ハリー・ポッターとアンブラの魔女 (サーフ)
しおりを挟む

賢者の石
序章


初投稿です。お願いします。


日も落ち周囲が闇に包まれ始めた頃、あるスラム街の一軒のバーが明かりを灯した。

バーの名は「The Gates of Hell」

怪しげな外見とその名前のお陰でこの店にやってくる人間の数は極少数である。

 

店内ではサングラスをかけた巨漢の男がバーカウンターでシェイカーを振り、見た目とは裏腹に美しくあり艶やかなピンク色のカクテルを小振りなグラスに注ぎ

目の前の黒髪でショートヘアの妖艶な女性に酒を提供している。

 

酒を出された女性が小振りなグラスを手に取り慣れた動作で一口飲み深いため息をついた。

 

「最近暇すぎて退屈だわ、何か刺激的なことはないかしら…」

 

宙を眺めながら独り言のように呟く。

 

「お前さんが退屈するってことは、この世の中が平和だってことだ、少なくとも人間たちにとってはな」

 

さも当然のことのように男がグラスを拭きながら答える

 

「確かに平和だな、最近じゃ上の連中も下の連中もとても大人しいようだしな」

 

店の奥から凛々しい声が聞こえ、その声の主がゆっくりとカウンターへ歩み寄ってくる。

 

「ジャンヌ、あなたも来たのね」

 

「あぁ、今来たところだ」

 

ジャンヌと呼ばれたその女性はカウンターにつくとその女性の横に腰掛ける。

 

「いつものでいいか?」

 

「あぁ」

 

そんなやり取りの後バーカウンターの男は慣れた手つきでカクテルを作り、小振りなグラスに注ぎジャンヌに酒を渡す。

渡された酒は隣の女性の酒と対照的に透明なシャンパンのような色をしていた。

 

「ところでセレッサ、エンツォのやつを知らないか?」

 

セレッサと呼ばれた女性は酒を一口飲みつまらなそうに

 

「さぁ?何やら、いい儲け話を仕入れたと言ったっきり姿を見てはいないわ」

 

そう答えるとグラスに残っていた酒を一気に飲み干す。

 

「もし、大金でも手に入ったらアイツのツケを全額請求してやるんだがな」

 

「それがいいな、ところでロダン、アイツのツケってどれくらいなんだ?」

 

バーカウンターの男、ロダンが苦虫を噛み潰したような顔をした。

 

「聞かない方がいいぜ。アイツぐらいだ、悪魔にここまでツケを作るような男は」

 

ため息をついて拭いていたグラスを棚に戻した。

 

「The Gates of Hell」の店主であるロダンは、金さえ払えばどんな無法者にも銃を売るという裏の仕事をやっている。

しかし彼はそれでだけではなく魔具と呼ばれる悪魔の道具を製造していて、その筋では魔界のガンスミスと呼ばれている。

 

悪魔が経営している店で優雅に酒を楽しんでいる二人の女性。

彼女たちも悪魔なのかというとそうではない。

 

 

 

約500年前

この世はアンブラの魔女とルーメンの賢者によって平和が保たれていた。

アンブラの魔女とは魔界と月を操り陰でこの世の秩序を守っており、ルーメンの賢者は天界と太陽の力を操り表立って世界を統治していた。

双方は【世界の観測者たる力を得る】とされる秘宝、【世界の目】をそれぞれが所有しており、互いに不可侵のおきてを設けることによって世界の安定は保たれていた。

しかしあることをきっかけにその均衡は破られ紛争が勃発してしまい、その結果魔女狩りが行われ双方の一族は歴史から姿を消してしまった。

 

そんな歴史の中アンブラの魔女には生き残りがいたのだ、それがその二人である。

セレッサと呼ばれていた黒髪でショートヘアの女性、彼女はまたの名をベヨネッタと呼ばれ彼女も主にそっちの名前を使っており、セレッサと呼ぶのは隣に居るジャンヌだけである。

 

そんな二人がもう一杯のカクテルに手を付けようとしていた時、店の扉が開かれ、店内にドアベルの音が響いた。

 

店内にいた3人が入口の方に顔を向けると、そこには上機嫌に鼻歌を歌いながら小躍りをしている男がいた。

その男は黒い服を着て宝石や貴金属を大量につけたいかにも成金というような風貌であり、ニヤニヤとした顔をして二人の元へ歩み寄っていった。

 

「よぉ!どうしたんだ、辛気臭い顔をして」

 

「そんな顔はしてないわ、それよりエンツォ、あなたこそ上機嫌じゃない?」

 

「そうかぁ?わかるかぁ」

 

そういいながら椅子に勢いよく腰を掛けると、ロダンの方を見て流れるような動作で注文をした。

 

「とりあえずいつものだ、後つまみで、フィッシュアンドチップスだ」

 

「わかった、少し待ってろ」

 

そういってロダンは店の裏へと姿を消していった。

 

「で?何があったのかしら?」

 

ベヨネッタがいつの間にか取り出したロリポップをなめながら顔を向けた

 

「この前、仕事でイギリスの方へ行ったんだがな、その時にな、これを手に入れたんだ」

 

そういうと鞄から布でできた袋状のものを取りだし、金属同士が擦れるような音を立てながらテーブルに置く。

 

「あら?中身は何かしら?」

 

ベヨネッタが興味深そうに言うと、エンツォは顔をにやけさせ袋に手を突っ込んで中身を取り出す

 

「これがその中身だ」

 

自慢げに言う彼の手には黄金に輝く金貨が1枚あった

 

「どうだぁ、ざっと数えて100枚以上はある、これだけあればツケを払いきってもまだ豪遊できるぜ」

 

ニタニタと笑いながら硬貨が入った袋を叩きジャラジャラと音を立てている

 

「ほぉ、いいものを持ってるなエンツォ」

 

両手にビールとフィッシュアンドチップスをもったロダンがテーブルへと歩いてくる

 

「おぉ、ロダンどうだよこれ、これだけあれば店のツケなんてすぐに払えるぜ」

 

そういってさっきまで持っていた金貨を親指でロダンの方へと弾く。

弾かれたコインは一直線にロダンの方へ飛んでいきロダンは片手でコインを受け取る

 

「まぁ、これだけあるんだ、お前らのツケも一緒に払ってやろうかぁ」

 

カカカと笑いながらエンツォは二人に話しかける

二人はそんなエンツォを鼻で笑いながら酒を飲み続ける

 

「私はお前と違ってツケなど作らんからな」

 

「私だってそうよ、でも払ってくれるっていうならこれからはお願いしようかしら?」

 

「おぉ、良いぜどんどん飲めや」

 

そういってグラスの中の酒を一気に飲み干し空になったグラスをテーブルへと叩きつける

 

「ハハハ、おいロダン、どうしたんだよさっきからずっと硬貨なんか見てよぉ、安心していいぞ、調べてみたら全部純金だ」

 

「おい、エンツォ…これは、どこで手に入れたんだ?」

 

ロダンがにらみつける様にエンツォの方を見る。

 

「これか?イギリスのバーで会った奴と賭けをしてな、そこでの戦利品さ」

 

大勝ちしたのを思い出したのか、大笑いしながら酒とフィッシュアンドチップスを貪り続けている。

 

「いやぁ、世の中何があるかわからねぇな、ところでどれだけあればツケは返せそうだ?20枚位か?」

 

「あぁ…残念だがこれっぽちじゃ全然足りないぜ」

 

「なにぃ!」

 

ロダンの言葉に驚愕したのかエンツォは口に運びかけていたフィッシュアンドチップスを溢しながら椅子から立ち上がる。

 

「おいおい、笑えない冗談だぜまったく。どう見積もったって純金の金貨が100枚以上だぜ、換金したらいくらになると思っているんだ!」

 

息を荒げてロダンを睨みながら残りのフィッシュアンドチップスを胃の中に収める。

 

「あぁ、これが普通の硬貨なら半分もありゃ十分だろうがな、残念ながらコイツはガリオン金貨だ」

 

「ガリオンだぁ?聞いたことないぜそんなものは!」

 

不貞腐れるようにして椅子に座りなおしたエンツォは手で顔を押さえ天を仰いでいる。

 

「まぁあの量だと精々2割程度が限度か」

 

「2割ぃぃ、そんな、嘘だろおい…くそっだれが!第一何なんだよそのガリオンってのは?」

 

「そうね、私も聞いたことないわ」

 

エンツォのピエロのような姿を黙って見ていた二人が声を上げた。

 

「こいつは少々特殊でな…魔法界という所で使われている通貨だ」

 

「魔法界だぁ?そんなの聞いたことないぜ」

 

「確かに私も聞いたことないわね」

 

「私は知っているぞ、噂程度にならな」

 

ジャンヌが立ち上がり袋の中から1枚のガリオン硬貨を手に取り指で転がすように遊ぶ。

 

「へぇ、それって一体どんなところなのかしら?」

 

「詳しくは知らんが、我等アンブラの魔女とは違う魔法を使う連中で構成された世界らしい」

 

「そんなところがあるのね」

 

「それだけじゃないぜ」

 

いつの間にかロダンが古そうな本を持ち出してテーブルに置くとページをめくり始めた。

 

「確かこの辺に…あった、これだ」

 

開かれたページには多少の挿絵と文章が書かれていた。

 

「魔法界っていうのはジャンヌが説明した通りの存在だが少し特殊なんだ」

 

そういうと、ページのある一部分を指さした。

 

「この世界が三位一体、人間の住む人間界、悪魔の住む魔界、天使の住む天界の三つで構成されているのは知っているな」

 

「えぇ、そして、私たちがいつも仕事をしているのがその狭間の世界のプルガトリオでしょ」

 

「あぁ、そうだ、だが魔法界はそんなプルガトリオの中のある一部で3つの世界の影響を等しく受け均衡を保っている場所にあるんが…」

 

「そんな場所聞いたことないわね」

 

「まぁ、詳しく説明するとややこしいが、簡単に言えば世界の狭間の歪みのようなものだ。だがこの世界が特殊なのにはもう一つ理由がある」

 

「理由?それはいったい何かしら?」

 

「なに、大したことじゃないが、魔法界という世界だけは別の時間が流れているんだ」

 

「別の時間?」

 

「そうだ」

 

ロダンはポケットから見慣れない銀色の懐中時計を取り出すとふたを開け時間を確認する

 

「今の時代とかなりかけ離れていてな、おそらく向こうの世界は1990年代といったところか」

 

「1990年代だと?俺がまだこの世界に入る前くらいじゃないか!」

 

「それで?その世界が特殊なのはわかったけど、それとこの硬貨の価値にどう影響が?」

 

「そうだぜ!純金は純金だ!違いはないはずだぜ!」

 

すっかり気の抜けていたエンツォは急に生気を取り戻したようにロダンに詰め寄る

 

「気の毒だがそうはいかないんだ」

 

「なんでだ!」

 

「歪みのような世界から持ち出されたものだからその存在自体が不安定なんだ、生物や魂なんかだと問題はないのだが、物体となるとバランスを失って、終いにはただのガラクタになっちまうのさ」

 

ロダンは諭すように言いポケットから葉巻を取り出し親指に灯した炎で火を着けた

 

「それによく見てみてみな、少しだけ変質し始めてるぜ。」

 

エンツォは急いで袋を開けて中身をテーブルの上にひっくり返すとジャラジャラと音を立てて硬貨がテーブルを埋め尽くす。

だがその硬貨には先程までのような輝きはなくところどころ錆のようなものが浮いている。

 

「嘘だろ!おい!何とかならないのかよ」

 

「諦めるんだな」

 

そういうとロダンはテーブルの上の硬貨を袋に仕舞持ち上げた

 

「じゃあ、全部いただくぜ、残りのツケも耳をそろえて払ってもらうからな」

 

「あぁ、わかったよ!くそ!」

 

エンツォは空になったコップを手に取り中身がないことを確認すると肩を落とすようにうなだれる

 

「まったく、ついてないぜ…そういえば、ベヨネッタ」

 

肩を落としたまま顔だけを上げてエンツォが声をかける

 

「向こうでお前さん達…【アンブラの魔女】を探している奴が居たぜ」

 

突然の事に私たちは固まってしまった。

アンブラの魔女は最早殆どの人に忘れ去られてしまった存在であり。私達が唯一の生き残りなのだから。

 

 

「どこの誰が探していたのかしら?」

 

「イギリスで賭けをしたって話したよな、その相手はかなりの大男だったんだが、そいつが金がないって言ったら後ろにいた爺が立て替えてくれてな、そん時俺が情報屋だって言ったらアンブラの魔女を知らないか?って聞かれたんだ。」

 

「その老人ってのは何者だ?」

 

ジャンヌが立て続けに質問をぶつける?

 

「さぁ?そんなのは知らないが、大男には校長って呼ばれてたな。」

 

「校長?もしかしてホグワーツとか言ってなかったか?」

 

ロダンは腕を組みながら手を使わずに葉巻を吸い続けている。

 

「あぁ!確かそんなこと言っていた。」

 

「となると、その男はダンブルドアかもしれないな」

 

「ダンブルドア?誰だそいつは?」

 

「そいつは、ホグワーツと呼ばれている魔法学校のトップだな」

 

別の本のページを開いたジャンヌが口を開く

 

「しかし、なぜそのような男が我等についての情報を?それにどこまで話したんだ?」

 

「大したことは話しちゃいないぜ、知っているというだけだ。」

 

「そうねぇ…本人に直接聞いてみようかしら」

 

「それがいいな。エンツォ、奴と連絡はとれるか?」

 

首を横に振りながら肩をすくめた。

 

「奴の連絡先なんか聞いちゃいないぜ、でも名刺は置いて行ったから向こうから何らかのコンタクトはある筈さ。」

 

「それってホント?」

 

「あぁ、アイツには俺の連絡先は教えてあるからな、近いうち手紙でも寄こすって言っていたぜ」

 

「それなら好都合ね」

 

「だが、奴が何の目的で探しているのかわからない限り、不用意に聞くのは得策とはいえんな」

 

「そうねぇ、なら正々堂々とホグワーツに乗り込んで聞き出すしかなさそうね、ちょうどいい暇潰しにはなりそうだし。」

 

「それはやめておいた方がいいぜ」

 

壁にもたれかかっているロダンが吸い終わったのか葉巻を手で握りつぶしながら言った。

 

「あの世界も一応プルガトリオの領域だ、姿を消すこともできんし、正面からドンパチやらかせば死人が出てもおかしくない」

 

「あら、残念ね…じゃあどうにかして潜入できないかしら?」

 

「ホグワーツってのは学校だろ?だったら教員として乗り込みゃいい!ここに現役の教師もいるしな」

 

その場にいた者の目線がジャンヌに集中するがジャンヌはあしらう様に

 

「本職の方をおろそかには出来ん」というと酒をあおった

 

「じゃあ、ベヨネッタは?」

 

「私は教えるのはあまり好きじゃないの」

 

「そうかよ…なら教員がだめなら生徒はどうだ?」

 

「あのなエンツォ、仮にも学校だぞ、子供ならいいかもしれないが、ここにいる奴らじゃ無理だ」

 

ロダンはため息を吐きながら呆れたようにエンツォを見ていた。

 

「ようは子供の姿になればいいってことでしょ?簡単じゃない」

 

そういってベヨネッタが足を動かし地面に魔方陣を出現させると、一瞬で魔法陣が光を放ちベヨネッタの姿がどんどんと幼くなっていく。

 

しばらくするとそこには全体的に幼くなって入るものの、その妖艶さや美貌が幼さにより引き立てられた魔性の少女が立っていた。

 

「こんな感じかしら」

 

「こりゃすげぇや、俺の子供たちと同じぐらいの年じゃねぇか!」

 

「ふん、相変わらず何をしでかすかわからんな」

 

「ビューティフル」

 

三者三様に感想を言い終えたところでもう一度ベヨネッタが足踏みをすると一瞬で元の姿に戻った。

 

「これで、新しい生徒が入りたいとでもいえば問題ないんじゃないかしら?」

 

「確かにこれなら大丈夫そうだろう、だが何があるかわからんぞ、用心するに越したことはない」

 

「あら、ジャンヌったら心配性ね」

 

「確かに気を付けるに越したことはないぜ、俺は後でその姿でも扱えそうな武器を考えておくぜ」

 

「なら俺は連絡が来たらさっそくお前のことを手紙に書いてみるぜ」

 

「なら私はさしずめ保護者といったところか」

 

「あら?あなたが保護者なの?よろしく頼むわね、マミー」

 

「母親より、姉という方が好ましいな」

 

 

全員が席を立ちあがると各々店から出ていき、ホグワーツに入学する準備に取り掛かるのであった。

 

 

 

 

ひっそりとした夜の街を一人の老人が歩いている、名前はアルバス・ダンブルドア。

ホグワーツの校長であり、酔いつぶれる友人を迎えに行く一人の老人である。

ハグリッドがダイアゴン横丁の飲み屋で毎晩の様に飲み明かして居ると聞いてやってきたようだが、そこには面白い光景が広がっていた。

 

「くそぅ!また俺の負けじゃねぇか!」

 

「フフフ、あんた運がないね、そろそろやばいんじゃないの?」

 

ハグリッドは見知らぬ男とギャンブルに興じているようだった。

状況を見るにあまり好ましい状況とは言えなかった。

 

「こうなりゃヤケだ!俺の持ち金全部だ!」

 

「こいつは面白いぜ!なら受けて立つぜ!」

 

そういってハグリッドはポケットの中の金を全部テーブルに叩きつけた。

 

 

 

「くそぉ…なんでだよぉ」

 

「本当にお前さん運がないなぁ」

 

結果は明らかだった、テーブルに突っ伏している大男、片や大笑いな恰幅のいい男。

それが今回の勝負の結果だった。

 

「さて、じゃあ払ってもらおうかな?」

 

「わかったよったく…あれ?」

 

「おい、どうしたんだよ」

 

「ない!金がない!」

 

「お前ふざけるなよ!金がないで済むわけないだろ!」

 

ハグリッドは涙声になり恰幅のいい男は怒鳴り声をあげる。

 

「やれやれ、お前さん、なんという様じゃ…」

 

「校長…こりゃ、お恥ずかしい限りです」

 

「ん?あんた誰だい?」

 

恰幅のいい男は詰まらなそうに言う。

(恰好を見るにどうやら、マグルのようじゃな、どういうわけか知らんが迷い込んでしまったようじゃの)

 

「ワシはこやつの上司のようなもんじゃ、すまんが今回はこれで勘弁してくれんかのぉ?」

 

そういってダンブルドアは男に袋を渡した。

袋を受け取った男はすぐに中身を確認して懐へしまった。

 

「まぁ、アンタがそうまで言うならしょうがねぇや、今回はこれで勘弁してやる」

 

「感謝するぞ、ところでお主はなぜこのような場所におるんじゃ?」

 

「あー、飲み歩いていたらそこの大男にぶつかってな、その時そいつが1杯付き合えって言うからついてきただけさ」

 

「なるほど。ハグリッド、後でちゃんと送ってやるのだぞ」

 

「わかりましただ」

 

「すまないことをしたな」

 

「いいってことよ、俺も商売柄こういうことには慣れっこさ」

 

「ほぅ、何をやっているのかね?見たところ金回りは良さそうじゃの」

 

「まぁな、俺がやってるのは情報屋さ」

 

「情報屋…」

 

(もしかしたら、【アレ】について知っているかもしれんな…)

 

「のぉ、お主に聞きたいことがあるんじゃが」

 

「いいぜ、その代わりしっかりと金はもらうがな」

 

「わかっておる、お主 【アンブラの魔女】について何か知らぬか?」

 

「アンブラの魔女?」

 

(やはり、マグルではわからぬか、ワシも耄碌したもんじゃ)

 

そう思うとダンブルドアは自嘲気味に笑った。

 

「お前さん、どうしてそんなに魔女について知りたいんだ?」

 

「なに、ただの戯言じゃ。忘れてくれんかのぉ」

 

「アンブラの魔女だろ…知ってるぜ」

 

思わぬ発言にダンブルドアは声を荒げる。

 

「それは本当か?どこで聞いたんじゃ!」

 

「まぁ、落ち着けって、俺だって慈善事業でやっているんじゃない。それに個人情報だからな、迂闊にはしゃべれないな」

 

「そうじゃの…何とか会う事は出来んか?」

 

「魔女たちに詳しい奴と連絡を取ってやってもいい…これ以上は情報屋としての依頼になるがいいか?」

 

「頼んだぞ。」

 

「それじゃあ俺はそろそろ帰るぜ、連絡ならここへ寄こしな」

 

そう言うとその男は懐から名刺を取り出しテーブルに置いて行った。

 

「あぁ、ハグリッド。送ってあげなさい」

 

「わかりましただ」

 

そういって恰幅のいい男とハグリッドは入り口を抜けていった。

 

 

 

 

しばらくすると、飲み屋にハグリッドが戻ってきた

 

「校長、アイツは無事に送りました」

 

「御苦労じゃったのぉ…アイツは何か言っておったか?」

 

「またこっちに来るから、そん時ここでまた会おうって約束しました」

 

「そうか、それはよかった。ワシも個人的に奴には話が有るからのう…」

 

「校長がですか?」

 

「さようじゃ、さてそろそろ帰るとするかの」

 

「はい」

 

こうして二人は暖炉の中に入ると炎にまみれて消えていった。

 




今後もよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ファーストコンタクト

やっぱり小説書くのは楽しいですね。
ただ、私の文章力だと表現したいことを十分に表現できなかったり、読みにくかったりと…
これからも頑張って書いて行きますのでよろしくお願いします。


数日が経ち再び「The Gates of Hell」の看板に光が灯る

店内には数日前と同じメンバーが店内のBGMを聞きながら談笑をしている

 

「そういえば、この前の大男から手紙が届いたぜ」

 

エンツォはポケットから薄汚い一枚の羊皮紙を取り出しテーブルへ置いた。

 

「へぇ、羊皮紙なんて中々渋いわね」

 

手紙を受け取ったベヨネッタは眼鏡を直しながら手紙を読み始めた。

 

 

『この前は楽しかったぜ、またこっちに来るんだよな? その時は教えてくれよ、迎えに行くからな』

 

「汚い字ね……ところで手紙はこれだけかしら?」

 

「あぁ、これだけだぜ」

 

エンツォは再びベヨネッタから手紙を受けとり、顔の前で左右に振る。

 

「ところで、これがどうやって届けられたかわかるか?」

 

エンツォはニヤニヤと笑いながら布で覆われた物体をテーブルの上に置く。

 

「こいつが家に突っ込んできたときは驚いたぜ」

 

そういって勢い良く布を取り除くと大きな鳥かごがあり、その中には1匹のフクロウが眠そうな顔をして鎮座している。

 

「これは?使い魔かしら?」

 

「さぁな? そういうのはよくわからないが、手紙をコイツに持たせればいいらしいぜ」

 

「便利なものね」

 

フクロウは相変わらずあまり動かずに瞬きを繰り返している。

 

しばらくすると奥からロダンが羊皮紙とペンを持ってやってくる。

 

「返事ならこいつに書きな」

 

「わかったよ、ところでどう返信すりゃいいんだ?」

 

「あまり詳しくこちらの情報を渡すわけにもいかないからな、適当にそちらに行くと伝えながら、セレッサの存在を匂わせばいい」

 

「そういうことなら、こっちに任せるんだな」

 

エンツォはそういって酒を少し煽ってからペンを取り筆を進めていく。

 

「ところでロダン、そろそろ新しい玩具は出来たかしら?」

 

「すまねぇな、殆ど完成しているんだが、少し手間取っていてな、入学までには完成させるぜ」

 

そういってロダンは葉巻に火をつける。

 

「向こうの連中には心を読む奴がいるらしい。お前ら2人には大した問題じゃないだろうが、エンツォ、お前にとっては大問題だ。」

 

「どうすりゃいいんだよ」

 

「こいつを使いな」

 

ロダンが胸ポケットからサングラスを取り出した。

 

「サングラスか?こんなんで防げるのかよ」

 

「これには少し細工をしてある。そう簡単には破られない筈さ」

 

「そいつはありがたいな」

 

 

店内BGMを奏でていたレコードが4枚目に入ろうとしたころ

 

「よし、こんな感じでいいだろうよ」

 

エンツォがそういって羊皮紙をたたんで鳥かごからフクロウを出す。

 

「後はこいつに持たせて……よし、それじゃあちょっと外に行ってくるぜ」

 

テーブルの上のナッツを数粒手に取ってフクロウに食べさせながら、エンツォは店の外へ出ていった。

 

「届けてきたぜ」

 

「あら、早かったわね。もう終わったのかしら?」

 

「あぁ、店を出たらすぐに飛んで行ったぜ」

 

「ところで、私のことはなんて書いたのかしら?」

 

「あぁ、史実の通りにアンブラの魔女は滅び、その血を少し受け継いでいる可能性がある子供で隠されて育てられたという設定だ」

 

「あら、結構複雑な設定なのね」

 

「そっちの方が向こうも聞いては来ないさ、さて俺はまた別の仕事があるからこれで失礼させてもらうぜ」

 

エンツォは店の扉を開けて外へと出ていった。

 

 

 

 

 

あの男に手紙を送ってから数日が経ったある日、返事を持ったフクロウがハグリッドの元に戻ってきた。

 

 

「戻ってきたか、さてどうだろう」

 

 

ハグリッドが手紙を受け取るとフクロウは止まり木に飛びつき眠りについた。

 

『来週あたりにそっちに行くから道案内頼んだぜ。ところでこの前言っていた件についてたが、大方の目途が付いた。アンブラの魔女は滅んでしまったらしいが血を受け継いでいる子供が居るという話だ。その子供なんだがまるで魔法の様な力を持っているらしい……お前らそういうのには詳しいんだろ?』

 

思わず体が固まってしまう、あの男に魔法使いであることは話していない。

いったいどうやってあの男は……

とにかく今はこれを校長に相談しなくては。

そう思い立ちハグリッドは急いで校長室へと足を進めた。

 

「失礼します」

 

ハグリッドはそういいダンブルドアの前に手紙を差し出した。

 

「これはいったいなんじゃ?」

 

「あの男からの手紙です」

 

「手紙が来たのか、どれ……」

 

しばらくダンブルドアは手紙に目を落としていたがしばらくするとその顔は驚愕に変わった。

 

「これはどういうことじゃ?」

 

「わかりません、俺は魔法のことなど一言も……」

 

「そんなことはどうでも良いのじゃ。」

 

「え? どうしてですか?」

 

「ガリオン金貨を渡した時点でマグルどもでも知っている者は知っておるからな、それに情報屋だと言っておったじゃろ」

 

確かに、そう言われてハグリッドは納得したように首を上下に動かした。

 

「それより問題なのは、アンブラの魔女は滅び、今は血を引いている可能性のある子供のみだという事じゃ……次会うときこの子も連れてこれるか聞いてみてはもらえんか?」

 

「子供をですかい?」

 

「さよう」

 

「わかりました、じゃあ急ぎ返信を送ることにします」

 

そう言ってハグリッドは急ぎ手紙を書くために自分の小屋へ向かった。

 

 

 

ついにあの大男と再び会う日がやってきた。

エンツォの隣にはいつもと同じ服装のベヨネッタと赤を基調にしたレザーの服を着こんだジャンヌが立っていた。

 

「さて、もうじき現れるはずなんだけどな」

 

エンツォは先程から数えて10回以上時計を見ている

 

「そろそろ時間だ。セレッサ、そろそろ準備をした方がいいぞ」

 

「そうね、そうするわ」

 

そういうと一瞬にしてベヨネッタの姿は幼い姿になり11歳前後の見た目となった。

 

「これで準備は出来たわ」

 

ベヨネッタはそう言って手鏡を取り出して化粧を整える。

そこには妖艶さと幼さを合わせた美少女が存在していた。

 

「来たみたいだぜ」

 

エンツォがそう言って顔を前に向けると、そこには大きな男と、長い髭を生やした老人が歩み寄ってきた。

 

「よぉ、ここだぜ」

 

「待たせてすまなかったな。立ち話もあれだから店に行こうぜ」

 

そう言って大男の後についていき店に入っていく。

店の中は数人の人間がいたが私たちが入ってくると一瞬だけこちらを見た後、また再び顔をそむけた。

 

「自己紹介がまだじゃったの。ワシの名前は、アルバス・ダンブルドア、こっちがルビウス・ハグリッドじゃ」

 

「こちらこそよろしく頼むぜ、俺はエンツォだ。こっちにいるのがジャンヌ、この小さいのがベヨネッタだ」

 

「よろしく頼むぞ」

 

そう言ってダンブルドアは手を出し3人と握手を交わした

 

 

テーブルについてしばらくしたら店員らしき人物が注文を聞きに来たので適当に酒とジュースを頼み少しのチップを渡した。

 

「さて、仕事の話についてだが……」

 

「その話なのじゃが、そちらの2人は関係あるのかのう?」

 

ダンブルドアが一瞬目を鋭くさせる

 

「少し関係があってな、同席させても構わないか?」

 

「そういうことなら構わないのう」

 

「さて、話を戻すぞ、話に出ていた【アンブラの魔女】についてだがな」

 

「うむ、手紙のことは真実なのかのぉ?」

 

そういってダンブルドアはエンツォの目をじっと見つめる。

開心術をかけようとしているのだ。

 

「その前によぉ……頭ん中を覗くような事はやめてはもらえないか」

 

エンツォがそういうと、ダンブルドアは驚愕したような顔をしてから、目線をずらして

 

「すまなかったのぉ、ところでマグルのお前さんがどうして覗かれていることに気が付いたのじゃ?それに見えないようじゃ」

 

「こっちもこういう業界だからな、いろいろとあるんだ、対策の一つや二つ用意しているさ」

 

そういってエンツォは酒を一口飲み、サングラスに手をかけてダンブルドアをにらみつける。

 

「話を戻してもいいか?」

 

「頼む」

 

「【アンブラの魔女】は手紙でも書いた通り滅び去ってしまった種族だ」

 

「そうか…」

 

ダンブルドアは苦虫を噛むような表情をして頷いた。

 

「まぁ、唯一血を引いている可能性があるのが…こいつだ」

 

そう言って二人の方を見る。

 

「ベヨネッタ…こいつがその可能性のある子だ」

 

「姉の方は違うのかの?」

 

「血縁上は姉だが、親が違うらしい」

 

エンツォの急な返しに私達は案外やるものだと思っていると、ダンブルドアは明らかに気まずそうな表情をしていた。

 

「そうじゃったのか、それは…大変じゃったの」

 

「そこで、この娘についてなんだが…」

 

「ワシの学園に入学させたいということかの?」

 

「話が早くて助かるぜ」

 

「そうじゃの…」

 

眼鏡を少し持ち上げダンブルドアはベヨネッタを視界にとらえてしばらく見つめる

 

「確かに素質はあるようじゃの…その子に入る意思があるなら今期の新入生として入学を許可しよう」

 

「そういってるがどうするんだ、ベヨネッタ?」

 

「そうね。私も興味があるわ」

 

そう言ってベヨネッタ、幼い少女は眼鏡の奥の瞳でダンブルドアを見つめる。

 

「よかろう、数日後に入学に必要な書類とリストを持ったこちらの教員を送るとしよう」

 

そういってダンブルドアは手元にあったナッツを3粒ほど口に放り込みかみ砕いた。

 

 

 

 

彼女たちと別れてからワシは自室に戻り先程の少女について思い返す。

 

あの少女はとてつもない魔力を持っておった、今まで見つけることができないのが不思議なほどに

それだけではなく、底知れぬ力を持っているような気がした。

 

「失礼します」

 

しばらくすると扉が叩かれ一人の女性が入室してきた

 

「校長、お呼びで?」

 

現れた女性はミネルバ・マクゴナガル、グリフィンドールの担当教員だ

 

「すまないが今度の週末に、この生徒の買い物に付き合ってはもらえぬか」

 

そう言って、彼女に先程の少女の資料を渡す。

 

「わかりました。新入生ですか?」

 

「さよう、頼んだぞ」

 

「はい」

 

そういうと彼女は踵を返し部屋から出ていった。

 

「ふぅ…」

 

一人ため息をついてから天を仰ぐ。

 

「今年はいろいろありそうじゃ…」

 

そんな独り言を呟きながら巨大な椅子に腰を掛け、深いため息をついた。

 

 




今回はここまでです。
次回はダイアゴン横丁で買い物ですね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ダイアゴン横丁で

3話目です。
ここからベヨネッタが本格的に魔法界とコンタクトします。

とはいえ、本領発揮するのはまだ先の話ですが。


ダンブルドア達と顔を合わせてから数日が経ち今週末を迎えた。

私はエンツォから言われた場所に子供の姿で向かっていくと、こっちの世界では見かけない奇抜なファッション…魔法使いだと思われる風貌の女性が一人たたずんでいた。

 

「あなたが、ミス・セレッサですね。私はミネルバ・マクゴナガル、今回の買い物に付き添わせてもらいます」

 

「えぇ、エスコート任せたわ。」

 

「ではいきますよ、ついてきなさい」

 

マクゴナガルがそういうと踵を返し、しばらく無言で歩いていく。

 

「ところで今日はどこへ行くのかしら?」

 

「ダイアゴン横丁です、そこであなたに必要な学用品などを買いますよ。これがそのリストです」

 

「どうせならブティックがよかったわ」

 

「ブティックにはそこに書いてあるものは売っていませんよ」

 

ジョークに真顔でまじめな回答をされ少し調子が狂ってしまう。

 

お堅い人なのだと考えながら、先程受け取ったリストに軽く目を通す。

 

「ところで、資金は持ってきているのですか。もって来ていないようなら奨学金の一部として貸し出すことも可能ですよ」

 

「問題ないわ、これだけあれば足りるはずよ」

 

そう言って私は数十枚の金貨が入った袋を取り出した

 

「それだけあれば問題ないようですね。帰りに洋服を見に行っても足りるはずですよ」

 

これは驚いた。案外ジョークが言えるのかもしれない。

 

「………冗談ですよ…さぁ着きましたよ」

 

やっぱりジョークは苦手なようだ。

 

マクゴナガルがそういうと壁の前で立ち止まり、壁の数か所を杖で叩くと壁がひとりでに動き出し、アーチ状のゲートへと変貌した。

 

「ここから先がダイアゴン横丁です。はぐれない様についてきなさい」

 

そういうマクゴナガルの後を私は慣れない体を走らせ後についていく。

 

 

「それではまず初めに、杖を買いましょう。いいですか、魔法を使う上で杖というのは非常に重要なので覚えておきなさい。ダイアゴン横丁で杖を買うならオリバンダーの店がいいでしょう」

 

そこには一軒の古ぼけた店が建っており、店内に入ると少しほこりやカビのような臭いが漂い、細長い小箱が店内に所狭しと並べられていた。

マクゴナガルがカウンターに取り付けられたベルを鳴らすと奥から店の店主らしき人物がとぼとぼと歩いてきた。

 

「おや、これはこれは、マクゴナガル先生。本日はどういったご用件で?」

 

「この子の杖を選んでいただきたいのです」

 

「かしこまりました、それではまず杖とはどういったものなのかについて説明いたしましょう」

 

店主がそう言って店の奥から数本の杖を持ってやってきた。

 

「私は別の買い物があるので少し席を外しますね、終るころには戻ってきますよ。」

 

店の外へと出ていったマクゴナガルを見送った後、再び店主が嬉々として話を始める。

 

「まず杖の素材には様々なものを使用します。その素材によって杖の力は異なっていきます。それによって使用者一人一人にあった杖というのができるわけです」

 

「そう…」

 

「そして力が強いものほど杖の芯に使わております、そして…」

 

「御高説のところ悪いのだけど、まだ続くのかしら?」

 

「おっと、これは失礼しました、それではまずこちらをお試しください。楓にドラゴンの髭、28㎝」

 

杖を受け取り軽く振るう。

しかし、何も起きる気配もなくただの棒切れをつかんでいるような感覚だった。

 

「これじゃないようね」

 

「そのようですね、ではこちらを、柏の木に吸血鬼の髪30㎝、闇の魔術に最適」

 

「ふぅん…」

 

杖を受け取り軽く振る

 

【ガシャン!】

 

大きな物音を立ててあたりの物が散らばってしまう。

 

多少の力は感じるがこれといった決め手はない。

 

「残念ね、次」

 

「そのようですね…少々お待ちを」

 

店主が店の奥へ行って何やらブツブツと呟きながら棚をあさっている。

 

2分ほど経った後に1本の杖を持って店主がやってくる。

 

「こちらを…創業以来、誰も適合しなかった一品です。世界樹に妖精の羽。18㎝、小振りながらその力は未知数…」

 

「そう…」

 

杖を受け取った瞬間それなりの力を感じる、今までの物よりはいくらかマシなものなのかもしれない。

 

そう思い軽く振ってみる、すると杖の先が光ったかと思うと一瞬で燃え尽きてしまった。

 

「こんな玩具じゃ物足りないわね」

 

「そんな…まさか、これ以上の合う杖など…」

 

店主がよろめきながら、地面にしりもちをつき、ハンカチで汗をぬぐい始めた。

 

「別の店を当らせてもらおうかしら?」

 

「待ってください!このオリバンダー創業以来1度も杖を見つけられなかったことなどありません!この名に懸けても必ず見つけて見せます!」

 

店主としてのプライドなのか、必死の形相をし懐から一本の杖を取り出し。フラフラと立ち上がる。

その時何者かが扉を開けて入店してきた。

 

「いらっしゃいませ、申し訳ありませんがしばらく…なんだ、ロダン、お前さんか」

 

「よぉ、どうしたんだオリバンダー、顔色が悪いぜ」

 

軽く手を挙げながらロダンが軽口を叩いている。

 

「放っておいてくれよ、今はお前さんの相手をしている暇はないんだ」

 

「よぉ、ベヨネッタ、お前さんここで杖を買おうとしているのか?」

 

「えぇ、ここがいいって紹介されたの」

 

「お嬢さん、この男と知り合いで?」

 

「こいつとは、ちょっと縁があってな、どうだい、お望みの物は見つかったか?」

 

「どうやら、私が満足できる玩具は置いてないみたいだわ。」

 

「いいえ!必ず!必ずあなたに合う杖がこの店にあります!!」

 

店主は大声をあげながらロダンと私を凝視している。

思った以上に商売熱心だ。

 

 

「ところでロダン、今日はどういった要件だ?」

 

「なぁに、いつものようにこいつを買い取ってもらいたいのさ」

 

ロダンは懐から1つの小箱を取り出し店主に手渡した。

蓋を開けて杖を手に取った瞬間、店主の顔は苦痛に歪み持っていた杖を床の上に放り投げた。

見た目は碧を主体にしてところどころ金色の装飾が施されたおり長さは36㎝位だろう。

 

「なんだこの杖は!触っただけで魂を吸い取られるような感覚がしたぞ…素材は何だ?」

 

「企業秘密さ」

 

「大方ろくでもないものだろうな。お前が持ち込むものは力が強すぎて使い物にならないから、殆どが観賞用行きだ。」

 

「あら、面白そうじゃない」

 

そういって床に転がっている杖を拾い上げる、それと同時に心地よい力が全身に流れ込んでくる。

 

「いけません!死んでしまいます!」

 

「そうでもないみたいだぜ」

 

「え?」

 

確かに強力な力を感じた、おそらく悪魔の…それもかなり上級な者を封じ込めて作っているのだろう。

しばらくすると力が体に馴染みきってきたので、軽く杖を振る。

その瞬間店の中が一瞬にして光に包まれた。

光の中で一瞬のうちに、私の髪に宿っている魔力が凝縮され巨大な拳が形成された。

なるほど、ウィケッドウィーブが使えるようになっているようだ。さすがはロダンといったところ。

そして杖を前に突き出すと轟音と振動が響きゆっくりと光が収縮していく。

光が収まって店内を見渡すと店の半分が何者かによって殴り飛ばされたかのように消し飛んでいた。

 

「あぁああああああ!私の店がぁ!」

 

大穴を見て店主が現実を受け入れない様に手で目を覆い天を仰いでい面に突っ伏している。

 

「いいわね、これは。気に入ったわ、パーフェクトだわロダン」

 

「俺の作ったかわいい子だ、大切に扱ってくれよ」

 

「大切に使わせてもらうわ、ところでこれ代金はいくらかしら?」

 

「さぁな、店主にでも聞いてみたらいい」

 

「そうね、こちらの杖はおいくらかしら?」

 

店主が顔を上げないまま、震えた声で呟くように答えた

 

「杖の…代金は…」

 

それっきり何も答えることなくただ虚空を眺めていた

 

「そう、それじゃあ失礼するわね」

 

私は持っていた1ガリオンを親指ではじき店主の方へと投げながらロダンと共に店を後にした。

 

 

 

 

私は先程手に入れた杖を指先で遊びながら店の外に出る。

外では数人がこちらを見てくるだけで人だかりなどは出来ていなかった。

おそらくあの店では爆発などは日常的に起こるのだろう。

 

「気に入ったようだな」

 

「えぇ、とても手に馴染むわ」

 

「特別に上等な奴を使っているからな、それとそいつにはちょっとした特典がついているんだ」

 

「特典?」

 

「あぁ、そいつを手に持った状態なら何時でも俺の店に来れるようにしてある、試しに店の中を想像してみろ」

 

目を閉じ、店の雰囲気を思い浮かべる。

ふと耳元に聞き覚えのあるBGMが聞こえてきて、目を開くとそこは、「The Gates of Hell」の店内だった。

そしてロダンはいつものようにバーカウンターの向こうでグラスを拭いていた。

 

「ふぅん、なかなか気が利くじゃない。これはどこでも使えるのかしら?」

 

「あぁ、もちろんだ、どんな場所からだってここに来れるし、ここからなら行った事のある場所ならどこへだって行けるぜ」

 

「便利な物ね、ところでバーを経由しないとダメなのかしら?」

 

「フッ…そっちの方がゲームっぽいだろ?」

 

「なら、裏技くらい欲しいものね…まぁいいわ」

 

ロダンの発言を軽く流した。

 

「まぁ、魔力の流れが関係しているんだが詳しく話すと長くなるぜ」

 

「遠慮しとくわ、理解しなくとも使えればいいのよ」

 

「確かにそうだな。一応言っておくが時間の流れは戻らないからその点は注意してくれ」

 

「ご忠告どうも」

 

「それと、コイツは選別だ、取っておきな」

 

バーカウンターにいたロダンは紺色のポーチを投げてよこしてきた。

 

「これは何かしら?」

 

「こいつには少し工夫してあってな、コイツの1つで様々な物を持ち運べる優れものさ」

 

「へぇ、それは便利ね、いっぱい洋服を持っていけそうね」

 

「容量に上限はないから、気にせずにどんどん使ってくれ」

 

「助かるわ。それじゃあ、またあとでね」

 

目を閉じて、再びオリバンダーの店の前をイメージする。

 

 

 

 

「ミス・セレッサ、何をしているのですか?」

 

目を開くと目の前にはマクゴナガルがこちらに向かって歩み寄ってくる。

いいタイミングだったようだ。

 

「いえ、別に何も…杖も選び終わったのでこうして待っていただけよ」

 

「それなら結構です。これは必要になる教科書と学用品です。残りは服だけですね、服ならマダム・マルキンの店でそろいますよ」

 

「気が利くのね、助かるわ」

 

「これも仕事のうちです。さて、目の前にある店がそうです。服の採寸だけなので一人でも問題ありませんね」

 

「それくらい、子供でもできるわ」

 

「子供が何を言っているのですか、まぁ貴女なら問題ないでしょう…私は外で待っているので行ってきなさい」

 

 

 

店の扉を開いて店内に入ると何やら言い争いをする少年達の声が店内に響いてくる。

だが、あまりその少年達に興味が湧かなかったので近くにいた店員を呼びつけ、服の採寸を頼むと何やら魔法を使いすぐに採寸を終わらせた。

 

「数分でできると思いますので少々お待ちください」

 

 

店員がそういうとお店の奥に消えていった。

中々この世界の魔法も便利なものだと考えながら、いったいどんな服が来るのか考えていた。

あまりにもひどいセンスの服が来るようなら、少し手を加えようかとも考えているその時、店内で言い争いをしていた金髪の方の少年が私の方を見るといきなり話しかけてきた。

 

「おや、君も今年ホグワーツに入学するのかい?僕の名前はドラコ・マルフォイだ。よろしく」

 

「よろしくね坊や、ベヨネッタかセレッサ、好きな方でいいわよ。」

 

「いきなり坊やとは失礼じゃないか、それになぜ名前が2つあるんだい?」

 

マルフォイは少し不機嫌そうに、こちらを睨みながらも握手を求めるように手を差し出してくる。

 

「いろいろと複雑なのよ、察してくれると助かるわ」

 

握手を返しながら答えると少し考えるような顔をした後「分かった」と一言答えた。

 

「セレッサ、こんな事を聞くのは失礼かもしれないけど君は純血かい?」

 

「純血?どういう意味かしら?」

 

「両親が魔法使いかどうかって事さ、もしかしてマグル出身?」

 

なるほど、どうやらこの少年は血筋を大切にする主義なのだろう。

 

確かに私の両親はルーメンの賢者とアンブラの魔女、お互いに不可侵のおきてを破った間に生まれた不浄の子供だ…

 

「………」

 

「どうしたんだい?」

 

「ちょっと両親のことを思い出していたわ…」

 

マルフォイは何かを感じ取ったようでわかりやすく狼狽え始めた。

 

「すまない、答えにくいような事を聞いたみたいだ」

 

「別にいいのよ、さっきの質問だけど私の両親は共に力があったわ」

 

「そうか、でもなんでそんな君がマグルの世界に?」

 

500年前に封印され、目を覚ましたら両方の一族が滅んでいたとは流石に言えないのでエンツォの考えた設定を少し利用することにする。

 

「私は隠し子だったのよ、だからマグルの世界で育てられたのよ」

 

「そう…だったのか、すまない」

 

「別にいいのよ、気にしないで」

 

どうやら私の言葉を信じ切ったようで、その後も何度か謝罪の言葉をかけてきた、意外と紳士的なところもあるようだ。

 

しばらくすると服が完成したのか、服の入った紙袋を手に持ったマクゴナガルが持ってきた。

とりあえず服の代金を取り出して店員に渡して店を出ようと扉に手をかけると…

 

「ミス・セレッサ、次会う時が楽しみだ」

 

「えぇ、それじゃあ失礼するわね」

 

「それじゃあ、行きますよ」

 

店の扉に手をかけ後ろを振り返ると、奥の方に眼鏡をかけたみすぼらしい姿の少年がこちらを睨んでいた。マルフォイの方はこちらに手を振ってきていたので私も軽く返した。

 

マクゴナガルの後に続き私が店を出てしばらく歩き、ダイアゴン横丁のゲートの前までやってきた。

 

「必要なものは以上です、当日のチケットは追って送りますのでそのつもりで。何か質問はありますか?」

 

「いいえ、特にはないわ」

 

「そうですか、それでは私はこれで。次はホグワーツ出会いましょう」

 

そういうと目の前から姿を消してどこかへ行ってしまった。

 

残された私は荷物をポーチの中にしまい、杖を手に取り目を閉じた。

 

再び目を開けるとそこは「The Gates of Hell」の中だった。




いかがでしたでしょうか?

ベヨネッタが敬語を使う姿が想像できなかったので敬語は使っていません。
恐らくこの先も使う事は無いでしょう

次回はとうとうホグワーツに侵入します。

次回もよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ホグワーツ特急

個人的にロンにはエンツォに近いポジションになってもらおうかと考えています。

そのため今回は少しロンの扱いが雑になっていると思います。

ロンファンの方にはイメージと違うと思われる方が居ると思いますが、ご了承ください。


9月1日

今日はホグワーツの新学期が始まる日である。

多くの人々が行きかうキングス・クロス駅に私はやって来た。

白いシャツ、青い色のネクタイにベストを羽織り、ローブをマントのように肩にかけて、プリーツスカートからは白いニーソックスと黒いローファーを身に着けた細くて華奢な足が見えていた。

 

「着てはみてみたけど…」

 

あまり納得はいかなかった、悪くはないのだが…どこか納得がいかなかった。

 

「ふん…少しくらいはアレンジしたっていいでしょう」

 

そういうと杖を手に取り少し魔力を込める。

すると私を除く世界の動きがどんどんとゆっくりになっていって、最終的にはすべての動きが停止した。

 

【ウィッチタイム】

 

アンブラの魔女が使える技能の一つで周囲の時の流れを操ることができる。

私はこれを使い周囲の動きを完全停止させた。

 

 

「これでいいわね」

 

手に持ったポーチから紙袋を取り出し、その中からヒールの高い黒のブーツと黒いストッキングを取り出した。

まずはローファーと白いニーソックスを脱ぎ。ストッキングに履き替えて、ブーツに足を通して、普段つけているブローチをつけた。

その後目の前にある大きなガラスの前で自分の姿を確認した。

 

「まぁ、良しとしましょう、さて場所は…」

 

私はスカートのポケットからホグワーツから送られてきたチケットを取り出す。

チケットには『キングス・クロス駅、9と3/4番線』と書かれていた。

 

周囲を見渡してみるが、9番線と10番線はあるが、どこにも『9と3/4番線』なるものは見当たらなかった。

 

「これも魔法界なりのユーモアかしら?」

 

注意深く周囲を見回していると、似たような服装で大量の荷物をカートに乗せて柱に全速力で走っている人が数人おり、柱にぶつかった瞬間、柱の中に飲み込まれていった。

どうやら、あの柱が9と3/4番線の入り口なのだろう。

彼らの真似をするように私も一歩一歩確実に柱に歩み寄っていく。

 

柱を通り抜けたその先には紅色の蒸気機関車が停車しており、時々蒸気を吐きながら、発車する時を今か今かと待ちわびていた。

ホームの上には『ホグワーツ急行』と書かれていた。

 

駅のホームでは大量の猫が周囲を走り回り、柵にフクロウが止まっており、ホーホーと合唱のように鳴いていた。

あれは、生徒たちが連れていくペットなのだろう。

ホグワーツは、猫、カエル、フクロウがペットとして持ち込みが可能になっていたが、今回は別に必要ないと思い連れては来なかった。

 

周囲には制服に身を包んだ生徒とその保護者らしき人物が楽しそうに、または不安そうに語り合っていた。

これならジャンヌを連れてくればよかったと思いながら、車両に乗り込み、空いている席に深く座り込んだ。

車窓からは別れを惜しむように話している生徒や保護者がいたが、一人、また一人と電車に乗り込んでいき、保護者達は電車に向かい手を振っていた。

 

しばらくすると発車時間が来たようで、多少の振動を感じながら車窓の風景が流れ始めた。

すぐに駅は小さく見えなくなってしまい、あたり一面に緑が広がっていった。

 

しかしあまりにも代わり映えがしない風景にも飽きてきてしまい、ポーチの中から教科書を一つ取り出す。

暇潰し程度に読む分には丁度いいかもしれないと思い、ページを開こうと手をかけたその時、ノックが聞こえ、コンパートメントの扉が開かれた。

 

「あの…その…ここいいかな?その…どこも開いていないんだ…だから…」

 

おどおどとした丸顔で背が低い少年が入ってきた。

その視線は時々こちらを見てくるが決して私と視線を合わせようとはしなかった。

 

「別にいいわよ、私一人には広すぎるわ」

 

そういって空いている席を指さすと少年は小声で「ありがとう」といいながら腰を下ろした。

 

私は別にやることがなく、手に取っていた教科書を開き目を落とした。

少年の方は相変わらず落ち着かない様子でこちらに度々目線を向けてくるが少年から話しかけようとしてくる様子は一切なかった。

 

そんな状態が30分ほど続いたあたりでコンパートメントが開かれ微笑んだ老婆がやってきた。

 

「車内販売です、何かほしいものは?」

 

 

持ってきた時計に目をやると12時を過ぎており、多少の空腹を感じていた。

ワゴンには様々なお菓子が並んでいた。

 

【カエルチョコ】【百味ビーンズ】【ワンダフルケーキ(テイクアウト)】と多種多様だ。

 

 

「そうね、じゃあワンダフルケーキをもらいましょうか」

 

「ぼ…僕はカエルチョコと百味ビーンズ…あと大なべケーキを…」

 

「毎度ありがとう」

 

ポケットから銀貨を取り出し、老婆に渡し、カプセルに包まれた小振りなケーキを受け取った。

 

 

「えっと…お金が…あれ?」

 

「どうしたんだい?まさか金がないのかい?」

 

「いや、確かに持ってきたはずなんだけど…あれ?」

 

目の前の少年が自分のポケットに手を突っ込んだり慌てている。

 

「どうしよう…ないよ…」

 

涙声で老婆の方を見ているが、老婆は不機嫌そうな顔になっていた。

 

「金がないんじゃ…売れないね、残念だけどしょうがないね」

 

「そんなぁ…」

 

老婆にはっきりと言われて少年は今にも泣きだしてしまいそうだった

流石にこのままでは空気が悪くなりそうなので、私はポケットから少し汚れた金貨を2枚取り出す。

 

「私が払うわ、これで足りるかしら?」

 

金貨を目にした老婆はニッコリと笑ったので、金貨を手渡した。

 

「十分ですよ、ありがとうございます」

 

そういうと少年が注文したものを手渡してそそくさとコンパートメントから出ていった。

 

「ありがとう、ごめんね、今度返すから」

 

「別にいいわよ、それより食べないのかしら?」

 

「そ…そうだね、ありがとう」

 

そういうと少年は大きなケーキにかぶりつき始めた。

 

私もワンダフルケーキのカプセルを開け口に入れた。

 

「ワンダフルね」

 

目の前にあったケーキがあと少しで食べ終わるであろうという時に再びノックの音が響いた。

 

「あの、相席大丈夫かしら?」

 

コンパートメントの扉を開けて入ってきたのは、茶髪でぼさぼさの長い髪で少し出っ歯の少女だった。

 

「えぇ、私は大丈夫よ」

 

「僕も大丈夫だよ」

 

「ありがとう、じゃあ失礼するわね、それにしても魔法の世界ってすごいわね、驚く事ばかりよ!」

 

そう言いながら彼女はコンパートメントの中に入ってから、荷台に荷物を置いてから私の隣に腰掛けた。

 

「私は、ハマイオニー・グレンジャー。ハーマイオニーでいいわよ」

 

「僕は、ネビル・ロングボトム…よろしくね」

 

「よろしく。私のことは、ベヨネッタ、セレッサ、好きな方で構わないわ」

 

「そうなの、じゃあベヨネッタって呼ぶわ、よろしくね。ところであなたさっきから何を読んでいるの?」

 

「別に、今期の教科書よ、通販のカタログの方が面白いけどね」

 

「私はアレ目移りしちゃって嫌いだわ。教科書なら私も全部読んだわ、どんどんと読み耽っちゃったわ」

 

「もう読んでるなんてすごいね、僕なんてページすら開いてないよ…」

 

ネビルがおどおどとしながら答えてから周囲を見渡し始めた。

 

「あれ?おかしいな」

 

「どうかしたの?」

 

ハーマイオニーがそういうとネビルが荷台の方を背を伸びをしてのぞき込んでからこちらに目線を向けた。

 

「居ないんだ!僕のトレバーが居ないんだよ!」

 

「トレバー?」

 

ネビルの話を聞くにどうやら、彼のペットであるカエルのトレバーが逃げ出したようだ。

 

「それって大変じゃない!とりあえず探しましょう!」

 

ハーマイオニーがそう言って席を立ちあがった。

どうやら彼女は、重度のお節介焼きなようだ。

 

「私とベヨネッタは車内を探すわ、ネビルはコンパートメントの中を探して!」

 

どうやら私も一緒に探す羽目になったようだ。

私は面倒に思いながらも立ち上がり、ハーマイオニーと一緒に車内へ出ていった。

 

 

車内通路は狭く人2人がやっと通れるくらいでしかなかった。

 

「さぁ、行きましょうか」

 

ハーマイオニーがそう言ってどんどんと歩いていくので、私はため息を吐きながらその後をついていくことにした。

 

しばらく歩くとハーマイオニーが一つのコンパートメントの扉を開いた。

 

「ねぇ、ネビルのカエルを見てないかしら?どこかへ逃げちゃったみたいなの」

 

突然の訪問者に中にいた2人の少年は互いに目を合わせてから、赤毛の少年がこちらを見て少し戸惑いながら答えた。

 

「え?カエル?いや見てないけど…ところで君はだれ?」

 

「そうだったのね、急に失礼したわ、私はハマイオニー・グレンジャー、ハーマイオニーでいいわよ。こっちにいるのがベヨネッタよ」

 

急に私の方まで紹介されたので、少し面食らったが少年たちの視線がこちらに向いていたので軽く手を振った。

 

「そうなんだ、僕はロン・ウィーズリー」

 

「僕はハリー・ポッター、よろしく」

 

「ハリー・ポッター!あなたがあの有名なハリー・ポッターなのね!」

 

「ハリー・ポッター?」

 

「なに、ベヨネッタあなた知らないの?」

 

「えぇ、知らないわね」

 

「そんな、ハリー・ポッターを知らないなんて…君ひょっとしてマグル出身?」

 

「そうね、あまりこっちの世界にはいなかったからそうなるわね」

 

「やっぱりそうなんだ、道理でハリーを知らないわけだ」

 

そう言うと赤毛の少年、ロンが何度か頷いていた。

話題になっているハリーは少し気まずそうに苦笑いをしていた。

 

「ハリーは例のあの人から生き残った唯一の生き残りだよ」

 

「例のあの人って誰の事かしら?」

 

「やっぱり、それも知らないんだ!名前を呼んじゃいけないあの人だよ」

 

「だから誰よそれ」

 

「ヴォルデモートだよ」

 

ハリーが静かにその名前を呼ぶと、ロンは酷く嫌そうな顔をして耳を塞いだ。

 

「やめてくれよ!その名前は聞くだけでもダメなんだ!」

 

「そうなのね、まぁ、私には関係ないわね」

 

「そうよ、それに例のあの人はハリーに負けて姿を消したって言うじゃない」

 

「ハーマイオニー、確かに君の言うとおりだけどね、それは君たちマグルの方で生活していたからだよ。魔法界じゃ名前を聞いただけで弱い人じゃ呪われちゃうくらいなんだ」

 

ロンは相変わらず怯えたように声を荒げる。

 

 

その時、私達の背後にある一団がやってきた。

 

振り返るとそこには、金髪の少年…確か服の採寸の時にいたドラコ・マルフォイだった。

 

「やぁ、ウィーズリー。ここにあのハリー・ポッターがいるっての本当かい?おや、ミス・セレッサ、君もいたのか」

 

「あら、あの時の坊やね」

 

「何の用だよ!」

 

あからさまにいやそうな態度を表に出してロンが叫ぶように立ち上がった。

 

「貴様に用なんてない、用があるのはハリー・ポッターだけさ」

 

「出て行けよ!ハリーは君に用なんてないさ!」

 

「これだからウィーズリー家は…ポッター君、こんな奴と付き合うより僕たちと付き合った方がいいと思うよ」

 

そう言うとマルフォイはハリーに向かって握手をしようと手を出した。

少し考えた後ハリーはマルフォイが出した手を拒んだ。

 

「悪いけど、付き合う相手は自分で決めるよ」

 

周囲の空気が一瞬だけ凍り付く。マルフォイはプライドを傷つけられたのか、「もういい!行くぞ!」と捨て台詞を吐き、取り巻きの数名と共に奥へ消えていった。

 

「よく言ったぜハリー!見たかアイツの悔しそうな顔!」

 

ロンは先程のことが嬉しかったのかニヤニヤと笑いながらハリーの肩を叩いていた。

 

「それにしても嫌な奴だよな、それにあいつは質の悪い純血主義者なんだぜ」

 

「純血主義者?」

 

私がそう聞くと、ロンがカエルチョコを口に含んでから話し始めた。

 

「純血者が魔法界で一番だって思っている連中のことさ」

 

「そんなのただの差別主義じゃない!なんでそんな思考になるのかしら」

 

「さぁね、でも純血にしがみ付いている哀れな奴だって僕のパパは言っていたよ。ところでベヨネッタ、アイツは君のことを知っているようだったけど知り合いかい?」

 

「えぇ、ダイアゴン横丁で少しね」

 

「そうなんだ、ところであいつは何で君のことをセレッサって呼んでいたんだ?」

 

「別にどちらでも構わないのよ、好きな方で呼んでもらって」

 

「そうなのかい?それにしても、名前が2つもあるなんて君も相当変わったやつだな」

 

「ロン!あなた失礼よ!」

 

ハーマイオニーが声上げて注意した。

やはり彼女はお節介なところがあるようだ。

別に私自身そんなことで怒るほどのことでもないと感じた。

 

「でもさ、考えてもみろよ、自分の名前だぜ。しかもミドルネームや愛称って訳じゃないだろ?」

 

「えぇそうよ、無駄に長いよりはいいと思うけど」

 

意外とロンという少年はどうでもいいような事にこだわる様だ。

 

「でもさ、やっぱり変じゃないか!これもマグルの風習みたいなものなのかい?」

 

「別にそういうことじゃないわ、少し複雑なのよ」

 

「複雑って言われても、やっぱり変なものは変だよ」

 

「ロン、いくらなんでも失礼だよ…謝ったほうが良いんじゃないかな?」

 

「そうよ、ハリーの言うとおりだわ」

 

「うん…そうだね、ごめんよ」

 

流石に気まずいのか、私とは目を合わせずに謝罪しお辞儀をした。

 

別にそこまでしなくてもいいのに、むしろそこまでされると少し意地悪したくなるじゃない。

 

「別にいいわよ、どう思うなんて他人の勝手だわ。それよりカエルを探すんじゃなかったかしら?」

 

あえて私は少しつれない風を装い口調を強めに言った。

 

それを聞いてハーマイオニーが少し気まずそうにコンパートメントの扉を開けて外へ出ていった。

 

「さて、それじゃあこれで失礼するわね、邪魔したわね」

 

コンパートメントの扉を開けて一歩出た後すこし振り返る。

 

「それと、さっきの質問だけどあの坊や、マルフォイも同じことを聞いてきたわ。でも坊やの方はそんなしつこくは聞いてこなかったわ、あまりしつこい男は嫌われるわよ」

 

それを聞いたロンはひどく驚いた顔をして固まってしまった。

 

「冗談よ、気にしないでいいわよ。私も慣れてるから」

 

さらに困惑したようで何度も瞬きを繰り返していた。

そんな彼を尻目に私達はコンパートメントを後にした。

 

 

しばらく車内を探し回って行くと最後尾の車両の陰に1匹のヒキガエルが隠れるように鎮座していた。

 

「きっとあれね」

 

「よかった、それじゃあ捕まえるわね!」

 

そう言うとカエルの背後にゆっくりと近づき、両手でそっと抱きかかえこちらに見せてきた。

 

「やったわ!無事捕まえられたわ」

 

「そうね、じゃあ早く戻りましょう」

 

「えぇ」

 

カエルを抱えて私たちのコンパートメントへ向かう途中で、ハーマイオニーは私の方を見ないでそっと呟いた。

 

「さっきは、ごめんなさい」

 

「別に気にしてはいないわ、それにしてもあなたって相当お節介な性格なのね」

 

「お節介で悪かったわね!」

 

彼女は微笑みながらそういうとコンパートメントに向かって小走りで駆け寄り扉を開けて中に入っていった。

 

カエルを見たネビルは喜びと感謝を込めて何度も私たちにお礼を言ってから、カエルを大事そうに膝の上に抱えた。

 

そんな事をしているうちに終点に着いたようで電車の動きがゆっくりと停止した。

 

 

 

 




いかがでしょうか。

次回からは学生生活をエンジョイしてもらう予定です。


ロンには今後も少し不憫な思いをさせてしまうかもしれませんが、私はロンが嫌いじゃないです。
むしろマルフォイの次位に好きなキャラです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

組み分け

皆様
誤字脱字報告ありがとうございます。
誤字などを無くそうとしているのですが、やっぱり気の緩みからか出てしまう事があります。
今後も誤字等が出て来るかも知れませんがその時はお願いします。





ホグワーツ特急を降り目線を上にあげると、目の前に大きな古城が鎮座していた。

どうやら、この古城がホグワーツなのだろう。

 

しばらくすると城の方から何度か見たことのある大男がやってきた。

 

「よく来たな!イッチ年生!」

 

大声で叫びながら大男が新入生を学校への入り口に案内している。

私たちも案内に従い古いボートに乗り込んで湖を渡り、城内を進み階段を上りメインホールの入り口までやってきた。

入り口の前にはエメラルド色のローブを羽織ったマクゴナガルがこちらをに観察するように立っていた。

 

「新入生の皆さん、入学おめでとうございます、これから皆さんの歓迎会と組み分けを始めます。

組み分けとはとても重要な儀式です。これからの学生生活の7年間、皆さんには寮で生活していただきます。

寮は全部でグリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー、スリザリン。どの寮も素晴らしい歴史があります。

また、皆さんの良い行いは自分が所属する寮の得点になります、また悪い行いは減点の対象になります。

そして年度末には最高得点を得た寮が寮杯の栄誉が与えられます。

どの寮に入っても、皆さんが寮の誇りになる素晴らしい生徒になることを望みます」

 

マクゴナガルが言い終えると大広間へ通ずる扉を開いて私たちを中へ入るように言った。

 

 

 中に入ると煌びやかな空間が広がっており、数千を超える蝋燭が宙に浮いており、周囲を照らしていた。

大広間の大半は巨大で長いテーブルが4つ並んでおりその席の半数に在校生が座っていた。

おそらくそれぞれが各寮ごとに分かれているのだろう。

 

そして大広間の奥の一段高くなった場所にはダンブルドアをはじめとした、教師陣が陣取っていた。

 

しばらくするとマクゴナガルが在校生と教師陣の間に椅子を用意し、その上に古ぼけた帽子を置いてその場を離れた。

すると帽子の真ん中に口のようなシワが現れ突然歌いだした。

歌の内容は各寮を紹介するような内容になっており、要約すると…

グリフィンドールは勇気、ハッフルパフは優しさと忠実さ、レイブンクローは賢く、スリザリンは狡猾そして真の友を得る。

という内容だった。

 

 歌を終えると在校生が拍手をした。

おそらく、恒例行事なのだろう、そう考えているとマクゴナガルが儀式の説明を始めた。

 

「それではこれより組み分けを開始します。名前が呼ばれたら椅子に腰かけ帽子を被ってください」

 

 

「ハンナ・アボット」

 

そう呼ばれた少女が椅子に座り、帽子をかぶると帽子の口が開かれた。

 

「ハッフルパフ!」

 

その瞬間ハッフルパフのテーブルから歓声があがり、拍手が鳴り響く。

選ばれた少女は少し照れくさそうに拍手されているテーブルへ近付き着席した。

 

 

その後も次々と生徒の名前が呼ばれていく。

待っている間、私は果たしてどちらの名前で呼ばれるのだろうかという事を考えながら周囲を見回していた。

 

「セレッサ」

 

どうやら私の番が来たようだ、確かに書類にはセレッサと書いていたからそっちで呼ばれるのが普通か。

 

私は椅子に座り帽子をかぶる。

その瞬間帽子の声が聞こえてきた。

 

『これは…どうしたものだろうか…難しい…本当に難しいな…』

 

「どうかしたのかしら?早く決めてほしいのだけど」

 

『そう言われても…全ての寮に入れる素質を持っているのだがお主の心が全く読めないのだ』

 

「勝手に覗き見しようなんて失礼な帽子ね」

 

『それが仕事だからな』

 

 

そう言うと帽子は黙り込んでしまった。

 

しばらくそのまま時間が流れていくが遅い、あまりにも遅い、周囲にいる生徒や教師陣は固唾を飲んで見守ってはいるが…既に10分が過ぎようとしている。

 

流石に退屈になってしまったので、ポーチから手鏡と化粧道具を取り出す。

 

「これ以上かかるようならいいかしら?」

 

『うむ…すまないがそうしてくれ』

「どうも」

 

一応帽子の許可を取ってからポーチからルージュを取り出す。

 

私の行動に面食らったのか空気が凍り付いた。

 

『ところでお主、希望の寮などは?』

 

「そうね、退屈せずに刺激的なところがいいわ。」

 

『そ…そうか…それじゃあ…』

 

『グリフィンドールでどうだろう?』

 

「退屈しないならどこでもいいわよ」

 

『グリフィンドール!』

 

帽子の声が轟いた。その途端にグリフィンドールの寮生が拍手をして私を受け入れた。

 

その後の組み分け何の滞りもなく進んでいき全ての生徒の組み分けが終了した。

 

 

食事を楽しんでいると私の近くにいたハーマイオニーが声をかけてきた。

 

「ベヨネッタ、あなたもグリフィンドールだったのね」

 

「えぇ、とりあえずはよろしくね」

 

「それにしてもすごい時間がかかっていたわね、一体何があったの?」

 

「どこの寮に入れるか迷っていたらしいわ、おかげで退屈だったわ」

 

「君もグリフィンドールだったみたいだね」

 

振り向くとそこにはハリーとロンが立っていた。

 

ハリーはにこやかだがロンは少しおどおどしながらこっちを見てきていた。

 

「あなた達もよろしくね」

 

「よろしく、それで、どうやらロンが君に話があるみたいだよ」

 

「その…さっきは悪かったな、その、僕も悪気があったわけじゃないんだ」

 

どうやら列車でのことをまだ気にしているようだ。

 

「さっきも言ったじゃない、気にしてないわよ」

 

「ありがとう、これからもよろしくね、その…ベヨネッタ……でいいかな?」

 

「えぇ、いいわよ」

 

 

私がそう言うと彼等は少しお辞儀をしてから自分の席へ戻っていった

 

その後はダンブルドアが適当に入学の挨拶をしていたがその中に一つ気になる項目があった。

 

どうやら4階右側の廊下には近付くなと言う事だ。

しかしなぜそれをワザワザ言う?危険だという事なら誰も入れない様に結界でも張れば良いものを…

そんな事を言えば興味本位で近付く連中だっているだろう。

一体何を隠しているのか…

 

「それでは諸君!楽しい宴もそろそろ終いにして明日に備えよう」

 

ダンブルドアがそうと監督生が立ち上がり新入生を引率していった。

 

 各寮の談話室にはそれぞれ合言葉があるようで、それがわからないと中に入ることができないようになっているようだ。

廊下の突き当りにある太った婦人の肖像画が入口になっているようだ。

 

中に入った後は監督生から簡単な説明を受けて男女別々に分かれて寮に入っていく。

 

部屋は5人部屋で、私とハーマイオニーは同じ部屋割りになった。

 

私を除く4人はベッドの上に大荷物を置いているが私は手にしているポーチのみをベッドの上に置いた。

 

 

「あなたが持ってきている荷物ってそれだけ?」

 

「えぇ、コンパクトでしょ」

 

「これどうなってるの?中にいろいろ入っているのかしら?」

 

「そうよ、少なくともここにいる全員の荷物と同じくらい量は入っているわね」

 

「それってすごいわね!何かのマジックアイテムなの?」

 

「そうね、それに近いものよ、通販じゃ買えない代物だわ」

 

 

ハーマイオニーは先程から目をキラキラさせながら私のポーチを見ていた。

 

そこからしばらくはハーマイオニーが入学したら学びたい事や寮についてなどを話してきたのでずっと聞かされ続けた。

 

彼女は話題に事欠かないようだな。

 

しばらくするとハーマイオニーは眠そうな顔になり舟を漕いでおり、周りは私たち以外のみんなはもうすでに疲れて眠ってしまったようだ。

 

「眠そうね、そろそろ寝たほうがいいわ」

 

「そうね、そろそろ…明日も早いから、寝るわ」

 

「えぇ、おやすみ」

 

「おやすみなさい…」

 

ベッドで横になるとすぐにスースーと寝息を立て始めた。

 

 

「…さて…」

 

 私は杖を取り出して「The Gates of Hell」の店内を思い浮かべる。

 

しばらくすると聞きなれたBGMが耳に響き始めたのでそっと目を開ける。

 

「よぉ、どうだった?ホグワーツってのは?」

 

「そうね、これと言って驚くことはなかったわね、ただあの汚い帽子はもう被りたくはないわね」

 

大人の姿に戻ってからカウンターの席に着く。その後にロダンがグラスにカクテルを注いでこちらに手渡してくる。

 

「そういえば、ある部屋には入るなって言ってたわ」

 

「ほぉ、それはいったい何故だ?」

 

「さぁ?でもワザワザ言うってことはそれなりに理由がありそうね」

 

「そうだな、で、中に入るんだろう?お前のことだから」

 

「当然じゃない。折角のお誘いを無下には出来ないわ」

 

私は差し出されたカクテルを一気に飲み干すと再び杖を手に取った。

 

「もう戻るのか?」

 

「えぇ、居ないのがバレたら厄介だもの」

 

「そうか、ちょっと待ってろ」

 

そう言うとロダンがカウンターの裏へと消えていった。

 

しばらくするとギャーギャーと喚き声をあげている天使の首根っこを掴んだロダンが銃を片手にやってきた。

 

「向こうに行っちゃ日課もできんだろ、ほれ」

 

そう言うと私の方に銃を投げ付けた。

 

空中で回転する銃を右手で受け取るとそのまま右足を軸にターンを決めてから、天使の眉間に向けて引き金を引いた。

 

「ンギャ!」

 

眉間に弾丸が撃ち込まれた天使は醜い姿を一瞬だけ曝した後、跡形もなく消え去った。

 

「ビューティフル」

 

大当たり(jackpot)ね」

 

テーブルの上に銃を置く。

 

「これからも1匹は用意してやるから、忘れずに来いよ、じゃないとお前さんと地獄で再会する羽目になっちまうからな」

 

「えぇ、その時はツアーガイドでもして貰おうかしら」

 

子供の姿になってから、再び杖に魔力を込める。

 

次に目を開けた瞬間には部屋のベッドの上にいた。

 

ブローチの時計を見るに30分程しか時間は経っていなかった。

 

「さて…私も寝ようかしら」

 

しばらく横になると睡魔に襲われて私も眠りについた。

 




グリフィンドールに入りました。

スリザリンや他の寮も考えたのですが、グリフィンドールが一番しっくり来たので今作のベヨネッタはグリフィンドール生となりました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

授業開始

久しぶりにベヨネッタをプレイしました。
やっぱりハマりますね。そして腕が落ちたのを痛感しました。




次の日からもう授業が始まった。

しかし教室に行くまでには動き回る階段や複雑な内部構造によって新入生のほとんどが道に迷ってしまっている、上級生は何かを懐かしむような表情で新入生達を見守っていた。

どうやら、これも恒例行事のようだ。

 

授業の内容は様々でただ杖を振るい魔法を発動させるものだけではなく、歴史や薬草学など様々な内容だ。

案外新しい知識を身に着けることが出来るので授業にも熱が入ってしまう。

 

そして今は変身術の授業を受けるためにハーマイオニーと共に教室へ向かっている最中だ。

 

「次は変身術の授業だわ、早く始まらないかしら!楽しみだわ!」

 

「さっきから随分と楽しそうね」

 

「当り前じゃない!」

 

鼻歌を歌いスキップをしているハーマイオニーの後姿を見送ってからブローチの時計を開いた。

時間はまだある様だ、ゆっくりと歩いていこう。

 

 

 教室に入るとすでに数名の生徒が席に自分の荷物を置いて周囲を見渡している。

教員が使う机の上には1匹のトラ猫がこちらを見て座っていた。

 

周囲の人から見れば、それはただのトラ猫だろうが、私にはそのトラ猫から発せられる魔力がマクゴナガルだとすぐに気付いた。

 

「あら、かわいいネコちゃんね」

 

少し悪戯してやろうと、トラ猫(マクゴナガル)の前に手を近付ける。

黒猫…マクゴナガルは未だ気が付かれていないと思っているようで私の手を避ける様に棚の上に飛び乗った。

 

「見て!あんなところに猫がいるわ!」

 

ハーマイオニーがトラ猫(マクゴナガル)を指差しながらそう言うと、複数の生徒がトラ猫(マクゴナガル)を取り囲んだ。

 

「見ろよハリー、猫だぜ」

 

「そうだね、誰かのペットかな?」

 

「どうだろうね、でも猫なんてセンスがないよな」

 

どうやらロンはまた失言をしたらしい。

トラ猫(マクゴナガル)は少し不機嫌そうに声を上げている。

 

「ロン、そんな事言っちゃダメよ!もしかしたら先生のペットかもしれないのよ」

 

「ペットにするならネズミが一番だね、猫なんて趣味が悪いよ」

 

ロンがそこまで言うとトラ猫(マクゴナガル)は棚から再び机の上に飛び移った。

 

次の瞬間、トラ猫(マクゴナガル)から発せられる魔力に歪みを感じた、おそらくここで元に戻って驚かそうとしているのだろう。

 

「いつまでそうしているつもり?そろそろ、戻っても良い頃じゃないかしら?」

 

「「え?」」

 

その場にいた生徒がこちらに一斉に目線を向けた、トラ猫(マクゴナガル)も面食らったような表情で目線を向けた。

 

「ベヨネッタ、それはどういう事だよ?」

 

ロンが狼狽えながらたどたどしく声を上げる。

 

「次は変身術よ、担当の教師が姿を変えてたっておかしくはないわ。例えばあなたが色々言っていたこの子なんか特にね」

 

背中を撫でようとすると、その場で飛び上がり、一瞬で普段のエメラルド色のローブに身を包んだマクゴナガルが現れた。

 

「う…わ…」

 

ロンが少し悲鳴を上げると周囲は何とも言えない空気に包まれた。

 

「何をしているのですか…もう授業は始まりますよ、早く席に着きなさい。」

 

不機嫌そうな声が教室に響き、全員が急ぎ席に着いた。

 

 

「えー、これより変身術の授業を始めます。変身術はホグワーツで学ぶ魔法の中でも1,2を争うほど危険で複雑な魔法です。いい加減な態度で授業を受けるのには退室を命じ、二度と授業を受けれないものだと思っていてください」

 

マクゴナガルは不機嫌そうに言い放ち教壇に立った。

 

授業の内容は、原理を羊皮紙に書き写したり、基本的な魔法式の書き写しなどが始まった。

 

書き取りが終わると一人一人にマッチが渡され、これを針に変えろというのだ。

 

杖を手に取り魔力はあまり込めず魔法をかける。

すると、マッチが徐々に銀色に変化していく。

どうやらあまり魔力を込めなくとも魔法界で使われている魔法程度なら十分に扱えるようだ。

 

しばらくすると燐の部分が平らになり小さな穴が空いて、反対側は鋭く尖っていく。

 

「ミス・セレッサ、なかなかの出来ですね。このクラスでは貴女だけが完璧に針へと変化させることができていますね。特別に10点差し上げます」

 

どうやら、私は今期初めての得点を今取得したようだ。

その後ハーマイオニーに色々とコツなどを聞かれたので答えたりしていると授業終了のチャイムが鳴り響いた。

 

「それでは、授業を終了します。今回の内容を羊皮紙2枚程度にまとめて次回の授業までに提出することが今回の宿題です」

 

マクゴナガルがそう言うと生徒たちは嫌そうな声をあげながら教室を後にした。

私も教室を出ようとすると…

 

「ミス・セレッサ、少しいいでしょうか?」

 

「なにかしら?」

 

「なぜ貴女は、私の変身術を見抜けたのですか?一体どこでそれだけの技術を…」

 

「買い被りすぎよ、私はただ変身術の授業の担当なら少しでもインパクトのある登場をしようとするのではないかと考えただけよ」

 

「ではなぜ、黒猫がそうだと?」

 

「一番インパクトがあるものは何か…考えれば簡単よ、これくらいじゃ名探偵にはなれないわ」

 

「そうですか…分かりました、時間を取らせましたね」

 

「大丈夫よ」

 

マクゴナガルが私を見てくる目はどうやら納得はしていないようだ。

私はそんな目線を背中に受けながら次の教室へ向かっていった。

 

 次の授業は魔法薬学のようだ、生徒達は皆一様に教室のある地下へと続く階段を怯えながら降りていった。

 

 

魔法薬の授業はスリザリンとの合同授業で、スリザリンとグリフィンドールの両方の生徒はキレイに左右に分かれて一触即発の空気が漂っていた。

そんな事を気にせず私が中心の席に着くと隣にマルフォイが座ってきた、それを見たロンを始めとしたグリフィンドール生は嫌そうな表情を浮かべた。

 

「やぁ、セレッサ、列車で会って以来だな。君はスリザリンに入ると思っていたよ」

 

「どこの寮でも入れる素質が有ったらしいわ」

 

「そうだったのかい、スリザリンに入ったほうが絶対よかっただろうに」

 

「ヘッドハンティングのつもりかしら?」

 

「もし出来るならそうしたいね」

 

 

そんな会話をしていると授業が始まり黒いローブに身を包んだスネイプという男性教諭がやってきた。

噂ではグリフィンドールには厳しい態度をしているらしい。

 

「ハリー・ポッター、我らがスターだな」

 

スネイプがハリーを見つけると早速弄り始めて、それに釣られてマルフォイをはじめとしたスリザリンの生徒たちもくすくすと笑い始めた。

 

生徒の出席確認が終わると授業が始まった。

 

「この授業では杖を振り回すだけの馬鹿げたことはやらん、魔法薬調剤の微妙な科学と厳密な芸術を学ぶ授業である」

 

まるで自分に酔っているかのように、自作のポエムを口遊んでいる。

 

「ポッター!!」

 

スネイプがいきなり怒号のような声を上げる。

 

「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になるか?」

 

いきなりの事に目を白黒させ隣に座っていたロンと顔を合わせていた。その後ろではハーマイオニーが自信たっぷりに手をまっすぐ上げていが、スネイプはそれを無視している。あくまでも標的はハリーだけらしい。

 

「どうしたのだ、早く答えたまえ!」

 

「その…わ…わかりません」

 

小声でハリーが答えるとスネイプは嘲笑うように「有名なだけではどうにもならんな」と続けた。

 

「さて、ポッターもう一つ質問だ。ベゾアール石を探すとすればそれはどこを探すのが一番だ?」

 

ハリーは相変わらず目を泳がせており、ハーマイオニーは相変わらず手を上にまっすぐとあげていた。

 

「どうしたのだね、わからんのか?」

 

「はい…」

 

「授業が始まる前に予習しようとは思わんかったのかね?」

 

「ハーマイオニーが分かっているようなので、聞いてみたらどうですか」

 

ハリーがそう言うとスネイプは少しため息をついた。

 

「なんと嘆かわしい、私は貴様に聞いているのだぞ、そのふざけた態度は無礼すぎるな、よってグリフィンドール-15点」

 

「そんなの無茶苦茶だ!」

 

ロンが席を立ちあがり声を荒げて、スネイプを睨みつける

 

「吾輩は貴様に発言の許可を出した覚えはないぞウィーズリー…-15点だ、これ以上授業の妨害をするようなら退室してもらうぞ」

 

ロンが悔しそうに手を握りながら席に着く、結果としてこの数分の間で30点も減点を受けてしまった。

 

「先程の質問は今回の課題とするので、羊皮紙に特徴などを書き込み提出するように、それでは授業を再開しよう」

 

今回は簡単なおできを直す薬と調合する様だ、2人組で別れるように指示をされ、私はマルフォイと組むことになった。

 

「さて、どうやら君とペアのようだ、他のグリフィンドール生だったら絶対に嫌だったよ」

 

「随分と私のことを気に入ったようね、悪い気はしないわ」

 

「君のような優秀な純血者はグリフィンドールではなく、やはりスリザリンがふさわしいと思うよ」

 

魔法薬を作るのは意外と細かい作業が多く教科書を読みながら慎重に作業を進めていく。

 

もう少しで私たちの薬も完成するというあたりで地下全体に強烈な緑色の煙と何かが弾けるような音が聞こえた。

 

次の瞬間には煙が私達の方に迫ってきたので、煙を避けると周囲の時間の流れが一気に遅くなった。

ウィッチタイムを発動させると隣に居たマルフォイを担ぎ上げ煙の被害のない教室の隅へと移動しウィッチタイムを解除する。

マルフォイは一瞬の出来事で何が起こったのか出来ていないようで周囲を何度も確認していた。

 

周囲の人々は避難したが多くの生徒は煙を吸ってしまい咽ていた。

薬を作っていたネビルは中身を被ってしまったようで全身におできが出来ていた。

 

ようやく状況が理解できたのかマルフォイは私と周囲を見まわしてから口を開いた

 

「君が助けてくれたのか?」

 

「貸しにしておくわよ」

 

「助かったよ、それにしても一体どうやって…」

 

「秘密よ」

 

「そうか、なら聞かないでおこう」

 

「素直なのね、もっとしつこいかと思ったわ」

 

「しつこい男は嫌われるからな」

 

しばらくすると、口にハンカチを当てたスネイプが杖を片手にネビルに近寄った。

 

 

「この馬鹿者が!!」

 

スネイプの怒号が響き、杖を一振りする。

すると、こぼれた薬と充満した煙が一瞬で消えた。

 

「おそらく、大なべを火から降ろさないで山嵐の針を入れたな!」

 

大泣きしながらネビルは説教を受けていた。

 

「この馬鹿を医務室へ連れていけ!」

 

ネビルとペアを組んでいた生徒に指示を出すと怒りの矛先がハリーに向いた。

 

「ポッター!なぜ針を入れる前に止めなかった!大方奴がミスをすれば自分がよく見れると考えたな!なんと無礼な奴だ!グリフィンドール-10点だ!」

 

呆れながら聞いているとマルフォイは声を殺して笑っていた。

 

「君も大変だな、今日だけで相当な失点じゃないか」

 

「まぁしょうがないわね、でもここまで露骨だとちょっと呆れるわね」

 

「まぁ、僕からすれば嬉しい限りだけどね。でもダンブルドアのグリフィンドール贔屓も相当だと聞くよ」

 

「案外そういうところでバランスが取れているのかも知れないわね。後は針を入れるだけよ、ちゃんと火から降ろしなさい」

 

「ご忠告痛み入るよ、でも流石に同じミスはしないさ」

 

鍋を火から降ろすとマルフォイは慎重に山嵐の針を入れ薬を完成させた。

 

 

「うむ、良い出来であるな、よくやったぞマルフォイ、スリザリンに10点だ」

 

「ありがとうございます」

マルフォイはゆっくりとお辞儀をしてスネイプに薬を手渡した後、私の方を見ると少し考えたようでスネイプを呼び止めた。

 

「先生、今回の薬はミス・セレッサとの共同で作ったものです」

 

「そうだったな、仕方あるまい…グリフィンドールに5点だ」

 

スネイプはつまらなそうに教壇に戻りレポートの課題を出して授業は終了した。

 

「これで、さっきの借りは返したぞ、それでは失礼するよ」

 

マルフォイはそういうと少し手を振り教室を出ていった。

外へ出るとロン、ハリー、ハーマイオニーが外で待っており、ロンはすごい剣幕で私に食いついてきた。

 

「スリザリンの、しかもマルフォイと仲良くするなんて君どうかしてるよ!」

 

「別にそんなの私の勝手じゃないかしら?」

 

「あぁ、確かに勝手だね!だからこれは忠告だよ、今後あいつ等とはかかわるなよ!」

 

ロンは勢いよく振り返り大きな足音を立てながら廊下を歩いていって、ハリーはその後を追いかけながらロンをなだめていた。

 

「貴方は追いかけなくていいのかしら?」

 

「ロンの言う事もわかるわ、なぜグリフィンドール生なのにスリザリンのマルフォイと仲良くするのよ」

 

「案外話してみると面白い坊やだからよ」

 

「そうなのかしら?でも彼はマグルを差別してるわ」

 

「確かにそうね、でもスリザリンだからって蔑ろにするのも差別じゃないかしら?」

 

「まぁ…そうよね」

 

「さて、私はそろそろ談話室に戻るけど、これからどうするのかしら?」

 

「そうね、図書館にでも寄って行こうと思っているわ」

 

私は談話室へ、ハーマイオニーは図書館へと別々に歩いて行った。

 




あまり進展してないですね…もっと展開を早くした方がいいのかな…

さて、次回は箒での飛行訓練です。

次回もよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

飛行訓練、そして

ホグワーツに入学してから数週間が経ち、ようやく魔法界について理解し始めた。

 

魔法界は今でこそ平和であるが数年前、闇の帝王と呼ばれた魔法使い、ヴォルデモートが魔法界を恐怖へと陥れていた。しかしハリー・ポッターに敗北し姿を消したという。

ここで疑問が残る、当時赤ん坊だったハリーはどのような手段でヴォルデモートに勝利したのだろう?

この事については、誰も知らないという話だ。

 

 

 

 本日の授業は箒を使った飛行訓練のようだ。

わざわざ箒を使うとは案外ビジュアルに凝っているのかもしれない。

もっとも、魔法界の人間は箒がなければ空を飛ぶ事もできないらしい。

 

校庭に出ると天気は快晴で空を飛ぶには打って付けの天気だった。

 

集合場所に行くとそこにはすでに険悪な空気が流れていた。

どうやらまたもスリザリンの生徒たちと合同なようだ。

犬猿の仲なのだから別々にすればいいものを…

そんな事を考えながら私も校庭の中へと入っていく。

 

「やぁ、セレッサ、君は空を飛んだことあるかい?」

 

マルフォイが私を見つけると手を振りながら歩いてくる。

 

「そうね、箒では空を飛んだことはないわね」

 

「そうなのかい、マグルの方じゃ鉄の塊で空を飛ぶって聞いたけど本当かい?」

 

「えぇ、飛行機の事ね」

 

「なんだかとても面倒なことをするんだね」

 

「あら、乗ってみると案外快適よ、機内食のクオリティも中々な物ね」

 

「そうなのかい?マグルの癖にやるものだな。そういえばクィディッチについては知っているかい?」

 

「名前だけならね」

 

「魔法界で一番のスポーツさ。実は僕クィディッチが好きで、子供の頃からやっていたから箒に乗るのは得意なんだ」

 

「そうなのね、なら今日は楽勝じゃないかしら?」

 

「もちろんだとも、期待してくれ」

 

そう言うと、マルフォイはスリザリンの集団へと歩いて行った。

 

振り返りグリフィンドールの方へ歩いて向かっていった。途中でロンが嫌そうな顔をいて悪態をついたが、手を振って軽く流した。

 

 しばらくすると講師であるマダム・フーチがやってきて箒の横に並ぶように指示を出した。

 

「いいですか、箒の上に右手を出して、【上がれ】という」

 

周囲からは【上がれ】という声がこだまするが出来ていない生徒が殆どだった。

そんな中、ハリーとマルフォイはすぐに成功させているようだった。

 

私も手を上に持って行くと若干だが箒から魔力を感じ取ることができた。

どうやら、箒自体に魔力が込められているようだ。

 

「上がれ」

 

私は魔力を込めずに言葉を発するが私の手に箒が納まった。

 

 

大半の生徒が箒を手に取ることに成功したのを見届けてからフーチが箒の柄の握り方や、跨り方などを実演していった。

 

「皆さん基本は分かりましたね!私が笛を吹いたら地面を強く蹴るんですよ!数メートルほど浮上したらその後すぐに下りて来てくださいね、1!2!の…」

 

「うわぁあああああぁぁあっ!!!」

 

フーチが笛を鳴らす前に物凄い速度で急上昇するネビルが見えた。

 

「こらっ!戻りなさい!」

 

フーチが怒声を上げるがネビルには聞こえておらず、まるで暴れ馬にでも乗っているかのように暴れながら上昇し、50mほど行ったあたりで手を放してしまったのか、真っ逆さまに落下し始めた。

この高さだとよほど運が良くなければ即死だろう。

フーチが杖を出そうとしているがおそらく間に合わない。

 

「はぁ…しょうがないわね」

 

手にしていた箒に杖を突き刺し魔力を無理やり注ぎ込むと箒がバキバキと音を立て地上30㎝ほどの高さで滞空した。

私はサーフボードに乗るように立ち乗りで箒に乗り魔力を解放する。

 

「うわぁ!」

 

その途端に爆発的な加速によって発生した風によりハリー達が声を上げた。

高速に風を切り裂き、一瞬でネビルに接近し彼の腕を掴むとゆっくりと地面に降下した。

 

「ミス・セレッサ!!何をやっているのですか!」

 

フーチは開口一番、怒声を浴びせかけてきた。

そんな彼女に私はネビルを預ける。

 

「どうやら気絶しているだけのようね」

 

「っ!そのようですね、私はこれより彼を医務室へ連れていきますから、その間に誰も箒に乗ってはいけませんよ!乗ったらクィディッチの『ク』を言う前にホグワーツから出て行ってもらいますからね。」

 

フーチがそう言うとネビルを担いで城の中へ消えていった。

2人の姿が見えなくなった途端周囲がどよめきだした。

 

「ベヨネッタ、さっきのはいったい何だい?すごい加速だよ!」

 

箒を手にしたままハリーとロンがやってきた。二人とも興奮冷めやらぬといった感じだ。

 

そんな二人を尻目にマルフォイがいつもの取り巻きを連れて近付いてきた。

 

「セレッサ!君はやっぱり優秀だな、殺人的な加速じゃないか!それにしても見たかあの間抜けな顔、君が助けてなかったら死んでいたぞ」

 

マルフォイはそういうと地面に転がっていたネビルの持っていたガラス球を拾い上げた。

 

「これは、ロングボトムの思い出し玉か?これで飛び方を思い出していれば。君に迷惑をかけずに済んだだろうに」

 

「マルフォイ、そいつを返せ!」

 

ハリーがそう言ってマルフォイを睨みつける。その場の殆どの生徒の目線が私から彼等へと移動した。

 

「嫌だね、これは奴自身に見つけさせる」

 

ハリーがマルフォイに殴りかかるが、当たる瞬間に箒に乗って空に回避されてしまう。

 

「取りに来いよ!ポッター!」

 

マルフォイが箒に乗りながら手にした球を何度か空中に投げてはキャッチするのを繰り返していた。

 

ハリーも箒を手に取る。

 

「ダメよ!先生が言っていたわ!そんなことしたらまた減点されちゃうわ!」

 

ハーマイオニーが制止するがハリーはそれを無視して箒で飛び上がる。

 

ハリーの箒は空中でフラフラとしていたがすぐにそれは修正されていった。

 

「返せよ!さもないとお前を叩き落とすぞ!」

 

「やってみろよ!」

 

ハリーがマルフォイを睨みながら正面から突撃していった。しかしマルフォイは難なく横へ避ける。

 

「そんなに返してほしいなら、取ってこい!」

 

そう叫ぶとガラス球を空中高く放り投げる。

ハリーは急旋回してガラス球のキャッチを試みている。

 

このままだとまた怪我人が出るかもしれない、そう思い私は再び箒に魔力を注ぎ込み先程と同じように乗るとハリーの元へ駆けつけた。

 

 ガラス球は塔の壁に激突するコースだったがハリーが一気に速度を上げ、寸での所でキャッチした。

しかし、急加速したことにより、このままではハリーが壁に激突してしまう。

私は更に魔力を流し込み、ハリーの腕を掴むとそのまま壁に沿って急上昇する。

 

ハリーの手から離れた箒は塔の壁にぶつかり木っ端微塵になってしまった。

 

「うわぁああああ!」

 

「少し黙ってなさい、舌噛むわよ」

 

塔の一番高いところよりも高い位置まで駆け上がったところで、体を水平に保ち、ハリーを両腕で抱きかかえる。

 

水平になったことでどうやらハリーは落ち着きを取り戻したようだった、そしてその手にはしっかりとガラス球が握られていた。

 

「はぁ…はぁ…助かったよ、ありがとうベヨネッタ」

 

「どういたしまして。それにしても、貴方もなかなかやるわね」

 

「へへ、箒はダメになっちゃったけど、これは無事さ。そろそろ降ろしてくれないか、さすがにこの格好は恥ずかしい」

 

「そう、でも残念ね。この箒、そろそろダメみたいよ」

 

「え?」

 

無理やり魔力を注ぎ込んだが故に箒が限界を迎えていたようでバキバキと音を立てている。

 

「ど、どうするんだよ!このままじゃ…」

 

「飛ぶわよ」

 

「え?」

 

私は両腕でハリーを抱きながら右手に杖をもって、両足に力を籠めると箒を力強く蹴る。その瞬間、箒は空中でバラバラになった。

 

「ああぁああああああ!」

 

少し飛び上がった後に重力に引かれ自由落下をしていく。

周囲で見ていた人はもう駄目だと思ったのか、目を背ける者もいた。

入口の方ではフーチとなぜか駆け付けてきたマクゴナガルの2人が杖を片手に走っている。

二人が何かの呪文を私たちに向けて放ったがその呪文は私たちに当たる手前で砕け散ってしまい杖に吸収されていった。

どうやらこの杖は、あまり魔力のない魔法なら吸収してしまうようだ。

 

せめて吸収される魔法の選択権ぐらい欲しいものだ。

 

「どうなっているんだよ!このままじゃ僕たち!」

 

「うるさいわね、大丈夫よ」

 

目の前で魔法が、頼みの綱が消え去ってしまったので軽くパニックを起こしているようだ。

なおも二人は先程と同じ魔法を放ってくるが、その度に杖によって魔法が打ち消される。

 

私はそんな光景を客観的に見ながら着地体勢に入る。その途端に私の両足に魔力が宿る。

 

「避けなさい!」

マクゴナガルがそう叫ぶとほぼ同時に私たちは地面に激突した。

周囲は土煙が立ち込め、私を中心としたクレーターが形成されていた。

 

周囲では生徒たちのによって騒めき立っていた。

 

ハリーの方に目を向けると完全に気を失っていた。

 

「テルジオ ー 払え」

 

杖を横に振ると周囲の土煙が一瞬にして吹き飛ばされる。

 

 

「ミス・セレッサ!大丈夫ですか」

 

マクゴナガルが杖を片手に駆け寄ってくる。

 

「えぇ、大丈夫よ、ハリーも気絶しているだけのようだわ」

 

私は地面にハリーを横に寝かす。

 

「エネルベート - 活きよ」

 

「うわぁああ!」

 

マクゴナガルがハリーに魔法をかけると一瞬にしてハリーが目を覚ました。

 

「はぁ…はぁ…僕たちは…助かった?」

 

「えぇ、そうです、ミス・セレッサに感謝しなさい」

 

ハリーは私の方と着地点を何度か見比べる

 

「あ、ありがとう、助かったよ」

 

「さて、ポッター、一緒に来なさい」

 

「え…でも、ハリーが悪いわけじゃ…」

 

ハーマイオニーがマクゴナガルに進言するが却下されそのまま城へと向かって歩き出した。

その後ろをフラフラしたハリーが付いて行った。

 

私はその後フーチに箒を壊してしまった事について小言を言われたが軽く流してから談話室へと戻っていった。

 

 

 

 次の日になってもハリーは学校にいた。どうやら退学にはならなかったようだ。

それどころかクィディッチのシーカーと呼ばれるポジションに選ばれたという話だ。

1年生は選手にはなれないという話だったが、どうやらマクゴナガルが無理に通したのだろう。

そのせいか夕食の時間だと言うのにハリーの周りには様々な生徒が輪を作っていた。

中心にいたハリーは私に気が付くと輪を掻き分けて近寄ってきた。

 

「やぁ、ベヨネッタ。昨日は君のおかげで助かったよ。」

 

「それはどうも、あなたこそシーカーに選ばれたようね。箒、大したものね」

 

「そうなんだよ!もうびっくりさ、でも君が選ばれなかったのが不思議なんだよ」

 

「まぁ、2人もイレギュラーが発生すれば大問題なんでしょう」

 

「そうなのかな、君が入ればグリフィンドールの優勝は決まったも同然なのに」

 

ハリーが残念そうな顔をしていると後ろの方がざわつき始める、振り向くとそこにはロンとマルフォイが口論を始めていた。

 

「どけよ、マルフォイ、ここはお前の来るよう場所じゃない!」

 

「邪魔なのは貴様の方だウィーズリー!」

 

「あら、坊やじゃない、どうしたのかしら?」

 

「やぁセレッサ、君には迷惑をかけてしまったね、すまなかったよ。君が壊してしまった箒に関しては僕の方で弁償するよう父上に頼んでみるよ、だから気にしないでくれたまえ」

 

「助かるわ、これで一つ借りが出来たわね」

 

「そんなの気にしないでくれよ」

 

マルフォイが笑いながら話していると激怒したロンが乱入してきた。

 

「マルフォイ!ハリーにも謝れよ! お前のせいで死にかけたんだぞ!」

 

ロンは相変わらず悪意の限りをマルフォイにぶつける

 

「相変わらず威勢だけはいいなウィーズリー、そんなのポッターの自業自得だろ?セレッサが助けてなかったら壁に激突していたんじゃないか?」

 

「貴様が余計なことしなければ良かっただけの話じゃないか!」

 

「くどいぞ!そこまで言うなら決闘でもするか?それとも品のないウィーズリー家では決闘のやり方すら学んでいないのか?」

 

「良いだろう!やってやるさ!」

 

「おぉ、威勢がいいな、では介添人はだれがするんだ?」

 

「僕がやるよ!お前はだれを連れてくるんだ!」

 

ハリーがロンの隣に歩み寄り共にロンを睨みつける。

 

「クラッブ、お前に任せる。それでは今日の深夜、場所はトロフィー室にしよう。あそこはいつも鍵が開いてたからな」

 

マルフォイはそう言い残すと扉から出ていった。

 

 

「ところで、ロン、介添人って何をすればいいんだ?」

 

「簡単に言えば、僕が死んだ後は君が戦うという事さ」

 

死ぬと聞いてハリーの顔が青ざめていく、そんなハリーを見たのかロンが急いで言葉を継ぎ足した。

 

「でも、死人が出るような決闘なんて大人の魔法使いが本気でやらない限りあり得ないことだよ」

 

「もし、決着が付かなかったらどうするんだ?」

 

「そうなったら、殴り合いでもするさ」

 

ロンが胸を張ってそう答える。そんな後ろからハーマイオニーがやってくる

 

「ダメよ!夜に談話室の外へ出ることは減点対象よ」

 

「バレなきゃ大丈夫な事じゃないか、それに相手だって抜け出すんだ、条件は一緒じゃないか」

 

「どう考えたって罠よ!」

 

「罠かもしれないけど、行かなかったらそれこそ次の日、奴から負け犬呼ばわりされるだろ!それにあいつらが来なければアイツらの負けって事さ」

 

どうやらロンはとてつもなく単純で思い込みが激しいようだ、ここまで思い込んでいるようなら何を言っても無駄だろう。

 

 

 

 

 夜になり同室のメンバーが寝静まるのを確認してから、バーへ日課をやりに行き、そこで1杯やってから部屋に戻る。

ふと横を見ると同室であるハーマイオニーの姿が見えなかった。

どうやら、あの2人の決闘について行ったのかもしれない。

 

私は寝室を出から、もうじき戻ってくるであろう彼等のことを考えて、暖炉に薪を足し火を付けソファーに深く腰掛ける。

 

その直後、大慌ての3人が扉を大げさに開けて入ってきた。

安堵したような表情で肩で息をしながら3人とも椅子に座りこんだ。

 

「あら、遅かったじゃない」

 

その瞬間ロンが大声を上げる。

 

「あんな怪物を学校に閉じ込めておくなんておかしいよ!」

 

「あんなバケモノ見たことないよ!」

 

「あなた達、他に見るところはなかったの!あれは番犬よ!」

 

「なんで、校長が行くなって言っていた部屋にあんなものがいるんだよ!」

 

「足元に隠し扉があったの見てなかったの!」

 

私の存在に気が付いていない様でさっきまであった事を大声で話している3人には私は少し咳払いをする。

すると3人はこちらに気が付いたようで少し固まってしまった。

 

「こんな遅くにどこへ行っていたのかしら?」

 

「ベヨネッタ、君の方こそ何でこんな時間に談話室に?」

 

「目を覚ましたらハーマイオニーの姿がなかったからよ」

 

「それで、談話室で待っていたって事かい?」

 

「まぁそんなところね。さぁそろそろ寝たほうがいいんじゃないから?」

 

私がそう言うと各々が自室に戻っていった。

暖炉の火を消して、自室に戻るとハーマイオニーがベッドの上で震えながら必死に目を閉じて眠ろうとしていた。

 

「どうかしたのかしら?」

 

「さっきのことを思い出して…それで…」

 

涙声が部屋の中に響く、そっと近付き彼女の頭を撫でる。

 

「え?」

 

「怖い思いをしたのね…でも大丈夫よ。安心して眠りなさい」

 

そう言うと、私がよく聞いていた子守唄を口遊む。

しばらくすると安定した寝息が聞こえてきた。

安心しきったような寝顔を確認したあと、私もベッドに入り眠りについた。

 

 




箒の上に手をやって
『上がれ』っていうのを子供の時やってたことを思い出しました。

ベヨネッタが口遊んでいた子守歌は作中でも流れているあの歌です。

さて、次回はチュートリアルさんが登場します。
よろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ハロウィーンの夜

今回は少し残酷な描写があるかもしれません。


月日が経ち10月末になり、ハロウィーンの時期がやってきた。

 

いくら学校の食事とはいえ、ハロウィーンの時期には、パンプキンパイや、パンプキンスープ等のかぼちゃ料理が多く出るようになった。

 

 

 

ここ最近ハリー達とハーマイオニーは少し疎遠になっているようだ。

特にロンとハーマイオニーの仲はあまりよくないように見えた。

 

 今日の授業は多くの生徒が待っていた、浮遊魔法の授業だ。

授業が始まるとフリットウィックと呼ばれるドワーフのような見た目の教員がやってきて二人一組で授業を受けるように指示を出した。

 

私はハーマイオニーと組むと思っていたが予想は外れてハリーと組むことになり、ハーマイオニーはロンと組む事になっていた。

 

「ベヨネッタ、よろしくね」

 

「えぇ、よろしく」

 

ハリーは愛想よく話しかけてきた。

どうやら、ハリーとハーマイオニーは私に対して敵意は持っていないようだが、ロンは私がマルフォイと時々話しているのが気に入らないようで、時々敵意を向けてくることがある。

 

「さぁ、皆さん始めますよ、ビュ~ン、ヒョイで呪文を言うのですよ」

 

「やってみるよ。ウィンガーディアムレヴィオーサ」

 

ハリーがそう言って羽に向かって杖を振るが、ピクリとも動かない。

 

「動かないわね」

 

「まだ1回目だからさ、君もやってみたらどうだ?」

 

杖を取り出すとハリーが私の杖を興味深く見ていた。

 

「なんだか、不思議な杖だね、蒼い色の杖なんて初めて見たよ」

 

「ありがとう、特注品なのよ」

 

杖を握り直し軽く振る

 

「ウィンガーディアム・レヴィオーサ」

 

すると羽は軽々と宙に浮き天井まで届いて行った。

 

「流石だね」

 

「どうも、次はあなたの番よ」

 

ゆっくりと羽を机の上に戻しハリーに渡す。

その後、ハーマイオニー達の方に目を向ける。

 

「呪文が間違っているわ、ウィンガーディアム・レヴィオーサ。貴方が言っているのはウィンガーディアム・レビオサー。ちゃんと発音しなきゃダメよ」

 

「御高説どうも!そこまで言うなら君がやってみろよ!」

 

二人は口論をしているようでハーマイオニーが杖を振ると羽はゆっくりと宙に浮いて行った。

 

「ね、こうやるのよ」

ドヤ顔のハーマイオニーがロンに向かってそんなことを言っている。

 

「やったぞ!浮いたよ!」

 

ハリーは50㎝ほど宙に浮いた羽を指さして喜んでいた

 

「やったじゃない」

 

その後ほとんどの生徒が羽を浮かせることが出来たあたりで授業は終了した。

 

 授業が終わるとロンが嫌そうな顔をしながらハリーの元にやってきて先程のハーマイオニーの事で愚痴を言っていた。

 

「見てたかい?アイツの自慢げな表情…あんなんだから友達ができないんだよ!誰だってアイツには我慢できないっていうんだ。全く、悪魔のようなヤツさ」

 

ロンがそんなことを言うと彼らを押し飛ばしてハーマイオニーが走ってどこかへ行ってしまった。

 

「ロン、流石に言いすぎだよ…謝ったほうがいいんじゃないかな…」

 

「あんな奴のことなんか知るかよ!ほっとこうぜ」

そう言うとロンは急いで教室を後にしハリーもそれに続いた。

 

 次の授業の時間になったがハーマイオニーの姿は見えなかった。

おそらく先程の言葉が相当ショックだったのだろう。

 

結局その後の授業にも表れず、夕食の時間になっても帰ってくることはなかった。

他の生徒に聞いたところトイレに籠り泣いているとのことだ。

 

「世話が焼けるわね」

 

私は夕食の席を立ちあがり、ハーマイオニーを探しにトイレへ向かって歩いて行った。

 

その時、私はまだ知らなかった、招かれざる客が城に侵入していたことを。

 

 

 

 しばらく人気のない廊下を探し回り、地下のトイレの個室からハーマイオニーの泣き声が聞こえてきた。

 

「あら、こんなところで何をしているのかしら?」

 

「え?ベヨネッタ、何で貴女がこんなところに…」

 

「それは私のセリフよ。パーティーに遅れるわよ」

 

「ほっといてよ!」

 

「もしかして、さっきの言葉を気にしているのかしら?気にするだけ無駄よ」

 

「でも…悪魔みたいな奴だって…」

 

 

扉越しにハーマイオニーは息を整えてからゆっくりと語りだした。

 

「だって!いつも…私は良かれと思って…でも…」

 

「一々彼の悪口を気にしていては身が持たないと思うわ、それに悪魔は案外、友好的よ。ほら、そろそろ泣き止んで出てきたらどうかしら?私は泣き虫とゴキブリが一番嫌いなのよ」

 

「フフッ…このままじゃ私もゴキブリと一緒になっちゃうわね…」

 

「そうよ、それが嫌なら早く出てきなさい」

 

扉の鍵が開きゆっくりと開かれ中から目が赤く腫れたハーマイオニーが出てきた

 

「確かにそうね、なんだかバカバカしくなっちゃったわ」

 

「そうね、そろそろ戻りましょう、まだパーティーは終わってないはずよ」

 

振り返ろうとすると扉の方からとてつもない異臭を感じた。

ハーマイオニーは恐ろしいものを見た時のような表情をして固まっていた。

振り返ると、そこには5メートル程の醜悪な巨人…トロールと呼ばれる生物が酷く歪な棍棒を片手に立っていた。

 

ハーマイオニーは悲鳴を上げながら私に抱き着いてくる。

 

私は杖を手に取り魔力を込めハーマイオニーの上で軽く振る。

すると足元に魔法陣が形成されドーム状の結界を形成する。

 

「ここから動いちゃダメよ、良いわね」

 

「え?ベヨネッタ!あなた一体何を…」

 

トロールの前にゆっくりと歩いて行き、奴を見据える。

 

「ここは女子トイレよ、中に入ってくるなんて悪い子ね、そんなことを考えるオツムもないのかしら?」

 

「あぁああああうああ!」

 

私の挑発に喰いついたようで私に向けて棍棒を振り下ろす。

 

「ベヨネッタ!!」

 

悲鳴交じりに私の名前を呼ぶ。おそらく彼女はこのまま、私の体に棍棒が当たり肉塊と化すのを想像したのだろう。

 

 振り下ろされた棍棒が私の眼前に迫ってくる。

私は当たる直前、紙一重のタイミングでバク転の要領で棍棒を回避する。

その瞬間、世界の流れがゆっくりとなり私は歩きながら、トロールの後ろに回り込む。

その後、ウィッチタイムが解除され、トロールは振るった棍棒にあるべき肉を潰した手応えを感じず、混乱した素振りで周囲を見渡す。

 

「こっちよ、マヌケ」

 

トロールは声のする方へと無理やり棍棒を振るう。

今度もそれを難なく回避し、再び奴の後方へ移動する。

 

「悪い子ね、キツメのお仕置きが必要かしら」

 

杖に魔力を込めると髪を媒体にした巨大な拳…私が契約したマダムバタフライの両手が空中に現れた。

 

「うあがあああがああ!」

 

トロールは再び私を睨み棍棒を全力で振り下ろす。

 

「 吹っ飛べ! 」

 

右手で殴り掛かるように力を込めて振るうとマダムの拳も同じ動きでしてカウンター気味にトロールのボディをとらえる。

ボディに直撃を受けトイレの扉をぶち壊しながらトロールが廊下へ吹き飛ぶ。

 

「あらぁ歯応えがないわね、もっと楽しませてもらえないかしら」

 

ボロボロになって逃げようと廊下を這っているトロールを見据え、私はゆっくりと歩み寄る。

 

廊下の奥から、驚いたような表情を浮かべた2人が走ってやって来た。

 

「ベヨネッタ!どうして君がここに!どうしてトイレに閉じ込めたそいつが吹き飛んできたんだよ!」

 

「私達が入っているところにバケモノを閉じ込めるなんて、あなた案外腹黒いのね」

 

「いや…僕はそんなつもりじゃ…」

 

「別にいいわよ、それよりお仕置きの続きをしなくちゃ」

 

逃げるトロールの頭を右足で思い切り踏みつける。それと同時にマダムの右足がトロールの背中を踏みつける

 

「さぁ!お仕置きの時間よ」

 

私がそう言うと、トロールの両端に魔物の手のようなオブジェが現れトロールを両方から挟んだ。

呻き声を上げ必死に抜け出そうとするが、そうさせる訳もなく。

私は手元にあるハンドルに手をかけると、力を籠め回し始める。

すると、両方の手が次第に万力の様に力強く潰し始めた。

 

トロールは手の中で必死に抵抗しているが万力の力は凄まじく押し返す事など不可能だった。

 

私は渾身の力を籠め、ハンドルを思い切り回す。

 

すると、一気に力が加わり、挟まれていたトロールは一瞬にして潰され、周囲にはトロールだったものが散乱した。

 

しばらくすると万力はキレイに消え去り、後にはトロールの無残な姿を残すのみとなった。

 

「あら、やりすぎたかしら?」

 

「流石にやりすぎだと思おうよ…」

 

ロンやハーマイオニーは目を背けるように怯えていたがハリーだけは普通に答えた。

多少は耐性があるのかもしれない。

 

「とりあえずこれで大丈夫だね、ハーマイオニーも無事?」

 

「えぇ、大丈夫よ。ところで何でハリー達がここにいるの?」

 

「君の姿が見えないから、ロンと一緒に探しに来たんだ、そしたらトロールがいて、それで何とかトイレに閉じ込めたんだよ」

 

「そうだったのね、ごめんなさい、私…ハリーやロン、それにベヨネッタにまで迷惑をかけて…」

 

「ううん…迷惑をかけたのは僕達だよ、ごめん、そしてベヨネッタ、君には助けられてばかりだね、ありがとう。それにしてもさっきのは凄かったね、あれはいったい何だい?」

 

「そうね、私も気になっていたわ、私たちの知らない魔法かしら?」

 

「ちょっと特別な魔法なのよ、あまり人には知られたくないから黙っていてもらえるかしら?」

 

「そうなのかい?まぁ君がそこまで言うなら黙っておいてやるよ。逆らったら僕までこうなりそうだ」

 

さっきまで震えていたロンが腕を組みながら答えた。しかしその足は未だに震えていた。

 

 

 少しするとマクゴナガルやスネイプがドアを開けて入ってきた。

 

「一体…これは、どういうことですか…」

 

扉を開けたらトロールの死体がバラバラに散乱していたのだから絶句するのも当たり前か。

 

「別に、トイレに入ってきた悪い子がいたからお仕置きをしただけよ」

 

「お仕置きってレベルじゃなかったけどね」

 

ハリーがそう言うとハーマイオニーが「そうね」と笑いながら答えた。

 

「それだけじゃどういうことなのか状況が分かりません!詳しく説明しなさい!」

 

「その…先生!みんな私を助けるためにやってきてくれたんです」

 

「どういうことですか?」

 

「私がトロールを倒そうと…本を読んだので、できると思ったんです!もしも、3人が来てくれなければきっとダメでした。ハリー達がトロールをトイレに閉じ込めて、ベヨネッタが…その…爆発魔法で倒しました!」

 

マクゴナガルが何やら怪しんだような目線を向ける。

いくら何でも、爆発魔法でトロールを爆殺するのは難しいはずだ。ここにきて少しやりすぎてしまったと少し反省した。

 

「…わかりました、今回はその話を信じましょう…だとしてもとても愚かなことです…一人につき5点減点です、まだパーティーは終わっていないのですぐに行きなさい」

 

三人は点を引かれたことがショックなようでとぼとぼと大広間へ向かって歩いて行った。

私も後を追いかけようとすると呼び止められる。

 

「ミス・セレッサ、トロールの討伐は本来、大人の魔法使いでも苦戦する行為です。それを討伐したので30点です。今回のことは校長に報告しますからね…もう帰ってよろしいですよ」

 

談話室に戻ると3人は仲直りしたようで楽しげに談笑していた。

どうやら、今回の一件がいい材料になったようだ。

 

戻っていた私に気が付いたのか、私を輪に入れたわい無い会話をしながらハロウィーンの夜は過ぎていった。

 

 

 

 

 ミネルバの報告を聞いて耳を疑ったが話していた当人も信じられないということだ。

新入生のセレッサがトロールを爆殺させたというのだ。

それだけでも信じられない話だが、セブルスによるトロールの検死報告には、爆殺魔法による、内部からの破壊ではなくあくまでも外部からの衝撃よる損傷…圧死だという話だ…

 

どう考えても説明がつかない…しかし、現にトロールはバラバラに砕け散っているのだ。

 

「これは…一体どういうことじゃ…」

 

もはや何をどう考えればいいのかが分からなくなっていた。

しかし事の中心である少女…セレッサがすべてに関わっているということだ…

 

もしも、それだけの力のある人物が闇に落ちるようなことがあったら…

そう考えるだけで背筋が凍り付いてしまう、何とか彼女を闇に落とさないためにも…今後も注意深く観察する必要がある様だ…

 

 




お仕置き方法は、ギロチンか万力で迷いました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クィディッチ

今回はクィディッチ回です。
と言ってもほぼ日常回なので短めです。


 11月に入り周囲が肌寒くなる。

 

「さぁ!クィディッチの季節がやってきたぞ!クィディッチだぁ!ハリー!今日は君の初陣だ!」

 

大広間の入り口でロンが先程から大声で喚き散らしている。

 

「そうだね…」

 

「どうしたんだい!もしかして緊張しているのか?大丈夫だよ!君1年生でシーカーに選ばれるほどの腕を持っているんだ!」

 

ハリーの肩をバンバンと叩きながらロンはさらに大声を出す。当の本人はとても迷惑そうだ。

 

「ハイテンションね、何かあったのかしら?」

 

「おぉ、ベヨネッタ!今日はハリーの初陣だからね、とても楽しみなんだ!」

 

「そうなのね、ハリーの方は顔色がよくないようだけど大丈夫かしら?」

 

「大丈夫だよ、ちょっと緊張しちゃって…それにやっぱり怖いってのがあるね…」

 

「大変ね、でも怖いのは最初だけよ。何事もね」

 

そう言って彼らと別れた後、朝食を取る為に大広間の中心へと向かう道中でハーマイオニーと会い軽く挨拶をする。

振り返るとハーマイオニーとロンが互いにハリーを気遣ってか言い争いをしていた。

そんな3人をほほえましく思ってから、その場を後にした。

 

 

 

 

 午前11時を回ろうとした頃には学校中の生徒がクィディッチを観戦するために会場に集まっていた。

どうやら、クィディッチの試合というのは大イベントのようで、今日はすべての授業が休業扱いとなっている。

 

周囲を見渡すとロンを始めとする複数人の生徒が『ポッターを大統領に』と書かれた大きな旗を振っている。

 

今日の相手はどうやらスリザリンのようで両方の生徒とも一触即発といった感じだった。

 

『それでは!選手の入場です!』

 

会場内に実況者の声が響く、それと同時に大歓声が上がり、そんな中を選手たちは堂々と歩きながらコートにやってきた。

 

フーチが選手たちの間に立ちホイッスルを手に取る。

その直後ホイッスルが、けたたましい音を立て、試合の幕が上がった。

 

 

 ゲームの進行は一進一退の攻防戦であった。

シーカーであるハリーはブラッジャーと呼ばれる襲い掛かってくる球を避けながら周囲を索敵していた。

 

次の瞬間、ハリーの箒が狂ったように暴れだした。

 

 

「ハリー!」

 

「ありゃ一体どうなってるんだ!」

 

いつの間にか後ろにいたハーマイオニーとハグリッドがハリーの異常に悲鳴を上げた。

 

「どうなっているんだよ!スリザリンの奴ら…何か細工をしたな!」

 

「ロン、それはありえんぞ。箒に呪いをかけるとなるとそれこそ一流の魔法使いじゃなきゃ無理だ、スリザリンの生徒ごときじゃ無理だろう」

 

「じゃあ一体だれが…」

 

するとハーマイオニーがロンの首にかかっていた双眼鏡をひったくる。

 

「おい!何するんだよ!」

 

「犯人を捜すのよ!呪いをかけているなら口の動きで分かるわ!」

 

しばらくするとハーマイオニーが「見つけたわ!」といってある人物を指さした。

 

「スネイプよ!スネイプがハリーの箒に呪いをかけているわ!」

 

「そんな馬鹿な!ありえん!」

 

「私が止めてくるわ!」

 

ハーマイオニーがそう言い残して姿を消した。

 

私も教員席の方を注意深く確認する。

確かにスネイプの口は動いているが発せられている魔力は呪いというよりも呪いの妨害に近い魔力であった。

 

「おかしいわね…」

 

私が呟くと教員席の方から急に煙が上がった。

どうやらハーマイオニーが何かをやったらしく軽いパニックを起こした教員席の方からそそくさと脱出してくる姿が見えた。

 

「スネイプに火をつけてやったわ」

 

「貴女やることが派手ね。嫌いじゃないわよ」

 

 

その後、動きを取り戻したハリーはその場で急降下を開始した。

ハリーの目の前に光る金色の球体、スニッチがありそれをキャッチしようと手を伸ばしている。

 

あと少しという所で体勢を崩し箒から落下してしまう。

 

周囲は悲鳴に包まれており、ハリーは何やら苦しそうな表情を浮かべていた。

 

その場で立ち上がると口の中からスニッチを吐き出し手に収めていた。

 

『スニッチを取ったぞ!』

 

スニッチを握りしめた手を天高く振り上げる。それに呼応するように会場全体が歓声に包まれた。

 

こうして、ハリーの初陣はシーカーとしての役目を果たして無事終了となった。

 

 

 

 クィディッチも終わり帰ろうとすると後ろからやってきたハーマイオニーに引き留められた。

 

「ちょっと話があるの、これからハグリッドの小屋に行くわよ」

 

腕を取られ半ば強引にハグリッドの小屋へ引きずり込まれた。

 

小屋の中ではハリーとロンも居り、ハグリッドが淹れた紅茶を飲んでいた。

 

私も紅茶を出されたので少し口に含む、濃く出しすぎて苦くあまり美味しいものではなかったので、そのままテーブルの上に置き、それ以降その紅茶に口をつけることはなかった。

 

「無理やり連れて来られたのよ、一体何の用かしら?」

 

「僕もハーマイオニーも見たんだよ、君の箒に呪いをかけていたのはスネイプだったんだよ」

 

「そんなわけないだろ!スネイプ先生は教師だぞ!第一何でそんなことをせにゃならんのだ!」

 

確かにそうだ、教員であるのならば生徒を手にかけるなんてこと普通に考えればあり得ない。

しかし、スネイプの日頃のハリーに対する態度を目にしている3人は疑いの目を向けたままだった。

そんな中、意を決したように、ハリーが口を開いた。

 

「僕、見たんだ。アイツの足がケガしているのを。多分、ハロウィーンの夜3頭の犬を出し抜こうとして反撃を受けたんだよ。きっとあいつは犬が守っている何かを盗もうとしているんだよ」

 

ハリーの話を聞いてハグリッドが驚いたようにティーポットを落としてしまった。

 

「ハリー、お前さんどうしてフラッフィーを知っているんだ?」

 

「「「フラッフィー?」」」

 

3人がほぼ同時に声を上げた。

 

「そうだ、俺のペットだ、今はダンブルドア校長に貸しているんだ」

 

「それは何で?」

 

「これ以上は、答えられんよ、重大な秘密なんだ」

 

「でもスネイプが、何かを狙っているんだよ!ダンブルドア先生は一体何を守ろうとしているの?」

 

「これ以上変なことを言わんでくれ!お前さん達もこれ以上この件に首を突っ込むな!これ以上は危険だ、あの犬のこともダンブルドア校長とニコラス・フラメルの事もな!」

 

「ニコラス・フラメル?それはいったい誰!」

 

ハリーはハグリッドが漏らした名前を聞き逃さなかった。

 

ハグリッドはさっきから自分の頭を壁に打ち付けている。口を滑らした自分に腹を立てて、自分でお仕置きをしているのだろう。

 

「ダメだよハグリッド、血が出ちゃうよ」

 

「放っておいてくれ、今日はもう帰ってくれ」

 

これ以上ここにいるのは得策ではないだろう。そう思い私達は小屋を後にした。

 

 

その日の夜、部屋に全員が寝静まったのを確認してから、いつもの日課をするべく「The Gates of Hell」に移動した。

 

「よぉ、いつものはあそこだぜ」

 

ロダンが指差した先には磔にされている天使が必死にもがいている姿があった。

 

「後で楽しませてもらうわ」

 

バーカウンターでいつものを飲んでいると、ふと今日出てきた名前を思い出す。

 

「ねぇ、ニコラス・フラメルって知ってるかしら?」

 

「ニコラス・フラメルか?確か賢者の石の製作者だったか」

 

「賢者の石?」

 

「あぁ、コイツのことだ」

 

ロダンは追加の酒と一緒に紅い結晶のようなものを私に差し渡した。

 

「へぇ、これが賢者の石ね…」

 

「あぁ、それにしても、何でお前がそんなものを知っているんだ?」

 

「どうやらダンブルドアが城に隠している物が、賢者の石らしいのよ」

 

「ほぉ…賢者の石をか…」

 

「えぇ、ところで賢者の石って何なのかしら?」

 

「賢者の石ってのは、錬金術の頂点と言われていて、金を生み出したり、命の水、永遠の命を得る事が出来る物だ」

 

「へぇ、便利な物ね、でも欲しいとは思わないわ」

 

私は手に持っていた石をロダンに投げ返す。

 

「それがいい、それと、コイツが完成したから渡しておくぜ」

 

ロダンが持ってきたトレイの上には「パセリ」「セイジ」「ローズマリー」「タイム」の4丁一組の愛銃スカボロウフェアの小型版が用意されていた。思わず舌なめずりをしてしまう。

 

「向こうで使える武器が杖だけというのも不便だろう」

 

「気が利くじゃない、杖もいい子だけど、やっぱりこの子がいないとつまらないわ」

 

「気に入ってもらえるぜ、それとラブイズブルーの方は元の姿に戻った時のために取っておいてあるぜ」

 

「至れり尽くせりね」

 

「そりゃ、俺の作品だからな。ちなみに武器自体に認識妨害の効果を付与してあるぜ、普段から身に着けておいても問題はないだろうよ。ただ使っている間は消えないからその点は注意してくれ」

 

「流石ね…」

 

 私は子供の姿になり、2丁の銃を空中に放り投げる。それと同時にバーカウンターのロダンも瓶を放り投げた。

残りの2丁を両手で回りながら手に馴染ませ。ロダンはシェイカーを上下を振る。

落下してくる銃を左右の足のヒール部分で受け止める。ロダンはさらにシェイクの速度を上げていく。

両手の銃をもう一度手に馴染ませ右の銃に口付けをする。ロダンはグラスにシェイカーの中身を淹れオリーブの実が刺さったピックを浮かべる。

私がロダンに銃を向けると同時に、ロダンは私にオリーブの浮いたマティーニを差し出した。

 

「気に入ったわ」

 

「そいつはよかった」

 

マティーニを受け取り一気に流し込む。

 

「それじゃあ失礼するわね」

 

「あぁ」

 

片手に銃を構え天使の脳天を打ち抜いてから、銃をポーチにしまい込み、杖を手にして元の部屋へと戻る。

 

 




今回からようやく4丁拳銃スタイルになります。
まぁメインで使うのはもう少し後の話ですが。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クリスマス

今回も日常回です。

まだホグワーツは安全です。


 12月になり、周囲に雪が積もり始める。

 

ハリー達はハグリッドから聞いたニコラス・フラメルについて、ずっと調べているようだ。

 

賢者の石について教えてやってもいいのだが、どこで知ったのかと聞かれると面倒なのでここは黙っておくことにする。

 

談話室は彼らが占拠していたので、私は大広間へ向かい、ちょっと遅めの朝食をとることにした。

 

「やぁセレッサ、君も朝食かい?」

 

いつもの取り巻きを連れたマルフォイが私に声をかけてきた。

取り巻き達は、グリフィンドール生である私を見て、少し不機嫌そうだった。

 

「えぇ、そうよ。貴方もよかったらどうかしら」

 

「さっき食べたばっかりさ、ところで君クリスマスはどうするんだい?よかったらうちに来ないか?パーティーを開くんだ」

 

「それは魅力的ね、でもクリスマスは別のパーティーに呼ばれているのよ」

 

「そいつは残念だ、それじゃあまた休み明けに会おう」

 

「えぇ、そうしましょう」

 

 

 私はクリスマス休暇が始まっても相変わらず城の中にいた。

ホグワーツ特急で帰らずとも、帰ろうと思えばいつでも帰れるのだから乗る必要はないだろうというわけで、私は寮に残っている。

 

自室に入り生徒が居なくなったのを確認してから、杖を取り出しいつもの様に「The Gates of Hell」へと戻っていった。

 

 

「よぉ、帰ってきたか、相変わらず今のお前の姿は見慣れないぜ」

 

「えぇ、エンツォ、あなたは相変わらずね」

 

そう言ってすぐに元の姿に戻る。

 

「それにしても、クリスマスには休暇を与えるなんて、随分と、まぁ、生徒思いな学校だな」

 

エンツォは相変わらず笑いながら酒を煽っていた。

 

「そうなのよ。それよりエンツォ、私これから買い物に行こうと思っているの。だから行くわよ」

 

「ちょっと待てよ!なんで俺がお前の買い物に付き合わなきゃならないんだ?俺はこれから、ガキ達のプレゼントを買いに行かなきゃならないんだ」

 

「あら、好都合じゃない」

 

エンツォの首元を掴み、無理やり店の外へと連れだしていった。

 

「ふざけるなよぉおお!ロダン!なんとかしてくれぇ!」

 

ロダンは何も見ていないという様子で、いつもの様に葉巻をふかしていた。

 

クリスマスの朝。

ホグワーツに戻ると部屋の一角にプレゼントの箱が積まれていた。

私はその箱の中から一つを手に取る。これはハーマイオニーからのようだ。

 

包みを開けて中を見ると、羊皮紙とペンのセットだ。勉強熱心な彼女らしいプレゼントだ。

他にもハリーからは眼鏡のメンテナンスセット。これはありがたい。

ロンからは訳の解らない変な人形のようなものが送り付けられていた。

それらを、自室に飾り付けてから、大広間へ行き朝食をとった。

 

 

 

 クリスマス休暇はあっという間に過ぎてしまい、その日から授業が再開した。

 

学校が始まってからというものハリー達はニコラス・フラメルについて調べて回っているようだ。

 

どうやら、一向に進展が見られないようだ。しかしここまで進展がないというのも少し可哀想なものだと思っているとロンの大声が響いた。

 

「見つけたよ!これだ!」

 

その手には一枚のカードが握られていた。あれは確か、チョコレートのオマケでついてくるカードだ。

そのカートを天高く振り上げてハリー達に見せつけていた。

 

「これだよ!このダンブルドアのカードの説明文に書かれているんだ」

 

「本当だわ、そんなオマケで見つけるなんて少し複雑だけどまぁいいわ、なんて書いてあるのかしら?」

 

「このカードによると、ダンブルドアと共同で賢者の石を作ったって書いてあるよ…賢者の石ってなんだ?」

 

ロンとハリーはお互いに顔を見合わせ不思議そうに首をかしげていた。

そんな二人を見てハーマイオニーは呆れながら一冊の本を取り出した。

 

「あなた達、本を読んだことないのかしら?ここに書いてあるわ」

 

そしてある1ページを開いて指さした。

 

「賢者の石、それは黄金を作り出し、命の水を作り出す石と書いてあるわ」

 

「命の水?それは何だい?」

 

「はぁ…」

 

ハーマイオニーは再び深いため息をついた。

 

「命の水、簡単に言えば不老不死になる水よ」

 

私がそう言うとハリーとロンは驚いたような顔をした。

 

「なんだって!そんな石スネイプが狙うのも納得だよ!僕だってほしいくらいだ!」

 

「ロン…貴方って人は…」

 

「なんだよ!ハリーだって欲しいよな?」

 

「そ…そうだね、実際目の前にあったら欲しいって思っちゃうかも…」

 

「ハリー…貴方までそんなこと言うのね」

 

「だ…だって考えてもみなよ、永遠の命だよ。ハーマイオニー、君だってほしいとは思わないかい?」

 

「まぁ…そう言われれば、そうだけど…」

 

「ほら、君だってそうじゃないか!ベヨネッタ、君もそうだろ?」

 

ロンは期待を込めた目線でこちらを見てくる。

 

そんなに私の回答が気になるのだろうか?

 

「私はそんなものに興味はないわね。人は死ぬモノだし、そんな石の力に(すが)って生きるのなんて惨めだと思わないかしら?」

 

「でも、永遠に生きられるんだぜ、魅力的じゃないか?」

 

「そういった魅力に取りつかれた者の殆どが、悲惨な結末を迎えているわ。その石を使ったからノーリスクというわけでも無いんじゃないかしら?」

 

「そういうものなのかな?僕にはよくわからないよ」

 

ハーマイオニーは永遠の命について深い思考をはじめ、

ロンとハリーはもはや考えることを放棄してただ本を眺めていた。

 

 

 

 

 

 数日が経ったある日。

今日はクィディッチの試合があるようで授業はすべて中断となった。

 

今回の審判はスネイプが担当するようで、ロンとハーマイオニーは今回の試合に出ることに反対していた。

まぁ、スネイプが犯人であると考えているようなので、反対するのもわからなくもなかった。

 

しかしハリーはそんな二人を説得して試合に出場する様だ。

 

試合結果はとても呆気ないものだった。

開始10分もせずにハリーがスニッチを掴み試合を勝利という形で締めくくったのだ。

 

 

 

談話室でハーマイオニー達と共にハリーを待っていると、神妙な面持ちのハリーが入ってきた。

緊急の要件があるようで、私達は誰も居ない空き教室に連れてこられた。

 

「やっぱり、スネイプは石を狙っているんだよ!スネイプがクィレル先生を脅しているのを見たんだ!」

 

「クィレル?確かあのターバンを巻いた男だったかしら?」

 

「貴女…先生の名前と顔ぐらい覚えておきなさいよ…」

 

「あまりにも印象が薄いのがいけないのよ。それに私の趣味じゃないわ」

 

「話を戻していいかい…スネイプはフラッフィーをどうすれば出し抜けるか聞き出していたんだ、それにクィレル先生に不審な動きをするなって脅していたんだ」

 

「でも、何でスネイプがクィレル先生を脅す必要があるのかしら?」

 

「詳しくは分からないけど、クィレル先生が石を守っていると考えると納得が行くと思うんだ。だってクィレル先生って闇の魔術の防衛術の先生だから…」

 

それを聞いてハーマイオニーは安心したように無い胸を撫でおろした。

 

「それなら、クィレル先生がいる限り石は安全って事ね」

 

それを聞いてロンが「だといいんだけどね…」と小声でつぶやいた。

 

「話は変わるんだけど、さっきハグリッドが見せたいものがあるから、今夜、小屋に来てくれって言っていたんだけど、皆行くよね?」

 

「もちろん行くよ!」

 

ロンが楽しげに答えたが、ハーマイオニーはいきなり反論で答えた。

 

「そんなのダメよ、夜間外出が校則違反なのは知っているでしょう!全くハグリッドは何を考えているのかしら?」

 

「そんなのバレなきゃ問題ないんだよ!ベヨネッタ、君はどうするんだい?」

 

「折角のお誘いだけど、今回は先約があるからお断りしておくわ」

 

「そうかよ、つまらない奴だな、行こうぜハリー」

 

そう言ってロンとハリーが談話室から出ていった。

 

「もう!信じられないわ!私あの二人を連れ戻してくるわ!」

 

お節介焼のハーマイオニーがそう言うと後を追いかけるように扉を開けて出ていった。

 

そんな彼らを見送ってから、私は杖を取り出し、いつもの様に日課を済ませに向かった。

 

日課を終わらせて部屋に戻ると案の定ハーマイオニーはまだ帰ってきていなかった。

 

 

 

 

 翌日、帰ってきたハーマイオニー達に話を聞くと、どうやらハグリッドはドラゴンの卵を持っており、それが先日孵ったというのだ。

どうも微笑ましい話だと思ったが、どうやら問題が山積みなようで、まず初めにドラゴンを飼うことは法律で禁止されているという事だ。

ハグリッドはアレでも教員なのだが…何を考えているのだろう…

 

次の問題はこれから先、どんどんと成長していき、隠し通すのが出来なくなるという事だ。

そんな時、近くで会話を聞いていたネビルが話に入ってきた。

 

「すごいね…ドラゴンを飼っているなんて…僕も見てみたいよ!」

 

「今日もロンと僕で見に行くんだ、良かったらネビルもどう?」

 

「え?いいの?」

 

「もちろんだよ」

 

「ありがとう、でもどうしてハグリッドはドラゴンを飼っているの?」

 

「何でも、お酒を飲んでいるときに卵を貰ったらしいよ」

 

「そうなんだ、いいなぁ僕もドラゴン育ててみたいな…」

 

ネビルはとても嬉しそうに、その場でハリー達とドラゴンについて話し合っていた。

 

 

 

 

 数日が経った頃グリフィンドールの点が一気に150点も減点さた。余談だが、スリザリンの点も50点ほど引かれていたようだ。

 

 一体何があったのかというと、ドラゴンに会いに行くために夜抜け出しているところをマクゴナガルに見つかった、ハリー、ロン、ネビル、そして密告するために報告をしに行ったマルフォイの4人が一人につき50点の減点をくらい、その上、罰則で夜中に森を見回らなければならないという話だ。

 

その夜、私とハーマイオニーは談話室の暖炉の前で、罰則を終えて戻ってくる彼らを待つことにした。

私はブローチの時計を確認する。そろそろ罰則が終わって帰ってくる頃だろう。

 

そう思っていると勢いよく談話室の扉が開かれハリーが飛び込んできた。

 

「奴だ!奴が生きていたんだ!」

 

「ちょっとハリー!落ち着いてよ!なにがあったの?」

 

「あぁ、ハーマイオニー、君にも聞いて欲しい…ベヨネッタ、君にもだ」

 

ハリーは数回深呼吸をしてから先程の出来事を話し始めた。

要約すると、罰則で禁じられた森のパトロールをやっている時に何者かに襲われたところを、ケンタウロスに助けられた。

襲撃者はユニコーンの血を啜りながら、生に(すが)り付いているヴォルデモートであったという事だった。

 

「これで全部が分かったよ!スネイプはヴォルデモートの手下、死喰い人の残党で、石を使ってヴォルデモートを復活させようとしてるんだ!」

 

「その名前を出すなよ!」

ヴォルデモートの名を聞いてからロンは両手で耳を押さえながら怯えていた。

 

「でも!アイツは生きていたんだ!アイツは僕を殺そうとしたんだよ!予言がそう言っているらしいんだ!」

 

「ハリー!落ち着いてよ!ロンも落ち着いて!」

 

大声で声を上げ肩で息をしながらハーマイオニーは二人に詰め寄る。

 

「この学校にはダンブルドア先生がいるのよ、それに先生が石を守るために色々な事をやっているはずだわ。だから学校にいる限りハリーは安全なのよ」

 

「うん…そうだよね」

 

不安を押し殺して納得したようにハリーは何度か頷いていた。その後ろではロンが眠そうに目を擦りながら欠伸をかみ殺していた。

やがて3人も疲れが出たようで各々が自分の寝室へと戻るように解散した。

そんな彼らを見ながら私は、どこか言い知れぬ不安を感じていたのだった。

 




いかがでしたでしょうか。
平和な日々はここで終わります。

次回からは賢者の石編もクライマックスに突入します。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

隠し扉

今回、少し残酷な描写がございます。



数日後に学期末テストが始まった。

 

一応、授業の内容は把握しており、実技に関しても魔力でゴリ押しする事も出来るので、問題はなかった。

 

 呪文学ではパイナップルをテーブルの端から端までタップダンスをさせるという奇怪な内容だった。

 

私はいつもの様に杖に魔力を込めると、パイナップルは最初のうちはキレの良いタップダンスをしていたが、次第に動きが派手になり、ブレイクダンスをはじめ、端に着くころには近くに有った釘をテーブルに突き刺し、ポールダンスを踊り始めた。

見事にフィニッシュを決めると、どこからともなくクラッカーと紙テープが降り注いだ。

無事に踊り終えたパイナップルは充実感を得たように体を横たえ役目を終えた。

 

 

 変身術のテストはネズミを嗅ぎ煙草入れに変身させるものだった。

私が作り上げた箱は、スカイブルーを基調とし、様々な宝石を散りばめ、細部には金細工の装飾品をあしらわせてある。

 

 

その他にも様々なテストがあったが、私はすべて平均以上の出来で無事幕を下ろした。

 

 テストがようやく終わり、それを祝福するように豪勢な夕食を堪能した後、私は一人談話室でくつろいでいると、いつもの様にハリー達が扉を勢い良く開けて入ってきた。やはり彼等はドアの開け方を知らないらしい。

 

「大変だよ!!」

 

「テストが終わったばっかりよ、一体何があったのかしら?」

 

「さっき皆で話をしていて気が付いたんだ、ハグリッドがドラゴンを欲しがっているところに卵を持った奴が現れるなんて都合がよすぎるって」

 

「それで私達、ハグリッドに聞いてみたの、卵を持ってきたのはどんな人かって」

 

「ハグリッドの奴、顔は覚えてないって言うんだ、それにそいつにフラッフィーを手懐ける方法を教えちゃったんだ!」

 

「校長先生に伝えようとしたけど、魔法省から呼び出されて居ないらしいの!」

 

「こうなったら、僕たちで石を守らなきゃいけないんだ…」

 

一息吐いてから言葉を続けた。

 

「僕…今夜抜け出して石を守りに行くよ」

 

「ハリー!正気かよ!」

 

「そうよ、もしバレたら退学になっちゃうわ!」

 

「でもこのままじゃスネイプが石を手に入れちゃうよ!そうなったらヴォルデモートが復活するんだ!そうなったら減点や退学なんて問題じゃない!僕は行くよ!君達が何を言っても行く!」

 

完全に熱くなってハリーは力説する。

なかなか勇ましいものだ。

 

「そうね…その通りだわ!」

 

「ハーマイオニー!!君まで何を言い出すんだ!」

 

「だってそうじゃない!このままじゃ…」

 

そこまで言うとハーマイオニーは急に泣き出してしまった。

それも仕方ないだろう…私はそっと彼女の頭をなでてやるとそのまま胸に泣きついてきた。

 

「ロン…君も来てくれるかい?」

 

「あぁ…あぁ、わかったよ!僕も行くよ」

 

「ありがとう…ベヨネッタ…君も来てくれると助かる」

 

「えぇ、楽しそうだし付いて行ってあげるわ。ところでどうやって抜け出すのかしら?」

 

「うん、これを使おうと思う」

 

そう言うとハリーは一枚のマントを取り出しそれを頭から被る。すると被った場所からハリーの姿が消えていった。

 

なるほど、視認妨害の効果のあるマントのようだ。よく見ると魔力が漏れ出ているので、完全には遮断できていないようだが、目を誤魔化す分には十分だろう。

 

「これなら足音にさえ気を付ければバレないと思うんだ。だから…」

 

「君たち、何をしてるの?」

 

振り返るとそこには、部屋の扉から半身を出した、パジャマ姿でトレバーを抱えたネビルがいた。

 

「なんでもないよ、それよりまたトレバーが逃げ出したのか?」

 

「誤魔化さないでよ、また抜け出すんだろ」

 

ネビルはトレバーを強く抱きしめながら、こちらを睨みつける。

 

「見つかったらグリフィンドールの減点になっちゃう…行かせないぞ!僕…僕は君たちを行かせないよ!」

 

ネビルはトレバーを手放すと拳を握りしめてファイティングポーズをとった。

 

「ネビル…本当にごめんなさい…ペトリフィカス・トタルス【石になれ】」

 

ハーマイオニーの魔法が当たるとネビルは目を見開いたまま倒れてしまった。

 

「ハーマイオニー!」

 

「大丈夫よ、金縛りの呪文をかけただけだわ」

 

「君って案外容赦ないよね」

 

「ごめんよ、ネビル…今は急いでいるんだ」

 

ハリーがそう言うと4人でマントに入り窮屈な中を目的地まで向かっていく。

 

 

 

 運の良い事にそれほど大きな障害などは無く、無事に目的地の扉の前までやってくることができた。

 

「ここだわ…」

 

「この扉の向こうにフラッフィーが居るはずだ…スネイプが眠らせて入ったと考えるとまだ安全なはずだけど…」

 

「よし!行こう」

 

「えぇ」

 

扉を開けると、ハープの音色が鳴り響き。目の前に居る3頭犬が気持ちよさそうに寝息を立てていた。

 

「眠っているようだね…」

 

「そうだね、あれ、足元…」

 

ハリー達は小声で隠し扉を指差した。

 

「ここから入れそうね、行きましょう」

 

「あぁ」

 

隠し扉に近付いたとたん、ハープの演奏が止まってしまった。その瞬間三頭犬はトチ狂ったように唸り声をあげこちらを睨む。

 

「どうしよう…ハリー!どうするんだよ!」

 

「何とか隙を見て中に入るんだ!」

 

「そんなこと言ったって!」

 

3人がパニックを起こし大声で言い争っていると、3頭犬が私達目掛けて飛びかかって来る。

 

「「「うあぁあああああ!」」」

 

 

悲鳴を上げ抱き合っている3人の前に身を乗り出し、右手に魔力を込める。

 

「ベヨネッタ!」

 

ハリーが叫び声をあげる。それに呼応するように、3頭犬が眼前に迫ってくる。

 

「 吹っ飛べ! 」

 

右手を勢いよく突き出す。

するとマダム・バタフライの右手が現れ、私の動きに合わせる様に拳を突き出し、3頭犬の顔をまとめて殴りつけた。

殴られた三頭犬は悲鳴を上げながら部屋の奥の壁に激突し、パラパラと破片が落ちる音と、土煙が部屋を満たした。

 

「ベヨネッタ…助かったよ…」

 

 

3人は安堵の表情を浮かべた。

 

 

「ぐぅぅるあううがああああああ!」

 

吹き飛ばされた三頭犬は大声を上げ瓦礫を吹き飛ばすように立ち上がると、体の所々に血を流しながらも私を睨みつけてくる。

 

「あら、まだ元気そうじゃない」

 

「ヤバイ!早く行こう!」

 

ハリーが提案するが私はそれを拒否した。

 

「私はもう少し遊んでいくわ、貴方達は先に行って頂戴」

 

「でも危険だよ!」

 

「私はまだ踊り足りないのよ、ダンスはまだ始まったばっかりだわ」

 

「…分かったよ…気を付けてね」

 

「えぇ、後から向かうわ」

 

 

そう言うと3人は不安そうに隠し扉の中へと入っていった。

 

 

これで、遠慮はいらなくなった。

 

 

「さぁ!おいで、遊んであげるわ!」

 

「ぐあぁああああああ!」

 

 怒声を上げながら三頭犬が飛び掛かってくる。

右足を振り上げ爪を立てながら力の限り振り下ろしてくる。

 

振り下ろされる爪を寸での所を横に避けるとウィッチタイムを発動させ、両手の銃を顔目掛けて乱射する。

 

「うがぁあああああああぁっ!」

轟音と共に銃弾が雨の様に発射され、3つ全ての顔に直撃した。

 

三頭犬は、顔面に銃弾を受けのた打ち回り、乱雑に暴れ回る。

 

「遅い!」

 

乱雑な攻撃を避けながら三頭犬に駆け上ると、右の顔の眼前に飛び掛かり両手で無理やり口を開かせる。

 

「喰らえ!」

 

右足を口の中に突っ込み銃弾を撃ち込む。

 

「あがあああ…ああああ!」

 

体内に発射された弾丸は、食道と内臓に十分なダメージを与えた様で、口から血を流し、前のめりに倒れこむ。

 

血を吐いている、右の頭を持ち両腕に力を籠める。

すると、メキメキと骨が外れる音が響き、皮膚に亀裂が走る。

 

「ふんっ!」

 

ある程度、腕が回ったあたりで、思い切り力を籠め、首元からねじ切る。

 

「あぁあああああ!」

 

首をねじ切り落とされ、血飛沫をまき散らしながら残りの2つの頭が悲鳴を上げる三頭犬…いや、二頭犬は体を振り回しながら、一旦距離を取り私を睨みつける。

 

「まだ遊べるようね、さぁ、いらっしゃい。ワンちゃん」

 

「あがあああああああ!」

 

再び二頭犬が突進してきた。もはやそれしか手段を持たないのか、私を噛み殺そうと残りの頭で噛みついてきた。

 

「残念ね」

 

バク転するように噛みつきを回避した後、ウィッチタイムの中、左の首の部分に両足で着地する。

 

「もぉ…いけない子ね」

 

タップダンスを踊るように首の付け根を何度も踏みつけ、それと同時に両足の銃が撃鉄を起こし、弾丸が吐き出される。

 

首元にゼロ距離で放たれた弾丸の1発1発が、皮膚を突き抜け、首の肉を抉りながら、首自体を貫通し、首の一部をズタボロに破壊した。

 

破壊された場所からは、止めど無くまるで滝のように血が流れ続けており、漏れている鳴き声も絶え絶えだった。

 

「喰らえ!」

 

ボロボロになった首元を、両足で飛び上がるように頭を踏みつける。

その瞬間、左の首がボトリと千切れ落ち、大量の血が噴水の様に吹き出した。

 

私は止めど無く溢れ出している、血飛沫を避けながら犬の前に着地する。

 

「うぐぐうぐぅうぐぐ…」

 

 

最早その場に居るのは、2つ目の首も落とされ、首が1本だけで、息も絶え絶えとした巨大な犬が居るだけだった。

 

「そろそろ、フィニッシュね」

 

 私は、犬に背を向ける。

 

「あぁあああああああがあああ!」

 

背中を見た犬が最後の力を振り絞り、残された首で噛み付こうと突進してきた。

 

 

「CARR-MMA BOWE-COOW【主よ、来たれ、喰らい、滅ぼせ!】」

 

 

 髪の魔力を一気に開放し、ゲートを発生させる。

その直後、ゲートから、漆黒の竜のような顔が現れ、巨大な咆哮を上げる。

飛び掛かろうとしていた犬は、その声に圧倒され、その場に竦み動けなくなってしまい、残りの首で、声の主をただ茫然と眺める事しかできなかった。

その直後、召喚された、巨大な竜の頭は。犬の胴体に喰らい付いた。

 

喰らい付いた者の名前は『ゴモラ』と呼ばれ、非常に獰猛な魔物だ。

 

私が契約している魔物の中でも、トップクラスの人気を持っている。

 

 

「あっ…があああっがああ。」

 

「あああがああああ!」

 

喰いつかれた犬が絶叫を放つが、ゴモラはそんな事は意に介せず、首を左右に振るい歯を食い込ませ、何度も咀嚼を繰り返し、最後には大口を開け思い切り噛締め、犬の胴体を真っ二つに喰い千切った。

 

ゴモラは再び咆哮を上げ姿を消した。

 

部屋の中心には胴体を喰い千切られ、下半身と、真ん中だけが残った首元、その周辺には2本の千切れた頭だけを残した巨大な亡骸が転がっているだけだった。

 

 

私は死体を一瞥した後、隠し扉を吹き飛ばし中へ降りていく。

 

中に入ると垂直の穴になっており、高速で落下していく。

両足に魔力を込め、着地の体制をとる。途中で何かをぶち抜き地面に着地する。

 

目の前の扉を開けると少し広い空間があり、奥には大量の鍵が刺さった扉があった。どうやら鍵はもう空いているようだ。

 

扉を蹴破り中に入ると、白黒模様の床の上に大量のバラバラに砕けた瓦礫と、同じく白黒の石像が数体鎮座していた。

 

「まるで、チェス盤ね」

 

この部屋はチェス盤その物のようで、石像にもポーンを始めとしたチェスで使用される駒が用意されていた。

 

散らばった石を避けながら部屋を進んでいくと、奥の入り口付近にロンが倒れていた。

状況から察するに、ここでチェスゲームがありロンはその勝者のようだ。

 

一応魔力の流れは有ったので気絶しているだけだろう、そう判断しロンを避けて奥の扉に進むことにする。

 

扉に手を掛けようとすると、急に扉が開かれ奥から憔悴した顔のハーマイオニーが現れた。

 

「ベヨネッタ!貴女…無事だったのね!」

 

「えぇ、ところでハリーは?」

 

「先へ進んだわ…私は助けを呼ぶために戻るようにって…」

 

「そうなのね、なら私は先へ行かせてもらおうかしら」

 

私は再び扉に手をかける。

 

「貴女も行くのね…」

 

「えぇ、ラストダンスはまだ終わってないわ」

 

「ハリーを…ハリーを助けてあげて…」

 

「分かっているわ」

 

ハーマイオニーに軽く手を振り、扉を勢いよく開けた。

 

 




フラッフィー…良い奴だったよ。

今回は、皆様のアイドル、『ゴモラ』に登場してもらいました。

次回もお楽しみに


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

賢者の石

今回ようやくヴォルデモート登場です。
お待たせしました。


 

 扉を開けると目の前には、トロールの死体が転がっていた。

先に入ったハリーが倒したとは考えにくい、恐らくハリー達より先に入った何者かが殺害したのだろう。そうなるとハリーがその何者かと接触している可能性が高い。

私は死体を避け、急ぎ次の扉を開ける。

 

扉を開き部屋の中心までやってくると、一瞬にして周囲に炎が現れ、炎の檻の中に閉じ込められる。炎の壁の向こうには次の部屋への扉があった。

部屋の中心にあるテーブルの上に数個のツボと1枚の紙がある。

紙には謎の数式と『3つは毒、1つは先へ進む道標、残りは葡萄酒』と書かれている。

 

 

「なるほど、なぞなぞね、作った人は相当なひねくれ者だわ」

 

紙を破り捨て炎の壁に向かって両手を突き出し銃を乱射しながら炎の檻に飛び掛かる。

体を回転させながらも、両手の銃を連射し続け、発射された弾幕によって炎の壁を撃ち破り勢いそのまま扉をぶち破る。

 

 

 

通路を抜けた先は大広間があり、燭台に灯された蝋燭が周囲を照らしていた。

中心にある巨大な鏡の前にハリーは棒立ち状態で鏡を見つめている。

その後ろにはターバンを巻いた男…確かクィレルだったか…

 

「何が見えている!早く言いなさい!」

 

「僕が…僕がクィディッチの試合で優勝して、ダンブルドアと握手してる!」

 

『嘘を言うなぁ!』

周囲にクィレルのとは違う、憎悪の籠った擦れた様な声が響いた。

 

『俺様を見るんだ!』

 

クィレルがターバンを取ると後頭部には酷く歪なもう一つの顔があった。

 

『俺様が誰か分かるだろう…ハリー…』

 

「ヴォルデモート…」

 

『そうだ…貴様のせいでこのような姿になり!ユニコーンの血で命を飲まなければ魂を維持できない体になってしまった!』

 

「うわぁああ!」

 

ハリーがその場から逃げようとする。

 

『逃がすな!捕まえろ!』

 

ヴォルデモートが叫びそれに従いクィレルがハリーの手を掴んだ。しかしすぐに手を放してしまい、ハリーはその場で尻餅をついた。

 

「あがあああ!私の腕が!」

 

クィレルの腕がハリーに触れた所が焼け落ち、クィレルは苦悶の表情を浮かべていた。

 

『使えぬ奴め…捕えられぬなら殺せ!』

 

酷く歪な表情のクィレルが無事な方の左手で杖を構える。

 

「死ねぇ!!」

 

 

呪文を唱えながら、杖が緑の閃光を帯び後は発射されるだけとなった。

大きく手を振るい、魔法が発射される寸前…

私は右手の銃を撃ち、弾丸を発射する。

放たれた弾丸は、魔力を十分に帯びた杖の芯を確実に打ち抜き、轟音と共に破壊する。

 

「あがああああああ!」

 

杖が粉砕されたせいか、込めていた魔力が暴走したようでクィレルがの左手が吹き飛び、周囲には血が飛び散った。

 

『貴様!何者だ!』

 

苦痛に喚くことなくヴォルデモートが叫ぶ。

 

「ただの生徒よ、それよりここは関係者以外立ち入り禁止なはずだけれど」

 

「ベヨネッタ!無事だったんだね!」

 

ハリーは嬉しそうに叫び私の元へ駆け寄る。

 

「ああがああああああ!」

 

『うるさいぞ!』

 

「ですが…我が君…このままでは…」

 

両手を失ったクィレルが苦痛に顔を歪め、大きく肩で息をしている。

 

『クィレルよ、俺様に体を預けろ…』

 

「しかし…我が君!それでは!」

 

『貴様が死ぬな。だが最早、いつ死んでもおかしくは無かろう。少しでも俺様の役に立て」

 

「あ…ああ…あ」

 

苦痛の顔が絶望の表情に塗り替えられる。

 

『早くせぬか!』

 

「わかり…ました、我が君!栄光を!」

 

その直後、クィレルの首がダラリと力無く項垂れると、先程まで曇っていたヴォルデモートの声がクリアになり周囲に響く。

 

「貴様ら!生きて帰れると思うなよ!」

 

項垂れた頭が急に天を仰ぐと目が見開かれ、ヴォルデモートの叫び声が響く。

 

「来たれ!精霊にして神使よ!その姿を我が眼前に姿を現せ!」

 

 

 直後周囲が黄金色の光に包まれる…とても暖かく、酷く不快な光に。

 

「なんだ!何が起こっているんだ!」

 

ハリーは周囲を見回し狼狽えている。私はそんな彼に魔力の籠った杖を軽く振りドーム型の結界を張る。

 

「ベヨネッタ!これは…」

 

「そこから出ちゃダメよ、死にたくないならね」

 

私が言い終えると空から奴らが現れた。

純白の翼を羽ばたかせ、頭上には黄金に輝く輪…ヘイロウを輝かせ、神秘的な神具をその手に携えて奴らが地上に現界した。

 

「なんだよ…なんだよアレ!まるで…まるでアレは…天使じゃないか!」

 

そう…奴らは天使だ。

 

「フハハハハハ!そうだとも!奴らは天使だ!俺様は神すら配下に加えたのだからな!!」

 

「そんあ…あんな…あんな闇の化身のような奴に天使が…一体なんで神がお前に着くんだよ!」

 

「フハハハハハアーハハハ!気になるなら話してやろう!貴様が生きていたらな!」

 

「そんな…こんな…」

 

絶望に打ちひしがれているハリーに私は語り掛ける。

 

「あぁ…我らが主の御使いよ…」

 

私は両手を広げ奴らに一歩ずつ近付いて行く。

まるで食虫植物に誘われる蝶のように…

 

「ベヨネッタ!ダメだ!」

 

「フハハ!小娘が!天使に魅入られたな!さぁ!行け!奴らを撃ち滅ぼせ!」

 

ヴォルデモートが叫び声をあげると天使たちは私たちに向かって突撃してくる。

 

私も飛び上がり奴らの元へ身を委ねる。

 

「うわぁああ!」

 

 

ハリーが叫び私に手を伸ばす。

きっと彼は私が天使に魅入られてこのまま無残な最期を迎えると思ったのだろう。

奥で笑っているヴォルデモートも恐らく同じ考えなのだろう。

 

あと1mほどで奴らっと接触する。

もういいだろう…さぁショータイムだ!

