アイドルマスターミリオンバッツ! (バッグクロージャー)
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プロローグ:死闘の果て
パンの袋に付いてるアレです
ハーメルン初投稿ですが前々からずっとやりたかったクロスオーバー系の投稿をやろうと思います
まずは自分の特に好きな作品同士でクロスさせました!
それではバッツPの活躍をお楽しみに!
「もう、疲れたよ...」
そう言って俺、バッツ=クラウザーは倒れ込む。仕方ないじゃないか。相手は今までのどの敵より凶悪で強かったんだから。
もうピクリとも動かなくなった俺の体は浮遊感と共に次元の闇に引きずり込まれる。
---覚悟はしてた
だから後悔してない---
---自覚をしてなかった
だから仲間を悲しませてる---
最初は聞こえていたはずの仲間の声がどんどん遠ざかっていく。ここで俺は初めて気づいた、もうあいつらとは会えないんだと。
気づいた時には遅く、すでに自分の意識以外は全て無に呑まれてしまっていた。
無に呑まれ、体を失っていく感覚を味わって思う。もしかして
意識もだんだん無くなっていく。そういや、人間って死んだら生まれ変わるんだっけか?無になっちまったからそういうのも無いのかな?
意識を持たせるのも辛く感じ、意識を手放す。
せめて、俺の仲間は幸せに暮らしてるといいな...
俺の最後の願いは、そんなささやかなものだった...
☆☆☆------------------------------
「な、なんだ!?」
突然の熱気と喧騒で意識が戻る。その次に俺が見たのはとんでもない光景だった!
「高い建物に鉄の乗り物?それに地面とか真っ黒だ...!」
今まで過ごしてきた場所はもっと生物的だった。というのもこの光景があまりに機械的すぎてまるで別世界にでも来た気分だった。
俺の体の数十倍はある建物。往来を一定の規則で走る鉄の乗り物。地面は固く舗装されており太陽の反射で黒光りしている。
(なにがなんだかよく分からないが、俺がいた次元とは全く別の次元みたいだ)
次元。俺が生きていた世界は三つの次元に分かれていて、それぞれが全く別の文化をしていた。
この世界も"次元"の一つなのだろうか?
(考えていても仕方ないや!まずは情報を集めなきゃな!)
今までの旅で経験したことを活かし、まずは情報を集めることにした。
☆☆☆------------------------------
「よっし、ひとまず生きてくのに必要なことは学べたな!」
情報を集めきった俺は近くにあったベンチに腰を下ろす。それにしても驚いた。今まで足を運んだどの街にも似ていないとは。
まずはお金。俺のいた世界は『ギル』で通っていたが、この世界の通過は『エン』と言うらしい。あいにく無一文だったから何も買えなかったが。
次にこの世界。まずモンスターがいない。安全なのは間違いないが、モンスターを狩ってその素材を売ることが出来ないから資金稼ぎもままならない。参ったな...
(そして極めつけは...)
最後に生活の様式。食べ方のマナーとか着てる服とかはどうでもいい。ちなみに言うなら今の俺は普段着ていた服じゃなくって黒のVネックシャツに白のチノパンだった。
へへ、どうだ?これくらいの知識はすでに読み込み済みだ!
話がズレた。俺が一番問題だと思っているのはお金の稼ぎ方だ。モンスターが居ないんじゃ今までの稼ぎ方ができない。それに加えここじゃ会社に入って働かなければお金が稼げないと聞いた。
話が長いから要約すると---
金が無くてツラい!
いいか、金は天下の回りものだ。元いた世界だって金が無ければポーションすら買えなかったんだ(モンスターを倒せば落とすけども)。
この状況を打破するためにはまず俺を雇ってくれるところを探さなきゃ!
結論を出してそうと決まれば早速会社を探そうと腰を上げたときだった。
「なぁおじょーちゃん?これからオレらと遊ばなーい??」
そよ風が吹き始めた。
下手な文ですがプロローグ終わりです。
ご感想、誤字脱字報告など頂けると幸いです!
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乙女ストーム!編
第一話:俺の活躍見せてやる!
パンの袋から取り外した後の処理に困るアレです。
バッツP誕生回!そしてアイドルとの初顔合わせの回でもあります。
それではバッツPの活躍をお楽しみください!
「おじょーちゃーん、これからオレらと遊ばなーい??」
そんな声を聞いて足を止めた。声のする方を向くとカラフルな色に頭を染めた柄の悪い連中が女の子一人を寄ってたかって話しかけている。ふむ、赤・黄・青。ありゃよく見かける信号機ってやつを意識してんのか。
「えっ...あの...」
信号機に囲まれている女の子は大切にしているであろう本を抱きかかえながら困惑している様子だった。
ふとあの時、最初にレナに会った時を思い出した。レナがゴブリンにさらわれそうになったところを助けたんだっけ。そんなことを思い出したら目の前の女の子を助けなきゃいけない気持ちになっていた。
(そうじゃなきゃあいつらに顔向けできないよな!)
きっともう会えない仲間を思い出しながらずんずんと信号機たちに近づく。
「おい、そこまでにしておけ!」
「あぁん?なんだ兄ちゃん。お呼びじゃないんだよ」
俺の忠告に対し反発してくる赤信号。「そうだそうだ!」などと青・黄も助長する。なんだかなめられているみたいで腹が立ってくるがここはグッと抑える。
「その子が嫌がってるじゃ無いか、離してやれよ」
「あぁ?なんだよ兄ちゃん、正義の味方気取りか?笑えるぜぇ!」
ゲラゲラと信号機達が笑い立てる。完全に頭にきた。痛い目見せてやる!
「せいっ!」と声を上げると同時に一気に赤信号と距離をつめる。そのまま赤信号の鳩尾に掌底をお見舞いする。赤信号は「おごぉ!?」という声と同時に前のめりに倒れた。
「てめぇ!」と声を荒らげながら黄信号が殴りかかるが、軽くいなす。モンスターの攻撃に比べれば避けるのは容易い。そのままカウンター気味に顎に掌底をいれる。残り一人。
すぐ青信号に目を向ける。青信号は俺にナイフを向けていた。
「おっと、これで終いだなぁ」
相手はナイフを構えて得意気に話す。そういった態度が命取りになるとは知らないだろうな。
体を低く屈んで体制を作る。それから一息で高くジャンプする。アビリティは無いにしても身体能力がものを言う技くらいはこなせる。五メートルほど飛び上がり青信号に向かって急降下!蹴りが青信号の頭上に命中し青信号も倒れた。
「やめてくれよ。本気で戦ったら、お前らが俺に勝てるわけないだろう?」
そう警告を残し、女の子の所に歩み寄る。
「怪我は無いか?」
「は、はい!...あの、ありがとうございました!」
俺が安否を確認すると、女の子はお礼を言ってくる。うん、やっぱこういう事するのは気分がいいな。「気にすんなよ」と返事を返す。
「んじゃあな、次からは気をつけろよ?」
「あっ!待ってください!」
踵を返そうとする俺に女の子が呼び止める。なんだよ、こっちはこれから忙しいってのに。
「私、七尾百合子って言います!あの、出来れば助けてもらったお礼をしたいのですが...!」
「だから、気にすんなって。別にお礼をされるようなこと、した覚えないし。」
「そうはいきません!私あのままだと何されていたか分からなかったですから...」
参ったな。こう来た場合女の子は意地でも引き下がらないだろうな。仲間のレナやクルルがそうだったように。
「そこまで言うなら、分かったよ。」
「ホントですか!?ありがとうございます!」
そういって女の子、百合子は笑顔を浮かべる。不覚にもその笑顔にドキッと来てしまう。俺も男だ、ふとした時の表情にドキドキさせられちゃうよな。
百合子の誘導に従い、移動を始める。このとき俺はまさかこれをきっかけに大変なことになるとは知らなかった。
☆☆☆------------------------------
「着きましたよ、バッツさん!」
俺が連れてこられたのは、少し大きめの劇場だった。ちなみに移動中に名前を教えておいた。百合子は「外国の方だったんですか!?日本語が上手なんですね!」と言われた。まぁ外国っちゃ外国だけどさ。
そのまま中に入り、スタッフルームを通り事務所らしき場所に通される。百合子って思ったよりお偉いさんなのかな。
「小鳥さん、ただいま帰りました!」
「あら、おかえりなさい百合子ちゃん。って、そちらの方は?」
「さっきトラブルに巻き込まれちゃって、そのときに助けてもらったんです。そのお礼をしたくって。」
と百合子が事務員らしき人に説明していく。そういや、この劇場って何やってるんだろ?飾られてるポスターは女の子ばっかだったけど。
すると、事務員の人が俺の方に向かってくる。
「百合子ちゃんがお世話になりました。私はここで事務員を務めている音無といいます。」
「俺はバッツ。百合子を助けたのは気まぐれだったし、そんなお礼を言われることじゃないって!」
今日何度目かの台詞を口にする。ま、お礼を言われて悪い気はしないけどな!
「それでお礼の方なのですが...ってあら、社長!お疲れ様です!」
「おお、お疲れ様音無君。っと、そこの君は?」
社長と呼ばれた男性がやって来たみたいだ。社長は俺のことをじっくり見てくる。まるで何かを見定めてるみたいに。
「ティン!ときた!君、我が社のプロデューサーにならないかね!?」
「え!?なんだいきなり!?」
つい反射的に驚きを表す。いやホントに突然だな!
「実は我が社はアイドルを育てるプロデューサーを募集中なのだよ。君の様な人材を探していたのだよぉ!」
「社長!またそうやっていきなりスカウトし始めるんですから!」
どうやら社長は俺を雇いたい、ってことでいいのだろうか?それならありがたいが、やる事が分からないんじゃ話にならないよな。
「なぁ、そのプロデューサーって何をやるか教えてくれないか?俺にも出来るならその話、受けるよ。」
「えっ、いいんですか?」
「おお!やってくれるのかね!それならば即採用だ!我が社で頑張ってくれたまえ?」
まだやるって決めたわけじゃないのに社長は雇う気満々だな。思ったけどなんだか話が膨らんで来てないか?元々は百合子を助けたお礼に連れてこられただけなのに。
それからしばらく音無さんにプロデューサーとアイドルについて説明を受ける。プロデューサーとはアイドルを育てるお仕事らしい。
「ここまでがプロデューサーが行うお仕事の内容です。ここまでで分からないことはありますか?」
「特にないよ。音無さんの説明が上手いお陰だな!」
「いえ、そんなことはないですよ。それで、プロデューサーの話、引き受けて下さいますか?」
「ああ、これなら俺でも出来そうだしな。引き受けるよ!」
快く承諾する。根無し草だった身にはとてもありがたい。
「本当ですか!?ありがとうございます!ウチの人手不足も、これで解消されそうです!」
「どうやら、話は着いたみたいだね。そして君、いきなりスカウトしてすまなかったね、そして引き受けてくれてありがとう。我が社は君を歓迎する!君には期待しているから、ぜひ頑張ってくれたまえ!」
「いっちょよろしく!音無さんもよろしくな!よーし、俺の活躍、みせてやる!」
社長も音無さんも歓迎してくれた!流れでプロデューサーになっちまったけど、旅は道ズレっていうし、なんとかなるだろ!
「それでは早速、君の担当するアイドルとミーティングを始めてくれたまえ。音無君、新たなプロデューサーに書類の準備を。」
「はい!」
早くも最初の仕事だ。アイドルとの顔合わせ。一体どんなやつなんだろ、ワクワクするな。
音無さんに案内され、会議室に行く。そこにはアイドルって感じの五人がいた。その中には百合子もいた。
「え、バッツさん!?まさか、バッツさんがプロデューサーなんですか!?」
「...百合子ちゃん、知り合いなの?」
驚いた表情で百合子が叫ぶ。ウサギの耳が着いたパーカーを着た女の子が百合子に質問する。
「色々あってな。これから俺がお前たちのプロデューサーになるバッツ=クラウザーだ!いっちょよろしく!」
まずは挨拶をしておく。これから長い付き合いになるんだしな。それに反応してアイドルのみんなも挨拶を始めた。
「初めまして!私は春日未来です!よろしくお願いします、プロデューサー!」
「伊吹翼でーす。よろしくお願いしますね、プロデューサー!」
「真壁瑞希です。これからよろしくお願いします、プロデューサー。」
「...望月杏奈です。プロデューサー、よろしくお願いします...。」
「七尾百合子です!改めてよろしくお願いします、プロデューサー!」
これから忙しくなりそうだな、と改めて意気込む。
外で吹いていたそよ風が、少し強くなって来た。
いかがでしたか?なにせ初めて小説を書いているので展開とか超速です。
あとアイドルの三人称とか不安定なのでご指摘のほどよろしくお願いします。
ご感想、誤字脱字報告等いただけると幸いです!
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第二話:真剣に楽しむんだ
パンの袋に綴じられてるけど、元々袋の口が閉じてるから必要意義があまりないアレです。
バッツPはじめてのお仕事!上手くキャラの魅力を引き立てられるか心配ですが頑張ります!
それでは早速、バッツPの活躍をお楽しみください!
修正ログ
2017/11/10 望月杏奈の三人称(対百合子)の修正
「よし!それじゃ皆のことを知りたいから、色々と聞いていいか?」
アイドルとの初ミーティングは、まずアイドルの皆を知ることから始めた。俺の言葉に皆うなずいてくれる。まずは何から聞こうかな?
「まずは未来からだな。じゃあまず好きなものとかあるか?」
「はい!私、可愛い髪留めが好きです!趣味でよく集めてます!」
俺の質問に元気に答えてくれた女の子、春日未来。左のサイドテールが特徴で、髪を結うのに可愛らしい髪留めを付けている。なるほど、ファッションとしても充分有りだな。
「へぇ、可愛い髪留めか、いい趣味だな。今つけてるのも似合ってるよ」
「でへへ、ありがとうございます」
素直な感想を述べると、未来は照れながら笑う。
「んじゃあ、翼はどうだ?」
「わたしですか〜?好きなものって一杯あるんですよね。強いて言うなら、ビーフステーキかな!」
両側の髪のハネが特徴な金髪の女の子、翼はまったりとした声で肉食アピールをする。確かに肉はいいよな、ガッツリ食えるし。
「ビーフステーキか!牛は美味いもんな!でも、女の子がビーフステーキ好きって言うのもなんか意外だな」
「そうですか〜?でも、女の子って意外とお肉好きだと思うんですよ〜」
「そうなのか、それはいいことを知ったな。じゃあ次、瑞希はどうだ?」
「はい。私はクロスワードパズルが好きです。」
...あれ、それだけか?少し天然パーマのかかったショートヘアの女の子、真壁瑞希。彼女は全くと言っていいほど表情がない。可愛い顔してるのにもったいないな。
「ええーっと、クロスワードはよくわからんが、分かったよ。んじゃあ、次は杏奈だな」
「ん...杏奈は、ゲームが好きです...」
げ、ゲームか。ピンクのうさ耳パーカーを着た長髪の女の子、望月杏奈。
ゲームってたしか、映像を映し出すパネルとプレイヤーが押すためのボタンとかを組み合わせた娯楽品だったよな?元の世界には電気とか出回ってた訳じゃないし、よく分からないが...
「そっか、ゲームのやりすぎは目に悪いって言われてるらしいから、程々にしておけよ?んじゃ最後、百合子は?」
「私ですか?本を読むのが好きです!」
杏奈に程々な注意を促し、ショートヘアで頭頂部から右耳辺りまで三つ編みを結っている女の子、七尾百合子に聞く。
本か、本なら知ってる。だが本にはあまりいい思い出ないな。なにせとある技を習得するとき、仲間に見殺しにされてるし。まぁ、その技は本のモンスターが使うやつを喰らわなきゃいけなかったから仕方ないんだが。
「読書か、俺は時々しか読まないなぁ。...さて、全員に一通り質問した訳だが...」
まず一つ言うと、このメンバーでユニットを組むのは割りと大変かもな。メンバー全員個性が強いし。でも、それをまとめあげるのがプロデューサーだもんな、やってみるか!
「お陰でみんなの事が少し詳しくなったよ、ありがとな!それでまず最初の仕事を説明したいんだが、大丈夫か?」
「もうお仕事ですか〜?やったぁ!どんなお仕事なんだろう?」
「うぅ...緊張する...」
翼は喜んでいる一方、杏奈は戸惑いがちだ。他のメンバーも仕事と聞いて空気を変えたみたいだ。すごいな、俺だったらそこまで空気を変えることなんて出来ないや。
「まず最初に、オーディションとか番組とかに応募するための宣材写真ってのを撮るらしい。午後から撮影するみたいだから、準備してくれ」
「「「「「はい!」」」」」
なんとなくだが感覚を掴んできた。チョコボを育てる時なんかもよく声をかけてやったし、それと似たようにやればよさそうかな?
☆☆☆------------------------------
午後1時。
場所を劇場から撮影スタジオに変えて宣材写真の撮影に入る。写真ってのはカメラってのを使ってとるらしい。これも俺の知らなかったアイテムだ。
「はいはい、もっと笑ってー?あまり緊張しないでいいからねー」
「は、はい!...うぅっ...!」
撮影が順調かと言われればそうじゃない。初めての仕事というのとしっかりとした機材で望む撮影は、皆に緊張という形で負担がかかる。
特に百合子や杏奈はそうだ。声は上擦ってるし、目は泳いでる。これまでで何回も撮り直してる訳だが一向に良くならないなぁ。
(ま、問題は何も百合子達だけじゃないんだよな...)
