ先、少なくとも部長が大学を卒業してからになるらしい。

それともう一つ、先日実際にやったはぐれ悪魔討伐なんだけど……

どうもここ最近はぐれ悪魔がやたらと凶暴化、異常なほどパワーアップしているらしく、本来なら上級悪魔が一人いれば十分対応可能といわれている相手でもかなり危険度が増しているという。

崇哉曰く『改造変異悪魔』(ミュータント)って言うんだとか。

部長たちも色々と調べているみたいだけど如何せん出現し始めたのがごく最近で、情報が少な過ぎて詳しいことは分からないって言ってた。

ただ一つ明らかになっているのは、何者かがはぐれ悪魔を改造して上級悪魔相当にまで強化しているということだけだ。

 

はぁ……これからもあんなのと戦わなくちゃいけないのか。

 

なんてことを考えているうちに依頼主の家に着く。

チャリを止めるとインターホンを鳴らす。

 

……おかしいな、反応がない。

 

もう一度鳴らしてみる。

 

それでも一向に家の主は現れる気配がない。

 

試しに扉のノブを回すと扉が開く。

……鍵がかかっていない。

 

不用心だな、こんな夜中に……。

 

そう思いつつも中に入ると、二階建ての一軒家だが人の気配が殆どなく、真っ暗な中に一階の奥の部屋から僅かに明かりが漏れていた。

そしてそのまま一歩踏み出す。

 

「ッ?!」

 

……なんだ、今の感じは?

スゲェ嫌な感じだ……少なくとも俺に、悪魔にとって好意的でないことだけは分かる。

本能が警鐘を鳴らしている。

これ以上足を踏み入れるな、と。

 

――――――私の期待を裏切らないで――――――

 

だがそんな時、ふと脳裏を掠める言葉。

さっき部長に言われた言葉だ。

俺はこれまでにも数件、召喚されて依頼主の下へ向かった訳なんだが未だに一件も契約を取れていない。

ただ依頼主からの評価は極めて良好とのことで部長も困惑していたが……

 

ここで帰ったらますます部長に合わせる顔がない、か……

 

俺は意を決して呼びかけてみることにした。

 

「ちわーす、グレモリー様の使いの悪魔なんですけど……依頼者の方いらっしゃいます?」

 

しかし返事はなく、あるのは静寂のみ。

これはいよいよおかしい。

でもこれ以上部長の期待を裏切るわけにはいかない。

 

「上がりますよ?」

 

仕方がないので明かりの漏れている部屋まで足を運ぶことにした。

勿論靴を脱いで、だ。

 

部屋の入り口まで来ると蝋燭の明かりがぼんやりと照らし出す薄暗い部屋がいかにも悪魔を呼び出す儀式をするような雰囲気を醸し出していた。

そして部屋に足を踏み入れる。

 

すると何だろう?

ヌチャッとした感触、まるで液体に触れたような感触が足に伝わって来る。

 

何だこれ?

 

そう思って足下に広がる液体らしきモノを掬い取る

 

これは……血?!

 

ハッとして見てみると床に広がっていたのは血の池だった。

そしてその血は引き摺られるようにして壁の方まで伸びており、そこには……

 

「ゴボッ?!」

 

胃の中身が体内より込み上げる。

壁にあったモノ、それは―――――見るも無残な人間の死体だった。

 

遺体はズタズタに切り刻まれ、傷口からは臓物らしきものが溢れ、四肢と胴体には太い釘が打ち付けられ、死体を逆十字の形で壁に固定していた。

 

何だよコレ?!

明らかに普通の殺し方じゃない!!

 

死体のそばの壁には血で何やら文字のようなモノが書かれていた。

 

「……何だよ……コレ……」

 

俺がそう口にした時だった。

 

「『悪いことする人にはお仕置きよ』って、聖なる方のお言葉を借りてみましたァ」

 

突然、背後のソファから声がした。

さっきは気付かなかったがそこには白髪の男が。

年は恐らく十代くらい。

外国人のようで、顔は整っていた。

そして男は俺を視界に入れるとニヤリと笑う。

 

「んー?おやおや、クソの悪魔君ではあ~りませんか。」

 

な、何だ、コイツは?!

 

「俺のお名前はフリード・セルゼン。とある悪魔祓い組織に所属する少年神父でござんす。あ、俺が名乗ったからってお前さんは名乗らなくていいよ?俺の脳容量にクソ悪魔の名前なんざメモリしたくねぇし。聞いたら俺様の耳が腐っちゃう。正直クソ悪魔と同じ空気吸ってるってだけでもう俺どうにかなりそう。はぁ~、切り刻んですり潰して燃えるゴミの日に出してやりたくなってきちゃった~。」

 

クネクネとした気持ち悪い動きをしながら自分に酔ったような台詞を吐き続ける男。

つーか悪魔祓い?!

部長が絶対に近付くなって言ってた連中じゃないか!!

どうしてよりにもよってこんな時にッ!!

 

でもそれ以上に

 

「お、おい、お前か?この人を殺したのは?」

 

「イェス、コレ~クト。だって悪魔を呼び出す常習犯だったんだもん。そりゃもう殺すしかないっしょ?悪魔なんかと契約する時点で人間としてはジ・エ~ンド、進んで悪魔に魂渡すようなゴミクズはさっさと死んだ方が世のため人のためなんざんすよ。そこんとこお分かり?ユーアンダースタン?無理ぃ?ああ、そうですもんねぇ。初めっからクズなクソ悪魔様には分かるハズあ~りませんよねぇ?」

 

ダメだコイツ、話が通じる相手じゃない!!

 

「で、でも人間が人間を殺すってのはどうなんだよ?!お前らが殺すのは悪魔だけじゃねぇのかよ?!」

 

「ハアアアア?!何それ?!クソ悪魔の分際で俺を説教?ハハハハ!笑える~、お笑いの賞取れますですよ。テメェら悪魔だって人間を食い物にして生きてるじゃねえかよ?悪魔に頼るってのはそんな悪魔に自分から餌遣るようなもんなんだよ!全人類の裏切り者なんざんすよ!だから俺がわざわざ始末してやったってワケ。仕事だし。」

 

「あ、悪魔だってここまではしない!!」

 

「ハァ?!何言ってんの?アタマ湧いてんの?人間とクソ悪魔は最初から相容れないの。それになァ、テメェらクソ悪魔が『悪魔の駒』なんてモンで好き勝手見境なく欲望の赴くままに下僕を増やしてくれた所為ではぐれ悪魔が人間界に溢れて罪もない一般ピーポーが死んでいくんだぜ?お蔭でボク達人間は大迷惑なんざんすよ?!それでも悪魔が人間にとって害悪じゃねぇって言い切れんのか?もう胎児からやり直した方がいいんじゃね?あ、でもクソ悪魔に増えられても困るからやり直さなくていいよ。てなわけで」

 

神父は懐から刀身の無い剣の柄と拳銃を取り出す。

続いてヴゥゥゥンという空気を震わせる音と共に剣から光の刀身が現れる。

なんだよアレ?

ガン〇ムのビー〇サーベルかよ?

 

「俺的にはオマエがアレなんで……斬って解して撃って穴開けさせて頂きマ~ス!!今からオマエの心臓に刃突き立ててこのイカした銃でオマエのドタマに一撃必殺必中必誅フォーリンラブかましちゃいます!」

 

そう言うが否や神父は俺に向かって駆け出した!

うわッ?!

光の刃が横なぎに一閃、俺は間一髪で躱す。

 

「バキュン」

 

神父の声。

それと同時に右足に激痛が走る。

 

「ぐ、ぐあぁぁぁぁ?!」

 

い、痛ェ……

 

撃たれた?

見れば拳銃から煙が上がっている。

俺は呻き声と共にその場に膝を着く。

 

そして再び走る激痛。

今度は右膝からだった。

 

「がはっ・・・・」

 

この痛みは……

 

「どうよ?悪魔祓い特性祓魔弾の味はよぉ?銃声なんてしませんぞ?なにせ光の弾ですからねぇ。どうだい?あまりの快感に達してしまいそうだろう?新たな扉を開いてしまいそうだろう?」

 

そうだ……この痛みは光の痛みッ……!!

悪魔にとっては猛毒。

一撃でも喰らえば全身に痛みが走る。

 

「ハハハハッ!痛ぇか?痛ぇよなぁ!死んだら速効で楽になれますぞ?無理に生きようとすればするほど痛みが長引くだけだぜ?ホラ!」

 

神父が俺の背中を光の剣で切り付ける。

 

「がああああッ!!」

 

「フン」

 

「ぐあああああああッ!!」

 

神父は俺の背中、今さっき切り付けられた傷口を踏みつけ、更に剣の切っ先で傷をなぞる。

ま、マジで痛ェ……

 

「ハハハハハッ!悪魔の悲鳴とは傑作ですな!最っ高に耳障り!……さっきから五月蠅ぇっての」

 

「ゴフッ?!」

 

神父が俺の頭を踏みつける。

 

「遊ぶのにも飽きてきたしなぁ……よし、殺ろう。」

 

?!

 

頭上でジャキッという音。

恐らく神父が俺の頭に銃口を向けたのだろう。

冗談じゃねぇ!

俺は上級悪魔になってハーレム王になるんだッ!!

こんなところで死ねるかッ!

 

「ほなバイなら☆」

 

神父が引き金に手を掛ける。

 

その時

 

「い、いやあああああああああっ!!」

 

?!

 

今、この場には場違いな少女の声。

そして聞き覚えのある声だった。

 

「おんやぁ?助手のアーシアちゃんじゃあ~りませんか。どうしたの?結界は張り終わったのかな?」

 

そう、そこにいたのは……

忘れる筈もない、先日俺が教会まで案内した金髪のシスター―――――アーシア・アルジェントだった。

 

な、何で……アーシアがここに?

 

「こ、これは……」

 

見ればアーシアが壁の遺体を見て言葉を失っていた。

 

「そっかそっか。キミはビギナーでしたなぁ。これが俺らの仕事……クソ悪魔に魅入られた人間のクズをこうして始末するんス。」

 

「そ、そんな……っ?!」

 

アーシアの視線が不意にこちらを向き、そして目が合う。

彼女は目を見開いて驚いていた。

 

「……イッセーさん……?」

 

「アーシア……」

 

「どうしてあなたがここに……?」

 

「……ゴメン、俺、悪魔なんだ……」

 

「悪魔……イッセーさんが……?」

 

「騙してたんじゃない!……だから君とはもう会わない方が良いって……」

 

「そんな……」

 

……知られたくなかった。

 

俺は悪魔であの子はシスター。

 

決して相容れない間柄だ。

 

「……イッセー?」

 

すると不意に神父が俺の名を口にする。

 

「つかぬ事をお聞きしやすが……お宅、兵藤一誠君で?」

 

神父が俺の名を尋ねてくる。

 

「……だったらどうなんだよ……?」

 

俺は精一杯神父を睨みながら答えてやった。

 

すると

 

「ク、クククク……アハハハハハハ!!」

 

?!

 

……何だ?

 

突然神父が笑い出した。

 

「そうかァ、そういうことかよ。どうりで見覚えがあると思ったら……そういやさっきグレモリーの使いとか言ってたもんなァ?……グレモリー眷属兵藤一誠、決まりだ。」

 

 

そういうと神父は拳銃を懐に仕舞う。

そして……

 

「それならより確実な方法で仕留めねェとなァ!!」

 

「「っ!!」」

 

神父が新たに取り出したモノ。

 

あれは……ショットガン?!

 

「上からテメェを見かけたら確実に殺れって言われてっからなァ!死んだところを訳も分からず悪魔なんぞに転生させられちまったって話だ、元人間のよしみでせめて苦しまねェように一発で仕留めてやるからよォ!!……って、あァ?何の真似だよ、そりゃァ?」

 

気付けば俺の目の前には金色が。

その正体は

 

「フリード神父、お願いです、この方をお許しください!どうかお見逃しを!!」

 

両腕を広げ、俺を背にして俺と神父の間に立つアーシア。

 

何で……

 

「あー、キミ、自分が何してるか分かってるンですかァ?」

 

「た、たとえ悪魔だとしてもイッセーさんは良い人です!!それに、悪魔に魅入られたからといってこんな風に人を殺すなんて主がお許しになるはずがありません!!」

 

アーシア……

 

 

 

 

 

「……ざけんな……」

 

 

 

 

 

「?」

 

突然、神父の纏う雰囲気が一変する。

 

「ふざけんなアアアアアアアアッ!!」

 

!!

 

神父が叫んだ。

そこにはさっきまでのおどけた調子は一切なく、ただただ純粋な怒りと憎悪が俺達に注がれていた。

 

「キャッ?!」

 

神父はそのままアーシアの腕を掴むと両腕を上げた状態にさせ、服の袖を重ねたところに光の剣を突き刺して壁に繋ぎ止める。

 

「テメェ……この期に及んで何抜かしてんだァ?!悪魔はクソだ、殺せってっつったのは他でもねェ、テメェの大大大~好きな神サマだろうがよォ?!それとも何だァ?まさか自分が追放された理由を忘れちまったんじゃねェだろうなァ?!答えろや、オイ!!」

 

追…放……?

 

どういうことだ?

 

「フン、本来なら悪魔の庇いだてなんざしてる時点でドタマかち割ってその腹掻っ捌いてやってるとこだが、生憎テメェは傷付けんなって堕天使の姐さんに言われてっからなァ……俺がこの薄汚ェクソ悪魔を殺るところをせいぜいそこで大人しく見てな。」

 

神父は憤怒の色に染まった瞳でアーシアを睨め据えながらそう告げる。

 

だがちょっと待て、堕天使?

 

さっき神父が言った追放って言葉といい、どうなってる?

 

アーシアもコイツも神様の下で働いているんじゃないのか?

 

俺が混乱していると神父が俺の方に歩み寄って来る。

 

「さぁて、準備は宜しいですかな、クソ悪魔君?」

 

憤怒と憎悪に加え更に狂気と愉悦の混じった視線を俺に向け、ショットガンを構える神父。

 

「……一つだけ聞いていいか?」

 

「んあ?」

 

「どういうことだよ、堕天使って?」

 

俺が問いかけると神父は少々不機嫌な顔をしながらも考えるような素振りを見せた。

そしてニヤリと口角を吊り上げる。

 

「ほうほう、クソ悪魔君は堕天使様が気になると。では、ここで問題です。一体全体、どうしてアーシアちゃんのような純真無垢かつ心清らかな少女がボク達みたいなはみ出し者と一緒にいるんでしょ~か?」

 

……は?

 

俺は一瞬、奴が何を言ってるのか分からなかった。

 

だがそんな俺の脳裏を掠めた単語、さっき目の前の神父が放った一言。

 

 

―――――――“追放”――――――――

 

 

「……まさか……」

 

何かに思い当たったような俺の様子を見て神父は満足気な様子を見せる。

 

「おおっと、どうやら分かったようですなぁ。って、そういや俺さっき答え言ったっけ?そうです。その通りざんす!!アーシアちゃんは教会から追放されてしまったそれはそれは可哀想なお嬢さんなのでごぜぇます!!」

 

そんな……どうしてアーシアが?

 

そう思ってアーシアに視線を向けると、アーシアは俯き、唇を噛みしめて小さく震えていた。

 

ッ……

 

傷付けてしまったのか?彼女を……

 

クソッ、つくづく自分のデリカシーの無さが嫌になるッ……!!

 

これは彼女にとっては思い出したくないこと、聞いてはいけないことだったんだ……!!

 

「では次の問題で~す。アーシアちゃんは何故、教会を追放されてしまったのでしょう?」

 

「……めろ」

 

「んァ?何だって?」

 

「止めろって言ってんだ!!」

 

ズドン

 

「う、ぐあああああああああああっ?!!」

 

「イッセーさん?!」

 

アーシアの悲鳴。

 

左肩に走る凄まじい痛み。

さっきの拳銃や光の剣なんかとは比べ物にならないくらい痛ェ……!!

 

「あ~あ、そういうのマジ白けるんで辞めてもらえます?自分から聞いといて都合が悪くなるとやめろとか言うの。碌に考えもせずに不用意な発言した自分自身の責任っしょ?今のワザと掠る程度にしたけど次はマジ当てるよ?腕ごと吹っ飛んじゃうよ?ああ、そうだ。そこまで仰るんなら質問変えやしょうか。この世界が犯した最悪最大の過ちってな~んだ?」

 

今度は何だ?

 

「正解は…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テメェらクソ悪魔を生み出したことさ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時背筋が凍ったような気がした。

仮面の如く表情が完全に消え失せた顔には、人間に出せるとは到底思えないほどの殺気が凝縮されているのを感じた。

 

「逝け」

 

「!!」

 

ドン!!

 

「―――――――――!!」

 

神父は引き金を引く。

 

アーシアが悲鳴を上げる。

 

俺は撃たれたのか?

 

でもおかしい。

 

いつまでたっても痛みが襲ってこない。

 

もしかして……俺、死んだのか?

 

光で撃たれたから消滅したのか?

 

ハハハハ……俺、こんなとこで死ぬのか。

 

ちくしょう……

 

 

「助けに来たよ、兵藤君。」

 




フリードのキャラ、書いてみると結構難しい……

感想or御指摘等ありましたらお願い致します。


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シスターと悪魔祓い(2)

今回も連投いけました。

短いですがどうぞ。


シスターと悪魔祓い(2)

 

 

「助けに来たよ、兵藤君。」

 

目を開ける。

 

そこにいたのは

 

「……木場?」

 

見ると、目の前には見覚えのある魔法陣。

あれはグレモリー家のものだ。

 

ってことは……

 

「あらあらこれは大変ですわね。」

 

「……悪魔祓い」

 

続いて出てきたのは朱乃さんと子猫ちゃん。

 

「皆……」

 

皆俺の仲間達だ。

ああ、もう俺感動し過ぎて泣きそう……

 

「チィッ、弾きやがったか……よりにもよって悪魔の団体さんかよ。クソ目障りなッ!!」

 

神父はアーシアの袖を壁に縫い付けていた光の剣を抜き去ると、そのまま木場に斬りかかる。

ギィイン

 

神父の剣と木場の剣とが擦れ合う。

 

「悪いね。彼らは僕らの仲間なんだ。こんなところで死んでもらう訳にはいかないんだ!」

 

 

――っ

 

木場……

 

そして木場の剣が黒く染まると黒い靄のようなものが光の剣に纏わりつき、剣の光が弱まったような気がした。

 

「ゲッ?!神器持ちかよ!!ならコイツはどうかなァ?!」

 

神父はショットガンを木場に向ける。

 

「木場、気を付けろ!そいつは光の弾を放つ銃だ!!」

 

「!やはり祓魔弾か……コレでなければ危なかった。」

 

「おや、なるほど。光を喰らう魔剣、いいじゃねェかァ!!小賢しい悪魔らしくて反吐が出そうだZE!!」

 

そう言うが否や神父は撃つと見せかけたショットガンを木場の眼前に放り投げる。

木場は剣でショットガンを切り払うが既に神父の光の凶刃が目前まで迫っていた。

 

「くっ!」

 

そして再び木場と切り結ぶ。

両者の力は拮抗していた。

 

「元とはいえとても神父とは思えないな……君は殺意と憎悪が強過ぎる。」

 

「ああ、そうさなァ。少なくとも俺は最初っから全知全能の神サマなんて信じちゃいねェ。なんせ本当に全知全能なら天使が堕天することもなく悪魔なんてモノは初めから存在しちゃいねェハズだからなァ!それにしても皮肉だなァ。魔を祓う剣に選ばれるべくして、それだけを生き甲斐にしてきたハズなのによりにもよって敵であるハズの悪魔の為にこうして魔剣振るってンだからよォ!!」

 

「なッ?!」

 

神父の言葉に一瞬木場が動揺したように見えた。

そしてその一瞬の隙を狙って神父は躰を引き、対して勢い余った木場は姿勢を崩す。

 

「戦闘中に他所事考えるとは感心できませんなァ!!」

 

神父は躰をグッと屈めるとそのまま木場の懐に向かって剣の柄を思い切り叩き込む。

 

「どしたァ?そんなもんなのかよォ?!」

 

それから素早く懐からもう一本の光の剣を取り出し、くの字に折れ曲がった木場の利き腕と片足を光の剣で切り付ける。

 

「ぐああああっ?!」

 

そして更に回し蹴りを加える。

 

「かはっ?!」

 

木場はそのまま吹き飛ばされ、床を転がる。

 

「木場!!テメェ、よくもっ!!」

 

「あ~あ、折角別件での標的も見かってラッキーだと思ったのにウジャウジャとお仲間登場たァ俺ついてねェわ~。おまけにアーシアちゃんも連れて帰らないといけねェわけだし。それに、そこで這い蹲ってるクソ悪魔君はウチのアーシアちゃんに随分御執心みたいだからなァ、放っとくと何するか分かんねェときた。まあでも当初の目的は果たせたしここらでバックレるとするかァ。」

 

!!

 

この野郎……よくも俺の仲間を……ッ!!

 

でも今何だって?!

 

あの野郎、アーシアを連れて行くだと?

 

冗談じゃねぇ!!

 

アーシアはあんな連中と一緒にいて良い子じゃないんだ!!

 

そんなことさせてたまるか!!

 

「オイ、待て……ぐうっ!!」

 

クソッ!!

 

さっき両足を撃たれた所為で力が入らないッ!!

 

「おやおや、無理しちゃって~。しかし解せませんなァ?キミとこの子は敵同士、決して相容れない間柄なのですぞ?あれ?もしかしてキミ、この子のこと好きなの?そりゃ傑作!でも残念、彼女が愛するのはいと高き天上の神。決してキミのような地べたに這い蹲る欲望塗れの薄汚いクソ悪魔君と結ばれることなどあり得ないのです。んじゃバイちゃ☆……といこうかと思ったけどやっぱりキミだけは消していくことにしよ。見ていてホントにムカつくんで。」

 

そう言うと神父はさっき仕舞った拳銃を再び取り出すとこちらに銃口を向ける。

 

ちょうど俺の頭を狙った位置だ。

 

 

「今度こそバ~イバイ」

 

クソッ!

 

俺はあの子一人守れないまま死ぬってのかよ!!

 

そう思った時

 

「させると思っているの?」

 

すぐ横から聞こえた、声高に告げる声。

 

それと同時に赤黒い魔力の塊が神父目掛けて飛んでいく。

 

あの力は……間違いない

 

そして俺の考えが正しいことを証明するように、俺の眼前に紅が広がった。

 

「私の可愛い下僕を随分と可愛がってくれたみたいね?」

 

「部長……」

 

ああ、やっぱり俺の主様……

 

「うおっと、危ねェ……なるほど、今のが報告にあった滅びの力って奴か。確かにコイツァ当たったらヤベェな。今し方直撃した壁が綺麗さっぱり消し飛んでやがる。それにその血みてェな紅の髪、リアス・グレモリーで間違いねェな。フン、飼い犬が屠殺されかかってたもんで飼い主サマ直々に御登場ってワケか。」

 

相変わらず挑発的な言動を続ける神父。

見るとその手には拳銃が無かった。

落としたのか或いは部長に消し飛ばされたのかは分からないがこれで神父の遠距離攻撃手段は封じられたハズだ。

そして神父の言葉に一切反応することなく堂々と挑戦的に返す部長。

 

「へぇ。まさかあなたのような末端の末端にまで知れ渡っているとは、正直驚いたわ。でもあなたのような下卑た輩に私の名を口にされるのは虫唾が走るのよね。」

 

そこまで言うと部長は俺の方に歩み寄る。

 

「部長、どうしてここに?」

 

「ごめんなさい、イッセー。まさかあなたのところにはぐれ神父がいるとは思わなかったの……っ?!イッセー、あなた撃たれたの?!」

 

「ああ、はい……」

 

部長は表情を険しくすると立ち上がって再び神父を睨め据える。

 

「私は自分の所有物を傷付ける輩を絶対に許さないことにしているの。それも二人も。特にあなたのような下品極まりない輩にはね。それに私の領地で契約者を殺すなんて万死に値するわ!!」

 

紅いオーラを滲ませる部長。

うわぁ、完全に怒ってらっしゃるよ。

でもそれだけ俺達のことを大切に思ってくれてるってことなんだよな。

あ~、俺、やっぱ部長の下僕になれて幸せかも!

 

一方の神父は部長の怒りを目の当たりにしてもやれやれといった様子で肩を竦めるだけだった。

 

「そうは仰いますがねぇ、お嬢さん。ここ人間界、冥界じゃないの。アンタの領地でも何でもないの。だから悪魔のルールは僕達には適用できませ~ん、悪しからず。それにお宅ら人間の魂奪って生きてるんでしょ?それって人間の敵ってことじゃん。魂取られた人間って死んじゃうもん。つまりは害獣よ?そんな害獣や自ら害獣に餌やって肥え太らせる裏切り者のゴミクズを始末するンは人として当然のことっしょ?当然俺ら人間には生きる権利がありますからねぇ。それともアレ?まさか俺達人間には自衛の権利すらないとかっていう訳?まぁ勝手に人間界の土地を領有宣言するような野蛮な害獣共に理解できる能があるとは思ってないけど。」

 

コイツ……さっきから言いたい放題言いやがって!!

 

何より部長たちを、俺の仲間を害獣呼ばわりしてるのが許せねぇ!!

 

「……それならあなたたち堕天使側が人間界で好き勝手しているのはどうなのかしら?」

 

「好き勝手?ハハァ、これはまた随分な言い草ですなァ。別に俺らはどこかの誰か違って他人の土地に居座るような盗人猛々しい真似はいたしておりませんよ?用さえ済めば大人しく帰りますもん。」

 

「悪魔にだってルールはあります。」

 

朱乃さんが宣言する。

 

「ルール?何ですか、そりゃ?ああ、人間を喰うためのルールっスか?実際クソ上級悪魔サマ方が我欲の為に下僕の管理能力がなかったり相手が嫌がってるのに無理矢理下僕にしたりしてくれてるお蔭ではぐれ悪魔なんてモンが出てきて人間界では大迷惑してますからなァ。ハッキリ言ってお宅らの存在自体が世界にとって害悪でしかないの。お分かり?ねぇ、イッセー君!」

 

ビクッ

 

突然呼びかけられる。

 

今度は何を言うつもりだ?

 

「キミも聞いたっしょ?そこの赤毛のお姉さん、今キミのこと“所有物”、つまりモノって言ったよね?つまりは主のクソ上級悪魔様にとってキミ達下僕は所詮その程度の存在だってコト。口では何と言おうとも上級悪魔の下僕に対する認識はその程度なの。キミは本当に自分のことを道具くらいにしか思ってないような奴の為に尽くせるの?所詮戦いのための捨て駒にされてオシマイよ?だからはぐれなんて連中が出てくるの。おや、納得いかないってカオしてるねェ。ならキミアタマ悪そうだから分かりやすく教えてあげるよ。そうだなァ、もし自分の親や友人がソイツらに襲われたらどうするよ?それに自分達の子供や友達が人間でない、ナニか得体のしれない生きモンになっちまったって知ったらどう思うだろうねェ?」

 

「そ、そんなワケあるかッ!部長は俺を助けてくれたんだ!!それ以上下らねぇこと言ってみろ!!絶対に許さねぇからなッ!!」

 

「アハハハハハッ!相変わらず冗談上手いねぇ。出来るの?そんなボロボロのカラダで?強がりならやめといた方が長生きできるよ?ただでさえあんだけ光力を体に注がれたんだもん。一向に消滅の兆しを見せないのがフシギなくらいざんすよ~。それに何を勘違いしてるか分からないけどその女がお前さんを助けたのだってお前さんに神器があったからだヨ?一般ピーポーなら助けたところで一文の得にもなりやしませんものねぇ~。飽くま(・・・)で利用価値があったからってだけ。悪魔(・・)だけに。ハハハハハッ!さすがは悪魔。エグい、エグ過ぎる!!」

 

 

 

「黙りなさい!!!」

 

 

 

遂に堪忍袋の緒が切れたのか、部長は再び神父に向けて魔力を放つ。

 

そのままやっちゃって下さい、部長!

 

「おやおやァ?ここでキレるってことは図星ってことざんすよ?良かったねェキミ達!主様がキミ達のことどう思ってるか知れて!!……おや、そろそろ頃合いですな。」

 

神父は部長の攻撃を躱しつつもなお挑戦的な言葉を絶やさない。

だが何だ?

頃合いって?

 

「っ?!部長、この家に堕天使らしき気配が複数接近しています!」

 

朱乃さんが声を上げる。

まさか頃合いって……

 

「おやおや?どうやら形成逆転のようですなァ?」

 

「なんですって?!嵌められたというの?この私がこんな輩に?くっ……祐斗とイッセーが負傷した状態で堕天使とやり合うのは少々厳しいわね……良かったわね、命拾いできて。皆、引くわよ!朱乃、ジャンプの用意を!!子猫はイッセーと祐斗の回収を!!」

 

「「はい、部長!」」

 

一時撤退ってワケか……

 

部長の合図と共に朱乃さんが魔法陣の準備を始め、子猫ちゃんは木場を回収し、次いで俺を担ごうとする。

 

「逃がすとお思いで?」

 

「「「「!!」」」」

 

なっ、あのクソ神父!

いつの間に!!

 

気付けば神父が光剣を構えて俺達のすぐ目の前にいた。

 

クソッ!!この状態じゃあ……!!

 

その時

 

ダン!!

 

「ぐあッ?!」

 

響き渡る銃声、そして聞こえたのは……

 

神父の悲鳴。

 

見れば神父の左袖が血に染まってゆく。

 

確かに銃で撃たれたような跡があった。

 

……銃?

 

一体誰が?

 

この場にいる者の中で銃を使うのはこの神父くらい……っ!!

 

まさか?!

 

神父の後ろ、そこに銃を撃った人物それは……

 

 

 

 

 

 

「アー…シア……?」

 

 

 

 

彼女は大きく息を荒げながら、両手で先程神父が落とした銃を構えていた。

 

「イッセー、さん、良かった……」

 

そして緊張が解れたのか彼女は銃を取り落し、その場で座り込む。

 

「テメェ……このクソビッチがァアア!!」

 

「きゃあっ!!」

 

自分を撃った者の正体を知り、キレた神父は凄まじい速度でアーシアに迫り、そのまま蹴り飛ばしやがった!!

 

「アーシア!!」

 

俺が彼女の名を呼んだその時

 

「部長、準備ができました!」

 

「分かったわ!皆、速く!!」

 

「待って下さい部長!!あの子も、アーシアも一緒に「無理よ」っ?!」

 

「この魔法陣は私の眷属しかジャンプすることはできないの。それに彼女は私達の敵。残念だけどあの子を連れて行くことはできないわ。」

 

そんな……

 

それじゃあアーシアは……俺を助けてくれたのに……ッッ!!

 

「行くわよ!!」

 

部長の声。

魔法陣から放たれる光の量が増す。

転移が始まったのか?!

 

ふざけるなッ!!

 

アーシアは敵であるはずの俺の為にッ!!

 

俺は俺を担いでいる子猫ちゃんの拘束から逃れようと必死で手を伸ばし、身を捩る。

しかし無情にも彼女の腕は微動だにしない。

 

「……先輩、大人しくしていて下さい。今の先輩にできることは何もありません。」

 

子猫ちゃんが俺を諭す。

 

ああ、分かってる。

 

今の俺にはどうすることもできないってことくらい……

 

だがそれでも!!

 

「は、放せっ!!放してくれっ!!俺はアーシアを助けるんだ!!放せ、放せッ!!」

 

俺は必至でもがく。

 

「……仕方がない人です。」

 

子猫ちゃんはただ一言そう言うと徐にしゃがみ、俺とは反対側に担いでいた木場を下す。

 

子猫ちゃん、もしかして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「がッ……?!」

 

しかし俺の希望は脆くも崩れ去る。

俺は子猫ちゃんに項に手刀を叩き込まれたみたいだ。

 

どんどん意識が遠退いていく……

 

 

 

 

「アー…シア……」

 

 

 

 

そして俺が最後に見たものは視界一面に広がる魔法陣の光だった。

 

 

 

 

 




今回は連投いけましたがこれからは厳しい……


それと……


これも含めて2話ほど主人公が全く出てきておりませんが決して忘れているわけではありませんよ?

ええ、勿論。

そんなことをすれば妹様に……うわ、何をするやめ―――――ギャアアアア!!






――――しばらくお待ちください―――――



ふう、ノリに任せてあとがきでこんな駄文を書き綴ってしまいました。

どうやら深夜を過ぎてテンションがおかしくなってるようです。

それではまた!