 

抱き着こうとしてくる天使の顔面を右足で薙ぎ払い、左足を振りぬき別の天使に弾丸を撃ち込む。

 

「え?」

 

「なんだと!」

 

驚愕する二人を尻目に次のターゲットに狙いを定め、空中ですれ違いざまに弾丸を放ち頭をぶち抜く。

 

「キュガァアア!」

 

天使とは思えない声を上げ、奴らはボトリと地面に堕ち息絶える。

 

「なぜだ!!」

 

「フッ、こんな奴らを呼んだところで良い気にならない事ね。お友達になるならもっと上品な子を選びなさい」

 

「ふざけるなよ!奴を殺せ!」

 

さらに大量の天使が降り下りてくる。

しかし、どれだけ来ようと所詮は最下位に位置するアフィニティと呼ばれる天使だけだ。

 

奴らの中心に入り込むと、奴らは手に持った槍を私目掛けて一斉に突き刺した。

 

槍の刺突を飛び上がりかわすと、先程まで私が居た場所に数本の槍が突き刺さった。

 

「ふん!」

槍の上で横になり、四方に居る天使の脳天を狙い弾丸を浴びせかける。

 

「ギュアイ!」

 

見事に脳天を撃ちぬかれた天使達は、その場に力なく崩れ落ちる。

 

周囲を漂っていた天使達も、状況を理解したのか、一斉に襲い掛かってくる。

 

奴らの動きを見切り、踊るように攻撃を避けながら確実に弾丸をお見舞していく。

弾丸を受けた天使は1匹また1匹と地に堕ち光となって朽ち果てる。

 

さらに近寄ってくる1匹の天使を殴り飛ばし、両足を持ちジャイアントスイングの要領で振り回し周囲にいた奴らも巻き込む。

 

次に空中で両足で天使に抱き着くと顔面に銃弾の雨を降らす。

弾丸を受け、息絶えた天使の亡骸を、別の天使目掛け投げつける。

直撃した天使が、立ち上がろうと、もがいている所に一気に詰め寄り、タップダンスを踊るかのように踏みつける。

 

その後も踊り狂う様に天使を虐殺し続け、結局30匹近くいた奴らは1分もしない内に全て地に堕ち消え去った。

 

「そん…な…馬鹿な!」

 

「これじゃ、全然踊り足りないわ。曲もダンスもまだ始まったばっかりよ。カーテンコールには早すぎるわ!」

 

ヴォルデモートは絶望し、ハリーは茫然としている。

 

「これで打ち止めかしら?さて、それじゃあ、話して貰おうかしら、アンタが何者と契約したかを」

 

「ふざけるな…ふざけるなよ!貴様!」

 

叫び声を上げ天を仰ぎ両足をついた。

 

「中位三隊の「子」に属する者よ!天に仇なす悪しき者を撃ち滅ぼす者よ!我が声に答えよ!」

 

 

床が割れ魔法陣が現れる。

その中心には緑の籠手を着けた腕が現れ、次の瞬間に地響きと共に巨体が現れる。

 

現れた天使は今までの天使を遥かに上回る巨体で、体の至る所に緑色の甲冑を身に着けていた。

 

その天使は、ビラブドと呼ばれ、その手に身の丈に合った黄金の斧を持ち、悠然と構えている。

 

「どうだぁ!行け!我が眷属よ!奴を撃ち滅ぼせ!」

 

ヴォルデモートが狂気を孕んだ怒声を上げる。ビラブドはその声を聴き声の主をじっと見据えている。

 

「どうしたのだ!早くしろ!」

 

次の瞬間、ビラブドはヴォルデモート…クィレルの体を右手で握り付けた。

 

「あがぁ!貴様!何を!」

 

ヴォルデモートが呻き声を上げ、もがいているが、ビラブドは何の躊躇いも無く右手に持ったクィレルを地面に叩きつけた。

 

地面に激突し、クィレルの体は一瞬にして血煙となってしまった。

霧散してしまった体からはヴォルデモートの魂のようなものが煙状になりハリーへ突っ込んでいった。

 

「あぁあああ!」

 

ヴォルデモートの直撃を受けハリーは倒れてしまう。しかし結界を張っておいたので気絶だけで済んでいるようだ。

 

「さて、これで邪魔者は居なくなったわ…さぁ!いらっしゃい!」

 

「ふんぬ!」

 

ビラブドが両手に持た斧を力に物を言わせ大振に横薙ぎした。

 

弧を描くように眼前に刃が迫りくる。

ギリギリでバク転をしウィッチタイムの中を銃弾を放ちながらビラブドの後ろへ回り込む。

そのまま両手で打撃を与えフィニッシュの蹴りにマダムの力を乗せてを放つ。

 

「ぐあぁ」

 

世界の流れが通常に戻り、ビラブドが吹き飛び壁に激突する。

 

土煙の中から膝を付きながら現れたビラブドの姿は、マダムの蹴りが直撃し体の表面がボロボロになりながらも起き上がり再び斧を構えた。

 

「ふうん!」

 

渾身の力を籠め斧を振り下ろした。

 

「はぁああ!」

 

両手の銃を眼前で交差させ、銃身で斧を受け止める。

 

銃と斧が擦れ火花が飛び散りギリギリと金属の削れる音が響く。

 

「ふん!」

 

両手を上に突き上げるようにして斧を吹き飛ばす。

 

「遅い!」

 

斧が吹き飛ばされ無防備になったビラブドの眼前に迫り、そのままの勢いで顎を蹴り上げ、そのまま顔面に弾丸を撃ち込む。

 

 

「ぐぁぁ」

 

蹴りの他に、弾丸の嵐を受け、顔の殻までボロボロになり仰向けに倒れる。

 

「さぁ!そろそろ終わりにしようかしら。グランドフィナーレよ!」

 

魔力を髪に集中させ、その髪を媒体にゲートを開く。

 

「CARR-MMA BOWE-COOW【主よ、来たれ、喰らい、滅ぼせ!】」

 

ゲートから再びゴモラが姿を現し咆哮を上げ、弱り切ったビラブドを見据え、巨大な口を開けビラブドの体に喰らい付く。

 

ビラブドはジタバタともがいているが、逃げられるはずも無く、数回咀嚼され、手足が捥がれ、最後には噛み砕かれ息絶えて姿を消した。

 

「ぐああああああ!」

 

ゴモラは満足気に咆哮を上げ姿を消した。

 

 

 天使達が消え去った後はとても静かだった。

部屋の中には結界で守られたハリーと、なぜか無傷で鎮座している巨大な鏡が残っていた。

 

「これは…」

 

私は、足元に転がっている紅い石を拾い上げた。

恐らくこれが賢者の石なのだろう…しかしロダンの持っていた石よりも各段に力が弱く感じた。

 

こんな物に望みを託し、神と契約を結んだのかと考えると、とても不憫に思えてならない。

しかし…奴が契約した神とは一体…

 

 

 

周囲を見渡すと一か所…巨大な鏡が目に留まった。

 

鏡に近付くと私の姿全体を映し出す。そして気が付いたが、自分で思っている以上に幼い風貌なのだと少し驚いた。

しばらく鏡を見据え少しポーズを決めていると、鏡の中の私が振り向き周囲を見回し始めた。

 

何が起こっているんだ?

 

鏡の中の私が再び、正面を向き私と目を合わせる。その瞬間、衝撃が走った。

何故なら、鏡の中の私の隣には、もう居ない筈の両親の姿があったのだ。

 

「これは…」

 

鼓動が早くなるが何とか落ち着きを取り戻し、鏡を見据える。

鏡の装飾部には『みぞの鏡』と書かれていた。

 

どういうネーミングセンスなのかは分からないが、どういう物なのかは推測できた。

望みの物を映し出す鏡なのだろう。

つまり私は、両親との生活を望んでいるという事になる。

 

確かに、鏡の中の私はとても幸せそうだ。

両親に抱きしめられ。心から笑っている…あぁ…とても幸せそうだ。

 

「なるほどね…確かに素晴らしいわ…」

 

思わず声に出してしまう。それだけ私は動揺しているのだろう。

 

数回深呼吸をして呼吸を整え、再び鏡を見据える。

鏡の中では、私は父親の腕に抱かれ寝息を立てていた。

 

現実の私は両手にある銃に目を落とした。

そこには傷一つ付いていない、光沢のある銃が握りしめられているのを再確認し、その重さで今、銃を握っている自分が現実なのだという実感を得た。

 

一息つき右手の銃を鏡に向け構える。

 

「いい夢だわ、でも私は白昼夢を見ているほど狂っては無いのよ」

 

人差し指に力を籠め引き金を引く。鏡の中の私は最後までとても幸せそうだった…

 

 

 

 

 

銃声が鳴り響き、鏡の中心に銃弾が命中し鏡が砕け散った。その破片の奥には、鋭い目線のダンブルドアが立っていた。

 




天使達に出てきてもらいました。

両親の死という点でも、ベヨネッタとハリーってどこか似通っている気がするんですよね。

次回で賢者の石編は最後になります。
よろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

1年の終わり

今回で賢者の石編は終了します。




 

 部屋の奥から鋭い目線で、片手に杖を構えたダンブルドアが悠然と歩み寄ってくる。

 

「あら?高みの見物かしら?いい趣味ね」

 

「随分と手厳しいの」

 

「アイツは逃げたわよ、追わなくて良いのかしら?」

 

「今更追っても無駄じゃろうて、さて…お主が持っている石を渡してもらおうかの。それが何なのか理解しておるのじゃろ?」

 

ダンブルドアは杖をワザと見せる様に声をかける。

断るようなら強引にも奪い取ろうという算段だろう。

 

「えぇ、賢者の石、黄金を生み出し、永遠の命を得る事ができる。」

 

「そうじゃ、じゃがそれはそんなに万能なものでは…」

 

「くだらないわね」

 

「なんじゃと?」

 

「永遠の命を得る事がくだらないのよ、こんなものに縋り付く惨めな生き方なんて私はごめんだわ」

 

私の言葉を聞きダンブルドアは驚愕したように目を見開いた。

 

数瞬の後、ゆっくりと息を吐きこちらを再び見据えなおした。

 

「君は強いのぉ、多くの者はその石の魔力に飲まれ、永遠の命に引かれてしまう…愚かな事じゃ…」

 

「えぇ、でもただで渡すのは惜しいわね。貴方以外にも〈コレ〉を欲しがるのは大勢居るわよ、そうねぇ…知り合いに高値で買い取ってくれそうなやつが居るわ」

 

石を撫でる様に手のひらで遊ばせながら、ダンブルドアにワザと見せつけるようにすると、再び目線を鋭くさせ私を睨みつける。

 

「何が望みじゃ…」

 

「そうね、少し質問に答えてもらえないかしら?」

 

「なんじゃ…」

 

「貴方はなぜ【アンブラの魔女】を求めるのかしら?」

 

「予言じゃ…ある者がした予言の一説に【アンブラの魔女】という単語が出て来ての」

 

「なるほどね、どんな内容なのかしら?」

 

「詳しくは言えぬが…アンブラの魔女が…闇に生きると言われて居るその魔女が、魔法界に姿を現すとな…闇に生きるものが、ヴォルデモートと接触すればどうなるか…容易に想像できることじゃ…」

 

「そぉ…それで、もしその『闇』の魔女が現れたとして、どうするつもりかしら?」

 

「その時は、ヴォルデモートには絶対に接触させてはならぬと考えておる。どんな手を使ってもじゃ…」

 

「どんな手を使っても…ねぇ…案外物騒な事を言うのね。もうちょっと平和主義かと思っていたわ」

 

「もちろんそうならぬことが一番じゃ…じゃが…魔法界を…世界を守る為には仕方のない犠牲じゃとワシは考えておる…」

 

世界を守る為にか…大きく出たものだ。

だが嘘を付いている様には見えない。

しかし、どんな手を使っても守るという思想のはあまりにも………

 

「世界を救うね…」

 

「そうじゃ、他に質問はあるかのぉ?」

 

「最後に一ついいかしら?貴方はこの石を何に使うつもりかしら?」

 

石の使い道、これがある意味一番重要だ。

ダンブルドアの口振りからするに、自らに永遠の命を与えるという事はしないだろう。だからこそ、ダンブルドアが石を求める目的を知る必要がある。

 

少しの沈黙の後ゆっくりと口が開かれた。

 

「破壊するのじゃ、こんな物この世に在ってはならぬ」

 

破壊する?だとしたら、なぜこの石をここまで厳重に警備していたのかという疑問が残る。

 

「なら、なぜここまで厳重に守っていたのかしら?すぐに壊せたはずなのに、案外、収集癖でもあるのかしら?」

 

「奴を、ヴォルデモートをおびき寄せる為に用意したのじゃ。石があると分かれば、奴は必ず来るはずじゃからな」

 

「なるほどね、でも残念ね、逃げられたようだわ」

 

「あぁ、とても残念じゃ、じゃからこそ石を破壊するのじゃ…同じ手が奴に二度も通じるとは思えんしの…」

 

つまりは、用済みとなった物を他の誰かに利用される前に壊したいという事だ。

 

「そう言う事なら渡してあげてもいいわ。でも一つ条件があるわ」

 

「それはなんじゃね?この老いぼれに出来る事など少ないぞ」

 

「ただで渡す気はないのよ…そうね、ぬいぐるみが良いわ、飛び切り可愛いぬいぐるみと交換よ」

 

さっきまで警戒し続けていたダンブルドアが私の言葉を聞いて心底安心しきったような顔になり自然と笑い始めた。

 

「そう言う事なら任せよ。後日特別なのを用意しよう。さて、石を渡してもらおうかの?」

 

「えぇ、契約成立ね」

 

 右手を差し出しているダンブルドアの方へ石を放り投げる。

 

投げられた石は奇麗な放物線を描きダンブルドアの眼前まで迫る。

 

ダンブルドアは石に手を伸ばす。

 

あと少しで石に触れる…その瞬間…

 

 

 

 

私は右手の銃を石へと向け引き金を引いた。

 

周囲に銃声が鳴り響き、ダンブルドアの手に収まる寸前…弾丸によって賢者の石は粉々に砕かれた。

 

目の前で石を破壊されたダンブルドアは少し肩をビクつかせ驚いた様子だった。

 

 

「セレッサ…お主…」

 

「壊す手間が省けたわね」

 

「…そうじゃ、それが正しい…」

 

少し残念そうに呟いた。

 

「ハリーはワシが運んでおこう、他の者も皆無事じゃ」

 

「そう、なら失礼するわね」

 

ゆっくりとダンブルドアの横を抜け階段を登る。

 

後ろではハリーを起こそうと私のかけた結界に四苦八苦しているダンブルドアの姿が見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 来た道を戻り、隠し扉から顔を出すと部屋の端には白い布に包まれた犬の死体が有り、その前でハグリッドが胡坐をかきながらスキレットに入れた酒を煽っていた。

 

「セレッサ…か…お前さんがやったんだろ。ハーマイオニーが、お前さんが残ったって言っておった」

 

「えぇ、そうよ」

 

「そうか…強いんだなお前さんは…フラッフィーの奴がこんなになっちまうとはな…」

 

こちらに顔を向けず、ただ無感情に声をかけてくる。

ダンブルドアにすればただの番犬だったのだろうが、彼からすれば大切なペット…友人と言ってもいい存在だったのだろう。

 

「フラッフィーは強かったか…ちゃんと番犬の役割は果たせてたか…」

 

「えぇ、最後まで喰らい付いてきたわよ、とても立派なワンちゃんだったわ」

 

「そうか…お前さんが言うんだからそうだったんだろう…すまねぇが…俺はもう少しここに居る、ハーマイオニー達は医務室に居るはずだ」

 

ハグリッドはそういうと再び酒を呷りながら、死体に寄り添っていた。

 

 

 

 地上に出ると4時を過ぎた辺りだった。

案外短い間に終わったのだと思いながら周囲を確認し杖を手にとり、バーへと向かった。

 

 

店に入るといつものbgmが流れており、奥ではロダンがグラスを磨いていた。

 

「よぉ、遅かったじゃないか」

 

「えぇ、色々あったのよ。いつもの頼むわ」

 

いつもの様にシェイカーを振るいカクテルが目の前に出される。

 

「奴ら、こっちの世界に居たわ」

 

「ほぉ…道理でこっちじゃ大人しいわけだ」

 

「えぇ、これからもっと活発になるかもしれないわ、嫌な予感がする」

 

「忙しくなりそうだな、コイツを渡しておこう、もしもの時に役立つはずだ」

 

カウンターの上を小箱が滑り私の前でピタリと止まった。

 

「あら、プレゼント。なにかしら?」

小箱を開けると中には蝶の形を模した腕輪が入っていた。

 

「プーリーの守護蝶だ、身代わりになる蝶を呼び出せる、まぁよほどのことがない限り必要ないだろうがな」

 

そう言うと、ロダンは葉巻に火をつけ一息ついた。

 

プーリーの守護蝶

遥か昔、ラサの王妃に影武者として仕えた魔女トゥーランドットが作ったと伝えられる秘宝で、使用者に守護蝶の加護をもたらす。守護蝶は使用者の周りを漂うように飛び、使用者の身代わりとなって攻撃を受け、散っていく。

 

「助かるわ、これからもっと派手なパーティーがあるかもしれないの」

 

小箱からプーリーの守護蝶を取り出し右腕に装着する。

 

「それじゃあ、行ってくるわね」

 

「あぁ、行ってこい」

 

私は右手に杖を掴み、ホグワーツを思い浮かべる。

バーから姿を消す瞬間右足の銃で、壁に磔にされている天使の眉間をぶち抜いた。

 

「ビューティフル」

 

 

 

 

 ホグワーツに戻ったのは5時を回っており、周囲には陽の光がさしていた。

ハーマイオニー達の顔でも見に行こうかと思ったが、今の時間に医務室に行っても迷惑がかかるだろう…仕方がないので自室に戻り、今日は休むことにした。

 

次の日の朝、私は彼等を見舞いに行く為、医務室へ足を運んだ。

部屋の中ではハーマイオニーだけが目を覚ましており、他の2人はまだ眠ったままだ。

 

「ベヨネッタ!お見舞いに来てくれたの?」

 

「えぇ。貴女以外は、まだ寝ているようね」

 

「そうなのよ、先生の話だとあと2~3日は眠ったままらしいわ」

 

そう言って二人の方へ視線を向けた。

その時、医務室の扉が開き奥からダンブルドアがやってきた。

 

「ダンブルドア先生!」

 

「おぉ、二人とも、体調は大丈夫かのぉ?」

 

「はい、私はこれといって悪いところは無いです」

 

「そうか、それは良いことじゃ」

 

そう言うとダンブルドアが二人の枕元に百味ビーンズの箱を置いて行った。

 

ハーマイオニーにはカエルチョコレートを手渡した。

 

「さて、セレッサ。お主にはこれじゃ」

 

それなりの大きさのある箱を手渡された。

開けると中には、チェシャ猫のぬいぐるみが入っていた。

 

「どうじゃ?気に入ってくれたかの?」

 

「えぇ、案外良いセンスしてるわね」

 

「そうじゃろう?ところで、少し話が有るのじゃが、後で校長室へ来てくれんかの?合言葉はカエルチョコレートじゃ」

 

「合言葉まで教えるなんて、拒否権がないみたいね」

 

「手厳しいのぉ」

 

どこか、とぼけたように顎の髭を弄っていた。

 

「まぁいいわ、後で行ってあげるわ」

 

「そうか、では待っておるでのぉ」

 

そう言って私達に手を振りながら医務室から退室していった。

 

私達のやり取りを見ていたハーマイオニーが少し驚いた表情をこちらへ向けた。

 

「貴女…何をしたの?ダンブルドア先生に呼び出されていたようだし…」

 

「大したことをした覚えはないわね…」

 

「信用ならないわね…フラッフィーだって貴女がやったんでしょ?一体どうやったのよ?」

 

「秘密よ、女は秘密があるものよ」

 

「よくわからないわ…」

 

「貴女にもいつか分かるはずよ、それじゃあそろそろ行ってくるわ」

 

なんとも、納得いかないという感じだったが私が扉から出ていく時には手を振り見送っていた。

 

 

「カエルチョコレート」

 

 しばらく歩き、校長室の前に行くと2体のガーゴイルが立っていたが、合言葉を言う事ですんなりと道を開けた。

 

しばらく道を進むと1枚の扉が目の前に現れた。

 

扉を蹴りで開けると中にはダンブルドアが椅子に深く腰を掛けていた。

 

「待ったかしら?」

 

「いいや、特には待ってはおらん…じゃがノックくらいはして欲しかったの」

 

「次からそうするわ、本題に入りましょうか」

 

「そうじゃの、早速じゃが、あの出てきた奴らは何者じゃ?ヴォルデモートは『天使』と言っておったが本当かの?」

 

「えぇ、アレは天使よ…でも貴方が思っているような生易しいものじゃないわよ」

 

「そうじゃったのか、じゃがなぜヴォルデモートは天使を…」

 

「さぁ?そこは分からないわね…禄でもない奴が絡んでいるという所かしら?」

 

「厄介なことになるのぉ…」

 

 

ダンブルドアは深いため息を吐きながら手元にあったカエルチョコレートを口に運んでいた。

 

「さて、お話は以上かしら?」

 

「もう一つじゃ、お主が使っていた魔法、そしてお主が呼び出した巨大な魔道生物…アレについて教えてくれんかの?」

 

「ペットよ、それじゃダメかしら?」

 

「たしかホグワーツに連れてきて良いペットにはあのような魔道生物は含まれておらんかったはずじゃがの?」

 

「そうだったわね、申請を出せば大丈夫かしら?躾はちゃんとしてあるから危険はないわよ」

 

私の提案にダンブルドアは熟考したようだったが、しばらくして口を開いた。

 

「まぁ…今回は石を守った功績もある…大目に見るとしよう…魔法についてはどう説明するのじゃ?」

 

「秘密よ、もしくはオリジナルの魔法という事にしておきましょうか」

 

「納得いく説明が欲しいのじゃがの…」

 

 

次の瞬間

一瞬にしてダンブルドアが杖を構える。

 

しかし、それより早く右手の銃を額に突きつけ、左手ではゆっくりと杖を構えた。

 

「それは、マグルの世界の銃というやつじゃな、じゃが…とてつもない魔力を持っているようじゃな…なぜそんなものを持ち込んでおる?」

 

「ただのアクセサリーよ、これにも許可が必要かしら?」

 

お互いに目を離さずに緊迫した空気が流れる。

 

まさに一触即発…しかし現状で有利なのは私だ、それについてはダンブルドアも重々理解しているようで、目線のみ鋭くさせ、杖を握っている手には力を込めているようには見えなかった。

 

「分かった、生徒に向けないと言うなら許可しよう」

 

「理解が早くて助かるわ。私に危害を加えようとしないなら、使うつもりも無いから安心なさい」

 

ダンブルドアは渋々杖を収めた。

それを確認してから私も銃をポーチへ仕舞い込んだ。

 

 

「話は終わりね、それじゃ失礼するわ」

 

踵を返し入り口の扉に手をかけると、背後からダンブルドアが声をかけた。

 

「セレッサよ…」

 

「なにかしら?」

 

「その力を悪用しない事を祈っておる…お主が悪の道に走らぬ事を…」

 

「力の使い方は私が決めるわ。それに、悪なら正す事ができるはずよ」

 

「悪なら正す事ができる…か…」

 

「えぇ、お父さんの言葉よ。失礼するわね」

 

そのまま扉を開き校長室を後にした。

 

後に残されたダンブルドアは虚空を見て虚しそうに何かを呟いていた。

 

 

 

 

 2日が過ぎたころにはハリーが目を覚ました。

目を覚ましてからは、ずっと質問攻めだった。

 

「ベヨネッタ、君が出したあの犬みたいなのはいったい何だい?」

 

「あれはペットよ、ダンブルドアにも許可は得ているわ。」

 

私は軽くハリーを流しながら大広間へ向かった。

本日は学年末パーティーが開かれており、大広間はスリザリンのメインカラーであるグリーンで装飾されており、壁には蛇の描かれた横断幕で覆われていた。

 

私はハリー達と共に席へ着いた。

 

「まったくスリザリン一色というのは気色が悪いな」

 

「そうだね、7年連続で寮対抗杯を獲得したとはいえ、これ不愉快だ」

 

ハリーとロンは不貞腐れながらスリザリンの方を睨みつけていた。

 

スリザリンの方を見てみると、マルフォイがとても誇らしげに周囲の人と話していた。

 

「さて、諸君!また1年が過ぎた!」

 

ダンブルドアの大声が響いた。

 

 

「目の前のご馳走にかぶり付く前にまずは、寮対抗杯の点数を発表する。4位、グリフィンドール312点。3位、ハッフルパフ352点。レイブンクローは426点。そしてスリザリン、472点。」

 

次の瞬間、スリザリンの寮からは歓声が上がり、スネイプも嬉しそうに拍手をしていた。

 

「うむ、スリザリンの諸君よく頑張ったのぉ、しかし最近の出来事も勘定に入れなくてはならん」

 

スリザリンの歓声が一瞬にして止まり、ダンブルドアが言葉を続けた。

 

「まず最初はロナウド・ウィーズリー。近年稀にみるチェスの腕前を披露し最高のチェス・ゲームを見せてくれたことを称え、グリフィンドールに50点を与える」

 

地下にあったチェスを攻略したのはロンだったのか。

 

「次にハーマイオニー・グレンジャー。火に囲まれながらも、冷静な論理を用いて対処したことを称え、グリフィンドールに50点を与える」

 

 

ハーマイオニーは驚いたような顔をし嬉し涙を流していた。

ハンカチを取り出しハーマイオニーに手渡してやった。

これで一気に点数が100も加点さてたことになる。

 

「3番目はハリー・ポッター。その強靭な精神力に加え、並外れた勇気を称えグリフィンドールに50点じゃ」

 

次の瞬間にはグリフィンドール全体から歓声が上がった。

 

「スリザリンとあと10点差だわ!」

ハーマイオニーが涙を拭きながら叫ぶように歓声を上げた。

 

「さて、次じゃ。敵へ立ち向かう勇気も素晴らしいものじゃが、友に立ち向かって行く事も十分に勇気のいる行動じゃ…そこで、ネビル・ロングボトムに10点を与えたい」

 

次の瞬間にはスリザリンを除く全ての寮から歓声が上がった。

「これで、並んだわ!」

これで年連続寮対抗杯独占を阻止することができたのだ。

 

「さて最後じゃ。ミス・セレッサ、その圧倒的な魔法技術で友を守り、さらには強敵にも臆することなく立ち向かったその勇気を称え…100点を与えたい」

 

 

途端に大広間全体が揺れる程の歓声が上がった。まるで爆発でも起こしたかのような衝撃だ。

ふとスリザリン寮の方を見ると、ほぼ全員が項垂れており絶望した顔をしていたが、マルフォイだけはこちらに視線を向け小さな拍手をしていた。

そんな彼に私は軽く手を振ることで返したのだった。

 

 

 

「さて、それでは飾り付けを変えなくてはならんの」

 

ダンブルドアが軽く手を叩くとスリザリン一色だった装飾が、赤と金色のグリフィンドールカラーになり。蛇の横断幕もライオンが描かれている物へと変化した。

 

 

 年末パーティーが終わった翌日には学年末テストの結果が張り出されたいた。

ロンとハリーは全体より若干高い得点を得ており、自分たちで驚愕しているようだった。

 

ハーマイオニーは全体で2位で私が1位だった。

ただ筆記の方では私が2位でハーマイオニーが1位だった。

 

「筆記なら勝っていたのに、やっぱり実技では貴女には勝てないわね」

 

そう言いながら私へ称賛の拍手を送っていた。

 

全てが終わり夏季休暇が始まろうとしていた。

持ってきた荷物を全てポーチに仕舞、ホグワーツ特急へ乗るべく駅へと向かう。

駅に着く寸前に背後からマルフォイが声をかけてきた。

 

「やぁ、セレッサ、素敵な腕輪だね。モチーフは蝶かい?」

 

「ありがとう、これお気に入りなのよ」

 

「よく似合っているよ、それと寮杯の優勝おめでとう」

 

「あら、スリザリンの貴方からそんなセリフが出るとは思わなかったわ」

 

「僕だってグリフィンドールの生徒に言いたくは無いさ、でも君に負けたと思うと仕方がないと思えるよ」

 

 

「そう言ってもらえると嬉しいわ。でも最後の追加点は卑怯だったわ、アレ獲得したのは3日前よ」

 

「確かにそうかもしれないね。でも僕らがどんなに頑張っても、君の100点を追い越す事なんて3日じゃ無理さ。それにしても凄いじゃないか、何をやったらそんな得点を取れるんだ?」

 

「そうね…天使を狩った位かしらね?」

 

「天使って…おかしなことを言うな………本当なのかい?」

 

マルフォイは少し不思議そうに呟いた。

 

「本当よ、でも貴方が考えているような可愛らしいものじゃないわよ」

 

「天使って恐ろしいものなのかい?」

 

「えぇ、余り関わらない方がいいわ。貴方みたいなタイプは格好の標的よ」

 

「分かった…注意するよ」

 

 直後に汽車が汽笛を鳴らした。

時計を見ると発車時刻の5分前になっていた。

 

「そろそろ時間だわ、それじゃ私はこれで」

 

「あぁ、また休み明けに会おう」

 

こうして私は電車に乗り込んだ。

 

 

 電車の中ではハリー達のコンパートメントに入り込みこの前の事を話したりしていた。

 

しばらく話し込んでいるとすぐに駅に着いたようで、私はいつもの黒を基調とした服に着替え3人と一緒にプラットホームへと降りた。

 

「夏休み良かったら僕の家に泊りに来ない?」

 

ロンがいきなりそう言うとハリーがとても嬉しそうな顔をした。

 

「いいね!僕も楽しみができるのは嬉しいよ」

 

「それじゃ、フクロウ便を出すよ。君たちにも送るから、よかったら来てよ」

 

「えぇ、気が向いたら行かせてもらうわ」

 

「私も、家族と話してから返事を書くわ」

 

「楽しみにしてるよ、それじゃまた」

 

ロンはそういうと大勢いる兄弟たちと共に自宅へ向かって行った。

 

「じゃあ、僕もこれで一度帰るよ」

 

「じゃあね、ハリー、ベヨネッタ、私もこれで失礼するわね」

 

こうして各々が自宅へと帰るべくその場で解散した。

私は周囲の人が居なくなったのを確認して、いつもの様にバーへと帰っていった。

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか?

今回で賢者の石編は終了となります。

何とか無事投稿しきれました。

現在、秘密の部屋編を執筆中なのですが、ようやく中盤を書いていると言ったところです。

ですので、続編の投稿は、秘密の部屋編を書き上げてから、今回と同じように、1日1話くらいのペースで投稿していきたいと思います。

それでは皆様、しばらく時間をいただきますが、これからもよろしくお願


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

秘密の部屋
ダイアゴン横丁


お待たせしました。

ようやく、秘密の部屋を書き終えたので投稿を再開したいと思います。
今回もよろしくお願いします。


 

 

 ホグワーツから戻り、数日が経った。

「The Gates of Hell」に入ると、そこにはいつもの様にグラスを磨いているロダンと、カウンターでマティーニを飲んでいるジャンヌの姿があった。

 

「おぉ、来たか」

 

「セレッサか、久しいな、そっちの様子はどうなんだ?何でも上の連中が動き出したという話だが」

 

「えぇ、ヴォルデモートに使役されていたわ」

 

「ヴォルデモート……確か闇の帝王だったか。とてつもないビックネームだな」

 

マティーニを煽りオリーブを食べながら鼻で笑う様にジャンヌが軽口を叩いた。

 

「えぇ、神を配下にしたと言っていたわね」

 

私もカウンターへ着きソルティードッグを注文する。

 

「神か…嫌な奴を思い出してしまうな」

 

「えぇ、私もアイツを思い浮かべていたわ」

 

私達が思い浮かべていたのは混沌神エーシルの事だ。

かつて死闘を繰り広げ最終的には消滅させたはずなのだが…

 

「待たせたな」

 

テーブルに置かれたソルティードッグに手をかける。

 

「はぁ…ややこしい事になりそうね」

 

「あぁ、私の方でも探ってみる。お前は引き続き魔法界で調査を続けてくれないか?」

 

「えぇ、そうするわ」

 

私は再び酒を煽り空になったグラスの淵をなぞり、考えに耽っていると、ロダンが2枚の手紙を私に差し出した。

 

「お前宛に手紙だ」

 

「誰からかしら?」

 

1枚はホグワーツからの教材のリストだった。

だがその大半がギルデロイ・ロックハートという人物の本が並んでいた。聞いたことの無い名前だが有名なのだろうか?

 

 

もう1枚はロンからの手紙だった。

 

『やぁ元気にやっているかな?もし良かったら今度教材を一緒に買いに行かないか?ハリー達にも声をかけてあるんだ!それじゃあ楽しみにしてるよ』

 

「ホグワーツの連中か」

 

「えぇ、返事を書きたいのだけど、紙とペンを借りれるかしら?」

 

「あぁ、使いな」

 

ロダンから羊皮紙とペンを借り一緒に行く旨と時間と曜日を訪ねる内容を書きカウンターの上へ置いた。

 

「お願いできるかしら?」

 

「悪魔をフクロウ代わりに使うのか?」

 

「フクロウよりは有能でしょ?」

 

「フッ、当り前だ」

 

テーブルの上の手紙を受け取るとロダンはカウンターの裏から1匹のフクロウを取り出すと、手紙を手渡し店外へ放った。

 

「フクロウなんていたのね」

 

「ペットには最適さ、お前も飼ったらどうだ?」

 

「遠慮しておくわ、今飼っている子たちで十分よ」

 

「奴らをペット呼ばわりか、セレッサらしいな」

 

「ホグワーツではペットとして申請して許可をもらっているわ」

 

「中々すごいところだな…」

 

「えぇ、ジャンヌも来たらいいわ、暇潰しにはちょうどいいわ」

 

「いや、今回は遠慮しよう」

 

マティーニのグラスを回していたジャンヌの表情はどこか引き攣っているように見えた。

 

 

 

 

 

 数日が経った頃にはロンからの手紙も来ており、そこに書かれた日が訪れた。

 

「今日行くのか?」

 

「えぇ、あなたも付いて来るかしら?」

 

「いや、今回は遠慮させてもらおう」

 

「そう、ならお土産でも買ってくるわね」

 

「あぁ、良いものを期待しているぞ」

 

私は杖を手に取りダイアゴン横丁の入り口を思い浮かべた。

 

 

周囲の雑音が耳に入り私はゆっくりと目を開く。

ダイアゴン横丁に着いたようで多くの人々が行きかい狭い道を埋め尽くしていた。

 

「さて…集合場所はこっちだったわね」

 

私は送られてきた地図に従いダイアゴン横丁を歩いて行った。

 

「ベヨネッタ、こっちよ!」

 

声のする方を見るとハーマイオニーが手を振っており、その周りにはロンを含めたウィーズリー一家が勢ぞろいしていた。

 

「やぁ君にも紹介するよ、ここに居るのが僕のパパとママだ。そしてこっちに居るのがジニー。今年からホグワーツに入るんだ」

 

「そう、よろしくね。私のことはベヨネッタかセレッサ、好きな方で呼んでいいわよ」

 

「ベヨネッタ?セレッサ?貴女は二つも名前があるの?」

 

ジニーは首を傾げ不思議そうに私を見た。

それに釣られてロンの両親も興味深そうに話しかけてきた。

 

「二つもあるなんて珍しいわね」

 

「あまり聞かないね。もしかしてマグル特有の文化だったりするのかい?だとしたら詳しく教えて欲しいな」

 

いや、むしろジニーよりこの両親の方が興味深く聞いてきた。

 

「はぁ…ウィーズリー家って全員こうなのかしら?」

 

私が溜息交じりに呟くとロンは苦笑いを浮かべながら謝罪した。

 

「その…ごめん、多分悪気はないと思うんだ」

 

「まぁ、気にしない事にするわ」

 

「そうしてくれると有り難い」

 

「えぇ、ところでハリーはまだ来てないのかしら?」

 

「そういえばそうだね。さっきまで一緒に居たんだけど…」

 

周囲を見渡すと奥の方で巨大な影が近付いて来るのが見えた。

遠目で見てもわかるがあのシルエットはハグリッドだろう。

 

「ハグリッド!」

 

ロンも気が付いたのかその場で大声を上げ手を振っていた。

 

「ハリー!」

 

驚いたことにハグリッドの隣には煤まみれになり、眼鏡が少しひび割れたハリーが居た。

一体何に巻き込まれたら、そこまでボロボロになるのだろう…

 

「あぁ…あ…ハリー、良かったどこへ行っていたの心配したのよ」

 

ロンの母親がハリーに駆け寄り、きつく抱きしめていた。

その後、慣れた手付きでハリーに着いていた煤などを払い落とし、魔法で眼鏡を直してやる様など洗練されていた。

 

「よかったなハリー、でももうあんな場所には行くんじゃないぞ。俺が居たから良かったようなものの…」

 

「どこへ行っていたのかしら?」

 

「ノクターン横丁」

 

「ノクターン横丁!そんな危険なところに…ハグリッド、ハリーを見つけてくれたありがとう」

 

そういうと、ハグリッドとロンの母親は大げさに握手をした。

 

「さて、俺はもう行かにゃならん。みんな、ホグワーツで、またな!」

 

そう言うとハグリッドは周囲の人を両脇に移動させながら大きな歩幅でどこかへ消えていった。

 

「さて…ハリーも来たことですし、移動しましょう」

 

こうして私たちは今年度使う教科書を買う為に書店へと移動した。

 

しばらく人混みを歩いて行くと、大勢の人が詰め寄っている店が目に入った。

店の看板にはフローリッシュ・アンド・ブロッツ書店と書かれていた。おそらくこの書店がお目当ての場所なのだろう。

 

「凄い人だかりね、パーティーでもやっているのかしら?」

 

「いや、そうじゃないぜ、アレを見てみろよ」

 

イヤイヤそうにロンが書店を指さした。

指された方へ視線を向けると、そこには『ギルデロイ・ロックハートサイン会』と書かれた大きな垂れ幕が出ていた。

 

「ギルデロイ・ロックハート?どこかで聞いたことある名前ね…新手の歌手かしら?」

 

「もしかしたら芸人かもよ」

 

「ちょっと…あなた達ギルデロイ・ロックハート様を知らないの?」

 

「興味がないわ」

 

「うん、僕も興味がないよ」

 

私とハリーがそう言うとハーマイオニーは呆れたようにため息を吐いた。

 

「あなた達…彼の書いた本は今年の教科書なのよ!それにどれも引き込まれる内容だったわ」

 

「案外ミーハーなのね」

 

「良いじゃない別にそんなこと…それより私サイン貰ってくる!」

 

そういうと、ものすごい勢いで書店に走りこんでいった。

 

 

 まるで書店の中は戦場のようだなと思いながら店内を眺めていると後ろから聞き覚えのある声に話しかけられた。

 

 

「やぁ、セレッサじゃないか久しぶりだね」

 

振り返ると、マルフォイと恐らく父親だと思われる人物がゆっくりと歩み寄ってきた。

 

「あら、久しぶりね、貴方も本を買いに来たのかしら?」

 

「まぁそんなところだよ、そうだ、父上紹介します、こちらがミス・セレッサです」

 

「えぇ、よろしく」

 

「ルシウス・マルフォイだ。息子と同じスリザリン出身だ。不出来な息子と仲良くして貰っていると聞いている」

 

「こちらこそ楽しませてもらっているわ、特にからかった時のリアクションがいいわね」

 

「そういって貰えるとこちらも育てた甲斐があるというものだ。それにしても、君があのグリフィンドールだとは信じ難いな、君ほど優秀ならスリザリンに入ればよかったのに」

 

「流石親子ね、同じこと言うのね」

 

「フッ、そうだな…これからも息子と仲良くやってくれたまえ」

 

そう言うとルシウスが私に手を差し出してきた。

 

「えぇ、喜んで」

 

その手を受け取り私たちはその場で握手を交わした。

その時だった。

 

「ルシウス!その手を放せ!」

 

声がする方へ目線を向けるとそこにはロンの父親が立っていた。

 

「おやおや、これはこれは…ウィーズリー…いきなり大声を出してみっともない」

 

「君こそ、その手を放したらどうだ?一体彼女に何をするつもりだ?闇の道へ引きずり込むのだろう」

 

私達はただ握手をしていただけなのだが…一体何を勘違いしたのだろう?

 

「言いがかりはよしてくれ、彼女とは、今後とも息子をよろしくと挨拶していただけではないか」

 

「嘘を言うな、彼女はグリフィンドール生だぞ!」

 

「はぁ…何を言っているんだか…君もそう思うだろ?ミス・セレッサ」

 

この状況で私に話を振るのか…やはりスリザリン出身だけあって狡猾だな。

 

 

「えぇ、ただ握手をしていただけよ、人攫いにでもあったと思ったのかしら?」

 

「そ…それは…」

 

「まぁいいさ、それより本を買うんじゃないのか?人数分の本を買う金はあるのか?少し貸してやってもいいぞ」

 

「貴様に借りるつもり等ない!帰れ!」

 

「生憎と私も、息子の教科書を買わなければならないのだよ」

 

そう言うとルシウスは堂々と大股で歩き書店の中へ入っていった。

その後を追う様にロンの父親も少し小走りで入店していった。

 

 彼らが書店に入った後、入り口で何やら言い争いをしているようだ。

マルフォイ家とウィーズリー家…どこまで言っても犬猿の仲なのだろう。

 

巻き込まれるのも癪なので私は外で待つことにする。

 

数分間、いがみ合っていた両者は互いに捨て台詞を吐き正反対の方向へ歩いて行った。

 

うるさい厄介事が消え去った後、私はゆっくりと書店で必要な本を探し始めた。

 

ついでに、ジャンヌへの土産でも見よう。

ロックハートの本を籠に入れ、後は適当にジャンヌが好きそうな本をピックアップしていった。

 

それにしても、こちらの本はかなり値が張るようだ。

まぁ、印刷技術も魔法を使っている為、人件費がかかるのだろう。

電子書籍など見せたら、それこそ『魔法の板』になるのかも知れない。

 

そんなバカげたことを考えながら、会計を済ませ、ハリー達と合流した。




秘密の部屋は少し短いかもしれませんね。

それなのにこれだけ時間がかかるとは…
もっと執筆速度を上げたいな


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空飛ぶ車

今回は、ベヨネッタが車に乗ります。

車に乗ります。


 今日から新学期が始まる。

私はキングス・クロス駅に到着したばかりだ。

 

時計を見ると発車まであと15分以上ある。

 

さて、そろそろ9と3/4番線に向かうとしよう。

去年と同じように柱があるホームへ向かうと、そこには、柱の前でカートを盛大に横転させているハリーと一緒になって荷物を拾っているロンの姿が見えた。

 

私の足元にまで教科書が飛んでくる程の勢いでぶつかった様だ。

教科書を拾い上げると、表紙に描かれているロックハートが気持の悪いウィンクをしていた。

 

「落とし物よ、盛大にやらかしたわね」

 

「ベヨネッタ!どうして君がここに…」

 

「私だって汽車に乗るのよ。それより、何があったのかしら?」

 

「よくわからないんだ。ハリーが入ろうとしたら急に入れなくなったんだ!」

 

ロンは少しパニックを起こしているのか、大声を上げている。

 

「そうなのね、とりあえず場所を移しましょう。ここじゃ人目に付くわよ」

 

周囲に居る人々は私達を好奇な目で見ていた。

 

それもその筈だ。柱にぶつかって大声を上げていれば誰だって見てくる。奥に居た駅員に至ってはこちらをチラチラと目配せしていた。

 

「そうだね、とりあえず移動しよう。ロンこっちだよ」

 

 私達はハリーに連れられホームの端まで移動した。

 

「どうしよう!あと少しで発車時間だよ!」

 

ロンの言う通り発車の3分前となっていた。

 

私達は何度か試したが一向に通れる気配はなかった。

 

「もう間に合わないよ…」

 

ハリーがそう言うと同時に時計の針は無情にも発車時刻を指した。

 

「行ったわね。さてどうするのかしら?」

 

「どうするも何も…パパもママも帰っちゃったと思うし…」

 

「大変ね、タクシーでも呼ぼうかしら?」

 

「タクシーじゃホグワーツまで行けないよ…」

 

ハリー達の表情はどんどんと暗いものになっていった。

 

私は、一度店へと戻り、そのままホグワーツへ向かっても良いのだが、それだと彼らをここへ置いて行ってしまう事になる。

かと言って、店に彼らを連れていくのは流石に刺激が強すぎるかもしれない。これは最後の手段にしておこう。

 

「そうだ!車だよ!」

ロンの表情が一気に明るい物へと変わり大声を上げた。

 

「どうしたんだよ?」

 

「車だよ!パパの車でホグワーツまで向かうんだ!」

 

 今一話が理解できなかったので詳しく聞くと

どうやら、ロンの父親の空飛ぶ車でホグワーツに乗り入れるという事だった。

先程まで暗い顔だったハリーはその話を聞いて目を輝かせていた。

私自身も、退屈な汽車での移動よりは刺激的だと思いその意見に賛同した。

 

 

「いいじゃない。私も乗せてって貰えないかしら?」

 

「もちのロンさ!運転は任せろ!」

 

「君は凄いよ!ところでカギは君のパパが持っているんじゃないの?」

 

「ヘヘッ」

 

ロンは不敵な笑みを浮かべるとポケットから一つのカギを取り出した。

 

「こっそり持ち出したんだよ!」

 

「ロン…君ってやつは…最高だ!」

 

2人はすっかりハイテンションになっていた。

やっぱり男の子だけあって冒険染みたことが好きなのだろう。

 

「さぁ!行こうぜ!」

 

ロンは意気揚々と車へ向かい、その後をハリーは荷物の乗ったカートを押しながら追いかけていった。

 

 

 「これがそうさ!どうだ凄いだろ!」

 

ロンが自慢げに指差す先には、お世辞にも奇麗とは言えないボロボロの旧車がパーキングエリアでは無い場所に駐車されていた。

運の良い事にまだ違反切符は切られていないようだ。

 

そもそも、こちらの世界に違反切符があるのかさえ分からない。

 

2人は車のトランクに荷物を無理やり詰め込むと、ロンは運転席、ハリーは助手席に、私は後部座席へ腰かけた。

 

「ロン、今更だけど運転できるの?」

 

「任せろって」

 

ロンがそう言うと鍵を差し込み、エンジンを起動させた。

 

不安を煽る様な、弱々しいエンジンを始動させた後、緑色のボタンを押すと車体が透明になった。

これも一種の魔法なのだろう。

 

「出発だ!」

 

かなりハイテンションのロンがそう言うと車は中々の速度でロンドンの上空へと飛び上がった。

しかし、そこで目くらましの魔法が切れたのか、宙に浮いた車体が姿を現した。

 

「ヤバイ!」

 

慌てたロンは先程押したボタンを何度も連打するが、再び透明になる事は無かった。

 

「どうしよう。このままじゃマグルに見られる!」

 

軽度のパニックになったロンは更に連打の速度を上げていった。

 

「はぁ…埒が明かないわね」

 

私は助手席の扉を開けると車の屋根へと移動した。

 

上空に居るためか、感じる風が思いのほか冷たかった。

 

「ベヨネッタ!何をするんだ!」

 

パニック状態にある彼等を無視し、杖を取り出し車体に押し付け魔力を込める。

 

すると車体が一瞬で透明になった。

 

「これでいいわよ、さぁ行きましょう」

 

「助かったよ!さぁ行くぞ!掴まってろよ!」

 

私が車外に居るにも関わらず、ロンは全速力で車を発進させた。

 

しばらくすると、ロンが窓から頭だけを出しながら、必死で何か言っているようだったが、風の音がうるさく、聞き取る事が出来なかった。

まぁ、表情から察するに謝っているのだろう。

私が、軽く手を振り返すと、何事もなかったかのように、首を引っ込めた。

 

 

 

 しばらく風を感じていると見覚えのある風景が見えてきた。

 

「見えてきたぞ!ホグワーツ特急だ!」

 

助手席のハリーが窓から顔を出しながらはしゃいで居る。

 

「本当ね、少し挨拶でもしましょうか」

 

私は杖を車体に押し込むと、車の操作を奪い取った。

 

「あれ?運転が…あれ?」

 

「悪いわね、ちょっと運転させてもらうわ」

 

「おい!何を言って…うわっぁ!」

 

ロンが言うよりも早く、私は限界速度を振り切り、ホグワーツ特急の近くまで詰め寄った。

 

「あら?あそこにハーマイオニーが居るわよ?手でも振ってみるかしら?」

 

「そんな余裕ないよ!ママぁ!」

 

ロンはハンドルにしがみ付き絶叫を上げていた。

 

「やぁ!ハーマイオニー!僕たち先行ってるよ!」

 

クィディッチの試合で高速に慣れているのかハリーはこの状況を楽しんでいるようだ。

 

 

汽車の中のハーマイオニーは驚愕したような表情をしながら何かを叫んでいた。

彼女の隣には見覚えのある少女…たしか、ロンの妹のジニーが黒い本を片手にこちらを見ていた。

 

 ホグワーツ特急を追い越しホグワーツの古城が見えてきた。

そろそろ慎重に移動しようと考え運転をロンへと返した。

 

「ここから先の運転は任せるわね」

 

「無茶苦茶だ!」

 

ロンは不満を零していたが慎重にホグワーツの敷地内へと車を進めていった。

 

「ベヨネッタ!さっきのは最高にcoolだ!」

 

「どうも、あなた案外スピード狂なのね」

 

「シーカーだから」

 

ハリーはただ一言そう答えた。

 

 

「くそっ!今度はなんだよ!」

 

ホグワーツ敷地内に入ってからしばらくすると、車の動きがどんどんと鈍くなり、高度も下がってきている。

 

「ベヨネッタ!さっき壊したんじゃないか?」

 

「そんな筈ないでしょ。さっきまで壊れてなかったのよ。整備不良じゃないかしら」

 

「古い車だったし、しょうがないかもね」

 

「ハリー!今はそんな事を言っている場合じゃ…どうしよう、どんどん落ちてるよ!」

 

エンジンの音が途切れ途切れになり、最終的には落下し始めた。

 

車が落ちるであろう場所には1本の巨木が生えていた。

 

「うわぁ!このままじゃあの木にぶつかるよ!」

 

「うわああああ」

 

車は完全にコントロールを失い木に向かって突っ込んでいった。

 

木にぶつかる手前で木が突然に動き出し、車を私達ごと絡め取った。

 

 

「なんだ?」

 

「暴れ柳だぁああ!」

 

「暴れ柳?知らないわねそんなの」

 

私達を絡め取った木は異物を排除しようとしているのか車を振り回している。

 

「ヴォエ!このままじゃ僕達バターになっちゃうよ!」

 

「私はバターよりジャムの方が好きだわ」

 

「うわぁあ!」

 

叫び声を上げている2人の首元を掴むと車の屋根を蹴破り車外へと出た。

 

車外へ出ると木の枝が私達を絡め取ろうと蔦のようなものを伸ばしてくる。

 

蔦を避け、枝を折りながら脱出した後、彼ら二人を地面に横たえる。

先程から静かだと思っていたが気を失ってしまったようだ。

 

「ヴぉぉおおぉお!」

 

振り返ると暴れ柳が枝を伸ばし私達を再び絡め取ろうとしてくる。

 

「しつこいわね!触手は趣味じゃないのよ」

 

私は両手の銃を乱射し迫りくる枝に弾丸を撃ち込みバラバラに粉砕させていく。

 

その後、上空高く跳躍した後、暴れ柳目掛け両手両足の4丁一斉射撃による銃弾の雨を浴びせる。

 

弾丸を喰らい一部がバラバラになり、先程まで囚われていた車が解放され、ロン達の近くにキレイに着地した。

 

私も空中で体制を整え着地体制を取り、ロン達の近くへ落下した。

 

 

「ガシャン!!」

 

着地と同時に何かが、砕け散るような音が響いた。

足元を見ると、そこにはロンの車が大破した状態で私の足の下に存在した。

 

「ふぅ……………私は血も涙もないのよ」

 

私がそう言うと、何かを察したのか暴れ柳の動きが納まった。

 

それを見届けてから、車から降り、二人を起こした。

 

先に目を覚ましたのはハリーだった。

 

「あれ…ここは…」

 

「おはよう、良い目覚めね」

 

「おはよう…僕達確か…暴れ柳に捕まって」

 

「気絶していたのよ」

 

「そうだったのか…ありがとう、助かったよ」

 

「貸しにしておくわね」

 

「あぁぁぁあぁあ!どうなっているんだよ!!」

 

私達の後ろの方でロンが絶叫していた。

彼の目線の先には、暴れ柳によって壊滅的なダメージを受けた車が映し出されていた。

 

 

「どうしよう…パパに殺されるよ…」

 

覚束ない足取りでロンが車に近付き、エンジンキーを差し込みエンジンを始動させた。

 

その直後、力強いエンジン音が周囲に響いた。

 

最初の時よりも良いエンジン音だ。

 

「ラッキー、エンジンはまだ生きているわ」

 

「よくないよ!これじゃ…どうしよう…」

 

ロンが絶望したような表情で車を見ていると、その車が急発進し、どこかへ消えていった。

 

 

「あぁ…僕…もうだめだ…」

 

完全に両膝を地面に付け、天を仰ぎ始めた。

 

「ロン…元気出せって…ここに居たら危ないから、学校へ行こう」

 

「うん…あっ…」

 

「どうしたんだい?」

 

「僕の杖…折れてる…最悪だよ…ハハハ…」

 

 

ハリーは、最早抜け殻のようになったロンに肩を貸しホグワーツの入り口に向け歩いて行った。

 

 

 

 




ベヨネッタ関連で、車が現れると、大半大破すると思うんですよね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ピクシー

今回は、ピクシー達に犠牲になってもらおう。


 

 暴れ柳から脱出した後、何とかバレることなく、私達はホグワーツに侵入することができた。

 

「この時間ならまだ入学式は始まってない筈だよ、急いで皆と合流しよう」

 

私達は大広間まで一気に駆け抜けた。

大広間の扉は開かれており、多くの在校生が出入りしていた。

 

「よかった、間に合ったみたいだ」

 

ハリーは安堵の声を上げ、ロンはゆっくりと胸を撫で下ろした。

 

「あら?あなた達…いつの間にホグワーツに来たのよ?」

 

聞き慣れた声が聞こえて来たので振り返ると、ハーマイオニーが安堵の表情を浮かべていた。

 

「やぁ、さっき着いたばかりだよ」

 

「心配したのよ、乗っていた車はどうしたの?」

 

「どこかへ逃げていったわ」

 

「車が逃げるって…どういう状況なのよ…」

 

ハーマイオニーは理解できないようで深いため息を吐いた。

 

「それより、ハーマイオニー…僕等が車で来たこと先生達に言ったりしてないよね?」

 

「当り前じゃない、第一そんなこと誰が信じるっていうのよ」

 

「まぁ、確かにそうだよね」

 

安心したように二人は胸を撫で下ろした。

 

 

「これより入学式を始めます。在校生は急ぎ席に着きなさい」

 

急にやって来たマクゴナガルが号令をかけると、周囲に居た生徒が急ぎ大広間へ入っていった。

 

「私達も行きましょうか」

 

 

 

 席に着き少し待つと、マクゴナガルに連れられて新入生が列を成して入ってきた。

 

その後は去年同様に組み分けが行われ、それが終わったら歓迎会とダンブルドアの簡単な挨拶となった。

全てが終わり、各々が食事を楽しみ始める。

私も目の前に出された料理を皿に取り分け食べようとした。

 

 

「ミス・セレッサ、少し良いですか?」

 

口へ運ぼうとした瞬間に声を掛けられたので、不満そうに首を少し振りながら振り返る。

声を掛けてきたのは、マクゴナガルだった。

 

「何の用かしら?これから食事を楽しもうとしていたのだけれども…」

 

少し不機嫌そうに声を出しでしまったのでマクゴナガルの表情が少し強張った気がした。

 

「少し聞きたい事があります。一緒に来なさい」

 

「食事の後じゃダメかしら?まだ前菜すら食べてないわよ」

 

「ダメです。さぁ行きますよ」

 

そう言うとマクゴナガルが踵を返した。

どうやら拒否権は無いようだ。

ハーマイオニーは心配したような表情を向けて来たので大丈夫だと伝えた後、ゆっくりと席を立ち、マクゴナガルの後について行った。

 

 連れて来られた先は地下牢のようになっているスネイプの研究室だ。

マクゴナガルに促され中へ入って行くとロンとハリーの姿が見えた。

私はこの時点で大方の理由を理解した。

 

部屋の中にはスネイプの他にダンブルドアの姿も見えた。

 

「何で呼び出されたか理解できるな…ポッター」

 

「はい…」

 

「貴様等の乗っていた車がホグワーツ特急の近くでアクロバットな動きをしたと言う報告を多くの生徒から聞いているが、本当なのかね」

 

「はい…」

 

「なんて愚かなことを…その後車はどうなったのです?」

 

「暴れ柳に突っ込んだ後、どっかへ行っちゃいました」

 

ロンがどこか吹っ切れたような表情を浮かべながら、呟くようにに答えた。

 

「なぜ、車などで来たのですか!」

 

「どういう訳か知らないけど9と3/4番線に入れなかったのよ、整備不良かしらね」

 

「しっかりと管理されているのでそのような事は無いはずです」

 

「でも!通れなかったのは事実です!だから僕達何とかしないとと思って…」

 

「それで、車で来たわけですか…なんと愚かな…フクロウ便を使う等他に手はあった筈ですよ」

 

マクゴナガルがそう言うと二人はそのまま黙り込んでしまった。

 

「もう良いじゃろう、まだ新学期が始まる前ゆえ、減点は無しとしよう」

 

「校長!それでは甘すぎます」

 

「ただし違反を犯した事に違いは無い。この事は保護者へ報告せねばならぬ。それと後日、罰則を受けて貰う。異論は無いのぉ」

ダンブルドアがそう言うとハリーとロンはゆっくりとお辞儀をした。

 

「さてそれじゃあ…後は…」

 

「もう話は終わり?なら戻ってもいいかしら?今ならまだデザート位なら残ってるはずよ」

 

私はダンブルドアの言葉を遮るとその場の全員がこちらに顔を向けた。

 

「………そうじゃ、話は終わりじゃ。彼女の言う通りまだ食事を楽しむ時間くらいあるはずじゃ。戻ってよいぞ」

 

退出の許可を貰い先程まで座っていた席に戻り夕食を再開した。

 

 

「何が有ったのよ…2人とも…特にロンなんて死んだような顔をしているわ…」

 

「最悪な空の旅を経験したのよ」

 

もはや考える事をやめたロンは目の前にあった料理をヤケ食いしていった。

 

 

 

 

 

 

 数日が経ち、母親からの吠えメールで、更にどん底に落とされたロンの気力も回復し始めた頃。

授業では闇の魔術に対する防衛術が始まった。

ハーマイオニーは楽しみで仕方ないのか、先程からずっと教科書を読んでは表紙を眺めていた。

 

しかし驚いたことに今年の闇の魔術に対する防衛術の授業で使う教科書は7冊にも及んでいた。

 

しかも全てロックハートの作品の本だ。

本の内容はただの自伝小説のようなものだった。

書いた本人も、相当アレだが、この本を使おうと決めた教員も相当イカれている。

 

しばらくすると、教師の扉が開かれロックハートが姿を現した。

その途端に教室に黄色い悲鳴が響いた。

 

ロックハートは全員が教室に居ることを確認した後、教科書を取り出し、表紙をこちらに向け高らかに掲げ…

 

「私だ」

 

 

次には表紙と本人が同時にウィンクをし、その途端に再び黄色い悲鳴が教室を包んだ。

 

 

「ギルデロイ・ロックハート。勲三等マーリン勲章、闇の魔術に対する防衛術連盟名誉会員、そして『週刊魔女』5回連続『チャーミング・スマイル賞』受賞。もっとも私はそんな話をするつもりではありませんよ。バントンの泣き妖怪バンシーをスマイルだけで追い払ったわけじゃありませんしね!」

 

長い口上を終え周囲を見回した。

 

「皆さん、ちゃんと私の本を揃えたようですね。素晴らしい!今日は最初の授業という事で簡単なミニテストを行います。大丈夫ですよ!私の本をちゃんと読んでいれば簡単な問題ばっかりです」

 

ロックハートはニコニコと笑いながらテスト用紙を配り始めた。

 

 紙を受け取り目を落としたが…内容は授業とは全く関係なく、ロックハートに関する問題で埋め尽くされており、後半に至ってはアンケートの様になっていた。

 

「何かしら…アンケートを受けた覚えは無いのだけれど…」

 

思わず破り捨てたい衝動に駆られたが、面倒な事になっても困るので、適当に欄を埋めていった。

 

 

授業時間の半分を使ったアンケートも終わりロックハートが紙を回収し、全員の前で確認し始めた。

 

「おやおや…私が好きな色はライラック色ですよ。男子生徒の殆どが間違えていますね」

 

ロックハートは少し呆れながらもウィンクを忘れる事は無かった。

男子生徒は呆れたように頭を抱え、ハーマイオニーはうっとりとした顔でロックハートを眺めていた。

 

「しかし、全問正解の生徒が居ますね。ハーマイオニー・グレンジャーです!私の本をよく読んでいますね!どこにいますか?」

 

ハーマイオニーは震える手を抑えながらピンと手を挙げた。

 

「素晴らしい!」

ロックハートが賞賛を送ると、ハーマイオニーは嬉しそうに天を仰いでいた。

 

「えぇ!素晴らしいですとも、グリフィンドールに10点あげましょう!」

 

ロックハートは機嫌良さそうに教壇に上がると布の掛かったカゴを取り出した。

 

「気を付けて!こいつ等はとても獰猛だ!」

 

布を取り払うとカゴの中には青白い色の小さな人型生物が所狭しと詰め込まれていた。

顔は尖っており、お世辞にも可愛らしいとは言えないものだ。

 

「さぁ!先程捕まえたばかりのピクシーです!」

 

籠の中を見て1人の生徒が吹き出した。

 

「ピクシーですか?こいつらのどこが危険なんです?

 

笑いを堪えながらその生徒はロックハートに質問をぶつけた。

 

「思い込みは危険ですよ!こいつ等はとても厄介です!」

 

そう言うとロックハートは籠の扉に手を掛けた。

 

「さぁ…それでは!君達がどうやってピクシーに対抗するのか…お手並み拝見!」

 

次の瞬間、ロックハートの手によって籠の扉が開け放たれ、籠の中から大量のピクシーが高速で飛び出した。

 

解放されたピクシー達は手当たり次第に物を投げたり、生徒の髪を引っ張ったり等好き勝手暴れていた。

 

「うぉ…そ、それじゃあ君達!後片付けは頼んだよ!」

 

ロックハートはそう言い残すと脱兎の様に教室から出ていった。

 

その姿はあまりにも滑稽だった。

 

「うわぁ!ふざけるな!どうするんだよ」

 

ピクシーに耳を引っ張られながらロンが大声を上げた。

 

「どうするって!言われても!うわぁ!」

 

ハリーは教科書を盾にしながらピクシーの攻撃を防いでいた。

 

まったく騒がしくてしょうがない。

 

私はおもむろに立ち上がり教壇に飛び乗った。

 

「かかってらっしゃい、相手してあげるわ」

 

私の挑発を理解できたのか、ピクシー達の標的が私に切り替え、私の周囲を取り囲んだ。

 

「ベヨネッタ!」

 

ハリーの叫び声が聞こえたが、私はそれを無視し、周囲を飛行しているピクシー達を見据えた。

 

 

「ギャァアアアァア!」

 

ピクシー達は大声を上げながら一斉に襲い掛かってきた。

 

「遅い!」

 

両手に銃を取り、両手を左右に広げ、挟撃を仕掛けてきたピクシーの脳天を打ち抜く。

 

「ギャ!」

 

断末魔を上げ2匹のピクシーは力なく床に堕ちた。

 

「さぁ!踊りましょう!」

 

左右に広げた手を、前方へ構え直し前からの2匹を撃ち落とす。

 

「ンギャ!」

 

右手を後ろへ向け前と後からのピクシーを迎撃する。

 

「ぎゃぁあああ!」

 

挟撃だけでは意味がないと思ったのかピクシー達は左右と前方から一斉に突進してきた。

 

「残念ね」

 

左足を軸に、体を仰け反らせ、左右に手を広げ3方向のピクシーを同時に打ち抜いた。

その後も踊るように体を動かしながら全方向から迫ってくるピクシー達を迎撃していく。

 

「おい!ハリー!見たか!」

 

「うん…凄いね…あれ、どうなってるんだろう…」

 

「まるで踊ってるみたいね…私には無理だわ…」

 

「そうだね君じゃ無理だね。それにしても…スカートであんな動きするから…見えそうなんだけど…」

 

「見えないね」

 

「貴方達!何考えているのよ!破廉恥だわ!」

 

「だって…」

 

そんな会話をしているロンの方に銃口を向け1発お見舞する。

 

「うわぁ!」

 

「な…何するんだよ!」

 

頬を赤く染めながらロンが声を上げた。

 

「あまりオイタしたらダメよ」

 

「え…バレてた?」

 

そんな事を言う彼等を尻目に、残りのピクシーを片付けていく。

 

「うわぁ!」

 

「ロン!どうしたの?」

 

「僕の頭に…ピクシーが」

 

ロンの方を見ると、先程撃ち抜いたピクシーの死体を頭に乗せ、苦悶に満ちた表情をしていた。

少しは反省するだろう。

 

全てのピクシーを叩き落とし、周囲を見回した。

 

殆どの生徒達は机の下に身を隠し震えていた。そんな中、ハリー達は教室の隅に集まっており、ハリーに至っては目を輝かせていた。

 

「ふぅ…久しぶりに良い運動になったわ。でもまだ物足りないわね」

 

「流石ベヨネッタだね、100匹以上居たピクシーを1分も掛からず片付けるなんて、すごいよ!」

 

「これでも、手加減した方よ」

 

「でも、どうするんだよコレ…後片付けはどうしよう…」

 

ロンがそう言うと同時に終業の鐘が鳴り響いた。

 

「パーティーは終わりね、後片付けは任せたわよ」

 

荷物をポーチへ仕舞い、教室で固まっている生徒達を尻目に扉を開け外へ出た。

 

 




アクロバットなシーンってどうやって書けばいいんですかね…

細かく書こうとすると、忍殺みたいになりそう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新シーカー

よくよく考えると、口からナメクジってえげつないですね。


 

ロックハートの授業が終わり、談話室のソファに足を組みながら腰を掛けて休んでいると、入り口の扉が開かれ、奥からハリー達がやって来た。

 

「やぁ、ベヨネッタ。さっきのピクシーだけど、どうやらロックハート先生が片付けてくれるらしいよ。それにしてもさっきのはやっぱり凄かったよ。どうやったのアレ?何か使っているように見えたけど」

 

先程からハリーは目を輝かせ、ロンとハーマイオニーは少し驚いている様子だった。

 

「この子を使ったのよ。どうかしら?」

 

私は銃に魔力を込め、認識妨害の効果を解除させハリー達にも見えるような状態にして、テーブルの上に緑色の宝石が埋め込まれている1丁だけ置いた。

 

「なんだこれは?」

 

ロンが銃に手を掛けようとした瞬間…

 

「待ってロン!触っちゃダメよ!」 

 

ハーマイオニーが叫び、ロンの手を跳ね除けた。

 

「何するんだよ!」

 

「危険なのよ!ベヨネッタ!貴女なんでこんなものを持ち込んでいるのよ!これが何だか知っているんでしょ!」

 

「扱いには慣れているわよ、それこそ手足のように扱えるわ」

 

「だからこれは何なんだよ?」

 

ロンがそう叫ぶとハーマイオニーは深いため息を吐いてから話し始めた。

 

「これはね、マグルの世界の武器で、銃という名前の物なのよ。とっても危険な物よ」

 

「なーんだ、マグルの物か、何かパパが言っていた気がするよ。確か持ち込み禁止のとかって言っていたかな、こんな物のどこが危険なのかさっぱりだ」

 

「それだけ危険なのよ、ハリー、貴方も知っているでしょ」

 

「うん、映画とかでなら見たことあるよ。でも実物は初めてだね、こんなカラフルな色しているんだ」

 

「これは私だけの特別製よ」

 

「もう!そうじゃなくて!」

 

ハーマイオニーは悔しそうに地団駄を踏んでいた。

 

「これは危険なのよ!これがあれば人間だって動物だって簡単に殺せちゃうほど危険なのよ!どうして貴女がこれを持ち込んでいるのって聞いているのよ!」

 

怒ったような剣幕で大声を上げてるハーマイオニーを2人は少し驚愕した顔で見ていた。

 

「さっきも言ったけどこの子の扱いには慣れているわ。それにダンブルドアの許可も貰っているわよ」

 

「うそ…ダンブルドア先生が許可なんか出すはずないじゃない!」

 

「本当よ、アクセサリーという事で許可を貰っているわよ」 

 

「えぇ…なんなのそれ…」

 

最早、絶句し意気消沈しているハーマイオニーはため息を吐き俯いていた。

 

「そうなんだ、でも脚にも付いているよね、脚のはどうやって使うの?」

 

ハリーが興味深く聞いて来るので、テーブルの上の銃を手に取り、回しながらポーチに仕舞うと、そのテーブルの上に組んだ足を置き、魔力を込めて銃を見える状態にする。

 

「うわぁ、踵のところに付いているんだね」

 

「す…凄いな…もっとよく…」

 

そう言いながらロンは銃以外に目線を送りながら近付いてきた。そんなロンに右足の銃口を向ける。

 

「あまりオイタが過ぎると痛い目見るわよ」

 

「う…うん…」

 

その場で動かなくなったロンに蔑んだ様な目線を送りながら、ハーマイオニーは小声で「最低…」と一言だけ呟いていた。

 

「よくわかったよ。ありがとうベヨネッタ」

 

もう満足したのかハリーがそう言うので私は脚を床に降ろし、再び足を組んだ。

 

「ロン…どこ見てるんだい…」

 

「どっ!どこも見てないよ!」

 

「もう…ほんと最低…」

 

ロンは必死に弁解しているが、2人はそれを信じる事は無かった。

 

 

 

 数日が経った頃には、私がピクシーを全滅させた事が多くの生徒に知れ渡ったのか、どこか恐怖を孕んだ視線を送ってくる生徒が多くなった。

 

私はいつもの様に、朝食を済ませ、大広間で休んでいると、声を掛けてくる一団が居た。

 

「セレッサじゃないか。話は聞いたよ、ロックハートの授業でやらかしたそうじゃないか」

 

声を掛けてきたのは、マルフォイ達だった。

その時のマルフォイの服装は緑を基調としたスリザリンカラーのクィディッチでよく見かけるユニフォームだった。

 

 

「あれでも、手加減したつもりよ。あの程度じゃお遊びにもならないわ」

 

「フッ…確かに君にとっては物足りないかもしれないね。それより見てくれよ!この箒、ニンバス2001!最新型さ!」

 

マルフォイがそう言うと、箒に書かれている『ニンバス2001』と書かれている所を愛おしそうに撫でていた。

 

「新しい玩具が手に入って良かったじゃない。これから試運転かしら?」

 

「まぁ、そんなところだよ。僕も血の滲む様な努力をしてやっと、クィディッチのシーカーに選ばれたからね!これから練習に行くんだ。良かったら君も一緒にどうだい?」

 

「良いわね、私も丁度、退屈してたところよ」

 

「そうか!じゃあ行こうか」

 

その言葉と同時に、マルフォイ達は振り向き、競技場に向かい歩き出した。

 

私はそんな彼等の背中を見ながら、ポーチから1本のロリポップを取り出し口に咥えた。

 

 

競技場では、ロンを始めとした、グリフィンドール生とマルフォイを始めとしたスリザリン生が何やら言い争いを始めていた。

 

「今日は僕達が競技場を使うはずだぞ!どうしてスリザリンが来ているんだ」

 

「今日は新シーカーの練習を兼ねて使う事になっている。それにこちらには、スネイプ先生が競技場の使用を許可したサインもある」

 

メモを差し出され、ハリー達はとても悔しそうな顔をしていた。

 

「新シーカー?誰の事だよ?」

 

グリフィンドールカラーのユニフォームに身を包んだ生徒がそう言うと、奥からマルフォイが堂々と歩いて出てきた。

 

「この僕だ」

 

「ルシウス・マルフォイの息子じゃないか…」

 

グリフィンドール生は嫌悪感丸出しで、そう呟いている。

 

スリザリンチームは全員が箒を頭上に掲げた。

 

「ルシウス氏からチーム全員に、最新型の箒を提供してくださった。このニンバス2001をな!」

 

そんなスリザリンのチームを見てグリフィンドールのチームは全員が唖然としている。

 

「これクィディッチの優勝は貰ったも同然さ。悔しかったら君達も買えばいいじゃないか?まぁ…もっとも…」

 

 

「そんな箒が無くったって、グリフィンドールは負けないわよ!こっちの選手は誰一人としてお金で選ばれたりしてないわ!」

 

お節介焼なハーマイオニーがマルフォイの言葉を遮り、大声でそう叫んだ。

 

すると、マルフォイの表情はドンドンと歪んでいき、怒りに満ちた表情に変わった。

 

「なんだと…貴様の意見なんか聞いてないんだ!この…『穢れた血』め!」

 

マルフォイが吐き捨てる様にそう言うと周囲の空気が一瞬にして凍り付いた。

 

『穢れた血』…ね、あまり聞き心地のいい言葉ではないわね。

 

「マルフォイ!貴様!よくもそんな事を!」

 

周囲の生徒が騒ぎ立て、中には殴りかかろうとしている生徒や、杖を抜いている生徒まで居た。言葉を吐かれたハーマイオニーは目に涙を浮かべていた。

 

そんな中、ロンが飛び出し、マルフォイに向け杖を抜いた。

 

「ナメクジ!くらえ!」

 

ロンがそう叫ぶと、杖が一瞬光輝いた。

 

魔法が放たれ、マルフォイに直撃する…

 

誰もがそう思ったが、結果は違った。

 

普通の杖ならば、間違いなく魔法は発動していただろう。しかしロンの杖は暴れ柳に突っ込んだ時に折れてしまったのを、無理やりくっ付けた物だったので、放たれるはずだった魔法は逆流し、ロンに襲い掛かったのだ。

 

「ロン!大丈夫かい!」

 

「ヴぉえ!」

 

ロンは口から巨大なナメクジを吐き出していた。

そんな光景に、その場に居た全員が目を背ける。

 

「どぼじよぅ」

 

ナメクジを吐きながらロンはハリーに顔を向け助けを求める。

 

「と…とりあえず、ハグリッドの所へ行こう、あそこが一番近いはずだ」

 

ナメクジを吐いているロンの肩を、ハリーとハーマイオニーが担ぐと、競技場を後にしていった。

 

「マルフォイ…貴様!覚悟しろよ!」

 

再び乱闘が始まりそうな空気の中、私はゆっくりと競技場の中へ入って行った。

すると、周囲の視線が一斉に私に集まった。

 

「セレッサ、見ていたのかい?無様なところを見せてしまったね」

 

マルフォイがそんなことを言いながら私に近付いて来る。

 

「えぇ、口からナメクジなんて悪趣味だわ」

 

「きっとウィーズリーの趣味だろうね。相変わらず悪趣味だ。それにしても、あの『穢れた血』には不愉快極まりない」

 

再び『穢れた血』と口にすると、周囲の生徒の視線が一層冷たくなった。

 

「不機嫌そうね。どうかしたのかしら?」

 

「あぁ、アイツが…僕が選手になれたのは金の力だと言ったんだ…入れたのは、僕の実力で、金の力なんて関係ないのに…君も奴らと同じ様に、金の力だと考えるかい…」

 

少し悲しそうな、それで最早、慣れていると言わんばかりの表情で私を見てくる。

 

「努力してチームに入った。私はそう思うわよ」

 

「本当かい!」

 

聞いた途端、マルフォイはとても嬉しそうな表情を浮かべた。とても分かりやすい奴だ。

 

「その程度で嘘なんて言わないわ。でもね…」

 

そう言うと、一瞬にして再び表情を変化させた。

 

そんなマルフォイの顔に、私も顔を近付ける。

 

一瞬、驚いたような表情を浮かべ、どんどんと顔が赤らんでいく。

それと同時に、マルフォイの胸倉を掴む。

 

戸惑い、涙目になっているマルフォイを尻目に、舐めていたロリポップを口から取り出すと、そのままマルフォイの口に押し込んだ。

 

「んぐぅ!」

 

状況がよく理解できていないのか、何度も瞬きを繰り返しているマルフォイに、私は囁く様に声を掛ける。

 

「女の子を泣かせるような事を言ったらダメよ。もし同じ様な事が有れば…そうね、キツイお仕置きが必要になるわね」

 

「お…お…しおき…」

 

口籠りながら恐怖と愉悦に歪んだ表情でたどたどしく答える。

 

「そうね…あぁ、こんなのはどうかしら」

 

杖を取り出すと、唇を這わせるように手に持ち。マルフォイに見せつける。

 

「ケツにぶち込むわよ!」

 

そう言うと同時に、掴んでいた手を放すと、マルフォイは腰が抜けてしまったのか、力なくその場に尻もちをついてしまった。

 

「それじゃあ、頑張りなさい。新シーカーさん」

 

一言そう言うと、周囲の目線を一斉に受けながら、私は競技場を後にした。

 

 

 




このセリフだけは使いたかったんだ…

3が発売されるという情報を聞いて楽しみでしょうがないですが、スイッチがありません…
何とかして入手しなきゃ…


明日は諸事情により、更新出来ないです。
また次回お会いしましょう


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最初の被害者

ベヨネッタ3の発売日が気になりますね…


 

 

 季節はあっと言う間に過ぎ10月を迎え、ハロウィーンの日がやって来た。

 

周囲の生徒は大量のお菓子を手に持っていたり、料理にかぼちゃを使うメニューが多くなるなど季節感が顕著に表れ始めた。

 

「ベヨネッタ、良かったら今日、絶命日パーティに行かないか?」

 

開口一番にハリーが訳の解らないことを口に出した。

 

「絶命日?そんな縁起でもないパーティー行きたくないわ、貴方達3人で行けばいいじゃない」

 

「そんなこと言わずにさ、『ニック』に誘われたんだよ」

 

『ニック』とは、ホグワーツで生活している?ゴーストの事だ。

別名を『殆ど首なしニック』と呼ばれている。理由は、その名の通り首が無いらしい。

 

新入生に自らの首が外れるのを見せるのが趣味と聞く。

 

 

「誰に誘われたかなんて興味ないわよ、それに今年はハロウィーンパーティーを楽しみたいのよ」

 

「うーん…それならしょうがないね。じゃあ僕達だけで楽しんでくるよ」

 

ハリー達はそう言うと大広間から出ていった。

 

 

 ハリー達を見送り大広間の席に座り、パーティーが始まるのを待っていると、背後から何者かが声を掛けてきた。

 

「や、やぁ、セレッサ、今日は一人なのかい?」

 

振り返ると、どこか緊張した表情のマルフォイが上擦った声で話しかけてきた。

 

「えぇそうよ、貴方の方こそ今日は一人なのね」

 

「あぁ、アイツ等はハロウィーンのお菓子を貪りに行ったよ」

 

「らしいわね、ハリー達は絶命日パーティーとかいうのに行ったわ」

 

「絶命日パーティー…フッ、悪趣味な連中だな」

 

「本当ね、それより何か用?もうじきディナーの時間よ」

 

「あぁ…そうだね…隣、座ってもいいかい?」

 

マルフォイがそう言うと私の隣にあった椅子に手を掛ける。

 

「やめた方がいいわよ」

 

私がそう言うと、マルフォイは少し残念そうな顔をするので、周囲を指差し、一言添える。

 

「ここはグリフィンドールの場所よ」

 

私がそう言うと、マルフォイは、ハッ、とした表情を浮かべ周囲を見回していた。

 

多くのグリフィンドール生徒の鋭い視線がマルフォイに突き刺さっており、それに気が付いたのか少し苦笑いを浮かべていた。

 

「話が有るなら場所を変えましょう。こっちよ」

 

席を立ち、大広間の端まで移動すると、マルフォイも私の後に続いた。

 

「ここなら大丈夫よ」

 

「あぁ、感謝するよ」

 

「それで、何の話かしら?つまらない話だったら承知しないわよ」

 

「あっ…あぁ」

 

一呼吸置き、マルフォイはゆっくりと口を開いた。

 

「あの時の事…闘技場での事をずっと考えていたんだ。あの『穢れた血』が金の力だというものだったから…」

 

マルフォイが再び『穢れた血』という言葉を口にしてしまった。

 

マルフォイからすれば、この言葉によって、ハーマイオニーが傷付いたとは思ってい

ないような口ぶりだ。

 

これは少し、お仕置きが必要かもしれない。

 

私はマルフォイを壁際に追い込むと手を顔の真横の壁に押し付け顔を近付ける。

 

確か壁ドンとか呼ばれていたような気がする。

 

「え?どうしたんだい…」

 

そこまで言うとマルフォイは黙り込んでしまい、顔を下に向けていた。

 

「私、言ったはずよ。次、女の子を泣かせるようなことを言ったらお仕置きだって」

 

「あっ…あぁ…あ」

 

マルフォイは青ざめた顔で、上擦った声を上げた。

 

「忘れてたのかしら?それとも、お仕置きされたいのかしら?」

 

「い…いや、そういう訳では…」

 

マルフォイは首を小刻みに振り、体を震わせながら答えた。

 

どうやら、今回のは完全に不注意だったらしい。

 

「まぁいいわ。今回は大目に見てあげる」

 

「あ…ありがとう…」

 

「フッ、次から気を付けなさい」

 

マルフォイから離れ、眼鏡を直してからウィンクをするとマルフォイはその場で動かなくなってしまった。

 

そんな彼を気にも留めず、席へと戻りパーティーを楽しむことにした。

 

 

 

 

 楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。

パーティーも終わりの時間を迎えたが、結局ハリー達は大広間に現れる事は無かった。

 

大広間を抜け少し歩くと、人だかりができているのが目に入った。

何が有ったのか…近くに行く円の中心には、絶命日パーティーに行ったはずのハリー達が居り、その前には1匹の猫が横たわっていた。

 

確かこの猫は…管理人のペットだったか…

 

壁の方を指差す生徒も複数居り、その先を見てみると、壁には血文字を彷彿とさせる紅い色のペンキで『秘密の部屋は開かれた  継承者の敵よ 気を付けよ』と大々的に書かれている。

 

「なにかしら?ハロウィーンの飾り付けにしては悪趣味ね」

 

「ベヨネッタ!」

 

ハリーが私に気が付いたのか、声を掛け近付いて来る。ハリーが歩くと周囲の生徒が道を譲るように左右に分かれた。

 

「何かあったのかしら?ハロウィーンパーティーは終わったばかりよ」

 

「僕もよくわからないんだ、声のする方へ歩いて行ったら、ミセス・ノリスが…」

 

ハリーが混乱しながら話しだしていると、後ろから怒声が響いた。

 

「お前が!お前が私の猫を!」

 

声の主はホグワーツの管理人だ。飼い猫を殺したのがハリーだと思っているようで、ハリーに掴みかかろうとしている。

 

「違うんです!僕が来た時には…もう」

 

「騙されんぞ!貴様!」

 

管理人はさらに声を荒げると、後ろの方から別の声が響いた。

 

「待つのじゃ」

 

声の主はダンブルドアだった。

 

その後の事態の収束はスピーディーだった。

結果としては、ダンブルドアが現場に居たハリー達をロックハートの部屋へ連れていき状況を聞くという事で収束が付いた。

 

ダンブルドアがその場を去った後、どこからともなくやって来たマルフォイが口を開いた。

 

「『秘密の部屋は開かれた  継承者の敵よ 気を付けよ』か…それはつまりこれからもっと被害者が増えるという事だな。特に『けが…」

 

そこまで言うとマルフォイ口を閉じてしまった。どうやら私が視線を送っているのに気が付いたようだ。

 

「うっ…ん『マグル生まれ』が襲われるという事だろうな!」

 

少し咳払いをすると、そう言い換え、その場から立ち去って行った。

多少は考えたようだ。

 

 

数日が経ったが、校内は未だに秘密の部屋についての話題で持ちきりだった。

 

『秘密の部屋』

聞いた話だが、秘密の部屋というのは、ホグワーツ創設者の一人『サラザール・スリザリン』がホグワーツを去る際に残した隠し部屋の事だという。

彼の継承者たる人物が秘密の部屋から、隠されている恐怖を解き放つという話だ。

 

管理人に至っては現場に戻っては犯人探しに躍起になっている。

 

そしてここにも、秘密の部屋について躍起になって調べている生徒が居た。

 

「ダメだわ、ホグワーツの歴史書を読んでみたけど、秘密の部屋については書かれているけど、どこにあるとかそういった事は書かれていないわ」

 

「はぁ…だめだ…弱ったな…」

 

「本当よ、秘密の部屋の恐怖についても明確には書かれていないのよ」

 

 

ハーマイオニーは本に顔を埋めながら、呻き声を上げており、ロンとハリーに至っては飽きてしまったのか、折れた杖を弄っている。

 

「ベヨネッタ、そういえばあの後、あの場で何かあった?僕等はダンブルドアに呼ばれて話をしてたからよく分からないんだ」

 

「別に、それより貴方達の方は何か具体的な話は聞かなかったのかしら?」

 

ハリーは首を横に振り、ため息を吐いた。

 

「僕等もよく理解できていないんだよ、ただフィルチの猫は死んでいるんじゃなくて、石になっただけらしい」

 

「そうなの、猫を石にするなんて、相当変な趣味の持ち主ね」

 

「趣味で済めばまだいいわよ、何にしろ、ダンブルドア先生でも治せない状況なのよ、マンドレイクを使った薬じゃないと治らないらしいの」

 

「それだけじゃないぜ、ハリーを犯人だと思い込んでいる奴らがいるんだ、まったくハリーを疑うなんてどうかしてるよ」

 

ロンはテープで無理やり修復した杖を振り回しながら憤怒している。

 

まぁ、状況から考えれば第一発見者のハリーが疑われるのは仕方ない事だろう。

 

「はぁ…ダメだわ…この本にも載っていないわ…どうすればいいのかしら…」

 

図書館の一角に本の山を作り上げたハーマイオニーの嘆きは、虚しくも虚空に消えていった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決闘クラブ

今回はいつもより少し長めです。


 

 

 

 

 数日が経った。

今日はグリフィンドール対スリザリンのクィディッチの試合が開催される日だ。

 

グリフィンドールのシーカーは去年と変わらずハリーが務めており、スリザリンのシーカーは聞いていた通りにマルフォイが担当する様だ。

 

競技場へ向かおうとすると、少し上ずった声が背後から掛けられる。

 

「やぁ!セレッサ、今日は僕の初試合なんだ」

 

振り返ると、緑色のユニフォームに身を包んだマルフォイが真新しい箒を片手に立っていた。

 

「えぇ、良く似合っているわよ、今日は頑張りなさい」

 

「グリフィンドール生の君に応援して貰えるとは思わなかったよ」

 

「あら、不満なの?罵声でも浴びせた方が良かったかしら?」

 

「まぁ、その方が気が引き締まるかも…いや…そんなことないよ、君から応援されるなんて光栄さ」

 

「それはどうも、それにしても上機嫌ね、去年のハリーとは大違いね」

 

「フッ、奴と一緒にしないでくれ、僕はこの日の為に努力してきたんだ!」

 

「そぉ、いい試合を期待しているわ。頑張りなさい」

 

「あぁ!期待してくれ!」

 

声を張り上げ、スキップをしながら会場へ向かう彼の後ろを見送っていると、後ろからやって来たハーマイオニーが困惑の声を上げた。

 

「あのマルフォイがスキップしてるわ…貴女なにしたのよ?」

 

「別に。少し煽ててやっただけよ」

 

「それだけ?グリフィンドールが不利になるようなこと言ってないわよね?」

 

「さぁ?どうかしら。でも張り合いがある方が面白いんじゃないかしら?」

 

「はぁ…私にはよく分からないわ」

 

ため息を吐き、頭を左右に振るハーマイオニーと共に競技場へ向かう足を進めていった。

 

 

 観覧席に着き、しばらくすると開催のアナウンスが流れる。

 

『さぁ!これより、グリフィンドール対スリザリンの試合を開催します!選手入場です!』

 

割れんばかりの拍手の中、それぞれ寮のイメージカラーのユニフォームに身を包んだ選手が箒を片手に入場してくる。

 

スリザリンの選手の手に握られている箒は、全て統一されている。

アレがルシウスが寄贈したという箒か。

 

 

試合開始のホイッスルが鳴り響き、試合が始まり、しばらくするとおかしな出来事が起きた。

 

1つのブラッジャーがハリーを必要以上に狙い続けているのだ。

 

隣で、大声を上げているロンの話によると、ブラッジャーが1人の選手を狙い続けるという事はありえないらしい。

 

ハリーは必死に回避しているため、実害は無いものの、シーカーの仕事であるスニッチを探し、キャッチするという事ができない状況だ。

 

そんな様子を見かねたのか、ビーターのポジションであるウィーズリーの双子がブラッジャーを撃ち返し、ハリーを援護している。

しかし、ハリーを援護し続けるという事はその分で守りが手薄になるという事で、試合は圧倒的スリザリンの有利で進んでいる。

 

 

 しばらくはハリーを援護していた二人だが、状況が悪化して行くにつれ、次第に離れていき、最終的にはハリーは一人で防戦に徹しながらスニッチを探すように競技場の上を徘徊している。

 

数分が経った後、ハリーの箒が一気に速度を上げ、急旋回した。どうやらスニッチを発見したようだ。

 

その動きに合わせる様にマルフォイも速度を一気に上げ後を追うような形になった。

 

ハリーとスニッチの距離が縮まり、腕を伸ばし、スニッチをキャッチしようとしている。

 

しかし、ブラッジャーは無情にも、ハリーが伸ばしている腕に激突した。

ブラッジャーの直撃を受け、ハリーは体勢を崩してしまうが、何とか立て直し、先程とは違う方の腕を伸ばしている。

直撃を受けてしまった方は完全に折れているようで、痛々しくも、あらぬ方向へ曲がっていた。

 

スニッチが急に軌道を変え、マルフォイの方へ飛んでいく、マルフォイはこの好機を逃すはずも無く、必死に腕を伸ばす。

 

しかし、そんなマルフォイにハリーが激突し、何とかスニッチを獲得した。

 

マルフォイは何とか体勢を立て直し、空中へ飛び上がるが、ハリーはそのまま墜落し泥の上で転げまわる。

 

泥まみれのハリーがスニッチを掲げると、試合終了のホイッスルが鳴り響き、盛大な拍手が会場を包んだ。

 

試合が終了し、安堵した表情でハリーは泥の上に体を横たえる。

 

しかし、そんなハリーの顔面目掛けて、暴走したブラッジャーは飛び掛かってくる。

 

驚愕した教師陣が杖を抜こうとしているが、ブラッジャーはハリーの眼前まで迫っている。

数瞬後には、ハリーの顔面に直撃し、頭部が潰れ、周囲に脳漿が飛び散る、スプラッターな光景が広がるだろう。

 

誰もがそう覚悟し、多くの生徒は目を背けている。

 

そんな中、ウィッチタイムを発動させ、世界の流れを止める。

 

そして、悠然と右手の銃を引き抜き、ハリーの顔面目掛け1発の銃弾を放つ。

 

放たれた弾丸は空中を切り裂きながら、ハリーの顔面に迫るブラッジャーの手前まで移動した。

 

私は、ウィンクをすると同時に、ウィッチタイムを解除すると、周囲から悲鳴が鳴り響き、何かが爆ぜるような音が競技場に響いた。

 

 

目を見開き、激しく息をするハリーの周囲には、粉々に砕けたブラッジャーだった物が四散している。

 

私が放った弾丸がハリーの顔面を粉砕しようとしているブラッジャーの中心を貫き粉砕させたのだ。

 

周囲が静まり返った中、耳障りな高笑いが響いた。

 

「ハハハハッ!危ないところだったねハリー。この私がブラッジャーを破壊していなければ大変な所だったね!ハハハ」

 

奥からやって来たのは、ロックハートだ。

大声でブラッジャーを破壊したのは、自分だと言い張っている。

 

「え?先生…」

 

「おや?腕が折れているようだね。安心したまえ、この私が治してやろう」

 

ロックハートが杖を取り出すと、ハリーは露骨に嫌な顔をし、拒否しているが、そんな事はお構いなしに、ロックハートは何やら魔法をかけた。

 

 

結果的には、ハリーの骨は折れてはいなかった、何故なら…

 

 

「腕の骨が折れてないだぁ!骨がなくなっちまったじゃねぇか!」

 

ハグリッドは大声で叫ぶと、ハリーを担ぎ医務室に消えていった。

 

後に残された、ロックハートは高笑いをすると、その場からそそくさと逃げていった。

 

 

 

 次の日になると、校内でまた一人継承者による、被害者が出たという話でもちきりになっていた。

 

被害者は『コリン・クリービー』と言うらしく、マグル生まれの生徒らしい。そして今回も石に変えられた姿で発見されたという話だ。

確か、ハリーの周りをカメラを片手にチェシャ猫のようにうろついて居るのを見た記憶がある。

 

そして、今回の被害者もハリーによる犯行なのではないかという疑いを持った生徒が大勢いる様で、それを聞いたハーマイオニー達は何やら策を練っているようだ。

厄介事を起こさなければいいのだが…

 

 次の週の魔法薬の授業。

 

今回もグリフィンドールはスリザリンと合同の授業である事件が起こった。

ハリーが何を思ったのか、ゴイルが薬を作っている大鍋に花火を投げ込み、爆発させたのだ。

 

鍋に入った花火は、その瞬間に爆発し、鍋に入っていたふくれ薬が周囲に飛び散る。

 

爆音に驚いたのか、一緒に作業をしていたマルフォイが悲鳴を上げていた。

 

 

凄まじい速度で飛んでくる薬液を体を捻り何とか避ける。

しかし微量の薬液は避け切れなかったようで、胸に付着してしまった。

 

私の胸は見る見るうちに大きくなっていき、大人の状態と大差無いサイズにまで膨れ上がってしまい、幼い体に合わせた服はパツパツに張り裂けんばかりになってしまった。

 

幼い体に、豊満なバストが合さり、何とも背徳的な容姿になっている。

 

隣で薬液をもろに浴び、顔を風船のように腫らしたマルフォイが嘗め回すように私の体を、下から上へ食い入るように見てくる。

 

私は片手で胸元を隠しながら、もう片方の手でマルフォイの頬を突く。

 

「さっきからどこを見ているのかしら?」

 

「いや…別に見てなんか…」

 

「フフッ、嘘おっしゃい。さっきから胸ばっかり見て、坊やには早すぎるわよ。ママのおっぱいで我慢なさい」

 

「なっ…そんなんじゃないぞ!レディが胸元を見せているのが、見るに堪えなかっただけさ!」

 

ぷっくりと腫れた顔でそう言うと、肩に羽織っていたローブを脱ぐと、私に差し出した。

 

「これでも、使いたまえ」

 

「あら、気が利くのね」

 

膨れた顔を真っ赤に染めているマルフォイから、ローブを受け取り胸元を隠すように羽織る。

 

すると、奥から怒号を上げたスネイプが、見た事の無い程の怒りの表情で怒り散らしている。

 

「何たる事だ!この惨事を引き起こしたのは誰だ!被害を受けた者は今から『ぺしゃんこ薬』を配るから並びたまえ」

 

スネイプから『ぺしゃんこ薬』を受け取り、小瓶に入った薬液を飲み干すと、膨れ上がっていた胸が次第に子供のサイズに戻っていく。

 

元に戻った私は、伸び切ってしまった服を魔法で修復させると、借りていたローブを脱ぎ、マルフォイに手渡す。

 

「助かったわ。これは返すわね」

 

「え?…あっ…あぁ。役に立ったようだね」

 

どこか落胆した表情を浮かべながら、受け取った薬を一気に飲み干していた。

 

周囲を見回すと、薬を被った生徒に薬を配り終えた様で、ひと段落着いた様子だった。

 

犯人であるハリーの方を見ると、どこか青ざめた表情で必死に教科書に目を落としていた。

それで隠れているつもりだろうか?しかし、それに気が付かないスネイプにもいささか問題がありそうだ…

 

 

ふと教室を見回したが、どこにもハーマイオニーの姿は無かった。どこかへ行ったのだろうか?

 

そう思っていると、教室の隣の保管庫の扉が少しだけ開かれ、その奥からハーマイオニーが何食わぬ顔で戻ってきた。

 

一体何をしていたというのだろう…

 

 

 数日が経ったある日

私は半ば強制的にハーマイオニー達によって、とある教室に連行された。

 

教室に入ると多くの生徒がひしめき合っており、何かが始まるのを今か今かと待って居るようだった。

 

 

「これから何が始まるのかしら?私を連れ出したからには何かあるんでしょうね」

 

「決闘クラブよ」

 

 

「何かしら?聞いたことがないわよ、新設されたのかしら?」

 

「まぁ、そんなところよ、それに何といっても、このクラブでは…」

 

そう言いかけた時、教室の扉が開かれ、奥からロックハートとスネイプが入室してきた。

 

なるほど、ハーマイオニーの目的は、ロックハートか…

 

 

「やぁ、諸君!ごきげんよう。集まってください。私が見えていますか?よろしい!今回、ダンブルドア校長に許可をいただき、決闘クラブを開催することとなりました。自らの身に危機が迫った時、しっかりと身を守れるように皆さんを鍛え上げて見せます!まぁ、詳しい事については私の本を読んでくださいね」

 

本の宣伝が終わった後、軽く咳払いをした。

 

「さて、こちらに居るのは助手のスネイプ先生です。少し決闘についてご存知らしいので、これから、簡単な模擬演技をするので、相手役を買って出てくれました」

 

ロックハートの無謀な挑戦の宣言を聞いた後、隣に居たロンが「新手の自殺だな」と呟いていたが、まったくもってその通りだ。まぁこの際だから、ロックハートの無様な散り様を見るとしよう。

 

 

二人は壇上に上がり、互いに向き合う。

 

 

「まずは、作法に従い杖を構えます」

 

二人は互いに杖を取り出す。スネイプは眼前に杖を構え、鋭い目線でロックハートを見据える。

対するロックハートは杖を持った右手を下方に構える。

 

「3つ数えてから、最初の術を掛けます。もちろんどちらも殺意は無いのでご安心を」

 

ヘラヘラと笑いながら、周囲の生徒に説明をするロックハートに対し、スネイプは一切の隙を見せず、その視線からは殺意すら感じた。

 

この手のタイプが一番嫌いなのだろう。

 

互いに背を向け、1歩ずつ離れていく。

 

「まるで、西部劇のガンマンね」

 

ハーマイオニーがそんな事を言っている間に、ロックハートのカウントが始まる。

 

「1…2…3…」

 

2人が同時に杖を振りかざす。

 

最初に仕掛けたのはスネイプの方だった。

 

「エクスペリアームス!!」

 

渋い声が周囲に響くと同時に武装解除の魔法がスネイプの杖から放たれ、ロックハートに襲い掛かる。

 

一瞬の事に何の対処も出来ずに居る、ロックハートに魔法が直撃する。

 

吹き飛ばされたロックハートは、苦笑いをしながら、何事も無かったかのように立ち上がった。

 

「さて…皆さん分かりましたね!これが武装解除の術です。先程の打合せ通りに、私の杖は吹き飛ばされてしまいました。いやぁ、見事でしたよ」

 

スネイプを睨みつけながら、イヤイヤしく賞賛を送っていたが、睨み返されたのか、直ぐに、睨むのを止めた。

 

 

 

「模擬演技はこれでいいですね。それでは2人一組を作ってくださいね!スネイプ先生お手伝いしていただけますね」

 

そう言うと、ロックハートが勝手に組み合わせを決めていく。

結果としては、ハリーはマルフォイと組むことになった様だ。

 

私はと言うと………

 

 

「おや?レディが一人余ってしまいましたね。ではこの私、ロックハートが…」

 

胸を張りながら手を差し出す、ロックハートを遮りスネイプが歩み寄ってきた。

 

 

「吾輩が相手しよう。構わんだろ?ミス・セレッサ」

 

スネイプはそう言うと、一人、壇上に上がり私を見据える。まるで早く来いとでも言うかの様に…

 

 

 

「せっかちな男ね、早い男は嫌われるわよ」

 

「フッ、軽口を叩く余裕が有るなら早くせぬか」

 

私は、飛び上がると音もなく壇上に着地する。

 

 

「さぁ、始めましょうか、手加減してあげるわ」

 

「舐めたことを…」

 

互いに杖を構える。

そこに慌てた様子のロックハートが駆け寄ってくる。

 

 

「いいですか!あくまでも武装解除だけですよ!」

 

「分かっておる」

 

スネイプはそう言っているが、その目から感じる殺気は相当の物だった。

 

「よろしいか、では行くぞ」

 

互いに距離を取り、スネイプがカウントを始める。

 

 

「1…2…3…」

 

カウントを終えた瞬間スネイプが魔法を放ってきた。

 

「エクスペリアームス!」

 

高速で飛んでくる魔法を切り払う様に杖で受け流す。

 

「お返しよ。エクスペリアームス」

 

杖に多少の魔力を乗せ魔法を放つ。

 

放たれた魔法を、瞬時に判別したのか、スネイプは反対魔法を放ち打ち消そうとしてくる。

 

ちょうど中心で2人の魔法がぶつかり相殺される。

 

本来ならその筈だった。

 

しかし、魔力を上乗せさせた魔法は反対魔法では相殺しきれず、スネイプに襲い掛かる。

 

「クッ!プロテゴ・マキシマ!」

 

直撃する寸前に防御魔法を発動させたのか、障壁のような物にぶつかったのか、魔法が防がれる。

 

「やるではないか、少し甘く見ていたようだ」

 

「余り舐めてると痛い目見るわよ」

 

いつの間にかその場に居た全員がギャラリーと化していた様で、歓声が響いている。

 

私はそんな彼らにウィンクをして答えると、歓声がさらに大きくなる

 

「休んでいる暇などないぞ」

 

そんな私が気に食わないのか、無言で失神魔法を放ってくる。

 

放たれた魔法は一瞬で、私に襲い掛かってくる。

 

「ベヨネッタ!」

 

ギャラリーに紛れていたハリーが声を上げる。

 

その直後、失神魔法が私に直撃した。

 

 

ギャラリー達は魔法が直撃し、その場で気絶する映像が浮かんで居るのだろう。

 

 

しかし結果は違った。

 

 

魔法が直撃すると同時に、ウィッチタイムを発動させ、体を蝙蝠に変化させ、離散し、そのままスネイプの背後に回り込む。

 

「なにっ!」

 

一瞬にして姿を見失った為に戸惑っているスネイプのうなじにゆっくりと杖を押し付ける。

 

背後を取られ、杖を押し付けられたことを理解したのか、体をビクつかせた。

 

「チェックメイトね」

 

私の声を聴いて、敗北を理解したのか、手に持っていた杖を手放す。

 

床に落ちた杖は、乾いた音を立てる。その音だけがその場に響いた。

 

 

 

杖の音が止まり、しばらくするとその場が歓声に包まれた。

 

歓声の中、スネイプの杖を拾い上げそっと手渡すと、嫌そうな顔をしながら、引っ手繰るように受け取った。

 

スネイプはしばらく杖を眺めた後、口を開いた。

 

「見事だと言っておこう。先程の技はなんだ。変身術の応用か」

 

 

「さぁ?何の事かしら?」

 

「とぼけるな、蝙蝠に変化したのを吾輩はしかと、目にしたぞ」

 

「秘密よ、ミステリアスな女はお嫌いかしら?」

 

多少、笑みを振りまきながら、壇上から降りる。

 

「待て!話はまだ…」

 

「いやぁ!見事な試合でしたね!ありがとうございます。スネイプ先生、ミス・セレッサ、さて!それでは次ですよ!次!」

 

ロックハートがスネイプの前に割り込み、大声を上げる。

 

スネイプは嫌そうな顔をするが、それ以上踏み込んでくる事はしなかった。

 

 

 次に壇上に上がったのは、ハリーとマルフォイだった。

 

 

「いいですか!相手に武装解除の術を掛けるだけですよ!」

 

壇上に上がった2人にロックハートが話しかけるが、2人は話を聞く間もなく、互いに魔法を撃ち始めた。

 

互いに数発程魔法を放つ中、マルフォイが杖を振り上げる。

 

「サーペンソーティア! 蛇よ出よ!」

 

マルフォイの杖の先端から、黒い色の蛇が放たれ、壇上の上で蜷局を巻いている。

 

蛇を見た途端にハリーはその場で動かなくなってしまった。

そんなハリーを嘲笑うようにスネイプがハリーに声を掛けた。

 

「動くなポッター。吾輩が追い払ってやろう」

 

 

先程拾い上げた杖を片手に壇上へ上がろうとした時、ロックハートが遮るように一歩前へ出た。

 

「ここは私にお任せあれ!」

 

ロックハートは蛇に杖を振りかざすと、爆破音が響き、上空2m程まで飛び上がると、ポトリと同じ場所へ着地した。

 

「あぁ…えっと…」

 

ロックハートは戸惑いながら周囲を見渡しているが、跳ね飛ばされた蛇は怒り狂ったように、シャーシャーと鳴き声を上げ、近くに居た生徒に襲い掛かろうとしている。

 

スネイプが再び杖を構えようとした瞬間、ハリーの口から、蛇と同じような音が漏れ始める。まるで蛇と会話でもしているかのように…

 

スネイプを含めた周囲の人間の視線がハリーに集約する。

 

そんな事に気が付かないハリーは引き続きシャーシャーと音を立て、蛇と会話をし、気が付いた頃には、蛇も落ち着きを取り戻したのか大人しくなっていた。

 

当のハリーは、やり切ったという表情で蛇に睨まれていた生徒に微笑みかけた。

 

しかし、微笑みかけられた生徒の顔は引き攣っており、周囲を見回しても、私とハリー以外の人物は皆一様に暗い顔をしていた。

 

「何をやったんだ!ふざけるなよ」

 

先程の生徒が突然大声を上げ、ハリーを怒鳴り付けると、逃げる様にその場を離れていった。

 

重い空気が流れている中、スネイプが口を開いた。

 

「今宵はこれで終了だ。皆速やかに寮に戻るように。以上だ」

 

そう言い終えると、その場に居た生徒は我先にとその場から出ていった。

 

そんな中、ハリーはロンに、私はハーマイオニーに腕を掴まれて会場の外へと連れ出された。

 

重たい空気が流れる中、私達はグリフィンドールの談話室へと戻ると、そこでロンが口を開いた。

 

「君、パーセルマウスだったんだ!どうして言ってくれなかったんだよ?」

 

「パーセルマウス?」

 

ハリーは困惑した表情で聞き返すと、二人は真剣な顔になり、ハリーを見つめた

 

「パーセルマウスって言うのは、蛇の言葉なんだ」

 

「蛇と話せることがそんなに不思議?この学校には、僕以外にも動物と話せる人いるじゃないか」

 

「うん、でもね、蛇と話せるという事は特別なんだよ」

 

「特別ねぇ、良かったわね、もう一つビックネームが付くじゃない」

 

「へへっ、そうだね」

 

私の冗談にハリーが笑って返すが、二人の表情は曇ったままだった。

 

「ハリー…どうしてスリザリンのシンボルが蛇なのか知ってる?創設者の1人『サラザール・スリザリン』はパーセルマウスで有名だったのよ…」

 

 

ハーマイオニーの説明を受けハリーは口をあんぐりと開け驚愕している。

 

「多分、今頃学校中に噂が広まっているぜ、君の事をスリザリンの曾々々々孫だなんて噂してるかもな」

 

ロンが心配そうに言う。

 

ハリーの血縁関係は全く知らないが、可能性がゼロと言う訳ではないのだろう。

 

 




やっぱりロックハートは良いキャラしてますね。

明日も諸事情により更新できないと思います。

また、次回お願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ポリジュース薬

今日は更新しないといったな…

あれは嘘だ。


 翌日、また犠牲者が出た。

とあるゴーストと、先日蛇に睨まれていた生徒が石にされたようだ。

 

しかも運の悪い事に、今回の第一発見者もハリーだったようだ。

そのせいか知らないが、ハリーは殆どの生徒からスリザリンの後継者なのではと疑われている。

ダンブルドアも疑って居るのかどうかは知らないが、先程ハリーを呼び出したという話だ。

 

 

 

今回のような事件が続いたせいか、今年のクリスマスには殆どの生徒が自宅に帰省しており、私とハリーを含めた複数の生徒しか残っていなかった。そんな中、ハーマイオニーとロンも残ったようで、何やら3人で話し合ったりしているようだった。

 

 少人数のささやかなクリスマスディナーを楽しんだ後、自室へ戻ろうと廊下を歩いていると不思議な事が起こった。

眼前に、私と瓜二つの人物がいるのだ。まるで鏡を見ているような気分だ。

 

JOYと言う天使にも同じことをされたのを思い出す。

あの時は不愉快だった…

 

私は体を軽く捻りながら、左右にステップを踏み簡単なポーズを取る。

 

目の前の私は、少し戸惑っているようにも見えたが、鈍い動きで左右にステップを踏んでいる。いや…地団駄かも知れない。

 

次は前転するように転がり、背中から着地し、両足を天井に向けその場で体を回転させ、ブレイクダンスをする。フィニッシュは雌豹のポーズを取り眼鏡を整える。その時どこからともなくシャッター音が聞こえた気がする。

 

少し涙目になっている目の前の私は、何を思ったのか、おもむろにその場で仰向けになるとブリッジをしている。その腕はプルプルと震えており、いつ倒れてもおかしくはなさそうだ。

 

流石にバカバカしく思えてきた。

私は一瞬でブリッジをしている私に駆け寄ると、右足の銃を眼前に突き付ける。

 

「えっ?」

 

間の抜けた声が広い廊下に木霊する。

 

「何のつもりか知らないけど、仮装パーティーの時期じゃないわよ」

 

「あぅ…」

 

ブリッジをしている私は、その場で背中から倒れ、涙を流している。

 

少しすると、廊下の奥からハリーとロンが少し小走りでやってきた。

 

「ベヨネッタ…えぇ…とね…」

 

「これはどういう事かしら?いい趣味じゃない」

皮肉を込め笑いかけると、二人は苦笑いで返した。

 

 

床で横になっている私…の偽物は未だに泣いており、話にならない。

 

「はぁ…」

 

 

偽物の私に、馬乗りになり、腰をくねらせながら、中指を胸元から、喉元、そして顎先へとゆっくりと撫で上げる。

 

「ヒュイ!」

 

触られたことに驚いたのか、偽物は、声にならない声を上げている。

 

「ベヨネッタ!これは…」

 

「おい待てよ!もう少し見てようぜ…」

 

「ロン…君ってやつは…」

 

後ろでは、彼らのくだらないやり取りが聞こえてくるが、そんなものは無視しよう。

 

「さぁあ?そろそろ話してくれないかしらぁ?」

 

私は、耳元に顔を近付け、草木が擦れる様な声で囁くと、偽物の体が、ビクンッ!と跳ねた。

 

少し楽しくなってきた。

 

「だんまりを決め込むつもり?」

 

左手を、彼女の頬に添えながら、右手の銃身を、ふくらはぎに軽く押し付ける。

銃身越しにその柔肌の感触を楽しむ。

 

「ヒッ!」

 

「冷たかったかしら?」

 

 

外気に晒されてたためか、銃身が冷え切っていたのだろう。

 

私の問いかけに、コクコクと首を振った

 

「ふぅん…」

 

少し惚けた様な声で囁きながら、ふくらはぎに押し付けた銃を、ゆっくりと上部へ…

膝の裏を経由し、ゆっくりと、丁寧に撫でまわすように、内腿へと侵入させる。

 

「アッ…ァア…」

 

押し付けられている事の恐怖からか…はたまた別の感情なのかはよく分からないが、その表情は、頬を紅く染めながら、涙目になっており、その口は打ち揚げられた魚の様に口をパクパクとさせている。

 

「埒が明かないわね」

 

左手を彼女の左頬に添える。

外気は十二分に寒いのだが、その頬はとても熱を帯びていた。

 

私は頬に添えている左手を首元へとなぞる様に移動させ、首を押さえた。

突然の事に、動揺を隠せないのか、目をパチパチとさせているが、そんなことは気にも留めずに、右手の銃を数発程放った。

 

発射された弾丸は顔の輪郭をなぞる様に床に着弾し、きれいな弾痕を残した。

 

「ひぃいいいい!」

 

偽物はその場で悲鳴を上げる。

 

その瞬間、髪の長さと色が変わっていき、そこには見慣れた顔の少女が恐怖に染まった顔で目を見開きながら横になっており、恐らく失禁してしまったのかスカートとタイツは濃い黒色に染まっていた。

 

「ハーマイオニーじゃない、そんな所で寝てたら風邪引くわよ」

 

私は杖を取り出し、彼女に振るうと、先程まで濡れていた服はキレイになり、顔にも生気が戻った。

 

「あっ…あの、わたし…」

 

「はぁ、詳しい話は後で聞くわ、とりあえず談話室へ行くわよ、そこの2人、廊下の掃除任せたわよ」

 

「「えぇ?」」

 

二人は声を揃え何かを言っているようだが、そんな彼等を無視し、私達は談話室へと向かって行った。

 

 

 談話室に着き、ハーマイオニーを椅子に座らせてから、紅茶を淹れる。

 

両手で紅茶を受け取ったハーマイオニーは、ゆっくりと飲み干していく。

 

しばらくすると落ち着きを取り戻したのか、口を開いた。

 

「ごめんなさい」

 

「いいわよ、ところで、何で私の姿をしていたのかしら?」

 

「ポリジュース薬を作ったの…それでマルフォイから誰が後継者なのか聞き出そうと…」

 

ポリジュース薬、確か相手の体の一部を入れて飲むと、その相手の姿になる事が出来るという薬だ。

 

話を聞くと、マルフォイとある程度話の出来る人に姿を変えようとした結果、同室の私に白羽の矢が立ったという事だ。

 

しかし、本来の姿に変身されなくてよかった。

恐らく、一応抜け毛とは言え、多少の魔力は籠められていたお陰で、子供の姿の私に変身したのかもしれない。

 

その時、掃除を終えた二人が疲れた様子で談話室の扉を開けた。

 

「ふぅ…疲れた…」

 

彼等を見た途端にハーマイオニーの顔が紅くなった。

自らの粗相の後片付けをしてもらったのだから、それも仕方ないだろう。

 

「話は大体聞いたわ。それで…誰がこのふざけた事件の犯人なのか分かったのかしら?」

 

「それが、マルフォイは知らないって言っているんだ。僕等もクラッブとゴイルに化けて聞いたから間違いないよ」

 

「無駄骨だったわけね」

 

私の一言に3人は俯き深い、ため息を吐いた。

 

 

 

 ポリジュース薬の一件から2ヵ月ほど経ったある日、私はダンブルドアから呼び出された。

断ろうとすると、暴れ柳の罰則だと言われ半ば強制的に校長室へ連れて来られた。

 

ロン達はトロフィー磨きを命じられたようだ。

 

 

校長室に入ると、椅子に座る様に言われ、腰を掛ける。

ダンブルドアが軽く杖を振ると、テーブルの上には淹れたてのティーセットが用意された。

 

「さて、それじゃあ早速じゃが、2・3聞きたいことが有るのじゃが」

 

校長用の巨大な椅子に腰かけると、私を見据える。

 

「えぇ、なるべく手短にね。私も暇じゃないのよ」

 

「では聞くが、ロックハート先生が主催した決闘クラブに参加した様じゃの」

 

「えぇ、ハーマイオニー達に無理やり連れていかれたわ」

 

「それは災難じゃったのぉ。その時お主は、スネイプ先生と対決して勝ったそうじゃな。間違いないかの?」

 

「えぇ、間違いないわよ」

 

そう言うと、ダンブルドアの視線が険しい物へと変わった。

 

「安心していいわよ、これは使っていないわ。そこまで本気で遊ぶはずないじゃない」

 

右手に銃を取り左右に振りながら、その表面を眺める。傷一つ付いてない美しいフォルムだ。

 

 

「それなら良いのじゃ、それにしても、お主もやるのぉ。スネイプ先生はこの学校でもトップクラスの使い手じゃ」

 

「確かにそうかもしれないわね。不意を突かれたわ」

 

「その様じゃの。スネイプ先生の話では魔法は確実にお主に当たったという話じゃ…しかしの、当たった途端にお主の体が蝙蝠に変身したとも言って居るのじゃが、お主が動物もどきであるという話は聞いてはおらぬのじゃが」

 

そう言いながら杖を弄っているその視線は、さらに険しい物へと変わっていった。

 

「女の子に秘密は付き物よ。それじゃダメかしら?」

 

「秘密のぉ…ワシも独自に『アンブラの魔女』について調べてみたのじゃ…ワシの知り合いに500年以上生きておる友人がいての、その友人が少し知っておったのじゃ」

 

唐突に口を開くと、ダンブルドアは眼前に杖を構えながら話を始めた。

 

「ワシの聞いた話では、『アンブラの魔女』と言うのは主に闇の世界で暗躍して居った種族と言う話じゃ。そしてその魔力は絶大で、自身の体を様々な動物に変える事もできるという話じゃ…あくまでも噂にすぎぬとは言っておったがの…」

 

どうやら、ある程度調べたというのは本当の事の様だ。

自信ありげなその表情で私を見据えてきている。

 

「のぉ、セレッサよ。お主は血を引いている可能性を持っておると聞いた。これはワシの憶測にすぎんが、お主は『アンブラの魔女』の力を多少なりとも、使う事が出来るのではないのかのぉ」

 

鼻に着くようなワザとらしい言い方に腹が立ちが、これ以上シラを切ることは難しいようだ…仕方あるまい

 

「えぇ、そうよ。よく分かったわね」

 

「ホホホ、年寄りの勘が当たっただけじゃ。して、お主は何が出来るのじゃ?」

 

「秘密よ、それに教える義理が有るのかしら?もう戻ってもいいわね」

 

流石にこちらの事を教えてやる義理も無いだろう。

 

「まぁ今回は、これで良しとしようかの、それとこの事は秘密にしておこうかのぉ…その方が良いじゃろ?」

 

ダンブルドアは恩着せがましくニタニタと笑いながら杖を構えている。この一件で弱みを握ったつもりらしい。

 

私はその場から振り返る事なく、扉を開け談話室へと戻って行った。

 

 




今回は短めでしたね。

それではまた次回。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

トム・リドル

秘密の部屋も後半ですね。
ここら辺から、少しずつ原作とかけ離れていくと思います。


 

談話室に入ると、ハリーが黒い表紙の本を片手にハーマイオニーと話をしている所だった。

 

「ハリー、その黒い本はどうした?」

 

「うん、トム・リドルと言う人の持ち物だと思うんだけど、君達知らないかな?」

 

「トム・リドル…聞いたことないわね、ベヨネッタは?」

 

「ありふれた名前だけど、私も聞いたことないわよ」

 

「そうなんだ、一体誰のだろう…」

 

そう言いながら、ペラペラとページを捲っている。

 

「おかしいな」

 

「ハリー、どうしたの?」

 

「この本、何も書かれていないんだ。ほら」

 

そう言うと私達に本を開いて見せつけてくる。

 

「本当だわ、でも新品と言う訳ではなさそうね」

 

私はハリーから本を受け取ってページを捲ってみる。

確かに何も書かれてはいないようだ。しかしこの本自体からは、かなりの魔力を感じる。この本は一体…

 

「私も見たいわ」

 

ハーマイオニーに本を手渡すとペラペラとページを捲って中を確認している。

 

その時、ちょうど談話室の扉が開かれた。

 

「やぁ、君達何してるの?」

 

疲れた表情のロンが大げさに体を伸ばしながら近寄ってきた。

 

「お帰り、罰則終わったのかい?」

 

「あぁ、ハリー、君もやったんじゃないのか?」

 

「この前、終わらせたよ」

 

「そうか、所でさっきから何をしているんだ?」

 

「うん、変な本を拾ったから皆で見ていたんだ」

 

ハリーはハーマイオニーの手元にある黒い本を指差した。

 

「へぇー、僕にも見せてよ」

 

ロンは半ば引っ手繰る様にハーマイオニーから本を取り上げる。その為、ハーマイオニー声を荒げてロンを怒鳴りつける。

 

「ちょっと!何するのよ」

 

「良いだろちょっとくらい…なんだこれ、白紙じゃないか」

 

「そうなんだよ、だから変に思っちゃって」

 

「そうなのか…ん?トム・リドル?」

 

トム・リドルの名前を見てロンの動きが止まった。

 

「トム・リドルの名前に思い当たる節があるようね。貴方の親戚かしら?」

 

私がそう言うと、ロンは本を左右に振りながら否定した。

 

「違うよ、確かトロフィー室で見かけたんだ。なんせ罰則で嫌と言う程トム・リドルの名前が入ったトロフィーを磨いていたからね」

 

ロンは嫌そうに、本をハリーへと返した。

 

「そうなんだ。何をやってトロフィーを貰ったか覚えてる?」

 

「確か、50年ほど前スリザリンの後継者を捕まえた事で特別賞を貰ったって書いてあったよ」

 

「「スリザリンの後継者!」」

 

2人は声を揃えて驚愕する。

なんせ現状最も知りたい情報がスリザリンの後継者に関する事なのだから。

 

「良かったじゃない、これで手掛かりになったわね」

 

私がそう言うと、ハーマイオニーは顎に手を置きながら少し残念そうな声を上げる。

 

「でも、50年も前の事よ?どんな人物か分からないわ」

 

確かにそうだ。

 

「私、図書館でトム・リドルについて調べてみるわ」

 

「僕も協力するよ。でもその間、この本どうしようか?」

 

本をペラペラと捲りながらハリーは物思いに耽っている。

 

「そうね…ハリー、貴方が拾ったのだから、貴方が使ったらいいんじゃないかしら?日記でも付けたらどう?」

 

「ベヨネッタの言うとおりね、日記をつけることは良い事よ」

 

「そうだね。今夜書いてみるよ」

 

ハリーは嬉しそうな顔で、マントの下に黒い本を仕舞い込んだ。

 

 

 ハリーが本を手に入れてから数日が経った。

 

この前までは普通に扱っていた本を、今ではとても大事そうに抱え、時折、何やら書き込んでいるように見える。

 

しかし、さらに数日が経ったある日、ハリーは神妙な面持ちでロンと話している。

 

「ハグリッドだったんだ…」

 

ハリーの口から突然にハグリッドの名前が出る。一体何の事を言っているのだろう?

しばらくすると、私の存在に気が付いたのか、ハリーが軽く手を振ってくる。

 

「やぁ…ベヨネッタじゃないか」

 

「どうしたのよ、この世の終わりみたいな顔してるわよ」

 

「そうかもね…」

 

ハリーは乾いた笑いをしながら、黒い本をテーブルの上に置いた。

 

「この本が…トム・リドルが教えてくれたんだ…50年前に現れたスリザリンの後継者がハグリッドだって…」

 

あのハグリッドが後継者?

お世辞にも、後継者の器とは思えないのだが…ハリーは信じているようだ。

 

「それで…本が教えてくれたって言うのはどういう事かしら?」

 

ハリーは少し考えた後、ペンを取り出し、ページを開くと何やら書き始める。

 

『50年前の後継者は、ハグリッドで間違いないのですね?』

 

本に書かれた文字は、大地に落ちた雨の様に吸収されると、同じページに文字が浮かび上がる。

 

『間違いないよ。僕はその場に居て、ハグリッドを捕まえたのだから』

 

その光景を見たロンは驚いた表情を浮かべていた。

 

それにしても、『僕が捕まえた』という事は、この本自体がトム・リドルなのだろうか?

もしくは、トム・リドルが本に自らの記憶を残しているという事なのだろうか?

 

「だから…僕は今夜…ハグリッドに聞きに行くんだ。50年前の後継者が誰なのか…」

 

「僕も行くよ」

 

ハリーとロンは互いに頷いた後、私の方を見てきた。

私にも付いて来いと言うのだろう。

 

「悪いけど、私は行くつもりないわよ。それに女の子を夜に連れ出そうなんて、10年早いわよ」

 

私が少し冗談っぽく言うと、2人は唖然としていた。

 

「ま…まぁ、そうだとは思ったよ。今夜は2人だけで行こうぜ」

 

「そ、そうだね」

 

結局、2人で行くようだ。

 

 それからしばらくは、平穏無事な日々が続いた。

私は、来年から行われる選択科目をどれにしようかと考えていた。

 

3年生になると『古代ルーン文字』『数占い』『魔法生物飼育学』『占い学』『マグル学』などが選択可能になる。

 

ハーマイオニーは全ての項目にチェックを入れて、提出したと言っていた。

一体どうやって全ての授業を受けるつもりなのだろうか?

 

とりあえず、魔法生物飼育学を選ぶことにしよう。

特に理由は無いが、しいて言うなら一番楽そうだからだ。

後は適当に、占い学にでもするか…

ハリー達もそうするという話だ。

 

 

 

 それから、数日が過ぎた頃、ハリーとロンが血相を変えて周囲を探し回っていた。

 

話を聞くと、あの黒い本が無くなってしまったという。

 

「どこかに置いてきたんじゃないの?」

 

「ハーマイオニー、そんな事は無いんだ。だって僕のトランクのがひっくり返されて漁られていたんだ!」

 

そう言うと、ハリーは自室に私達を通した。

 

部屋の中は見るも無残な状態で、まるで空き巣にでも入られたような感じだった。

 

「無くなったのは本だけ?ほかに取られたものがあるんじゃないの?」

 

「いや、そこはちゃんと見たよ。無くなったのは本だけだった…どうしようか…」

 

「ハリー、取り敢えず片付けよう。こんなところ、誰かに見られたらまずいよ」

 

「そうだね、僕たちは部屋の片付けをするよ」

 

ハリーがそう言うので、私達は部屋から出ていくことにした。

 

「それにしても、物騒ね。一体誰の仕業かしら?」

 

「さぁ?でも、寮の中に入れるって事は、グリフィンドール生じゃないかしら?」

 

現状から考えて、その可能性が一番高いだろう。

だとしても、一体だれが何の為に、あんな本を盗んだのだろうか?

 

私達は、煮え切らないと言った表情で、互いに考えを巡らせていた。

 

 

 今日はクィディッチの試合の日だ。

 

対戦カードはグリフィンドール対ハッフルパフだ。

 

生憎の天気だが選手及び、観客は皆一様に興奮している。

 

最近のスリザリンの後継者による事件を忘れたいのだろう。

選手の入場と共に、会場の盛り上がりは最高潮に達した。

 

 私とロンは、観客席に座り試合が始まるのを待っている。

 

いつもなら、必要以上に誘ってくるハーマイオニーだったが、今回は何やら調べ物が有るという事だ。恐らく、図書館に籠っているのだろう。

 

 

両チームの選手が競技場に整列し、ホイッスルが鳴り響く。

 

試合が始まってから5分程が経った頃だろうか、競技場に血相を変えたマクゴナガルが入ってくると、杖を掲げ試合を中止させた。

 

あのクィディッチ狂いが試合を中止させる等一体何事だろう?

 

しばらく観客席で待機させられると、全員が談話室へと戻るように指示された。

 

ハリーと合流し、談話室へ戻ろうとしている私達を慌てた様子のマクゴナガルが引き留め、付いて来るように言った。

 

マクゴナガルの後に続き医務室の扉を開けると、中には真新しいベッドが2つ用意されており、その一つの前で私達は立ち止まった。

 

「辛いかもしれませんが…」

 

カーテンが開かれた先には、文字通り、石の様に動かなくなってしまったハーマイオニーの姿が有った。

 

「まさか…ハーマイオニーが…」

 

ロンは狼狽えたようにハーマイオニーの体を揺らした。しかしハーマイオニーはピクリとも動かなかった。

 

「死んではいません…石になっただけの様です。今までの被害者と同じように…」

 

「先生…ハーマイオニーは…どうなるんですか…」

 

「もうしばらくすればマンドレイク薬が完成します。それを使えば石になった者を元に戻せるはずです」

 

「そう。で?犯人の目星は付いているのかしら?」

 

「いえ…それがまだ…」

 

私は、小さく舌打ちをした。

流石にここまで犠牲者が出て何も対策せず、犯人の目星すら付いていないとは…

 

「分かったわ。少し彼女の持っていた物を確認してもいいかしら?」

 

「構いませんよ」

 

マクゴナガルから許可を取り、ハーマイオニーが持っていたという物を確認した。

 

持ち物は、手鏡のみと少し異様な感じだ。せめてメイク道具でも有れば不自然ではないのだが…

 

そう思っているとロンが何かを発見したようだ。

 

「ちょっと見てよ」

 

そう言って私達に1枚の小さなメモを手渡した。

 

メモには『パイプ』と書かれているだけだった。

 

「パイプ?何の事か分かるかい?」

 

「さぁ?僕にはさっぱり…ベヨネッタは?」

 

「残念、見当も無いわ」

 

ハーマイオニーが残した謎のメモ。そして、再び出てしまった犠牲者…

 

私は嫌な胸騒ぎを感じながら、少し広くなった自室へと戻って行った。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

秘密の部屋は開かれる

最近、眠気がある方が執筆が進む気がするんですよね…


 

 自室に戻った私は、同室の全員が寝静まったのを確認した後、杖を取り出し、BARへと移動した。

 

聞き慣れたBGMを聞き、ゆっくりと目を開く。

 

いつもの様に天使の脳天に1発お見舞した後、バーカウンターへと腰かける。

 

「よぉ、いつものだな」

 

ロダンはそう言うと、予め用意していたカクテルを手渡し、私はそれを一気に飲み干し、お代わりを要求した。

 

「ほらよ…それにしても、今日はよく飲むな」

 

「そうかしら?」

 

「あぁ、何かあったのか」

 

「大した事じゃないわ、ただ知人が一人石にされただけよ」

 

その後、私は今回起こったスリザリンの後継者による事件を説明した。

 

「なるほどなぁ、それで、お前のクラスメイトが石にされちまった訳か」

 

「えぇ、何か心当たりないかしら?」

 

ある程度酔った為か、ロダンにそんな事を愚痴ってしまう。

 

ロダンから回答が来るとは思っていなかったが、その期待は大きく裏切られた。

 

「状況にもよるが、それはバジリスクかもな」

 

「バジリスク…」

 

確か、蛇の王だったか…

しかしバシリスクの目には相手を殺す力はあるが、石にする力が有る等聞いた事が無かった。

 

「バジリスクの目ってのはちょっと特殊でな、直視すれば死んじまうが、直視さえしなければ死ぬ事は無いって聞くぜ」

 

「じゃあ、今までの犠牲者は、直接は見なかったって事?」

 

「恐らくそうだろうな、それに、サラザール・スリザリンはバジリスクを使役していたという噂だ」

 

「そう…」

 

新しく出されたカクテルを受け取ると、ゆっくりと一口飲み込む。

 

「で?どうするんだ」

 

ロダンは何やら鼻に付く言い方で聞いて来る。

 

「何の事かしら?」

 

「とぼけるんじゃねぇぜ、お前が相当、頭に来ている事くらいお見通しだ」

 

「そうね…それで?それがどうしたって言うのよ」

 

「おいおい、そう熱くなるなよ、まぁバケモノを相手にするんだ…少し遅めのクリスマスプレゼントだ」

 

テーブルの下から、キレイにラッピングされた細長い箱が取り出される。

 

「開けてみろ」

 

ロダンに言われるがままに、包みを開いていく。

包みの中からは、どこか懐かしい魔力が漏れ出て来るのを感じた。これは…

 

一気に箱を開くと、中から、まがまがしい色をした日本刀が姿を現した。

 

「どうだ?懐かしいだろう?」

 

「えぇ、この子は私のお気に入りのひとつね」

 

右手に柄を持ち、左出て鞘を支え、一気に刀身を引き抜く。

 

刀身は、禍々しく、怪しげな雰囲気を放ち、未だに血を求めているようだ。

 

「妖刀 修羅刃をベースにちょっとばかし手を加えたんだ。気にいると思うぜ」

 

「へぇ…どんなアレンジをしたのかしら?」

 

抜き身の刀を数回、回転させた後、その切っ先をロダンに突き付ける。

 

ロダンは右手の中指と人差し指で刀身を挟むと、軽く横へとずらした。

 

「少し、ホグワーツの歴史を調べてな…その一節にあった、小鬼が作った剣を少し参考にしただけさ」

 

「アンタも案外、マニアックな事するわね。それで?その効果って何なのかしら?」

 

「あいつ等も案外、味な真似するもんだぜ。自らを強化する力を吸収する特性を持たせたんだ」

 

自らを強化する力を吸収?

一体どういうことだろう?