未来は元よりドジらしく、転んだり違うカメラに目線を送ったりしている。ただ、そういった一面もアイドルとしては評価されるらしいから撮影は続けてもらっている。
翼はどうやらこういった状況は慣れている(翼曰く)らしく、時々カメラマンの指示と違うポーズをとっていること以外には問題はない。ま、それが一番問題なんだが。
瑞希は...わからん。緊張しているとは聞いたが、そんな表情を一切見せずに撮影している。お茶目をしているかはわからんがいきなり謎のポーズをしたりする。瑞希曰く招来の構えだとかなんとか。
「みんな、ちょっと集まってくれ!」
俺は未来達五人を呼ぶ。ここはプロデューサーとして、しっかり教えてかなきゃダメだと思ったからだ。
「-----っていう感じだ。やれるか?」
「はい!分かりました!」
「はーい。せっかくいいポーズだと思ったんだけどな〜」
「分かりました。瑞希頑張るぞ、おー」
「うん...もう少し頑張る...」
「わ、分かりました!なんとかやってみます!」
さっきまでの俺の感想を皆に伝える。それぞれ思い思いの返事をしてくれる。やる気はまだ無くなっていないみたいだ、良かった。
「んじゃ最後に。いいか?百合子や杏奈は固くなりすぎだし、翼はおふざけが過ぎる。これは遊びじゃないんだぞ?お前達のこれからがかかってるんだから」
皆の表情が固くなっていく。多分怒られてると思っているらしく翼や未来はわかりやすくシュンとしている。
だから、俺はこう続ける。
「真剣に楽しむんだ。そうすればどうにかなる。俺もそうやって生きてきたからな!」
いつだって本気で生きてきたからこそ、その考えを皆に伝える。
「...なんだかプロデューサーって、怒ってるんだか励ましてるんだかわからないね〜」
「バカ言え、これは叱咤激励って言うんだぞ?」
「おお、これは励みになります。ありがとうございます、プロデューサー」
「それは良かったよ。時間もないんだ、早く済ませちゃおうぜ!」
「「「「「はい!」」」」」
俺の言葉で皆元気になったみたいだ。正直うまく励ませるか不安だったが、心配いらなかったみたいだ。
それからというもの撮影は順調に進んだ。未来や翼はポーズに動きを入れて色々と試行錯誤している。
瑞希はいつもと変わらないが、前よりほんの少しだけ微笑むようになった。
百合子は持ち込んでいた本を使って読書好きのアピールもしてた。
一番驚いたのは杏奈だな。いつも小動物のような挙動だったイメージだが、一呼吸入れたらいきなり活発になり始めたから座っていた椅子から転げ落ちた。
目撃した翼に思いっきり面白がられた。ちくしょう、恥かいた...!
☆☆☆------------------------------
「本日の撮影はこれで終了です、お疲れ様でしたー」
「「「「「お疲れ様でした!」」」」」
撮影が終わったみたいだ。皆は今日の感想とか衣装のこととかで話し合ってる。一時はどうなるかと思ったけど、なんとかなってよかったよ。
「お前達よく頑張ったな!凄かったよ!」
「でへへ、プロデューサーさんのお陰です!」
「プロデューサーのぉ、真剣に楽しむって言葉に助けられちゃいました〜!」
「そうですね。真剣に楽しむ、これは新たな座右の銘として瑞希ズノートに書き込まなくては...!」
「...杏奈も、楽しもうって思ってから、一杯頑張れた...」
「私も、自分の好きな物を推そうって思ってから撮影が楽しくって。つい時間を忘れちゃいました!」
俺の言葉が助けになってくれてよかった。俺も鼻が高いな!あと瑞希、絶対にノートに書き込むなよ?あれを狙って言うのは結構恥ずかしかったんだぞ?
「それじゃ、初仕事成功を祝って飯食べるか!今日は俺の奢りだ!」
「ご飯ですか!?お腹すいてたんだー!」
「ほんとですか!?やったぁ!わたし、ビーフステーキがいいなぁ〜」
「甘いパフェがいいです。疲れた頭には甘いものが染み渡るので」
「なんでもいいぞー?どーんと来い!」
折角の成功祝いだ、パーっとやらなきゃな!音無さん...小鳥からそこそこの額が支給されたから!「撮影が終わったあと、これで未来ちゃん達をご飯にでも連れて行ってあげてください」って言われたからその通りに使ってやらないと。
「あの、プロデューサー?いいんですか、奢って頂いて...確かお金が無かったんじゃ...」
「心配するなって百合子。小鳥からいくらか貰ってる。これくらい余裕だって!」
「...百合子さん、早く行こ...?」
心配してくれてる百合子を安心させる。杏奈も百合子の手を引いて賛同してくれてる。
って待てよ?俺の手持ち心配してくれたの百合子だけって、案外こいつら遠慮がないんだな...!?
「プロデューサーさーん!早く行きましょー!」
「ちょっと待てって!今行くからさ!」
そう言ってスタジオを出る。
眩しく光る夕焼け空の街に強い風が俺の頬を叩いて行った。
いかがでしたか?私としては盛り込みたいことを出来たと思います。
あとはどれだけ描写が出来るようになるかですかね。
ご感想、誤字脱字報告等どしどし送ってください!
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第三話:いっくぞー!風のおもむくままに!
袋から取り出したあと、指で挟んで遊んでみたりするアレです。
予定していた話数より前倒しな状況でどう詰めようか悩み中です。
各アイドルとバッツPの絡みは後々掘り下げます。今はユニット発足までの道程ってことで。
それではバッツPの活躍をお楽しみください!
俺が未来達のプロデュースを始めてから約半月。いくつかミスすることはあったが基本的には順調にプロデュース出来ている。
小鳥と社長に住居が無いことを話したら劇場から少し離れた場所に社宅を用意してくれた。二人には足を向けて寝られないな、ホントに。
「それじゃあプロデューサーさんはこんな服でどうですか~?」
「悪くは無いけど、動きづらそうだな...もっと薄いほうがいいんだよ」
今俺は翼と一緒にファッション雑誌を見ている。普段着が少ないことをぼやいていたら、翼が「それならわたしがコーディネートしてあげますよ~?」と言ってきたから乗ることにした。
アイドルとのコミュニケーションは大事だし、せっかくの厚意を断る理由はなかった。
「ならなら、こっちとか...この服なんかどうですか?」
「これならよさそうだな。トレンドみたいだし、少し大きめのファッションセンターに行けば手に入りそうだ。」
「だったら、今度のオフにでも買いに行きましょうよ~。わたしも着いていきますから」
「お、いいぜ?今度のオフいつだっけな...」
翼はなんだかんだでちゃっかりしているな。コーディネートの手伝いを称してなにか奢ってもらう気満々だ。まあ食費以外に使う機会があまりなかったから丁度いいか。
「えー!?プロデューサーさんとお出かけ!?翼いいなー、私も行きたい!」
「未来も行く?プロデューサーさん、いいですか?」
「ああいいぜ?杏奈と百合子、瑞希もどうだ?」
「...杏奈は、お家でゲームしたい...です」
「すみません、私もまだ読みきっていない本があるので...」
「私は行きます。コーディネート大作戦、です。」
杏奈と百合子が来れないのは残念だけど瑞希は参加してくれるみたいだ。コーディネート大作戦、うまくいきそうだな!
「プロデューサーさん、ちょっといいですか?」
「ん?」
小鳥がやってきて俺を呼ぶ。まだみんなアイドル見習いということもあり、スケジュールに穴が開きがちだし、その辺の話だろうか?
ワークデスクまで行き、二人きりになったところで小鳥が口を開く。
「そろそろユニットでのお仕事を増やしていくよう、社長から伝えて欲しいと言われたんです。宣材写真も撮り終えましたし、みんなお仕事にも慣れてきた今が好機だと社長はおっしゃってました」
「そっか、それもそうだな。ユニットかぁ、楽しそうだな!」
未来・翼・瑞希・百合子・杏奈でユニットを組むのか。もともとそんな話はあったし、そろそろ本格的に動いてもいいころだよな。
しかし困ったことが一つ。アイドル雑誌でよく見るが、ユニットを組むからにはユニット名が必要だ。雑誌のアイドルグループで例えるなら、「SOMAP」とか「Jupiter」とか有名だった覚えがある。
「ユニットを作るなら、ユニット名を考えた方がいいよな?」
「はい!ユニット名はプロデューサーさんが決めてくださいね?折角初めてプロデュースするアイドル達のユニットなんですから」
「よしきた!それじゃあ早速考えてみるよ!」
ユニット名か、こういっちゃなんだが名前付けには自信がある!さっさと決めて、あいつらに披露しなくちゃな!
☆☆☆------------------------------
「うーん...」
それから約二時間。事務所でパソコンとにらめっこしながら考えてはいるが、ピン!とくる名前がない。今のところ出ている案は三つ。
「シアターエンジェルス」、「M.T.M.A.Y」、「ライブハーモニー」だ。ここが劇場であることとか頭文字をとってみたりとか工夫してはいるが頭のアンテナには一切届かなかった。
いっそ未来達に聞いてみるのもありだが、俺としてはみんなにサプライズとして発表してやりたいという想いがあるからあまり実行したくはない。
「プロデューサーさん、そろそろ時間ですよ!」
「えっ!もうこんな時間かよ!」
未来のかけ声にハッと我に返る。気づけばもうテレビ番組のオーディションの時間だった。
数打ち作戦で一つの番組に全員参加させ、一人でも出られれば御の字だ。全員のオーディションが終わるまで外でユニット名を考えることにしよう。
それから更に三十分。未来達のオーディション会場から少し離れたカフェで再びパソコンと向かい合う。Webサイトから情報を引っ張り出し、色々と試行錯誤しているが未だにアイデアが思い浮かばない。
チョコボのボコを名前つけたときはすぐに思い浮かんだが、あれはチョコボの文字からとったから簡単だった訳で今回とは勝手が違いすぎた。
(せめてアイデアにつながるヒントがあればいいんだが...)
すると持っていた会社用の携帯に連絡が入る。どうやら未来達のオーディションが終わったらしい。終わったんなら迎えに行くか。結局ユニット名は思いつかなかった。
外に出て体を伸ばす。外は風一つ吹いていなかった。元の世界に起きた異変を思い出し、少し気分が落ち込む。
これからどうすっかなぁ...
「プロデューサーさーん!遅いですよー!」
どうやら未来達の方から来たみたいだ。「ああ、ごめんな」と返事をする。
「もう夕日が落ちかけてますし、早く事務所に戻りましょう?プロデューサーさん」
「え~、折角だから帰りに甘いもの食べて帰ろうよ~。わたし疲れちゃった。」
「...でも、プロデューサーも...疲れてるみたいだし...」
「でもでも!私たち頑張ったんだし、ちょっとのご褒美くらいなら...」
「未来さん、それなら事務所に戻りがてらコンビニで食べながら帰りましょう。」
事務所に戻る派と寄り道したい派で分かれている。こういった元気の良さをユニット名に使えたらいいんだが...「ゲンキトリッパー」とか。これは楽曲名にあったから使えないや。
「どうしたんですかプロデューサーさん?早く戻りましょー!」
「それとも、パフェ奢ってくれるんですか~?」
「おお、プロデューサー、太っ腹です。感激です。」
「そんなわけあるか!勝手に話を進めるなよ!」
俺の財布に攻撃を仕掛ける翼と瑞希にツッコミを入れる。さっきまで意見が分かれてたと思ったら急に帰りだして、まるで嵐みたいなやつらだよホントに。加えてやけに乙女っぽいチョイスをするもんだ。
皮肉の意味を込めてユニット名を付け加えておく。迷惑ユニット「乙女ストーム!」の誕生だな。
自分でもびっくりな出来に感心しながら先に事務所に向かう未来達を追いかける。
強い追い風のおかげで少し走るのが速かった。
☆☆☆------------------------------
「「「「「『乙女ストーム!』!?」」」」」
「ああ、そうだ!」
事務所に戻ってお菓子をつまんでいる未来達にユニット名を発表する。どうだ、俺のネーミングセンスに声も出ないだろう?
「かっこいい!これプロデューサーさんが考えたんですか!?」
「当たり前だろう?お前達のプロデューサーなんだからさ!」
「なんというか、これぞ私たち!っていう感じ~」
「乙女ストーム...!これは風を感じます...!」
「杏奈も...いいと思う」
「ええ。さすがのセンスですプロデューサー。惚れ惚れするぞ...!」
未来達の反応もいい感じだ。大分気に入ってくれたんじゃないか?それなら苦労の甲斐があったもんだな!
「よーし!『乙女ストーム!』いっくぞー!風のおもむくままに!」
「「「「「おー!!!」」」」」
未来達はアイドル界にどんな風を吹かせてくれるんだろうか...!
これから楽しみだ!
いかがでしたでしょうか?
個人的にはバッツの心情描写が大変な回でした。
なお、乙女ストーム!のユニット名の由来は本家とは大きく違います。
これからが本編のはじまりなのでお楽しみに!
感想、誤字脱字報告など頂けると幸いです!
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第四話:俺も踊ってみようかな?
パンの袋のワンポイント担当であるアレです
レッスン回です。バッツの性能は全マスター状態ですが、魔法等に頼る性能は引き出せない設定です。
その代わり体や頭で覚えられる知識なんかはフル活用出来ます。
それではバッツPの活躍をお楽しみください!
「みんな!十日後にミニライブが決定したぞ!」
「「「「「ミニライブ!?」」」」」
突然の俺の発表に驚きの声をあげる未来達。当然だよな、ユニット結成のあの日から数日しかたってないもん。
「ライブ!ライブかぁ、楽しみだなぁ...」
「ようやくアイドルらしい事出来るかも!」
「ら、ライブ...!どうしよう、今から緊張してきたよぉ...」
「杏奈も、少し緊張する...」
と、それぞれの反応を示す。そんな中
「プロデューサー、私達が歌う曲はあるんですか?」
と瑞希が聞いてきた。さすが瑞希、クールに状況を分析出来るな!
「始めに言っておくと、まだユニット曲は出来ていない。昨日の今日だったからな」
「それで、お前達は全体曲の『THE IDOLM@STER』を歌ってもらう事になった!」
これは小鳥と一緒に考えた案だ。みんな一度くらいなら聞いたことあるだろうし、レッスンを0から始める必要がないからだ。
「『THE IDOLM@STER』って、よく春香さん達が歌ってる曲ですか!?」
「おう!初めてのライブに加えて曲が曲だからプレッシャーが強いと思うが、一緒に頑張るぞ!」
そう鼓舞してみるが、やはり緊張の面持ちが解けないままこちらを伺っている。
「プロデューサーさん、社長がお呼びですよ?」
「分かった。ちょっと行ってくるな」
☆☆☆------------------------------
「レッスントレーナーが雇えない?」
高木社長に呼ばれ、話された内容は資金の不足とそれに伴う影響の話だった。
「そうなのだよ。何せ、君の社宅やスーツ代もろもろと援助をしたらお金が無くなってしまってね?レッスントレーナーが雇えなくなってしまったのだよ」
それって要は俺の生活を確保するのに投資しすぎて、アイドルの育成費が無いってことか。これじゃ本末転倒じゃないか?
「でも君は負い目を感じなくてもいい。初めに話した通り君への資本金は後の出世払いが約束だからね」
「それでも、色々お世話になっちゃってるから俺にも責任 はあると思うぜ社長」
そう俺は告げる。お世話になりっぱなしだから、ここでいっちょ恩返しと行きたいところだ。
「うぅむ...そこまで言ってくれるとは、なんと心強い!私が見込んだ甲斐が有る!」
「気にすんなよ社長。どんな仕事でもどーんと来い!」
「では、君には申し訳ないが、アイドル達のレッスンを担当してほしいのだよ」
レッスンか。歌とダンス、あとは表現力だったな。表現力は難しいが、歌とかダンスならなんとかなりそうだ。
「よしきた!なら早速準備するぜ!」
「頼んだよ君!」
☆☆☆------------------------------
「と、いう訳でしばらくは俺がレッスンを担当することになった!」
レンタルしたレッスンルームで俺は未来達に話す。案の定、未来達は口をポカンと開けたままだ。
「ど、どどどういう事ですかプロデューサー!?」
一番に我に返った百合子は驚愕の表情で俺に質問する。
「ウチの事務所は色々と大変なんだよ...」
「あっ、すみません失礼なこと聞いて」
「いいって。んじゃ早速だけどダンスレッスンから始めるぞ」
パンパンと手で合図を鳴らす。口を開けっ放しだった残りのメンバーも意識を戻し、準備を始める。
未来達が準備している間にビデオのセッティングを済ます。一応レッスン教材を撮っていたらしく、天海春香達先輩アイドルが出演している。
一度フルで再生し、音声や映像が大丈夫か確認をする。
案外踊りは覚えやすいからまずはビデオ全部見てもらって、さわりから始めるとするか。
「プロデューサーさん、準備出来ました!」
どうやら未来達がレッスン着に着替え終えたらしい。ちなみに俺もレッスン着だ。水色のTシャツに白いズボンスタイルだぜ。
「まずは準備運動、そのあとにストレッチと軽いウォームアップからな!」
「「「「「はい!」」」」」
☆☆☆------------------------------
軽いウォームアップまで済ませ、レッスンを開始した。順調かどうかと言えば、そうではないな。各々で覚えるペースのムラが強い。
比較的覚えが早いのは翼、瑞希の二人だ。翼は元々センスが良かったのか一度ダンスを見ればすぐに踊れる。微調整こそ必要だけどそれ以外は申し分なしの上達速度だ。
瑞希の上達速度は普通より少し早いくらいだが、ダンスの節々にそのセンスが伺える。メリハリのよい振り付けで払うところなんかはビシッと効果音が付きそうな勢いだな。
未来は良くも悪くも普通ってところかな。ただ指摘したミスはしっかり直したり、自分で癖を直そうとしたりとその上昇志向は素直に感心する。
杏奈と百合子はダンスの覚えが悪い、とか覚えるまで練習する体力がないんだろうな。
杏奈はなんというか、底が見えない。普段の姿勢を見るにまず体力が無いのは一目瞭然だ。けど杏奈にはON・OFFの切り替えが出来る。そのモードチェンジに秘められたポテンシャルは計り知れないな。とはいってもそれも普段のレッスンの上達具合に左右されるのは事実だし、頑張ってけ。
百合子はさすが文学少女といったところか体力が全くない。彼女なりに頑張って翼達についていこうとするがその前にスタミナ切れでバテてしまうみたいだ。
「お前達はまず、体力作りから始めないとだな。メニューは考えておくから、これから毎日朝練な!」
「「はい...」」
「がんばってね二人とも~」
「誰が参加しなくていいって言った、翼?」
「え~私ぃ、朝弱いから出来れば遅い方がいいな~、だめぇ?」
「だ・め・だ!」
「そ、そんなぁ!」
杏奈と百合子に限らずユニットメンバー全員に体力不足が当てはまる。こうなったら俺と一緒に山ごもりサバイバルでもやらせようかと考えたライブまで十日しかないから悠長なことはしていられない。
「俺も朝練には参加する。だから一緒に頑張るぞ!」
「わかりました!プロデューサーさんやみんなと一緒なら平気です!」
いい返事だ未来。できればその努力家な部分を翼にも分けて欲しいもんだよ。
「プロデューサーさんが先にバテたりして~」
「今のは聞き捨てならないな、翼!」
「ちょちょちょプロデューサー!?翼も挑発しないで!」
「別にぃ?わたしはプロデューサーさんが先にバテたりしたら朝練にならないかなーって思っただけだよ~」
突然の喧嘩を売られ、さすがに腹が立った!この際だから上下をはっきり着けるのも有りだな。
要は俺が体力の無いもやし野郎じゃないってことを教えればいいんだな?