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蠢く影

また間が空いてしまいました。

今回は少々猟奇的なシーンがございます。

それではどうぞ。


蠢く影

 

 

―――――――はぐれ悪魔祓いの襲撃と同時刻――――――――――

 

 

「ゴギャアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

ベキッ

 

「ギュヴァアア!!」

 

スシュッ

 

「ゴヴァアアアアアアアアッ!!!」

 

グシャッ

 

町の外れに位置する廃工場。

闇夜に木霊す、凡そこの世のものとは思えぬ無数のおぞましき叫び。

それと共に聞こえてくる何かが潰れ、砕け、爆ぜ、そして崩れ落ちる音。

 

廃墟に群がるは無数の異形たち。

一言に異形と言えどその姿形は千差万別。

獣や人の姿をした者や植物のような姿をした者、或いはそれらを組み合わせたような姿をしたものなど、実にバリエーションに溢れていた。

大きさも人間大から全長数メートルにも及ぶ巨大なものまでおり、体格の面でもまた一貫性が無かった。

 

しかしたった二つだけ、この場にいる異形達にはある共通する点があった。

 

一つは異形の全てが体に杭のようなものが打ち込まれていること。

 

そしてもう一つは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「London Bridge is falling down♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗闇に閉ざされた廃工場に響く、透き通った高く美しい声音。

その声が奏でるは殺意と狂気に満ち溢れ、血に飢えた獣達が蔓延るこの場所にはあまりに似つかわしくない、戯れる子供が歌う童謡。

 

そして異形達の間で悠然と歩を進める一人の少女。

 

金と純銅とを絶妙な比率で混ぜ合わせたかのような色合いの、腰まで伸びた髪。

白磁も処女雪も霞んで見えるほどに白くきめ細やかな肌。

長い睫が縁取る、夕暮れの空を思わせる切れ長の紫苑の瞳。

細く高い鼻梁。

瑞々しく潤った赤い唇。

すらりと伸びた、均整の取れた長い手足に豊かな胸、抱きしめれば折れてしまいそうなほどに引き締まった腰のスレンダーな体躯は身体の黄金比を体現し、最早美しいという言葉で表現するのも億劫になるほどに整った顔立ちも相まって、現在過去未来、工芸の神でさえも再現することを断念せざるを得ないであろう美の極限がそこにはあった。

 

しかし髪、顔、服と、少女は全身至る所が赤く染まり、その手に握られた、同じく赤く染まった鉄塊のようなものが、少女が歩くたびに下に擦れてカラカラと音を立てる。

 

異形達の視線は皆例外なくこの少女に注がれていた。

 

誰の目から見てもこのような異形の巣にいるには相応しくない見目麗しき少女。

しかも少女は全身を赤いモノで濡らしている。

この光景を目にすれば恐らく誰しもがこの比類なく美しき少女が無数の異形に食い荒らされ、見るも無残な姿へと変わり果てる結末を思い浮かべ、目を背けることだろう。

 

しかし群がる異形達は皆恐れ慄いていた―――――――他でもないこの少女に。

 

 

 

 

「グゥオオオオオオオオッ!!!」

 

 

 

 

「falling down♪」

 

ゴシャッ

 

 

 

 

 

「ヴォオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

 

 

 

「falling down♪」

 

ザシュッ

 

恐怖しつつも己が破壊衝動に任せて少女に襲い掛かる異形達。

一方で相も変わらず場違いな歌を紡ぎ続ける少女。

少女は口を開くたびに手に握った獲物を薙ぎ、幾体もの異形が断末魔の叫びを上げる間もなく原型を留めぬ肉塊へと変貌する。

血の雨が降り注ぎ、少女の髪、肌、服を更に赤く濡らす。

 

幾度も幾度も、先程からその繰り返し。

 

異形がひしめいていたはずの少女らの周りの風景はいつしかグロテスクなオブジェが林立する死屍累々たるものへと変わり、生けるモノは刻一刻とその数を減らし、この空間を彩る悪趣味な装飾品へと変わり果てる。

 

「グ、グヴォアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」

 

有象無象の異形達の中でも一際巨大な体躯と存在感、そして抜きんでた力を誇っていた異形が己を鼓舞するかの如く雄叫びを上げ、渾身の力を籠めて少女を粉砕せんと躍りかかる。

異形達も本能では悟っていた。

目の前の少女は恐ろしく危険であると。

しかし力と引き換えに知性も理性も奪われた異形達には正常な判断など到底できはしない。

つまりは初めから彼らには退くという選択肢は無く、ただただ己の破壊衝動のままに暴れ回るよりなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「London Bridge is falling down♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

対する少女は眉一つ動かさずに手にした獲物を振るう。

 

そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……My fair lady」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グ、ガ……」

 

それが異業の最後の一言だった。

 

彼女が最後に言った一言。

それが合図と言わんばかりに異形の体は幾千にも幾万にも切り刻まれ、赤黒い血肉の雨が辺り一面に降り注ぐ。

 

 

「さて、と……」

 

 

最後の異形が斃れたのを見届けると彼女は別の方向に視線を向ける。

 

「残りはあなた一人だけだよ?」

 

少女は満面の笑みを浮かべる。

しかし明らかにその目には狂気の色が浮かんでおり、更に先程から浴びに浴び続けた異形の血に塗れていたことでその笑みはより一層妖しいものとなっていた。

 

「バ、バカな……こんなことが……!!」

 

彼女の視線の先、そこにいたのは一人の男で、その背からは3対6枚もの鴉を思わせる黒い翼が生えていた。

 

「こ、ここにいたはぐれ共はいずれも上級悪魔と同等、いやそれ以上にまで力を引き上げた改造変異悪魔(ミュータント)ばかりだぞ?!それがこんな小娘一人に全滅など「『ありえない』って言いたいのかな?」ッ?!」

 

男はただでさえ驚愕に見開いていた目を更に大きく見開く。

今の今まで、自分から数十メートル離れた位置にいた筈の彼女の声が突如自分の背後から聞こえてきたのだ。

男は自身の頬を冷や汗が伝うのを感じた。

男は堕天使と呼ばれる種族であり、その中でも上級の部類に属していた。

それなのに声を聴くまでこの少女の接近に全く気付くことができなかった。

それに加え、先程の戦い、否、既に戦いと呼べるものではなかったが、数十体はいたであろう上級悪魔相当の力を持つはずの異形、改造変異悪魔(ミュータント)達を一方的に、屠っていた――――それもあんなどう考えても場違いな歌を口ずさみながら。

おまけに返り血で汚れてはいるものの、全く消耗した様子を見せていない。

 

それらを総合して得られる答えは一つ、彼女と戦っても勝算は限りなくゼロに近い。

また逃げることも不可能だろう。

そう判断した男は大人しく降参の印として両手を上に上げる。

 

「た、頼む。言う通りにするから見逃してくれ。」

 

男が懇願する様子を見て少女はしばし考える素振りを見せると答える。

 

「う~ん、そうだね……じゃあ質問に答えてくれたら考えてあげる。そのかわり」

 

少女は一旦切ると男の背中、丁度翼の付け根辺りに手を添える。

 

「下手な嘘でも吐こうものなら……あなたのこの自慢の翼、引き千切るからね?」

 

そう言うと少女は口元を三日月形に歪める。

 

「っ!」

 

少女の言葉に男は硬直する。

彼ら堕天使など有翼の種族にとって翼は骨格があり、血肉が通った肉体の一部。

それを千切られるということは人間でいえば四肢をもがれることに等しい。

何より翼の枚数は彼らにとっては力の象徴、一種のステータスだ。

翼をもがれることは種族内における優位性を失うことに他ならない。

 

「……分かった。言う通りにする。それで、質問てのは何だ?」

 

男は少女の機嫌を損ねぬよう、慎重に応答する。

 

「それじゃあまず一つ目。ここにいた改造変異悪魔(ミュータント)達は一体どうするつもりだったのかな?」

 

「あ、ああ、ここにいた奴らか……あいつらはいわゆる失敗作ってヤツでさ、ここで一時保管した後処分される予定だった。」

 

「ふうん……」

 

少女はそれだけ言うと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブチィッッ

 

 

 

「が、ぐあああああああっ?!!」

 

 

 

 

 

 

堕天使の翼を引き千切った。

 

それも根元から、周囲の肉をごっそり抉り取るように。

 

「今、嘘吐いたわよね……?最近この辺りに出没してる改造変異悪魔(ミュータント)共の出所がここだっていうことは調べがついているの。さっきざっと見たけど大半が冥界政府が正式にはぐれ認定して討伐依頼まで出している個体だったわ。そしてその全てにある共通点があったの。いずれもがごく最近根城にしている場所から姿を眩ましているっていうね。」

 

少女は手に握った黒い翼を投げ捨てると、痛みにのたうち回る男を踏みつけて続ける。

 

「まだ拷も、ううん、質問は終わってないよ?ということで次の質問ね。あなたはこの町に潜伏している他の堕天使について何か知ってる?中級一人に下級が三人、だけどそのうち一人は行方知れずみたいだけどね。」

 

男は痛みに耐えながらもなんとか言葉を紡ぐ。

 

「はあ、はあ……あ、あいつらか、確か総督から神器所有者と思しき人間の監視、または抹殺を命じられていたはずだ。」

 

「他には?」

 

「そ、それは……」

 

男の反応を見て、少女は顔に表情を浮かべず、無言のまま別の翼に手をかける。

 

「ま、待て、待ってくれ!!答える、答えるから、な?」

 

「……なら最初からそうして。」

 

少女は背筋も凍るような冷たい声音で言い放ち、一先ず翼からは手を放す。

 

「そ、そいつらは組織(グリゴリ)からの命令とは別にとある堕天使の幹部から密命を受けている。内容は上級悪魔グレモリーの領地にて改造変異悪魔(ミュータント)共の実験と経過観察を行うことだ。」

 

男がそこまで話すと少女はどこか納得したような表情を見せる。

 

「なるほど、やはりね。それとどちらかというとこれが一番聞きたいことなんだけど……あなた、あの改造変異悪魔(ミュータント)共を創り出した奴、首謀者は誰か知ってる?」

 

「いや、連中を創り出した奴が本当は誰なのか、詳しいことは俺も知らない……ただいつも俺達に指示を出していたのは一人の女だ。いつもフード被っているから顔をみたことは無いし正体までは分からない……」

 

男が話し終えるのを聞くと少女は短くそう、と呟いて息を吐く。

 

「ところで」

 

少女は一旦区切ると手に握っていた血塗れの物体を男に見せながら言う。

 

「これ、ココに来る途中で拾ったスコップなんだけどさ。まあ、そうは見えないよね?さっきアイツら解すのに使ったせいですっかりグチャグチャになってもう原型留めて無いし。」

 

見れば確かに、先端にいけばいくほどに変形しており、本来の形を想像するのは難しいが、その反対側、末端側にはなるほど、確かにスコップの取手が確認できた。

すると先端の本来スプーン状の形をしているはずの刃はスクリュー型にさえ見えるほどまでに変形してしまっているということか。

 

「でも凄いよね~、スコップって第一次世界大戦の時には白兵戦、取り分け塹壕戦で極めて有効な打突武器として機能したんだって。ただ穴掘るだけじゃなくて武器にも使えるって、これ発明した人は天才だね。」

 

さっきまでの殺伐とした雰囲気とは打って変わって明るく、親しげな調子で話す少女。

しかし男には何故ここでそのような話をするのか、皆目見当もつかなかった。

先程のはぐれ悪魔を葬った時に歌っていた明らかに場違いな調子の歌といい、男には彼女の意図が全く掴めない。

 

「ど、どうして今そんなことを……?」

 

男は分かりかねてつい尋ねる。

男の言葉に少女は一瞬きょとんとした表情になる。

 

「どうしてって」

 

しかしそれも一瞬、少女の顔には再び笑みが戻る。

 

 

 

 

 

 

 

「こうするためだよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザンッッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごはっ……!!」

 

 

男は盛大に吐血する。

 

男の体は上半身と下半身は真っ二つに分断され、断面からも夥しい量の血が溢れ出し、新たな血の池を作り出す。

 

「……ど、う……して……?話し……たの……に……」

 

横たわる男の目からは次第に生気が失われていく。

その様子を人形のような無表情な様子で見届けた少女は一つ溜息を吐く。

 

「……馬鹿ね。あなたは超えてはいけない一線を越えてしまった。この仮初の均衡を崩すのならそれ相応の覚悟はして当然でしょ?組織に戻ったところでどの道処刑は免れないし、あなたが加担した連中も失敗したあなたを無罪放免になんてすると思う?いえ、それ以前にあなたみたいな末端なんて切り捨てるでしょうね。それに」

 

少女の目つきが鋭さを増し、心なしか周囲の温度が急激に下がったようにさえ感じられた。

 

「あなたはあの改造変異悪魔(ミュータント)共をけしかけ私を殺そうとした……命を奪うということは自分もまた奪われる覚悟をしなければならない……なんて、もう聞こえて無いだろうけど。」

 

少女が語り終える前に男は既に息絶えていた。

 

その時、彼女の手にしていたスコップがパキンという音と共に中ほどから折れる。

 

「う~ん、取り敢えず原子結合をより強固にして原子間の結合部分を狙って振ってたけどやっぱりただのスコップじゃこれが限界かぁ~。まあでも改造変異悪魔(ミュータント)66体に堕天使一匹相手に良く持った方かな?」

 

少女は折れたスコップを見てそう呟くと積み重なったはぐれ悪魔達のなれの果てに目を遣る。

 

「さて、目的のものだけ回収して帰ろっと。そろそろお兄ちゃん達の方も終わった頃だし。」

 

 

少女は踵を返す。

 

夜更けに、命ある者が彼女以外に消え去った廃工場の中で彼女の足音は不気味なほどによく響いていた。

 

そして

 

 

 

 

 

 

 

 

「London Bridge is falling down♪」

 

 

 

 

再び、来た時と同じ調子で歌を口ずさむのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パンッ

 

 

乾いた音が室内に響き渡る。

 

「何度言ったら分かるの?駄目なものは駄目よ。あのシスターの救出は認められないわ。」

 

音の発生源はイッセーの頬。

 

話を纏めるとこうだ。

 

俺達がはぐれの始末に赴いている間にイッセーはいつも通り依頼主の下に向かったらしいが、その時運悪くはぐれ悪魔祓いと鉢合わせしてしまったらしく、何度も光の武器による攻撃を受けたという。

 

応急処置はしたものの、予想以上にダメージが大きく、完治までにかなりの時間を要すると思われたことから学校を休むよう言われたらしい。

 

そしてその時件のシスターと再会したそうだがまたしても堕天使と遭遇し、イッセーを庇ったシスターはそのまま連れ去られたんだとか。

 

しかも去り際に堕天使がそのシスターを使って何らかの儀式を行うと漏らしたらしく、それでイッセーがシスターの救出をグレモリーに進言したらああなった。

 

 

……ていうかお前、学校休んで何してるんだよ。

 

それじゃ休んだ意味無いだろ。

 

グレモリーの命令でもあるんだし大人しく自宅療養してろよ……

 

 

しかし例の堕天使共がいると思しき教会は既に天界側から打ち捨てられて久しいものなんだが……

 

以前のイッセーとのやり取りを見る限りグレモリーがそれを把握していたとは思えない。

 

もし把握していたのなら事前に手を打っておくこともできたハズ。

 

それにイッセーが殺されるまで堕天使が入り込んでいたことに気付いていたのかどうかすら怪しい。

 

領主を自称するならそこのところの把握はキッチリしておいてもらいたいものだがな。

 

既に被害者が出てしまっているわけだし。

 

とはいえ、今回の場合で言えば向こうに明確な意図がある以上表向き動いているのは末端だとしてももっと厄介な連中が隠蔽工作を働いている可能性は無きにしも非ず、いや、恐らくそうなのだろう。

 

故に一概にグレモリー側の認識不足のせいとは言い切れないが……

 

 

いずれにせよこれが明確な挑発行為である以上迂闊に動くのは得策ではない。

 

事実グレモリーが危惧しているのはそこ、すなわちここで連中に介入して悪魔と堕天使の間で戦争が再発することだ。

 

恐らく先方にも悪魔側が介入したが最後、必ず開戦の口実をでっち上げるだけの用意があると見て間違いない。

 

だが同時にここにはどう言っても納得しない奴(イッセー)もいるのもまた事実。

 

コイツのことだ、閉じ込められでもしない限り何としてでもそのシスターを助けに行こうとするだろう。

 

確かにその心意気は嫌いじゃないし、寧ろ好感を覚えると言ってもいい。

 

実際世の中には何だかんだと理由を付けて結局己の保身しか考えていない偽善者が腐るほどいる。

 

だが同時に一時の感情に身を任せた結果それ以上の惨劇を招くことも確実。

 

するとその時、姫島がグレモリーに何か耳打ちするのが目に入った。

 

「急用ができたわ。私と朱乃は少し外出してきます。」

 

……!

 

……なるほど、向こうからお出ましという訳か。

 

「部長!まだ話は終わって「イッセー」っ」

 

呼び止めようとしたイッセーの言に割り込む形でグレモリーが宥めるように言う。

 

「あなたは『兵士』(ポーン)が一番弱い駒だと思っているみたいだけどそれは大きな間違いよ?言ったわよね?『悪魔の駒』には実際のチェスの駒と同様の性質が備わっていると。」

 

「チェスの性質……」

 

「そう、“プロモーション”。敵陣地の最奥まで駒を進めた時、『兵士』の駒はプロモーションによって『王』を除く全ての駒の性質に変化することが出来るの。勿論プロモーションするには主である私が敵陣地と認めた場所である必要があるわ。例えば教会とかね。」

 

「それと神器は所有者の想いに呼応して動き、そしてその力は想いの強さに比例して強くなるわ。それから最後に一つ、『兵士』でも『王』は取れるわ。チェスの基本よ。それは『悪魔の駒』でも変わらないの。でもいいこと?仮にプロモーションを使ったとしても駒一つ分で勝てる程堕天使は甘くはないわ。」

 

そこまで言うとグレモリー達は転移していった。

 

なんだかんだで行かせる気なんじゃないか。

 

……無論俺達にも同行させるという前提でだろうが。

 

一方、当のイッセーはというと……まあ、グレモリーの真意は分かってはいないみたいだが当然行く気のようだな。

 

すると扉の方に向かっていくイッセーを木場が呼び止めた。

 

「行くのかい?」

 

「ああ。止めたって無駄だからな。」

 

いつもと変わらない調子で声を掛ける木場に対して棘のある声音で返すイッセー。

 

「殺されるよ?」

 

「……たとえ死んでもアーシアだけは逃がす。」

 

「良い覚悟だ、と言いたいところだけれど……やっぱり無謀だ。」

 

「うるせえイケメン!!だったらどうすりゃ「僕も行くよ。」っ?!」

 

木場は怒鳴るイッセーに対して帯刀して同行の旨を告げる。

 

「でもお前……っていうか傷は大丈夫なのかよ?!光の剣で斬られたんだろ?!」

 

「部長はプロモーションを使っても、って仰ってたけど、あれは部長が教会を敵陣地と認めたってことさ。同時に僕らにキミをフォローしろという指示でもあるけどね。どうしても行かせないつもりなら閉じ込めてでも止めるよ思うよ?それに怪我といっても咄嗟に身を捩ったおかげで浅い傷で済んだし、キミと比べると体内に注ぎ込まれた光力もずっと少ない。もっとも、まだ本調子とは言えないけどね。」

 

木場に説明されて漸く気付いたようだった。

 

「……私も行きます。」

 

「なっ、子猫ちゃん?!」

 

「……二人だけでは不安です。特に祐斗先輩は病み上がりですし。」

 

搭城も二人に続く。

 

「感動した!俺は今、猛烈に感動しているよ、子猫ちゃん!」

 

彼女の同行を聞いたイッセーは喜びを爆発させる。

 

「あ、あれ?僕も一緒に行くんだけど……?」

 

自分との反応の差に引き攣った笑みを浮かべる木場。

 

……ドンマイだ。

 

 

 

だがこの流れだと俺も参加は確定か。

 

 

 

 

「……分かった、俺も行こう。」

 

「崇哉?!」

 

「どうせグレモリーは元からそのつもりだったんだろうさ。でなければ病み上がりを抱えたお前達三人だけで教会行きを許可するはずがない。この前のはぐれ悪魔の時のようなことも有り得るからな。それに、悪魔でない俺がいた方が後々言い訳も効くと考えたんだろう。」

 

「よし、それじゃ、四人でいっちょ救出作戦といきますか。待ってろ、アーシア!!」

 

 

そしてイッセーは改めてシスター救出を宣言するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただ一つだけ、懸念すべき点がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グレモリー達は知っているのだろうか?

 

奴らは本当は単独犯ではない(・・・・・・・)ってことを……

 

 

 

 

 

 




来月の中旬に少々用事がありまして、その準備の為に次回更新まで暫く時間が空いてしまうやもしれませんが、これからもどうぞよろしくお願い致します。

また、感想・ご指摘等ございましたらお願い致します。


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堕天使、そして・・・・・・

すみません、リアルで色々と用事が立て込んでいた為に遅くなってしまいました(汗)


堕天使、そして……

 

 

私は私の『女王』、姫島朱乃と共に私の根城である駒王学園旧校舎裏の木立に来ていた。

彼女の報告によると、堕天使らしき気配がすぐそばまで来ていたというからだった。

先程のイッセーの言によれば最近この町に入り込んだ堕天使共は今夜アーシア・アルジェントというシスターを使って何らかの「儀式」を執り行うつもりらしい。

恐らくはそのシスターが持っているという神器で何かを企んでいるのでしょう。

 

だとするとこのタイミングで現れたことを考えても今現れた堕天使と言うのはその連中の一味と考えて間違いなさそうね。

 

……他人の領地で本当に舐めた真似をしてくれたものだわ。

 

私もイッセーが襲われて以来、堕天使がこの街に入り込んで何やら不審な動きをしていたことを察知したから探ってみたところ、複数の堕天使、それにはぐれ悪魔祓いが関与していることが発覚した。

 

最初は堕天使の中枢、グリゴリの計画だと思って不干渉でいるつもりでいたわ。

 

それを裏付けるように、イッセーを殺した下手人、そして先日相見えたはぐれ神父の口から彼を殺すよう上から命令を受けていたという旨の発言がとれたというから。

 

けれども使い魔を遣ったりして調べていくうちにどうやらその限りでないことが分かった。

 

この街は裏の世界では一般的にグレモリー家の縄張りとして通っている。

 

それにイッセーが悪魔に転生したことは向こうも何らかの方法で既に知っていたようなので向こうからすれば既に標的は存在しないも同然。

 

彼が悪魔になった時点で下手に手を出せば悪魔と堕天使の間で戦争が再発しかねない。

 

にも拘らず連中は一向に撤退する様子を見せない。

 

加えて堕天使総督のアザゼルは聞くところによれば戦争を嫌っているというから、仮にシスターの神器が目的だとしてもこの街で事を起こすのはリスクが大きいと判断するはず。

 

それなら冥界の堕天使領に連れ込んでしまった方が確実。

 

だというのに……

 

 

 

「部長!」

 

 

 

思考に没頭していた私は突如響き渡った朱乃の声で私は反射的に身を逸らす。

私が身を逸らしてほどなく、私の顔があった場所を空を裂く音と共に光の槍が通過する。

 

早速お出ましのようね。

 

「ふ~ん、さすがにこの程度は避けれるかぁ。」

 

そして私の考えを証明するように声が聞こえてくる。

声のする方に目を向けると木の上に腰掛ける二人の堕天使。

両方とも女だった。

 

一人はゴスロリ衣装でもう一人はボディコンスーツを身に纏っていた。

 

「あなたたちね?最近私の領地に入り込んで好き勝手やってくれた堕天使は。」

 

「いかにも。貴様の言には少々異論を覚える部分もあるがこの街に入り込んでいたことは間違っていないとは言っておこう。」

 

「まァ、ぶっちゃけウチらが好き勝手したっつーよりアンタらの管理がいい加減だったってだけじゃね?」

 

「……言ってくれるわね。それで、一体何が目的なのかしら?」

 

私が尋ねると二人は顔を見合わせた後、口を開く。

 

「我らの直属の上司がこの地でとある計画を遂行するよう命じられていてな、私達は任務遂行に協力しているだけだ。」

 

「随分すんなりと答えてくれるのね。それはグリゴリからの命令かしら?」

 

「その通りだ。上曰く、碌に扱えもしないのに危険な神器を所有することは世界の害悪にしかならないそうだからな。」

 

「それなのによりにもよってどっかの悪魔に下僕に転生させられちまったってワケで。あー、やだやだ、ホント最悪~。お蔭でアタシらの顔に泥塗られたってカンジ?」

 

「そう。それはごめんなさいね。けれど、最後に一つ聞いても良いかしら?」

 

「?何だ?」

 

「あなたたちのところにいるっていうシスター、アーシア・アルジェントの件についてはどうなのかしら?昼間うちの『兵士』があなたたちのお仲間から気になる話を聞いたらしいのよね。何でも儀式がどうとかこうとか。」

 

私の言葉に今の今まで余裕めいた笑みを浮かべていた堕天使二人の表情が急に険しいものとなる。

 

「……ほう?どうりで。最近どうも我々のことをコソコソ嗅ぎまわっている連中がいるとは思っていたが、貴様らだったか……」

 

「それで、どうなの?それとも答えられない理由でもあるのかしら?」

 

「その計画なんだけどさ……」

 

ゴスロリの方の堕天使が口角を吊り上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「“上”からの命令っつったらどうするよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「?!」」

 

 

嘘……?

 

私達が調べた限りではどうみてもこの連中の計画はグリゴリの方針とは合わないハズのものよ?

 

「どういうこと?」

 

背中に嫌な汗が伝う。

 

「言った通りだ。我らは上からの命で動いているに過ぎん。」

 

「あっれぇ?もしかしてアンタら、ウチらが単独で動いているとでも思ってたワケ?アハハハハハ、バッカじゃないの?単独ならいくらウチらでも敵地のど真ん中で態々そんな計画堂々と実行するわけないっしょ?」

 

でも気になることが一つ……

 

「……参考までにその“上”というのは誰か、聞かせてもらってもいいかしら?」

 

するとボディコンスーツの方の堕天使が不気味な笑みを浮かべて言う。

 

「無論、我らの総督閣下だ。」

 

「?!」

 

 

 

「我々の上司がとある興味深い神器の所有者を発見した為総督閣下に保護の申し立てを行ったところ偶々我らが実行役に選ばれたということだ。」

 

「保護?それにしては随分と手荒く扱っていたみたいだけれど?」

 

「ああ、神父共の中に過激な者がいたようだからそれで誤解を生んだのやもしれんな。連中の中には取り分け酷く悪魔とそれに関わった人間を憎悪する輩もいる。恐らく貴様の下僕と親しく接していたのを見て許し難く思ったのだろう……それよりいいのか?貴様は我らの独断だと判断して下僕をあちらに向かわせたようだが……それがどういう意味か言わずとも分かるな?」

 

「ッ!」

 

なんてことッ……!

 

「部長、彼女たちの言っていることが本当だとしたら非常にマズいですわ……」

 

「……ええ、分かってるわ。」

 

やられた……

 

この堕天使たちの言葉を信じるのならイッセーを殺した下手人は経過はどうであれ総督の命でシスターを確保していたということになる。

 

どれだけ親しくてもイッセーっとそのシスターの関係は極めて私的なモノ。

 

いくら教会を追放されていたとしても堕天使が手を付けていた以上公の立場の面では敵同士。

 

仮にそのシスターがどんな扱いを受けていたにせよ、ここでイッセー達が救出と称して教会に乗り込めばこちらがシスターを攫いに来たと見做されてしまう。

 

そしてそれは即ち悪魔側による堕天使組織の計画の妨害。

 

 

 

 

……最悪戦争の引き金にもなり得る……

 

 

いくらトップが戦争を忌避しても主戦派の気運が高まれば抑え込むのは困難。

 

私は判断を誤ったというの?

 

やはりあの時イッセー達にシスター救出を認めるべきではなかった?

 

「(リアス)」

 

朱乃がそっと耳打ちして来る。

 

「(すぐに教会に向かいましょう。向こうにも悪魔側の土地で計画を進めていたという事実がある以上今ならまだ自体が悪化する前にイッセー君達を連れ戻すことが出来る筈よ。それにさっきの光力と感じられる波動から相手は下級の堕天使。追撃されても撒くか、或いは正当防衛で迎撃することも十分可能よ。)」

 

くっ……確かに。

 

敵、それも格下の相手に背を見せるのは屈辱だけど今は何より時間が惜しい。

 

「(……分かったわ、そうしましょう。朱乃、ジャンプの用意を。)」

 

「(はい。)」

 

私達が教会へジャンプしようとした丁度その時

 

「ちょ~っと待ちなよ?」

 

「「!」」

 

私と朱乃の丁度真ん中に光の槍が突き刺さる。

 

「……どういうつもり?私達にもあなたたちにも今この場で争うメリットは無いはずよ?そんなことをするくらいなら現地へ急行すべきではなくて?寧ろこちらとしてはこの場で消し飛ばされないだけ有り難いと思って欲しいくらいなのだけれど。」

 

「はぁ?!アンタそれガチで言ってるワケ?うわ、そりゃ無いわ~。元はといえばアンタんトコの下僕っちがウチらんトコのシスターにちょっかいかけたからっしょ?どういう躾してんのか飼い主の顔が見てみたいって思ってたけど、やっぱり下僕が下僕なら主も主ってワケね。コレだから悪魔ってやだわ~。でも、せっかく来てくれたんだし、このまま手ぶらで帰るのもアレっしょ?というわけでコレ、プレゼントフォーユー。」

 

ゴスロリの方の堕天使はそこまで言うとパチンと指を鳴らし、それと共に現れる魔法陣。

 

……一体何をするつもりなの?

 

「やっぱ悪魔な問題は悪魔が解決するべきっしょ?てなワケで、出でよ、ミュータントちゃ~ん!!」

 

「「?!」」

 

堕天使の掛け声で魔法陣がより一層強く輝き現れたのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グゥオオオオオオオオッ!!」

 

 

 

全長4~5メートルはあろうかという人型のはぐれ悪魔だった。

 

両肘と両膝からは大きな棘が生えており、手足の指から生える鉤爪もまた鋭い。

 

そして改造を施された個体であることを示すあの杭のようなものが全身至る所に打ち込まれていた。

 

「ッ……はぐれ悪魔を改造していたのはやはり堕天使!」

 

私の隣で朱乃が苦々しい表情で呟く。

 

「あなたたち!何てことをッ!!自分達が何をしたか分かっているの?!」

 

「勘違いをしてもらっては困る。我らはただはぐれ悪魔を収容していたのみ、故に改造したのは我らではない。それに貴様ら悪魔にそれを言われるとは心底遺憾だな。これは貴様ら悪魔が無秩序に、己が欲望のままに下僕を増やしていった結果だろう?そもそも種の存続の大義名分の下生命の理を犯した貴様らがそれを口にすること自体おこがましい。」

 

……随分好き放題言ってくれたものね。

 

でもこの状況は非常にマズいわ。

 

下級堕天使二人だけならどうとでもなったけどこんなところでミュータントが出てくるなんてッ!!

 

ただでさえ時間が無いっていうのに……

 

「アハハハハハ!さぁ~て、ミュータントちゃん。あの目障りな悪魔共を殺っちゃってちょーだいッ!!」

 

「「!」」

 

ゴスロリの方の堕天使がはぐれ悪魔に告げる。

 

来るッ!

 

私達が反射的に身構えたその時

 

ズシュッ

 

目に飛び込んできたのは信じられない光景。

 

「う、嘘……なんで……」

 

声の主は散々私達を小馬鹿にしてくれた金髪ゴスロリの堕天使。

しかし声の調子は先程とは打って変わって弱弱しい。

 

彼女の腹部を鋭い棘――――はぐれ悪魔の爪が貫通していた。

 

「ミッテルト!!」

 

もう一人の堕天使が叫ぶ。

 

「カラ……ワー……ナ……」

 

ゴスロリの堕天使――――ミッテルトは今にも消え入りそうな声で相方の名を呼ぶ。

 

しかしはぐれ悪魔は歯牙にもかけずそのまま口を大きく開く。

 

そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――ミッテルトを喰らった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

思わず目を覆いたくなるような、おぞましい光景。

 

肉が断たれ、骨が砕かれる嫌な音が鼓膜を通して頭の中で響き渡る。

 

「お、おのれェーーッッ!!!」

 

相方を惨殺されて激昂したもう一人の堕天使―――――カラワーナは持てる全ての力を注ぎ込んで光の槍を創り出し、はぐれ悪魔に斬りかかる。

 

 

 

 

ズバッ

 

 

 

 

 

しかし現実は非情だった。

 

カラワーナの槍が届くよりも早く、はぐれ悪魔の腕が振るわれ、彼女の体は両断される。

 

「レイ……ナーレ…様……申し訳…あり…ま……」

 

グシュッ

 

カラワーナが言い終わらないうちにはぐれ悪魔は宙を舞う彼女の上半身を掴みとるとそのままミッテルトと同様にその身を喰らった。

 

そしてグチャグチャという血肉が砕かれる耳障りな演奏が止んだ後、はぐれ悪魔の体に変化が現れる。

 

バキバキと言う音と共に背中が盛り上がり、二対四本の巨大な腕のような骨格が出現するとそこから鴉のような黒い羽毛が生え、翼を形成する。

 

「ヴォオオオオオオオオオオッッ!!」

 

大気を震わす咆哮。

 

それだけで一時的に三半規管が狂ってバランスを崩してしまう。

 

二対四枚の翼を広げたはぐれ悪魔はさながら堕天使と何か得体のしれない異形が混ざったようなおぞましい生き物だった。

 

そしてはぐれ悪魔がこちらを向く。

 

そして翼をはためかせて宙へ繰り出すとそのまま突進する体勢を取った。

 

「ッ!来るわよ、朱乃!!」

 

「ハイ、部長!!」

 

私は滅びの魔力を、朱乃は雷を撃ち出す。

 

この前の戦いでは大いに苦戦を強いられた。

 

正直私達だけではかなり厳しい。

 

それを証明するかの如くはぐれ悪魔が視界から消え、私と朱乃が放った魔力は虚しく虚空に消える。

 

「リアス!!」

 

木霊す朱乃の叫び。

 

!!

 

反射的に幾重にも防御障壁を展開する。

 

「「きゃああああああっ!!」」

 

刹那の後、何かが砕ける音と共に凄まじい衝撃が私達を襲う。

 

そして衝撃に耐えきれず私達は弾き飛ばされてしまう。

 

ふらつく足に鞭打ってなんとか体を起こす。

 

まだ立ち上がれるのは上半身と下半身が繋がっている証拠だ。

 

さきほど防護障壁を展開したのはやはり間違いではなかったようね。

 

もしあと一秒でも反応が遅れていたら、と想像するとゾッとする。

 

そして顔を上げ、はぐれ悪魔の方に向き直ると……

 

 

 

 

 

 

「嘘……こんなことって……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はぐれ悪魔の前には無数の光の槍が浮かんでいた。

 

 

 

 

「これは……喰らった相手の力を吸収して自分のものにしたというの?!」

 

そう漏らした朱乃の額には冷や汗が浮かんでいた。

 

槍を形成する光力は悪魔とは相容れないものであり、本来悪魔は持ちえないものだ。

 

悪魔に転生する前が天使か堕天使でもない限り、あの力の元はおそらく先程はぐれ悪魔が喰らった堕天使のものということになる。

 

しかも運の悪いことに浮かんでいる光の槍はその一本一本に先程の堕天使とは比べ物にならないレベルの光力が込められているのが見て分かった。

 

流石にこれを防ぎ切るのは不可能だ。

 

回避しようにも数が多すぎる。

 

「ヴォヴァアアア!!」

 

しかし無情にもはぐれ悪魔は私達に向かって光の槍を一斉掃射する。

 

 

 

 

 

 

私は……こんなところで終わるの……?

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、ここまで正確に予想しておいでとは。流石は主様ね。」

 

 

「?!」

 

 

突如として響く聞き慣れない女性の声。

 

声と同時に私の眼前で闇が湧き出す。

 

そして闇は大きく帳の如く私達の前方を覆い尽くす。

 

そして闇が晴れると飛来してきた光の槍が全て闇に飲まれて消失していた。

 

気付けば私達のすぐそばに、巨大な存在感を放つ女性が。

 

外見上の年齢は20前後くらいだろうか。

宵の明星の輝きを体現したかのような金色の髪に、鮮血のように深い紅の瞳。

白のワンピースより覗く白磁の如き白い肌。

その顔立ちは同性であっても例外なく見惚れてしまうであろう、何一つ欠点の存在しない極上の造形美を誇っていた。

 

しかしただただ見惚れているわけにもいかなかった。

 

現れる時の静かすぎる程の気配。

 

この気配を私は知っている。

 

 

 

 

これは……吸血鬼(ヴァンパイア)

 

 

 

その証拠に月明りがあるにも関わらず、彼女の足下には影が出来ていない。

 

でもどうして?

 

吸血鬼はとりわけ閉鎖的な種族として有名で本拠地はルーマニアにあり、とりわけ純血の上位の者になると滅多にそこから出て来ないハズ……

 

それに今私が感じ取れるだけの力を鑑みても彼女の力は少なくとも最上級悪魔相当……いえ、もしかするとそれ以上かもしれなかった。

 

「あなたは……」

 

私は思わず口にする。

 

すると彼女は私達を一瞥して一言。

 

「まだ動かないで」

 

「?」

 

つい先ほど耳にした凛として、澄み渡った声。

 

私は彼女の意図が分からなかった。

 

確かに光の槍は消滅したがまだはぐれ悪魔は健在だ。

 

「グルルルルル……」

 

現にはぐれ悪魔は突然現れた闖入者に視線を向け、今にも臨戦態勢に入ろうとしていた。

 

なのに動くなとはどういうことか、私が真意を問おうとしたその時。

 

「っ?!これは……」

 

眩い光が辺り一面を照らし出す。

 

まるで夜が昼になったと思えるくらいの強烈な光。

 

思わず腕で目を覆ってしまう。

 

そして次の瞬間、轟音と共に光がより一層強く爆ぜ、風が爆風の如く吹き荒れる。

 

「オオオオオオオオオオッッ!!……」

 

途中、はぐれ悪魔の断末魔らしき音が聞こえた。

 

それから暫くして徐々に光が消えていき、辺りは元の静寂を取り戻す。

 

はぐれ悪魔はもう影も形も見えなかった。

 

「ハァ……少々やり過ぎではないかしら?」

 

吸血鬼の彼女は天を仰ぎ見て溜息を吐く。

 

「いや、すまない。敵は堕天使の光力を吸収したものだから多少は光への耐性を身に着けていると思ってな。」

 

上空からまた別の人物の声。

 

けれども今度は聞き覚えのあるものだった。

 

それを示すように視界に映る漆黒の羽。

 

そして舞い降りてきたのは

 

「オリヴィア……」

 

そう、以前私の眷属を同族の手から救った堕天使、そして彼、有馬崇哉の部下である彼女だった。

 

「久しい、とでも言っておくべきかな?リアス・グレモリー。」

 

彼女は私達の姿を認めると口を開く。

 

「……何故あなたがここに?それにそちらの彼女は誰?見たところ吸血鬼よね?」

 

私が問いかけると二人は互いに顔を見合わせると、最初にオリヴィアが口を開く。

 

「まず最初の質問に答えようか。既に気付いていると思うが私達がここへ来た理由は我らが主の命だ。“どうにも嫌な予感がする”と仰っていたよ。尤も、何もなければそのまま静観しているつもりだったが。因みに二つ目の質問、彼女もまた我らの主の命の下ここへ来た。」

 

「……それは彼がこうなることを予想していたということかしら?」

 

「さあ。正直あの方がどこまで見据えておられるのか我らには皆目見当もつかない。ただ一つ言えることは悪魔と堕天使という争いの構図が出来上がらないよう動いている、ということだけだ。」

 

?!