 

そう思っていると、バーカウンターの向こうのロダンは、葉巻に火を付け、煙を吐き出した。

 

「使ってみれば分かると思うが、自らを鍛える剣だと思ってくれればそれでいい」

 

「そうするわ、あまり難しいのは好きじゃないのよ」

 

修羅刃を受け取り、ポーチへと仕舞い込む。

 

その後、残りの酒を飲み干し、一つ溜息をついてから、バシリスクにどんなお仕置きをしてやろうかと、考えを巡らせるのであった。

 

 

 

 しばらくすると、ダンブルドアが校長としての職務を全うしてないと言う理由で更迭された。

まぁ、今回の事件を何の対策もせず、野放しにしていたのだ…仕方あるまい。

それと同時に、ハグリッドも50年前…スリザリンの後継者の容疑でアズカバンと言う監獄へ収監されたらしい…

 

それからあまり日が経たずに、再び犠牲者が出た。

しかし、今回は石にされた訳では無い様だ。

 

「ジニー…」

 

グリフィンドールの談話室で、ロンが地面に両足を付け嘆いている。

その周囲には、他のウィーズリー家の生徒もおり、互いに慰めあっていた。

 

周囲に居る生徒たちに話を聞くと、ロンの妹のジニーがスリザリンの後継者によって連れ去られたという話だ。

 

そして、壁には、『彼女の白骨は永遠に秘密の部屋に横たわるであろう』と書かれて居たそうだ。

 

 

しばらく時間が経ち、落ち着きを取り戻したロンが、図書館へ行こうと提案して来たので、私達はついて行くことにした。

 

 

私は図書館に入り、ハーマイオニーが借りていた本を取り出すと、バシリスクが描かれたページを開きハリー達にバジリスクが原因であるという事を説明した。

 

バジリスク、蛇の王であるという事を知った2人は、とても驚いた顔で、本を眺めていた。

 

「バジリスクだったんだ!だから僕にしか聞こえない声がしたんだ!」

 

「蛇語だったって訳ね」

 

「そうだよ、でも…どうやって移動してたんだろう…」

 

ハリー達は本に描かれているバジリスクの絵を見ながら考えている。

 

10mを超える巨体が廊下を這っていれば、余程の事が無い限り多くの生徒が目撃するだろう。

 

しかし、その方法は既にハーマイオニーが解き明かしている。

 

私は、彼等が本の栞代わりに使っているハーマイオニーが残したメモを取り出し、突き付けた。

 

「答えはこれね」

 

「パイプ…そうか!バジリスクはパイプの中を移動していたんだ!」

 

「その様ね…それで?どうするのかしら?」

 

私の言葉に2人の動きが止まった。

 

「どうするって…秘密の部屋の場所も分からないのに…僕達に何ができるって言うんだ!」

 

ロンは、ヒステリックな声を上げ、図書館に響かせる。

 

「ひとつ…思い当たる事が有るんだ…」

 

ハリーはその場で立ち上がると、付いて来るように言った。

 

しばらく廊下を歩き、ハリーが向かった先は、誰も寄り付かないであろう『女子トイレ』だった

 

「ハリー…気が動転したのかしら?こんなところに来たって何も無いわよ」

 

「ベヨネッタの言う通りさ、ここに居るのは『嘆きのマートル』だけじゃないか」

 

「誰よそれ」

 

その直後、耳障りな金切り声がトイレに響いた。

 

『私の事よ!何か文句あるの!』

 

トイレの一室から、水が逆流すると共に眼鏡を掛けた少女のゴーストが飛び出てきた。

 

「あらぁハリー…今日は何の用かしら?」

 

ハリーを見た途端、猫撫で声を出し、肩に寄り添っている。

 

ハリーは少し引き攣った表情で会話をしている。

 

会話の内容は、このゴーストが死んだ時の状況だった。

 

しばらく、耳障りな声で話をしていたゴーストも、全てを話し終わった後、ハリーとの別れを惜しみながらトイレの個室へと戻って行った。

 

「どうやら、ここみたいだ…見てよこれ」

 

ハリーが手洗い場の一部を指差すと、そこには蛇の紋章が刻まれていた。

 

「ここが、秘密の部屋の入り口なのね。それにしても、女子トイレに入り口を作るなんて、危ない性癖してるわね」

 

「スリザリンなんて、そんなもんさ。それより早く行こうぜ!ジニーが心配だ」

 

「そうだね、でも少し待ってくれ、ちょっと先生を呼んでくるよ、その方が安全さ」

 

そう言うと、ハリーは女子トイレから小走りで出ていった。

 

10分ほどが経った頃、ロンはイライラし始め、私もこれ以上待つのかと思うと、入り口を蹴破ろうかと考えていた。

 

「お待たせ!連れてきたよ!」

 

ニコニコと笑みを浮かべたハリーはもっとも役に立たないであろう男…ロックハートを連れてきた。

 

「ハリー!なんでそいつを連れて来たんだ」

 

「一番近くにいたんだ」

 

「ハリー…先程も言ったが、私はこれから用事があるから、部屋に戻らなくては…」

 

「なんだって…逃げるのかよ!」

 

「いやぁ…逃げるなんてとんでもない」

 

ロックハートはニコニコと笑いながら、ロンを諭していたが、ロンはそれが気に入らなかったのか、ロックハートに折れた杖を突き付けた。

 

「ちょ!何をするんです!」

 

「これから僕達は、秘密の部屋へ行く…お前にも付いて来てもらうぞ。杖をよこせ」

 

折れた杖を力強く、押し付けられたのか、ロックハートは少し間抜けな声を上げ、渋々杖をハリーに手渡した。

 

「じゃあ、開けるよ…」

 

ハリーが何やら、蛇語を話すと、大きな音を立て、水飲み場が動き、入り口が現れた。

 

「さぁ…行け」

 

ロンがロックハートに先行するように杖を押し付ける。

嫌々そうに、穴の中へ飛び降りた直後、かなりの深さだったのか、反響音と化したロックハートの叫び声が聞こえてきた。

 

「じゃあ…僕たちも行こうか…」

 

「えぇ、行くわよ」

 

ハリー、ロンの順番で飛び降りた後。私は穴へと降りていく。

 

落ちていく道中、背中の羽を羽ばたかせ、ゆっくりと落下し、地面へ軟着地した。

 

 

降り立った場所は、地下数キロ程の場所で、洞窟の様な作りになっていた。

 

「いてて…皆!大丈夫?」

 

「うん、みんな平気だ!」

 

2人は、座り込んでいるロックハートを叩き起こすと、先へ行くように指示した。

 

ある程度進んでいくと、巨大な蛇の抜け殻の様なものが目に入った。

 

「これは…」

 

「多分、バジリスクの抜け殻だと思う」

 

「バジリスク!」

 

その名を聞いて、ロックハートは大袈裟に驚き、その場を離れようとした。

 

「待てよ!」

 

ロンが飛び掛かるが、ロックハートはそれを跳ね除け、杖を奪い取った。

 

「ハハハッ!これで形勢逆転ですね!」

 

折れた杖を掲げ、大声を上げながら、こちらに杖を突き付けてくる。

 

「残念ですが、ここまでです!貴方達には、この一件は忘れてもらいましょう!」

 

 

それから先は、ロックハートの講演会と化した。

 

自らが行ってきた事は、総てが他人の活躍を横取りし、加筆修正を施した夢物語に過ぎないと。

ここまで見事に語れるとは…いっその事ファンタジー作家にでもなれば良いものを…

 

「それでは、いきますよ!オブリビエイト!」

 

ロックハートは大振りに杖を振るったが、放たれた魔法は私たちに直撃することはなかった。

 

「うわぁああ!」

 

魔法を放ったはずのロックハートが、後ろへ吹き飛ばされたのだ。

 

折れているロンの杖を使った為、魔法が逆流したのだろう。

目を覚ましたロックハートは「ここはどこだ」等と、訳の分からない事を口にしていた。

 

「まぁ、自業自得ね」

 

ロンは、ロックハートから杖を取り戻すとこちらへ向かって、歩き出そうとした。

 

その時だった。

大きな地鳴りと共に、地面が大きく揺れ、岩盤が崩れ落ちた。

 

「ロン!」

 

私達の目の前…ロンの付近に岩盤が落ちてきた。

 

「ロン!大丈夫か?」

 

「あぁ!なんとかな」

 

降り注いだ岩盤の向こうから、ロンの声が聞こえてきた。

どうやら無事なようだ。

 

「僕等は先へ進むよ!ロンはその場でロックハートを見ていてくれ!」

 

「あ…あぁ!わかったよ」

 

嫌そうなロンの返事が聞こえてきたが、恐らく大丈夫だろう。

こうして私達は先へと進む事にした。

 




ようやく、秘密の部屋に突入しました。

次回は戦闘シーンに入れればいいなと思っています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

バシリスク

やっぱり戦闘シーンが入ると少し長くなっちゃいますね。



 

 

 しばらく洞窟を進んで行くと、巨大な蛇のオブジェが付いた扉が目の前に現れた。

 

「ここね」

 

「多分…」

 

ハリーは扉に近付き、蛇語で何やらしゃべりかけると、オブジェクトが動き出し、扉が開いた。

 

「行こう」

 

「えぇ」

 

扉を抜けると、左右に蛇のオブジェが鎮座する、少し広い空間が現れた。

その奥には、見覚えのある少女が横たわっていた。

 

「ジニー!!」

 

ハリーは少女に駆け寄ると、必死に肩を揺らしている。

しかし、少女が目を覚ます事は無い。

 

「ジニー!死んじゃダメだ!目を開けて!」

 

 

 

 

「その子は目を覚まさないよ」

 

後ろから、聞き慣れない声がし、私達は振り返ると、柱の奥から一人の青年が現れた。

 

「トム…リドル…」

 

「誰よそれ?」

 

私が聞くと、トム・リドルという青年がその場で一礼し口を開いた。

 

「やぁ…初めましてだね、僕の名前は、『トム・リドル』君の事はハリーから日記越しに聞かせてもらってるよ、ミス・ベヨネッタ」

 

その少年は怪しげに、こちらを見ると、手を差し出してきた。

 

 

「どうして…君はゴーストなのかい?」

 

ジニーを抱いたまま、ハリーがトムに話しかけると、差し出した手を引っ込め、ゆっくりと口を開いた。

 

「記憶さ。その日記には、僕の50年前の記憶が残されている」

 

そういうと、黒い表紙の本を片手ににこやかに笑っている。

 

「それに、ジニーが目を覚まさないって…どういう事だよ!」

 

ハリーが声を荒げると、トムは不敵な笑みを浮かべていた。

 

「彼女の魂は、もう殆ど残っていないんだ」

 

「どうにかならないのか?助けてよ…このままじゃバシリスクが来る…」

 

ハリーは必死にジニーを抱えようとしている。

私はトムから視線を話さないようにしながら、ジニーに近付き、片手でジニーを持ち上げ、ハリーに担がせる。

 

「ありがとう、ベヨネッタ。さぁここから出よう!」

 

「そうはさせないよ!」

 

次の瞬間、トムの杖から閃光が走った。

 

ハリーは、咄嗟に自らの体を盾にジニーを守ろうと、覆いかぶさった。

 

私はそんな二人の前に飛び出し、杖を薙ぐようにして、魔法を打ち消す。

 

「ほぉ…やるじゃないか」

 

「貴方もね、それにしても不意打ちなんて卑怯だわ」

 

「ハハハ、なんせ僕はスリザリンの後継者だからね」

 

突然の告白に、ハリーは目を白黒させていた。

 

「どうして…スリザリンの後継者はハグリッドだって…君がそう言ったじゃないか!」

 

 

「フッ…ハグリッド…あんなウスノロがスリザリンの後継者になれる訳ないだろ」

 

「まぁ、そうよね」

 

「そんな!ベヨネッタまで…」

 

 それからは、トム・リドルがなぜこのような事をしたのかを語った。

先程のロックハートの演説を再び見せられている気分になった。

 

演説の要点をまとめると。

スリザリンの後継者はジニーであり、あの黒い本を手にし、トムに操られ、ペンキで文字を書いたりしていたという事。

 

スリザリンがマグルをこの学園から排除するのを願っていたという事だった。

 

それを聞いたハリーは、苦虫を嚙み潰した様な表情を浮かべていた。

 

対する私は、あまりにも長い演説に嫌気が差し、枝毛を探していた。今日も枝毛は無く、見事なキューティクルだ。

 

 

「そして…ハリー…君に一つ聞きたい…なぜこれといって特別な魔力も持たない赤ん坊が、神に選ばれし偉大な魔法使いをどうやって破った? ヴォルデモート卿の力が打ち砕かれたのに、君は、たった1つの傷痕だけで逃れたのか?」

 

この話をしたかったのかと思うくらいに、テンションが上がったトムに、ハリーは冷静に答えた。

 

「僕がどうやって生き残ったか、知ってどうするんだ?君には関係ないだろ!」

 

「関係ないわけないじゃないかぁ!ヴォルデモートは、僕の過去であり、現在であり、未来なのだ!ハリー・ポッター」

 

トムが杖を振るうと、空中に『TOM MARVOLO RIDDLE』の文字が浮かんだ。

 

その後、杖を一振りすると、文字が動き出し、並びが変わる。

 

『I AM LORD VOLDEMORT』

 

「私はヴォルデモート卿だ…ね、悪趣味なアナグラムだわ」

 

「貴様!」

 

私の素直な感想が気に食わなかったのか、トムの表情が歪み、ハリーと同じ蛇語を口にした。

 

「ベヨネッタ!素直に言っちゃダメじゃないか!」

 

その直後、大きな地鳴りと共に、奥から黒い色の蛇が現れた。

 

そして、部屋の半側からは、1羽の派手な鳥が現れた。

 

「あれは…ダンブルドアの不死鳥か」

 

現れた不死鳥はハリーに薄汚い帽子を渡すと、上空を大きく旋回している。

 

「それは?」

 

「古い組み分け帽子だ…」

 

「フッ、ダンブルドアはそんな物を送ってきたのか!古い帽子に、不死鳥か!これは、素晴らしい援軍じゃないか!」

 

トムは小馬鹿にするように、嘲笑っている。

 

「さぁ?それでは本題に戻ろう。ハリー…君はどうやって生き残った?」

 

ハリーはトムを睨み返すと、力強く答えた。

 

「お前が僕を襲ったとき、どうしてが力を失ったのか、誰にも分からない。僕自身にもわからないんだ。でも、なぜお前が僕を殺せなかったのか、僕にはわかる。母さんが、僕を庇って死んだからだ!」

 

それを聞いたトムは、その表情を歪めながら、笑う。

 

「そうかぁ…母親が君を救うために死んだ。なるほど、それは呪いに対する強力な反対呪文だ。結局の所、君自身には特別なものは何もないわけだ。僕と違ってね」

 

再び、トムが不気味な笑みを浮かべる。

 

「さて…そろそろ遊ぼうじゃないか!ハリー・ポッター!そして、巻き込まれてしまった少女よ!」

 

トムはその場でお辞儀をすると、その場を離れ、スリザリンの石像の前でパーセルタングで何か囁いている。

 

その声を聴いて、ハリーはとても怯えている様だった。奴が何を言っているのか理解したのだろう。

 

次の瞬間、石像の口が開かれ、その奥から黒々とした、巨大な蛇が姿を現した。

 

大蛇は、私に近付くと、その眼で見据えてくる。

 

「ベヨネッタ!目を見ちゃだめだ!」

 

ハリーが叫ぶが、もう遅かった。

 

私の目と大蛇の目は、しっかりと合ってしまった。

 

 

「そんなに見詰められても困るわ」

 

互いに見詰めあう中、狼狽したトムの声が響いた。

 

「なんでだ…なぜ貴様は死なない!」

 

「さぁ?秘密よ」

 

私は、右手の銃の先端で、軽く眼鏡を整えて見せる。

 

「ふざけるなよ!そいつの相手は後だ!今はハリーを…」

 

トムが叫ぶ中、黄金の忌々しい光が、秘密の部屋を照らした。

 

そう…奴らが放つ、忌々しい光が…

 

「この光は…まさか!」

 

トムが光に驚くと、その場で大笑いした。

 

「フハハハハハ!そうか!そういう事か!これは素晴らしい!」

 

「どういう事だ!」

 

「ヴォルデモート卿が!現在の僕からの素晴らしい援軍が来たって事さ!」

 

トムがそう叫ぶと、スリザリンの石像を吹き飛ばしながら、赤黒い、巨大な蛇の様な天使…インスパイアドが現れた。

 

インスパイアド…天使上位三隊の「父」のヒエラルキーに属する天使で、座天使と呼ばれる。

巨大な蛇の様な見た目で、空を暴れ回る厄介な奴だ。

 

 

「これは…蛇!」

 

「違うわ、もっと質の悪い天使よ」

 

私は、両手の銃を構え、迎撃の体勢を取った。

 

「どうやら、君は天使について知っている様だね…まぁいい、さぁ!バシリスク!天使よ!行け!」

 

 バシリスクは雄叫びを上げ、インスパイアドは上空を高速で飛び回る。

 

上空を飛び回るインスパイアドと、見ただけで死に至る目を持つバシリスクを相手に、ハリーを守りながら戦わなくてはならない。この状況は非常にまずい…

 

そう思っていると、上空から不死鳥が急降下すると、バシリスクに襲い掛かった。

 

「ギュアァアアア!」

 

バシリスクは悲鳴を上げながら、のたうち回っている。

 

不死鳥はバシリスクの顔面に張り付き、その嘴で、目を抉り取った。

 

これで、目を見る事による死は回避されたのだろう…

 

 

「バシリスクの目を潰すとは…だがな!」

 

トムが右の指を弾くと、周囲からアフィニティが数体ほど現れた。

 

「行け!天使共よ!バシリスク!お前もだ!」

 

 

次の瞬間、天使とバシリスクの混成部隊が私達に迫りくる。

 

「ハリー、どこか安全な場所へ隠れていなさい」

 

「イヤだ!僕も戦うよ!」

 

ハリーの言葉に驚き、振り向くと、先程まで持って居なかった筈の銀色の剣を構えていた。

 

「その玩具はどうしたのよ」

 

「この帽子の中から出て来たんだ。きっとダンブルドア先生が…」

 

その瞬間、バシリスクが突進してくる。

 

私はハリーの襟を掴むと、横へ飛びのき、その場から離れる。

 

しかし、バシリスクはこちらの位置が分かる様で、攻撃の構えを取っている。

 

「で?どうするの?逃げ場は無さそうよ」

 

周囲を飛び交う天使達は、こちらの隙を疑い、いつ攻撃を仕掛けて来るかわからない。

 

「僕が…蛇語を話せる僕が、バシリスクを引き付けるよ!その間に君は、天使達を!」

 

意を決した表情で、ハリーがそう叫ぶと、蛇語を発しながら、私と反対方向へ移動してた。

 

「はぁ…仕方ないわね」

 

私は、プーリーの守護蝶に魔力を込めると、周囲に守護蝶が、数匹程舞う。

 

そのうちの1匹を右手の人差し指に止めると軽く息を吹きかけてやる。

すると、蝶はヒラヒラと宙を舞いながらハリーの方に止まった。これで大丈夫だろう。

 

「さぁ、相手をしてあげるわ」

 

両手の銃をポーチへとしまうと、その隙を逃さないかのように天使が杖を構え急降下し、突撃してくる。

 

「甘いわね!」

 

天使が手に持っている、身の丈程の杖を横に薙ぐように振りかざすが、それよりも先に、ポーチの中から抜き身の刀を取り出し、居合の様に切り払う。

 

「キュアアア!」

 

真っ二つに切り裂かれた天使は、断末魔を上げ、その場で消えた。

 

「いい切れ味ね、相変わらず、素敵だわぁ」

 

刀身をマジマジと眺めていると、その鏡の様に磨き上げられた刀身越しに、天使が背後から迫ってくるのを確認する。

 

「ふっ!」

 

刀を逆手に持ち、脇腹の横から真後ろに突き刺し、ウィケットウィーブを発動させ、巨大な刀身を出現させる。その後、刀を逆胴の動きで薙ぎ払い、周囲の天使共を一気に切り払う。

 

「「ギャアアア!」」

 

半数ほどの天使たちは、その場で上半身と下半身が別れ、崩れ落ちた。

 

「うわぁああああ!」

 

直後に、ハリーの悲鳴が響く。

 

声のする方を見ると、バシリスクの口の中に手を突っ込み、悲鳴を上げているハリーの姿があった。

 

「ギュアア!」

 

バシリスクは悲鳴を上げると、首を左右に振り、ハリーを吹き飛ばした。吹き飛ばされ、気絶しているハリーの肩には、1匹の蝶の亡骸が見えた。

 

「クソッ!」

 

トムは悪態を付くと、蛇語で何やら叫ぶと、蛇は大きく首を振り、口の中から銀色の剣を吐き出し、トムの元へと駆け寄った。

杖を取り出すと、バシリスクに何やら魔法をかけている。あれは、治癒魔法か?

 

 

吐き出された剣をは空中で弧を描きながら、私の元へと飛んでくる。

 

私は、それを左手で受け取ると、右手には修羅刃、左手には銀色の剣を構える。

 

「ふぅん…なかなか面白い剣ね、私の力を吸いたい様ね」

 

左手からは、必死に力を吸い取ろうとする、力を感じた。これが、ロダンの話していた、小鬼が作ったと言う剣なのだろう。

 

「いいわ、使ってあげるわ」

 

次の瞬間、残っていた天使達が、一斉に攻撃を仕掛けて来る。

 

「はぁあ!」

 

両手に広げ、魔力を込め、その場で回転しながら周囲の天使を切り払って行く。

 

しかし、ウィケットウィーブが発動したのは、修羅刃のみで、銀色の剣は魔力に耐えられないのか、ピキピキと音を立て、ヒビが入っている。

 

「あら?これだから玩具は嫌なのよ」

 

1匹の天使が地面に落下し気を失っている。

 

私はゆっくりと近付き、右足で背中を踏みつけると、両手の剣を交互に突き刺した。

 

「お仕置きね」

 

何十回と突き刺された天使は、最後に断末魔を挙げ、光になって消え去った。

 

次に、もう1匹の天使が、私の眼前に杖を振り下ろす。

 

「フッ!」

 

その杖を左手に構えた、銀色の剣で受け止める。

すると、剣から、『ピシッ』とヒビが入る音が聞こえる。

 

「くらえ!」

 

左手の剣で受け止めつつ、右手の刀を腹に突き刺し、一気に脳天まで切り裂く。

 

天使は、上半身を真っ二つに切り裂かれ、声にならない声を上げ、その場で崩れ去る。

 

すると、前方と後方から、杖と、モーニングスターを携えた天使が、攻撃の体制を取りながら挟撃してくる。

 

「フッ!」

 

両手の剣を逆手に持ち、右手で後方の天使を、左手で前方の天使を突き刺す。

 

その後、手を放し、左右逆の剣を掴むと、体を半回転させ、前後の天使を切り払う。

 

「「ギャア!」」

 

断末魔を上げ、脇腹から血を流しながら、2匹の天使が崩れ落ちる。

 

その後も、迫り来る天使たちを、両手の剣で切り捨てていったが、銀色の剣の方は、限界が来たようで、いつ壊れてもおかしくないといった状態だった。

 

「チッ」

 

軽く舌打ちをし、ヒビの入った剣をポーチへしまい、修羅刃のみで戦闘を続けた。

やはり、こちらの方がしっくりくる。

 

 

 総ての天使を切り払い、銀色の剣をポーチから取り出してみると、刃は欠けており、ヒビが全体に入っている。

最早、無事なのは柄だけだろう…

 

その直後、轟音が響いた。

 

「アァアアア!」

 

 

その瞬間、上空を浮遊していた、インスパイアドが大口を開け、突っ込んできた。

 

「フッ!邪魔よ!」

 

突進を回避すると、そのままインスパイアドの首元に腰かける。

 

「お仕置きよ!」

 

髪に魔力を込めると、インスパイアドの眼前に、マダムの両手を出現させ、突きのラッシュを食らわせる。

 

「グアアアア!!」

 

顔面を、ボコボコに殴られ、力無く地面に落下すると、光になり、消滅した。

 

「ふぅ…さて、ハリーの方は大丈夫かしら?」

 

ハリーの方を見ると、未だに気絶しているようで、地面に倒れ込んでいる。

 

「何時まで寝ているのよ。早く起きなさい」

 

ハリーの肩を軽く揺らすと、ゆっくりと瞼を開けた。

 

「あれ…僕…」

 

「さぁ、立ちなさい」

 

ヒビの入った剣をハリーに差し出すと、杖の様に使い、その場で立ち上がった。

 

「おのれ…よくも天使共を!」

 

奥から、目が潰れたままの、傷付いたバシリスクを従えたトムが現れた。

 

「バシリスク…倒したと思ってたのに…」

 

「あと少しずれて居たら、僕の魔法でも治せなかったよ…」

 

トムはニヤニヤと笑いながらハリーに厭味ったらしく言い放った。

 

「さて…これで終わりにしよう…行けバシリスク!」

 

バシリスクがその場で雄叫びを上げ、大口を開け、私達を噛み殺そうとやってくる。

 

「ベヨネッタ…逃げるんだ!」

 

傷付き、力が入らないのだろうか、片膝を地面に付けたハリーが、苦しそうに叫ぶ。

 

「そんな必要ないわよ。一気に決めるわ!」

 

修羅刃を鞘に収め居合の構えを取り、突っ込んで来るバシリスクに飛び掛かる。

 

「ギャァアア!」

 

「はぁあ!」

 

大口を開け、噛みつこうとする口に詰め寄ると、ウィッチタイムを発動させ時間の流れを遅くする。

迫り来る口の前で、力を最大まで溜める。

 

バシリスクとの距離は、あと1m程、少しでもタイミングがズレれば、私の体は食い千切られるだろう。

修羅刃を一気に引き抜き、大口を開けている下顎から喉元まで一気に切り払う。

 

「グアアアア!!」

 

堅牢な牙ごと、切り裂かれ、下顎がズレる様に落下した口元からは、血がダラダラと地面に垂れ流され、周囲に血の匂いが充満する。

 

上顎のみバシリスクは、未だに辛そうに、息をしている。ここまでの生命力を持つとは驚きだ。

 

「さて…それじゃあ仕上げにしましょうか」

 

髪の魔力を解放し、ゲートを開く。

 

「な…なんだ!」

 

トムは周囲の空気が一気に変わった事に戸惑っている。

 

「AGRAM ORS『暗黒の月よ!』」

 

次の瞬間、巨大な黒い鳥が現れた。

 

マルファス

部屋全体を覆い尽くさんばかりに巨大な漆黒の怪鳥。好奇心旺盛で、世界中のあらゆる知識や秘術を身につけている。その性格は残忍で、出会った物はすぐさまその鋭い嘴と爪でズタズタに引き裂かれるという。

 

マルファスはバシリスクの胴体をその巨大な爪で掴み、脳天を嘴で食い千切る。

 

「………」

 

最早、声にもならない声を上げ、バシリスクの命が消える。

そんなバシリスクの頭を咥えると、思い切り体を捻り、引き千切った。

 

千切られた、断面からは赤黒い血が、ドクドクと、まるでホースから水が流れ出るかのように、止め処無く漏れ出る。

 

マルファスは、引き千切ったバシリスクの頭を一口で飲み干すと、宙を舞い、何処かへと消えていった。

 

後に残されたのは、頭の無い、巨大な蛇の死体と、宙を舞い、喧しく喚き散らしている不死鳥だけだった。

 

 

「おのれ…バシリスクを倒すとは…」

 

焦燥しきった表情のトムが黒い本を拾い上げると、宙に浮きあがった

 

「このままでは分が悪い…残念だが、今回は、これで失礼させて貰おうか」

 

「待て!逃げるのか!」

 

ハリーが叫び、杖を振り魔法を放つ。

放たれた魔法はトムに直撃するが、まったく効果が無い様に見える。

 

「フッ、無駄だ!」

 

私は、銃を構え、トムの眉間目掛け、銃弾を発射する。

 

放たれた弾は、高速を維持したまま、眉間を確実に打ち抜いた。

 

「フフッ…だから言っているじゃないか…無駄だと!」

 

興奮も最高潮に達したのか、背中をのけ反らせるながら大笑いしている。

 

「ふざけるな!」

 

ハリーは怒号を上げ、怒りに身を任せ、手に持って居た、銀色の剣を投げつけた。

 

「クッ!」

 

先程まで余裕の表情を浮かべていたトムだったが、飛んでくる剣を見るなり険しい顔になり、杖を振るい、直撃する寸前で剣を制止させた。

 

「剣を投げるなんて品性を疑うなぁ、これは…返すよ!」

 

杖をハリーに向け振り下ろすと、滞空していた剣はゆっくりとその切っ先を向け、弾け飛ぶように、襲い掛かった。

 

「うわぁ!」

 

ハリーは声を上げ、両腕を顔の前に出し、防御の姿勢を取った。

 

そんな彼の前に身を乗り出す。

 

「ベヨネッタ!」

 

私は、体の軸をずらし、刀身を避け、柄の部分を掴むと、勢いそのままに体を半回転させトムに投げ返した。

 

「お返しよ、受け取りなさい」

 

「なにっ!」

 

投げ返した剣は、高速で飛翔し、黒い本ごと、トムの胸を貫き、壁に磔にした。

 

「グアアアア!!」

 

磔になったトムは、体中から黒い瘴気の様な煙をまき散らしながら、爆発四散した。

 

爆風の中で、磔にしていた剣は粉々に砕け散り、柄の部分だけが、私の手元に飛んできた。

 

 

「ふぅん、やっぱりチープな玩具は駄目ね、すぐダメになっちゃうし、物足りないわ」

 

折れた柄を後ろへ投げ捨てる。

数回ほど、金属音を響かせた後、ハリーがそれを拾い上げ、まじまじと見ている。

 

「どうしたのよ?」

 

「いや…学校の物だし、壊しちゃって大丈夫なのかなって…」

 

「こんな玩具を送ってくるダンブルドアが悪いのよ、それより、あの子そろそろ目を覚ましそうよ。目が覚めたらこれを舐めさせなさい」

 

軽く指を鳴らすと、緑色のロリポップを取り出し、ハリーに渡す。

 

治癒効果のあるロリポップだ、味の保証はしないが、病み上がりの少女には十分だろう。

 

「わかったよ!」

 

ロリポップを受け取ると、ハリーはジニーの元へと急ぎかけ寄った。

 

ふと、足元に何かが落ちているのが目に入った。

 

「これは…あの本の一部ね…アレだけの爆発で燃え尽きないなんて、なかなか面白いわね」

 

「ジニー!!目を覚ましたんだね!」

 

ハリーが急に大声を上げた。ジニーは無事目を覚ましたようだ。

 

ハリー達の方へと歩み寄ると同時に、本の一部をポーチの中へしまい込んだ。

 

その後、ジニーは目を覚まし、ハリーが状況を説明していった。

 

「ジニー!もう大丈夫だよ、リドルは消えたんだ。バジリスクもだ。二人とも早くここを出よう」

 

「そんな…私…きっと退学になるわ…」

 

ジニーは涙目になりながら、ハリーから受け取ったロリポップ舐めている。

 

「あまり美味しくないわね、これ」

 

一言そういうと、ハリーに泣き付いた。

 

緊張が解けたせいなのか、ロリポップが不味かったからなのかは、この際置いておこう。

 

しばらくハリーに抱かれ、泣いていたジニーだったが、私の存在に気が付いたのか、顔を真っ赤にしていた。

 

「気にしなくて良いわよ、でも、こんな所じゃロマンの欠片も無いわ。帰るわよ」

 

私が、出口に向かい歩き始めると、二人も一緒に出口に向かった。

 

 




グリフィンドールの剣にはここで退場してもらいます。

貴重品を壊してしまいましたがベヨネッタ本人はそこまで気にしていません。

次回で恐らく、秘密の部屋編は最後となります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2年目が終わり…

今回で、秘密の部屋は最終回です。



 

 しばらく歩き、崩落していた通路まで戻ると、汗だくになったロンが疲労と安堵が入り混じった表情でジニーを見つめていた。

 

「ジニー!!よかった!ありがとう二人のおかげだよ!」

 

その場で、大袈裟に踊り出すんじゃ無いかと思う程、喜んでいるロンの横で、ロックハートが鼻歌を歌いながら、周囲を見回していた。

 

完全におかしくなってしまったようだ。まぁ、自業自得だろう。

 

 

「やぁ!なんだか変なところだね、君達ここに住んでいるのかい?」

 

その後も、ロックハートはブツブツと意味不明な事を口にしていたが、皆一様に無視していた。

 

「さて…問題はどうやって戻るかだね…」

 

「それなら、アレなんてどうかしら?」

 

私は、後ろの方で喚き散らしている不死鳥を指差した。

 

「あー、確かにそうだね、よし、その手で行こう」

 

ハリーが不死鳥に近付き、大人しくさせた後、全員で尾羽に掴まり、あっという間に地下から脱出し、女子トイレまで戻った。

 

 

その後、私は、傷付いたハリー達を連れ、医務室へと向かった。

 

 

数日が経ち、マンドレイク薬も完成し、犠牲者達も無事戻り、今回の騒動は無事解決した。

 

 

 そんな時、私とハリーは校長室へと呼び出された。

 

「失礼します」

 

ハリーがそう言いながら、扉を開け中へと進むと、椅子に腰を掛けているダンブルドアが居た。その肩には、地下室で見かけた不死鳥が止まっていた。

 

「呼び出してすまなかったな。お主達が、今回も事件を解決した様じゃな、お手柄じゃ、後で得点をあげるとしよう」

 

「ありがとうございます!!」

 

ハリーはその場で深々とお辞儀をした。

 

「頭を上げて良いぞ」

ダンブルドアは少し嫌そうな目で私を見ながらそう言うと、ハリーが頭を上げた。

 

「さて、ワシも良く状況が分かってはおらんのじゃ、詳しく説明してくれんかのぉ」

 

その後は、ハリーが地下室で起こった事を、事細かく説明していった。

私と、ダンブルドアはただその話を聞いて居るだけだった。

 

私は何の為に呼ばれたのだろう?

 

「そうか、状況はよく分かった、二人ともご苦労だったのぉ」

 

「いえ…」

 

「ハリー、浮かない顔をして居るがどうしたのじゃ?」

 

「先生…僕がグリフィンドールに入ったのは、正しい選択だったのでしょうか…」

 

暗い表情で、いきなりそのような事を言ったハリーに、ダンブルドアは少し目を細めた後、ゆっくりと語りだした。

 

「君がなぜそのような事を聞くのか、大方想像は付く…じゃがの、組み分け帽子は君をスリザリンではなく、グリフィンドールに選んだ」

 

「えぇ…でも、帽子にも間違いはあるんじゃないですか?」

 

再びハリーが聞き返す。

ハリーにとっては、重要な事なのだろう…だが長くなりそうなので、椅子に腰かけ、彼らの会話に耳を傾けることにする。

 

「そうかもしれんの…じゃが、君がグリフィンドールに入ったのは間違いではない、君に送った帽子から剣を引き抜いたのじゃろ、アレを見てみるがいい」

 

「あぁー………」

 

自信に満ちた表情を浮かべるダンブルドアとは対照的に、ハリーはとても気不味そうな表情を浮かべていた。

 

「どうしたのじゃ?君がまだ持っているはずじゃ」

 

「それが…」

 

ハリーがポケットから柄を取り出し、震える手で、テーブルの上へと置いた。

 

「これは…」

 

「そのぉ…帽子から出てきた剣です…」

 

「な…」

 

ダンブルドアは驚愕を隠せないといった表情で、柄を手に取った。

 

「これは…何があったのじゃ…」

 

「それは…その…」

 

ハリーがチラチラと、何か言いたそうな表情でこちらを見て来る。

それに気が付いたのか、ダンブルドアもこちらを見てきた。

 

「勝手に壊れたのよ、そんな玩具じゃ満足できないわ」

 

「そ…そうじゃったのか…これは、グリフィンドールの剣といって、真のグリフィンドール生にしか使えん代物じゃ…もはや、柄だけになってしまったがのぉ…」

 

「そうですね…」

 

「じゃが、ハリー、君がこの剣を取り出したという事に間違いはないのじゃ…自信を持つがよい」

 

少し納得いかないといった表情だったが、ハリーは数回、頷いた。

 

その後、どういう訳か、マルフォイの父親である、ルシウスが校長室に現れた。

 

どうやら、ルシウスがダンブルドアの停職命令を出したようだったが、賛同した者の殆どが、脅されていたと証言した事により、現在の役職を辞めさせられてしまったらしい。

 

しばらく言い争いをしていた2人だったが、言葉に詰まったルシウスが、踵を返し校長室を出ていった。

 

その後を、なぜか、ジニーが持っていた本に良く似た、黒い本を手にハリーが追いかけていった。その顔は何か悪だくみをしているような表情だった。

一体何を考えているんだろうか?

 

「さて…それでは、セレッサよ、次はお主の話を聞こうかのぉ」

 

そういうと、ダンブルドアは肩に止まっていた、不死鳥の目をのぞき込んでいる。

 

「なるほどのぉ…」

 

「何かわかったのかしら?良ければ教えてくれないかしら?」

 

「不死鳥の記憶を覗いたのじゃよ…なるほど、トムに止めを刺したのは君の様じゃの」

 

「えぇ、そうよ、その口ぶりだと、トム・リドル…ヴォルデモートについてよく知っているようね」

 

「彼はこの学校の卒業生じゃからの…ワシは…彼を良い道へと導いてやる事が出来んかったのじゃ…」

 

ダンブルドアは感傷に浸っているのか、どこか遠い目をしていた。

 

「さて…トムの日記を渡してもらおうかの、君が持っているはずじゃ」

 

「これの事かしら?」

 

私はポーチから、ボロボロになった本の一部を取り出した

 

「そうじゃ、それは君が持っていても意味が無いものじゃ」

 

「これが欲しいのかしら?」

 

「そうじゃ、譲ってくれんかの?」

 

杖を片手に携え、ダンブルドアはこちらを睨みつけて来る。

またいつもの様に、脅しているつもりなのだろうか?

 

「無論、タダでとは言わん、お主が破壊した剣、アレは魔法界にとっても重要な宝じゃ…それを破壊したと分かればどうなるかわかるのぉ?」

 

「あら、脅迫のつもりかしら?」

 

「取引じゃよ」

 

ダンブルドアは微笑みながら、手を出している。

問答無用で渡せという事だろう。

 

「取引ねぇ…まぁいいわ、これに興味は無いもの」

 

本の一部を渡すと、満足気な表情を浮かべ、すぐに机へと仕舞い込んだ。

 

「さて、よくやってくれたの、後で点数をあげよう」

 

「フッ、話はもう終わりの様ね、戻ってもいいわね」

 

「良いぞ」

 

ダンブルドアは一言そういうと、椅子に深く腰掛ける。

 

私は、そんな様子を横目に見ながら、校長室を後にした。

 

 

 

 学期末パーティーが始まり、各寮の得点が発表された。

 

今回もまた、滑り込みという形で、ダンブルドアにより、ロンとハリーには100点が、私には200点が与えられた。

 

圧倒的な点差に、グリフィンドールを除く寮は、深いため息を吐いていた。

もう少しうまくやれないのだろうか…

 

 

その後、私達にはホグワーツ特別功労賞が授与されることになった。

 

ちなみに、学年末テストは、今回の事件のおかげで中止となった。

多くの生徒が喜んでいる中、被害者の一人であるハーマイオニーは、絶望しきった表情をしていた。

そんなにテストを受けたかったのだろうか…

 

余談だが、ロックハートは今までやって来たことが暴露された上、ロンに掛けるはずだった魔法が逆流し、総ての記憶を失い、病院送りになったと言う。それを聞いてハーマイオニーが再び絶望しきったのは言うまでもない…

 

何はともあれこうして、1年が無事終わったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

「どうなっているんじゃ…」

 

ワシは一人、自室で声を漏らしてしまった。

 

手元には、トム・リドルの日記と、グリフィンドールの剣がある。

いや…元グリフィンドールの剣で現在は柄のみだが…

 

 

フォークスの記憶を覗いてみたが、あの光景は信じられん物じゃった。ヴォルデモートが天使をけしかけてくる等、想像もしてなかった…もしあの場に、セレッサが居なければ、ハリー達がどうなっていたかは分からない…

 

それに加え、凄まじいのはセレッサの戦闘能力だった。

迫り来る天使達を、まるでダンスを楽しむかのように華麗に舞いながら、次々と両手の剣で切り伏せていった。

途中で、グリフィンドールの剣をポーチへと仕舞い込んだところを見ると、恐らくあの時点で相当なダメージが入っており、使い物にはならなかったのだろう。

 

グリフィンドールの剣をもってしても、天使たちに対抗するのは難しいのかもしれない。そうなると、奴らが本格的に攻めてきた際、どうやって対抗すれば良いのだろうか…

それに、セレッサが使っていたあの剣…あの形は、日本にある『カタナ』と呼ばれる剣の形によく似ていた。

どこであれほどの武器を入手しているのだろう…

それに、ハリーを守るために使っていた、あの腕輪…バシリスクの一撃を無傷で防ぐ程の力があるようだ。

彼女に対する謎は深まるばかりだ…

聞いたところで、はぐらかされるか、『アンブラの魔女』の一言で片付けられうのが落ちだろう…

 

いっその事、真実薬を使ってみるか…

 

いや、使ったとして、彼女に効果があるともわからん…

 

今はただ、彼女が…闇の力を持つ『アンブラの魔女』の末裔が…敵にならないことを祈るばかりだ…

 

 

「ふぅ…」

 

ワシは、日記を手に取り、そこに残る魔力を感じ、疑惑が確信に変わった。

 

「あぁ…やはり、分霊箱か…」

 

分霊箱、魂を分割し、その断片を移したものだ…まさかこれをヴォルデモートが作っていたとは…

 

「厄介なことになったのぉ…」

 

ワシは、破壊された分霊箱を片手に考えを巡らせた。

 

セレッサが分霊箱を破壊した際に使ったのはグリフィンドールの剣だ。

憶測だが、ハリーが事前にバシリスクの喉を突き刺しており、その際に剣が毒を吸収したのかもしれない。

そう考えれば、バシリスクの毒によって破壊できたのだろう。

 

分霊箱を破壊する方法はまだ不明だが、今回の一件で、バシリスクの毒によって破壊できることは確かだ…

だが、剣は折れ使い物にはならず、バシリスクも、セレッサのペットにより消滅してしまった…

こうなれば、他の方法を探すしかないか…

 

「厄介じゃ…本当に…」

 

ワシは、深いため息を吐いた後、手元にあった百味ビーンズを一粒、口へと放り込んだ。

 

「フッ」

 

今回もハズレの味を引いたようだ。

 

 

 




以上で秘密の部屋編は簡潔です。

現在、アズカバンの囚人編を製作中です。
大体、半分くらいでしょうか…

またしばらく、お時間をいただくと思いますが、これからもよろしくお願いします。

できる事なら、ベヨネッタ3の発売までには、完走したいですね…



それでは、また次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

アズカバンの囚人
3年目


お久しぶりです。

これから、アズカバン編が始まります。

アズカバンは比較的平和に進んでいきます。


 

 

 いつもの様に、「The Gates of Hell」の扉を開け、中へ入る。

 

「よぉ、やっと来たか、ほれ、お前さんに手紙だ」

 

バーカウンターの奥では、ロダンがいつもの様に葉巻をふかしていた。

 

「えぇ、ありがとう」

 

手紙を受け取り、封を開く。

ホグワーツからの手紙の様だ。

 

内容は、去年と変わらず、必要な教科書のリストだ。

それと、もう一つ書類が入っていた。

 

『ホグズミード村へ行く為には、保護者のサインが必要です。こちらの書類にサインし、提出してください』

 

なるほど、ホグズミードへ行くためには、許可証が必要と言う訳だ。後で、エンツォかジャンヌにサインさせよう。

 

そう思っていると、店の奥から、奇妙な新聞を持ったジャンヌが現れた。

 

「セレッサも来ていたのか」

 

「えぇ、後で、ここにサイン頂戴ね。ホグワーツからの書類よ」

 

ジャンヌは、書類を受け取ると、軽く目を通してから、ペンを取り出すと、簡単にサインをした。

 

「これでいいだろう」

 

「えぇ、ありがとう」

 

書類を受け取り、折れないように気を付けながら、ポーチへと仕舞い込んだ。

 

「それにしても、向こうの世界では、物騒な事が起きたようだな」

 

ジャンヌは、テーブルの上に置かれた新聞を指差した。

 

新聞に目を落とすと、一面を飾っている写真が、動き何か叫んでいる様だった。

 

「日刊預言者新聞ね。こんなのどうしたのよ」

 

「ロダンの奴が定期購読しているようでな。向こうの情報を知るには便利らしいな」

 

「確かにそうね」

 

私は、新聞の手に取り、一面を飾っている記事を読みだした。

 

 

『シリウス・ブラック、アズカバンを脱獄』

 

「どうやら、極悪人が脱獄したようだな。人相からして凶悪そうだ」

 

ジャンヌは、新聞の中で叫び声をあげているシリウス・ブラックの写真を見て、腕を組んでいる。

 

「それにしても、アズカバンを脱獄するとは、人間にしては大した奴だぜ」

 

「あら?知っているの」

 

「あぁ、魔法界じゃ有名な監獄だからな。難攻不落だなんて言われてやがる」

 

「ならこれで、難攻不落じゃなくなったわね」

 

「だから、魔法界も騒いでいるんだろうよ」

 

ロダンは葉巻をもみ消すと、また新しいのを吸い始めた。

 

 

どうやら、今年も退屈しないで済むかもしれない。

 

私はそんな事を考えながら、手元の酒を、飲み干した。

 

「そういえばお前に渡した、修羅刃の使い心地はどうだ?」

 

「えぇ、調子いいわよ」

 

ポーチから、鞘の付いた状態で修羅刃を取り出し、テーブルの上へと置いた。

 

「ちょっと借りるぜ」

 

ロダンは鞘から修羅刃を抜き出すと、刀身をじっくりと眺めている。

 

「なるほどな…」

 

少し嬉しそうにそう呟く。

 

「どうかしたのかしら?」

 

「予想以上に上手くいったもんでな」

 

「へぇ、説明したいって顔してるわよ」

 

「フッ、わかるか?」

 

「えぇ、それじゃあ説明してもらうかしら」

 

「あぁ、だがその前に確認だが、お前コイツでバシリスクを切っただろ」

 

確かに、この刀を使って、バシリスクの下顎を切り払ったが…それがどうしたのだろう

 

「えぇ、相変わらずいい切れ味だったわ」

 

「なるほどな…どうやらコイツはバシリスクの毒を吸収したようだ」

 

「バシリスクの毒?」

 

それを吸収したとはいったいどういう事だろうか…

 

「コイツには、自身を鍛える力を与えてあるんだが、どうやら、バシリスクを切った際にその毒を吸収したようだな」

 

「そう、それで?」

 

「簡単な話が、コイツはバシリスクの毒を含んだ刀になったって訳だ」

 

ロダンはそういうと、奥から天使を1匹連れてきた。

 

「コイツで試し切りしてみろ」

 

そういって、抜き身の刀を私へと投げつけて来る。

 

空中でゆっくりと回転している刀を右手で受け取ると、上段から一気に袈裟斬りを食らわせる。

 

「ギャア!」

 

切り付けられた天使は、苦しそうな声を上げ、その場でのた打ち回っている。

 

 

「切った相手に毒を与える事が出来る様になったみたいだな」

 

「そのようね、でも…」

 

軽く手首を回し、苦しんでいる天使の首を撥ね、楽にさせてやる。

 

「こっちの方が楽ね」

 

「そりゃそうだ」

 

刀に着いた血を振り飛ばすと、ゆっくりと鞘に納め、ポーチへと仕舞い込んだ。

 

 

 

 とりあえず、新学期の準備を済ませ、店を出ることにした。

今期で必要な教科書類は、いつもの様にダイアゴン横丁でエンツォの金を使い買い揃えたので、準備は万端だ。

 

いつもの様に店に訪れ、扉を開ける。

 

「よぉ、これから行くのか?少し早いんじゃねぇか」

 

「去年の様な失敗はしたくないのよ」

 

「あぁ、車に乗っていったという話か、アレは滑稽だった」

 

ジャンヌが笑いながら、テーブルの上で何やら書類を書いている。本職の方で使うのだろうか。

 

「店を使えばあっという間だったのによ」

 

「それも考えたわ、この店が一見さんお断りじゃなければ、連れて来たわよ」

 

「うちは何時でも、どんな客でもウェルカムだ。金さえ払うならな」

 

ロダンは、不敵な笑みを浮かべながら、グラスを磨いている。

 

「今度はそうするわ、そろそろ行くわね」

 

「あぁ」

 

二人に軽く別れを告げ、杖を取り出し、いつもの様にキングズ・クロス駅へとやって来た。

 

「相変わらず、人が多いわね」

 

いつもの様に、人が行きかっている中、私は9と4分の3番線に向かう。

 

「今年はどうかしらね」

 

入り口に向かい、歩いていく。

すると、今回はすんなりと通り抜ける事が出来た。

 

目の前に広がる1年ぶりの光景を見ながら、ホグワーツ特急へと乗り込む。

少し早く来た事もあってか、殆どのコンパートメントは無人で選び放題だった。

最後尾のコンパートメントを選び、中へ入り、今年使う教科書に目を通す。

 

当たり前だが去年よりは難しい様だ。

しかし、この『怪物的な怪物の本』はどこからどう見ても、教科書には思えなかった。

それに、購入した直後は、暴れまわっていた。

私が軽く銃を押し付けてやるとすぐに大人しくなったので問題はないが。

 

しばらくするとコンパートメントの扉を一人の人物が叩いた。

 

「ここいいかい?」

 

「えぇ、好きに座ったら」

 

「そりゃどうも」

 

少し古ぼけた服を着ている男は、私の対面の窓際に座ると、すぐに目を閉じ、眠りについた。

 

少しすると、再び、コンパートメントの扉が叩かれ、扉の奥からは、ハリーとロン、そして不細工な猫が入った籠を持ったハーマイオニーが注意深く入って来た。

 

「久しぶりだね」

 

ハリーが声を潜めて言うので、私は声を出さないように軽く手を上げた。

 

その後、彼等は空いている席にゆっくりと座った。

 

「ねぇ、この人だれ?」

 

「さぁ?」

 

ロンが聞いてくるが、分からないので適当に答える。

 

すると、対面に座っていたハーマイオニーが男を指差し答えた。

 

「ルーピン先生よ」

 

「どうして分かるんだい?」

 

「ここに書いてあるわ」

 

ハーマイオニーが荷物棚を指差すと、荷物の一部に『R・J・ルーピン教授』と書かれていた。

そんな所まで見ているとは、ハーマイオニーの観察力に感心する。

 

「この人は何を教えるんだろう?」

 

ロンがそういうと、再びハーマイオニーが答えた。

 

「そんなの決まっているわ、空いている席は一つしかないもの」

 

「それって何だっけ?」

 

「闇の魔術に対する防衛術よ。去年の先生が居なくなったからきっと代わりの先生よ」

 

「あぁ、ロックハート様の代わりね」

 

「………」

 

ハーマイオニーは無言でロンを睨んでいる。

 

その表情は何とも言えないが、下手に触れようものなら、大惨事になることは間違いないだろう…

 

「と…ところでハリー!何か話したいことがあるって言ってなかった?」

 

ロンは無理やり話題を変え、ハリーを巻き込んだ。

 

巻き込まれたハリーは、少し驚いている様だったが、すぐに話を始めた。

 

「僕…シリウス・ブラックに狙われて居るみたいなんだ」

 

ハリーがそういうと先程までの空気が一変し、重苦しい空気が流れた。

 

シリウス・ブラック…確かこの前の新聞に出ていた脱獄囚か。

 

更に詳しい話を聞いていくと、ハリーはある人物から、シリウス・ブラックを探すなと釘を刺されているらしい。

まぁ、好き好んで脱獄囚を探すのはどうかと思うが、ハリーならやりかねないのかも知れない。

 

シリウス・ブラックの名前を聞いてから、3人の表情は険しいものになっていた。

どうやら、それだけこの人物は危険で凶悪なようだ。

 

「シリウス・ブラックが脱獄したのは貴方を狙うためね…ハリー、気を付けてね、自分から探そうとはしないでね」

 

ハーマイオニーにまで釘を刺されたハリーだったが、何処か納得していない様子だった。

 

「ハリーを殺そうとしている奴だぜ、わざわざ自分から会いに行くやつがいるか?」

 

ロンは、そういうと、少し深呼吸をし続けた。

 

「シリウス・ブラックがどうやってアズカバンから逃げたのか、誰にも分からないらしい。これまでアズカバンを脱獄した者は誰もいないんだぜ…しかもブラックは一番厳しい監視を受けていたらしい…」

 

「きっとすぐに捕まるわよ、マグルまで総動員して追跡をしているって話だわ」

 

どうやら、魔法界は、マグルにもシリウス・ブラックの情報を流し、捜索させている様だ。

 

魔法界がそこまで追いつめられるとは…シリウス・ブラックはいったいどれ程の凶悪犯なのか。

 

しばらくそんな話を続けていたが、暗い話題にも嫌気が差したのか、ロンがカバンから一枚の紙を取り出した。

 

「そういえば、皆はホグズミードへの許可書は書いてもらった?」

 

「えぇ」

 

ハーマイオニーも同じ様な紙を取り出し、ロンに見せる。

 

2人はそのまま、ホグズミードの話題で話を続けた。

 

そんな中、ハリーだけが暗い顔をしていた。

 

「ハリー、浮かない顔知れてるわね。どうしたのよ」

 

「僕、サイン貰えなかったんだ。だから、見てきたら後で教えてよ」

 

「どういう事だよ?」

 

ロンが食い掛かるようにハリーを問いただした。

 

「ダーズリーおじさんが許可証にサインしなかったし、ファッジ大臣もサインしてくれないんだ。保護者のサインじゃないとダメだって……」

 

 

私の許可証には一応、ジャンヌの名前が書かれている。

だが、ハリーにはサインをしてくれる保護者が居ないようだ。

 

ハリーは溜息を吐き、他の2人は少し気不味そうな表情で、ハリーを見ていた。

 

 

 

 

 

しばらくすると、車内販売のカートを押した老婆がやって来た。

 

私達は適当に買い物を済ませたが、その間もルーピンは眠ったままだった。

 

 

しばらく談笑していると、いきなりコンパートメントの扉が開け放たれた。

 

扉の奥には、マルフォイとその取り巻き達が居た。

 

ハリー達は突然現れた、招かれざる客に不快さを示すように、睨みつけている。

 

その表情に、気付いているのか、マルフォイ達も睨み返している。

 

まさに一触即発といった空気の中、私は足を組み直した。

 

「おやおや、誰かと思えば……ポッター、ポッティーのいかれポンチと、ウィーズリー、ウィーゼルのコソコソ君じゃあないか」

 

厭味ったらしく告げた後、私に気付いたのか、一歩引き、胸元に右手を置き、恭しく頭を下げ、ゆっくりと顔を上げた。

その光景に周囲の生徒達は呆気に取られている。

 

「久しぶりだねセレッサ、休暇は楽しめたかい?」

 

最大限の背伸び…紳士的な態度で私を見詰める。

 

「おかげ様でね」

 

「フッ…それは良かった。ところでウィーズリー、君の父親がこの夏やっと小銭を手に入れたと聞いたよ。母親がショックで死ななかったかい?」

 

「なんだと!」

 

「ちょっと!ロン!」

 

ハーマイオニーが止めようとするが、挑発されたロンは、それに乗りマルフォイに殴りかかろうとする。

 

その瞬間、コンパートメントで寝ているルーピンが大きなイビキをかき、全員の視線が集まる。

 

「誰だこの薄汚い服の男は?」

 

「新しい教師らしいわ。去年のよりまともだと良いけど」

 

「フッ!アレより下はいないだろうな」

 

マルフォイが笑い飛ばすように言う中、ハーマイオニーの表情は少し曇っていた。

それほどあの男に惚れこんで居たのだろうか…悪趣味だな…

 

 

 

そう思っていると、急に窓を叩く雨足が強くなり、空の色はどんよりと黒くなり、車内の明かりのみが周囲を照らしている。

 

「なんだよ…」

 

そんな状況に、マルフォイは不気味さを覚えたのか、不愉快そうに呟いた。

 

「イヤな予感ね…」

 

私がそういうと同時に、汽車は速度を落とした。

 

ルーピンと私を除く、その場の全員がコンパートメント越しに通路を覗いている。

 

「なんだ!アレは!」

 

ロンが叫ぶと同時に、汽車はガタンと音を立て急停車し、車内の明かりがすべて消えた。

 

「どうなっているんだよ!」

 

「わからないわ!」

 

「何とかしろよ!」

 

 

私は、喚いている彼等を避けながら、コンパートメントの扉を開け、通路へと出る。

 

通路に出ると、ボロボロのマントの様な物を頭から被り、全身を覆い隠している、謎の侵入者が、コンパートメントの中にいる生徒たちを襲っていた。

 




とりあえず、ディメンターさん登場です。

まだ平和ですね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

招かれざる客

まだ、何者かが列車に侵入しただけなので平和です。


 

 「グア?」

 

侵入者の内、数体が私の存在に気が付いたのか空を滑るように、襲い掛かってくる。

 

その動きは、人間を本能的に恐怖へと叩き落すようにも思えた。

 

私は一瞬銃を構えたが…

流石にこの狭い車内で銃を使う訳にはいかない。

 

そう思い、再び仕舞い込んだ。仕方ない…

 

「はぁ!」

 

両足に力を籠め、襲い掛かってく侵入者に一気に詰め寄ると、顔面と思われる場所に膝蹴りを食らわせる。

 

「ギュアア」

 

侵入者は予想外の反撃を受けた為か、断末魔にも似た呻き声を挙げる。

 

その直後、壁をすり抜ける様にして、別の侵入者が現れ、腕を振り上げ攻撃を仕掛けて来る。

 

私はその攻撃を寸での所で回避し、ウィッチタイムの中、侵入者の襟を掴むと、両頬に往復ビンタを食らわせる。

 

「グア」

 

その後、襟を掴んだまま、右手を前に押し出し、反動を付け引き寄せると、その胴体を右足で蹴り飛ばす。

 

「ぎゅあああ」

 

声にもならない悲鳴を上げ、その侵入者は吹き飛ばされていった。

 

しかし、その声に釣られるように、周囲を漂っていた侵入者達が私の後方、最後尾に集結した。

 

「ふぅ、埒が明かないわね」

 

流石にこの量を1匹1匹相手にするのは骨が折れる。

 

私は両手に銃を構え、頭上で腕を交差させ、銃口を天井へ向ける。

 

そのまま銃弾を連射しながら、1回ターンする。

 

放たれた銃弾は真っ直ぐに飛び、列車の天井に円形状の穴が空いた。

 

「ふっ!」

 

 その場で穴を通り天高く飛び上がると、侵入者達も私の後を追うように、上空へと飛び上がった。

 

上昇中に下の方を見ると、先程の侵入者達が列をなして追いかけて来る。

 

その様相はまさに死者の葬列とでも言ったところか…

 

だがこれは好都合だ。

 

「はぁ!」

 

ウィッチタイムの中、両手に雨粒を集め、軽く息を吹きかける。

 

すると、手の中に集まった水が一瞬にして凍り、それに魔力を込め、引き伸ばすと、巨大な氷の槍を形成する。

 

「プレゼントよ!」

 

凍りの槍を侵入者の列に向けて投げつける。

 

「「「グアア!」」」

 

放たれた氷の槍は列の先頭を進んでいた侵入者を突き刺した。

 

1列で追いかけていたのが仇になり、1匹、また1匹と氷の槍によって、くし刺しとなり、最終的には総ての侵入者が貫かれ、汽車の最後部に磔にされている。

 

「ふぅ」

 

私は屋根の穴から中へと入る。

 

目の前には氷の槍に貫かれても尚、もがいている侵入者のオブジェが出来ている。

 

しかし…これは悪趣味すぎるな。

 

「悪い子ね、お仕置きしようかしら」

 

私が杖を取り出すと、不意に後ろから声がかけられた。

 

「もう十分だろう」

 

振り返ると、そこには先程まで寝ていたルーピンの姿があった。

 

「これ以上ディメンターを傷付けては魔法省も黙ってはいないだろう」

 

「へぇ…それじゃあ…アンタはこいつ等はどうするのかしら?」

 

後方では、蠢くオブジェにされながらも、呻き声を上げ、もがいているディメンターの姿があった。

 

「ここは私に任せてもらえないか?」

 

そう言うと、ルーピン杖を片手に、ディメンターに近付いていくと、ルーピンを襲おうとして居るのか、氷の呪縛を解こうと激しくもがき、怒号を上げている。

 

「シリウス・ブラックをマントの下に匿っている者は誰もいない」

 

ルーピンの説得も虚しく、ディメンターは抜け出すのを諦めない。

 

「交渉決裂のようね。で?どうするのかしら?」

 

杖を指先で遊ばせながらルーピンに近付くと、少し溜息を吐いた後、諦めた様に口を開いた。

 

「追い払うしかないな、私が合図したら奴らを逃してくれないか」

 

「任せるわ」

 

ルーピンが杖を取り出し、眼前に構えた。

 

「やってくれ」

 

合図を受けたので、私が軽く指を弾くと、乾いた音が反響した後、甲高い音を立て、氷柱が崩壊した。

 

「グオォオ」

 

凍りの呪縛から起き放たれたディメンター達は、目の前に居るルーピンに一斉に襲い掛かった。

 

「エクスペクト・パトローナム」

 

 

ブツブツと呟くように呪文を唱えると、杖の先から銀白色で半透明な狼が現れ、襲い掛かるディメンターに攻撃を加え、追い払った。

 

「これでいいだろう」

 

「えぇ、そうみたいね」

 

先程までの不気味な雰囲気はすでに消え去り、列車内にも光が戻った。

 

私はルーピンの横を通り抜け、先程まで居たコンパートメントへと向かう。

そんな私の背中を、ルーピンは何処か警戒したような視線を向けている。

まぁ、気にしないでおこう。

 

 

 コンパートメントの扉を開けると、中は悲惨な状況だった。

 

ハーマイオニーとロンは青白い顔をして、震えている。

ハリーも同様に青白い顔をしているが、気を失っているのか、床に倒れ込んで居る。

 

ハリーの腰ベルトを片手で掴み、椅子の上へと移動させ、数回頬を叩き、目を覚まさせる。

 

「お目覚めね、気分はどう」

 

「ふぅ…最悪な気分だよ…」

 

青白い顔のハリーは、蚊の鳴くような声で呟いた。

 

「目を覚ましたようだね」

 

何処か疲れたような表情ルーピンがコンパートメントの扉を開け入ってくる。

 

「チョコレートだ。食べると良い、気分が良くなる」

 

カバンからチョコレートを取り出し、ハリー達に配り始めた。

 

「君も食べるかい?」

 

「遠慮するわ」

 

「そうかい」

 

チョコレートを半分程食べきったのか、ハリーの顔色も元に戻り、気力も出てきたようだ。

 

「さっきのはなんだったですか?」

 

まだ頭が痛むのか、頭を押さえながらハリーが聞いた。

 

「ディメンター、吸魂鬼だ。あれはアズカバンの看守のものだろう」

 

その後、ディメンターについてルーピンが簡単に説明した。

 

要約すると、ディメンターとは、アズカバンの看守で、人の幸福感や生命力を吸い取る事もある、非常に恐ろしい存在らしい。

 

「それにしても、君には驚かされたよ。まさかあのディメンターをあそこまで簡単に…君はいったい何者なんだ?」

 

「普通のホグワーツ生よ。それ以上でもそれ以下でも何でもないわ」

 

「生徒がディメンターを退けるとは…大したものだよ」

 

まぁ、天使共に比べれば、まだ可愛らしい物だ。

 

 

「貴方も見事だったわ」

 

「あぁ、ありがとう」

 

互いに簡単な社交辞令を交わした。

 

「それでは、私は少し運転手と話してくるよ」

 

そう言い残すと、ルーピンはコンパートメントの扉を開け、ゆっくりと外へと出ていった。

 

 

 

 ルーピンが走り去った後、しばらくすると、汽車は動き出し、無事駅へと到着した。

 

その後、ホグワーツへと移動すると、マクゴナガルが駆け足で私達に駆けより、ハリー達を医務室へと連れて行くという事だ。

 

私も医務室で検査を受ける様に言われたが、撃退した事を伝えると、マクゴナガルは少し引き攣ったような顔で納得したようだ。

 

 

マクゴナガルから解放された私は、とりあえず大広間に入ると、入学式が始まった。

 

そこでは、いつものように組み分けが行われる。

 

組み分け帽子の歌は去年とも一昨年とも少しずつ違っていたが、おおむね最初に私が聞いたような内容であった。

 

毎年、多少なりともアレンジを入れているのは芸が細かいものだ。

 

組み分けが終わるとダンブルドアが前に出た。

 

 

 「新学期おめでとう! 皆にいくつかお知らせがある。1つはとても深刻な問題じゃから、皆がご馳走でぼぅっとなる前に片付けてしまうほうがよかろう…」

 

 ダンブルドアは、わざとらしく大きく咳ばらいをした。

 

「ホグワーツ特急での捜査があったから、皆も知っての通りだとはおもうが…我が校は今、アズカバンの吸魂鬼を受け入れておる。魔法省のご用でここに来ておるのじゃ」

 

 

魔法省の指示とは言え、あのような危険な存在を徘徊させるとは…物騒な事だな。

 

それを聞いた生徒たちからは、不安の声が上がり、会場は騒然となっている。

 

「皆が不安がる気持ちはよくわかる…じゃが吸魂鬼たちは学校への入り口という入り口を固めておる。あの者たちがここにいる限り、はっきり言っておくが誰も許可なしに学校を離れてはならんぞ。吸魂鬼は悪戯や変装に引っかかるような代物ではない。透明マントでさえ無駄じゃ。姿現しでもしたら外に出ることは可能じゃろう。だが、ホグワーツでは姿現しは出来んように、このワシが呪文をかけておる」

 

まぁ、いざとなれば蹴散らせば良いだけなので問題はないだろう。

そう思っていると、ダンブルドアの視線がこちらを捉えているような感じがした。

 

「言い訳やお願いを聞いてもらおうとしても、吸魂鬼は聞く耳を持たん。それじゃから一人ひとりに注意しておくのじゃ。あの者たちが皆に危害を加える口実を与えるでないぞ。絶対に自分から近づいて行ってはいかん。対抗や、封じる術を持っていたとしてもじゃ」

 

ダンブルドアは私をはっきりと見ながらそう言った。

どうやら、あのルーピンという男が、ホグワーツ特急での事を話したのだろう。

ルーピンの方に視線をやると、私と目線があった。

 

何やら警戒されている様だ。

 

 

「さて…暗い話は以上にして、楽しい話に移ろうかの」

 

ダンブルドアが、ルーピンを見ながら話し続けた。

 

 

「今学期から新任の先生を2人もお迎えすることとなった。まず、ルーピン先生。有り難いことに空席になっている闇の魔術に対する防衛術の担当を引き受けてくださった」

 

生徒からは疎らな拍手が起こる。

 

近年の闇の魔術に対する防衛術の教師にまともな奴は居なかったから仕方ないだろう。

 

拍手を受けているルーピンは、少し恥ずかしそうに頭を掻いている。

 

そんな様をスネイプが怒りを通り越し、殺意を孕んだ視線で睨みつけている。

 

もう一人の教師が紹介されたが、何とそれはハグリッドだった。

 

前任の魔法生物飼育学の担当が引退したので、後を引き継いだという話だ。

 

ハグリッドが担当と聞き、とてつもなく不安感を覚えた。

何といっても、教科書として怪物の本を選ぶぐらいだ。不安しかないだろう。

 

しかし、グリフィンドール生からは、盛大な拍手が送られた。

 

ハリーに至っては、拍手が止むまで延々と手を叩き続けていた。

 

「さて…これで話は終わりじゃな、それでは食事を始めよう」

 

その合図を皮切りに、目の前に料理が現れる。

 

多くの生徒が待ち侘びていたのか、料理に齧り付いている。

 

私は、ゆっくりと食事を楽しむことにした。




ディメンターさん達には今後もいろいろ出番は用意してあるますよ(意味深)

凍りの槍の元ネタはマイナーすぎましたかね…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ヒッポグリフ

今回は、皆様大好き、ヒッポグリフが出てきます。


次の日の朝、私がハリー達と朝食を取っていると、スリザリンの席の方が騒がしく、それを見てハリーがとても不機嫌そうな表情をしている。

 

原因は、マルフォイが先日コンパートメントの中で気を失ったハリーのモノマネをしている事だろう。

現物を見ていないが、かなり誇張されている様だ。

 

ロンとその兄がハリーを慰めているが、私はハーマイオニーが持っている新しい時間割のほうが気になった。

 

ロンもそのことに気が付いたらしく、ハーマイオニーに指摘する。

 

「ハーマイオニー、その時間割、滅茶苦茶じゃないか。ほら、1日に10科目もあるんだぜ? そんなに時間があるわけないのに…どうするんだよ」

 

「何とかなるわ。マクゴナガル先生と一緒に決めたんだから」

 

ハーマイオニーはあまり触れて貰いたく無さそうに言い返した。何とかなるものなのだろうか…

 

 

「でもほら、この日の午前中、わかるか? 9時、占い学。そしてその下だ。9時、マグル学。それから…おいおいその下に数占い、これも9時ときたもんだ。そりゃ、君が優秀なのは知ってるよ、ハーマイオニー。だけど、そこまで優秀な人がいるわけないだろ。3つの授業にいっぺんにどうやって出席するんだ?」

 

「マクゴナガル先生と一緒に決めたから、大丈夫だって言っているじゃない」

 

まぁ、本人がそう言っているならそうなんだろう。

魔法を使って、分身なりなんなりを作り出すつもりだろうか?

恐らく、マクゴナガルが手を貸すのだろう。

 

そんなことを考えながら、私は、淹れたばかりの紅茶をゆっくりと飲んだ。

 

 

 

 

 ホグワーツの3年生になって初めての授業は占い学だった。 

 

占い学は北塔の一番上でやるようだ。

 

城の中を通って北塔へと向かう。

 

塔の中は螺旋階段になっており、最後まで登りきると小さな踊り場になっていた。

 

私はそこで上を見上げる。すると天井に丸い撥ね扉が見える。

 

そこには『シビル・トレローニー占い学教授』との文字があった。

 

どうやら占い学の教室はこの上らしい。

 

 

しばらく待っていると次第に生徒が集まってくる。

 

慌てるように息を切らしながらハリーたちも階段を上がってきた。

 

ハリーたちは周囲に扉がないことを不思議に思ったのか辺りを見回している。

 

しばらく見回しロンが気が付いたのかハリーを小突き天井を指さした。

 

「あんなところに…どうやって行くんだろう?」

 

ロンがそんな疑問を口遊むと、それにこたえる様に、撥ね扉が開き、中から銀色の梯子が下りてきた。

 

これで来いという事だろうか。

その場に居た生徒たちが、順番に梯子を上っていく。

 

総ての生徒が梯子を上り終わった後、私は、両足に力を籠め、一気に飛び上がり、空を蹴り、更に高さを上げ一気に教室へと入っていく。

 

占い学の教室は複数のテーブルと椅子が置かれており、バーの店内を思い出す作りになっている。

 

ただ、教室の中は頭が痛くなる様な香りで充満している。

一体何をやったのだろう…

 

壁には水晶や、ティーカップなどが乱雑に置かれている。

 

私が適当な場所に腰を掛けると、部屋の奥から胡散臭い見た目の痩せた女性が現れた。

 

「占い学へようこそ。あたくしがトレローニー教授です。たぶん、あたくしの姿を見たことがある生徒は少ないでしょうね。学校の俗世の騒がしさの中にしばしば降りて参りますと、あたくしの心眼が曇ってしまいますの」

 

そういうと、トレローニーが大きな眼鏡越しに、生徒たちを見回す。

このタイプのメガネはセンス悪いな。

 

 

「皆様がお選びになった教科は…占い学。そう、魔法の学問の中でも一番難しいものですわ…初めに、お断りしておきましょう…眼力の備わってない方には、あたくしがお教えできる事は殆どありませんのよ。この学問では書物はあるところまでしか教えてくれませんの…」

 

つまり、才能がない限り、占い学はどれだけ学んでも無意味だという事だ。

 

それを聞いたハーマイオニーは驚きを隠せないといった表情をしていた。

 

「いかに優れた魔法使いや魔女であっても、派手な音や匂いに優れ、雲隠れに長けていても、未来の神秘の帳を見透かすことはできません。限られた者だけに与えられる天分とも言えましょう。あなた、…そう、そこの男の子」

 

 

トレローニーは急にネビルを指名した。

急に話しかけられた為か、ネビルが驚き、椅子から落ちそうになっている。

 

「おばあ様元気?」

 

「え…えぇ、元気だと思います」

 

「そう…私が貴方の立場だったら、私はそんなに自信ありげに言えません事よ」

 

トレローニーは鼻で笑いながら、首を左右に振った。

 

その後トレローニーは何かを見つけては、生徒たちに近いうちに死ぬや、不幸になるといった、宣告をしていった。

ここまでくると胡散臭いものだ。選ぶ学科を間違えたかもしれない。

そんなことを思っていると、トレローニーが私の前に現れ、顔を覗き込んだ。

 

「お…おぉおお…」

 

人の顔を見た途端に、数歩後ずさった。

何と失礼な奴だろう。

 

「貴女を見るというのはとても恐ろしい!まるで底なしの闇を見ているかの様…」

 

「人の顔を見るなりそれとは、失礼じゃない」

 

その後、トレローニーは取り乱したように、騒ぎ立て、今回の授業は終了した。一体何だったのだろう…

 

 

 午後になり、魔法生物飼育学の授業が始まった。

周囲を見回すと、マルフォイを始めとしたスリザリンの生徒も多く見える。

この授業はグリフィンドールとスリザリンの合同授業のようだ。

その為、先程から一触即発といった雰囲気だ。学校側は何も学ばないのだろうか…

 

「やぁ、君と同じ学科なようだ。それだけでも選んだ価値はありそうだ」

 

そんなことを思っていると、後ろからマルフォイが声をかけてきた。

 

毎回の事なので、私達が話をしている事に関しては、各寮から声すら上がらなくなっている様だ。

 

「お世辞が上手ね、褒めたってなにも出ないわよ」

 

「そんなつもりはないさ」

 

マルフォイは満面の笑みで言いながら、キメ顔でそう語った。

なんだか、いつもの様なオドオドとした感じが無くなった気がする。この前の休みで何かあったのだろうか。

 

私達が、ハグリッドの小屋へと近付くと、大声が響いた。

 

「皆、この柵の周りに集まれ!そーだ、ちゃんと見えるようにな。さーて、いっちゃん最初にやるこたぁ、教科書を開くこったな」

 

ポーチから質の悪い教科書を取り出す。久しぶりに外に出られたのが嬉しいのか、心なしか教科書の活きもいいように思える。

 

「どうやるんだ?」

 

「あ?」

 

マルフォイが冷ややかな声でハグリッドに問いかけた。

 

「どうやって開ければいいんですかと聞いている」

 

紐でグルグルに縛られた教科書を取り出し、杖で数回叩いている。

他の生徒も同じ様で、紐や縄、ベルトなどで雁字搦めにしている生徒までいる。

 

「なんだ?誰も教科書を開いてないのか?」

 

ハグリッドは落胆したように肩を落とした。

 

その場に居た殆どの生徒が、同じ様に肩を落としている。

 

私は手元にある教科書を軽く睨み付けると、いつもの様にぶるっと震え大人しくなった。

 

「聞き分けの良い子は好きよ」

 

軽く背表紙を爪先で、触れるか触れないかのフェザータッチで撫でてやると、嬉しそうに悶え、ページを開いた。

 

そんな様子を、マルフォイは食い入るように見ていたが、私と目が合うと、何事も無かったかのように、目線を反らした。

 

「なんだか…お前さんのは調教済みの様な気もするが…まぁ、簡単な話撫でてやりゃいいんだ」

 

そういうと、ハグリッドはハーマイオニーから教科書を受け取ると、テープをはぎ取った。

 

その途端に本はハグリッドに噛付こうとしたが、背表紙をひと撫ですると、嘘の様に落ち着き、その大きな手の上で開いた。

 

「本当に愉快な本だな!背表紙を撫でるのか。思いつかなかったよ」

 

マルフォイは皮肉を込めながら背表紙を撫でた。

その途端に、先程まで暴れていた本が、ぶるっと震えマルフォイの手の上で開いた。

本の様子を見ているマルフォイは、どことなく羨ましそうな表情をしており、時折、自身の体をぶるっと震えさせている。

 

「じゃ…じゃあ俺はちょっと連れて来るから、ここでまっちょれ」

 

ハグリッドはぐだ付きながら、森の奥へと消えていった。

 

 しばらくするとハグリッドが十数頭の鷲のような頭と鉤爪と翼に馬のような体をした生物を片手で従えながらやって来た。動物たちからは好かれるようだ。

 

「ヒッポグリフだ!すごいだろ!」

 

確かに、すごい迫力だ。この世界に居る気味の悪い生物とは違い、美しさすら感じる。

 

「そんじゃ皆まずは近付いてみろ」

 

ハグリッドはそういうが、その場に居るほとんどの生徒が動こうとはしない。

それもそうだ、ヒッポグリフの巨大な嘴と鉤爪に警戒して近付こうとはしない。

 

私はそんな事を気にも留めずに、柵へと近付くと、ハリー、ロン、ハーマイオニーも恐る恐る柵へと近づいた。

それに釣られるように、複数の生徒も近付いて行った。

 

「さて…いっちゃん最初にヒッポグリフについて知らにゃならんことは、こいつらは誇り高いというこった。ヒッポグリフは怒りっぽい。絶対、侮辱しちゃなんねぇぞ? そんなことしてみろ。それがお前さんたちの最後になるかもしんねぇからな…」

 

ハグリッドは説明を続けているが、私はそんな事はお構いなしにヒッポグリフへと近付いた。

 

私に気が付いたのか、ヒッポグリフも私に近寄ってくる。

 

軽く、その嘴に触れようとすると、私の手に噛付いて来る。

 

噛まれる寸前に、手を引き、間の抜けた音だけが周囲に響いた。

 

「危ないじゃない、躾がなってないわね」

 

私の言葉が逆鱗に触れたのか、ヒッポグリフが私に攻撃態勢を取った。

 

「いいわ、言う事聞かない子には、躾が必要ね」

 

「いかん!止めるんだ!セレッサ!」

 

1年の時、フラッフィーを殺された事を思い出したのか、ハグリッドが大声を上げる。

 

「安心なさい、ちょっとお仕置きするだけよ」

 

私は、ポーチの中から、普通の鞭を取り出すと、両端を力の限り引っ張り、周囲に鞭の音を響かせる。

 

「あっ…」

 

「どうしたんだ、マルフォイ?」

 

「なっ!なんでもない!」

 

ギャラリーが騒がしいが、今は放っておこう。

 

私は、再び鞭をしならせ、空気が裂ける音を響かせる。

 

その音に呼応するように、ヒッポグリフが襲い掛かってくる。

 

「はぁ!」

 

突進を横に避けると同時に、首元に鞭を絡ませリードの様に引っ張る

 

「ぐぁ!」

 

しっかりと鞭が食い込んだのか、ヒッポグリフは苦しそうな声を上げている。

 

私は軽く飛び上がり、鞭を手繰り寄せ、一気にヒッポグリフの背中に座り込む。

 

「ふぅん、座り心地は中々ね」

 

「ぐあぁ!」

 

私に無理やり背中に乗られたのが、気に障ったのか、その場で振り落とそうと、暴れ牛の様に暴れまわる。

 

「なかなか楽しいアトラクションね」

 

暴れまわっているが、その衝撃をうまく逃し、片手を首に回し、空いている手を振り回し、ポーズをとる。

 

その間もヒッポグリフは暴れ続け、その度、腰が背中でホッピングする。

 

「いぃ…」

 

「マルフォイ、どこを見ているんだ?」

 

「う…うるさいぞ!ポッター!」

 

様々な視線を感じるが、今は気にしないでおこう。

 

「はぁ!」

 

左手で持っていた鞭で、思い切りヒッポグリフの尻を叩いてやると、流石に諦めたのか、大人しくなってしまった。

 

周囲を見回すと、多くのギャラリーが私を見ており、中には拍手をしているものまでいる。

 

 

「あーー…まぁ、礼儀正しく接すれば問題はないはずだから…」

 

ハグリッドはしどろもどろに、そう説明した。

 

「躾はしっかりした方がいいわよ」

 

颯爽とヒッポグリフの背中から降りると、ハリーが前に出てきた。その表情は早く乗りたいと言っているようだった。

 

 次に、ハリーが別のヒッポグリフに近付くと、礼儀正しく接したようで、背中に乗せて貰ったようだ。

 

しばらく、空の旅を満喫したハリーは、満足しきった顔で降りてきた。

 

「よーし、よくやったお前さんたち」

 

ハグリッドはどこか、複雑そうな表情で褒めると、パチパチとまばらな拍手が上がった。

 

「さて、他にもやってみたいモンはおるか?」

 

ハリーが成功させたのを見て、他の生徒も恐る恐る、ヒッポグリフへと近付いてく。

 

多くの生徒が、礼儀正しく接し、お辞儀には、お辞儀で返している中、マルフォイの番がやって来た。

 

「フッ、ポッターに出来て、僕に出来ない筈が無いだろ、君もそう思うだろ、醜いデカブツ君?」

 

マルフォイが軽口を叩いた途端にヒッポグリフは激情しマルフォイに襲い掛かった。

 

「ヒィイイイィイ!」

 

一瞬で鉤爪によりマルフォイの腕を掠め、みるみるうちにローブに血が滲んでいく。

 

「死んじゃう!僕!死んじゃうよ!」

 

ようやくいつものマルフォイに戻ったようだ。

 

そんな状態のマルフォイにヒッポグリフは止めを刺そうと襲い掛かる。

 

ハグリッドが止めに入ろうとするが、このままでは間に合わないだろう。

 

「世話が焼けるわね」

 

私は、鞭をしならせながら、ヒッポグリフの方へと振るった。

 

放たれた鞭は、ヒッポグリフの真横を通り、マルフォイの足に絡みついた。

 

「イィ!」

 

「少し痛いけど、我慢なさい」

 

鞭を一気に手繰り寄せ、マルフォイを一気にこちらへと引き寄せる。

 

次の瞬間、ヒッポグリフの鉤爪が空を切る音が響いた。まさに間一髪だった。

 

「あぁあ!痛い!死んじゃうよ!助けて…助けてよ…僕死にたくないよ…セレッサぁ…」

 

所々、血と泥で汚れているマルフォイがひどく情けない声で、私の足に両腕を回し、縋り付いて来る。

 

「その程度じゃ死なないから安心なさい」

 

「あぁああ!」

 

マルフォイが尚も喚き散らしているので、顎を右手で持ち上げ、口に治癒効果のあるロリポップを突っ込む。

 

「んぐぅ!」

 

「少し静かにしてなさい、後で医務室へ行った方がいいわよ」

 

「う…うん」

 

マルフォイは落ち着きを取り戻したのか、ロリポップを口に咥えながら、頷いた。

 

その間に、ハグリッドがヒッポグリフに手綱をかけ、落ち着かせた。

 

その後は、マルフォイをハグリッドが軽々と抱え城の方へと走っていった。

 

他の生徒たちも、少しショックを受けているのか、心配そうな表情でその後姿を見送っていた。

 

「あんな教師!すぐに首にするべきだ!」

 

「マルフォイの自業自得だ!ハグリッドは悪くない!」

 

「それにしても、さっきのマルフォイ…情けなかったな…」

 

またしても、スリザリンとグリフィンドールの対抗が始まった。

多くの生徒が、自分の意見を叫ぶ中、今回の授業は終了した。

 




やっぱりマルフォイは少し、ヘタレな方が良いですね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ボガード





 

次の日の朝、腕に包帯を巻いたマルフォイがやって来た。その姿は何処か得意げで、ふんぞり返っていた。

 

「腕の調子はどうかしら?」

 

「大丈夫とは、言えないかな」

 

少し痛がる芝居を打っているが、実際は殆ど完治しているのだろう。

 

「まぁ、お大事にといったところね」

 

「あぁ、少しすれば、治ると思うよ………昨日は惨めなところを見せてしまったね…」

 

顔を真っ赤にさせたマルフォイは、俯きながら、蚊の鳴くような小さな声で囁いた。

 

「あんな状況だもの、仕方ないわよ」

 

私は、その場を離れ、次の授業の教室へと足を向けた。

 

 

「でも僕…僕は…」

 

マルフォイの悲痛な呟きは、誰の耳にも入ることは無かった。

 

 

 

 次の授業は、闇の魔術に対する防衛術の授業だ。

 

担当は、ホグワーツ特急で一緒になった、ルーピンだという話だ。

 

去年はとんでもないのが担当だったが…今年は一体どんな授業を行うのか…、まぁ、期待と不安が入り混じっている。

 

教室に入ると、ルーピンの姿はまだ無く、多くの生徒が、適当に席に着き、教科書とペンを取り出し、準備をしている。

 

私も、ハリー達がいる場所へと腰を掛ける。

 

しばらくすると、いつも通りの、アンティーク感のある服を着たルーピンが教室に入って来た。

 

コンパートメントで見た時よりも、若干顔色が良かった。

 

「やあ、みんな。おはよう。さっそくだけど教科書は鞄にしまってくれるかな? 今日はさっそくだが実習をすることにしよう。杖だけあればいいよ」

 

グリフィンドールの生徒達はルーピンの言葉に従い、教科書を広げていた生徒は、鞄へと仕舞い込み、杖を取り出した。

 

「よし、じゃあ皆、私に付いて来てくれ」

 

ルーピンは杖を構えて、一振りすると、教室内の机が片付き、広いスペースを確保した。

そして、教室の奥から、ガタガタと震えている、古ぼけた箪笥を持ってきた。

 

「この中には『ボガート』が入っている、君達にはこれからこいつと戦ってもらう」

 

その言葉に、どよめきが起きる。訳の分からない者といきなり戦えと言われれば誰だってそのような反応を示すだろう。

そんな状況を理解したのか、ルーピンはそんな不安を和らげるように、やさしい口調で話し始めた。

 

「さて、ボガートがどんな奴か分かるかな?」

 

その言葉に、ハーマイオニーが真っ直ぐ手を上げた。

 

「形態模写妖怪です。私たちが一番怖いと思うものに姿を変えることが出来ます」

 

 

「その通りだ。完璧な説明だったね」

 

ルーピンの言葉に、ハーマイオニーが少し恥ずかしそうに、微笑んだ。

 

「だから、ボガートの本当の姿を見たものが居ないんだ。そして、姿を変えるのはいつも一人で居る時だけだ。それは何でかわかるかかな?」

 

すると、再びハーマイオニーが手を上げた。

 

「複数人で居ると、誰の怖い物に化ければいいかわからなくなるからです」

 

「正解だ、よく勉強しているね。グリフィンドールに5点あげよう」

 

褒められた上、点数まで貰えたのが嬉しいのか、ハーマイオニーが嬉しそうに、ガッツポーズをした。

 

「さて、ボガートを退治させる呪文は簡単だ。こいつらを退治するのに必要なのは、笑いなんだ。そして、強い精神力も必要になってくる。君達は、見ていて滑稽だと思える姿をボガートに取らせる必要がある。そしてその呪文が『リディクラス』ばかばかしいだ。じゃあ一緒にやってみようか」

 

ルーピンの声に続き、多くの生徒が声を上げた。

 

それにしても、大人数でリディクラスと声を上げるのは、それ自体がばかばかしいな。

 

「よし、これで大丈夫そうだね。じゃあ実際にやってみようか」

 

ルーピンは楽しそうに言うと、近くに居たネビルを指名した。

 

「よーし、ネビル。君の一番怖いものは何だい?」

 

「……プ……い…」

 

ネビルは、蚊の鳴くような、小さな声で、ボソボソと呟いた。

 

「ん?もう一度言ってくれないか?」

 

「スネイプ先生」

 

ネビルが少し恥ずかしそうに言うと、その場に居る生徒が大笑いした。

思いのほかうけたのが嬉しかったのか、ネビルがニヤリと笑った。

そんな中、ルーピンだけは少し気不味そうな表情を浮かべていた。

 

「スネイプ先生か…悪い人じゃないんだけどね。ちょっと怖いかもしれないね…ところで君は、おばあさんと暮らしているよね」

 

「はい…」

 

「じゃあ、スネイプ先生がおばあさんと同じ格好をしているところを想像してみよう。おばあさんの格好はすぐに想像できるだろ?」

 

まじめな表情でとてつもないことを言うので、クラス全体におかしな空気が流れた。

 

「ネビル、心配する事は無いよ。ただ、スネイプ先生が出てきたら、おばあさんの格好を想像するんだ。いいね。じゃあ行くよ…1!2!3!」

 

ルーピンが杖を振ると、箪笥の扉が勢い良く開かれ、中から漆黒のローブを着込み、不機嫌そうなスネイプがネビルの元へと歩み寄っていく。

 

そんな状況に、ネビルは口をパクパクとさせながら、後ずさった。

 

「ネビル!落ち着くんだ!そしておばあさんの姿を想像してリディクラスと言うんだ!」

 

「りっ…り…リディクラス!」

 

次の瞬間、バチンと音を立て、スネイプが躓いた。

そして、みるみるうちに漆黒のローブが緑色のドレスへと変わり、大きな羽根つきの帽子をかぶり、ご丁寧に手には真っ赤なバッグを携えたスネイプが、おろおろと周囲を見回している。

 

その光景に、日頃スネイプに目の敵にされているグリフィンドール生全員が何かが弾ける様に大笑いした。

 

「ネビル、よくやったね。さて次は君たちの番だ。今のうちに考えておいた方がいい。自分が何が怖くて、どんな姿に変えるのかを」

 

ルーピンが楽しそうに笑いながら、レコードで曲を流すと、その場に居た生徒たちのテンションも最高潮へと達した。

 

「皆、準備はいいかい!次は君だ!」

 

ルーピンに指名された生徒が少しビビりながらボガートの前へ進んだ。

 

すると、今までスネイプだったのだが、一瞬で姿を変え、血塗れのミイラが現れた。

 

「リディクラス!!」

 

魔法を放った途端に、ミイラの包帯が剥がれ、その包帯に躓き、盛大にこけた。

その姿に、再び教室が笑いに包まれた。

 

それ以降は皆楽しそうに、自分の番を今か今かと待ち侘びているようだった。

 

しかしそれに連れて、私は少し考えるようになった。

果たして私が恐れている物は一体何なのだろう?

 

そんな事を考えている間にも多くの生徒がボガートを楽しんでいる。

 

次の生徒は、昨年バシリスクの被害にあった少女だった。

 

少女が目の前に現れると、ボガートはバチンと音を立て、その場で赤黒い大蛇、バシリスクへと姿を変えた。

 

「リディクラス!」

 

少女が魔法を放つと、先程までバシリスクだった物が、音を立て、巨大なピエロが飛び出たびっくり箱に姿を変えた。

 

「素晴らしい!」

 

ルーピンは楽しそうに称賛を送ると、次は私を指差した。

 

「さて!次は君だ!セレッサ!」

 

ついに私の番が来たようだ。先程まで大騒ぎしていたのが嘘の様に、静まり、教室中の視線が私に集中した。

どうやら、皆私が何を恐れているのか気になっている様だ。

 

ゆっくりと、ボガートの前に身を晒すと、バチンと音を立て、ボガートの姿が変わった。

 

その場の全員が、興味津々にボガートの姿を眺めている。

今も尚、ボガートは体をグネグネと動かしながら、何か躊躇う様に動いている。

 

そして、ついに姿を現した。

 

目の前に現れたのは、半透明で薄紫色の体のジャンヌがその肢体を赤黒い腕で掴まれ、恐怖の籠った表情で私を見据えている。

 

なるほど…そういう事か。

どうやら、ボガートはジャンヌが瀕死の状態になった時を再現したようだ。確かにあの時は大変だった。

 

ボガートの姿を見て、多くの生徒が息をのんだ。

それもそうだろう。恐らくこの場に居る全員が、この状況に、精神的嫌悪感や恐怖を味わっているだろう。

 

恐怖に歪んだ顔のジャンヌは声にならない悲鳴を上げている。

その悲鳴に、多くの生徒が恐怖し、ネビルに至っては気絶している。

 

「フッ…リディクラス」

 

次の瞬間、バチンと音を立てると、目の前には赤い服を着込み、赤い眼鏡を頭に掛け、赤い靴を履き、手には赤い猫のぬいぐるみを持っている幼いジャンヌの姿が現れた。

 

 

私は、軽く指を弾くと、黄色のロリポップを取り出し、幼いジャンヌに手渡した。

 

「どうぞ、チビ助」

 

幼いジャンヌは嬉しそうに、ロリポップを受け取ると、躊躇う事無く咥え、美味しそうに舐めている。

 

そんな状況に、先程まで恐怖に包まれていた教室に、和やかな空気が流れた。

 

「さて…セレッサ、よくやったよ。見事な手際だ。まさかボガートを手懐けるとはね…次はハリーだ」

 

ルーピンの言葉に、多くの生徒の視線がハリーに集まる。

 

ハリーは緊張した面持ちで、ボガートの前にその身を晒した。

 

次の瞬間。バチンと音を立て、ボガートの姿が変わり、ボロボロの黒いマントを頭から被ったディメンターが姿を現した。

 

てっきりヴォルデモートが出て来るものかと思ったが…見当違いだったか。

 

ディメンターへと姿を変えたボガートが、ハリーに襲い掛かろうとする。

 

「こっちだ!」

ハリーとディメンターの間に割って入る様に、慌てた様子のルーピンが身を乗り出した。

 

ハリーから、ルーピンへと標的が変わったのか、ボガートがバチンと音を立て、姿を変えた。

 

ルーピンの前に現れたのは、小さな満月だった。

 

だが、多くの生徒は月という事が分からないのか、不思議そうな表情で眺めている。

そんな中、ルーピンは面倒くさそうに呪文を唱えた。

 

「リディクラス」

 

すると、月は風船へと姿を変え、萎みながら箪笥の中へと戻っていった。

 

「よーし…皆良くやった。ハリーも上手だったよ。君たちの年齢で、コイツと向き合うのはとても勇気が必要だっただろう。よって、ボガートと対面した子には5点ずつあげよう」

 

突然の事に、多くの生徒が状況を理解していないといった表情だった。

ルーピンは少し咳払いをすると、困ったように続けた。

 

「今日はここまでにしよう。宿題は、ボガートに関するレポートの提出だ。ハリー、君には少し聞きたい事がある。少し残ってくれ」

 

 

終業を告げる鐘がなると、生徒達が一斉に教室を後にした。

そんな中、ハリーだけがルーピンと一緒に、奥の部屋へと消えていった。

 




ベヨネッタの怖い物が思い浮かばなかったので、ジャンヌに出てきてもらいました。

明日は所用で更新はできないです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

シリウス・ブラック

ホグズミード村って行ってみたいですよね。


ボガートの一件以降、ルーピンの授業は人気の授業になった。

今までの闇の魔術に対する防衛術の教員の中では一番まともなのだから、それは当然だろう。

そして、座学だけではなく、実習が多いのも人気の理由だろう。

 

そんな中、ハグリッドが受け持つ、魔法生物飼育学の授業はとてもつまらない物になってしまった。

マルフォイがあれだけ大騒ぎしたせいか、父親であるルシウスにまで話が伝わり、面倒なことになっている様だ。

その為か、今となっては授業の殆どが、レタス食い虫の世話をするだけとなっている。

 

 

 

 しばらくすると、ハロウィーンの時期がやって来た。

多くの生徒が興奮したように、何か話し合っている。

理由はというと、今日はホグズミード村へと行く事が出来るからだろう。

 

私は、ジャンヌのサインが入った許可証をマクゴナガルに提出すると、保護者はエンツォではないかと聞かれたが、一応、設定上ではあるが、姉であるジャンヌの存在を明かすと、納得したようで許可を出した。

 

皆が騒いでいる中、ハリーだけは暗い顔をしている。どうやらホグズミード村へ行く事の許可が下りなかったのだろう。

 

そんなハリーを慰める様に私達は声をかけた。

 

「暗い顔しているわね、お土産は買ってくるから安心しなさい」

 

「うん…ありがとう、ベヨネッタ…」

 

ハーマイオニーとロンも続け様に声をかけるが、何処か不貞腐れる様な顔をし、「土産話をたくさん聞く」とだけ言い残すと、どこかへ消えて行ってしまった。

 

仕方なく、私達はホグズミード村へと向かう事にした。

 

 ホグズミード村へ向かう道中、ハーマイオニーとロンはずっと口論をしている。

 

理由は、ハーマイオニーのペットの猫が、ロンのペットである鼠を襲っただか、襲ってないだかと言ったくだらない物だった。

 

そんな会話を、ホグズミード村に着くまでずっと繰り返しているので、流石にバカバカしく思える。

 

 しばらくすると、目の前にホグズミード村らしき場所が現れた。思っていた以上に小さな場所だ。

 

村に入ると、各々が見たい場所へ移動していく。

 

「とりあえず、温かい物でも飲みに行きましょう。『三本の箒』なんてどうかしら?」

 

「いいね。ベヨネッタも行くよね?」

 

「そうね、軽くなら良いわよ」

 

行き先が決まったようで、私達は、ハーマイオニーの後に続き『三本の箒』へと入っていった。

 

 店内は案外きれいで、明るい雰囲気だった。

 

私達は適当な席に腰かけると、ウェイターらしき人物が注文を取りに来た。

 

「ご注文はお決まりですか?」

 

「私は、バタービールで」

 

「僕も同じものを」

 

2人の注文を取り終え、ウェイターが私の方へ顔を向けた。

 

「そうね…ギムレットを貰おうかしら、ローズのライムジュースで頼むわ」

 

そういうと、ウェイターは少し困った表情で

 

「お客様の年齢ではギムレットには早すぎるかと…」

 

「あら?マルティニなら良いのかしら?」

 

私が皮肉っぽく返すとウェイターは少し笑いながら

 

「マルティニなんかとてもかなわないかと思われます」

 

「フッ…まぁいいわ、じゃあ同じ物を貰おうかしら」

 

「バタービール3つですね」

 

少しチップを渡すと、ウェイターはお辞儀をして受け取り、颯爽と去っていった。

 

「………」

二人は驚いた表情をしているが、何か言ってくるわけではなかった。

 

しばらくすると、ジョッキに注がれ、ビールの様になった飲み物が運ばれてくる。

 

私はバタービールを手に持つと、ゆっくりと流し込んだ。

 

生暖かく、甘ったるい味が口の中に広がった。

バターの風味は良いが、見た目がビールな為か、少し違和感を覚える。正直あまり好みではない。

 

「おいしいわね、飲みやすいし」

 

「そうだね」

 

どうやら、2人にはちょうどいい味の様だ。

 

「それにしても、ベヨネッタ、貴女なんでお酒なんか頼んだのよ」

 

ハーマイオニーがどこか怒ったような口調で話しかけてきた。

 

「まぁ、気持ちは分かるよ、僕だってお酒飲んでみたいと思うし」

 

何を勘違いしたのか、ロンからは同情を掛けられる。

 

とんだ災難だ。

私は深いため息をつき、残っていたバタービールを流し込んだ。

 

 三本の箒から出た後は、ハーマイオニー達と別れ、別行動する事にした。

 

適当に雑貨を見て回り、ある程度楽しめたので、ホグワーツへと戻る事にした。

 

その道中、1匹の不細工な猫を見かけた。

あれは確か、ハーマイオニーのペットの猫だ。

その猫は、私と目を合わせると、『にゃー』とないた後、まっすぐ進み、再び振り返ると、また『にゃー』と鳴いた。まるでついて来いと言っているかのようだった。

 

「へぇ、何か楽しいことでもあるのかしら?」

 

私は、その猫の後についていく、猫は時折振り返ると、私が付いて来ているのか確認している。案外賢いようだ。

 

しばらく歩くと、目の前に暴れ柳が姿を現した。

去年車で突っ込んで以来だ。

 

 

猫は、何の躊躇いも無く、暴れ柳に歩み寄って行く。

 

暴れ柳は、その枝を震わせ、猫を殴り飛ばそうとする。

しかし、猫はバク宙で枝を避けると、何食わぬ顔で、暴れ柳の一部を押さえた。

すると、先程まで暴れまわっていたのが嘘の様に、大人しくなった。

 

「なるほど、ここを押さえればいいのね」

 

猫に近付くと、暴れ柳の根元には人一人がようやく通れるくらいの小さな穴が開いていた。

 

猫は一鳴きすると、穴の中を滑って降りた。どうやらついて来いと言っている様だ。

 

穴の中を抜けると、周囲には暗闇が広がっている。

 

しかし、この程度の暗闇、大した問題ではない。

 

暴れ柳の下は、天井が低い小さな部屋になっている。案外アンティーク感があっていいセンスをしている。

それにしても、かなり歩いたようだが、一体ここはどこなのだろう?

 

猫の後に続き、こんな所までやって来てしまったが、一体何が待ち構えているのだろうか。

私は少し警戒し、両手に銃を構える。

 

一番奥の部屋の扉を開けると、中には大きな黒い犬が座っていた。しかし、犬から発せられる魔力の流れから、この犬が動物もどきであるという事が分かる。

 

 

「あら?ここはあなたの部屋かしら?」

 

犬に話しかけるが、ワンと鳴くだけで、その場を動こうとはしない。

しかし、その表情は、警戒しているといった感じだった。

 

「アンタが動物もどきだって事は分かっているわ、姿を現したらどうかしら?」

 

 

「ウガァ!!」

 

次の瞬間、黒い犬が牙を剥き、私に飛び掛かってくる。

 

「甘いわね」

 

体の軸をずらし、口先を回避し、犬の柔らかい腹部に回し蹴りを食らわす。

 

「ギャァイ!」

 

犬が悲鳴を上げ、壁に激突し、周囲が埃と土煙で覆われる。

 

数秒間、動きが全くない。気絶でもしたのだろうか?

 

 

 

「ステュービファイ!!」

 

 

煙の奥から、痩せ細った男が、魔法を放ち、煙を吹き飛ばしながら、私に襲い掛かる。

 

「残念ね」

 

襲い掛かる魔法を、杖で受け流し無効化させる。

その光景に、痩せ細った男は信じられないと言った表情をしている。

 

「これで終わり?なら次は私の番ね」

 

両足に力を籠め、男との間合いを一気に詰める。

 

「なっ!」

 

男は、杖を構え直し、再び魔法を放とうとする。

しかし、それより早く、眼前に迫り、右足で杖ごと、腕を蹴り上げる。

 

「グッ!」

 

腕の痛みに耐えかねたのか、苦痛に歪んだ声を上げる。

 

「さて、これでゆっくり話ができるわね」

 

上空に吹き飛ばされた杖は、空中で数回転した後、私の手に綺麗に収まった。

 

そんな状況を見て、観念したのか、男は床に両膝を付けた。

 

「何が目的だ…ホグワーツの生徒のようだが…」

 

「この子が案内してくれたのよ。アンタのお友達かしら?」

 

部屋の奥に居た猫が、間抜けな鳴き声を上げた。

 

「私の事を知らないのか?」

 

「アンタみたいなパッとしない男に興味は無いわ」

 

少しショックを受けたのか、その男は少し項垂れた後、声を発した。

 

「私はシリウス・ブラックだ…」

 

シリウス・ブラック…確かアズカバンを脱獄したという囚人だったか?

 

「ハリーが狙われているって言っていたけど、わざわざ脱獄して、こんなところに潜伏してまでとは、執念深いのね」

 

「待ってくれ!それは違う!私は犯人じゃない!」

 

目の前の男、シリウスは必死の形相で、自己弁護を行っている。

 

「別に、アンタが犯人であろうと、無かろうと私には関係ないわ」

 

「そうだな…ディメンターに引き渡すのか…」

 

「さっきも言ったけど、そんな事に興味は無いわ」

 

「え?ではなぜ…」

 

「アンタが先に仕掛けてきたんじゃない、正当防衛よ」

 

私がそういうと、シリウスは申し訳なさそうに、項垂れた。

 

「すまなかった…私はてっきり…」

 

「まぁ、過ぎた事はしょうがないわ。それより確認よ、アンタはハリーを殺すつもりはないのね」

 

「当たり前だ!それに私はハリーの両親を裏切っていない!アズカバンに投獄されたのも、冤罪なんだ!」

 

「そうなの、それはお気の毒ね、それで?なんでこんな所に隠れていたのかしら」

 

「それは…裏切り者を…奴に借りを返すためだ!」

 

シリウスは力強く叫ぶと、憎悪に満ちた声で、その裏切りの名を口にした。

 

「ピーター・ペティグリューだ!奴は世間では私に殺されたことになっているが、総て奴の自作自演だ!あいつは鼠の動物もどきで、下水管を通って逃げたんだ…小指を1本だけ切り落として…」

 

 

「なるほどね…それで濡れ衣を着せられた訳ね。とんだ災難ね」

 

「だがその屈辱も…あと少しで終わる…ホグワーツにその鼠が紛れ込んでいる…この子が教えてくれたんだ」

 

シリウスはそういうと、ハーマイオニーのペットの猫の喉を撫でている。

撫でられている猫の表情はとても気持ちよさそうだ。

 

「なるほどね…この子があの汚い鼠を襲ったのはそれが理由ね、食事に困って居る様には見えなかったし」

 

「あぁ、どうにかここまで連れて来てもらおうとしたのだが…」

 

そこまで言って、シリウスは項垂れてしまう。そして、首だけを上げ、私を少し睨んだ後、ゆっくりと口を開く。

 

「奴を捕まえるのを手伝ってくれないか…」

 

「私の事を信用するのかしら?」

 

私は、杖の先で眼鏡を整えると、少し皮肉を込めた口調で言い放つ。

 

「今はそれが最良の選択肢だからだ…無論、決定権は君にある」

 

シリウスはそこまで言った後、深々と頭を下げお辞儀をした。

 

「ふぅ…仕方ないわね、良いわ、協力してあげる」

 

「本当か!」

 

「仕方ないじゃない、そこまで話を聞かせておきながらよく言うわね」

 

「すまないな」

 

少し複雑そうな表情のシリウスは再び、深々とお辞儀をした。

 

 




やっぱり、まともに戦う場面が無いと、比較的平和ですね。

今年の更新はこれで最後となります。

来年もよろしくお願いいたします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

侵入者

今年もよろしくお願いします。




 

シリウスと別れ、杖を取り出すと、少し早いが、いつもの様にバーへと移動した。

 

「なんだ。今日はえらく早いな。まだ開店時間じゃねぇぞ」

 

薄暗い店内でロダンは、椅子に腰かけ、テーブルの上に足を置きながら、リラックスした状態で、日刊預言者新聞を読んでいる。

 

「硬い事言わないで頂戴。とりあえず1杯貰えるかしら」

 

「あぁ」

 

椅子から起き上がると、背中を伸ばしながら、バーカウンターの奥へと向かっていった。

 

「いつものでいいか?」

 

「そうね、今日はギムレットを貰おうかしら」

 

「珍しいな」

 

そう呟くと、ロダンはドライジンとローズのライムジュースを取り出す。

 

「量はどうする?」

 

「半分ずつね」

 

私が注文すると、ロダンはシェイカーに酒を入れ、慣れた手付きでシェイクすると、カクテルグラスに注いだ。

 

「待たせたな」

 

ギムレットを受け取り、さっそく口にする。

 

ジンの風味とライムの酸味がちょうどいい。

 

「それにしても、こんな時間に来るとは、何かあったのか?」

 

「ホグズミードに行ってたのよ」

 

私は詰まらなそうに呟き、もう一口飲み込む。

 

「ホグズミードか、また辺鄙なところへ行ったもんだな」

 

鼻で笑いながら、テーブルの上の酒を仕舞い込んだ。

 

「そこで、シリウス・ブラックに会ったわ」

 

「ほぉ」

 

「どうやら、冤罪らしいわ」

 

「そりゃ災難だな」

 

ロダンは先程まで座っていた場所に腰かけると、日刊預言者新聞を手に取り読みだした。

一面は相変わらず、脱獄囚シリウスの事が書かれている。

 

私はグラスに残っている、僅かなギムレットを飲み干すと、杖を手に取った。

 

「邪魔したわね」

 

「あぁ」

 

素っ気無さそうに手を振るロダンを尻目に、ホグワーツへの自室へと戻っていく。

 

姿が完全に消える直前、壁に磔にされている、天使の脳天を打ち抜くのも忘れなかった。

 

 

 

 自室に戻り、外へ出ようとするが、その扉に大きな切り傷が付けられている。一体何がったのだろう。

外へ出ようと試みるが、扉はびくともしない。

 

「仕方ないわね」

 

私は、右足に力を籠めると、固く閉ざされていた扉を蹴破った。

 

「なっ…」

 

扉を蹴破ると、そこに人だかりが出来ており、その場に居た全員の視線が私に集まっている。

 

「セレッサよ…ここで何をしておるんじゃ」

 

静まり返った空気の中、驚愕しているダンブルドアが口を開いた。

 

「蹴破っただけよ、何か問題でも?」

 

「蹴破ったって…なんてことを!」

 

マクゴナガルのヒステリックな声が響き、周囲の生徒に緊張が走った。

 

「まぁ良い…お主はしばらく、中に居ったという事じゃな…その間に侵入者など見てはおらぬか?」

 

「見てないわね」

 

「そうか…他に見た者はおらぬか?」

 

ダンブルドアの通る声が、周囲に響いた。

その時1匹のゴーストが甲高い声を上げた。

 

「見つかったらお慰み!何と言っても絵から逃げ出した後、醜く走り回ってましたからな」

 

「どうしたのじゃ…ピーブズ…」

 

「こんなことをする奴は相当残忍な奴ですなぁ!えぇ、まったく、あの悪名高きシリウス・ブラックは」

 

ゴーストはその場に居る全員に声高らかに言い放った。

 

シリウス・ブラックがこの学園に侵入したと…

 

 

 結局その夜は、シリウスが侵入している可能性を考慮して、全員が大広間に集まって眠るという事態になってしまった。

まったくあの男は余計な事をしてくれる。

 

そんな事を考えていると、派手なパジャマに身を包んだ、マルフォイが枕を小脇に抱えながら声をかけて来た。

 

「こんばんは、セレッサ。それにしても酷い騒ぎになったものだね」

 

「まったくね。会ったらお仕置きしてあげなきゃいけないわね」

 

「ハハ…そいつはうら…いや、恐ろしい事を考えるね」

 

「女の子を床で寝させるなんて、とんでもない事よ」

 

「確かにそうだな…それにしても物騒だよね……………その…よかったら………」

 

マルフォイが何かを口にしようとしたところに、不機嫌そうなロンが食い掛かって来た。

 

「何しに来たんだ!マルフォイ!」

 

「チッ!ウィーズリー!君には関係ないだろ!」

 

「なんだよ。僕はてっきり、シリウスが怖くなってベヨネッタに泣き付きに来たのかと思ったよ!」

 

「なっ!」

 

「死んじゃうよぉ!だって!笑えるよな」

 

ロンは明らかに誇張したマルフォイのモノマネをする。

それに釣られ、多くのグリフィンドール生が声を上げ笑っている。

 

「黙れ…」

 

マルフォイは怒りを込めた声を上げるが、ロンはそれを無視している。

 

「たすけてよぉ!ハハッ!惨めなもんだ!」

 

「黙れ!黙れと言っている!ロナルド!ウィーズリーィ!!」

 

マルフォイは怒声を上げると同時に杖を構る。

 

「やるのか!」

 

負けじとロンも杖を構える。

そんな状況に、周囲の生徒は熱狂し、まるで見世物の様に盛り上がっている。

 

しかし、お互いの間には、一触即発の空気が流れており、いつ魔法が放たれても、おかしくない状況だった。

 

「はぁ…」

 

あまりにも馬鹿馬鹿しい状況に、溜息を吐き、2人の杖の間に割り込んだ。

 

「どけ、ベヨネッタ!君はこんな奴を庇うのか!」

 

「どいてくれ、セレッサ。頼む…」

 

「二人とも落ち着きなさい」

 

私がそういうが、2人は一向に杖を下す気配がない。

 

「仕方ないわね」

 

その場で両手を振り上げ、2人の杖を上空へと弾き飛ばす。

 

「なっ」

 

「えっ」

 

突然の事に驚きを隠しきれない2人は、間抜けな声を上げる。

 

弾き飛ばされた杖は、ある程度の高さまで上昇すると、その後、重力に従い落下を始める。

 

私は頭上で腕を交差させ、落下してくる2本の杖を掴む。

 

そして、ロンにはマルフォイの、マルフォイにはロンの杖を喉元へと突きつける。

 

「「………」」

 

先程まで熱狂していたのが、嘘の様に周囲の生徒は大人しくなり、2人は冷や汗をかいている。

 

「これで少しは落ち着いたかしら?」

 

 

「あ…あぁ」

 

「うん…」

 

互いに間の抜けた返事をする。

 

「フッ」

 

私はその場で半回転し、2人の杖を胸ポケットへと滑り込ませる。

 

「なら早く寝なさい。わかったわね」

 

それだけ言い残すと、私はその場を離れた。

 

後に残された2人は、ただ茫然と、私の後ろ姿を見ているだけだった。

 

 

 

 

 次の日は、学校全体が、シリウスの噂で持ちきりだった。

どのように侵入したのか、何が目的なのか、やはり、ハリーを狙っているといった噂が独り歩きをしている。

 

私は、ウィッチタイムのなか、学校を抜け出すと、暴れ柳の中へと入っていった。

しばらく進むと、部屋の中央で黒い犬が、呑気にも大欠伸をしている。

 

「まったく…呑気なものね、アンタのおかげで学校中パニックよ」

 

私がそういうと、犬は驚いた表情をこちらに向け、一瞬で人型へと戻った。

 

「すまなかったな、だがどうしても、自分を抑えきれなかったんだ」

 

「なるほどね、でも絵を切り裂くのはやりすぎじゃないかしら?」

 

「それについても反省はしているよ、まぁ学生時代の付けを返してやっただけさ」

 

シリウスは少し自嘲気味に笑うと、近くにあったソファーに腰を掛けた。

 

「付けねぇ…アンタもグリフィンドール生だったそうね」

 

「誰から聞いた?」

 

「学校中、アンタの話題で持ちきりよ」

 

「そうか…」

 

シリウスは何処か物悲し気な様相で外を見ながら、溜息を吐いた。

 

 

 しばらくすると、シリウスの噂もあまり聞かなくなった。

しかし、学校側はまだ警戒しているようだ。

 

そんなある日、いつもの様に、闇の魔術に対する防衛術の授業を受けるべく、教室で待機していると、ルーピンではなく、不機嫌そうな表情のスネイプが入室してきた。

 

「先生、今は魔法薬学の時間じゃありません」

 

ハーマイオニーが言うと、スネイプは相変わらず不機嫌な表情で面倒くさそうに答える。

 

「そんな事は分かっておる、流石に吾輩も…教室を間違えるバカではない、だが君はそうは思わないようだな、ミス・グレンジャー?」

 

スネイプの嫌味に、流石のハーマイオニーも耐えられなかったのか、目を逸らした。

 

「ルーピン先生は体調が優れない様でな、故に今回は吾輩が仕方なく代理をする事になった」

 

スネイプは少し自慢げに言うと、さっそく本を取り出した。

 

その時だった、教室の扉が勢い良く開かれると、ハリーが転がり込んできた。

 

「ルーピン先生、すいません…おくれ…」

 

ハリーは教室に居るのが、スネイプだという事を知り、驚愕した表情で、スネイプの顔を見ている。

 

 

「大層なご身分だなポッター、授業は既に始まっている。グリフィンドールから10点減点だ。早く座れ」

 

「ルーピン先生はどうされたんですか?」

 

「体調不良だそうだ、分かったらさっさと座れ」

 

「何があったんですか!」

 

「心配はいらないと聞いている。それより早く座らぬか…グリフィンドール10点減点だ。これ以上、吾輩に減点させるつもりか?」

 

スネイプの言葉に、ハリーは少し項垂れながら、席に着いた。

 

ハリーの表情は、不満そのものだった。

今までルーピンがやっていたのを、いきなりスネイプに変われば無理もないだろう。

 

「さて…それでは本日の授業を始める。今回やるのは人狼についてだ」

 

スネイプは少し笑みを浮かべながらページをめくると、ハーマイオニーが再び口を挟んだ。

 

「先生、人狼をやるのはまだ早すぎます。まだそこまで教わっていません」

 

「この授業は、君の授業ではないのだぞ、グレンジャー…それでは諸君、教科書を開け」

 

その後は、人狼についての授業が進んでいった。

ルーピン程の盛り上がりは無かったが、非常に分かり易い授業だった。

 

授業が終わると、スネイプが人狼についてのレポートを課題として出し、多くの生徒が不満に満ちた声を上げた。

 

「スネイプの授業なんてもう受けたくないよ、早くルーピン先生に戻らないかな」

 

「そうね、私もルーピン先生には早く元気になってほしいわ」

 

「それにしてもどうして、人狼なんてやったんだろう、もっと他にもやることなんて沢山あるのに」

 

ロンは、呑気そうに呟くと、ハリーとハーマイオニーも頷いた。

 

どうやら、スネイプがなぜ人狼の授業を行ったのか理解していないようだ。

 

「今日が満月だからよ」

 

少しヒントを出してやると、3人は食いついてきた。

 

「満月だから?それだけかい?確かに人狼は満月の時におかしくなるって言っていたけど…」

 

「だからって今までの授業のペースを乱さないで欲しいよな」

 

ロンとハリーは呑気そうに笑いあっているが、ハーマイオニーだけは何かを理解したように小声で話しかけてきた。

 

「ベヨネッタ…もしかして貴女、ルーピン先生が…」

 

「可能性はあるんじゃないかしら」

 

その言葉にハーマイオニーは少し俯いてしまった。

どうやら、理解したのはハーマイオニーだけのようだ。

 




シリウスのせいでおかしな事になってしまいましたね。

しばらくは正月という事で、更新が不定期になるかもしれません。

ご了承ください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ディメンター

ようやく年初めのドタバタが終わったと思ったら、風邪を引いてしまいました。



グリフィンドール対ハッフルパフの試合当日。

 

外は嵐と言っても過言ではない程の暴風雨だった。

 

私が会場に着く頃には雷鳴まで轟いている。

 

しかし、そんな事は御構い無しに、多くの生徒が熱狂の渦に包まれている。

 

そんな中、会場をふと周囲を見回すと、柱の奥に黒い犬…シリウスが隠れる様に試合を観戦している。

 

警戒しているのに、簡単に侵入されるとは…シリウスの腕が凄いのか、ホグワーツの警備がザルなのか…

 

そんな事を思っていると、選手たちが入場してきた。

 

すると、会場のテンションも一気に跳ね上がり、割れんばかりの拍手が爆音の様になる。

 

そんな中、選手は皆一様に、緊張しているようで、険しい表情だ。

 

両選手が揃った事により、試合開始のホイッスルが雨音に混じりながら会場に響いた。

 

雨の中の試合は混迷を極めており、視界が悪い事もあり、現状はグリフィンドールが50点だけリードしている状況だ。

 

その中、試合の要であるシーカーのハリーは上空に飛び上がり、視界が悪い中、必死にスニッチを探している。

 

しばらく試合を眺めていると、シリウスが犬の状態で、私の近くに寄ってくる。

 

どうやら、ハリーの活躍を観戦したいようだ。

 

試合も前半戦が終わり、後半戦が始まった。

 

後半戦のハリーの動きはとても機敏だった。どうやら、ハーマイオニー辺りにでも防水魔法をかけてもらったのだろう。

 

しかし、そんな状況は一変してしまった。

 

1匹のディメンターが会場に侵入したのだ。

 

「なに!」

 

ダンブルドアの驚く声が周囲に響く。

その後も1匹、また1匹とディメンターが会場へと侵入してくる。

 

「あれは!」

 

その声に釣られ、試合会場を見ると、1匹のディメンターにハリーが襲われており、気を失ってしまったのか、真っ直ぐに落下している。

 

「まずいわね」

 

落下を続けているハリーに対して、ディメンターは尚も追撃している。

 

「グルゥウゥゥウウ!」

 

隣に居るシリウスは殺意を孕んだ唸り声を上げている。

これ以上は、人に戻ってでも攻撃しかねない。

 

「少しここで待ってなさい」

 

シリウスは私を睨み付けるが、そんな事は関係ない。

 

その場で飛び上がると同時に、ウィッチタイムを発動させ、世界の流れを止める。

 

一気にハリーに駆け寄り、受け止める。

 

それと同時に、ウィッチタイムを解除する。

 

腕の中のハリーは未だに気を失っている。

 

獲物を取られたディメンターは、標的を私に変えた様で、一斉に集まってくる。

 

「邪魔よ!」

 

落下する中、両足の銃から弾丸を放ち、襲い掛かるディメンターを迎撃する。

 

放たれた弾丸は、確実にディメンターの脳天を貫く。貫かれたディメンターは苦悶の声を上げ、地面に落ちると、ピクピクと体を震わせた後、動かなくなった。

 

地面に着地すると、ハリーを下し、念のため結界を張る。

 

「さて、これでいいわね」

 

周囲を見回すと、ディメンターは上空を円を描くように飛び回って、襲い掛かるタイミングを窺っている。

 

職員席では、マクゴナガルを始めとする多くの教師が杖を構えて、守護霊を呼び出そうとしているが、ダンブルドアがそれを止めている様だ。

その為、マクゴナガルが抗議している姿が見える。

しかし、ダンブルドアはマクゴナガルを無視し、私に目線を向けている。

 

その瞳は何かを企んでいる様だ。

 

あの男の事だ、恐らく、私の力量を見たいのだろう。

 

「いいわよ、責任はアンタ持ちよ」

 

私はダンブルドアと目線を合わせながら、口にする。

 

声自体は雨音にかき消されるが。ダンブルドアは理解したようで頷いた。

 

さて、どう掃除しようか。

 

 

1匹のディメンターが勢いを付けて突進を仕掛けて来る。

 

突進をサイドステップでかわし、頭を掴むと、そのまま背中にサーフボードの様に乗り、ディメンターの群れへと突っ込んでいく。

 

ディメンター達も、私に気が付き、一気に距離を詰めて来る。

 

「遅いわよ!」

 

正面に銃を構え、銃弾を乱射する。

 

放たれた銃弾により、ディメンターの群れの中心に空洞が出来上がる。

その空洞に突っ込むと、周囲に銃弾を乱射する。

 

銃弾により、消滅させられたディメンターが、一斉に地面に落ちる。

 

最後に、足場にしていたディメンターに、労をねぎらう様に、右足の銃で脳天をぶち抜き、地面へと着地する。

 

多少のディメンターを葬ったが、まだ数は多く、これでは手間取ってしまう。少し手法を変えてみるか…

 

私はポーチから杖を取り出すと、魔力を最大まで込める。

すると、私の周囲に紫色の魔力を帯びたオーラで覆われる。

杖を天高く構えると、私は呪文を口にした。

 

「エクスペクト!パトローナム!」

 

私は呪文を放つと同時に、髪の魔力を開放し、ゲートを開放する。

 

すると、上空から、全身に青白いオーラを纏ったマダム・バタフライが姿を現した。

 

マダムの登場に、周囲の観客は驚愕しており、現状起きているのが、夢なのではないかと頬を抓っているものまでいる。

 

「へぇ、私の守護霊はアンタって訳ね」

 

私が手を差し出すと、マダムも理解したのか手を差し出し、互いに拳を合わせる。

 

「フッ、息ピッタリね」

 

私はそのまま、マダムの拳に飛び乗ると、意図を汲み取ったようで、拳を引き絞り、力を溜めている。

 

「さぁ!パーティーの時間よ!!行くわよ!相棒!」

 

マダムは拳を力の限り振りぬいた。

私は、その拳をカタパルトの様に使い、超高速で、ディメンター達に突っ込んでいく。

 

「喰らえ!」

 

ウィッチタイムの中、ポーチから修羅刃を取り出すと、擦れ違い様に、ウィケットウィーブを発動させ、ディメンター達を切り払っていく。

 

「ぼぉぅぅううぅ」

 

声にもならない断末魔を上げ、ディメンターは消滅する。

 

「まだまだね」

 

周囲を浮遊しているディメンターが私目掛けて一斉に襲い掛かってくる。

 

私は、ディメンターをギリギリまで引き寄せた後、その場から一気に飛び上がり姿を消す。

 

私の姿を見失ったディメンターの一団は、周囲を見回している。

 

「任せるわよ!」

 

すると、ディメンターの一団の後方にマダムが満面の笑みを浮かべながら現れた。

 

ディメンターは突然の事に驚いているのか、その場で固まって動けなくなっている。

 

「フッ」

 

私が指を鳴らすと同時に、マダムが、まるで飛んでいる羽虫を潰すかのように、無慈悲にも両掌を合わせ、ディメンターの一団を潰した。

 

「今度は私ね」

 

上空へ飛び上がり、浮遊しているディメンターを足場にし、さらに高い場所へと飛び上がる。

 

「プレゼントよ」

 

魔力を開放し、上空を滞空しながら、ウィッチタイムを発動させる。

 

世界の流れが止まった中、私はディメンターの脳天に向け魔力を込めた弾丸を1発放つ。

放たれた弾丸は、ディメンターの眼前でその動きを止めてしまう。

 

その場で回転するように続け様に弾丸を放つと、止まっている弾丸の真上に同じ様に弾丸が重なる。

 

弾丸による塔が5段程になり、ウィンクと同時にウィッチタイムを解除させる。

 

5段重ねの弾丸は、杭の様にディメンターを貫き、地面へ叩きつける。

 

「ぶおぉお」

 

残り僅かとなったディメンターが、なりふり構わず一斉に襲い掛かって来た。

 

「邪魔よ!」

 

襲い掛かって来るディメンターの胴体に回し蹴りをお見舞いする。

 

 

回し蹴りを喰らい、吹き飛ばされたディメンターは弧を描きながら他のディメンターを巻き込みながら、1つの塊となって地面を転がる。

 

「ふっ!」

 

ボール状となったディメンターを蹴り飛ばし、ゴールポストへとシュートする。

 

ディメンターボールは吸い込まれるようにゴールポストに命中すると、ゴールポストを破壊しながら、ディメンターごと、爆発四散した。

 

これでは得点にはならないな。

 

 

 

周囲を見回すと、上空を漂っているディメンターの姿はなかった。恐らく全て撃退したのだろう。

 

そう思っていると、側面から瀕死のディメンターが襲い掛かってくる。

地面に落ちている死体の中に紛れていたのか…

 

私が体を少し捻り、ディメンターを正面に捉えると同時に、眼前がマダムのヒールで覆われる。

 

マダムに踏み潰され、最後の1匹はその場で消え去った。

 

「なかなかやるわね、流石は私の守護霊だわ」

 

私がウィンクをすると、マダムは大きな高笑いを響かせ、その場から消えていった。

 

周囲には、弾痕や、マダムの足跡とディメンターの死体で使い物にならない競技場が残されている。

 

私は、ダンブルドアに目線を送ると、ダンブルドアは深い溜息を吐き、頭を抱えながら観客席に着座した。

 

 

その後、怯えながらやって来た生徒にハリーを任せ、担架で城へと運ばれていった。

 

 ちなみに試合の行方だが、どういう訳かハッフルパフの勝利と言う形で幕を閉じたという。まぁ、私にとってはどうでもいい話だ。

 

 

 

 私は競技場を出た後、シリウスの姿を探した。

 

てっきりハリーの近くに居るものかと思ったが、意外にも暴れ柳の近くで犬の状態で座っていた。

 

私が近付くと、シリウスは悲しそうな声を上げ、近くにあった、残骸を咥えてきた。

 

これは確か、ハリーが愛用している箒だ。

 

シリウスの話では、運悪く箒が暴れ柳に突っ込んでしまったようだ。

 

「壊れたのはしょうがないわよ。私が明日ハリーに渡しておいてあげるわ」

 

「クゥーン…」

 

シリウスはただ、悲しげな声を上げるだけだった。

 

 

 クリスマス休暇が始まり、多くの生徒は自宅へと帰って行った。

 

そんな中、私はバーへと戻ると、サンタの姿をしたロダンがバーカウンターの向こうで呑気にグラスを磨いている。

 

「よぉ、戻って来たか」

 

「えぇ、相変わらず様になっているじゃない」

 

バーカウンターへ近付き、いつものを注文する。

 

「そっちは今どんなだ」

 

「別に、至って平和よ。シリウスが変な事をしない限りね」

 

「ほぉ」

 

カウンターを滑りカクテルが私の前にやってくる。

 

「セレッサか、戻ってきていたのだな」

 

「あら、ジャンヌ、アンタも来たのね」

 

「他に行く当てがなくてな」

 

ジャンヌは私の横に座ると、同じようにカクテルを注文している。

 

「それにしても、シリウス・ブラックが無罪だったとはな」

 

ジャンヌが少し驚いたように呟いた。

 

「おかげで今じゃ、黒い犬の姿で震えているはずよ」

 

「お似合いだな」

 

ジャンヌは笑い飛ばしながら、カクテルを煽っている。

 

「そうそう、これは、お土産よ」

 

ポーチから袋を取り出し、カウンターへ置くと、2人が興味深く覗き込んだ。

 

「なんだこれは?カエルか?」

 

「カエルチョコレートよ、飛び跳ねるから早く食べた方がいいわよ」

 

「………私はいらんな」

 

ジャンヌは、箱を開けることなく、テーブルの上へと置いた。

 

「なら貰うぜ」

 

ロダンは何の躊躇いも無く、箱を開けると、勢いよく飛び跳ねるカエルを掴み、表情を変えることなく、口へと放り込んだ。

 

「う…旨いのかそれ?」

 

「さぁ?食べた事ないわ」

 

「悪くないぜ」

 

ロダンは、そういうとおまけのカードをまじまじと見ている。

 

「それで…こっちのはなんだ…ジェリービーンズか?」

 

ジャンヌは袋の中から、百味ビーンズを取り出した。

 

「百味ビーンズね」

 

「百味…名前からして碌なものじゃないな」

 

ジャンヌは躊躇いがちに1粒取り出し、口に放り込んだ。

 

「これは…パイナップルだな」

 

「当たりね、よかったじゃない」

 

「ほぉ、俺も貰うか」

 

ロダンも一粒取り出すと、口へ放り込んだ。

 

ロダンは表情を変えることなく、ビーンズを噛んでいく。当たりだったようだ。

 

そんな時、店の扉が開かれた。

 

「お、ベヨネッタじゃねぇか。戻っているならそういえよ。お前さんに頼みたい仕事は山程あるんだ」

 

エンツォは大袈裟に体を振りながら、私達の元へとやって来た。

 

「おっ!なんだこれは。旨そうだな」

 

「向こうのお菓子よ、どぉ?」

 

「くれるってのか。ほじゃ遠慮なく…」

 

エンツォは一粒掴むと、口へと放り込んだ。

その直後、エンツォの咆哮が響いた。

 

「あぁぁああぁぁああっぁ!なんだこりゃ!クッソ不味いじゃねぇか!」

 

顔色を悪くさせたエンツォはその場でビーンズを吐き出した。

 

「不味いし、臭いし最悪だぜ!ロダン!とりあえず水くれ!」

 

「ほらよ」

 

ロダンはペットボトルをエンツォに向けて投げ渡すと、エンツォは落ちて来るペットボトルを両手でキャッチし、ふたを開けると、中身を一気に飲み干した。

 

「はぁ…生き返ったぜ。まったく最悪だぜついてねぇ」

 

エンツォは不貞腐れた様に、ソファーに座り込んだ。

 

「ロダン、ところでアンタ、何味だったの?」

 

「聞かない方が身のためだぜ」

 

 

そう答えたロダンも、エンツォ同様一気に水を飲み干している。

 

どうやら、二人共、ハズレだったようだ。




ディメンターさんが大打撃を受けておりますが、ホグワーツは平和です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

死刑執行人

今回、あるキャラのイメージが崩壊します。
まぁ…結構序盤から崩壊していますが…




 

 クリスマス休暇も終わり、またいつもの様に授業が始まる。

 

私が大広間に向かっていると、後ろからマルフォイが声をかけてきた。

 

「やぁ、セレッサ。クリスマスは楽しめたかい?」

 

「えぇ、それなりにね、その様子だと腕はもう良いみたいね」

 

「あぁ、もう完璧さ。そうだ、父上にその話をしたら、理事に訴えてくれたみたいでね。近いうちにヒッポグリフは裁判に掛けられるだろう。多分それなりの罰は受けるはずさ。君が助けてくれなかったら、今頃僕は死んでいたからね」

 

「もぉ、大袈裟ね」

 

「ハハッ、大袈裟かも知れないけど、事実さ、感謝しているよ」

 

マルフォイが傷を受けたであろう場所を感慨深い表情でなぞっていく。

 

私はそんな、マルフォイの手に触れ、同じように傷を受けた場所をなぞってやる。

すると、マルフォイは一気に頬を紅く染め、狼狽し始める。

 

「んっ!セレッサ、なにを」

 

「傷の様子を見ているだけよ。問題無さそうね」

 

私が手を離すと、頬を赤らめ、少し名残惜しそうな表情で私を見上げている。

 

 

 クリスマスが終わったころから、ハリーとハーマイオニーの仲が険悪な関係になっている。

 

 理由は恐らく、ハリーがクリスマスプレゼントに新しい箒を貰ったのだが、その送り主が不明で、その事を不審に思ったハーマイオニーがマクゴナガルに申告し、箒を取り上げられてしまったのが原因だ。

まぁ、あのマクゴナガルの事だ、しばらくすれば箒を返すだろう。

 

 私は久しぶりに、シリウスの元を訪ねると、部屋の中心で1匹の黒い犬がブルブルと震えている。

 

「毛皮があっても寒いのね」

 

シリウスは少し考えた後、人へと姿を変えた。

 

「毛皮が有ろうが無かろうが、寒いのに違いはない」

 

「その様ね」

 

「それより、ハリーは箒を貰って喜んでいたか?」

 

「なんですって?」

 

シリウスの思いもよらぬ発言に私の思考が一瞬停止してしまった。

 

「だから、ハリーは私が送った箒を喜んでくれているかと聞いて居るのだ。まぁ匿名で送ったから私だとは、思われないが」

 

「はぁ…」

 

私は思わず溜息を吐いてしまった。

 

ハーマイオニー達の不仲の原因が、まさか目の前に居るとは…予想外だ。

 

「ハリーなら箒を受け取って喜んでいたわよ」

 

「おぉ、それは良かった」

 

その言葉にシリウスはとても嬉しそうな表情を浮かべている、

 

「でも最初だけよ」

 

「どういう事だ…」

 

そして今度は、どん底へと突き落とされたかのような表情をしている。

 

「匿名のプレゼント…アンタからかもしれない物を不審に思った生徒が、マクゴナガルに告げ口して、没収されたのよ」

 

「そんな…どうして…」

 

シリウスは信じられないといった表情で首を左右に振っている。

 

「アンタ…自分が指名手配されている自覚あるのかしら?」

 

「あー……それは…」

 

どうやら完全に失念していたようだ。

 

「はぁ、これ以上問題は起こさないでほしい物ね」

 

「わかった…気を付けよう」

 

シリウスは少し悲し気に呟き、犬へと戻っていった。

 

 

 その後、ハリーの元へと無事、箒が戻り、そのおかげか2人の仲も元に戻った。

 

 それから時間が経ち、学年末テストが始まった。

 

今回のテストはあそこまで難しくなく、拍子抜けなものだった。

その中でも、魔法生物飼育学のテストに至っては、レタス食い虫を1時間観察するだけといった、くだらない物だった。

 

そして、テストが終わった頃、談話室に入ると、ハーマイオニー達がどこか神妙な表情で話し合いをしている。

 

「あっ、ベヨネッタ。君ならなんとかできるんじゃないかな…」

 

ハリーから手渡された手紙には、ヒッポグリフの処刑執行に関することが書かれていた。マルフォイが言って居たのはこの事か。しかし、処刑とは大袈裟かも知れない。

 

「決定事項よ、本人たちが考えを変えない限り無理ね」

 

「そんな、何とかならないのか!」

 

ロンは大声を上げながら、頭を抱えている。

 

「とりあえず、ハグリッドの所へ行くよ。ここでじっとしている訳にもいかないよ」

 

ハリーは意を決したようで、ハグリッドの元へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 ハグリッドの小屋の近くには、鎖に繋がれたヒッポグリフが悲痛な声で鳴いている。

小屋の扉をノックすると、ハグリッドが扉を半分程開き、私達を見据えた。

 

「お前さん達だったか。早く入れ」

 

何故か石弓を構えているハグリッドの許可を得て、私達は小屋の中へと入り込んでいく。

 

「はぁ…執行人かと思った…」

 

「まだ来てないんだね」

 

ハリーは少し安心したようで、安堵の表情を浮かべている。

 

「あぁ、だが…もうじき来るはずだ…」

 

 ハグリッドが紅茶の準備をしていると、無表情のダンブルドアを先頭に、仏頂面の役人と顔を布で覆った執行人と思われる人物、そして腕にギプスを巻き、何処か浮かない表情のマルフォイと満面の笑みを浮かべているルシウスがやって来た。

 

 

 

「誰か来たよ!」

 

「こりゃ不味い!早く出ていくんだ!」

 

私達は、何とかダンブルドア達にバレる事無く、ハグリッドの小屋から脱出する事が出来た。

 

「とりあえず、もどろう…風邪引くよ」

 

ロンの提案に、ハーマイオニーとハリーが付いていく。

 

「ベヨネッタ…君も戻ろう」

 

「私はちょっとやる事があるわ」

 

「何をするつもりだ?いくら君でも…僕等に出来る事はもう何もないんだ…早く戻ろう…見たくないんだ…」

 

 

3人は悲痛な声を上げるが、それらを聞き流しながら、私は再びハグリッドの小屋へと歩みを進めた。

 

扉を勢い良く開け、中へと入ると、小さな部屋の中に詰め込まれている全員が、私に視線を向けた。

 

「セレッサ。お主、このような時間に出歩くとは感心せぬのぉ」

 

「たまには夜の散歩も乙なものよ」

 

「ホホホ…確かにそうかもしれんのぉ、しかし、このように冷え込んでは風邪を引くかもしれぬ。良ければ、同室せぬか」

 

「えぇ、そうさせてもらうわ」

 

「セレッサ…僕は…」

 

「アンタまで来てたのね、腕は大丈夫かしら」

 

私がワザとらしく聞くと、マルフォイはローブの中へと腕を仕舞い込んだ。

 

「これはこれは、久しぶりですな」

 

ルシウスが息子を庇う様に、私に話しかけて来る。

 

「息子から話は聞いて居る。君が助けてくれたようだね」

 

「親子揃って大袈裟ね」

 

「そうでも無いさ、君が助けてくれなければ、息子は今頃あの忌々しい獣に殺されていただろう。未だに傷が癒えないのだ。それほど凶暴なのだろう」

 

ルシウスは憎悪を込めた声でハグリッドを睨み付けている。

 

「さて、それでは話を始めようではないか」

 

 ルシウスの声を皮切りに、ヒッポグリフの処刑理由が述べられていく。

 

私は、部屋の一角に背中を付け、足を交差させ、会話を聞いていく。

 

「以上の事から、このヒッポグリフは処刑に価するという判決が下された。異論はありませんか」

 

役人が、長い処刑理由を述べた後、項垂れているハグリッドが苦しそうな声を上げる。

 

「理由は分かっちょります…でも…そこを何とか…いくら何でも処刑は…それ以外の方法で何とか…」

 

ハグリッドは立ち上がると、深々とお辞儀をした。

 

隣に居るダンブルドアはただその姿を、何の感情も込められていない様な表情で見ている。

相変わらず何を考えているかわからないタヌキおやじだ。

 

「何を言っているのだ!現に息子は大怪我を負ったのだ!」

 

「しかし…それは…」

 

「息子が悪いというのか!何に変えても生徒を守るのが教員の役目だろう!本来なら貴様もクビになってもおかしくない案件なのだぞ!それを、獣の処刑だけで許してやろうと言っているのだ!私の寛大さに感謝して欲しいくらいだ!」

 

ルシウスが長い口上を述べると、ハグリッドは威圧されてしまったのか、力なく椅子に座り込んだ。

 

「それでは…処刑は確定です」

 

役人がそういうと、ダンブルドアを先頭に役員、ルシウス、ハグリッドの順で、小屋から出ていく。

 

私もそれに続き、出ようとすると、震える声でマルフォイが声をかけてきた。

 

「僕は…処刑なんて望んでいる訳じゃなかったんだ…ただ、少し罰を与えたかっただけなんだ…」

 

「ここまで大事になるとは思わなかった訳ね」

 

マルフォイはその場で俯き、動かなくなった。

 

「行くわよ」

 

「え?」

 

「せめて見届けなさい、それがアンタの役目よ」

 

私が扉を開け、外へ出ると、私の後をゆっくりと付いてきた。

 

外に出ると、処刑人に拘束されているヒッポグリフの姿が目に入った。

 

「そんな…こんなことに…」

 

マルフォイが目を逸らそうとするが、私がそれを制した。

 

「逸らしては駄目よ」

 

「僕は…こんな事…望んでなんかいない…」

 

「なら、アンタが止めなさい」

 

「え?」

 

「自分の思いに従いなさい………私は、そうしたわ」

 

マルフォイは自分の腕に巻かれているギプスとヒッポグリフを交互に見据える。

 

処刑人は斧を構え、首を撥ねようと、斧を振り上げた。

 

「僕は…」

 

意を決した様にマルフォイが走り出した。

 

「待ってくれ!」

 

マルフォイの声が響くと同時に、斧が振り下ろされる。

 

 

 振り下ろされた斧は、ヒッポグリフの眼前を掠める様に振り落とされた。

 

「ドラコ!どうしたんだ?」

 

マルフォイは近くの木に勢い良く、自分の腕を叩きつけた。

 

「な!何をしているのだ!やめるんだ!」

 

険しい表情のマルフォイは、ギプスを数回ほど叩きつけ、ギプスを破壊し、包帯を取り、腕を捲った。

 

捲られた腕は、多少の傷跡を残しているものの、完治している。そんな腕を高らかに掲げる。

 

「フッ…よくやったわね…ドラコ」

 

私の方を見ているドラコの表情は、どことなく満足気だった。

 

 




いかがだったでしょうか?
タグにある通り、キレイなマルフォイの登場です。

もっと泥臭いマルフォイにしても良かったのですが、ベヨネッタの調教によりここまでキレイになりました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ピーター・ペティグリュー

アズカバン編ももう少しで終わりそうですね。




次の日、私はハリー達に連れられ、ハグリッドの小屋へとやって来た。

 

扉をノックすると、満面の笑みのハグリッドが現れ、私を見るなり大袈裟に小躍りを始めた。

 

「助かった!本当に…本当にありがとう!」

 

「ベヨネッタ、やっぱり君は最高だよ、まさかあのマルフォイを説得するなんて」

 

「そんなに大袈裟な事じゃないわよ。少し背中を押してやっただけよ」

 

「本当かい?何か薬でも盛ったんじゃないのか?」

 

ロンが何やら疑いの目線を送っているが、ここは無視しよう。

 

「まあ、あいつも人の子だっちゅう訳だな。うん」

 

ハグリッドは一人で納得したように頷いている。

 

 

 

 

ハグリッドから、しつこい感謝を受けた後、私は小屋から出ていく事にした。

ハリー達はどうやらこのまま小屋で祝賀会を開くようだ。

 

小屋から離れた後、慣れた手付きで暴れ柳を避け、シリウスの元へと向かった。

 

扉を開けて中へ入ると、中には誰もいなかった。普段なら犬の状態で横になっている筈なのだが…

 

そんな事を考えていると、入り口の方から、ドタドタと音を立てながら、聞き慣れた悲鳴が聞こえてきた。

 

「なんだよ!離せよ!このっ!バカ犬が!」

 

この声は、ロンだな。

 

そう思って扉を開けると、黒い犬に引きずられているロンの姿が目に入った。

 

「アンタ達、何やってるのよ…」

 

「ベヨネッタ!なんで君が?」

 

ロンが引きずられながら、私に問いかけてきた。

 

私は、そんな状況をただ見ている事しかできなかった。

 

シリウスは部屋の奥までロンを引きずると、人の姿に戻り、仁王立ちしている。

 

「君も来ていたのか、それよりようやく捕まえたぞ!」

 

シリウスはロンに杖を向け大声を上げた。

これではまるで、ロンが標的になっているみたいだ。

 

シリウスの姿を見たロンは、何処か怯えた様な表情で、周囲を見回している。

 

すると、部屋の扉が勢いよく開かれ、慌てた様子のハリーが飛び込んできた。

 

「ロン!大丈夫か!」

 

「ハリー!逃げるんだ!これは罠だ!」

 

ロンが何か勘違いしたようで、大騒ぎしている。

 

「さっきの犬が…そいつが…」

 

ロンが怯えながら、シリウスを指差している。

 

「お…お前は!」

 

ハリーの後ろから、普段より顔色の悪いルーピンとハーマイオニーが入ってくると、シリウスを睨み付けている。

 

「お前が…お前が僕の両親を!」

 

ハリーが怒声を上げ、シリウスを睨み付けると、後ろからやって来たルーピンがそれを制した。

 

「待ってくれハリー…ここは任せてくれ」

 

ルーピンは杖を構えながら、シリウスに歩み寄って行く。それに呼応するようにシリウスもルーピンに近付いてく。

 

 

「………友よ!」

 

「会いたかったぞ!」

 

すると、二人はがっつりと熱い抱擁を交わした。

 

その光景を目にした3人は絶望しきった表情をしている。

 

「そんな…どうして先生まで…」

 

どうやら、ハーマイオニーはこの場に居た私を怪しんでいる様だ。まぁ、現状から考えれば当たり前か。

 

「どうなってるんだ!僕は…信じていたのに!先生の事も!ベヨネッタの事も!それなのに…ブラックの仲間だったなんて!」

 

ハリーまで私を敵だと思い込んでしまったようだ。なんか面倒な事になってしまった。

 

「待ってくれ…いろいろ誤解している様だ。説明させて欲しい…」

 

ルーピンが必死に語り掛けるが、それはハーマイオニーによって遮られてしまう。

 

「駄目よ!ハリー、騙されては駄目よ!この人はシリウス・ブラックの手引きをしていたのよ!だって…この人は、人狼なのよ!」

 

「待ってくれ!説明させてくれ!」

 

それからは、ルーピンが身の上話を始めていった。

 

 どうやら、ルーピンはブラックと同級生で、人狼だったルーピンはホグワーツに入学する事は拒否されていたのだが、ダンブルドアが無理押したようだ。

 

人狼であるルーピンは、満月になるとこの場所。通称『叫びの館』で過ごして居たという話だ。

 

余談だが、スネイプは学生の頃、同級生だったルーピンとブラックに虐げられ、そのことを憎んでいるという話だ。

とを憎んでいるという話だ。

 

やはり、根に持つタイプなのだろう。

 

 「もう十分だろう…私は十分待ったんだ!さぁ!早くそいつを殺そう!」

 

「あぁ…そうだな」

 

2人は杖を取り出すと同時に、部屋の入り口が吹き飛ばされ、土煙が上がる。

 

土煙の奥からは、愉悦に満ちた表情のスネイプが杖を構え悠然と入室してきた。

 

「復讐は蜜よりも濃く、そして甘い。お前を捕まえるのが我輩であったらと…どれほど願ったか。今どれほど歓喜に満たされているか、お前には分かるまい」

 

スネイプが自作のポエムを口遊みながら、憎しみを込めた視線をシリウス達に向けている。

 

「待ってくれスネイプ!シリウスは……」

 

「黙れ!貴様もディメンターに引き渡してやる」

 

スネイプは、杖を構え、ルーピンに魔法を放とうとする。

 

しかし、そんなスネイプの不意を突くように、ハリーが魔法を放った。

 

「なっ!」

 

不意打ちにより魔法を喰らってしまったスネイプは、部屋の奥に吹き飛ばされ、気を失ってしまった。

 

「ハリー…」

 

シリウスは感極まったようで、ハリーにゆっくりと歩み寄って行く。

 

「動くな!僕はお前を庇った訳じゃない!真実を知りたいんだ!」

 

「あぁ…分かった真実を話そう…君の両親を裏切ったのは私ではない…ピーター・ペティグリューだ」

 

「ピーター・ペティグリュー…」

 

ハリーはその名前に聞き覚えがあるのか、何かを考えている様だ。

 

「そうだ…そして奴は今この場所に居る!」

 

「え?」

 

ハリー達は間の抜けた声を上げた。

 

「一体どこに…」

 

「奴はそこに居る!」

 

シリウスはロンの方に杖を突き付ける。正確には、ロンが手にしている鼠にだが。

 

「ロンがそうだっていうの?そんなのありえないわ!」

 

ハーマイオニーが大声を上げるが、それをシリウスが遮った。

 

「違う。奴が持っている鼠だ!」

 

「スキャバーズが?そんなのありえないよ!」

 

鼠を隠すように、ロンが体を捻る。

 

「奴は鼠の動物もどきだ!」

 

「そんな事…スキャバーズは僕の家族だ!ずっと一緒だったんだ!ペティグリューなんて奴知らないよ!」

 

「12年も生きる鼠がいるものか!」

 

全く持ってシリウスの言う通りだ。

 

「ロン…スキャバーズを渡すんだ」

 

ハリーが宥める様な口調でいうが、ロンはそれに応じようとはしない。

 

「嫌だよ!なんでスキャバーズなのさ!鼠なんて何百匹といるじゃないか!」

 

「それを証明する為さ。違うようなら危害は加えないよ」

 

ルーピンが諭すように話しかけ、ロンが渋々鼠を渡そうとした瞬間…

 

 

「スキャバーズ!!」

 

「くそっ!」

 

鼠はロンの手から逃げ出し、部屋の中を走り回る。

 

「逃すか!」

 

ルーピンとシリウスが杖を振り、魔法を連射すると、そのうちの1発が鼠に命中した。

 

すると、小さな鼠はみるみるうちに、小汚い、まるで鼠の様な男に姿を変えた。

 

「や…やぁ、リーマス…シリウス…久しぶりだね…」

 

小汚い男はオドオドしながら、二人に話しかける。しかし二人から帰ってくるのは、憎悪に満ちた視線だった。

 

「やっと会えたな!」

 

2人は鋭い視線で杖を構える。

 

「ま…待ってくれ!私は悪くないんだ!」

 

「貴様…この期に及んでまだ戯言を!」

 

「話を聞いてくれ!私は逃げていたんだ!シリウスが私を殺しに来ると…それが怖くて…」

 

あまりにもずさんな言い訳に、私をはじめ、その場の全員が呆れかえる。

 

「貴様が私を恐れている?違うだろ!貴様が恐れているのは私ではない!アズカバンの連中に聞いたぞ!主の死の切っ掛けを作った者を許さない!…とな」

 

「ヒィ!リ…リーマス…君は信じてくれるよなぁ…」

 

「君の話が本当なら…だがなぜ12年も鼠になって隠れていたんだ?」

 

ルーピンの的を得た質問に、答えが見つからないのか、少し考えた後、苦しそうな言い訳を放った。

 

「シリウスは、あの人の仲間だったんだ…だから…」

 

「貴様!ふざけた事を!」

 

苦し紛れの言い訳に、シリウスが怒声を上げた。

 

「私が友を裏切っただと!ふざけるなよ!そんな事をするくらいなら、私は死を選ぶ!」

 

シリウスは怒りに任せ、ピーターを殴り飛ばすと、杖を構えた。

 

「リーマス!」

 

「あぁ、分かっている!共にコイツを殺すぞ」

 

「嘘だろ…君ならわかってくれるよな…」

 

近くに横になっているロンに、這いずりながら近付き、頭を垂れている。

 

しかし、ロンはそんな姿を、まるで汚らわしい鼠を見るような視線で見据える。

 

「お前のような奴と一緒に生活していたなんて…」

 

「お…お嬢さん、君からも何か言ってやってくれ…」

 

今度はハーマイオニーに擦り寄るが、ハーマイオニーは軽蔑した視線を向けながら、後ずさった。

 

「誰が貴方みたいな人を…」

 

「君なら…賢そうな君なら分かってくれるよね…お嬢さん…」

 

今度はあろう事か、私に擦り寄ってくる。

 

「近寄るんじゃないわよ」

 

擦り寄ってくるピーターの鼻先を何の躊躇いも無く蹴り飛ばす。

 

「ぐぅ!」

 

蹴り飛ばされ鼻が折れたのか、血を流しているが、今度はハリーに標的を変えたのか、血塗れでハリーに近寄っていく。

 

「ハリィ、君は本当にお父さんにそっくりだ…君のお父さんなら、許してくれるはずだよ…もちろんお母さんもね…」

 

「ジェームスの名を出すな!」

 

シリウスは堪忍袋の緒が切れたのか、ピーターに杖を構えている。

 

しかし、それを遮る様にハリーが二人の間に入った。

 

「ハリー!退くんだ!」

 

「許してくれるんだね…やっぱり君は優しい…」

 

ハリーに擦り寄り、媚を売っているが、それを遮る様にハリーが言い放つ。

 

「お前の為じゃない!お前は…ディメンターに引き渡す…そして…シリウスの無実を証明する…」

 

ハリーの宣言に、薄汚い鼠は、絶望の表情を浮かべた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

人狼

皆一様に、スネイプを起さない様に部屋を出て外へ出ると、周囲はすっかり日も暮れてしまっている。

 

「変な気を起すなよ、ピーター」

 

ルーピンはピーターに杖を突き付けながら、城への道を歩いている。

 

そんな中、何か思いつめたような表情で、シリウスが口を開いた。

 

「その…もし私の潔白が証明されたら…私と一緒に暮らさないか…」

 

「え?」

 

突然のシリウスの申し出にハリーは驚いた表情をしている。

 

「誰かに聞いて居るかもしれないが…私は君の名付け親でもあるんだ…それはつまり…君の両親が私を君の後見人に決めたのだ。もし自分たちの身に何かあればと…」

 

シリウスは声に抑揚を付けながら、どことなく、不安と期待の入り混じった声でハリーに話掛ける。

 

「もし君が、叔父や叔母との生活に満足しているというなら、無理強いはしない…でも…その、考えてくれないか…私が汚名返上する事が出来たら…もし君が家族を欲するなら…」

 

「それは…僕が、貴方と一緒に暮らせるという…」

 

「そうだ…だが君が望まないなら…その…」

 

 

シリウスは何処と無く悲し気な表情をしている。

 

 

「僕は、あの家からは一刻も早く出たい!出来る事なら貴方と暮らしたい!」

 

「ハリー…」

 

シリウスは満面の笑みを浮かべ、ハリーもそれに応える様に、微笑み返している。

 

「ふぅ…これで一件落着だな」

 

ルーピンは祝福したような表情で、二人を見守っている。

 

 

何処と無く和やかな雰囲気を私達が包んだ。

そんな私達を月明かりのみが照らしている。

 

 

月明かり?