「いいぜ、その喧嘩買ったよ。その代わり、俺の方が体力あったらお前もちゃんと朝練参加しろよ?」
「いいよ?じゃあプロデューサーさんが私より体力無かったら今度特製パフェ奢ってね!」
「いいぜ?どんと来い!」
大人げないが俺も男だ。女の子に下に見られちゃ黙っていられない。
けど、どうやって体力あることを示すか。今から体力勝負と言っても翼はレッスンで消耗した分を考えると対等にはならない。
何かいい方法を考えていると、足下に『THE IDOLM@STER』のレッスンCDが置いてあるのを見つけた。
「ダンスか、いいな。俺も踊ってみようかな?」
「え、ダンスですか?でもプロデューサー、振りとか覚えてないんじゃ...」
「...多分、大丈夫だと思う」
「杏奈、どうしてプロデューサーさんが大丈夫なの?」
「な、なんとなく...だよ?」
不安に思う百合子や未来を余所に俺は軽く体を慣らしておく。気のせいだが頭に星が三つ浮かんでるような気がする。俺の踊りに惚れるなよ、翼!
♪THE IDOLM@STER
「え...うそぉ...!」
「わ、凄い...!」
「プロデューサー、踊れたんだ。っていうか私たちより上手い...」
「...やっぱり、踊り子マスターしてるんだ」
「これは私たちも負けられませんね。ファイト、です」
曲と同時にダンスを開始する。久々に体を動かすとやっぱ楽しいな!とはいっても本来の使い方は大分違うんだが。
アレンジを加えても良かったが、これはパフォーマンスじゃなくって勝負だ。翼と全く同じ振り付けでやらなきゃフェアじゃない。
歌はリズムとるために口ずさむ程度にしておく。
~♪
踊り終えると、未来達は俺に拍手を送る。これじゃどっちがアイドルなんだか分からないな。
「ふぅ、これで分かったか?この調子ならあと三曲は行けるぜ?」
「うぅ、参りました...」
「そいじゃ約束通り朝練参加な?」
「はーい」
あれ、なんかあっさり受け入れたな。翼のことだからもう少し粘ってくると思ったんだが。
これは話には無かったが前に翼は俺に堂々と努力しません宣言をしたから、努力しないことを頑張るか奴だと思っていた。
「プロデューサー」
「ん、どうした瑞希?」
「不思議そうな顔をしているので教えますが、そもそも伊吹さんは勝負に勝ったら朝練に参加しないとは言っていません。どうであれ朝練自体は参加するつもりだったんだと思います」
「え?じゃあ俺がやった勝負は...」
「無駄にはなっていないと思いますよ?伊吹さんだけでなく、私たちもプロデューサーのダンスを見て闘志を燃やしています。メラメラ」
瑞希の説明とフォローに納得する。翼の方を見るとしてやったりな顔を見せるが、視線を外したときにふと見えた表情は心の底から喜んでる様子じゃ無かった。
「伊吹さん、ずっと悔しそうにプロデューサーを見ていました。そのことだけでもプロデューサーのレッスンは充分参考になったということです」
「そっか、なら俺も負けてられないな。何せ俺よりダンスが上手になった途端サボりそうだし」
これは自分からレッスントレーナーを志願しなきゃな。それならみんなの調子を見つつ鼓舞も出来る。一石二鳥ってまさにこのことだな!
☆☆☆------------------------------
その後にボーカルレッスンに移り、それも担当した。とはいっても流石に歌は専門外だったからピアノの伴奏だけにしておいた。ピアノが弾けること自体驚かれたが。
「それで暇があればレッスントレーナーをやりたい、と言うことかね?」
「そういうこと。なんとかならないか?社長」
そんで俺は今社長と今後のレッスン方針について話し合っていた。
「私としてはおおいに構わないさ。アイドル達と密接に関わり、互いに高みを目指していく。まさに私が望む理想のアイドルとプロデューサー像だよ!さすが、私が見込んだだけのことはある!」
「なら、やっていいよな?ありがとう、社長!」
「いやいや、むしろ礼を言うのはこちらの方だよ。このままの調子で頑張ってくれたまえ?」
「任せとけって!」
社長の部屋を出て気分転換に風に当りにいく。
風はゆっくりと俺を押すように心地よく頬をなでている。
いかがでしたでしょうか?
今回はバッツのジョブマスターが少し発揮できたと思っています。バッツPならではといったら、というイメージが真っ先に踊り子とピアノマスター(ジョブではないが)でした。
バッツPと未来達はこんな感じで密接にアイドルを目指していきます。
そんな姿を楽しんでいただけたらと考えています。
ご感想、誤字脱字報告など頂けると幸いです!
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第五話:楽しい時って、なんであっという間なんだろうな...
カラーバリエーションが意外と豊富なパン袋のアレです。
今回はミニライブ回です。アイドルもの特有の直前トラブルが少ないけど大丈夫かな?と思う次第ですが。
それではバッツPの活躍をお楽しみください!
ミニライブ当日。今回『乙女ストーム!』は765プロオールスター(先輩アイドルの天海春香達のこと)の前座という事で参加させてもらえる。
単独ライブとは行かなかったが、初舞台で大物アイドルと共演なんだからそれだけでも儲けもんだ。
「まずはオールスターのメンバーとミーティングがあるから、先に控え室で待機だ」
「「「「「はい!」」」」」
未来達は緊張が隠せない様子。初ライブだし先輩アイドルとの共演だしで仕方ないと思う。
未来達を控え室へ送り出し、俺はセットリストの確認作業を代理プロデューサーである秋月律子に手伝ってもらう。
「それで未来達には上手側から出てもらって、出番が終わったら上手側へ戻って下さい。下手じゃないですよ?」
「分かった。それでオールスターの出番が終わったらMCか?」
「はい。春香に合図させるので、それに従って出てきて下さい。MCの内容は今ごろ控え室で決めてると思いますので。」
律子に色々指示をもらう。ライブのセッティングも初めてだし、手伝ってくれるのはかなりありがたい。
さっきの話し合いを何度か繰り返し、具体的な流れを把握する。動員数が1000人とかなり多いこの劇場でファンが少しでもできればいいと思っている。
「プロデューサー殿?なにやら意気込んでいるようですが、確認作業がまだありますよ?」
「えぇ!?まだあんのかよ...」
「当たり前です!今のはさわりの部分なんです、これからもーっと細かい作業の確認をするんですから!」
プロデューサーってのは、俺が思っていたものよりもっと地味な仕事だった。
親父...世界を救った暁の戦士は今、こんな事務作業をしてるんだぜ...?
☆☆☆------------------------------
流れの確認と比べて何倍もある事務作業から解放され、水を飲んで休憩を入れる。
そこに未来達がやってきた。
「プロデューサーさん!」
「お、未来達か。俺に用か?何か分からないこととかあったか?」
「違いますよ〜、ただプロデューサーさんにわたし達の衣装を見て欲しかったんですよ!」
「おお、確かにこれは...」
みんな似合ってるなぁ、どうやらシアターアイドルの共通衣装になる予定である『プロローグルージュ』を着ている。
「みんな凄い似合ってるよ!ちゃんとアイドルなんだな...」
いかん、子を送り出す親の気持ちとでも言うのだろうか。涙が溢れてきそうになる...!母さん、俺は奥さんも出来てないのに一足先に親の気分だよ...!
「プ、プロデューサー!?泣いてる...?」
「どこか気分でも悪くなったんですか...?」
「多分、違うと思うよ...」
「おまえ達、俺の知らないうちにすっかりアイドルっぽくなっちまって...!」
「でへへ、そうですかねぇ?」
涙を拭って改めてみんなを見つめる。初々しさを残しながらも、みんなこれまでの練習を100%発揮したいという想いが伝わってくる。
ごめん親父、プロデューサーって最高の仕事だわ...!
「お前達の出番までもう時間が無い!今日の流れをもう一度確認するぞ!」
「「「「「はい!」」」」」
☆☆☆------------------------------
場所は変わって舞台裏。ステージに繋がる正面左手、つまり上手側の方でみんなを待機させる。
不思議と未来達の表情が晴れやかになってる。さっきの俺の号泣で緊張しっぱなしじゃいられないってなったのだろうか。
出番まであと三十秒。俺が未来達に声をかける前に別の人物からの声で足を止めた。
「みんな、初ライブ頑張ってね?」
「あ!天海先輩!」
声の正体は天海春香だった。春香は自分の出番の最終確認があったにも関わらず未来達の様子を見に来たらしい。
「最初のライブだから緊張するかもって思ってけど、みんなすごいね。私なんか最初のライブは緊張しっぱなしだったのに」
「ひとえにプロデューサーのお陰です。一緒に歩んできてくれたからこそ、今こうやって私たちがいるんだと思います」
「そうです!だからライブで緊張なんてあんまりしてません!だって...」
そういって未来がみんなにアイコンタクトを送る。そして俺の方を向かって
「「「「「"真剣に楽しむ"!ですよね、プロデューサー(さん)!」」」」」
「...ああ!良いか、"真剣に楽しむ"んだ!!」
「「「「「はい!行ってきます!」」」」」
赤く輝く五つの星を、俺は見た気がする。
いや、気がするんじゃない、見たんだ!
アイドルっていう輝く星を!
「「「「「聞いてください!『THE IDOLM@STER』!!」」」」」
☆☆☆------------------------------
『乙女ストーム!』の出番は終了し、未来達が上手側へ戻ってくる。
俺は、バッチリとこの目に未来達の姿を焼き付けていた。初公演は大成功だ!
「楽しかったー!お客さんもみんなわーっ!って感じだったよね!」
「そうそう!わたしもつい熱が入っちゃったな〜」
「うん、なんだかペンライトがまるで夜を照らすホタルみたいで...!」
「はい。七尾さんの言う通り、ペンライトがとても綺麗だったと、思います」
「イェーイ!プロデューサー、見てた!?」
「ああ!みんな頑張ったな!ちゃんと見てたぞ!」
ONモードからまだ切り替え終わってない、ハイテンションな杏奈はすこし気にかかるが、そんなことは些細なことだ。
みんな初ライブだと言うのに大きなミスもなく披露できた!
でも、欲を言えばもっと見たかったな。未来達が輝くところを。
「楽しい時間って、なんであっという間なんだろうな...」
誰にも聞こえないように、でも誰かに届くようにボソッと呟く。
「みんなお疲れ様!初めてのライブはどうだったかな?」
「天海先輩!はい!とっても楽しかったです!」
「そっか、それは良かった。なら、今度は私たちが頑張る番だね!」
そう言ってきた春香の背中には、765プロオールスターの面々が揃っていた。
プロデューサーの俺から感じるものは、安心感だった。彼女たちなら絶対にライブで最高の盛り上がりを見ることができる、そう感じるオーラが出ていた。
「それじゃ、いくよー?765プロー!」
「ファイトー!!」と円陣を作り、掛け声をかける。そしてステージに上がり、曲が始まった。
その瞬間、
「「「「「「「ワーッ!!!!!」」」」」」」
あの時の声援と熱気を、俺は忘れることは出来ないだろう。
☆☆☆------------------------------
「はい、それではよろしくお願いします!」
馴れなかった敬語も、今では自然に出せる様になったこの頃。
乙女ストーム!の知名度はあのライブ以降うなぎ登りで上がっていった。
ユニットで音楽番組に出演した他、個人でもオファーが来るほどだ。
「人気になったのは嬉しいけど、これはこれで寂しいな」
「そうですねぇ、ただですらウチは人がいなくて物寂しいのに」
たった二人でポツンとデスクワークをしている俺と小鳥は、毎日のように慣れない寂しさを感じている。
(ま、でも...)
ホワイトボードに書かれているスケジュールを確認して、穴の空いてる日を見て安心する。
その日は全員オフをとって慰安旅行へ出かける予定だ。この日だけはなんとか確保出来た。
「ちょっと外で体伸ばすかなーっと」
「行ってらっしゃい、プロデューサーさん」
事務所の外へ出て屋上に向かい、そこで体を伸ばす。こんな時でも外はいい天気だ。
今のところ未来達の具体的なスケジュールを話すと、未来と翼は雑誌モデルの撮影。杏奈と百合子は新作ゲームの生放送にゲスト出演。瑞希はラジオ番組。
我ながらだいぶ仕事を持ってきた。これも未来達の頑張りのお陰だな。俺ももっと仕事を持って来てやらないとな!
そう意気込む俺に風が背中を押す。やさしくも力強く押してくる風をどこか、俺は気に入らなかった。
いかがでしたでしょうか?
自分自身、書いていて心が熱くなるのを感じられたので、その感覚が読者に伝われば嬉しいです。
まだ描写し足りない部分もあるから、もっと話の構成を練らねば...!
ご感想、誤字脱字報告等いただけると幸いです!
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第六話:COOLになれ、バッツ=クラウザー!
『パンの袋』と付け加えないと何のことだか分からないアレです。
中々言葉選びに悩んだワ-ウェミダ-回です。
765プロならこれやっとかないとな感でバッツPと乙女ストームがウェミに行きます。
バッツPの活躍はあまり無い回ですが、お楽しみください!
「「海だー!」」
そう叫びながら未来と翼が浜辺へ直行する。照りつける日射しで熱くなった砂をこれでもかと踏みしめながら、蒼くきらめく海へ向かっていく。
「あー!荷物も整理しないで行かないでくださーい!」
「いいって百合子。今回はお前達のご褒美のつもりなんだしさ」
「なら、そのご褒美としてプロデューサーを手伝わせてください。頑張るぞ。」
先に行った未来と翼に注意する百合子に手伝うことを報酬に提案してきた瑞希。なんていい子達なんだ...!
「うう...暑い...熱い...」
「ほら杏奈、こんな時ぐらいゲームじゃなくてちゃんと遊んどけって」
「杏奈、暑いの苦手...」
もう録な体力が残っていない杏奈はベンチに寝そべりゲーム機の電源を入れる。
しかし無防備過ぎやしないか?杏奈はこっちにお尻を向けて寝そべっている姿を見るとふとそんなことを考える。
いくら信頼を持った関係とは言え、男の俺に対して無防備な姿を見せすぎている気がする。って百合子も正面向けて屈むな!見えちゃマズイものが見えそうだ!
「あれ?プロデューサー、どうかしました?」
「いや、百合子、なんでもないぞ...?」
「?変なプロデューサー」
百合子に変な目で見られる。当たり前だ、さっきから俺の視線は泳ぎに泳ぎまくってる。戦いのシロウト驚愕の泳ぎ具合だ。
「春日さーん!伊吹さーん!サンオイルを塗りましょー!」
「あー!忘れてた!日焼けしちゃう!」
「未来、早く塗りいこ!」
瑞希が思い出したかのように未来と翼を呼び戻す。日焼け跡ができると仕事に多少なりとも支障が出る。瑞希はいい判断してくれるんだが、そのあとが問題だった。
なんだか瑞希から視線を感じ、瑞希の方を向く。瑞希は少し見つめたあと、グッとサムズアップをする。
なんだそれ、あいつ何をするつもりだ?
「春日さん、伊吹さん、プロデューサーにオイルを塗ってもらってはいかがでしたでしょうか?プロデューサーのオイルテクはすごいです。こう、ヌルヌルと」
「え、そうなんですかプロデューサーさん?じゃあお願いします!」
「わたしも、おねがいしま〜す」
「は!?いや、ちょっと待て!?俺は別に...!」
「いえいえ、プロデューサーのオイルテクがあればどんな日焼けもイチコロです」
何を言うかと思ったら瑞希は未来と翼にオイルをお願いするように提案してきたのだ。いやホントわかんねー!なんで瑞希はあんなこと言ってるんだ!?
「どうしたんですかプロデューサーさん?早くやって下さいよ〜」
俺が動揺している内に既にうつ伏せになり塗られる気満々の翼がこっちに誘う。
確か翼って14とかそこらだよな?うつ伏せになったことでとある部分が柔らかそうに潰れる。見るな、俺...!相手は中学生だぞ...!犯罪だぞ...!
「さぁ、プロデューサー。据え膳食わぬはというやつです。どうぞどうぞ」
「瑞希、あとで覚えてろ...」
「私はプロデューサーを思って提案したまでです。折角の夏のアバンチュール。堪能しない訳には行きません」
などと供述する瑞希。あとで旅館の料理盗み食いしてやるから覚悟しておけよ...!
拒否できる雰囲気ではなかったので仕方なしに翼の近くへ寄る。うぅ、こうしてみると直視できないほどの魅力がある。
若干14才の少女であるにも関わらず、その身体はほぼ成熟しきっているものだった。くびれもくっきりしてるし、うつ伏せになって胸が潰れて横に溢れている。
今から俺はこの少女の肢体にオイル付けた手で触るのだ。緊張で体がある意味震えてくる。
「じゃあ、塗るぞ...」
「はーい...ひゃんっ」
覚悟を決めてオイルを翼に塗る。まずは肩甲骨あたりに手の平を置く。
サンオイルの膜で隔たってるというのに手の平の感触は確かに柔らかな肌をとらえていた。
徐々にオイルを伸ばし、両手を使って塗り広げていく。その間にも尻とか胸とかに当たりそうでビクッと体が震える。
「加減はどうだ、翼」
「んっ、とっても気持ちいいです〜」
どうやら加減は間違っていないようだな。強くやりすぎると痛いから、力を弱めて塗ってる。
それにしても翼、時々声を上げるのはやめてくれ。なんだか如何わしいことしてる気分になるから。
「はい!おしまい!」
「ありがとうございまーす。じゃあ前の方も...」
「わー!ダメだって翼!仮にもプロデューサーさんは男の人なんだよ!?」
後ろを塗り終わったところで翼がアブナイ発言。水着を外したままこっちを振り向こうとする翼を未来が必死で止める。...俺?理性のせめぎ合いに夢中で発言を理解しきれなかった。
「あっ、そっかー!プロデューサーさんは男の人なんだよね...」
「そう!だからあとは私が...」
「プロデューサーさんはどうしたいですか?前も、塗りたいですか?」
「えっ...!」
前も塗る、ということは翼の前を塗るということか!?いや、ダメだ俺!COOLになれ、バッツ=クラウザー!お前はプロデューサーだ、アイドルとこんなことをしていい筈がないんだ!