 

それはつまり……

 

「……曲りなりにも彼は悪魔と堕天使の衝突を回避しようとしているというの?」

 

「曲りなりにも、というのは少々語弊があるが大体はその通りだ。どうにもここの所末端クラスを使って争いの火種を作ろうとする輩がいるみたいなんでね。」

 

「ッ?!それじゃあさっき彼女たちが“総督命令”と言っていたのは……」

 

「十中八九そのパターンだろう。今度のことはあの戦争嫌いな総督が聞いたら間違いなく顔を真っ青にするだろうな。仮に本当に総督が命じたのだとしてもそちらと出くわすような真似はするなと事前に触れこんでいるはずだからな。おそらく連中の直属の上司あたりが命令内容を改竄した可能性もあり得る。」

 

「それじゃあ敢えて私達に接触してきた理由は……」

 

「恐らく考えている通りだろう。」

 

っ……

 

全ては最初から仕組まれていたというの?

 

私達の知らないところで何者かが動いている。

 

そして彼――――有馬崇哉は間違いなく何かを知っているとみていい。

 

 

 

 

 

 

 

 

どうやら彼にはまだ聞き出さなければいけないことがあるようね……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

町外れ、鬱蒼と広がる木立の中。

打ち捨てられた教会は既に日が落ちて久しいこともあり、内部より滲み出る殺気も相まって禍々しい雰囲気を醸し出す。

 

「何つー殺気だよ……」

 

溜まらずにイッセーが漏らす。

 

「神父も相当集まっているみたいだしね。気配からしてこの中に堕天使がいるのは確実だよ。それと、はい、これ図面。」

 

そう言って微笑しながら教会の図面を差し出す木場。

 

「……他にも何かいます。」

 

「ああ、いるな……それも神父だの堕天使だの以上に厄介なヤツが。」

 

「「っ」」

 

神父と堕天使以外に得体の知れぬ者がいることを感じとった子猫と崇哉の言葉にイッセーと木場は息を呑んだ。

 

「マジかよ……アーシアを助けなくちゃならねえってのに……来てくれて本当に助かったぜ。」

 

「何言ってるんだい?仲間じゃないか。それに、個人的に神父や堕天使は好きじゃない……憎いと言ってもいいくらいに。」

 

「木場……」

 

そう忌々し気に漏らす木場にイッセーは微かな戸惑いを覚える。

その時の木場の瞳には確かな憎悪の色が浮かんでいた。

 

「……どうします?神父と堕天使だけならまだしもそれ以上に厄介な相手がいるとなると正面突破は危険です。」

 

子猫の言葉に一同は顔を見合わせる。

 

「まいったね。はぐれ悪魔祓い組織の特徴を鑑みても一番怪しいのは聖堂なんだけどこの図面を見る限りだと地上からの出入り口はここしかない。これは予想以上に厳しい展開になりそうだ……。」

 

木場は当初予想していた以上に厄介な現実に形の良い眉根を寄せる。

 

しかしここで予想外の一言を口にする者がいた。

 

「いや、正面から攻めよう。」

 

「「「?!」」」

 

イッセー、木場、子猫の3人は絶句する。

 

何故ならその言葉を口にしたのが……

 

「オイ崇哉、本気で言ってんのかよ?!」

 

余りの動揺に思わず食って掛かるイッセー。

 

無理もない。

この場で最も正面突破などという言葉を口にしそうにない人物、有馬崇哉がそう言ったのだから。

 

「本気さ。見たところ恐らくその儀式とやらが執り行われているのはここの地下だ。それもここの中から地下に通じる道があるはず。となれば少々の危険は承知の上で攻勢をかけた方が確実だ。それとも地面ごと崩落させて生き埋めにするという手でも使うか?これはあまりお勧めしないよ。少なくとも神父の方は殲滅できるし堕天使に関してもある程度時間を稼げるだろうが多分にシスターも巻き添えを食うからな。どのみち乗り込んだ時点で危険は覚悟せねばなるまい。それに……それを選んだのはお前自身だろう?」

 

「ッ……」

 

イッセーは押し黙る。

確かに、自分がアーシアの救出を主張したが故に今自分達はここに居るのだから。

 

「……随分教会の構造に詳しいみたいだね。」

 

そしてイッセーの代わりに口を開いた木場の声音は多分に訝しげなものだった。

 

「今まで狂信者や背教者の類は腐るほど見てきたからな。連中にお決まりのパターンだ。それに感じないか?地面のかなり深いところにある禍々しい魔力の気配を。」

 

「……ッ!これは……」

 

感覚を研ぎ澄まし、言われるがまま意識を地下深くに集中させた木場は“ナニか”を感じ取り苦虫を噛み潰したような表情になる。

 

「そう、先日お前達が遭遇したはぐれ悪魔と同質のものだ。逆に、そんな厄介なヤツを置いておくということはそれだけ下に何か重要な秘密があるともとれる。」

 

「っ?!冗談じゃねぇ……!!あんな化け物のところにアーシアがッ!!」

 

アーシアの置かれている状況が自分が思っていた以上に危機的であることに焦りを感じ、今にも駆け出しそうになるイッセー。

 

「突入する前に言っておくことがある……全員、目的を果たしたら即離脱だ。くれぐれも敵を殲滅しようなどとは考えるな。」

 

崇哉がそう言うと木場と子猫が怪訝な顔をする。

 

「……それは私達では力不足だということですか?」

 

すると睨むような鋭い視線を向けてくる子猫を一瞥すると一言。

 

「……勝てるのか?ミュータントに?」

 

「……」

 

子猫は閉口する。

そうせざるを得なかった。

事実、改造されたはぐれ悪魔の力は以前嫌と言うほどに見せ付けられ、己の無力を噛みしめることとなったのだから。

 

「今回の目的は飽くまでも件のシスターの救出だ。堕天使やはぐれ共とやり合う事じゃない。そしてそれはリアス・グレモリーも望まぬところだ……そうだろう?」

 

崇哉がそう問いかけると全員が真剣な面持ちで頷く。

 

「それともう一つ、言うまでもないが……ミュータントと遭遇したら目的の達成如何に関わらず逃げろ。」

 

「ッ?!おい、その場合アーシアはどうなるんだよ?!」

 

彼の言うことは味方の生存を確保する上では正論だった。

しかしそれでは納得のいかない者がいたのもまた事実。

 

「なら聞くがイッセー、お前がそのシスターを助けるためにここに居る面子が一人でも犠牲になったとしたらどうするつもりだ?それにお前は先程死んでもシスターは逃がすと言っていたがもしお前が死んだらその後そのシスターはどうなる?追放されたとはいえ公の立場上お前とそのシスターは敵同士。身寄りもない上にグレモリーにも助ける理由が無い。それどころか早々に再び堕天使に捕まるのが関の山だ。」

 

「で、でも!」

 

何か言いたげなイッセーに向かってだからと言って続ける崇哉。

その顔には微かに笑みが浮かぶ。

 

「その為に俺がいるようなもんだろう。安心しろ。万一最悪の状況に陥っても殿とシスターを連れ出すだけのことはできる。それ以上にお前に死なれたら元も子もないんだよ、今回の件は。」

 

「崇哉……」

 

いつしかイッセーの表情は歓喜に打ち震えるようなものになっていた。

 

「……いつの間にかすっかり先輩のペースです。」

 

「あははは……」

 

二人のやり取りを見ていた木場と子猫は呆れつつも苦笑を浮かべる。

 

 

 

 

 

「さて、随分と話し込んでしまったな……では、行こうか」

 

 

 

 

 

そして三人の悪魔と一柱の異教の神は聖堂の扉を潜ったのだった。

 

 

 

 




今回もgdgdです、はい^^;

細かい描写を入れつつも早く書ける方法ってないんですかね?


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救出

改めて思いましたがどうしても一人称視点、特に原作キャラだとグダりやすい……

三人称視点の方が書きやすいですね。


救出

 

 

教会の扉は開かれる。

視界に映るのは礼拝に訪れる信者の足が絶えて久しいことを表すかのように埃を被った祭壇や長椅子、頭部が欠けた聖人の像、破壊された十字架――――そして辺りに充満する濃密な悪意と殺気。

それは崇めるべき聖書の神、そしてそれに連なる天使の加護が失われたことを意味していた。

信仰と加護を失った聖域はかくも廃れて背徳的な場所へと変貌するものかと、見た者はそう思わざるをえないだろう。

 

「ひでぇ荒れようだな……」

 

悪魔に転生する以前からあまり教会とは縁のなかったイッセーをしても、目の前の荒れ様には息を呑む。

 

「敬っていたからこそ、愛していたからこそ、捨てられた時の絶望は計り知れない。そして絶望はやがて憎悪に変わり、今まで拠り所としてきた場所で自身が信仰してきたものを打ち壊す……自らを捨てた神を否定する為にね……ッ?!マズい!」

 

イッセーに続いて口を開いた木場であったが、突然の危機を察知して身構える。

 

 

 

 

「オマエら、おはようございマ~スッッ!!!!」

 

 

 

 

声と共に上空から現れたのは光剣を振りかざして斬りかかる一人の男。

 

「クッ!!」

 

直前で敵の気配を察知した木場は持ち前の反射速度を生かして回避する。

他の三人も同様に躱したが、振り下ろされた光剣は軽い衝撃波を発生させ、床を大きく抉り、周囲の長椅子の幾つかが破砕する。

男が振り下ろした剣には自身の膂力に更に高所からの落下による重力加速度が加わって地表に到達する頃にはその破壊力は何倍にも膨れ上がっていたのだった。

 

「テメェ、フリードッッ!!」

 

イッセーが怒声を張り上げる。

 

「どーもどーも、やっぱり覚えててくれたンスねェ?そうです、僕ちん、皆の人気者、日夜悪しき屑悪魔共を切り伏せる正義のヒーロー、フリード・セルゼン君でェ~す!!また会ったねェクソ悪魔のイッセー君とそのお友達のクソ悪魔ズ!!良いねェ!感動の再会だねェ!というワケで、早速オマエらにヘルズゲート直行便くれてやりますDEATH!!アレ?そういやオマエらの巣穴って元々地獄だったっけ?アハハハハ!!!」

 

自己への陶酔と相手の感情を逆撫でするような芝居がかった道化のような口振り。

そう、男は悪魔の三人からすれば酷く鮮明に記憶に残っている人物、以前グレモリー眷属への依頼主を惨殺し、イッセーと木場の二名と戦い負傷させた白髪のはぐれ悪魔祓い、フリード・セルゼンだった。

すぐさま木場は剣を構え、子猫はいつでも動ける体勢をとり、イッセーは自身の神器を発動させる。

 

「アーシアはどこだ?!」

 

「アーシアちゃん?ああ、あの悪魔に魅入られた、シスターとしてもヒトとしてもジ・エンドなゴミクズでごぜェますか。それならこの先の祭壇から通じる地下の祭儀場におりますです。まあ、行ければ、の話ですがねェ。だって悪魔なお前さンたちはここで俺に殺られて消えて無くなるンですから!!……おんやァ?今回初めて見る顔がありますねェ……キミ、悪魔じゃないみたいだけどどうしてこんなゴミ共と一緒にいるのかなァ?」

 

フリードは侵入者の中で唯一悪魔でない崇哉を目にすると怪訝な表情を浮かべる。

 

「別に、ただの付き添いさ。なんでもどこかのバカ面が彼女と教会デートするのに付き合ってくれって言うから着いてきただけだよ。因みにお前さんの言う通り俺は悪魔じゃないからな。」

 

「オイ!!馬鹿面ってのは俺のことじゃねぇだろうな?!」

 

「なんだ、自分がそういう顔をしているという自覚があったのか。別に俺は誰とは言っていないぞ?」

 

「うっ……」

 

崇哉の言葉に激昂するイッセー。

どう見てもこの場にそぐわぬ遣り取り、しかしフリードにはそれで十分だった。

 

「そぉですかい、合点しやした……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ならテメェも纏めて始末してやンよォッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フリードから剥き出しになった殺意が溢れ出す。

 

「悪魔も悪魔に肩入れする奴も存在してること自体ェが間違い同然のゴミなンだよ!!」

 

多分に怨恨と憎悪の籠った叫びと共にフリードは駆け出す。

 

「……お前ら何かしたのか?」

 

「知らねぇよ?!こっちが知りたいくらいだ!!」

 

「随分余裕だなァ?!クソ悪魔共がッ!!」

 

フリードは懐からリボルバー式の拳銃を取り出すと引き金を引く。

発砲音を伴わない光弾が4人を穿つべく迫る。

 

「ほう、光製の祓魔弾か。確かに悪魔には毒だな。だが」

 

その瞬間、周囲の闇がより一層濃さを増す。

それは夜目の効く悪魔の目を以てしても帳が下りたのかと錯覚するほど濃密な暗闇。

放たれた光弾はその全てが暗黒の帳に飲まれるようにして消失した。

 

「なっ?!」

 

「所詮下級クラスの堕天使の光力ではこの程度が限界だな。」

 

フリードは悪魔の弱点であるはずの光が消失したことに驚愕する。

そこに生じるほんの刹那の隙。

 

「すまないが驚いている暇はないよ?」

 

フリードの背後に迫るはグレモリーの『騎士』。

先日の負傷の影響を微塵も感じさせない動きで肉薄し、その雪辱を晴らさんとばかりに剣を振り下ろす。

 

「おォ!!流石は『騎士』、相も変わらずのすばしっこさ、正にネズミ!!やっぱりちょこまかと目障りだなァ!!」

 

そう言い切らぬうちにフリードは最早驚嘆に値する速度で上体を捻り、己の光剣を横に薙ぐ。

 

「悪いね。今回キミの相手は僕だけじゃないんだ。」

 

「?!」

 

切り結ぶかと思われた木場はフリードの刃を受け流して即座に後ろに飛んで距離を取る。

 

「潰れて。」

 

木場の行動にフリードが困惑の色を見せたその最中に聞こえた声。

フリードはほぼ反射的に声のした方に向かって光剣を一閃する。

 

「ハン!!」

 

手応えはあった。

その証拠に両断された長椅子が床に落下する様が確認できた。

 

そしてもう一つ、フリードに迫る影があった。

 

「プロモーション『戦車』!!」

 

「『兵士』か?!クソがあッッ!!」

 

フリードは即座に身を翻すと再び拳銃からイッセーに向けて光弾を連射する。

しかし、以前とは違いフリードの光弾は一発としてイッセーの体躯を貫くことなく弾かれた。

 

「『戦車』の特性はあり得ない防御力!そして」

 

イッセーは拳を固め、上体をフルに使って大きく引き絞る。

 

「馬鹿げた攻撃力だッッ!!!」

 

そしてイッセーは渾身の力を解放する。

イッセー自身の膂力は弱くとも、『戦車』にプロモーションしたことでその力は何倍にも増幅され、十分に決定打たるほどに完成された一撃を因縁の相手に叩き込む。

 

「しゃらくせェッッ!!」

 

しかし敵もさる者。

フリードはイッセーの拳が届くより早く剣と拳銃を交叉して防御の体勢を創り出し、同時に自らも後ろに飛んで衝撃の緩和を試みた。

そしてイッセーの拳は丁度フリードのガードの真ん中に突き刺さる。

 

「チッ!!」

 

咄嗟の防御でイッセーの力の幾割かを受け流すことに成功したフリードは空中で素早く体勢を立て直すと剣を突き刺して勢いを殺す。

 

「クソ悪魔共が……調子こきやがってッ!!」

 

フリードはより一層の殺気を漲らせ、拳銃を捨て、もう一方の手にも光剣を握り飛び出そうとしたその時

 

「頭上注意、ってね」

 

フリードは声に釣られて頭上を見上げる。

 

鼓膜を劈く轟音と共に迫りくる緋い稲妻。

無慈悲なまでの破壊力を秘めた緋い光の矢がフリードを穿たんと迫る。

 

「クッ!!」

 

すんでのところで飛び退いて躱すフリード。

防御は諦めたのは正解だった。

緋い稲妻はフリードのいた場所を大きく砕き、抉りとった。

 

「言い忘れていたが」

 

「!!」

 

再び同じ声。

 

「俺も悪魔と同列に扱われるのは不愉快極まりないんでね。」

 

フリードが振り向くより早く。

彼の顔に強烈な蹴りが入る。

 

「ぐぼォッ?!」

 

そしてそのままガシャンという破砕音と共にステンドグラスを突き破ってフリードは教会の外へと吹き飛ばされ沈黙した。

 

「やった、のか?」

 

あの、悪魔を殺すことに異常なまでの執着を持つフリードがいつまで経っても起き上って来ないことを不思議に思ったイッセーが徐に口を開いた。

 

「さあ?どちらでも大して違いはない。それにさっき顎を狙って蹴ったからしばらくは脳震盪で動けないだろう。それより急いだ方がいいんじゃないか?儀式とやらは進行中なのだろう?」

 

「ッ!そうだった!!アーシア!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ってェ……」

 

教会のすぐ外、鬱蒼と茂る木立の中で一人の狂人が目を覚ます。

 

つい今の今まで意識を失っていた彼は未だに視界が霞む中、痛む頭を抑える。

意識が明瞭さを取り戻すにつれ、自分が今このような醜態を晒している理由が鮮明に蘇って来る。

 

「あンの野郎……」

 

彼はギリッと音が鳴るほどに奥歯を噛みしめた。

 

意識を失う前、彼は堕天使側の一員としてとある上級悪魔の眷属数名と刃を交えていた。

悪魔、それは彼から見れば図々しくも人間界に居座り、あまつさえ不法占拠した土地を自身の領土などと抜かしてそこに住まう人間を家畜の如く貪る害獣。

 

しかし今の彼にはそれ以上にとある人物のことが脳裏にこびりついて離れなかった。

 

意識を失う直前、自身を蹴り飛ばした男。

 

あの男は悪魔ではなかった。

 

しかしあの男の所為で、自分は憎き悪魔に一太刀も浴びせることなくこうして無様にも退場を強いられた。

 

それにその男は確かにこう言った。

 

“悪魔と同列に扱われるなど不愉快極まりない”

 

と。

 

「抜かせよクソがッ……!!」

 

思い出せば出すほどに忌々しさが増す。

 

彼からすれば悪魔でなくとも悪魔に与する者は皆例外なく排除すべき対象だった。

 

悪魔と同列に見られるのが不愉快?

 

ならば何故その悪魔に手を貸すのだ?

 

彼にはその矛盾がこの上なく不可解であり、また許せないものでもあった。

 

 

 

「おやおや、これはまた随分と派手にやられましたね、フリード。」

 

彼―――フリードが思考に没頭していたその時、音もなく現れた人物。

 

ローブを纏い、更にフードを被っているために顔は半分以上隠れているが、声からして女性と判断できた。

 

「ああ、姐さんか……」

 

未だ満足に動けない状態のフリードは視線をそちらに向ける。

 

「いかにリアス・グレモリーの眷属とはいえ、下級悪魔相手に後れを取るとはあなたらしくもありませんね。」

 

女性は呆れたような、それでいて少々皮肉交じりな様子だった。

 

「まったく、我ながら情けねェ話だとは思ってンよ……だが連中の中に一人、不確定要素(イレギュラー)なのが入り込ンでやがった。以前見たグレモリーの関係者の中には入ってなかった奴だ。ソイツが盛大に邪魔してくれやがったからな……ッ!」

 

フリードは忌々し気に顔を歪める。

一方の女性の方はその言葉に興味を惹かれた様子を見せた。

 

「イレギュラー、ですか……して、そのイレギュラーとはどのような人物でして?」

 

「どンな、って言われてもなァ……ああ、そういや赤い雷とか祓魔弾の光を消し去ったりしてたっけか。そンで女みてェな顔した男だったよ。悪魔じゃねェのは確かだったがかといって天使でも堕天使でも、まして人間でもなかった。あと、どことなくほんの僅かだが前会ったグレモリーの次期当主と似てたような気がしなくもねェな……」

 

そこまで聞くと、女性は顎に手をやって何やら考えるような仕草を見せる。

 

そして

 

「分かりました。フリード、今回のところはあなたには私と共に撤収してもらいます。」

 

「……いいのか?あの自称至高の堕天使な女王様はまだ中でコソコソやってるみてェだが。」

 

「ええ、構いません。元々今回の件は緊張を呷れればそれで良かったのですから。それにもとよりあの程度の末端を使って出来る範囲など知れていました。……何より当初の予定通りとはいかなくなりましてね。“彼”が直々に動くそうですから。」

 

彼女の言葉を聞いてフリードは僅かに目を見開く。

 

「ほう?あのヒトがねェ……なるほどなァ……ま、妥当な結果だな。今回の作戦は最初から成功率は高く見積もって2割が良いトコだって話だったからなァ。やっぱり思ったほど上手くは誤魔化せなかったな。でもまァこれで俺もあの阿婆擦れのご機嫌取りから解放されるってワケだ……そういや今回の件は俺も責任問われンのか?」

 

「いえ、それはないでしょう。あなたを遣わしたのは飽くまで“保険”のようなものです……尤もあなたからすれば満足に悪魔が狩れずに不満かもしれませんが。それに今度のプランではより一層あなたの力が必要となるので“彼”もあなたを呼び戻すよう決定したのですから。」

 

フリードは息を吐く。

 

「了解だ。確かにあのクソ悪魔共を狩れなかったのは不本意だが仕方がねェ。それに今度の計画の方がより多くの屑を殺れそうだからなァ……」

 

それを聞くと女性は口元を三日月形に歪ませる。

 

「フフ、では決まりですね。」

 

そして彼女は転移用魔法陣を展開し、フリードと共に転移して教会を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃい、悪魔の皆さん。」

 

地下祭儀場は大勢のはぐれ神父でひしめいていた。

そしてその最奥、ひときわ高い位置に設けられた祭壇から黒い翼を生やした女――――堕天使レイナーレが告げる。

 

そしてその横の特殊術式を施した十字架に磔にされた金髪の少女。

 

「アーシアァァッ!!」

 

「イッセー、さん……?」

 

少女に向かって叫ぶイッセーに少女は力なく答える。

 

あの娘が件のアーシア・アルジェント……

 

しかしマズいな。

 

見たところ儀式はほぼ九割方終わっている。

 

……遅かったか。

 

「感動の対面だけど残念ね。儀式はもう終わるところよ。」

 

堕天使がそう言うと十字架が光り始める。

 

「あ、ああ、いやああああああああっ?!!」

 

シスターが苦悶に満ちた叫びを上げる。

 

「クソッ、アーシア!!」

 

「邪魔はさせん!!」

 

「悪魔め、ここで滅してくれるッッ!!」

 

見かねたイッセーが祭壇に向かって走り出すが、当然のことながら神父たちに阻まれる。

しかも先程のフリード・セルゼンと同様各々光剣を握っていた。

 

「どけッ!!テメェらに構ってるヒマなんてねえんだッ!!」

 

余計な戦闘はなるべく避けたかったがこうなっては致し方ない、か……

 

俺は木場と搭城に目配せすると二人とも頷く。

 

そしてイッセーの周りに群がる神父の群れへと飛び込み、祭壇への延長線上にいる神父を一掃する。

 

「皆……」

 

「ここは俺達が時間を稼いでおく。その間にお前は自分のなすべきことをしろ。」

 

「っ!サンキュー!!」

 

イッセーは再び駆け出した。

 

さて、剣術に徒手空拳、いずれも広域殲滅には向かないが何とかイッセーの奴が祭壇に辿り着くまでの間の時間稼ぎくらいは可能だろう。

 

「邪魔をするか、貴様ァ!!」

 

神父の一人が俺に斬りかかって来る。

 

ハァ……面倒だな。

 

俺は神父が振り下ろした光剣の腹に手刀を当てて叩き折る。

 

「なっ?!」

 

まさか光の剣を素手で破壊されるとは思っていなかったのか、覆面からのぞく神父の目には明らかに動揺の色が浮かんだ。

 

「目障りだ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『止まっていろ』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――っ?!」

 

神父は生物から物言わぬ氷の彫像と化した。

 

 

 

 

 

アーシアを助けに教会へ乗り込んだ俺達。

 

そこで再会したのは十字架に磔にされたアーシア、そして――――――あの女、堕天使のレイナーレだった。

 

そして十字架が強く輝き始めると同時にアーシアが苦しそうな悲鳴を上げた!

 

「クソッ、アーシア!!」

 

俺は急いで彼女の下へ向おうとする。

 

しかし祭壇前にひしめく神父たちがそれを許さない。

 

「どけッ!テメェらに構ってるヒマなんてねえんだッ!!」

 

クソッ!

 

数が多すぎる!!

 

早くしないとアーシアが!!

 

しかしその時俺の仲間達が神父を引き受け活路を開いてくれた。

 

そして崇哉の言った一言

 

“お前は自分のなすべきことをしろ”

 

俺は言葉が出なかった。

 

だから短く礼を言うことしかできなかった。

 

ああ、そうだ。

 

俺は行かなきゃならないんだ!

 

立ち止まっているヒマなんてない。

 

皆の思いを無駄にするわけにはいかない!!

 

何より絶対にアーシアを助けるんだ!!

 

 

 

 

 

 

「ああああああああッ!!……」

 

 

 

しかし現実はどこまでも非情だった。

 

アーシアの悲鳴が途切れると同時に彼女の体から緑色の光を放つものが出てきた。

 

!!

 

俺は直感的に感じ取ってしまった。

 

アレは酷くヤバい。

 

アーシアの瞳からはみるみるうちに生気が失われていき、そして糸の切れた人形のように項垂れる。

 

途轍もなく嫌な予感がする。

 

頼む、どうか外れていてくれ……ッ!!

 

『聖女の微笑』(トワイライト・ヒーリング)……そうよ、これよ!!これこそ私が長年欲してきた力……!!これさえあれば私は愛を頂ける!!」

 

レイナーレはアーシアから出てきた光を手に取ると、狂気と陶酔に彩られた表情で抱きしめる。

すると祭儀場が眩い光に包まれそれが止んだ時には全身を緑色の光に包まれたレイナーレがそこにいた。

 

「フフフ、アハハハハ!!遂に手に入れたわ、至高の力!!これで私は至高の堕天使になれる!!今まで私を馬鹿にしてきた連中を見返してやることができるわ!!」

 

高笑いする堕天使。

 

しかしそんなことはどうでも良かった。

 

一秒でも早く、アーシアの下へ辿り着かなくてはいけないような気がした。

 

俺は一気に祭壇へ通じる階段を駆け上がる。

 

「アーシアァッ!!」

 

俺はすぐ横にいたレイナーレに目もくれず、未だに十字架の上で力なく項垂れるアーシアの名を呼ぶ。

 

「ここまで辿り着いたご褒美よ。」

 

レイナーレがパチンと指を鳴らすとアーシアの拘束が解かれ、落ちてきた彼女を俺は抱き留めた。

 

「アーシア、大丈夫か?!」

 

「イ、イッセー、さん……?」

 

目を開いた彼女の声は余りに弱弱しく、生気を感じさせないものだった。

 

「迎えに来たぞ、しっかりしろ」

 

「はい……」

 

くっ……

 

「その子はあなたにあげるわ。まあ尤も、神器を抜き取られた以上もう間もなくその子は死ぬけどね。」

 

何だって?!

 

「ふざけんな!!この子の神器を元に戻せ!!」

 

レイナーレから発せられた衝撃の一言。

俺は堪らずに叫んだ。

しかしレイナーレは相変わらず嘲笑的な様子で続けるだけだった。

 

「馬鹿言わないで頂戴。これは一応上からの命でもあるの。上司から“『聖女の微笑』を回収せよ”って命令を受けてね。」

 

「でも殺す必要はなかっただろ!!」

 

「そうね、その子がもう少し聞き分けが良かったらここまする必要もなかったかもしれないわ。でも……あなたが一番悪いのよ?」

 

何?

 

唖然とする俺をレイナーレはクスクスと嘲笑的な目で見ながら続けた。

 

「意味が分からないって顔してるわね。いいわ、冥途の土産に教えてあげる。前にも言ったわよね?あなたには物騒なモノがついている可能性があるから始末するよう上から命令されたって。まあ、結局杞憂に終わったワケだけれどね。それなのに悪魔なんかに成り下がって生き延びて……それだけならまだよかったわ。別に私達の害にならないのならあなたがどこで何をしようと関係ない。けれどもあなたはその子、アーシアに必要以上に接触した挙句あることないこと吹き込んだ。お蔭ですっかり反抗的になってくれちゃったじゃないの。」

 

「アーシアは優しい子なんだ!!お前らみたいな悪魔も人間も見境なく殺すような連中と一緒にいて良いわけないだろ!!」

 

そうだ。

 

こいつらなんかとアーシアが一緒にいて良いはずない。

 

だからこそ助けに来たんだ!

 

「はぁ?敵対勢力である以上危険因子は早急に取り除くのは当然でしょう?敵と敵に塩を送る奴をみすみす見逃す馬鹿が一体どこにいるというのかしら。まったく、何を言い出すかと思えば……やっぱり悪魔って感情だけで動くような下等な生き物ね。アーシアはこちら側の人間。公の立場上あなたと彼女は敵同士、あなたにどんな感情があってもそれは所詮私的なモノでしかないの。だから本来あなたたちがここでこうしていること自体が筋違いなのよ。」

 

「知るかよ、そんなこと!!公の立場とかそんなの関係ねえ!!俺とアーシアは友達なんだ!!助けに来るのは当たり前だろうがッ!!」

 

しかしレイナーレは相変わらず冷めた目で俺を見据えるだけだった。

 

「ハァ……あなたのオツムの出来の悪さはもう脱帽モノね。それにどの道今更こんなこと言っても無駄よね。だってあなたたちは最後の一線を越えてしまったのだから。」

 

「最後の一線、だと……?」

 

俺が問い返すとレイナーレは口元を歪ませて邪悪な笑みを浮かべる。

 

「さっき私が言ったこと覚えているかしら?今回の件は組織の上層部、即ち我らが偉大なるアザゼル様やシェムハザ様、その他幹部の皆様方より下された指令。それを敵対勢力である悪魔、特にあなたが幾度にも渡って妨害してきた……つまりあなたたちは堕天使全体を敵に回してしまったということよ。」

 

「「「ッ?!」」」

 

なん…だって……?

 

堕天使全体を敵に回した?

 

でも部長は俺が助けに行くことを許可してくれたんだぞ?

 

あれだけ色々考えている部長が間違えたって言うのかよ?!

 

「フフフ、信じられないようね。でも事実よ?あなたが感情に任せて動いたせいで堕天使と悪魔が争う理由が生まれてしまった……もしかしたら戦争になるかもしれないわね?」

 

「っ……」

 

そんな……俺のせいで戦争が……?

 

レイナーレは冷笑を浮かべながら光の槍を創り出す。

 

「心配しなくてもいいわ。どの道あなたはここで死ぬんだから。でもいいでしょう?その子と二人仲良く消えるんですもの。あなたのような下卑た輩が至高の堕天使たる私の手に掛かって逝けるってだけでも身に余る光栄だと思いなさい。」

 

「兵藤君!ここでは不利だ!!」

 

祭壇の下で神父たちと切り結んでいた木場が叫んだのが分かった。

しかし今の俺の耳にはその具体的な内容は入ってこない。

 

「……初めての彼女だったんだ。」

 

「ええ。見ていてとても初々しかったわ。女を知らない男の子はからかい甲斐があったもの。」

 

「……大事にしようと思ったんだ。」

 

「そうね。確かに気を使ってフォローしてくれたわね。でもそれは私がわざとそうなるように仕向けたのよ。だってあなたの慌てふためく顔、とっても面白いんですもの。」

 

「俺、夕麻ちゃんのことが本当に好きで、絶対良いデートにしようと思って念入りにプラン組んだんだ」

 

その時、俺の頬に何か途轍もなく熱いモノが掠った。

 

「ぐっ……」

 

遅れて襲ってくる痛み。

 

これは忘れもしない、光によるものだ。

 

「……笑わせないでくれる?」

 

レイナーレの声音は明らかに今までと違っていた。

嘲笑的な色は消え、代わって身も凍るほどに冷え切ったものになっていた。

 

「私が本当に好き?本気で言っているのかしら?初対面で告白されてその後数回一緒に登校したくらいで私のこと知った気になっていたの?本当に不愉快なクソガキね。あなたのことは殺すにあたって少々調べさせてもらったわ。覗きなど度重なる猥褻行為で学校では問題児、その癖ハーレムだなんて今の人間社会じゃあ非現実的極まりない夢見てたそうね。事実今の学校を選んだ理由も元女子高だからという不埒なもの。要するにあなたは女なら誰でも良いってわけでしょ?そういえば私とデートした時もあなたの視線って本当に厭らしかったものね。もう殺意を抑えるのに必死だったわ。それで本当に好きだって言うなんて反吐が出るわね。そんなあなたみたいなムシケラに好かれるなんて考えただけで鳥肌が立つほどおぞましいことだわ。それに私からしてみればそもそもあなたとアーシアが本当に友達だったかすら疑わしいのだけれどね。それともあなたの言うアーシアの優しさに付け込んで無理矢理迫ったのかしら?だとしたら正に悪魔ね。本当に腐ってるわ。まあでも教会育ちで世間知らずのその娘にはたとえ下心丸出しで迫られても気付きそうもないものね。いえ、それどころか新鮮だったかもしれないわね?“こんなに楽しかったのは生まれて初めてですぅ”とか言ったのかしらね?」

 

 

 

 

「レイナーレェッッ!!!!」

 

 

俺は気付けば叫んでいた。

 

俺のことは何て言われたっていい。

 

でもこの子を、アーシアをこんな目に遭わせた上にコケにするこの女はどうしても許せなかった。

 

 

「腐ったクソガキが私の名前を気安く呼ぶんじゃないわよ!!穢れるじゃない!!」

 

激昂したレイナーレが槍を構え振り下ろす体勢になる。

 

今のでハッキリ分かった。

 

コイツの本性は他人の気持ちを踏み躙って嘲笑うようなとんだ性悪だ!

 

……コイツの方がよっぽど悪魔じゃねえかっ

 

俺はこんなのに惚れ込んでたっていうのかよ……ッ!!

 

レイナーレは槍を振り下ろす。

 

でも俺はアーシアを抱えたまま避け、そして祭壇から飛び降りた。

 

もうこれ以上ここに留まる意味はねえ。

 

「逃がすかッ!」

 

「チッ!!」

 

祭儀場の出口に向かって走り出すが残っていた神父が斬りかかって来る。

 

「兵藤君!」

 

「木場!」

 

すんでのところで木場が剣で受け止めてくれる。

 

「目的は果たした、ここは逃げよう!僕達で道を開くから君は早く行くんだ!」

 

「……早く行って。」

 

木場、子猫ちゃん……

 

「でも……」

 

「良いから行くんだ!!」

 

「っ」

 

俺は弾かれたように駆け出した。

 

皆が切り開いてくれた道をひたすら走った。

 

「行かせると思っているの?」

 

「ッ!」

 

頭上から聞こえた声。

 

見上げると黒い両翼を広げたレイナーレが光の槍を構えて高速で迫ってきていた。

 

空を飛んでいる相手はアーシアを抱えて走っている俺よりも断然速い!

 

マズい!

 

このままだと追いつかれる!

 

 

 

 

「お前こそ思い通りにいくと思っているのか?」

 

 

 

「っ?!」

 

聞き覚えのある声。

 

それと同時に迸る赤い閃光。

 

前に見た朱乃さんの雷より遥かに強力な稲妻が俺とレイナーレの間を駆け抜け、レイナーレは辛うじて躱すが俺を仕留める機会を逃してしまう。

 

「崇哉……」

 

「まったく、世話の焼ける奴だ。ホラ、早く行け。」

 

声の主は先を急かす。

 

相変わらずの皮肉っぷりだけど今はその声がこの上なく心強いぜ!