 

「ううぅうぅぅうううぅ!」

 

突如ルーピンが苦しそうな呻き声を上げ、夜空に輝いている満月を睨み付けている。

 

「何てこと…先生は今日は薬を飲んでいないようだわ!」

 

ルーピンの体が人の形を離れ、変貌していく。

 

「離れるんだ!」

 

シリウスが緊迫した声を上げ、ハリーを突き飛ばした。

 

「うぅうう…うううぅう!」

 

「リーマス!落ち着くんだ!私を見ろ!自分を失うな!」

 

シリウスは変貌を続けているルーピンに駆け寄ると、肩を掴み、大声を上げる。

 

「がぁあ!」

 

「うっ!」

 

掴みかかるシリウスを払い除ける様に人狼が爪を振るい、吹き飛ばした。

 

吹き飛ばされたシリウスの腹は、爪で引き裂かれ、片手で腹を押さえながら、口から血を流している。

 

「にげ…るんだ…」

 

シリウスは力なく声を上げる。

 

その時だった…

 

「待て!」

 

先程まで、縄で縛られていたピーターが、ルーピンの落とした杖を拾い上げ、自らに呪文を掛けた。

 

すると、みるみる体が小さくなっていき、最終的にはみすぼらしい鼠に変貌した。

 

「逃すか!」

 

ハリーは、薄汚い鼠に飛び掛かるが、人間が鼠を簡単に捕まえられる筈も無く、ハリーの手を逃れ、走り出した。

 

「くそっ!」

 

ハリーは悔しそうに悪態を付く。

 

このままでは、あの鼠に逃げられてしまうだろう。

 

「逃さないわよ」

 

私は、その場で走り出し、鼠を追いかける。

 

「駄目だ!追いつかないよ」

 

鼠は、私を嘲笑うかのように、左右に走り回り、森へと逃げようとしている。森に入り込めば安全だと考えているのだろう…

 

だが、そうはさせない。

 

私は、勢いそのまま、前のめりになり、内に眠る獣を開放する。

 

 

 

その瞬間、私の体は黒豹となり、風のような速さで、一瞬のうちに鼠との距離を詰めた。

 

「え?」

 

突然現れた黒豹にハリー達は間抜けな声を上げている。

 

「ギヂュ!!」

 

私は、鼠に対して腕を振り下ろし、踏み潰すようにして、捕獲した。

 

人型に戻り、鼠のしっぽを摘まみ持ち上げる。

 

捕獲する際、肋骨と、内臓を少し負傷したのか、口から血を流している。まぁ…死にはしないだろう。

 

「任せたわよ」

 

尻尾を持ち、鼠を数回振り回した後、ロンに投げつける。

 

空中で数回転した後、ロンの足元に鼠が落下した。それをまるで汚物を摘まむかのように掴むと、ポケットへと押し込んだ。

 

「さて…次はこっちね」

 

私は、今にもハリー達に襲い掛かりそうな人狼の前に立ちはだかった。

 

「コイツの相手は私がやっておくわ。アンタ達は離れなさい」

 

私の言葉に従ったのか、ハリー達がシリウスに肩を貸しながら、その場を離れ森へと向かった。

少し遠ざかった所で、ハリーが声を上げた

 

「その人狼はルーピン先生なんだ!殺さないでくれ!」

 

「私からも…頼む…リーマスを…うっ…」

 

どうやらハリーとシリウスは、私がルーピンを殺すと考えている様だ。

 

「わかっているわよ、安心しなさい」

 

私の声を聴き、安心したのか、森へと走り出した。

 

「さて?それじゃ遊びましょうか?」

 

「うぐううう!」

 

私ターゲットを絞ったのか、人狼が私に突進してきた。

 

私は、再びビーストウィズインを発動させ、人狼に飛び掛かった。

 

人狼と黒豹がぶつかり、周囲に衝撃が走った。

 

「うがっ!」

 

衝突後、吹き飛ばされたのは人狼の方だった。吹き飛ばされた人狼は、勢いそのまま、周囲の木々を薙ぎ倒していった。

 

私はその場で、ビーストウィズインを解除し、吹き飛ばされた人狼を見据える。

 

「う…うぐぅう…う」

 

地面に倒れた人狼は、口から血を吐き、苦しそうに、ふらつく体を無理やり立ち上がらせ、気力だけで襲い掛かって来た。

 

「ぐあ!」

 

飛び掛かって来たところを、体を屈めて回避し、カウンター気味に顔面を殴り上げ、顎の骨が砕ける感覚が伝わる。

 

顎の骨を砕かれた人狼は、その場に倒れると、憎しみを込めた視線をこちらへ向けて来る。

 

 

「少し大人しくしてなさい。これ以上するようなら…」

 

右手に銃を構え、眉間に押し付ける。

 

「容赦しないわよ」

 

しかし、未だに人狼は勝負を諦めていない様で、戦闘の意思を示している。見上げたものだ…

 

しばらく互いに視線を交差させる…その時だった。

 

「エクスペリアームス!」

 

武装解除の閃光が私の元に迫って来た。

その閃光を、体を多少捻り回避し、左手の銃を魔法が飛んできた方へと向ける。

 

「そこまでにしたらどうだ…」

 

声のする方へ視線を向けると、そこには杖を構えたスネイプが立っていた。

 

「ようやく目が覚めたのね、案外お寝坊さんね」

 

「生憎とここ数日寝て居なくてな、丁度良い仮眠だ」

 

冗談交じりに答えたスネイプは、杖を構えながら、こちらへ近付くと、人狼に魔法をかけ縄で縛り上げた。

 

「これで身動きはとれまい…して、あの男はどこへ行った」

 

「ハリー達と一緒に森の方へ逃げたわよ」

 

「そうか…」

 

スネイプは、私の目を見ると視線をずらさない様にしている。私に開心術をかけている様だ。

 

「あまりレディの秘密を見ようとするものじゃないわよ」

 

「………セレッサ、君の心が全く読めん…一体何が目的なのだ?」

 

「さぁ?想像に任せるわ」

 

私は軽くウィンクをすると、スネイプは、何処か呆れた様に、杖を振ると、縛り上げられたリーマスが宙に浮き、叫びの館へと飛んで行った。

 

「まぁ良い…奴を追いかけるぞ」

 

「そう、なら行くわよ」

 

私達は、森の奥へと走り出した。互いに動向に警戒しつつ………

 

 

 

森の奥へと向かうと、巨大な湖の畔で、ロン、ハーマイオニー、そしてシリウスが倒れ込んでおり、周囲にはディメンターが浮遊している。そんな中、ハリーが一人で必死に不安定な守護霊を放ち、ディメンターに抵抗していた。

 

「まずい!」

 

スネイプは、杖を構え、守護霊を放とうとしている。

しかしそれより早く、私は飛び出すと、ハリーに襲い掛かっているディメンター目掛け引き金を引いた。

 

引き金が引かれ、撃鉄が起こり、放たれた弾丸は、空を切り裂き、ディメンターの脳天をぶち抜いた。

 

「ぶぼぉお」

 

声にもならない声を上げ、脳天を打ち抜かれたディメンターは消滅した。

 

ディメンターの呪縛から解放され、ハリーは肩で息をしている。

 

「はぁ…はぁ…セレッサ…君かい…」

 

「えぇ、危ない所だったわね。頑張ったじゃない」

 

「遅かったじゃ…ないか…」

 

先程までの戦いで、体力を消耗しきったのか、ハリーは少し笑みを浮かべた後、眠る様に気を失ってしまった。

 

そんなハリー達を襲うと、ディメンターが一斉に襲い掛かった。

 

「はぁ!」

 

前方から来るディメンターがに両手の銃から放たれる、銃弾を浴びせると、そのまま、銃身を後方へ向け、後方のディメンターも打ち抜く。

 

「私を甘く見ない事ね」

 

その場で、右足を軸にし、体を逸らすと、両手の銃で前方の2匹を、左足で後方の1匹に準団を浴びせる。

 

私を相手取るのは分が悪いと判断したのか、ディメンターが二手に分かれ、片方は私へ、もう片方がハーマイオニー達に襲い掛かった。

 

「エクスペクト・パトローナム」

 

その時、スネイプの低い声が周囲に響く。

すると、青白い牝鹿が躍る様に、ハーマイオニー達に迫り来るディメンターを弾き飛ばした。

 

「こちらの相手は吾輩が引き受けよう」

 

「あらそう。それじゃ、お願いね」

 

スネイプが杖を振ると、牝鹿は勇猛にも、ディメンターに襲い掛かって行った。

 

「さて、それじゃ、アンタ達の相手はこっちよ」

 

私の挑発に、残りのディメンターが飛び掛かてくる。

 

「お楽しみはこれからね」

 

私は指を鳴らし、髪の魔力を開放し、ゲートを開いた。

 

「『IZAZAS PIADPH』『 我が業の深きに囚われよ!』」

 

その瞬間、周囲に蜘蛛の巣が張り巡らされ、浮遊していたディメンターがすべて絡め捕られた。

 

すると、その巣を這う様に、巨大な蜘蛛、 ファンタズマラネアとその子蜘蛛達が現れた。

 

子蜘蛛と言ってもヒッポグリフと大きさは同じ程度だ。

 

 ファンタズマラネア…地獄の地中の奥深くにある、マグマの海に棲む悪魔。ほとんど地表には姿を現さず、魔界でも滅多にその姿が見られる事がないため、この名前が付いた。蜘蛛に似た恐ろしい姿をしているが、比較的温厚な性格で、もしも幸運にも出会うことが出来たなら、丁重に対応すれば珍しい財宝や秘術を授けてもらえるかも知れない。

 

ファンタズマラネア達は、絡め捕ったディメンターを我先にと捕食し始めた。

すると後方から、悲鳴のような声が上がった。

 

「ぐわああああああ!なんだよあのでっかい蜘蛛!それが沢山!!」

 

振り向くと、スネイプに叩き起こされたロンが悲鳴を上げている。

しかし、ファンタズマラネアの姿を見て、驚いたのか、再び気を失ってしまった。

 

隣に居るスネイプとハーマイオニーも恐怖にその表情を歪んている。

 

 

 絡め捕った総てのディメンターを捕食し終えたファンタズマラネアは、最後に咆哮を上げると、巣ごと何処かへ消えていった。

 

周辺のディメンターを全滅させ、スネイプの方に振り向くと、2人は恐怖にその表情を染めながら、こちらに杖を向けている。

 

「今のは…一体なんなのだ」

 

「そうよ!あれは…どういうつもりよ!」

 

スネイプは冷静そうに、ハーマイオニーは恐怖からか、支離滅裂な事を口にしている。

 

「なんのことかしら?」

 

「とぼけないで!あの蜘蛛は一体…」

 

ハーマイオニーは今にも魔法を放ちそうな程、錯乱している様だ。

 

「ううん…あれ…ディメンターは?」

 

そんな中、気を失っていたハリーが目を覚ましたようだ。

 

「お目覚めね、気分はどう?」

 

「頭がすごく痛い…最悪な気分だ」

 

「それは良かったわね」

 

ハリーは頭を抱えながら、立ち上がり、現状を目にして驚愕している。

 

目が覚めて、スネイプとハーマイオニーが杖を構えていればそれもそうだろう。

 

「え?どうしたんだよ…」

 

「さぁ?」

 

私は肩を竦めると同時に両手に銃を構え直し、2人にそれぞれ、1丁ずつ銃口を向ける。

 

「っ!」

 

突如2人に緊張が走り、杖に込める力を強くしている。

 

「まっっ…待ってよ!どういう状況なんだよ!」

 

ハリーは二転三転する状況に理解が追い付いていないのか、慌てふためいている。

 

「ハリー!こっちへ!そこに居ては危険よ!」

 

「え?」

 

「ベヨネッタは、危険な魔法生物を呼び出したのよ!」

 

ハーマイオニーはこちらを睨み付けながら、危機感の籠った怒声を上げる。

 

「えっ?それって…」

 

「今度は別の子よ」

 

「そうだったの!うわぁ見たかったな…」

 

ハリーの間の抜けた、悲痛な叫びにハーマイオニーの表情が歪む。

 

「ちなみに何だったの?」

 

「どうやら、ロンの苦手な子だったらしいわよ」

 

「ロンの苦手………もしかして蜘蛛?」

 

「正解よ」

 

「うわぁ…ちょっと興味あるな」

 

私達の間の抜けた会話を聞いて、頭に来たのか、ハーマイオニーがヒステリックな声を上げた。

 

「ハリー!」

 

「なに?」

 

「なにって…ベヨネッタが何を呼び出したか分かっているの?」

 

「ペットらしいよ、僕も何度か助けて貰ったことあるし」

 

「うそ…あんなに凶暴そうな見た目なのに…」

 

「あれでもおとなしい方よ。それに躾はちゃんとしているから、暴れるなんて事は殆ど無いわよ」

 

……………そう、殆どね。

 

 

「この事は、校長は知って居られるのか?」

 

「えぇ、許可を貰ってあるわ。後で聞いてみたらどう?」

 

スネイプは少し考えた後、構えて居た杖を仕舞い込んだ。それを見たハーマイオニーも何処か諦めた様な表情で杖を仕舞い込んだ。

 

「さて…それでは城へ戻るとしよう」

 

スネイプは倒れているシリウスに近付くと、腹に1発蹴りをかまし、目を覚まさせた。

 

「ぐぅ!」

 

「さっさと立て、貴様を懐かしの母校へ連れて行ってやる。本日は魔法省大臣が城に来ている。丁度良い事にな」

 

スネイプは見下すように、シリウスは睨み付ける様に互いに睨みあっている。

 

「待て…私は…私は犯人では!」

 

「詳しい話は、城で聞くとしよう」

 

シリウスを一瞥した後、踵を返し城へと歩き始めた。

 

ハリーはシリウスに肩を貸しながら、その後姿を睨み付けながら歩いていった。

 

ハーマイオニーはロンを起すと、2人で少しこちらを警戒しながら、歩いていった。

 

 




ディメンター大量捕縛です。

アズカバン編では簡単に天使達に襲撃させられないので、ディメンターに犠牲になってもらいました。

まぁ、相変わらず平和ですね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3年目が終わり

今回で、アズカバンは終わります。




城に着き、スネイプの先導で校長室の扉を開けると、そこには、ダンブルドアとマクゴナガル、そして見知らぬ男が一人話し合っていた。恐らくその男が魔法省大臣なのだろう。

 

「これは、セブルス…どうしたのじゃ?」

 

「校長。シリウス・ブラックを連行しましたぞ」

 

「それは本当か!」

 

「はぁ…」

 

スネイプの発言に、魔法省大臣は歓喜の声を、マクゴナガルは深い溜息を吐いた。

そんな中、ただ一人ダンブルドアだけが、無表情だった。

 

「して、奴は?」

 

「ここにおります」

 

スネイプが体を逸らし、入り口の方を指差すと、ハリーに肩を借りたシリウスが、苦しそうな表情を浮かべている。

 

「ハリー!怪我をしておるのか。早く医務室へ…」

 

ダンブルドアは立ち上がると、大声を上げ、ハリーを心配している。余程ハリーが大切なのだろう。

 

「僕は大丈夫です…それより、シリウスの話を聞いてください!」

 

「そんな奴の話だなど聞く価値は…」

 

「私は犯人ではない!」

 

魔法省大臣の言葉を遮る様に、シリウスが大声を上げる。

 

「真犯人は、ピーター・ペティグリューだ!ここに奴がいる!今!この瞬間!この部屋にぃ!」

 

「ここに居ます」

 

シリウスが悲痛な叫びを上げ、ロンがポケットから、薄汚い鼠を取り出し、床に放り投げる。

 

床の上では、口から血を流している鼠が、苦しそうにもがいている。

 

 

「奴は…奴は鼠の動物もどきだったんだ!」

 

「なんじゃと…」

 

ダンブルドアはゆっくりと鼠に近寄ると、杖を振りかざす。

 

すると、鼠はみるみる人の姿へと変貌し、今にも倒れそうな小汚い男が一人、肩で息をしている。

 

「これはっ!」

 

「コイツが…真犯人だ!」

 

そこまで言うと、シリウスは力尽きた様に、その場に倒れ込んでしまった。

 

「シリウス!」

 

「分かった…じゃがまずは、全員医務室へ行くのじゃ。話はそれからでも良かろう…」

 

ダンブルドアはそういうと、その場の全員が、医務室へと歩いていった。

 

ただ一人倒れてしまったシリウスはスネイプとハリーに抱えられながら、医務室へと向かっていった。

 

そんな彼等の後を追う様に、私も校長室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、ハリー達の事情聴取も終わった。

私は、バーカウンターでジントニックを飲みながら、ロダンが定期購読している日刊預言者新聞に目を通した。

 

新聞の一面には、魔法省がピーター・ペティグリューの存在を認め、シリウスの冤罪を認めた事が書かれていた。

 

だが魔法省もただ冤罪と言う事ではメンツが保てないのか、シリウスの投獄は、死喰い人を騙す為のカバーストーリーという話だ。

 

まぁ、裏で取引があったのだろう。

 

後に聞いた話だが、裏でシリウスは魔法省大臣から、多額の賠償金を支払われたという話だ。

 

これでようやく、シリウスは普通の生活に戻り、随分前に放棄された自宅で生活している様だ。

 

ハリーはブラックとの生活を望んだが、ダンブルドアがそれに反対し、未だにあの家に幽閉されている様だ。

 

一体何を考えているのだか…

 

まぁ、何はともあれこれでシリウスの無実は証明された。この事だけでも、ハリーは満足なようだ。

 

私は、グラスに注がれたジントニックを煽り、今年も1年が終わったことを実感した。

 

ちなみに、ルーピンは人狼であることが公になり、職員としての地位を追われたという話だ。

やはり、人狼に対する風当たりは強いようだ。

 

これでまた、闇の魔術に対する防衛術の教員が居なくなった。

次は一体どんな教師が来るのだろうか…来学期に多少の期待を膨らませた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 また1年が過ぎた。

 

ワシは自室の椅子に座り、今年の出来事を思い出している。

 

「はぁ…」

 

思い返すだけで頭が痛くなる。

最初はディメンターがホグワーツ特急を襲撃した事から始まる。

 

その場は、リーマスが居たおかげで、大した被害は出なかったと多くの生徒が口にしているが、リーマスの話を聞く限りでは、セレッサが撃退したという話だった。それも守護霊を使用せずに…その時点で最早規格外だ。

 

 次に思い出されるのは、占い学での事だ。

トレローニー先生が多くの生徒を占ったという事だが、セレッサに関しては恐怖すら覚えたという。それほど深い闇に彼女は関わっているという事なのだろうか…今のワシには知る事もできないじゃろう。

 

 次の出来事は魔法生物飼育学だ。

ハグリッドに教員を任せたが、事故が起きた。

ドラコが怪我を負ったという事だ。それ自体は大した事ではないが、それによってヒッポグリフが処刑されるとは思いもしなかった。しかしこれはハリー達を成長させる好機ではないか………ワシはそう考えておったが…

 

 

 

 次の事件は、何といっても、クィディッチの試合中にディメンターが乱入してきたことだろう…

あの時はハリーが被害を受けてしまい肝を冷やした…しかし、落下するハリーをセレッサが救出してくれた事で何とかなった…

 

この時ワシの中で一つ疑問が浮かんだ、なぜ彼女がディメンターに恐れを抱く事無く立ち向かえるのか…それと同時に、興味と恐怖が湧いて来たのだ。このまま彼女にディメンターの相手をさせたらどうなるのかと…もし彼女がこの窮地を切り抜ける事が出来たら…そして出来なかったら…

 

ワシはその疑問を確かめずには居られなかった。気が付いた時には、守護霊を放とうとして居る教職員を制止していた。あの時のミネルバの表情は恐ろしかった…

 

その時、ワシは彼女を注意深く観察していると、ワシと視線が交わった。

 

ワシはこの時…確信した。彼女ならこの窮地でも難なく乗り越えられるのだろうと…

 

結果としては、ワシにとって十分な物だった。

彼女はディメンターを手玉に取っただけでは無く、守護霊の魔法まで使用したのだ…

 

そして、彼女の守護霊の登場に、その場の全員が息を呑んだ…

それもその筈だ…何と言っても、彼女が守護霊として呼び出したのは、艶やかで、凶悪な笑みを浮かべた、巨大な婦人なのだから…

 

それから先はまさに一方的な状況だった…

周囲を飛び交うディメンターをまるで、羽虫の様に処理し続けた…

 

結果としては、競技場には大小様々な穴と、ディメンターの残骸で死屍累々の惨状だった…

 

 

 次に思い出されるのは、ヒッポグリフの処刑の件だ。

 

処刑の日時も決まり、総てはワシの思惑通りに事が進んでいった。

 

まずは、ヒッポグリフが処刑されたと言う事実をハリー達に知らせる。

 

そしてヒッポグリフを1度処刑させ、その絶望を味合わせる。

 

その後、自らの力でヒッポグリフの処刑を…危機を彼等の手によって回避する事で、結束力を強める事が出来るはずだ。その為の手段も用意されている…

 

しかし、事態は思わぬ方向へ進んだ。そう…彼女…セレッサが姿を現したのだ…

 

彼女はドラコに何かを囁くと、ドラコが自らの腕を晒したのだ。その結果、ヒッポグリフの処刑は取り止めになり、ハグリッドの半年間の減給で事が済んだのだ。

まったく…余計な事を…

 

 

 そして、今年最も驚かされたのが、シリウス・ブラックの登場だった。

 

しかも、ハリーに肩を借りながら、校長室に現れたのは驚いた。

 

さらに驚いたのは、シリウスは自らの無実を宣言している。そして真犯人を連れて来たと。

 

ワシはその時、半信半疑だった。シリウスが嘘を言って居ないという確信が持てなかったのだ…いや、確信が有ったとしても、匿うという選択肢はなかっただろう。

 

ロンが自らのペットである鼠を床の上に放り投げると、この鼠こそが、真犯人だと口にしたのだ。

 

ワシはその鼠に魔法をかけると、疑惑が確信へと変わった。

 

シリウスの話の通り、ピーター・ペティグリューが真犯人だったという話だ。

 

これにより、シリウスの無実が認められたのだ。これは素直に喜ばしい事だ…

 

その後、セブルスからシリウスを確保した時の状況を聞き、ワシはさらに頭を痛めた。

 

何と、セレッサが飛び回っているディメンター達を、総て処分したという事だ。

しかも蜘蛛の魔法生物…新たなペットを呼び出したという事だ…

 

しかも、セブルスの見立てではその蜘蛛は、悪魔の一種である可能性があるという話だった…

 

もし、その話を信じるならば、彼女は悪魔を使役しているという事になる…

 

闇の象徴である悪魔を使役し、光の象徴である天使と敵対する…

 

トレローニーの話に出た、深い闇…

 

しかし、それならばなぜ、闇の帝王が光の象徴の天使を使役しているのか…

 

これらの情報から、推察するに、彼女は闇と関係が有るのは間違い無いだろう。

 

もし…いや…しかし、それほどの闇の存在である彼女をワシの力でどうにか出来るだろうか…

 

 

 

今、出来る事は、今まで通り注意深く、監視する事だけだろう…

 

ワシはもう一度溜息を吐き、目の前の書類に向き合った。

 

書類には、競技場の修繕費用。そして彼女によって葬られたディメンター達の請求書だ。

 

「フッ」

 

その法外な金額に、つい笑ってしまった。

 

まぁ、ほぼ使う当てのなくなった、貯金を消費する良い機会かもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、日刊預言新聞の一面がまた新たな記事で飾られた。

ピーター・ペティグリューが聖マンゴ魔法疾患傷害病院からアズカバンへの護送中に逃亡したという内容だ。

 

詳しい事は伏せられているが、護送用の馬車が何者かに襲撃されたようだ。

 

護送に当たった職員は全員死亡し、目撃者はいない模様。恐らく死喰い人が関係しているのではという情報だ。

 

 

次の記事は、近日中に行われる、クィディッチワールドカップについての記事だった。

 

 

 

 

 

 鬱蒼と茂る木々を避けながら、2人の男が森を歩いている。

 

正確にはみすぼらしい鼠のような男と、近寄りがたく、不可思議な男だ。

 

「本当にこの先に御主人様が居るのか?」

 

「えぇ、その通りですよ」

 

「その証拠は…」

 

「………証拠が必要ですか?現状、貴方には私に付いて来る以外の選択肢があるとは思えませんがねぇ」

 

「うっ…」

 

2人はそれ以上会話をする事無く、森の奥の古ぼけた館へと踏み入れた。

 

「この扉です」

 

「この先に…」

 

鼠のような男が、扉を開けると、その奥にはおおよそ人とは言えない様な、肉塊が鎮座している。

 

 

「ま…まさか…」

 

「えぇ、これがヴォルデモート卿ですよ」

 

『その声は…ピーター…ペティグリューか…』

 

「ご…御主人様…」

 

ピーター・ペティグリューと呼ばれた男は、その肉塊に擦り寄った。

 

 

不可思議な男はその状況を愉悦の表情を浮かべ、その光景を眺めていた。

 

 




以上でアズカバン編は終了です。

やっぱり平和な1年でしたね。

次は炎のゴブレットですね。

今回はあまり暴れられなかったので、次回は大暴れしてもらおうかと考えています。

それでは次が書き終わるまで、またしばらくお時間をいただきます。

また次回も宜しくお願い致します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

炎のゴブレット
パーティードレス


待たせたな!

はい、本当に待たせすぎですね。申し訳ない。

アズカバン編はかなり大人しかったので、今回はかなり暴れようとした結果…
相当やりすぎたなって思いながら、もう書いてしまったものは仕方ないという気持ちで投稿しています。

試合が始まるまでは平和なので、束の間の平和をお楽しみください。

それでは炎のゴブレット編スタートです。


 エンツォからの仕事を終わらせ、私はバーへと向かった。

 

 扉を開け中へ入ると、すでに出来上がっているエンツォと、興味深そうに日刊予言者新聞に目を落としているジャンヌ、そして相変わらずバーカウンターの奥でグラスを磨いているロダン。いつもの風景が広がっている。

 

 私の存在に気が付いたのか、ジャンヌが面白い物を見つけた時と同じ表情で、私に新聞の一面を見せてきた。

 

「セレッサか、これを見てみろ、どうやらまた事件が起きたようだぞ」

 

「え?」

 

 ジャンヌから新聞を受け取り、目を落とすとそこには、一面総てを飾る程の見出しが出ている。

 

 

『クィディッチワールドカップ会場に闇の印が現れる!!屋敷しもべの悪ふざけか?それとも…』

 

 

 

「なにこれ?」

 

「さぁな、だが大事になっている様だな。闇の帝王もそろそろ復活するんじゃないか?」

 

「冗談じゃないわ、あんなブサイクが復活するなんて考えたら…」

 

「フッ、その時は魔法界も大騒ぎだな」

 

 

 ジャンヌは冗談っぽい口調で話すと、再び新聞に目を落とした。

 

 それにしても、この事件、恐らく屋敷しもべの悪戯なんて可愛らしいモノではないだろう。

 

 ピーター・ペティグリュー護送中の襲撃事件の件もある。

 

 どうやら、死喰い人が本格的に動き出しているのかもしれない。

 

「ふぅ…」

 

 まぁ、どちらにせよ、退屈凌ぎにはなるだろう。

 そう考えながら、バーカウンターの一席に腰かける。

 

「お前さんに手紙だ」

 

 ロダンから手紙を受け取り、差出人を確認した。

 

「あら、ロンからだわ」

 

 2通ある手紙の内1通はホグワーツからの連絡、そしてもう1通がロンからの手紙だった。

 

 手紙の内容は、クィディッチワールドカップに来ないかという事だった。

 エンツォからの仕事を請け負っている間にその期限は過ぎてしまったようだ。

 

 仕方ない、後で手紙を送っておこう。

 

 ホグワーツからの手紙はいつも通り今学期に必要になる教科書のリストだった。

 

 その中に、なぜかパーティードレスの項目があった。

 

 パーティードレスか、どれを持っていこうか少し迷ってしまうな…。

 

 すると、ロダンがカクテルを私に差し出した。

 

 その時、店の扉が開かれ1人の男が入って来た。

 帽子をかぶり、レザーのジャケットを羽織り、首にはマフラーを巻いている。

 

「よぉ、開いてるようだな」

 

 その男は、私の隣に座ると、ロダンに何やらプレゼント箱を渡している。

 

「ほぉ、これは…」

 

「この前行った日本の酒だ。『魔王』なんて名前だぜ」

 

 酒を受け取ったロダンは満足そうに店の奥へと消えていった。

 

「アンタも相変わらずね、ルカ」

 

「このルカ様はビジネスにおいて抜かりはないのさ」

 

 ルカは自慢げにそう言うと、手帳を取り出した。

 

「聞いたぜ…ベヨネッタ、お前今、魔法界なんて面白そうな所で学生をやっているそうじゃないか」

 

「そうなのよ。退屈しないで済むわよ」

 

「フッ、そうかい、それにしてもお前が学生とは想像も付かないぜ」

 

 ルカはそう言うと、メモ帳に何かを書き込み始めた。

 

「俺は今度、その魔法界に行ってみようと思っているんだ。どうやって行けばいいか教えてくれないか?」

 

「さぁね。ロダンにでも聞いてみたらどうかしら?」

 

「はぁ…そう言うと思ったぜ」

 

 ルカは詰まらなそうにため息を吐き、マフラーを巻き直している。

 

 私はそんなルカを尻目に、店の扉を開け外へと出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は例年通りにホグワーツ特急に乗り込んだ。

 去年は途中でディメンターの襲撃を受けたが…まぁ今回は大丈夫だろう。

 

 外は大雨となっており、多くの生徒が列車内に駆け込んでいる。皆雨に濡れるのは嫌なのだろう。

 

 そんな事を考えていると、コンパートメントの扉が開かれ、ハリー達が入って来た。

 

「やぁ、ベヨネッタ。久しぶりだね」

 

「そうね、席空いているわよ」

 

「ありがとう。座らせてもらうよ」

 

 

 ハリーは荷物置き場に荷物を置き対面に腰かけた。

 ハーマイオニーも同様に荷物を置き、私の横に腰かけた。

 ロンは、入り口付近に荷物を置くと、ハリーの横に座った。

 

「ベヨネッタ、クィディッチワールドカップに来られなくて残念だったね。まさか予定が入っているとは思わなかったよ」

 

 ロンは少し自慢げにそう言うと、話を続けた。

 

「やっぱり、プロのクィディッチは凄いね!迫力が違うよ!もうなんて言うの…分からないけど凄いよ!」

 

「そうだね!あれは凄かったなぁ…」

 

 ハリーとロンは、クィディッチワールドカップの事を思い出したのか、嬉しそうな表情をしている。

 

「僕生まれて初めてだよ!あんなにすごい試合を見たのは…」

 

 

「それは、君の人生において最初で最後だろうな、ウィーズリー」

 

 ロンの自慢話を遮る様に、ドラコがコンパートメントの扉を開き入って来た。

 

 

「何の用だよ…お前を呼んだ覚えはないぞ、さっさと出ていけよ」

 

 ハリーは冷たい声でドラコを追い返そうとする。

 

「お前たちに用なんて無いさ…やぁセレッサ、君は今回のクィディッチワールドカップは見に来たかい?」

 

「用事があって行けなかったわ」

 

「そうだったのか、それは残念だ。素晴らしい試合だったよ、それに試合後の催しもあったしな」

 

 ドラコが皮肉そうに言うと、3人の表情は険しいものへと変わった。

 

「催しだと…お前!あれが催しだというのか!」

 

 ハリーが立ち上がり、怒声を上げながら、ドラコに詰め寄るが、両脇に控えている、クラッブとゴイルに抑え付けられる。

 

「なかなか趣向が凝らされていたじゃないか、マグルが数名亡くなったらしいがな」

 

「貴様!」

 

 ハリーはドラコを睨み付けるが、抑え付けられている為、何も出来ないようだ。

 

「クィディッチワールドカップでの事よね、屋敷しもべの悪戯じゃなかったのかしら?」

 

「あぁ、セレッサ。世間ではそんな報道をされている様だね。でも実際は違うんだ。死喰い人が会場を襲撃したのさ」

 

 ドラコは何処か誇らしそうに、胸を張っている。

 

「もうじき、闇の帝王が復活されるだろうな、そうすれば………」

 

 ドラコは、床に抑え付けられているハリーに近寄り、髪を掴み顔を覗き込んだ。

 

「お前の名声も地に落ちるだろうな、ポッター!」

 

 ドラコはそのまま、ハリーを突き放すと、入り口に置いてあるロンの荷物に目を向けた。

 

「おやおやおや、これは?」

 

 ドラコは荷物に手を突っ込み、1着のドレスを引っ張り出した。

 

「やめろ!マルフォイ!」

 

 

「これ見ろよ!ウィーズリー、こんなお古を本当に着るつもりか?言っておくが、これが流行ったのは1世紀以上前だろう」

 

 私からすれば1世紀半程前だろう。

 確かにあまりいいドレスローブとは言えない物だった。

 と言うか、あれは女性ものじゃないのか…。

 

「僕はこの時の為に、一流の仕立て屋にドレスを作らせたよ」

 

 自慢げに語るドラコは、手に持っていたロンのドレスローブを投げ返すと、こちらを流し目で見てきた。

 

「あぁセレッサ、君はどんなドレスを持って来たんだい?もしあれなら僕が一流の品を用意しよう」

 

「お気遣いどうも、でも問題無いわ、ドレスが多すぎてどれにするか迷っちゃうくらいよ」

 

「フッ、君なら何を着ても似合うだろうな。楽しみだよ」

 

「そうね、それにしても、ドレスを用意させるなんて、今年はダンスパーティーでもやるのかしら?」

 

「おや?聞いてないのかい?今年は特別な催しがあるんだ。ウィーズリー、貴様も父親から聞いて居るんじゃないか?」

 

 

「何のことだよ?」

 

 

「まさか…聞いてないのかい?」

 

 ドラコは、呆れた様に溜息を吐き、首を左右に振っている。

 

「父親も兄上も魔法省に務めていると言うのに、まるで知らないのか?驚いたね。父上なんか真っ先に僕に教えてくれたのに…ファッジ大臣から聞いたんだ。まあ父上はいつも魔法省の高官と付き合っているしな。多分君の父親は、下っ端だから知らないのかもしれないな…そうだ、おそらく君の父親の前では重要事項は話さないのだろう。恨むなら自分の父親の役職を恨むんだな」

 

 ドラコは、馬鹿にしたような口調でロンに話しかける。その様子はとても楽しそうだった。

 

「だからなんの事だよ!」

 

「フッ、まぁいいさ、後でダンブルドアから説明があるはずさ。それまで楽しみにしているんだな」

 

 ドラコは高笑いをし、その場から離れていった。

 

「くそっ!」

 

 ロンは力任せにコンパートメントの扉を閉めたので、ガラスが割れてしまった。

 

 ハーマイオニーは呆れた様に、杖を振り扉を元に戻した。

 

 

 

 ロンは城に入るまで終始不機嫌だった。

 しかし、入学式も終わり、歓迎パーティーが始まると、目の前の料理に舌鼓を打ち、機嫌も直ったようだ。まったく、現金なものだ。

 

 

 しばらくすると、ダンブルドアがいつもの様に挨拶を始めた。

 

「さて、皆久しいのぉ。皆よく食べ、よく飲んだことじゃろう」

 

 私もデザートを食べ終えたところだ。

 多くの生徒も食事を堪能しきったのか、皆ダンブルドアの言葉に耳を傾けている。

 

 

「さて、ここでいくつか皆に知らせておきたいことがある。校庭にある森はいつもの様に立ち入りは禁止じゃ、ホグズミード村へも3年生になるまでは禁止じゃ」

 

 いつもと変わらない事を説明した後、ワザとらしく咳払いをし、再び声を上げた。

 

「その、この事を皆に説明するのは非常に忍びないのだが…皆驚かずに聞いて欲しい」

 

 少し大げさでは無いだろうか、ここまでハードルを上げるにはそれなりの理由があるのだろう。

 

「今年の寮対抗クィディッチの試合は中止じゃ」

 

 ダンブルドアの発言に、多くの生徒が不満の声を上げ、会場は混乱の渦に飲み込まれた。

 

 中には、絶望しきった顔で空を眺めているものまでいる。

 もちろんその中にハリーも含まれている。

 

 そんな中、ダンブルドアは意味深な含み笑いをし、この状況を眺めている。

 相変わらず悪趣味な男だ。

 

「まぁ、皆が不満に思う気持ちも痛い程分かる。じゃがそれには理由があるのじゃ!」

 

 ダンブルドアは大声を上げ、周囲の生徒もその声に聞き入った。

 

「なぜならば、今年このホグワーツで…」

 

 ダンブルドアがそこまで言いかけると、大広間の扉が勢い良く開かた。

 

 その音に皆一様に驚き、振り向くと、そこには1人の男が立っていた。

 

 顔は傷だらけで片方の目が飛び出ている、あれは義眼だろう。

 

 その男は、周囲の生徒の視線をものともせず、左足を引きずりながらダンブルドアの方へ歩み寄って行く。左足も義足なのだろうか。

 

 

「久しぶりだな!」

 

「おぉ…アラスター、来てくれたのか」

 

 その男は、ダンブルドアに近付くと、手を差し出し、2人は固い握手を交わした。

 

 

「おぉ、そうじゃ、まずは闇の魔術に対する防衛術の新しい先生を紹介しよう」

 

 ダンブルドアは、先程座った男を見ながら、紹介を始めた。

 

「アラスター・ムーディ先生じゃ」

 

 その紹介に、数名の生徒が拍手を送ったが、その拍手もすぐに終わった。

 

 ダンブルドアは再び咳払いをし、会話を始めた。

 

「先程言いかけた事じゃが、ここ数ヵ月間、このホグワーツでは心躍るイベントが行われるのじゃ。このイベントはここ100年以上行われていなかった特別な事じゃ…それは三大魔法学校対抗試合!『トライ・ウィザード・トーナメント』を開催するのじゃ!!」

 

「「御冗談でしょう!」」

 

「なんだって!」

 

「嘘だろ!」

 

 ウィーズリー家の双子が声を上げ、その他にも、様々な声が響き渡る。

 

 皆驚きと、歓喜を孕んだ悲鳴だ。

 

 その光景にダンブルドアは愉悦の表情を浮かべ酔いしれている。

 

「三大魔法学校対抗試合?何の事よ?」

 

「あぁ、ベヨネッタ、君は知らないんだね。これはとても栄誉な大会だよ!」

 

 ロンは興奮交じりに説明すると、椅子の上に立ち、歓喜の声を上げている。

 

 その後、ダンブルドアが三大魔法学校対抗試合について説明を始めた。

 

 ホグワーツ魔法魔術学校、ダームストラング専門学校、ボーバトン魔法アカデミーの生徒たちが技を競う魔法試合である。それぞれの学校からひとりずつ代表が選ばれるという話だ。

 

「立候補するぞ!」

 

 1人の生徒が声を上げるがそれをダンブルドアが制した。

 

「すべての生徒がこの大会に熱意を持ってくれているのは大変嬉しく思う。じゃが3校の校長と魔法省はこの大会に年齢制限を設けることで合意した。ある一定以上の年齢…すなわち17歳以上の生徒だけが参加する事が許される」

 

 ダンブルドアは残念そうにそう説明しつつ、私の方を睨みつけている。

 どうやら、私には参加するなと言いたいようだ。面白い…そこまでされるとむしろ参加したくなる。

 

「そりゃないぞ!」

 

「俺達は4月で17歳なんだぜ?なんで参加できないんだよ」

 

 ウィーズリー家の双子は残念そうに肩を落としている。

 

 私はそんな彼らをよそに、談話室へと戻った。




まだこの辺は平和ですね。

ダンブルドアとしてはベヨネッタには参加して欲しくは無いようです。

今回から少し書き方を変えたのですが、こっちの方が良いんですかね?
良く分からないです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

白イタチ

私事ですが、風邪を引いてしまいました。
皆さんも風邪には気を付けてください。


 同室の生徒が深い眠りについた後、私は杖を取り出し、いつもの様にバーへと移動した。

 

 

「よぉ、今日は何の用だ?酒か?」

 

「そうよ、1杯貰おうかしら」

 

 ロダンはいつもの様にシェイカーに酒を入れ、カクテルを作ると、それをテーブルの上を滑らせ私の前にピタリと止めた。

 私はカクテルを受け取ると、さっそく一口飲み込んだ。

 

「そういえば、三大魔法学校対抗試合って知っているかしら?」

 

「あぁ、知ってるぜ。毎回死者が出てもおかしくない試合だな。今年やるのか?」

 

「そうなのよ」

 

「ほぉ…お前は参加するのか?」

 

「もちろん。いい暇潰しになりそうね」

 

 詰まらなそうに答えると、ロダンは鼻で笑いながら、葉巻の灯を消した。

 

「そうかい。なら、コイツを持っていきな」

 

「へぇ、何かしら?気になるわね」

 

「フッ、気に入ると思うぜ、何と言っても、悪魔も喉から手が出る程の逸品だ」

 

 すると、カウンターの下からラッピングされた箱を取り出し、カウンターの上に置いた。

 

「開けてみな」

 

「そうさせて貰うわ」

 

 ラッピングを解き、蓋を開ける。

 

 すると、中には黄金色で、まるで月をイメージさせる腕輪が入っていた。

 

「マハーカーラの月だ、コイツが無けりゃ始まらんだろ」

 

「そうね、これはちょうど良いわね」

 

 箱からマハーカーラの月を取り出すと、左腕にはめ、2、3回手を握り付け心地を確認する。

 

 問題は無いようだ。

 

 マハーカーラの月

 

 インドの破壊神シヴァの祝福を受けた魔導器。ヴィジャヤナガル朝に仕えた魔女ヤクシーが作ったと伝えられ、敵の攻撃を弾き返す力を持つ。如何に強力な攻撃であっても無効化するため、これを使いこなしたヤクシーは無敵の魔女と謳われた。

 

「上手く使えよ」

 

「当たり前じゃない」

 

 私は、ロダンに軽く手を振り、店を出ようとする。

 

「ギュアアああ!」

 

 その時、本日の生贄として、壁に磔にされていた天使がその拘束を解き、私に爪を振りかざし襲い掛かって来た。

 

 いくら負傷しているとは言え、天使の爪による攻撃は並大抵の人間ならば、1撃で死を迎えてしまうだろう。

 

 振り下ろされた爪は、私の顔面を捉え、眼前まで迫っている。

 

「無駄よ!」

 

 爪による攻撃が直撃する寸前、私は左腕のマハーカーラの月を構える。

 

 その瞬間、マハーカーラの月の魔力により障壁が張られ、天使の攻撃を弾き飛ばした。

 

「ギュア!」

 

 攻撃を弾き飛ばされた天使は、その場で大きく仰け反り、よろめいている。

 

 そんな中、私はウィッチタイムを発動させ、よろめいている天使の後頭部を左手で掴み、首を上に向かせる。

 

 そのまま、無防備に晒されている喉元に右手の銃を突き付け、躊躇い無く引き金を引いた。

 

 

 放たれた弾丸は、喉元を突き破り、そのまま脳幹を貫き、脳天へと突き抜けた。

 

「ギュアアア!」

 

 脳天をぶち抜かれた天使は、醜い断末魔を挙げ、その場に崩れ落ちた。

 

 私はその姿を背に店の扉に手をかけた。

 

 天使の消滅を背後で感じながら、扉を開け、外へと出る。

 

 

「ビューティフル」

 

 ロダンの賛辞を背中に受けながら、その場を後にした。

 

 

 

 

 新学期が始まると、いつもの様にすぐに授業が始まった。

 

 何と言っても、三大魔法学校対抗試合が行われる中、授業過程をすべてこなさなければならないので、多くの授業が詰め込み教育の様になっている。

 

 そんな中、ハグリッドが行っている魔法生物飼育学は例年と同じペースだった。

 

 

 内容は尻尾爆発スクリュートと呼ばれる、ハグリッドが創り出した新種の生物の飼育だった。

 今年創ったのか、ハグリッドも生態について詳しくは知らないようだ。

 

 

 私達が大広間を抜け次の授業の教室へと向かおうとすると、ドラコが新聞を片手にこちらに歩み寄って来た。

 

「ウィーズリー!おい待てって、ウィーズリー!」

 

 半笑いのドラコは必死でロンを引き留めようとしている。

 

「君の父親が新聞に載っているぞ!見てみろよ!」

 

 そういうと、ドラコは新聞の記事を読み始めた。

 

 内容は、ロンの父親が何かを失敗した事だった。

 

「写真まで載っているぞ!君の両親が君の家の前で撮ったんだろうな。しかし…これは家と言えるのか?それと君の母親は少しお痩せになったほうがいいんじゃないか?」

 

 ドラコの煽る様な喋り方にロンは怒りに震えている。

 

「失せろよマルフォイ。ロン行こうぜ」

 

 

 ハリーはいつもの事なので静かに言うとその場を去ろうとした。

 

「そうだポッター!君はこの休暇中彼の家に泊ったらしいな?なら教えてくれないか?彼の母親は本当にこれほどの容姿なのか?それとも写真写りが悪いだけなのか?」

 

「黙れマルフォイ。お前の母親はどうなんだよ」

 

「なに…」

 

「君の自慢の母上は、本当に美人なのかと聞いているんだよ。少なくとも僕にはそうとは思えないがね」

 

 ハリーの言葉にドラコは怒りに震えている。

 

「僕の母上を侮辱するな!ポッター!」

 

「おやおや、マザコンのドラちゃんはこれだから…」

 

 ハリーは肩を竦め、首を左右に振りながら、ドラコに背を向ける。

 

 ドラコは怒りに任せ杖を引き抜き、魔法を放った。

 

 その魔法はハリーの頬を掠め、奥にあるテーブルに当たった。

 

 次の瞬間、後ろでその光景を見ていたムーディが素早い動作で杖を引き抜き、ドラコに魔法をかけた。

 

 ドラコはその速度に反応できず、魔法を受けてしまい、瞬く間に白いイタチに変化してしまった。

 

「汚い事をするな!」

 

 ムーディの大声が大広間に響き、イタチに変えられたドラコはプルプルとその身を震わせている。

 

 私はそのイタチを前に手を差し出すと、手の平に飛び乗った。

 

「攻撃を受けたのか?」

 

 ムーディはハリーに心配そうに声をかけた。

 

「いいえ、掠っただけです」

 

「下手に触るな!」

 

 再びムーディの大声が響き、その声にハリーの動きは止まってしまう。

 

 ムーディは私の手の平で怯えているドラコを見つけると足を引きずりながら、こちらに歩み寄って来た。

 

「そいつを渡せ。後ろから襲い掛かる奴は気に食わん!」

 

 ムーディが私に掴み掛ろうとするので、バックステップでそれを避ける。

 

「そう言っているけど渡してもいいかしら?」

 

 ドラコはイタチの状態で必死に首を振っている。

 

「嫌って言ってるわ」

 

「構うものか!いいからそいつを渡せ」

 

 ムーディは再び私を掴もうと襲い掛かって来たので、その場で飛び上がるとムーディの反対側へと着地する。

 

「ほぉ…いい度胸だ小娘が!ワシに歯向かうようだな!」

 

 ムーディは私を睨み付ける。

 

 ハリー達は早く渡せと言わんばかりの表情をしている。

 

「歯向かう?勘違いしないでちょうだい」

 

 私はイタチの首根っこを掴むと、胸元へと仕舞い込んだ。

 

「ジュジュ!」

 

 仕舞われたイタチは歪な声を上げる。

 

「少しここで大人しくして居なさい」

 

「あいつ…」

 

「羨ましいよな…」

 

 そう言っているハリー達はハーマイオニーを見て2人同時に溜息を吐いた。

 

「何よ!文句あるの!」

 

 ハーマイオニーは両手で胸元を隠しながら2人を怒鳴りつけている。

 

 そんな3人を見つつ、私はムーディと向かい合った。

 

「良いわ。少し遊んであげる。掛かってらっしゃい」

 

 私の挑発にムーディは杖を振り魔法を放った。

 

 私に向かって高速で放たれた魔法を、杖で弾く。

 

「見事だ!だがこれはどうだ!」

 

 ムーディが杖を振ると、周囲の机や椅子が塊となり、私の頭上に現れた。

 

「潰れろ!」

 

 ムーディの言葉と同時に、椅子の塊が私を潰そうと落下してくる。

 

「はぁ!」

 

 椅子の塊に対し、右手を振り上げると、足元からマダムの右手が現れ、その拳で椅子の塊を破壊する。

 

「なかなかやるじゃない」

 

 私はムーディの方を見ると、向こうも楽しそうに笑みを浮かべている。

 

「ほぉ!何やら妙な技を使うようだな!だがこれはどうだ!」

 

 再びムーディが杖を振ると、一瞬で3発程の魔法が一斉に放たれた。

 

「くっ」

 

 私はその場で飛び上がり、体を捻りながら3発の魔法を回避する。

それと同時にウィッチタイムを発動させ、右足の銃から銃弾を5発ほど放つ。

 

「くぉ!プロテゴ・マキシマ!」

 

 ムーディは瞬時に魔法で障壁を張り、私が放った弾丸を防いだ。

 

 しかしそれにより、一瞬とは言えムーディに隙が生じた。

 

 私はその隙を逃すはずも無く、瞬時にムーディとの距離を詰める。

 

「なにぃ!」

 

 驚きの声を上げるムーディの眼前で、迫った時の勢いそのまま、背を向け体当たり…鉄山靠を喰らわせる。

 

 鉄山靠を喰らい吹き飛ばされたムーディは柱に激突すると、柱にヒビが入った。

 

「ぐぉ!」

 

 柱に激突したムーディはその場で倒れ込んだ。

 

 私は1歩ずつ、ゆっくりとムーディに歩み寄る。

 

「10年早いわよ。観念しなさい」

 

 私はそう言うと、肩を竦め、ムーディに背を向ける。

 

「油断したな!」

 

 倒れていたムーディがそう言うと同時に杖を振り至近距離で私の背後に魔法を放った。

 

 しかし、私はその魔法を体を捻り避けると同時に、右足の銃を眼前に突き付ける。

 

「んなっ!」

 

「背後から襲い掛かるのは、気に食わないんじゃなかったの」

 

「おのれぇ…」

 

 地に倒れたムーディは私に憎悪を込めた視線で睨みつけて来る。

 

「ムーディ先生!ミス・セレッサ!何をしているのです!」

 

「なにって…ねぇ」

 

 私がそう言うと、胸元のイタチは小さく鳴いた。

 

「なんですそのイタチは?」

 

「ドラコよ」

 

「まさか…ドラコ・マルフォイですか!なぜそのような姿に…」

 

「さぁ?こいつに聞いてみたらどう?」

 

 私が銃口を向けると、マクゴナガルもムーディに目をやった。

 

「まさか…ムーディ、生徒をイタチに変えたのですか!」

 

「罰則だ…奴は…」

 

「そんな事は聞いていません!本校での罰則は居残りなどです!ダンブルドア先生はアナタにそう話したのではないのですか!」

 

「いや…そんな話は…いや…どうだったか…」

 

「もういいです…セレッサ。貴女も武器をおろしなさい!」

 

 まぁ、この状況で攻撃してくる事は無いだろう。そう思い銃を下す。

 

 それを見てマクゴナガルは何処か安心したような表情を浮かべた。

 

 すると、ムーディは立ち上がり、ドラコを睨みつけた。

 

「ワシは貴様の親父をよく知っておる!親父に伝えておけ、ムーディが貴様から目を離さないとな!」

 

 ムーディは捨て台詞を吐くと、足を引きずりながらその場から出ていった。

 

 マクゴナガルはその後姿を心配そうに見送った後、こちらに目線を向けた。

 

「ミス・セレッサ!貴女も何をしているのです!教師にそのような武器を向けるなど…」

 

「向こうが先に仕掛けたのよ」

 

「しかし…」

 

 マクゴナガルはそこまで言うと、言葉に詰まってしまう。

 

「話はもう終わりね。なら失礼するわよ」

 

 マクゴナガルに背を向け数歩程歩き振り返る。

 

「あぁ、そうそう、これ後は任せたわよ」

 

 私は胸元からドラコを取り出すと、マクゴナガルに投げる。

 

「ぎゅ!」

 

 ドラコは残念そうな悲鳴を上げると、マクゴナガルの胸に着地した。

 

「ぎゅううう!」

 

 ドラコは何やら悲鳴のような声を上げ、マクゴナガルから飛び降りる。

 

 そんな光景を見ていたハリー達は…

 

「あれは流石に…」

 

「羨ましいとは思わないよ」

 

「なんですか!貴方達!減点しますよ!」

 

 私はそんな惨状を背後に聞きながら、その場を後にした。

 




明日の更新は休むかもしれません。

それではまた次回をお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

禁じられた魔法

最近、バーチャルユーチューバーと言うのを見始めました。

結構面白いですね。


  数日後、私は昼食を済ませ、次の授業…闇の魔術に対する防衛術の教室へと向かった。

 

 授業が始まるにはまだ時間があると言うのに、すでに多くの生徒が着席し、授業が始まるのを今か今かと待ち侘びている。

 

 私達は適当に空いている席へと腰かける。

 しばらくすると、授業開始寸前にハーマイオニーが教室に駆け込んで来た。

 

 そして私達を見つけると、私の隣の席に腰かけた。

 

「遅くなっちゃったわ。私実はさっきまで…」

 

「図書館に居たんでしょ? 事前に調べるのも良いけど、遅れたら元も子もないわよ」

 

「わかっているわよ…」

 

 ハーマイオニーは何処か不機嫌そうになるが、足を引きずる様な独特な足音が聞こえて来ると、多くの生徒に緊張が走った。

 

 

 すると扉が開かれ、ムーディが現れた。

 

 ムーディが黒板にチョークで自分の名前を書きながら、その義眼をギョロギョロと動かした。

 

「アラスター・ムーディだ! 貴様らに闇の魔術に対する防衛術を教えてやる男だ! なんでそんな物を机の上に置いている! そんな物は片付けろ!」

 

 教卓に付いた途端にムーディが大声を上げた。

 その声に多くの生徒が驚き、動きが止まっている。

 

「教科書だ! そんな物は必要ない!」

 

「でも! 先生…教科書は…」

 

 いつもの様にハーマイオニーが出しゃばると、ムーディがその言葉を遮る様に口を開いた。

 

「なんだ貴様は! 貴様は敵が魔法を放つ時に悠長に教科書を読んでいるつもりか! あぁ? それで対抗出来ると言うのか! そいつは凄いな! 是非とも闇祓いに欲しいな! 野垂れ死ななければな!」

 

 ムーディの気迫に圧倒されたのか、ハーマイオニーが黙り込んでしまう。

 

 それを見た生徒たちは、教科書を鞄に仕舞い込んだ。

 

「良し! それではさっそく始めるぞ! ワシがまず貴様らに教えるのは、魔法使いの戦い方だ! 何も知らずに戦うのは無謀だが、知識だけあっても戦い方を知らなければ意味が無い! だからワシが教えてやる! 闇の魔術とは一体何なのかを!」

 

 頭のネジがぶっ飛んでいるかの様な喋り方で、ムーディは授業を進めていく。

 

「まずは手始めだ…この魔法界には禁じられている魔法が存在する。それを知っている者は居るか!」

 

 すると、ハーマイオニー真っ直ぐ手を上げる、相変わらずだ。

 

「そうか貴様は分かるか小娘よ! では答えてみろ!」

 

「はい…まずは服従の呪文です」

 

 ハーマイオニーが少し怯えながら答えると、ムーディは満足気な笑みを浮かべた。

 

「その通りだ! この呪文で闇の帝王は多くの魔法使いを服従させたと聞く!」

 

 ムーディはそう言うと、杖を引き抜く。それを見た生徒達が息を呑んだ。

 そんな事は御構い無しに、机から1匹の蜘蛛が入った瓶を取り出した。

 

「今回はこの蜘蛛に対して呪文をかけよう! だが人には使うなよ! 使えばそれだけでアズカバン行きだ! そんな風にはなるなよ!」

 

 ムーディは瓶の蓋を取り、蜘蛛を手の平に乗せると、さっそく魔法をかけた。

 

「インペリオ!」

 

 魔法を受けた蜘蛛はムーディの手の平の上で踊り始めた。

 

 時には大ジャンプし、ロンの頭に飛び乗ると、タップダンスを始めた。

 

「どぉだ! 芸達者なもんだろう! 次は何をさせようか!」

 

 ロンの頭から蜘蛛を手元に戻すと、ムーディは楽しそうに口を開いた。

 

「どうだ? 面白いと思うか?」

 

 生徒たちは先程のロンの喚きっぷりを見て、未だに笑っている生徒もいる。

 

「だが、ワシが貴様らに同じ事をしても、面白いと思うか?」

 

 ムーディが声のトーンを下げ、そう一言、口にすると、生徒達の顔から笑顔が消えた。

 

「今コイツはワシの完全な支配下に居る。ワシはコイツを思いのままに出来る。窓から飛べと命じれば飛ぶだろう。水で溺れ死ねと命じればそうするだろう…そこの小僧…貴様を襲えと命じればそうするだろう」

 

 ムーディがロンを指差すと、ロンはあまりの恐怖からか怯えて声も出ない状況だった。

 

「先程も話したが、この服従の呪文で支配され、誰かの意思で動かされているのか、それとも自分の意志で動いているのか、区別するのは魔法省でも一苦労だった」

 

 蜘蛛は、ムーディの手の平で丸くなると、そのまま動かなくなった。

 

「服従の呪文は抗う事が出来る。この先の授業ではそれを教えてやろう。しかしこれには莫大な精神力が必要になる。誰でも出来るというものでは無かろう」

 

 そう言うと、ムーディがハーマイオニーを指差した。

 

「小娘、次の呪文を答えてみろ」

 

「つ…次は磔の呪文です…」

 

「そうだ、次は磔の呪文だ。こいつがどんな物か分かり易くするため、少しコイツをデカくしてやろう」

 

 ムーディが杖を振ると、その手の平の上で蜘蛛が膨れ上がる。

 

「では行くぞ…クルーシオ!」

 

 ムーディが呪文を唱えると同時に、蜘蛛が身を(よじ)り、もがき苦しみ始めた。

 時には、蜘蛛とは思えない様な金切り声を上げている。

 

「もうやめて! ネビルが苦しんでいるわ!」

 

 ハーマイオニーが叫び、多くの生徒がネビルの方に目を向けた。

 

 ネビルは拳を強く握り、恐怖と怒りに満ちた目を大きく見開いている。

 

 ムーディは蜘蛛を元の大きさに戻すと、瓶の中へと仕舞い込んだ。

 

「磔の呪文…それは相手に想像を絶する苦痛を与えるものだ。この魔法があれば、拷問の際、歯を抜く事も、目をくり抜く事も無い。かつて多く使われた魔法だ。さて…次で最後だ…小娘答えろ」

 

「次は………」

 

 ハーマイオニーは答えたくないのか、口ごもってしまった。

 

「答えられぬか…まぁよい。最後は死の呪文だ。コイツは最低最悪な魔法だ」

 

 ムーディは瓶の中の蜘蛛に向けて杖を構えた。

 

「アバダケダブラ!」

 

 ムーディの杖の先から緑の閃光が走り、蜘蛛に直撃すると、蜘蛛はピクリとも動かなくなってしまった。

 

「あまり見ていて気持ちの良いものではないな。だがそれほどコイツは危険な魔法だ。反対呪文が存在しないのだ。それはつまり防ぐ方法が無いという事だ。この魔法を受けて生き残った者はただ1人…その者は…」

 

 

 その場の全員の視線がハリーに刺さる。

 ハリーは俯き、その視線に答えようとはしなかった。

 

 

「いいか! 以上が闇の呪文だ! 相手を惑わし、苦しめ、死を与える! 身を守る為にはこれがどれほど恐ろしい呪文なのか、理解しなければならない! 油断大敵だ!」

 

 すると、ムーディが闇の呪文の詳細を黒板に書くと、書き写すように指示を出した。

 

 その場で生徒達が、恐怖に震えながら書き写していった。

 

 

 

 その夜、ハーマイオニーがまた何か厄介事を起こしたようだ。

 

 ハリーとロンはそんなハーマイオニーを横目に見ながら頭を抱えていた。

 

 渦中のハーマイオニーはさっそく私に標的を定めたのか、変な箱と、羊皮紙を片手に満面の笑みでこちらに近付いて来た。

 

「ベヨネッタ。貴女もこの活動に参加しない?」

 

 そう言うと、箱から『S・P・E・W』と書かれたピンバッジを1つ取り出した。

 

「スピュー…まさに反吐が出るってわけね」

 

「失礼な事言うわね。S・P・E・W。『Society for Promotion of Elfish Welfare』、つまり屋敷しもべ妖精福祉振興協会よ」

 

 そう言うと、羊皮紙を広げ、ペンを取り出した。

 

「ここにサインしてね」

 

「はぁ…何かの新興宗教かしら? 初耳よ」

 

「そんなものじゃないわよ! これは私が今始めた、立派な行動よ!」

 

 そう言うハーマイオニーは、無い胸を張り、ドヤ顔を決めている。

 

「ところで、メンバーは誰が居るんだい?」

 

「そうね、この場の全員が入れば会員数は4人になるわね」

 

「つまりは0かよ…」

 

「0じゃないわよ! 私が居るから1人は確定よ!」

 

「いっその事555番くらいから始めたらどうかな? その方が大人数に見えるよ」

 

 ハリーのブラックジョークが炸裂するがハーマイオニーはそれには気付いていないようだ。

 

「私…図書館で調べて気が付いたの…屋敷しもべの奴隷制度は何世紀も前から続いているのよ。これを当たり前だと思い込んで今まで誰も行動を起さなかったのが不思議だわ!」

 

 ハーマイオニーは最初はゆっくり確実に、後半に行くに連れ声の抑揚をつけ声高らかな名演説を行った。

 

 そんな中、ロンが異論を唱えた。

 

「良いかい…ハーマイオニー…あいつらは自分から好き好んで奴隷をやっているんだよ。奴隷で居ることが幸せなんだよ!」

 

「それはそういう風に洗脳がされているからよ! だから私達が行動を起こさなくてはならないのよ!」

 

 ハーマイオニーは声高らかに宣言する。それにしても、流石にここまで思い込みが激しいと感心してしまう。

 

「最初の目標は、屋敷しもべの正当な報酬と労働条件の確保ね。そして最終的には屋敷しもべの権利を獲得するのよ! そうすればこの悪しき歴史にも終止符が打てるはずよ!」

 

「立派な試みね。それで?」

 

「そうね、まずはメンバーを集めましょう。そして入会費として2シックルでこのバッジを買ってもらうのよ。そしてその売上金を活動費にするのよ」

 

「それは良かったわね」

 

「そうでしょ! じゃあさっそく!」

 

 そう言うとハーマイオニーは私の眼前に手を差し出した。

 

「………何かしらこの手は?」

 

「入会費の2シックルよ。バッジは後で渡すわ」

 

「あんな悪趣味なバッジ欲しくないわ」

 

 私はそう言うと、その場から立ち上がり、談話室の扉に手をかけた。

 

「ちょ…ちょっと待ちなさいよ! 入会費を払わないの?」

 

「払う必要があるのかしら?」

 

「大有りよ! 貴女はこのまま屋敷しもべを見捨てるつもり?」

 

 ハーマイオニーは自分の発言こそが正しいと信じ切っているのか、大声を上げる。

 

「見捨てるも何も、好き好んでやっている奴らじゃない。私には無関係よ」

 

 

「だからそれは洗脳されているのよ! それにこの学校の食事は総て屋敷しもべが作ってくれているのよ! 私達だって無関係じゃないのよ!」

 

 ハーマイオニーは怒りの籠った怒声を上げ、ハリー達は驚いた表情をしている。

 

「ハーマイオニー…アンタこそ洗脳されているんじゃないの?」

 

「なんですって!」

 

 ハーマイオニーが大声を上げると、ハリーがなだめる様に口を開いた。

 

「まぁ落ち着いてよ。そしてよく考えてみてよ。もし僕たちが君が勉強ばっかりしているから、それは不当だと言ってやめさせたらどうする?」

 

「不当なんかじゃないわ! 私は勉強が好きだから、勉強しているだけよ」

 

「そうかもしれないわね。私からすれば、洗脳されているんじゃないかって思うわよ」

 

「そんな…私…」

 

 ハーマイオニーはすっかり意気消沈してしまったようで、椅子に座り込み、俯いている。

 まぁ、少しは考えを改めるだろう。




いかかだったでしょうか。

今回はあまりベヨネッタが表に出てませんね。

まぁ、日常回という事で…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

三校集結

そろそろ、平和も終わるかな?


 数週間後、詰め込み授業にも皆が慣れ始める。

 

 そんな中、闇の魔術に対する防衛術の授業でムーディがとてつもない事を言い出した。

 

 何と、ムーディ自身が、生徒達に服従の呪文をかけると言い始めたのだ。

 

 何処か楽しんでいる様な表情のムーディは、杖を引き抜くと、教室の中央に特別にスペースを作った。

 そんな中、ハーマイオニーは少し戸惑いながら口を開いた。

 

「先生…ですがその呪文は違法だとこの前…もし人に向けて使ったらアズカバンに…」

 

「その点については安心しろ、ダンブルドアから許可は貰っている。まぁ、どうしても受けたくないと言う者が居るならば、特別に免除してやる」

 

 ムーディに言い返されたハーマイオニーは小言を言いながらも席へと座った。

 

 その後、ムーディは生徒を1人ずつ呼び出すと服従の呪文をかけ始めた。

 

 服従の呪文をかけられた生徒は、突然踊りだしたり、走り回ったりといった奇行を行っている。

 

 そして、ムーディが呪文を終わらせ、ようやく我に返ったようだ。

 

「次は貴様だ小娘! さっさと前に出ろ!」

 

 前回、私に負けたのが癪に障ったのか、ムーディは私に杖を突き付けながら指名した。

 

 私は、スペースの中央に立つと、両手を腰につける。

 

「余裕そのものだな…だがそれは何時まで持つかな! インペリオ!」

 

 ムーディが呪文を放つと、私の体が少し暖かくなるような感覚に陥った。心地よい暖かさだ。

 

 確かに、普通の人間ならば、この暖かさと幸福感で何でも言う事を聞いてしまうだろう。だが、所詮はその程度だ。

 

 私は肩を竦めながら首を振る事で呪文が効いていない事をアピールする。

 

「くそ…インペリオ!」

 

 再び呪文が直撃するが先程と何ら変わらない。

 

「どうしたのよ? マッサージにもならないわよ」

 

 私は笑みを浮かべると、ムーディはつまらなそうに杖を仕舞い込んだ。

 

「信じられんな…呪文がここまで効かないとは…」

 

 その後、ムーディは他の生徒にも同様に呪文をかけていく。

 

 呪文にかかった生徒は、ムーディの言われるがまま踊り狂ったりしていた。

 

 

 結局、最終的に服従の呪文に対抗できたのは、私とハリーだけだった。

 

 

 

 数か月後

 今日はボーバトンとダームストラングの生徒を迎え入れるべく城の前に集合させられた。

 

 生徒をはじめ、教職員も他校の生徒がどの様にこの城まで来るのか楽しみにしている様だ。

 

 その時、ある生徒が空を指差した。

 

 その先には天を掛ける12頭の馬が巨大な馬車を引いているのが目に入った。

 

 その馬車は城の前に轟音と共に着地する。

 

 中からはハグリッドと変わらない程の身の丈の女が出てきた。

 

「これはこれは、マダム・マクシーム。ようこそホグワーツへ」

 

 ダンブルドアが手を差し出すと、巨大な女…マクシームが手を握り返し、2人は握手をした。

 

「ダンブ・ドールお元気そうで何よりー」

 

「おかげ様で問題なしですぞ」

 

「わたくーしのせいとです」

 

 

 マクシームはフランス訛りで後ろに居る自校の生徒達の紹介を始めた。

 

 巨大な馬車からは数十名の男女の学生が姿を現し、寒そうに震えていた。

 

 上着すら羽織らないとは…流石にこの時期にその薄着は厳しいだろうに。

 

「カルカロフはまだーですーか?」

 

「まだ見えてはおらぬ様じゃ、このまま外でお出迎えなさるかの? それとも城でお待ちになるかの?」

 

「なかでまちーます」

 

 マクシームが即答する。

 

「そうでーす、このウーマは…」

 

「わが校の魔法生物飼育学の担当の先生が喜んで世話をするはずじゃ」

 

 ダンブルドアの言葉を聞き、マクシームは安心したのか、震えている生徒を引き連れ城へと入って行った。

 

 しばらくすると、湖の方から水飛沫が飛び散る音が聞こえてきた。

 

 湖の方に目を向けると、水中から巨大な難破船が引き揚げられる様に浮上してきた。

 

 完全に浮上し終えると、甲板から一人の男が飛び降りてきた。

 

 その男は分厚い毛皮のマントを羽織り、まるで軍人の様な出で立ちだった。

 

「おお! ダンブルドア! 久しいな、元気だったか!」

 

「相変わらずじゃよ、カルカロフ校長」

 

 2人は先程同様、固い握手を交わした。

 

 その後カルカロフと同じようなコートに身を包んだ、ダームストラングの生徒達が甲板から飛び降り地面に着地すると、軍隊パレードの様に綺麗に整列し、隊列を組みホグワーツへと入って行った。

 

 見届けた後、私達はマクゴナガルの指示で大広間へと移動させられた。

 

 

 大広間に入ると、他校の生徒の姿は見えなかった。何処かで待機しているのだろうか?

 

 

 席に着き、少し待っていると、壇上にダンブルドアが登壇し、演説を始めた。

 

 

「諸君、本日我々は新たな友をこの城に迎え入れようと思う。彼等はこの1年間留学生として学校生活をしてもらう事になる。まだこの城に慣れておらん…故に諸君らには彼等を助けてやってほしい」

 

 いつもと違い、今回はかなり真面目な演説を行っているな。

 

「三大魔法学校対抗試合とは言え、他国の者と関わり合いを持つという事はとても貴重な経験じゃろう。この1年間は、彼等と親睦を深め、素晴らしい友情を築いてほしい」

 

 ダンブルドアの長い演説が終わると、いつもの様に拍手が響く。

 

「それでは諸君、今宵は特別に、彼等を呼び入れるとしよう」

 

 

 ダンブルドアの一声と同時に、大広間の扉が開かれ、水色のスーツを着込んだボーバトンの生徒達が、ワルツの演奏に合わせダンスを踊りながら入場してきた。

 

「どうやら、パフォーマンスを披露してくれるようじゃの。フランスの魔法学校、『ボーバトン魔法魔術アカデミー』の生徒と、フランス魔法生物学の権威である、マダム・マクシームじゃ」

 

 ダンブルドアの紹介にボーバトン校の生徒と、マクシームは手を振りながらレイブンクローの席へと座った。

 

「次はドイツの『ダームストラング専門学校』の生徒達と、校長のイゴール・カルカロフじゃ」

 

 

 生徒達の拍手が鳴り響くと同時に、先程までのワルツが転調し、今度は重圧なマーチへと変わった。

 

 開かれた扉から、ダームストラング生が軍靴の音を響かせながら、長い杖を一糸乱れぬ動作で地面を叩き隊列を組み入場してきた。

 

「く! ク! クラムか! ハリー! クラムだぜ!」

 

 派手な演出と共に炎の中から1人の青年が現れると同時に、ロンを始め、多くの生徒のテンションが最高潮を迎えた。

 

「凄い盛り上がりね、誰なのあの男?」

 

「ベヨネッタ! 君! クラムを知らないのかい! クラムは世界最高のシーカーの1人だぜ! まだ学生だったなんて…信じられないよ!」

 

「へぇ…あまり趣味じゃないわね」

 

 私の言葉に、ロンは信じられないと首を振っている。まぁ、趣味でないものは仕方がない。

 

 ロンは席を立ちあがるとクラムに必死にアピールしグリフィンドールの席に招きたい様だったが、その願いとは裏腹に、スリザリンの席へと座った。

 

「くそ! なんでスリザリンなんかに!」

 

 ロンは、分かり易く機嫌が悪くなると、悪態をついている。

 

 ダンブルドアは壇上の上で1度咳払いをすると、演説を続けた。

 

「さて…ようこそホグワーツへ、心から歓迎じゃ。本校での生活が楽しいものになってくれる事をワシは心から願っておる」

 

 ダンブルドアの演説に先程まで盛り上がっていた会場は、水を打ったように静かになり、皆演説に耳を傾けている。

 

「あまり長い演説では興が覚めるじゃろう。それでは大いに飲み、喰らい、楽しんでくだされ!」

 

 その言葉と同時に、机の上に様々な料理が並べられていく。

 

 普段の英国料理のほかに、フランス料理や、ドイツ料理まで並べられている。

 

 

 ロンは初めて見る料理に興味津々な様で、ハーマイオニーにあれこれ聞いている。

 

「ねぇねぇ! これ何? この魚がいっぱい入っているやつ!」

 

「ブイヤベースね」

 

「え? 今クシャミした?」

 

「フランス語よ、この前食べたたけど美味しかったわ」

 

 そんな微笑ましい光景を見ながら、私はブルスケッタに手を付ける事にした。

 

 

 しばらく食事を楽しんでいると、後方からフランス訛りの英語が聞こえてきた。

 

「ここが、クリフィンオールでーすか?」

 

 振り返ると、そこにはボーバトン生と思われる女子生徒が立っていた。

 

 ロンとハリーはその生徒に目を奪われているようで、ハーマイオニーは呆れた様に溜め息を吐いている。

 

「どーかしまーした?」

 

『別に、いつもの事よ。気にする必要ないわよ』

 

『あら、貴女フランス語が話せるのね』

 

「ベヨネッタ、貴女フランス語喋れるの?」

 

 女子生徒とハーマイオニーが驚いたように同時に声を上げた。

 

「字幕よ」

 

「え? ベヨネッタ…何の話?」

 

 ハーマイオニーは理解しきれないといった表情で頭を抱えている。

 

『ベヨネッタ? 銃剣? 貴女が?』

 

『最近じゃそんな風に呼ばれる事もあるわ』

 

『そうなのね、まぁ良いわ』

 

 女子生徒はそのまま、その場から離れ別の生徒の所へと歩いて行った。その後姿をロンはずっと見つめていた。

 

 

 パーティーも終わりを迎えると、ダンブルドアが再び登壇し三大魔法学校対抗試合に関する説明を始めた。

 

「時は来た。これより三大魔法学校対抗試合を始めるにあたって2、3説明をしておこうかの」

 

 そう言うと、ダンブルドアは大会を開催するにおいての協力者の紹介を行った。そして大会は『バーテミウス・クラウチ』『ルード・バグマン』と学校長の5人が審査するという話だ。

 

 

 

「さて、ここで重要な選手の選考方法じゃが…今回は公平を規すべく、ある物を使おうと思う…ミスター・フィルチ、箱をこちらへ」

 

 すると、フィルチが重厚な木箱をダンブルドアに手渡した。

 

「代表選手がどの様な競技を行うかはすでに決まっておる。課題は3つじゃ。この3つの課題により代表者は様々な観点から試される事になるじゃろう…」

 

 ダンブルドアは箱をテーブルの上に置いた。

 

「皆も知っておるじゃろうが、今回の大会で選ばれる代表者は3人、各校1人ずつじゃ。選手は課題をどの様に攻略するかを採点され、合計得点の最も高い者が優勝杯と1000ガリオンを獲得するのじゃ。そして代表選手を選ぶのは…この炎のゴブレットじゃ!」

 

 ダンブルドアの声と同時に、木箱から青白い炎が立ち上がり、中から青白い炎を身にまとったゴブレットが姿を現した。

 

 

 

「代表選手に名乗りを上げる者は、羊皮紙に名前を書きこのゴブレットの中に24時間以内に入れるのじゃ。明日の夜…ハロウィーンの夜にゴブレットが代表選手を選び出すじゃろう…じゃが、炎のゴブレットに名前を入れればそれは魔法契約となり、取り消すことはできなくなる。悪戯半分でその名を入れぬように。それとこのゴブレットは玄関ホールに設置するが、その周囲にはワシが年齢線を引く。17歳に満たない者は何者であろうとこの線を越える事は出来ん。それを理解してもらいたい」

 

 

 

 ダンブルドアはそう言うと同時に私の方を睨みつけて来る。

 

 なるほど、どう足搔いても私に参加して欲しくないようだ。

 

 ならばその期待に答えなければ……。

 

 

 パーティーはその盛大な盛り上がりが嘘であったかの様に終わりを告げ、私達は談話室へと戻っていく。

 

 グリフィンドールの談話室では、誰が代表選手になるか、どうやったら年齢線を攻略できるか、ポリジュースを使う、上級生に依頼する等の会話が飛び交っている。

 

「誰が代表になるかな?」

 

「さぁ? でも僕が17歳以上だったら立候補していたよ」

 

「ロンが? だったら僕も代表選手にエントリーするよ」

 

 ハリー達は相変わらず他愛無い会話をしている。

 

「ねぇ、ベヨネッタ。君なら優勝できるんじゃない?」

 

「きっと君なら簡単だろうな、17歳以上だったら良かったのにね」

 

 ロン達はそう言うと笑っている。

 

「簡単な事よ、ダンブルドアは私に参加して欲しくは無いみたいね」

 

「だから17歳以上にしたのかな?」

 

「ロン、いくら何でもそれは考えすぎじゃないかな?」

 

 だが恐らくそれは間違ってはいない。

 

 今頃ダンブルドアは自分の考えた妙案(愚策)に酔いしれているだろう。

 

 それでは、その愚策(妙案)を打ち砕くとしよう。

 

 




次回はついに、ベヨネッタが年齢線に挑みます。

果たして超えることはできるのでしょうか!


他国の訛りがいまいち理解できてないです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

代表選手

今回で代表選手が決まります。




 次の日

 朝から大広間は今まで見た事の無いほどの人だかりが出来ていた。

 皆、誰がゴブレットに投票するのか目にしたいのだろう。

 

 ゴブレットに名前を書いた紙が入る度、大広間からは歓声が上がる。

 

 しかしそんな光景も、昼を過ぎた頃には人々の姿は疎らになり始めた。

 

 そんな中ウィーズリーの双子が何やら薬の入った小瓶を片手に、もう片方には羊皮紙を握り絞めゴブレットを眺めている。

 

 2人は小瓶を打ち合わせ、乾杯すると一気に飲み干す。

 すると、2人の姿はどんどんと年齢を重ね、成人男性になった。

 

「「よし! 行くぞ!!」」

 

 双子は声を合わせ、同時に年齢線へと飛び出した。

 

「「うわあああああ!!!」」

 

 年齢線に1歩足を踏み入れた瞬間、2人の体は弾き飛ばされ、はるか後方へと吹き飛んだ。

 

「おい! 兄貴!!」

 

 ロンがそんな2人に駆け寄り、顔を見た瞬間大笑いをしている。

 

 

 吹き飛ばされた当人達はその状況を全くと言っていいほど理解していないようだ。

 

 それもそうだろう。なぜなら2人は吹き飛ばされると同時に、70代ほどの老人となっていたのだから。

 

 まぁ、ダンブルドアの策はそれなりに機能している様だ。

 

 さて、私は何時頃投票に向かおうか………。

 

 

 夕食も終わり夜も更けた頃、私は1人大広間へとやって来た。

 

 流石に大勢の前で投票すればそれこそ大騒ぎになり、ダンブルドアがやり直しを申し出るだろう。

 

 大広間に人気は無く、青白い炎を放つ薄気味悪いゴブレットが鎮座しているだけだった。

 

 肌寒い空気が周囲を包む。すると、背後から聞き覚えのある声が響いた。

 

「セレッサ…まさか…君…」

 

 振り向くとそこには、何処か不安そうな表情を浮かべたドラコの姿があった。

 

「あら、ドラコじゃない。こんな所で奇遇ね」

 

「君が大広間に入るのが見えたからね…」

 

 

 そう言うと、私の横へと歩みより、共にゴブレットを見据える。

 

 しばらくの間、静寂がその場を制す。

 しかし、ドラコがその静寂を破いた。

 

「立候補するのかい…その、代表選手に…」

 

「もちろんよ」

 

「そうか…君ならそう言うと思ったよ」

 

 私は1歩、また1歩とゴブレットへと歩み寄る。

 そして、ついに私は年齢線を踏み越える。

 

 ドラコはその様子を、驚く事無く、当たり前の出来事の様に眺めている。

 

 年齢線を越えた私は、ゴブレットに悠然と近付き、その炎の中に、私の名を書いた羊皮紙を投げ込んだ。

 

 炎は羊皮紙を喰らうとその炎を一瞬だけ激しく燃やした。

 

 私はその炎を背後に感じながら、年齢線の外へと出る。

 

 そんな私を、ドラコの拍手が迎え入れた。

 

「おめでとう…」

 

「まだ、私だと決まった訳じゃないわ」

 

「そうだね…」

 

 ドラコは一瞬、複雑な表情を浮かべた後、踵を返し大広間の扉へと歩きだした。

 

「アンタは入れないのかしら?」

 

 私の声に、ドラコはその歩みを止め、私に振り返る。

 

「僕は…僕は君を…いや…君の様に強くは無いから…」

 

 ドラコはどこか悲しそうな表情を浮かべながら、手にしていた羊皮紙を握りつぶす。

 

「だから…応援するよ…心から…」

 

 ドラコは思い詰めた様な表情を浮かべ、顔を伏せている。

 

「はぁ…」

 

 私は、ゆっくりとドラコを横切り、大広間の扉へと近付く。

 

「好きにしなさい。ドラコ」

 

「あぁ…ありがとう」

 

 

 炎のゴブレットだけの大広間にドラコの声が響く。

 

 

 

 

 ハロウィーンの夜。

 

 私達は、大広間で食事を楽しんでいる。

 

 炎のゴブレットはダンブルドアの前に鎮座していた。

 

「誰が代表かな?」

 

 ハリーは代表選手の発表を今か今かと待ちわびている様で、そわそわしている。

 

「ついにこの時が来た。ゴブレットが代表選手の選考を終えた様じゃ。名前を呼ばれた者は前に出るのじゃ」

 

 

 ダンブルドアが杖を一振りすると、大広間に置かれている蠟燭の灯が消え、ゴブレットの炎が周囲を照らし、その場の全員の視線がゴブレットに集まる。

 

 次の瞬間、ゴブレットが紅く燃え上がると、1枚の羊皮紙を吐き出した。

 

 宙をヒラヒラと舞う羊皮紙をダンブルドアがつかみ取る。

 

「ダームストラングの代表は…ビクトール・クラム!」

 

 次の瞬間、会場が歓声に包まれた。

 

 クィディッチの有名選手という事で、ファンが多いのだろう。

 

 

 クラムはスリザリンの席から立ち上がると、ダンブルドアの横を抜け、隣の部屋へと消えていった。

 

 歓声が止んだ後、ゴブレットが再び燃え上がり、羊皮紙を吐き出した。

 

「ボーバトン代表は……フラー・デラクール!」

 

 再び会場が歓声に包まれた。

 

 ボーバトンの代表は、先日私と会話をした生徒だった。

 

 デラクールはレイブンクローの席を立つと、クラム同様拍手を浴びながら隣の部屋へと移動した。

 

 歓声が止み、三度ゴブレットが炎を上げ、羊皮紙を吐き出した。

 

 その途端に会場全体が緊張に包まれた。

 

 とうとう自校であるホグワーツの代表選手が決まるのだ。

 

 ダンブルドアは嬉しそうな顔で吐き出された紙を掴み声を張り上げた。

 

「我が校…ホグワーツ代表は! セドリック・ディゴリー!!」

 

 歓声が上がる。

 特にハッフルパフからは、今まで聞いた事の無いほど歓声を上げている生徒までいる。

 まぁ、あまりパッとしない寮というイメージが強いから、仕方ないのかもしれない。

 

 多くの生徒が拍手する中、セドリックは少し恥ずかしそうに立ち上がると、隣の部屋へと小走りで向かった。

 

 そんな時、視線の端のドラコと目が合った。

 

 何処か残念そうだが、安堵の表情を浮かべている。

 

「これで三校総ての選手がそろった! これよりルールの説明を………」

 

 その時、ダンブルドアの後方にあるゴブレットが再び燃え上がった。

 

 

「なんじゃと…」

 

 炎は激しさを増し、1枚の羊皮紙を吐き出した。

 

 羊皮紙をキャッチしたダンブルドアは静寂の中、呟くように読み上げた。

 

「ハリー・ポッター………ハリー・ポッター!!」

 

 その瞬間、会場に居る全員総ての視線がハリーに集まった。

 

 当人のハリーは何が起こっているのか理解していないようだった。

 

「ハリー! 来るのじゃ!」

 

 ダンブルドアが怒声を上げ、ハリーはフラフラと頼りなく席から立つと、引っ張られるように隣の部屋へと消えていった。

 

「え…えぇ、想定外の事が起こったようですが、皆さん落ち着いて!」

 

 職員席からマクゴナガルが立ち上がると、声を上げる。

 

 しかし、多くの生徒は状況を呑み込めないのか、ざわついている。

 

 そして、この惨状はさらに続くことになる。

 

 ゴブレットは再び…本日5度目の炎をまき散らした。

 

 しかし、先程とは比べ物にならない程の勢いと、天井まで届く程の火柱を上げている。

 

 

「何事…です…これは!」

 

 燃え上がる火柱を前に、マクゴナガルはその場で棒立ちになっている。

 

 そして、炎がより一層激しく燃えると同時に1枚の羊皮紙を吐き出した。

 

 その羊皮紙は、紫色の魔力を纏っている。

 

 なるほど、そういう事か。

 

 私は、席を立ちあがると、周囲の視線を浴びながら、レッドカーペットを歩くかの様に優雅に歩きながら、空を舞う羊皮紙を掴む。

 

「ミス・セレッサ! 何事です!」

 

「私への招待状よ」

 

「まさか…」

 

 私は招待状をマクゴナガルに見せつけると信じられないと言った様子で羊皮紙に目を落としている。

 

「セレッサ…」

 

 マクゴナガルは誰に語り掛ける訳でも無く、呟いた。

 

 周囲の生徒は、嫉妬や怒り、驚きの表情で私を見据える。

 

 そんな中、ドラコだけは、納得したような表情をしていた。

 

 

 

 扉に入ると、そこには魔女や魔法使いの肖像画で溢れた小さな部屋があった。向かい側では暖炉が轟々と燃えている。クラムとデラクール、セドリック、そしてハリーとダンブルドアは小さめな円卓に腰を掛けている。私もその近くへと移動する。

 

「ベヨネッタ、どうしたんだい?」

 

「セレッサ…何事じゃ…」

 

 私は、手に持った羊皮紙をひらめかせながら、ダンブルドアの前に置いた。

 

「素敵なパーティーへの招待、感謝するわ」

 

 私の言葉が理解できないのか、セドリックを始めハリーとダンブルドアは絶望した顔をしていた。

 

 文字通り言語を理解していない、クラムとデラクールは首をかしげている。

 

 

「まさか…それじゃあ君も…」

 

「えぇ、代表選手よ」

 

「どういう事じゃ…」

 

「どーいーことでーす? この人たち若すぎーです」

 

「これヴぁいったい?」

 

 その場に居たクラムとデラクールは顔を険しいものへと変えた。

 それもそうだろう。自校は1人、対するホグワーツは3人なのだから、その不満は大きい。

 

 その時、肩で息をしながらマクゴナガルが部屋に入って来た。

 

「ミネルバ…これはどういう事じゃ…ハリーだけではなくセレッサまで…」

 

「ハァ…ハァ…先程、彼女の名前がゴブレットから…」

 

「何という事じゃ…」

 

 ダンブルドアは、両手で顔を塞ぎ天を仰いでいる。

 天に縋るようになったらそれこそ終わりだろうに。

 

 

「しかし、ゴブレットから名前が出た者はこれに従わなければならない…これは魔法契約だからな…」

 バクマンだったか?

 その男は複雑そうな表情でそう語ると、部屋の扉が開かれ、クラウチ、カルカロフ、マクシーム、スネイプがぞろぞろと入って来た。

 

『マダム・マクシーム! セドリック以外にこの2人も参加すると言っています! これはどういう事です!』

 

「ダンブリ・ドール! これはどういうことでーす?」

 

「私も説明が欲しいな」

 

 マクシームとカルカロフの2人に詰め寄られダンブルドアは意気消沈といった感じだった。

 

「ホグワーツは3人、こちらとそちらは1人ずつ。開催校は人数制限が無いという話なのですかな? それは初耳ですなぁ」

 

「はぁ…」

 

 ダンブルドアは溜息を吐くと、私達に近付き、静かに声を上げた。

 

「ハリー…お主はゴブレットに名前を入れたのか?」

 

「いいえ!」

 

 ハリーは身の潔白を証明するべく声を荒げる。

 何処と無くシリウスに似ているな。

 

「そうか…セレッサ…お主はどうじゃ」

 

 

 ダンブルドアは私を覗き込むように目線を合わせてくる。

 私は人差し指で眼鏡の端を上げると、正直に答える。

 

「えぇ、入れたわよ」

 

「なんじゃと…」

 

 信じられないといった表情のダンブルドア、ふら付きながら、近くのソファーに腰かけた。

 

「どういう事じゃ…年齢線は越えられない筈…」

 

「あれくらい有って無いようなものよ」

 

 私がそう言うと、その場の全員が息を呑んだ。

 

 なにせ、今世紀最強と呼ばれたダンブルドアの魔法を突破したのだからその反応も当然か。

 

 もっとも、私は17歳以上なのだから何の問題も無いのだが。

 

「何てことじゃ…まったく…予想外じゃ…ハリー…君は一体どうやったのじゃ?」

 

「僕はやっていません!」

 

 ハリーは否定するが、その場に居る全員が、疑いの目を向けている。

 

「ヴぉういいです」

 

 突如、クラムが声を上げた。

 

「相手が何人だろうとヴぉくが勝ちます」

 

「そのとーりですー、相手が誰だろうーとわたーしは負けませーん」

 

 2人は自信に満ちた表情で立ち上がる。

 

「そうですね…相手が下級生だからと言って僕も手を抜くつもりはありません」

 

 セドリックもその場で立ち上がり、覚悟を決めたようだ。

 

「あら、楽しい事になりそうね。早く始めましょ」

 

 私が急かすと、ハリーはどうにでもなれといった表情で立ち上がる。

 

「皆…良いのじゃな…」

 

「えぇ、問題無いわよ」

 

「では、開催と行きましょうか」

 バグマンは楽しそうに語った。

 

 

「では最初の課題の説明だ」

 

 クラウチは、声を上げ説明を始めた。

 

「最初の課題は君たちの勇気を試すものだ。どの様な内容なのかは教えるつもりは無い。教師陣に援助を頼むことも禁ずる」

 

 私は周囲を見回すが、マクゴナガルを始め、全員が厳しい顔で私を見ている。

 

 まぁ、援助など必要はないのだが。

 

 

「未知のものに遭遇したときの勇気は、魔法使いにとって非常に重要な資質である…非常に重要だ。最初の競技は11月24日。全生徒、審査員の前で行われる。選手は杖だけを武器として最初の課題に立ち向かう。第一の課題が終了の後、第二の課題の情報を与えよう。試合は過酷で、また時間のかかるものであるため、選手たちは期末テストを免除される」

 

 

 説明が終わると、他校の代表選手たちは、自校の校長に連れられ退室していった。

 

 




まぁ、予想通りベヨネッタは代表選手に選ばれました。

ダンブルドアの貼った年齢線は17歳以上が条件ですからね。


たって、ベヨネッタの年齢は………





おや、外が騒がしいな。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

杖調べ

今回は第一課題開始直前までです。




 

 私達も退出し、グリフィンドールの談話室が近くなって来た時、ハリーは何か思い詰めた様に話しかけてきた。

 

「ベヨネッタ…僕は名前入れてないんだ。それなのにどうして選手に選ばれたのか…分からないんだ」

 

「そうなの? 少し意外ね」

 

「何か心当たりない? 誰か入れているところを見たとか…」

 

「残念ね、私が入れる所ならドラコが見ていたくらいよ」

 

「あいつが? なんでまた…」

 

「偶然会っただけよ」

 

「そうなんだ…」

 

 私達は肖像画を通り談話室に入ると、次の瞬間には爆音の様な拍手が談話室に木霊した。

 

「すごいぞ! ベヨネッタ! ハリー! 君達ならやると思ったよ!」

 

「グリフィンドールから2人もだぜ、すごいぞ本当に!」

 

 入り口に入るなり、多くの生徒が声を上げた。

 

 その中、ウィーズリーの双子が大声を上げた。

 

「全員注目だ! さて、これから代表選手に選ばれた2人にインタビューをしたいと思います!」

 

 杖をマイクに見立て私達に感想を聞き始めた。

 

「まずはハリーからだ、今の気持ちはどうだい?」

 

「えっと…僕…何が何だか…よくわからないんだ」

 

「なるほど、理解が追い付かない程嬉しいと…次はベヨネッタだ」

 

 ハリーと同じような質問をした後、私に杖を向けてきた。

 

「別にどうって事無いわ、良い退屈凌ぎにはなりそうね」

 

「流石は言う事が違うね! とってもクールだ!」

 

 双子のインタビューに会場のボルテージも上がっていく。

 

 

「さて、次の質問だ。これは多分皆が気にしている事だろうけど、どうやって立候補したんだ? 年齢線は? 俺達なんか髭を生やされた上に吹き飛ばされたんだぜ」

 

 2人のやり取りに談話室は笑いの渦に飲まれた。

 

「じゃあまずベヨネッタ、君に聞いてみよう」

 

 

 そんな中、再び杖を私に向けてきた。

 

「別に大した事なんてしていないわ。ダンブルドアがなんか小細工していたようだけど、意味なんて無かったわよ」

 

 談話室からは歓声が上がる。

 

「じゃあ、あれかい? 君はあの、僕等を吹き飛ばしたダンブルドアの年齢線を何の苦労も無く越えたって言うのかい? そして正々堂々ゴブレットに名前を入れたと?」

 

「そうなるわね」

 

 再び会場内に『おぉー』と言う歓声が上がる。

 

「すごいな! 流石だ!」

 

「セドリックには悪いけど、グリフィンドールが優勝だな!」

 

「ビューティフル!!!」

 

 談話室は再び歓喜の渦に包まれる。

 

「さあさあ! 皆様静粛に! 今度はハリーに聞いてみよう! ハリー、どうやって投票したんだい? 君が年齢線を突破した方法を教えてくれるかい?」

 

「僕は…僕は入れてないんだ」

 

「え?」

 

 ハリーの回答に談話室内がざわつき始める。

 

「えーっと…ハリー? 俺の頭おかしくなっちゃったのかな? 今『入れてない』って言ったか?」

 

「僕、ゴブレットに名前を入れてないんだ」

 

「ちょ…ちょっと待ってくれよ…それだとなんで君の名前が出て来るんだ?」

 

「それは…僕に言われても…」

 

「おいおいおい、流石にその冗談はつまらないぜ」

 

「本当のことを言えよ! 嘘吐き!」

 

「どうせダンブルドアに頼んだんだろ! お前はお気に入りだからな!」

 

 ハリーの答えに会場内は歓声から怒声に変わった。

 

「でも本当なんだ! 本当に僕は名前を入れてないし! 年齢線を越えてもないし、越え方だってわからない!」

 

 

 ハリーのまさかの回答に、ウィーズリーの双子が肩を竦め、状況を収拾できないでいる。

 

 

「僕もう寝るよ! もうわからないし! 疲れた!」

 

 ハリーはそう叫ぶと、男子寮の方へと走り出した。

 談話室の多くの生徒は、ハリーをまるで犯罪者を見るかのような視線を送っている。

 

「あんな奴ほっとけよ!」

 

「嘘吐きめ! 素直に認めろよ!」

 

「その点ベヨネッタは正直だよな」

 

「まぁ、ハリーの件は少し置いて…さてそれでは質問を続けよう! 代表選手になろうと思った訳は?」

 

 再び私に杖が向けられ、先程までの怒声がピタリと止んだ。

 

「そうね…しいて言うならダンブルドアの期待に応えてあげただけよ」

 

「ん? それは一体どういう事だい? ダンブルドアが君に出場して欲しいならわざわざ年齢線なんて用意しないと思うけど」

 

「逆よ、ダンブルドアは私に出場して欲しく無かったのよ。そこまでするなら私も期待に応えて、参加してあげなきゃつまらないじゃない」

 

 私は1本のロリポップを取り出し、ゆっくりと口に咥える。

 その動作だけで、会場内に歓声が上がった。

 

「つまり、ダンブルドアは自分の策に溺れたという事か! コイツは驚きだ!」

 

「やっぱりクールだな!」

 

「いいぞ!」

 

「今日はマクゴナガルに怒られるまでパーティーだ!!」

 

 その後、ある者は料理を持ち込み、またある者は大量のお菓子を、そしてある者は大量の飲み物を持ち寄り、談話室のボルテージは最高潮となり、マクゴナガルが怒鳴り込んで来るまで楽しいパーティータイムとなった。

 

 

 

 

 

 代表選手の発表から数日が経った頃、学校内は私達の話題で持ちきりだった。

 

 しかし、称賛されているのは私とセドリックだけで、ハリーは陰口を言われている様だ。

 

 ドラコに至っては『汚いぞポッター』と書かれたピンバッジを配っている様らしい。

 

 そしてなぜか私は、ドラコが手を回したのか、スリザリンの生徒からも応援されている。

 まぁ、悪い気はしない。

 

「やぁ、セレッサ。調子はどうだい?」

 

 振り返るとそこには、胸にピンバッジを付けたドラコが少し嬉しそうな表情で立っていた。

 

「いつもと変わらないわよ。ハリーはだいぶ参っている様だけどね」

 

「ハハッ、自業自得さ。アイツの事だ、きっとダンブルドアに手を回してもらったんだろう。君と違ってアイツは姑息だからな」

 

「あら、ならスリザリンに入ればよかったわね」

 

「僕はあんな奴より、優秀な君の方が欲しいくらいさ」

 

「褒めても何も出ないわよ」

 

「素直な感想さ」

 

「へぇ…まぁ良いわ、アンタがハリーを嫌っているのはそのバッジを見ればよく分かるわ」

 

「これかい? 良いだろこれ、ちょっと仕掛けがあるんだ」

 

 ドラコはバッジを軽く叩くと、バッジの文字が変わり『優秀な魔女、セレッサを応援しよう』と出てきた。

 

「君の応援もできる様になっているのさ」

 

 ドラコはドヤ顔で言っているが、正直そこまで嬉しいものでは無い。

 

 私が回答に困っていると、ドラコは不安そうな表情を浮かべた。

 

「まさか…気に入らなかったかい?」

 

「さぁ?」

 

 少しとぼけると、後ろからセドリックが現れた。

 

「やぁ、これから代表選手は写真撮影があるんだ。集合だってさ」

 

「そうなの、なら向かうわ」

 

 ドラコに軽く手を振り、その場を後にした。

 

 

 会場である教室のドアを開け中に入ると、そこはかなり狭い部屋で机などが橋の隅に追いやられていた。

 

 部屋の中には代表選手全員が揃っており、バグマンと赤紫色のローブを着込んだ女と話し込んでいる。

 

「おぉ! 来たな! これで全員! 5人が揃った訳だ! なぁに、これから杖調べをするだけだ! 気を楽にしてくれ!」

 

 

「杖調べ?」

 

 ハリーが疑問を投げかけると、バグマンは自信満々に答えた。

 

「君達、代表選手の杖が万全な状態なのか調べる必要があるからな。その道のプロが今、ダンブルドアと話し込んでいる。そうだ、こちらに居るのがリータ・スキーターさんだ」

 

「ご紹介に預かった、リータ・スキーターざんす。よろしくざんす。さっそくざんすが、そちらのお嬢さん、お話を聞かせて欲しいざんすなぁ」

 

 スキーターは私を見ながら、まるでいいネタを見つけたと言わんばかりの表情をしている。

 

「良いわよ。せっかくだしインタビュー位受けてあげるわ」

 

「感謝感激ざんす! ここではあれですから…」

 

 そう言うと、スキーターは扉を開け外へ出るように促した。

 

 スキーターの後に付いて行くと、なぜか外にある小さな箒小屋の前まで連れてこられた。

 

「それでは、さっそくざんすが、いくつか質問を………」

 

「待ちなお嬢ちゃん。そいつのインタビューは俺の仕事だ」

 

 スキーターが楽しげな声を上げた時、聞き覚えのある声がその声を遮った。

 

 話を遮られたスキーターは嫌そうな分かり易い表情で声の主を睨みつけた。

 

 そこには帽子をかぶり、レザーのジャケットを羽織り、首にはマフラーを巻いている男が立っていた。

 

「ルカ、アンタなんでこんな所に居るのよ」

 

「ロダンの奴に上等なジンを渡してな、そしたらあっという間さ」

 

 ルカは、眼鏡をワザとらしく直しながら近付いて来た。

 

「なんざんすかアンタ? なんでマグルがこんな所に居るんざんしょ?」

 

「マグル? あぁ、魔法が使えない奴の事か。なぜってそりゃ、俺もインタビューしに来たからさ。ベヨネッタ、お前にな」

 

「フッ…こんな所まで追いかけて来るなんて。アンタも相当しつこいわね」

 

「このルカ様を舐めるんじゃないぜ」

 

 ルカは魔法界が楽しいのか、嬉しそうな表情を浮かべている。

 

 対するスキーターは怒りに歪んだ表情をしている。

 

「そういう訳だ。アンタは別の奴でも取材してな」

 

「それはこちらのセリフざんすよ。マグルごときが仕事を邪魔するんじゃないざんすよ」

 

 2人は互いに睨みあっている。

 まぁ、このままでは埒が明かない。

 

「ルカ、せっかくだしアンタのインタビューを受けようかしら」

 

「そう来なくっちゃ!」

 

「ちょ…ちょっと待つざんすよ! なしてこんなマグルの取材を…それにさっきは…」

 

「気が変わったのよ。それに私の知り合いだからよ。アンタはハリーの話でも聞いてきたらどうかしら?」

 

「ううぅうぅ…仕方ないざんすね…」

 

 スキーターは肩を落としながら、その場を後にした。

 

「さて、それじゃあ早速取材だ」

 

 ルカはそう言うと自前の年季の入った手帳を取り出した。

 

「まさかアンタから取材を受ける日が来るとはね」

 

「世の中、何があるか分からないって事だ」

 

 確かにそうだ。さて…そろそろ取材を受けるか。

 

 

 だがその前に、邪魔な『虫』を取り除かなくては。

 

「ルカ、アンタついてるわね」

 

「ん? 何がだよ」

 

 私は、ゆっくりとルカに近寄り、顔を近づける。

 

「お…おい! なんだよ」

 

「動くんじゃないわよ」

 

 そっと首元に手を回す。

 

「お…おい! いったい…」

 

 首に回した手を、ゆっくりとうなじに添わせ、そこに付いている虫を掴み取る。

 

「取れたわよ、うるさくて、小汚い虫が1匹ね」

 

「あ? なんだこりゃ? コガネムシか?」

 

 そこそこの大きさはあるコガネムシを摘まみ、その顔を覗き込む。

 

 コガネムシは私の指の間で、必死にもがき逃げ出そうとしている。

 

 まぁ、このコガネムシが、さっきまでいたあの女。スキーター本人である。

 

 それにしても、虫の動物もどきとは…何でもありだ。

 

 

「おいおい、ベヨネッタ。そんなにコガネムシなんて珍しいもんじゃ無いだろ。いつまで見てるんだよ」

 

 ルカは少し呆れた様に、首を横に振っている

 

「結構珍しいのよ、これ」

 

「さっさとどっかに飛ばせよ」

 

「良い子ならそうするわ。悪い虫なら………」

 

 コガネムシを挟む指に少し力を籠める。

 

 すると、コガネムシの躰が『ピシッ』っと音を立てヒビが入る。

 

 その瞬間、コガネムシとは思えない様な断末魔の叫びが上がり、さらに激しくもがき苦しんでいる。

 

「アンタはどっちかしらね?」

 

 更に指に力を込めると、コガネムシの躰から、汚らしい体液が漏れ出す。

 

 すると、先程までもがいていたコガネムシは次第に大人しくなっていく。

 

 顔を覗き込む。虫の表情は良くわからないが、どこと無く助けを懇願しているように見て取れた。

 

「そうね、今回は許してあげるわ。ただ、変な事をしようものなら次は容赦しないわよ」

 

 そう言って指から解放してやると、傷付いたコガネムシは覚束ない羽ばたきで何処かへ飛んで行った。

 

「相変わらず容赦ねぇな」

 

「分かってるでしょ、私は血も涙もないのよ」

 

 眼鏡を直しながら答えると、ルカはいつもの様に笑いながら、マフラーを巻き直している。

 

 

 その後、しばらくルカと話していると私の順番が回ってきたようだ。

 

「そういう事だから、私は行ってくるわよ」

 

「あぁ、俺はしばらく魔法界(こっち)を見てみようと思っている。お前が参加する三大魔法学校対抗試合も見学させてもらうぜ」

 

「そう」

 

 ルカに別れを告げ、私は会場へと戻った。

 

 会場に戻ると、他の代表選手達は椅子に座っている。

 

 そんな中、ハリーはスキーターの取材を受けている様だ。

 しかし私が入室した事に気が付いたのか、スキーターは顔色を変え、そそくさと会場を後にした。

 

 ハリーを始めとする代表選手達は、少し不思議そうな顔をしている。

 

 スキーターが去った会場では、5人の審査員と見覚えの在る一人の男が座っている。あれは確か…。

 

「それでは、オリバンダーさんを紹介しようかの。試合に当たって、皆の杖を見てくださる」

 

 紹介を受け、見覚えのある男…そうだ、オリバンダーだ。

 オリバンダーは軽く会釈をし、会場の真ん中へと歩を進めた。

 

「御紹介に預かりましたオリバンダーです。それではさっそく、マドモアゼル・デラクール。貴女からよろしいですか?」

 

「どーぞどーぞー」

 

 

 デラクールは、オリバンダーにやさしく杖を渡した。

 

 杖を受け取ったオリバンダーは、手の上でペンを回すように杖を遊ばせながら、まじまじと杖を見ている。

 まぁ、それにしても、細部まで装飾が施された杖だ。どちらかと言うと観賞用に近いのではないだろうか?

 

「見事な杖です。とてもお美しい」

 

 オリバンダーは丁寧にお世辞を述べ立た後、デラクールへと杖を返した。

 

「さて、それでは次にミスター・クラム。よろしいですな?」

 

 クラムはデラクールとは対照的に、堅苦しく、まるで軍隊で扱うように少し荒々しく、杖を差し出した。

 

 杖を受け取ったオリバンダーは、先程と同じように杖を回し何かを確認している。

 

 こちらの杖はどちらかと言うと、武骨で実用性重視といったところか。

 

「よく手入れが行き届いた、素晴らしい杖ですね」

 

 

 オリバンダーから杖を受け取たクラムは軽く一礼し、杖をローブの内側に仕舞い込んだ。

 

 その後、セドリックとハリーの杖調べも滞りなく終わり、ついに私の番がやって来た。

 

「あぁ…貴女でしたか………」

 

 私の顔を見るなり、オリバンダーは何処か嫌そうな顔をした。

 まぁこの杖を選んだ時、彼の店を半壊させてしまったのだから仕方ないだろう。

 

「久しぶりね」

 

「えぇ…本当に…あの後は大変でしたよ…」

 

 オリバンダーは何処か懐かしむ様な表情で虚空を眺めている。

 

「あの後1ヵ月は営業できませんでしたよ…ハハ…」

 

 

「それはお気の毒様、それより杖を見るんでしょ?」

 

 ポーチからいつもの様に杖を取り出す。

 

 ライズブルーの様な碧色を基調に金細工を施した杖に、その場に居た全員が息を呑んでいる。流石はロダンの逸品だ。

 

「その杖は…私が見るには荷が重すぎます…」

 

「それはどういう事じゃ?」

 

 早速ダンブルドアがオリバンダーに聞き直した。

 

「この杖はとても強力な力を持っているとしか言えませぬ…恐らく私が知る中で最も強力かと…」

 

「なんじゃと…それはもしや…」

 

 ダンブルドアは何やら意味深な事を口にするも、オリバンダーはただ首を縦に振っただけだった。

 

「そうか…ま…まぁ良いじゃろう…それでは皆の者、これで解散じゃ」

 

 

 ダンブルドアの声でようやく私達は解放された。

 

 

 

 




次回から第一課題です。

正直、課題についてはやりすぎた感はあるのですが、まぁそこが二次創作の醍醐味でしょうね。

どれだけの被害が起こるかお楽しみに。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ドラゴン

それでは第一課題です。


 数日後

 いつもの様にバーで1杯やっていると、ジャンヌから日刊予言者新聞を手渡された。

 

 どうやら日刊予言者新聞にスキーターが書いた記事が載ったらしい。

 

 内容は、代表選手を囃し立てる内容や、逆に悪い印象を与えるなど、良くも悪くもゴシップ記事と大差なかった。

 

 しかし、私に関する記事はただ一言。

『期待の魔女、その素性は明らかではないが、最有力候補だろう』

 当たり障り無い内容が掛かれている。

 

「セレッサに関してはあまり書かれていないな、何をしたんだ?」

 

「別に、少し邪魔な虫を追い払っただけよ」

 

「程々にしておけよ」

 

 まぁ、下手に悪い記事を書かれるよりは幾分マシだろう。

 私とは正反対に、有る事無い事書かれているハリーが少し気の毒に思えた。

 

 

 第1課題が行われる前日。

 

 

 ハリーを始めとした他の代表選手達は何処か落ち着かない様子で過ごしている。

 

 それもそうだろう。明日には内容が明かされていない競技に参加するのだ。

 

 せめて内容でも分かっていれば多少対策も立てられるだろう…。

 

 

 そんな事を考えていると背後からドラコが声をかけてきた。

 

「やぁ、セレッサ。とうとう明日だね」

 

「そうね、まぁ退屈凌ぎにはなるんじゃないかしら?」

 

「どうかな? 明日の競技は相当手強いと思うよ」

 

 ドラコは少し意味深そうに言う。どうやら明日の競技の内容を知っている様だ。

 

「その口振りだと、明日何が行われるか知っているみたいね」

 

「父上から聞いてね。明日はドラゴンが出て来るみたいだ」

 

「ドラゴンねぇ…」

 

「驚かないんだね」

 

「それ位なら何の問題も無いわよ」

 

「フッ…君らしいね」

 

「それはどうも。明日ドラゴンが出る事、他の選手は知っているのかしら?」

 

「どうだろう? だがポッターは知っていると見て間違いないね。大方ダンブルドアがこっそり教えたんじゃないかな」

 

「ありそうね。まぁ、ダンブルドアからしたらハリーに死なれたくはない筈よ」

 

「だろうね」

 

 ドラコは嫌そうな顔をしながら首を横に振り、呆れた様に溜息を吐いている。

 

「それにしてもドラゴンね…」

 

「参考になったかい?」

 

「えぇ、十分に。借り1つね」

 

「ムーディの件で借りがあるからね。その時のだと思ってくれ」

 

「ならそうさせて貰うわ」

 

「あぁ……それと、ダンスパーティーだけど……」

 

 ドラコの声を遮る様に校内に就寝時間を告げる鐘が鳴り響いた。

 

「もうこんな時間ね。それで、ダンスパーティーがどうかしたのかしら?」

 

「い…いやぁ何でもないんだ。あ…あぁ、明日頑張ってくれ」

 

「そう? なら失礼するわよ」

 

 何処か不安そうな表情をしているドラコを残し、私は自室へと戻って行った。

 

 

 

 

 第1課題当日

 

 私は学校指定の制服ではなく、自らの髪で編んだ武闘装束に身を包んでいる。

 

 やはり、こっちの姿の方がしっくり来る。

 

 

 

 代表選手は設営されたテントに集められた。

 

 テントの中では私以外は落ち着きが無い様子だ。

 

 デラクールは冷や汗を掻き、貧乏ゆすりをしている。

 

 クラムは不安そうな表情で、壁に背を付けている。

 

 しばらくすると、ハリーが絶望しきった表情をし、おぼつかない足取りでテントに入って来た。

 

 

 

「良し! 全員揃っているな!」

 

 

 大声を上げ、バグマンがテントの中へと入って来た。

 

「観客が揃ったら、君ら一人一人に袋を渡す。その中に入っている模型が君たちの相手だ。そして課題の内容は、その相手を出し抜き、金の卵を手にする事だ」

 

 金の卵を手に入れる。

 

 その言葉を聞き、ハリー達は胸を撫で下ろしていた。

 

 少なくとも、ドラゴンの討伐が課題で無いと言う事が分かってホッとしているのだろう。

 

「もう一度言うが、持ち込んで良いのは自分の杖だけだ。他の物の持ち込みは禁止だ。よし、ではレディーファーストで………どちらから?」

 

『アンタからどうぞ』

 

『ならそうさせてもらうわ』

 

 デラクールはバグマンが手にしている袋に恐る恐る手を入れ、少し悲鳴を上げた後小さな模型を掴んだ手を袋から引き抜いた。

 

「これは、2番手のウェールズ・グリーン種だな。大人しい種類だと聞いているが…どうかな? さて次はそちらのレディだ」

 

 バグマンは私に手を向けると、他の選手達の視線が集まる。

 

 私は特に躊躇う事無く、袋に手を突っ込み1つの模型を取り出した。

 

「これは………5番手、ウクライナ・アイアンベリー種だな…コイツは危険だ。ドラゴンの中では鈍重なタイプだが、気性はとても荒いからな…」

 

 どうやらハズレを引いたようだ。

 まぁ、ドラゴン程度ならどうという事も無いだろう。

 

 

 次に袋に手を突っ込んだのはセドリックだった。

 

「コイツは1番手、スウェーデン・ショート・スナウト種だな。動きは俊敏。綺麗な炎を吐くのが特徴。まぁ本人はそんな事、気に留めてる余裕は無いだろうがな」

 

 

 今度はクラムが手を突っ込んだ。

 

「コイツは3番手、チャイニーズ・ファイヤーボール種だ。一風変わった見た目だが、その動きは素早いぞ」

 

 そして、最後に手を突っ込んだのはハリーだ。

 

 最後なのだから意味など有るのだろうか?

 

「コイツは4番手、ハンガリー・ホーンテール種だ。コイツは獰猛で危険だ。さて…どう相手するかな?」

 

 ハリーも私と同じようにハズレを引いたようだ。

 その表情は、とても暗かった。

 

 

「さて、何はともあれ、全員が自分が相手をするドラゴンが決まった訳だ。ではセドリック君が最初だ。大砲が鳴ったら飛び出すんだ。では諸君の健闘を祈るよ」

 

 バグマンは楽しそうな表情を浮かべ、不敵な笑みを浮かべながらキャンプを後にした。

 

 

 しばらくすると、地響きのような巨大な大砲の音が周囲に響いた。

 

「じゃあ行ってくるよ」

 

 セドリックは覚悟を決めた様で、決意に満ちた瞳でテントから出ていった。

 

 その直後、周囲に歓声が響いた。

 

 そろそろ競技が始まる頃だろう。

 そんな時、ハリーがおもむろに口を開いた。

 

「ベヨネッタ、どうやってドラゴンを出し抜くんだ?」

 

 

「特に考えては無いわね。出たとこ勝負ってところかしら?」

 

「僕は真面目に相談しているんだ! ふざけないでくれ!」

 

「ふざけて無いわよ。まぁ、そうね…いい子なら殺さない程度には遊んであげるつもりよ。悪い子だったら…どうしようかしら?」

 

「はぁ…」

 

 ハリーは溜息を吐くと、それっきり何も言わなくなった。

 

 10分ほど経った頃だろうか、会場から耳を(つんざ)く様な歓声が上がった。

 

 どうやら、競技は無事終わったようだ。

 

 再び大砲の発砲音が空気を震わせ、次の選手の出番を告げた。

 

 その音を聞き、デラクールは少し不安そうに出口へと歩いて行った。

 

『頑張りなさい』

 

『そっちこそ』

 

 軽く挨拶を済ませると、デラクールは出口に向かって走り出した。

 

 まぁ、彼女の事だ。特に問題は無いだろう。

 

 私は野外に響く(やかま)しい解説に耳を傾けた。

 

『おぉおっと! これはどういう事だ! ドラゴンが眠り始めたぞ!』

 

 ドラゴンを眠らせる。

 よく考えたものだ。これなら余程の事が無い限り、楽勝だろう。

 

 

 数分後、先程同様に歓声が上がった。

 

 彼女も無事課題を攻略したのだろう。

 

 順番的には次はクラムだ。

 

 砲弾の音が鳴り響くと同時にクラムは走り出した。

 

 その表情に恐れは感じられなかった。

 

 競技が始まって数分後、ハリーが重い口を開いた。

 

「僕は、箒を使うつもりだ」

 

「杖以外は禁止じゃなかったかしら?」

 

「持ち込むのはね。外部から呼び寄せればいいんだ」

 

「なるほどね…よく考えたじゃない」

 

「皆に相談したからね…僕は手の内を明かしたんだ。君も教えてくれていいんじゃないか?」

 

 ハリーはまだ私が嘘を吐いていると思っている様だ。やはり思い込みが激しい。

 

「さっきも言ったけど、特に考えて無いわ。ドラゴン程度簡単よ」

 

 私は近くにあった椅子に腰を掛け、足を組む。

 

「そうかい…まぁ君ならそうなのかもしれないけど…」

 

 無駄だと思ったのか、ハリーはこれ以上聞いて来る事は無かった。

 

 次の砲弾の音が響き、ハリーの番がやって来た。

 

「行ってらっしゃい」

 

「あぁ…行ってくるよ!」

 

 気合を入れた様で、ハリーは声高らかに会場に走り出した。

 

 誰も居なくなったテントの中、私の順番が回ってくるのを待っている。

 

 今までの選手より数分早く、歓声が響いた。

 

 外から聞こえる実況は、『やりました! ハリー・ポッターが最短時間で金の卵を手に入れました!」

 

 なるほど、どうやら上手く出し抜いたようだ。

 

 しばらくすると、再び砲弾の音が響いた。

 

 これは私の番を告げる音だ。

 

 椅子からゆっくりと立ち上がると、歓声が響く会場に足を踏み入れた。

 

 

 

 

 私が会場に入ると、割れんばかりの歓声と拍手が響いた。

 イレギュラーの2人目が出てきたのだから当たり前だろう。

 

『皆様お待たせいたしました! 今大会のイレギュラー! ミス・セレッサの登場です! 本日はいつもの服ではなく、黒を基調とした、セクシーな衣装で登場です!』

 

 実況が声高らかに叫ぶと、周囲のボルテージも上昇する。

 

 周囲を見回すと、競技場は岩場の様になっている。

 

 岩場には、不死鳥を象った石像や小便小僧の石像、そのほか様々なオブジェクトが散らばっている。

 

 中央にはドラゴンの卵が置かれており、その中心に金の卵が混ざっており、それを守る様にドラゴンが周囲を見回している。

 

 私が1歩近付くと、白く美しいドラゴンはこちらに気が付いたのか、その場で飛び上がると卵を守る様に私の目の前に着地した。

 

 着地の衝撃で周囲の岩にヒビが入る。かなりの衝撃があるようだ。

 

『凄まじい衝撃です! 会場の周囲には何重にも防御魔法が施されていますが、それでも衝撃を感じる程です! このドラゴンは今大会でも最大級の大きさですからね!』

 

 実況兼解説なのか、現状を事細かく説明している。

 

 

 私はドラゴンを見据えながら、1歩、また1歩と歩み寄る。

 

『全く動じることなくドラゴンに歩み寄っています! 彼女には恐怖心が無いのでしょうか!』

 

 ある程度近付くと、ドラゴンが首をもたげる。

 

 そして次の瞬間、ドラゴンの口から高温の炎が吐き出される。

 

 この炎に当たれば、間違いなく一瞬で焼き殺されるだろう。

 

 私はそんな炎を寸での所で(かわ)すと、ウィッチタイムを発動させ、流れを遅らせた世界でドラゴンの背に飛び乗る。

 

 その瞬間ウィッチタイムを解除する。

 

『これは! 逃げ出す姿が見えませんでした! まさか炎に…』

 

 

 周囲には一瞬の事で、私が炎に飲まれたと思っている様だ。

 

 そんな中、私はドラゴンの背に乗り頭を数回撫でてやる。

 

 その瞬間、ドラゴンが咆哮にも似た怒声を上げる。

 

『何という事だ! 炎に飲まれたと思っていたら、ドラゴンの背に乗っています! 一体どんな方法を使ったのでしょう!』

 

 暴れそうになるドラゴンから、飛び降りると卵が置いてある手前に着地し、金の卵を手に取る。

 

『早い! セレッサ選手! 最短で卵を手にしました!』

 

 これで課題はクリアだ。後はドラゴンを黙らせるだけだ。

 

 ドラゴンは卵を取られ激怒したのか、私に向かって炎を吐こうと首をもたげる。

 

「遅いわよ」

 

 私は首をもたげた瞬間に一気にドラゴンに詰め寄り、炎を吐こうとしている顔面に膝蹴りを喰らわせ、岩場に吹き飛ばす。

 

 突然の衝撃に対処しきれなかったのか、岩場に叩きつけられたドラゴンはその場で気を失ってしまった。

 

『何という事でしょう! セレッサ選手! 杖を使わず、体術のみでドラゴンを無力化した! これは凄い! 高得点が期待できるぞ!』

 

 うるさい解説を背後に聞きながら、私は金の卵を片手に会場を後にしようとすると、観客席に居るドラコと目が合った。

 その表情は安心しているような感じだ。

 

 しかし、その表情は次の瞬間驚きへと変わった。

 

「セレッサ! 後ろだ!」

 

 ドラコが叫び声を上げると同時に、私の居た場所に超高温の火球が着弾した。

 




迫り来る火球…ベヨネッタはどうなってしまうのでしょうか?


既プレイの方は次回、何が起こるか、なんとなく分かった人は多いはずですね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

勇気

タイトルがネタバレですね。



  爆音が周囲に木霊する中、火球を寸での所で回避し、岩場に着地すると同時にロリポップを取り出し口へと咥える。

 

 そしてゆっくりと顔を上げ、火球が飛んできた方向に顔を向ける。

 そこには…

 

『よもやこの世界で再び貴様と相まみえるとは思いもしなかったぞ、ベヨネッタよ…』

 

 忌々しくも聞き慣れたエノク語が周囲に木霊する。

 

 その声の主は太陽の光を背に受けて、その巨大な体…いや、逆さまになっている顔が胴体になっており、貴金属や宝石をあしらった巨大な龍の頭2つを持ち、それを支えるほど巨大な翼を羽ばたかせながら悠然と宙に浮いていた。

 

 フォルティトゥードが光と羽根をまき散らしながら、会場を見据えている。

 

 四元徳(カーディナルバーチャズ)の1人『忍耐、勇気』と呼ばれた存在だ。

 

 

 その姿を目にした観客たちは、呆気に取られたのか全員その場で動かなくなっている。

 

 

 

「久しぶり、また会ったわね。この前は呆気なかったけど、今度は歓迎してくれるんでしょ?」

 

 

『減らず口を。前回は不覚を取ったが今回はそうはいかんぞ、天に楯突く魔女よ。貴様はいずれ魔に食われる不憫な女だ。ならば、今ここで…』

 

 フォルティトゥードの語りを遮る様に顔面に1発銃弾を放つ。

 

「相変わらず話が長いわね、アンタ達は。顔がムカつくだけで十分なのよ」

 

『フフフ、闇の力で再び歯向かうと? 何時の時代も魔女共は…」

 

 再び顔面に数発ぶち込む。

 

「消えなトリ頭!」

 

 フォルティトゥードはその2対の龍の頭をもたげ、その口から先程のドラゴンが吐き出した炎とは比べ物にならない炎…最早溶岩と変わりないそれを岩場に吐き出し、周囲を溶岩地帯へと変貌させた。

 

 私は辛うじて溶岩が達していない岩場に着地すると同時に、金の卵を背面の観客席に放り投げる。

 

 その卵を慌てた様子でドラコがキャッチした。

 

「アンタに預けるわよ」

 

 私がそう言うと、ドラコは数回瞬きをした後、大きく頷いた。

 

 

 そのまま魔力を解放し、フォルティトゥードに両手の銃を構える。

 

 フォルティトゥードは私の眼前を滞空するようにとどまりながら龍の口を開き、噛みつこうとした。

 

 その噛み付きを横に避けると、ウィッチタイムを発動させ、流れが緩やかな世界で銃身ごとその顔に叩きつける。

 魔力を最大まで解放しているので、私の打撃に合わせる様にウィケットウィーブ、マダムの拳も龍の頭部を殴りつけた。

 

『ぐぉぉお!』

 

 龍の頭部を殴られたダメージにより気を失ったのか、墜落するように地面へ墜ちていく。

 

 気を失ったことにより、周囲の溶岩も姿を消している様だ。

 

 私は気を失っている龍の頭の前に着地すると、その頭を小脇に抱え背負い投げの要領でその巨体を投げ飛ばす。

 

『あぐああ!』

 

 背面を地面に叩きつけられたフォルティトゥードは呻き声を上げた。

 

『ぐううぅううぅう!』

 

 先程の衝撃で目を覚ましたのか苦しそうな声を上げながら、その巨大な羽根を器用に使い立ち上がると、再び飛び上がり岩場に炎を吐き出した。

 

 すると、地響きと同時に再び溶岩が噴火するようにあふれ出す。

 

 私は噴火で飛び上がった岩場の一部に飛び乗ると、ウィッチタイムを発動させ、別の岩へと飛び移りながらフォルティトゥードの眼前へと迫る。

 

 ウィッチタイムを解除し、そのままフォルティトゥードの顔面を走りながら龍の顔へと移動し、その下顎を持つと振り子の要領で再びその体を溶岩の海へと叩きつけた。

 

 岩盤に着地し、そのまま首を持ち、先程と同じようにその巨体を背負い投げる。

 

 投げ終わった後、その口を無理やり開かせ、両手に力を込め、()じる。

 

 徐々に力が入って行くに連れ、筋肉の繊維や装甲が断裂する感触が体に響く。

 そして、最後に勢いを付け一気にその首をねじ切った。

 

『ギュアアあああ!』

 

 ねじ切られた龍の首は、血をドバドバと吐きながら跳ねまわり、断末魔を上げる。

 私が軽く指を鳴らすと地面に魔法陣が現れ、そこから、異様な手が現れ龍の頭を掴むと一気に地面へと引きずりこんだ。

 引きずり込まれるその直前まで、ねじ切られた龍の頭は悲鳴を上げていた。

 

『まだだ』

 

 1つの頭をねじ切られたフォルティトゥードだが、力強く叫ぶと、再びその巨体を宙へと浮かべる。

 そして、私目掛け1本の龍が火球を放つ。

 

 

「無駄よ!」

 

 火球が当たる直前、私は腕を前に突き出し、マハーカーラの月で火球を弾き返す。

 

 弾き返された火球は、時間を巻き戻すように吐き出した龍へと吸い込まれた。

 

『グぉ!』

 

 鈍い声を上げ、フォルティトゥードは龍の頭を下にしながら再び墜落する。

 

 墜落と同時に、周囲に地響きが鳴り、土煙が上がる。

 

 しばらくすると土煙は風と共に晴れた。そこには地面に顔が嵌ってしまったのか動けないでいる、間抜けなフォルティトゥードの姿があった。

 

 私は龍の首の付け根に近寄ると、ポーチから修羅刃を取り出し両手に構え、魔力を最大まで溜める。

 

 円を描くように刀を動かすと、それに沿って魔法陣が形成される。

 刀が眼前で一周回ると、眼前に魔法陣も完成した。

 

「はぁあ!」

 

 眼前の魔法陣ごと龍の首を刎ねる様に刀を上段に構え一気に振り下ろす。

 

 

 それと同時にウィケットウィーブを使い、一気に龍の首を刎ね飛ばす。

 

『ぎゅうあううう!』

 

 刎ね飛ばされた首は、捩じ切られた首同様、魔法陣に吸い込まれていった。

 

「これで残りはアンタだけね」

 

『ふざけるなよ! 魔女が!』

 

 激怒したフォルティトゥードはその巨体を無理やり宙に浮かせ、勢いを付け私に突進してくる。

 

「甘いわよ!」

 

 迫り来るフォルティトゥードを眼前に構えながら、その顔面を殴り飛ばすように、右手を振りぬく。

 

 それに呼応するようにマダムの拳も突き出され、フォルティトゥードの顔面とマダムの拳が激突した。

 

『ぐぅ!』

 

 フォルティトゥードは苦しそうな声を上げ、その動きを止めてしまった。

 

 その隙を逃さず、私とマダムは両手で何度も殴り、突きのラッシュを顔面にお見舞いする。

 

『ぐぉおぉお!』

 

 最後にマダムの鋭いストレートが入り、フォルティトゥードの顔面に大きなヒビが入る。その巨体は吹き飛び、岩場の端へと落下した。

 

 周囲を見回すと、ちょうどいい所に先程気絶させたドラゴンが慌てた様子で飛び立とうとしている。

 ここまで騒ぎを大きくすれば、目も覚ますだろう。

 私はそんなドラゴンの尻尾を右手で掴む。

 

「ぎゃ!」

 

 尻尾を掴まれたドラゴンは間の抜けた声を上げ、逃げようともがいている。

 

「これはプレゼントよ!」

 

 尻尾を掴んでいたドラゴンを倒れているフォルティトゥードの顔面目掛け投げつける。

 

「ぎゃああ!」

 

 投げ飛ばされたドラゴンは綺麗にフォルティトゥードの顔面のど真ん中に命中した。

 

「これもサービスよ」

 

 私は近くに転がっていた小便小僧の像の頭部を掴むと、そのまま足の部分をドラゴンの腹に突き刺した。

 

「ぎゅああ!!!!」

 

 腹を突き破られた衝撃でドラゴンは悲鳴を上げている。

 

 そして突き刺さった小便小僧の像からは、その名の通り、ドラゴンの体液が綺麗な放物線を描きフォルティトゥードの顔面に垂れ流されていた。

 

「うーん、やっぱりアンタの顔まだムカつくわね。少しメイクしてあげるわ」

 

 ドラゴンの体液はフォルティトゥードの顔面を伝い、流れる小川の様に私の足元まで続いて来ている。

 

 足をタップさせると同時に足の銃を放ち、その火花がドラゴンの体液に引火し、まるで川を駆け上るかの様に炎が遡っていく。

 

「ふぅ」

 

 炎が遡るのも半分ほど行った辺りだろうか、なぜか炎はその存在を呆気なく消滅させてしまった。

 

「はぁ…」

 

 私は少し溜息を吐きながら、銃口を背中越しに向け、1発放つ。

 

 その1発の銃弾は、吸い込まれる様に、ドラゴンの体液が放物線の様に流れている場所へとクリティカルヒットする。

 

「うわ…」

 

 その瞬間、会場に居る男性陣が、苦悶の表情を浮かべた。

 その中でただ1人、ドラコだけは恍惚な笑みを浮かべていた。

 

 銃弾が直撃した小便小僧の像はその炎が逆流したのか、目から涙の様に炎をまき散らし、その胴体とドラゴンを爆破しながら頭部だけが天高く吹き飛んで行った。

 

 

 ドラゴンの爆発により、爆心地だったフォルティトゥードの顔面は吹き飛び、大穴が開いている。

 

「イケメンになったじゃない。アンタにはその方がお似合いよ」

 

『よもや…ここまで凄まじいとは…やはりな…』

 

 爆発により顔の大半を失った、フォルティトゥードは辛そうな声を上げている。

 

「やはり? 何のこと?」

 

『貴様が知る必要はない…このフォルティトゥード喜んで、再び礎となろう!』

 

 フォルティトゥードの叫び声と同時に、大量の異様な手が現れ、その巨体は引きずり込まれて行く。

 

 私は舐め終わったロリポップの柄を岩場に投げ捨てながら、審査員達の方を見据えた。

 

「終わったわよ。採点しないのかしら?」

 

 私の言葉に、審査員、および観客全員が解放されたように動き出し、拍手が沸き上がった。

 

『さ…さぁ! 多少のアクシデントはありましたが、それで採点の方に…』

 

「待った!!」

 

 実況件進行役を遮る様に審査員の1人が声を上げた。

 あれは、カルカロフだな。

 

「さっきのアレはなんだ? あんなもの見た事は無い! 不可解な言葉のようなものを発していた! それに、この選手は受け答えもしていた! それだけじゃない! この惨状を見ろ! 観客席に被害は無いが、会場はもはや跡形もないぞ!」

 

 カルカロフが大声を上げる中、ダンブルドアがゆっくりと口を開いた。

 

「確かにのぉ…じゃがこの競技の真の目的を忘れてはおらぬか?」

 

「なに?」

 

「この競技は『未知のものに遭遇したときの勇気』を図るものじゃ。先程のアレは我々にとっても『未知のもの』に違いなかろう?」

 

 ダンブルドアがそう言うと、カルカロフは少し唸り、黙り込んでしまう。

 こんな事で黙り込むとは、案外情けないものだ。

 

「あれについてはワシから説明しよう」

 

 審査員席に突如現れたムーディにその場に居た全員が目線を向けた。

 

「あれは…その…近年発見された新種のドラゴンだ。今回の競技では使う予定では無かったのだが、手違いで出てしまったようだ」

 

「あれが新種だと? 人の顔のような模様まであったぞ!」

 

「そういう種類なのだろう」

 

 猜疑心を隠し切れないカルカロフに対しムーディはただその一言だけを返した。

 

「そうか…」

 

 何処か納得いかないようだが、カルカロフは再び席へと戻った。

 

 先程の説明で納得してしまうとは思えないが、これ以上は現状どうする事も出来ないと判断したのだろう。

 

「さて、それじゃ採点に移ろうかの」

 

 ダンブルドアがそう言うと、審査員は集まり何やら話し合いを行っている。

 

『えーどうやら、今採点が終了したようです」

 

 マクシームが杖を振ると、得点が発表された。

 

『これは…これは凄いぞ! 全員が10点を出している!』

 

 カルカロフは不服そうな表情を浮かべながら、それ以外の者は満面の笑みでこちらへ拍手を送っている。

 

 私は拍手が響く中、私はドラコから金の卵を受け取った。

 

「セレッサ…あれって…君が前言ってた天使か?」

 

「そうよ」

 

「まさか天使が…それにあんなに恐ろしいなんて…」

 

「天使を可愛いものだなんて思わない方が良いわよ」

 

「あ…あぁ…」

 

 ドラコは何かに詰まる様に答えると、ゆっくりと頷いた。

 

 卵を受け取った私はそのまま、テントへと戻った。

 

 

 

 テントに戻ると、他の代表選手達が驚いた表情でこちらを見て来る。

 

「ベヨネッタ、あれって…」

 

「えぇ、そうよ」

 

 天使と遭遇した事のあるハリーは何かを察したように、黙り込んでしまった。

 

『さっきのは何? どうしてあんなの相手に平気で立ち向かえるのよ!』

 

『あの程度なら問題無いわよ』

 

 私は平然とそう言うと、デラクールは呆れた様に部屋の隅へと歩いて行った。

 

 その時、バグマンがテントの中へと入って来た。

 

「全員よく頑張った!」

 

 バグマンは大声を上げながら、こちらを警戒した表情を向けている。

 

「さて、いろいろ聞きたい事はあるだろうが、手短に話そう。第2課題までは十分な休みがある。だが時間があるとは言え、君らにはやってもらう事を用意してある」

 

 すると、バグマンは金の卵を指差した。

 

「この卵に蝶番が有るのが分かるか? この卵は開くようになっているんだ。その中に第2課題のヒントが入っている。では解散だ!」

 

 バグマンは手短に話したのち、テントを出ていった。

 

 それを見送った後、代表選手は自分の金の卵を手に取り、自室へと戻っていくのだった。

 

 




勇気を試す課題だったので、勇気さんに出てもらいました。

やりすぎた感はありますが、まぁそこは大目に見てください。

戦闘シーンですが、私の文章力ではこれ以上は難しいですね…
多分、同じ事を数回繰り返しそうですね。


明日は諸事情により、更新はお休みさせていただきます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

バスルーム

最近リアルが忙しくなってきました。

ちょっとの間、更新が不定期になるかも知れません。


 

  第1課題からしばらくの時間が経ち、12月に入った。

 

 周りの生徒達は皆、クリスマスが訪れるのを心待ちにしている。

 

 しかし、代表選手に選ばれた面々はそうは言って居られない。

 なぜなら、未だに金の卵の謎を解明した者がいないからだ。

 

 第1課題終了後、ハリーは卵片手に談話室で祝賀会を開いており、私もそれに参加していた。

 

 ある生徒が、卵を開ける様に急かし、ハリーもそれに応え卵を開ける。

 

 しかし、卵を開けた瞬間、耳を劈く悲鳴の様な、ノイズに似た音が周囲に木霊した。

 

 その悲鳴のおかげで、祝賀ムードは一変し、そのままお開きとなった。

 

 それ以来、私は卵を開けてはいない。

 

 まぁ、どのような内容であろうと、大した問題では無いだろう。

 

 しかし、やはり用意された課題の内容は多少なりとも気にかかる。

 

  

  私は金の卵を片手に、バーに戻り、カウンターでカクテルを呑みながら、手持ち無沙汰を紛らわすように卵を転がしている。

 

「なんだ、案外面白い物、持ってきたじゃねぇか」

 

 

 カウンター越しにロダンは物珍しそうに金の卵を覗き込んでいる。

 

「気になるの?開けない方が良いわよ」

 

「ほぉ…」

 

 

 ロダンは卵を片手に取ると、何の躊躇いも無く蝶番を解き、卵を開いた。

 

 その直後、耳を劈く悲鳴が店内のBGMをかき消した。

 

 私は、この悲鳴の五月蠅さに内心イラつきながら、溜息を吐いた。

 しかし、ロダンは顔色を一切変えずに、卵をテーブルに置いた。

 

 

「うるさいぞ!!」

 

 しばらくすると、店の奥に居たジャンヌが声を荒げながら卵を閉じた。

 すると、先程までの悲鳴が嘘の様にピタリと止んだ。

 

「まったく…なんだこれは? また向こうのグッズか?」

 

「そんな所よ、次の課題のヒントが入っているらしいわ」

 

「ほぉ…まったく、向こうの連中の考える事は分からん」

 

 ジャンヌは少しイラつきながら、テーブルに腰かけた。

 

「コイツは歌だな」

 

「これが歌だと? 素人のデスメタルより酷いぞ」

 

 ジャンヌは呆れた様に、首を横に振りながら、足を組み直した。

 

「コイツはマーミッシュ語だな。水中人の言葉だ」

 

「へぇ、悲鳴のような言葉を使うのね。水中人って」

 

「地上で聞けば悲鳴に聞こえるだろうが、水中で聞けばいい歌になるぜ」

 

「そうなの、なら聞いてみようかしら、バスルーム借りるわよ」

 

 私は卵を手に持ち立ち上がろうとすると、ロダンが口を挟んだ。

 

「わりぃな、今バスルームは改装中だ、近々暖炉でも作ろうかと思ってな」

 

「困ったわね」

 

「向こうにもバスルームくらいあるだろ」

 

「シャワールームしかないのよ」

 

 私は手元のカクテルを一気に煽り、金の卵をポーチに仕舞い込んだ。

 

 とりあえず、向こうに戻ったらバスルームを探すとしよう。

 

 

 

 

  ホグワーツに戻り数日が経つと、代表選手であっても普通に授業が行われる。

 

 

 今日はマクゴナガルの変身術の授業だった。

 

 普段通りに授業が終わる頃、マクゴナガルが咳払いをした後、口を開いた。

 

「さて、皆さんにお話があります」

 

 普段と変わらない口調だが、その表情は真剣そうだ。

 どうやら授業とは関係ない別の内容だろう。

 

 

「クリスマスパーティーが近付いてきました。三大魔法学校対抗試合の伝統で、クリスマスパーティーではダンスパーティーを行います。国外からのお客様と知り合ういい機会でしょう。ダンスパーティーは大広間で行われます。このクリスマス・ダンスパーティーでは羽目を外したくなるかもしれませんが、ホグワーツの生徒としての気品を損なわない様に、心がけてくださいね」

 

 なるほど、ドレスが必要だったのはこの為か。

 

 折角のダンスパーティーだ。楽しむとしよう。

 

 

 マクゴナガルの説明も終わり、教室の生徒達は退室していく。

 私も荷物をまとめ、退室しようとすると、マクゴナガルが口を開いた。

 

「ポッターとセレッサは残りなさい。お話があります」

 

 何事だろう?

 代表選手に選ばれた2人を呼び止めたと言う事は、それなりの理由が有るのだろう。

 

 ハリーは少し不安そうにマクゴナガルに視線を向けた。

 

 

「代表選手とそのパートナーはダンスパーティーの最初に踊ります。これは古くからの伝統です。学校の代表として踊るのですから、それ相応の相手を見つけるようにしてくださいね。」

 

「え? パートナー? 一番最初に?」

 

 ハリーが間の抜けた疑問の声を上げる。

 

「ハリー、ダンスパーティーなんだから、パートナーが居ても可笑しくないでしょ。まぁ、私は一人で踊りたい時もあるけど」

 

「そうなの? 絶対躍らなきゃダメ?」

 

「駄目です」

 

 ハリーの疑問はマクゴナガルにきっぱりと言い切られた。

 

「本当ですか…僕なんかと…」

 

「良いですね、ポッター、セレッサ」

 

 マクゴナガルはキツイ態度でそう言うと教室を出ようとする。

 

「一つ良いかしら?」

 

「なんですか?」

 

 マクゴナガルは鋭い視線でこちらを振り返った。

 

「大した事じゃないわ。この城ってバスルームは無いのかしら?」

 

「バスルームですか? シャワールームがあるではないですか」

 

「ゆっくり温まりたいのよ」

 

 マクゴナガルは顎に手を当てながら少し考えた後、口を開いた。

 

「6階に監督生用の浴場があります。ですが使用できるのは監督生のみです」

 

「私は使えないのかしら」

 

「駄目ですね」

 

 マクゴナガルはそう言うと、踵を返し退室していった。

 

「まぁ、仕方ないわね…それより…」

 

 私はハリーの方へと振り返ると、そこには唖然とした表情で呆然と立ち尽くしているハリーの姿があった。

 

「パートナー…か…」

 

 ハリーがゆっくりとこちらに顔を向けた。

 

「ベヨネッタ…良かったら僕と…」

 

「お断りよ」

 

「まだ何も言ってないじゃないか!」

 

 ハリーは少し怒りながら大声を上げた。

 

「どうせ、私をパートナーにしたいって事でしょ。お断りね、アンタがまともにリード出来るとは思わないし」

 

 私がそう言うと、ハリーは項垂れながら溜息を吐いた。

 

「はぁ…僕ダンスなんて躍ったことないよ…君はダンス得意そうだけど」

 

 私はその場で軽くターンし、両手を頭上で組みポーズを決める。

 

「ダンスは大好きよ、まぁ、ソロで踊る方も好きだけど」

 

「まぁ…君のダンスをリードできる奴なんていないと思うけど」

 

「そうかもね、パートナーが決まらないならロンでも誘えばいいじゃない。お似合いよ」

 

「ロンか…」

 

 ハリーは乾いた笑みを浮かべ、頭を抱えていた。

 

 

 

  数日後、今日はホグズミード村へ行ける日だ。

 だが、多くの生徒はパートナー探しに忙しいのか、ホグズミード村に居る生徒は疎らだった。

 

 しかし、私には未だに誘いに来る生徒が居なかった。

 いや、一番最初にハリーから誘いがあったか。

 

 ハーマイオニー曰く

「ベヨネッタは高嶺の花すぎて誰も誘えないんじゃないかしら? まぁ、貴女程ならしょうがないじゃない」

 

 そう言って居るハーマイオニーは、どこか悲し気な表情だった。

 

 しばらく歩き続けると、ホグズミード村に到着した。

 

 私は周囲を見回し1件の宿の前で足を止めた。

 

 この宿ならバスルームくらいあるかもしれない。

 

 私は、宿の入り口をくぐり中へと入って行った。

 

 内部は寂れた民宿の様になっており、フロントに1人の老人が座っている。

 

「バスルームはあるかしら?」

 

「あるぞ、10ガリオンだ」

 

 ポケットからガリオン金貨を取り出しフロントの老人に支払う。

 代金を受け取った老人は、部屋の鍵を取り出すと、私へと手渡した。

 

「ごゆっくり」

 

 老人は私の背中に声を掛けると、椅子に深く座り込んだ。

 

 

 老人から受け取った鍵に書かれた番号の部屋に入る。

 

 室内は掃除は行き届いているが、装飾品などは質素なもので、寝具は薄いシングルベッドと簡素で安宿といった印象だった。

 まぁ、今回必要としているのはバスルームだけだ。

 

 部屋の奥のにあるバスルームの扉を開けると、清潔感のあるバスタブが目に入った。

 

 この大きさなら問題ないだろう。

 

 蛇口を捻ると、勢い良くお湯が出る。

 しばらくすれば浴槽にお湯が溜まるだろう。

 

 私は、部屋に戻りバルコニーの扉を開ける。

 

 バルコニーから見える景色は普段見ているホグズミード村とは別の様に見える、しかし遠くにホグワーツ城が見えるのは、やはりここがホグズミード村なのだと実感させられる。

 

 しばらく風を感じながら、風景を見ている。

 

 ブローチを開け時計に目を落とすと、10分ほど時間が経っている。

 そろそろお湯が溜まっただろう。

 

 私は脱衣所で服を脱ぎ、その上に畳んだバスローブを置く。

 

 扉を開けて浴場に入るとすでに十分に湯が張られている。

 

 湯気によって、少しメガネが曇るが、そんなことは気にしない。

 

 私は金の卵を手に持ち、足先からゆっくりと湯につかっていく。

 

「ふぅ…やっぱりいいわね」

 

 お湯の温かさに、体の疲れが取れていくのを実感する。

 

 多少、入浴を楽しんだ後、金の卵をお湯に沈め、ゆっくりとお湯に潜る。

 

 水中で、金の卵の蝶番を外す。

 すると、耳を劈く悲鳴のような物は聞こえず、美し歌声へと変わった。

 

 

 『探しにおいで、声を頼りに。

 地上じゃ歌は、歌えない。

 探しながらも、考えよう。

 われらが捕らえし、大切なもの。

 探す時間は、1時間。

 取り返すべし、大切なもの。

 1時間のその後は………もはや望みはありえない。

 遅すぎたなら、そのものは、もはや、二度とは戻らない』

 

 

「へぇ…」

 

 私はお湯から顔を上げ、顔に付いている水滴を払う。

 

「つまり、制限時間は1時間って事ね。大したヒントじゃ無かったわね」

 

 私は、金の卵を閉じると、湯船から出し、浴室の隅に置いた。

 

「ふぅ…」

 

 私は、杖を手に取り、軽く振ると、湯船の上に泡が発生し、泡風呂状態になった。

 

 私は、その泡を手に取ると、軽く息を吹きかける。

 

 手から離れた泡は、宙に浮き、ゆっくりと落下している。

 

 そう言えば、ヨーロッパの辺境にある『ヴィグリッド』に行った時も宿で泡風呂を堪能したのを思い出す。

 

 あの時は『チビ助』と一緒に入っていたな…

 

 その後、部屋にヤンチャな『チェシャ猫』が入り込んで…

 

「なんだお前は!」

 

 そう、ちょうどこの様に喧しい声が響いたものだ。

 

「それはこっちのセリフだ! マグルのくせに!」

 

 どうやら今回は、別の侵入者もいる様だ。

 

 

「マグルって言うなよ! 第一お前みたいなガキが…」

 

「アンタ達なにやってるの?」

 

 私はバスローブを羽織り、部屋へと戻ると、そこには言い争いをしている2人の侵入者がこちらを見て漠然としている。

 

「セレッサ…いや…これは…」

 

 侵入者の内の1人、ドラコは顔を真っ赤にし、目線を逸らすように天井を見ている。

 

「いや…その…これはだな」

 

 もう一人の侵入者、ルカは慌てた様子で、取り繕うとしている。

 

「コイツが! このマグルがバルコニーから入り込むのが見えたから止めに来たんだ!」

 

「マグルって言うな! 俺はただ、ベヨネッタに用事が…」

 

 

「はぁ…アンタ達、いつまでここに居るつもり? そろそろ着替えたいのだけど?」

 

 

 私がそう言うと、2人は慌てた様子で部屋の外へと出ていった。

 

 

 着替え終わり、部屋の扉を開けると、2人は何やら話し合って居る様だった。

 

「なるほどな、つまり次のダンスパーティーで女の子を誘いたいって訳か」

 

「勘違いするなよ、僕はマグル流のやり方に少し興味があるだけで…」

 

「わかったって。この百戦錬磨のルカ様に任せておけ」

 

 ルカは自信気に胸を叩いている。

 

「まぁ、単純な話、タイミングが重要だ。後はストレートに当たれって感じだ、それと、レディは誰であっても丁重に扱え、いつ何処で誰が見ているかなんて分からないからな」

 

「そ…それだけか?」

 

「あぁ、出合頭に花をプレゼントするなんてのも手だな」

 

「そ…そうか…」

 

 

 ドラコは、少し考えた様に顎に手を置いている。

 

 

「お話は終わったかしら?」

 

「あっ! あぁ! 終わった! 今終わったよ!」

 

 

 ドラコは何かを紛らわす様に大声を上げる。その様子をルカが何か意味深な表情で見ている。

 

「そう、なら入りなさい」

 

 私が扉を開けると、2人は少し急ぎながら部屋へと入った。

 

 

「で? 何の用かしら?」

 

 すると、ルカは胸ポケットから手帳をとりだした。

 

「この前、デカい奴が現れただろ。不審に思って少し調べてみたんだ」

 

「それで?」

 

「あぁ、詳しい事までは分からなかったが、この周辺では数百年以上前、ラグナ信仰の宣教者が訪れたという話だ」

 

「それって…」

 

「あぁ、それに、魔法省の一部の人間はイザヴェルグループからの融資を受けているという話もある。恐らくヴィグリッドに居たのと同じ連中が関係しているだろう」

 

 ルカはそう言うと、手帳を再び胸ポケットに仕舞い込んだ。

 

「これが、今回のアレと関係あるかどうかは分からないが…」

 

「まぁ、何かありそうな予感はするわね」

 

 

 ルカは部屋の中を歩き、バルコニーへと移動した。

 

「まぁ、俺も詳しく探ってみるが、今回の大会…結構大荒れになりそうだな」

 

「そっちの方が楽しいわよ」

 

「そうだな、その方がお前らしい」

 

 ルカはバルコニーから外へと手を振ると、アンカーの付いたワイヤーを射出し隣の家の壁に食い込ませた。

 そのワイヤーに全体重を預け、バルコニーから飛び降り何処かへと消えて行った。

 

「で? アンタは何の用?」

 

 

「いや…僕は君がホグズミードの宿に入るのが見えて…それで、あの男が忍び込んで行くのが見えたものだから…」

 

「それで、アンタまで入って来たってわけね」

 

「その…面目ない…」

 

「まぁ良いわよ」

 

 ドラコは、少し考えた後、口を開いた。

 

「その…あの男は一体何なんだ? 君とどういう…」

 

「ルカね…いろんな事に首を突っ込んで来る、お節介焼きよ」

 

「そうなのかい?」

 

 少し落ち着き、安心したように、ドラコは胸を撫で下ろしている。

 

「さて、私はそろそろ城へ戻るわ」

 

「僕も付いて行くよ」

 

 私達は、フロントの老人の視線を受けながら、チェックアウトを済ませ、城へと戻って行った。

 

 城の正面玄関が目の前に広がった頃、おもむろにドラコが口を開いた。

 

「その、ダンスパーティーのパートナーってもう決まったかい?」

 

「まだよ」

 

「そうか…その、なら僕と踊ってくれないか?」

 

 ドラコはそう言うと、その場で片膝立ちになり、私に手を差し出して来た。

 

「アンタが…そうね…構わないわよ」

 

 私はその手を取り、ゆっくりと立ち上がらせる。

 

「本当かい!」

 

「本当よ、まさか自信も無いのに私を誘った訳?」

 

「いや…そんなわけじゃ…」

 

「冗談よ。ならダンスパーティーを楽しみましょう」

 

 私はそのままドラコを残して城の中へと戻って行った。

 

 ドラコはその場で喜んでいるのか、ガッツポーズをした後、私の背を見送っていた。

 

 




マルフォイ、今までいろいろ弄って来たから、今回はご褒美だ。

ホグズミード村に宿があるという設定は無いようですが、そこはご都合主義という事で…

ルカがホグズミード村に入れたのも、ロダンのサポートがあったからです。


ベヨネッタの入浴シーンが見たい方は、アニメ版を見ましょう。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ダンスパーティー

え?この文章力でダンスの描写を……できらぁ!