...いや、同意の上ならオッケーなのか?
やっぱりダメだそれに周りにみんながいるこれ以上のことは流石にヤバいってイヤでもサンオイルを塗るだけだよなそれなら...
思考がグルグルし始め、俺の脳が
「ぷ、プロデューサー!?しっかりして下さい!」
「あわわわ、プロデューサーさんが!翼は早く水着つけて!」
「はーい」
「落ち着いて下さい、七尾さん。およそプロデューサーは興奮のしすぎで倒れただけだと思います」
「...うるさい」
みんなの喧騒が聞こえる。けど聞き取ることすら出来なくなった俺はそのまま意識を手放した。
☆☆☆------------------------------
俺が目覚めた時にはすでに夕暮れで、未来達はテントを畳み終えていた。
あれから4時間は寝ていたらしく、起きるやいなやみんなが駆け寄ってきた。
「プロデューサーさーん!良かったー!」
まず翼が俺の胸に頭突きをかます。心配してくれたのは分かるがそれなら寝起きのやつに頭突きをするか普通?
「ちょっと翼!プロデューサーに迷惑かけたんだから謝るのが先!」
「はーい、ごめんなさい。プロデューサー」
「まぁ気にすんなって。こうして生きてたんだし」
謝って欲しいやつは他にいるんだけどな。
「...プロデューサー。杏奈達、旅館の場所分からない」
「そーいやそうだった!旅館に行かなきゃだ!みんなもう行くぞ!」
杏奈の言葉で思い出した。旅館に行くのも徒歩だった!
ここからは歩いて三十分間の距離だから余裕でチェックイン出来る。
俺は未来からテントセット等の荷物を受け取り、先頭に立ってみんなを連れていく。
「プロデューサーさん」
「ん?なんだ未来」
「旅館ってどんな所ですか?」
「海が見えるいいところだぞ!ここら歩いて三十分間だから、直ぐだ!」
「「「「「......え?」」」」」
「あ、歩くんですかー!?」
俺が説明するとみんなの表情は固くなる。その沈黙に耐えきれなかった未来が叫ぶ。
どうやらこれから歩くことが信じられなかったみたいだ。おかしいな、三十分歩くくらい普通だろ?俺が旅してた時なんかは何日もかけて街と街の間を歩くのに。
☆☆☆------------------------------
「ようこそお越しくださいました。お話は高木様から伺っております。どうぞ、お部屋に案内致します」
「これはどうも。みんな、ついて早々だが部屋に向かうぞー」
「「「「は、はい...」」」」
「ここが今日泊まる旅館。ワクワク」
歩きまくったせいで未来達は疲労が表情に出ている。一方で瑞希はケロッとしている。疲れよりワクワクを優先するタイプなのかな?
「ふぅ、よいしょっと...」
部屋に案内され、荷物を適当な角に置いたあと窓際の椅子に腰掛ける。ちゃんと部屋は別々だぞ?食事の時は一度俺がいる部屋に集まるが。
今は夕方の18時。食事まであと2時間ある。一度風呂で汗を流してから料理をいただくとするかな!
☆☆☆------------------------------
「「「「「「いただきまーす!」」」」」」
時間を飛ばして2時間後。夏で海らしく海鮮が沢山の料理を前に食事を始める。まずやることは決まっている。
「それっ」
「あっ、プロデューサー。私の海老を」
「へへ、今日の仕返しだ」
「うう、海老、楽しみにしてたのに...グスッ」
仕返しにと瑞希が目をつけてた海老をとるとあまりにショックだったのか泣き出しちまった。
...いやまて、その手に持ってる目薬はなんだ。おいそれを見せろ後ろ手に持っていくな!
「プロデューサー!大人気ないですよ!?」
「そーですよ!謝った方がいいと思いますよ!」
「...最低」
「ぐっ...!」
瑞希の
「わ、わかったよ...ごめん瑞希。この通りだ」
と言って両手を合わせ許しを乞う。ハッキリいって屈辱のそれだが数の暴力には勝てない。
「...蟹を下さい」
「え?今なんと」
「海老を盗んだ弁償としてプロデューサーの蟹を下さい」
謝った俺に対して瑞希は蟹を要求してきた。海老は二つに対して蟹は一つしかない...
まさか!最初から狙っていたのか!?この展開を!
「わ、わかった。やるよ」
「どうもありがとうございます」
俺の分の蟹を瑞希の皿に移すと、瑞希は表情ひとつ変えずに感謝をいい、俺にサムズアップをした。
その合図はこっちを挑発してるように見えるな。くそぅ、次は絶対負けないかんな。
☆☆☆------------------------------
「ふぅ、夜の露天風呂もいいなー!」
食事を終え、夜限定の浴場があると聞き早速向かった俺はそこの露天風呂に体を通していた。
『混』と書かれた掛札に気づかずに。
「えっ、ぷぷぷプロデューサー!?」
「その声、まさか百合子か!?」
これは運命の悪戯か何かか、百合子が少し離れた場所で湯に浸かっていた。これはマズい、うっかりして男女逆に入っちまったかな!?
「よ、浴場を間違えたかな!?直ぐ戻るから...!」
「待って下さい!ここは一応、男女共通の浴場なんです」
百合子の言葉を聞き、立ち止まる。男女共通の風呂場なんてあるのか。だから脱衣所に堂々とタオル着用!なんて書いてあったのか。
「こ、こうして偶然会っちゃった訳ですし、少しお話しませんか?」
「わかった、なら何から話そっか」
互いに落ち着いてから口を開く。だが、話と言っても何を話すか。とりあえずこれからの事とかかな。
「その、改めてお礼をしたくって。最初に出会ったときのこと、覚えてますか?」
「ああ覚える。あの信号機頭の連中にナンパされてるところを俺が助けたんだよな」
「はい。あの時は本当にありがとうございます、プロデューサー」
「だから気にすんなって。今こうやってお前達のプロデューサーで居られるんだし、むしろこっちがありがたいよ」
百合子から出会った日の話をされる。思うとあれから二ヶ月。大体俺達が出会ったのは六月で今は八月。長いようで短かったな。
「私、あまり自分に自信が無くって、アイドルなんか出来るのかなってずっと思ってたんです」
「そうなのか?」
「はい。でも、プロデューサーが...バッツさんがプロデューサーだったから出来たんだと思ってるんです!」
「おおげさだよ。でも、そこまで褒められて悪い気はしないな」
百合子はどんどん話を続けていく。アイドルになりたいと思った理由とか『乙女ストーム!』のメンバーの話しとか。
「でもでも、私たちの冒険はまだ終わらないんですよね?」
「ああ!風が止まない限り、冒険に終わりはないさ」
冒険、と聞いてついあの時の感覚で話してしまう。ここの世界じゃ歯が浮くようなセリフらしいな。
「私たち『乙女ストーム!』のこと、これからもよろしくお願いします!プロデューサー!」
「おう!どーんとこい!」
百合子の言葉に俺は自信を持って胸を叩く。まだユニット専用の曲も貰ってないし、ライブもまだ回数をこなしてない。
だから俺が未来達を支えてあげなきゃな!
俺と百合子を打つ風は、まだ夏だというのに冷たい。湯冷めしない内に出なきゃな。
☆☆☆------------------------------
宿泊を終え、僅かばかりのオフを満喫した俺たちは通常通りの営業に戻っていた。
スケジュールも白が無くなり、誰かがどこかしらに出向いてる状態だ。
「...ん?なんだこれ」
終了間際にメールをチェックしていると、高木社長からメールが届いていた。
内容は、一ヶ月後に大規模ライブをすることと、そのライブに未来達『乙女ストーム!』が参加できる事だった!
いかがでしたでしょうか?
個人的にやりたかった半ばギャルゲ回。やりたかったことやれたんで良かったです。
次回からはキャラの掘り下げに移ります。バッツPと乙女ストームの各アイドル達との絡みをお楽しみいただけたらと思ってます。
ご感想、誤字脱字報告等いただけると幸いです!
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第七話:『あ』、『い』、『う』、『え』、『え』...やっぱりないか
一度パンの袋から外してコレクションしようと思ったら親にまとめて捨てられたアレです。
まず、前回ご感想を頂きました。本当にありがとうございます!ご意見でもご感想でも作者の励みになりますんでこれからもご講読よろしくお願いします!
今回は本編七話目なので百合子回です。「風」という単語にやたら縁のある二人です。
それではバッツPの活躍をお楽しみください!
修正ログ
2017/12/04 誤字脱字の修正。報告ありがとうございます!
「はぁ...」
俺が事務所につくなりため息が聞こえてきた。聞こえてきた方を向くと『乙女ストーム!』のメンバー、七尾百合子が分厚い本を読みながら想い耽っていた。
「おはよう、百合子。どうした?ため息なんかついて」
「...ああ、ダメですよそんな近づいたら...私たちは許されるような関係じゃないんですから...」
あいさつも返さず、いきなり近づくな宣言される。百合子からのまさかの発言でグサリと心に刺さる。朝から凹むなぁ。
「そ、それでも構わない?そんな、私一体どうしたら...」
違和感を感じる。俺はむしろ離れてるのに、百合子は言葉を止めない。まるでこの場にいない誰かに話しかけてるような...
「ま、まさか幽霊!?百合子、お前幽霊がみえるのか!?」
「ひゃあ!!プロデューサー!?いたのなら言ってくださいよぉ」
最初にあいさつしたんだがなぁ、と言っておく。とたんに百合子が顔を赤くさせ、
「もしかして私、また妄想の世界にとんでた?うわぁ!プロデューサー、さっきのは忘れて下さい!」
と俺に全力で忠告する。普段の百合子にはありえない声の大きさに俺は「お、おう」としか答えられなかった。
「あ、そういえはあいさつまだでした。おはようございます、プロデューサー!」
「おはよう百合子。お前にいい仕事とってきたぞ!」
と言って俺は百合子に資料を取り出す。中身はドラマ「ウィンドクラン」。風の戦士である少女が世界を救うために旅をするというファンタジー系のドラマだ。
最近はVFX(CGとか使ってエフェクトを付ける撮影方法)を使ってド派手にやるものが多いらしい。今回のドラマもエフェクト多用で行われる。
「っていう内容なんだが、やってみないか?」
「風の戦士...!やります、やらせてください!」
百合子は机に乗り上げかねない勢いで意気込みを示す。
彼女のやる気に応えるようにバッグから台本を用意する。
「もちろん百合子には主役をやってもらうから、頑張ってな!」
「はい!」
台本を受け取った百合子はのめり込むように読み込みを開始する。これなら台詞忘れとかは無さそうだ。
ただ、戦闘描写も多いからレッスンもそれを重視する感じかな。あのライブを終えてから初めての大きな仕事だ。ヘマは出来ない!
☆☆☆------------------------------
所変わって今は郊外の山中。撮影が始まり、今は百合子演じる「リリーナイト」が妖精と会話するシーンを撮影している。
『それは本当?なら、すぐに戻らなくちゃ!村の危機よ!』
「はいカット!いいよいいよー、なら次のシーンいってみよっかー!」
「はい!ありがとうございます!」
シーンカットが入り、監督から褒められる。百合子はすごいな、本当にそこに妖精がいるかのような出来栄えだ。
だけど、次こそ心配だ。次のシーンは村へ戻ったリリーナイトが悪者と戦闘するシーン。アイドルの中では体力がない方である百合子がこのシーンをこなすには不安がある。
「それじゃ次のシーン、スタート!」
『そんな...村が...!』
『まだ生き残りがいたか!我が手下よ、女子供も関係ない!やってしまえ!』
『ぐるるるる...!』
百合子が敵の下っ端である『ネクロマンサー』と対峙する。対して相手は狼型の魔物を放つ。百合子は魔物と戦っていくが...
「きゃあ!」
「カーット!百合子ちゃーん、もう少しカッコ良く剣振ってくんないと困るよ!」
「す、すみません!」
どれだけ演技が良くても、剣の振り方が素人だから当然カットが入る。
「それじゃ、もう一度いくよ?よーい...」
それから日暮れ近くまで撮影は続いた。
☆☆☆------------------------------
「お疲れ、百合子」
「あ、お疲れ様です...」
撮影は終了し、戦闘シーンは二日後に延長した。当の百合子は度重なる演技指導と演技で体も心も疲れていた。
「戦闘シーンの撮影はまた今度だってさ」
「そう、ですか...。どうしよう、また次の撮影でもダメだったら」
「二日あるんだ。それだけありゃなんとかなる。心配すんなって百合子!俺に任せとけ!」
「プロデューサー...はい!」
不安になる百合子を励ます。今回の件に関しては解決策に幾らか心当たりがあった。二日あれば最低限の剣術を叩き込める。
教える剣術はもちろん、親父に習った技さ。
☆☆☆------------------------------
特訓については午前に入れていたレッスン時間を使い、百合子に剣術を教える。
アイドルとして練習したのもあり、体力と筋力は充分ついていけている。後はテクニックだ。
「はっ!やぁっ!」
「そう!そうやって動きを小さくしてなるべく力を集中させるんだ!」
木刀に金属の重りを付け、そこそこの重量を持ったモノを使い百合子に使わせる。女の子だからといって教えに容赦はしない。
それこそ百合子にも、親父にも失礼だからだ。
「違う!そこはしっかり構えろ!でなきゃ振りが甘くなって力が入らなくなっちまう!」
「はぁっ...はぁっ...は、はい!」
それからレッスンは二時間続いた。
「よし、んじゃ最後だ。今日の総まとめをするからな?」
「はい!でも、なにをするんですか?」
レッスンの総まとめとして、百合子がどれだけ剣術スキルが上がったかをテストする。内容は簡単。俺が出す一撃を返せれば合格だ。
「それじゃ、行くぞっ!」
俺はそう百合子に合図すると、百合子の周りを高速で周り始める。かつて俺が見た技、ケルガーの『ルパインアタック』を"ものまね"して繰り出す。
「は、速い...!?っでも!」
百合子は一瞬驚いたが、すぐに落ち着いて目を閉じる。俺がレッスンをするのに大事なことを教えた。それはまず落ち着いて、それから相手を感じることだ。
「くらえっ!!」
「...!!そこ!」
俺が百合子の後ろから奇襲を掛けるが、百合子に見切られ、脇腹に一閃。俺はそのまま真後ろに吹き飛び、壁にぶち当たる。いってぇ...!
「プロデューサー!?大丈夫ですか!?」
「いったかったけど、いい一撃だったよ百合子。これならどんな剣士役のオファーが来ても大丈夫だな」
「プロデューサー...ありがとうございます!」
心配する百合子を安心させるため強がりを見せる。全くの無防備なところに撃ち込まれたからそのダメージは凄まじいが。
でも、百合子はこの短時間で他の剣士役やってる奴より遥かに超える剣劇が出来る自信がある。
なんてったって、俺に習った技だもんな!
☆☆☆------------------------------
『ぐぅっ!おのれリリーナイト!よもやそこまでの力があろうとは...!』
『ここまでよ!この剣にかけて、お前を倒してみせる!』
リリーナイトは村を焼き尽くしたギルガンに向かって真っ直ぐ走る。ギルガンは彼女の剣を寸で受け流す。
しかし彼女は風の戦士。速度上昇の加護を得た彼女は人とは思えぬ速さで剣撃を繰り返す。その一撃一撃はギルガンの急所を的確に狙っていく。
『おのれ!おのれおのれおのれおのれおのレおノレオノレオノレェー!!』
『...っ!貰ったー!』
ギルガンが見せた隙を、リリーナイトは見逃さなかった。ギルガンの剣を強く弾き、無防備になったギルガンを袈裟斬りで大きく切り裂く。
『ぐ...がぁ!』
『これで終わりよ、ギルガン』
『ありえん...何故だ...何故...!』
『お前は私のことを侮っていたようね。その慢心こそ、お前が負けた理由よ』
虫の息同然のギルガンはそれでと納得がいかなかったのかうわ言のように繰り返す。
リリーナイトの一言を聞いた瞬間、ギルガンは『く...そ...』と、最後まで自身の敗北を認めないまま光に消えていった。
『すごいわリリーナイト!あのギルガンを簡単に倒してしまうなんて!』
『ウィンダス...私はこの世界を脅かす悪を絶対に倒すって決めたから、負けることは無いわ』
「それに...」
「それに?」
「大切な人から、習った技だから...」
瞬間、現場が凍りつく。風の戦士はどうやら冷気魔法も使えるみたいだ、とふざけている場合ではない。
清々しいまでのアドリブ。そのときの俺の心情としては、火力船が爆発するときのあの危機に匹敵する状況だったと言えた。
「...あ」
「カッート!いやー、いい演技だったよ百合子ちゃん!ここ二日だけでバッチシ剣劇上手くなったし、最後のアドリブも最高だね!」
「へ?あ、ありがとうございます」
「大切な人からの形見である剣技を使う、悲しみを背負った騎士。これは脚本に相談しなきゃだ!正直、おじさんもスパイスが欲しかったところだからね、百合子ちゃんのその設定、使わせてもらうよー!」
最後のアドリブが大いに気に入った監督が百合子をべた褒めし始める。こっちとしては冷や冷やしたから、この結果はオーライなんだが。
最初百合子はポカンとしていたが、すぐに喜びの表情を見せ、嬉々として監督に設定談義を繰り広げた。
そのあと出来たリリーナイトの兄弟子役を俺がやらされるハメになったのは、また別の話である。
☆☆☆------------------------------
「全く、あのときは本当に怖かったんだぞ?あのアドリブが無けりゃ何事もなく帰れたのにさ」
「その節はホントすみませんでした...」
「あー、そのな?別に怒ってる訳じゃないぞ?そのお陰で監督から追加オファー貰ったんだし」
ドラマは大好評。瞬間視聴率は10%と、ドラマ史上なかなか類を見ない人気振りだった。
俺と百合子は今、百合子が行きたいって言っていた国立図書館にいる。リリーナイトの設定を作るため、もっと多くの本に触れたいとの話だ。
にしても暇だな。図書館だからって本を開いたら魔物がでる訳でも無いから、不安はないけど。こうなったら"アレ"を探すか。
「え〜っと、『あ』、『い』、『う』、『え』、『え』...やっぱり無いか」
「プロデューサー、『え』って何を探してるんですか?」
"アレ"を探してるのに夢中で百合子の気配に気が付かなかった。百合子は本を数冊抱えながら俺の横にいた。なぜか軽蔑の目線を向けて。
「あ、あれだよ。えーっと、ほら絵本!最近ハマっててさ...」
「ふーん、ま、いいですけど。」
どぎまぎしてしまったが、なんとか誤魔化せた。百合子は次の本を適当に見繕い、席に戻る。
俺も例の本探しを開始するときに「それから」と声が聞こえた。
「プロデューサーの探しているであろう『えほん』はここにはありませんので!」
強めの声で咎められる。どうして女の子ってそんなに勘が鋭いんだよ...