 

「ああ……!」

 

俺は再び走り出した。

 

全力で、脇目も振らずに突き進む。

 

出口まで来たところで俺は一度だけ立ち止まって振り返る。

 

これだけは今伝えないといけないと感じたからだ。

 

「木場!子猫ちゃん!帰ったら、俺のことイッセーって呼べよ!絶対だからな!俺達、仲間だからな!!」

 

その時、一瞬皆が笑ったような気がした。

 

俺は前を向き、上の階を目指す。

 

 

 

 

……アーシア、もうすぐだからな。

 

 

 

 

 

 

 

 




今更どうでもいいことなんですが、リアスとアーシアの容姿ってなんかクロノクルセイドのサテラとアズマリアに被る……

感想・ご指摘等ありましたら宜しくお願い致します。


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断罪

何とか一週間以内に投稿できました。


断罪

 

 

 

「よくもまあやってくれたわね……」

 

レイナーレはその美貌を怒りと苛立ちに歪めていた。

 

その憎悪に染まった赤紫の瞳が捉えるのは三人の侵入者。

 

あと少し、もう少しで完璧に事が進むはずだった。

長年の雪辱を晴らす数少ない機会だった。

その為に前以て、危ない橋を渡ってまで準備してきた計画。

なのに今、たかが半世紀も生きていないような憎たらしい子供のエゴでそれが脆くも崩れ去ろうとしている。

 

アーシア・アルジェントを餌に兵藤一誠をおびき寄せ、始末する。

彼が悪魔として蘇ったことを知った時、“あの女”から指示された算段

今度失敗すれば本当に後がなくなる。

悪魔ばかりでなく同族からも追われる身となるのは間違いない。

今の計画を持ち掛けられた時、危険な賭けだが、自分達が組織の中の最下層から抜け出すための唯一の方法としてそれに縋るより他なかった。

それで上の欲求を満たせさえすれば不確定ではあるが彼女の地位が上がる可能性が生じる見込みがあった。

 

しかし彼女は知らなかった。

 

これが彼女らに破滅をもたらすことになることを……

 

 

 

「特にそこのあなた」

 

レイナーレから放たれる殺気が膨れ上がり、視線はより一層憎悪の色を増して崇哉に注がれる。

 

「そんなに情熱的な目で見つめられても困るね。」

 

一方の崇哉はまるで微塵も動揺した様子も見せず、ただ肩を竦めて苦笑するだけだった。

しかしそれがレイナーレの怒りに更なる火を付ける。

 

「そうね、さっきのガキと違ってあなた悪魔ではないし、それにかなり良い男だからとっても残念だわ。何でこんな下賤な悪魔なんかと一緒にいるのかは知らないけど私の計画をここまで台無しにしてくれたからには代償はきっちり払ってもらうわ。」

 

レイナーレは床に手をつき、何やら怪しげな魔法陣を展開し出す。

 

そして魔法陣は拡大し、やがて二つに分かれ、思わず目を覆うほどの眩い光が発せられた。

 

光の中から何か巨大なシルエットが浮かび上がる。

 

 

そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「グオオオオオオオオオオッッ!!」」

 

 

 

 

 

 

大気を震わせる轟音の如き咆哮。

 

光が止み、やがて現れる巨大な異形。

罪人の如く全身に杭を打ち込まれたその姿は異形の中の異形、正しく怪異。

行く手を阻む様に現れた二体の禍々しい姿の異形はさながらこの頽廃した祭儀場の門番としてその飢えた瞳をぎらつかせる。

 

 

「はぐれ悪魔……やはり堕天使が絡んでいたのかッ……!」

 

金髪の騎士は苦虫を噛み潰したような顔で忌々し気に漏らす。

 

「アハハハハハ!!今更説明するまでもないけどソイツらは上級クラスよ?正直至高の存在であるこの私がこんな醜い低劣なケダモノの力に頼らなければならないなんて屈辱だけれどね。その分まであなたたちには償ってもらうわ。無論死という形でね。あなたたちが手も足も出ずに蹂躙されて苦しみ悶えて死んでいく様を見たいのは山々だけど私にはまだしないといけないことがあるから残念だけどここで失礼させてもらうわ。せいぜい悪魔同士で殺し合ってちょうだいな!じゃあね、悪魔の皆さん。永遠にさようなら!!」

 

レイナーレはそう言うが否や光の槍を投げつけ、槍は着弾と同時に爆発して土埃を舞い上げ、視界を塞ぐ。

 

そして土埃が晴れた後、そこにはもうレイナーレの姿はなかった。

 

「……逃がしてしまいましたね」

 

子猫も表情を険しくしながら呟いた。

 

「ハハハハ!形勢逆転だな、悪魔共め!!」

 

「大人しく我らに滅せられよ!!」

 

既に半数以上が戦闘不能に追い込まれているも、残っていた神父たちも切り札たるはぐれ悪魔の登場で士気を回復させ、光の刃を握り締める。

 

「参ったね……思いつく限りでも最悪の状況だ。」

 

呻く木場。

額に汗を浮かべながらも、自分達が生き残る術はこれしかないとばかりに剣を構える。

 

 

 

 

 

 

「グガアアアアアッ!!」

 

 

 

 

 

 

咆哮と共にはぐれ悪魔の内一体が大気を切り裂きながら突進を仕掛けてくる。

その巨体に似合わぬスピードは大砲を連想させる勢いだった。

 

「クッ」

 

三人は回避するが、その背後から凄まじい音と共に土煙が舞い上がる。

 

「ぐああああっ?!」

 

「ヒイィッ?!」

 

「痛い、痛いッ!!」

 

祭儀場に響き渡る悲鳴。

 

今のはぐれの突撃は一応味方であるはずの神父たちの一部をも巻き込み、ある者は四肢を飛ばされ、体に風穴を穿たれ、またある者は原型を留めぬ肉塊、或いは肉片へと変えられた。

おまけにクチャクチャという肉を咀嚼し、すり潰すような嫌な音が聞こえてくる。

おそらく神父たちの死体を喰らっているでろうことは容易に想像できた。

 

「……敵味方関係なく襲う、この上なく厄介なタイプですね。」

 

「まったくだよ。その上こんなのがもう一体いるなんて……本当に冗談だと思いたいよ。」

 

木場と子猫は今し方突進してきたはぐれ悪魔に注意を払いつつももう一体の方に視線を送る。

 

「?」

 

しかしここで二人は奇妙なことに気付く。

 

もう一体の方は顔を上げ、一向に攻撃して来る様子を見せない。

 

何か術式を仕込んでいる様子も見受けられない。

 

そして次の瞬間にははぐれ悪魔の足下に現れた時と同じ魔法陣が展開され、眩い光に包まれるとそのまま消えてしまった。

 

「?!どういうことだ?!」

 

「……逃げた?」

 

はぐれ悪魔が自らこの場を去るという予想外の展開に二人とも動揺を隠せず、怪訝な顔つきになる。

 

「もしや……そうなると非常にマズいな。」

 

しかしただ一人、有馬崇哉のみは違った反応を示すのだった。

 

「どうかしたのかい?」

 

「二人は先に上に行っていてくれ。俺はここを片付けてから行く。今なら行く手を阻む者は何もないからな。」

 

「……大丈夫なのかい?」

 

崇哉の返答に木場は困惑する。

¥確かに彼の力は先日のはぐれ悪魔の一件でも見たが自分達が手も足も出なかった相手を全くの無傷で屠った。

しかし今回は相手がはぐれ悪魔ばかりでなく、それより戦闘力はかなり下がるがまだ神父も残っている。

未だに彼の力が未知数なこともあって、彼なら大丈夫だと思う一歩出でどこか不安を拭えない部分もあるのもまた事実だ。

しかし彼が次に紡いだ一言はそんな木場の懸念を遥かに上回るものだった。

 

「奴が見ていた方向、覚えているか?」

 

「見ていた方向?……!まさか?!」

 

「そう、上だ。アレが地上に出たら事だからな。何より今上にはイッセー達がいるだろう?」

 

「「っ」」

 

二人は絶句する。

今上の階ではイッセーとアーシアがいる。

更にはレイナーレも今し方イッセー達を追って上階に向かって行ったのだ。

運が悪ければ、否、既に戦闘に鉢合わせて戦闘になっている可能性も否めない。

もしそこへ更に先程のはぐれが現れでもしたら……結果は火を見るよりも明らかだ。

 

「かといってコイツらをこのままにしておけば確実に邪魔をしてくる。それに、さっき言ったはずだぞ?はぐれのことも考慮して目的を果たしたら即時離脱だと。」

 

二人は思考を巡らせる。

確かに、はぐれがいることは最初から分かっていた。

そしてそれを前提にアーシア・アルジェントを救出したら即時撤退するという手筈になっていた。

そして木場は口を開く。

 

「……頼めるかい?」

 

それを聞くと崇哉は待っていたとばかりに笑みを浮かべる。

 

「無論だ。」

 

「ッ、分かった。僕たちは先に行かせてもらう。でも一つだけ約束してくれないかい?」

 

「約束?」

 

木場は一泊置く。

そして

 

「必ずキミも追いついてきてくれ」

 

木場の言葉を聞き、一瞬唖然とする崇哉。

しかし次の瞬間

 

「クスクス、ハハハハハッ!!」

 

崇哉は高らかに笑い出す。

余りに突然のことだったので、木場も子猫も面食らってしまう。

 

「ぼ、僕、そんなに可笑しなこと言ったかな?」

 

木場は苦笑しながらも尋ねる。

 

「いや、すまんな。まさかお前の口からそんな言葉を聞くことになるとは思わなかったからね。約束するよ。必ず追いつこう。」

 

 

 

 

「グゥオオオオオオオオッ!!」

 

 

 

 

「「!!」」

 

神父の肉を喰らっていたはぐれ悪魔が振り向き、咆哮を上げる。

 

「どうやらこれ以上ゆっくりしている時間が無いようだ。奴がこっちに来る前に早く行け。」

 

「ああ、それじゃあここは任せたよ!!」

 

「……死んだら承知しません。」

 

二人が地下祭儀場から出て行くのを見届けた崇哉は改めて祭儀場の奥、はぐれ悪魔と神父の方に向き直る。

 

 

 

「グルルルルル……」

 

 

 

「たった一人で我らを相手取るとは、なんと愚かな!!」

 

「貴様も悪魔共々滅してくれるわ!」

 

低く唸り、はぐれ悪魔は狙いを定める。

そして残っていた神父も光剣を構え直す。

 

「やれやれ。元とはいえ、やはりあの神の信者だな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く以て不愉快だ。」

 

 

 

 

 

 

「「!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祭儀場の空気は一変する。

 

変わってしまった。

 

その一瞬を境に。

 

空間そのものが軋み、震える。

 

頽廃した場が醸し出していた禍々しく背徳的な空気も、渦巻き澱んだ神父やはぐれ悪魔の殺気も全て飲み込んで尚余りある、文字通りに押し潰されるような重圧。

 

宙を舞う微細な粒子から、見るも恐ろしい風貌と巨体を誇る異形の悪魔に至るまで、生物・非生物、有機物・無機物も関係なく、今この祭儀場に存在するもの全てがただ一つの例外もなく空間そのものごと支配されるような感覚。

 

命あるものにはあたかも今、この祭儀場という空間は自分達の知る世界の有り方、少なくとも先程までとは明らかに違う“理”に支配されている、そんな錯覚さえ抱かせる。

 

神父の握る剣の光の刃さえも謎の振動現象を起こして不安定になり、やがて形を保てなくなって消失する。

 

それまで一度として感じたことのない程の“ナニか”に神父も、悪魔も、皆例外なく、全身から凄まじい量の冷や汗を流し、指の一本たりとも動かせないどころか呼吸一つ満足にできていなかった。

 

意識を手放すことが出来たならどれだけ楽だろう、皆が皆、そう思わずにはいられない。

 

しかしこの場に君臨する冷厳なる支配者はそれさえも許さない。

 

恐ろしい程の美貌は今や作られた仮面以上に表情を映しておらず、相対する者は更なる畏怖と恐怖を抱き、魂に至るまで完全なる隷属を強いられる。

 

神父も悪魔もただ一点、この重圧の主である一人の青年に括目し続ける他なかった。

 

五感の全て、第六感にまでひしひしと伝わる、余りにも巨大な存在感に神経が焼き切れる寸前で、もはや生物としての本能すらもが逃走ではなく隷属、或いは自死を選ばせるかもしれないほどに彼らは心身共に限界を迎えつつあった。

 

 

 

――――もはや自分達が生きて此処を出ることはない―――――

 

 

 

そのような極限状態の中でただ一つ、彼らが共通して抱く確信であった。

 

或いは敵としてこの場で相見えた時点で既に詰んでいたのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、そろそろ頃合いか……さっさと終わらせることにしよう。しかし消すのは簡単だが資源を無駄にするのはよろしくないな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

口を開く支配者。

 

その言葉は終わりが近いことを愚かな敵対者に悟らせるには十分であった。

 

そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『砕け散れ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

下される裁き。

 

 

極光が爆ぜる。

 

 

場を満たすは神々しくも破壊の理を秘めた近付くこと叶わぬ光。

 

 

あらゆるモノが今のカタチを失い、全ての根源たる大元の姿へと還元され、愚かなる背徳の存在も己の死の瞬間を悟ることなくこの世から姿を消す。

 

 

やがて光は収束する。

 

 

地下祭儀場“だった”場所は跡形さえ残っていない。

 

背徳の輩は既に抹消され、かつてここに渦巻いていた頽廃と欲望の空気は吹き飛んだ。

 

 

 

 

そこに広がるは虫の一匹さえ立ち入らぬ滅びの世界だった。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

ふう、これでとりあえず雑魚は片付いた。

 

神父もはぐれも、ついでに祭壇も纏めて原子レベルまで崩壊させておいたが……少々やり過ぎだったか?

 

用が済んだのでさっさとアイツらと合流しようかと思っていたが……どうもその前にもう一つ面倒事ができたらしい。

 

雑魚の掃討を終えるのとほぼ同時にこの祭儀場のすぐ近くに転移してくる気配を感じた。

 

「いつまでも隠れてないでそろそろ出てきたらどうだ?」

 

「やはり気付いていたのね。」

 

俺が振り向き声を掛けると不機嫌そうな声音の返答と同時に物陰から四人分の人影が出てきた。

堕天使と吸血鬼、それに悪魔が二人。

堕天使のオリヴィアと吸血鬼のアカーシャ……彼女もまた訳アリで俺達の所にいるが二人は俺の身内、そして残る悪魔二人は紅色の髪をしたグレモリーの次期当主、上級悪魔のリアス・グレモリーとその『女王』の姫島朱乃。

 

「お疲れ様です、主様。」

 

「ああ、お前達も良くやってくれた。」

 

アカーシャが俺に労いの言葉を掛けてくれる。

 

「イッセー達は?」

 

周囲を見渡して、先に教会に向かったはずの自身の下僕の姿が見えないことに気付いたグレモリーが尋ねてくる。

 

「先に上へ行かせたよ。ついでに堕天使がシスターを連れたイッセーを追いかけていったから木場と搭城も上に向かわせて俺が残って雑魚の始末を引き受けた。それより急いだ方が良い。例の堕天使が召喚したはぐれ悪魔の内一匹がどこか別の場所へ転移していったからな。」

 

「「ッ?!」」

 

『はぐれ』という言葉を聞いた途端グレモリーと姫島は動揺を露わにする。

俺はオリヴィアとアカーシャを連れて上階へ向うことにした。

 

その時

 

「待ちなさい。」

 

俺達の行く手にグレモリー達が立ち塞がる。

 

「……何の真似だ?」

 

俺はグレモリーを見遣る。

 

体からは不機嫌という言葉を具現化したようなオーラがユラユラと立ち上り、姫島も表面上は笑顔を取り繕っているが、明らかに目が笑っていない。

 

……まあ、理由は大体想像がつかなくはないが。

 

「それはこちらの台詞よ。あなた、今回の件について知っていたのよね?おまけにあの堕天使の彼女に加えてまだ戦力を秘匿していたなんて……あなたこそ一体どういうつもりかしら?」

 

横目でアカーシャを見つつ、如何にも不満たっぷりといった様子で応えた。

 

やっぱりね。

今回の件はあまりにも胡散臭かったからオリヴィア達に有事に備え付近で待機するよう言っておいたのは正解だったな。

グレモリーのことだから介入してきた彼女達に当然詰問したのだろう。

その場合も想定してある程度までは喋ってもいいと許可しておいたが当然その程度で納得するとは思っていない。

そこで事が済んだらグレモリー達とここへ飛んでくるよう言っておいたのだった。

 

「知らなかった、といえば嘘になるかな?だが俺達が知っているのは最近進んで揉め事を起こそうとしている連中がコソコソと何か企んでいるということくらいなものだ。大方あの二人にも聞いたのだろう?もう少し詳しく説明するなら件の堕天使連中、正確にはその上にいる奴らの、だが、狙いはこの地で問題、具体的に言えばいざこざを起こすことだ。だがそのためにはあのような下っ端を動かすだけでは末端の暴走で処理されてしまい期待するほどの効果は得られない。そこでより事を大きくするために体裁を整えることにした……ここまで言えばもう分かるだろう?」

 

あまり今必要以上の情報を与えてしまうのは得策ではない。

俺達としては今回の首謀者にはもう少し泳いでいてもらいたいからな。

ここで悪魔共に下手に動かれては少々都合が悪い。

 

……そいつの更に後ろにいるであろう輩の尻尾を掴むためにもね……

 

「ええ、そうね。先程あなたの下僕の二人から聞いたわ。総督の名を使ったのよね。」

 

……下僕?

 

まったく、これだから悪魔は……

 

「正直、彼女らとの関係性を悪魔のそれと一緒にされるのは気に食わんが……まあいい、その通りだ。因みに戦力を秘匿していたというが別にそのことでそちらが不利益を被ったわけでもあるまい。何より今まで開示する必要性もなかったものだからな。ああ、ついでに言えば魔王にも断りは入れてある。」

 

 

実際必要最低限のことはセラフォルー(アイツ)に伝えてある。

 

下手に隠して他の悪魔共に目を付けられること、特にサーゼクス・ルシファーとアジュカ・ベルゼブブと相見えることだけは避けたい。

 

最悪の場合連中には感付かれる恐れがあるからな。

 

自分達には開示する必要が無いと言われたのが余程気に食わなかったのか、グレモリーから滲み出るオーラに怒りの色が混ざり始める。

 

「あなたね……前にも言ったはずだけど忘れたのかしら?ここは私の管轄、よって私の許可なしに勝手な真似をすることは認めない、と。これ以上勝手なことをするようならこちらもそれ相応の対処をさせてもらうわよ?」

 

グレモリーのオーラがより攻撃的な色に変わり、殺気立つ。

 

ハァ……まだそうやって脅せば思い通りになると思ってるのかね?

 

「貴様……」

 

グレモリー達の敵対意思を確認したオリヴィアとアカーシャも一瞬構えようとしたが、俺は目で二人を制した。

 

あまり悠長に構えている時間は無い。

 

今のところ先程のはぐれの気配は感じられないが、いつまでもそうとは限らない。

 

それに木場と塔城がどうなったかも気になるところだからな。

 

本当はこんなことをしている時間さえ惜しいくらいだ。

 

「お前、今の状況が分かっているのか?」

 

「誰にものを言っているのかしら?私の下僕があの程度の堕天使如きに簡単にやられる筈ないでしょう。それ以上にあなたを放っておいたら後々厄介なことになりかねないもの。それにあなた、セラフォルー様にさえ話していないこともあるんでしょう?だったらそれも含めてここで洗いざらい吐いてもらうわ。勿論あなたたちの正体も含めてね。それでも嫌だというなら……少々痛い目見てもらうしかないわ。」

 

チッ……

 

正直ここまで面倒だとは思わなかった。

 

本当にグレモリー達には状況が分かっているのかと問い質したいところだが、それでは問題の先送りにしかなるまい。

 

……あまりこういう手は使いたくないがこの状況では止むを得ないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうぞ、ご勝手に。やりたければやればいい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「「っ」」

 

さすがにこれは予想外だったのか、グレモリーも姫島も目を見開く。

 

「……正気かしら?」

 

「至って正気だよ。どうした?やらないのか?それとも……結局見栄張ってハッタリかましただけか?まあ、やったところで無駄なことには変わりないけどね。」

 

「……いいわ、そこまでいうのなら身を以て思い知らせてあげる!!」

 

とうとう堪忍袋の緒が切れたグレモリーは攻撃を宣言する。

 

やれやれ、こんな安い挑発に乗るようでは先が思いやられる。

 

それにしても、滅びで俺に挑もうなどとは実に滑稽だ。

 

正体を知らないからとはいえ舐められているようにしか思えない。

 

当たれば大抵のモノが消し飛ぶからと言って己のチカラを過信し過ぎだ。

 

対処する方法などいくらでもある。

 

そしてグレモリーから滅びの魔力が放たれる。

 

俺は瞑目する。

 

 

 

 

 

まったく……

 

 

あまりにも……

 

 

 

「滑稽だな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全てを滅する、禍々しき赤黒い魔力の塊が放たれる。

 

紅髪の悪魔は勝利を確信した。

 

全てを無に帰す自身の力は並ぶもののない力。

 

そして自身の髪色と共に“紅髪の滅殺姫” たる所以。

 

悪魔の中でも指折りの名家に生を受け、兄はその力で魔王にまで上り詰めた。

 

誇りだった。

 

自身の、魔王たる兄と同じ力こそが最強だと信じて疑わなかった。

 

しかしその幻想は脆くも崩れ去る。

 

 

 

「今、何かしたか?」

 

 

 

「そんな、なんで……」

 

リアス・グレモリーは動揺を隠せなかった。

 

自身が今まで誇って来た絶対なる滅びの力を受けてなお、目の前の相手は消滅はおろか、掠り傷、それどころか服の汚れ一つ見当たらないのだから。

 

否。

 

厳密には彼女が放った攻撃は消失していた―――――彼に触れることさえ叶わずに。

 

彼に届く寸前、滅びの魔力は突如として跡形もなく消滅したのだった。

 

「これで分かっただろう―――――その力は俺には通用しない。」

 

涼しい顔をして告げる崇哉をリアスはキッと睨みつける。

 

「ウソよ、あり得ないわ……あなた一体何をしたのよ?!」

 

彼女は激昂した。

屈辱だった。

相手は態々こちらに攻撃させるチャンスを与えてきた上にそれを受けてなお平然とした様子で無意味だと告げてきたのだ。

それは自身が誇ってきたモノを、ひいてはグレモリー家が培ってきたモノを否定されることにも等しい。

だからこそ目の前の認めるわけにはいかなかった。

 

「別に、俺は何もしていない。ただお前の力は俺には効かなかった、それだけの話だ。」

 

「ふざけないで!!そんな話を信じろとでも言うの?私がお母様より受け継いだ力は触れたもの全てを滅するのよ?!それが効かないなんて何もしてないわけがないでしょ!!」

 

しかし、なおも怒気を滲ませるリアスに対して崇哉は心底憐れむような視線を向けるだけだった。

 

「ほう?自らの常識を覆すような現実からは目を逸らしあまつさえ他者に対して激昂するとは何と愚かな。それでは事実を受け入れたくないと駄々をこねているのと何ら変わりない……まるで赤子だな。」

 

「ッ!!黙りなさ――」

 

怒りで完全に頭に血が上ったリアスが再び滅びの魔力を放とうとした時

 

「いい加減にしろよ?」

 

「「?!」」

 

突如として聞こえた、身が凍るほどに冷淡な声にリアスも朱乃も絶句する。

 

声がしたのは自分達のすぐ後ろ、崇哉は丁度二人の間をすり抜けたような立ち位置にいた。

 

「つくづく甘いな。二度目などあるわけがなかろう?一度目は甘んじて受け入れたがそれでもお前は仕留め損なった……俺が敵だったなら今の間に貴様らは最低でも200回は死んでいる。」

 

「「……」」

 

突き刺さるような視線を背に感じながら二人は歯噛みするより他なかった。

 

事実、彼女達には崇哉が動いたことすら認識できなかったのだから。

 

「では俺達は先に行かせてもらう。お前達も急いだ方がいいぞ?下僕のことが大切ならな……行こう、二人とも。」

 

「「御意」」

 

二人の従者を引き連れ、彼は祭儀場の出口へと足を進める。

 

しかし出口のすぐ前まで来ると徐に足を止めて振り返る。

 

「ああ、そうだ。ついでにもう一つ忠告しておいてやる。そうやって自他の力量差も測らずに威嚇行為はしない方が良い。相手が自分と同格かそれ以上ならみすみす手の内を晒す以外の何物でもないからな。」

 

「っ……!」

 

紅髪の悪魔は歯を噛みしめる力をより一層強くする。

 

それも比喩でなく、本当にギリッと奥歯が鳴るほどに。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、イッセーは因縁を断ち切れるかな?」

 

古の神は祭儀場を後にする。

 

まだ幼く、未熟な赤龍帝の雄姿を見届ける為に。

 

 




ご感想・ご指摘等ございましたら宜しくお願い致します。


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終幕

今回は今までで一番血が流れる…かな?

それではどうぞ。


終幕

 

 

 

「……私の為に泣いてくれる……もう、何も……」

 

アーシアが俺の頬に添えた手はとても冷たかった。

 

祭儀場を出てから、俺の呼び声も虚しく彼女の体温は下がる一方だった。

 

考えたくない、認めたくない……!!

 

でも――それはアーシアに残された時間が残りあと僅かであることを示していた……。

 

「……ありがとう」

 

!!

 

嘘……だろ……?

 

アーシアの手が崩れ落ちる。

 

 

 

 

 

 

―――アーシアは死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

瞳を閉じた彼女の顔はとても綺麗だった。

 

俺は冷たくなったアーシアを抱きかかえて叫ぶ。

 

「なあ、神様!!いるんだろう?!この子を連れて行かないでくれよ!!頼む!頼みます!!」

 

何でだよ?!

 

どうしてアーシアが死ななきゃいけないんだよ?!

 

悪魔でも治してくれるほど優しい子だってのに!!

 

アーシアは何も悪いことなんてしていないのに!!

 

ただ……友達が欲しかっただけなのにッ……!!

 

「俺が悪魔だから駄目なんスか?!この子の友達が悪魔だからナシなんスか?!!」

 

 

 

 

「悪魔が教会で懺悔?」

 

 

 

 

!!

 

この声は……ッ!

 

しかし俺が後ろを振り向くより早く、しなるような音が耳に入る。

 

そして

 

 

「ぐ、あああああああっ?!!」

 

 

バシッという音と共に背に走る激痛。

 

まるで身が焼き切られるような凄まじい痛み。

 

余りの痛みで一瞬、意識が飛びかけた。

 

以前体に風穴を開けられた時とは比べ物にならないほど痛ぇ……!!

 

でもこの痛み、間違いない。

 

堕天使の光だ……!!

 

声のした方を見ると、そこには光の鞭のようなものを手にしたレイナーレが嘲るような笑みを浮かべ、ゴミを見るような視線を俺に向けて立っていた。

 

「流石に真っ二つは無理だったわね。それにしても相変わらず無駄に頑丈な体だわ。この鞭は改造されたはぐれ悪魔、その中でも上級クラスを躾ける為の道具で光力も下級悪魔くらいなら一撃で即死、最低でも致命傷は避けられないハズなんだけれどもね……本当に気に食わないガキね。」

 

「ぐ、があ……くっ……おぉ……」

 

「ウフフ、どう?痛い?苦しい?泣きたい?そうよねえ、ただでさえ光はあなたたち悪魔にとっては触れるだけで身を焦がす猛毒なんですもの。正直未だに消滅しない方が不思議なくらいよ。でもまだ駄目よ?まだ死なせてあげない。これから至高の堕天使として偉大なるアザゼル様とシェムハザ様のお力になるこの私の経歴に泥を塗ってくれたあなたにはたっぷりと苦しんでから死んでもらうわ!!」

 

い、痛ぇ……!!

 

レイナーレはさっき鞭が当たったところ――――肉が焼かれ、爛れ落ちた部分をグリグリと踏み躙る。

 

ちくしょう……

 

もう意識を保つのも限界だ……

 

嘲笑しながら俺を足蹴にするレイナーレはふと、徐に左腕の二の腕に着いた切り傷を見せると右手を翳す。

 

すると淡い緑色の光が発生し、みるみるうちに傷が治っていった。

 

だがそれ以上に俺はその光に目を奪われた。

 

朦朧とする意識の中、あの優しい緑色の光だけは鮮明に思い出せた。

 

忘れるわけがない、あれは…

 

コイツがアーシアから奪った神器……ッ!!

 

「ホラ見て、ここへ来る途中あの『騎士』の子にやられたの。まったく……仕留め損ねたフリードの奴には後でキツいお仕置きをしてやらないといけないわね。それはそうと、素敵でしょ?どんな傷であってもこうして治してしまう。神の加護を失った私達堕天使にとってこれは素晴らしい贈り物だわ。フフフ、アーシアには本当に感謝しないといけないわね、って、もう死んじゃったみたいね。アハハハ、残念だったわね!でも命と引き換えに至高の存在である私にその力を献上したんだから寧ろ名誉なことかしら?あなたもその子の友達だっていうなら喜んであげたらどう?彼女の名誉ある死をね!!」

 

コイツ……!

 

俺ばかりじゃなく自分が我欲の為に殺したアーシアまで貶すのかッ!!

 

なあ、神様。

 

教えてくれよ。

 

どうして……

 

 

 

 

どうしてこんな奴の為にアーシアが死ななきゃならないんだよ!!!

 

 

 

 

――――想いなさい、神器は持ち主の想いに応えて動き出すの。――――

 

 

「……返せよ」

 

「?」

 

一瞬、脳裏をよぎった部長の言葉。

 

 

「アーシアを返せよおぉぉッ!!」

 

 

『Dragon Booster!!』

 

 

俺の左手の籠手が眩い光を放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――フフフ、ようやくか。

 

 

――――――とうとう目覚めたのね?

 

 

――――――ああ。そういうわけで、ちょいと手伝ってくれるか?

 

 

 

 

見渡す限りの赤。

 

燃え盛る煉獄の世界。

 

……いたいた。

 

紅蓮の業火の中佇む小山のような巨影。

 

そして巨体が徐に身動ぎし、首を擡げる。

 

『ほう、これは随分珍しい客が来たもんだな……』

 

声を発したのは圧倒的な存在感を放つ巨大な赤い龍。

 

「久しいな、『赤い龍』(ウェルシュドラゴン・ドライグ)。」

 

嘗て二天龍と呼ばれた最強のドラゴンの片割れ。

 

巨大な緑の瞳が俺を見据える。

 

『今回の宿主の周りからはやたらと妙な気配を感じると思ったらまさかお前だったとはな……アッカドの雷神アダド……いや、フェニキアの主神バアル・ハダドと呼ぶべきか?』

 

「ククク、嬉しいね。まだその名を覚えていてくれている奴がこんなに近くにいるとは。取り敢えずは覚醒おめでとうと言っておこう。」

 

『フン、何がめでたいものか。今回の宿主には未だに俺の声さえ届いていないんだからな。寧ろ覚醒自体が遅すぎるくらいだ。それに』

 

ドライグの表情が険しくなる。

 

『こっちの気も知らずによくもそんなことが言えたものだな。できるものならお前()とは会いたくはなかったくらいだ……お前達のような“龍殺しの神”が持つ龍殺しの因子は俺達ドラゴンにとってはサマエルの毒と変わら……ッ?!!って、おい待て!!言ってる側から龍殺しの因子を解放するな!!頼む!頼みます!!悪寒と震えが止まらん!!』

 

全身から冷や汗を吹き出すドライグ。

 

このままだと赤い顔が青くなりそうだが……それはそれで面白そうだ。

 

「いやなに、あのくたばった神に折檻された毒蛇小僧のと一緒にされたんで少々イラッときてな……ああ、別に他意は無いよ?」

 

『今思い切り何かありそうな顔してたよな?!まったく、消滅したらどうしてくれるつもりなんだ……まあいい。それより何故今頃お前が出てきた?俺が知り得る限り俺や白いのより大分前に封印されたとも滅ぼされたとも聞いていたんだが?』

 

「生きていたと言えば生きていたよ。まあ尤も、しばらくの間聖書の神にアナトやアスタルテ共々封じられていたがな……人柱としてね。」

 

『なるほど、お前達を含めた古の神々を人柱にしたとなるとどうやらあの話は本当らしいな……“アレ”だろう?』

 

「……その通りだ。俺達が封印された理由の内で最たるものがそれだ。封印コード名『大いなるバビロン』、またの名を『バビロンの大淫婦』。まったく、あの神も惜しいことをしたものだな。折角邪魔者を一気に排除したのに結局その後の三大勢力戦争で死んでいるのだから……いや、あの大戦の直後にその邪魔者が目覚めてしまった以上骨折り損か?」

 

『ハハハハ!やはりそうか、どうりであの大戦以降聖書の神の気配が感じられないわけだ。だがそれよりどうやって俺の精神世界に入り込んできた?神器の中でなく俺の魂の中に入って来た時にはさすがに驚いたぞ。』

 

「少々アスタルテに手伝ってもらった。こういうのはアイツの方が得意だからな。」

 

『ほう……まさかとは思ったがアスタルテ……『天の女王』まで目覚めていたか。となれば他の連中もか……』

 

ドライグは目を細める。

 

『それで、目的は何だ?態々こんなところまで来たからには世間話をしに来たわけでもあるまい。』

 

「察しが良くて助かるよ。実は少々頼みがあってな。」

 

『頼み?』

 

ドライグは目を細めた。

 

『ほう?まさかお前ほどの神がこの俺に頼み事とは……クククク、面白い!!白いのにも自慢できそうだ。それで、頼みとは何だ?』

 

「なに、ほんの些細な事さ。実は―――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから言ったでしょう?一の力が二になったところで私には勝てやしないってね!!」

 

 

「ハァハァ、ぐッ……!!」

 

イッセーは身を裂くような痛みに耐えながらヨロヨロと立ち上がる。

 

もう何度目になるだろうか。

 

イッセーはレイナーレに報わんと突進するがそのたびに華麗に宙を舞って躱され、その際に彼女が振るう光の鞭を浴びて全身至る所が焼け爛れ、既に文字道理の満身創痍、風前の灯火の状態だった。

 

悪魔に転生して間もなく、戦闘経験も皆無に等しい彼がこのような状態になって尚意識を保てているのは最早奇跡に等しい。

 

方やレイナーレは全くの無傷であり、更に悪魔にとって猛毒である自身の光力に加えて光の鞭という凶悪な武器で武装し、かつアーシアから抜き取った『聖女の微笑』で傷を負っても即座に回復できるという正に万全の体勢。

 

どちらに分があるかは火を見るより明らかだった。

 

「あら、まだ立ち上がるの?それ以上立ち上がっても苦しみが長引くだけよ?そろそろ諦めたらどうかしら?」

 

そんなイッセーをレイナーレは嘲笑う。

今この場で彼の生殺与奪の決定権を彼女が握っていることは間違いない。

傍目に見ても既にイッセーは戦える状態ではないし、何より彼が守ろうと誓った少女は既にこの世にいない。

それは百歩譲って彼が目の前の堕天使を斃せたとしても決して覆ることのない厳然たる事実。

 

だからこそ許せなかった。

 

目の前の女を。

 

そして自分自身を。

 

 

「神様……じゃ駄目か、やっぱり悪魔だから魔王かな……?」

 

 

「?」

 

唐突に理解不能な言葉を呟きだすイッセーにレイナーレは怪訝な顔をする。

 

「いるよなきっと、魔王……一応俺も悪魔なんでお願い、聞いてもらえますかね?」

 

「何をブツブツ言っているのかしら?余りの痛さにコワれちゃった?」

 

「お願いします……他には何も要らないですから……コイツを一発ぶん殴らせて下さい!!」

 

イッセーの背から歪な蝙蝠のような翼が飛び出す。

 

 

 

『Explosion!!』

 

 

 

左手の籠手が突如機械音を発し、そして見たことのない形へと変形する。

 

同時に力強い緑色の輝きに包まれ、彼の体内に力が湧き出す。

 

「ッ?!嘘?何よコレ……?」

 

力は尚も高まり、遂にはイッセーの体より波動となって外界に溢れ始め、大気を揺らした。

 

「この波動は中級……いえ、それ以上?!ありえないわ!!その神器はただの『龍の手』(トゥワイス・クリティカル)のハズでしょ?!まして光を緩和する能力を持たないのに何度も光を浴びて既に全身ズタズタなハズよ?!一体どこからこんな力が……」

 

突然のイッセーの力の増大を感じ取ったレイナーレは狼狽する。

今やその顔からは先程までの余裕が完全に消えていた。

既に下級悪魔なら死んでいてもおかしくない程の光のダメージを与えた筈だ。

 

それなのに。

 

――――目の前の下級悪魔(イッセー)から湧き出す力は自分を超える程に高まっていたのだから。

 

「ああ、痛ぇよ……正直少しでも気を抜けば今にも意識が飛んで行っちまいそうだ。でも」

 

振るえる足で一歩、また一歩と自身に近付き、拳を放たんとするイッセーの姿を見てレイナーレは思わず後ずさる。

奥の手といえる武器まで持ち出して、どれだけ痛めつけても尚立ち上がり、あろうことか更なる力を以て自身に肉薄せんとする彼の姿に恐怖を覚えたのだ。

 

「お、おのれェェッッ!!!」

 

レイナーレは鞭を振り降ろす。

 

しかし力を増し、変形した籠手の前には通用せず、弾かれてこれまでのようにイッセーの肌を焦がすことは叶わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「それ以上にテメェがムカつくんだよォォ!!!!!」

