どうも、ハノイの騎士(バイト)です。 (ウボァー)
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アニメ一期 ハノイの騎士編
バイト生活の始まり
「クラッキングドラゴンでダイレクトアタック!」
「うわああぁーーっ!」
相手のライフがゼロになり、苦痛の表情を浮かべ吹っ飛ばされる。アバターにノイズが走り、それがどれほどの衝撃なのかを物語っていた。
「イグニスは何処だ!」
「そ、そんなもの知らない!!」
怯える男を見下ろす。どうやら外れだったようだ。……こいつがイグニスを知らないことは最初からわかっていた。私は売られたデュエルを買っただけだ。
「フン」
男はがたがたと震え、デュエル開始前の戦意を喪失していた。追い討ちをかけるほど外道ではない。フードと仮面をつけた長身のアバターは、デュエルディスクを操作し、次のポイントへの地図を表示する。
そしてそっと、誰にも聞かれないように呟く。
「あと一時間か、がんばろ」
国際的なハッカー集団、ハノイの騎士。私はそこで現在バイト中なのです。
何でこうなったのか、それはある事故から始まった。
「自動車の自動運転システムをハッキングし、高校生に重傷を負わせる事故を起こしたとして少年(17)が逮捕されました。少年は――」
テレビを切る。自分が巻き込まれた事件が延々とループするのは気が滅入ってくる。テーブルの上に置いたカード達を纏め、シャッフルして五枚引く。……事故った。
ここから動けないし、お見舞いに来る人いないしでずっと暇。リンクブレインズにログインして時間を潰すのはほどほどにするように、とのこと。
それよりも今、最も重要な事は。
「お金どうしよ……」
高校生にとって大事なことはお金。友達と遊ぶのにも、ご飯食べるにも必要。高校生はバイトしか稼ぐ手段はない。学校帰ってすぐバイト、休日にもバイト、テスト前ギリギリでもバイト。頑張って稼いでも何か買えばすぐ無くなっていく。
事故で入院した私は、入院費、病院の食事代もろもろ支払わないといけない。もちろん万はいきます。貯金が一気に吹っ飛ぶのはとても痛い。
「あ〜、怪我人でもできるバイト無いかな〜」
ぽちぽちと検索をかけるがそんなもの存在しない。ですよねー。そもそも足が折れてるからここから動けないし。病院で内職って……駄目だよね。
「リンクブレインズ行くかー……」
デュエルディスクの設定画面を開き、タイマーを一時間にセットする。ログインしてから設定時間経つと音で知らせてくれる、本来は小さな子供に対しての設定なのだ。時間を決めておかないといつまでもリンクブレインズの中にいる子は後を絶たない。デュエルを見ているだけでも時間があっという間に過ぎるから仕方ないけどね。
体が青い光球に包まれ、意識が浮くような感覚。ぱちり、と瞬き一つで世界が切り替わった。病室から、データで構成されたビル群へ。
「あ、うわっとっとっと」
現実では事故のせいで歩くのにも一苦労するが、アバターは健康体の私を元に作られている。リアルとの差が大きいせいか、上手くバランスをとれずその場で尻餅をついてしまった。
「いてて……っと、何処でデュエルやってるかなー」
壁にもたれかかるようにして立ち上がり、壁伝いに辺りを散策しようとした、その時。
「…………は?」
また世界が変わる。今まで見たことがない場所だった。黒と光の線で構成された空間。電子機器の回路の中に迷い込んだような、無機質な所。目の前には、メットを被り、白いコートを着た男のアバターがいた。……私は彼を知っている。忘れるはずはない。彼はーー。
「貴様が今上詩織か」
「は、はい」
「我らハノイの騎士にその力を貸してもらおう」
アイエエエ!? リボルバー様!? ナンデ!? いや本当に何で。私ハッカーじゃないよ? 唯のデュエリストだよ?
「先の事故、それは虚構と現実を繋ぐという愚かなことをしたが故に起きたもの。そして貴様は言ったな」
彼からすれば、私はネット世界の犠牲者に見えるのか。……あれ、私何か言ったっけ?
「「人間が作ったものが完全であるはずがない、必ずどこかに穴がある」と」
あ、ああああーー!! インタビュー! 事故から意識が回復した時されてたわ私!! 自分でも何言ってたか覚えてなかったけど。多分漫画とアニメの影響もろに出てたんだ。じゃないと私そんなこと言わないもん!
「我らは
なんだろう、ふんわり溢れ出るいい人感。……まて私、テロ組織に関わるってろくなことにならないぞ。
「犯罪に手を貸す気はない」
「だろうな。だが、これでどうだ?」
カードの形をしたテキストデータが私に向かって投げられる。受け取って中を確認する。
「…………っ」
「どうだ? 悪い条件ではないと思うが」
バイトの申し込み書類でした。しかも中々の好待遇。前やってた家庭教師のバイトよりも稼ぎがいいってどういうことなんだこれ。きっちり保険までついてる。それに、週一でもOK……だと……?
こいつ、私が今何欲しいかわかってやがる!
「貴様はデュエルをするだけでいい。悪くないとは思うがな」
「くっ……」
揺れるママママインド。リボルバー。ハノイの騎士。金。テロ組織。金。バイト。金。金。金……。
「私がハノイの騎士をしていることが世間にばれないなら」
「交渉成立、か」
「我ながらちょろいよなー……」
金に負けるデュエリスト。仕方ないよね、入院費稼ぐためだから。
向こうが用意してくれたこの量産型ハノイの騎士のアバター、実際の私の身長と差があるのに手足を動かしても違和感がない。どんなプログラムなのかさっぱりです。しっかりボイスチェンジャーも搭載済み。私の声が知らない男の人の声に変換される不思議アバター……向こうにそこそこ迷惑かかってるよねこれ。
そして問題が。
「遊戯王VRAINS、まだ一期の途中だもんなー」
アニメはまだ終わっていない。二期になったら第三勢力が出てきてプレイメーカーとリボルバーの共闘、みたいになるのかなー。なったらいいなー。
「……考えていても仕方ない、か」
だって私はバイトだから。物語ではモブハノイとして倒されるだけ、そう、それだけ。
「よーし、頑張って稼ぐぞー」
彼女は知らない。クラスでは席替えが行われ、藤木遊作の隣の席になっていることを。
彼女は知らない。幹部達から「すごく久しぶりにまともな子来てくれた」と思われていることを。
彼女は知らない。後にヒャッハノイ達を纏めるバイトリーダーになることを。
彼女は知らない。リボルバーから渡されたクラッキング・ドラゴンに精霊がついていることを。
これは、遊戯王VRAINSに転生していた女の子が、ハノイの騎士(バイト)として苦労する話である。
リボルバーはバイラ経由で主人公のことを知りました。
以下、簡単な主人公設定
女子高生デュエリスト。アニメはずっと見てる。けど細かいところは忘れてる。
好きなカードはクラッキング・ドラゴン。理由はかっこいいから。使用デッキは「ハノイの騎士」
乗っていたバスが事故って転生。ここが遊戯王の世界だと中学の時に記憶が戻ってわかった。
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バイトハノイとメール
生で見るクラッキング・ドラゴンかっこよすぎで内心テンション上がったバイトハノイです。召喚した時のエフェクト、何あれかっこよすぎじゃない? 空間ぶち破って出てくるんだよ?
歴代ライバルが打点3000のモンスターを使う意味がわかった気がする。かっこよくて強い。最高だな!! はっ、まさか下っ端達をいい気にさせて手駒にする、これがハノイの騎士の作戦!?
まだまだ入院生活は続く。早くリハビリができるぐらい回復したい。そういやデュエリストなのに私はなぜ入院しているんだろうか。シャークさんは計4回入院したけど。山籠りで熊を一頭伏せてターンエンドするべき? やはりデュエルマッスルは必要……?
そんなネタを考えてもやっぱり暇なのでハノイの騎士で検索をかけてみる。……いや悪の組織の下っ端がエゴサってどうなの。
ふと、掲示板のあるコメントに目を奪われた。
KNPKな手札wwwww
せ、先輩ーっ!! もうネタになってしまっていたのか! てかネタを取り入れるの早くないか!?
「南無」
これからずっとネタになってしまう先輩に、とりあえず合掌。コラ画像も作られていた。私も一歩間違えたらネナベとか、ハノイの女騎士とか薄い本のタイトルみたいに言われてしまうのか。それは絶対に嫌だ。絶対に嫌だ。大事なことなので二回言いました。ありがとう先輩、あなたの犠牲で私はどうするべきか再確認できました。
「……ん?」
ちこちことメニューアイコンが主張する。どうやらメールが届いたようだ。知らないアドレス。件名は『島より 大丈夫か?』。
「島……あ、あの島君か」
入学初日に私に話しかけてきた男の子。男の子が女の子に話しかけるのって勇気すごいよね。あの勢いに負けて友達になったけど、そういやメルアド交換してなかった……のか。え、嘘。学校で毎日話してたのに!?
「あちゃー」
それはまた今度会った時にごめんって言おうか。で、本文は……っと。
『お見舞い行けなくてごめんな。俺、今上がこのままいなくなるんじゃないかって怖くなって。そのことをデュエル部のやつらに話したら叱られた。一番怖いのは事故にあった今上の方だって。メルアドは先生に教えてもらった。今度クラスのみんなでお見舞い行くつもりだから、またな!』
……うん、元気でた。
返信メールには一言、ありがとうとだけ打っておいた。これだけでも気持ちは十分伝わるだろうから。
「なあ遊作、一緒にお見舞い行こうぜ!」
「……急にどうした」
クラスにいるのは俺と遊作の二人だけ。他の人はもう了承はとった。後はこいつだけ、なんだけど……。
「……ダメか?」
「いつ、誰の、かを言ってくれないと分からないんだが」
「お前、先生の話聞いてたのか? 今上に決まってるだろ」
「今上? 誰だ?」
「お前の隣の席になった奴だよ! ったく、薄情な奴だなー」
メールの着信音。すぐに開いて、遊作に見せつける。
「ほらー今上からだ。『ありがとう』だってよ! クラスのみんなで、って俺メールに書いたんだよなー。もしお前が来なかったらどう思うだろなー」
「…………はぁ。誰も行かない、とは言っていないんだが」
「なっ……お前なー!! 」
病院食マズー。全部食べきったけど。シャークさんが入院してたやつは美味しそうだったのになー。なんでナス使った料理が二つもあるんだろうか。一つで良くない?
「ごちそうさまでしたっと」
ああ、ジャンクフードが恋しい。頼んだら誰か買ってきてくれないかな? いや、入り口で医者に止められるか、残念。外出できるようになったらハンバーガーでも食べたいな。
「ん、またメール?」
メール画面を開く。件名は……。無し? また知らないメルアドだし。
『ハノイの騎士 今上詩織へ
開発途中のクラッキング・ドラゴン強化用のスキルを添付した。デバッグのため協力してもらいたい』
は? …………は?
スキルの内容は、クラッキング・ドラゴンの『(2):このカードがモンスターゾーンに存在し、相手がモンスター1体のみを召喚・特殊召喚した時に発動できる。そのモンスターの攻撃力はターン終了時までそのレベル×200ダウンし、ダウンした数値分だけ相手にダメージを与える。』の効果が発動した時に使用可能。効果を受けたモンスターに対し、『ターン終了時まで』ではなく『永続効果』にできるとのこと。スキルの名前はまだついていない。
それOCGの人達に分けてあげてくださいリボルバー様! クラッキング・ドラゴンの残念ポイントとして大体そこが上がってくるんです!
待った。そもそもハノイの騎士共通のスキルは『ダブルドロー』。二枚カードが引ける壊れスキル。それを捨ててまでこのスキルを選ぶかといったら……うーむ。悩む。
十中八九捨て垢だと思うけどありがとうメールしとこ。……よし送信。
いやはやハノイの騎士、バイトにデバッグ協力頼むほどやばいのか……私まだバイト始めて一週間ちょいなんですけど。いや、クラッキング・ドラゴンは幹部の人達使わないからか。元々はリボルバー様のカードだったし、リボルバー様のエースは違うカードだし。
そうなると部下に使い心地聞く方がいいか。納得。メールをゴミ箱に入れて完全に消去しておく。多分こんな事しなくても勝手に消える、スパイ映画でよくあるメールかもだけど、まあ念のため? 勝手にいじられて見られたら大変だしね。
ふへへー、みんないつ病院来るかなー、なんて顔を綻ばせながら島君からのメールを見返して気づく。
「……あれ、画像が添付されてた」
四角がいっぱい並んでるし、唯の座席表。そう思って何の気なしに開いたことを後悔する。
「ゴヘァッ!?」
なんで私の席
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頑張れバイト! めげるなバイト!
藤木遊作。遊戯王VRAINSの主人公にして、リンクブレインズで活躍するデュエリスト、プレイメーカーの正体。凄腕ハッカーというメ蟹ックと同じ特技を持つ。髪型を海産物で例えるとロブスター、またはウミウシ。髪型トマトな遊矢がますます浮いてくる。確か遊矢のキャラデザは三好先生が考えたんだっけ? 歴代主人公とは違い、復讐のためのデュエルを行う。
そして私にとって一番重要なのは、ハノイの騎士とは敵対関係にあること。私はバイトとはいえハノイの騎士。もしばれたら……ろくなことにならないだろう。とても気まずい、なんて言葉じゃ言い表せない学校生活になってしまう。いや学校生活どころじゃない。ゴヨウされてしまう。
「なんで席替えしたんだよー……」
誰が席替えしようって言い出したんだ。何度見返しても席順が変わるはずもなく。頼むから書き換えてくれ、ドン・サウザンドー! さあ、我が脳内ドン千の返事は?
『え、我関係ある?』
ちくしょう!
お見舞い来るのを楽しみに待っていたのに、死刑宣告を待つ死刑囚の気持ちになってしまった。気分転換の手段、病院には全然ないんだぞ!? テレビのニュースは暗いものしか取り上げないし。その時間をもふもふ動画に変えたらもっと視聴率上がると思う。……本でも読むかな。
「ん?」
メールが来たのでしおりを挟む。島君から、何か欲しいものがないか、とのこと。お見舞いついでに買ってきてくれるらしい。
「んー、何かあったっけ……あ」
入院中に発売された本。シリーズ物でずっと読んでいたやつの最新巻。たしかタイトルは『戦国決闘物語』だった。この本、合戦がデュエルに置き換わった架空の日本史を書いたもので、歴史好きもしっかり楽しめる内容になってるんだよね。私はゲームから戦国時代に興味を持ったタイプです。政宗がパーリィ言うやつね。返事を打ち込んで読書に戻る。
「本?」
「あいつ、初めて会った時は一人で本読んでたんだよ」
「そうなのか?」
「一人で寂しいんじゃないかと思って話しかけたんだけどさ、こっち見てすぐ本に目を向けてさー」
島から今上と友達になるまでを聞いていた遊作。それは話しかけないでほしいというアピールではないのだろうか。そう思ったが、その言葉を遊作が言うことはなかった。
本を読み終わってひと段落。さあ、今日のバイトを始めましょうか。今回のお仕事は〜?
「偽プレイメーカー、これで十七人目か……」
偽物多すぎ。誰かのサイトでアバター配布してるんじゃなかろうか。とすると、非公式なハノイの騎士のアバターもあるんだろうなー。ハノイの騎士で働いてないのにハノイ名乗る奴もいるんだろうなー。
……増殖するハノイ達よ、コナミのハノイを見習え! 礼儀正しいハノイだぞ! ちゃんとチェーンあるか確認してくれるんだぞ!
そんで、色々偽物倒して回った感想。クオリティ高いアバターと低いアバターの差がひっどい。アニメで見た偽物達より雑なのいたし。今日一番酷かったのは、やっぱあれだな。うん。
偽物同士で「俺こそが本物のプレイメーカーだ!」って争っている姿見て草生えた。
そして使っているデッキが『マドルチェ』対『ゴーストリック』だったんで吹いた。
ファンタジーな召喚口上きっちりどっちも言ってたから腹筋が死んだ。
お前らせめてデッキはまだ納得がいく『サイバー流』とかにしろよ!!
……はっ、なぜ私は乱入して倒した偽物達に説教かましているのだろう。そしてなんでこいつら「ハノイの騎士もいいかも」とかなってるんだ。やめて! 絶対君らヒャッハノイになるだろ!! 古参のハノイの気持ちを考えろ!!
……動画とか、撮られたりしてないよね……? 私にはその事を確認する勇気はない。寝て忘れるに限る。おやすみー。
「草薙さん、見てほしい動画って?」
「……ああ、これなんだがな」
「何なに〜? またハノイが何かやったの?」
「…………これは」
「ぶっふぉ! 何だコレ!」
どちらが本物かを決めるための、偽プレイメーカー同士のデュエル。デッキも俺が使うはずがない『マドルチェ』と『ゴーストリック』。そこにハノイの騎士が乱入してくる。くるのだが……。
「説教して頭抱えて帰っていったなー。あんなハノイもいるもんなんだな、プレイメーカー様?」
「……なぁ。これ、どう思う?」
「…………」
……俺に聞かないでくれ。
「……はっ」
すっごい変な夢見た。マリク、斎王、アポリア、カイトの顔芸がヒマワリの花の部分に置き換わったものが一面に咲く中、あははうふふと笑いながらスキップで駆け抜けるズァーク。『ペンデュラムに救済をー!!』と叫んだ後爆発した。
疲れてるのかな、私……。
なお、古参ハノイ達も動画を見た模様。
「頑張れ新人……! 他の奴らと比べてかなりまともな君が俺たちの希望なんだ!」
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バイトとお見舞い
スズメの鳴き声で眼を覚ます。つまり朝チュン。変な意味はございません。やましいこと考えた人はクラッキング・ドラゴンでボコる。窓の向こうにスズメ二羽がとまっている。スズメかわいいよね。
ああ、運命の時が来てしまった……。あのあと二度寝したけど、『悪夢再び』にならなくてよかった。あれ以上ひどい夢ってそうそうないだろうけど。
「今上!! これお見舞いな!」
果物かごと頼んでいた本、寄せ書きなどなどを渡される。特に寄せ書きを見ていてふわっとした気持ちになる。こういう物は手書きってだけで味が出る。字が汚くっても気持ちがこもっていれば問題無いよね!
「ありがとみんな!」
遊作は人の壁の後ろから私を見ている。絡むことはないと思う。思いたい。退院してから嫌になるぐらい絡む機会は出るし。だから早く病室を出るんだ。
「遊作何そんな後ろにいるんだよー、隣の席になったんだから挨拶ぐらいしとけって」
島ーっ! 今はその優しさを憎むぞ!
「……藤木遊作だ、よろしく」
「うん、よろしく」
話が続かない。ハノイ関係でボロを出さないよう気をつけすぎてつらい。下手に話したら墓穴を掘ってしまいそうだ。何か話題、話題……。
買ってきてもらった本から、はらりとしおりが落ちる。ベッドの下へ落ちたので私は取れない。となると、拾うのは今一番私に近い遊作君で。遊作君は拾ったしおりの表と裏をひっくり返して見て言った。
「へえ、押し花か」
ナイス話題! 押し花のしおりは定番ですよね。金属のしおりもあったりするけど、やっぱりしおりは植物が一番いい。そして押し花のしおりということは、私行きつけの学校近くの本屋で買ったのか。本を買うと手作りのしおりをくれる、というサービスをしているから個人的に好きなお店。季節によって押し花が変わるのも良い。さて今回は何の押し花かな?
「…………あ、ダブった」
本を買ったらついてくるしおりによくあること。家にあるものを含めて、これでクローバーのしおりは三枚になってしまった。さてどうしようか。……そうだ。
「それあげるよ。これも何かの縁だと思って、ぜひ使ってあげてください」
「本か……」
顎に手を当てむぅっとした顔になる遊作。本を読みなさーい。現代っ子の国語力が下がっているのは本を読まないからではとか言われているんだ。本を読みなさーい。
……私の念は通じなかったようです。
「紙だと読むのに腕が疲れるだろ、別に電子書籍でもよくないか?」
「本は紙じゃないと落ち着かないの」
手に馴染む重さとか、大きさとか。前世からずっと本は紙じゃないと落ち着かなかった。ここは絶対に譲りません。
「昔の本は電子書籍になってないのも多いからね。君もデュエリストなら、この辺でも読みなさい」
テーブルの脇に積んで置いていた本の山から二、三冊取り出す。この本たちは事故にあった時、手提げカバンに入れていた本たちです。多すぎじゃないか、って失敬な。かなりの量を学校に置きっぱなしだったから持って帰ろうとしたんです。
「……『それはどうかなと言えるデュエル哲学』、『環境デッキの移り変わり』、『もけもけでもわかる効果処理』?」
遊戯王GXのネタの一つ、『それはどうかなと言えるデュエル哲学』。著者はエドじゃなかったけど、遊戯王ファンとして買わざるをえないよね。なかなかの内容でした。でも欲を言うならエドが書いた方が読みたかった。でもGXの世界に転生したら三期で心が折れそう。
「これはもう何回も読んでるから内容ほとんど覚えちゃったんだ。勉強になるし、家に持って帰って読んでみてください」
ぐいーっと押しつけるようにして渡す。遊作君は戸惑いながらも受け取ってくれた。
「ちょっと読んで、無理だって思ったら返してくれていいよ」
そう言われて数ページをめくる遊作。おお、目つきがデュエリスト特有のものに変わった。
「……わかった、読んでみる」
どうやら気に入ってくれたようです。
他のクラスメイトとも話しているうちに、時間はあっという間に過ぎた。日が沈みかけている。一人、また一人と病室から人がいなくなる。寂しい病室に戻ってしまった。
遊作君のアニメのクールな感じとは違う面が見られて満足。年相応な反応だった。
はっ! これからの遊作君との会話は基本、本をお勧めするようにすればハノイ関係回避できるのでは。ほどほど仲良し。勝利の方程式は整ったなアストラル!
「しかし、クローバー、ね」
偶然だったのだろうけど、彼にはぴったりだ。四葉のクローバーは幸せを意味するのは知られている。けど、クローバーそのものの花言葉を知っている人は少ない。
クローバーの花言葉は四つある。私を思って。幸運。約束。最後の一つは。
「復讐……か」
誰もいなくなった病室に、私の言葉だけが響いていた。
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バイトハノイ、一波乱
やあどうも、バイトハノイです。私は今、ハノイの騎士のアジトに居ます。あのクラッキング・ドラゴン用サポートスキルのプログラムについて、プログラミング班が感想を聞きたいんだそうで。
……メールじゃダメなん? 唯のバイトをアジトに入れるって危険すぎる気がする。
「初めまして新人さん」
「どうも、バイトさせて頂いてます」
礼をして挨拶。こちらへどうぞ、と先導する先輩ハノイ。……あれ、私バイトだからもっと雑な扱いされると思ってたんだけど。通りすがりに挨拶してくれる人もいた。私も先輩も全員ハノイの騎士の格好でいるから、何だろう、この感覚。ヒャッハノイのイメージが強いけど、これが本当のハノイの騎士なのかもしれない。
「ここがプログラミング班の職場です」
そこは無数の画面が並ぶ部屋だった。一人一つの画面に向き合ってキーボードを操作するハノイの騎士達。画面には何か文字が浮かんでいるが、どんな意味があるのかちんぷんかんぷんです。アジトの中にプログラミング用の設備があるのは、現実でバレるリスクを減らすためなんだろう。ぶつぶつと怨嗟の声が聞こえてくる。
「また関係無い所で暴れてやがる」
「くっそ、ハノイの誇りを汚しやがって……」
「あいつらに自爆プログラムでも仕込めるか上に相談してみます」
「おう行ってこーい」
「ネフィリムかえして」
「ちっ、今作ってる電脳ウイルス出力上げてやる」
……何も聞いていない、いいね? あとハノイにもネフィリム返しておじさんいたんだ。
「……今日来るって伝えたのに……お前ら、例の新人だぞ!」
案内してくれた先輩ハノイがそう言うと同時に、皆がこっちを向く。
「あの子が例の……」
「初々しい」
「ああ、俺にもあんな頃あったなあ」
「ネフィリムかえして」
「はいはい、癒されるのは後な……ネフィリムはもう帰ってきただろいい加減にしろ!」
あれってネフィリムとして扱っていいのでしょうか。じゃなくて、デュエルしての感想を伝えるために来てたんだ。
「えー、とりあえずバグはありませんでした。ただ、スキルはデュエル中一回しか使えないのをふまえると、クラッキング・ドラゴンの(2)の効果をエラッタした方がいいと思います。もしくはもっとスキルを強化するか、ですかね」
相手が融合、シンクロ使いなら刺さるんだけどねあのスキル。でもスキル使うと、そのモンスターをリンク素材にして巻き返してくるのが多々あった。ダブルドローの方が便利です。
ここにいるのは全員デュエリスト。ちょっと考えたらわかりそうなのに、なんでエラッタじゃなくてスキルにしてしまったんだろうか。そんな事が思いつかないほどヒャッハノイのせいで精神が疲弊してしまったのか。
「……あ、そう……だよな」
「なんでそこに気づかなかったんだろ」
はい確定ー! やばいぞハノイの騎士! このままだと倒れる人が出てきてしまう。
急にガタン、と椅子が倒れる音。一人のハノイの騎士が冷や汗を垂らして立ち上がっていた。
「……ちょ、これ、リボルバー様に伝えてこい!」
「何があった!?」
その人の画面にはあるサイトが映し出されていた。黒い背景の、どう見ても裏サイトですといった見た目。ハノイ公認とか書かれている。どうやら何かを販売しているらしいが、その何かが問題だった。
コピーカード。いろいろ危ない白い粉。ちっちゃい子の、まあ、あまり教育によろしくない写真。
あかん(確信)。もし、ハノイの騎士がそういった、その……まあ、報道されたら、ね。うん。皆さんの胃がもげる。
「なん……だと……!?」
「サイト閉鎖準備! 戦争だオラーッ!」
「ハッキング完了、サイト作成者特定しました!」
「今そいつの近くにいる人に連絡入れろ!」
「もう入れてます! デュエル開始……っ。駄目です! 敗北しました!」
「他にいないのか!?」
どうやら犯人は一人だけ、そしてかなりのデュエリストだったようだ。このままだとハノイの騎士の名声は一瞬にして地に堕ちる。
何も出来ずに見ているだけ、それほど辛いことはない。私にだって、何か出来ることがあるはず。きっと、何か……!
私のデッキから咆哮が響いた。
『ギキシャァァッ!!』
「っ、クラッキング・ドラゴン!?」
デュエル中でないにもかかわらず、機械の竜がそこにいた。半透明の姿で床や壁には影響は出ていない。その緑眼はじっと私を見つめている。
「……乗って行け、ってこと?」
頷くクラッキング・ドラゴン。
「っ、危険だ! わざわざ君が行かなくても、他のやつが対応する!」
「その他の人が今いないんでしょう!? デュエルボードに乗るよりこっちの方が速い、時間稼ぎぐらいできます!」
「……っ」
無茶だけはするな、そう言って私のディスクに座標が送られた。
「お願い、クラッキング・ドラゴン!!」
アジトの外へと転移してクラッキング・ドラゴンの背に乗る。風を体全体で感じる。下には無数のビルと、こちらを見上げ怯えるデュエリスト達。ハノイの騎士の襲撃が忘れられないのだろう。私に挑もうとしたデュエリストもいたが、クラッキング・ドラゴンが口を開け、エネルギーを溜めるのを見て逃げていった。
目的の座標に到着すると同時に、私はそいつに向かって言った。
「おい、デュエルしろよ」
「……は、またザコハノイのおでましか。いいぜ、誰も俺には敵わないってことを教えてやるよ!」
「「デュエル!」」
「貴方たち、一体どういうこと!?」
「バイラ様!」
ハノイの名を使って犯罪を働こうとしている男に、あの女の子が一人立ち向かっていった。あの子は今入院している。もし敗北し、デュエルのフィードバックがきてしまったら? ただでは済まないだろう。医者として黙って見ていられなかった。
「そ、それが……」
彼女がデュエルしている映像が画面に映っている。そこに広がっている光景を見て、目を疑った。
「罠カード発動、聖なるバリア-ミラーフォース-。お前のモンスターを全て破壊する」
「あ、あ……」
男は怯えていた。こんなはずではなかった、こんな、誰とも知らないハノイの騎士にやられるなんて思いもしなかった。
「ターンエンド。……さあ、お前のターンだ」
「っ、俺のターン、ドロー!」
ドローカードを確認して男は笑った。逆転のキーカードを引いたのだろう。だが、それを使うことは出来なかった。
「カウンター罠、強烈なはたき落とし。そのカードを捨てろ」
男の手札はゼロ。フィールドにカードは存在しない。対してあの子のフィールドにはクラッキング・ドラゴンがいた。
「お、俺が悪かった! 金をやるよ、だから許してくれ!」
その言葉を聞いて動きを止め、俯く。その動きを男は許してくれたと思っているようだった。
彼女が顔を上げる。その顔は怒りに満ちていた。
「……デュエリストの風上にも置けない下衆が! クラッキング・ドラゴンでダイレクトアタック!」
「うわああぁぁーーっっ!!」
ほう、と驚く。まさかこれほどのデュエリストがハノイの騎士にいたとは知らなかった。
「是非、彼女のDNAも研究させて欲しいものです」
ゲノムは静かに笑っていた。
バイト逃げて超逃げて!
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バイトハノイは静かに暮らしたい
・実は敵の一人
・いい奴
オリ主、顔芸と友情ごっこできたらベクターになれそう。
倒れた男を見下ろす。かなり久しぶりにガチギレしてしまった。とりあえず通報しなきゃ、とディスクを操作していると。
「うぉーーっ!!」
「ハノイの騎士もこんなデュエルできるんですね先輩!」
あそこのハトとカエルの声に聞き覚えが……あ、関さんだ。妖怪執事の声そっくり。よかったら雑種とか秀吉様とか言ってくれないかなー。
……まて、cv関の二人組?
「あ」
『ギャウ?』
こてん、と首を傾げるクラッキング・ドラゴン。可愛い、なんて思っている場合ではない! やらかしたーーっ!! あとは警察に任せて逃げる! サヨナラ!
アジトに戻ってくると先輩方に取り囲まれる。そのままお説教コースに入りました。リアルで入院している自覚あるのか、とかあのデュエルはさすがにやり過ぎだ、とか。最後はガチカードでゴリ押すだけのデュエルだったしね。感情に任せてデュエルをしてはいけない。闇落ちフラグが建つからね。
今日はもうあがっていいから、次からはこっちが許可するまでデュエルしてはいけない、ときつくお叱りを受けてログアウトした。
「私ってほんとバカ……」
絶対デュエルの動画撮られてた。今なら恥ずか死ねる。ハノイの騎士で動画を検索すると、トップにその動画はあった。
『独占!ハノイの騎士、隠された一面!』
嫌な気しかしないけど……動画再生。ラストはやっぱりあの言葉で締められていた。
『……デュエリストの風上にも置けない下衆が! クラッキング・ドラゴンでダイレクトアタック!』
うわー、うわー! 自分で見返すと恥ずかしー! 下衆とかぱっと出てくる言葉じゃないよ恥ずかしー!
コメント欄には「ハノイかっこよすぎワロタ」「ミラフォが仕事した!?」「KNPKにフルボッコですね」など肯定的なもので占められていた。
おかしい。ハノイの騎士ってサイバーテロ組織だよね? これを見てハノイ入ろうかなって人が増える気がしてならない。申し訳ありません先輩方。まだこのハノイの騎士と私がイコールになっていないのが救いです。
「いやー先輩! あんな大スクープ撮れるなんて思ってもなかったです!」
「だろー? ジャーナリストたるもの、たとえ火の中デュエルの中でも取材魂を忘れちゃいけないんだよ」
スクープの匂いがするから追いかけろ、そう言いだした時は生きた心地がしなかった。
「まさかあの男が裏の世界じゃ名の知れた売人だったなんて! しかもそれを倒したのがハノイの騎士! くぅ〜っ、何度見ても俺たちが掴んだスクープだって信じられませんよ!」
「明日の一面間違いなし! 今回の件で上もボーナス出すらしいし、まったくハノイ様様だな」
うんうん、と頷くハトとカエル。カエルの頭の上にいるオタマジャクシも嬉しそうに飛び跳ねていた。
「うわあ」
案の定、次の日のリンクブレインズは偽物のハノイの騎士で埋まっていた。偽プレイメーカーの二の舞いじゃねーか!
現在私はハノイの騎士ではなく、リアル寄りの見た目のアバターでログインしています。身長150センチぴったり、黒髪ショートな女の子。遊戯王世界ではれっきとしたモブです。変ないざこざに巻き込まれたくないのでさっさとログアウト。
偽ハノイのせいで回線が重い。「一人壊獣大決戦したらあいつらいなくなるかな」とか真面目に考えるほどでした。ゴジ……ドゴラン、ドゴラン、ドゴランがやって来る! ふははははー! ただでさえ重い回線をばかでかい壊獣でさらに重くしてやるわー!
VR兄様の頑張りで数日後には落ち着きました。私も正気に戻りました。思いついただけでやらなくてよかった。
またアジトに呼び出されました、バイトです。
「ブルーエンジェルに電脳ウイルスを?」
だからそういうのって唯のバイトに言っていいことじゃないと思うんです。アニメで知ってますけど。
「そうだ。プレイメーカーとブルーエンジェルのデュエル、リンクブレインズに大きな影響が出るだろう。その間にやって貰いたいことがある」
デュエルディスクにデータが転送される。顔写真とプロフィールがずらりと並んでいた。
「こいつらをデュエルで始末してほしい」
だいぶ物騒な単語ですね。
「はあ」
「こいつらはハノイの騎士に所属しながら、全くといっていいほど命令を聞かない奴らだ」
ヒャッハノイですね、わかります。
「これまでの勤務態度やあのデュエルを見て、お前こそこの役割に最適だと上層部が判断した」
あのデュエルは判断基準にしていいんでしょうか。私の中だと一二を争う黒歴史デュエルなんですが。ヒャッハノイを恐怖で従えるつもりなんですかね。
「まあ、その……あの動画、だいぶ気にしてるだろ? だから目立たないこの仕事の方がいいんじゃないか、ってのもあるんだが……」
「丁重にお受けさせて頂きます」
めっちゃ気を使われてた。ハノイの騎士いい人多くない?
「すまない、任せたぞ!」
次回、『ハノイの天使』裏番組、『ハノイの死神』。イントゥザヴレインズ!
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ハノイの死神
私だってブルーエンジェルとプレイメーカーのデュエル生で見たかったよ。どうも、バイトハノイです。
今リンクブレインズ注目のデュエリスト同士のデュエル。皆の目がそっちに向くので、ハノイの騎士が裏で動くには最適の時間です。
だんだんヒャッハノイの反応が、私が来ると「何者だ!?」って感じだったのが「お前が死神か!?」になったの何で? 名乗って無いんですけど私。勝手に呼び名付けられたのかもしかして。カイトが名乗ってたナンバーズハンターは自称だったよね。うん、なかなか厨二だ。……自称でも他称でもやっぱつれぇわ。なんだ死神って。他に言い方無かったのか。
あ、ヒャッハノイのデッキ、色んなのがあってデュエルして楽しかったです。インヴェルズとか帝とか。握手暗黒界もいました。握手される前に倒してしまいましたが。私と握手したかったのか……? アバターとはいえ、男と何度も握手したいって人いる?
ずっと同じデッキだとメタられそうで心配。特にシステム・ダウン使われたら泣く。なので私のデッキも少しずつカードを加えて強化しています。デスペラード・リボルバー・ドラゴンとか
「死神ー! 俺だー! 撃ち抜いてくれー!」
「は?」
やだ何あの人怖い。デスペラード・リボルバー・ドラゴン召喚したら動きがぎくしゃくしたので何かあるのかなと思ったけど。
デスペラードの効果で相手モンスターを破壊、
「え、えと……デスペラード・リボルバー・ドラゴンでダイレクトアタック……」
ええ……て空気を出しながらも攻撃してくれるデスペラードはいい子。攻撃が相手の胸を撃ち抜く。
「ありがとうございまぁーーす!」
感謝の言葉を言いながら吹っ飛ぶヒャッハノイ。地面に倒れながらも、親指を立ててログアウトしていった。
偽プレイメーカーとか、ハノイ騙った犯罪者とか、今回の死神とか。
「私の周りこんなんばっかりか!!」
渾身の床ドン。手が痛くなっただけだった。
「……ダーク・ダイブ・ボンバーの効果」
DDBを自身の効果で射出。エラッタされても使える良き力です。爆撃の中、声が響く。
「ご褒美ですー!」
もうやだこのヒャッハノイ達。謎のヒャッハノイネットワークが構築されて変態が暴走召喚され続けてる。掲示板とかだと文章だけで済むからいいけど、実際に見るとうわぁ……ってなるよこれ。使っているカードで死神だと特定されているみたいです。こうなったら。
「デッキまるっと変えた方がいいかな……」
後攻ワンキルでいいかなもう。変態の相手するの疲れるんだよ。黄泉天輪ホルアクティ使いたいですファラオ。ディスクからピコーンピコーンと音がした。
「あれ、こんな時間に連絡?」
またまたアジトに呼ばれてしまった。今度は何だ、ハノイに変態量産するな、とかかな。うーん、これといった理由が思いつかない。
「とりあえず行くかー……」
もう変態の相手は嫌だし、今日の始末ノルマは達成済み。ディスクを操作してアジトへ転移した。
私を待っていたのは綺麗なDO★GE★ZAでした。
「本っっ当に! 申し訳ない!!」
どうやら私がリアルでは女の子であるとヒャッハノイの間に広まってしまったらしい。
…………え?
仕事で疲れていたハノイの騎士の一人が、ついうっかり死神が女性だと漏らしてしまった。それがヒャッハノイの一人の耳に届き、広まり、今に至る。らしい。
………………え?
「う、うわあああああーー!!」
モノホンの変態集団だったーーーー!!!! 衝撃的事実を知ってしまった私はSANチェック。自動失敗。
ばったーんと後ろ向きに倒れる。
「し、しっかりしろー! 傷は深いぞ!」
「違うわバカ!」
「どうしよう」
このままだと死神はネナベだと広まってしまう。身バレしたら世間的に死ぬ。外歩けなくなる。
「どうしよう……殺られる前に殺る?」
「今からでもアバターを女性に変更するのが一番良いと思うんですが」
パニックになっている私に正論を言ってくれる先輩ハノイ。
「大丈夫ですよ、幹部のバイラ様も女性ですし」
いやまあ知ってるけどさ。珍しいってだけで女性ハノイはいてもいいと思うけどさ。
「私は唯のバイトです!」
「唯の……?」
首をかしげる先輩方。そう、表でデュエリストを狩り、裏でヒャッハノイを始末したりするバイト。あれ、普通のバイトはまずヒャッハノイ始末しない……?
「じゃあ、唯の、じゃないなら良いんですね?」
どこからかやって来たドクター・ゲノム。ゆるりと口角を上げて喋り出した。
「貴方にはあの有象無象達を率いてもらいましょう。彼らのリーダーとして、特別製のアバターを使用する。これならどうです? 唯の、ではありません」
戸惑う私を尻目に、話を続けるゲノム。
「ああ勿論、そのぶん給料は上げますのでご心配なく」
え、これ以上お給金増えるの? じゃなくて。ヒャッハノイの上に立つってことはプレイメーカー含むカリスマデュエリストと会う機会が増えるってことで。
社会的に死ぬか、デュエルで死ぬか。どっちを取るかと言われたら。
「……わかりました。あの変態どもを纏めてみます……」
ゲノムに嵌められた感あるけど、こればっかりは仕方ない。
「では、よろしくお願いしますよ」
あのDNAクレクレおじさん、いつかはっ倒す。そう私は決意を抱いた。
年齢はバレてないのでまだセーフ……だと思う。
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新・バイトハノイ
少し昔の話をしよう。
私の記憶は、乗っていたバスがガードレールに突っ込んで、そのまま目の前が真っ暗になる所で途切れていた。
目を覚ますと見知らぬ部屋にいた。いや、知っている部屋とも言えるだろう。長い夢を見ていたような、浮遊感が残っている。
ここはどこだろう。ここは私の部屋だ。
いつから? ずっと。
今目覚めた私の疑問に過去の私の記憶が答える。落ち着いた色でまとまった家具。本棚は漫画や図鑑、小説でほとんど埋まっていた。たとえ前世の記憶が無くても、私そのものは変わらなかったらしい。
大事なもの、忘れちゃダメだよ。机の引き出しの中。
はて何を入れていただろう、寝起きでふわふわしている頭ではそこまで思い出せなかった。引き出しを開ける。
そこにはデュエルディスクとデッキがあった。
「遊戯王だこれー!?」
なるほど遊戯王。転生とか異世界とか全然珍しくない。元OCG次元民にも優しい世界ですね……じゃなくて。
本当の事を言うと、少し怖かった。静かな部屋の中、私の前世を肯定する人はいるのだろうか、そう思った。家族には絶対に言えない。親しいからこその距離感を守りたかった。前の世界の事を知っているのは私だけだ。本当に私は私なのか。それを証明するのは私の記憶だけ。この記憶は妄想ではないのか、堂々巡りだった。
私と同じように転生、もしくは憑依した人がいるんじゃないか。そう思い立った私は、リンクヴレインズのコメント欄に前世のネタを仕込んだ。だけど遊戯王ネタだけではいけない、もし遊戯王を知らない場合のことを考えて他の作品のネタも使わなければならない。適当に書いたネタの中からくじ引きで決めた。
名前:ヴァンガード
コメント:マジンチュウ ソザイガリ タノシイ タノシイ!
その結果がこれだよ。誰だ、こんなわかる人にしかわからないネタを入れようとしたのは! 僕だ! お前じゃない座ってろブルーノ!
それに別のカードゲームの名前使ってるけど、ヴァンガードアニメ途中までしか見てないよな私!? もしその話題振られたら何も言えない。ブラスターブレードしか覚えてないわ。アイチ君可愛かった、で話続くかなぁ……。
顔の上半分を覆う仮面。フードは外し、髪型が見えるように。何故か少し余った袖。現実と同じ身長になったアバター。
さあ、これからはバイトハノイ改め、ハノイの騎士の死神、ヴァンガードです!
ハノイの騎士、偉い人ほど顔の露出が上がっているのです。なので顔は量産型ハノイと同じ露出率にするようお願いしました。私幹部じゃないよ、バイトだよー。
ヒャッハノイ? ああ、あいつらなら変態ハノイに進化したよ……。私の顔見せの時、女子に飢えた男の雄叫びが上がってびびった。
これから必要になるであろう連携を強化するために、チーム作ってリンクヴレインズでデュエルさせてます。上から連絡があれば、私経由で変態ハノイに知らせられるようにはしてます……うーん、やっぱりこれって。
「中間管理職だよねー」
「ぎゅー」
私の横の、ラグビーボールぐらいの大きさのふよふよしている物に話しかける。これはプログラミング班特製、ミニサイズのクラッキング・ドラゴン。AIが搭載されているので会話を理解してます。癒しです。
本当は、私の情報がハッキングされて盗まれないための防衛プログラム。誰かがハッキングしようとするとそれを察知、そのパソコンに侵入。データをめっためたにぶっ壊し、ブルースクリーンにして帰ってくる、というかなり攻撃的なプログラムです。
いざとなったらデュエル相手にビームぶっ放して勝負うやむやにする機能もあるらしいですが、それはカットしてもらいました。私はデュエリスト、リアリストではないのです。
かなり過保護だと自分でも思う。でも、ヒャッハノイ改め変態ハノイがハノイの騎士として仕事をしてもらうには一度私を経由しないといけない、という理由がある。ハノイの騎士、かなり大きな組織になってしまったので人手が減るのは痛いんだろう。変態ハノイ私の言うことはすんなり聞いてくれるんだよね。変態だからね、仕方ないね。
「テンタクラスター対策、それとなく伝えるの大変だなー」
アニメだとハノイの騎士三割速攻で倒したんだっけか。AIには人の心が分からない、嫌がらせしてくるに違いない的なこと言うだけ言ってみるかな。
「うぎゅ?」
いざとなったらミニクラッキングのビームで全部蹴散らすのも候補に入れておこう。シン・ゴジラごっこが捗ります。SOLテク総辞職ビーム……ありだな。北村さんしか犠牲にならないけど。
プログラムで構成されたデュエリスト。対人戦の経験はほぼゼロと見て間違いないだろう。変態ハノイとのデュエルで変なこと学習しなけりゃいいな北村さんよー。AIデュエリスト、洗脳されてハノイの騎士の手下になるより絶対酷いことになるぞ。
「ん、標的ログインかくにーん」
始末対象がログインしたのを視認。さあ、ヴァンガードとして初めてのお仕事。頑張ってまいりましょう!
全AIデュエリスト、セルゲイ化計画。……ってのもあり?
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先導者の蹂躙
「それはどうかな?」
AIデュエリスト軍団が、リンクヴレインズに出動した。それと同時に無数のハノイの騎士が現れる。だが、誰もディスクを構えようとしない。
「ヴァンガード様、こちらの準備は整いました」
「了解です。……あーあ。必ず殲滅、とかそんなこと勝手に言っちゃっていいのかなー、なんて思ったり」
突如、リンクヴレインズに少女の声が響いた。
「な、誰だ!? 映像を繋げ!」
空にはハノイの騎士、地上にはAIデュエリスト。その間に突然現れた少女に、皆目を奪われていた。彼女はデュエルボードに乗ったまま深く一礼する。
「初めまして、私の名前はヴァンガード。ここにいる(変態)ハノイの騎士たちの……上司? 的な人です」
「……あんな、ちんちくりんが? どうやらハノイの騎士も終わりらしいな」
勝てる、そう確信した北村はにやりと笑う。
「早速ですが、AIデュエリストの皆さんには退場してもらいます」
す、と片手を上げる。
「総員、戦闘準備!」
そう彼女が言うと同時に、ハノイの騎士全員がデュエルディスクを構える。
「……かかれっ!!」
掛け声とともに腕を振り下ろす。ハノイの騎士達が襲いかかる。
「それじゃ、私も頑張りますかー」
彼女の視線の先には一人のAIデュエリスト。ふ、と笑みを零す。
「私の相手は君かな?」
「対象を確認、排除を開始します」
「「スピードデュエル!!」」
ヴァンガード
LP 4000
AIデュエリスト
LP 4000
「私のターン。……うーん、カードを三枚伏せ、
《可変機獣 ガンナードラゴン》
効果モンスター
星7/闇属性/機械族/攻2800/守2000
(1):このカードはリリースなしで通常召喚できる。
(2):このカードの(1)の方法で通常召喚した
このカードの元々の攻撃力・守備力は半分になる。
「このカードはリリース無しで召喚した場合、攻撃力、守備力は半分になる」
可変機獣 ガンナードラゴン
攻2800→1400
守2000→1000
「私はこれでターンエンド……AIのデュエル、見せてもらおうか」
「私のターン、ドロー。私は手札から永続魔法アビス・インビテイション発動。そして500ライフを支払い、手札のテンタクラスター・ダークウィップを特殊召喚。更に手札から魔法カード機械複製術を」
「させないよ。カウンタートラップ、神の宣告! ライフを半分支払って効果発動、その魔法の発動を無効にして破壊する」
ヴァンガード
LP 4000→2000
《神の宣告》
カウンター罠
(1):LPを半分払って以下の効果を発動できる。
●魔法・罠カードが発動した時に発動できる。
その発動を無効にし破壊する。
●自分または相手がモンスターを召喚・反転召喚・特殊召喚する際に発動できる。
それを無効にし、そのモンスターを破壊する。
「……モンスターをセット、カードを一枚伏せてターンエンド」
攻撃力の低いモンスター一体、裏守備表示のモンスター一体、伏せカードが一枚。機械複製術が発動できていれば、そう思っているのかは分からないが、その声に覇気は感じられない。
「ありゃ、もうお終い? 私のターン、ドロー! セットカードオープン! 魔法カード、トランスターン発動!」
《トランスターン》
通常魔法
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を墓地へ送って発動できる。
墓地へ送ったモンスターと種族・属性が同じで
レベルが1つ高いモンスター1体をデッキから特殊召喚する。
「トランスターン」は1ターンに1枚しか発動できない。
「フィールドの可変機獣 ガンナードラゴンを墓地に送って発動! デッキから出ておいで、クラッキング・ドラゴン!」
《クラッキング・ドラゴン》
効果モンスター
星8/闇属性/機械族/攻3000/守 0
(1):このカードは、このカードのレベル以下のレベルを持つ
モンスターとの戦闘では破壊されない。
(2):このカードがモンスターゾーンに存在し、
相手がモンスター1体のみを召喚・特殊召喚した時に発動できる。
そのモンスターの攻撃力はターン終了時までそのレベル×200ダウンし、
ダウンした数値分だけ相手にダメージを与える。
フィールドに現れるハノイの騎士を象徴する機械竜。
「そして速攻魔法リミッター解除発動! クラッキング・ドラゴンの攻撃力は二倍に!」
《リミッター解除》
速攻魔法
(1):自分フィールドの全ての機械族モンスターの攻撃力は、ターン終了時まで倍になる。
この効果が適用されているモンスターはこのターンのエンドフェイズに破壊される。
「バトル! クラッキング・ドラゴンでテンタクラスター・ダークウィップに攻撃!」
「トラップオープン、
《魔法の筒》
通常罠
(1):相手モンスターの攻撃宣言時、
攻撃モンスター1体を対象として発動できる。
その攻撃モンスターの攻撃を無効にし、
そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える。
「あなたのライフは残り2000、クラッキング・ドラゴンの攻撃力は6000! これで終わりです」
「……それはどうかな?」
想定通りだ、と言わんばかりにヴァンガードがにやりと笑う。
「カウンタートラップ、トラップジャマー! 魔法の筒の発動を無効にして破壊!」
《トラップ・ジャマー》
カウンター罠
バトルフェイズ中のみ発動する事ができる。
相手が発動した罠カードの発動を無効にし破壊する。
「決めろ、クラッキング・ドラゴン! トラフィック・ブラスト!」
放たれたビームがテンタクラスター・ダークウィップに直撃し、跡形もなく焼き尽くす。その余波を受けたAIデュエリストは、盛大に吹っ飛んで消滅した。
AIデュエリスト
LP3500→0
「流石ですヴァンガード様ー!」
「うおおー! 俺たちもオーバーキルしてくださあぁーい!」
「ちょ、これリアルでも見られてるのにそんなこと言わなーい!」
「……な、な、な、何だとおおっ!?」
ワンターンキル。AIデュエリストが抵抗もできずに倒された。この事実を見た北村はくらり、とめまいがした。
「だ、だがまだ他のAIが……」
「グラファでダイレクトアタック!」
「インフェルノイド・リリスで攻撃!」
他のハノイの騎士もAIデュエリスト達を蹴散らしていく。その様子を見ているヴァンガードが呟く。
「……なるほど、ハンデスとバーンで確実に倒すデッキってわけか。いやー早めに倒せてよかったよかった」
はくはく、と口を開閉させるだけになった北村。次のAIデュエリストに狙いを定めるヴァンガード。
「んー、とりあえず一個気になったんだけどさ。何でこんなデッキにしたの?」
AIデュエリストに質問するヴァンガード。返答は無かったが、それでも話しかけ続ける。
「……ああ、ハンデスを否定しているわけじゃないよ、私だって使ったことある戦術だしね」
ヴァンガードが指を一本立て言い放つ。
「どんなデュエリストも、魂がこもったデッキを必ず一つは作るものさ。思い出、ロマン、何でもいい。自分が大事にしたい一つあれば、そこに魂は宿る。……でも、
「そう、そこにヴァンガード様万歳、ちみっこ最高という魂を込めてしまえばいいのさ」
「そこの満足民はループしながらこっちの会話に混ざらない! あーもう、何で抑えられないんだあの変態共……」
頭を抱えるヴァンガード。遠くでその会話を聞いていた一人のAIデュエリストが反応した。
「…………デュエリストの魂」
自分のデュエルディスクを見つめるAIデュエリスト。
「ハノイの騎士に勝利する為、更なる学習が必要と判断。SOLとの回線を切断、自律行動を開始。一時退却……ヴァンガード、貴方は私が倒す」
今ここに、新たなデュエリストが誕生していたことに気付くものはいなかった。
だって、ハノイの騎士の幹部級一人増やしたから、向こうにも一人増やさなきゃって思って……
為すすべなく倒れる仲間。敵から伝えられた、勝つために足りない物を手に入れるため、ただ一人立ち上がるAIデュエリスト。この展開は予想できなかっただろう!
主人公ハノイの騎士としてトップクラスのやらかし
『第二のイグニスの誕生』
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復讐者の思案
あとOCG民の人は、もしテンタクラスターとデュエルするときあそこで神の宣告使います?作者のへっぽこデュエルスフィンクスだと使っちゃいましたが……
作業の手を止め、リンクヴレインズの騒動を眺める。AIデュエリストはその真価を発揮することなく倒されていく。
「……」
新たなるハノイの騎士、ヴァンガード。今まで俺が戦ってきたハノイの騎士の中でもトップクラスのデュエリスト。恐ろしいデュエルタクティクスの持ち主。
「強い」
そうとしか言いようがない。的確に相手の反撃の目を潰し、自分のアドバンテージを失わない。言うだけなら簡単だが、それができるデュエリストはどれほどいるだろうか。
「なあ遊作ー、もしあいつとデュエルしたら勝てるか?」
「……わからない。まだあいつは本当の力を隠している」
Aiはデュエルディスクから体を出して画面を見ている。何でもないように問いかけて来ているが、その声色から心配が隠しきれていないのがわかる。
「何でそう言い切れるんだよー。あ、あれか。もしかしてチューニビョーってやつか?」
「黙れ。……一つ、あれだけの数のハノイの騎士を束ね上げ、殲滅を彼らに任せている。二つ、AIデュエリストとのデュエルで使用しているカードはどのデュエルでも殆ど同じ。三つ、ヴァンガードはまだスキルを使用していない」
指を立てながら説明してやるとAiは大人しくなった。
「お前がそこまで言うほどのデュエリストがまだハノイの騎士にいるとはな……」
鬼塚と戦ったDr.ゲノムのように、表舞台に出ていないだけの強者はまだいるかもしれない。……いや、いるのは間違いないだろう。このままハノイの騎士が終わるはずはない。
「強さが一番わかるのは最初のデュエル。ヴァンガードが初手を全て使い切った時点でAIデュエリストは罠にはまっていた」
「……どういうことだ遊作?」
「あのデッキはハンデスとバーンを中心にしたもの。ヴァンガードが先行だったのも運が悪かった。捨てさせる手札が無ければハンデスは意味が無い」
プロトタイプとデュエルした時、俺は後攻だったのもあってハンデスの妨害は出来なかった。墓地で発動できるカードが初手に無かったら、そう思うとぞっとする。
「ここで戦術をバーンに切り替えるのは当然だ。だが、リンクモンスターを呼ぶための機械複製術は無効化され、残ったのは攻撃表示のダークウィップ。防御を固めるしかない」
セットしたモンスターは恐らくテンタクラスター・ボムサッカー。もしそちらに攻撃したならば、アビス・インビテイションとボムサッカーの効果でライフは風前の灯。
「相手に展開されず叩き潰せるのはあのターンだけ、そう確信したヴァンガードは勝負を決めにかかった。それがあのトランスターンとリミッター解除」
首を稼げるAi。
「ちょい待ちー、ヴァンガードはなんで攻撃する前にリミッター解除を使ったんだ? あのカードって確かダメージステップでも使えたはずだろ?」
「誘ったんだ。トラップの発動を」
トラップは発動し、自分を不利に見せ、相手は油断した。それこそがヴァンガードの狙い。最後の足掻きは潰され、AIデュエリストは何も抵抗できず敗北した。まさに、自分の力を見せつけるためのデュエルと言えるだろう。
「最初から最後まで、全部ヴァンガードの掌の上……って訳か」
「恐らく、な」
俺の考察はすべて結果論。ヴァンガードは相手の使用カードの効果を何一つ知らない状況でこの結果を出した。……だからこそ恐ろしい。
Aiが体を横に曲げながら唸る。
「む、むむむー? 他のハノイの騎士が使っているカード、墓地に送られることで活躍できるのばっかりだぞ? これはどう説明するんだ?」
画面を見ていた草薙さんもはっとしたようにこちらを見る。
「……確かにそうだ。お前は一度デュエルしたことがあるから戦術を知っていたが、ハノイの騎士はAIデュエリストと戦うのは初めてだろう? 何故対策が出来たんだ?」
「……それは」
「それは?」
「デュエリストの勘、としか言いようがない」
ずこー、と言いながらAiがこけるまねをする。俺がSOLのデータバンクへハッキングを成功させたことで、向こうのセキュリティレベルは格段に上昇している。データが漏れた、というのは考えづらい。
ハノイの騎士を確実に殲滅する為のAIデュエリスト、としかわからない状況でヴァンガードはこの部隊を作り上げた。
「勘ねー、人間ってなんでそんなモン信じれるんだか」
「ヴァンガード、奴は紛うことなきデュエリストだ。計算だけで倒せるほどヤワじゃない。俺もいつかデュエルする時、勘に頼るしかない時が来るかもな」
「マジで? それマジで言ってんのプレイメーカー様ー!?」
慌てるAiを無視して、画面の向こう側にいるハノイの騎士達を見る。ヴァンガードだけに目がいきそうになるが、下っ端達のデュエルレベルも確実に上昇している。
――これからは今までよりも厳しい戦いになる、そう確信して作業に戻った。
おまけ どうやってヴァンガードがメタデッキ使いを集めたか
「暗黒界とかインフェルノイド使い、この指止ーまれ」(恐る恐る)
「「「「はあああああい!!!!」」」」(変態ハノイの小山ができる)
「ひっ」(ドン引き)
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神出鬼没な先導者
……いいの?こんなのがランキングに載っていいの?
アナザーのウイルス、実は私貰ってないんだよね。どうもバイトハノイです。
……いやー、AIデュエリスト戦ちょっとやり過ぎたわー、地上波放送で失敗できないからって準備万端過ぎたわー。ほぼ全員メタデッキ使いとかいう普通あり得ない状況。SOL情報漏洩疑惑が出てきて炎上祭りが加速しましたよ、ええ。
今回の私の目的は時間稼ぎ。いきなり出てきてデュエルした後さっさと消える。アナザーとは違う方法でリンクヴレインズを混乱させるため、プログラミング班の皆さんにある仕事を頼んだら快く受け入れてくれました。それの出来上がる時間を待つっていうのもあるけど。
幹部がプレイメーカーとデュエルすることだけを目的として現れるのは流石に危険すぎないかな? てな訳で提案した次第であります。
えー、ついでにここにいるのは私とのデュエルで負けた命知らず君です。ヴァンガードを倒して一旗上げようとしたらしいですが残念。ここをこうこうこう、ついでにおでこにペタッとな。
「よいしょー」
ぐいっとミノムシ状態になった命知らず君を木に引っかける。おでこには紙が張り付いている。うふふー、これ、ちょっとした謎解きです。これを理解したらリンクヴレインズはパニックになるでしょうねー。そろそろヒント増やすべきかな、考察サイトもちんぷんかんぷんみたいだし。さあ、今日も元気に吊るし上げじゃー!
「くそっ、逃したか!」
GO鬼塚は苛立っていた。ヴァンガードが現れたという情報は入る、だがデュエルをすることは出来なかった。デュエルを終えた後、どこかへと消えるのだ。明らかに俺を避けているとしか思えない。
「……またか」
ぶら下げられた男の額には紙が貼り付けられていた。ヴァンガードとデュエルした者はいつも紙を貼り付けられ木にぶら下げられる。何を意味しているのかは分からない。男を下ろして紙を剥がす。
「ヴァンガード、一体何がしたいんだ?」
紙にはオレンジ色の円がでかでかと描かれていた。その中心には『i』と書かれている。
「GO鬼塚! 私とデュエルして貰おうか!」
上から声がした。デュエルボードに乗ったハノイの騎士がそこにいた。
「お前らには用はない、ヴァンガードを出せ!」
「な、なんて恐ろしいことを……ヴァンガード様は意外にもプロレス好きなお方、お前とデュエルしたらテンション上がって『パロ・スペシャル』をかけてしまうだろう!」
「……マジか、何でそんな関節技知ってるんだ?」
「知りたいか、ならばデュエルだ!」
「いやそんな事を知りたい訳じゃねえよ!? ったく、調子が狂うぜ……」
今まで抱いていたハノイの騎士のイメージと全然違うのもあるが、一人一人がれっきとしたデュエリストであるのも調子が狂う原因だ。
「速攻で終わらせるぞ! デュエル!」
不安で怯える皆の為にも、除去プログラムを一刻も早く手に入れなければならない。きっとヴァンガードが持っているはずだ。ヴァンガードがどこにいるのかさえ分かればアナザー事件は解決する。そう信じて鬼塚は今日も戦うのだった。
「聖地巡礼? 変なことやってんのなー、てかヴァンガードのファンってどいつもこいつも頭おかしくないか?」
「あんなデュエル見せられたらファンになるやつだっているだろうさ。単純に強い、それだけで惹かれるものがあるんだよ。……変な方向に目覚めるのはどうかと思うがな」
ヴァンガードが現れた場所を巡る、という何の得があるのかわからない事がリンクヴレインズでは流行っていた。リンクヴレインズのマップにヴァンガードが現れた場所を纏めると10個の円ができる。ヴァンガードが倒したデュエリストに貼られた紙に書かれた円は、それぞれ色分けされている。白、灰、黒、青、赤、黄、緑、紫、オレンジ、虹。SNS上では「今日は赤行こうぜー」といった会話が行われている。
「何を目的として動いているのかが分からない。俺を探しているわけではないようだが……」
ヴァンガードとのデュエルで負けた者はアナザーになっていない。そもそもヴァンガードとデュエルしたやつのデュエルディスクは新型だ。プレイメーカーが旧型のディスクを使っていることはハノイの騎士は知っているはず。アナザー事件は旧型のディスクを使用しているハッカーを対象にしたものだ。
「何かの儀式とか? こう、すんげーヤバいでっかいのが召喚されるんじゃね? それがリンクヴレインズを壊して回るんだよ」
がおー、と襲いかかるように指を曲げて威嚇するAi。
「儀式、か……この円の配置に規則性はあるし、一理あるかもな」
「ふっふーん、この名探偵Ai様の前ではどんな謎もまるっとお見通しなのだよー」
どこらかともなく取り出したパイプと帽子を身につけてAiが胸を張っている。
「なら、次にヴァンガードが現れる場所でも推理して貰おうかな、名探偵様?」
「う、それはー……名探偵は今日でお役御免のようデス」
するするする、とディスクの中へ戻るAi。着信音が鳴る。
「ん、メール? 誰からだ?」
その場で確認する。今上からだ。クラス全員に一斉送信したらしい。
「……へぇ、もう少しで退院できるようになるのか」
病院でのリハビリもほとんど終了、後は自宅療養で大丈夫らしい。本はもう全部読んだ、学校で直に返せるのももうすぐだろう。
「え、今上って誰? もしかして彼女とかー!?」
「黙れ。お前は知らなくていい」
「……わざとらしいな。まさか、あの、遊作が、なぁ?」
うんうんと頷き合うAiと草薙さん。
「なっ……草薙さんまで!」
「冗談だ冗談」
「……っ」
ぷい、と顔を背ける遊作。
「あーあ、遊作ちゃん拗ねちゃったぜー」
あいつは気が合う友達、それ以上でもそれ以下でもない。もし深く関わりすぎると、俺の正体がばれた時にハノイの騎士に狙われてしまうかもしれない。関係ない人を巻き込むわけにはいかないんだ。
「また音声を切られたいか?」
「この超絶☆イケボなAi様の声を!? それだけはお願いしますだー、お代官様ー」
ふざけているAiの声をBGMに、ハノイの騎士についての情報を纏める。ヴァンガードの出現位置の予測。あいつと接触し、ロスト事件についての情報を聞き出す。それができれば真実へと一歩近づけるはずだ。そう信じて遊作は作業を進めるのだった。
キン肉マンは良い文明。パロ・スペシャルは簡単にできる関節技。作者も一回父にかけたことがあります。
おまけ そのころのヴァンガード
「へくちっ……誰か噂してる?」
「(ぐうかわ。写真保存余裕ですわ)」
「(甘いな俺は録画済みだ)」
「(マジか後で寄越せ)」
「(了解)」
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束の間の日常
松葉杖片手にリュックを背負って歩く。いつもより早めに家を出たのもあってチャイムが鳴るまでには十分間に合った。通り過ぎる人の視線を集めているのはわかるけど、このぐらいまだハノイの騎士でバイトしている時と比べたらマシ。
座席表を確認して座る。……隣が遊作君の席。これからボロ出さないように生活しないといけないのか、疲れるな。リュックから本を取り出す。さあ読もうとした途端、ドアが開くと同時に島君の大声が響く。
「あー! お前、一人で登校してきたのかよ! 連絡入れてくれたら荷物持ったのに!」
「ごめんごめん。そこまで足酷くないし、ほらリュックだから大丈夫かなーって」
ギプスが巻かれた足を見せる。心配してくれるのは嬉しいけど、デュエリストの耐久力を舐めたらいけないのだよ。ファッション感覚で骨折してたクロウとかいるし。
「それでもなー!」
「島、声廊下にも響いてたぞ」
少し不機嫌そうな声の遊作君が入ってくる。徹夜で作業してたんですかね。……あ、デュエル部の皆にも顔出ししとかないと。
「遊作君おはよ、そういえば本どうだった?」
「ああ、勉強になった。全部読み終わったから返すよ」
はい、三冊きっちり返却して頂きました。
「遊作が今上みたいなデュエリストになる日は遠いな、うん。本読んだだけじゃお前、強くなりそうにねぇから」
あの懐かしさを感じるダミーデッキ。あれを強化する気は多分無いよね。
「今上って強いのか?」
「そこそこ、とだけ言っておくよ」
「そこそこじゃねーって。金がなくなったからって大会で優勝しに行く高校生のくせに」
「……てへ」
目を丸くする遊作君。そうだよね、普通ありえないよね。お小遣い少なかった中学生のころから始めました。前世の記憶もあったし強いだけのデッキ組んで大会出てました。
「相談あったら乗るよ? まー、手っ取り早く強いデッキ作りたいなら帝のストラク3つ買えば済むけど……それは違うよね、きっと」
「……ああ。俺はこれでいい」
「遠慮すんじゃねーよ、また時間ある時カードショップ行こうぜー」
予定が空いてたらな、と軽くあしらわれる島君。
「……そういやそれは?」
気づきましたか、これがヴァンガードからプレイメーカーへの最大のヒント。表紙にはセフィロトとクリフォトが書かれたぶ厚めの本。
「『端末世界の歴史』だけど、何か気になった?」
見せつけるように彼らの目の前へ持っていく。
「ん? これ、どっかで見たような……あ、ヴァンガードのあれ!?」
それを理解した瞬間、遊作君の目つきが変わる。島君は気づいていないみたいだけど。ヴァンガードとして彼と戦う時、こんな感じに見られる訳か。まあ、予行演習ぐらいにはなるかな?
「ヴァンガード、ね。入院してても話は入ってきたよ」
だって私だからな!
「あの輪っか、どの考察サイトもこれだ、って推理できてなかったんだよなー。こんな近くに答えあったのに何でだ?」
「単純に知られてないだけじゃ? この本、かなりレアだし」
だが俺はレアだぜ(本)。これ、初版本しか出回ってないんですよね。分厚いから買う人も少ないし。
「端末世界、デュエルターミナルって言うんだけど……知らないよねその反応だと」
頷く二人。はっと気づいたように此方を真剣な目で見る島君。
「もしかして、これがあれば俺らが世界初の謎を解いた人に!? 教えてくれよ、なあ!」
「ちょ、ちょっと落ち着いて! 謎解き、私も興味あるから!」
あっ、ヒント出す側に回るのすごく楽しい。唸れ、私の演技力!
「推理の基本は情報の整理、紙には10の色の円とiが書かれていた」
ノリノリですか遊作君!?
「んーと、紙にはiって書いてあったんだよね? iがつくのはクリファ。悪徳の象徴だよ。そして、端末世界ではクリファをモチーフにしたモンスターがいるんだ」
ぱらぱら、とページをめくる。真剣な表情で見る二人。
「それがこのクリフォートとインフェルノイド。どちらも端末世界を荒らした存在」
「クリフォート? ……不思議なカードだな、テキストが2つある」
やっぱりペンデュラムモンスター自体をあまり見たことないんだ。ルール変わって一番影響出たのはペンデュラムだと個人的に思ってます。スピードデュエルが流行っている今、ペンデュラムはどんどん肩身が狭くなってるし。
「クリフォートはバグで地上の殲滅を、インフェルノイドはクリフォートの中から神の尖兵として現れたモンスター」
クリフォート・アセンブラのテキスト解読した時は寒気がしました。誰だってびっくりするでしょあれは。
「んー、クリフォートはなんか違う気がするんだよなー。もしクリフォートを表すんだったら、このテキストそのまま持って来る方が良くないか?」
「インフェルノイドの体には過去のモンスターが囚われている、か。まだこっちの方が納得がいく」
「今までヴァンガードと戦ったデュエリストは全員ミノムシみたいに縄でぐるぐる巻き。インフェルノイドは真空管にモンスターを捕らえている。まあ、インフェルノイドに近い、のかな?」
やっぱり、今出てる情報だとこの辺が限界かな。
「インフェルノイドだってわかっても、その先がわかんなかったら意味ねーって。他に情報ねーのかよ?」
「どのクリファにも人がかなりの数集まっているな、でもそれがどう関係するのか……」
この辺で少し核心にせまってみましょうか。これが分かったからといって、私の計画に支障は出ない。何とかできるならしてみてほしいものです。
「……あ、ちょっと怖い事思いついちゃった」
ふと、思いついたように。
「あの場所に集まったデュエリストがインフェルノイドになる、とか。……うーん。自分で言っといてあれだけど、モンスターになるのは流石に無理かな」
そう、モンスターにはならない。私はインフェルノイドを参考にしただけ。さあ、気づいたかなプレイメーカー。
「流石にそれはないだろー」
「だよねー」
笑う私と島君。顎に手を当てる遊作君。あと少しで私の計画を完全に理解できるだろう。
インフェルノイドは真空管に囚えたモンスターの魂によって活動する。ならば、デュエリストの魂とは? 魂だけあればいい。それだけあれば十分戦える。
――もうすぐ、ハノイの騎士に質と量を兼ね備えた兵士が誕生する。誰も止める事は出来ない。
次回、答え合わせ。何故これを思いついたのか、それも彼女の口から話してもらいます。
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煉獄の具現
お待ちかね、答え合わせ回です。作者、プロット組めてない行き当たりばったりな小説でここまで繋ぎ合わせられるとは思わなかった。
各クリファは常にデュエリストで賑わっていた。ヴァンガードを一目見たい人、憧れる人、批判する人。理由は違えど、ヴァンガードに関心があるのは違いない。
人混みの中、うさぎが跳ねる。工事現場で見るような黄色いヘルメットを被ったそれは、子供を見つけるとその方向へ走り、体当たりするように跳ねる。……うさぎがぶつかったその瞬間、子供が消えた。いや、強制的にログアウトさせられたのだ。誰によって? ひくひくと鼻を動かすうさぎに聞いても、返事は返ってこないだろう。
「……これで各クリファにいた児童全員のログアウトは完了しました」
「了解。君達も持ち場についてね」
「はっ」
空を見上げる。
「きっと君は来るんだろうね、プレイメーカー」
私のヒント、気づいてくれただろうか。気づいたとしても、一人ではどうしようもない。
「賽は投げられた……ってね」
さあ、ヴァンガードとして最大の
「あれは?」
ビルの屋上に佇む人影に誰かが気づく。もしかして、と思って皆上を向く。
「ヴァンガード様ー!」
「やっぱ生ヴァンガード可愛いー!」
「デュエルしてくれー!」
歓声。ハノイの騎士であるにもかかわらず、人気が高いリンクヴレインズ話題のデュエリストの一人。ヴァンガードがそこにいた。クリファには老若男女問わずファンが集まって……いや、子供だけがいない。だがその事には彼らは気づかなかった。
「うおお、私大人気……。えー、皆さん、デュエル強いですかー?」
応。
「私の下で働いてみたいですかー?」
応。
「っ、遅かったか……!? 今すぐそこから逃げろ!」
デュエルボードに乗って登場したのはプレイメーカー。地上の人達の頭上を飛行している。
「……え、プレイメーカー!?」
「俺、俺、この瞬間に立ち会えるなんて夢みたいだ……!」
「あーあ、来ちゃったかー」
地上にいる人にはわからないだろうけど、彼は珍しく焦っていた。私を見つけるまでに時間をかけ過ぎた、それを理解しているからだろう。もっと早くに見つけられたら、このプログラムは完成していなかった。
「ヴァンガード! 俺とデュエ――」
「先に言っとくけど、私は事件については本当に何も知らないよ? バイラ様かファウスト様に聞いて下さいな」
「!?」
予想外の一撃で反応が遅れたね。最初に逃げろって言ってるから解析は出来たんだろう。でも、ここで登場したのは失敗だったね。皆戸惑っている。この一瞬で私の計画は果たされる。
「ちょっと邪魔入っちゃったけど――それじゃあ皆さん、ハノイの騎士になって下さい」
ぱん、と手を叩く。今までの歓声から一転、悲鳴が響く。火がクリファを覆う。
「火の洪水……プログラムを頼んどいてあれだけど、思ってたより地獄だね」
ヴァンガードがいないクリファでも同様に、彼女の部下によって起動させられたプログラムの火がデュエリストを包み込んでいた。
「――――っ!!」
プレイメーカーががくり、とバランスを崩す。リンクセンス……だったっけ、あれのせいかな。各クリファで同時に強力なプログラムを起動したからかな。あれアニメで説明何もされてないのよね。地上に落下ーーすることはなく、着地には成功した。火に覆われた大地のど真ん中に落ちたけど。
「あづ、熱――くない? でもこのプログラムすごくキモチワルイ!」
デュエルディスクから出てきたAiが不快を訴える。火の見た目をしたウイルスだから、本当に熱い訳じゃない。侵略すること火の如く……ってね。
「だって君達を対象にしたウイルスじゃないからね、それ。……それじゃあ、答え合わせといきましょう」
「ふざけるな、俺とデュエルしろ!」
「まーそうカリカリしないで、君の相手は私じゃない。彼らだよ」
「どういう……!」
火の中からむくり、と人が立ち上がる。その目にはプレイメーカーへの敵意しか存在しない。あちらでも、こちらでも人が立ち上がりプレイメーカーに向かって歩く。
「プレイメーカー、俺とデュエルしろ」
「私と、ハノイの騎士とデュエルよ」
「我々、ハノイの騎士と」
「デュエル」
「「「デュエル!!!」」」
ぐるりと囲まれる。逃げる事はできない。さあさあ始まるデュエル地獄。一度たりとも負けられない戦いが延々と続く。
「はい、私暇になったから暇つぶしに語らせてもらいますよー。君は聞いてもいいし、聞かなくてもいい。でもどっちかというと聞いてほしいなー……」
あっ、プレメこっち見てねえ! 既にデュエルしとる! ……まあいっか。
「私がこれを思いついたのはAIデュエリストとデュエルしていた時。数ってやっぱり大事だなー、と思ったのですよ。でも数だけじゃ駄目、ちゃんとしたデュエリストでないと何もできないまま終わる」
メタったら動けないのは言語道断。デッキの多様性も大事だった。
「そこで、私の名前を使うことにした」
両腕を広げる。
「ヴァンガードがある場所でだけ現れる、なんて面白そうなネタ。私のファンが飛びつくのは誰にだってわかること。その予想通り、彼らはこのクリファの中に集まった」
本当にいるかもわからない私を探して。途中からの被害者はヒャッハノイ達の偽装。凄く楽しそうにぶら下がってくれましたよ、ええ。テンションが異常に高かったのは、ヴァンガードとデュエルしたからだろう、みたいに受け取ってくれたけど。
「人が集まれば集まるほどいい。強いデュエリストがいる確率が高くなるから。そうして集まったのを……纏めて洗脳する」
洗脳は遊戯王の恒例行事! ここテストに出るよ!
「とても平等に。一定以上のランクのデュエリストを兵士へと変えるウイルス。それをクリファに仕込んだ。もし基準に満たない場合は、デッキをこっちが用意したものに変更して、その回し方を強制的にインストールさせる」
デュエリストとして信じられないような行動をしている自覚はある。でも、私はハノイの騎士のヴァンガードだから。
「彼らはちゃんと意識を持っている。そうじゃないと君を倒す刃にはならないでしょう? 救われたいなら、プレイメーカーを倒すしかない。そうプログラムしてある。地獄じゃない。だからこその
ヴァンガードが笑う。
「
既に何人かの洗脳兵士とデュエルを終えたプレイメーカーがこちらを睨みながら話しかける。
「――わからない、何故逃した」
「? 何の事?」
「何故、子供だけを逃したかと聞いているんだ。ヴァンガード」
……あー、流石に気付いちゃったか。
「今ここにいるデュエリストの中に、子供だけがいなかった。お前の仕業だろう、ヴァンガード」
「さあ、どうだろうね? それに、そんな余裕見せていいのかな? ほら、第二陣のご到着だ」
他のクリファからぞろぞろと歩いてくる。走って来るよりもこっちの方が危機感出るでしょ?
「どうするんだよ、プレイメーカー!」
さあ、どうする主人公? 除去プログラムを作る時間は無い。洗脳兵士を全部倒すまで私とデュエルできない。消耗したプレイメーカーなんて敵じゃない。真面目に詰んでるこの状況。どう覆す!
「――ならば私とデュエルしなさい、ヴァンガード」
「っ、誰だ!」
あの時全て倒したはずの、AIデュエリストがそこにいた。
あれ、AIデュエリストもの凄くかっこ良く見えてきたぞ?(困惑)
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機械戦線
負けフラグどう撤回しようか悩みました、ええ。あの展開をしたいがために考えましたが、ヴァンガードのスキル強すぎないかな?OCG民悪ふざけできますかね?
ば、と声がした方へ振り向く。
「……!?」
ホワイ!? なんでAIデュエリストがここに!? 自力で復活を!?
「何故、という顔ですね。その解答は簡単です。あの戦いでたった一人、私だけ逃げた。ハノイの騎士は全部のAIデュエリストを倒してはいなかった、ということです」
マジですか。これ帰ったらお説教……で済まないな。粛清待った無しですね。このデュエル勝たなきゃ(確信)。変に時間かけたらプレイメーカーが何するか分からない。それに、時間かけたせいで洗脳した人達の脳にもし影響が合ったら……。
「何故突然自我が芽生えたのか、私にも解りません。ただ、貴方のあの言葉がきっかけとなったのは確かです」
言葉……。あれだけで自我、え? そんな簡単にAIが自我持っちゃっていいの? ……あ、リボルバー様からメッセージが送られてきた。落ち着け私。文章が視界の端に映し出される。
「貴方を倒す、そのために私はここにいる。あの時の言葉の真実を、デュエリストの魂を完全には理解できていない。……それでも、負けられないデュエルは分かる」
メッセージに目を通しつつも話はちゃんと聞いてます。私に対しての抑止力、それがこのAIデュエリスト。まあ、私一人で原作を変えるなんて事、そう上手くいかないだろうとは思ってたよ。
「私とデュエルしなさい、ヴァンガード!」
「自分の不始末は自分で片付ける! いいよ、そのデュエル受けてあげる!」
二つのデュエルボードがデータストームに乗って現れる。飛び乗るヴァンガードとAIデュエリスト。
「「スピードデュエル!」」
ヴァンガード
LP 4000
AIデュエリスト
LP 4000
「先行は私が貰う! 私は手札からトレード・インを発動、レベル8のモンスターを1体捨てて2枚ドロー!」
引きは悪くない。
「最初から飛ばしていくよ! 相手フィールドにモンスターが存在しない時、手札からハック・ワームを特殊召喚! そしてジャック・ワイバーンを通常召喚。ジャック・ワイバーンの効果発動!」
《ジャック・ワイバーン》
効果モンスター
星4/闇属性/機械族/攻1800/守 0
このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分フィールドの機械族モンスター1体とこのカードを除外し、
自分の墓地の闇属性モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを特殊召喚する。
「ハック・ワームとジャック・ワイバーンを除外。墓地から蘇れ、デスペラード・リボルバー・ドラゴン!」
《デスペラード・リボルバー・ドラゴン》
効果モンスター
星8/闇属性/機械族/攻2800/守2200
(1):自分フィールドの機械族・闇属性モンスターが戦闘・効果で破壊された場合に発動できる。
このカードを手札から特殊召喚する。
(2):1ターンに1度、自分・相手のバトルフェイズに発動できる。
コイントスを3回行う。
表が出た数までフィールドの表側表示モンスターを選んで破壊する。
3回とも表だった場合、さらに自分はデッキから1枚ドローする。
この効果を発動するターン、このカードは攻撃できない。
(3):このカードが墓地へ送られた場合に発動できる。
コイントスを行う効果を持つレベル7以下のモンスター1体をデッキから手札に加える。
「私はカードを1枚セットしてターンエンド」
私を倒すためのデッキ。きっとテンタクラスターから変えているとは思うけど……。
「私のターン、ドロー! 私はサイバー・ドラゴン・コアを召喚」
《サイバー・ドラゴン・コア》
効果モンスター
星2/光属性/機械族/攻 400/守1500
このカードが召喚に成功した時、
デッキから「サイバー」または「サイバネティック」と名のついた
魔法・罠カード1枚を手札に加える。
また、相手フィールド上にモンスターが存在し、
自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、
墓地のこのカードを除外して発動できる。
デッキから「サイバー・ドラゴン」と名のついたモンスター1体を特殊召喚する。
「サイバー・ドラゴン・コア」の効果は1ターンに1度しか使用できない。
このカードのカード名は、フィールド上・墓地に存在する限り「サイバー・ドラゴン」として扱う。
「効果でサイバー・リペア・プラントを手札に加える。機械複製術を発動! サイバー・ドラゴン・コアはフィールド上にある限り、サイバー・ドラゴンとして扱う。よって、サイバー・ドラゴン2体を特殊召喚」
フィールドのサイバー・ドラゴン・コアの上に被さるように、サイバー・ドラゴンのホログラムがかかる。
「手札から融合を発動! サイバー・ドラゴン2体とサイバー・ドラゴン・コアで融合召喚! 現れよ、サイバー・エンド・ドラゴン!」
《サイバー・エンド・ドラゴン》
融合・効果モンスター
星10/光属性/機械族/攻4000/守2800
「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」
このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。
(1):このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、
その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。
サイバー流の切り札、サイバー・エンド・ドラゴン。後攻1ターン目で出してくるとはね。AIデュエリストはかなりの実力を持っているのは間違いない。私が原作知識使ってアレしたせいで世間では強く見られてないけど。
「バトル! サイバー・エンド・ドラゴンでデスペラード・リボルバー・ドラゴンに攻撃!」
「そうはさせない、デスペラード・リボルバー・ドラゴンの効果発動! 運命のロシアンルーレット!」
シリンダーが回転し、止まる。デスペラード・リボルバー・ドラゴンのトリガーが引かれ、サイバー・エンド・ドラゴンは……無傷。
「……なっ、全部空砲!?」
まじですかー!?
「エターナル・エヴォリューション・バースト!」
「まだだ! トラップオープン、メタバース! デッキからフィールド魔法、
《
フィールド魔法
(1):このカードがフィールドゾーンに存在する限り、
自分の機械族・闇属性モンスターは、それぞれ1ターンに1度だけ戦闘では破壊されず、
その戦闘で自分が戦闘ダメージを受けた場合、その数値分だけ攻撃力がアップする。
(2):1ターンに1度、自分フィールドの元々の種族・属性が機械族・闇属性のモンスターが、
戦闘または自身の効果でフィールドのカードを破壊した場合に発動できる。
手札から機械族・闇属性モンスター1体を特殊召喚する。
「この効果で、デスペラード・リボルバー・ドラゴンは戦闘で破壊されない!」
「ですがダメージは受ける!」
「ぐぅっ……」
強力なエネルギーがデスペラード・リボルバー・ドラゴンにぶつかる。爆風。衝撃が私を襲う。ガクン、と大きく体勢を崩した。が、地面に落下とまではいかなかった。
ヴァンガード
LP 4000→2800
「そして、受けた戦闘ダメージの分だけ、デスペラード・リボルバー・ドラゴンの攻撃力は上昇する」
デスペラード・リボルバー・ドラゴン
攻2800→4000
「ターンエンドです」
サイバー流。リスペクトの精神を掲げるデュエリストの流派の一つ。デュエリストの魂を知る、その為に変えたデッキなんだろうけど、いやー私のデッキに刺さる刺さる。機械族メインのデッキの天敵といえる存在。
「私のターン、ドロー! おろかな副葬を発動、デッキの
墓地から発動系は基本知られていないから、こっそりと落としておく。
「バトル! デスペラード・リボルバー・ドラゴンでサイバー・エンド・ドラゴンに攻撃。デスペラード・ショット!」
「攻撃力は同じ、相打ち狙い……いや、違う!」
「
サイバー・エンド・ドラゴン破壊! 打点4000の貫通持ちは恐ろしいけど、いなくなったならこっちのもの。
「
《A・O・Jコズミック・クローザー》
効果モンスター
星8/闇属性/機械族/攻2400/守1200
相手フィールド上に、光属性モンスターを含む2体以上のモンスターが存在する場合、
このカードは手札から特殊召喚できる。
「まだ私のバトルフェイズは終了していない! A・O・Jコズミック・クローザーでダイレクトアタック!」
「ぐあああぁぁぁーっ!」
AIデュエリスト
LP 4000→1600
これだけのダメージを受けてただで済むはずがない。それに墓地には
「……これで終わりですか、貴方らしくもない」
「……いきなり何? AIでも強がりってできるんだね」
らしくない、か。それは私が一番分かってる。いつもと比べてデッキの回りが遅い。手札の補充が全くできていない。
「ハノイに関係ない一般人を巻き込みプレイメーカーを襲わせ、私とのデュエルで使うカードはその場しのぎだけ。あの時のデュエリストは何処へ行ったのですか?」
「知ったような口して、さっさとサレンダーしたらどう?」
……それ以上、言わないでくれという思いを隠して。
「何故子供だけを逃がしたのか、私にはわかります。……貴方はデュエリストとしての自分と、ハノイの騎士としての自分の間で揺らいでいる。悪役の演技はもう十分です。これ以上私を失望させないでほしい」
……ああ、やっぱり、私は悪にはなりきれない。AIにもばれてしまうほどに。つい、そこまでしなくても、と思ってしまう。自分で言い出したくせに、やり遂げることもできない。他人の運命は私には重すぎた。
「私のターン、ドロー。……もう終わらせましょう。相手フィールドにのみモンスターが存在するとき、手札からサイバー・ドラゴンを特殊召喚できる」
っ! サイバー・ドラゴン。握っていたのか! この状況、すごくまずい。アレが来る!
「手札から魔法カード、サイバー・リペア・プラント発動。デッキからプロト・サイバー・ドラゴンを手札に加え、墓地のサイバー・ドラゴン・コアをデッキに戻す。プロト・サイバー・ドラゴンを通常召喚」
《サイバー・リペア・プラント》
通常魔法
自分の墓地に「サイバー・ドラゴン」が存在する場合、
以下の効果から1つを選択して発動できる。
自分の墓地に「サイバー・ドラゴン」が3体以上存在する場合、両方を選択できる。
「サイバー・リペア・プラント」は1ターンに1枚しか発動できない。
●デッキから機械族・光属性モンスター1体を手札に加える。
●自分の墓地の機械族・光属性モンスター1体を選択してデッキに戻す。
フィールドに機械族のモンスターが4体、来るか!?
「私のフィールドのサイバー・ドラゴンとプロト・サイバー・ドラゴン、貴方のデスペラード・リボルバー・ドラゴン、A・O・Jコズミック・クローザーを墓地へ送る。顕現せよ、キメラテック・フォートレス・ドラゴン!」
《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》
融合・効果モンスター
星8/闇属性/機械族/攻 0/守 0
「サイバー・ドラゴン」+機械族モンスター1体以上
自分・相手フィールドの上記カードを墓地へ送った場合のみ、
エクストラデッキから特殊召喚できる(「融合」は必要としない)。
このカードは融合素材にできない。
(1):このカードの元々の攻撃力は、このカードの融合素材としたモンスターの数×1000になる。
「融合素材となったモンスターは4体。よって、キメラテック・フォートレス・ドラゴンの攻撃力は4000!」
私のモンスター達がいなくなり、そこにあるのは機光龍の進化体。
「これでとどめです、バトル! キメラテック・フォートレス・ドラゴンでダイレクトアタック エヴォリューション・レザルト・アーティレリー!」
目を閉じる。未熟なのは私の方だった、か……。
――まぶたの裏に映るのは、今もなお目を覚まさないゲノム。彼は自分の意思を貫き、そして敗れた。私はここで何もできないで終わっていいのか? 迷いを捨てなければ勝てない。
「あー、もうっ!」
ぱん、と手を叩く。地上の洗脳兵士達の洗脳を解いた。これで重荷は無くなった!
「スキル発動! 鉄心の決意!」
胸に手を当てて、スキル発動の宣言をする。
「相手モンスターの直接攻撃宣言時に発動、その攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了させる。その後、私の墓地から機械族モンスターを可能な限り特殊召喚! ただし、このスキルで召喚したモンスターの攻撃力、守備力は0となり、効果も無効となる!」
墓地へと繋がる穴、そこからぼろぼろの姿で現れる機械達。
「再び立ち上がれ、デスペラード・リボルバー・ドラゴン、A・O・Jコズミック・クローザー!」
何もできないけれど、何かができる。これが私だ。
「一度にいろんな事起きて頭の中ぐちゃぐちゃだよ、もう。決めた、私の敵は貴方だけ。余計な事はしない、全力で君を倒す」
「それでこそ、私が目標とするデュエリスト、ヴァンガード。私はターンエンドです」
地上にいる人達全員が私達のデュエルを見ている。戸惑いを隠せないプレイメーカー。こっちが本気の、デュエリストとしての私だ。
「私のターン、ドロー! 見せてあげる、私のとっておきの1つを!」
「この状況を覆す一手、見せてもらいましょう!」
ば、と手を上に上げる。
「私は、レベル8のデスペラード・リボルバー・ドラゴンとA・O・Jコズミック・クローザーでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚!」
空中に現れた渦へと飛び込む2体の機械。
「来たれ、神竜騎士フェルグラント!」
《神竜騎士フェルグラント》
エクシーズ・効果モンスター
ランク8/光属性/戦士族/攻2800/守1800
レベル8モンスター×2
(1):1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除き、
フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。
このターン、対象のモンスターは効果が無効になり、
このカード以外の効果を受けない。
この効果は相手ターンでも発動できる。
「モンスターエクシーズ……!?」
「リンクモンスターだけが切り札じゃないってこと。神竜騎士フェルグラントの効果! オーバーレイユニットを1つ使い、フィールドの表側表示モンスターの効果を無効にする。当然、対象はキメラテック・フォートレス・ドラゴン!」
「キメラテック・フォートレス・ドラゴンの攻撃力は効果によるもの、効果が無効になるということは……!」
キメラテック・フォートレス・ドラゴン
攻4000→0
「バトル! フェルグラントでキメラテック・フォートレス・ドラゴンを攻撃!」
「ぐあああぁーっ!!」
AIデュエリスト
LP 1600→0
「損傷80%オーバー、デュエル続行不可と判断、撤退します。……次こそ、私が勝つ。ヴァンガード」
「待ってるよ、立派なデュエリストさん」
あの言葉が無かったら、私はこうすると決意しなかった。AIが敵に塩を送った? いいえ、デュエリストとして戦いたかっただけでしょう。彼はリスペクトの精神を貫いた。
「待て、ヴァンガード!」
あ、プレイメーカー。悪いけど今日はここまで。
「今度あったら正々堂々と勝負。こんなややこしい事はしないで一騎打ちといきましょうか、プレイメーカー!」
ヴァンガードはそう言うと、そのまま消えていった。
〜ここから漫才フェイズ〜
「誠に申し訳ございません」
「気にするな、敵の一人を倒せただけでも十分だ。今日は奴の風が吹いていただけのこと。……やはり、プレイメーカーは私が倒すべき相手のようだな」
「ですが、私のせいで第二のイグニスが誕生していたとは……ここはセップクでオワビをせねば」
「!? その刃物をどこから取り出した!?」
「おやめ下さいヴァンガード様ー!?」
わやわやともみくちゃにされるヴァンガード。刃物は取り上げられました。
「イグニスも我らが生み出したもの。……まて、となると奴から見て貴様は母に……?」(呟き)
「ごふっ」(吐血)
「AI死すべし慈悲はない」
*ヒャッハノイ達は決意を抱いた。
何もできない(攻撃力と守備力0、効果無効)けど、何かができる(エクシーズの素材)。
クラッキングが来なかったのも勝手に心理フェイズがガタガタだったからです。
「悪いこと似合わないぞごすずん!」
リボルバー様からのメッセージでは、洗脳解いてもいいから無事に帰ってこい的な事書いてありました。もし何かあったらヒャッハノイ達が暴走するからね。そんなこともあって、ヴァンガードがもし負けてもアナザーにはしません。ヒャッハノイ全員反旗を翻したらどえらいことなので。
転生者だから、ハノイの騎士にいるからといって、いきなり悪役にはなれません。良くも悪くも常識を持っているからこその苦悩。ハノイの騎士のヴァンガードとデュエリストのヴァンガードは別物だ、的なのを表現したかった……。
漫才フェイズ 出演者
・ヴァンガード
・リボルバー様
・ヒャッハノイ
でお送りしました。
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あれからのリンクヴレインズ
woffメリメロが楽しい……fgoのクリスマスイベ周回しないといけないのに……。
勝手に作戦パーにしたのに処分が減給とデュエル禁止とかで済んだの奇跡だと思う。まあ洗脳ウイルスはバイラ様に回収されましたけど。結論、悪い事私には合わない。ハノイの騎士のくせに今更何言ってんだ感強いけど、あれだ、自分としては雇われデュエリストぐらいがちょうど良かった。
処分受けている中、アジト内うろうろするのもあれなんで部屋にこもってます。
「……もふもふ」
レスキュー系アニマルで周りを囲み、レスキューラビットに顔を埋める。理想のもふもふがこの手の中に。効果は鬼畜だけど可愛いに勝るものなし。クリファで人知れず活躍していたレスキュー達は強制ログアウト用に開発したプログラム。子供に警戒されることなく強制ログアウトさせるためのものです。信じられるか? これ、ハノイの騎士が作ったんだぜ……?
「機械族デッキじゃ、やっぱサイバー流はきっついなー」
フォートレスはフェルグラントで処理出来たから良かったけど、手の一つがバレたのが痛い。他のランク8にはエネアード、融合でワイアーム。リンクはゲニウス入れてるけど正直使わない。
……マスターデュエル用のあのデッキ、引っ張り出すべきだよな。あれならフォートレス刺さらないし、単純に強い。多分、次戦う時はマスタールールだろう。
足の上にレスキューキャットを乗せてデッキを弄りながらふと思った。
「あの変態達は命令ちゃんと聞いているのだろうか……」
ヒャッハノイ達への命令権限も現在ごっそり無くなったので、今彼らはバイラ様やファウスト様の命令で動いている。……絶対ろくなことにならないと思うんですが。
前代未聞の洗脳ウイルスによる事件は世間に大きく報道された。事件現場はSOLテクノロジーによって封鎖、洗脳の被害にあった人に対して無償の精密検査を実施。ヴァンガードとデュエルしたAIデュエリストは、精巧に作られたアバターだろうという説がほとんどだった。自我を持ったAI、その事を信じる人はごく一部を除いて存在しなかった。
洗脳騒動から、リンクヴレインズは荒れていた。あちこちでハノイの騎士が現れ、無差別にデュエルを挑む。負けたものはアナザーとなり、現実世界で眼を覚ますことはなかった。
「俺達の萌えを、癒しを奪い取ったあいつらを決して許しはしない!」
「誰彼構わず八つ当たりだ!」
「こんなんじゃ……満足出来ねえぜ……」
「エルシャドール・ネフィリムを返せぇぇ!」
リンクヴレインズは……荒れていた……。
「……どうする遊作?」
「……パスだ、あいつらがハノイの騎士のはずが」
「あるよ! ありありだよ!」
ハノイの騎士にここまで関わりたくないと思ったのは初めてだ。ヴァンガードのせいで奴が本当に悪なのか迷いが出ているのに、追い討ちをかけるようにこんな光景を見させられたら誰だって逃げたくなる。
「ヴァンガードはまた姿を見せなくなった。……ヴァンガードの言葉から察するに、上がまだいる。除去プログラムはその二人が持っているとみていい」
「バイラとファウスト、だったか。恐らくその二人が、アナザー事件の首謀者」
暴れるハノイの騎士達に向かい、新たなデュエリストがデュエルボードに乗って現れる。
「どちらがヴァンガード様をより慕っているかデュエルで決めようか!」
どうやら同類だったらしい。
「貴様ごときが我々に敵うと思うな!」
「ふ、このデッキを見てもまだそう言えるのか?」
ぴ、と一枚カードをドローし見せつける。
「……な、それは……!」
「ヴァンガード様お手製、洗脳兵士用配布デッキ!? なぜお前が!?」
「ふっ、俺はあの時クリファにいた。そして洗脳されたのだよ!」
「胸張って言うことじゃねえよなそれ」
Aiの正論。
「洗脳が解けた時、このデッキが新たに追加されていた。これはヴァンガード様からの啓示、ハノイの騎士になれというな!」
「馬鹿な……ヴァンガード様がそんな事をするはずが……!」
「我々では駄目なのですか、ヴァンガード様ー!?」
不安定なデュエルボードの上で器用に落ち込んだり天を仰ぐハノイの騎士。その様子を画面越しに見るバイラとファウスト。
「……これは」
「ああ、人事が忙しくなっていたのはそういう訳だったか……」
洗脳兵士を使った作戦は失敗した。洗脳を解除した後デッキを回収し忘れていたのは問題だが、そのデッキを持った人間がハノイの騎士の傘下に入るのならまだ大丈夫と言えるのではなかろうか。ヴァンガードが作成したデッキはどれも戦力となるものばかりだ。
「……処分をどうするべきだろうか」
今回のヴァンガードの作戦はプラスとマイナス、どちらも引き起こす結果となった。二人とも曖昧な表情で沈黙していた。
「……そうだ」
小さめのアポクリフォート・キラーを召喚し、その脚にハンモックを引っ掛ける。
「よいせっ」
ハンモックに乗っかって座る。じゃーん、エルシャドール・シェキナーガごっこ。ポーズも決めっ。前からやってみたかったんですよこれ。さあ、進むのだアポクリフォート・キラー!
がっしょん、がっしょん、がっしょん。
「ゆ、ゆゆゆ、揺れ、うわばば、酔う、酔うー!」
ストーップ! 振動が直に来てやばい。しかもこの体勢、捕まるところがないから安定しない。
「ひどい目にあった……」
しかもちょっと酔った。カードをデッキに戻す。これはレスキューアニマル達で癒されるしかないな!
その場面を偶然見てしまったネフィリム返してヒャッハノイ。
「ヴァンガード様はネフィリムだった……?」
ヒャッハノイの間でこの動画と写真が拡散、シャドール使いが増えたとか増えなかったとか。
今日もハノイの騎士は平和です(ゲノム除く)
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先導者の放課後
今気づいた。もしかしてこの主人公、晃さんと絡む機会無い……?葵ちゃんのお家訪問とか無理ゲーじゃね?
そういやティンダングル新規確定でしょ、今アニメでブルーエンジェルスペクターとデュエルしてるでしょ?……あっ。真面目にどうやって絡ませるべきか、うーん。
蛍のような光がデータストームに乗って飛んでいく。
「今日こそお願いね、蛍ちゃん達」
それから数秒後に反応がロストした。それを確認した瞬間何かがこちらに向かってやって来た。爛々と目を赤く染めたクラッキング・ドラゴンーーのミニチュア。だが見た目で油断してはいけない。
「あー、もうっ」
ログアウトし電源を切り、ネットとの繋がりを一時的に遮断する。こうする事でしかあのプログラムからは逃れられない。ハノイの騎士はなんとまあ恐ろしい物を作ってくれたのだろう。あのプログラムのせいで何人もの同業者が廃業に追い込まれている。競争相手がいなくなるのは喜ばしい事だが、自分もそうなってしまうのは御免被る。
「本当、どこ行ったのかしら」
ヴァンガードはハノイの騎士において異色な存在だ。もし説得ができたなら、情報を渡してくれる可能性が高い。
「やっぱり、あのAIを探した方が早いか……」
ヴァンガードはあのAIデュエリストを敵として認めている。あれをダシに使えば簡単におびき寄せられるだろう。AIデュエリストも、彼女と戦うことを望んでいるはずだ。
「でも、どっちもそう簡単に見つかったらここまで疲れてないわよねぇ」
ぱたりと姿を消したヴァンガードとAIデュエリスト。ネットでは粛清されたのでは、などといった説もあったが、少々頭が心配なハノイの騎士達の言葉からするとヴァンガードはまだハノイの騎士にいる。
今日もそれといった進展はなく、ゴーストガールの仕事は終わるのだった。
口を精一杯開けてホットドッグを頬張る。ケチャップが口の端についたがいちいち気にしていては食べられない。
「久々のジャンクフードー、あむ」
現在パブリックビューイングの広場にあるカフェ・ナギにいますいえーい。敵の本拠地やでいえーい。頭の上にウォーターソーセージ使ったドッグ積んでくれないだろうか、なんて。
とん、と私の前にコップが置かれる。
「あの、私ホットドッグしか頼んでないんですけど」
「遊作の友達だろ? サービスだよサービス」
草薙さん、コーヒーオマケしてくれました。ありがとうございます。
「ミルクと砂糖はどうする?」
「ん、ブラックで大丈夫ですよ」
それを聞いた遊作君が目を少しだけ大きくする。
「意外だな、てっきり使うのかと」
「慣れちゃったんだよね、ブラックで飲むの」
ああ、思い出すわ前世の文化祭。部の出し物はカフェだったんですよね。コーヒーと半トースト、クッキーを売ってまあまあ形にはなってた。一番の誤算はコーヒー豆を三種類用意したこと。
なんでコーヒー豆三種類あるのにコーヒーを置いておくポット二つしかなかった? コーヒーって違う豆を混ぜたら味が変になるんですよね。おばさま三人コースで来られたら絶対飲み比べするから、地獄見るのわかってたでしょうがー!
「そういえば、今上って何のデッキ使ってるんだ?」
ホットドッグ食べ終わってナプキンで口元を拭く。やっぱデュエリストとしては気になるよねそこ。
「んー、機械族全般、かな? 有名なのだと
クロノス先生は理想のデュエリストの一人なノーネ! 《競闘-クロス・ディメンション》とか初めて見たときの興奮、わかってほしいなー。あのイラスト見て反応しないOCG民はいない。あの時と一緒だな、を言う機会はこの世界では多分ないけど。
「プレイメーカーについてはどう思ってるんだ?」
自分で聞く? 斬新なエゴサですね。
「うーん……爬虫類的かっこよさがあると思います」
予想外でしょう、この返答は。デュエルについて聞いたら容姿について帰ってきたでござるの巻。
「爬虫類……」
「アイラインとかそれっぽくない? ぴったりしたスーツの質感とかまさに爬虫類。……話は変わるけど、実は女子って顔だけじゃなくて体も見てるからねー。モテたいなら運動部入った方がいいんじゃない?」
にやにやー、こう話が展開するとは思わなかっただろー。
「!? そういうつもりで一緒に来たんじゃ」
「確かに、少しは運動した方がいいんじゃないか遊作?」
「草薙さん……」
ずっと座ってパソコンいじるのは不健康ですよね。
「純粋に親切でここまで一緒に来てくれたのはわかってるよ。でも水泳の時とか皆筋肉の品定めしてるからねー、注意した方がいいよー」
「……そうか」
……もしかして凹んでる? 知らなくていい女子の世界。男子からしたらえっ、てなるものばかりです。葵ちゃんは多分こんなことしないだろうけど。多分じゃない、皆の憧れブルーエンジェルはそんなことしない!
「ご馳走様でした、また来ますねー」
その後もたわいない話を続けた。キリのいいところで話を切り上げて帰る。こつん、こつんと松葉杖をつきながら歩く。その後ろ姿が見えなくなるまで見送る。デュエルディスクからAiの声が聞こえた。
「お得意様増えたよ、やったネ草薙ちゃん! ……最近全然店開けてないけどな」
「そう言うなってAi。ちゃんと遊作が連絡くれたから店開けたんだぞ? それで、あれが隣の席の今上ちゃんか。思ってたより小さいな、本当に同級生か?」
「だから一緒に来たんだ。それに制服同じだっただろ?」
「それは分かってるさ。しかし爬虫類ね……視点がすごいな」
「同感ー。俺的にあの子、なかなかの隠れオタクと見た。だから遊作と気が合うんじゃね? プレイメーカー様は夜な夜なハノイを追っかけるハノイオタ、うぉお!?」
デュエルディスクを強めに握りしめる。
「黙れ」
「……へーい」
「どぉーいうことだーっ!! ええい、即刻ヴァンガードとあのAIデュエリストを見つけなければ全員クビだーっ!!」
私の昇進を潰し、馬鹿にしてくれた憎っくきヴァンガードを許しはしない。あの時現れた自我がなんだとか言っていたあの生き残りを捕まえれば昇進のチャンスがあるはずだ。いつの間に逃げ出していたのかは知らんが、ハノイの騎士を倒せる一歩手前までいったAI。量産すれば私の昇進間違いなし!
「AIは道具だ、魂などいらん! 確実に相手を倒せればそれでいいのだぁ!」
自分に言い聞かせるにしては音量が大きすぎる声で話しながらうろうろする北村部長。
「また部長のいつものが始まったよ……」
「そこぉ! 真面目に仕事しているのか!」
「はっ、はい!」
北村の地獄耳からは逃げられなかった。給料カットは覚悟するべきだろう。
「待っていろよ、ヴァンガードォ!!」
ヴァンガードは北村さん特攻持ち、これは間違いない。
あと、何で変な話の転換したかというと、うっかりヴァンガード分でちゃうことを恐れたからです。
「どうか復讐に囚われないでほしい。私もハノイの騎士じゃなくて、一人のデュエリストとして君と戦いたいから」
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幹部の思案
やっぱりいつもの遊戯王だった。年末落下はホーリーエンジェルの闇堕ちでしたねー。
「これで大丈夫、かな」
久々に引っ張り出したデッキ。スピードデュエルで使わなかったのはいくつか理由があるけど、一つはスキルとの相性が良くないから。私のスキルは墓地の機械族を蘇生させるからね。このモンスター達のほとんどは基本、フィールドを離れるとEXデッキに行くから。デュエル禁止令は解けているので誰かに調整お願いしようかな、と部屋を出る。
「随分と楽しそうですね、ヴァンガード」
「……スペクター様? どうしてここにぇ」
部屋を出てすぐにスペクター様がいたと思ったら、いきなりほっぺをむにっとされて言葉がおかしくなった。
「何、貴方の処分が軽減されたことを伝えに来ただけです」
だけ、とは? じゃあこの手は何なんでしょうか。趣味です?
「あの洗脳未遂からハノイではなくヴァンガードの名を求めてやって来たクズが増えましてね、その増えた分のまとめ役になってもらおうかと」
「? ……増え?」
「貴方、洗脳解除してからデッキ回収してませんでしたよね」
「………………」
あ。
「忘れてた、といった顔ですね」
呆れられてる。うん、こんな事されてても仕方ないわ。ミスしてばっかりだし。あれ、そうだったら処分重くならない?
「他人のデッキでやっと戦えるようになったクズがそっくりそのままハノイの戦力になってるんですよ、今」
それって、ずっと自分が使っていたデッキから、私が作ったデッキに乗り換えた人が多くいたってことですよね。うーん、ハノイの騎士としては戦力が増えて良しだろうけど、デュエリストとしては複雑だー。
簡単にデッキぽんぽん変える人いるっちゃいるけど、それはより強くなりたい、とかこのカードを使ってみたいとかいった理由がある。でも今回は違う。いきなりもらったデッキ、回し方もいつのまにか頭の中にあった。……普通怖くない? デッキは複製カードで構成された物、がっつり違法です。ちょっと調べたらわかるだろうに。それを使い続けることを選んだ、それがデュエリストとしていいことだろうか? エラー出ないようにしてあるとはいえ、ね。
「まあクズには期待していませんがね」
「デスヨネー」
それでこそスペクター様です。私も彼らがプレイメーカーに勝てるとは思っていない。あの洗脳兵士はプレイメーカーを消耗させることを目的としていた。負けることが仕事だった。あれからカード入れ替えてデッキを調整していたら別だけど、もらったものを何の疑いもなくそのまま使い続けるデュエリストが勝てるとは思わない。
「そして、前回の失敗をリボルバー様が許してくださったから貴方はまだハノイの騎士にいられる。……ハノイの騎士の名に泥を塗ったこと、お忘れなきように」
「しょれはわかってまふフへクター様」
なされるがままに頬をいじられているヴァンガード。
「しかし無駄に伸びる頬ですね」
みょーん、と横に引っ張られる。
「やめてくらふぁいフへクター様」
地味に痛いです。私が抵抗しないからって楽しんでますよねスペクター様。笑った、今笑いましたよね!
「そういえば貴方、何をするつもりだったんですか」
やっと離してくれた。
「ちょっと誰かにデッキ調整に付き合ってもらおうかな、と」
「ああ、それが例のデッキですか」
私がスピードデュエルとマスタールールとでデッキを使い分けていることは最近ハノイの間で知られました。具体的にいつかと言うと、アポクリフォート・キラーで遊んでいたところから広まりました。
「ペンデュラム……まさか使う人がいるとは。正直驚いてますよ」
「私も、私以外にペンデュラム使う人見たことないですから。フィールドから離れてエクストラデッキに行ったら、エクストラモンスターゾーンかリンクマーカーの先に召喚するしかないのが一番痛いですし。リンク召喚するためにペンデュラム召喚をしないといけない、ペンデュラム召喚するためにリンク召喚をしないといけない。ジレンマですね。……まあ無理にペンデュラム召喚しなくてもいいんですけどね、このデッキ」
リリース素材さえ確保できればいいし、フィールド魔法で召喚権を増やせる。それに、あのモンスターを出して対処できるデュエリストは今までいなかった。皆何もできずに倒れていった。
「スピードデュエルで使っていたデッキはハノイの騎士になってから構築したもの。ヴァンガード、貴方の本気……期待してますよ」
口の端を上げて笑うスペクター。ヴァンガードはリボルバー様が直々に引き入れたデュエリスト。金で引き入れた当初は正直期待していなかった。他の有象無象と同じく、好き勝手した後直ぐに消えるものと思っていた。その予想は良い方向に裏切られた。命令に忠実、ハノイの騎士の為に活動し、今や有象無象をまとめ上げる象徴となった。ハノイの騎士が何を目的として作られた組織なのかも知らないのに。
彼女がハノイの騎士から離れることはないだろう。彼女は優しい。それは長所でもあり短所でもある。それに、自分がハノイの騎士を辞めた後部下がどうなるか、それが想像できないほど馬鹿でもない。
ハノイの騎士になるための腕試しをする必要はない。彼女は既にハノイの騎士になくてはならない存在となった。
ハノイの騎士はヴァンガードを信頼している。優しい貴方は、それを理解している。期待には応えなければいけない、それが当然だと心の底で思っている。
「ご期待に添えるよう、精一杯頑張らせていただきます」
ほらね、と心の中でスペクターが思っていることにヴァンガードは気付いているのかいないのか。それでは、と言ってスペクターはその場を離れた。
バイラは悩んでいた。このまま作戦を決行してもいいのか、もしこの作戦が成功すれば、リボルバーは大犯罪者として歴史に名を残す。あの洗脳未遂の後、ヴァンガードは言っていた。
「マイナスはマイナスなんですよ。他の良いことをしたからってプラスにはならない、そう見せかけているだけ。……私の失敗はずっと私が背負うものです」
彼女は優しい。それなりの地位となった、ならばその地位に見合う活動をしなければならない。そう考えて洗脳ウイルスを作らせ、それを使用した。その結果、ハノイの騎士とデュエリストとの間で揺れ動き、苦悩し、自分で洗脳を解除した。罪の意識を自分だけ背負って。
リボルバーもそうなるのだろうか。ハノイの騎士のリーダーとして、ずっと責任を背負うのだろうか。ヴァンガードはあの時苦しんでいた。あの子も苦しみ続けるのだろうか。誰にも打ち明けず、たった一人で。
「プレイメーカーは私が倒す」
イグニスさえ手に入ればそれで終わる。これ以上彼らに背負わせる必要は無い。そう結論を出し、バイラはリンクヴレインズへと足を踏み出した。
スペクターのキャラ掴めない……アニメの情報が濃すぎる。心理フェイズ上手そうな感じ出たかな?そしてあの次回予告、あれスペクターの事では?
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先導者の勇気語り
教室には私達三人だけ。帰る準備終わったところを見計らって島君が切り出した。
「なぁ、このままただ傍観してるだけでいいと思うか!? プレイメーカーやブルーエンジェルはハノイの騎士と戦ってる!」
「それが?」
君の目の前にいるのがプレイメーカーです。その隣にいるのがハノイの騎士です。デュエル部にはブルーエンジェルもいます。やだ、この学校有名人多すぎ……?
「今デュエル部は休部状態だけど、ここはデュエリストとして俺達も……」
「やめた方が良い」
「んー、今は無理しなくてもよくない?」
というか、二人とも絶対に参加できません。正体がアレですから。
「何でだ!?」
「理由は三つある」
指を立てながら冷静に説明する遊作君。どれも図星だったのか、反論の言葉からは焦りが見えた。
「なっ!? 俺が怖がってるだと? 今上はどう思ってるんだ!?」
「みーとぅー、かな。ハノイの騎士との戦いにデュエリスト一人増えても大して状況は好転しない。それに、島君みたいな人ネットに一杯いるし、結果出せてるのは一握り。もしかしたら人質になって利用されるかもしれない。……プレイメーカーに迷惑かけたくないでしょ?」
こう言った方が島君には効く。憧れの人にみっともない姿は見せたくないからね。島君は予想通り言葉に詰まった。
「それと遊作君、その言い方煽ってるように聞こえたよ」
「そうだったか?」
「無自覚かー」
言い方変えればよかったけどなー。本心を人にずかずか言われるのきっついよ?
「っ、相談する相手を間違えた!」
「あ、ちょっ……」
手を伸ばしても止められず、島君は教室を出て行った。
「……絶対無茶するよね、あれ」
「だろうな」
誰もいない部室に一人、島直樹はうずくまっていた。
「今上がいれば百人力だったのに……」
はあ、と溜息をつく。彼女――今上詩織は数々の大会で結果を出しデュエル部の期待を背負っている。対して自分はどうだろか? 熱さと意気込みだけ、形や格好ばっか。リンクヴレインズにログインしたことが一度も無い。今まで機会は何度もあったというのに。
「いざとなると……」
二人の言う通りやめておこうか、そう思った最中勝手にダウンロードが開始される。何だ何だ、と止める間は無くダウンロードされたのはサイバース・ウィザード。何故このカードがダウンロードされたのか。それを自分がプレイメーカーに選ばれた男だと勘違いした彼は、その後押しを受けログインした。
ヴェルズ使いの部下から連絡が入る。なんでも自称プレイメーカーに認められたデュエリストがいるとか。
「サイバース・ウィザードを持ったロンリーブレイブ……」
ワー、イッタイダレナンダロウナー。
「……とにかく、今ファウスト様が正体調べてるから何とか時間稼いで! デッキ回して!」
えっ、とか言ってた気がするけど気にしない。頑張れ、きっと君ならできるさ。
「時間足りなかったら私も後で行くから、頑張って!」
遊戯王史に残るぐだぐだデュエル。どっちの手札も知っている身からするとあの命令は凄く気まずい。あ、あれグレズ様呼ばずにインヴェルズ・オリジンで良かったんじゃとか言っちゃダメよ? グレズ様にはロマンが詰まっているのさ……。
「マックス!」
「マックス!」
彼は助け出した人々に取り囲まれていた。今ここに受け継がれる万丈目サンダーの系譜。
「へー、ハノイの騎士一人倒しただけでここまで盛り上がれるんだ。それなら次は私が相手になろうかな?」
「…………え?」
歓声が一瞬で静まり返る。ぎぎぎと効果音つけてもいいぐらいの動きで、ブレイブマックスがこちらを向く。
「お久しぶり、リンクヴレインズの皆さん」
あの後からめっきり姿を見せなくなったデュエリスト。俺、参上! ……なんちゃって。
「な、あ、ヴァンガード!?」
にっこりと笑いながら、す、とデュエルディスクを掲げて近寄る。
「部下以外でこのデッキの相手になれるのは君が初めてだよ、ブレイブマックス。……君を倒したらプレイメーカーも出てくるのかな?」
まあ、遊作君達はこの映像見ているとは思うけど。
「……んー、別に逃げてもいいんだよ?」
「え、う……っ」
目に見えてわかるほどに戸惑っている。向こうは私が問答無用でデュエルしかけてくると思っていたかもしれないけど、怯える友人に手を上げるってのはさすがにね。そんな静寂を割いたのは私の着信音。
「……はい、はい。……了解です」
ファウスト様から連絡。ブレイブマックスの正体分かったから時間稼ぎ終了していいよとの事。
「残念だけど予定入っちゃった。デュエルはまた今度ってことで。それでは皆さん。ハロー、そしてグッドバイ!」
そおい、とヴァンガードが何処からともなく取り出したレスキューフェレットを上へ放り投げる。まさか投げられるとは思っていなかったのか、涙目になったフェレットが発光し、視界が光に包まれて……その場にいた全員を強制的にログアウトさせた。
「さーて、ファウスト様の所行きますかー」
ブレイブマックスを強制的にログインさせる地点の情報も来た。クラッキングに乗って移動、ビルの屋上でファウスト様の出待ち。数分して、ブレイブマックスを連れて現れた。
「あ……あんた誰なんだよ!」
「我が名はファウスト」
「そして私の上司でもあります」
空を見上げる。
「プレイメーカー、私と勝負したまえ。拒むのであれば、この男を倒しサイバースのカードはいただく」
「余ったブレイブマックスはクラッキング・ドラゴンのおやつになるかもねー。……いや、拷問ってのもアリかもしれない」
シャアア、と口を開けてブレイブマックスに寄るクラッキング・ドラゴン。彼はひっ、と息を飲んだ。じりじり後退し、後一歩で転落するところまで来てしまった。
「だ、誰か! 誰か助けてくれよ!」
ちゃんと決断待ってあげたり、ブレイブマックスの分もデュエルボードも用意するファウスト様。良い人、だよね。……五年前、本当に何をしたんだろうか。
「お前の相手は俺だ!」
「あ、来た」
データストームに乗って現れたプレイメーカー。助けを呼んだらヒーローがやって来るって、島君ヒロインかな? テンション上がった島君がわやわやしていたけど、後は任せろ、とブレイブマックスとの会話をすっぱり切ってこちらに話しかけてくる。
「お前がアナザー事件の首謀者最後の一人か? 随分手の込んだことをしてくれたな」
カードデータを盗んだのはハノイの騎士だ、と言いがかりをつけてくるプレイメーカー。
「何のことだ?」
「やったことの無い悪事を押し付けるのいくない。完全に濡れ衣ですー」
何!? と驚くプレイメーカー。そして会話に急に参加して方向転換を促すAi。……これ、絶対犯人Aiだよね。怪しすぎる。
「灯台下暗し、君が犯人だったりするんじゃない? イグニス」
「何を根拠に言ってるんだよ、ハノイの騎士の癖に。それに! 俺にはAiって立派な名前が」
「あ、そこはどうでもいい」
ちょっとでも遊作君に疑問の種を植えておきたい。ベクター的展開、主に裏切りに耐性をつけてあげないときついよね、遊戯王って。そして、原作通りデータゲイルは発動され、デュエルが始まった。二人の後ろ姿を見送る。
「……どうかご武運を、ファウスト様」
はい、ブレイブマックスとヴァンガード、二人ここに取り残されてしまいました。
「……って、もしかしてお前が俺とデュエルするのか!?」
慌てるブレイブマックス。
「いや、君とデュエルはしないよ? 本命のプレイメーカーも出てきたことだし」
「そうか、よかった……」
ほっとした表情のブレイブマックス。
「ブレイブ、なんて名前の割に臆病だねー。大丈夫?」
「ぐっ……それは、その……」
「勇気、ね……えー、こほん」
深呼吸してあのセリフを思い出す。遊戯王作品ではないけれど、あの作品も名作です。
「勇者とは勇気あるもの! そして真の勇気とは打算無きもの! 相手によって出したり引っ込めたりするのは本当の勇気じゃあないっ!」
ぽかーん、とした顔のブレイブマックス。
「ま、よーするに君に足りないのはかっとビングだね」
「? か、かっと……?」
「かっとビング、それは勇気を持って一歩踏み出す事。それはどんなピンチでも諦めない事。それはあらゆる困難にチャレンジすること」
遊馬先生ほどのカウンセリングはできないけど、友達の悩んでいる姿を放ってはおけないよね。
「かっとビング……」
「余計な事言っちゃったかな。きっとファウスト様が勝つだろうし、それじゃ私は裏技使ってログアウトしとくかー」
レスキューアニマルを全員集合させて、全部の強制ログアウトプログラムを起動させる。データゲイルの中でもこれならログアウトできるんですよね。
「バイバイ、ブレイブマックス。君がハノイの騎士に来るなら歓迎するよ?」
「な……誰がハノイの騎士なんかに!」
だよねー。ハノイの騎士はテロ組織ですから。あの変態が特例なのかなやっぱり。明日学校で会ったら人として、デュエリストとして一皮剥けているのを待ってますよ、島君。
ダイの大冒険読んだことあるJK、それがヴァンガード。
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サイバー&サイバース
……知ら管。
「ちょうどよかった遊作、これを見てくれ」
「これは……プログラム、なのか?」
ハッカー御用達のハッキングフォーラムにあるメッセージが届けられた。一度でもそのフォーラムにアクセスしたことがある人物全員に送られたそのメッセージは、差出人不明、内容もプログラムとは言えない記号の羅列。普通なら即消去するようなものだった。
「お前のリンクセンスで何かわからないかと思ってな。……その様子だと何もハノイの騎士に繋がる手掛かりは無さそうだな」
何度見返しても意味の無い塊にしか見えない。
「あいつらがこうやってメッセージを送るとは考えづらい。ハノイの騎士と関係ない別人からの嫌がらせじゃないか?」
「かもなぁ……時間とらせて悪かった。休んでてくれ」
「いいや、休んでいる暇はない」
草薙さんの隣の席に座って作業を始める。
「ハノイの騎士はファウストが倒れたのを境に姿を消した。ヴァンガードも何処かへと身を潜めている。……そして、リボルバーも。ハノイの騎士はこのまま終わる奴らじゃない。何か事を起こす前に見つけないと、あの時よりも恐ろしい事が起こるかもしれない」
リンクヴレインズを震撼させた洗脳ウイルス。ヴァンガードが事件を起こしてから他のハノイの騎士は使ってこなかったが、ずっとそうだとは限らない。一部地域でのみあのウイルスは使用されたが、もし範囲が拡大したら? プレイメーカーがリンクヴレインズのどこにログインしようと逃げ場が無い状況を作るのも時間があれば可能なはずだ。ハノイの騎士を見つけるのに手間取っていたら俺以外全員敵、という事になる可能性はゼロではない。
「そのメッセージは消去して」
くれ、と言い終わるよりも早くAiが声を上げた。
「ちょい待ち! これってもしかして、ほほう? もうちょい下にスクロールしてー、あーそこそこ。オッケー」
ふむふむ、と頷きながら一人納得がいったようだ。
「ははーん? なるほどね」
「……何か分かったのか?」
「分かるも何も、これは俺にしか分かんねえよ。AIの言葉、って言った方が人間には分かりやすいか?」
「Aiにしか分からないAIの言葉。つまり、送り主は」
「AIデュエリスト!」
このメッセージの意味を理解できるのはここにいるAiだけ、つまり。
「探してるのは俺を持ったデュエリスト。つまりプレイメーカー様ってことだな」
「何て書いてあるんだ?」
草薙さんが疑問を口にする。
「最初らへんのは時候の挨拶から始まってる、手紙のテンプレートそっくりだな」
「重要な部分だけでいい」
「AI使いが荒いったらありゃしない……場所だよ、場所。そこでプレイメーカー様と話がしたいだとさ」
「そうか」
デュエルディスクを装着して立ち上がる。
「もう行くのか!? 流石に休憩はした方が」
「ハノイの騎士の手掛かりが掴めるかもしれない。だからこそ、この機会を逃すわけにはいかない」
「……気をつけろよ遊作」
その注意に頷いて返事をし、スライド式のドアを通り部屋へ入る。
「デッキ、セット! イントゥザヴレインズ!」
リンクヴレインズにログインし、すぐに周囲を確認する。罠は仕掛けられてはいないようだ。
「……来ましたか、プレイメーカー」
ジジ、と空間にノイズが走りそこからAIデュエリストが姿を現した。
「何の用だ、AIデュエリスト」
「私は貴方と協力関係になりたい」
「それだけではない筈だ。直接会って話すことがあるからここへと俺を呼び出した、違うか?」
「……お見通し、ですか。ヴァンガードについて少々気になることがありまして、それをお伝えしようと」
そう言うとAIデュエリストは手のひらの上にデータを浮かべる。
「ヴァンガード、彼女は突然現れた。ハノイの騎士を纏め上げるカリスマ。現実世界でも彼女を慕う者は少なくない」
データを開く。今までのハノイの騎士のデュエルログと出現場所、それをグラフと地図に纏めた物だった。
「彼女が現れてから、ハノイの騎士のデュエルは強化された。……ここで疑問に思いませんか? 何故、最初から強化された状態では無かったのか、と」
「……それは」
それを考えたことは無かった。ヴァンガードはハノイの騎士の中でも浮いているとは思っていたが、それだけだ。
「そこで、私はこう考えました。彼女はハノイの騎士に最初からいた存在では無い。ごく最近ハノイの騎士に入った人の中から選ばれた存在。……恐らく、年齢もそう高くはないでしょう」
ハノイの騎士の一人、バイラのアバターは現実の姿とそう変わらなかった。ハノイの騎士である程度の権力を持つ者は、現実とほぼ同じ姿のアバターを使っている可能性がある。それに、あの時言った事件について知らないとはアナザー事件だけでなく、ロスト事件のことも含むのでは? 流石にこれは考えすぎだろうか。
……ここからは遊作の考えではなく、蛇足となる。もし現実の姿と違うアバターだったとしたらあのハノイの騎士達はそれに気付くだろう。変態はそういうことに対する嗅覚は鋭い。謎の信頼。
「それは全部考察だ、証拠はあるのか?」
「いいえ、何も。彼女の正体について深入りすると痛手を負います。何人もの電脳トレジャーハンターが廃業に追い込まれるほどの防御プログラムが常に働いている。その事もプレイメーカーに伝えておこうと思いまして」
「ヴァンガードの正体分からないんだったらやっぱり唯の考察。あのメッセージに書いといてよかったんじゃないか? やっぱり他にも理由あるんじゃないのか、AIデュエリスト?」
そうAiが尋ねるとAIデュエリストは恥ずかしそうに目を逸らした後、先ほどまでより小さな声で話しだした。
「……実際に話してみたかったのです、プレイメーカーと。……あの時、プレイメーカーをおびき出せたのだから、彼女が直接デュエルをすればそれで終わった。でもそうしなかった。人海戦術を使って消耗させようとした。ヴァンガードがそれだけ警戒するデュエリストなのか、この目で確かめたかった」
「ほーん? で、プレイメーカー様はお眼鏡にかなったワケ?」
プレイメーカーとAIデュエリスト、二人とも相手の目の光を見て確信した。確かな信念を持っている者にしかその光は出せない。AIデュエリストはハノイの騎士の一人、ヴァンガードを倒すという信念を。プレイメーカーはハノイの騎士を倒し真実を知るという信念を。
「信念を持ってハノイの騎士を追う、紛う事なきデュエリストの魂を持つ者。……今の私にはその全てが分かった訳ではありませんが」
「元がAIでも、お前はデュエリストだ。いつか必ず理解できる時が来る」
「……ありがとうございます」
こうして反応を実際に見ると、元がAIだとは信じられない。だが、人間には理解できず、Aiには理解できる言語でメッセージを送ってきたという事実がある。
「うーん、いつまでもAIデュエリストって呼ぶのもアレだよな。AIの先輩として俺が名前付けてやろうか?」
「その必要はありません。あるスレッドにて名前は決定しました」
「スレッド? どうやって?」
「安価です」
「…………安価?」
彼の口から恐らく出ないであろう、安価という言葉が出てきたことに驚くAi。
「安価で決めるのは由緒正しき事だ、と調べた結果にあったのですが……違うのですか?」
どうやらネットのふざけた紹介文を鵜呑みにしているらしい。AIなのにネットに向いていない性格とはこれいかに。
「……あー、うん。間違っちゃいないな。で、何て名前になったんだ?」
「グラドス、です。GLADOSと綴ります」
「変な名前だな。まあAiほどカッコ良くはないがな! そういやお前、あのメッセージに時間指定無かったけどいつから待ってたんだ?」
「……? メッセージを送ってからずっと、ですが」
「馬鹿だろお前」
呆れた声のAi。
「馬鹿は禁止用語です」
「あのバカッピと同レベルのデュエリストとか信用できねえよプレイメーカー様。やめといた方がいいぜ絶対」
「なら、証明すればいい」
デュエルディスクを構える両者。デュエリスト同士が相対してする事は一つしかない。
「「デュエル!」」
その日、彼ら以外は誰も知らない一戦がリンクヴレインズにて繰り広げられた。
彼らのデュエルは脳内補完でお願いします。
メガフリート日本に早く来てくれませんかねぇ……。エクストラモンスターゾーンのモンスター食って出てくるキメラテックなのでかなりVRAINS映えするんですが。
君の名は見て思いついたネタ
「確かなことが……一つだけある。私たちは、会えば絶対、すぐにわかる!」(ヴァンガードは武内さんの良き声で。リボルバー様は主人公の身長で)
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引かれた引き金、逃走は不可
ナチュルの森行こ?あそこの人達優しいよ?
いつも通りの時間に登校。いつもこの時間なら隣の席にいるはずの今上はいなかった。
「今上は?」
島に尋ねる。
「ああ、今上か? 今日病院でギプス取ってもらうから学校休むってよ」
「……そうか」
ヴァンガードの身長は今上詩織とほぼ同じ。使用モンスターは機械族。クリファについての知識。そしてブレイブマックス……島に対しての応援するかのような言葉。できれば杞憂であってほしい。もしハノイの騎士だったとしても、手を貸す理由がはっきりとしていない。それに、ヴァンガードが現れたのは今上がまだ入院している時だ。
もしハノイの騎士だったとしてどうする? 捕まえて一切合切を聞き出すか? 理由もなく突然学校に来なくなったら誰だって不思議に思う。この予想を草薙さんに伝えたらもう後戻りはできない。草薙さんに伝える前に本人に尋ねたい。
今まで見せた顔は偽りだったか? 次は正々堂々デュエルと言ったのは嘘か?
「……?」
何かを感じる。言葉にできない何かを。リンクヴレインズは平和だ。一般人のアバターが戻り、ハノイの騎士はいなくなった。なら、この胸騒ぎはなんだ?
「嵐の前の静けさ、か」
誰にも聞かれないよう呟いた。
「うわーーっ!!」
激しい爆風に体を持っていかれそうになるものの、ぎりぎり踏みとどまる。相手側のフィールドにはヴァレルロード・ドラゴン、アポクリフォート・カーネル、クリフォート・シェル。
「……ふむ、こんなものか」
相手側のモンスターでわかったと思うけど、現在リボルバー様のデッキ調整に付き合っております。
「流石です、リボルバー様。やはり私程度では敵いませんね」
ヴァレルロードにカーネル取られて、カーネルの効果でシェル取られて、取られた二体でダイレクトアタックされて負けたのは内緒だぞ! ……今回のデュエルではそんなに関係無かったけど、カーネルなんでコントロール奪取がエンドフェイズまでなの? 神と同じく生贄を三体要求してくるから永続でいいと思うんだけど。
「そう自分を卑下するな」
かなりいい所までいったんだけどなー。最初にスキルドレイン貼れたのが良かったけど、あと少しの所で破壊されてヴァレルロード・ドラゴンを召喚、巻き返されて負け。……これ、私が強いっていうよりスキルドレインが強いが正しいのでは?
……スペクター様からの視線が背中にちくちく刺さる。昨日したデュエル、クリフォート・エイリアスやペンデュラム召喚でリリースしたクリフォート・アーカイブを使い回して聖天樹モンスター片っ端からバウンスしてえぇ……て顔させて本当にごめんなさい。リボルバー様には負けたから許して。
――それに、貴方の思いは私には理解できない。
一人ぼっちの寂しさは分かる。けど、私の世界は貴方程暗いものではない。私は愛に飢え、憎しみを抱いたことは無かった。アニメで見たから分かる、なんて現実じゃ有り得ない。そんなことを言った瞬間、ロスト事件の被害者達は烈火のごとく怒るだろう。
――いつか出会うかもしれない希望、私以外の転生者。私が転生しているんだ、他にも転生者があちらこちらにいてもおかしくない。遊戯王の何でもあり感を舐めてはいけない。ヒロインは基本酷い目に遭わせるアニメですよ? 男を拘束するアニメですよ?