席についた百合子の髪が揺れる。室内だというのに、まるで透明な風が吹いているかのように、やわらかな香りが俺の鼻孔をくすぐるのだった。
いかがでしたでしょうか?
百合子にナイトのジョブが付きましたが、本編では一切戦いに使われないのであしからず。
描写したいものが増えるたびに一話ごとの文字数が増え、前半の話との文字数差をどうしようかと悩みますね。嬉しい悲鳴ではありますが。
ご感想、誤字脱字報告等いただけると幸いです!
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第八話:瑞希は瑞希だ、自信持て!
そういえば食パン以外のパンの袋にもついてたなって気がついたアレです。
今回は真壁瑞希メインの回。まかべーの突然の行動と言動には中々描写が大変ですがなんとかやります。
それではバッツPの活躍をお楽しみください!
「プロデューサー、少しいいですか?」
事の始まりは、瑞希の相談からだった。
「どうした、悩み事か?」
「はい。まず、プロデューサーは私のことをどう思ってますか?」
と、相談するなりいきなりの質問。あれだよな、普段の行動がどうかであって別に個人の好き嫌いとか感情の話ではないよな?
「んー、そうだな。いつも頑張ってくれてるとは思うけど、少し笑顔が足りないんじゃないか?」
「やはり笑顔ですか。ではどうやったら笑顔を作れますか?」
ここは正直にと思った事を口にする。それを予想したかのように次の質問を俺に投げる。
てか笑顔の作り方?笑顔の練習なんてある訳ないじゃないか。アッハッハッハー!て笑うのか?
「笑顔ってのは自然に出来るんだから、作る必要はないと思うぞ」
「むぅ、それが出来たら苦労しません」
瑞希は怒るぞと言いながら怒ってそうな表情をする。だがこれがまた全く怖くない。それどころか愛嬌がある。
かわいい、で言ってしまえばそれで終わりだが、瑞希の求めてる表情からすれば程遠いもんなんだろうな。
「よし、分かった。つまり瑞希はもっと表情豊かになりたいんだな?」
「はい。さすがですプロデューサー。その推測力に惚れ惚れします」
そう褒めてくれる瑞希の声色は、なんだか一定。折れ線グラフにしても意味が無いレベルで抑揚がない。
瑞希の悩みが表情なのか、それとも声のトーンなのか。それが分かりづらいところだ。
「なら、今日の営業は俺もついて行くから一緒に笑顔の秘訣を考えるか!」
「本当ですか?ありがとうございます、プロデューサー。プロデューサーとお出かけ...わくわく」
☆☆☆------------------------------
「これからも頑張って下さい!」
「はい。応援ありがとうございます」
今日の営業はCDお渡し会だ。もちろんミニライブで披露した『THE IDOLM@STER』のCDを手渡しで配布する。
瑞希のファンも一定数存在する。それでも翼よりは少ないけど、特徴的なのは女性ファンが多いってところかな。
「あ、あの!出来れば笑顔を頂けませんか!?」
「笑顔、ですか...こう、でしょうか?」
ファンの子が瑞希にスマイルを求める。それに対応しようとするが、いまいちぎこちない笑顔になってしまっている。
まぁ、ファンの子もそれで凄く喜んでくれてるからいいのかもしれないが。
「...ふう、これで全部。よくやったぞ瑞希」
「瑞希、よく頑張ったな!飲みもん買ってくるけど何がいいか?」
「ありがとうございます、プロデューサー。では、甘いジュースをお願いします」
一時間近いお渡し会を終え、すこし疲れが出たであろう(表情では全く分からないが)瑞希を労る。
甘いジュースと言ってたからネ○ターの桃ジュースを買って瑞希に渡す。
「あの、プロデューサー」
「ん、どうした?」
「お渡し会のとき、ファンの方から笑顔を要求されました」
瑞希は缶を持ったままそう俺に話す。俺は「そうだな」と相槌を打っておく。
「ファンの方は喜んでくれました。ですが、あれでよかったのでしょうか?」
「んー...俺も横から見てたけどあまり自然な笑顔ではなかったよな」
「そうですよね。むーん...」
やっぱり瑞希はさっきの事が気になるらしい。その悩みを解決させるために俺は続ける。
「もしかしたら、ファンの子はそんな瑞希も含めてファンになったんじゃないか?」
「?それはどういうことですか。気になります」
「要は、瑞希はそのままでいいって事だよ。笑うのが苦手で、でもクールに振る舞える。そんな瑞希が好きなんだよ」
「...そう、ですか。これも私、なんですね」
「そう、笑顔が苦手とかどうだっていいさ。瑞希は瑞希だ、自信持て!」
俺はそう瑞希を元気づける。人に好かれる為に自分を隠してちゃ疲れちゃうから無理する必要はない、とも付け加えとく。
「いいですね、その格言。瑞希ズノートに書き込まなければ」
「だから、それはもういいって!恥ずかしいだろ!」
「いえ、プロデューサーからは色々人生についてとても参考になる発言ばかりなので」
さっきまでの落ち込みは嘘のようにケロッとした表情でノートを取り出す。いつも持ち歩いているのかよ、それ。
「無理に笑顔を作る必要はない、それは分かりました。でも、出来るようにはなりたいです」
「確かに、出来るようにはなっておいた方がいいかもな。なら少し笑顔の練習するか」
瑞希は納得をしながらも、更に上を目指したいということを伝えてきた。その気持ちを台無しにするわけにはいかないし、練習を続けることにした。
☆☆☆------------------------------
「じゃあ次はこれだ。キウイって言ったときにキウイの"イ"で口を止める!これやってみるか」
「はい。...キウイー...どうでしたか?」
「まだ表情硬いな。うーん、これも駄目か」
今俺と瑞希は事務所に戻り、笑顔の練習をしている。片手に『これで相手を魅了する!最かわっ☆笑顔テクニック』といういかにもな本を持ち、瑞希に指導している。
「次は...っと、表情筋をマッサージすると効果アップか。ちょっとやってみるか」
「表情筋のマッサージですか。よくテレビでやってたりしま...ふぎゅっ」
何か言っている瑞希を遮るかのごとく両手で頬を鷲掴みする。掴んでみて分かったが、これマッサージ必要無いんじゃないかってくらい柔らかい。
この柔らかさは男女の差なのか?レナ達にはやったことなかったから新鮮だ。
「むぐむぐ...ぷはっ!」
「どうだ?表情筋柔らかくなったか?」
「うーん、あまり変わらない気がします」
あれだけ柔らかかったんだ、あまり効果もないか。しかし、笑顔が出来るためにここまで苦労するとはな。
「これも駄目、と。なら次は...」
「...すみません、プロデューサー」
「え、どうした急に?」
「いえ...今日のプロデューサーには迷惑をかけてばかりです」
いきなり謝ってきたと思ったらそんなことか。お渡し会と同じ様な落ち込みを見せる瑞希をもっかい元気づけなきゃな。
「気にすんなって、これも仕事の内だよ。それにこんな風に誰かと悩むのも、なんだか懐かしいし」
「懐かしい、ですか?」
「ああ、そりゃもう。お前達が売れ始めてからこんなこと滅多になくなっちゃってさ。いい事なんだろうけど、やっぱ寂しいや」
「...プロデューサーは意外と寂しがり屋なんですね」
そう言った瑞希はクスッと笑う。
「なんだよ、馬鹿にしてるのか?...って瑞希、やっぱ笑えんじゃんか!」
「そうでしたか?...気づかなかったぞ」
ああそういう事か。最初に言った通り笑顔は自然に出来るんだな。
よし、そうと決まればそれを慣らすべきだ!そう思って立ち上がって何か面白いことをしようとしたとき、下半身、特に足の部分に激痛が走る。
テーブルの角。面取りされて丸くなっているそれに右の脛を、俺なりに言うなら『ギルガメッシュの泣き所』を強打する。
その痛みは
「がっ...!いた、いってぇ!」
俺は痛みに耐えきれずのたうち回るが、事務所のパーテーションに気づかず、その角に頭を強打。
このデルタアタックに耐えれる猛者はそういないだろう。
痛める頭をなんとか耐えつつ、瑞希の様子を見るが、俺はそこで目を疑った。
「ぷふっ...!ハハッ、アハハハハ!」
瑞希が、あの瑞希が腹を抱えて笑っている。目に涙を浮かべながらも全力で笑う。
その笑い顔がとにかく新鮮で、かつ年相応の可愛らしさがあった。
「アハハハッ!...もう、プロデューサー。何をやっているんですか?」
「え、いやーその...なんでもいいだろ!」
「なんでもな訳ないじゃないですか、ハハハ!」
俺の言葉と状況があまりに可笑しかったのか、また瑞希は笑い出す。心底恥ずかしかったが、それ以上に価値のあるものが見れた気がする。
それか俺が必死の弁明をし、瑞希の笑いを収めるまで十分かかった。
☆☆☆------------------------------
「ふぅ、ここ一生で一番笑いました」
「全く、ホントどこに面白味を感じたんだか」
「全部です、全部」
事態を収集し、なんとか互いに平静を保てるようになったところで会話をはさむ。
「でも、ありがとうございます。プロデューサー」
「ん?どうしたいきなり」
「今日はプロデューサーのお陰で、大分笑顔の練習が出来たと思います」
「そっか!なら手伝った甲斐があったよ」
過程はどうであれ、瑞希のステップアップに繋がったならそれでよしとする。
結果オーライってやつだな。
「これならライブでもすぐに笑えると思います」
「ホントか?そんなに勉強になったのか」
どうやら瑞希は完全に笑顔のコツを掴めたらしい。今度のライブに期待だな!
「はい、なぜなら-----」
「プロデューサーのあの姿を思い出せば、今でも笑い出すことが出来ますから!」
そう言って瑞希は事務所の外へ逃げ出す。それは笑顔じゃなくて単なる思い出し笑いだろ!あいつ、わざと含めた言い方してたな!
「待て!何処に行く!」
「そろそろ春日さんたちが戻ってくる時間なので!」
「やめろ!言いふらすな!あいつらに話したら許さないぞ!」
「それなら捕まえみてください!逃げるぞー!」
「ああコラ、待てー!」
全力で逃げ出す瑞希を逃がすまいと全力で追いかける。夕方近くで少し肌寒い風がつき切る中。
ときどき振り返る瑞希の表情は、確かに笑っていた。
いかがでしたでしょうか?
今回は全力で瑞希を笑顔にさせるために奮闘しました。笑い転げるまかべーが見てみたい。そう思います。
書きながら実際にそのシーンをイメージするのですが、まかべーが腹を抱えて笑うシーンを想像するときっとすごく可愛いんだろうなーって思います。キモいですね。
ご感想、誤字脱字報告等いただけると幸いです!
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第九話:杏奈には敵わないな
見たことあるけど正しい名前を知らないランキング上位であるパンのアレです。
望月杏奈メインの回。ONモードを全く見せてませんが、事務所での話が多かったりするのでご容赦を。ONモードの杏奈は、どこかで必ずやろうと思います。
それではバッツPの活躍をお楽しみください!
「趣味付き合い月間だ!」
事務所で『乙女ストーム!』のメンバーとミーティングを始めて開口一番。もちろん未来達は突然の宣言にビックリしている。
未来達は互いに顔を見合わせると、何かを悟ったようにクスリと笑い合い、再び俺に視線を向ける。
仲がいいのは良いことだけど、なんか含みがある目でこっちを見てくるんだが。まぁいつものことだよね、みたいな視線だ。
「ゴホン!これから俺はお前達のプロデューサーとして、もっとお前達のことを知りたい。そのための趣味付き合い月間だ」
「それは分かるんですけど、具体的になにをやるんですか〜?」
「それについてだが、一週間に一人のペースで俺がお前達の趣味に付き合う。必要な物があれば経費で落としてくれるって社長も言ってくれたし、遠慮しなくていいからな!」
「それって経費で落ちるんですか?完全に私用な気がするんですが...」
俺の提案に納得する翼や未来。どこか不安げな百合子と杏奈。とくに表情は変わらないが少し楽しげな瑞希とどうやらみんなやること自体に反対はしないみたいだ。
「それについては心配すんな、社長に直談判したからな!」
「さすがです、プロデューサー。伊達にテーブルの角で一発芸を披露するわけじゃありませんね」
「...瑞希さん。それ、詳しく教えて欲しい」
「わかりました。あれは私とプロデューサーが」
「瑞希、それ以上言ったらゲンコツな」
俺の恥ずかしい話に移ろうとしたので瑞希に釘を刺す。
この前はギリギリ捕まえることが出来たからよかったものの、今日まで何回も"俺の前で"話をしようとするから止めるのに苦労する。
「それで、最初は誰からですか?」
「最初は未来か百合子辺りにしようと思ったんだけど、気が変わった。最初は杏奈にするかな」
「...杏奈?...プロデューサー、一緒にゲーム、する?」
杏奈は不思議そうな顔をしながらも俺をゲームに誘う。
杏奈の趣味はゲームだったから、そういった経験のない俺にとって興味の対象だった。
それが今回の杏奈優先の理由だ。
「おう!それじゃ今日のミーティングは終わりにするから、みんなそれぞれの仕事に向かってくれ」
「「「「はい!」」」」
「...プロデューサー、杏奈は?」
「杏奈はこのまま俺と行動だ。一緒に仕事しながら色々聞こうと思ってな」
「うん...分かった」
☆☆☆------------------------------
所変わって今は近郊のカフェ。今回杏奈はインタビューの仕事だ。
『乙女ストーム!』に関するインタビューをしたいとのことでなんとか杏奈だけ都合が着いた。いやー、忙しいのも損なものだよな。
「では、望月さんはあまりダンスが得意ではなかった、ということですね?」
「はい...あまり、体力が無かったから...」
「では、どのようにその問題を克服しましたか?」
「んと、みんなと一緒にいっぱい練習したから...です」
「そうですか...っと、以上でインタビューは終了します。では最後にファンの方へ一言お願いします」
「...杏奈、これからもっと頑張るから...応援、してね?」
「ありがとうございます!プロデューサーさん、本日はお忙しい中ありがとうございました」
「構いませんよ、また別のメンバーの時間がとれたらもう一度インタビューをお願い出来れば」
「ええ!その時はよろしくお願いします。それでは私はこれで失礼します!」
「ああ、ありがとうございます」
...ふぅ、なれない敬語もようやく方に就いてきたか?ついでに追加のインタビューの依頼も貰ったし、一件落着だな。
杏奈に目配せすると、杏奈は俯いたまま水を口に含んでる。表情が強ばってるから、およそ緊張したんだろうな。
「さて、杏奈は午後の仕事ないし。なあ杏奈、折角だからゲームについて教えてくれよ」
「!うん...!」
気分を変えさせるためにゲームの話題を振ったら喜んで飛びついた。しばらくは杏奈の趣味に付き合うかな。
☆☆☆------------------------------
「それで、今度はこっちのゲームなんだけど...」
「ほうほう」
それから小一時間。俺はずっと杏奈の話を聞いていた。
普段ほとんど喋ろうとしないイメージがあったから、この手の話題を嬉々として話しているのが新鮮だ。
「このゲームはアクションRPGで、装備を整えながら強いモンスターと戦っていくの...」
「へー、面白そうだな」
杏奈のゲーム紹介を聞いていて感じたことが三つ。
一つ目は杏奈がさっきから協力できる多人数プレイのゲームを進めていること。
二つ目は杏奈がするゲームの紹介がとても魅力的に聞こえてくること。
三つ目は二つ目のことを活かした仕事を企画出来るんじゃないかということ。
総合的にみると、杏奈はゲームを通して誰かと繋がりたいんじゃないかなと思う。普段話すのが苦手な杏奈だが、ゲームの話題をするととても喜ぶわけだし。
「プロデューサー、色々紹介したけど、面白そうなのあった?」
「そうだなー、杏奈が最後に見せたやつかな。『ハンターオブモンスター』だっけか?」
「うん...それ、杏奈もやってる」
まぁそうだと思った。全部杏奈が持ってるゲームから選抜してるのは分かってた。
もしかして俺と一緒に遊びたいのかな?そうだとしたらもちろんやるつもりだ。
「んじゃ、これ買いに行ってみるか」
「本当...?じゃあ、今すぐ行こ?」
「よしきた!」
なんというか、妹ができたらこんな感じなのかな?ちょっといいかも。
なんてこと考えながら手を引く杏奈に連られてゲームショップへ足を運ぶことにした。
☆☆☆------------------------------
「ふーむ...」
今は日が落ち込んだ夕方近く。杏奈とゲームで午後を過ごし、今は溜ってる仕事を片付け、ゲームの参考にと動画サイトを巡っている。
スマイル動画というサイトは打ち込んだユーザのコメントがダイレクトに流れてくるという動画方式のサイトだ。
ゲームやアニメならここ!と杏奈に教えて貰った。
「このサイト、実況プレイってのが流行ってるのかぁ」
ゲームをプレイしながら実況をするという、いわゆるサッカー実況とかと似た手法をとった動画だ。
実況者が面白いことをしたり、コメントに面白いことを書いてあったりと賑やかだ。
「それにしても、再生数すごいな。この動画は二十万も稼いでんのか」
同じ人がリピート再生するにしろ二十万という数は魅力的だ。それだけの数の視聴者がこの実況を見ていることになる。
(まてよ?これ、上手く利用できるんじゃないか?)
そこで俺はティンッと閃く。杏奈に新作ゲームとかのPRをしてもらえばいいんじゃないか?と。
そうすれはゲームの知名度は上がるし、杏奈をゲーム好きアイドルとしての売り込みがかなり簡単になる。
「さっそくゲーム制作の企業さんに話してみるか!」
☆☆☆------------------------------
「杏奈、いるか?」
「...ここにいるよ?」
それから三日後、俺はとっておきの資料を持って杏奈とミーティングする。
これを見たらきっと喜ぶぞー?