  数日後、クリスマスパーティーも目前に迫り、多くの生徒が慌てふためいている。

 

 そんな中、代表選手の一人である、ハリーは未だにパートナーが決まらないのか、同じく決まっていないロンと傷の舐めあいをしている。

 

「ダンスパーティーがなんだ! なんで踊らなきゃいけないんだ!」

 

「そうさ! パートナーがなんだっていうんだ!」

 

 大騒ぎしている2人の元に、ハーマイオニーが少し自信に有り気に近寄っていく。

 

「貴方たち、まだパートナーが決まってないの?」

 

「なんだよ…文句でもあるのか? そういうハーマイオニーはどうなんだよ? ネビルに誘われたって聞いたけど、断ったんだって? 勿体無い事したな、なんなら僕が相手してやろうか?」

 

 ロンが悔し紛れにハーマイオニーを誘う。

 

 

「あら? お生憎様。素敵なパートナーが見つかったわ」

 

「マジかよ」

 

 ハリーとロンはその場で大きく驚き、唖然とした表情を浮かべている。

 流石にそれは失礼では無いだろうか?

 

「それって誰?」

 

「内緒よ」

 

 ハリーの質問にハーマイオニーは勿体ぶる様に秘密にした。

 

「あーあ。女の子って本当に秘密が好きだよな。ベヨネッタ、君はマルフォイと踊るって聞いたけど本当かい?」

 

 ロンは私が視界に入ったのか、急に話を振って来た。

 

「そうよ。向こうから誘ってきたからOKしてあげたわ」

 

「本当だったのかよ。どうしてあんな奴と…君はグリフィンドール生だろ?」

 

「別に私が誰と踊ろうと関係ないでしょ?」

 

「まぁ…そうだけど…」

 

「そんな事より急いだ方が良いんじゃないかしら?あと1週間を切ったわよ」

 

 残り1週間を切ったという実感を得たのか、未だに決まっていない2人は頭を抱え、何処かへと消えていった。

 

 

 

 

 ダンスパーティー当日、私は白を基調とした、お気に入りのドレスに身を包み大広間の前でパートナーのドラコがやってくるのを待っている。

 

 そのドレスは、肩元から胸元にかけてスリットが開いており、中心部にブローチを付け、腰の所に白の薔薇の花をあしらい、スカート部分にもスリットが入っている。

 

 腕には黒のオペラ・グローブを付けており、肩に黒い毛皮のストールを掛けている。

 

 

 他の生徒達が来ているドレスとは多少異なっているのか、多くの生徒が私の姿に目を奪われている。

 

「お…おぉ…」

 

 奥から黒を基調とした、タキシードドレスを着込みドラコが私の前に現れた。

 

「遅かったわね」

 

「すまない、少し手間取ってね…」

 

「そう、なら行きましょう」

 

「あぁ、それにしても…良く似合ってるよ、そのドレス」

 

「あら、ありがとう。一番お気に入りのドレスなのよ」

 

 ドラコは、未だに私に見とれている様で、その場から動こうとしない。

 

「どうしたのよ、早く行くわよ」

 

「あぁ、そうだね。じゃあ…」

 

 ドラコは、1歩後ずさると、私に手を差し出して来た。

 

「お手をどうぞ」

 

「気が利くじゃない」

 

 私はドラコの手を取り、エスコートされる様に会場へと入って行った。

 

 

 会場に入ると、ロンを始めとした、グリフィンドール生が驚いた表情を浮かべている。

 

 まぁ、グリフィンドールとスリザリンが犬猿の仲なので仕方も無いだろう。

 

 それにしても、ロンのドレスはフリルが多く、お世辞にも似合っているとは言えない物だ。

 

「代表選手はこちらに集合しなさい!」

 

 ホールにマクゴナガルの声が響く。

 

 人混みを掻き分け、マクゴナガルの元に集まる。

 

 マクゴナガルはエメラルド色のドレスを着込み、普段とは違い、ナチュラルメイクを施し、年相応の気品を醸し出している。

 

 私は、他の代表選手とそのパートナーに目をやると、クラムのパートナーでハーマイオニーの姿が目に映った。

 

「はぁい、ベヨネッタ。素敵なドレスね」

 

「どうも、アンタも素敵よハーマイオニー」

 

「フフッ、ありがとう」

 

 ハーマイオニーは満面の笑みを浮かべている。

 

 笑みを浮かべているハーマイオニーはボサボサな髪の毛を整え、少し派手目のメイクを施し、薄いピンクのドレスに身を包んでいる。

 

「うわぁ…本当に君…ハーマイオニー?」

 

 後ろでは、ハリーが信じられないと言った表情でハーマイオニーを見つめている。

 流石にその反応は失礼だろう。

 

「ポッター、その態度はいくら何でもレディに対して失礼じゃないか?」

 

「「え?」」

 

 ドラコがそう言うとハリーとハーマイオニーは声を上げた。

 

「なんだ? どうかしたか?」

 

「いや…まさか貴方からそんな事言われるとは思わなくて」

 

「そうそう、だってお前…」

 

 驚きのあまり、茫然とした表情でドラコを見て居る二人に対してドラコは嘲笑うように鼻で笑った。

 

「なぁに、例えマグルであろうと、レディはレディだ。そうだろ? セレッサ」

 

「ふぅん…言うようになったじゃない。ルカに何か吹き込まれたかしら?」

 

「いっ…いやそんな事…」

 

「静粛に! 今から入場していただきます。それぞれ組になって、私に付いてきなさい」

 

 ドラコが言葉に詰まった瞬間、マクゴナガルの声が聞こえて、私達は互いに見詰め合い、私は右手をドラコに差し出す。

 

 

「さぁ行くわよ」

 

「あぁ」

 

 ドラコは私の手を優雅に受け取る。

 

 ハリー達も私達を見様見真似で同じように手を繋いでいく。

 

 マクゴナガルはそれを見届けると、ダンスホールと化した大広間の入り口の扉を開ける。

 

 その瞬間、盛大な拍手が私達を迎え入れる。

 

 マクゴナガルの後に続き、貴賓席の前へ歩いてく。

 

 貴賓席には、審査員の面々が座っており、私達は空いている席へと腰かけた。

 

 テーブルの上には金色の皿だけが置かれている。

 

「どうやら、ダンスの前に食事会があるみたいだね」

 

 この状況に覚えがあるのか、ドラコは自信気にそう言った。

 

「そうなのね、これどうやるのかしら?」

 

「あぁ、これはね、自分が食べたいものを言うと、それが出て来るのさ。実践してみよう」

 

 ドラコは皿の方を向き口を開いた。

 

「ローストチキン」

 

 ドラコがそう言うと皿の上に焼きたてのローストチキンが現れた。

 

「ほらね、こうやってやるんだ」

 

「そうなのね」

 

 私達のやり取りを見ていたのか、ハリー達も同じ様に注文をしていく。

 

「君は何を頼むんだい?」

 

「そうね…イワシのムニエル」

 

 私がそう言うと、皿の上には香草をたっぷりと使ったイワシのムニエルが姿を現した。

 

 私は、フォークとナイフを手に取り、イワシのムニエルを一口サイズに切り口へと運ぶ。

 

 どうやら、小骨までしっかりと取っている様だ。

 

 口に入れた瞬間、パセリ・セージ・ローズマリー・タイムの香りが鼻腔をくすぐる。

 

 その後、イワシの香りと味わいが舌の上に染み渡る。

 

 なかなかの出来だ。

 

「結構おいしいわね」

 

「そうだね、ここのシェフは良い腕をしているね」

 

 ドラコは膝に置いているナプキンの端で口を拭いながらそう答えた。

 

「テーブルマナーは完璧なようね」

 

「まぁね、昔から父上に仕込まれたからね」

 

 周囲の生徒と比べても、ドラコのテーブルマナーは完璧だった。

 

 ハリーは良く分かっていないのか、普段通りの食べ方をしている。

 

 

 

 食事の時間を楽しんだ後、ついにダンスの時間がやって来た。

 

 私達は席を立つと、ダンスホールの中心へと互いに手を取りながら進んでいく。

 

「エスコート頼むわよ」

 

「あぁ、任せてくれ」

 

 私はドラコの手を取り、腰に手を回す。

 

 最初はスローテンポなワルツが流れる。

 

 その曲に合わせ、互いにリズムを取りながらステップを踏んでいく。

 

「上手いじゃない、てっきり足でも踏まれるかと思ったわ」

 

「そんなヘマはしないさ、ポッターと違ってね」

 

 ドラコがそういった瞬間、ハリー達のペアは、躓くように転んでしまった。

 

「どうやら、そのようね」

 

 曲に合わせながら、ドラコはゆっくりとテンポを崩さない様に、リードしてくる。

 

 3拍子に合わせながら、時にハイペースにターンを決めていく。

 

「ふぅ…君もなかなかやるね」

 

「まだまだこれからよ」

 

 クライマックスが近付き、私はドラコからリードを奪う。

 

「うぉ!」

 

 ドラコを軽く突き放す様に片手を離し、勢いよく引き寄せる。

 

 その後、左手を引き上げ、右手を腰に回し、ドラコの体重を支えながら、仰け反らせる体制を取る。

 

 その瞬間、周囲から歓声が上がる。

 

「これって…逆じゃないかな?」

 

「今は私がリードしているのよ」

 

 ドラコに軽くウィンクし、ゆっくりと姿勢を戻させると、互いに見詰め合い、そっと一礼する。

 

 どうやらこれでワルツは終わりのようだ。

 

「ふぅ…なんか疲れたよ」

 

「そうかしら?曲もダンスもまだまだこれからよ」

 

 そう言うと、先程まで流れていた曲が転調を始めた。

 

「次の曲が始まったようだね」

 

「そのようね、お色直しでもしようかしら」

 

 私は右手を軽く鳴らす。

 

 その音と共に何処からか現れたスポットライトが私を照らし出す。

 

 周囲の視線を集めつつ、私はその場で飛び上がる。

 

 私を追う様に、スポットライトの光も移動し、空中で静止している私に幾重もの光が重なる。

 

 光同士が重なることで、私の姿はかき消され、シルエットだけとなる。

 

「フッ」

 

 それと同時に、着ていたドレスを脱ぎ捨てる。

 

「「おぉ…」」

 

 周囲から歓声が上がる中、私の体を這う様に、自らの髪を使用した服が編まれていく。

 

 無事、服を着込み終え、私は床に着地する。

 

 

「さぁ、踊るわよ」

 

 

 私は杖を取り出し、足元へ向け軽く振ると、床から1本のポールが現れた。

 

 左手でポールを握り、右手をドラコへと差し出す。

 

 だがドラコは、私の手を取らず、首を左右へと振った。

 

「流石にポールダンスは踊れないよ」

 

 

「あら? そうなの」

 

 私は、右足をポールに絡ませ、左足を床に付け、両手をポールへ添える。

 

 再び曲調が変わり、ジャズベースのスローテンポな曲が流れ始める。

 

 

 

 

 曲に合わせる様に、絡めていた右足をゆっくりと開きながら、両足で地面に立つ。

 

 その後、右手でポールを軽く握り、そのポールに背中を這わせるように、ゆっくりと、途中ウィンクをしつつ、反対側へと移動する。

 

 

 両手でポールを持ち、蛇の様に体を絡め、ポールを軸にし、ゆっくりと回転する。

 

「「おぉ」」

 

 会場の全員が私の踊りに見入っているのか、技を決める度に歓声が上がる。

 

 スローテンポな曲も、終盤に近付き、ゆっくりとポールの周りを回りつつ、そっと手を絡める。

 

 曲のフェードアウトに合わせ、右手でポールを掴み、背中を見せながら、その動きを止め、フィニッシュを決める。

 

 ガラス越しに巨大な三日月が私を照らし、周囲が幻想的な雰囲気となる。

 

 

 曲が終わり、余韻が流れた後、会場から割れんばかりの拍手が巻き起こる。

 

「流石だね、とてもロマンチックだったよ」

 

 

 ドラコはゆっくりを私に手を差し出した。

 

「どうも」

 

 私はその手を取り、ポールを降りる。

 

 

 ドラコは一礼し、私は再びポーズを決めると、会場のボルテージは最高潮へと達した。

 

 そんな最高のボルテージの中、クリスマスパーティーは大成功を収めた。

 




無理だぁ

ベヨネッタのポールダンスが気になった方は、ゲームを全クリしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2試合

  第2試合当日。

 

 代表選手達はホグワーツから多少離れた所に有る、湖へと集められた。

 

 しかし、その中にハリーの姿はなかった。寝坊でもしたのだろうか?

 

 

 湖には、大きな観客席が設けられており、すでに観客で超満員だ。

 

「やぁ! やぁ! みんな集まっておるかね? おや、ハリーの姿が見えないな」

 

 バグマンは不思議そうに周囲を見回している。

 開催の時間までは後、15分を切った所だ。

 

 他の代表選手に視線を移すと、クラムとセドリックは競泳用のパンツ1丁の状態で準備体操をしている。デラクールは凍えながらローブを羽織っているが、その下はレオタード状の競泳水着を着込んでいる。

 

 そんな中、私だけは、前回の試合同様に自らの髪で編みこんだ武闘装束に身を包んでいる。

 

 そのせいか、デラクールを始め、多くの人々が私に視線を送っている。

 

『まさか、その恰好で泳ぐつもりじゃないわよね』

 

『そのつもりよ、何か問題でもあるかしら?』

 

『別に、ただ水着を買えなかったって言うなら貸してあげても良いわよ』

 

 デラクールは挑発混じりに私に話しかけて来る。

 

『お生憎様、アンタの水着は胸がキツ過ぎて入らないわよ』

 

『なんですって!』

 

 皮肉には皮肉で返したが、デラクールがこちらを睨みつけて来る。

 

 その時、ハリーが息を切らせながら階段を駆け上がって来た。

 

 その恰好は普段の制服を着込んでいる。水着は来ていないようだが、大丈夫だろうか?

 

「ハァ…ハァ……ハァ…到着しました」

 

 時間ギリギリと言ったところか、だがこれで全員が集合した。

 

『さて! これで全員が揃いました! 第2課題の内容は至ってシンプル! 制限時間以内に大切なモノを取り返すことです! どれだけ鮮やかに! どれだけ手早くが勝負の分かれ目になりそうです! まさに選手達の知恵がモノを言うでしょう!』

 

 大声で、喧しい解説も終わった所で、私達はバグマンの指示で飛び込み台の様な所へ移動させられる。

 

 水面は綺麗に澄んでいるがそこまでは光が届いていない様で、仄暗かった。

 

「それでは私のホイッスルを合図にスタートだ! 行くぞ! 1…2…3!」

 

 

 けたたましいホイッスルの音が周囲に響くと同時に、代表選手が一斉に湖に飛び込む為に、自らに魔法をかけるなど準備を始めた。

 

 ハリーは急いで穿いていたズボンを脱ぎ始めている。まさか下着で飛び込むのだろうか?

 

 そんな彼らを尻目に、私は素早く湖に飛び込む。

 

 飛び込むと同時に、内なる獣を開放させる。

 

 すると、私の体は、一瞬のうちに変化し、巨大な黒い蛇へと姿を変えた。

 

 蛇へと姿を変えた私は、水の中を這う様に高速で移動していく。

 

  数分ほど泳いだ所で、水中人の歌声が聞こえてきた。

 

 私はその歌声のする方へと移動する。

 すると、そこには巨大な藻の塊のようなものが存在しており、そこには見覚えのある顔ぶれが、眠る様に絡め捕られている。

 

 

 どうやら、ダンスパーティーで代表選手のパートナーになった人物のようだ。

 

 左端の方に、ドラコが眠る様に藻に絡め捕られている。

 

 なるほど、人質という事か。

 

 私は、人の姿に戻り、捕らえられたドラコ達を助けるべく、藻の塊へと近付く。

 

 その時、周囲が神々しく、禍々しい光に包まれた。

 

 

 周囲を見渡すと、体の半分以上が巨大な顔で占められており、水中であるにも関わらず、背中の羽根を羽ばたかせながら、剣の切っ先の様な尾を唸らせるようにしながら、水中を舞う小型の天使達、カシェ&コンパッションズが姿を現した。

 

 カシェ&コンパッションズ

 天使の階級においては最下位に属する天使達。過去に偉業を成した英雄達が携えていた名剣、名刀がその役割を終えた後天界へと迎えられ姿を変えた物だと言われている。

 

「こんな所までくるなんて、アンタ達も相当暇なのね…それとも」

 

 後方で再び光が輝き、天使の一団が現れた。

 

 杖の様な物を持ち、人間の上半身を鏡合わせの様に繋げた歪な姿の天使、エンラプチャーが嘲笑うかの様に体を揺らしている。

 

 エンラプチャー

 天使のヒエラルキーにおいては第八位に属するが、その誕生は数ある天使たちの中でも最古参にあたる。

 

 その、エンラプチャーを中心に、周囲をまるでタコの様な…深海生物を思わせる軟体と多数の触手を持った天使、フィデリティが随伴している。

 

 フィデリティ

 その見た目から、母なる大海を離れ、陸で生活している人々に、原初の記憶を想起させる為に存在すると言われている。

 

 

 これらの天使は、私を取り囲むように、水中を悠々と移動している。

 

「また大勢来たわね、パーティーでも始めようっていうの?」

 

 

 水底に立ち、両手に銃を構えながら、周囲の天使達を見据える。

 

 そんな時、後方から顔にエラの様な器官を生やしたハリーが声を上げながら近付いて来た。

 

「ベヨネッタ! これって…」

 

「そのようね、簡単には通してくれないみたいよ」

 

「くっ!」

 

 ハリーは苦虫を噛み潰したような表情をしながら悪態を付いている。

 

 そうしている間に、他の代表選手達も人質を目の前にして、その歩みを止めた。

 

「これヴぁ、どうなっているんだ!」

 

「あいつ等は一体…」

 

「これーは、まずいでーす」

 

 ハリーを始めとした、代表選手の面々は、杖を取り出し天使を追い払おうと、呪文を唱える準備を始めた。

 

「どいてくださーい!」

 

 デラクールが呪文を放とうとした瞬間、エンラプチャーが手にしている、杖を構えた。

 

 すると、エンラプチャーの杖に、私達の魔力が吸われていく。

 

「ぐぅ!」

 

「ぐあ!」

 

「くっ!」

 

「うぅ…」

 

 

 急激に魔力を吸われ、私を除くその場の全員が、海底に膝を付けた。

 

 このままでは、生命の危機にも関わってくる。

 

 私はその場で飛び出し、体を蛇に変え、エンラプチャーとの距離を一気に詰める。

 

 そして、擦れ違い様に、一瞬で人に戻り、その胴体を蹴り飛ばす。

 

 蹴られた衝撃により、エンラプチャーは杖を手放したようで、魔力を吸われる感覚が収まる。

 

「良い杖ね、でも私の趣味じゃないわ」

 

 エンラプチャーが手放した杖を両手で掴むと、真上からエンラプチャーに突き刺し、串刺しにする。

 

「ギュアアア!」

 

 串刺しにされたエンラプチャーは絶叫を上げ、絶命した。

 

 

 その直後、後方からフィデリティが触手の先から、剣の様な物を出し、私を突き刺そうとしてくる。

 

「無駄よ!」

 

 触手の攻撃を、マハーカーラの月で受け止め、カウンター気味に鉄山靠をお見舞いする。

 

 鉄山靠の直撃により、吹き飛ばされたフィデリティに駆け寄り、距離を詰めると、軽く指を鳴らす。

 

 その音に呼応するように、フィデリティを取り囲むように、巨大な檻が現れ、その下には水中であるにも関わらず、轟轟と炎が燃え上がっている。

 

 手元のハンドルを回すと、炎に焼かれているフィデリティが回転を始め、全身くまなく火が入って行く。

 

 更にハンドルを力強く回すと、それに比例するようにフィデリティの回転速度も上昇していく。

 

「はぁ!」

 

 最後に、勢いよくハンドルを回すと、フィデリティが完全に炎に飲まれた。上手に焼けたようだ。

 

 

 

  ハリー達の方に視線をずらすと、回復したようで、人質を助け出そうと、行動を開始している。

 だが、それを嘲笑うかのように、カシェ&コンパッションズが自身の躰である刀を振るい、襲い掛かっている。

 

 

「くそっ! どけよ!」

 

 ハリーが、魔法を放つが、天使達には、今一効果はないようだ。

 

『いやぁ! 助けて!』

 

 突如、水中にデラクールの悲鳴が木霊する。

 

 そこには、カシェが、その剣をデラクールに振りかざそうとしている。

 恐らくこのままでは、真っ二つに切断されるだろう。

 

「はぁ!」

 

 私はデラクールの前に飛び出すと、修羅刃を構え、カシェの一撃を受け止める。

 

『これは貸しにしておくわ』

 

『た…助かったわ…』

 

 修羅刃でカシェを吹き飛ばし、そのまま顔面に乗り、サーフボードの様に水中を移動し、その切っ先で、コンパッションズを切り払って行く。

 

 周辺のコンパッションズを全て片付けた後、カシェを藻の塊の方へと蹴り飛ばす。

 

 蹴り飛ばされたカシェは、回転しながら、藻を切り払っていき、海底へと姿を消していった。

 

 カシェにより、藻が切り払われたおかけで、人質達の拘束が解かれた。

 

「先に行くわよ」

 

 私は体を再び蛇へと変え、ドラコをその口に咥えると、一気に浮上を開始する。

 

 

 水面から蛇の姿のまま一気に飛び上がると、会場から歓声が上がる。

 

 それもそうだろう、グリフィンドールの生徒が蛇に姿を変え、スリザリンの生徒を救出したのだから。

 

 私は、蛇の姿を解除し、両手にドラコを抱きかかえながら、ゆっくりと着地し、床へとドラコを寝かせる。

 

「あれ…ここは…」

 

 目を覚ましたドラコは、周囲を見回している。

 

「目が覚めた様ね」

 

「あぁ…助かったよ」

 

 ドラコはそれだけ言うと、疲れているのか、天を仰ぐ様に横になっている。

 

 その後も、続々と代表選手が課題を攻略し、帰還してくる。

 

『代表選手が全員無事に帰還しました! 大切なものも無事です! イヤー良かった!』

 

 

 競技も終わり、解説役が大声を上げている。

 

 後は採点を残すのみだ。

 

 そんな時、湖から爆音と共に水面に巨大な水柱が上がった。

 

 

 




さて、次回何が起こるんでしょうね。
お楽しみ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

知恵

タイトルだけで、多くの人が想像つくでしょうね


 

 「何事だ!」

 

 誰かがそう叫ぶと、水面に巨大な影が浮かび上がり、巨大な機械の様な四本足の天使、サピエンチアが姿を現した。

 

 サピエンチア

 大海原の愛を具現化したとされる天使。海獣に例えられる事が多いのは津波などの畏怖によるものだろう。サピエンチアが人界に及ぼす影響は、津波や潮の満ち引きなどに例えられる。大いなる海の営みこそ、天の意思の働きに他ならないという雄大な考えは、サピエンチアが慈愛に満ちた天の意思を代表するものであることを表している。

 

 

 サピエンチアの背の装甲の蓋が開き、数十を超える飛翔体が射出された。

 

 射出された飛翔体は、一直線にこちらに迫ってくる。

 

 ようやく、飛翔体の全体図が確認できた。

 

 先端部に、天使の顔を象った。ミサイル群だ。

 

 

 このままでは、ミサイル群が直撃し、会場が火の海と化すだろう。

 

「面倒な事をしてくれるわね」

 

 私は溜息を吐きながら、指を鳴らす。

 

 すると、私の前面に7本の首を持つ大蛇の魔獣、ヒュドラが姿を現した。

 

 ヒュドラ

 かつては美しい娘だったが、妹の犯した罪によって姉妹共々魔界へと落ち、このような姿にされてしまった。

 

 7本ある首の内1本だけが本物で、それ以外はいくら切り落とされても死に至る事は無いと言う。

 

 

『キュエェエエエエエェエエエ』

 

 ヒュドラの7本の首総てが口を開き、奇声を上げた。

 

 その奇声が音の壁となり、ミサイル群の動きを真横へと軌道を変えた。

 

 軌道を変えたミサイル群は、会場周辺の森へと軌道を変えて着弾したようだ。おかげで会場内に大きな被害は見られない。

 

『やはりこの程度では死なぬか、流石はアンブラの生き残りだ」

 

 頭部にある口の様な機関を動かし、サピエンチアがエノク語で語り掛けて来る。

 

『我が来たのは他でも無い、貴様が…ンォ!』

 

 天使特有の長い語りを聞くのに飽きた私は、近くにあった細長いポールを手に取ると、サピエンチアの口目掛け投げつける。

 

 投げ出されたポールは縦に回転しながら飛んで行き、サピエンチアの口の中で縦に挟まり、その口上を停止させた。

 

「うぅん」

 

 私は思わず、ボーリングでストライクを決めた時の様にガッツポーズを決める。

 

「お喋りはもう良いわ、アンタ達に付き合っている暇はないの」

 

 サピエンチアは口に力を籠め、縦に挟まったポールを噛み砕き数回咀嚼している。

 

『まぁ良い、これも計画の内だ』

 

 するとサピエンチアの口が開き、奥から4本の触手が現れ、その先端に付いている目の様な器官から、熱線が照射される。

 

 ヒュドラは再び奇声を上げると、前進を開始し、その頭部に備えた角で、熱線を切り裂き、弾き飛ばしていく。

 

 四方へ散らばった熱線は、会場へ直撃する事は無かったが、周囲の森に着弾し、所どころ、火の手が上がっている。

 

 

  私は、その場で飛び上がり、ヒュドラの背を渡り、サピエンチアの頭部へと飛び乗った。

 

『何のつもりだ!』

 

 サピエンチアの声が響くが、私はそれを無視しながら、頭部で両足の銃を乱射しながら、タップダンスを踊る。

 

 足が、サピエンチアの頭部を踏みつける度、マダムの足も現れ、同様に、その背中を踏みつけていく。

 

『ぐおっぉおおぉお!』

 

 

 

 サピエンチアの苦痛の声が上がるが、マダムは容赦しない。

 背中にある羽根を両手で掴むと、まるでバイクを運転するかの様に捻る。

 すると、サピエンチアも前進を開始する。

 

 行く先には、ヒュドラが7本の首をもたげ、攻撃の体制を取っている。

 

 サピエンチアは何とか逃れようとするが、方向を変える度にマダムの鉄拳制裁が執行され、軌道修正される。

 

 眼前にサピエンチアを捉えたヒュドラは、7本の首を振り、その顔面を切り裂いた。

 

 

『グアアアァがあぁ!』

 

 顔の装甲を切り裂かれた、サピエンチアは苦しそうに声を上げている。

 

『いい気になるな!』

 

 サピエンチアは体を振り、私を振り落とそうとする。

 

「無駄よ!」

 

 その瞬間、マダムの両手が現れ、サピエンチアの口を無理やり開かせる。

 

『むごあおぉぉおお!』

 

 無理やり開かれた口目掛け、ヒュドラが突進し、7本すべての首を口の中に突っ込んだ。

 

「キュェェアアエエエア!!」

 

 ヒュドラが再び奇声を上げると、サピエンチアの体内で反響し、内部にダメージを与えていく。

 

『ぐ…ぐぉぉおぉおごおぉ!』

 ヒュドラの奇声が響く度に、サピエンチアの躰から、メキメキと金属の軋む音が響く。

 

『うごぉおぉ!』

 

 サピエンチアが絶叫を上げると同時に、胴体が砕け、その直後、黒煙を上げショートした後、力なく水面に着水する。

 私は、背から飛び退き、ヒュドラの背へと着地する。

 

『まさか我が再び敗れるとは』

 

 まともに動くパーツが首だけとなったサピエンチアが苦しそうにそう笑った。

 

『まぁ良い…これもすべて…』

 

 首の下にいつもの様に異形の手が現れ、サピエンチアを引きずり込んでいく。

 

『ファアハハハハ!!』

 

 引きずり込まれていく最中も、サピエンチアは苦しそうな笑い声を上げていた。

 

 

 

 

 

  ヒュドラの背から、会場へと飛び移りると、全員の視線が私に集まった。

 

「採点は終わったかしら?」

 

 私の問いに、審査員席の面々は首を横に振り、ダンブルドアが口を開いた。

 

「今回は、予想外の出来事が多すぎた…よって採点結果は後日…最終課題の時に発表する、それでは皆、城へと戻るのじゃ」

 

 ダンブルドアの言葉を聞き、会場全体が不穏な空気に包まれつつ、皆一様に城の中へと戻って行った。

 

 

 

 城に着くなり、ハーマイオニー達が口を開いた。

 

「ベヨネッタ!あれは一体何なの?第一試合の時もそうだったけど…あんなの異常よ!」

 

「そうだよ、僕あんなの見た事無いよ…ホント怖かった」

 

 ハーマイオニーとロンは身震いしながら、詰め寄ってくる。

 そんな中ハリーが意を決した様に口を開こうとした。

 

 その時、背後からマクゴナガルが現れた。

 

「ポッター、セレッサ、二人とも来なさい」

 

「え?」

 

「何の用かしら?」

 

「ダンブルドア校長がお呼びです」

 

 マクゴナガルは一言そう言うと、踵を返し校長室へと向かっていった。

 

 その背中を私達も追いかける様に付いて行った。

 

 校長室に入ると、ダンブルドアが椅子に深く座り、両手を組みながら私達を迎え入れた。

 

「良く来たのぉ…早速じゃが第2課題での出来事を教えてくれんか」

 

「はい…」

 

 ハリーは水中での出来事を事細かに説明していった。

 その説明を聞いている最中に、ダンブルドアは3回ほど溜息を吐いていた。

 

「話を要約しようかの…つまり人質が捕らわれておる周辺に、天使の一団が現れたという事かの?」

 

「その通りです。しかも天使達には魔法があまり効いていないようだったんです!」

 

「なんじゃと…」

 

 ダンブルドアは驚きの声を上げその場で立ち上がり、ハリーと二人でこちらに目線を送って来た。

 

「セレッサよ…それは本当かの?天使達にはワシら魔法では太刀打ちできないと…」

 

「さぁ?少なくとも、あいつ等に生半可な魔法は無意味ね、やるなら徹底的に潰すしかないわね」

 

「何という事じゃ…第1試合の時に現れた奴も…そして今回のあの巨大な奴も…」

 

「そこそこ位の高い天使よ」

 

「じゃが、アラスターは新種のドラゴンじゃと言っておったが?」

 

「あれは天使よ、なんでそんな出まかせを言ったのか、そして、なんでそれを信じたのかは知らないけど」

 

 恐らく、その方が事を荒立てずに済むと考えたのだろう。

 

「弱ったのぉ…」

 

 腰を抜かしたようにダンブルドアは再び椅子に座り込んだ。

 

 

「ねぇ、ベヨネッタ、前々から思っていたんだけど…」

 

 ハリーが深刻そうな表情で、疑問を投げかける。

 

「どうして君は、天使を倒しているんだい?それに、どうして天使は僕達に攻撃してくるんだ?だって天使って言えば…」

 

「優しいイメージでもあるのかしら?」

 

 私が遮る様にそう言うと、ハリーがゆっくりと頷いた。

 

「左様…天使と言えば光の象徴じゃ、なぜそのような天使がワシ達に危害を加えて来るのじゃ?」

 

 

「良いわ、教えてあげる」

 

 私は近くにあった椅子に腰かけ、ゆっくりと脚を組む。

 

「私が天使共を狩る理由は簡単よ。ただアイツらがムカつくからよ、前にも話さなかったかしら?」

 

「どうだったかのぉ?年を取ると物忘れがのぉ」

 

 ダンブルドアはワザとらしく頭を杖で掻きとぼけている。

 

「まぁ、お主が天使を狩る理由は分かった。じゃがどうして天使達はワシ達にまで危害を加えるんじゃ?」

 

「そうね、ただ近くに居ただけじゃないかしら?アイツ等の考える事なんてわかりたくないわ」

 

 私は、足を組み直し、ロリポップを取り出し、口に咥える。

 

「ただ一つ言えるのは、天使なんてアンタ達が思っている様な優しいものじゃないわ。アイツ等も悪魔も大して変わらないもの」

 

 私がそう言い切ると、ダンブルドアは唖然とした表情を浮かべている。

 

 自分が今まで信じてきた天使のイメージが崩れたのだから、それもそうだろう。

 

「さて、聞きたい事は以上?」

 

 ダンブルドアとハリーはタイミングを合わせたかのように、同時に首を縦に振った。

 

「そぉ、なら戻らせてもらうわ」

 

 そう言い残し、私は校長室から退出する。

 

 それにしても嫌な予感がする。

 ここまで大型の天使が2匹連続で現れるとは…

 この次も、恐らく簡単にはいかないだろう。

 




呆気無い感じでやられてしまいましたが、下手に長引かせるとグダりそうな気がして…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

迷路

今回は結構短めです。

次回は最終課題ですね。


  最終課題と前回の結果が発表される日。

 

 代表選手はクィディッチ会場へと集められた。

 

 そこは、本来あるはずのクィディッチの会場ではなく、所々に補修の後を残してはいるが、それを覆い隠すかのように巨大な生け垣が聳え立っている。

 

「なにこれ?」

 

「さ…さぁ?」

 

 ハリーとセドリックは互いに首を傾げている。

 

「やぁ! 代表選手の諸君! どうかね? これを見て!」

 

 巨大な生け垣の前でバグマンは両手を広げ大声を上げている。

 

「見事な物だろう! あと数日もすれば完成だ! あぁハリー、そんな顔をしなくても大丈夫だ! 競技が終わればクィディッチの会場は元通りにするからな! さて、ここで一つ質問だが、最終課題は一体何だか見当がつくかな?」

 

「迷路?」

 

「大正解だ! クラムの言う通りこれは巨大な迷路だ!この迷路の中に優勝杯を隠してある。その優勝杯を最初に手にした選手が今回の三大魔法学校対抗試合の優勝者だ! つまり、勝った者が正義だ!」

 

 最終課題に迷路とは、案外シンプルに決まるものだ。

 

「だが、これはただの迷路ではない! 道中には様々な罠や、魔道生物が放たれている!」

 

「つまりヴぁそれを避けて行けということヴぇすね、でもそのヴぁあい今までの課題の得点ヴぁ?」

 

 クラムが最もな質問をぶつける。

 

 最後に高得点をあげて大逆転させるクイズ番組ではないのだから、その辺はどうなっているのだろう?

 

「もちろん、最初に優勝杯を手にした者が優勝だが、第1第2の競技で得た得点には意味がある。その得点の多い物から順番にスタートだ! さて…それでは第2競技の得点発表といこうか」

 

 バグマンはそう言うと、小さな紙を胸ポケットから取り出した。

 

「第2競技は予想外の出来事により、皆一様に少なからず競技の妨害を受けた…その点を考慮して、第2課題の得点は1番最初に姿を現した。セレッサに50点、それ以外の選手に40点と言う結果だ」

 

「そんな…」

 

 この結果を聞き、クラムは何か言いたげだが、口を閉ざしている。

 

「つまり、一番に迷路に入るのは、セレッサ、君だよ」

 

 

 笑顔のバグマンはそう言うと、親指を立ててサムズアップしている。

 

「さて、私からの説明は以上だ。他に聞きたい事は…無い様だね、では皆、城へ戻るとしよう」

 

 

 私達は、バグマンに背中を押される様に城の中へと戻って行った。

 

 

 

 最終課題当日。

 

 ハリーは大広間で大量の料理を目の前にして、呻き声を上げている。

 

「どうしたのよ? 食べないの」

 

「流石に…この量は」

 

 ハリーは顔をしかめ、目の前にある大量の料理に指をさした。

 

「何を言っているんだよ! これくらい食べなきゃだめじゃないか! 今日は最終課題なんだから!」

 

 ロンはそう言うと、手に持ったフォークでウィンナーを突き刺し、ハリーに押し付けている。

 

「うぅ…もういいって!」

 

「そうかい? なら僕が食べるよ」

 

 呑気そうにロンがそう言うと、手に持っていたウィンナーに齧り付く。

 

 それにしても、この量は見ているだけで胸焼けしてきそうだ。

 

「ポッター、セレッサ、2人ともこの後大広間の隣にある小部屋に集合しなさい」

 

「わかりました」

 

 ハリーはこの状況から抜け出せるのが嬉しいのか、安堵の表情を浮かべ、マクゴナガルの後を付いて行った。

 

 

 

 小部屋に入ると、他の代表選手達も集まっており、家族と思われる人物と熱い抱擁を交わしている。

 

 集められたのは、招待された家族への挨拶をする為の様だ。

 

 

 ハリーは不仲な親戚ではなく、ウィーズリー家、そしてシリウスの姿もあった。

 

 

 私は周囲を見回す。すると見知った人物たちが部屋の一角に腰かけ、こちらに手を振っている。

 

「こっちだ!ベヨネッタ」

 

 ルカが大声で手を振り、手招きをしている。

 

 私は部屋の端に移動すると、ジャンヌが呆れた様に口を開いた。

 

「フッ、うるさい男だな…それにしてもセレッサ、なかなか面白い世界(ところ)じゃないか」

 

「そうでしょ、ショッピングモールが無いのは不便だけどね」

 

「お前らしいぜ」

 

 部屋の端で、大きな包みを肩に担いだロダンが、葉巻に火を付けながら笑う。

 

「それにしても、どうしてアンタ達がここへ?」

 

「招待状だ」

 

 ジャンヌはそう言うと、1枚の手紙を取り出した。

 

 そこには、私が三大魔法学校対抗試合の代表選手に選ばれた事、そして最終課題の日程が記載されていた。

 

「試合は本業の方の予定が有るから見れないが、顔ぐらい出そうと思ってな」

 

「あら、悪いわね」

 

「なぁに、この程度…ところでセレッサ、大会に奴らが現れたと聞いたがそれは本当か?」

 

「えぇ、それも下位(ザコ)じゃなくて、最上位(ボス)クラスの奴がね」

 

 ジャンヌは、腕を組みながら低く唸ると、不安そうに首を傾げた。

 

「まさか奴らがここまで大きく出るとはな、何か心当たりは?」

 

「無いわね、自然に表れたにしては不自然すぎるわ」

 

「そうか…こっちでも少し探ってみよう…嫌な予感がする、用心しろよ、セレッサ」

 

「えぇ、分かっているわよ」

 

 私は人差し指で、眼鏡の端を持ち上げながら、ジャンヌに答える。

 

「ところで…ロダン、それは何かしら?」

 

 私が大きな包みに指を差すと、ロダンはニヤリと笑い、袋を手に取った。

 

「ちょっとばかし遅いプレゼントさ、後での楽しみにしてな。ここで開けるにはちょっとばかし刺激が強すぎるぜ」

 

 

 ロダンは口から煙を吐きながら、不敵な笑みを浮かべていた。

 

 

 代表選手たちは家族との挨拶が終わった後、各自解散していった。

 

  私達はダンブルドアに無茶を言い、もう少しだけこの部屋を使わせてもらう事にした。

 

 

「さて、お待ちかねのプレゼントだ」

 

 そういうと、ロダンは、包まれた布に手をかけ少し捲り上げる。

 

 

 布の奥からは禍々しさを放つ身の丈程の大きさの刃が見え隠れする。

 

「あらぁ、これは…」

 

「うまく使ってくれよ」

 

 ロダンが勢い良く布を取っ払うと、そこには、3枚刃の巨大な鎌が姿を現した。

 

「チェルノボーグだ。ようやくコイツの最終調整が終わってな」

 

「いいじゃない、この子も素敵だわ」

 

 チェルノボーグ。

 魔界の奥深くに打ち捨てられた死の神チェルノボーグの大鎌に、複数の魔物の魂を封じた魔導器。ロダンの手によって極上の魂が封じられたことでかつての輝きを取り戻した。生きているように蠢く3枚の巨大な刃で斬りつけられると、傷口から闇が侵蝕し魂は腐り地獄に落ちる。

 

 私は、チェルノボーグを手に取ると、右手で中間部にある持ち手を持ち、左手で下方部を掴み構える

 

 そのまま、鎌を薙ぐ様に軽く振るう。

 

 すると3枚の刃が空間を引き裂きながら、獲物を求めるかのような唸りを上げる。

 

「どうだ、良い音色だろう?」

 

「えぇ、素敵だわぁ」

 

 チェルノボーグの持ち手を軽く撫でてやると、それに呼応するように、3枚の刃がカチカチと音を鳴らす。

 

 私は、チェルノボーグの柄を持ち上げ、器用にポーチへと仕舞い込む。

 

「素敵なプレゼントだったわ」

 

「フッ、そいつはどうも」

 

 最終課題を目の前にして思わぬ玩具を手に入れ、私の胸は高鳴りを感じた。

 

 




ついにチェルノボーグが出ましたね。

ゲーム中で、とてもお世話になりました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

正義

タイトルで(ry

ついにこの章も終盤ですね。


  最終課題が始まり、私達はクィディッチ会場に集められた。

 

 しばらく待っていると、会場内に観客が入り始める。

 

 観客の中には、ジャンヌとロダンの姿は無く、ルカがカメラを片手に構えこちらに手を振っている。

 どうやら、あのカメラは魔法界の物ではないが、ロダンに頼んで改造してもらったのだろう。

 

 またしばらくすると、審査員たちが自身の席へと着席を始めた。

 

「私達教師陣が迷路の外側を巡回します。助けが必要な時は、空中に赤い花火を上げなさい。私達の誰かが救助へ向かいます。よろしいですね?」

 

 マクゴナガルの説明を聞き、ハリー達は数回頷いた。

 

 それを見た教師陣は、バラバラに歩きだした。

 

 バグマンはそれを見送ると、喉に杖を押し当て、声を響かせた。

 

「さて諸君、いよいよ最終課題だ! 覚悟は良いか!」

 

 バグマンの怒声がクィディッチ会場に響き渡る。

 

 それをかき消すかのように、会場からは歓声が上がる。

 

「それでは、最後の確認だ。私がこのホイッスルを鳴らしたらスタートだ! 一番手はセレッサからだぞ!」

 

 私はその言葉にウィンクをして返す。

 

「よし。それでは行くぞ! 1………2………3!」

 

 カウントと同時にホイッスルの音が木霊する。

 

 私はその場から悠々と歩きながら、迷路の中へと入って行った。

 

 迷路の内部は、木々が生い茂っており、視界も悪い状況だ。

 

「好き放題に荒れているわね。庭師ぐらい雇ったらどうかしら?」

 

 私は溜息を吐きながら、ポーチからチェルノボーグを取り出した。

 

「少し剪定しましょうか」

 

 チェルノボーグを下段に構えながら、走り出し、目の前を遮る生け垣を切り裂いていく。

 

 下段から横に薙ぎ、そのまま、斜めに振り下ろす様にチェルノボーグを振るう。

 

「仕上げよ!」

 

 チェルノボーグを前面に押し出す様に腕を振り、ウィケットウィーブを発動させる。

 

 すると、3枚の巨大な刃が現れ、あたりに生い茂っていた蔦を全て切り払う。

 

 そのおかげで、辺りは随分と開け、奥には青白く輝く、優勝杯が置かれている台座が目に入った。

 

「すっきりしたわね、さて行きましょうか」

 

 

 綺麗に整地され、障害を取り除かれた迷路を、私は直進していく。

 

 

 その時、2回目のホイッスルが鳴り響いた。

 

 少しすると、ハリーが私の間横に差し掛かって、唖然とした表情を浮かべた。

 

「ベヨネッタ…これ君がやったのか?」

 

「そうよ、遠回りなんて私は好きじゃないのよ」

 

「へ…へぇ…じゃあ!」

 

 ハリーは優勝杯目掛けて、突然走り出そうとした。

 しかし、私はハリーの襟首を掴み後方へと投げ飛ばす。

 

「ぐわぁ!」

 

 ハリーは驚きの声を上げ、後方に投げ飛ばされる。

 

「はぁ! 何をするんだ!」

 

 ハリーが大声を上げる。その直後、先程までハリーが居た所の地面が盛り上がり、巨大な口が付いた触手が飛び出して来た。

 

「あれは!」

 

 ハリーが大声を上げる、その瞬間、巨大な触手が引っ込み、代わりに小型の触手が数本出現し、私に襲い掛かってくる。

 

 

「はぁ!」

 

 私はその場で飛び上がり、1本目の触手を回避し、そのまま2本目の触手を踏み付け更に上空へと回避する。

 

「くっ!」

 

 その時私の右足に、1本の触手が絡みつき、地面に空いた穴へと引きずり込もうとする。

 

 

「離しなさい!」

 

 両手両足、4丁の銃を触手に向け一斉に発射する。

 

 放たれた弾丸は、一直線に触手を撃ち抜き、バラバラに引き裂いた。

 

 上空で1回転決めた私は、地面に着地すると、消え去って行く触手に目を向ける。

 

 大本はもっと別にあるのだろう。

 

 

 その時、右足に違和感を覚える。

 

 右足を見ると、千切れた触手が絡みつき、ウネウネと蠢いている。

 

「気持ち悪いわね!」

 

 蠢いている触手を摘まみ上げると、その辺へ投げ捨てる。

 

「触手は趣味じゃないって言ったでしょ」

 

 私が溜息を吐くと、他の代表選手達も私の少し後ろで、唖然とした表情をしている。

 

「これで、全員が揃ったわね」

 

「そうだね」

 

 ハリーがそう言うと、他の代表選手も数回頷き、一触即発の空気が流れる。

 優勝杯はもう見えている。後は真直ぐ進めば優勝が確定だ。

 

  そんな時、地響きと共に、地面が揺れ、周りから巨大な触手と、その大本である球体状の巨大な天使、ユスティジアが優勝杯の前に姿を現した。

 

 ユスティジア

「正義」が表される姿で、天使の中でも殊に異形である。幾つもの顔が集まって出来た塊、そこから伸びる無数の触手、まさに悪魔とも形容できる威容だ。正義を成すことの難しさが、描く者の心にあまりにも大きい畏敬の念を抱かせるためだろうか。このユスティジアは、天の意思の中でも、実は最も魔界に近い意思だという考え方がある。正義とは、人が従うべき正しい道理のことであるが、その道理を定めるのもまた人であり、見方を変えれば悪にも転じる-その危うさが、ユスティジアの姿や伝承に表れているのかも知れない。

 

 空中に浮いているユスティジアが、甲高い笑い声と共に、エノク語で話し始めた。

 

『久しぶりだな、アンブラの魔女よ、貴様に復讐する時をどれだけ待ちわびた事か』

 

「それはアンタの都合でしょ、どいてくれないかしら?」

 

『それは貴様の都合だろう、我にはやるべきことが有るのだ…ん?』

 

 ユスティジアが疑問の声を上げると、隣に居た、デラクールとクラムが杖を取り出し、ユスティジアに魔法を放っていた。

 だがその魔法は、虚しくもユスティジアには全く効いていないようだった。

 

 

『邪魔をするな人間よ、貴様等に用は無い』

 

 

 再び地面が揺れると、小型の触手が現れ、クラムとデラクールの2人を薙ぎ払う様に襲い掛かった。

 

「くっ!」

 

 2人は何とか回避しようと、飛び退いたが、完全には避け切れずに、吹き飛ばされる。

 

「くそぉ!」

 

 ハリーとセドリックは吹き飛ばされた2人の元に駆け寄ると、口元に手をやっている。

 

「よかった…息は有るみたいだ」

 

 2人は胸を撫で下ろす様に、ほっと、溜息を吐いている。

 

「2人とも、安全な所へ行ってなさい」

 

「ベヨネッタは!」

 

「私はコイツの相手をするわ」

 

 ポーチからロリポップを取り出し口に咥え、魔力を開放させる。

 

『これで邪魔者は居なくなったな』

 

「かかって来なさい!」

 

 両手に構えた銃を軽く振り、ユスティジアを挑発する。

 

 突如、地面から大量の触手が姿を現し、一斉に襲い掛かる。

 

「邪魔よ!」

 

 ポーチからチェルノボーグを取り出し、襲い掛かる触手を切り裂いていく。

 

『無駄な事を!』

 

 ユスティジアの1つの顔の口から、巨大な触手が吐き出される。その先端には、ビラブドによく似た顔が付いている。

 

 口から出た触手が、一直線に私に襲い掛かってくる。

 

「喰らいなさい!」

 

 拳を振り上げる。それと同時にマダムの拳が現れ、私と同じような動作をする。

 

「吹き飛べ!」

 

 拳を前に突き出し、迫り来るユスティジアの触手にカウンター気味に殴りつける。

 

『ぐぉ!』

 

 マダムのストレートを喰らった触手はその場に力無く倒れ込む。

 

「お仕置きの時間よ」

 

 倒れた触手の上に乗ると、触手を駆け上がり、巨大な顔へと走り出す。

 

『近寄るな!』

 

 その声と共に、触手から、無数の光の刃が現れ、私の行く手を阻む。

 

「無駄よ!」

 

 光の刃が当たる寸前、私は飛び上がり、刃を避けると、勢いそのままにユスティジアの顔面に飛び蹴りを喰らわす。

 

『ぐぅぅうぅう!』

 

 苦痛に歪む声を上げながら、ユスティジアの口から触手の根元が現れる。

 

「くらえ!」

 

 

 チェルノボーグを取り出し、横に薙ぎ払い、触手の根元に切れ込みを入れる。

 

 そして、切れ込みにチェルノボーグの刃元を押し付け、手元のトリガーを引く。

 

 その瞬間、チェルノボーグは音を立てて、その先端に付いていた3枚の刃を一斉に射出した。

 

 3枚の刃の直撃を受け、触手の根元がブツリと音を立て千切れ堕ちる。

 

 

『ぐぅうおぉおおぉお!』

 

 ユスティジアは口から血を吐くようにして、触手の塊を口から吐き出した。

 

 

 地面に着地した私は、チェルノボーグのトリガーを再び引いた。

 

 すると、先程射出された3枚の刃が再び装填され、元の状態へと戻る。

 

『なめるなよ、アンブラの魔女が!』

 

 

 ユスティジアは周囲の触手から毒を撒き散らし、迷路を毒沼へと変化させた。

 

 ハリー達は何とか毒の無いエリアに退避している様だが、このままではいつ毒に襲われるか分からない。

 

「何時までもアンタを相手している暇ないのよ」

 

 

 ユスティジアは咆哮を上げると、再び別の顔から、巨大な天使の顔を付けた触手を吐き出す。

 

「ワンパターンすぎるのよ!」

 

 私は、その場を飛び上がり、周囲の触手を飛び移りながら、触手を吐き出した顔に飛び掛かる。

 

『ぐぉ!』

 

 先程同様に顔を蹴り飛ばされ、ユスティジアは口から触手の根元を吐き出した。

 

 私はその顔の鼻の頭に着地すると、右腕に力を籠める。

 

「はぁ!」

 

 力を籠めた右腕を薙ぎ払い、触手の根元を手刀切り払う。

 

『グぉ!』

 

 

 先程同様にユスティジアは口から血と、触手の塊を吐き出す。

 

 

『クハハハ! まだまだだ!』

 

 宙に浮いているユスティジアは、再び別の顔、今度は前後2か所から巨大な触手を発生させた。

 

「まだあるのね、いい加減にして欲しいわ」

 

 私は、溜息を吐きながら、眼鏡のふちを持ち上げる。

 

 次の瞬間、顔の付いた1本の触手が、私を貫こうと突進してくる。

 

「残念、ハズレよ」

 

 私はその場で飛び退き、触手の突進を回避する。

 

 それと同時に、マダムの両手が現れ、触手を掴み取る。

 

『ぐぅぅおおおお!』

 

 ユスティジアは苦悶の声を上げ、触手を必死に引き戻そうとする。

 だがマダムも、触手を引き抜こうと力を籠める。

 

 次の瞬間、ズルズルと音を立て、ユスティジアの口から、触手がどんどんと抜き取られていく。

 

『ぐぉおおおぉおぅぅぅうおおぐ!』

 

 ユスティジアの口からは、どんどんと触手が抜けていく。

 

 どうやら運の良い事に、反対側の触手と繋がっていた様で、一気に2本、つまり残り総ての触手が抜けたようだ。

 

「これでおしまいね、さっさと消えなさい!」

 

『まだだ…うごぉおおぉお!』

 

 触手を引き抜かれ、球体状になったユスティジアは、怒声を上げながら、私にその体で体当たりを仕掛けてきた。

 

「さようなら」

 

 私が指を鳴らすと、マダムの巨大な手が現れ、突撃してくるユスティジアを迎撃するように殴り飛ばした。

 

「さて、仕上げね」

 

 墜ちて来るユスティジアを空中に蹴り上げ、私は、自身の魔力を開放し、魔法陣を形成する。

 

『APACHANA NAPTA!』

 

 

 召喚ゲートから6本の腕が現れ、球体となったユスティジアの周囲を取り囲んだ。

 

 6本の腕の正体は、ヘカトンケイルと呼ばれる魔獣だ。

 

 ヘカトンケイル

 強靭な六本の腕を持つ巨人。その豪腕は山をも砕き、足を踏み鳴らせば三日に渡る大地震を引き起こす。知能が低く凶暴で、優れた術者でもその召喚には危険を伴うと言われる。

 本体まで召喚すれば、とてつもない危険が伴うだろう。

 

 

 ヘカトンケイルの2本の腕が飛んできた、ユスティジアをまるでボールの様にレシーブし、高く打ち上げる。

 

 高く打ちあがったユスティジア(ボール)の前に2本の腕が現れトスをし、ユスティジア(ボール)を安定させる。

 

 ユスティジア(ボール)の行く先には2本の腕があり、アタックを決めようと力を溜め、狙いを定めている。

 

 しかし、アタックは虚しくも空を切り、ユスティジア(ボール)は地面に落ちると虚しい音を立て数回バウンドした。

 

 

 一拍置いた後、6本の腕がユスティジアに一斉に襲い掛かり、何十発と殴りかかる。

 

 最後に6本の腕が同じタイミングでユスティジアを殴りつけると、弾き飛ばされる様に宙へと舞い上がる。

 

 舞い上がったユスティジアの後方に魔法陣が現れ、その奥から無数の腕が現れ、ユスティジアの体をキャッチした。

 

『やはり素晴らしいな、流石はアンブラの魔女だ』

 

「ねぇ、そろそろ教えてくれないかしら? アンタ達が何を企んでいるのか?」

 

『クハハハ、それはいずれ分かる事だ』

 

 ユスティジアを掴んていた腕に力が入り、引きずり込もうとしている。

 

『ファハハハ!貴様の行く先に、天の祝福が有らんことを!』

 

 ユスティジアは最後に皮肉めいた事を言うと、向こう側へと引きずり込まれていった。

 

 周囲を見回す。ユスティジアが残した毒は消え、周囲は荒れ果てて、原形を留めていない迷路だけが残された。

 

「ベヨネッタ!」

 

 

 安全を確認したのか、ハリーが声を上げこちらに走って来た。

 その後ろには、セドリックも杖を手にしながら走っている。

 

「終わったの?」

 

「えぇ、ところでさっきの2人は?」

 

「それなら、さっき花火を打ち上げた所さ、もうじき助けが来るはずだ」

 

「そう…」

 

 私達3人は、奥に見えている優勝杯に目を向けた。

 

「……っ!」

 

 多少の沈黙の後、ハリーとセドリックは同時に走り出した。

 

 

「せっかちね」

 

 私は数瞬遅れた後に、走り出し、優勝杯に手を伸ばす。

 

「うわ!」

 

 そして、私達3人は同時に優勝杯を手に取った。

 




あの形状なら、バレーボールもできると思うんですよね。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

節制

一体何が待ち構えているんでしょうね(すっとぼけ)


   優勝杯に手にかけた瞬間、私は何かに引き寄せられる感覚に陥った。

 

 周囲を見回すと、あたりの風景が様変わりしている。

 

 優勝杯に掴まっている、ハリーとセドリックは大声を上げている。

 

 次の瞬間、私は地面の上に立っていた。

 

 周囲は墓場の様で、禍々しい雰囲気が漂っている。

 

 私の足元には、倒れ込んだハリーとセドリックが呻き声を上げている。

 

 

「いて…ここは?」

 

「墓場か?」

 

 ハリーとセドリックは警戒したように、杖を取り出し、周囲を警戒している。

 

「久しぶりですねぇ、ベヨネッタ」

 

 周囲に聞き覚えのある、耳にこびりつく声が木霊し、墓標の陰から、青白く輝く、天使とも悪魔とも区別の付かない男が姿を現した。

 

「アンタ…」

 

 その姿を見た私は目を見開き驚愕した。なぜ奴がこの世界に、数年前に消滅させたはず…

 

「不思議ですか? 私がこの場所に居て。そうでしょう、貴女にとっては私は消えたはずですからねぇ」

 

 その男はニヤニヤと、不敵な笑みを浮かべる。

 そして、その男の後方から、鼠の様な小汚い男が、布に赤子の様なモノを包んでやって来た。

 

 ピーター・ペティグリューか、脱獄したとあったが、まさかコイツが手を引いていたとは

 

 

『何を無駄話している! ロプト!』

 

「これは失礼を、ヴォルデモート卿」

 

 不気味な声が墓場全体に木霊し、それに応える様に、ロプトの鼻に付く声が響く。

 

 私はロプトに、ハリーとセドリックはピーターと声の主に警戒している様だ。

 

『邪魔者は消せ!』

 

「かしこまりました、ヴォルデモート卿」

 

 ロプトは、何処からか杖を取り出すと、私達に構えた。

 

 

「アバダケダブラ」

 

 ロプトの滑らかな詠唱が終わると同時に、杖の先から緑色の閃光が飛び出し、一直線にセドリックに襲い掛かる。

 

「セドリック!!」

 

 ハリーが叫び声を上げるが、セドリックは動けないでいる。

 

 

「どいてなさい!」

 

 私は、緑色の閃光と、セドリックの間に立ちふさがる。

 

「ベヨネッタ!!」

 

「セレッサ!」

 

 ハリーとセドリックの絶叫が響く。

 

 緑色の閃光が私の眼前まで迫り来る。

 

 ゆっくりと、手に構えたマハーカーラの月を突き出す。

 

 緑色の閃光はマハーカーラの月に直撃すると、進路を反転させ、魔法を放ったロプトへと吸い込まれた。

 

「おや?」

 

 緑色の閃光が直撃し、ロプトがその動きを止めた。

 

「まぁ、こんな物でしょうね、人が考えた魔法など」

 

 ロプトはやれやれと言う様に、首を横に振っている。

 

 

 次の瞬間、ロプトが再び杖を振るうと、ハリーが後ろにあった墓標に縛り付けられた。

 

「ハリー!」

 セドリックがハリーに向かって走り出したが、ロプトが再び杖を振るうと、気を失う様にその場に倒れ込んだ。

 

「安心してください、死んではいませんよ」

 

 

 ロプトはニヤニヤと笑いながら、杖を手で遊んでいる。

 

『急げ! 儀式を始めるぞ!』

 

 ヴォルデモートの不気味な声が響き、ピーターは忙しそうに走り出した。

 

「一体何をしようって言うのかしら?」

 

「なぁに、闇の帝王に復活していただく。それだけですよ」

 

「そんな事して、アンタに何のメリットが有るのよ?」

 

「フフッ、それはまた、別の機会にでも。今は邪魔しないでいただきますか?」

 

「お断りよ、アンタの頼みなんて聞くわけないじゃない」

 

 両手に銃を構え、一斉にロプトに向け発射する。

 

「おやおや、今は戦いたくないのですがねぇ」

 

 ロプトは両手を前に出すと、見えない壁の様な物により、銃弾が止まってしまう。

 

「うわぁああああ!」

 

 その時、ハリーの苦しそうな悲鳴が上がり、ピーターに腕をナイフで刺されている。

 

「闇の帝王の復活ですね」

 

 ロプトはその場から離れると、墓地には不釣り合いな大鍋の前に移動した。

 

 大鍋から出る大量の湯気を掻き分け、1つの影が蠢いている。

 

「ローブを着せろ」

 

「はい、ただいま」

 

 ロプトは手に持っていたローブを丁寧に鍋から出てきた男に着せていく。

 

 その男は、白骨のように白く、細長い体をし、不気味な真っ赤な目をし、切り取られたような鼻に、唇の無い口。これがヴォルデモートなのだろう。

 

 

「とんでもないブサイクが復活したわけね、それがアンタの目的?」

 

「小娘が! 調子付くなよ!」

 

「病み上がりですから、節制なさった方がよろしいですよ」

 

 怒声を上げるヴォルデモートを諭す様に、ロプトが宥めている。

 

「フッ…まぁ良い。ワームテール、腕を出せ。ロプト、俺様の杖をよこせ」

 

「ただいま」

 

「ああぁ…ご主人様…」

 

 ロプトは先程まで使って居た杖をヴォルデモートに差し出した。

 倒れていたピーターは苦しそうに切り取られた腕を出す。

 

「反対だ」

 

「あ…あぁああ…」

 

 

 ピーターは震える様に、もう片方の手を差し出した。

 ヴォルデモートはその腕に書かれている刺青に杖を深く差し込んだ。

 

「あぁあああぁああがぁあ!!」

 

 ピーターは激痛が走ったのか、悲鳴を上げている。

 

 ヴォルデモートはそれを楽しんでいるのか、杖を捩じる様に押し込んでいる。

 

 男のサディストは気色が悪い。

 

「これで…これで皆が気が付くはずだ。さて…何人が戻るか…」

 

 

 ヴォルデモートは一人そう呟くと、私の方に視線を向けた。

 

「貴様がロプトから聞いていた小娘か、想像以上に幼いな」

 

「若いって言ってくれないかしら? そんなんじゃ、レディに失礼よ」

 

「フン、減らず口を……来たようだな」

 

 次の瞬間、墓地には次々と黒いフードを被り、顔を仮面で覆っている魔法使いが現れあ

 

「ご主人様…」

 

 現れた魔法使い達は、怯えながらもヴォルデモートに近付くと、跪きローブの端にキスをしている。

 

 ヴォルデモートは顔を歪ませながら、その場に居る全員を見回した。

 

「よく戻った、死喰い人よ…お前たち全員が無傷で、魔力も失われていない。なぜお前たちは俺様を助けに来なかった?」

 

 ヴォルデモートは見せつける様に杖を構えると、死喰い人達がビクリと肩を竦めた。

 

「お前たちには失望した…クルーシオ」

 

「がうあああああ! もうじわけ! ございまぜん!!」

 

 ヴォルデモートは死喰い人の一人に磔の呪文を掛けると、その人物はのた打ち回り悲鳴を上げている。

 

「フッ…まぁ良い…お前達はこれからも俺様に忠誠を誓うのだ。良いな」

 

 ヴォルデモートは呪文を解いたのか、のたうち回っていた死喰い人は、その動きを止めた。

 

「さて…貴様は良く尽くしてくれたな、ワームテール…褒美をやろう」

 

 ヴォルデモートは、ピーターの腕を掴み、軽く杖を振るうと、失った手を補う様に銀で出来た義手が現れた。

 

「あ…ありがとうございます!」

 

「その忠誠心に期待するぞ…さて、面白い奴が戻って来たな」

 

「お久しぶりでございます我が君…肉体を無事取り戻されたようで…」

 

「フン! 相変わらずだなルシウスよ」

 

 ヴォルデモートはルシウスの仮面を外すと、それを放り投げた。

 

 ルシウス…たしか、ドラコの父親だったか…

 

「申し訳ありません…すぐに駆け付けようとしたのですが…」

 

「白々しいな、ルシウス」

 

 ヴォルデモートが杖を構えると、ルシウスの体が一瞬にして硬直する。それを見てヴォルデモートは満足気に笑う。

 

「まぁ良い…今後の働きに期待しようではないか」

 

「あ…ありがたきお言葉…」

 

 ルシウスはその場で深々と頭を下げる。

 

 その時一瞬だが私と視線が合ったような気がする。

 

 

「あぁ…そうだったな…」

 

 ヴォルデモートはその場で高笑いすると、杖を振りぬき、ハリーに魔法を放った。

 

「クルーシオ」

 

 ハリーは絶叫を上げる。それを見ているヴォルデモートは高笑いをしている。

 

 

 

「見ろ! この小僧は何も出来んぞ! コイツは俺様から幸運にも生き延びたと囃し立てられているが…その実はどうだ!」

 

 ヴォルデモートは杖を振り、ハリーを吹き飛ばすと、再び高笑いをする。

 

「杖を抜け! ハリー・ポッター! 決闘のやり方は知っているだろう!」

 

 ヴォルデモートが杖を振るうと、ハリーの体が無理やりに引き起こされる。

 

「さあ! 決闘とは儀式だ! 礼儀を欠くわけにはいかん! 頭を下げろ! 体を折れ!」

 

 感極まったヴォルデモートはハイテンションで叫び声を上げる。

 

「お辞儀をするのだ! ポッター!」

 

 

 突如として、周囲から死喰い人の拍手が響き渡る。

 

「さぁ! 背筋を伸ばせ! 決闘だ! 杖を構えろ!」

 

 ヴォルデモートは嬉しそうに杖を構え、それに対してハリーは苦しそうに杖を構えた。

 

 

「アバダケダブラ!」

 

「エクスペリアームス!」

 

 2人が魔法を放つと、空中で緑と赤の閃光がぶつかり合う。

 

「ぐぉおお!」

 

 ヴォルデモートはこの状況が理解できていないのか、困惑した表情を浮かべている。

 

 だが、このままではまずい。

 

 私は、銃を取り出しヴォルデモートの眉間目掛け1発の銃弾を放つ。

 

 放たれた銃弾は真直ぐに飛翔し、ヴォルデモートに迫りよる。

 

 が、直撃する寸前に銃弾は空中で静止する。

 

「人の決闘を邪魔するとは、なってませんね」

 

 ロプトが構えていた手を下にやると、それに従う様に、銃弾がポトリと落下する。

 

「小娘! 邪魔をするな!」

 

 怒りを孕んだ怒声を上げながら、ヴォルデモートはこちらに杖を向けて来る。

 

 墓地の奥では、ハリーが肩で息をしながら、杖を握りしめている。

 

「ハリー、今のうちに」

 

「でも…」

 

「良いから行きなさい」

 

 私の声に従う様に、ハリーはその場から走り出した。

 

「逃すか!」

 

 周囲の死喰い人が杖を抜き、ハリーに魔法を放とうとするが、その杖を右手の銃で撃ち抜く。

 

「くぉ!」

 

 杖を破壊された死喰い人は、その場に座り込んだ。

 

 ハリーの方はと言うと、倒れていたセドリックに駆け寄ると、杖を取り出し、優勝杯を引き寄せて、2人でその場から消え去った。

 

「さて、これで存分に遊べるわね」

 

「そうですね、ですが先程も言ったように、私は今戦うつもりは無いのですよ」

 

  ロプトが微笑み、軽く指を鳴らす。

 すると、地響きと共に、周囲に嵐が起こり、その中から、脚の無い、まるで城壁をイメージするような巨大な天使、テンパランチアが悠然とその姿を現した。

 

 テンパランチア

「節制」の意志は一際巨大な姿で描かれる。城のように思える胴体に、巨木のような二本の腕。その泰然とした姿に、人々が如何にこのラグナを畏怖していたかが表れていると言えよう。怒りか、喜びか、天の意志を推し量る事など人間に出来るはずもなく、竜巻に見舞われた人々は、それが治まるのをひたすら祈り続け、己の節制を天に誓ったという話だ。

 

「なんだあれは!」

 

 死喰い人から、恐怖にも似た声が上がるが、ヴォルデモートはそんな中、高笑いをしている。

 

「素晴らしいぞ!」

 

「喜んでいただけたようですね、彼女の相手はこちらに任せ、我々は先に退散いたしましょう」

 

「フッ…小娘よ! 精々生き延びる事だな!」

 

 ヴォルデモートを始めとする、死喰い人達、そして、ロプトがその場から姿を消す。

 

『ベヨネッタよ、これで我が悲願成就に1歩近付いた。礼を言うぞ』

 

「アンタ達に感謝される覚えなんて無いわね。それにしても、あのブサイクの復活が目的だったなんて、アンタ達も落ちたものね」

 

『ハハハ、それが目的だと? それは通過点に過ぎん』

 

「じゃあ何が目的よ?」

 

『それを貴様が知る必要などない』

 

 次の瞬間、巨大な大木のような腕が私に振り下ろされる。

 

『貴様はここで死ぬのだからな』

 

「そう、ならいいわ、遊んだ後でゆっくりと聞かせてもらおうかしら」

 

 テンパランチアの1撃を避けた私は、『Tom Riddle』と書かれた墓標の上に着地する。

 

 そして、魔力を開放しマダムの全身が現れる。

 

 マタムとテンパランチアは互いに睨みあい、ファイティングポーズを取っている。

 

 マダムが一気に近寄り、テンパランチアのボディに1発喰らわせる。

 

『ぐぉ!』

 

 マダムの一撃で、体を前のめりにさせているテンパランチアの顔面を、マダムは数発、ジャブやアッパーカットを喰らわせる。その度に天使の装甲が剥がれ、醜悪な姿を晒していく。

 

『ぐぉおぉお!』

 

 テンパランチアも負けじとマダムに殴りかかるが、それは虚しくも華麗に回避され、ウィッチタイムの中、一方的に顔面を殴られる。

 

「うごぉおぉおお!」

 

 ラッシュを喰らったテンパランチアは一回下がり、右手に力を溜め、マダムに殴りかかる。

 

 マダムも右手を振りぬき、両者の拳がぶつかり合う!

 

 1発、2発と拳がぶつかり合う度に、衝撃により、周囲の墓標が破壊されていく。

 

 テンパランチアが力を振り絞り、ストレートを放ってくる。

 

 マダムも渾身の力を籠め、ストレートを放つ。

 

 両者の拳がぶつかり、強大な衝撃波が発生し、墓地が荒地へと変わった。

 

 その時、テンパランチアの拳にヒビが入り、そのヒビはどんどんと腕を駆け上り、右腕が完全に崩壊する。

 

『ぐぉおそお!』

 

 マダムは残った左腕の付け根に抜き手を突き刺し、左腕を完全に切断した。

 

『ぐおぉお…フフフ…』

 

 悲鳴と笑い声を放ちつつ、テンパランチアの巨体が荒地へと墜落する。

 

 マダムは墜ちたテンパランチアの顔面を踏みつけると、力を籠め始める。

 

『フフフ…素晴らしいぞ…これほどとは…やはり素晴らしいな!』

 

 瀕死の状態のテンパランチアが笑い声を上げながら呟き始める。

 

『これもすべて…』

 

 何かを言いかけた瞬間、マダムの力が最大にまで入ったのか、テンパランチアの顔面が踏み潰される。

 

 その直後、巨体を取り囲むように魔法陣が現れ、無数の手により、テンパランチアの体が引きずり込まれていった。

 

「バカね、大切な話を聞きそびれちゃったじゃない」

 

 私がそう言うと、マダムは大笑いを上げたまま、元の場所へと帰って行った。

 

「まぁいいわ、さて戻りましょうか」

 

 私は、杖を取り出すとバーへと移動した。

 




三大魔法学校対抗試合ではなく、四元徳復活祭を送りしました。

まぁ、復活した端から片付けられましたが。

節制さんはどこで出そうか迷ったのですが、墓地で出てもらうのが一番かと思いました。

次回で炎のゴブレット編は終了ですね。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4年目が終わり

今回で炎のゴブレットは終わります。

今年も平和でしたね(すっとぼけ)


 

 バーに戻り、1杯やった後、私は自室の窓を開けた。

 

「こっちの方角ね」

 

 窓の枠に足を掛けると、力を籠め飛び上がる。

 

 会場の真上に到着すると、そのまま自由落下を始める。

 

 私が会場へ着地すると、ハリー達と、ダンブルドア達教師陣がこちらに視線を向け驚愕の表情を浮かべている。

 

 会場からは、大きな歓声が上がる。

 

「華麗に着地ね」

 

「ベヨネッタ! 無事だったんだね!」

 

「あんな程度問題じゃないわ」

 

「よかった…僕達君を置いてきちゃったから…」

 

「良いわよ、それにしても無事に戻れて良かったじゃない」

 

「そうだね…」

 

 ハリーは何処か浮かない表情で、俯いている。

 

「3人ともよく無事に戻った…詳しい話を聞きたい。皆この後、校長室へ来てくれんか?」

 

「校長! 彼女等は戻ったばかりで疲れ切っている筈です。少し休ませるべきかと…」

 

 マクゴナガルが意見を上げるが、ダンブルドアは首を横に振った。

 

「確かにそうかもしれぬ、じゃが、今だからこそ分かる事もある。さぁ」

 

 ダンブルドアが近寄り、私達を、校長室へ案内した。

 

 校長室には、ダンブルドア、マクゴナガル、シリウス、スネイプが集まっている。

 

 部屋の中心には、縄の様な物で縛られた、ムーディが床に倒れている。

 

「奴はアラスターに化けていたのじゃ。本人はすでに保護されておる」

 

 それを聞き、ハリー達は胸を撫で下ろしている。

 

「さて、ハリー、セドリック、セレッサ。話してくんか」

 

 ハリーがゆっくりと口を開き、先程の墓地での出来事を口にし始めた。

 

 ヴォルデモートが復活した事。

 

 死喰い人が結集した事。

 

 私が死の魔法をはじき返した事。

 

 ヴォルデモートと杖が繋がった事。

 

 そして、謎の男、ロプトの存在を。

 

 それを聞いたダンブルドアはフラフラと立ち上がると、校長室の中を徘徊している。

 

 

 そして、ハリーとセドリックに先程と同じような質問を繰り返している。

 

「何という事じゃ…」

 

 ダンブルドアは、ハリー達との会話が終わったのか、天を仰ぎながら、椅子に腰かけた。

 

「ハリー、セドリック…よく話してくれた。もう休むがよい。シリウス、彼等を送ってくれ」

 

 ダンブルドアの声に従い、ハリーとセドリックがシリウスに連れられて、校長室を出ていった。

 

 私も、退室しようとすると、ダンブルドアに呼び止められる。

 

「セレッサよ、お主にはまだ話がある」

 

 ダンブルドアが教師陣に目配せをすると、教師陣は少し不安そうにも退室し、部屋の中には私とダンブルドアだけとなった。

 

「さて、何の話かしら?」

 

「君は、ハリー達より後に戻って来た。その時の事を教えてくれぬか…それとハリーが話していた謎の男の事もじゃ」

 

「そうね、ヴォルデモートが襲ってきたくらいかしら」

 

「君はそれを逃れられたという事じゃな」

 

「あのブサイクにやられるなんて想像したくないわ」

 

 私が首を横に振ると、ダンブルドアは呆れる様に席に着いた。

 

「もう一つ聞きたいのじゃが…君は…死の呪文を弾き返した事じゃ…それは本当かね?」

 

「本当よ」

 

「それは…どの様にやったのじゃ…」

 

 私は、ゆっくりと腕を持ち上げ腕に付いている、マハーカーラの月を見せつける。

 

「それが…その魔導具の様な物で弾き返せるというのか」

 

「そうよ、綺麗でしょこれ。お気に入りなのよ」

 

 ダンブルドアはその鋭い瞳で、マハーカーラの月をまじまじと見つめる。

 

「その魔導具を譲ってはくれぬか?」

 

 急に何を言い出すかと思えば…

 

「お断りよ。これはお気に入りなのよ」

 

「無論タダでとは言わぬ」

 

「無理よ」

 

 私はダンブルドアの申し出をぴしゃりと断った。

 

「そうか…無理を言ったのぉ」

 

 ダンブルドアは残念そうに椅子に座り込む。

 

 だが、次の瞬間、ダンブルドアが目にもとまらぬスピードで杖を構え、魔法を放った。

 

「っ! なんのつもりかしら?」

 

 瞬時にマハーカーラの月を構え、ダンブルドアが放った魔法を弾き飛ばす。

 

 弾き飛ばされた魔法は、ダンブルドアに吸い込まれる様に直撃し、私の手元に杖が飛んできた。

 

「すまんの、じゃが気を悪くせんでくれ」

 

 ダンブルドアはワザとらしくお辞儀をし、謝罪の意を現した。

 

「どういうつもりかしら?」

 

 私は両手に銃を構え、ダンブルドアに突き付ける。

 

「奴が復活した今。ワシ達は力を付けなければならない」

 

 ダンブルドアは真直ぐな視線で私を睨み付ける。

 

「それがどうしたっていうのよ」

 

「セレッサよ、単刀直入に言う。ワシ達…不死鳥の騎士団に入ってはくれぬか?」

 

「不死鳥の騎士団?」

 

 ダンブルドアの話では、不死鳥の騎士団とは、ヴォルデモートや、死喰い人に対抗する集団という事だ。それに私をスカウトしたいらしい。

 

「なんで私がそんなのに入らなきゃいけないのかしら? 宗教の勧誘なら他を当たってくれないかしら?」

 

「そう言わず話を聞いてくれぬか? これはお主にとっても悪い話ではない筈じゃ」

 

「どういう事かしら」

 

「ふむ…ハリーの話では謎の男、ロプトと呼ばれていたようじゃの、君とその男は何やら深い因縁があるようじゃの」

 

「それがどうかしたのかしら?」

 

「互いに協力せぬか? ワシら不死鳥の騎士団は全面的にお主を支援しよう。お主はワシらにその力を貸して欲しいのじゃ」

 

「へぇ…つまり私を味方に引き入れたい。そういう事かしら」

 

 ダンブルドアは苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべ、口を開く。

 

「そうじゃ…お主を敵に回したとて…ワシが太刀打ちできるとは思えん…」

 

「そう…まぁ良いわ。強要しないって言うなら入ってあげるわ」

 

「そうか! ありがたい」

 

 ダンブルドアは嬉しそうな表情を浮かべる。

 

「ただ、いくつか条件が有るわ」

 

「良かろう。言うが良い」

 

 ダンブルドアは少し表情を整え、ペンを取り出した。

 

「集会とかが有るかも知れないけど、参加するかしないかは私の自由にさせてもらうわ。それと、今後、私が何をしようと口を出さない事」

 

「わかった…それだけかの?」

 

「最後にもう一つあるわ。アンタ達が天使達と関りを持たない事。それが条件よ」

 

「天使と関りを?」

 

「そうよ、もし1つでも条件を破るようならば…」

 

 私は銃を構え直し、ダンブルドアの額に押し付ける。

 

「分かっているわよね」

 

 私がウィンクをすると、ダンブルドアは息を呑み、数回頷いた。

 

「そう。なら交渉成立ね。精々仲良くしましょう」

 

 

 ダンブルドアは握手をしようと手を差し出すが、私はそれを無視し、校長室からゆっくりと退室した。

 

 

  校長室を後にした私は、医務室へと足を向けた。

 

 医務室の中では、治療を受けているハリーとセドリックがマクゴナガルを始めとした教師陣とスーツを着込んだ男に何やら話をしている。

 

 

「嘘を言うんじゃない! 例のあの人が復活した? そんなバカな?」

 

「ですがファッジ大臣! 本当なんです! 僕達はあの場に居て、それを目にしたんです!」

 

 ハリーとセドリックはファッジと呼ばれてた男に力強く言うが、聞く耳を持たれていないようだ。

 

「馬鹿らしい! 第一、2人の生徒の話を誰が信じると言うのか…」

 

「彼等が言う事は事実じゃぞ」

 

「っ! ダンブルドア! 貴様まで何を言う! 血迷ったか!」

 

 いつの間にやら現れたダンブルドアが私の横を通り抜け、医務室へと入って行った。

 

「血迷っては居らぬ。今セブルスに頼み、クラウチに真実薬を飲ませ、計画を聞き出そうとしておる所じゃ」

 

 

「ふざけた事を…」

 

 

 その時、スネイプが、いつもと同じような表情で医務室に現れた。

 

「セブルス…首尾はどうじゃ?」

 

「死にました」

 

「なに!」

 

「奴は予め真実薬に毒を混ぜ込んであった様で、薬を飲んですぐに死にました」

 

「なんじゃと…」

 

 ダンブルドアは怒りなのか、それとも無念さからなのか分からないが、その身を震わせている。

 

「証言者は居ない! つまり例のあの人が復活したなんてのは事実ではない!」

 

 ファッジが大声を上げ騒ぎだす。

 

「ファッジよ、ヴォルデモートは復活したのじゃ…ハリーもセドリックも…セレッサも目にしたと言っておる。それを信じるも信じないもお主次第じゃが…もし復活したのが事実ならば…困るのはお主の筈じゃ…」

 

 ダンブルドアの言葉を聞き、ファッジはかなり狼狽している。

 

「だ…だがこんな事…ありえん!」

 

「それがありえたのじゃよ…ヴォルデモートが帰って来たのじゃ…ファッジよ…今のお主に出来るのはこの事実を認め、必要な措置をする事じゃ…今ならまだ我々がこの状況を救えるかもしれぬ。まずはアズカバンを吸魂鬼から解放する事じゃ」

 

「ふざけるなよ!

 

 ファッジがダンブルドアに食い掛かった。

 

「吸魂鬼を取り除くだと! そんな事をすれば、私は大臣職から引きずり降ろされるだろうな!」

 

「じゃがの…コーネリアス。奴らに監視されているのはヴォルデモートの最も信仰的な支持者じゃ。恐らくヴォルデモートの一言で奴らと手を組むじゃろうな…そうなったらどうなっておるか…お主にだってわかるじゃろ…」

 

 ファッジは驚きのあまり、言葉が出ないでいる。

 

「次の策は…」

 

「もういい!」

 

 ファッジが大声を上げ、ダンブルドアの言葉を遮った。

 

「ダンブルドア! 貴様が私を大臣から引きずり落とし、大臣の椅子に座ろうと考えている事は分かり切っている! その手は乗らないぞ! 私は魔法省に戻らせてもらおう!」

 

 ファッジは大声を上げた後、踵を返し、医務室から出ていった。

 

 その背中を、私達は見送るしかなかった。

 

 

 

 

  三大魔法学校対抗試合が終了してから1ヶ月程が過ぎ、今年も終わりを告げた。

 

 それは即ち、ヴォルデモートが復活を遂げ1ヵ月が過ぎた事を意味する。

 

 三大魔法学校対抗試合は最終的にハリーの優勝という事で幕を閉じた。

 

 

 

 それにしても驚愕したのが、ロプト…奴が生きていたことだ。

 奴は完全に消滅したはず…だが、現にこの世界に居るという事は…何か裏がありそうだ。

 

 それに、天使の活動も活発になり始めている。

 

 そろそろ大事になるかも知れない…

 

 私は溜息を吐きながら、駅へと向かう馬車に乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皆が自宅へと帰って行く姿を見て、ワシは一人自室で胸を撫で下ろした。

 

 今年も無事とは言わぬが、大きな犠牲が無かった事を実感した。

 

 それにしても、三大魔法学校対抗試合に天使達が乱入するとは思わなかった…

 

 セレッサがあの場に居たおかげで、人的被害は無かったが…ワシ等だけであれに太刀打ちしろと言われて…果たしてそれは可能なのだろうか…

 

 恐らくだが…それは不可能だろう。

 ワシらの使う呪文は奴らには効果はあまりないという話じゃ…現に第3試合で魔法を受けた天使が何事も無かったかのように振る舞っておった。

 

 天使達と対峙する為にも、不死鳥の騎士団には彼女…セレッサの力が必要不可欠だ。

 

 だが…彼女を不死鳥の騎士団にスカウトしたのは…果たして正解だったのだろうか…

 

 少なくともヴォルデモート達に付かれるよりはマシだろう…

 

 そう考え、ワシは溜息交じりに笑いながら椅子に座り込む。

 

 そして、今年彼女が起こした物損の請求書に目を通した。

 

 第1競技の会場、ホグワーツ湖とその周辺の森…そしてクィディッチ会場。

 

 

 この3つの請求書がワシの手元にある…

 また法外な金額だ…これは…多少は魔法省に融資を頼まなければならないかもしれない…

 

「はぁ…」

 

 今度は本格的に溜息を吐き、ワシはさらに天を仰いだ。

 

 まぁ…この金額で彼女を仲間に出来たなら安い物なのかもしれない…

 

 

 そう思う事で、今回の請求書から目を逸らす事にした。

 




今回は、かなりの被害が出ましたが、死者は出ていないので、平和ですね。


それでは次回、不死鳥の騎士団編でお会いしましょう。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

不死鳥の騎士団
入団テスト


バレンタインですね。

まぁ私からすればまったく関係のない事柄ですが。


そんな事より、プラチナスターズさんから特別企画として、『♯ベヨネッタ愛』と言うのが始まりましたね。

3の発売が楽しみです。


 エンツォからの依頼を片付けた後、私はジャンヌと共にショッピングを楽しんでいた。

 

 お目当ての靴を数足買えたので、私もジャンヌも大満足だった。

 もちろん、支払いに関してはエンツォ持だ。

 

「はぁ…お前ら何足靴を買うんだよ! タコじゃあるまいし」

 

「今はタコよりも、イカの方が流行ってるわよ」

 

「そりゃ結構な事で」

 

 両手に大量の荷物を持ったエンツォは呆れた様に頭を振りながら、バーの入り口を器用に開け中へと入った

 

「よぉ、エンツォじゃねぇか、また随分と買い込んだな」

 

「コイツ等の付き添いじゃ…はぁ…しゃーない…ロダンとりあえず一杯くれ」

 

「あいよ」

 

 ロダンは冷蔵庫から冷えたビールを取り出すとエンツォへと手渡した。

 

「ぷはぁ! キンキンに冷えてやがる!」

 

 栓を抜くと、グラスにも注がずラッパ飲みをしたエンツォは大声で感想を述べている。

 

「ホント下品ね」

 

「全くだ。こんな奴に美人な奥さんと子供がいるのが不思議で仕方ない」

 

 私達は互いに顔を見合わせ、呆れた様に首を振っている。

 

「お前さんたちの分だ」

 

 テーブルの上を滑る様にカクテルが移動し、私達の手前でピタリと止まった。

 

「気が利くじゃない」

 

「フッ…それからコイツは、ベヨネッタ…お前宛だ」

 

 私は片手でカクテルグラスを掴み、もう片方の手でロダンが差し出した手紙を受け取った。

 

 ご丁寧にも、手紙にはしっかりと蝋でシーリングされている。

 

 シーリングを剥がし、中から1枚の羊皮紙を取り出す。

 

「誰からだ?」

 

「ダンブルドアからね、不死鳥の騎士団のメンバーに私を紹介したいそうよ」

 

「不死鳥の騎士団…フッ…なんだそれは? 新手の新興宗教か?」

 

 ジャンヌは鼻で笑うと、大袈裟に両手を上げている。

 

「天使を狩る宗教なら私は大歓迎よ。簡単に言えばダンブルドアが作った抵抗組織ってところかしら?」

 

「それはさぞ過激な組織だろうな…それよりセレッサ、奴が復活して以来、どうも妙に思わないか」

 

「そうね。この店に新しく暖炉なんかが作られている事かしら」

 

「その事ではない」

 

「冗談よ」

 

「まぁ良い。ここ最近こちらの世界では上の連中があまり活発には動いていない。どちらかと言えば魔法界(そちら側)の方が活発だ」

 

「アイツが何か関係しているとでも?」

 

「その可能性はゼロではない…どちらにしろ、アイツの思い通りにさせる訳にはいかない」

 

「もちろんそのつもりよ」

 

 私は手に持ったカクテルグラスを口へと運び、唇を濡らす。

 

「それより、その呼び出しには行くのか?」

 

「そうね…どうしようかしら」

 

 手に持った羊皮紙を、人差し指と中指で挟み、軽く遊ばせる。

 

「まぁ暇潰しにはなるでしょうね」

 

「そうか、まぁ程々にしろよ。あまり教師を困らせるなよ」

 

「先生みたいなこと言うのね」

 

「これでも現役の高校教師だからな」

 

 ジャンヌは軽く微笑むと、グラスに口を付けている。

 

「さて…グリモールド・プレイス12番地ね…」

 

 私は杖を取り出すと、最寄り駅であるキングスクロス駅へと移動する事にした。

 

 

 キングスクロス駅は今日も相変わらず人々が行きかっている。

 

 私は駅から出ると、グリモールド・プレイスへと向け歩みを進めた。

 

 20分ほど歩くと、アパートの様な住宅街に出た。

 

 周囲の看板には、グリモールド・プレイス11番地の看板が立っており、その隣には13番地の看板が立っている。

 

「12番地が無いわね。どこかに隠されているって事かしら?」

 

 人通りのないアパートの間で私が呟いていると、背後から誰かが近寄って来た。

 

 振り返るとそこにはダンブルドアが立っていた。

 

「よく来てくれたの、セレッサ。早速じゃが中へ案内しよう」

 

 ダンブルドアはそう言って杖を取り出し、軽く振ると、11番地と13番地の間からせり出る様にして12番地が出現した。

 

「驚いたかね」

 

 ダンブルドアは自信に満ちた表情でそう言うものだから、私は呆れた様に首を左右に振った。

 

「アンタ達ってそういうのホント好きよね」

 

「趣味みたいなもんじゃよ。さて行こうかの」

 

 ダンブルドアに案内されながら、私はグリモールド・プレイス12番地を進み、屋敷の中へと入って行った。

 

 ちなみにこの屋敷はシリウスの持ち家の様だ。

 

 屋敷の中は掃除が行き届いており、所々に蛇を象った装飾品が飾られている。

 

 廊下の先にある大部屋に入ると、中では複数人の見覚えのある顔ぶれが、こちらに視線を向けた。

 

 部屋の中には、マクゴナガル、スネイプ、ルーピン、シリウス、ムーディ、そしてなぜかロンの両親の姿もあった。その他にも数名程、初見の人物がいた。

 

「さて…今更紹介するのもあれじゃろうが一応形式的じゃ、ミス・セレッサじゃ。彼女には今後、不死鳥の騎士団に協力して貰う事となった」

 

 ダンブルドアが簡単な紹介をすると、ロンの母親が手を上げ異論を唱えた。

 

「ダンブルドア、私は反対ですよ。息子たちからいろいろ話は聞いていますが、彼女はまだ未成年ではないですか!」

 

 ロンの母親の言葉に賛同したのか、父親の方も声を上げた。

 

「私も反対です。子供には危険すぎる…いくら優秀だったとしても、危険だ」

 

 ダンブルドアは数回頷いた後。何処か落ち着いた口調で話し始めた。

 

「2人とも…子を持つ親の気持ちはよくわかる。じゃが彼女は優秀じゃ…悔しいがワシでは到底太刀打ち出来ん程に…恐らくこの場に居る全員が束になって掛かったとしても難しいじゃろう…」

 

 ダンブルドアがそう言うと、その場に居た全員が息を呑んだ。

 

 それもそうだろう。史上最高の魔法使いと囃し立てられた人間がそう言うのだ。それも、『ここに居る全員が相手でも』と余計な事まで言ってくれたおかげで、周囲の面々が私を睨み付ける様な視線で見ている。

 

「ダンブルドアよ…その言葉を証明する証拠はあるのか?」

 

 ムーディが席を立ち上がると、ダンブルドアに問い詰めた。

 

「証拠かの…それは無いのぉ」

 

「ならば話は早い、そこの小娘、ワシと勝負しろ」

 

「は?」

 

 ムーディがいきなり私に勝負を挑みかけて来た為、私は思わず間の抜けた声を上げてしまった。

 

「ワシ達より強いと言うなら、それを証明して見せろ! そうすれば貴様の入団を認めてやろう」

 

「認めるも何も、私はスカウトされたのよ。半ば強制的にね」

 

 ダンブルドアはその言葉を聞き、目線を逸らす様に何処かを眺めている。

 

「それに、アンタ1人を相手にした所で退屈凌ぎにもならないわ」

 

「なんだと!」

 

 少し挑発気味に言うと、ムーディが身の丈程ある杖の先端を地面に叩きつけ、その音が周囲に響き渡る。

 

 その時、マクゴナガルがおもむろに立ち上がった。

 

「わかりました。私も参加しましょう、1度貴女と手合せしてみたかったのですよ」

 

 周囲に居た全員がマクゴナガルを注視している。

 そんな中、もう一人が立ち上がった。

 

「ならば私も参戦しましょう」

 

 立ち上がったのはルーピンだった。

 

「彼女の強さは身を持って体験しているからな…よく知っている」

 

 ルーピンは何処か自虐的に笑いながら、私に微笑みかけた。

 

「あの時はすまなかったね。君に怪我を負わせて無くてよかったよ」

 

「お互い様ね、もう少しでアンタを殺す所だったわ」

 

「ハハ。そうみたいだね。スネイプから聞いているよ」

 

 ルーピンは笑いながら、そう言って居るが周りのメンバーは誰一人として笑ってはおらず、ピンク色の髪の女は私を鋭く睨みつけている。

 

「まぁ良いわ、他に居ないのかしら?」

 

 私はそう言うが、他に名乗りを上げる者は居ないようだった。

 

「よし、では庭に出るぞ!」

 

 ムーディが何処か楽しげに言いながら、庭へと出ていった。

 

 

  庭はそこそこな広さが有り、戦うにしては十分だろう。

 

「ルールを決めるぞ! 我々を戦闘不能にさせればお前の勝ち、出来なければお前の負けだ」

 

 ムーディは楽しげに話し、その後ろに控えているマクゴナガル達も頷いている。

 

「別になんだっていいわよ。何ならこの子達は使わないであげたって良いわ」

 

 両手の銃をワザとらしく見せびらかす。

 

「あ…あれは! マグルの武器じゃないか! あれは持ち込み禁止なはずだぞ!」

 

 後ろの方で見ていたロンの父親が大声を上げている。

 

「そんな事はどうでもいい! 本気でかかってこい! 我々も本気で行くぞ!」

 

 ムーディがそう言うと3人は杖を引き抜き臨戦態勢を取った。

 

「かかってきなさい」

 

 私は両手に銃を構え、挑発を行う。

 

 3人はほぼ同時に魔法を放ち、3本の赤い閃光が走った。

 

「甘いわね!」

 

 私はあえてその閃光に突っ込み。

 

 そして、閃光が当たる瞬間に自身の体を蝙蝠の群れに変化させウィッチタイムを発動させ、その閃光を避けると、彼等の背後に移動しその姿を元に戻した。

 

「どこへ消えた?」

 

 一瞬で目の前から私が消えたので、ルーピンが大声を上げており、2人は辺りを見回している。

 そんな中、ムーディだけが私を睨みつけている。

 

「そこか。奇妙な技を使いやがる…」

 

「ご名答。さぁ、鬼さんコチラよ」

 

 私は2回ほど手を叩きながらそう言うと、2人は驚愕しながら振り返った。

 

「何をしたんだ…見えなかったぞ…」

 

 ルーピンはそう呟きながら、杖を構える手に力を入れている。

 

 

「なめるなよ! 小娘!」

 

 ムーディがそう叫ぶと、水平に3発呪文を放つ。

 

 私はそれを避けると同時に、彼らに向かって両手の銃の引き金を引き銃弾を放った。

 

プロテゴ・マキシマ(最大の防御)

 

 マクゴナガルが呪文を唱えると、彼等の周囲に防御魔法が現れ、銃弾を打ち消していく。

 

「やるじゃない、これはどうかしら?」

 

 私は体を1回転させると、下段に体を動かし、両手両足4丁の照準を彼等に向け一斉に銃弾を放つ。

 

 4丁から濁流の様に放たれた弾丸の嵐は、彼等を守る防御魔法に激突すると、けたたましい音を立てどんどんとヒビが入って行く。

 

エクスパルソ(爆破)!」

 

 ルーピンが呪文を放つと、私の横を掠め、背後の壁を破壊した。

 

アビフォース(鳥に変われ) !」

 

 ルーピンが再び杖を振ると、先程砕け散った破片が、大小様々な鳥に変化した。

 

エイビス・オパグノ(鳥よ襲え)

 

 次の瞬間、周囲を羽ばたいていた鳥達が一斉に私の元へと襲い掛かって来た。

 

「惜しいわね」

 

 私は鳥の群れを横に飛び退き回避し、ポーチからチェルノボーグを取り出し、横に薙いだ。

 

 横に薙ぎ払ったことで、襲い掛かった半数の鳥は、刈り取られた。

 更に、ウィケットウィーブを発動させ、周囲に逃れた鳥を全て刈り取った。

 

「もう終わりかしら?」

 

「くっ!」

 

 ルーピンは舌打ち交じりに、魔法を数発放ち、様々な閃光が杖の先から迸る。

 

 私はその閃光をサイドステップで避ける。

 

「そこですね!」

 

 避けた先を読んでいたのか、マクゴナガルが放った魔法が私の眼前に迫り来る。

 

「無駄よ」

 

 マクゴナガルが放った魔法を腕に付けたマハーカーラの月で受け止め、弾き返す。

 

「くっ!」

 

 弾き返された魔法が、防御魔法に直撃し、ガラスが割れるような音を立て、粉々に砕け散った。

 

「おのれ!ボンバーダ・マキシマ(完全粉砕せよ)」

 

 ムーディが力強く杖を地面に叩きつけると、私の周囲で大小さまざまな爆発が起こる。

 

 私はその爆発を左右に避けながら、一気に距離を詰める。

 

「くそ!」

 

 ムーディが再び地面に杖を叩きつけようとするが、地面に付く寸前に杖を横から蹴り飛ばし、先端を手に取る。

 

「なんだと!」

 

 そのままムーディの杖を横に薙ぎ払い、顔面を横から殴り飛ばす。

 

「ぐぉお!」

 

 吹き飛んだムーディは、他の2人に直撃し、3人共地面に倒れ込む。

 

「チェックメイトね」

 

 私は3人に近付くと、右足1本で立ち、両手と左足の銃をそれぞれの顔面い突き付ける。

 

 その時、私の背後で、ダンブルドアが口を開いた。

 

「チェックメイトじゃよ」

 

 背中に杖を押し付けられる感覚がする。

 

「あら?3対1じゃなかったのかしら?」

 

「ワシが参戦しておらぬとは一言も言っておらぬぞ」

 

 ダンブルドアは悠然と笑っているが、私が銃を向けている3人の表情は恐怖に歪んでいる。

 

「でも残念ね。アンタの負けよ」

 

「なんじゃと…」

 

 ダンブルドアがゆっくりと振り向くと、その表情が恐怖へと包まれた。

 

 

 背後では、マダムが怒りの形相で、その拳をダンブルドアの眼前で止めている。

 

「満足してくれたかしら?」

 

 4人はただ茫然と、マダムの姿を見ながら首を縦に振った。

 

 私はそんな彼等を一瞥すると、部屋の中へと戻って行った。




ベヨネッタは無事テストに合格しました。

これで正式に、不死鳥の騎士団員ですね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ミルクを1杯

寒い日が続きますね。

そのせいか、喉が痛くなりました。
風邪には気を付けましょう。


   入団テストの後、彼等が私に対して何かを言ってくるという事は無かった。

 

 ロンの両親も先程の状況を見て、何処か怯えながらも、納得しているようだった。

 

 結果的に、私はどうやら、非常事態が起きた時、ロプトに関する情報が入った場合は呼び出されるという事で決まったようだ。

 まぁ、暇なときにはたまに顔を出してやろう。

 

 不死鳥の騎士団の話し合いが終わった後、ハーマイオニーとロン、それとウィーズリー家の双子が姿を現した。

 

「さっきのは凄かったぜ! 最高にクールだ!」

 

 双子がそう言うと大笑いしている。恐らく窓から見ていたのだろう。

 

「それにしても君が不死鳥の騎士団の団員だなんて…信じられないよ」

 

「そうね、未成年で入るのは危険だもの…貴女は…まぁ…大丈夫そうね」

 

 ハーマイオニーは何処か不機嫌そうに呟いている。

 

「それはどうも、そう言えばハリーの姿が無いわね。アンタ達いつも一緒じゃない」

 

「そうなんだよ、まだハリーは来てないんだ…ちょっといろいろあってね」

 

「そう、面倒な事はごめんよ」

 

「まぁ、そのうち何とかなるわよ」

 

 またダンブルドアが良からぬことでも考えているのだろう。

 私は溜息を吐きながら、ハーマイオニーが用意した紅茶を口にした。

 

 渋みも無く、香り高い。上手く淹れられている。

 

  数日後、私がバーでいつもの様に時間を潰して居るとロダンが日刊予言者新聞を手渡して来た。

 

「なにかしら?」

 

 受け取った日刊予言者新聞の一面はハリーが魔法省で裁判に掛けられるという事が書かれている。

 どうやら、マグル界で魔法を使ったことが原因らしい。

 

 どうやら、未成年の魔法使いには『臭い』と言う物があるらしく、それによってハリーだと分かってしまったようだ。それにしても、『臭い』とは便利なものを思いつくものだ。 

 

「またハリーね…話題に事欠かなくて羨ましいわ」

 

「フッ、当人に取っちゃたまったもんじゃ無いだろうな…それ関連でお前に手紙が来てるぜ」

 

「厄介そうね」

 

 ロダンから渋々手紙を受け取ると、そこにはハリーをあの家から連れ出すという事が書かれており、参加して欲しいという事だ。

 それ位、不死鳥の騎士団の方でやって欲しい物だ。現に数年ほど前、ウィーズリー家によってハリーを連れ去る事が出来たのだから、同じ手を使えばいい物を…

 

「面倒な事になりそうだな」

 

 ロダンは、他人事の様ににやりと笑っている。 

 

「本当よ。こんな事なら安請け合いするんじゃ無かったわ」

 

「日頃の行いだな。まぁ、精々がんばれや」

 

 ロダンはグラスを磨く手を止める事無く、鼻で笑っている。

 

 

 仕方ない。私は杖を取り出し、私はシリウス邸を思い浮かべ移動する。

 

  ブラック邸に到着し、屋敷内に入ると、すでにメンバーは揃っており会議が行われていた。

 

「おぉ、来たか小娘」

 

 ムーディはいつも通り不機嫌そうにそう言うと、私を睨みつけている。

 

「来てあげたわよ。で? 要件は?」

 

「貴様も知っているだろうが、ハリーは今不味い状況にある、とりあえずこの屋敷で保護するという事が決まった。その為に護送を行うつもりだ」

 

「それで? 私はハリーをここに連れて来れば良いのかしら?」

 

「それが正解だ。だが1人では危険だ。騎士団のメンバーから数名を選抜し、共に護送を…」

 

「私1人で十分よ、アンタ達のお守までしてあげるつもりは無いのよ」

 

 私はムーディの説明を遮る。

 

「なんだと!」

 

 私の言葉にムーディは立ち上がり、他のメンバーも睨み付ける様な目線を送っている。

 

「貴様1人でどうするつもりだ!」

 

「普通に迎えに行くだけよ。それ以外に何かあるかしら?」

 

「言うではないか! ならやって見せろ! 後で泣き付くなよ!」

 

 ムーディは怒ったようで、私を睨みながらワザとらしく椅子に座り込んだ。

 

「じゃあ行ってくるわ。場所を教えてくれないかしら?」

 

「フン…」

 

 ムーディは怒ったようにそっぽを向いてしまった。

 

「大人げないぞ、マッドアイ」

 

 ルーピンは溜息を吐いた後、私にハリーの住所が書かれた紙を手渡した。

 

 

 

  ブラック邸を出た後、ルーピンから受け取った紙に書かれている住所を確認した。

 ここから大して遠くは無い様だ。

 

 私は庭に立て掛けられていた箒を手に取り杖を押し込み魔力を注ぎ込む。

 

「少し借りるわよ」

 

 突如として箒はビキビキと音を立て、ヒビが入る。

 そして、そのヒビからは私の魔力の色である、紫色の炎が噴出している。

 

「さて、急がないとパーティーに遅れるわ」

 

 その箒の上にボードに乗る様に両足を掛けると、猛スピードで急上昇し目的の住所を目指した。

 

 

  数分ほど箒で飛行した後、目的としていた住所の上空にやって来た。

 その時、箒が限界を迎えたのか、バキバキと音を立て、粉々に砕け散った。

 

 私は、着地体制を取り、目的の家の前に着地する。

 

「華麗に着地ね」

 

 私は顔を上げ、目の前の家に目を向ける。

 

 その家はどこにでもある様な普通の一軒家だった。

 

 数回ほどインターフォンを鳴らすと、何処か警戒したようなハリーが後ろ手に杖を構えながら顔を覗かせた。

 

「え? …ベヨネッタ…どうしてここに?」

 

「アンタを連れて来いって言われたのよ。さぁ行くわよ」

 

 私がそう言うと、ハリーは戸惑ったような声を上げた。

 

「ちょっと待ってよ! 急に来てそんな事言われても…分からないじゃないか!」

 

 いつも以上に怒りっぽいハリーは、先程から怒声を上げている。

 

「ハァ…早く準備してくれないかしら?」

 

「あぁ! わかったからちょっと待ってよ!」

 

 ハリーはそう言うと、扉を強く閉めた。

 

 

 数分後、荷物をまとめたハリーが扉を開けて外へと出てきた。

 

「さぁ行くわよ」

 

「わかったよ。でもどこへ行くってんだ?」

 

「シリウスの家よ。さっきも言ったけど連れて来いって頼まれたのよ」

 

「それ本当かい!」

 

「そうよ。このままこの家に居たいって言うなら無理にとは…」

 

「そんな訳無いじゃないか! 早く行こう! ところでどうやって行くんだ?」

 

 ハリーの言葉に私は少し考えこむ。

 

 箒は先程壊してしまった。

 徒歩で帰るにしても、多少面倒だ。

 

 ここで、私は一つの案を思いついた。

 

 私はいつもの様に杖を取り出した。

 

「移動するわよ。私の肩に掴まりなさい」

 

「え…こう?」

 

 ハリーはぎこちない様子で、私の左肩に片手を掛けた。

 

「行くわよ。目を閉じなさい」

 

「え?」

 

 ハリーの瞳がゆっくりと閉じられる。

 それを見た後、私も目を閉じ、店の中をイメージする。

 

 少しすると、聞き慣れたレコード盤特有のレトロなBGMが耳に聞こえて来る。

 

 私はゆっくりと目を開ける。

 

「もう開けて大丈夫よ」

 

「え? ここは?」

 

 ハリーは見慣れない場所に連れてこられ、混乱しているのか、周囲を見回している。

 そんな時、バーカウンターの奥からロダンの声が響いた。

 

「よぉ、ベヨネッタじゃねぇか。ほぉ…今回は面白い奴を連れて来たな」

 

 ロダンはハリーを見るなり、そう口にした。

 

「ちょっと野暮用でね、すぐ移動するわよ」

 

「なぁに、そう硬い事言うなって。一杯やって行くだろう」

 

 私はハリーを一瞥した後、バーカウンターへと歩み寄った。

 

「そうね、貰おうかしら。いつものでね」

 

「少し待ってな」

 

 そう言うと、ロダンは店の奥へと消えていった。

 

「ちょっと! ここはどこだよ? どうなってるんだ?」

 

 ハリーは私に近付くと世話しなく質問をしてくる。

 

「ここは私の行きつけの店よ」

 

 その時、ロダンがカウンターの上にカクテルを滑らせ、私の手前で止めた。

 

 私は片手でカクテルを手にすると、ゆっくりと口へと運んだ。

 

「ふぅ…アンタも飲むかしら?」

 

 私はグラスをハリーに傾ける。

 

「え? だってそれお酒だろ? 君、飲めるのかい?」

 

「そうよ、それとも別の物でも頼むかしら?」

 

「いや…僕は良いよ」

 

 ハリーがそう言うと、ロダンが口を開いた。

 

「おいおい、ここは飲み屋だぜ」

 

 呆れた様に葉巻を吸っているロダンを見て、ハリーは何処か怯えている。

 

「じゃ…じゃあ…僕も同じものを」

 

「ガキが酒なんか飲むんじゃねぇ」

 

 ロダンはそう言うと、ミルクの注がれたグラスをカウンターの上に置いた。

 

「ミルクでも飲んでな」

 

「あ…あぁ」

 

 ハリーは何処か怯えた様に、ミルクが入ったグラスを持ち、ゆっくりと飲んでいる。

 

 数分後、私がカクテルを飲み干したのを見て、ハリーは慌てた様にミルクを飲み干した。

 

「さて行きましょうか」

 

 私は再び杖を手に取ると、ハリーは先程同様に私の肩に手を置いた。

 

「ちょっと待てよ」

 

 その時、ロダンが口を開いた。

 

「まだ代金を貰ってないぜ」

 

「僕、お金なんて…」

 

 

 ロダンの迫力に押されているのか、ハリーが蚊の鳴くような声で答えた。

 

「エンツォに付けておいて、ハリーの分もね」

 

「フン、わかったぜ」

 

 ロダンの了承を得た後、私達はブラック邸へと移動した。

 

 




1度でいいから「The Gates of Hell」みたいなバーへ行ってみたいですね。


年度末にかけて多忙になるので、更新が少し乱れるかもしれません。

基本的に、更新頻度は落としたくは無いのですが、そこはご了承ください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

反抗期

オリンピックの話題で持ちきりですね。




 

  ブラック邸の前に付いた私達は、館の中へと入って行く。

 

 廊下の奥の部屋の扉を開けると、ムーディを始めとする面々が、信じられないといった表情で、私とハリーを見ている。その中にはダンブルドアの姿もあった。

 

「ご苦労じゃったな」

 

 ダンブルドアはハリーとは目を合わせずにそう告げる。

 

 その時、ドタドタと音を立て誰かが階段を駆け下りてくる音が聞こえた。

 

「ハリー! また会えてうれしいわ!」

 

 声の主はロンの母親だった。

 

 大袈裟に挨拶をした後、彼女はハリーをきつく抱きしめている。

 

「痩せたみたいね。ちゃんと食べてたの? お腹すいてない?」

 

「大丈夫、さっきミルクを飲んで来たから」

 

「そう? なら良かったわ」

 

 ハリーは拘束から解放され、大きく息を吸っている。

 

 そんな時、ダンブルドアが声を上げた。

 

「さて、会議を始めるとしようかの。騎士団員は厨房の方へ移動してくれんか。セレッサ、お主もだ」

 

 ダンブルドアの声に従い、騎士団員の面々が続々と厨房へ移動していった。

 

 ハリーはシリウスと共に厨房に入ろうとしたが、ロンの母親によって引き留められた。

 

「駄目よハリー。騎士団のメンバーだけの会議ですからね。ロンとハーマイオニーも上の階で待っているわ。後で夕食にしましょうか」

 

 (さと)されたハリーは、ゆっくりと階段へと移動していった。

 

 私は先に入った騎士団員に続くように厨房へと入って行った。

 

 騎士団員が円卓とは呼べないが、テーブルの様な物に腰かけて、皆がダンブルドアの方を見ている。

 

 私は、入り口付近の壁に背を盛られ掛け、軽く腕を組みながら話を聞く事にした。

 

「護送は無事終わったようじゃな。よくやってくれた。セレッサ」

 

「どうも」

 

 ダンブルドアの賛辞に、私は軽く手を振り答える。

 

「お主が護送をしている間、死喰い人の動きはあったかの?」

 

「なかったと思うわ」

 

「そうか…それは良かった。皆も良く頑張ってくれた。ハリーはしばらくこの本部で預かろうと考えておる。皆でハリーを警護するのじゃ。無論、ハリーが移動をする際は誰かが護衛に付くようにしてほしい」

 

 ダンブルドアの要請に、私を除く全員が、首を縦に振り頷いている。

 

 そんな時、2階の方からハリーの怒鳴り声が響いた。

 

「ひどいよ! 僕があの家に幽閉されている間、君達はここでよろしくやっていたっていうのか!」

 

 迎えに行った時からそうだが、ハリーは事あるごとに怒鳴り声を上げる様になっている。そういう年齢なのかもしれないが、だとしても異常だ…後でジャンヌに相談してみるか。

 

 尚もハリーの怒鳴り声が館中に響く。

 ダンブルドアは溜息を吐きながら、杖を一振りすると、ハリーの叫び声が嘘の様に聞こえなくなった。

 

「さて…会議を続けようかの」

 

 ダンブルドアは悲しそうな瞳でそう呟いた。

 

 

 

 

  数日後

 

 私がいつもの様にバーでくつろぎながら、日刊予言者新聞に目を通している。

 

 いつもは胡散臭い記事しか書かれていないが、今日のは違った。

 

 その新聞の一面には、ハリーが無罪になったと書かれている。

 

 どうやら、魔法省へ呼び出されたハリーだったが、ダンブルドアが何とかしたようだ。

 

 ハーマイオニーとロンの手紙には、最近いつも以上にハリーが大荒れて手が付けられないと言う内容のだった。

 

「ねぇジャンヌ」

 

「どうした?」

 

 隣で飲んでいたジャンヌに、最近のハリーの状況を話した。

 

「なるほどな…まぁそう言う年齢なのだろう。私の生徒にも毎年1人は居る」

 

「アンタも大変ね」

 

「なぁに、その時は念入りに指導してやるだけさ」

 

 ジャンヌはそう言いながら笑う。だがその目は笑っている様には見えない。

 

「程々にしなさいよ」

 

「そっちもな」

 

 私達は、互いにグラスを傾けあい、軽く乾杯をした。

 

 

 

  新学期最初の日。

 

 先日届いた、不死鳥の騎士団からの手紙には、ハリーをブラック邸から、キングスクロス駅まで護送すると書かれていた。

 

 正直ここまでくると過保護すぎるだろと思えるが、騎士団員からすれば重要な事なのだろう。

 

 それに伴い、私にも参加して欲しいと書かれていたが、そこまでしてやる義理も無いので、私は普段通りに駅へと移動した。

 

 駅に着いてから数分後、大人数でハリーを取り囲んだ、騎士団員達と、ハーマイオニー達の姿が目に入った。

 

「小娘! なぜ参加しなかった!」

 

 私を見るなり、開口一番にムーディが声を荒げた。

 

「私が参加する必要があったのかしら?」

 

「護送中に死喰い人に襲われたらどうするつもりだ!」

 

 ムーディの怒りのあまり私を睨みつけている。

 

「ハリーを守るのがアンタ達の仕事じゃないのかしら? そこまで私にやらせる気?」

 

「あぁ! その通りだ! だがらこそなぜ貴様が参加しなかったのかと…」

 

「何か勘違いしているようね」

 

 ムーディの怒鳴り声を私は遮る。

 

「参加する、しないも、私の自由よ。それが条件で入ってあげたのよ。そこを勘違いしないで欲しいわ」

 

「フン! 小娘が!」

 

「まぁ、落ち着けよ。彼女にだって都合ってものが――」

 

「黙れシリウス! 大体貴様はな!」

 

 ハリーの隣に立っていたシリウスは、ムーディにずっと愚痴を言われている。ここまでくれば多少なりとも不憫だろう。

 

「それにしても、アンタこんなに堂々と出てきて大丈夫なの?」

 

 私は、シリウスに目線を向けながら問いかけると、若干微笑みながら、口を開いた。

 

「冤罪は晴れた訳だからね。今じゃこうして堂々として居られるさ。まぁ、未だに怪しい目を向けて来る奴もいるがね」

 

「アンタも大変ね」

 

「フッ、しょうがないさ」

 

 シリウスは何かを悟ったような表情で笑って居る。

 

 その時、駅の中に発車の時間を告げるベルが鳴り響いた。

 

「さて…そろそろ発車の時間ね。行きましょうか」

 

 私の後に続くように、ハリー達も急ぎ、ホグワーツ特急に乗り込んだ。

 

 車内は生徒で溢れかえっている。

 

「うわぁ…こりゃ凄いな…とりあえず空いているコンパートメントを探そうか」

 

 ハリーがそう言うと、ハーマイオニーの表情が少し曇った。

 

「えっ…と…私達、監督生の車両へ行かなきゃいけないの…」

 

「そっか…そう言えば今年から監督生になったんだったね…ロン、君もだろう?」

 

「そうなんだよ、まぁすぐに終わると思うから、何処か開いているところ探していてよ」

 

「あぁ、じゃあまた後でな」

 

 私達は、ハーマイオニー達の背中を見送った後、2人で開きのコンパートメントを探す事にした。

 

 しばらく捜し歩くと、コンパートメントからドラコが姿を現し、私達と鉢合わせになった。

 

「やぁ、セレッサじゃないか。それと…フッ、ポッターか。てっきり退学になったかと思ったぞ」

 

「黙れ、マルフォイ。お前に構っている暇はない」

 

「そうかよ。ところでセレッサ。この混み具合じゃどこも開いているコンパートメントも無いだろう。良かったらここを使わないかい? 僕は監督生の仕事で少し抜けなきゃならないんだがすぐ戻ってくるよ」

 

「悪いわね。使わせて貰うわよ」

 

 私はそう言ってハリーに目配せするが、それが気に食わないのか、怒鳴り声を張り上げた。

 

「誰がマルフォイが用意した場所になんて入るもんか! 君一人で入ればいいだろう! 僕は他を当たるよ!」

 

 私の横を大袈裟に足音を立てながら、ハリーは奥の車両へと移動していった。

 

「アイツ…どうしたんだ?」

 

「さぁ? 最近あんな感じよ。年頃の男ってあんな感じになるって聞いたけど?」

 

「僕はならないさ。流石にアレは酷い」

 

 ドラコは首を振りながら、嘲笑うような表情を浮かべている。

 

「じゃあ、僕は行ってくるよ。しばらくしたら戻るから待っていてくれ」

 

 ドラコはそう言い残すと、手前の車両へと移動していった。

 

 私は一人、コンパートメントの扉を開け、中で待つ事にした。

 

 

 

  しばらく待っていると、コンパートメントの扉が開かれ、肩で息をしているドラコが入って来た。

 

「はぁ…はぁ…待たせたね…」

 

「バカね、そんなに急がなくても大丈夫よ」

 

「ハハッ…あまりレディを待たせるものじゃないからね、はぁ…」

 

 息を整えたドラコが、ゆっくりと対面の座席に腰かけた。

 

「ふぅ…それにしても、まさかグリフィンドールの監督生があのウィーズリーだとはね…」

 

「そうみたいね」

 

「全く何を考えているんだが…まぁあのグレンジャーが付いているのだから問題は無いだろう」

 

「意外ね、アンタの口からそんな言葉が出るなんて」

 

「マグル生まれという点さえ除けば、彼女は優秀さ」

 

 ドラコはそう言うと、手に持っていた瓶の中身を一気に飲み干している。

 

「はぁ…なぁセレッサ…一つ聞きたいのだが…」

 

 急にドラコが真剣な表情と声で話し始めた。

 

「君はあの時…闇の帝王が復活する時、その場に居たのか?」

 

「えぇ居たわよ」

 

 ドラコは少し驚いた表情を浮かべた後、ゆっくりと口を開いた。

 

「その時…その…父上は…」

 

「アンタの父親ならその時居たわ。お互いに顔も見たわよ」

 

「そうか…いや…あの日以来、父上の様子がどうも変で…何かを隠している感じだったんだ…」

 

「そうだったのね」

 

 ドラコは俯き、呟くように声を紡いだ。

 

「僕は…父上の事を尊敬している…だから僕もきっと父上の後を継ぐと思うんだ…」

 

「そう…ならアンタも死喰い人に入るのかしら?」

 

「驚かないんだね…多分そうだね…だって僕は、マルフォイ家だから…」

 

 ドラコは何処か乾いたような笑みを浮かべている。

 

「闇の帝王は、天使と関りを持っているって、父上達が話しているのを盗み聞きしたから…多分そうなったら君と敵対するようになるのかも知れないね…」

 

「そうね、奴等と関わるなら容赦しないわ」

 

 私は一言そう言うと、右手で眼鏡の位置を戻す。

 

「そうだよね…はぁ…」

 

 ドラコは再び頭を抱え込んだ。

 

「僕…どうしたら良いのか分からないんだ。僕自身は死喰い人になりたい訳じゃないし…でも家柄がそれを許さないんだ…本当は君と敵対なんか…」

 

 ドラコは今にも泣きそうな表情で私を見ている。

 

「泣くのはやめなさい、私は泣き虫とゴキブリが一番嫌いなのよ」

 

「それは…失礼したね」

 

 袖の部分で、顔を拭き、涙を拭っている。

 

「人間には選択の概念が有るのよ、どうするかはアンタの自由よ。理由はどうあれ、決めるのは家柄や血筋じゃなくて、ドラコ…アンタ自身よ」

 

「僕…自身…」

 

「その結果、奴等に目を付けられるかもしれないけど、まぁしょうがない事よ。受け入れなさい」

 

 私の発言を聞いたドラコは、少し微笑んだ。

 

「酷いなぁ、その場合、僕は奴等に八つ裂きにされてしまうね」

 

 少し笑いながら、冗談っぽく呟いた。

 

 そんな時、駅に着いたのか、ホグワーツ特急の動きが止まり始めた。

 

 私はゆっくりと立ち上がり、コンパートメントの扉に手を掛けそっと振り返った。

 

「そうね…私の目の前でなら、守ってあげるわ。奴等を狩るついでにね」

 

 私は軽く微笑み、ウィンクした後、扉を開け廊下へと出ていった。

 

 




少し短いですが、今回はここまでです。

更新できるうちにやっておかないと、大変ですからね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

カエル

ついに、みんなのアイドル(意味深)の登場です。




  汽車を下りた後、無事にホグワーツに付くと例年通り歓迎パーティーが執り行われた。

 

 組み分けも終わり、帽子が例年の様に歌い出すが、その歌は例年とは違っていた。何処か警告の意味を込めているのだろうか、団結せよと言った内容だった。

 やはり、ヴォルデモートの復活が関係あるのだろうか。

 

「ハーマイオニー…あれって…」

 

「多分そうね…ダンブルドアに何か策があるのよ…でも、団結せよねぇ…」

 

 ロンとハーマイオニーは互いに顔を見合わせ、何処か不安そうな表情をしている。

 

 その後はパーティーも順調に執り行われ、私達は豪華な食事を楽しんだ。

 

 デザートまで食べ終え、しばらくすると、ダンブルドアが教壇に上がり、例年通りの演説を始めた。

 

「さて、皆が食事を楽しんだところで、学年始めのお知らせじゃ。1年生には毎年言って居るが、校庭にある禁じられた森には立ち入ってはならぬぞ…と言ってもあの森の半分以上が焼けて無くなってしまったがな…次は校内での魔法の使用に関してじゃ、廊下などでむやみやたらに魔法を使ってはならぬぞ、その他詳細に関しては、事務所の壁に張り出して居る、後で確認するのじゃ」

 

 ダンブルドアがそう言い終えると、ハリーとロンは互いに鼻で笑った後、「誰が見に行くか」と続けた。

 

「それと、今年は2名の先生が替わった。魔法生物飼育学にはハグリッド先生の代わりに、プランク先生がお戻りになった。そして、闇の魔術に対する防衛術には新任教授のアンブリッジ先生が担当してくださる」

 

 ダンブルドアがそう紹介すると、大広間に居た生徒全員の動きが止まった。

 そこには、全身をピンクで統一された服を着たカエル顔の女がゆっくりと壇上へと上がって行く姿があった。

 

 いや…私の知るカエルの方が何十倍もマシだろう。

 

 ダンブルドアはそんな空気の中話を続けた。

 

「クィディッチの試合に付いてじゃが――」

 

「エッヘン、エヘン」

 

 するとカエル顔の女は、ワザとらしい咳払いをしダンブルドアの言葉を遮った。

 

 その声を聞き、多くの生徒が顔をしかめた。

 

「校長先生、歓迎のお言葉感謝いたします」

 

 甲高い声が響き渡る。

 

 私はその声に思わず苛立ってしまった。

 

「私、ホグワーツに戻ってこれて本当に嬉しいですわ。そして、皆さんの幸せそうな可愛らしいお顔が私を見ていてとても幸せです」

 

 アンブリッジは自信に酔いしれており、周囲が見えていないのか、トチ狂った発言をしている。

 

「皆さんと早くお友達になりたいですね。きっと素晴らしい関係になるでしょう…あぁ、楽しみですわ」

 

 アンブリッジはそう言いながら、私とハリーに対して警戒している様な目線を向けている。

 

 その後、アンブリッジの話が終わり、ダンブルドアは簡単に注意事項を話していった。

 

 

  今年からはふくろう試験なるものが行われるという話だ。

 学年末に実施されるテストでその結果によって将来の仕事に大きく影響するものらしい。

 

 まぁ、私にとってはあまり重要では無いだろう。

 

 シスターかポールダンサーにでもなるとでも言っておけばいいだろう。

 

 

  今年に入って初めての闇の魔術に対する防衛術の授業。すなわちアンブリッジの授業の時間がやって来た。

 

 私達が教室に入ると、そこには既にアンブリッジの姿があり、教壇に座っている。

 

「皆さん! こんにちは!」

 

 アンブリッジの甲高い声が響き渡る。

 

 数名の生徒がちらほらとその挨拶に返事をしている。

 

「いけませんねぇ、全然元気が無いですね。いいですか、『アンブリッジ先生!こんにちは!』って言ってみましょう」

 

 私は馬鹿らしく思えて、アンブリッジを無視し、一番奥の席へと腰かけた。

 

 大半の生徒が、呆れた様に、アンブリッジに挨拶を返している。

 

「うん、よろしいです。さて、それでは授業を始めますよ。杖は仕舞ってくださいね。ペンだけあれば大丈夫ですよ」

 

 アンブリッジはそう言うと黒板の前に置かれている椅子に腰かけた。

 

「さて…皆さん、この科目の授業はかなりおかしな事になっています。毎年先生が替わってしまったせいでしょうかね。不幸な事に皆さんの学力ではふくろう試験を受けるレベルを大きく下回っています。でも安心してくださいね。今年は慎重に構築された理論中心の魔法省指導要領通りの授業にしていきます。さぁ、この本を書き写してください」

 

 

 アンブリッジが杖を振るうと、教壇に置かれていた分厚い本が私達の前に1冊配られた。

 

「皆さんに本は行き届きましたね。では始めますよ、5ページを開いてください」

 

 

 アンブリッジは開かれたページを書き写す様に指示を出した。

 

 その時、ハーマイオニーが真っ直ぐ手を上げた。

 

「どうかしました? 何か質問でも? でも今は読む時間ですよ、質問なら後で受けますよ」

 

「違います。この授業の目的についての質問です」

 

 ハーマイオニーの質問を聞き、アンブリッジは目を細めた。

 

「貴女、お名前は?」

 

「ハーマイオニー・グレンジャーです」

 

 アンブリッジは皮肉を込めたような笑い声を上げる。

 

「ミス・グレンジャー、授業の目的に付いてはこの本を読めばしっかりと理解できますよ」

 

「でも、この本には防衛呪文を使う事に関しては何も書かれていません」

 

「呪文を使うですって? まぁまぁまぁ…ミス・グレンジャー。貴女はこのクラスで防衛術を使うようなことが起きるとでも? そんなことありえませんよ」

 

「じゃあ、魔法は使わないの?」

 

 ロンがヤジを飛ばすと、アンブリッジは再び目を細めた。

 

「私の授業で発言したい時は手を上げる事。貴方は?」

 

「ウィーズリー」

 

 ロンはそう答えると、手を上げる。

 それを遮る様に、再びハーマイオニーが手を上げた。

 

「まだ何かあるのですか? ミス・グレンジャー」

 

「あります。闇の魔術に対する防衛術は防衛呪文を練習することに意味があるんじゃないですか?」

 

「ミス・グレンジャー…貴女は魔法省の人間ではないでしょう第一、これは魔法省で決められたことですよ。皆さんが呪文に付いて学ぶのは――」

 

「そんなの何の役に立つ!」

 

 アンブリッジの言葉を遮る様にしてハリーが声を上げた。

 

「もしも僕達が襲われるとしたら、そんな方法じゃ!」

 

「挙手をしなさい! ポッター! 第一誰が皆さんを襲うと言うのですか!」

 

 息を荒げたアンブリッジが、ハリーに問いだすと、私はゆっくりと口を開いた。

 

「そうね…ヴォルデモートとか言う、ブサイク辺りじゃないかしら?」

 

 私がそう言うと、その場に居た全員の視線がこちらを向いた。

 

「グリフィンドール10点減点です!貴女は確か…ミス・セレッサですね」

 

 アンブリッジが甲高い声を上げる。

 

「この際ですから、はっきりと言いましょう…皆さんはある闇の魔法使いが戻ったという話を聞かされていますが――」

 

「アイツは生きていたんだ! 蘇ったんだ!」

 

「黙りなさい! ポッター! 貴方の言う事は出まかせです!」

 

「出まかせなんかじゃない! 僕は見たんだ! 君も見ただろ! ベヨネッタ!」

 

 ハリーがそう叫ぶと、皆の視線が一斉に集まる。

 

 私は、眼鏡を整え、足を組みなおす。

 

「そうね、私も、あのブサイクが暴れまわっているところを見たわよ」

 

「なんてことを…彼方たち2人とも罰則です!」

 

 アンブリッジが叫び声を上げた後、肩で息をしている。

 

「はぁ…はぁ…良いですか! 明日の夕方、私の部屋へ来なさい! さて皆さん、教科書の5ページを開いて――」

 

「だからそんなのが何の役に立つっていうんだ!」

 

 ハリーは怒りに任せて椅子を蹴飛ばしている。

 

「落ち着きなさい! ポッター! 貴方は幻覚でも見たのでしょう、それにこの授業は理論を完璧に覚えられます!」

 

「理論だけでどうにかなる問題じゃないんだ!」

 

「なります!私の授業は――」

 

 やかましい声でアンブリッジがそう言いかけた瞬間、あまりの五月蠅さに、私はウィッチタイムを発動させ、一瞬でアンブリッジの背後へ移動し、後頭部に銃を押し付けた。

 

「ならこの状況はどうするのかしら?」

 

「なんの…つもりですか? ミス・セレッサ…それにこれは…」

 

 アンブリッジは口調は落ち着いているが、その声は怯えを孕んでいる。

 

「理論だけでいいわ。この状況からどうやって切り抜けるか、教えてくれないかしら?」

 

 ワザとらしく囁くと、背後からでも分かる程、アンブリッジはその肩を震わせている。

 

 その時、ちょうど終業を告げる鐘が鳴り響いた。

 

「タイムアップを待つのね。いい方法じゃない」

 

 私は、皮肉を込めながら、ゆっくりと銃を納めるとアンブリッジは大きな息を吐き出した。

 

 私はそんな、アンブリッジの真横を悠々と歩き、教室の扉に手を掛けた。

 

「ミス・セレッサ! 後ほどお話があります! 後で私の部屋に来なさい!」

 

「行く訳ないでしょ」

 

「来なさい! 来ないと減点50点ですよ!」

 

 喚き散らしているアンブリッジを尻目に、私はゆっくりと教室を後にした。

 

 

  数日後

 アンブリッジは私を見る度に声を荒げ、自分の部屋に来るように言って居るが、私はそれをすべて無視している。それどころか、アンブリッジの行う闇の魔術に対する防衛術の授業にすら出席していない。そのせいかどんどんとグリフィンドールの点が削られて行っている様だ。まぁ私からすればどうでもいい事だ。

 

 だが、他の生徒は気にしている様で、ハーマイオニーが、顔だけでも良いから出せ、と繰り返している。

 

 そんなある日、ハーマイオニーとロンが、ハリーを挟むようにして談話室で話をしていた。

 

 どうやら、アンブリッジから、罰則として体罰を受けている様だ。

 

 ハリーの手には痛々しい、傷文字で、『僕は嘘をついてはいけない』と書かれていた。

 

「これはあの女にやられた傷ね」

 

 私がそう言うと、ハリーは黙り込んでいるが、ハーマイオニーとロンが揃って首を縦に振った。

 

「そう…」

 

 私は杖を取り出し、軽く振ると、傷文字が嘘の様に消え去った。

 

「気を付けなさい、あのタイプはしつこいわよ」

 

「ずっと言ってたよ、どうして君が来ないんだって」

 

「行く方がどうかしているのよ。アンタも無視するようにした方が良いわよ」

 

「フッ…そうだね」

 

 ハリーは傷があった場所を摩りながら、笑顔で答えた。

 

 

 

 




最近、謎のプリンス編を書いているのですが…なんでしょう、結構省いて書いちゃってますね。

もしかしたら、かなりの短編になるかもしれませんね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決起集会

やはり、平和な回は、ベヨネッタ要素が少なくなりますね。

まぁ、その方が平和なんですけどね。


 

   数日後

 アンブリッジは事あるごとに、喚き散らしていたが、私とハリーは無視することを決め、2人とも闇の魔術に対する防衛術の授業には参加していない。

 

 数日が経った頃、私達はマクゴナガルから自室に呼び出された。

 

「来ましたか…」

 

 マクゴナガルは私達を見ると、自室の扉を開け、中へと招いた。

 

 部屋の中に入ると、簡素なソファーがあり、私達はそこに腰かける。

 

「最近、貴方たちが、闇の魔術に対する防衛術の授業に出席していないという報告を受けましたが本当ですか?」

 

「本当です」

 

 ハリーははっきりと答え、マクゴナガルは溜息をついた。

 

「理由は…まぁ…おおよその見当は付きますが…」

 

「あの女よ、私の一番嫌いなタイプだわ」

 

「はぁ…やはりそうですか」

 

 マクゴナガルは呆れた様に頭を抱え込んだ。

 

「理由は分かりました。ですが授業には参加しなさい。ふくろう試験も控えているのですよ」

 

「でも、先生」

 

「大丈夫ですよ、ポッター。後ほど私の方から彼女に説明しておきます。まだ何かあるようならその時はまた」

 

 マクゴナガルはそう言うと、私達に紅茶を差し出した。

 

 なかなか上手に淹れられている。

 

 

 

 

 

  数日後、大広間でハリー達が予言者新聞を片手に騒いでいた。

 

「どうしたのよ大騒ぎなんてして」

 

「あぁ、ベヨネッタか、これ見てくれよ」

 

 

 ロンから手渡された新聞には、アンブリッジが高等尋問官になると言った内容が書かれていた。

 

「高等尋問官? なによこれ?」

 

 私は思わず顔をしかめてしまった。

 

 それを見たハーマイオニーが、記事を朗読し始めた。

 

「『高等尋問官は同僚の教育者を査察する権利を持ち、教師たちが然るべき基準を満たしているのかどうか確認します』つまりは、アンブリッジがホグワーツの教員を管理する立場になったって事ね」

 

「はぁ…」

 

 私は思わず溜息を吐き、呆れた様に頭を左右に振っていた。

 

「こうなると、一部の先生は危険ね。アンブリッジの事だからきっとトレローニー先生辺りに目を付けるはずよ」

 

「ハグリッドが帰ってきたら危ないね…それまでにあんな奴、辞めちゃえばいいんだけど」

 

 ハリーが付け加える様にハグリッドの名前を出した。

 

 あの二人は確かに、なぜ教師をやっているのかいまいちよく分からない。

 ダンブルドアの趣味だろうか?