 

 

 

 

 

イッセーから溢れ出すオーラの量が増す。

 

「い、いやっ!!」

 

最早これまでの自分の圧倒的な優位が崩れ去ったことを本能的に悟ったレイナーレはイッセーに背を向けて黒い翼を広げて逃走を図る。

 

「逃がすか馬鹿ッ!!」

 

イッセーはとても満身創痍とは思えぬ速度で仮にも飛翔する堕天使に詰め寄りその細腕を掴む。

 

そしてその反対の手には眩いばかりの緑色に輝く赤い籠手が。

 

「わ、私は至高の……」

 

振り向いてイッセーを見るレイナーレの瞳は完全に恐怖一色に染まり切っていた。

 

 

 

 

 

 

「ブッ飛べ!!クソ天使!!!!」

 

 

 

 

 

「いやあああああああああッ!!!」

 

イッセーの拳はレイナーレの頬に吸い込まれる。

 

響き渡る破砕音。

 

ステンドグラスを突き破り、レイナーレは教会の外まで飛ばされる。

 

そして地面に落下すると同時に一度痙攣を起こすとそのまま動かなくなった。

 

「ハァハァ……ザマぁ見ろってんだ。」

 

憎き堕天使に一矢報いたイッセーもまた、度重なる疲労と光のダメージ、それを圧して動いた反動とで限界を迎えていた。

 

「お疲れ。まさか一人で堕天使を倒しちゃうなんてね。」

 

しかし、倒れ込む寸前で彼を支える者がいた。

 

「遅ぇよ、イケメン王子……」

 

『騎士』、木場祐斗。

 

「キミの邪魔をするなと部長に――ッ?!!」

 

突如、木場の表情が強張る。

 

床に現れる魔法陣。

 

そこから現れたのは

 

 

 

 

「グヴォアアアアアアアアアッ!!!!」

 

 

 

 

 

「なあ木場、あれって……」

 

「くっ、さっきのはぐれ……!!このタイミングで出てくるなんて!!」

 

二人の頬を汗が伝う。

 

新たに現れたのは先程木場達が地下祭儀場にて見失った方のはぐれ悪魔であった。

 

以前見たのと同様改造を施された個体であることは明白だった。

 

手負いのイッセーを抱えた今の状態では勿論、万全のコンディションでさえ苦戦を強いられるほどの相手の登場は正に運が悪いとしか言い表しようがなかった。

 

はぐれ悪魔は二人の姿を認めると腕を振り上げ、二人を目がけて振り下ろす。

 

「ぐっ……!」

 

木場はすんでのところでイッセーを抱えて飛び退くが、すぐ横をはぐれ悪魔の剛腕が通り過ぎた際に感じた風圧からは紛れもなく恐ろしい破壊力を秘めていていることがひしひしと感じられ、その証拠に先程まで二人が立っていた場所は大きく陥没していた。

 

 

「グゥオオオオオオオオッ!!!!」

 

 

 

「「!!」」

 

距離を取った二人に対してはぐれ悪魔は最早轟音とさえいえる咆哮を上げ、発生した音波により教会の窓という窓は無残にも粉砕し、その破片が雪のように舞い散った。

当然の如く二人ともそんな光景に目を遣る余裕もなく、あまりの音量に耳を塞いでその場に蹲るばかりだった。

 

「しまった!!」

 

しかしその一瞬の隙を突いてはぐれ悪魔は肉薄し、再び木場とイッセーを叩き潰さんとその剛腕が大気を穿ち迫る。

 

木場は呻く。

 

あの拳のリーチと彼我の距離からして今更回避しても間に合わない。

ならばせめて少しでもダメージを軽減すべき、と、正直気休めにしかならないとは知りつつも自身の神器、『魔剣創造』を発動して剣を作り出し、イッセーを庇うようにして目の前で交差する。

 

「木場ッ!!」

 

イッセーは叫ぶ。

 

 

 

 

 

「油断大敵、だな。」

 

 

 

 

その時だった。

 

丁度木場とイッセーの後方、はぐれ悪魔に対して斜め45度の角度で、大気を劈く轟音と共に極太の緋色の雷が駆け抜け、はぐれ悪魔の巨体を包み込む。

一瞬の出来事にはぐれ悪魔は断末魔を上げることも叶わずその姿を消した。

そして二人もまた、突然の出来事に状況が呑み込めないまま後方を振り返る。

 

「崇哉……」

 

「有馬君……」

 

「よおイッセー、何とか決着は付けられたようだな。」

 

二人の前に現れたのは先程地下祭儀場で別れた筈の有馬崇哉。

あれだけの数の神父と改造されたはぐれ悪魔を一人で相手取ったというのに掠り傷どころか服に汚れ一つ見当たらず、そればかりか大質量の攻撃ではぐれ悪魔を滅して少しも消耗した様子を見せない辺り、その並外れた力量には改めて驚嘆せざるを得なかった。

 

「ハハッ、お前も遅かったじゃないかよ。」

 

「まぁそう言うな。九割方お前達の主に絡まれていちゃもん付けられたのが原因なんだからな……そうだろう、リアス・グレモリー。」

 

 

 

「……」

 

 

崇哉が後方を振り向くとそこにはイッセーと木場の主にしてグレモリー家次期当主、上級悪魔のリアス・グレモリーと『女王』、姫島朱乃の姿が。

しかしリアスの顔は些か不機嫌な表情で彩られており、睨むような視線を彼に向けていた。

 

「っ!部長!!どうしてここへ?」

 

イッセーが呼び掛けると彼女は崇哉から視線を外すとイッセーに向き直る。

 

「さっき言った用事が済んだからここの地下へジャンプしてきたのよ。そしたらそこの彼が全て消し去った後だったわ。まあそれから色々あったのだけれど……」

 

「おい、崇哉、お前部長たちに何かしたのかよ?!」

 

「人聞きの悪いことを言うな。言っただろう、寧ろ被害者は俺の方だ。それも相手が相手なら殺されても文句は言えないほどの事をな。」

 

崇哉は問い詰めるイッセーの矛先を躱すとリアスを横目で見遣る。

するとリアスはきまり悪そうにプイッと視線を背けた。

 

そんな気まずい空気が流れる中、教会入口の扉が開き、入って来る人物がいた。

 

「部長、持って来ました。」

 

『戦車』、塔城子猫。

 

彼女はつい先程イッセーが殴り飛ばした堕天使、レイナーレを引き摺って来ており、リアスの前まで来ると乱雑に放り出した。

 

「朱乃。」

 

「はい、部長。」

 

主の命を受け、朱乃は未だ失神したまま目を覚まさぬレイナーレの頭上に氷水を創り出すとそのまま一気にレイナーレの頭に浴びせかける。

 

「っ?!ゴホ、ゴホッ……」

 

突如として冷水を浴びせかけられたことでレイナーレは目を覚まし、その際多少気管にも入り込んだのか、むせ返る。

 

そして顔を上げ、目の前にリアスの姿を確認すると忌々しそうに睨みつけた。

 

「御機嫌よう、堕天使レイナーレ。私はリアス・グレモリー、グレモリー家の次期当主よ。短い間でしょうけどどうぞお見知りおきを。」

 

「っ、グレモリー一族の娘かッ……」

 

不敵に笑み、自身を見下ろすリアスをレイナーレはただ悔し気に唇を噛み締めて睨みつける他になす術がなかった。

しかし、途端にレイナーレの表情が一変、先程イッセーに向けていたのと同じような、嘲るような笑み絵を浮かべる。

 

「してやったり、と思っているんでしょうけど残念だったわね。今回の計画は我らが偉大なる総督閣下の命。もうじき増援が「来ないわよ。」っ?!」

 

「だって、あなたたちの今回行った作戦は厳密には総督命令ではないんですもの。おそらく他の誰かが総督アザゼルに作戦内容を偽って認可させたんでしょう。よくよく考えてみれば戦争嫌いのアザゼルが如何に珍しいからといって回復系神器所有者一人を確保するためにこんなリスクの大きなやり方をするはずがないものね。そしてあなたたちはまんまとそれに乗せられ結果として堕天使全体の意向に反する行動を取った。フフフ、きっと今頃堕天使の上層部も慌てていることでしょうね。無論あなたたちに命令を下した者だってあなたたちのような末端ならいくら切り捨てても問題ないでしょうから当然助けに来ることなんてないわ。ついでに言っておくとあなたのお友達ももうこの世にはいないから助けを待っても無駄よ。」

 

「う、嘘よ!!」

 

リアスがポケットより二枚の黒い羽根を取り出してレイナーレの眼前に落とすとレイナーレの顔が驚愕に染まる。

 

「同族なら分かるわよね。この羽は尋ねてきてくれたあなたのお友達、カワラーナとミッテルトのモノよ。」

 

自身の眼前を舞う二枚の黒羽を目にしたレイナーレの驚きに見開かれていた目がやがて怒りに染まる。

 

「おのれっ、グレモリー家の娘が、よくもッ……!!」

 

「悪いけど、彼女達を殺したのは私じゃないわ。あなたたちのペットのはぐれ悪魔よ?非常に不本意なことだけれどもね。それにここは私の管轄よ?私の意にそぐわぬ行いをした者にはそれ相応の報いを受けてもらうのは当然のことよ。」

 

「っ……!」

 

レイナーレは押し黙る。

雲の上の存在にも等しい総督の寵愛を勝ち取れると信じて危険を冒してきたのに裏切られ、そして最後の頼みの綱である同族の救援の望みも絶たれた彼女の心を覆ったのは深い絶望だった。

そんなレイナーレを尻目にリアスはイッセーの方を振り返る。

 

「イッセー、その神器は……」

 

「ああ、コレですか。いつの間にか形が変わってて……」

 

「赤い龍……そう、そういうことなのね。」

 

リアスはイッセーの左手の籠手に今まで見たことのない龍の紋章が現れているのを確認し、納得したように呟く。

 

「堕天使レイナーレ、この子、兵藤一誠の神器はただの『龍の手』ではないわ。持ち主の力を10秒ごとに倍加させ、極めれば一時的に神や魔王すら超えられる神器の中でもレア中のレア、『神滅具』(ロンギヌス)の一つ――――『赤龍帝の籠手』(ブーステッド・ギア)よ。あなたでも名前くらいは聞いたことがあるでしょう?あの赤い龍の紋章が何よりもの証拠よ。」

 

「『赤龍帝の籠手』?!一時的にとはいえ神や魔王をも凌ぐ力を得られるという忌まわしき『神滅具』の一つ……それがこんな子供に?!」

 

レイナーレは項垂れる。

やはり兵藤一誠は危険因子。

となれば完全にあの時殺し損ねた自分の失敗。

そして今、悪魔になった彼に止めを刺すこともままならなかった以上、最早失敗などという言葉では表しきれないほどの、取り返しのつかない大失態だ。

おまけに多勢に無勢、もう彼女にはイッセーに止めを刺してこの場を離脱するだけの力も気力も残されていなかった。

 

「でもその神器には力を倍加するまでに時間がかかるという弱点もあるわ。今回は偶々相手が調子に乗っていたから勝てたようなものよ。戦闘中に倍加を待ってくれるような敵はそうそういないのだから。」

 

リアスはイッセーに釘を刺す。

一方で、自身にとんでもないものが宿っていると知らされた直後に釘を刺されたイッセーは何やら複雑な様子をしていた。

 

「さてと……そろそろ消えてもらうわよ?堕天使さん。」

 

リアスが冷淡な声音で告げるとレイナーレはビクッと大きく体を震わせ、顔を上げる。

その顔からは既に先程までの傲慢な面影は欠片もなく、今や完全に死の恐怖と絶望に染まり切っていた。

 

「あら?今更死ぬのが怖いというのかしら?どうせあなたのような使い捨ての末端は首謀者に関する大した情報も持っていないでしょうから生かしておく意味もないし、堕天使の上層部も悪魔と戦争をするくらいならあなたを戦犯として処理する方を選ぶのは明白。このまま『神の子を見張る者』(グリゴリ)に戻ったところであなたに待っているのは極刑よ?」

 

リアスがそこまで言い切るとレイナーレの震えが止まった。

すると今まで恐怖と絶望のあまり半ば放心状態だった彼女にいくらか落ち着きが戻ったようにさえ見えた。

 

「……そうね、私はここで終りのようね。なら最後に一つだけ良いかしら?」

 

「……何かしら?」

 

不意に冷静な対応をしてくるレイナーレにリアスは怪訝な顔つきになる。

 

「遺言よ。それくらいはいいでしょう?あなたは今すぐにでも私を殺せるんだから。」

 

リアスは警戒する。

まだ何か隠し玉があるのか、と。

今までの遣り取りは演技、そしてその遺言とやらはその為の時間稼ぎなのではないかとの考えが脳裏をよぎる。

しかしどれだけ感覚を研ぎ澄ませてみても何か仕掛けのようなモノの気配は感じられない。

それは自身のすぐそばにいる朱乃もまた同じようで、そして不本意ながらも崇哉たちの方に視線を向けても何かを感じた様子は見せていなかった。

 

「……いいわ。ただし少しでも妙な真似をしたらその場で消し飛ばしてあげるから、そのつもりで。」

 

「フフフ、感謝するわ、グレモリーのお嬢さん。……ねぇイッセー君?」

 

「?!」

 

唐突に呼ばれたイッセーは体を強張らせる。

 

「自分を散々に見下してた相手がこうして醜く地に這い蹲る姿を見るのはどう?嬉しい?快感?」

 

「……」

 

イッセーは言葉が出なかった。

死を目前にしたこの状況で不敵な笑みを浮かべてかくも冷静に振る舞うレイナーレの姿からは全く意図が読めず、先程自身を散々にいたぶっていた時よりも遥かに恐ろしく感じられたのだ。

そして奇しくも、それは傍から見れば圧倒的な優位に立っている筈のリアスもまた同様であった。

 

「当然よね。私はあなたを騙し討ちにて更に自分の欲の為にアーシアから神器を奪い、そして彼女を殺し嘲笑った……そんな憎い相手が今こうして自分とお仲間の前で無様に死に晒そうとしているなんてさぞかし爽快でしょうね。”ザマぁ見ろこの薄汚い雌ガラスが”とでも思っているんでしょう?死んだと思ったら名門グレモリーの次期当主だなんていう御立派でエリートな主様に拾ってもらって色々良い思いをしている上にあんなブロンドの彼女まで作って……おまけにこんな風に私に仕返しまで出来たんですもの。アハハハ、本当に良い御身分よね。」

 

イッセーの心情は複雑だった。

確かに目の前の相手は殺したいほどに憎かった。

しかし同時に初めての恋人でもあった。

それも全ては自分を抹殺するための演技であり、それを思いでとして美化するのも馬鹿馬鹿しいことだというのは百も承知だが、心情としてはそう簡単に割り切れるものではなかったのだ。

 

一方のリアス達はレイナーレの思惑を図りかねていた。

何が狙いなのか。

死を悟っての諦観ゆえなのか。

或いはこちらの精神的動揺を狙っているのか、それとも同情を誘って命乞いでもするつもりなのか。

このタイミングでこんなことを言い出す理由は……

 

グレモリー眷属の面々が訝しみ、思考に没頭する中、不意にレイナーレが視界から消える。

 

「「?!」」

 

「アハハハッ、やっぱり悪魔はつくづく詰めが甘いわねッ!!」

 

グレモリー眷属の一同が気付いた時にはレイナーレは既にイッセーの頭上にいた――――光の槍を手にして。

 

「イッセー!!」

 

リアスの悲痛な叫びが木霊す。

敵の狙いはこれだったのかと歯噛みするも、今の手負いのイッセーでは避けることもままならないし、既にイッセーとレイナーレの距離があそこまで縮まっている以上慌てて迎撃態勢を取るリアスも朱乃も、木場でさえも間に合わない。

 

「さようなら。」

 

光が肉を、その更に奥の臓物を穿つ音と共に血飛沫が舞い散る。

 

レイナーレの槍が貫いたモノ、それは――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴフッ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――彼女自身の心臓だった。

 

 

光の槍が消失すると、寸分違わず心臓に穿たれた風穴よりスプリンクラーのように血の雨が降り注ぎ、真下にいたイッセーを濡らした。

 

自ら生命の中枢を破壊したレイナーレは撃ち落とされた鳥の如く、そのまま力なく地に墜ちる。

 

イッセーも、リアスも、その他眷属達も、皆余りの衝撃に声が出なかった。

 

「お前…どう、して……」

 

イッセーは呆気にとられながらも地に臥す堕天使に向かって絞り出すような声で問いかける。

 

「あなた……どういうつもり?」

 

同じく我に返ったリアスも尋ねる。

その声には詰問の意図よりも困惑の意味合いの方が強かった。

 

「はぁはぁ、ゴフッ……わ、私は、し、至高の、堕天使……!…はぁはぁ…あ、悪魔に殺される、くらいなら、自ら死を、選んだまでよ……ウフフ……良かっ、たわね…グレモリーの、お嬢さん……態々、手を、下す、手間が省けて…ゴフッ……」

 

「っ。」

 

口から吐血し、息も絶え絶えに、しかし皮肉気に応えるレイナーレ。

しかしその目は未だに怪しい輝きを失っておらず、更に口の端を吊り上げ嗤っていた。

その顔はどこか勝ち誇ったようにすら見えた。

そして彼女はイッセーを見据えた。

 

「イッセー君……」

 

「っ……何だよ?」

 

レイナーレはもうすぐ命尽きる者のそれとは思えぬほど妖艶な笑みを浮かべる。

 

「最後…に…元カノの、よしみで…教えてあげる……こちらに、足を…踏み入れた…からには…こうした、争いは…避けられないわ……まして、『赤龍帝の籠手』を宿す…あなたにはね……はぁはぁ…それに、その女は悪魔……アーシアが…追放された原因と…同じ…悪魔よ……あなたを、助けたのだって…ゴフッ…あなたに…神器が…あったから……自分が…のし上がる…ためよ……何を…言われて…飼い馴らされたのかは…知らないけれど…あなたは…その女にとって…道具程度の…価値しか…ない……いずれ…嫌でも…思い知る…時が…来る…わ……所詮…上級…悪魔にとって…下僕…なんて…家畜や…奴隷と…同等…だって……ウフフ、残念…だ…わ……あな…た…が…真実…を…知って…絶望…する…様を…見…届ける…こと…が…でき…ない…の…は……」

 

レイナーレはこと切れた。

 

 

 

 

 

イッセーの心に深い傷を残して……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へ~、そんなことがあったのかにゃ。ダーりんも大変だにゃん。」

 

黒い髪に金の瞳の女性が感慨深げに呟く。

 

誰の目から見ても十分に美人と言える容姿をしているが、艶やかな髪の間からのぞく猫耳と、着崩した着物の裾から伸びる先端が二股に分かれた尻尾が彼女が人外の存在であることを証明していた。

 

「元より覚悟の上さ。悪魔共と関わるのが面倒なことくらい。まあ、アナト(アイツ)があの場にいなかったことが幸いか。でなけりゃ今頃悪魔の殲滅戦が始まってた。」

 

彼女の問いに答えたのは緋銀ともいえる髪に日輪のような金色の瞳をした青年。

一分の欠点すら存在しない、余りに完璧過ぎるほどの美貌に薄く笑みを浮かべていた。

その彼が遠い昔、かの”聖書の神”と最も熾烈な争いを繰り広げた、忘れ去られて久しい太古の神々の一柱であることを知る者は極々僅かだ。

 

「それで、そのシスターはどうなったの?」

 

「リアス・グレモリーが転生させたよ。『僧侶』(ビショップ)の駒でね。」

 

「……そう……」

 

彼の返答に彼女は一瞬身を強張らせる。

『僧侶』という言葉は彼女にとっては思い出したくもない、忌まわしい記憶に纏わるモノでしかなかったからだ。

 

「……余計なことまで言ってしまったか?」

 

「ううん、いいの。もう気にしてない。それどころかあなたたちにはどれだけ感謝してもし足りないくらいだもの。私を忌まわしい記憶しかない悪魔という生き物から本来のあり方へと戻してくれたことも含めて、ね。」

 

「それを気にする必要はないさ。元々悪魔共が生み出したあの『悪魔の駒』自体が生命の理を冒涜するシロモノだ。種族としての真理、理を書き換えるだけでは飽き足らず死者の霊魂さえも強引に輪廻の輪から現世に引き摺り出して再び元の肉体に縛り付け転生させる、正に悪魔の所業だ。そもそも種の存続が危うくなったのも自分達が勝手に始めた戦争の所為だと言うに、純血種を守る為他の種族を兵隊に仕立て上げるあたり、つくづく業の深い連中だよ、まったく。」

 

古の神は嘲笑する。

貴族の使命(ノブレス・オブリージュ)を忘れ、享楽に耽り、醜く肥え太る以外に能の無い上級悪魔達。

彼からすればそんな悪魔達の生き残りを掛けた足掻きは滑稽以外の何者でもなかった。

 

「そういえば……あの子、元気かにゃ?」

 

「ああ、問題ないよ。まあ、少々無愛想なのが玉に瑕だが。」

 

「あはは……」

 

彼女は苦笑する。

 

「でも良かったにゃ。元気そうで……あ、もうこんな時間、そろそろ行かないと。」

 

彼女は立ち上がると転移魔法陣を展開する。

 

「もう行くのか?」

 

「うん、連中は遅れるとうるさいからにゃ~。」

 

カラカラと笑う彼女だがその顔はどこか名残惜しそうな面持ちであった。

 

「そうか、苦労をかけるな……」

 

「気にしなくていいにゃ。私にできることなんてこれくらいなんだし。それじゃ、行って来るにゃ、ご主人様♪」

 

「ああ。では頼んだよ……黒歌。」

 

 

 

 

 




ふう、ようやっと一章終わりました。

ダラダラとした展開でまこと申し訳ありませんでした。

ライザー編どうしよう……

蹂躙かオリジナルか……



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戦闘校舎のソリデオ
嵐の前の静寂


すみません。

前回投稿からかなり間が空いてしまいました。

今回は少々閑話?的な話になります。


嵐の前の静寂

 

 

 

それはある日のこと。

いつも通りに帰宅した時だった。

 

「「「ただいま。」」」

 

「おかえりなさいませ。」

 

三人、異口同音に帰宅を告げると奥からメイド服姿のアカーシャが出迎えてくれた。

 

ちなみに普段のアカーシャたちの格好はこの服装である。

 

オリヴィアもそうだが何でも主従の関係をはっきりさせておきたいんだとか。

 

いつもは落ち着いた雰囲気の彼女であるが、今に限っては何やらバツが悪そうにせわしなく視線を泳がせていた。

 

「……どうした?」

 

「ええと、それがですね。大変申し上げにくいのですが……」

 

彼女がそこまで言った時、奥からトテトテと玄関先まで歩いてくる人物の姿が。

 

「アダド、久しい。」

 

……

 

一瞬、俺もアナトもアスタルテも、皆固まった。

 

出てきたのは黒いゴスロリ衣装に身を包んだ一人の幼女。

 

人形の如く表情に乏しく、生気が感じられないほど整った顔立ち、光を反射しない深淵の闇ような漆黒の瞳、抑揚のない声。

 

そして身にひしひしと伝わって来る圧倒的な存在感は忘れる筈もない。

 

「オーフィス……」

 

無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)オーフィス。

 

この世界が出来上がった時より最強の座に君臨し続ける存在。

 

無限の体現者。

 

聖書の神が畏れたドラゴン。

 

久々に見た時は驚いたものだ。

 

最後に会ったのはあの神に封印される前、その時は確か老人の姿だったからな。

 

「わざわざこんなところまで来て何の用だ?」

 

「我、頼みがあって来た。」

 

「頼み?もしかしてまた夢幻(グレートレッド)を倒すのに協力しろって言う気か?」

 

コクリと頷くオーフィス。

 

そういえば少し前にコイツと出くわして唐突にそう言われたんだったな。

 

「ちょっとアンタ、オーフィス!その話なら前にキチンとお断りしたでしょーが!!大体どうやってここまで来たのよ?!」

 

アナトはオーフィスに詰めより、その両頬をぐいぐいと引っ張る。

 

「わへ、いひゃい(我、痛い)」

 

うわぁ、痛そう。

 

「……アナト、その辺にしてやりな。」

 

「えぇ?!でもコイツ私達の居場所を知ってるって事は奴ら(・・)も知ってるってことじゃん!!」

 

……問題はそこだな。

 

如何に変質したとはいえ依然オーフィスの世界に対する興味は薄い。

 

……『禍の団』(テロリスト)の親玉なんてやってるのが良い証拠だ。

 

自身で俺達の情報を手に入れたとは考えにくい。

 

恐らく連中の中、あるいはその協力者が俺達の存在をコイツに吹き込んだと見てまず間違いないだろう。

 

「だがその状態ではオーフィスも話すに話せないだろう。」

 

「むー、分かった……。」

 

不服そうにしながらも手を放すアナト。

 

「アナト、酷い。」

 

解放されたオーフィスは若干涙目になりながら頬をさすっていた。

 

「いきなり現れてテロリストになれって言う方がよっぽど酷いわよ!さぁさぁさぁ!知ってること洗い浚い吐いて楽になりなさいな!!」

 

そう言って再びオーフィスに詰め寄るアナト。

 

「あんたそれ悪役にしか見えないわよ。」

 

溜息交じりに呟くアスタルテ。

 

確かにな。

 

だがこのままでは話が進まないので俺から切り出すことにした。

 

「それでオーフィス、どうやってここに来た?」

 

すると奴は

 

「我、着いてきた。」

 

……何?

 

「着いてきた、ですって?一体誰に?」

 

「それは……」

 

「アタシが連れて来たんだよ。」

 

「「「!!」」」

 

オーフィスの言葉を遮って唐突に奥から聞こえてきた女の声。

 

しかしそれは聞き覚えのある、もはや懐かしさすら感じさせるものだった。

 

「クククッ、久しぶりじゃないか……兄貴。」

 

「イシュタル義姉様……」

 

アスタルテが呟く。

 

腰まで伸びた、軽いウェーブの掛かったプラチナブロンドの髪に赤紫の瞳。

その顔立ちは最早如何なる存在ですら超えられぬ、完璧を超越した究極の美。

寸分の狂いもなく人体の黄金比を体現するような均整の取れたスタイル。

そしてどことなくアスタルテとアナトに似た風貌。

 

現れたのは女神イシュタル、またの名をイナンナ。

 

愛と美を司る女神で戦神でもあり、その力は凄まじい。

 

恐らく全世界、全種族合わせてもトップクラスの美貌の持ち主……黙っていればの話だが。

 

実際120人もの愛人を作っては捨てるを繰り返すような生粋の遊び人であり大昔からよくトラブルを起こして回っていた問題児だ。

 

特に英雄ギルガメシュに迫った時はそれはもう酷かった……

 

おまけに姉のエレシュキガルとは殊更に仲が悪く、しょっちゅう争って仕舞には親父や兄貴達が出張る有様だ。

 

……そして何より俺の実の兄妹でもある。

 

「ハァ……どうして今頃お前が出てくるんだか。」

 

「おやおや、相変わらずつれないねぇ。血を分けた実の兄妹の再会だっていうのに。」

 

わざとらしく肩を竦めるイシュタル。

 

「昔からトラブルメーカーだったからな、お前は。色々聞きたいことはあるが取り敢えず、何故お前がオーフィスといる?」

 

「おーおー、なるほど。アタシがオーフィス(ソイツ)の組織にいると疑ってるってわけかい。でも残念。如何にアタシが気分屋でもそこまでするほど落ちぶれちゃあいないよ。それにグレートレッドと戦いたいなんて言うほど戦闘狂でもない……というかぶっちゃけ面倒臭い。」

 

ふざけた様子だったイシュタルの表情がキッと引き締まり真剣なモノとなった。

 

俺はオーフィスの方を見る。

 

「イシュタルの言うこと、本当。我、誘ったけど断られた。」

 

心なしか少し残念そうな様子を見せるオーフィス。

 

俺はアスタルテとアナト達の方に視線を向ける。

 

(どう思う?)

 

(義姉様とオーフィスが口裏を合わせている可能性もゼロじゃないから正直判断しかねる部分ではあるけれど私達を勧誘するつもりなら態々そんな回りくどいやり方をするとは考え辛いと思うわ。)

 

(私も同感。いくら義姉さんでもそんな暇潰しはしないと思うよ?)

 

確かにイシュタルにとってもオーフィスの下に着くメリットはあまりない。

 

昔から何を考えているか分からないトラブルメーカーだったがそこまではしない……と考えたい。

 

「はあ……分かったよ。疑って悪かった。でも何で態々オーフィス連れて来た?つーかお前どうやって俺らの居場所突き止めた?」

 

「ん?ああ……オーフィスがあんまりにも熱心に口説いてくるもんでついつい断り切れなかったんでな、あはは。」

 

こいつ……

 

「ほう、要するに面倒事を押し付けに来たってことか?」

 

「正解ッ!流石はオニイチャン!!いやー、どうしたもんかと困ってたら偶然兄貴達のこと思い出してなぁ。丁度龍殺しも持ってるし協力するも追い出すもどっちも行けると思ったんよ。そんでルッシーに居場所聞いたっつーワケ。カッカッカッ!!」

 

豪快に笑いだすイシュタル。

 

……前言撤回、やっぱりコイツは生粋のトラブルメーカーだ。

 

「というわけでアダド、我に協力する。」

 

「何がというわけで、だ?!絶対にお断りだ!」

 

便乗してきたオーフィスの誘いを一刀両断する。

 

当たり前だ。

 

何が悲しくて態々グレートレッド倒す為にテロリストにならなきゃいかんのだか。

 

ていうか居場所バラしたのルシフェル(アイツ)か!!

 

「ま、アタシがここに来た用件ってのはそれだけじゃないんだけどな。」

 

笑うのを止めたイシュタルは再び真剣な表情に戻る。

 

「それだけじゃない?まだ何かあるのか?」

 

俺が呆れながら尋ねるとイシュタルは一瞬、悲し気に目を伏せる。

 

「ああ、実は……娘のことでちょっと、ね。」

 

娘……アイツが……?

 

どういうことだ?

 

何故ここでアイツの名が……

 

「……何があった?」

 

「いや、ね。アタシもオーフィスから聞いて初めて知ったんだがあの子は……今『禍の団』にいる。」

 

「「「!!」」」

 

俺も、アスタルテもアナトも、一瞬言葉を失った。

 

嘘、だろ……?

 

「……それは本当か、オーフィス?」

 

俺はオーフィスに視線を投げかける。

 

「それ、本当。」

 

オーフィスはコクリと頷く。

 

その返答に自分の中で何かが沸々と湧き上がるのを感じた。

 

「……お前が誘ったのか?」

 

次に発した言葉も問い掛け。

 

しかしその声は正直自分ですらここまで冷え切った声が出せるのかと驚くほどのものだった。

 

だがオーフィスは首を横に振って否定した。

 

「違う。自ら我のところにやって来てこう言った。“愛する者達を奪ったあの神、それに連なる者全てに復讐する”と。」

 

ッ……

 

 

―――――えへへ、私、おっきくなったら伯父様のお嫁さんになるんですっ―――――

 

記憶の奥底に眠っていた、あの無邪気な笑顔が蘇る。

 

最後の別れはあの忌々しい封印が施される前。

 

目覚めた時にはもういなかった。

 

ずっと探してた。

 

真っ先に会いに行かねばと思っていた。

 

それなのに……

 

どうして。

 

こんな形で。

 

なあ……

 

 

「……シャラ」

 

 

 

 

 

 

◆◇     ◆◇

 

 

 

 

「サーゼクスの妹が『赤い龍』を拾っただと?!」

 

「おのれ、忌々しき偽りの魔王の血族めっ!!一体どこまでのぼせ上れば気が済むのだ!!」

 

「しかしその為に“無限”に与し、その上連中とまで手を組んだのだ。まあ恥辱であることに変わりはないが。」

 

「左様。悪魔の中でも最も高貴なる血を引く我らがあのような者達と手を組むなど本来はあってはならない。しかし今はそうするのが最も確実な方法だ。向こうもそれを分かっているから我らとの盟約に応じたのだろう。まあもっとも、先日の人間界で一騒動起こす計画は失敗に終わったというが。」

 

「だが聞けば近いうちにまた事を起こすそうではないか。そちらの方がより確実であるが故に計画を取り止めたと申しておった。」

 

「フン、所詮連中の言うことだ。浅慮な言い訳にしか聞こえん……しかし仮に連中の言う新たな計画とやらが成功したならば如何に停戦派の連中といえど黙っているわけにはいくまい。その時こそ偽りの魔王とそれに連なる者共を抹殺し、悪魔の世界は再び本来あるべき姿……我ら真なる魔王の血族が統べる正常な状態へと戻るのだ!」

 

はぁ、まったく……耳障りですね。

 

よくもまあ毎日毎日同じことを飽きもせず言い続けられるものです。

 

旧魔王派―――――大戦終結後、戦争継続を主張し、停戦を唱えた現政権の派閥に敗れ辺境に追いやられた先代四大魔王の末裔たち。

 

来る日も来る日も彼らの口から紡がれるのは現政権への怨嗟ばかり。

 

自分達が力及ばなかったが故にそのような結果になったに過ぎないというのに。

 

実に滑稽なものですね。

 

過去の栄光に縋ると言うのは……ああなるほど、理解できました。

 

これぞまさしく人間の言葉で言うところの弱者の嫉妬(ルサンチマン)というモノですね。

 

ここまでくると最早呆れを通り越して賞賛に値するというものですよ。

 

現四大魔王はいずれも素の状態で先代魔王を超える実力者、しかもそのうち二人は常軌を逸した力量の持ち主。

 

如何に世界最強の存在である無限の龍神(オーフィス)に与したところでその先代魔王にすら及ばないあなた方には勝ち目などありませんよ……我が主を除けばね。

 

さて、これ以上ここにいても無意味なので席を外すことと致しましょう。

 

「どこへ行くつもりだ?まだ会議は終わっていないが。」

 

私が席を立つと同時にその場にいた幹部の一人が待ったをかけてきた。

 

「これはシャルバ殿、ただの休息ですよ。余り長いことここにいても息が詰まるので少々外の空気を吸って来ようと思いまして。」

 

私に声を掛けて来たのは旧魔王派幹部の一角、旧ベルゼブブの末裔であるシャルバ・ベルゼブブ。

 

常日頃から現政権への怨恨を漏らし、事実上の旧魔王派の纏め役ではありますが実力は大したことはなく、その上真なるベルゼブブは真なるルシファーより偉大だと豪語し、旧ルシファーの関係者を執拗に敵視している節さえ見られるような人物です。

 

正直このような連中がトップに立っている時点でこの集団の格などたかが知れているというものでしょう。

 

「フン……好きにするがいい。精々姿を見せぬあの男にも宜しく伝えてやると良い。」

 

「……それでは、私はこれで。」

 

私はそのまま会議室を後にした。

 

「やれやれ、困ったものですね、『真なる』魔王派という連中には。」

 

帰路の途中で私は独りごちた。

 

我が主が早々に連中と手を切ったのは正解でしたね。

 

それにしても我が主もまた問題です。

 

生きる目標が持てないと言い、かれこれ数百年もの間部屋に籠って酒浸りの生活を続けておられる。

 

如何に悪魔の寿命が長いとはいえ決して永遠ではない。

 

まして我が主ほどの力があれば世界を動かすことも可能だというのに。

 

……“超越者”の名を冠する我が主なれば。

 

「フフフ、何やら思い悩んでおられるご様子。」

 

「!!」

 

突如として背後から響く声に反射的に振り返る。

 

しかしそこには誰もいない。

 

「こちらですよ。」

 

今度は前から。

 

視線を戻すとそこには一人の男性が。

 

……全く気配を感じ取れなかった。

 

褐色の肌に漆黒の髪、爛々と輝く炎の如く紅い瞳、完璧なまでに整った顔立ち。

 

そして何よりも感じ取れる力の大きさ。

 

それは余りにも強大で異質、間違いなく私が今までに感じた中でも最強クラス……本当に底が知れない。

 

恐らく超越者と呼ばれる我が主でさえ今目の前にいる相手には及ばないと感じられるほどに。

 

「取り敢えず初めまして、とでも言っておきましょうか。ユーグリット・ルキフグス殿。」

 

丁寧な物腰で続ける男性。

 

「……私に何用でしょうか?」

 

「ふむ、正確には貴殿の主に対してなのですが、もう数百年もの間生に意味が見い出せずに部屋に籠り切りでおられるとか。そこで少々面白い提案がありましてね。」

 

「面白い提案?」

 

「左様。あなたの主の無聊を慰めるにはうってつけかと。」

 

目の前の男は薄い笑みを浮かべる。

 

どうやらこちらの内情を詳しく知っているらしい。

 

いまいち信用ならない。

 

だが同時にこの時、何故か我が主がその提案とやらに興味を持つかもしれないと考える自分がいたのもまた事実。

 

……もしかしたら既に私がこの男の術中に嵌っているという可能性も無くはないが。

 

「……それで、その提案とは?」

 

「フフッ、いいでしょう。まずその前に、貴殿は『大いなるバビロン』は御存知で?」

 

「ッ!?」

 

『大いなるバビロン』……別名『バビロンの大淫婦』……

 

黙示録の一節に示唆された存在のうちの一つ……

 

教会側の者達には“神の名を穢す者”とも呼ばれており、その正体については様々な解釈がなされているが真相は不明。

 

黙示録を記した聖書の神の陣営、天界にすら殆ど情報が残っていないらしく、四大熾天使(セラフ)ですら名前以外は何も知らないといった有様だとか。

 

「ええ、名称のみでしたら。しかし私の知る限りでは本当にそのようなモノが存在しているとは思えませんが。」

 

私の答えに男は満足気な笑みを見せる。

 

「やはりそうですか……まあ、今の世界においてはそういった認識になるのはやむを得ないでしょう。いえ、そうでなければならなかった。なんせその正体を気取られぬよう意図的に名前以外のほぼ全ての情報が抹消されているのですから。」

 

「情報を抹消……それはもしや聖書の神の仕業で?」

 

「左様。黙示録に記された存在の内、『大いなるバビロン』だけは他と少々意味合いが異なります。しかしそれを知ることは大きな危険を伴うことなる。然ればこそ聖書の神はその存在を曖昧なものにする必要があった。しかし『大いなるバビロン』は確かに存在します、いえ、厳密には存在した(・・)、ですが。」

 

!!