「杏奈の次の仕事を持ってきたぞ!お前に向いてると思うよ」
「...これって...!」
パサッ、と資料を杏奈に見せる。その名も『望月杏奈のビビっと!ゲームニュース!』だ。
内容は杏奈に様々な新作ゲームをPRしてもらうというものだ。ベータ版をプレイしてもらいながらその魅力をユーザに伝える、というものだ。
スマイル動画や雑誌にも載っけてもらい、広くメディア展開するつもりだ。
「杏奈がゲーム好きって言ってたからこんな感じの企画をやるんだ。面白そうだろ?」
「...これ、新作のゲームをプレイ出来るの?プロデューサー、すごい...!」
当たり前だ。なにせこの前の杏奈のゲーム紹介ボイスを先方に見せまくったからな。それでも二日回って五社中三社しかオファーしてもらえなかったからまだまだだな。
アイドルがゲーム紹介してくれる、と聞いてもっと沢山オファー来るかな、と思っていたからまだ納得していない。
ま、一つもオファー来ないってよりましか。
「杏奈、この仕事受けてもらえるか?」
「うん、やりたい...!」
「よし!なら来週にでも第一回を収録だ!」
☆☆☆------------------------------
「な、なんだこりゃあ!?」
「どうしたんですかプロデューサーさん?ってピヨ!?」
例の収録が終わり、動画が投稿された翌日。俺と小鳥は驚愕の声を上げていた。
「じゅ、十万...!?」
「い、一日経っただけでこの再生数は凄いですよ!」
一日経っただけで十万人もの視聴者が杏奈の動画を見たということだ。コメントを見てみると、
『ビビラビが実況するってマ?』
『ビビラビから』
『杏奈ちゃんって乙女ストームの?』
『うぽつです!杏奈ちゃんのファンです!』
などなどと言ったものだが、気になるのが『ビビラビ』という単語だ。これは杏奈を指すものだとは分かるが、そんな宣伝の仕方したっけかな?
「...プロデューサー、おはよう...ございます」
「杏奈か?お前の動画すごいぞ!もう十万再生突破したんだ!」
「さすが杏奈ちゃん!」
「そうなの?...ツミッター投稿は駄目だった、かな?」
ん?ツミッター?たしか全国SNSのやつだな。じゃあこの再生って...
「杏奈、プロデューサーの役に立ちたかったから...ネトゲのフレンドとかフォロワーに、見てもらうように...呟いたの」
「じゃ、じゃあこの『ビビラビ』って...」
「うん...杏奈の、ハンドルネーム。『vividrabbit』」
合点がいった。杏奈はゲームネームを使って自分の宣伝をしたらしい。それがこの再生数の意味なんだな。
「それでも、この再生数は...」
「杏奈、お前のフォロワーってどんくらいいる?」
「んと...アイドルとしてのアカが、三万...vividrabbitのほうのアカが、六万...だよ?」
どうしてアイドルより有名なんだ、こいつ?
「...時々テクニック動画とか、挙げてたから...それの影響...」
「なんてこった...杏奈には敵わないな」
あまりの知名度の差に俺は卒倒しかける。
画面をみると、『ビビラビが美少女だとか』『ビビラビって杏奈ちゃんだったの!?』などというコメントの流れが、まるで俺への向かい風のように吹き荒れてた。
いかがでしたでしょうか?
もうちょい別の終わり方を考えてましたが、文字数にムラが出来てしまうのでまた別の話のときにしようと思います。
杏奈って多分ここまで出来るんじゃね?てことでかなり捏造設定を入れてしまいました。でもうちの杏奈はこんな感じです。
ご感想、誤字脱字報告等いただけると幸いです!
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第十話:大ハマリかと思ったぜ
実はリンゴの袋を止めるための製品だったアレです。
今回は伊吹翼メインの回。実は翼ってFだそうです。何がとは言いませんが。
最近ミリマスの漫画限定版CD曲である「アイル」を手にいれたくて悶々としてます。
それでは、バッツPの活躍をお楽しみください!
「翼、お前のソロライブが決定したぞ!」
もうじき冬にかかり、暖房を付け始めた事務所で俺は翼にソロライブの件を話す。
「本当ですか?やったー!」
「ああ、場所は東京のとある文化館だけど、予約チケットは売り切れ寸前だぞ!」
喜ぶ翼に嬉しい追い討ちをかけるよう、動員数の話を切り出す。
場所は東京某所。約500人収容可能な大きめの文化館でライブをするのだが、300枚の先行予約チケットが完売御礼の状態だ。
実際、乙女ストームのメンバーで一番人気があったのが翼だった。未来達が数千人に対し、翼はもうじき桁が増えかねない勢いだ。
「ライブに向けて翼専用の楽曲もあるから、これからレッスンが厳しくなるぞ?頑張ってけ!」
「え〜、もっとレッスンしなきゃですか?やだな〜」
翼の為に用意した曲を、レッスンが厳しくなるという一点で否定してきた。前から翼がレッスンに対して消極的なのは知っていたが、まさかここまでとは思わなかった。
「ライブを盛り上げるためには、それくらいの努力は必要だ。頑張ってくれ」
「...は〜い」
渋々ではあるが了承してくれた。個人レッスンは基本的に俺が担当しているから、ちゃんとやって欲しいところだな。
「それじゃ今日はダンスレッスンから始めるからな」
「わかりました〜」
☆☆☆------------------------------
「...おかしい」
レッスン開始からほんの二十分。翼がトイレに行ってから五分経ったが、未だに帰って来ない。
嫌な予感がするが、頭を振って思考を中断する。まさか、たったの五分でレッスンをやめるわけないよな。
だけど、翼がレッスンから戻ってくる事は無かった。
☆☆☆------------------------------
「翼!どこだ!」
「?プロデューサー、翼なら大分前に出かけていきましたよ?」
事務所にダッシュで戻り、翼を呼ぶ。ソファで本を読んでいた百合子が翼の行方を教えてくれた。
やっぱりレッスンサボったんだな、翼...
「本当か?あいつ、今の時間までレッスンだったはずなんだよ」
「...えっ?それじゃあ大分前に来た翼は...」
「そうだよ、あいつレッスンを」
「まさかあの翼は、幽霊!?」
「いや違うよ!レッスンサボったんだ!」
斜め上の結論に至る百合子にツッコミを入れる。普段から本読んでるせいで思考がフィクションに行きがちだよな。
想像力が高いのはいいことだが、今はそんなことを考えてる時間じゃない。翼を呼び出して説教しなきゃ!
「レッスンサボったんですか?確かに翼ならありえるかも...」
「ありえちゃいけないけどな。ともかく、あいつが行きそうな場所を探すしかないか」
「あ、それなら私心当たりがあるかもしれません」
「本当か!」
「はい、私も行きますから、少し待っててください」
☆☆☆------------------------------
「あっいた!翼ー!」
「百合子?...ってプロデューサー!?」
向かった先はゲームセンター。百合子が迷わずUFOキャッチャーのコーナーに行くと、翼がいた。
百合子曰く、翼一人で行く場所は大体相場が決まっているらしい。すごいな、名探偵のそれだ。
「ようやく見つけたぞ、翼。全く、レッスンサボってゲーセンに行くなんてな」
「...だって、レッスンつまんないんだもん」
「つまらなくてもやるんだ。本番で失敗したらどうするんだ?今までと違ってソロライブの会場はもっと沢山のファンが来るんだぞ?」
レッスンがつまらない、という理由でサボった翼を叱る。実はこれが最初の説教ではなかったりする。
翼はどうにも飽きっぽい性分みたいで事あるごとにレッスンをサボる。とはいえ全体練習なんかはちゃんとやる辺り人に迷惑をかけようとは思ってはいないらしい。
だが個人レッスンの時はサボる。翼がサボる確率は八割を超えていて、後半になるほどやらなくなる。本人曰く一回踊りを見れば覚えられる、らしい。
「ま、まぁまぁプロデューサー。翼も反省しているみたいですし、ここは大目に...」
「本当に反省してたなら、何回もやらないはずだろ?」
「それは、そうですけど」
諌めようとする百合子を説得し、今回ばかりはこってり説教してやろうと翼を見る。
翼はシュンとして落ち込んでいて、さながら雨に濡れた犬を思わせる。
「...翼、今後勝手にレッスンサボらないって誓えるか?」
「...はい」
「ならいいや。だったら早く出るぞ?昼ご飯まだ食べてないしな」
「えっお昼ですか〜?わたし丁度お腹が空いてきたんですよ」
「翼?ちょっとさすがに図々しくない?」
「うぅ、百合子まで厳しい...」
「当たり前でしょ?プロデューサーに迷惑かけたんだから」
百合子からの一撃でさすがに答えたのか、翼は昼の間余計な話をしてこなかった。
☆☆☆------------------------------
翼のミニライブまであと五日と迫った今日。俺は普段通り翼のレッスンを見ている。
身が入っていないとはいえ、ちゃんとレッスンに来るようになった。それはいいんだが、もうちょっとなんとかならないかな...
「ねぇ、プロデューサーさん」
「なんだ?」
レッスン途中だった翼が俺に話しかけてきた。どこかわからないところでもあるのか、と思ったが
「ジャンケンしよ?」
という突然の提案に呆然としてしまう。なぜジャンケン?
「いきなりどうしたんだ翼?」
「うん。このままやってもレッスンの意味無いですから、ジャンケンで勝負をしましょう」
「どういうことだ?ますます意味が分からないんだけど」
その後の翼の説明で納得がつく。要約するとジャンケンをして翼が勝ったらレッスンを切り上げる、負けたら最後までレッスンをする、とのことだ。
そんなことよりレッスンしろ、と思ったけどレッスンに身が入っていないのは見て取れたし翼なりのケジメの付け方なのだろう。
後で俺は、その時の俺をぶん殴ってやりたい気分になったけどな。
「よし分かった、やろう」
「ホントですか〜?じゃあ行きますよ!ジャーン」
「ケーン...」
「「ポン!」」
俺はチョキを出したが、翼はグー。勝ったのは翼だった。
「なっ...!」
「やった!わたしの勝ちですから、レッスン切り上げますね!」
そういって早々に更衣室へ向かう翼を止めようかとも思ったが、勝負は勝負。負けた側には何もいう資格もないし、前言撤回するのも大人気ない。
次勝って翼をレッスンさせればいいだけだし、そんなに気にすることは無かった。
「プロデューサーさん!」
「なんだ?」
「折角だからファミレス行きたいなぁ、ダメぇ?」
「いや、それは駄...」
駄目、と言いかけたところで思考が止まった。何故かというと翼を見てしまったから。
翼は甘いボイスと抜群のスタイル、そして甘え上手なところがあるアイドルだ。さてこの声、この顔、この甘え方で上目遣いまで来たらどうする?
かわいさの魔法剣二刀流乱れ打ちもいいところだ、構える引きつけるなんて比じゃない。
「...わかったよ」
「ホントですか?やったぁ!」
結局俺はこの甘えに耐えられず、翼の要求を呑むことに。
仕方ないじゃないか、ドキドキしたもん。
☆☆☆------------------------------
時は大分端折ってライブ当日だ。なんと翼は残り五日間一回もレッスンをしていない。俺が一回たりともジャンケンに勝てなかったからだ。
前に翼の特技を聞いた時、ジャンケンと言ってたがあれは本当だったみたいだな。
「プロデューサーさん、準備出来ました!」
「ああ、翼。...大丈夫か?あれから一回もレッスンしてないが」
「えへへ、大丈夫ですよ〜。プロデューサーさんは心配性なんですね」
いや、どんなプロデューサーだって前日まで録に練習せず当日を迎えたら心配するだろ。
そんな俺をよそに翼はメイクの崩れや衣装のズレを確認してる。
「伊吹さん、本番三十秒前です!」
「あ、はーい!」
「... 」
とうとう本番だ。俺の思考は不安とこの先の始末の予測でネガティブになってる。我ながららしくないけど、これも社会人ってのになってからの影響だ。
「プロデューサーさん!」
「...」
「もう!プロデューサーさんってば!」
「ふあっ!?す、すまん翼!どうした?」
「えへへ、ジャンケンしましょ?」
翼は全く緊張していないのか俺にジャンケンしようと言ってきた。こんなときに
「ジャーン」
「ケーン」
「ポンっ!」
翼が出したのがチョキに対し俺はグー。五日前から始めたジャンケン、ライブ当日で俺は初めて翼に勝ったのだ。
「あっ負けちゃいました」
「か、勝った...?」
「ふふ、わたしに勝ったから、プロデューサーさんはきっといい事が起こると思いますよ〜?じゃ、行ってきまーす!」
「え?あ、ああ...」
思考がおぼつかないまま翼は行ってしまった。いい事が起こるのなら、せめて俺を安心させてくれよな...
翼のミニライブは、大歓声の元終了を迎えた。
☆☆☆------------------------------
「ん〜、美味しい!」
「全く、この前のライブは負のスパイラルに大ハマリかと思ったぜ...あんま心配させんなよ」
「いいじゃないですか。それに、御褒美だーってここに連れてきたのはプロデューサーさんですよ?」
ライブ後日、俺は翼へのご褒美としてスイーツアイランドというスイーツ食べ放題の店に来ている。翼はユニットの皆と行きたがったが、あいにくここひと月ほど一緒の機会が無かった。
「プロデューサーさんは食べないんですかぁ?」
「俺はいいよ。そこまで甘いの好きじゃないし」
「そんなこと言わないで下さいよ、美味しいのに」
俺は遠慮したが翼がイマイチ腑に落ちないらしく、頬杖つきながらひと口頬張る。
するとなにか閃いたのか、次の一つを刺すと
「はい、プロデューサーさん!あーん」
「えっ」
俺にそのスイーツを向けてきた。よく雑誌とかのグラビアでみる、あーん、とかいうやつだ。
「折角甘いもの食べに来たのにもったいないですよぉ?ほら、あーん... 」
「ぐ...」
まて翼、俺はこんな甘々なやり取りは慣れてないし、いくら変装したとはいえこんなことしてスキャンダルとかなったらどうするんだよ...
俺は目の前の甘い誘惑と後先の不安とを天秤にかけている。翼と絡むといつもこんな感じだ。
こんなときは...
「お、俺には無理だぁっ!」
「え!?あ、待ってくださいプロデューサー!」
逃げるが勝ちってな!一目散に店を出て外の空気を浴びに行く。
翼はいつも俺を色々な意味でどきどきさせてくる、参ったな。
外の風は俺に差し込む冷気になって吹く。そういやそろそろ冬になるんだっけか。
いかがでしたでしょうか?
今回はプロットを大きく変えてお送りしました。本来は翼と一緒にモテる秘訣を見出す回にしようかと思いましたがあまりにもアイドルの仕事してないので今回のプロットに変えました。
個人的に乙女ストームの中でも一番プロットに困ったキャラです。他の面子がキャラ濃すぎて翼のキャラが埋もれてる感じがしますね。
ご感想、誤字脱字報告等いただけると幸いです!
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第十一話:最初から俺は、本気だよ!
1952年生まれなのでもう定年迎えてもいいと思っている、パン袋のアレです。
今回は春日未来メインの回でもあり乙女ストーム!の総合回。乙女ストーム!のプロデュースも佳境へ向かっていきます。最後までバッツPは活躍するのでお楽しみに。
それでは、バッツPの活躍をお楽しみください!
編集ログ
2018-01-08 善長→善澤に修正
「乙女ストームの単独公演!?」
年も終を迎える十二月。暖房のよく効いた社長室で俺はその話を聞いた。
なんでも、『乙女ストーム!』の人気に伸び代がある今、更なる躍進へ向けてライブをするつもりらしい。
それだけ聞けばいい話に思えるが、問題は別にあった。
「そうとも!彼女達の、引いては未来のアイドル候補生たちを育てるのに、君の成長は必要不可欠だ。これは私からの試練ということだね」
「だからと言って...まさかクリスマスにライブを開催する必要あるのかよ!?一月もレッスン出来ないじゃないか!」
そう、社長がこのライブを考えそして俺に話すまでにかかった時間はやく一時間。
なんでも、記者で飲み友達のさんの質問を切っ掛けに企画したらしい。
「本来ならあと二月は要するとは思うのだが、幸いにも会場の抑えには一つツテがあってね。丁度そこが空いていたから、鉄は熱いうちにと予約をしたんだよ」
「社長はホンット話が急なんだから...分かったよ、そこまでされたらやるしかないか」
「うむ!それでこそ君だ!バックアップは秋月君に任せてあるから彼女とミーティングをしておくように頼むよ」
腑に落ちないにも程があるが、未来達の初めての単独ライブだ。折角のチャンスを無駄には出来ない。
頬を叩き、気合を入れ直して事務所の律子と話をしに行く。
なんだか冬だってのに生温さを感じる風が、少しやな予感を感じさせる。
------------------------------
「かくかくしかじか、という訳だ」
「単独ライブ!?それは嬉しいですけど、クリスマスですか〜」
「...クリスマス。...一ヶ月ない、よ...?」
「それに、曲はあるんですか?前回のライブと同じ曲ならまだしも新曲とかついていける気が...」
「では、ライブのMCにマジックでも...いえ、冗談です」
みんなに訳を話したが、予想通りあまり好感ではない。ついでに言うなら新曲も持ってきたからレッスンも厳しくなる。
「うーん...」と俺が唸っていると、ガタッと立ち上がったのが一人。
「みんな、やろう!」
一人ずっと黙り込んでいた未来だった。
「大丈夫、レッスンだって間に合うように頑張ればいい!だって、私たちのライブだよ!?ここで諦めたらいつチャンスがあるか分からないよ!」
未来は、決して諦めていなかった。どんな絶望的なハードスケジュールでも掴めるチャンスがあるならその可能性にかけている。
なんだかそんなやり取りを懐かしく思えてくる。
「む〜、未来がそんなこと言ったら負けられないよ!わたしもやる!」
「そうですね。無茶ではありますが、無理ではないですし。...行けるぞ、瑞希」
「...杏奈、自信ない...。...でも、やってみたい...」
「み、みんな...決めた!わ、私もやります!出来るかは分からないけど、でも、やる前から諦めたくは無いです...!」
「お前たち...。よし!分かった!俺も全力でサポートすっから頑張るぞ!」
「「「「「おー!」」」」」
未来の態度に焚き付けられた他のメンバーもやる気を取り戻す。ここぞといったところでまっすぐ進もうとしている未来に感動しながらも、改めて俺も覚悟を決める。
これからやることはライブのセトリ決め、舞台セットの企画、レッスントレーナー、etc、etc...