 

 

 私達はその後、スネイプが担当している魔法薬の授業を受けるべく教室へ向かった。

 

 授業中、スネイプは相変わらずグリフィンドールに加点するという事は無かった。

 

 授業も中盤に差し掛かったであろう頃、教室の扉が開かれ、アンブリッジが姿を現した。

 

 私とハリーは明らかに嫌そうな態度を取っているが、アンブリッジはそんな事は気にも留めず、スネイプの元へと近付いて行った。

 

「エッヘン、いくつか質問よろしいでしょうか?」

 

「………良いでしょう、授業中ですので手短に頼みますぞ」

 

 スネイプの低いテンションがさらに一段階低くなっている。

 

「えぇ、貴方は闇の魔術に対する防衛術の担当を希望してらっしゃったとかで」

 

「左様」

 

「ですが今は、魔法薬の担当でらっしゃる」

 

「左様…」

 

「今まで数名もの闇の魔術に対する防衛術の担当が替わりましたが…一度も担当になってらっしゃらない」

 

「…左様…」

 

「ふぅん…」

 

 アンブリッジは鼻で息をすると、手に持っていたメモ帳の様な物に何かを書き込んでいる。

 

「では失礼しますね、これらからも()()()の授業を頑張ってください」

 

 アンブリッジが去り際にそう言い放ち、教室を後にした。

 

 そんな2人のやり取りを見ていたロンは必死に笑いを堪えていた様だが、堪え切れず噴き出している。

 

「フンっ!」

 

「いてぇ!」

 

 そんなロンの後頭部を、スネイプは手に持っていた教科書で力の限り殴りつけていた。

 

 

 

 数日後の、占い学の授業中にアンブリッジが張り付いたような笑みを浮かべながら教室に姿を現した。

 

 アンブリッジの姿を見た生徒達は、先程までの楽しそうな顔を一変させている。

 

「こんにちは、トレローニー先生。先日お知らせした通り、査察を行わせてもらいますね」

 

「え…えぇ、どうぞ」

 

 トレローニーは嫌そうな顔をしながら、授業を続けていった。

 

 

「少しよろしいですか?」

 

 授業が終盤に差し掛かった頃、アンブリッジが手を上げ口を開いた。

 

「え…えぇ、なんでしょうか?」

 

「貴女はこの職に就いてからどれくらいが経ちますか?」

 

「そうですわね…かれこれ16年くらいでしょうか」

 

「長いですわね」

 

 アンブリッジがメモ帳に何かを書き取ると、再び顔を上げた。

 

「貴女を雇ったのはダンブルドア先生ですね」

 

「その通りですわ」

 

「へぇ…」

 

 アンブリッジは何かを企んだような笑みを浮かべる。

 

「噂にお聞きしたのですが、貴女はかの有名な予言者である、カッサンドラ・トレローニーの曾々孫だとか?」

 

「えぇ」

 

「素晴らしいですねぇ、では私の為に何か予言をしていただけませんか?」

 

「予言…でしょうか?」

 

 トレローニーは瞬きをしながらアンブリッジに聞き返した。

 

「その通りです、私の為に1つで良いので、予言を頂きたいの」

 

「そのような事、急におっしゃられても…」

 

「そう…まぁ…出来ないならいいですよ、無理なさらないで」

 

 アンブリッジは嫌味ったらしくそう言うと、メモ帳に再び何かを書き込んでいる。

 

「わかりました…」

 

 トレローニーはアンブリッジを睨み付けながら、手を前に差し出している。

 

「ああぁ…お気の毒に、貴方は恐ろしい危機が迫っていますわ! とても恐ろしいものが!」

 

「そう…」

 

 アンブリッジは詰まらなそうにそう言うと、教室から悠々と退室した。

 

 

  その後も、アンブリッジの暴走は止まらず、事あるごとに、教師に難癖をつけては採点を繰り返しているようだった。

 

 

 月日は過ぎ、10月に入り、ホグズミード村へ行くことが許可された。

 その事に皆は喜び、こぞってホグズミード村へと遊びに行っている様だ。

 

 まぁ、アンブリッジが居るホグワーツになど居たくないと言うのが総意だろうが。

 

 そんなある日、私が談話室のソファーに腰かけていると、ハーマイオニーが声を掛けてきた。

 

「ベヨネッタ、ちょっといいかしら?」

 

「えぇ、何の用かしら?」

 

 振り返るとそこには、ハーマイオニーの他にハリーとロンの姿もあり、その表情は真剣そのものだった。

 

「あのね、私達考えたの…」

 

 ハーマイオニーの言葉を継ぐ様に頷いたハリーが口を開いた。

 

「闇の魔術に対する防衛術の自習をしようって、このままじゃ僕達は魔法省の思惑通り無能の集団になっちゃう。自分たちの身を守る力を付けなきゃって」

 

「そう、良い心がけね」

 

「ありがとう、そこで折り入って君にお願いがあるんだ」

 

「お願い?」

 

 私は、眼鏡を直しながら、足を組み直し、3人に向き合った。

 

「君も参加して欲しいんだ?」

 

「何の話よ」

 

「さっきも言ったけど、僕等は闇の魔術に対する防衛術の自習をしたいんだ。それで、メンバーを今集めていてね。そこで君にも参加して欲しいと思って…それに君はいろいろと戦いについては詳しそうだし教えて欲しいなと思って」

 

「私は教えるなんて柄じゃないわ、それに、私は呪文なんかより――」

 

 私は両手に銃を持ち、彼等の前に見せつける。

 

「この子達の方が使い慣れているわ。それもいいのかしら?」

 

「あぁ…君が居るだけで心強いよ」

 

 ハリーは少し躊躇いながらも、そう口にした。

 

「そう、ならいいわ。参加してあげる」

 

「本当に!」

 

「そんな事じゃ嘘なんて言わないわよ」

 

「ありがとう! さっそくメンバーを集めるわ!」

 

 ハーマイオニー達はそう言うと、走る様にして談話室から出ていった。

 

 

  数日後、今日はホグズミード村へ行くことが許可されている日だ。

 

 私はハリー達に連れられ、ホグズミード村にあるホッグズ・ヘッドと言う寂れたバーに連れてこられた。

 

 どうやらここで、決起集会を行うようだ。

 

 しばらくすると、次々と人が集まり始め、ネビルや、セドリック、ウィーズリー家の双子など総勢で25人ほどのメンバーが集まった。

 

 多くのメンバーは狭く埃っぽいバーの中で椅子に座りながら、ハーマイオニー達の演説にも似た説明を聞いている。

 

 ハーマイオニーは演説が終わると、皆のサインを集め始めた。

 

 その場に居た、私を除く全員が快くサインしている様だ。

 

 ある程度の方向性が決まった所で、一つの問題が浮上した。

 

「所で…何処で練習する?ここじゃできないよ」

 

 ハリーがそう言うとハーマイオニーは唖然とした表情を浮かべている。

 まさか、場所まで頭が回らなかったのだろうか。

 

「そうね…皆は何か、都合の良い場所知らないかしら?」

 

 ハーマイオニーがそう言うが、誰一人として手を上げる物は居ない。

 

 そんな都合のいい場所がすぐに出て来るなら苦労はしないだろう。

 

 そう思っていると、ネビルがおずおずと手を上げた。

 

「その…必要の部屋なんてどうかな?」

 

「必要の部屋って?」

 

 ハーマイオニーの疑問にネビルが自信なさそうに答えた。

 

 どうやら、その名の通り、ホグワーツの8階にある、欲するものが現れる部屋らしい。なんとも都合のいい物だ。

 

「そうね、そこにしましょう。じゃあ最初の集合の日は日時が決まったら報告するわね」

 

 ハーマイオニーがそう言い、皆が頷いている。

 

 こうして、決起集会は無事に幕を閉じた。

 

 

 

  数日後

 談話室の掲示板に不可解な張り紙が張り出されていた。

 

 そこには、ホグワーツ内での学生によって作られた組織は1度総て解散となるという内容が書かれていた。

 

 そして、再び組織したい場合は、高等審問官であるアンブリッジに届け出する必要があるようだ。なお、未登録の活動が発覚した場合は退学処分にされるようだ。

 

「もしかして、誰かが告げ口したのかしら!」

 

「そんな事無いと思うよ」

 

「どうする? 届け出るの?」

 

「そんな必要ないわよ。バレなきゃいいだけよ」

 

「でも退学処分って書いてあるわ」

 

 ハーマイオニーは何処か不安そうに私の方を見ている。

 

「ならやめるの? 私はどっちでもいいわよ」

 

「いや…そんな事…」

 

「多少のリスクはしょうがないよ。バレないように上手くやる方法を考えなきゃ」

 

 ハリーは何か決意したように、頷いている。

 

 




原作道理、アンブリッジが暴走を始めました。

一体どんな結末になるんでしょうね(すっとぼけ)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

守護蝶

久しぶりにロダンと闘ったら、一方的にやられました。
ノーモーション瞬獄殺怖い…

当時の私はどうやって攻略したんだろう…


 

   会合当日。

 

 私達は必要の部屋に集まっていた。

 

 部屋の中はかなり広く、それなりに暴れても問題の無いほどだった。

 

 前回集まったメンバーが全員揃った事を確認したハーマイオニーは必要の部屋の扉に鍵をかけている。

 

「みんな集まっているわね。とりあえず、この会の名前はダンブルドア軍団。略して『DA』にしようと思うわ」

 

 なかなか特殊なネーミングセンスを発揮したハーマイオニーだが、メンバーの受けは良いようで、結局DAで決定したようだ。

 

 

「さて…名前も無事に終わったことだし、そうね…ベヨネッタ何か案は無いかしら?」

 

「そうね…」

 

 私はゆっくりと立ち上がり、メンバーの前に立つ。

 

「なら簡単なのからにしましょう、私に1発でいいから何か魔法を当ててみなさい。話はそれからよ」

 

「え?」

 

 私の発言に、その場に居た全員が疑問の声を上げた。

 

「魔法も銃弾も、当てなきゃ意味無いわ。逆に言えば当たらなければどうという事も無いのよ」

 

 それを聞いた全員が、歓声を上げながら頷いている。これでは先が思いやられる…

 

 

「全員相手してあげるわ」

 

 私は、部屋の中心に立つと、杖を取り出し、皆を挑発する。

 

「ちょ…ちょっと! 何考えているのよ!」

 

 ハーマイオニーが怒ったような口調で食い掛かってくる。

 

「こういうのは実戦が一番なのよ、そもそもそれが目的の集まりじゃないのかしら?」

 

「確かに…そうだけど」

 

「安心しなさい、こっちから攻撃はしないわ」

 

 それを聞いて、安心したのか、数名が杖を構え始め、最終的には私を中心に取り囲むようにして、全員が杖を構えている。

 

 

「ふぅん…さぁ、かかってらっしゃい」

 

「エクスペリアームス!」

 

 誰かが、武装解除の魔法を放つと、それを皮切りに、皆が一斉に私目掛けて様々な呪文を放った。

 

 

 私は迫り来る閃光に対して、両ひざを曲げる様に体を逸らせ、天を仰ぐ様にして避ける。

 

「グワァ!」

 

 態勢を整え、周囲を見回すと、そこには、大半のメンバーが気を失っている状況が広がっていた。

 

 

 私は、体勢を低くしただけで、飛び交う閃光は簡単に避ける事ができ、魔法を放ったメンバーは、味方が放った魔法が直撃しどんどんと倒れていったようだ。

 

「ふぅ…歯ごたえ無いわね。フレンドリーファイヤーでやられるなんて」

 

「ちょっと! 攻撃しないって言ったじゃない!」

 

「私は何もしてないわ。アンタ達が自滅しただけでしょ」

 

 倒れ込み、私を睨んでいるハーマイオニーに手を差し伸べると、彼女はその手を取り、ゆっくりと立ち上がった。

 

「これでわかったでしょ、私は教えるなんて柄じゃ無いの」

 

「えぇ、本当に…そのようね」

 

 ハーマイオニーは立ち上がると、服に付いた埃を払いながら、そう答えた。

 

「でもこれで方向性は決まったわ、相手に当てる練習と、避けるのをメインにやって行こうと思おうわ」

 

「それが良いわね」

 

 方向性も決まったようで、ハーマイオニーの目は輝きを増していった。

 

 

  その後、私とハリーとハーマイオニー、そしてセドリックを中心に、他のメンバーの指導に回った。

 

 メンバーの中には、杖より銃の方が良いと言うのも居たが、足元に1発お見舞いすると、すぐに大人しくなった。

 

 

 ある程度基本の事を教えている間に、時間がやって来たのか、ハーマイオニーが会合の終了を宣言している。そして、次の時間を皆に教えている様だ。

 

 

 数回ほど会合を重ねていくうちに、メンバーの技量は少しずつではあるが上昇していっている。

 

 中でも、ネビルの成長はかなり早い方だ。といっても避ける方ばかりで、未だに武装解除の呪文すら成功していないようだ。

 

 ネビルを除くメンバーが武装解除の呪文をある程度使いこなせるようになると、守護霊の呪文や、気絶呪文と言った攻撃に応用できる呪文の習得に励んでいった。

 

 

 

  しばらくすると、クィディッチの試合のシーズンとなった。

 

 最初の試合はグリフィンドールVSスリザリンと言ったカードだ。

 

 クィディッチの試合もある為か、会合の頻度は今までに比べてかなり減ってきている。まぁ私からすれば気が楽になるのでいいが。

 

 本日は試合当日だが、朝食を取る為に大広間へ向かうと、そこには顔を真っ青にしたロンが、ハリーの隣に座っているのが目に入った。

 

「どうしたのよ、死にそうな顔ね」

 

「やぁ…ベヨネッタか…いっその事、死んだ方が良いかもね…」

 

「何を言って居るんだ! ロン、大丈夫だって。君は選抜で選ばれたキーパーじゃないか!」

 

「あぁ…だけど…きっと僕のせいでチームは負けるんだ」

 

「はぁ…」

 

 ロンは何処か虚ろな表情で虚空を眺めていた。

 

 

 私は重い空気の大広間から出ようとすると、胸に銀色のバッジを付けたドラコが声を掛けてきた。

 

「やぁ、セレッサじゃないか、今日はいいクィディッチ日和だ!」

 

 

「そうみたいね、ロンなんてさっきから顔を真っ青にさせて居たわ」

 

「そりゃ傑作だ。このバッジを作ったかいがあるってものさ」

 

 ドラコは胸に貼ってある銀色のバッジを見せつけてきた。

 

 そこには『ウィーズリーこそ我が王者」と書かれていた。

 

「王者ね…きっとロンも大喜びよ」

 

「そりゃそうだろうね、さて、それじゃあ僕は試合に行ってくるよ! 応援してくれると嬉しいね」

 

「考えておくわ」

 

 ドラコは、手を振りながら、クィディッチ会場へと走って行った。

 

 

  私がクィディッチ会場に到着すると、すでに大勢の観客が集まっていた。

 そんな中、私の姿を見たハーマイオニーがこちらに手を振っている。どうやら席を確保していてくれたようだ。

 

 私はハーマイオニーの横に腰かけ、会場全体を見回した。

 

「ロン…大丈夫かしら?」

 

 しばらくすると、ハーマイオニーが心配そうに声を上げた。

 

「どうかしらね、あの様子だと厳しいかもよ」

 

「やっぱそうかしら…」

 

 ハーマイオニーは何処か落ち込んだような表情で、会場を見ている。

 

 しばらくすると、選手が入場を始めてきた。

 

 渦中の人物であるロンはと言うと、真っ青な表情で、立っているのもやっとといった感じだった。

 

「やっぱダメそうね…」

 

 ハーマイオニーは溜息交じりにそう呟いた。

 

 

 試合が始まってしばらくは、ゴールポスト周辺に戦況が移動するという事は無く、ロンはどことなく落ち着きを取り戻し始めた様にも見えた。

 その時、スリザリンの観客席から歌声が聞こえてきた。

 

『ウィーズリーは守れない、万に1つも守れない。だから歌うぞ、スリザリン、ウィーズリーこそ我が王者。ウィーズリーの生まれは豚小屋だ、いつでもクアッフルを見逃した。おかげで我らは大勝利、ウィーズリーこそ我が王者』

 

 そんな歌を大合唱しながら、ウィーズリーは我が王者と書かれた横断幕まで振っている。

 

 それを見たロンは、再び固まってしまったのか、先制点を許してしまった。

 

 スリザリンらしい、狡猾な手だと感心する。

 

 

 しかし、ハリーが動き出し事態は一変した。

 

 ハリーの動きを追う様にドラコも動き出したが、結果的には(すんで)の所でハリーに先を越されたようだ。

 

 試合も終了し、ハーマイオニーは安堵の表情を浮かべている。

 

 そんな時、試合が終わったにもかかわらず、ハリーとドラコは互いに睨みあって居たかと思うと、ハリーがいきなりドラコに殴りかかり、そのままマウントを取った。

 

 それに加勢するかの様に、ウィーズリーの双子も、ドラコに襲い掛かっている。

 

 

 私は瞬時にウィッチタイムを発動させ、時間の流れをほぼ完全に止める。

 

 そんな中、腕に装備しているプーリーの守護蝶に魔力を送り、指を鳴らすと5匹の蝶が周辺に現れた。

 

 私は、蝶に息を吹きかけ、5匹総ての蝶をドラコの元へと送った。

 

 蝶が無事にドラコに付いたことを確認し、ウィッチタイムを解除する。

 

 

 ハリー達は夢中でドラコに殴りかかっているが、そのダメージは恐らく通っていないだろう。

 

 私は、その場から飛び上がり、ハリー達の後方に着地する。

 

「その辺にしたらどうかしら?」

 

「邪魔をしないでくれ!」

 

 ハリーはそう叫ぶと、拳を振り上げる。

 

「いい加減にしなさい」

 

 振り下ろされるより先に、その拳を押さえると、そのまま、ハリーを後方へと投げ捨てる。

 

 それを見た双子は落ち着きを取り戻したのか、襲い掛かる手を止めた。

 

 私は横たわるドラコを見据えるが、最初の1発で口を切っただけで目立った外傷はなく、ドラコの周辺には5匹の蝶が元気そうに飛び回っていた。

 

「大丈夫そうね、ドラコ、アンタも大概にしなさいよ」

 

 私がそう言って手を差し出すと、ドラコは少し戸惑いながらも私の手を取った。

 

「あ…あぁ、助かったよセレッサ、この蝶は君のかい?」

 

「そうよ、放っておいたらアンタ死んでいたわよ」

 

「確かにそうだね、ゾッとするよ」

 

 ドラコはそう言いながら、ハリーの方を睨んでいる。

 

「何事ですか!」

 

 しばらくすると、教員が到着し、事態の収拾に取り掛かった。

 

 ハリー達は教員に連れられ、会場を後にし、ドラコは大事を取って医務室へと行くことになったようだ。

 

 

  その日の夜、ハリー達は試合に勝ったにもかかわらず、談話室で頭を抱えていた。

 

 どうやら、ドラコを殴りかかった事を理由にアンブリッジがハリーとウィーズリー家の双子に終身クィディッチ禁止命令を出したようだ。最も退学にならなかっただけましだと思えるが、チームの面々は3人の損失を痛く悲しんでいるようあった。

 

「僕のせいだ…僕があんな奴に殴りかからなければ…」

 

「ハリーのせいじゃないぜ、俺達を馬鹿にしたあいつが悪いんだ」

 

 

 その時、談話室にマクゴナガルが姿を現した。

 

「セレッサ、お話があります、校長室へ来なさい」

 

「何の用かしら?」

 

「ここではお話できません、良いから来なさい」

 

 恐らく、不死鳥の騎士団関連の事だろうか、私は落ち込んでいるハリー達を一瞬だけ見た後、マクゴナガルの後に続いた。

 

 校長室に入ると、そこにはハグリッドの姿があった。

 

「おう、セレッサじゃねぇか、久しぶりだな」

 

「久しぶりね、元気そうで何よりね」

 

「あぁ、まぁあちこち傷だらけになっちまったがな」

 

 ハグリッドは大笑いしながら、ダンブルドアに向き合うと、報告を始めた。

 どうやら、ダンブルドアの命令で、巨人族と話し合いに言って居たようだ。

 

「結果としてはですが、あまりうまく行っちゃぁいねぇです。でもまぁ、何人かの巨人には話は聞いてもらえました」

 

「そうか…ご苦労じゃったの。しばし休むが良い。ところで、小耳に挟んだのじゃが、何人かの生徒が自主的に防衛術の自習をしておると聞いたが、本当かのぉ?」

 

 ダンブルドアは分かり切っているのか、ニヤニヤと笑いながら私に聞いて来た。

 

「知っている様ね。ハリー達が自主的に始めたのよ」

 

「ほぉ…お主も入っておるのか?」

 

「人寄せ代わりにね。おかげで大勢集まったらしいわ」

 

「そうか…じゃがくれぐれも危険な事はさせぬようにな」

 

「当たり前じゃない。子供を危険な目に晒すような真似はしないわ」

 

「お主も子供じゃろうに」

 

「あら? そうだったわね」

 

 ダンブルドアは多少微笑んだ後、再び口を開いた。

 

「ところで、お主がドラコ・マルフォイに掛けた防御魔法の様なもの、アレは何じゃ? 数年前、バシリスクからハリーを守る時にも使って居た様じゃったが?」

 

「アンタ、あの時見てたのね。相変わらず、覗きが趣味みたいね」

 

「あまり誤解を招くような事は言わんでもらいたいのぉ」

 

 マクゴナガルとハグリッドはダンブルドアを少し驚いたような表情で見ていた。

 

「誤解せんで貰いたいが、覗いたのはフォークスの心じゃよ」

 

 ダンブルドアの弁明を聞いた2人は何処か安心したような顔をしていた。

 

「さて…話を戻そうかの。君が行った防御魔法を見せては貰えんか?」

 

「今ここで?」

 

「そうじゃ」

 

 私は、軽く息を吸った後、腕に魔力を集め、指を鳴らす。

 

 すると、私の周囲に5匹の蝶が現れ、優雅に羽根を羽ばたかせている。

 

「これで満足かしら?」

 

「それは、他の者を守る事もできるのかのぉ?」

 

「出来るわよ」

 

 周囲を舞っている蝶の内1匹を指先に留めると、軽く息を吹きかける。

 

 すると、私の周囲に居た蝶を先導するかの様に、部屋を飛び交い、マクゴナガルとハグリッド、そしてダンブルドアの肩に1匹ずつ留まる。

 

「これで満足かしら?」

 

「美しいですね…これは一体…」

 

 マクゴナガルは方に留まった蝶を見つめながら、不思議そうに呟いている。

 

 ハグリッドは楽しそうに蝶を手に載せると、まじまじと観察している。

 

「コイツはすげぇ。とっても綺麗な羽根だ」

 

 ハグリッドは嬉しそうに微笑んでいる。

 

「不思議じゃ…本当に…お主はどれ程の力を持っておると言うのじゃ…」

 

 ダンブルドアの多少の敵意を孕んだ瞳を受けながら、私は軽く指を鳴らすと、周囲を飛び交っていた蝶がその姿を消した。

 

「満足したかしら?」

 

 その言葉にダンブルドアはゆっくりと頷いた。

 




校長室で話し合っている面々の中では、ベヨネッタが一番年うry


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

セストラル

腰が痛い…



   次の日の朝、ハリー達のテンションはとても高い物だった。

 

 どうやら、ハグリッドが戻って来たという話を聞いたらしく。この後直ぐにでも会いに行くと言って居る。

 

「ベヨネッタ! 早く!」

 

 私が談話室で本を読んでいると、ハーマイオニーが駆け寄って来た。

 

「わかったわよ。少し待ちなさい」

 

 私は、身だしなみを整えた後、ハリー達と共にハグリッドの小屋へと移動した。

 

 

 私達が小屋に付くと。傷だらけのハグリッドが調子悪そうにしながら、椅子に腰かけていた。

 

 その姿を見た途端、ハーマイオニーが悲鳴を上げた。

 

「ハグリッド! その傷どうしたのよ!」

 

「いやぁ何でもねぇんだ。それより茶でも飲むか? いやぁ…しばらく留守にしてたからな…どこに何があったか忘れちまったぁ」

 

 

 ハグリッドは体を引きずるように立ち上がると、お茶の準備を始めた。

 

 

「なんでも無いはずないぞ! どうしたんだその傷? 誰かに襲われたんだろ?」

 

 ロンがハグリッドに追求するが、それは適当に流された。

 

 その後、紅茶が入ったのか、ハグリッドが人数分のティーカップを用意した時、小屋の外から、ザクザクと雪を踏みしめる様な足音が聞こえてきた。

 

 私が窓から外の様子を窺うと、そこには歩きにくそうに雪を踏みしめているアンブリッジの姿があった。

 

「招かれざる客ね」

 

「え? 誰?」

 

「あれよ」

 

 私が窓に指を差すと、ハリー達が窓の外にを覗き込んでいる。

 

「アンブリッジじゃん!」

 

「どうする…」

 

「とりあえず、隠れなきゃ!」

 

3人はき身を寄せ合いながら、窮屈そうに透明マントの中に隠れた。

 

「お前さんは隠れんで良いのか?」

 

 ハグリッドは3人分のカップを棚に戻しながら、聞いて来た。

 

「あんなのから隠れるなんて不愉快よ」

 

 私は椅子に座り込むと、ハグリッドの淹れた紅茶に口を付けた。

 

 やはりかなり渋みが出てしまっている。そう思い多少顔をしかめてしまった。

 

 

 すると、ドンドンと乱暴に小屋のドアがノックされる。

 

「そんなに乱暴に叩かんでも、わかっちょる」

 

 ハグリッドは嫌そうな顔で扉を開けると、そこには、嫌そうな顔をしたアンブリッジが顔を見上げていた。

 

「えーっと…貴方がハグリッドね」

 

 アンブリッジは嫌味に満ちた甲高い声でゆっくりとはハグリッドに話しかけている。

 

「そうですだ」

 

 ハグリッドが返事をする前に、ズカズカと大股で小屋の中へと入って来た。

 

「おや? ミス・セレッサではないですか。何をしているのですか?」

 

 アンブリッジはニヤニヤと笑いながら、鼻に付く声を出している。

 

「アンタには関係ないでしょ」

 

「許可の無い出歩きですね…まぁ良いでしょう。後で減点ですね」

 

「それより何の御用ですだ? えー…」

 

「私はドローレス・アンブリッジです」

 

 アンブリッジは食い気味に答えると、ハグリッドは数回頷いた。

 

「えー、ドローレス・アンブリッジ……確か魔法省の人だったと思うが…そんな人が一体何の御用で?」

 

「今は、ホグワーツ高等尋問官です」

 

「高等尋問官? そりゃ何ですかい?」

 

 ハグリッドは意味不明な役職を聞き、顔をしかめている。

 

「私としては何故、貴方が今まで居なかったのかが気になりますけどね」

 

 アンブリッジは再び嫌味ったらしく言い放つ。

 

「あー…そりゃぁ…あれです。健康上の理由で休んでいたんで」

 

「健康上の?」

 

「えぇ、こんな傷を負ってしまいましてね…最近やっと、動けるようになるまでに回復したんで、戻って来た訳です」

 

 ハグリッドはそう言うと、袖を捲り、傷口をアンブリッジに見せている。

 

「なるほど…そうですか」

 

 アンブリッジは私を一瞥した後、小屋の扉に手を掛けた。

 

「貴方が遅れて来た事は、大臣に報告させていただきます」

 

「わかった」

 

「それと、高等尋問官として残念ながら私は同僚の先生方を査察するという義務があるということを認識していただきましょう。ですから、近いうちにまた貴方にお会いすることになると申し上げておきます」

 

「お前さんが、俺達を視察?」

 

「えぇ、その通りです。魔法省としては教師として不適切な者には退職していただくつもりですので、お覚悟を。では失礼しますよ」

 

 張り付いた様な笑みを浮かべたアンブリッジはゆっくりと扉を開けると、外へと出ていった。

 

 アンブリッジが去ってからしばらくすると、隠れていたハリー達が姿を現した。

 

「査察? あんな奴が?」

 

 ハグリッドは驚いた表情で疑問を投げかけている。

 

「そうなんだよ。もう殆どの先生が受けているんだ」

 

「なんてこった」

 

 ハグリッドは頭を抱えて、溜息をついている。

 

 

「しょうがないさ。ところでハグリッドはどんな授業を教えてくれるの?」

 

 ハリーは期待に満ちた表情で聞くと、ハグリッドは嬉しそうな表情でその言葉に答えた。

 

「今年はふくろう試験もあるからな、かなり特別な連中を連れてきてやったぜ」

 

「それって…どんなふうに特別なの?」

 

 ハーマイオニーが恐る恐る聞くが、ハグリッドはただ一言、嬉しそうに「秘密だ」と答えた。

 

 

「ねぇハグリッド。アンブリッジは危険な生物を連れてきたら、きっとそれを理由に、事態を悪化させるはずよ」

 

「危険? 馬鹿言うでねぇぞハーマイオニー。お前さん達に危険なもんなんぞ連れて来たりはせん」

 

「今年は怪我人が出なければいいわね」

 

 私が肩を竦めてそう言うとハグリッドは苦笑いをしながら頭を掻いている。

 

 

  数日後、日刊予言者新聞の一面を見た多くの生徒が驚愕していた。

 

 そこには、『アズカバンからの集団脱獄』の文字が書かれていた。

 

「ここまでくれば、僕達やダンブルドアが嘘を言って居ないって事が分かるはずなんだけどな…」

 

「今の大臣は、この状況を信じたくないんだろう」

 

 ハリーは深刻そうに言うと、ロンは大臣を小ばかにしたかのように笑っていた。

 

「でもおかしいわよ、普通ここまで大事になれば気が付くはずよ」

 

「奴らの仲間が入り込んでいるのかもね」

 

「え?」

 

 私がそう言うと、3人は驚いた表情でこちらを見た。

 

 ルカの話では魔法省の役人の何名かはイザヴェルグループと繋がりがあったらしい。

 

 かつてイザヴェルグループのCEOを務めていたのは、私の父親の体を乗っ取ったロプトだった…

 奴がかなり前からこちらの世界と関りを持っていたと考えれば、魔法省の役人が死喰い人と関りを持っていてもおかしくは無いだろう。

 

 私は飲み終えたティーカップをソーサーの上に置き、一息ついた。

 

 このままでは、死喰い人が天使と共闘し魔法界を乗っ取る可能性まである。

 死喰い人や魔法界などはどうでもいいが、天使の好きにさせる訳にはいかない。

 

 そう思って居ると、ハリーがおもむろに立ち上がった。

 

「やっぱり僕達は間違ってなかったんだ! こうなったらもっと頑張って身を守れるようにしなきゃ!」

 

「そうだぜ!」

 

 ハリーの宣言にハーマイオニーとロンも大きく頷いている。

 

 

「でも…そうなると、やっぱりアンブリッジが邪魔だね…どうにかならないかな?」

 

 ハリーは首をかしげながら、考えを巡らせている。

 

「そうだな…毒でも盛るか」

 

 ロンはいつもと違い、落ち着いた口調で物騒な事を言って居る。

 

 まぁ、それだけ皆あの女が嫌なのだろう。

 

 

 数日後、今学期に入って初めてのハグリッドの授業が行われた。

 

 

 今回も授業はスリザリンと合同な様で、スリザリンとグリフィンドールは別々のグループに別れながら、不穏な空気の中、森の奥へと進んでいった。

 

 いい加減、ダンブルドアはスリザリンとグリフィンドールの合同授業を変えた方が良いのでは?

 

 そんな時、ドラコが私の隣にやって来た。

 

「やぁ、セレッサ。こんな所まで連れて来るなんて、あの男は何を考えているんだか…」

 

 ドラコはハグリッドの方を見ると首を横に振りながら溜息を吐いている。

 

「さぁ! 到着だ!」

 

「着いたみたいよ」

 

「そのようだね。で? どこに居るっていうんだ?」

 

 ドラコは周囲を見渡している。

 

 ハグリッドは森の木陰を指差しながら自慢げに胸を張っている。

 

「あそこに居るのが、セストラルだ。きっと魔法界でアイツ等を飼いならせているのは俺だけだろうな」

 

 ハグリッドが指差す先には、ドラゴンのような顔と首で、翼のある大きな馬のような胴体を持っている生物が、ハグリッドが投げた肉を食べている。

 

「ハグリッドが何を指差しているんだ?」

 

 ロンを始めとした多くの生徒には、セストラルは見えていないようだ。

 

「よーし。こいつらが見える奴は居るか?」

 

 ハグリッドがそう言うと、スリザリンから数名と、ネビルが手を上げている。

 

「よし、そんじゃ知っとる者はいるか? どうして見える者と見えない者がおるのか」

 

 ハグリッドの質問に対して、ハーマイオニーはいつもと同じように真っ直ぐに手を上げる。

 

「よし。答えてみろ」

 

 ハグリッドが微笑みかけると、ハーマイオニーが答え始めた。

 

「セストラルを見ることができるのは……死を見たことがある者だけです」

 

「その通りだ。グリフィンドールに10点やろう。さて…セストラルっちゅうのはだなぁ」

 

「エッヘン。エヘン」

 

 ハグリッドが説明を始めようとしたとき。耳障りな咳払いが周囲に響き渡った。

 

 

「今朝、貴方の小屋に送ったメモに目は通していただけましたか? それ以前にも字は読めるのですか?」

 

 アンブリッジは眉をひそめながら、嫌味ったらしく言う。

 

「あぁ、わかっちょる。だからこうして今日はセストラルの授業をやっている」

 

「え? なんですって?」

 

 アンブリッジはワザとらしくハグリッドを小ばかにするようにゆっくりとした大声を上げている。

 

「セストラルだ!」

 

 ハグリッドも負けじと大声を上げている。

 

「原始的な……身振りによるコミュニケーション……言葉は…不要か…」

 

 アンブリッジはブツブツと呟きながら何かを書き込んでいる。

 

「はぁ…まぁいい。どこまでやった?」

 

 ハグリッドは生徒達の方に振り返りながら呟いた。

 

「記憶力が低い…と…」

 

 アンブリッジは再び何かを呟きながら書き込んでいる。

 

「お邪魔しましたね。では授業を普段通り続けてください。私は歩いて見て回ります」

 

 アンブリッジはそう言うと、その場を後にした。

 

 その背中をハーマイオニー達は、憎悪に満ちた瞳で睨みつけていた。

 

 

 




この世界では、セドリックは生きているので、ハリーはセストラルが見えません。

子供の時、両親の死を見ているから、見れるはずだという意見もありますが、その場合、1年生の頃から見えて無いとおかしいですからね。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ポートキー

ドンパチが無いと、ベヨネッタが空気になりがちな気がする…



   12月に入ると、会合にも余裕が出てきたのか、全体的なレベルが上がっているのが見てわかる。

 

 体を捩じる様にしながら、魔法を避けるものや、魔法を避けると同時にカウンター気味に魔法を放つものなど、最初に比べれば大違いだ。

 

 ここまで成長できたのが、嬉しいのか、ハーマイオニーは嬉しそうに、メンバーと話しながら魔法の練習に打ち込んでいる。

 

 

  数日後の夜。

 

 私がバーで日課を終わらせ部屋に戻ってから数分が経った頃、マクゴナガルが部屋の扉をゆっくりと開けた。

 

「良い夜ね。何の用かしら?」

 

 ベッドに腰かけながら、窓から外の月を見ながら私はマクゴナガルに問いかける。

 

「起きていたのですね、夜更かしは感心しませんね、美容の天敵ですよ」

 

「これでも、スキンケアには気を使っているのよ」

 

「そうですか」

 

 マクゴナガルは少し溜息をしながら、私を見据える。

 

「それに…アンタだって、起こしに来たクセに良く言うわ。で? 何かあったの?」

 

 マクゴナガルは周囲を見回し、私以外の全員が寝静まっているのを確認した後、小声で答えた。

 

「アーサー・ウィーズリーが何者かによって襲われたようです。詳細は校長室で話します。付いてきなさい」

 

 私は、ベッドから立ち上がると、軽く体を伸ばし、マクゴナガルの後に続いた。

 

 

  校長室に入ると、そこには疲れ切った表情のハリーとロンの姿があった。

 

「ベヨネッタ、君も来たのか?」

 

「えぇ、呼び出されたのよ」

 

 私がそう言うと、マクゴナガルは軽く咳払いをした。

 

「先程、神秘部で任務に当たっていたアーサーが、何者かに襲われたようじゃ。今、エバラードとディリスが確認に向かっておる所じゃ」

 

「ダンブルドア!! ダンブルドア!!」

 

 突如、校長室に飾られている肖像画の一つから声が響いた。

 

「誰かが駆けつけてくるまで叫び続けましたよ。みんな半信半疑で、確かめるように降りてきましたよ。下の階に私の肖像画はないので、確認には行けなかったのですが……ともかく、みんながその男を運び出してきましたね。症状は良くない。血だらけだった」

 

「ご苦労じゃった。おそらく、ディリスがその男の到着を見届けるじゃろう」

 

 報告を聞いたダンブルドアは静かにそう言うと、別の肖像画から声が聞こえてきた。

 

「えぇ、先程の男ですが、皆に連れられて聖マンゴに運び込まれました…が…酷い状況の様です」

 

「そうか…ご苦労」

 

 

 ダンブルドアは溜息を吐いた後、マクゴナガルの方を見た。

 

「ミネルバ、他のウィーズリー家の子供たちを起してやってくれ」

 

「かしこまりました…」

 

 マクゴナガルは一礼すると、そのまま校長室から出ていった。

 部屋の隅に居るロンの顔色はとても悪い状況だった。肉親の危機とあっては仕方も無いだろう。

 

 ダンブルドアは棚から古めかしいポットを取り出した。

 

「ポータス」

 

 ダンブルドアが杖を振ると、ポットから青白い光があふれ出した。

 

「ポートキーじゃ。まぁ、無許可で作るのは違法じゃが…今回は仕方あるまい。これはシリウスの元まで繋がっておる」

 

「わかりました」

 

 ハリーはダンブルドアの目を見ながら、数回頷いた。だが、ダンブルドアは目を逸らそうとしているように見えた。

 

 ダンブルドアは壁に掛かっている肖像画に歩み寄ると、声をかけ始めた。

 

「フィニアス。フィニアス! 起きておるじゃろ」

 

「ん…何の用かね?」

 

 肖像画の中の人物は、嫌そうに眼を擦りながら、ダンブルドアの方を見えてる。

 

「別の肖像画に行って、伝言を頼まれて欲しいのじゃ」

 

「なるほど…分かりましたよ。向こうにあればの話ですがね。なんせあの家族は…」

 

「シリウスはそこまで愚かではない。では伝言じゃ『アーサーが重傷で、妻、子供たち、ハリー、が間もなくそちらに到着する』とな。セレッサ、お主も行ってはくれぬか?」

 

「私が?何の為に?」

 

「死喰い人が現れるかもしれぬ。護衛を頼みたいのじゃ。」

 

「そういう事なら、構わないわよ」

 

「では追伸じゃ。セレッサも同行すると伝えてくれ」

 

「わかった。伝えよう」

 

 肖像画の人物はそう言うと、肖像画の奥へと消えていった。

 

 しばらくすると、校長室の扉がノックされ、ウィーズリー家の面々がパジャマ姿で入ってくる

 その後ろにはマクゴナガルの姿があった。

 

「君等のお父上は不死鳥の騎士団の任務中に怪我をなさった。お父上は聖マンゴ魔法疾患傷害病院に運び込まれておる。今から君達をシリウスの家に送ることにした。病院へはその方が隠れ穴よりも便利じゃからの。お母上とは向こうで会えるじゃろう」

 

「どうやって行くんですか? 煙突飛行?」

 

「いや、煙突飛行は監視されておる。ポートキーで行くのじゃ」

 

 ダンブルドアは机の上にあるポットに指を差した。

 

「早くした方が良いじゃろう」

 

 ダンブルドアがそう言うと同時に、私達はポットに手を掛けた

 

「では行くのじゃ」

 

 ダンブルドアが杖を振ると同時に、ポートキーが発動し、私達の体はブラック邸へと飛ばされた。

 

 

 ブラック邸に到着すると同時に、シリウスがハリーに駆け寄った。

 

「ハリー! 何があったんだ!」

 

 ハリーはその場で、少しずつ話し始めた。

 

 ハリーの話では、夢の中でロンの父親が、蛇に襲われているところを見たという事だ。

 なんとも都合が良い事だ。

 

「ママはもう来てるの?」

 

 ロンがシリウスに聞く。

 

「まだだ。恐らく何が起こったかさえ知らないだろう。今頃ダンブルドアから連絡を受けている筈さ」

 

 

「聖マンゴへ行かなきゃ…」

 

 ロンがそう呟いたが、シリウスは首を横に振った。

 

「待つんだ、今日の所は大人しくしておいた方が良い。また後日向かおう」

 

「でも…」

 

「駄目だ。今は我慢するんだ」

 

 

 シリウスの言葉に、彼等は納得したのか。諦めた様に俯いている。

 

「とりあえず今日は休むんだ。いいね」

 

 シリウスがそう言うと、ハリー達は寝室へと移動していった。

 

「君は寝ないのかい?」

 

「こんないい夜に寝るつもりなんて無いわ」

 

「そうか、なら1杯付き合ってくれ」

 

 シリウスが厨房の奥からジンのボトルを取り出した。

 

「良いわね、素敵じゃない」

 

「フッ、君は未成年の筈だが、やっぱりいける口か」

 

「誘ったのはそっちよ」

 

「そうだったな」

 

 シリウスはショットグラスを2つ取り出すと、テーブルの上に置き、零れる寸前まで、ジンを注いだ。

 

「たまにはこういうのも良いわね。無骨で素敵よ」

 

「いつもはもっと洒落てるのか?」

 

「行きつけのバーがあるのよ」

 

「それはそれは、やっぱり君も相当不良な生徒だな」

 

「学生の頃のアンタよりも?」

 

「さぁね?」

 

 シリウスは笑いながら、ショットグラスを一気に煽る。

 

 私もそれに続くように、グラスの中身を空にする。

 

「お見事」

 

 シリウスはそう言うと、にこやかに笑っている。

 

 

 

 

 結局のところ、シリウスとは朝方になるまで飲み続け、潰れる様にテーブルに突っ伏している。

 

「しょうがないわね」

 

 私はグラスを厨房の流し台へと持っていくと、急にドアが開かれた。

 

 急な来訪者に、私は銃を突き付けると、小さな悲鳴が上がった。

 

「アンタは…」

 

「お…おはよう。セレッサ」

 

 そこにはロンの母親が引きつった表情で立っていた。

 

 私が銃を下すと、彼女は胸を撫で下ろしながら息を吐いた。

 

「悪かったわね」

 

「仕方ないわよ。死喰い人の可能性だってあったわ。貴女の行動は正しいわよ」

 

 気を取り直したのか、彼女は厨房の奥へと歩いて行った。

 

「朝食はまだでしょ。これから作るわ」

 

「そう、ならお願いね」

 

 グラスをシンクへと置き、私はその場を後にした。

 

 

 

 数十分後、家の中を料理の香りが満たす。

 

 その香りに釣られる様に、ハリー達が目を覚ましたようで、ぞろぞろと階段を下りてきた。

 

「ママ!」

 

 ロンが声を上げると、ジニーは母親に抱き着いている。

 

「パパは?」

 

「大丈夫よ。今は眠っているわ。後で面会に行きましょう」

 

「よかった…」

 

 ロンは胸を撫で下ろしている。

 穏やかな空気が流れているが、それを壊す様に、シリウスの唸り声が響いた。

 

「うぅ…飲みすぎたな…気持ちが悪い…あぁ、モリーか…どうだ、アーサーの様子は?」

 

「えぇ、一命は取り留めたみたい。それにしても、シリウス、貴方飲みすぎよ」

 

 皆が呆れたような表情でシリウスを見ている。

 

 そんな中、シリウスは尚も唸り声を上げている。

 

「う~…君は何で平気なんだ」

 

 シリウスはコチラを恨めしそうに睨んで来るが、私は肩を竦めるだけにした。

 

「さぁ、朝食が冷めちゃうわ」

 

「そうだね、僕お腹すいちゃったよ!」

 

 ロンはテーブルに付くと、朝食にがっついている。

 

「シリウス、昨日はありがとう。子供たちの面倒を見てくれたようね」

 

「大した事じゃない。現にこうやって酔い潰れていただけさ。アーサーが入院している間はここを使うと良い」

 

「えぇ、助かるわ。もしかしたら、クリスマスもここで過ごすかもしれないわ」

 

「そりゃ大歓迎さ」

 

 シリウスは嬉しそうに答えると。ハリー達はにこやかに微笑んでいる。

 

 その後、ダンブルドアから着替えが入ったトランクが届けられ。皆服を着替えた。

 

 アーサーの見舞いに行くという話になったが、家族水入らずを邪魔するのも野暮だろうという事で私は遠慮した。

 

 丁度クリスマス休暇も始まるという事なので、私は彼等を見送った後、ホグワーツ特急には乗らず、そのままバーへと移動した。

 

 休暇が始まって数日後。

 私はエンツォから依頼された仕事を片付け、いつもと同じようにバーで1杯やっている。

 

「そっちの調子はどうだ?」

 

 いつもと変わらぬ口調のジャンヌがグラスを傾けながら、私の隣に腰かけた。

 

「変わりないわよ。死喰い人が脱獄したくらいしかイベントなんて無かったわ」

 

「ほぉ…それはまた退屈だな」

 

 ジャンヌは皮肉交じりに笑うと、グラスを傾けている。

 

「まぁ、恐らくあのヴォルデモートとか言う男と、ロプトの仕業だろうな」

 

 詰まらなそうに呟いたジャンヌは溜息を吐いている。

 

「ところで、あの不死鳥の騎士団とか言うのはどうなったんだ?」

 

「順調なんじゃないかしら。あまり期待はしてないけど」

 

「そうだな、所詮はレジスタンスだろう」

 

 再びジャンヌは皮肉交じりに笑い。私はそれに微笑み、互いにグラスを軽く合わせた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

トレローニー

 

 

 

 

 

  クリスマス休暇も終わり、私はホグワーツへと戻って来た。

 

 

 それと同時に、私は校長室へと呼び出された。新年早々人使いの荒い集団だ。

 

「おぉ、待って居ったぞセレッサ」

 

「いきなり呼びつけるなんて、どんな用かしら?」

 

「当面の予定を話しておこうかと思っての」

 

 その時、校長室の扉が開かれ、嫌そうな顔をしているハリーが、スネイプに連れられてやって来た。

 

「連れてまいりました」

 

「ご苦労じゃった。ハリーにはしばらく、セブルスから閉心術を学んでもらうと思う」

 

「それはどうしてですか?」

 

 ハリーは食いつく様な口調でダンブルドアに疑問を投げかける。

 

「いずれ必要になる事じゃ。セブルス後は頼んだぞ」

 

「承知しました」

 

「まだ話は――」

 

「来るのだ、ポッター」

 

 食い下がるハリーだったが、スネイプに無理やり連れられ退室していった。

 その間、ダンブルドアはハリーの顔を1度も見る事は無かった。

 

「なかなかいい態度ね、お気に入りじゃなかったのかしら?」

 

「はて…何の事じゃろうな?」

 

 ダンブルドアははぐらかす様に笑いながら、こちらに視線を移した。

 

「さて、お主に一つ頼みがあるのじゃが」

 

「なにかしら? 愚痴を聞く相手なら他を探した方が良いわよ」

 

「愚痴っておる暇は無いのでな…数年前、ワシに、お主を紹介した男がおるじゃろ」

 

「エンツォの事かしら?」

 

「恐らくそうじゃ、その者が使っておった開心術を防ぐ魔導具を譲ってほしいのじゃ」

 

 やはり最初にあった時、ダンブルドアは私達に開心術をかけていた様だ。

 

「何に使うつもりかしら?」

 

「ハリーは今ヴォルデモートの魂と繋がっておる可能性がある。つまり、奴に心を読まれる恐れがあるのじゃ」

 

「つまりは、それを防ぐために今、猛特訓中って訳ね」

 

 ダンブルドアは数回頷いた後、険しい顔で続けた。

 

「じゃが、閉心術と言うのは相当難しい物じゃ…」

 

「だから、欲しいのね」

 

「そうじゃ、無論タダとは言わぬ」

 

「そう…でも意味無いと思うわ」

 

「それは何故じゃ」

 

 私の回答に、睨みつく様な鋭い目線を向けて来る。

 

「だってあれは、魔眼対策の様な物よ、外部からの侵入は防げるわ。でも、魂が繋がっているなら、いくら外からの侵入を防いだ所で意味無いわ」

 

 私がそう言うと、ダンブルドアは溜息を吐いた。

 

「やはり、ハリーには閉心術をマスターして貰う他無い訳じゃな」

 

 校長室には、ダンブルドアの乾いた笑い声が響いた。

 

 

 

  数日が経ち、会合の日がやって来た。

 

 回を重ねるごとに、全体のレベルが上がって行くのが見て取れる。

 

 そんな中、伸びしろが良いのは、意外にもネビルだった。

 

 1つの事に成功すると、それが自信になったのか、ドンドンと上達していっている。

 

 それに、魔法を避けることに関しては、DA内トップだろう。だが、まだまだ実践レベルとはいかないだろう。

 

 と言うのも、魔法使い同士の対決では、魔法を避ける事があまりない。大半は反対呪文で打ち消したり、防御魔法で防いだりと言ったところだ。

 

 まだまだ、改善の余地はありそうだ。

 

 

「ベヨネッタ、ちょっといいかな?」

 

 

 杖を構えたハリーが近寄ってくる。

 

「なにかしら? 決闘でも申し込もうっての?」

 

「まぁ…そんな感じかな? みんなで話し合ったんだけど、もう1度、君にリベンジしたいんだ」

 

「リベンジ?」

 

「そう。最初の頃、全員で君に挑んで負けただろ。あの時のリベンジさ」

 

「自爆の間違いじゃないかしら? まぁ良いわよ」

 

「よし! そうと決まればさっそく」

 

 ハリーが全員を集め始めた。

 

 数分後、私の眼前で、メンバー全員が杖を構えている。

 

 前回の様な全員で取り囲むという事はしなくなったようだ。

 

 

 私は杖を片手で遊ばせながら、腰に手をやる。

 

「何時でも良いわよ。かかってらっしゃい」

 

「行くぞ!」

 

 ハリーが声を上げると同時に、全員が一斉に魔法を放つ。

 

 放たれた閃光は、私の眼前まで迫っている。

 

「ふぅん」

 

 私は体を捻りながら、閃光を避け、次に飛んできた閃光は杖で弾き飛ばす。

 

 そして、ウィッチタイムを発動させ、ゆっくりになった閃光を、総て避けていく。

 

 

 閃光の第1波が終わると、ウィッチタイムを解除させる。

 

 無傷の私の姿を確認したハリー達は、唖然としてた。

 

「良い線いったじゃない」

 

 私が軽く杖を振るうと、前方に陣取っていた5人ほどが吹き飛ばされる。

 

「クッ! 攻撃の手を緩めるな!」

 

 ハリーの指示に従う様に、残りのメンバーが様々な魔法を放ち続ける。

 

 

 迫り来る閃光を避けると同時に、地面に向け杖を振る。

 

 すると、足元に爆発が起き、床が弾け飛び、大きめの破片が空中に飛び上がった。

 

「はぁ!」

 

 空中に浮いている破片を蹴り飛ばすと、飛び交う閃光を一身に受けながら、ハリー達に突っ込んでいく。

 

「くそっ! 避けるんだ!」

 

 ハリーの声が響き渡るが、時すでに遅く、破片は床に着弾し、土煙を上げている。

 

「くそっ! どこだ!」

 

 土煙で私を見失って居るのか、ハリーは大声を上げながら、周囲を見回している。

 

「はぁい、ここに居るわよ」

 

 ハリーの後方へ移動すると、そのまま後頭部に銃を突き付ける。

 

「私の勝ちね」

 

「あぁ」

 

 私の勝利宣言に、ハリーはただ頷くだけしか出来なかった。

 

 

  数日後、アンブリッジがまた事件を起こしたようだ。

 

 談話室でくつろいで居ると、玄関ホールの方から喧しい声が聞こえてきた。

 

 この声はトレローニーだろうか。

 

 玄関ホールに向かうと、そこには既に大勢の生徒が集まっており、その中心でトレローニーが叫び声を上げていた。

 

「嫌よ! いや! こんなことが許されるはずありません!」

 

 トレローニーの声が響く。

 その視線の先にはアンブリッジが立っていた。

 

「貴女、こういう事態になると予見できなかったの? 明日の天気でさえ予見できない無能な貴女でも、解雇になるぐらいは予見できたでしょう?」

 

 アンブリッジが言い放つと、トレローニーはその場でむせび泣いている。

 

「そんな…わたくしは16年も…16年間このホグワーツで過ごしてきました! ここを出ていくなんて考えられません!」

 

「考えられなくても、これが現実です」

 

 アンブリッジはそう言い放つと、隣に居たフィルチに指示を出した。

 頷いたフィルチは、大きめのトランクをトレローニーの前に置いた。

 

 

 しかし、そこにダンブルドアとマクゴナガルが現れ、事態が一変した。

 

 

「さぁ…落ち着いて…貴女が考えているような事にはなりませんよ」

 

 マクゴナガルは落ち着かせるような口調でトレローニーに話しかけている。

 

 それを見たアンブリッジは不愉快そうに眉をひそめた。

 

「あら? マクゴナガル先生。貴女にそんな事を言う権限はありませんよ」

 

「ワシにはある」

 

 ダンブルドアはゆっくりとアンブリッジに近寄る。

 

「貴方のですか? どうやらご自分の立場を理解していないようですね。私の手元には魔法省大臣が署名なさった解雇辞令がありましてよ。ホグワーツ高等尋問官は教育に不適切だと思われる教師を停職に処し、解雇する権利を有するのです。トレローニー先生は基準を満たさないと私が判断し、そして解雇しました」

 

 アンブリッジは、自慢げに取り出した羊皮紙をダンブルドアに見せつけている。

 

「確かに貴方は教師を解雇する権限はお持ちじゃ。じゃがこの城から追い出す権限はお主ではなく、校長である、このワシにあるはずじゃ」

 

 ダンブルドアはキメ顔でアンブリッジに言い放つ。

 アンブリッジは引き攣ったような笑みを浮かべ、ダンブルドアに微笑み返している。

 

「確かに私にその権限はありませんね」

 

 アンブリッジは微笑みながらダンブルドアにそう呟いた。

 

「えぇ、今はまだね」

 

 

 捨て台詞を吐いたアンブリッジはそのまま城の中へと消えていった。

 

 

 

 

  数日後、アンブリッジはまた良からぬことを思いついたようだ。

 

 スリザリンから数名の生徒を集め、『高等尋問官親衛隊』を作ったという。

 

 大広間ではドラコが胸に銀色のバッジを付けて胸を張りながら歩いている。

 

「おや、セレッサじゃないか」

 

「どうも、アンタ達ってホントにバッジが好きね」

 

「あぁ、これかい? アンブリッジ先生が『高等尋問官親衛隊』の全員にくれたんだ」

 

 ドラコが自慢げに言いながら、バッジを見せつけて来る。

 

「そう、あの女がね…あまりいい趣味とは言えないわね」

 

「まぁ…あの先生は正直良いとは言えないがね…これでも監督生だからね」

 

 ドラコが笑いながらバッジを整えている。

 

「ところでセレッサ…」

 

 ドラコが真剣な顔でこちらを見て来る。

 

「アンブリッジ先生が言ってたのだが、君達が何か良からぬ会合を開いているとか?」

 

「だとしたらどうするの? あの女に密告するのかしら?」

 

 私が少し皮肉を込めで言うと、ドラコは少し慌てながら、それを否定した。

 

「君相手にそんな事はしないさ。だが…アンブリッジ先生は何か情報を得たらしい。どうやら密告者がいるみたいだ」

 

「密告者?」

 

「あぁ。誰とまでは分からないがね」

 

 ドラコは少しふざけた様に、首を左右に振りながら両手を上げている。

 

「用心した方が良いかもしれないぞ」

 

「もしそうなら、気を付けるわ」

 

「まぁポッター達の事だ…情報提供者が僕だと知ったら疑うだろうね」

 

 ドラコは自称気味に笑いながら横目でこちらを見て来る。

 

「今の、カマでもかけたつもりかしら?」

 

「やっぱり君は引っかからないか。まぁ忠告は本当さ。ポッターが絡んでいようが無かろうがね」

 

 ドラコは少し笑うと、再び胸を張りながら大広間から出ていった。

 

 

 

 

 「え?密告者?」

 

 ドラコの話を聞いた事をハリー達に話すと、予想通りの反応が返って来た。

 

「密告者って…一体誰なんだ?」

 

「でも、その情報ってマルフォイの奴から聞いたんだろ? 信じられないな」

 

 ロンとハリーは疑いの表情を向けながら笑いあって居る。

 

「大丈夫よ。そんな事もあろうかと、対策はしてあるわ」

 

 話を聞いていたハーマイオニーは無い胸を張りながら、名簿を取り出した。

 

「この名簿には少し工夫がしてあるの。もし誰かが裏切ったりした時はすぐに分かるわ」

 

「流石はハーマイオニーだ!!」

 

 ロンはテンションが上がったようにハーマイオニーを褒めている。

 

「ちなみにどんなことが起こるんだい?」

 

 ハリーが聞くと、ハーマイオニーがさらに自慢げに答えた。

 

「ちょっとした呪いね。見た目ですぐに分かるからすっごく便利なのよ!」

 

 ハーマイオニーがそう答えると、ハリー達の表情が曇って行く。

 

「それって…」

 

「結構ヤバいんじゃ…」

 

 2人は事の重大さに気付いた様だが、時すでに遅いだろう。

 

「そう言えば、ベヨネッタ、貴女の名前だけ書かれてないみたいなんだけど、後で書いてくれない?」

 

「お断りよ、私のサインが欲しいなら、事務所を通して頂戴」

 

「事務所って…なんでよ?」

 

「今の話聞いて誰が書くのかしら?」

 

 

 私の皮肉に対して、ハリー達は何回も頷いていた。

 

 




そろそろ、暴れてもいいんじゃないかな?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

進路相談

今回は、少し派手になったんじゃないかなと思います。


  数日が過ぎた後、私はダンブルドアに校長室へと呼ばれた。

 

 校長室に入ると、そこには、嬉しそうな表情のアンブリッジと、無表情のダンブルドア、焦燥しきったハリー達の姿があった。

 

「おぉ、来たかセレッサ」

 

「で? 何の用? 私だって暇じゃないのよ」

 

 私が少し皮肉を言うと、ダンブルドアは笑ってそれを流した。

 

「何人もの生徒が集まって戦闘訓練をしていると聞いた。首謀者は彼等だろう」

 

 大臣がキツイ口調でそう言うと、ハリー達を指差した。

 

「誰がそんな事を言ったんですか?」

 

 ハーマイオニーが声を上げる。

 

「マリエッタ・エッジコムよ。ここに呼びますね」

 

 アンブリッジはニヤニヤと笑いながら、密告者の名前を口にした。

 

 少しすると、会合で目にした事のある女子生徒が涙を流しながら、校長室に姿を現した。

 

 少女の額は膿が出来ており、その出来物は大きく『密告者』という文字になっていた。

 これでは言い逃れが出来ないだろう。

 何の症状も無ければ、ただの出まかせと思われるだろうが、これでは、むしろ本当ですと言って居る様なものだ。

 

「悪趣味ね…」

 

 私がそう言うと、ハーマイオニーは息を呑んでいる。

 

 なるほど、これがハーマイオニーが言って居た呪いか。

 

「この少女がすべて話してくれました。彼等がDAと呼ばれる会合を開いた事や、構成メンバーをね。そのせいかは知りませんが、このような惨たらしい呪いを受けてしまったようです」

 

 アンブリッジは自慢げにそう言うと、一枚の羊皮紙をダンブルドアに突き付けた。

 

「ミス・セレッサの名前は無いようでしたが。参加していると言っておりましたわ」

 

 アンブリッジは私を睨み付けながらそう言っている。

 

 私は溜息を吐きながら首を左右に振る。

 

「なるほどのぉ…じゃがコーネリアス。このDAとは一体何の略はご存知かの?」

 

 ダンブルドアは落ち着いた口調でゆっくりと喋りながら席を立ち上がった。

 

「何の話だ…DAがなんだと言うんだ」

 

 ダンブルドアは微笑みながら、その場に居る全員に告げた。

 

「ダンブルドア軍の略じゃ。ダンブルドア・アーミーじゃよ」

 

 ダンブルドアがそう告げると、私以外の全員が息を飲んだ。

 

「あら、イカすじゃない」

 

「じゃろ」

 

 私の冗談にダンブルドアがにやりと笑った。

 

「じょ…冗談を…貴方が? これを組織した?」

 

「そうじゃ、総てワシがやった事じゃ」

 

 ダンブルドアはゆっくりと頷いた。

 

「ワシが生徒を集めて、私設軍隊を作ろうとしたのじゃ」

 

「嘘だ!」

 

 ダンブルドアの言葉を遮る様に、ハリーが大声を上げた。

 

「僕等です大臣! 僕らが勝手に!」

 

「コーネリアス。生徒の言葉と、ワシの言葉。どちらを信じるのじゃ…」

 

「そ…それはつまり…貴方は私を陥れようとしているのだな!」

 

 かなり思い込みが激しい様だ。だが、ダンブルドアはその言葉を聞くと、ニヤリと笑った。

 

「その通りじゃよ」

 

 大臣はアンブリッジの方を一瞥すると、恐怖の混じった歓声を上げた。

 

「聞いたな! 諸君! ダンブルドアの告白を! よし! この発言を至急、日刊予言者新聞に送れ! さぁて…ダンブルドア。お前はこれから魔法省へ送られるだろう。そこで貴様は有罪だろうな。そしたら正式にアズカバン行きだ!」

 

 そんな歓喜交じりの声を遮るかの様に、ダンブルドアは口を開いた。

 

「残念じゃが…ワシはまだやる事があるのじゃ。お主達の遊びに付き合っておる暇はないのじゃ。これで失礼するぞ」

 

 ダンブルドアはゆっくりと校長室の扉へと向かうが、それを遮るかの様に魔法省の人間が立ちはだかった。

 

「愚かな事はやめた方が良いぞ。お主のホグワーツでの成績は知っておるが…お主ではワシには勝てぬぞ?」

 

 そう言われた役人は苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべているが、杖を引き抜いた大臣が声を荒げた。

 

「だがここには4人居るのだぞ! お前はたった1人で4人を相手取るつもりか!」

 

 校長室の端では、ハリーが杖を抜こうとしているが、ハーマイオニー達に止められているのが見て取れた。

 確かにこの状況で、杖を出すのは得策とは言えないだろう。

 

「そのまさかじゃと言ったらどうする?」

 

「なにぃ?」

 

 次の瞬間、ダンブルドアは素早く杖を引き抜くと、4人全員に失神魔法を放ったようだ。

 

 まぁまぁ早い速度だ。

 

「良い腕しているわね」

 

「ふぅ…あまり年寄りに無理をさせんで欲しいのぉ」

 

 ダンブルドアはワザとらしく溜息を吐くと、杖を仕舞い込んだ。

 

 次の瞬間。柱の陰に隠れていたもう1人の魔法省の役人が姿を現した。

 

 私はダンブルドアよりも素早く杖を引き抜くと、その役人に魔法を放った。

 

 魔法が直撃したのか、役人は吹き飛ばされ壁に激突している。

 

「詰めが甘いわね」

 

 私がそう言うと。杖に手を掛けていたダンブルドアは、苦笑いを浮かべていた。

 

「4人と言っておったからの…しかし、お主には敵わんのぉ…ところでセレッサ。いくつか頼みがあるのじゃ」

 

「あら? なにかしら」

 

 杖をポーチへと仕舞い込むと、私は校長の机に腰かけた。

 

「ワシはこれからしばらくこの学校を留守にしようと思う。その事をミネルバ…マクゴナガル先生に伝えて欲しいのじゃ」

 

「わかったわよ。ところでどこへ行こうっていうのかしら?」

 

「なぁに…ちょっとした一人旅じゃよ」

 

「そう…素敵な旅になると良いわね。ガイドブックは持ったのかしら?」

 

「ガイドブックがあれば、どれほど楽な事か…さて…それではそろそろ行くかの。フォークス」

 

 ダンブルドアは笑みを浮かべた後、ペットの不死鳥を呼び寄せると、その尾羽を掴んだ。

 

 その瞬間。炎が燃え上がり、ダンブルドアの姿が消えた。

 

「全く…ド派手な演出ね」

 

 両手を腰にやり、ダンブルドアを見送った後、私は周囲を見回した。

 

 部屋の隅では、状況が呑み込めていないのか。何度も瞬きをしているハリー達の姿があった。

 

「何事ですか!」

 

 次の瞬間、マクゴナガルが校長室に飛び込んで来た。

 

「この状況は一体…」

 

「色々あったのよ。それとダンブルドアからの伝言よ。しばらく留守にするみたいよ」

 

「え? それはどういう事です!」

 

「旅に出るみたいよ。詳しい事は、ハリー達から聞いて」

 

 私は、面倒な説明をハリー達に押し付け、その場を後にした。

 

 

 

  私が自室へ戻ろうとすると、廊下の端で壁を背にしているドラコが目に映った。

 

「やぁ、どうやら僕の忠告はあまり意味はなかったみたいだね」

 

 ドラコはどこか悲しそうだが、皮肉を孕んだ表情をしている。

 

「その様ね。まぁ私の知った事じゃないわ」

 

「君らしいね。で? どうなったんだい?」

 

「ダンブルドアが消えたわ。今頃マクゴナガルが後処理に追われてるでしょうね」

 

「そうか、そりゃ大変だ」

 

 乾いた笑いを上げながら、ドラコは呆れたような表情をしている。

 

 

  ダンブルドアが居なくなって数日が経つ頃には、アンブリッジが校長に就任した事で幅を利かせ始めている。

 

 だが、教師陣の大半はダンブルドアを信奉している様で、未だにアンブリッジを校長と認めていないようだ。

 むしろ、敵対していると言っても過言では無いだろう。

 

 

 

 アンブリッジが校長に就任してから、数日後、談話室の掲示板に進路指導に関する張り紙が掲示されていた。

 

 なるほど、就職先の事を考えたりしなければならないようだ。

 

 まぁ、進路については、私にとって全く関係ない事だ。

 

 

「ダンブルドアが居ない今こそ、大騒ぎするべきだろう」

 

「あぁ、そうだな」

 

 大広間の端では、ウィーズリー家の双子が何やら話し合っている。

 

「あら? 何か楽しそうな話してるわね」

 

「おぉ、ベヨネッタか。俺達は今日の放課後にこの学校を自主退学しようかと思っているんだ」

 

「新たな旅立ちさ。自分たちで店をやるつもりだ」

 

「あら? そうなの?」

 

「あぁ、あんなのが校長じゃ…学校に居る意味も無いしな」

 

 双子は、揃って頷いている。

 

「だから俺達は、最後に、ド派手な事をして、この学校を去るつもりさ」

 

「この事は他言無用だぞ」

 

「こんな楽しそうな事、バラす訳ないじゃない」

 

 私の言葉を聞き安心したのか、二人は安堵の表情を浮かべている。

 

「そこでだ…君に少し頼みたいことがあるんだ」

 

「なにかしら?」

 

 私が疑問を投げかけると、ポケットから一つの花火を取り出した。

 

「俺達は、空を飛びながらコイツを投げまくる。そこでだ、君にはコイツをその…良く使っている道具、名前なんて言ったけ?」

 

「この子の事かしら?」

 

 私は銃を取りだすと指先で回しながら、彼等に見せつける。

 

「そうだ、そいつだ。それで、この花火を撃ち抜いてほしいんだ」

 

「きっとド派手になるぜ!」

 

 二人は楽しそうに、顔を見つめあうと、大笑いしている。

 

「そうね、楽しそうじゃない」

 

「そう来なくっちゃ! じゃあ後でな!」

 

「えぇ、それじゃあ」

 

 私は二人に手を振ると、その場を後にした。

 

 

 数時間後、私達は進路指導という事で、マクゴナガルの部屋の前に集められている。

 

 様々な生徒が、部屋に入っては、少し対談し、退室すると言うのを繰り返している。

 

 私の番が来たようなので、扉を開けて中に入ると、そこにはマクゴナガルが羊皮紙を片手に座っていた。

 

「あぁ、ミス・セレッサですね。お掛けなさい」

 

「えぇ」

 

 私は椅子を引き、ゆっくりと座る。

 

 マクゴナガルはいくつかの資料に目を通したのち、ゆっくりと口を開いた。

 

「さてセレッサ。この面接では貴女の進路について話し合います。これからの学校生活で、どうするかについてもです…ではまず進路から」

 

 マクゴナガルはそう言うと、羽ペンを手に取った。

 

「そうね…修道女(シスター)にでもなろうかしら?」

 

「真剣に答えなさい」

 

「これでも本気よ、後はポールダンサーとか」

 

 エンツォから仕事を受けているので、実際進路について考える必要はないのだが。まぁ仕方ないだろう。

 

「まぁ…そう言う事でいいでしょう。貴女には、別件で働いてもらう可能性もありますからね」

 

 恐らく、不死鳥の騎士団の事を言って居るのだろう。

 

 マクゴナガルは深い溜息を吐いている。

 

「アンタも大変ね。ダンブルドアが居なくなって」

 

「仕方ありません。これも仕事です」

 

 マクゴナガルは疲れた笑みを浮かべると、羊皮紙に何かを書き込んでいる。

 

「さて…貴女の進路は修道女(シスター)という事にしておきましょう。流石にポールダンサーは認められません。戻っていいですよ」

 

「そう、これでも本気なのよ」

 

 私はそう言うが、マクゴナガルは冗談そうに笑うだけだった。

 

 

 

  放課後になると、私の背後から双子が話しかけてきた。

 

 

「こっちは準備万端だ。最後に確認だけど、君はコイツを撃ち抜いてくれればいい」

 

 再び、ポケットから花火を取り出すと、私に確認させた。

 

「分かっているわよ、やるならド派手に行きましょう」

 

「良し! なら君は先に大広間で待機していてくれ。俺達は後で大広間に突っ込む」

 

「そしたら、パーティータイムだ!」

 

 私はハイテンションな双子に背を向けると、大広間へと移動した。

 

 

 大広間の扉を開けて、中へと入ると、アンブリッジが校長席に座り、間抜けな表情で何かを話している。

 

「ミス・セレッサではないですか、久しぶりですね、早く席に着きなさい、減点にしますよ」

 

 ここ最近、この女は私を見る度に減点をしようと口にしている。

 まぁ、アンブリッジの授業は最初以外ずっと出ていないのだから仕方も無いだろうが。

 

 私は、両手を腰にやると、ゆっくりと首を左右に振る。

 

「何ですかその態度は? いいでしょう、減点で――」

 

 次の瞬間、轟音と共に歓声が上がる。

 

「何事ですか!」

 

 アンブリッジは大声を上げ、周囲を見回している。

 

 すると、双子が箒に乗りながら、それぞれ大胆な飛行で大広間の中へとやって来た。

 

「ヒャッハー!!」

 

「行くぜ! ベヨネッタ!」

 

 二人は同時に上空に花火の束を投げ放った。

 

「OKよ!」

 

 

 私は、腕を胸の前で交差させると、花火の束目掛け左右に銃から銃弾を放つ。

 

 放たれた銃弾は寸分の違いなく、花火の束に直撃すると、轟音と共に空中に大輪の花を咲かせた。

 

「おぉ…」

 

「すげぇ!」

 

 アンブリッジの圧制により鬱憤が溜まっていたのか、花火を見た生徒達は大声を上げはしゃいでいる。

 

「まだまだ行くぜ!」

 

 再び大量の花火が周囲にばらまかれる。

 

「行くわよ」

 

 上空に散らばった花火に狙いを定め、周囲の生徒達に被害が出ない様に、その場でブレイクダンスを踊りながら、両手両足の銃から弾丸をばら撒く。

 

 ばら撒かれた銃弾は総ての花火に直撃すると、ネズミ花火や、ロケット花火、爆竹等、様々な花を咲かせた。

 

 

「ヒュー! やるじゃないか!」

 

「じゃあ、コイツはどうだ!」

 

 双子は、同時にアンブリッジ目掛け花火の束を投げつける。

 

「やめなさい彼方たち!」

 

 アンブリッジは叫ぶと同時に、杖を取り出そうとするが、花火の束はもはや眼前にまで迫っている。

 

「プレゼントよ」

 

 花火の束、すなわちアンブリッジの顔面に目掛け銃弾を放つ。

 

 放たれた銃弾は吸い込まれる様に花火の束に直撃すると、アンブリッジの眼前で大爆発を起こした。

 

「うぎゃああ!」

 

 気色の悪い悲鳴を上げると、アンブリッジは爆発の勢いで大広間の外へと吹き飛ばされた。

 

「何ですかこれは!」

 

 声を上げる辺り、どうやらまだ生きている様だ、アンブリッジがしぶといのか、この花火が安全なのか…

 

「よし! 仕上げだ!」

 

「ド派手に行くぜ!」

 

 フィナーレという事か、双子は、巨大な花火をアンブリッジに投げつけた。

 

 その瞬間、花火で出来た巨大なドラゴンが現れ、アンブリッジに襲い掛かった。

 

「いやぁああぁああぁ! 親衛隊! 何とかしなさい!」

 

「呼んでいるわよ」

 

「爆音でよく聞こえないんだ。仕方ないさ」

 

 アンブリッジは親衛隊に助けを求めているが、ドラコは見て見ぬフリを決め込んでいる様だ。

 

「いやぁあぁ!」

 

 ついに、ドラゴンの牙がアンブリッジに襲い掛かる。

 

 そこには、ピンク一色の服の所々に焦げを作ったアンブリッジが気を失っている。

 

「やったぜ」

 

「良し! 行こうぜ!」

 

 双子は、私の真横を通り過ぎる。

 

「「じゃあ! 後は任せたぜ!」」

 

 2人はそう言い残すと、正面の扉を開け、ホグワーツの空へと消えていった。

 

 2人を見送る様に、大勢の生徒が扉から飛び出していった。

 

「随分とド派手だったね、流石はウィーズリー家と言ったところか」

 

 私の隣にやって来たドラコは二人が飛び去った空を見ながら呟いた。

 

「意外ね、アンタがあの2人を褒めるなんて」

 

「フッ、褒めた訳じゃないさ、どちらかと言えば皮肉さ」

 

 照れ隠しなのか知らないが、ドラコは多少笑うと、踵を返した。

 

「さて…そろそろ、アンブリッジ先生が目を覚ますはずだ。起こす振りでもしてくるよ」

 

「アンタも大変ね」

 

 私がそう言うと、ドラコは乾いた笑いをこぼしながら、大広間へと戻って行った。

 

 

 




双子に暴れさせても良かったのですが、どうせならベヨネッタにブレイクダンスを踊って欲しいと思いました。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

高等尋問官

やっぱり、アンブリッジはどんな世界線でもいい結果では終わらないですね。


   双子の起こした事件は、数日が経った今でも、生徒達の間で繰り返し語られている。

 

 そして、双子は様々な置き土産も残して居た様で、6階の何処かに巨大な沼地を作ったらしい。

 

 その沼地をアンブリッジは必死に消そうとしている様だが、未だに成功しないようだ。

 

 この件に関しては、他の職員は一切手を貸そうとはしていない様だ。

 

 それ程、あの女は嫌われているという事だ。

 

 

 しかし、アンブリッジの悲劇はそれだけでは終わらない。

 

 2人に触発された生徒達が、双子の置き土産である、悪戯グッズを使い、競い合う様にアンブリッジに悪戯を仕掛けている様で、おかげでホグワーツは大混乱だ。

 

 そのせいか、授業中にアンブリッジが姿を現すだけで、双子の置き土産を使い、気絶したり、気分を悪くする生徒が大量にいる様だ。

 

 そして、その生徒達は決まって『アンブリッジ炎です』と答える様だ。

 

 

  数日後、ふくろう試験も終盤に差し掛かった頃、アンブリッジ率いる闇払い達から襲われたハグリッドを庇ったマクゴナガルが昏睡状態になったという話が学校中に駆け巡った。

 

 幸いな事に、命に別状はないらしいが、ダンブルドアに続いてマクゴナガルまでホグワーツから居なくなってしまった事により、アンブリッジが大手を振って闊歩するだろう。

 

 そんな事を考えていると、ハリーを始めとした面々が私の元に駆け寄って来た。

 

「あぁ、ベヨネッタ! 丁度いい所に!」

 

「大勢そろってどうしたのよ」

 

「緊急事態なんだ! シリウスがヴォルデモートに捕まったんだ! 拷問されている!」

 

「拷問?」

 

 私がハリーの言葉を繰り返すと、ロンとハーマイオニーは息を呑んだ。

 

「見たんだ! さっき神秘部のガラス玉が沢山ある部屋でシリウスは拷問されている。あいつはシリウスを使って何かを手に入れようとしているんだ」

 

「神秘部か…どうやって行こうか…」

 

 ロンは頭を抱えている。

 

「暖炉を使おう」

 

 ハリーがそう言うと、急に歩き始めた。

 

「ちょっと待てよ! 暖炉って何処の暖炉だよ! 学校の暖炉は殆どがアンブリッジが塞いじゃったんだぜ」

 

「そのアンブリッジの部屋のさ。あそこなら使えるはずだ」

 

 どうやら、ハリーはアンブリッジの部屋に向かって歩みを進めている様だ。

 

「おいおい…ハリー。気は確かか?」

 

「ロン、君の方こそ気は確かか? 急がないとシリウスが殺されるかもしれないんだ!」

 

 ハリーはロンを怒鳴りつけている。

 

「わかったわ、急ぎましょう!」

 

「そうだね。うん、そうだ!」

 

 ロンは意を決したのか、気合を入れている様だ。

 

 こうして、私達はアンブリッジの部屋へと歩みを進めていった。

 

 

 

 アンブリッジの部屋の前に着いたハリーは扉を開けようと、ドアノブを回しているが、鍵がかかっているのか、ハーマイオニーが魔法で鍵を開けようとしているが、強力な魔法が掛かっているのか、その扉は開かれなかった。

 

「どきなさい」

 

 私は足に力を籠めると、部屋の扉を何の迷いも無く蹴り飛ばした。

 

「空いたわよ」

 

「すごいな…君の足ってマスターキー?」

 

「ロン! 今はそんな事言って居る場合じゃない!」

 

 ハリーに急かされる様に私達はアンブリッジの部屋に入って行った。

 

 

  部屋の中は悪趣味なピンク一色で統一されており、壁には猫の写真が入った皿が何十枚と貼られている。

 

「駄目だ! この暖炉も封鎖されている!」

 

 ハリーが大声を上げながら、机の上の書類を薙ぎ倒している。

 

「悪趣味な部屋ね」

 

 私がそう呟くと、血相を変えたアンブリッジが醜い体を揺らしながら、走り込んで来た。

 

「ミス・セレッサ!! これはどういう事です!」

 

 アンブリッジは杖を構えながら、大声を上げた。

 

「うるさいわね。聞こえているわよ」

 

「尋問します! 高等尋問官親衛隊! 彼等を拘束しなさい!」

 

 アンブリッジがそう指示すると、どこからか現れた親衛隊によってハリー達が拘束されていく。

 

「ドラコ・マルフォイ。貴方はミス・セレッサを拘束しなさい」

 

「え…」

 

 ドラコは数回瞬きをしながら、固まっている。

 

「構わないわ、ほら」

 

 私が腕を差し出すと、ドラコは少し躊躇いがちにゆっくりと縄をかけようとする。

 

「後ろ手で拘束しなさい」

 

 

 アンブリッジはニヤニヤと笑いながらそう言うと、ドラコは私の腕を軽く握ると、後ろ手に回した。

 

「すまない…」

 

 私の耳元で蚊の鳴く様な声で、ドラコが謝罪の言葉を呟いている。

 

「アンタが謝る事じゃないわ」

 

「あぁ…」

 

 ドラコは縛り終えた様で、ゆっくりと離れていった。

 

 私は、腕を軽く動かすと、かなり緩く縛られているのか、簡単に抜け出せるような感じだ。

 

「さて…それでは尋問を開始しますよ、ゴイル、スネイプ先生を呼んできなさい」

 

 アンブリッジの命令に従い、ゴイルはその場から走って何処かへと走り出した。

 

 数分後、コツコツと靴の音を響かせながら、スネイプが姿を現した。

 

「あー校長、お呼びですかな…」

 

「真実薬を持ってきてください」

 

「あれはポッターを尋問するのに持っていかれたのでは?」

 

 スネイプはアンブリッジの顔を無表情に見つめている。

 

「まさか、あれを全て使ったという事は無いでしょうな? 3滴ほど有れば十分だと申し上げたはずですが」

 

 アンブリッジの表情がみるみるうちに曇って行く。

 この様子では、人の話を聞かなかったのだろう。

 

「他に手持ちは無いのですか? 1人分だけあればいいですわ! ミス・セレッサに使います!」

 

「そう言う事でしたら…」

 

 スネイプはポケットから小瓶を取り出した。

 その小瓶の中には、少量の液体が入っている。

 

 アンブリッジはその小瓶を奪い取ると、ドラコに手渡した。

 

「飲ませなさい」

 

「え…ですが…」

 

「良いから早くしなさい」

 

 ドラコは私とアンブリッジを交互に見据えている。

 

 私は小さく口を開くと、ドラコは意を決したように、ゆっくりと小瓶を傾け、中の液体を私の口に流し込んだ。

 

 

 流し込まれた、液体を飲み込むと、ほろ酔い時のような感覚に陥る。

 

 なるほど、確かに、普通の人ならば、もっと凄い、恐らく泥酔以上の陶酔感(とうすい)に陥り、口を割ってしまうのだろう。

 

 

「さて…では話してもらいますよ。彼方達が何の目的で私の部屋を訪れたか」

 

 アンブリッジは自信に満ちた表情で私を見据えている。

 

「この部屋、本当に悪趣味ね、それに、アンタのファッションセンスもイカれているわよ」

 

「んなっ…」

 

 予想外の回答にアンブリッジは面食らっている様だ。

 

「どういう事です! 本当に真実薬なんですか?」

 

「本物です、疑っている様でしたら、ご自分も飲まれては?」

 

 アンブリッジは顔を真っ赤にさせながら、地団駄を踏んでいる。

 

「結構です! 貴方は仕事に戻りなさい!」

 

「ではこれで…」

 

 スネイプは私を一瞥すると、アンブリッジの部屋から出ようとした。

 

「あの人がパッドフットを捕まえた! あれが隠されている場所で、あの人がパッドフットを捕まえた!」

 

 その瞬間、ハリーはスネイプに向かって叫び声を上げた。

 

「何のことです! スネイプ! 何か知っているのですか?」

 

 アンブリッジは混乱している様でスネイプに問いかけている。

 

「さっぱりですな。ポッター、頭がおかしくなりたいのならいつでも私の研究室に来るがいい。戯言薬を飲ませてやろう」

 

 そう言うと、スネイプは退室していった。

 恐らく、ハリーの言いたい事をスネイプは理解しているだろう。仮にも不死鳥の騎士団員なのだから。

 

 アンブリッジはそんなスネイプをイライラした表情で見送ると、ゆっくりと杖を取り出した。

 

 

「…………仕方ない…良いでしょう…他に手は無いのだから…」

 

 アンブリッジは引き攣った笑いを上げながら、私に杖を突き付けた。

 

「今からこの小娘に、磔の呪いをかけましょう。そうすればコイツのこの余裕に満ちた表情も消えるでしょう」

 

 その言葉を聞いた多くの生徒が顔を真っ青にしている。

 

「しかし! それは違法ですよ!」

 

 ドラコがアンブリッジに問いかける。

 

 しかし、アンブリッジは狂ったような表情で、ドラコを睨み返す。

 

「これは! ……魔法省が私を通して行った行為です! ですから合法なのですよ! 良いですね! クルーシオ!!」

 

 アンブリッジは最大までの憎悪を込め、私に磔の呪いを使った。

 

 次の瞬間、全身をムズムズとした不快感が走った。

 

 何処かで感じたことがある感覚だ…

 

 そうだ、これは冬場にセーターを着た時に良く起こる、静電気が帯電しているような感じだ。

 

「どうです? 話す気にはなりましたか? 我慢しているのですか? 苦しかったり、痛かったら泣きさけべばいいのですよ? これは完全に拷問ですからね! 何も恥じる事はありませんよ!」

 

 アンブリッジは満面の笑みで私に問いかけている。

 

「チッ!」

 

 次の瞬間、ドラコが舌打ちをすると同時に杖をアンブリッジに突き付けた。

 

「おや…何のつもりですか? ドラコ・マルフォイ」

 

「呪いを止めろ…今すぐにだ」

 

 怒りを込めたドラコの声を聴いたアンブリッジはゆっくりと振り返ると、感情の籠って無い声を上げた。

 

「貴方は今、自分が何をしているのか理解しているのですか? この私に杖を向ける事がどういう事か理解しているのですね?」

 

「十分に理解しているさ…」

 

 ドラコが少し声を震わせながら、口にすると、アンブリッジは無表情ながらも、鼻で笑って居る。

 

「そうですか…では…インペリオ」

 

「うっあぁ…」

 

 アンブリッジが服従の呪文を唱えると、ドラコが虚ろな表情を浮かべた。

 

「貴方は私の命令に従って居ればいいのですよ。さぁ、私の指示に従いなさい」

 

「く…そぉ…」

 

 ドラコは苦しそうになりながらも、アンブリッジに杖を向け続けている。

 

「おや? 服従の呪文に抗いますか? 大したものですね」

 

 アンブリッジが軽く杖を振ると、呪文が解けたのか、ドラコはその場で膝を付き肩で息をしている。

 

「大人しく、その場で見ていればいいのですよ。では…クルーシオ!」

 

 アンブリッジが再び私に磔の呪いをかけて来た。

 

 だが、先程とは何も変わらず、ムズムズとした不愉快さを感じるだけだった。

 

「さぁ? どうですか? 今はどんな気分です!」

 

 テンションが上がり、口調が不安定になったアンブリッジが喚き散らしている。

 

「不愉快ね…」

 

 私が、呟くように口に出すと、アンブリッジのテンションがまた一段と上がった。

 

「えぇ! そうでしょうね! そうしているのですから!」

 

「アンタのその醜い顔がね」

 

「え?」

 

 その瞬間、アンブリッジは間の抜けた声を上げた。

 

 私は緩くなっていた縄を解くと、アンブリッジに一気に詰め寄り、気を失わない程度の力で腹に膝蹴りを喰らわした。

 

「ぐぉおぉ!」

 

 腹に蹴りを入れられたアンブリッジはその場に座り込むと、口から吐瀉物を撒き散らしながら、酷い声を上げている。

 

「なんど…づもりです?」

 

 涙目になったアンブリッジが腹を押さえながら、私を睨みつけている。

 

 

「拷問するような悪い子には、キツイお仕置きが必要みたいね」

 

 私は、ポーチから鞭を取り出すと、しならせながら、床を叩きつける。

 

「ヒッ!」

 

 鞭の音が部屋の中に響きわたる。

 その音に怯えているのか、アンブリッジが悲鳴を上げている。

 

「さぁ、お仕置きの時間よ」

 

 鞭を振り上げ、一気に振り下ろす。

 

「いやぁああぁああぁ!」

 

 私が振り下ろした鞭は、アンブリッジの背中に当たり、絶叫を上げている。

 

「たずげで!」

 

 ノイズが掛かった声を上げながら、アンブリッジは立ち上がると、その場から走り出した。

 

「私から逃げようって言うの? 良い度胸ね」

 

 私は、アンブリッジを追う様に退室した。

 

 退室後、周囲を見回すと、廊下を走り去って行くアンブリッジの後ろ姿を捉えた。

 

 私はその後を歩きながら追いかける。

 

 アンブリッジは必死に走っている様だが、その速度は遅く、歩いてでも追い付く程だ。

 

「なんで! 追ってくるのよ!」

 

 アンブリッジが魔法を乱射するが、体の軸を動かすだけの最小限の動きで回避しながら、ゆっくりと歩み寄る。

 

「あぁぁあ! 誰か! 助けなさい!」

 

 アンブリッジは醜い声を上げながら、廊下を走り、階段を転がり落ち、正面玄関までやって来た。

 

「ぎゃ!」

 

 正面玄関を出た辺りで、アンブリッジは盛大にコケ、地面に突っ伏している。

 

「さて、鬼ごっこもこれで終わりよ」

 

「おっ、お願い! やめて! 何でも言う事聞きますから!」

 

「そうはいかないわね」

 

 私は地面に倒れ込んだアンブリッジを見据えながら指を弾く。

 

 すると、召喚用のゲートが地面に現れ、そこから漆黒の巨大なカエル。バアルが姿を現した。

 

 バアル

 奈落の女王とも言われる、魔界の王族の一人。普段は決して姿を見せないが、召喚されると巨大なヒキガエルの姿で現れる。

 ぶよぶよとした巨体で、自分で動く事もままならない程重い為、激しい戦いには向かないが、無限に伸びる舌を持っており、離れた所に居る獲物をその場で素早く捕まえ丸呑みにするという。

 

「ひぃい! 何なのよ!」

 

 アンブリッジは悲鳴を上げながら、何とか立ち上がると、バアルに背を向け走り出した。

 

 しかし、バアルは口を開き、その舌を伸ばすと、アンブリッジを絡め捕った。

 

「いやぁ! 離しなさい! この私を誰だと!」

 

 アンブリッジが喚いているのを尻目に、バアルは一気に舌を口の中へと戻すと、数回ほど口を動かしている。

 

「ペッ!」

 

 次の瞬間、バアルは口に含んだアンブリッジを吐き出した。

 

 吐き出され、唾液まみれとなったアンブリッジは綺麗な放物線を描きながら、魔法の森の方へと飛んで行った。

 

「アンタが吐き出すなんて、相当不味かったのね、あの女は」

 

 バアルはとても不愉快そうな表情をしたまま、姿を消していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この先、没案、閲覧注意です。

 

 書いていて、吐き気に襲われたので、没にした内容ですが、消すのも勿体ないと思いました。

 

『アンブリッジ炎』が発症する恐れがありますが、責任は取りません。

 

 

 

他人(ひと)に拷問するって事は、自分も拷問される覚悟があるって事よね」

 

 私は、微笑みながら指を鳴らすと、目の前に、三角木馬が床からセリ上がる。

 

 私は、木馬の頭部に座り込むと、トゲ付きの鞭を数度振るう。

 

「いやぁぁっぁあああああ!!」

 

 悲鳴を上げたアンブリッジはその場から逃げようとするが、私は、鞭を振り、アンブリッジの体に巻き付ける。

 

「離しなさい!」

 

 アンブリッジは喚き散らしているが、無理やりこちらに手繰り寄せ、三角木馬に座らせる。

 

「あぁぁぁぁぁあんあっぁあ!!」

 

 三角木馬に腰をかけた瞬間、アンブリッジのなんとも言えぬ声が周囲に響き渡る。

 

 その表情は苦痛に歪み、頬を汚らしい汗が伝っている。

 

「さぁて…お仕置きの時間よ」

 

 三角木馬の頭部に座り込んだ私は、バラ鞭を取り出すと、アンブリッジの醜い背中に何度も鞭を振るう。

 

 

「あぁ! いやぁ! やめ! あっ!」

 

 鞭がアンブリッジの肌に当たり、小さな破裂音が響く度、贅肉まみれの躰が蠢き、汚らしい汗を周囲に撒き散らす。それに呼応するように、アンブリッジが悲鳴を上げる。

 

「まだまだよ」

 

 とげの付いた鞭を手に取ると、さらに強く引き絞る。

 

「あぁ…あっ…あぁぁぁあ!」

 

 鞭がギチギチとアンブリッジの醜い体に食い込み、凹凸の無い寸胴を絞り、その形状がはっきりと分かるようになる。

 

「い…いやぁ…や…やめ…てっ!」

 

 アンブリッジは頬を紅く染めながら、汗まみれのみすぼらし顔で、必死に口を動かし酸素を欲している。

 

「さぁ…豚の様な悲鳴を上げなさい!」

 

 私は、三角木馬の上で立ち上がると、右足でアンブリッジを踏みつけ、贅肉のブヨブヨとした感触がヒール越しに伝わり、嫌悪感を覚える。

 

「気色悪いのよ!」

 

 

 一度、バラ鞭で背中を叩きつけ、さらに強く鞭を絞る。

 

「んっ! いやぁ! あぁ! こんな! こんなぁあ!」

 

 最初は苦しそうな表情を浮かべていたアンブリッジだが徐々に脳内麻薬の分泌により、苦痛が快楽に変わって来たのか、豚の様な悲鳴に、媚びた様な嬌声が混じり始めた。

 

「な…んぁ! いやぁ…で…あぁ! んっぐぅ!」

 

「ヴぇええええええ!」

 

 アンブリッジが耳障りな嬌声を上げた瞬間、背後の方で、ロンが盛大に吐き出した。

 

「ヴォえ! 僕…まだ、ゲーゲートローチ舐めてないんだけど…」

 

「私も吐きそうよ」

 

「マルフォイ、君こういうのが好きだったんじゃないのか?」

 

「流石に…これは…無理だ…ヴォッ!」

 

 どうやら、これ以上は、精神衛生上良くないようだ。

 

 周囲の面々は、口元を押さえたり、耳を塞ぎながら、俯いている者までいる。

 

「さて、仕上げよ…」

 

 鞭を絞る力をさらに籠める。それに伴い、アンブリッジの躰が更に締めあがり、女性らしい凹凸がはっきりとしてきた。

 

「あぁぁあん! なん…でぇ! 強い! こんなの! しら…んぁ!」

 

 すると、アンブリッジの体がギチギチと音を立てる

 

「さぁ、無様に絶頂(イキ)なさい!」

 

「あぁぁぁん! もうっ! あっ…んっあぁ…くぅ! だめぇええ!」

 

 嬌声交じりの絶叫を上げたアンブリッジは絶頂を迎えた様で、その場にぐったりと倒れ込み、意識を手放したようだ。

 

 

 




マクゴナガルが入院中に何をやっているんだか…

磔の呪文に関しては、私が最近感じた不愉快な感覚をイメージしました。

本当だったら転げまわる程らしいですね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

神秘部

とうとう、ハリー達は神秘部へ突入します。

どうなる事でしょう…


 

 

  アンブリッジの処理も済み、廊下を歩いていると、向こうの方から、ハリー達が手を振りながらこちらに走り寄って来た。

 

「ベヨネッタ! アンブリッジが吹き飛んで行ったように見えたけど…」

 

「えぇ、その通りよ。見てたのね」

 

「窓からね」

 

「覗きが趣味なのね」

 

「そ…そんな風に言うなよ!」

 

「冗談よ。それよりアンタ達はどうやって抜けだしたのよ?」

 

「あぁ、なんかマルフォイの奴が、アンブリッジが居ないなら僕等を拘束する意味が無いとか言い出して縄を解いたんだ」

 

「なんか最近アイツ変だよな」

 

 

 ロンが冗談っぽくそう言うと、ハリーは苦笑いをしている。その背後から、普段より何倍も高いテンションのネビルが話に割り込んで来た。

 

「カエル! ベヨネッタ! さっきのカエルは? 君のペットかい?」

 

「え、えぇそうよ」

 

「そうなんだ! すごく良いカエルだね! すごい美人さんだ! トレバーに紹介したいくらいだよ!!」

 

 ハイテンションのネビルはそう言いながら、目を輝かせている。

 

「そんな事より、この後どうするのよ!」

 

 話を聞いていたハーマイオニーが声を荒げている。

 

「そうだね…暖炉が使えないとなると…」

 

「何かいい案は無い?」

 

「そうね…」

 

 私は顎に手をやり、少し考えると、暖炉に見覚えのある所を1か所思い出した。

 

「暖炉ならあるわよ」

 

「本当かい! それはどこ?」

 

 ハリーがテンションを上げながら、聞いて来たので、私はゆっくりと杖を取り出いた。

 

「行くわよ」

 

「行くって…まさか…」

 

 ハリーは何かに気が付いた様で、嫌そうな顔をしている。

 

「えぇ、そのまさかよ」

 

 疑問が確信へと変わったハリーは、さらに嫌そうな顔をして、溜息を吐いている。

 

「それってどこだよ?」

 

 しびれを切らしたロンが私達に疑問を投げかける。

 

「行ってからのお楽しみよ、さぁ、掴まりなさい」

 

 ハリーは嫌そうに、私の肩に手を置き、他の面々も、互いの肩に手を置き、円陣を組んでいるようになった。

 

「さて行くわよ。全員、目を閉じてなさい」

 

「こう?」

 

 全員が目を閉じたのを確認した後、私は杖に魔力を籠め、バーへと移動した。

 

 

 

 

 

  数瞬の後、レトロなレコード特有の、モダンなBGMが聞こえてきた。

 

 

 私が目を開けると、ハリーは暗い顔をしており、他の面々は店内を興味深そうに見回していた。

 

 私は、バーカウンターへと目をやると、そこにはロダンの姿はなく、奥の方から何やら作業をしているのか、金属音が響いている。

 

「あぁ、来たのか。少し待ってろ、後はここをこうして…よぉし!」

 

 店の奥から、ロダンが声を上げながら、バーカウンターに現れた。

 

「なんだ、今回は団体で来たんだな」

 

 ロダンは私の後ろに居るハリー達をサングラス越しに見据えている。

 

「えぇ、そうよ。この店、いつも私達以外居ないじゃない」

 

 私は、冗談を言いながら、カウンターに付くと、ロダンは多少怒ったような表情で、私の前にカクテルを差し出して来た。

 

「フッ、うちは常連には優しいからな」

 

「そぉ」

 

「あぁ、それよりお前達もそんなところに突っ立って無いで、何か注文しな」

 

 ロダンがハリー達にそう言うと、彼等は目を白黒させながら私を見ている。

 

 私は、ハリー達に軽くグラスを掲げた後、ゆっくりとグラスの中のカクテルを半分ほど飲み込む。

 

「えっ…じゃ…じゃあ、僕等はベヨネッタと同じ物を――」

 

「ミルクを! 人数分!」

 

 ロンの言葉を遮る様に、ハリーがそう叫ぶと、ロダンは全員分のミルクが入ったグラスをカウンターに置いた。

 

「お前もミルクでも飲むか?」

 

「私はこっちの方が良いわよ」

 

 私は空になったグラスを、ロダンに差し出すと、シェイカーから再びカクテルが注がれる。

 

 注がれたカクテルをゆっくりと楽しんでいると、ミルクを半分程飲んだハリーが声を上げた。

 

「ベヨネッタ! いつまでこうして居るんだよ! 僕等は早く神秘部へ行かなきゃいけないのに!」

 

「そうだったわね、ロダン、後で暖炉を使わせてもらうわよ」

 

「煙突飛行ってやつか、生憎だがうちにあるのは普通の暖炉だぞ」

 

 それを聞いたハリーは驚いたような表情を浮かべている。

 

「どうするんだよ! 早く戻って別の方法で神秘部へ行かなきゃ!」

 

 ハリーがそう叫ぶと、ロダンはサングラスを直しながら口を開いた。

 

「なんだ、お前達神秘部へ行きたいのか?」

 

「そっ…そうだけど」

 

「そうか…」

 

 ロダンはテーブルの上にあるベルを1回軽く鳴らすと、店内にある扉を指差した。

 

「あそこから行けるぜ」

 

「気が利くじゃない」

 

「うちの店はサービス精神が良いからな」

 

 鼻で笑ったロダンは、いつもの様にグラスを磨き始めた。

 

「さて、じゃあそろそろ行くわよ」

 

 グラスの残りを飲み干し、私が立ち上がると、それを見たほかの面々もミルクを一気に飲み席を立ち上がた

 

 先頭のハリーが扉に手を掛けた時、ロダンが声を上げた。

 

「ちょっと待てよ。まだ代金を貰ってないぞ」

 

「え?」

 

 出鼻を挫かれたハリーが間抜けな声を上げた。

 

「そうですね。いくらです?」

 

 ハーマイオニーが律義に聞き返すと、ロダンは少し笑ったように答えた。

 

「10ガリオンだ、一人な」

 

「え?」

 

 ロダンの提示した値段に、ハリー達は驚愕している。

 

「ちょっとまって…え? 『10ガリオン』って言った?」

 

「あぁ、これでもかなり良心的だぜ」

 

 ロダンは、さも当然だと言わんばかりな態度で葉巻をふかしている。

 

「ミルク1杯が、10ガリオンなんてぼったくりだ! それにそんな大金持ってないよ!」

 

 ロンが異論を唱えるが、ロダンはそれを鼻で笑って居る。

 

「そう言われてもな、もう飲んじまっただろ」

 

 ロダンはそう言って笑いながら、口から煙を吐いている。

 

 そんなロダンを、まじまじと眺めている少女がゆっくりと口を開いた。

 

「アンタ、悪魔でしょ。私、悪魔って初めて見た」

 

「よせよ、ルーナ。まぁ、本当に悪魔みたいなやつさ」

 

 ロンは、嫌味ったらしく言うと、ロダンは笑いながら、煙を吐き出す。

 

「そうさ、俺は悪魔だからな。そんな奴との取引だ。高く付くぜ」

 

「アンタも相変わらずあくどい商売しているわね、いつもの様にエンツォにつけておいて。全員分よ」

 

「お前も相当、あくどい女だぜ」

 

「これくらいして貰っても、良いはずよ」

 

 ロダンは笑いながら、グラスを棚に仕舞い込んだ。

 

「それに、私は血も涙もないのよ。じゃあそろそろ行くわね」

 

「大忙しだな、コイツを持っていきな」

 

 扉の前まで移動したとき、ロダンが片手に収まるサイズの物を投げて寄越した。

 

 ハリー達が興味深そうに私が片手で受け取った物を、まじまじと見据えている。

 これは…

 

「アルーナだ。調整したてだぜ。上手く使ってくれよ」

 

 アルーナ

 

 魔界に咲く花アルラウネの名を持つ魔人を封じた魔導器。生きたように動き相手を捕えるイバラの鞭。この鞭で打たれたものの耳には、封じられたアルラウネの呪いの囁きが聞こえるという。

 

「素敵じゃない。ありがたく使わせてもらうわ」

 

 私は、アルーナをポーチに仕舞い込むと、ゆっくりと扉を開け、神秘部へと向かった。

 

 

 

  扉をくくった先は、見覚えのない、厳かな雰囲気の場所だった。

 

「この扉だ! この先にシリウスが!」

 

 ハリーが目の前の扉を指差しながら、ロン達に語り掛けている。

 

「おい! さっきの扉が無いぞ!」

 

 後ろを振り返った、ロンが大騒ぎしている。

 

 確かにそこには、先程くぐった扉は無く、不気味な扉があるだけだった。

 

「不思議だね…でも今はそんな事より…」

 

 ハリーはゆっくりと、目の前の扉を開け中へと入って行った。

 

 

 

 扉の向こうには、巨大な空間に巨大な棚が陳列されており、そこには様々なガラス玉が置かれている。

 

「こっちだ」

 

 ハリーは何かに導かれるかのように奥へと進んでいき、ある棚の前で歩みを止めた。

 

「これだ…」

 

 ハリーは何の躊躇いも無く、棚に置かれているガラス玉を一つ手に取ると、奥の方から声が響いて来た。

 

「これは、これは、ハリー・ポッターではありませんか」

 

「誰だ!」

 

 ハリーが声の方を見ると同時に、私は声の主目掛け弾丸を放った。

 

「おやおや、相変わらず手厚い歓迎ですねぇ…ベヨネッタ」

 

 

 そこには、弾丸を人差し指と中指で挟み、額に当たる寸前で止めながら、悠然と歩いているロプトが姿を現した。

 

「あまり先行するな!」

 

 そんな、ロプトを制止するように、背後から2人の死喰い人が姿を現した。

 

 2人はフードを深くかぶっているが片方は…

 

「ルシウス・マルフォイ…」

 

 ハリーが恨みを込めた声でその名を呼ぶと、ルシウスは嘲笑いながらハリーに話しかけ始めた。

 

「さあハリー・ポッター……その予言を私達に渡せ。そうすれば誰も傷つかぬ」

 

 ルシウスはハリーが手に持っているガラス玉…予言を要求し始めた。

 

「これをお前達に渡せば、僕等を見逃すのか?」

 

 ハリーはルシウスを小馬鹿にするように尋ねる。

 

「良いからそれを渡せ」

 

「シリウスはどこだ?」

 

 ハリーが問いただすと、ルシウスの隣に居た死喰い人がフードの向こうでケラケラと笑い始めた。

 

「ヤンチャなポッターちゃんは、シリウスが余程、恋しい様だねぇ」

 

 鳥肌が立つような、耳に残る女の声が周囲に響き渡る。

 

「あまり子供をからかうモノではありませんよ。ベラトリックス・レストレンジ」

 

 ロプトはフードを深くかぶった女、ベラトリックスを制止するように、鼻に付く声を上げている。

 

「貴様は! ベラトリックス・レストレンジ!」

 

 突如、私達の後ろに居たネビルがベラトリックスの名前を叫びながら杖を構えた。

 

「アンタは? ネビル・ロングボトムかい? あぁーご両親元気?」

 

「貴様!」

 

 ネビルが杖を振ろうとした瞬間、周囲から大勢の死喰い人が私達を囲むように現れ杖を構えている。

 

「人数はこちらが上だぞ、さぁ、大人しく予言を渡せ」

 

「くっ…」

 

 私は、素早くポーチからアルーナを取り出すと、ハリーに小声で話しかける。

 

「早く行きなさい」

 

「え? でも…」

 

「私が合図したら、伏せなさい」

 

 私は、ゆっくりと、ルシウス達に歩み寄る。

 

「動くな!」

 

 歩み寄る私を制止するように、ルシウスが杖を構える。

 

 それに従い、周りの死喰い人もこちらに杖を構えている。

 

「甘いわね」

 

 手に構えたアルーナを頭上で一度円を描くように横に振る。

 

 すると、ウィケットウィーブを絡めたアルーナは巨大な鞭となり、周囲の死喰い人を吹き飛ばす。

 

「うぉお!」

 

「うわ!」

 

 ハリー達とルシウスとベラトリックスはその場に伏せる事でアルーナの攻撃を避けた。

 

 ロプトは鞭が直撃していたが、何食わぬ顔でその場に立っている。

 

「こっちだ!」

 

 ハリーが大声を上げると、それに付いて行くかのように、全員が走り出した。

 

「逃すか!」

 

 無傷のルシウスとベラトリックスは立ち上がると、ハリー達を追いかけ始める。

 

 私は、両手に銃を構え、2人に狙いを付けようとするが、それを遮るかの様に、ロプトが眼前に現れた。

 

「邪魔よ、退きなさい」

 

「そう言われましてもねぇ…あの予言をヴォルデモート卿が欲しているのですよ」

 

「私には関係ないわ」

 

 両手の銃を一斉にロプト目掛け発射する。

 

「おぅ…とぉ」

 

 ロプトはワザとらしい声を上げながら、銃弾を避ける様に飛び上がると、少し離れた位置に宙返りをしながら着地した。

 

「貴方の相手は、これに頼みましょう」

 

 ロプトが指を鳴らすと床から巨大なオレンジ色の球体が現れ、それを守るかの様に、青白い菱形の装甲が覆い、ゴーレムが姿を現した。

 

 ゴーレム

 混沌の神が造り出した、都市警護用の生態兵器。

 体を構成する特殊な金属に、あらゆる生命の記録が登録されており、瞬時に読み取った侵入者の情報を解析し、その攻撃力に合わせて、自らの形態を瞬時に切り替え、最適な攻撃形態で応戦する事が出来る。

 

 

「では私はこれで失礼しますよ」

 

 ロプトはそう言い残すと、何処かへと消えていった。

 

 私がゴーレムと向かい合うと同時に、入り口の方からハリー達の叫び声が響いた。

 

「どういう事だ! なんで開かないんだ!」

 

 声の方のした方を振り向くと、入り口を覆う様に結解が張られている。

 ロプトが余計な事をしてくれたようだ。

 

『ガギンッ!』

 

 気配を感じ、私はその場から飛び退くと、その場所を叩き潰すかのように、ゴーレムが拳に姿を変え、殴りかかっていた。

 

「遊びたいのね、いいわ。相手してあげる」

 

 

 私は、ゆっくりと振り返ると、ゴーレムは、その姿を蜘蛛の様な形状に変え、突進してきた。

 

「惜しいわね」

 

 突進してくるゴーレムの顔面に両手の銃を放ちながら、飛び上がる。

 

 放たれた弾丸は、ゴーレムの顔面に直撃すると、その装甲にダメージを与えていく。

 

 ゴーレムの背後に着地すると同時に、銃を仕舞い込み、チェルノボーグとアルーナを取り出す。

 

『ガギンッ!!』

 

 ゴーレムが再び姿を変えた。

 

 ドラゴンの頭部に姿を変えたゴーレムは私を噛み砕こうと、大口を開け迫り来る。

 

「どこを見ているのかしら」

 

 

 

 アルーナを空中に放り投げ、数瞬置いた後に飛び上がり、ゴーレムの噛みつきを避ける。

 

 上空で態勢を整えると、落下を始めているアルーナを足に装着させる。

 

 着地すると同時に、ゴーレムが形態を変えようとしている。

 

「今度はこっちの番よ」

 

 足を振り抜き、アルーナを伸ばし、ゴーレムのオレンジ色のコアに絡ませる。

 

 変形を始めていた、周囲の装甲がコアを死守しようと集まり始める。

 

「無駄よ!」

 

 私は、足に力を籠めると、アルーナを引っ張り、コアをこちらに引き寄せる。

 

「月まで…………吹っ飛べ!」

 

 

 コアを引き寄せると同時に、足を踏ん張り、勢いを付けて頭突きを喰らわせる。

 

 

 頭突きを受けたコアは吹き飛び、周囲にあったガラス玉が置かれている棚をいくつか薙ぎ倒し、周囲に埃が舞い上がる。

 

 埃が落ち着くとそこには、受けたダメージにより動けなくなったのか、ゴーレムのコアが火花を散らしながらヒビの入った装甲を無理やり装着している。

 

「次で決めるわよ」

 

 私は髪の魔力を開放し、ゲートを開く。

 

『APACHANA NAPTA!』

 

 

 召喚ゲートから6本の腕の魔獣。ヘカトンケイルが現れた。

 

 それに伴い、周囲にある棚が崩落し、ドミノ倒しの様に次々に倒れ、置かれているガラス玉が大量に落下する。

 

「フッ」

 

 私が指を軽く鳴らすと、ヘカトンケイルが合体途中のゴーレムを殴り始めた。

 

 ヘカトンケイルが1撃加える事に、ゴーレムの装甲は砕け散り、最終的にはコアだけになっても、まだ殴り続けている。

 

 コアを殴り飽きたのかヘカトンケイルの4本の腕が同時に殴りかかると、その反動でコアが宙に浮く。

 

 浮かび上がったコアをヘカトンケイルの2本の腕がレシーブし高く打ち上げる。

 

 ある程度の高さまで打ち上ったコアはゆっくりと自然落下を始める。

 

 コアの落下位置にヘカトンケイルの2本の腕が現れ、安定させるようにトスをする。

 

 安定したコアの前にヘカトンケイルの2本の腕が現れ、右手の方に力を溜めている。

 

 そして、その右手は綺麗にコアの中心を捉え、去年の失敗を帳消しにするかのような、完璧なアタックを決めた。

 

 吹き飛んだコアは、ハリー達が手こずっている入り口を覆う封印の方へと飛んで行った。

 

「危ないわよ」

 

 聞こえるかどうかわからないが、私がそう言うと、入り口の方から叫び声が聞こえてきた。

 

「なんか飛んで来るぞ!!」

 

「避けろ!」

 

「今日は厄日だわ!」

 

 

 叫び声が聞こえた後、爆破音が部屋の中に響き渡った。

 

「扉が開いている! こっちだ!」

 

 私はハリー達の方に駆け付けると、入り口に張られた結解は砕け散り、開かれた扉に走り込んでいく姿が見えた。

 

「「「うわぁあぁぁぁ!」」」

 

 ハリー達が扉を抜けた途端、彼等の叫び声が響いた。

 

 覗き込むと、そこには床は無く、暗闇が広がっていた。

 

「ここを落ちていったのね」

 

 私は1歩足を踏み出すと、ゆっくりと暗闇を下りていった。

 




ミルク1杯10ガリオンは高く感じるかもしれませんが、神秘部までの移動費も込みです。

手にチェルノボーグ、足にアルーナで広範囲殲滅によく使いました。


ゴーレムが出たなら、やる事は一つですね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5年目の終わり

今回で、不死鳥の騎士団は終わりですね。

今回は少し短めです。


   暗闇を下りた先には、うつぶせに倒れたハリー達が呻き声を上げながら立ち上がろうとしている。

 

「まったく…災難だ」

 

「ここはどこだ?」

 

 

 周囲を見回すと、部屋の中心に石のような物質でできた巨大な門。いやアーチと呼ぶべきか。謎の物体が鎮座している。

 

 そのアーチには薄いベールの様な物が張られており、その向こうが良く見えない。

 

「まるでモノリスね」

 

「何か聞こえないか?」

 

 ハリーがそう言うとその場の全員が耳を澄ます。

 確かに何者かが囁く様な声がアーチの向こう側から聞こえている。

 

 ハリーはその声に惑わされるかの様にフラフラとアーチに歩み寄る。

 

「ハリー、行きましょう。そんな物は放っておいて」

 

「でも、向こうから誰かが呼んでいるんだ」

 

「そんな訳ないでしょ。行きましょう」

 

 ハーマイオニーがそう言った途端、黒い煙を纏った何者かが地面に着地した。

 

「追いつめたぞ。さぁ、予言を渡すんだ」

 

 着地した、ルシウスとベラトリックスは杖を構えながら、ハリーに予言を要求している。

 

「誰が! お前達なんかに!」

 

 ハリーが怒声を上げると、ルシウスはワザとらしく悲しい顔をする。

 

「まったく…仕方ないな」

 

 次の瞬間、私達を襲う様に、黒い煙を纏った死喰い人が空を飛びながら突っ込んで来た。

 

 

「うわぁ!」

 

 私はその場で飛び上がり、死喰い人の攻撃を避けたが、他のメンバーは回避が間に合わず、ハリーを除いて全員が拘束さて、喉元に杖を押し付けられている。

 

「どうするのよ」

 

 私は、ハリーの隣に着地すると、ハリーは悪態を付きながら、手に持ったガラス玉をルシウスの方へと投げ渡した。

 

 ルシウスがガラス玉に手を伸ばした瞬間、ハーマイオニー達を拘束していた死喰い人達が吹き飛ばされ、周囲に爆破音が響いた。

 

「残念だが、その子達に手出しはさせんよ!」

 

「うぉ!」

 

 ルシウスは驚きの声を上げながら、その場から吹き飛ばされる。

 

 その為か、投げ渡されたガラス玉は地面にぶつかり、粉々に砕け散った。

 

「無事か! ハリー!」

 

「シリウス!」

 

 いつの間にか現れたシリウスがハリーに駆け寄る。

 

「怪我はないな!」

 

「うん!」

 

 周囲を見回すと、ムーディやルーピンを始めとした、不死鳥の騎士団員の主要メンバーが死喰い人達と戦闘をしている。

 

「子供は隠れてろ!」

 

 ムーディがそう叫ぶが、ハリー達はそれを聞かず、立ち上がると死喰い人に杖を向けている。

 

「まったく…言う事を聞かないんだから」

 

 私は両手に銃を構えると、死喰い人の杖目掛け、周囲に銃弾をばら撒く。

 

「うがぁ!」

 

 弾丸は杖に直撃すると、一瞬で打ち砕き、魔法を打てない状態にさせた。

 

「これなら何の脅威も無いわね」

 

「やるな! 小娘!」

 

 ムーディはそう言いながら、魔法を放ち、周囲の死喰い人を気絶させていく。

 

「逃さんぞ!」

 

「ハリー!」

 

 シリウスが叫ぶとルシウスが放った魔法を打ち消した。

 

「はん! 相変わらずアンタは甘ちゃんだ!」

 

「ベラトリックス!」

 

 二人は何やら因縁があるのか睨みあって居る。

 

「はぁ!」

 

「くっ!」

 

 二人は同時に魔法を放ち、互いにけん制しあって居る。

 

「シリウス!!」

 

「退いてろ! ハリー!」

 

 駆け寄ろうとするハリーを制しながら、ベラトリックスと魔法を打ちあって居る。

 

「くぉ!」

 

 どうやら、シリウスが劣勢の様だ。

 

「くそ!」

 

 シリウスの制止を振り切り、ハリーがベラトリックスに魔法を放つ。

 

「ぐぁ!」

 

 ハリーの放った魔法を(すんで)の所で防いだベラトリックスが苦痛の声を上げている。

 

「くそがぁ! 邪魔するな!」

 

 ベラトリックスは標的をハリーに変えたのか、赤い閃光をその杖から放った。

 

「ハリー! 危ない!!」

 

 ハリーを庇う様に飛び出したシリウスは、赤い閃光を胸に受け吹き飛ばされる。

 

「ハーハハッ! 消えてなくなりな! シリウス・ブラック!」

 

「シリウス!!」

 

「ぐぉおぉおぉぉ!」

 

 吹き飛ばされたシリウスは、まるで何者かに誘われるかのように、アーチの向こう側へと飲み込まれそうになっている。

 

「退くぞ!」

 

 ルシウスとベラトリックスは吹き飛ばされていくシリウスを一瞥した後、扉の向こうへと消えていった。

 

「シリウスーー!」

 

「は…ハリー…」

 

 ハリーが手を伸ばすが、シリウスの体は、もはや半分以上がアーチの向こう側に半身が入り込んでいる。

 

「まったく…世話が焼けるわね」

 

 私は、足に装備したアルーナを、シリウスは目掛けて伸ばすと、シリウスの足をアルーナで絡め捕る。

 

「ベヨネッタ!」

 

 叫ぶハリーを尻目に、私はシリウスを絡め捕ったアルーナを勢いよく引き戻す。

 

「おおぉおおぉぐおおぉおお!」

 

 引き戻されたシリウスは背中を何度か地面居打ち付けながら、こちらに戻って来た。

 

「ぐぅ! がはぁ!  もうちょっと優しくはできないのか?」

 

「助けてあげたのに随分な言い方ね」

 

「シリウス!」

 

 嬉しそうな表情のハリーはシリウスに抱き着いている。

 

「ハリー…無事でよかった…それより奴らは?」

 

「向こうの扉へ行ったわよ」

 

 私は、背後にある、死喰い人が逃げていった扉を指差した。

 

「追いかけなくてはっ! ぐぅ!」

 

 立ち上がろうとしたシリウスは、苦痛にその顔を歪めながら、片膝を地面に付けた。

 

「僕が行くよ!」

 

 ハリーは駆け出す様に、扉に手を掛けた。

 

「待つんだ! ハリー!」

 

 

 シリウスがハリーを制止させようとするが、すでに遅く、ハリーは扉を開けその奥へと消えていった。

 

「ハリー…ぐぅ…」

 

 シリウスは苦しそうな呻き声を上げている。

 

「その様子じゃ追うのは無理そうね」

 

「くそっ!」

 

 シリウスは悪態を付きながら、舌打ちをしている。

 

 周囲を見回すと、他の面々も若干の怪我はおってはいるが、皆そこまで酷い怪我がという事ではなさそうだ。

 

 ルーピンがシリウスに治癒魔法をかけ、ある程度動けるようになった所で、私達はハリーの後を追うと、大広間のような場所に出た。

 

 そこには、倒れ込んだハリーを抱きかかえるダンブルドアと、高笑いをしながら、消えていくヴォルデモート。

 そして、それをただ見つめる魔法省の面々の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

  数日後、魔法省は今まで認めたくなかった事実である、ヴォルデモート復活を認め、その事は日刊予言者新聞でも大々的に取り上げられたようだ。

 

『名前を呼んではいけないあの人、復活する!!』

 

 なんともありきたりな見出しだ。もうちょっと捻ったほうがインパクトあるだろうに。

 

 他の記事には、ダンブルドアの校長への復職に関する記事が載っていた。

 なお、吹き飛ばされたアンブリッジは、ケンタウロスにリンチにあった後、磔の呪文と服従の呪文を使用した事をある役人がリークしたのか、アズカバン送りとなったらしい。

 

 息子が服従の呪文を喰らったのが腹に据えかねたのか、それとも私に対してある程度の取引のつもりなのか分からないが、まぁその役人の働きには感謝しよう。おかげであの女の顔を見ずに済むのだから。

 

 それに、近いうちにあの大臣(無能)はクビにでもなるだろう。

 

 私は、新聞をテーブルの上に置くと、ホグワーツ特急に乗る為に、駅へと歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

  今年もまた1年が過ぎた。

 

 そして、今年はヴォルデモートが完全に復活し、それが世間に知られてしまった。

 

 しかし、運の良い事に、まだワシが把握する限り、死傷者は出ては居ない。

 

 話に聞くと、シリウスが『アーチの向こう側』に消えそうになった所を、セレッサが引き戻したと聞く。

 

 そのおかげでシリウスは無事だったようじゃ。

 

 今年もまた、彼女に助けられたことになる…

 

「ふぅ…」

 

 ワシは、もはや癖となった溜息を吐きながら、校長室の椅子に腰かける。

 

 やはり、彼女を不死鳥の騎士団員にスカウトしたのは正解だったようだ。

 

「じゃがなぁ…」

 

 ワシは杖を取り出し、目を落とす。

 

 この杖はどうやら、ワシに対する忠誠心は失われている様だ。恐らく去年彼女をスカウトする際、ワシの魔法は、彼女に魔法をはじき返された…どうやらその時に忠誠心が彼女に移ってしまったようだ。

 

 だが、それはある意味ラッキーな事かも知れない。

 

 少なくとも、彼女がトムに倒される姿が想像できない。

 それはつまり、この杖の忠誠心は彼女に移行したままという事だ。

 

「はぁ…」

 

 今日に入って何度目かになる溜息を吐きながら、ワシはポケットから黒い石が嵌められた指輪を取り出した。

 

 マールヴォロの指輪

 トムの祖父である、マールヴォロ・ゴードンが所有していたという指輪だ。

 

 これが、ヴォルデモートの分霊箱の1つだ。

 

 これを探すためにワシはホグワーツを離れたと言っても過言ではない。

 

 そして、この指輪に嵌められている石が、『蘇りの石』だ。

 

 これがあれば…

 

 しかし、この指輪を付ければとてつもない呪いを受けるだろう。

 

 下手すれば死んでしまうかもしれない…

 

 しかし…

 

 どうやらワシは、『蘇りの石』に魅入られた様だ。

 

 ワシは指輪を嵌めようと震える手で取った。

 

 その時、ワシの中で、数年前のセレッサの行動が脳裏を駆け巡った。

 

 彼女はワシが破壊するのを躊躇った賢者の石を、何の躊躇いも無く、破壊したのだ。

 

 あの時、彼女の目に迷いはなかった。

 

 そして彼女は、永遠の命を『くだらない物』だと言い捨てた。

 

 形は違えど、ワシが今からやろうとしていたことは。彼女にとってきっと『くだらない事』なのだろう。

 

「フッ…」

 

 少し馬鹿馬鹿しく思えてきて、はめようとした指輪をテーブルの上に投げ捨てた。

 

 これは破壊しなければならない物なのだ。

 

「そうじゃ…破壊するのじゃ…」

 

 ワシは、自分に言い聞かせるように、口に出す。

 

 しかし、ここにきてある問題が発生した。

 

 分霊箱の破壊方法が未だに掴めていないのだ。

 

 グリフィンドールの剣は、セレッサによって破壊されてしまった。

 

 かといって、バシリスクの毒を使おうにも、牙を含め、バシリスクの本体はセレッサのペットが食べてしまった。

 

「はぁ…」

 

 ワシは、もはや数える気すら起きない溜息を吐きながら、いずれ破壊するであろう指輪をポケットへと仕舞い込んだ。

 

 

 

 

 

 




シリウスは死ぬ事は無く、引きずり戻されました。

次回作の、謎のプリンスは書き上げた結果、かなり短い感じですが、よろしくお願いいたします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

謎のプリンス
任務


今回から『謎のプリンス』が始まります。
といっても、かなり短いんですよね。

それに、しばらくはベヨネッタは傍観者ポジですね。

その辺はご了承ください。


   私は、普段通り、バーでカクテルを飲みながら、ロダンが定期購読している日刊予言者新聞に目を通す。

 

 どうやら、ヴォルデモートが復活して以来、向こうの世界で大暴れしている様だ。

 

 死喰い人によってオリバンダーの店が襲撃された他、向こうの世界のマグル界にまで被害が出ているという話だ。

 

「奴等、どうやら派手にやっている様だな」

 

 私の隣にやって来たジャンヌは呆れた様に呟いている。

 

「そうみたいね」

 

「ここを見てみろ」

 

 ジャンヌが、日刊予言者新聞の一面を飾っている写真の一部を指差した。

 

「これは…」

 

 写真の端には黒い影が宙を羽ばたいている様に見える。

 

「天使共だろうな」

 

「その様ね」

 

 どうやら、天使達は向こうの世界で、本格的にヴォルデモートと共に行動している様だ。

 

 だが一体何のために…

 

 

「何やらきな臭いな…こちらもいろいろと調べてみたが、あまり収穫は無かった」

 

「こっちもよ。菱形の変態が騒ぎまくって居る事くらいしか分からないわ」

 

 私は、グラスに残っていたカクテルを一気に飲み干し、入り口へと向かう。

 

「もう出るのか?」

 

「えぇ、そろそろ汽車の発車時刻なの」

 

「フッ、汽車とはまた古風な…気を付けろよ」

 

「分かっているわよ」

 

 私は、ジャンヌに軽く手を振ると、店を出た。

 

 

 

  ホグワーツ特急に乗り込んだ私は、普段とは少し違う空気を感じている。

 

 それもそうだろう。現状、この世界は混沌の真っ只中だ。

 そんな状況だからこそ、子供達は皆ホグワーツへと行くのだろう。

 

 恐らくそこが、一番安全なのだと信じて…

 

 さて、適当に空いているコンパートメントでも探さなくては。

 

 

 

 

 

  僕は今、ホグワーツ特急に乗り込もうと、ゆっくりと足を踏み出している。

 

 この1歩はとても重い。しかし周囲にそれを悟られる訳にもいかず、無理やりその足を動かし、汽車へと乗り込む。

 

 僕の後ろには、いつも通り、何を考えているのか、はたまた何も考えていないのか、良くわからない表情のクラッブとゴイルが同じ歩幅で歩いている。

 

「この荷物をコンパートメントへ運んでおいてくれ、僕は後から向かう」

 

 2人にそう言うと、彼等は文句も言わず、荷物を手に持つと、コンパートメントを探しに向かった。

 まぁ、彼等がここまで言う事を聞くのも、昔は光栄だと思って居た、マルフォイ家の名のおかげだろう。

 

「はぁ…」

 

 

 だが今は、その名が足枷となり、僕を悩ませている。

 

 2人が見つけたコンパートメントに入り込むと、腰を掛け、考えを巡らせた。

 

 それは、数週間ほど前の出来事だ。

 

 

   僕と、父上は、死喰い人の集会に参加した。

 

 父上は、生粋の死喰い人であるのか、そこまで緊張しているようには見えなかったが、僕は初めての事に、とてつもなく緊張していた。

 

 集会には、ベラトリックス・レストレンジやピーター・ペティグリュー。そして、ホグワーツの教員でもあるセブルス・スネイプなど怱怱(そうそう)たるメンバーが集結していた。

 

 ベラトリックス・レストレンジはとても上機嫌な顔をしている。大方シリウス・ブラックが死んだのが相当嬉しいのだろう。

 

 そして、周囲には僕達を守っているのか、数体の天使が様々な武器を片手に佇んでいた。

 

「皆、良く集まってくれた」

 

 心に入り込む様な声が周囲に響き、僕はゆっくりと顔を上げるとそこには、『闇の帝王』が座っており、その隣には青白い人間ではない別のモノが側近の様に立っていた。

 

「さて、貴様達は俺様に忠誠を誓って居るのだろう?」

 

 急に何を言い出すかと思えば…

 

 周囲を見回すと、皆一様に頷いている。

 

「はい、我が君」

 

 隣で父上がそう言うと、例の闇の帝王はとても嬉しそうに微笑み、こちらに近付いて来た。

 

「そうか、そうか…報告は聞いているぞ、ルシウス。なんでも予言の奪還に失敗したそうじゃないか」

 

「そ…それは…面目ありません」

 

 父上は冷や汗を掻きながら、俯いている。

 

「フッ…フフッ…まぁ良い…」

 

 例のあの人はそれだけ言うと、自分の席に座り、ゆっくりと口を開いた。

 

「俺様の杖では、兄弟杖を持つハリー・ポッターを殺す事は出来ん様だ」

 

 その言葉を聞いたメンバーはどよめき始めた。

 

「そこでだ…誰か俺様に杖をよこせ」

 

 その一言で、周囲は一瞬にして凍ったように静かになった。

 

「なんだ? 誰も居ないのか」

 

 例のあの人はゆっくりとこちらに近寄ると、父上の後ろで歩みを止めた。

 

「ルシウス。貴様の杖を寄越せ」

 

「は…はっ」

 

 冷や汗まみれになった父上は、ステッキに仕込まれていた杖を取り出した。

 

「どうぞ」

 

 例のあの人は杖を手に取ると、上部に付いていた蛇の装飾品をへし折った。

 

「……フッ」

 

 例のあの人は鼻で笑った後、自分の席に着いた。

 

「さて…ドラコ」

 

「はっ…はい!」

 

 急に名前を呼ばれた僕は、上ずった声で返事をする。

 

「貴様にはいくつか任務をやろう」

 

 張り付いた笑みを浮かべた例のあの人は、ゆっくりと僕に命を下した。

 

「ダンブルドアを殺すのだ。手段は問わない」

 

 ダンブルドアの暗殺。それが僕に与えられた使命だ。

 しかし、いったいどうやって…

 

「お言葉ですが我が君…息子にはいささか荷が重い任務かと…」

 

 父上が助け船を出すが、例のあの人は、表情を変えずに続ける。

 

「ではセブルスを補佐に付けよう。ロプトも手を貸してやれ、それなら問題あるまい」

 

「しかし――」

 

「「かしこまりました」」

 

 父上を遮る様にスネイプ先生とロプトが声を上げた。

 

「では頼むぞ。それともう一つだ」

 

 僕はその命令を聞き、膝から崩れ落ちる様な感覚に陥った。

 

 

 

 

「はぁ…」

 

 与えられた任務を思い起こし、僕は溜息を吐いた。

 

「外の空気を吸ってくる」

 

 2人にそう告げると、僕はコンパートメントの扉を開け外へと出た。

 

「あら? ドラコじゃない」

 

「あっ…」

 

 僕は目の前の彼女を見て全身の血液が抜けるような感覚に陥った。

 

 僕が果たすべき任務の対象である彼女の姿は、今日も変わらず美しかった。

 

 

 

 

 「どうしたのよ?」

 

 私の顔を見るなり、ドラコは青ざめた様な表情で立ち尽くしている。

 

 そして、若干だがローズマリーの香りがする。

 

「いっ…いや、何でもないんだ。それより元気そうだね、セレッサ」

 

「おかげさまでね」

 

 ドラコはいつもの口調に戻った。

 

「そんな事より、何処かに空いているコンパートメントは無いかしら?」

 

「そうだね、僕のコンパートメントはどうだろう?」

 

「良いじゃない。案内して頂戴」

 

「あぁ、こっちだ」

 

 ドラコの案内に従って、私はコンパートメントの中へと入って行った。

 

 中には、いつも通りに、ドラコの取り巻きが座っていた。

 

「クラッブ、ゴイル、席を外してくれ」

 

「「…………」」

 

 取り巻きの2人はすっと立ち上がるとコンパートメントを後にした。

 

「さぁ、座ってくれ」

 

「気が利くじゃない」

 

 私が席に着くと、ドラコは対面の席に座り込む。その表情はどこと無く曇っていた。

 

「暗い顔してるわね。どうかしたのかしら?」

 

「え? そうかな?」

 

「そうよ。相席が私じゃ不満だったかしら?」

 

「いや! そんなんじゃ…」

 

「フッ、冗談よ」

 

「あまりからかわないでくれ」

 

「それにしても、ドラコ…アンタ少し匂うわね」

 

「え?」

 

 ドラコは驚いたように、自分の服を嗅いで居る。

 

「抜けるような清涼感と、若干の甘い香り…ローズマリーの香りね」

 

「あ…あぁ、そうかな?」

 

「えぇ、そうよ。奴等と同じ香りだわ」

 

「え?」

 

 間抜けな声を上げているドラコの眼前に銃を突き付ける。

 

「説明してくれないかしら?」

 

「いや…その…これは…」

 

 ドラコは恐怖に歪んだ表情で、目を見開いている。

 

「この前も言ったけど。奴等と関りを持つようなら、容赦はしないわよ」

 

 私がワザとらしく撃鉄を起こすと、ドラコの表情はさらに歪んでいく。

 

「じ…実は…」

 

 蚊の鳴く様なか細い声でドラコはゆっくりと語りだした。

 

 

 

 

「そう」

 

 私は銃口を突き付けながら、ドラコを一瞥する。

 

 どうやら、ドラコは死喰い人の集会に参加し、そこで天使達に近付いたらしい。

 

「天使共の匂いが分かるなんて、すごい匂いのセンスだね」

 

「奴等を狩って居れば嫌でも覚えるわよ。他に何か隠し事は?」

 

「いや…それは…」

 

 この反応かしらして、何かあるだろう。

 

「ヴォルデモートに関してかしら?」

 

「ま…まぁそんな所だね…」

 

「そう、なら私には関係ないわね」

 

 私が銃を納めようとすると、ドラコが自嘲気味に呟いた。

 

「それが…君の暗殺だとしてもかい?」

 

「あら。そうなの」

 

「え?」

 

 驚くドラコを尻目に私はゆっくりと、銃を納め、両手を広げる。

 

「やってみなさい。今なら簡単でしょ」

 

「君…正気か…」

 

 ドラコはゆっくりと杖を構えると、私に付きつける。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

 ドラコは息を荒げ、冷や汗を流している。

 

「どうしたのよ、早くしなさい」

 

「はぁ…あぁ…」

 

 ドラコは深い溜息を吐くと膝から崩れ落ちる。

 

「出来る訳ないだろ…」

 

 ドラコの手から離れた杖はコロコロと音を立て私の足元に転がる。

 

「まったく、慣れない事はするものじゃないわよ」

 

 私は、杖を拾うと、ドラコに手渡す。

 

「その通りだね…」

 

 疲れ果てたのか杖を受け取ったドラコはコンパートメントの中で仰向けに倒れ込む。

 

「なんで暗殺なんて引き受けたのよ」

 

 私が聞くと、ドラコは諦めた様に口を開いた。

 

「闇の帝王の命令さ。逆らえる訳がない…」

 

 ゆっくりと起き上がったドラコは、溜息交じりに椅子に座り込む。

 

「君を殺せなんて…無茶を言うよ…ホント…」

 

 ドラコは少し笑うと、再び口を開いた。

 

「まぁ…こうして失敗してしまった今はどうする事も出来ないけどね」

 

「で? アンタは今後どうするのよ?」

 

「そうだな…もう一つの任務を全うするさ」

 

「そう、それは私に関係ある事かしら?」

 

「さぁ…どうだろう。でも、直接的な関係は無いかもね」

 

「なら良いわ。精々頑張りなさい」

 

 私がそう言うと、ちょうど駅に着いた様で、私達はコンパートメントを後にした。

 

 




はい、マルフォイの任務は早くも失敗しました。

当初の予定では最後まで隠し通すつもりだったのですが、どう考えても、ベヨネッタに隠し事なんてできないと思ってこんな結果になりました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

フェリックス・フェリシス

そろそろ、次回作も考えないといけませんね…


 

  ホグワーツに入った後はいつも通りの新学期パーティーが始まった。

 またしても、帽子が警告じみた歌を歌って居る。

 

 大広間には、トレローニーが嬉しそうな顔で座っている。

 アンブリッジに解雇された後に再雇用でもされたのだろう。

 

「皆! 今日は良い夜じゃな!」

 

 しばらくすると、ダンブルドアが大声を上げ、会場が静まり返る。

 

「新入生の諸君、歓迎いたしますぞ。そして上級生にはお帰りなさいじゃ。今年もまた、魔法教育がびっしりと待ち受けておる。まず初めに禁じられた森には生徒立ち入り禁止じゃ。そしてホグズミード村には3年生から行くことが許可される。それと、管理人のフィルチさんから皆に伝えるようにと言われたのじゃが、ウィーズリー・ウィザード・ウィーズとかいう店で購入した悪戯用具は全て校内持ち込み禁止じゃ」

 

 ダンブルドアは笑いながら、心にもない事を言って居る。

 まぁ、こんな規則守る奴なんていないだろう。

 

「各寮のクィディッチチームに入団したいものは寮監に名前を提出すること。今年度は試合の解説も同時に募集しておるので、興味のあるものは同じく応募するとよい」

 

 生徒達は、ダンブルドアの話を聞きながら、教職員の席に目をやっている。

 

 そこには、新顔の老人が座り込んでいる。

 

「さて、今年からは居る新しい先生がおる。早速紹介しよう。ホラス・スラグホーン先生じゃ。スラグホーン先生はかつてホグワーツで魔法薬学を担当しておられた。今回はホグワーツの魔法薬学の先生として復職していただく」

 

 スラグホーンはゆっくりと立ち上がると、簡単な挨拶を済ませた。

 

「さて、それにともなってじゃが、スネイプ先生には闇の魔術に対する防衛術の担当になっていただく」

 

「え?」

 

 それを聞いたハリーは間の抜けた声を上げている。

 

 他の生徒、主にグリフィンドール生からは不満の声が上がっている。

 

 当のスネイプはと言うと、念願の闇の魔術に対する防衛術の担当になれたことが嬉しいのか、珍しく笑みを浮かべている。

 

 それ以外は、ダンブルドアがいつもと変わらない挨拶をして、幕を閉じた。

 

 

 

  新学期が始まると、去年のテストの結果によって受ける授業が限られている様だ。

 

 私は、総ての教科で最高ランクを叩きだしていたので特に問題は無い。

 

 しばらくすると闇の魔術に対する防衛術の授業。つまりスネイプの授業の時間がやって来た。

 

 今回もスリザリンとの合同だったようで、グリフィンドール生は嫌そうな顔をしているが、対するスリザリン生は満面の笑みを浮かべている。まったく正反対だ。

 

「やぁ、セレッサ」

 

 普段と何も変わらぬ表情でドラコが声を掛けてきた。

 

「アンタもこの授業なのね」

 

「まぁね、これでもスリザリンだからね」

 

 答えになっていない気もするが、ドラコはそう言うと笑って居る。

 

「ところで、任務の方は順調かしら?」

 

 私が、皮肉を込めて任務の事を言うと、ドラコは痛いところを突かれたといった表情をしている。

 

「その様子だと、あまり上手くいってないようね」

 

「まぁ、君にバレた時点で任務は失敗したような物さ」

 

「自分からバラしたんじゃなかったかしら?」 

 

「隠しきれるとは思えなかったからね…まぁ、おかげで気は楽になったよ」

 

「意外ね、てっきり落ち込むかと思っていたわ」

 

「最初は落ち込んださ。失敗したら、天使達に殺されるかも知れないからね」

 

 乾いた笑みを浮かべたドラコは、羽ペンを取り出しながら、笑っている。

 

「でも、その場合…君が助けてくれるだろ?」

 

「はぁ…お気楽ねアンタは」

 

 にこやかに笑っているドラコを見て、溜息を吐きながら首を左右に振る。

 

「まぁ、私の前で襲われていたなら考えてあげるわ、確約はできないわよ」

 

「助かるよ」

 

 ドラコは、準備を終えたのか、席に座り込む。

 

「皆席に着け。早くしろ」

 

 スネイプが教室に入るなりそう言うと、多くの生徒が席へと付いた。

 

 念願の防衛術を教える事になったスネイプは上機嫌で生徒達へと語る。

 

「闇の魔術は多種多様、千遍万化、流動的にして永遠なる物だ。それと戦うという事は多くの頭を持つ怪物と戦うに等しい。首を切り落としても別の首が、しかも前より獰猛で賢い首が生えてくる。まるで、どこぞの誰かのペットの様にな…諸君の戦いの相手は固定できず変化し、破壊不能なものだ」

 

 長いポエムを聞き終えた所で、スリザリンの方から拍手が上がる。気を良くしたスネイプはスリザリンに5点を与え、拍手をしなかったグリフィンドールには10点の減点を与えた。

 

 今回は、『無言呪文』についての内容だった。

 どうやら、多くの魔法使いは呪文を詠唱する事で使えるようになるそうだが、熟練者ともなると、文字通り無言で使えるようになるようだ。

 

 結局、この授業で成功したのは、私とハーマイオニーだけだった。

 

 スネイプは不機嫌そうにこちらを見ると、なぜかスリザリンに10点加点させた。

 

 

 

  数日後

 スラグホーンによる初の魔法薬学の授業の時間がやって来た。

 

 教室に入ると、上機嫌そうに微笑んでいる老人が居た。これがスラグホーンだろう。

 

 スラグホーンはハリーを見ると、上機嫌になり熱烈に迎え入れた。

 

「さて、さて…みんな秤をだして。それに魔法薬キットもだよ。後は教科書を…」

 

「先生。僕とロンは本も天秤も持っていません。僕達、N・E・W・Tが取れるとは思わなかったものですから……」

 

「ああ、そうそう。マクゴナガル先生が確かにそうおっしゃっていた。心配には及ばんよハリー、全く心配ない」

 

 どうやら、ハリー達は何も用意せずに来たらしい。あの感じだと、マクゴナガルに無理やり行くように言われたのだろう。

 

 スラグホーンは嫌な顔一つせずにハリー達に道具と教科書を用意した。

 

 教科書を2冊受け取ったハリーとロンは、どちらが新品を取るかで争っていたが、今回はロンに軍配が上がったようだ。

 

「さーてと、皆に見せようと思っていくつか魔法薬を煎じておいた。N・E・W・Tが終わった頃にはこういうのを煎じる事が出来るようになっているはずだ。これが何だか分かる者はいるかね?」

 

「はい!」

 

 いつもの様に何の迷いも無くハーマイオニーは真っ直ぐ手を上げた。

 

「言ってごらんなさい」

 

 許可を得たハーマイオニーは薬の前で手を仰ぎ臭いを確かめた後、口を開いた。

 

「右から、飲んだものに真実を話させる真実薬。他人に化けられるポリジュース薬、そして愛の妙薬と言われるアモルテンシアです。一番奥のは…ちょっとわかりません…」

 

「おぉ、良く分かったね、素晴らしい。グリフィンドールに20点あげよう」

 

 ハーマイオニーは完璧に説明できなかったのが少し悔しいのか、少し不満そうな顔をしている。

 

 その答えられなかった薬は、黒い鍋に入っている黄金色の薬だ。

 

 スラグホーンは自慢げにその鍋を指差すと、説明を始めた。

 

「さて。これね。さてこれこそは紳士淑女諸君、最も興味深い一癖ある魔法薬で名をフェリックス・フェリシスという。ここまで説明すれば、これが何かわかるかな? ミス・グレンジャー」

 

 フェリックス・フェリシスの名を聞いただけでアッと声をあげたハーマイオニーにスラグホーンが問いかける。

 

 それに対しハーマイオニーは興奮気味に答えた。

 

「幸運の液体です! 人に幸運をもたらします!」

 

 

 それを聞いて教室の中に居る生徒達が一斉にざわめきだした。それにして、『幸運』をもたらす液体とは、少々胡散臭い。

 

「その通り、グリフィンドールにもう5点あげよう。そう、この魔法薬は面白い。調合が恐ろしく面倒で間違えると酷い事になる。しかし成功すれば全ての企てが成功に傾いていくのが分かるだろう」

 

 なんとも都合のいい薬だ。

 

「先生。ならどうしてそれを皆飲まないんですか?」

 

 ロンがもっともな疑問をぶつける。

 確かにそうだ。そんな都合のいい薬があるなら量産すればいい。そうすればヴォルデモートだろうと怖くは無いだろうに。

 

「それはね、飲みすぎると有頂天になったり、自己過信、無謀になったりと危ないからだよ。まぁ後は飲みすぎれば毒にもなるからね」

 

 なるほど、こちらの世界にもよく似た薬が出回っている。

 

「そしてこれを今日の授業の褒美として提供する。フェリックス・フェリシスの小瓶一本。12時間分の幸運に十分な量だ。明け方から夕方まで何をやってもラッキーになる」

 

 スラグホーンがそう言うと、クラスから歓声が上がった。

 この男は案外人の心を掴むのがうまいのかも知れない。

 

「注意しておくがフェリックス・フェリシスは組織的な競技や競争事に使う事は禁止されている。これを獲得した生徒は通常の日だけ使用する事。そして通常の日がどんなに素晴らしくなるかを知るだろう」

 

 どうやら、この薬はドーピングの様な物らしい。

 確かにこの薬を全員が使えば、競技などはすべて上手くいくだろうな。

 

「さて、この素晴らしい賞をどうやって獲得するか? さあ『上級魔法薬』の10ページを開いて頂こう。後1時間と少し残っているが、その時間内に『生ける屍の水薬』に取り組んで頂く。そして最もよく出来た者にこの愛すべきフェリックスを与える。さあ始め!」

 

 

 なるほど、この薬によって全体の集中力を高めようと考えているのか。どうやら、アンブリッジなどに比べれば幾分かマシなようだ。

 

 普段ならあまり真剣に聞いてないドラコやロン達も作り方を必死になって聞いている。

 

 一通りの作り方を聞いた後、私達は一斉に鍋に向かった。

 

 教室では私を除く全員が必死になって鍋とにらめっこしている。

 

 それもそうだろう。12時間だけとはいえ、幸運が約束された薬だ。必死になるのも無理はない。

 

 さて、私も適当に作業を進めるとしよう。

 

 途中、こっそりとだが、手持ちの、マンドラゴラの根と一角獣の角、イモリの黒焼きをこっそりと加えてみた。

 

 その結果、どうやら私の作った『生ける屍の水薬』とハリーが作った『生ける屍の水薬』が選ばれたようだ。

 

 2つも優秀な『生ける屍の水薬』が出来るとは予想していなかったのか、スラグホーンは頭を抱えている。

 

「ハリー、アンタにあげるわよ」

 

「え? 良いのかい!」

 

「私はそんな薬に頼る程、落ちぶれて無いわ」

 

 私がそう言うと、教室全体が静まり返った。

 

「じゃ…じゃあ、遠慮なく」

 

 少し複雑そうな表情のハリーは不機嫌そうな表情のスラグホーンから、フェリックス・フェリシスの小瓶を受け取っている。

 

 それにしても、ハリーが選ばれるのは予想外だった。

 

 あまりこの手の授業は得意ではないと思っていたが…

 

「どうやったんだよ?」

 

「秘密さ。ラッキーだったんだよ」

 

 ロンがハリーに問い詰めているが、どうやら、はぐらかされた様だ。

 

 

 




フェリックス・フェリシスてベヨネッタが飲んでも効果が出なそうですよね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

暗殺未遂

やっぱり、謎のプリンスって第三者を介入させるとなると難しいですね。

そのせいか、かなり空気になっている様な気が…


 

   僕は、教室から出て行くセレッサの後姿を見送った後、ポッターに目をやる。

 

 奴は、先程セレッサから譲り受けたと言っても過言ではない、フェリックス・フェリシスの小瓶を片手に、楽しそうに話している。

 

 何とも腹が立つ。

 

 あまりにもイライラするので、急ぐ様に教室を出ることにした。

 

 さて…

 

「ふぅ…」

 

 ある程度教室とポッターから離れた後、僕は溜息を吐き、落ち着きを取り戻した。

 

 何としても、必要の部屋にある『姿をくらますキャビネット』を修復させなくては…

 

 どうやら、必要の部屋にある『姿をくらますキャビネット』は闇の横丁(ノクターン横丁)にあるボージン・アンド・バークスという店に置いてある『姿をくらますキャビネット』と繋がっているという話だ。

 

 これを修理し、死喰い人をホグワーツに連れ込み、ダンブルドアを暗殺するのが僕の任務だ。

 

「はぁ…」

 

 再び僕は溜息を吐く。

 

 聞いた話だが、闇の帝王の側近である、ロプトとセレッサには何か因縁があるらしい。

 

 まぁ、奴が天使に指示を出しているのを何度か見たことがあるから、天使がらみの関係なのだろう。

 

 そうなると、やはりセレッサに相談した方が良いだろうか…

 

 いや、それは駄目だろう。

 

 只でさえ、彼女を暗殺しようとした事を口にしてしまった上、彼女と敵対している人物とまで関りを持っていると知れたら…

 

 想像するだけでも恐ろしい…

 

 その上、ボージン・アンド・バークスで毎日の様に、死喰い人達によって、修理状況の報告の様に、物を入れては無事届くのかどうかチェックされている。

 

 ワザと遅らせれば、恐らくバレるだろう…

 

「はぁ…」

 

 今学期が始まってから、何度押しつぶされそうになっただろうか…

 

「そうだ…」

 

 ここで、妙案を思いついた。

 

 もともと、死喰い人がホグワーツに来る理由は、ダンブルドアの暗殺の手助けの為だ。

 

 つまり、『姿をくらますキャビネット』を修理せずとも、ダンブルドアを暗殺すれば事が済むということだ。

 

「それしかない…」

 

 しかし…どうやってだ…

 

「はぁ…」

 

 頭が痛くなってきた。

 

 このままでは埒が明かないと考えた僕は、いったん思考を停止させる。

 

 

「あとで、甘い物でも食べるか…」

 

 糖分を補給するべく、僕は移動を開始した。

 

 

 

 

 

 

  数週間後、大広間に居るロンは死んだような表情をしている。

 

「どうしよう…」

 

 どうやら、クィディッチ関連で不安要素があるようだ。

 

 ロンはキーパー志望のようだが、まぁ、クィディッチに興味のない私からすれば、どうでもいい事だ。

 

 

 

 だが、結果としてはロンは無事キーパーに選ばれた様だ。

 

 安心しきっているのか、談話室でふんぞり返りながら、ハリー達に自慢している姿を見せている。

 まったく、今朝の惨状とはえらい違いだ。

 

「ねぇ、ハーマイオニー。この呪文聞いたことある?『セクタムセンプラ』」

 

「聞いた事ないわ。ハリーその本まだ持っていたの? 早く返すべきよ」

 

 数年前と同じように、ハリーは最近ある本を常に持ち歩いている。

 どうやら、最初の『魔法薬学』の授業で手にした教科書らしいが、所々加筆がされており、『半純潔のプリンス』の蔵書らしい。

 

「ちょっと見せなさいよ!」

 

「駄目だよ! 本が傷んでいるから…人には見せたくないんだ!」

 

 余程この本が気になるのか、ハーマイオニーはハリーから本を奪い取ろうとしている。微笑ましい光景だ。

 

 

  数日後、ハリー達はホグズミード村へ行くらしい。

 

 私も誘われたが、あの村に特に思い入れはないので、断った。

 

 正直、あのバタービールという飲み物はどうも苦手だ。

 

 

 

 ハリー達がホグズミードから帰る時、事件が起こったようだ。

 

 グリフィンドール生の一人が、呪いのかかったネックレスに触れ、死ぬところだったそうだ。

 

 幸いにも、手袋をしていたおかげか、一命は取り留めたが、病院送りになったそうだ。

 

 

 しかし、このネックレスは本来、ダンブルドアに届けられる予定だった物のようだ。

 

 そうなると、今回狙われたのは、ダンブルドアということだ。

 

 あの老人のことだ、いろいろと恨みを買っているだろう。

 

 

 

 

 「くそっ!」

 

 僕は一人必要の部屋で悪態をついている。

 

 マダム・ロスメルタに『服従の呪文』をかけて、ケイティ・ベルを使い、ダンブルドアに渡すように頼んだが…結果的に彼女が触れて呪いが発動してしまったようだ。

 

 予想外の行動に、計画が狂ってしまった…

 

「ふぅ…」

 

 一度、深呼吸をして。落ち着きを取り戻す。

 

 今は、与えられた任務をこなすことが最優先だ。

 

「……」

 

 僕はゆっくりと、『姿をくらますキャビネット』を見上げる。

 

 まだ、修理は4割ほどしか完了していないが、それよりも前にダンブルドアを暗殺すれば何の問題もない。

 

「よし…」

 

 次の手は考えてある。

 後はそれを実行に移すだけだ…

 

 

 

 

 

 

  ここ数日、ハリーはダンブルドアにちょくちょく呼び出されている。

 どうやら、『個人授業』を受けているようだ。

 

 それに伴ってか、ハリーはスラグホーンの授業に積極的に参加するようになり、かなり媚を売っているように見える。どうやら、これもダンブルドアが仕向けた事のようだ。

 まったく、あの老害は何を考えているのやら…

 

「やぁ、ベヨネッタ」

 

 そんな事を考えていると、私の背後からハリーが声を掛けてきた。

 

「かなり上機嫌ね、何かあったの?」

 

「いや、大した事じゃないんだけど、今度スラグホーン先生のディナーパーティーに参加することになったんだよ」

 

「それも、ダンブルドアの指示かしら?」

 

「まぁ…そんなところ」

 

 ハリーは苦笑いをしながら、周囲を見回している。

 

「それで…良かったら君も――」

 

「他を当たって頂戴。ハーマイオニー辺りが良いんじゃないかしら? 喜んで行くと思うわよ」

 

 ハリーが言い終えるより前に、遮る様に私が言うと、数回頷いている。

 

「ハーマイオニーも誘われているんだ。ロンは誘われなかったけどね」

 

 ハリーは少し苦笑いをしている。

 

「ところで、ベヨネッタ。一つ聞きたいんだけど」

 

「他に何の用かしら?」

 

 ハリーは先程とは違い、神妙な面持ちになる。

 

「数日前、ヴォルデモートに関するダンブルドアの記憶を見せてもらったんだ。そこで、子供の頃のヴォルデモートが言っていたんだ…」

 

「何を?」

 

「『僕には神様が付いている。神様は将来、天使を僕に遣わせてくれる』って」

 

「神…天使…」

 

「そう、その時、ダンブルドアは何の事かは分からなかったらしいんだけど、もしかしてそれって…」

 

 恐らくハリーが考えている通り、天使達はヴォルデモートが幼少の頃から接触していたようだ。だがなぜ…

 

「ダンブルドアもこれ以上は思い出せないって言っていた。君は何か心当たりはない?」

 

「そうね…無いこともないけど、あまり碌なものじゃないことは確かよ」

 

「そうか、何かの手掛かりになれば良いんだけどね…」

 

 ハリーは先程の表情からは考えられないように落ち込んだ表情をしている。

 

 その時、時間を告げる鐘が校内に響いた。

 

「もうこんな時間だ。じゃあ僕は次の授業があるから」

 

「えぇ、私もそうするわ」

 

 私は、ハリーとは別れ、先程の事に付いて考える。

 

 恐らく、ヴォルデモートが言っている、神はロプトで間違いないだろう。

 

 だが、混沌の神の力を欲し、私達に打倒された後、『お父さん(バルドル)』の体に封じ込まれたはず…

 

 だが、現に奴は魔法界に存在しており、何度か対峙している。一体これはどういう事なのだろう…

 

「厄介な事になりそうね」

 

 私は、小さく舌打ちをすると、その場を後にする。

 

 

 

  翌朝、ロンは再び死んだような顔をしている。

 

 どうやら、今日のクィディッチの試合でキーパーをやるのが不安なようだ。

 

「とりあえず、これでも飲めよ」

 

「うん…」

 

 ハリーはロンにグラスに入った飲み物を差し出している。

 

 一瞬だが、そこに何か混ぜたようにも見えた。

 

「朝から酷い顔ね、だからドリンクに何か混ぜたのかしら?」

 

 私がワザとらしく聞くと、ハリーもワザとらしくフェリックス・フェリシスの小瓶をポケットへと仕舞い込んだ。

 

「フェリックス・フェリシス…ロン、飲んじゃダメ…よ…」

 

 ハーマイオニーが言い終えるより前に、ロンはグラスの中身を飲み干した。

 

「行くぜ! ハリー!」

 

「あぁ!」

 

 ハイテンションな2人は大広間から出て行った。

 

 

 その後のクィディッチの試合ではロンは大活躍だった。

 

 ロンのおかげでこちらからの失点はなった。

 

 まったく調子のいい男だ。

 

 

 試合が終わった後、談話室でパーティーが行われた。

 

 皆がロンを褒めたたえており、当人はとてもうれしそうだ。

 

「貴方のせいよ、ハリー。後、止めなかったベヨネッタもね」

 

「何の事かしら?」

 

「さぁ?」

 

 ハリーはワザとらしく、未開封のフェリックス・フェリシスの小瓶をハーマイオニーに見せつけている。

 

「栄養剤くらいは問題ないはずよ」

 

「貴方たち…騙したのね」

 

「さぁ?」

 

 私とハリーはワザとらしく首をかしげる。

 

 その時、談話室から歓声が上がった。

 

 そこでは、ロンが不細工なグリフィンドール生とキスをしている最中だった。

 

「やるわね」

 

 私が軽く口笛を吹くと、ハリーも大はしゃぎしている。

 

「ロン…」

 

 それを見たハーマイオニーは会場から抜け出していった。

 

「あれ…ハーマイオニー?」

 

 ハリーが振り返り追いかけようとするが、私がそれを制止する。

 

「一人にさせておきなさい。女にはそういう時もあるのよ」

 

「そうかな…」

 

 ハリーは複雑そうな表情で、周囲を見ていた。

 

 

 

  ここ数週間、ハリー達の関係はギクシャクしている。何とも微笑ましい。

 

「あー…ベヨネッタ…」

 

 複雑そうな表情のハリーがぎこちなさそうに声を掛けてきた。

 

「フッ、かなり疲れたような顔しているわね」

 

「まぁ…いろいろあるんだよ」

 

「そのようね、ところで要件は?」

 

「あぁ、実はね、クリスマスにスラグホーン先生がまたパーティーを開くことになったんだ。そこで、君も良かったらどうかなって」

 

「パーティーね…ああいうタイプが開くパーティーなんて碌なものじゃないわ」

 

 私が言い捨てると、ハリーは必死に食らいついて来る。

 

「頼むよ。他に当てがなくてね」

 

「残念ね、他を当たって頂戴」

 

「はぁ…仕方ない…ルーナでも誘うよ」

 

 肩を落としたハリーはその場をゆっくりと後にした。

 

 

 

 

  クリスマス休暇中、私はジャンヌと共にたまった仕事を片付け、バーで乾杯している。

 

「それにしても、こちらは平和だな」

 

「まったくね、向こうじゃ大騒ぎみたいよ」

 

 私はテーブルの上に置かれている、日刊予言者新聞を指差す。

 

「『魔法省で行方不明者が続出』か。物騒なものだな」

 

「そうみたいね。これもヴォルデモートの仕業のようね」

 

「何を企んでいるのやら…」

 

「さぁ? ダンスパーティーの招待じゃないことは確かね」

 

 私は、飲みかけのカクテルを飲み干し、もう1杯要求する。

 

 

 

 

  休暇明け、ハリー達は騒いでいる。

 

 どうやら、ロンの家が死喰い人に襲撃されたようだ。

 

 よく生きていたものだ。

 

 

「危ない所だったぜ」

 

 ロンは自分が生き残っている事を自慢げに語っている。

 

 そんなロンを見てハーマイオニーは溜息を吐いている。

 

 

 だが、この1件でハーマイオニーとロンの関係は進展したようだ。

 

 吊り橋効果というやつか。

 

 

 

 

 

  そして、数日後。再び事件が起きた。

 

 惚れ薬を盛られたロンが、治療のためにスラグホーンの元を訪れた際、勧められた蜂蜜酒に毒が混ぜられていたようで、死にかけたらしい。

 

 幸いにも、近くにあった『べゾアール石』を飲み込み、大事には至らなかったようだ。だが、『べゾアール石』が無ければ、死んでいたかもしれない。

 

 その事を聞いたロンは、「女のせいで死にかけるなんて」と間抜けな事を言っている。

 まぁ、良い薬になるだろう。

 

 だが、ここまで立て続けに事件が起こると、周囲も騒ぎだす。

 

 最初は、スラグホーンが疑われたが、ロンに渡した酒は、元々ダンブルドアに渡す予定だった物らしく。

 

 結果的に、ダンブルドアを暗殺しようとしている者が居るという事しか分からなかった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

尋問

腕が痛いので病院に行ったら腱鞘炎だと言われました。


 

   またしても、計画は失敗してしまった。

 

 スラグホーン経由で、ダンブルドアに毒の入った酒を飲ませるつもりだったのだが…どういう訳か、ウィーズリーが飲んでしまったようだ。まったくもって上手くはいかない…

 

「くそっ!」

 

 僕は、周囲にある瓦礫と化した家具に手当たり次第に魔法を放ち、それにより瓦礫を破壊して、ストレスを発散させる。

 

「ふぅ…ふぅ…こうなったら…」

 

 僕は修理が5割ほど完了した『姿をくらますキャビネット』に目を向ける。

 

 いつ見ても、不気味で不穏な空気を漂わせているキャビネットだ。

 

 これを完成させ、死喰い人をホグワーツに呼び込む。

 

 そうすれば、僕は例のあの人に殺されずに済むだろう。

 

「それしか…僕には…もう…」

 

 これ以外の道は無い。

 

 僕は震える手を必死に抑えながら、修理を再開した。

 

 

 

  数日が過ぎた後、ケイティ・ベルがホグワーツに戻って来たようだ。

 

 理由はどうあれ、彼女には悪い事をしてしまった。が…これも計画を遂行する上で仕方のない事だ…

 

 若干の心苦しさを感じながら、僕が大広間にやってくると、そこには、ポッターとケイティ・ベルが何やら話しているのが見て取れる。

 

「まさか…」

 

 全身に悪寒が走る。

 

 ポッターはこちらにゆっくりと振り向くと、目線が合う。

 

「くッ」

 

 今度は、全身から冷や汗が噴出し、心臓が弾けるほど早鐘を打つ。

 

 その場に居る事が出来なくなった僕は踵を返し、一刻も早く、この場から離れようとする。

 

「おい!」

 

 しかし、ポッターは早歩きで、僕を追いかけてきている。

 

 口が乾き、息の仕方すら忘れてしまう。

 

「チッ!」

 

 舌打ちをし、イラ立ちを込めながら、安全な場所を求めるように歩き続け、目に付いたトイレへと入り込む。

 

「はぁ…」

 

 溜息交じりに、蛇口を捻り、大量の水を出す。周囲に水音が響き、雑音がかき消される。

 

「ふぅ…」

 

 滝のように流れ出る水を手ですくい、何度か顔を洗う。

 

 水の冷たさが心地よく感じる。

 

 それに伴い、思考能力も回復し、頭がすっきりとした。

 

「君だろ! マルフォイ! 呪いをかけたのは!」

 

 トイレの入り口でポッターが大声を上げ、喚き散らしている。

 

「さぁ? 一体…何の事を言っているんだ? ポッター!」

 

 僕は冷静さを装い、洗面台に腰かけながらポッターと対峙する。

 

「僕にはわかる! 君が呪いのネックレスや、毒の入った酒を用意した事を!」

 

 揺るぎない確信を持っているのか、僕を犯人だと言い切るポッターの目がとても痛々しかった。

 

「なるほどなぁ…証拠でもあるのか?」

 

 ポッターを小馬鹿にするように疑問の声を上げる。

 

 とにかく今は、時間を稼ごう。それしかない。

 

「白を切るつもりか!」

 

「白を切るも何も、君の言っている事が理解できないのでね。もう少し考えてから発言してくれないか?」

 

 

 しばらくすればここにも人は来るはずだ、そうすれば…

 

「どうしても口を割らないっていうんだな…良いさ! なら!」

 

 ポッターは勢いよく杖を引き抜くと、魔法を放った。

 

「うわぁ!」

 放たれた閃光は、一瞬のうちに僕の眼前にまで迫って来た。

 

 僕はその場から飛び退き、ギリギリで魔法を回避する。

 

「何をするんだ!」

 

「良いから僕の質問に答えろ!」

 

 ポッターは再び杖を振るう。

 

「くぅ!」

 

 僕も杖を取り出し、反対魔法をかけ相殺する。

 

「何のつもりだ!」

 

「くそ!」

 

 ポッターは何の躊躇いも無く、三度杖を振るった。

 

「チッ!」

 

 初撃を反対呪文で防ぎ、僕はその場から走り出し、部屋の奥へと退避する。

 

「逃げるな!」

 

 怒り狂ったポッターは手当たり次第に魔法を乱射している。

 

 その魔法は、水道の配管に直撃し、周囲に雨の様に水が降り注ぐ。

 

「どこだ! どこに居る!」

 

 水飛沫によって視界が遮られたおかげか、ポッターは僕を見失ったようで、大声を上げている。

 

「ここか!」

 

 ポッターは怒声を撒き散らしながら、トイレの個室を乱雑に開けては、乱暴に閉めてを繰り返し、僕を探している様だ。

 その音に僕の心臓は再び早鐘を打ち、必死に声を押し殺し、息を潜める。

 

 

「くそ!」

 トイレの個室を半分程確認したところで、ポッターは悪態を付きながら、個室のドアを強く蹴っている。

 

 かなり音が近い、必死に息を潜め何とかやり過ごさなくては…

 

「素直に出てきたらどうだ! 早く出てきた方が身のためだぞ!」

 

 ポッターは水飛沫を受けながら、杖を振り、トイレの扉を爆破させ始めた。

 

 これは…不味い…

 

「ふぅ…ふぅ…」

 

 ある程度暴れたところで、息切れを起したようで、ポッターは肩を上下に動かしながら呼吸を整え始めた。

 

 今しかない!