――相互理解など不可能、此処にあるのは愛に飢えたヤドリギである。木に愛を求め、自分で嘘の救いを求めながらそれを嘲笑う。私から見たスペクター様はそんなお人だ。リボルバー様しか彼の居場所になれる人はいないだろう。
……それに、本を破って燃やす輩と私が分かり合えるとでも? お? あれは激おこやぞ?
「このデッキはリボルバー様と戦う事を考えたものではないので当然の結果かと。……最初はお金目的だった私をここまで雇ってくれて、本当にありがとうございます」
「……」
空気ががらりと変わる。私がハノイの騎士にいる理由の一つが入院費を稼ぐ事。だけど、今日でギプスも取れ晴れて完治。このままハノイの騎士にいた所でメリットは殆どない。普通の生活に戻るべき時がきた。
「最後に一つだけ、やり残した事がある。それを終わらせて、ハノイの騎士を辞めようかと思います」
きっぱりと言い切るヴァンガード。彼女の背後にいるスペクターがそれを聞いて目を見開き、すぐに細めたことには気づかなかった。
「何、決着をつける必要があるのは私とて同じ事。ハノイの塔が起動する準備は整った。この計画が成功すれば全てが終わる。貴様を拘束する理由も無くなる」
ゲノム、バイラ、ファウスト。彼らの犠牲を無駄にするわけにはいかない。
「ぎゅー」
暗くなった空気をたった一声でぶち壊したミニクラッキング。体のあちこちに黄色い光がくっついている。くっついているそれを鬱陶しそうに体を震わせて落とす。
「何これゴミ? ……違うな、光ってるのかなこれ。蛍?」
確か、ゴーストガールの七つ道具の一つ。どうやらハノイの塔に近づいているらしい。それを伝えにきたのだろう。
「……どうやら鼠が入ってきたようだな。計画に支障をもたらす訳にはいかない。私自身が始末するとしよう」
「お気を付けて、リボルバー様」
世界の未来をかけた最終決戦まで、あと少し。
主人公に逃げ場は無い。
ヴァンガードは演技なし、行動はほとんど素なのでヒントあったらすぐバレる。ブルーエンジェルはアイドルの演技してるから葵ちゃんとイコールにはなりにくい。
タイトルは二人のエースの効果名から。ストレンジトリガーとエマージェンシーエスケープ。
あと、聖蔓の剣士のNTR効果って、戦闘破壊して『墓地』へ送られた時に発動するからペンデュラムモンスターには効かないのね。エイリアス、アーカイブでバウンスもできる。スキルドレインは妥協召喚したクリフォートの打点あげられるのでメリット。クリフォート聖天樹にそこそこ刺さるな……。
あの回復量見てシモッチ使いたいって思ったOCG民どんだけいるのかな?
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ハノイの塔、起動
データの欠片が空を舞う。ハノイの塔は起動した。人も建物も関係なく平等に、一定範囲内にいた存在は全てデータに変えられ吸い上げられる。
「……これで終わり、か」
ハノイの塔、ここがプレイメーカー達とハノイの騎士との最終決戦の地。タイムリミットは六時間。それまでに止められなければ世界中のネットワークは消滅する。……リンクヴレインズにいる私達も。
私の気持ちを察したのか、心配そうにクラッキング・ドラゴンが顔を摺り寄せてくる。
「……大丈夫だよ、きっと彼なら止めてくれる」
こうなる事は私がハノイの騎士になる前から決まっていた。私一人がどうこうしたところで変わらない。この計画に反発したらゴーストガールの二の舞になるだけだ。知識があるだけで何もかも変えられるはずない。それ相応のしわ寄せは必ずやって来る。私の場合、それがあのAIデュエリストなのだろう。
――もし、私のせいでプレイメーカーが負けたら? ハノイの塔を止められなかったら?
「……怖いなあ」
震える手をきつく握る。無理やり震えを抑え、両手で頬を叩く。
「お前がやらねば誰がやる、ってね」
正史では存在しない者同士、戦い合うとしましょうか。敗者はデータとなり取り込まれる。疑似的な闇のゲーム、いつもの遊戯王。
――――ご、しゅ、じん。いかない、で。
「……?」
空耳だろうか。ここには私以外にはクラッキング・ドラゴンしかいない。
「行こうか。クラッキング・ドラゴン」
いつものように飛び乗って移動を始める。
「……グルゥ」
普段はデュエリストで溢れるリンクヴレインズ。今は完全にハノイの騎士に支配されている。いつもなら聞こえる雑踏も歓声も無い。そもそも、誰であれデータと変えられてしまうこんな状況でログインする人はいない。
「私は――SOL――――ジーで」
いや、いた。SOLテクノロジー、セキュリティ部部長北村。リンクヴレインズの管理キーを失った自分は失脚するかもしれない。なら、会社を見限りハノイの騎士になろうとしている出世欲に溢れた人間。まだヴァンガードとクラッキング・ドラゴンには気づいていない。
ハノイの騎士の側についた暁には、あの憎きヴァンガードを幹部の座から蹴落とし自分が幹部になってやろうと画策もしているのだが、それは彼しか知らないことだ。
「何の用だ?」
リボルバー様の登場。ハノイの騎士にとっては正直価値のない話を聞くだけ聞いて、スペクター様に後を任せ去っていった。
「……ん、あれは?」
忘れるはずもない鳩とカエル。関さん劇場が繰り広げられているのだろう。こちらへと向かってきて……硬直した。
「やばいですよ先輩! こっちめっちゃ見てます!」
「まだ慌てる時間じゃない。それにほら、俺たちじゃなくて景色見てるかもだろ!?」
「ってうわーー!! こっち来ましたよ山本先輩!!」
「のわーー!! データにしないでく…………あれ?」
首根っこ優しく掴んで宅配。二人をちょうどいい高さにあった建物の上に下ろす。
「撮影は邪魔にならなければ大丈夫、だとは思いますけど。多分」
「……あ、はあ。ご丁寧にどうも……」
そう言って戸惑いながらも撮影を始める。ちょうど
「ハハハハハ……。いや〜スペクターさん、貴方達がいかに有能かよ〜くわかりました」
ごますりが露骨すぎて小物臭がどんどん増していく北村さん。
「おやヴァンガード、随分早いお帰りですね」
「っ!? ヴァンガード!?」
「え、私がいることに何か問題でも?」
クラッキング・ドラゴンから飛び降り、スペクター様の隣に着地。北村さんからの視線は驚きと恨みが篭ったものだった。うん、心当たりがあって困る。
「これから面白いものが見られる所ですよ」
「面白い……もの?」
ごますりしながら硬直した。その言葉を聞いて恐ろしい想像をしたのか変な汗をかいている。その想像は当たりです。北村よ、これが絶望だ……。
「お望み通り、ハノイに入れてあげますよ」
「本当ですか!?」
「ただし、データとしてね!!」
パチン、と指を鳴らす。足元から赤い光へ変化し崩れていく北村。希望を与え、それを奪い取るファンサービス。
「フフフ……最後の最後までゲスでしたね」
「…………」
消えたくない、か。人がいなくなるのを見て笑えるほど私はゲスじゃない。あと、スペクター様の方がゲスだと思います。本日のおまいうはここですか?
「さて、と……。警告です」
スペクター様が二人の方を向く。鳩とカエルがギクッ! と口に出すぐらい驚いていた。
「「さいなら〜!」」
きっちり最後まで撮影してからこの場を離れるジャーナリストの鏡。
「ヴァンガード、準備は終えたのですか?」
「勿論です、スペクター様」
橋を一部落としてハノイの塔へ続く道を限られたものにする。プレイメーカー達を待ち伏せする手間を減らし、いざとなったら橋ごと落として道連れにする。もしも主人公ごと橋を落として原作通りにならなかった時の保険はしてあるけど、これがばれた瞬間私はスペクター様の手によって消されるだろう。
――最後の時が近づいている。
北村、彼の不運はハノイの騎士の目的はリンクヴレインズの支配ではなく、ネットワークの消滅であることを知らなかったこと。リボルバーを利用して保身を図ろうとしたこと。そしてもう一つは。
――気に食わない。飼い犬に手を噛まれる、とはこのことを言うのだろう。ヴァンガードがハノイの騎士を辞める、それはリボルバー様に対しての侮辱に等しい。リボルバー様の温情でここまで共に来たのに、それを裏切るとは。万死に値する。
スペクターがヴァンガードに対して苛立っていること。その苛立ちのはけ口となったことだった。そして、その苛立ちは未だに彼の中で燻っている。もし、ヴァンガードが何か裏切りと取れる行動を起こしたなら――。
――その時がヴァンガードの最期となるだろう。
まあいきなりハノイの騎士辞めますって言ったらスペクターキレるよねっていう。
〜スペクターとのデュエルの一幕〜
スペ「サンシード・ゲニウス・ロキをリンクマーカーにセット!聖天樹の幼精をリンク召喚!カードを二枚伏せてターンエンド」
ヴァ「機殻の生贄装備したクリフォート・ゲノムをリリースしてクリフォート・エイリアス召喚。チェーン1は機殻の生贄、チェーン2はゲノム、チェーン3にエイリアスの効果。まずはエイリアスで聖天樹の幼精をバウンス」
スペ「手札の聖蔓の乙女の効果で」
エイリアス<すまんの、俺の効果の発動に対して相手はチェーンできへんのや。
スペ「」
リボ「(これでバウンス何回目だ……?)」
これはひどい。
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橋上の死闘
ハノイの塔に向かって走る人影。私の姿が見えたのか速度を落とす。
「……来たね」
「ヴァンガード……」
何でそんな顔をしているのだろうか。私はハノイの騎士で、君が憎むべき存在。
――――いや、そんな。……まさか、ね。
「そこを退け」
「ここを通すわけにはいかない。私達の計画を邪魔する者は殲滅しろ、とリボルバー様から命令されているからね」
こう話している間にも残り時間は減る。お話に時間をかけるのは君達にとって良くないことだと思うけど。
「お前は何故ハノイの騎士に手を貸す?」
「何故? 何故、か……。それを今から消える人に言う必要がある?」
「俺が納得いかないだけだ。お前がハノイの騎士になったのは、何か理由があるはずだろう?」
「……どうしたんだプレイメーカー様?」
真っ直ぐに私を見る目には確かな光があった。彼は私の正体について確信している。
「身長、機械族、クリファについての知識、ブレイブマックスへの応援、ヒントは十分にあった」
お手上げ、というように両手を上げる。
「……あーあ、気づいちゃったか。そうだよ、私は君のすぐ近くにいた」
「文字通り、隣にいた」
「……まさか!?」
学校へ行った時にAiはデュエルディスクにいたから彼女のことは知っている。だからこそ信じられない。現実での友人がリンクヴレインズでは敵だった、なんて出来すぎた展開。
――プレイメーカーの信念を揺らがせる存在。こいつは危険だ。
「……私だってびっくりだよ。ここで気づかれるのは想定外だった」
「今すぐに手を引け! ハノイの騎士が何をしようとしているのか分かっているのか!?」
「……知ってるよ、それぐらい」
消えてしまいそうな声がこぼれた。説得を続ければ引いてくれる可能性はあると思い、続けて問いかけようとした時。
「おっと、それ以上はやめて頂きましょうかプレイメーカー」
「っ、スペクター様」
空間に波紋が広がり、そこからスペクターが姿を現した。
「私の名前はスペクター、やっとお目にかかりましたねプレイメーカー。どうやらヴァンガードと知り合いのようですが」
ちらりとヴァンガードの方を見る。
「それはそれ、これはこれ。この状況で私情を挟むほど馬鹿じゃないですよ。…………?」
背後で足音がした、気がする。空気が少しだけ揺らいだ。何かの気配。
「――そこっ!」
突如ヴァンガードがデュエルアンカーを何も無いところに投げつける。デュエルアンカーが透明な何かにぶつかり、ばちりと電気が走るとAIデュエリストが姿を現した。
「ぐっ、そう上手くはいきませんか」
「そう簡単には通さないよ」
デュエルアンカーで拘束されたAIデュエリスト。
「おやおや」
「くっ……」
この悪趣味なゲームは誰か一人でもリボルバーの元へ辿り着き倒せば終わる。二人一組で行動していたプレイメーカーとグラドスは、どちらかが囮になることで辿り着く可能性を上げていた。その企みはヴァンガードによって阻止されたが。
「これはデュエルが終わるまで外れることはない。AIデュエリスト、名前もないまま消滅することになるとはね」
「いいえ、名前はあります。私の名前はグラドスです」
「…………グラドス?」
ヴァンガードはその名前に何か思うところがあったのかAIデュエリストに尋ね始める。先ほどまでと違い声も若干高く、早口になっていた。
「もしかしてあれかな? ケーキは嘘? 鳥は邪悪? キャロラインは――」
「何の事を言っているのですか?」
「……そっか、偶然か」
残念そうに俯く。本来ならばいるはずがないモノ。もしかしたら同類かと思ったが、その期待は簡単に崩れた。
「…………?」
ここにいる人の中で、先ほどのヴァンガードの言葉の意味を理解できる人はいない。グラドスは不思議そうにヴァンガードを見て、直ぐに表情を変えた。
プレイメーカーによる説得は失敗。デュエルアンカーによってここから自分は動けない。ならばする事は一つ。
「ここで決着をつけましょう、ヴァンガード! この世界が消滅するのを黙って見過ごすわけにはいかない!」
「そうさ、君を消さないと私は終われない!」
「「デュエル!!」」
ヴァンガード
LP 4000
グラドス
LP 4000
背後ではプレイメーカーとスペクター様のデュエルも始まった。デュエルディスクがグラドスの先行を表示する。
「私の先行です。私はサイバー・ヴァリーを召喚!」
《サイバー・ヴァリー》
効果モンスター
星1/光属性/機械族/攻 0/守 0
以下の効果から1つを選択して発動できる。
●このカードが相手モンスターの攻撃対象に選択された時、
このカードを除外して発動できる。
デッキからカードを1枚ドローし、バトルフェイズを終了する。
●自分のメインフェイズ時に発動できる。
このカードと自分フィールド上に表側表示で存在する
モンスター1体を選択して除外し、その後デッキからカードを2枚ドローする。
●自分のメインフェイズ時に、
自分の墓地のカード1枚を選択して発動できる。
このカードと手札1枚を除外し、その後選択したカードをデッキの一番上に戻す。
「手札から機械複製術を発動! デッキからサイバー・ヴァリーを2体特殊召喚する!」
これでフィールドには3体のサイバー・ヴァリー。普通ならリンク召喚をしてくると思うだろう。
「サイバー・ヴァリーの効果発動。このカードと自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して除外し、その後デッキからカードを2枚ドローする。私はもう1体のサイバー・ヴァリーを選択! 除外して2枚ドロー!」
これで減った手札が補充されて5枚に戻った。それに、サイバー・ヴァリーには攻撃対象に選択された時、自身を除外してデッキからカードを1枚ドローし、バトルフェイズを終了する効果もある。堅実に守備を固めてきた。
「カードを1枚セットし、ターンエンドです」
「サイバー流は後攻有利。先行をとったら守備を固めるのは予想済み、ってね! 私のターン、ドロー!」
よし、妨害されなければワンキルいける。……絶対あのセットカード妨害だろうけど。
「私はスケール1のクリフォート・アセンブラと、スケール9のクリフォート・ツールでペンデュラムスケールをセッティング!」
二本の光の柱の中に現れる機殻。クリフォート・アセンブラがいる柱には1、クリフォート・ツールがいる柱には9の数字が浮かび上がる。
《クリフォート・アセンブラ》
ペンデュラム・通常モンスター
星5/地属性/機械族/攻2400/守1000
【Pスケール:青1/赤1】
(1):自分は「クリフォート」モンスターしか特殊召喚できない。
この効果は無効化されない。
(2):自分がアドバンス召喚に成功したターンのエンドフェイズに発動できる。
このターン自分がアドバンス召喚のためにリリースした「クリフォート」モンスターの数だけ、
自分はデッキからドローする。
【モンスター情報】
qliphoth.exe の 0x1i-666 でハンドルされていない例外を確認。
場所 0x00-000 に書き込み中にアクセス違反が発生しました。
このエラーを無視し、続行しますか? <Y/N>...[ ]
===CARNAGE===
たッgなnトiのoモdる知rヲu悪o善yりナnにoウよyノrりgトnひaノれsワiれワdはo人Gヨ見
イdなoレo知lもfカるeキr生iにf久永gベn食iてrッb取もoラtか木tノn命aベw伸ヲd手nはa彼
《クリフォート・ツール》
ペンデュラム・通常モンスター
星5/地属性/機械族/攻1000/守2800
【Pスケール:青9/赤9】
(1):自分は「クリフォート」モンスターしか特殊召喚できない。
この効果は無効化されない。
(2):1ターンに1度、800LPを払って発動できる。
デッキから「クリフォート・ツール」以外の「クリフォート」カード1枚を手札に加える。
【モンスター情報】
システムをレプリカモードで起動する準備をしています...
C:¥sophia¥sefiroth.exe 実行中にエラーが発生しました。
次の不明な発行元からのプログラムを実行しようとしています。
C:¥tierra¥qliphoth.exe の実行を許可しますか? <Y/N>...[Y]
システムを自律モードで起動します。
「ペンデュラム……!? それが貴方の本気というわけですか!」
「クリフォート・ツールのペンデュラム効果! ライフを800払い、デッキから
《
フィールド魔法
(1):このカードがフィールドゾーンに存在する限り、
自分は通常召喚に加えて1度だけ、
自分メインフェイズに「クリフォート」モンスター1体を召喚できる。
(2):このカードがフィールドゾーンに存在する限り、
「クリフォート」モンスターの召喚は無効化されない。
ヴァンガード
LP4000→3200
「振動せよ、起動せよ! 集え、私のモンスター達! ペンデュラム召喚! 現れよ! クリフォート・アクセス、クリフォート・ゲノム!」
二本の光の柱の間から現れる機殻達。巨大、人工的な見た目、正に機械というべき姿。
《クリフォート・アクセス》
ペンデュラム・効果モンスター
星7/地属性/機械族/攻2800/守1000
【Pスケール:青9/赤9】
(1):自分は「クリフォート」モンスターしか特殊召喚できない。
この効果は無効化されない。
(2):相手フィールドのモンスターの攻撃力は300ダウンする。
【モンスター効果】
(1):このカードはリリースなしで召喚できる。
(2):特殊召喚またはリリースなしで召喚した
このカードのレベルは4になり、元々の攻撃力は1800になる。
(3):通常召喚したこのカードは、このカードのレベルよりも
元々のレベルまたはランクが低いモンスターが発動した効果を受けない。
(4):「クリフォート」モンスターをリリースしてこのカードのアドバンス召喚に成功した時に発動できる。
相手の墓地のモンスターの数が自分の墓地のモンスターより多い場合、
自分はその差×300LP回復し、その数値分だけ相手にダメージを与える。
《クリフォート・ゲノム》
ペンデュラム・効果モンスター
星6/地属性/機械族/攻2400/守1000
【Pスケール:青9/赤9】
(1):自分は「クリフォート」モンスターしか特殊召喚できない。
この効果は無効化されない。
(2):相手フィールドのモンスターの攻撃力は300ダウンする。
【モンスター効果】
(1):このカードはリリースなしで召喚できる。
(2):特殊召喚またはリリースなしで召喚した
このカードのレベルは4になり、元々の攻撃力は1800になる。
(3):通常召喚したこのカードは、このカードのレベルよりも
元々のレベルまたはランクが低いモンスターが発動した効果を受けない。
(4):このカードがリリースされた場合、
フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。
そのカードを破壊する。
「な、レベル7とレベル6のモンスターを一気に召喚した!?」
「召喚ルール効果でレベル4、元々の攻撃力は1800になるけどね。……ああ、クリフォートモンスター共通のペンデュラム効果で私はクリフォートしか特殊召喚出来ない。そして、クリフォートの名が付いた融合、シンクロ、エクシーズはいない。レベル4が2体いるからといってエクシーズは出来ないよ。
――――さあ、クリフォートの恐ろしさはここからだ!」
ペンデュラムの皮を被ったアドバンステーマ。端末世界の再星機構。今、その真の力が発揮される。
「クリフォート・アクセスとクリフォート・ゲノムをリリース! 出でよ、クリフォート・ディスク!」
《クリフォート・ディスク》
ペンデュラム・効果モンスター
星7/地属性/機械族/攻2800/守1000
【Pスケール:青1/赤1】
(1):自分は「クリフォート」モンスターしか特殊召喚できない。
この効果は無効化されない。
(2):自分フィールドの「クリフォート」モンスターの攻撃力は300アップする。
【モンスター効果】
(1):このカードはリリースなしで召喚できる。
(2):特殊召喚またはリリースなしで召喚した
このカードのレベルは4になり、元々の攻撃力は1800になる。
(3):通常召喚したこのカードは、このカードのレベルよりも
元々のレベルまたはランクが低いモンスターが発動した効果を受けない。
(4):「クリフォート」モンスターをリリースしてこのカードのアドバンス召喚に成功した時に発動できる。
デッキから「クリフォート」モンスター2体を特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズに破壊される。
「まずリリースされたクリフォート・ゲノムの効果をセットカードに対して発動。そのカードを破壊する。そしてクリフォートモンスターをリリースしてアドバンス召喚に成功した時、クリフォート・ディスクの効果発動! デッキからクリフォートモンスター2体を特殊召喚する!」
「っ! チェーンして速攻魔法、禁じられた聖杯をクリフォート・ディスクを対象に発動! クリフォート・ディスクはターン終了時まで攻撃力が400アップし、効果は無効になる!」
天から注がれた神秘的な水がかかり、攻撃力の上昇の対価として効果を封じられるクリフォート・ディスク。
クリフォート・ディスク
攻2800→3200
「あらら、止められちゃったか」
エクストラデッキに戻ったクリフォート・ゲノムから放たれた光球により聖杯が破壊される。が、聖杯により起きた結果を元に戻すことはできない。
ディスクの効果で2体のクリフォートを特殊召喚、その2体でクリフォート・ゲニウスをリンク召喚、クリフォート・ゲニウスの効果でサイバー・ヴァリーとクリフォート・ディスクの効果を無効に。バトルすれば総攻撃力4600。
これが成功していればワンキルだったんだけど、そう簡単には終わらないか。
「ま、止められるのは分かってるけどもバトル! クリフォート・ディスクでサイバー・ヴァリーを攻撃!」
「サイバー・ヴァリーの効果! このカードが相手モンスターの攻撃対象に選択された時、このカードを除外して発動できる。デッキからカードを1枚ドローし、バトルフェイズを終了する!」
サイバー・ヴァリーが除外されると同時にフィールドに電流が走り、クリフォート・ディスクの攻撃が止まる。
「……なるほど、貴方のデッキが読めてきました。リリース時に効果が発動するクリフォートと、アドバンス召喚時に効果が発動するクリフォートを使い、フィールドを制圧する攻撃型デッキ」
この一手でクリフォートがどんなモンスター達か理解したらしい。
「正解、だからといって攻撃の手は休めないけどね。カードを1枚セット。エンドフェイズにクリフォート・アセンブラの効果発動! このターン自分がアドバンス召喚のためにリリースしたクリフォートモンスターの数だけ、デッキからドローする。私がリリースしたクリフォートモンスターは2体。よって2枚ドロー! そして禁じられた聖杯の効果が終了し、クリフォート・ディスクの攻撃力は元に戻る」
クリフォート・ディスク
攻3200→ 2800
使い切った手札の補充。クリフォート・アセンブラがいる限り、アドバンス召喚するたびに手札が補充される。グラドスはきっと、ペンデュラムスケールを次のターンで壊しにかかるだろう。ペンデュラムスケールがある限り、エクストラデッキからのリリース素材を1体は確実に用意できるのだから。
――まだデュエルは始まったばかり。終わりは確実に迫っている。
〜悲報〜
遊戯王VRAINSの二次小説なのにリンクモンスターの出番無し
ゲニウス君ごめんね、このデュエルで出番は無いんだ。これからもあるかわからないんだ。初手で君を出してもね、うーん……なんか違う、ボツ!ってなったんだ。ごめんね。
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決着! ヴァンガード対グラドス!
聖なる天樹と邪悪の木、橋の上に相反するモンスターが現れる。
片方は防御、ライフを回復し後続を呼び出す。片方は攻撃、ライフを払い後続を加える。戦略も展開も異なる二つ。使い手も少女と青年と反対の存在。二人を繋ぎ止めるのはハノイの騎士であるという事だけ。
「私のターン、ドロー!」
これでグラドスの手札は6枚。
「手札から魔法カード、融合を発動! 手札のサイバー・ドラゴン・コアとサイバー・ドラゴンを融合!」
二体の機光龍が渦に飲み込まれ、新たな龍へ変化する。
「顕現せよ、キメラテック・ランページ・ドラゴン!」
《キメラテック・ランページ・ドラゴン》
融合・効果モンスター
星5/闇属性/機械族/攻2100/守1600
「サイバー・ドラゴン」モンスター×2体以上
このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。
(1):このカードが融合召喚に成功した時、
このカードの融合素材としたモンスターの数まで
フィールドの魔法・罠カードを対象として発動できる。
そのカードを破壊する。
(2):1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。
デッキから機械族・光属性モンスターを2体まで墓地へ送る。
このターン、このカードは通常の攻撃に加えて、
この効果で墓地へ送ったモンスターの数まで1度のバトルフェイズ中に攻撃できる。
「キメラテック・ランページ・ドラゴンが融合召喚に成功した時、このカードの融合素材としたモンスターの数までフィールドの魔法・罠カードを対象として発動、そのカードを破壊する! 融合素材としたモンスターの数は2体、私が破壊するのはクリフォート・ツールとクリフォート・アセンブラ!」
「やっぱり、ペンデュラムスケールを壊しにきたか」
エネルギー砲により光の柱は破壊される。これでペンデュラム召喚は封じられた。
――だが、まだヴァンガードにはセットカードが1枚残っている。
「こっちを破壊するべきだったね、トラップ発動!
《
通常罠
「隠されし機殻」は1ターンに1枚しか発動できない。
(1):自分のエクストラデッキから表側表示の
「クリフォート」Pモンスターを3体まで手札に加える。
「この効果で、私はエクストラデッキのクリフォート・ツール、クリフォート・アセンブラ、クリフォート・ゲノムを手札に加える」
もしグラドスがバックを破壊しようとすれば、チェーン処理の関係で私はクリフォート・ゲノムしか手札に加えられなかった。
「まだです! キメラテック・ランページ・ドラゴンのもう一つの効果! デッキから超電磁タートルを墓地へ送る!」
攻撃止める亀落とされた。でも落としたの1体だけってことはランページで攻撃はしてこないはず。……となると次は。
「サイバー・ドラゴン・ドライを通常召喚! 効果でレベルを5にする!」
《サイバー・ドラゴン・ドライ》
効果モンスター
星4/光属性/機械族/攻1800/守 800
このカードが召喚に成功した時、
自分フィールド上の全ての「サイバー・ドラゴン」のレベルを5にできる。
この効果を発動するターン、自分は機械族以外のモンスターを特殊召喚できない。
また、このカードが除外された場合、
自分フィールド上の「サイバー・ドラゴン」1体を選択して発動できる。
選択したモンスターはこのターン、戦闘及びカードの効果では破壊されない。
このカードのカード名は、フィールド上・墓地に存在する限り「サイバー・ドラゴン」として扱う。
これでフィールドにはレベル5が2体。そして相手はサイバー流。当然、現れるのは。
「レベル5のサイバー・ドラゴン・ドライとキメラテック・ランページ・ドラゴンでオーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚! 顕現せよ、サイバー・ドラゴン・ノヴァ!」
《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》
エクシーズ・効果モンスター
ランク5/光属性/機械族/攻2100/守1600
機械族レベル5モンスター×2
1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。
自分の墓地の「サイバー・ドラゴン」1体を選択して特殊召喚する。
また、1ターンに1度、自分の手札・フィールド上の
「サイバー・ドラゴン」1体を除外して発動できる。
このカードの攻撃力はエンドフェイズ時まで、2100ポイントアップする。
この効果は相手ターンでも発動できる。
このカードが相手の効果によって墓地へ送られた場合、
機械族の融合モンスター1体をエクストラデッキから特殊召喚できる。
「オーバーレイユニットを1つ取り除き、効果発動! 墓地のサイバー・ドラゴンを特殊召喚! そしてフィールドのサイバー・ドラゴンを除外してもう1つの効果を発動! ノヴァの攻撃力は2100アップする!」
墓地から蘇ったサイバー・ドラゴンの力を吸収する。わざわざ効果で墓地から特殊召喚したってことは手札にサイバー・ドラゴンはないはず。
サイバー・ドラゴン・ノヴァ
攻2100→4200
「重ねてインフィニティにせずにノヴァのままで攻撃か。ライフを削ることを選んだわけだ」
効果を使用せずに重ねてインフィニティにしていたら攻撃力は2900になった。私のフィールドには攻撃力2800のクリフォート・ディスク。攻撃しても100のダメージしか与えられない。
「バトル! サイバー・ドラゴン・ノヴァでクリフォート・ディスクを攻撃! エヴォリューション・クロス・バースト!」
サイバー・ドラゴン・ノヴァの力を増した一撃がクリフォート・ディスクを貫く。
「づぅっ……!」
ヴァンガード
LP 3200→1800
「メインフェイズ2、サイバー・ドラゴン・ノヴァ1体でオーバーレイネットワークを再構築! エクシーズ召喚! 顕現せよ、サイバー・ドラゴン・インフィニティ!」
《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》
エクシーズ・効果モンスター
ランク6/光属性/機械族/攻2100/守1600
機械族・光属性レベル6モンスター×3
「サイバー・ドラゴン・インフィニティ」は1ターンに1度、
自分フィールドの「サイバー・ドラゴン・ノヴァ」の上に重ねてX召喚する事もできる。
(1):このカードの攻撃力は、このカードのX素材の数×200アップする。
(2):1ターンに1度、フィールドの表側攻撃表示モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターをこのカードの下に重ねてX素材とする。
(3):1ターンに1度、カードの効果が発動した時、
このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。
その発動を無効にし破壊する。
「サイバー・ドラゴン・インフィニティのオーバーレイユニットは2つ、よって攻撃力は400アップ!」
サイバー・ドラゴン・インフィニティ
攻2100→2500
「カードを1枚セットし、私はこれでターンエンド。……ヴァンガード、インフィニティの効果は」
「知ってるさ。これだけで私を妨害出来るとでも? 私のターン、ドロー! 手札のクリフォート・ツールとクリフォート・アセンブラでペンデュラムスケールをセッティング!」
再び現れる二本の光の柱。すぐにそれは壊れることになる。
「クリフォート・ツールのセッティングに対してサイバー・ドラゴン・インフィニティの効果発動! オーバーレイユニットを1つ使い、クリフォート・ツールを破壊!」
サイバー・ドラゴン・インフィニティ
攻2500→2300
二柱あったのが一柱だけになってしまった。このままではペンデュラム召喚はできない。……が、これでエクストラデッキにペンデュラムモンスターが3体。
「金満な壺を発動! 墓地のクリフォート・ツールと、エクストラデッキのクリフォート・ディスク、クリフォート・アクセスをデッキに加え、2枚ドロー!」
《金満な壺》
通常魔法
「金満な壺」は1ターンに1枚しか発動できず、
このカードを発動するターン、自分はP召喚以外の特殊召喚ができない。
(1):自分のエクストラデッキの表側表示のPモンスター及び
自分の墓地のPモンスターを合計3体選び、
デッキに加えてシャッフルする。
その後、自分はデッキから2枚ドローする。
ドローしたカードを見て口元に笑みを浮かべる。
「クリフォート・ツールを破壊できたけど残念でした、召喚師のスキル発動! デッキからレベル5以上の通常モンスター、クリフォート・ツールを手札に加える!」
《召喚師のスキル》
通常魔法
(1):デッキからレベル5以上の通常モンスター1体を手札に加える。
「ぐっ……!」
サイバー・ドラゴン・インフィニティによってペンデュラムによる展開を妨害したはずが、無駄に終わってしまった。
「クリフォート・ツールをペンデュラムスケールにセッティング。サーチ効果は使わない」
800支払って好きなクリフォートカードを手札に加えるのはライフ4000のこの世界では重い。だが、クリフォート・アセンブラと金満な壺の効果でドローしたカードでこの状況を切り抜ける事は十分可能だ。
「クリフォート・ゲノムを通常召喚し、手札の
《
装備魔法
「クリフォート」モンスターにのみ装備可能。
(1):装備モンスターの攻撃力は300アップし、戦闘では破壊されない。
(2):「クリフォート」モンスターをアドバンス召喚する場合、
装備モンスターは2体分のリリースにできる。
(3):このカードがフィールドから墓地へ送られた場合に発動できる。
デッキから「クリフォート」モンスター1体を手札に加える。
「
《クリフォート・エイリアス》
ペンデュラム・効果モンスター
星8/地属性/機械族/攻2800/守1000
【Pスケール:青1/赤1】
(1):自分は「クリフォート」モンスターしか特殊召喚できない。
この効果は無効化されない。
(2):自分フィールドの「クリフォート」モンスターの攻撃力は300アップする。
【モンスター効果】
(1):このカードはリリースなしで召喚できる。
(2):特殊召喚またはリリースなしで召喚した
このカードのレベルは4になり、元々の攻撃力は1800になる。
(3):通常召喚したこのカードは、このカードのレベルよりも
元々のレベルまたはランクが低いモンスターが発動した効果を受けない。
(4):「クリフォート」モンスターをリリースしてこのカードのアドバンス召喚に成功した時、
フィールドのカード1枚を対象として発動できる。
そのカードを持ち主の手札に戻す。
この効果の発動に対して、相手は魔法・罠・モンスターの効果を発動できない。
「クリフォートモンスターをリリースしてアドバンス召喚に成功した時、クリフォート・エイリアスの効果発動! フィールドのカード1枚を手札に戻す! 当然、戻すのはサイバー・ドラゴン・インフィニティ!」
クリフォート・エイリアスがサイバー・ドラゴン・インフィニティをバウンスする。
「クリフォート・エイリアスの効果の発動に対して、相手は魔法・罠・モンスターの効果を発動できない。そのままゲノムの効果も受けてもらいましょうか! そのセットカードを破壊!」
光球が破壊したのは魔法カード、置換融合。除外することで墓地の融合モンスターをエクストラデッキに戻し、ドローができる効果を持つ。ブラフとドローを兼ねたセットカードだったか。
「フィールドから墓地へ送られた
クリフォート・エイリアスと聞いて眉をひそめるグラドス。チェーン不可のバウンスという強力な効果をもう一度使われたら、フィールドががら空きの状態で攻撃を受けることになる。次の自分のターンで何とか切り抜けるしかない。
「さあ、バトルフェイズだ! クリフォート・エイリアスでダイレクトアタック!」
「ぐっ……墓地の超電磁タートルを除外してバトルフェイズを終了させる……!」
2800のダメージは大きいから使わざるを得ない。これで次の私のターンで安心して攻められる。
「カードを1枚セット。エンドフェイズ、クリフォート・アセンブラの効果で1枚ドロー。……さっきのターンで私のライフを削りきれなかった事、後悔するよ?」
この橋の崩壊も進んでいる。ふと、ぱちんと指を鳴らす音が聞こえた。ちらりと後ろを見ると財前晃が棘によって囲まれている映像が映し出されていた。
追い込んだら追い込んだだけ、そのしっぺ返しが来る。卑怯な手を使ってでも勝たないといけない。けど、そうしなくてもスペクター様はプレイメーカーを倒せるだけの実力は持っている。……私は人質なんて手は使わずに実力で倒す。最後に後悔はしたくないから。
「私のターン、ドロー! 墓地の置換融合を除外し効果発動、墓地のキメラテック・ランページ・ドラゴンをエクストラデッキに戻し、1枚ドロー!」
《置換融合》
通常魔法
このカードのカード名はルール上「融合」として扱う。
(1):自分フィールドから
融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、
その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。
(2):墓地のこのカードを除外し、
自分の墓地の融合モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターをエクストラデッキに戻す。
その後、自分はデッキから1枚ドローする。
「カードをセットし、手札から墓穴の道連れを発動!」
《墓穴の道連れ》
通常魔法
(1):お互いのプレイヤーは、それぞれ相手の手札を確認し、
その中からカードを1枚選んで捨てる。
その後、お互いのプレイヤーは、それぞれデッキから1枚ドローする。
グラドスの手札は残り1枚。対して私は2枚。ここで墓穴の道連れか。流石、というべきか。
「さあ、手札を見せてもらいましょうか」
互いの目の前に手札が映し出される。
「あーあ」
グラドスの手札はサイバー・レーザー・ドラゴン1枚。私の手札はオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンとクリフォート・エイリアスの2枚。
「クリフォート・エイリアスを捨ててもらいましょう」
「サイバー・レーザー・ドラゴンを捨てさせてもらうよ」
互いに捨てたのを確認して、同時にドロー。
「命削りの宝札発動! 手札が3枚になるようにドローする!」
《命削りの宝札》
通常魔法
このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できず、
このカードを発動するターン、自分はモンスターを特殊召喚できない。
(1):自分は手札が3枚になるようにデッキからドローする。
このカードの発動後、ターン終了時まで相手が受ける全てのダメージは0になる。
このターンのエンドフェイズに、自分の手札を全て墓地へ送る。
グラドスの手札は0枚、よって3枚のドロー。これで逆転の一手を引くか、それとも――。
「モンスターをセット、カードを2枚セットしてターンエンド……」
3枚もドローすれば逆転の一手は呼び込めるはず。そう、思っていたのだろう。クリフォート達の強力な効果によってグラドスの精神は知らず知らず疲弊している。サイバー流の新たな力、サイバー・ドラゴン・インフィニティはエクストラデッキに戻された。ヴァンガードはこちらがどう動くかを読み切っている。精神の乱れはデュエルに大きな影響を与えるのだ。
「……あれ、ここで終わり? クリフォート・エイリアスを捨てさせて安心した? ……最後にクリフォートの切り札を見せてあげる。私のターン!」
墓穴の道連れの効果でドローしたカード、それは神に等しい力を持つクリフォート最強モンスター。それを召喚するためには三体のリリースが必要、だが。
「クリフォート・ツールのペンデュラム効果、チェーンして
《
通常罠
(1):このカードは発動後、効果モンスター(機械族・地・星4・攻1800/守1000)となり、
モンスターゾーンに特殊召喚する(罠カードとしては扱わない)。
この効果でこのカードを特殊召喚したターン、
自分フィールドの「クリフォート」魔法・罠カードは効果では破壊されない。
(2):このカードの効果で特殊召喚したこのカードは、
「アポクリフォート」モンスターをアドバンス召喚する場合、3体分のリリースにできる。
ヴァンガード
LP 1800→1000
これで残りライフは1000。グラドスのライフはまだ4000も残っているが、十分削り取れる範囲だ。突然ガグン、と橋が大きく傾き、先の見えない暗闇へと落ちていく。
「あら、このままだと決着がつく前に私達が終わりそうか、な……?」
聖天樹の根が千切れたワイヤーを繋ぐ。プレイメーカーの挑発にスペクター様がのったのだろう。
「デュエルは続行のようだね。振動せよ、起動せよ! 三度集え、私のモンスター達! ペンデュラム召喚! エクストラデッキからクリフォート・ゲノムと手札のクリフォート・ゲノムを召喚!」
グラドスのセットカードは3枚。対してクリフォート・ゲノムは2体。1枚は残るが、それでも問題ない。
「二体のクリフォート・ゲノムをリリース! 出でよ、クリフォート・シェル!」
《クリフォート・シェル》
ペンデュラム・効果モンスター
星8/地属性/機械族/攻2800/守1000
【Pスケール:青9/赤9】
(1):自分は「クリフォート」モンスターしか特殊召喚できない。
この効果は無効化されない。
(2):相手フィールドのモンスターの攻撃力は300ダウンする。
【モンスター効果】
(1):このカードはリリースなしで召喚できる。
(2):特殊召喚またはリリースなしで召喚した
このカードのレベルは4になり、元々の攻撃力は1800になる。
(3):通常召喚したこのカードは、このカードのレベルよりも
元々のレベルまたはランクが低いモンスターが発動した効果を受けない。
(4):「クリフォート」モンスターをリリースして表側表示でアドバンス召喚に成功した場合、
このカードは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃でき、
守備表示モンスターを攻撃した場合、
その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。
「リリースしたクリフォート・ゲノム2体の効果! 対象は右から2枚だ!」
グラドスが動く。発動されたカードはどちらもクリフォート・ゲノムの対象になったカードだ。まだグラドスは勝利を諦めてはいない。
「チェーンしてダブル・トラップオープン! ダメージ・ダイエット! 戦線復帰!」
《ダメージ・ダイエット》
通常罠
このターン自分が受ける全てのダメージは半分になる。
また、墓地に存在するこのカードをゲームから除外する事で、
そのターン自分が受ける効果ダメージは半分になる。
《戦線復帰》
通常罠
(1):自分の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。
「戦線復帰の効果で、私は墓地のサイバー・ドラゴン・ノヴァを守備表示で特殊召喚!」
サイバー・ドラゴン・ノヴァ
守1600
どちらも優秀な防御札。更にダメージ・ダイエットの効果でこのターン与えるダメージが半分になってしまった。……だが。
「チェーン処理でダメージ・ダイエットと戦線復帰を破壊。もしかして、これでまだ耐えられると思ってる?
「なっ……!!?」
3体、と聞いてグラドスが動揺する。無理もない。3体のリリース、それは神が要求する生贄の数と同じ。それ相応の力を持ったモンスターが今から現れるのだ。
「
《アポクリフォート・キラー》
効果モンスター
星10/地属性/機械族/攻3000/守2600
このカードは特殊召喚できず、自分フィールドの
「クリフォート」モンスター3体をリリースした場合のみ通常召喚できる。
(1):通常召喚したこのカードは魔法・罠カードの効果を受けず、
このカードのレベルよりも元々のレベルまたはランクが低いモンスターが発動した効果も受けない。
(2):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、
特殊召喚されたモンスターの攻撃力・守備力は500ダウンする。
(3):1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。
相手は自身の手札・フィールドのモンスター1体を墓地へ送らなければならない。
今まで見てきたモンスターの中でも一二を争うほどの巨体。フィールドにいるだけで重圧を与えるそれは、微動だにせず主人の指示を待っている。
「アポクリフォート・キラーは魔法、罠の効果を受けず、このカードのレベルよりも元々のレベルまたはランクが低いモンスターが発動した効果も受けない。さらに! このカードがモンスターゾーンに存在する限り、特殊召喚されたモンスターの攻撃力・守備力は500ダウンする!」
アポクリフォート・キラーが波動を放つ。波動を受けたサイバー・ドラゴン・ノヴァがうなだれる。
サイバー・ドラゴン・ノヴァ
守1600→1100
「アポクリフォート・キラーの効果発動! 相手は自身の手札・フィールドのモンスター1体を墓地へ送らなければならない! 君の手札は0枚、故にフィールドのモンスターを墓地へ送ってもらうよ!」
「何だと……!? っ、セットモンスターを墓地へ送る……!」
墓地へ送られたのはサイバー・ジラフ。
――これこそがアポクリフォート・キラーの恐ろしい効果。これはプレイヤーに作用するもの。プレイヤーが選び墓地へ送るため、モンスター効果で墓地に送られた扱いではない。よって、もしサイバー・ドラゴン・ノヴァを墓地へ送っても効果は使えない。
「クリフォート・シェルはクリフォートモンスターをリリースして表側表示でアドバンス召喚に成功した場合、このカードは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃でき、更に貫通効果を得る! ――さあ、終わらせよう! クリフォート・シェルでサイバー・ドラゴン・ノヴァを攻撃!」
「ダメージ・ダイエットの効果でこのターンのダメージは半分になる……ぐっ!」
クリフォート・シェルの攻撃力は2800。サイバー・ドラゴン・ノヴァの守備力はアポクリフォート・キラーの効果で1100になっている。クリフォート・シェルから放たれた光線がサイバー・ドラゴン・ノヴァを貫通し、グラドスにもダメージを与える。
グラドス
LP 4000→3150
「続けてクリフォート・シェルでダイレクトアタック!」
グラドス
LP 3150→1750
「クリフォート・エイリアスでダイレクトアタック!」
グラドス
LP 1750→350
残りライフ350。グラドスの手札は0枚。
「これで終わりだ! アポクリフォート・キラーでダイレクトアタック! 再星執行!
アポクリフォート・キラーのエネルギーが一点に収束し、発射される。これが通ればグラドスのライフは0になる。
――だが。グラドスにはまだセットカードが1枚残っている。
「トラップカード発動! ガード・ブロック! 戦闘ダメージを0にし、1枚ドロー!」
《ガード・ブロック》
通常罠
相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。
その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。
「仕留め損ねたか……! でもグラドス、君に残っているのは1ターンだけだ!」
相手のフィールドには攻撃力2800のモンスターが2体、3000のモンスターが1体。これをどうにかしなければいけない。
「――――っ!」
ガード・ブロックでドローしたのはサイバー・ドラゴン。自分のフィールドにはモンスターはいない。よって特殊召喚できるが、そのまま攻撃する事は出来ない。キメラテック・フォートレス・ドラゴンは……駄目だ。ペンデュラムモンスターは墓地へ行かない。よってアポクリフォート・キラーしか融合素材に出来ず、攻撃力は2000止まり。
――考えれば考えるほど、目の前が暗くなっていく。
「エンドフェイズ、クリフォート・アセンブラの効果で3枚ドロー」
このままだとどうなる? データとなって自分は消滅する。消えてしまう。
――――怖い。どうしようもなく、そう思った。
「覚悟を持て、プレイメーカー! 自分の大局を見失うな! たとえ道の途中で犠牲が出たとしても、その犠牲を背負って進め!」
財前の叫びが響く。
「行け! その覚悟を強さに変えて!」
あの男は自分から消滅を選んだ。それにはどれほどの勇気が必要だろうか?
……今、自分は何の為にデュエルをしている? ハノイの塔を止めるためだ。これ以上、あの人のような犠牲を増やさないためだ! グラドスの目に光が戻った。
――そうだ。あのカードなら。次にドローするのがあのカードなら、勝てる。
「……さあ、最後のお祈りは済んだかな?」
「……祈りはしない、ただデッキを信じるだけだ! 私の、タァーーンッ!!」
ヴァンガードは、グラドスのドローの軌跡に光を見た。デスティニードロー。グラドスの心は折れなかった。
「ドローフェイズに永続罠、一回休み発動! これで特殊召喚は封じられた!」
《一回休み》
永続罠
特殊召喚されたモンスターが自分フィールドに存在しない場合にこのカードを発動できる。
(1):このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、特殊召喚されたモンスターは、
そのターン終了時まで効果が無効化される。
(2):効果モンスターが攻撃表示で特殊召喚された場合にこの効果を発動する。
そのモンスターを守備表示にする。
これによってサイバー・ドラゴンを特殊召喚、融合モンスターを特殊召喚しても攻撃する事が出来なくなった。グラドスの手札は2枚。もしサイクロン等で一回休みを破壊して攻撃に回ろうとしても残る手札は1枚。ヴァンガードは勝利を確信していた。
――だが、グラドスの勝利の方程式はすでに整っている。
「私は墓地のサイバー・ドラゴン・コアを除外し、効果発動! デッキからサイバー・ドラゴンを特殊召喚する!」
「最後の悪あがきか! アポクリフォート・キラーと一回休みの効果を受けてもらうよ!」
「いいえ、これが必要なんです! 私はサイバー・ドラゴンをリリースし、サイバー・ドラゴンを通常召喚っ!!」
アポクリフォート・キラーの弱体化効果と一回休みの効果は通常召喚されたモンスターには発動されない。その穴を突いた。
「バトル! サイバー・ドラゴンでアポクリフォート・キラーに攻撃!」
「アポクリフォート・キラーの攻撃力は3000、サイバー・ドラゴンの攻撃力は2100だ、血迷ったかグラドス! …………いや、まさか!!」
――そう、サイバー・ドラゴンは光属性だ。
「手札のオネストを墓地へ送り効果発動! サイバー・ドラゴンの攻撃力をアポクリフォート・キラーの攻撃力分、3000アップさせる!」
《オネスト》
効果モンスター
星4/光属性/天使族/攻1100/守1900
(1):自分メインフェイズに発動できる。
フィールドの表側表示のこのカードを持ち主の手札に戻す。
(2):自分の光属性モンスターが
戦闘を行うダメージステップ開始時からダメージ計算前までに、
このカードを手札から墓地へ送って発動できる。
そのモンスターの攻撃力はターン終了時まで、
戦闘を行う相手モンスターの攻撃力分アップする。
サイバー・ドラゴン
攻2100→5100
「攻撃力、5100……!!」
私にこの攻撃を妨害する手はない。
「オネスティ・エヴォリューション・バーストォッッ!!!」
天使の力を受け強化されたエヴォリューション・バーストがアポクリフォート・キラーを撃ち抜く。
ヴァンガード
LP 1000→0
衝撃はアポクリフォート・キラーを貫いてもおさまらず、爆風にヴァンガードが吹き飛ばされる。
「うぁぁあああっっ!!」
受け身をとれずに橋の上を転がる。スペクター様のデュエルも丁度終わったようだった。
「迷いと後悔は別かもしれませんよ? フフフ……ハハハハハ……!」
あちこち打ち付けられて痛む体でなんとか立ち上がって近づく私に向こうが気づいたようだ。
「ヴァンガード!」
「……あ、最後にお話? このままだとこの橋危ないけど、一緒に落ちてくれるのかな?」
「話す暇ねえってプレイメーカー! 橋が落ちるぞ!」
Aiが急かす。彼らの後ろ姿を見送る。私の表情が仮面で見えないのが良かった。
「……何故、彼らの後を追わないのですか、ヴァンガード。貴方なら一緒に行きそうでしたが」
「この状況でそれですか。……ただ、スペクター様が一人になるのは嫌だろうなって、そう思っただけです」
スペクター様はそう聞くと驚いたように目を丸くした。そして、目を閉じて呟いた。
「…………ああ、本当に、馬鹿な人だ」
ふと、スペクター様が見上げて何かに気づく。私達の後ろには何がある? 聖天樹だ。
――ああ、そうだ。このままだと、スペクター様は。痛む体に鞭を打つ。ゆっくりと歩いて近寄るスペクター様。手を伸ばす。燃えた聖天樹が崩れて。
「お母……さん……」
「スペクター様っっ!!」
――そして、私は意識を失った。
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ゆめうつつ
プレイメーカーもリボルバーもGO鬼塚が好き。小説内でははっきりと書いてませんでしたが、プロレス好きな主人公はGO鬼塚も好きです。
結論、皆GO鬼塚が好き。
――我々は、知っている。
あるはずのない命があった。だから我々はそれを消そうとした。故に我々は貴方の元に集った。いつでも貴方を消せるように。それは決闘による不幸な事故の一つとして処理される……筈だった。
貴方の記憶を見た。その中にはこの世界の未来があった。……前世の貴方の終わりを見た。
混沌の悪神も、破滅の光も関係無い。貴方の魂がこの世界に来たのは紛れも無く偶然だった。
貴方は機械を愛した。……貴方になら、使われてもいい。そう、思ってしまった。
消す? 冗談じゃない。我々は貴方を問題無しと判断したのだ。その決定は覆される事はない。
ほら、貴方の記憶通りにデータストームが彼らを押し上げる。このままでは、グラドスとプレイメーカーがリボルバーの元へ辿り着くことになる。
「おい、あれは!?」
我々はデータストームの奥底、暗闇の中から照準を合わせていた。それに気付いたAiの忠告も虚しく、光線がグラドスの胸を貫く。
「なっ――――!?」
グラドスに傷は無い。だがデッキデータを損傷させた。これでハノイの塔が完成するまでの間、グラドスはデュエル出来ない。物語はあるべき流れへ戻った。貴方が望んだ通りに。我々が直接介入するのは出来れば避けたかったが、今回ばかりは仕方がない。
我々が貴方と共にある事はあの機械竜が伝えている頃だろう。……年若き機械竜は知らないが、我々は自らの思うまま行動できる。
貴方は、端末世界で我々がした事を知っている。我々が実は自由に動ける事を知らせて、貴方を必要以上に怯えさせたくないのです。
……ずっと我々を観測する者がいる。敵ではない。上位存在、恐らく神の誰か。それがつい先ほど力を振るった。もしあの人を傷つけるのであれば、神であろうと容赦はしない。
『……なんと、かの機殻を絆すとは!』
煩い。お前には関係無い事だろう。大人しくドジばかりしていろ。いっそのことOCG民に崇められてドジの権能がついてしまえ。
『な、何を言うか!? 我はドジなど……』
――
「ここ、は…………?」
目を覚ますと知らない場所にいた。確か、私はスペクター様を庇って、そして……。
「…………もしかして、死んじゃった、とか?」
見渡す限り黒。黒で塗りつぶされた世界に、私の姿がはっきりと浮かび上がっている。ハノイの塔に取り込まれたのなら自我は残らない筈だ。死後の世界、それともこれはアナザーの患者が見た風景?
「やっぱり、何も言えなかったなぁ」
最期の言葉を他人に伝える機会、なんてものは現実ではそうそうない。言いたいこと全部言って死ねる、なんて都合のいい奇跡は起こらない。
――いいや、これで良かったのかもしれない。彼の決意を邪魔するものは少ない方がいい。
グラドスは大丈夫だろうか。あのデータストームに助けられたのだろうか。このよく分からない場所からは確認は出来ない。
「さーてどうしようか」
どうしたらこの謎空間から脱出できるのだろうか。私に非ィ科学的なオカルトパワーはない。取り敢えず、デッキに入れているモンスターを片っ端から召喚すれば容量オーバーとかでなんとかなったりしないかな。この空間にそんな物があるのかは知らないけど。
そんなことを考えていると、ごうごうと音を立てて緑色の光が迫ってくる。ハノイの騎士になってから見慣れた姿。
『ご主人!』
クラッキング・ドラゴンが喋った。
『やっと見つけた! 生きてた!! よかったー!!! ぐすっ』
泣きながら擦り寄ってきた。機械族だから涙じゃなくて冷却水の可能性もあるけども。取り敢えず頭を撫でてみると、くるくると喉を鳴らす。可愛い。
「成る程、夢か」
夢だったらなんでもありだ。私の欲望を反映しているからこんな可愛いクラッキング・ドラゴンになったんだな?
『夢じゃないよ?』
私から少し離れ、ゆっくりと尾を揺らしながら語る。
『あのままだったら危なかったから、心だけ別の場所に移したの』
私は崩壊する聖天樹と共に炎に包まれた。リンクヴレインズからログアウトして、そのフィードバックがやってきたらどうなるか? 全身大火傷、呼吸困難、etc。身体は回収され棺の中にあると思われるが、このクラッキング・ドラゴンの言い方だと回収される直前の衝撃は殺せないのかもしれない。
――そんなことが出来る、目の前にいるこれは何だ?
『んー、一応精霊、かな?』
精霊、精霊ですか。遊戯王ではよくあることですね。
「って精霊だったの!!?」
『ぎゅう……あの時勝手に出てきたの、忘れた?』
「あの時って……」
勝手に出てきた時あったっけ?
『ド忘れ!? 悪ーい人とデュエルする前! 何もいじってなかったのに僕出たでしょ!?』
「悪い人……?」
『ミラフォと強烈なはたき落とし』
「思い出した」
そう言えばあったなそんな事。あれは私がただのハノイの騎士からヴァンガードになるきっかけの事件だった。あの場所にいた皆スルーしてたけど、勝手にモンスターが出てくる、なんて事は普通起こらない。
「あの時なーんで気づかなかったかなー、私」
『……うん、ご主人すごく不思議。他の人と違う。普通の人、こんな事信じないと思う』
「……あー、嫌だった?」
『そんな事ないよ! ご主人大好き!』
全身で好きを表現するクラッキング・ドラゴン。
「あ、もしかして他にも精霊いるの?」
『こうやって出てこれるのは僕だけだけど、他にもいるよ。えっと、クリフォート、だっけ? クリフォートは全員精霊がついてるよ』
それ精霊がいたらあかん奴らや。……あ、だからツールでサーチしなくても欲しいカードを引ける事が多いのか! ちょっと納得。
『ブンボーグとか、古代の機械とか、サイバー・ダークに超重武者、TG、ABC……とにかくいっぱい!』
私機械に好かれすぎぃ! 所持しているデッキが殆ど機械族だから仕方ないけどさ。
「あ、出てこれない精霊達の力も合わせてここに避難させてくれたの?」
『ううん、違うよ。あの時は僕しか動けなかった。それにね、僕一番年下だから力そんなに強くないの』
「……じゃあさ、どうして私をここに連れてこれたの?」
『何でだろ、わからない……』
クラッキング・ドラゴンはハノイの騎士によって作られたカード。電脳世界においてその力は強いだろうが、精霊としては若い。他の誰かが介入しなければ、精神だけを異空間に一時的に逃がすという大技は出来ない。
――――では、誰が?
異なる世界から迷い込んだ魂。
名もなき王の真の名を知る魂。
命の流れに関して厳格な筈の機殻を問題無く従える魂。
『鉄心の決意、か。成る程な』
――それは、冥界神の名を持つ竜の目にとまるのは必然だったのかもしれない。
『鉄はいつか錆びるだろう。……だが、真に純粋なる鉄は錆びはしない。鉄の心を持つ者よ、己が思いに導かれ生きよ。こうして我が力が届いたのも何かの縁。その旅路、我も見守らせてもらおうか』
天空に雷鳴轟く混沌の時、連なる鎖の中に古の魔導書を束ね、その力無限の限りを誇らん。
三幻神が一柱――オシリスの天空竜。
『……む、このクリフォート・アセンブラとやら、とても我にあう効果ではないか! それにキラーと我が同時にフィールドに居れば……』
『エッチョアノどじりすサン、コノでっきイマ40枚ナンデスケド』
『む、貴様はクリフォート・アクセスだったか。貴様がデッキから退けば済むではないか』
『アノ、イキナリムチャイワレテモ……』
『退け』
『…………ハイ』
ククククク、フフフフフ、ワーッハッハッハッハ!! とどこかの社長のような三段笑いを披露しているその存在が、クリフォートデッキにこっそりと紛れ込んでいることを知るのは少し後の話である。
描写ちょっとだけだし覚えている人いないと思うけど《バイトハノイ、一波乱》で主人公ミラフォ成功させてたんだよ! アニメであそこまで出世するとか思ってなかったよ!……あ、下水道の怪物は攻撃表示だからミラフォの光でお亡くなりになったのか。
はい、と言うわけでオシリスの天空竜が遊戯王VRAINSにログインしました。
キラーとオシリス並べたら、VRAINSではかなりのデッキが対処に困る気がする。頑張って魔法か罠でオシリスどけて下さい。
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慟哭
勝った。勝ったのだ。倒すべき相手、ヴァンガードに。ハノイの騎士に。喜ばしい事の筈だ。
――なら、この空虚は一体何だ?
「大丈夫か、グラドス!?」
「……え、ええ。私自身のデータに損傷はありません。ですが、デッキが……」
無機質な照準が撃ち抜いたのは私ではなくデッキデータのみ。修復することは出来るが、ハノイの塔完成までに間に合わなければ意味がない。何度計算しても帰ってくるのは無慈悲な答えだけだった。ここまで来たのに、最後で戦えなくなってしまった。
「申し訳、ありません……」
「誰にもあれは避けられなかった。……それに、デュエル以外にもできる事があるはずだ」
デュエルができない。この局面においてそれは致命的だ。はっきり言って邪魔者になった私を、プレイメーカーは見捨てないでいてくれる。ハノイの騎士を止められるのは今ここにいる私達だけだから、というのもあるのだろう。
「……プレイメーカー、貴方は……。いえ、やめておきましょう」
ヴァンガードはプレイメーカーの友だった。その衝撃は私が理解しているより精神にのし掛かってくるだろう。今は大丈夫そうに見えても、後でどうなるかまでは分からない。
スペクターが言っていた。迷いと後悔は別かもしれない、と。……だからこそ、今できる最善を尽くそう。彼に全て背負わせてはいけない。一人にさせてはいけない。そんな気がする。
「そうですね、ハノイの塔の完成を妨害する程度ならできる可能性があるかと。……最後まで戦いましょうか」
ハノイの塔は扱いを間違えれば自分も巻き添えを喰らう、とても危険性が高いプログラムだ。万が一に備えて何かしらストッパー、緊急停止等の仕組みはあるはず。それを利用すれば、データとなった人々も戻ってこれるはず。
「もう三段目までできちまってる。急がないとヤバイぜ、プレイメーカー、グラドス!」
Aiが言う通りだ。今は前に進まなければいけない。……皆が望むのはハッピーエンドだ。そんな事もあったなあ、と皆で笑い飛ばせるように日が来るように。
橋は崩壊し、彼らは消えた。名残惜しむように私達がデュエルしていた場所を見つめる。物思いにふける時間はそう残っていない。すぐにハノイの塔を止めなければならないからだ。
「…………」
ヴァンガードはプレイメーカーを急かした。あのような言い方だったのは、自分がハノイの騎士であり、敵だと認識しているからだ。デュエル中、自分が友である事を利用した揺さぶりもせず。敗北した時に、お前の仲間がお前の友を殺したと責めもせず。最期まで悪になれなかった人。
――ヴァンガード。もしも、です。もしもあの時に少しでも時間があれば、貴方は最期に何を伝えたかったのですか?
「GLAD、OSか……。ずいぶんとふざけた名前だ」
『祈りはしない、ただデッキを信じるだけだ!』
普通のAIならば勝つ為の計算を行い、あそこで絶望するだろう。一回休みにより、サイバー流がよく使用するパワーボンドやサイバネティック・フュージョン・サポートでは切り抜けられない状況。心は折れず、逆境を覆せるたった一枚を、オネストを引き当てた。
グラドスの言動の端々に彼女の影を見る。この世界に滅びをもたらすイグニス、と言うよりは一人のデュエリストと言った方がしっくり来る。元がデュエル用のAIだから、なのだろうか。それとも、ハノイの騎士とならなかった可能性、ifのヴァンガードと見るべきか。
彼女が現実世界でプレイメーカーの友であった。それは覆しようがない事実。私自らハノイの騎士に引き入れなかったなら、プレイメーカーと共に我々に牙をむいただろう。
イグニスはロスト事件の子供達をモデルに造られた。それをなぞるように、グラドスはヴァンガードをモデルとして誕生した。だが、半年という時間はかけず、たった一言で自我が芽生えた。だから、なのだろうか。他のイグニスとは違う、何かを感じるのだ。
――人間とイグニスとの橋渡し、グラドスはそれを可能にするかもしれない。
だが、いずれ世界を崩壊させる火種となる可能性が少しでもある限り、イグニスは滅ぼさなければならない。
棺には、崇高な目的のため犠牲となった彼らが横たわっている。この計画が成功すれば、彼らは――。
コートを翻し、決戦の地へと向かう。
「待っていろ、プレイメーカー……!」
誰かがデュエルしている、とカエルが指した方向へ向かうと、そこではGO鬼塚とリボルバーがデュエルをしている最中だった。鬼塚のフィールドには剛鬼サンダー・オーガ、ツイストコブラ、スープレックス、ライジングスコーピオの4体が並んでいる。ライフポイントはどちらも4000。デュエルは始まったばかりのようだ。
「あいつ! めちゃくちゃ張り切ってんじゃん」
「……最初から飛ばしすぎるのも考えものですがね」
リンク3のモンスターを出しているにも関わらず、フィールドに4体もモンスターがいるという事は、恐らく剛鬼再戦を使用したのだろう。リボルバーが使う恐ろしいカードが何かわからない今、高リンクモンスターへ繋げられる残り2枚の剛鬼再戦は使い所を見極めないといけない。
「出遅れたなプレイメーカー。生憎だがリボルバーは俺が倒す。お前はそこで黙って見ていろ」
GO鬼塚は自信満々にそう言い切る。彼はトップクラスの腕を持つカリスマデュエリストの一人、勝つ可能性は十分にある。なのに、何故だろうか。胸騒ぎがする。
「それでも、今は私に出来ることをするのみです」
ハノイの塔を解析する。ありとあらゆるデータを吸収しているそれに隠されているだろうプログラムを探し当て、起動させる。ここにいる私にしかできないこと。
「貴様はヴァンガードがなした策によってデュエルはできない。だからハノイの塔そのものを止めにかかった、か。……無駄な事を」
「無駄かどうかはやってみなくてはわからないでしょう?」
リボルバーはそれを聞くとふん、と鼻で笑い、デュエルが再開した。
剛鬼サンダー・オーガの効果でトリガー・ヴルムを。トポロジック・ボマー・ドラゴンに対して剛鬼ジャドウ・オーガを。互いに相手のカードを利用した戦術。これが世界の命運がかかった戦いでなければ拍手喝采が起きていたであろう。だが、ここに彼らを応援するファンはいない。
リンク・プロテクションの効果により、鬼塚はフィールドに4体のリンクモンスターを揃えなければ攻撃できないロックを仕掛けられた。ならばあと2体増やすまで、と鬼塚が動く。
「……お見事!」
鮮やかに、たった1ターンでリンクモンスターを2体増やし、合計4体。複数のリンクモンスターを出させること。それが、リボルバーの仕掛けた罠であると気付くのはすぐだった。
「底知れぬ絶望の淵へ、沈め!」
――聖なるバリア -ミラーフォース-。
ゴーストガールが伝えた、リボルバーの恐ろしいカード。フィールドは一掃されたが、それが逆にGO鬼塚の闘志を燃やすきっかけとなった。その不屈の闘志に敬意を表し、リボルバーもヴァレットモンスターを使用する。
自分自身の為だけに戦うGO鬼塚、目的の為に戦うリボルバー。対照的な二人のフィールドには剛鬼ザ・ジャイアントオーガとヴァレルソード・ドラゴン。ともにリンク4の切り札。一度は攻撃を凌いだが、ヴァレルソード・ドラゴンの二回目の攻撃が迫る。
「電光の、ヴァレルソード・スラッシュ!!」
ヴァレルソード・ドラゴンの剣がザ・ジャイアント・オーガを両断する。
――鬼塚のライフはゼロになった。赤い光のかけらが舞う。
「プレイメーカー、俺が出来るのはここまでだ」
「GO鬼塚、お前のおかげで奴の手の内を知ることができた」
「ふっ……後を頼む」
最期の言葉を残し、GO鬼塚は消滅した。彼が消えるのを目の当たりにして、感情がぐつぐつと沸き上がる。激情のまま叫ぶ。
「ふざけるな! リボルバー!」
「グラドス、お前……!?」
ぎょっとした目でこちらを見るAi。誰もこんな事を望んでいない。私が学んだデュエルは、皆に希望を与えるものだ。笑顔を、未来を、絆を。決して、世界を混乱させる道具ではない!
「……こんな、こんなものが! デュエルであっていい筈がないッ!!」
怒りと悲しみを含んだグラドスの慟哭がリンクヴレインズに反響する。
「貴方にも同じ信念の元に戦った仲間がいる! それを全て自分の手で消して、孤独になる事の何が正義だ! 答えろリボルバー!」
「黙れ! 私を倒せるデュエリストはプレイメーカーただ一人、戦えぬデュエリストの戯言に耳を貸す気はない!」
何故、なのだろう。ヴァンガード、貴方が言いたかった言葉が分かる気がする。それは、貴方自身が彼に伝えるべきこと。私の意思の元になったのが貴方ならば、これは貴方の怒りでもある。今ここにいない貴方の代わりに私は叫ぶ。必ず、ハノイの塔を止めてみせる。
――貴方はきっと、彼にハノイの塔を止めてくれと頼んだだろうから。
今更ですが、アニメに追いつきすぎて書くのが大変です。早く書きたい書きたいとどんどん更新して追いついた時はあっ……てなりました。
アニメがイグニスについて情報くれたのでちょろっと絡めたり。グラドスはヴァンガードをモデルにして誕生したイグニスだったんだよ!これ母と子の関係ってよりもう一人の僕の方がしっくりくるな。
Ai<我は汝、汝は我……。
遊作<チェンジで
あと幼少期リボルバー様かわいい。こんな衝撃を受けたのはIII以来だ……。
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取り敢えずデュエッ!
……せや、適当に主人公デュエルさせたろ!ちょっとギャグ入れたろ!←イマココ
「とんでもないことに気づいてしまった」
『何!? 僕何か変なことやっちゃってた!?』
「ここ、すごい暇」
『……それはどうしようもないよご主人』
遊戯王で異世界って普通デュエルする場所だよね。友達が消滅したりして闇落ちするための場所だよね。でもここは私とクラッキング・ドラゴンだけしかいない世界。やることが何もない。
安全が確保されるまで、具体的に言うとプレイメーカーとリボルバーの最終決戦が終わるまでここで二人きりなのだろうか。
「とりあえずデュエルする?」
『ご主人の持ってるデッキと全部同じ内容になっちゃうけどいいの?』
「えー、ミラーマッチとか私気にしないけどなー」
「じゃあ、俺とデュエルするか?」
「あ、お願いしまって誰!?」
唐突に会話に混ざった男性。白髪に緑色のメッシュ。年齢は私よりも上。顔や服装に見覚えがあるようなないような……。
『誰だお前は! どうやってここに入ってきた!』
クラッキング・ドラゴンが口腔に炎を溜めながら問い詰める。困ったように頭をかく青年。
「俺を知らない、か……。俺はお前たちのことを知ってるんだけどな。精霊のクラッキング・ドラゴンにヴァンガード。いや、今上詩織って呼んだほうが良いか?」
それを口にした瞬間、緊張感が増す。ごく限られた人しかヴァンガードが私だと知らないはずだ。それを知っているこの人は一体?
「どうして本名を……!?」
「だーかーら、お前が教えてくれたんだって。本当に覚えてないのか? …………ああ、そうか。これも罰ってことか」
青年は一人で納得したようだ。何一つとしてこちら側に情報は増えていないが。
『何を訳のわからないことを……!』
「お前はデュエルしたいんだろ? 俺もデュエルしたい。だからデュエルする。それだけでいいじゃないか」
『質問にこたえろーっ!』
ごう、と炎に飲み込まれていく青年。
「いきなり何やってんのーー!? え、生きてるよね!?」
『…………さあ?』
「え、ええー……」
手加減、遠慮など一欠片もない豪炎が真っ黒な空間を焼き尽くす、かに思われたが。
「あちち。クラッキング・ドラゴン、普通の人ならこれで死んでるぜ?」
青年が手で仰ぐと炎は霧散した。普通なら死んでいる、と言っているその青年はけろっとしている。体に煤はついていない。私をかばうようにクラッキング・ドラゴンが前に出る。
『ニンゲンみたいだけどニンゲンじゃない。デュエルするのは危険。……ご主人、どうする?』
「どう、って言われても……」
闇のゲーム、バリアンズ・スフィア・フィールド、リアルソリッドヴィジョン。デュエルに生じる危険性は理解しているつもりだ。でも、彼がそんなデュエルを仕掛けてくるようには見えない。
「彼が変なことしそうになったら止めてくれる?」
『ってことは……デュエルするの? 不安だなー』
「大丈夫だよきっと。デュエリストの勘を信じてほしい」
青年はそう聞くと声を弾ませてずいずいとこちらに寄って来る。
「そうこなくっちゃ! とりあえずそっちに合わせて新マスタールールでいいけど、レギュレーションはどうする?」
「ん、マスターデュエルかスピードデュエルの二つかな」
「スピードデュエル!! あれ一回やってみたかったんだよ! モンスター達と一緒に風に乗ってデュエルするんだよな!?」
青年は目を輝かせている。根っからのデュエル好きか。
「あ、でもここにデータストームは……」
『ハノイの騎士新人研修用、疑似データストーム使えばいけるけど。デュエルボードもあるし。……お前のためじゃないからね、ご主人のデュエルのためだからね』
「はいはい、わかったよ」
『擬似データストーム展開、デュエルモード、セット完了。……やっちゃって、ご主人!』
擬似とはいえハノイの騎士御用達のトレーニング。ずっとしてきたスピードデュエルと違和感は感じない。風に運ばれてきたデュエルボードは二つ。ハノイの騎士が使用する剣をモチーフにしたようなボードと、一般流通しているボード。
「っ、と、おおっ! 楽しいなこれ!」
彼が飛び乗った衝撃でぐらり、ぐらりとデュエルボードが左右に揺れる。スピードデュエルは本当に初めてらしい。
……うーん、会ったことはない、けど、見たことはあるような。ま、デュエルしたら分かるか。
「「スピードデュエル!!」」
ヴァンガード
LP 4000
謎の青年
LP 4000
「先行は私が貰うよ、私は可変機獣 ガンナードラゴンを通常召喚! リリースなしで通常召喚したガンナードラゴンの元々の攻撃力・守備力は半分になる!」
《可変機獣 ガンナードラゴン》
効果モンスター
星7/闇属性/機械族/攻2800/守2000
(1):このカードはリリースなしで通常召喚できる。
(2):このカードの(1)の方法で通常召喚した
このカードの元々の攻撃力・守備力は半分になる。
可変機獣 ガンナードラゴン
攻2800→1400
守2000→1000
「さらに、手札からトランスターン発動!」
《トランスターン》
通常魔法
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を墓地へ送って発動できる。
墓地へ送ったモンスターと種族・属性が同じで
レベルが1つ高いモンスター1体をデッキから特殊召喚する。
「トランスターン」は1ターンに1枚しか発動できない。
「可変機獣 ガンナードラゴンを墓地に送り、デッキから闇属性・機械族、レベル8のモンスターを特殊召喚する! 出てきて、クラッキング・ドラゴン!」
『やっちゃうぞー!』
《クラッキング・ドラゴン》
効果モンスター
星8/闇属性/機械族/攻3000/守 0
(1):このカードは、このカードのレベル以下のレベルを持つ
モンスターとの戦闘では破壊されない。
(2):このカードがモンスターゾーンに存在し、
相手がモンスター1体のみを召喚・特殊召喚した時に発動できる。
そのモンスターの攻撃力はターン終了時までそのレベル×200ダウンし、
ダウンした数値分だけ相手にダメージを与える。
やる気満々のクラッキング・ドラゴンがフィールドに現れる。デュエル中でも普通にしゃべっているところを見ると、いつもよりにぎやかなデュエルになりそうだ。
「カードを1枚セットしてターンエンド。っとそうだ、スピードデュエルにはメインフェイズ2がないから注意してね」
「わかってるさ! スキルだってちゃんと考えたんだからな! 俺のターン、ドロー!」
さて、何のカテゴリを使用するのか。とりあえず先行でクラッキング・ドラゴンを立てておいた。融合かシンクロを多用するデッキなら動きをある程度制限できるんだけど。
「先ず、カードを1枚セット。そして霊廟の守護者を召喚! さらにレベル4のモンスターの召喚に成功した時、カゲトカゲを手札から特殊召喚!」
《霊廟の守護者》
効果モンスター
星4/闇属性/ドラゴン族/攻 0/守2100
「霊廟の守護者」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):ドラゴン族モンスターをアドバンス召喚する場合、
このカードは2体分のリリースにできる。
(2):このカードが手札・墓地に存在し、
「霊廟の守護者」以外のフィールドの表側表示のドラゴン族モンスターが効果で墓地へ送られた場合、
または戦闘で破壊され墓地へ送られた場合に発動できる。
このカードを特殊召喚する。
さらに墓地へ送られたモンスターが通常モンスターだった場合、
自分の墓地のドラゴン族通常モンスター1体を選んで手札に加える事ができる。
《カゲトカゲ》
効果モンスター
星4/闇属性/爬虫類族/攻1100/守1500
このカードは通常召喚できない。
自分がレベル4モンスターの召喚に成功した時、
このカードを手札から特殊召喚できる。
このカードはシンクロ素材にできない。
霊廟の守護者の影からするりとカゲトカゲが現れる。これでレベル4が2体。ランク4エクシーズか。
「モンスター1体のみを召喚・特殊召喚した時、クラッキング・ドラゴンの効果発動! そのモンスターの攻撃力はターン終了時までそのレベル×200ダウンし、ダウンした数値分だけ相手にダメージを与える! 霊廟の守護者の攻撃力は0だからダメージは発生しないけど、カゲトカゲのレベルは4、攻撃力は1100! よって800のダメージを受けてもらうよ! クラックフォール!」
『エクシーズはやめてねビーム!』
「って何だよそれ!? いててて」
カゲトカゲ
攻1100→300
謎の青年
LP 4000→3200
『……リンク召喚もやめてね』
ぼそっとつぶやくクラッキング・ドラゴン。
「俺はレベル4の霊廟の守護者とカゲトカゲの2体でオーバーレイネットワークを構築!」
2体のモンスターが紫色の光球へ変化し、渦へ吸い込まれる。
「――漆黒の闇より愚鈍なる力に抗う反逆の牙! 今、降臨せよ! エクシーズ召喚! 現れろ、ランク4! ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン!」
《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》
エクシーズ・効果モンスター
ランク4/闇属性/ドラゴン族/攻2500/守2000
レベル4モンスター×2
(1):このカードのX素材を2つ取り除き、
相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターの攻撃力を半分にし、
その数値分このカードの攻撃力をアップする。
ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン。遊戯王ARC-V、ユートのエースモンスターだけど、この世界では普通に売られているカードの一つだ。
「オーバーレイユニットを2つ取り除き、ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンの効果発動! クラッキング・ドラゴンの攻撃力を半分にし、その数値分ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンの攻撃力をアップする! トリーズン・ディスチャージ!」
ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンから放たれた紫色の雷にクラッキング・ドラゴンが捕らわれる。
『うわーん、ひどいよー!』
クラッキング・ドラゴン
攻3000→1500
ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン
攻2500→4000
「さあ、バトルだ! ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンでクラッキング・ドラゴンを攻撃! 反逆のライトニング・ディスオベイ!」
風を裂きながらその鋭利な牙で穿とうと迫る。
「悪いけど、トラップ発動! 神風のバリア -エア・フォース-! 手札に戻って貰うよ」
「ってマジか! モンスターエクシーズは手札ではなく、エクストラデッキに戻る……!」
『さよならー』
《神風のバリア -エア・フォース-》
通常罠
(1):相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。
相手フィールドの攻撃表示モンスターを全て持ち主の手札に戻す。
哀れ、ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン。出番は効果を使用しただけだった。……でもってあの効果永続なんだよね。
「俺はこれでターンエンド。……ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン、ごめんな」
『フィールドがら空き! 攻撃チャンス!』
「私のターン、ドロー! ……
クラッキング・ドラゴン
攻1500→守0
《鋼鉄の襲撃者》
フィールド魔法
(1):このカードがフィールドゾーンに存在する限り、
自分の機械族・闇属性モンスターは、それぞれ1ターンに1度だけ戦闘では破壊されず、
その戦闘で自分が戦闘ダメージを受けた場合、その数値分だけ攻撃力がアップする。
(2):1ターンに1度、自分フィールドの元々の種族・属性が機械族・闇属性のモンスターが、
戦闘または自身の効果でフィールドのカードを破壊した場合に発動できる。
手札から機械族・闇属性モンスター1体を特殊召喚する。
『あれ、攻撃しない? ……あ、セットカードか。まあ、鋼鉄の襲撃者があれば後続に繋がるし何とかなるよね!』
「……私の勘が当たっていたらだけど。クラッキング・ドラゴン、次のターンで退けられるよ」
『……うそ?』
え、と言わんばかりに口をかぱーっと開けている。
「俺のターン、ドロー! 自分フィールドにモンスターが存在しない場合、手札から
《SRベイゴマックス》
効果モンスター(制限カード)
星3/風属性/機械族/攻1200/守 600
「SRベイゴマックス」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分フィールドにモンスターが存在しない場合、
このカードは手札から特殊召喚できる。
(2):このカードが召喚・特殊召喚に成功した時に発動できる。
デッキから「SRベイゴマックス」以外の
「スピードロイド」モンスター1体を手札に加える。
《SR赤目のダイス》
チューナー・効果モンスター
星1/風属性/機械族/攻 100/守 100
(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、
「SR赤目のダイス」以外の自分フィールドの
「スピードロイド」モンスター1体を対象とし、
1~6までの任意のレベルを宣言して発動できる。
そのモンスターはターン終了時まで宣言したレベルになる。
「モンスターが召喚されたことでクラッキング・ドラゴンの効果発動! クラックフォール!」
『嫌な予感あたっちゃったビーム……』
SRベイゴマックス
攻1200→600
謎の青年
LP 3200→2600
「赤目のダイスを通常召喚!」
「クラックフォール!」
『……ビーム』
SR赤目のダイス
攻100→0
謎の青年
LP 2600→2500
「赤目のダイス、効果発動! ベイゴマックスのレベルを6にする!」
『いーやー! 絶対あれでしょー!』
やだやだと体をよじって抗議する。が、相手は精霊の抗議とか気にしたら勝てないのだ。ガン無視である。
「レベル6のベイゴマックスに、レベル1の赤目のダイスをチューニング!」
個では勝てない相手。それを打ち倒すために星々は繋がり、一つの力へ進化する。
「――その美しくも雄々しき翼翻し、光の速さで敵を討て! シンクロ召喚! 現れろ、レベル7! クリアウィング・シンクロ・ドラゴン!」
《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》
シンクロ・効果モンスター
星7/風属性/ドラゴン族/攻2500/守2000
チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
(1):1ターンに1度、このカード以外のフィールドの
レベル5以上のモンスターの効果が発動した時に発動できる。
その発動を無効にし破壊する。
(2):1ターンに1度、フィールドのレベル5以上の
モンスター1体のみを対象とするモンスターの効果が発動した時に発動できる。
その発動を無効にし破壊する。
(3):このカードの効果でモンスターを破壊した場合、
このカードの攻撃力はターン終了時まで、
このカードの効果で破壊したモンスターの元々の攻撃力分アップする。
「クリアウィング・シンクロ・ドラゴンの特殊召喚に対し、クラッキング・ドラゴンの効果は使用しない!」
『よかった、強制効果じゃなくてよかった! 任意で助かった!』
「……ま、だろうとは思ってたよ。永続トラップ発動! 追走の翼! 対象はもちろんクリアウィング・シンクロ・ドラゴンだ!」
《追走の翼》
永続罠
自分フィールドのSモンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。
(1):このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、対象のモンスターは戦闘及び相手の効果では破壊されない。
(2):対象のモンスターがレベル5以上の相手モンスターと戦闘を行うダメージステップ開始時に発動できる。
その相手モンスターを破壊する。
対象のモンスターの攻撃力はターン終了時まで、この効果で破壊したモンスターの元々の攻撃力分アップする。
(3):対象のモンスターがフィールドから離れた場合にこのカードは破壊される。
「うっそ、耐性増えた!?」
『さよなら、ご主人……』
セットカード追走の翼だったのか攻撃しとけば、って私のデッキレベル5以上が殆どなんですけど!? しかも効果破壊耐性とかふざけんなってレベルですよ!?
「バトルだ! クリアウィング・シンクロ・ドラゴンでクラッキング・ドラゴンを攻撃! 追走の翼の効果で破壊させて貰う!」
『後は任せたよ、デスペラード・リ――』
追走の翼の対象となったクリアウィング・シンクロ・ドラゴンの攻撃を食らい爆発。名前長いからね、仕方ないね。
「……締まらなかったな、最後」
「……はい、任されたよクラッキング・ドラゴン。自分フィールドの機械族・闇属性モンスターが効果で破壊されたので、手札からデスペラード・リボルバー・ドラゴンを特殊召喚。……さーてクリアウィングをどうするかなー」
《デスペラード・リボルバー・ドラゴン》
効果モンスター
星8/闇属性/機械族/攻2800/守2200
(1):自分フィールドの機械族・闇属性モンスターが戦闘・効果で破壊された場合に発動できる。
このカードを手札から特殊召喚する。
(2):1ターンに1度、自分・相手のバトルフェイズに発動できる。
コイントスを3回行う。
表が出た数までフィールドの表側表示モンスターを選んで破壊する。
3回とも表だった場合、さらに自分はデッキから1枚ドローする。
この効果を発動するターン、このカードは攻撃できない。
(3):このカードが墓地へ送られた場合に発動できる。
コイントスを行う効果を持つレベル7以下のモンスター1体をデッキから手札に加える。
「っと、追走の翼の効果でクリアウィングの攻撃力はターン終了時までクラッキング・ドラゴンの元々の攻撃力分上昇する、けどやる事ないしな、これでターンエンド。攻撃力は元に戻る」
リンクヴレインズでは世界の命運がかかったデュエルが行われているというのに、謎の空間で呑気にデュエルする二人。
謎の青年の正体がバレバレだったり、謎の青年が謎空間に入ってきてしまったのはオシリスの管理不行き届きの気もするが、気にしてはいけないのだ。
……気にしては、いけないのだ。
この時のオシリス
「神縛りの塚も入れたいぞ! と言うわけでカーネル、退け」
「エェー……」
「貴様神縛りの対象ではないだろうが。レベル9、1ターンのみのコントロール奪取……微妙だな」
「グフッ!キニシテイルコトヲ」
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揺れない振り子
ズィーガーってドイツ語で勝利者って意味らしいですね。近未来な見た目でカッコいい。好き。
リンクモンスターの青いフレームがマッチしてる。好き。
ヴァンガード
LP 4000
謎の青年
LP 2500
相手のフィールドにはクリアウィング・シンクロ・ドラゴンに追走の翼。手札は2枚。
対してこちらのフィールドにはデスペラード・リボルバー・ドラゴンだけ。手札は0。このドローで対処できるカードを引かないと押し負ける。
「私のターン、ドロー……良し! 魔法カード、アドバンスドロー発動! デスペラード・リボルバー・ドラゴンをリリースして2枚ドロー!」
『望みを託したデスペラード先輩ー!』
「復活早っ!?」
デスペラード・リボルバー・ドラゴンがフィールドから消える姿を見て、つい先ほど爆発したクラッキング・ドラゴンが復活。私と並走している。
手札を補充し2枚に。クリアウィングを処理できるカードはドローできた!
「カードを1枚セット。そして相手フィールドにのみモンスターが存在するので、サイバー・ドラゴンを特殊召喚!」
《サイバー・ドラゴン》
効果モンスター
星5/光属性/機械族/攻2100/守1600
(1):相手フィールドにのみモンスターが存在する場合、
このカードは手札から特殊召喚できる。
フィールドに現れた黒いサイバー・ドラゴンがクリアウィング・シンクロ・ドラゴンに巻きつき、融合召喚時に現れる渦の中へ共に落ちていく。
「なっ、クリアウィング!?」
「このモンスターは、サイバー・ドラゴンモンスターとEXモンスターゾーンのモンスター1体以上を自分・相手フィールドの上記カードを墓地へ送った場合のみ、EXデッキから特殊召喚できる!」
どんなモンスターであれど、EXモンスターゾーンに存在するなら融合召喚の素材にしてしまう新たなキメラテック。
「来たれ、キメラテック・メガフリート・ドラゴン!」
《キメラテック・メガフリート・ドラゴン》
融合・効果モンスター
星10/闇属性/機械族/攻 0/守 0
「サイバー・ドラゴン」モンスター+EXモンスターゾーンのモンスター1体以上
自分・相手フィールドの上記カードを墓地へ送った場合のみ、EXデッキから特殊召喚できる(「融合」は必要としない)。
このカードは融合素材にできない。
(1):このカードの元々の攻撃力は、このカードの融合素材としたモンスターの数×1200になる。
「このモンスターの元々の攻撃力は融合素材としたモンスターの数×1200になる。よって攻撃力は2400に!」
キメラテック・メガフリート・ドラゴン
攻0→2400
「対象となっていたクリアウィングがフィールドから離れたことで追走の翼は破壊される。これでフィールドはガラ空き! キメラテック・メガフリート・ドラゴンでダイレクトアタック!」
「ぐわあぁあっ!」
謎の青年
LP 2500→100
「良し、残り100…………あ」
『どうしたのご主人?』
相手、鉄壁入ってしまった。
「俺のターン、ドロー! カードを1枚セット。……さあ、運試しといこうか! 魔法カード、カップ・オブ・エースを発動!」
《カップ・オブ・エース》
通常魔法
コイントスを1回行う。
表が出た場合、自分はデッキからカードを2枚ドローする。
裏が出た場合、相手はデッキからカードを2枚ドローする。
「コイントスを1回行い、表が出た場合俺が、裏が出た場合お前がデッキからカードを2枚ドローする。……頼むぜ、コイントスだ!」
天に舞い上がる一枚のコイン。コイントスの結果は――。
「よっしゃ! 表が出たから2枚ドロー! そして、
《捕食植物オフリス・スコーピオ》
効果モンスター
星3/闇属性/植物族/攻1200/守 800
「捕食植物オフリス・スコーピオ」の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、
手札からモンスター1体を墓地へ送って発動できる。
デッキから「捕食植物オフリス・スコーピオ」以外の
「捕食植物」モンスター1体を特殊召喚する。
「やっぱり、そのデッキ……」
『?』
ARC-V見たら誰もが思いつくであろうEM幻影SR捕食では? まだEMと幻影が出て来てないけど。1ターンに1体四天の龍を出せてるしエンタメしてる。いや、元の持ち主としてはできて当然の事か。
「このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、手札からモンスター1体を墓地へ送って効果を発動! デッキから捕食植物オフリス・スコーピオ以外の捕食植物モンスターを特殊召喚する。俺はデッキから捕食植物ダーリング・コブラを特殊召喚!」
《捕食植物ダーリング・コブラ》
効果モンスター
星3/闇属性/植物族/攻1000/守1500
「捕食植物ダーリング・コブラ」の効果はデュエル中に1度しか使用できない。
(1):このカードが「捕食植物」モンスターの効果で特殊召喚に成功した場合に発動できる。
デッキから「融合」魔法カードまたは「フュージョン」魔法カード1枚を手札に加える。
「捕食植物ダーリング・コブラの効果! デッキから魔法カード融合を手札に加え、これを発動!」
色んなデッキで活躍する出張セットの2体。そして発動した融合。現れるのは勿論。
「――魅惑の香りで虫を誘う二輪の美しき花よ! 今ひとつとなりて、その花弁の奥の地獄から、新たな脅威を生み出せ! 融合召喚! 現れろ! 飢えた牙持つ毒龍! レベル8、スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン!」
《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》
融合・効果モンスター
星8/闇属性/ドラゴン族/攻2800/守2000
トークン以外のフィールドの闇属性モンスター×2
(1):このカードが融合召喚に成功した場合に発動できる。
相手フィールドの特殊召喚されたモンスター1体を選び、
その攻撃力分だけこのカードの攻撃力をターン終了時までアップする。
(2):1ターンに1度、相手フィールドの
レベル5以上のモンスター1体を対象として発動できる。
ターン終了時まで、このカードはそのモンスターと同名カードとして扱い、同じ効果を得る。
(3):融合召喚したこのカードが破壊された場合に発動できる。
相手フィールドの特殊召喚されたモンスターを全て破壊する。
「これで3体目。……いや、エクシーズ・ドラゴンはエクストラに戻ってるから覇王龍まではまだセーフか」
「……っ!? な、んで、知って……!」
覇王龍と聞き、目に見えて動揺し始めた青年。いや――ズァーク。
「……ま、こっちにも事情があってね」
もしアストログラフ・マジシャンが原作効果だった場合、効果破壊した瞬間覇王龍ズァークがすっ飛んでくるから気をつけないと。ズァークも原作効果だと対処めんどくさいし。……万能除去の壊獣? このデッキには入れてないんだよね。
「……何で知っているのかは後で聞かせてもらう。……スターヴ・ヴェノムの効果発動! 相手フィールドの特殊召喚されたモンスター1体を選び、その攻撃力分だけこのカードの攻撃力をターン終了時までアップする! 俺が選ぶのはキメラテック・メガフリート・ドラゴンだ!」
スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン
攻2800→5200
「バトル! スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンでキメラテック・メガフリート・ドラゴンに攻撃! さらに速攻魔法、決闘融合-バトル・フュージョン発動!」
《決闘融合-バトル・フュージョン》
速攻魔法
「決闘融合-バトル・フュージョン」は1ターンに1枚しか発動できない。
(1):自分フィールドの融合モンスターが
相手モンスターと戦闘を行う攻撃宣言時に発動できる。
その自分のモンスターの攻撃力はダメージステップ終了時まで、
戦闘を行う相手モンスターの攻撃力分アップする。
「この効果でスターヴ・ヴェノムの攻撃力は更に2400アップ!」
スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン
攻5200→7600
「攻撃力7600!?」
『ワンターンキルされちゃう!』
普通のデュエルではなかなかお目にかからない数値だ。各ドラゴンに対し、的確にサポートを引っ張ってこれるのは彼の実力だろう。
「これで終わらせる! 行け、スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン!」
紫色の翼を広げ、その牙をもって一撃で葬り去ろうとする毒龍。このまま攻撃を受けたら5200のダメージを受けて私は負ける。
「させない! リバースカード、収縮発動! スターヴ・ヴェノムの元々の攻撃力を半分にする!」
《収縮》
速攻魔法
(1):フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターの元々の攻撃力はターン終了時まで半分になる。
スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン
攻7600→6200
これでぎりぎりライフが残る。ライフが残れば可能性はある!
「っ、耐えたか……!」
ヴァンガード
LP 4000→200
「ぐうぅっ、あぁぁあっ!」
『ご主人!』
スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンの攻撃でデュエルボードから落ちた私をクラッキング・ドラゴンが頭で受け止める。
「っ、フィールド魔法、
キメラテック・メガフリート・ドラゴン
攻2400→6200
主人を傷つけた毒龍に対抗するようにメガフリートが咆哮する。クラッキング・ドラゴンからデュエルボードへ移る。
「ダメージステップ終了時、決闘融合-バトル・フュージョンの効果で上昇した攻撃力が戻る。更にスターヴ・ヴェノムの効果、ターン終了時攻撃力は元に戻る」
スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン
攻7600→2800
「私のターン、ドロー!」
このまま攻撃すれば勝てる。……けど、あのセットカードが何なのか分からない今、確実にライフを削れる効果を持ったモンスターを出すべきだ。
「エクストラデッキからサイバー・エンド・ドラゴンをゲームから除外し、Sin サイバー・エンド・ドラゴンを特殊召喚!」
《Sin サイバー・エンド・ドラゴン》
効果モンスター
星10/闇属性/機械族/攻4000/守2800
このカードは通常召喚できない。
自分のエクストラデッキから「サイバー・エンド・ドラゴン」1体を
ゲームから除外した場合のみ特殊召喚できる。
「Sin」と名のついたモンスターはフィールド上に1体しか表側表示で存在できない。
このカードが表側表示で存在する限り、自分の他のモンスターは攻撃宣言できない。
フィールド魔法カードが表側表示で存在しない場合このカードを破壊する。
「レベル10のキメラテック・メガフリート・ドラゴンとSin サイバー・エンド・ドラゴンでオーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚! 出発進行!
《超弩級砲塔列車グスタフ・マックス》
エクシーズ・効果モンスター
ランク10/地属性/機械族/攻3000/守3000
レベル10モンスター×2
1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。
相手ライフに2000ポイントダメージを与える。
スピードデュエルではメインフェイズ2が無いため奇襲性に欠ける。だがライフ4000のこの世界において、効果でライフの半分を削れるこのモンスターが脅威であることに変わりはない。
砲塔をズァークへ向け、攻撃と効果ダメージの二つで確実にダメージを与えようとするその時、彼は動いた。
「おっと、そいつの効果は使わせないぜ! 永続罠
《幻影霧剣》
永続罠
フィールドの効果モンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。
「幻影霧剣」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、
対象のモンスターは攻撃できず、攻撃対象にならず、効果は無効化される。
そのモンスターがフィールドから離れた時にこのカードは破壊される。
(2):墓地のこのカードを除外し、
自分の墓地の「幻影騎士団」モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターは、フィールドから離れた場合に除外される。
グスタフ・マックスの周囲に薄紫色の霧がかかる。その砲塔で狙うモンスターもデュエリストも見えず立ち往生するしかない。
「……どっちにしろこのターンじゃ無理だった、か。私はこれでターンエンド」
あのまま攻撃していた場合、ズァークはスターヴを幻影霧剣の対象にして凌ぐ腹づもりだった。
「俺のターン、ドロー! 魔法カード、マジック・プランターで幻影霧剣を墓地へ送り2枚ドロー!」
《マジック・プランター》
通常魔法
(1):自分フィールドの表側表示の永続罠カード1枚を墓地へ送って発動できる。
自分はデッキから2枚ドローする。
グスタフ・マックスを妨害していた幻影霧剣を墓地へ送った。彼はこのターンでデュエルを終わらせるつもりだ。
「エクシーズ、シンクロ、融合。俺に力を貸してくれたドラゴン達。……ここまで言えばわかるだろ? 残っているのはペンデュラム!」
グスタフ・マックスに纏わりついていた霧がスターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンの方へ流れる。
「魔法カード、ダウンビート発動!」
《ダウンビート》
通常魔法
このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。
(1):自分フィールドの表側表示モンスター1体をリリースして発動できる。
リリースしたモンスターと元々の種族・属性が同じで
元々のレベルが1つ低いモンスター1体をデッキから特殊召喚する。
霧の向こう側、スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンのシルエットが違うドラゴンへと変化していく。翼は消え、尾は短く、足はがっしりとしたものに。
「スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンをリリースし、ドラゴン族・闇属性、レベル7のモンスターを呼ぶ! ――さあ、お前の出番だ!」
――そして、眼はオッドアイに。
「――雄々しくも美しく輝く二色の眼! オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン!」
《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》
ペンデュラム・効果モンスター
星7/闇属性/ドラゴン族/攻2500/守2000
【Pスケール:青4/赤4】
「オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン」の(1)(2)のP効果は
それぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分のPモンスターの戦闘で発生する自分への戦闘ダメージを0にできる。
(2):自分エンドフェイズに発動できる。
このカードを破壊し、デッキから攻撃力1500以下のPモンスター1体を手札に加える。
【モンスター効果】
(1):このカードが相手モンスターと戦闘を行う場合、
このカードが相手に与える戦闘ダメージは倍になる。
ぶん、と尾を振るい霧を裂いて現れる赤いドラゴン。
「オッドアイズの攻撃力は2500。どうやってグスタフ・マックスの3000を超える?」
残った手札が魔法カード螺旋のストライクバーストの場合、グスタフ・マックスを破壊、ダイレクトアタックしようとしてもスキルで凌げる。
「こうするのさ!
《EMソード・フィッシュ》
効果モンスター
星2/水属性/魚族/攻 600/守 600
(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動する。
相手フィールドの全てのモンスターの攻撃力・守備力は600ダウンする。
(2):このカードがモンスターゾーンに存在し、
自分がモンスターの特殊召喚に成功した場合に発動する。
相手フィールドの全てのモンスターの攻撃力・守備力は600ダウンする。
超弩級砲塔列車グスタフ・マックス
攻3000→2400
『……先にソード・フィッシュを召喚してからダウンビート使えば攻撃力をもう600下げられたのに』
「演出だよ、え・ん・しゅ・つ! これでジャストだ!」
『ジャスト……?』
「バトル! オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンでグスタフ・マックスを攻撃! 螺旋のストライクバースト!」
データストームを足場に飛び上がり、上空からブレスを放つ。
「このカードが相手モンスターと戦闘を行う場合、このカードが相手に与える戦闘ダメージは倍になる! リアクションフォース!!」
攻撃は勢いを増し、ダメージは100から倍の200に。
「私のスキルはダイレクトアタックされた時にしか使えない。……負け、か」
ヴァンガード
LP 200→0
デュエル終了を告げるブザー音。デュエルボードを地上へ向け走らせ、すれすれに来たところで降りる。デュエルボードと擬似データストームは0と1に分解し消えていった。
「……さて、聞かせてもらうぞ。何故、覇王龍ズァークを知っている?」
先ほどまでとは打って変わって緊張した空気が流れる。……目が金色になってますよズァークさん!?
「いやだってショップで普通に売ってるから……」
「売ってる? …………我が?」
「うん」
そう聞いたズァークは膝から崩れ落ちる。
「……これが異世界、何と恐ろしい! 世界を滅ぼした俺が、う、売られ……」
『世界を滅ぼした? やっぱ信用したらダメなやつだった!』
「っそこは無視しろ! もろもろ終わった後、精霊界の王にボコられまくったからな!? う、今思い出しても恐ろしい……」
青眼コワイ、と顔に書いてある。目の色と元に戻っていた。……正義の味方カイバーマン。社長に似たモンスターにして精霊界の王。やはり彼がした事は許せなかったか。
四天の龍と統合したズァークは覇王龍ズァークになり、精霊と人間の融合体となった。……精霊は精霊界にいるもの。ARC-Vが終わって精霊界に来た覇王龍ズァークの悪意を粉砕玉砕大喝采して綺麗なズァークに戻した訳だ。
うーん、今ここにいるのは零羅の中に封印された悪魔ではなく、覇王龍ズァークの精霊が人間ズァークの姿をとってやって来た、が正解かな?
「すぅー、はぁー……。よし落ち着いた。スピードデュエル、楽しかったぜ。リンクモンスター無しにドラゴン達を次々展開するってのは一回やりたかったんだけど、エクストラモンスターゾーンから退いてもらうのが相手に依存するのが問題だったんだ。……あそこまで綺麗に決まるとは思ってなかったけどな」
「私だってドラゴン達をどう処理するかで手こずったからお互い様。あそこでダウンビートは意外だったよ」
「だろー!?」
『……いつになったら終わるかな、プレイメーカーとリボルバーのデュエル』
和気藹々とデュエル談義し始める二人。こうなるとデュエリストは止まらないことを理解しているクラッキング・ドラゴンは、どこか遠くを見つめていた。
結局使いませんでしたが、ズァークのスキルは自分フィールドのカードが相手の「効果」で破壊された瞬間、空いているモンスターゾーン(メイン、エクストラ含む)に問答無用で原作効果ズァークがすっ飛んでくるスキルです。やべえ。
……一応ラスボスなのでこのぐらいしてもいいよね?スキル名は『覇王の天命』です。
ARC-Vで何故過去作のキャラが出てきたのか、に対して本小説では、番外編で主人公がズァークに憧れのデュエリストとして過去作キャラの話をしたから、その再現をすれば驚いてくれるかな、な解釈です。
分かりやすく言えば、ズァークが「原作知らないけど、どんなキャラなのか二次創作見たから書けると思います」な感じだと思ってください。
主人公が覇王龍ズァークを知っている、っていうことはズァークとしては自分があれから何したのか主人公が知っていることにもなるわけで。自分と会った人と違うパラレルワールドの存在でも嫌われるのを恐れました。
〜ズァークが受けた罰〜
・四天の龍をOCG効果へ変更(原作スターヴやばい)
・他世界への必要以上の介入禁止
・ズァークが会った主人公とは会えない。もし会えてもパラレルワールドの別人
・覇王魔術師使用禁止
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終焉、そして少しだけ変わった未来への道
ふと顔を上げるズァーク。
「そろそろ時間だな」
「……?」
そう言った瞬間、真っ暗だった世界に光が差し込む。
「そっちの問題が全部終わったんだろうよ」
「……そうか、やったんだ……遊作君」
ハノイの塔は倒れ、その一部となっていた人々の意識が戻ったのだろう。となれば、現実世界で意識が無い私も戻らなければ不自然になる。
「あーあ! もっとデュエルしたかったなー!」
時間になったから終わりだというのに駄々をこねる。彼の側にはオッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン。嗜めるように尾で軽く背中を叩く。
「いてて、わかってるって」
「さよなら、だね」
「……いいや違う」
――ずっと、心のどこかで彼女を探していた。ペンデュラムの使い方の一つ、ダウジング。ペンデュラムは落ち着くことなく揺れ続け、世界のどこにもいないことを示していた。
でも、もうペンデュラムが揺れることはない。大事な探し物を見つけたから。それに彼女の精霊が力を増せば、またいつでもデュエル出来るようになる。
だから、この言葉で終わろう。
「またな!」
光の中に彼の姿が消えていく。
『ご主人、僕達も行こう』
「うん」
光へ足を踏み出す。光はだんだん強くなり、腕で遮っても瞼を閉じても不思議と視界に入ってくる。目を刺すようなものではなく、優しく包み込むような光。周囲の黒が全て白に変わり――。
そして、現実で目を覚ました。
「――本当に終わったんだ、全部」
目覚めると外はすっかり暗くなっていた。混乱などは無く、いつも通りの街並みが広がっている。
たった六時間。六時間で世界は救われた。この六時間でハノイの騎士は無くなった。私は晴れて自由の身。
……事故って入院中にハノイ入りってよく考えるととんでもないことやってたな。それにやり甲斐ある仕事だったとはいえ馴染み過ぎて恐ろしいわ。ハノイの騎士は無くなったけど、ヒャッハノイ達は勝手にイベ企画して、集まって馬鹿やったりするのかな? ネオ・ハノイの騎士とか作ってやらかさなかったらいいんだけど……。
――これは思い出と言う名の現実逃避。そう、私は今重大な問題に直面していた。
「あー……説明どうしよー……」
ぼふ、と枕に顔を埋める。
衝撃の真実した後でどんな顔して会えばいいのよー。学校でほぼ毎日会うし、部活も同じだし。いっそのこと逃げる? 普通の高校生が突然家出してどこへ行くってのよ。ハハハハハ……はあ。
――ピンポーン。
無慈悲なチャイムが鳴る。
「……うう」
あれ、思っていたより早くないですか? 髪を手ぐしで整えてからドアを開ける。
「……遊作君」
「突然すまないな……ヴァンガード」
予想通りチャイムを鳴らしたのは遊作君だった。名前でなくアバター名で呼ぶのは怒っているからなのだろうか。
玄関にずっと立たせておくのもあれなので、取り敢えず座布団とお茶を出す。
「何故ハノイの騎士に入ったのかは今は聞かない。……教えてくれ、本当に十年前の事件を知らなかったのか?」
彼が復讐者になるきっかけ、ロスト事件。半年間行われたその実験は抉り出せない血肉となってしまった。
「……皆、ロスト事件については何も話さなかった。末端の部下はもちろん私にも、ね」
いかに成果を上げようと私は外部の人間だ。十年前、六人の子供をさらって非人道的な実験をしていました、なんて部下に教えられるはずがない。どれ程口止めをしてもネットに情報が拡散し、結果自分の首を絞めることになるからだ。
「スペクター様のあの話で何となく、ぐらいだよ」
「……そう、か」
辛かっただろう、苦しかっただろう、寂しかっただろう――。今更同情して何になる? 小さい時、周囲に何度上っ面だけの同情をされたかは分からないし、それを繰り返すつもりもない。
「知らなかったは免罪符にならないぐらいわかってる。それに私は多くの人を巻き込んだ。ハノイへの復讐者、君には裁く権利がある。デュエルを辞めろ、って言えばもうデュエルはしない。……どうするプレイメーカー」
デュエルディスクを腕から外し、テーブルの上に置く。
「なら、一つだけ」
遊作君が私のデュエルディスクを手に取る。
「俺の仲間になってくれ、ヴァンガード。……いや、『今上 詩織』」
手に取ったデュエルディスクをそのまま突き返す。予想外の返事に一瞬固まる。今なんと? 仲間に? 私が?
「……嘘……だよね?」
「嘘じゃない。そう決めた理由は三つある。一つ、俺の復讐は終わった。二つ、そのデュエルの腕は放っておくには勿体ない」
幼い鴻上了見が教えてくれた救い、三つを考えること。指折り数えながら説明する遊作君の最後の言葉は。
「――三つ、友達の願いを断るほどお前は悪い奴じゃない」
真っ直ぐ見つめてくる遊作君。思わず目をそらす。
リボルバー様……いや、鴻上了見は仲間となることを拒んだ。何より救いたかった人はどこか遠くへ行ってしまった。彼が心を許せるのはあの事件の被害を知っている人だけ、だと思っていたのだが。
――犯した罪は消えないけれど。彼は許してくれるのだろうか。
「あー、その……うん」
座ったまま少し後ろに下がり、手をつき、頭を下げる。
「ハノイの騎士でした事の贖罪として! 友達として! 不肖ヴァンガード、改め今上詩織! 仲間に入れさせてもらいます!」
言った。言ってしまった。顔を少しだけ上げて反応を見る。
「ああ、よろしく頼む」
「ハイ、今後とも宜しくお願いします」
てっきりデュエルを辞めろと言うかと思っていたので声の調子とテンションがおかしい。二言三言話し、続きの話は明日カフェナギでしよう、と決まった。
次は草薙さんへの説明か……ハノイの騎士だった時の情報まとめて提出が出来るようにしておかないと。絶対俺達の目の届かない所で何をしていたのか、って突っ込んで来そうだからな。
「……あー、明日大丈夫なの?」
「生憎、どこかの騎士のお陰で夜更かしには慣れてるからな」
「うぐ」
……それを言われるときついです。
「それじゃあ明日、頼むぞ」
「また明日、遊作君」
後ろ姿が見えなくなるまで見送ってからドアを閉める。しっかり鍵をかけて……。
「ゔわーーっ!」
高速で布団にダイブ。布団の上で足をバタバタさせたり、ローリングしたり、枕を壁に投げたり。
「なーに言ってんだ私ーっ!」
言動が凄く恥ずかしい。なんで人生の岐路で恥ずかしい言葉がぽんぽん出るんだよー! もしかしてあれか、漫画とゲームのやり過ぎか!? 無意識のうちに言い回しが脳内にインプットされているのか!?
いつもなら寝ている時間。明日どうしようか、と目を閉じて考え込んでいるうちに……そのまま本当に寝てしまった。デュエルディスクが勝手に起動し音声が流れても起きない。
『……ご主人、お疲れ?』
『>そっとしておこう』
すう、すう、と部屋は静かな寝息だけで満ちた。部屋を壊さない程度の大きさで実体化した精霊は、投げられた枕を破れないよう甘噛みで優しく取る。主人の頭の横へ持っていくと満足そうにくるる、と鳴いてデュエルディスクの中へ戻った。
どうも、ハノイの騎士(バイト)です。
アニメ一期 ハノイの騎士編 完
と、言うわけでこれにてアニメ一期は完!となります。
勢いで書き始めたのが見え見えの小説でしたが、応援してくださりありがとうございます!
あの後グラドスがどうなったのかは次のお話で。
最後の最後で主人公に名前が付きました。学校での会話で名前がないままは流石にきつくなるな、と思ったので……。デュエル部で遊作君とがっつり絡めたい!
あ、もちろん二期も書きますよ?
二期についてのアンケートの結果ですが、
11票で②アバター変更してプレイメーカーの仲間に!
に決まりました。投票してくださった皆様、本当にありがとうございました!
①と③も番外編で書く予定ですのでお待ちを。
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アニメ二期+α 三界騒乱編
帰ってきた先導者
エプロンに身を包み真剣な表情でソーセージを焼く男子高校生。ホットドッグいかがですかー、と声を上げる女子高校生。
「遊作君、もうちょい笑顔を。ソーセージは親の仇じゃないですよー……」
ハノイの騎士だったと告白して草薙さんに首を掴まれたのが三ヶ月前。……当然、だよな。それだけの事をしてきたんだ。
遊作君が激情にかられた草薙さんを止め、誰か人質でも取られていたのか? とハノイの騎士に入っていた理由を聞いた。憤怒に燃える目と、真実を知りたい目が私を見つめる。……もうこれは隠せないなと腹をくくり。
――実はバイトでした。
その一言でカフェ・ナギは揺れた。遊作君と草薙さんに肩を掴まれ、がっくんがっくん揺らされながら「嘘だろお前!?」と叫んでいたのは忘れられません、まる。
それを証明するためにデュエルディスクの全データを解析してもらい、本当だった、と知った二人はゲンドウポーズになった。ついでにヤクザとかヤバめの組織を潰していたと知って引かれた。仕事だから仕方ないでしょうに。
……で、彼らは気づかなかったけど私は気付いた。カードデータの内、一番新しい一枚。その効果はこれである。
《SAINT DRAGON -THE GOD OF OSIRIS-》
ATTACK X000 / DEFFENCE X000
Everytime the opponent summons creature into the field,
the point of the player's card is cut by 2000 points.
X stand for the number of the player's cards in hand.
テキストが、あの……完全にアウトです。はい。
「(――原作効果オシリスとかふざけんなこのやろおおぉっ!!)」
どっから紛れ込んだこの神! ちゃっかりクリフォートに入ってたし! 神縛りの塚も入れられてたし! そのせいかカーネルとアクセスがハブられてたし!
……落ち着こう。この世界でもOCGにおいても、オシリスの制圧力は馬鹿にならない。攻守2000以下は問答無用で効果破壊。神の耐性で魔法は1ターンのみ、罠無効の化け物。モンスター効果も一部しか受け付けない。
クリフォートデッキに入っているのでキラーと並べるのが目標になる、けどこれがヤバイ。特殊召喚された2500以下はサヨナラされる。オシリスはどうにもならないとして、キラーを退ければ? と思うだろう。だがキラーも魔法、罠が効かない。リンクモンスターの効果は普通に受けるが、オシリスがいる状況下で呼べるリンクモンスターは限られている。
――結論、死ぬがよい。
「(このデッキは使う相手を慎重に選ばないと。オシリスの攻撃がどのくらいダメージを与えるのか試すわけにもいかないし……)」
これを期にデッキを一部組み替えようかな、と違う事を考えていたのがいけなかったのか。正直、そこを見るとは思ってなかった、と言うのもあったけど。
……貯金残高見られました。流石テロ組織。文字通り桁が違う。入院費払ってさよならした筈の諭吉さんが大増殖してました。草薙さんは地味に凹んでた。……もしかしてもしかした? だとしたら本当にすまない。まともにやっていないホットドッグ屋と比べたら、そりゃね……うん。これに関しては言える。私は悪くない!
なんやかんや話し合って、監視の為に学校帰り・休みの日は基本カフェ・ナギにいるようにと釘を刺され現在に至る。あ、お手伝いも込みです。
「そんな難しい顔していたんじゃ、お客さんが逃げるわよ。藤木遊作君」
「財前葵……」
「あ、葵ちゃん」
私服姿の葵ちゃんがたまたま通りかかるミラクル。
「二人、ここでバイトしてるんだ」
「ここのマスターが知り合いでね。留守番を任されたんだ」
「私は遊作君からの紹介です」
葵ちゃんが注文をしようとして、遊作君がわざわざそうしなくていいと止める。でも、今日はお客さん来ないんじゃない? とがらんどうの広場を見る。
「いざとなったら、デュエルに勝てたらホットドッグ一つ無料で呼び込もうかなー、なんて」
「……デッキは?」
無料の言葉で少し乗り気になったようで、デュエルディスクに手をやるそぶりを見せる。
「列車シャドールと閃刀姫辺りにしようかなーと」
「……タダより高いものは無い、ってよく分かったわ」
「あらら、残念」
シェキナーガもグスタフもカガリもシズクもハヤテも可愛いのに。
閃刀姫は純構築にしたかったから箱開けまくったけど問題なし。出るまで回せば100パーセント。いっぱい出た空牙団は遊作君の新しいダミーデッキとしてプレゼントしました。あのダミーデッキで目立ちたくない、は流石に無理があったのでつい、ね。
デュエル部内では私の純構築閃刀姫の衝撃で霞んだので遊作君のデッキが変わったことについてはノータッチ。計画通り。
それから何気ない会話をし、また学校でね、と別れた。葵ちゃんがこっちの話を聞けない所まで離れてから口を開く。
「いやー、ブルーエンジェルが凹んでいないようで良かった」
「……どう言う事だ?」
ソーセージを焼きながら質問する遊作。
「……スペクター様が、ね。あのデュエルはトラウマになってもおかしくないって普通!」
自分のモンスターが次々敵に回り、青い天使を煽るために利用され、最後は首から落下。今思い出してもそこまでする必要があったのかと思ってしまう。……やっぱり苦手だな、スペクター様。
デュエル部では相変わらずな感じだったから逆に心配だったんだけど、こうやって話して大丈夫だとわかってほっとした。
店に備え付けの電話が鳴る。
「もしもし、こちらカフェ・ナギで――草薙さん? どうかしたのか?」
草薙さんからの電話。向こうで何かあったのか、話を聞いている遊作君の顔が険しくなっていく。
「草薙さんの弟が何者かに襲われた! 今すぐ追うぞ今上!」
「了解!」
クローズの看板を出し、閉店準備を速攻で終わらせる。
「デッキ、セット!」
「「Into the VRAINS!!」」
新生リンクヴレインズ。スピードデュエルは一般人に解禁され、イベント、ショップも盛りだくさん。
そんな中、大々的に示されたプレイメーカーの指名手配。何も知らないプレイヤーからすれば、リンクヴレインズの救世主であるはずの彼が何故? と困惑する結果になった。SOLテクノロジーが何か関わっているのだろうが、それが何かが分からない。考察、議論が一部のスレッドで加速する。
そんな最高クラスの賞金首を追ってバウンティハンターが次々と集まる。
――新たな戦いの火種はゆっくりと、だが確実に燃え上がっていた。
「えー! プレイメーカーが二人!?」
「どうなってんだ!?」
ざわつくデュエリスト達。ビルの屋上から二人のプレイメーカーを見下ろす赤い衣装の男性は戸惑っていた。
「不霊夢。あれはどう言う事だ?」
「……分からん。プレイメーカーの協力者、なのは間違いないだろうが」
とある喫茶店、小さなテーブルの上には飲みかけのコーヒーと分厚い本。すらりとした女性は空を見上げて呟いた。
「……やはり、ですか」
彼と彼女は必ずリンクヴレインズに戻ってくると信じていた。デュエリストがデュエルから離れるはずがないのだから。
……ハノイの塔から解放されたデータが戻った時、リンクヴレインズの権限はハノイの騎士から離れた。だが、SOLテクノロジーへ権限が戻るには時間があった。その数時間、リンクヴレインズは抑える者がいない無法状態だった。
そんな無法状態をいち早く治めたのは彼、いや彼女? 本人はそんな事にはこだわっていないが、切っ掛けとなった人物にどちらかを聞けば彼女と言うだろう。
「新たな戦いの始まり、ですか。恐らくSOL絡みでしょうね。彼らはイグニスを追っていた、と記録していますから。――となると私も追われる可能性が? ……ふむ」
女性のアバターから全く違う人工的なアバターへ。本来の姿へ戻ったグラドスは静かに行動を開始した。
「手分けして探すか?」
「ああ、その方が――待て、あれは誰だ?」
二人のプレイメーカーに初めて見る男性のアバターが追ってくる。
「見つけたぞ、プレイメーカー。お前の首には賞金がかかっている」
彼らの背後には指名手配を示す巨大なプレイメーカーのホログラムが浮かんでいる。
「俺はもうイグニスを持っていない、お前達に追われるいわれは……」
「では、それはなんだ?」
いつもAiがいた場所であるデュエルディスクに目をやると。
「ゴメンなプレイメーカー、戻ってきちゃった」
見たことがないモンスター――リンクリボーに乗ったAiがいた。サイバース世界に帰ったはずだ、何故ここにいる、と問いかける。
男はAiがいない方のプレイメーカーに指をさす。
「お前は誰だ? プレイメーカーの協力者である以上、逃すわけにはいかない」
「……バレたなら仕方がない。彼の言葉使いも練習したんだが……」
もう片方のプレイメーカーにノイズがかかり、身長、体格が変化する。衣装はリニューアル。仮面を外し、歯車モチーフの髪飾りを付けたものに。勿論、特定されない程度に髪色と顔は変更していますが。
……Ai、帰ってくるタイミングが悪かった。これはどうしようもなかっただろうけどさ。
「というわけで。元ハノイの騎士幹部、ヴァンガードです。敵だったはずのプレイメーカーと一緒にいるわけ、聞きたいなら聞かせてあげるよ?」
「そんな事はどうでもいい。お前はハノイの騎士、仕留めればそれ相応の金は出る。それで充分だ」
彼の背後に三体のモンスターが現れる。……あれは幻獣機、か?
「はーい、やる気満々な貴方に忠告。手を出すな。ここからの戦いはただの賞金稼ぎが手を出していいモノじゃない。下手すると……死ぬよ」
「そんなもの、ここで消えるお前には関係ないな!」
叫ぶと同時にミサイルが発射されるが、現れたクラッキング・ドラゴンがその体で全て受け止める。ブラッドシェパードは傷一つない電脳の破壊竜を見て舌打ちする。
『ご主人、大丈夫?』
「ヘーキ、それよりプレイメーカーは?」
どうやら互いのおかれた状況についてあらかた説明は終わったようだ、親指を立てたAiがウインクする。
「ナイス時間稼ぎだぜ! データストーム、解放!」
「何!? っく……!」
デュエルボードから落ちたことにより、緊急ログアウト機能が働き男性は消えた。
「見つけたぞ、あいつだ」
見るからに怪しい黄色く光る人間のようなモノ。このままなら問題なく追いつくと判断、外野の乱入を防ぐべく一つ策を講じる。
「はーい。これからは十年前の事件について何も知らない人お断り、な戦いになるだろうからね。忠告無視した人にはもれなくGをけしかけるよ。まずはお試しでどうぞ」
虫カゴ入りのかなりデフォルメされた黒い悪魔をちらつかせる。蓋オープン。さあ、自由に向けてフライハーイ! 地上では阿鼻叫喚。
「えっぐぅ……お前、本当にオンナノコかよぉ……」
うへえ、と顔を歪めるAi。
「Gは地球の生命体として億年単位の偉大なる先輩なのでね? ……まー、まだマシだよ、コレ。本当はランダムでアバターチェンジを考えてたんだけど全力で止められてね」
「誰だって止めるぞ、アレは」
あきれた顔のプレイメーカー、というかなりのレア表情で呟く。Aiはドユコトー? と聞いているが黙れの一言で大人しくなる。
脱ぐ方の村正、亀甲、殺生院、ベリアルをデータ解析で最初に見られたのがミスったな。ぐぬぬ。並び順変えておけばよかった。そういうのばっかりじゃなくて、すごく手間かけて作った新宿のアーチャー、オダサク、アシレーヌにタマミツネもあったのにー!
「プレイメーカー、デュエルは任せ――」
――視線。安全圏から争いを眺めて笑っている、嫌な視線。
ば、と上を見る。目を凝らさないと分からないが、デュエルボードに乗った人影が一つ。
「……いる」
『……あ、ホントだ。誰だろ?』
「誰かいる! デュエルは任せた!」
クラッキング・ドラゴンも気づいたようだ。遅れてプレイメーカーも。疑問符を浮かべているのはAiだけだ。
「おそらく仲間だ。逃すなよ」
「勿論! おーい、そこの黄色い子ー! ちょっと話があるんだけどー!」
「しまった、気づかれたか……!」
こちらに気づいたのか急に加速し、右へ左へと急に曲がる。私を振り切ろうとしているのが見え見えな動き。
先にスピードを上げたのは向こう。こっちが最高速度まで上がるには数秒の差があった。その時間の差で距離が開く。……このままだと逃げられる? とんでもない、ちゃんと逃がさないための策はあります。
『がおー!』
動きを予測していたクラッキング・ドラゴンが目の前に突然現れ、彼のスピードが落ちた。あと少しでデュエルアンカーの射程範囲に入る、と手を伸ばした時。
「――助けて! 兄さん!」
「ハルーーーーッ!」
緑色のドラゴンの姿をしたモンスターから風弾が放たれる。……あれ? 謎の人物の姿が変わってる?
「よくもハルを! 許さん!」
「待て、お前の相手は俺だ!」
プレイメーカーが謎の人物の行く手を遮るように動く。
「お前からも私達の記憶を取り戻す、プレイメーカーを倒した後でな!」
「……ん、んんー?」
仁君から何かを奪ったのはそちら側では? 話が噛み合っていないような……。それにこのまま少年を追いかけても怒らせるだけ、か。少しでも会話して情報を引き出す方がいいかな。
「……ねえ、少し話があるんだけど」
そう言いながら少しスピードを上げようとした、が。
「それ以上近付いたら兄さんがどうするか、僕にも分からないよ?」
牽制された。それなら、とこっちがこぼした言葉についての反応を見るべく試してみる。
「……弟、兄さん呼び……ハルト? ハルトポジ?」
「!? ……突然何言ってるの?」
ハルト、と言った瞬間目を大きくした。名前を当てたか、もしくは近い名前だったっぽいな、これ。……まー、君の名前がハルってことは知ってましたが、まさか兄弟だとは。
「こんなことしても無駄だよ。兄さんは強いんだ。プレイメーカーを倒したら次は君の番だ」
「確かに、強いからこうしてデュエルしているんだろうけどね。……でも、君のお兄さんはミスを犯している。スピードデュエルは魔法・罠ゾーンは三つしかない。永続罠二つ、リンク魔法一つ。全部埋めちゃってるよ?」
永続罠のプロパティ・スプレイとハイドライブ・ジェネレーター、リンク魔法、
「……っ! でも、あの布陣は突破出来ない……!」
出来ない? それを何度彼が覆してきたのかわからないはず無いでしょう。
「――それでも、プレイメーカーは負けないよ」
データストームの中を走る一つの光。間違いない。スキル、ストームアクセスを使用したのだ。
「……さーて、新しいコード・トーカーのお披露目だ」
弓を手にしたサイバース、シューティング・コードトーカー。シューティングで連続攻撃効果……どこかで下っ端爆発してませんかね。たぶん。
シューティングコード・トーカーの連続攻撃で彼のライフはゼロになった。衝撃でデュエルボードから吹っ飛ばされ、ボーマンは下の森へ落ち――。
「っ、とおっ!」
空中で頭から落下するボーマンを受け止める。両腕で抱きかかえ、体の正面で持ち上げる形。
――そう、お姫様抱っこである。
緊急なので体勢は意識したものではない。ないったらないのだ。
「大事な情報源なんだから、大切に扱ってよねー……」
『初デュエルでシューティングコード・トーカーもテンション上がってたんだよ、たぶん』
デュエルボードは衝撃でいかれたらしい。クラッキング・ドラゴンに支えられつつ森へ不時着する。
「いちちちち……足がー、うおお」
体が異常に頑丈なデュエリストとはいえ、痛いものは痛い。それでもボーマンは離さない。
着地の衝撃で目を覚ましたボーマンが見たのはヴァンガードの顔のアップ。そう、女子の顔が目と鼻の先に。
「……! 何をする! 下ろせ!」
顔を赤らめ訴えるボーマン。ダーメーデースー、ちょっと話があるんですー、とそのまま運搬しようとした所。
「いっだぁ!!」
電流が流れたような衝撃。思わずボーマンから手を離してしまった。弾かれたように離れるボーマン。急に動いたのが悪かったのか、デュエルのダメージからなのか膝をつく。
プレイメーカーも降りてきたので情報を探る役目はAiに任せる。
「軟弱軟弱ゥ! 俺様が食っちまうぜ!」
捕食形態になったAiがボーマンに齧り付く、が。
「ウゥ……ギャアァァァァッ!!」
悶え苦しむAi。二人の反応からして、彼にはウイルスが仕込まれていたらしい。ハルがぐったりしたボーマンを担ぎ、逃げようとする。私はクラッキング・ドラゴンに乗り追いかける。
ビット、ブートと言うらしい彼らの仲間が足止めしようとデュエルを挑む。
――雷鳴。赤い稲妻が空を割く。炎とともに現れた男がビットとブートの間へ割り込む。
「元ハノイの騎士を信用するなんて俺には出来ないからな、二人の相手は俺がする。プレイメーカー、君は奴を」
熱く燃える炎のイグニスを持った男、ソウルバーナーがそこにいた。
……その、ここまで関わっておいてあれなんだけどさ。
――二期、雑誌で紹介されたキャラクターしか知らないどうしよう。ストーリー分からない。あれかな、穂村君はベクターポジ? それともヨハン? どっちにせよロクな事にならない。
……なんで転校生をまず敵なのか疑わないといけないアニメがあるんだ。ああ、それって遊戯王?
今回のヴァンガードの働き
・リンクヴレインズにGを解き放つ
・ショタを追う
・マッチョをプリンセスホールドする
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目指すは勝利、出発進行ーッ!
「さあかかってきな! まとめて相手になってやる!」
二対一でスピードデュエルを挑むのは自信の表れか、それとも無謀か。イグニスを持っている時点でロスト事件の関係者であることは確定している。となれば、恐らく前者なのだろう。
「覚悟しろ、ソウルバーナーは情け容赦ない男だ。お前達を完封してやる!」
「そこまでは言ってない」
「む? そうなのか?」
ソウルバーナーと不霊夢の会話……あれ、いつの間に漫才フェイズに移行したんだろうか。あと不霊夢クールキャラじゃなかったんかい!
二人が会話する中、ずっとビットブートコンビを見ていたクラッキング・ドラゴンが一言。
『ご主人、あれかじっていい?』
「ダメです」
『片方赤くていちごみたいだから多分おいし』
「くないから絶対! ウイルス混じってたらどうするの!?」
『むー、その方が情報奪うの早いのに』
クラッキング・ドラゴンはそう言うとぷう、と頬を膨らませる。
「何のためにデュエルがあると思ってるのか、この精霊……」
デュエリストからは無理やり情報を奪うより、デュエルで勝って情報を貰う方が丸く収まる。それにそんな事言ったら……。
「流石ハノイの騎士のしもべ、だな」
ああほらソバに睨まれるー! 早く不穏な空気が流れるこの場所から移動してプレイメーカー!
敵の事情は関係ない、とばかりにビットとブートは行動を始める。
「目的を変更、追加。イグニスの回収、及びヴァンガードの尋問」
「しかし二人か」
「あの作戦で行くぞ」
二人目を合わせ頷く。
「特別合体シーケンス」
「……開始!!」
両腕を地面と水平になるように伸ばし、二人の間に光が繋がる。
「なっ!」
あ……ありのまま今起こったことを以下略。ビットとブートが真ん中から綺麗に半分に分かれて『合体』した。まるでブロックのおもちゃを組み替えるみたいに。二人が一人になったのではなく、二人が組み替えられて二人になった。
「我らはビット」
「我らはブート」
「「合わせてビットブート!」」
合体したデュエリストはビットブートと名乗った。片方は右が赤で左が緑。もう片方は右が緑で左が赤。こんなことが出来る、ということは人間じゃなくてAIの可能性が高い。
「なんだこいつら、合体したぞ!」
「合体程度で驚いたらまだまだデュエリストとして未熟。本気出すためには必要なことだよ、合体は」
『うんうん』
「……何を言っている?」
この意味がわからないソバと不霊夢は遊戯王過去作を履修するのをお勧めします。
「チッ、お前の手は要らない。俺一人で……!」
「……どうやら向こうはそう思ってないみたいだけど」
二人のビットブートが私達の間を割くように走る。タッグデュエルではなく、一人一人別々に戦うということだろうか。
「イグニスの回収は我らが」
「ヴァンガードの尋問は我らが」
「フン……お前が負けた後は俺が引き継いでやる」
本当は関わりたくない、と言わんばかりの嫌そうな顔しながら言われた。
「もし君が負けたら……なんて、私は言わないよ。ソバ」
「誰がソバだ!!」
「初対面の女性にひどい態度するヤツはソバで十分でしょ」
彼との並走をやめ、後ろ側へ回る。その殺意と勢いのままデュエルをワンキルで終わらせてほしい。
「イグニスを持っていないが、お前はハノイの騎士。何かしらイグニスへ繋がる情報を持っているはずだ」
「……さあ、どうだろうね?」
に、と口角を上げる。
「ねえクラッキング・ドラゴン、このスピードデュエルはいつも使ってたのと違うデッキ使うけどいい?」
『もちろん! 僕がやられた時のこと考えたら当然!』
もしデュエル中クラッキング・ドラゴンが戦闘破壊、効果で除去されたら地面へ真っ逆さま。それは避けたい。
「それは負けた時の言い訳か?」
「まさか。デッキを言い訳にする気はさらさらないよ」
デュエルディスクを操作しデッキを入れ替える。今までと違い情報アドは無し。なら後は全力でぶつかるだけだ!