正直、想像しただけで卒倒しそうな量のタスクだけど、未来達の為に頑張ることにした。
------------------------------
「ワン、ツー、スリー、フォー...!」
ライブまであと二週間。未来達のレッスンを始めて今日で7回目。あれから個人レッスンや集合レッスンを丸々担当している。
レッスントレーナーを雇うことも出来たけど、俺自身の力であいつらを支えたいと思ってあえて雇っていない。
俺がレッスントレーナーを代用出来ているのも踊り子マスターと世界各地でピアノを弾きまくったお陰だ。
「はぁっ...はぁっ...きゃあ!」
「百合子!?大丈夫か!?」
足がもつれて百合子が尻餅をつく。レッスン続きで休みの無かった未来達の体はすでに悲鳴を上げていた。
参ったな、ここまでタイトなスケジュールだとライブなんて言ってられない。心に軋みが入ってライブの前に崩れてしまう。
「百合子さん...!大丈夫...?」
「う、うん。ちょっと捻っただけだから」
「プロデューサー。七尾さんはこれ以上は」
「そうだな。みんなも疲れているだろうし...」
俺がどうしたもんかと悩んでいると百合子が察したのか「まだ大丈夫です!」と強気な姿勢を見せる。
多分、自分が足を引っ張ってしまっているいると思ってるんだろな。だったら...
「あぁ〜!疲れた!俺もう体動かないよ...!」
「へっ?プロデューサー?」
「レッスントレーナーがこれじゃもう駄目だ!レッスンは中止!」
「え〜、プロデューサーさんさすがに体力無さすぎじゃないですか?」
「ほら翼!プロデューサーさんもお仕事で大変なんだよ!」
大袈裟に仰向けで倒れ疲れましたアピールをこれまた大袈裟にやる。説得するよりこっちの方が時間がかからなくてすむ。
百合子はあまり表情こそ晴れないが、杏奈の追加の説得で折れてくれた。
百合子と杏奈にお金を渡し、飲み物を買って来て貰っているあいだ、作戦会議をリーダーである未来としていた。
「未来、お前はレッスンの調子はどんなもんだと思う?」
「みんな頑張っています。でも、まだ振り付けが合わなくて...」
レッスンの調子から残り二週間の調整を話す。やれるかどうかの話はしなかった。
それはみんなの覚悟を信じていないと思われるからだ。不安はあるけど、俺だって未来達を信じてやりたい。
「プロデューサーさん、レッスンの時間を増やすことは出来ないんですか?」
「そうしたいのも山々だけど、こうもスケジュールがカツカツだとな...」
現に未来達の人気はそれなりなもので、毎日誰かがどこかで仕事しているくらいだ。番組の降板や代理も立てられない今、この状況は中々まずいものだ。
「プロデューサー。では、こうしましょう。」
「お、何かいい案あるのか瑞希?」
「はい。夜に劇場を使うのはどうでしょうか?つまり...合宿です」
合宿...そうか、そういうのもあったか!入れるとしたら本番の二日前あたりが丁度いいな。
「それならいけるかもしれない!でかしたぞ瑞希!」
「えっへん。もっと褒めてくれてもいいんですよ?」
「合宿!やったー!がっしゅくがっしゅく!」
合宿ができることに未来も喜んでいるみたいだ。翼と杏奈と百合子にも話しとかなくちゃな。
------------------------------
本番二日前、そして合宿の日。
まだ規模の小さい、港の倉庫よりちょっと小さい程度の劇場でダンスレッスンとかボイスレッスンを始める。
新曲もおよそ通しで踊りきれるようになり、踊りながら歌うことができるくらいにはなった。
「...よし!一回休憩だ!」
「「「「「はい!」」」」」
「いや~、頑張ったよ~!わたしもう疲れちゃった」
「そうだね翼。瑞希ちゃんも、杏奈も百合子もお疲れ様!」
「お疲れ様です、春日さん。皆さん、いい感じにそろってきました。」
「そうですね。あ、まだ詰めなきゃいけないところはあるけれど...」
「うん...。でも...しっかりそろうと...気持ちいい、から...」
今は夜の九時。この合宿時間だけでも相当な効果があった。踊りも歌も段々仕上がってきたし、連携も崩れるときの方が少なくなってきた。
「瑞希、改めて合宿を提案してくれてありがとな」
俺は改めて、この合宿を提案してくれた瑞希に礼を言う。
「いえ。私はユニットのことを思って考えただけですから。...えっへん」
「未来も。最初にみんなの背中を押してくれたからみんなここまでやってこれたんだと思うよ」
続けて未来にも礼を言う。未来がみんなの背中を押してくれたし、他の...百合子、杏奈、翼もユニットのことを考えて頑張ってくれていた。
「えっ!?そ、そうですか~?でへへ~」
「そして杏奈と百合子も。体力で遅れはとっていたけど根性は他三人にも負けていなかったぞ?」
「あ、ありがとうございます!」
「...杏奈...正直、不安だった...。でも...みんながいたから...」
「あれ?プロデューサーさん?わたしは~!?」
「翼は...なんかやったっけ?個人レッスンいつもサボってた気が...」
「え~!?ひどいですよプロデューサーさん!」
「冗談だって!色々みんなのダンスをアレンジしてくれたんだもんな忘れるわけないよ」
冗談を交えながらも翼をほめる。
「明日も練習があるけど、それは最後のミーティングも含んでいるから。実際には今日が最後のレッスンだったからさ、話しておきたかったんだ」
「「「「「プロデューサー(さん)...」」」」」
「って、なんだか湿っぽくなっちゃったな。休憩は終わり!次のレッスン始めるぞ!」
俺らしくなかったかな?でもやっぱ言えるときに言っておかなきゃ。ガラフの時みたいに、言いたいときに言えないんじゃ悔やみきれないからな。
それからさらに一時間レッスンをしてから銭湯へ行き、寝る準備に入った。俺は外で冷たい風を浴びることにした。
「あっプロデューサーさん!ここにいたんですね!」
「未来か。ここ寒いぞ?」
「いいんです。プロデューサーさんとお話したかったから...寒っ!」
未来はこの寒さに関わらず寝間着だけで来ていた。なにやってんだか、そう思ってコートを貸す。
「えへへ、ありがとうございます」
「全く、それで話って?」
「あぁ、そうでしたね。実は、プロデューサーさんにお礼がしたくって...」
「俺にか?」
「はい!い~っちばん最初の頃からずっと、私たちをここまで連れて行ってくれて、ありがとうございます!」
それはライブ直前に聞きたかったけど、そんなことされたら涙でエクスデスが一本育ちそうになるからこのタイミングで助かった。
「なんだよ改まって。それくらいプロデューサーなら当然だって!」
「そうですけど、それでもお礼を言いたくって」
「そっか。なら受け取っておくよ。どういたしまして」
なんでこう、夜のテンションっていやに素直になっちゃうんだろうな。
「でも、だからといってライブでは気を抜くなよ?」
「分かってますよ~、でへへ~。プロデューサーさんも、しっかり気を抜かないでくださいね?」
「
「...はい!よろしくお願いしまーす!」
気の抜けた返事の仕方だけど、その語気は確かに決意の固まった様子がうかがえる。
風は冷たく、強い向かい風だ。でも、これくらいじゃなきゃ楽しくないしな!
いかがでしたでしょうか?
今更ですが百合子のP呼びって「プロデューサーさん」だったことに気づきました。ここはバッツが最初に会った百合子との縁だかなんだかってことでお許しを。
次回、最終回!乙女ストーム!の単独ライブ当日。ここまで頑張ったから後は全てぶつけるだけ!そして...
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第十二話:未来の風がよんでる...!
単価四円ほどするらしいパン袋のアレです。
いよいよ最終回です。ここまでご講読して頂いた読者の皆さまには感謝を!
それではバッツPの活躍をお楽しみください!
「いよいよここまで来たんだな...!」
十二月の下旬。街はクリスマスだのなんだのと騒がしい。そんな中大きなドームでライブを行うという事実が、これまでの俺と未来達の頑張りの成果を表している。
そして驚いたのが今回のライブの動員数だ。ネット予約は完売。開演は十三時だけど、十一時の時点で長蛇の列が並んでいる。
「よーっっし!頑張るか!」
------------------------------
「このセットはこっちにお願いします!」
「照明、もっと右!」
「マイクテストお願いしまーす!」
「はい!」
開演準備の段階。みんながリハをやっている間、俺はセットの運搬を手伝いながら資料も目に通す。
そりゃ大変だけど、これくらいの無茶はしないとな!
準備を終わらせ、未来達と最終ミーティングを始める。
「それで、この曲が終わったらまず杏奈のソロからだから...杏奈以外のメンバーは来た場所を戻って退場な」
「...うん。杏奈...頑張る...」
話の内容は主に入退場の方法とセットリストの確認だ。みんな緊張しながらも話に着いてきてくれている。
「...と、流れはこんなもんだな。今までのライブとは違ってみんな出番をとっかえひっかえだから、スタミナ勝負だ!頑張ってくれ!」
「「「「「はい!」」」」」
元気のいい挨拶を返してくれて安心した。あとは開演まで不安なところを潰すだけだな!
------------------------------
開演直前。俺はステージ裏で最後のチェックを行っていた。そんなとき、未来達が集合してきた。
「どう?プロデューサーさん、セクシー?」
「ちょっと肌が見えすぎてて恥ずかしいんですけど...似合ってますか?」
「おぉ!みんな似合ってるな!」
新しい衣装に身を包んだ未来達を見ると改めてアイドルなんだな、と感じる。まるで風の妖精を思わせるような衣装デザインは、乙女ストーム!の名前を上手く表現できていて素晴らしい。
ただ、露出多くてどきどきするけど、そこはグッと堪えた。
「あ、そうだ!折角だし、円陣組もうよ~!」
「いいね翼!みんな、円陣組もー!」
翼の提案から未来の号令で未来達は円陣を組む。肩を組む訳ではなく、手を中央に重ねてやるタイプの方だ。
「プロデューサーさん!」
「えっ」
未来の声でみんなの視線に気づく。未来も、翼も、杏奈も、百合子も、瑞希も俺の方に視線を向けているのがわかる。
「ほぉら、プロデューサーさんも!」
「プロデューサーも、仲間です」
「今まで一緒に来たじゃないですか!これからも一緒です!」
「そうだよプロデューサーさん!ビビッと円陣、やっちゃおうよ!」
「...しょうがないな、全く!」
内心はもうすでに感動で満ちあふれているけど、みんなのライブをしっかり見たいから限界まで我慢する。そしてみんなの円陣に加わり、手を出す。
それに応えるように未来達が順々に手を重ねていく。
「みんな!大切なこと、分かるよな!」
「はい。"真剣に楽しむ"、です」
「杏奈も全力で楽しんじゃうよ!」
「はい!まさに吹き荒れるあらしのように!」
「それじゃ、未来?」
「うん!未来の風はいつだって、私たちに向かって吹く!『乙女ストーム!』、行っくぞー!」
「「「「「「おー!!!!」」」」」」
------------------------------
「みなさーん!こんにちはー!」
「今日はわたしたち乙女ストーム!のライブに来てくれてありがとね~!」
「今日は杏奈達ビビッと頑張るから、応援くださーい!」
「それでは、さっそく行きましょう」
「今回は、私たちの新曲で、乙女ストーム!の代表曲になります!行くよー?せーの!」
「「「「「『Growing Storm!』」」」」」
ライブは未来達の届ける声が風のように。ファンの歓声が嵐のように吹きすさび、ライブ会場を丸々包み込んだ。
------------------------------
それからの一日はあっという間だった。乙女ストーム!の人気は社長の予測通り大爆発。まさにアイドル界に一つの風を巻き起こした。
完璧じゃない少女達だから、これからが探求の始まりだ、なんてな!
でも結局、俺はあのライブを見ることが出来なかった。前を向こうとすると目の前がぼやけるんだもの、仕方ないじゃないか。
「何にやけてるんですかプロデューサー殿?社長がお呼びですよ?」
「ぅえ!?ああ、ごめん律子!行ってくるよ!」
あのライブ以降俺は休みなしだ。たまにはゆっくり遊びたいなぁ...。
「それにしても、社長の呼び出しって何だろ...?」
そう思いながら社長室に入る。
「おお、君ぃ!来てくれたね」
「おう。んで、話ってなんだ?」
「うむ。まずは君に礼を言わなくてはな。この前のライブは見事だったよ?」
「完璧な出来だったしな!」
「それでだ、我々765プロは新たなプロジェクトを発足することにした!」
...ん?待てよ、新たなプロジェクト?それってまさか...!!
「その名も『39プレジェクト』!春日君達乙女ストーム!を皮切れにライブシアターにてこけら落とし公演をするのだが、その担当を」
「俺がやるってことだよな、社長...」
「おお、さすがだね君!では早速これから君と共に歩む、アイドルの卵達を...」
待ってくれ、言おうとして諦めた。これはもう逃げられないよな、だって俺以外のプロデューサーって
「...という訳だ。よろしく頼むよ?敏腕プロデューサー君」
「わかったよ、なんだか片道切符みたいだし、行くとこまで行くか!」
そう意気込んで社長室を出てそのまま屋上にあがる。涼やかな風が身を包む。
「それにしても、未来達含めて39人...大変だなこりゃ」
なんて独り愚痴るが、内心は嬉しかったりする。まだ会ったことのない色んなアイドルと会えるんだ、おもしろそうだ!
「よし!これからも頑張るか!なんてったって、未来の風が呼んでる!」
気を引き締めて未来達の迎えに行くため足を進める。
風は強く俺に向かって吹いている。冬なのにその風は優しい暖かさに満ちている。この風は、まだまだ止みそうにないみたいだ!
いかがでしたでしょうか?
すごい駆け足気味でしたが"乙女ストーム!編"終了です!これまでご愛読ありがとうございました!
...そうです、"乙女ストーム!"はこれまで。これからは"39プロジェクト編"をやろうと思います。
これからもバッツPの活躍をお楽しみください!
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閑話休題
閑話休題:プロデューサーって何者?
食パンの袋についてるアレです。
今回は閑話休題ということで未来達の視点でお話を進めようと思います。
バッツPはあまり出て来ませんがご了承ください。
修正ログ
2017-12-14 誤字脱字の修正。ご報告ありがとうございます!
「プロデューサーさんってかっこいいよね」
そんな何気無い翼の発言から始まったプロデューサー談議。
少女達にとってこう言った話題は事欠かない。とくに流行りの服や最近のテレビ番組なんかは格好の餌であるのだが、今回はこれまで触れられてなかった事案だ。
いや、触れられてなかったのでは無く、全員がこの話題をタブー視していた。この狭い劇場ではいつ本人に話を聞かれるか分からないからだ。
「そうですね。名前からして外国の方なのでしょうが、どこの出身なのかも気になります。」
「でも、何度かプロデューサーに話を振っても適当にはぐらかされちゃうんですよね」
瑞希や百合子も気にはなっていたが本人に聞いても本当のことは言ってはくれなかった。当然だ、何故なら彼はこの世界の住人では無かったのだから。
「なんていうか、ハリウッド俳優とかにいそうだもん。わたし、最初は同じアイドルなのかと思っちゃったよ〜」
「あ!翼と同じだー!私もそうなんだよ!」
「未来もそう思った?だよね〜」
未来や翼の言う通り、アイドルとか俳優とか言われても違和感がないレベルでイケメンである。それなのに気さくな性格で裏表が全くない。
「ではここはみんなでプロデューサーをどう思ってるか話し合いましょう。ぶっちゃけトーク、です」
瑞希がここで口火を切る。普段そういった話が出来なかったからこそ、早めに聞いておきたいという魂胆だった。
「わたしはさっき言った通りかっこいい人だな〜って思うよ?でも、色々とナゾだよね?」
「プロデューサーさんって基本事務仕事とか多いけど、なにか趣味とかないのかな?そういったプライベートな話って一切無かったような...」
「確かにそうですね。私達が知っているのはプロデューサーの名前と性別のみ。それ以外が謎に包まれています。ミステリアス」
「プロデューサーって風ってイメージ無いですか?なんだか風の戦士って感じ!」
「百合子ちゃん、話がズレてるような...」
他愛のない話で茶を濁していく中、杏奈は一人ゲームもやらず黙っていた。
暇さえあればゲームをやっている杏奈が一切ゲーム機に目もくれず冷や汗をかきながら視線を下に追いやっているのだ。
(...どうしよう...)
杏奈は知っていたのだ、彼の正体を。バッツ=クラウザーの出自を。
何故ならこの世界にも例のゲームが存在している。ゲームなら新旧問わずやっていた杏奈はもちろんあのゲームの五作目もプレイしていた。
なんなら全ジョブをマスターさせ、オメガと神竜を倒し、あまつさえ縛りプレイをしているほどにやり込んでいたのだ。
「杏奈ちゃん?さっきから静かだけど大丈夫?どこか体調悪かったりするかな?」
「百合子さん、杏奈は大丈夫だから...」
杏奈はあまり敬語で喋ることは無い。それは本来プロデューサーにもそんな態度になるはずだった。しかし、杏奈は敬語にならざるをえなかった。
ゲームの世界の住人が、しかも自分がよく知っている主人公が自分の目の前にいて、しかも上司なのだから尊敬や懐疑心などでつい畏まってしまう。
全くの同名、本編と寸分違わぬ性格や見た目をしているのだ。疑いよりは信じる方に傾いてしまう。
(でも、バッツプロデューサーがゲームの登場人物だなんて、言えない...!)