 

 僕は、隙を見て入口へと走り出す。

 

「そこか!」

 

 走り出した瞬間、水浸しの床のせいで、周囲に水音が響き、ポッターはこちらに杖を向けた。

 

「ふざけるな!」

 

 逃げながら、ポッターを見据え魔法を放とうとする。

 

 しかし、数秒ほどポッターの方が早く杖を構えた。

 

「逃すか! セクタムセンプラ!」

 

「ぐぁ!!」

 

 ポッターが聞き覚えの無い魔法を放った瞬間、僕の右腕にまるで焼き鏝を押し付けられたかの様な感覚が走る。

 

「ぐぅ!!」

 

 その場に倒れ込んだ僕は咄嗟に左手で、右腕を押さえると、そこは鋭利な刃物で切り裂かれた様な傷が出来ており、傷口からは大量の血が流れて出て、僕の周囲を紅く染めている。

 

「さぁ…答えるんだ」

 

 僕の前に現れたポッターは、流れ出る血を見て、一瞬、驚いたような表情を浮かべたが、直ぐに厳しい顔になると、ドスの効いた声を出した。

 

「ハァ…ハァ…何度も言っているが…身に覚えが無いんでね…」

 

「とぼけるなよ」

 

「ハァ…そんな怖い声を出すなよ、傷口が痛むだろ…」

 

「もう一度だけ聞くぞ。お前が犯人だろ。マルフォイ…」

 

 ポッターの怒りや、憎しみ、殺意の困った声が響いた後、一瞬の静寂が訪れ。再び水音が周囲を満たす。

 

「ならもう一度言おう…いや…何度だって言ってやろう…身に覚えは無いとな…」

 

 僕がそう答えると、ポッターはまるで養豚場の豚を見る様な目で僕を見下すと、溜息交じりに口を開いた。

 

「つまりは…答える気はない…と」

 

 最早、何の表情のない顔で僕を見下ろすポッターは、淡々と口を開いている。

 

「もし仮に、そうだったとしても…誰が…お前なんかに言うものか!」

 

 痛む腕を押さえながら、精いっぱいの虚栄を張る。

 

「そうか…フフッ…そうか……なら…もういいよ…」

 

「理解してくれたかな…」

 

 ポッターは眼鏡のズレを軽く直すと、ゆっくりと口を開いた。

 

「なら、お前にはもう用はない」

 

 ポッターは、再び杖を振り、魔法を放った。

 

 その瞬間、静寂は崩壊し、破裂音が周囲を占拠した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  私がいつものように、朝食を取ろうと、大広間へ向かおうとすると、険しい表情のハリーが早足で何処かへ向かっている。

 

「なにかしら?」

 

 若干気になり、ハリーが消えた方向に歩みを進めると、そこには腕から血を流し、膝を付いているドラコに何の躊躇いも無く杖を突き付けているハリーの姿があった。

 

「なら、お前にはもう用はない」

 

 一切の感情が込められていない声で呟くと、ハリーはゆっくりと杖を掲げると、一気に振り下ろした。

 

 

 私は、ウィッチタイムを発動させ、周囲に飛び散る水飛沫の動きを確認しながら、ゆっくりと銃を構え、2人の間に向け、銃弾を放つ。

 

 放たれた銃弾は、ハリーの杖の先端から発生した魔法に直撃すると、そのまま、魔法をかき消し、奥の壁に弾痕を作った。

 

「なっ!」

 

 2人は同時にこちらに目を向けたので、私は軽くウィンクをする。

 

「朝から騒がしいわね。何事かしら?」

 

「セレッサ…」

 

「ベヨネッタ! こいつが! こいつが犯人なんだ!」

 

「へぇ…」

 

 私は2人の間に割り込むように入り込むと、背中越しにドラコに声を掛ける。

 

「これも、アンタの任務の一環かしら?」

 

「フッ…さぁ…どうだろうね」

 

 痛む腕を押さえながら、痛々しい声を上げたドラコは、必死に軽口を叩いている。

 

「おい…ちょっと待てよ…コイツの任務って…まさか君は知っていたのか!」

 

 ハリーは私に杖を突き付けながら、怒声を上げている。

 

「詳しくは知らないわ」

 

「じゃあ、任務ってなんだよ! 君もコイツの仲間か!」

 

 混乱しているのか、ハリーは杖を上下に振りながら、取り乱している。

 

「少し落ち着きなさい。そうね…ドラコが私を暗殺しようと計画していた事ぐらいなら知っているわよ」

 

「え?」

 

 それを聞いたハリーは間の抜けた声を上げている。

 

「まぁ…君に知られてしまった以上…その任務は失敗だけどね」

 

 ドラコは痛む腕を庇いながら立ち上がると、吹っ切れた様に笑って居る。

 

「どうなっているんだ…君達…良く分からないよ」

 

 混乱しているのか、ハリーは頭を抱えている。

 

「何事です!」

 

 そんな時、マクゴナガルの声が周囲に響いた。

 

「先生! これは…」

 

「怪我人がいる様ですね! とりあえず、怪我をしている生徒は医務室に行きなさい!」

 

 このままでは面倒に巻き込まれそうだ。私が目配せすると、ドラコは何かを察したように頷き、腕を押さえていた方の手を上げ、マクゴナガルに血が見える様にアピールしながら声を上げた。

 

「これじゃ、一人で行くのは難しい…誰か付けてくれませんか」

 

「そうですね…良いでしょう。セレッサ、付いて行ってあげなさい」

 

「わかったわ」

 

 私は、中指で眼鏡を直しながら、ドラコの肩を持つと、力を入れ立ち上がらせる。

 

「さて…行こうか」

 

「えぇ」

 

 私達は、ゆっくりと出口へと向かっていく。

 

「おい! ちょっと! どういう事だよ…」

 

 そんな私達の後姿を見送るハリーは、マクゴナガルに質問攻めを受けていた。

 

 

 

「また助けられてしまったね」

 

 

 腕を押さえながら、ドラコは申し訳なさそうに呟いている。

 

「アンタって毎年事故にあっているイメージがあるけど、呪われているんじゃないかしら?」

 

「ハハッ、確かにそうだね。そして、毎年君に助けられている…」

 

 ドラコはどこか悲しそうな表情で呟いている。

 

「さて…もうここまでで大丈夫さ」

 

 医務室の前まで着いた所で、ドラコが、ゆっくりと扉に手を掛ける。

 

「そう、お大事にね」

 

「あぁ…君も気を付けてくれ、闇の帝王はロプトと言う男を使って何か企んでいる様だ」

 

 ドラコは真剣な口調でそう言うと、扉を開けて奥へと消えていった。

 




これ、どっちが悪役か分かんねぇな。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スリザリンのロケット

そろそろ、物語に変化が生じますね。



 

   数日後、ハリー達は談話室で話し合いをしている。

 

 どうやら、ハリーはダンブルドアに与えられていた任務で、スラグホーンから何かを聞きだす必要があるようだ。

 

「まったく…運が無いみたいだぜ」

 

 ロンがそう呟くと、ハーマイオニーも頷いている。

 

 確かに、ハリーに運がある方とは言えない。あったとしても、悪運だろう。

 

「運…そうだよ! 運だよ!」

 

 急に騒ぎ出したハリーは、ポケットから、フェリックス・フェリシスの小瓶を取り出す。

 

「これで、幸運を呼び寄せる!」

 

 ハリーは言い切ると同時に、フェリックス・フェリシスの小瓶の栓を開け、中身を一気に飲み干した。

 

「どう?」

 

 ハーマイオニーがおもむろに聞くと、ハリーは立ち上がり、ハイテンションで答えた。

 

「最高! 最高にハイって奴だ!!」

 

「まったく、楽しそうね」

 

「うん!」

 

 私が呆れながら、口を開くと、ハリーはとてもいい返事で答えた。

 

「スラグホーンは、いつも早めに食事を済ませて、散歩をした後、それから自分の部屋に戻るわ」

 

 ハーマイオニーがスラグホーンの行動を口にする。しかし、いったいどうやって調べ上げたのだろうか?

 

「わかった…ハグリッドに会いに行ってくる!!」

 

 テンションの高いハリーは全く見当違いな事を口走る。

 

「え? 駄目よ! スラグホーンと話をするんでしょ!」

 

 ハーマイオニーが扉に向かうハリーに声を掛ける。

 

 しかし、ハリーは振り返ると、テンションが高いまま、口を開く。

 

「分かっているさ! でもね、今はどうしてもハグリッドの所へ行きたいんだ!」

 

 言い終えると、テンションが高いまま、ハリーは扉の向こうへと消えていった。

 

「あれ…どう思う?」

 

「さぁ? 放っておく方が良いわよ」

 

 ハーマイオニーの問いに、私は呆れた様に答えた。

 

 

 

  どうやら、フェリックス・フェリシスの効果はあったようで、ハリーは無事、スラグホーンと接触し、任務を果たしたようだ。

 

 

 そんなある日、私はダンブルドアに時計塔の最上階へと呼び出された。

 

 時計塔の階段を上ると、そこにはダンブルドアとスネイプが何やら話し込んでいる。

 

「吾輩に多くを求めすぎではありませんか? あまりにも…その聡明な頭脳でお分かりになりませぬか? 吾輩がそれを望んでいないことを」

 

「思い至ろうが、至らまいが、関係あるまい。もう決まった事じゃよ、セブルス。それに、君は同意した。これ以上話す事も無いじゃろう」

 

「フン!」

 

 スネイプは、踵を返すと、階段を急ぎ足で降りる。

 

「お取込み中だったかしら?」

 

「黙っていろ…」

 

 スネイプは、不機嫌そうに、私の横を通り抜けると、何処かへと消えていった。

 

「あまり和やかでは無いわね」

 

「おや…セレッサかの。すまぬの、こんな所に呼び出して」

 

 ダンブルドアは謝罪の心を感じられない、表面的な謝罪を済ませている。

 

「別にいいわよ。で? 要件は何かしら?」

 

「少し待つのじゃ」

 

 しばらくすると、ハリーが階段を上り、こちらに近付いて来た。

 

「おぉ、ハリー。髭が伸びておるぞ」

 

 ダンブルドアは、ハリーの顔を見るなり、いきなりそう指摘した。

 

「今朝、剃れなくて」

 

「成長したという事じゃ…じゃが、ワシは未だに君が、あの物置に居た小さな子供に見える。年寄りの感傷じゃよ」

 

「先生もお変わりないですね」

 

「君は母親に似て優しいの。皆それに甘えて――」

 

「長くなるかしら?」

 

 私は、壁に背を持たれながら、ワザとらしく、口に手をやり、欠伸をする。

 

「すまぬの、年を取ると、すぐこれじゃ…」

 

 ダンブルドアは苦笑いをすると、私達を見据える。

 

「今回、君達を呼び出したのは、ワシがこれから向かう旅に同行して欲しいのじゃ」

 

「アンタがツアーガイドって訳?」

 

「まぁ、そんな所じゃ。スリル満点の危険な旅じゃよ」

 

 ダンブルドアは冗談ぽく笑っているが、その目は真剣だ。

 

「故に、ワシの言う事には従ってもらいたい…ワシが、逃げろと言えば逃げ、隠れろと言えば隠れるのじゃ。分かったの、ハリー」

 

 ハリーはダンブルドアの目を見ながら、数回頷いた。

 

「まぁ、セレッサ。君に関しては、自分が思う最良の行動をしてくれれば良いぞ」

 

「そうさせてもらうわ」

 

 ダンブルドアはゆっくりと腕を差し出す。

 

「掴まるのじゃ」

 

「でも先生。学校で姿現しは出来ない筈じゃ…」

 

「まぁ、ワシは特別じゃよ………例外も居るようじゃがな」

 

 ダンブルドアは私を睨み付けるが、気にする事無く、その腕を取る。

 

「では行くぞ」

 

 

 次の瞬間、私達は何かに引っ張られる様に、別の場所へと消えた。

 

 

「ここは?」

 

 ハリーが周囲を見回して、混乱している。

 

 それもそうだろう。私達が現れた場所は、荒海の中に佇む、小さな岩場の上だ。

 

「分霊箱はどこに?」

 

「分霊箱?」

 

「今回の探しものじゃよ、詳しくは移動しながら話そう。向かうのはあそこじゃ」

 

 ダンブルドアは近くにある、洞窟を指差した。

 

 

 

 「つまりは、ヴォルデモートは分霊箱を何個も作ったって訳ね」

 

「その通りじゃ」

 

「道理であんな、ブサイクになるはずだわ」

 

 私のジョークにハリーは苦笑いしている。

 

「ここがそうじゃ…やはり、この場所には魔法の痕跡がある」

 

 ダンブルドアは巨大な岩盤の前で足を止めると、小さなナイフを取り出した。

 

「通る為には通行料が必要じゃ…」

 

 そう言うと、ダンブルドアは自らの手にナイフを突き立てた。

 

「先生!」

 

「これは、通行料じゃ。通るものを弱らせるのが狙いじゃよ」

 

「それなら僕が――」

 

「ならぬ…」

 

 ダンブルドアは落ち付いた口調で、ハリーの言葉を遮る。

 

「君たちの血は、ワシの血よりも貴重じゃ」

 

 

 ダンブルドアが壁に血を塗り付けると、仕掛けが作動したのか、洞窟が開けた。

 

 

「行くぞ」

 

 私達は、暗い洞窟をゆっくりと進んでいく。

 

 それにしても、足場が悪すぎる。ヒールで来るべきでは無かったか…

 

「ヴォルデモートは簡単に見つかるような場所に隠したりはしない筈じゃ…恐らく、防御の仕掛けがあるはずじゃ」

 

 しばらく歩くと、そこは巨大な地底湖の様になっており、湖の中心に、台座の様な物が鎮座している。

 

 その周囲には、様々な石像が鎮座している。

 

「あれじゃ」

 

 ダンブルドアは、その台座を指差しながら、考えを巡らせている。

 

「さて…問題はどうやって渡るかじゃ…」

 

 

 ダンブルドアは杖を軽く振ると、鎖の付いた船が手元にやって来た。

 

「これを使おう…じゃがこれは二人乗りじゃ」

 

「めんどくさいわね」

 

 私は、軽く指を鳴らすと、ウィッチタイムを発動させる。

 

 ウィッチタイムの中、私は水面を悠々と歩き、台座の場所まで移動する。

 

 到着と同時に、ウィッチタイムを解除し、ハリー達に声を掛ける。

 

「早くいらっしゃい」

 

「あれって…」

 

「ワシにもわからん…」

 

 二人は、疲れた様に船に乗り込み、こちら側にわたって来た。

 

「分霊箱はこの中に…」

 

「あぁ、間違いないじゃろう」

 

 疲れ果てた2人は台座の中を覗き込んでいる。

 

「それがそうなら、早くしなさい。私も暇じゃないのだけど」

 

「そうじゃの…」

 

 私も、台座の中を覗き込むと、そこには黒い水が張られており、その中にネックレスの様な物が沈んでいる。

 

 ダンブルドアは黒い水を見つめた後、ゆっくりと口を開いた。

 

「これを取り出すには…総て飲まねばならぬ…」

 

「あまり、体に良さそうには見えないわね」

 

「恐らく毒液じゃよ…じゃが…それしか方法は無い…」

 

 ダンブルドアは震える手で、近くにあったゴブレットに手を掛けようとする。

 

 その時、周囲を神々しく、忌々しい光が包み込んだ。

 

 その光を浴び、周囲の石像にヒビが入り、中から、巨大な爪を持つ4対の天使、グレイス&グローリー、そして、グラシアス&グロリアスが姿を現した。

 

 グレイス&グローリー

 紅い装甲を身に纏い、炎を纏うグレイスと蒼い装甲を身に纏い、雷を操るグローリーは双子の天使で、常に二体一組で神を護衛している。この天使は共に気性が荒く、天使の兵卒を率いる軍神として描かれることも多い。その腕に携えた巨大な爪の如き神具が、彼らのその荒々しさを象徴していると言えよう。人間たちの間で、双子がほかの人間よりも霊力が強いと信じられているのは、この天使たちの祝福があるためと信じられている。

 

 グラシアス&グロリアス

 天使の九階級における最上位の天使「熾天使」で、神への愛と情熱を司る、純白の鎧を纏ったグラシアスと、漆黒の鎧のグロリアスは、二体一組でいることが多いとされるが、その存在自体が伝説的であり、実在するかどうかも含めて諸説ある。強大な神力を持つはずの彼らが、魔の軍勢との戦の場に現れた記録がないのは、彼らが力を振るえば世界が崩壊するからとも、誰も生き残らず伝える者がいないからとも言われる。

 

 

 

「これは…」

 

「こんなに警備が厳重なんて、当たりみたいね」

 

 私は、4対の天使に向かい合い、銃を構える。

 

「下がってなさい」

 

 私が、背中越しに、指示を出すと、2人は大きく頷き、安全な所へ避難した。

 

「さて、これで遊べるわね。誰から相手してくれるのかしら?」

 

 台座に腕を置き、片手で銃を軽く煽り、挑発すると、4対の内の2体。グレイス&グローリーが、炎と雷を纏った爪を構え、私を引き裂こうと、飛び掛かって来た。

 

「惜しいわね」

 

 爪が私の体を切り裂く寸前、後方に飛び退き、ウィッチタイムを発動させる。

 

 両手の銃で、グレイスの胴体を撃ち抜くと同時に、グローリーにウィケットウィーブによる、ストレートをお見舞いする。

 

「「ぎゃ!」」

 

 ウィッチタイムが解除されると同時に、グレイスは地面に膝を付き、グローリーは後方へ吹き飛ばされる。

 

「良い物をあげるわ」

 

 膝を付いたグレイスの頭を掴むと、そのまま、毒液の満ちた台座の中に突っ込む。

 

「んぐぐぐう!!」

 

「遠慮はいらないわ、いっぱい飲みなさい」

 

 毒液を無理やり飲まされているグレイスはその体を、ジタバタさせている。

 

 数回同じ行動を繰り返すころには、グレイスの抵抗も弱まって来た。

 

「ご苦労様」

 

 ある程度、毒液の量が減ったのを確認し、グレイスの後頭部を銃で撃ち抜く。

 

 それと同時に、グローリーが雷を纏った爪を、私目掛け飛ばしてくる。

 

「無駄よ!」

 

 飛んできた、爪をマハーカーラの月で弾き返すと同時に、足に装備したアルーナをグローリーに絡ませる。

 

「アンタには水底がお似合いよ」

 

 足を思い切り引き、グローリー水面に叩きつけ、勢いそのまま、水底に沈める。

 

「さて、次はアンタ達かしら?」

 

「「グラァアァアアア!」」

 

 グラシアス&グロリアスが同時に咆哮を上げると、同時に飛び上がる。

 

 グラシアスは力を溜めた、爪を地面に叩きつけると、稲妻が周囲に飛び散り、私に襲い掛かる。

 

「フッ」

 

 迫り来る稲妻をバク転で回避するが、そこを狙ったかのようにグロリアスが炎を纏った爪を回転させながら、迫り来る。

 

「邪魔よ!」

 

 グロリアスに向け、銃を乱射する。

 

「グラァ!」

 

 グロリアスはその場で回転を止めると、腕に装備した分厚い爪を体の前に構え、迫り来る銃弾を受け流した。

 

「やるじゃない」

 

 ゆっくりと、銃を仕舞い込み、ポーチから、チェルノボーグを取り出し、眼前に構える。

 

「さぁ、来なさい」

 

 私の挑発に乗ったグラシアスが周囲の壁を飛び回りながら、素早く近寄ってくる。

 

「そこね」

 

 迫り来るグラシアスにチェルノボーグの鎌を突き付け、手元のレバーを引く。

 

「ギャぁ!」

 

 チェルノボーグから放たれた3枚の刃は、至近距離まで迫り来ていたグラシアスに3枚ともすべて突き刺さり、その胴体を切り裂いた。

 

「何時までそこで見ているの? かかってらっしゃい」

 

 チェルノボーグを仕舞い込み、銃を左右に振り、グロリアスを挑発する。

 

「グアァァアァアアア!!」

 

 怒り狂ったグロリアスが両爪から炎を撒き散らしながら、突進してくる。

 

 私は、両手の銃を眼前に構え、一斉に発射する。

 

「グアァァアァアアア!」

 

 グロリアスは迫り来る弾丸を避けようとはせず、総てその身で受け止め、仮面が破壊されながらも、突っ込んで来る。

 

「なかなかやるじゃない」

 

 眼前まで迫り来るグロリアスに対し、私はヒールストンプをお見舞いし、ウィケットウィーブによるマダムの足で踏み付ける。

 

「ぐがぁ…」

 

 マダムに踏み付けられたグロリアスは苦しそうな声を上げながら、恨めしそうにこちらを睨み付けている。

 

「惜しかったわね、じゃあ、ご褒美をあげるわ」

 

 私は、台座に置かれているゴブレットを手に取り、中の毒液を掬う。

 

「さぁ、口を開けなさい」

 

 中腰になり、グロリアスの頭部を掴み、無理やり顔を上げさせ、口を開かせる。

 

「こぼしちゃダメよ」

 

「んぐぐぐ!! う!」

 

 口に無理やり毒液を流し込まれたグロリアスは苦しそうにその身を震わせている。

 

「まだまだあるから、たくさん飲みなさい」

 

 再び台座から毒液を掬い取り、同じように口に流し込む。

 

「ンぐぐ!!」

 

 グロリアスはゴブレットの中身を飲み干し、先程よりも力無く、項垂れている。

 

 私は、再びゴブレットの中に台座の毒液を掬いとる。どうやらこの1杯で綺麗に中身が終わる。

 

「これで終わりね」

 

 私は、ゴブレットをゆっくりと持ち上げ、グロリアスに見せつける。

 

「あら…そうだわ」

 

 ゆっくりと振り返り、ダンブルドアにゴブレットを軽く掲げる。

 

「アンタも飲むかしら?」

 

「いいや…ワシは遠慮しよう」

 

「僕もいいや…」

 

「そう、良かったわね。全部アンタの物よ」

 

 私は、最後の1杯をグロリアスの口に流し込む。

 

「ごっ…っぐぐ…」

 

「はぁい、おしまい。じゃあ…さようなら」

 

 先程までのご褒美にグロリアスの脳天に銃を押し付け、弾丸を放つ。

 

「ギャッ!」

 

 脳天を撃ち抜かれたグロリアスは、小さく悲鳴を上げると、その場に倒れ込んだ。

 

「さて…これがお目当ての物ね」

 

 私は、台座からネックレスを取り出すと、ダンブルドアに投げ渡す。

 

「悪趣味なネックレスね」

 

「まぁ…趣味はともかく、これが目的の品じゃ…感謝するぞセレッサ」

 

「僕…何の為に連れて来られたんだろう…」

 

 ハリーの疑問をダンブルドアは軽く流し、ホグワーツへと、姿現しをする事にした。

 

 




グラシアス&グロリアスにはどれ程苦しめられたか…

初見で何度痛い目を見た事か…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

アルバス・パーシバル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドア

ついに、物語も終盤です。




  夜遅く、僕は同室の生徒を起さないようにゆっくりと寝室から抜け出し、暗雲立ち込める中、必要の部屋へと入り込んだ。

 

「まだだ…」

 

 僕の目の前には、8割程度まで修理が完了した『姿をくらますキャビネット』が鎮座していた。

 

 今の状態では、物質の移動は可能だが、命ある者の移動はまだ安定しない。現に何匹もの小鳥が犠牲になった。

 

「おやおや…こんな夜中に、こんな場所に居るとは、感心しないなドラコよ」

 

 ふいに背後から、声が響き、僕は驚きながら振り返る。

 

「スネイプ…先生…」

 

 そこには、普段と変わらない表情のスネイプ先生が、杖を構えながら立っていた。

 

「まだ修理はできておらぬのか? ん?」

 

「まだですよ…それより何の用です…」

 

「貴様が、夜遅くに出歩くのが見えてな。()()として、注意しに来たのだ」

 

「そうですか…」

 

 声のトーンに変化の無い、スネイプ先生に対して、僕は若干の苛立ちを覚えながら、反論する。

 

 その時、急に『姿をくらますキャビネット』が音を立て始めた。

 

「バカな…まだ修理は…」

 

 しばらくすると、扉が開き、中から、青白い光を放った男。ロプトが姿を現した。

 

「おやおや、お2人が揃ってお迎えとは、気が利きますね」

 

「まだ修理は完全ではない筈…」

 

「えぇ、普通の人間ならこちらに来る頃には、ただの肉塊になっていたでしょう。ですから、私が来たのですよ」

 

 ロプトは変化の無い表情で笑いながら、部屋の扉に手を掛けている。

 

「さて…それでは案内していただきましょうかね…ダンブルドアの所まで」

 

 ロプトは張り付いた笑みを浮かべながら、感情なく呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

  私達は、来た時と同じように、時計塔の最上階に姿を現した。

 

「ふぅ…」

 

 ダンブルドアは溜息をすると、ハリーにスリザリンのロケットを預けた。

 

「これを持って居てはくれぬか」

 

「……はい…」

 

 ハリーは、少し不安気に返事をすると、スリザリンのロケットをポケットに押し込んだ。

 

 その時、下の階の扉が開く音が聞こえた。

 

「あれは…」

 

 そこには、ロプトを引き連れた、ドラコとスネイプの姿があった。

 

「ハリー! 隠れるのじゃ!」

 

「ですが!」

 

 ハリーはダンブルドアに反論しようと、声を荒げている。

 

「すまぬの…ハリー…」

 

 ダンブルドアが軽く杖を振るうと、ハリーはその場で石のように固くなり、身動き取れない状況になった。

 

「あら? 何のつもり?」

 

「しばらく、大人しくして居てもらうのじゃよ」

 

 再びダンブルドアが杖を振るうと、どこからかマントの様な物が現れ、ハリーの上に覆いかぶさった。

 

「透明マントじゃよ。これで隠れていてもらうのじゃ…」

 

 ダンブルドアは何処か寂しそうな表情で、ハリーを見ていた。

 

 その時、階段を上り切ったドラコが杖を構えた。

 

「ダンブルドア…セレッサ…」

 

「おや、ドラコかの? 良い夜じゃの。何をしに来たのじゃ?」

 

「それは…」

 

「これがアンタの任務かしら?」

 

 私が、そう問いかけると、ドラコは数度頷いた。

 

「なるほどの…呪いのネックレスや、毒入りの蜂蜜酒…総てはワシの暗殺が目的かの?」

 

「そうだ!」

 

「奇遇ね、私も暗殺対象だったのよ」

 

「ほぉ…それはそれは…奇遇じゃの」

 

 私達を前にして、ドラコは震える手を押さえながら、必死に杖を構えている。

 

「君には人は殺せぬよ…」

 

「こうするしか…こうするしかないんだ! でなければ僕が殺される!!」

 

 ドラコは涙交じりの嗚咽を上げながら叫んでいる。

 

「そうか…では、やるが良い」

 

 ダンブルドアは杖をしまうと、両手を上にあげている。

 

「どうしたのじゃ? 早くやらぬか?」

 

 ダンブルドアはゆっくりとドラコを挑発している。

 

「吾輩の生徒を煽るのはその辺にされてはどうですかな? ダンブルドア校長」

 

 ドラコの背後から、スネイプ、そして…

 

「初めましてというべきですね、アルバス・パーシバル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドア。そして…お久しぶりですね。ベヨネッタ」

 

「アンタまで来ているなんてね。どうやって連れ込んだのかしら?」

 

「姿をくらますキャビネットだ…僕があれを修理した」

 

「そうか…なるほどのぉ、よく考えたの」

 

 ダンブルドアは数回頷いている。

 

「さて…ドラコ…何を躊躇っているのです。早く殺しなさい」

 

 ロプトは囁く様な声で、ドラコに命令を出している。

 

「くそ…」

 

 私はその場で銃を構え、引き金を引いた。

 

 放たれた弾丸は、悲し気な表情を浮かべているドラコを掠めるように左頬の付近を通過した。

 

「おや」

 

 放たれた銃弾は、ロプトの脳天に命中するが、何食わぬ顔で立っている。

 

「私を忘れないで貰えるかしら?」

 

「そうでしたね…良いでしょう。ではドラコ。先にベヨネッタを始末しなさい」

 

「え?」

 

 ドラコは間の抜けた声で、ロプトを見ている。

 

「ヴォルデモート卿のご命令ですよ。まぁ、ダンブルドアさえ殺せれば、あのお方は満足でしょうけどね」

 

「口を慎め、ロプト」

 

「おやおや…怖い顔をなさらないでくださいよ。セブルス」

 

 ロプトは煽る様に、スネイプを小馬鹿にしている。

 

「退くのだドラコよ…ここは吾輩が変わろう」

 

「いいえ、セブルス。その必要はありませんよ」

 

 スネイプの具申をロプトが遮った。

 

「フッ…やはり、貴方には無理でしたか。まぁ良いでしょう」

 

 ロプトが指を鳴らすと、4体の天使が現れ、ドラコの四肢を掴むと、宙に飛び上がった。

 

「うわぁ! 離せ! この! 助けて!」

 

 天地達は、宙に浮かんだドラコの四肢を引っ張り、そのまま引き裂こうとしている。

 

「ドラコ!」

 

「早く助けないと、バラバラになりますよ」

 

「クッ!」

 

 私は両手に銃を構えると、左右の銃を2発ずつ放ち、総ての天使の脳天を撃ち抜く。

 

「う…あ…」

 

 落下を始めたドラコに駆け寄り、その体を受け止める。

 

「あ…あっ…セレッサ…」

 

 ドラコは私の腕の中で、眠る様に気を失った。

 

「アバダケダブラ」

 

 その時、ロプトの声が響き渡る。

 

 振り返ると、そこには、ロプトが放った緑色の閃光がダンブルドアの胸を突き抜ける光景が広がっていた。

 

 

「あ…ぐ…」

 

 緑色の閃光に胸を貫かれたダンブルドアは断末魔すらあげずに、そのまま後ろに倒れ込むと、時計塔の最上階から、その身が重力に従い落ちて行く。

 

 数秒後、鈍い音が周囲に響き渡る。

 

「何とも呆気の無い…これが今世紀最強の魔法使いですか」

 

 ロプトは興味なさげに呟くと、その場から立ち去ろうとする。

 

「待ちなさい」

 

 私は銃を構えると、後ろを向くロプトに突き付ける。

 

「この私がこのまま逃すと思っているの?」

 

「そうですねぇ…確かに…簡単には逃げれないでしょう…ですが…」

 

 ロプトは不敵に振り返ると、スネイプを見据えた。

 

「ぐぅ!」

 

 ロプトが軽く手を振ると、スネイプが腹部から血を流しながら、その場に倒れ込む。

 

「このまま放っておけば、この男は確実に死にますよ」

 

「アンタって…本当にゲス野郎ね」

 

「フフッ…」

 

 ロプトが意味深な笑みを浮かべると、その場から消え去った。

 

「はぁ…まったく。世話が焼けるわね」

 

 私は銃を仕舞い込むと、スネイプの元に駆け寄る。

 

「薬を…ポケットにある…薬を…」

 

 スネイプは苦しそうに、呻き声を上げている。

 

 私は、スネイプの言う通り、ポケットから、小瓶を取り出し、手渡す。

 

 その時、小瓶と一緒に何かが、ポケットから、零れ落ちた。

 

 

「この! ふざけるな! くそ!」

 

 起き上がったハリーは怒声を上げながら、スネイプに駆け寄ると、殴ろうと拳を振り上げている。

 

「やめなさい」

 

 ハリーのストレートを私は手の平で受け止めると、そのまま、軽く捻る。

 

「ぐぅう!」

 

 手首を捻られた痛みからか、ハリーは苦痛に歪んだ表情を浮かべている。

 

「落ち着きなさい。とりあえず誰でも良いわ。教員を呼んできなさい。急いだ方が良いわよ」

 

「くそ! 分かっているよ!」

 

 ハリーは腕を振りながら、階段を走り降りていく。

 

「これは…」

 

 私は、スネイプのポケットから零れ落ちた、物を拾い上げる。

 

「口紅?」

 

 スネイプの持ち物だろうか? それにしては女物だ。

 

 口紅をしない女の子は居ても、女の子の居ない口紅は不自然だ。

 

 銀色のカバーに入った口紅の裏には、『親愛なるリリーへ、半純血のプリンスより、愛を込めて』と彫られている。

 

「それをっ! 返せ…!!」

 

 苦しそうな声を上げながら、スネイプはこちらを睨み付けている。

 

「これはアンタの物ね」

 

 スネイプの前に口紅をかざすと、引っ手繰る様にその手に納める。

 

「あぁあ…」

 

 スネイプは口紅を口元に押し付けると、悲しそうな声を上げている。

 

「不思議ね。女物の口紅をアンタが持っているなんてね」

 

「これは…吾輩が…リリーに送るはずだった物だ」

 

「リリー?」

 

「………ポッターの…母親だ…」

 

 スネイプは今にも消えそうな、小声で呟く。

 

 なるほど…思い出の品の様だ。

 

「そう…大切な物なのね。それなら、失くさないようにしなさい」

 

「あぁ…私の…愛の…あか…し…だ」

 

 スネイプはその場で気を失ったようで、眠りについた。

 

「何事です!」

 

 その時、ハリーがマクゴナガルを連れてやって来た。

 

 マクゴナガルはこの惨状を見て混乱している。

 

「この男が! スネイプとマルフォイが裏切ったんだ!」

 

「何ですって!」

 

 混乱しきっているのか、マクゴナガルはハリーの言葉を真に受けている。

 

「そんな事は後にしなさい。急がないと死ぬわよ」

 

 私は、スネイプを指差すと、マクゴナガルは憎しみを込めた表情で杖を振ると、その体を持ち上げた。

 

「医務室へ運びます…ここで死なれては困るので…」

 

 マクゴナガルは冷静さを取り戻したわけではないが、2人を医務室に運ぶのが最優先と判断したのか、魔法で2人を移動させ始めた。

 

 宙に浮いているスネイプの手には、しっかりと口紅が握られていた。

 




なんてこったダンブルドアが殺されちゃったよ! この人でなし!


はてさて、どうなることやら(すっとぼけ)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

悪魔の取引

ここから、原作と大きく世界線がズレ始めます。




 

 

 

 

   学校の全生徒が、ダンブルドアの亡骸を取り囲み、悲しみに暮れている。

 

 ハリーはダンブルドアの亡骸に泣きついているほどだ。

 

 1人が杖を掲げると、それに呼応するように、その場に居た全員が杖を掲げた。

 

 皆、ダンブルドアを悼んでいるのだろう。

 

 その後、マクゴナガルの立案により、数日中に葬儀が執り行われる事となり、現在は校長室に死体が安置される事になった。

 

「さて…と」

 

 私は誰も居ない、廊下を歩き、校長室のドアを遠慮なく蹴破るとダンブルドアの亡骸の前に立つ。

 

「アンタには、まだ働いてもらうわよ」

 

 

 私は、杖をダンブルドアの亡骸に突き立てると、杖に力を籠める。

 

 

  しばらくすると、聞き慣れたBGMが耳に響く。

 

 子供の姿でこの店に来るのはやはり違和感がある。

 

「ベヨネッタか、おいおい、この店は死体安置所じゃないんだぜ」

 

 ロダンは呆れながら、首を左右に振っている。

 

「そいつがダンブルドアか? フッ、今世紀最強の魔法使いと言えど、死んでしまっては意味が無いな」

 

 ジャンヌはカウンターで飲みながら、バーニャカウダを堪能している。

 

 後で私も頂こう、ニンジンスティックの残りはまだあるようだ。

 

「そうね。まぁ簡単に死なれたら困るけど」

 

 私は、店内の棚を開けると、ある物を取り出す。

 

「そいつを使うのか? 5000ヘイロウだぜ」

 

「えぇ」

 

 私は、ロダンに代金を払うと、紅い薬液が充填された注射器、『レッドホットショット』を取り出した。

 

 レッドホットショット

 魔女を死の淵から救うと言われている奇跡の秘薬だ。

 

「こんな奴に効果があるのか?」

 

「さぁ、どうかしら? とりあえずやってみるわ」

 

 私は、床に投げ捨てたダンブルドアの亡骸の胸に注射器を突き刺すと、中の秘薬を注入する。

 

「され、これでよし」

 

 数秒が経った後、床の上で、ダンブルドアの亡骸はバタバタと痙攣を始めると、急に眼を開いた。

 

「あぁぁっぁぁぁぁぁっぁあぁぁあああああ!!!」

 

 そして、ダンブルドアは咆哮を上げながら、息を吹き返した。

 

「うるさい老人だな、ボケでも始まったか?」

 

 ジャンヌは呆れた様に呟きながら、バーニャカウダソースにベジタブルスティックをディップしている。

 

「ここは…ここはどこじゃ! ワシは…」

 

 起き上がったダンブルドアは、周囲を見回し、頭を抱えている。

 

「お目覚めの様ね。気分はどうかしら?」

 

「なんとも…最悪な目覚めじゃよ…どうなっておるのじゃ…ワシは確か…」

 

「えぇ死んだわよ。殺されたって言うべきかしら?」

 

「その筈じゃ…じゃがどうして…」

 

 

 私は、ジャンヌの横に腰かけると、野菜スティックを手に取った。

 

「助けてあげたのよ。感謝しなさい」

 

「助けた…君が?」

 

「えぇ、そうよ」

 

 私は、軽くウィンクをすると、ダンブルドアは戸惑ったように周囲を見回した後。軽く咳払いをした。

 

「そうか…助かったぞ。ここが何処かは分からぬが…ワシはホグワーツへ戻らねばならぬのじゃ」

 

「そうかい。出口はあっちだぜ」

 

「そうかの。ではワシはこれで、失礼しようかの」

 

 ダンブルドアは、表面上落ち着いているが、内心焦っているのか、足早に店から出ていった。

 

「行かせて良かったのか?」

 

 ジャンヌがつまらなそうに聞いて来るが、私は手にした野菜スティックをバーニャカウダソースにディップしながら答える。

 

「良いのよ。どうせすぐ戻ってくるわ」

 

「そうか」

 

 数分後、勢い良く店の扉が開かれ、肩で息をしながら、焦った表情のダンブルドアが入って来た。

 

「ね。言ったでしょ」

 

「そのようだな」

 

 私達は焦燥しきったダンブルドアを見ながら、軽くグラスを傾けている。

 

「ここは! ここはどこなのじゃ!!」

 

「どこって、人間界よ」

 

「そんな事は分かっておる! ここは! ワシの知るマグルの世界ではない!」

 

 ダンブルドアは顔色を変えながら、怒声を上げつつ店の中へと入って来た。

 

「なんだ。説明してなかったのか?」

 

「聞かれてないもの」

 

「それもそうだな」

 

 私達は、顔を見合わせると、互いに笑いあう。

 

「どういう事なのじゃ!!」

 

「あまり大声を出すんじゃねぇぞ。少し落ち着いたらどうだ」

 

 カウンター越しにロダンがダンブルドアを見ながら呆れた様に口を開いた。

 

「落ち着けじゃと! これが落ち着いていられるものか!!」

 

 狂ったように大声を上げたダンブルドアは杖を引き抜くと、ロダンに突き付けた。

 

「待ちな。俺の店でこれ以上暴れるなら、容赦はしないぜ」

 

「黙るのじゃ!」

 

 ダンブルドアは舌打ちをすると、ロダンに向け魔法を放とうとした。

 

 だが、ダンブルドアから魔法が放たれる事は無かった。

 

 それよりも早く、ロダンがベジタブルスティックを右手に構え、ダンブルドアに魔法を放ったようだ。

 

「なんじゃと…」

 

 絶望した表情でダンブルドアは、右手にベジタブルスティック、左手に自身の杖を持っているロダンを眺めていた。

 

「少しは落ち着いたか?」

 

「あ…あぁ…すまぬ」

 

 ダンブルドアは、椅子にゆっくりと腰かけると、溜息を吐いた。

 

「すまぬが水を1杯…貰えぬか」

 

 ロダンはカウンターの上を滑らせるように、水の入ったグラスをダンブルドアの前に置く。

 ダンブルドアは水を受け取ると、一気に流し込んだ。

 

「ふぅ…すまぬの、取り乱してしまった」

 

 落ち着きを取り戻したダンブルドアは謝罪をしているが、ロダンはそんな事は気にせず、取り上げた杖を眺めていた。

 

「これは、ニワトコの杖だな」

 

「そうじゃ…お主…分かるのか?」

 

「まぁな。死の秘宝くらいは知っているぜ」

 

「死の秘宝?」

 

 私が疑問に思うと、ロダンが楽しげに語りだした。

 

「その昔、どこぞの馬鹿が3人の人間欲しさに、人間には過ぎた力を与えちまったのさ。まぁ、詳しくは『吟遊詩人ビードルの物語』でも読むんだな。それでそのうちの1つがこの、ニワトコの杖だ」

 

 ロダンはゆっくりと杖を掲げると。先程まで手に持っていたベジタブルスティックを齧っている。

 

「だがこの杖の忠誠心は、お前にも俺にも無いみたいだな」

 

「へぇ。忠誠心ね…今は誰にあるのかしら?」

 

「そうだな…今はお前にあるようだぜ、ベヨネッタ」

 

 ロダンはニワトコの杖を軽く振りながら、私を見ている。

 

「私に?」

 

「そうだ。で? どうするんだコイツは?」

 

「いらないわよそんな杖。私にはこれがあるもの」

 

 即答した私は、ポーチから杖を取り出して、指先で遊ばせる。

 

「俺の作品の方が上なのは保証するぜ。ならコイツは俺が貰っておこう」

 

 ロダンはそう言うと、ニワトコの杖をカウンターの下へと仕舞い込んだ。

 

「すまぬが…この世界に付いて説明してくれぬか」

 

 ダンブルドアは周囲を警戒しながら、重い口を開いた。

 

「この世が三位一体構造になってるのは知って居るか?」

 

 ロダンは嬉しそうに説明を始めた。

 

 これは、ロダンお得意の魔法大学が開校しそうだ。

 

「確か…天界・人間界・魔界から作られる事じゃろ」

 

「そうだ。そして、それらを繋ぐ通路のような場所が『プルガトリオ』つまり、お前達の世界だ」

 

「どういうことじゃ…」

 

 ダンブルドアは何かを察したようだが、それを認めようとはしなかった。

 

「お前達の居る世界は、プルガトリオの中にある、特異点の様な物だ」

 

「つまり…ワシ達の居る世界が異常で、お主達の居る世界が正常だと…」

 

「どちらが異常で、どちらが正常なんて言い切れないが。そう考えるならそうでも構わないぜ」

 

 ロダンは親指の炎で葉巻に火をつけると、口から煙を吐いている。

 

「そうか…そうか…」

 

 ダンブルドアは数回頷いた後、何かを決心した様に立ち上がった。

 

「ワシはホグワーツへ戻ろう…すまぬが、ワシ等の世界へ戻してはくれぬか?」

 

「いいぜ。だがタダでとはいかないぜ」

 

 ロダンはワザとらしくダンブルドアに煙を吐きかけている。

 

「分かっておるわ…じゃが、今のワシに多くは望まんでくれよ」

 

「大した物じゃ無い。お前が持っている『蘇りの石』で良いぜ」

 

「はて…なんのことじゃろうな…」

 

 ダンブルドアはとぼけた様に、首をかしげている。

 

「とぼけても無駄だぜ。その石と秘薬のおかげで蘇ったようなもんだぜ。ポケットに入っているだろ。さっさと出しな」

 

「これの事かの…」

 

 諦めたのか、ダンブルドアはテーブルの上に黒い石が嵌められた小汚い指輪を置いた。

 

「コイツだ…ん? どうやら余計なものまで憑いてやがるな」

 

 ロダンは一度葉巻を吸うと、先端の灰が落ちる。そして、そのまま葉巻を指輪に押し付けた。

 

「あぁぁっぁぁぁぁぁっぁあぁぁあああああ!!!」

 

 次の瞬間、叫び声の様な物が木霊し、黒い煙が周囲に立ち込めた。

 

「邪魔だ」

 

 ロダンが軽く手を振ると、その煙は何処かへと消えていった。

 

「なにを…したのじゃ…」

 

「邪魔なものを消しただけさ。どこぞの馬鹿が、これを分霊箱になんぞしたようだったからな」

 

 黒い石を掲げて、ロダンは微笑んでいる。

 

「方法を! 分霊箱を破壊する方法を教えてくれぬか!」

 

 カウンターに身を乗り出しながら、焦った表情のダンブルドアはロダンに迫っている。

 

「まぁ、待ちな。教えてやってもいいが、1つ条件がある」

 

「それは…なんじゃ」

 

「死の秘宝の2つ。『ニワトコの杖』・『蘇りの石』がここにある」

 

「そうじゃ」

 

「最後の1つ。透明マントを持ってきな。そうしたら教えてやるぜ」

 

「………それは…本当か?」

 

(悪魔)は嘘はつかないぜ」

 

 ロダンはニヤニヤと笑いながら、ダンブルドアを睨み付けている。

 

「死の秘宝ね…そんな悪趣味な物を集めて、アンタは何しようとしてるの?」

 

「なぁに、ただのコレクションさ」

 

 そう言うと。ロダンはニワトコの杖と同様に、蘇りの石を仕舞い込んだ。

 

「さて、用事が済んだらさっさと帰りな」

 

 軽く、指を鳴らすと。出口のドアを指差している。

 

「あっちが、魔法界への出口だ」

 

「わかった…では行こうかの」

 

「そうね。じゃあまたね」

 

 私は、先に出ていったダンブルドアの後を追う様に、店を出ていった。

 




と言う訳で、ダンブルドアは無事蘇りました。

一応、蘇りの石とレッドホットショットの相乗効果で蘇る事が出来たような感じです。


ロダンが扱えば、ベジタブルスティック>>>越えられない壁>>>ニワトコの杖という感じですね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6年目が終わり

これで、謎のプリンス編が終わりますね。




(ノンストップ)

 

   学校に戻ってからダンブルドアは一芝居打つ事にしたようだ。

 

 まったく、悪趣味な老人だ。

 

 大広間で皆が悲しみに暮れ、日刊予言者新聞の記者が写真を取っている中。マクゴナガルがスピーチをしている。

 

「我々は…とても大きな存在をなくしました…それはとても…とても悲しい事です」

 

 多くの生徒から嗚咽が漏れ、重い空気が流れている。

 

 そんな時、ダンブルドアは大広間の扉の前に立っていた。

 

「ド派手に頼むぞ」

 

「アンタそんなキャラだったかしら?」

 

「さぁの?」

 

 ダンブルドアは軽く微笑み、顔を逸らしている。

 

「まぁ良いわ…行くわよ」

 

 私は大広間のドアを蹴破った。

 

「何事ですか!」

 

「いやのぉ。皆、誰の葬儀を行っているのかと思ってな。派手な登場をしようとしたのじゃよ」

 

「ダンブルドア…」

 

 その場の全員がダンブルドアを見ては、本人かどうか疑っている。

 

「皆疑うのも無理も無かろう。じゃがワシは本人じゃよ。それにゴーストではない。ほれ」

 

 そう言うと、ダンブルドアは自身の足を見せるという、誰の得にもならないサービスを行った。

 

 その瞬間。大広間に歓声が木霊した。

 

「生きていたんですね!」

 

「それは少し違うの。一度死んで、蘇ったのじゃよ」

 

「え?」

 

 ダンブルドアの前でマクゴナガルは首をかしげている。

 

「まぁ、ちょっとしたサプライズじゃよ」

 

 ダンブルドアは私を見た後、マクゴナガルを見ている。

 

「さて、皆の衆。心配かけたの。これはワシからのせめてもの詫びじゃ」

 

 ダンブルドアは予備の杖を振ると、周囲に花火が打ち上った。

 

 それを見て、多くの生徒が歓声を上げている。

 

「さて…ミネルバよ。セブルスはどこじゃ?」

 

「あの男なら、医務室ですよ。ドラコ・マルフォイも一緒です」

 

 マクゴナガルは不機嫌そうにそう答えた。

 

 恐らくハリーからあの2人が裏切り者だとでも聞いたのだろう。

 

「そうか。誤解しているようじゃが。あの2人に罪は無いぞ」

 

 ダンブルドアはそう言い残すと、1人医務室へと向かっていった。

 

 

 

 

  学校内は、悲しみに包まれていた。

 

 それもそうだ。校長であるダンブルドアが闇の帝王の部下、ロプトによって殺されたのだから。

 

 僕とスネイプ先生は誰も居ない医務室で横になりながらその空気を味わっている。

 

 それも仕方ないだろう。

 僕等がロプトを手引きしたといっても過言ではないのだから。

 

 皮肉にも、僕は与えられた任務を全うできたという事だ。

 

 僕は左腕を上げると、袖を捲り、刺青の入っていない腕を見る。

 

 本当は闇の印を彫るつもりだったのだが、半人前には彫る資格が無いと父上に反対され、未だに綺麗なままだ。

 

 今に思えば、父上なりの配慮だったのかもしれない…

 

 まぁ、皮肉にも任務を成功させ、一人前になったのだから、闇の印を彫ることになるのだろう…

 

 

「ドラコよ…」

 

「なんですか…」

 

 掠れた声のスネイプ先生が顔を見ずに話しかけてきた。

 

「我々はこの後どうなると思う」

 

「さぁ…死喰い人が魔法省を乗っ取れば僕等は生きるでしょう。ですがその前に、ホグワーツで私刑を受けるかもしれませんね」

 

「そうだな…」

 

 その時、医務室の扉が開かれた。

 

「ごきげんよう2人とも」

 

「ダンブルドア!」

 

「生きて…おられたのですか…」

 

 僕達は目を疑った。

 

 目の前には、殺されたはずのダンブルドアが満面の笑みで立っていたのだから。

 

「セブルス。汚れ仕事を押し付けてしまったの」

 

「別に…この程度は…」

 

「そうか…さて。ドラコよ」

 

 ダンブルドアはゆっくりと僕に振り返った。

 

「現状、君の取れる選択は3つじゃ。一つはこのままアズカバンへ行くこと。一つは死喰い人の餌食になる事じゃ」

 

「う…」

 

 思わず吐き気がこみあげて来る。

 

「そして…ワシら側に付く事じゃ」

 

「貴方側に…」

 

「そうじゃ。じゃがこれには大きな危険が伴うじゃろう。君とセブルスには引き続き死喰い人として潜入して貰いたいのじゃ」

 

「つまり…スパイをやれと…」

 

「その通りじゃ」

 

 ダンブルドアはゆっくりと頷いている…

 

 実質、僕に与えられた道は1つだ。

 死喰い人を出し抜きつつ、ダンブルドアに情報を流さなければならない。

 少しでもミスをし、バレれば命は無いだろう…

 だが…最早それしか道は無い。

 

 

「わかった…だが1つ条件がある…」

 

「なんじゃ? 言ってみよ」

 

「両親も…もし、両親を説得してそちら側に付くと言ったら。受け入れる準備をして欲しい」

 

「わかった…そうしよう」

 

 ダンブルドアは大きく頷くと、踵を返した。

 

「君がご両親を説得できることを祈っておるよ」

 

 そう言い残すと、ダンブルドアは何の興味も無さそうに、医務室から出ていった。

 

 

 

 

 

 

  翌日の日刊予言者新聞は過去最高の売り上げを叩きだしたようだ。

 見出しには大きく。

『ダンブルドア復活!!』と書かれており。

 多くの人間がそれを喜んでいる様だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  数日後、僕はダンブルドア同行の元、両親に会う事にした。

 

 僕を見た両親は驚いていたが、それと同時に喜んでいた。

 

「ドラコよ。よく無事だったな」

 

「えぇ…父上。早速ですがお話があります」

 

「なんだ? 言ってみろ」

 

 僕は大きく息を吸い、気持ちを落ち着ける。

 

「闇の帝王を裏切り、ダンブルドア側に付く気はありませんか」

 

「なにを…言っているんだ」

 

 父上だけではなく、母上までも驚愕の表情を浮かべている。

 

「言いたい事は分かります。ですが、ダンブルドアは蘇り、闇の帝王は内心焦っている筈です。このままでは死喰い人が確実に勝利できるとは言い切れません」

 

「だがな、もしダンブルドア側に付いたからといって。勝利できるという確証も無いだろう」

 

「えぇ…ですが彼女が居ます」

 

「彼女?」

 

「えぇ。セレッサです。父上も神秘部で彼女の強さを目の当たりにしたのでは?」

 

「そ…それは…そうだが…」

 

 父上は苦しい表情を浮かべている。

 

「ドラコは…どうしたいの?」

 

 母上が重い口を開いた。

 

「僕は…僕はダンブルドア側に付こうと考えています」

 

「本気か…」

 

「はい。もしダンブルドア側に付くなら、家族を受け入れる準備が有るという話です」

 

「そうか…だが。どうしてダンブルドアはそこまでするんだ?」

 

「それは…僕がスパイとして死喰い人の情報を提供するというのが条件です」

 

「危険すぎる!」

 

 先程まで温厚そうな表情だった父上が怒声を上げた。

 

「じゃがの。それが条件じゃよ」

 

 奥の扉からダンブルドアがゆっくりと出てきた。

 

「貴様…どういうつもりだ」

 

「どうもこうも無かろう。ドラコがスパイとして活動すれば。ワシらの勝率も上がるじゃろう」

 

「確かにそうだな。だが息子に危険な真似はさせられない!」

 

「ならばこうするのはどうじゃ? お主等、家族全員がスパイとなればよいのじゃよ」

 

「なんだと…」

 

 ダンブルドアの発言に家族全員が息を呑んだ。

 

「そうすれば、我々は最大限の協力を約束しよう」

 

「だが…」

 

「無理強いする訳ではないが。それ以外に道はあるのかの?」

 

「くっ…」

 

「お主は神秘部ではヴォルデモートがご所望の予言を回収し損ね。息子はワシを1度は殺せたが、蘇ってしまった」

 

「何が言いたい…」

 

「ヴォルデモートがこの先。お主らを今までの待遇で扱うかどうかよく考えるのじゃな。最悪の場合トカゲのしっぽの様に扱われるかもしれぬの」

 

 ダンブルドアはワザとらしくあくびをしている。まるで僕等がどうなろうと関係ないと言いたそうに。

 

「………本当に…協力してくれるんだな…」

 

「もちろんじゃよ」

 

「わかった…そちら側に…付こう」

 

 

 父上は息を切らせながら言い切ると、その場に崩れ落ちた。それを支える様に母上は駆け寄っている。

 

「では頼むぞ。作戦会議などがある場合は、ドラコに場所と時間を知らせよう」

 

 ダンブルドアはそう言い残すと、何処かへと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  今年も終わりを告げた。

 

 魔法界は今、混沌に満ちている。

 

 魔法省の役人の内、数名は死喰い人で構成されており。マグルの排除や、マグル出身者、混血者の排除をしようと声を上げているものもいる様だ。

 

 今のところ、新しく就任した大臣が圧力をかけているおかげで、そこまで表面的には出てはいないが、持ってあと1年といったところか…それまでには決着を付けなければ…

 

 ワシは重い体を引きずりながら、椅子に腰かける。

 

 1度死んだ身とは言え、疲れは出るようだ。

 

 

 しかし、彼女。セレッサには驚かされてばかりだ。

 まさか、このワシ自身が蘇らせられるとは思いもしなかった。

 

 それに、彼女のおかげで分霊箱の1つ。

 スリザリンのロケットが手に入った。

 

 ハリーから回収した後、早速調べてみたが…これは分霊箱では無い事が分かった。

 

 スリザリンのロケットの中には手紙が入っていた。そこには…

 

『闇の帝王へ。あなたがこれを読むころには、私はとうに死んでいるでしょう。しかし、私があなたの秘密を発見したことを知ってほしいのです。本当の分霊箱は私が盗みました。できるだけ早く破壊するつもりです。死に直面する私が望むのは、あなたが手ごわい相手に見(まみ)えたそのときに、もう一度死ぬべき存在となることです。R.A.B』

 

 どうやら、ワシの行動は取り越し苦労だったようだ。

 

 しかし、R.A.Bとは…一体誰の事だろう…

 

「はぁ…」

 

 ワシは蘇ってから初めての溜息を吐いた。

 

 しかし、今年は進展もあった。

 

 あのロダンという男は、分霊箱の破壊方法を知っていた。

 

 透明マントを持ってくれば教えると言って居たが…透明マントはハリーの持ち物だ。なんとか説得するしかあるまい…

 

 

 そして、魔法薬学を担当していた、ホラスだが、自身のやったことを悔いたのか、引退すると言い出した。

 

 仕方なく来年の魔法薬学の担当はセブルスに任せるとして、闇の魔術に対する防衛術の担当を誰にするべきか…

 

 ワシは疲れたように背中を伸ばし、次の年の事に頭を巡らせる事にした。




いかがでしたでしょうか?

さて、次が最終章です。

最終章は、(ノンストップ)で行きたいので、書き上げるまで少々お待ちください。

次回作どうしようかな…

また、ハリーポッターのクロスで行こうかと。

どうせなら、絶対にありえない組み合わせでやりたいですね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

∞CLIMAX
複数人のハリー・ポッター


お ま た せ


はい
ようやく、総て書き上げました。

ここまでくれば、完走はほぼ確定です。

最終章はオリジナル要素が多くなるのでかなり大変で暴れまわっています。

それでは、お楽しみください。




   私は子供の姿ではあるが、いつもの様に、バーでジャンヌと共に酒を飲みくつろいでいる。

 

 私が子供の姿で居なければならないのには理由がある。それは…

 

 

「なかなか良い酒じゃな」

 

 今回は、いつもとは違い別の客が飲んでいる。

 それもかなり厄介な客が。

 ダンブルドアはグラスに入った酒でゆっくりと口を湿らすと、楽しそうに笑っている。

 

「飲むのはいいが、ちゃんと金は持って来たんだろうな」

 

「問題ないぞ。ほれ」

 

 ロダンの問いかけに対して、ダンブルドアは自慢げにテーブルの上に金貨の詰まった袋を置いた。

 

「まぁ、これだけあれば問題ないな」

 

 ロダンは袋を取ると、中身を確認した後、カウンターの下へと仕舞い込んだ。

 

「上機嫌ね。何かあったの?」

 

「なぁに、大した事ではない。生きている事を実感しておるのじゃよ」

 

 ダンブルドアは嬉しそうに、酒を飲み干すと、口を開いた。

 

「そうじゃ。数日後、ハリーの誕生日じゃ」

 

「そう。おめでとうって伝えておいて」

 

「そうしよう。じゃが一つ問題が有るのじゃ」

 

「問題?」

 

  バーカウンターに座っているダンブルドアは空いたグラスを、傍らに置くと、神妙な面持ちで答える。

 

「次の誕生日でハリーは17歳になる」

 

「そうね」

 

「実はハリーが今住んでいる家には、母親が残した護りの魔法が施されておるのじゃが。17歳になると同時にその力は失われるのじゃ」

 

「何とも、不自由だな、魔法と言う物は」

 

 聞いていたジャンヌが、詰まらなそうに呟いている。

 

「魔法なんぞ…便利な物では無いの…そこでじゃ。不死鳥の騎士団はハリーを安全な場所へ避難させる事にしたのじゃ」

 

 ダンブルドアは声を強めて、言い放っている。

 

「そこで、再び君の力を借りたい」

 

「私に護衛しろって言うの?」

 

「そうじゃ。ワシ等だけではハリーを護れる保証が無いのでな…」

 

 ダンブルドアは悲し気に呟くと、項垂れている。

 

 すると、店の奥から、聞き慣れた声が響いた。

 

「面白そうじゃねぇか」

 

「ルカ。アンタも居たのね」

 

「まぁな。それで? 決行日はいつだ?」

 

「誰じゃお主は?」

 

「俺の名は、ルカだ。真実を追い求めているジャーナリストさ」

 

「それと、お節介焼のしつこい男ね」

 

「しつこいは余計だ」

 

 ルカはジョークを受け流すと、メモ帳を取り出した。

 

「お主はマグルじゃろ。危険な事に首を突っ込むのはやめた方が良いぞ」

 

 ダンブルドアの忠告に対して、ルカはワザとらしくお辞儀をする。

 

「ご忠告痛み入るぜご老体。だがな、こう見えても俺は、かなりの修羅場を潜り抜けているんだ。心配はいらねぇ」

 

「なら良いのじゃがのぉ…」

 

「アンタもモノ好きね」

 

「魔法界の話なんざ、なかなか仕入れられるネタじゃねぇ。仲間に話したら大笑いしてたぜ。…………俺の事をな」

 

 ルカがそう言うと、ダンブルドアはゆっくりと頷いている。

 

「まぁいいわ。決行日が分かったら教えて頂戴。気が向いたら向かうわ」

 

「そうしてくれると助かる」

 

 ダンブルドアはそう言い残すと、立ち上がり扉に手を掛けた。

 

 

 

 

 

  数日後、ハリーを護送する準備が出来た様で、私は、ハリーが現在生活しているという家に呼び出された。

 

 一応ルカにも伝えてあるが、手こずっているのか、今のところ姿は見えない。

 

「ハリーよ。準備は良いな」

 

「はい。問題ありません」

 

 ハリーは、家主が居なくなった家で、ダンブルドアを始めとする、護送メンバーと向き合っている。

 

 どうやら、この家の住人は、死喰い人を恐れて引っ越したようだ。

 

 それにしても相変わらず普通を絵にかいたような家だ。

 家電も当時としては普通の品を使い、調度品も普通なものだ。 

 あまりにも詰まらない。

 

「さて…それでは始めようかの」

 

 ダンブルドアがゆっくりと作戦開始を告げた。

 

 護送メンバーは、ハリーと生活を共にしてきた、ロンとハーマイオニー。

 

 そして、ウィーズリー家の双子は店を休んでまで来たようだ。

 

 それを見守る様に、両親までいる。

 

「気合を入れろ! 油断大敵だ!」

 

 ムーディはその場に居る全員に声を掛けている。

 

 シリウスとルーピンは互いにアイコンタクトを取ると、気合を入れている。

 

「セブルスとドラコからの情報では、死喰い人は魔法省の三分の一を掌握したようじゃ。その為、『煙突飛行ネットワーク』も『ポートキー』を置く事も、それどころか『姿現し』で出入りする事すらも禁じてしもうた…それに君にはまだ『臭い』が付いておる」

 

「『臭い』? ちゃんとお風呂には入りましたよ」

 

 ハリーはそう言うと、自分の臭いを嗅ぎ始めている。

 

「その『臭い』ではないぞ。魔法省が使用して居る『未成年者の周囲で行われた魔法行為』を探知する魔法の様な物じゃ」

 

 どうやら、その『臭い』と言う物は相当厄介なようだ。

 もし、ハリーが魔法を使えば、それが魔法省に伝わり、最終的には死喰い人に伝わるという事だ。

 

「じゃが、術はある。ヴォルデモート達は今夜、我々が出発する事は知らぬ筈じゃ」

 

 どうやら、ドラコ達が偽の情報を流したようだ。

 その為、死喰い人はこちらが30日に動くと考えている様だ。

 

 

「出発したらハリーよ、君は隠れ家へ向かうのじゃ。そこにはワシ等がかけておいた保護呪文がある。ポートキーも使えるようになるはずじゃ」

 

「それは…わかりました…けど、ここにいる全員で隠れ家に行ったら目立ちませんか?」

 

「ああ、その心配はない。この場の全員が隠れ家に向かうわけではなく、今宵は複数人のハリー・ポッターが空を飛ぶのじゃ」

 

 

 そう言い、ダンブルドアは懐から泥のような物が入ったフラスコを取り出した。

 

 その薬はハリー達にとってはお馴染みとなった『ポリジュース薬』だ。髪の毛を入れる事でその人物に成りすます魔法薬だ。

 

 

「駄目だ!」

 

 

 ハリーは計画の全容を一瞬で理解した。

 

 事もあろうに、この計画はポリジュース薬で囮を用意する事でハリーを危険から遠ざけるという危険極まりない策なのだ。

 

 つまり、ここに集められたうち、半数は囮役という事だ。

 

 

「ハリーよ、これは必要な事なのじゃ。偽の情報が流れているとはいえ、ヴォルデモートが動かないとは限らない。魔法省も敵と考えて間違いない状況じゃ。この家の大体の位置も既にバレておるじゃろうし、数日中に、護りの呪文も失われる」

 

「ですが!」

 

「辛抱してくれ…ハリー」

 

 ハリーはしばらく考え込んだ後、自らの髪の毛を抜くと、ダンブルドアに差し出そうとした。

 

 その時、周囲に重低音が響き渡った。

 

 

「何の音だ!」

 

 ムーディが大声を上げ、扉を開けると、外へと出ていった。

 

「行ってみようぜ」

 

 ロンがそう言うと、双子を始め、全員が家の外へと出ていった。

 

 

「あれは…車か? だとしてもゴツイな」

 

「どういう事だ? マグル避けはしてあるはずだ!」

 

 ムーディはトップライトで迫り来る車に対して、何の躊躇いも無く、魔法を放った。

 

 あの装甲車は何処かで見覚えがある様な気がする…

 

「なにっ!」

 

 放たれた魔法は装甲車に当たったが、効果は表れず、空中に霧散した。

 

「おいおい! いきなり何しやがるんだ!」

 

 突如、車のスピーカーから声が響いた。

 

「ルカ。アンタなんでそんな物、持って来たのよ」

 

「あぁ、ベヨネッタか」

 

 ルカはそう言うと、車のハッチを開け顔を出した。

 

「護送するなら、装甲車が一番さ。ロダンに頼んでこっちへ入れてもらったんだ」

 

 ルカは、装甲車から飛び降りると、私達の前に着地した。

 

「思い出したわ。あの時の装甲車ね」

 

「ビンゴ! かなりいい乗り心地だったからな。ロダンにかなりいいヴィンテージ物のジンを貢いで――いや頼んでちょっと改造して貰ったのさ」

 

 ルカは自慢げに装甲車に寄り添っている。

 

「さて、どいつがお客さんだ」

 

「ハリーよ」

 

 私が、ハリーを指差すと、ルカはゆっくりと近付いていった。

 

「ケ゚ッ、また男のお守かよ…まぁいいや。早く乗りな」

 

「えぇ…でも…」

 

「待て!」

 

 杖を構えたムーディが大声を上げた。

 

「マグルの事なんぞ信用ならん! 我々と行動した方が安全だ!」

 

「そいつはどうかな?」

 

「なにぃ!」

 

 ルカは再び装甲車に背中を付けながら、腕を組んでいる。

 

「どんな計画かは知らないが、コイツで行った方が得策だと思うぜ。お前さんのご自慢の魔法も効果ないみたいだったしな」

 

「くっ…」

 

 ムーディは悔しそうな顔で、舌打ちをしている。

 

「私もそっちの方が良いわね。タクシー代わりにもなるし」

 

 私がそう答えると、ハリーは少し悩み始めた。

 

「乗るのは…僕だけでいいの?」

 

「あ? この車は多くても3人用なんだ。だからお客さんはお前だけだぜ」

 

 ルカの話を聞き、ハリーは少し悩んだ後、ゆっくりと頷いた。

 

「なら、僕はこの車で行くよ」

 

「ハリー!」

 

 ダンブルドアが引き留めようとするが、ハリーはすでに、装甲車に乗り込んでいる。

 

「僕はこの車で向かいます。後で隠れ家で合流しましょう。きっとその方が安全ですよ!」

 

 ハリーがそう言い終えると、装甲車がエンジンを鳴らした。

 

「私も付いて行くわ。護衛は任せなさい」

 

 私は、その場で飛び上がると、すでに前進を始めた装甲車の上部へと飛び乗った。

 

 装甲車に飛び乗った後、私は上部ハッチを開き、車内に顔を突っ込んだ。

 

「じゃあ、運転頼んだわよ、ルカ」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 私がハッチを開けて内部のルカに声を掛けると、驚いたようにハンドルを切り始めた。

 

「うぉ! いきなり開けるんじゃねぇよ!」

 

「ちゃんと運転してよ!」

 

「まったく…危ないわね。免許持ってるの?」

 

「うるせぇ! 驚かすからだろうが!」

 

「ちょっと! ちゃんと前見てよ!!」

 

 車内には2人の悲鳴が響き渡った。

 

 

 




これで、囮のハリーを使い必要はなくなりましたね。

若干無理やりかも知れませんが、最終章ですし。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ルート666

装甲車と言えば、やっぱりこのタイトルでしょう。




 

 

 

   装甲車が車道を爆走し、ハイウェイに入った頃、ルカが口を開いた。

 

「で? 目的地はどこなんだ?」

 

「アンタ場所も知らずにかっ飛ばしてたわけ?」

 

「仕方ねぇだろ! で? この先はどこへ行けばいいんだ?」

 

「とりあえずハイウェイを抜けた先に……」

 

 その瞬間、背後の方から爆破音が響いた。

 

「どうやら、お客さんの様だぜ! ベヨネッタ!」

 

 振り返るとそこには、箒に乗った死喰い人が杖を構えて周囲を飛び回っており、さらにその背後から、爆走する数台の乗用車が現れた。

 

 一見普通の乗用車に見えるが、その正体は、『アイレニック』という、車によく似た見た目の天使だ。

 

 アイレニック

 もしも人がこの天使を見たならば、きっとその姿を車と重ね合わせるに違いない。しかし言うまでもない事だが、この天使は有史以前の遥か昔より存在している。アイレニックは、天の意思をあまねく天界に伝令する役目を持つとされ、箱型の体に4つの車輪を付け、猛スピードで走る姿で表されることが多い。その速度は風よりも速く、人間界の数千倍とも言われる広大な天界を、僅か一日で走り抜ける。この天使が人間の前に姿を現すようになったのは18世紀の中頃、ちょうど産業革命に湧き始めた時代のことであり、人類初の蒸気機関で走る自動車が現れた頃と符号する。

 余談だが、人間界に現れる際は、法定速度を厳守している様だ。

 

「ルカ、もっと飛ばして。お客様は私が相手するわ」

 

 私は両手に銃を構え、周囲を飛び回る死喰い人に狙いを定め引き金を引く。

 

「うぉお! あぶっ!」

 

 放たれた弾丸は死喰い人の箒に命中し、バラバラに砕け散る。

 

「あぁああああー!!」

 

 乗っていた死喰い人は空中で吹き飛び、そのまま海へと落下した。

 

「さて、次の相手はアンタかしら?」

 

 アイレニックが爆音を鳴らしながら、こちらに近寄ってくる。

 

「邪魔よ!」

 

 装甲車の上で仁王立ちになり、両手の銃を一斉に発射する。

 

 その瞬間、アイレニックがエンジン音をならし、左右に蛇行運転を行い、銃弾を回避する。

 

「ちょこまかと、鬱陶しいわね」

 

 私は、銃に魔力を籠め、銃弾を放つ。

 

 魔力を込めた銃弾をアイレニックが蛇行運転で避けるが、その瞬間、私は目を軽く横へ動かす。

 

 その動きに合わせて、銃弾も移動し、アイレニックのガソリンタンクに酷似した部分を貫いた。

 

 その瞬間、アイレニックの胴体が火を噴き、爆発四散した。

 

「汚い花火だぜ」

 

 ルカは装甲車の運転席で首を振りながら呟いている。

 

「前! 前見てよ!」

 

 ハリーが大声を上げると、そこには、ハイウェイを封鎖しようと、隔壁が下がり始めている。

 

「俺の…バカッ!」

 

 ルカは悔しそうに呟いている。

 

「まったく…しょうがないわね」

 

 私は装甲車から飛び降りると、ビーストウィズインで姿を黒豹に変え、閉まり始めた隔壁の向こう側へと走り出す。

 

「これでもくらいな!」

 

 隔壁を超えた先で、人型に戻ると同時に、前方を走っていたトラックの荷台に両足で着地する。

 

 そのまま、両手の銃を乱射し、ハート形の弾痕を穿つ。

 

「「うわっぁあっぁ!」」

 

 スピーカーから悲鳴を上げながら、ルカ達が乗った装甲車がハート形の弾痕を突き破り、隔壁を突破した。

 

「ハァ…ハァ…助かった…」

 

「あぁ…はぁ…だから言っただろ! 大船に乗ったつもりで居ろって!」

 

「その大船が泥で出来ていたなら何の意味も無いよ…」

 

 私はその場で飛び上がり、再び装甲車の上に着地し、上部ハッチを開ける。

 

「はぁい、二人とも無事なようね」

 

「うぉ! だから急にハッチを開けるなって!」

 

「良いじゃない。アンタ達は車の中で、のんびりとドライブを楽しんでいるんだから」

 

「まぁ、そうだな。ドリンクまであるぜ。どころで後どれくらいだ?」

 

「あと少しで、ハイウェイを抜けれるから、もう少しだと思う」

 

 ハリーがそう言うと同時に、周囲に格子状のビームが現れ、私に襲い掛かる。

 

「邪魔ね」

 

 私は飛び上がり、格子状のビームを縫うように回避し、アスファルトの上に着地する。

 

「次はアンタ達ね」

 

 私は、背後で走り去る装甲車を見送りつつ、格子状のビームを放った張本人たちと向き合う。

 

 そこには3体のジョイが両手に様々な武器を構えながら、悠然と佇んでいる。

 

 ジョイ

 天使のヒエラルキーの最上位に君臨する「熾天使」の一人。このクラスの天使は、物質的な概念を超えた霊的な存在である。彼らがとる姿も川の流れのように不定形で、一時的なものでしかない。時に人間の女性形に似た姿を見せる熾天使ジョイは、姿を変えるどころか、その身を分離させて複数の意識を持つことすら自在だという。

 

ちなみに以前、私の姿をまねされ、ダンスバトルに発展した事がある。

 

「さて、ご用件は何かしら?」

 

「フンッ!」

 

 ジョイ達は、武器を構えると、臨戦態勢を取った。

 

「そう、私と遊びたいのね。良いわ、かかってらっしゃい!」

 

「ェイヤ!」

 

 刀を構えたジョイが切っ先を突き付けながら、突進してきた。

 

「甘いわね」

 

 体の軸を横に動かし、ポーチから修羅刃を取り出し、ジョイに切りかかる。

 

「アァ!」

 

 ジョイは瞬時に、体を動かし、修羅刃の攻撃を、刀で受け止め鍔迫り合いになる。

 

「やるじゃない。でもこれでどお?」

 

 私は修羅刃に魔力を送り、一気に押し込む。

 

 すると、ジョイの刀がビキビキと音を立て、砕け散った。

 

「フォ!」

 

 

 刀が砕かれたジョイはその場で鳥の羽のような物を空中に浮かせ、こちらに向けて乱射しながら後退を始めた。

 

「逃さないわよ!」

 

 羽根を回避すると同時にウィッチタイムを発動させ、一気にジョイに詰め寄り、修羅刃を突き立てる。

 

「ァア!」

 

 修羅刃で切り付けられた、ジョイはその場に倒れ込むと、苦しそうな声を上げている。

 

「さて、お仕置きの時間よ」

 

 倒れ込んだ、ジョイを右足で踏み付けると、その背中に修羅刃を突き立て、滅多刺しにする。

 

「ァアァ!!」

 

 最後に、胴体を蹴り上げると、ジョイは苦悶の表情を浮かべながら、その場で力尽きた。

 

「さて、次はだれかしら?」

 

「ァァア!!」

 

 次は鞭を片手に構えた、ジョイがこちらに突進してきた。

 

「次はアンタね」

 

 突進を避けると同時に、胴体を蹴り上げ、吹き飛ばす。

 

「シャァ!」

 

 壁に激突したジョイは瓦礫を吹き飛ばすと、鞭を振り抜いた。

 

「危ないわね」

 

 迫り来る鞭に対して、アルーナをぶつけ、鞭同士を絡める。

 

「ァァアア!」

 

「力比べね。頑張りなさい」

 

 ジョイは必死に抵抗し、鞭を引っ張っているが、私は一気にアルーナを引っ張り、勢いそのままジョイを地面に叩きつける。

 

「ぁ…アガァ!」

 

「さて…お仕置きの時間よ」

 

 上半身をアスファルトに埋め、下半身だけど見せているジョイの尻を右足で踏み付ける。

 

「アァアァ!」

 

 その瞬間、ジョイが艶かしい声を上げる。

 

「今日のはキツイわよ耐えなさい」

 

 手にしたアルーナをしならせると、ジョイの尻を打つ。

 

「アァッアガァァァ!!」

 

「良い声で鳴くわね。続けるわよ」

 

 そのまま何度となくアルーナを振り、尻を何度も鞭打ちする。

 

「あ…アァァアァ!」

 

「終わりよ!」

 

 最後に、アルーナを最大にまで引き絞り、勢い良く尻を叩き上げる。

 

「アッアッアアアァァァアァァア!」

 

 尻を叩き上げた瞬間、ジョイは悲鳴を上げ、尻を震わせながら、上半身が見えないまま力尽きた。

 

 

「呆気ないわね…さてアンタで最後ね」

 

「ガァ!」

 

 銃のような武器を構えたジョイが、その場で弾を乱射し始めた。

 

「無駄よ!」

 

 せまり来る弾をマハーカーラの月で弾き返す。

 

「アァ!」

 

 弾き返された、全ての弾が全身に直撃し、ジョイが吹き飛び、瓦礫に埋もれる。

 

「ハァ!」

 

 瓦礫を振り払ったジョイは、銃を構えて突進してくる。

 

「しつこいのよ」

 

 迫り来る銃を避け、ジョイの顎に銃を突き付ける。

 

「さようなら」

 

 引き金を引き、銃弾を放つ。

 

 放たれた銃弾は、ジョイの下顎を貫通し、その体が上空に吹き飛んだ。

 

「ァァァア!」

 

 吹き飛ばされたジョイは、上空で光り輝くと、2体に分裂し、1体はアスファルトの上に倒れ、分裂した1体が華麗に着地した。

 

「ジャァ!!」

 

「いい加減しつこいのよ」

 

 私は躊躇い無く引き金を引き、銃弾を放つと、ポーズを決め始めたジョイの脳天に直撃し、呆気無く絶命した。

 

 

「ふぅ…随分時間を取られたわね」

 

 装甲車が走り去った方を見るが、すでにかなり先まで走って行ってしまったようだ。

 

「このハイウェイを歩いて渡れって言うの? このヒールじゃ無理だわ。タクシーでも通らないかしら?」

 

 その時、後方からエンジン音が聞こえてきた。

 

「お~い! セレッサ!」

 

 振り返ると、サイドカーの付いたバイクに乗ったハグリッドが手を振っている。

 

「あら? どうしたのよ」

 

「ちと心配になってな。ところでハリー達は?」

 

「置いて行かれちゃったわ。まったく失礼しちゃうわ」

 

 私は腰に手をやり、装甲車の行った先を眺める。

 

 

「ハハッ、そうだな。さぁ乗りな。追いかけるぞ」

 

 ハグリッドはそう言うと、サイドカーを指差した。

 

「そうね。でもアンタはここで待ってなさい」

 

 私はハグリッドの首元を掴むと、その巨体を持ち上げ、引きずり下ろした。

 

「うぉお! おい! 何するんだ!」

 

「このバイク少し借りるわよ」

 

「え?」

 

 ハグリッドが間抜けな声を上げている中、私はサイドカーとの接合部を銃で撃ち抜く。

 

「おいおい! ちょっと待て!」

 

「じゃあ、気を付けて帰りなさい」

 

 私は中指に魔力を集め、鍵穴に突っ込み、勢い良く回す。

 

 その瞬間、バイクから規格外の爆音が響き、マフラーから炎が噴き出る。

 

「派手にブッ飛ばすわよ!!」

 

 アクセルを最大にまで捻り、ギアを一気にトップまで回し、急発進させる。

 

「どうなってやがるんだ…」

 

 残されたハグリッドは私の後姿を見ながら、サイドカーにもたれ掛かっていた。

 

 

 魔力を込めたバイクが爆音を撒き散らしながら、ハイウェイを爆走していると、爆走を続けている装甲車の後姿が目に入った。

 

 装甲車の周囲には、アフィニティを始めとした、雑魚が周囲を飛んでいた。

 

「うわぁ! どうなってるんだよ!」

 

「知るかよ! まったくしつこい奴等だ!」

 

「何か武器は無いの?」

 

「そんなもんねぇよ!」

 

 装甲車のスピーカーがONになっているのか、周囲には内部のやり取りが筒抜けだ。

 

「さて、行くわよ!」

 

 私は最大にまでアクセルを捻り、車体をウィリーさせ、1体の天使を轢き倒す。

 

 そのまま、アクセルを全開にし、両手の銃で周囲の天使に銃弾を放つ。

 

「「ベヨネッタ!」」

 

 装甲車のスピーカーから2人の声が響く。

 

「まったく…世話が焼けるわね」

 

 私はそのまま装甲車と並走しつつ、残りの天使を撃ち落として行く。

 

「ここを抜けた先が、目的地だよ!」

 

「良し! じゃあ飛ばすぜ!」

 

 そのまま、私達は最高速度で、目的地へと駆け抜けた。




無事にハリーの護送が終わりました。

これによって、被害を受ける予定だった人物は無傷ですね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最後の始まり

遂にホグワーツでの学園生活も最後です。

果たしてホグワーツはどれだけ原形を保てるのでしょうか?


   ハイウェイを抜け、側道を進むと大きな原っぱへと出た。

 

「あそこだ! あの家だよ!」

 

「よっしゃ! ぶっ飛ばすぞ!」

 

 ルカは、アクセルを全開にし、速度を最大にまで振り上げた。

 

「もうすぐだぜ! 坊主!」

 

「よかったぁ…」

 

 ハリーの安堵の声がスピーカー越しに聞こえる。

 

「あれ…え? ちょっと?」

 

「え? どうしたの?」

 

 スピーカーから聞こえる声が、何やら不穏な事を伝えて来る。

 

「おかしい…ブレーキが効かない!」

 

「ちょっと! やばいって!」

 

 ルカの必死な声が響き渡るが、無情にも装甲車と家との距離はどんどんと近寄って行く。

 

「うわぁぁあああああっぁぁ! 止まらねぇぇえぇえ!」

 

「あぁぁぁぁあぁぁぁぁあああぁああ!!」

 

 

 2人の声をスピーカーから響かせながら、装甲車は、原っぱの真ん中に立っている隠れ家に突っ込んだ。

 

「えぇ!! なに! なんなの!」

 

 車が突っ込んだところと反対側の扉が開かれ、中から杖を構えたロンの母親が姿を現した。

 

「いてて…まったく…災難だぜ…」

 

「貴方誰なの!」

 

「えぇ! ちょっと待てよ奥さん! 俺は怪しい者じゃ!――」

 

「黙りなさい! ステューピファイ(麻痺せよ)

 

「うぉお! あぶっね!」

 

 放たれた魔法は、ルカに直撃する寸前で、霧散し消え去った。

 どうやら、ロダンから何かアイテムでも貰っているのだろう。

 

「どういうこと?」

 

 魔法の効果が無く、焦っているロンの母親に、装甲車から這い出して来た、ハリーが駆け寄った。

 

「落ち着いてよおばさん! この人は敵じゃない!」

 

「えぇ?!」

 

  ハリーの言葉を聞いて、さらに混乱したようだ。

 

「おいおい…頼むぜ…」

 

 ルカは呆れた様に首を左右に振っていた。

 

 私はバイクを降りると、スタンドを立て、隠れ家へと入って行った。

 

 

  数十分後、隠れ家に先程のメンバーが姿を現した。

 

 姿を現す度に、壁に激突している装甲車を見て唖然とした表情をしていた。

 

 次の日、ダンブルドアが魔法で穴を塞いだ様で、その場所は綺麗になっていた。

 

「さて…皆集まってくれ」

 

 不死鳥の騎士団のメンバーと、ハーマイオニー達がその場に集まった。

 

 ルカには、これ以上の深入りは危険だという事で退避して貰った。

 

「今後の予定じゃが、まずは分かる限りの、分霊箱の破壊に努めたいと思う」

 

「でも先生。その分霊箱はどこにあるんですか?」

 

「おおよその見当は付いておる」

 

 ダンブルドアがそう言うと前回、回収した、スリザリンのロケットを取り出した。

 

「これは、スリザリンのロケットじゃ。じゃがこれは本物ではない」

 

「えぇ!」

 

 ハリーが大声を上げた。

 

 それもそうだろう。苦労して、死にかけてまで手に入れた物が偽物なら、そんな反応にもなるだろう。

 

「これは、『R.A.B』という人物が、我々より先に、ヴォルデモートから分霊箱を奪い取り、偽物として置いたものじゃ」

 

「R…A…B…」

 

 その名前を聞いて、シリウスが悲しそうに呟いた。

 

「R.A.B…レギュラス・アークタルス・ブラック…」

 

「なんじゃと?」

 

 シリウスは更に言葉を紡いだ。

 

「私の弟だ…」

 

「シリウスの…弟?」

 

 ハリーは驚いたように、シリウスに聞いている。

 

「そうだ。アイツは死喰い人に入って…そして死んだ…」

 

「じゃが、このロケットを置いたのは、君の弟なのじゃろ?」

 

 ダンブルドアがキツイ口調で、シリウスを問い詰めている。

 

「少し…待ってくれ…『クリーチャー』!」

 

 シリウスが大声を上げると、その場に1体の屋敷しもべが姿を現した。

 

「何の御用ですかな?」

 

「弟から…何か預かっていないか…ロケットの様な物だ」

 

「はい、預かっております」

 

「なに! すぐに持って来い!」

 

「かしこまりました」

 

 屋敷しもべは軽く指を鳴らすと、その場から消え去り、数分後にまた姿を現した。

 

「こちらがそうでございます」

 

 その手には、スリザリンのロケットがしっかりと握られていた。

 

「これを…弟が…」

 

「弟君はとても勇敢な方でいらっしゃりました。このロケットを私めに託されると、すぐに破壊しろとお命じになられたのですが、どのような手を使っても破壊できませんでした」

 

「そうか…ご苦労だった…下がっていいぞ」

 

 シリウスがそう一言呟くと、屋敷しもべは何処かへと消えていった。

 

「これで…3つ目じゃな…」

 

 ダンブルドアはロケットを受け取ると、ポケットへ仕舞い込んだ。

 

「破壊しないんですか?」

 

 ハリーが、ダンブルドアの行動を疑問に思い、口を開いた。

 

「破壊するにも、方法が分からん。だが手はある」

 

「それは?」

 

ハリーが疑問の声を上げると、ダンブルドアはゆっくりとハリーを見つめた。

 

「ハリーよ。君は透明マントを持っておるな?」

 

「透明マント? はい。持っていますが」

 

「それをワシに譲って欲しい」

 

「え?」

 

 ダンブルドアのいきなりの要求に、ハリーは戸惑いを隠せていない。

 

「どうして、透明マントが必要なんですか?」

 

「取引じゃよ。分霊箱の破壊方法を知って居る男とのな」

 

 ダンブルドアはそう言うと、私を睨み付けている。

 

「フン」

 

 私は軽く首を振り、その視線を避ける。

 

「……分かり…ました」

 

「すまないの…」

 

 ダンブルドアはただ一言、そう呟いた。

 

 

 

  数日後、ダンブルドアは片手に金貨の詰まった袋、もう片方の手に、透明マントを持って、バーに現れた。

 

「よぉ、来たか。で? 要件は何だ?」

 

「先に蜂蜜酒を1杯貰おうかの」

 

 ロダンは鼻で笑うと、ダンブルドアの前に、蜂蜜酒の入ったゴブレットを置いた。

 

「リコリスの香りがするのぉ。いい香りじゃ」

 

 ダンブルドアはゴブレットを傾け、蜂蜜酒を半分ほど飲み干した。

 

「さて、本題に入ろうかの」

 

 ダンブルドアはゆっくりと、テーブルの上にスリザリンのロケットを置き、ロダンを見据えた。

 

「これの破壊方法を教えて欲しい」

 

「別に構わないぜ。取引の材料は有るんだろうな」

 

「ここにあるぞ」

 

 ダンブルドアはそう言うと、テーブルの上に透明マントを置き、両手を組んだ。

 

「これで文句は無かろう」

 

「どうやら本物の様だな」

 

 ロダンは透明マントを手に持つと、ニヤニヤと笑いながら、眺めている。

 

「その薄汚い布切れが、死の秘宝なのか?」

 

 ジャンヌが詰まらなそうに呟くと、ロダンは笑い声を上げた。

 

「そうだぜ、これで全部が揃った」

 

 ロダンはそう言うと、テーブルの上に『ニワトコの杖』『蘇りの石』『透明マント』を置き、眺めている。

 

「まるで悪趣味なコレクションだな」

 

「そうね、あまりいい趣味とは言えないわね」

 

「見た目はあれだが、マニアからすればかなりの宝だぜ。それに人が持つには荷が重すぎる」

 

 ロダンは笑いながら、透明マントで残りの秘宝を包み、店の奥に仕舞い込んだ。

 

「さて…こちらは約束を果たしだぞ。次はそちらの番じゃ」

 

「そうだったな。ちょっと待ってな」

 

 葉巻に火をつけたロダンは、ゆっくりと煙を吐き出す。

 

「まぁ、見てな」

 

 その瞬間、ロダンの口から蛇の鳴き声の様な声が漏れると、スリザリンのロケットが蓋を開いた。

 

「さて、仕上げだ」

 

 ロダンは1度葉巻を大きく吸い込むと、その火をスリザリンのロケットに押し付けた。

 

「ヴァアダダダダダアアアアア!!」

 

 その瞬間、スリザリンのロケットから、黒い煙があふれ出し、断末魔を上げながら、何処かへと消えていった。

 

「ふぅ…これが方法さ」

 

「どういう事じゃ…」

 

 ダンブルドアは唖然とした表情で、壊れたスリザリンのロケットを見つめていた。

 

 ロダンは親指に紫色の炎を灯すと、ゆっくりと口を開いた。

 

「『悪魔の炎』だ。これならお前達でも使えるんじゃないか?」

 

「『悪霊の火』なら使えるがの…」

 

「まぁ、似たようなもんさ」

 

 フッ、っと炎を消して、ロダンはにんまりと笑って居る。

 

「これで…道が開けた」

 

 ダンブルドアはゆっくりと立ち上がると、テーブルに置かれていたゴブレットの中身を飲み干した。

 

「ぷはぁ! さて、ワシはこれで失礼しようかの」

 

 ダンブルドアはそう言うと、店を後にした。

 

 

 

 

 

  数日後、私のホグワーツ生活最後の年が始まろうとした。

 

「今年で終わりか、案外呆気なかったな」

 

「そうね、まぁ…良い暇潰しにはなったわ」

 

 私は、ジャンヌからポーチを受け取ると、小脇に抱えた。

 

「今年は刺激的になるだろうな」

 

「何でそう言えるのかしら?」

 

「フッ、お楽しみさ」

 

 ジャンヌは意味深な笑みを浮かべると、グラスを傾けている。

 

 

  数分後、私がキングスクロス駅に到着すると、闇の帝王が復活したにもかかわらず、普段と変わらぬ人混みだった。

 

 いや、むしろ復活したからこその混雑なのかもしれない。皆『ホグワーツ(安全地帯)』に子供達を匿いたいのだろう。

 

「相変わらず混んでいるわね」

 

 軽く呟き、ホグワーツ特急に乗り込むと、背後から声を掛けられた。

 

「やぁ、セレッサ。久しぶり」

 

「ドラコじゃない、久しぶりね。調子どう?」

 

「フッ、まぁまぁさ。僕の席が空いているんだ。来ないか?」

 

「良いじゃない。そうするわ」

 

 私はドラコの後を追う様に、コンパートメントに入って行った。

 

 

「少し痩せたんじゃない?」

 

「ハハッ…そうかもね。なんせ闇の帝王を欺かなきゃいけないからね」

 

 ドラコは乾いた笑みを浮かべながら、コンパートメントの椅子に腰を掛けた。

 

「父上も上手い事立ち回っているみたいさ。闇の帝王は死喰い人にすら心を開かないからね」

 

「そうなのね。やっぱり小さな男ね」

 

「そんな事言えるのは君だけさ。皆が帝王を恐れているからね。そのおかげで、巨人族や狼男たちとの仲はあまり良くないようだ」

 

「そうなのね」

 

「あぁ、まぁ、天使達が居るから、あまり痛手では無い様だけどね。それより…」

 

「なによ?」

 

「どうやら、魔法省の半数が死喰い人に加担している様だ、どうも『ラグナ信仰』と呼ばれる宗教を根付かそうともしている様だ」

 

「まさか…」

 

「そのまさか…さ。父上の話では、あの男(ロプト)が手を回している様だ」

 

「そう…」

 

 まさか、魔法省が『ラグナ信仰』を根付かせようとして居るとは思わなかった。

 

『ラグナ』とは光の世界、天界を意味している。

 

 つまり、天使を始めとした、天界の連中を信仰するという事だ。

 

 そんな吐き気がする世界にさせる訳にはいかない。

 

「まぁ…大臣は反対している様だけどね」

 

 ヴォルデモートの下で情報収集を行っているのは、かなり精神を使う様で、ドラコは疲れた様に溜息を吐いている。

 

「そういえば、今年も闇の魔術に対する防衛術の教員が変わるみたいだ」

 

「そうなの? 毎年変わっているわね」

 

「そうだね。スネイプ先生は魔法薬学に逆戻りしたみたいさ」

 

「案外あっちの方があっているかもしれないわね」

 

「そうだね」

 

 それにしても、毎年教員が入れ替わるのは異常だろう。それこそ呪われているのではないだろうか…

 




スネイプは魔法薬学に逆戻りです。

一体誰が、闇の魔術に対する防衛術の先生になるんでしょうね?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新任教師

今年から新しい先生がやってきます。

一体誰でしょうね?


   ドラコと会話しながら、しばらくすると、ホグワーツ特急は襲撃などを受ける事無く、無事に駅へと到着し、私達は最高学年として、駅に降り立った。

 

「こうして降りるのも、今年が最後か…」

 

「そうね…」

 

 ドラコの感傷的なつぶやきに私は簡単に返す。

 

「それにしても…闇の帝王が復活したというのに…ダンブルドアは何を考えているのやら…生徒全員を自宅待機にでもさせればいいものを」

 

「そうね、でも案外一か所に集めておいた方が守る分には丁度良いんじゃないかしら?」

 

「つまりは、ホグワーツで生徒を匿うって言うのかい?そして、死喰い人が攻めて来た場合は籠城戦でも行おうって言うのか?」

 

「さぁね? でもあの男なら案外そう考えるかもしれないわよ」

 

「ハハッ、確かにな。あの老害は自分の正義を守る為なら、どんな手段でも使うだろうな」

 

「それが今のスパイ活動って事?」

 

「まぁそんなところ」

 

 ドラコは苦笑いを浮かべると、ゆっくりと息を吐いた。

 

「はぁ…まぁ…ホグワーツに居る間は闇の帝王と直接関わる訳じゃないから、気楽でいいけどね」

 

「あら? そうなの?」

 

「そうさ。それに闇の帝王は魔法省勤めの『ラグナ信仰者』を死喰い人に引き込んでいるらしい」

 

「へぇ…」

 

「詳しくは分からないけど、捕らえられたマグルや半純血者は服従の呪文を掛けられ、強制的に『ラグナ信仰者』にさせられているんだ」

 

「悪趣味な事ね」

 

 ドラコは一瞬表情を暗くすると、落ち着いた口調で続ける。

 

「それだけじゃない。僕は見てしまったんだよ」

 

「見たって何を?」

 

「ロプト…あの男が服従の呪文を掛けられた『ラグナ信仰者』にも短剣を渡しているところを」

 

「え?」

 

 私は思いがけず、声を上げてしまう。

 

「その後…どうなったと思う?」

 

 まさか…

 

「あの男が手を振り下ろすと、服従の呪文にかかった人たちが、何の躊躇いも無く自分の胸にナイフを突き立てたんだ…」

 

 そう言うドラコの表情はとても暗い物だった。

 

「すると…死体が光を放って…」

 

「天使が生まれた…そうでしょ?」

 

 私がそう言うと、ドラコはゆっくりと頷いた。

 

「その通りさ…天使の誕生を見届けたアイツは、別の人達にも…同じように…むごい状況だったよ…」

 

 ドラコは悲しそうな表情をした後、懐から1本の短剣を取り出した。

 

「それは?」

 

「死喰い人全員に配られたんだ。いざという時使えって…つまり、最悪死ぬなら天使になって死ねって事さ…まったく…ふざけてるよ」

 

 ドラコは短剣を数回眺めると、森の中へと投げ捨てた。

 

「はぁ…まぁ実際問題、死喰い人にも『ラグナ信仰者』は多い。きっと闇の帝王が魔法界を制圧したら、ラグナ信仰を布教させ、殉教者(自殺志願者)でも募るんだろうな」

 

「そうなったら最悪ね」

 

「まったくだ」

 

 私達は、表面上だけの笑みを浮かべた。

 

 それにしても、ロプトがここまで力を付け、ラグナ信仰を布教させ、天使を大量に作り上げようとして居るとは…

 

 下手すれば、魔法界だけではなく、『天界』『人間界』『魔界』を巻き込んだ大戦争を起こすとも考えられる。

 

 それこそ、ヨハネの黙示録がチャチな絵本に思えるほどの…

 

 それだけは…何としても避けなくては…

 

 私は、若干の不安を覚えながらも、ホグワーツの正門をくぐり、中へと入って行った。

 

 

  ホグワーツの中へと入り、例年通り、大広間の席に座っていた。

 

 そして例年通り『平和』な始業式が始まった。

 

 しばらくすると、様々な不安を背負いこんだ新入生が列を作り入ってくる。

 

 不安があるのも無理はない、新入生程の年齢では、現状を理解するのは難しいが、この魔法界を取り巻く空気が最悪なのは、嫌でも感じるはずだ。

 

 その為、一様にその表情は暗い物だった。

 

「さて! 新入生諸君! 入学おめでとう!」

 ダンブルドアは新入生の表情を少しでも明るい物へと変えようと、必死に歓迎の言葉を述べている。

 そして、例年通り組み分けが行われ、帽子たちが歌い始める。

 

 だが、その歌の歌詞は今まで以上に暗く、お世辞にもいい歌とは言えなかった。

 

「さて…皆腹もすいている事じゃろう…今宵は盛大に食べ! 飲むのじゃ!」

 

 ダンブルドアがやけくそに手を叩くと、盛大な料理が現れ、新入生歓迎パーティーが始まる。

 

 料理のおかげもあってか、在校生と新入生の表情にも笑みがこぼれ始める。

 

「皆、この老いぼれの話に耳を傾けてくれんかの?」

 

 パーティーが中盤に差し掛かった頃、ダンブルドアが数回ゴブレットをスプーンで叩き、生徒達の注目を集めた後、立ち上がり、声を上げた。

 

 それに伴い、周囲の喧騒が一斉に静まり返った。

 

「改めてじゃが、新入生の諸君、歓迎するぞ。そして在校生の諸君はおかえりなさいじゃ。さて毎年の事じゃが、禁じられた森には生徒立ち入り禁止じゃ。そしてホグズミード村には3年生から行くことが許可される。それと、管理人のフィルチさんから皆に伝えるようにと言われたのじゃが、ウィーズリー・ウィザード・ウィーズとかいう店で購入した悪戯用具は全て校内持ち込み禁止じゃ。去年は校則を破り、大量に悪戯用具を持ち込んだ者が居た様じゃが、今年はいかんぞ…はて…毎年同じような事を言っている気が…まぁ…気にするほどの事でもないじゃろう…」

 

 ダンブルドアは冗談っぽく笑うと、在校生から若干の笑みがこぼれた。

 

「それでは、皆を教えてくれる先生方に付いて少し説明しよう。まずは去年まで、闇の魔術に対する防衛術の担当だったスネイプ先生は再び、魔法薬学の担当にお戻りになられた」

 

 ダンブルドアがそう言い切ると、スネイプは不機嫌そうな顔で鼻を鳴らしている。

 

「やっぱりアイツには無理だったな」

 

「魔法薬学の方がお似合いさ」

 

「いっその事辞めちまえばいいのに」

 

「それ賛成」

 

「あと1年くらい我慢なさい」

 

「あと1年もだろ! 耐えられないぜ…」

 

「右に同じ」

 

 ロンとハリーは互いに見合うと、こっそりと笑って居る。

 

「はぁ…」

 

 呆れた私は、ふと、教員席に目をやると、そこには1つだけ空席がある。恐らくあの場所が闇の魔術に対する防衛術の担当が座る席なのだろう。

 

「さて、次に闇の魔術に対する防衛術の担当の先生なのじゃが…まだ来ておらぬようじゃの…」

 

 ダンブルドアが顎に手をやり、呟くと周囲がざわつき始めた。

 

「まったく…担当教師は何をしているのでしょう。初日から遅刻とは…」

 

 マクゴナガルは呆れた様に呟いている。

 

 それにしても、入学式初日に遅刻とは、なかなか面白味のある教師だ。

 

「おい…何か聞こえないか」

 

 ロンが声を上げると同時に、聞き慣れた重低音が遠くに聞こえてきた。

 

「本当だ…何処かで聞いたことある音だけど…なんだろう…」

 

「そうなんだよね…僕も何処かで…」

 

 ハリーは考えこんでいるが、音は次第に大きくなっている。いや…近付いてきているというのが正しいだろう。

 

「あっ! そうだ! バイクだよ! バイクのエンジンの音だよ!」

 

「バイクって、ハグリッドが乗っているあれ?」

 

「そうだよ!」

 

「あー…道理で何処かで聞いたことある訳だ…でもどんどんデカくなってきているぜ」

 

 ロンの言う通り、次第にエンジン音が大きくなる。

 

「おい…あれ…」

 

 ロンが職員席の後ろを指差した。

 

 その瞬間。職員席の真上のステンドグラスに月明かりによって照らし出されたシルエットが浮かび上がる。

 

「なんだ!!」

 

「人だ!」

 

 誰かが叫ぶと同時に、ステンドグラスを突き破り、けたたましい破裂音と共にバイクと紅いライダースーツに身を纏った人物が大広間に侵入してきた。

 

「「「「うわぁぁあああああっぁぁ!」」」」

 

 私を除く全員の生徒が悲鳴を上げ立ち上がると、バイクはグリフィンドールのテーブルに着地して、卓上のグラスや料理などを巨大なタイヤで薙ぎ倒しながら、私の目の前まで迫り来る。

 

「はぁい」

 

 私が軽く手を上げると、バイクは目の前で急ブレーキを掛け、逆ウィリーの様になり、停止した。

 

「ふぅ…ここがホグワーツか。それにしても、なんとも古臭い」

 

「じきに慣れるわよ。ジャンヌ…それにしてもアンタ登場が派手すぎるわよ」

 

「何事も最初が肝心だ。派手な方が良いだろう」

 

「派手なのも良いけど、せっかくの料理が台無しよ」

 

「なぁに、後で屋敷しもべ(スタッフ)が美味しくいただくだろうから問題あるまい」

 

「確かにそうね」

 

 ジャンヌはバイクから降りると、紅い杖を取り出し、軽く振る。

 

 すると、バイクがエンジンを唸らせ、その場で半回転させ無人の状態で外へと出ていった。

 

「さて…私の紹介がまだの様だな。早くしてくれないか。ダンブルドア」

 

「あ…あぁ…そうじゃな」

 

「ちょっと待ちなさい!」

 

 ダンブルドアを遮る様に、マクゴナガルが叫び声を上げた。

 

「これはどういう事です! 遅刻したうえ、ステンドグラスを突き破ってくるなど! 教師としてあるまじき行為です!」

 

「あぁ、道が混んでいてな。近道をしたらこの様だ」

 

 ジャンヌは若干微笑みながら、杖を振るうと、バラバラになり大広間全体に散らばったステンドグラスが、時間を巻き戻すかのように元通りになった。

 

「これで文句は無いだろう」

 

「やるわね。アンタも」

 

「これでも教師だぞ」

 

「そう言う問題では…」

 

 現状を見てマクゴナガルは困惑している。

 

「まぁ…良いではないか…では改めて紹介しよう。ジャンヌ先生じゃ。ミス・セレッサとは一応、姉妹じゃったな」

 

「その通りだ」

 

 ジャンヌはそう言うと、ダンブルドアが差し出した握手を無視し、教員席に腰かけた。

 

「私には構わず進めてくれ」

 

「あ…あぁ、そうじゃな。そうしよう」

 

 ハリー達はジャンヌの姿を見て緊張と不安と期待が混じった表情をしている。

 

「すごい先生が入って来たね…」

 

「相当怖そうだね。実際のところどうなの?」

 

「さぁ? どうかしらね」

 

「さぁって…君のお姉さんだろ?」

 

「一応ね。複雑なのよ。色々ね」

 

「女って…よくわかんないよ…」

 

 はぐらかされたロンは、ただ一言そう呟いた。

 

 そして、ハリー達は、再びジャンヌに視線を戻すと、自分達がどんな授業を受けるのか想像し、震えていた。

 

 当のジャンヌはそんな事などお構いなしに、化粧ポーチを取り出すと、メイクを直し始めている。




やっとジャンヌが本格的に魔法界にやってきました。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

組み手

今回、ジャンヌ先生の初授業です。

どうなるでしょうね。



それと、また風邪を引きました。

季節の変わり目はいつもこれです。




 

 

 

  数日後。

 

 今日は、ジャンヌの授業を初めて受ける日だ。

 

 それはつまり、今年最初の闇の魔術に対する防衛術の授業の時間がやって来た。

 

「今年はどんな事やるのかな?」

 

「さぁ? でも今までの先生よりは期待できるんじゃない? 少なくとも僕はそう思うよ」

 

「まぁね、それにしてもあの人、ベヨネッタのお姉さんなんだろ?」

 

「まぁ、そうね」

 

 隣に居たロンが、急に口を開いた。

 

「それにしても…姉妹なのに…先生の方は少し…その…胸のボリュームが――」

 

「貴様、何か言ったか」

 

 ハリー達がそんな会話をしていると、急に現れたジャンヌがロンの後頭部に銃を突き付ける。

 

「いえ! 何も言ってません!」

 

「そうか、あまり余計な事を言うものではないぞ。でないと鼻の穴が1つ増えることになる」

 

「はっ! はいぃい!」

 

 ジャンヌが銃を納めると、ロンは腰を抜かしたのか、その場に崩れ落ちた。

 

「さて…全員、机を後ろに集めて、椅子に座れ」

 

 ジャンヌの指示に従い、生徒達は机を教室の奥に置き、椅子を並べて座り始めた。

 

 その間に、ジャンヌは机の上にプロジェクターとノートパソコンを用意すると、それらを接続し、黒板に巨大なスクリーンを貼り始めた。

 

「あれはなんだろう?」

 

「さぁ?」

 

「あれ見たことあるわ。マグルの道具で…確か…ノートパソコンって言ったかしら? でもあんな薄い形の初めて見たわ」

 

「もう1つの方は?」

 

「あれは…ちょっとわからないわ…映画でも見るのかしら?」

 

 ハーマイオニーは興味深そうにそれらの器具をマジマジと見ている。

 

 この時代には存在しない物だから興味が湧くのも当然だろう。

 

「そうなのかい? でもマグルの機械とかは魔法界じゃ使えない筈だけど」

 

「そうなのよね…きっと何か細工がしてあるんだと思うわ」

 

「僕のパパが知ったら驚くと思うよ」

 

 恐らく、ロダンあたりが改造したのだろう。

 

「さて…全員準備は出来たな」

 

 ジャンヌはそう言うと、杖を一振りし、教室に暗幕を展開し、部屋の中を暗くする。

 

「全員、注目だ」

 

「うぉ!」

 

 ロンが間の抜けた声を上げると同時に、プロジェクター電源が入り、スクリーンに映像が投影される。

 

 

「うぉおおお! すげぇ!」

 

「なんだこれは!」

 

「どうなっているのよ…」

 

 スクリーンに映像が投影されただけで、生徒がざわめきだした。

 

「見ろよこれ! 影絵が出来るぞ!」

 

ロンが手で犬の影を作り、遊び始めた。

 

「静かにしろ! まったく騒がしい連中だ」

 

 ジャンヌが怒声を上げると、教室内が静まり返る。

 

「さて…私の授業だが、主に戦闘の術を教えよう」

 

「防衛術じゃないのですか?」

 

 ハーマイオニーがいつも通り、当然の権利の様に手を真っ直ぐ上げると、ジャンヌに問いただした。

 

 

「やられてからでは、何事とも遅いからな。先手必勝だ」

 

 ジャンヌがノートパソコンを操作すると、スクリーンに投影される映像に変化が生じる。

 

「これから映し出す映像は、主に戦闘での動き方だ」

 

 スクリーンには、3ⅮのCGが戦闘している様が映し出されている。

 

「まぁ、見て覚えろと言うのもあれだろうから、詳しく学びたい者は今宵、開催する決闘クラブに参加するように」

 

「決闘クラブ? ロックハート様以来じゃないか」

 

「チッ!」

 

 ロンが小馬鹿にするように口遊むと、ハーマイオニーが恐ろしい形相で睨みつけ、舌打ちをしている。

 

「じょ…冗談だって…そんな怖い顔するなよ」

 

 ロンが地雷を踏んでしまったせいか、ハーマイオニーの機嫌はしばらく治る事は無いだろう。

 

 それにしても『決闘クラブ』とは、ジャンヌもいろいろと考えたものだ。

 

「では、授業を続けるぞ」

 

 ジャンヌがそう言うと、生徒達がスクリーンに釘付けとなり、様々な戦闘シーンが映し出されるが、そのすべては実に防衛戦向きだ。

 

 こちらからは攻め込まず、いかに相手の戦力を削るかに重点が置かれている。

 

 だが、それを理解している生徒は果たしているのだろうか?

 

 しかし、皆楽しそうな表情を浮かべている。

 

 初めて見る映像が心を掴んだのだろう。

 

 その後の授業は順調に進んでいった。

 

 

 

  その日の夜。今日はちょうど満月の様だ。

 

 そんな中、ジャンヌ主催の決闘クラブが開催された。

 

 顧問は、ジャンヌとスネイプという事だ。

 

 好奇心と冷やかす為に私が、会場の扉を開くと、そこには大勢の生徒で溢れかえっていた。

 

「さて、この場に居る全員が志願者という事で良いな」

 

 ジャンヌの声が響き、それに呼応するように、生徒が頷いている。

 

「それでは始めようか。まずはデモンストレーションだ」

 

 ジャンヌがそう言うと、スネイプが杖を片手に、壇上に上がろうとするが。

 

「貴様では力不足だ」

 

「ぬうぅ…」

 

 

 スネイプはジャンヌににはっきりと言い捨てられると、苦虫を嚙み潰したような悔しい表情を浮かべている。

 

「さて…今宵の組手の相手だが…」

 

 ニヤついた表情のジャンヌが懐からナイフを取り出し、右手に構えた。

 

「フン」

 

 右手をものすごい速度で振り、私にナイフを投げつけてきた。

 

「危ないじゃない」

 

 飛んできたナイフを難なく人差し指と中指の2本で挟み受け止めると、手の平で遊ばせる。

 

「久しぶりに組み手をやろうではないか。なぁ、セレッサ」

 

 ジャンヌが良い笑顔で、私を壇上へと誘う。

 

 私はその場で飛び上がると、壇上に着地し、ジャンヌと対峙する。

 

「良いじゃない。少し退屈していたところだったのよ。さぁ遊びましょう」

 

 私達は、両手両足に銃を装備し、向かい合う。

 

「行くぞ!!」

 

 私達はほぼ同時に飛び上がると、両手の銃を互いに向け乱射しあう。

 

 私が放った弾丸は、空中でジャンヌが放った弾丸とぶつかり、その場で砕け散る。

 

「ハァ!」

 

「フン!」

 

 私は着地と同時に飛び掛かり、銃身でジャンヌに殴りかかる。

 

「甘いぞ!」

 

 しかし、銃身での打撃は左手で受け止められ、そのまま、ジャンヌが右手の銃を乱射する。

 

 

「危ないわ」

 

 後方に飛び退くと顔面すれすれを弾丸が飛び交う。

 

 私達はそのまま、互い銃撃と打撃の攻防が続く。

 

「あれ…どうなっているんだ…」

 

「さ…さぁ? 速すぎて良く分からないよ」

 

 同時に上空に飛び上がると、互いに型を決めながら、顔面に突き付けられた銃身をずらして、銃弾の直撃を避ける。

 

「うぬぅ…あれは世に聞くガン=カタだ!」

 

「知っているのか! セドリック!」

 

「ガン=カタとは、統計学的に有利な位置に立ち回りながら射撃・打突を駆使し絶え間の無い攻撃を繰り出す。習得すれば攻撃能力は120%UP、たとえ向上がその半分以下だとしても敵にとっては脅威となると言われている!」

 

「ガン=カタ…何と恐ろしい技よ…」

 

 ギャラリーの方では何やら盛り上がっている様だ。

 

「フン!」

 

「ハァ!」

 

 互いにウィケットウィーブを発動させ、拳と拳がぶつかり合う。

 

 その衝撃で、部屋の内部に亀裂が入る。

 

「やるな!」

 

「そっちこそ!」

 

 そのまま、突きのラッシュ比べが始まる。

 

「うわぁ!」

 

「何とかしろよ!」

 

プロテゴ・マキシマ(最大の護り)!!」

 

 スネイプが周囲に防御魔法を張ったようだ。これで更に派手に動けると言う物だ。

 

「「はぁぁぁ!」」

 

 互いのストレートがぶつかり合い、周囲に衝撃波が走り、反発しあう様に、体が吹き飛ぶ。

 

「さぁ! まだまだだ!」

 

 壁に着地したジャンヌは、ウィッチウォークを使い、壁に垂直に立っている。

 

「行くわよ!」

 

 そのまま飛び上がり、天井に着地すると、ジャンヌに飛び掛かる。

 

「あれ…どうなっているんだ…」

 

「僕達…あれをやらなきゃダメなのかな…」

 

「あんなの…重力無視してるわ」

 

「吾輩にも…さっぱりわからん…」

 

 ジャンヌの直上に飛び上がると、そのまま踵落としを決める。

 

「甘いぞ!」

 

 私は、攻撃が直撃する寸前に、体を蝙蝠に変え、その場から退避する。

 

 踵落としが当たった壁はヒビが入る。

 

 

「きりが無いわね」

 

「そうだな、時間も時間だ。そろそろ決着と行くか」

 

 互いに、髪の魔力を開放し、召喚用のゲートを作成する。

 

「やばいぞ!」

 

 ハリー達の叫び声が響く。

 

 その時、部屋の扉が勢い良く開かれ、マクゴナガルがヒステリックな声を上げた。

 

「貴女達!! 何をやっているのですか!!」

 

 私達はマクゴナガルを一瞥した後、壇上に着地した。

 

「まったく…興が削がれたな」

 

「そうね。少し熱くなりすぎたかしら?」

 

「そうかもな。この後どうする?」

 

「そうね、1杯やりたいわ」

 

「そうか、なら行くぞ」

 

「いいじゃない」

 

 私達は扉の前へと、歩いていく。

 

「待ちなさい! 説明を!」

 

「誰か適当に頼むわ」

 

 マクゴナガルの悲鳴を背後に受けながら、私達はその場を後にした。

 

 そんな私達の後姿を、ドラコが眺めていた。

 

 

 

 

 

  私が新任教師としてホグワーツで宛がわれた部屋で明日の授業で使うプリントの作成に取り掛かる。

 

「ふぅ…しかし…総て手書きとは…技術が遅れているにも程がある」

 

 私は、鞄からノートパソコンを取り出す。

 

 やはりこちらの方が楽だ。

 

 一部の魔法使いは、魔法によって文字を書き、転写する様だが、こちらの方がはるかに速いだろう。

 

 書類の制作も終わり、後はプリントアウトするだけとなった。

 

 その時、部屋の扉を叩く音が響いた。

 

「ん? 誰だ?」

 

「ドラコ・マルフォイです、ジャンヌ先生。少し良いですか?」

 

 確かスリザリンの生徒だったか。

 

「空いているぞ。入れ」

 

「失礼します」

 

 扉の向こうから、自信なさげな表情の少年が入室してきた。

 

「何の用だ?」

 

「あの…先生はセレッサと同じ技を使っているようでしたが…」

 

「あぁ、そうだぞ」

 

「その…そこでお願いがあります」

 

「なんだ? 言ってみろ」

 

 自信なさそうに、マルフォイがゆっくりと口を開いた。

 

「僕に戦い方を教えてください!」

 

「なんだと?」

 

「僕は…今までセレッサに助けて貰ってばかりでした…だから自分の身ぐらい自分で守れるようになりたいんだ!」

 

「そうか…」

 

 私は、マルフォイを見据え、少し考える。

 

 簡単なアンブラの術を教えてやれない事も無いだろうが、一朝一夕であの動きが出来るとも思えん。

 

「そうだな」

 

 多少魔力はあるようだ、後は体力さえ付ければ、『アレ』が使えるかもしれない。

 

「分かった、鍛えてやろう」

 

「本当ですか!」

 

「あぁ、ただかなり厳しいぞ」

 

「はい!」

 

「ならまた日程が決まったら連絡しよう」

 

「ありがとうございます!」

 

 マルフォイは嬉しそうな顔で、退室していった。

 

「セレッサも相変わらず、面倒な男に好かれる奴だ」

 

 私は少し溜息を吐くと、鞄からプリンターを取り出し、印刷を開始した。

 

 




マルフォイ強化フラグが立ちました。

どこまで強くなるかは、後半で明らかになります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

分霊箱の存在

今回はつなぎみたいな回なので結構短めです。




 

   私は、急遽の用事という事でダンブルドアに校長室に呼び出された。

 

「まったく、人使いが荒いんだから」

 

 私は呟きながら、校長室の前に到着すると、そこにはジャンヌの姿もあった。

 

「セレッサか」

 

「どうも、アンタも呼び出し?」

 

「そんな所だ。何の用かは知らんがな」

 

 ジャンヌはその場で足を振り、扉を蹴り開ける。

 

「何事です!」

 

 最早、マクゴナガルの名台詞と化した言葉を聞きながら、校長室へと入って行った。

 

「おぉ、来てくれたか、セレッサ。それにジャンヌ先生、できれば扉は丁寧に開けて欲しいものじゃな」

 

「建付けが悪くてな。仕方なくだ」

 

「そうか…」

 

 周囲を見渡すと、部屋の中には、ハリー達と、ドラコとスネイプが集結していた。

 

「それで? 何の用で私達を呼び出したの?」

 

「不死鳥の騎士団の件についてじゃ」

 

「あら? ジャンヌも入団させられたの?」

 

「いや、初耳だ」

 

「協力してくれんかの?」

 

「いろいろと自由が利くなら構わんぞ」

 

「なら、交渉成立じゃな」

 

 その時、校長室に置かれていたクローゼットが音を立て。中からシリウスとルーピンが姿を現した。

 

「隠れ家から、本当にここに繋がっているんだな」

 

「そうみたいだな」

 

 2人はクローゼットから現れると、周囲を見回していた。

 

「シリウス・ブラック…死んだはずじゃ…」

 

「世間ではそうなっているみたいだな。それにしてもまさか、マルフォイ家の人間がここに居るとはな」

 

 シリウスは不機嫌そうにドラコを睨みつけている。

 

「どうやら、彼等も不死鳥の騎士団側に付いたようだ」

 

 ルーピンはドラコを見ながら、何度か頷いていた。

 

「2人とも良く来てくれた。それでは今後について話そう。ドラコよ頼むぞ」

 

「あ…あぁ」

 

 ドラコは少し動揺したように、口を開いた。

 

「依頼されていた、分霊箱についてだが、『ヘルガ・ハッフルパフの金のカップ』で間違い無いだろう」

 

 それを聞いて、ダンブルドアは顔色を変えた。

 

「そうか、それはどこじゃ…」

 

「グリンゴッツ銀行にあるベラトリックス家の金庫だ。闇の帝王自らがベラトリックス・レストレンジに依頼していた」

 

「そうか…しかし…グリンゴッツとは…また厄介な…」

 

 ダンブルドアは溜息を吐きながら、天を仰いだ。

 

「どうしたものか…」

 

「どうにかして忍び込むとかは?」

 

「ロンよ、それは無理じゃ。あそこは魔法界でも1~2を争う程厳重な警備じゃ」

 

「じゃあ、変装したら?」

 

「それも無理じゃよ。そんな事でグリンゴッツが騙せるのならば皆やっておる」

 

「そうか…」

 

「ならば、私が行ってみよう」

 

 シリウスが自信に満ちた声を上げた。

 

「私とベラトリックス・レストレンジは仮にも従妹だ。きっと通してくれるはずだ」

 

「待つのじゃ」

 

「いいえ! 行ってきます!」

 

 シリウスは意気揚々とクローゼットへと消えていった。

 

 

 

 

 

  数十分後、クローゼットからは暗い顔のシリウスが現れた。

 

「その顔で分かるわ」

 

「あぁ…ダメだったよ」

 

「そりゃそうじゃろう…」

 

 ダンブルドアは呆れた様に溜息を吐いていた。

 

「血縁者でも、無理だと言われた…」

 

「まったく情けない連中だ」

 

 先程まで口を閉じていたジャンヌが口を開いた。

 

「そんな物、正面から堂々と取りに行けばいいだろう」

 

「それもそうね。ノックしたら開けてくれるかしら?」

 

「開けなければ、ぶち破ればいい」

 

「いい案じゃない」

 

 私達は、軽くハイタッチを決める。

 

「しかしの…相手はあのグリンゴッツじゃ…強盗に入るなど…」

 

「それ以外に手は無いのだろう?」

 

 ジャンヌの言葉に、ダンブルドアは苦しそうに頷いた。

 

「ならば、私も行こう」

 

「シリウスが行くなら、僕も行くよ!」

 

 シリウスとハリーがグリンゴッツ強襲に名乗りを上げた。

 

「ならば、『ヘルガ・ハッフルパフの金のカップ』については諸君らに頼もう…実はもう一つ分霊箱には当てが有るのじゃ」

 

「それは何です?」

 

 マクゴナガルが興味深そうに声を上げた。

 

「『スリザリンのロケット』『ヘルガ・ハッフルパフの金のカップ』ここまで来て何か疑問に思う事は無いかの?」

 

「すべて…ホグワーツ創設者由来の品…」

 

「そうじゃ…グリフィンドールの剣は壊れている以上、残りは『ロウェナ・レイブンクローの髪飾り』だけじゃ…そもそもグリフィンドールの剣が分霊箱だったかどうかすら怪しいがのぉ…」

 

 それを聞いた、マクゴナガルとルーピンは何度も頷いている。

 

「しかし…それはどこに…」

 

「分からぬ…じゃが、知って居る者に心当たりはある」

 

「それは…まさか…」

 

「そのまさかじゃよ…『灰色のレディ』…『ヘレナ・レイブンクロー』に聞くとする」

 

「しかし彼女は…」

 

「わかっておる…しかし、それしかあるまい」

 

 ダンブルドアは分かり易い笑みを浮かべている。

 

 

「『ロウェナ・レイブンクローの髪飾り』はワシ等が回収しよう。諸君らは『ヘルガ・ハッフルパフの金のカップ』を頼む」

 

「わかったわ」

 

 それを聞いたダンブルドアは安心したような表情を浮かべた。

 

 

 

  校長室を後にした私達は近くの教室に集まった。

 

「さて…僕達は数日後、グリンゴッツに強盗に入らなきゃいけない…」

 

 ハリーがおもむろに呟く。

 

「正面突破するとして…どうするんだ?」

 

「そうねぇ…とりあえず場所を聞いて後は押し入れば良いんじゃないかしら?」

 

「そうだね。最悪の場合職員を人質に取ればいいか」

 

「ハリー…」

 

 ハリーの発言にシリウスは若干引きつった表情をしている。

 

「とにかくだ…グリンゴッツに強盗に入るとはいえ、身元がバレるのは不味いだろう」

 

「確かにそうね」

 

「身元を隠せるものを用意した方が良いかもしれない」

 

「ほぉ…確かに世を忍ぶ姿は必要だ」

 

 ジャンヌは何を思ったのか意味深な笑みを浮かべている。

 

「ならば各自で、身元を隠せるものを用意するとしよう」

 

「そうね」

 

 シリウスは言い終えると、部屋を後にした。恐らくクローゼットにでも向かうのだろう。

 

「さて…僕も適当に用意しなきゃ」

 

 ハリーはそう言うと、シリウスの後を追う様に出て行った。

 

 身元を隠せるものか…

 適当に用意するとはいえ、何を持ち出すか…

 

 少し考えなければ…

 

 




次回はグリンゴッツに強盗に入ります。


ちなみにジャンヌはグリンゴッツの強盗には参加しません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

グリンゴッツ強襲

今回は、グリンゴッツに押し入ります。

魔法界でも上位に入る安全性ですが、どうなることやら…


ちなみに、グリンゴッツに押し入るメンバーにジャンヌは居ません。


 

   数日後、ダンブルドアから特別休暇を与えられた私達は、グリンゴッツの前に集結していた。

 

 

 周囲を見渡してみるが、人の数は疎らだ。

 

 やはり、ヴォルデモートが復活して以来、外出を楽しむ余裕も無いのだろうか。

 

 

「やぁ、ベヨネッタ」

 

 そんな時、背後からやって来たハリーが声を掛けてきた。

 その手には、覆面レスラーが良くかぶっている様なマスクが握られていた。

 

 

「ところで…ジャンヌ先生は?」

 

「まだなのよ。もう少しで来ると思うわ」

 

 ジャンヌが遅刻とは珍しい、案外時間には正確なタイプだと思っていたが…

 

「そうだね…ところで…その恰好は?」

 

「これ? 素敵でしょ。昔を思い出すわ」

 

 今日の私は、今までのホグワーツの制服では無く、アンブラの魔女の正装を着込み、口元を隠している。

 

 所々に光る、金細工がアクセントだ。

 

「まぁ、顔がバレるのはあれだけど…隠しすぎじゃない?」

 

「これくらいした方が良いのよ、ところで…アンタは何を持って来たのよ?」

 

「僕かい? 僕はこれさ」

 

 そう言うと、ハリーは手に持っているマスクをヒラヒラとはためかせた。

 

 何処にでもある様な外見で、黒を主体としているが、黄色いラインが入っているので案外目立ちそうだが…

 

「ありきたりね…まぁ良いんじゃないかしら?」

 

「シンプルなのが良いのさ」

 

 ハリーが自慢げに覆面を被ると、なぜかニンジャの様なポーズを取っている。

 

 最近のイギリスではニンジャが流行っているのだろうか?