 

存在した(・・)……?

 

「……それはどういうことでしょうか?」

 

「既に『大いなるバビロン』そのものは有名無実と化してしまっているからですよ、それに属する者達が解き放たれてしまったが故に。」

 

解き放たれた……だと?

 

しかし黙示録に記された存在はいずれも規格外なものばかり。

 

仮にその話が本当だとしたら……

 

「さて、ここからが本題です。結論から言えば『大いなるバビロン』は今更どうでもいいのですよ。寧ろ先ほど述べた『大いなるバビロン』に纏わる危険性こそが重要なのですから。」

 

「……そう言えば確かに先程そう仰っていましたね。それでは何なのです?その危険とは?」

 

男はニンマリと口元を歪めた。

 

「御存知の通り黙示録には『夢幻』(グレートレッド)、『大いなるバビロン』の他にもう一体、存在が示唆されていますよね?」

 

もう一体……まさかッ!

 

「……一つ確認させて頂きたい。あなたは何者です?」

 

私の問いに男はわざとらしく、そして恭しく言葉を返した。

 

「これは失敬、そういえばまだ名乗っていませんでしたね……我が名は――――」

 

 

 

私はその名を聞いて全てを納得した。

 

同時に彼の言葉が脳内を反芻して止まなかった。

 

 

 

――――我が名は“アメン”、隠されし太陽。忘れ去られし神の一柱ですよ―――――

 




今回も新キャラ登場回でした。

イシュタルさん、豪快な姉御肌キャラに変更いたしました。

最近構成は決まっていても文章が思いつかない。

スランプかな……?

書いている途中に”オーフィス”という単語で少々ゲシュタルト崩壊起こしましたし^^;

恐らく年内最後の更新となるかと思いますが、来年も宜しくお願い致します。

それでは良いお年を!


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斜影

どうも、ご無沙汰しております、カイバル峠です。

テストとスランプ、その他ゴタゴタで前回投稿から二か月近く空いてしまい申し訳ありません。




斜影

 

 

 

―――――気に入らない――――――

 

バシャンという水飛沫と共に私の視界を塞いでいたものが倒れる。

 

それを最後にこの場から命の気配は消え失せる。

 

視界を埋め尽くすのは一面の赤、(あか)(あか)

 

延々と広がる赤い海に浮かぶのは最早原型を留めぬ何かと赤く染まった鳥のような羽。

 

そして私。

 

私は手を翳す。

 

ああ、赤い。

 

手より滴る雫はどこまでも深い赤。

 

この色を見るたびに思い出す。

 

赤。

 

紅。

 

緋。

 

あの人の髪と同じ。

 

ううん、こんな薄汚れた色とは比べものならないほど綺麗な(あか)色だった。

 

幼い時から、ずっとずっと恋い焦がれてきたあの人の……

 

「く…ゴフッ……」

 

……ああ、もう。

 

「……なんだ、まだ生きてたの。」

 

私の目の前で蠢くそれ(・・)

 

忌々し気なその瞳が私を見据える。

 

「…主の……栄光…あ」

 

「五月蠅い。消えて。」

 

それ(・・)は弾けた。

 

赤いものが飛び散る。

 

私の顔を濡らす。

 

やだ、汚い。

 

私はそれ(・・)だったものを見る。

 

うん、汚い。

 

汚らわしい。

 

元は真っ白だったけど中身は皆汚物。

 

こんなものが世界に存在しているなんて間違い。

 

いいえ、こんなものが存在するこの世界が間違い。

 

今や世界はこんな塵共で溢れかえっているのにあの人はもういない。

 

世界は不条理に満ち満ちている。

 

それならこんな世界は要らない。

 

でなければ無限に与する理由などない。

 

あの塵共に追従する輩も皆消えればいい。

 

全部、全部、壊れてしまえばいい……

 

 

「おやおや、随分と荒れておられるようですね。」

 

 

「!……あなたは…」

 

声のする方に目を向けると大昔、何度も目にした顔が。

 

「お久しぶりですね、女神シャラ。」

 

「アメン…殿……」

 

そう、私の目の前に現れたのは太陽神アメン。

 

かつてのエジプトの最高神。

 

そして私の待ち人と同じく、もう二度と相見えることもないと思っていた人物だった。

 

「フフフ、しかしこれはまた派手にやりましたね。まるで精肉所だ。だが折角貴女が捌いて下さったのですからこうしておきましょう。」

 

アメン殿が指を鳴らすと辺り一面を眩い閃光が灼く。

 

光が止むと血の海は干上がり、触れればアレルギーを起こしそうなけばけばしい羽根は消し炭となり、そして山になっていた肉はジュウジュウと音を立てて煙を上げていた。

 

「ふむ、これくらいで良いでしょう。」

 

「……何故あなたがここに?」

 

「その前に一つ、貴女は聖書の神がどうなったか御存知でしょうか?」

 

「!!」

 

――――聖書の神――――

 

その言葉を聞いた途端、私の中で黒いものがこみ上げる。

 

忘れもしない。

 

あの時を境に全てが変わってしまった。

 

故に私は壊してきた。

 

無駄だとは分かっている。

 

こんなことをしたところで失ったものは戻ってこない。

 

それでも壊さずにはいられなかった。

 

「……どこ?」

 

「?」

 

だって――――

 

 

 

 

「あの神はどこッ!!!?」

 

 

 

――――私の大切なもの全てを奪ったのだから

 

 

◆◇         ◆◇

 

 

 

 

俺、兵藤一誠は非常に苛ついていた。

 

原因は今日突然オカルト研究部の部室にやって来た男にある。

奴の名はライザー・フェニックス。

部長と同じ純血の上級悪魔フェニックス家の三男。

 

だがグレイフィアさん―――部長の家のメイドさんによるとなんと、部長の婚約者だっていうんだぜ?

 

見た目といい、言動といい、どう見てもホスト崩れのチャラ男にしか見えないのに。

 

おまけにやって来るなりいきなり愛しのリアスとかほざいた上に部長の髪やら肩やらいやらしい手つきで撫でまわしていやがる!

来て早々に俺のこともゴミを見るような目で見てきやがったしな!

 

……昨日の夜突然俺の部屋にやって来た理由はこういうことだったのか。

 

こんな奴と婚約だなんてそりゃあ部長も嫌がって当然だ。

 

というか誰だって嫌だろ。

 

でも相手も上級悪魔だ。

 

悪魔の世界は上下関係が厳しいから俺達下僕は離れた場所から成り行きを見守るしかできないっていうのがなんともまた歯痒くて仕方がない。

 

でももしあの野郎が部長の足をさすり出しなんてしようもんなら……

 

 

「いい加減にして頂戴!」

 

 

その時、部長の叫びが室内に響き渡った。

 

「ライザー!何度言ったら分かるのかしら?!以前にも言ったはずよ!私はあなたとは結婚なんてしないわ!!」

 

「ああ、何度も聞いているよ。だがキミの御家事情はそうも言っていられないほど切羽詰まっているはずだが?」

 

「余計なお世話よ!私が次期当主である以上自分の婿―――私が良いと思った者と結婚するわ!大体父も、兄も、一族の者も皆性急すぎるのよ!!当初の話では私が人間界の大学を出るまでは自由にさせてくれるという約束だったはずだわ!!」

 

「その通り、基本的にキミは自由だ。大学に行くも良し、下僕も好きにすれば良い。だが」

 

そこまで言うとニヤついていたライザーの表情が途端に引き締まる。

 

「グレモリー卿もサーゼクス様も心配なんだよ、御家断絶がね。特に先の大戦で嘗て72柱と称された悪魔の家系の半数以上が断絶した上に率いていた軍勢は今や見る影もない。にも関わらず天使や堕天使との睨み合いは続いているし、連中とのいざこざで跡取りが死んで断絶した家系まであるときた。おまけに奴らは俺達悪魔にとって致命的な弱点である光の力を有している。加えて最近ではキミの下僕たちのように他種族からの転生悪魔も幅を利かせてきていて旧家の悪魔の中にも力に溢れているという理由だけで転生悪魔と通じる者もいる。確かに新しい血もこれからの悪魔には必要だ。だがそれでは俺達純血の家系の上級悪魔の立場がない。いくら『悪魔の駒』で転生者の数を増やせるといっても限界があるし何より根本的な解決にはならない。おまけにその転生者に主である上級悪魔が殺されたなんて話もある。ただでさえ純血の悪魔は元から出生率が低いんだ、その新生児がどれだけ貴重かなんてことはキミも知らんわけじゃあるまい。俺達純血の悪魔に課せられた最大の使命は何だ?他でもない、悪魔の存続の為、確実に後世に血を繋げることだ。それらを考えれば上級悪魔同士の家柄の縁談は至極当然のことじゃないか。これには悪魔の未来がかかっているんだ。」

 

ライザーの話に部長も皆も黙って聞き入るしかなかった。

 

そしてライザーは更に続ける。

 

「それに考えても見ると良い。キミがこうして駒王学園(こんなもの)まで作って人間界で自由に振る舞っていられるのだってキミが『グレモリー』であるからに他ならないだろう?サーゼクス様は家を出られた身、現状家を継げるのはキミだけだ。確かにキミが常々言っている通り上級悪魔にだって恋愛結婚の自由はある。俺の家は兄達がいるから問題ないがグレモリー家を取り巻く現状はそう甘くはない……キミは自分の我儘で家を、ひいては悪魔の未来を潰す気か?」

 

誰も言葉を発せなかった。

グレイフィアさんも黙ったままだった。

俺はどうしてこんな奴が部長の婚約者なんだということで頭に来ていたが裏では悪魔の現状とかが色々絡まり合っていて相当複雑みたいだ。

きっと俺みたいに転生して日が浅い悪魔にはどうこう言えるようなものじゃないんだろう。

 

でもさっきから聞いてる限りじゃ部長自身の意思が尊重されているようには思えない。

確かに部長のご実家は悪魔の中でも名門中の名門だって聞いたことがある。

 

そういうやんごとなき身分の生まれである以上政略結婚の話が出てくるのは仕方のないことかもしれないけれど、う~ん……お偉いさん方の考えることは良く分からん。

でも俺は部長の決定に従うまでだけど。

 

「……私は家を潰す気はないし婿養子も迎え入れるつもりよ。けれど」

 

沈黙を破ったのは部長だった。

 

「それはライザー、あなたではないわ。前にも言ったように自分の夫となる者は自分で決める。誰が何を言おうと私の意思は変わらないわ。」

 

毅然として言い張る部長。

しかし一方でライザーの機嫌はみるみるうちに悪くなり、目を細め、舌打ちまでした。

 

「……俺もなぁ、リアス。フェニックス家の看板背負ってるんだよ。家名に泥を塗られるわけにはいかないんだ。貴族同士の縁談を私情で破棄することが何を意味するのか、分かって言ってるんだろうな?俺の家ばかりじゃない。仮にも次期当主たる者がそのような真似をすればキミの御両親とサーゼクス様、それにグレモリーの名にも傷を付けることになるぞ?そもそも何のために態々俺がこんな人間界のあばら家にまで来なけりゃならなかったと思ってる?この世界の風と炎はすっかり人間共に汚されちまってる。風と炎を司る悪魔としては耐え難いんだよ!!」

 

ライザーが言い終わらないうちに奴の周囲を炎が駆け巡る。

見ただけでも相当な熱量だと分かる。

離れていてもとんでもなく熱い。

 

「俺はキミの下僕を全て燃やし尽くしてでもキミを冥界に連れ帰る」

 

室内を殺意と敵意とが満ち満ちる。

 

これが上級悪魔の殺気、凄まじいプレッシャーだ……!

 

自分でも気づかないうちに震えていた。

 

そして部長とライザーは睨み合う。

 

双方から危険なオーラが漂い始めていて、一触即発といわんばかりの状況だった。

 

 

 

 

 

「お納め下さいませ。」

 

 

 

 

「「っ」」

 

そこに割って入る者の声。

 

「お嬢様、ライザー様、私はサーゼクス様の御命を受けてここにいる以上、御二方がこれ以上やると仰せでしたらサーゼクス様の名誉のためにも一切の遠慮は致しません。」

 

声の主はグレイフィアさん。

 

凄いな。

 

グレイフィアさんが間に入った途端に二人が漂わせていた剣呑な雰囲気がすっかり消えてなくなった。

 

「ははっ、最強の『女王』と称される貴女にそんなことを言われたら流石に俺も怖いよ。化け物揃いと評判のサーゼクス様の眷属とは絶対に相対したくないからな。」

 

っ。

 

まさか、グレイフィアさんがそんなに強いとは思わなかった。

 

というか部長のお兄さんってそこまで影響力があるのか。

 

「こうなることは御両家の方々も予想しておいででした。実を申し上げますと今回が最後の話し合いの場でした。よって、決裂した際の最終手段を仰せつかっております。」

 

「最終手段?どういうこと、グレイフィア?」

 

訝し気に問う部長にグレイフィアさんは答える。

 

「お嬢様がどうしてもご自身の意思を貫き通したいと仰るのであれば“レーティングゲーム”にて決着を、と。」

 

レーティングゲーム?どこかで聞いたような……

 

「レーティングゲーム、爵位持ちの悪魔同士が下僕をチェスの駒に見立てて戦わせるゲームのことだよ。」

 

俺の気を察したのか木場が説明してくれる。

そういえば『悪魔の駒』はそれぞれチェスの駒の特性を帯びてるんだっけか。

 

「本来なら成熟した悪魔でなければ公式のゲームに出場することはできません。しかし非公式のゲームであれば半人前の悪魔であっても参加は可能です。この場合多くが……」

 

「身内や御家同士のいがみ合いよね。お父様たちは私が拒否した場合最終的にゲームで婚約を決めようってハラなのね。どこまで私の生き方をいじれば気が済むのかしらッ……!」

 

追加で説明してくれるグレイフィアさんに部長も憤慨した様子で続ける。

 

「ではお嬢様はゲームも拒否なさると?」

 

「…いえ、これはまたとない好機よ。いいわ。ゲームで決着を付けましょう。」

 

部長の挑戦的な物言いにライザーの口元がにやつく。

 

「へぇ、受けちゃうのか。俺は別に構わない。既に成熟しているし公式のゲームも何度か経験している。それに今のところは勝ち星も多い……それでもやるのか?」

 

「ええ。ライザー、あなたを消し飛ばしてあげる!」

 

そして二人とも激しく睨み合う。

おお、怖っ……

俺達下級悪魔の出る幕はないようだ。

 

「承知しました。お二人のご意思は確認いたしましたので私が御両家の立会人としてゲームの指揮を取らせて頂きますが、宜しいですね?」

 

「ええ(ああ)。」

 

グレイフィアさんの確認に合意を示す部長とライザー。

マジかよ?

それってつまり俺達もゲームに参加するってことだよな?

 

すると当惑する俺にライザーが嘲笑的な視線を向けてきた。

 

「なあ、リアス。念のため確認しておきたいんだが、ここにいる面子でキミの下僕は全てなのか?」

 

「……だとしたらどうなの?」

 

ライザーの発言に片眉を吊り上げながら部長が答える。

 

「これじゃあ話にならないな。『雷の巫女』くらいしか俺の可愛い下僕達の相手になりそうにない。」

 

ライザーはクククッと面白おかしそうに笑うと指を鳴らす。

 

すると部室に再びライザーが来た時同様フェニックスの魔法陣が現れ、そこから複数の人影が現れ……

 

「と、まあ、これが俺の可愛い下僕達だ。こちらは十五名、駒はフルに揃ってる。」

 

堂々と言い放つライザー。

同時に俺は言葉を失った。

 

魔法陣から現れたのは総勢十五名のライザーの眷属と思しき者達。

 

その全員が

 

「美女、美少女ばかり…何て奴だ……何て男だっ、うあああああああっ!!」

 

「お、おい、キミの下僕君、俺を見て号泣してるんだが……」

 

「……その子の夢がハーレムなのよ。」

 

引き気味のライザーと呆れた様子の部長。

 

「キモいですわ。」

 

「ライザーさま、この人気持ちわるーい。」

 

俺を見て心底気持ち悪そうにしてるライザーの眷属の女の子たち。

 

ちくしょう!余計なお世話だ!!

ハーレムを見て感動して何が悪いってんだよ?!

男の夢だろ!!

それが目の前にあるんだ、当然だろ!!

 

あ、よくよく考えてみれば崇哉、アイツもハーレムじゃんか!!

 

普段から一部で二大お姉様以上の美少女とさえ言われる明日香ちゃんと杏奈ちゃんとイチャついてるし、この前アーシアを助けに行った時だって知らない女の人連れてたしな!

しかもすっげー美人だったし!

 

でもアイツ今日いないんだよな。

なんでも魔王様からの緊急の依頼とかでしばらくいないんだとか。

タイミング悪すぎだろ。

まったく、部長が大変だって言う時に。

 

「なるほどね、そういうことか……ユーベルーナ。」

 

「はい、ライザー様。」

 

俺が悶々としているとライザーが眷属の一人を呼ぶ。

 

そして……

 

「んむっ……あふぅ……」

 

「なっ?!」

 

「っ」

 

ディ、ディープキス、だと?!

 

おいおい、コイツ正気かよ?!

 

仮にも婚約者の前なんだぞ?!

 

部長も心底気持ち悪そうにしてるじゃねぇか!!

 

そしてライザーは見せ付けるようにユーベルーナと呼ばれた女性の胸を揉みしだく。

 

うぐっ、だが羨ましい……!!

 

「ハハッ、お前じゃこんなことは一生できまい、下級悪魔君。」

 

――ッ

 

俺の中で何かがキレた。

 

「う、うるせぇ!!そんな調子じゃ部長と結婚した後も他の女の子とイチャイチャするんだろうが!!お前みたいな女たらしが部長と釣り合う筈がねぇ!!この種蒔き焼き鳥野郎ッ!!」

 

その瞬間、ニヤついていたライザーの表情が憤怒へと変わる。

 

「貴様、自分の立場を弁えてモノを言っているのか?たかだか下級悪魔の分際で上級悪魔に楯突くことが何を意味するか、分かっているんだろうな?」

 

「知るかッ、ゲームなんざ必要ねぇ!!この場で全員倒してやらぁ!!来い、『赤龍帝の籠手』ッ!!」

 

『Boost!!』

 

聞き慣れた機械音と共に赤龍帝の籠手を発動して俺は飛び出す。

そうだ、俺には神や魔王をも屠れる『赤龍帝の籠手』がある。

相手が上級悪魔だろうがなんだろうが関係ねぇ!!

この場で全員倒してゲームなんざ必要ないことを証明してやるッ!!

 

「ハァ、ミラ。」

 

「はい。」

 

嘆息するライザーの呼び声に応じて道着姿に棍を携えた小さな女の子が飛び出してきた。

 

…こんな小さな子が?

 

遣り辛いけど棍を叩き落とせば……

 

 

ッ?!!

 

 

「かはっ……?!」

 

一瞬、何が起きたのか分からなかった。

気が付いたら宙を舞い、天井に叩き付けられ、そのまま床に落下していた。

 

痛ェ……全身が痛い…

 

だが腹に感じるとりわけ大きな痛みで理解できた。

 

そうか、俺、あの子にやられたのか……

 

「イッセーさん!!」

 

アーシアがすぐさま俺の側に駆け寄って来て神器で癒してくれる。

すると腹部の痛みが徐々に和らいでいくのを感じた。

 

 

「弱いな、お前。」

 

 

「ッ」

 

いつの間にかライザーが俺の側にやって来てしゃがみこんで言う。

 

「ミラは俺の下僕の中じゃ一番弱いがそれでも悪魔としての質も経験もお前より上だ。お前なんぞが『赤龍帝の籠手』の宿主とは赤龍帝もとんだ災難だな。極めれば神や魔王も倒せるとは言うものの俺にすら届いていない。こういうのを人間界のことわざで『宝の持ち腐れ』、『豚に真珠』っていうんだっけか?ハハハ、正にお前のことだな!!」

 

愉快そうにペチペチと俺の頭を叩くライザー。

 

ぐっ……

 

悔しいが言い返せない。

 

自分より小さな女の子に負けたんだ。

 

弱いのは事実だから……

 

「それに」

 

ッ?!

 

突如髪を荒々しく、乱雑に引っ張られるのを感じたと思うとすぐ目の前にライザーの顔があった。

 

っ……!

 

奴の目を見た瞬間全身に悪寒が走った。

 

その目は怖いくらいに真剣そのもの、そして怒りと侮蔑がないまぜになっていたからだ。

 

とてもじゃないがさっきと同一人物とは思えない。

 

 

「お前、さっき俺がリアスに相応しくないとか言ったな。だがお前はどうだ?あの程度の挑発に乗せられるようじゃ程度が知れる。何より下僕の不始末は主の責任になる。お前がこうやって何かしでかせばそのままリアスが恥をかくことになるんだ……正直お前にリアスの『兵士』は大役過ぎるんだよ。」

 

 

ライザーはそう言って俺の髪をまた雑に手放す。

 

「見たところまだ悪魔に転生して日が浅いようだから今回はリアスに免じてこれで勘弁しておいてやる。だが次は無いぞ。」

 

クソッ……

 

悔しいがライザーの言う通りだ。

俺の勝手な行動で結果部長に迷惑をかけることになっちまうってのに……!!

 

「リアス、キミもキミだ。主の評価は下僕によっても左右されることくらい知っているだろう。いかに赤龍帝とはいえ何故こんな下らん男を下僕にした?」

 

「ッ!……私の下僕を侮辱するというのかしら?」

 

「侮辱?何を言っているんだ?事実だろう。キミがいずれ正式にデビューすればその眷属もまた公の場に顔を出すことになる。そのような場でコイツみたいに安い挑発に乗ってキレてかかるようではキミ自身が恥をかくことになるのは分からんわけじゃあるまい。今だって俺でなければ無礼討ちにされていても何らおかしくはなかったぞ。ただでさえ気位の高いキミが何故こんな下品な輩を下僕にしたのか未だに理解に苦しむところだ……だがまあソイツが『赤龍帝の籠手』を所持しているのもまた事実だ―――――そうだ、十日でどうだ?使いこなせれば多少はマシな戦いができるかもしれないが?」

 

「……私達にハンデをくれるというの?」

 

「嫌か?屈辱か?だがレーティングゲームは感情だけで勝てる程甘くはない。それにキミはゲームの初心者どころかまだ公式な参加資格すらない身だ、修行をしてもなんらおかしいことはない。実戦でどれだけ強かろうと、どれだけ才能があろうとも初戦で力を発揮しきれず負けを見た奴らはごまんといる。それにキミなら十日あれば下僕を多少はマシに仕上げられるだろう。」

 

「……」

 

部長は悔し気な様子ながらも黙ったままだった。

 

そしてライザー達の足下に魔法陣が輝きだす。

 

不意に奴の視線が俺に移る。

 

「くれぐれもリアスに恥をかかせるなよ、リアスの『兵士』。お前の一撃がリアスの一撃になるんだよ―――――リアス、次はゲームで会おう。」

 

「ッ」

 

そう言い残して奴は消えていった。

 

アイツの最後の一言、あんな奴でも一応は部長のこと気にかけてるのか。

 

俺は自分の不甲斐無さがたまらなく悔しかった。

 

 

 

 

 

◆◇         ◆◇

 

 

 

 

「どうです、多少は落ち着かれましたか?」

 

「ええ、先程はごめんなさい。取り乱してしまって……」

 

「いえいえ、私とて散々に煮え湯を飲まされた身ですのでお気持ちはお察しします。まして貴女は愛する者を奪われた身だ。無理からぬことです。」

 

先程までこの場を埋め尽くしていた、最早山と化した死屍累々と血の海はすっかり消えていた。

謝る女神シャラとそれを宥める嘗てのエジプトの最高神アメン。

 

「それで、本当なのですか、さっきの話は?」

 

「ええ。何故我らが目覚めるに至ったのか、恐らくは聖書の神が消滅したが故でしょう。」

 

 

「くっ…ククククッ、あはははははは!!!!」

 

 

アメンの言葉に突如として笑い出すシャラ。

その比類なき美貌には気色と共に狂気の色が交じっていた。

 

「良い様だわ!!あれだけ他の神を貶し陥れた挙句『唯一神』だなんて名乗ってた癖にあんな脆弱な悪魔や堕天使と戦って死んだなんて……ぷくく、あはははは!!とんだ茶番ね!!傑作だわ!!」

 

そんな彼女を見てアメンもニヤリと口元を歪める。

 

「ええ、まったくです。ですが未だに勢力図は変動せぬまま……それもこれも聖書の神の死が隠蔽されたままであるが故。加えて魔王も消滅した今三大勢力は見る影もなく衰退した状態です。祀るべき神もおらず魔王もいない、既に存在意義を喪失したに等しい神話体系だ。しかしあの無知蒙昧な偽善者のミカエルを初め悪知恵だけは働く悪戯小僧のアザゼル、更には力だけで能の無い、果ては本来の魔王の血縁ですらないひよっこな偽りの魔王達、彼らはその事実を認めず未だ自分達が世界を牽引しているなどという誇大妄想を抱いている。片や愛の名の下に殺戮を繰り広げ、またある者は神器の為に他への被害を顧みず、そしてある者は自らの繁栄の為だけに人間を初め様々な種族に徒に犠牲を強いている―――――それも我らの名を騙ってね。」

 

アメンの最後の一言にシャラの片眉がピクリと動く。

 

「…ええ、無論、よーく知っているわ。特に現魔王の二人、サーゼクス・ルシファーとアジュカ・ベルゼブブの二人はね。」

 

シャラの反応にアメンはクツクツと喉を鳴らす。

 

「それは何より。説明する手間が省けるというものです。貴女の言う二人は元の名をそれぞれサーゼクス・グレモリーとアジュカ・アスタロト、そしてサーゼクスの母親はバアル家の出。共に他でもない、あの二人、アダドとアスタルテの力を受け継ぐ家系の者達です。まあ、受け継ぐとはいっても悪魔にしては保有する因子のレベルがそこそこ高いというくらいですのであの二人の力と比べれば質、量共にほど遠いと言わざるを得ませんが。」

 

「それはそうでしょうね。いかに悪魔の変異体といえど、祖神の因子が色濃く出ていようとも元は悪魔である以上元であるあの二人には遠く及ばない。例え前魔王の十倍に相当する力があろうともね。ましてあの二人を含め古代神は各々が聖書の神とそのシステムを脅かすほどの、いうなれば神々の中での規格外(・・・・・・・・・)。それはあなたご自身が最も御存知でしょう?」

 

「少々買いかぶり過ぎな気もしますがまあ否定はしません。参考までに訊きますが、何ゆえ貴女は斯様な事を?」

 

アメンの問いに彼女は短く息を吐く。

 

「……気に入らないの、この世界が。」

 

「ほう、それは?」

 

「聖書の三大勢力、あの者達が未だに跋扈しているからよ。神話体系である以上人間の信仰を求めるのは理解できるわ。けれども私達をここまで追い込む必要があったのかしら?ぽっと出の癖にあらゆる神話体系から信者を奪うか殺すかした挙句自らを絶対的な正義だと信じて疑わず他の神々には邪神の烙印を押して陥れた…何より彼らにしたあの仕打ちだけは絶対に許すことはできないッ!……けれども奴らも落ちぶれたものよね、あれだけ下等と見下して止まぬ人間に頼らずして種の存続すら叶わないんですもの。確かにあなたの仰る通り最早神話体系と呼べたものではないでしょう。それに天界の鳩共ばかりでなく堕天使や悪魔も大概よね?部下の統率もまともにできていなかったり理想論ばかりで現実を見ようとしなかったり。」

 

「ククク、まったくもってその通りです。そもそもが現魔王達は魔力の大きさで今の地位にあるようなものであるし、堕天使に至っては堕天している時点でゴロツキの集団のようなもの。彼らが頂点に立ったのは必然ではない、飽くまでも成り行きに過ぎない。統治者としての資質を欠いているのもある意味では当然といえるでしょう。私も目覚めてよりしばらくの間世界を見てきましたがこれほどまでに零落したものかと嘆息せざるを得ませんでしたよ。神々を始め超常の存在の集団あっての神話体系、しかしあろうことにか人間に依存せねば生き残れない、その上害悪にしかならぬようであればそれは最早超常の存在たりえない、ただの寄生虫も同じです。故に私はこう結論付けました――――――三大勢力はこの世界より取り除かれるべき癌であると。」

 

アメンの言葉にシャラは目を見開く。

 

「では、あなたも……」

 

「ええ。私の目的もあなたと同じです。ですが幸いにも戦争の再開を目論む者達は大勢います。当分の間は彼らに踊っていただくとしましょう。丁度良い協力者もできたことですし。それはそうと貴女にはお話しておくことがあります……」

 

 

 

世界は揺れる。

 

それが如何なる結末を描くのか。

 

それを知る者は誰一人としていない。

 




今回は最後がまとまりませんでした。

やはりあまりに長い間放置し過ぎた所為か……

あと来月も用事があり暫く更新できないと思われるので、もしかすると次話投稿が4月になる可能性もあるのでご了承くださいm(__)m


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火種

超お久しぶりです!!
気づけば最後の更新からはや二年半…
勢いに任せてリメイクしてみたものの第二章で主人公をどう絡ませるかで行き詰まり、そのまま放置に……
待っていてくださった方、長い間お待たせして本当に申し訳ありません!
久々の投稿なのでところどころおかしいところもあると思いますが、どうぞ生温かい目で見守っていただけると幸いですw



火種

 

 

 

 

燦々と降り注ぐ陽光の下、色とりどりの植物が天に向かって花を咲かせ、澄んだせせらぎが耳に心地よい。情景を形作るあらゆる要素が五感から入り込み、訪れる者総てを浮世のしがらみから解放する。

そんな延々と続く楽園の中、石造りのコテージの下に二人、設置されたテーブルを挟んで向かい合うように座っていた。

 

「いかがです?この紅茶は。茶葉はもちろん、土、水に至るまで全てこの園で育まれ、その後の加工も完璧な温度と湿度管理の下行われたものです。手前味噌ではありますが、これ以上のものは恐らくこの世界には存在しないでしょう。」

「確かに、この芳醇な香りと深みのある味わい。今までに口にした中でも最高のものだな。」

 

テーブルを囲むのは二人の青年。

一人は黒髪、もう一人は緋色の髪をしており、共に古代オリエント文明の壁画に描かれているような衣装を身に纏っていた。

緋色の髪の青年は手にしていたカップを置くと、黒髪の青年に向かって切り出した。

 

「そろそろ本題を聞こうか。茶会のためだけにわざわざ呼び出したわけでもあるまい。」

「おや、もう少しゆっくりしてもらっても良いのに…ですがまあ、あなたがそう仰るのならお言葉に甘えさせていただきましょう。実は近日中にとある催しを執り行うつもりでいましてね。その案内をしようとキミを呼んだのです。」

「催し?」

「ええ。とりあえずこちらを。口で説明するよりも、これを見ていただいた方がわかりやすいと思います。」

 

黒髪の青年がそういうと同時に球体が出現し、中にとある光景が映し出される。

まず映ったのは豪華な装飾の施された部屋で優雅にくつろぐ金髪の男女が二人。

二人は兄妹なのか、よく似ている。

そして映像が切り替わり、今度はどこかの山中で、ジャージ姿の高校生くらいの男女が6人。

何かの特訓と思しき活動に取り組んでおり、組手らしき場面では茶髪の少年が白髪の少女の拳を受けて盛大に木の幹とハグする様子が映っていた。

 

「これは……そういうことか。」

 

緋髪の青年はその映像を見た瞬間は神妙そうな顔をしたが、それ以上の反応を見せることは

 

「なるほどな、これが役者というわけか。実にお前たちらしい。それなりに面白そうな演目だ。」

「ふむ、意外ですね。」

「何がだ?」

 

黒髪の青年の言葉に、緋髪の青年は心底不思議そうな様子で答えた。

 

「キミは彼らと、特に赤龍帝とは親しい間柄だと聞いていたので、てっきり止めるものかと思っていたのですが……そうではないのですね。」

「ほう?そこまで突き止めていたとはさすがだな。この際だから誤解のないように言っておくが、俺はあの者たちと親しいわけではない。だが、『赤い龍』は別だ。奴自身の力は大したことはなくとも力を呼ぶその性質は健在。おまけにグレモリーの娘――悪魔と結びつくというある意味で最悪の組み合わせだ。近くで様子を見るに越したことはあるまい。それに――」

 

「奴らはこれから否応なしに困難に巻き込まれることになる。この程度の試練を乗り越えられないようでは到底先はない。」

「……おや、随分冷たいのですね。まあ、こちらとしてもあなた方に手を出されるのは望むところではありませんからね……」

「ならば心配は無用だ。わざわざ悪魔どもの揉め事に関わっていられるほど暇でもないのでな……当日は楽しみにしているよ。」

 

それだけを言い残して緋髪の青年は席を立ち、園から姿を消した。

 

「やれやれ……あそこまで気にしていない素振りを見せられるとは、むしろすがすがしいというかなんというか。」

 

黒髪の青年がため息を吐いたとき、ぼうっとした青白い人影がその場に現れる。

 

『ご苦労だったね、アメン。それで彼の返答は?』

「恐らく今回に関しては大丈夫でしょう。でも万が一、という場合も考えられますから、警戒するに越したことはないでしょう……ところで、仕込みの方はどうです?」

『順調だよ。これから最後の詰めに取り掛かるところでね。もうあと一息だ。』

「そうですか、それはよかったです。でも、正直今回のような役回りはもうしたくありませんねぇ。彼らを敵に回すのはあまりに厄介だ。」

『ククク、まあそういってくれるな、我が片割れよ。今回の結果いかんで今後の流れが大きく変わる。君たちが動いてくれて本当に助かっているよ。おかげで今回の仕掛け人となる彼らも順調に育ってきている。』

「確かに、彼らを相手取るならアナタが最も適任だ。さて、私はこれから次の計画の段取りに移ります。二人の様子についてもまた報告をお願いします。」

『了解した。健闘を祈るよ。』

 

話が終わると同時に人影は消滅する。

 

「ふう、これからもまた一段と忙しくなりそうですねぇ。せめてこれ以上私の気苦労を増やさないでくれることを願いますよ、有馬崇哉、いえ――バアル・ハダド君?」

 

 

 

 

 

 

◇◆    ◆◇

 

 

 

 

「予想通りの展開になりましたわね、お兄様。」

「ああ、奴らの反応があまりに予想通り過ぎて笑いを堪えるのに必死だったよ、レイヴェル。」

 

駒王学園での騒動の後、ライザー・フェニックスは眷属を下がらせ、実妹のレイヴェルと二人、冥界の自室にてティータイムを楽しんでいた。

 