もしそんなことを言ってしまったら最後、ゲームのやりすぎだと言われ最悪没収までいってしまうだろうと杏奈は危惧する。実際は少し笑われて終わりなのだろうが。
「プロデューサーさんって料理出来るのかな?」
「見た目からしてあまり作れなさそうだよね〜」
「ああいった見た目だからこそ逆に料理が上手だったり...!」
「それはポイント高いですね」
ああダメだ、花の乙女達はプロデューサーの話で嵐のように喋り倒している。
あながち『乙女ストーム!』って名前は皮肉の意味も込めたんじゃないかと杏奈は感じる。
「それなら、プロデューサーにインタビューしてみませんか!?」
「インタビュー?それいい!ナイスアイデアだよ百合子ちゃん!」
「なら早速メモに質問をまとめましょう。わくわく...」
「...えと、失礼じゃないかな...?」
「これくらいプロデューサーさんなら答えてくれるよ〜」
杏奈が軽く諌めてみようとするがこうなった乙女達は止まらないのが関の山。あれよあれよと五分で質問用紙を作りあげた。
もう知らない、と杏奈は諦めた。
「それじゃ早速プロデューサーさんが帰って来たらインタビューだー!」
☆☆☆------------------------------
「俺についての質問?」
それからバッツが帰ってきたのは数分後だった。これが偶然か天の計らいか分からない。ただ杏奈はプロデューサーに同情はした。あまり聞かれたくないことまで聞かれるんだ、自分なら塞ぎ込んでしまう。
「はい。インタビュー形式でこちらが質問するので、プロデューサーはそれに答えていただければ」
といいながら瑞希はメモとペンを構える。お覚悟を、とでも言いたげな表情でバッツを見つめていた。
「仕方ないなぁ。よし、どーんと来い!」
「やった!それじゃ最初の質問!...」
バッツの承諾と共に
「まず、年齢はいくつですか?」
「二十だな」
いきなりド肝を抜く回答。なにせ十七歳である瑞希とかと三つしか違わない。高卒か二年制の学校を卒業したくらいの年齢設定になる。
「二十!?まだそんなに若かったんですか...」
「俺はそんなに老けて見えるのか!?」
「いえ、二十でプロデューサーとはすごいって意味ですよプロデューサー」
「そうか?それならいいんだが」
バッツは学歴等を一切聞かれないままプロデューサーになった。高木社長が第一印象で決めたせいである。それでいい人材をとってくるから社長の審美眼も馬鹿にできない。
「じゃあ次!趣味とか特技とか教えて下さい!」
「趣味はそうだな、動物の世話とかかな。まだ家に動物はいないけどさ」
「動物の世話ですか?どんな動物ですか?」
「チョコ...えっと、鳥だよ鳥!一時期『チョコ』って名前つけててさ!」
チョコボと言いかけたのを必死に誤魔化すバッツ。未来達はキッカリ騙されてるが、杏奈はチョコボと言いかけたのをしっかり認識していた。
「それで、特技だっけ?強いて言うならアウトドアかなぁ。旅の経験で色々出来るようになったし」
「「「「おー!」」」」
未来達の質問に、出来るだけ違和感の無い内容に誤魔化しながらバッツは回答していく。その答え方が未来達の好感度稼ぎになってるとは知らない。
「次の質問〜、苦手なものってありますか?」
「苦手なもの?高い所かな。ちっちゃい頃に色々あってさ」
「高い所から落ちた、とかですか?」
「いや、そこまでではないよ。ただ、半ばトラウマというか...」
あまり話したくない様子を察し、未来達はこれ以上この話題に触れない様にする。
「それでは次の質問です。...今、何問目でしょうか?」
「えっと確か...ってクイズ番組かよ!」
「おお!ノリツッコミを出来るとはすごいです、プロデューサー。冗談はさておいて...」
「冗談で済ますなよ...」
瑞希の突然の振りに動揺するバッツ。表情一つ変えず突然振ってくるのが瑞希である。
「では本題です。出身地はどこですか?」
「しゅ、出身地か...」
バッツにとって最も答えづらい質問。バッツがこの国の人ではないのは名前で一目瞭然だが、これで正直に答えると色々掘り返されかねない。
バッツがこの世界の住人では無いことは知られてはいけない。根掘り葉掘り質問をされたらいつかボロが出てしまうことをバッツは危惧していた。
「...この前少し聞いたけど...ヨーロッパの方にある街だった。...だよね、プロデューサー」
(ナイス杏奈!)「おお!ま、そんなところだよ!」
杏奈はもちろんバッツの出身地は知っていた。バッツが言い出せない様子を察し、フォローを入れたのだ。
「ヨーロッパ...!確かにそんな雰囲気あります!」
興奮する百合子を脇目にホッと息をつくバッツ。杏奈に軽くサムズアップをする。杏奈とそれに応えサムズアップで返す。
「じゃあ次の質問を...」
「プロデューサーさん、少しいいですか?」
「小鳥?ちょっと待ってな。悪いみんな、話は後でな?」
小鳥の呼びかけに助かったとばかりに足早に離脱するバッツ。
「これでプロデューサーさんのこと、少しは知れたかな?」
「そうですね。まさか西洋の出身とは驚きました」
「うーん、上手く誤魔化された感じがするけど、気のせいかな〜?」
「プロデューサーも正直な人ですし、大丈夫ですよ!」
「...杏奈もそう思う」
バッツへの質問ラッシュを終えご満悦な四人。杏奈は一先ず面倒にならなかったと安心してゲーム機に電源を付ける。今マイブームのPSP版ディシディアファイナルファンタジーをプレイする。
杏奈のお気に入りキャラはエクスデスだ。
という訳で未来達のインタビュー回でした。
杏奈の掘り下げも兼ねて執筆。杏奈は元々敬語キャラでは無いのですが、本作品ではしばらく敬語です。その辺の裏付けも必要かなと思って杏奈メインで書きました。
バッツP一人旅も執筆予定です。
ご感想、誤字脱字報告等いただけると幸いです!
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閑話休題:バッツP一人旅「ビッグチャーハンの死闘」
パンの袋についてるアレです。
バッツP一人旅シリーズ(になるか分からないが)第一弾。第一弾からカロリーで打撃を与えていく事になりますが仕方ないことだと思います。やはりカロリーは出しておべきかと。
それではバッツPの活躍をお楽しみください!
「腹減った...」
朝寝坊をし、朝食を食べずに午後の営業をしていたバッツの腹はもはや背中とくっつきそうな程であった。
(せっかく時間があるんだし、なにか食ってくか!)
午後は翼と瑞希が番組オーディションに行っており、迎えまで少し時間の余裕がある。なので空腹を満たすことを考えた。
付近の散策も兼ねてお店を探す。探してから程なく五分。『佐竹飯店』と書いてある店に遭遇する。
(メニューとか内装とか覗くに中華ってやつをメインにしてるみたいだ)
中華料理ならガッツリ食えるな、と思い躊躇なく扉を開ける。
バッツがこれまでの死闘のどれより過酷な経験をすることをまだ知らない。
「いらっしゃいませー!お一人ですか?」
「ああ」
「お一人様入りまーす!わっほーい!」
店員の少女に案内され、席に座る。客足はそこそこいるみたいが、特に気にせず席につく。
「おっ炒飯とかあるのか。ならこれとあと餃子も付けて...」
食欲に身を任せ自身のインスピレーションに従っていく。素早くメニューを決め、注文をする。
「炒飯大盛り!あと餃子一つ!」
「かしこまりました!炒飯大盛りと餃子入りまーす!」
正直少し足りないかな?と思うがそこで打ち止めにしておく。食いすぎで動けなくなってはいけないからだと自制しておいた。
注文が届くまでの間、テレビを見ながら暇を潰す。テレビにはグルメ番組が映っている。
(早く注文来ないかな?テレビですら俺の空腹にダメージを与えてくる...!)
「お待たせしました!炒飯大盛りです!」
ドスン、と皿が割れんばかりの音と共に
それを炒飯と称するにはあまりにも暴力的だった。
自分の顔の倍はあるだろうその山は、ファファファと言わんばかりにバッツを見下ろし、
空腹を通り越しバッツの胃の空間を"無"にしてしまわんとドッシリ佇んでいた。
(なんだ、これは...)
まるで未知の産物を目にしたような面持ちになるバッツ。だが残念なことに彼の知っている炒飯なのだ。量は常識のそれではないのだが。
「今餃子をお持ちしますねー!」
それに加え今から餃子を持ってくると言ってきた。先程までの軽率な注文をバッツは後悔する。もっと確認をとってから注文するんだったと。
だが大盛りで特盛Wのような出し方をするのはこの店だからであって、通常の店ではそんなこと滅多にないのだからバッツの後悔も意味はなさないだろう。
(くっそー!もう腹をくくるしかない!)
食べる前から満腹感を感じかけてる思考を中断し、山の解体作業にはいる。
まずひと口。口に運んだ炒飯は米一粒一粒にしっかり油と火が通っており、絶妙なバランスで調味料が合わさり極上な風味を醸し出す。
鼻につきぬける塩コショウと米の香りにバッツは舌鼓を打つ。
(ん!こりゃあ美味いや!こんなんなら半分は余裕かも!)
この世界に来てからしっかりグルメ舌になっていたバッツは基本美味ければ大量に食べる。ラーメンを食べたあとに牛丼屋へハシゴする位には大食いになっているのだ。
それから五分、パワーの塊だった炒飯はすでに半分無くなっていた。胃袋とは一体...と炒飯もウゴゴゴとうなっているだろう。
バッツが残り半分に手をつけた瞬間、とある違和感に気付く。
(レンゲの差し込みが固くなった...!?)
山ほどのある炒飯を支える土台は、盛り付けている途中で重力に従いその厚みが増してくるのだ。
佐竹飯店の料理、特にご飯物において最も山場となるのが半分を食べた辺りである。
それまでの道程はただの余興に過ぎないのだ。
(そんな、こんなことってあるのかよ...!!)
レンゲを刺し込み、口に運ぶ。バッツの腹はまだ六分に突入したばかりだ。このままなら餃子まで平らげることは可能だ。
---しかし
(まてよ...?この皿、深いぞ...ッ!?)
レンゲを皿の底まで刺すが、軽く持ち手まで埋まる。この炒飯の質量はバッツの想像を軽く超えていたのだ。
vs佐竹飯店、ビッグチャーハンの死闘はまだ終わりを迎えていないのだ!
「お待たせしました!餃子ですっ!」
炒飯を見てからバッツが立てた予想通り、餃子も大皿にスクラムを組んで鎮座していた。軽く数えても二十はある。
炒飯の口直しに餃子を一つ。醤油、酢、辣油を混ぜてから餃子に漬ける。口に運べば種と漬けたタレが上手に混ざり、熱さと美味さが同時にバッツを襲う。
(やっぱ餃子も美味いや!うん、量に目を瞑ればだが)
炒飯と餃子を三対一の割合で口に運ぶ。腹八分を超え、ツラさが美味さを超え始める。
(やべぇ、限界になってきた...!)
目が泳ぎはじめ、腹が膨れ上がる感覚を覚える。バッツの頭にはツンツン頭で巨大な剣を構えた男がいた。
『限界を超える!!』
その瞬間、バッツの中の何かが弾けた!
レンゲをすくい、口に運ぶスピードを通常の倍にする。餃子を一口で食べながら水で流し込む。
(ごちそうさま、でした...!)
米一粒残さず、餃子の羽の欠片一つも許さず全て喰らい尽くした。
(もう、疲れたよ...)
デジャブを感じるセリフを頭に流し、椅子にもたれる。
☆☆☆------------------------------
「お会計、1380円になります!」
あれだけの量を食べてこの値段。コスパはいいと思う、主に質量が。
「1500で」
「120円のお返しです!ありがとうございました!」
「どうも。あとさ、俺アイドルのプロデューサーやってるんだ。興味があったらウチに来てよ」
「えっ?ど、どうも...?」
質量の暴力を受けた腹いせに看板娘をスカウトしておく。カワイイ顔だし、元気なのが売りに出来そうだったからだ。
そのまま店を出て、背中を伸ばす。
(あの子をスカウトするなら、どちらにしろもう一回行かないと、だよな...)
腹をさすりながらオーディション会場へ迎えに行く。腹を少しでも楽にするため、わざと回り道をしながら足取り重く歩くのだった。
この一件の後、佐竹飯店の看板娘がアイドルになり、バッツをカロリーで苦しめるのはまた別のお話。
というわけで死闘回でした。
あまりバッツの苦しみを描写仕切れなかった気もしますが、あの量を平らげるのは大食い選手でもなければ無理だと思います。
閑話休題では基本乙女ストーム以外のアイドルの絡みを入れていこうと思ってます。
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閑話休題:バッツの休日
パンのアレです。
そういえばバッツの私生活を描いてないと思って閑話休題です。
多少他のアイドルと絡みがあるのでどれがどの子か分かると楽しいかと思います。
バッツPの活躍ではありませんが、お楽しみください!
ジリリリリリリ!
「...フニャッ」
けたたましい金切り音で目を覚ます。もう出勤の時間か、んじゃ今日も頑張るぞ!
「プロデューサーさん?今日はオフだと聞きましたが」
「あれ?そうだっけか!?」
支度を諸々済ませて事務所へ着くなり小鳥から無情な事実を伝えられる。俺が忘れてたのが悪いが、そんなことならもっと寝てりゃよかったよ...
「よーし、気を取り直すか!せっかくだし、付近を探検だな!」
仕事テンションで行ってお休み宣言された脳をリフレッシュして久々に街に繰り出す。
「あれ、プロデューサーさん?今日休みだったんじゃないんですか?」
「ん、未来か。それが今日休みだってことすっかり忘れちまってな」
途中すれ違う未来に訳を説明して階段を降りる。...にしてもここのエレベーターっていつになったら直るんだ?
そんなことを考えながら、これからの計画を考える。
(当ても無く探検してもいいけど、折角なら未来達に紹介出来るような店を探しに行くか!)
涼やかな風が吹いてきて、なぜだか今日は休みって感じを強く紐付けされる。気持ちいいな。
☆☆☆------------------------------
電車を使って渋谷へ着く。若者の流行りと言ったらまずはここだろな。でも翼とかはここらの店に詳しいだろうから、穴場を見つけなきゃ!
そう意気込んで街中を練り歩く。駅近くの店はありきたりだから、もう少し先に行ったところをメインに探検する。
(お、こんなところに花屋発見!)
俺が見つけたのは通りにある花屋。『FlowerShopSHIBUYA』という店らしい。雰囲気は落ち着いていて綺麗な印象だ。
「いらっしゃいませ」
店員さんが軽く挨拶をしてくれる。そうだな、折角なら事務所に飾る花でも買ってみるか。
「部屋に花を飾りたいんだ。いいのあるかな?」
「それでしたら、これはいかがですか?」
店員さんがそう言って見せてくれたのは鈴蘭だった。小さめの鉢に謙虚そうにアピールする花びらがとても可愛らしい。
事務所のテーブルにちょこっと飾れるし、これにするか!
「じゃあこれにするよ。いくら?」
「お一つ680円です」
給料が入って手持ちが良いせいで安く感じる。なんだかんだいってこの世界に慣れちまった感じがして違和感がでる。
「1000しかないけどいいか?」
「はい...320円のお返しです。ありがとうございました」
ここの看板娘だろうか。淡々と、だけどしっかりと接客をしている女の子だ。
アイドルにスカウトしたかったが、今はプライベート。オンオフをしっかりしなきゃ杏奈に笑われちまうしな。
「ありがと、これですこし華やかになるよ」
「いえ、その花もきっと喜んでると思います」
少しだけ会話を挟み、店を出る。意外とポエミーだったなあの子。
透明な袋に入った鈴蘭を傾けさせないように歩いていく。そろそろ腹も減ったし、飯行くか!
ふとすれ違ったスーツの巨漢と女の子にびっくりしたが、飯屋を探しに行くことにした。
☆☆☆------------------------------
場所は大きく変わって浅草。ここで美味いもんが色々食べれると聞いてわざわざやって来た。
さて、美味いもん巡りでもするか!
と、思った矢先。ベンチに座って如何にも困ってそうに腹を抱える女の子を見つけた。普段なら無視するが、どうせの休日だし助けることにした。
なにより困ってるのも見つけてしまったから助けなきゃかなと思った訳だ。
「どうした、腹でも痛いのか?」
「...お...か...いた」
「なんだって?もう一度言ってくれ」
女の子は俯いたままボソボソと話し出す。なにを言っているか分からなかったから、耳を近づけると
「お腹空いたんです」
と言う。どうやら空腹のせいでお腹を抑えてうずくまっていたらしい。
「そっか、ならなにか食べよう。俺も丁度腹減ってるところだし」
「...」
「なんなら奢るぞ?」
「ホンマですか!?お兄さんめっちゃええ人やん!」
俺の奢り宣言に女の子は首が折れかねない勢いで顔を上げる。笑顔がすごく可愛い、そんな印象を与える。
そっからしばらく食べ歩きに付き合った。
「いやー、ありがとうごさいます!実は東京に旅行しに来たんやけど、ついお金使いすぎてしまいまして」
「そうなのか、そりゃ災難だったな」
女の子は敬語ではあるが少し西の訛りが垣間見える話し方をしている。そして金が無くなった理由は大体想像つく。
なぜなら俺の倍は食べていたからだ。今日一番金を使ったよ全く。
「その調子だと帰るお金も無いんだろ?こればっかりは奢りじゃなくて貸すことになるけど、また東京来た時に返してくれればいいからさ」
「えっホンマにいいんですか?色々してもらってすみません」
「気にすんなって。次東京来る時、ここ訪ねてきてくれ。普段なら誰かいると思うからその人にお金返してくれればいいや」
女の子に帰り分の切符代として追加で諭吉を一枚あげる。流石に気が引けるのか、かなり困り顔だ。
今度返してきてくれればいいからと言って女の子に名刺を渡す。簡単に手渡せる身分証明ってこれしか無いしな。
「ホンマありがとうございます!このご恩は必ず返しますんで!ほなまた会いましょー!」
といって女の子と別れる。地味にまた会うと宣言していた。あの子はこうなったら絶対会いに来るだろうな。今まで会ったことないタイプだけど、正直な子だったし。
「ちょっと使い過ぎちゃったし、そろそろ帰るか!」
気が付けば午後二時を回っていた。さっきの昼飯で結構金使っちゃったし、帰ってあとはゆっくりするか。
この後わざわざ大阪からやってきた少女が恩返しにとアイドルになるのは、花屋の少女と合同ライブでばったり会うのは、また別の話だ。
いかがでしたでしょうか?
言葉使いとか遭遇した場所、性格なんかを見てどの子だったか分かっていただけると嬉しいです。
バッツの原作初期設定では無愛想でぶっきらぼうらしいのですが、原作の時点で無視されてるのでこれで正しいと思います。
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