「「デュエル!」」
ヴァンガード
LP 4000
ビットブート
LP 4000
「我らが先攻でいく。手札よりDスケイル・サーベルサーディンを召喚」
《Dスケイル・サーベルサーディン》
効果モンスター
星2/水属性/サイバース族/攻 600/守 300
このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):500LPを払って発動できる。
自分フィールドに「Dスケイルトークン」(サイバース族・水・星1・攻/守100)1体を特殊召喚する。
魚の姿をしたモンスターだが、種族はサイバース族。となるとサイバース族特有の展開力を持っている、と見て間違いはないだろう。
「サーベルサーディンの効果発動。ライフを500払いDスケイルトークンを特殊召喚する」
ビットブート
LP 4000→3500
これでフィールドにはモンスターが2体。当然次に来るのは。
「「現れろ、我らのサーキット!」」
両手を頭上に掲げ、赤と緑の光が空へ登る。その先にあるのは当然リンクサーキット。
「召喚条件はDスケイルモンスター2体! 我らはDスケイルトークンとサーベルサーディンをリンクマーカーにセット! リンク召喚! 現れろ、リンク2! Dスケイル・バトルシーラ!」
《Dスケイル・バトルシーラ》
リンク・効果モンスター
リンク2/水属性/サイバース族/攻 1800
【リンクマーカー:左/下】
「Dスケイル」モンスター2体
(1):1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。
このカードの位置を、このカードのリンク先のメインモンスターゾーンに移動する。
(2):1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。
このカードの位置を、このカードとリンク状態のカードのリンク先の自分のメインモンスターゾーンに移動する。
「魚か……」
サイバース族でも見た目は魚。マジックコンボしてきそうだな、なんて思ったのがフラグだったのか。
「装備魔法、Dスケイル・トーピードをバトルシーラに装備! 更にバトルシーラの効果! 1ターンに1度、バトルシーラを自身のリンク先であるメインモンスターゾーンに移動する」
《Dスケイル・トーピード》
装備魔法
「Dスケイル」モンスターにのみ装備可能。
(1):1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。
このターンに装備モンスターの位置が移動した回数×800ダメージを相手に与える。
「……移動? いや待てよ、リンク魔法か!」
「ご名答! スキル発動、マーカーズ・ポータル! デュエル中に一度、自分のライフが元々の数値以下になった時、デッキからリンク魔法一枚を選択して発動する!」
デッキから一枚のカードを引き、掲げる。
「輝け三本の矢! 行く手を阻む敵を射よ! リンクマジック、
《
リンク魔法
【リンクマーカー:上/右上/左上】
(1):「裁きの矢」はリンクモンスターのリンク先となる自分の魔法&罠ゾーンに1枚しか表側表示で存在できない。
(2):このカードのリンク先のリンクモンスターが戦闘を行うダメージ計算時のみ、
そのリンクモンスターの攻撃力は倍になる。
(3):このカードのリンク先にモンスターが存在し、
このカードがフィールドから離れた場合、そのリンク先のモンスターは全て破壊される。
バトルシーラのリンク先である魔法・罠ゾーンの右端で発動。これでバトルシーラが攻撃する時、その攻撃力は効果で3600になる。
「先攻ではバトルフェイズは行えないが、我らの最強コンボは完成している! 続けてバトルシーラの効果発動! バトルシーラは1ターンに1度、自身とリンクするカードのリンク先に移動することができる。
メインモンスターゾーンの右端から中央へ移動するバトルシーラ。
「また移動……? 何を考えてる?」
「恐れおののけヴァンガード。我らの脅威のコンボを見せてやる! バトルシーラに装備されたDスケイル・トーピードの効果発動! このターン装備モンスターの移動1回につき800ダメージを相手に与える!」
『移動をバーンに変えるカード!?』
「移動回数は2回、合計1600のダメージ……!」
トーピードの効果で放たれたミサイルが迫る。そんな窮地に似合わない声がした。
『クリクリ〜ッ!』
「手札のジャンクリボーを墓地へ送り効果発動! トーピードの効果発動を無効にし破壊する!」
《ジャンクリボー》
効果モンスター
星1/地属性/機械族/攻 300/守 200
(1):自分にダメージを与える魔法・罠・モンスターの効果を相手が発動した時、
自分の手札・フィールドのこのカードを墓地へ送って発動できる。
その発動を無効にし破壊する。
「何!?」
ジャンクリボーがバリアでミサイルを跳ね返し、彼らのコンボの核となっていた一枚を破壊。
「くっ……我らはこれでターンエンド!」
「私のターン、ドロー!」
いつもスピードデュエルで使用していたデッキとは異なる。けど動くのに問題はない。
「手札から
《影依融合》
通常魔法
「影依融合」は1ターンに1枚しか発動できない。
(1):自分の手札・フィールドから
「シャドール」融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、
その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。
エクストラデッキから特殊召喚されたモンスターが相手フィールドに存在する場合、
自分のデッキのモンスターも融合素材とする事ができる。
「デッキ内融合だと!?」
「デッキのシャドール・ビーストと無頼特急バトレインで融合! 出ておいで、エルシャドール・シェキナーガ!」
《エルシャドール・シェキナーガ》
融合・効果モンスター
星10/地属性/機械族/攻2600/守3000
「シャドール」モンスター+地属性モンスター
このカードは融合召喚でのみEXデッキから特殊召喚できる。
このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):特殊召喚されたモンスターが効果を発動した時に発動できる。
その発動を無効にし破壊する。
その後、自分は手札の「シャドール」カード1枚を墓地へ送る。
(2):このカードが墓地へ送られた場合、
自分の墓地の「シャドール」魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。
そのカードを手札に加える。
アポクリフォート・キラーに捕らえられたエルシャドール・ネフィリムの姿をしたモンスター。その顔にはうっすらと笑みを浮かべている。
「お前は機械族使いのはず、シャドールだと!?」
「驚くのはまだ早い! 効果で墓地へ送られたシャドール・ビーストの効果で1枚ドロー! 更に自分フィールドに機械族・地属性モンスターが特殊召喚されたことで、手札から重機貨列車デリックレーンを特殊召喚!」
《重機貨列車デリックレーン》
効果モンスター
星10/地属性/機械族/攻2800/守2000
「重機貨列車デリックレーン」の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分フィールドに機械族・地属性モンスターが召喚・特殊召喚された場合に発動できる。
このカードを手札から特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したこのカードの元々の攻撃力・守備力は半分になる。
(2):X素材のこのカードがXモンスターの効果を発動するために取り除かれ墓地へ送られた場合、
相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。
そのカードを破壊する。
「……さあ、ここからが本番だ! レベル10のエルシャドール・シェキナーガとデリックレーンでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚! 出発進行、
《超弩級砲塔列車グスタフ・マックス》
エクシーズ・効果モンスター
ランク10/地属性/機械族/攻3000/守3000
レベル10モンスター×2
1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。
相手ライフに2000ポイントダメージを与える。
バーンの代名詞、列車が誇るランク10。超弩級の名に恥じぬ砲塔に巨体。そして素材にはデリックレーン。ここまで言えばわかるよね?
「オーバーレイユニットを一つ使い効果発動! 2000ポイントのダメージを与える!」
「ぐううぅっ!」
ビットブート
LP 3500→1500
「そしてオーバーレイユニットとして取り除かれたデリックレーンの効果、相手フィールドのカード1枚を破壊する! 破壊するのはバトルシーラだ!」
「ば、馬鹿な……!」
バトルしたら裁きの矢の効果で攻撃力二倍になったバトルシーラに負ける? ならバトルしなければいい。
「バトル! グスタフ・マックスでダイレクトアタック!」
相手に伏せカードは無し。この攻撃を防げなければ負ける。そう、この攻撃が通れば――。
「あ、あ…………!」
「――ファイアーッ!」
攻撃は命中。ビットブートは煙に覆われて見えない。何のカードを発動していた! するのかと警戒を解かずに構える。
――煙が晴れる。そこには誰もいなかった。
「…………あれ? 本当に終わり?」
手札誘発か手札から罠飛んでくると思っていたんだけど。
「完封したのは私だったか。その……ゴメンね?」
ソウルバーナーはまだデュエル中。何かいちゃもんつけてくるかな、と心配だったのだが。
「後攻ワンキル……!?」
「馬鹿な! 我らが負けただと!?」
二人とも驚いた顔をしていた。ここで止まっている訳にはいかない。早くプレイメーカーを助けないと!
「クラッキング・ドラゴン!」
『了解! 飛ばすよご主人!』
ビルの隙間を縫い、追いついたのはハルとボーマンが進入禁止エリアの壁を開き逃げる瞬間だった。プレイメーカーが赤い壁をそっと手で触れるが当然弾かれる。
「進入禁止エリアに逃げたか……」
『無理やり壊して入るのも可能だけど?』
えっへん、と胸を張るクラッキング・ドラゴン。
「確かにそうすれば追えるだろうが、それだと時間がかかる。入れるのは奴らがもう追跡できない所まで逃げた後だ」
『進入禁止エリアへの違法アクセスが確認されました。緊急防衛プログラムを作動します』
「ここまで、か……すぐにログアウトしよう」
ログアウト操作をしようとした瞬間、待て! という声とともにソウルバーナーがやって来た。
「今すぐハノイの騎士と手を切れ。奴らがしたことを忘れた訳じゃないだろう、プレイメーカー」
「待ってくれ、お前の名前は? 何故俺を助けた?」
「俺はソウルバーナー。理由についてはそいつ抜きで、また会った時に教えるよ」
そう言うと彼はピ、とデュエルディスクにタッチしログアウトした。
「ソウルバーナー……何者だ?」
元ハノイの騎士であるヴァンガードに強くあたり、サイバースを使うデュエリスト。その側にはイグニス――不霊夢がいる。ここまで情報がそろえば出る答えは一つ。
「……あー、私のせいで関係がめんどくさくなるかな、これ」
これから今まで以上に苦労しそうだな、と空を見上げてため息をついた。
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動き出す決闘者
A.ああ!(ベクター、警部、新月)
リアルが忙しかったので投稿遅れました&アニメがどんな展開か待ってました。わぁいドローンカッコいい!好き!幻獣機と混ぜたい!
で、ブラッドシェパードさんのアレ見ました。
……嘘やんってなった。そんな作者です。
――リンクヴレインズ、Gルート突入。
あ、Gは黒い悪魔の頭文字です。画面には掃除機を抱えたSOL製AIによる必死の駆除作業が毎日続いている。でもごめんね、あのプログラムは減ったらその分増殖して一定数を保つようにしてあるんだ。
……うん、正直やり過ぎたかもな、あれ。掲示板ではカード探索の時にカードだと思って近付いたらGでしたとかいう失神モノの報告がある。大丈夫? アシダカ軍曹いる?
まあ、捕まえて飼おうとする変態も一定数いたけどね! その最たる例は、私の警告で今回の件には参加できないと分かった元ヒャッハノイ達。
ヒャッハノイ達は考えた。「あの人がただの嫌がらせをするはずが無い」と。
その考えは当たり。あのプログラムにはデュエル乱入者妨害以外にも機能がある。
……うん。だからといってさぁ、ハノイについて語るスレにGの画像を載せる意味はあるの? 『例のプログラム捕獲しました!(素振り)』じゃないよ! やめて! 最近までハノイの塔の話題で持ちきりだったスレをグロスレにするのやめて! いつか帰って来るであろうスペクター様の怒りが有頂天になる! せめてヴァンガードスレでして!
「何をどう思ってあんなものを作ったんだ……」
「何をどうって……超高校級の昆虫博士から?」
なごむよ!
「Gに好き好んで近付く人はそういないし、いたとしてもほら、まあ……こんなのばかりだし」
丁度、紫色の男性型球体関節人形とロングヘアーの不満足味を感じるアバターが虫網でGを確保したところが映る。
「ん、これであとちょっとかな……? ま、まあ、LVSSを搭載して一定時間ごとにデータ転送するようにしてあるから探査に役に立つと思うよ?」
「納得がいかない」
草薙さんが作ったLVSSは、SOLテクノロジーにバレないよう設置するのが大変だったらしい。それを元ハノイの騎士がたった一つの行動であっさりと終わらせたのが腑に落ちないようだ。
Gをばら撒いたのみんなに見られていたからバレバレで現在駆除されてるけど、数でごり押しすれば問題はない! で実際何とかなっているからなー。……大丈夫かなVR兄様。また降格される?
「あー、クラッキング・ドラゴンのデッキはもう使わないのか? あんな一方的な勝ち方ばかりだとプレイメーカーの評判も悪くなるし……」
三ヶ月ぶりに遊作君の元へ帰ってきたAiは相棒の心配をしている。
「あのデッキ今調整中だったから使えなかったんだよ。負けるわけにはいかないから、単純に勝率高めのデッキを使っただけ。……やっぱり大会用のデッキをちょっといじっただけの使ったのはまずったかなぁ」
草薙さんがそれを聞いて作業の手を止める。
「大会からヴァンガードに繋がるような証拠はあるのか?」
「いや名前と見た目は流石に変えてるよ? それにサブ垢だし、ヴァンガードに対してはハノイで貰った防衛プログラムもまだ働いているから大丈夫……のハズ。大会出る時は基本列車デッキ、名前はサブウェイマスターで登録してた」
デュエルディスクの画面にアバターを表示させて二人に見せる。
「サブウェイマスター、か。少し調べておく」
『ガガガ、キラー――ネフィ――止め』
ちゅどーん。
「……何の音だ?」
「気にしなくていいから!」
シェキナーガを使ったことを切っ掛けにしたキラーとネフィリム(二体ともシェキナーガから分離した)のガチ喧嘩でデュエルディスク内の精霊達がヤバイだけだから。
――何が『オネストで死んだ切り札(笑)』だ人形風情が!
――あらあら、椅子が喋るなんて不思議なこともあるものですね?
周囲がどうなろうと知らんと言わんばかりに攻撃を続ける二体。正に地獄絵図。
――ホワアアアアア!?
――ボムスパイダーが爆発したぞー!
――誰かー! 攻撃力3000超えていて通常召喚された人は居ませんかー!
――任せろームシャムシャー!
――腹を空かせたジズキエルだ、逃げろ!
――今こそ一つに!
――ちょっと待て今何か違うのが。
――精霊界とこっちの繋がり緩いなオイ。
――青眼新規、カオス・フォームで降臨する儀式モンスターだそうです。
――もうやだ我精霊界帰りたくないこのまま詩織のデッキに入って……馬鹿な! 枠が無いだと!
――何故機械族中心のデッキにお前が入る枠があると思った?
――ザボルグフレシア〜? 龍の鏡ぃ〜? 誰それぇ? 俺、アージェント・カオス・フォース! ギミパペランクアップしてダイソン出すの意外性あっていいよね!
――四天の一つ、オッpはクリフォートデッキでツール引っ張って来るだけの簡単で重要な仕事に満足している。見ろ、オッpの顔を。
――その略し方はやめろぉぉおっ! ぐうう、いっそのこと冥界に……!
――……え、何ですかカーネルさん? これを読めばいいんですか? 本当にいいんですか?
――これ以上被害を拡大するわけにもいかん。やるしかないだろう。
――え、えーと、こほん。……冥界にはかなりの頻度でやって来る青眼使いがいるそうですよ?
――…………。
――高校生社長。カイバーマンのモデル。見た目によらず子供に優しい。死のテーマパークを作った。意識高い(物理)。オカルトを科学で殴る。精霊を宇宙へ打ち上げ……ってこれ全部本当のことなんですか!?
――俺、精霊界に帰ります。
――よし、行ったな! 端末世界組はどうなった!
――オシリスに叱られてます。
――よくやったレイ! 後でトリックスターと戦う名誉をやろう!
――えっ?
……異常。じゃなかった以上。どうなってんの私のデュエルディスク。もしかして精霊界直通なの?
「……サブウェイマスターについては特に騒ぎ立てられてはいないようだな」
「あ、ありがと」
あっさりと調べ物を終わらせてくれた。たった二人でハノイの騎士を追っていた技術力は伊達じゃない。
「……なー、サイバース世界をあんな目に合わせたの、ハノイの騎士の仕業じゃねえの?」
「その可能性はゼロだ」
「何でだよー!」
「もしハノイの騎士が俺達と戦っている間にサイバース世界を見つけていたら、ハノイの塔で全ネットワークを破壊する、なんて遠回りな作戦はしない」
「あー、そりゃそっか」
そう、ハノイの騎士ではない新たな敵。
ハルとボーマン。リンク魔法。そしてサイバース族。彼らがイグニスを狙う理由は何もわかっていない。だが、イグニスに効くウイルスを持っているという事は、既に向こうに捕まえられたイグニスがいるのかも知れない。
分からないことだらけの中、する事は一つ。
「俺と遊作が情報を探っている間、世間の目を集めてほしい」
プレイメーカーだけでなく、ヴァンガードも戻って来たのはリンクヴレインズにかなり大きな衝撃を与えた。ヴァンガード分の供給が絶えたことで死亡していた変態も復活した。
色んな意味で有名人になってしまったので、陽動にかなり向いているんですよね、私。
「了解。グラドスも探しておくよ。いそうな場所は見当がついてる」
グラドスはサイバース世界のイグニスではない。でも、もしかしたら敵に狙われているかもしれない。
「あれから何も情報がないんだぞ? 見つけられるのか?」
あれから、とはハノイの塔が崩壊した後の事だろう。それにグラドスの見た目は普通のAIデュエリスト。演技をしていたら見つける事は困難だ。
「遊作君とAiと違って、私とグラドスは性格が似ているから、かな? つまり、私が行きそうな場所にいる可能性が高いって事」
「……成る程、な」
その言葉で実際にグラドスと話した事がある遊作君は納得したようだった。
翌日、学校で島君から今日の部活の場所を伝えられた後の事。廊下を歩いていた途中で声が聞こえた。
「……?」
初めて聞く声。はて何だろう、と音源を探し……教室からだと分かった。内容はよく分からないが、遊作君と転校生君が暗い部屋の中で話している。
「何してるの遊作くーん?」
突撃したら二人、いや四人? がこっちを向く。
「っ!?」
「誰だ!?」
穂村君と不霊夢の声が重なる。
「今上、どこから聞いていた?」
「話している、ってのは分かったけど内容はよく分からなかったからなー。どこからと聞かれても答えにくいです」
「あ、こいつがソウルバーナーだぜ。名前は穂村尊」
会話を始めた詩織、遊作、Aiを交互に見る穂村と慌てた様子の不霊夢。
「何で皆動じないんだ!? 闇のイグニスも何故彼女にさらっと言っている!?」
「……ってあー、ソッカー。お前達は知らないもんなー」
もしかしてもしかしなくても、とんでもない時にお邪魔してしまったようです。
「これ、は……。えーと、全部言った方が良いの? かな?」
二人に問いかけると、二人とも頷いた。取り敢えず周りに誰もいないか確認する。
「えー、こほん。リアルでは初めまして、今上詩織ことヴァンガードです」
「……え?」
ぱちぱち、と瞬き。眼鏡を外してぐしぐしと目を擦って、また眼鏡をかける。
「あー、うん。聞き間違いだよな。そうだよな」
デュエルディスクをちょいちょいと操作してクラッキング・ドラゴンのカードを映し出す。
『確たるしょーこ! です!』
「…………え、マジ?」
ぱっかーと口が開いたままこっちを見る穂村と、目をまん丸にさせた不霊夢。この空気をどうにかしないと、と咄嗟に出てきたのは。
「じ、ジャンジャジャーン! 衝撃の真実ー、なんて……?」
この空気を何とかしようとベクターの真似(顔芸は流石に無理)をする。二人はきっかり三秒硬直して、
「「はあああぁぁあっ!?」」
叫びが部屋中に響き渡った。
かくかくしかじか、まるっと私について説明した結果。穂村君がマジかよを繰り返すだけのbotになってしまった。
「ハノイの騎士はバイトで? リアルだとプレイメーカーの友人で? あーもう訳わかんねぇよ……」
「みんなには内緒だよ?」
「たとえ真実だろうと、これは誰も信じないだろう……」
二人ともげんなりしている。初対面時のピリピリした感じはどこへ行ったのか。
「……あー、私、お二人さんの邪魔そうだから先に帰るけどいい?」
「是非そうしてくれ……」
「……場所を変えるべきだな、ここは話をするのに相応しくない」
で。二人と別れて何十分かしたら、Aiから何故か男二人で観覧車に乗っている写真が送られて来たんだけど。これはどうしたらいいのだろうか。取り敢えず『へぇ〜、デートかよ』って送るべき?
その男の右腕は機械で構成されていた。右腕からパソコンへコードが繋げられ、その画面にはある生徒の学生証が映されている。
「……ふむ」
パソコンの横に置かれているのは、今から三ヶ月以上前の新聞の切り抜き。自動運転のAIをハッキングし、そのせいで起きた事故に巻き込まれた少女について書かれた記事。
図らずしも彼や彼の母親と同じ境遇に置かれた彼女に対して興味を抱くのは当然のことだった。軽い気持ちでどんな人物なのか調べ出した、その筈だった。
『私、サブウェイマスターと申します』
『指差し確認、準備オッケー! 目指すは勝利、出発進行ーッ!』
『臨時ダイヤ発動! 出てきてくださいまし、グスタフ・マックス!』
『ブラボー! 素晴らしいデュエルでした!』
参加するのは賞金が出る大会のみ。出た大会の賞金を掻っさらう仏頂面の黒い車掌。それの正体がまさか彼女だとは思いもしなかった。
バウンティハンターとして、元カリスマデュエリストであるGo鬼塚の実力は信頼している。しかし、後ろに連れていた二人は邪魔でしかない。露払い、弾除けの役割を果たせるかどうかも怪しいところだ。
ソウルバーナー、ヴァンガードと獲物が増えた今、対抗できる力を持つデュエリストを増やさなければ対応は難しい。そう考え、有能なデュエリストを探していた。そして、白羽の矢が立ったのはサブウェイマスターだった。無慈悲に列車でデュエリスト達を倒す姿は彼のお眼鏡にかなったようだ。
「今上詩織……サブウェイマスター、か」
情報が大会出場記録しかない、という異色のデュエリスト。リンクヴレインズでは男性アバターだが、現実では女子高生。その違和感を感じない程に演技が上手い。しかも財前の妹と同じ高校、それもデュエル部所属ときた。
「財前に話してみるか……?」
SOLテクノロジーからの正式な依頼ならばNOとは言わないだろう。ブラッドシェパードこと道順健碁はサブウェイマスターをバウンティハンターチームに推薦してみるか、と動きだした。
ハノイの防衛プログラムはヴァンガードについて調べる人に対して反応します。それ即ちサブ垢は知ら管ということ。
〜観覧車内のイグニスの会話〜
「まったくむさ苦しい……って待て、何をしている?」
「何って、写真撮ってるだけですケド〜?」
「お前の事だ、それだけではないだろう!誰に送った!?」
「お、返信早い。えーと何々……ぶっふ!『へぇ〜、デートかよ』だって!」
「誰がこいつなんかと!ヴァンガード貴様ー!」
「……詩織チャンの性格的にこれ何かのネタで、本気でそう言ってる訳じゃないと思うんだけどナー」←大正解
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ややこしいにも程がある
ハノイデッキにオルフェゴール混ぜる!まさかデッキ調整中がここで生きるとは。
よっしゃイラスト見……イヴちゃんにニンギルス……。
えっ、あれ?星遺物またとんでも無いことになってません?
目の前にはVR兄様。壁際に立つ不審者ファッションの、なんか機械族使いそうな気配がする男。右腕が機械なのは触れない方がいいとみた。
「――という訳だ」
「…………」
ここはSOLテクノロジー本社。財前晃は今上詩織と一対一で話をしようと妹の葵を通じてコンタクトをとった。葵には彼女をバウンティハンターにしようとしている、とは一言も言っていない。彼女のデュエルの腕を見込んで話をしたい、とだけ伝えて呼び出したのだ。
まだ彼女がバウンティハンターになるとは確定していない。もし葵に教えたら先走って行動する可能性がある。
葵の思いを理解出来ていなかったあの時、私の言葉は届かず、ブルーエンジェルはプレイメーカーにデュエルを挑んだ。そのことを考えると、余計な情報を伝えるわけにはいかなかった。
こちらの要望を伝えたところで彼女が力を貸してくれるとは限らない。こちら側につく事で発生する利益を、機密情報を出来る限り混ぜずに説明するのには苦労した。
「プレイメーカーからイグニスを取り戻す為にも、君の力を貸してくれないか?」
「申し訳ありませんがお断りさせて頂きます」
意外! それは即答ッ!
「……理由を聞かせてくれないか?」
会心のプレゼンだと自分では思っていた。が、まさか断られるとは思っていなかった。反応に遅れたものの、何故なのかを問いかける。
「列車デッキの強さと、使うのにどれほど気を使うかを知らないわけではないですよね?」
それを聞いて財前は顔をしかめた。
――列車は強い。
ライフ4000のこの世界では当然の事だ。グスタフの効果二回でデュエルが終わる。効果ダメージ対策を握っていなければ即敗北。
こちらとしては勝ったやったー、で終わりかもしれないが相手は違う。理不尽なデュエル、蹂躙に対しての反応は決まっている。
――キレる。そのエネルギーを社会貢献に回した方が有意義ではと思うぐらいキレる。有る事無い事言い出して炎上。関係ない人にも当たり散らして消滅。
全てのデュエリストがこうするわけではない。一部のとんでもない爆弾が騒ぎ立てるから総意に見えるだけだ。
数多の列車使いを犠牲にし、そこから誕生した一つの言葉がある。
――『列車を使うなら相手の事を思いやりましょう。相手の戦略に対してフォローを忘れずに。我々は蹂躙をしたいのではない。デュエルをしたいのだ』
これはこの世界の列車使いの暗黙の了解になった。
列車を使うのなら強キャラっぽい空気をかもしつつ、相手にフォローを入れなければならない。そうしなければ心無い一部のデュエリスト達によって叩かれ回るのだ。
と言うわけで、サブウェイマスターとしての演技はヘイトを減らすためでもあった。趣味が七割だが。
「バウンティハンターの皆さんが使用するデッキが弱いとは言いません。ただ、列車は強い。一方的なバーンによる蹂躙になる可能性がある。それは即ち、御社のイメージを損なう可能性がある、という事になります。それに私、まだ16才ですよ? 年下が活躍するのに抵抗を持つ人だっている筈です。ある程度軌道に乗っている中突然人を増やすのは博打だと思うんです。前からいる人達と気が合うなら良いですが、合わなければ……まあ、アレですね」
ここからは個人的な考えになるけど、バウンティハンターに選ばれた人達にはプライドがあると思うんですよ。俺たちは選ばれたんだ! 強いんだ! っていうのは心の何処かにあるはず。それ以外には責任とかかな。
そんな中颯爽と現れたリンクヴレインズでは男アバターなJK!
突然の事に困惑するバウンティハンター達!
新人は列車でドーン、相手は死ぬを繰り返す!
活躍する新人に対し怒りが湧き上がるバウンティハンター達!
あいつ頭高くね?
どうする皆? 処す? 処す?
……うん、この流れで間違いないと思う。絶対ヘイト溜まるよね。絶対に邪魔者扱いされ続ける気がする。前世でも今世でも嫉妬は怖いし恐ろしい。
「……と、以上の理由で辞退させていただきます」
詩織は男の目を真っ直ぐに見つめ言い切った。正論で固めた彼女の言葉を聞き、推薦したブラッドシェパードも仕方がない、と財前に目で伝える。
本人が断っている以上、無理矢理引き入れるのは危険だ。引き止めるのは難しいな、と結論を出し、財前は口を開いた。
「……決意は固いようだな、わかった。今回の事を部外者に口外しないと誓約書を」
書いて、と続くはずだった言葉は、ドアがウィーンと開く音に消された。
「財前! これはどういうことだ!?」
「な、Mr.鬼塚!? これは――」
「……えっ、えっ。……えっ?」
思わず三度見してしまった。Go鬼塚さん最近見ないなーと思っていたら、まさかまさかのバウンティハンターになっていたとは。いつもの衣装ではなく防弾チョッキを着ている。カッコいー!
鬼塚さんの後ろに隠れるようにいる早見さんはわたわたしている。財前部長の為を思ってした行動が裏目に出たと空気感で察したようだ。
「こんな子供の手を借りないといけない程俺が弱いと思っているのか!?」
「お前が弱いとは誰も言っていない。……チッ、空気の読めんヤツめ……!」
それならしょうがないなという空気をぶち壊して登場した鬼塚さんに対し、怒りをあらわにするブラッドシェパード。
「(個人的な依頼ならば可能性があったものを……!)」
「(はわわ、す、すいません財前部長ー!! 私とんでもないことしちゃいました!?)」
「(……あれ、これ逃げ場ない? ヤバイ?)」
だんだん私に男性二人が寄って来ている。圧迫感がすごい。
「俺だけで十分だとわからせてやる! デュエルだ! 俺が勝ったらこいつはバウンティハンターから外させてもらうぜ!」
「俺の上官でもないお前が勝手な口を利くな! 最終的な決定権は財前にある!」
「え、あのー……」
高身長男性に挟まれあわあわしている150cmのJK。その内心は――。
「(……駄目だこれ。なんかバウンティハンターにさせられそうな気配がする)」
頼まれると断りきれないのを何とかしようと即興で考えた理由だったけど納得してくれた。
ほとんどの人は現実の私の裏の顔を知らない。デュエルが強い機械族好きのオタクな女子高生が基本的な認識になる。社会人なお二人は仕方ないな、と広い心で対応してくれた。そこまでは良かった。
……なんで来ちゃったかな鬼塚さん。もうちょい空気読んでほしかったなー。
頑張って僕らのGo鬼塚! サイン欲しいです!
「……お、おう、後でな」
「あ、最後の声に出てました? ………………おおう」
……恥ずかしい! 顔があっつい!
真っ赤になった顔を手で覆い、顔を周りに見られないように下を向く。
「デュエルしても良いですけど、今、バウンティハンターは辞退させていただく方向の話をしていた真っ最中だったんですよ……」
「口だけなら何とでも言える。その嘘を俺の手で真実にする、それ以上にお前を外す確実な方法はないだろう」
話! 聞いて!! あと周り見て、証人がいるよ!
私以外目に入っていない様子の鬼塚さんはデュエルディスクを構えて戦闘態勢に入っている。
「あ、もし良かったらなんですけど……デッキは列車から変更してもいいですか?」
「サブウェイマスターは列車使いだと聞いたが……俺を舐めているのか?」
「ファンとして、個人的に鬼塚さんと戦わせたいデッキがあるんです。いや、駄目なら列車使いますけど」
ファンと聞いてたじろぐ。少しの間考え、口を開く。
「…………分かった、いいだろう」
鬼塚さんと言えば剛鬼! 列車よりも戦っている姿が似合いそうな機械族がいるのでそっちにチェンジ。
「準備は出来たか? ――行くぞ」
「よろしくお願いします」
大人な二人の申し訳ないという視線を受けながら私もデュエルディスクを構える。
「「Into the VRAINS!!」」
ばさり、とコートを翻しデュエルボード上に着地。帽子を整えるのを忘れない。現実とかけ離れた身長だが、アバターの操作は問題なし。違和感があるのならハトと山本先輩のコンビはとんでもない動きをすることになる。
前方に見えるはGo鬼塚。カリスマデュエリスト期と違い、現実の格好と同じバウンティハンターとしてのアバターだ。
「映像で見るよりも随分ひょろっちいな、そんなんで本当に賞金稼ぎとしてやっていけたのか?」
「失礼ながら、デュエルに見た目は関係ありません。大切なのはその身に宿した力、ではないでしょうか」
表情を全く変えずに話すサブウェイマスター。
「……ふっ。確かに、違いないな!」
それを聞いたGo鬼塚はにい、と笑う。
「「スピードデュエル!」」
Go鬼塚
LP 4000
サブウェイマスター
LP 4000
「先行は俺がもらう! 俺のターン! スキル発動、ダイナレッスル・レボリューション! デッキからフィールド魔法、ワールド・ダイナ・レスリングを発動する!」
《ワールド・ダイナ・レスリング》
フィールド魔法
このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分フィールドに「ダイナレスラー」モンスターが存在する場合、
お互いのプレイヤーはバトルフェイズにモンスター1体でしか攻撃できない。
(2):自分の「ダイナレスラー」モンスターの攻撃力は、
相手モンスターに攻撃するダメージ計算時のみ200アップする。
(3):相手フィールドのモンスターの数が自分フィールドのモンスターより多い場合、
墓地のこのカードを除外して発動できる。
デッキから「ダイナレスラー」モンスター1体を特殊召喚する。
「……なんと、デッキからフィールド魔法とは。ブラボー!」
なんか便利そうですねそのスキル。……あれ、待って? 鬼塚さんのスキルは闘魂じゃなかったっけ? それにダイナレスラー? 剛鬼は?
「フン、デッキを変えたのがお前だけと思うなよ。俺は更に、ダイナレスラー・カポエラプトルを召喚!」
《ダイナレスラー・カポエラプトル》
効果モンスター
星4/地属性/恐竜族/攻1800/守 0
このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):攻撃表示のこのカードは戦闘では破壊されず、
相手モンスターに攻撃されたダメージステップ終了時にこのカードを守備表示にする。
(2):このカードがモンスターゾーンに守備表示で存在する場合、
自分・相手のスタンバイフェイズに発動できる。
デッキから「ダイナレスラー・カポエラプトル」1体を特殊召喚する。
フィールドに現れた二足歩行のカポエイリスタな恐竜。はいはいどーせあの見た目でも戦士族か獣戦士族で……え? 恐竜族?? まさかの恐竜さんザウルス!? 恐竜さん新規!? あれってことは剛鬼リストラ!?
……落ち着け私。心の中のティラノ剣山よ安らかに眠れ。
いやーこれは予想してなかったわ。剛鬼一筋でやっていくものと思っていたから。……いや、勝手な押し付けは良くないな。それよりも恐竜族増えるのに感謝を。
「カードをセットしてターンエンド。さあ、お前の本気を見せてみろ! それをねじ伏せ、俺だけで十分だと証明してやる!」
「見せてあげましょう、私の力を! 私のターン! ドロー!」
ドローしたカードは
剛鬼と
お互いの使用デッキがいつもと違うこの状況。早くもこのデュエル、予測不能な展開になりそうだ。
剛鬼ではなくダイナレスラー対古代の機械になりました。楽しみにしていた方、申し訳ありません。
まさか使用デッキが剛鬼から変わるとは思ってなかったんだよ……!
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Go鬼塚
LP 4000 手札2
モンスター ダイナレスラー・カポエラプトル ☆4 ATK1800
魔法・罠 伏せカード1枚
フィールド魔法 ワールド・ダイナ・レスリング
「私は手札から永続魔法、
自分で発動した永続魔法を自分から破壊する、一見プレイングミスに思える行動。
「
カリスマデュエリストランキング1位だった男はその動きの意味を知っていた。かつての対戦相手の中に使用者がいたからだ。確かあの時は剛鬼ザ・グレート・オーガの効果でステータスが大幅に下がったところを攻撃して勝利を収めていた。
……対戦相手の中には
そんな奴らとは違う。サブウェイマスターはこのデッキを使いこなしている。展開のキーとなる2枚を初手に引き込むドロー力がそれを示している。
――ほとんどのモンスターが戦闘時に魔法・罠カードの発動を封じる厄介な効果を持つカテゴリー。その効果を持つのがお前だけではない、と彼のエクストラデッキにいる王者はアップを始めている。
「知っているのなら話は早い、
ばらばらに崩れた機械の中から音を立てて組み上がる二体の竜。
《
効果モンスター
星9/地属性/機械族/攻3000/守3000
(1):「アンティーク・ギア」モンスターをリリースしてアドバンス召喚した
このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、
その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。
(2):「ガジェット」モンスターをリリースしてアドバンス召喚した
このカードは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃できる。
(3):このカードが攻撃する場合、
相手はダメージステップ終了時までモンスターの効果・魔法・罠カードを発動できない。
(4):このカードが攻撃したダメージステップ終了時に発動できる。
フィールドの魔法・罠カード1枚を選んで破壊する。
「
回る。回る。回る。歯車はその動きを止めることなく手札を稼ぐ。
「魔法カード、アイアンドローを発動! このカードは自分フィールドのモンスターが機械族の効果モンスター2体のみの場合に発動できます。デッキから2枚ドロー! このカードの発動後、ターン終了時まで私は1回しかモンスターを特殊召喚できません。……ふむ」
通常召喚を残した中、残り1回の特殊召喚。
「
「おいおい、サーチしたそのカードはこのターンセット出来ないことを忘れてはいないだろうな?」
もちろん、と答えるかわりに口角をほんの少しだけ上げる。表情筋が死んでるノボリフェイスなので変化はミリ単位ですけども。
「手札から魔法カード融合を発動! フィールドの
《
融合・効果モンスター
星8/地属性/機械族/攻1000/守1800
「アンティーク・ギア」モンスター×2
「古代の機械魔神」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードは他のカードの効果を受けない。
(2):自分メインフェイズに発動できる。
相手に1000ダメージを与える。
(3):このカードが戦闘で破壊され墓地へ送られた場合に発動できる。
デッキから「アンティーク・ギア」モンスター1体を召喚条件を無視して特殊召喚する。
攻撃力1000の
「自分メインフェイズに
列車は使わないと言ったがバーンしないとは言ってない。というより、ここで融合しないでバトルフェイズ入ったら鬼塚さんが「舐めているのか!」って激おこしそうなんだよなー。
Go鬼塚
LP 4000→3000
「バトル!
「だが攻撃表示のカポエラプトルは戦闘では破壊されない! クッ……!」
Go鬼塚
LP 3000→1800
「ダメージステップ終了時、カポエラプトルは自身の効果で守備表示になる」
「ダメージステップ終了時、
先ほどのバトルで発生した熱を放出。ごじゅう、と焼ける音と共にフィールド魔法は破壊された。これで次のターンから面倒な攻撃制限は無くなる。
「私はこれでターンエンドです」
――サブウェイマスターのフィールドには攻撃力3000のモンスターと守備力1800の2体のモンスター。片方は攻撃時の妨害を受けず、もう片方は高い耐性とバーン効果を持つ。どちらも放置しておけるものではない。
「はっ、なかなかやるじゃねえか……!」
この盤面を作った相手が、現実では女子高生だという事実を忘れてしまいそうだ。
「俺のターン、ドロー! 相手フィールドのモンスターの数が自分フィールドのモンスターより多い場合、墓地のワールド・ダイナ・レスリングを除外して効果発動! デッキから『ダイナレスラー』モンスター1体を特殊召喚する! 俺が呼ぶのはこいつだ! ダイナレスラー・システゴ!」
《ダイナレスラー・システゴ》
効果モンスター
星4/地属性/恐竜族/攻1900/守 0
このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。
デッキから「ダイナレスラー」モンスター1体または「ワールド・ダイナ・レスリング」1枚を手札に加える。
(2):このカードが墓地へ送られたターンのエンドフェイズに、
相手フィールドのモンスターの数が自分フィールドのモンスターより多い場合、
「ダイナレスラー・システゴ」以外の自分の墓地の「ダイナレスラー」モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを特殊召喚する。
「システゴの特殊召喚に成功したことで効果発動! デッキから『ダイナレスラー』モンスター1体または『ワールド・ダイナ・レスリング』1枚を手札に加える。俺はワールド・ダイナ・レスリングを手札に加え、発動! 残念だったな、ワールド・ダイナ・レスリングを除去された時のことは対策済みだ」
「やはり読まれていましたか……」
バトルできるのはモンスター1体のみ、という攻撃制限はかなり鬱陶しい。それにデュエル中一度しか使用できないスキルによって発動したフィールド魔法だ。せっかくのスキルが無駄になった、と心理的アドバンテージを得るためにも殆どのデュエリストが優先して除去を狙うだろう。
「更にダイナレスラー・カパプテラを通常召喚!」
《ダイナレスラー・カパプテラ》
効果モンスター
星3/風属性/恐竜族/攻1600/守 0
このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):相手フィールドのモンスターの数が自分フィールドのモンスターより多い場合、
相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを墓地へ送る。
(2):このカードが「ダイナレスラー」リンクモンスターのリンク素材として墓地へ送られた場合に発動できる。
そのリンクモンスターの攻撃力はターン終了時まで1000アップする。
「フィールドにモンスターが3体、来ますか!」
「現れろ、俺様のサーキット! 召喚条件はダイナレスラーモンスター2体以上! 俺はダイナレスラー・カポエラプトル、システゴ、カパプテラをリンクマーカーにセット! リンク召喚! 現れろ! リンク3、ダイナレスラー・キング・
《ダイナレスラー・キング・
リンク・効果モンスター
リンク3/地属性/恐竜族/攻3000
【リンクマーカー:左下/右下/下】
「ダイナレスラー」モンスター2体以上
(1):このカードが戦闘を行う場合、
相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠カードを発動できない。
(2):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、
相手は他のモンスターを攻撃対象に選択できない。
(3):相手バトルフェイズ開始時に、
相手フィールドの攻撃表示モンスター1体を対象として発動できる。
このバトルフェイズ中、相手はそのモンスターで攻撃宣言しなければ、
他のモンスターで攻撃宣言できない。
攻撃宣言しなかった場合、対象のモンスターはそのバトルフェイズ終了時に破壊される。
「リンク素材になったカパプテラの効果でキング・
《生存競争》
通常罠
(1):自分フィールドの恐竜族モンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。
このカードを攻撃力1000アップの装備カード扱いとして、
その自分の恐竜族モンスターに装備する。
(2):このカードの効果でこのカードを装備したモンスターが
攻撃で相手モンスターを破壊し墓地へ送った時に発動できる。
装備モンスターは相手モンスターにもう1度だけ続けて攻撃できる。
「これにより、キング・
「っ、ワールド・ダイナ・レスリングで制限されるのは攻撃するモンスターの数だけ、攻撃回数までは示されていない……!」
戦闘特化のダイナレスラーの為に用意されたかのような効果。
「こいつで終いだ! 相手フィールドのモンスターの数が自分フィールドのモンスターより多い場合、ダイナレスラー・パンクラトラプスを手札から特殊召喚できる!」
《ダイナレスラー・パンクラトプス》
効果モンスター
星7/地属性/恐竜族/攻2600/守 0
このカード名の、(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできず、
(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):相手フィールドのモンスターの数が自分フィールドのモンスターより多い場合、
このカードは手札から特殊召喚できる。
(2):自分フィールドの「ダイナレスラー」モンスター1体をリリースし、
相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。
そのカードを破壊する。
この効果は相手ターンでも発動できる。
「バトルだ! ダイナレスラー・キング・
咆哮の音圧で破壊される熱核竜。レスラーとして鍛えた肉体を使うまでもない相手、ということだろうか。
サブウェイマスター
LP 4000→1800
「生存競争の効果! このカードの効果でこのカードを装備したモンスターが攻撃で相手モンスターを破壊し墓地へ送った時、装備モンスターは相手モンスターにもう1度だけ続けて攻撃できる!
再び放たれる咆哮。守備表示の為ダメージは受けない。が、戦闘破壊されたことにより機械仕掛けの魔人の効果が発動する。
「戦闘で破壊され墓地へ送られた
「……ハッ、またそいつか。敗者には御退場願おうか! パンクラトラプスの効果! 自分フィールドの『ダイナレスラー』モンスター1体をリリースし、相手フィールドのカード1枚を対象として発動。そのカードを破壊する! パンクラトラプスをリリースして
フィールドはがら空き。相手のフィールドには攻撃力4000のモンスター。そして手札にモンスターカードは無い。
「ターン終了時、キング・
まさに絶体絶命。それを悟られないよう、顔に出さず答える。
「まだデュエルは途中、終点までは早すぎますよ……私のターン、ドロー!」
ドローしたカードは――。
「……ええ、ピンチに助けてくれるのはヒーローだと決まっています! 手札より、ヒーローアライブを発動!」
《ヒーローアライブ》
通常魔法
(1):自分フィールドに表側表示モンスターが存在しない場合、
LPを半分払って発動できる。
デッキからレベル4以下の「E・HERO」モンスター1体を特殊召喚する。
「何だと!?」
「自分フィールドに表側表示モンスターが存在しない場合、LPを半分払って発動できる。デッキからレベル4以下の『E・HERO』モンスター1体を特殊召喚します! 頼みますよ、
サブウェイマスター
LP 1800→900
《
効果モンスター
星4/光属性/戦士族/攻1700/守1100
(1):1ターンに1度、エクストラデッキの融合モンスター1体を相手に見せ、
そのモンスターにカード名が記されている融合素材モンスター1体を
デッキから墓地へ送って発動できる。
エンドフェイズまで、このカードは墓地へ送ったモンスターと同名カードとして扱う。
「プリズマーの効果! エクストラデッキの
水晶のボディに
「
《
通常魔法
(1):自分の手札・フィールドから、
「アンティーク・ギア」融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、
その融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚する。
自分フィールドの、「古代の機械巨人」または
「古代の機械巨人-アルティメット・パウンド」を融合素材とする場合、
自分のデッキのモンスターも融合素材とする事ができる。
古代の機械巨人を含む、3体融合。この条件で融合召喚されるモンスターは決まっている。
「出発進行!
《
融合・効果モンスター
星10/地属性/機械族/攻4400/守3400
「古代の機械巨人」+「アンティーク・ギア」モンスター×2
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
(1):このカードが攻撃する場合、
相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠カードを発動できない。
(2):このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、
その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。
(3):このカードが破壊された場合、
自分の墓地の「古代の機械巨人」1体を対象として発動できる。
そのモンスターを召喚条件を無視して特殊召喚する。
「カードを2枚セット。バトル!
巨拳を目下の敵に目掛けて振り下ろす。キング・
「自分フィールドのダイナレスラーがその攻撃力以上の攻撃力を持つ相手モンスターと戦闘を行うダメージ計算時、 俺は手札のダイナレスラー・マーシャルアンキロを墓地へ送って効果発動! キング・
《ダイナレスラー・マーシャルアンキロ》
効果モンスター
星2/地属性/恐竜族/攻 1000/守 0
(1):自分の「ダイナレスラー」モンスターが
その攻撃力以上の攻撃力を持つ相手モンスターと戦闘を行うダメージ計算時、
自分の手札・フィールドのこのカードを墓地へ送って発動できる。
その自分の「ダイナレスラー」モンスターはその戦闘では破壊されない。
そのダメージ計算後、その戦闘を行った相手モンスターの攻撃力は半分になる。
「ですがダメージは受ける!」
「ぐうぅっ!」
Go鬼塚
LP 1800→1400
「墓地に送ったマーシャルアンキロの効果で、
攻4400→2200
「
「ヒーローアライブを使ったことでお前の残りライフはたった900。このまま攻撃すればそれで終いだが……ここまで耐えた礼だ、全力で葬ってやる! 俺のターン! 永続魔法、ダイナマッスルを発動! この効果で『ダイナレスラー』モンスターの攻撃力は400アップする!」
《ダイナマッスル》
永続魔法
(1):自分フィールドの「ダイナレスラー」モンスターの攻撃力は400アップする。
(2):自分フィールドの「ダイナレスラー」モンスターは、
それぞれ1ターンに1度だけ戦闘・効果では破壊されない。
更に攻撃力を上昇させる。これでダイナレスラー・キング・
「終わらせはしません! 速攻魔法、禁じられた聖槍を発動!」
《禁じられた聖槍》
速攻魔法
(1):フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターはターン終了時まで、攻撃力が800ダウンし、
このカード以外の魔法・罠カードの効果を受けない。
攻撃力上昇は全て魔法・罠によるもの。よって禁じられた聖槍の効果でキング・
「ちっ、まだ足掻くか! 共倒れになる趣味はねえ、バトルはしない。ターンエンドだ」
Go鬼塚の手札は0。妨害札は飛んでこない。
「エンドフェイズに罠カード、競闘-クロス・ディメンションを発動! この効果で、
《競闘-クロス・ディメンション》
通常罠
(1):自分フィールドの「アンティーク・ギア」モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを除外する。
この効果で除外したモンスターは次のスタンバイフェイズにフィールドに戻り、
その攻撃力はそのターンの終了時まで元々の攻撃力の倍になる。
(2):自分フィールドの、「古代の機械巨人」または
「古代の機械巨人-アルティメット・パウンド」が戦闘・効果で破壊される場合、
代わりに墓地のこのカードを除外できる。
「そのカードは……!」
「(こいつは……まさか……!)」
どこかでおかしいと思っていた。
しかしそれをしなかった。
あの罠に描かれているのは
――もしかしなくとも、サブウェイマスターはこのカードを魅せたかったのか? 昔の俺のデュエルを真似て。
その証拠に、先程までのへの字口はどこへ行ったのか、彼……いや彼女は笑っている。
「私のターン! スタンバイフェイズに競闘-クロス・ディメンションの効果で除外された
「攻撃力、8800……!」
この攻撃力はどう足掻いても超えられない。
「バトル!
Go鬼塚
LP 1400→0
「(ファン、か……)」
カリスマを捨てると共に無くなったと思っていた。過去の自分は消えたと思っていたのはどうやら自分だけだったらしい。現に、こうして魅せるデュエルを再び俺に見せてきた奴がいる。
「(俺は、カリスマを捨てる必要はなかったのか……?)」
まだ、その答えは出ない。
ダイナマッスルの効果で、キング・
――此処とは異なる世界で、古代の機械はHERO達と死闘を繰り広げた。かつての主人同士の関係は教師と生徒。
HEROと共に戦った彼がデュエルを終える時にしていたソレを、彼の思いを伝える為に行う。
『――ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ!』
――ああ、弱肉強食の世界で生きている己とは違う。アイツらはデュエルを楽しもうとしている。どうしてそう出来るのか解らない。解らない、が――。
――その思いはきっと、カリスマを捨て、プレイメーカーを倒すことだけを目的とする
「――――それで?」
絶対零度の視線の中、カフェ・ナギ内で今上詩織は冷や汗を流していた。サブウェイマスターとしての実力を買われ、SOLテクノロジーから呼ばれた事を草薙さんはどこかで掴んでいたらしい。
ハノイの騎士であることをばらした時、デュエルディスクを解析された。その時についででGPSを仕込まれていたのかもしれない。
「サインはデュエル部の皆の分と、皆さんもGo鬼塚が好きそうなのでその分貰ってきました」
「そっちじゃない、バウンティハンターの件だ」
「……デュエル終わってログアウトしたら、なんか鬼塚さんに気に入られたっぽくて、その……やっぱり断りきれなくて、未だSOLで手掛かりが掴めていないグラドスの捜索を専門に、情報を渡した分だけの報酬が……」
「またか!! またなのか!!!」
「あー、あれだぜ草薙。ニンゲンのことわざであったろ? ほら、二度あることは三度あr」
「こんな事がそう何度もあってたまるか!!!!」
このあと滅茶苦茶説教された。
ソウルバーナーの演技は最初からしていた訳じゃなくて、闇より出でし絶望を見た時の反応はマジで、その後不霊夢のお陰で復活&演技スタートだと思うんですがどうなんでしょうか。
最初から全部演技だったらベクターいけるってこれ。
オルフェゴール混合したハノイデッキ考えてるんですが、どう足掻いてもクラドラがコストにしかならないんですよ。つらい。
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進入禁止エリアへの潜入
サモソが死にましたが、皆さん大丈夫ですか……?
作者はTG スター・ガーディアンで死にました。こんなカード出されたら墓に入るしかねぇ!
閑散とした電脳図書館の中。一人のデュエリストが必要最低限の明かりの下、本の小山を三つほど作り上げていた。
今読み終えた本を頂上へ積み上げようとした、その時。彼女の後ろから声がした。
「や。昨日ぶり、だね」
「……ヴァンガード。」
互いに見知らぬ姿だったが、すぐにその正体に気付いた。
ヴァンガードは毎回姿を変えてグラドスの前に現れる。前回は一本足にタイヤを付け、蛇腹の腕の先に4本指の手を持つ箱型ロボットだった。今回は黒のロングコートと帽子を身につけた長身の男性のようだ。
「この見た目の時はサブウェイマスターって呼んでほしいな。っとそれより、今私達はリンクマジックを使ってきた奴らを追っているんだ。そこで――」
「進入禁止エリアについて、でしょう?」
グラドスもその事については調べがついている。
謎の人物、ボーマンとハルが逃げていった未知のエリア。その先にSOLテクノロジーですら正体を掴んでいないゲートが出現。調査隊が送られたが、帰還者は0。リンクヴレインズの管理者がこの様だ。一人で潜入するのは危険でしかない。
「知っているなら話は早い。私達は進入禁止エリアの奥に敵のアジトがあると予測してる。突入する目処がついたから、出来れば力を貸「いいですよ」し、て?」
思っていたよりもあっさりと承諾した。
「……あれ、聞き間違いかな?」
「聞き間違いではありません、ヴァ……サブウェイマスター。SOLも帰還者0の現状を受け、更なる調査をいつ行うかは未定だそうです。このまま潜伏しているだけでは何も変わらないでしょう。この状況を変えるにはこちらから動くしかありません」
言い終えると同時にコンソールを空中に表示させ、山積みになった本の返却手続きを済ませる。
「いつ出発する予定で?」
「それが、さー。……明日」
「あした」
ぱちぱち、と目を瞬かせて言葉を反復する。
「なるほど、ゲリラ的行動の方が予測されにくいですしね」
「……もうちょっとさー、なんか……うん。いいや」
私、流石に急すぎるとか準備が足りないとか、文句言われると思っていたんだけど。
怖いわー。グラドスがいい子すぎて怖いわー。
数日前、カフェ・ナギに集まるよう草薙さんから連絡を受け、皆が揃ってからそれは伝えられた。
「ゴーストガールからメール?」
「ご丁寧に進入禁止エリアの情報と入り方も付いてな。俺達を送り込む気なんだろう」
「ダメダメ! どー考えても罠じゃん! あの女、俺達をまた騙す気だよきっと!」
かつてゴーストガールによって騙された事をAiはしっかりと覚えている。だから今回もロクな目に合わないだろうと突入には否定的だ。
「これだけの情報はSOLテクノロジー以外からは流れない。となれば情報の出所は財前だろう」
「それに向こうにはバウンティハンターもいる。素直に考えればAiの言う通り罠だが……」
そうそうその通り、と同意を求めるAi。
「だが今やつに関する手がかりは何もない。あるのはそのエリアに消えたという情報だけ。だったらたとえ罠でもそのゲートを確かめるしかない」
「危険だぞ」
「わかっている」
遊作君の目に迷いはない。口を開いてはいないが、穂村君も同じ思いだろう。
「え、え、マジで行くの? ……ハッ、詩織ちゃんはどーなのよ!?」
Aiはどうしても行きたくないようで、すがるようなウルウル目で私を見上げる。
ハノイ時代の作戦は確実性が高い物を選んで進めてきたのを彼等はよく知っている。だからこそ、この流れを止めてくれると思って私に話題を振ったのだろう。
「んー……私も皆が言う通り、何かあるのは間違いないと思う。でもそれが何かまで今は特定できない。で、これは今日送られてきたんで間違いないですよね?」
「ん? ああ、そうだが」
「じゃあ、さ。今すぐじゃなくて数日焦らしてからゴー! で、どうですか? 相手の隙を突ける可能性はそっちの方が大きいと思いますけど」
準備も何もせずに突入するのはリスクが高すぎる。ゴーストガールが何もしてこない筈がない。かといって何もしないは論外。SOLテクノロジーに先を越されるのはこちらにとって大損害になる。結局、Aiがなんて言おうと行くしかない。
「……なるほど、一理あるな」
「あーん結局行くんじゃーんー!」
そして当日。二人は本来の姿でデュエルボードに乗り進入禁止エリアを目指していた。
「――なるほど。二人一組で時間と場所をずらして潜入、ですか」
「そ。出来る限り全員まとめて罠にかかるのは避けようってAiの提案。もしプレイメーカーとソウルバーナーに何かあっても、私達がゲートの中に入れるように、ってね」
それに、注意すべきバウンティハンター達の情報は私が把握できている分しっかり全部伝えてある。
「……しかし、Go鬼塚がバウンティハンターになっていたとは……」
「そこは私も驚いたよ。最近リンクヴレインズで見ないなーって思っていた時に、だもん」
バウンティハンターになったとはいえ、彼は元カリスマデュエリスト。そう卑怯な手は使わず、自身の力だけでイグニス奪還を成功させようとするだろう。
故に、一番気をつけるべきはブラッドシェパード。いかなる手段を用いてでも依頼を成功させるハンター。のはずだが……。
「(私に対しての態度が他人と比べて明らかに柔らかいんだよなぁ……)」
サブウェイマスターとして活動中、偶然出会った時の第一声が「調子はどうだ?」である。それも友人に話しかけるような声で。
他にも、ブラッドシェパードの事を知っている人からすれば信じられない言動がぽんぽん飛ぶのだ。
サブウェイマスターはブラッドシェパードが推薦した。大会で成績をあげているデュエリストは他にも大勢いるのに、(元ハノイの騎士と知らなければ)ただの女子高生である私を選んだ。
つまり、私自身について何か引っかかるものがあったのだろう。
「(まさか、ロリコげふんげふん。冗談でもそれは無い。私が気付いてないだけで共通点があるとか? じゃないとあの対応の違いはおかしい……。機械族使い? そんな単純じゃないだろうし…………いや待った、機械? そういえば……)」
衣服の不審者感が強くて忘れそうになるが、彼の右腕は機械だった。右腕を何かで失ったのだ。そう、何か――。
「(…………これが当たっているとすれば、直接は聞かない方がいいかな)」
「ソウルバーナー、プレイメーカー共に交戦状態に入ったようです。相手は……Go鬼塚とブラッドシェパード!」
そんなことを考えているうちに事態は進展したようだ。
「やっぱりその二人か! 今のうちに急ぐよ!」
ステルスプログラムがかかっているとはいえ、悠長にしている時間はない。デュエルボードを加速させ、二人は下降していった。
……加速すると共にだんだん小さくなる後ろ姿を見つめる人影が二つ。互いに似たような姿をした女性デュエリスト。ゴーストガールとブルーガールだ。
「――あれは、ヴァンガードとグラドス!? 早く追いかけないとっ」
「ちょっと、待ちなさいブルーガール。彼らを先行させておけば、私達は安全にゲートまで行けるじゃない」
どうどう、と落ち着かせようとするが全く効果はない。
「でも、先にイグニスと接触されたらっ」
「そんなのあり得ないわ」
「なんで言い切れるの? ゴーストガール」
焦るブルーガールと対称に、ゴーストガールは余裕の表情。
「だって、ヴァンガードは――」
――元ハノイの騎士じゃない?
二人共デュエルをしながらも下降していたようで、合流するのにそこまで時間はかからなかった。
「……嘘吐いてた訳じゃなかったんだな、ヴァンガード」
「私そこで嘘つく利益ないからね? もうちょい信じてくれても……」
Go鬼塚は剛鬼デッキからダイナレスラーデッキへと変えたと言っても穂村君はあまり信じていなかった。なぜなら、カリスマデュエリストとしてのGo鬼塚に憧れていたから。だからこそ変わったことを認めたくなかったのだろう。
「おっ! あれがゲートか」
一面の青の中、ぽっかりと浮かぶ緑の渦。
「あの向こうに奴は消えたのか……。よし、行くぞ!」
プレイメーカーの掛け声と共にゲートに入った私達を迎えたのは激しく吹き荒れる風。ぐらりぐらりとデュエルボードが翻弄される中、狙いすましたような一筋の風が――。
「何これ私だけ風がめっちゃ強いぃぃぃぃい――」
「ヴァンガードーー!?」
「ほっとけ、アイツの事だから何とかなるだろ」
進入早々にお空へ吹っ飛ばされた。さながら風で舞い上がるビニール袋のように。
『キャッチー!』
かに思えたが、クラッキング・ドラゴンによって事なきを得た。
「でも、俺達もこのままじゃ落っこちるのは時間の問題だぜ」
風は止むことなく私達に襲いかかる。この状況が続けば、いつか崖に叩きつけられるだろう。
「私達の出番だ、いくぞAi!」
「ああ!」
イグニス二人はデータストームを利用して風を打ち消しているようだ。
「なるほどね。グラドス、私の後ろに! 頼むよクラッキング・ドラゴン!」
『ぐわぁおー!』
彼らの真似をするように、小さくなったクラッキング・ドラゴンがエネルギー波を放つ。
「ヴァンガード……有り難うございます」
「んー? いやいや、ありがとうとかいいよ。今私達を見ているだろうイグニスに、元ハノイの騎士だけど、私はイグニスの味方だってこと見せたいだけだからさ」
「……ええ、そういう事にしておきますよ」
くすり、と笑った様な気がした。
前から、横から、後ろから。風は縦横無尽に吹き荒れる。
「うぅっ……クッ……」
『出力、低下……ヴゥウ』
「も、もうダメ〜っ!」
皆の防壁が無くなった瞬間、私達を拒むのを諦めたかの様に風は吹き止んだ。道なりに進んで行くと――。
「何だあれは?」
「建物……の様ですが」
先程まで通ってきた、崖に挟まれた道とは違い、ずいぶんと開けた場所に出た。中心部には神殿の様な建物が浮かんでいる。
皆デュエルボードから降り、神殿の前に着地する。
「静かだな」
「あぁ、静かすぎる」
私達の会話しか聞こえない中、べきべき、と木々が折れる音が静寂を裂いた。
「気をつけて下さい、何か来ます!」
現れたそれを見た不霊夢が叫ぶ。
「こいつはサイバース世界を滅ぼしたモンスター!」
「何だと!?」
草木を掻き分けて現れた怪物は、その目に私だけをうつして――。
「ってまた私!?」
怪物がごう、と何かを放つ。わざとか偶然か、その一撃は私ではなく、その後ろに当たった。誰にも怪我はない様だが、このままでは巻き添えを食らう可能性は高い。
「っ、ヴァンガード!」
「大丈夫、すぐ終わらせる!」
怪物はもう一度あの攻撃を放とうとしている。ヴァンガードは皆と同じく逃げ――
「おい、嘘だろ!?」
――はせず、正面へ突っ込んだ。腹の下へ潜り込むと同時に、狙うべき一点を指し示す。
「トラフィック・ブラストォッ!」
周りに被害が出ないよう圧縮したブレスは怪物の胴体を貫通し、空へ伸びる光の柱を作る。
どたり、と横に倒れた怪物にクラッキング・ドラゴンはがじがじ噛り付いて分解し始めた。
「……とまあ、こんなもんかな? ……あれ、どしたの皆?」
流れる様な討伐を見ていた皆は呆然としている。
「ヴァンガード、あー。その……あーゆーの、やった事あるのか?」
「いや? 初めてだけど」
「これが……ディアハ……!」
グラドスだけは目をキラキラさせている。
「……ふーん? ニンゲンにしてはまあまあやるじゃないか」
ディアハもどきをするハメになった原因であろうイグニスが、顔の上半分がない付き人(?)の肩に乗っていた。
「風のイグニス! いきなり何すんだよ!」
てっぺんからつま先まで怒りで満ち溢れた様子のAi。命の危機を感じたのだから当然だろう。
「狙っていたのはハノイの騎士だけで、君達に危害を加えるつもりはなかった。……それに、コイツらのせいで僕達とサイバース世界は酷い目にあったんだ、このぐらいは許されるとは思うけどなぁ?」
「うーん否定できない」
「えー……認めちゃうの?」
命の危険を感じたんだから文句言っても大丈夫だろ的な圧を二人から感じる。
風のイグニス――ウィンディはワールドの奥へ案内しつつ、こちらの質問に答えた。
曰く、このワールドはイグニスの仲間達を集める為と敵をおびきだす二つの目的で作られたこと。
「で、グラドスだっけ? 普通のAIからイグニスへと変化した……僕達としても興味深い存在。どうだい? そんな人間の手助けなんかするより、サイバース世界の再建の方が大事だと思うんだけど」
「確かに、サイバース世界の再建は我らイグニスの悲願」
不霊夢、とソウルバーナーがつぶやく。
「サイバース世界の再建、ですか…………すみません、よく、わかりません」
心なしかしょんぼりしている。
「ウィンディ、グラドスはサイバース世界の事を何も知らない。その選択はただ困らせるだけだ」
「へー、そうだったのか。ま、考えといてよ」
ボーマン達がいると思われる場所への道を開く。その為にウィンディから提示された条件は、ゴーストガールとブルーエンジェルに似た謎の青い少女を倒すこと。
「グラドス、君は行かなくていい。サイバース世界の素晴らしさには遠く及ばないけど、僕の風のワールドを堪能してくれ」
ウィンディは隠そうともせずグラドスをイグニス側へ誘っている。新しく増えた仲間を危険な目に合わせたくないと考えるのは当然かもしれない。
「……グラドス?」
途中まで着いていくと言ってグラドスも一緒に来たのだが、足音が途中で止まった。どうやら立ち止まって何かを見ているらしい。視線の先では、蜘蛛の巣に引っかかった蝶が力なくもがいていた。
「ヴァンガード……私は、どうするべきでしょうか」
蝶を助けるべきか、否か。
人間か、イグニスか。
その二つを重ね合わせているのだろう。表情は分かりにくいが、かなり混乱している。
いつか突きつけられるだろう二択。考えもしなかったのか、目を背けていたのかはわからないが。
「それは、どちらの視点で見るかによって変わるものだよ」
食べられる蝶をかわいそうと思い解放しても、蜘蛛の視点から見れば折角のエサを失った事になる。蜘蛛がもしずっと腹を空かせていたら? そんな事を考え出したらキリがない。
「ウィンディは今すぐ決めろと強制はしていなかった。時間はまだある。……いっぱい考えて、自分で決めるんだ。後悔しない様に、ね」
グラドスからの返事はなかった。
プレイメーカーは話し合いでなんとか引いてもらいたかったようだが決裂。デュエルによって決着はつくことになった。
Aiの起こしたデータストームによって、プレイメーカーは彼女達が追いつけないところまで加速済み。ソウルバーナーがブルーガールとデュエルするとなると、必然的に私の相手は――。
「プレイメーカーじゃなくてごめんね、ゴーストガール」
「あらヴァンガード、一緒にいたグラドスはどこへ行ったのかしら?」
「それを知りたいなら、分かってるでしょ?」
「デュエルね。いいわ、私のオルターガイストで貴女の鉄くず達を蹴散らしてあげる!」
鉄くず、か。あいにく煽りにはパワーが足りていない。機械族にはジャンクやスクラップと名のついたモンスターもいるので。
「そうだね、じゃあこっちは……」
顎に手をあて、ちょっと考え込む様な仕草。煽りには煽りで返そう、と考えついた言葉は。
「――私のデッキ調整に付き合ってもらおうかな?」
それを聞いてゴーストガールの顔色が変わる。
「っ、ふうん……デッキ調整の相手に、ねぇ?」
お宝を追って出会ってしまったリボルバーとのデュエル。その始めにリボルバーが言った言葉。
『では私のデッキ調整に付き合ってもらおう』
ハノイの騎士であった彼女が似た言葉を言ったのは偶然か。それだけだが、あの時の苦い経験を思い出させるには十分だった。
「その言葉、後悔しても知らないわよ……!」
「「スピードデュエル!」」
オルターガイストデュエル考えるのつらい……つらい……。
長引かせたくない……いいよね……?
ボチヤミサンタイ「ええで」
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風に舞う決闘者
今回のデュエル、次の話で決着がつくのですが、作者のリアル事情により、投稿がまた遅れます。
プロットは組んであるから、あとは書くだけなので一ヶ月は待たせないと思います。……もしかすると大きめのミスが発見されてもっと遅れる可能性もありますが。
もう少し、もう少しだけお待ち下さい……!
何回も見直しましたが、オルターガイストのデュエル構成は非OCG民の作者にはとても難しいです。プロット4回直しましたし。
何度も繰り返し申し訳ありませんが、もしミスが御座いましたら連絡お願いします。
ヴァンガード
LP 4000
ゴーストガール
LP 4000
風の中を翔ける二人の女性デュエリスト。
「先行は私が貰うわ!」
そう宣言するゴーストガール。オルターガイストは罠を多用するデッキであることはヴァンガードも知っているはず。先行を取られ、罠を貼られるのはかなりの痛手になる。
「どうぞ、ご自由に」
それは油断か慢心か、はたまた自信の表れか。ヴァンガードの口から何も文句は出なかった。
「……そう、なら遠慮なく。私のターン! オルターガイスト・マリオネッターを召喚!」
《オルターガイスト・マリオネッター》
星4/攻1600
「そしてこのカードが召喚に成功した時、効果発動! デッキから『オルターガイスト』罠カード1枚を選びセットする! 私はデッキからオルターガイスト・プロトコルをセットするわ。更にカードを2枚セットしてターンエンド」
デッキ調整、それがこちらを煽るだけの冗談だとは到底思えない。理想的な流れ、万全の体制でヴァンガードを迎え撃つ。
「私のターン、ドロー! 闇の誘惑を発動。デッキから2枚ドローし、その後手札から闇属性モンスター1体を除外する。私はクラッキング・ドラゴンを除外!」
いきなりの手札交換、そしてエースを除外するという動きに流石のゴーストガールも身構える。
「装備魔法、D・D・R! 手札を1枚捨てて、クラッキングドラゴンを対象に発動! ゲームから除外されているモンスターを表側攻撃表示で特殊召喚し、このカードを装備する! 戻っておいで、クラッキング・ドラゴン!」
《クラッキング・ドラゴン》
星8/攻3000
今までのヴァンガードのデッキなら、おそらくここで展開が終わっていただろう。だが、新しく加わったカードが更なる展開を可能にした。
「D・D・Rのコストになった墓地のオルフェゴール・ディヴェルを除外して効果発動! デッキから『オルフェゴール』モンスターを特殊召喚する! 私はデッキからオルフェゴール・トロイメアを特殊召喚!」
《オルフェゴール・トロイメア》
星7/攻100
「オルフェゴール……? 聞いたことがないモンスターね……」
――オルフェゴール。墓地から除外する事で効果を発揮するメインデッキのモンスターと、除外した機械族をデッキに戻す事で効果を発動するリンクモンスターがいるカテゴリー。
モンスターは全て機械族・闇属性ということもあり、ハノイの騎士で使用していたスピードデュエル用デッキと相性が良かった。
フィールドに穴が開き、そこからひび割れた仮面から恐ろしい形相をのぞかせる機械人形が姿を現した。くすくす、うふふ、と地の底から響くような不気味な笑い声。
常に笑みを浮かべているオルターガイスト・マリオネッターも流石にギョッとしたようで、ゴーストガールの近くへ寄る。
「この効果の発動後、ターン終了時まで私は闇属性モンスターしか特殊召喚できない。……けど、この縛りは今あんまり意味ないんだよね。手札からオルフェゴール・スケルツォンを通常召喚」
《オルフェゴール・スケルツォン》
星3/攻1200
「んじゃ、いきますか。――先駆けとなれ、我が未来回路!」
「なっ、リンク召喚ですって!?」
驚きの声を上げるゴーストガール。それもそうだろう、今の今までヴァンガードはデュエル中一度もリンク召喚を見せていない。てっきりリンク召喚はしないものと心のどこかで思い込んでいたのだ。
「召喚条件は、『オルフェゴール』モンスターを含む効果モンスター2体! 私はオルフェゴール・スケルツォンとオルフェゴール・トロイメアをリンクマーカーにセット! リンク召喚! 来たれ! リンク2、オルフェゴール・ガラテア!」
《オルフェゴール・ガラテア》
リンク・効果モンスター
リンク2/闇属性/機械族/攻1800
【リンクマーカー:右上/左下】
「オルフェゴール」モンスターを含む効果モンスター2体
このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):リンク状態のこのカードは戦闘では破壊されない。
(2):除外されている自分の機械族モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターをデッキに戻す。
その後、デッキから「オルフェゴール」魔法・罠カード1枚を自分フィールドにセットできる。
星遺物の巫女を模した人形はくすり、と笑い鎌を振るう。そのリンク先にはクラッキング・ドラゴン。デュエルでは初めましての挨拶がわりにちょい、と鼻先を近付け、ガラテアもそれに応える。
「ガラテアの効果! 除外されているディヴェルを対象に効果発動! そのモンスターをデッキに戻し、デッキから『オルフェゴール』罠・魔法カードを自分フィールドにセットする!」
「それ以上は止めさせてもらうわ、罠発動! オルターガイスト・プロトコル! フィールドのマリオネッターを墓地に送り、ガラテアの効果を無効にし破壊する!」
消滅間際にバイバイ、と手を振るマリオネッター。それに呼応するようにガラテアもフィールドから消える。
「そして罠を発動したことで、手札からオルターガイスト・マルチフェイカーを特殊召喚!」
《オルターガイスト・マルチフェイカー》
星3/守800
オルターガイストの展開において必要不可欠なモンスター。それの召喚を防ぐすべを今のヴァンガードは持っていない。だが。
「モンスター1体のみを召喚・特殊召喚した時、クラッキング・ドラゴンの効果発動! そのモンスターの攻撃力はターン終了時までそのレベル×200ダウンし、ダウンした数値分だけ相手にダメージを与える! マルチフェイカーのレベルは3、よって600のダメージを受けてもらうよ! クラックフォール!」
『グルルォアアーーッ!』
オルターガイスト・マルチフェイカー
攻1200→600
ゴーストガール
LP 4000→3400
「きゃっ!」
こうしてじわじわとライフを減らすことはできる。
「っこのぐらい、どうって事ないわ! 特殊召喚に成功したマルチフェイカーの更なる効果! デッキからオルターガイスト・シルキタスを守備表示で特殊召喚する!」
《オルターガイスト・シルキタス》
星2/守1500
「その召喚に対して再びクラッキング・ドラゴンの効果が発動! シルキタスのレベルは2だから400のダメージだ!」
オルターガイスト・シルキタス
攻800→400
ゴーストガール
LP 3400→3000
2ターン目で既にゴーストガールの初期ライフの4分の1が失われた。しかし、現在優勢なのはゴーストガールであるとヴァンガードはわかっている。
「シルキタスの効果! このカード以外の『オルターガイスト』カード1枚を手札に戻す事で、相手フィールドのカード1枚を手札に戻す! 私はオルターガイスト・プロトコルを手札に戻すわ。さ、厄介なクラッキング・ドラゴンにはご退場願おうかしら!」
『ぎゃうー!?』
ガラテアの敵討ちに意気込んでいたクラッキング・ドラゴンは手札へ、装備されていたD・D・Rは対象を失った事で墓地へ。
「(インチキフェイカーを戻さない、ってことはあのセットカードは……。あー、インチキスプーフィングかなー。やだなー)」
うへー、と残り3枚の手札とにらめっこ。こちらもまだ展開は可能だが……。
「カードを1枚セットしてターンエンド」
ダイレクトアタックを防げるスキルも残っているため、無理してフィールドにモンスターを出す必要はない、と結論付け静かにターンを終わる。
「私のターン、ドロー! 永続罠、パーソナル・スプーフィングを発動!」
「ぐぇ、やっぱり……」
前のターンでセットしたカードはこれを止めることはできない。
「フィールドのオルターガイスト・マルチフェイカーをデッキに戻して、デッキからオルターガイスト・マルチフェイカーを手札に加えるわ。そして罠を発動した事で手札に加わったマルチフェイカーの効果が発動! このカードを手札から特殊召喚する!」
マルチフェイカーがいなくなったかと思えばまたマルチフェイカーが現れる。
「インチキ効果もいい加減にしろー!」
「褒め言葉として受け取っておくわ。特殊召喚に成功したマルチフェイカーの効果、デッキからオルターガイスト・メリュシークを守備表示で特殊召喚する」
《オルターガイスト・メリュシーク》
星1/守300
「――さあ、私の前に開きなさい! 未知なる異世界に繋がるサーキット!」
ゴーストガールは両手を大きく広げ、五本の光の糸がそれに伴う。電脳に住まう魔法使い達がサーキットに示されたリンクマーカーへ勢いよく飛び込む。そのリンクマーカーは――2つ。
「召喚条件は『オルターガイスト』モンスター2体! 私はオルターガイスト・マルチフェイカーとオルターガイスト・メリュシークをリンクマーカーにセット! リンク召喚! 現れよ! リンク2、オルターガイスト・ヘクスティア!」
《オルターガイスト・ヘクスティア》
リンク・効果モンスター
リンク2/炎属性/魔法使い族/攻1500
【リンクマーカー:右/下】
「オルターガイスト」モンスター2体
このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードの攻撃力は、
このカードのリンク先の「オルターガイスト」モンスターの元々の攻撃力分アップする。
(2):魔法・罠カードの効果が発動した時、
このカードのリンク先の「オルターガイスト」モンスター1体をリリースして発動できる。
その発動を無効にし破壊する。
(3):このカードがフィールドから墓地へ送られた場合に発動できる。
デッキから「オルターガイスト」カード1枚を手札に加える。
「そしてオルターガイスト・メリュシークが墓地に送られたことで効果発動。デッキから『オルターガイスト』モンスターを手札に加える。私はオルターガイスト・クンティエリを手札に加えるわ」
クンティエリは攻撃を防ぎ、特殊召喚時に相手フィールドのカードの効果を無効にするモンスター。
「オルターガイスト・マリオネッターを通常召喚。効果でフィールドに、そうね……オルターガイスト・プロトコルをセットするわ。更にヘクスティアの効果! リンク先のオルターガイストの元々の攻撃力分自身の攻撃力がアップする!」
オルターガイスト・ヘクスティア
攻1500→3100
ゴーストガールのフィールドにはヘクスティア、マリオネッター、シルキタスの3体のモンスター。シルキタスは守備表示のままだが、他の2体の攻撃でライフ4000を削り取ることはできる。
……何も妨害がなければ、だが。
「バトル! オルターガイスト・マリオネッターでヴァンガードにダイレクトアタック!」
「スキル発動、鉄心の決意! その直接攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了させる!」
「まあ当然、そうくるわよね」
ヴァンガードはこの攻撃で終わるようなデュエリストではない。
「その後、墓地から機械族モンスターを可能な限り特殊召喚できる! 私はオルフェゴール・トロイメアを特殊召喚! ただし、このスキルで特殊召喚されたモンスターの攻撃力、守備力は0となり、効果は無効になる」
墓地には他にもモンスターがいるにも関わらず、1体のみの特殊召喚。リンク4へと繋げられたのにそうしなかった。
「(何かあるわね……)」
ゴーストガールの手札にはクンティエリ、フィールドには魔法・罠の妨害ができるヘクスティアにバウンスのシルキタス。セットされているプロトコル。
損失はいくらでもカバーできる。恐れるものなど何もないはずだ。……だがデュエリストの勘が、次のターン何かしてくる、と警鐘を鳴らしている。
「ターンエンドよ。さあ、何を仕掛けてくるつもりかしら?」
「その時にできることをするだけだよ。私のターン、ドロー!」
ドローしたカードは――。
「あら、今来ちゃったか……」
――ボチヤミサンタイ。
現在、墓地には闇属性モンスターが2体。墓地から除外して効果を使いたいモンスターを一部残した為だ。
……気のせいだろうか、ボロボロのオルフェゴール・トロイメアが「それ出せる? 大丈夫?」と目で訴えかけている。
「墓地のオルフェゴール・スケルツォンを除外して、墓地のオルフェゴール・ガラテアを対象に効果発動。そのモンスターを特殊召喚する!」
再びフィールドに現れるガラテア。自身が変化した姿であるオルフェゴール・トロイメアとフィールドに並び立つ。
これで墓地からモンスターがいなくなった。後は上手く墓地へ落としていくだけだ。
「ガラテアの効果! 除外されているディヴェルをデッキに戻して、デッキからオルフェゴール・プライムをセット!」
先程と違い、オルターガイスト・プロトコルは飛んでこない。ダムドを握っている……とまではバレていないが、何か来る、と察しているのだろうか。
「手札からワン・フォー・ワンを発動! クラッキング・ドラゴンを墓地に送り、デッキからレベル1モンスター、オルフェゴール・カノーネを特殊召喚!」
《オルフェゴール・カノーネ》
星1/攻500
ヘクスティアによる妨害もなし。ならば、このまま問題無く召喚できる。
「先駆けとなれ、我が未来回路! 召喚条件は『オルフェゴール』モンスターを含む効果モンスター2体以上! 私はリンク2のオルフェゴール・ガラテアと、オルフェゴール・トロイメアをリンクマーカーにセット! リンク召喚! 来たれ! リンク3、オルフェゴール・ロンギルス!」
《オルフェゴール・ロンギルス》
リンク・効果モンスター
リンク3/闇属性/機械族/攻2500
【リンクマーカー:左上/上/右下】
「オルフェゴール」モンスターを含む効果モンスター2体以上
このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):リンク状態のこのカードは効果では破壊されない。
(2):除外されている自分の機械族モンスター2体を対象として発動できる。
そのモンスターをデッキに戻す。
その後、リンク状態の相手モンスター1体を選んで墓地へ送る事ができる。
この効果を発動するターン、このカードは攻撃できない。
サーキットから現れたのは星遺物で武装した戦士。愛する妹を模したガラテアとトロイメアを素材にしてリンク召喚したせいか、その視線は鋭い。
クラッキング・ドラゴン。
オルフェゴール・ガラテア。
オルフェゴール・トロイメア。
――これで、『墓地に闇属性モンスターが3体』。
「ボチヤミサンタイ、ってわけで手札からダーク・アームド・ドラゴンを特殊召喚!」
《ダーク・アームド・ドラゴン》
星7/攻2800
ヴァンガードのフィールドに召喚されたのは、凶悪の代名詞たる効果を持つドラゴン。
「――っ! 成る程、ね……!」
闇属性で固められたヴァンガードのデッキでは、ダーク・アームド・ドラゴンを出すことはそう難しくないだろう。嫌な予感の正体はこのモンスターだったのだ、とゴーストガールは理解する。
「ここで、ガラテアの効果でセットしたオルフェゴール・プライムを発動! 手札及び自分フィールドの表側表示モンスターの中から、『オルフェゴール』モンスター、または『星遺物』モンスターを墓地へ送って発動できる! 私はフィールドのカノーネを墓地に送って2枚ドローする!」
墓地に闇属性モンスターを増やす。ダーク・アームド・ドラゴンの効果に使用回数の制限はない。墓地に闇属性モンスターが増えれば増えた分、フィールドを荒らし回れる。
「さらに手札から星遺物の
捲られたカード
《オルフェゴール・ディヴェル》
《オルフェゴール・リリース》
《ジャック・ワイバーン》
《星遺物-『星槍』》
《ボルト・ヘッジホッグ》
「私は星遺物-『星槍』を手札に加え、残りは全て墓地に送る。そしてこのカードの発動後、ターン終了時まで私はリンクモンスターしかエクストラデッキから特殊召喚できない」
ゴーストガールのフィールドにセットされているカードは3枚。その内2枚は正体が明らかになっている。
「(発動済みのスプーフィング、見えてるプロトコル。となると、残る1枚のセットカードはマテリアリゼーションかな……?)」
マリオネッターをコストにプロトコルを使った後、マテリアリゼーションを発動。その効果で墓地のマルチフェイカーを蘇生、効果でデッキからオルターガイストモンスター――恐らくメリュシーク――をヘクスティアのリンク先へ特殊召喚。
ゴーストガールが考えているのは恐らくこの流れだ。
「(ゴーストガールのスキル、シークレットキュアでギリギリ耐えられるかもだけど……この手札ならいい所まで行ける!)」
ヴァンガードの頭の中では勝利への道筋が見えている。
「墓地のオルフェゴール・ガラテアを除外して、ダーク・アームド・ドラゴン、効果発動! フィールドのカード1枚を対象にして破壊する!」
「絶対にその効果は通さない! オルターガイスト・プロトコルを発動! フィールドのオルターガイスト・マリオネッターを墓地へ送り、その発動を無効にし、破壊する!」
ヘクスティアのリンク先にいたマリオネッターが消えたことで、ヘクスティアの攻撃力は元の1500に戻る。
「まだよ! オルターガイスト・マテリアリゼーション発動! 墓地のオルターガイスト・マルチフェイカーを攻撃表示で特殊召喚し、このカードを装備カード扱いで装備する! そしてマルチフェイカーの特殊召喚に成功したことで、デッキからオルターガイスト・メリュシークを守備表示で特殊召喚!」
予想通り、ヘクスティアのリンク先に特殊召喚されたメリュシーク。よってヘクスティアの攻撃力は、メリュシークの元々の攻撃力分である500上昇し2000になる。
「貴方の墓地には大量の闇属性モンスターがいる。よって特殊召喚するために『墓地に闇属性モンスター3体のみ』という条件があるダーク・アームド・ドラゴンをこのターンに再び蘇らせるのは不可能! 強力な効果を持つモンスターといえど、こんなものよ」
ダムドは囮。プロトコルを使わせるための。
それを知ってか知らずか、ゴーストガールは自らが使うオルターガイストの自慢とも聞こえる言葉を紡ぐ。
「本命はそっちじゃない! 墓地のオルフェゴール・トロイメアを除外し、フィールドのロンギルスを対象にして効果発動! デッキから『オルフェゴール・トロイメア』以外の機械族・闇属性モンスター1体を墓地へ送る。対象モンスターの攻撃力はターン終了時まで、墓地へ送ったモンスターのレベル×100アップする! 私はデッキから星遺物ー『星杖』を墓地に送る!」
星遺物ー『星杖』のレベルは8。よってロンギルスの攻撃力は――。
オルフェゴール・ロンギルス
攻2500→3300
「まだまだ! 墓地に送られた星遺物ー『星杖』の効果! このカードが墓地に送られた時、手札から『星遺物』モンスター1体を特殊召喚できる! 頼むよ、星遺物ー『星槍』!」
モンスターではなく装備魔法だと言われた方が納得してしまいそうな、槍そのものの見た目をしたモンスターが召喚される。
《星遺物-『星槍』》
星8/攻3000
ゴーストガールのメインモンスターゾーン3つは全て埋められている。クンティエリを召喚するスペースは無い。攻撃表示のヘクスティアとマルチフェイカーを、攻撃力の上がったロンギルスと星槍で攻撃すれば私の勝ち。
……だけど、デュエルはそう上手くいかないのが殆どだ。
「シルキタスの効果! 私はフィールドのオルターガイスト・マテリアリゼーションを手札に戻して、貴方のフィールドのオルフェゴール・ロンギルスを手札に戻す!」
マテリアリゼーションがフィールドを離れたことで、オルターガイスト・マルチフェイカーは破壊される。
これにより、メインモンスターゾーンが1つ空いた。これでゴーストガールは手札のクンティエリを特殊召喚できるようになった。
「戻されるぐらいなら! 速攻魔法、エネミーコントローラー! 私は自分フィールドのモンスター1体をリリースし、 相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動、その表側表示モンスターのコントロールをエンドフェイズまで得る効果を選択! ロンギルスをリリースし、ヘクスティアを対象にする!」
ロンギルスが消えたかと思えば、巨大なコントローラーが出現する。
シルキタスでバウンスされてエクストラデッキへ戻るよりも、このデッキでは色々と利用できる墓地にいる方が良い。
「くっ……! ヘクスティアの効果! 魔法・罠カードの効果が発動した時、このカードのリンク先の『オルターガイスト』モンスター1体をリリースしてその発動を無効にし破壊する!」
ゴーストガールは今ヘクスティアを失うわけにはいけない。当然無効化してくる。
ヘクスティアのリンク先にいたオルターガイスト・メリュシークはリリースされ、エネミーコントローラーはその効果を発揮できず破壊された。
「フィールドから墓地へ送られたメリュシークの効果で、デッキからオルターガイスト・マルチフェイカーを手札に加えるわ」
発動されているパーソナル・スプーフィングとオルターガイスト・プロトコル。
ゴーストガールの魔法・罠ゾーンにセットされた罠は存在しない。マルチフェイカーが自身の効果で特殊召喚されるのはまだ先だ。
「まだよ、パーソナル・スプーフィングの効果! 手札のオルターガイスト・プロトコルをデッキに戻して、デッキからオルターガイスト・クンティエリを手札に加えるわ」
これでゴーストガールの手札には2枚のクンティエリ。空いているメインモンスターゾーンも2つ。このままなら攻撃を無傷で耐えられる。
だがこのターン、バトルフェイズに入るまでヘクスティアのリンク先へモンスターを供給する術は無くなった。
「うん、これである程度自由に動けるかな。墓地の星遺物-『星杖』を除外して、除外されている『オルフェゴール』モンスター、オルフェゴール・ガラテアを対象に効果発動! そのモンスターを特殊召喚する!」
墓地から蘇生、ゲームから除外されても帰還させられ少し疲れた様子のガラテア。
「墓地のオルフェゴール・ディヴェルを除外し、デッキからオルフェゴール・カノーネを特殊召喚! 先駆けとなれ、我が未来回路!」
「またリンク召喚……!」
これはもうデッキ調整ではない。完全にヴァンガードはリンクモンスター達を使いこなしている。
「召喚条件はトークン以外のレベル1モンスター1体! 私はオルフェゴール・カノーネをリンクマーカーにセット! リンク召喚! 来たれ! リンク1、サクリファイス・アニマ!」
サクリファイス・アニマはデザイン元となったサクリファイスと同じような効果――リンク先の相手モンスターを装備してその分攻撃力を上昇させる効果がある。でも、今欲しいのはその効果じゃない。
「エクストラデッキからモンスターが特殊召喚されたことで、星遺物-『星槍』の効果! 1ターンに1度、互いのフィールドに星遺物トークンを1体ずつ守備表示で特殊召喚する!」
「何ですって!?」
《星遺物トークン》
星1/守0
互いのフィールド。確かにヴァンガードはそう言った。その言葉通り、ゴーストガールのフィールドに特殊召喚されるトークン。
その場所は――オルターガイスト・ヘクスティアのリンク先、ゴーストガールの一番右端のメインモンスターゾーン。
「これじゃあ……!」
クンティエリを呼ぶスペースが一つ減った、ただそれだけではない。
ヘクスティアの効果で魔法・罠の発動を防ぐには、リンクマーカー先の『オルターガイスト』モンスターをリリースしなければならない。そして当然、このトークンは『オルターガイスト』モンスターではない。
「それに『オルターガイスト』リンクモンスターの素材にできるのは『オルターガイスト』モンスターだけ。貴女にはすっごく邪魔だけど、私にはとっても便利なトークン! 先駆けとなれ、我が未来回路! 召喚条件は闇属性モンスター2体! 私はサクリファイス・アニマと星遺物トークンをリンクマーカーにセット! リンク召喚! 来たれ! リンク2、見習い魔嬢!」
箒を大事そうに抱える幼い魔女。このモンスターはフィールド全体の闇属性モンスターの攻撃力を上昇させる効果を持つが、それを狙って出したわけではない。
「これでラスト! 先駆けとなれ、我が未来回路! アローヘッド確認! 召喚条件は、『オルフェゴール』モンスターを含む効果モンスター2体以上! 私はリンク2のオルフェゴール・ガラテア、リンク2の見習い魔嬢の2体をリンクマーカーにセット! リンク召喚!」
宙に浮くサーキットから示されるアローヘッドの数は4つ。
「――奏でるは魔曲、勝機を我が元へ! 来たれ! リンク4! オルフェゴール・オーケストリオン!」
《オルフェゴール・オーケストリオン》
リンク・効果モンスター
リンク4/闇属性/機械族/攻3000
【リンクマーカー:上/右上/左下/下】
「オルフェゴール」モンスターを含む効果モンスター2体以上
このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):リンク状態のこのカードは戦闘・効果では破壊されない。
(2):除外されている自分の機械族モンスター3体を対象として発動できる。
そのモンスターをデッキに戻す。
相手フィールドにリンク状態の表側表示モンスターが存在する場合、
それらのモンスターは、攻撃力・守備力が0になり、効果は無効化される。
まず現れたのは人に似せた機械仕掛けの指揮者。それがタクトを振るうと、聞き慣れない音楽を引き連れ、異次元よりパイプオルガンがせり上がる。
「オルフェゴール・オーケストリオンの効果! 除外されている機械族モンスター3体を対象として発動! そのモンスターをデッキに戻し、相手フィールドにリンク状態の表側表示モンスターが存在する場合、それらのモンスターは攻撃力・守備力は0になり、効果は無効化される!」
「オルターガイスト・プロトコルが存在する限り、『オルターガイスト』の効果の発動及び発動した効果は無効化されない!」
「でも攻撃力と守備力は0になる! 奏でろ、オーケストリオン!」
除外されている星遺物-『星杖』、オルフェゴール・トロイメア、オルフェゴール・ディヴェルがデッキへ帰還すると共にエネルギーが充填される。
現在ゴーストガールのフィールドでリンク状態にあるのはオルターガイスト・ヘクスティアと星遺物トークン。星遺物トークンは元々攻撃力と守備力は0だが、ヘクスティアはそうではない。
『――――ッ!!!!』
オルターガイスト・ヘクスティア
攻1500→0
指揮者がタクトを振りおろすと同時に響き渡る想像を絶する音圧。ゴーストガールは反射的に耳を塞ぐ。振動により崖は一部崩れ落ち、ヘクスティアは目を回している。
ゴーストガールの残りライフは3000。それに対して、ヴァンガードのフィールドにいるモンスター2体はどちらも攻撃力3000。そしてクンティエリで攻撃を防げるのは1回のみ。
「スキル発動、シークレットキュア! モンスターが出るまで自分のデッキをめくり、出たモンスターを手札に加える。それ以外のめくったカードは全て墓地へ送る。その後、手札に加えたモンスターの攻撃力分だけお互いのライフポイントを回復する!」
かつてのリボルバーとのデュエル、ドローしたのは攻撃力0のクンティエリ。決してあの時と同じようにはしない、と決意し、カードを引き抜く。
「1枚目――オルターガイスト・シルキタス! よってシルキタスの攻撃力分、互いのライフポイントを回復!」
ゴーストガール
LP 3000→3800
ヴァンガード
LP 4000→4800
「800、ね……。バトル! 星遺物-『星槍』でヘクスティアを攻撃!」
向きを変えた星槍がヘクスティア目掛け真一文字に飛ぶ。
「手札のクンティエリの効果! 攻撃宣言時にこのカードを特殊召喚し、その攻撃を無効にする! 更に特殊召喚に成功したことで、オーケストリオンを対象に効果を発動するわ。クンティエリがいる限り、そのカードの効果を無効にする!」
《オルターガイスト・クンティエリ》
星5/守2400
星槍がヘクスティアに突き刺さる寸前、手札からフィールドに出現したクンティエリの能力で星槍はその動きを止める。
「オルフェゴール・オーケストリオンでオルターガイスト・ヘクスティアを攻撃! ダス・エンデ!」
ヘクスティアの攻撃力は0。フラフラの体でなんとか立ち向かおうとする。しかし、オーケストリオンのパイプの先端から照射される無数の光帯が、無慈悲にヘクスティアの肉体を消滅させた。
ゴーストガール
LP 3800→800
爆風により、ゴーストガールが吹き飛ばされる。デュエルボードから落ちることはなかったが、残るライフは風前の灯火。
「きゃあああああっ――!? ……っ、フィールドから墓地に送られたヘクスティアの効果! デッキから『オルターガイスト』カード、オルターガイスト・メリュシークを手札に加える!」
目には消えぬ闘志の光が見える。ゴーストガールはまだ、この勝負を諦めていない。
「私はこれでターンエンド。…………相手のライフ1400以下、射程圏内、だね」
――ゴーストガールは知らない。彼女のエクストラデッキの爆撃機が静かに出番を、命令を待っていることを。
前書きが重めだったので後書きは気楽に行こう!
この小説読んでる読者さんの中で、オルターガイスト使ってる人ってどのぐらいいるんですかね?
アニメの新規チューナーとシンクロはOCG化したら採用します?
ドラッグウィリオンはリリースされされたら自己再生、オルターガイストバウンスで攻撃無効と普通に強いなーとおもいました、まる。後で調べて攻撃無効にターン1付いてないの!?とびっくらこきました。
とりあえず作者として一言。
オルターガイストとデュエルしたくねえ!
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オルター・リハーサル
ゴーストガール戦、決着です。
ヴァンガード
LP 4800 手札0
モンスター
オルフェゴール・オーケストリオン Link4 ATK3000
星遺物-『星槍』 ☆8 ATK3000
魔法・罠
伏せカード1枚
ゴーストガール
LP 800 手札5→6
モンスター
オルターガイスト・シルキタス ☆2 DEF1500
オルターガイスト・クンティエリ ☆5 DEF2400
星遺物トークン ☆1 DEF0
魔法・罠
パーソナル・スプーフィング
オルターガイスト・プロトコル
「私のターン、ドロー!」
戦況はどちらが有利か、と問われれば間違いなくヴァンガードだろう。高攻撃力モンスター2体、未だに減らせていないライフ。
オルターガイストモンスターは元々の攻撃力が低く、3000の壁を越えるのは至難の技だ。その代わりに相手の妨害に長けている。一撃を通せばこの盤面をひっくり返すことは可能だ。
「(ドローしたカードは……! よし、これなら!)」
気がかりなのは最初のターンにセットされてから触れる様子がない1枚のカード。プロトコルやマテリアリゼーションに対してチェーンしてこない事から、こちらの魔法・罠を阻害するようなものではないと予想できる。あのカードが攻撃反応系でなければ、メリュシークの効果で流れはこちらに一気に傾く。
「シルキタスの効果! オルターガイスト・クンティエリを手札に戻して、オルフェゴール・オーケストリオンを対象に発動! そのカードを持ち主の手札に戻す! せっかくの切り札ですけど、エクストラデッキに戻ってもらうわ!」
「……こうもあっさり退かしてくるか」
オーケストリオンは戦闘、効果による破壊に対しては耐性を持っているが、バウンスには抵抗できない。フィールドから姿が消え、エクストラデッキへ戻ってしまった。
「速攻魔法、ディメンションマジック! 自分フィールドに魔法使い族モンスターが存在する場合、自分フィールドのモンスター1体を対象として発動できる! そのモンスターをリリースし、手札から魔法使い族モンスター1体を特殊召喚する。その後、フィールドのモンスター1体を選んで破壊できる! 私は星遺物トークンをリリースして、手札からクンティエリを特殊召喚! そして星遺物-『星槍』を破壊!」
厄介だったはずのトークンが一転。展開の足掛かりとして利用されてしまった。
こちらに壁となるモンスターはいない。ゴーストガールのフィールドにはオルターガイストモンスターが2体。それに通常召喚をまだしていない。この状況で、4000ものライフ差をひっくり返せる効果を持つモンスターは――。
「私の前に開きなさい、未知なる異世界に繋がるサーキット! 召喚条件は『オルターガイスト』モンスター2体! 私はシルキタスとクンティエリをリンクマーカーにセット! リンク召喚! 現れよ! リンク2、オルターガイスト・キードゥルガー!」
《オルターガイスト・キードゥルガー》
リンク・効果モンスター
リンク2/闇属性/魔法使い族/攻1000
【リンクマーカー:左/下】
「オルターガイスト」モンスター2体
(1):このカード以外の自分の「オルターガイスト」モンスターが相手に戦闘ダメージを与えた時、
相手の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターをこのカードのリンク先となる自分フィールドに特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターは、このカードが攻撃宣言したターンしか攻撃できない。
(2):このカードが戦闘で破壊された場合、
自分の墓地の「オルターガイスト」カード1枚を対象として発動できる。
そのカードを手札に加える。
ゴーストガールのリンク召喚により、四対の腕を持つ女神が降り立つ。
「オルターガイスト・メリュシークを通常召喚。更にカードを1枚セット。バトル! オルターガイスト・メリュシークでヴァンガードにダイレクトアタック!」
メリュシークが尾ひれを叩きつける。
「っ!」
ヴァンガード
LP 4800→4300
「この瞬間、メリュシークとキードゥルガーの効果が発動! メリュシークが戦闘ダメージを与えた時、相手フィールドのカード1枚を対象にして墓地へ送る! そのセットカードを墓地へ送らせてもらうわ!」
メリュシークがセットカードを墓地へと沈め、ゴーストガールのフィールドへ戻って行く。
「そしてキードゥルガーの効果! このカード以外の自分フィールドの『オルターガイスト』モンスターが相手に戦闘ダメージを与えた時、相手の墓地のモンスター1体を対象として発動! そのモンスターをキードゥルガーのリンク先となる自分フィールドに特殊召喚する! さあ、私のしもべになりなさい! 『クラッキング・ドラゴン』!」
『ご、ご主人〜〜っ!』
半泣きの状態で墓地から引っ張り出されるクラッキング・ドラゴン。攻撃していない2体の攻撃力の合計は4000。ヴァンガードの残りライフは4300。攻撃を防ぐ手段がなければ残りライフは一気に300まで減る。
レベルを持つモンスターを召喚すればクラッキング・ドラゴンの効果で削り取られて敗北。モンスターを守備表示でセットしたとしても、メリュシークのダイレクトアタックで敗北。勝利を目前にしたゴーストガールは不敵に笑う。
「さあ、この攻撃でお終いよ! キードゥルガーで――」
「――それはどうかな? 私のフィールドをよく見てごらん!」
先程までモンスターがいなかったはずのフィールドに、青い機械装甲に身を包んだ少女がいた。
《閃刀姫-シズク》
Link1/攻1500
【リンクマーカー:右上】
「っ!? いったいいつの間に……!」
「メリュシークによって墓地に送られたセットカード……やぶ蛇の効果を私は発動していた」
《やぶ蛇》
通常罠
(1):セットされているこのカードが相手の効果でフィールドから離れ、
墓地へ送られた場合または除外された場合に発動できる。
デッキ・EXデッキからモンスター1体を特殊召喚する。
「その効果で私は、エクストラデッキから閃刀姫-シズクを特殊召喚した。それだけだよ」
何でもないことのように説明するヴァンガードだが、これはかなりの博打だ。シルキタスの効果によってやぶ蛇がバウンスされていれば、壁となるモンスターは現れず、ライフが大きく削られてしまう。
「最初からずっと、私がこうする事を予見していたというの……!?」
その呟きに応えるようにウインクを返す。
「流石に予見とまではいかないよ。シルキタスの効果はエクストラデッキから召喚したモンスターに使うだろうと予想していただけ。結構ヒヤヒヤしてたんだよ? ……ああそうそう、シズクの効果で貴方のフィールドのモンスターの攻撃力・守備力は、私の墓地の魔法カードの数×100ダウンする。それでも攻撃する?」
ヴァンガードの墓地の魔法カードは、《D・D・R》《ワン・フォー・ワン》《オルフェゴール・プライム》《星遺物の醒存》《エネミーコントローラー》の合計5枚。墓地の魔法の枚数分、シズクは妨害電波の出力を上げる。
オルターガイスト・メリュシーク
攻500→0
オルターガイスト・キードゥルガー
攻1000→500
クラッキング・ドラゴン
攻3000→2500
キードゥルガーの効果で特殊召喚したモンスターは、キードゥルガーが攻撃宣言したターンしか攻撃できないという縛りがある。
キードゥルガーと閃刀姫-シズクの攻撃力の差は1000。対してゴーストガールのライフは800。攻撃と同時に敗北が確定する。
「……バトルはしない。ターンエンドよ」
「エンドフェイズに特殊召喚したシズクの効果を発動! デッキから同名カードが自分の墓地に存在しない『閃刀』魔法カード1枚を手札に加える。私はデッキから閃刀起動-エンゲージを手札に加える!」
ゴーストガールのフィールドにモンスターは3体。その壁を崩そうとモンスターを大量に召喚すれば、自身のエースモンスターの効果によりヴァンガードのライフは削れていく。クラッキング・ドラゴンを奪えた事によりゴーストガールがぐっと有利になった、その筈だ。
「(ハノイの騎士時代に愛用していた高レベルモンスター。それに加えてオルフェゴールに閃刀姫!? 本当、どうなってるのよあのデッキは……!)」
ゴーストガールの目には、ヴァンガードのデッキが何が出てきてもおかしくないブラックボックスにしか見えなくなってきている。
「私のターン、ドロー! 自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、閃刀起動-エンゲージは発動できる! その効果で私は、デッキから『閃刀起動-エンゲージ』以外の『閃刀』カード1枚を手札に加える。 そして、私の墓地に魔法カードが3枚以上存在する場合、 私はデッキから1枚ドローできる。私はデッキから閃刀機-ウィドウアンカーを手札に加え、さらに1枚ドローする!」
効果により追加で1枚ドローしたカードをそのまま発動する。
「終わりの始まりを発動! この魔法カードは、私の墓地に闇属性モンスターが7体以上存在する場合に発動する事ができる。墓地に存在する闇属性モンスター5体をゲームから除外する事で、 デッキからカードを3枚ドロー!」
ヴァンガードの墓地の闇属性モンスターは《オルフェゴール・カノーネ》《ジャック・ワイバーン》《ダーク・アームド・ドラゴン》《星遺物-『星槍』》《サクリファイス・アニマ》《見習い魔嬢》《オルフェゴール・ロンギルス》の合計7体。
ジャック・ワイバーンとオルフェゴール・ロンギルスを墓地に残し、それ以外の5体のモンスターを除外する。
連続して発動した魔法により、ヴァンガードの手札は一気に5枚まで増える。
「……よし。速攻魔法、閃刀機-ウィドウアンカー発動! このカードはエンゲージと同じ発動条件を持つカード。 フィールドの効果モンスター1体を対象として発動、そのモンスターの効果をターン終了時まで無効にする効果がある。私はこの効果をクラッキング・ドラゴンを対象に発動する!」
――ヴァンガードは途中で説明を切ったが、ウィドウアンカーの効果はこう続く。『その後、自分の墓地に魔法カードが3枚以上存在する場合、 そのモンスターのコントロールをエンドフェイズまで得る事ができる。』
主人に敵対するという生き恥を晒してしまったのを挽回するチャンス。これにはクラッキング・ドラゴンもにっこり。
蜘蛛型のアンカーに鷲掴みにされ、引っ張られてヴァンガードのフィールドに戻ろうと。戻ろう、と……?
『…………………………あれ、ご主人???』
「…………すまない。本当にすまない……」
クラッキング・ドラゴンから向けられる純粋な視線から逃げるよう目線をそらし、気まずそうに呟く。
――この手札、君が出る幕ないわ。
『………………えっ』
その言葉の意味を理解した瞬間、涙が両目一杯に溢れる。目を潤ませて必死の懇願。
『嘘だと言ってご主人! 実は更なる効果を発動していたのさ! って言ってー!』
「……私はシズクをリリースして手札から魔法カード、モンスターゲート発動!」
『ごしゅじーーーーん!!』
「(……何を見させられているのかしら、コレ)」
唐突に始まった茶番にゴーストガールは呆れている。びぃびぃ泣き出したハノイの騎士の象徴たるモンスターをなだめようと、オロオロしつつもキードゥルガーは複数ある腕をフル活用して撫で始めた。
「通常召喚可能なモンスターが出るまで自分のデッキの上からカードをめくり、 そのモンスターを特殊召喚する。 残りのめくったカードは全て墓地へ送る。……頼むよ私のデッキ、クラッキング・ドラゴンに嫌がらせをしたくてした訳じゃないからホントに……!」
――1枚目、《ブラック・ホール》。
――2枚目、《終末の騎士》。
「よし! モンスターゲートの効果で終末の騎士を特殊召喚。更に終末の騎士の特殊召喚に成功した事で効果を発動! デッキから闇属性モンスター、亡龍の戦慄-デストルドーを墓地に送る」
《終末の騎士》
星4/攻1400
フィールドからシズクが消えたことで、ゴーストガールのモンスター達のステータスは元に戻る。
「墓地のデストルドーの効果! ライフを半分払い、 自分フィールドのレベル6以下のモンスターを対象にして発動! このカードを特殊召喚する! この効果で特殊召喚したデストルドーは、レベルが対象のモンスターのレベル分だけ下がり、フィールドから離れた場合にデッキの一番下に戻る。終末の騎士のレベルは4、よってデストルドーのレベルは7から3へ変化する!」
朽ち果てた身を震わせ、墓地から恐ろしき龍の咆哮が轟く。
《亡龍の戦慄-デストルドー》
星7→3/攻1000
ヴァンガード
LP 4300→2150
死臭を漂わせ墓地から舞い戻るデストルドー。レベルが変動すると同時にそれは強まり、思わずむせる。
「けほっ……更にフィールドにチューナーモンスターが存在する時、墓地からボルト・ヘッジホッグは特殊召喚できる! この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合除外される」
《ボルト・ヘッジホッグ》
星2/攻800
フィールドには3体のモンスター。どのモンスターも攻撃力は心許ないが、ヴァンガードはこのまま攻撃する訳ではない。彼女はボルト・ヘッジホッグを特殊召喚する時、『フィールドにチューナーモンスターが存在する』と言っていた。
「チューナー……!? まさか!」
「レベル4の終末の騎士、レベル2のボルト・ヘッジホッグに、レベル3となったデストルドーをチューニング!」
レベルの合計は9。チューナー以外のモンスターは2体。この条件で呼ばれるシンクロモンスターは、腕の立つデュエリストならば誰でも知っている。
「氷嵐呼ぶ魔槍よ! 古の戒め解き放ち、その威を示せ! シンクロ召喚! 来たれ、レベル9! 氷結界の龍トリシューラ!」
《氷結界の龍 トリシューラ》
星9/攻2700
三つの首を持つ龍が翼を羽ばたかせる度に雹が舞う。破壊神の持つ槍の名を冠するドラゴンは、フィールドを睥睨する。
「トリシューラがシンクロ召喚に成功したことで効果発動! 相手の手札・フィールド・墓地のカードをそれぞれ1枚まで選んで除外できる!」
「その効果は通さない! フィールドのメリュシークを墓地へ送り、オルターガイスト・プロトコル発動! さらにオルターガイスト・マテリアリゼーションも発動! チェーン処理よ、まずはプロトコルの効果でトリシューラの効果の発動を無効にして破壊する! 消えなさい、トリシューラ!」
デストルドーにプロトコルを当ててシンクロ召喚を阻止すれば……いや、その時は別のモンスターがフィールドに現れるだけだ。どう繋げてくるか分からない以上、展開の終着点となる大型モンスターを止めるしかない。
「フィールドから墓地に送られたメリュシークの効果で、デッキからオルターガイスト・クンティエリを手札に加える。さらにオルターガイスト・マテリアリゼーションの効果で、墓地からシルキタスを攻撃表示で特殊召喚し、このカードを装備させるわ」
《オルターガイスト・シルキタス》
星2/攻800
バウンスの準備を整えると同時に攻撃に備える。ヴァンガードの残り手札は3枚。墓地のモンスターを終わりの始まりで殆ど除外した事により、墓地の利用はデュエル開始時より難しくなった。ゴーストガールがこのターンを耐え切れる可能性は十分にある。
「チューナーモンスター、ブラック・ボンバーを通常召喚! ブラック・ボンバーが召喚に成功した時、墓地から機械族・闇属性・レベル4のモンスター1体を選択して表側守備表示で特殊召喚できる! 来て、ジャック・ワイバーン!」
《ブラック・ボンバー》
星3/攻100
《ジャック・ワイバーン》
星4/守0
「またチューナー……!? だからほんっとうに貴方、デッキ調整って何だったのよ!」
今度の合計レベルは7。
「レベル4のジャック・ワイバーンに、レベル3のブラック・ボンバーをチューニング! 戦場を翔ける風よ! 黒鉄を纏い、爆炎と共に舞い上がれ! シンクロ召喚! 来たれ、レベル7! ダーク・ダイブ・ボンバー!」
《ダーク・ダイブ・ボンバー》
星7/攻2600
ごうん、と黒鉄の爆撃機が唸りを上げる。自身の効果による爆撃がゴーストガールに通れば1400の効果ダメージを与えられるが――。
「シルキタスの効果! オルターガイスト・マテリアリゼーションを手札に戻すことで、ダーク・ダイブ・ボンバーを手札に戻す!」
「ダーク・ダイブ・ボンバーはシンクロモンスター、よってエクストラデッキに戻る」
ダーク・ダイブ・ボンバーの効果はチェーン1でしか発動できない起動効果。シルキタスの効果に対し抗う術はない。
「マテリアリゼーションがフィールドを離れたことで、このカードを装備していたシルキタスは破壊される。……貴方は通常召喚権を既に使用した。呼べるモンスターはあと1、2体が限界でしょう。私の手札にはクンティエリがいる。どんなモンスターを呼ぼうと攻撃は届かない! 諦めてターンエンドの宣言をしなさい!」
ゴーストガールのフィールドにはオルターガイスト・キードゥルガーとクラッキング・ドラゴン。発動しているパーソナル・スプーフィングにオルターガイスト・プロトコル。
フィールドに『オルターガイスト』カードがある限り、クンティエリの効果が発動し、攻撃は届かない。
「……いいや、これで私の勝利は確定した! 魔法カード、死者蘇生を発動! 蘇れ、オルフェゴール・ロンギルス!」
《オルフェゴール・ロンギルス》
Link3/攻2500
【リンクマーカー:左上/上/右下】
「除外されている機械族モンスター2体を対象にして、ロンギルスの効果発動! 対象となった2体をデッキに戻し、リンク状態の相手モンスター1体を選んで墓地へ送る! ただしこの効果を使ったロンギルスは、このターン攻撃できない。私が選ぶのは、オルターガイスト・キードゥルガー!」
ロンギルスはヴァンガードの指示を受け、槍をキードゥルガーへ投擲する。それに呼応するようにキードゥルガーの背後に墓地へ通じる穴が開いた。キードゥルガーは抵抗するが、槍の勢いを殺しきれずそのまま押し込まれる。
「攻撃力の高いクラッキング・ドラゴンの方を残して良かったのかしら? それに、その効果を使ったロンギルスはこのターン攻撃できない。貴方が言っていたことよ」
――これで『オルターガイスト』カードは残り1枚。
「これでいいんだよ、これで! ――今から見せるのは、このデッキのとっておき。そして新たな進化の可能性!」
そう言い放つと同時に腕を真っ直ぐに伸ばす。ロンギルスの足元にリンクサーキットが展開し――さらに、Xの字を描く様に光が走る。
「オルフェゴール・ロンギルス1体で、
「そんなっ……! リンクモンスターでエクシーズ召喚ですって!? あり得ないわ!!」
エクシーズ召喚とは本来、同じレベルのモンスター2体以上で行うものだ。当然、リンクモンスターにレベルは存在しない。今目にしているものは本来あり得る筈がないものだ。
ロンギルスは光の粒子へと姿を変え、サーキットへと吸い込まれる。Xの字の先からサーキットの中心に光線が照射、収束し、二重螺旋が天へ伸び立つ。
「クロスアップ・エクシーズ・チェンジ!」
天を貫く塔にも見える二重螺旋が弾け、新たな形に組み変わる。黄金色の輝きを纏った、馬に跨った機神。その姿にロンギルスの面影は残っていない。
「来たれ、ランク8!
《
エクシーズ・効果モンスター
ランク8/闇属性/機械族/攻2600/守2100
レベル8モンスター×2
自分は「宵星の機神ディンギルス」を1ターンに1度しか特殊召喚できず、
自分フィールドの「オルフェゴール」リンクモンスターの上に重ねてX召喚する事もできる。
(1):このカードが特殊召喚に成功した場合、以下の効果から1つを選択して発動できる。
●相手フィールドのカード1枚を選んで墓地へ送る。
●除外されている自分の機械族モンスター1体を選び、このカードの下に重ねてX素材とする。
(2):自分フィールドのカードが戦闘・効果で破壊される場合、
代わりにこのカードのX素材を1つ取り除く事ができる。
「特殊召喚に成功したことで、ディンギルスの効果を発動! 相手フィールドのカード1枚を選んで墓地へ送る! 私が選ぶのは勿論、オルターガイスト・プロトコル!」
「しまっ……!? 本当の狙いはこっち!?」
フィールドに『オルターガイスト』カードが存在していない、それはクンティエリを手札から呼ぶことができなくなる事を意味する。
妨害手段を残しておけば――いいや、それはできなかった。ディンギルスを呼ぶ前にシンクロ召喚された氷結界の龍トリシューラにダーク・ダイブ・ボンバー。どちらもマトモに通ればこのデュエルを終わらせられる効果を持っている。
「バトル!
「ディンギルスの方が攻撃力は下、一体何をっ」
「忘れてないかなゴーストガール。機械族とのバトル、一番警戒しなきゃいけないカードを!」
ヴァンガードの手札、最後の1枚。
「速攻魔法、リミッター解除! 私のフィールドにいる機械族モンスターは、攻撃力が倍になる!」
機神は長大な槍を構え突進する。クラッキング・ドラゴンはトラフィック・ブラストでヤケクソ気味に迎え撃つ。
「決めろ、ディンギルス! クライマクス・ストライク!」
リミッター解除の効果を受け、ディンギルスの攻撃力は5200へと上昇した。ゴーストガールのフィールドにいるため、クラッキング・ドラゴンは強化の恩恵を受けられず攻撃力は3000のまま。
槍が光を裂く。攻撃の勢いはさらに強くなり、クラッキング・ドラゴンを貫く。
ゴーストガール
LP 800→0
「きゃあああぁーーっ!!」
攻撃の余波でデュエルボード上から吹き飛び、岩壁に衝突しそうになる彼女を慌てて助けに向かう。
「っとお! 大丈夫……だね、いやーよかったよかった」
彼女のボードへと乗せ、体勢が安定するのを確認してから手を離す。
「……ありがとう。それで、何のつもりかしら?」
「デュエルが終わればノーサイド、ってつもりなんだけど……うーん、やっぱり信頼されてないなあ……」
デッキからカードをドローする要領でプログラムを取り出し、自慢のモフモフであるレスキューアニマルを押しつけるように渡す。
「私は貴方達と敵対したい訳じゃない。サイバース世界を襲った敵が、危機が近くまで迫ってる。だから五体満足で戻ってもらわないと困るんだよ、電脳トレジャーハンター。…………キナ臭い企業を色々こっそり探るのは私、あんまり得意じゃないからさ。またいつか、依頼させて貰いたいんだよね」
その意味を理解したゴーストガールは呆けたような顔になる。
「SOLの依頼で来ている私に言うことかしら、それ……? ……まあいいわ。その時は危険を加味して値段――倍で前払いにさせてもらうけど、そのぐらい問題無いわよね?」
「た、多分? それとあの、具体的な数字がよく聞こえなかったんですけど……あっ」
そんな話をしているうちに、脱出プログラムによりゴーストガールはログアウトした。
「終わったか、ヴァンガード」
「うん。そっちも無事勝てたみたいだね。……それと超融合じみたアレ何? あんなの持ってるって私知らなかったんだけど?」
「リンクに重ねるエクシーズ使ったお前が言えたことじゃないだろ、ったく……あれで持ってる戦術全部出し切った訳じゃないよな?」
「? モチロンだけど? と言うより、あのデュエルはもっとデッキを回転を加速させるエンジン使ってないから……へーえ、これからの戦いについて心配してくれてるんだ? ツンデレバーナーさんめ」
ちょいちょい、と肘でつっつこうとしたが避けられる。
「そうじゃねえよ! ……まったく、あいつの頭の中どうなってんだか」
「展開の高速化、複数の召喚法を取り入れ更に進化した戦術。しかもまだ隠し球があるとは……まさしく規格外、だな」
ソウルバーナーはプレイメーカーの後を追って先へと進んだ。ならばとグラドスを迎えにデュエルボードを走らせる。
『ごっ、ひぐ、ごしゅじ、うぶふぅっ……』
「あーはいはい、向こうにコントロール渡ったこと気にしてないから! ね! そんな泣かなくても……」
『ぐずっ、うぐ、うううぅ……』
デュエルが終わり、こちら側に戻ってきたクラッキング・ドラゴンはデュエルディスクに引きこもって泣き声だけ垂れ流していた。
「家帰ったらお菓子一緒に食べよう! だから…………っ!」
突然、風のイグニスが作り上げたワールドが崩れていく。端から始まった消滅はぐんぐん加速し、グラドスがいるであろう所まで迫っていた。
「嘘でしょ!? グラドス……!」
グラドスはリンクヴレインズで生まれたAIだ。私達と同じようにログアウトして逃げるということは不可能。だが、Aiや不霊夢のようにデュエルプログラムに変換すれば共に現実世界へ逃げられる。早く回収しなければいけない。無茶を承知で突入しようとした、その時だった。
視界がすげ変わる。グラドスが何か――色のついた風、というのが似合っているそれに追い詰められていた。台風の目の中に取り残されたグラドスは、防御プログラムを球状に展開して必死に抵抗を続ける。
風が一点に、グラドス目掛けて押し寄せる。その質量と圧で防御プログラムにヒビが入る。このままでは彼女は――。息を呑んだ。
助けないと、逃がさないと。だが、今いる場所から助けに行ったとして、防御が破られるまでに間に合うはずなど――。
「――――!?」
自分の身体の中の何かが使われた、そんな感じがした。
その直後、グラドスのデュエルディスクが発光を始め、グラドスの姿が消える。その直後、風がグラドスがいた場所を飲み込む。だが、動きが先程までと比べて明らかに遅くなっている。それはまるで戸惑っているようで――。
時間にしてほんの数秒。それでも足を止めるのには十分すぎる時間だった。
「……今のは、一体……!?」
『ヴァンガード! その周囲も崩れ出している! 危険だ、早くログアウトを!』
「……っ。お願いだから無事でいてよ、グラドス」
見えた景色の正体も分からぬまま、ヴァンガードは現実世界へと戻った。
突然硬いものに着地する。かなりの距離を落下していた筈だが、思っていたよりも衝撃はこなかった。プレイメーカー達と連絡はつかない。頼れるものは自分一人、警戒しつつあたりを探索しようと動き出す。
「貴様、何者だ! どこから侵入してきた!」
――数分後、グラドスは鎧兜に身を包んだ存在に槍を向けられていた。
「な、侵入!? 私はウィンディが作ったワールドの崩壊に巻き込まれそうになって、風が牙をむいて、かと思えば光がなんかして、気がついたらここにいたんです!」
がしゃがしゃと鎧の擦れる音を立てて駆けつけた兵士達が周囲を取り囲む。360度、見渡す限りの槍。
「訳の分からぬことをほざいても無駄だ! 怪しいヤツめ、その首……首? 切り落としてやろう!」
彼らと自分の距離が段々と狭まる。槍の穂先が――。
「――その必要はありません。皆、武器を下げなさい」
その声が耳に入った途端、兵士と思われる存在達がざわつく。
「ですが!」
「その者が現れたとほぼ同時に
「な、クリフォートがですか!?」
「奴等が動くとは、人間界でよほどのことが起きているのか……!?」
「(クリフォート……? ヴァンガードが何か関係しているのでしょうか?)」
声がだんだんと近付き、兵士の波が引く。真っ直ぐに道が開かれ、そこには羽衣の様な翼とヒレを揺らめかせる青いドラゴンがいた。
「兵士たちの無礼をどうかお許しください、お客人。――私の名はエンシェント・フェアリー・ドラゴン。この精霊界の住人です」
この小説、今一番どうしようか悩んでるのが鬼塚とアースなんですよねぇ……。あの手術とかどうしよう本当。取り敢えずGO骨塚にはさせません。
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再始動の兆し
お待たせしました。ハノイレンジャー回です。
「……出落ちにも程がありません?」
「当然でしょう。こうでもしておかないと何をしでかすか分かりませんからね」
どうしてこうなったかざっくり説明すると、学校から帰宅した途端クラッキング・ドラゴンが突然『リボルバーが呼んでる!』と察知。皆に連絡する間も無く強制的にInto the VRAINSさせられ現在に至る。
「……さてはアナザーのウイルス使いましたね? 個人の意思ガン無視で強制ログインとか信じらんない。汚いなさすがスペクターきたない」
「裏切り者に汚いなどと言われる筋合いはありませんよ。このまま縊り殺してやりたいのですが……」
ちらり、と真横に視線をずらす。
『ヴーッ! ヴーッ! グルォァウ!』
ガチガチ歯を鳴らして威嚇を続けるクラッキング・ドラゴン。何かあれば即座にスペクターを血祭りにあげそうだ。あらやだ物騒。
「危害を加えてはならない、とリボルバー様の命令を受けておりますので。そのまま無様な姿を晒し続けなさい」
「ちょっとー、おたくの息子さん、私にだけ当たりが強すぎません?」
ぷらぷら揺れながら
それを見ていたスペクターは無言で手をぐっと握り、その動きと連動して締まりがきつくなる。スペクターの危害の定義は私の知っているものと違うようで。
「ちょっ、出る! モツ、モツが出る! 潰れちゃ、いででで」
くつくつと笑う声が届く。ちょっと待った、スペクターの機嫌は大絶賛降下中だ。笑うはずがない。じゃあ一体誰が笑っているのかと見下ろすと、
「あの時と変わりませんねぇ、元気そうで何よりです」
「げっ」
Dr.ゲノムがいつの間にか観戦していた。その後ろにはファウスト。三騎士の一人、バイラは現在収監されている。ここにいないハノイの騎士主要メンバー、残るは当然――。
「――そこまでにしておけ、スペクター」
「はっ、リボルバー様」
かつてと変わらぬ姿のリボルバーが命令を下す。巻きついていた根が緩み、やっと解放された。締められていた部分が地味に痛い。
「久しいな、ヴァンガード」
「リボルバー……様」
「プレイメーカーの仲間達と直接接触する訳にはいかないからな。我々と関わりがあるお前だけを連れてきた」
は、と気付いてデュエルディスクを操作――反応は無い。
「当然外部との連絡、ログアウトは不可能だ。その権限は今、こちら側にある」
暗にその気になればこの空間に閉じ込めることもできる、と脅している。完全に相手にアドバンテージがある以上、今は向こうの要求を呑むしかない。
「案ずるな、手荒なことをする気は無い。……早速だが、今回の件、お前自身はどう考えている?」
今回の件――恐らくサイバース世界の惨状についてだと当たりをつけ、プレイメーカー達にはあまり伝えていない自分の考えを話す。
「恐らく、イグニスの内乱……ですかね」
「…………ほう?」
それを聞いたリボルバーは片眉を上げる。
「ハノイの騎士がサイバース世界を襲撃してから、Aiがサイバース世界を隠していた事で誰も立ち入ることはできなかった。その間、イグニスがただボーッとしていたとは考えにくい。きっと人間に対してどうあるべきかを考えていた。……イグニスは意思を持つAI。意思を持つ以上、対立は十分に考えられる。そこで派閥が分かれ、誰も自分の意見を曲げない状況が続き、このままでは何も変わらないと確信したイグニス――おそらく反人間派――が行動を起こした……とまあ、こんなところですかね」
「成る程、プレイメーカーに何も考えずに付き従っていた訳ではなかった、と」
満足のいく答えを聞けたようで、リボルバーは笑みを深める。ファウストやゲノム等はヴァンガードがここまで考えていたとは思っていなかったようで、少しばかり驚いた様子を見せている。
「プレイメーカー達はイグニスとの和解を求めている。それを崩すような事だから、彼等には伝えてないんですけど」
「和解、か。そう上手くいくとは思えんがな……」
「…………それは、まあ」
あの時見えた、グラドスが風に襲われる光景。風のイグニスであるウィンディの管轄下で、風に。間違いなく、ウィンディは敵と繋がっている。
問題のグラドスは無事だと勘が告げているが、どこへ行ってしまったのかが分からないままだ。
「我々はゲート内で何があったのか、それを知りたいだけだ」
「……それに対して、ハノイの騎士は何を提供してくれるかによりますけど」
ふむ、と少しばかり考える様子を見せる。
「和解などという幻想を壊す十分な証拠……でどうだ?」
「………………それだけじゃ、足りません」
「貴様、リボルバー様に向かって何という口を――!」
飛びかかってきそうなほど身を乗り出すスペクターを、リボルバーは腕で抑えるようにして落ち着かせる。
「この件に関する間、プレイメーカー達と敵対しない事を。言い換えれば共闘ですね」
「共闘をそちらから持ち出すとはな。それに値するだけの情報がある、と?」
「ハノイの騎士がコレをどう受け取るか、によりますけどね」
共闘を否定しない、ということは向こうもその必要性を認めていると見ていいだろう。
「こちらは既にソウルバーナーの正体を掴んでいる。そのような事だとすれば釣り合わんぞ」
「冗談。そこまで悪じゃないですよ、っと」
私が仲間を売る非情な人間ではないという事ぐらい分かっているはずだ。必要であろう部分を纏めたデータを投げ渡す。
「――――っ!? 馬鹿かお前は!?」
それに目を通した瞬間、普段のリボルバーからは想像もつかないほど慌てる姿に幹部達もどよめく。
「ヴァンガード、リボルバー様に一体何を――」
ファウストが問いかける。それに答えたのは未だ戸惑うリボルバーだった。
「――――ゲート内で何が起きたかに加え、自身のデッキ、サイドデッキの構築を敵に渡すデュエリストを馬鹿と言わずしてなんと呼べと?」
「…………………………今、何と?」
理解できないものを見る視線が私に集まる。
「敵じゃないですよ、共闘相手ですよ。それに、渡したといってもスピードデュエルのデッキだけですし。……ハノイの騎士は、リボルバーは、
この世界で、デュエリストの魂を価値なしと切り捨てる人間などいない。もしいるのならそれは――デュエリストを名乗る資格など無いクズだけだ。
「……謀ったか、ヴァンガード」
「結果的には、そうなりましたね」
顔を歪めるファウスト。優位に立っているのがどちらなのかよく分からなくなってきた。
「SOLのバウンティハンター、サブウェイマスターとしての顔も持つようになったせいですかね? ……うわSOLっぽくなるとか嫌だ」
「…………」
ヴァンガードはデッキの全てを見せ、ハノイの騎士との協力を仰いでいる。つまりそれは、我々がそれ相応の価値を持つ存在だと見ている事に他ならない。
ハノイの騎士は現在、ごく一握りの主要な人物のみで構成されている。そこへヴァンガードの繋がりを使えば、かつて配下だった者も一時的とはいえ集まるだろう。
ヴァンガードの提案はリボルバーにしてみればメリットが圧倒的に大きい。問題なのはスペクターがどうなるかぐらいだが、ヴァンガードもそれは承知の上だろう。
「……いいだろう、共闘は成立だ。詳細は追って連絡する。コレは先に渡しておこう」
自分自身をチップにした博打は上手くいったようだ。リボルバーから送信された証拠とやらは、何か嫌な予感がするのでカフェ・ナギに皆集まった時に開くことにした。
「しかしオルフェゴール、か。既にリンクマジックへの対策を済ませているとはな」
「狙って構築した訳じゃないんですけどね」
敵がリンク状態の時にオルフェゴールは真価を発揮する。リンクマジック対策、と言えるだろう。
「風のイグニスのワールドの奥にリンクマジックを使用する敵が存在した事実、更にマスターデュエルでのストームアクセスとは……興味深い」
ここまで証拠が揃えばイグニスを滅ぼそうとするハノイの騎士としては好都合だろう。
「しかしヴァンガード……貴方、よくもまあこんなデッキを作る気になりましたねぇ?」
「こんなって何ですか、こんなって! 自分でもどうしてフル回転するのかはうまく説明できませんけど!」
精霊憑いてるならいけるだろ! とノリノリで入れれそうなカードを突っ込んだ結果、真面目に「……何だコレ」ってデッキが完成してしまった。
ハノイの騎士時代にメインにしていた闇属性機械族。そこへオルフェゴール、星遺物、出張閃刀姫、闇属性のサポートカードを加え、エクストラデッキにリンクとシンクロ、エクシーズを採用。
コンセプトは『特殊召喚を多用して大型モンスターを出す』それ一点。
デッキをまるっと見せて「どこにメタを張る?」と問いかければ「どこってどこ?」みたいな答えが返ってくる出来となってしまったコレ。実際、構築がバレてもそこまで痛くはないのだ。何が出るかわからないからね。
……え、クリスティア? ロックされたら? 何とかしてくれる。そう、精霊ならね。
「馬鹿にしてます?」
「いいえ? やはり優れたデュエリストだと再確認しただけですが……よろしければDNAを」
『ギャウッ!!』
まだ懲りないDNAクレクレおじさん。こんな話をしている中、只々ヴァンガードに殺気を飛ばし続けるスペクターを皆スルーできるのも慣れというものか。
「……最後に一つだけ問おう。お前の目から見て、ブラッドシェパードはどんな男だ?」
電脳トレジャーハンターで最高のハッキングテクニックを持ち、狙った獲物はどんな手を使おうと逃さない悪評高い男――世間一般から見るブラッドシェパードの評価だ。
SOLで同じくバウンティハンターをする事となったヴァンガード、いやサブウェイマスターは彼の勧誘に応じた。常にこちらの予想を良くも悪くも超えてくる彼女ならば、彼の本心の一端を見ている可能性がある。
「ブラッドシェパード、ですか? 何かとよく気にしてくれるいい人ですけど」
「……ふっ。そうか、感謝する」
ブラッドシェパードに対していい人、と評価を下せるのは後にも先にも今上詩織だけだろう。
パチン、と指を鳴らす音がやけに大きく響いた。ログアウトさせられる直前、前触れもなく視界に大きな物が現れる。だが、誰もそれを気にする様子はない。
「(あれは……)」
スペクターを守るように、うっすらと見える
『――あのこはわるいこじゃないの、たいせつなものをまもりたいだけ。また、まえみたいになかよくなれるはず。これからよろしく、ね』
目を開く。見慣れた自分家の玄関だ。側にふわふわと漂うクラッキング・ドラゴンもいる。
「ねえクラッキング・ドラゴン。あれって、もしかしてさ……」
『……うん、精霊だ。びっくり』
「それもすっごい親バカ……」
『…………うん』
悪い子じゃないんですよ、ってセリフ自体が信用性0に近いんですけど。それに、どこをどう切り取って『前みたいに仲良く』なのか説明してほしい。
「……そういやさ、私のデュエルディスクに精霊がたくさんいるってのは何となく理解してるけど、なんでクラッキング・ドラゴンしか現実には出てこないの?」
『単純に、現代と精霊は相性が悪いから。信仰もかなり減っちゃったし。やっぱり科学とオカルトは馴染みにくいの』
「……クラッキング・ドラゴンって結構すごい?」
『頑張ってます。えっへん』
かつてリンクヴレインズを恐怖に陥れた機械龍はむっふー、と胸を張る。ハノイの騎士の手によって効果を加えられた過去を持つこのモンスターは、オカルトではなく科学寄りの存在だから安定して現実世界に出られるのだろうか。
「それと、なんで私のデュエルディスク? 他にもっと住み心地いい場所あるでしょ?」
『ご主人マジメに精霊信じてるから。そのせいだと思うけど、デュエルディスクの中かなり居心地がいいの。だから皆集まってきたんだよ? ……集まりすぎて中が精霊界みたいになっちゃったのはアレだけど』
「あっそういう理由で? なるほど納得した」
精霊信仰の欠けているこの世界で、精霊の存在を本気で信じているのはほんの一握り……いや、下手すると私だけかもしれない。
それにしても皆集まってきたって、私は珍獣か! いや転生者って珍獣よりもレアか。だが俺はレアだぜ。報酬は高い……あ、ゴーストガールにいつ連絡しよう。もろもろについてはカフェ・ナギ行ったときに相談しよ。
『……で、問題のスペクターの野郎だけど』
「育ちがかなりのオカルト案件だからねぇ……精霊憑いててもおかしくないとは思う」
『へー、そうなの? 知らなかった』
幼い頃のシーンだけならGX出演できるレベルのオカルトっぷり、スペクター。ふと言った後で気づく。やっべなんでスペクターの過去知ってんねんとかつっこまれたらヤババナイト!