 

 それにしても、銀行の前で、マスクを被りニンジャポーズを取っているハリーは何とも滑稽だ。

 

 数少ない通行人が、視界の端に捕らえた瞬間に目線を逸らしている。

 

「あまり派手な事をするものじゃ無いぞ、ハリー」

 

 背後から銀のマスクを付けた人物が歩いて来た。

 

「え? 誰?」

 

「やぁ2人とも、準備はできている様だね」

 

「えー…もしかして、シリウス?」

 

「そうだ。似合っているだろ? 死喰い人のマスクさ」

 

 シリウスは嬉しそうな声を上げ、マスクを外した。

 

 しかし、なんともシュールな光景だろう。

 

 覆面レスラーに死喰い人のコンビが銀行の前で和気あいあいに会話しているのだから。

 ここだけ見れば、とても平和な光景だろう。

 

「ところで、もう一人はまだか?」

 

「そうなんだよ」

 

 ハリーが溜息を吐いた瞬間、私達の前に、白い戦闘装束を着込み、額に『J』の文字が入った白い仮面を被った人物が着地した。

 

「貴方は…まさか!」

 

 白い仮面の人物はゆっくりと立ち上がると、腰に手を当て、ドヤ顔を決めている。

 

「アンタ…何やっているのよ…ジャンヌ」

 

「ジャンヌ? 誰だそれは?」

 

 白い仮面の人物は髪を掻き上げる動作をすると、背後でカラフルな爆炎が上がる。

 

「私の名は、キューティー・Jだ!」

 

「えぇ…」

 

 ハリーは戸惑いの表情を浮かべ、私は苦笑いを浮かべている。

 

 そんな中…

 

「キューティー・J…一体誰なんだ…」

 

 シリウスは不思議そうに呟いた。

 

「さ…さぁ行こうか!」

 

 ハリーは事態を収拾させるべく、覆面を被りグリンゴッツの扉を開けた。

 

 

  扉を開け、中へと入ると、いつも通り、小鬼達がせわしなく働いている。

 

「本日は、どのようなご用件で?」

 

 グリンゴッツの中に入った瞬間から、感じていたが、小鬼を始めとした、全員が騒ぎ始めた。

 

「単刀直入に聞く。『ベラトリックス家の金庫』はどこだ?」

 

 シリウスは小鬼相手に、仮面越しで問いかけるが、小鬼は依然として、厳しい声を上げた。

 

「ベラトリックス様とは、どのようなご関係で?」

 

「そんな事はどうでもいいだろう。早く答えろ」

 

「お答えする事はできません、先日同様の事を聞いて来た人物が居ましたが、丁重にお断りいたしました」

 

「まぁいい…大方の予想は付く、地下金庫だろ」

 

「………だとしても、お連れするつもりはありません」

 

 小鬼はしっかりと答え、周囲の人々が騒ぎ出した。

 

「まぁいい。場所さえ分かれは、何の問題も無い」

 

 キューティー・Jはそう答えると、どこに仕舞って居たのか、巨大なハンマーを取り出した。

 

 確か、『野牛』と言ったか、あまりにもダサい名前なので、私は使わなかった品だ。

 

「アンタ、まだそんなの使っていたのね」

 

「フン、私はお前と違って、名前が変でも性能が良ければ使うからな」

 

 キューティー・Jはその場で、力を溜めると、帯電した野牛を床に叩きつけた。

 

「うぉ!」

 

 その瞬間、地面に大穴が空き、私達の体は重力に従い、地下へと降りていった。

 

 

 

「うわぁ!」

 

「ごふっ!」

 

 私達は華麗に着地したが、ハリーとシリウスは倒れ込むように着地した。

 

「いてぇ…ここはどこだ…」

 

 ハリー達は周囲を見回している。

 

 それにしても、薄暗い洞窟の様な場所だ。

 

「こっちだ!」

 

 シリウスが声を上げると、そこには古風なトロッコがレールの上に置かれていた。

 

「これに乗れば、地下金庫に行けるはずだ」

 

「そうなんだ。シリウス運転できる?」

 

「…まぁ…出来るはずだ……多分な」

 

「えぇ…」

 

「いいから行くわよ」

 

 私達は、トロッコに乗り込むと、シリウスが運転を開始した。

 

 

 しばらく、薄暗い洞窟内を高速のトロッコで移動していると、シリウスが焦り始めた。

 

「まずいな…」

 

「どうしたの?」

 

「おかしいんだ…操縦が効かない!」

 

「えぇ!」

 

 その時、目の前に巨大な滝が現れた。

 

「あれは…盗人落としの滝だ!」

 

「何よそれ?」

 

「あらゆる隠蔽魔法を洗い流す滝だ! あれは不味いぞ!」

 

「そう…なら飛ぶわよ」

 

「飛ぶって?」

 

「行くぞ!」

 

 私はハリーの首元を、キューティー・Jはシリウスの首元を掴むと、トロッコから飛び上がる。

 

「「うぉおおおお!」」

 

 私はその場でクロウウィズインを発動させ、体をカラスに変る。キューティー・Jはふくろうに変化している。

 

 そのまま、(あしゆび)で服を掴むと、目的地へと滑空した。

 

 

 

 

  その後しばらくの間、空の旅を楽しんだ後、私達は目的の地下金庫の入り口に到着し、姿を人へと戻した。

 

「ここが…」

 

 シリウスが一歩踏み出そうとした瞬間、奥から呻き声が響いた。

 

「何かいる!」

 

 

 ハリーが声を上げ、全員がその方に目を向けると、そこには、武器と防具を身に纏ったトロールの集団が呻き声を上げながら、こちらに近付いてきている。

 

その動きは、統率が執れており、恐らく何者かによって調教されているのだろう。

 

「まずい! どうするの!」

 

 ハリーとシリウスは杖を構え、必死に考えを巡らせている。

 

「まぁいいわ。あまり上品な相手じゃないけど」

 

「我々が相手をしてやろう」

 

 私達はトロールの群れに突っ込むと、とろい攻撃を難なく避け、ウィケットウィーブを駆使し、トロールを駆逐していく。

 

「あれは…」

 

「もはや…一方的ではないか…」

 

「甘いわよ!」

 

 マダムのストレートを食らわせ、トロールが勢い良く吹き飛ぶ。

 

「まだまだだな!」

 

 キューティー・Jはその場で飛び上がると、トロールをオーバヘッドキックで蹴り返し、トロッコのレールを破壊した。

 

「これで、追っては来ないだろう」

 

 一息入れようとすると、先程よりも凄まじい呻き声が響き渡る。

 

「なんだ?」

 

 そこには、息絶えた仲間(トロール)の死体を踏み潰しながら、こちらに一歩ずつ近寄ってくる巨大なトロールの姿があった。

 

「なんだ! あの大きさ!」

 

「規格外ってレベルじゃないぞ!」

 

 ざっと見積もっても、25m程の大きさだろうか。

 

「まったく…デカけりゃいいとでも考えているのか…」

 

 キューティー・Jはイラつきながら、嫌そうに呟いている。

 

「でも、大きい方が良い事もあるのよ、いろいろとね」

 

 私は、胸を強調するように、背中を逸らせると、隣から舌打ちが聞こえる。

 

「まぁいい…さっさと片付けるぞ」

 

「OK!」

 

 私達は、同時に飛び上がると、同時に飛び蹴りを喰らわせる。

 

「グラァあぁああ!」

 

 直撃を喰らったトロールは吹き飛ばされ、壁にめり込んでいる。

 

「なんだ。随分と呆気ないな」

 

「本当ね。これじゃあ暇潰しにもならないわ」

 

「グラァ!」

 

 瓦礫の中から、トロールが立ち上がると、周囲にある瓦礫を手当たり次第に投げ始めた。

 

「まったく、品が無い奴だ」

 

 私達は、迫り来る瓦礫をマダムの拳で打ち返すと、トロールに一気に詰め寄り、4つの拳で、ラッシュを掛ける。

 

「無駄だ!」

 

「オラァ!」

 

 突きのラッシュを一身に受け、トロールがぼろ雑巾の様に、その場に倒れ込んだ。

 

「さて、仕上げと行くか」

 

「決めるわよ!」

 

 私達は、同時に髪の魔力を開放し、召喚用のゲートを開く。

 

 そこには、白色のゴモラと、黒色のラボラスが姿を現した。

 

 ラボラス

 運悪く地獄に迷い込んでしまった愛玩犬が、たぐいまれなる生存本能で魔界の厳しい環境を生き延び大きくたくましい姿に変化を遂げた。

狩りの本能も研ぎ澄まされ、殺戮の達人と言われるほどにまでなっており、鋭い犬歯が特徴で、噛みついた敵がどんな相手でも、絶命するまで逃さないという。

 

 ラボラスとゴモラに狙われたトロールがその場から逃げ出そうとするが、ゴモラがその足に噛付き、ラボラスが上半身に喰らいついた。

 

 そのまま2匹は、上半身と下半身を半分ずつに千切ると、胃袋に納めた。

 

「なんか、こんなシーンを映画で見た気がするよ…確か…わんわ――」

 

「ハリー…それ以上はいけない…」

 

 静まり返ったその場に、2人の呟きだけが木霊した。

 




キューティー・J…

一体何者なんだ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

大事の前の小事

最終章も中盤です。


ここら辺から、魔法界に被害が出始めますね


 

   トロールを吹き飛ばした後、しばらく道なりに進むと、巨大な扉が数多く並んでいる場所に着いた。

 

「ここが地下金庫だ」

 

 シリウスはそう言うと、ある金庫の前で立ち止まった。

 

「これが、ベラトリックス家の金庫だな」

 

「ならさっそく入ろうよ!」

 

「待て!」

 

 金庫の扉を開こうとするハリーをシリウスが制した。

 

「仮にもここはグリンゴッツだ。恐らく扉にも何か仕掛けがあるはずだ」

 

「そんな…」

 

 ハリー達は、金庫を目の前にして、動けなくなっている。

 

「まったく…邪魔な扉だ」

 

「そうね。なら、やる事は一つね」

 

 私達は、拳を構えると、背後にマダム達の拳が現れる。

 

 そのまま、2人同時にストレートを放ち、金庫の扉をぶち破る。

 

「さぁ、空いたわよ」

 

「あ…あぁ」

 

 ハリーはゆっくりと扉を潜り抜けていった。

 

「他の金庫には何が有るんだ?」

 

「そうだな。ここら辺一帯はどうやら、死喰い人のメインバンクのようだ」

 

「ほぉ…そうなのか」

 

 何を思ったのか、キューティー・Jは隣の金庫の扉をぶち破った。

 

「おい! 何をやっているんだ!」

 

「どうせ、しょうもない連中の金だ。この私が有益に使ってやるさ」

 

 そう言うと、キューティー・Jは手当たり次第に金庫を漁り始めた。

 

 数十分後、キューティー・Jは周辺にある死喰い人の金庫を全て荒らし終わった頃、ハリーの悲鳴が響いた。

 

「うわぁぁあああああっぁぁ!」

 

「どうしたんだ! ハリー!」

 

 ハリーは片手に、小奇麗なカップを持ちながら、大量のカップの波を掻き分けながら出てきた。

 

「カップに触ったら、増えはじめたんだ!」

 

「くそっ! これも恐らく罠だろう…逃げるぞ!」

 

「でも! 逃げるってどこへ!」

 

 ハリーが叫んでいると、入り口の方からグリンゴッツの職員が大量に迫って来た。

 

「追いつめたぞ! 盗人め!」

 

「挟まれた!」

 

「まったく騒がしいな」

 

「本当にね。さて、用も済んだ事だし、帰りましょ」

 

 その場で軽く指を鳴らすと、召喚用のゲートが開き、巨大な蝙蝠、『ミクトランテクートリ』が現れ、周囲に怪音波を発している。

 

 ミクトランテクートリ

 魔界にある無数の洞窟の中でも特に暗い場所に棲んでいる巨大な蝙蝠。飛び去った後、疫病が蔓延するともいわれている。

 目の様な感覚器官で霊波を照射し、その反射から目で見るよりも細やかな情報を得る事が出来る。

 

「なんだこれは!!」

 

 シリウスを始めとした、その場の全員が驚いている中、ハリーが呟いた。

 

「僕、もう…驚かないさ」

 

「さて、行くわよ」

 

 私達はミクトランテクートリの背に乗ると、羽ばたき始めた。

 

「逃さん!」

 

「うぉ!」

 

 グリンゴッツの職員が魔法を放つと、シリウスを掠める。

 

 シリウスは体を捻り、何とか回避したが、その際に付けていた仮面が外れ、素顔を晒してしまった。

 

「貴様は! シリウス・ブラックか!」

 

「まずい!」

 

「急ぐわよ!」

 

 シリウスは急ぎ、ミクトランテクートリに飛び乗ると、急上昇を始めた。

 

「待て!」

 

 グリンゴッツの職員が次々と杖を構える。

 

「邪魔な連中だ」

 

 キューティー・Jは銃を構えると、グリンゴッツの職員目掛けて、引き金を引いた。

 

「うぉお!!」

 

 杖を構えていた、面々はその場にしゃがみ、頭を低くした。

 

 放たれた弾丸は、彼等の真上で軌道を変えると、ベラトリックス家の金庫の中へと吸い込まれていった。

 

「さて、行くとするぞ」

 

 急上昇をした、ミクトランテクートリは、次々と隔壁を打ち破り、グリンゴッツの天井をぶち破り、外へと脱出した。

 

 

 

 

 グリンゴッツから脱出した、私達は隠れ家から『姿をくらますキャビネット』を使い、ホグワーツへと戻った。

 

「戻ったぞ」

 

「おぉ、帰ったか」

 

 私の隣に立ったジャンヌは普段の姿に戻っている。一体いつの間に…

 

「それで、首尾はどうじゃ?」

 

「無事手に入れました!」

 

 ハリーは嬉しそうに、ダンブルドアに小奇麗なカップを手渡した。

 

「そうか…よくやったぞ」

 

「そちらはどうでした?」

 

「無事確保できたぞ。ドラコよ」

 

「ここにある」

 

 入り口で、背後に取り巻きの2人を連れたドラコは懐から、髪飾りを取り出すと、ダンブルドアに投げ渡した。

 

「やるじゃない。どこにあったのよ?」

 

「必要の部屋さ。皆で手分けして探したよ」

 

 ドラコに賛同するように、背後の2人が頷いている。

 

「へぇ…大変だったんじゃない?」

 

「大変だったさ…」

 

 ドラコは疲れた表情で口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

  セレッサ達がダンブルドアによって特別休暇を与えらえた日、ダンブルドアの指示で僕達は特別授業という事で必要の部屋の前に集められた。

 

 ちなみにクラッブとゴイルの家庭も死喰い人だが、現状に不満があるようで、こちら側に参加する事を表明した。

 

「さて、皆集まっておるな」

 

 振りかえると、ダンブルドアとマクゴナガルがこちらに歩み寄ってくる。

 

「必要の部屋の中に。『ロウェナ・レイブンクローの髪飾り』が隠されているようじゃ」

 

 ダンブルドアはそう言うと、必要の部屋の扉を開けた。

 

 中に入ると、瓦礫の山が広がっていた。

 

『姿をくらますキャビネット』の修理をしていたのを思い出す。

 

 

「この瓦礫の中を探すのですか?」

 

「左様じゃ」

 

 ダンブルドアは動じることなく、瓦礫の山へと立ち向かっていった。

 

 

 

 

 数時間後

 

「見つからんのじゃああああああ!!」

 

 瓦礫の山から、ダンブルドアの喚き声が響き渡る。

 

「どうなっておるのじゃ! 強力な魔法は痕跡を残すはずじゃぞ!!」

 

 やかましい老害は放っておいて、僕も捜索を再開するとしよう。

 

 手元に目を落とすと、巨大なレンチとドリルが瓦礫に埋もれている。

 その傍らには、潜水服まで転がっている。

 

「恐縮じゃが――」

 

 ダンブルドアはうわ言の様に何かを呟いている。

 まぁ、気にする事では無いだろう。

 

 様々な瓦礫を掻き分けて、探し続けたが、一向に見つかる気配はない。

 

 2体の筋骨隆々で頭部に穴が開いた石像がマッスルポーズを取りながらプロテインを崇めている物まである。まるで今にも動き出しそうなほどリアルだ。

 

 

 なぜこのようなものが…

 

 

 

「こうなったら…もう自棄じゃ…」

 

 

 ダンブルドアは震える手で杖を取り出すと周囲を見回している。

 

「どうなさるおつもりです?」

 

「この部屋にあるのは分かっておるんじゃ…ならばすべて焼き払うだけじゃよ」

 

「ですがそれは!」

 

「それしかないのじゃ!」

 

 極限までに錯乱したダンブルドアはいつ火を放ってもおかしくない状況だ。

 

 そんな時、クラッブが手を真っ直ぐ付き上げた。

 そこには、『ロウェナ・レイブンクローの髪飾り』がしっかりと握られていた。

 

 これで、ダンブルドアが強硬に出る事は無いだろう…

 

「ふぅ…」

 

 僕は思わず溜息をついてしまう。

 

 

「と言う訳さ」

 

 ドラコは先程の状況を語ると、疲れた様に首を横に振っている。

 

 

「そう。大変だったわね」

 

 私は、横目でダンブルドアを見ると、目線を逸らしている。

 

「これで、現状分かる限りの分霊箱はこちらの手に入った…」

 

 ダンブルドアは分霊箱を引き出しにしまうと、溜息を吐いた。

 

「皆、ご苦労じゃった。しばらく休むが良い」

 

 ダンブルドアは疲れた表情でそう呟いた。

 

 

 

 

  次の日、僕が、死喰い人の会合を前に、日刊予言者新聞に目を通していると、気になる見出しが目に入った。

 

 日刊予言者新聞は大々的な見出しとなっていた。

 

『グリンゴッツ壊滅! 主犯者はシリウス・ブラックか!」

 

 何とも大々的な一面だ。

 しかし。一面は別の記事が飾っていた。

 

『謎の義賊現る! その名もキューティー・J!』

 

 どうやら、襲撃にあったベラトリックス家の金庫の壁に、キューティー・Jのサインが弾痕で彫られていた様だ。

 

 そして、キューティー・J名義で、死喰い人の被害者家族や、支援団体に大量の寄付金が寄せられたようだ。恐らく死喰い人の金庫から盗んだ金を寄付している様だ。

 

 記事によると、グリンゴッツの建物自体のダメージが激しく、ほぼ壊滅状況だったようだ。

 

 それにしても…キューティー・J…一体何者なんだ…

 

「どうなっている!!」

 

 闇の帝王が会合に現れるなり、声を荒げている。

 

「申し訳ございません!!」

 

 ベラトリックス・レストレンジは必死に闇の帝王に許しを懇願している。

 

「貴様に預けた大切な品も奪われた! それも、シリウス・ブラックにな!! 貴様が殺したのではなかったのか!!」

 

「確かに、アーチの向こうに吸い込まれるのをこの目で見ました!!」

 

「だが現に奴は生きている!! ダンブルドアも蘇った! これは一体どうなっている!!」

 

 闇の帝王は一通り喚き散らした後、息を整えている。

 

「まぁ…良い…まだ全てが奴らに取られた訳ではない…」

 

 そう言うと、ペットのナギニを腕に絡めて、蛇語(パーセルタング)で何か話している。

 

 それにしても、ここ最近、妙にあの蛇を気にかけている…何かあるのだろうか…

 

「そんなに悠長に考えていて良いのですかねぇ」

 

 ロプトの煽る様な声により、周囲に緊張が走る。

 

「どういう事だ…ロプト…」

 

「私はただ、心配しているだけですよ。早い事手を打たなければ、貴方が負ける…とね」

 

「貴様…」

 

 あまりにも無礼な発言に、周囲の空気が一気に凍った。

 

「手を打つにも、何か策はあるのだろう? 無策でそのような無礼はするまい」

 

 闇の帝王の冷ややかな声に、ロプトは無関心に微笑むと、口を開いた。

 

「こちらから打って出ればよいのですよ」

 

「それは…つまり…」

 

「えぇ、ホグワーツに攻め込むのです」

 

「なんだと!」

 

 ロプトの発言に、周囲の面々がざわめきだした。

 

「貴様、何を言って居るのか理解しているのか?」

 

「えぇ、百も承知です。ですがこのまま、座して死を待つのもどうかと思いますがねぇ」

 

 ロプトは皮肉っぽく笑うと、指を鳴らした。

 すると、背後に大量の天使が現れた。

 

 この天使達は、拉致してきたマグルなのだろうか…

 

「それに、こちらには十分な戦力があります。何時でも攻め込めるかと」

 

「フハハハハハ! そうだな!」

 

 それを見た闇の帝王は、嬉しそうに高笑いしている。

 

「よろしい! ならば貴様の言う通り、近日中にホグワーツに攻め込もう! だがその前にやる事がある!」

 

「なんです?」

 

「魔法省を俺様の手中に完全に納めるのだ! そうすればホグワーツの連中も孤立無援だ!」

 

「素晴らしいお考えです。それがよろしいかと」

 

 ロプトはニヤリと笑うと、何処かへと消えていった。

 

「フッ…ベラトリックス! 貴様には最前線での指揮を命じる!」

 

「ありがたきお言葉!」

 

 その言葉に、その場から歓声が上がる。

 

 僕と父上はその空気の中、必死に周囲と合わせ、目立たない様に冷や汗を流すしかなかった。

 

 

 

 

  ワシの目の前には『ロウェナ・レイブンクローの髪飾り』と『ヘルガ・ハッフルパフの金のカップ』が並んで置かれている。

 これら2つは、ヴォルデモートの分霊箱だ。

 

「さて…始めるかの…」

 

 周囲に誰も居ないことを確認し、2つの分霊箱を安全な場所に置くと、杖を振る。

 

 その瞬間、杖の先から強烈な炎『悪霊の火』が吐き出され、分霊箱に襲い掛かった。

 

 炎の中で分霊箱にヒビが入り、砕け散った。

 

「ヴァアダダダダダアアアアア!!」

 

 それと同時に黒い煙が立ち込め、ヴォルデモートの断末魔が響いた。

 

「ざまぁみろじゃ…」

 

 ワシは憎しみを籠め、炎の火力を最大にし、塵の一片も残らぬように、丁寧に分霊箱を焼き払う。

 

「終わったか…」

 

 再び杖を振り、『悪霊の火』を止める。

 すると、先程までの熱量が嘘の様に消え去り、寒気すら感じた。

 

「残るは…」

 

 ワシが知っている分霊箱は後1つじゃ…

 それも破壊しなくては…

 

 しかし、ワシの中で躊躇いが生じる…

 

 ワシとしたことが…情でも湧いたか…

 

「破壊するのじゃ…大勢を救うためには、少数の犠牲は仕方ない…」

 

 ワシは、ワシ自身に言い聞かせる様に言葉を紡ぐ。

 

 そう…致し方ない犠牲…想定範囲内の犠牲…大事の前の小事…コラテラルダメージというやつじゃ…

 

「あぁ…」

 

 最早、溜息を通り越し、嘆きを溢しつつ、ワシは天を仰いだ。

 

 天使や神なんぞに祈る訳ではないが、今は仰ぐしか逃げ道が無かった。

 

 

 




分霊箱の破壊状況。

トム・リドルの日記

グリフィンドールの剣と同士討ち

マールヴォロ・ゴーントの指輪

ロダンによって破壊される。

サラザール・スリザリンのロケット

ロダンによって破壊される。

ヘルガ・ハッフルパフの金のカップ

ダンブルドアによって破壊される。

ロウェナ・レイブンクローの髪飾り

ダンブルドアによって破壊される。


お辞儀さんのライフも残りわずかですね。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

強化授業

今回は、マルフォイ強化回です。




 

 

   多くの生徒が休み時間を謳歌している頃、必要の部屋に私はマルフォイを呼び出した。

 

 

 

「今日からここで特訓するぞ」

 

 

 

「はい! お願いします!」

 

 

 

 マルフォイは勢い良く返事をすると、手慣れた手付きで杖を構えた。

 

 

 

「杖なんぞ仕舞え、奴等には何の意味も無い」

 

 

 

「え…ですが…」

 

 

 

 まさに、鳩が豆鉄砲を食ったような表情とはこの事だろう。

 

 

 

 今まで信頼していた杖に対して、無意味だと言われれば、そんな顔にもなるか。

 

 

 

「良いから私の言う通りにしろ」

 

 

 

「…はい…」

 

 

 

 マルフォイは少し不満そうに杖を仕舞い込んだ。

 

 

 

「奴等とやり合うのなら『コイツ』を使え」

 

 

 

 私は持って来た鞄から護身用のハンドガンを1丁取り出した。

 

 

 

 もちろん、弾倉から弾は抜いてある。

 

 

 

「これは…」

 

 

 

「銃だ。その中でもハンドガンと呼ばれ、携行に便利だ。まぁ使いやすい形だからな。貴様も見た事くらいはあるだろう」

 

 

 

「えっ…えぇ…スネイプ先生がマグルの武器だと言っていました」

 

 

 

「ほぉ…あの不気味な男が…まぁ、その通りだ。使い方は聞いているか?」

 

 

 

 マルフォイは怯えた様に銃を手に取ると、まじまじと眺めている。

 

 

 

「いいえ…わかりません」

 

 

 

「そうか、なら1から教えてやろう」

 

 

 

 私は、もう1丁のハンドガンを取り出すと、それを見本にしながら、狙いを付ける、引き金を引くと言った基本的な使い方を教えると、銃弾を装填したマガジンを手に取った。

 

 

 

「コイツが弾だ。気を付けろ。こいつは強力だ。簡単に人を殺せる。使い方は間違えるなよ」

 

 

 

 言い終えると同時に、マルフォイから銃を取り上げると、マガジンを装填し。スライドを引きドラコの目の前に置いた。

 

 

 

「は…はい…」

 

 

 

 マルフォイは震える手で銃を持ち上げると、引鉄に指を掛けない様にしながら、銃身を眺めている。

 

 

 

「さて、ある程度の使い方が分かった所で、試してみよう」

 

 

 

 私は軽く杖を振ると、5mほど離れた先のテーブルの上に空き瓶を置いた。

 

 

 

「あの瓶を撃ってみろ」

 

 

 

「え…」

 

 

 

「怯える必要はない。初めてだ。どうせ当たらん」

 

 

 

「えぇ…」

 

 

 

 マルフォイは躊躇いがちに震えた手で、不格好に銃を構えると、引き金を引いた。

 

 

 

「どわぁ!」

 

 

 

 その瞬間、マルフォイの腕が大きく跳ね上がり、手からハンドガンが飛び出してしまう。

 

 

 

「いってぇ…」

 

 

 

 マルフォイは大袈裟な態度で腕を押さえている。

 

 

 

 もちろん、空き瓶は無傷だ。

 

 

 

「何だこれ…凄い衝撃だ…」

 

 

 

「情けない。この程度抑えられずにどうする」

 

 

 

「くっ…すいません…」

 

 

 

「まぁいい、肉体強化の呪文でも何でもいい。体力は付けておけ」

 

 

 

 私はマルフォイが手放した銃を拾い上げると、床で腕を押さえている姿を見据えつつ、瓶を撃ち抜いた。

 

 

 

「お…おぉ…」

 

 

 

「フン。これくらいはできる様にな」

 

 

 

 私は再び杖を振るうと、大小さまざまな的を部屋中に用意した。

 

 

 

「弾と銃は腐るほどある。好きなだけ練習しろ」

 

 

 

 マルフォイの目の前にロダンが拡張魔法を施した鞄を置いてやる。

 

 

 

 中身を確認したマルフォイは、疲れ切った顔で溜息を吐いていた。

 

 

 

 

 

  マルフォイに銃の使い方を教えてしばらくの間は、的を掠めるどころか、銃の反動にすら耐えられない始末だった。

 

 

 

 しかし、どうやらスネイプあたりに相談したようで、自身の魔力で肉体を強化する方法を編み出したようで、銃の反動には耐えられる様にはなった。

 

 

 

「ふぅ…」

 

 

 

 1マガジンを撃ち切り、弾倉を抜いたマルフォイは溜息を吐いている。

 

 

 

「まぁ、少しは上達したんじゃないか?」

 

 

 

「ありがとうございます」

 

 

 

 喜んだ表情を浮かべたマルフォイだったが、綺麗な状態の的を見ると、深い溜息を吐いた。

 

 

 

「継続は力なりだ。とにかく続けろ」

 

 

 

「わかりました」

 

 

 

 マガジンを再装填したマルフォイは慣れた手付きでリロードすると、片眼を瞑り、的を見据える。

 

 

 

「あまり力むな。肩の力を抜け。そんなにしっかり目標を狙うんじゃない」

 

 

 

「え? じゃあどうやって狙うんですか?」

 

 

 

 マルフォイは不思議そうな表情をしている。

 

 

 

 普通の人間は、銃で目標を狙う際、照準を覗き、的の中心を捉えようとする。

 

 

 

 しかし、マルフォイはそれに集中しているだけで、引き金を引く瞬間、力んでしまい、銃口がずれているのだ。

 

 

 

「貴様は狙う事ばかりに集中しすぎだ。目標に銃口を向けたら、ずらさない事を意識して撃て」

 

 

 

「えっとぉ…」

 

 

 

 マルフォイは躊躇いがちに、一瞬だけ狙いを定めると、顔を正面に向け引き金を引いた。

 

 

 

「フッ」

 

 

 

 放たれた弾丸は、的の端を掠めると、奥の壁に当たり砕け散る。

 

 

 

「あっ…当たった!」

 

 

 

「あぁ、当たったな。だがカス当たりだ」

 

 

 

「え?」

 

 

 

 私はマルフォイの後方で銃を片手で構えると、連続で引き金を引く。

 

 

 

「うぉ…」

 

 

 

 けたたましい音と共に放たれた弾丸は、的に一つの穴を作りだした。

 

 

 

「まぁ…こんな感じだ。慣れろ」

 

 

 

「えぇ…」

 

 

 

「カス当たりとは言え当たったのだ。精進するんだな」

 

 

 

「わかりました」

 

 

 

 マルフォイは気を取り直すと、再びハンドガンを構えた。

 

 

 

 

 

 

 

  ダンブルドアが分霊箱を破壊してから2週間ほどが過ぎた。

 

 

 

 その間、ヴォルデモートの動きはあまり聞かないが、魔法省の大臣など、主要な役職が連続して行方不明になっている様だ。

 

 

 

「ふん…相変わらず物騒だな」

 

 

 

 ロダンは詰まらなそうに日刊予言者新聞を投げ捨てると、葉巻を吸っている。

 

 

 

「本当よね。このままだったらショッピングも楽しめないわ」

 

 

 

「まぁ、まともな店があまりないという問題もあるがな」

 

 

 

「そうね」

 

 

 

 ジャンヌは詰まらなそうに、銃の手入れをしている。

 

 

 

「そう言えば、最近ドラコと楽しい事しているそうじゃない」

 

 

 

「あぁ、楽しんでいるぞ。なんだ? 妬いたか?」

 

 

 

「そうねぇ、アンタを独り占めするなんて妬けちゃうわぁ」

 

 

 

「フン、毛ほども思ってない事を」

 

 

 

「まぁそうね」

 

 

 

 私も、たまには銃の整備をした方が良いのだろうか。

 

 

 

 いや、やはり面倒だ。ロダンに任せれば、やってくれるだろう。

 

 

 

「それで…ドラコはどんな調子?」

 

 

 

「気になるのか? まぁある程度は使える様にはなったんじゃないか?」

 

 

 

「あら? そうなの?」

 

 

 

「あぁ、少なくともダンブルドアよりは使えるだろうな。天使を相手にした場合でのみの話だがな」

 

 

 

「アンタ…何を教えてるのよ?」

 

 

 

「ちょっと過激な、護身術さ」

 

 

 

 まぁ、本人が楽しんでいるなら、それで良いだろう。

 

 

 

 私は何かを飲み込むように、カクテルを流し込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  マルフォイの特訓を始めてから3週間ほどが経っただろうか。

 

 

 

「はっ!」

 

 

 

 マルフォイの成長は凄まじく。今では動く目標にも当てられるようになっている。

 

 

 

「そこ!」

 

 

 

 その上、スネイプと共同で開発した肉体強化魔法も、かなり実践的なレベルにまで到達し、激しい戦闘にも耐えられるようになった。ここまでくれば十分か。

 

 

 

「やぁ!」

 

 

 

 マルフォイは声を上げながら、銃を真上に掲げると、天井の的を射抜いている。

 

 

 

「上出来だ」

 

 

 

「はい! ありがとうございます!」

 

 

 

 両手に構えた銃を、台座に置いた後、額の汗を拭いながら、マルフォイは、良い笑顔でこちらに近寄って来た。

 

 

 

「ここまで出来れば十分だろう」

 

 

 

「ありがとうございます!」

 

 

 

 ここまで成長するとは、教師として嬉しい限りだ。

 

 

 

 そんな時、部屋の扉が勢い良く開かれた。

 

 

 

「ジャンヌ先生! ここに居ましたか!」

 

 

 

 そこには、マクゴナガルが血相を変えて現れた。

 

 

 

「どうした? 騒々しいぞ」

 

 

 

「お話があります…至急校長室へ。ドラコ・マルフォイ。貴方もです」

 

 

 

 マクゴナガルはそう言い切ると、踵を返した。

 

 

 

「まったく呼び出しとは良いご身分だ」

 

 

 

「そうですね」

 

 

 

 マルフォイは溜息を吐きながら、鞄を持ち上げた。

 

 

 

「さて…それでは行きましょう」

 

 

 

「あぁ」

 

 

 

 私達は呆れた様に校長室へと向かった。

 

 

 

 

 




『マルフォイは銃の使い方を覚えた!』


これで、少しは使えるようになるでしょうね。

天使相手には魔法は効かない設定なので、実質倒せる方法は物理攻撃となります。

魔法を使って、岩をぶつけたりしたら倒せるとは思うんですが、明らかに銃の方がコスパ良いですからね。


私用で、少し更新が乱れるかもしれません。

ご了承ください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

燃えるホグワーツ

今回から、ホグワーツが戦場と化します。

さて…どこまで壊そうか…


 

 

   ダンブルドアからの呼び出しを受け、校長室へと足を運ぶと、そこにはシリウスやルーピン、ムーディといった不死鳥の騎士団員と、疲れた表情のドラコを連れたジャンヌが勢揃いしていた。

 

「やぁ、セレッサ」

 

「どうしたのよ? かなりお疲れの様ね」

 

「まぁね…」

 

「しっかり鍛えてやっているからな」

 

「正直死にそうだ…」

 

 ジャンヌは嬉しそうに微笑んでいる。

 

 全く何をしているのだか…

 

「皆よく集まってくれた」

 

 ダンブルドアは神妙な面持ちで、重い口を開いた。

 

「先程連絡が入ったが…魔法省が完全に死喰い人の手に落ちた様じゃ…」

 

「それは…つまり…」

 

 マクゴナガルを始めとした面々が絶望にその顔を染めている。

 

「アズカバンに収容中の死喰い人が大手を振って歩き、ディメンターが死喰い人の指示で人々を襲うじゃろう…それに、ホグワーツへの資金援助も打ち切られ、我々は孤立無援じゃ…」

 

「そんな…」

 

「それだけではないぞ…恐らく奴等はすぐにでもこちらに攻撃を仕掛けて来る筈じゃ…」

 

 現実を突き付けられ、ハリーは絶句している。

 

 そんな時、勢い良く扉が開かれた。

 

「父上!」

 

「ハァ…ハァ…ドラコか…」

 

 息を切らせ、肩を上下に動かしているルシウスが、ドラコの姿を確認した後、ダンブルドアと向き合った。

 

「何の用じゃ? ルシウスよ」

 

「報告だ。闇の帝王がホグワーツに進行を掛けて来るぞ!」

 

「それはまことか?」

 

「あぁ、本当だ」

 

「何という事じゃ…」

 

 ダンブルドアは溜息を吐き、頭を抱えている。

 

「今のうちに、1人でも多くの生徒達を退避させた方が良いぞ」

 

「退避じゃと?」

 

 ルシウスの発言にダンブルドアは疑問の声を上げた。

 

「あぁ、闇の帝王は無慈悲な御方だ。マグルだろうが、純血者だろうが関係なく邪魔するものは排除するはず。例えそれが、非力な生徒と言えど、容赦はしないだろう。だから――」

 

「じゃが…それでは我々の戦力の低下に繋がる」

 

「それは…どういう…」

 

 ダンブルドアの言葉にルシウスが固まる。

 

「つまりじゃ。ホグワーツに居る全員の力を合わせ、死喰い人に抵抗する。それが最良の策じゃろうとワシは言いたいのじゃよ」

 

 何という事だ。つまりこの老害は自分の生徒を戦闘に参加させるつもりのようだ。

 

「まったく…ふざけた事を…」

 

 ジャンヌが憤怒しながら口を開いた。

 

「非戦闘員や、非力な生徒を戦闘に駆り出すだと? 貴様それでも教師か?」

 

「じゃがのぉ…今更どこに退避するというのじゃ? それならばいっその事、対抗した方が勝率が上がるのでは?」

 

 ダンブルドアは真剣な目線でジャンヌと向かい合っている。

 

「スリザリンの寮だ。あの地下室ならば、一時的に退避するには最適だろう」

 

「じゃが、退避したとして、その後はどうする? 攻まり来る死喰い人に、教師陣だけでどう立ち向かう?」

 

「フン、腰抜けが」

 

 ジャンヌはダンブルドアを笑い飛ばした後、銃を取り出した。

 

「我々が負けると思うか?」

 

 自身に満ちた表情のジャンヌは私と目が合う。

 

「そうね。あんな奴等に負ける程、私達は弱くは無いわ」

 

 私も銃を構え、ダンブルドアに突き付ける。

 

 その時、空が曇り、窓に雨粒が当たる音が響く。

 

「雨かの…」

 

 ダンブルドアがそう呟くと、爆音が響き、空に闇の印が上がる。

 

『聞こえているな、ダンブルドアよ』

 

 闇の印から、ノイズが混じったヴォルデモートの声が響き渡る。

 

『魔法省は俺様の手に落ちた。残りはお前達だけだ。どうだ怖いか? だが慈悲深い俺様は貴様等に少し猶予をやろう。その間に祈るなり、自害するなり、抵抗の準備を進めるなり好きにするが良い。ハーハハッハハハハッ!」

 

 

 ヴォルデモートの高笑いが響き、先程までの暗雲が掻き消える。

 

「何という事じゃ…」

 

「どうするのだ?」

 

「…………」

 

 ジャンヌの問いかけに、ダンブルドアは無言のまま頭を抱えている。

 

「校長!」

 

 痺れを切らしたマクゴナガルが怒声を上げる。

 

「仕方あるまい…生徒全員を一度大広間に集めてくれ。避難の指示を出そう。その後、城の周囲に防御を張り、ホグワーツの守りを固めるのじゃ…」

 

 ダンブルドアは苦しそうに呟くと、マクゴナガルは走り出した。

 

「なら、我々も準備を始めよう。恐らく天使共も動き始めるだろう」

 

「そうね」

 

 私とジャンヌは、ダンブルドアを一瞥した後、校長室を後にした。

 

 

 

 

 

  数分後、大広間に集められた生徒達は混乱していた。

 

 それもそうだろう。先程のヴォルデモートの声明を聞いて平常心を保つのは難しいだろう。

 

「皆に話がある。先程の出来事でおおよその事は理解していると思おうが…このホグワーツが戦場となる」

 

 ダンブルドアの言葉を聞いて、生徒達がざわめきだした。

 

「無論…ワシ等は抵抗する。じゃが…危険が無い訳ではない…そこで生徒諸君にはスリザリンの地下寮へと退避してもらいたい」

 

「何だって!」

 

 その瞬間、グリフィンドールを中心に抗議の声が上がる。

 

「誰がスリザリンの寮になんか逃げるものか!」

 

「それなら、俺達も戦う!」

 

 どれほどスリザリンは嫌われているのだろうか。

 

 そんな状況を見たダンブルドアは、喉元に杖を押し付けると、一呼吸置いた。

 

「静まれ!!」

 

 ダンブルドアの拡声された怒声が響き渡り、周囲の喧騒が静まり返る。

 

「今は緊急事態じゃ…寮の垣根を越えて行動して欲しい」

 

 ダンブルドアの懇願に生徒達はゆっくりと頷き、一人、また一人と大広間を出て行った。

 

「先生!」

 

 生徒の半数が退室した頃、ハリーを始めとしたDAのメンバーが30人程の上級生を引き連れてやって来た。

 

「僕達も戦います!」

 

「ハリー…お主達…」

 

 その場に居た全員が決意に満ちた瞳でダンブルドアを見据えていた。

 

 ダンブルドアが振り返り、ジャンヌに目を向けるが、ただ頷くだけだった。

 

「よかろう…じゃが、身の危険を感じたらすぐに逃げるのじゃぞ」

 

「わかりました!」

 

 ハリーはその場で、メンバーに指示を出している。

 

「リーマスとトンクス。君達はスリザリンの地下寮の前で生徒達を守ってやってくれ。他の不死鳥の騎士団員は、死喰い人との戦闘に備えるのじゃ。ハリー、君はワシと共に行動するのじゃ」

 

「わかりました」

 

 その後、各々が自分の役目を果たす為に移動を開始した。

 その顔は決意に満ちていた。

 

 

 

 

  外へ出ると、ホグワーツの職員が城全体に防御魔法を張り巡らしている。

 これで少しはマシになるだろうか。

 

「ベヨネッタ!」

 

 ハリーがこちらに走りながらやって来た。

 

「こっちは準備万全さ!」

 

「そう。何をしてきたのよ? ダンブルドアと一緒じゃないの?」

 

「ちょっと裏門の橋に細工をね。これで奴等の進軍を少しは遅れさせられるよ。それが終わったら向かうさ」

 

「こっちも完了したわ」

 

「あぁ、完璧さ。後は奴等に一泡吹かせてやる!」

 

 ハーマイオニーとロンも緊張しているが、気持ちが高揚している様で、テンションが高くなっている。

 

 その時、再び空に闇の印が上がる。

 

『そろそろ時間だ。覚悟は良いな』

 

 ヴォルデモートの忌々しい声が響き渡る。

 

 それにしても、奇襲でもすればいい物を、わざわざ進行を宣言するとは…

 

 慢心しているのだろう。

 

『よかろう。精々後悔する事だな』

 

 闇の印が消えると同時に、大量の魔法がホグワーツ城を目掛け放たれている。

 

「うぉおお!」

 

 飛び交う魔法は、周囲に張られている防御魔法に直撃し、爆発が起きる。

 

「どうやら始まった様ね」

 

 その時、マクゴナガルとダンブルドアの魔法を詠唱する声が響き渡る。

 

「「ピエルトータム・ロコモーター(全ての石よ、動け)」」

 

「ホグワーツを守るのじゃ!」

 

「境界を警護せよ! 我等、そしてこの学校への務めを果たすのです!」

 

 二人の声が響き渡ると、ホグワーツに設置されていた様々な石像が動き始めた。

 

「この呪文を一度使ってみたかったの!」

 

「ハハッ! ワシもじゃよ!」

 

 動き始めた石像は、ホグワーツに掛かる大橋の手前で待機し、敵の進軍に備えている。

 

 

 別ルートの橋にはハリー達が細工を施したようだが…

 

 果たしてどう出るだろうか…

 

 

 

 

  別の進行ルートである、桟橋の先端には、防御魔法の内側でネビルが一人で大勢の死喰い人と対峙している。

 

「どうした! 怖いのか!」

 

「舐めるなよ! ガキが!」

 

 ネビルの挑発に乗った一人の死喰い人が走り出したが、その体が防御魔法に触れた瞬間、血煙となり、霧散した。

 

「うっ!」

 

 その姿を見て、死喰い人は攻勢を躊躇っている。

 

「は…ハハッ! 怖いのか!」

 

 調子に乗ったネビルはさらに挑発を続けている。

 

「退いてな…」

 

「お前は…」

 

 死喰い人の隊列を掻き分け、先頭にベラトリックスが現れた。

 

「ネビル・ロングボトムじゃないか、こんな所に居たのか。てっきり逃げたかと思ったよ」

 

「僕は逃げない! 僕の両親だって、お前達に屈した訳じゃない!」

 

「あぁ、そうかい。私からすればただの意地っ張りで、馬鹿な奴としか言えないけどねぇ!」

 

「な…なんだと!」

 

 先程までの立場が逆転したかのように、ネビルをベラトリックスが挑発している。

 

「まぁ、お気の毒な両親に育てられたんだ。守りの中でぬくぬくしているが良いさ!」

 

「貴様!」

 

 怒りにその身を震わせている。

 

「まぁいいさ。後でゆっくりと痛め付けてあげるよ!」

 

 ベラトリックスが声を上げると同時に、魔法を放つが、その魔法がネビルの目の前にある防御魔法に弾かれる。

 

「フン! 所詮はお前はその程度なんだ! ベラトリックス・レストレンジ!」

 

「なっ…お前ごときが…この私を侮辱するのかい?」

 

「お前なんて、侮辱するにも値しない!」

 

 ネビルの言葉に怒り狂ったのか、ベラトリックスが魔法を乱射しているが、まったく効果が無い様だ。

 

「ハァ…ハァ…くそっ!」

 

 疲れ果てたのか、ベラトリックスが肩で息をしながら、杖を構えている。

 

「くそぉ! こうなったら…」

 

 

 ベラトリックスが躊躇いがちに、小さなナイフを取り出した。

 

「うわぁぁあああああっぁぁ!」

 

 ベラトリックスは絶叫を上げると、ナイフを振りかざした。

 

「まったく。見て居られませんね」

 

 死喰い人の列の奥の方からロプトが現れると、今まさに振り下ろさんとしているベラトリックスの腕を遮った。

 

「なっ! どういうつもりだ!」

 

 

「それを行うのはまだ早いですよ」

 

 ロプトが軽く指を鳴らすと、ゲートの様な物がホグワーツを取り囲むように現れ、その向こうからミサイルが出現した。

 

 

「さて、これでもくらいなさい」

 

 ロプトが掲げた手を振り下ろすと、ホグワーツの周囲を囲んだミサイルが炎を吐きながら、突っ込んで来た。

 

「ふせろ!」

 

「うわぁぁあああああっぁぁ!」

 

 ミサイルが防御魔法に直撃すると、爆炎が上がり、甲高い音を立て、防御魔法の表面にヒビが入る。

 

「まだまだ。ありますよ」

 

 ロプトが再び手を振るうと、さらにミサイルが現れ、ホグワーツを覆っている防御魔法に突っ込んだ。

 

 

 爆炎が上がり、防御魔法のヒビがさらに広がる。そして、ガラスが割れるかのような音が、周囲に響き渡り、防御魔法はその役目を終えた。

 

「さて、それでは進行なさい」

 

 

「「「「うおぉおおおぉぉおおおぉぉおぉぉおお!!」」」」

 

 その瞬間、死喰い人の軍勢が走り出した。

 

「まずい!」

 

 橋の上に立っていたネビルは急ぎ踵を返すと、走り出した。

 

「うわぁぁあああああっぁぁ!! 早く! 早く点火しろ!」

 

 ネビルが叫び声を上げると、他のDAのメンバーが、杖を振るい、導火線に火をつけた。

 

 その導火線は橋の支柱に繋がっている様だ。

 

 

「うぉ!」

 

 次の瞬間、橋の下から爆破音が響き渡り、橋が崩壊を始めた。

 

「うわぁお」

 

「やろう…派手にやるじゃねぇか」

 

 隣に立っていた、ロンとハリーはその光景を見て、ただ茫然と呟いている。

 

「くそぉ!」

 

 死喰い人は爆発から逃れる様に必死で走っているが、間に合わずに瓦礫に飲まれていく。

 

「うおぉぉおぉおぉぉおぉぉお!!」

 

 爆発を背後に受けながら疾走していたネビルが渾身の悲鳴を上げながら、大きく飛び上がった。

 

「うわぁお!」

 

 飛び上がったネビルの体は爆風に煽られ、何とかこちら側へと着地した。

 

「よくやったぞ! ネビル!」

 

「あ…あぁ。死ぬかと思ったよ」

 

 

 ネビルはハリー達に祝福されながら、生きている実感をかみしめている様だ。

 

「これによって少しは時間が稼げるな」

 

 

 崩れ落ちた橋を見たジャンヌは詰まらなそうに呟いた。

 

 確かにこれで、進行ルートの一つを閉鎖し、一つに絞る事が出来た、だが向こうにもまだ手はあるはずだ。

 そのうえ、防御魔法を剥がされ、こちらは裸同然だ。

 

 さて…どうなる事か…

 

 

 

 




ネビル…

君の活躍はここで終わりなんだ…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

究極の魔導機

遂に、あの魔導機が姿を現します。




   別ルートの橋を破壊された死喰い人は正面の大橋から進行を開始するつもりのようだ。

 

 しかし、大橋に配置された石像部隊によって、死喰い人は思った以上に苦戦を強いられている様だ。

 

 ホグワーツへは姿現しをする事が出来ず、箒で侵入しようと試みた死喰い人は弓を装備した石像にことごとく撃ち落とされている。

 

 遠距離からの魔法による砲撃も、盾を装備した石像によって防がれている。

 

 この大橋は現在、強固な防御ラインを形成している。

 

 そのおかげか、未だにホグワーツ内に死喰い人が侵入してきた様子はない。

 

「このまま、向こうが消耗しきってくれればいいんだけど…」

 

「どうかしらね…」

 

 だが、まだ天使達が動き出していないのが不気味だ。一体ロプトの奴は何を考えているのだろうか…

 

 

  死喰い人の大半が防御ラインを突破できず退却を強いられた中で、最前線に立っていたベラトリックスは焦っていた。

 

「何故、突破できないんだ!」

 

「それが…石像による防御があまりにも強固で…このままではこちらが無駄に消耗しきってしまいます!」

 

「くそがぁ!」

 

 ベラトリックスは悪態を付きながら地団駄を踏んでいる。

 

「まったく…騒々しいですねぇ」

 

 その時、まるでベラトリックスを小馬鹿にしたような声で、ロプトが死喰い人の目の前に現れた。

 

「何だい! お前みたいな胡散臭い奴が! 出しゃばるんじゃないよ!」

 

 怒り狂ったベラトリックスは杖を構えると、ロプトに突き付けている。

 

「そんなに気を荒立てずに。私はただお手伝いに来ただけですよ」

 

「手伝いだと?」

 

「えぇ、そうです」

 

 ニタニタと笑うロプトが指を鳴らすと、その瞬間、暗雲が搔き消え、禍々しくも神々しい光を放ちながら、天界から天使達が降臨した。

 

 

 

  橋の対岸の雲から奴等が放つ独特な光が漏れ出している。

 

「あれは何だよ!」

 

 ロンが雲の切れ目を指差し、大声を上げている。

 

 そこには、多数の下級天使を引き連れた、箱舟のような形の天使、キンシップ。

 

 そして、それらを指揮するように巨大な戦艦の様な天使、ウォーシップが姿を現した。

 

 キンシップ

 魔の物を討ち滅ぼすことを使命とした能天使において、天使の一軍を戦場に運ぶ役目を持つとされる存在。無数の天使を率いて飛ぶ姿は雄大で、それを幸せの到来と捉えるものもいた。イザヴェル聖典の一つである「創世記」にある、愚かなる人類を滅ぼす洪水から逃れるために遣わされた箱舟は、このキンシップが顕現したものだったのではないかと言われる。悪しきものが近づくと、光の飛魚を放って神に従う無垢な人を守ったという。

 

 ウォーシップ

 天使のヒエラルキーでは中級三隊に属する能天使で、巨大な軍船の様な容姿をしている。

 天使の軍勢を運ぶ役割を持つキンシップに対し、ウォーシップは神の力を用いて敵を殲滅する戦艦の役割を持たされている。

 このの天使が姿を現す時は、戦争がすでに武力戦のクライマックスを迎えつつあると言えるだろう。

 古来よりラグナ神を崇める者たちの間では、信心によって魂を捧げ、ウォーシップの神力の一部となる事は至上の喜びとされていた。

 

「まったく…厄介なものを持ち込んだものだ」

 

 隣に居たジャンヌは嫌々そうに首を振っている。

 

 そんな中、先鋒を切った下級天使(雑魚)が石像が放つ矢をものともせずに、空中を滑空しながら、こちらに突っ込んで来た。

 

「バカが」

 

「悪い子ね」

 

 私とジャンヌは多少の身長差があるが、互いに正面から来る天使の脳天目掛け、引き金を引いた。

 

「「ギャッ!」」

 

 それぞれの銃口から放たれた弾丸は、天使の脳天を見事に打ち抜いた。

 

 撃ち墜とされた天使は、地面を滑りながら、瓦礫の山へと突っ込んでいった。

 

「セレッサ! ジャンヌ先生!」

 

 そんな時、1丁の銃を両手で構えたドラコがこちらに走り寄って来た。

 

「マルフォイ! どうしてお前が!」

 

 ロンが、ドラコの姿を見て、驚いた表情をしている。恐らく死喰い人側に居ると思っていたのだろうか?

 

「話は後だウィーズリー! 天使達が動き出した以上、こちらの魔法では歯が立たない! お前達は下がっていろ!」

 

「その通りだ」

 

 ジャンヌは大きく頷くと、ドラコを見据えた。

 

「そして、マルフォイ。貴様も下がるのだ」

 

「ですが先生!」

 

 ジャンヌの提案に、ドラコは不服なのか、必死に抗議している。

 

「私達は、これから奴等を片付けて来る。その間、貴様には防衛(ディフェンス)を任せる」

 

防衛(ディフェンス)…」

 

「そうだ。私達が攻勢(オフェンス)。そちらが防衛(ディフェンス)だ。分かったな」

 

「……分かりました…」

 

 ドラコは何度か頷くと、納得したようだ。

 

 ジャンヌはドラコを一瞥した後、小さな箱を取り出す。

 

「これを渡しておこう」

 

「これは?」

 

「奴等との戦闘で役立つはずだ。それと…」

 

 ジャンヌはもう一つの箱を取り出す。

 

「ここにアンブラの秘薬。もとい、4色のロリポップが入っている。緑が回復。赤が肉体強化。紫が魔力回復。黄色が身を護る結界を発生させる。状況に応じて使え」

 

「わかりました」

 

 ドラコはそれらを鞄に仕舞い込む。

 

 そんな時、天使が急降下しながら、突っ込んで来た。

 

「フン」

 

 私達は、その場で背中合わせになり、四方から迫り来る天使達を撃ち墜とす。

 

「さて、そろそろ行くか」

 

「そうね、派手なパーティーになりそうね」

 

「そうだな、ならパーティー用にコイツを渡しておこう」

 

 ジャンヌはそう言うと、小さな小箱を取り出した。

 

 一体いくつの箱を持っているのだろう…

 

「これは?」

 

 私は、箱を受け取ると、中身を確認する。

 

「あら…素敵じゃない」

 

 箱の中には、三日月の形を模した、金色の耳飾りが入っていた。

 

 破滅の耳飾り。

 

 大戦時最前線の防衛に立ち魔女に族長が託したと言われる三日月の耳飾り。

 これを受け取った魔女は自分専用の魔導兵器『アンブランアーマー』を持つことが許された。

 

 アンブランアーマー

 

 アンブラの魔女が作り上げた究極の魔導機。

 その外見は、SF映画などに出て来る、人型のロボットにも見える。

 自らの髪を魔導機に張り巡らせて、自分の手足のように操る事が出来る。

 両手用足に装備された火砲は強力で、この鉄の馬にまたがった魔女が一騎で数千の敵を蹴散らす、まさに一騎当千の活躍を見せたという。

 

 だが一部の人間からは、やはり魔女は箒に乗るべきだと言われている。

 

 

 

 

 耳飾りを付け終わった所で、ジャンヌが急に口を開いた。

 

「ところで…セレッサ」

 

 私が振り返ると、隣に居たジャンヌが、急に真剣な表情になる。

 

「なによ? 私の顔に何かついている?」

 

「いや…別に構わないが、いつまでその姿でいるつもりだ? 奴等が攻めてきた以上、その格好でいる意味は意味はなかろう」

 

 ジャンヌに指摘され、私は今の自分の姿を思い出した。

 

 確かに子供の姿のままだ。

 

 

「そうね、少しお色直ししようかしら」

 

私は、髪を掻き上げると、一息つく。

 

「さて、スポットライトの準備はできているわね!」

 

 私はその場で飛び上がると同時に、ホグワーツの制服を脱ぎ捨てた。

 

「うぉおぉ!!」

 

「セレッサ!!」

 

 その瞬間、その場に居た男性陣から歓声が上がった。

 

 裸同然の私が、空中で態勢を整えると、どこからともなくスポットライトが現れ、私の体は光に照らされ、シルエットだけとなる。

 

 そのまま、私の体を這わせるように自分の髪で作り上げた戦闘装束を装着し、普段の大人の姿で着地する。

 

 

「あ………」

 

「え?」

 

 着地した私の姿を見た生徒達が呆気に取られている。

 

「セレッサ……君なのか…」

 

「そうよ、美人過ぎて声も出ない?」

 

「あ…あぁ…」

 

 ドラコは壊れた玩具の様に、視線を上下させている。

 

「子供の姿の方が良かったかしら?」

 

「いや…そう言う事じゃ…」

 

「無駄話はその辺にしろ」

 

 ジャンヌがそう言うと同時に、天使の軍勢が突っ込んで来た。

 

「フン」

 

 私達はその場で背中合わせとなり、迫り来る天使の脳天を撃ち抜く。

 

 撃ち抜かれた天使は、バランスを失い、地面に体を擦り付けながら、足元にまでやってくる。

 

「フンッ!」

 

 足元の天使の頭を右足で踏みつぶし、手元の銃へと目線を落とす。

 

「やっぱり小さすぎるわね」

 

 子供用のサイズに調整されたスカボロウフェアでは、今の姿では若干扱いにくい。

 

「そうだろうと思って、持って来たぞ」

 

 ジャンヌがそう言うと、再び小箱を取り出した。

 

 特殊なポケットでも持っているのだろうか?

 

 小箱を受け取り、中身を確認すると、そこには『ノクターン』『トッカータ』『メヌエット』『プレリュード』の4丁からなるライブイズブルーが入っていた。

 

 ラブイズブルー

 来るべき日のため名工・ロダンが制作していた秘蔵の拳銃。「ノクターン」「トッカータ」「メヌエット」「プレリュード」の4丁からなる。射撃精度、強度ともに、「スカボロウ フェア」に勝るとも劣らない作りになっている。それは武器による打撃のみならず、悪魔を宿す攻撃「ウィケッドウィーブ」、蓄えた魔力を解き放つ究極奥義「アンブラン・クライマックス」を全力で放つことを可能にする。

 

 ラブイズブルーを受け取ると、小型のスカボロウフェアはポーチへと仕舞い、ライブイズブルーへと換装する。

 

「さて…」

 

「そうね」

 

 私とジャンヌは『破滅の耳飾り』に魔力を送り、アンブランアーマーを召喚する。

 

「なんだ?」

 

 ロンが天を仰ぎながら間抜けな声を上げる。

 

 その瞬間、暗雲を切り裂きながら2つの(くろがね)の巨人が背後のスラスターから紫色の炎を吐きながら、天高くから急降下を行っている。

 

「うわあぁ! 避けろぉおおぉ!!」

 

 生徒の一人が叫ぶと、その場に居た生徒が蜘蛛の子を散らすかのように逃げ出した。

 

 尚も高速で落下をしているアンブランアーマーは、地面に激突する寸前に、姿勢制御を行い、金属質な着地音を響かせ、激しい地響きと共に両足と片手の三点で着地し、周囲に衝撃波によるクレーターを形成した。

 

 土煙が晴れると、そこには傷一つない、完璧なアンブランアーマーが威圧感を放ちながら、私達が搭乗するのを待っている。

 

「まったく…派手な演出だな」

 

「スーパーヒーロー着地ね。あれ膝に悪いのよ。でも皆やるわ」

 

「見栄えが良いからな」

 

 ジャンヌは呆れた様に答えながら、クレーターの中心へと向かう。

 

 アンブランアーマーに飛び乗った私は、髪の毛を機械の隙間に張り巡らせて、操縦を開始する。

 

「派手に行くわよ」

 

 重々しい機械音と紫色の光を放ちながら、アンブランアーマーは起動した。

 

 アンブランアーマーが1歩踏み出すたびに、床にヒビを作りながら、重々しい音を立てつつ、歩み始めた。

 

「あれ…なんなんだよ…」

 

「さ…さぁ? 私も見た事は無いわ…」

 

「と…とりあえず、中へ退避しよう」

 

「もう何でもありだな…」

 

 地面を踏みしめるアンブランアーマーの背中を見ながら、ハリー達が呟いている。

 




やってきました『アンブランアーマー』

ここから、大暴れです。



次回作を少し書きましたが、絶対にありえない組み合わせになりました。

まぁ、大暴れするんだからいいか。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

命の代償

最近、投稿前に1杯引っ掛けるのが癖になりつつあります。

ジンは良いですね。
独特な香りが素敵だ。


 

 

 アンブランアーマーを駆りながら、大橋の前にまでやって来た。

 

 大橋の上には、天使達によって無残に破壊された石像で溢れかえっていた。

 

「ギャ?」

 

 

 数体の天使が、こちらに気が付いたのか、石像を破壊する手を止めた。

 

「まったく、品の無い連中だ」

 

「そうね、一気に突き抜けるわよ!」

 

 私達は魔力を開放し、アンブランアーマーのスラスターが最大出力で紫色の炎を撒き散らす。

 

 

「ヴォ」

 

 その時、天使達の背後からディメンターが現れ、私達の前に立ちはだかった。

 

「ヴォ!」

 

 しかし、目の前に現れたディメンターはアンブランアーマーの風圧によってかき消される。

 

 急加速しているアンブランアーマーの前ではディメンターの存在など有って無い様なものだ。

 

「何かいたか?」

 

「さぁ?」

 

 私達は、一陣の風と化したディメンターに気が付く事も無く、天使達を眼前に捕らえた。

 

 

「邪魔だ!」

 

「吹き飛べ!」

 

 天使を射程圏内に納めた私達はアンブランアーマーの動きを止め、腕部のマニピュレーターを展開させ、搭載された2門のバルカンを正面に構え、弾丸を乱射させ、周囲に薬莢を撒き散らす。

 

「―――――!」

 

 2体のアンブランアーマーの2門バルカン、すなわち4門のバルカンによる斉射を喰らい、正面に居た全ての天使が暴力の嵐によって音を立てる事も無く、かき消される。

 

 

「グラァあぁああ!!」

 

 その時、私の背後から3体の天使が現れ、手にした武器を振りかざしている。

 

「消し飛べ!!」

 

 

 振り返り様に、アンブランアーマーの右脚を振り抜き、先頭を走っていた天使を吹き飛ばす。

 

「ギャッ」

 

 そのまま、脚部に搭載されている大口径のショットガン状のカノン砲を放ち、シリンダーが稼働し、不要になった薬莢を排出させる。

 

「――――ッ!」

 

 残りの天使達は、ショットガン状の拡散カノン砲を至近距離で直撃し、血煙となり、その場から消失した。

 

「グラァあぁああ!!」

 

 正面から、斧を上段に構えた、中型の天使『ビラブド』が現れ、私達の眼前に斧を振り下ろした。

 

「無駄だ!」

 

 アンブランアーマーのスラスターを最大出力にまでさせ、脚部で地面を蹴り上げ、ビラブドの斧を回避すると、そのまま上空に飛び上がる。

 

「無事か!」

 

「えぇ! 派手に行きましょう!」

 

 飛び上がった私達は、アンブランアーマーで橋の周囲を旋回するように飛び回りながら、雑魚の天使には両手のバルカンを撒き散らしながら、橋の上に陣取っているビラブドには脚部のカノン砲を浴びせかける。

 

「あ…がっ…」

 

 数十秒後には、橋の上には天使の姿は無く、無残に散った石像と、無数の薬莢が転がっているだけだった。

 

「まったく…歯ごたえが無いわね」

 

「これでは、やりがいが無いな」

 

 私達は、溜息交じりに歯ごたえの無さを嘆いていると、橋の対岸から爆破音が響き渡る。

 

 そこには、天使を運び終えた2体のキンシップが背後の砲口から砲弾を放ちつつ、迫って来た。

 

 

「甘いぞ!」

 

 砲弾が直撃する寸前、私達は飛び上がり、宙へと舞う。

 

 しかし、それを狙っていたかの様に、キンシップの荷台が開くと、そこから大量のミサイルが私達目掛け、放たれる。

 

「ジャンヌ!」

 

「あぁ!」

 

 私達は左右に分かれる様に飛ぶと、キンシップから放たれたミサイル群も半数に分かれ追尾を再開した。

 

 アンブランアーマーの出力を最大にし、振り切ろうとするが、ミサイルの追尾性能はすさまじく、一向に離れる気配はない。

 

 私は、横目でジャンヌの方を確認するが、向こうも同じ様にミサイルに追尾されている。

 

 その時、一瞬だけジャンヌと目が合う。

 

 どうやら考えている事は一緒のようだ。

 

 私達は同時に、弧を描くように大きく旋回すると、ミサイルもその後を追う。

 

 速度を緩めることなく旋回すると、少し離れた所にジャンヌの正面を捉え、互いに向き合う。

 

 互いに向き合った私達は、最大出力で、互いにぶつかる様に速度を上げる。

 

「セレッサ!」

 

「えぇ!」

 

 互いのアンブランアーマーがぶつかる寸前、私は右に、ジャンヌは左に少しだけ避け、正面衝突を回避する。

 

 しかし、私達の背後を追っていたミサイルは繊細な動きをする事はかなわず、互いに正面からぶつかり合い、対消滅を起した。

 

 背後に爆発を感じながら、勢いそのまま、私達はミサイルを放ったキンシップの上にアンブランアーマーで着地すると、その腕を突き立て、装甲を貫通させ、内部にバルカンをばら撒く。

 

「ヴォオオヴォ!」

 

 キンシップは音を立てながら、無駄な武装を爆発させ、ただの船と化した。

 

 2体のキンシップを撃退した私達は橋の対岸に着地すると、空を見上げた。

 

 そこには、悠々と空に浮かぶ、ウォーシップの姿があった。

 

「やはり、大本を叩く以外に、方法は無いな」

 

「そうね。あんなところで呑気に浮いているわ」

 

 私達はウォーシップを撃墜させるべく、飛び上がろうとした。

 

 その時、巨大な茨が鞭のようにしなり、私達に襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 目の前で起きている光景をベラトリックスは受け入れる事が出来なかった。

 

 いや、受け入れる事が出来る者など、死喰い人には居ないだろう。

 

 こちらに加勢した天使達が、突如現れた(くろがね)の巨人によって、ことごとく消滅されているのだ。

 

 それを見た、死喰い人は一時的な撤退を開始し、現状残るのは、ベラトリックスただ一人だ。

 

 

「これはこれは…困った事になりましたねぇ」

 

 ベラトリックスの背後に突如として現れたロプトは、まるで他人事のように呟いてる。

 

「これは、最前線で指揮をしていた、貴女の責任ですよ」

 

「何だと…」

 

「ヴォルデモート卿は貴女に失望されたようですよ。もはや、現状を変える以外、貴女が認められる方法はないかと」

 

「ふざけた事を!! 第一こんな状況どうしろって言うんだ!!」

 

 ベラトリックスは目の前の惨状を指差している。

 

 次々に天使が消し飛ばされるという、なんとも不気味な惨状だ。

 

「まだ手はありますよ」

 

「なに…」

 

 ロプトはベラトリックスを指差すと、声のトーンを変えずに呟く。

 

「先程しようとした事を今するのです。貴女程の魂です。相当なものが呼び出せるでしょう」

 

「くそぉ…」

 

 ベラトリックスの震える手が、ナイフを掴むと、さらに震えている。

 

「さぁ! どうしたのです? 貴女のヴォルデモート卿に対する忠誠とはその程度ですか!」

 

 ベラトリックスは鋭い視線で、ロプトを睨み付けると、数回深呼吸を行う。

 

「舐めるなよ…舐めるんじゃない!!」

 

 覚悟を決めたベラトリックスはナイフを天高く振りかざすと、そのまま自らの胸に振り下ろし、心臓に突き刺した。

 

「が…あっ…が…」

 

 苦しそうな声を上げるベラトリックスの体を、どす黒い雲が包む。

 

「おや…これは…魂が悪過ぎて、下の世界の方を呼び寄せましたか…まぁ良いでしょう」

 

 

 雲が晴れるとそこには、赤を基調とした服の様な物を着込んだ、悪魔…

 

 アルラウネがそこには居た。

 

 アルラウネ

 己を捨てた夫に当てつけるため魔草のマンドレイクの毒を煽り、自らの命を絶った女性。

 

 魔草の毒が死後も魂を蝕んだため、膨らみ続ける妄想と幻覚が極まって魔界への転生を果たしたと言われている。

 

 かつては高貴な家柄の1人娘であったが、魔人として伝えられる姿に当時の面影は見当たらない。

 地獄の底で男女問わず見目麗しい魂を見つけては神経毒を注入し、自らの宮殿で『永遠の愛』を強いるだろう。

 

 果てしない欲望と執念に彩られた彼女の心に、潤いが訪れる事は永遠に無い。それが何万何億の魂を引きずり込もうとも…

 

 

 

『この世界は…どこだ?』

 

「そんな事は気にしなくても良いのですよ、それよりあそこに貴女の仇が居ますよぉ」

 

 ロプトは今にもキンシップに襲い掛かろうとしている、アンブランアーマーを指差した。

 

『マダム・バタフライ!!』

 

 アルラウネはベヨネッタの姿を目にした途端、怒り狂い、駆け出し、手にした鞭を振るい襲い掛かった。

 




キンシップ…貴様ミサイル攻撃だけは許さんぞ。(∞CLIMAX攻略中)

ここから先、冷静に考えればあり得ないだろうってところが増えますが、カッコ良さや、熱い展開重視にしました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

広がる戦火

今回は、アンブランアーマー大活躍です。


  「危ない! セレッサ!」

 

 ジャンヌの乗っているアンブランアーマーが私の前に飛び出ると、迫り来る鞭をその両手で受けとめる。

 

「邪魔だ!」

 

 ジャンヌはアンブランアーマーの右手のマニピュレーターで鞭を掴むと、左手のバルカンを鞭に押し付け、斉射する。

 

 大量の薬莢を吐きながら、轟音が響き渡り、受け止めた鞭がバルカンによって撃ち切られる。

 

『マダァァアム! バタフラァァァアアイ!!』

 

 

 巨大な鞭を片手に持ったアルラウネが怒声を撒き散らしている。

 

「アイツは…」

 

「まだ生きていたのね。しぶといわね」

 

 

 私達は、アンブランアーマーに乗ったまま、アルラウネと向かい合う。

 

 その時、背後のウォーシップから爆音が響き渡る。

 

 爆音を響かせた、ウォーシップの火砲が輝き、周囲に火の手が上がる。

 

「セレッサ…ここは私に任せろ」

 

「え?」

 

「コイツには借りが有るからな」

 

 ジャンヌがアンブランアーマーのマニピュレーターを動かしながら、ウォーシップを見ている。

 

『マダァァアム! バタフラァァァアアイ!!!』

 

 怒声を上げたアルラウネが鞭を構え、こちらに突っ込んで来る。

 

「邪魔をするな!」

 

 

 ジャンヌの乗るアンブランアーマーが両手のバルカンを唸らせ、アルラウネに銃弾の嵐を浴びせかける。

 

『グラァあぁああ!!』

 

 

 バルカンの嵐を一身に受け、アルラウネはその動きを止め、手にした鞭を正面に構え、残りの弾丸の嵐を防ぎきる。

 

 

『グアァアァアァァ! 喰われぞこないがぁぁあ! 邪魔をするなぁぁああ!!』

 

「行け! セレッサ!」

 

「えぇ! 任せたわよ!」

 

 アルラウネの事はジャンヌに任せ、私はウォーシップを撃墜するべく、その場から飛び去った。

 

「さぁ、あの時の借りを返してやろう」

 

 

『邪魔をするなぁぁぁぁぁぁあああ!!!』

 

 ジャンヌの挑発を受け、アルラウネが怒声を上げている

 

 

 

 

  アルラウネが怒声を上げながら、その手に持つ鞭を数度、頭上で回転させ、勢いを付けた後、私目掛けて振り下ろす。

 

「遅いぞ!」

 

 私は搭乗しているアンブランアーマーをバックステップさせ、その攻撃を避け、ウィッチタイムを発動させる。

 

「吹き飛べ!!」

 

 ウィッチタイムの中アンブランアーマーの最大出力でアルラウネに突っ込み、両腕で殴り掛かると、そのままバルカンを斉射させる。

 

『アグアアァァァアアアアッァァ!』

 

 

 アンブランアーマーの両手から放たれるバルカンの掃射を食らわせ、最後に右足で蹴り上げる。

 

「灰になれ!!」

 

 アンブランアーマーの脚部のカノン砲を受け、アルラウネの体が吹き飛ばされる。

 

 

『アァァァガァアアアァ!!』

 

 周囲に魔力の籠った血を撒き散らしながら、アルラウネが地面に横たわっている。

 

「これでチェックメイトだな」

 

『おのれ…この…死にぞこないが…』

 

 私はアルラウネの戯言を流しつつ、アンブランアーマーのバルカンを突き付ける。

 

『アハハ…まだ終わりじゃない!』

 

「なんだと?」

 

 次の瞬間、私の背後の地面が盛り上がり、そこから巨大な棘が現れ、襲い掛かる。

 

「チッ!」

 

 舌打ちをした私は、その場から飛び退こうとするが、時すでに遅く、襲い掛かった棘は、アンブランアーマーの胴体を貫いた。

 

「おのれッ!」

 

 貫かれたアンブランアーマーから飛び降りると、アルラウネから離れる。

 

 その時、アルラウネの棘に突き刺された、アンブランアーマーが火花を散らしながら、爆発四散した。

 

『フハハハハハ!』

 

 高笑いをしているアルラウネの姿が、ドンドンと巨大化していき、4本の足を備えた胴体に、先端に棘の付いた、巨大なサソリの様な尾を振り回している。

 

『どうした? 喰われぞこない! 恐怖したか!』

 

「フン! 図体がデカくなったからと、いい気なものだ」

 

 私は、両手に銃を握りなおすと、アルラウネと向かい合う。

 

「掛かってこい! アンブラの魔女の力見せてやる!」

 

『舐めるなよ! 小娘が!!』

 

 巨大化したアルラウネはその四本足で飛び上がると、私に噛付こうと襲い掛かる。

 

「甘いぞ!!」

 

 その場で、手を振り被り、拳を前に突き出す。

 

 すると、それに呼応するように『マダム・ステュクス』の拳が現れ、アルラウネの胴体を殴り飛ばす。

 

 マダム・ステュクス

 冥界に流れる河『ステュクス』を治める女王。人間界に生息するある種の蛾は彼女の体から迸る(ほとばし)魔力から生まれたものと考えられ、死した罪人を地獄へいざなう役目を負うとされている。

 術者が魂と引き換えに契約を結ぶことで強大な力と知恵を貸してくれる。

 

『ガッ!』

 

 吹き飛んだ、アルラウネの腹部に亀裂が入る。

 

「そこか!」

 

 亀裂の入った腹部をマダムの手でこじ開けると、その中に銃弾を乱射する。

 

『アガァアッァァァァ!!』

 

 苦しみ喘ぐアルラウネは、その尾を振り回し、私を突き刺そうとする。

 

「チッ!」

 

 私はその場で飛び退き、尾の刺突を回避する。

 

 しかし、刺突は止まる事は無く、何度となく繰り返される。

 

 私は、それを間一髪のところで回避するが、防戦一方だ。

 

『どうした! アンブラの魔女の力とはその程度か!』

 

「アンブラを舐めるなよ!」

 

 アルラウネが尾を大きく振りかぶると、とてつもない速度で、私を突き刺そうとする。

 

 私は、その場で指を鳴らすと、髪の魔力を開放し、召喚用のゲートを開く。

 

 すると、巨大な刃が現れ、刺突しようとした棘を受け止める。

 

『なにぃ!』

 

 そこには、巨大な刃を携えた人喰い馬『ディオメーデス』が滾った様に激しく呼吸をしている。

 

 ディオメーデス

 亡国の王が飼っていた4頭の人喰い馬のうちの1頭。

 国が滅びた時、殺され地獄に落ちたが、そのうちの1頭の魂が王の名を冠した悪魔として蘇った。

 魂を狩る巨大な刃が額から生えており、この馬が駆け抜けた後には、無残に切り刻まれた死体だけが残される。

 馬の様に扱われるのを嫌うが、彼と闘い認められた者は、その背に乗る事が出来るという。

 

 

「消し飛べ!」

 

 棘を受け止めたディオメーデスが頭を高く振るうと、受け止めた棘を切り払う。

 

『アァァァガァアアアァ!!』

 

 尾が切り払われたことにより、アルラウネが苦痛の声を上げている。

 

「これで終わりだ!」

 

 ディオメーデスがその場から駆けると、額の刃でアルラウネを突き刺す。

 

『グア!』

 

 アルラウネを突き刺したディオメーデスは、そのまま頭部を様々な方向に振り、アルラウネを切り刻む。

 

『ブラァ!!』

 

 ディオメーデスが最後に雄叫びを上げながら、刃を横に一閃すると、アルラウネの体はバラバラの肉塊へと変化し、地面に落ちると、鈍い音を立てた。

 

『ヒヒィーン!!』

 

 ディオメーデスは再び雄叫びを上げると、走り出し、召喚用のゲートの向こうへと消えていった。

 

「さて、これで片付いたな」

 

 私は、ホグワーツに残した生徒の事が気にかかり、急ぎ足でホグワーツに戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  アルラウネをジャンヌに任せ、ウォーシップを撃墜するべく飛び上がった私の眼前に立ちはだかるかの様に何十体の天使が現れる。

 

「邪魔よ!」

 

 現れた天使達目掛け、両手のバルカンをアイドリング状態で稼働させながら、アンブランアーマーでムーンサルトを決めながら、両手のバルカンを乱射しつつ、両足のカノン砲をばら撒く。

 

 

「「ギャ」」

 

 アンブランアーマーを中心に放たれた暴力の嵐は、周囲に現れた、天使を薙ぎ倒し、地面に叩き墜とした。

 

 周囲の天使を一掃し、スラスターの出力を最大にし、ウォーシップの眼前に飛行する。

 

 その時、ウォーシップの全体が光を放つと、前面の巨大な顔の周囲に配置された、ミサイル発射口の隔壁が開き、大量のミサイルと、砲弾の雨が降り注ぐ。

 

「その程度」

 

 迫り来るミサイル群を避けると、ウィッチタイムを発動させ、砲弾をそのまま避け、ウォーシップの眼前に突撃する。

 

 ウォーシップを眼前に捕らえた瞬間、強力なシールドが現れ、ウォーシップの前面、艦橋部分を覆っている。

 このままでは、ウォーシップにダメージを与える事が出来ない。

 

 仕方なく、シールドの貼られていない側面に移動すると、そこには、前面のシールドへのエネルギー供給を行っている天使の顔の形をしたジェネレーターが見えてきた。なんとも悪趣味だ。

 

「あれね」

 

 天使の顔型のジェネレーターを確認した私は、スラスターから炎を撒き散らしながら、ジェネレーターへと接近する。

 

 その時、ジェネレーター周辺の防衛システムが発動したようで、砲台が起動し、天使の顔の口が開き、ジェネレーターから直接、高エネルギーの光線を放つ。

 

「ハッ!」

 

 アンブランアーマーを宙返りさせ、高エネルギーの光線を回避する。

 

「ぶっ壊れなさい!」

 

 一気にジェネレーターに近寄ると、天使の口を無理やり開かせ、中にアンブランアーマーの左腕を突っ込み、バルカンを乱射させる。

 

 突っ込まれたバルカンから弾丸が大量に吐き出され、それにより天使の顔に亀裂が入る。

 

 その瞬間、ジェネレーターが火を噴き、その動きを停止させる。

 

 しかし、その爆発に巻き込まれ、アンブランアーマーの左腕が損壊してしまった。

 

「チッ」

 

 舌打ちした私は、爆発に巻き込まれたアンブランアーマーの左腕をジェネレーターに残したまま無理やり機体から分離させる。

 

 引き剥がされた左腕部分からは小さな火花が飛び散っている。

 

 破壊したジェネレーターから、バランスが不安定になったアンブランアーマーで飛び上がると、ウォーシップの前面のシールドにヒビの様な物が入っている。どうやら、ジェネレーターの破壊は効果があるようだ。

 

 反対側にも、同じようなジェネレーターが配置されており、その周囲にも、同様に防衛システムが配置されている。

 

「まったく…面倒だわ」

 

 私の存在に気が付いたのか、ジェネレーター周囲の防衛システムが再び起動し、ミサイルを発射し始めた。

 

「同じ事ばかりで、芸が無いわね」

 

 迫り来るミサイル群を右腕1本のバルカンで迎撃しつつ、両足のカノン砲を発射し、弾幕を形成し、総て撃ち落とす。

 

「おやすみ!!」

 

 スラスターの出力を最大にし、右脚を主軸にアフターバーナーキックで天使の口元を無理やり突っ込む。

 

「これで終わりよ!」

 

 天使の口内に無理やり突っ込んだ右脚から、カノン砲が火を噴く。

 

 すると、先程同様に、ジェネレーターから炎が上がり、爆発が起こる。

 

 その時、アンブランアーマーの右脚に違和感が走る。

 

 どうやら、爆発に巻き込まれて、右脚が損傷したようだ。

 

「チッ」

 

 私は、舌打ちをしながら、右脚を切り離し、ジェネレーターから脱出する。

 

 その時、艦橋を覆うシールドが音を立てて崩壊する。

 

 私は、右脚と左腕を失った、不安定な状況のアンブランアーマーでウォーシップと対峙する。

 

 ウォーシップの正面にある天使の顔が開くと、醜い口が現れ、その奥から超高エネルギーの光線が発射される。

 

 放たれた超高エネルギーの光線を横に回避すると、ウィッチタイムを発動させ、大口を開いている顔へ接近し、残る右腕のバルカンと、左脚のカノン砲を全門開放させる。

 

「全部あげるわ!」

 

 全門開放後の、斉射により、天使の顔に大きなヒビが入る。

 

「ぶっ飛べ!」

 

 絶え間なく銃弾を吐き出し続けた銃身は限界を超え、赤く発熱し始める。しかし、そんな事で攻撃を止めるはずも無く、バルカンとカノン砲を絶やすことなく発射し、アンブランアーマーに搭載されていた残りの弾薬のすべてを吐き出させる。

 

『グオォォォォオォォオオォオ!!』

 

 アンブランアーマーの全門開放零距離一斉掃射を喰らい、ウォーシップの艦橋部に大穴が空き、そこから、先程まで超高エネルギー光線を吐き出していた口が、血を吐きながら悶えている。

 

 しかし、すでに限界を超えた腕部のバルカンと脚部のカノン砲はついにその役目を終え、火花を散らしながらパージされ、数秒後に爆発を起こした。

 

『グ…オオグッ! ガァアアアアアア!』

 

 轟沈寸前のウォーシップが絶叫しながら、最後の力を振り絞り、大口を開け、こちらを喰い尽くそうと迫り来る。

 

「良いわ、そんなに食べたいなら、喰らいなさい!!」

 

 最早、武装を失い、丸裸となったアンブランアーマーの鍵穴に魔力を込めた中指を突き刺すと、スラスターを全開にさせ、ウォーシップの口の中のへと特攻させる。

 

「消し飛べ!」

 

 ウォーシップの口に入る寸前で脱出し、機能停止したキンシップに着地する。

 

 私が軽くウィンクすると、ウォーシップの体内でアンブランアーマーの自爆シーケンスが作動し、動力炉が暴走を開始し、臨界点を突破したようで、大爆発を起こす。

 

『グアァァァアアアァァァァッア!』

 

 体内で大爆発が発生したウォーシップは、その体表の装甲に亀裂が入り、その亀裂から爆炎が漏れ出している。そろそろ止めにしよう。

 

 私は髪の魔力を開放し、召喚用のゲートの開く。

 

『TELOC VOVIM』

 

 突如として、ゲートから巨大なムカデ、『スコロペンドラ』が出現する。

 

 スコロペンドラ。

 煮えたぎる血が流れる魔界の大河「フレジェトンタ」に棲むムカデの怪物で、その体長は大きいもので10キロを超えるとも言われる。巨体に似合わず動きは俊敏で、瞬く間に獲物に巻きつき、絞め殺すと言われている。

 

 スコロペンドラは一度、咆哮を上げると、爆炎を撒き散らしている瀕死の状態のウォーシップにその巨体で巻き付き、一気に締め上げる。

 

 メキメキと音を鳴らし、ウォーシップの亀裂がさらに広がる。

 

 スコロペンドラの巨体が一度緩んだかと思うと、再び一気に締め上げ、ウォーシップを締め上げ、押しつぶす。

 

 バラバラになったウォーシップは破片を周囲に撒き散らしながら、撃沈した。

 

 スコロペンドラは満足そうに咆哮を上げると、何処かへと消えていく。

 

 

 その時、ホグワーツの方から爆発音が響き渡る。

 

 振り返るとそこには、私達が手間取っている隙に、再集結した死喰い人と天使の混成部隊が、大橋の石像部隊を突破し、正門を突き破っていた。

 

「まずいわね」

 

 私はその場から飛び上がると、一気にホグワーツへと移動する。

 

 

 

 

 

 

 

 




やっぱり、搭乗機体が戦闘でボロボロになって行くのがカッコいいですよね。

新品で、無傷の機体より、片腕が無かったり、被弾跡がある機体とかの方がロマンを感じます。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ホグワーツ防衛戦

今回は、ホグワーツ内部での戦闘です。




   状況はまさに最悪だった。

 

 ベヨネッタ達が、キンシップ撃墜の為、ホグワーツを離れたと同時に、天使と死喰い人の混成部隊が再結集、及び進軍を開始し、難なく正門を突破すると、正面玄関を抜け、エントランスを制圧した。

 

 正面玄関が破られた時点で、ダンブルドアの命令で、ハリーとダンブルドアは共に校長室に退避し、残りのメンバーで大広間の防衛を行っていたが、ホグワーツ側に残された戦力では、死喰い人には何とか対抗できるが、天使に対抗する術はなく、あっという間に大広間まで制圧されてしまった。

 

「これで全員か?」

 

 死喰い人の一人が、人質となったDAのメンバーを縛り上げながら呟く。

 

「貴様等! 何が目的だ!」

 

 縛り上げられたムーディが死喰い人に怒声を吐きかける。

 

「ダンブルドアの抹殺、そして闇の帝王がこの世界を支配するのだ。まぁ…貴様等に邪魔されて、多くの同胞が散っていたが…総ては闇の帝王の為…」

 

 死喰い人は自分に酔っているように、台詞を紡ぐ。

 

「貴様等をこの場で処刑しても良かったのだが、どうせなら大々的に大衆の前で処刑せよとのご命令だ。穢れた血も長生きできてよかったなぁ」

 

 そう言うと、死喰い人は大声で笑って居るが、その目は決して笑ってはいなかった。

 

「はぁ…ところで、裏切り者はどこにいる?」

 

「裏切り者?」

 

 死喰い人の質問にロンが繰り返すように答える。

 

「あぁ、我等を裏切り、闇の帝王を裏切った一族…マルフォイ家の連中だ。どうせホグワーツで匿っているのだろ?」

 

「アイツか、アイツなら正面玄関が破られたときにいち早く逃げたぞ」

 

 ロンが笑いながら答えると、死喰い人が再び大笑いを上げる。

 

「フッ…なるほどなぁ。裏切り者の……臆病者らしい行動だ! やはりな!」

 

 クツクツと一通り笑った死喰い人はゆっくりと杖を取り出すと、ロンに突き付ける。

 

「さて…殺すなとは言われているが、痛め付けるなとは言われていないのでな」

 

 加虐心に満ちた目で、ロンを見下している。

 

「では行くぞ、クルー――」

 

 死喰い人が杖を振り上げたその時、破裂音が周囲に響き、振り上げた杖を破壊させた。

 

 

「ぐわぁ!」

 

「誰だ!」

 

 その場に居た数名の死喰い人が杖を取り出し、2階の音のした方に目線をやるとそこには、ステンドグラスから差し込む光を浴びた一人の人間のシルエットが浮かび上がっていた。

 

「くそぉ!」

 

 その場に居た死喰い人が杖を振り上げるが、魔法が放たれるよりも前に、シルエットの人物が手にした武器で杖が破壊される。

 

「何者だ!」

 

 その瞬間、シルエットの人物が2階から飛び上がり、死喰い人の前に両足と左手の三点で着地し、右手に構えた銃を突き付ける。

 

「貴様は!」

 

「誰が臆病者だと?」

 

 死喰い人にハンドガンを突き付けたドラコが、鋭い視線で睨み付ける。

 

「杖が無いお前達に何が出来る? 今なら見逃してやる。大人しく退け」

 

 ドラコが鋭い言葉を死喰い人に投げかける。

 

「くそぉ…」

 

 ハンドガンを突き付けられた死喰い人はゆっくりと立ち上がると、その場に居た他のメンバーを連れ、何処かへと逃げだした。

 

「マルフォイ! お前、どこに行ってたんだ!」

 

「あぁ、ちょっと忘れ物を取りにな。それより無事かウィーズリー?」

 

 ドラコは膝の痛みを振り払う様に、何度か膝をさすりながら立ち上がる。

 

「あ…あぁ大丈夫だ」

 

「そうか、今縄を解いてやる」

 

 ドラコが杖を軽く振ると、ロンの縛り上げていた縄が自然に解ける。

 

 その時、ガラスが割れるけたたましい音を大広間に響かせながら、天使達が現れた。

 

「あれは!」

 

「まったく、ゆっくりしてもいられんな」

 

 ドラコは片手に構えたハンドガンにマガジンを挿入すると、銃身をスライドさせる。

 

「ウィーズリー、他の連中の縄を解いたら、安全な所へ避難していろ」

 

「なんだと! 僕に命令する気か!」

 

「フン! 今は言い争っている場合ではないだろ? わかったな?」

 

「あぁ、分かっているさ!」

 

 ロンは杖を取り出すと、他のメンバーの縄を解き始めた。

 

「さて…練習の成果を見せる時が来たな」

 

 ドラコは小箱から、小さな人形の様な物を取り出すと、腰に装着し、紫色のロリポップを口に含んだ。

 

 すると、ドラコの体から魔力があふれ出す。

 

 

「さぁ! かかってこい!」

 

 ドラコの挑発に乗る様に、天使達が一斉に武器を構えた。

 

 

 

 「ギャアア!!」

 

 数体の天使が、上空から一斉にドラコに向かって襲い掛かる。

 

「うぉ!」

 

 ドラコが両手で1丁のハンドガンを構えると、何かに操られるかのように、体を仰け反らせ、天使の攻撃を回避すると、頭部に銃口を押し付け、脳幹に2発、射撃する。

 

 息絶えた天使の死体を蹴り上げると、別の天使に直撃させ、動きを止めさせ、天使の脳天目掛け2発の弾丸を放つ。

 

「ギャッ!」

 

 ハンドガンから放たれた2発の銃弾は見事に天使の脳天を捉え、その活動を停止させた。

 

「ふぅ…」

 

「すげぇな…まるでベヨネッタみたいな動きだ…」

 

 一息付いているドラコの背後から、ロンが躊躇いがちに声を掛ける。

 

「あぁ、ジャンヌ先生に鍛えられたからな。まぁ…コイツのおかげだ」

 

 ドラコはそう言うと、腰に付いている、人形の様な物を手に取る。

 それは、『永遠なるマリオネット』と呼ばれる魔導具だ。

 

 永遠なるマリオネット

 その無慈悲な戦い方から「ブラディ・マリー」の異名で恐れられた魔女マリーが作った腰飾り。戦うことを得意としたマリーの技は、まるで流れる川のように淀みなく繰り出されたと言われ、この魔導器を身に着けるものは彼女に操られるかの如く、その熟練した技術を用いて戦うことが出来るという。

 

 

「へぇ…すげぇな…」

 

「それより、縄は解き終わったのか?」

 

「あぁ、怪我人も退避済みさ」

 

「そうか…なら――」

 

 その時、再びガラスを突き破り、天使が入って来た。

 

「まったく…きりが無いな」

 

 ドラコはその場で、ハンドガンを構えると、宙を飛んでいる天使を撃ち落としていく。

 

 しかし、2体程撃ち墜としたところで、弾切れを起こした。

 

「くそっ! これだからチープな玩具は嫌いだ!」

 

 ドラコは悪態を付きながら、銃身を掴むと、銃床で天使の頭部を殴打し、吹き飛ばす。

 

 その衝撃で、ハンドガンが完全に崩壊する。

 

「くそぉ!」

 

 攻撃手段を失い、天使と対峙するドラコは悪態を付いている。

 

「グギャアア!」

 

 天使が咆哮を上げると、武器を手にドラコに襲い掛かる。

 

 

 その時、大広間の扉が勢い良く開かれ、両手に鞄を持ったクラッブとゴイルが現れた。

 

 

「お前達!」

 

 グラップとゴイルが同じ動作で、鞄に手を突っ込むと中からハンドガンを取り出し、ドラコに向け投げる。

 

「おっと!」

 

 天使の攻撃を回避したドラコは空中に飛び上がり、回転しながら近付いて来る2丁のハンドガンを左右の手で受け取ると、そのまま接近してくる天使に向け発砲する。

 

「グギャアア!」

 

 両手のハンドガンから放たれた銃弾によって迫り来る天使はその場で崩れ落ちる。

 

「はっ!」

 

 宙へ飛び上がったドラコは、空中で武器を構えている天使に、突っ込むと、両手に構えたハンドガンを乱射し始める。

 

 しかし、両手に持っていたハンドガンも弾切れになり、虚しい音を上げている。

 

「追加だ!」

 

 ドラコが声を上げると、クラッブとゴイルは鞄からハンドガンを取り出すと、ドラコに投げる。

 

 投げられたハンドガンの前に、天使が立ちはだかり、妨害をしようとしている。

 

「退け!」

 

 ドラコは飛んでいるハンドガンの目の前で右足を振り上げ、踵に装着し右足のハンドガンを発射する。

 

「邪魔だぁ!」

 

 その場で反転し、飛んできたハンドガンを左足に装備する。

 

「落ちろ!」

 

 そのまま左足のハンドガンで天使を撃ち墜とす。

 

「まったく…他愛もない」

 

 着地したドラコは、周囲を見回すと、破られたガラスから何十という天使が侵入してくる。

 

「数が多いな…」

 

 溜息を吐いたドラコは、その場で振り向くと、クラッブとゴイルが鞄を持ち上げている。

 

「フッ…どうやらまだ玩具はあるようだな…良いだろう」

 

 ドラコは、両手の銃を構えると、数十の天使と向かい合う。

 

「パーティータイムだ!」

 

 ドラコは、その場から飛び上がると、天使の群れの中心に突っ込む。

 

「ギャ!」

 

 天使達は、手に持った槍状の武器をドラコに向け振り下ろす。

 

「甘いぞ!」

 

 ドラコは、絶妙に体を逸らせ、天使の攻撃を回避すると、天使の持っている武器に掴まり、左右の天使に銃撃を浴びせる。

 

 左右の天使が息絶えると同時に、手にしていたハンドガンの銃弾が尽きる。

 

 

「次だ!」

 

 ドラコが声を上げると、クラッブとゴイルが同じ動きで鞄からハンドガンを取り出すと、同時にドラコに向けて投げ放つ。

 

 ドラコは足に装備したハンドガンの弾丸を全て吐き出し、周囲の天使を迎撃しつつ、飛んできたハンドガンを受け取ると、そのまま天使の頭上に乗り、銃弾を放つ。

 

「次!」

 

 クラッブとゴイルは再び、ドラコの声に呼応するように、ハンドガンを投げる。

 

「次だ!」

 

 ハンドガンを受け取ったドラコは、大広間の中心に陣取ると、両手をクロスさせ左右の天使を迎撃する。

 

「次!」

 

 ハンドガンを取り換えると、今度は、前と左右の天使を迎撃し、足に装備したハンドガンで後方の天使を撃ち落とす。

 

「次ぃ!!」

 

 数分間、天使達を迎撃し続けた結果、用意していたハンドガンを全て使い果たしてしまった。

 

「はぁ…はぁ…まったく…きりが無いな…」

 

 片膝を地面に付け、肩で息をしているドラコは、依然として宙に浮いている天使を睨みつけている。

 

 そんなドラコの後ろに、杖を構えたロンとハーマイオニーが近寄る。

 

「おい! 大丈夫か?」

 

「フッ…ウィーズリーか、退避しなかったのか?」

 

「貴方一人を置いて、逃げたりはしないわ」

 

「そうか。君らしいなグレンジャー」

 

 ドラコは、震える足に力を入れ、ゆっくりと立ち上がると、ロリポップを咥え、銃弾を吐き尽くしたハンドガンを投げ捨て、杖を構える。

 

「まだ戦えるの?」

 

「当然だ」

 

「あら? そう? 心強いわね」

 

「フッ…さぁ! 来い!」

 

 天使達が、咆哮を上げると、武器を手に襲い掛かる。

 

「フン!」

 

 ドラコは杖を勢い良く振ると、近場にあった瓦礫を持ち上げ、天使にぶつける。

 

「ンギャ!」

 

 瓦礫に押しつぶされた天使は苦しい声を上げる。

 

「奴等には魔法は効果が無いが、物理的な衝撃には弱いらしい…この方法なら無力化できる!」

 

「そう言う事なら!」

 

 ロンが杖を振ると、ドラコと同じように瓦礫を持ち上げ、天使に投げつける。

 

「ジャァ!」

 

 しかし、天使は眼前に迫った瓦礫を武器で薙ぎ払うと、砂埃の向こうで無傷の状態で悠然と飛翔している。

 

「おいおい…マジかよ…」

 

 ロンが呆れたような表情を浮かべると、その後ろからハーマイオニーが飛び出す。

 

「邪魔よ! ロン!」

 

 ハーマイオニーが勢い良く杖を振るうと、天井に釣られていたシャンデリアの飛べ金がはじけ飛ぶ。

 

「ンガ?」

 

 シャンデリアの真下に居た天使達が天を仰ぐと、留め金の外れたシャンデリアは重力に従う様に、床へと吸い込まれる。

 

「「「ンガァアァァ!!」」」

 

 落下したシャンデリアに巻き込まれ、下に居た天使達が下敷きになる。

 

「ド派手だねぇ…」

 

「やるな! グレンジャー!」

 

「当然よ!」

 

 テンションの上がった3人は魔法を巧に使い、数体の天使を迎撃していく。

 

「ハァ…ハァ…ハァ…」

 

「フゥ…フゥ…」

 

「まだ…来るのね…」

 

 数分間、必死に迫り来る天使達を迎撃していた3人だが、流石に疲労の色が見え始める。

 

 互いに背中合わせになった3人は杖を構えながら、肩で息をしている。

 

「まったく…いい加減にしてくれ…」

 

「疲れたなら、逃げてもいいんだぞ」

 

「誰が逃げるか…」

 

「それなら気合を入れろ!」

 

「わかってる! ったくもぉ!」

 

 ロンは疲れ気味に悪態を付くが、天使体は御構い無しに杖を構え、突撃してくる。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 ロンが悲鳴を上げた、その時、聞き慣れた銃声が周囲を包んだ。

 




マルフォイを強化しすぎましたかね?

まぁ、この作品ではマルフォイ贔屓がありますからね。

これくらいがいいでしょう。


何気に3人で共闘してますが、いがみ合っている仲が共闘するのって熱いじゃないですか。
理由はそれで充分です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

セブルス・スネイプ

この物語も、あと少しで終わりです。
出来れば、最後までお付き合いください。


 

 

   ウォーシップを撃墜した後、急いでホグワーツへと戻ると、入り口付近は、すでに天使達によって包囲されていた。

 

「遅かったか」

 

 丁度、私と合流するようにジャンヌが隣にやって来た。

 

「そうね。急ぐわよ!」

 

「あぁ!」

 

 ジャンヌと共に入り口を包囲する天使達を撃ち墜としつつ、修羅刃で切り崩し一転集中突破を行う。

 

「やっぱり少し使いずらいわ。後でロダンに直させないと」

 

 少し小さくなった修羅刃では思いのほか使いにくい。

 

 私は手に持った修羅刃を鞘に納める様に、ポーチに仕舞い込む。

 

「邪魔だ!!」

 

 入り口の門の前に立つ2体の天使を私達は1体ずつ蹴り飛ばすと、そのまま門をぶち破り、中へと入る。

 

「こっちだ!」

 

 ジャンヌの後に続き、大広間の扉を開けると、そこには手持ちの銃を使い果たし、杖で天使達の迎撃を開始しているドラコ達の姿があった。

 

「ギャアア!!」

 

 天使達が咆哮を上げると、ドラコ達に襲い掛かる。

 

 私達は、背中合わせになり、ドラコ達に襲い掛かる天使達を撃ち落とす。

 

 

「オイタをしている悪い子は誰かしら?」

 

「さぞかし、キツイお仕置きが必要だな」

 

 銃口から立ち上る煙を噴き消すと、ドラコ達は驚いた表情を浮かべている。

 

「セレッサ!」

 

「ジャンヌ先生!」

 

「何とか間に合ったようね」

 

「助かったぁ…」

 

 ロンは緊張の糸が解けたのか、その場で腰を抜かす。

 

「フッ、よく耐えたな。偉いぞドラコ」

 

「ありがとうございます」

 

 ドラコはジャンヌにお辞儀をすると、現状を説明し始めた。

 

「大広間を制圧し終わった闇の帝王とロプトは大広間に死喰い人を配置し見張りを任せて、校長室に移動したようだ」

 

「そうか、ならば急がなくては」

 

「そうね。でもその前に…」

 

 私はポーチから小型版のスカボロウフェアと鞘に収まった修羅刃を取り出すと、ドラコに手渡す。

 

「使いなさい」

 

「え…でも…」

 

「その様子じゃまともに戦えないでしょ」

 

 ドラコはゆっくりとスカボロウフェアを受け取ると、両手両足に装備し、修羅刃を背中に斜め掛けに背負う。

 

「ありがとう。使わせてもらうよ」

 

「上手く使いなさい」

 

「何をしている。行くぞ!」

 

 ジャンヌが急かす様に声を上げている。

 

「えぇ、今行くわ」

 

 私はその場から走り出し、ジャンヌの後を追い、校長室へと向かった。

 

 

  ダンブルドアは校長室の椅子に深く腰掛けると、机に両肘を着き、頭を抱えている。

 

 窓の外には、天使達が飛び交い、所々で爆破音が響いている。

 

「ダンブルドア先生! 僕達も戻りましょう!」

 

「ならぬっ…」

 

 ダンブルドアは、ハリーの申し出を却下する。

 

 この作戦の要、必要な()()はハリーただ一人だ。

 

 ハリーさえ居れば、ヴォルデモートを…

 

「先生!」

 

 ハリーが大声を上げ、ダンブルドアの考査を妨害する。

 

「ハリーよ…辛いかもしれぬが、耐えるのじゃ。皆ワシ等を守る為にその身を犠牲にしておるのじゃよ」

 

「ですが!」

 

 ハリーが異論の声を上げると同時に、校長室の扉が何者かによって爆発させられる。

 

「久しいなダンブルドア」

 

「ヴォルデモート…」

 

 ハリーが恨めしそうな声を上げている中、扉を爆発させた時の土煙を掻き分けながら、ヴォルデモートが側近であるロプトを連れて悠然と歩いている。

 

「久しいのトム。今宵は何の用じゃ?」

 

「俺様がここにやって来た目的はただ一つ。ハリー・ポッターを抹殺する事だ」

 

「ワシの目の前でそのような事をさせると思っておるのか?」

 

 ダンブルドアが、杖を構えると、それに対抗するように、ヴォルデモートも杖を構える。

 

「折角じゃ。決闘をしようではないか」

 

「ほぉ…老いぼれにしては良い趣味をしているな」

 

 ダンブルドアの決闘の申し出に、ヴォルデモートはニヤついた笑みを浮かべると、2人は校長室の中心に陣取った。

 

「ロプト。手出しは無用だぞ」

 

「承知しております」

 

 ヴォルデモートが釘を刺すと、ロプトはワザとらしく頭を下げ、お辞儀をしている。

 

「では始めようか! ダンブルドア!」

 

「来るが良い!」

 

 2人は同時に杖を振るうと、互いの放った魔法が空中で炸裂し、校長室の内装にヒビが入る。

 

「ぐぉ!」

 

「やるな!」

 

 2人の更なる攻防は続く。

 

 ダンブルドアが杖を振るい、周囲を爆発させ、瓦礫をヴォルデモートに吹き飛ばす。

 

「シャ!」

 

 唸り声を上げたヴォルデモートが力強く杖を振るうと、飛び掛かる瓦礫がすべて、眼前で塵となり、周囲に降り注ぐ。

 

「ジャ!!」

 

 再びヴォルデモートが杖を振るうと、強烈な炎が杖の先から放たれる。

 

「ぬぐぅ!」

 

 ダンブルドアも対抗し、杖を振るうと、杖の先端から強力な水圧の水を放出し、炎と水がせめぎ合い、互いに均衡を保っている。

 

 しかし、均衡は緩やかに崩壊を始めた。

 

 徐々に炎の勢いが増し、ダンブルドアに迫り来る。

 

「ダラシャ!!」

 

 ヴォルデモートが杖を振るうと、炎が爆発を起こし、ダンブルドアに襲い掛かる。

 

「ぐがぁ!」

 

 ダンブルドアは自身の体が燃え上がる中、杖を振るい、自身に水を掛け、燃え上がる炎を鎮火させる。

 

「だぁ…はぁ…あぁ…はぁ…」

 

 何とか炎を消したダンブルドアは肩を激しく上下させ、荒い呼吸をしている。

 しかし、その手には杖は握られておらず、足元に転がっている。

 

「ハハッ! 俺様の勝ちだな!」

 

「おのれぇ…」

 

 勝ち誇ったヴォルデモートは声高らかに大笑いしており、ダンブルドアはその場で崩れ落ち、ただその姿を恨めしそうに睨んでいる。

 

 そんな中、ハリーはいつの間にかヴォルデモートの背後でバレない様に杖を構えていた。

 

 ヴォルデモートとダンブルドアの戦闘中に移動を開始したハリーがヴォルデモートの背後を取ったのだ。

 

「エクスぺリア―ッ!」

 

 ハリーが魔法をヴォルデモートに向け放とうとするが――

 

「邪魔をしてはいけませんよ」

 

「んなぁ!」

 

 突如としてハリーの目の前にロプトが姿を現し、構えている杖を人差し指と中指で摘まみ取る。

 

「いい出来ですね。ですが…」

 

 次の瞬間、指で挟まれた杖が蒼い炎に包まれる。

 ロプトは表情一つ変える事無く、杖が燃えるのを見ている。

 

「邪魔をするなと言ったはずだぞ、ロプト」

 

「つい出過ぎた真似をしてしまいました」

 

 杖を灰へと変化させたロプトは笑いながら一礼すると、何処かへと消えていった。

 

「さて…ダンブルドア」

 

 ヴォルデモートは倒れ込んでいるダンブルドアに近寄ると、髪の毛を掴み、顔を覗き込む。

 

「今すぐ貴様を殺してやりたいが…少し嗜好を凝らそう」

 

 ヴォルデモートは掴んでいたダンブルドアの髪の毛を勢い良く離すと、背を向ける。

 

「ハハハ…アハハハハハハハハ!!」

 

 部屋の中には、ヴォルデモートの狂った笑い声だけが、響き渡る。

 

 

 その時、校長室に杖を構えたスネイプが飛び込んで来た。

 

「おぉ、セブルス。遅かったなぁ。俺様は待ちくたびれたぞ」

 

「…………」

 

 ヴォルデモートは嬉しそうな声を上げ、無言のまま杖を構えてた、スネイプの登場を歓迎している。

 

「くそぉ…」

 

 倒れ込んだダンブルドアは呻き声を上げながら、手元に転がった杖に手を伸ばしている。

 

「お見通しだぞ」

 

 

 冷ややかな声でヴォルデモートが呟き、杖を振るうと、ダンブルドアと杖の間の床で小さな爆発が起きる。

 

「フン、浅はかな考えだな」

 

 ヴォルデモートは再び杖を振ると、ダンブルドアの体を石に変え、冷徹な笑みを浮かべ、見下している。

 

「セブルス」

 

「はい」

 

「俺様は少し疲れた、そのガキを痛め付けるのはお前に任せる。殺すなよ…殺すのは俺様だ」

 

 ヴォルデモートは振り返る事なく、スネイプに指示を出した。

 

「本来ならば、俺様が直々に手を下してやるべきだが…まぁこの際良いだろう」

 

 スネイプはゆっくりとハリーの方を向くと杖を突き付けた。

 

「ポッターよ………」

 

「…………」

 

 スネイプはただ名を呟き、ハリーは恨めしそうに睨みつけている。

 

「どうしたのだ、セブルス。早くしないか。そのガキは貴様の仇の筈だぞ」

 

「なんだと…」

 

 ハリーは戸惑うように呟いた。

 

「あぁ、ハリー…貴様を守ろうなどと考えなければ、貴様の母親を、あの()()()()は見逃してやる約束だったのだが…愚かな女だ」

 

 ヴォルデモートは楽しそうに笑いながら呟いている。

 

「さぁ、セブルス。貴様の仇は目の前に居る! 好きにするが良い、磔の呪文を掛け、痛め付け、心を壊してやれ!」

 

 スネイプは一度深呼吸をすると、杖を強く握りしめた。

 

「セクタムセンプラ!!」

 

 スネイプは力強く呪文を叫ぶと、魔法を放った。

 

「シャァ!!」

 

 放たれた魔法は、ヴォルデモートに襲い掛かるが、難なく無効化された。

 

「スネイプ…先生…」

 

「どうしたのだセブルス? 好きにしろと言ったはずだぞ。貴様の恨みはその程度なのか?」

 

 杖を構えたヴォルデモートは不気味な表情で笑って居る。

 

「まぁ良い…退け」

 

 ヴォルデモートはスネイプに杖を突き付け脅している。

 

「その要求は飲めぬ」

 

 スネイプは杖を構えると、ハリーの前に立ち、ヴォルデモートと向かい合う。

 

「どういうつもりだ、セブルス…」

 

「吾輩はリリーとの約束を護るだけだッ!」

 

 立ちはだかったスネイプは魔法を放つが、ヴォルデモートはそれを難なく防ぐ。

 

「貴様…死にたいようだな」

 

 ヴォルデモートは冷ややかな声で呟くと、スネイプに魔法を放つ。

 

「プロテゴ・マキシマ!」

 

 スネイプは防御魔法を張り、ヴォルデモートの攻撃を防ぐ。

 

「どれだけ防げるか見ものだな。俺様を裏切ったのだ。楽に死ねると思うなよ! 磔にし、肉を焼き、骨を砕き、自ら死を懇願するようになるまで痛め付けてやる!」

 

 ヴォルデモートは絶え間なく魔法を放ち、スネイプを追い詰める。

 まさに防戦一方だ。

 

「ぐぅ! ごぉ!」

 

 スネイプは苦しそうな声を上げ、展開している防御魔法にはヒビが入る。

 

「くらえ!!」

 

 

「ぐごぉお!」

 

 ヴォルデモートが渾身の力を籠め魔法を放つと、防御魔法が音を立て砕け散り、スネイプが手にしていた杖も粉々に砕け散り、手から血が流れている。

 

「さて…そろそろ止めと行くか」

 

「ハァ…ハァ…吾輩を殺すか…それも良いだろう…だがこの状況、見覚えがあるのでは?」

 

「なに……まさか!」

 

 スネイプは不敵な笑みを浮かべ、ヴォルデモートを見据えている。

 

「そう…貴様がその身を滅ぼした時…そして、リリーが自らの命を投げ出しハリー・ポッターを護った時と似た状況ではないか?」

 

 血塗れのスネイプは苦しそうな笑みを浮かべながらそう言うと、ハリーを守る様に両手を広げる。

 

「えぇい! 小癪な真似を! 退け!」

 

「退かぬ!!」

 

「ダァ!!」

 

 ヴォルデモートが杖を振るうと、スネイプの体中に切り傷が出来、血を流す。

 

「ぐぅ…吾輩は…僕は…リリーを守護(まも)れなかった…だからせめてっ…約束を! 託されたハリーを護る!」

 

 スネイプは血塗れの状態でヴォルデモートの魔法を一身に受けている。

 

「なぜだ! なぜ死んだ者の為にそこまでする! あの女は貴様を裏切り、あまつさえ、貴様が憎んでいる男と一緒になったのだぞ!」

 

「それがどうしたと言うのだ! 僕の愛は変わらない! 今も! そしてこれからも! そう永久(とわ)に…」

 

 スネイプは血塗れの左手で首から下げた口紅を握りしめる。

 

「えぇい! アバダケダブラ!!」

 

 怒り狂ったヴォルデモートは渾身の力を籠め、杖を振り下ろした。

 

「リリー…」

 

 迫り来る緑の閃光を前にスネイプはゆっくりと瞳を閉じた。

 

 




スネイプの一人称は最後まで悩みましたが、やはり『僕』の方が良いかなっと思いました。

今作スリザリン贔屓がひどい気がするけど、今更か…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

真実

後2~3話くらいで終わりですかね。


  

 

   セレッサとジャンヌ先生が大広間を抜けた後、入り口と窓ガラスを突き破り、天使と死喰い人の混合部隊がなだれ込んで来た。

 

「さっそくお客さんだな」

 

「えぇ、そうね」

 

 ウィーズリーとグレンジャーは杖を構えて、死喰い人を睨みつけている。

 

「天使共の相手は僕がする」

 

「なら、僕達は死喰い人を」

 

「来るわ!」

 

 その瞬間、死喰い人が一斉に魔法を放った。

 

「フン!」

 

 僕はその場で飛び上がり、瓦礫の背後に隠れる2人を背に、迫り来る魔法を刀で切り伏せる。

 

「行くぞ!」

 

 魔法を放とうとする死喰い人の顔面を踏みつけ、さらに高く飛び上がると、宙を浮いている天使に向け銃を放つ。

 

「ガァ!」

 

 銃弾を受けた天使は、その場で撃ち墜とされ、床へと堕ちる。

 

 それにしてもすごい銃だ。

 威力が凄まじく、反動は少なく、小回りが利く。

 とても使いやすい。

 

「そこだ!」

 

 瓦礫から顔を覗かせたウィーズリーとグレンジャーは、周囲の死喰い人に魔法を放ち、無力化させている。

 

「負けてられないな」

 

 僕の背後に現れた天使は槍状の武器を上段から振り下ろす。

 

「無駄さ」

 

 体の軸を半分ほどずらし、振り下ろされた槍を回避する。

 

「ご苦労だ」

 

 そのまま頭部に弾丸を放つ。

 

「ギャぁ!」

 

 頭部を撃ち抜かれた天使は断末魔を上げ、その場に崩れ落ち、手にしていた武器を落とす。

 

 僕はおもむろに落とした槍を手に取る。

 

「フン、悪くないな」

 

「グギャ!!」

 

 槍を構えた天使が、僕の眼前に迫ると、槍を横に薙ぐ。

 

「うぉ!」

 

 拾い上げた天使の槍を縦にし、天使の攻撃を受け止めると、地面に突き刺した槍を軸に天使の顔面を蹴り上げ、足に装備した銃で銃撃を喰らわす。

 

「ギャ!」

 

「ふぅ…」

 

 一息つき、手に取った地面に刺さった天使の槍を引き抜くと、空中で武器を構えている天使達に向け投げ飛ばす。

 

「ギャ!」

 

「ダッ!」

 

「ンギィ!」

 

 投げ飛ばした槍は、回転しながら弧を描き、飛び交う天使達を巻き込み、総てを切り墜とす。

 

「ふぅ…」

 

 数体の天使が墜ちたのを確認し、一息入れる。そんな時…

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

「この! どうなっているのよ!」

 

 ウィーズリーとグレンジャーの悲鳴が響き渡る。

 

 悲鳴の方を振り返ると、そこには気絶した死喰い人の上を堂々と這う巨大な蛇が2人が放つ魔法を弾きながら悠々とその距離を詰めている。

 

「何で効かないんだ!」

 

「分からないわよ!」

 

「あれは…ナギニか…なぜここに…」

 

 2人は魔法を乱射しているが、ナギニは気にする事も無く、大口を開け2人に襲い掛かる。

 

「うわぁ!」

 

「危ないわ! ロン!」

 

 ウィーズリーを庇う様にグレンジャーが覆いかぶさる

 

「まずい!」

 

 僕は両足に力を籠め、飛び出すと、背中に掛けた刀に手を掛ける。

 

「うおぉおぉぉおぉ!」

 

 そのまま一気に刀を抜き、ナギニを真っ二つに切り裂く。

 

「キシャァァアアアァァアァ!」

 

 ナギニは断末魔を上げながら、灰になり、その場から消える。

 

「無事か!」

 

「え…えぇ!」

 

「気を抜くな! まだ来るぞ!」

 

 周囲には、天使の増援が現れ、こちらに攻撃を仕掛けようとしている。

 

「まったく…きりがない…」

 

 僕は操られ疲れ果てた体を癒す様に、ロリポップを口に咥えると噛み砕く。

 

 あまり美味くはないが、効果は抜群だ。

 

「うおぉおぉぉおぉ!!」

 

 僕は力を籠めると、叫びながら再び天使達の群れに突っ込んだ。

 

 

 

 

 

  私達は一気に階段を駆け上がる。

 

「ここだ」

 

 長い階段を上り切り、校長室の前へと到着する。

 

 しかし、校長室の扉は何者かによって開かれたままだ。

 

「あれは…」

 

 校長室内部では、ハリーの前に立ちはだかるスネイプに向けてヴォルデモートが杖を振り下ろし緑色の閃光が炸裂している。

 

「ぬぐぅ!」

 

 ヴォルデモートが苦しそうな声を上げ、放った緑色の閃光は、スネイプの横を通り抜け、背後の壁に炸裂した。

 

「ぬがぁぁぁああああ!」

 

「ぐぅううぅうぅう!」

 

 突如としてハリーとヴォルデモートが苦しそうな呻き声を上げると、2人とも崩れ落ちた。

 

「そんな…まさか…ナギニが…」

 

「分霊箱が壊れた…」

 

 ハリーとヴォルデモートは互いに苦しそうな声を上げ、呟いている。

 

「おのれぇええええ!」

 

 ヴォルデモートは苦痛に歪む体を無理やり起こそうとするが、力が入らず、よろけている。

 

 今がチャンスだろう。

 

 私は、右手に構えた銃をスネイプに向け投げ渡した。

 

「使いなさい」

 

 スネイプは空中を回転しながら進む銃を右手で受け取ると、銃身を中折れさせ、首にかけていた口紅を左手で掴んでチェーンから引き千切り装填すると、両手で銃を構え、銃口をヴォルデモートに突き付ける。

 

「ぐぅう…」

 

 しかし、血を流しすぎたのか、腕が震え、照準が定められずにいる。

 

 そんな時、周囲が柔らかい光に包まれ、一人の女性の霊体が姿を現す。

 

「リリー…君なのか…」

 

 リリーと呼ばれたその霊体は、優しい微笑みを浮かべ、スネイプの背中に寄り添うと、自らの両手をそっとスネイプの両手に重ねる。

 

「あぁ…リリー…そうだな…」

 

 スネイプとリリーは互いに微笑みあう。

 

「おのれぇええええ! 穢れた血! 俺様の邪魔ばかりしおって!!!」

 

「消えろ…ヴォルデモート!」

 

 スネイプはゆっくりと引き金を引くと、銃口から真紅の口紅が放たれる。

 

「うおぉおぉぉおぉ!!」

 

 ヴォルデモートが咆哮を上げると、辺りかまわず、魔法を乱射し、周囲に小さな瓦礫が降り注ぐ。

 

 しかし、放たれた口紅が瓦礫の合間を縫い、ヴォルデモートの脳天に突き刺さる。

 

「おのれ…おのれぇぇえええええええ!!!!!」

 

 脳天に口紅の刺さったヴォルデモートはゆっくりとその場に仰向けに倒れ込んだ。

 

「終わったな…」

 

 スネイプが呟くと、リリーがゆっくりと頷き、その霊体がふわりと宙に浮く。

 

「リリー…もう逝くのか…」

 

 リリーは悲しそうな表情を浮かべ深く頷く。

 

「そうか…」

 

 スネイプは悲しそうな表情をしているが、そこに悲壮感はなかった。

 

 次第にリリーの体は透明になり、やがては完全に消えてなくなった。

 

「リリー…」

 

 スネイプは呟くと、その場に崩れ落ちた。

 

「スネイプ先生!!」

 

 ハリーはスネイプに駆け寄ると、その体を支える。

 

「ハリー…ようやく先生と呼んでくれたな…」

 

「先生…」

 

「その目は…リリーに…そっくりだ…」

 

 

 スネイプは優しい微笑みをハリーへと向けている。

 

「どうやら終わったようだな」

 

「その様ね」

 

 私達は校長室の中に入ると、2人がこちらに顔を向けた。

 

「ベヨネッタ! 来てくれたんだ!」

 

「えぇ、そうよ。終わったみたいね」

 

「フン…助かったぞ」

 

 スネイプはぶっきらぼうに言うと、ハリーの手を借り、立ち上がると私に銃を返した。

 

「さて…吾輩は校長を起してくる」

 

 スネイプがダンブルドアの机を漁り、予備の杖を取り出すと、軽く振る。

 

「んなっ!」

 

 すると、ダンブルドアの石化が解け、ゆっくりと体を起こした。

 

「どうやら…終わった様じゃな…」

 

 ダンブルドアは倒れているヴォルデモートを見るとゆっくりと口を開いた。

 

「えぇ。終わりましたね」

 

 ハリー達はとても和やかな笑みを浮かべている。

 

 その時、校長室の入り口で単調な拍手の音が響いた。

 

 

 

 

 「お見事というべきでしょう。終わったようですねぇ」

 

「ロプト…」

 

 そこにはロプトが大げさな拍手をしながらゆっくりと入室してきた。

 

「それにしても呆気ない物ですね。闇の帝王と言えど…所詮はこの程度ですか…」

 

 ロプトがゆっくりとヴォルデモートに近寄ると、ヴォルデモートは苦しそうな声を上げた。

 

「ロプト…何をしている…早く何とかしろッ…」

 

 どうやらまだ息があるようだ。

 

「どうして…分霊箱は破壊したはず…」

 

 ハリーは困惑した表情で呟く。

 

「助かりたいのですか? ヴォルデモート卿」

 

「手が有るのなら! 早くしろッ!」

 

 ヴォルデモートは苦しそうなかすれ声を上げながら、ロプトに命令を下している。

 

「では、私の手を取ってください。その身のすべてを私に任せるのです」

 

 ロプトはワザとらしくゆっくりとその手を差し出した。

 

「早くしないかぁ!!」

 

 ヴォルデモートは震えるその手でロプトが差し出した手を掴んだ。

 

「掴みましたね。これであなたの役目は終わりです。ご苦労様でした。トム・リドル」

 

「なにぃ!」

 

 その瞬間、2人の体がまばゆい光に包まれる。

 

 

 

 やがて、収まった光の中心には、完全復活を遂げたロプトの姿があり、その胸にはヴォルデモートの苦痛に歪んだ顔が埋め込まれている。

 

「悪趣味ね」

 

「まったくだ…気色が悪い」

 

「フフフッ…」

 

 ロプトは笑いながら、手を振ると、校長室の壁に大穴が開く。

 

「素晴らしいですね…やはり、人の憎悪の力とは凄まじい」

 

「それがアンタの目的?」

 

「えぇ、そうですよ。世界の目が無くなってしまった以上、人の憎悪を喰らい、完全なる神の力を取り戻す…それが私の目的です。まだ不完全なようですがね…」

 

 ロプトは笑いながら、聞いても居ないのに、計画の全容を話し始めた。

 

「ベヨネッタ。貴女に倒され、バルドルの体に閉じ込められた私は、遠い昔に戻されました。しかし、時が経つにつれ、バルドルの心が悪に染まり、おおよそ100年前には、私が彼の体を完全に操るようにまでなりましたよ」

 

 ロプトは大袈裟な身振り手振りで演説を続ける。

 

「完全にバルドルの体を支配した私は有る事を考えました。それはある種の保険です」

 

「保険?」

 

「そうです。いずれ貴女方に倒される未来があるのならば、私の力の一部を別の場所に移そうと考えました。そして、たどり着いたのがこの魔法界です。そして私はほんの少しの力を切り離し、この世界に隠しました。そして私の力の媒体となる人物を探しました」

 

「それが…ヴォルデモートという事じゃな…」

 

 ダンブルドアがロプトを睨みながら口を開く。

 

「その通り! 私は幼い頃のトム・リドルに目を付けました。彼には類稀なる魔法の才能が有りましたからね。私のほんの少しの悪意を植え付けてやっただけで、とても立派な媒体になりましたよ」

 

「まさか…悪の道にそれたのも!」

 

「この私のお・か・げ・です。彼は実に良い活躍をしてくれました。闇の帝王となり、人々の恐怖、悪意、憎悪、嫌悪など、負の感情を一身にその身に蓄えてくれました」

 

「何という事…」

 

「しかし…いくら負の感情を集めても、私の完全なる復活には至らないと言うのは、最初から分かっていました……それは何故か! 理由は簡単です。いくら恐怖や憎悪を集めた所で、人々の心にはまだ『希望』が残されていたからです。ですから私は、その『希望』を完全に打ち砕く事にしたのですよ」

 

 ロプトはゆっくりとハリーを指差した。

 

「そこで、必要となったのが、ハリー・ポッター…貴方ですよ」

 

「僕が?」

 

「そう。貴方が闇の帝王を1度滅ぼす事により、人々の希望を一身に受ける。しかし闇の帝王が復活した事により、人々の負の感情は反発的にさらに強い物になる。そしてハリー・ポッターが死を迎える時。完全に人々の『希望』が崩れる。その時の負のエネルギーは凄まじい物でしょうねぇ。その為に、学生時代のトム・リドルに分霊箱の存在を教え、作るように仕向けました。そして、君の存在を予言させたのですよ」

 

 ロプトは笑いながらハリーを眺めている。

 

 その時、かすかに声が響き渡る。

 

『お…のれ…ロプ…ト』

 

「おやおや…まだ息が有るのですか? 分霊箱は総て破壊されたはずですが…しぶといですねぇ」

 

 ロプトは目を細め、胸元のヴォルデモートを睨み付ける。

 

「あぁ…そういう事ですか…これは予想外です」

 

 ロプトは笑いながら手を上げると、ハリーの体が吸い寄せられる。

 

「まさか君が分霊箱になっていようとは…」

 

 ロプトは力を籠めると、ハリーの体から何やら禍々しい物を取り出す。

 

「邪魔ですねぇ…」

 

 手に持った禍々しい物をロプトが握りつぶすと、ヴォルデモートの呻き声が響き渡る。

 

『ぐぅう!』

 

「これで完全に消滅しましたね。お疲れ様です。トム・リドル」

 

 ロプトはハリーの体をソファーへと投げ飛ばすと、胸元のヴォルデモートの顔に手を置く。

 

「ふん!」

 

 力を籠めてヴォルデモートの顔を押しこむと、ロプトの体内に完全に吸収される。

 

「さて…これで分霊箱は完全に破壊されましたね。貴方達の処刑は後日、大々的に行いましょう。その方が楽しいでしょう!!」

 

 ロプトはソファーで気を失い、横たわるハリーを見据えながら呟いている。

 

 私とジャンヌは拳を振り上げると、ウィケットウィーブを発動させロプトに殴りかかる。

 

「ぐほぉ!」

 

 2人のストレートを喰らったロプトは吹き飛ばされ、壁に激突し、倒れ込む。

 

「呆気ないな」

 

「本当ね。つまらないわ」

 

「フフフッ」

 

 倒れ込んたロプトは笑いながら体中に禍々しいオーラを吸収しながら立ち上がる。

 

「人々の負の感情がある限り、私を倒す事など出来ませんよ」

 

 笑っているロプトの傷はみるみるうちに回復し、無傷の状態となった。

 

「奴め…不死身か!」

 

 ロプトを睨み付けているダンブルドアは苦しそうに呟く。

 

「不死身…そうですね。まさにその言葉がぴったりでしょう!!」

 

 ロプトは笑いながらゆっくりと宙を浮く。

 

「さて…厄介なアンブラの魔女のお二人にはそろそろご退場願いましょう」

 

 ロプトは先程開けた大穴から飛び出ると、私達を手招きしている。

 

「ここでは狭いですからね。こちらまでおいでなさい」

 

「奴め…舐めた真似を」

 

「まったく、くだらない喧嘩を売るわね」

 

 私達はロプトを追う様に大穴から飛び出す。




スネイプがなんで口紅を装填できたかって?

カッコいいからって理由がほとんどですが、職業柄マグルの武器に関しても若干の知識はあるんじゃないかと考えました。



マルフォイにナギニを倒させたいな→でも、グリフィンドールの剣はスリザリン生じゃ使えないな…→ならいっその事、グリフィンドールの剣をぶっ壊そう!

という事で、秘密の部屋でグリフィンドールの剣をぶっ壊して、修羅刃にその役目を任せました…

すまんな、ネビル……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

激闘

 

   校長室に空いた大穴から飛び出すと、空中に特殊な力場が発生しており、抉り取られたような地面が空中に浮遊している。

 

 私達はその上に着地すると、正面にロプトが浮遊しながら不敵な笑みを浮かべている。

 

「アンタみたいなゲス野郎はとっとと片付けてあげるわ」

 

「同感だな、三下には早々に退場して貰うのが良いだろう」

 

「フッフッフッ………言うではありませんか。退場するのは貴女達ですよ」

 

 ロプトが手を構えると、手の平から青白いレーザーが放たれる。

 放たれたレーザーは、地面を割りながら、こちらに迫り来る。

 

 

「クッ!」

 

 私達はレーザーを左右に飛び退く。

 

「そこですね」

 

 ロプトは宙に浮くと、両手を左右に構え、私達に超高速の光弾を放つ。

 

「無駄な事だ!」

 

 私達は迫り来る光弾をバックステップで回避すると、ウィケットウィーブを使い、マダムの拳を振り抜く。

 

「んなぁ!」

 

 宙に浮くロプトは、左右から放たれる私達のウィケットウィーブの拳に挟まれる。

 

「まだだ!」

 

「行くわよ!」

 

 そのままロプト目掛け、突きのラッシュを放つ。

 

 私達の拳のラッシュに幾度となく挟まれロプトの体にダメージが蓄積される。

 

「フハァァァアアアア!!」

 

 ロプトが絶叫を上げ、力を開放すると、私達の拳を弾き飛ばす。

 

「無駄な事です! 私は不滅なのです!!」

 

 勝ち誇った表情のロプトが両腕を天に向ける。

 

 すると、轟音を上げながら、空から巨大な隕石がこちらに向かってくる。

 

「フハハハハハ! 消し飛びなさい!」

 

 腰に手をやり、こちらを見下しながら、ロプトは高笑いを上げている。

 

「こんな物を落として喜ぶか! この変態が!!」

 

 ジャンヌは苛立ちながら怒声を上げる。

 

「ふざけた事をするわね!」

 

 私達は力を開放し、背後にマダムの姿が現れる。

 

 

 マダム達は背中を伸ばすと大きく体を逸らせる。

 

「ハァアアアアアア!」

 

「吹き飛べ!」

 

 マダム達はそのまま勢いの良い頭突きを迫り来る隕石にぶつける。

 

「なんですと!!」

 

 マダム達の頭突きを受けた隕石は方向を変え、ロプトの体を飲み込み爆発四散する。

 

「ンヴィイイ!!」

 

 隕石の爆発によって発生した煙が晴れると、中央に肩で息をしているロプトが呻き声を上げている。

 

「おのれ! まだまだです!」

 

 ロプトは両手を空に掲げると。怒りに任せてレーザーを放つ。

 

 すると、空から黒煙を上げ、火花を散らしている人工衛星がこちらに向かって墜落してくる。

 

「フンッ!」

 

 私は落下する人工衛星を受け止めると、体を軸に回転させ、ロプトに向かって投げつける。

 

「ハァッ!」

 

 迫り来る人工衛星をロプトは片手でジャンヌの方へと弾き飛ばす。

 

「ドリャッ!」

 

 ジャンヌは迫り来る人工衛星を受け止めると、私と同じように体を軸に回転させ、ロプトに投げ返す。

 

「フンッ!」

 

 先程と同じようにロプトが私に向け、人工衛星を弾き返す。

 

「フンッ!」

 

 私は速度の速くなった人工衛星を受け止め、ロプトに投げ返す。

 

 

「まだで……うごぉおぉ!」

 

 ロプトは人工衛星をはじき返すのに失敗し、人工衛星が直撃し、大爆発が起こる。

 

 

「フゥ…フゥ…おのれ…おのれ! おのれ! おのれぇ!」

 

 

 人工衛星の直撃を喰らったロプトは怒りに歪んだ表情で叫び声を上げている。

 だが、その体に出来た傷はみるみるうちに回復していく。

 

「まったく…まだ回復するのか?」

 

「ホント、生命力はゴキブリ並みね」

 

「ゴキブリなど可愛いものだ、新聞紙一つで倒せるからな」

 

「私をゴキブリ扱いとは…酷い事をしますねぇ」

 

 完全に回復したロプトは、背中を伸ばしストレッチをして、臨戦態勢を整えている。

 

 このまま消耗戦になれば、圧倒的にこちらが不利だ。

 

 何とか、短期決着で決めたいが…

 

 しかし…どうすれば…

 

 

 

 

 

  ロプトとベヨネッタ達が去った後、校長室に取り残されたハリー達は、3人の激闘を目にして困惑していた。

 

「どうなっているんだ…あれは…」

 

 戦況はまさに一進一退だった。

 

 ロプトの攻撃を回避したベヨネッタ達は、息の合ったコンビネーションで攻撃を展開している。

 

 しかし、いくらダメージを与えた所で、ロプトの体は凄まじい回復力で決定打は与えられていない状況だ。

 

 まさに、消耗戦といったところだ。

 

 そんな時、扉の向こうから杖を構えたシリウスが焦った表情で入って来た。

 

「無事か! ハリー!」

 

「シリウス!!」

 

 シリウスは、ハリーの無事を確認すると安堵の溜息を吐いた。

 

「良かった…ところで…あれはどういう状況なんだ?」

 

 シリウスは校長室に空いた大穴から見える3人の激闘を目にして疑問の声を上げている。

 

 現在は巨大な人工衛星を使ったラリーの真っ最中だ。

 

「あの男はヴォルデモートを吸収したのじゃよ」

 

「吸収だと!」

 

「そうじゃ…そして奴は人々の負の感情を吸収して不死身となったのじゃ…」

 

「不死身…嘘だろ…」

 

「悲しいが事実じゃよ」

 

「何か手は…奴を倒す手は無いのですか!」

 

「彼女達ですら対処できぬのじゃ…ワシ等に何が出来ると言うのじゃ…」

 

 ダンブルドアは諦めた様に、首を横に振る。

 

 

「アーチだ…」

 

「え?」

 

 シリウスの呟きにハリーが疑問の声を上げる。

 

「神秘部にあるアーチを使うんだ!」

 

「じゃが…アーチなど何に使うのじゃ…」

 

「一度私はアーチの向こう側へと吹き飛ばされ、死にかけた…その時何となくだが感じたんだ」

 

「何を?」

 

「あれは…死の世界というべきか…とにかくこちらとは違う…命あるものが行くべき場所ではないのは確かだ」

 

「つまり…あいつをアーチの向こう側へと押し込めれば…」

 

「倒せるはずだ!」

 

「じゃが、どうやってアーチをここまで持ってくるのじゃ?」

 

 2人の案に水を差す様にダンブルドアが口を開く。

 

「呼び寄せ呪文を使いましょう」

 

 疲れ切ったスネイプが、ゆっくりと口を開いた。

 

「じゃが…ワシの知る限りあれは巨大で、魔法省の最深部…神秘部に保管されておるぞ。それほどの物に呼び寄せ呪文を掛けるなど不可能じゃ」

 

「えぇ、一人では不可能かもしれません…ですが…」

 

 スネイプは机から予備の杖を取り出すと、ダンブルドアに手渡すと、周囲を見回した。

 

「ホグワーツに居る全員の力を合わせれば、不可能を可能にできるかもしれませんぞ」

 

 スネイプは何処か自嘲気味な笑みを浮かべている。

 

「じゃが…」

 

「それしか手は無いなら、それをやるしかないですよ!」

 

「ハリー…」

 

 ダンブルドアは少し考えた後、口を開いた。

 

「わかった…皆を一度、クィディッチ会場に集めるのじゃ」

 

「わかりました」

 

「では、吾輩もまいります」

 

 シリウスとスネイプは踵を返し、校長室を後にした。

 

 

  シリウスとスネイプは階段を駆け下り、地下室にあるスリザリンの寮へと通ずる重厚な扉の前にやって来た。

 

「ここがスリザリンの寮か…来るのは初めてだな…」

 

「感想は後にしろ…開けるぞ」

 

 スネイプが扉に手を掛け、ゆっくりと開く。

 

「エクスペリアームス!」

 

「ぐぉおお!」

 

 突如として赤い閃光が迸り、直撃したスネイプが吹き飛ばされる。

 

「待て! 私だ!」

 

「シリウス…という事は今のは…」

 

「吾輩だ…まったく…相手を見てから行動せぬかッ! 馬鹿者が!」

 

 ルーピンの魔法が直撃したスネイプは痛む体を押さえながら、転がり落ちた杖を拾い上げる。

 

「すまない、てっきり死喰い人がここまで来たのかと…」

 

「まぁ良い。全員クィディッチ会場に集まるのだ」

 

「クィディッチ会場? 死喰い人はどうなっている?」

 

「ここまで来るのに誰一人として見てはいない」

 

「そうか…分かった」

 

 ルーピンはその場で振り返ると、背後の扉を開き、中に隠れていた生徒達に声を掛けた。

 

「皆、良いかい。これから大広間を抜けてクィディッチ会場へと向かうんだ」

 

 すると、負傷した不死鳥の騎士団員と怯えた表情の生徒達が次々と現れ、階段を上り始めた。

 

 

 




ロプトを倒す為に、アーチを使います。

どんな感じでアーチを使うんでしょうね?


ベヨネッタをプレイした方なら予想が付くんじゃないですかね?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決着

次回 最終話です


  「うおぉおぉぉおぉ!!」

 

 勢い良く飛び出した僕は、天使の腹部に修羅刃を突き刺し、そのまま脳天に銃弾を放つ。

 

「ギャ!」

 

 脳天を撃ち抜かれた天使は、断末魔を上げると、その場で動かなくなった。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

 周囲に天使の死体と気を失い拘束されている死喰い人が散乱している中、僕達は荒い息を上げながら、周囲を警戒している。

 

「これで…終わりか?」

 

「そのようね」

 

 天使の増援が来る事は無く、どうやら、先程のが最後の1体だったようだ。

 

「ふぅ…」

 

 僕は、修羅刃を鞘に仕舞い込むと、残りが僅かとなった、ロリポップを口に咥える。

 

 その時、何者かが扉に手を掛けた音が聞こえた。

 

「誰だ!」

 

 ウィーズリーとグレンジャーは杖を、僕は銃を構え、扉に突き付ける。

 

「ワシじゃよ」

 

 扉の奥からは、悠々と歩くダンブルドアの姿があった。

 

「ダンブルドア先生!」

 

 ウィーズリーとグレンジャーは杖をしまうと、ダンブルドアの元へと駆け寄る。

 

「無事だったんだですね!」

 

「君達も無事で何よりじゃ…ところでこれは君達が?」

 

「えぇ、そうです」

 

「そうか…」

 

 

 グレンジャーの答えを聞いたダンブルドアは何やら警戒心を込めた表情で僕達を見ている。

 

 すると、再び扉が開き、奥からは退避した生徒達や、怪我を負い戦線を離脱した教師陣が姿を現した。

 

「あっ! マクゴナガル先生!!」

 

 グレンジャー駆け出すと、そこには腕を押さえたマクゴナガルの姿があった。

 

 どうやら、先程の戦闘で怪我をしたようだが、命に別条は無さそうだ。

 

「ミス・グレンジャー。無事でしたか」

 

「はい、それより、皆どこへ向かっているんですか?」

 

「クィディッチ会場ですよ。そこでダンブルドア校長から話があるそうです」

 

「クィディッチ会場?」

 

「そうですよ。さぁ行きますよウィーズリー」

 

 多くの生徒が大広間を抜けクィディッチ会場へと向かっていく。

 

 僕は両手の銃を仕舞い込み、彼等の後を追いかけた。

 

 

  大広間を抜け、クィディッチ会場へと出ると、予想外の光景が広がっていた。

 

「なんだあれは…」

 

 空中に切り取られたように地面が浮かんでおり、そこでは、セレッサ達が実態を得たロプトと激闘を繰り広げている。

 

「皆、聞こえておるか」

 

 ダンブルドアが魔法で拡声させながら、口を開いた。

 

「この戦いを終わらせるには、奴を消滅させなくてはならない」

 

 ダンブルドアは空中で暴れまわっているロプトを指差した。

 

「その為に『アーチ』と呼ばれる物を呼び寄せなくてならん。しかしそれはワシ一人の力では無理じゃ…そこで、皆の力を借りたい!」

 

 杖を天高らかに掲げると、ダンブルドアはさらに声を大きくさせる。

 

「呼び寄せ呪文を使う。アーチを知らぬものは、呼び寄せる事だけに集中するのじゃ。ワシに続くのじゃ! アクシオ! アーチ!」

 

 ダンブルドアが叫ぶと、その場に居た生徒達が、上級生下級生問わず次々と杖を取り、呼び寄せ呪文を唱える。

 

「アクシオ! アーチ!」

 

 僕も杖を取り出しアーチを呼び寄せる。

 

 しかし、普段の呼び寄せ呪文とは違い、成功した感覚が無い。

 

「アクシオ! アクシオ!!」

 

 何度となく、全員が同じ魔法を唱える。

 

 若干だが変わったかもしれない…

 

 その時、クィディッチ会場を包み込むように眩い光に包まれる。

 

「まさか!」

 

 

 光の向こうから、次々と天使達が舞い降りて来る。

 

 着地した天使達は武器を手にしてこちらを威嚇している。

 

「なんだよ!!」

 

 天使達を目にした生徒達から恐怖の色が現れ、魔法を唱える事が出来ずにいる。

 

「まずい!」

 

 僕は杖を仕舞い込み、その場から一気に飛び出す。

 

「どりゃあぁぁぁぁぁあああ!!」

 

 手始めに、先頭の天使に飛び乗ると、そのまま足の銃を放ちつつ、次に上空に居る天使へと飛び移る。

 

「はっ!」

 

 数体ほど繰り返し、最も高い所へと飛び上がると、修羅刃を構える。

 

 

「でりゃぁ!」

 

 そのまま修羅刃を突き出し、一気に急降下する。

 

「ギャ!!」

 

「ンギィ!」

 

「ギャぁ!!」

 

 修羅刃で数体の天使を串刺しにしながら、地面に修羅刃ごと突き刺す。

 

「フン!」

 

 修羅刃の柄に両手で掴み、柄を軸にして逆立ちをし、両足の銃を乱射し、周囲の天使を片付ける。

 

 体を逸らし、修羅刃を地面から引き抜くと、動きを止めているダンブルドア達を見る。

 

「何をしている! 急げ!」

 

 ぼさっとしていることに、苛立ちを覚え声を荒げてしまう。

 

「わ、分かった、皆続けるぞ!」

 

 生徒達は、ダンブルドアに続くように魔法を唱えだした。

 

「さて…」

 

 僕は両手に銃を構え、残り少なくなったロリポップを口に咥えて、正面に現れた天使達と対峙する。

 

「しつこい奴等だ。相手になってやる!」

 

 僕の啖呵に呼応するように、天使達が咆哮を上げた。

 

 

 

 

  死喰い人に制圧された魔法省は職員全員が追放され、まさに死喰い人の巣窟と化していた。

 

 ホグワーツ侵攻に参加していない死喰い人は魔法省を改装し、快適に過ごせるようにしていた。

 

 1階に集結した死喰い人が必死に改装工事を行っている中、魔法省の最深部、神秘部に保管されているアーチを支える土台に多少の亀裂が入り始める。

 

 亀裂は次第に大きくなり、土台が完全に崩壊した。

 

 しかし、それを目にした者はいない。

 

 死喰い人が最深部にまで気が回らなかったのが運の尽きだろう。

 

 土台から解き放たれたアーチは上昇を続け、神秘部の天井を突き抜け徐々に上昇していく。

 

「ん? 何の音だ?」

 

「少し揺れなかったか?」

 

「確かにな…」

 

 微弱な揺れを感じ、死喰い人は疑問に思い始める。

 

 その瞬間、さらに激しい揺れと、爆音が響き渡る。

 

「うわぁ!!」

 

「なんだ!!」

 

 激しい揺れに耐えきれず、バランスを崩した死喰い人は周囲を見回し、声を荒げている。

 

 そして、1階の床に大きな亀裂が入る。

 

 

「うわぁ!!」

 

「床が!」

 

 死喰い人が悲鳴を上げる中、床が崩壊しアーチが飛び上がる。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 気を抜いていた死喰い人は亀裂に飲まれ、地下へと飲まれていく。

 

 そんな中、上昇を続けるアーチは魔法省の天井を突き破った。

 

 その衝撃により、魔法省の建物は完全に崩壊した。

 

 

 

 

  天高く上昇したアーチは、そのまま急加速すると、魔法界の空を高速で飛び去る。

 

「「「「「アクシオ! アーチ!!」」」」」

 

 生徒達の声が揃い、呪文を唱えると、アーチがさらに加速する。

 

「来たぞ!!」

 

 ダンブルドアが声を上げると、ホグワーツにアーチが突っ込んだ。

 

 ホグワーツは瓦礫を撒き散らしながら、アーチを受け止める。

 

 アーチが突っ込んだ場所は、校長室があったあたりだろう。

 

「やっと来たか!」

 

 天使の群れを迎撃しきったドラコは肩で息をしながら、満身創痍の体を修羅刃に預けて支えている。

 

「後は…彼女達に任せよう…」

 

 ダンブルドアは疲れ切った表情で、激戦を繰り広げているベヨネッタ達を見ていた。

 

 

 「ぬあぁぁぁあぁあ!」

 

 マダムの一撃をくらい吹き飛んだロプトは見えない壁に激突すると、倒れ込んだ。

 

「はぁ…はぁ…」

 

「これで…どうだ…」

 

 私とジャンヌは互いに息を切らしながら倒れ込んだロプトを見ている。

 

「フッ…フフフッ…無駄ですよ…無駄、無駄」

 

 禍々しい瘴気を吸収したロプトは再び立ち上がると、こちらを嘲り笑う。

 

「まったく! しつこい奴だ!」

 

「面倒な男は嫌われるわよ」

 

「これからは私の時代。そんな事を気にする必要はありません」

 

 

 ロプトが天高く手を構えた瞬間、高速の物体がホグワーツに激突した。

 

「何事です?」

 

 ロプトはゆっくりと振り返り、突撃した物体に目を向ける。

 

 あれは何処かで見たことがある…確か…

 

「アーチですか、あんなものを用意して、どうしようというのですかねぇ」

 

『そいつを向こうへと吹き飛ばすんだ!!』

 

 ハリーの拡声した声が周囲に響き渡る。

 

「私をですか? 何を考えているのやら」

 

 ロプトは呆れた様に、腕を上げる。

 

「んぐぅ!」

 

 その瞬間、胸を押さえ、ロプトが苦しそうな声を上げる。

 

「あが! あがががががが!!」

 

 ロプトはさらに苦しみもがき、その体からどんどんと禍々しい瘴気があふれ出し、その体がどんどんと人間の物へと変化していく。

 

「どうなっているのです! どうして力が!」

 

『誰もお前を恐れていないからだ!』

 

 ハリーの声が周囲に響き渡る。

 

『僕達が恐れていたのは、ヴォルデモートであってお前じゃない! お前なんか怖くないんだ!』

 

「ふざけるな!!」

 

 ロプトは再び手を振り上げるが、すぐに力無く倒れ込む。

 

「こんな事…こんな事! 認められるものか!」

 

「フッ、どういう訳か知らないが」

 

「さっさと決めましょう」

 

 私とジャンヌは同時に魔力を開放する。

 

 

「「|TELOCVOVIM AGRAM ORS ADNA OVOF AVAVAGO《暗黒の月の堕落せし者よ、彼の女をして、雷に打たらしめよ》」」

 

 魔力の籠った私達の髪は、巨大な召喚用のゲートを形成し、縺れ合う様に吸い込まれる。

 

 そして、白と黒が合わさった巨大な魔女。

 

『クィーン・シバ』が姿を現した。

 

 クィーン・シバ

 宇宙が「光」「闇」「混沌」の三つに分かれた時、闇を司る魔界と共に誕生した超存在。魔界に住むことから悪魔に分類されているが、詳しい事は分かっていない。魔界の宇宙の理を司るとされ、畏怖の念から誰ともなく「女王」の名を冠して呼ぶようになった。その姿を見たものはなく、定まった姿を持たないとも、無限の闇が広がる魔界そのものがこの悪魔だとも言われる。かつて何人もの魔女がこの悪魔の召喚を試みたが、逆に魔界へと引きずり込まれ、命を落としたという。もし仮にクイーン・シバの召喚に成功したとしても、それはこの悪魔の力のほんの一部なのかもしれない。

 

 クィーン・シバは体を仰け反らせると、自らの髪を束ねて、身の丈程ある1本の杖を作り上げた。

 

「なっ! なんですかこれは!!」

 

「今回は魔女仕様なのだな」

 

「魔法界ですもの、当然でしょ」

 

 クィーン・シバは杖を右手に持つと軽く回転させ中腰になり、左手で輪を作り、その中に杖を通し、右手を軽く引き、杖の先端をロプトに突き付ける。

 

 まるでビリヤードのようなポーズだ。

 

「フン!!」

 

 クィーン・シバは勢い良く右手を突き出すと杖の先端でロプトを弾き飛ばす。

 

「あひぃ!! またこのパターンですかぁぁああぁあぁぁあぁぁっぁぁぁあ!!」

 

 吹き飛ばされたロプトは、見えない壁を突き破り、アーチの方へと吹き飛ばされる。

 

「アァぁ! おのれ! おのれ! おのれ!!」

 

 アーチの中に半分ほど入ったロプトは最後の悪足搔きで霊体状の手を伸ばし、アーチの端を掴み、体を引き出そうとしている。

 

「まったく。往生際が悪い」

 

「本当ね。しつこい男は嫌いよ」

 

「まぁいい、そろそろ終わりにしよう」

 

 私達は互いに背中合わせとなり、私は右手の銃を横向きに構え、その下にジャンヌが左手の銃を正面に構える。

 

「合言葉でも言うか?」

 

「冗談。私達はそんな柄じゃないでしょ」

 

「フッ…それもそうだな」

 

 私達は互いにウィンクすると、指先に力を籠めた。

 

「砕け散れ!」

 

「消え失せろ!」

 

 同時に引き金を引き、放たれた弾丸は、真っ直ぐにロプトの脳天を貫いた。

 

「あぁぁあぁあぁあ!!」

 

 脳天を貫かれたロプトは、力無く仰け反り、アーチの向こう側へと吸い込まれていった。

 

 




合言葉はデビルハンターの特権ですからね。最後の最後まで悩みました。


クイーン・シバ登場、これで、総ての大魔獣召喚が出来ましたね。

OMNE「………」

マダム・ケ゚プリ「………」

このお二方に関しては、ルーメンの賢者とローサが必要ですからね。
仕方ないです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピローグ

最終話です。




   ロプトの体がアーチに飲み込まれるのを確認したダンブルドアは歓喜の声を上げている。

 

「これで…終わったのぉ…」

 

「えぇ、そうですね」

 

 

 ダンブルドアの言葉にマクゴナガルも従い、多くの教師が安堵の表情を浮かべている。

 

「ふぅ…終わったか…」

 

 僕は疲れた体を横たえ天を仰いだ。

 

 雑魚とは言え、少なくとも50体以上の天使を片付けたのだ。

 体も限界を迎え、所々悲鳴を上げている。

 

「ふぅ…本当に良かったです」

 

 マクゴナガルは周囲の生徒を見て安堵の声を上げた。

 それもそうだ。ホグワーツに居た人物は、怪我人こそ出たが、死者は誰一人として出ていないのだから。

 これも、全てセレッサとジャンヌ先生のおかげた。

 

「おい! あれ!」

 

 一人の生徒が声を上げ、アーチの方を指差している。

 

 アーチの方へと視線を向けると、そこには、青白い光となったロプトの姿があった。

 

「この私をここまでコケにするとは………良いでしょう! もはやこの世界に用など有りませんッ!」

 

 ロプトの体から、青白いエネルギーが放出されると、眩い光を放ちながらアーチが崩壊を始めた。

 

「滅びるのは私だけでは有りませんよッ!! あなた方全員! 道連れです!!」

 

 アーチからあふれ出る光は、校長室を完全に飲み込み、どんどんと巨大化している。

 まさに、光の逆流だ。

 

「アーハハハッ!! ハハハ―ハハッ!!!」

 

 光となったロプトは高笑いを上げながら、巨大化した光にのみ込まれて霧散した。

 

「こっちに来るぞ!」

 

「いかんッ!! 皆! 逃げるのじゃ!」

 

「逃げるって…どこへ!」

 

 あふれ出る光はさらに巨大になり、ホグワーツ全体を包み込こんだ。

 このままではクィディッチ会場を飲み込むのも時間の問題だ。

 

 そんな時、僕達の目の前に、セレッサとジャンヌ先生の2人が降り立った。

 

「まったく。忌々しい光だ」

 

「最後の最後まで…本当に余計な事をする男だわ」

 

 2人は魔力を開放すると杖を手に光に立ちはだかった。

 

「セレッサ!! ジャンヌ先生!!」

 

 僕が声を荒げて2人を呼ぶと、彼女達は一瞬だけ振り返り、やさしい笑みを浮かべた。

 

 そして…

 僕達の体は光に包まれ、意識が遠のいていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「んっ…んんぅ…」

 

 気を失った僕が目を覚ますと、多くの生徒がクィディッチ会場の芝生の上で横になっていた。

 

 皆眠っているのか、気持ちよさそうに寝息を立てている者まで居る。

 

「ここは…」

 

「どうなっているのでしょう…」

 

 

 ダンブルドアを始めとした教師陣は目を覚ましたのか、周囲を見回している。

 

 僕も彼等の後を追う様に周囲を見回し、驚愕した。

 

 

 僕等が居たクィディッチ会場をの周辺は、焼け野原となっており、草1本すら生えていなかったのだ。

 

「これは…どうなって…」

 

「先生! あれを!」

 

 ポッターが大声を上げ、ホグワーツの方を指差している。

 

 そこには、巨大な爆発に巻き込まれたかのような、無残にも崩壊し廃墟と化したホグワーツ城が存在していた。

 

「何という事じゃ…」

 

 ホグワーツの惨状を見てダンブルドアは膝から崩れ落ちた。

 

 僕はそんなダンブルドアを尻目に、周囲を見渡し、セレッサとジャンヌ先生の姿を探す。

 

「あれ…」

 

 どんなに探しても、彼女達の姿が見当たらない。

 

 生徒達に紛れているのか…

 

 いや…そんなはずはない…

 

 

 そうなると…まさか…

 

 僕の中である仮説が組みあがり、それに呼応して心臓が早鐘を打つ。

 

「ありえない…ありえない…」

 

 僕は自身を落ち着かせるように、言葉を口にする。

 

 そうだ、そんなことありえない。

 こんな事で彼女達が…

 

 

「ところで…ジャンヌ先生達の姿が見えんが…どこにいるのじゃ」

 

 僕の気持ちをかき乱すかのようにダンブルドアが口を開く。

 

「それが…どれだけ探しても…見当たりません」

 

 ウソだ! きっとしっかり探していないだけだ! 

 

 僕の心は必死に現実を否定する。

 

「まさか…先程の光にのまれ…」

 

「えぇ…その可能性が高いかと…」

 

「まさか…彼女達が…」

 

「ありえない!!!」

 

 思わず僕は叫び声を上げてしまう。

 

 そのせいか、その場の全員がこちらに顔を向ける。

 

「ドラコよ…落ち着くのじゃ…」

 

「落ち着け? これが落ち着いていられるか! 早く彼女達を探さなくては!!」

 

 僕は痛む体を引きずり、クィディッチ会場を出ようとする。

 しかし、僕の体は何者かによって引き留められる。

 

「落ち着くんだ! マルフォイ!」

 

 僕の腕を掴んでいたのはポッターだった。

 

「離せよ!」

 

 僕は力を籠めてポッターの腕を振り払う。

 

「ぐぅ!」

 

 腕を振り払った際にバランスを崩したのか、僕の体は地面に横たわってしまった。

 

「大丈夫か! とりあえず今は、休むんだ」

 

「休むだと…そんな事している暇はない!」

 

「落ち着け! 今闇雲に探しても、駄目だ! 後日態勢を整えてから――」

 

「そんな悠長な事! 言ってられるか!」

 

 僕は倒れた体を起こそうと必死に力を入れるが…体が言う事を聞かず、一向に起き上がる気配がない。

 

「くそ! どうして!」

 

「今は休むんだ…わかったな…」

 

「くそぉおぉおぉお!!」

 

 爆心地の中心で静まり返った中、僕の悲鳴だけが周囲を満たした。

 

 

 

 

 

  数日後、廃墟となったホグワーツの中で唯一無事だったスリザリンの寮で僕達は生活している。

 

 最初こそ、皆抵抗はあったが今では普通に生活している。

 

 

 ホグワーツの跡地では、校長室があった場所で、息絶えた元闇の帝王の遺体が発見された。

 

 その一報を受け、死喰い人は自首をする者や、後追う物、失踪する者など反応は様々だった。

 

 そんな中、志願者と教師陣で彼女達の捜索が行われたが、一向に進展はなく。

 

 遂には、彼女達は死亡という事で処理され、捜索が打ち切りになった…

 

 彼女達の葬儀は数日中に行われるようだ。

 

「くそぉ…」

 

 無力な僕は、たった一人で彼女達を探し続けるしかできなかった。

 

 

 

 

 

  数日後。

 

 ホグワーツの生徒と教師は、ホグワーツ跡地の一角で悲しみに暮れていた。

 

 一角には、穴が掘られており、その中には1()()の棺が入っており、その周囲を生徒達が囲んでいる。

 

 そして、棺の前では一人のシスターが聖書を読んでいる。

 

 

「皆の悲しみは痛いほどわかる…ワシ達は闇の帝王との戦いに勝利した…が…とても大きな犠牲を払った…」

 

 ダンブルドアは物悲し気にスピーチを続ける。

 

「ミス・セレッサ。そして、ミス・ジャンヌ。彼女達のおかげでワシ等はこうして今を生きているのじゃ…皆それに感謝しなければならぬ…」

 

「うぅ…」

 

 周囲に生徒達の泣き声が響き渡る。

 

「ワシ達に出来る事は…せめて彼女等が安らかに眠れることを願う事ばかりじゃ…」

 

 ダンブルドアはそう言うと、杖を振るい、棺の上に1輪の花を添えた。

 

「ありがとう…君達のおかげでこの世界は救われた…後はワシ達が…平和な世界を作って行こう…」

 

 ダンブルドアはそう言うと、棺から離れる。

 

 そして、1人また1人と棺の前に立ち花を添える。

 

 

 そして、次にドラコの順番がやって来た。

 

「ありがとう…セレッサ…君のおかげで僕は弱い自分を克服できた」

 

 ドラコは杖を振ると、ローズマリーで作られた巨大な花束が現れた。

 

「ローズマリーは魔除けの花だったね。君には必要ないかもしれないけど…気休めだと思ってくれ」

 

 巨大なローズマリーの花が棺に添えられる。

 

「それと…これも返しておこう」

 

 ドラコは鞄からスカボロウフェアと修羅刃を取り出すと、墓標の隣に立て掛けた。

 そして、その横に永遠なるマリオネットを添えた

 

「僕は…僕は君の事が好きだったんだ…初めて会った時から心を奪われた。だから…せめて君が安らかに眠れることを祈るよ」

 

 ドラコは自らの唇に右手の人差し指と中指を添えると投げキッスを送った。

 

「さようなら」

 

 ドラコは悲し気に棺を見つめると、踵を返した。

 

 その時、空が眩いばかりの神々しい光に包まれる。

 

「まさか!」

 

「天使達か!」

 

 その場に居た全員が驚きのあまり空を見上げている。

 

 

 

「まったく…空気の読めない連中だ。残党狩りも楽では無いな」

 

 隣で聖書を読んでいたシスターが呆れた様に呟く。

 

「貴方は!」

 

 シスターは聖書を投げ捨てると、その場で飛び上がり、天使達を殴り倒した。

 

「ジャンヌ先生!!」

 

「やはり、コスプレなどするものではないな!!」

 

 修道服を脱ぎ捨てたジャンヌは迫り来る天使達を両手の銃で撃ち墜とす。

 

「そろそろ出番だ、出てきたらどうだ?」

 

 ジャンヌが声上げるが、棺からは何の反応も無い。

 

 その間にも、天使達は次々と現れる。

 

 ジャンヌはステップを踏みながら、次々と始末していく。

 

「まさか本当に眠っているのではないだろうな!!」

 

 ジャンヌは声を荒げている。

 

 そんな中、数体の天使が棺に近寄る。

 

 その時、棺の蓋が勢い良く開かれ、中から何者かが飛び出した。

 

 

「グッド・モーニング」

 

「セレッサ!!」

 

「ベヨネッタ!!」

 

 

 ベヨネッタが棺から飛び出し、墓標に着地すると、両手に銃を構える。

 

「随分と遅かったな。それほど寝心地が良かったのか?」

 

「冗談言わないで、こんなんじゃ安らかになって眠れないわ」

 

「フッ、それもそうだろうな」

 

 突然のベヨネッタの登場に、周囲の面々が唖然としている。

 

「随分と派手な葬式ね。でも、私の葬式ならダンスミュージック位かけて欲しいわね」

 

 ベヨネッタはそう言うと、振り返ることなく、右手の銃で迫り来る背後の天使を迎撃する。

 

「うぅーん。ローズマリーね。その花言葉は記憶と、思い出。素敵ね」

 

 ベヨネッタはローズマリーの花をドラコに投げ渡すと、銃を構えた。

 

「レッツダンス! ボーイズ!」

 

 

 ベヨネッタの凛とした声が暖かな日差しの中、周囲に響き渡った。




以上で終わりです。

それでは、完走した感想ですが



一応この作品にはいくつか目標を設けており。

ホグワーツ側からの死者を0にする。

ホグワーツ城を破壊する。

ベヨネッタ3の発売までに完走する。

以上が目標でした。

皆様に少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。



一応、次回作は書き始めていますが、しばらくお時間を頂くと思います。

それでは皆様、長々とありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。