「先方は相変わらずお兄様がリアス様との結婚を望んでいて、一方のリアス様はお兄様と結婚したくないどころか毛嫌いしている、といった認識ですものね。」

「そうだろうな。いや、寧ろそうあってもらわなくては困る。下手に気取られるようなことがあっては全てが台無しだ。そのために態々今日まで『素行不良で女漁りが趣味のボンボンな三男坊』を演じてきたのだからな……。とはいえ」

 

ライザーはカップの中身を飲み干す。冥界でも最高級の茶葉を使用した紅茶が喉を通るたびにその芳醇な香りが鼻腔をくすぐる。

そしてカップを置くと再び口を開いた。

 

「さすがに急かされて話し合いに行った先で件の赤龍帝にメンチ切られるとは思わなかったがな。話には聞いてたがまさか本当だったとはね。」

 

ライザーは自嘲気味に笑った。一方のレイヴェルも事の深刻さを察してか、真剣な面持ちを崩すことなくスッと目を細める。

 

「ええ。まだまだ未覚醒のようでしたが、内側より感じられた強大なドラゴンの気配。恐らく『赤い龍』(ウェルシュ・ドラゴン)のもので間違いないでしょう。それで、いかがなさいますの、お兄様?」

 

問い掛けるレイヴェルは不敵な笑みを浮かべてみせる。

問い掛けられたライザーもフッと息を吐くと背もたれに深く腰掛けて瞑目する。

 

「どうするか、ね。だがそれは言うまでもないだろうな、勿論――――――――――――摘むよ。」

 

ライザーは氷のような瞳を見開いた。

そこには一切の感情は映っていない。

 

「あの男、赤龍帝は今はまだ全ての面において未熟だ。だが放っておけば近い将来飛躍的な成長を遂げるだろう。魔王の身内の眷属ということを差し引いてもゆくゆくは現政権の急先鋒を担うほどポジションにもなりえる。もしそうなれば……」

「……いずれ彼は我々の前に立ちはだかる、そういうことですわね?」

「ああそうだ。そしてそれは紛れもない、あのお方の計略に遅延を齎すということだ。正直ミラをけしかけた直後から胸騒ぎがやまなくてな、こんな気分になったのは()()して以来初めてだ。だがそのようなことは断じて許されない。禍根は絶つ。それが今、我らの為すべきことだ……!」

 

ライザーの語気が強まるにつれて室内の気温が上昇を始めた。

表情も険しくなり、握った拳も力が入り過ぎるあまりわなわなと震えている。

そしてごく微量ではあるが、ライザーの周囲を青い火の粉が舞い、目元にはある特徴的な紋様が浮かび上がる。

 

「グレモリーとの婚約なんぞ端からどうでも良かった、だが結果として危険因子を排除する機会に恵まれた。この機を逃すわけにh『まあ、少し落ち着きたまえよ』!!!」

 

突然割って入る第三者の声。

その声にライザーもレイヴェルも弾かれたように立ち上がる。

部屋の空気は一変して根源的な畏怖の念を掻き立てるようにどこか神聖で、それでいて悪魔である二人にとっても限りない幸福感を感じさせ、更には青い羽根―――――恐らく実体のないアストラル体であろう―――――が宙を舞う、そんな不思議な空気で満たされていた。

 

「あ、あぁ……貴方様は……」

 

ライザーは魂から歓喜にうち震えていた。

その姿は恰も崇拝する神を目の当たりにした敬虔な信者を思わせる。

見ればレイヴェルも彼と同様の反応を示していた。

 

二人の視線の先にいる者、それは―――――

 

 

『やぁ、久しぶりだね。我が翼と炎を受け継ぎし者達よ。二人共変わりないようで何よりだ。』

 

 

 

―――――黄金に輝く冠を戴いた青鷺の姿をした霊鳥だった。

 

 

 

 

◆◇      ◇◆

 

 

 

 

『フフフ、前回会った時よりも二人共霊格が高まっているようだね。非常に良い傾向だ。』

「はっ、お褒めに預かり光栄であります。」

 

青鷺の前にライザーとレイヴェルは共に跪いていた。

仮にも上級悪魔の子息子女である二人が突然現れた得体の知れない鳥に向って首を垂れるなど、事情を知らない者の目には非常に滑稽に映るだろう。

しかし当の本人達は嫌な顔一つしないどころか、相も変らず当然のように頭を下げ続ける。

その様子にはある種の崇拝、或いは陶酔感すら感じさせる。

そして青鷺もまた、決してただの鳥ではなかった。

放たれる神々しい輝きに相対する者全てを圧倒するがごとき神聖なオーラ。

神性でありながらも悪魔である二人が害されるどころかむしろ至福と歓喜に打ち震える様、この鳥は魔に属する者にも、自ら膝を折らせる。

 

『さて、先程は何やら随分と私に関することで荒れていたようだが……よければ聞かせてもらえるだろうか?』

「分かりました。では」

 

ライザーの目元に再び紋様が浮かび、その目を抉り出す。

そして―――

 

「どうぞ、御照覧ください。」

 

ライザーは抉り出した自身の眼球を握りつぶす。

潰された眼球は粉末となって辺り一帯に漂う。

部屋全体に充満した後、レイヴェルも、霊鳥も目を閉じる。

 

 

紅髪の令嬢

 

挑発する不死鳥

 

赤龍帝の青年

 

そしてこの先起こりうる未来

 

各々の脳裏につい先ほどの光景が浮かび上がる。

 

『……なるほど』

 

一通りのビジョンの展開が終了すると、霊鳥が目を開いた。

 

『それで赤龍帝の彼を、殺す必要ありと判断したわけか。』

「はい。」

『確かに、これまでにないタイプだ。実に興味深い。もしこれがこの先事実になるとしたら動きにくくなるだろうね。』

 

ライザーとレイヴェルが憂いと苦渋の混じる表情であるのに対し、当の青き霊鳥は欠片も気に掛ける様子が無い。二人は疑問に思いながらも、どこかでは納得もしていた。自分達は、目の前にいるこの自分達の真の主の姿ばかりでなく、力の一片たりとて目にしたことは無い。しかし初めて分霊の姿を以て自分達の前に降り立ったあの日、二人の人生は変わった。魂の底から畏敬、憧憬、尊崇と、あらゆる情念が湧き起こり、己の存在全てが包み込まれるようにして、それでいてより高みに昇ったことが感じ取れた。このような感覚は超越者と呼ばれ、先代魔王はおろか並の神さえも凌ぐと噂される現魔王と相対してもついぞ覚えることのなかったもの。その名を語られるよりも早く、二人は悟った。

この霊鳥こそ、自分達不死鳥の原点・始原の存在にして最も偉大な存在であると。

 

「いかがいたしましょうか?必要とあらば此度の戦いで事故に見せかけて処理することも可能ですが。」

 

ライザーの言葉に霊鳥は暫し考えるように沈黙する。

そして

 

『分かった。では彼のことは君達に任せることとしよう。だがいかに君たちがその“目”を開眼したとはいえまだ完全ではない。見たモノはあくまで可能性の一端だ。今ここで無理に始末しようとしなくてもいい。むしろ注意すべきは彼に力を与えうる要因の方だ。キミとリアス・グレモリーの婚約を掛けての一戦ということは当然魔王サーゼクスも観戦するのだろう?』

「はっ、恐らくは。」

『ならば尚更だ。キミ達にはまだまだやってもらわねばならないことがある。今不自然な動きをして魔王に感付かれる方が問題だということは分かるね?』

 

霊鳥の言葉にライザーは沈黙を以て答える。

だがどこにも不満そうな様子はない。

当然だった。

始祖たる不死鳥の眷属として覚醒したライザーらにとっては、自分達の主の意思は全てだ。

ゆえに目の前の霊鳥が必要なしと判断したのであればそれ以上口を挟む理由など彼らにはないのだった。

そしてそんなライザー達の様子に霊鳥は満足そうな様子を見せる。

 

『理解が早くて何よりだ。やはり君達を選んだことは間違いではなかったようだ……そうだ、確か例の試合は十日後だったかな?』

「左様でございます。」

『そうか、では私も遠くからにはなるが観戦させてもらおう。』

「「!!」」

 

その一言にライザーも、レイヴェルも息を呑む。

大いなる始祖が直々に見初めたとはいえ、取るに足らぬ悪魔の、それも私的な事案に興味を示すなど、二人からすれば理解の範疇を越えることだった。

困惑する二人に対して霊鳥は語り掛ける。

 

『おや、随分と不思議そうな顔をしているね。不服かな?』

「っ!いえ、断じてそのようなことはございません。ですがやはり、悪魔の遊戯など貴方様の御時間を頂戴するに値するとは思えないのですが……」

『そういうことであれば心配は要らない。私もキミの言っていた赤龍帝の彼が果たしてこの先本当に脅威になり得る存在か確かめたいからね……そして勿論君たちが如何なる活躍を見せてくれるのかにも大いに注目しているのだよ、ライザー、レイヴェル。』

「「っ」」

 

その言葉を耳にした瞬間、ライザーとレイヴェルは半ば反射的に胸に拳を当てて膝を着き、首を垂れるのであった。

 

「有り難き幸せッ!!このライザー・フェニックス、レイヴェル共々、必ずや貴方様の名に恥じぬ戦いを、いえ、勝利を捧げると誓約致します!」

『フフフ、それは頼もしい限りだ。期待しているよ……そろそろ時間だ。それではまた会おう、我が末裔たちよ。』

 

青き霊鳥は大きく翼を広げると、視界を白く塗り潰すほどの眩い光を発しながら青い炎に包まれる。

光が止んだ時、そこは先程と変わらぬフェニックス家の一室、そして膝を着くライザーとレイヴェルの二人の姿があるのみだった。

ライザーは徐に立ち上がる。

 

「レイヴェル」

「…はい。」

「10日後は勝つ。何があってもだ。」

 

ライザーは振り返ることなく告げたので、その表情を窺い知ることはできない。しかし後ろ姿からでもその気迫は伝わって来る。

きっと決意に満ち満ちた表情をしているのだろう。

 

「ええ。勿論ですわ、お兄様。」

 

レイヴェルもそんな兄の姿に微笑むのだった。

 

 

 

 

◇◆    ◆◇

 

 

 

 

決戦の時を翌々日に控えた日の晩。

神々しく輝く夜更けの月が照らす湖畔の別荘にて、若き悪魔の『兵士』は紅の主の思いを受け止め、彼もまた、己の胸中に渦巻く思いを吐露する。

そして、主の理想を叶えるには今の自分がいかに非力であるかを実感し、悔しさに涙を流すのであった。

 

「私が、あなたに自信をあげる。だから、今は休みなさい……」

「っ…はい……」

 

少年は、主たる少女の胸の中でさめざめと泣いた。

自らの無力を噛みしめ、主の夢の実現、そして彼女への想いを抱いて。

 

二人の姿に恥じ入るように、夜空の月はその姿を雲で隠す。

吹き抜ける夜更けの風は肌に心地よく、それでいて冷たくもあった。

 

「さあ、そろそろ戻りましょうか。」

「はいっ…!」

 

顔を上げた少年と、少女は見つめ合ってクスりと微笑む。

その瞳に宿る光は先ほどの弱弱しいものではなく、決意と覚悟を秘めていた。

それぞれの胸に思いを抱き、二人は歩みを始める。

 

ちょうどそのころ、雲間から再び月が顔を出す。

どこまでも深く、鮮やかで、しかしながらどこか本能的な危機感を呼び起こすような色合いに染まっていた―――彼らの運命()を照らすがごとく。

 

 

 

 

 

 

 

 



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鳳凰幻魔

今回は早めの投稿です。
でも、長い……
一万字超えたのっていつ以来かな…

とくに後半部分はお気を悪くされる方もいらっしゃるかもしれないので、予めご了承ください。

それではどうぞ!


鳳凰幻魔

 

 

 

 

《ライザー様の『兵士』2名『僧侶』1名、『剣士』2名、リタイア。》

 

「よっしゃあっっ!!!」

「やったね!イッセー君!」

 

ゲーム当日、俺たちは順調に相手を撃破し、着実に勝利へと近づいていた。

そして今、俺と木場の連携で、木場の『魔剣創造』に俺の『赤龍帝の籠手』で倍化した力を譲渡して解放、敵の一掃に成功したんだ!

修行の成果が確実に出ていると感じるぜ!!

駒数をフルに活用していた焼き鳥(ライザー)の下僕ももう半分以下に減っている。

途中、ライザーの『女王』の不意打ちで俺たちの大切な仲間である子猫ちゃんがリタイアしてしまうという悲しい出来事もあった。

いくらゲームだからって、発育途上な子猫ちゃんのロリボディをあんな乱暴に……じゃなくて、あんな卑怯な手を使って傷つけるなんて絶対に許せねぇ!

でもあんなヤツ、同じく『女王』の朱乃さんがきっと倒してくれるはずだ!!

 

「木場!これからどうする?」

「そうだね、残っている敵眷属で脅威になりうるのは『王』意外だと『女王』だけだ。決戦となればこの両者も自身の『王』と合流するのはほぼ確実だろう。こちらは子猫ちゃん以外は皆残っているし、今部長にはアーシアさんもついてる。」

「つーことは……」

「ああ。ひとまず朱乃さんと合流して敵『女王』を叩く。速やかに部長たちの下へ向かおう!」

「よし、そうと決まれば早く朱乃さんのところへ行くぞ!」

 

俺たちが朱乃さんの下へ向かおうとしたちょうどその時だった。

 

突如として体育館の方から爆音が聞こえた。

だがその次の瞬間、俺たちはさらに信じがたい事実を告げられることになる。

 

 

《リアス様の『女王』、リタイア。》

 

 

ッ!!

 

嘘だろ?!朱乃さんが?!!

 

『…ッセー……ん…イッセーさん!』

 

ちょうどその時だった。

耳に付けていたインカムから、切羽詰まった様子のアーシアの声が聞こえてきた。

 

「アーシア!!どうしたんだ?!!」

『大変なんです!私と部長さんとで新校舎に入ったら、そこですでにライザーさんが待ち構えていて…部長さんと一騎打ちをすることになったんです!!』

「なんだって?!」

 

そんな、俺たちの作戦は読まれてたっていうのかよ?!

まだ敵の『女王』は残っているのに!

アーシアの言う通りに、敵本陣のある新校舎の方を見る。

屋上で赤黒い魔力と炎の塊が激しくぶつかっているのが見えた。

間違いない、あそこに部長が……!

 

「木場ッ―――え?」

 

俺が木場の方を振り向いたその時だった。

一瞬世界がスローモーになるのを感じた。その中で、俺は木場の足元に子猫ちゃんの時と同じ、起爆術式の魔法陣が展開しているのを見つけた。

そして――

 

 

《リアス様の『騎士』、リタイア》

 

 

再びの爆音に続いて聞こえた、二度目のリタイアのアナウンス。

煙の切れ間から見えた、光に包まれ消えつつある、ボロボロな木場の姿が、それが非情にも事実であることを物語っていた。

 

「ウフフフ……やはり詰めが甘いのね。」

「!!」

 

聞き覚えのある声がして、空を見上げると、そこには奴の『女王』の姿があった―――しかも全くの無傷で。

 

「テメェ!よくもッ!!ていうか、なんで、何でお前は無傷なんだよ?!」

「ウフフフ、決まってるじゃない。私があなたたちの『女王』よりも強いからだわ―――――というのは冗談よ。本当はこれを使ったの。」

 

そういって、ライザーの『女王』は懐から小瓶を取り出して見せた。

 

「なんだよ……それ?「“フェニックスの涙”。」!!」

 

俺の疑問は奴ではなく、全く別の人物によって答えられた。

 

「どんな傷もたちまちのうちに癒すことのできる、わたくしたちフェニックス家のみが製造可能な霊薬ですわ。ちなみにですが、ゲームでの使用も二本までなら認められておりますの。」

 

代わって答えたのは金髪ドリルヘアーでヨーロッパ貴族のようなドレスを纏った美少女。

こいつは確か焼き鳥の妹で『僧侶』の―――

 

「お前は―――レイヴェル・フェニックス…!」

「あら?てっきり卑猥で野蛮なだけかと思っていましたけれど、わたくしの名前を覚えるだけの記憶力はありましたのね。」

「う、うるせぇ!バカにしやがって!!もう許さねぇ!!テメェら二人とも降りてきやがれ!二人纏めて倒してやらぁ!!!」

「まあ、聞きまして?ユーベルーナ。わたくしたちに降りてこいですって。」

「ふふふ、まったくおかしいですわね。さっきもわたくしが飛んでいたことを卑怯だなんて言っていましたけれど、ならばご自身も飛べばいいだけの話なのに。それとも、まさか基本中の基本である飛行さえままならないのかしら?」

 

くっ…!

こいつら、どこまでもバカにしやがって!

だが続く金髪ドリルツインテの言葉で俺の意識は現実に引き戻される。

 

「でもいいんですの?こんなところで油を売っていて。既にそちらもお兄様とリアス様が一騎打ちをすることは知っているのでしょう?だったらわたくしたちに嚙みつく暇があるなら、さっさと主のところへ向かったらどうです?でないと今頃……」

 

レイヴェルの含みを持った言い方。俺はその意味を理解することになるのだった。

突然、背後から焼けつくような凄まじい熱を感じる。同時に浴びせられる光で影が前に長く伸び、続いて轟音、遅れて熱風と衝撃波が背中に届く。

 

「そんなっ?!!」

 

俺は目を疑った。

さっきまで屋上で部長たちの死闘が繰り広げられていたはずの新校舎は影も形もなく、代わりにそこにあったのは天を焦がすような極太の炎の柱。紅蓮の炎が疑似的に作られた空を真っ赤に染め、ゲームフィールドの結界の上端にまで達していた。

 

気づいたら俺は走り出していた。

正直あの火柱はなんだか恐怖というか、それ以上のナニか、底知れぬ不安――とにかく嫌な感じがする!

中がどうなっているのかはわからないが、アナウンスがない以上部長もアーシアもあそこにいるはずだ!

 

今行きますから、どうか待っててください―――

 

 

「部長おぉぉぉッッッ!!!」

 

 

 

◇◆    ◆◇

 

 

 

兵藤一誠が火柱に向かっていた頃、リアス・グレモリーはアーシア・アルジェントと共に、ライザー・フェニックスと対峙していた。

余裕な表情を崩さないライザーに対し、リアスの表情は険しい。

それもそのはずだった。

リアスとライザーが新校舎で先頭を始めてから、二人はすでにそれなりの時間、魔力を放ち続けていたのだ。結果、魔力消耗はお互いにほぼ等しい。しかしライザーは先ほどの撃ち合いに加えてこのような巨大な炎の渦まで作り出した上で、なおも余裕の表情を見せている。その事実が、リアスの心中に焦りを生み、苛立たせる。

 

「ふむ、お互いに残ったのは『王』を入れて3人、うち『僧侶』はともに非戦闘員。となると『王』以外で戦えるのは、俺のところは『女王』、そして君は『兵士』。加えて君は俺よりも遥かに消耗している……一応聞くが、投了(リザイン)する気はあるか?」

「っ誰が…するわけないでしょうッ!!」

 

リアスは拒絶の意の証明といわんばかりに、残り少ない魔力を練り込んだ渾身の一撃を放つ。しかしそれもあえなく、ライザーの足元から噴き出した炎の壁によって防がれてしまう。

 

「くっ…」

「部長さんっ!!」

 

リアスはその場に崩れ落ち、片膝をつく。回復役として付き添っていたアーシアはすぐさま駆け寄り、治癒を試みる。その時アーシアは改めて、リアスがひどい状態であることに気づく。

服はところどころ破れて肌が露わになり、鮮やかで美しい紅色の髪も乱れ、艶やかな肌も細かな擦り傷が目立ち、埃で汚れてしまっている。

 

「なるほど。キミならばそう言うと思ったよ。だから……」

 

「「!」」

 

リアスとアーシアの足元から炎の渦が現れ、瞬く間に二人をすっぽりと覆う球状の形に変わる。

 

「な、何なのよ、コレ?!出しなさいッ!!」

「少しの間そこでおとなしくしていてもらおう。キミはすでに戦える状態じゃない……戦えぬ者に戦場に立つ資格はない。」

「このッ!!」

 

リアスは脱出を試みて魔力を放つ。

しかし全てを滅するはずの彼女の魔力は炎に飲まれて消える。

 

「無駄だ、その火球は魔力を糧に燃え続ける。魔力を撃てば吸収してさらに燃え上がる。」

 

万事休す。リアスは歯噛みする。

そんな中、ライザーの『女王』であるユーベルーナが現れ、彼に何かを告げる。

 

「そうか。クククク……なあリアス、いい知らせか、悪い知らせかはわからないが、赤龍帝がこちらに向かってきているそうだ。」

「「イッセー(さん)が?!」」

 

リアスとアーシアは目を見開き、顔を見合わせて微笑みあう。

唯一残っている戦闘要員であり、この状況を覆す切り札となりうる『赤龍帝の籠手』を持つイッセーは、彼女たちにとってただ一つ残された希望に他ならなかった。

 

「だが、これまでの戦いで奴もそれなりに疲弊しているはずだ。そんな状態でここへ入ってこられるかな?」

「ライザー、私の下僕を甘く見ないことね。イッセーは必ず来るわ。」

 

憔悴しながらも胸を張ってリアスは答えた。その表情は起死回生の一手をまだあきらめていないことをありありと物語っていた。リアスは確信しているのだ、イッセーが必ず自分手地に勝利をもたらしてくれると。だが、当のライザーはそれを見て、ますます不敵な笑みを深める。

 

「そうか、それを聞いて安心したよ。」

「?どういうことから?」

「すぐにわかる……おっと、噂をすれば」

 

 

『ドラゴンショットォォッッ!!!』

 

 

壁の外側から声が響く。

それは間違いなくリアスたちが待ち望んでいた人物のもの。

炎の壁の一部が眩い光を放つと同時に、轟音が鼓膜を揺らす。

そして空いた穴から一人の人影が飛び込む。

 

「来たな……兵藤一誠!!」

 

入ってきた人物、兵藤一誠の姿を目にした途端、リアスとアーシアは顔を輝かせる。

だがこの時彼女たちは気づいていなかった―――ライザーの顔が狂喜を孕んだ笑みに歪んでいたことに。

それは待ち望んだ獲物が思惑通りに目の前に転がり込んできた姿を見る肉食獣のごとく、どこまでも獰猛で好戦的な笑みだった。

 

 

 

 

◇◆    ◆◇

 

 

 

 

俺が火柱のふもとまでたどり着いたとき、改めてとんでもないものだと気づかされた。

周りには瓦礫で小高い丘ができていて、未だに炎が燃え続けている。おそらく、消えた校舎の残骸だ。そればかりでなく、辺りに生えていた草木も熱で自然発火して燃え、灰と火の粉が雪のように降り注ぐ。

 

「やっぱりデカいな……」

 

真っ赤に燃える炎の壁、これを何とかしないと中に入れない仕掛けなんだろう。だが恐らくただ突っ込むだけでは丸焼きになるのがオチだ。

どうすれば……

 

「何をグズグズしていますの?さっさと中にお入りなさいな。」

「!」

 

どう中に入るか俺が逡巡していると、いつの間にかさっきの焼き鳥の妹のレイヴェルが背後に現れていた。だがさっきまでの俺たちをおちょくったような態度は微塵もなく、代わりに徹底して無表情、それが逆に得体のしれない恐怖を感じさせる。

 

「お前……」

「リアス様たちはこの中にいますわ。兄はあなたが来るまでリアス様に手を出すことはありませんし、私もあなたが中に入るまで手を出さないよう言われています。ですがこの炎熱の中に長くとどまれば体力を消耗するのは必至。長引けば長引くほどあなた方が一層不利になるだけですわ。」

 

くそっ、嵌められたのはこっちだったってわけか。

もしかすると、この向こうで、相手が何か仕掛けているのかもしれない。

でもこいつの言う通り、ぐずぐずしている時間はない。

なら……!

 

「プロモーション『女王』!!」

 

部長が言っていた、敵陣地のみで発動できる能力、『兵士』の駒の奥の手……!

プロモーションした『女王』は『王』を除く眷属の中で最強の駒。

全身に力がみなぎるのを感じる!

 

「来い、『赤龍帝の籠手』!!」

『Boost!』

 

『女王』の能力で底上げされた力を神器で倍化して―――撃つ!!

 

「ドラゴンショットォォッッ!!!」

 

さっきライザーの『戦車』を倒した時以上の出力で赤い光が迸り、炎の壁に直撃する!

その直後、すさまじい爆発が起こる。

煙が収まった後、注視してみると炎の壁にぽっかりと穴が開いている。

 

「やった……!」

 

俺はそのまま穴に飛び込んだ。

 

 

「「イッセー(さん)!!」」

「!!」

 

最初に聞こえたのは部長とアーシアの声だった。

 

「部長!アーシア!」

 

声がした方を見上げると、そこには火の玉の中に閉じ込められた二人の姿が……!

 

「これはッ……待っててください!今助けますから!!」

 

俺が二人を助けるために再び倍化しようとしたその時だった。

 

「イッセー!!危ない!!」

 

二人に気を取られていたのがいけなかった。

俺が後ろを振り向いたその瞬間、何者かによって顔を掴まれて視界が塞がれ、そのまま体が持ち上げられるのを感じた。

 

「よくここまで来れたな、誉めてやろう。転生したての下級悪魔にしてはよく戦ったよ。だが、ここまでだ。」

 

「イッセー!!」

 

何だ?!

頭の辺りが急に熱くなってきやがった!

それだけじゃない、熱に混じって何かが俺の頭の中に入ろうとしている?!

 

『そうだ、お前はこれから地獄を見るのだ。』

 

これは、野郎の声か!!

 

俺は何とかして奴の手を放そうとしてもがく、だが奴の手はびくともしない!

 

『フハハハハ!無駄だ、もはやお前に逃れる術はない!!おとなしく我が術の前に沈め!!』

 

ちくしょう…!

視界を塞がれ、熱で意識が朦朧とする中、頭の中で奴の声だけがいやに大きく響きやがる……

俺を呼ぶ部長とアーシアの声は段々と遠のいていく。

 

俺は、ここまでなのか……?!

 

くそっ……

 

部…長……すみま…せん……

 

 

 

俺の意識はそこで途絶えた―――

 

 

 

◇◆    ◇◆

 

 

 

 

 

―――ここは、どこだ?

 

『おはよう、イッセー。』

 

?!

 

そんな、こんなことが、本当にありうるのか?!

 

『どうしたの?そんなにぼんやりして……あ、さてはまたエッチな夢でも見てたのね?』

 

目の前にいるのは紅色の髪をした女性。紛れもない、あのヒト。

 

そうだ。

 

俺はライザーに勝利し、その後も降りかかる様々な強敵を退けてついに、憧れだったリアス部長と結ばれたんだ。

 

『ううん、なんでもないよ。少し考え事をね。』

『あら、そうなの?おかしなの。』

『おはようございます、リアス様、イッセー様。朝食のご用意ができております。』

『ええ、わかったわ。さあ、行きましょう。』

 

メイドが朝食の準備を告げると一礼して退出する。

 

上級悪魔――貴族になるということは、力だけでなく、知性や教養、ふさわしい振る舞いを身に付けなければならないから大変だ。

 

だが、それ以上に充実している。

 

今日も、新しい一日が始まる。

 

 

『どうだいイッセー君、こちらの生活にも慣れてきたかい?』

『はい!お義父様やお義母様をはじめ、皆さんのお力添えでどうにかやって行けそうです!』

『ははは、それは良かった。何か必要なモノがあれば遠慮なく言ってくれたまえ!』

『うふふ、そうね。イッセーさんが来てからというもの、グレモリー家はいいこと尽くめですものね。こちらこそ、改めてグレモリー家のことをよろしくお願いしますわ。』

 

 

 

『テロリスト、ですか?』

『ああ、そうなんだ。最近また反三大勢力を掲げる不穏分子が世界各地で動き始めていてね、そのうちの一派が北欧のとある寒村に潜伏しているとの情報が入った。』

 

反三大勢力。俺が悪魔に転生してすぐ、聖書の三大勢力は和平を結んだ。

 

だが長年敵対してきた者同士、そうそう簡単に納得できるはずもなく、不満を抱く者も少なくなかった。

 

だが俺たちはやっと実現した平和を守るため、今までもそうした連中と戦い、勝利を収めてきたんだ。

 

『そんなに危険な相手なんですか?』

『それがね、大半は大したことがないんだが、一人急速な勢いで能力値を変動させることのできる者がいるらしくてね。現地のエージェントが手を焼いているらしいんだ。』

『なるほど、確かにそれはですね。』

『そこで君直々に指名が入った。速やかに現地へ向かって対象を捕縛ないし殲滅してほしい。ああ、ちなみにだが、先に現地入りした天界側のスタッフに△△△君もいるから、彼女たちと協力して事に当たってくれ。』

『本当ですか?わかりました、すぐに向かいます!』

 

 

 

『ぐふっ……ここまでか』

 

激闘の末、魔王様の言っていた敵の首魁は倒れた。

 

『やったわね!イッセー君!!』

『ああ!俺たちの勝利だ!!』

 

残党の捕縛・護送も滞りなく進んでいる。

 

事が片付くのにそう時間はかからないだろう。

 

すると、俺と△△△の下へ、村の少年が歩み寄ってきた。

 

『もう安心だぞ。悪い奴らは全員倒したからな…いっ痛ッ?!』

 

飛んできたのは……石?

 

『…消えろよ』

『……え?』

 

消えろ。

 

彼ははっきりとそう言った。

 

俺は一瞬、何を言っているのか分からなかった。

 

『あいつが言ってたぞ…あいつらが来たのはお前ら三大勢力がいるからだって!!それにこの土地は元々精霊様のご加護で緑豊かな土地だったんだ!なのにお前ら三大勢力がやってきて精霊様を殺して乗っ取った!それからこの土地はずっと不毛で皆飢えに苦しんでるんだ!!俺の家族もみんな、飢えに苦しみながら死んでいった!!だから、お前らなんかさっさと消えろ!!』

『なっ……』

 

俺は頭に血が上るのを感じた。

 

こいつ…俺たちが平和を守るためにしてきた努力を否定しやがった……!

 

『まあまあ、落ち着いてイッセー君。ここは私の出番ね。』

 

△△△はそう言って俺をなだめると代わりに前に出た。

 

『ねえ僕、それは辛かったでしょう。でもね、表面的な豊かさに囚われてはダメよ。今はひもじくてもそれは全て主が与えたもうた試練。それを乗り越えることで主とミカエル様がより大きな神の愛をもたらしてくださるわ。それこそが生きとし生ける者の本当の幸せなの。』

『ッ!!……ふ、ふざけるなぁッッ!!』

 

子供は△△△に掴みかかった。

 

そしてそれを見た時、俺の中で何かがキレるのを感じた。

 

そして――

 

『てめぇ、クソガキ!!!自分が何してるかわかってるのか?!!助けてやった恩をあだで返すのか?!!ああ?!』

 

――気づけば、おれは子供を殴り飛ばしていた。

 

『…い、イッセー君。もういいから……』

『っ』

 

我に返って周囲を見ると、村人たちが戦々恐々とした、怯え切った眼で俺たちを見ていた。

 

『…行こう、△△△。魔王様に報告しないといけないんだ。』

『え、ええ……』

 

 

くそっ、思い出しただけで腹が立つ……!

 

俺たちは助けてやったのに、平和のためにいくつもの死線を潜り抜けてきたのに……

 

なんであんな何も知らないガキにあそこまで言われなくちゃならないんだ!

 

『イッセー!!大変よ!!』

 

筒全、リアスが血相を変えて現れた。

 

『駒王町が……駒王町が何者かの襲撃で壊滅したの…!!』

『なっ……』

 

その時、俺は世界のすべてが停まったような気がした。

 

 

 

 

駒王町は周囲の物質を根こそぎ吸い込みながら拡大を続ける漆黒の球体にのみ込まれ、すでに消滅していた。

 

代わりにその中心部には様々な獣の上半身をつなぎ合わせたような怪物が鎮座しており、そのうちの一体の頭から見覚えのある人物の上半身が突き出していた。

 

『うひゃひゃひゃひゃ!!やぁやぁ英雄クン!お久しぶりだねぇ!!元気してたかい??』

『お前はッ?!くそ!生きてやがったのか!!』

『世界が存在する限り、邪悪は決して潰えない、なんてな!!つうわけで消えろや!!』

 

獣の顔の一つが俺に向かってその醜悪な口を大きく開く。

 

『野郎ッ!!』

 

俺も神器を出し、ドラゴンショットの構えを取ったその時だった。

 

《な……ぜ…だ……》

『え?!』

 

獣の顔のうちに箇所が盛り上がり、変形する。

 

そして二人の男女の顔になった。

 

『そんな……父さん、母さん……!』

 

そう、それは、俺の両親の顔だった。

 

《イッ…セー……なぜ…だ?なぜ私たちが…こんな目に……》

《すべて…聞いたわ……この化け物は…あなたたちが振りまいた憎しみを……糧にしていると…》

 

『っ…違う、違うんだ!父さん!母さん!俺たちは世界のためにッ』

『うひゃひゃひゃひゃ!!!こいつは傑作だぜ!!知らねぇなら教えてやるよ。こいつの正体は世界に蔓延る負のエネルギーの総体、つまりは争いの憎しみだの負の事象や感情を司ってんのさ!!本来こいつは世界に一定値以上の負のエネルギーが充満しねえと目覚めないんだが、今の時代は過去最高レベルで憎悪が渦巻いてやがるからなぁ……さぁて問題です!今最も世界にそういった負のエネルギーを輩出してるのは一体全体どこの誰でしょーかっ?!』

『ま、まさか……』

『そう!その通りだよ英雄クン!!君たち三大勢力だ!!テメェらの独り善がりな正義だの平和だのを押し付けられて世界全体がまいってんのさ!!だからよぉ……』

 

うそだ……

 

俺たちの行動が、世界を……

 

『この世界ともども、死☆ね☆』

 

 

 

『嘘だぁあああああああああああッッ!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――まだだ、こんなものでは終わらぬぞ……

 

 

 

 

 

 

 

 

?!

 

『ぐ、あぁぁ……』

 

こ、今度は…何だ……?

 

『フッ、終わったな……サーゼクス様、私の勝ちです。』

 

なっ?!焼き鳥?!!

 

『そんな、イッセー!!』

 

部長!

 

『くっ、すぐに治療を……『お待ちください、サーゼクス様。』?!』

『その者は身の程を弁えず、冥界の未来のかかったこの披露宴の場に土足で踏み込んだのです。いわば謀反も同じ。ゆえにしかるべき処置を下さねばならない。その者の身柄は我々に引き渡していただきましょう。』

『なんだって?!』

『そうです!イッセーは私の眷属です!そのような仕打ちは主として認められません!!』

『控えられよ、リアス殿。元はといえば貴女の我儘が招いたことだ。それに、いかに魔王様ご自身で考えられた趣向といえど、これ以上の勝手をなさるならさすがに見逃すわけにはまいりませんな。』

 

 

それじゃあ、あの紅い髪の部長に似た人が、魔王……

 

『左様。思うに、魔王様はいささかお身内への御贔屓が過ぎるのではございませんか?此度もライザー殿がゲームにおいて実力で勝ち取った勝利をこのような形で覆そうとなさるとは…悪魔社会の慣習を蔑ろにしていると思われても致し方ありますまい。』

『しかし!』

『そもそも、下僕の管理は主の責任でもある。御両名とも、これ以上抗弁を続けてもお立場が悪くなるだけですぞ。』

『うっ、それは……』

『……』

 

なっ?!一体どうしたんですか?!!部長!魔王様っ!

 

『どうやら、ご納得いただけたようですな……その者を連れていけ。』

『『『はっ』』』

 

お、おい!どうなっているんだ?!

 

『イッセー……』

 

え……

 

嘘だろ……?

 

こんなことって……

 

お願いします、嘘だと言ってください……!

 

『う、ぅう……部…長……』

 

 

 

 

『グうッ?!!グヴブブブブブブッッッ?!!!』

 

痛いッ?!!なんだこれは?!!

 

まるで全身が火で炙られた上に刃物で斬りつけられたように痛いッ……!!

 

『ふむ、やはり拒絶反応を起こしたか。魔力増加量も倍化限界値も予想値を下回っている……鎮静剤を投与した後増魔剤を5%増しで継続して投与、それから予定通り再生力実験を行う。』

『了解しました。』

 

おい、ちょっと待て?!