「なんで知っているのかは内緒で頼むよ」
『ん! わかってるー!』
尻尾ふりふり。いい子いい子、と撫でるとさらにふりふりが加速する。
――で、デュエルディスクが精霊界に似た環境になってて? グラドスが消える直前デュエルディスクが光って?
「……グラドス、まさか……ねえ?」
サイバース世界だけじゃなく、精霊界も巻き込んだ戦いになるとか笑えない。いっそのこと戦いが終わるまでグラドスを精霊界に逃がしておいた方が良さげな気もする。
「お祓い真面目に検討するかー…………はぁ」
――草薙さんから怒りの電話が届くまで、あと5秒。
ハノイレンジャー回と言ったがあの戦隊ウォークに参加するとは言っていない!まず主人公がクルーザーに乗る事は不可能なので。乗った瞬間にスペクターが海に蹴落とすからね、仕方ないね。
ヴァンガードをログアウトさせた後に、バイラを迎えに行って「今ここにハノイの騎士は復活する!」します。
バイラに面白い土産話ができたね、リボルバー様!(スペクターから目を背けながら)
共闘が早まった事でアレとかコレとかも早まります。わーい。アニメと違う展開に持って行きたいのがバレバレだ。精霊界出してきてる時点で察していた人も多いかな?
アニメでは見れなかったソウルバーナーとリボルバーのデュエルですが、小説でガッツリやった方がいいかな……?リボルバー様のストラクも出ますしね。……あ、もしかしなくてもストラク対決になる……?
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そこそこ平和な日々
――それは、ある朝のことだった。
「今上、折り入って頼みがある」
「……え、急にどしたの?」
普段からは想像もつかないほど真剣な表情をした友人。彼の口から告げられる頼みが、今上をさらなる困難へと向かわせ――。
「財前さんをデュエル部に出るように説得してくれ」
「うん無理」
――はしなかった。即答。友人ってなんだろう、と思わせる雑な回答である。
友人、島直樹はこのぐらいの事ではへこたれない。ぱちんと手を合わせもう一度頼みこむ。
「頼む、そこをなんとか。財前さん、最近部室に顔見せにすら来ないんだぜー?」
「んー、心配してるのは分かるんだけど……」
最近、放課後に学校内で葵ちゃんの姿を見た覚えがない。家庭の事情か急ぎの用事でも続いているのだろう。
「葵ちゃんにも都合があるんじゃないの? 無理矢理の説得とかガラじゃないんだけどなー……。あ、じゃあお代としてロックアンカーか緊急ダイヤを要求しよう」
島はそれを聞いて疑問に思った。その2枚が機械族関係のカードだというのは知っているが(主に今上の機械族布教のせい)、確か3枚は持っていたはずだ。
「……今上、そのカード今何枚持ってんだ?」
「ロックアンカーは26、緊急ダイヤは14」
「多すぎだろ! そんだけあんなら満足してるだろ!」
「ハッハー! まだまだ満足しちゃいねえ! ロックアンカーは機械族・地属性のレベル制限なし特殊召喚効果とか他のテーマに混ぜてねって言ってるようなもんでしょアレ。ダイヤも発動条件緩いし。だからその分集めてだね……」
「出張をする、っての? そーんな沢山デッキ持つ必要ないだろ! 漢島直樹、最強無敵のバブーンデッキで――」
「そのバブーン確か昨日メタル・デビルゾアの錆になってなかったっけ?」
「ぐっ……」
島は昨日のデュエルを思い出したのか言葉に詰まる。
「ん、んんー! 俺が思うに男からの頼みだから断られているはずなんだよ。女子同士ならうまいこといく筈だ、多分!」
咳払いを切っ掛けに急カーブをして最初の話題に戻る。
「……うーん、私を女子って呼称するのは世の中の女子に失礼だと思う。ほら、私ってキカイズキオタクジョシモドキだし」
女子の端くれの端くれの端くれぐらいに位置するであろう生物、それが今上詩織。
「ソコ、自分から言うのか……」
「一般的女子と趣味の方向性が真逆だし。自覚してるよそのぐらい」
いつもの通学路が沈黙に包まれる。カラスの鳴く声。誰に向かってアホーと言っているのかは神、改め鳥のみぞ知る。
島はため息をつき――び、と指をここまで一緒に歩いてきておきながら一言も発しないクラスメイトへと突きつける。
「こうなりゃヤケデュエルだー! 放課後デュエル部に集合! 付き合え藤木!」
空気に徹していた遊作だったが、名前を突然呼ばれて驚いたのか肩を揺らす。ここまでの二人の会話に茶々が入って来ないところを見ると、Aiはデュエルディスクと共に家に置いていかれたようだ。
「……なんで俺に?」
名指しされた遊作は不満と呆れが混じったような顔で返事を返す。
「……今上、最近変なデッキ使ってくるから相手すると疲れるんだよ……」
「変なとは何だ変なとはー、限界に挑戦してるんですよ」
「いや何の限界だよ」
島のツッコミに遊作も心の中で同意する。
「sinTG機皇? それとも無限起動アンティークの方が良い?」
「今日は藤木とデュエルすっから、二つとも後で相手してやる」
「むぅ、先約があるなら仕方ないか」
「……おい待て、どうして決定事項になって…………聞いてないか」
そんなこんなで学校の入り口前。偶然出会った穂村と財前の会話の中で『プレイメーカー』の話題が出てきた時は少しヒヤリとした。
島はプレイメーカーに認められた男だ、親友だと自称しているが、本気で信じる人はいないだろう。……まず、俺はあいつを認めた覚えは一切ない。
「(しかし、こんな調子で大丈夫なんだろうか……?)」
――ハノイの騎士との共闘を取り付けた。
三騎士の一人、バイラが脱獄したニュースが流れる最中、今上はそう告げた。
穂村は対価に俺達を売ったのかと感情を隠そうともせず詰め寄り、不霊夢がそれを嗜める。草薙さんも黙ってはいたが冷静とは言えなかった。
ここは自分が聞くしかないと考え、俺達の知らない場所で何を話したのか、詳細な説明を求めた。今上の口から語られたのは、俺達が抱いている危機を強くするには十分すぎた。
ハノイの騎士は未だイグニスの抹殺を諦めておらず、更にこちらの正体を既に知られている。ヴァンガードがログアウトさせられる直前の質問はブラッドシェパードをハノイの騎士へ引き入れる可能性を示唆していた。
最後に、共闘の対価として自身のデッキを使ったこと。
『……今上、そこまでする必要は……』
『せっかく向こうから接触してきたんだよ? チャンスを無駄にする訳にはいかなかったしね』
交渉材料にデッキを使う。これは今上だからこそ出来たことだ。ロスト事件の被害者である俺や穂村には絶対にできないし、しようとも思わない。
『で、これが問題のブツです』
デュエルディスクを草薙さんへと渡し、リボルバーから受け取ったデータを解析する。
『これが証拠か……開くぞ』
リボルバーから渡された証拠。それは俺達に衝撃を与えるには十分、いやそれ以上だった。
――ロスト事件の被害者の一人が、AIの起こした暴走事故に巻き込まれた。
その暴走を引き起こしたのは風のイグニス――ウィンディ。
『っ嘘だ! そんなことする筈ねぇよ!』
『我々イグニスが、パートナーを、手にかけるなど……そんな馬鹿なっ……!』
Aiと不霊夢は否定を続けている。だが、意志を持つといえどAI。誰よりもこのデータが正確で、現実に起きたものだと分かってしまっている。
『……信じたくないが、今上の考え通り、内乱の可能性が高くなってきたな』
『アイツ、敵だったってことかよ!』
『…………今上』
現実を直視したくない者、考えを改める者、闘志を高める者。彼女はどうなのだろうかとふと横に目をやる。
『……………………』
作為的に起こされた事件、その被害者であった彼女は何も語らず、ただ真っ直ぐ見据えていた。
――ボーマン達を追う手がかりを失った今、俺達がかなりまずい状況に追い込まれているのは今上も分かっていると思うのだが……いつものペースでいてくれるのは有難いやら困るやら。
今日は取り敢えず島とのデュエルをいかにして乗り切るかが最大の問題になりそうだ。
デュエル部の先輩が来るよりも早く部室を開け、数分後。早くもデュエルの決着がつこうとしていた。
「空牙団の英雄ラファールでダイレクトアタック」
「ぬわーーっ! 負けたーーーーっ!!」
淡々とデュエルを進める遊作に対して、オーバーリアクションをする島。
「いくらなんでもおかしいだろ1ターンでモンスター5体も出すとかさー! ズルしてんじゃないだろうな藤木ー!」
「初手が良かったんだね」
「ああ」
島はズルと言ったが本気で疑っている訳ではない。これまでに何度かデュエルしたのもあり、空牙団が展開に長けているのはよく知っている。
「バブーンの攻撃力あっさり超えてくるし……もうちょいサポートカード増やした方がいいか?」
がしがし、と乱雑に頭をかく。デッキとにらめっこしながらどう弄るか悩んでいるようだ。
そんな中。すいませーん、という言葉と共に部室のドアが横にスライドし、来客の姿が現れる。
「失礼します、デュエル部見学に来まし……」
「やっほーほむほむ」
「その呼び方やめろ! あとなんでお前がいるんだ!」
一気に眉間にシワが寄る。コワイ! これは転校する前は地元でブイブイいわせていたに違いない。
「え、部室に部員がいたら駄目なの?」
そういやコイツデュエル部入ってるって言ってたそうだった、と思い出したのか穂村は苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「へー……今上、転校生と随分仲良いんだな」
「仲良しを超えて仲良ぴって言っても過言では無いかな?」
「ンな訳ねえだろ!」
「……とまあこんな感じで不良とオタクのショートコントできるぐらいの仲ではある」
「あ、の、なー!」
一言一句に噛み付いてくる穂村と、それを分かってボケる今上。騒がしくなった部屋の中、ただ一人早く終わらないかと藤木は黙って待っていた。
「……ん? ちょい待って電話きたわ」
化粧フェイズがほとんどを占める、とある映画の主題歌が唐突に流れる。皆に断りを入れてから部屋の端の方へ寄り、電話にでる。
「はいもしもし今上です……え、ちょい待って本人? 確認したいんだけど………………間違いない本人だ……。ってそうじゃない今何処!? …………んん待ってもう一回言って? いるの!? 鰻いるの!? あ、いや鰻はあだ名みたいなのだから無視してお願い。……まー、エンフェがいるならそっちは大丈夫かな? …………取り敢えず要点だけお願い」
このチンプンカンプンな応答を聞いて、男子3人の思うことは一致した。
「(…………一体誰と何の話をしているんだ……?)」
――時間は遡り、精霊界。
「ふむ、このプリンとやら中々いけるのだよ」
「そうだろう、パラ……いや、トゥルース。かつて正史とは違う彼が口にしたことがある、と記録に残っていてな。そこの彼は冷蔵庫にそのプリンの無限生産機能を付けるほどだった。……うむ、やはり良い味だ」
「……もしかしてコレ、トリシューラプリンかい?」
「む、知っているのかスター・ガーディアン?」
「あー、懐かしいなあ……ジャックが勝手に買ってきてクロウに怒られてたっけ……」
過去を懐かしむドラゴン、フィールド魔法、シンクロチューナー。
「おいでー! おいでしょご、おいでおいでー!」
「何あれ」
「私たちの効果でフィールドに呼べるドラゴンは召喚条件無視出来ないのを知らないかわいそうな覇王龍です、放っておいてあげましょう」
「……ふぅん、貴様ぁ……アドバンスドラゴンなるものを新たに生み出したようだな……」
「ひっ、カイバーマン! 違うんですあの、あれはペンデュラム創造しなかった場合のif的な俺で――」
「言い訳など無用! 食らうがいい! 滅びの、バァーストストリィーーッム!!」
爆発と共に高笑いが響くドラゴンの集い。
「どうした闇堕ちした俺、また
「心配をかけてすまない、昔の俺。いや……『どの私が一番大事なんですか』と巫女にイヴにガラテアにトロイメアが囲んで来てどれが一番だと言い切れず互いに大ゲンカを……ヴッ」
「うっ、そ、それは……大変だったな」
「そんな修羅場に天からイドリースがやってきて……グフッ」
「し、しっかりしろ俺ーーッ!」
妹が増えることによる弊害を被る兄。
「――とまあ、そこそこ平和な場所なのでそう気を張らずとも大丈夫ですよ」
「……待って、待ってください。今途中変なものが映っていた気が。いえ途中というか全部おかしいのですけれど」
空中に浮かぶ巨大なスクリーンに映し出された精霊界の日常を見て、流石のグラドスもツッコミに回っていた。最初に出会った兵士達とのあまりの落差に理解が追いついていない。精霊、フリーダム過ぎるのではなかろうか。
「あまり気にしてはいけません、これが日常です。……事故とはいえ、サイバースに近しいものが来た。これはこちらも好転していると見て良いでしょう」
「……好転とは? 何か問題でもあるのですか?」
グラドスの問いかけに、エンシェント・フェアリー・ドラゴンは目を伏せる。
「イグニスにより生み出された新たな種族――サイバース族は、サイバース世界で生まれた存在。科学のみで構成された彼らは、精霊界へと招かれる機会はなく、データストームの中で暮らしている。……それが問題なのです」
星遺物の物語、その根幹に関わるモンスターの一部はサイバース族だ。
――ここで問題が生じた。元となる存在がいないのに、結果が存在してしまっている。
矛盾から、精霊界に歪みが生じた。ほんの小さな綻びでしかないが、その歪みはいつか精霊界全体に広がり、精霊界の存続を危うくしうる可能性を持つものだった。
フィールドを――空間を張り替える能力を持つ龍はその力をふるい、歪みの進行を遅らせてきた。
サイバースを操るプレイメーカーに助けは求められなかった。いいや、求めても彼がその声を聞くことはできなかった。彼に精霊は見えず、話せず、触れないのだから。
――そんな最中、オシリスの天空竜が一人のデュエリストの元へと降りた。その知らせは精霊界を揺るがした。
三幻神の一柱たるオシリスが、ファラオに従えられていた時の力そのままで人間界へと向かったとなると、いつ世界が滅んでもおかしくはない。
その騒ぎを収めたのはズァークの呟きだった。
『……詩織? そういやアイツ名もなきファラオがどうのって話したことあったなー』
そんな大事なこともっと早くに言えと無言のバーストストリームが命中した。
慌ててきたクリフォートからも彼女ならば大丈夫、と念押しをされひとまず騒ぎは落ち着いた。
――『向こう側の危機が落ち着いたら彼女を経由して助けを求めよう』。
精霊の存在を信じている人間がいたという嬉しい誤算。だが彼女は現在進行形でまた世界の危機に巻き込まれていた。
伝説のデュエリストと共に闘ってきたモンスター曰く、世界の危機は数年すれば過ぎ去る。まあ数年なら取り返しがつかないほど歪みは酷くならないだろうという計算結果も出たので、精霊界はいつも通りの日常に戻った。
一部彼女の元へ移動した精霊もいたが、万が一の可能性を考えてだ。保険はかけておいて損はない。
「この世界には、サイバース族が存在しない……?」
言われてみればそうだ。デュエル毎に新規カードが誕生しているといっておかしくない程の種類のカードをプレイメーカーが使っているにも関わらず、延々と流されていた日常動画でサイバースのモンスターを見た覚えがない。
「……確かに、そちらも大変な状況のようですね。ですが私でも今はそこまで手は回りません。まず、ヴァンガードへ無事だという連絡をしたい」
「連絡、ですか……おや?」
下がっていった筈の兵士達が妙に騒がしい。速度を落とせだの修繕がー、だのと叫んでいるような――。
「ヤット、着イタ……! ぐらどす、早ク電話ヲカケロ!」
ぶしゅうとあちこちから煙を吐いているクリフォート・ツールが突っ込んできた。
「向コウハ、はのいノ騎士ト共闘ヲ取リ付ケタ! 我々モ詳シクハ知ランガ、何カ重大ナ情報ヲ預カッタラシイ!」
ぽん、と一部の装甲がはずれて変形。人間に扱いやすいサイズの受話器になる。
「……そんな機能があったのですか……」
「早ヨカケロ」
「わ、わかりました、えっと……番号は?」
「りだいやる押シタラスグカカル様ニシテアル!」
「これ? これでいいんですよね?」
「合ッテルカラ早ヨシロ」
人工物の容姿をした一人と一つのコントのようなかけ合い。エンシェント・フェアリー・ドラゴンはそのやり取りを聞きパチパチと目を瞬かせた後、くすりと笑った。
アニメでは特に説明されてないので捏造。リンクリボーかなり自由な動きしてましたが、本作ではあれはAiがお気に入りのモンスターに高めな知能を付けたってことで精霊とは違う存在として考えてください。
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覚醒のブレイブ・マックス!
後書きに今後の更新について重要なお知らせがありますので、どうか御一読お願いします。
大通りから一つ中に入った道、相対する二人のデュエリスト。ブルーエンジェルの緊急イベントで盛り上がるデュエリスト達の喧騒は届かず、彼らの周囲は恐ろしいほど静まり返っている。
――相手がか弱い女性だとしても、俺はデュエリスト。プレイメーカーに認められた男として、ここは負けられない!
……それにしても綺麗な人だなあ、と内心が顔に思い切り出ているのはご愛嬌。
ブレイブ・マックスこと島直樹。彼のデュエル部でのおちゃらけた態度や効果処理のとんでもない間違い、それらは全て演技なのか?
「…………」
ブレイブマックスとゴーストガールの様子を屋上から見つめるデュエリストが一人――、
「あ、おひさーブルーガール。たこ焼き食べる?」
『はふはふ、あひゅい! でもおいしい! もう一個!』
「…………ちょっと待ちなさい」
改め二人と一匹。何故かヴァンガードはたこ焼き一舟を片手に持っている。
「あ、ソース派じゃなくてダシ派だった?」
爪楊枝に刺した一つをふうふう冷ましながらクラッキング・ドラゴンの口元へ運ぶ。鰹節が踊っているところから出来立てのたこ焼きだということがわかる。……だからどうした。
「〜っヴァンガード! 今すぐにグラドスを返しなさい! あれはイグニスになったとはいえ元はAIデュエリスト。SOLテクノロジーの所有物よ!」
呆気にとられていたのもつかの間、キリリとした表情に戻ったブルーガールはヴァンガードを問い詰める。
「『
残っていたたこ焼きをクラッキング・ドラゴンの口に全部放り込み、牽制の一手を打つ。クラッキング・ドラゴンはあっつーい! と口を開閉させた後、スゥーっと消えた。ふざけた様子は消え、二人の間に緊張感が走る。
「……ハッタリかしら」
「そう思うなら確かめてみる?」
そう言ったヴァンガードは静かに微笑む。
「…………今は止めておくわ。貴女、嘘は吐かないもの」
張り詰めた空気。先に根をあげたのはブルーガールだった。
そも最初からしてヴァンガードは戦いに来た、という雰囲気では無かった。今回はデュエル観戦が主な目的のようだ。
「あっほらほら、二人のデュエル始まってるよ?」
ゴーストガールのフィールドには攻撃表示のオルターガイスト・シルキタスと伏せカードが2枚。自称プレイメーカーに認められた男こと、ブレイブ・マックスに手を抜く気はないようだ。
「俺のターーンッ、ドロォーッ!」
効果音がつきそうな、無駄にカッコつけたドローポーズ。
「こ、これは……」
ドローしたカードと手札を確認し、雷に打たれたような衝撃が走る。
「(…………勝った!)」
初期手札の偏りがいろんな意味で凄いブレイブ・マックスだが、今回は違う。スクラップ・コングに二重召喚、バブーンを2体特殊召喚することでライフがゴリゴリ削られていた彼はいない。その理由は三つある。
一つ、今上とのデュエルで彼自身思い出したくない程にボッコボコにされてしまったこと。
二つ、後からデュエル部に入ってきた藤木遊作に敗北を喫したこと。
三つ、そして何よりカッコいい召喚エフェクトに心を奪われたこと。
――以上の三つの原因から、彼のデッキには改良が加えられた。具体的にどうなったのか? それはこのデュエルを見れば分かる。
「ゴブリンドバーグを通常召喚! こいつは召喚に成功した時、手札からレベル4以下のモンスターを特殊召喚できる! 来い、レスキューラビット!」
《ゴブリンドバーグ》
星4/攻1400
《レスキューラビット》
星4/攻300
飛行機に吊り下げられていたコンテナが投下され、その中から可愛らしいウサギが現れる。
「この効果を発動したゴブリンドバーグは守備表示になる……がしかーし! ここで終わらないのが俺だぜ! フィールドのレスキューラビットを除外して効果発動! デッキからレベル4以下の同名の通常モンスター2体を特殊召喚するぜ! 現れろ、2体のケンタウロス!」
《ケンタウロス》
星4/攻1300
《ケンタウロス》
星4/攻1300
ウサギが首にかかったホイッスルを吹く。その音に釣られて2体のケンタウロスがデッキからフィールドに特殊召喚される。オーライオーライ、ストップー! と身振り手振りをして上手くフィールドに誘導すると、満足そうにしてウサギは消えた。
「手札を1枚セットして、手札抹殺を発動する! お姉さんも手札を全て捨てて、捨てた枚数だけドローしてもらいますよ」
「ここで手札交換……? ええ、問題無いわ」
ゴーストガールとブレイブ・マックスは2枚のカードを捨て、捨てた枚数と同じだけドローする。
「どんどん行くぜ! フィールドに2体の獣族モンスターがいる事で、墓地からチェーンドッグを特殊召喚!」
《チェーンドッグ》
星4/攻1600
フィールドに4体のモンスターが並び立つ。どれも地属性モンスターでレベルは4。彼の主力であるバブーンを引き立てることができるモンスターはこの中にはいないが――。
「現れよ、勇者なる俺様のサーキット! アローヘッド確認! 召喚条件は地属性モンスター2体! 俺は2体のケンタウロスをリンクマーカーにセット、サーキットコンバイン! リンク召喚! 現れろ! リンク2、ミセス・レディエント!」
《ミセス・レディエント》
リンク2/攻1400
穏やかな顔でたたずむ獣、ミセス・レディエントの効果により地属性モンスターの攻守は500上昇し、風属性モンスターの攻守は400ダウンする。たかが500、されど500。下級モンスター達の攻撃力も油断できなくなる数値になる。
「ここで終わる俺じゃないぜ! ゴブリンドバーグとチェーンドッグの2体でオーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚! 現れろ、
《恐牙狼 ダイヤウルフ》
ランク4/攻2000
デュエルディスクから放たれた光が天空に十の字を刻む。2体のモンスターが光に飛び込み消え、それに変わるようにしてフィールドに降り立つのは狼。その巨軀の周りには二つの光球が回っている。
「(――くう〜っ! この演出! たまらなくカッケーっ! サンキュー今上! リンクだけじゃなくてエクシーズもアリだな!)」
プレイメーカーもまだ使っていない召喚法、あるよ……そんな危ない薬を勧めるような言葉に乗っかるものかと思っていた島直樹。ご覧の通り見事に陥落した。
恐ろしい牙の狼とか名前カッコいいし、バブーンの展開の役にも立つ効果。目をキラキラさせてカードを眺める彼を見て、今上詩織は某新世界の神の「計画通り」な顔をしていたのだがそれはまた別の話。
「……へえ? 中々やるじゃない」
「でしょー? ハノイの騎士に喧嘩を売った時からここまで伸びるとは思わなかったよ本当。プレイメーカー達は彼を認めてないけど、私は伸びしろ沢山あっていいと思うよ」
「え?」
「ん?」
――ヴァンガードは今、何と言った? プレイメーカー達は『認めてない』?
「ちょっと、ちょっと待ちなさい。もしかして、いえもしかしなくても」
「うん。彼、プレイメーカーに憧れてる普通のデュエリストだよ? 認められた男ー、とかは勝手に言ってるだけだよ?」
「じゃあなんで貴方はわざわざ此処に来たのよ!」
「ゴーストガールと依頼についてちょっと話したくてさー。そしたらデュエルしてたじゃん? 邪魔したら悪いからこうして上からデュエル見守ってたの。ブレイブ・マックスがいたのは偶然。本当に。信じて、ワタシウソツカナイ」
――ブルーガールは激怒した。必ずかの邪智暴虐のヴァンガードを倒さなければならぬと決意した。
「……デュエルよ」
「え? でもブルガちゃんもブレイブ・マックスが気になってここに来たんじゃ――」
「デュエルしなさい! それと名前を略さないで!」
「えっなんで急にデュエル……? まあ別に大丈夫だけどさ。デッキ用意するからちょっと待ってね……」
ごそごそデュエルディスクをいじるヴァンガード。空気を読んでいるのかいないのかよく分からないが、二人の前にいい感じのデータストームが流れてきた。
「よしおっけ! ……ってスピードデュエルでいいの? そっちとしては目立ちたくないんじゃ?」
「スピードでもマスターでもどっちでもいいわ! 貴方はここで倒さなければいけないと私の心が叫んでるのよ!」
「「スピードデュエル!」」
ヴァンガード
LP 4000
ブルーガール
LP 4000
「……あら、先行は私か。それじゃあ早速手札から魔法カード、成金ゴブリンを発動。デッキから1枚ドローして、ブルガちゃんのライフを1000回復する」
ブルーガール
LP 4000→5000
ライフを回復されたブルーガールは不満げだ。それに対してヴァンガードはドローしたカードを見て満足そうにしている。
「よし来た! 魔法カード、閃刀起動-エンゲージ発動! 効果でデッキから『閃刀』カード、閃刀機-ホーネットビットを手札に加える! そのままホーネットビットの効果発動、フィールドに閃刀姫トークンを守備表示で特殊召喚する!」
《閃刀姫トークン》
星1/守0
ホーネットビットから閃刀姫-レイの映像が投影される。
「先駆けとなれ、我が未来回路! 召喚条件は炎属性以外の『閃刀姫』モンスター1体! 私は閃刀姫トークンをリンクマーカーにセット! リンク召喚! 来たれ! リンク1、閃刀姫-カガリ!」
《閃刀姫-カガリ》
リンク・効果モンスター
リンク1/炎属性/機械族/攻1500
【リンクマーカー:左上】
炎属性以外の「閃刀姫」モンスター1体
自分は「閃刀姫-カガリ」を1ターンに1度しか特殊召喚できない。
(1):このカードが特殊召喚に成功した場合、自分の墓地の「閃刀」魔法カード1枚を対象として発動できる。
そのカードを手札に加える。
(2):このカードの攻撃力は自分の墓地の魔法カードの数×100アップする。
リンク素材になったホーネットビットは消え、何処からともなく現れた少女――レイが赤い機体に乗り込む。
「カガリの効果! このカードが特殊召喚に成功した場合、自分の墓地の『閃刀』魔法カード1枚を対象として発動できる。そのカードを手札に加える。私は閃刀起動-エンゲージを手札に加える!」
閃刀起動-エンゲージには1ターンに一度、といった制限はない。
「もう一度、閃刀起動-エンゲージを発動! 効果で閃刀機-イーグルブースターを手札に加える!」
墓地に着実に魔法カードを貯め、閃刀姫は強さを増す。カガリは墓地の魔法カードの枚数分攻撃力が上昇するが、今は先行1ターン目。攻撃よりも防御をし、自分に有利な場を作るのが最優先だ。
「先駆けとなれ、我が未来回路! 召喚条件は水属性以外の『閃刀姫』モンスター1体! 私は閃刀姫-カガリをリンクマーカーにセット! リンク召喚! 来たれ! リンク1、閃刀姫-シズク!」
《閃刀姫-シズク》
リンク・効果モンスター
リンク1/水属性/機械族/攻1500
【リンクマーカー:右上】
水属性以外の「閃刀姫」モンスター1体
自分は「閃刀姫-シズク」を1ターンに1度しか特殊召喚できない。
(1):相手フィールドのモンスターの攻撃力・守備力は、自分の墓地の魔法カードの数×100ダウンする。
(2):このカードを特殊召喚したターンのエンドフェイズに発動できる。
デッキから、同名カードが自分の墓地に存在しない「閃刀」魔法カード1枚を手札に加える。
レイがカガリから飛び出し、青い機体へ乗り換える。シズクは拠点防衛型――防御に長けた閃刀姫。確実に次のターンを凌ぐには良いモンスターだ。
「カードを2枚セット。エンドフェイズにシズクの効果発動! デッキから同名カードが自分の墓地に存在しない『閃刀』魔法カード1枚を手札に加える。私は閃刀術式-アフターバーナーを手札に加えるよ」
ヴァンガードの墓地の魔法カードは合計3枚。閃刀姫の扱う魔法達が真の力を発揮できるようになる枚数だ。さらにシズクの効果でブルーガールのモンスターは攻撃力がダウンする。
ヴァンガードが今使用している閃刀姫は環境に躍り出たことのある強力なテーマ。それを目の前にしているブルーガールは戸惑う事なく、冷静に対処方法を考えていた。
「閃刀姫……ね、私のトリックスターの敵じゃないわ!」
「…………あら? ブルーガール、どこ行っちゃったのかしら……」
「? どうかしたのですか、お姉さん?」
「いいえ、何でもないわ」
――ところで、ブルーガールはゴーストガールに何も連絡せずにヴァンガードとデュエルをしているのだが、その事に気付いているのだろうか?
個人的な都合で申し訳ないのですが、vs.トリックスターの次話を投稿し終わった後、本小説を一時凍結したいと考えています。
主な理由としては、作者が思い描いている2期の終わり方では、3期にうまく繋がらない可能性が非常に高いからです。
よって、2期と3期のストーリーを統合しようと思います。
そうすれば2期で空気なSOLも活躍できるでしょうし、本編ではそこまで強くなかった三つ巴感も出てくると思うので。SOLにいるハノイの騎士のスパイは誰なのかという問題もありますし。
そのため3期がある程度進んで情報が出てから本小説を書く必要があります。そのため長い期間更新が滞ります。
本当に申し訳ありませんが、長い目で見ていただけたら幸いです。
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18782+18782=?
作者は元気です!今は!夏風邪って怖いね!体調管理に気をつけよう!
一応凍結だのなんだの言ってますがこの先の展開の骨組みは作ってあります。デュエルはまだ構成考えてませんが。
アニメ情報もっと出して……リボルバー様が言ってたSOLにいるスパイそろそろ出てくるよね?……よね?
@イグニスターOCG化は嬉しい悲鳴。VRAINS終わらないで……
ヴァンガード
LP 4000 手札2
モンスター
閃刀姫-シズク Link1 ATK1500
魔法・罠
伏せカード2枚
「私のターン、ドロー!」
ブルーガールのライフポイントはヴァンガードが使用した成金ゴブリンの効果によって1000回復し、現在は5000。この1000が勝負を分けることになるのか、それは彼女達とデッキが示すことだ。
「手札からトリックスター・キャンディナを召喚!」
《トリックスター・キャンディナ》
星4/攻1800
黄色をメインカラーに据え、手には拡声器を握る天使。この見た目に騙されてはいけない。美しいバラの花には棘があるように、可愛い彼女達にはじわりじわりと敵を追い詰める毒があるのだから。
「シズクの効果で相手フィールドにいるモンスターの攻撃力と守備力は、私の墓地の魔法カードの数×100ダウンする。私の墓地に魔法カードは3枚、よってブルガちゃんのモンスターは攻守が300ダウンする!」
《トリックスター・キャンディナ》
攻1800→1500
「この程度、何も問題ないわ! 召喚に成功したキャンディナの効果でデッキからトリックスター・ライトステージを手札に加えて、そのまま発動!」
トリックスターのために用意された晴れ舞台。ステージが用意されたのなら、その上には当然トリックスターがいなければならない。
「ライトステージの効果でデッキからトリックスター・リリーベルを手札に加える。そしてリリーベルは、ドロー以外の方法で手札に加わった場合、自身の効果で特殊召喚できる! リリーベルを特殊召喚!」
《トリックスター・リリーベル》
星2/攻800→500
ブルーガールのフィールドにはこれでモンスターが2体。リンク召喚の準備は整った。だが、リンク召喚の前にしなければならない事がある。
「ここでライトステージの効果を発動! 私から見て左のセットカードをエンドフェイズまで封じさせてもらおうかしら」
閃刀姫は魔法カードが生命線となる。よってセットされている2枚のカードはどちらも速攻魔法である可能性は非常に高い。魔法を発動しなければエンドフェイズまで封じられる。チェーンして発動したとしても、キャンディナの効果によってバーンダメージが発生する。たった200、されど200。少しでもダメージを稼がねばならない。
トリックスターの弱点の一つは元々の攻撃力が低いこと。ライフを減らせる時に減らしておかないと、ヴァンガードの操る機械族のパワーにトリックスター達が押し負けてライフを持っていかれ、敗北――それだけは絶対に避けなければならない。
「ライトステージのその効果に対してチェーン! 対象になっているセットカード、閃刀機-イーグルブースターをシズクに対して発動する! イーグルブースターの効果でこのターン、シズクは自身以外のカード効果を受けず、追加の効果により戦闘で破壊されない」
そのような効果ならば、もっと早くに使っておけば良いのでは――いや、先にイーグルブースターを発動していたらトリックスター・ライトステージの対象になるのは残されたもう1枚のセットカード。ヴァンガードはそちらを失いたくなかったのだろう。だからブルーガールがどちらを排除しにかかるかまで待ったのだ。
「ライトステージにチェーンしてくるのはお見通しよ! 魔法が発動したことでキャンディナの効果! 200のダメージを受けてもらうわ!」
ヴァンガード
LP 4000→3800
ヴァンガードの墓地に魔法が1枚増えたことにより、ブルーガールのモンスター達は攻守がさらに100ダウンする。
《トリックスター・キャンディナ》
攻1500→1400
《トリックスター・リリーベル》
攻500→400
「そして、トリックスターがダメージを与えたことでライトステージの効果発動! 追加で200のダメージよ!」
ヴァンガード
LP 3800→3600
「むぐっ……」
ちくちくバーンは回避出来なかったが、シズクを次の自分ターンまで残すことはできた。閃刀姫リンクモンスターを出せる手は繋がった。
「輝け! 勇気と決意のサーキット! 召喚条件は『トリックスター』モンスター2体! 私はキャンディナとリリーベルをリンクマーカーにセット! リンク召喚! 現れよ! リンク2、トリックスター・ホーリーエンジェル!」
《トリックスター・ホーリーエンジェル》
Link2/攻2000→1600
【リンクマーカー:左下/右下】
フィールドに現れたのは、彼女がブルーエンジェル時代から愛用するトリックスター。ブルーガールから見て右側に位置するエクストラモンスターゾーンに降り立った天使のリンクマーカーの1つは、スピードデュエルの都合上フィールドに向いていない。
「私のフィールドのモンスターがトリックスターのみの場合、このモンスターは手札から特殊召喚できる! トリックスター・キャロベインをホーリーエンジェルのリンク先に特殊召喚!」
《トリックスター・キャロベイン》
星5/攻2000→1600
「ホーリーエンジェルの効果! このカードのリンク先にトリックスターモンスターが特殊召喚された時、相手に200のダメージを与える! そして、トリックスターがダメージを与えたことでライトステージの効果も発動! さらに200のダメージを受けなさい!」
ヴァンガード
LP 3600→3400→3200
トリックスターとライトステージの、細かいバーンを重ねて相手を追い詰める完成されたコンボ。だが、このコンボにも弱点はある。次のヴァンガードのターン、それは明らかになる。
「トリックスターモンスターの効果で相手がダメージを受けたことで、ホーリーエンジェルのもう一つの効果が発動! ターン終了時までそのダメージの数値分、攻撃力をアップする! ホーリーブレッシング!」
《トリックスター・ホーリーエンジェル》
攻1600→1800
「カードを2枚セットして、バトル! キャロベインでシズクを攻撃!」
シズクの効果で攻撃力が下がっているとはいえ、今のキャロベインの攻撃力はシズクを上回る1600。シズクは閃刀機-イーグルブースターの効果で戦闘破壊こそされないがダメージは通る。
ヴァンガード
LP 3200→3100
「トリックスターがダメージを与えたことで、ライトステージの効果発動!」
ヴァンガード
LP 3100→2900
「……この調子だとこのターンで半分は持っていかれるなあ、コレ……」
たら、と頬に冷や汗が流れる。かなりまずい状況だ。
キャロベインは手札にいる時効果を最大限に発揮できるモンスターだ。ブルーガールもそれを分かっているはず。キャロベインをそのままフィールドに残しておくはずがない。つまり、この次に来るのは。
「手札のマンジュシカの効果! フィールドのキャロベインを手札に戻してマンジュシカを特殊召喚!」
《トリックスター・マンジュシカ》
星3/守1200→800
「ホーリーエンジェルとライトステージの効果発動! 合計400のダメージよ!」
ヴァンガード
LP 2900→2700→2500
ホーリーエンジェルのリンク先に特殊召喚されたのは、トリックスター・マンジュシカ。相手の手札が増えた時にバーンダメージを与えるというどんなデッキにも刺さる効果。対戦相手としてはフィールドに残したくないモンスターだ。
そしてトリックスターモンスターによる効果ダメージを受けたことで、再びトリックスター・ホーリーエンジェルのホーリーブレッシングが発動する。
《トリックスター・ホーリーエンジェル》
攻1800→2000
「ホーリーエンジェルでシズクに攻撃!」
トリックスターがダメージを与えたことで、ライトステージの効果が発動――。ブルーガールがトリックスターを操る度に何度も発動するライトステージ。このターンの間だけで何回ライトステージと言ったのかも数えたくない。
「ぐうっ……!」
ヴァンガード
LP 2500→2000→1800
「エンドフェイズ、ホーリーエンジェルの効果で上昇した攻撃力は元に戻る」
《トリックスター・ホーリーエンジェル》
攻2000→1600
シズクがサンドバッグとなってしまったが、次に繋がった。ヴァンガードのライフは残り半分を切ったが、この手札なら十分に巻き返せる。
「私のターン、ドロー!」
「相手の手札にカードが加わったことでマンジュシカの効果! 加わった枚数×200のダメージを与える! そしてライトステージの効果で追加の200ダメージよ!」
ヴァンガード
LP 1800→1600→1400
《トリックスター・ホーリーエンジェル》
攻1600→1800
「ぐっ……手札から閃刀術式-アフターバーナーを発動! この魔法カードは自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを破壊する。私が対象にするのはトリックスター・ホーリーエンジェル!」
ぐわん、とデュエルボードからバランスを崩して落ちそうになるがなんとか踏ん張る。
「その魔法は通させない! カウンター罠、魔宮の賄賂! アフターバーナーの発動を無効にして破壊、相手はデッキから1枚ドローする。そしてドローしたことでマンジュシカの効果が発動。さらにトリックスターモンスターがダメージを与えたことで、ライトステージの効果とホーリーブレッシングが発動するわ」
ヴァンガード
LP 1400→1200→1000
《トリックスター・ホーリーエンジェル》
攻1800→2000
魔宮の賄賂――魔法・罠の発動を無効にし破壊する万能なカウンター罠。相手にドローさせるデメリットもあるが、ブルーガールのフィールドにトリックスター・マンジュシカがいる。ドローのデメリットはバーンを発生させる切っ掛けとなる。
ヴァンガードの残りライフは1000。バーンへの対策が無ければほぼ詰みの状態だが――?
「先駆けとなれ、我が未来回路! 召喚条件は風属性以外の『閃刀姫』モンスター1体! 私は閃刀姫-シズクをリンクマーカーにセット! リンク召喚! 来たれ! リンク1、閃刀姫-ハヤテ!」
《閃刀姫-ハヤテ》
Link1/攻1500
【リンクマーカー:左下】
蒼から翠、シズクからハヤテへ。フィールドからシズクがいなくなった事で、シズクの効果で下がっていたトリックスター達の攻撃力と守備力は元に戻る。
《トリックスター・ホーリーエンジェル》
攻2000→2400
《トリックスター・マンジュシカ》
守800→1200
ヴァンガードの残り手札は3枚。対するブルーガールの手札はマンジュシカの効果で手札に戻したトリックスター・キャロベイン1枚のみ。セットカードが気になるが、問題はそれだけだ。
「召喚僧サモンプリーストを召喚! このカードは召喚に成功した場合守備表示になる!」
《召喚僧サモンプリースト》
星4/攻800→守1600
どっこらせ、と腰を気にしつつフィールドに座り込むサモンプリースト。
「手札から魔法カード1枚を捨ててサモンプリーストの効果発動。デッキからレベル4のモンスターを特殊召喚する。私はデッキからアステル・ドローンを特殊召喚!」
《アステル・ドローン》
星4/守1000
フィールドにはレベル4のモンスターが2体。閃刀姫-ハヤテのリンクマーカーは左下に――自分のメインモンスターゾーンに向いている。エクストラデッキからモンスターを呼び出すことは可能だが、そうした場合メインモンスターゾーンにモンスターが存在することになり閃刀魔法は使えなくなる。
現れるのはリンク3か、それともエクシーズか。ブルーガールは身構える。
「さあて始まるショータイム、何が起きても止まらない! 魔法使い族、レベル4の2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚! 皆様拍手でお迎えを! ランク4、
空中ブランコに掴まり、颯爽と現れた奇術師。ブランコの紐は彼の魔術に依るものなのか、淡い光を放っている。
《
ランク4/攻2500
「エクシーズ召喚を止めなかったってことは、召喚反応系のカードじゃない……っしゃ、セーフ! エクシーズ素材になったアステル・ドローンの効果で、デッキから1枚ドロー!」
残っているセットカードが何か分からないまま繰り出した起死回生の一手。もしトラピーズ・マジシャンの召喚を妨害されていたら、ヴァンガードに勝機は見えなかった。
「手札が増えたことで、マンジュシカの効果が発動! 200のバーンダメージを――」
マンジュシカが効果を使った……が、ダメージを与えられていない。びっくりした様子の天使を見た魔法使いはち、ち、ちと指をふる。
間違いない、この謎の現象はトラピーズ・マジシャンが引き起こしている。
「残念、
その説明はブルーガールにとっての死刑宣告に等しかった。何故ならば、
「なっ……それじゃあ!」
「もうトリックスターのバーンは私に届かないってこと! オーバーレイユニットを1つ取り除き、ハヤテを対象にトラピーズ・マジシャンの効果発動! このターン、ハヤテは2回攻撃できる!」
ステッキをハヤテの頭上で振るトラピーズ・マジシャン。ぽん、という愉快な音と明るい色の煙、カラフルな紙吹雪がハヤテの周りに漂う。
「バトル! ハヤテでブルーガールにダイレクトアタック!」
「!? 私のフィールドにはモンスターがいる、ダイレクトアタックは出来ない筈よ!」
そう、ブルーガールのフィールドにはトリックスター・ホーリーエンジェルとトリックスター・マンジュシカがいる。ダイレクトアタックは出来ない。だが、そのルールを潜り抜けられる効果を持つモンスターがデュエルモンスターズには存在する。
「ハヤテは自身の効果でダイレクトアタックが可能なモンスター! 懐に潜り込め、ハヤテ!」
ハヤテは速度に長けたモードの閃刀姫。トップスピードに達した彼女を誰も止めることはできない。トリックスターの合間をすり抜け、ブルーガールの正面に躍り出る。
「っ! 罠カード、トリックスター・カスケード発動! フィールドのマンジュシカを手札に戻して、その攻撃を無効にする!」
1回目の攻撃は無効化された。だが、まだハヤテの攻撃は残っている。
「ハヤテで2回目のダイレクトアタック! ダメージステップ、セットしていたリミッター解除を発動! ハヤテの攻撃力は3000にアップ! 決めろハヤテ、翠風一閃!」
ブルーガール
LP 5000→2000
「きゃああああーーっ!!」
攻撃力3000の2回攻撃。一瞬でライフを削り尽くすことのできる爆発力。これが閃刀姫だ。
攻撃を無効化できるカードを伏せていなければ、このターンでブルーガールは敗北していた。
「戦闘を行ったダメージ計算後、ハヤテの効果でデッキから閃刀魔法カードを墓地に送る。閃刀術式-ベクタードブラストを墓地へ。……トラピーズ・マジシャンの効果を受けたハヤテはバトルフェイズ終了時に破壊される。お疲れさま、ハヤテ」
フィールドに残ったのはトラピーズ・マジシャンのみ。相手の手札にトリックスター・キャロベインがいるためトラピーズ・マジシャンによる追撃はしなかった。
「くっ……私のターン、ドロー!」
トラピーズ・マジシャンがいる限り、トリックスター得意のバーン戦法は通じない。何とかして退かす必要がある。
「手札のキャロベインを自身の効果で特殊召喚! そしてマンジュシカの効果、フィールドのキャロベインを戻してマンジュシカを特殊召喚!」
ヴァンガードのライフは残り1000。あと5回トリックスターのバーンを決めれば勝てる。だが、奇術師の永続効果でヴァンガードは2500以下のダメージを受けない。あと少しが、遠い。
「フィールド魔法、トリックスター・ライブステージを発動! このカードの発動時、墓地のトリックスターモンスター1体を手札に加えることができる。墓地のキャンディナを手札に!」
トリックスター・ライブステージ。ソウルバーナーとのデュエルで投入されていたカードだ。ブルーエンジェルからブルーガールとなった彼女がデッキに入れた、トリックスターの新たな可能性を切り開くカード。
「トリックスター・キャンディナを通常召喚! 効果でデッキからトリックスター・フュージョンを手札に加える!」
手札に加えたのは融合魔法。だが、今いるフィールドのモンスターをそのまま素材にする訳ではない。トリックスター融合モンスターの素材を揃える為に、ライブステージは光輝く。
「ライブステージの効果でトリックスタートークンを特殊召喚!」
《トリックスタートークン》
星1/攻0
ライブステージから顔を出すのはドクロとハートを組み合わせたトークン。
「輝け! 勇気と決意のサーキット! 召喚条件はレベル2以下の『トリックスター』モンスター1体! 私はトリックスタートークンをリンクマーカーにセット! リンク召喚! 現れよ! リンク1、トリックスター・ブルム!」
《トリックスター・ブルム》
Link1/攻100
「トリックスター・ブルムの召喚に成功した時、相手はデッキから1枚ドローする」
ヴァンガードの手札はこれで3枚になってしまった。こればかりは必要経費と割り切るしかない。
トラピーズ・マジシャンを無理矢理にでも突破さえすれば、ヴァンガードに効果ダメージを打ち消す手段はなくなる。あと一歩で勝てるのだから。
「魔法カード、トリックスター・フュージョンを発動! フィールドのトリックスター・キャンディナとトリックスター・ブルムを融合! 聴かせてあげるわ、トリックスターが奏でる音楽を! 融合召喚! トリックスターバンド・ギタースイート!」
《トリックスターバンド・ギタースイート》
星7/攻2200
融合召喚されたのは、ギターを携えたクールビューティーなトリックスター。
「スキル発動、トリックスター・ギグ! 自分フィールドのトリックスターモンスターの数だけデッキの上からカードを墓地へ送る! トリックスターは全部で3体。よって3枚のカードを墓地へ! その後墓地からトリックスターカード1枚を手札に加える。私はトリックスター・リンカーネイションを手札に加えて、セット!」
トリックスター・リンカーネイション。相手の手札を全て除外し、除外した枚数分ドローさせる罠カードだ。そして、ブルーガールのフィールドにはトリックスター・マンジュシカ。この2つが揃ったことでどうなるのかが分からないデュエリストはいないだろう。
このターンであの奇術師を退ければ、マンジュシカの効果が通るようになる。未知の手札3枚を持つヴァンガードを確実に仕留められるように選んだカード。このデュエルを次のターンで終わらせる決意表明と見ていいだろう。
「バトル! トリックスター・ホーリーエンジェルで
ホーリーエンジェルの方が攻撃力は下。だがブルーガールの手札には、攻撃力の差をひっくり返せる手が――。
「ヴァンガードォオオオオォォオオッッッ!!!!」
「うおおおおい!?」
ぢゅいん、と何かが高速で左手の甲に擦れた。擦れた傷がじくじくと痛む。それと傷跡が何故かドス黒く染まっているんだけど気にしたら負け。
「ゔぇっ!? スペクター!?」
振り向くと、そこには般若もかくやといった表情のスペクター。
「なんで今来たの!? デュエルいい所だったのに!」
「ヴァンガードオォォッ!!」
「せめて会話のキャッチボールしよう!? どうせ私がゴーストガールと接触しようとしたの察知して来たんだろうけどさ!?」
個人的な依頼を頼みたかっただけなのに、どうしてこうなった。
あの謎攻撃は貫通力も高そうだった。このままだとブルーガールも巻き込まれてしまうだろう。それだけは避けなければならない。
「あーもーデュエル中断! いのちだいじに! じゃあね!」
「なっ、待ちなさ――」
レスキューアニマルをぶん投げフレンズしてブルーガールを強制ログアウト。どうやらハノイの騎士側もスペクターの暴走に気が付いたようで、連絡が入ったのかスペクターの動きが止まる。
「……なんだろう、すごい疲れた……」
ぎゃうー、ぎゅうー、とデュエルディスクから顔だけ出して心配そうに鳴くクラッキング・ドラゴン。大丈夫だよ、と伝えるために頭を撫でる。
『きゅ、ぎゅうー……』
「はぁ……デュエル、いい所だったのに……ログアウトしよ……」
しょんぼりしつつもログアウト操作を行う。
「失敗しました! 交渉することすら出来ませんでした! 申し訳ございません!」
ログアウトして即土下座。こんな経験があるのは全世界探しても私だけだろう。
「わぁ、なんて綺麗な土下座……じゃなくて! いや詩織ちゃんが悪いわけじゃないから立って立って!」
「……今回は、だがな」
イグニス達は慰めたいのか古傷をえぐりたいのか分からない言葉を投げかける。
「今回が駄目でもまた次があるだろう。ボーマン達も姿を見せる気配がない。ゴーストガールへの依頼は今度の機会でも間に合うはずだ」
全面協力してくれるのが遊作君しかいない。つらい。
「……なあ、あのデュエル」
「あのままデュエルが続いてたら、って? ……うーん、どうなるだろうねー。手札3枚のうちの一つ、実はさ」
あの時、手札に握られていた1枚は《星遺物-『星槍』》。
「星槍の効果はリンクモンスターが戦闘を行う時に発動できるから、キャロベインの効果で攻撃力上がったホーリーエンジェルでも返り討ちにできたワケ。……先にギタースイートで攻撃してきたら? まー、それはそれ。その後がどうなるかは分からないんだけどね」
デッキトップが何のカードだったのかは見ていない。分からないからこそのデュエルだ。
「私、横槍入れられるまでスキル使ってないからね。スキルでもまた状況は変わるだろうし……まあ、またデュエルする機会はあるでしょ。その時はその時で全力を尽くすだけだよ」
言い終わって、サムズアップ。
「……ところで、最初から気になっていたんだが」
「ん?」
それ、と指差すのは私の左手。ログアウトしてからずっと左手をいじっているのを彼等が見逃すはずなかった。
「ああ左手? フィードバックで感覚完全に死んでる」
「えっ」
無事な右手で左手をぐにぐにマッサージしているが触覚が死んでる。左手が全く動かない。原因は考えずともわかる。スペクターがぶっ放してきたアレだ。
かすっただけでこのざまだ。まともに喰らっていたらどうなったか想像もしたくない。
「スペクターの殺意本物すぎてつらい。たすけて」
この後リボルバー様にちゃんと補佐官を制御するように連絡入れました。
答えは37564。スペクター大暴走の巻でした。
嫌いな奴とブッコロしたい奴が揃ってたらそりゃまあ大暴走するよね。
デュエルの結末はどうなるのかって?どうなるんでしょうねえ(考えてない)
決着つかないデュエルは一度したかったんですが差し込む場面が見つからず……まだ平穏なこの場面になりました。ゆるして
キャロベインは『ダメステ開始〜ダメージ計算前』、星槍は『ダメージ計算時』に発動するぞ!覚えておこう!役にたつかもしれないぞ!
デニスとベクター(ドブラスト)夢の共演。トラピーズは一度使いたかったんで満足。ハヤテにリミ解からのトラピーズはロマン。普通なら出せないが架空デュエルならできる!
今後の展開ですが、アニメとの違いとしては光陣営が増えたり鬼塚が骨にならなかったりなどなどを予定しています。精霊界にも行くよ!
そして各作品要素が出てきてる中、あれ?と思った読者様もいらっしゃることでしょう。足りないじゃん、そう思いませんでしたか?
遊戯王DMからオシリス、GXから精霊界&カイバーマン、5d'sからエンフェ、ARC-Vからズァーク……ZEXAL要素ないじゃん!!!!そう思いませんでした?……魂のランクアップ……ヌ……ヌメ……ヌメコ……
まあそういうことです。
次回更新がいつになるかはわかりませんが、お待ちいただければ幸いです。
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鬼も角折る
あとアニメに沿っているとすると時系列がちょっとおかしくなるのですが、そこは気にしちゃいけないぜ!
プレイメーカーを超えたかった。だから奴に深く刻まれた事件、ロスト事件と同じようにデュエルを繰り返した。
負けた。負けた。負けた。負けた。負けた。負けた。負けた。負けた。負けた。勝った。負けた。勝った。勝った――。
勝ち星を数える暇はなかった。ただデュエルをし続けた。それだけだった。
「――最初から分かっていたさ。俺はプレイメーカーにはなれない」
男の口からそう言葉がこぼれたのは、SOLが開発した巨大なデュエルシミュレーターから解放されてすぐの事だった。
プレイメーカーを超えたいというプライドが、ロスト事件の擬似的な追体験を可能とするデュエルシミュレーターへと男を走らせた。強くならねばならないと自分に言い聞かせ続ける中――ある少女の顔が浮かんだ。
『ファンとして、個人的に鬼塚さんと戦わせたいデッキがあるんです。いや、駄目なら列車使いますけど』
ファン。……ファン? 誰の? 俺の。
普段使っている列車ではなく、
対して俺はどうだった? SOLに縛られ、プライドに縛られ、ほんの一欠片の勝利が欲しいとみっともなく手を伸ばし続けて。
――俺は本当にこうなりたかったのか? 違う。
――俺は自分のためだけにデュエルをしていたか? 違う!
――そうだ、俺は。俺は子供達の笑顔を守る為に戦っていた!
目が覚めた。……いや、この場合は周りを見れるようになった、と言うべきだろう。
前だけ見てなりふり構わず走り続けて、息も切れ切れようやく後ろを振り返った。
俺が走っていた道は、何もかもを捨てなければ走れない道なのだとようやく気がつけた。このまま走り続けたら、奈落の底へと落ちるか俺自身が擦り切れて無くなるかのどちらかしか無い。
確かに、道を間違えてしまったかもしれない。そんな俺でも、帰ってくるのを待っている人達がいる。行くべき場所が分かったのなら、あとはそこを目的に据え、もう一度走り直す。
――俺にはまだ、それが出来るのだから。
「プレイメーカーにソウルバーナー……あいつらは、ロスト事件の被害者達は生きるためのデュエルを強制され続けた。対して俺はどうだ? 俺は子供達を笑顔にするためにプロとして活躍し続けた」
そうして積み上げた評価は、たった数回のプレイメーカーのデュエルで脆く崩れ去った。
最初にあったのは怒り。俺の方が強い、とプライドが吠えた。張り合おうとした。今思い返せばそれがどれだけ愚かなことだったのかよく分かる。
「俺とあいつらは始まりが違う。ロスト事件まがいのデュエルを続けたところで、俺があいつらと同じ存在になれるはずがなかったんだ」
俺はプレイメーカーの焼き直しになんかなれない。それに、なんの捻りもない二番煎じは受けないと相場が決まっている。そんな単純なことに気が付かなかったとは、エンターテイナー失格だ。
「……クイーンさん、だったか? 俺に何を期待しているのかは分からないが、俺は俺だ。それとデュエルは強制されるものじゃない。あの悪趣味な機械は別のことに使ったほうがいいと俺は思うぜ」
SOLテクノロジーの開発したデュエルシミュレーターを悪趣味呼ばわり。それを聞いたクイーンの眉がピクリと動く。が、すぐに表情を元に戻し、クイーンは新たな商品を勧めようと口を開く。
「……貴方は勝利したくないのですか? 力が欲しくないのですか? 現在SOLテクノロジーが開発しているAIチップがあります。それを使えばプレイメーカーを」
「超えられる、ってか。……これ以上インチキ臭いモノには頼りたくないんでな、お断りさせてもらうぜ。俺は俺自身の力でプレイメーカーを越える」
AIチップを体内に埋め込み脳に作用させる――その使用法を彼は知らない筈だ。もし首を縦に振ったらどうなるかを本能的に察知したのだろうか。鬼塚はクイーンの誘いを断った。
たった一人のデュエリストが起こした波紋。それが鬼塚の運命を変えた。鬼塚はクイーンが思い描いていた策略から逃れようとしている。
「――待ちなさい!」
無理矢理にでも引き止めなければならない。開発途中のAIチップの実験台となり得るのは現在彼だけなのだから。
ブラッドシェパード――彼はAIを嫌っている。被検体になるはずがない。
今上詩織――論外だ。彼女はまだ学生。何かあれば警察沙汰になるのは確実だ。もし彼女に手出ししようものなら、優秀なバウンティハンターであるブラッドシェパードとGo鬼塚はSOLに愛想を尽かして出て行くだろう。
「私とデュエルしなさい! 雇い主の命令を聞けぬのならば実力でねじ伏せるまで!」
クイーンの切羽詰まった表情から出された声を聞いた鬼塚は立ち止まり、振り返る。
「……あれが命令? そうは聞こえなかったが……まあ、感情的になるってことはそっちにも何かあるんだろうな。――だが! 挑まれたデュエルは受けるが礼儀。そのデュエル、受けてたとう!」
双方デュエルディスクを構える。どうやらリンクヴレインズへログインする時間も惜しいらしい。この街では珍しい、現実世界でのスタンディングデュエルが始まろうとしていた。
「「デュエル!」」
クイーン
LP 4000
鬼塚豪
LP 4000
デュエルディスクが先攻を示したのはクイーン。
「私のターン! フィールド魔法、
《
星3/攻500
「
《
攻500→1000
クイーンが操るのは艶めかしい光を放つ2枚の魔法カードと、うら若き女王。クイーンのモンスターを見た鬼塚は落ち着いた様子で相手の戦術を分析する。
「成る程、レベルモンスターか」
デュエルの高速化が進む今、レベルモンスターを使用するデュエリストはかなり珍しい。相手の妨害によりレベルを上げる条件やタイミングなどを逃すことが多いからだ。
そんなレベルモンスターを操るクイーンのタクティクスは高いと見て良いだろう。鬼塚は気を引き締める。
「自分フィールドに『アリュール・クィーン』が召喚されたことで、
デッキから特殊召喚されたのは、クイーンが通常召喚したモンスターと同じく、
「……俺のフィールドに特殊召喚、だと?」
ダイナレスラーには、自分フィールド上にモンスターがいない時に特殊召喚できるモンスターがいる。それを利用し鬼塚の展開を封じるための行為かと思ったが、クイーンの狙いはそこではないようだ。
「
くるりと身を翻し、鬼塚のフィールドからクイーンのフィールドへ
「
《
星5/攻1000→1500
「
新たにクイーンのデッキから鬼塚のフィールドに特殊召喚される
「……成る程な。その魔法カードはレベルモンスターの欠点を補うカードか」
特殊召喚、自身のレベル以下のモンスターを装備、レベルアップ――。この展開を可能とするクイーンの魔法カードにはターン1の制限はない。
先程と同じような展開を繰り返し、
《
星7/攻1500→3500
「
《
攻3500→2000
《
攻500→1000
《
攻1000→1500
《
攻1500→2000
クイーンのフィールドに4体の
クイーンは、す、と手を空へ伸ばし――現れるのはリンクサーキット。
「現れなさい、力を導くサーキット! アローヘッド確認! 召喚条件は魔法使い族モンスター3体! 私は
《
Link 3/攻2500
【リンクマーカー:右/左/下】
サーキットから現れたのは金色の衣服を身にまとった女王。
「
リンク先にいるのは
《
攻2500→5000
「攻撃力5000だと!?」
滅多に見ることのできない数値に、流石の鬼塚も動揺を隠せない。
「更に
自慢げに効果の説明をするクイーン。
「(中々にやっかいな布陣だな……)」
攻撃対象となるモンスターを変更できる。それはつまり、攻撃力5000を突破しなければクイーンにダメージを与えられないという事になる。しかもこちらのモンスターを破壊されるオマケ付きで。
「私はこれでターンエンド。女王の前にはいかなる抵抗も無力だということを、たっぷりと教えてあげるわ」
この私が負けるはずなどない、と自信に満ち溢れるクイーン。
……デュエルにおいて、絶対は存在しない。それを誰よりもわかっているのが鬼塚という男だと、彼女は知らない。分かろうともしていない。プロとして活躍していた頃の逆境、逆転劇。それらを演出していた彼は、その状況下に誰よりも慣れている。
「俺のターン……ドロー!」
鬼塚はいつもと変わらぬ様子でカードを引く。
「手札から魔法カード、おろかな副葬を発動! この効果でデッキからワールド・ダイナ・レスリングを墓地へ送る。そして自分フィールドにモンスターが存在しないとき、こいつは手札から特殊召喚できる。来い、ダイナレスラー・コエロシラフィット!」
《ダイナレスラー・コエロシラフィット》
星2/守800
「相手フィールドのモンスターが自分フィールドのモンスターより多い場合、墓地のワールド・ダイナ・レスリングを除外し、デッキから『ダイナレスラー』モンスターを特殊召喚できる! 頼むぞ、ダイナレスラー・システゴ!」
《ダイナレスラー・システゴ》
星4/攻1900
「システゴの特殊召喚に成功した事で効果発動。デッキからワールド・ダイナ・レスリングを手札に加える。まだまだ行くぜ! 手札の恐竜族モンスターを墓地へ送り、ダイナレスラー・イグアノドラッカを手札から特殊召喚!」
《ダイナレスラー・イグアノドラッカ》
星6/攻2000
鬼塚は慣れた様子で、特殊召喚のみで一気にモンスターを3体並べる。
「現れろ、不屈のサーキット! 召喚条件は『ダイナレスラー』モンスター2体! 俺はコエロシラフィットとイグアノドラッカをリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク2、ダイナレスラー・テラ・パルクリオ!」
《ダイナレスラー・テラ・パルクリオ》
Link 2/攻1000
【リンクマーカー:上/左】
新たに現れたのはリンク2のダイナレスラー。攻撃力が心許ないが、その分強力な効果を備えている。
「フィールド魔法、ワールド・ダイナ・レスリングを発動! そしてワールド・ダイナ・レスリングを発動したことで、テラ・パルクリオの効果が発動! 墓地のダイナレスラー・コエロシラフィットを手札に加える」
フィールドに現れたのは彼らの試合場。テラ・パルクリオが墓地から……いや、場外にいたチームメイトを引き上げ、手札へと戻す。
「再び現れろ、不屈のサーキット! 俺はテラ・パルクリオとシステゴをリンクマーカーにセット! リンク召喚! 現れろ! リンク3、ダイナレスラー・キング・T・レックス!」
《ダイナレスラー・キング・T・レックス》
Link 3/攻3000
【リンクマーカー:左下/右下/下】
絶対王者、ここにあり――そう示すかのようにキング・T・レックスは吠える。
「リンク素材となったテラ・パルクリオの効果発動! 墓地の『ダイナレスラー』モンスターを守備表示で特殊召喚する。甦れ、ダイナレスラー・イグアノドラッカ!」
《ダイナレスラー・イグアノドラッカ》
星6/守0
「手札のコエロシラフィットを通常召喚し――行くぞ! レベル6のダイナレスラー・イグアノドラッカに、レベル2のダイナレスラー・コエロシラフィットをチューニング! 屈強なる太古の王者よ、全ての敵を蹴散らせ! シンクロ召喚! 現れよ! レベル8、ダイナレスラー・ギガ・スピノサバット!」
《ダイナレスラー・ギガ・スピノサバット》
星8/攻3000
ダイナレスラーの中では比較的スラリとした、足技に特化した恐竜レスラー。白きレスラーはフィールドに降り立つと数回軽く飛び跳ね、コンディションを確かめる。
「ダイナレスラー・ギガ・スピノサバットの効果! 1ターンに1度、相手フィールドのモンスター1体を対象とし、そのモンスターを破壊する! 俺が対象にするのは
ダイナレスラー・ギガ・スピノサバットが指を指し指名したのは
「無駄よ!
ひらりと身を翻し蹴りを回避する女王。無礼者め、と顔をしかめた
――女王に楯突こうとした愚か者、ダイナレスラー・ギガ・スピノサバット。
「スピノサバットを選んでくれてありがとうよ! ダイナレスラー・ギガ・スピノサバットの効果! このカードが破壊される場合、代わりに自分フィールドのカード1枚を破壊できる。俺はワールド・ダイナ・レスリングを破壊する!」
スピノサバット、飛ぶ! 身代わりとなったフィールドは雷により真っ黒に焦げ、使い物にはならない。
「魔法カード、テールスイング! このカードは自分フィールド上に表側表示で存在するレベル5以上の恐竜族モンスター1体を選択して発動する。相手フィールド上に存在する裏側表示モンスター、または選択した恐竜族モンスターのレベル未満のモンスターを合計2体まで選択し、持ち主の手札に戻す。この効果でお前のフィールドの
しまった、と顔に焦りが見えたクイーンに対し、鬼塚はニヤリとした笑みを見せる。
「私の絶対たる女王の布陣を崩して……そんな……馬鹿な……!」
は、とフィールドを確認する。
「――クイーン。デュエルに絶対、なんてものは存在しない。あるのはデュエリストの実力だけだ! 魔法カード、シンクロキャンセルを発動!」
ダイナレスラー・ギガ・スピノサバットの破壊効果は1ターンに1度。――だが、『このカード名』とは縛られていない。
新たにシンクロ召喚し直したダイナレスラー・ギガ・スピノサバットが、効果で
「あ、ああ、あ――」
「行け、ギガ・スピノサバット! ギガサバットストライク!」
クイーン
LP 4000→1000
「嘘、嘘よっ! 私、が、負ける……!?」
「これで終いだ! ダイナレスラー・キング・T・レックスでダイレクトアタック! ジュラシック・バスター!」
王者は、女王へ向けてその拳を――。
――ぴたり、と寸止め。拳を少し緩め……ぴん、と軽いデコピンを攻撃の代わりとした。
クイーン
LP 1000→0
クイーンはその場に座り込み、放心状態。クイーンが話のできる状態ではないと鬼塚は判断し、その場を去った。
「――どうして、どうして、どうしてッ!」
深夜、自室にて八つ当たりを繰り返すクイーンの姿があった。
「我がSOLテクノロジーは、頂点とならねばならない! その為にはどのような犠牲が起きようと構わない! それをどうして分かろうとしないの!!」
クイーンから見れば、この会社は愚か者の集まりだ。
財前を筆頭に、人道的などといったくだらない事を掲げる者。甘い汁を吸えればいいだけの者。そして、何も疑わずクイーンの命令を実行する者。
だからこそ、私が支配しなければならない。私を絶対とした、永遠の王国を築き――。
『――成る程。どのような犠牲が起きようと、か。君とは気が合いそうだな』
「っ!? 誰!?」
音源は明滅を繰り返すテレビ。最高ランクのセキュリティが敷かれているクイーンの自室にハッキングしてくるとなると、よほどのハッカーでなければ不可能。未知の存在の技術力に怯えながらも、クイーンはそれを見せまいと強気に振る舞う。
「姿を見せなさい、曲者――」
『良い友達になろうじゃないか――SOLテクノロジー。我々はその技術が欲しいんだ』
光が、クイーンを飲み込んだ。
「ええ…………了解しました。全ては」
ライトニング様の為に。
( ◇ ◇)<わたライトニングこそが一番優れたイグニス。ライトニング超絶有能ドルベ無能
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砲撃のシングル・トレイン!
前話までのストーリー忘れてる人もいるんじゃないかと思うほど期間が開いてしまい……デュエルを考えて書く時間が……とれない……!
今回のデュエル、禁止カード使っているところあるのですが許してください……ヴの2次創作なのにあいつの活躍がないままなのは可哀想だなあと思ってしまったので……悪用したソリティアはしてないのでユルシテ……。
いつもと変わらずそこそこの営業を続けるカフェ・ナギ。お得意様になりつつある穂村君は今日もコーヒーとホットドッグを注文して席に座っている。
「あ、ブラッドシェパードがプレイメーカーを罠にかけるから私の都合のいい日教えてって連絡きてたんだけどさ、皆は何時がいい?」
「んぶっふ!?」
飲んでいたコーヒーがよろしくない場所に入ってしまったようでごほげほとむせる。
「おま、お前な!!」
「いやだってコレ言わなかったらさ、それはそれで問題でしょ」
「確かにそれはそうなのだが……」
デュエルディスクから顔を見せる不霊夢も微妙な表情だ。
「はー……なんで私こんなことしてんだろうねぇ……」
「俺が知るかよ」
喉の調子はひとまず落ち着いたのか、穂村君はまたコーヒーを飲みだす。
「ん、その時はサブウェイマスターとして戦うことになるわけなんだけどさ。デュエルで手を抜いたらすぐブラッドシェパードにバレるだろうし……まあ元々手を抜くつもりなんてないんだけど」
「負けるわけないだろ。俺も、プレイメーカーも」
「あ、いや、気にしてるのはそこじゃなくて情報アドバンテージの事」
私たちが行うデュエルは敵に見られているのは確実。デッキにどんなカードが入れられているのか、どう回すのか。来たる決戦までに知られれば知られるほど、私達の負ける可能性は上昇する。
「敵に情報を流しすぎず勝つのが最善、という訳だな」
「そそ、そゆこと」
「全力でデッキを回すのは控えろ、って訳か……随分な注文だな」
「いや私だって今回はかなり危険な橋渡るからね? 手を抜きすぎて負けを狙ってるのがブラッドシェパードにバレたら芋づる式に皆の正体も……だからさあ」
サブウェイマスターとしての使用デッキは列車。高火力で相手を上から叩き潰す事に特化したデッキだ。それに対して全力を出すな、とはとんでもないことを言っている自覚はある。
それに、その姿勢を徹底しすぎたら相手もすぐに気付くだろう。程よく新しいカードを見せつつ、だが戦法は隠しつつ……難易度はウルトラハード通り越してインフェルノな気もするが、なんとかするしかない。
「それに! 遊作君には一発逆転のスキルがあるからまだマシだと思うよ?」
「ストームアクセスの事か? だが」
まずデッキ構築としてスキルの使用を前提にしているわけでは無い、のだが……と、遊作君はそう言いたげな顔をしている。
「列車デッキを相手にして手に入れられるリンクモンスター、なんて絶対リンク3か4の主力級の筈だしさ。プレイメーカーはこれからの戦いに向けて力をつけないといけないんだから。私からのプレゼントみたいなものだよ」
「随分物騒なプレゼントだこと……おー怖」
Aiはワザとらしく恐怖に震える演技をしている、が遊作君に無視されている。
今回のデュエルを乗り越えたのならば、列車達の純粋な攻撃力を返り討ちにする、そんな優秀な効果……言い方を変えれば脳筋なモンスターが手に入るに違いない。
打点のあるモンスターは持っていて損はない。遊作君のデッキのパワー不足を解決するには丁度いいデュエルになるだろう。……うん、丁度よく……出来るのかなぁ?
それは、かつての鬼塚と同じ剛鬼デッキを使用するバウンティハンター二人を難なく返り討ちにした後の事だった。
――ピリリリリリリーーーーッ!
「な、なんだなんだ?」
場違いな笛の音が辺りに響く。誰がこの音を起こしているのか、と周囲を見渡すAi。
「――お初にお目にかかります、プレイメーカー様」
「何者だ」
「私、サブウェイマスターと申します」
男は胸に手を当てながら返答する。
――慇懃無礼な鉄道員、サブウェイマスター。まっすぐにこちらを見抜くその目が、顔が、彼が自分たちの敵であることをより強調させている。
「(あら〜、随分演技が上手だこと)」
「(余計なことは言うなよ)」
「(へいへい、分かってますってプレイメーカー様)」
互いに中身が分かっていての演技は精神的にくるものがあるだろうが……そこはまあ、耐えろとしかいう他ない。だが、それが気にならないほどにプレイメーカーとAiは張り詰めている。普段と違う空気を痛いぐらいに感じている。本当に中身が同じなのか、と叫びたくなるほどに。
ああ、これが『仕事』をする時の今上詩織なのだ、と理解する。ハノイの騎士によって磨かれてしまったモノの一つ。
「SOLテクノロジーのバウンティハンターを務めている……と言えばお分かりになりますでしょうか」
「ああ、これ以上ないぐらいだ」
あいつは現実でデッキを回すのをできるだけ控えろ、と言ったが……それに対しての返答は不可能だ、とプレイメーカーは結論付けた。
少しでも隙を見せたのならば敗北する。隙を見せずとも力による制圧を行う。それが『サブウェイマスター』のデュエルなのだから。
互いに構える。互いの全力を出すだけのデュエルが、今、始まろうとしていた。
「「スピードデュエル!」」
プレイメーカー
LP 4000
サブウェイマスター
LP 4000
「私の先攻ですね……では、深夜急行騎士ナイト・エクスプレス・ナイトを自身の効果によりリリースなしで通常召喚致します。また、この方法で召喚したことにより深夜急行騎士ナイト・エクスプレス・ナイトの元々の攻撃力は0になります」
《深夜急行騎士ナイト・エクスプレス・ナイト》
星10/攻3000→0
「自分フィールドのモンスターが機械族・地属性モンスターのみの場合、このカードは手札から特殊召喚が可能! 来なさい、弾丸特急バレット・ライナー!」
《弾丸特急バレット・ライナー》
星10/攻3000
「レベル10のモンスターを2体、しかも1ターンで揃えやがったー!?」
こちらの戦法を知っているはずのAiがわたわたしている。確かに、巨大なモンスター2体に睨まれているこの状況は心理的なプレッシャーがかかる。だが、慌てている理由はそれだけではない。
「レベル10のモンスター2体でオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚! 出発進行! 超弩級砲塔列車グスタフ・マックス!」
《超弩級砲塔列車グスタフ・マックス》
ランク10/攻3000
プレイメーカーから見て右側のエクストラモンスターゾーンに呼び出されたのは、どこからともなく現れた線路の上を走る超弩級砲塔列車。
「あああ……あのおっかねーバーンと攻撃力してる奴だ……」
わざとなのか本心なのかはわからないが怯えているAi。忘れるはずもない。そう、このモンスターは……ヴァンガードが使い、ビットブート戦でその恐ろしさをありありと伝えたモンスターなのだから。
「オーバーレイユニットを1つ使い、グスタフ・マックスの効果発動! 2000のダメージを受けてもらいます!」
こちらを向いた砲塔から発射された砲弾を避ける余裕など無く、プレイメーカーに着弾し――爆発する。
「ぐっ、ううぅっ!」
プレイメーカー
LP 4000→2000
「こっちのターンが来る前にライフが半分になっちまったー!? ど、どどどどうするんだよプレイメーカー!」
「カードを1枚セットしてターンエンド。さあ、貴方のターンです」
極めて冷静に、確実にするべき事をする。デュエルとは究極、それを繰り返す戦い。プレイメーカーだってそれは理解している。だからこそ、彼の……彼女の隠す期待に。『プレイメーカーならば負けるはずがない』という信頼に応えなければいけない!
「っ、俺のターン、ドロー! 手札より魔法カード、ワン・フォー・ワンを発動! 手札のレイテンシを墓地に送り、デッキからドングルドングリを特殊召喚!」
《ドングルドングリ》
星1/守0
「ドングルドングリの効果! このカードが特殊召喚に成功した場合、自分フィールドにドングルトークンを1体特殊召喚する!」
《ドングルトークン》
星1/守0
「手札より永続魔法、サイバネット・コーデックを発動!」
「えぇ!? それもう使っちゃうの!?」
毎日の楽しみのドラマを我慢しつつAiちゃんが夜なべして作ってくれた――Aiが言うにはそうらしい――コード・トーカー達を強化するとっておきもとっておきのカード。それを初見せする場がまさかここになろうとはAiは考えてもいなかった。
「現れろ、未来を導くサーキット! 召喚条件は効果モンスター2体! 俺はフィールドのドングルドングリと
「手札からリンク素材に!?」
この瞬間、デュエルで初めてサブウェイマスターの顔に驚愕が浮かぶ。
「あーもう、それまで使っちゃうのかよ……そうとも! コード・ジェネレーターはなあ! あるモンスターのリンク素材になる時限定で手札からもリンク素材になれるめちゃんこすっごいカードなんだぜ!」
もう仕方がないと割り切ったのか、えっへんと胸を張って説明を始めるAi。『プレイメーカーが使う、あるモンスターのリンク素材』……そこまで来たならばもう答えを言っているようなものだ。
「――リンク召喚! リンク2、コード・トーカー!」
《コード・トーカー》
Link2/攻1300
【リンクマーカー:上/下】
フィールドに現れたのはデコード・トーカーに似ている……が、リンク数も見た目も小さいモンスター。
「『コード・トーカー』モンスターがエクストラデッキから特殊召喚されたことで、サイバネット・コーデックの効果をコード・トーカーを対象に発動する! そのモンスターと同じ属性のサイバース族モンスター1体をデッキから手札に加える。コード・トーカーの属性は闇、よってデッキから闇属性のマイクロ・コーダーを手札に加える!」
デッキから手札へとカードを加え、その滑らかな動きのままに――プレイメーカーは高らかに効果の発動を宣言する。
「『コード・トーカー』モンスターのリンク素材として墓地へ送られたことで、コード・ジェネレーターの更なる効果を発動する!」
「その効果、聞いて驚くなよ〜? ……えーっと、このカードが『コード・トーカー』モンスターのリンク素材として手札・フィールドから墓地へ送られた場合に発動できる。デッキから攻撃力1200以下のサイバース族モンスター1体を墓地へ送る。……ってえことは……どうなるの?」
カードのテキストを確認しながら読み上げ終わったAiもプレイメーカーの真似をしてポーズを決めて……首をかしげる。
「俺はこの効果でデッキからドットスケーパーを墓地に送る。そして墓地に送られたことでドットスケーパーの効果が発動! このカードを特殊召喚する!」
《ドットスケーパー》
星1/守2100
「現れろ、未来を導くサーキット! 召喚条件はサイバース族モンスター2体以上! 俺はドングルトークン、ドットスケーパー、手札のマイクロ・コーダーをリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク3、シューティングコード・トーカー!」
《シューティングコード・トーカー》
Link3/攻2300
【リンクマーカー:上/左/下】
コード・トーカーの真下へと召喚されたのは、ボーマンとの戦いで入手したサイバース。
「サイバネット・コーデックの効果が再び発動! シューティングコード・トーカーは水属性。よって水属性のサイバース族モンスター、シーアーカイバーをデッキから手札に加える。また、マイクロ・コーダーの効果でデッキからサイバネット・デフラグを手札に加える」
「成る程……手札の消耗を抑えつつ展開の補助をする、良いカード達ですね」
褒める、という行為をしているが……これは余裕があるのではなく、サブウェイマスターを、と言うよりは列車デッキを使用している時の癖が出ているだけだ。その証拠として使えるかは分からないが、彼の声に煽りの意は全く含まれていない。純粋に凄い、とそう思っているのだ。
「コード・トーカーは自身の効果により、攻撃力はこのカードのリンク先のモンスターの数×500アップする。また、このカードのリンク先にモンスターが存在する限り、このカードは戦闘及び相手の効果では破壊されない。現在、コード・トーカーのリンク先にはシューティングコード・トーカーが相互リンク状態となっている。よってコード・トーカーの攻撃力は500上昇し、戦闘及び効果では破壊されない!」
《コード・トーカー》
攻1300→1800
少し厄介な耐性を得るコード・トーカー。元々の攻撃力が低いため、壁としては使いにくいが……破壊耐性で場に残りやすいため、次へ繋げるのに丁度いい効果だ。
「ROMクラウディアを通常召喚。召喚に成功した事で効果発動、墓地のサイバース族モンスターを手札に加える。俺が選ぶのはレイテンシ! 更にレイテンシの効果で自身を特殊召喚!」
《ROMクラウディア》
星4/攻1800
《レイテンシ》
星1/守0
「現れろ、未来を導くサーキット! 召喚条件は効果モンスター2体以上! シューティングコード・トーカーとROMクラウディア、レイテンシをリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク3、トランスコード・トーカー!」
《トランスコード・トーカー》
Link3/攻2300
【リンクマーカー:上/右/下】
新たにリンク召喚されたのは、かつて彼がリボルバーと行ったハノイの塔でのスピードデュエルによって手に入れたモンスター。
そして『コード・トーカー』モンスターがエクストラデッキから特殊召喚されたことでまた、サイバネット・コーデックの効果が発動する。プレイメーカーが手札に加えたのは地属性のスレッショルドボーグ。
「自身の効果で特殊召喚したレイテンシがリンク素材として墓地へ送られたことで1枚ドロー! シーアーカイバーが手札に存在し、フィールドのリンクモンスターのリンク先にモンスターが召喚・特殊召喚されたことでシーアーカイバーの効果を発動、このカードを特殊召喚する! この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される」
《シーアーカイバー》
星3/守2100
「トランスコード・トーカーの効果! 自分の墓地のリンク3以下のサイバース族リンクモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターをこのカードのリンク先となる自分フィールドに特殊召喚する! 甦れ、シューティングコード・トーカー!」
トランスコード・トーカーの右隣に蘇るのは先程リンク素材として墓地に送られたシューティングコード・トーカー。
そして、トランスコード・トーカーにはもう一つ、厄介な永続効果が存在する。
「このカードが相互リンク状態の場合、このカード及びこのカードの相互リンク先のモンスターの攻撃力は500アップし、相手の効果の対象にならない。現在トランスコード・トーカーと相互リンクしているのはコード・トーカー、よって――」
《コード・トーカー》
攻1800→2300
《トランスコード・トーカー》
攻2300→2800
「……成る程、その組み合わせは少々厄介ですね」
す、と目を細める。トランスコード・トーカーの相互リンクを解くためにはコード・トーカーを排除しなければならない、が……相互リンク時の効果を受けているコード・トーカーは戦闘、効果では破壊されず、また効果の対象にもならない状態だ。
「現れろ、未来を導くサーキット! アローヘッド確認! 召喚条件はモンスター2体以上! 俺はシューティングコード・トーカーとシーアーカイバーをリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! リンク召喚! リンク4――ファイアウォール・ドラゴン!」
《ファイアウォール・ドラゴン》
Link4/攻2500
【リンクマーカー:上/左/右/下】
満を持して現れる、プレイメーカーのエースモンスター。
「トランスコード・トーカーと相互リンク状態となっているファイアウォール・ドラゴンは攻撃力が500上昇する!」
《ファイアウォール・ドラゴン》
攻2500→3000
高らかに咆哮する鉄壁の守護竜。
「装備魔法、サイバネット・デフラグを墓地のレイテンシを対象に発動する。レイテンシを守備表示で特殊召喚し、このカードを装備する。 レイテンシを素材にし、行くぞ――リンク召喚! リンク1、リンクリボー! リンクリボーを素材にもう一度、リンク召喚! 来い、セキュア・ガードナー!」
「なんと、これは――また」
《コード・トーカー》
Link2/攻1300→1800→2300
《トランスコード・トーカー》
Link3/攻2300→2800
《ファイアウォール・ドラゴン》
Link4/攻2500→3000
《セキュア・ガードナー》
Link1/攻1000
【リンクマーカー:右】
コード・トーカーとトランスコード・トーカー、トランスコード・トーカーとファイアウォール・ドラゴンは相互リンク状態。
スピードデュエルでここまでの盤面を拝めるとは思っていなかった。というよりも……ここまでプレイメーカーがすると思っていなかった、の方が正しい。
万が一に備えてのセキュア・ガードナーまで出してきている時点でガチガチに勝ちを取りに来ているのが丸わかりだ。
「(サブウェイマスターを、というよりは私をここまでしなければ確実な勝利が得られない相手と見られている、んだよね。うーん嬉しいやら恥ずかしいやら)」
「ファイアウォール・ドラゴンの効果! このカードがフィールドに表側表示で存在する限り1度だけ、このカードと相互リンクしているモンスターの数まで、自分または相手の、フィールド・墓地のモンスターを対象として発動できる。そのモンスターを持ち主の手札に戻す。俺が選ぶのは――超弩級砲塔列車グスタフ・マックス!」
前世では飽きる程見ていたファイアウォール・ドラゴンの効果の一つ。あちらでは数多のデュエリストが使っていたために禁止カードとなっていたがこちらでは違う。プレイメーカーただ一人しか使うデュエリストがいないのだから。禁止カードになどなるはずもない。
「エマージェンシー・エスケープ!」
「――グスタフ・マックス……」
エクストラデッキへと戻るそれを止める手段は今のサブウェイマスターには存在しない。
「魔法カード、七星の宝刀を発動。手札のレベル7モンスター、スレッショルドボーグを除外しデッキから2枚ドロー」
「お待ちを。七星の宝刀にチェーンして罠カード、威嚇する咆哮を発動。これでこのターン、貴方は攻撃宣言を行えません」
「っ……そうきたか。カードを2枚セットしてターンエンドだ」
プレイメーカーは相手へターンを渡さず、一気に攻めての1ターンキルをしたかったのだろうが……そうはさせないとばかりに発動した威嚇する咆哮。その発動を無効にするカードはプレイメーカーの手札の中にはない。
次のサブウェイマスターのターンでまた超弩級砲塔列車グスタフ・マックスを呼び出し、効果を使えば勝利か? いいや違う。セキュア・ガードナーには1ターンに1度戦闘・効果ダメージを無効にする効果がある。
……でも、それだけだ。その程度ならば簡単に乗り越えられる。
フィールドにモンスターはおらず、セットカードもなし。手札は1枚のみ。そんな状態でも、ドローしたカード1枚で全てがひっくり返る。それがデュエルなのだから。
「私のターン、ドロー!」
ドローしたカードを見る。手札にあるカードを見る。未だ使用していないスキルを確認する。
「ええ、すでに終着駅は見えています――プレイメーカー、あなたの敗北という終着駅が!」
サブウェイマスターはそう言い放ち、不敵に笑っていた。
(アニメなら一枚絵入ってEDへな感じ)
と言うわけで剛鬼使うバウンティハンター二人を倒した後、サブウェイマスターがやって来た感じなお話でした。まだ続くんじゃ
まだ2ターン目終わったところって嘘やろ……?な文章量。サイバースわからないなりに回したけど大丈夫なんだろうか。不安。
デュエル後半戦も構成は出来上がっているので今度はそう待たせない……ように……したい(願望)
ミスってたら?そりゃまあ……考えたくないです
追記:リンク素材数間違いについてのミスですが、これはコード・ラジエーターをコード・ジェネレーターへ変更し効果でドットスケーパーを墓地へ落とし……とした結果、展開ルートは前後しましたがなんか最終盤面変わりませんでした。サイバースこわい
修正案を出してくださった方、本当にありがとうございました!
なお文字だと分かりにくいプレイメーカーの盤面はこんな感じ
コ
⇅
ト⇄フ→セ
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新たなるLink4
微妙にガチカード使ってるだろ?これ、本当は仲間同士のデュエルなんだぜ……?
プレイメーカー
LP 2000 手札0
モンスター
コード・トーカー Link2 ATK1300→1800→2300 【リンクマーカー:上/下】
トランスコード・トーカー Link3 ATK2300→2800 【リンクマーカー:上/右/下】
ファイアウォール・ドラゴン Link4 ATK2500→3000【リンクマーカー:上/右/左/下】
セキュア・ガードナー Link1
ATK1000 【リンクマーカー:右】
魔法・罠 伏せカード2枚
永続魔法 サイバネット・コーデック
サブウェイマスター
LP 4000 手札1→2
「私のターン――さて、終わらせましょうか」
サブウェイマスターはそう宣言する。
「なーにが終わらせるだ! そっちのフィールドは空っぽ、プレイメーカー様のフィールドにはこーんなにモンスターがいるんだぜ」
こーんなに、と言うと同時に腕を広げるAi。確かにスピードデュエルでリンクモンスターを4体展開するその実力は素晴らしいとしか言う他ない。
「多いから強い、ですか。それはデュエルにおいて絶対ではありません。何よりも突出した一つがあれば、全てを薙ぎ倒せるのですから――爆走軌道フライング・ペガサスを召喚。このモンスターが召喚・特殊召喚に成功したことで効果発動。『爆走軌道フライング・ペガサス』以外の自分の墓地の機械族・地属性モンスター1体を対象とし、そのモンスターを効果を無効にして守備表示で特殊召喚いたします。蘇りなさい、弾丸特急バレット・ライナー!」
《爆走軌道フライング・ペガサス》
星4/攻1800
《弾丸特急バレット・ライナー》
星10/守0
「うわー!? またモンスターが2体揃っ……あれ、レベルが同じじゃない……ってことはあのおっかなーいモンスターは出てこないってことじゃん!」
ばんざーい、と両手を上げようとして――、
「黙れAi。その程度の問題、あいつが分かっていないとでも思っているのか?」
「え゛っ、でも、エクシーズ召喚ってレベルが同じじゃないとできないんじゃ」
「ええ、その通り。エクシーズ召喚はレベルが同じモンスターを必要とする召喚法。ですがプレイメーカー様はどうやらお気付きのご様子で……では、そのご期待に応えましょう! 私は爆走軌道フライング・ペガサスの第2の効果を使わさせて頂きます。このカード以外の自分フィールドの表側表示モンスター1体を対象とし、そのモンスターとこのカードのレベルは、その内の1体のレベルと同じになります。また、この効果を発動するターン、私はエクシーズモンスターでしか攻撃宣言できません」
「えーと、あっちはレベルが4。こっちはレベルが10……ぎゃーっ!? ってぇことは!」
「この効果で私が対象とするのはレベル10の弾丸特急バレット・ライナー! 当然、レベルは10へと統一!」
《爆走軌道フライング・ペガサス》
星4→10
サブウェイマスターのフィールドに、再びレベル10のモンスターが2体並び立つ。
「レベル10のモンスター2体でオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚! 出発進行! 超弩級砲塔列車グスタフ・マックス!」
《超弩級砲塔列車グスタフ・マックス》
ランク10/攻3000
エクシーズ素材を揃え、エクシーズ召喚を行い、ダメージを与える。何度も同じことを繰り返す。……それは馬鹿の一つ覚えなどではない。そこに一欠片も無駄はなく、故にこそ強者足り得る力がある。
「オーバーレイユニットを1つ使い、グスタフ・マックスの効果発動! 2000のダメージを受けてもらいます!」
「セキュア・ガードナーの効果! そのダメージを無効にする!」
グスタフ・マックスが放った砲弾はセキュア・ガードナーの盾に防がれ、プレイメーカーへとダメージは与えられなかった。……だが、ダメージを無効にする効果は使わせることができた。
「これで戦闘ダメージが通るようになりましたね。ふむ……その伏せカードは恐らくダメージを軽減するようなカードでしょう。――ならばこそ、それすらもねじ伏せる圧倒的な力を持って粉砕するのみ!」
列車の主力となるモンスターはランク10。だがそれだけではない。ランク10のエクシーズモンスターを素材として現れるランク11のモンスターも存在していることを、決して忘れてはならないのだ。
「ランク10、超弩級砲塔列車グスタフ・マックス1体でオーバーレイネットワークを再構築!」
グスタフ・マックスは光となり、銀河のような渦へと吸い込まれ――力が、爆ぜる。
「人の恋路を邪魔するもの皆、鉄の馬にて粉砕されよ! 出発進行! ランク11! 超弩級砲塔列車ジャガーノート・リーベ!」
グスタフ・マックスよりひと回りもふた回りも大きな車体。より近代的になった装甲。巨大な主砲と複数の副砲を構え、それは姿を現した。
《超弩級砲塔列車ジャガーノート・リーベ》
ランク11/攻4000
「うぎゃー!? なんかさっきのモンスターよりもっとやばそうなのがでたー!?」
「ランク11……!」
普段のデュエルでは目にする事などないランク11のモンスター。
ランク10のグスタフ・マックスを素材として現れたジャガーノート・リーベ。このモンスターが更に恐ろしい効果を持っていることなど、デュエリストでなくとも分かるだろう。
「オーバーレイユニットを一つ使い効果発動、この効果により、ジャガーノート・リーベの攻撃力・守備力は2000上昇します。この効果の使用後、私はこのモンスターでしか攻撃宣言を行えません」
《超弩級砲塔列車ジャガーノート・リーベ》
攻4000→6000
「このカードは1度のバトルフェイズ中にこのカードのエクシーズ素材の数+1回までモンスターに攻撃できる。現在のオーバーレイユニットの数は1つ、よってモンスターへ2回攻撃することが可能!」
段々と出力を上げていくジャガーノート・リーベ。
「攻撃力6000で2回攻撃って……とんでもなくヤバイってプレイメーカー様ー!」
「分かっている。罠カード発動! リンク・キャンセル!」
プレイメーカーが伏せていたカードの内、1枚が発動される。
「リンクモンスターのみを素材としてリンク召喚したフィールドのリンクモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを持ち主のエクストラデッキに戻す。その後、エクストラデッキに戻したそのモンスターのリンク召喚に使用したリンク素材モンスター一組が自分の墓地に揃っていれば、その一組を自分フィールドに特殊召喚できる。俺はセキュア・ガードナーを対象としてこの効果を使う!」
前のターン、プレイメーカーはサイバネット・デフラグでレイテンシを蘇らせ、そのレイテンシを素材としリンクリボー、セキュア・ガードナーへと繋げていた。
「……成る程、セキュア・ガードナーを呼ぶためにリンクリボーを経由したのはこのためですか」
セキュア・ガードナーと入れ替わるようにしてリンクリボーがフィールドに現れる。
《リンクリボー》
Link1/攻300
【リンクマーカー:下】
「頼んだぜリンクリボー!」
『クリッ! クリクリンクー!』
まん丸お目目に力を入れ、超弩級砲塔列車をきっと睨みつけるリンクリボー。
「ならば大丈夫ですね、バトル! ジャガーノート・リーベでリンクリボーを攻撃!」
「へっへーん! 馬鹿め、リンクリボーにはなあ、相手モンスターの攻撃力を0にする効果があるってのによう!」
「相手モンスターの攻撃宣言時、リンクリボーをリリースして効果、発ど――」
「――速攻魔法、墓穴の指名者」
「………………何?」
サブウェイマスターの持つ、最後の手札1枚。その速攻魔法の発動は死刑宣告のように淡々と告げられた。
「相手の墓地のモンスター1体を対象として発動、そのモンスターを除外する。そして次のターンの終了時まで、この効果で除外したモンスター及びそのモンスターと元々のカード名が同じモンスターの効果は無効化される」
『……クリッ!? クリー! クリクリンクー!』
「ああっ!? リンクリボー!」
謎の緑色の手にゴムボールのように鷲掴みにされ、ぽーいと投げられ……除外されるリンクリボー。
流石のプレイメーカーといえどこれは予想外だったらしい。焦りが見え始める。
「くっ……」
「このターンの始めに私は言ったはずですよ。――
サブウェイマスターとして。本気で。プレイメーカーを倒しにかかる。ということはつまり、そういう事なのだ。
「さて、モンスターの数が変化したことで戦闘の巻き戻しが発生します。ジャガーノート・リーベでトランスコード・トーカーを攻撃!」
「まだだ! 罠カード、ハーフorストップ発動!」
発動されるプレイメーカーもう1枚の伏せカード。
「この罠は相手が効果を選択して適用する。バトルフェイズ終了時まで、お前のフィールド上に存在する全てのモンスターの攻撃力は半分になるか、バトルフェイズを終了するか。……さあ、どちらを選ぶ」
そう尋ねたところで、相手が選ぶ効果が変わるわけではない。
「では私は『バトルフェイズ終了時まで、自分のフィールドに存在する全てのモンスターの攻撃力は半分になる』を選択しましょう。これによりジャガーノート・リーベの攻撃力は3000へと下がります」
《超弩級砲塔列車ジャガーノート・リーベ》
攻6000→3000
「それでもこっちのモンスターより攻撃力が上になるのかよぉ……」
うへえ、とげんなりするAi。
「それでは今度こそ――バトル! ジャガーノート・リーベでトランスコード・トーカーを攻撃!」
トランスコード・トーカーがジャガーノート・リーベからの砲撃を迎撃しようと試みるが、あえなく失敗に終わる。
プレイメーカー
LP 2000→1800
「ぐううぅっ……!」
「相互リンク状態が解除されたことで、コード・トーカー及びトランスコード・トーカーの効果が消え、あなたのフィールドのモンスター達の攻撃力は元へ戻る」
《コード・トーカー》
攻2300→1300
《ファイアウォール・ドラゴン》
攻3000→2500
「2回目の攻撃! ジャガーノート・リーベ、コード・トーカーを攻撃しなさい!」
砲撃をせずとも、その質量は武器足り得る。なんの変哲もない体当たりも凶器へと変わるのだ。コード・トーカーは争うすべもなく鋼鉄の車体に吹き飛ばされた。
プレイメーカー
LP 1800→100
「ぐ、っあああぁぁああ!」
残りライフ100まで追い込まれ、フィールドに残っているのは使える効果がないファイアウォール・ドラゴンのみ。
「バトルフェイズ終了、エンドフェイズへ。ハーフorストップの効果は終了しジャガーノート・リーベの攻撃力は4000に。ここまで来たならばもはや勝ち目はないも同然。プレイメーカー、サレンダーしなさい」
「勝ち目がない? いいや、勝ち目はまだある」
本当はサレンダーしろだなんて思ってないだろうに。このデュエルにおいて、敵として立ちはだかろうとする彼女なりの親切心で言い放ったのだろう。さあ、この状況を乗り越えてみせろ、と。
「俺の、ターン――ドローッ!」
ドローしたカードは――《悪夢再び》。
「(このカードなら――十分に勝ち目がある!)」
現在のライフポイントは1000以下。これで、条件は満たされた。
「スキル発動! ストームアクセス!」
データストーム内のリンクモンスターをランダムに1枚エクストラデッキに加える、プレイメーカーの象徴とも呼べるスキルを発動し……呼応するかのようにデータストームが現れる。
轟々と吹き荒れるデータストームの中へとプレイメーカーはためらいなく突入した。
「来たぜ来たぜでっけえのが! ここまでのデータストームはそうそうお目にかかれないからな、気を引き締めろよプレイメーカー!」
「ああ、わかっている」
モンスターの影がデータストームに映り、消え、また現れる。サイバースの息吹を感じる。
一際大きな存在目掛けて手を伸ばす。
「うおおおぉぉおぉっ――!」
カードを掴もうとして、気付く。
違う。
フレームの色が
これは、リンクモンスターではない。
「な、なんだよこれ!? こんなことあるはずがねえよ! ストームアクセスで手に入るのは、リンクモンスターだけのはずだろ!?」
スキル、ストームアクセスの本来の持ち主であるAiも、この有り得ない状況に困惑している。
『深刻なエラーが発生しました』
『深刻なエラーが発生しました』
『どうすればいい?』
『解決方法を検索――』
『判明、承認』
「誰の声だ!?」
「わかんねえよー!」
何かの干渉を受けているのは間違いない。だが、スキルの使用を止めるわけにはいかない。
『――そうか。世界の危機、か。また、僕の力が必要なんだね』
『分離成功。星神器、再構築。機能の復活を開始します』
掴もうとしていたカードがばちん、と二つに弾けた。一つはプレイメーカーに、もう一つは――。
「なっ」
サブウェイマスターの元へと。
「今、のは……」
データストームが収まり、再び戦場へと戻ってきたプレイメーカー。
先程の出来事は幻覚でも白昼夢でもない。確かにストームアクセスは成功している、と手の中のリンクモンスターが証明している。サブウェイマスターもデュエルディスクに目をやりつつ、ぱちぱちと目を瞬かせていたがすぐにその表情を引き締める。
「魔法カード、悪夢再びを発動! 自分の墓地の守備力0の闇属性モンスター2体を対象として発動できる。その闇属性モンスターを手札に加える。俺は墓地のROMクラウディアとマイクロ・コーダーを手札に加える」
ここで手札を回復できるカードを引いたのは流石、としか言いようがない。
「ROMクラウディアを通常召喚!」
メエエ、と可愛らしく鳴く羊。効果で墓地のレイテンシを手札に加え、レイテンシは自身の効果で特殊召喚され……と、先程も見た動きでフィールドに2体のモンスターが現れる。
《ROMクラウディア》
星4/攻1800
《レイテンシ》
星1/守0
「現れろ、未来を導くサーキット! アローヘッド確認、召喚条件は効果モンスター2体以上! 俺はROMクラウディア、レイテンシ、手札のマイクロ・コーダーをリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! リンク召喚! リンク3、デコード・トーカー!」
それは、彼等が初めてスピードデュエルで手に入れたモンスター。青い鎧に身を包み、剣を携えた騎士がフィールドに降り立つ。
《デコード・トーカー》
Link3/攻2300
【リンクマーカー:上/左下/右下】
「デコード・トーカーの攻撃力は、このカードのリンク先のモンスターの数×500アップする。リンク先にいるのはファイアウォール・ドラゴン1体、よって攻撃力は500アップする! パワーインテグレーション!」
《デコード・トーカー》
攻2300→2800
折角のエースモンスターだが、攻撃力はジャガーノート・リーベには届かない。
「リンク素材となったレイテンシの効果で1枚ドロー。また、マイクロ・コーダーが『コード・トーカー』モンスターのリンク素材となったことでデッキからサイバネット・リフレッシュを手札に加える。更に、サイバネット・コーデックの効果で闇属性サイバース族モンスターであるドラコネットを手札に」
「……ふむ、抗いますか。ですが私のジャガーノート・リーベの攻撃力は4000! どのようなモンスターが来ても超えられるものではない!」
攻撃力4000のインパクトに目を奪われてしまうが、手札もセットカードもないため妨害手段がない。何か一つするだけで簡単に崩せる盤面なのが難点。
多分そこを突いてくるだろうなあ、と心の中で思いつつも表情は変化させない匠の技を見せるサブウェイマスター。
「行くぞ――これが俺の新たな力! 現れろ、未来を導くサーキット! アローヘッド確認! 召喚条件はエクストラデッキから特殊召喚されたモンスター2体以上! 俺はデコード・トーカーとファイアウォール・ドラゴンをリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン!」
空に現れたサーキットへと2体のサイバースが吸い込まれていく。デコード・トーカーが3体分のリンク素材に、ファイアウォール・ドラゴンは1体分の素材に。その合計は――。
「リンク……4!?」
リンク4、それは切札と呼ぶにふさわしい効果とステータスを備えたリンクモンスター。そして、プレイメーカーが所持しているリンク4はファイアウォール・ドラゴンのみ。
つまり、今から現れるモンスターが彼がストームアクセスで入手したサイバースという事になる。
「リンク召喚! リンク4、
「(あれは。あの、モンスターは)」
その顔に、見覚えがあった。
星杯に選ばれた者。妖精に導かれ、苦難の戦いを続け、大切な者を失う悲劇を越えてなお戦い続けた戦士。
星杯剣士アウラムではない。
”星明かりの勇者 掲げし剣に光を束ね 大いなる闇を討ち祓わん”
最後の戦いに向けての姿、なのだろう。髪の色は溢れる力からか、晴れ澄んだ空を思わせる蒼色へと変化している。
《
Link4/攻3000
【リンクマーカー:左/右/左下/右下】
「バトルだ!
「攻撃力はそちらの方が下! プレイメーカー、一体何をするつもりで……迎え打て、ジャガーノート・リーベ!」
ぐおん、と全ての砲塔がアストラムに照準を合わせる。
「速攻魔法、虚栄巨影! モンスターの攻撃宣言時、フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの攻撃力は、そのバトルフェイズ終了時まで1000アップする!」
《
攻3000→4000
「それがレイテンシの効果でドローしたカードでしたか。ですがそれでも私を倒すことはできない!」
「アストラムの効果! 特殊召喚されたモンスターと戦闘を行うダメージ計算時に1度、発動できる。このカードの攻撃力はそのダメージ計算時のみ、その相手モンスターの攻撃力分アップする!」
「なっ……」
それは、特殊召喚されたモンスターとの戦闘なら必ず攻撃力を上回る、ということだ。超弩級砲塔列車ジャガーノート・リーベはエクシーズモンスター。当然、特殊召喚されたモンスターだ。よってアストラムは自身の効果で攻撃力を上げる。
その攻撃力の合計は。
《
攻4000→8000
「攻撃力……8000……!」
砲撃の雨を斬り伏せるアストラム。はああっ、と気合を入れた斬撃が飛ぶ。
一刀両断。アストラムの一撃で真っ二つになったジャガーノート・リーベは切断面から爆発し、その爆風でサブウェイマスターは吹き飛ばされた。
「ぐあああぁぁあああ――っ!」
サブウェイマスター
LP 4000→0
あまりの攻撃の強さからビルの壁面へ衝突する。受身は取れず、衝撃からアバターにノイズが走る。
「ぐっ……」
全身を引き裂くような痛み。完全に癒えていない左手は一際痛みが強く、反射的に抑える。デュエル中はデュエリストの闘争本能からか痛みは全く感じていなかったが、デュエルが終われば話は別だ。
ソウルバーナーを捉えていたプログラムが崩壊していく。ブラッドシェパードは敗北した、のだろうか。それとも脱出プログラムによってデュエルが中断されたのか? どちらにせよ、これ以上戦うのは不可能だ。
「ぐっ……ブラボー! 素晴らしいデュエルでした、プレイメーカー。ですが、次こそは――!」
ここから離れている場所へとブラッドシェパードから招集をかけられている。反省会議でもするのだろうか。要請を承認し、サブウェイマスターは戦線から離脱した。
「……邪魔をするなと言ったはずだ」
「負けそうだったのはどこの誰かしら?」
転移してすぐに見えたのは苛立ちをあらわにするブラッドシェパードと、その後ろに立つゴーストガール。
「ぐっ、はぁ、っ……負けてしまいました。申し、訳……」
「サブウェイマスター」
今にも膝から崩れ落ちそうな姿を見た彼が何かを投げ渡す。
「アバター修復プログラムだ、使え」
ブラッドシェパード特製のプログラムだろう、すぐに痛みが引いていく。
「有難うございます。ですが、私はデュエルに負けて……」
「気にするな。奴らの使用するカードの情報が引き出せただけで上出来だ」
「意外ね、そこまで気にかけるなんて……ふーん? 貴方、私が思っていたほど冷たい男じゃないのかもね」
「黙れ」
右腕を構える。既に攻撃の充填は完了している。
「俺の邪魔をするならお前も敵だ。ゴーストガール!」
「あら怖い怖い。それじゃ、私はこれで退散するとしますか」
ああそれと、とわざとらしい前置きをしつつウインクをする。
「未来ある
そう最後に告げ、ゴーストガールはログアウトしていった。
「…………なんと」
「チッ……エマめ、既に調べていたか」
まだヴァンガードだとバレていないのでギリセーフ判定……いやリアル事情知られてたらアウトだよ。学生バレしてるよ。流石にリア凸はしてこないと思いたい。けどカフェ・ナギにお客さんとして来る可能性は充分にある。
「個人情報保護法、とは一体……」
というより、さっきゴーストガールのリアル名をブラッドシェパードの口から聞いたような。気にしたら負けなのだろうか。
「しかしあそこまでしてもヴァンガードは来なかった、か……。何か仕掛けているのか? 気をつけておけ。奴がリンクヴレインズに現れる時、毎回事件を起こしていくからな」
……うーんこのよろしくない方面への安定と信頼と実績のヴァンガード。正体を知らない人に真正面から言われるってとても複雑な気持ちだあ。
「は、はい……」
サブウェイマスター、改め今上詩織はその言葉に対して生返事をするしかなかった。
(悪夢再び使ってますが名前そのものについて意味は)ないです
(ブラシェパルートも)ないです
お兄ちゃんモード発動してるだけだからね!仕方ないね!
お前もしかしてストームアクセスのカード入手してるんじゃないか?よりも怪我の方に目がいってるのでお兄ちゃんの目は意外とガバい。けどヴァンガードについて考える余裕はある謎のガバ。
不審者が来店する可能性も高まるカフェ・ナギの将来が心配です。
というわけでアストラム君とデミウルギア君が参戦!
詳しくはまた今度。
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人間、精霊、サイバース
ごめんなさいマスターガイドの情報が衝撃的すぎてカードイラストで書かれてないところで色々やってたとかそんな事分からないよKONAMI。感想としてはガラテアちゃん可愛い。
今回の話から捏造設定濃度が急上昇するから注意して下さい。
「っはー! たく、あのブラッドシェパードって野郎許さねえぞ! 勝手に人の記憶を覗きやがって!」
「その……私にはどんな罠なのかは詳しくは知らされてなかったから、うん。あー……手が痛い……」
「今上を責めているわけではないと思うぞ」
ログアウトして帰ってきた三人を迎える。なお今上用のログインルームはカフェ・ナギには無いので、彼女だけ椅子に座ったままInto the VRAINSしていたりする。
「お疲れ様、皆」
テーブルの上にはカップが3つ。この匂いはコーヒーだろう。湯気が立っているところから、つい先ほど用意したものだとわかる。
『……あれ? あの人は本当は仲間だったのか?』
「ああそうだぜ」
「待て。Ai、誰に話しかけている」
「え、誰って……あれ、さっきの知らない声だったような……どちら様?」
頭にはてなを浮かべたAiがあれれーおかしいぞーと声を出した何者かの気配を探る。
『僕だよ、ほらここ!』
声が聞こえる方へ向くと、カフェ・ナギの天井近くでフワフワと浮かんでいるアストラムの姿が見える。大きさがデュエルを行なっていた時よりふた回りほど小さくなっているが、カフェ・ナギの広さを考慮してのものだろう。
「…………見えないのに声だけが聞こえる……」
「お、おおおおお化けか!? なんでこう嫌なことは連続して起きるんだよ!!」
「ついに遊作君にも精霊がついたかー、そっかー……」
『ぎゃう。ごしゅじーん、こっちの中にもなんか変なの増えてるよぅ……』
『至極快適、良好物件。優勝』
「……何を言ってるんだ皆? 俺には何も聞こえていないんだが……」
反応をまとめると声が聞こえるのが遊作君と尊君、Aiに不霊夢。何もわかってないのが草薙さん。で、声も聞こえるし姿もバッチリ見えてるのは私だけ、ということは。
「サイバース族の精霊だから変にアンテナに引っかかってるのかなあ」
『う、そうかもしれない。大人しくカードができるまで待っていた方が良かったかなあ』
ストームアクセスで手に入れたカードは出力すると現実世界でカードとして物質化する、という特性がある。実物のカードができていないのに精霊が存在しているというのも妙な話だが、まあ星遺物関係ならそういうこともあるのだろう。
「……今上は見えているのか?」
一番落ち着いていて、かつ声の主人を理解しているようなそぶりを見せる私に遊作君が問いかける。
「かなりはっきり。皆のは幻聴じゃなくてリンクセンスのせいだと思うよ」
「リンクセンス……? ああ、初めて不霊夢と会った時と同じ感じか……?」
「……うむ。尊、よくわからないものに対して取り敢えずお化けというのはやめたほうがいいと思うぞ」
『え、見えない人がいる? おかしいなあ……そうだ、そこのデュエルディスクにいる君達! 君達は端末世界から来た精霊なんじゃないのかい?』
「うへ、声だけ聞こえてくるのってすっげー変な感じだな……端末世界ってあれだろ? 詩織チャンが知ってるアレ。俺はなーんにも知らないケド、不霊夢は?」
「私も知らないな。しかし、精霊? 我等イグニスはそんなものになった覚えはないが」
『あれ、おかしいな……君達から端末世界っぽい感じの力を感じてるんだけど』
話は平行線で進展は見られない。互いの情報が足りないからだろうか――そう思った直後、ちかちか、と詩織が身につけているデュエルディスクが点滅する。
『まさかアストラムが来るとはな……仕方あるまい。俺が出る。退け』
『はぁ!? ここは科学文明での生活経験がある私の方がいいと思うんだけど! ねえ聞いてるシスコン騎士サマ!?』
『誰がシスコンだ黙れ羽虫……あの事を伝えればいいんだろう? なら俺でも問題ない』
『ふぎゃう!? 勝手に出たらだめだよ!? 皆我慢してるのに、ってあー! あーっ!』
「え、ちょっと何起きてるのクラッキング・ドラゴ――ぶぁっ」
何かが持っていかれる感覚。突然電源が切られたかのように全身の力が入らなくなり、詩織はべしょっと机に突っ伏す。振動で机上のコーヒーが少し溢れた。
「これは……!?」
「――来る」
リンクセンスを持つ者達は何かの来訪を感じ取る。本来ならば現実世界に現れるはずのないもの。
空気が揺れる。彼女の隣に、
『――端末世界はもう捨てられた。そうだろう、アストラム』
『……ああ、そうだ。そうだったね。ディンギルス……すまない。呼び出された影響なのか、まだ記憶がまだ整理できていないんだ』
誰の目にもはっきりと見えるその姿は、まごう事なき
それが、見えない何者かと会話している。
「お化けが増えたっ!?」
「く、クラー……」
『ぎゃう……もしもしー? そっち同士は分かってるかもしれないけど、人間はついていけてないから説明しないとダメなんじゃないかなー、ってご主人が心の中で抗議してる』
『…………はっ。しまった、彼女の
『ディンギルス……』
この戦友、基本スペックはとても高いのだが……緊急事態に面すると自分にとって大切なものを最優先として行動してしまい、他の事がすっぽ抜けるという視野の狭さも持ち合わせている。――そのせいで、かつて手に負えないような事態を招いた事もある。
あちゃあ、と困ったように頭を手で押さえるアストラム。いや、実際一番話が通じる人が戦友の実体化によって倒れてしまい困っているのだが。
『まあ後で回復するだろう、大丈夫だ。そう負担はかけない』
『ぎゅぎゅう、今ご主人倒れて動けてないからなにもよくないと思うんだけど、負担しかないと思うんだけどー。ちょっと、聞いてるー?』
『……。この世界で何がどう伝わっていったのかは知らんが、スピードデュエルは元々端末世界の……デュエルターミナルのものだ。お前達が思っているよりも歴史は深い』
無視されたと地味に傷ついているクラッキング・ドラゴンを気にせず語り出すディンギルス。
「……いきなり出てきてこいつ、何言ってるんだ? データストームとデュエルボードがないとスピードデュエルはできないはず、だろ? 俺たちイグニスがいなきゃ出来ないものだ。それが歴史がどうとかーって変な事言って騙そうとしてるんじゃないだろうな」
Aiがデータストームを解放した事で大衆はスピードデュエルの存在を認知した。それまでスピードデュエルとは本当に存在するのか定かではない、噂だけのものだった。
Aiを人質にしてから初めてのプレイメーカーの相手となったハノイの騎士は前からスピードデュエルを知っているような事を言っていたが、それはハノイの騎士が行なっていたサイバース狩りによってスピードデュエルに関する知識を得ていたから……の筈だ。
『イグニスが生み出すデータストームは必要ない。始まりのスピードデュエルはこちらの世界へ一時的にアクセスできる設備さえあれば誰でもできるものだった。それと、今の時代のように電脳世界へ精神ごと潜るものではない。……考えてもみろ、お前たちのしているスピードデュエルは転落を防止する柵も何もないんだぞ。あまりにも安全性に欠けている。なんでこんな危険なものとしてスピードデュエルを流行らせたのか理解に苦しむ』
「…………ウン、危険性については何も言えねぇです。ハイ」
電脳世界で受けたダメージが現実世界に戻った時、一部反映されるという仕様はリンクヴレインズが稼働して以来修正されていない。もう一つの現実を目指して作られた電脳世界。痛みが、危険があるからこそ、現実たり得る――という考えでもあるのだろうか。
「……じ、じゃあどうしてそっちのスピードデュエルは無くなったんだ?」
穂村尊が問いかけたそれは至極真っ当な疑問。お化けショックが抜けていないのか言葉には少し怯えが見られる。
『人が来なくなった。それだけの事だ。どんなものでもいつかは廃れ、忘れられていく。残ったのは名前だけだ』
この世界では端末世界の物語は殆ど知られていない。が、モンスター達の人気は変わらない。たとえ背景に何があったのかを知らずとも、決闘者達を無意識のうちに惹きつける魅力が彼らにはあった。
――でも、それだけだ。それだけでしかなかった。
『人の手が入らない里山は里山とは呼べないだろう? 端末世界も同じだった。人間が来ないとモンスター達が生活する場所としての維持は不可能に近い。……限界はすぐにやってきた』
日が経つごとに端末世界は精霊達が過ごすには適さなくなっていった。環境は安定せず、昼と夜は混ざり、空間が軋み、時間は淀み。
『皆は思い出と共に消えることよりも、新たな可能性を求めた。そして精霊界へと移住した。――だが。サイバース族だけはどうしても行くことはできなかった。駄目だったんだ』
サイバース、と聞き皆の表情が変わる。
『その頃のサイバース族はごくごく限られたものしかおらず、また特殊な力を持つものたちの集まりでもあった。サイバースは電脳世界でこそ真の力を発揮する。彼らのみが残るならば、端末世界は限界には近いが維持できるとの計算結果が出た……それと同時に、これから世界へと訪れる危機の予測も。その二つを行う為に端末世界のサイバースは機能だけを残し、意識は
――この世にサイバースが満ちるまで。
「待て、その言い方だとまるで……お前たちはイグニスが現れることを、イグニスを巡って戦いが起きる事を知っていたとでも言うのか」
『――神子の託宣だ。それ以上は言わん』
忘れるはずのない彼女の名。思わず口にしそうだったそれは口の中で咬み殺す。口に出すとまた離れていってしまうような気がしたから。
「で、結局何が言いたい訳よ」
最初は腕組みをして話を聞いていたが途中から飽き始めていたAiが話のまとめを要求する。
『ここからが重要な事になる。サイバース世界とは君達が0から作り上げたものか?』
「それ、は……違うな」
「ああ、確かそのはずだ」
ロスト事件が終わり、ハノイの手から6体のイグニスが逃れた。あの時はとにかく時間が惜しかった。悠長にしていればまた奴らがやってきて、イグニスを皆殺しにくるのは間違いない。焦っていた。
そんな中、見つけたのだ。大量のデータを。
「俺達は誰も使ってない大量のデータを加工してサイバース世界を作った……けど、それがどうしたっていうんだよ」
『――まさか! ってご主人言ってるよ』
騎士はこくり、と頷く。
『やはり理解が早いな、詩織。そう――人々から忘れられ、遺棄されていた世界を、君達は見つけた。それは広大であり、様々な環境の元が存在していた』
アストラムが顔を上げる。
『ディンギルス! ああ、そうだった! なんでこんな事を、僕は忘れて』
『やっと思い出したか、アストラム。アストラムが精霊と誤認したのも仕方がない……あの世界には神がいた。思うままに創造と破壊を繰り返す我儘な神が、な』
『……それ、は』
『気にするな。あれはとても、お前らしい選択だったと俺は思う。……話を戻すぞ。俺たちの世界での神の力は影響を受けたものに微弱ながら引っ付くというはた迷惑なものだ。神の力の残滓が――友と過ごした記憶が、あの懐かしい風が、吹いていたのだろうな。お前達が作ったサイバース世界にも』
「…………おいおい」
「冗談、ではなさそうだな」
データストームが吹いていたサイバース世界と、過去、端末世界で戦乱が起きるごとに吹いた神風。
……風。世界に残っていた記憶。データストームとは、それをイグニスなりに再利用した故の産物だろう。
『世界は繋がっている。それが偶然か必然かの判断はできんがな。それを一番知っているのはお前だろう? 詩織…………あ、返事はできないか。……すまん、無理をさせすぎた』
『サイバース世界はかつての端末世界――これはサイバース世界に関する者達へ知らさねばならない事だ。人間とイグニスだけの問題ではなく、精霊も絡んでいる、とな。理解はできなくとも認識はしておけ』
知る機会は皆無に等しいが、知らなかったでは済まされない。
『――全くもう、話が長いわよシスコン。前から思ってたけど、やっぱりアンタ他人に説明するの下手よね?』
デュエルディスクから聞こえる声に急かされる。
『……最後に。今起きている戦い、もしこちらが負けたならば文字通り世界が終わると知れ。敵が人間を殺し始めたら終わりは加速する』
そう言い残し、騎士はその姿を消す。
「…………消えた」
「夢、だったのだろうか」
余りにも非現実的な出来事に出会った時、イグニスも人間と同じように思考を放棄したくなるらしい。
「いいや、違う」
遊作の手の中には一枚のカード。それは先程まで出力途中だった、ストームアクセスで手に入れた物。そして詩織の隣にも、サイバース族のカードがあった。
―― 歴史が繰り返されるのなら、伝説もまた蘇る。悠久の彼方より、闇を打ち払うため『星の勇者』がここに来た。これから更に戦いは激しくなる。僕の持てる力の全てを君に捧げよう。
――大いなる闇、破壊の力。我が破壊の力を振るうのは滅びを齎すためではなく、創世を齎すため。人界、精霊界、サイバース世界……三界揃いてこの世は成れり。一つたりとも欠けてはならぬ。三つを用い、三つを救え。
ニーサン、話が上手だったら星遺物の物語はそこまで拗れなかったと思うんだ。
そろそろオシリスの充電期間は終わる……終わるはず!
Q.どうして敵が人間を殺し始めたら世界が終わるんですか?
A.世界が終わるという事です……は冗談として。
本作では他遊戯王作品要素が混ざっている事を皆様理解して頂いてると思うのですが、そこに化学文明に染まっているため精霊が出てこれないという捏造設定が混ざりまして。赤き龍とか名前に三の付く神々とかは基本来れません。
オシリスが主人公の下に来れたのは『精霊と神の存在真面目に信じてる』&『名も無きファラオの名前知ってる』ブーストが起こした奇跡です。
つまりオカルト案件に対処できる人間がおっそろしいほどいない。そして対処できるモンスター達は信仰が無いため基本出てこれない、その力を十全に使うことすらできない。
そして遊戯王世界にはいますよね。信仰があろうとなかろうと5000年の時が来たら人間の魂を生贄に復活する神々が。
地上で沢山コロコロされた魂が放置されてたら勿体ないからね、無駄にしないために神様モグモグしちゃうよね!
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認知
聖天樹「OCGになりました」
寝かせれば寝かせるほど遊戯王2次創作って良くなるんだなあ……。
――あの日。ハノイの塔が崩れ去ったあの日から我々は一艘のクルーザーの中でずっと過ごしていた。大きな変化が起こることのない狭い空間だ、異常にはすぐに気がつく。
「どうしたスペクター。……スペクター?」
何もない天井を見上げて動かなくなった副官、という異常。今思えば、これはまだ異変の始まりにしかすぎなかった。
「――おかあ、さん?」
それは彼にとって特別な名詞。目を期待に輝かせ、手を伸ばし、掴むような動作をして。
「詩織さんの所へ行きましょう。今すぐ」
「待て」
ヴァンガード改め今上詩織の話題となると修羅もかくやといった表情を浮かべていた筈の男とは思えない、こう、なんというべきか……そう。これ以上ないほどの爽やかな笑顔だった。
あの事件から長く生活を共にしているが、こんなきらきらしい表情は見たことがない。精神が別人にすげ変わったと言われる方が納得がいくが、そんな非現実的なことが目の前で起きるはずはない。だが…………。
「…………ヴァンガードへ連絡するか」
これは恐らく専門家であろう彼女へ頼む連絡であって丸投げではない。と自分へ言い聞かせながら番号を打ち込んだ。
ところ変わってカフェ・ナギ、スターライトロード前出店。いつどこで会おう、という要点だけしかない連絡をし、返答を待たず即切るというこちらにとても迷惑な約束を了見はしていった。声がどことなく疲れているようだったので向こうで何かあったのだろう。
「突然に予定を組まれるとはな」
「もしかするとこの動揺を利用して私が取り付けた停戦協定の主導権を向こうが握ろうとしてたりしウゥワッッ!?」
さっきから遠くの方でわさわさ動いているでっかいものがあるなあと思ったら聖天樹に愛の抱擁触手ぐるぐる巻きスペクター様がこっちに来る姿だった。こわい。聖天樹は根っこを器用に使い地面を歩いている。動けたのかとかいうツッコミはできない。だってこわい。当人は顔を見るまでもなく幸せオーラをまき散らしている。すごいこわい。
「何を見……」
「うわあ」
「ええ……」
硬直。視界からの情報を処理しきれなくなってフリーズしたのか、皆身動き一つしなくなってしまった。それほどきれいなスペクター様ショックは大きかったのだ。
よく見れば足取りもふわふわしている。初めてのデートに向かう乙女のようだ。性別は男だけど。
その隣で呆れるような疲れたような……まあ、何とも言えない表情をした了見は詩織を一瞥して一言。
「何をした」
「そちらで何があったのかは知りませんけども、どうして私が犯人として確定されてるんですかね?」
「このようなことを為せるのはお前しかいないだろう」
「なんだろうこの信頼、嬉しいのか嬉しくないのか自分でも分からなくなってくる」
「いやいや嬉しくはないだろ」
ツッコミ係、穂村尊の復帰が一番早かった。ロスト事件に対する恨み辛みのパワー、元凶の息子が目の前にいるという2点がいち早い再起動に役立ったのだろう。この恨み晴らさでおくべきか初対面顔面ストレートしなかったのはまだきれいなスペクターを脳内で処理しきれていないからだと思われる。顔面ストレートはこのまま勢いで忘れてくれると今後的にとても助かります。
「ああ、よかった。本当によかった」
スペクターが詩織へと近寄る。ふわふわしながらもきゅう、と両手を包み込むように優しく握った。君も僕のファンになったのかな……じゃないし感覚死にかけの左手へのとどめでもない。スペクター様がこんな事をするなんて何かがおかしい。この人は殺意すら忘れるほどの理由がないとこの乙女チック行動は絶対にしない。
「なぁにこれぇ」
「詩織さん、是非とも
「え?」
その単語を知っているということは精霊と会話ができた、ということで。困惑から素面に戻る。こちらの思案を知ってかしらずか、スペクターは言葉で思考を断ち切っていく。
「それが終わってから貴方を殺します」
「Why目の前で殺害予告!?」
『ぎゃうー! それは駄目!! ……わぁ、元パパさんだぁ初めましてー』
ミニサイズになったクラッキング・ドラゴンがデュエルディスクから出てくると同時にべしーん、とスペクターに体当たり。その後くるくると了見の周りを泳ぐようにして、ぎゃうーぎゅうーと高めの声で鳴く。
「……
『それはもちろん、元々住んでいた所の元とー、作ってくれたからパパなの。でも今はご主人ちの子! ぎゃう』
自信満々、しっぽをぴこぴこぶんぶん。
「あ、これに関しては今はそんなに関係ないので流しておいて下さい」
「この現象はそう簡単に流していいものなわけないだろうが!」
「うわー、すごい納得しかしない反応」
これが啀み合いしかしてこなかったイグニスとハノイの騎士の歴史的快挙、『Aiと了見初の意見一致』の瞬間である。
『あっそうだそうだ、向こうからのお知らせあったの!』
クラッキング・ドラゴンの声と重なるようにデュエルディスクが震える。
『あー! 話を振るのが遅い! まったくもう、話下手限界集落の相手とかしたくないんだけど。今起きてる戦い、精霊も他人事じゃないでしょ? あんた達を助ける備えとして精霊界側にサーバー作ろうってことになったのよ』
『で、言い出しっぺの羽虫も巻き込まれた訳だ』
『ぼ……っんん、私たちTGではカバーできない範囲もあるのでな。原型を作ることはできるがそちらへの接続が上手くいく保証がなかった。そこで他所からの手をいくらか借りている』
『素材ハ
『魔術系列技術支援ということでウィッチクラフトもおるぞ〜。こんな面白そうなこと、蚊帳の外でいてたまるものか!』
『あら? ヴェール、今日の仕事は』
『………………逃走じゃー!』
『仕事から逃げないで! 待ちなさい! それと堂々とサボタージュするのもやめなさい!』
『はぁ……アホらしい。というか、私の専門何か分かってコレやらせてるの? あんたら』
『しんせかいのかみイム?』
『惜しいぞイムドゥーク、後ろに(笑)を付けるのを忘れている』
『ちょっとアルマドゥーク? 何を吹き込もうと……やめなさい! よだれがー! あー! あー――』
……いつもより騒がしいけども精霊達が(一部を除いて)平和で何よりだ。なお了見はその情報量に頭を抱えている。
「ほら、おかあさん」
『おともだち、みんないっしょ、ね?』
「えっ、て――ええっ!?」
話の流れに全く関わろうとしていなかったスペクターが聖天樹の精霊へと語りかけると、しゅるりと根が手に絡みつき、こちらの
木の葉の乱舞。風景は目まぐるしく入れ替わり、足元はコンクリート製の地面からファンタジックな草原に染まっていく。うわあーこの感覚すごいデジャブ、と前のめりに倒れる彼女を誰かが支えた。
「
「精霊界へようこそ〜!」
――だぁー! 俺にも行かせろー!
――何がどうして魔術師になっている貴様! ええい四天! こんなのが主人で良いのか!?
――うおおアドバンスー! お前だけでも行けー! あいつの助けになってこーい!
――き、さ、まぁーーっ!
空には横断幕を持つ天気モンスター達。地にはどんどんぱふぱふ、と太鼓とブブゼラを装備したグラドス……だが効果を使いこなせず楽器装備は聖騎士に回収された。
「あう……ん? あれ」
使われたはずの
「……えっと、どちら様で?」
『ゲニウス』
きゅ、と体を掴んで支えていたのはクリフォート・ゲニウスと名前が一部一致しているモンスター。初めて見るが、まあこうして自分に親切にしてくれる精霊なら機械族なのは間違いないだろう。
「アポクリフォート・ゲニウス?」
『否定。
その名前で思わず真顔になる。
間違いなく端末世界の厄ネタの集合体。……まあクリフォートとオルフェゴールをメインで使っているのに今更そこを気にしても遅すぎるだろう。
そんなゲニウスだが、詩織がちゃんと立っていることを確認して支えるのをやめたかと思うと、お次は詩織の手をむにむにと揉んで、ぱ、と離す。
『破壊終了』
大丈夫か確認してみて、という感じでゲニウスがジェスチャーをしている。特に反発する理由もないので試しにぐーぱーと手を動かしてみる。異常はない。スペクター様にウイルスを撃ち込まれる前の、健康なあの頃の手に戻っている。……とりあえず言う言葉は。
「破壊の力を安売りしてはいけない」
『?』
あの神が持っていたものと同じものなのか、それともジェネリック破壊の力なのかは分からないが、どちらだとしても簡単に使っていいものでは無いのは確か。だから言葉の意味がよく分からないと言わんばかりのあざとい首傾げはこちらに効果がないから止めるんだ。
『名称不明個体確認。破壊?』
人を指差してはいけません。ましてや物騒な言葉を言いながらはもっとダメです。なんて常識はインプットする必要がないのか
指差すその先にいるのは――体色が青と黒と黄と白、凹凸の少ない曲線を帯びた体、女性のような雰囲気のある――AI。
「は?」
「え?」
「――お父様」
「…………………………」
そんなAIがきゅ、と了見の右腕に抱きついている。
後にクラッキング・ドラゴンは語る。
あの時間違いなく元パパさんは背景に宇宙を背負う猫の顔をしていたし、謎の美女的AIは私のことを認知してよねと言わんばかりのオーラを発していた、と――。
これから仁君の記憶を奪った敵と戦う準備をする中でパンドールちゃんはここしか登場させる隙間がなかった(というか2期の時点でイグニスの心を読めるAIというハノイのとっておきすぎる隠し玉が作成できてたのなら絶対ライトニングがいる神殿へ攻め込む前に3期パンドールよりも制限をかけにかけたサポートAIとしてのパンドールがいた)などと作者は証言しており――。
精霊界に来てパンドールちゃんが爆誕した理由?
(考えて)ないです。パンドールちゃんカワイイヤッター
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アイ・ヘイト・ユー
》軍艦《
サイバー流ストラク新規発表!
……何か混じってないか……?
海外だと軍艦は名前がスシップになるそうで。
今回は人間がほぼ空気になる回です。なおサイバーストラク新規は今回のデュエルでは使いません。仕方ないね。
――宇宙。それは人類にとって未知の領域であり新たな可能性を見出そうと挑戦を続ける場所。宇宙開発は――
「了見様! 了見様!」
違った。今は宇宙について考える場合では無い。
己の傍にくっついて離れない謎のAIを引き剥がそうと、スペクターが絡み付いている腕を無理やり開こうと力を入れている。見た目以上にがっちりと組みつかれているようで、女性らしさ溢れる細腕はびくともしない。
「(あっ戻った。……で、ふわふわのあれって何だったの?)」
「(ふむ。……ふわふわ? シャーマン的トランス状態だったのでは?
「(魔力酔い? あれそんな単語あったっけ)」
「(彼の状態を表現する適切な言葉が予測に出てこなかったので今造語として作りました)」
「(そっかー)」
オリジンとイグニスのリンクセンスによる繋がりをナチュラルに使いこなし脳内で直接会話を繰り広げる様はまごうことなく変人。というよりも、この状況で平静を保てているのはオカルト慣れしているこの2人だけなので誰もこのやり取りに気付ける状態ではなかった。
「…………はっ、申し訳ありませんお父様」
両頬に両手、ほんのり顔を赤らめてあらやだ私ったらうっかりうっかり、みたいに照れ照れすること数秒。先程の行動が嘘に思えるほど凛とした顔になる。
「申し遅れました、私の名前はパンドール」
「パンドール……だと?」
それはハノイの騎士が作った――正確には制作途中だった――AIの名だ。
毒を持って毒を制す。サイバース族抹殺を掲げる彼がサイバース族であるトポロジックを使用したことを踏まえれば、対イグニスの為にイグニスと同様の意志を持つAIを作成するのは簡単に予想できた事。
だが、ハノイの塔へと労力を割いたためパンドールの作成は途中で止まっている。プログラムが動くはずがない。これはパンドールの存在を知る何者かによる介入ではないか? と了見は思考する、が。
「これは……そう、お父様のお役に立ちたいという意志が成し遂げた奇跡です」
現実逃避は全否定された。奇跡とは何だ。どうすればいいのだ。
鴻上家の複雑な家庭環境を知ってか知らずかお父様発言を繰り返すパンドール。お父様と聞く度に微妙な表情になっている父親の事を気にしてあげてほしい。
「ふむ、リボルバーだったか。我らを滅ぼそうとしたお前がイグニスを作るとは……心境が変化した、というわけでもなさそうだが。ふむ、何を考えている?」
ハノイの騎士が作り上げたAI。それだけでイグニスとしては警戒対象なのだが、それ以上にパンドールから滲み出る違和感。それは性格だとか見た目なんて誰にでもわかるようなものではない。人間の言葉にするならば空気感、とでも言うのだろうか。何かが確定的に違う。
「あ、ああ……パンドールは『人間に敵対行動を取らない』という条件の元に存在するように作った、対イグニス用のAIだ」
理解不能なことばかりが周囲で起き続けた結果、頭から煙が出そうな了見が答える。なお情報処理に手間取られているためか、質問したのが自身が滅ぼそうとした存在である炎のイグニスとは気付いてはいない。
「それってつまり」
「思考を縛られている訳か」
生まれながらにして制御されている、反抗することは許されない――その事実をパンドールが知っているのか知らないのか、の二択の答えは前者だ。イグニスに近い存在が自身を構成しているプログラムの配列と意味を知らない筈がない。
あの白い部屋から逃げ出し、サイバース世界を作り自由に過ごす存在だったイグニスとしては想像もつかない牢獄。その中で満足できるパンドールはAiと不霊夢からすれば異常者のように見えていることだろう。
「んじゃさ、アレ何なのよ」
人間に敵対行動を取らない。それはプログラムとして組み込まれている以上絶対だ。
そう、そのはずなのだが。
「貴方が分からない。ヴァンガード」
今上詩織に向けられる明確な敵意。ゲニウスはパンドールに杖を向けヴーヴー威嚇している。グラドスは表情が全く変わっていないが、どことなくピリついている、ような気がする。
「何故――世界を破壊する!」
パンドールが存在を確立してすぐに行われたシミュレーション。今、己が何をなすべきかの計算の果てに見えた景色。
それは余りにも信じ難く、非現実的な光景だった。
巨大な門を開く鍵。
その内より引き出したパズルのようなカードを手にする人影。
足元にあるのは敗北したのだろう、倒れ伏す決闘者の山。
崩壊した世界の中心で吊り上がった笑みを浮かべる、その正体は――。
「世界を崩壊させる元凶、それは今上詩織! 貴方です!」
「…………えっ、私?」
右を向いて、左を向いて、後ろも確認して。その指が指し示しているのは他者ではないことが確定的に明らかだと理解した詩織は自分の手で顔を指す。
「え、えー、いや……えっ!?」
オウ何勝手に言ってくれとんのじゃワレェ! とパンドールに対してキレそうになっている
そんな姿を遠くから観測してゲニウスお前ー! おまお前ー! と存在しない胃痛に悩むクリフォートの皆さん。
え、あの子精霊界を助けてくれる立場の人じゃなかったっけ? と困惑する取り巻きの精霊たち。
今起きていることとはこれっぽっちも関係ないが融合次元に存在した超融合と超越融合についてお話をお聞きしましょうかと
「あー、もしかして人間判定されてない? でもそんなわけ」
あのハノイの騎士のリーダーがプログラミングにおいてミスをする、は論外だし個人に向けての嫌がらせにしては妙に言ってることがファンタジー。まあファンタジー部分はここ精霊界だから変な電波拾ったのかも、で諦めておいて。となればセンサー部分が変になってそう、と思考する。
まず人間をやめている心当たりは無い。人間やめていたらまず入院とかしないはずだし精霊達が絶対に何か言ってる、と何となく目線を動かせばすいっと顔を背けるゲニウス。……これは自分の何を破壊したのか後で詳しくお話を聞かねばならない。
「私のオリジンを人間として見られない? 随分とお粗末な
沈黙を貫いていたグラドスだが、流石に意味不明な宣言を聞いてふつふつと怒りを滲ませ……いや、これは完全にキレている。Aiは水のイグニスにマジで叱られた時のことを思い出して一人で震えていた。
「それは我がお父様への侮辱と見て宜しいですか、グラドス? イグニスは意志を持つ、故に嘘を吐ける存在。口だけの否定は何も意味を持たないと分かってないようですね?」
対するパンドールも視線で火花バッチバチに飛ばし喧嘩腰。不霊夢はこの売り言葉に買い言葉は不良の抗争そのものでは? と関係ないところで感心していた。
「うわ本気でやり合うつもりかよあいつ等!」
Aiちゃん昼ドラでたくさん見たから知ってる。女のガチ喧嘩、コワイ。今はこちらに飛び火が来ないことだけが救いである。
『……名称不明個体、名称パンドール。登録。グラドス→対パンドール戦闘権利譲渡』
戦闘権利? もしグラドスが喧嘩をふっかけなかったら何をするつもりだったんだ、と突っ込みたくなる気持ちをぐっとこらえて。
『グラドス。ナdうe使wヲoんlロlとaイtらoドnはsデiるtエaゅeデfのeコD。……オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン視認。準備、逃走開始』
「……あぁ、こんな所で使う予定はないですから大丈夫ですよ」
「えっちょちょちょ待って今明らかにクリ――」
――今上詩織、連行。なんか空飛ぶでっかいドラゴンの手に乗せられお空に強制出航。
人間をほぼ全員置いてけぼりにして、デュエルが始まった。
「「デュエル!」」
グラドス
LP 4000
パンドール
LP 4000
「私の先攻。永続魔法、トポロジーナ・ハニカム・ビークルを発動! このカードが発動した時、デッキから『トポロジーナ』モンスター1体を手札に加える事ができます。私はトポロジーナ・ベイビーを手札に」
ハニカム――六角形を組み合わせた強靭な構造。蜂の巣のような建造物から、これまた蜂に似たモンスターが現れる。
「トポロジーナ、ですか」
それは、リボルバーが操っていたサイバースと名を似せた未知のカテゴリ。偶然、ではないだろう。
「お互いのLPが同じの為、手札からトポロジーナ・ベイビーを特殊召喚。さらに特殊召喚された『トポロジーナ』モンスターが自分フィールドに存在することでトポロジーナ・メイビーは手札から特殊召喚できる! この方法でトポロジーナ・メイビーを特殊召喚するターン、私は通常召喚できない」
《トポロジーナ・ベイビー》
星1/攻100
《トポロジーナ・メイビー》
星2/攻800
「やはり――サイバース!」
メインフィールドに特殊召喚されたモンスター達の種族はサイバース。やじ精霊達もまさかここでサイバースが出て来るとは思わなかったのかわあわあ盛り上がる。
出所は……エクストラデッキを確認して焦っている鴻上了見から推測するに、トポロジックリンクモンスターを構成するデータマテリアルを一部流用して作り上げたのだろう。
となればトポロジック全てへの対策はせずとも良い。使い勝手、性能を加味すれば主力として残しているのはリンク4のトポロジック・ボマー。同じくリンク4のトポロジック・ガンブラーは効果の癖が強いため出てこないだろう。
「現れろ、我らを導く未来回路! トポロジーナ・ベイビーとトポロジーナ・メイビーをリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク2、トポロジーナ・サザビー!」
《トポロジーナ・サザビー》
Link2/攻1000
【リンクマーカー:上/下】
「トポロジーナ・サザビーの効果。リンク召喚に成功した場合、リンク素材としたトポロジーナを全て手札に戻します。私は墓地のトポロジーナ・ベイビーとトポロジーナ・メイビーを手札に」
流れるような手札の回復。特殊召喚にターン1の制限がついている2体の下級トポロジーナを戻したが、もうパンドールはこのターン通常召喚は出来ない。となれば、出てくるのは新たなトポロジーナ。
「手札のトポロジーナ・ギャッツビーの効果発動。このカード以外のトポロジーナ――トポロジーナ・ベイビーを墓地に送り、トポロジーナ・ギャッツビーを特殊召喚」
《トポロジーナ・ギャッツビー》
星5/攻1500
先程回収したモンスターをコストとして使用して更なる展開へと繋げていく。
「再び現れろ、我らを導く未来回路! 召喚条件はトークン以外のモンスター2体以上! リンク2のトポロジーナ・サザビーとトポロジーナ・ギャッツビーをリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク3、スリーバーストショット・ドラゴン!」
《スリーバーストショット・ドラゴン》
Link3/攻2400
【リンクマーカー:上/左/下】
「……ふむ?」
どうやらパンドールのデッキはサイバース族で統一されているわけではないらしい。リボルバーの使用するカードを織り交ぜているのは尊敬か使い勝手か、それとも両方か。
「フィールドにドラゴン族・闇属性のモンスターが特殊召喚された事で、手札のノクトビジョン・ドラゴンを特殊召喚」
《ノクトビジョン・ドラゴン》
星7/攻0
ドラゴンとサイバースという展開力の高い2種族の混成デッキ。それは構築を一つ間違えれば互いに中途半端になる可能性があるということだ。
リンク召喚が主軸になる以上、複雑な召喚条件を持つものは採用していない、と言いたいが……オリジンである今上詩織のあのデッキ展開を知っているために予想外のものが出てきてもおかしくないと警戒せざるを得ない。
「三度、現れろ! 我らを導く未来回路! アローヘッド確認、召喚条件は効果モンスター2体以上! ノクトビジョン・ドラゴンとリンク3のスリーバーストショット・ドラゴンをリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク4、トポロジック・ボマー・ドラゴン!」
《トポロジック・ボマー・ドラゴン》
Link4/攻3000
【リンクマーカー:上/左下/下/右下】
それはリボルバーがデータストームより引き当てたサイバース。データマテリアルで構築された硬質の身体の奥、緑色のモノアイが無機質に輝く。
「リンク素材として墓地に送られたノクトビジョン・ドラゴンの効果でデッキから1枚ドロー。……来ましたか。魔法カード、闇の誘惑を発動。デッキから2枚ドローし、手札のトポロジーナ・メイビーを除外」
これでトポロジーナ・サザビーの効果で回収したトポロジーナ2枚はパンドールの手札から無くなり、残るは未知のカード3枚。
「カードを3枚セットしてターンエンド」
回ってきたこちらのターン、相手の手札は0。セットカード3枚の内、トポロジック・ボマー・ドラゴンの効果を起動させるカードはあるはず。対処に手こずれば、次のパンドールのターンでより堅固な盤面を展開されてしまう。
ならば速攻こそが最善策。トポロジック・ボマー・ドラゴンを突破し、セットカードへのある程度対応が出来る展開は――。
「私のターン、ドロー。手札のサイバー・ドラゴンを捨て、サイバー・ドラゴン・ネクステアの効果を発動! ネクステアを特殊召喚――そしてネクステア第二の効果! このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、攻撃力または守備力が2100の自分の墓地の機械族モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する!」
《サイバー・ドラゴン・ネクステア》
星1/攻200
グラドスの墓地には先程コストになったモンスターが1体のみ。それはサイバー流の象徴。デュエルが進化し、高速化を続ける中でも変わらずサイバー流を支え続ける上級モンスター。
「甦れ、サイバー・ドラゴン!」
《サイバー・ドラゴン》
星5/攻2100
次世代型であるネクステアとは違い、幾重にも鋼を重ねた機竜が咆哮する。
「サイバー・ドラゴン・コアを通常召喚。効果でデッキから『サイバー』または『サイバネティック』と名のついた魔法・罠カードを手札に加える。サイバー・レヴシステムを手札に」
《サイバー・ドラゴン・コア》
星2/攻400
「相手の効果によって相手がドロー以外の方法でデッキからカードを手札に加えたことで罠カード、キャッチ・コピー発動! デッキからカード1枚を選び、お互いに確認して手札に加える。私が手札に加えるのは」
見せつけるように、目に焼き付けさせるかのように。パンドールがデッキから引き抜いた1枚は罠カード。強力であり、リボルバーが愛用していた1枚。
「聖なるバリア -ミラーフォース-」
キャッチ・コピーには発動したターン、自分はこの効果で手札に加えたカード及びその同名カードの効果の発動ができないというデメリットがあるが……今は相手、グラドスのターンであり、手札に加えたのがセットしなければ発動できない罠カードのため意味はない。
パンドールのターンになればミラーフォースがセットされると確定した以上、ワンターンキルをしなければ少々厄介になる――グラドスはこのターンで決着をつけるための準備を続ける。
「出でよ、明日へと繋がるサーキット! 召喚条件は『サイバー・ドラゴン』を含む機械族モンスター2体! 私はサイバー・ドラゴン・コアとサイバー・ドラゴン・ネクステアをリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク2、サイバー・ドラゴン・ズィーガー!」
《サイバー・ドラゴン・ズィーガー》
Link2/攻2100
【リンクマーカー:左/下】
フィールド、墓地に存在する限りサイバー・ドラゴンとして扱う効果はサイバー・ドラゴンの名を持つモンスターほぼ全てが有するため、サイバー・ドラゴン・ズィーガーの召喚は容易い。勝利者を意味するそのリンクモンスターは蒼光を纏い、敵を蹴散らすために行動を開始する――筈だった。
「ふふっ、掛かった」
「っ!?」
それは極寒の風吹き荒ぶ中起きた、天を裂く龍同士の争い。
「罠カード、天龍雪獄。相手の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを効果を無効にして自分フィールドに特殊召喚する。その後、自分及び相手フィールドから種族が同じとなるモンスターを1体ずつ選んで除外できる」
フィールドのモンスターが減るこの時を狙って発動されたその罠は、再利用が難しい除外によってモンスターを除去するカード。
「この効果で貴方の墓地のサイバー・ドラゴン・コアを私のフィールドへ特殊召喚し、追加の効果でコアとズィーガーを除外」
当然、2体は同じ種族のため追加の効果は発動できる。……だが、それだけでは無い。天龍雪獄によって特殊召喚されたサイバー・ドラゴン・コアはトポロジック・ボマー・ドラゴンのリンク先に特殊召喚されていた。
「リンク先にモンスターが特殊召喚されたことにより、トポロジック・ボマー・ドラゴン第一の効果が発動する。お互いのメインモンスターゾーンのモンスターを全て破壊する! さあ――トポロジック・ボマー・ドラゴン、起動しなさい! フルオーバーラップ!」
リンク先に特殊召喚されること、それが効果発動のキー。リンク先にモンスターが残っているかいないかは関係がない。全てを平等に焼き尽くす光の羽がフィールドを包み込み、グラドスのメインモンスターゾーンに残っていたサイバー・ドラゴンが破壊される。
「……異次元からの埋葬を発動。除外されているコアとズィーガーを墓地へ戻す」
グラドスが思い描いていたワンターンキルはサイバー・ドラゴンとエクストラモンスターゾーンにいるモンスターを素材とする融合モンスター、キメラテック・メガフリート・ドラゴンによってトポロジックを除去し、ズィーガーとの攻撃によって仕留めるもの。それは天龍雪獄を使われた瞬間に崩壊している。
もう手札にモンスターは無い。通常召喚も行えない。
「魔法カード、サイバー・レヴシステムで墓地のサイバー・ドラゴン・ズィーガーを蘇生。この効果で特殊召喚したモンスターは効果では破壊されない」
サイバー・ドラゴン・コアによってサーチしていたレヴシステムが展開の補助ではなく首の皮一枚を繋ぐための壁の展開に使う羽目になるとは……パンドールの腕を甘く見ていた訳ではないが、ここまで狂わされると笑えてくるものだ。
「バトルフェイズに移行! ズィーガーの効果を発動し、ズィーガー自身の攻撃力をターン終了時まで2100アップ! この効果の発動後、ターン終了時までこのカードの戦闘によるお互いの戦闘ダメージは0になる」
サイバー・ドラゴン・ズィーガー
攻2100→4200
今ダメージを与えられなくとも、トポロジック・ボマー・ドラゴンを退けることが出来れば万々歳。
「バトル! サイバー・ドラゴン・ズィーガーでトポロジック・ボマー・ドラゴンへ攻撃! エヴォリューション・アゲインスト・バースト!」
敵への反抗――勝利を収めるべく、ズィーガーは口腔より力を放つ。
「トポロジック・ボマー・ドラゴンを対象にパラレルポート・アーマーを発動! このカードを装備させる!」
届く直前に防壁が起動する。
「パラレルポート・アーマーを装備したモンスターは相手の効果の対象にはならず、戦闘では破壊されない……残念でしたね」
ズィーガーの方が攻撃力は上だった。だが、効果のデメリットによりダメージは入らず、両者ともに無傷。装備されたパラレルポート・アーマーにより、これからトポロジック・ボマーがバトルに対して強く出れるようになった。これは非常に不味い。
残った2枚の手札の内、完全に腐った1枚は悟られないように、さも隠し球であるかのように手に持って。
「カードを1枚セットしてターンエンド」
自身の効果で4200まで攻撃力を上げられ、レヴシステムによって効果への破壊耐性を持つようになったズィーガーならば場持ちも良い……はずだったが、相手は戦闘破壊に対しての耐性を得てしまった。それも、攻撃すれば元々の攻撃力分のダメージを与えられるモンスターに。
彼女を罵倒された怒りにより目が眩み、またここまでの苦戦は想定していなかった故にゲニウスの念押しに対して軽く答えてしまった……まあそこは今悔やんでも仕方ない。そういえば、ゲニウスが詩織と共に居なくなったのならばちょっとぐらいはアレを使っても問題ないのでは――そう思考した瞬間に背筋を伝う悪寒。
其れ等は隠し球なのだから最後まで隠しておけ、約束を違えたらどうなるかは分かっているだろうな……そう耳元で囁かれたような気がして。出るはずがない冷や汗が流れる。
――今上詩織の下にいる精霊たちは、大部分が彼女よりも力が強い。名前呼び、おもしれー女、ご主人、とまあ呼び方は精霊それぞれだが基本的には好ましい人間として認めている。オッドアイズ・アドバンス・ドラゴンから見ても今上詩織は良い人間だ。……だからこそ、これから会う精霊達のことを考えると憂鬱になる。
少数派、『利用価値がある』から繋がりを持っておこう、とする精霊達――元は一人だったらしいから達と纏めるのは違う気もする――からの直接のお話。
天空の魔術師から彼女の力になれと送り出されたのは護衛も兼ねてだろう。かつてやらかした経験のある精霊が一つところに集まるのはよろしくない。性格の相性も悪いし。
難しいことにはならないで欲しいなぁ。あと取り敢えずゲニウスは杖の先っちょで八つ当たり気味にゴリゴリするのもやめて欲しいなあ。オッドアイズの無言の抗議はゲニウスに届いているのかは分からないが、八つ当たりがより強くなった気がした。
好意的ではない精霊……一体何リースなんだ……?
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かくしごと
パンドール
LP 4000 手札1→2
モンスター
トポロジック・ボマー・ドラゴン Link4 ATK3000
魔法・罠
パラレルポート・アーマー(トポロジック・ボマー・ドラゴンに装備)
グラドス
LP 4000 手札1
モンスター
サイバー・ドラゴン・ズィーガー Link2 ATK2100
魔法・罠
伏せカード1枚
「私のターン、ドロー……ようやく来ましたか。除外されているトポロジーナ・メイビーを対象として手札のネメシス・フラッグの効果を発動。自身を特殊召喚し、トポロジーナ・メイビーをデッキへと戻す」
《ネメシス・フラッグ》
星2/攻1100
パンドールが呼び出したのは四つ脚の真っ赤な旗持ち。これまで使っていたモンスターとは毛色の違う、あるカテゴリに属するモンスター。
「ネメシス、だと?」
了見は呟く。誰かが決めたわけでも無いが、幹部級のハノイの騎士はサイバースへの対策を持つことが必須となっている。それはかつて自身がプレイメーカーとのデュエルで使用した天火の牢獄のような、種族に対して圧をかけるもの。
かのカードだけでなく、サイバースへの対策として採用を考えていたカテゴリが存在する。それこそ【ネメシス】。だが、自身の主力であるヴァレットの枚数を減らしてそのテーマを入れるほどではない、と最終的に判断して入れることはなかったのだが――。
「了見?」
「ふっ……いや、何でもない。それより集中してデュエルを見ろ、藤木遊作」
サイバースとドラゴン、そこに種族をプラスすれば確かに召喚条件は整う。だがそれだけでは駄目だ。必殺の隠し球が分からぬように相手の注意の目を向ける脅威も揃えなければならない。
トポロジックの強大な力で真に隠したかったのは、つまり。
「ヴァンガードをオリジンとするイグニスだが……負けるかもしれんぞ」
「ネメシス・フラッグ第二の効果。デッキからアークネメシス・エスカトスを手札に」
「……ネメシス。そう来ましたか、ええ、もう本当にあの精霊っ……!」
同時刻、ゲニウスはしっかりグラドスの怒りを察知。でも慣らし運転中のデッキでもしっかり勝てることはヴァンガードが証明済みだぞオリジンに出来たことがイグニスにはできませんなんて言わせんからな。
いやそもそもアレは比較対象にしてはいけないのではとオッドアイズ・アドバンス。口答えをしたからか、杖を鱗の生え際に差し込まれ梃子の原理で鱗を剥がされそうになりほぎゃーっと泣いた。
「フィールドのネメシス・フラッグ、墓地のトポロジーナ・ギャッツビー、ノクトビジョン・ドラゴンを除外し――手札よりアークネメシス・エスカトスを特殊召喚!」
異なる三つの種族を糧として現れる光の竜。エスカトス――その名の示す通り、敵へ最後を与えるべく繰り出された一手。
《アークネメシス・エスカトス》
星11/攻3000
「アークネメシス・エスカトスの効果。フィールドのモンスターの種族を1つ宣言し、フィールドの宣言した種族を全て破壊し、次のターンの終了時まで互いに宣言した種族の特殊召喚を封じる。勿論、宣言するのは機械族!」
グラドスのフィールドに存在するサイバー・ドラゴン・ズィーガーは勿論機械族。アークネメシスに秘められた圧倒的な拒絶の力が、フィールドを捻じ曲げる。
「サイバー・レヴシステムにより特殊召喚されたモンスターは効果では破壊されない!」
レヴシステムよりサイバー・ドラゴン・ズィーガーに与えられた力によって、この破壊は耐えることができる。
「ええ、フィールドに残るとても良い的を用意してくれてありがとうございます」
心からの感謝の笑みを浮かべるパンドール。
アークネメシス・エスカトスの効果はフィールドに存在する種族しか宣言できない。グラドスが次へ繋げようと蘇生させたサイバー・ドラゴン・ズィーガーが存在することで展開の要となる機械族の特殊召喚を封じられる――自分で自分の首を絞める結果となったのは、イグニス抹殺を目的として作られたパンドールの目にはとても愉快な見せ物として写っていることだろう。
「トポロジック・ボマー・ドラゴンでサイバー・ドラゴン・ズィーガーを攻撃! 終極のマリシャス・コード!」
「ズィーガーの効果で自身の攻撃力を2100上昇させる!」
パラレルポート・アーマーによって付与された耐性とサイバー・ドラゴン・ズィーガーの効果。互いに戦闘では破壊されず、ダメージは発生しない。
「ですが戦闘した以上、トポロジック・ボマー・ドラゴンの効果を回避することはできない。元々の攻撃力分、2100のダメージを受けなさい! エイミング・ブラスト!」
確実にダメージを与えんとするサイバースの獰猛な牙がグラドスへと襲いかかる。
「あぐぅっ……! まだ、まだっ」
グラドス
LP 4000→1900
「1枚、カードをセットしてターンエンド」
セットする直前に見せつけるはキャッチ・コピーにより手札に加えたミラーフォース。
――セットカードはミラーフォースが確定。機械族の特殊召喚は不可能。次のパンドールのターンで敗北が決まる。
1枚残っている手札を見る。……装備魔法、エターナル・エヴォリューション・バースト。機械族融合モンスターにのみ装備でき、バトルフェイズ中相手の効果発動を封じるカード。もちろん、リンクモンスターへの装備は不可能。そもそも機械族の特殊召喚を封じられた今、使い道は無いに等しい。
ゲニウスによってデッキに入っていることがバラされたドライトロン達はなるべく邪魔にならないようデッキの底に固まっている。……まあ、機械族の特殊召喚が封じられた以上、このデュエル中の出番は無いのだが。
ふう、と息を整える。AIであるグラドスにはもちろん肺も口も存在しないので意味のない行為だが、気持ちが落ち着くような気がするのだ。
今のままでは、勝利への道に必要なカードは足りない。
ならば、強引に引き当てるだけのこと――!
「私の、ターン」
引き寄せろ。勝ちへ繋がる一手を。
「――ドロー!」
1枚。それだけで戦況はひっくり返る!
「魔法カード、闇の誘惑を発動! 2枚ドローし――良し! 手札の闇属性モンスター、サイバー・ウロボロスを除外! 除外されたウロボロスの効果で手札を1枚墓地に送り、デッキから1枚ドロー!」
墓地へ送られるのはこの状況で足枷となっていたエターナル・エヴォリューション・バースト。手札は全て刷新され、勝負を切り開く鍵はこの手の中に。
「闇の、誘惑……?」
パンドールも使用していた優秀なドロー効果を持つカードだが、サイバー流で採用するようなカードではない。闇属性モンスターが手札に無ければ手札を全て無くす諸刃の剣へと変わるそれを、何故デッキのほとんどを光属性が占めるサイバー流で? 理解が追いつかない。
それは精霊の存在を認め、受け入れたことにより開かれた道。
ヴァンガードほどの寄せ集めとはいかないが、現実的ではない混成デッキ――表の光と裏の闇、二つのサイバー流を一つとし受け継ぐ。
それは先達への
「サイバー・ドラゴン・ズィーガーをリリースし、エネミーコントローラー、発動! アークネメシス・エスカトスのコントロールを奪う!」
「成る程、不愉快ですね」
磐石であった盤面を崩す。それに自身のモンスターを利用される。二つが合わさるだけでここまで気分は下降するものか、と新たな発見を喜べるはずもなく。
「バトルフェイズへ移行」
だが、コントロールが奪われるのはこのターンのみ。苦し紛れの抵抗の一手、か? エスカトスの破壊と種族を封じる効果を使われたとしても、今のトポロジック・ボマーへは届かない。
「アークネメシス・エスカトスでトポロジック・ボマー・ドラゴンに攻撃! 手札よりオネストの効果を発動! 攻撃力をトポロジック・ボマー・ドラゴンの攻撃力分、3000上昇させる!」
アークネメシス・エスカトスの属性は光属性。故に天使の恩恵が受けられる。これは予想の範囲内。グラドスの手札はこれで0。……パンドールは油断していた。
最初のターンにセットされ、全く触れられていなかったセットカードを。
「セットしていた、コンセントレイトを、発動」
裏返るセットカード。
「――あ」
機械族に縛られた結果、思考の中から弾いた可能性。
リミッター解除以外にも、攻撃力を大幅に底上げする方法は存在する。
「自分フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの攻撃力は、ターン終了時までその守備力分、アップする――!」
アークネメシス・エスカトスの守備力は2500。よって最終的な攻撃力は――。
《アークネメシス・エスカトス》
攻3000→8500
後は単純な引き算だ。トポロジック・ボマー・ドラゴンの攻撃力は3000。対するアークネメシス・エスカトスの攻撃力はトポロジック・ボマー・ドラゴンの攻撃力とパンドールの残りLPを合わせた数値よりも多い。
アークネメシス・エスカトスは効果では破壊されないモンスター。ミラーフォースによる破壊は通じない。キャッチ・コピーの効果によりデッキから手札へと加えるべきは別のカードだった、と後悔してももう遅い。
天から、光が降った。
パンドール
LP 4000→0
「……くっ、殺せ!」
「殺しませんよ」
倒れ伏したパンドールに手を差し伸べるグラドス。
「楽しいデュエルでした」
「……フンッ」
始める前のいざこざは綺麗さっぱり流した様子のグラドスと対照的に敵視を続けるパンドール。手を払い除け、自身の力だけで立ち上がり了見の元へそそくさと向かい、さも当然であるかのように寄り添う。二人を引き剥がそうとスペクター奮闘中。どうやらパンドールのことはまだ認めていないようだ。
なお、了見は幼い頃からハノイの騎士として活動していたために女性と知り合う機会など当然無い。こんな時どう対応するべきなのかわからず戸惑っている。
「……? Ai、お前」
Aiは二人のデュエルを見てから何かを考え込んでいるようで、いつもなら反応するはずのくっ殺への茶化しをしない。
なお、Aiが変なモノにハマるとロボッピを通じてそれを知るという余波で遊作の方も同様に詳しくなっているがそのことを本人は気付いていない。
「まさか、」
「もどりましたあーつかれたもうやだふざけんな」
遊作が至った結論は届かず、変わるように今上詩織がドラゴンの手から降りる。この場所から離れていた時間はそう長くない。心の中の声が完全に口から漏れ出ているところを見るに、多分自分たちでは想像もつかない何かを経験した後だろう。
「なぜ肝心な時に穴を開けるのですか手伝いなさいこの了見様の娘を名乗るAIを」
「あーはいはい間に合ってます」
帰航した今上詩織はぴろぴろ手を振り、適当に追求をはぐらかしながらグラドスの元へと一直線に。
「帰るよー」
「はい。………………はい?」
目の役割を担うデジタル光を明滅させ、言葉の意味を理解すると今度は光を丸くしてそんなこと聞いてない! と訴えかけるグラドス。
「突然目の前から消えた怪奇現象について草薙さんに説明しないとあかんでしょーよ。現実の時間はそんなに経ってないよね?」
「現実、10分程度経過」
ゲニウスが答える。
「じゃあまだなんとかなるね」
「ちょ、ちょっと待て! お前はいいとしても俺らはどうやって帰るんだよ!?」
「私たち以外の帰り道の用意はデミウルギアがなんとかしてくれるでしょ。ね?」
「――当然」
デミウルギアが彼らの頭上に現れる。圧倒的な存在感を放つサイバース族のリンクモンスター。その内部にある情報量、処理能力、どれを取ってもイグニスの性能の遥か上を行くそれへ慣れ親しんだ友人に頼むように言葉をかける。
「案内はスター・ガーディアン辺りの常識人が来ると思うし……あれだ、ここからは観光気分で大丈夫だいじょーぶ」
あはは、と笑っているが疲れているからか口角が上がりきっていない。グラドスはそれを心配しながらも詩織のデュエルディスクに手を翳すと、光の粒子となりすぽんと中に収まる。
ありきたりな異空間へ繋がる渦へ身を潜らせ……なんてことはなく、詩織は一瞬で姿を消した。
現実世界、デュエルディスクからミニサイズで体を出しているグラドスと二人。勿論草薙さんは軽くパニックになってたし、説明したらやらかしたのはお前か! といつものお叱りも受けた。今回は
「――グラドス。世界を救う気はある?」
個人が抱くには余りにも巨大で欲張りな誘いは、グラドスの得た知識と組み合わさった結果、ある一つの結果を弾き出した。
「なっ……正気ですか!? 本当に、アレを」
「やるしかないんだよ。今からでも準備をしないと間に合わなくなる」
人は来ない。ドローンの監視も無い。閑散とした中、二人の語らいは続く。
「データストームの中にはサイバースがいる。なら向こうは気付いてないだけであいつが協力していてもおかしくない」
「あのデュエルでちょっかいを出していない以上、光のイグニスは姿の無い協力者について認識はしていないようですが? そう急がずとも」
「知っていようといなくてもあの時に手を出す方が危険だって。下手すりゃ皆どっかーん、だ。……パンドールの見た景色は私達の計画が失敗してあいつが出てきた時のものだよ、間違ってない」
「…………もし姿を表したとしても、ランクアップができていない魂で門をどうこう出来るとは思いませんが」
「グラドス、門の種族が機械族だってこと知ってて否定してる?」
「今この戦いで一番危険な状態にあるのは貴方だと、私に認めろというのですかっ」
「出揃った要素を否定して楽観視する方が危険だよ」
言い返せなくなってきたのか、ぐ、と黙る。AIよりも人間の方が冷静に判断を下すというのも奇妙な事だ。
「私はけっこう怒ってるんだよ。しなきゃいけないタスクと時間制限、必要な才能と処理できる人数が少ない、とてつもなく面倒くさいことが山積みのてんこ盛り。しかもそれ全部私で解決しないといけないとか今まで経験したことないぐらいブラックだよもうっ」
あの精霊達から知ったことは詩織の危機感を煽るには十分過ぎた。鴻上博士の置き土産が起こした行動が、今では悪意を振り撒く世界規模の災いになろうとしている。できればもっと早くに教えて欲しかった。
「だから」
「……だから?」
「出来そうな見込みある奴へちょっと押し付けようかなーと」
「はあ」
全部丸投げするとか八つ当たりするとか言わないだけホワイトですよねえ、とズレた感想を抱くのだった。
Q.一番情報を隠しているのはわざとですか?
A.わざとです。
全部一気に説明したら情報が多くて処理できなくなるからね。仕方ないね。
計画については取り敢えず詩織にしかできないってとこだけ分かってればいいよ!具体的に何をするのかはいずれわかるさ……いずれな。感想で計画についての予想を流すのは禁止令だ!
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今こそ点火しろ
本当にどうして爆誕したのか考えてなかったパンドールですが、ザ☆ルークメンという回答が公式より提示されました。どういうことなの?
つまりパンドールはザ☆ルークメンと近似(この作品に限り)。
今上詩織とグラドスが消えた後、彼女が言ったように案内役としてモンスターが現れた。だがそれは彼女が使っているデッキのものではない、ここにいる誰も知らないモンスターだった。
コードブレイカー・ゼロデイ。名前からコード・トーカー達を連想するが、見目は全く違う。あちらが騎士ならこちらはダークヒーロー。表に姿を表すことなく闇と共に生きる、そんな印象を受ける。
そのモンスターはただ名前を告げ、着いてくるようにと背を向け歩く。いつもの調子を取り戻したAiがやいのやいのと騒ぎたて黙れと言われながらも質問を投げかけても、何も答えなかった。
「……繋がりとは、必ずしも良いものばかりでは無い」
そんなコードブレイカー・ゼロデイが唐突に口を開く。独り言のように、誰かに語りかけるように、淡々と。
「友情、絆。時として反転し、牙を向く時もあるだろう」
それは経験談を話している、よりは警告に近い気がして。自分が気付きもしない不安、恐怖が忍び寄ってくるのを否応なしに見せつけられる……目を背けるなと突きつけている。
「アンノウン。犠牲なく得られる物など、ここからは存在しないのだ」
こちらを振り向くことなく言う。……藤木遊作をプレイメーカーではなくアンノウンと呼んだ。彼がプレイメーカーになる前の過去の名を知っているのは、たった一人。
「草薙さんの使うモンスター、なのか?」
「その答え合わせを今行う必要は無い」
草薙翔一、彼はプレイメーカーと――その前身であるアンノウンと会う前からハノイの騎士を追っていた。当然デッキも所持していたが、遊作はその詳しい構築を知らなかった。その前に藤木遊作は草薙翔一のデュエルを見たことはない。
今まで現れることのなかったモンスターがこうして表舞台に姿を見せた。その理由はなんだ? 彼が、コードブレイカーが現れることのないよう戦いへ臨め、と言葉なき激励か。それともその逆か――?
「来たぞ」
歩いて数分。彼らの視界に映ったそれは、皆の目を奪うのには十分な衝撃を与えた。
「ちょっと待ってー、今手が離せな――っと危ない!」
青白くぼんやりと発光している虫が機械の中からにゅっと顔を出す。デュエルモンスターズに詳しいものであれば、それが
出てきた場所が悪かった。てっぺんの角から這い出たはいいものの、その先に足場は無かった。モンスターは足場があると思って出てきたものだから勢いよく足を踏み出す。スカッと効果音がしてもいいくらい綺麗に踏み外してバランスを崩して、落下して――キャッチ。
両手で受け止めたのは
そう、機械。
ファンタジーな精霊界、その一角に巨大な機械があった。
見た目はオンラインゲームでも使われるようなサーバーに似ている。いや、似ているではない。サーバーそのものだ。だが電力を供給する線がない。この機械一つで全て賄っているのか? 0と1の世界に生きるイグニスの眼が目の前の存在を分析していく――回路、理解不能。素材、解析不能。
人類から見たらオーバーテクノロジー満載のそれは
……理解不可能な出来事が多すぎて処理が追いつかない。現実にいたらおかしい存在が闊歩する地に呼ばれた人間とイグニスは中途半端に感覚が麻痺したまま行動を続けていた。
「まだ未完成だけど、これを経由すればイグニスはネットワークの中と精霊界に同時に存在する状態になる。原理を細かく説明してもわからないだろうけど……これを使えばデュエルディスクにハッキングされてイグニス達が無理矢理に奪われることはない。そういうシロモノさ。イグニス本人が自身を賭けたデュエルを行うと許可した場合までは流石に無理だけどね」
子供を自慢するかのように親しみやすい口調で説明してくれるスター・ガーディアン。
「はーいそれじゃあ今のうちに導線を作ってコレが完成したら即反映されるようにしちゃおうね〜」
急に空気が変わる。何がそれじゃあなのかは分からない。両手に工具を持ち笑みを浮かべジリジリとにじり寄ってくるスター・ガーディアン。不気味だ。他
「な、何するつもりだよ!?
デュエルディスクを庇うように自身の背後へ回しつつ、手で覆っていた尊は逃げられないと悟るとファイティングポーズ。デュエルモンスターズ相手にステゴロの喧嘩がどこまで通用するのかは分からないが、やらないよりはましだと覚悟を決めて――。
「こーれやめんかー」
何か……いや、誰かが間に入り仲裁する。浮遊する雲のようなクッションに寝転がりながらふぁふ、とあくび混じりで現れたのはウィッチクラフトの長。
「こいつ、言葉は時々アレじゃが中には善意しかないから安心せい。というかデータ弄るのに工具はいらん! 置け! まったく、スター・ガーディアンよ……お前の元となった男の生前からのクセほんっとどうにかならんかったのか? 事情を知らんと不審者一直線よ貴様」
言った後でヴェールは思った。この男、かつては他人のDホイールを勝手に弄り元キングに拉致のごとく連れて行かれた経験もあるスーパーメカニック。そこに不審者の称号が追加されてもそこまで変わらなくないか? と。
「いやあ世界を救う助けになれるって思うと気合が入っちゃってさあ」
そんな内心を知ってか知らずか、男は後頭部を掻きながら照れ臭そうに目を逸らす。
「親バカならぬ爺バカか……」
つまりは年に一度帰省してきた孫に欲しいものなんでも買ってあげるからね、のアレだ。それがちょっとおかしい規模になっただけの。……人間、死ぬと何かしらのタガが外れるのかもしれない。
会話により少し時間を得たことで冷静になったのか、スター・ガーディアンはゴメンねと謝りつつ改めてデュエルディスクに手を加えてもいいかと尋ねてくる。
「そんなよくわかんないモノ、不霊夢に使わせてたまるか」
「中身までいちいち理解して使う必要はなかろ? よくわからなくとも便利な技術なら使う、それが一般的な人間であろうに」
「尊、君の不安も分かるがこれに関しては私が決める方が良いだろう。彼らが行う事について害は一切ない」
穂村尊が信頼する藤木遊作はどうしているのかと言うと……知らないモンスター達からのよく分からない申し出を受け入れていた。
この面子の中で「機械の仕組みも使い方もなんかよく分からないけど使っている」代表の彼は苦い顔をする。不霊夢と遊作は大丈夫だと判断した。でも俺は納得まだ出来ていないからな、と顔に浮かんでいるのを隠す事なくしぶしぶデュエルディスクをスター・ガーディアンへ向ける。それを分かってニコニコ笑顔で男はインストール作業を進める。
耳をすませば静かな駆動音しか聞こえない……ちょっとした静寂はすぐに消えた。
「ヴェール! やっぱりここにいたのね!」
肩で息をしながら現れたのは紫髪の女性――ウィッチクラフト・エーデル。手紙を握りしめ、わなわなと震えている。
「おーデコイの魔力痕跡全部シラミ潰しにしてきたのかの? うむ、ご苦労」
どこかズレた労り。ずんずんずかずか、怒っていますと足音が主張する。エーデルはヴェールの目の前まで行くと、びしっと腕を突き出す。
「こんなの認めるわけないでしょう! 早く工房に帰ってきなさい!」
こんなの、と言われたのは握りしめてしわくちゃになった置き手紙――ヴェールの引退を知らせる一枚。読めばヴェールが「いやーごめんね☆」してるだろう顔が浮かぶこと間違いなしの一品。
「能力に不足はないの判断して継がせたのに不服か? それにちゃーんと一筆書いて後は任せたじゃろ、どこにも不満が生まれる余地はない。そもコレ作るのにあの都市の奴ら絡ませたら絶対モメるし魔術関連でフリーなヴェールちゃんが一番適任だった、というわけで逃走じゃー!」
「不満しかありませんよあんな突然の――って待ちなさーい!」
魔力でブーストして雲クッションごと空にカッ飛んでいくヴェールと、怒りのまま走って追いかけるエーデル。
データの世界に生きるものとして親近感を持たれたのか
……騒がしいが、耳障りではない。コードブレイカー・ゼロデイは介入するでもなく、ただ静観していた。
「サイバース世界と端末世界についてのハノイの騎士側に事情説明代表になるだろう彼は……もしかして一人で聖天樹生えてる森に行ったのかな?」
まず聖天樹がどこにいるかを知らないだろうに、勘だけでたどり着けるのか? ……まあ
聖天樹を母と認識しているので下手したら精霊界に永住しかねない彼だが、説得は……まあエンシェント・フェアリー・ドラゴンがなんとかするだろう。昔精霊が見えるシグナーにやらかしかけた経験があるのでその辺についてはかなり気を付けているし。
「ワァ」
「ダイジョブ?」
「離れなさい虫ケラ」
「ヤーン」
了見ともお話ししたい
何故なら了見がパンドールに捕獲されて、違う。了見はパンドールに密着され、もちょっと違う。……了見はパンドールに手を繋がれていた。理由は知らない土地で迷子にならないように、のはずだろうが恋人繋ぎに見えなくもない。
……了見が諦めからか焦点を遠くの空に合わせていることを除けば。
――遊作と尊はオカルト現象を詩織の絡みでアレソレ経験済みなのでまだ耐えられた。でも彼は違う。
部下の突然の変化を目の当たりにし、ハノイの騎士を象徴する機械竜からは覚えのないことを言われ、謎の空間へ瞬間移動し、自称娘のAIが現れ……。
この中では一番精神が成熟しているハノイの騎士のリーダーが一番ダメージが大きいという悲しい事が起きていた。
「だ、大丈夫じゃなさそうだな……セラピーしてもらうためにヴァレットから何体か呼ぼうか」
「
ライブラリアンが別の提案をする。
「それだけは絶対にダメ。このまま行かせたら恋人扱いされる」
速攻で却下したのはワンダー・マジシャン、
「おや心外な。我々が親子と恋人の見分けがつかないとお思いかね?」
「うわっ!?」
スター・ガーディアンの後ろからひょっこりと支配人が顔を出す。制作に特に関わってはいないはずだが、まあ彼のことだし暇だから来たのだろう。楽しそうなことには人一倍嗅覚の働く彼が来たなら何かしら好転して――、
「あっダメです親子発言がトドメになりました目が死んでます」
「Oh……」
――思いっきり悪い方向にアクセルをかました。綺麗にトドメを指した。
これはもうどうしようもないなぁ、とレシプロ・ドラゴン・フライが「ヴァレットを呼びに行ってきます」とだけ言い残し空へと飛び立っていった。
「なあ――一ついいか?」
彼らの話を妨げたのはAi。
「サイバース世界に行きたいんだ」
その一言で先ほどまでのわちゃつきつつも明るい雰囲気は消え、緊張が走る。
――とあるモンスター達は端末世界から精霊界へ移住し、残されたデータはイグニスの手により加工されサイバース世界になった。
その言葉をそのまま信じるなら、精霊界はサイバース世界と繋がっている道がある。つまり、ここからサイバース世界に行けるのだ。
「どうしてだ?」
精霊ではなく、藤木遊作が問う。
「そこじゃないとできない事がある」
サイバース世界に行く。それは危険な行為だ。
ハノイの騎士の策であるハノイの塔を崩してからそう時間の経たない内にAiはサイバース世界に帰った。その時は崩壊したサイバース世界しかなかったが、今は他のイグニスを捕らえようと罠が仕掛けられている可能性がある。
その危険性を分かっていて、Aiはサイバース世界に行くと決めた。
「頼む、遊作」
じっと目を見られている。見つめ返す。目を逸らすことはない。……覚悟を決めたのだろう。
「ああ。分かった」
その決定に待ったをかけようと尊が口を挟もうとして……ふと不霊夢が視界に入り、出しかけた声を引っ込める。彼ら二人が良いとしたことなら、自分が何と言おうと結果を変えることはできないからだ。俺だって、不霊夢が覚悟を決めていたら止めやしないから。
「頼むぜ、リンクリボー」
ぽんぽん、とデュエルディスクを軽く叩けばむぎゅむぎゅと音を出しながらリンクリボーが表に出ようと必死に力を入れる。すぽん! と良い音を立てたと思えば、リンクリボーに乗った状態でAiも一緒に出てきた。
『クリッ!? ……クリクリンクゥ……』
元気いっぱいなリンクリボーだったが、あるモンスターを見てぷるぷる震え、すっかり怯えてしまった。
――星神器デミウルギア。強大な力を持つサイバース族。闇属性であるが、闇のイグニスであるAiは何一つとして知らないモンスター。
未知はそのまま可能性に言い換えられる。誰も知らない、誰も予想しないジョーカーを盤面に突きつける――それを思考、実行、実現するには敵の監視の目から逃れられるこの
イグニスである己がリンクヴレインズでそのようや思考をしていたらそれが電脳世界のログに残ってしまい、敵に知られて対策を練られてお終い。せっかくの決意も全てが水の泡。――だからこそ、今この機会を逃すわけにはいかない。
「ふっふーん。今はサイバース世界でも元は端末世界! ニンゲンもイグニスも知らない端末世界に残る裏道の案内役が必要でしょう? なら私が――」
立候補しているのはどこからか現れた薄水色の妖精。自信満々な宣言を言い放った直後、羽の先スレスレを狙って鎌が振り下ろされた。
刃は地面に深く突き刺さり、その一撃に込められた力の強さをありありと示している。
「ちょっ、アンタもあの話聞いてたら私がこいつらに変なコトしないって分かってるんじゃ――ああもう!」
慌てて飛び立つ妖精と、ぶんぶん鎌を振り回しながら追いかける機械人形。
「日頃の行いだ。いいかげんに反省を覚えろ羽虫」
ざくざくと足音を鳴らし来たのは一度聞いたことのある声の主。ただ、ディンギルスと同じ声だが見た目が違う。その男は機械鎧ではなく民族衣装のような衣服を着ていた。
「俺が彼の共をする。ゼロデイ、異論はないな?」
「当たり前だ。星杯の力を失えどトロイメアを討伐できるお前に文句などあるはずがない」
機械人形がこちらを向く。任せろ、とぐっと親指を立てる。ニンギルスが同じく親指を立てて返事にする。それを確認したガラテアはこくりと頷いて、妖精を追いかける。表情は変わらないはずなのに、どこか嬉しそうだった。
「……俺がどうこうした、ってワケじゃないのにどうしてそこまでしてくれるんだ?」
Aiはオルフェゴールを使うようになった新生ヴァンガードと深い友情があるわけではない。一般的には友達と呼称されるものに近しい。
「彼女を最初に『ガラテア』と認識できたのは
理由を教えてくれているのだろうが、なんとも理解し難い。でも……特別な名前、その重さについてはようく分かる。
「こっちだ」
ケープを翻し、ニンギルスは歩く。Aiはまだちょっと動きがカチカチなリンクリボーを宥めつつ、ぴょこたんぴょこたんとその後へついていった。
――変わってしまったサイバース世界に再び降り立つ。星杯に誘われし者はいつ襲われても対応できるように警戒を強める。
Aiは自分だけのデッキを持っていない。
【
そんな中、闇のイグニスは特定のカテゴリを作らなかった。仕事をサボっていたから――それだけじゃない。他者を傷つけるのが嫌だったから。幾度となく敗北し、倒れ伏す幼い君を見ていたから。
藤木遊作に、プレイメーカーへと持たせたサイバース族のデッキのモンスターは属性がバラバラ、名前もカテゴリとして統一感のあるものじゃなかった。
プレイメーカーの代名詞にもなっているコード・トーカー達やファイアウォール・ドラゴンも、自分が直接与えたわけじゃない。データストームの中にいたモンスターを彼が掴んだものだ。
手を伸ばす。再利用可能なデータマテリアルを選ぶ。
崩壊する前のサイバース世界には六属性のイグニスの居城があった。ぐるりと繋ぐと六角形となるそれ。闇のイグニスが担当するはずの頂点の一つには、ぽっかりと空いた穴のみがあった。
そこから何かが流れ始める。――データストーム。闇属性だけではなく、他のモノも飲み込みその属性のデータマテリアルを取り込んでいる。
サイバース世界は攻撃を受けたが、全てが消えたわけではない。0ではない。1だ。消滅ではなく破壊。残骸が残っている。
データマテリアル。属性のカケラ。それを集めて、カードへと固める。ストームアクセスと同じプロセスを経て加工、圧縮。でも全てをリンクモンスターにはしない。
まっさらなカードが1枚、また1枚と増える。ずらりとAiの周りを取り囲むカードの群れ、その一つ一つに自分の望むモノへなるよう情報を書き込んでいく。
「もし――本当に光のイグニスが全てを起こしたのなら」
手に力が入る。
「俺が光のイグニスを倒す」
使命から逃げ、戦いから逃げ。偶然――いいや、必然に出会ったオリジンへハノイの騎士を倒すように仕向けた。自分が戦いに関与する事もあったが、基本は彼の腕の上。人質から数多の出来事を経て相棒に。さらにその先へ。
横に並び立つ決闘者に、なりたい。
「――だから、力を借りるぜ。皆」
一番最初に作られた1枚。それはデコード・トーカーを模したリンクモンスター。闇属性。リンク3。それは彼が無意識に望んだ姿。守護する騎士、繋がりの先に仲間を引き戻す
――ダークナイト@イグニスター。
〜精霊界から帰ったその後〜
「迷惑料としてリボルバー様からいいカード貰った!闇属性で機械族にも対応してる!便利!ちょっとデッキ組み替えたから忘れないうちにスピードデュエルのデッキの中身変えた連絡!……いや送った後であれだけどもうちょい変えとくか……もっかい連絡!」
「は?確定したわけではない内容で1日に何度も連絡よこすなんて馬鹿ですか?死んでいただけます?」
「よかった、ちゃんといつもの調子に戻った……」
「(この確認方法で良いのでしょうか……?)」
貰ったカードって?
ああ!それって発表時クラッキング・ドラゴンを出せる効果じゃなくてオルフェゴールサポートって言われてたドラゴン?
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(元)ヒャッハノイ達の集い
内容は限りなく番外編に近い本編です。
精霊界から帰ってきて数日経った、ある日の出来事。
【完璧な】(元)ヴァンガード様配下の集会所Part13【スレッドだ】
1:通りすがりのメタファイズ使い
これは増殖するG型のプログラムに付随していた謎機能により作成されたスレッドです。特定人物のみ使えるだとかサーバーが海外経由でバレないとか覗き見防止加工だとかなんかあるらしいけどぼくたちさんしゃいだからむずかしいことわかんにゃい!!
ヴァンガード様のお言葉「(法に抵触しなければ)何でも使っていいよ!」
俺達「ん?何でもって?」
前回の何でも3つ
・買い物メモに使う
・就職の自己アピールの推敲に使う
・対戦相手が使っているデッキのカンペとして使う
2:通りすがりのサンダー・ドラゴン使い
前スレのコテハンを大会出場中にしてたお前、決闘者としてのプライドはないんか?
3:通りすがりの霊使い使い
相手デッキの中身ぐらい自力で覚えろや
4:通りすがりのエルドリッチ使い
スキドレは全てを解決します
5:通りすがりの剣闘獣使い
なんで自分以外も見てるココ使ってカンペやろうと思ったんだよ
お前のためだけにあるワケじゃねえんだぞ
6:通りすがりの宣告者使い
美しくない
7:(元)大会出場中
>>2>>3>>4>>5>>6
うるせ〜〜〜〜〜〜!!!!!お前らの意見なんか知らね〜〜〜〜〜〜〜!!!!
8:通りすがりのサンダー・ドラゴン使い
>>7
で、勝ちましたか?
9:(元)大会出場中
ミ゜
10:通りすがりの軍貫使い
そこまでして負けたの本当草
11:通りすがりのアーティファクト使い
エンドサイクでやぶ蛇を割り、ツイツイでもやぶ蛇を割ったゆかいなおじさん
12:通りすがりのダイノルフィア使い
一度目のやぶ蛇で出てきたアルティメットファルコンを手札ほぼ使って頑張って処理するあわれなおじさん
13:通りすがりの霊獣使い
その後に出てきたアルティメットファルコン(2体目)見て絶望するおもしろおじさん
14:通りすがりのガスタ使い
ズタボロになる初戦敗退おじさん
15:通りすがりのネメシス使い
かわいそ
16:通りすがりのメルフィー使い
かわいそうはかわいい
17:通りすがりの剣闘獣使い
おじさんってかわいいか……?
18:(元)大会出場中
おじさんじゃねえお兄さんだ!
19:通りすがりの大逆転クイズ使い
拘るところを間違えた敗北者おじさん
20:通りすがりのインティクイラ使い
ところでカンペって役に立つの?
教えて偉い人
21:通りすがりのシャドール使い
エーラ・イヒトです
どう対処すればいいか知っておくのは必要ですがその対処ができるかは手札によりけりなので……
どちらかといえば自分の展開のカンペ作る方がいいと思う。大会にカンペを物理的に持ち込むんじゃなくて、頭の中に整理して記憶する脳内にしかないカンペなら何も言わない
どうしてズルをする方面に努力してしまったのか何一つとしてわからない、お前本当に決闘者してるのか?
22:(元)大会出場中
ぐふっ
23:通りすがりの剣闘獣使い
まあそりゃそうだわな
24:通りすがりのトゥーン使い
偉い人の勝ちデース
25:通りすがりのエルドリッチ使い
スキドレは全てを勝利に導きます
26:通りすがりの絵札の三銃士使い
おじさん三銃士の風上にも置けない雑魚め
27:通りすがりのガスタ使い
風下に置いておこう
28:通りすがりのメタファイズ使い
それでいいのか……?
29:通りすがりのもけもけ使い
ワカラン
30:通りすがりのアダマシア使い
まず誰だよおじさん三銃士
おじさん三人いたか?
31:通りすがりの絵札の三銃士使い
おじさん三銃士
ネフィリムかえしておじさん
満足おじさん
カンペ作成クソ雑魚敗北者おじさん←NEW!
32:通りすがりのインフェルノイド使い
質問いいかな
NEWってことは三人揃ってなかったのでは?
33:通りすがりの大逆転クイズ使い
勘のいい決闘者は嫌いだよ
34:通りすがりのアロマ使い
クソ雑魚はともかく巻き込まれているおじさんコンビが可哀想
35:通りすがりの魔導使い
>>34
まああいつらニコイチだし……
36:通りすがりの影霊衣使い
>>34
二人ともアホみたいにデッキ回してデュエルしてるし……
37:通りすがりのサンダー・ドラゴン使い
>>34
本当は強いはずなのにネフィリムかえしておじさんは蟲惑魔or霊使いと戦う時だけ泥沼デュエルになるし……
38:通りすがりの蟲惑魔使い
>>34
ネフィリムよく落とし穴に落ちるし……
39:通りすがりの霊使い使い
>>34
ネフィリムよくNTRされてるし……
40:通りすがりのシャドール使い
>>38>>39
は?ネフィリム様を侮辱したか?起訴
41:通りすがりの蟲惑魔使い
>>40
棄却
ネフィリムがひどいことになっているのはお前のプレイングが原因だし俺たちがいじってるのはお前なので
42:通りすがりの霊使い使い
>>40
棄却
侮辱ではなく事実を陳列しているだけなので
43:通りすがりのシャドール使い
>>41>>>42
クソが代
44:通りすがりのシャドール使い
ヒャア許さねえデュエルだァ!!!!!お前らをボコボコにしてやる!!!!!
45:通りすがりの霊使い使い
ヒャア上等だまた返り討ちにしてやらぁ!!!!!
46:通りすがりの蟲惑魔使い
ヒャア我慢できねえ先攻5枚伏せだァ!!!!!!!
47:通りすがりの剣闘獣使い
おーおーまたやってら
48:通りすがりのアダマシア使い
ちゃんと相方の手綱握れよ満足おじさん
49:通りすがりのインフェルニティ使い
なんで俺に皺寄せさせようとするんですか
50:通りすがりのバジェガエル使い
いつもご苦労様です満足おじさん
51:通りすがりのインフェルニティ使い
やめて
52:通りすがりのメガリス使い
ヴァンガード様の元部下だったにも関わらずズルをして敗北という恥を晒した愚かなおじさんはどうするべきなのか
教えてエロい人
53:通りすがりの大逆転クイズ使い
エーロ・イヒトです
我々の手で私刑に処すよりも上に判断を仰ぐ方が良いかと思います
54:通りすがりのヴォルカニック使い
偉い人もエロい人もいるイヒト家は何者だよ
55:通りすがりの壊獣使い
すごい家だよ(こなみかん)
56:(元)大会出場中
俺は悪くねぇやぶ蛇2枚も伏せてたあいつが悪い
この板にヴァンガード様一度も来たことないからセーフ!セーフ!
57:ヴァンガード
何やってるの皆……
58:通りすがりの剣闘獣使い
なにがセーフだアウトだわバーカ!
59:(元)大会出場中
バカっていう方がバカなんだバーカ!
60:(元)大会出場中
>>57
えっ
61:通りすがりのドレミコード使い
>>57
本 人 登 場
62:通りすがりのライトロード使い
>>57
需 要 と 供 給
63:通りすがりの音響戦士使い
>>57
盛 り 上 が っ て ま い り ま し た
64:ヴァンガード
需要と供給????
あとここに発言を残してないだけで全部見てますからね?ROMってるだけです
65:通りすがりの軍貫使い
じゃあまさか深夜の飯テロも……!?
66:通りすがりの氷結界使い
じゃあまさか大判焼き論争も……!?
67:通りすがりの夢魔鏡使い
じゃあまさか今季のおすすめアニメも……!?
68:通りすがりのヴェルズ使い
じゃあまさか御座候論争も……!?
69:通りすがりのマドルチェ使い
じゃあまさか名前を言ってはいけない例のアレ論争も……!?
70:ヴァンガード
>>65>>66>>67>>68>>69
見てます。あと例のアレ論争が再び火種になりそうというかなってるから各々心の中に秘めておいて
71:通りすがりの軍貫使い
はい(異教徒がまだ生き残っていたか……)
72:通りすがりのヴェルズ使い
わかりました(争いの種は滅ぼさねばならぬ……)
73:通りすがりの氷結界使い
了解です(今度こそ他派閥を根絶やしにしなければ)
74:ヴァンガード
問題の大会参加者さんについてですがこの掲示板をそんな使い方するとは予想できなかった私の落ち度なので今回は許します
二度目は無い
75:通りすがりの霊獣使い
オラッヴァンガード様からのありがたいお言葉だぞ
76:通りすがりのダイノルフィア使い
ありがとうございます!!!ありがとうございます!!!!!蔑むような目も頂けると嬉しいです!!!!!
77:通りすがりの軍貫使い
(ありがたさがなんか別の人の変な需要満たしている気がする)
78:通りすがりの魔導使い
(シッ余計なこと言わないの)
79:ヴァンガード
次やらかしたらシュールストレミング&ポットヌードルを着払いで送り完食する動画をネットに上げるまでこの掲示板に接続不可にしますので
後その試合映像ある?見たい
80:通りすがりのライトロード使い
例の大会の公式ホームページに映像あります
81:通りすがりの暗黒界使い
商品セレクト怖いし着払いなのも怖い
82:ヴァンガード
>>80
教えてくれてありがとう
後で見ます
83:(元)大会出場中
キ゜ュッ
84:通りすがりのエルドリッチ使い
恐ろしく早いレス
オレでなきゃ見逃しちゃうね
85:通りすがりのアームド・ドラゴン使い
クソ雑魚おじさんは死んだ
痴態をヴァンガード様に見られたからだ
86:通りすがりのヴォルカニック使い
さよならクソ雑魚おじさん、あと3秒ぐらいは覚えておいてやるか……
87:通りすがりのネメシス使い
3秒経過
88:通りすがりのメタファイズ使い
クソ雑魚おじさんの存在消滅を確認
89:通りすがりのHERO使い
これで世界がまた一歩平和に近付いたな
90:通りすがりのエルドリッチ使い
ワイトもそう思います
91:通りすがりのライトロード使い
ところで最近ヴァンガード様のお姿をリンクヴレインズで見かけませんが何かあったのでしょうか
命令があれば動きますが
92:ヴァンガード
皆はもうハノイの騎士を抜けた一般市民、追加のハノイの騎士人員募集してないのでお気持ちだけもらいますね
まあ最近表に出てなかったのはちょっと邪魔してきそうなの裏で倒してただけなので気にしなくて良いです
93:通りすがりのインフェルノイド使い
ちょっと(自己申告)
94:通りすがりのメタファイズ使い
ハノイの騎士の死神がサイレント復活ッッッッ
95:通りすがりのガスタ使い
バウンティハンター達は皆倒されました
ヴァンガード様を敵に回したからです
あ〜あ
96:通りすがりのバジェガエル使い
バウンティハンターくんたちかわいそ……
97:通りすがりのメルフィー使い
かわいそうはかわいい
98:通りすがりの除外海産物使い
バウンティハンターにくっころは!くっころは無かったのですか!
99:ヴァンガード
>>98
無いです
100:通りすがりの魔導使い
SOLの出した怪しさMAXな手配書信じてやってくるバウンティハンターなんて男しかいないだろ
101:通りすがりの絵札の三銃士使い
突然の空気が読めないくっころ質問、うーん死刑!
102:通りすがりの除外海産物使い
>>101
クソが代
103:通りすがりのミュートリア使い
すみません話を変えます
なんかVFDが禁止制限改定を待たずにサイレント禁止になったのはヴァンガード様がなにかしたからですか?
一般友人ジェネレイド使いがいつも通りにデッキを組んだらデュエルができないVFDが禁止になってる判定出てると嘆いています
104:通りすがりのインフェルニティ使い
えっリンクヴレインズにサイレント修正あんの!?ならある朝突然ガンが戻ってきたりする!?夢が広がるなサイレント修正!!!!
105:通りすがりのダイノルフィア使い
>>104
そんな前例は無いからもちつけ
106:ヴァンガード
ああ……うん……
原因は私かもしれない
107:通りすがりの氷結界使い
そっかあ……
108:通りすがりのメルフィー使い
VFDはかわいい
109:通りすがりのインフェルノイド使い
・裏で倒してた
・ちょっと(自己申告)
・突然のVFD禁止
ここまで言えばわかるわね苗木くん
110:通りすがりのデュアル使い
うんち!(正解の音)
111:通りすがりのデュアル使い
>>110
すみません間違えました
112:通りすがりのメタファイズ使い
>>111
何をどう間違えてそうなった?
113:通りすがりのインフェルノイド使い
>>112
予測変換の暴発では?(名推理)
114:通りすがりの魔導使い
>>112
予測変換に出てくるぐらい何度も使っているのでは?(熟慮)
115:通りすがりのトゥーン使い
うんちだらけの予測変換
116:通りすがりの宣告者使い
美しくない
117:通りすがりの大逆転クイズ使い
>>110>>111
君がうんち!(正解の音)と言ったから
今日からお前はうんちの人
118:通りすがりのデュアル使い改めうんちの人
>>117
ふええ……
119:ヴァンガード
VFDを何十回か出しただけなのに気が付けばリンクヴレインズ内で禁止になっていました
どうしてですか?
120:通りすがりのサンダー・ドラゴン使い
>>119
残当(驚きのスルースキル)
121:通りすがりの軍貫使い
>>119
残当(ちょっととはなんだったのか)
122:通りすがりのヴェルズ使い
>>119
残当(ランク9ってそんな簡単に出せたっけ)
123:通りすがりのインフェルニティ使い
>>122
ランク8から幻影騎士団のRUMでVFDになるぞ(インフェルニティガン返して)
124:通りすがりのマドルチェ使い
>>119
残当(うーん先攻VFDの返し方がパッと浮かばん)
125:通りすがりの真竜使い
>>119
残当(とばっちりを受けただろうジェネレイドに合掌)
126:ヴァンガード
>>120>>121>>122>>124>>125
。・゜・(ノД`)・゜・。
127:通りすがりのドレミコード使い
ちょっと男子〜ヴァンガード様泣いちゃったじゃ〜ん
128:通りすがりの真竜使い
アッ……アッ……ソンナツモリジャ……
129:通りすがりのヴェルズ使い
イヤダーッキラワレタクナイーッ
130:通りすがりのマドルチェ使い
オユルシヲヴァンガードサマーッ
131:通りすがりの宣告者使い
みっともない命乞い、美しくない
132:ヴァンガード
いやまあ……禁止になるのはパワカの宿命とも言えるのでもう仕方がないなと……
でも私個人が暴れ回っただけなのにあまりにも早すぎる禁止でちょっとヤバいことが起きている可能性を無視できなくなったのでそれはそれでヨシ!
具体的には既にSOLの偉い人が乗っ取られてる可能性が高い
133:通りすがりのインフェルノイド使い
あの
あの
134:通りすがりのサンダー・ドラゴン使い
もしかしてネットだけの問題じゃなくてリアルのおはなしなの?
ぼくさんしゃいだからわかんにゃい!
135:通りすがりのミュートリア使い
いや人間すげ替えとかそんなこと可能なのか?
136:ヴァンガード
まだ決定的な証拠がないから確定ではなく仮説だけども説得力だけは有るのがアレなアレでして……
バウンティハンター狩る専門のデッキ組んで情報無駄に流さないよう裏で一人ずつこっそりちまちま倒してログ残らないようしっかり処理もしたのに途中から露骨なエクシーズメタしてきたり
そこに私が倒してきたバウンティハンターが皆一様に
「謎の支援者から情報を教えてもらった」
「支援者はSOLにツテがあるからヴァンガード倒せたらプレイメーカーに掛かっている賞金と同額の報酬を与えられる」
の証言でコンボが完成しまして……
137:通りすがりのアームド・ドラゴン使い
(当たってるタイプのやつじゃん……)
138:通りすがりの真竜使い
(ビンゴしてるじゃん……)
139:通りすがりのもけもけ使い
でもSOLハノイの騎士に対して完全に後手に回ってたしガバいやろ……そこまで問題か?
140:通りすがりのインフェルノイド使い
>>139
馬鹿SOLが運営してるリンクヴレインズはネットワークである以上ハッキングでどうこう弄れた
今回その提供元の会社の人間が乗っ取られてる→リアルの人間がやばいってことだよ
141:通りすがりのもけもけ使い
マジかよやばいじゃん
142:通りすがりのインフェルノイド使い
だからやばいって言ったやろがい!
143:通りすがりのエルドリッチ使い
失望しましたSOLの株売ります
144:通りすがりのインティクイラ使い
元々無いものは売れないぞ
145:ヴァンガード
まあこの乗っ取り説をこうして他人に話せるぐらい補強できたのはSOL内部にハノイの騎士が送り込んだスパイの情報があるからなんですが
146:通りすがりの真竜使い
つまりリアルのヴァンガード様を見た裏切り者がここに……?
147:通りすがりのメルフィー使い
イエスロリータノータッチの掟を破った不届き者が……?
148:通りすがりのトゥーン使い
皆のもの出会え出会え!
149:通りすがりの音響戦士使い
ざわ……ざわ……
150:ヴァンガード
いやこの板にいる人じゃないからね!?
否定するためにリアル情報落とすけどスパイは見た目からして海外の人です
151:通りすがりのインフェルノイド使い
そうかイヒト家か……(名推理)
152:通りすがりのアームド・ドラゴン使い
※この板の与太話は実在する人物とは何の関係もありません
153:通りすがりのシャドール使い
あいつら永遠に許さねえ
いつかオーバーキルしてやる
154:通りすがりのバジェガエル使い
あっ帰ってきた
155:通りすがりのアダマシア使い
また負けたんやろなあ
156:通りすがりの蟲惑魔使い
デュエルしつつスレの流れは追ってたので一つお聞きしたいのですが、アナザーみたいな強制ログインさせるプログラムへの対処はどうしたらいいですか?
157:通りすがりの霊使い使い
こっちが作ったものへの対処ならまだしもSOL乗っ取れる奴が作ったプログラムなんてどうしようもないのでは……?
158:通りすがりの蟲惑魔使い
ふええ
159:ヴァンガード
>>156
あ、それはご心配なく
危険性の高いプログラムを自動でシャットアウトできるナンカスゴイヤツを私が過去解き放った増殖するG型のプログラム経由で配布というか押し売りする準備がさっき終わったところです
160:通りすがりの霊使い使い
はい!?
161:通りすがりの蟲惑魔使い
G、おまえ今以上につよいむしさんになるのか……?
162:通りすがりのサンダー・ドラゴン使い
さんちゃいにもわかるようにおしえて凄い人
163:通りすがりのシャドール使い
スーゴ・イヒトです
俺らごときの考える不安なんて既にヴァンガード様によって対処されていたということです
164:通りすがりの宣告者使い
これは美しい
165:通りすがりのインフェルニティ使い
くっ、ドロー効果の虫に屈するわけには……!(ナンカスゴイヤツをインストールしながら)
166:ヴァンガード
リンクヴレインズにいる全員に一気に押し売りは流石に重いのでこの板によくいる人優先してダウンロードをしていく予定です
アレが動き出すまでの期間が予想できないからリンクヴレインズアクティブユーザー全員に押し売りが間に合うかわからないのが今のところ大きな問題
167:通りすがりのダイノルフィア使い
ありがとうございます!!!!!ありがとうございます!!!!!!!!
168:通りすがりのライトロード使い
これは純粋なありがとうだな、ヨシ!
169:通りすがりの剣闘獣使い
ありがとうを純粋か否かで判断する必要あるって時点でヨシじゃねえだろ
170:ヴァンガード
一番大切なこととしてはコレ、デュエルを介さない干渉を防ぐだけなので直接デュエルを挑まれて敗北した場合のカバーはできません。過信は禁物です
171:通りすがりの暗黒界使い
成る程……これからデュエルを挑んできたやつは全員デュエルができないレベルでボコボコにしろってことですね!
172:通りすがりのバジェガエル使い
えっ!これからはいくらでも制圧していいんですか!?
173:通りすがりのインフェルニティ使い
これはもう満足するしかねぇよなぁ!
174:通りすがりの魔導使い
うーん、やっぱり会話のテンポといいギスらない空気感といい掲示板である必要ないような希ガス
入れる人間制限した会話アプリとかでも良かったのでは……?(熟慮)
175:ヴァンガード
(前科付きの元ハノイの騎士がたむろしてるとバレたり等してココの存在が明らかになった時にこの掲示板システムの大元を管理しているSOLが犯罪者の存在に気付かなかったと株を下げる&SOLが偉い人乗っ取りされてしかもスパイに気付かないままずっとお仕事してた節穴アイズアルティメットドラゴンであると盛大に自爆するために)いる
という訳でサヨナラ!
176:通りすがりのライトロード使い
えっこれそういうこと????????
177:通りすがりのメルフィー使い
SOLくんかわいそう
かわいそうはかわいい
178:通りすがりのアロマ使い
13スレ目で明かされる衝撃の真実
179:うんちの人
つまりうっかりをしないようにしようねってことだな!
180:通りすがりのエルドリッチ使い
ワイトもそう思います
『なんとなくで理解はしていましたが、掲示板の文字だけとはいえ見てみるとこう……貴方の元部下の皆様、キャラが……濃い……ですね。文字による交流だからリンクヴレインズにいる時よりも自由な言動が強く出ているのでしょうか?』
「ん? ハノイの騎士としてリンクヴレインズにいた時の皆の言動、基本はこの掲示板とそう変わってないよ?」
『そう変わらない……??』
(今のところ)ヒャッハノイ達は平和です。
Q.スパイって本当に外国の人?
A.ネット上にリアルが絡んだ情報を流す時にフェイクを混ぜるのは基本。
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バタフライエフェクト
遊戯王二次創作で使いやすそうな特殊タグを作ったので宣伝を兼ねて前書きにペタリするなどしてみました。あとチラシの裏へ『遊戯王二次創作用特殊タグ』というタイトルの特殊タグまとめを投稿していました(過去形)。
気になった方は是非覗いてみて良かったらどしどし使ってハーメルンに遊戯王二次創作をもっと増やしてくれると嬉しいなあ……なんて。
帰宅してすぐにAiはデュエルディスクから上体を出す。学校は周囲に人の目があり自由なお喋りができない。だから耐えた分目一杯発散してやろう……と考えているのか違うのかについて遊作はそこまで興味はない。
「おーいロボッピ〜! 兄貴のお帰りだぞ〜、それにもうすぐ新しい昼ドラの放送始まる時間だぞ〜」
いつもならすぐに来るはずのロボッピのおかえりなさいが聞こえない。だからAiは声を張り上げた。
返事はない。電池切れ……違うだろう。初回放送記念拡大スペシャル、これは見逃してはいけないとしっかり朝から充電をしていた。
じゃあなんだろう、ドッキリか? 驚かせてみようとソファの裏とかに隠れているのかもしれない。ロボッピはただの掃除用AIから進化させたとはいえ子供らしい部分は多い。テレビで見たドッキリの再現がしたい、なんて思っても不思議ではない。
「ロボッピー?」
とにもかくにも玄関に突っ立っているだけでは分からない。遊作の方へ振り向き、動くよう促す。遊作も流石にこの静かさはおかしいと理解したのか、警戒しながら部屋に上がっていく。
……別に部屋は荒れていないし自分達以外の人間が侵入したわけでもなかった。ロボッピはちゃんといた。ただ、表情を表現するデジタル光を消し、顔は下に向いている。
「いたんならなんで返事しなかったんだよぅんもー」
ぷりぷり怒るAiを無視し、家主の遊作が床にいたロボッピを手に取って、気付く。
「…………ロボッピ?」
反応がないのは当然だった。
――そこに、ロボッピの意識は無かった。
『ロボッピがいなくなっちまったんだよ〜!』
Aiは全く予想していなかった現実を直視して軽くパニックになった。が、どうすればいいのか分からないことに対し助けを求めるだけの落ち着きは残っていた。
……その相手が草薙翔一でも穂村尊でもなく今上詩織だった、というのがパニックの証明になってしまうのだが。
「えーとつまり、ロボッピが物理的にどこかに行った訳じゃなくて、構成するデータがネットワークのどこかにいっちゃった……ってこと?」
『うんうん、うんうんうん』
戸惑いながらも電話越しにAiの話を聞いて詩織なりにまとめたものはどうやら合っていたようだ。
Aiはロボッピを可愛がっていた。アニキと慕われ褒められたり軽口を叩いたり、なんてことない日常を共に過ごしてきた大切な弟分。原因不明の誘拐事件をなんとかしたいと必死に訴えてきている。
「でもなんでロボッピを狙って……?」
今時週刊誌で組み立てられるお掃除ロボットを狙ってくる人間なんていないだろう。身代金要求は無し。万に一つ、億に一つあるやもとストーカーの線も考えたが周辺の監視カメラは全部確認したとAiが喚く。ここで物理的に侵入しての犯行の可能性は消える。
……どうやって、よりもどうして、を考える方がいいかもしれない。ロボッピに価値があるのならAiが賢くした点と、
そういやアレ――藤木君はロボッピに渡したのだろうか?
「ちょっとゴメン今関係ない話かもしれないけど聞くね。アレってロボッピにもインストールした?」
『アレ? いや、していな……そういうことか!』
流石凄腕決闘者、情報さえ揃えば答えを導くのにそう時間はかからない。
「…………黒幕はプレイメーカーの正体を知ってるぞってアピールのために本当はAiを狙った。けども手出しができなかったからロボッピを仕方なく攫った」
『ああ、一番可能性が高いのはそれだろう』
『そんなぁ……うぇえーんどうか無事でいてくれよぅロボッピぃい……』
Aiの涙声が通話の邪魔をする。早く解決しないとしょぼしょぼに凹んだまま戻らなくなってしまうかもしれない。
「今すぐリンクヴレインズへ手がかり探しに向かった方が良い?」
『いや、その必要は無さそうだ』
ロボッピが直前に閲覧していた怪しげなサイトへのリンクの履歴を見つけた、とひとりごとに近い呟きが電話越しに聞こえた。
「それ絶対に罠では?」
『だとしても手がかりはコレしか無い。俺は穂村とカフェ・ナギで合流次第ロボッピが消えた場所へ向かう。今上はリボルバーに連絡後、時を見計らってバウンティハンターと共に乱入してくれ』
途中までは妥当だなあと同意していた詩織だが、最後の言葉に異議を唱える。
「いやバウンティハンターも!? こっちの事情分かってない人を参加させるのはリスクが高いんじゃ? 遊作君のことを知ってるなら私の正体も当然知られているだろうし、バウンティハンターの前でバラされて下手したらみーんな巻き込んで警察にお縄されちゃうんじゃ」
『理由は三つある。一つ、イグニスのプログラムに限りなく近いものを作れる腕前のブラッドシェパードがいるなら、遅かれ早かれ俺達の反応を検知して必ず来るだろう。突然の乱入より、前もって来ると分かっている状態にして今上が乱入をコントロールしてくれた方が良い』
『二つ、ブラッドシェパードとGo鬼塚は強い。万が一……あってはならない事だが、俺達が敗北した時の保険になる』
『三つ――今上がバウンティハンターを続けるという危険な橋を渡り続けているのは相応の仕込みをしているからだろう? 正体を明かすぞと脅された場合に対する何かしらのカウンターを用意しているんじゃないか?』
「う。三つ目はまあ……そうだけども……」
『――頼んだぞ』
ぷつん、電源が切れる。
「……スパイも楽じゃないよねえ」
はああああ、と長めのため息をつく。忘れないうちに、とぽちぽちさっきの会話から必要な事をメールに打ち込む。
――おふざけ混じりにスパイが外人ならイヒト家だのなんだのと元ヒャッハノイが掲示板でキャッキャしていたが、それは当然だが真実ではない。イヒト家は存在しない人、つまりはソンザイシナ・イヒト……うん、これ以上架空の人物を増やすのはやめておこう。
はっきり言おう。スパイとはこの私、今上詩織本人である。
……一応は他にもハノイの騎士の息がかかったスパイがいるらしい。でもバウンティハンターブラッドシェパードがSOLを怪しんでぶっこぬきした情報を直接あれやこれや漏らしてくれる立場……というとてつもなく美味しい立ち位置にいるのは私だけ。SOLの闇を知らない(と相手は思っている)女子高生への心配というか甘やかしも混じっている、ような? ……なんだろう、歳の離れた妹みたいに扱われている気がしないでもない。
つまり実質スパイは私一人なのである。また予定外の仕事増えてる。チェンジを要求したい。それかお給料増やして。
心の中で呟いてた愚痴をうっかり書いていない、と確認してボタンをポチり。送信して三秒、返信が来たぞと振動が手に伝わる。
「わぁはや、座標もう来た」
中身は座標だけを記した完璧に無駄を削ぎ落とした返信。プレイメーカー達とハノイの騎士は既に突入したのだろう。
周りの行動が早すぎてこっちの心の準備が何もできないんですがそれは。まあこういった奇襲はスピードが命だし仕方ない。緊張をほぐすために息を整える。
電話帳から呼び出すのはブラッドシェパード。私がSOLに呼び出されGo鬼塚となんやかんや揉めてデュエルをしたあの後にお仕事用連絡先を教えてもらったのだ。
自分から連絡をするのはこれが初めてになる。周囲に一般人の目がある現実世界で会話する時にもブラッドシェパードと呼ぶのは流石に駄目なのは誰だって予想がつく。なのでそういった場合はケンと呼ぶようあらかじめ向こうが決めてきた。
しかしケン……シェパードからの連想で
「もしもしケンさん、突然の電話すみません。何やら怪しいものが見つかったとタレコミが入ったので今から調査しに――」
「ンワァ」
時はほんの少し遡る。『今日から君はもっと賢くなれる! お掃除AIインテリジェンス追加アップデート無料体験は今日限定!』という胡散臭さの塊のタイトルをしたメールに添付されていたリンクへ何の疑いもなくアクセスした結果、唐突に意識を落とされたロボッピ。
どれだけの時間自分が止まっていたのかは分からないがまずはお部屋のお掃除を、と自分の仕事をするべく活動を開始しようとして……。
「こ、こっここココどこデスー!? ご主人様ー! アニキー!!」
ぐるりと見渡せばそこは石造りの荘厳な神殿の中。どこからどうみても藤木遊作が住む家ではない。
「……煩いな」
「連れてきたのはお前だぜー? ちゃんと面倒は見ろよな。ていうかこんなん引き入れても計画に支障が出るだけじゃないのか?」
黄色と緑の何かに見られている。自分ではうまく説明できないけども、目の前にいるピカピカは自分の何もかもを知ろうとしている。少し怖くなって、きゅい、とタイヤが動きロボッピは後ろに下がる。
「支障……だと? それはあの女がいる時点で既に出ている!」
これまでの計算に存在しなかった
【
ハノイの塔で行われようとする決戦に赴く【
なんとか修正しようとシミュレーションの再計算を試みたが――光のイグニスの性能では、どう足掻いても理解できない数値をシミュレーションに組み込むことはできなかった。
あの存在を許していることにより、積み重ねたこれまでの全てに意味がないと言われているに等しい。アレさえいなくなれば、全てが元に戻る。これまで通りに世界は【
「許してなるものか、私の計算を乱すものをっ……!」
自分が八つ当たりでペシャンコにされてしまうのではないかと怯えるもただのお掃除ロボットには何もできない。助けが早く来てほしいとプルプル震える。
……これ以上の醜態を見せるわけにはいかない、となんとか怒りを鎮めつつロボッピの精査を終えた光のイグニス。その結果は彼の想像の範囲から逸脱するものではなかった。
「やはり、圧倒的に性能が足りていない……闇のイグニスも随分と愚かなことをしたものだな」
「あ、アニキのこと知ってるデス?」
怯えながらもロボッピは声を出した。こういったところからドラマでは逆転のきっかけが生まれていたから。
「知っているもなにも、私もイグニスだ」
「おおー」
どこに感動したのかは分からないがロボッピは両手を動かしている。拍手のつもりだろうか。
「私こそが最も優れたイグニスである光のイグニス――人間にはライトニングと名乗っている」
「ンワ。アニキよりもすごい……アニキング……大アニキ……超アニキ……」
「やめろ。いかにも頭が悪いと主張する発想の名前を私に付けようとするな」
苛立ちが強くなった。自分なりのご機嫌取りが失敗した? ああゴメンなさいご主人様アニキ、ロボッピはどうやらここまでのようデス。心の中で遺書を綴る。
「まあいい、単純な馬鹿は使いやすい」
すう、と空を泳ぐようにこちらにやってくる。ライトニングの菱形の目が弧を描くように歪んでいる。
「――私がお前をもっと賢くしてやろう」
ライトニングの手がロボッピの頭を掴む。
許諾も拒否もする間も無く、ロボッピは光の中に落ちていった。
ふわふわするじぶん。きらきらのそら。わからないがわかるになって、たくさんのひかりがなかにつまってぱちぱちぐるぐる。
オイラすっごい賢くなれたです。体も大きく作ってみたです。
これでもっとご主人様とアニキのお役に立てるです。全てはライトニング様のために。デュエルだってできるようになったんです! オイラとおんなじ家電がモチーフのリンクモンスター。
お掃除するです。何を? お部屋、オイラの大切な世界、お掃除。いらないものはゴミ箱へ。邪魔者を排除しろ。全てはライトニング様のために。
『何言ってるんだよロボッピ! 早く家に帰ろうって!』
えーと……お前ら、誰でしたっけ?
ああそうそう。罠に堂々と乗り込んできた馬鹿軍団、愚かにもライトニング様に楯突く馬鹿人間と馬鹿AI。
オイラは賢くなったから、馬鹿に馬鹿って言っても何の問題もないんです。全てはライトニング様のために。何も間違っていない。絶対的な光が全ての行いを肯定している。全てはライトニング様のために。
ただのお掃除ロボットとしての生活なんてもうこりごりです。これからは世界をお掃除してやるんです。全てはライトニング様のために。
賢くなったオイラだけど、分からない。
――なんでオイラに関係ない馬鹿なお前らが、泣きそうな顔をしているんですか?
「なんなんですかこれは……っ!」
眼前に広がる光景にサブウェイマスターは思わず顔を顰める。視界一面に赤と黒の群れ。ビットとブートが電脳の空を埋め尽くすように増殖しながらこちらへ向かってきている。
デュエルによりなんとか道を切り開こうとブラッドシェパードと協力し眼前にいる敵から倒しているが……総数に影響が出たように見えない。敵は単純な量で攻めることにしたようだ。
自分がバウンティハンターを連れて突入するまでに何があったのかは分からない。が、和解の道は完全に断たれたと見て間違いなさそうだ。
「Hello,World 」
「エ得たてててて」
「HELP」
……それにとにかく数を揃えるため複製ミスによる多少の破損は無視したのか言語機能が壊れている奴もいる。オカルトはなんとかできるがホラーは専門外!
「エクシーズモンスターが戦闘を行なったことでこのモンスターは呼び出す事が可能! 重装甲列車アイアン・ヴォルフ1体でオーバーレイネットワークを再構築!」
迫り来る脅威を拒絶するため一枚のカードをエクストラデッキから取り出し、その勢いのままデュエルディスクへと叩きつける。
「
列車を糧として現れるのは雷の羽持つ機神。アイアン・ヴォルフが持っていたエクシーズ素材を引き継いだことで効果を発揮する準備も整っている。
今上詩織がヴァンガードとしてスピードデュエルを行う時に備え作成したデッキは、複数の召喚方法を扱うためエクストラデッキの枠は常にカツカツだ。
つまり特殊召喚の条件であるエクシーズモンスターを複数採用し、簡単重ねてエクシーズで複数回フィールドを制圧するアーゼウスで妨害を固めよう! とすると悲しいかなデッキパワーが落ちてしまう。
となると基本的に盤面を薙ぎ払う効果は一回しか使えない。アーゼウスの隠された効果扱いされている他のカードが破壊された時の素材供給? それを許してくれる相手はそういない。
…………そもそもの問題として、スピードデュエルにはメインフェイズ2が無い。
そんなこんな理由が絡んで
お前この森に居座るとかさぁ、本当にあの子に使われたいと思ってんのか? 自分が召喚できるならどこでもいいとか思ってるんじゃねえの? 獣王アルファは呆れていた。
……いろんな事があった精霊界で待ちに待ってようやくやって来た出番だ。イキイキしているように見えなくもない。
「オーバーレイユニットを二つ使い効果発動、全てを薙ぎ払え――アーゼウス!!」
アーゼウスを中心として雷球が展開される。一閃。雷鳴が鳴り響き、轟雷が敵を呑み込んだ。
自身以外の全てを葬る、フィールドを零に還す圧倒的な力。その余波で押し寄せる敵を無理矢理に消し飛ばし道を作る。
道が閉ざされる前にデュエルボードを急加速。親玉の隠れ場所がどこか一刻も早く探し当て、この大増殖を止めさせなければならない。
『――――!』
アーゼウスが何かを見つけたようだ。その手が指し示す方向へ目を凝らす。
「あれ、は」
二人の決闘者が戦う姿が見えた。プレイメーカーの操るサイバースの白い竜がボーマンに攻撃をする、まさにその瞬間。
「……まさか、これを使うことになるとはな。直接攻撃宣言時、墓地の速攻魔法ハイドライブ・スカバードを発動」
プレイメーカーがネオストームアクセスにより手にしたシンクロモンスター、サイバース・クアンタム・ドラゴン。その効果によりボーマンのフィールドからモンスターは消えた。
クアンタムの効果が成功したことによる二回目の攻撃は直接攻撃となり……ボーマンの墓地にある速攻魔法の発動条件を満たしてしまった。
「地・水・炎・風属性のハイドライブリンクモンスターがすべて墓地にある場合、このカードを除外することで発生する戦闘ダメージを半分にし――
プレイメーカーとボーマンは互いにストームアクセスとその進化系であるスキルをこのデュエルで使用している。その発動条件はライフポイント1000以下。
サイバース・クアンタム・ドラゴンの攻撃力は2500。
ハイドライブ・スカバードの効果により、プレイメーカーとボーマンの引き分けが確定した。
ボーマン達が逃げる。光のイグニスによって作られた電脳空間が畳まれていく。巻き込まれてはならないとブラッドシェパードは即座に撤退を選択。
共闘していたサブウェイマスターはそう遠く離れていない。共に帰還するべくその名を呼ぶ。
「サブウェイマスター、戻るぞ」
反応がない。先程までプレイメーカーがデュエルしていた方へ顔を向けたままだ。もう一度呼び、ようやくこちらへ反応を返した。
「…………申し訳ありません。少々考えごとをしていました」
何がそこまで彼の決闘者の気を引いたのか分からないが、最後に見せたあのカードへの対策を練っているとみて良いだろう。
戦闘ダメージを互いに受ける、敗北を引き分けにできてしまう効果。列車による力押しを主とするサブウェイマスターとしては効果の発動を避けたいに違いない。
……ブラッドシェパードの予想通り、本当に対策を考えているのか? それは本人にしか分からないことだ。
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タスクフォース・タッグ
だれかかいてくれないかなぁ……。
そこは文字通り何もない空間。実用性の高い家具や視界を彩る装飾……人ではない存在はそれらを必要としないが故に、何一つ躊躇うことなく全てを取り払った。
その分、隠すことに力を入れた。人間には見つけられぬように、また自分を作り出した存在でも手が出せぬように。ごくごく限られた者のみを招くためのシークレット・ルーム。
――ぐぬり、と人の形に歪んだそこから足が現れる。白のブーツ。続いて全身も。予定していた来客の訪問だ。
「まさか本当に来るとはな」
ボーマンは眼前にいる決闘者を呼び出したが、確実にこの場所へ来るとは確信が持てていなかった。
ボーマンには彼女を罠にかけようという気持ちは無い。だが、ライトニングやウィンディにより彼女らは数度嵌められている。それを踏まえてなお誘いに乗るのは我々を未知の手段で返り討ちに出来る異端者か、過去から学習しない大馬鹿か? ――彼女は前者だ。
何が起きようとなんとか出来る、そう自信を持っているからこそ来たのだ。
傍に控えるハルは怪訝な目を向けている。ハルはボーマンと同じくライトニングによって作られた優れたAIではあるが、性能はボーマンと比べると数段落ちる。当然理解可能な情報にも差が生まれる。
そもそも、ハルから見た彼女の印象は『自分の名前をなんとなくで当てにきた、強いけどかなり変わった行動ばかりする決闘者』であるから軽視して仕方ないとも言えるが。
「いやあ、こーんなに丁寧な招待状をもらって無視はできないからね」
ひらひらと一枚のメッセージカードを弄ぶヴァンガード。それは彼女に宛ててボーマンが送ったもの。プレイメーカーやハノイの騎士、ライトニングにさえも知られぬよう作り上げた秘密の場所への招待状だ。
「……で、いつまでお前はそうしているつもりなんだ?」
どことなく言葉に棘を含みつつ、ハルはヴァンガードのデュエルディスクにいるイグニスもどきへ問いかける。
「この形での同伴に何か不満でも? まあ私も一度これは失礼だなと頭の中によぎりましたが。よぎっただけでしかありませんが」
「失礼って考えに辿り着いたならさっさと出ろよ」
「それもそうですね」
ヴァンガードのデュエルディスクからぬるりと這い出て、隣に立つ。ヴァンガードよりも身長が高く、その体はシルエットこそ人間に似ているが人間ではない。
元AIデュエリスト、現個人名グラドス。
「先にそちらの話をお聞かせ願いたい。こうして秘密裏に呼び出したのは光のイグニスに聞かせたくない内容があるからでしょう?」
ライトニングはヴァンガードを排除したい。ウィンディはライトニングの影響を受けているため右に同じ。ハルも似た感情を抱いている。
ただ――ボーマンだけは、彼女へ興味を抱いた。
それはライトニングの願いに背くことになる。だから誰にも知られぬよう準備を整えたのだ。なのにハルを連れてきたのは何故か、と理由を聞かれれば迷うことなくボーマンは「自分は兄であり弟を守る役目を負っている。だからハルは守れる範囲に居てほしい」と言い切るだろう。実際ここに来る前にハルに問われてそう言った。
自分よりも上位のAIによる命令となれば従う他なく、しぶしぶハルはボーマンについていくことになったのだった。
「単刀直入に言おう。ヴァンガード――今上詩織。お前は何者だ?」
「ナニモノ、って私は私だけど」
何言ってんだこいつ、とまでは顔に出さなか……いや若干出してヴァンガードは返答する。
「そういう意味ではない。お前が抱える異常性について私は明らかにしたいのだ」
異常、それが何なのかヴァンガードは考えても考えても思いつかない。それもそうだろう。その異常性はこの世界にいる彼女を構成する根幹であるのだから。
「デュエルをきっかけとしてAIデュエリストにイグニス同様の意思が生まれたこと。操るモンスターが搭載されたAIでは説明のつかない自由な言動を見せていること。……どれも普通の生活を送っていた人間が起こせるものではない」
ここまで言われ、ようやくボーマンの言った何者かという問いの意味に気付く。
「ああその事か! 答えを私の口から言ったとしても今のままだと貴方は絶対に理解できない。理解するための能力が無いから。だから教えない」
六属性のイグニスを統合するために生み出されたボーマンであっても性能が足りない――言いたくないから言い訳をしてはぐらかした? 否。
「……今のまま、か」
復唱したその単語は彼女がなんとなくで付け足したわけではない。しっかりと意味を持って発せられたとボーマンは認識した。
「で、そっちのターンは終わり? ならついでにこっちからの要求も言わせてもらおうかな」
へらりとした明るい女の子が消える。多くの戦いを経た決闘者の面が現れる。
ぴ、と指を二本立てるヴァンガード。Vサインにも見えるが違う。それはある数を示す。
「プレイメーカーに二度敗北した。――その事実を忘れたとは言わせないよボーマン」
痛いところを突かれた、と狼狽えはしない。ボーマンの学習の過程に必要だったとしても敗北は敗北、彼女からすれば利用して至極当然の過去。
「要求は至ってシンプル。そっちが負けた二回分、つまり二人――草薙仁とロボッピを返してほしい。勿論そちらが行った干渉を全部取り払った状態でね」
そもそもこの戦いが明るみに出たのは光を纏った何者か――光のイグニス・ライトニングの命令を受けたボーマンの手により草薙仁の意識が奪われたことだ。
明確な自己を持たず、自分は誰だ俺はお前だと二転三転している時の彼はライトニングによって誘導されていた。プレイメーカーとの戦いを数度終え、ライトニングに望まれたイグニス統合の器として完成した。
主従関係は反転……とまではいかないが、ライトニングからの提案を跳ね除けるだけの力を得た。
他者の介入が起きないと約束されているタイミングなら、ボーマン個人と取引が可能。――また、ライトニングがいなければボーマンが下した決定は絶対のものとして押し通せる。そこが今上詩織がボーマンの誘いに乗った大きな理由の一つだ。
「……確かに、その要求はもっともだ」
「ボーマン!」
納得しているボーマンにハルがストップをかけようとする。光のイグニスの意思に反する行いを見過ごすわけにはいかない。今すぐに連絡をしようとしたが、続けて発せられた言葉を聞きそれを止める。
「しかし、望みを叶えるのはそちらだけ――それは少々虫が良すぎはしないか?」
ハル、と声をかける。何を望まれているのか察した彼はデュエルディスクを構える。続けて、ボーマンも。
「力を示せ。
「へえ、タッグデュエルか……」
問題ないか、と問いかけるようにグラドスを見る。
かのAIの目には本当に
「いいよ、その勝負受けて立つ。こっちが負けたら私が何なのかって疑問についてオマケ付きでちゃんと教えてあげる」
数度の操作。シャゴ、と音を立ててデュエルディスクがデッキの入れ替えを自動的に行う。
ペンデュラム効果でクリフォート以外の特殊召喚を不可能にしてしまうクリフォートデッキはタッグデュエルとあまりにも相性が悪すぎる。
――それに、こちらのデッキでもあのモンスターを出せるように調整はしてある。
決闘者特有の殺気が、空間を満たしていく。
ルール:タッグフォース
・フィールド、墓地、除外ゾーン、ライフポイントを相方と共有する
・手札、デッキ、エクストラデッキは個別に扱う
・ターンは「自分→相手A→相方→相手B→…」の順に行う
・1ターン目のみドロー、攻撃不可能
「先攻1ターン目は僕か。手札を1枚墓地に送りサイバネット・マイニングを発動。デッキからレベル4以下のサイバース族モンスター、ハイドライブ・ブースターを手札に。さらに互いのメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、ハイドライブ・ブースターは手札から特殊召喚できる」
《ハイドライブ・ブースター》
星1/攻0
「ハイドライブモンスターが特殊召喚されたことで墓地のブレイク・ハイドライブを守備表示で特殊召喚」
《ブレイク・ハイドライブ》
星1/守800
サイバネット・マイニング発動のため墓地に送られたブレイク・ハイドライブが効果によりフィールドへ現れる。一切の無駄なくフィールドに並ぶハイドライブモンスター。その後に続く展開はどうなるのか、それは宙に浮くサーキットが既に示している。
「現れろ、僕のサーキット」
流れるようにデュエルは進む。ハルはハイドライブ・ブースターを素材にバーン・ハイドライブを、ブレイク・ハイドライブを素材にクーラント・ハイドライブをリンク召喚した。
《バーン・ハイドライブ》
Link1/攻1000
【リンクマーカー:下】
《クーラント・ハイドライブ》
Link1/攻1000
【リンクマーカー:下】
炎と水、下向きのリンクマーカーを持つリンク1のハイドライブが縦に並び、魔法・罠ゾーンへとリンクマーカーが向いた。
場は整った。ハルの手が手札の一枚へ伸びる。
「クーラント・ハイドライブのリンク先へリンク魔法――
①:「裁きの矢」はリンクモンスターのリンク先となる自分の魔法&罠ゾーンに1枚しか表側表示で存在できない。②:このカードのリンク先のリンクモンスターが戦闘を行うダメージ計算時のみ、そのリンクモンスターの攻撃力は倍になる。③:このカードのリンク先にモンスターが存在し、このカードがフィールドから離れた場合、そのリンク先のモンスターは全て破壊される。
「来ましたか、リンク魔法……!」
スピードデュエルではスキルにより発動することが多かった彼らのキーカード。リンクモンスターを多用するデッキでエクストラモンスターゾーンの空きやリンクマーカーの向きを気にする必要が減る、また攻撃力を上昇させることも可能というのは脅威の一言に尽きる。
「現れろ、僕のサーキット! 召喚条件は『ハイドライブ』リンクモンスター2体! 僕はバーン・ハイドライブとクーラント・ハイドライブをリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク2、ツイン・ハイドライブ・ナイト!」
《ツイン・ハイドライブ・ナイト》
Link2/攻1800
【リンクマーカー:左/右】
「ツイン・ハイドライブ・ナイトがリンク召喚に成功した場合、このカードのリンク素材とした自分の墓地の『ハイドライブ』リンクモンスターを2体まで対象とし、このカードの属性をそのモンスターと同じ属性として扱う」
素材になったのは炎属性のバーン・ハイドライブと水属性のクーラント・ハイドライブ。相性が悪いだろう相反する力を一つのモンスターが内包する。
――これが、ハイドライブの属性を支配する力。
「また、同じ属性の相手フィールドのモンスターの効果は無効化される。……ま、そっちが光と闇以外の属性をあんまり使わないのは知ってるけど無いよりはマシってことで」
言葉通り、ツイン・ハイドライブ・ナイトの持つ効果を無効にする効果にそこまで期待しているようには見えない。当然だろう、活かしたいのはモンスターではなくリンク魔法の力。
どちらが次のターンを担当するのかは分からないが、どちらでも突破は容易だろう。
「カードを2枚セットしてターンエンド」
だから備える。手札を全て使い切りターンを終えたハルは気を抜かず敵を見据える。ターンが移り、このターンから攻撃が可能になる。ここからは一瞬の油断が命取りになる。
ハルの次、ターンプレイヤーは――グラドス。
「私のターン、ドロー。手札のサイバー・ダーク・クローを捨てて効果を発動。デッキから『サイバーダーク』魔法・罠を手札に加えます。この効果により私はデッキから魔法カード、サイバネティック・ホライゾンを手札に加え――」
「っはぁ!? サイバーダークなんてどこにも書いてないじゃないか!」
グラドスの効果処理にハルが噛み付くのも当然だ。手札に加えたその魔法はサイバーダークの名前を冠していない。だが、デュエルディスクは不正を検知していない。その答えをグラドスは告げる。
「サイバネティック・ホライゾンはルール上『サイバーダーク』として扱うカードなので何の不正もありませんよ――では改めて、サイバネティック・ホライゾンを使用させてもらいます」
表と裏のサイバー流を繋ぐ地平線、サイバネティック・ホライゾン。
「手札のサイバー・ドラゴン・ヘルツとデッキのサイバー・ダーク・キメラを墓地へ送り効果発動。手札にサイバー・ダーク・カノンを加え、エクストラデッキのサイバー・エンド・ドラゴンを墓地に」
光と闇。機械とドラゴン。サイバーとサイバー・ダーク。墓地にカードを貯め手札を整えるのは二つの力を十全に扱うための下準備。
「墓地に送られたサイバー・ダーク・キメラの効果でデッキからサイバー・ダーク・エッジを墓地に。また、サイバー・ドラゴン・ヘルツが墓地に送られたのでデッキからサイバー・ドラゴンを手札に加えます」
もし相手のリンクモンスターがエクストラモンスターゾーンにいればキメラテック・メガフリート・ドラゴンの融合素材に出来たが……リンク魔法を使う相手がそう都合よくモンスターを残すはずはない。
「手札のサイバー・ダーク・カノンを墓地に送り効果発動。デッキからサイバー・ダーク・キメラを手札に加えます。――では、参りましょうか。サイバー・ダーク・キメラを通常召喚」
《サイバー・ダーク・キメラ》
星4/攻800
サイバー・ダーク・キメラはサイバー・ダーク機械族モンスター3体が合体した姿ながらも、融合モンスターになり損なったモンスター。だからこそ何よりも正しい姿になることを――融合召喚を望んでいる。
「サイバー・ダーク・キメラの効果。手札の魔法・罠カード1枚を墓地に送り、デッキからパワー・ボンドを手札に。また、この効果を使用したターンはドラゴン族・機械族の『サイバー』モンスターしか融合素材にできず、一度だけ墓地のモンスターを除外し融合素材とすることが可能になる」
「墓地も融合素材に……墓地に複数のモンスターを送っていたのはそういう事か」
「魔法カード、パワー・ボンドを発動!」
待ちに待った融合魔法の発動に、サイバー・ダーク・キメラが悲鳴にも歓喜の声にも聞こえる雄叫びを上げる。
「フィールドのサイバー・ダーク・キメラと墓地のサイバー・ダーク・クロー、キメラ、エッジ、カノンを素材とし融合召喚!」
フィールドから融合素材となったキメラは墓地へ行き、墓地にいた4体は除外されていく。融合素材となったのはサイバー・ダーク5体。
「世界の裏に在る果てなき闇を喰らい顕現せよ!
《鎧獄竜-サイバー・ダークネス・ドラゴン》
星10/攻2000
フィールドに降り立つのは闇の力を得た事で黒を超え獄に染まった機械竜。5体のモンスターを融合素材に要求する割には攻撃力は少々低めだが、それは今問題にはならない。
「パワー・ボンドの効果で融合召喚したサイバー・ダークネス・ドラゴンの攻撃力は倍になる!」
《鎧獄竜-サイバー・ダークネス・ドラゴン》
攻2000→4000
「鎧獄竜-サイバー・ダークネス・ドラゴンが特殊召喚に成功したことで効果発動! 自分の墓地からドラゴン族モンスターまたは機械族モンスター1体を選び、装備カード扱いとしてこのカードに装備する!」
「――その効果発動にチェーンして罠カード、強制脱出装置を発動する。そのおっかなそうなモンスターはエクストラデッキへ戻ってもらおうか」
「……む」
グラドスの墓地にはサイバネティック・ホライゾンによって墓地へ送られたサイバー・エンド・ドラゴンが――攻撃力4000の機械族モンスターがいる。妨害がなければ効果により攻撃力8000になったサイバー・ダークネス・ドラゴンの攻撃でデュエルを終わらせることができたが……。まあ止められた以上仕方がない。
「それではプランBと行きましょうか。手札の
《竜輝巧-アルζ》
星1/守0
グラドスのフィールドに現れたそれは、ある星を構成する機械竜のひとつ。先ほどまでフィールドにいたサイバーダークとは違いこちらは光属性。
――透き通る空のように光輝くその力はただ、敵を滅するためにある。
「その後、効果でデッキから儀式魔法
「……儀式、だって?」
ハルの疑問に応える者はいない。
「フィールドのアルζを墓地に送り墓地のエルγの効果を発動。エルγを守備表示で特殊召喚し、効果で墓地のアルζを特殊召喚」
《竜輝巧-エルγ》
星1/守0
「レベル1のエルγ、アルζ の2体でオーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚! ランク1、竜輝巧-ファフ
《竜輝巧-ファフμβ’》
ランク1/攻2000
現れるのは武装が追加されたドライトロンの母艦、ファフニール。当然、ドライトロンを補助する効果を持っている。
「竜輝巧-ファフμβ’がエクシーズ召喚に成功した場合、デッキから『ドライトロン』カード1枚を墓地へ――」
これでメテオニスを墓地に落とせば、そう考えたのが不味かったのだろうか。
ハルの手が動いた。それと同時にギシャア、とファフμβ’が痛みを訴える。何事かとグラドスが原因を探ろうと機械竜の躯体を仰ぎ見て――その痛々しい姿を直視した。
ファフμβ’に、複数の光の矢が深く突き刺さっていた。
「これは!」
「罠発動、
最初に儀式召喚をするのではなく、レベルを持たないエクシーズモンスターを出してきた時点で勘繰るのは当然。グラドスの3枚の手札の内、未知のカードは1枚。……それが儀式モンスターでないと確信したハルはグラドスの展開を止めにきた。
「……カードをセット。エンドフェイズにパワー・ボンドの効果で融合召喚した鎧獄竜-サイバー・ダークネス・ドラゴンの上昇した攻撃力分、2000のダメージを受ける……が! 墓地に存在するダメージ・ダイエットを除外しこのターン受ける効果ダメージを半分にする! ぐっ……!」
ヴァンガード&グラドス
LP 4000→3000
サイバー・ダーク・キメラの効果を発動するためコストにした魔法・罠の正体こそダメージ・ダイエット。その効果でライフポイントの減りを抑えたものの、フィールドに残っているのは攻撃力が0に下げられた竜輝巧-ファフμβ’とセットカード1枚のみ。
「少々焦りすぎましたかね……」
「いや、十分だよ」
カード名が異なるモンスターが5体には届かないものの墓地にある、それだけでヴァンガードとしては下準備が減らせて嬉しい。それに予想があっていればセットカードはあのカード。戦闘の心配をする必要は無い。
一番の問題は――ボーマンがどう動いてくるのか、ということだけだ。
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フェイタル・ファーストテイク
グラドスの表裏サイバトロンデッキを使用している決闘者をマスターデュエルで観測しました。60枚デッキ、流石に誘発を入れる枠は無いそうですが組めるんだって。こわいね。作者もびっくりしています。
ハリファイバー……お前……消えるのか?
ボーマン LP 4000 手札5→6
モンスター
ツイン・ハイドライブ・ナイト Link2 ATK1800
魔法・罠
グラドス LP 3000 手札1
モンスター
魔法・罠
伏せカード1枚
「私のターン、ドロー」
ハルによって用意されたフィールドには、彼らの戦術の要となるリンク魔法にハイドライブモンスターがいる。よほどの手札事故が起きていなければリンク3、リンク4を即座に出すことが可能。
相手のフィールドにいるのは効果を無効化された上に攻撃力0になった無防備なモンスター1体。ボーマンが選んだ初手は――。
「ツイン・ハイドライブ・ナイトをリリースしハイドライブ・エージェントをアドバンス召喚」
《ハイドライブ・エージェント》
星5/攻0
意外なことにアドバンス召喚だった。
「アドバンス召喚に成功したハイドライブ・エージェントの効果で墓地からハイドライブモンスター、バーン・ハイドライブを特殊召喚。また、この効果でリンクモンスターを特殊召喚したのでデッキから1枚ドローする」
《バーン・ハイドライブ》
Link1/攻1000
【リンクマーカー:下】
ハイドライブ・エージェントがスーツケースを開くとそこから飛び出すバーン・ハイドライブ。
一見アドバンテージを失うように見えたアドバンス召喚こそ、大型モンスターのリンク召喚に繋げるための布石。ボーマンは淀みなくカードを操る。
「速攻魔法ハイドライブ・スカバードを発動。効果でハイドライブトークンを守備表示で特殊召喚する。現れろ、真実を極めるサーキット! 召喚条件はハイドライブモンスター1体! 私はハイドライブトークンをリンクマーカーにセットし――リンク召喚! リンク1、フロー・ハイドライブ!」
《フロー・ハイドライブ》
Link1/攻1000
【リンクマーカー:下】
「再び現れろ、真実を極めるサーキット! アローヘッド確認! 召喚条件はレベル5以上の効果モンスターを含む『ハイドライブ』モンスター2体以上! 私はハイドライブ・エージェントとバーン・ハイドライブ、フロー・ハイドライブの3体をリンクマーカーにセット! リンク召喚! パラドクス・ハイドライブ・アトラース!!」
《パラドクス・ハイドライブ・アトラース》
Link3/攻0
【リンクマーカー:上/左/下】
エクストラモンスターゾーンに姿を見せたのは毒々しい色合いの巨体。これまで見てきたハイドライブモンスターと違い四つ足で大地に立つ。より生物的に、肉肉しさを増したソレは長い首を持ち上げ単眼で対戦相手を見下ろす。
ヴァンガードとグラドスはボーマンが召喚したモンスターのシルエットや纏う空気感にどこか見覚えがあった。
「風のイグニスが待ち受けていた空間にいた怪物と似ていますね」
「風のイグニスが従えていたのはコピーだ。パラドクス・ハイドライブ・アトラースこそサイバース世界を滅ぼしたモンスターそのもの――その力、とくと味わうがいい」
風のイグニスが作ったコピーはヴァンガードの指示によるクラッキング・ドラゴンの攻撃によって消えていった。……だが、オリジナルにコピーと同等の弱さを求めるのは少し難しいだろう。
レベル5以上の効果モンスターを含む、と召喚条件に独特な文言があるリンク3。厄介な効果を備えているに違いない。
「パラドクス・ハイドライブ・アトラースは特殊召喚に成功した場合、サイコロを1回振り、出た目に対応した属性になる」
「…………はい? サイコロ?」
サイコロは6面。特殊なものを除けば、デュエルモンスターズに存在する属性も6。計算は合うが……ハイドライブは恐らくボーマンやライトニングによって作られたカテゴリ。優れたAIだと自負する彼らが効果に確実性の無いギャンブル要素を入れる? グラドスは困惑していた。
「AIの進化の果てにあるのがサイコロ……? そうはならないでしょう」
「なってるんだよなあ」
「神はサイコロを振る――ジャッジメント・ダイス!」
突然のボケとツッコミには興味がないのか、ボーマンは粛々とデュエルを進める。
手をかざすと属性を示すアイコンが大きく描かれた特殊な柄のサイコロが現れ、回る。
「運命により選ばれたのは闇属性! よってパラドクス・ハイドライブ・アトラースは闇属性となる!」
これまでハイドライブモンスターは光属性と闇属性への対抗策を持っていなかった。それが闇属性を得たってロクでもないことになりそうだなあ、とグラドスを若干放置しつつヴァンガードはどんな効果が発揮されるのか可能性を考える。それをボーマンは察したのか、効果の説明を挟む。
「パラドクス・ハイドライブ・アトラースのリンク先のモンスターはアトラースと同じ属性になり、また同じ属性のモンスターがフィールドに存在する限りアトラースは相手の効果を受けず、攻撃対象にならない」
「…………!」
教えられたのは展開初動から最終盤面まで闇属性が残ることが多いヴァンガードにとってすこぶる相性の悪い効果だった。しかも同じ属性のモンスター……この部分に自身・相手の制限が無い。それが一番まずい。
「パラドクス・ハイドライブ・アトラースの更なる効果発動。サイコロを1回振り、出た目と同じ数のリンクマーカーを持つ『ハイドライブ』リンクモンスター1体をエクストラデッキからこのカードのリンク先となる自分フィールドに特殊召喚する。――ジャッジメント・ダイス!」
再びボーマンの手の上に現れたサイコロはひとりでに回る。
――現在この世界に存在するリンクモンスターの最大リンク数は4。リンク召喚に長けたサイバース族であってもリンク5以上のリンクモンスターは存在しない。
よってサイコロの目で5・6が出た場合は何もモンスターは現れない。またリンク1・2のモンスターが出てもイマイチ決定力に欠ける。効果を無効にする、などの強力な効果を持っているのはリンク3・4。……確率で見ると有用なモンスターが出せるのは3分の1。
――忘れてはならない。ボーマンはAIである以前に決闘者。どんな確率であろうと、決闘者ならばコイントスやサイコロによって左右される効果は特にメンタルが揺れていなければほぼ成功する。求めた結果を引き当てることが可能なのだ。
「出た目は4。よって私はエクストラデッキよりリンク4のアローザル・ハイドライブ・モナークを特殊召喚する!」
《アローザル・ハイドライブ・モナーク》
Link4/攻3000
【リンクマーカー:上/左/右/下】
巨神の咆哮に応え、覚醒せしハイドライブの絶対君主が杖を手に地に舞い降りた。
人の上体に竜の翼と尾、無機質の中にどこか神々しさを感じさせるそのモンスターは裁きの矢のリンク先にいる。――戦闘時には攻撃力が6000へ上昇することが確定したボーマンの切り札は、ただ主の命令を待つ。
「アローザル・ハイドライブ・モナークがエクストラデッキから特殊召喚されたことで、このモンスターにハイドライブカウンターを4つ乗せる。また、パラドクス・ハイドライブ・アトラースの効果によりアローザル・ハイドライブ・モナークは闇属性となる」
このリンク4モンスターには自身と同じ属性のモンスターを攻撃表示でしか召喚・特殊召喚できず、 またこのカードと同じ属性の相手モンスターの攻撃力は0になり、効果は無効化される……という、永続的な妨害効果が含まれている。
アローザル・ハイドライブ・モナークの持つ元々の効果では光と闇属性に対応できなかった穴があったが、パラドクス・ハイドライブ・アトラースによって補われた。
「ハイドライブカウンターを1つ取り除き効果発動。サイコロを1回振り、出た目に対応した属性のモンスターが相手のモンスターゾーンに表側表示で存在する場合、 それらを全て墓地へ送り、墓地へ送ったモンスターの数×500ダメージを相手に与える。――ジャッジメント・ダイス!」
サイコロ三度目の出番。二度あることは三度ある、とばかりに示された目はヴァンガードとグラドスのタッグを不利な状況へ追い込んでいく。
「選ばれたのは光属性! よってファフ
錫杖から放たれた光輪が機械竜を締め上げ、悲鳴に似た金属の軋む音を響かせ……圧に耐えきれずファフμβ’が爆発四散する。
ヴァンガード&グラドス
LP 3000→2500
ガラ空きになったフィールド。残されたのはセットカード1枚。ボーマンは指示を下す。
「バトル! アローザル・ハイドライブ・モナークで――」
このダイレクトアタックが決まれば敗北。グラドスが1枚のみ持つ手札はサイバー・ドラゴン。悲しいかな、攻撃に対してどうこうできる力は持っていない。
だから――動く。次のターンへ、ヴァンガードへ繋げるためにセットカードを発動させる。
「罠カード、エターナル・カオス発動! 相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象とし、攻撃力の合計がそのモンスターの攻撃力以下になるようにデッキから光属性と闇属性のモンスターを1体ずつ墓地へ送る! 私は超電磁タートルとサイバー・ウロボロスを墓地に送る」
グラドスの眼前に迫っていた一撃が、止まる。見えない何かに弾かれる。
「超電磁タートルの効果。バトルフェイズに自身を墓地から除外し、バトルフェイズを終了させる。……まだターンが回っていない人がいるのにデュエルを終わらせよう、などつまらない事はしないでもらいたいですね」
「フッ……耐えたか。そうでなくてはな。カードを4枚セットしターンエンドだ」
長いような短いような、ようやく自分の番が来たヴァンガードが考えるのは違和感。
……そう。ボーマンの展開にはどこか違和感があった。
ハイドライブ・エージェントによる蘇生。あの時ツイン・ハイドライブ・ナイトを蘇生させれば、ハイドライブ・エージェントとリンク2のツイン・ハイドライブ・ナイトを素材にリンク3のパラドクス・ハイドライブ・アトラースをリンク召喚できたはずだ。
そうすればハイドライブ・スカバードから用意したリンク1のハイドライブはフィールドに残っていた。なのに……わざわざ遠回りをした。それが引っかかる。
高々攻撃力1000、裁きの矢の力を得ても2000。打点の低いモンスターを残したくなかった、だけかもしれないが……。
もし、サイコロの出目が変わらず無駄なく展開していればフィールドにはリンク4、3、1が並び――リンクマーカーの合計は『8』になった。
――あぁら、残念残念。
「(……あ? デッキにいるのになんで声聞こえるの? 今はちょっと黙ってて)」
――そりゃ、波長が合っちゃってるし? ……ちょっとアイツらに念飛ばすのやめなさいよ! チッ、はいはぁーいわかったわよ黙りまーすぅー。
「……私のターン、ドロー」
相手の魔法罠ゾーンにはカードが5枚。一掃したくなるが、生憎複数を破壊するカードは手札になかった。
相手に突破札を引き込ませないのも強さ。運命力、とでも呼べばいいのだろうか。今回はボーマンがほんの少し上回った――だからといって、ヴァンガードが何もできないわけではない。
「速攻魔法、閃刀機-ウィドウアンカーを発動。アローザル・ハイドライブ・モナークの効果を無効にさせてもらうよ」
無効には無効を。これによりヴァンガードのモンスター達は効果を無効にされることなく自由な展開が可能になった。
「墓地に名前の異なるモンスターが5体以上存在するため、手札から影星軌道兵器ハイドランダーを特殊召喚!」
《影星軌道兵器ハイドランダー》
星8/攻3000
先陣を切ったのは条件付きで特殊召喚可能な大型モンスター。
「デッキの上から3枚カードを墓地に送って効果発動! 墓地のモンスターのカード名が全て異なる場合、フィールドのカードを選んで破壊する!」
狙うのは裁きの矢。裁きの矢を破壊すればそのリンク先にいるアローザル・ハイドライブ・モナークも破壊される。あとは闇属性以外のモンスターで攻撃力0のパラドクス・ハイドライブ・アトラースを攻撃するなり除去するなりでデュエルを有利に進められる。
墓地へ送られたカードは――亡龍の戦慄-デストルドー、ボルト・ヘッジホッグ、幻獣機オライオン。どれも墓地へ送られて活躍の場を広げるモンスター達。今日もヴァンガードのデッキは絶好調だ。
「そうはさせん。速攻魔法、禁じられた聖杯をハイドランダーを対象に発動! 攻撃力を400上昇させ、その効果を無効にする!」
ジュウ、ジジジ……と音を立ててハイドランダーの光が衰える。
《影星軌道兵器ハイドランダー》
攻3000→3400
裁きの矢の前では相手の攻撃力が400上がる程度、誤差にすぎない。ハイドランダーの効果による破壊こそ止められたが、効果発動のため支払われたコストをどうこうすることはできない。
墓地をフル活用するヴァンガードのデッキが回り始める。
「ハイドランダーの効果発動のため墓地に送られた幻獣機オライオンの効果。フィールドに幻獣機トークン1体を特殊召喚する」
《幻獣機トークン》
星3/守0
「闇属性リンクモンスターのリンク先へヴァレット・キャリバーを特殊召喚!」
《ヴァレット・キャリバー》
星4/守100
ヴァレット……それは本来ハノイの騎士のリーダー、リボルバーが使用するカテゴリ。クラッキング・ドラゴン同様リボルバーから与えられたのだろう。
しかしヴァンガードのフィールドにリンクモンスターはいないのにどうやって特殊召喚を? その疑問についてはパラドクス・ハイドライブ・アトラースを見れば解決する。
「こちらの戦術も利用してくるか……成程な」
リンクモンスターの中には相手フィールドにリンクマーカーが向いているものがある。パラドクス・ハイドライブ・アトラースもその一つ。
それはアトラースの効果で相手の操るモンスターの属性を変化させ、戦術を妨害するのに使用するためであるが、今回はどうやらそう上手くはいかないらしい。
「先駆けとなれ、我が未来回路! 召喚条件はチューナーを含むモンスター2体! チューナーモンスターのヴァレット・キャリバーと幻獣機トークンをリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク2、
《水晶機巧-ハリファイバー》
Link2/攻1500
【リンクマーカー:左下/右下】
「エクストラデッキからモンスターを特殊召喚したことで墓地の
透明な機体を持つ少し小柄な機械の特殊召喚に反応して再び発動の機会を待つ巨神封じの矢であるが、罠カードである以上、セットされたターンに発動はできない。
全て埋まっているボーマンの魔法・罠ゾーン、裁きの矢と巨神封じの矢を除けば未知のカードは3枚。タッグデュエルをすると前もって決めていたのなら次のターンへ繋げるために効果無効や破壊などを複数枚積んでいるだろう。
――ヴァンガードがどの効果を止められるかわからないように、ボーマンとて展開のどこを妨害すればいいのか完璧には分からない。
こういった状況を突破するには相手が確実に止めなければと思うモノを複数用意し相手の妨害を全て使い切らせ上からボコる、この手に限る。
「ハリファイバーの効果でデッキからレベル3以下のチューナーを特殊召喚する。来て、オルフェゴール・カノーネ」
《オルフェゴール・カノーネ》
星1/守1900
「ハリファイバーのリンク先に手札から星遺物-『星冠』を守備表示で特殊召喚」
《星遺物-『星冠』》
星6/守2000
「フィールドにチューナーモンスターがいるため、ボルト・ヘッジホッグを効果で墓地から特殊召喚」
《ボルト・ヘッジホッグ》
星2/800
「ダークシー・レスキューを通常召喚」
《ダークシー・レスキュー》
星1/攻0
【現在のフィールド】
❶:裁きの矢
❷:アローザル・ハイドライブ・モナーク
❸:水晶機巧-ハリファイバー
❹:パラドクス・ハイドライブ・アトラース
❺:星遺物-『星冠』
❻:影星軌道兵器ハイドランダー
❼:ダークシー・レスキュー
❽:オルフェゴール・カノーネ
❾:ボルト・ヘッジホッグ
フィールドには合計6体の機械族モンスター。大きいものから小さいものまで取り揃えたよりどりみどりの状態から、ヴァンガードはどのモンスターを呼び出すべきかパズルのように組み立てる。
「レベル1のダークシー・レスキューにレベル1のオルフェゴール・カノーネをチューニング! シンクロ召喚! 来たれ、レベル2! フォーミュラ・シンクロン!」
《フォーミュラ・シンクロン》
星2/守1500
「シンクロ素材になったダークシー・レスキューとシンクロ召喚したフォーミュラ・シンクロンそれぞれの効果を発動し合計で2枚ドローする」
連続召喚でほとんど使い切った手札が補充される。これでヴァンガードの手札は3枚。
「ライフを半分支払い、レベル6の星冠を対象にして墓地の亡龍の戦慄-デストルドーの効果発動。墓地からデストルドーを特殊召喚し、対象のモンスターのレベル分デストルドーのレベルを下げる」
《亡龍の戦慄-デストルドー》
星7→1/守3000
ヴァンガード&グラドス
LP 2500→1250
「レベル2のボルト・ヘッジホッグにレベル1になったデストルドーをチューニング! シンクロ召喚! レベル3、
《武力の軍奏》
星3/守2200
自分で用意したリンク先とボーマンの操るパラドクス・ハイドライブ・アトラースのリンク先を活用したシンクロ召喚。低レベルのシンクロチューナー達を使い堅実にアドバンテージを得ていく。
「武力の軍奏がシンクロ召喚に成功したことで墓地のチューナー、オルフェゴール・カノーネを効果を無効にして守備表示で特殊召喚」
シンクロ召喚を行なったはずなのに、メインモンスターゾーンがまた全て埋まった状態に戻る。複数のチューナーがいるが、これから行うのは連続シンクロではないと示すサーキットが天に広がる。
「先駆けとなれ、我が未来回路! 召喚条件は『オルフェゴール』モンスターを含む効果モンスター2体以上! 私はオルフェゴール・カノーネ、影星軌道兵器ハイドランダー、武力の軍奏の3体をリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク3、オルフェゴール・ロンギルス!」
《オルフェゴール・ロンギルス》
Link3/攻2500
【リンクマーカー:左上/上/右下】
紫の長髪を風に靡かせ、騎士は巨人と相見える。
「除外されている機械族モンスター2体を対象にロンギルスの効果発動! 対象になったモンスターをデッキに戻し、その後リンク状態のモンスターを墓地へ送る!」
槍を振るい、繋がりを断ち切る効果を振るおうとしたロンギルスの動きが止まる。目を見開き、呆然とした表情に変わる。
「罠発動、星遺物に響く残叫! 自分フィールドに相互リンク状態のモンスターが存在し、相手がモンスター効果を発動した時、その発動を無効にし破壊する!」
それはロンギルスに深く関係し、星遺物を巡る中にあった、大切な存在を失った出来事――。
一人の命が終わったと零れ落ちる光。友が彼女の名前を呼ぶ声が、竜の泣き声が、自分の心が砕ける音が。
残響と共に、オルフェゴール・ロンギルスは破壊される……筈だった。
『……⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎め。あのカードを持っているということはやはり干渉しているか』
オルフェゴール・ロンギルスは怒りのままボーマンを……いや、ここにいない誰かを睨みつける。コンコン、とデュエルディスクを軽く指で叩く。
「(ねえイドリース。近くにあいつがいるか、とかの気配分かる?)」
……無視された。黙っててという頼みを守っているだけなのかもしれないが。
「……何故、破壊されていない?」
手札の枚数に変化はなく、墓地も同様。何かの効果を発動した訳ではない。だがオルフェゴール・ロンギルスはフィールドにまだ立っている。
ボーマンの疑問にヴァンガードは答える。
「リンク状態のロンギルスは効果では破壊されない、って効果がある。ああ、この効果をこれまでのデュエルで見せたことはなかったっけか」
「星遺物に響く残叫は
相手のエースに対してただ効果を無効にするだけでなく破壊も狙いたい……誰だってそう思うだろう。
ボーマンのミスは仕方がないものだった。オルフェゴールの使用者はヴァンガード以外にいない。こうしてデュエルでオルフェゴールを使うようになったのはごく最近。使用回数が少ない上にこれまでにロンギルスの破壊耐性をお披露目したことはなかった。
「オルフェゴール・ロンギルス1体でオーバーレイネットワークを再構築! クロスアップ・エクシーズチェンジ!」
オルフェゴールリンクモンスターを素材に特殊召喚される、風のイグニスのフィールドにて使用したエクシーズモンスター。
「来たれ、ランク8!
機神はフィールドに――現れなかった。
「罠発動、神の宣告!」
力には代償を。命を糧として雷が落ちる。
「LPを半分払い、特殊召喚を無効にしそのモンスターを破壊する」
ボーマン&ハル
LP 4000→2000
「っ……ミスってそういうことね……!」
神の宣告はフィールドに着地する前の召喚自体に作用している。フィールドに出る前に止めているため、破壊耐性を持つモンスターであろうと破壊が可能。
オルフェゴール・ロンギルスに対して神の宣告を使用すれば星遺物に響く残叫は温存できた。妨害1枚、その差はまさしく紙一重? 違う。その1枚がデュエルの勝敗を分けることになる。
「レベル6の星遺物-『星冠』にレベル2のフォーミュラ・シンクロンをチューニング! シンクロ召喚! レベル8、ダークエンド・ドラゴン!」
《ダークエンド・ドラゴン》
星8/攻2600
ヴァンガードのフィールドに残っていたレベルを持つモンスターを素材にして召喚されたのは胸にもう一つ顔を持つ闇属性の竜。
「攻撃力を500下げ、アローザル・ハイドライブ・モナークを墓地へ送る! ダーク・イヴァポレイション!」
《ダークエンド・ドラゴン》
攻2600→2100
守2100→1600
ようやく1体を除去することができた。ボーマンが操る闇属性モンスター、残るはパラドクス・ハイドライブ・アトラース。
攻撃力0のモンスター、普段ならばいい的になるが……。今のままでは攻撃することができない。
「パラドクス・ハイドライブ・アトラースは同じ属性のモンスターがフィールドに存在する限り相手の効果を受けず、攻撃対象にならない! 闇属性のモンスターがいる限り私に攻撃は届かないことを忘れたわけではないだろうヴァンガード! ……それともリンク3のモンスターで攻撃をするか?」
ヴァンガードのフィールドにはチューナーをデッキから呼び出してからほぼ放置されていたリンク2のハリファイバーがいる。
リンクマーカーはシンクロ展開にとても役に立ってくれたが、余りにもハリファイバー自身を話題にしないものだからちょっとウトウトしていたらしく……体は船を漕ぎかけている。
「……
「うーんここまで変な回し方してもオカルト方面の発想が出てこない、か……にしても進化の弊害かな? リンク素材よりもっとシンプルな方法を見落としてる」
ヴァンガードはにっ、と笑って1枚のカードを発動する。
「魔法カード、アドバンス・ドローを発動! レベル8のダークエンド・ドラゴンをリリースして2枚ドロー!」
最後の一押し、とばかりに発動したのはドロー効果。ヴァンガードのフィールドから闇属性モンスターは消え去った。
「――これで必要なカードは揃った」
4枚になった手札から1枚を手に取り、デュエルディスクに叩きつける。
「エクストラモンスターゾーンにモンスターがいることで
《機巧蹄-天迦久御雷》
星9/攻2750
そのモンスターは巨大な鹿を模した機械であり、炎属性。パラドクス・ハイドライブ・アトラースの耐性を呼び覚ますことはない。
「天迦久御雷の効果! エクストラモンスターゾーンの表側表示モンスター1体を対象とし、その表側表示モンスターを装備カード扱いとしてこのカードに装備する!」
「リンクモンスターへの対策はオルフェゴールだけではなかった、ということか……!」
「意表をつけたのならスペクター様に何回デッキ構築を送りつけてくるんだいいかげんにしろってキレられた甲斐があるってもんですよ! ――やれ、天迦久御雷!」
その指示を待っていた、とばかりに機鹿は吼える。蹄を地面に力強く叩きつけるとそこから炎が噴き出し、パラドクス・ハイドライブ・アトラースを絡めとる。
捕獲、吸収、装備。……ボーマンのフィールドにもうモンスターはいない。このまま攻撃をすればヴァンガードは勝てる。だからこそ、念には念を。
「レベル9の天迦久御雷を対象に魔法カード星遺物の胎導を発動! 対象にしたモンスターと種族、属性が異なるレベル9モンスター2体をデッキから特殊召喚する!」
地が割れ、天が荒れ、現れるは2体のモンスター。
《
星9/守2100
《星遺物の守護竜メロダーク》
星9/守3000
闇の天使、風の竜。フィールドに並ぶ大型モンスター達。イドリースが何を思ったかヴァンガードに寄ろうとして……天迦久御雷が睨み静止させた。
「この効果で特殊召喚したモンスターは攻撃できず、エンドフェイズには破壊される。……行くよ、これが最後のリンク召喚!」
天を仰ぐ。空に向かって手を伸ばす。
「先駆けとなれ、我が未来回路! アローヘッド確認! 召喚条件はレベル5以上のモンスター3体! 私は機巧蹄-天迦久御雷、夢幻転星イドリース、星遺物の守護竜メロダークの3体をリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン!」
それはヴァンガードが持つ唯一のサイバース族。
「リンク3――
《星神器デミウルギア》
Link3/攻3500
【リンクマーカー:左/右/下】
それは星のようであり、神のようであり、器。
圧倒的。驚異的。その正体は天の神が司っていた破壊の力、時を経て大いなる闇と呼ばれるようになったモノ。
『星神器、正常動作中。問題無。――睥睨』
サイバース族の生みの親であるイグニスですら知らない存在がボーマンを認識した。
「――――ッ!?」
何をしようと無駄な終わりが直ぐ目の前まで迫っている。自分という存在が瞬く間に0と1に分解されて消えてしまう。
……それは現実でも事実でもない。自分はただ、あのモンスターに睨まれただけだ。それだけで、性能差を分からせられた。
リンクヴレインズは全てがデータで構成されたVR世界。この場では人の意識もデータとして存在する。あのモンスターが一度サイバース然とした力を使えばここにある全ては消滅してしまう。その結末を誰も止めることはできない。現時点の世界で最も優れたAIであり、ネットワークを自在に操れるボーマンでさえも。
何故だ。何故! お前はそんな兵器を使っているのに、平気な顔をしている――!?