 

俺は実験台にされているのか?!!

 

『…なあ赤龍帝、今の君は己の意思も力も制御することができない、つまりは世界の害悪でしかない。ゆえに、君はこれから伝説のドラゴンの力をも完璧に支配できるだけの強靭な精神と肉体を手に入れなければならないんだ。そして我々にはそれができる。辛いかもしれないが我々を信じるんだ……もっとも、聞こえていないかもしれないがね。』

 

信じろだって?ふざけるなッ!!

 

『ドクター、補肉剤の準備ができました。』

『わかった、では早速取り掛かろう。手はず通り、まずは右手を指先から1㎝ずつ切断だ。くれぐれも慎重にな。』

 

お、おい…!やめ……

 

『いきます。』

『グぶッ?!グブブブブブッッ!!!!』

 

イィッぐ?!ぐああああああああっっっ!!!!!!!

 

 

 

 

《グ、ガガガガ(くそっ、痛ェ)……》

『これが、こんなのが俺のライバルだと……?ふざけるなッ!!おいサーゼクス・ルシファー!!これはどういうことなんだ?!誇り高き天龍をこんな獣に堕すとはどういう了見だ?!』

 

…ライ…バル……?

 

一体、何を言っているんだ。こいつは……?

 

『そうれについては本当に取り返しのつかないことをしたと思っている……リアスもずっと悔やみ続けて、可哀そうに、すっかり窶れてしまった…だから頼む_________!もう頼めるのは君しかいないんだ……彼を元に戻してやってはくれまいか?』

『元に戻せ?ハッ、お前はそこまで耄碌してやがったのか?諦めろ。こいつはもう手遅れだ。そもそも、こういうことになるから俺は部下に殺害命令を出したんだ!なのにお前の妹は力欲しさに転生させたあげく俺の部下を殺しやがって……!だが、次の宿主がまたろくでもない奴なのは面倒だからな。悪いことは言わない―――摘出しろ』

 

殺害…宿主……摘出……っ!

 

まさか、こいつは……

 

『そんな……!何か方法はないのか?!』

『だから!!何度も言っているだろうがッ!そいつはもう元の姿には戻れないんだ!!それにお前と、お前の妹がそいつを見捨てたからこうなったんだろうが!今更都合よく縋るんじゃねぇよこの偽善者が!』

『ッ……そうか、そうだな……ならば致し方ない。』

 

ッ!!

 

『……キミには本当に申し訳のないことをしたと思っている。だが、私は兄として、魔王として、家族と、そして悪魔を守らなければならない。キミはリアスに本当によく尽くしてくれた。もし、まだリアスのことを思ってくれているのなら……』

 

やめろ……

 

やめてくれよ、魔王様……

 

お願いだ、それ以上言わないでくれ!

 

その先は……

 

 

 

 

『君の命を差し出してはくれないだろうか』

 

 

 

 

《グルルグガアアアアアアアア(やめろおおおおおおッッッ)ッッッ!!!!!》

 

 

 

 

 

 

 

―――――『Over Burst, Break the Limit. Mode: Devastator』―――――

 

 

 




はい、後半部分は今まででも最大級にやらかした部分かなー、と自分でも思います。

ちなみに△△△とか_________に当てはまる人物名はお分かりですよね…?


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戦火の果てに

前回から2週間ぶりの投稿となりました。
書いてて思ったけれど、今回も正直賛否が分かれそうな展開です。。。


戦火の果てに

 

 

 

 

「―――ここは、どこだ?」

 

目を開くと、まず視界に入るのは見たことのない天井だった。

でも何でだろう?

俺はどうしてこんなところで仰向けになって寝ていたんだ?

確か俺は皆と部長の婚約を賭けたゲームに出て――――

 

「そうだ!!ゲームは……いッつッ!!」

 

身体を起こそうとしたとき、全身を激痛が襲う。

 

「なんだよ…これ……?!」

 

俺はそこで初めて、自分の身体の状態を悟った。

身体、両手足、そして顔。

全身が見える範囲だけでも包帯に包まれ、左手には何枚もの呪符と魔法陣が付与された枷と何本ものチューブが取り付けられ、それが周囲に並ぶ計器類に接続されている。

そして広々とした空間の中、鏡面のように磨かれた床には紫色に光る巨大な魔法陣が敷かれ、俺はその中心に置かれたベッドの上に寝かせられていたのだった。

 

「お目覚めになりましたか。」

「!グレイフィアさんッ?!」

 

見覚えのあるメイド服姿の女性、グレイフィアさんがこちらに歩いてくるのが見えた。

 

「グレイフィアさん、教えてください!ゲームは、ゲームはどうなったんです?!部長は勝てたんですか?!!」

「落ち着いてください。一度に複数の質問をされても答えかねます。ですがその前に一つ、こちらからも確認させていただきます……本当に、何も覚えていらっしゃらないのですか?」

 

「……え?」

 

俺は聞かれていることの意味が分からなかった。

俺に何を聞こうとしてるんだ?

むしろ何も知らないのは俺の方なのに。

だがそれでも、グレイフィアさんは俺から何かを探り出そうとするように、まじまじと視線を投げかけてくる。

 

「では、質問を変えましょう。あなたはご自身の意識がなくなる直前のことを覚えていますか?」

「!」

 

……意識がなくなる直前…そうだ……

 

俺は、俺はあの時……

 

脳内で≪≪あのビジョン≫≫がフラッシュバックする。

 

全身を悪寒が走り、体中の汗腺からは冷や汗が噴き出し、動悸も激しくなり、しまいには手足が震え出す。

 

「あ…ああ……」

 

その時だった。

部屋の照明が突然赤色に変わり、警報音が鳴る。

 

『患者の容体変化を確認。極度のパニック症状と断定、鎮静剤を注射します。』

 

周りに置かれた計器から電子音声が告げられ、プシュッという音と共に身体から力が抜ける。

 

「まだ、時期尚早でしたか……。」

 

俺は周囲に警報音が鳴り渡っているにも関わらず、意識はまどろみの中にゆっくりと沈んでいく。

最後に目にしたのは、険しくも、とこか悲しげな様子でこちらを見るグレイフィアさんの顔だった。

 

 

 

 

◇◆    ◆◇

 

 

 

 

「っ……」

 

再び目が覚める。

 

目に飛び込んできたのはまた同じ天井だった。

 

一体どれだけの時間眠っていたんだろうか……

 

 

「気が付いたようだね。」

 

「!」

 

声がした方向を見ると、緑色の髪をオールバックにした、どこか妖艶な雰囲気を纏う男性がこちらを見ており、隣にはさっきもいたグレイフィアさんが控えていた。

 

「……あなたは?」

「一誠様、こちらは現四大魔王がお一人にして、冥界の最高技術顧問でもあらせられる、アジュカ・ベルゼブブ様です。」

「なッ?!魔王様?!!……ぐっ」

 

驚きのあまり、反射的に身を起こそうとして再び痛みに襲われる。

 

「落ち着いてくれ。今の君はかなりの重体なんだ。それもこうしてはっきり意識が戻ったことが不思議なほどにね。」

 

俺は魔王様に言われたとおりに、再びベッドに身を横たえた。

 

「それと、さきほどはすまなかったね。グレイフィアに試すようなことを訊かせたのは俺だ。」

「そう…なんですか」

「それから君が気になっているゲームの勝敗についてだが……勝ったのはライザーだ。」

「……!」

 

嘘、だろ……?

 

それじゃあ、部長はあいつと…ライザーと……!

 

 

「だが同時に、今回の一件でリアス・グレモリーとの婚約が進むかどうかも不透明になった。」

「!!」

 

 

告げられた一言はあまりにも意外なモノだった。

 

「どういうことですか?!あのゲームが最終手段だって……あのゲームに勝てないと部長は自由になれないって…!だから、俺たちは……ッ!!」

「ああ。確かに、ゲームが何事もなく進んで決着がついたのであればそうなっていた。」

「?」

「口で説明するよりも実際に見てもらった方が早いだろう……ああ、そうだ。今から見せるものはもしかすると君の気分を著しく害するかもしれない。その時は遠慮なく言ってくれ。」

「…わかりました。」

「よろしい。グレイフィア、頼む。」

「承知いたしました。」

 

魔王様の言葉でグレイフィアさんが小型の魔法陣を展開するとスクリーンが現れ、そこに先日のゲームと思しき映像が映っていた。

映像はちょうど俺が火柱の中に突入したところから再生される。

火球の中に閉じ込められた部長とアーシアを助けようとしたところ、背後から忍び寄るライザーが俺の頭を掴み、持ち上げた。

ここまでは俺も記憶に残っている。

そして数秒の後、映像の中の俺は何かにうなされるように苦しみだした。

 

『うぐぐぐ…』

 

それからさらに数秒後、俺の左手から赤い靄のようなものが漂い始め、次の瞬間、莫大な質量のオーラとなって四方八方へ噴き出した。

 

『イッセー?!!』

『ぐっ、まだこんな力を秘めていたのか……ククククッ、だが面白い!!ただの未熟なガキだとばかり思っていたが、確かにこいつは『赤龍帝』だってことか!!』

 

噴き出したオーラで俺を掴んでいた片腕を消し飛ばされた焼き鳥は飛びのく。

しかし失われた片腕もすぐに再生を始めており、恐れるどころかかえって獰猛な笑みを深める。

 

『……!…や、やめ……やややややめ……やめめめめ…やめ…ややめめめ……』

 

放り出された俺の身体は宙に浮かび、白目を剥いたままうわごとの様に言葉にならない何かを叫び続けている。

オーラの噴出はなおも続き、そのうちに体が限界を迎えたらしく、至る所から鮮血が噴き出し始めた。

 

『イッセー!!しっかりして!!ライザー!あなたイッセーに何をしたの?!!』

『なぁに、少し夢を見せてやっただけさ!ここまで寝相が悪いとは予想外だったがな!……む?』

 

俺の左腕が一度大きく脈動すると、籠手の内側から肉が盛り上がり、肥大して異形のそれへと瞬く間に変貌していく。そうして出来上がったのはまさしくドラゴンの腕。だがそれは異常なほど長く、赤い鱗の間から棘や翼、籠手に嵌っていた宝玉などが生えたひどく歪で不気味なものだった。

そしてそれらの宝玉が強く輝くとオーラの噴出量はさらに増え、やがてフィールドの結界までもが悲鳴を上げ、疑似的に作られた空にはミシミシと音を立てて亀裂が走る。

 

『なにっ?!この力は……フ、フハハハハ!すごい!すごいぞ!これは最上級悪魔、いや、もう少しで魔王クラスだ!!まさか、奴の力がここまで跳ね上がるとは思いもしなかっ……ごふッ?!!』

 

ライザーは俺の姿を見て狂喜していた。

だがその時、異形と化した俺の左腕が意思を持ったように動き、目にもとまらぬ速さで伸びる。そして興奮気味のライザーを鋭利な爪で鷲掴みにすると、そのまま地面に叩きつける。

それも何度も、何度も。

普通の相手なら今のでミンチになっていてもおかしくない。

だが奴は不死鳥だ。さすがというべきか、無数の火の粉が集まってすぐに奴は再生を果たした。

 

『化け物め……腕だけになってもなお俺をつけ狙うか。』

 

奴は忌々し気な瞳で意識のない俺を睨み付ける。

炎と赤いオーラの嵐の中で、宙に浮かんで微動だにしない俺の周囲を漂うように、異形と化した左腕が宝玉を輝かせながら不気味にうねっていた。

 

『いいだろう……貴様が力に身を呑まれてでも俺を排除しようというのなら、俺も絶対の力を以て貴様を葬ってくれよう……』

 

ライザーは瞑目する。

 

『ライザー?!あなた、一体何をするつもりなの……?!』

 

部長が戦慄した表情でライザーに問いかけるが、奴は一切答えない。

そして何か呪文のようなものを唱え始めるが、それが何を意味しているのか、悪魔の言語変換能力を以てしても理解することはできない。だが、ひどく重々しく、耳にした瞬間からずっと、悪魔としての本能が強い警鐘を鳴らしていることだけは分かった。

奴の身体から黄金のオーラが現れ、全身を覆うと、奴は瞬く間に黄金の炎に包まれる。

そして炎に包まれた奴の姿かたちはゆっくりと、人の形から別の姿へと変わっていく。

 

「そんな、これじゃまるで……」

 

映像を見ていた俺は思わず声を漏らしてしまった。

 

そう。

 

奴の姿は、黄金の炎を迸らせる、不死鳥そのものだった。

 

 

《……貴様ごときにコレを使うことになるとは、全く以て遺憾だ。だが、これで貴様の死は決定的なものとなった……受けるがよい。》

 

 

火の鳥となったライザーはそのまま天高く飛び上がると、溢れ出る黄金の炎は一層激しく燃え上がる。

そして俺を目がけて彗星のごとく落下を始める。

 

当然、俺――の左腕も大人しくしているはずもなく、今まで無秩序に放っていたオーラのビームを全て上空のライザーに向ける。

しかし隕石のような凄まじい速度で地表目がけて落下するライザーの前には全くといっていいほど効かず、弾かれるか、あるいは放たれる光の束を斬り裂きながら進む。

 

 

《無駄だ!!その程度の攻撃、今の俺には一切通じん!!不死鳥の怒りを受けて消え去るがいいッ!!―――――『ゴッドフェニックス』!!!!!》

 

 

火の鳥は異形の左腕を触れた先からバラバラに砕き、消し飛ばす。

 

それでも奴はなおも進む。

 

そして遂に、奴が地表に達した。

 

その瞬間、眩い閃光が画面全てを白に染め、全ての音を消し去る。

 

遅れてきた轟音、そして衝撃波が伝わり、その直後、映像は途切れ、画面は砂嵐へと変わった。

 

 

 

 

「……これが、事の顛末だよ。」

 

沈黙を破ったのは魔王様の一言だった。

俺は、自分が意識を失っている間に起きた出来事の、予想以上の大きさにただただ唖然としていた。

魔王様はさらに続ける。

 

「ちなみにだが、この映像の段階では名目上まだ勝敗は確定していなかった。だが両眷属の≪≪『王』の状態」≫≫を比較したことでライザーの勝利が確定した。」

 

……!

 

そうだ、確かめなければならないことがあるじゃないか…!

 

俺は食い入るように魔王様に問いかけた

 

「それで、部長は、リアス・グレモリー様は今どうしているんですか?!」

 

俺がそう言うと、ベルゼブブ様とグレイフィアさんは一瞬顔を見合わせる。

そこでグレイフィアさんが何事かに合点したように頷くと、二人とも俺の方に向き直る。

 

「それについては私から。お嬢様は現在、グレモリー家の本邸にてご療養中です。幸いお身体の方は無傷でしたが、一方で精神に大きな傷を負うことになってしまいましたから…。」

「っ……そんなに、酷いんですか?」

「はい、それはもう酷いものでした……」

 

それからグレイフィアさんは、ゲームが終わってからの部長の様子をポツポツと話してくれた。

あれ以来、部長はずっと部屋に閉じこもりっきりで食事もろくに摂らない状態が三日三晩続いたという。その間、朱乃さんたち先に復活した眷属の皆が付き添って周りの世話をしていたが、時々なにかに怯えたり、うなされるようにパニックに陥ったりして困難を極めたらしい。だがついさっき、俺の意識が戻ったことを伝えると、それまでの心労が一気に噴き出したのか、安堵したような表情で眠りについたという。今は落ち着いているそうだ。

 

「それから時折、こんなことも漏らすのです、『イッセーに会いたい』と。」

「!!それなら「ですが」……?」

 

グレイフィアさんはそこで一旦言葉を区切ると、俺の目を射抜くような視線で見据えながら、はっきりと告げた。

 

「今お二人を面会させることは認められません。」

 

なっ?!

 

俺は一瞬、冷や水を浴びせられたように思考が停止した。

俺がなぜ、と問う前に、ベルゼブブ様が付け加えるように続けた。

 

「実は、君自身の今後の処遇について伝えておかなければならないことがある――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――上層部が今回の件で君を最重要監視対象に認定。それに伴い、無期限の拘留処分に付されることになったんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆    ◆◇

 

 

 

 

 

「それで、話とはなんだ?」

「はい。ですがその前に、まずお話しておくことがあります…先日のゲームでリアスが負けました。その際にちょっとしたトラブルがあって、リアスがしばらくの間人間界を離れることになったのです。」

「……噂以上に重症なようだな。」

「っ?!知っていたのですか…?」

 

ソーナ・シトリーは目に見えて驚愕した。

当然と言えば当然だ。魔王の妹であるリアス・グレモリーがそのような状態になっていると知れれば現政権にとっては大きなスキャンダルとなる。恐らく冥界では相応の規制がなされているはずだ。それが既に外部に漏れているとなれば、それは由々しき事態である。

 

「裏の界隈ではもうそれなりに有名になってるわよ。『グレモリー家次期当主は婚約ゲームに負けたショックで塞ぎ込んでる』って。どこの誰が言い出したかまでは知らないけどね。」

 

アスタルテが付け加えるように言う。

どれだけ規制を敷いたところで、やはり人の口に戸は立てられぬということか、詳細はともかくとして、裏の世界では既に広まっているのだ。

ソーナ・シトリーはその事実に一瞬苦々しい顔をするが、一度コホンと咳払いをするとすぐに切り替えたようだ。

 

「そうですか…でも、知っているのなら話が早いです。今日来ていただいた理由はほかでもありません、あなた方にお願いがあるのです。」

「聞こうか。」

「ありがとうございます。実は……あなた方のお力を貸していただきたいのです。」

「……どういうことだ?」

「現在リアスの眷属の皆さんは彼女に付き添って冥界にいるのですが、近日中に帰還する予定です。しかし、その際リアス当人とアルジェントさん、そして兵藤君の3人は引き続き冥界に留め置かれることになりました。そうなったことで一つ問題があります。」

「この町の管理のことかな?」

「はい。」

 

彼女は頷く。

 

「ご存じのように、学園は私たちが、そして治安維持などそれ以外のこの町のこと全般はリアスたちが担当してきました。けれどもリアスや赤龍帝である兵藤君が不在となれば単純に人手が足りなくなるだけでなく戦力としても大きな低下を余儀なくされます。」

 

そして彼女はこうも続けた。

 

「無論、できる限り自分たちで対処するつもりですし、極力あなた方のお手を煩わせはしないように努力いたします。必要とあれば相応の対価もお支払いいたします。私たちだけではどうにも手に負えない事態が起きた時だけで構いません。だからどうか、この町のためにも、私たちにお力を貸してくださいっ」

 

「ちなみにだけど、グレモリーたちがいない今、この町は誰の管轄になるの?」

 

アナトが問う。

確かにそれは重要な問題だ。

連中の中でこの町の管理者とやらに誰が位置付けられるかでこちらの出方も変わってくる。

あくまで今の段階では、という但し書きがつくが。

 

「それについては一時的に私が総責任者として引き継ぐことになっています。名目上は、ですが。リアスの眷属は『女王』の姫島さんがまとめるとは思いますが、それでもあちらは3名。私たち生徒会と共同で事に当たるのが現実的でしょう。」

「なるほど、つまりはこれから先総ての責任は君が負うという解釈でいいわけだな?」

「はい、その通りです。」

 

その瞳に宿るのは明確な意思。

だがそれは自身の名声や利益よりも、与えられた義務を果たすことにあり、そしてそのためにはあらゆる手段をとるという覚悟の表れだ。

であるからこそ、名門シトリー家の次期当主という肩書を持ちながらも素性の知れぬ者にこうして首を垂れることも厭わぬのであろう。

 

「…いいだろう、その依頼、引受けよう。そちらの身柄の安全は契約の重要案件だからな。」

「本当ですか?!」

「ただし、条件がある。」

「?」

 

「何度も言っていることだが、俺たちは政治的に悪魔に利する行為や私的な紛争には一切関与しない、これは変わらない。もっとも、街の住人として介入させてもらうことにはなるかもしれんがな……恐らく両成敗となるからそのつもりで。」

 

これだけは譲れない。

そもそも俺たち本来の立場を考えれば今でさえ十分にあり得ないことなのだ。

先のグレモリーとの接触や堕天使の一件も正直相当グレーだ。しかし一般人としての兵藤一誠やアーシア・アルジェントの殺害はこの世界の、人の世界の領分を冒す行いに他ならない。

だからこそ、介入を決めた。

 

「!はいっ、ありがとうございます!!」

 

そう言って、ソーナ・シトリーとその眷属たちは皆頭を下げた。

 

だがこの時、図らずもこの地に大いなる災厄を齎す悪意の手が、静かに、だが確実に迫りつつあったのだ。

 




はい、ライザーでとことんやらかしました。
どう考えてもオーバーキルだし不相応だし。。。
何より、悪魔なのに”ゴッド”って単語使うのはいかがなものか、とは思いましたがこの際開き直って使わせていただきました。
そのことに反省も後悔もしていないッ!(え

というわけで、かなりあっさりとした展開になてしまいましたが、フェニックス編はこれにて終了です。
次回から3巻突入、ようやく本格的に主人公たちを動かせます!

それでは!






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月光校庭のカタストロフィ
悪巧み


お久しぶりです!

身辺がごたついたりしたために更新が遅くなってしまいました。
今回から新章スタートです!


悪巧み

 

 

 

 

 

「『此度のレーティングゲーム勝利を祝し、ライザー・フェニックスを魔王庁行政局行政書士室第二分室室長に任ずる。なお、リアス・グレモリーとの婚儀については当人が回復次第当事者同士の意思を改めて確認したうえで協議することとする。』か、ふむ。」

 

ライザーは冥界・フェニックス領の一角のとある湖の湖畔を臨む別荘の一室にて自身に宛てて送られてきた書状を呼んでいた。

 

「魔王からですか?」

「ああ、レイヴェル。」

 

同じ部屋には彼の実妹で『僧侶』でもあるレイヴェル・フェニックスの姿もある。

 

「予想通りだ。レーティングゲームに勝った証に魔王勅命での任官、実態は適当なポストを与えての監視。本題の婚約については保留、いや、改めて当事者の意思を確認とあるから事実上破棄する腹積もりなんだろうさ。あの小僧をやったことがよほど気に喰わないらしい。」

「そういえば聞きました?本来上層部が預かる予定だった赤龍帝の身柄を難癖をつけてアジュカ・ベルゼブブの下に移したそうですわ。」

「はっ、身内可愛さにこんな形で魔王権限をフル活用だからな…だがそれだけならまだかわいいもんさ。これを」

 

ライザーは別の書類を取り出すと、それをレイヴェルに手渡す。

レイヴェルは書類を受け取った途端、驚愕の声を漏らす。

 

「な、なんですのコレ?!本気でこんな取引を認めろと?!!」

 

紙面の内容は主に二点、いずれもフェニックス家の特産であるフェニックスの涙の売買契約に関するものであった。

一つは今回のレーティングゲームでのライザーの活躍によりフェニックス家の将来性を感じることができたため、政府・魔王軍が軍備として年間所定量を買い上げるというもの。

そしてもう一つはフェニックス家とグレモリー家、改めて両家の親善を結ぶべく、グレモリー家で新たに始める流通事業で取り扱うので一定量買い付けるというもの。

これを魔王サーゼクス・ルシファーとグレモリー家の共同で署名している。

 

「信じられませんわ、両方合わせて年間生産量の3割…しかも相場の6割の値で卸せだなんて!」

「ああ。事実上買い叩く気だな。見返りとして税率を下げるなどとも言っているが、それを差し引いても損失の方が大きい。無論断ればフェニックス家は社交界での立場を失う。ここまでして追い落としを謀るとは…サーゼクス・ルシファー、やはり狭量な男よ。」

 

ライザーは嘲笑すると、テーブルの上のティーカップに口を付ける。

 

「それでお兄様、今回の任官へのお返事はいかように?」

「一応は受けるさ。何より、あの方(・・・)が我らに望まれるは内部からの切り崩し。却って好都合というものだ。」

 

ライザーもレイヴェルも、自分たち本来の在り方に目覚めたあの時から、悪魔社会への執着はとうに捨てている。だが今回の件で改めて、その決断が正しいものだと感じたのであった。

 

「…黄昏はすぐそこまで迫っている、ということですのね。」

 

その時、窓から一陣の風が部屋の中を吹き抜けた。

ライザーは窓の外に目を向ける。

つい先ほどまで晴れていた空は雲に覆われ、遠くの空では分厚い積乱雲が紫色に染まった天を突くように鎮座し、時折雲間を稲妻が駆け抜ける。

 

「これは、ひと嵐来そうな空模様だな。」

 

誰へともなく発せられたライザーのつぶやきは、鉛色の空から吹き付ける風に吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆    ◆◇

 

 

 

 

 

 

「まったく冗談じゃないにゃん!!」

 

黒歌は憤慨していた。

原因は今しがた全員で鑑賞していた映像、グレモリーとフェニックスとのレーティングゲームの映像だ。ゲーム中、妹の白音がリタイアしたところから既に映像の中の敵に対して飛び掛からんばかりの様子を見せていたのだが、その後終盤のライザーの見せた不死鳥化とイッセーの神器暴走を見てついに我慢が限界に達した様子だった。

 

「こんな危ないことに白音を巻き込むなんて!!やっぱり悪魔なんて信用するものじゃないにゃ!!あの紅髪の兄妹は今度見かけたらいの一番に呪ってやるわ!!それからアダド!!」

 

仕舞には俺にまで飛び火した。

 

「そのアメンって奴の居場所教えるにゃ!そいつもとっちめてやるから!!」

「それは無理だな。俺も奴が今どこにいるのか知らん。」

「嘘にゃ!だって何度も会ってるんでしょ?!」

「まあ、用がある時は奴の方から何らかの接触があるからな。」

 

こればかりはどうしようもない。

奴は隠されし太陽と称されたエジプトの主神だ。

その隠密能力は同じ神であっても捉えることは極めて困難と言わざるを得ない。

 

「無理言わないの。どこにいるのかこっちが知りたいくらいよ。」

「そういうこと。文字通り神出鬼没なのよ、あいつは。」

 

アナト、アスタルテに諫められたことで黒歌はぐぬぬと歯噛みする。

ひと先ずは引き下がるが、その表情は未だに納得がいかないと暗に示していた。

 

それはそうと…

 

「…なぜお前たちはさも当たり前のように居座っている?」

「ん?兄貴が世話してる悪魔っ娘どもがどこまでデキるのか気になってなぁ」

「同じくだ。仮にもルシファーを名乗る者の身内がどれほどの者か、見ておきたかったのだ。」

 

なぜかソファーに悠々と腰かけて、ワインをあおりながらくつろいでいるイシュタルとルシフェル。

 

そして

 

「ふぅん、貴様らが随分と腑抜けていると聞いたのでな。この俺自ら笑いにきてやったまでよ。」

 

椅子にふんぞり返って傲岸不遜な物言いをするこの男。

争いと砂嵐を司る悪とされながらも、その権能はファラオの、ひいてはエジプトの軍事力そのものの象徴にして、邪龍アポプスを下した軍神。

そして俺たちの盟友にして悪友。

 

 

 

「……セト」

 

 

 

 

 

 

 

◇◆    ◆◇

 

 

 

 

 

「やった、成功だ…!ついに、私の研究は完成した!!」

 

とある研究施設にて、一人の老人が歓喜していた。

床一面に光り輝く魔法陣が広がり、その上に神聖なオーラを放つ一振りの剣が浮かんでいた。

 

「うぅ…」

 

そしてそのすぐ隣にはボロボロの貫頭衣を着せられた人物が特殊な儀礼を施した拘束台に繋がれており、顔の上半分から上を覆うように装着されたヘッドギアから除く口元からは絶え間なく唾液がしたたり落ち、微かに呻くように動くばかり。

素人目に見ても既にまともな状態でないことは明らかだった。

 

「クククク、これで第二段階である“統合”の理論も出来上がった!ミカエルめ、今に見ているがいい!!この私を追放したことを今こそ後悔する時だ!フハハハハッ!!」

「随分とご満悦だな、バルパー。」

「!」

 

バルパーと呼ばれた老人は振り返る。

背後に立つ人影。

忽然と現れたその人物にバルパーは一瞬驚くが、すぐにまた何事もなかったかのような様子に戻る。

 

「…コカビエルか。何の用だ?」

「フッ、そうつれないことを言うな。俺はお前の研究のスポンサーだぞ?出資者として投資事業の進捗と成果を把握することは当然の権利であり義務だ。それも、アザゼルでさえ認めようとしなかった研究を認めさせた功労者なんだからなぁ?」

 

現れたのは一人の男だった。

2メートルを優に超える長身に尖った耳、日の光を拒絶し続けた果てのような白い肌、同じく鋭利な歯と赤い双眸が闇の中で怪しく光る。

聖書にも記された堕天使の幹部・コカビエルその者だった。

 

「守備はどうか、と、まあ、その様子では聞くまでもないようだがな。」

「ああ、もちろん、成功だとも。これで私の“統合”理論が正しいことが証明された。」

「ククク、それは何よりだ。それでこそ、わざわざそこのはぐれ悪魔を殺さずに連れてきた甲斐があったあったというものだ。」

 

コカビエルは尖った歯を剥き出しにして凶悪な笑みを浮かべながら、拘束台に繋がれた人物を一瞥する。

 

「こいつはもう駄目なようだが、問題はないか?」

「ああ。実験も大詰めで少々酷使し過ぎてしまったからな。もう正気には戻らんだろう。だがそいつの神器のお陰で私の積年の思いは漸く成就されるのだ。人から悪魔に堕ちた者にとってはこの上ない光栄であると思って欲しいものだがね。」

「そうか。ならば始末しておく。組織の連中に見つかると厄介だからな……ところでバルパー、一つ提案がある。」

 

コカビエルはバルパーに顔を向けたまま片手をはぐれ悪魔に向かって突き出すと、掌から眩い光を放つ。

堕天使幹部の濃密な光力。到底一介の悪魔が耐えられるものではない。

既に死を待つだけだったはぐれ悪魔は断末魔の叫びをあげることもなく、ただひっそりと消え去った。

バルパーはそれには気にも留めず、むしろコカビエルの言葉に期待を掻き立てられ、愉悦に満ちた表情をさらに歪める。

 

「ほう?お前さんからその話が出るということは、そういうことかな?」

 

バルパーの反応に、コカビエルの凶悪な笑みはより一層深いものになる。

 

「クククク、さすがだなバルパー。やはりお前ほど優秀な奴は探してもそうそういないな……そうだ、例の計画を実行に移す。だがそのためにはきっかけが必要になる―――そこでだ」

 

コカビエルは一度言葉を区切ると、魔法陣の中心にたたずむ剣に目を向ける。

 

「教会の保有するエクスカリバー、まずはこれを()本奪い取る。」

「4本?7本ではないのか?」

 

そこでバルパーは初めてコカビエルに疑問を呈した。

 

「案ずるなよバルパー。これは火種だ。4本を奪えば、残りも自ずとやってくる。ミカエルはそういう奴だ。その時、お前の夢は真の意味で叶うことになる。」

「なるほど、面白い。だが、肝心の使い手はどうなっているのだ?私は完全なるエクスカリバーの、真の力と威光が振るわれる様をこの目で見たいのだ。誠に遺憾ながら、私の身体では聖剣の因子を使いこなすことはできないのだぞ?」

 

バルパーの懸念。

それは自らの身体が聖剣の因子に耐えられずに命を落とすかもしれないという恐れではなく、老いた自身の身体では聖剣の力を十全に発揮することができないことへの口惜しさだ。

コカビエルは目ざとくそれを見抜く。

ゆえに、彼はこう思うのだ。

こいつを誘ってよかった、と。

目的のために命を賭けられる者でなければ、捨て駒としての価値さえないのだ。

 

「それについても心配は要らん……入れ。」

 

コカビエルが背後にいるであろう人物に声を掛ける。

バルパーが目にしたのは、白い髪に赤い瞳という、いわゆるアルビノに近い容貌をした少年だった。

 

「その髪と瞳、まさか……」

 

バルパーが何かに思い当たったかのように息を呑んだ時、少年はそんな彼の様子が面白くてたまらないというように口角を釣り上げる。

 

「どーもどーも。祇園精舎の鐘の声、沙羅双樹の花の色、悪魔必・滅・の理を表

す…なんちって☆僕チン、はぐれ悪魔払いのフリード・セルゼンと申しやす。どーぞお見知りおきを……久しぶりだなァ、バルパーのジっちゃん?」

 

現れたのはフリード・セルゼン。

かつて凄腕の悪魔払いとして名を馳せながらも、同じく教会から追放され堕天使に降った男だった。

 

「おお、フリード…!フリードなのか?!堕天使に身を寄せているとは聞いていたが、使い手とはお前だったのか!」

 

バルパーは目をおおきく見開く。そして笑みが浮かぶ。

フリードもまた普段の道化のなりを潜め、再会を寿ぐのだった。

 

「まァな。でもお互い教会を放逐され、こうしてまた再会できるたァ何かの縁だな。しかも人外共に“皆殺しの大司教”なんて恐れられたアンタの研究の粋を使わせてもらえるなんて、光栄だぜ。」

「構わんよ。寧ろ、私の研究成果を十分に使いこなせるのはお前しかいないと感じていたくらいだからな。これまで何百何千という剣士を見てきたが、お前以上に剣の才に恵まれた者はいないと断言できる。」

「ハハッ、そいつァ褒め過ぎだぜ。まあ、何はともあれよろしくな?ところで旦那。」

「ん?どうした?」

「計画は予定通り聖剣を奪った後は例の街に向かうのか?魔王の妹のうち赤い方は冥界に引き籠ってるんだろ?一匹じゃあインパクト足りなくね?」

「ああ、そのことか。それならば心配ない。あの土地は極東では珍しいほどに様々な勢力の利害関係が複雑に絡み合っているうえに、悪魔達の認識では所有権はグレモリーとバアル両家の名義となっている。そのような土地に外部からの侵入を許せば奴らの沽券に関わるから出てこざるを得ないわけだ。それよりも俺が気になっているのはフリード、お前が以前戦ったという連中のことだ。無論グレモリーではない方だ。」

「ん?あァ、あいつらね…正直連中についてはなんも分かんねェ。悪魔じゃないみたいなんで雇われっぽいんだが、どうも裏の連中特有の臭いがしねェというか、どっちかっつーと、こう…触れちゃならねェような。あ、ついでに言うと双剣使いの女堕天使を従えてたっつー話だぜ。」

「なに?」

 

その瞬間、フリードはコカビエルの纏う空気が変わるのを感じた。

 

「おい、フリード。その女堕天使は金髪に赤い目、黒い双剣を持っていたか?」

 

コカビエルは詰め寄る。

その容貌も相まって、見る者に途轍もないプレッシャーを与える。

 

「あ、あー、悪ィんだけどよ…俺も直接見たわけじゃねェから詳しいことは分からねェんだ……て、旦那?」

 

フリードは少々引きつりながらも答える。

だが当のコカビエルは何やら思うところがあるらしく、完全に自分の世界に入り込んでしまっていた。

 

「まさか、そんなことがありえるのか?奴はあの時確実に…だが、もしそれが本当なら…クククク、これは予想以上に面白い展開になるやもしれん…ん?」

 

ブツブツと独り言を続けるコカビエルの耳元に小型の魔法陣が展開する。

タイミングからして今回の計画に関連するものでほぼ間違いない。彼は魔法陣を通じて「ふむ、そうか。わかった。」などと一言二言短い言葉を交わすと、身をひるがえしてフリード、バルパーの両名に向き直る。

 

そして高らかに宣言する。

 

「諸君!!機は熟した、我々はこれより“祭り”の準備の総仕上げに取り掛かる!今こそ我らが長年にわたる聖典の呪縛より開放される時だ!!まずは聖剣を保管する教会を襲撃する、俺からは以上だ!早速準備に取り掛かれ!!」

「「応ッ!!」」

 

フリードとバルパー、そして魔法陣の向こうにいる同胞たち、彼らはいずれも己のうちに何かが昂るのを確かに感じていた。

 

ちょうどその時、魔法陣の中央に浮かぶ『聖剣創造』で生み出された聖剣が力を失い、崩れ落ちる。

 

ここに、後にこの世界の歴史の転換点、三大勢力の命運を大きく揺るがすことになる動乱が幕を開けようとしていた。

 

 




前回が少々過激だったのと、内容的に佳境に入ろうとする前段階的な意味合いもあって今回は抑え目の内容です。新キャラも登場し、これからキャラクター同士の因縁も徐々に明らかにしていく予定です。

それでは!


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