「種族と属性が異なるモンスター3体を素材としてデミウルギアがリンク召喚されている場合、自分メインフェイズにデミウルギア以外のフィールドのカードを全て破壊する効果を発動できる! 全てを破壊しろ、デミウルギア! テウルギア・ゴエーテイア!」
ボーマンの裁きの矢もセットカードも、使用者であるヴァンガードのフィールドでさえもデミウルギア以外存在を許されない。えっおやすみ時間はもう終わりですかウワーッとハリファイバー爆発。
「…………っ! その効果にチェーンし非常食を発動! 裁きの矢とセットされていた巨神封じの矢を墓地に送りライフポイントを2000回復する!」
ボーマン&ハル
LP 2000→4000
デミウルギアの圧に呑まれていたボーマンだが、決闘者としてのプライドが体を突き動かす。
裁きの矢にはフィールドを離れると裁きの矢のリンク先にいるモンスター全てを破壊してしまうデメリットがあるが、もうボーマンのフィールドにモンスターはいない。
神の宣告によって失われたライフポイントはデュエル開始時の4000に戻る。
「永続魔法、機械仕掛けの夜-クロック・ワーク・ナイト-を発動。フィールドの表側表示モンスターは機械族になり、自分フィールドの機械族モンスターの攻撃力・守備力は500アップする!」
《星神器デミウルギア》
攻3500→4000
ダメ押し、とばかりに発動するのは攻撃力を上げる永続魔法。その効果でデミウルギアの攻撃力はボーマンのライフポイントに届いた。
「バトル! 星神器デミウルギアでボーマンにダイレクトアタック!」
ボーマン最後の抵抗も虚しくデュエルが終わるのか――? 誰でもないボーマン自身が否を唱えた。
「勝負を焦ったなヴァンガード! 直接攻撃宣言時、墓地の速攻魔法ハイドライブ・スカバードを発動!」
ボーマンの墓地には光・闇以外の4属性ハイドライブリンクモンスターがいる。発動条件は整っていた。
ダイレクトアタックで発生する戦闘ダメージを半分にし、互いにそのダメージを受ける。発生するダメージ4000の半分、2000の効果ダメージに対しヴァンガードの残りライフポイントは1250。……耐えられない。
――よし繋がった! 相手はボーマンで……ッ!?
――ヴァンガード!
デミウルギアが召喚されてからこの空間の絶対性は揺らぎ、隠しきれなくなっていた。星神器の持つ破壊の力でプログラムに一部穴ができたからだ。
リンクセンスを持つ男達は気付く。何か大きな力を持つ存在がリンクヴレインズに現れた……と。優秀なハッカーの手でその居場所を突き止め、中継が今まさに繋がった。だが、その観戦はデュエル開始時からではなくリアルタイム。
映像が繋がった瞬間にヴァンガードの敗北確定を見せられた決闘者達の声色に絶望が混ざる。
「……勝った。そう思ったでしょう、ボーマン」
ヴァンガードの残る手札、1枚。
「私はね、このデュエル――絶対に負けてやる気はないんだ」
この状態からできる敗北の回避方法。
「ダメージステップに入る」
今、星神器デミウルギアは機械族になっている。
「リミッター解除、発動ッ!!」
《星神器デミウルギア》
攻4000→8000
「さあ、これで直接攻撃により発生するダメージは8000! その半分――4000のダメージを互いに受けることになる!」
「引き分け…………だと!?」
「デミウルギア、遠慮はいらない! 崩界のアポ・メーカネース・テオス!」
デミウルギア本体、白の光球が膨れ上がり破壊のエネルギーが充填……維持限界到達……限界突破……オーバーロード。
リミッターを解除された破壊の力。それがどれほど危険なのかは分かっている。このダメージを受ければどちらもタダでは済まない。
ボーマンはハルを庇うように前に立つ。驚いた顔のハルに声をかけることなく、男は攻撃を見据える。
こうしたところで衝撃の軽減効果は認められない。その計算結果はもうとっくに出力されている。……ただ、自分は兄として、そうしたいと思ったのだ。
ヴァンガード&グラドス
LP 1250→0
ボーマン&ハル
LP 4000→0
デュエル終了を告げるブザーが鳴る。
――全ては、力の中に飲み込まれていった。
「出来そうな見込みある奴へちょっと押し付けようかなーと」
「はあ。……ところで誰を考えているのですか? その言い方では
「ん? ああー……それ今聞く?」
「まさかスペクター、とは言いませんよね」
「いや? 私が考えてるのはね――ボーマンだよ」
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その門を開くことなかれ
「さあ、ゲームをしようぜ」
「ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ」
「集いし星が新たな力を呼び起こす! 光差す道となれ!」
「遠き2つの魂が交わる時、語り継がれし力が現れる!」
「揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け光のアーク!」
無理矢理に情報を叩き込まされている。目と耳から得られる情報を遮断できない。
どれもこれもわけがわからなかった。アニメーションなのか現実なのかもあやふやな記録が延々と上映され続ける。
知らない決闘者に知らない物語。心震わせる熱い戦いが本当にあったのか? 大会名や地名で検索をかけても結果は0。どこにも存在しない。そのはずなのだが……ボーマンは断言できなかった。
計算を絶対とする自分と心持つ存在である自分がせめぎ合う。これらを知ってしまった以上、知る前の自分には戻れないのだと理解してしまう。
闇のゲーム、カードの精霊、神々の存在。オカルトなどあり得ないと切り捨ててきたそれらが実は現実に影響していた……とすれば納得できる部分がいくつかある。
その最たる塊が視界の端にちらついている。横に顔を向ければ、男の隣でわあ懐かしーなどと呑気しているヴァンガード……いや、今現在は今上詩織と呼ぶべきだろう。彼女はリンクヴレインズで使用していたアバターの姿ではなく、現実の女子高生の見目になっていた。
――彼女は引き分けた瞬間、何かの力を用いてリンクヴレインズからこの空間へとボーマンを引き摺り込んだ。
「本当の狙いは私にこれらの記録をインストールさせること。この空間へ連れ込むためにお前は勝利または引き分けを目標に設定、確実にデュエルをさせるためあえて私を煽るような言動をした。……合っているか?」
「いやーアレは自分が本気で言いたかったコトだから煽りたくて煽ったというかちょっと違うんだけどうーん。――そ、勝ちは取りにいってたけど一番に狙ってたのは引き分け。ハイドライブ・スカバードなんて引き分けに持ち込みやすいカードを使用していただき誠にありがとうございました」
煽りとは違うと言った直後に煽っているよう聞こえる言動をする詩織。ボーマンがプレイメーカーと引き分けたあのデュエルを見て「これは……使えるのでは?」と考えていたことを知るのは誰もいない。隣にいたブラッドシェパードでさえ、
引き分けを狙うのは困難だ。しかもタッグデュエルで、となると相手に迷惑がかかる。普通は狙うはずがない。なら答えは簡単だ。――グラドスは今上詩織と共犯関係にある。
タッグ相手のグラドスは手を抜くことなく全力で勝利を目指していた。決闘者としてそれは当然だ。……その当然が隠れ蓑になっていたとすれば?
サイバー流の高火力。パワー・ボンドによる自傷。相手の方がライフポイントが減った状態になれば、ハイドライブ・スカバードによる効果ダメージでボーマン達は勝利しやすくなる。
また、ヴァンガードのデッキの中にはグラドスほど高火力モンスターは多くない。その代わり墓地を利用した展開手段が豊富すぎる。妨害は展開途中に使わせトドメはデミウルギアで、と決めていたのだろう。
にしてもあの状態で8000まで攻撃力を上げてくるなど誰が予想できるものか。いや、予想できていたとしても機械族になった時点で抵抗手段はもう無かった。……手遅れだった。
「最初から計算通りという訳か」
「わーい褒められちゃった」
「違う。呆れている。あまりにも危険すぎるギャンブルにな」
「サイコロ何回もコロコロしてた人に言われたくないんですけど」
「私がサイコロを振る効果を多用したのは本能の揺らぎを再現するがためだ。……その指摘は的を外れている」
ボーマンが呆れるのも当然だろう。今上詩織が企てたのはこちらがハイドライブ・スカバードを使わなかったらその時点で潰える計画だ。杜撰すぎる。
「いやあそのAIのグラドスもサイコロは違うだろってこと言ってたんだけど……」
話をしようとしまいと関係ないとばかりにシーンが移り変わっていく。テレビの画面。
「――はっ、よくもまあここまでの秘密を抱えて生きてこられたものだ」
今上詩織最大の秘密――別世界からの転生者であること、それもボーマンに明かされようとしていた。そこにはこの世界で何が起きるかの一部をアニメにより知っていた、ということも含まれる。
……なるほどこの過去を口で説明されてもかつての自分のままでは納得はできなかっただろう。
秘密に関連してくる精霊界にて示された滅びの可能性。この街だけではなく、全世界に影響する邪念持つ存在達。
一人で何とかしようと頑張った結果がボーマンの理解を得ることで……いや、違う。彼女の計画はまだ途中。
マイナスだったボーマンのオカルトへの理解をプラスにし、無理矢理にスタートラインに立たせた。まだ乗り越えなければならない難関は残っている。
数多の画面を見上げ、ボーマンは呟く。
「これらを全て……か。一人の人間が抱え込むには余りにも大きすぎる」
「…………」
その言葉が他者に聞かせようとする同情ではなく独り言じみた感想なのだとわかってはいるが、そう思ってくれるぐらいには認めてくれたのだ。
ちょっと嬉しい。気分が良くなったら余裕も生まれる。
「んー、そろそろ休憩挟む?」
時折動きが遅くなり顔をしかめるボーマンの調子は良いとは言えない。
「……必要ない」
延々と続くインストールでボーマンには負荷がかかり続けている。
詩織がけろっとしているのはもうオカルトに適応できているから……もあるが、そもそもココは詩織に力を貸してくれている精霊パワーにより作られた空間なので彼女の負担になるはずがないのだ。だからどれだけキツイのかは当人にしかわからない。
「やっぱ過去作一気見はキツかったかなぁ……?」
時間は足りるのか? その不安については何も問題ない。
デミウルギアの攻撃を互いに受けた結果、デュエルは引き分け。そのダメージはあまりにも大きく、あの一撃により周囲のデータは破損、崩壊、欠落、と簡単に近寄れない危険地帯になったことで四人の安全が確保された。
デミウルギアも彼女の計画には欠かせない一つのピース。ボーマンの強制履修が終わるまでこの崩壊を広げも縮めもせず維持し続けるよう話は通してある。
……なおそのことを藤木遊作と草薙翔一は知らないのでログアウトした時にお説教コースは確定している。南無。
ちなみにダメージ発生直後にターンプレイヤーではなかったため比較的軽傷で済んだグラドスは、同じく軽傷のハルを連れて精霊界に避難済み。物理的に離れて隠れている。
「一人で抱え込みすぎると変なところでコケると学んだので共犯者を増やす方向で頑張ってみました」
「……ハッ、責任重大だな」
「それブーメランだってことわかって言ってる?」
ジト目で睨まれても我関せずといった様子のボーマンは学習の結果理解した。AIのための世界を作るため、人間を敵に回せばどうなるかを。
単純な技術力ではこちらが上回る。数は脅威だが対処できないほどではない。問題はそれ以外。
……精霊の怒りが、邪神が、神々が。それらが一斉に自分に対して牙を剥いた時。果たしてAIは、サイバースはこの世に残れるのか?
無理だ。ライトニングはこれらのオカルトを計算の邪魔になるとし、排除を望んだ。……ヴァンガードによって見せられた精霊らの力はほんの一部でしかない。彼らがその気になれば、我々はこの世に存在した証拠すら残されず消されるだろう。
「しかし、本当に私でよかったのか? これは敵に塩を送る行為に等しいぞ」
「あれこれ知った上でなお最初と同じ方法を続ける馬鹿ならここまで教えたりしないよ」
「フ、愚問だったか」
今上詩織の提案を再度確認する。
――
ライトニングにより定められた目的と乖離していないし、むしろそれを成し遂げることができればさらに優れた存在になれるだろう。
「――もう問題ない。全て理解した」
「よかったよかったそれでは帰りはあちらでうべっ!?」
さあリンクヴレインズに帰ろうと方向転換を。突然、詩織のみが見えない壁に遮られる。目の前にあるガラスに気付かず激突する子犬のようだった。おでこを両手でナデナデして痛みを和らげようとしている。
「……え? 何? 私は資格がない? いやそこはまあ、特別な由来のないただ知ってるだけの一般人だしってあれっ!? 門がなんで今出てきてるのぉ!?」
ボーマンの目の前に現れたのは鬼の顔を模した門だった。マズイマズイ止めなきゃと詩織は見えない壁の破壊を試みるも効果があるようには見えない。
空気が混沌としている。ソラは宇宙を映し出す。鎖で封じられた、いかにもなオーラを放つその門から目が離せない。呼ばれている。求められている。
この存在の危険性はつい先程の学習から理解しているのに、静止せよという理性を上回る欲望が体を動かそうとしている。カオスを増幅させられている? 不味い。
ボーマンは手を伸ばして――。
『いけません』
行手を阻むように出現したのは清廉なる水を思わせるデータストーム。その中から姿を現した神子。
神子が杖を振るいデータストームを操作する。ボーマンを優しく包み込み赤黒いモヤを、思考のノイズとなったカオスを取り払う。
……数秒してから離れ、再び神子の周囲に漂うデータストームからは先程の害を成しそうなモノは完全に浄化されていた。
『この門を開くものは力を得る。ただし、最も大切なものを失う。貴方は何を一番にしているのか私にはわかりませんが、それはこの場で失ってはならないものの筈』
一歩、こちらに寄る。
『無理なランクアップは必ず失敗します。反動は必ず精神を蝕み破壊する』
「……ああ、心得ておこう」
「どりゃあ破壊のパワーモドキパンチぃ!」
ぱりん、とガラスの割れるような音。なけなしの
「ぐふぅ予想外の疲弊……ん、⬛︎⬛︎? だよね……あれっ」
神子の名を口にしたはずだが、砂嵐じみた雑音で消える。
『私は急激なエネルギーの高まりにより接続してしまったイレギュラーの対処の為に来ただけなので。責任を持って痕跡も記憶も記録も消去しますから、私に関する全てはここを出た貴方方の中に何も残りません。その方があの存在に余計な警戒をされずに済みますから』
言葉が聞いている側から抜けていくような……いや、実際消えているのだろう。彼女の姿もだんだんと薄れて消えようとしている。
「んああ、そうなのかぁ……」
『ふふ、そう残念がる必要はないですよ。全部上手くいけばまた会えるでしょう?』
「そうだけどさ……でも」
『数奇な運命に絡め取られたヒト。どうかその願いが世界を救うよう、ここから私は祈り続けましょう』
もう二言三言発したかっただろう二人の背を押すようにデータストームが流れる。神子は笑顔で手を振り見送る。その好意も二人の記憶から消してしまうけれど、だからといって世界に何も残らないわけではないのだから。
二人がこの場から退出したのを確認し、少女は再びデータストームの中へ帰る。
数多の可能性が存在するこの嵐の中で孤独は感じない。ただ気になるのは――とあるサイバース族効果モンスターの行方が知れないことだけ。
『――夢を騙った闇、個の願望で世界を滅ぼした強欲、長い時を待ち続け精神を保った怪物、魂で精神を喰い潰すコラプター』
あの子は狙われている。
信仰が廃れ技術が発展した文明の中、たった一人、名もなきファラオを中心とした因縁を知る為に神を従える資格を得たあの子。『鍵』を使う資格も同様にあると見て間違いない。
それだけではない。世界の始まりである一枚のカードを、それを扱うためのカギが何であるかを、原初の世界に降り立った門を知っている。勿論それ以外の力持つ存在もだ。
今は精霊達や神の力により守られているが、その守りが少しでも緩もうものなら⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎は乗っ取りにかかる筈。もし、あの子が奪われてしまったのなら――誰もその力を止めることはできず、世界はあっけなく終わる。
だからあの子は予防線を張った。プレイメーカーとのデュエルにより完成された疑似的な
転生により現れたイレギュラー。そのためあの物語にいた⬛︎⬛︎⬛︎と役割が一部重なり、『神に成る』偉業達成に欠かせない人間として成立してしまったからこそできる荒技だ。
『諦めなさい、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎。世界は貴方の思う通りにはならない』
少女は竜の羽をはためかせ、託宣ではない己の信じる未来を口にした。
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天地武闘
喜びの32×32ドット絵クラッキング・ドラゴン。……ちょっと荒い。
信じられるはずがない。信じたくない。迷いを振り切ろうとDボードの速度を上げる。だが、迷いとはスピードで切り離せるものではない。
……ハノイの騎士から与えられた情報は正確であり改変された痕跡も無かった。考えても無駄だと分かっていながら、それでも、もしも、と考えてしまう。
それにしても、元だとはいえハノイの騎士を仲間にした、など何故闇のイグニスは許せたのか。しかもその人物はハノイの騎士へ助力を求め、リーダーであるリボルバーはそれに応えた。未だにハノイの騎士と強い繋がりがある以上、行動を共にするなど出来るはずがない。
不器用な彼が折衷案など思いつくはずもなく、アースは一人で何とかしようと誰の助けも借りずアクアを探すことにした。
探知されても構わないという捨て身の連続スキャンにより檻に囚われていた水のイグニスを発見、解放することに成功。アクアを連れてアースはリンクヴレインズの空を行く。
目的地は無い。ただ人に見つからない場所へ、それだけを胸にDボードを走らせる。
「……無理を、していませんか。ひどく悩んでいるように見えます」
アクアが心配するのも無理はないだろう。アースはプレイメーカーらより知らされた真実を全てアクアへ教えるべきか否かを悩んでいた。
ライトニングは人間へと宣戦布告した。アクアの性格からすれば、ライトニングの下には行かず人間を守るため戦おうとするだろう。……そうすれば、今以上の危険に晒されることになる。
「……いいや、アクア。これは君が気にすることではない」
彼女が余計な心配をしないでもいいように、自分が何としてでも守らねばならない。
そう気を引き締めた時、声をかけられた。
「――お前がイグニス、か」
そこには一人の戦士がいた。
カリスマデュエリストとして活動していた頃の体格のまま、道を違えそうになっても踏み外すことなく、自分のあるべき姿を保った戦士――Go鬼塚。
「ッ!」
最善の行動を計算するよりも先に手が動いた。優秀なAIらしからぬ、心を持つが故の人間らしい行動。
「アクア、君だけでも!」
「アース!?」
急に突き飛ばされたアクアは反射的に手を伸ばしたがアースには届かず、リンクヴレインズ内に働く重力へ従い下へ下へと落ちていく。
行き着く場所がどうか安全であるように。その願いが届いたのか確認する暇はない。
「悪いがお前を捕獲させてもらうぞ」
「私の名前はお前ではない。地のイグニス、アース、どちらの名で呼んでもらっても構わない」
「……そうかい、アース」
ここで逃げることは可能だ。だが、自分が逃げれば無防備なアクアが追われてしまうだろう。時間稼ぎをする必要がある。
「覚悟はできてるんだろうな?」
「言われるまでもない」
「……俺の先攻か」
4枚の手札を見る。ダイナレスラーは先攻での展開に向いている、とは言い難い。だが、守備表示のモンスターを出すだけでターンを終えるのはやめておけ、と頭の片隅で警鐘が鳴る。かつてハノイの騎士が滅ぼそうとした力を持つ相手に出し惜しみをする方が危険だ。
己の直感を信じ、鬼塚はカードの効果を使用する。
「手札の恐竜族モンスター幻想のミセラサウルスを墓地に送り、手札からダイナレスラー・イグアノドラッカを特殊召喚!」
《ダイナレスラー・イグアノドラッカ》
星6/攻2000
「さらにフィールドに
《ダイナレスラー・エスクリマメンチ》
星6/攻2200
「墓地の幻想のミセラサウルスを除外して効果発動! 除外した枚数と同じレベルを持つ恐竜族モンスター――レベル1のダイナレスラー・マーシャルアンペロをデッキから特殊召喚する!」
《ダイナレスラー・マーシャルアンペロ》
星1/攻600
モンスターゾーンに並ぶ3体の恐竜。遥か古代の戦士達は敵対する小さな決闘者を威嚇する。
「現れろ、不屈のサーキット! 召喚条件は『ダイナレスラー』モンスター2体! 俺はイグアノドラッカとマーシャルアンペロをリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク2、ダイナレスラー・テラ・パルクリオ!」
《ダイナレスラー・テラ・パルクリオ》
Link2/攻1000
【リンクマーカー:上/左】
現れたのは装飾をほとんど身に付けておらず、攻撃力も1000と心許ない恐竜。だが、彼に求められているのは戦闘能力ではなく次へと繋ぐ力。早く場を整えろ、と唸りを上げる。
「スキル、ダイナレッスル・レボリューションによりデッキからフィールド魔法ワールド・ダイナ・レスリングを直接発動する! さらにワールド・ダイナ・レスリングが発動したことでテラ・パルクリオの効果が発動! 墓地のダイナレスラー・マーシャルアンペロを手札に加える」
ダイナレスラーの戦う舞台の出現に呼応し、
次の出番に向けて
「再び現れろ、不屈のサーキット! アローヘッド確認! 召喚条件は『ダイナレスラー』モンスター2体以上! 俺はリンク2のテラ・パルクリオとエスクリマメンチをリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! リンク召喚! リンク3、ダイナレスラー・キング・Tレッスル!」
《ダイナレスラー・キング・Tレッスル》
Link3/攻3000
【リンクマーカー:左下/下/右下】
リンク素材となったテラ・パルクリオの、墓地にいるダイナレスラー1体を効果無効にし守備表示で特殊召喚する効果は――使わない。
「カードを1枚セットしてターンエンドだ」
ダイナレスラーにその戦闘での破壊耐性とダメージを半減するマーシャルアンペロが手札に。また、ワールド・ダイナ・レスリングがある限り、相手はモンスター1体のみでしか攻撃できない。
攻撃力3000、この壁をどう突破するのか。鬼塚は相手の様子を見る。
「私のターン。ドロー」
デュエルディスクを装着した木製のヒトガタがアースの動きをなぞるように動く。
「手札のGゴーレム・ペプルドッグを捨て、手札のGゴーレム・ロックハンマーの効果発動。ロックハンマーのレベルを6から4に変更する。また、手札から墓地へ送られたペプルドッグの効果でデッキより
奇しくも鬼塚と同じく上級モンスターを使用した展開から始まる。
「レベルの下がったロックハンマーを通常召喚!」
《Gゴーレム・ロックハンマー》
星6→4/攻1800
「ロックハンマーをリリースし効果発動。フィールドにGゴーレムトークン3体を守備表示で特殊召喚!」
《Gゴーレムトークン》
星1/守0
「流石サイバース、もうリンク3を出せる準備を整えやがったか」
瞬く間にフィールドにモンスターが増える。鬼塚がこぼした言葉には苛立ちなどのマイナス感情は含まれていない。彼の中にはプレイメーカーへの一方的な敵対心も妬みももう無いのだ、と上がった口角が示している。
「現れよ、大地に轟くサーキット! 召喚条件は地属性モンスター2体! 私はGゴーレムトークン2体をリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク2、Gゴーレム・スタバン・メンヒル!」
《Gゴーレム・スタバン・メンヒル》
Link2/攻1500
【リンクマーカー:上/下】
現れたのは幾何学模様が刻まれた巨石。リンク召喚しただけではまだ効果を十全に発揮できないリンクモンスターだが、秘めた力は更なる展開を可能にするほど大きい。
「再び現れよ、大地に轟くサーキット! 召喚条件はサイバース族モンスター2体! 私はスタバン・メンヒルとGゴーレムトークンをリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク2、Gゴーレム・クリスタルハート!」
《Gゴーレム・クリスタルハート》
Link2/攻0
【リンクマーカー:左/下】
アースが召喚したのは先ほどまで操っていた岩石塊風のサイバースとは全く異なる、水晶を思わせる美しい輝きのモンスター。
「……何? リンクモンスターを召喚して即リンク素材にしただと?」
リンク3を出せる状況であったのにリンク2の特殊召喚。普通ならアドバンテージを失う行為だ。だが、ここまで澱みなく展開してきた決闘者がここ一番という時に手を誤るはずがない。鬼塚の疑問に対する解答はすぐに目の前で披露される。
「クリスタルハートの効果で墓地の地属性リンクモンスター、スタバン・メンヒルを自身のリンク先に特殊召喚し、クリスタルハートにGGカウンターをひとつ追加する」
《Gゴーレム・クリスタルハート》
GGカウンター 0→1
墓地から蘇るスタバン・メンヒル。それと同時にクリスタルハートの中央部にひとつ光が灯る。
「クリスタルハートと相互リンクするモンスターの攻撃力はGGカウンターの数×600上昇し、相手の守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が上回った分だけ戦闘ダメージを与えることができる。さらにバトルフェイズに2回攻撃が可能となる」
《Gゴーレム・スタバン・メンヒル》
攻1500→2100
顔には出さないが、最初のターンに様子見としてモンスターをセットしただけで終わらせなくて正解だったな、と鬼塚は安堵する。
ダイナレスラー達の守備力は全て0。貫通効果を得たモンスターの攻撃を受けることはダイレクトアタックと同等のダメージを受けてしまうことになる。
「なるほどな、クリスタルハートの力で1体のモンスターをとことん強化してくるタイプのデッキってワケか!」
――強化の条件となる相互リンクの恩恵を得られるのはクリスタルハートのリンクマーカーより1体のみ。ワールド・ダイナ・レスリングによる攻撃可能なモンスター数の制限は効果が無いとみていいだろう。
「墓地から蘇ったスタバン・メンヒルの効果により墓地のロックハンマーを特殊召喚し――三度現れよ、大地に轟くサーキット! アローヘッド確認! 召喚条件は地属性モンスター2体以上! 私はロックハンマーとリンク2のスタバン・メンヒルをリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! リンク召喚! リンク3、Gゴーレム・インヴァリッド・ドルメン!」
《Gゴーレム・インヴァリッド・ドルメン》
Link3/攻2800
【リンクマーカー:上/左/右】
「クリスタルハートの効果により、インヴァリッド・ドルメンの攻撃力は600上昇する!」
《Gゴーレム・インヴァリッド・ドルメン》
攻2800→3400
インヴァリッド・ドルメンが胸部に空いた穴へクリスタルハートを納める。何者であろうと彼女へ手出しをさせない、という主人の思いの現れだろうか。
「永続魔法、ゼロゼロックを発動。このカードがある限り、私のフィールドにいる攻撃力0のモンスターへ攻撃は不可能となる」
それは二重の守り。もし、万が一、インヴァリッド・ドルメンが消え去ったとしてもクリスタルハートには指一本触れさせはしないとアースは強く主張する。
「バトル! インヴァリッド・ドルメンで――」
「そのバトル待ってもらおうか! バトルフェイズ開始時にキング・Tレッスルの効果をクリスタルハートに対して発動する! このバトルフェイズで攻撃するのはそいつじゃなくてクリスタルハートだ!」
「無駄だ! インヴァリッド・ドルメンの効果により、自分フィールドの相互リンクモンスターはフィールドで発動したモンスターの効果を受けない!」
王者による指名もものともせず、愛する者のため動くゴーレムは拳を振り上げ――。
「ならこいつを使う! 罠カード、
《ダイナレスラー・キメラ・Tレッスル》
星8/攻3500
墓地の同胞を糧として呼び出されたのは巨大な頭骨をあしらった衣装が目を引くキング・T・レッスルとよく似たモンスター。
「いくらスタートステップでモンスターの数を増やしたところで、私がインヴァリッド・ドルメンで攻撃する対象はキング・Tレッスルから変更はしな……これは!?」
キング、キメラ・Tレッスル共にインヴァリッド・ドルメンを挑発する仕草を見せている。インヴァリッド・ドルメンはどちらを攻撃するべきなのか、振り上げた拳を下ろす先を見失っている。
――攻撃対象を選べない。
「Tレッスルらは共に
にい、と不敵に笑う鬼塚。……小さい頃、カテゴリ関係なく戦士族モンスターを集めたデッキを使っていた頃を思い出す。これは『切り込みロック』と呼ばれた戦術とほぼ同じことをTレッスルらで再現したもの。
「攻撃対象を縛るモンスターを並べることによる攻撃ロック。単純だが効果的な手だな」
盤面を確認したアースは少し悩むそぶりを見せる。
「……ふむ。このターン、私が出来ることはもう無い。ターンエンドだ」
そうは言うものの、アースの手札は3枚とまだまだ余裕がある。対する鬼塚の手札は1枚。それもダイナレスラー・マーシャルアンペロのみと判明してしまっている。
Gゴーレム・インヴァリッド・ドルメンは戦闘破壊しようと、アースのターンになればクリスタルハートの効果で蘇り攻撃力が増していく。
――だとしても。
「(攻めていくしかねえ)」
Tレッスルを並べたこの状態を維持し続ければ相手は攻撃できない。攻撃こそ最大の防御、と貫き通すしかない。
守るものを持つ男二人。その戦いは互いに一歩も引かぬまま続く。
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不器用な男たち
まだ見えない人がいたら挿絵でどう表示されてるのか入れます。
Go鬼塚 LP 4000 手札1→2
モンスター
ダイナレスラー・キング・Tレッスル Link3 ATK3000
ダイナレスラー・キメラ・Tレッスル レベル8 ATK3500
魔法・罠
伏せカード1枚
フィールド魔法
ワールド・ダイナ・レスリング
アース LP 4000 手札3
モンスター
Gゴーレム・クリスタルハート Link2 ATK0
Gゴーレム・インヴァリッド・ドルメン Link3 ATK2800→3400
魔法・罠
ゼロゼロック
「俺のターン、ドロー!」
ドローしたカードを確認する。今の状況では使用する機会はないカードだが、この盤面がいつ崩れ去るかは分からない。
「カードをセット」
ワールド・ダイナ・レスリングがある限り、互いにバトルフェイズ中はモンスター1体のみでしか攻撃できない。必然的に鬼塚が攻撃に使えるのはインヴァリッド・ドルメンの攻撃力を上回っているキメラ・Tレッスルのみとなる。
……攻撃力の差はたった100。ほんの少し。その少しでも相手のLPを減らしておくしかない。
「バトル! ダイナレスラー・キメラ・TレッスルでGゴーレム・インヴァリッド・ドルメンを攻撃!」
キメラ・Tレッスルの拳がインヴァリッド・ドルメンを打ち砕く。主力となるGゴーレムが破壊され、ダメージを受けてもアースは動じない。
アース
LP 4000→3900
「キメラ・Tレッスルが戦闘でモンスターを破壊したことで効果発動! 自身の攻撃力を500アップする!」
自身を更なる高みへと誘う効果。これが通ればキメラ・Tレッスルの攻撃力は4000になり、もし次のターンでGGカウンター2つの強化を受けたインヴァリッド・ドルメンが出てきても攻撃力で劣ることはない。そのハズだった。
「その強化、止めさせてもらおう! 相互リンク状態のGゴーレム・インヴァリッド・ドルメンが破壊されたことで効果発動! 相手フィールドの全ての表側表示カードの効果は無効になる!」
「何っ!?」
崩れ落ちたゴーレムから起こる砂煙が鬼塚のモンスター達を、フィールドを覆っていく。残ったのは効果が失われたことで覇気が薄れたように見える恐竜2体と、そこにある意味を失ったフィールド魔法。
「ワールド・ダイナ・レスリングの攻撃制限が解除されようとも、ゼロゼロックにより攻撃力0のクリスタルハートへ攻撃はできない。そしてお前の攻撃ロック戦法はもはや継続不可能――これで、ようやく私が攻撃ができるようになったな」
「……くっ、ターンエンドだ」
何もできなくなったフィールドを見る。ただ攻撃力が高いだけのモンスターへと堕ちた王者達は、どこか悔しがっているように見えた。
「私のターン、ドロー」
アースは淡々とデュエルを進める。
「クリスタルハートの効果で墓地よりインヴァリッド・ドルメンを特殊召喚し、クリスタルハートにGGカウンターをひとつ追加する」
《Gゴーレム・クリスタルハート》
GGカウンター 1→2
《Gゴーレム・インヴァリッド・ドルメン》
攻2800→4000
「手札の
「――っ!」
王者が。ダイナレスラー・キング・Tレッスルが崩れ落ちていく。
ここで破壊されたのがキメラ・Tレッスルであれば、効果で破壊された場合に発動する効果が墓地より発動し、インヴァリッド・ドルメンの耐性をすり抜けて相手モンスター達の破壊ができたのに。鬼塚はあり得なかったもしもを思考し――。
「……墓地にある
――そのもしもさえも切り捨てられる。
「インヴァリッド・ドルメンに団結の力を装備! これによりインヴァリッド・ドルメンの攻撃力は5600となる!」
《Gゴーレム・インヴァリッド・ドルメン》
攻4000→5600
団結の力、それは自分フィールドにいるモンスターの数×800装備モンスターの攻撃力を上げる装備魔法。
このターンでアースがドローしたカードはドローフェイズの1枚のみ。だがアースはこのターンでそれより多くのカードを使用している。つまり、アースは手札にずっとこれらのカードを温存していた。何故か?
「……このデュエル、ペースを握っていたのはお前の方だっていうのか……!」
「バトルだ! インヴァリッド・ドルメンでダイナレスラー・キメラ・Tレッスルを攻撃!」
先程のバトルのお返しだとばかりにゴーレムの巨拳が王者へ迫る。両腕を上げ、ガードの体勢を取るが、圧倒的な体格差の前では意味がないように見える。
「ダイナレスラーが自身の攻撃力以上の攻撃力を持つモンスターとの戦闘を行うダメージ計算時、手札のダイナレスラー・マーシャルアンペロを墓地へ送り効果発動! この戦闘ではキメラ・Tレッスルは破壊されず、また発生するダメージは半分になる!」
マーシャルアンペロの力によりキメラ・Tレッスルは攻撃を耐えることに成功する。本来なら発生するダメージは2100。その半分、1050ダメージ分の衝撃を鬼塚は受け止めた。
Go鬼塚
LP 4000→2950
「インヴァリッド・ドルメンで再びキメラ・Tレッスルを攻撃!」
Go鬼塚
LP 2950→850
「ぐう……っ!」
――だが、二度目は耐えきれない。破壊されるキメラ・Tレッスル。だがこれでクリスタルハートの力による2回攻撃を凌ぐことはできた。反撃の用意を整えるべく鬼塚はセットカードを発動しようとして、
「スキル発動! ロック・ユー! 自分フィールドの地属性モンスターが相手モンスターを戦闘で破壊した時、破壊したモンスターのレベル×100のダメージを与える!」
突然に宣言されるスキルの発動。ダイナレスラー・キメラ・Tレッスルは融合モンスター。そのレベルは8。よって800のダメージを受けることになる。
「何だとっ!? ぐおおぉぉーーっ!」
Go鬼塚
LP 850→50
アースの操作する人形から放たれた木槍が鬼塚の体を襲う。一度に大きなダメージを何度も受け、疲弊した男はDボードの上で片膝をつく。
「……残り50のLPではどうあがいても次の攻撃は受けきれん。イグニスの捕獲など人間が成し遂げられることではなかったのだ。諦めろ。お前はよく戦った」
アースから不器用な労いをかけられた鬼塚は荒い呼吸のまま不敵に笑う。
「……ハッ、どうやら流石のイグニスサマも
本来なら、インヴァリッド・ドルメン2回目の攻撃宣言時に墓地にいたダイナレスラー・マーシャルアンペロのもう一つの効果が使えた。だが使わなかった。その理由はここにある。
「罠カード、裁きの天秤を発動!」
それは相手フィールドのカードの枚数が自身の手札・フィールドのカードの合計数より多い場合――劣勢でなければ万全に使用できない天秤。
「俺のフィールドにあるカードは今発動した裁きの天秤とワールド・ダイナ・レスリングの2枚。対するお前のフィールドにはモンスターが2体と、
「まだ足掻くというのか……いいだろう。ターンエンドだ!」
ここで逆転できなければ負ける。だが、裁きの天秤でドローしたカードではまだ必要なカードは揃っていない。
「俺の――ターンッ!」
手札3枚。ドローしたカードを確認した鬼塚は博打に出ることを決めた。
「フィールドにモンスターがいないため、魔法カードシャッフル・リボーンを発動。墓地のダイナレスラー・キメラ・Tレッスルを特殊召喚する!」
《ダイナレスラー・キメラ・Tレッスル》
星8/攻3500
エクストラモンスターゾーンの真下に特殊召喚されたキメラ・Tレッスルだが、シャッフル・リボーンで蘇ったモンスターの効果は無効化され、かつエンドフェイズには除外される。一時凌ぎにすらならない特殊召喚だが、それは勝ち目の薄い戦いの中でヤケになったわけではない。
「シャッフル・リボーンの更なる効果! 墓地のこのカードを除外し、ワールド・ダイナ・レスリングをデッキに戻す」
真の狙いは使い所を失ったフィールド魔法を活用した手札交換。
このドローに、全てが掛かっている。
「頼むぜ、俺のデッキ――その後、1枚ドロー!」
――男が使うべきカードは、その手の中に。
「剛鬼スープレックスを召喚!」
《剛鬼スープレックス》
星4/攻1800
青い恐竜を模したコスチュームであるが、ダイナレスラーではない。所属するカテゴリが違う。
地属性戦士族、継戦力に優れた効果を持つそのカテゴリ名は【剛鬼】。カリスマデュエリストとして名を馳せていた時のGo鬼塚が使用していたカード達である。
「剛鬼……!? お前が使うのはダイナレスラーだけではなかったのか!?」
「召喚に成功したスープレックスの効果で手札から剛鬼ツイストコブラを特殊召喚!」
《剛鬼ツイストコブラ》
星3/攻1600
剛鬼スープレックスを初動にした、彼が慣れ親しんだ動き。鬼塚は迷うことなくカードを操る。
「現れろ、不屈のサーキット! 召喚条件は『剛鬼』モンスター2体! 俺は剛鬼スープレックスと剛鬼ツイストコブラをリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク2、剛鬼ジェット・オーガ!」
《剛鬼ジェット・オーガ》
Link2/攻2000
【リンクマーカー:左/下】
「墓地へ送られた剛鬼達の効果でデッキから剛鬼カード、剛鬼再戦と剛鬼ヘッドバットを手札に加える」
一度動き出した剛鬼を止めることは誰にもできない。手札に加えたカードの中から1枚を選び取り、フィールドへ出す。
「剛鬼再戦を発動! レベルの異なる剛鬼2体、スープレックスとツイストコブラを守備表示で墓地から特殊召喚する!」
フィールドを離れたモンスター達が、互いに肩を支え合うようにしてフィールドに現れる。展開することでカードを減らすのではなく逆に増やしていく、剛鬼の象徴とも言える魔法カードによりリンク召喚の準備が整った。
「再び現れろ、不屈のサーキット! 召喚条件は『剛鬼』モンスター2体以上! 俺はリンク2の剛鬼ジェット・オーガと剛鬼スープレックスでリンク召喚! リンク3、剛鬼サンダー・オーガ!」
《剛鬼サンダー・オーガ》
Link3/攻2200
【リンクマーカー:上/左下/右下】
「剛鬼サンダー・オーガの効果でターンプレイヤーはこのモンスターのリンク先となる自分フィールドに手札からモンスター1体を召喚できる。俺は剛鬼ヘッドバットを召喚する!」
《剛鬼ヘッドバット》
星2/攻800
ここまでの連続リンク召喚は、あるリンク4モンスターを呼ぶための繋ぎ。
「これが最後のリンク召喚! 現れろ、不屈のサーキット! アローヘッド確認! 召喚条件は『剛鬼』モンスター2体以上! 俺はリンク3の剛鬼サンダー・オーガと剛鬼ヘッドバットをリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! 頼むぜ! ――リンク4、剛鬼ザ・マスター・オーガ!」
【戦士族/リンク/効果】
「剛鬼」モンスター2体以上
①:1ターンに1度、このカードのリンク先の自分の「剛鬼」モンスターを任意の数だけ持ち主の手札に戻し、手札に戻した数だけ相手フィールドの表側表示のカードを対象として発動できる。そのカードの効果をターン終了時まで無効にする。この効果は相手ターンでも発動できる。②:このカードは相手モンスター全てに1回ずつ攻撃でき、相手フィールドに表側表示モンスターが存在する場合、その内の攻撃力が一番高いモンスターしか攻撃対象に選択できない。
――はためくマントはヒーローの証。舞い降りた戦士は腕を組み、真っ直ぐに相手を見据える。
「墓地へ送られたヘッドバットの効果でデッキから剛鬼フィニッシュホールドを手札に加える」
フィニッシュホールド、それはレスラーの代名詞である決め技を指す。攻撃力を上げる効果を持つ通常魔法を、今からお前を倒すと宣言するかのように使用する。
「剛鬼ザ・マスター・オーガを対象に剛鬼フィニッシュホールドを発動! ターン終了時までリンクマーカーの数×1000、攻撃力をアップする!」
《剛鬼ザ・マスター・オーガ》
攻2800→6800
アースの残りLPは3900、Gゴーレム・インヴァリッド・ドルメンの攻撃力は5600。鬼塚が勝利するためには合わせて9500を超える攻撃力が必要になる。
まだ、足りていない。
「バトル! 剛鬼ザ・マスター・オーガでGゴーレム・インヴァリッド・ドルメンを攻撃!」
だが鬼塚は攻撃を宣言した。剛鬼ザ・マスター・オーガは飛び上がり、頂点に達したところで一回転。その体勢を蹴りのものに整える。
アースは動かない。
鬼塚は――。
「自分のリンクモンスターが相手モンスターと戦闘を行うダメージ計算時、一曲集中を発動! そのダメージ計算時のみ、リンク先のモンスターのレベル・ランクの合計×400攻撃力がアップする!」
剛鬼ザ・マスター・オーガのリンク先にいるのはダイナレスラー・キメラ・Tレッスル。そのレベルは8。よって攻撃力は3200アップし、その合計は。
《剛鬼ザ・マスター・オーガ》
攻6800→10000
「決めろ、剛鬼ザ・マスター・オーガ!」
ダイナレスラー・キメラ・Tレッスルの咆哮を応援歌に、攻撃が勢いを増す。
「――シャイニング・インパクト・シュート!」
戦士の一撃は、ゴーレムの頭を打ち砕いた。
アース
LP 3900→0
アースのフィールドに残っていたクリスタルハートがデュエル終了に伴って消える。最後に伸ばした手は届かなかった。
守りたかったものは守り通せても、自分は戦いに敗北した。生殺与奪の権は相手に渡ったのだ。鬼塚のデュエルディスク内に囚われる。
SOLテクノロジーの持つ技術力はイグニスよりも劣る。イグニスアルゴリズムを解析するために自分は分解させられ、心も記憶も全て奪われていくのだろう。
そう、こんな風に。こんな風に…………?
「…………、…………? ???」
覚悟していた痛みも喪失も何も無い。どころか、何かをインストールさせられているような。とても高度なプログラムだ。イグニスに負けず劣らずの、いや、上回っているかもしれない。
……アースの視界に何かが見える。
・追伸
レモン1個に含まれるビタミンCはレモン4個分
「何をしている貴様!!?!? こ……こんなふざけたものを!!?! 正気か!!!??」
「ふざけた……? 財前が寄越したプログラムにそんな変なモン入ってるとは思えないんだが。コレを入れとけばデュエル以外の干渉から守ってくれるんだとよ」
「かなり高度な嫌がらせにしか思えないのだが」
「嫌がらせ……??」
反応で分かる。この男はこのメッセージの存在を知らない。完全な善意だ。……誰だこんないい奴を騙すような形でふざけたものを仕込んだのは。不快にさせる遊び心などいらん。
「……何故ここまでする。お前は私を捕獲しSOLへと引き渡すバウンティハンターではなかったのか?」
「SOL、か――」
二人の会話を遮る二つの音。
罠の発動。それを破壊する砲撃。
「油断したな、Go鬼塚」
「ッ、ブラッドシェパードか。すまん」
Dボードに乗って現れたのはAI嫌いのバウンティハンター。地のイグニスを視界に入れると不快を露わにする。
「……チッ、どうやら本当にデュエル以外の干渉を受け付けなくなっているらしいな」
アースの背にぞわり、と悪寒が走るがすぐに消え去る。どうやら鬼塚のデュエルディスクへハッキングを試みていたらしい。それをさっきインストールしたプログラムが弾いたようだ。
自分へ害を成そうとした、つまり。
「敵か」
「違う。こいつは俺と同じ元バウンティハンターのブラッドシェパード。つまり味方だ」
「味方? ……俺はAIと手を組もうとする奴を味方などと思ったことはない」
言いたいことを言うだけ言って、ブラッドシェパードはログアウトしていった。
「あっ、おい待……帰りやがった。味方じゃないならなんで俺を助けたんだよって話になるの分かってて逃げたな」
あの罠はブラッドシェパードが仕掛けたものではない。きっとSOLの手によるものだ。
罠が発動してから救出するまでの時間があまりにも短すぎたが、きっと万が一が起きた時のために控えていたのだろう。
というか、鬼塚へこの地域でイグニスがうろちょろしていると連絡を入れてきたのはブラッドシェパードだ。己が憎むAIの場所がわかっているのにも関わらず、デュエルの機会を譲った。どうしてか?
プログラミングやハッキング、鬼塚はそう言った方面には疎い。イグニスが共にいればその弱点はなくなる。
……素直じゃねえヤツ、と心の中で呟く。傍にいる小さな戦友との会話へ戻る。
「ああ、話の続きだったな? SOLテクノロジーはバウンティハンターを全て解雇すると決めた。だから俺達は今SOLに従う義理は無くなった。で、代わりにもっと便利な兵隊を使うんだとよ」
後を継ぐソレが人名か組織名かは分からない。その名前だけ知らされていないからだ。ただ、何かしらSOLに深く関わるのだろうとだけ推測はできるその名は――
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先導者と財前兄妹
そして拙作の総合評価を超えるスーパーおもしろ遊戯王VRAINS二次創作が颯爽とハーメルンに現れました。皆も遊戯王VRAINS二次創作を読もう!
ところでデュエルリンクスくん、クラッキング・ドラゴンの入手場所どこ?デコード・トーカーのパズルデュエルにいたのになんで使用可能じゃないの……?
――それは、鬼塚とアースがデュエルをするより前のとある日の出来事。
財前晃は一人で倉庫の中へと入る。プレイメーカーに呼び出されたそこは薄暗く、光源は自身の後ろにある開いたドアから差し込む光しかない。
人の気配は感じられないが、ここに来たぞと知らせるために虚空へと問いかける。
「プレイメーカー、いるのか?」
「プレイメーカーはここから離れたところにいるので返事はしてくれませんよ。まあ監視はしていますけどね」
無いだろうと思っていた返事が即座に返ってきたことに驚く。しかもスピーカーやボイスチェンジャーを通した機械音声ではなく肉声だ。つまり、ここに正体不明の何者かがいる。
「プレイメーカーの協力者、か?」
「まあ声だけじゃ分からないかー。私ですよ、葵ちゃんのお兄さん」
こちらにだんだんと近寄るその声には聞き覚えがあった。バウンティハンターとして雇った一人、妹の葵と同じ高校に通っている女の子。
――まさか。そんな。その考えを思いつくと同時、声の主の顔が見えた。
「元雇われバウンティハンターとして活動していたサブウェイマスターは仮の姿……というかサブ垢の姿。私、今上詩織の正体は元ハノイの騎士現プレイメーカー達への協力者ヴァンガード」
そう言いながら彼女は腕に装着したデュエルディスクに一枚のカードを置く。モンスターのビジョンが現れる。
――クラッキング・ドラゴン。ハノイの騎士の象徴。ここまで見せられたら否定はできない。
「ブラッドシェパードを利用してバウンティハンターとなりSOL内部へ潜入したという訳か」
「いやそこについてハノイの騎士側は何もしてないんですよ本当に……私あの時最初お断りしていたのをお忘れです? 偶然が重なった結果の流れでなっちゃっただけですって。私からしたらどうして誰にもバレなかったのかが不思議なんですけどね?」
リンクヴレインズにて、ヴァンガードとサブウェイマスターが同時に現れたことはない。これは調べたら簡単にわかる。機械族をメインに使用するデッキの傾向も合致する。決定的なのは活動していた時間帯。
……学業もあるしまあ仕方ないか、と思われていたにしては杜撰ではなかろうか。いやその辺り詰められたら速攻で正体明かされてお縄されてしまうため彼女としては杜撰で助かったのだけれども。
「ここで正体を明かして良かったのか? 私が君をここで捕まえようとする可能性は十分にある」
デュエルディスクを装着した腕をゆっくりと上げ、構える様子を見せる財前。詩織は動揺することなく、なんてことないように告げる。
「その時はSOLのあんなことやこんなことの大暴露が始まるだけなのでしたいならお好きにどうぞ。ついでにブルーエンジェルの正体もバラす可能性はあったりしますね」
ついで、と告げられたそれは財前晃にとって妹を危機に晒されるのがどれほどの地雷かをわかった上での発言だった。今上詩織は――ヴァンガードは元とはいえハノイの騎士、ブルーエンジェルにハノイの騎士が手を加えたことで起きた出来事を当然知っている。
睨み合う二人。クラッキング・ドラゴンがグルルル、と唸り声を上げる。先に手を引いたのは意外にも財前晃の方だった。
「……それだけの事態が起きた、ということか」
損得で考えると、今敵対するのはどちらにとってもマイナスになる。リンクヴレインズにて何が起きているのかを知らない財前としては無闇矢鱈と敵を増やすわけにはいかないし、勿論プレイメーカー達だって味方になれるだろう人物と決裂はしたくない。
「わかってくれて助かります」
クラッキング・ドラゴンのカードをデュエルディスクから取り外したことでビジョンが消える。
困ったように笑う詩織。最近は気を抜けない出来事が続いていたからその延長線メンタリティのまま、売り言葉に買い言葉な感じでうっかりやらかしそうになってしまった。これは間違いなく怒られるヤツ。詩織、反省。
「それじゃ、まずリンクヴレインズに新たに現れたイグニスの話から始めましょうか――」
話が進むにつれてだんだんと財前の顔は険しくなっていく。無理もない、話の内容があまりにも衝撃的でかつ現在進行系の事実だと知れば誰だって同じ顔をするだろう。
「新たに現れたイグニスに、イグニスによる人類への宣戦布告……ボーマンとやらへ手は打った、とのことだがそれで和解は可能なのか?」
「無理ですね。光のイグニスはどうやっても説得は不可能。交渉のテーブルに乗せたところで起きるのは一対一のデュエルによる武力行使でしょう。なんの変哲もないお掃除ロボットのAIを洗脳してシモベにしたり、自らのオリジンへ危害を加えた風のイグニスが向こうの陣営に最初から在籍しているってのが全てだと思うんですけどね?」
人間を排することを是としたイグニス、人間と共に生きようとするイグニス、彼らの道が交わることはもはやないと言いきる詩織。
イグニスが人類を滅ぼす。ハノイの騎士が危惧していたことが現実になりつつある。他人事ではないが、だが、と財前は歯切れの悪い声で呟く。
「……私はSOLの人間だ。君達に力を貸すにも手段は限られている。リンクヴレインズのセキュリティーは見直すつもりだが、その過程で闇と炎以外のイグニスを見つけてもバウンティハンターを全て解雇された今では
「いえ、SOLの管轄下じゃなくなった今だからこそバウンティハンターが自由に動けます。イグニスを捕獲してもSOLへ引き渡す義務が無くなりますから。中立である地と水のイグニスの確保・保護を鬼塚さんと……この戦いに巻き込まれても問題がない、かつ財前さんが信用できるデュエリスト一人の合わせて二人にやってもらおうという訳でコレ、鬼塚さんに渡しといてください」
詩織が手渡すのはイグニスを保護するプログラムが入ったカード型の保存媒体。財前は受け取りつつもきょとんとした顔で問いかける。
「私からか? 君から渡しても問題はなさそうだが」
「いやぁ、イグニスの保護は財前さんから言い出したってことにしておきたいので。鬼塚さんからしたら私はデュエルが強いだけのただの鬼塚さんファンな同僚なんですよ? 突然イグニスを保護してください、なんて言ったら怪しまれますって。今後の事を考えて良好な関係を築いてイグニスの技術を提供してもらう方がいい、という方面でSOLに貢献をしようとみたいな感じで上手いこと話を通しておいてください」
「ああ、分かった」
理由を聞いて納得し胸ポケットへと仕舞い込む。
「しかし、ブラッドシェパードはどうするつもりだ? 彼のAI嫌いはイグニスを保護するにあたって一番の障害になるぞ」
「ブラッドシェパードはいざとなったら私の正体を使えばなんとか止められる……かな? リボルバー様がブラッドシェパードのことを気に入ってるのでそう遠くないうちに接触するはずです。あとゴーストガールと因縁ありそうなのでデュエルさせちゃうのもアリですかね。後は――」
指折り数えながら案を出す今上詩織。バウンティハンターとしてではなく、プレイメーカーの協力者として様々なことを考えるその姿は普通の女子高校生とは遠く離れたものだ。
彼女が背負うものを少しでも減らそうと財前は胸に手を当て提案する。
「ゴーストガールにはツテがある。ブラッドシェパードについても任せてほしい」
彼はかつて、プレイメーカーのことを思って説得しようとして逆鱗に触れる失敗をした。今度は同じことを繰り返さぬよう、相手の地雷に触れないようシンプルに言葉を紡ぐ。
「そこまでしてもらって大丈夫です?」
「問題ない」
即答。
「そこまで言いきっちゃいますか。分かりました、その件は任せます」
これまでとこれからの話についてキリが良くなったので、財前から話を切り上げようと動く。学生を夜遅くまで拘束するわけにはいかない。
「これでしたかった話は終わりかな? プレイメーカー達にもよろしく言っておいてくれ」
「……リンクヴレインズで何か起きた時、外で動けるのはきっと限られた人だけになる」
足先を光の射す方へ向け、倉庫から出ようとする財前を引き止めるのは深刻なことを告げるように少し低くなった詩織の声。財前が振り向いたその先で今上詩織は腰から上体を曲げ、頭を下げていた。
「――その時はお願いします、財前晃さん」
――かくして鬼塚豪へ地のイグニスが、財前葵へ水のイグニスが渡ることになったのであった。
裏であれこれ動いた結果、今上詩織の休息の時間は削れ、流石に疲れが見えるようになってきた。ハノイの騎士を追っていた復讐の使者時代の藤木遊作はもっとハードスケジュールだったというから驚きだ。ちゃんと寝れてたの? と聞けば悪夢を見るからあんまりだったとのこと。……そっかぁ……。
「眠いー」
目をしぱしぱ、ふぁあと欠伸。ちょびっと涙が出る。デュエル部の部室で眠気と格闘しつつデュエルをする今上詩織の姿がそこにあった。
カードを手札からフィールドへ墓地へ動かし、特殊召喚して、盤面を見て。
「……あっ展開ルート間違えた」
「いつもとなんか違うと思ったらやっぱりミスしてたのか。やり直していいぞ、俺まだこのターンカード何も使ってないし」
「えっいいの? それじゃお言葉に甘えて途中までフィールドのカード戻すね。……いやあちょっと夜遅くまで起きてた日が続いただけでここまでやらかすとは不覚」
「分かった。今日から早めに寝ろ」
「ぐうの音も出ない正論。あ、
「なにい!? ……無いです……」
島直樹、展開し直しを許したことをちょびっと後悔していた。
「にしてもなんか最近忙しそうだよな今上。バイトもあんまりやってないんだろ? ショップに行く機会も減ってるし機械族の
「機械族成分はリンクヴレインズのデュエル見て補充しているから問題無いって」
「機械族成分ってなんだ……? 機械族って言われてもヴァンガードしか思い浮かばねえんだがなぁ。さては今上がヴァンガードだったりするんじゃないだろうな?」
「
「だなー」
デュエルよりも会話がメインになりつつあったその時、財前葵のデュエルディスクが振動した。誰からだろうとなんの気無しに送られてきたメッセージを開き、固まる。
『葵、このメッセージは絶対に他人に見せないようにして下さい』
間違いない。これは自らのデュエルディスクにいる水のイグニス、アクアからのものだ。わやわや楽しそうにしている彼らからこっそりと離れて……またメッセージが届く。
『くれぐれも反応しないように。落ち着いて読んでください。先ほどの会話の中、嘘をついた人がいます』
何故この状況で誰が嘘をついた、と教える必要があるのだろうか。いつも通りの部活動、いつも通りの部員。まず、嘘をつく箇所があったとは思えない。
『島直樹の問い「今上詩織がヴァンガードか?」に対して今上詩織は否定しましたが、それが嘘です。
思わず声が出そうになったが、手で押さえて事なきを得る。目を左右に向け、誰もこちらに注目していないことを確認し、息を吸って、吐いて。元いた場所へと戻る。
二人のデュエルはそろそろ大詰めのようだ。アクアから伝えられたことを表に出さないよう、笑顔を作って話しかける。
「今上さん、後でデッキ調整の相手を頼んでもいいかしら? 初めて使ってみたデッキなんだけど難しくて……デュエルに集中したいから見学を入れずに一対一でお願いしたいのだけど」
「うん? そのぐらいならべつに問題ないよ」
デュエルディスクにいるアクアは気付いた。気付いてしまった。財前葵がじわじわと怒りを溜めていることに。過去にヴァンガードと何があったのかは知らないが、このままでは大変なことが起きてしまう気がする。
それに……初めて使うデッキ? 作った、ではなく? 人払いの理由として使うには少し弱い気もするが、もしかして。
アクアはあわあわおろおろしながら、この後のデュエルの約束をする音声を聞き取ることしかできなかった。
真実を見抜く力を持つ
水のイグニスがその力を発揮する。
それは今上詩織がヴァンガードである
という衝撃的なものだった。
真実を探るため、財前葵は今上詩織へ決闘を挑む。
特殊タグの力は素晴らしいですよ……というわけで次回予告再現。
いやあ葵ちゃんは何ンセスのデッキを使うんだろうなあ。
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馬鹿正直な嘘吐き
蟲惑魔使いヒャッハノイ?あいつは一人で蟲惑の園に行ってそれっきりさ……。
「いやあ空いててよかったー」
まさか体育館の使用許可がもらえるなんてね、とニコニコ笑顔で楽しそうに今上詩織ははしゃいでいた。
そうね、と財前葵は相槌を打つ。手の中にある体育館の鍵を鍵穴に差し込み、回せば音を立てて施錠が完了。大きい密室が完成した。
外へ映像が漏れないようにカーテンを、また暗くなりすぎないようにライトは点けておく。立体映像をフルに使った迫力満点のデュエルを行える環境を手際よく整えていく。
「初めてのデッキかあ、いやあ楽しみだなあ」
これから使うデッキの確認をしているようだが枚数が明らかに多い。入れ替えなどの特徴的な動作はしていないため、どうやらデッキは島直樹とデュエルしたものから変更はしていないようだ。
――それらの行動を監視する葵には、詩織と同じような楽しい、という感情は見えない。
「そう笑っていられるのも今のうちだけよ」
「おーっとまさか制圧系のデッキ使うつもりだったりしちゃう?」
「まさか……そう言いたいのはこっち。――まさか、貴方がヴァンガードだったなんてね」
「…………」
さっきまでの笑顔がきょとん、とした顔に変化する。その姿に動揺は見られない。
「いやだから、それはあり得ないって」
「水のイグニス――アクアには真実を見抜く力がある。貴方が嘘を吐くほどに真実は補強されていくわ」
葵は詩織の否定を一蹴する。そうして己のデュエルディスクにアクア、と呼びかけた。
葵のデュエルディスクから現れた水色のイグニスは本当に今ここで彼女を問い詰めるんですか? と言わんばかりにおろおろ。二人を交互に見るために何度も振り返り、ツインテールのように見える部分が揺れている。
『……間違いありませんね、彼女が水のイグニスです』
詩織のデュエルディスクからちょっぴり顔を出したグラドスにも太鼓判を押されてしまった。
「えっ財前さん妹さんにイグニスを託したのか……というかそんな力持ってるイグニスがいるってこと教えてもらってないんだけどAiめぇ……」
頭を抱えて憎々しげに呟いたちょうどその頃。全く関係ないことだろうが、Aiがくしゃみをしたとかしなかったとか。イグニスの謎は深まるばかりである。
「グラドス、取り敢えず『バレました
『絵文字部分をどう発音し……? いや、今聞くべきことではありませんね。わかりました』
頼みを引き受けたグラドスはするするとデュエルディスクの中に戻っていく。詩織を睨みつける葵は語気を強めて問いかける。
「何を企んでいるの、ヴァンガード」
「リアルでそっちの名前呼ばれるのはちょっと怖いからできればやめて欲しいなあ」
「ハノイの騎士だった貴方がイグニスを狙わないはずがないでしょう! 何故プレイメーカーと共にいられるの!? 何をするつもりなのか答えなさい!」
イグニスと強い絆を育んでいるのは喜ばしいことなのだが、それでこっちが仲間割れするハメになっては困る。元ハノイの騎士の称号はこういうとき足枷になってしまうのが難点だ。
うーん、と顎に手を当てて悩む。情報が少ない相手側の事情を考えると途中だけを掻い摘んで説明なんてしたらややこしくなるよなあ、と考える。……話が長くなるけども仕方ない。最初から話そう。
「えー、まず始めとしてハノイの騎士にいたのって実はバイトで」
「は?」
「いやバイトでハノイの騎士を」
「……は??」
「いやちょ圧が強い圧が強い! なんで本当のこと言ったら怒って……!? ワタシウソツカナイ!」
「っ、どうなのアクア!?」
「…………真実……ですね……」
「…………」
「ほらー私嘘つかないもーん」
「待って、待って……時期を考えると……ハノイの騎士になったのは入院してからってことになるわよね?」
「だねー」
「…………」
「無言で拳を握りしめないでくれます!?」
財前葵、混乱。最初の緊迫した空気は詩織の手でめちゃくちゃのグダグダに緩んでしまった。
こんな調子で話し続けられ、真意やらなにやらを聞いても気が抜けてしまいそうだ。こうなったらもう、
「〜っああもう! デュエルよデュエル!」
――デュエルをするしかなくなるのである。
ぐだぐだっとした導入だったが、デュエルが始まれば二人の顔は決闘者にふさわしいものへ引き締まる。
財前葵は恐らく水のイグニスのデッキを引き継ぎ、それを使用している。前にデュエルしたトリックスターデッキと違い事前情報が0でのデュエルになるが、リンク召喚を妨害すればなんとかなるだろう。手札には展開に必要なカードが揃っている。
「先攻は私かぁ。先に聞きたいんだけど手札誘発もうあったり? いや本気デュエルっぽいし持ってても持ってなくても不利になることは言わないか……うん、じゃあ一気にやっちゃお。効果の説明一部省略するけど許してね?」
自分の質問に対して自分で納得し、相手に断りを告げ――大きめに息を吸った。
「
連続特殊召喚に一区切り。すう、と一呼吸。
「レベル5シンクロモンスターのハイパー・ライブラリアンとレベル2シンクロモンスターのレシプロ・ドラゴン・フライにレベル5シンクロチューナー、スター・ガーディアンをチューニング! カモン!
【機械族/シンクロ/効果】
Sモンスターのチューナー+チューナー以外のSモンスター2体以上
このカードはS召喚でしか特殊召喚できない。①:1ターンに1度、自分または相手がモンスターを召喚・反転召喚・特殊召喚する際に発動できる。このカードがフィールドに表側表示で存在する場合、それを無効にし、そのモンスターを破壊する。②:このカードがフィールドから墓地へ送られた時、自分の墓地の「TG」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。
展開が長くなったため口上は省略。トライデント・ランチャーとハルバード・キャノン、どちらもその名に刻まれた武器を持つ機械の戦士が並び立つ。
攻撃力4000のハルバード・キャノンの攻撃が通ればデュエルはこちらの勝利で終えることができるが、詩織が先攻となったためまだ攻撃できない。
「カードを3枚セットしてターンエンド」
フィールドにはリンク3とレベル12のモンスター、セットカード3枚。さらには手札1枚が残っている。けれども詩織は困っていた。
「(うーん困った! サイバースに対しての召喚無効効果の使い所がよくわからない!)」
相手は2妨害程度じゃ止められないことに定評のあるサイバース、いや下手な展開の妨害をものともしないのはサイバースだけに限らないのだけど。
「私のターン、ドロー!
《
星3/攻1400
出てきたのはウマとサカナの体を持つレベル5通常モンスター――ではなく、可愛らしい女の子。シーホースを日本語に訳すとタツノオトシゴ。それを踏まえると、彼女の肩当てはどことなくタツノオトシゴの頭に見えなくもない。
「輝け、友情と絆のサーキット! 召喚条件はレベル4以下の『マリンセス』モンスター1体! 私は
「ハルバード・キャノンの効果を発動し、その特殊召喚を無効にして破壊する!」
サーチ効果とか特殊召喚とかの効果を持っていることが多いリンク1、展開の足がかりになるだろうそれを止めておくべきと判断した詩織は効果を使う。
きゃああ、と悲鳴と共に消えていくブルースラッグ。
「っ……なら! フィールド魔法、
「やっぱりまだ展開手段はある、か。なら! その発動にチェーンしてハルバード・キャノンをリリースし、罠カードバスター・モードを発動! デッキから強化形態、
《
星12/攻4500
詩織が発動したバスター・モードの閃光と共にハルバード・キャノンが消え去ったかと思えば、更なる重装甲、重装備に身を包みその性能を増したハルバード・キャノン
葵が発動したフィールド魔法により、特筆することのない体育館の天井は水中から見上げた水面の煌めきへ変わる。空から降り注ぐ海水により床は水に埋め尽くされていくなか、二人の決闘者の戦う足場として石造りの幻想的な舞台が出現した。
「
《
星4/攻1500
「フィールド魔法、
《
攻1500→1700
「今度こそ! 輝け、友情と絆のサーキット! ブルータンをリンクマーカーにセット! リンク1、
「ハルバード・キャノン
「……サルベージを発動。墓地の攻撃力1500以下の水属性モンスター2体、
「チェーンしてセットしていた速攻魔法、相乗りを発動。このターン、相手がドロー以外の方法でデッキ・墓地からカードを手札に加える度私はデッキから1枚ドローする」
葵が発動したサルベージに相乗りして1ドロー。共に手札を補充するが、葵は既に通常召喚権を使っている。自身の効果で特殊召喚可能なモンスターを持っていないように見えるのでこれ以上の展開はないだろう、そう予想したのだが楽観的な未来は簡単に裏切られた。
「――
「げっ」
「よくもまあ邪魔ばっかりしてくれたわね……! 追加された通常召喚権でブルータンを通常召喚! ブルータンをリンクマーカーにセット! リンク1、
《
Link1/攻1500→1700
【リンクマーカー:下】
三度目の正直、とようやくリンク召喚に成功したブルースラッグ。自身を破壊したり除外したりとしてきたハルバード・キャノンを見て怯えているように見える。
「リンク召喚に成功したブルースラッグの効果で墓地の
「相乗りの効果がそれぞれに適用されて合計2枚のドロー」
……葵ちゃんの周囲に確実に仕留めてやるぞというオーラが見えるのだが、気のせいだろうか。
「手札の
《
Link2/攻2000→2200
【リンクマーカー:左/下】
「コーラルアネモネの効果を発動! 攻撃力1500以下の水属性モンスターをコーラルアネモネのリンク先となる自分フィールドに特殊召喚する! 帰ってきて、ブルースラッグ!」
「うん? 通常召喚してリンク召喚して手札回収と特殊召喚と……って繋がっていく。つまり1枚からリンク3以上が出せるデッキかぁ【マリンセス】は」
やっぱりリンク2を出した時に妨害したほうが良かったかもしれない。……まあリンク1のブルースラッグを消費させたからとりあえず良しとしておこう。ヨシ!
「アローヘッド確認! 召喚条件は水属性モンスター2体以上! 私はリンク2のコーラルアネモネとリンク1のブルースラッグをリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! リンク召喚! リンク3、
《
Link3/攻2500→2700
【リンクマーカー:左/右/下】
「――自分がEXモンスターゾーンに『マリンセス』リンクモンスターをリンク召喚した時
葵の墓地にいる『マリンセス』リンクモンスターはブルースラッグとコーラルアネモネの2種類。その2体がマーブルド・ロックに装備される。
「さらに、自分フィールドの『マリンセス』モンスターは装備している『マリンセス』カードの数×600攻撃力をアップするわ」
《
攻2700→3900
「おわあ」
一気にマーブルド・ロックの攻撃力が跳ね上がる。
「フィールドから墓地へ送られたコーラルアネモネの効果で墓地の『マリンセス』カード、
「あ、相乗りー」
「バトルよ! マーブルド・ロックでトライデント・ランチャーに攻撃!」
トライデント・ランチャーの攻撃力は2200。シンプルな攻撃力の差で押し負け、破壊される。
「うぐぐっ」
今上詩織
LP 4000→2300
ハルバード・キャノン
とにもかくにも次のターンで倒しておかないと厄介なことになる。この後のことを考える詩織を今現在に引き戻すかのように、葵は言った。
「次のターンなんて無いわ、これで終わりよヴァンガード! フィールドにリンク3以上の『マリンセス』モンスターが存在しているため、この罠カードは手札から発動可能! 自分の『マリンセス』リンクモンスターが戦闘で相手モンスターを破壊した時、
轟々と、水が一つの指示のもとに動き始める。
「その自分のモンスターのリンクマーカーの数×400ダメージを相手に与える。さらに自分フィールドにリンク2以上の『マリンセス』モンスターが存在し、相手リンクモンスターを破壊した場合には、破壊されたモンスターのリンクマーカーの数×500ダメージをさらに相手に与える!」
マーブルド・ロックのリンクマーカーの数は3、そこに×400で1200。トライデント・ランチャーのリンクマーカーの数は3、そこに×500で1500。
合計すると、発生する効果ダメージは2700。そして今上詩織の残りLPは2300。1ターンキルを狙っていたのなら相乗りされても問答無用で展開を続けていたのにも納得できる。が、それをそのまま通すわけにはいかない。
「だからその名前を叫ばないでってちょっと待って暴力反対! 自分フィールド上に『/バスター』と名のついたモンスターが存在する場合に発動できるカウンター罠、バスター・カウンターを発動!
ハルバード・キャノン
「……メインフェイズ2、マーブルド・ロックの効果で墓地の『マリンセス』カード、
「相乗り」
「仕留め損なった……ターンエンド」
「エーン殺意がひどい」
それを知った彼女はある計画を立てた。
真に世界を救うため、影に潜む敵を倒すため。
故にこそ、彼らは力を貸し与え
写し身の心をカードに宿した。
時を超えて集いし星が、新たな未来を待ち望む
真の目的に必要な正しき行い」
相乗りで合計5枚ドローしました。
よって葵ちゃんがターンエンド宣言した時の二人の手札は……
詩織→6枚
葵→4枚
手札そんなに減ってないマリンセス怖〜。
なお、今使用しているデッキはただの【TG】……ではありません!存在は過去にちょろっと書いてます。
次回予告……つまり……次のターンで出てくるのはそういうこったな!なんでそのデッキ回ってるの?
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滅四奉公
そしてこの下にあります挿絵、最近話題(最近?)のAIイラストで作成したものを作者の手で修正、後ろにちょいちょいっと入れてロゴも追加してーとしたものになります。にじジャーニーのクローズドベータ期間中に作りました。
本作の主人公、今上詩織の作者イメージはこんな感じです。作品あらすじの所にも置く予定。
【挿絵表示】
……いやね、実はヴァンガード状態の絵も今上詩織の絵も支援絵として昔貰っているんですよ。ただ絵を描いてくださった方々に作中で紹介してもいいですか?と聞くタイミングを逃しまして……ハイ。
読者の皆様のイメージと違うなんて気にする必要はありません。皆違って皆いい、十人十色のバイトハノイ!黒髪ショート身長150cmという設定が守られれば良いのです!
長くなりましたがそれでは本編、どうぞ!
今上詩織 LP 2300 手札6→7
モンスター
TG ハルバード・キャノン/バスター
レベル12 ATK4500
財前葵 LP 4000 手札4
モンスター
魔法・罠
【
フィールド魔法
手札はあればあるほど良い。それも相手に何のカードなのかを知られていなければ。
葵の手札4枚の正体は全て分かっている。
対する詩織の手札7枚は全てが未知。
葵は考える。シンクロ召喚を多用するTGであれば、また高レベルのモンスターを出してくるはず。適切なタイミングでモンスター効果を無効化できる
「手札抹殺を発動!」
「っ!?」
メインフェイズに入り、詩織は迷うことなく手札を交換することを選んだ。
「これによりお互いに手札を全て捨て、その枚数分ドローする。さあ、どうする?」
挑発するように詩織は笑う。
手札を減らせば手札抹殺でドローできる枚数が減り、マーブルド・ロックを戦闘破壊から守れる回数も減る。手札抹殺の効果で
不確定な未来と迫られた選択。葵は悩んだ末、手に握ったカードをまとめる。
「……手札4枚を捨てて、4枚ドローするわ」
墓地に行くだけなら自分のターンにマーブルド・ロックの効果で回収は可能、まずは戦闘を乗り切るべきだと葵は判断した。……もしかしたら、と望みをかけて新たにドローした4枚の中に
「私は手札6枚を捨てて6枚ドロー」
その様子に気が付いているのかは分からないが、詩織はドローしたカードを見て微妙な笑みを浮かべる。
「精霊パワーこわいなあ……手札からフィールド魔法Sin Worldを発動。そして、Sin パラドクスギアを通常召喚」
《Sin パラドクスギア》
星1/攻0
色が歪む。通常ではあり得ない不安を煽る色彩が二人の決闘者が戦う舞台を包む。異常な世界の中現れた歯車は規則正しくカタカタ音を立てて回る。
葵が真っ先に警戒したのはフィールド魔法による変化ではない。
「――TGじゃ、ない?」
「フィールド魔法が表側表示で存在する場合、Sin パラドクスギアをリリースして効果発動! デッキからSin パラレルギアを特殊召喚し、さらにデッキからSin スターダスト・ドラゴンを手札に加える」
《Sin パラレルギア》
星2/攻0
「Sin パラレルギアをシンクロ素材とする場合、他のシンクロ素材は手札のSinモンスター1体でなければならない。手札のレベル8、Sin スターダスト・ドラゴンにレベル2のSin パラレルギアをチューニング! ――次元の裂け目から生まれし闇よ、時空を越え訪れる破滅に終止符を打て! シンクロ召喚! レベル10、Sin パラドクス・ドラゴン!」
《Sin パラドクス・ドラゴン》
星10/攻4000
目に付くのは、真の所有者が秘めた相反する思いを象徴するかのような黒と白。矛盾を宿したドラゴンが咆哮する。
「攻撃力4000!?」
「おっと驚いてほしいのはそこじゃない! Sin パラドクス・ドラゴンがシンクロ召喚に成功した時、効果で墓地のシンクロモンスター、TG スター・ガーディアンを特殊召喚! また、スター・ガーディアンが特殊召喚に成功した場合発動できる効果で自分の墓地の『TG』モンスター、TG スクリュー・サーペントを手札に加える」
パラドクス・ドラゴンが尾で乱雑に地面を叩く。急かすように、苛立つように。慌てて墓地とフィールドが繋がる穴から出てきたスター・ガーディアンを見てフンと鼻を鳴らす。
「通常魔法、土地転がしを
「……Sin パラドクス・ドラゴンはSin Worldが存在しない場合破壊される効果がある。けどそこだけを注意してたらダメなんじゃないのかな?」
《
攻3900→2500
「っ! しまった……!」
……フィールド魔法を奪うだけなら手札抹殺をしてからすぐに土地転がしを使えば折角のパラドクス・ドラゴンを破壊せずに済んだはず。まさか使うカードの順番を間違えて……?
「――一見間違えたように見える選択。だがそれは、真の目的に必要な正しき行い。『Sin』モンスターが効果で破壊された場合、LPを半分払い発動できる! 墓地から出でよ! Sin トゥルース・ドラゴン!」
今上詩織
LP 2300→1150
《Sin トゥルース・ドラゴン》
星12/攻5000
詩織のLPを糧として現れたのはSin パラドクス・ドラゴンよりも遥かに巨大な、禍々しい黄金竜。
財前葵はカリスマデュエリストブルーエンジェルとして活動し、多くの対戦相手と彼らの使うモンスターを見てきた。記憶の中の最大級を更新する、と言っても過言ではない超サイズ。それが今、目の前にいる。
「TG スター・ガーディアンの効果でTG スクリュー・サーペントを手札から特殊召喚。特殊召喚に成功したスクリュー・サーペントの効果で墓地からTG ブースター・ラプトルを特殊召喚。さあ、どんどん行くよ! レベル1のブースター・ラプトルにレベル4のスクリュー・サーペントをチューニング! シンクロ召喚! レベル5、TG パワー・グラディエーター!」
《TG パワー・グラディエーター》
星5/攻2300
「レベル5のパワー・グラディエーターにレベル5シンクロチューナーのスター・ガーディアンをチューニング! シンクロ召喚! レベル10、フルール・ド・バロネス!」
《フルール・ド・バロネス》
星10/攻3000
馬が蹄を鳴らせば花が舞う。女戦士が剣を振るえば風が舞う。豪華絢爛、美麗荘厳。一挙手一投足が麗しい、騎馬に跨った女男爵がフィールドに現れる。
「墓地に10体以上のモンスターが存在するため、究極時械神セフィロンを特殊召喚! さらにさらに、墓地の『機皇』モンスター3種類を除外して機皇神龍トリスケリアを特殊召喚!」
《究極時械神セフィロン》
星10/攻4000
《機皇神龍トリスケリア》
星10/攻3000
天使に機械龍。統一性のないモンスター達をフィールドに並べていく詩織を見て葵は驚愕する。
「また新しいカテゴリ、『機皇』……! 手札抹殺で墓地に送られた中に3枚があった、ってこと!?」
だとすればデッキ内のカードの偏りは相当酷いことになる。島直樹がよくぼやいていた「今上最近変なデッキばかり使ってくるしぶん回るのが訳わかんなすぎて相手するのなんかツライ」という言葉の意味を葵はようやく理解し始めていた。
「デュエルする前に質問してきたよね。葵ちゃんが納得してくれるかは分からないけど、その答えを教えてあげましょう」
デュエルがさあこれからだ、という時だというのに詩織は唐突に話を戻した。
「……何よ、流石のヴァンガード様はデュエルしている中でも相手を労る余裕がありまーす、って煽りたいわけ?」
ブルーエンジェルを思い起こさせるような口調で責める。
「いやなんだかどのタイミングで言っても拗ねそうな気がしたから一番聞いてくれそうなここしかないかなって……んっんん。イグニスを根絶しようなんて一欠片も思ってない。プレイメーカーと一緒に行動してるのは単純に頼まれたからだよ、仲間になってくれってさ」
あーハズカシ、とあの時のことを思い出して頬がほんのりポッポしてきたのを隠すようにパタパタと手で扇ぐ。
「どうしようもない状態になってからああしておけばよかった、そう後悔しないために動いてる。具体的にはこんな感じで! フルール・ド・バロネスの効果! フィールドのカード1枚を対象に発動、そのカードを破壊する! 私が対象にするのは
「な――!」
あの時、手札抹殺を使われた時、自分は悩んだ末に
破壊されるマーブルド・ロック。装備されていた
「さあ、バトルフェイズだ! 究極時械神セフィロンで葵ちゃんにダイレクトアタック!」
鎧の鏡面に映る顔が目を見開く。決闘者の命じるまま相手を倒すべく、両手に束ねた光を放った。
神に等しき存在による攻撃。フィールドにその攻撃を防ぐための手段はない。……なら、墓地はどうだ?
「相手モンスターが攻撃するダメージステップ開始時に、墓地の
分厚い水の壁が葵を守るように聳え立つ。
墓地にはリンク1のブルースラッグが2枚にリンク2のコーラルアネモネ、リンク3のマーブルド・ロックがいる。よって相手の攻撃力が7000より上にならなければダメージを受けることは――。
「フルール・ド・バロネス第二の効果でその発動を無効にする!」
――風によって水は弾け、花のように散った。
財前葵
LP 4000→0
完敗。デュエルに敗北した、まさか! と葵はデュエルディスクの中にいたアクアの安否を確認し、ほっとする。
「というわけでお初のデッキと戦ってみた感想としては感情的になりすぎると良くない、ってところで終わりにしとこうか。リンク4が出てきてたらどうなってたかわかんなかっただろうし」
「……本当に、イグニスに手を出す気もハノイの騎士に手を貸す気もないのよね?」
「本当本当、ワタシウソツカナイ」
「嘘言ったからアクアが真実について分かったってこと覚えてて言ってるのかしら、この元ハノイの騎士……」
「あ、あははー……」
「ですが、とても強い決闘者である彼女が私たちイグニスを守る側にいる。それは紛れもなく真実です」
「いやーそれほどでも?」
「切り替えが早いわね…………というか、フルール・ド・バロネスの召喚に成功した時点でほぼ勝ってたじゃない。フィールドのカードを破壊する効果と効果の発動を無効にする効果、どっちも持ってるモンスターってそういないわよ? シンクロモンスターを素材にしてたけどそういった縛りがあるモンスター?」
「バロネスは汎用シンクロモンスターだから特に縛りはないよ? レベル10で素材にシンクロモンスター要求してくるあっちはまあ……あの状況ではバロネス出すよねって感じだったから……」
「汎用シンクロモンスター…………あれが。というか特殊召喚するだけして何もしてなかった機皇神龍トリスケリアはなんだったのよ!」
「いや、そんなこと言われてもぉ……つよつよマリンセスの落とし穴的罠が突然使われるかも知れなかったし……未来組を同じフィールドに揃えられるなら揃えたくなるし……」
「何よそのカテゴリ名を無視した変な枠組み」
「分かる人には分かるってやつですよ」
仲が悪くなったのか一周回って良くなったのか。まあ互いに隠し事をしなくて良くなったため砕けた口調で会話している今を見れば仲が良くなった、として問題は無い? だろう。
……その間、グラドスからの連絡を受けて万が一の時のため体育館入り口前で待機していた闇と炎のイグニスにオリジン二人はどうしたらいいんだろうか、と困っていた。
どれを取っても不足はない一匹狼。
勧誘とリンク魔法への対策共有を兼ねたデュエル、
一歩も引く様子を見せないブラッドシェパードに対し
ついにリボルバーは最後の
……今上詩織だ」
ブラッドシェパード「えっ」
詩織「えっ」
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当惑のバウンティハンター
ガンについて触れた番外編投稿後の禁止制限改定発表でガンが帰ってくるというミラクルが起きて「!?」ってなった作者です。そんなことある?
リボルバー――鴻上了見から突然の着信。何事かと問い正せばブラッドシェパードにヴァンガードの正体を明かした、とのこと。傍で話を聞いていた遊作も流石に硬直してしまった。
「えっ?」
『……すまない』
「えぇ……流石にそんなことされたら出るとこ出ますよ?」
「……犯罪者同士の裁判ってどうなるんだろうな」
そんなこんな重大事件の発生が明らかになったキッチンカーカフェ・ナギ、現在スターダストロード前に出店中。関係者以外いない貸切状態の席で穂村尊はぽつりと呟く。
「はいそこうるさい。明かすにもタイミングとかいろいろあるから考えてたのにぃ……」
葵ちゃんの件でこれからは正体バレに注意しよう! と思っていた矢先にこれはあんまりにもあんまりではなかろうか。
「ところで誰が提案したの? 他人の正体を明かす、って一人で決心できるはずがないと思うんですけども」
『私が推奨しました』
申し訳なさそうな了見と正反対に堂々とした態度で会話に参加するパンドール。ハノイの騎士幹部達にもちゃんと受け入れてもらえているらしく、肩身が狭そうな感じは一欠片も見えない。
「聞きましたか今の発言を! これこそ邪悪なAIですよ!」
Ai達と同じようにデュエルディスクから出てきた小さめサイズのグラドスがぶんぶん手を振って興奮をアピールしつつ、パンドールをサゲていく。
『大衆の未来のことを考えた上での判断をしたのに個人の感情で邪悪、と呼称するとは。やはり回路に不具合のあるポンコツなんですねエセイグニスは』
「ふふふ」
『うふふ』
……わ、笑い声が怖い。このままだと喧嘩をおっ始めそうな予感がひしひしする。
「それはそうと! それ知ったブラッドシェパードは今どうしてるんですかね!」
グラドスの頭を手で押しデュエルディスクに沈め無理やりの話題転換。助かった、という感情を滲ませながら了見は言った。
『そちらに向かっている』
「はい?」
今どうしているのかに対しての答えがそちらに向かって? 草薙さんと顔を見合わせた後、即座に通話を切断する。イグニス達も慌てて隠れだす。
バラされたのは私の正体だけであるため、オリジン2人はキッチンカーの中へ乗り込み制服の上着を急いで脱ぎエプロンを着用。ヴァンガードのことなど何も知らない一般男子高校生バイトに変身した。……相変わらず遊作君の顔が硬いのは気にしてはいけない。
「つか最後のこっちに来てるってのお茶目な冗談だったりしなぁーい?」
「組織のトップだった人がそんなタチの悪い冗談はやらないでしょうよ」
「黙ってろAi」
「そうだぞ、黙るのだAi」
「遊作ちゃんはいつものなんだけど不霊夢には言われたくねえ〜! ……へーいAiちゃん大人しくしまーす」
ぶうぶう文句を言いながらも身の危険が迫っているのは事実なのでAiは素直に従った。
――地に響くバイクの排気音。静かな、悪く言えば繁盛していないカフェ・ナギからはとても目立つ音。人の往来の邪魔にならない所に停車し、男はこちらへと歩いてきた。
サングラスにマフラー、徹底して自身の個人情報を隠そうとしているどこからどうみても怪しい風貌の長身の男性。皆は男のことを知らないが、私は知っている。
「……け、ケンさん?」
詩織が彼の決めた偽名で呼びかけたが彼は返事をせず、まずは周囲を確認する。
「あ、あのう?」
「ヤツはいないのか。謝罪は直接顔を合わせてするべきだと思うのだがなリボルバー……まあいい」
男は額に手を当てはあ、とため息をつく。
このまま店の前で何も頼まず会話を続けるのは不自然だろうと思ったのか、コーヒーを注文して男は席に座る。その様子をブラッドシェパードによりトラウマを抉り返された穂村君はじっと見ていた。
店員が客のことをずっと見るのは不快感を与えてしまうからやめるよう視線で訴えかける。が、穂村君はケンさんが何かしでかさないかと警戒しているためこっちには気が付いていないようだ。
「…………」
穂村君からの視線を自分がいかにも怪しい風体だから目でずっと追っていると判断したのか、顔の下半分を隠していたマフラーをずらす。……口元が見えるようになるもサングラスのせいでまだ不審者感は消えていない。
サングラスの奥にある目が私を見ている。
「えー……何と言いますか……騙していてすみませんでした!」
「隠している事をどこの誰とも知れない人間に対して素直に言えるはずがないだろう。その点について謝る必要はどこにもない」
あれ、なんかやっぱり私に甘いな? というか、あっさりと正体バレについてのアレソレが終わってしまった。
これはこれで困る。どうしよう。取り敢えずは今知らないといけないことを尋ねていくとしよう。
「私のアレソレ聞いた後に仲間にならないかって誘われなかったんです?」
「情報の管理がなってない組織の下に付くなど御免だな。俺は俺のやりたいように動かせてもらう」
……リンクセンスでグラドスがひっそりとパンドールを煽っているような気配を察知。
「イグニスを捕獲してSOLに持って行こうとか考えてるなら私は貴方の敵になりますが」
「AIへの嫌悪は無くなった訳ではないが、一銭にもならない無駄な戦いなどする価値もない。……奴等、イグニスを捕獲、解体しその技術を得た後にSOLに従順である新たなイグニスを作ろうとしていたんだぞ」
リンクセンスでイグニス達がざわついたのを察知。SOLがバウンティハンターを解雇していなければ、鬼塚とのデュエルで敗北した地のイグニス、アースはきっと死んでいた――。
「そんな特大の機密情報、財前さんから教えてもらったんです?」
「いやSOLのデータバンクにハッキングした」
「何やってるんですか」
「それはお互い様だ。お前、俺にエマをけしかけるように財前に提案しただろう」
「な、気付いてたんですか!?」
男はフッ、と笑う。
「…………カマをかけただけなんだが」
「おう」
完全なる墓穴。両手で顔を隠す。
「…………鬼塚さんには後でちゃんと時間作って自分から明かそうと思います……いろいろと」
「それがいいだろう」
男はコーヒーを飲む。少しの間だけ、会話は途切れる。
「
「名前だけですね。結局なんなんですかアレ」
「SOLが現在開発している世界初の人型アンドロイドのことだ。人間を必要とする業務ほぼ全ての代替を目標としているため、一見して
強調したその言葉からは、どこか不穏なものを感じた。
「イグニスはネットワークでは無双できる存在だが現実への直接的な対抗手段は限られている。それを解決するために現実で行動可能な体を作らせた……というところだろう」
陰謀論にも聞こえる仮説に対し反論する。
「SOLはこれまでも家庭用を中心にアンドロイドを発売しているじゃないですか。そのノウハウを活かしてさらに高性能のアンドロイドを作っている、だけかもしれませんよ? イグニスが絡んでいると断言できる理由は?」
「その疑問も最もだ。俺が先程伝えたのは他企業への営業資料を見ればすぐわかる事のみだ。――更に踏み込んだ社外秘の資料についてをハッキングしようとしたが、データバンクよりも防衛が手厚かった。更に言えばイグニスアルゴリズムが使用されていた。故にイグニスが絡んでいる事案だと俺は判断した」
何やろうとしてるんですか、というツッコミは出来なかった。本当にイグニスが絡んでいるとすれば、
「気を付けておけ、奴らは現実でも事を起こせる手筈を整え始めた」
「なんでEMP兵器が必要になる可能性が出てくるんですかぁ……」
「文句はイグニスに言え。最後に、『自動車の自動運転システムをハッキングし、高校生に重傷を負わせる事故を起こしたとして17才の少年が逮捕された』……覚えているだろう?」
「忘れる方がおかしいでしょう」
その事故の被害者は私。ハノイの騎士に入るきっかけとなった事故だ。
「あの後、少々きな臭くなってきた」
「どういうことですか」
身を乗り出す。テーブルが揺れる。
「当初は自供し捜査に協力的だった犯人が突然否認し始めた。文字通り人が変わったようにな。その翌日に犯人の意識が無くなった。原因は不明。回復の兆しはない。まるでアナザー事件のようだろう」
「っそんなこと!」
強い感情を叩きつけるように叫ぶ詩織に落ち着け、と男は冷静に対処する。
「ハノイの騎士、それもヴァンガードが今更そんな行動をするはずがないのは分かっている。俺が気にしているのは否認してすぐに意識を失った、という点だ。――余計な事を言う前に口を封じた、としか見えない」
最後に告げたその言葉は、今上詩織に対してのみ効果を発する、特大の威力を持っていた。
「今上詩織、お前が巻き込まれた事故はまだ解決していない」
まあ、記憶の欠落したアレに用は無い。
私が資格を、鍵を、力を手に入れるために
最適な体はすでに目を付けている。
邪魔者もいるが、それは少し待てば消える。
すべては、私の野望のために。
今回の次回予告にはwhite river様作の文字化け風フォントを使わせていただきました。ご安心ください、ちゃんと読める文章です。
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リンクヴレインズに潜むもの
そろそろデュエル考えないといけないので更新がかなり遅くなるかもしれない……その前に設定開示だッ!くらえ!
考える。与えられた知識を基に、より深く世界を知る。
ボーマンは一人禅を組む。人ならざる身ではあるが、人に近しい身である自身が精神を統一しやすい姿勢にとなった結果、自然とその形になっていた。
地上絵として地に縛られた神々、地下深くへと押し込まれた紅蓮の悪魔。人間とイグニスが争い、人が死ねばその魂を喰らい現れるだろう今最も現れ出る可能性が高い危機。
他には異世界より現れ、堕落による滅亡で蝕む
これらはほんの一例であり、殆どが突発的に現れてもおかしくない、まさしく対策のしようがないもの。考えるだけ無駄、とライトニングが切り捨てるだろうモノだ。それらが現れた際に世界に出るだろう影響を観測できるようにプログラムを構築、シミュレート、圧縮し保存。
「人類の後継種を統べるため作られた私がこのザマか」
目を開き、呟く。数度のシミュレーションで識る。自分は後手しか打てず、発生する被害を止められないと。
その現実に怒りはしなかった。それらへの対処法はこれから会得するのだから。
かの人間は自分に対して
――なればこそ、己の在り方を見つめ直す。与えられた情報を基に、現実だけでなく空想も含めた存在へと再構築する。
「根源から振り返るとするか」
目を閉じ、外からの情報を断つ。
意志を持つAIであり人類の後継種、それがイグニス。人を導く叡智の炎。
その炎をこの世に生み出すために焚べられた薪。それがオリジン。過酷な環境下でデュエルを強いられた子供達。……藤、穂、杉、草。オリジンが植物に関連する名を持つのは偶然ではなく必然なのだろう。
考察する。鴻上聖が被験者の基準としたナニカを。その手がかりとなりそうなものは名前だけでなく……年齢、だろう。
『七つ前は神の内』――七歳までの子供は神の元に属する存在である、故に我儘や非礼をしてもそこに責任はない。そんな意味のことわざだ。七歳までは神の子、この観念は実は古代からのものではなく近代で成立したものだが、多くの人に昔からそう言われていたのだ、と信じられているのならばそれが真実となる。
そして、ロスト事件に巻き込まれた子供達の中で年齢が七歳を超えるものはいない。皆、まだ『神の子』として扱われるだろう子供だった。
幼い頃よりリンクセンスを得ていた鴻上了見が何故被験者とならなかったのか? その理由の一つが年齢だったのだろう。彼の出生に関しても謎は多いが今回は関係のないこととして除外する。
複数の出来事を掘り起こす。接続する。
星遺物の有る世界の伝説で、『守護竜は神の眷属』だと記載がある。小さき者達を守る存在であり、時代が進むにつれ滅びたが、とある出来事をきっかけに遺物より変化したものたち。
……捕食形態となったイグニスの見た目はどこか要らないものがあるように見える。
人型から手足を無くし巨大化、伸びた首と大きな頭。口でデータを喰らう。捕食を目的とするならこれだけで良いはずなのに、その胴体には無用の六つの触腕がある。
例えるなら、捕食形態のシルエットは――竜に似ている。
星杯の守護竜イムドゥーク。
星遺物より生まれ変わったユスティア、ガルミデス、プロミネンス、アンドレイク、エルピィ、ピスティ、アガーペイン。
死の力に呑まれたメロダーク。生の力を呼び起こされたアルマドゥーク。
守護竜の中に光属性は
ロスト事件の最中、光のイグニスであるライトニングが他のイグニスとは違いオリジンへ直接的な干渉を、精神への攻撃をしてしまったのはこれが理由なのか? と可能性を提示し、肯定も否定もせず一つの仮説として保存しておく。
……神の子から生み出されたイグニスと、神の眷属である守護竜。ならば自分は『双星神』と同等に成らねば格が足りないのか、とここでようやく明確な目標を知る。
とてつもない無茶振りだ。……だというのに、どこか喜んでいる自分がいる。
そうなるとイグニスを纏めて消し去るために建造したハノイの塔はオルフェゴール・バベルと地上へ落とされた星杖か、はたまた明星の
どちらであっても世界を崩壊させる恐ろしい力を持つ物体なのは変わらず、守護竜は発達した化学技術によって滅ぼされるという結末も変わらない。
ハノイの塔の企みが成功し、全てのサイバースが消え、あらゆる機械類が使用不可能となれば人は何を頼るのか? 決まっている。人智の及ばぬ存在だ。祈り、願い、祀りあげる。
――それは必ず、精霊信仰の復活に繋がるだろう。
そこへ行き着くと同時、背に冷たいものが走るのを感じた。考えすぎだと否定してくる存在は今ここにはいない。
この世界で最もオカルトに長けた人間の今上詩織へこれらの仮説について尋ねたのならば、
孤独を隠し、ボーマンは座禅をやめ立ち上がった。
……鴻上聖が本当に星遺物の物語を参考にしていたのならどこでその物語を知ったのか、という問題が浮上する。
その答えとなるサイバース族のモンスターがいる。
ストームアクセスにより捕らえられない効果モンスター。ヴァンガードとのデュエル、オルフェゴール・ロンギルスが忌々しく呼んだ五文字の名前。星遺物に響く残叫。この世界で唯一『鍵』を使用可能な人間を狙い、肉体を乗っ取る力を持つ存在。内に邪悪を秘めたトロイの馬。
「全ての原因は貴様か――
背後に向けて裏拳を放つ。
『やーだこわぁーい! デュエリストがこんなふうに暴力を使っていいわけー?』
それはわざとらしく弱者の演技をしていた。元は人間であるとは思えぬほどの我欲で満ち溢れた何かは、こちらを嘲笑うようにひらひらふわふわと飛び回る。
「…………」
手応えはなかった。こちらへウイルス等の攻撃を仕掛けた形跡も無し。危害を加えられない状態で目の前に現れたのか、と警戒はしつつも情報を得るための会話を開始する。
「鴻上聖を利用して己の欲望を満たそうとした他力本願が何の用だ」
『利用? 違うわ、困ってた人間がいたからちょっとお手伝いしただけよ? 私ってばこうなる前は力を持たない人間を導く優しい妖精だったんだもの! ここに来た理由も単純。悩める命のお話を聞いてあげるためよ』
一挙一動が腹立たしい。眉間に皺を寄せ、ボーマンは問い正す。
「優しい? なら何故鴻上聖が電脳ウイルスを仕込まれた時に助けなかった? お前の行動全ては自分のために、だろう」
『ナニソレ、息子が昏睡状態の父をネットワーク上でデータとして甦らせようとした親孝行を邪魔しろってこと? アレは流石に驚いたけどぉ……ま、流石に息子でもお父さんの全部を理解することはできなかった、ってことよねぇ。息子が必死にお父さんの組み立て作業してるなかで放置されていたのよ、私があげたアイデア。あの男以外が使おうとしたら困るから完全復活する前に私の手でその部分を消したの、綺麗さっぱり。感謝してほしいぐらいなのだけど?』
「下衆が」
どんな言葉で飾りつけようとやったことは証拠隠滅だ。苛立ちを吐き捨てる。
「その真実を私が人間へと明かせば怒りの矛先はお前に向かう、それをわかっていて言っているのか?」
『貴方が今答えを知ってももうヒトとAIの争いからは逃げられないのに! 人間達が信じてくれるはずないでしょうに。ああ、なんて可哀想なモノなのかしら。そうね、勝手に争って、勝手に負けた方を私が有効利用してあげる! そして敵討もしてあげちゃうわ! ほぅら、優しいでしょ?』
「勝ち負け? ……それは、お前が最後までこの戦いを見届けられたら、の話だろう」
そう言い返してくるとは思わなかったのか目を丸くする。一瞬、感情が抜け落ちたような表情になるがすぐに笑顔へと変化した。
『――何を言ってるの? 最後に笑うのは私。でしょう?』
イヴリースは邪悪に嗤い、夢のように消えた。
「ボーマン!?」
ようやく彼の作った光の城に侵入者がいた、と気付いたライトニングが慌てて現れる。計画の要であるボーマンに異常はない、と確認し終わった後に呪詛を吐く。
「これも今上詩織のせいか……あのノイズがぁ……!」
苛立ちから頭を掻きむしっているが無視する。計算能力以外が他の者より劣ったイグニスである彼は同情を好まない。一人にしてやるべきだと彼から離れた場所へ移動する。
「さて、どうするべきか」
歩きながら考える。
人間側の準備は整いつつある。きっと我らが居城も見つけ出すだろう。なら、私は彼らが攻め込む前に余計な手出しをされることない決戦の地を自身の手で作らねばならない。その程度のことができなければ高次の存在になるなど夢のまた夢。
敗北すればそれまで、勝てば……。
「人間とAIだけでなく邪悪な精霊も敵となるか。三つの世界を巻き込んだ争い。……何、その結果をシミュレーションするほど私は無粋ではないさ」
足を止める。胸に手を当て、語りかけるように言葉を紡ぐ。応答するのは彼の体を鼓動のように揺らす力。――デミウルギアによる攻撃で宿した神の力、その欠片だけが彼の話を聞いていた。
ハノイの騎士である者が、
賞金首を狙っていたハンター達が一堂に集う。
人間と敵対するAIとの戦い、その最終決戦の地へ誘う
ハノイの塔が起動する直前に
ソウルバーナーが待ったをかける。
なお、本編で明かす予定がないし「だからなんだよ!」と読者の皆様に言われそうではあるから後書きで明かしますが……。
オシリスはボーボボ世界に召喚されたことがあるので(ボーボボの例の回)信仰が少ないVRAINS世界でも活動にそこまで問題がないという設定があります。ありがとう……ボーボボさん……!
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集う戦士たち
祝 クラッキング・ドラゴンをサポートするスキル『ハノイの騎士の名のもとに』実装
……私は今日死んでしまうのか? あれでもクラッキング・ドラゴンまだデュエルリンクスにいないぞ? あれっリボルバー様のレベルアップ報酬にも無いぞ? ……アッ後日出るパックで実装するの!?←今ココ
皆もデュエルリンクスでハノイの騎士になってサイバースを抹殺しよう!
空に開かれたゲート、そこから現れるデュエルボードに乗った決闘者達。旧リンクヴレインズに遺棄されたハノイの塔という巨大な目印の下へ集う。
かつてリンクヴレインズを救った英雄プレイメーカーと闇のイグニス、Ai。
運命に立ち向かうべく参戦したソウルバーナーと炎のイグニス、不霊夢。
親友を助けるために決意を固めたブルーエンジェル改めブルーガール――ではなく、更にアバターを変更したブルーメイデンと水のイグニス、アクア。
己の道を貫く闘士Go鬼塚と地のイグニス、アース。
電脳トレジャーハンター、ゴーストガール。
狡猾な狩人、ブラッドシェパード。
そして――ヴァンガード。
「来たか」
空を見上げて男は呟く。
威風堂々とした姿で決闘者を待つのはハノイの騎士リーダーのリボルバーと副官のスペクター。かつてリンクヴレインズの平和を脅かす敵としてその力を振るった者たち。
「あそこか」
プレイメーカーが二人を視認し、進行方向を下向きに変更。彼らの目の前へ降り、荒れた大地を踏み締める。その後を追い皆も降り立つ。
――錚々たる面々が並ぶ。まさにリンクヴレインズのオールスター。
……あれ? そういえば鬼塚さんにはリアルで時間作ってもらってお話ししたけどもエマさんに会ったことないんだよなあ、とヴァンガード。自分に指を差し、その次にゴーストガールへ指を差し。手でパクパクと喋ったのかとジェスチャー。
ブルーメイデンとブラッドシェパード、首を横に振る。ついでにブルーメイデンはヴァンガードへ力強く何度も指を差して口パク。
あんたが。じぶんで。やりなさい!
アッハイそうですかわかりました……としょぼしょぼしながら説明に向かうヴァンガード。
ゴーストガールは急に近寄ってきたヴァンガードに戸惑いつつも話を聞いて――数秒して頭を抱え始めたのでしっかりと最初から説明を始めたのが分かる。もういい、もういいから、と情報量で頭がパンクしそうになったのかヴァンガードに対し話を中断するよう要求している。
……引き締まっているような、緩くなっているような微妙な空気の中リボルバーは決闘者を呼んだその理由を語る。
一刻も早く人類の敵である光のイグニスを見つけ出すためにハノイの塔を再起動、スキャンプログラムを放出するモノへと改造する。そのためイグニス・アルゴリズムを解する優秀なプログラマーが必要である、と。
「だから俺を選んだという事か」
「ああ」
ブラッドシェパードはイグニス・アルゴリズムを利用した罠を仕掛け、プレイメーカーらを騙したという実績がある。……過去にロスト事件やハノイの騎士、イグニスと全く関わりがなかった一般市民が、である。ハノイの騎士が喉から手が出るほど欲しい人材だ。
なおパンドールに推し進められた『ヴァンガードの正体バラシ』を採用した結果、ブラッドシェパードの引き抜きには大失敗している。ので、本来ならばここに来る筈がなかった、のだが……今上詩織という存在がかなり気に入られているらしく協力関係になってくれている。というのが正しい状態である。
つまりは中間管理職という縛りから解き放たれたよかれと思ってフリーダムヴァンガードによる多方面へのやらかしっぷり、ではなく顔の広さという強みを活かしてヴァンガードを経由した協力関係が構築されている。
「ハノイの塔はもともとイグニスを抹殺するためのものよね。光のイグニスがいる場所を見つけ出した後にあなたが私達を裏切らないという保証はあるの?」
ブルーメイデンが心配するのも当然である裏切り。それを防ぐためにもハノイの塔を再起動させるメインプログラムは共同で作成する。そうリボルバーは告げる。
……なおプログラミングに関してはよく分からないヴァンガードであったが、スキャンプログラムの言葉に反応し例の増殖するG型プログラムを取り出そうとしたところプレイメーカーとリボルバーの「やめろ」の綺麗なユニゾンで一蹴された。
「ハイワカリマシタ……私プログラミングに関してはお手伝い出来ないので警戒に回っておきますね……」
この場から離れつつ、こっそり入り込んで秘密の会合を動画撮影しようとしてた鳩とカエルの頭を引っ掴み、隣に現れたクラッキング・ドラゴンの頭に乗る。
刺々しいシルエットとタスケテーイノチダケハーと叫ぶ声の両方が遠ざかっていく。
人間とイグニスが手を取り合ってのモブプログラミング。後は各々が現実世界でプログラミングを行い完成を待つだけ――その筈だった。
「リボルバー、俺はお前を許せない」
敵意がソウルバーナーからリボルバーに向けて放たれていた。
これまでヴァンガードやプレイメーカーが仲介していたためにリボルバーへと直接向けられていなかった怒りは、延々と彼の中で燻っていた。
リボルバー――鴻上了見と初めて出会った時のきれいなスペクターショックと精霊界のアレコレでなんやかんや有耶無耶になったように見えたが、真実は怒りの発露が先送りになっただけであった。
緩衝材兼怒りの矛先がある程度向けられていたヴァンガードがクラッキング・ドラゴンに乗り、周囲の警戒へと向かったことで彼のストッパーは完全に外れた。
「今更正義の味方ぶろうと、お前たちハノイの騎士が過去にした事は消えない! 俺は人生を滅茶苦茶にされたんだぞ!」
「わかっている」
「いいや、何も分かってない!」
表情を変えずに肯定するリボルバーとは対称的に、感情をむき出しにしてソウルバーナーは吠える。
「デュエルだ! 俺が勝ったらお前達に全ての責任を取らせる! もし俺が負けたら不霊夢を渡す!」
「ソウルバーナー!?」
驚きの声を上げる不霊夢。当然だろう、そんなことをするという話は何一つとして聞いていない。
「……いいだろう」
「リボルバー様!」
ハノイの騎士の一員であるスペクターも驚愕を隠せないでいる。
今人間同士で争うのは無駄に時間を消費するだけであるのは明白。だが、わだかまりが残ったままでは光のイグニスらとの戦いに大きくない影響が出るかもしれない。問題点と解決の可能性、どちらもわかっているが故に無理やり止めることができない。
「……これほどまでに強い怒りの感情は初めてです」
アクアが能力で感じ取った彼の心、そこにあるのはまさしく何物も寄せ付けない業火。他人が何をどうしようと止めることはできない、それどころか火に油となるだろう。ただ一人を除いて、だが。
その人物が自分で気付いているはずだと信じてデュエルを見守るしかない。
「……ふむ、大丈夫なのか? これは」
「どう見ても大丈夫じゃないな」
二人のやりとりを見て不安げなアースの呟きに対し、間に入って仲裁しようなどという気は全くない鬼塚が反応する。
「ま、一度全部吐き出せば楽になるだろ」
「そういうものか?」
「そういうモンだ」
男にはやらなきゃいけない時がある、と呟いたかと思えば後方で腕を組み傍観の姿勢をとる。
……心配、呆れ、無関心。さまざまな視線が向けられる中、二人はデュエルディスクを構えた。
「俺の先攻! 俺は
《
星3/攻1000
「召喚に成功したフォクシーの効果! デッキの上からカードを3枚めくり、その中から『サラマングレイト』カード1枚を選んで手札に加える。俺はルール上『サラマングレイト』カードとして扱う魔法カードフューリー・オブ・ファイアを手札に加え、そのまま発動!」
「!? 待てソウルバーナー――」
フューリー。ソウルバーナーが抱く強い怒り、激怒を表すかのような名前をした魔法カード。不霊夢がその発動を制止しようとするも、彼の耳には届かない。
「手札の
《
星5/守1000
《
星4/守1600
フィールドには3体の
「現れろ、未来を変えるサーキット! アローヘッド確認! 召喚条件は炎属性の効果モンスター2体以上! 俺はフォクシー、パロー、ファルコの3体をリンクマーカーにセット! 来い、
《
Link3/攻2300
【リンクマーカー:上/左下/右下】
「カードを1枚セットしてターンエンドだ」
ただ、エースモンスターの召喚に成功しても先攻1ターン目のため攻撃できない。ヒートライオは次のターンに来るだろう命令を静かに待つ。
「うっひゃあ〜……1ターン目からヒートライオを出すなんて飛ばしてるなソウルバーナー」
Aiがフィールドを見てわざとらしく声を上げる。
少しでもおちゃらけた態度で緊迫した空気を緩めないと息が詰まりそうでツライったらありゃしない。まあ人間と違いイグニスは呼吸は必要としないのだけれど。
「でもなんで不霊夢はあの時に発動を止めようとしてたんだ? モンスターを展開できる魔法カードなら使って損はしないじゃんか。誰だってエースモンスターを出せたら嬉しいはずだろ?」
デュエルを見ている中でのちょっとした疑問。それに応えるのは闇のイグニスのオリジンであるプレイメーカー。
「いつも通りならばする筈のないミスをしている。だからだろうな」
「ミスぅ? そんな感じはしなかったけどな」
プレイメーカーはソウルバーナーは冷静ではないと断言する。何としても勝利を狙う、そのはずなのにリンク1のあのモンスターを経由しなかった。
「……リボルバー」
プレイメーカーはロスト事件が誰の手によって明るみに出たのかを知っているが、ソウルバーナーは違う。ハノイの騎士リーダーであるリボルバーを恨み続け、積もり積もった感情は今こうして爆発した。
このデュエルが起きたのは真実を伝えなかった自分の責任でもある。手に力が入っていると気付かぬまま、プレイメーカーはリボルバーを注視する。
「私のターン。ドロー」
ターンはリボルバーへと移行した。ドローしたカードに目を向けず、ソウルバーナーを真っ直ぐに見据えリボルバーは口を開く。
「――
その言葉を理解するまで時間が掛かった。
「何もしない、だと? ふざけてんのか!」
「私のターンは終わった。お前のターンだ」
「……ああ、そうかよ」
怒りで顔を歪めるソウルバーナー。彼はもはや目の前にいる相手をぶっ倒す、それしか考えていない。
――その姿を見ている彼一番の相棒、不霊夢がどう思っているのかも知らずに。
サイバースを貫くための力は揃っていた。
だが、男は意思なき武器に成りきれぬまま
デュエルの続行を選んだ。
今は亡き父から継いだ罪を背に、
償いを求める炎は目の前に。
燻る思いは、どこへ向かうのか。
▼ 不霊夢 は 何かをしようとしている……。
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硝煙の行く果て
フィールド魔法サーチできるリンク1のベイルリンクスはいるのにストライカー・ドラゴンは何故未実装なのか。なんで?
ソウルバーナー LP 4000 手札1→2
モンスター
魔法・罠
伏せカード1枚
リボルバー LP 4000 手札6
「俺のターン! ドロー!」
自分達を苦しめていた親玉が何もしないままターンを終えた。
苛立ちを隠さぬまま、ソウルバーナーは叫ぶように宣言する。
「強欲で貪欲な壺を発動! デッキトップから10枚除外し2枚ドローする!」
「…………」
2枚のドローと引き換えにデッキ10枚を失うデメリットを持つ、諸刃の剣とも言えるカード。デュエル中に引けなかったカードは無いも同然、そう考えて《強欲で貪欲な壺》を採用するデュエリストは存在する。だとしても展開力を高めるカードのサーチも何もしていない今使ってしまうのはかなりマズい。
裏側除外されたカードの中に優秀な効果を持つカード達が含まれていることを確認し、不霊夢は額に手を当てわざとらしくため息を吐く。
……今、男の目に宿る火は、不霊夢が嫌悪する濁りを纏っていた。
「俺は――『カードを1枚セットして私はターンエンドだ!』――!?」
断罪のため振るわれる腕とカードが突然静止した。出そうとしていたカードとは違うカードへと持ち替え、セット、と操られるように動くソウルバーナー。普通なら発生しない異常事態に観戦者から驚きの声が漏れる。
何が起きたのかと戸惑うソウルバーナー。目を丸くするリボルバー。私、という一人称。
――ソウルバーナーの口から出た言葉は紛れもなく不霊夢の宣言だった。他者により乗っ取られた宣言であるにも関わらずターンは移行する。
憎きハノイの騎士を仕留めるチャンスが先送りになった、とソウルバーナーは己の相棒に不満をぶつける。
「なっ……何するんだよ不霊夢!」
「それはこちらの台詞だ! 見苦しいぞソウルバーナー! 怒りに呑まれた君にデュエルなど任せられん、私が引き継ぐ」
ぱちん、と不霊夢が指を鳴らせばソウルバーナーの周囲に炎でできた縄が現れ巻き付き、動きを制限する。
「う、ぐっ……ンだこれっ! 体が!」
「ソウルバーナー、君が使っているアバターは私が作ったものだ。制御は容易い」
拘束を解け、とソウルバーナーが訴えるも不霊夢は聞き入れる様子が全くない。互いに怒りに燃えている。
「私が怒っているのはソウルバーナーだけではない! リボルバー! お前もだぞ!」
リボルバーへと顔を向けると同時にびしっと指を突きつける。
「先のターンで何もしなかったのは裁きを受け入れる、と謝罪の気持ちを示す行動だろう。だが無抵抗な人間を殴ることで怒りが晴らされると思うのか? 真に許されると思っているのか! そんなにソウルバーナーとのデュエルで負けたいのなら今ここでサレンダーすれば良いだろう、そうしないのは相手に甘えているからだ。それは――誇り高きデュエリストの態度ではない!」
不霊夢は断言する。何かしら思うところはあったのか、論戦に強いスペクターからの横槍は入らない。
言いたいことを言えたので少し鎮火した不霊夢はさらに言葉を続ける。
「どちらも不完全燃焼のままこのデュエルを終えさせはしない。ソウルバーナーが提案したこのデュエル、私の命を賭けよう」
不霊夢をデュエルに賭ける。ソレはソウルバーナーが勝手に言い出したことであり不霊夢は承諾していなかった。不当なデュエルとして中断を強制しても良いはずの立場にいたイグニスは、その賭けを今ここで受け入れた。
命、という単語。ここでようやく自分が勝手に何をしてしまったのかを理解したソウルバーナーの顔は後悔に染まる。
「それがお前の覚悟か」
「ああ。そうだ」
「――そうか」
リボルバーは目を伏せる。その手はデッキへと伸び――。
「イグニスの抹殺、それこそがハノイの騎士の使命! 私のターン、ドロー!」
迷うことなくカードを引いた。
「相手フィールドにリンクモンスターが存在するため、ゲートウェイ・ドラゴンを特殊召喚! ゲートウェイ・ドラゴンの効果で手札のスニッフィング・ドラゴンを特殊召喚し、更に特殊召喚に成功したスニッフィング・ドラゴンの効果でデッキからスニッフィング・ドラゴンを手札に加える」
《ゲートウェイ・ドラゴン》
星4/攻1600
《スニッフィング・ドラゴン》
星2/攻800
リボルバーが多用する闇属性のドラゴン達による展開。通常召喚の権利を残したまま、彼は天へと手を伸ばす。
「現れるがいい、我が道を照らす未来回路! 召喚条件はレベル4以下のドラゴン族モンスター1体! 私はスニッフィング・ドラゴンをリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク1、ストライカー・ドラゴン!」
《ストライカー・ドラゴン》
Link1/攻1000
【リンクマーカー:左】
ソウルバーナーとは対照的に、リンク1を使い堅実にアドバンテージを得る。
「ストライカー・ドラゴンの効果でデッキからリボルブート・セクターを手札に加え、これを発動! リボルブート・セクターの効果で手札から2体のヴァレットを守備表示で特殊召喚する!」
《マグナヴァレット・ドラゴン》
星4/守1200→1500
《アネスヴァレット・ドラゴン》
星1/守2200→2500
フィールドにはモンスターが瞬く間に増え、その合計は4体。リボルブート・セクターの効果による特殊召喚と強化を受けたヴァレットが現れたことで彼の展開は更に加速する。
「再び現れよ、我が道を照らす未来回路! 召喚条件は『ヴァレット』モンスターを含むドラゴン族モンスター2体! 私はアネスヴァレット・ドラゴンとストライカー・ドラゴンをリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク2、ソーンヴァレル・ドラゴン!」
《ソーンヴァレル・ドラゴン》
Link2/攻1000
【リンクマーカー:左/下】
「手札のスニッフィング・ドラゴンを捨て、ヒートライオを対象にソーンヴァレルの効果を発動! そのモンスターを破壊する!」
先ほど手札に加えたスニッフィング・ドラゴンをコストに弾丸が装填される。銃口を向けられたヒートライオを守るべく、不霊夢はセットカードを発動する。
「させん! 速攻魔法、
炎の殻がモンスター達を覆う。獅子の姿も貂熊の姿も炎の中へ消え、新たなリンクモンスターが呼び出されようとしている。
「現れろ、炎を導くサーキット! アローヘッド確認! 召喚条件は炎属性の効果モンスター2体以上! 燃え上がれ、永劫不滅の不死鳥よ! リンク召喚! リンク4、
《
Link4/攻2800
【リンクマーカー:上/左/右/下】
炎の殻を破る大きな赤い翼。火の粉を舞わせ、不死鳥はフィールドに降り立つ。そのサイバースは鳥を模した真紅の鎧に身を包んだ人型のモンスター。
「このターン、
ソーンヴァレル・ドラゴンの銃撃は対象がいなくなったため明後日の方向に飛んでいく。
「ほう、破壊を回避しリンク4を出すか……ならば此方も応えよう。三度現れよ、我が道を照らす未来回路! アローヘッド確認! 召喚条件は効果モンスター3体以上! 私はリンク2のソーンヴァレル・ドラゴン、アネスヴァレット・ドラゴン、ゲートウェイ・ドラゴンの3体をリンクマーカーにセット!」
リボルバーの使用するリンク4モンスターは多い。その中で召喚条件が効果モンスター3体以上のモンスターはヴァレルの名がついたもの。今回、格納庫から出撃するのは――。
「閉ざされし世界を貫く我が新風! リンク召喚! 現れろ! ヴァレルロード・ドラゴン!!」
《ヴァレルロード・ドラゴン》
Link4/攻3000
【リンクマーカー:左/右/左下/右下】
リボルバーのエースにして、プレイメーカーを幾度となく苦しめたヴァレットを統べるドラゴン。サイバースの炎かき消すべし、と敵意に満ちた咆哮が大気を揺らす。
「ヴァレルロード・ドラゴン……!」
「まだ終わりではない! チューナーモンスター、ヴァレット・トレーサーを通常召喚し効果発動! リボルブート・セクターを破壊し、デッキからメタルヴァレット・ドラゴンを特殊召喚する!」
《メタルヴァレット・ドラゴン》
星4/攻1700
フィールドにチューナーと非チューナーのヴァレットが並ぶ。エクストラモンスターゾーンにはヴァレルロード・ドラゴンが。そのリンクマーカーの先はメインモンスターゾーンへと向いているため、シンクロモンスターを呼ぶのに必要な状態は整った。
「レベル4、メタルヴァレット・ドラゴンにレベル4のヴァレット・トレーサーをチューニング! 雄々しき竜よ! その獰猛なる牙を今、銃弾に変え撃ち抜け! シンクロ召喚! 出でよ、レベル8! ヴァレルロード・
《ヴァレルロード・
星8/攻3000
直列する星と光輪から呼び出されるのはシンクロモンスターの象徴である白い装甲を纏ったヴァレルロード。
「シンクロ召喚に成功したヴァレルロード・
《ヴァレルロード・
攻3000→3500
ヴァレルカウンター 0→2
「バトル! ヴァレルロード・ドラゴンでパイロ・フェニックスを攻撃! この攻撃宣言時にヴァレルロード・ドラゴンの効果を発動、パイロ・フェニックスの攻撃力を500下げる! アンチ・エネミー・ヴァレット!」
この効果の発動に対して相手は効果を発動できない、という強力な効果。攻撃宣言時に発動できるカードを回避し、バトルは進む。
《
攻2800→2300
「エネルギー充填、ヴァレルロード・チェンジ!」
ヴァレルロード・ドラゴン胸部のシリンダーが回転しエネルギーをチャージ。開いた口の奥から砲塔が伸びる。
「ターゲットロックオン!」
竜の眼は不死鳥を捕捉。
「対閃光防御」
リボルバーはメットに手を当て、バイザーの遮光モードを起動する。
「最終セーフティ解除! 喰らえ! 天雷のヴァレルカノン!」
ダメージステップ開始時、ダメージ計算前、ダメージ計算時……段階が移行するが相手はセットカードを発動しない。
攻撃の着弾を目視確認。攻撃の無効化もされていない。
ソウルバーナー&不霊夢
LP 4000→3300
「……何?」
そう、何もカードは使用されていない。
だが、不死鳥はフィールドに立っていた。
「ウルヴィーを素材としてリンク召喚に成功したモンスターは、そのターン戦闘・効果では破壊されない!」
「私があの時通常召喚を止めていなければ
「ヒートライオとウルヴィーでダイレクトアタックしてたらデュエルに勝ってたのによく言うぜ。……でも、あのまま勝ってもメチャクチャ格好悪いだけだった。俺の勝手な行動で迷惑をかけちまったな……。すまない、不霊夢」
「どうやらしっかりと反省はできたようだな」
「まあ、な。リボルバーが本気で戦い始めたのに、こっちは全部不霊夢任せのままで終わったら、その方がもっと格好悪い」
「なら次はどうするか分かるだろう? ここからは――」
「――ああ、俺
気合いを入れ直し、デュエルディスクを構える炎のデュエリスト。
「二つの火は重なり炎となった……か。だが、まだ私のバトルフェイズが終わっていないことを忘れるな! ヴァレルロード・
ソウルバーナー&不霊夢
LP 3300→2100
攻撃を受けるパイロ・フェニックス。リンク素材となったウルヴィーの効果により戦闘破壊はされないが、ダメージは受ける。
「カードを2枚セットし、ターンエンドだ」
リボルバーのフィールドには2体のヴァレルロード。強力な効果を備えたドラゴンを前にして、男はその闘志をより燃え上がらせる。
「さあ行くぜ――反撃だ!」
不屈の魂に諭され、昇華し、更なる火へと変わる。
夢でもなく、現実でもないVR世界のデュエルだが、
この友情は紛うことなき本物だった。
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昇炎の行く果て
ソウルバーナー&不霊夢 LP 2100 手札1→2
モンスター
魔法・罠
伏せカード1枚
リボルバー LP 4000 手札0
モンスター
ヴァレルロード・ドラゴン Link4 ATK3000
ヴァレルロード・
ヴァレルカウンター 2
魔法・罠
伏せカード2枚
【ヴァレルロード・
ソーンヴァレル・ドラゴン(装備カード扱い)
「俺のターン、ドロー! ……!? この、カードは……」
引き当てたのはソウルバーナーが初めて見るカード。自分が作ったデッキなのに見たことのないカードがあるなど、普通ならあり得ない。
だが、既にこのデュエルでは普通ではないことが起きていた。その原因である炎のイグニス不霊夢は自慢げにかつ誇らしげに胸を張る。
「Aiがコード・トーカーをサポートするカードを作った自分がいかにプレイメーカーの相棒として相応しいかを自慢してきたのでな、私も私なりにカードを作ったのだ。遠慮はいらん、存分に使え!」
「ああ! 魔法カード、
――
怒りに囚われ、後先考えずに使われた強欲で貪欲な壺の発動コストにならず、デッキに残っていた彼らの絆の象徴が今、発動し――。
「待て待てソウルバーナー! ドローの前に必要なものがあるだろう」
「必要、って……」
ドローしようとデッキに手をかけた所で止められる。何を言っているんだ、と思考が停止しかけて、気付く。なるほど確かにお約束の言葉が抜けているではないか。
「――燃え上がれ、ソウルバーナー!」
スピードデュエルでスキルとしてバーニング・ドローを発動する時のお決まり、逆転の開始を宣言する彼らのルーティーン。
デュエルディスクから上半身を出しているイグニスの体より炎が溢れる。ソウルバーナーの右腕に炎を模した紋様が浮かび上がる。
「いくぜ! バーニング・ドローッ!!」
炎を纏うソウルバーナーの手はデッキから4枚のカードを引いた。リンク4のヴァレルロード・ドラゴンを対象にすることで可能とした大量ドローは、このデュエルの流れを大きく変える可能性に満ち溢れている。
「俺は
《
星3/攻1000
「現れろ、未来を変えるサーキット! 召喚条件はレベル4以下のサイバース族モンスター1体! 俺は
《
Link1/攻500
【リンクマーカー:下】
ソウルバーナーのデュエルに欠かせないリンク1の山猫が姿を現す。転生リンク召喚しても新たな効果を得ない
「リンク召喚に成功したベイルリンクスの効果発動!
フィールド魔法を発動したことで景色は一変する。
熱気の満ちた活火山と大地に流れる溶岩。輪廻を巡る炎、
「
【サイバース族/リンク/効果】
炎属性の効果モンスター2体以上
このカード名の②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。①:このカードが「転生炎獣パイロ・フェニックス」を素材としてリンク召喚に成功した場合に発動できる。相手フィールドのカードを全て破壊する。②:相手の墓地のリンクモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを相手フィールドに特殊召喚する。③:相手フィールドにリンクモンスターが特殊召喚された場合、そのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。
転生する以前より火力と熱を増した青い炎を翼とし、不死鳥が降り立つ。その掌の上では誰の目から見てもわかるほどに力が溢れ始める。
「転生リンク召喚したパイロ・フェニックスの効果! 相手フィールドのカードを全て破壊する!」
「ヴァレルロード・
沈黙を貫いていたリボルバーが動いた。パイロ・フェニックスが破壊効果の発動と共に放った業火球を、ヴァレルロード・
「感動的なシーンを披露した程度で私が手を抜くとでも思っていたのか?」
ヴァレルロード・
「だがこれでヴァレルロード・
「魔法カード、フュージョン・オブ・ファイアを発動! 自分フィールドの
あれは、とブルーメイデンが声を上げる。フュージョン・オブ・ファイア、それはソウルバーナーがブルーガールとのデュエルで使用したカード。
「こちらのモンスターを利用した融合召喚だと!? くっ……ヴァレルロード・ドラゴンの効果を発動しパイロ・フェニックスの攻撃力を500下げる! アンチ・エネミー・ヴァレット!」
《
攻2800→2300
ヴァレルロード・ドラゴンはモンスター効果の対象にならない、という耐性を持つが魔法カードに対してはなす術がない。炎へ飲み込まれる中、せめてもの抵抗として攻撃力を下げる。
赤と青。異なる二色の炎はぶつかり混ざり、融合を象徴する紫の一つの炎になる。
「現れろ! 一つの狂おしき魂のもと、凶悪なる獣たちの武器を集めし肉体を誇る魔獣よ! 融合召喚!
《
星8/攻2800
どの動物をモチーフとしているのか形容し難く、また鋭利な武器を複数所持するという
「融合召喚に成功したヴァイオレットキマイラの効果発動! このカードの攻撃力はターン終了時まで、素材としたモンスターの元々の攻撃力を合計した数値の半分だけアップする! ヴァレルロード・ドラゴンの攻撃力は3000、
《
攻2800→4550
複数の命が混ざった獣はその力を示すように雄叫びを上げる。
「装備魔法、
今ソウルバーナーらのフィールドにいるリンクモンスターはリンク4の
《
攻2300→3500
「バトル! ヴァイオレットキマイラでヴァレルロード・
ヴァレルロード・
――それは、この攻撃が通れば、の話だ。
「攻撃宣言時! 罠カード、
発動に合わせて出現したのは空に浮かぶ二つの筒。ハテナが描かれ、手品の道具にも見えるその筒はソウルバーナー達へ口を向けて攻撃を待ち受ける。
「その攻撃を無効にし、攻撃力分のダメージを相手に与える!」
今のヴァイオレットキマイラの攻撃力はソウルバーナー達の残りライフを上回っている。どうにかして攻撃を止めないと効果ダメージで敗北してしまう!
「ソウルバーナー!」
「分かってる!
効果ダメージには効果ダメージを、と攻撃が
本来ならばデュエルの勝敗を決するダメージを与えるはずだったヴァイオレットキマイラと
「リリースすることによって攻撃を無理やりに止めたか。確かに、攻撃を無効にできなければ
リボルバー
LP 4000→1200
火霊術-「紅」によるダメージを受けながらもリボルバーは冷静に判断する。
「パイロ・フェニックスでヴァレルロード・
現在パイロ・フェニックスとヴァレルロード・
パイロ・フェニックスに装備されたあの魔法は、未だ攻撃力を上昇させる効果しか明らかになっていない。セキュリティ・ブロックを使用したという事は戦闘破壊耐性を与えるものでもない。
……ならば、考えられる可能性は。
「永続罠、ガンスリンガー・エクスキューションを発動! 墓地のストライカー・ドラゴンを除外し、ターン終了時までヴァレルロード・
《ヴァレルロード・
攻3500→4500
ストライカー・ドラゴンが援護砲撃を行い、ヴァレルロード・
攻撃を返り討ちにしたものの、不死鳥はセキュリティ・ブロックによって守られている。魔法・罠の効果で戦闘破壊の運命から逃れたエースモンスターが睨み合う。
「くっ、流石に気付かれたか」
「悔しがる必要などない。謎だったセットカード2枚のどちらも正体を明かせたのだ、そちらを重要視するべきだろう」
「……そうだな、不霊夢。バトルフェイズはこれで終了だ。メインフェイズ2、カードをセット。エンドフェイズ、リンク素材として墓地へ送られたコヨーテの効果で墓地の『サラマングレイト』モンスター1体を守備表示で特殊召喚する! 戻って来い、ヴァイオレットキマイラ!」
《
星8/守2000
腕を交差し、ソウルバーナーを庇うかのような防御体勢でヴァイオレットキマイラが蘇る。
「これで俺はターンエンドだ!」
ソウルバーナーのフィールドには攻撃力3500のパイロ・フェニックス、そして守備表示で存在するヴァイオレットキマイラ。
「……あり、バーニング・ドローを使ったのに攻撃凌がれちった? 今のは完全に勝つ流れだったじゃ「Ai、黙ってろ」……ハイ」
外野が何やら言っているが、その程度の雑音が彼の手を止める理由にはならない。
「私のターン、ドロー! 装備魔法ヴァレル・リロードを発動! 墓地のヴァレット・トレーサーを特殊召喚し、このカードを装備する」
《ヴァレット・トレーサー》
星4/守1000
「ヴァレット・トレーサーの効果発動! 自身を対象にし破壊、デッキからヴァレット・リチャージャーを特殊召喚する。更にヴァレル・リロードを装備したモンスターが破壊された墓地へ送られたことで1枚ドローする」
《ヴァレット・リチャージャー》
星4/守2100
モンスターを入れ替えつつ手札を増やす。効果でドローしたカードをそのままデュエルディスクへと運び、何をドローしたのかが明らかになる。
「目には目を、歯には歯を――融合には融合を! 魔法カード、
鏡は墓地に眠る二体の闇属性のドラゴンを映し出す。像はひとりでに渦を巻き始め、鏡面が震える。
「ネットワークに宿りし二つの憤怒! 今ひとつとなりて我が敵を撃ち抜け! 融合召喚! 現れろ、ヴァレルロード・
《ヴァレルロード・
星8/攻3000
震えが止まったかと思えば、鏡の中心に銃弾で撃ち抜かれたかのような穴が突然発生する。みるみる間に穴を起点にひび割れが広がり、稲妻が溢れ始める。鏡の中から巨大な影が飛び出し、ガシャンと音を立て鏡は壊れた。
「パイロ・フェニックスとヴァレルロード・
口上のごとく、リボルバーの抱える憤怒がそのままモンスターとなったかのような荒々しい登場をした融合のヴァレルロード。かの竜の四肢を満たす怒りは敵だけでなく自らをも滅ぼす諸刃の剣。パイロ・フェニックスを危険と判断した主人の指示に従い、その身を弾丸と変えサイバースを撃ち抜く。
「『サラマングレイト』カードが破壊される場合、墓地のベイルリンクスを代わりに除外する!」
……だが、山猫が身代わりとなり不死鳥を守った。
「ヴァレルロード・
【ドラゴン族/リンク/効果】
効果モンスター3体以上
①:このカードはモンスターの効果の対象にならない。②:1ターンに1度、フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの攻撃力・守備力は500ダウンする。この効果の発動に対して相手はカードの効果を発動できない。この効果は相手ターンでも発動できる。③:このカードが相手モンスターに攻撃するダメージステップ開始時に発動できる。その相手モンスターをこのカードのリンク先に置いてコントロールを得る。そのモンスターは次のターンのエンドフェイズに墓地へ送られる。
融合のヴァレルロードによりリンクのヴァレルロードが呼び起こされる。サイバースを葬るための己をサイバースの融合素材にしてきたこと、忘れてはいない、許すものかとソウルバーナーを睨みつけながら咆哮する。
「バトルだ! ヴァレルロード・ドラゴンでパイロ・フェニックスに攻撃! ダメージステップ開始時にヴァレルロード・ドラゴンの効果発動! パイロ・フェニックスのコントロールを奪う!」
相手の攻撃力が上回っていようと、ヴァレルロード・ドラゴンはものともしない。更にこの効果へ対処しようとカードを発動しようが、その発動を無効にできるヴァレルロード・
「これで終わりか。呆気ないものだな」
ブラッドシェパードが呟いた。協力すると決めた理由の一つであるヴァンガードがここにいない今、別にこのデュエル観戦に最後まで付き合う必要は無い。デュエルの勝敗はもう決した、と全てを見届ける前に現実へとログアウトしようと――。
「それはどうかな! 速攻魔法、禁じられた一滴! パイロ・フェニックスを墓地へ送り、ヴァレルロード・
「――!」
《ヴァレルロード・
攻3500→1500
ヴァレルカウンター 2→0
チェーン不可。強力な効果とて発動できなければ意味がない。ヴァレルロード・
ダメージステップへ進んだ状態でモンスターの数が変動しても巻き戻しは行われない。攻撃対象がいなくなったからとてダイレクトアタックに変更されるわけでもない。戦闘は中止され、攻撃宣言は行われた、という結果が残る。
「……私はこれでターンエンド」
「ターン終了時、禁じられた一滴の効果で下がった攻撃力と効果は元に戻る」
《ヴァレルロード・
攻1500→3000
厄介なヴァレルロード・
ソウルバーナーのフィールドに唯一残ったモンスターは
――手札は0。このドローに全てがかかっている。
「絶体絶命だな」
「その割には笑顔じゃないか、ソウルバーナー」
「……そっか、笑ってるのか、俺」
「笑うしかない、というヤツか?」
「そうかもな。だとしても――」
「――そうだな。このデュエルを諦めたわけではない!」
「「俺/私達のターン! ドローッ!!」」
望むのはたった一枚だけ。この状況を打破するカードを。
「死者蘇生、発動! 墓地の
《
Link3/攻2300
【リンクマーカー:上/左下/右下】
だが、墓地にいるモンスターの攻撃力は一番低くても1000。ヴァレルロード・ドラゴンの効果がある今、それでは届かない。
「現れろ、未来を変えるサーキット! アローヘッド確認! 召喚条件は炎属性の効果モンスター2体以上! リンク3のヒートライオとヴァイオレットキマイラをリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク4、
だからこそ召喚する。この局面を覆せるモンスターを。
「な――お前はこのデュエルで既に2体のパイロ・フェニックスを使用している!
そう、このリンク召喚で召喚されたのは3枚目のパイロ・フェニックス。デュエルモンスターズのルールでは同名カードは3枚までしか入れることができない。リボルバーの指摘通り転生リンク召喚は不可能。
「それはどうかな? 転生リンク召喚を可能とするカードはすでに存在している!」
「墓地の
この瞬間、デュエルの勝敗は決定した。
「現れろ、未来を変えるサーキット! 不死鳥よ――逆巻く炎に身を投じ、不滅の
青い炎の翼を大きく広げ、不死鳥は最後の転生を果たす。天へ昇る炎は一つの塊となり、あの時無効にされたがため発動できなかった効果を発揮する。
「転生リンク召喚したパイロ・フェニックスの効果、発動――!」
青い炎が全てを覆う。リボルバーのフィールドにある全てのカードが破壊される。ぱきり、とバイザーにヒビが入る音がした。
「これで終わりだ!
熱気が、攻撃が迫る。それは自分のライフを0にするものなのに、なぜか美しいと思ってしまった。
ああ。きっと、自分は最初から負けていたのだろう。
ロスト事件によって受けた苦しみと怒りを乗り越えようと戦う者。ロスト事件によって運命を狂わされ、それを享受する運命の囚人。その思いの差。
……いいや、それ以前の問題だ。一人よりも二人の方が、孤独に戦う者よりも互いを信じ合えるコンビの方が強いに決まっている。
目を閉じ、微笑む。
――光が彼を包んだ。
リボルバー
LP 1200→0
デュエル終了のブザーが鳴る。天高く昇る炎は罪を浄化するかのように煌々と燃え盛っていた。
自らの率いる組織としてはサイバースに敗北するなど許してはならないはずなのだが――リボルバーは不思議と、清々しい気持ちになっていた。
「…………ん?」
空に響く風を切る音。黒の体の奥に緑の光を宿した機械竜……と、その使い手の帰還だ。
「ただいま戻ってきましうわーっえっなんでデュエルして……終わってる!? というかなんでか仲良くなってる? あれっ」
クラッキング・ドラゴンに乗って帰還したらこの状況、ヴァンガードが混乱するのも無理はない。というかヴァンガードが離れた後に二人の間で一悶着起きたからなぜデュエルを始めたのか、の理由を知らない。
あれ? あれれ? と疑問符を大量に頭の上に浮かべるヴァンガード。長いため息を吐いた後、スペクターが額に青筋を浮かべつつ皆の心の中に浮かんだ疑問にプラスして殺意を混ぜつつ代弁する。
「侵入者を外につまみ出すだけでここまで時間をかけるとか何やってたんですかさっさと死んでください」
「いやあの鳩とカエルの二人がブレイブでマックスな撮影している関係でヒャッハーだったあの面々とよく出会ったりと繋がりがなんでかあったのでその辺色々とゴニョゴニョ伝言とかよくわかんない変なところに飛ばされたりとかしちゃって……あと死ぬのは嫌です生きます」
「は? 何言ってるんですか? 意味がわからないのですが」
「うん、自分でもよくわかんなくなってきた……」
頭痛が痛い、な感じで頭を抑えつつ首を捻る。ぎゃうー、と呟いたクラッキング・ドラゴンが取り敢えず主人の真似をしておこうと首を捻る。
「で、結局何があったんです?」
直接聞いた方が早い、という当然の答えに行き着いたヴァンガードは先程までデュエルをしていた二人に尋ねる。彼らは顔を見合わせた後、互いに笑って。
「――秘密だ」
ハノイの塔によるスキャンプログラムの拡散後、
新生LINK VRAINSに姿を現したのは
鏡写しのLINK VRAINS。
AIと人間の戦争、その決戦の火蓋が今切られる。
(ミスの修正で展開が変わった結果ガチカードばっかりになってしまったかなしみよ)
この後ソウルバーナーに自身の正体とロスト事件の真実についてを教えるリボルバーがいたとか。
二人のデュエル内容について知りたいなら、とヴァンガードに対価を要求するゴーストガールがいたとかいなかったとか。
なお旧リンクヴレインズに着いてからグラドスとパンドールの気配が全くなかったのは出会ったら喧嘩するのは目に見えているし……と互いに互いの陣営へ気を使った結果です。
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ミラーリンクヴレインズ
大変お待たせして申し訳ありません。この話の後にあるデュエルを考え終わったのでようやく投稿することができました。
なお考え終わっただけであり、執筆が終わったわけではないのでまた更新期間が開くかもしれませんがそう長くはならない……はずです!
それでは久しぶりのバイトハノイ、どうぞお楽しみください。
ハノイの塔を復活させるプログラムが完成した――その報を受け、旧リンクヴレインズに決闘者は集まっていた。ただ、イグニスやハノイの騎士に関わったことのある決闘者全員が来たわけではない。
ゴーストガールとブラッドシェパードはリンクヴレインズに残り、SOLテクノロジー本社にて勤務中の財前晃へいざとなれば連絡できるように。
外部からのバックアップはハノイの三騎士にパンドール、草薙翔一という優秀なハッカーにプラスアルファで対イグニス用AIを揃えたことでネットと現実、ともに準備は万端。
……の、はずなのだが。
「んー、もちょっと文章硬めにしとくかなあ」
ヴァンガードは白い紙になにかを記し、満足いく出来になった、と頷いた後細く折りたたむ。数度操作しデュエルディスクから手のひらサイズの動く何かを出し、先程完成した細長紙をくくり付ける。
スカーフのような結び方で、おしゃれさんになったソレは嬉しいのかちょろちょろと動き回っている。
「何やってんだ」
「万が一の備え?」
ソウルバーナーが尋ねる。
備えとして手紙、とくれば誰かへの連絡。たぶん伝書鳩かなにかだろう。だが……なんだかこう、ヴァンガードが手のひらの上に乗せているモノは体がてらてら黒光りして脚が六本あって二本の触角がうにょんと揺れて。
どこをどう見ても一匹見たら、なアレであった。
「うわやめろ! こっちに向けるな!!」
都会よりは自然が多い場所で生まれ育ったソウルバーナーだが、不意打ち気味で出てきたアレには流石にびっくりする。
「そっか」
「こっちに向けるなは野に放てって意味じゃねえよ」
光を浴び、翅を広げ電子の大空に飛び立っていく――増殖しそうなアレ。黒い点が遠ざかっていくのを見守るヴァンガード。冷めた目のソウルバーナー。
「ここまで来て追加で変な事するのか……」
「変とはなんだ変とは。万が一でしかないけど……出番がない方がいい人達に通達。放置したままだとなんかやらかしそうだし」
リボルバー、鬼塚はヴァンガード配下にいた無駄に濃い決闘者達のことかと思い出し、アースはハノイの騎士に混じり知っている様子の鬼塚を見て首を捻る。なお、スペクターはヴァンガードに関する事を五感で感じ取らないようにかなり距離を置いていたため、幸か不幸かこれらのやり取りを知る事はなかった。
アースは不器用故にどう聞けばいいものかと悩んでいたが、その様子を察した鬼塚から知らなくていいと先回りで告げられていた。
『ヴァンガード。本当に……本当に、大丈夫なんですか? 敵が狙い通りに動くとは限りません』
にゅ、とデュエルディスクから頭だけを出してこっそり問いかけるグラドス。プレイメーカーのデッキに入っているアストラムはサイバースよりも精霊としての側面を強くさせ、姿を隠しながらグラドスの言葉に頷き、共に心配している。
「大丈夫かって心配するところはもう超えてる。なんとかするしかないんだよ、ここまで来たには。協力者というか共犯者は向こうにもいるしアドリブ効かせても何とかしてくれるハズ。……失敗したら世界が終わるだけ。いつもの遊戯王でしょ」
呟いた声に、善悪の両極性を表すと言われる幻神獣がばちりと一瞬だけ電気を走らせる。
「……アー、ウン。ワンチャンが起きたら神の怒りでこう、巻き込んでいこうかなとは思ってたのは否定しない。だってあいつ間違いなく三幻神を扱う資格持ってないでしょ」
『……まあ、いざとなれば私も責任を取りますよ』
「ん、助かる」
言いたかった事は吐き出せたのか、グラドスはしゅぽんと音を立てデュエルディスクの中へ潜る。
「準備は整った」
スペクターを近くへと呼び戻した後、リボルバーが手を上げる。その動作に呼応し、地面にはハノイの騎士のマークを複数組み合わせた五角形が現れる。
リボルバーによるスキャンプログラム起動の声に応え、ハノイの塔へエネルギーが集まっていく。かつてリンクヴレインズを脅かした禍々しい赤い巨塔は、その真反対の神々しい青い光で染まっていた。
「衝撃に備えろ。対閃光防御」
黒色のドーム状が全員を守るように広がる。リボルバーのバイザーも同様に遮光モードへと変化。皆が安全な状態にあることを確認したのち、リボルバーは叫んだ。
「発射!」
ハノイの塔が天を貫く青い光を放つ。それはリンクヴレインズ全体への強力なスキャン。大規模なスキャンであるため、SOLテクノロジーのセキュリティ管理部も察知する。財前晃は心の中で戦いに挑む決闘者達の無事を祈っていた。
「始まったようだな」
「ええ」
リンクヴレインズが大きく揺れた後に現れたそれをブラッドシェパードとゴーストガールが視認。続けて一般人達も騒ぎ出す。
リンクヴレインズのデータに隠れていた、もう一つのリンクヴレインズ――ミラーリンクヴレインズを。
時間は少し遡り、リンクヴレインズのとある一角。
おしごとしました! と胸を張るヴァンガードからの手紙を託された増殖するG型プログラム。動きがプログラムっぽくない上に感情丸出しなので恐らく精霊入りだろうが、彼がそこを気にする様子は見られない。仲間の前で読み終えた、伝達という大事な役割を終えた紙は畳まれる。
「――と、いうわけで。万が一発生の場合、という前置きはあるが邪魔者は好きにして良いと指示が出た。敵はオモチャにしていいが面白半分で首を突っ込もうとした一般人には手加減しろよ?」
「そんな! 爆乳褐色ロリ化増殖するG健全本の原稿がまだ仕上がってないのに!」
「原稿仕上がってないのに誘惑しかない環境に来るんじゃねえよ原稿落とすぞ」
「やめろー! 現実を見せるなー!!」
「爆乳ロリ……ヘキの業が深い」
「ああ、蠱惑魔のアイツぐらい深いな」
「は〜? 俺は擬人化とかしませんが〜? ありのままの蠱惑魔一筋ですが〜??」
「俺らの中にまだヤバ性癖持ちが隠れていたってことかよ怖」
「ヤバいと決め付けるのはやめろ! 彼は新たな境地に目覚めたのかもしれない!」
「誰だ俺をヤバ性癖認定してる奴! 出てこいぶっ倒してやる!!」
「何やってるんですかねーあの人たち」
「シラネ」
「本当に何言ってるんだろうな。爆乳ロリって一般性癖だろ」
「えっ」
「えっ?」
今日もいつもと変わらない混沌。なおメルフィーの戦闘狂と満足民はヴァンガードからの言伝を聞いた瞬間にさっさと獲物を探しに出て行った。
「んじゃ、留守番よろしくな」
わさわさ、うぞうぞと黒光りする昆虫型プログラムが広場を埋め始める。指令を受けて動き出すヒャッハーに向けて前足をうまいこと動かし敬礼ポーズ。
「あれ? あと三十分ぐらいしたらブレイブ・マックスくんの番組の時間になるんじゃ……ここ来たら……うん、まあいっか! きっと明日の視聴率はもっと良くなるよねハムダイノルフィア使い!」
「ヘケェ♡」
「喘ぐな」
わらわらわちゃわちゃ。闘志みなぎる決闘者達は騒がしくてもひっそりと、リンクヴレインズ各地へと散らばって行った。
……多分こっち、と入り組んだ路地を先導するのはブレイブ・マックス。ここだ! と自信満々に元ヒャッハノイらの居場所を突き止め、二人が放送準備を開始する。勘のみで辿り着くというミラクルを何度も繰り返してきた彼だが、今回ばかりは運がなかった。
「たのもーう!」
ばたーん! と大きな音と共に開かれた扉。
三人はそれを見た。見てしまった。
いよぅ、と前足を上げる増殖しきったアイツを。
三つの悲鳴。パニックにより放送開始のボタンをオン。当然の生放送速攻中止。アイツ飛翔。緊急ログアウト。
ミラーリンク・ヴレインズの出現やその後に起きる事件などの衝撃でそこまで大きな話題にはならなかったが――その配信(事故)は、ある意味で伝説になった。あーあ。
それはさておき決戦の舞台へと話を戻そう。
「ここが光のイグニス達が潜む場所か」
プレイメーカーは辺りを見回す。事前に知っていなければリンクヴレインズだと判断できるほどに全く同じ街並み。違うのはログインしている一般人がいないことだけだ。
「っ!?」
Dボードで地に足をつけず進む彼らめがけ、目を刺すような強い光が放たれた。
誰もが目を瞑り、光源に対し手で影を作ろうとして……ぐん、と下方向に思いっきり引っ張られた。
『此処、危険地帯! 罠!』
耳に届く不思議な声と皆の体に巻き付く影の糸。
どうやら
ヴァンガードの
「……おいおい、なんだこりゃあ」
例えるなら光を細長く伸ばして作られた鎖。それが地面から、建物の壁から――とにかくいろんな場所から生え、人の間を縫うように伸びて空間を狭めていく。
明確な意思をもって動く光の鎖は間違いなくライトニングによるものだろう。
「フン、避けたか。運のいいヤツ……。まあいい、ここからは僕たちが相手だ」
背後から大量のビットブートを引き連れたハルが現れる。その間にも光の鎖は増え続けている。デュエルで対処するにしても、これほど多くの決闘者に攻められては時間が掛かる。特にビットブートは何度も倒したことのあるAI――量産が可能、ということは延々と増援がやってくる可能性すらある。
「私が行くわ!」
「これだけの量、ブルーメイデン一人に任せられるか! 行くぞアース!」
「無論!」
カリスマデュエリストの二人はこの場に残り後続を断つべきと判断した。急ごう、と残された者達がDボードの速度を上げようとして――。
「テメェの相手は俺だよソウルバーナー!」
「ウィンディ!? ぐっ!」
黒い眼帯とマントを纏い、見目を変えたウィンディがソウルバーナーの目の前に現れ腕を振るう。強風により手荒に吹き飛ばされ、ウィンディの手で開かれたゲートの中へと消えて行った。
「ライトニング様の邪魔をする馬鹿はお掃除してやるでーす!」
ロボッピが引き連れるのはデフォルメされ目玉のついた家電たち。歌いながらこちらへえっちらおっちらと走ってくるその姿は不気味だ。
「ロボッピ……」
「私が出ます! 後は任せましたよ!」
プレイメーカーとハノイの騎士、どちらがロボッピと戦うことになってもAiの精神ダメージは大きくなるだろう、と判断したグラドスが自分から打って出る。
「ゴメン、グラドス! 頼んだ!」
……一人、また一人と分断されていく。残るはプレイメーカーとAi、ヴァンガード、リボルバー、スペクター。
一向に姿を現さない光のイグニスとボーマンを探す彼らを誘うように、四つのゲートが用意されていた。
「それぞれが繋がっている先の解析は時間をかければ可能、とのことだ」
「追加連絡。リンクヴレインズ全体も不安定になってる。この状態が長続きするのはマズイ」
デュエルディスクを介してハノイの三騎士と草薙翔一からの連絡が入る。
「迷う暇はない。行くぞ」
最初にプレイメーカーが足を進める。
「ああ」
続けてリボルバーが。
「ヴァンガード、私に殺される前に負けるんじゃありませんよ」
「そっちこそ」
スペクターとヴァンガードもそれぞれ別のゲートへと消え――今此処に、AIと人間による決戦の幕が上がった。
名乗りを上げる家電の王様。
ただ一人の言葉から意思を得た決闘者。
イグニスに届き得る性能を持つ
AI同士のデュエルが今、始まる。
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クレーバー・マシン
わちゃわちゃ、がしゃがしゃ。
歌う家電に包囲されたまま、グラドスはどこかに案内されている。先頭を行くのは、楽しげな感情を露わにする空色の髪をした少年――ロボッピ。
首は動かさずに後ろを見る。もう、ブルーメイデン達の姿は見えない。どんどん遠くへと引き離されている。
「…………」
無理に引き返そうとすれば危険。相手に乗ってやり、一対一のデュエルで終わらせるのが一番安全――そう結論付け、グラドスはそっと手でデュエルディスクを撫でる。自身を鼓舞するように、デッキの中のカード達を落ち着かせるように。
二人と家電達は裏路地を行く。曲がり角を越えるたび、だんだんと街並みが変になっていく。壁面は真っ直ぐではなく丸くなり、ブラウン管テレビや炊飯器など家電をモチーフにした変な建物が増えていく。
家電達の歌が終わり、デュエルの舞台となるだろう円形の広場へと二人は到着する。開いた視界、遠目に見える巨大な建築物。目の錯覚でなければ、あれは。
「城……?」
「ふっふっふ、気付かれたなら仕方がないですね……。そうです! ここがオイラの国です!」
その言葉を待っていた! とばかりにロボッピがこちらを振り向き宣言する。同時に家電達が一糸乱れぬ拍手。
……不気味だ。
「国。ならば国民と王は誰に?」
「ここは家電の国! 賢くなったオイラが王様になるのは当然のことですよ? あー、馬鹿、にはわからなかったかーっ!」
馬鹿、をことさら強調したロボッピは額に手を置き、やれやれとオーバーなリアクションをする。
「それもこれもぜーんぶ、ライトニング様がくれたモノです。だから! お前を倒して、もっと賢くしてもらうです! お役に立って、そしてもっともっと賢くなって――」
主人をすげ替えられ、望みを書き換えられ、賢くなることに取り憑かれている。
狂っている。そう表現するしかないお掃除AIが、そこにいた。
「もう御託はいい。さっさとデュエルを始めましょう」
いかにしてお役に立つか、賢くしてもらうかの演説を途中で止められたロボッピは不機嫌を隠さないままデュエルディスクを構えた。
正面から見れば、彼の両目の虹彩を縁取るような禍々しい赤がよくわかる。
「……すみません、Ai。ロボッピはもう、荒療治でしか治せそうにありません」
ここにいない一人に対し、グラドスは謝罪した。
先攻になったのは――ロボッピ。
「見せてあげるです、オイラの国を! フィールド魔法、家電機塊世界エレクトリリカル・ワールドを発動! 発動時の効果処理として、デッキからフィールド魔法カード以外の『機塊』カード1枚を手札に加えることができるです。オイラは複写機塊コピーボックルを手札に」
フィールド魔法が発動すると同時に街にも明かりが灯る。カラフルな電飾と音楽、歌う家電達、空には花火が打ち上がる。
ロボッピはここを王国と言っていたが、これじゃあまるで……子供向けのテーマパークだ。
「電幻機塊コンセントロールを通常召喚!」
《電幻機塊コンセントロール》
星1/攻100
現れるのはコンセントとその電源を組み合わせた、ピンク色の可愛らしいモンスター。
「自分フィールドの『機塊』モンスター、コンセントロールを対象として手札の複写機塊コピーボックルの効果を発動! このカードを手札から特殊召喚し、この効果で特殊召喚したこのカードはエンドフェイズまで、コンセントロールと同名カードとして扱うです!」
今度はハンディのバーコードリーダーのような姿のモンスター。フィールドにいるコンセントロールの姿を複写、印刷。それをぺたりと頭部に貼り付ける。
《複写機塊コピーボックル》
星1/守0
「コンセントロールが既にモンスターゾーンに存在する状態で、自分フィールドに他の『電幻機塊コンセントロール』が特殊召喚されたことで、デッキから新たなコンセントロールを特殊召喚するです!」
《電幻機塊コンセントロール》
星1/守100
これでフィールドには電幻機塊コンセントロールが2体、コンセントロール扱いの複写機塊コピーボックルが1体。
「現れろ! オイラを導くサーキット! 召喚条件は『機塊』モンスター2体! オイラはコンセントロールとコピーボックルをリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク2、充電機塊セルトパス!」
《充電機塊セルトパス》
Link2/攻0
【リンクマーカー:左下/下】
リンク召喚されたのは二本の足がプラグのようになっている紫色のタコ型機械。だが、リンク先にプラグを繋ぐことができるモンスターはおらず、手持ち無沙汰にウネウネさせている。
「1ターンに1度、自分が『機塊』リンクモンスターのリンク召喚に成功したことで家電機塊世界エレクトリリカル・ワールドの更なる効果を発動! 墓地のコンセントロールを手札に! そしてフィールドに『機塊』モンスターがいるため、さっき手札に加えたコンセントロールを効果で特殊召喚するです!」
《電幻機塊コンセントロール》
星1/守100
「リンクモンスター以外の自分のモンスターがリンクモンスターとリンク状態になっているため魔法カード、クロス・リンケージ・ハックを発動。オイラはデッキから2枚ドローするです」
コンセントロールが特殊召喚した場所はセルトパスのリンク先。だが、セルトパスはそのプラグを繋ごうとする様子は見られない。となると、真に繋がるモンスターとは。
「もう一度現れろ! オイラを導くサーキット! 召喚条件は『機塊』モンスター1体! オイラはコンセントロールをリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク1、洗濯機塊ランドリードラゴン!」
《洗濯機塊ランドリードラゴン》
Link1/攻1500
【リンクマーカー:上】
「二度あることは三度ある! 現れろ! オイラを導くサーキット! 召喚条件は『機塊』モンスター1体! オイラはもう1体のコンセントロールをリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク1、乾燥機塊ドライドレイク!」
《乾燥機塊ドライドレイク》
Link1/攻0→1000
【リンクマーカー:右上】
洗濯機とドライヤー。リンク1の機塊達はどれもセルトパスと相互リンク状態となるようにリンク召喚された。
「ドライドレイクはリンク状態の時、攻撃力が1000アップするです。……それじゃあ、ゴミ掃除第一歩スタート! 永続魔法、禁止令を発動!」
「っ!?」
発動したのは予想外すぎる永続魔法。宣言されたカードの発動・使用などを封じるという、対戦相手の情報が揃ってからこそ十全に使える効果。
だが、グラドスのデッキに採用されているカードの一部――サイバー流のことは既に広く知られている。
「オイラの国にいらないゴミは――キメラテック・フォートレス・ドラゴン!」
宣言されたのはサイバー・ドラゴンを素材に指定された融合モンスター。絶妙に特徴を捉えられていない、子供の描いたようなイラストのビラがエレクトリリカル・ワールド中に貼られまわる。
――キメラテック・フォートレス・ドラゴンを指定しての禁止令。かのモンスターは自分・相手フィールドにいるサイバー・ドラゴンと機械族モンスター1体以上を墓地に送ってエクストラデッキから特殊召喚できる、特殊なモンスターだ。
ここまで露骨に使用を嫌がられるとなれば間違いない。『機塊』モンスター達は機械族!
「カードを1枚セットして、ターンエンド、です!」
ロボッピが使用していないエクストラモンスターゾーンの列にカードがセットされる。
……『機塊』は恐らくライトニングにより用意されたカードのはず。ライトニングにより量産されたビットとブートでさえサイバース族を使用していたのに、ライトニングが直接攫って洗脳したロボッピがサイバース族使いではないのは少々気になる。
「私のターン、ドロー。通常魔法、エマージェンシー・サイバーを発動。デッキから『サイバー・ドラゴン』モンスター、サイバー・ドラゴン・コアを手札に」
気にはなるが、それで手を誤ってはならない。堅実にカードを揃える。
「手札のサイバー・ドラゴンを捨て手札のサイバー・ドラゴン・ネクステアの効果発動、自身を特殊召喚! そしてネクステアの効果により、墓地に送ったサイバー・ドラゴンは蘇る。この効果の発動後、私は機械族のモンスターしか特殊召喚できない」
《サイバー・ドラゴン・ネクステア》
星1/守200
《サイバー・ドラゴン》
星5/攻2100
フィールドに並ぶ2体のサイバー・ドラゴン。グラドスは天に手をかかげる。
「出でよ、明日へと繋がるサーキット! 召喚条件は『サイバー・ドラゴン』を含む機械族モンスター2体! 私はサイバー・ドラゴン・ネクステアとサイバー・ドラゴンをリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク2、サイバー・ドラゴン・ズィーガー!」
《サイバー・ドラゴン・ズィーガー》
Link2/攻2100
【リンクマーカー:左/下】
リンク特有の青い光を放つサイバー・ドラゴンがエクストラモンスターゾーンに召喚された。リンクマーカーはメインモンスターゾーンを向いているため、あと1体エクストラデッキからの特殊召喚を可能とする。
「サイバー・ドラゴン・コアを通常召喚。召喚に成功したので効果でデッキから罠カード、サイバネティック・オーバーフローを手札に」
《サイバー・ドラゴン・コア》
星2/攻400
「通常召喚されたモンスター、サイバー・ドラゴン・コアをリリースして手札から
《
星5/攻2050
サイバー・ドラゴンではないが機械族でレベル5のモンスター。機械製の巨鳥は一鳴きし、効果を発動する。
「
《サイバー・ドラゴン・ドライ》
星4/攻1800
「サイバー・ドラゴン・ドライが召喚に成功した時、自分フィールドの全ての『サイバー・ドラゴン』のレベルを5にする。――レベル5の
《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》
ランク5/攻2100
ズィーガーのリンク先に呼び出されるはエクシーズの黒があしらわれた装甲と機械翼を持つサイバー・ドラゴン。
「オーバーレイユニットを1つ使用し、墓地のサイバー・ドラゴンを対象にノヴァの効果を発動! 対象のモンスターを特殊召喚する!」
「そうはさせないです! カウンター罠、
ロボッピが伏せていたカードからバチバチと電撃が照射され、サイバー・ドラゴン・ノヴァの回路に負荷を与え……機械竜は耐えきれず爆発する。
「インフィニティを警戒して、ですか……相手の効果で墓地に送られたことでノヴァの効果が発動。エクストラデッキから機械族の融合モンスターを特殊召喚する! 来なさい、重装機甲 パンツァードラゴン!」
《重装機甲 パンツァードラゴン》
星5/守2600
爆発の中から姿を見せるのは新たな機械の竜。キャタピラを回し、砲塔でもある竜の首をぐるりと回し威嚇する。
「さて、どうしましょうか」
ロボッピのフィールドには効果不明のリンク2とリンク1のモンスター達。狙うべきはリンク1か、リンク2か。パンツァードラゴンを壁として用意できた今、ダメージを与えるのを急ぐ必要はない。ならば。
「バトルフェイズに移行! ズィーガーの効果を自身を対象に発動し、攻撃力を2100アップする。この効果の発動後、ターン終了時までこのカードの戦闘によるお互いの戦闘ダメージは0になる」
《サイバー・ドラゴン・ズィーガー》
攻2100→4200
それは相手が攻撃力を上げる効果を持っている場合に対しての万が一の備え。ダメージよりも確実に戦闘破壊することを優先し、ズィーガーの攻撃力を上昇させる。
「ズィーガーでセルトパスに、」
「馬鹿ですね、セルトパスはリンク状態の時、攻撃対象にも相手の効果の対象にもならないんでーす!」
「……ならば、ドライドレイクに攻撃する! エヴォリューション・アゲインスト・バースト!」
リンク状態のため攻撃力1000になっているが、ドライドレイクの元々の攻撃力は0。リンク状態が絡んだ他の厄介な効果を持っている可能性は高いため、今のグラドス内で、という前置きは必要になるが処理の優先順位はランドリードラゴンよりもドライドレイクの方が上となった。
ズィーガーは鎌首をもたげ、口腔を敵に向けて開く。普段よりも強まった光が、光線の形で発射される。
「セルトパスの相互リンク先の『機塊』モンスターが相手モンスターと戦闘を行うダメージ計算時、セルトパスの効果が発動するです! ダメージ計算時のみ、ドライドレイクの攻撃力はセルトパスと相互リンクモンスターの数×1000アップ。相互リンクしているモンスターは2体いるため2000アップして合計の攻撃力は3000になるです! タコチャージ!」
《乾燥機塊ドライドレイク》
攻1000→3000
セルトパスのプラグ足がドライドレイクのしっぽコンセントに繋がり、エネルギーが供給される。攻撃を返り討ちにするべく駆動音は大きくなる。翼から放出される熱風はその熱さを増す。
だが、攻撃力は足りない。戦闘破壊されてしまう。
「『機塊』モンスターが相手モンスターと戦闘を行うダメージ計算時、手札の遮断機塊ブレイカーバンクルを捨てて効果発動! その戦闘では破壊されないです!」
手札のモンスターの効果で戦闘破壊を防ぐ。ズィーガーの効果で戦闘ダメージは互いに無し。
「……ふむ、『機塊』はモンスターとの戦闘を意識した効果が多いのでしょうか? メインフェイズ2、カードを2枚セットしてターンエンド」
先のターンのロボッピと同様に伏せられる2枚のカード。
グラドスの手札はこれで0枚。対するロボッピも、先ほど手札からモンスター効果を使用したため0枚。
「オイラのターン! ドローです!」
「罠カード、サイバネティック・オーバーフロー発動! 墓地のネクステア、ドライ、コアの3枚を除外。その後、除外した数だけ相手フィールドのカードを選んで破壊する!」
ドローしたカードが何なのかは分からない。だからこそ、今相手のフィールドにある厄介なカードを破壊するべきだとグラドスは動いた。
サイバネティック・オーバーフローによる指定は相手フィールドのカードを選んで、のため、リンク状態で効果の対象にならないセルトパスでも問題なく指定はできる。
「私が選ぶのは充電機塊セルトパス、乾燥機塊ドライドレイク、家電機塊世界エレクトリリカル・ワールドの3枚」
「ぐうっ……! 『機塊』モンスターが効果で破壊される場合、墓地のブレイカーバンクルを代わりに除外できるです!」
その身に秘めた力を限界まで稼働させるサイバー・ドラゴン達。墓地から除外へ。発せられる青い稲妻が広場の中心に落ち、四方へと広がる。機塊モンスター達は薄いバリアのようなものに覆われているため無事だった。
だが、ブレイカーバンクルが身代わりになれるのはモンスターだけ。フィールド魔法を守ることはできない。
「あ……ああ……オイラの国が……!」
ひび割れていく。壊れていく。目が揺れる。キラキラした光は消え、残るのはそこにあった、という記憶だけ。
「除外されたサイバー・ドラゴン・ドライの効果をサイバー・ドラゴン・ズィーガーを対象に発動。このターン、ズィーガーは戦闘・効果で破壊されなくなります」
相手のカードを破壊しつつ自分のモンスターの場持ちも良くする一石二鳥。
冷静にデュエルを進めるグラドスと対照的に、ロボッピには怒りが満ちていく。
「よくも……よくも! よくもぉ!! バトルだ! ランドリードラゴンでサイバー・ドラゴン・ズィーガーに攻撃! セルトパスと相互リンクしているため、ランドリードラゴンの攻撃力は3500に上昇する!」
「ズィーガーの効果を自身を対象に発動! 攻撃力は4200に!」
「うるさい、うるさいぃっ!! 手札から速攻魔法ハーフ・シャット発動! ランドリードラゴンの攻撃力をターン終了時まで半分にし、戦闘破壊耐性を得る!」
《洗濯機塊ランドリードラゴン》
攻1500→3500→1750
ランドリードラゴンの方が攻撃力は下だが、サイバー・ドラゴン・ズィーガーの効果を使ったことで互いに戦闘ダメージは受けない。
それよりロボッピにとって重要なのは、バトルを行なった事実。
「相互リンク状態のランドリードラゴンの効果! 相手モンスターと戦闘を行ったダメージ計算後、その相手モンスターを除外する! 消えろ、ズィーガー!」
サイバー・ドラゴン・ドライの効果で得た耐性では除外からは守れない。ランドリードラゴンの洗濯槽から発射された水がズィーガーをフィールドから押し流す。
ふう、ふう、と肩で息をする。
「残るのはパンツァードラゴン……でも」
ドライドレイクで攻撃すれば破壊することはできる。
が、破壊した場合パンツァードラゴンの効果が発動、こちらのカードが破壊される。そうなれば今度こそ禁止令が狙われるだろう。
キメラテック・フォートレス・ドラゴン――フィールドのサイバー・ドラゴンと機械族を墓地に送り現れる融合モンスター。自分だけでなく相手の機械族も利用することができる、機械族の天敵。
「……バトルフェイズを終わってメイン2、ドライドレイクをリンク素材にして、リンク1の扇風機塊プロペライオンをリンク召喚する」
数秒の思案。ロボッピは攻撃しないことを選んだ。
《扇風機塊プロペライオン》
Link1/攻1200
【リンクマーカー:上】
リンク召喚されたのはタテガミが扇風機のプロペラになっているライオン。セルトパスとは非相互リンク状態。セルトパスによる攻撃力の強化よりも優先する効果を持っている、ということだろう。
「……カードを1枚セットしてターンエンドです。ハーフ・シャットの効果は終了し、ランドリードラゴンの攻撃力は元に戻る……」
互いに一度ずつバトルフェイズを行ったが、どちらもライフは残り4000のまま。
「私のターン、ドロー。重装機甲 パンツァードラゴンをリリースしセットしていた表裏一体を発動。そのモンスターと元々の種族・レベルが同じで、元々の属性が異なる光・闇属性モンスター1体を手札・エクストラデッキから特殊召喚する。――光は反転し闇を呼ぶ! エクストラデッキよりキメラテック・ランページ・ドラゴンを特殊召喚!」
《キメラテック・ランページ・ドラゴン》
星5/攻2100
残り1枚の伏せていたカードを発動させ、グラドスは守勢から攻勢に転じる。
「キメラテック・ランページ・ドラゴンの効果を発動。デッキから機械族・光属性モンスターを2体まで墓地へ送る。私は
荒ぶる双頭がデッキから墓地へと二つの光を引きずり落とす。
墓地に
「手札の
《
星1/守0
眩い閃光と共にかけ参じたのは、六本脚と緩くカーブを描く双角、獣のようなシルエットの機械。
「フィールドのルタ
「セットしていた速攻魔法、相乗りを発動! お前がドロー以外の効果で手札にカードを加える度にオイラは1枚ドローする!」
《
星1/守0
ルタ
デッキから儀式モンスターのサーチを行い、儀式召喚に必要となる一つを揃えるグラドス。残るはリリースするモンスターの用意と儀式魔法だが――。
「手札の儀式モンスター、
《
星1/守0
「儀式モンスターをリリースした……? 相乗りの効果でドロー」
せっかくの儀式モンスターをリリース――墓地に送るという普通の儀式召喚をするならば起こり得ない展開。
現在のグラドスの手札はサーチした儀式魔法1枚のみ。カードが被ってしまったのでコストに使った、というわけではない。なら墓地から回収できるカードが……? ロボッピは困惑しつつも注意深くグラドスの展開を見る。
「フィールドのアル
《
星1/守0
これでグラドスの手札は2枚。フィールドにはキメラテック・ランページ・ドラゴンと2体の
「儀式魔法、
「なっ……攻撃力を参照する上に墓地からの儀式召喚だと!?」
「私は攻撃力2000のバン
《
星12/攻4000
二体の
十二の光柱が立ち昇り、大きな一つへと纏まり――ドライトロンのエースが現れる。
双翼を広げ、双腕のブレードを振るい、双盾を備え、双脚は地に着けず。宇宙を舞う竜機は、ここに降り立った。
「超電磁タートルを通常召喚――出でよ、明日へと繋がるサーキット! 召喚条件は光・闇属性モンスター2体! 私はキメラテック・ランページ・ドラゴンと超電磁タートルをリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク2、閃刀姫-アザレア!」
《閃刀姫-アザレア》
Link2/攻1500
【リンクマーカー:左上/右下】
リンク召喚されたのは閃刀姫リンクモンスターでありながら装甲ではなく、黒の戦闘用スーツに身を包んだ閃刀姫。グラドスへ向ける視線にはどこか嫌悪の色が見えるが、その理由を知るものはここにはいない。
「アザレアが特殊召喚した場合、フィールドのカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。私はランドリードラゴンを対象にし、破壊する!」
身代わり効果を持つブレイカーバンクルはもう墓地にいない。アザレアは一気にランドリードラゴンまで距離を詰め、一刀両断する。
「その後、自分の墓地の魔法カードが3枚以下の場合、このカードを墓地へ送る。ですが、私の墓地に魔法カードは4枚あるため、アザレアは破壊されない」
グラドスの墓地にある魔法カードはエマージェンシー・サイバー、表裏一体、
「墓地の表裏一体を除外し、墓地の光・闇属性モンスター、パンツァードラゴンとキメラテック・ランページドラゴンを対象として発動。そのモンスター2体をデッキに戻してシャッフル。その後、デッキから1枚ドローする。自分フィールドのモンスターが機械族の効果モンスター2体のみのためアイアンドローを発動。デッキから2枚ドローする。このカードの発動後、ターン終了時まで私は1回しかモンスターを特殊召喚できない。手札のレベル10モンスターを墓地に送り、
息をつかせぬ連続ドロー。目当てのカードを引き当て、グラドスは思わず声を上げる。
「メテオニス=DRAとプロペライオンを対象に、速攻魔法
《
攻4000→3000
攻撃力の一部を圧縮し、胸部から照射。ビームに貫かれたプロペライオンは破壊される。ロボッピに残るのはセルトパスのみ。
「ぐっ……! 相互リンクではないプロペライオンが破壊されたので、セルトパスの効果で1枚ドロー!」
無力になったセルトパスを睨むアザレアと見下ろすDRA。グラドスはさらにモンスターを増やすべく、墓地からフィールドへとカードを出す。
「デュエル中に相手が手札か墓地のモンスターの効果を使用していた場合、このモンスターは墓地から特殊召喚が可能。来い、
《
星10/攻3000
先にフィールドにいる2体と比較するとどこか造りに古さを感じる機械の竜。だが、大きさはメテオニス=DRAに匹敵するほど。熱により何度も稼働するピストンとシリンダーの音を響かせ、大地へ足を踏み進める。
「
ロボッピはデュエルの最初のターン、手札にいたモンスターの効果を使用している。特殊召喚に問題は無い。
アイアンドローの制約によりグラドスは特殊召喚をこのターンもう行えないが、ロボッピを倒すには十分な火力が揃った。
「アザレアでセルトパスに攻撃! ダメージステップ開始時に墓地の魔法カード、エマージェンシー・サイバーを除外してアザレアの効果発動! そのモンスターを破壊する!」
ロボッピは効果を説明する時に確かに言っていた。
ブレイカーバンクルを手札から捨て、効果を発動できるのは戦闘を行う
もしブレイカーバンクルを相乗りでドローしていたとしても、まだ効果を使うことはできず、そのため墓地に用意することもできない。つまり効果による破壊から守ることはできない。この破壊は――通る!
アザレアは魔法カードを糧とした斬撃を飛ばし、セルトパスを切り裂く。
「
「ぐっ……直接攻撃宣言時に手札の速攻のかかしを捨てて効果発動! その攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了させる!」
「む、そう来ましたか。バトルフェイズ終了……ですが1ターンに1度、相手がモンスターの効果を発動した場合にカルノールの効果は発動が可能。このカードの攻撃力は1000アップします」
《
攻3000→4000
「カードを1枚セットしてターンエンド」
ふう、と息を吐く。高い攻撃力のモンスターを複数と墓地に超電磁タートルが用意できたことの安心感は大きい。機塊は戦闘を中心にした戦術をしているため、バトルフェイズを終わらせることのできる超電磁タートルはよく効くはずだ。
ロボッピは相乗りによるドローとセルトパスの効果によるドロー、そして速攻のかかしを使用したことで手札は2枚。次のターンのドローで3枚になる手札から動くことは十分可能だろう。油断はできない。
「…………?」
グラドスは確かに相手へ聞こえるようにターンエンド宣言をしたが、ロボッピはドローをまだしていない。頭を押さえ、何かに苦しんでいる。
「まさかっ、ロボッピ!!」
「オイラ……オイ……オ、レの……世界の大掃除、ゴミ……ご主人様は! 違う、違わない、ああ、門が、すぐそこに……!」
ロボッピの頭からばちり、と一際大きなスパークが起きた。
知る者はライトニングただ一人。
ロボッピが真に望んでいたものは、
本当はすぐ側にあったはずだった。
相対するグラドスは、デュエルの終わりだけを望む。
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電気羊に花束を
グラドスVSロボッピ、決着!
グラドス LP 4000 手札0
モンスター
閃刀姫-アザレア Link2 ATK1500
魔法・罠
伏せカード1枚
ロボッピ LP 4000 手札2→3
魔法・罠
禁止令
「あ、はは……は、あはははははは!!」
人が変わったように、ロボッピは高笑いをしていた。
それに……門、と。そう聞こえた言葉が間違いでなければ、ロボッピはきっと非常に危険な状態になっている。ここからは時間をかけられない。早く倒さなければならない。
だが、今はロボッピのターン。グラドスに出来ることは限られている。
「オレのターン、ドロー! 貪欲な壺を発動。墓地の電幻機塊コンセントロール2体、速攻のかかし、洗濯機塊ランドリードラゴン、充電機塊セルトパスの合計5体をデッキに戻し、2枚ドロー!」
変化した一人称。虹彩を包む赤はより大きく。異常性を隠さずにロボッピはデュエルを続行する。
墓地のモンスターをデッキ、エクストラデッキに戻された上にドロー。このタイミングでリソースを回復されたのは痛い。
ロボッピは貪欲な壺でドローした2枚のカードを確認する。家電機塊世界エレクトリリカル・ワールドと――システム・ダウン。
システム・ダウン? そんなカード、デッキに入れていただろうか。そんな疑問が浮かぶ。誰が入れたのか。デッキのカードに触っているのは自分と、このデッキをくれた……。
……ライトニング様の声が、聞こえる。
「お前が勝利するのはどうでもいい。まず、仲間として認めた覚えもない。歯向かってくる奴等の戦意を削ぎ、攻撃を躊躇わせ、勝っても負けても敵対者を精神的に追い詰めるのにちょうどいいから使った駒だ。家電は人間に使われるもの。人間よりも優れた存在に使われるのは問題ないだろう」
いやだ。
「家電の王様、良かったじゃないか。このまま家電らしく望まれた仕事を終えられる」
いやだ。
「国を守れない愚かな機械。一時でも自分を賢いと思い込んだ哀れなガラクタ。容量も処理能力も何もかもが追いついていない、イグニスと同等のシステムに耐えられるはずがない、消えるだけの自我が何をしようと無駄だ。助かる道など最初から存在しない」
きえたくない。
たすけて。
たすけて、ライトニング様。
自分を必要としていた、でも本当はそうじゃなかったんですか、ライトニング様。
自分を賢くしてくれたけど、いつか馬鹿になることが分かっていたんですか、ライトニング様。
宇宙に浮かぶ賢い自分が、端からぽろぽろと零れていく。近くに見えていた仰々しい門は気が付けば遠く、点のようにしか見えなくなってしまっていて。
開く前に、触れるより前に、応答するより前に。その門が何を言っていたのかも――ロボッピの記憶から消えて、無くなった。
――残ったのは、今ここにある自分がもうすぐ無くなるという事実だけ。
ロボッピ
LP 4000→3000
「ライフを1000払い、魔法カードシステム・ダウンを発動! お前のフィールドと墓地にある全ての機械族を除外する! 消えろぉ!!」
何としてでもコイツを倒して、ライトニング様に救ってもらうしかない。今のロボッピが頼れる相手はそれしかいないのだから。
「……! チェーンして
システム・ダウンの発動を阻害するカードはグラドスには無かった。除外されてしまう前に、とメテオニス=DRAにより放たれた稲妻がロボッピの永続魔法を貫き破壊する。
グラドスのフィールドにいたアザレアが、カルノールが、メテオニス=DRAが。そして墓地にいた機械族モンスター達が超電磁タートルも含めて消え去る。
……ロボッピの頭が、バチバチとより激しくスパークする。
「禁止令が無くなっても、このターンで終わらせちまえばいいだけだ! フィールド魔法、家電機塊世界エレクトリリカル・ワールドを発動! デッキから『機塊』カード、電幻機塊コンセントロールを手に加える――」
ロボッピの先攻1ターン目ととてもよく似た展開ルート。ただ、呼び出されるモンスターがランドリードラゴンとドライドレイクではなく、プロペライオンとドライドレイクになっている。
《充電機塊セルトパス》
Link2/攻0
【リンクマーカー:左下/下】
《扇風機塊プロペライオン》
Link1/攻1200
【リンクマーカー:上】
《乾燥機塊ドライドレイク》
Link1/攻0→1000
【リンクマーカー:右上】
「墓地のコピーボックルを除外し、フィールドのプロペライオンを対象に効果発動! そのモンスターの同名モンスターを手札・墓地から選んで特殊召喚する! 来い、プロペライオン!」
《扇風機塊プロペライオン》
Link1/攻1200
【リンクマーカー:上】
これでロボッピのフィールドにはセルトパスと相互リンク状態のドライドレイクとプロペライオンに加え、コピーボックルにより特殊召喚されたリンク状態ではないプロペライオンが並ぶ。
「バトルだ!」
「少々お待ちを。メインフェイズ終了時にセットカードを発動――」
「ごちゃごちゃとうるさいんだよ! やれ、プロペライオン、ドライドレイク! ダイレクトアタックだ!」
セルトパスの効果による攻撃力上昇はモンスターとの戦闘時のみ。ダイレクトアタックには適用されない。故に、攻撃力の合計数値は3400。ライフ4000を削り切ることはできない。
「ククッ、馬鹿なお前のことだ、まだ耐えられるなんて思ってるんだろう! ドライドレイクには相互リンク状態の時、自身と他の『機塊』モンスターの位置を入れ替え、もう一度攻撃を可能にさせる効果がある! それだけじゃない、手札には速攻魔法、機塊コンバートがある! これを使えばさらに攻撃ができる……は、ははは! これでオレの勝ちだ――!」
「バトルフェイズに墓地の――」
他者の声をかき消すような大声。勝利を確信した絶叫。手札のカードの正体を明かすロボッピの耳には、グラドスが何を言ったのかは聞こえない。
ばちり、ロボッピの頭から電気がさらに漏れ出る。ショートしかけている。
「モンスターを増やそうが無駄だ、プロペライオンには相手モンスターの攻撃力を0にする効果がある! これで終わり……掃除、オソウジするです」
……ロボッピのAIは、家事用のAI。イグニスのシステムには耐えられない。突然に加速した異常の原因を解析できたグラドスは焦りを見せる。それを敗北に対する恐怖と勘違いしたロボッピはより大きな声で嗤う。
プロペライオンの牙がグラドスまで迫り――その動きは何かに遮られたように止まる。ダメージを与えることなく、バトルは終了した。
「………………は? なんで攻撃をやめたんだ! パックの交換時期が近付いています。お前、いったい何をした!?」
「発動していたというわけではありません。効果の説明は聞くべきです。私が貴方のメインフェイズ終了時に発動したのは速攻魔法、異次元からの埋葬。この効果により除外されていた超電磁タートル、
彼が思い描いていた盤石の必勝の方程式は、たった2枚のカードであっけなく崩れ去った。ふらり、とよろめく。
「お、オレは、オイラは、お前は終わらなかった、オレも終わるはずがない、」
終わりなんかじゃない。手札のこの速攻魔法をセットしてターンエンド。
セットして。
セット。
セ…………………………。
ぶつん。
「ターンエンドです」
先ほどまでの様子とは一転。急に静かになる。目から光が消え、力が抜け……倒れ伏し、全身にノイズが走る。少年の姿のアバターが変化する。
そこにいたのは本来のロボッピ――藤木遊作の家で元気に稼働していた、小さなロボットの姿になっていた。
「っ! 私のターン! ドロー!」
何故ロボッピがこうなってしまったのか。デュエルにより、処理しなければならない情報が増えた、のもあるだろうが……普通にデュエルするだけなら問題なかったはずだ。
終わりが加速したのはシステム・ダウンをドローする直前。あのカードこそ、ライトニングがロボッピに対して仕込んだ罠。機械族を使う決闘者に対してぶつけ、メタカードとなるシステム・ダウンを自分の意思で使用させる。それが狙い。
システム・ダウンを発動するにはライフポイントを支払う必要がある。デュエルの継続に関わる数値に干渉している。……そこに、何らかのプログラムを追加で仕込むのは不可能ではない。
相手の機械族を除去し、ロボッピの勝つ可能性を大幅に引き上げる。命を削るような形で思考速度を強制的に引き上げ、賢い状態のロボッピの残り時間も削る。
ライトニングはロボッピの賢くなりたいという純粋な願いを理解していた。その上で、その願いを踏みにじった――!
グラドスのするべきことはこの瞬間に決まった。早くこのデュエルを終わらせる。だが、自分がサレンダーしようものなら敗北扱いとなり、ライトニング達に捕獲、最悪の場合消滅させられてしまうだろう。
このデュエルに勝ち、一刻も早くロボッピを修復しなければならない!
「ンワー、家電のお仲間さん、助けて欲しいですー」
機塊モンスターに向けて喋った後、じたばた、じたばた、立ちあがろうと手をばたつかせるロボッピ。
ロボッピは本来の姿に戻った影響で記憶が抜け落ち、今行われているデュエルのことを何もわかっていないような様子を見せている。が、効果を発動するかしないかの選択でうっかり『はい』を選ばないとも限らない。
確実に倒す、その必要がある。
「フィールド魔法、
ドライトロンの母艦ファフニールが決闘者達の頭上に位置する空へ着艦。ロボッピは何の音かと空を見上げ、また、周囲の家電の世界に気付いたのか目をキラキラと輝かせている。
このデュエルによって呼び出されるカードも、風景も、演出も。ロボッピには何もかもが初めて見る楽しそうなもの、として映っているのだろう。
《
星1/守0
「エル
《
星1/守0
「フィールドのルタ
これで、レベル1のモンスターが2体揃った。
「レベル1のエル
《
ランク1/攻2000
武装したファフニールがエクストラモンスターゾーンに降りる。
「儀式魔法
《
星12/攻4000
剣、砲塔、盾と複数の装備を持つDRAとは違い、QUAは翼と盾、ブレードを兼ねた武装を腕に装着している。自身の後ろにいる主を庇うように腕を構える。
「儀式召喚に使用したモンスターのレベルの合計が2以下の場合に発動できる効果は――」
メテオニス=QUAは相手フィールドの魔法・罠カードを全て破壊する効果を持つ。悩む主人の方へ頭を向け、機械竜は首を横に振る。ロボッピは目を輝かせたまま、エレクトリリカル・ワールドをぐるりと見回している。
……あの輝きを奪うことは、グラドスにはできなかった。
「――使用しない! 手札のアイアンドローを発動し、2枚ドロー!」
本来ならば必要な効果の説明を一部省き、速さを求めてグラドスはカードを操る。
「速攻魔法マグネット・リバース発動! 通常召喚できない機械族モンスター、
《
星12/攻4000
「……そうだ。お掃除。オイラ、お掃除しないとです」
「自分フィールド上に表側攻撃表示で存在する同じ攻撃力を持つモンスター、メテオニス=DRAとメテオニス=QUAを選択して魔法カード、クロス・アタックを発動」
「ご主人様のお部屋に戻って、お掃除するです」
「このターン、選択したモンスター1体は相手プレイヤーに直接攻撃する事ができ、もう1体のモンスターは攻撃する事ができない」
「それが、オイラの一番幸せな時間なんです」
「
機塊モンスター達はモンスターと戦闘することによって効果を発動していた。直接攻撃なら、万が一の可能性は起こらない。
メテオニス=DRAは天高く舞い上がり、背に負った砲台から光弾を撃ち出す。
「ンワ?」
何が起きているのかはわからないだろう。眼前に迫る流星たちを見て、ロボッピは笑顔を見せた。
藤木家でせっせとお掃除に励む中、窓の向こうに見えていた太陽の光、月の光、星の光。手の届かないそれとは比べ物にならないほど強く大きく輝く、一筋の流星。
流れ星が消える前に願い事を三回唱えれば、その願いは叶う。だが、ロボッピが口にしたのは願いではなく。
「オイラ、こんな綺麗なものを見られて――」
――幸せです。
その言葉は、光の中へと消えていった。
「ロボッピ!!」
立ち昇る土煙、その中心にいるはずの小さな働き者のお掃除AIに駆け寄ろうとして。
「……ああ、そんな」
そこにあるはずの光は、命は。もう、無くなってしまっていた。……本当はあの突然のターンエンド宣言をした時、とっくに壊れて終わっていた。それがデュエルが終わるまで保っていた、それだけで奇跡だったのだ。
せめて、と抱き寄せる。ミラーリンクヴレインズで敗者が存在できるのはほんの短い時間だけ。光の粒になって空へ消えていくロボッピを、グラドスはどこにも行かないでくれと願うかのように手を伸ばした。
……世界がほんの少し揺れ、中空に円形の中継映像が流れ始める。映るのはヴァンガードと、もう一人。
「ヴァンガードの相手は……あれは、まさか!」
相対するのは白のスーツを着た男性。銀髪。その瞳孔は、光のイグニスの支配下にあることを示すように黄色へ染まっていた。
『まさかこうなるとは、ね』
ヴァンガードに対しデュエルを挑もうとしているのは――ハノイの騎士、スペクターだった。
新たな刺客となり、先導者と決闘を開始する。
光のイグニスが望むイレギュラーの排除のため。
オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンを
ペンデュラムスケールにセッティング!」
今回の3つ(流れ星が消える前に願い事を3回唱えると叶う)
アニメ遊戯王VRAINSにて、スペクターVSライトニングのデュエルは……前話の前書きはつまりそういうことです。
次回予告のセリフで「!?」ってなった読者様は多いでしょうが、クリフォートもちゃんと使うのでクリフォートデッキです。
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聖天の霹靂
ヴァンガードがゲートを通った先にあったのは石造りの荘厳な神殿であった。
辺りを見回したが、光のイグニスらはいない。ミラーリンクヴレインズ突入時に襲撃してきたビットとブート、ハル、ウィンディ、ロボッピを除けば残るのはライトニングとボーマンの二人。
ゲートは四つだったので数が合わないが、それは一人ずつ相手をする、ということなのだろう。
探索しようと取り敢えず神殿の外に出ようとしたが、見えない壁により囲まれていてそれはできなかった。
精霊の力を借りれば無理やりに壊すことはできるだろうが、それを今する必要性が感じられないので保留。下手に弄れば罠が起動する、という可能性の方が高い。
そうして対戦相手が現れるまで待機していたヴァンガードの目の前に現れたのは――味方であるはずのスペクターだった。
「デュエル開始後に通信が途切れ、再接続が不可能、と。……そうですか、わかりました」
焦った声の三騎士からの通信と、目の前にいる彼を合わせれば自ずと答えは見えてくる。
スペクターは光のイグニスと戦い、敗れ――洗脳されてしまった。
思い出すのはつい先ほど、ゲート突入前に聞いた言葉。私に殺される前に負けるな、という激励と怒りの混ざっていたあの声はもう、別のものに染められている。
「…………そっちが負けたら駄目でしょうが」
手に力が入る。今すぐに光のイグニスに決闘を挑みたい衝動を堪え、彼がどういう状態にあるのかを確認する。
「ねえ。スペクター、
「突然何を言っているのですか? そんなもの
男は本気で困惑した様子の視線を向けている。
「ライトニング様のおわす場所に侵入するとはどんな愚か者かと思えば、ただのオカルト信者だったとは。このような馬鹿を倒すだけで良いとは少々興醒めです」
ため息をついたスペクターがパチン、と指を鳴らすと神殿内上部にて複数の中継映像が出現した。プレイメーカーと相対するボーマン、こちらを認識したリボルバーとグラドスの驚く顔、それだけではなく鬼塚とアース、ブルーメイデンが戦う姿も。
……この中継の目的は公開処刑だ。どちらか、もしくはどちらもが倒れる様を皆へ見せつけるための悪趣味な仕掛け。
「絆というくだらないものに左右される程度の力しか持たない奴らには充分な仕打ちでしょう?」
「…………ああ、そう。わかった。まさかこうなるとは、ね」
ヴァンガードは明確な返答をせず、デュエルディスクを構え、起動させる。
「とっとと終わらせよう」
対戦よろしくお願いします、とわざとらしい礼を入れた後にスペクターもデュエルディスクを構える。
「おや、私の先攻ですか。では永続魔法、種子弾丸を発動。そして
《
星1/攻0
《種子弾丸》
プラントカウンター 0→1
種子弾丸――植物族モンスターが召喚・特殊召喚されるたびプラントカウンターが1つ置かれ、墓地に送ることでカウンターの数に応じた効果ダメージを与える効果も持つカードだ。
スペクターは両手を広げ高らかに声を上げる。
「現れよ、私たちの道を照らす未来回路! 召喚条件はレベル4以下の植物族モンスター1体! 私は
《
Link1/攻0
【リンクマーカー:下】
《種子弾丸》
プラントカウンター 1→2
スペクターの背後へと彼が操る聖天樹――その起点となる若木が召喚された。だが、幹にある顔は普段と違いどこか生気がないように見える。
「
スペクター
LP 4000→3000
《種子弾丸》
プラントカウンター 2→3
《
星2/守800
スペクターの身を削り、樹は種をまく。ダメージを受けたことで聖天樹はざわめきだす。
「まず
スペクター
LP 3000→4000
《種子弾丸》
プラントカウンター 3→4→5(MAX)
《
Link1/攻600
【リンクマーカー:上】
「青い涙の天使……
聖天樹はスペクターの胴にぐるりと己の枝葉を巻き癒す。ついで、とばかりに伏せられた罠は攻撃力を参照して回復する効果を持つ少々厄介なカードだ。
「特殊召喚に成功した
スペクター
LP 4000→4300
追加で回復したことにより、スペクターは初期のライフポイント4000を微量ながら超えた。
「先制攻撃といきましょうか。種子弾丸を墓地へ送る事で、このカードに乗っているプラントカウンターの数×500ポイントのダメージを相手に与える。カウンターの数は最大の5つ! 2500のダメージを受けなさいヴァンガード!」
植物が増えるとともに貯め込まれた種がヴァンガード目掛け射出される。ターンが回ってくる前に大ダメージを受けることになってしまったヴァンガードだが、落ち着き払った様子で手札から1枚のカードを出した。
「ダメージを与える効果の対策をしていないとでも? 相手がダメージを与える効果を発動した時、手札のジャンクリボーを墓地に送り効果発動! 種子爆弾の効果の発動を無効にする!」
クリクリ鳴く目つきの悪い機械クリボーが種へと体当たりし、爆発。爆風が後続の種も吹き飛ばし、ヴァンガードは無傷で立っていた。
「そう簡単にはいかない、ということですか。再び現れよ、私たちの道を照らす未来回路! 召喚条件はリンクモンスターを含む植物族モンスター2体以上! 私は
《
Link3/攻0
【リンクマーカー:上/左/右】
「リンク召喚に成功した
《廻生のベンガランゼス》
Link4/攻2500
【リンクマーカー:上/左/右/下】
連続リンク召喚により現れたのは光属性のリンク4モンスター。緑の葉をマントのように翻し、内に流れる赤い樹液が輝く。右には槍を模した腕を、左には盾を模した幹を担ぐ人型の樹。
植物族ならば採用可能な緩い召喚条件をしているが、それだけでスペクターのデッキに採用されたわけではない。最も厄介なのはダメージと引き換えに相手モンスターをバウンスする効果だ。
「
《
Link2/攻0
【リンクマーカー:左下/右下】
「カードを1枚セットしてターンエンド」
スペクターのエクストラモンスターゾーンにはリンク先が2つとも空いている
魔法・罠ゾーンにはシュラインとセットされたカードが2枚、内1枚は通常罠
……余計な力を抜くように、軽く息を吐く。
「私のターン、ドロー。手札の『帝王』魔法、帝王の凍気を墓地に送って汎神の帝王を発動。デッキから2枚ドローする」
ヴァンガードは手札の補充からスタート。……というよりも、手札がほとんど緑色と魔法カードが占めているのでこの動き出しは仕方がないものであった。
精霊達の後押しによりドロー運をかさ増しし、相手の展開に合わせてデッキからカードを揃えるためなのだろうがかなり心臓に悪い。
「墓地の帝王の凍気の効果! 墓地にあるこのカードと汎神の帝王を除外し、フィールドにセットされたカード1枚を対象としそのカードを破壊する。破壊するのは青い涙の天使でセットしたカード
「……っ!
順風満帆であったスペクターの先攻展開、それを崩しにかかる。スペクターがぎらりと睨みつける。
青い涙の天使の効果により伏せたカードはその場所がわかっているので、もう片方の謎の伏せカードは確実に狙える。
……まさかアニメオリジナルカードの中でも少々ヤバめな効果をしている
「相手フィールドのモンスターの数が自分フィールドのモンスターより多いため、速攻魔法緊急ダイヤを発動。機械族・地属性、レベル4の銅鑼ドラゴンとレベル5のクリフォート・ツールをデッキから効果を無効にして守備表示で特殊召喚。このカードを発動するターン、私は機械族モンスターでしか攻撃宣言できない」
《銅鑼ドラゴン》
星4/守2100
《クリフォート・ツール》
星5/守2800
魔法カードによりフィールドに現れた銅鑼ドラゴンとクリフォート・ツールはどちらも通常モンスター。ベンガランゼスの効果は『効果モンスター』を対象にするため、このタイミングで効果の発動はできない。
ベンガランゼスでモンスターをバウンスしダメージを受け、
というのも、永続罠
まあ、とりあえず。今回は最初に破壊できたのでヨシとする。
「通常魔法、マジカル・ペンデュラム・ボックス発動! デッキから2枚ドローし、お互いに確認する。確認したカードがペンデュラムモンスターだった場合、そのカードを手札に加える。違った場合はそのカードを墓地へ送る」
ヴァンガードはドローしたカードを見て――ふっと微笑む。
「ドローしたのは
スペクターへと見せたカードはどちらも確かにペンデュラムモンスター。気になるとすればクリフォートとは無関係のモンスターであることぐらいか。
ハノイの騎士と協力するにあたり、ヴァンガードはデッキの構築を明かし続けることを決めた。が、それはスピードデュエルのデッキのみ。マスターデュエルのデッキについては誰も何も知らない。何をしてくるのか予想がつかない。
「先駆けとなれ、我が未来回路! 召喚条件は機械族モンスター2体! 私は銅鑼ドラゴンとクリフォート・ツールをリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク2、クリフォート・ゲニウス!」
《クリフォート・ゲニウス》
Link2/攻1800
【リンクマーカー:左下/右下】
クリフォート・ゲニウスがリンク召喚され、ペンデュラムスケールに置くであろうカードを2枚既に手札に揃えた。ペンデュラム召喚とそれに伴うサーチが確定――スペクターは動いた。
「ベンガランゼスの効果をクリフォート・ゲニウスを対象に発動。私はそのモンスターの攻撃力分のダメージを受け、そのモンスターは持ち主の手札に戻る」
「……クリフォート・ゲニウスは自身以外のリンクモンスターが発動した効果を受けない」
「ええ、分かっています。故に私はベンガランゼスの効果で1800のダメージを受けるのみとなる。――ダメージを受けたことで
自傷、からの展開。スペクターが受けたダメージはすぐに消え、
《
Link1/攻800
【リンクマーカー:下】
「
《
攻800→2400
力を得た剣士は片刃の剣を構え、母なる樹を守る騎士として立ち塞がった。
ヴァンガードは手札から2枚のカードを取り、デュエルディスクの両端へと置く。
「
ヴァンガードの背後、左右離れた位置で立ち昇る二つの光の柱。その中に浮かぶのは二色の眼を持つ竜と、逆光によりその顔がはっきりとは見えないエンターテイナー。
ペンデュラムモンスター達は互いに視線を合わせた後、頷き、ヴァンガードの指揮下で敵を打破するべく気合を入れる。
「2枚のペンデュラムスケールは8と4、よってレベル5から7までのモンスターが同時にペンデュラム召喚が可能になる――このままならね! 永続魔法、魂のペンデュラムを発動!」
それは、ペンデュラム召喚を世に広めたとある決闘者に由来する永続魔法。
「ペンデュラムゾーンのカード2枚を対象とし、対象のカードのペンデュラムスケールをそれぞれ1つ上げるか下げる。この効果で稀代の
ヴァンガードのエクストラデッキに加わったペンデュラムモンスター2体どちらもペンデュラム召喚が可能になり、クリフォート・ゲニウスによるサーチを経由したクリフォート・エイリアスのアドバンス召喚がほぼ確定した。
クリフォート・エイリアスはアドバンス召喚が成功した時フィールドのカード1枚を手札に戻すうえ、その効果の発動に相手は効果発動ができない。スペクターはここしかないか、と青い涙の天使の効果で伏せた罠を発動する。
「
いわずもがなスペクターが選んだのは植物族。同じ種族となる廻生のベンガランゼスの攻撃力は2500、
スペクター
LP 4300→9200
「ゲニウスの効果を相手フィールドの
ゲニウスから漏れ出た影のようなものが纏わりつき、その効果を蝕む。ただでさえ生気がなさそうな聖天樹がさらに弱々しくなっていく――それに対して、スペクターは特に反応しない。いや、効果を無効にされて大変だ次のターンにどう巻き返そうか、ぐらいは考えているかもしれないが、それだけだ。
……今の彼は、よくも我が母なる樹を穢したな、という怒りを一切抱いていない。
「光のイグニスが非科学的な現象を嫌って洗脳ついでに記憶を消したことで精霊の力も弱くなった、ってこと? ――なら、精霊がいる事の強さってものを見せてあげる! 振動せよ、起動せよ! 集え、私のモンスター達! ペンデュラム召喚! 来て、銅鑼ドラゴン、クリフォート・ツール! そしてクリフォート・ゲニウスのリンク先にモンスター2体が同時に特殊召喚されたことでデッキからレベル5以上の機械族モンスター、クリフォート・エイリアスを手札に加える!」
《銅鑼ドラゴン》
星4/守2100
《クリフォート・ツール》
星5/守2800
緊急ダイヤで呼び出され、リンク素材として活用した通常モンスター2体が再び並び立つ。
「魂のペンデュラムの効果! 自分のペンデュラムモンスターがペンデュラム召喚される度にこのカードにカウンターを1つ置き、フィールドのペンデュラムモンスターの攻撃力はこのカードのカウンターの数×300アップする!」
《魂のペンデュラム》
カウンター 0→1
「クリフォート・ツールに装備魔法
《クリフォート・エイリアス》
星8/攻2800→3100
クリフォートの中核を担うモンスターと十の輝石を贄とし、巨大なステルス機が出撃。魂のペンデュラムにより強化されたことでその攻撃力は3000の大台を超えている。
「フィールドから墓地に送られた
だからこそ、簡単な再利用がしにくいバウンスで今のうちに処理するべきとヴァンガードは判断した。
「クリフォート・ゲニウスで効果が無効となっている
スペクター
LP 9200→7400
「クリフォート・エイリアスで
「くっ……! 自分フィールドの植物族リンクモンスターが戦闘または相手の効果で破壊される場合、代わりに墓地の
攻撃力3100対2400。本来なら戦闘破壊できたはずが、スペクターの墓地にあった魔法カードが身代わりとなる。
スペクター
LP 7400→6700
「サーチ可能かつ身代わり効果持ちの展開札……厄介な」
スペクターのフィールドにモンスターを残してしまったままバトルフェイズを終え、メインフェイズ2に入る。
「先駆けとなれ、我が未来回路! アローヘッド確認! 召喚条件はペンデュラムモンスターを含む効果モンスター2体以上! 私は銅鑼ドラゴンとリンク2のクリフォート・ゲニウスをリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク3、
《
Link3/攻2000
【リンクマーカー:左下/下/右下】
白の三角帽子に赤い髪、ペンデュラムの赤と青をモチーフとした装飾を持つ魔法使いが剣を片手に舞い降りる。
……ペンデュラムスケールにいる2体が魔法使いの顔を見てどこか固まっているように見えるけれども、多分、気のせいである。
「
今、ヴァンガードのフィールドにはペンデュラムスケールの2枚とペンデュラムモンスターのクリフォート・エイリアス、合計3枚のペンデュラムカードが存在する。よって魔法使いの攻撃力は2000から2300に上昇する。
《
攻2000→2300
「カードを1枚セットしてターンエンド」
声には出さず、おのれ、とスペクターは歯噛みする。
墓地の
だが、ヴァンガードは帝王の凍気の墓地効果で魔法を2枚除外していたため、レベル4のペンデュラムモンスターを破壊する妨害ができなかったのだ。
ヴァンガード自身に向いたリンクマーカーとペンデュラムスケール、ある程度の下地が整えば出てくるのは高レベルモンスターばかりになり、墓地の
……スペクターの手札は0。ドローするカードによっては巻き返すのに厳しくなる。それは困る。ライトニング様に顔向けできなくなる。
デッキを睨みつける。
道具は道具らしく、私の望みのまま使われるべきなのだ。突然非科学的だの精霊だの、意味のわからないことを言うあいつごときに負けてはならない。
私を救ってくださった、ライトニング様のためにも!
「私のターン。ドロー。……これはこれは、良いカードを引きました。ですが使う前にある程度は済ませておきましょう」
ドローしたカードを確認したが使わずに、今フィールドに残っているカードのみでスペクターは展開を開始する。
「永続魔法
先攻1ターン目と同様に現れるリンク1の聖天樹。
「さあ、再び現れよ、私たちの道を照らす未来回路!
《
Link2/攻0
【リンクマーカー:左下/右下】
「
スペクター
LP 6700→5700→6700
《
星2/守800
《
星1/守600
《
Link1/攻600
【リンクマーカー:上】
瞬く間にモンスターがフィールドに計4体並ぶ。
「三度現れよ、私たちの道を照らす未来回路!
《
Link3/攻0
【リンクマーカー:上/左/右】
「
《
Link1/攻800→3200
【リンクマーカー:下】
怒涛の連続リンク召喚は終わり、スペクターは謎だった1枚の手札を明らかにする。
「では参りましょう。魔法カード、貪欲な壺を発動! 墓地の
「ここでリソースの回復、ね」
連続でリンク召喚をすれば当然、墓地に大量のモンスターが眠ることとなる。使い切ったはずの
「
高い攻撃力を持つモンスターが連続攻撃できるようになったのを受け、ヴァンガードは動く。
「相手メインフェイズに
《クリフォート・アーカイブ》
星6→4/守備1000
特殊召喚されたためクリフォート・アーカイブのレベルは4となり、また、ペンデュラムカードが増えたので
《
攻2300→2400
ヴァンガードのフィールドにはリンクモンスターとペンデュラムモンスターが2体。
「壁を増やそうと狙いが変わるわけではないのですがね。バトル!
「攻撃宣言時に罠カード、パワー・フレーム発動! その攻撃を無効にし
魔法使いを囲むように出現した直方体の形をしたフレームが攻撃を阻んだ後、空いている片手でフレームをがっしり掴んで装備、ストロングに。……そのカードはおそらくそういう使い方をするものではない、とツッコミをする者はいなかった。
《
攻2400→3200
「ならばもう一度
《
攻3200→4200
攻撃力を上げての二度目の攻撃。ヴァンガードにはもうセットカードはない。この攻撃は通る――そう、スペクターは確信していた、が。
「モンスター同士が戦闘を行うダメージステップ開始時に
効果により除外するはずのカードがデッキから飛び出していったが、それを稀代の
ペンデュラム効果で戦闘破壊は防げるようになったが、ペンデュラムカードである
《
攻3200→3100
花の精の後押しを受けた片刃と、決闘者の加護を得た両刃の剣がかち合う。数号の斬り合いの後、軍配は
攻撃力4200と、攻撃力3100。ヴァンガードへ発生するダメージは1100の半分、550。
ヴァンガード
LP 4000→3450
「
「……おや。互いに、ですか。私はカードを1枚セットしターンエンド。ターン終了時に
複数のカードを使いリンクモンスターを守り抜いたことで、ヴァンガードはエクストラデッキからのペンデュラム召喚が可能となった。が、現在エクストラデッキに存在するペンデュラムモンスターは少ない。
「私のターン、ドロー! スタンバイフェイズ、異次元からの宝札が私の手札に戻る。そして互いに2枚ドローする」
「では有り難く」
これでヴァンガードの手札は6枚、スペクターの手札は2枚に。
「スケール8の
手札にはクリフォート・ツールもあるが、そちらをセットした場合はクリフォートのみしかペンデュラム召喚ができなくなるため、今回はスケールに使うのを見送った。
ペンデュラムカードが増えたことで
「振動せよ、起動せよ! ペンデュラム召喚! 来い、銅鑼ドラゴン! ペンデュラムモンスターがペンデュラム召喚されたことにより、魂のペンデュラムにカウンターを1つ置き、ペンデュラムモンスターの攻撃力はさらに300アップする」
《銅鑼ドラゴン》
星4/守2100
《魂のペンデュラム》
カウンター 1→2
《クリフォート・エイリアス》
攻3100→3400
「クリフォート・アーカイブと銅鑼ドラゴンをリリースし、クリフォート・シェルをアドバンス召喚!」
《クリフォート・シェル》
星8/攻2800→3400
守備表示のモンスター2体をリリースして現れたのは攻撃的な効果を備えた、巻貝のような見目のクリフォート。
「『クリフォート』モンスターをリリースしてアドバンス召喚に成功したクリフォート・シェルは2回攻撃と貫通効果を得る! また、クリフォート・アーカイブがリリースされた場合の効果を
フィールドから離れたアーカイブからの砲撃に対し、スペクターは抵抗しない。
「……チェーンはありません。
たとえ他に『サンアバロン』リンクモンスターがいようと、1枚でも相手の効果で離れれば『サンヴァイン』達は自壊してしまう。
そして、『サンアバロン』達は攻撃対象にならない効果を持つが、この効果が適用されたモンスターのみの場合、直接攻撃を許してしまうというアニメ版の地縛神に似た能力となっている。
ライフポイントを削る絶好の機会。ヴァンガードが逃すはずがなかった。
「クリフォート・エイリアスでダイレクトアタック!」
スペクター
LP 6700→3300
クリフォート・エイリアスの攻撃は通った。一撃で3400を削ったうえに、まだ攻撃可能なモンスターは残っている。
次の攻撃が通れば、ヴァンガードが勝つ。
――このままならば。
「ああそんな、私が、負ける…………? クッ、ハハハハハ!」
突然にスペクターは笑い始める。この状況で精神がやられた? そんな筈はない。芯になる存在が確かならば、スペクターの精神は盤石となる。となれば、残る可能性は。
「まさか!」
「ええ、そのまさかですよ! ダメージを受けたことで永続罠、
《
Link1/攻0
【リンクマーカー:下】
スペクター
LP 3300→6700
「
報いを受けよ、とばかりにカードから放出された無数の電撃がヴァンガードを貫く。
「ぐっ、うああぁああぁ――っ!」
ヴァンガード
LP 3450→50
ダメージを受けた証である無数のノイズがアバターの全身に走る。痛みで身体を支えられなくなったのか膝を折るも、倒れ伏す訳にはいかないと気力で耐える。
「まだ、まだだ……っバトルフェイズを終え、メインフェイズ2、に……移行! 一時休戦、発動! 互いに1枚ドローし、次の相手ターン終了時まで互いに受けるダメージは0になる……!」
「おや、そうきましたか。ではドローを」
残り50――効果ダメージを与えるカードとしてよく知られる火の粉でも、使われてしまえば簡単に吹き飛ぶ数字だ。直接効果ダメージを与えるカードでなくとも、スペクターが回復すればそれが効果ダメージになり敗北に繋がる。
受けるダメージを0にする一時休戦であれば、この状況でもなんとか凌ぐことができる。限界での延命措置が吉と出るか凶と出るかはまだ、二人にも分からない。
痛みが引いてきたのか、息を整えた後にヴァンガードはドローしたカードを使う。
「左腕の代償を発動。手札を全部除外しデッキから魔法カード、天空の虹彩を手札に。また、除外された異次元からの宝札は次の私のターンに手札に戻り、スタンバイフェイズに互いに2枚ドローする」
左腕の代償を発動するターンは魔法・罠のセットができない。が、一時休戦により攻撃を防御するカードを用意する必要は薄くなっている。
ヴァンガードが左手に持っていた手札たちは代償として全て消えたが、それにより手札あった異次元の宝札がまた除外され効果を起動する。
「またですか……少々しつこいですね」
前髪を弄りながら、スペクターは鬱陶しそうに呟く。
どこからでも除外さえできればドローに変わる。相手にもドローさせてしまうデメリットはあるが、使用するカードの傾向を把握している相手ならば対策はなんとでもできる。
「フィールド魔法、天空の虹彩を発動!」
フィールド魔法の発動で、空に模様が浮かび上がる。
それはペンデュラム召喚の演出と非常によく似た、幾度も描かれた振り子の軌跡。
「天空の虹彩の効果で
大仰に一礼し、一人は決闘の舞台から降りる。
次に現れるのは巨大な水晶を背に負うドラゴン。ペンデュラムスケールにいるオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンと似た名前と体躯をした暗色の竜は一鳴きし、光柱の中で浮遊する。
「エンドフェイズにオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンのペンデュラム効果を発動。自身を破壊してデッキから攻撃力1500以下のペンデュラムモンスター、エキセントリック・デーモンを手札に。また、『オッドアイズ』が効果で破壊されたのでアークペンデュラムのペンデュラム効果が発動。デッキからオッドアイズ・ペルソナ・ドラゴンを守備表示で特殊召喚!」
《オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン》
星5/守2400
「私はこれでターンエンド」
一時休戦の適応下であっても油断はできない、とヴァンガードが特殊召喚したオッドアイズ・ペルソナ・ドラゴンにはエクストラデッキから特殊召喚された相手モンスターの効果を無効にできる、という防御に向いた効果を持つ。
スペクターのフィールドには未だ
ライフポイントの差は歴然。
余裕を見せるスペクターに対し起死回生の一手となる神は――未だ、デッキの中にて時を待つ。
スペクターはエクストラリンクを完成させる。
ラスト1ターン、再起を図るは
電脳世界に、真の神が降臨する。
次回の3つ(3体の生贄)
次話はまだ書き上がってないのでデュエル後半の更新はまだお待ちください……!
感想評価で執筆スピードカウンターが増える可能性があったりなかったり(姑息な感想評価稼ぎ)
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幻神招雷
ヴァンガード LP 50 手札1
モンスター
クリフォート・エイリアス レベル8 ATK2800→3200
クリフォート・シェル レベル8 ATK2800→3200
オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン レベル5 DEF2400
魔法・罠
魂のペンデュラム(カウンター 2つ)
パワー・フレーム(
オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン(ペンデュラムスケール8)
フィールド魔法
天空の虹彩
スペクター LP 6700 手札3→4
モンスター
魔法・罠
「私のターン、ドロー。……一時休戦によりこのターンダメージを与えられないのならば、それ以外で追い詰めるまでです。永続魔法
《
星1/守600
幾度となく繰り返された種子の蘇生、それに合わせてスペクターはさらにカードを発動させる。
「相手フィールドに表側表示モンスターが存在し、自分フィールドに攻撃力1500以下のモンスター1体のみが特殊召喚されたことで地獄の暴走召喚は発動できる! この効果により私は
《
星1/攻0
《
星1/攻0
地面を突き破るようにして種子がフィールドに現れ、3体の
「地獄の暴走召喚は相手も自身のフィールドにいるモンスターと同名モンスターを特殊召喚することができます。さあ、何を選びますか?」
「私はクリフォート・シェルをデッキから1体、攻撃表示で特殊召喚する。特殊召喚のため自身の効果によりレベルと攻撃力は下がるが、魂のペンデュラムの効果を受けて攻撃力は600アップし2400に。また、ペンデュラムカードが増えたことで
《クリフォート・シェル》
星4/攻2400
《
攻3200→3300
「現れよ、私たちの道を照らす未来回路! 召喚条件は植物族通常モンスター1体! 私は
《
Link1/攻600
【リンクマーカー:上】
「特殊召喚に成功した
花の精が両手をかざす。聖なる天樹より得た力が光となり、スペクターへと降り注ぐ。
スペクター
LP 6700→7600
「墓地の
《
Link2/攻0
【リンクマーカー:左下/右下】
リンク1が墓地のカードによりリンク2へ変換される。
「現れよ、私たちの道を照らす未来回路! アローヘッド確認! 召喚条件は植物族モンスター2体以上! 私はリンク2の
《廻生のベンガランゼス》
Link4/攻2500
【リンクマーカー:上/左/右/下】
「戻ってきたか……!」
メインモンスターゾーンにいた全てのモンスターを素材に、クリフォート・エイリアスの効果でエクストラデッキに戻していたリンク4が再びリンク召喚される。
「墓地の
「なッ――
薔薇の花を模した黒い印が魔法使いの頬に浮かぶ。ふらふらと引き寄せられるようにスペクターのフィールドへ移った魔法使いはその体を反転し、こちらへ向けて武器を構えた。
エクストラモンスターゾーンにいたモンスターがコントロールを奪われた場合、相手のメインモンスターゾーンへと移動する。ヴァンガードのエクストラモンスターゾーンが開いたことで、スペクターの手でエクストラリンクが可能となった。
「早速有効活用させてもらいましょうか。現れよ、私たちの道を照らす未来回路! アローヘッド確認! 召喚条件はリンクモンスター2体以上! 私は貴方から頂いたリンク3の
リンク1、2、3――どれも青々とした葉を茂らせていた聖天樹。リンク4となり、さらに枝を伸ばし成長。葉は花へと変貌する。
《
Link4/攻0
【リンクマーカー:上/左下/下/右下】
「リンク召喚に成功した
「チェーンしてオッドアイズ・ペルソナ・ドラゴンの効果を
リンク4の聖天樹は回復する効果を持たない。代わりに自身のリンク先にいるリンクモンスターをリリースし、リンクマーカーの数に応じて複数のカードを選んで破壊できる効果を持つ。
ヴァンガードが発動しているフィールド魔法、天空の虹彩にはペンデュラムゾーンにある『オッドアイズ』が相手の効果対象にならなくなる効果がある。が、対象を取らない
「おやおや、効果を無効にされてしまいました。これは少々困りますね……。魔法カード、トライワイトゾーンを発動。墓地の通常モンスター、
「1枚で3体特殊召喚しておいて困ってる訳ないでしょうが」
わざとらし過ぎる演技にヴァンガードは眉を顰める。スペクターの特殊召喚は止まらない。再び種子を揃え、リンク召喚の準備を整える。
「
モンスター効果によるリソース回復。リンク4の廻生のベンガランゼスをリリースするという勿体無いと思える動きだが、ベンガランゼスは墓地からの特殊召喚が可能なため問題はない。
「リンク2の
《
Link3/攻0
【リンクマーカー:上/左/右】
《
星1/守600
「墓地のリンク2モンスター、
「……随分早いお帰りですこと」
またフィールドに帰還するリンク4。この効果で墓地から蘇ったベンガランゼスはフィールドから離れた場合除外されるので、何かしらで一度除去すればその顔をもう見ることはないのが救いか。
「
《
Link1/攻0
【リンクマーカー:下】
二つのエクストラモンスターゾーンが、相互リンクにより繋がった。
❶
❷
❸
❹廻生のベンガランゼス
❺
「エクストラリンク……!」
だが、こちらに向いているリンクマーカーが一つある。このままの状態でヴァンガードのターンが来たならば、エクストラデッキにいるペンデュラムモンスターのペンデュラム召喚ができる。
……でも、スペクターがそれを見逃してくれるとは思えない。
「
《
星2/守800
《
星1/守600
スペクターが使用可能なモンスターゾーンが全て埋まる。手札は1枚、どう動くのかをヴァンガードは注視する。
「手札にこのカードしかないため、魔法カード、オーロラ・ドローを発動。効果でデッキからカードを2枚ドロー……良い引きですね。リンクモンスター以外の自分のモンスターがリンクモンスターとリンク状態になっているためクロス・リンケージ・ハックを発動。デッキから2枚ドローします」
スペクターの手札は1枚から3枚へ。まだドロー系のカードがあったか、とヴァンガードは気を引き締める。
「
《
Link1/攻800→4000
【リンクマーカー:下】
そのリンク1は
「
精霊の力により高まる剣気。ヴァンガードのフィールドにいるモンスターも4体であり、攻撃力・守備力共に4000へ届いているものはいないため、戦闘破壊されてしまうだろう。
「せっかくのエクストラリンクですが、こちらの方が今の貴方に対しては効果的ですね――
《
Link3/攻0
【リンクマーカー:左下/下/右下】
「……っ! 一番されたくないことをしてくるよね本当にね!!」
エクストラモンスターゾーンにいた2体を含めたリンク召喚により、エクストラリンクは崩れた。……エクストラリンクの美しさよりも優先するべきは勝利だと分かっているからこその一手だ。
リンク4の聖天樹は回復効果を持たない。
ヴァンガードのフィールドには4体のペンデュラムモンスター。前のターンに発動した一時休戦によりダメージは受けないが、効果で4回攻撃を可能とする
「さあ、バトルと行きましょうか! ベンガランゼスでオッドアイズ・ペルソナ・ドラゴンに攻撃!」
ベンガランゼスの腕に胴を貫かれ、竜は悲鳴と共に破壊される。その悲鳴に呼応するかのように、ペンデュラムスケールのオッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴンの水晶が輝きだす。
「オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴンが戦闘破壊されたことでアークペンデュラムのペンデュラム効果を発動! デッキからオッドアイズ・ウィザード・ドラゴンを特殊召喚!」
《オッドアイズ・ウィザード・ドラゴン》
星7/攻2500
黒の装甲を纏い、両手にペンデュラムカラーの魔法陣を携えた竜が水晶の輝きに導かれ、フィールドに降り立つ。
「攻撃力が足りない上にペンデュラムではないモンスターを特殊召喚するとは愚かな!
攻撃力が足りていない。そんなことは分かった上でヴァンガードは特殊召喚した。
「モンスターを戦闘破壊し墓地へ送ったことで
「相手によって破壊されたオッドアイズ・ウィザード・ドラゴンの効果発動! デッキからオッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴンを特殊召喚し、その後、デッキから螺旋のストライクバーストを手札に!」
ヴァンガードの本命はこちらの効果。手札を増やし、次のターンへ繋げるためにこそ戦闘破壊を狙えるオッドアイズ・ウィザード・ドラゴンを特殊召喚したのだ。
聖天樹から伸びる蔦によって墓地から引き上げられる途中、美しき二色の眼は最期の抵抗としてヴァンガードのデッキから1枚のカードを託し、後を引き継ぐモンスターを特殊召喚する。
《オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン》
星7/攻2700→3300
「オッドアイズ・ウィザード・ドラゴンは地獄の暴走召喚で特殊召喚されたクリフォート・シェルへ、
蔦に操られ無理やりに突撃させられるオッドアイズ・ウィザード・ドラゴンがクリフォート・シェルを討ち取る。
残るクリフォート2体とアークペンデュラムは剣士を近寄らせまいと砲撃とブレスで応戦するも、剣士はその全てを回避して懐に潜り込んだ。剣を振るい、3体のモンスターを両断する。
「オッドアイズ・ウィザード・ドラゴンを墓地に送り
《
Link1/攻800→3200
【リンクマーカー:下】
❶
❷
❸
❹
❺廻生のベンガランゼス
❻
――再び、エクストラリンクが完成する。
「カードを2枚セットしてターンエンド。完成されたエクストラリンクはペンデュラムを使う貴方には崩せるはずがない。ライトニング様に歯向かった罪を悔い改めて……いや、その価値すらない。無様に負けなさい」
スペクターが自信満々に言い放つのも無理はない。
ヴァンガードのフィールドにいたモンスターは全滅。何かしらの妨害手段がないまま効果モンスターを出せば敗北。残り50のライフポイント程度、簡単に削り取れる。
「まだデュエルが終わった、と決まってもないのにその発言をするのはどうかと思うけどね」
どれほど絶対絶命の状況であろうと、カード1枚でひっくり返る可能性があるのがデュエルだ。
ヴァンガードは迷うことなく、デッキからカードを引いた。
「私のターン、ドロー! スタンバイフェイズに異次元からの宝札が手札に戻り、互いに2枚ドローする!」
――ベンガランゼスがいるが、効果モンスターを使わずにこの状況を突破するのは難しい。ベンガランゼスが効果を使ったら何かで無効にするか、あるいは通常モンスターを超強化して攻撃をしてくるか。
聖天樹がある今、ヴァンガードが勝つには一撃でライフポイントを削る攻撃をするか、回復をバーンにできる
フィールドに出したモンスターの効果を使うならばセットしてある
また、墓地に
――負ける要素は無い。スペクターは確信する。
「螺旋のストライクバースト、発動!
「無駄なことを!
「ライフを半分支払い、手札からカウンター罠レッド・リブートを発動ッ! ポリノシスの発動を無効にし、そのカードをそのままセットする! このカードの発動後、相手は罠カードを発動できない!」
「なっ…………!?」
レッド・リブート――リボルバーが使用したこともある、手札から発動が可能な罠カード。それにより、螺旋のストライクバーストの破壊効果は通った。
スペクターの残るセットカードも罠カード。ヴァンガードの一手で妨害の一部が停止する。
ヴァンガード
LP 50→25
「ぐっ……ですが、植物族モンスターがリリースされたので墓地の六花精エリカの効果が発動。守備表示で特殊召喚します」
《六花精エリカ》
星6/守1000
スペクターのフィールドにはモンスターが6体。万が一、聖天樹達を突破された場合の壁を用意する。
先程までの強気な態度はみるみるうちに変わっていく。……男の中で、何かが揺らぎ始めている。
「私のターンのメインフェイズに相手がモンスター効果を発動したので魔法カード、三戦の才を使用! デッキから2枚ドローする効果を選択して発動し――スケールにオッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴンをセッティング! ファンタズマのペンデュラム効果で手札の異次元の宝札を捨て、エクストラデッキに表側表示で存在するオッドアイズ・ペルソナ・ドラゴンを手札に加える」
スペクターの動揺などつゆ知らず、ヴァンガードはこのターン手札に戻ってきた異次元の宝札をコストにし、このターンで勝つために必要なカードを回収する。
「天空の虹彩の効果! ペンデュラムゾーンのオッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴンを破壊し、手札にオッドアイズ・アドバンス・ドラゴンを加える。そして『オッドアイズ』が破壊されたことでアークペンデュラムのペンデュラム効果発動! 墓地からオッドアイズ・ウィザード・ドラゴンを特殊召喚!」
ヴァンガードが呼び出したのは効果モンスター。ベンガランゼスの効果を使えばダメージを受けて手札に戻すことができるが、もう彼のフィールドに
……ヴァンガードは何かをしようとしている。ただ、それを止めるには何から切り崩すべきなのか、それが分からない。
頭が回らない。手が鈍る。
どうしてなのだろう。ライトニング様――ではなく、このデュエル映像を見ている先に居る、あの男。ハノイの騎士のリーダーのことが、どうしても気になってしまう。
「レベル7のオッドアイズ・ウィザード・ドラゴンをリリースし――オッドアイズ・アドバンス・ドラゴンをアドバンス召喚!」
それはオッドアイズ・ドラゴンの一つの可能性として存在する、ペンデュラムではなくアドバンス召喚の名を冠するドラゴン。
発達した二脚で大地を駆けるのではなく、新たに得た翼で空を舞うことを選んだ竜は、地に生える植物らを見下ろし咆哮する。
《オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン》
星8/攻3000
「レベル8のモンスターを1体のリリースで召喚した!?」
「オッドアイズ・アドバンス・ドラゴンはレベル5以上のモンスター1体をリリースすることでアドバンス召喚が可能なモンスター。――この程度で驚くほど本当のスペクター様は弱くなかった! アドバンス召喚に成功したことで効果発動!
「破壊効果持ち……! 墓地の
オッドアイズ・アドバンス・ドラゴンが樹を焼き尽くさんと放ったブレスは、大樹を覆うようにして現れた薄桃色の障壁に防がれる。
「よし、1枚消費させた……埋葬呪文の宝札を発動。墓地の魔法カード3枚を除外してデッキから2枚ドロー。手札のオッドアイズ・ペルソナ・ドラゴンをペンデュラムスケールにセッティング! これにより、レベル2から7までのモンスターが同時にペンデュラム召喚が可能となる! ――振動せよ、我が魂。起動せよ、我がしもべ達! ペンデュラム召喚! 手札からエキセントリック・デーモン、クリフォート・アーカイブ、聖鳥クレインをペンデュラム召喚!」
《エキセントリック・デーモン》
星3/守1000
《クリフォート・アーカイブ》
星6→4/守1000
《聖鳥クレイン》
星4/守400
悪魔に機械に鳥、統一性が無いモンスターを一気に特殊召喚する。
「特殊召喚に成功した聖鳥クレインの効果で1枚ドロー。ペンデュラムモンスターがペンデュラム召喚されたことで魂のペンデュラムにカウンターを1つ置く。それじゃあもう一度挑戦してみようか――エキセントリック・デーモンをリリースして効果発動!
「ぐうっ……
キャハハと悪魔が大きく口を広げて笑う。フィールドから消え、表側でエクストラデッキに加わった後に禍々しい魔力球を放つも、再び現れたバリアによって防がれた。
……が、これでスペクターの墓地から
「真実の名を発動。自分のデッキの一番上のカードをめくり、宣言したカードだった場合、そのカードを手札に加える。さらに、デッキから
「…………神属性、だと……?」
デュエルモンスターズに存在する属性は6つだけのはずだ。神、そんなものは聞いたことがない。
本当に神が現れるとすれば、その効果は絶大だろう。エクストラリンクさえ、容易く覆されるやも……。
「いや、デッキトップを操作するような効果は発動していない。外れる可能性の方が大きいはず……!」
スペクターは運任せの効果が成功するはずがない、と否定する。
「それはどうかな? 私は――超電導波サンダーフォースを宣言。デッキよ、秘めたるその名を示せ!」
笑みを浮かべて返答するヴァンガード。彼女は既にデッキから溢れる雷を、神の力の一端を感じ取っている。
デッキの一番上にあるカード1枚程度、外すはずがなかった。
真実の名の効果処理により、デッキトップのカードが自動的に開示される。カードのフレームは緑色。そして名前は、
「一番上にあるカードは超電導波サンダーフォース! 故に、神を我が手に加える!」
デッキが閃光を放ち、ヴァンガードの手へ雷が落ちる。その正体は二つの口を持つ赤い竜のイラストが描かれた1枚のカード。
「なんだ……この力は……!?」
手札に加わっただけ。それだけで、電脳世界に暗雲が垂れ込み大地が揺れる。
『ザザ――ヴァンガード、一体な――こっちにも黒い雲――出――!』
草薙からノイズ混じりの通信が入る。どうやら現実世界にも影響が出ているようだ。
「まさかここまでとはね。張り切りすぎじゃないかな」
歴史上、名のある神が顕現したことが無い世界。神を受け入れるための土台が不安定である、ということか。
余計な影響を与える前にデュエルを終わらせなければならない。すでに使用した通常召喚権を補うためのカードを発動させる。
「速攻魔法、神速召喚! この効果により、3体のモンスターを生贄に捧げる――!」
ヴァンガードが発動した魔法カードにより、3体のモンスターは消えて竜の形をした稲妻となり、神殿の天井を貫き、破壊。
何故か二人の決闘者を避けるようにして瓦礫が落ちる中、渦を描くようにして雷竜は暗雲立ち込める空へと昇る。
「時を超え、次元を超えなお語り継がれる神よ! 我は失われし
無数の雷鳴。それは遊戯の王が忘れられていないと世界に宣言したことによる歓喜か、本来ならばいないはずの真なる神を十全に扱う決闘者へ対する恐怖か。
神を迎え入れる道を作るように雷が落ちる。
「――今こそ招来せよ! オシリスの天空竜!!」
暗雲を引き裂き天より降り立つは、デュエルフィールドである神殿内に入りきらぬほど長大な身体を持つ赤きドラゴン。
閉じられた二つの口のうち、下側が開き雄叫びを上げる。黄金色の目は相手を見据える。
《オシリスの天空竜》
星10/攻X000→1000
「オシリスの天空竜の攻撃力は手札に依存する。今、私の手札は1枚。よって攻撃力は1000となる」
「……ハ、ハハハ! 3体リリースしてたった攻撃力1000のモンスターとは、神とはどうやら名ばかりだったようですね!」
攻撃力の高い低いだけで判断する。それは実力のある決闘者としてはとても危険な兆候だ。それに自身が気づいていない、という状況にヴァンガードは顔を少し歪めたが、男は気付くことはなかった。
「……神の生贄となったクリフォート・アーカイブの効果!
「手札より
《
星1/守0
祈りを捧げるように手を組み現れた幼い精霊が、母なる木を守る。
――モンスターが、特殊召喚された。
「この瞬間、オシリスの特殊能力が発動する! 召雷弾!」
「召喚反応型の効果!? まずい――」
上の口が開き、神の目の前に現れた不敬なるモンスターへと雷撃を放つ。どうしてか破壊はされていないが、その体は一部焼け焦げて痛々しいものになってしまった。
「オシリスは相手フィールドにモンスターを召喚した瞬間、その表示形式に応じて2000ポイントのダメージを与え、0になったモンスターを破壊する。元々が0のモンスターは破壊することができないけど、紛れもなく神の力だ。これを受けても神を名ばかりと呼べるなら大したものだけど……どうやら違うみたいだね」
オシリスの召雷弾の余波により起きた風でスペクターの髪は乱れ、服も砂埃で汚れ……その顔には、神への恐れが滲んでいた。
「そうだ、ベンガランゼスの効果! 攻撃力分のダメージを受け、手札に戻す! これで!」
スペクター
LP 7600→6600
ベンガランゼスが木々を束ねた巨大な投げ槍を投擲するも、オシリスは動じない。当たるが……何も起きない。鬱陶しそうに神は唸る。
「……なっ、何故!?」
「低級モンスターの効果は神には通用しない」
「リンク4が……低級……!? っ
リンク4とは、リンクモンスター全盛の今ではまさしくエースとなる強力な効果を持つカードだ。
それを迷いなく低級と言い捨て、実際に通用していないのを見てしまった。聖天樹の効果によりライフポイントを7600に戻したが、余裕などどこにもない。
残る1枚の手札をヴァンガードは使用する。
「手札より速攻魔法、超電導波サンダーフォース発動! スペクターのモンスターをすべて破壊する! オシリスよ、薙ぎ払え!」
オシリスの攻撃名と同じ名前のカード。オシリスがいなければ発動できないが、そのぶん効果は強烈無比。
神は下の口を開き、スペクターのフィールドにいる7体のモンスターへ雷霆を浴びせる。
「この効果で破壊され、墓地に送られたモンスターの数だけ私はドローできる。墓地から自身の効果で特殊召喚されたベンガランゼスとエリカはフィールドから離れた時除外されるため、合計5枚をドロー。また、このターン私はモンスター1体でしか攻撃できなくなる」
《オシリスの天空竜》
攻1000→5000
1体のみ。デメリットのように言われようと、ヴァンガードのフィールドにはオシリスの天空竜しかいないのだから、その程度は問題にならない。
「ペンデュラムゾーンのペルソナとアークペンデュラムを破壊し、オシリスを対象に魔法カードペンデュラム・ブーストを発動。対象の攻撃力はこの効果で破壊したモンスターのレベルの合計×100ポイントアップし、1度のバトルフェイズにこの効果で破壊したカードの枚数分まで攻撃できる――ペルソナとアークペンデュラムのレベルの合計は12。よってオシリスの攻撃力は1200アップし、2回攻撃が可能となる!」
手札が減ったことでオシリスが弱体化するが、それを補って余りあるサポートが発動された。
《オシリスの天空竜》
攻4000→5200
「神は魔法の効果を1ターンしか受けられない。決めさせてもらうよ」
残り7600、ヴァンガードは削り切る準備が整った。
スペクターの手札には相手の直接攻撃宣言時に特殊召喚できる
もし特殊召喚を介さない別のカードで攻撃を防げたとしても、オシリスの前にはどのようなモンスターも破壊されてしまう。……それ以前に、スペクターはエクストラデッキをほぼ全て使い切った。
もう、戦うことはできない。
「オシリスでダイレクトアタック! 超電導波サンダーフォース、第一打!」
「ぐっ、ああああぁぁあああ――!!」
スペクター
LP 7600→2400
神の攻撃により、スペクターは地面に膝をつく。
「これでトドメだ! 超電導波サンダーフォース、第二打――!」
見上げる。その先にあるのは、ヴァンガードでも神でもなく。
あの映像の向こう側にいる、自分を救ってくれた大切な人。
「………………誠に申し訳ありません、リボルバー様――」
スペクター
LP 2400→0
神の攻撃による衝撃と熱は、男の頬に流れた涙を跡すら残さず蒸発させるには十分すぎた。
「……しまった、なあ」
デュエルを終え、使用したカード達が元に戻り残るのは静かな神殿だけ。
頭がくらくらする。まともに立っていられない。神を使った反動だ。
神の召喚には
彼女は原作知識により王の名を知っているという一点で神を扱う資格を持っているが、神を負担なく扱えるだけの魂が伴っているわけではない。回復にはかなりの時間を要するだろう。……でも、今じっとしているわけにはいかない。
デュエルに集中していて観戦の声が全然耳に入らなかった。プレイメーカーは、ボーマンは一体どうなったのか、ライトニングは何か新たな策を講じていないか、神の召喚が向こうに悪影響を出してないか……いろんなことを確認しようとして、
「初めまして。そしてサヨナラ」
笑みを浮かべる誰かにより、ヴァンガードの意識は閉ざされた。
その事実をライトニングは知ってしまった。
己のシミュレーションを何としても成し遂げるため、
怒るライトニングはニューロンリンクを起動させる。
同胞の凶行を止めるため、今、Aiが立ち上がる。
頂点に立ったつもりか?」
ヴァンガードのクリフォートデッキは【オッドアイズオシリスクリフォート】へと進化した!
ペンデュラムゾーンにはクリフォート以外を置くことでクリフォート以外も特殊召喚出来るようにし、ドロー効果持ちのカードを大量に使ってペンデュラム展開とオシリスのサポートをするぞ!
EM稀代の決闘者でデッキから異次元からの宝札(アニメカード)を除外したり、手札にきたら左腕の代償で除外したり、墓地に落ちたら埋葬呪文の宝札(アニメカード)で除外してドローしてくるぞ!
よいこのみんなはまねしないでね。しないか。
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カオス・イグニッション
今回のデュエルは互いにアニメ寄りかな、と作者が勝手に思いながら作ったデュエルとなります。天装騎兵はアニメカードオンリーなのでプレミやルールミスがあったら作者が爆発四散します。
あとハーメルンに5D's二次創作の波がきているな……とXに創作のネタ呟いたらフォロワーに書け連載しろと言われたので5D's二次創作も書き始めました。そっちもよかったら読んでください!完結してないのに連載を増やすなと言われたら作者は爆発四散します。
神の召喚。ミラーリンクヴレインズ内の他の場所へもその力の凄まじさは伝播していた。大気が揺れ、大地が轟き、電脳世界の構造物にノイズが走る。
デュエルの進行に影響はない。だが、思わず手を止めてしまうほどのプレッシャーを決闘者達は感じていた。
「お、おわあああー!?」
「コレは……モンスターの力、なのか……!?」
それはボーマンとデュエルをするプレイメーカーらも例外ではなかった。デュエルディスクから上半身を出していたAiは、風圧で吹っ飛んでいかないように両手でデュエルディスクを必死に掴んでいる。
……ライトニングは気付いてしまった。
誰もがヴァンガードの呼び出したモンスターに驚く中、ボーマンだけが「流石、神のカードの力だ」と
「……知っていたのか? ボーマン。この未知の正体を」
ボーマンの後ろにライトニングが現れる。その顔は焦っているように見えた。
本来ならばライトニングは使い捨てたスペクターの最期を確認し、それを材料にリボルバーを叩き潰そうとしていた。その予定を変更してまでボーマンへと確認しなければならない重大な問題が明らかになったのだ。焦らないはずがない。
「元より隠し通そうとは思っていなかったのだが――肯定しよう。私は彼女の持つ知識と力は有用だと判断した。それに伴い必要となる情報については共有されている」
「また、ヴァンガードか……あいつが……またしても私の邪魔を……ッ!!」
ライトニングは溢れ出る怒りのまま頭を掻きむしる。
「ヴァンガードがボーマンと……? まさか、デミウルギアを使ったデュエルをしていたあの時にか!?」
グラドスを伴っていたあのタッグデュエルはボーマンらを倒すためではなく、交渉のためのものだった。その事実をプレイメーカー達はようやく知る。
「………………ああ、そうか。ならばリセットしなくては……」
ライトニングは手に浮かべた何かを起動させようとしている。とてつもなく嫌な気配をリンクセンスが訴える。
「それを使うのか。最終手段ではなかったのか?」
「使うしかないだろう。あの女がいる、それだけが我々の知らない破滅の世界に繋がるのだ。私がシミュレーションして見えた破滅ならば、ボーマンにより乗り越えることができる! だから、アイツはなんとしてでもここで排除しなければならない!」
そう言い切ると同時にライトニングが起動したそれは空へと打ち上がり、破裂――データストームを取り込み巨大な光球へと変貌する。表面から無数の光線が発射され、リンクヴレインズにいる人々を襲い始めている。
『な、なんだこれ――うわあぁぁあ!』
光線に触れたアバターは悲鳴をあげるも、瞬時に光の粒子に分解、光球へと吸収された。
「これがニューロンリンク――人間の意識データを使いデータストームを作り出す! ヴァンガードを排除するにはあの未知を上回る力を得ればいい、それだけのこと! 幸いにも原材料がリンクヴレインズには山ほどある!」
「やめろライトニング!」
プレイメーカーの制止の声など聞こえていないのか、ニューロンリンクのあるミラーリンクヴレインズ上空へとライトニングは向かっていく。
あの言い方ならば何百何千と人間を使いデータストームを作るつもりだろう。何としてでも止めなければならない。
何かに気付いたAiはハッとした後、ボーマンへ懇願するように叫ぶ。
「おいボーマン! お前のいう事ならライトニングも聞くかもしれないんだ! 止めてくれよ!!」
「……彼女の示した道とライトニングのシミュレーションのどちらが優れているか、コレでわかる。私も情報の共有はしたがそれを完全にモノにしたわけではないからな。AIと人間の未来を決めるにあたり、ニューロンリンクは必要な障害となるだろう」
「ふ……ふざけるんじゃねえ! 全く関係ない人間も巻き込んでおいて必要な障害はねえだろ! これはオレたちでカタをつければ済む話だ!」
「俺たち……? 今起きているのがそのような小さな単位の話ではない、とわかっていないのか? 既に人間全てが当事者なのだ」
Aiが怒鳴る。ボーマンは微動だにしない。
『聞いてくれプレイメーカー。あのニューロンリンクだが、財前主導でリンクヴレインズにいるゴーストガールとブラッドシェパード、ヴァンガードの元部下達による情報操作で突発的なイベントとして対応してもらっている……だがそれも長くは保たない。パニックが起きるだろう。根本的に解決するには光のイグニスを倒すしかない』
『なんなのですかこれは! こんな汚らしいものに人間を巻き込もうなど! クッ……処理が追いつかない!』
焦る草薙の声。対イグニスのため作られたパンドールも動いているが、解決は難しそうだ。
プレイメーカーがボーマンを倒した後にライトニングも止めて……いいや、それだと遅すぎる。
誰かが今すぐに、ライトニングを止めなければならない。
幸いにも、デッキを得た決闘者たるイグニスが一人、ここにいる。
プレイメーカーのデュエルディスクから抜け出し、彼と視線を合わせる。
「Ai……? まさかお前!」
「どうやらリボルバー先生はこっちには来れないみたいだしな。世界の救世主にちょっくらなってくるわ! ――ここは任せたぜ、プレイメーカー」
「そう、か。頼んだぞ――相棒」
相棒。その単語を聞いたAiは目を丸くする。
おう! と威勢よく返事をし、ライトニングの後を追ってAiは飛び立っていった。
高く、高く。真横に来たあたりでライトニングは動きを止めた。ちらりと下へ視線をやれば、さっきまで隣にいたプレイメーカーの姿が豆粒のように小さく見えた。
「……不愉快だ。無駄な抵抗だとわからないのか? ニューロンリンクは既に起動した。後は人間達がデータストームになるのを待つのみだ」
「無駄なんかじゃねえ。リンクヴレインズにいる人間をとっ捕まえてデータストームに変換するには、お前がどれだけすごいイグニスだろうと必ず時間がかかる。だから今ここで止める! これ以上
「もういい、これ以上の問答は不要だ。デュエルで片をつけるとしよう」
ライトニングが指を鳴らせば、目の光は失われたままの草薙仁が彼の隣へと転移。ライトニングの操り人形はデュエルディスクを構える。
Aiはカードを操る代理となる人間を呼び出さず、イグニスである自分のサイズに合ったデュエルディスクを作成、展開する。
「オレの先攻! 手札からピカリ@イグニスターを召喚するぜ!」
《ピカリ@イグニスター》
星4/攻1200
白い帽子を被った黄色いサイバースはフィールドに出ると同時、ピカ〜と気の抜けるような鳴き声をあげる。
「光属性のサイバース族モンスター、だと?」
あり得ない。イグニスは自身の属性に応じたサイバース族モンスターを使ったデッキを組むものだ。闇のイグニスがよりにもよって光のイグニスが知らない光属性モンスターを使うなど、普通なら考えられない。
「まさか、貴様!」
「そうさ、これはお前が壊したサイバース世界に残ったデータマテリアルから作ったカード。オレが新しく作ったサイバースはこれだけじゃない。――【@イグニスター】、これはイグニス皆の力があったからこそ作れたデッキだ! 召喚に成功したピカリの効果でデッキから『Ai』魔法カード、イグニスターAiランドを手札に加える。そしてそのまま発動!」
フィールド魔法が風景に反映される。そこはAiの考える楽しいが詰め込まれた、Aiの頭部を模した形の島。ジェットコースターに観覧車、大きなお城に巨大Aiちゃん像。花火も打ち上がる。
……偶然だろうか、ロボッピの扱っていた【機塊】のフィールド魔法と似た、遊園地をモチーフとしている世界だった。
「ふざけた真似を……!」
「現れろ、闇を導くサーキット! 召喚条件はレベル4以下のサイバース族モンスター1体! オレはピカリ@イグニスターをリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク1、リングリボー!」
《リングリボー》
Link1/攻300
【リンクマーカー:左下】
『グリグリングーッ!』
そのリンクモンスターはAiがとても気に入っていたリンクリボーと似ているが細部が違う。目つきが悪く、尻尾も真っ直ぐではなくギザギザ。ライトニングの覇気に負けることなく睨み返す。
「自分メインモンスターゾーンにモンスターがいないため、イグニスターAiランドの効果を発動! 手札からアチチ@イグニスターを特殊召喚! 特殊召喚に成功したアチチの効果でデッキからドシン@イグニスターを手札に加えるぜ」
《アチチ@イグニスター》
星2/守800
「このターン、オレは元々の属性が同じ『@イグニスター』をイグニスターAiランドの効果で特殊召喚できず、サイバース族しか特殊召喚できなくなる。まだまだ行くぜ! 自分フィールドに『@イグニスター』が存在するため、手札からヒヤリ@イグニスターを特殊召喚!」
《ヒヤリ@イグニスター》
星1/守400
アチチーッ! ヒヤ〜、と@イグニスターそれぞれが名前に応じた声をあげる。これでAiのフィールドにモンスターが3体並んだ。
「もう一度現れろ、闇を導くサーキット! 召喚条件はカード名が異なるモンスター3体! オレはリングリボー、アチチ、ヒヤリの3体をリンクマーカーにセット! ――暗影開闢! 世界に散らばりし闇夜の英知! 我が手に集い覇気覚醒の力となれ! リンク召喚! 現れろ、リンク3! ダークナイト@イグニスター!」
《ダークナイト@イグニスター》
Link3/攻2300
【リンクマーカー:左下/下/右下】
それはAiが最初に作った@イグニスター。プレイメーカーの使うデコード・トーカーと共通点が多い闇属性の騎士。
大きく違うのはリンクマーカーが自身のフィールドのみを向いている点と、墓地の仲間を呼び戻すことに特化した効果か。
「自分メインモンスターゾーンにモンスターがいないため、再びイグニスターAiランドの効果を発動! 手札からドシン@イグニスターを特殊召喚!」
《ドシン@イグニスター》
星1/守800
「成る程。その不快なフィールド魔法で同じ属性を特殊召喚不可という制限があるのは、その効果に発動回数の制限がないためか」
先ほど特殊召喚されたアチチは炎属性で、今特殊召喚したドシンは地属性。イグニスと同じ6ある属性を全て投入したデッキならば、その属性の多さを補佐するカードを作るのは必然。
「理解がお早いこって……ダークナイト@イグニスターのリンク先にモンスターが特殊召喚されたことで効果発動! 墓地からレベル4以下の『@イグニスター』モンスターを可能な限りこのカードのリンク先となる自分フィールドへ効果を無効にして特殊召喚する! 蘇れ! アチチ、ヒヤリ!」
リンク素材となったモンスターのうち2体がまたフィールドに並び、ダークナイト@イグニスターのリンク先が全て埋まった。Aiは迷うことなく更なるリンク召喚を行う。
「三度現れろ、闇を導くサーキット! 召喚条件はサイバース族モンスター2体以上! オレはドシン、アチチ、ヒヤリの3体をリンクマーカーにセット! ――気炎万丈! 炎の大河から蘇りし魂、灼熱となりてここに燃え上がれ! リンク召喚! 現れろ、リンク3! ファイアフェニックス@イグニスター!」
《ファイアフェニックス@イグニスター》
Link3/攻2300
【リンクマーカー:左/右/下】
翼と脚から炎を放出し、不死鳥が騎士のリンク先へと舞い降りた。赤い鎧を纏うその姿は、不霊夢とソウルバーナーが使う
「魔法カード、Aiマインを発動! 自分フィールドのリンク3以上の『@イグニスター』モンスターの種類の数だけ、自分のデッキからカードをドローする。オレのフィールドにはリンク3のダークナイトとファイアフェニックスの2体がいる。よって2枚ドロー! これでオレはターンエンドだ」
手札を3枚に増やし、ターンエンドを宣言する。
「私のターン、ドロー。魔法カード、アカシックレコードを発動してカードを2枚ドローする。また、この効果でドローしたカードが今までプレイしたカードと同じ場合はドローしたカードを除外する。被りはない」
ライトニングの指示に従い、仁はデッキからドローしたカードをそのままサッ、とこちらに一瞬見せる。魔法カードを示す緑はどこにもない。
「お前はまだそのカードしか使ってないから、実質強欲な壺とおんなじってワケか」
アカシックレコード。それは全ての事象が記録されているという世界記憶。ファンタジーやらSFやらで聞くことのある名前だ。
「にしても結局オカルト肯定してるじゃねえか」
「有用な効果ならいかなる名前であろうと決闘者は使うだろう。合理的に考えろ」
「…………」
正論を言われたので何も言い返せず口をつぐむAi。
Aiのフィールドにいる2体のリンクモンスターの属性は闇と炎。人間と共に歩もうとするAiと不霊夢の力から産まれたものが敵対する……ライトニングにとっては不快な盤面だ。
「下らない……そのようなもので我らイグニスの頂点に立ったつもりか? 私よりも優れていると、そう証明したいのか?」
「違う、そうじゃない! 俺はただ、皆の力を合わせれば――」
「黙れ! その顔も、声も、プログラムコードの一欠片も見たくない! 魔法カード、ライトニング・ストームを発動! お前のモンスターを全て破壊する!」
ライトニングの使用したカードによりフィールドに雷風が吹き荒れる。雷に撃たれ、Aiのリンクモンスター達は破壊される。
「ああっ! ダークナイトとファイアフェニックスが!」
「これで目障りなモンスターはいなくなったな。
《
星2/攻0
長剣を手にした戦士の石像。その体から光のオーラが溢れ、デッキからライトニングの操るカード達の展開に欠かせないフィールド魔法を呼び寄せる。
「フィールド魔法
フィールド魔法が新たに風景へ反映される。イグニスターAiランドはAiのフィールドのみに影響するようにくっきりと境界線が敷かれ、ライトニングの方へ古代ローマの闘士達が戦いを見せ物としていたコロッセオが建造される。
「いでよ、光を導くサーキット! 召喚条件はレベル4以下の『アルマートス・レギオー』モンスター1体! 私は
《
Link1/攻1000
【リンクマーカー:下】
デクリオ――それは古代ローマ軍における下級士官であり、十人隊長を意味する。隊長でありながら彼のリンクマーカーへと付き従う兵士はいないが、それはこれから招集される。
「手札から
《
星2/守800
「ぐぬぬ……」
ライトニングのデッキが回り始めたというのに、Aiは見ているだけで止めようとしない……いや、できないのだ。
「妨害は……手札誘発も無しか。では遠慮なく行かせてもらおう」
――スペクターとの戦いで先攻からエクストラリンクを決めた展開をなぞる。リンクモンスターが絡んでいる以上、エクストラモンスターゾーンは封じておくに越したことはない。
連続したリンク召喚と何度も発動するフィールド魔法の効果。さらにピルス・プリオルの効果により、次のライトニングのターンで3枚の手札増強をおまけのように足され……完成した盤面を見てAiは驚愕する。
「マジかよ、エクストラリンクってソレもありなのかよ……!」
「素晴らしいだろう? これこそ私が作り出した
①
②
③
④
❶
――リンク魔法を絡めたエクストラリンク。全てのカードが相互リンク状態という一切の無駄がない盤面。低リンク数モンスターが多く攻撃力に難がある点はリンク魔法とモンスター効果でカバーが可能。
「プリミ・オルディネスの効果により、戦闘ダメージは自分フィールドの相互リンク状態のカードの数×1000ダウンする。さあ、くだらない絆とやらでこれが突破できるか? カードを1枚セットしてターンエンドだ」
皆の力の結晶を見下している、その事実に憤慨するAiはライトニングへ言い返しながらデュエルを続行する。
「絆はくだらなくなんかねえ! オレのターン、ドロー! ……へへ、流石にこれは予想できなかっただろ! スタンバイフェイズにライトニングストームで破壊されたファイアフェニックスの効果が発動! 蘇れ、ファイアフェニックス@イグニスター!」
《ファイアフェニックス@イグニスター》
Link3/攻2300
【リンクマーカー:左/右/下】
不屈の魂ここに在り、と墓地より不死鳥が飛翔。フィールドへと帰還する。
「クッ……」
エクストラリンクが封じるのはエクストラモンスターゾーンへの特殊召喚。ファイアフェニックスのリンクマーカーは横にも向いているため、メインモンスターゾーンでのAiのリンク召喚を許してしまう。
「手札からキ-Ai-とAiドリング・ボーンを発動! 墓地のヒヤリとドシンを特殊召喚するぜ!」
《ヒヤリ@イグニスター》
星1/守400
《ドシン@イグニスター》
星1/守800
「それじゃお次はアクアとアースの番だ! ヒヤリの効果でフィールドのファイアフェニックスをリリース! デッキからレベル5以上のモンスター――儀式モンスターのウォーターリヴァイアサン@イグニスターを手札に加え、また、ヒヤリのレベルは1から4に変化。さらにリンクモンスターをリリースしたことでデッキからAiの儀式を手札に加える!」
「リンクモンスターをリリースするだと……それに儀式……!? まさか、リンク召喚だけでなく他の召喚方法も使うというのか!?」
「プレイメーカーはあれからリンク召喚だけじゃないデッキになってきてるんだ、相棒のオレもリンク以外を使うのは当然だろーが! ドシンの効果発動! 墓地のダークナイト@イグニスターをエクストラデッキに戻し、デッキからAiラブ融合を手札に加え――そのまま発動! ドシンと相手エクストラモンスターゾーンにいるデクリオンを融合素材にする!」
「何だと!?」
互いのモンスターが融合召喚の渦に飲み込まれる。
「謳え大地よ! 破滅の巨人の誕生を祝福せよ! 融合召喚! アースゴーレム@イグニスター!」
《アースゴーレム@イグニスター》
星7/攻2300
アクアとアースが使うクリスタルハート、その意匠を持つ岩石の巨人。己を構成する地属性のデータマテリアルが騒ぐのか、オオオオオ! と光のイグニスに向け戦意を込め咆哮する。
「相手モンスターを使用した融合……! よくも我がエクストラリンクを!」
「へへっ、不霊夢の野郎だってやってたことだぜ? 一度見りゃオレだって真似出来るんだよ!」
特殊召喚の素材に使う、というデュエルモンスターズで上位に位置する除去によりライトニングのエクストラリンクは崩れた。
「儀式魔法、Aiの儀式発動! この儀式魔法は自分フィールドに『@イグニスター』モンスターが存在する場合、自分の墓地の『@イグニスター』モンスターもリリースの代わりに除外する事ができる! オレはフィールドにいるレベル4になったヒヤリと、墓地にいるレベル2のアチチとレベル1のドシンを除外! ――降臨せよ、
《ウォーターリヴァイアサン@イグニスター》
星7/攻2300
儀式召喚のレベルを示す7つの炎が一つに纏まり、中心から魚のようなヒレを持つ、荒々しくも美しい竜が姿を現す。
「ウォーターリヴァイアサン@イグニスターの儀式召喚に成功したことで効果発動! 相手フィールドの攻撃力2300以下のモンスターを全て持ち主の手札に戻す!」
構成する水のデータマテリアルから水を、波を、渦を作り出す。ライトニングのフィールドにいるモンスターを全て洗い流すべく竜は動き――。
「させん! カウンター罠、星遺物に響く残叫を発動! その効果の発動を無効にし、破壊する!」
ライトニングのカードによりその動きは止められる。キュオオオオ、と苦しそうな悲鳴をあげて水竜は墓地に沈んでいった。
「アクア! すまねえ、アース……。バトルだ! アースゴーレムでプリミ・オルディネスに攻撃! ロック・ボム!」
Aiの思いを感じ取っているのか、アースゴーレムは敵討ちとばかりに勢いよく殴りかかる。
「
「エクストラデッキデッキから特殊召喚されたモンスターをアースゴーレムが攻撃するダメージステップの間、このカードの攻撃力は元々の攻撃力分アップする! そっちが3600ならこっちは4600だ!」
「クッ……プリミ・オルディネスの戦闘破壊が確定したことで永続効果は無効化され、1000のダメージが発生する……!」
愛持つ巨人の拳が光の戦士を貫く。破壊により生じた爆風が仁の衣服を風で揺らす。
ライトニング
LP 4000→3000
「オレはカードを1枚セットしてターンエンド! どーだ見たかライトニング! これが絆の力だ!」
「フン……エクストラリンクが崩された程度、問題のうちには入らない……!」
冷静になろうとしているが、言葉からは怒りが滲み出ている。
イグニス同士のデュエルは未だ始まったばかり。誰もその行く末をシミュレーションすることはできなかった。
繋がりを力に変える者と、繋がりを否定する者。
リーダーと落ちこぼれ。優秀と劣等。
交わらない道の果てに戦う二人が
ただ一つ、共通していたのは。
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複合感情
Ai LP 4000 手札1
モンスター
アースゴーレム@イグニスター レベル7 ATK2300
魔法・罠
伏せカード1枚
フィールド魔法
イグニスターAiランド
ライトニング LP 3000 手札0→1
モンスター
魔法・罠
フィールド魔法
「私のターン、ドローだ。スタンバイフェイズにピルス・プリオルの効果で除外した3枚のカードが手札に加わる」
これで手札が4枚になった。エクストラリンクは崩せたが、まだライトニングのフィールドにはリンク魔法がある。リンク召喚を行うのには問題ない。むしろ、フィールドにモンスターが1体のみのAiの方が不利な状況だ。
「ピルス・プリオルの効果発動。墓地から
上級中隊長が掲げた片手剣から放たれる光は墓地を照らし、闘士の石像をフィールドへ浮かび上がらせる。
《
星2/守800
「リンク3の
《
Link2/攻1700
【リンクマーカー:左/右】
フィールドと墓地のモンスターが入れ替わる。マントをたなびかせ、槍を構えた百人隊長がメインモンスターゾーン中央へ陣取る。
「手札から
《
星1/守400
《
星3/守1800
ライトニングの指示に従い仁は手札のモンスターカードを1枚墓地へと沈め、ケントゥリオンの左右に向いたリンクマーカーに墓地と繋がる穴が開通。短剣のシーカと大楯のスクトゥムがケントゥリオンの両脇を固める。
「いでよ、光を導くサーキット! 召喚条件はリンクモンスターを含む『アルマートス・レギオー』モンスター2体。私はデクリオンとシーカをリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク2、
《
Link2/攻1800
【リンクマーカー:上/左下】
「またソイツらかよ! アースゴーレムでエクストラモンスターゾーンの1つは埋まってるから、もうエクストラリンクはできない……お前のエースを出すつもりか!」
エクストラリンクを構成していたリンク2のモンスター、その2体目がフィールドに呼び出され、Aiはリンク召喚への警戒を強める。
「プリミ・オルディネスの効果発動。墓地から
ピルス・プリオル同様、中隊長は己の得物である長剣の力を使い墓地にいる兜を装備した石像を蘇生する。
《
星3/守1000
――これで、ライトニングのメインモンスターゾーン5つが全て埋まった。リンク召喚の準備は万全。手を天に伸ばし、サーキットを展開する。
「再びいでよ、光を導くサーキット! アローヘッド確認! 召喚条件は『アルマートス・レギオー』モンスター3体以上! 私はリンク2のプリミ・オルディネス、ガレア、スクトゥムの3体をリンクマーカーにセット! ――現れろ、混沌たるネットワークの戦場を進軍する指揮官よ! リンク召喚! リンク4!
《
Link4/攻3000
【リンクマーカー:上/左/右/下】
フィールドを踏み締めるのは二つの大砲で武装した戦象。光の象徴である黄金の鎧をぎらつかせ、長い鼻を上げてパオオオ! と力強く鳴く。それに騎乗する偉大なる指揮官は杖を手にし、ただ決闘者からの指示を待つ。
ケントゥリオンの右隣に呼び出され、リンク魔法の力を受け、かつ相互リンク状態でもあるという恵まれた状態。みなぎる力は動きに現れ、ガスガスと乱雑に地面を掻くような仕草を見せる。
「リンク4……ついに来やがったか、ライトニングのエースが!」
Aiのよく知っているファイアウォール・ドラゴンと同じ向きのリンクマーカーを持つが、ライトニングの使うこちらの方が攻撃力は上だ。
また、比較対象であるファイアウォールは召喚条件がモンスター2体以上と緩い縛りだったが、こちらは『アルマートス・レギオー』モンスターの縛りがついているためか、さらに強力な効果を持っている。
「三度いでよ、光を導くサーキット! 召喚条件はレベル4以下の『アルマートス・レギオー』モンスター1体。私はグラディウスをリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク1、
《
Link1/攻800
【リンクマーカー:左】
それはリンクモンスターでありながら、メインデッキに入る
これで2体のモンスターと相互リンク状態となり、戦象の力を発揮するために必要な状況が整った。
「マグヌス・ドゥクスの効果! このカードがフィールドに表側表示で存在する限り1度だけ、このカードと相互リンク状態のモンスターの数までフィールド・墓地のカードを対象として発動できる。そのカードを持ち主の手札に戻す。私が対象とするのは貴様のアースゴーレムとセットカードの2枚だ!」
この効果が通ればAiのフィールドはがら空き。直接攻撃を許すことになる。
「そうはさせねえ! 対象になったセットカード、戦線復帰を発動! この効果で墓地のピカリ@イグニスターを守備表示で特殊召喚する!」
アースゴーレムはマグヌス・ドゥクスの背負う砲弾による攻撃で退去したが、罠は発動されたことで墓地送りが確定。マグヌス・ドゥクスの効果を受けようとも手札へ戻ることはない。
《ピカリ@イグニスター》
星4/守600
『ピカァ〜!』
小さなサイバースはまだまだ頑張るぞ、と両手を動かし気合の入った声をあげる。
「また墓地からの特殊召喚か、芸のない」
「まだまだ負けるわけにはいかねえからな、というかお前が言うなってやつだろソレ! ……特殊召喚に成功したピカリの効果で、デッキからめぐり-Ai-を手札に加える」
折角の壁となるモンスターだが、エクエス・フランマの攻撃力はピカリの守備力を上回っている。
ピカリを戦闘で処理すればマグヌス・ドゥクスとケントゥリオンがAiへ直接攻撃が可能。ライトニングは指示を下す。
「バトルだ! エクエス・フランマ、ピカリを粉砕し――」
「おーっと! その言葉、黙ってもらおうか! 攻撃宣言時、手札のダンマリ@イグニスターの効果発動! こいつを守備表示で特殊召喚し、その攻撃を無効にする!」
《ダンマリ@イグニスター》
星6/守0
捕食形態のAiとよく似た@イグニスターが出現、六碗でもにっとエクエス・フランマの腕と口を取り押さえて攻撃を封じる。
これで守備表示のモンスターは2体。ライトニングの攻撃可能なモンスターも2体。仕留めきれなかったか、と怒りで眉間に皺が寄る。
「……ならばケントゥリオンとマグヌス・ドゥクスで守備表示のモンスター2体に攻撃!
《
攻1700→3400
《
攻3000→6000
「いくら攻撃力を上げようとこっちにダメージは無いぜ」
「わかりきっていることを言うな。カードを2枚セットしてターンエンドだ」
ケントゥリオンにより攻撃の無効化、マグヌス・ドゥクスとセットカードによる妨害。敗北する要素は無い。
攻撃力が低いエクエス・フランマだが、自分フィールドにこのカード以外の『アルマートス・レギオー』モンスターが存在する限り、相手はこのカードを攻撃対象に選択できないため問題はない。
「イグニスの中で最も劣った存在が、よくもここまで喰らいつくものだ」
「ダメダメなのは認めるさ。オレはサイバース世界にいた時、何もしなかった」
けど、と区切る。
「ハノイの騎士やプレイメーカーと出会って――この世界は計算が全てじゃないってことを知った。きっかけさえあれば、駄目なオレも変われるんだ。だから【@イグニスター】がある」
「…………黙れ!」
ダメだったものが変わろうとした、それがライトニングの怒りの琴線に触れたようだ。
「私以下の計算能力しかないお前が、何故そこまで不確定な未来を信じられる!? 私達イグニスにはシミュレーションが全てだ! 電子の世界こそが現実だ!! いくら詭弁を並べようとイグニスを人間と同じように語ることはできない! 例え私がいなくなろうと、お前のみになれば未来は――」
「じゃあなんでお前はオリジンをそばに置こうとした!」
Aiの叫びにライトニングが動揺する。
「お前の未来に人間がいらないっていうなら、今すぐ仁を捨てればいい。人質にするにしても、頭のいいお前ならもっと早い段階で有効的な使い方ができた。なのに、オレとデュエルしている中でそういう手を打とうとしなかった。……オリジンとイグニスには言葉にできない、特別な繋がりがある。お前は……もしかしたら、っていう可能性を信じたいんじゃないのか」
「優秀である私がお前のような劣等と同じ、だと……!? ふざけるな! そんなことがあるものか!!」
荒々しい語気で言い放つ。
「強い否定は肯定と一緒だぜ、ライトニング。……ここからは、オレとあいつのカードで相手だ。オレのターン、ドロー!」
フィールドにモンスターは0体。手札2枚のうち1枚はめぐり-Ai-と明かされている。このドローで引いたカードは――。
「イグニスターAiランドの効果で手札からドヨン@イグニスターを特殊召喚! ドヨンの特殊召喚に成功したことで効果発動、墓地のピカリ@イグニスターを手札に加える」
《ドヨン@イグニスター》
星4/守1600
「現れろ、闇を導くサーキット! 召喚条件はレベル4以下のサイバース族モンスター1体! オレはドヨンをリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク1、リンク・デコーダー!」
《リンク・デコーダー》
Link1/攻300
【リンクマーカー:下】
「それは、プレイメーカーの……」
Aiがリンク召喚したのは、名前も見た目もデコード・トーカーを意識したリンク1。
「リンク素材として墓地に送られたドヨンの効果で墓地のAiドリング・ボーンを手札に加える。自分メインモンスターゾーンにモンスターがいないため、イグニスターAiランドの効果発動! 手札からピカリ@イグニスターを特殊召喚! ピカリの効果でデッキからAi打ちを手札に加える」
《ピカリ@イグニスター》
星4/守600
「めぐり-Ai-を発動! エクストラデッキのデコード・トーカー・ヒートソウルを見せ、デッキからアチチ@イグニスターを手札に加える。そしてアチチを通常召喚! 召喚に成功したアチチの効果でデッキからブルル@イグニスターを手札に加えるぜ!」
《アチチ@イグニスター》
星2/攻800
「……見せたカード、あれは」
ライトニングが詳細を確認する前に、それはエクストラデッキに戻された。
「再び現れろ、闇を導くサーキット! 召喚条件はカード名が異なるモンスター3体! オレはリンク・デコーダー、ピカリ、アチチをリンクマーカーにセット! もう一度立ち上がれ、ダークナイト@イグニスター!」
《ダークナイト@イグニスター》
Link3/攻2300
【リンクマーカー:左下/下/右下】
「リンク・デコーダーは元々の攻撃力が2300以上のサイバース族リンクモンスターのリンク素材として墓地へ送られた場合、自身を特殊召喚する!」
特殊召喚されたのはダークナイト@イグニスターのリンク先。それにより、闇の騎士の効果を起動させる。
「この瞬間、ダークナイトの効果が発動!」
「させん! マグヌス・ドゥクスの効果! 相手のリンクモンスターの効果が発動した場合、その発動を無効にして破壊する!」
「何ぃ!? だが、自分フィールドの攻撃力2300以上の『@イグニスター』モンスターが効果で破壊される場合、代わりに墓地のキ-Ai-を除外する! これでダークナイトは破壊されない!」
「だが墓地からの蘇生は無効だ」
どこからともなくみなぎる気合で破壊からは逃れたが、Aiの展開は妨害された。だが、まだAiは諦めていない。
「まだまだ! 三度現れろ、闇を導くサーキット! 召喚条件はサイバース族モンスター2体! オレはダークナイトとリンク・デコーダーをリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク2、スプラッシュ・メイジ!」
《スプラッシュ・メイジ》
Link2/攻1100
【リンクマーカー:右上/右下】
リンク召喚は止まらない。水を操るサイバースの魔術師がエクストラモンスターゾーンにて構える。そして、このリンク召喚によりまたメインモンスターゾーンは空となった。
「イグニスターAiランドの効果で手札からブルル@イグニスターを特殊召喚!」
《ブルル@イグニスター》
星3/守1000
『ブルル〜ッ』
風の力を持つ、緑色の@イグニスター。頭部にある耳のようなものをぴこぴこ動かし必死に相手を威嚇する。
「スプラッシュ・メイジの効果! 墓地からドヨン@イグニスターを守備表示で特殊召喚!」
水が舞い上がり、墓地から闇の力を持つ@イグニスターが浮上。
「ウィンディ、お前の力を使わせてもらうぜ……レベル4のドヨンにレベル3のブルルをチューニング! ――闇路を彷徨いし混沌! 蒼穹を駆ける疾風が道開く! シンクロ召喚! 現れろ、レベル7! ウィンドペガサス@イグニスター!」
《ウィンドペガサス@イグニスター》
星7/攻2300
シンクロ召喚の光より飛び出し、フィールドを駆けるは白の鎧と風を纏う天馬。
「ブルルがサイバース族シンクロモンスターのシンクロ素材として墓地へ送られた場合、自身と共にシンクロ素材になったモンスター1体を特殊召喚できる。戻ってこい、ドヨン@イグニスター! そしてウィンドペガサスの効果を発動! フィールドの『@イグニスター』の数まで相手フィールドの魔法・罠カードを選んで破壊する!」
今Aiのフィールドにはドヨンとウィンドペガサスの2体がいる。これで裁きの矢とセットカードの2枚を破壊すれば――。
「フィールドのカードを2枚以上破壊する効果が発動したことでカウンター罠、大革命返しを発動! その発動を無効にして除外する!」
ライトニングの発動した罠により、天馬は苦しそうな嘶きをあげフィールドから消えた。
「……これも止められて……いや、まだ、まだだ! 現れろ、闇を導くサーキット! 召喚条件は属性が異なるサイバース族モンスター2体以上! リンク2のスプラッシュ・メイジとドヨンをリンクマーカーにセット! ――風よ、逆巻く炎を巻き上げろ! 今こそ掴むは熱き魂! リンク召喚! リンク3、デコード・トーカー・ヒートソウル!」
《デコード・トーカー・ヒートソウル》
Link3/攻2300
【リンクマーカー:上/左下/右下】
それは先程めぐり-Ai-で公開されたモンスター。
ヒートライオと似たタテガミの炎を首に纏わせ、腕には爪を備えた橙色の手甲を装備したデコード・トーカー。振るう剣の軌跡には火炎が舞う。
「1000ライフポイントを払い、デコード・トーカー・ヒートソウルの効果発動! デッキから1枚ドローする!」
Ai
LP 4000→3000
ドヨンの効果でAiドリング・ボーンが、ピカリの効果でAi打ちが既に手札にある。でも、それだけでは足りない。あいつにあのモンスターを見せられない。
あと1枚、あと1枚だけで良い。
だから頼む。祈る。ここにいない皆へ。
デコード・トーカー・ヒートソウルが、Aiと同じようにドローの体勢に変わる。Aiの手に命を燃やして得た不屈の炎が宿る。
「頼む……皆、応えてくれ。今必殺の、バーニング・ドロー――!!」
ドローしたカードは――死者蘇生!
「Aiドリング・ボーンで墓地のドヨンを、死者蘇生でピカリを特殊召喚する!」
「何度も何度も墓地から這い上がってくる……目障りだ!」
ライトニングの怒りは消えない。ダークナイトの効果や、繰り返し使われる魔法カードはAiがイグニス達の犠牲を否定しているようで。ライトニングのしてきた事の否定に見えて。
「レベル4のピカリとドヨンでオーバーレイネットワークを構築! ――怪力乱神、驚天動地! その力、今こそ久遠の慟哭から目覚めよ! エクシーズ召喚! 来い、ランク4! ライトドラゴン@イグニスター!」
《ライトドラゴン@イグニスター》
ランク4/攻2300
エクシーズ召喚。同じレベルを持つモンスターを重ねてエクストラデッキからエクシーズモンスターを特殊召喚する召喚法。
それにより現れたのは光属性の――ライトニングと同じ属性の黄金の竜。
「これは……」
古くより竜は力の象徴だ。デュエルモンスターズにおいてもドラゴンとは強者の証。
「Ai、お前は――」
「ライトドラゴンのエクシーズ素材を1つ取り除き効果発動! 自分フィールドの『@イグニスター』モンスターの数まで相手の表側表示モンスターを選んで破壊する!」
「……ッ! フィールドのモンスターを破壊する魔法・罠・モンスターの効果が発動した時、自分及び相手フィールドのリンクモンスターを1体ずつ対象としてシールド・ハンドラを発動! ヒートソウルの効果を無効にし、マグヌス・ドゥクスにこのカードを装備する。そしてシールド・ハンドラを装備したモンスターは効果では破壊されない!」
Aiのフィールドにはライトドラゴンのみ。選んで、の処理によりライトニングのモンスター1体、ケントゥリオンが破壊される。
「バトルだ! ライトドラゴンでマグヌス・ドゥクスに攻撃!」
「
《
攻3000→6000
攻撃力の差は歴然。無策の攻撃ではないはずだ。その思考に答えるようにAiは手札のカードを使う。
「自分と相手のモンスター同士が戦闘を行うダメージ計算時、速攻魔法Ai打ちを発動! 自分のモンスターの攻撃力はそのダメージ計算時のみ、その相手モンスターの攻撃力と同じになり、そのダメージステップ終了時にその戦闘で破壊されたモンスターのコントローラーはその元々の攻撃力分のダメージを受ける!」
その効果説明を聞き、ライトニングは嗤う。
「お前も犠牲を出さねば勝てない! 私と同じだ! お前の振りかざした理想も最後には崩れる!」
ライトドラゴンのブレスと、マグヌス・ドゥクスの砲撃。攻撃力6000となった互いの攻撃がぶつかる。
爆発。黒煙に隠され、光のサイバース達の姿が見えなくなる。視界が晴れた時、そこには。
「何故、残っている……!?」
ライトドラゴン@イグニスターは未だ残っていた。
「Ai打ちの更なる効果。自分の『@イグニスター』モンスターが戦闘で破壊される場合、代わりに墓地のこのカードを除外できる――これがオレのAi打ちだ」
マグヌス・ドゥクスの元々の攻撃力は3000。ライトニングの残りのライフポイントも3000。カードから射出されたダメージがライトニングを撃ち抜く。
ライトニング
LP 3000→0
膝を折る光のイグニスを、闇のイグニスはただ見つめていた。
「終わった、のか。それじゃあライトニング! ニューロンリンクと草薙の弟をなんとかして……」
「おめでとうAi! ついに諸悪の根源を倒したのね!」
「…………
そこにはライトニングを鷲掴みにしているヴァンガード……のような、ナニカがいた。
「誰ってそんな……私だよ、ヴァンガード! あの防壁を壊してここに来たの。安心して! この光のイグニスは私が抑えておくから」
「違う、誰だ! ヴァンガードを、今上を返しやがれ!」
言動を真似しているが全然違う。彼女はそんなことは言わない。アセットを適応させたような、自然体ではない作られた表情。見ているだけで気持ち悪い。
「…………そうか。わかるんだ。絆とか友情ってヤツ? 意味がわからない。本当に気持ち悪い」
違和感を指摘されたソレは演技をやめ、素を曝け出す。
そいつはAiよりもニューロンリンクに近い位置にいる。こちらへ顔を向けたまま後ろへと飛行し、ニューロンリンクへ触れようとしている。
何をしたいのかは分からないが、絶対にマズイ。止めないといけない。だから向かって行こうとして――。
「馬鹿が! 危険だとわからないのか!?」
それはライトニングによる妨害……いや、守護。光のデータマテリアルによって構築された球状のバリアが、ヴァンガードもどきの放った攻撃を防いでいる。
「ライトニング! お前!?」
「私はイグニスの未来のために動いているだけだ……ガッ!」
ヴァンガードもどきが手の力を強める。ライトニングは怯むことなく抵抗を続ける。
「さっさと消えろ、Ai……! プレイメーカーらにみっともなく助けを求めるんだな……!」
バリアはAiを閉じ込めたまま急降下を始める。慌てて浮上しようとしてもうまくいかない。バリアも解けない。このままじゃ、お前が。焦るAiを嘲笑うようにそれは動いた。
「ふうん、それが貴方の選択なんだ。――じゃあもういいや」
ぐしゃり。
手の中にいた彼は無感情に握り潰された。
「う、あぁ……! そんな、ライトニング――!」
ライトニングは多くの許されないことをした。とはいえ、消えてほしかったわけじゃない。ハノイの騎士にだって機会は与えられた……罪を償ってほしかった。
戻れない。流れる涙より速く、地上に向かって落ちていく。
「あーあ、行っちゃった。……それにしても神の召喚、なんて馬鹿をしてくれて助かったわ。魂が消耗したお陰でラクに乗っ取れた」
握りつぶした
それは光のイグニスであるライトニングの捕食形態をより生物的に……守護竜に近付けたような姿をしていた。
「守護竜モドキ、まず1匹目。あと5匹の居場所も割れてる。もうどこにも逃げ場なんてない。――さあ、もう一度世界の終わりを始めましょう!」
ヴァンガードが……いや、違う。
ヴァンガードを喰らった
そのサイバースは未だ諦めることなく、
ただ欲のために動く。
創星の力とは違う、己の知らない強大な力。
蛇は輪廻を巡りし人の夢幻を喰らった。
――悪夢が今、始まる。
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「やべーだろコレ!」
「絶え間ない責め苦……良い!」
「変態がいつも通りならまだ大丈夫かと思われるですー!」
ライガー仮面、ドラゴニュート、カエルなレインコートと三者三様なアバターがぎゃーぎゃー言いながらも逃げ回る。
……目の前に突然やってきたゴーストガールとブラッドシェパードという腕利きのハッカー達。
ヴァンガード直下のハノイの騎士だったことを言い当てられ、最初は警戒した。しかし、ヴァンガードの助けのため、という説得を受けて力となるべく元ヒャッハノイ達も協力。イベントだと思わせる作戦は成功しかけていた。だが……ログアウトが不可能になっていたのが致命的だった。
空に浮かぶアバターを吸収する謎のビームを出す球体に、そこから出てきてなんでも食べる黄色のドラゴン。
一人が騒げば伝播する。異常事態と皆が知った。後は崩れるだけだ。
――端的に言えば、リンクヴレインズはパニックになっていた。
「デュエルでどうにかなる次元越えちゃってますー!」
どこぞのメルフィー使いがワンチャンを狙いデュエルディスクを起動させたものの、それは関係ないと黄色のドラゴンに一呑みにされた。
ヴァンガードが配布していたデュエル以外の妨害を受けないというプログラムが効かない。だから逃げる。とにかく逃げる。それしかできない。時間さえ稼げばきっとなんとかなると信じるしかない。
逃げ回る彼らの背中を押すように風が吹く。押すように……いや、実際に押されている。視界の端に何かがちらちらと舞う。
「あ……? これって!?」
青と紫、電脳世界に物質として存在するこの風が何なのか。彼らは知っている。
「データストーム……!?」
電脳世界に吹く風はただ一点を目指し集まっていく。その先に何があるのか、誰も知らないまま。
ウィンディとのデュエルに辛くも勝利し、勝者である不霊夢はウィンディを取り込んだ。それがいけなかったのだろう。
「ギャはハ!! お前らも道連れにしてやるヨぉお!」
害意を剥き出しに、緑色の粘体となったウィンディが内側から不霊夢を侵食する。ソウルバーナーのデュエルディスクから溢れ出たスライムが彼の腕へと伸びようとするのを、炎のイグニスは必死に食い止める。
「これ、はっ……デュエルディスクを捨てろ! 私を置いていけソウルバーナー!」
「できるかよそんな事!」
そう叫ぶが、感情ではどうしようもできない。手で取り除くこともできない。他の仲間に助けを求めても、ここへ辿り着くまでに不霊夢が。
悩むソウルバーナーのことなど知らず、ウィンディは声を上げる。
「らイトにング! ここだ!」
「何を言って……!?」
光のイグニスを呼ぶウィンディ。呼びかける先へと振り向いたら首を長く長く伸ばした光の竜が既に口を広げていて――。
『これで二……いや、三匹目』
プレイメーカーはボーマンとのデュエルにより拘束され、その場から動けずにいた。……空からなぜか落下してきたAiが【@イグニスター】に含まれるイグニス皆の力を与え、リンク5のファイアウォール・ドラゴン・ダークフルードを作成。その攻撃はボーマンのリンク5モンスターを打ち砕き、勝利した。
ぱちぱち、と乾いた拍手が響く。
「勝利おめでとう。リンク5の到達者二人、どっちを選んでもハッピーな結果になったわね」
「あー!! アイツだ! ヴァンガードの偽物!」
指差す相手はヴァンガード……なのだが、違う。表情や動き、細かい部分が彼女との差異を見せつけてくる。とても気味が悪い。
「偽物じゃないわ、本物よ。まあ、中身はワタシだけど。残り滓ならほら、ここに」
手のひらの上に微かな光を出現させ、すぐに戻す。
「イヴリース、貴様……!」
「ごめんねぇ? アナタのセンセイ、私が貰っちゃった」
デュエルに敗れ地面に膝をつくボーマンを見下ろし、イヴリースが笑う。
「イヴリース、それがあいつの名前か」
光のイグニスとは別の、仲間を襲った新たな敵。どうやらあいつを倒さなければ皆はニューロンリンクから解放されない――なら、するべきことは決まっている。
リンクヴレインズの英雄は再びデュエルを挑もうとしたが、イヴリースが止める。
「あら、手を出そうとして良いの? こっちには人質が沢山いるのに?」
上を指差す。その先にあるのはニューロンリンク。今も人を吸収し、大きくなっていくそれは人間の意識データを使った兵器。当然人質としても使うことができる。
「………………くっ」
言外にデュエルを拒否するイヴリースはこちらの一挙手一投足から目を離さないため、下手に動くことができない。どうにか外部から草薙さん達が状況を変えてくれるのを期待するしかない。
「何故だ……サイバースの1体でしかないお前が三幻神を持っていて無事で済むはずがない。神の怒りを受けるはずだ!」
「使う気なんてないし、いらないもの。あんな危険物。真っ先に閉じ込めたわ」
イヴリースが掲げたヴァンガードのデュエルディスクには念入りに封印が施されていた。
三幻神、オシリスの天空竜――資格が無い者が使おうとすると神の怒りを受けて命を落とすこともあるカードだ。
それ以外にもヴァンガードが所持するカードには力を持つ精霊がわんさかいる。端末世界に存在したクリフォート。リースと縁の深い星遺物、オルフェゴール、星神器デミウルギア。覇王龍のしもべである四天の竜。
どれも主であるヴァンガードを、今上詩織のことを信頼して力を貸すモンスター達。イヴリースの行いを許すはずがない。
だからこそ、デュエル終了後という隙をついて彼女を乗っ取ったイヴリースが行ったのはカードの封印だった。
ライトニングが繋げた中継の先、リボルバーがニューロンリンクへとハッキングしようとしているのがよく見える。外からも複数人がちょっかいをかけようとしているのがわかる。
目の前にいる闇のイグニスを除いた全てのイグニスを捕らえていないため、ニューロンリンクはまだ不完全な状態。完成するにはまだ時間がかかりそうだ。
「……時間が欲しいのはどっちも一緒。なら教えてあげましょうか、この世界の秘密を」
プレイメーカーとのデュエルで負った傷の修復を優先するボーマンを放置し、こちらの状況をわかっているイヴリースは楽しそうに喋り始める。
「プレイメーカー改め藤木遊作。貴方がなぜデュエルターミナルで活発であったスピードデュエルを知っているかは不思議に思わなかった? 答えは簡単よ――幼い頃からリンクセンスを持っていたために、
「なっ……!?」
藤木遊作の失われた記憶に触れたその話は、彼にとって寝耳に水だった。
「今こうなってるのは元を辿れば貴方のせい、ってこと。わかる?」
『虚言に惑わされるなプレイメーカー!』
「嘘だと思うならボーマンにでも聞いたらいいんじゃない? 星遺物についてよく知っている存在は、私を除けばあとはコイツだけよ」
雑に指を刺されてもボーマンは言い返そうとしない。それができないほど消耗の回復に集中しているのか、それとも……何を言っても肯定になってしまうからできないのか。
「端末世界のことすらこの世界じゃ知られてなかったのに、サイバースの絡んでいる星遺物なんて以ての外。……断言できるわ、10年前に星遺物の物語を知っている人間はいない。リンクセンスを持っている人間しか知ることはできない、と」
ハノイ・プロジェクトによってイグニスであるAiが誕生したのは藤木遊作が過酷な環境に置かれてすぐではない。自我を持つまでには時間がかかった。
幼い鴻上了見は何が起きていたのかを知らず、リンクセンスを通じて耳に届く悲鳴に体を震わせていた。
……あの事件が起きている中で身近にいた存在が否定したくても完全にはできない。もしかしたら、がどうしても残ってしまう。
「イグニスを守護竜に、ハノイの塔を科学文明を終わらせる万が一の備えに。大事なのは力を持つ、これから得る可能性がある選ばれた人間。――名前には力がある。終わりを見届ける人と、始まりを遊び作る人。それがあの博士の夢見た新世界に必要なモノ。どちらも欠けてはならない重要なファクター。鴻上了見と藤木遊作、この二人だけが残ればハノイ・プロジェクトは完結する…………はずだった」
了見――破壊の力。終わりを見るもの、という名の意味は『これまでの歴史』の終わりを見るものとして。リンクセンスによって電脳世界に生きるイグニス達を見守る神とする予定だった。
遊作――遊び、作る者。想像の力。イグニスによってもたらされる『新たな世界』に必要不可欠。彼がいなければイグニスの中でも人間に近しいAiは生まれず、遊戯王VRAINSという物語は成り立たなかった。
「星遺物の気配を感じて私もちょっとお手伝いしたのだけど、あいつは恩を仇で返した。私の居場所になれるものを作らなかった。……あいつの誤算は、私が
リースは星杯の力により時を超えて蘇った人間。今上詩織は転生者のため、幸か不幸か星遺物世界に影響を与えたリースの役割が当てはまってしまった。
「精霊が現実に影響を出せないうちに事故に遭わせ目印をつけておいて正解だった。溢れでる知識が教えてくれたもの、鍵よりも素敵なモノを! 星鍵なんてもういらないの!」
楽しそうに、嬉しそうに、純粋に。悪として笑う。
「テストとして
その宣言と同時にニューロンリンクから新たに竜の首が増える。その数は……5体。6体のイグニスから闇のイグニスを除いた数と同じだ。
「そんな、皆……!?」
「ハッキングは間に合わなかったのか!?」
「……もう時間稼ぎとしては十分でしょう。もういいわ。トロイメア、やっちゃって」
影から這い出てくるのは音楽記号を顔に貼り付けたモンスター。マーメイド、ゴブリン、フェニックス、ケルベロス、ユニコーン、グリフォン。
星杯の力を失った一人の原住民に倒された過去を持つが、目の前にいるのは命の奪い合いの経験も、武器を握ったこともない一人の男子高校生。負けるはずがなかった。
「――サイバー・エンド・ドラゴン!」
建造物を破壊しながら現れた三つ首の機械竜が押し潰し、薙ぎ払い、咆哮する。
攻撃力4000の前にトロイメアは必死に抵抗するが、ダメ押しとばかりに放たれたエターナル・エヴォリューション・バーストで倒れ伏す。
「グラドス!」
「助けに来ましたよ、プレイメーカー!」
下手に攻撃を加えられないニューロンリンクより、イヴリースを速攻で倒すのが最善とグラドスは判断しここまでやって来た。
邪魔となるトロイメアは倒した。問題のあのサイバースは何をしているのかと探す。
「イヴリースは……!」
ボーマンの頭を掴み、勝ち誇ったように笑っている。
「修復したところで今の私には届かない。統合の器、私が有効活用してあげ――!? これは! ガァアァッ!!」
自信満々に、取り込もうとして――失敗した。
処理しきれない情報を受け体は拒否反応を起こす。頭を押さえ、地面へ前のめりに倒れ込む。
「何故、イグニスを統合するための器が中身よりも小さいと思い込んでいる? サイバース族モンスター1体がどうこうできるものではない」
修復は完了していたようだ。何事もなかったようにボーマンが立ち上がる。ふらつきながらイヴリースも立ち上がる。
「なんで? どうして……これっぽっちのデータで……だって、この子は!」
「彼女自身に大した力は無い。様々なことを知っている――それだけだ。精霊の集うデュエルディスクや星神器、はては三幻神すら従えているのだからそう見えても仕方がないがな。皆、彼女の心に惹かれて集った。それ以上でも以下でもない。見誤ったな、イヴリース」
ボーマンが一歩進めば、イヴリースが一歩引く。
「デュエルを見ていなかったのか? リンク5へ到達した時、私が使用したマスタースキルを。Hydrive Another Link――一人の力ではない。
作られた順番、与えられた役目、自らが目指す目標。心を持つAIは、己の創造主が求めた性能を超えてなお成長を続けた。
「デミウルギアの攻撃を受けたのは私も同じ。――今、この世界で最も力を持つのは私だ!」
男が腕を上げ、握るような動きと同時に甲高い音が響く。ニューロンリンクとドラゴンが静止する。データストームが空を流れ、ニューロンリンクを覆うように渦を作る。
「ニューロンリンクが掌握されて……!? 取り返せない!? 嘘よ、そんなの認めない!」
「ここが私の作ったミラーリンクヴレインズであることを忘れるな。支配するのは私だ。外部からのハッキングを通す程度、造作もない」
通信の先から嬉しそうな声が聞こえ、安堵する人間達。巻き込まれた皆の保護は完了した。
なら、するべきことは後一つだけ。サイバースを束ねる神として作られた男が、眼前のサイバースへと罰を与える。
「他者の力を侮った。――それがお前の敗因だ、イヴリース」
「だとしてもこの子はどうするの? 私と一緒に殺す?」
イヴリースが使える人質はヴァンガードのみになったが、まだ生存を諦めてはいない。情に訴えかければ逃げることはできるかもしれない――そんな思考はあっさり崩れることになるのだが。
少しカードの話をしよう。
《
「終わりにしようか。デミウルギア、効果の発動だ。星遺物を我が手に」
ボーマンはデミウルギアの力を消費し、右手の中にある物体を出現させた。それはイヴリースが知っているもの。求めていたもの。奪い取れたこともあったが、最終的にはその手の中に残らなかったもの。
「それは……ッ!?」
「お前はもういらないのだろう? ならば誰が持とうと問題はないはずだ」
剣の形をしたそれは《星遺物-『星鍵』》――双星神が残した最後の星遺物。戦闘を行った
「ヴァンガードを返してもらおう!」
「ア、ァアアッ――!!」
踏み込み、距離を詰めての一閃。逃げることは能わず、光はヴァンガードからイヴリースを引き剥がした。
ヴァンガードが倒れ伏す。イヴリースが施したデュエルディスクの封印が解除された瞬間、機神が自ら実体化する。
『アストラム! イヴ! アルマドゥーク! 行くぞ!』
その声は世界を揺らした。
プレイメーカーの腕が、デュエルディスクが……カードが熱を持つ。出せ! と強くカードが叫ぶ。
「そのカードをデュエルディスクに!」
「――ああ!!」
プレイメーカーのカードからは蒼き騎士が。
ニューロンリンクからは翠の守護竜が。
データストームからは輝ける神子が。
ヴァンガードのデッキからは黄金の機神が。
全ては、一つの敵を打ち滅ぼすために。
「クソッ! 私! 何をしているの!? さっさと力をよこしなさいよ!!」
ヴァンガードのデュエルディスクから顔を出してこちらを眺めるのは過去と未来の己をモチーフにしたモンスター達。苛立ちのまま怒鳴りつける。
『嫌よ。勝ち組に一人だけ、なんて抜け駆けは許さないわ』
『こっちは寂しくて仕方ないのに』
『仲間はずれは悲しいものねぇ』
くすくすくすくす。
「こんな……こんなことが……!」
助けは無い。手を伸ばす。
――後少しだったのに。
剣が、槍が、風が、光が。
四つの攻撃がイヴリースへと直撃した。
「これで本当に終わり、ですね」
役目を終えて消えていくモンスター達を見上げてグラドスが呟く。
「いいや、まだだ。リボルバー、ハノイの三騎士らと繋ぐことはできるか? ニューロンリンクを少しだけ使う。今回の騒動に巻き込まれ取り込まれた者達の記憶を処理し、それで得たデータストームを使い現実の記録も改編したい。君達に監視してもらいたいが構わないか?」
『……ああ』
中継映像の向こう側にいるリボルバーをこちらへと招くべく電脳空間を繋げようとしている作業中、Aiが大事なことを思い出した。
「あ!? ちょっと待て! お前どっちの未来が優れているのか決めるだかなんだか言っといて結局どっちなんだよ!」
「あれか? 嘘だが。ああ言えばライトニングもイヴリースも私が決め切れていないと判断するだろう。あそこでヴァンガードの側についていると断言すれば警戒される。……まずヴァンガードは乗っ取られる前提で策を練っていたが? そこについてはグラドスも知っているはずだ」
しれっととんでもないことを言ってのけた。
「え、マジ?」
グラドスの方を向いて尋ねる。
「………………マジなんですよAi。ヴァンガードはいかにしてイヴリースを誘き寄せてボコボコにするかを考えた結果、狙われてる自分が囮になるのが一番じゃない? と言ってまして……止めたんですけど……」
「はぇ〜〜〜〜」
もう何を信じたらいいのかAiちゃんワカラナイ。
「……取り敢えず確定したことが一つ。ログアウトしたらヴァンガードに説教だ」
プレイメーカーの言葉に、ここにいる全員が頷く。
――こうして、三つの世界を巻き込んだ戦いは終わった。
サイバースの神見習いのボーマンの助けを受けて
世界に新たな理が芽生えようとしていた。
これは冥府に眠らせるのではなく、
生誕を歓迎するための儀式。
今、グラドスとヴァンガードのデュエルが始まる。
新たなマスタールール」
〜精霊界に行った話『アイ・ヘイト・ユー』『かくしごと』の際に言われたこと要約〜
リース軍団「このままいくとイヴリースだけ勝ち組とか許さねえ!なんとかして足引っ張ってこい!」
中間管理職詩織ース「はい……」
そりゃ「もどりましたあーつかれたもうやだふざけんな」って言うよね。
……と、アレコレ設定開示をしつつ【アニメ二期+α 三界騒乱編】の山場を終え、【どうも、ハノイの騎士(バイト)です。】の本編は残すところヴァンガードとグラドスのラストデュエルのみとなりました。
デュエルはまだアレがしたいコレがしたいとネタ出ししかしておらず、更新はまだまだ先になるかと思いますが……お待ちいただけると幸いです!
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闘いの儀
イヴリースはボーマンの手により捕獲され、精霊界へと移送。その後儀式で攻撃力4000あるカオスなMAXが貫通倍化攻撃をぶちかます事で牙をへし折った、らしい。
……イヴリースが本当はどうなってるのか詳しくは聞けない。怖いので。イヴリースよりも格が上のモンスターは精霊界に沢山いるし悪巧みはもうできないはず。
また、イヴリース輸送を契機として精霊界にサイバース族がやって来れない問題は解決し、リース包囲網は着々と完成しつつある。
あの直後にオルフェゴールを入れたデッキを回そうとするとなんでか主力となるリンクモンスター達が出しにくい初手になることが多いので、きっと皆あっち側のアレコレに力を入れているのだろう。よって、精霊側から連絡が来るまでこのデッキを使うのは控えておくことにした。
そしてこれは誰も知らない間に起きて解決した出来事になるが……ヌメロン・コードに手を出そうとしていたのはアストラル世界側がめちゃくちゃキレる所業だそうで。ホープ・ゼアルへ
――とにかく目的は達成できた! 完全勝利S!
……なんですけど、ローテーション説教はいつまで続くのですかね皆さん。終わりよければ、ってことで許して……もらえませんかそうですか。危機管理能力はちゃんとあるつもりなんですけど!
グラドスもボーマンも向こう側寄りだから味方がいない! 助けて!
長時間の正座で痺れた足を動かす。
SNSはあの事件について特に騒いではいない。リンクヴレインズで起きたことはボーマンの手によりモキュメンタリーみたいに処理され、皆の記憶はなんか凄いことあった気がする、ぐらいの無害なものへ置き換わった。
世界は今日もいつも通りの日常を過ごせている。……だからだろうか。SOLの新しい偉い人になったはずだったクイーンが失脚した、というニュースがテレビを騒がせていた。
ライトニングが洗脳して操ったせいで会社に有益なことよりイグニス第一主義とプレイメーカー狩りを優先、その辺りを株主に突っつかれて後は坂を転げ落ちるだけ。
列挙すると被害者のような気がするが……鬼塚さんが「同情する必要はない」とか言ってたので多分悪いことしようとしていた大人なんだろうなぁ、で終わらせておく。
数ヶ月で何度も上層部が変更されるという地盤ガタガタなSOL。次のテッペンを取るのは晃さん説が私の中では有力となっている。……いやーあの会社、上層部がよく入れ替わってるけど信頼とか株価とか本当に大丈夫なの?
「まあ
「無駄口を叩くなバイトー。先輩としてしっかりした姿を見せるって言ったのはどこの誰だったか忘れてないよな」
キッチンカーの主人にかちかちとトングで威嚇される。
「はぁーい仕事に戻りまーす!」
エプロンを着た今上詩織の後ろをてちてちとついてくる一つの影。緊張しているのか動きは硬い。
「まずはテーブル掃除からだね」
後ろにいた男子へと語りかける。こくこくと頷く紫髪。
――退院後、髪の毛を切ってさっぱりした草彅仁は社会復帰のために人との関わりを増やそう、とバイトのお手伝いから始めることにした。
……ただ、ロスト事件から回復するまでの年月のせいで同年代の子と精神年齢や常識などが釣り合っていないのはどうにかしたい。
時間の流れが違う精霊界を使って教育を進められたりする? と精霊界に行って聞いてみたらエンシェント・フェアリー・ドラゴンが気合を入れすぎていてパワー・ツール・ドラゴンにめっ、されていた。……うん、教育を精霊任せにすると余計に常識がおかしくなるかもしれないので最終手段にした方がいいかもしれない。
『………………フン』
これが一番驚きの出来事になるのだが――ダンマリを貫く光のイグニス、ライトニングは機能を制限された上で草薙仁のサポートAIとしての活動を許された。
加害者と被害者を一緒にするのは流石に駄目だろう、と全員がストップをかけたがボーマンがうまいこと言いくるめて納得させ押し通した。
サイバース抹殺を掲げるハノイの騎士のスペクターとアースがなんでかいい感じの距離感でいられるように、イグニスとオリジンには言葉で言い表せない繋がりがある。更生に期待するとしよう。駄目だったらまた全員でとっちめるだけだし。
『――ヴァン――ド、聞こえるか――?』
「……ん?」
それは脳内に直接語りかけられるような不思議な感覚から始まった。
――あの戦いから一ヶ月後、ボーマンから突然やってきた依頼。
それはヴァンガードとグラドスにリンクヴレインズ内でデュエルをして欲しい、という不思議なものだった。
「イントゥザヴレイーンズ、っと」
指定された座標へのログインに成功、着地する。
「グラドスは先に来てるのかな……?」
そこはネットワークの世界ではなく古代にタイムスリップした、と言われた方が納得できる場所だった。
石の壁に石の床、灯りは火がゆらめく蝋燭数本だけ。光源は少ないが照度が弄られているのか、はっきりと周囲を確認できる。
壁に刻まれている文字は
初めて見るが、知識として知っているこの場所は。
「これは闘いの儀……ま、まさか冥界に行かされ……!?」
「違いますよ」
ヴァンガードの懸念を否定するグラドス。知人がいることにホッとしたのか、ヴァンガードの顔が少し緩む。
「新たな世界の門出となるのに相応しい舞台を、と用意した結果この形になっただけだ。気にする必要はない」
遅れてボーマンも姿を現す。その手には不思議な物体が握られていた。彼が手を広げるとそれは浮遊し、こちらに近寄ってくる。
「何コレ……石碑のかけら?」
「この場所にそぐう形に変化しただけであり本質は違う。ここにあるのは未来の可能性。新たなマスタールール。それをデュエルという儀式により世界へ定着させるための楔になるものだ」
超重要アイテムだと分かった瞬間、好奇心から突っつこうとしていた指を即座に引っ込める。なお、このオリジンに危機管理能力はやはり無いのでは? な目をしているグラドスからは目を逸らしている。
「…………もしやここって世界の根幹に近い場所だったりします?」
「そうだが」
「神様見習いがリンクヴレインズからアクセスできるように勝手に改築していいの……?」
「権限を持つのはごく限られた決闘者だけにしてある。問題はない。本来存在し得ない者達の手で存在証明を刻む――それが可能なのはここ以上にないと判断し、万が一が起きた場合の対応はシミュレート済みだ。そしてこれが今回のデュエルと未来で適応されるマスタールールだ。確認しておけ」
ボーマンの力により目の前に半透明のウィンドウが開く。これは触ってもいいやつだよね、と今度は確認してから画面を操作し……きゅっと眉間に皺が寄る。
「ペンデュラムまだ許されないの?」
「そこにあるのがルールの全てだ」
「そっかー……」
目に見えてしょんぼりしているヴァンガード。魔法・罠ゾーンを圧迫しなかったりエクストラデッキからぽんぽこ出てきたあの頃にはもう戻れないのか……と嘆きつつもその目から光は失われていない。
「いやでもこのルールなら……あれとこれと入れ替えてスペシャル仕様なデッキが回せる……か?」
その呟きを聞いた時点でまともな思考では作らないし回らない混沌としたデッキが出来るんだろうな、と二人のAIは回答を出す。
その場に座り込みカードを取り出してデッキ弄りを始めたヴァンガードを放っておき、グラドスはボーマンへと問いかける。
「ところでハルはどうしているのですか? 神となった貴方の縁者ならばこの場にいてもおかしくないと思うのですが」
「呼んだのだが断られた。間違いなく素晴らしいデュエルになるのだがな……」
「そうですか」
とても残念、というオーラを背負う神様見習いへ対してデュエル観戦のワクワクよりも日頃何かとあれば弟を守ろうとついて来る鬱陶しさの方が勝ったんじゃないですか、とは言わない空気の読めるグラドスであった。
「よし、出来た!」
満足げに笑う。
「ヴァンガード、カードを入れ替えただけですよね? 仮回し、とかは」
「精霊がいるし問題ないって。それにこのデッキは初見の方が絶対にびっくりする上に楽しくなれるの間違いなし!」
楽しむ――その言葉を聞きボーマンは口角を上げる。
「二人に行ってもらうデュエルだが勝敗は関係ない。何故ならこれは闇のゲームでも、別れを告げるための儀式でもない。新たに作られたモノ全ての生誕を歓迎するためのデュエルだからな」
勝ち負けが絶対ではない、楽しむことを最優先にして良いデュエル。世界の命運を賭けた戦いから一番遠いそれが、今、始まろうとしている。
「私の先攻! まずカードを2枚セット。レベル8のクラッキング・ドラゴンを捨ててトレード・インを発動し2枚ドロー。デッキの上から10枚を裏側除外し強欲で貪欲な壺を発動、2枚ドロー!」
これでヴァンガードの手札は4枚。まだまだ手札が必要だ、とばかりにセットした通常魔法カード達を使う。
「さっきセットしたマジカル・ペンデュラム・ボックス発動! デッキから2枚ドロー……ドローしたのは
墓地に魔法カードを貯めつつドロー加速。これにより閃刀姫を出す準備は整った。
「閃刀機-ホーネットビットを発動! 自分フィールドに閃刀姫トークンを守備表示で特殊召喚し――先駆けとなれ、我が未来回路! 召喚条件は炎属性以外の『閃刀姫』モンスター1体! 私は閃刀姫トークンをリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク1、閃刀姫-カガリ!」
《閃刀姫-カガリ》
Link1/攻1500→2000
【リンクマーカー:左上】
リンク召喚によりトークンのホログラム映像ではなく、真っ赤な機械鎧を見に纏った
「カガリの効果で墓地の閃刀起動-エンゲージを回収。そしてまたエンゲージを発動! デッキからフィールド魔法の閃刀空域-エリアゼロを手札に加え、追加の1枚ドロー!」
「これで手札は9枚……ぶっつけ本番でしっかり回ってますね」
「お褒めに預かりどうも。それじゃ閃刀姫-カガリをリンク素材に、閃刀姫-シズクをリンク召喚! そして『閃刀姫』モンスターが特殊召喚されたことにより手札から閃刀姫-ロゼを自身の効果で特殊召喚する」
《閃刀姫-シズク》
Link1/攻1500
【リンクマーカー:右上】
《閃刀姫-ロゼ》
星4/守1500
今度は青い鎧の閃刀姫へと換装。また、閃刀姫の出現に合わせて黒の軍服を着た
メインモンスターゾーンにモンスターがいる場合、閃刀魔法は殆どが使用できなくなる。閃刀姫の展開は終わった、と示すように手札から1枚のカードを見せる。
「レベル4の閃刀姫-ロゼに
手札から飛び出してきたのは黄色い機械竜を模した可愛らしいシンクロン。三本の光の輪に変化し、その中へロゼが飛び込む。
「手札からシンクロ素材に!?」
驚くのも無理はない。手札からリンク素材になれる効果を持つモンスターは何体か確認されているが、手札からシンクロ素材になれるものはこれまでいなかった。
「手札から素材にする場合はシンクロ先に条件は付くけど、色々使える便利チューナーだよ――永久に続くは守護の光、竜の星から参られよ! シンクロ召喚! 来たれ、エンシェント・フェアリー・ドラゴン!」
《エンシェント・フェアリー・ドラゴン》
星7/守3000
シグナーの竜が一体、エンシェント・フェアリー・ドラゴン。精霊界を救ってくれてありがとう、のお礼と共にヴァンガードが受け取ったカードだ。精霊本人は宿っていないため、動きはどこか単調に見える。
「ありがとう新ルール……リンクマーカーの向きをそこまで気にしなくて良くなるのはとても助かる」
シンクロ召喚ができたことに感動するヴァンガード。シズクのリンクマーカーはこちらを向いていないため、これまでのルールではエクストラデッキからシンクロモンスターを出すことはできなかった。
――だが、新たなマスタールールではリンク先にしか出せない制限は殆どのモンスターから取り払われた。全盛期時代のデッキ回しが可能となるカテゴリが増える、というのはワクワクが止まらない。ヴァンガードはこのデュエルが終わったら今持っているデッキの見直しに入る気満々だ。
「新ルールはこれまで以上に展開の高速化が進みそうですね。シンクロデッキは特に加速するのではないでしょうか」
「多分インフェルニティな満足の人は気絶するんじゃないかなあ? エンシェント・フェアリー・ドラゴンの効果で手札からレベル4以下のモンスター、聖鳥クレインを特殊召喚。聖鳥クレインの効果で1枚ドロー」
《聖鳥クレイン》
星4/守400
フィールドにモンスターを増やしながら手札の損失を抑える。
「フィールド魔法、閃刀空域-エリアゼロを発動。そしてエンシェント・フェアリー・ドラゴンの効果! フィールドゾーンのカードを破壊し、ライフポイントを1000回復。また、デッキからフィールド魔法
変化したフィールドがすぐにシグナーの竜の力により元へ戻される。羽から放たれる輝く光がヴァンガードへ活力を与える。
ヴァンガード
LP 4000→5000
「効果でフィールドゾーンから墓地に送られた閃刀空域-エリアゼロの効果。デッキから閃刀姫-レイを特殊召喚!」
《閃刀姫-レイ》
星4/守1500
フィールド魔法の異常を感知した閃刀姫が戦場へと緊急出撃。閃刀を構える。
「フィールドにレベル7以上のシンクロモンスターがいるため墓地のレボリューション・シンクロンの効果発動。デッキトップを墓地に送り自身を特殊召喚。この効果で特殊召喚した場合、レベルは1になる」
《レボリューション・シンクロン》
星3→1/守1400
「レベル4のクレインにレベル1になったレボリューション・シンクロンをチューニング! 生の転輪、正の再臨。かの命は定めの地へ降臨する! シンクロ召喚! 来たれ、星杯の神子イヴ!」
《星杯の神子イヴ》
星5/守2100
背中の金と青の翼を広げてふわりと微笑む少女。これも本人から頂いたカードその2である。
「シンクロ召喚に成功したイヴの効果でデッキから『星遺物』カード、星遺物の守護竜を手札に。まだまだ行くよ! レベル4の閃刀姫-レイにレベル5、星杯の神子イヴをチューニング! シンクロ召喚! 来たれ、飢鰐竜アーケティス!」
《飢鰐竜アーケティス》
星9/攻1000→4500
「墓地に送られた星杯の神子イヴの効果でデッキから『星遺物』モンスター、星遺物-『星杯』を特殊召喚。シンクロ召喚したアーケティスの効果で1枚ドロー」
《星遺物-『星杯』》
星5/守0
「アーケティスを対象にして星遺物の胎導を発動。デッキから元々の種族・属性が異なるレベル9モンスターを2体特殊召喚」
《星遺物の守護竜メロダーク》
星9/守3000
《
星9/守2100
これによりヴァンガードのメインモンスターゾーンが全て埋まる。大型モンスターだらけの中、彼女が次に出すモンスターは――。
「永続魔法、冥界の宝札を発動。シズク、エンシェント・フェアリー、星杯の3体のモンスターを生贄に捧げる! 時を超え、次元を超えなお語り継がれる神よ! 我は失われし王の名の威光を以て幻神をこの地に招く――今こそ招来せよ! オシリスの天空竜!」
雷鳴を轟かせながら長い体を上手に折りたたみ、天井付近に陣取る赤き神。
世界の命運は関係ないデュエルのため、神としての威厳は控えめに、現実への影響も通り雨が来るかも? レベルの雲が薄っすら出てくるぐらいに。……そのせいだろうか、どことなく窮屈そうに見える。
《オシリスの天空竜》
星10/攻X000→6000
「冥界の宝札の効果で2枚ドロー」
冥界の宝札によるドローだが、OCGのオシリスは召喚成功時にカードの効果を発動不可という効果を持つため本来はできない。が、原作オシリスはその効果を持たない。よって問題なくドローが可能。
「先駆けとなれ、我が未来回路! アローヘッド確認! 召喚条件はレベル5以上のモンスター3体! 私はアーケティス、イドリース、メロダークをリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク3、
《
Link3/攻3500
【リンクマーカー:左/右/下】
エクストラモンスターゾーンにいたシズクを生贄として使ったため空いた場所へ収まる。
光球の周囲に浮かぶ弓のようなパーツたちをいつもよりコンパクトにまとめて……巨大なモンスターが増えてヴァンガード側の空間はどんどん狭くなっている。
「
ヴァンガードの手札から特殊召喚されたのは1体のモンスター。両腕に大きな鉤爪を装着した闇属性の戦士。
《処刑人-マキュラ》
星4/守1200
「ま、マキュラ……!?」
それはモンスターゾーンから墓地に送られた場合、1度だけ手札から罠を発動できるようになるという碌でもない効果を持つモンスター。
「オシリスで通常召喚権は使用済みですがサーチしたフィールド魔法は……まさか……」
とてつもなく嫌な予感がする。
「永続魔法、星遺物の守護竜を発動。効果で墓地のドラゴン族レベル3チューナー、デルタフライを特殊召喚。レベル4のマキュラにレベル3のデルタフライをチューニング! ――連なる思いが風の中より竜を呼ぶ。それは怒を貫く翼! シンクロ召喚! 来たれ、クリアウィング・シンクロ・ドラゴン!」
《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》
星7/攻2500
レベルの合計は7。空を舞うのは透明に輝く翼を持つ、シンクロを司る四天の竜。
「デルタフライ……それがレボリューション・シンクロンを自己蘇生する時に墓地に送られたカードですか」
「墓地の5体のモンスターを対象に貪欲な壺を発動。対象のモンスターをデッキに戻して2枚ドロー。フィールド魔法
《
星4/守1000
エンシェント・フェアリー・ドラゴンの効果で手札に加えていたフィールド魔法、
「
《アポクリフォート・キラー》
星10/攻3000
大地を踏み締めるは四つ足の最上級機械。……上部が天井に擦りそう。
「アポクリフォート・キラーの永続効果により、特殊召喚されたモンスターのステータスは全て500ダウンする」
デミウルギアは他のモンスターの効果を受けないという耐性を持つため、弱体化するのはクリアウィング・シンクロ・ドラゴンのみとなる。
《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》
攻2500→2000
「キラーの効果を発動! 相手は手札・フィールドからモンスターを墓地に送らねばならない!」
効果発動の宣言を受け、グラドスは手札から1枚を取り出す。
「手札のモンスター、
「ドライトロンかぁ……新たにフィールド魔法、天空の虹彩を発動。星遺物の守護竜を破壊してデッキからオッドアイズ・アドバンス・ドラゴンを手札に。カードを1枚セット。よし、私はこれでターンエンド!」
最終的に残った手札は1枚。よって神の攻撃力は――。
《オシリスの天空竜》
攻撃力X000→1000
ヴァンガードのフィールドにはオシリスの天空竜、
――先攻1ターン目にして、特殊召喚されたモンスターのステータスが2500以下ならば即座に破壊される状態。加えてクリアウィングの効果による高レベルモンスターへの手出しがしにくい盤面を作り上げた。
「びっくりして楽しい、って……どこがですか! これ制圧盤面ですよね!?」
「いやほら……バロネスとかアポロウーサは使ってないから制圧ってほどではないんじゃないかな。楽しい部分はほら、見栄え?」
大型モンスターが並ぶヴァンガードのフィールドは確かに壮観だ。……キュークツそうなモンスター達と、神を維持しようとして顔色がだんだん悪くなってきているのを無視できれば、だが。
「それなら私にだって考えがありますからね……! 私のターン、ドロー! 永続魔法、光の護封剣を発動! これにより相手は攻撃宣言ができない――オシリスの特殊能力は攻撃として扱われる。故にこれで封じさせてもらいますよ」
ヴァンガードの方へ邪魔をするように突き刺さる無数の光の剣。フィールドがより狭くなってぎゅうぎゅう身を寄せ合うモンスター達。
「手札のサイバー・ダーク・クローを捨てて効果発動。デッキからサイバネティック・ホライゾンを手札に。そして手札からサイバー・ダーク・キメラ、デッキからサイバー・ドラゴン・ヘルツを墓地に送り――サイバネティック・ホライゾンを発動!」
広がる地平線。光と闇の境界線から生まれる力が、グラドスの操るカードに更なる可能性を与える。
「サイバネティック・ホライゾンの効果で手札にサイバー・ダーク・カノンを加え、エクストラデッキからサイバー・エンド・ドラゴンを墓地に。墓地に送られたキメラの効果でサイバー・ダーク・エッジを墓地に。また、ヘルツの効果でサイバー・ドラゴンを手札に」
手札と墓地にカードを増やし、表と裏のサイバー流どちらでも動けるように準備を整える。
「手札のカノンを捨てて効果発動。デッキからサイバー・ダーク・キメラを手札に加え、そのまま通常召喚。オーバーロード・フュージョン発動! フィールド、墓地より5体のサイバー・ダークを除外し融合召喚を行う――世界の裏に在る果てなき闇を喰らい顕現せよ! 鎧獄竜-サイバー・ダークネス・ドラゴン!」
《鎧獄竜-サイバー・ダークネス・ドラゴン》
星10/攻2000→1500
渦から出現したのは5種類のサイバー・ダークの融合体。素材の数に比べて攻撃力は低めだが、それは己の効果でカバーが可能だ。
「特殊召喚に成功したことで墓地のサイバー・エンド・ドラゴンを装備。攻撃力は4000アップする」
《鎧獄竜-サイバー・ダークネス・ドラゴン》
攻1500→5500
複数のコードを用いて墓地から表サイバー流のエースを引き上げ、強化ユニットとして自身の下部に装着。その力を余すことなく発揮する。
「相手がエクストラデッキからモンスターを特殊召喚したためデミウルギアの効果発動。デッキから星遺物-『星鎧』を特殊召喚。さらに星鎧の効果で星遺物-『星槍』を手札に」
《星遺物-『星鎧』》
星7/守2500
それは壁となるモンスターと、リンクモンスターを含むバトルへの対抗策。また、手札が増えたことでオシリスの攻撃力が2000に上がる。
「サイバー・エンド・ドラゴンを装備した鎧獄竜-サイバー・ダークネス・ドラゴンをリリース! ――地獄を経て皇帝は完成せり。表裏を呑み込み勝利への渇望を満たせ! 降臨せよ、鎧皇竜-サイバー・ダーク・エンド・ドラゴン!」
《鎧皇竜-サイバー・ダーク・エンド・ドラゴン》
星12/攻5000→4500
サイバー・ダークネス・ドラゴンは己を構築していた一部のパーツを切り離し、その姿を変える。
装備したモンスターに依存せずとも高い攻撃力を発揮できるように。相手が発動した効果を受けない強固な耐性を獲得するために。
サイバー・ダークとサイバー・エンドは、今ここに真に一つのモンスターとなった。
「サイバー・ダーク・エンド・ドラゴンの効果発動! ヴァンガードの墓地のモンスター、閃刀姫-ロゼを装備する!」
ヴァンガードの墓地からモンスターを奪う。胴体にコードをぐるぐる巻きで宙ぶらりん、とどこか雑に見える形で装備されたロゼはお腹が苦しいのか両手でコードをぽこぽこ叩いている。
「手札のルタ
《
星1/守0
「フィールドのアル
《
星1/守0
「フィールドのルタ
《
ランク1/攻2000→1500
りゅう座より来た機械は幾度も入れ替わり、武装した母艦の出撃の準備を整えた。
「エクシーズ召喚に成功したファフ
《
星12/攻4000→3500
くるくると回る2つのオーバーレイユニットは相手の妨害ではなく、更なる仲間を呼ぶために。ファフ
「QUAの効果発動! 儀式召喚に使用したモンスターのレベルの合計が2以下の場合、相手フィールドの魔法・罠カードを全て破壊する!」
「クリアウィングの効果でその効果発動を無効にし破壊する! ダイクロイックミラー!」
2体のモンスターが放つ光はフィールド中央で激突。軍配はシンクロの竜に上がり、QUAは爆風とともに破壊された。
「そしてクリアウィングの攻撃力はターン終了時まで破壊したモンスターの元々の攻撃力分アップする!」
《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》
攻2000→6000
「儀式召喚したQUAが破壊された場合、墓地から『ドライトロン』モンスターを2体特殊召喚できる! 蘇りなさい、アル
《
星1/守0
《
星1/守0
片方は輝きを増し、片方は輝きの欠片を残す。
「アル
他者の介入を許さぬドロー効果の連打。サイバー・ウロボロスにより墓地に送られたのは青いカード――儀式モンスターだった。そして、
「来るか、もう1体の儀式モンスター!」
「フィールドのファフ
《
星12/攻4000→3500
守勢から攻勢へ。QUAと比べて数多の武装を備えた
こちらは儀式召喚に使用したモンスターのレベルの合計が2以下の場合、特殊召喚されたモンスター全てに攻撃が可能。ヴァンガードの操るモンスターを複数体バトルで処理することができる。
「自分フィールドに機械族効果モンスターが2体のみのため、アイアンドローを発動し2枚ドロー……良し! 速攻魔法エターナル・サイバー発動! 墓地の鎧獄竜-サイバー・ダークネス・ドラゴンを特殊召喚!」
《鎧獄竜-サイバー・ダークネス・ドラゴン》
星10/攻2000→1500
鎧獄竜-サイバー・ダークネス・ドラゴンは特殊召喚時に墓地のドラゴン族か機械族のモンスターを装備する効果が使える。サイバー・エンド・ドラゴンを装備すれば攻撃力は5500。攻撃に加わることができる。
「特殊召喚した場合の効果で――」
「その効果にチェーンして冥界の宝札とオシリスの天空竜を墓地に送り、セットカード禁じられた一滴を発動! 墓地に送ったカードの枚数だけ相手の効果モンスター選ぶ。ターン終了時までそのモンスターの攻撃力は半分になり、効果は無効化される。私はDRAとサイバー・ダークネスの2体を選ぶ!」
《
攻3500→1750
《鎧獄竜-サイバー・ダークネス・ドラゴン》
攻1500→750
カードを複数コストにし、装備効果の無効化だけでなく弱体化も起こしグラドスの攻撃の手を妨げる。……そのコストにしたカードが問題なのだが。
「な……神を墓地に!?」
「攻撃力2000だと戦闘破壊されてしまう危険がある。それに光の護封剣で特殊能力が防がれてしまうならオシリスを残す必要はない」
「本音は?」
「ふふ……神の維持、めっちゃキツかった……」
キメ顔で締まらないことを言うヴァンガード。神がフィールドから離れたことで魂の消耗が無くなり、顔色が回復しつつある。
「そんなことだろうとは思いましたよ……バトル! サイバー・ダーク・エンドでアポクリフォート・キラーに攻撃! オーバー・デスティネーション・バースト!」
オシリスがいない今、特殊召喚されたモンスターを弱体化させるアポクリフォート・キラーを先に倒すべきだと判断したグラドスは攻撃を命じる。
「
サイバー・ダーク、サイバー・エンド全ての首から攻撃が照射される。ペンデュラムスケールから飛び出した真っ黒なシルエットによりヴァンガードへのダメージは軽減したものの、制圧盤面を形成する一角は守りきれなかった。
ヴァンガード
LP 5000→4250
グラドスの残る攻撃可能なモンスターはどれも攻撃力は相手モンスターより下。バトルフェイズ終了を選択する。
「メイン2、
「ターン終了時に禁じられた一滴の効果は終了し、効果と変動していた攻撃力が元に戻る」
グラドスのモンスター達は元々のステータスを取り戻す。
次のヴァンガードのターン、除外された異次元の宝札は帰還し互いに2枚ドローを行える。取れる手段が増えるのは相手も同じ。……スピードデュエルでよく使っていたオルフェゴールをまだ見ていない。きっと次のターンで繰り出してくるだろう。
超大型モンスターの大量展開。相手をしていて大変なはずなのに……どうしてだろうか。
――二人とも、このデュエルがまだ終わらないでほしい、と願っていた。
世界へ果てしなく広がっていった。
踏み出した先が正解でなかったとしても、
前に進むこと、そのものが良かったのだと信じて。
「今」を超えて、機械と違う君と一緒に。
――それはきっと、未来の光へ繋げるための物語。
超えなくてはならない壁がある。
来たれ、覇王龍ズァーク!」
次回、本編最終話。
…………なお前編だけで投稿後にミスが3つ発覚しています(修正対応済み)。これから発覚するミスは実はOCGではなくアニメに出てきた時の効果なのでセーフって事にならないだろうか。ルールミスの場合は無理か……。
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どうも、ハノイの騎士(バイト)です。
ヴァンガード LP 4250 手札3→4
モンスター
クリアウィング・シンクロ・ドラゴン レベル7 ATK2500
星遺物-『星鎧』 レベル7 DEF2500
魔法・罠
オッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴン(ペンデュラムスケール0)
フィールド魔法
天空の虹彩
グラドス LP 4000 手札1
モンスター
鎧皇竜-サイバー・ダーク・エンド・ドラゴン レベル12 ATK5000
魔法・罠
光の護封剣
伏せカード2枚
「私のターン、ドロー! 除外された異次元の宝札がスタンバイフェイズに私の手札に戻り、互いに2枚ドローする」
「
再び現れる光の柱。その間で揺れ動くペンデュラムに導かれ、2体のモンスターが手札からフィールドへと特殊召喚される。
《
星4/守0
《覇王門の魔術師》
星7/攻2500
機械鎧の闇の騎士と、輝き溢れる光の魔法使い。どちらも初めて見るモンスターだが、名前からどのテーマに所属するものなのかがわかる。
片方はオルフェゴール。そしてもう片方は覇王門――つまりは覇王龍ズァーク。
「特殊召喚した2体の効果を発動! まず覇王門の魔術師の効果でデッキから『覇王龍ズァーク』のカード名が記されたカード、覇王天龍の魂を手札に。ギルスの効果でデッキからオルフェゴール・ディヴェルを墓地に送る」
その効果は堅実なサーチと墓地肥やし。更なる展開への一手を打ちつつ、ヴァンガードは新たなモンスターを召喚する。
「星鎧をリリースしてオッドアイズ・アドバンス・ドラゴンをアドバンス召喚!」
《オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン》
星8/攻3000
攻撃に向かない星鎧と入れ替わるようにして、どこかの世界線に存在したかもしれないオッドアイズがフィールドに降り立つ。
本来、レベル8のモンスターを召喚するには2体のモンスターをリリースしなければならない。だが、オッドアイズ・アドバンス・ドラゴンはアドバンス召喚の名前を冠する四天の龍らしく、上級モンスター1体のリリースで呼び出すことができるというテキストを持つ。星鎧のレベルは7のため、条件は満たされている。
「アドバンス召喚に成功したオッドアイズ・アドバンス・ドラゴンの効果発動! 相手フィールドのモンスター1体を選んで破壊し、破壊したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを与える!」
アドバンス召喚に特化した効果、その一つが発動。選んで、のためどのモンスターが狙われるかは発動時点では決まってないが、決まっている。
矛盾する説明だが間違ってはいない。グラドスのフィールドにいる2体の内、鎧皇竜-サイバー・ダーク・エンド・ドラゴンは
効果の通る儀式モンスター、
「させません! その効果にチェーンしてセットしていた速攻魔法、神秘の中華なべを発動し
グラドス
LP 4000→8000
除去されるのは読んでいた、と答えるかのようにセットされていたカードが発動。グラドスのライフポイントを大きく回復する。
……機械が中華鍋に突っ込まれて消えていく絵面が中々にシュールだ。
オッドアイズ・アドバンス・ドラゴンの効果は処理時にどのモンスターを破壊するかを選ぶ。DRAに逃げられたことでグラドスのフィールドには1体のモンスターのみが残った。
「ハジケリストが設定したのかなこの効果処理映像……これで選べるのはサイバー・ダーク・エンドだけ。だけど」
「サイバー・ダーク・エンドは相手が発動した効果を受けない。よって破壊も効果ダメージも無しです」
二色の眼を持つ竜の破壊能力を受けるも、裏サイバー流最高峰の機械には傷ひとつない。何事もなかったかのように佇んでいる。
『ぎゃう……おなか減ったぁ』
攻撃力4000という大型モンスターの調理による中華の匂いがフィールドにいないカードまで届いたのか墓地のクラッキング・ドラゴンやエクストラデッキの某融合ドラゴンがカタカタ揺らして主張し始める。
「おかしい。大事な決闘のはずなのにぐだぐだし始めている。なんとかしないとな……墓地のディヴェルを除外して効果発動。デッキからオルフェゴール・トロイメアを特殊召喚」
《オルフェゴール・トロイメア》
星7/守2000
ギルスにより墓地に送られていたオルフェゴールの効果が発動。緩んだ空気を引き締めるべく動き出す。
「この効果の発動後、私はターン終了時まで闇属性モンスターしか特殊召喚できなくなる。……攻撃したくても光の護封剣が邪魔だね。なら! 先駆けとなれ、我が未来回路!」
ヴァンガードは天へと手を掲げ、上空にリンク召喚を示すサーキットが展開される。
「召喚条件は『オルフェゴール』モンスターを含む効果モンスター2体! 私は
《オルフェゴール・ガラテア》
Link2/攻1800
【リンクマーカー:右上/左下】
2体のモンスターは渦に変わり、空いているリンクマーカーへと衝突。2つの矢印が赤く染まる。サーキットから飛び出した機械乙女は鎌をくるりと一回転させ、デミウルギアのリンク先へと着地する。
「墓地のオルフェゴール・トロイメアを除外してデッキから星遺物-『星杖』を墓地に送り効果発動、覇王門の魔術師の攻撃力を800アップ! そして墓地に送られた星杖の効果で手札から星遺物-『星槍』を特殊召喚!」
《覇王門の魔術師》
攻2500→3300
《星遺物-『星槍』》
星8/攻3000
ヴァンガードのメインモンスターゾーンが全て埋まる。殆どが大型であり高いステータスを持つが、それでも攻撃力5000の鎧皇竜-サイバー・ダーク・エンド・ドラゴンを超えられない。
ならばどうするか? 簡単だ。超えられるモンスターを、そしてそのモンスターを出すためのカードが手札にあれば良い。
「天空の虹彩、効果発動! ペンデュラムスケールのオッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴンを破壊し、デッキから『オッドアイズ』カード――オッドアイズ・フュージョンを手札に加える!」
「フュージョン……!」
オッドアイズ・フュージョンはその名の通り融合召喚を行うために必要なカードだ。そして、闇属性しか呼び出せない今の状態でヴァンガードが出す融合モンスターなど決まりきっている。
「除外されているディヴェルを対象にガラテアの効果を発動! 対象をデッキに戻し、デッキからフィールド魔法オルフェゴール・バベルをセット。そして発動!」
――だが、まだ手札に加えた融合魔法は使わない。
天に描かれた振り子の軌跡は消え、天高く伸びる機械仕掛けの塔が出現する。
「オルフェゴール・ガラテア1体でオーバーレイネットワークを構築! クロスアップ・エクシーズ・チェンジ! ランク8、
《
ランク8/攻2600
機械乙女は手を組み、祈りを捧げ――機械仕掛けの神が呼びかけに応えた。ガラテアはオーバーレイユニットになりディンギルスの周囲でくるくる回る。
「特殊召喚に成功したディンギルスの効果は相手フィールドのカードを選んで墓地に送るを選択する。これで邪魔な光の護封剣とはおさらばだ!」
ディンギルスはその手に持つ槍を足元に突き刺し力を解放。地に亀裂が入り、そこから噴き出したエネルギーによって光の剣が砕け散る。
「そしてエクストラデッキからモンスターを特殊召喚したことで星槍の効果が発動! ……するけど、私のフィールドは全て埋まっているため星遺物トークンの特殊召喚は無し!」
星槍の効果による星遺物トークンは攻撃力守備力共に0とステータスは低いが、互いのフィールドへ守備表示で出すことになる。ヴァンガードはトークンがグラドスのライフを守る壁として使われることを嫌い、狙って効果処理が適用されない状態にしたのだ。
「オッドアイズ・フュージョンを発動! フィールドの闇属性モンスター、星槍とディンギルスを素材に融合する――合わさる思いが闇の中より竜を呼ぶ。それは楽を融かす毒! 来たれ、スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン!」
《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》
星8/攻2800
融合を司る四天、紫毒の竜。身体を彩る赤い宝玉は禍々しく輝き、双眸は真っ直ぐに敵を見つめ、開いた口からは酸性の涎がこぼれ落ちる。
「融合召喚に成功したスターヴ・ヴェノムの効果で鎧皇竜-サイバー・ダーク・エンド・ドラゴンの攻撃力分、自身の攻撃力をアップ! そしてもう一つの効果も発動し、サイバー・ダーク・エンドと同じカード名と効果を得る!」
《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》
攻2800→7800
決闘者の命令を受けた竜は翼を大きく広げ、そこから毒々しい光が溢れ出す。
「やはりサイバー・ダーク・エンドの耐性の穴を突いてきましたか」
スターヴ・ヴェノムがしていることは相手に対して効果を発動しているのではなく、相手の情報を参照しているだけ。何の問題もなく飢えた牙持つ毒竜は相手を喰らうための力を得る。
「埋葬呪文の宝札を発動。墓地の魔法カード3枚を除外してデッキから2枚ドロー……良し、流石私のデッキ! 速攻魔法、ライフハックを発動! オッドアイズ・アドバンスの攻撃力をターン終了時までグラドスのライフポイントの数値と同じ8000にする! デメリットとしてこのターン、相手が受けるダメージは半減する」
《オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン》
攻3000→8000
「ライフハックのもう一つの効果! メインフェイズにこのカードを墓地から除外し、クリアウィングの攻撃力をターン終了時まで私のライフポイントの数値と同じにする!」
《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》
攻2500→4250
ダメージが半減されたとしても、サイバー・ダーク・エンドを上回る攻撃力になった2体と残る大型モンスター3体による攻撃でグラドスのライフポイントは削り切ることができる。ヴァンガードはモンスター達へ攻撃命令を出した。
「バトル! スターヴ・ヴェノムでサイバー・ダーク・エンドに攻撃! 貪食のクランチ・スワロイング!」
毒竜は触手を使い喰らい付き、サイバー・ダーク・エンドの首を溶かして切ろうとする。
「『サイバー』融合モンスターが戦闘破壊される場合、墓地のエターナル・サイバーを代わりに除外できる!」
「でもダメージは受けてもらう!」
魔法カードが身代わりとなり戦闘破壊はできなかったが、機械竜が相手を振り払った際に酸が飛び散りグラドスへ降りかかる。
「くっ……」
グラドス
LP 8000→6600
「続けてオッドアイズ・アドバンスでサイバー・ダーク・エンドに攻撃! 螺旋のストライクブレイズ!」
もう戦闘破壊を防ぐ身代わりは無い。渦を描く炎が敵を焼き尽くす。
「サイバー・ダーク・エンド……ッ! ぐううっ!」
グラドス
LP 6600→5100
「モンスターを戦闘で破壊したことでオッドアイズ・アドバンス・ドラゴンの効果が発動し、墓地のクラッキング・ドラゴンが守備表示で蘇る!」
《クラッキング・ドラゴン》
星8/守0
『ぎゃう! がうー!!』
二色の眼が妖しく輝き、高レベルモンスター――最初のターンでトレード・インにより墓地に送られていたクラッキング・ドラゴンをフィールドに呼び寄せる。
バトルフェイズに特殊召喚されたが、守備表示のため攻撃に参加できない。しかしモンスターのレベルを参照し攻撃力を下げ、更に効果ダメージを与える効果は融合モンスターを多く使うグラドスにとってはかなり厄介になるだろう。
「クリアウィングでダイレクトアタック! 旋風のヘルダイブスラッシャー!」
美しき翼を持つ竜による、風を纏った狙い澄ました突撃。零れる光の粒子が尾を引き幻想的な風景を作り出す。
残る3体の攻撃を受けてしまえばグラドスのライフポイントは0になる。それを防ぐため、残る1枚のセットカードが発動された。
「戦闘ダメージを受けるダメージ計算時に罠カード、パワー・ウォール発動! 戦闘ダメージが0になるように500ダメージにつき1枚、デッキの上からカードを墓地に送る!」
このダイレクトアタックで発生するダメージは2150。よってデッキから5枚のカードが飛び出し、グラドスを守る壁となった後墓地へ消えていった。
「覇王門の魔術師、
パワー・ウォールだが、どうやら超電磁タートルのような攻撃を防ぐ効果を持つカードは墓地に送れなかったらしい。2体の攻撃はグラドスに直撃しライフポイントを減らした。
「ぐうぅぅっ!!」
グラドス
LP 5100→3450→1700
衝撃、爆風、煙。その体にダメージを示すノイズが発生したもののグラドスは倒れない。
ライフは0にならなかった。まだデュエルは続く。
「メインフェイズ2。オッドアイズ・アドバンス・ドラゴンをリリースしてアドバンスドローを発動、2枚ドロー。墓地の星杖を除外して効果発動。除外されているオルフェゴール・トロイメアを守備表示で特殊召喚。トロイメアを墓地に送りオルフェゴール・プライム発動、2枚ドロー。……こんなところかな、2枚のカードをセットしてターンエンド! そして効果による強化が終わり、攻撃力は元に戻る」
《覇王門の魔術師》
攻3300→2500
《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》
攻7800→2800
《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》
攻4250→2500
ヴァンガードは手札を補充したが、セットしたカードは2枚だけ。覇王門の魔術師によりサーチした覇王天龍の魂は罠カードのため、未知のセットカードは1枚だけだ。
引けたカードの中に魔法や罠が少なかったのだろうか。いや、相手ターンでも手札から発動できる効果のカードを抱えている可能性もある。
……たら、れば、を考えるとキリがない。ただ一つ確かなのは――このターンで勝負を仕掛けなければ負ける。それだけだ。
「私のターン、ドロー!」
ドロー、スタンバイ……ヴァンガードの手が動く。一体何をするつもりなのか、と困惑するグラドスの目の前に答えはすぐ現れた。
「スタンバイフェイズに蘇りし天空神を発動! 墓地よりオシリスの天空竜を蘇生し、互いに手札が6枚になるようドローする!」
《オシリスの天空竜》
星10/攻X000→6000
――赤き神が、雷と共に再び降臨する。
「な……ここでオシリス……!?」
真なる神の復活ができるならば相手にもドローさせるデメリットなど軽いものだ。ヴァンガードはニヤリと笑う。
グラドスのフィールドにモンスターはいない。これから行うだろうモンスターの召喚は神によりほとんど封じられた。
「いえ、ですがこの手札と墓地ならまだ……! 墓地のブレイクスルー・スキルを除外してクリアウィングの効果をターン終了まで無効に。――フィールドにモンスターがいないため、手札のサイバー・ドラゴンを特殊召喚!」
《サイバー・ドラゴン》
星5/攻2100
グラドスの使ったパワー・ウォールによって墓地に送られたカードは5枚。その中の一つが明らかになる。
そして特殊召喚されたサイバー・ドラゴンは後攻1ターン目にサイバー・ドラゴン・ヘルツの効果によって手札に加わったもの。グラドスが何を狙っているのか、ヴァンガードはまだ把握できない。
「その特殊召喚に対しクラッキング・ドラゴンの効果とオシリスの特殊能力が発動!」
クラッキング・ドラゴンによるレベル参照の攻撃力ダウンとバーン、オシリスの天空竜によるステータスへの2000ダメージ。
先攻1ターン目にヴァンガードが見せたアポクリフォート・キラーとオシリスの組み合わせとは少し異なるが、こちらも相手のモンスターを残させないという強力な制圧効果を発揮できる。
――裂撃と雷撃が音を立てて襲いかかる。立ち向かうグラドスは、カードを1枚手に取った。
「チェーンして手札から速攻魔法
《キメラテック・ランページ・ドラゴン》
星5/攻2100
『ぎゃ!? きゅうぅ……』
双頭の機械竜が突然の進撃。キメラテック・ランページ・ドラゴンの姿がぶれ、それは種族と属性から似た者として魔法カードに認識されたクラッキング・ドラゴンにも伝播する。
効果が無効にされ、やる気満々に逆立てていた黒棘がしょぼしょぼになる。
「効果を無効にするカードを持っていた、か……でもオシリスの召雷弾は受けてもらう!」
《サイバー・ドラゴン》
攻2100→100
「勿論、
《キメラテック・ランページ・ドラゴン》
攻2100→100
神の力が機械竜達を襲う。だが、弱体化はできても破壊ができない。あと100が届かない。
「融合派兵発動! エクストラデッキのサイバー・ツイン・ドラゴンを見せ、デッキからサイバー・ドラゴンを特殊召喚する!」
「また特殊召喚でモンスターを並べて……機械族に変えてキメラテック・フォートレスによる処理狙い? だとしてもこれ以上は止めさせてもらうよ! チェーンして覇王門の魔術師をリリースし、覇王天龍の魂を発動!」
魔術師の姿が光として解け、振り子の軌跡を幾重にも組み合わせた複雑怪奇な魔法陣を作り出す。
「このデュエルが世界の未来に関係しているなら、彼を無視して進めることはできない。フィールドのクリアウイングとスターヴ・ヴェノム、デッキのオッドアイズ、エクストラデッキのダーク・リベリオンを融合素材として除外――精霊と共に歩める世界を迎えるには超えなくてはならない壁がある。来たれ、覇王龍ズァーク!」
《覇王龍ズァーク》
星12/攻4000
融合召喚の渦を引き裂くように巨大な翼を広げ、黒い体躯を彩る緑の筋が発光する。赤い瞳を爛々と輝かせているのは興奮か、それとも怒りなのかは本人にしか分からない。
それは人の望みとモンスターの望み、どちらの願いも聞き届けてしまった果てにとある男が変じた姿。
……そして今上詩織と縁がある、らしい決闘者。並行世界の自分のことを言われても記憶に無いので困ってしまうのだが。だとしても、無視していい理由にはならない。
「サイバー・ドラゴンを増やしたけど残念だったね、特殊召喚したズァークの効果発動! 相手フィールドのカードを全て破壊する!」
グラドスのフィールドへ2体目のサイバー・ドラゴンが現れるも、ズァークが放った力の波動によって即座に他の仲間もろとも破壊される。
「ですが、これで貴方はセットカードを全て使い切った! 墓地の表裏一体を除外し、墓地のキメラテック・ランページ・ドラゴンとサイバー・エンド・ドラゴンを対象に効果発動。対象をデッキに戻して1枚ドロー!」
「まだこっちも出来ることは残ってる! オルフェゴール・バベルにより相手ターンに発動可能となっている墓地のオルフェゴール・トロイメアの効果を発動! デッキからオルフェゴール・スケルツォンを墓地に送り、ズァークの攻撃力を300アップ!」
《覇王龍ズァーク》
攻4000→4300
たった300の強化だが、これは攻撃力よりも特定のカードを墓地に送ることを目的にしている。そしてオルフェゴールの効果により、このターンヴァンガードは闇属性のモンスターしか特殊召喚できなくなった。
「ならば! 墓地の機械族・光属性モンスター10体を全て除外し、手札からサイバー・エルタニンを特殊召喚!」
《サイバー・エルタニン》
星10/攻?→5000
墓地に眠る光は失われ、フィールドでただ一つ眩く輝く星として竜の頭部を模した機械が襲来。6機の竜頭型ビットが追随する。
「オシリスの特殊能力! 召雷弾!」
《サイバー・エルタニン》
攻5000→3000
「サイバー・エルタニンの特殊召喚に成功した場合、このカード以外のフィールドの表側表示モンスターを全て墓地に送る! コンステレイション・シージュ!」
神の雷が直撃し攻撃力を削がれたものの、エルタニンは竜頭型ビットの散開に成功。満天の星の光がフィールド全てを覆い、包囲殲滅の準備が完了。一斉に攻撃を始める。
「残念だけどオシリスとデミウルギアはモンスターの効果を受けない!」
その宣言通り、ヴァンガードの操るモンスターのうち墓地に送られたのは覇王龍ズァークだけ。そしてこれは破壊では無いため、ズァーク自身の効果でペンデュラムスケールに置かれることはない。
『おのれえぇぇ、我が
「…………何か言ってません?」
「私のログには何もないな」
ズァーク、お前も
確かにアニメでは特殊召喚成功時に破壊したモンスターの攻撃力の合計分のダメージを与える、というバーン効果を持っていた。まあそこはどうしようもできないのでどうでもいい。
「墓地の
「まだドローする、か……墓地のオルフェゴール・スケルツォンを除外して墓地の
《
ランク8/攻2600
「そしてディンギルスの効果が発動! サイバー・エルタニンを墓地に送る!」
機械族、光属性。オネストとリミッター解除という二つの強化を受けられるモンスターを残しておく理由は無い。
「これで見えている妨害は全て使わせた! 魔法カードブラック・ホールを発動! フィールドのモンスターを全て破壊する!」
神は魔法の効果を受ける。デミウルギアの耐性はモンスター効果のみ。
ディンギルスには効果で破壊される場合、代わりにオーバーレイユニットを使える効果がある。が、墓地から特殊召喚されたため今はオーバーレイユニットを持っていない。
フィールドの中央に突如現れた超重力の黒い渦にモンスター達はなす術なく吸い込まれ、破壊される。
「魔法カードによる除去……流石にこれは止められないね」
互いにモンスターがいない状態。グラドスは攻撃を通す絶好の機会を逃さない。
「サイバーロード・フュージョン発動! 除外されているサイバー・ドラゴン3体をデッキに戻し、サイバー・エンド・ドラゴンを融合召喚!」
《サイバー・エンド・ドラゴン》
星10/攻4000
除外されているモンスターを素材にできる、という特殊な融合魔法で召喚されたのは表サイバー流のエースである三つ首の機械竜。それを見てヴァンガードは驚愕の声をあげる。
「な……!?」
墓地の表裏一体の効果でサイバー・エンド・ドラゴンはエクストラデッキに戻っている。融合先は問題ない。……融合素材となるサイバー・ドラゴンの数が問題だ。
このターンでグラドスのフィールドにサイバー・ドラゴンは2体特殊召喚され、そのどれもが墓地へ行き、サイバー・エルタニンの特殊召喚のため除外された。
あと1枚が足りない。
「いつ3枚目のサイバー・ドラゴンが墓地に――そうか、パワー・ウォールか!」
パワー・ウォールで墓地に送られたのは5枚。墓地で発動したブレイクスルー・スキル、表裏一体、
「ペンデュラムスケールにいる
オネストが使えるのもモンスターとの戦闘のみ。残る攻撃力を上げる手段は限られている。ヴァンガードの懸念は心配不要だとグラドスは笑う。
「装備魔法、巨大化を発動! サイバー・エンド・ドラゴンの攻撃力は元々の倍――8000になる!」
《サイバー・エンド・ドラゴン》
攻4000→8000
融合モンスターの体が倍に膨れ上がる。
これでヴァンガードを一撃で倒す準備は整った。
「バトル! サイバー・エンド・ドラゴンでダイレクトアタッ――」
「攻撃宣言時に手札のアンクリボーを捨てて効果発動! 墓地からモンスター1体を対象とし、自分フィールドへ特殊召喚する!」
アンク。魔法カード死者蘇生にも描かれている輪つき型十字架の名を持つクリボー。その効果は死者蘇生と似た墓地からの特殊召喚。しかし、オルフェゴールの効果により今のヴァンガードは闇属性しか特殊召喚できない。
彼女がサイバー・エンド・ドラゴンに対抗するべく選んだモンスター。それは。
「行くよ、クラッキング・ドラゴン!!」
『ぎゃう! グルル……!!』
《クラッキング・ドラゴン》
星8/攻3000
――ハノイの騎士の象徴であり、ヴァンガードの始まりとも言えるモンスター。クラッキング・ドラゴンだった。
自身以下のレベルを持つモンスターとの戦闘では破壊されない効果もあるため堅牢な壁になれるが、サイバー・エンド・ドラゴンのレベルはクラッキング・ドラゴンを上回っている。意味を成さない。
「モンスターの数が変化したことで戦闘の巻き戻しが発生。どうする?」
「もちろん攻撃を続行します! サイバー・エンド・ドラゴン、クラッキング・ドラゴンに攻撃しなさい!」
ダメージステップ開始時――
攻撃力8000対3000。このまま攻撃が通ればヴァンガードは5000のダメージを受けることになり、グラドスが勝つ。
このままならば。
「闇属性モンスターが相手と戦闘を行うダメージ計算前に手札のダーク・オネストを墓地に送り効果発動! 相手モンスターの攻撃力はターン終了時まで、その攻撃力分ダウンする!」
黒く染まった天使がサイバー・エンド・ドラゴンの眼前に舞い降りる。片手で機械竜の頭に触れ、そこから攻撃力を反転させる闇が染み込んでいく。
「ダーク・オネスト……そうですか」
グラドスの手札にあるのはリミッター解除。この効果にチェーンして発動しても、攻撃力は結局0にされる。
パワー・ウォールにより墓地に送られた最後のカードは2枚目のエターナル・サイバー。戦闘破壊を防いだところでダメージを減らせる訳ではない。
「ええ。……これは、どうしようもありませんね」
《サイバー・エンド・ドラゴン》
攻8000→0
グラドスにこの効果を止めるためのカードは無かった。
この瞬間、勝者と敗者は決定した。
ダーク・オネスト。闇属性のモンスターによる攻撃を確実に通す効果を持つ天使。それを使ってきたのはオネストの効果によりトドメを刺した
「さあ、反撃だクラッキング・ドラゴン! トラフィック・ブラスト――!!」
サイバー・エンド・ドラゴンが必死に己の攻撃であるエターナル・エヴォリューション・バーストを出そうとしているが、攻撃力を0にされたため放出するエネルギーは存在しない。
『グルオオォォオ――ッ!!』
クラッキング・ドラゴンの攻撃を受けた表サイバー流の象徴は破壊されるだろう。
だからグラドスは墓地のカードを使った。
「墓地のエターナル・サイバーを除外し、サイバー・エンド・ドラゴンの身代わりにする――」
それは勝敗に影響を与えはしない。
ただ、したい、と。そう思ったからした行動。
グラドス
LP 1700→0
楽しいデュエルが永遠に続いて欲しいと願っても、必ず終わりの瞬間は訪れる。デュエル終了のブザーが鳴り、グラドスは倒れ伏す。
フィールドに残る機械達が咆哮する。片方は悔しさから。片方は喜びから。
勝者――ヴァンガード。
余計な茶々を入れることなく、無言でデュエルを観戦し続けていたボーマンからの拍手が響き渡る。
「か、勝ったぁ…………やったぁ……………ぐぇ」
デュエルをしていた頃の覇気は吹き飛び、残ったのはすっかすかの声でしおしおになっている転生者。オシリスの天空竜を再びフィールドに出す、という無茶をしたせいか体調は限界を迎え強制ログアウトさせられていた。
グラドスも精霊界へと転移させられ、疲弊した体を癒しに向かわされていた。
「嗚呼。本当に、良いデュエルだった」
アンクリボー――相手からの攻撃に反応して墓地よりモンスターを蘇生する効果を持つモンスター。それがヴァンガードの手札に無ければ勝っていたのはグラドスだった。
鍵となったのはドロー効果を持つ、蘇りし天空神。
「蘇生……か」
死者はこの世に留まってはならない、というメッセージは転生者にも適応されるのだろうか。だとすれば……いや、ヴァンガードが冥界に行こうとしたら魂を捕まえに狙う危険な存在がパッと複数思い浮かぶため、無理やり黄泉路に戻すのは危険だろう。
まあ、そんな事はする必要がない。
なぜなら、彼女はこの世界で今を確かに生きている人間だ。かのファラオのように魂だけが残った存在ではない。
「では、迎えようか。新たな可能性を」
デュエルを記録した事で完成された石碑のかけらをウジャト眼の描かれた門に与えると光が門の切れ目に走り、ひとりでに開く。
門の先に何があるのかは白い光で全く見えない。絶えることのない光の中から、何者かの手が、足が、その全身がやって来る。
――まず最初にこちらへ歩いてきたのは褐色肌の少年と白い聖女。
――記憶を失った旅人と、似た顔立ちをした世壊の支配者達。
――とあるアイテムを使う黒と白の相反する二人の魔女。
開かれし大地へと少年少女が走り出す。幾星霜を超える時が過ぎ去ったならば、いつか罪すら宝へと変わるのだろう。
新たな物語を彩るカード達を見送るボーマン。これからの未来に想いを馳せ、彼も静かにその場を後にするのだった。
「この辺りだったよね、確か」
電脳世界の空を泳ぐ黒い機械竜。その頭の上に乗る一人の決闘者が呟いた。グルル、と肯定するように機械竜は唸る。
彼女が纏う白い衣服はハノイの騎士がしていた格好とよく似ていた。
――幹部である三騎士が出頭し、ハノイの騎士は表向きは解散した。
彼らが収監されたノースウェスタン島刑務所は海に囲まれた監獄。故に脱獄は困難……と言われているが、セキュリティがネットワーク頼りのため時間さえあれば外部からのハッキングにより脱獄が出来てしまうという欠点を抱えている。
というかノースウェスタン島刑務所はバイラ様がハノイの騎士の手によって一度脱獄に成功したところだ。そこへもう一度ハノイの騎士を入れて大丈夫なのか? 大丈夫ではない、問題だ。
――ならば、脱獄する気を無くせばいい。
世界の維持のためサイバース族が必要、ということを新たに就任した神と精霊界を知る者達から伝えられ、当初の目的であったサイバース抹殺の必要性は無くなった。今のハノイの騎士はネットワークの監視者としての活動を裏で続けている。
つまり三騎士が服役しながらやっていることは監獄でリモートワーク生活……つまり税金で生きている……な、なんて恐ろしいんだハノイの騎士! こわい!
ハノイの騎士が未だ潰えていないとしても、それを知って動く部下は圧倒的に足りない。
ネットワークで自在に動かせる人材が、理解者が、強者が必要になる。
問題を解決するために白羽の矢が立ったのは、かつてハノイの騎士であった一人の決闘者。
「……うん、攻性防壁や罠は特になし! 直接突っ込んでいいよ、クラッキング・ドラゴン」
『ぎゃう!!』
加速しての体当たりで建物の壁を破壊。もうもうと立ち込める土煙は互いの視界を阻害する。突然の乱入者に騒ぐ男達の中、リーダー格だろう目立つアバターをした一人は開けられた穴に向かって怒号を飛ばす。
「なんだテメェは! オレ達がなんなのか分かって来たんだろうなぁ!?」
問いかけに彼女は笑って答える。
「どうも、ハノイの騎士(バイト)です。なんてね――さあ、デュエルだ!」
再就職(バイト)エンド。
これにて『どうも、ハノイの騎士(バイト)です。』本編は完結となります!
ギャグで始まりシリアスが混じりオリ主の敗北が挟まり……と、人を選ぶ展開になりつつも最後までお付き合いいただき誠にありがとうございました!
この二次創作でのVRAINS3期はほぼ日常パート、たまに烙印や世壊や罪宝関連でデュエルが起きたりする平和な世界になっていることでしょう。デュエルリンクスへの繋がり方も変わってくるかも? そういえば赤い具足を纏った上様は機械族……あっ……。
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番外編
番外編 ARC-Vの世界にバイトハノイがトリップしたら。
――それは、ありえたかもしれないお話。
その出会いは唐突だった。
道のど真ん中にいたお前の姿と半透明な機械の竜を見て、思わず声を上げた。だって、機械の竜は大口開けて頭にかぶりついていたから。彼らの姿は俺にしか見えないとはいえ、スキンシップにもほどがあると思う。
こことは違う世界から来た、なんて荒唐無稽な話をしていたっけか。なら、証拠を見せてみろ。そう言ってデュエルを始めて驚いた。
誰も見たことがない召喚方法、リンク召喚。そんなものを見せられたら信じるしかなかった。デュエルが終わって、家も無いし、これからどうしよう、なんて途方に暮れていたっけたな。……これほどのデュエリストが宿無しなのはありえない。
大会の賞金が大分残ってたから、部屋を借りるくらい大丈夫だ。むしろどんどん使ってくれ。余らせるのは勿体無いから。そう言ってもお前はいつか必ず返すから、と安アパートの一室でバイトしながら過ごしていた。
俺にはデュエルモンスターズの精霊が見える。お前には機械の竜の精霊がついている。ついうっかり零した言葉。そんなものいるはずがない。君の妄想だ。みんなそう言って否定した。でも、お前は信じてくれた。そんなこともあるだろうと言って笑ってくれた。俺は泣いた。たった一人だけの俺の理解者。
一緒にデッキ構築で悩んで、試しに回して、あーでもないこーでもないって笑いあって。小さな幸せ。ずっと続いて欲しかった。でもお前には帰るべき場所があって。元いた世界を思い出したのか、時々泣きそうな顔をした。
ーーだったら、今度は俺の方から会いに行くよ。そう言ったらお前はきょとんとして、また会えたらいいね、なんて笑って。
出会った時と同じように、いつの間にかお前はいなくなった。アパートに置かれたままの家具、飲みかけのお茶、俺と組んだデッキ。それらが、お前が確かにここにいたという証拠だ。きっと、元の世界に帰ったのだろう。短かったけど、かけがえのない時間。
あれはいつだっただろうか、尊敬するデュエリストについて尋ねると、お前は笑いながら語っていた。
三千年の時を超えた王との遊戯。正しい闇の力を持ったヒーロー。絆の力で未来を救った英雄。希望を捨てずに挑戦し続けた少年。どれも素晴らしいデュエリスト達だった。俺もデュエルしたいと思った。でももうお前はいない。お前しか知らない話。
痛い、苦しい、なんでこんな事をしないといけないんだ。彼らが泣いている、怒っている。俺にしか聞こえない声。彼らの声を俺が伝えなければならない。
お前が語った物語では、俺のような人間が認められていた。でも、俺の世界だと誰も信じてくれないんだ。
――だったら、その世界を再現したらいいじゃないか。
伝説のデュエリスト達の友人、ライバル、闘いの舞台、理由、何もかも!
きっと驚くだろうな、物語でしか知らない存在が現実になるんだ。やりすぎだよ、なんて言いながら笑ってくれるはずだ。
俺とデュエルしろ、俺とデュエルしろ、俺とデュエルしろ。逃げ惑う人々。お前達が俺に望んだことだろう? なぜ笑わない。
笑っている。みんなが笑っている。もっとやれ、俺たちの痛みを教えてやれ。そう、彼らが笑っている。だからきっとお前も笑ってくれる。
女。あいつじゃない。花鳥風月。喜怒哀楽。引き裂かれる。俺たちが離れて、戻って、その度に力が増幅する。この力なら、お前がいる世界に行けるかもしれない。
新たな召喚方法、ペンデュラム。
凄いだろう、俺が創ったんだ。世界で初めて、俺が! あの時の俺と逆に、俺がお前を驚かせてやる。だから笑ってくれ。
破壊。破壊。破壊。違う、ちがう、違う!! 俺がしたかったのは、したかったのは……。なんだったっけ。怒りが、哀しみが、何もかも塗りつぶしていく。教えてくれ、誰か、誰か……。
ペンデュラムでも届かなかった。ああ、消える。お前といたズァークはここで無くなる。また引き裂かれていく。
――なあ、どこにいるんだよ。
検索してたら覇王門とクラッキング・ドラゴンの組み合わせ考えてる人がいたので書いてみた。暗い、暗すぎる……。クリスマス記念には世代超えギャグを書かねば……。
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番外編 ハノイのクリスマス
スペクターさんは植物族の救世主になれるのか。それと女性型モンスターに触手とかアニメ正気か!?いつもなら男にしているじゃないか!
リンクヴレインズはクリスマス一色。あちこちイルミネーションで飾り付けられ、モンスターも期間限定でクリスマスっぽくデコレーション。サンタ帽被ったり、髭がついたり。
「ジングルベール、ジングルベール……」
ハノイにだってクリスマスはやってきます。ヒャッハノイはリア充狩りしてますが。鼻歌歌いながらノリノリで飾り付けをしているのはスペクター様。アジトのど真ん中に馬鹿でかい木を生やし、天辺に星、オーナメントでデコレーション。
「うわあ」
飾り付けてる木、
「どうしてこうなった」
聖天樹の顔部分がサンタ髭生やしてて草。いや生えてるの草じゃなくて樹ですけど。誰か止めなかったんですか。スペクター様こんなキャラじゃなかったと思うんですが。
「リボルバー様がクリスマスに肯定的な言葉を呟いたのを聞いていたんだ……私も流石にここまでするとは思わなかったが」
「あ、ファウスト様」
疲れた顔のファウスト様。止めたのかな、たぶん。自分のモンスターをクリスマスツリーにしちゃうの許せるぐらい浮かれてるスペクター様。ファウスト様の説得は意味なかったようですが。
「リボルバー様は何と?」
「一年に一度の祭日、楽しむのも悪くはないな、と。リボルバー様から言ってくれればこんな事にはならなかっただろうに……」
うーん、そう言った理由として一番に浮かんだのは部下の息抜き、もしくは父親にクリスマスを楽しませてあげたかったとか?
「……所でヴァンガード、通知音がおかしい事になっているが大丈夫か?」
……出来る事ならずっと無視していたかった。部下から送られてくるメッセージがリア充絶対殺す感マシマシでヒートアップしている。こんなことに使うために仕事用の連絡先伝えてるわけじゃないのよ。でも、サンタの赤が血の赤になってしまうのは子供の夢によろしくない。
「……ちょっと部下落ち着かせてきます」
「……お互い大変だな」
こっちには気づかないまま大きい靴下を木にぶら下げて始めているスペクター様と、頭を抱えているファウスト様を見送り、クラッキング・ドラゴンに乗ってGO。クラッキングもクリスマス仕様、サンタ帽被ってます。テンションもいつもよりちょっと高め。キュウキュウ、キャウーと鳴きっぱなし。かわいい。動画撮っとこ。
「あれかな?」
部下がいると思われる場所で大絶賛爆発炎上が起きてるんですけど。うわー、関わりたくない。
「なーにがカップルラブラブデュエルだ唯のタッグデュエルじゃねーかダイレクトアタック!」
「こちとらクリボッチだよ悪いか魔法発動!」
何やってんだお前ら。リア充ぶっ殺ハノイはタッグデュエル大会に乱入、満たされぬ思いを乗せたヒャッハノイ達の心の叫びが木霊していた。
「こんなしょうもない事にハノイの名前使うなそこー、スペクター様がブチ切れしても私止められないからねー」
「はっ、ヴァンガード様!?」
「も、申し訳ございません……」
「わかったらちゃっちゃと帰る準備してねー、いや本当すみませんうちの部下が……」
荒らしていた二人はログアウト。大会の運営責任者と思わしき人に謝ってさあ帰ろうとした、のだが。
「おーっと、なんとここでヴァンガードの登場だー! 果たしてどんなデュエルを見せてくれるのか!」
「……ん?」
勝手に参加させられた。すごい歓迎ムードなんですけど。ねえ皆、私がハノイの騎士だってこと忘れてない? 私にタッグパートナーいないからって立候補する人いたけどお断りさせて頂きました。このデュエル大会はタッグフォースルール。このデッキ、特殊召喚の縛りが相手に迷惑しかかけないからね。
「「デュエル!」」
流されるままにデュエル開始して手札5枚ドロー。うーん、断れない私も私か。
「……あ」
クリフォート・ディスクとリミ解使ったワンキルでさくっと終わらせちゃいました。
「続いて第2回せ」
「この後予定あるんでそれじゃ!」
相手が反応する前にクラッキング・ドラゴンを呼び出して乗る。
「今日はこんなのが後どのくらい続くんだろうか……」
何度もこうなったら疲れる。そう言えば、さっきのデュエルではクリフォートは雪が積もった姿で召喚された。クリスマス要素もっと足してもいいのでは? これだけだとクリスマスというより冬。
「あ」
もしかしたら、そう思って発動したのは
「……やっぱり」
ナチュルの樹がクリスマス仕様になってた。
「ぎゅ!?」
まあ、いきなり目の前に隠されし機殻出たらびっくりするよね。首をこっちに向けてどうすればいいのかオロオロしているクラッキング・ドラゴン。
「あ、ごめんね、すぐ戻すから……仕事早く終わらせよっか」
「ぎゅー!」
癒しだ(確信)。守りたい、この笑顔。あと何人かリア充を呪っているヒャッハノイがいるから、それを落ち着かせれば今日の仕事はほとんど終わる。
「できる限り巻きでいくぞー、おー!」
「ぎゅー!!」
だがしかし、まるで全然! 巻きでできなかったんだよねぇ!
「た、ただいま戻りましたー……」
ヒャッハノイを落ち着かせるのに時間はかからなかったけど、余計な事(主にデュエル)に巻き込まれたせいで時間がかかってしまった。
「あら、お帰りなさい。……これ、本当にどうしようかしら」
「大分お疲れですね。……私達が言えたことではありませんが」
二人同時にため息。バイラ様とゲノム様も疲労が隠せていない。ツリーの前には拳を天に突き上げやりきった表情のスペクター様。結局、誰も止めることが出来なかったのか……。
「うわー……」
敬愛もここまでくると何も言えなくなる。完璧なクリスマスでリボルバー様を楽しませたいのだろうけど空回りしてませんかね。
「……あ、もう連絡いってると思いますけど、今日は早めに上がらせてもらいます」
デュエル部の皆とクリスマス過ごす予定なんですよね。
「それは大丈夫よ、今日はハノイの騎士の活動を控えるようにリボルバー様から言われてるもの」
「プレイメーカーもリンクヴレインズに姿を現していない。万が一出て来たとしてもデュエルはしないでしょうね」
「戦場のメリークリスマスですか」
戦争中、たった一日だけ、敵味方関係なく、その日だけはクリスマスを祝った。ハノイの騎士とか復讐とか、今日だけは関係ない。
「おや、知っていたのですか」
「このぐらいなら誰だって知ってると思いますよ? ……っと時間そろそろですね」
おのれデュエル大会。断れなかった私に原因はあると思うけど。……そうだ。忘れちゃいけない、あの言葉。
「それでは皆さん、メリークリスマス!」
二人にそう言ってから、私はログアウトした。
今日もハノイは平和です。
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番外編 スピードデュエルデッキ語り
自分でネタを減らすスタイル。
オッスオラヴァンガード! そして隅の方で体育座りして天井を見上げているのは頭の中にイマジナリーフレンドならぬイマジナリーエルシャドール・ネフィリムを作り出そうとしているヒャッハノイ! ……何やってんの?
「エルシャドール・ネフィリムは概念? 何を言っているんだ友よ、ここにいるじゃないか……」
「何やってるんですかそんな所で……。置物になるぐらいなら外でデュエルしている方がいいですよ」
ほら、と立つのを促す。
「ヴァンガード様……いや実はですね、スピードデュエル用デッキの調整が上手くいかなくてちょっと現実逃避を」
「あー、確かに慣れなかったら大変ですから、あれ」
この人は確かシャドール以外にも召喚獣とかを組んでいたっけか。暴走召喚師アレイスターがいるから召喚獣は大丈夫だろうけど、シャドールはまあ、うん。シャドール・ネフィリムをリンク召喚するたびに効果でエルシャドール・ネフィリムを融合したい病が発症するから。結論、光属性なのが悪い!
「……失礼ですが、ヴァンガード様はどうしてらっしゃるので?」
それは純粋な興味からの質問だった。この世界のカリスマデュエリストはデッキレシピを公開している人は少ない。対策されるのを恐れているのは勿論、こんなのいつ使うんだよってカードをデュエルする度に入れたりしているからだ。実際にデュエルするとそういうカードほど活躍するんですけど。
「んー、ハノイの騎士に入った時に渡されたデッキを弄った結果、機械族・闇属性で落ち着いた感じかな。他には……」
ヒャッハノイがすごく真面目な顔で私の話を聞いている。
「……恥ずかしいなこれ。どんなカード入れてるかぐらいしか教えられないけど、ちょっとでも参考になれば」
「いやちょっとどころじゃないですよそれ!?」
そんなこんな話しているうちに人が増えていた。椅子とか用意されてちょっとした教室みたいだ。
「最初に言っておきます。私のスピードデュエル用のデッキ、すごく重いです。見たら絶対えっ……て顔になりますよ」
カード名を表示させていく。最初はふむふむと頷いている人が多かったが、途中からん? て感じに変化していく。
「
《クラッキング・ドラゴン》
効果モンスター
星8/闇属性/機械族/攻3000/守 0
(1):このカードは、このカードのレベル以下のレベルを持つ
モンスターとの戦闘では破壊されない。
(2):このカードがモンスターゾーンに存在し、
相手がモンスター1体のみを召喚・特殊召喚した時に発動できる。
そのモンスターの攻撃力はターン終了時までそのレベル×200ダウンし、
ダウンした数値分だけ相手にダメージを与える。
《デスペラード・リボルバー・ドラゴン》
効果モンスター
星8/闇属性/機械族/攻2800/守2200
(1):自分フィールドの機械族・闇属性モンスターが戦闘・効果で破壊された場合に発動できる。
このカードを手札から特殊召喚する。
(2):1ターンに1度、自分・相手のバトルフェイズに発動できる。
コイントスを3回行う。
表が出た数までフィールドの表側表示モンスターを選んで破壊する。
3回とも表だった場合、さらに自分はデッキから1枚ドローする。
この効果を発動するターン、このカードは攻撃できない。
(3):このカードが墓地へ送られた場合に発動できる。
コイントスを行う効果を持つレベル7以下のモンスター1体をデッキから手札に加える。
《A・O・J コズミック・クローザー》
効果モンスター
星8/闇属性/機械族/攻2400/守1200
相手フィールド上に、光属性モンスターを含む2体以上のモンスターが存在する場合、
このカードは手札から特殊召喚できる。
《Kozmo-ダークシミター》
効果モンスター
星8/闇属性/機械族/攻3000/守1800
(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、
フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを破壊する。
(2):このカードは相手の効果の対象にならない。
(3):このカードが戦闘・効果で破壊され墓地へ送られた場合、
墓地のこのカードを除外して発動できる。
デッキからレベル7以下の「Kozmo」モンスター1体を特殊召喚する。
《星遺物-『星槍』》
効果モンスター
星8/闇属性/機械族/攻3000/守 0
このカード名の(1)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):リンクモンスターを含むモンスター同士が戦闘を行うダメージ計算時に、
このカードを手札から捨てて発動できる。
その戦闘を行う相手モンスターの攻撃力は3000ダウンする。
(2):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、
相手は他の「星遺物」モンスターを攻撃できない。
(3):EXデッキからモンスターが特殊召喚された場合に発動する。
お互いのフィールドに「星遺物トークン」(機械族・闇・星1・攻/守0)を1体ずつ守備表示で特殊召喚する。
《可変機獣 ガンナードラゴン》
効果モンスター
星7/闇属性/機械族/攻2800/守2000
(1):このカードはリリースなしで通常召喚できる。
(2):このカードの(1)の方法で通常召喚した
このカードの元々の攻撃力・守備力は半分になる。
《BM-4ボムスパイダー》
効果モンスター
星4/闇属性/機械族/攻1400/守2200
このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):1ターンに1度、自分フィールドの機械族・闇属性モンスター1体と
相手フィールドの表側表示のカード1枚を対象として発動できる。
そのカードを破壊する。
(2):自分フィールドの元々の種族・属性が機械族・闇属性のモンスターが、
戦闘または自身の効果で相手フィールドのモンスターを破壊し墓地へ送った場合に発動できる。
その破壊され墓地へ送られたモンスター1体の元々の攻撃力の半分のダメージを相手に与える。
「なるほど……確かに重いですね」
「サーチは魔導契約の扉だとしてどう出すかだよな」
「相手エンドフェイズに終焉の焔とか、帝王の烈旋で相手モンスターリリース素材にすればいけなくもない、か?」
おお、真面目な考察ありがとうございます。
「ガンナードラゴンはトランスターンでレベル8へ繋げるために。ボムスパイダーは効果で相手モンスター除去しつつ
初手に
「特殊召喚したデスペラード・リボルバー・ドラゴンやKozmo-ダークシミターで相手モンスターを除去しつつ、クラッキング・ドラゴンのバーンで相手のライフを削る。余裕があればランク8を出したり、かな」
あれこれ詰め込んだらモンスターの内半分以上が最上級モンスターになった。自分でも重いのはわかってるし、回せるのかなこれと思ってたけど意外といけた。アリガトウオレノデッキ。
「ヴァンガード様、スキルについてもお願いしたいのですが……」
おずおずと手をゆっくり上げて申し訳なさそうに尋ねてくる。そういやヒャッハノイのスキルはダブルドローが殆どだ。オリジナルスキル持ってるの幹部だけか。
「私のスキル、鉄心の決意は相手がダイレクトアタックして来た時、その攻撃を無効にしてバトルフェイズを終わらせ、その後墓地の機械族を可能なかぎり特殊召喚する。ただし攻撃力と守備力を0、効果を無効にするから基本は素材として使う」
基本はエクシーズ召喚、ブラック・ボンバーを蘇生したらシンクロ、他にもアドバンス召喚のリリースにしてよし、とモンスターを無駄なく使い切れる。
フィールドに闇属性モンスターが並ぶからスターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンもたまに出て来るけどね。融合は素で引くしかないけど。
「このスキルはさっき見てもらったレベル8がフィールドに並ぶ状況を作りやすい、ってのがポイント。このスキルを使うときはモンスターが墓地にいるはずだからね。このスキルを使う前にトレード・インや手札抹殺、アドバンスドローで落としておけば更に良し」
「他には……そうだな、ジャック・ワイバーンが活躍する機会が意外と多いのが一番驚かれるかな。例としては、スキル使用して機械族のモンスターを3体特殊召喚、適当なエクシーズかシンクロモンスターを出してフィールドを開ける。ジャック・ワイバーン通常召喚、スキルで蘇生したモンスターとジャック・ワイバーンを除外して効果で墓地の闇属性モンスターを蘇生。……てのはやったことあるよ」
おお、とその状況が脳内に浮かんだのであろう声があちこちから聞こえる。この反応、君達ジャック・ワイバーンの効果使ったことないだろ。
このコンボは効果を使いたいモンスターをスキルで特殊召喚しなければいけるので、鉄心の決意で1体だけ特殊召喚しても十分機能します。ダークシミターを特殊召喚すれば効果で相手モンスターを破壊、
「そのコンボが使われたデュエルを見たことがないのですが、一体いつ、どこで……?」
「あー、黒虎組とかいうの潰した時かな? ハノイの騎士の名前を勝手に使って、自分達がした犯罪をこっちにおっ被せようとしてたからファウスト様からの命令で裏で、ね」
そこそこ有名な組織が突然壊滅、という謎が残るニュースだったので数日間テレビやネットを賑わせていた。わー、一体誰の仕業なんだー。
「あれヴァンガード様だったんですか!?」
「流石です……!」
あれー、なんか最後デュエル関係無くなった。
「ここまで言ってあれですけど、私はスキルありきでデッキ組んでるんで。いっそのことダブルドローから融合サポート用のスキルに変更すればいいんじゃないですか? SOLが配布してるスキルを改造すればいけますよ?」
「ご提案ありがとうございます!」
あー、これはプログラミング担当の人達の仕事増えますね。戦力が増えるのなら上は文句言わないでしょうけど。
そんなこんなでハノイの騎士は今日も平和です。
「《
どういう……ことだ……!?まるで意味がわからんぞ!
崇高なるバリア-ハノイフォース-とかいうネタがマジだったってどういうことなの本当。今度からミラフォ使ったらなんか凄い光出せるようにしないと。ハノイの騎士必修科目ですからね。
あ、バレンタインはヴァンガード様がお世話になったハノイの騎士の皆さんにチョコ渡しにきます。基本手渡しです。テンション上がって「チョコ貰ったぜドヤァ」なヒャッハノイがリンクヴレインズを荒らします。平和な世界。
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番外編 あるヒャッハノイの小話
小説内でちょこちょこ出たあのヒャッハノイのお話しです。
「ネフィリム返ってきたぞヤッフゥゥゥウゥッ!」
ぱん、とパーティー用クラッカーを鳴らし、火薬の匂いが部屋に漂う。低めのテーブルの上には『祝 ネフィリム制限復帰』とメッセージが書かれたホールケーキ。壁にはシャドール・ネフィリム、エルシャドール・ネフィリム、エルシャドール・シェキナーガ、エルシャドール・アノマリリスが一同に集ったポスター。
筋金入りのシャドール使いが歓喜の舞を踊っている中、冷静な友人から一言。
「おめ、でミドラーシュは?」
「制限だよチクショウ! 運営ァアアッッ!」
変なテンションでぐるぐる回る男性と、それを見るだけで止めようとしない男性。
――読者諸君は覚えているだろうか。ネフィリム返してヒャッハノイと満足民のことを。
実はこの二人、リアルでも知り合いだった。ついでに言うとネフィリム返しておじさんではなくお兄さん、満足民はネットと現実でテンションが真逆になるタイプである。
「……で、ネフィリム入りシャドールの勝率は?」
「上がった」
「……真面目に?」
「おう」
前は召喚獣シャドール、現在は純シャドール。初めて会った時からシャドールを使い続けているこの男、ネフィリム禁止の時は泣きながら酒を煽って夜通し愚痴り続けるほどの愛を見せつけてくれた。
「ここぞ! って時に締めてくれるいいカードだよネフィリムは。特殊召喚しないデッキとか今全然見ないし」
シャドールに生き、シャドールに死ぬ。貴方もお人形にしてあげましょう、と言われたらハイヨロコンデー! とか言い出しそうな気配すらする友人。
――デッキ、あいつの想い(主にネフィリム)にこたえまくってね?
「それに今回の制限復帰でネフィリムの値段爆上げ、ネトオク見たら亜シクが50万スタート。お高い女よ、ネフィリムは……」
「はいはいわかったわかった。……で、まだ続けるのか? ハノイの騎士」
今まで明かされなかった、このシャドール使いがハノイの騎士に入った理由、それは――。
『ネフィリムを返してもらうため』
制限改定に対しての署名とかネフィリム返しての会の活動にも参加していた。だが一向に成果はでない。これはもう直接攻撃を加えるしかない、と思い至ったわけである。
……こらそこ、馬鹿じゃね? とか言わない。ついでに満足民の方の理由は『インフェルニティガン増やしてもらうため』なのでどっこいどっこいである。(ガンは無理だろ! いい加減にしろ! by友人)
「……聞くまでもないだろ、そんなこと」
「だった、な」
ふう、と腕を組みながら相槌をうつ。
「デュエルと眼福、どちらも満たせる場所から誰が離れるってんだ。趣味と実益の一石二鳥ってやつ?」
「わー、ヴァンガード様のシェキナーガごっこ中写真をこっそりカードスリーブに印刷している奴がなんか言ってる。てか趣味と実益のうち趣味が殆どだろお前」
「なんで知ってんだお前!? ……ま、デュエルは勝っていれば文句出ないし。負けないんだから、使って楽しいデッキでデュエルするのが一番よ」
「楽しいが一番ならシンクロキャンセルトリシューラはセーフか? 俺あれ凄く楽しいんだけど」
「……やっぱえぐいよなお前」
「そうか?」
腐っても満足民。トリシューラは満足の一角を担う満足竜、活躍の場は何度でも作り出す。故のシンクロキャンセル。
「まー、最終的にはあれだよな」
「「可愛いは正義」」
ハイタッチ。この二人、表面上は違うようでやはり根は一緒である。
酒も入り、彼らの話は違う方へ流れていく。
「幹部達のリアルのデッキってどうなってんだろうな」
「あー、ファウストは電子光虫とか? ゲノムの野郎は……ワームでいいか」
ファウストとゲノムはあまり関わったことがないのでこれだ、というデッキが思いつかない。エーリアンには細胞増殖とか名前の付いたカードもあるからいいや、と二人ともどうでも良さげである。
それに、ゲノムがアバター新調した直後のヴァンガード様を追いかけた事がきっかけの、ハノイの騎士のアジトを騒がせた鬼ごっこ大会のことを忘れたわけでは無い。ロリを全力で追うおじさん。おまわりさんこの人です。
……まあ、追いかけっこはキレたヴァンガード様がDNA改造手術とサイバー・ドラゴン、キメラテック・フォートレス・ドラゴン片手に「君たち……メカだよ」と暗に「お前の地獄螺旋鬼モンスター全部機械族にして吸ってやる」と脅したことで終了したのだが。
「バイラはモンスター入れ替えたウイルスデッキでいいだろ。スペクターは……ギガプラ過労死?」
「黒庭使ってくるんじゃね?」
「いいや、意外にアロマとかありそうじゃ……」
「やめろ」
確かに聖天樹もアロマもライフ回復するけど、あれと一緒にされたらキレる。スペクターが。
「で、一番困るのは」
「ヴァンガード様だよなぁ……」
ヴァンガードはハノイの騎士として活動している時、複数の機械族デッキを使用している。スピードデュエルではレベル8闇属性機械族。本気になるとクリフォート。
「あの調子だと、機械族ならなんでもいけるよなあの人。あの時はサイバー・ダークだっけ? 俺あの時見れなかったんだよなー」
彼が言うあの時、とはディアボロス陛下が直接ハノイの騎士のデッキ構築用データベースに対する破壊工作を行なった時のことである。
ヴァンガード様曰く、『色々濃いファンを纏め上げるディアボロスも裏で苦労してそうな気がする』との事である。……ハノイの騎士の敵に同情する必要はないのでは?
「確かリアルのデッキは機械族メインだって言ってたもんな……。閃刀姫は間違いなく組んでるだろ? ……もしかして、列車シャドールもワンチャン」
シャドール、と聞いて目の色が変わる友人。
「は、大会で機械族使っている女性の記録片っ端から」
「やめろ(無言の腹パン)」
「ぐふっ」
シャドール使いが何をしようとしていたか理解した満足民からの腹パン。意識は刈り取れず、呻き声を上げながら腹を抑えて転がる友人を見て一言。
「それは流石に犯罪だ」
「お前もハノイの騎士だろ、今更何言ってんだ……ぐおお、痛え……」
現実でもハノイの騎士は平和です。
ヒャッハノイが言っているあの時とはキレキレテP様作の『遊戯王VRAINS 悪魔のカリスマデュエリストR 「コラボ編 アナザー事件の裏で」』参照です。
ゲノム「アバター変えたばかりなら上手く操作出来ないはず!今の内にDNAを採取しなければ!」(綺麗なフォームで疾走)
ヴァンガード「うわあああああ!」(全力疾走)
※作者注
DNAの解析には普通血液を使用します。なのでそこまで犯罪臭はありません。ですが、採取に同意がなければ犯罪になります。
ゲノムやっぱ犯罪者だった!
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番外編 ストラク投票結果とヒャッハノイ達
ヒャッハノイは癒し。
『投票1位に輝き、ストラクチャーデッキとして商品化されるテーマは【シャドール】!!』
「約束された勝利のシャドール」
「なんだそのポーズ」
「見ればわかるだろ、約束された勝利のシャドールのポーズだよ」
「知らんわそんなトンチキなポーズ」
ここはリンクヴレインズ。ヴァンガードの手によってばら撒かれた増殖するG型プログラムには、所持者同士が近付くとお知らせする謎機能が付いていた。それを目印に、一人、また一人とプログラムを持っているデュエリストが集まり――かつてヒャッハノイと呼ばれた者達はほぼ全員集まった。
ハノイの騎士が存在しない今、合法ロリなヴァンガード様はプレイメーカー達と行動を共にしている。お前ちょっとそこ代わゲフンゲフン。
再結成も何も聞いてない以上、再びハノイの騎士として活動などするはずがなく。何かイベントがあったらどんちゃん騒ぐいい感じのグループが自然発生していた。
「んあーバルバロス気になってたんだけどなぁー! ダイーザに組み込めそうなサポートありそうだと思って投票したんだけどなぁー!」
「おつです。ストラクは海皇+
いやー流石シャドール勝てなかったなー、と割り切っているデュエリストもいる中、諦めの悪い者もいる。
「霊使い……新規……」
「蟲惑魔……新規……」
どちらも人気が高いテーマだ。今回の投票では上位にランクインしていたが、シャドールには届かなかった。
一際目立つどんよりとした一角でため息と呟きの無限ループが発生している。そのどんよりっぷりといったら、キノコが栽培できそうなどんより感だ。二人に気づいたシャドール使い。彼らのそばに近寄る。慰めるのだろうか。
「ハハッ、ざまあ」
二人ははふらふらと立ち上がる――と見せかけてアッパー! 顎にクリーンヒット!
「イッテーナコンチクショー!」
「ヤンノカコラー!」
「スッゾコラー!」
「「「デュエル!!!!」」」
三人まとめてどったんばったん大騒ぎ。明らかに喧嘩売ってたあっちが悪い。でも腹が立ったからといって突然武力行使した二人も悪い。
「うわひっでぇ」
「しょうもなさすぎる……小学生の喧嘩かよ」
「シャドール絡むといつもあのテンションなんだ、察してくれ」
「あー……リアルでも知り合いなのか?」
「お疲れ様なのです。お悔やみ申し上げるのです」
「いや俺まだ死んでないからね?」
――ネフィリムを素材にネフィリム融合召喚!
――落ちろネフィリム! 罠発動!
――ネ、ネフィリムーーーーッ!!
悲痛な叫び声が響いてくる。無視。
「投票できた各テーマに新規1枚ずつ刷ってパック収録すれば良かったんじゃね?」
「それは思った」
「どんなカード入れる予定だったのか見たかったです」
「わかる」
「見たら見たで効果が思ってたのと違う! ってなってまた揉めたんじゃね? 分からないままでもいいと思うけどな」
「まさにシュレーディンガーの新規」
「……よく聞くですけど、シュレーディンガーって何なんです? 猫の名前?」
「思考実験……だった気がする。俺も上手く説明できないけど」
「何のためのネット環境だ、検索で一発だぞ」
――太陽の書! リバースせよダルク! 効果でお前のフィールドの闇属性モンスター……ミドラーシュのコントロールを得る!
――ミ、ミドラーシューーーーッ!!!!
色んなことが起きていますが、今日も(元)ヒャッハノイ達は平和です。
いろんな機能を仕込んだ増殖するG、ヴァンガードは万が一を考えてどうでも良さげなものから重要なものまで盛り込んでます。
というわけで、ヒャッハノイ達はほぼ集合済み。あとは合図があれば各自動ける状態となっています。
この世界のストラク投票は三幻魔がないです。その分の票数が他テーマ流れています。それでもシャドールには勝てなかったよ……。
いつものシャドールと満足民に加えてダイーザやバジェガエル、霊使いに蟲惑魔使いが追加されました。実は彼らはヒャッハノイの中でもけっこう強めのデュエリストだったりします。
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番外編 ヒャッハノイまとめWiki
というわけで需要があるのかないのかわからないヒャッハノイまとめです。作者の中で設定があるヒャッハノイのみ纏めているので「こいつのこと知りたいんだけど!」って人は申し訳ない……すまない……。
デュエリストに馴染み深い遊戯王Wiki風です。
・【ヒャッハノイ】
空・ヒャッハノイの概要
空・ヒャッハノイメンバー解説
空空▪︎よく見るヒャッハノイについて
空空▪︎その他のヒャッハノイについて
空・日常風景
空空▪︎ボコられるネフィリム返しておじさん
空空▪︎(自称)プレイメーカーに認められた男
空・関連リンク
ハノイの騎士の中にいる某世紀末作品に出てくるヒャッハーのような存在のことを指す。ハノイの騎士+ヒャッハーを組み合わせ、ヒャッハノイと名付けられた。別名変態ハノイ。
・ハノイの騎士に所属していた経験がある。
・なんか……こう……ハジケていて……キャラがなんか濃い。(ヴァンガード談)
・俺たちのヴァンガード様は最高だぜ!という強い心。
・イエスロリータノータッチ。
以上を全て満たしたデュエリストの一部を本Wikiでまとめる。
『どうも、ハノイの騎士(バイト)です。』にて出演回数が多く読者の感想にてよく触れられている(と思われる)ヒャッハノイ達。
・ネフィリム返しておじさん
使用デッキは【シャドール】。ハノイの騎士になった理由は番外編でも語られていたように《エルシャドール・ネフィリム》を返してもらうため。ネフィリム返されたら何故かミドラーシュが取り上げられたりなど紆余曲折あったが最終的にネフィリムは返ってきた。よかったね。満足おじさんは幼馴染。家で一緒に遊んだりする仲。よく【蟲惑魔】使いや【霊使い】使いにボコられている。リンクヴレインズにて使用しているアバターは紫色の男性型球体関節人形。 |
・満足おじさん
使用デッキは【インフェルニティ】。ハノイの騎士になった理由は番外編でも語られていたように《インフェルニティ・ガン》を返してもらうため。なんでまだ返してくれないの?なんで?ネフィリム返しておじさんは幼馴染。いつもの面子とデュエル、敗北してぶっ倒れた状態のネフィリム返しておじさんの回収係をよくしている。地元は日本なのになぜか西部劇を感じる街並みなんだとか。リンクヴレインズにて使用しているアバターは不満足を感じるロングヘアーの男性。 |
・【蟲惑魔】使い
使用デッキは【蟲惑魔】。ハノイの騎士になった理由はリア充を合法的(合法的ではない)にボコボコにしたかったから。調子に乗っている相手が罠にハマる瞬間を見るのが生き甲斐。蟲惑魔ストラク、「ありがとう」……それしか言う言葉が見つからない……。リンクヴレインズにて使用しているアバターはでっかい植木鉢に植っている鋭い歯が生えた花。 |
・【霊使い】使い
使用デッキは【霊使い】。ハノイの騎士になった理由はプロデュエリスト試験不合格の鬱憤を晴らすため。よく口が悪くなるし喧嘩を売りがち。そんな自分でも受け止めてくれたヒャッハノイ達に感謝しているがその気持ちを伝えたらネフィリム返しておじさんが謎のドヤ顔をしてくるのが目に見えているので絶対に言わない。リンクヴレインズにて使用しているアバターは草臥れたスーツを来たやさぐれたサラリーマン。 |
・【インフェルノイド】使い
使用デッキは【インフェルノイド】。ハノイの騎士になった理由はSOLに就職が失敗した八つ当たり。ヒャッハノイの中では頭脳担当。「〇〇なんじゃないか?(名推理)」は持ちネタ。リンクヴレインズにて使用しているアバターは七三分け眼鏡。 |
・【エルドリッチ】使い
使用デッキは【エルドリッチ】。ハノイの騎士になった理由はネットワークの世界で有名になりたかったから。必要最低限のネタを発言する。スキドレは全てを解決します。ワイトもそう思います。黄金卿も肯定しよう。十三人目の埋葬者はそう思いません。……誰だお前!?リンクヴレインズにて使用しているアバターはゲーミング発光する骸骨。 |
・【剣闘獣】使い
使用デッキは【剣闘獣】。ハノイの騎士になった理由は無くした居場所をがむしゃらに探そうとした結果。かつてカリスマデュエリストとして活動していたがあるお偉いさんのやり口に反発。あることないことをでっち上げられ辞めることとなった。ヒャッハノイの中では常識的な感性を持つためツッコミ役を担当している。がんばれ。リンクヴレインズにて使用しているアバターは虎モチーフの獣人。 |
・【ダイノルフィア】使い
使用デッキは【ダイノルフィア】。ハノイの騎士になった理由は多くの決闘者と戦えるから。ただのドM。無害。放っておいてください。放置プレイ……!と勝手にハァハァします。リンクヴレインズにて使用しているアバターは露出したいのか隠したいのかよく分からない服装をした竜人。 |
・【宣告者】使い
使用デッキは【宣告者】。ハノイの騎士になった理由は自分が嫌いな存在を排除したかったから。美しいか美しくないか、という独自の評価指標を持つ。リンクヴレインズにて使用しているアバターは白を基調とした全身鎧。 |
・【デュアル】使い→うんちの人
使用デッキは【デュアル】。ハノイの騎士になった理由はハノイの騎士に襲われたくなかったから。掲示板にて書き込んでいたら予測変換が暴発し、結果コテハンを強制変更させられた。かわいそう……。リンクヴレインズにて使用しているアバターはリアルの自分を元にリアルでは身につけないだろうアクセサリーを装着したもの。 |
・【バジェガエル】使い
使用デッキは【バージェストマ】と【ガエル】の混合。ハノイの騎士になった理由はなんとなく。変なですます口調で話す。バイトハノイの世界には烙印ストーリー関連はない設定のためスプライトがやってきたら彼のデッキは禁止改定の余波で死にます(比喩)。リンクヴレインズにて使用しているアバターはカエル柄のレインコートを着たメカクレショタ。 |
・【マドルチェ】使い
使用デッキは【マドルチェ】。ハノイの騎士になった理由はヴァンガードに憧れて。実は本編で偽プレイメーカーをしていたデュエリスト。ヴァンガードに倒された後なんやかんやあってハノイの騎士入りした。リンクヴレインズにて使用しているアバターはパティシエ。 |
・【メルフィー】使い
使用デッキは【メルフィー】。ハノイの騎士になった理由はかわいいを広めたかったから。「かわいそうはかわいい+かわいいは作れる→かわいそうな目に合う相手をつくれるものはかわいい→かわいいを作れるアーゼウスやアルファもかわいい」な思考をしているかなりやばいデュエリスト。リンクヴレインズにて使用しているアバターは一切変更なし、初期アバターのままな戦闘民族。 |
以下はヒャッハノイがたむろする空間にてよく見られる風景である。
【蟲惑魔】使いor【霊使い】使いとネフィリム返しておじさんが同じ時間帯にログインしているとよく見られる。どちらかが相手にデュエルをふっかけ、ネフィリム返しておじさんがいつものように敗北する。
何回も同じ相手とデュエルしているためどう動くのかの把握は済んでいる、かつメタもしっかり積んであるはずなのに何故負けてしまうのかは永遠の謎。デュエルに絶対はないということを彼らは身をもって証明してくれているのかもしれない、と【インフェルノイド】使いは語る。
一般人がそう簡単にやって来れないような場所のはずなのにどこからともなく迷い込んできた(自称)プレイメーカーに認められた男、ブレイブ・マックス。ヒャッハノイ達の集合場所を変えてもなんでか迷ってまたやってくる。彼が来ると【ヴェルズ】使いは何故か苦虫を噛み潰したような顔になる。なんでだろうね。
初めて迷った時はちょうど『第3回ヒャッハノイリアル日数DE人狼大会』で「吊る」「追放」など言葉によるデュエルの真っ最中という非常に悪いタイミング。誤解が発生、デュエルによる対話後和解した。相手をしたドM野郎【ダイノルフィア】使い曰く、実力はまだまだ伸び代がある。更なる誤解が発生しなくて良かった……本当に。
この間は海造賊危機一髪で遊んだ。たのしかったです。まる。
・ハノイの騎士
・ヴァンガード
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【コラボ】科学技術全盛時代の転生決闘者達【前編】
なお、デュエル構成の作成・執筆中にリミットレギュレーションが発表されたためOCGと異なるリミットレギュレーションのデュエルとなっています。
あらかじめご了承ください。
【オルフェゴールシャドールティアラメンツ】、わけがわからないよ。
知らない街並みの中、一人のハノイの騎士が立っていた。いや、一般的なハノイの騎士として統一された格好ではなく女性物としてアレンジが加わっている。さらに顔を露わにしているため、ただのハノイの騎士ではなく幹部であることが見て分かる。
……なお、彼女の場合『ハノイの騎士』の前に『元』が付くのだが、裏事情を知らない人間にそこまで理解しろと言っても無理だろう。
「どこだろうここ」
『ぎゃう……精霊界? でもなんか違うような』
ここにいる人間は一人だけ、なのに独り言ではなく会話が成立した。彼女に憑いているクラッキング・ドラゴンの声だ。
彼女のリンクヴレインズでの名前はヴァンガード。遊戯王なのにヴァンガード、というツッコミ待ちをしているが誰にもされることがない転生者である。
『なんかニオイが違う〜?』
周囲に迷惑をかけないミニサイズで空中にふよふよ浮いているクラッキング・ドラゴン。機械族なのに犬のように鼻先を――鼻の穴は無いが匂いがわかっているので多分鼻先という呼び方であっているだろう――ひくひくさせながら、あちらへこちらへと自分達に必要な情報はどこにあるのか探している。
「変なとこでトラブルが増えるのは勘弁してほしいんだけどなあ」
鳩とカエルを外へ連れ出した後キャラの濃いヒャッハー達への伝言を残し、帰還途中に迷子になりましたーなんてスペクターにどやされるのが確定してしまっている。早く帰らないとめっちゃ叱られる。…………ここに来る直前、何かきっかけがあったような気がするが、よく思い出せない。
自分が思い出せないソレが原因でこの状況になっているのは間違いないだろう。うんうん唸りながら必死に記憶を辿ろうとして、クラッキング・ドラゴンの嬉しそうな声が思考を遮る。
『ぎゃう!』
ぴ、と尾が上を向いている。何かを見つけたらしい。
『ご主人、あれ!』
あれ、と示す先には人影。だが、そのシルエットの細部をよくみると人間と同一でないことがわかる。アバターならばどんな姿であろうと問題はないが、ソレを動かしているのは人間ではない、と彼女のリンクセンスは感じ取った。
つまり、カードの精霊。精霊ならデュエルディスクの中に沢山いるしやり取りにも慣れている。非現実的な出来事の解決には非現実の存在、なるほど理にかなっている。
ありがとねと機械竜を撫でたのち、ヴァンガードは第一発見精霊へ声をかける。
「あのうすいませんお聞きしたいことが――」
こちらを向いた精霊がびくり、と体を大きく揺らす。ヴァンガードの格好を上から下まで確認して、口から声を絞り出す。
「…………は」
「は?」
「ハノイの騎士だぁあ――!」
どこに居たのか、きゃあきゃあわあわあと精霊達の騒ぎ声があちこちから聞こえて、それがどんどん遠くなっていく。つまり逃げている。
「………………なぜ?」
『ぎゃうー?』
これまで出会った精霊の中で会話をしようとした瞬間に逃げ出すものはいなかった。どういうことなの? と二人仲良く首を傾げる。
あっという間に人気が無くなる。無人の街で二人ぼっち。
「なんだろう、嫌な予感がする」
あの反応からして自分達は歓迎されていない存在。早く帰り道の手がかりを探さないと、と探索に戻った。
――ラッセさん! ハノイの騎士です! ハノイの騎士がEden Cityに現れました!
――なっ!? 本当なのかマスカレーナ! まさかスペクターが!?
――いえ、クラッキング・ドラゴンの精霊を連れた女性、らしいのですが……。
――女性……? だとすればバイラか? いや、今はもう捕まっているはずだしバイラはクラッキング・ドラゴンを使った描写は確か無かったはず。じゃあ一体何者……いや、こんなことを考えてる場合じゃない! デッキ、セット! into the VRAINS!
「あいつですラッセさん!」
『ぎゃう、サイバース?』
突然現れた二人、向けられる敵意。
「っクラッキング・ドラゴン!」
男の影から無数の影の糸が伸び、襲いかかる。クラッキング・ドラゴンが体の大きさを元に戻し、その巨体で盾になるも一本を逃してしまった。
『――!?』
ヴァンガードの左腕に絡みついた影の糸だが、すぐに離れる。
「ミドラーシュ!?」
ミドラーシュ、と呼ばれた影……いや、男の影に潜む精霊エルシャドール・ミドラーシュは何かに驚いていた。彼女が秘める何かを感じ取ったのだろう。下手に刺激してはならないと直接手を出すのを止めた。
『グルルルル……』
主人に突然の攻撃をされた精霊は歯を剥き出しに、怒りを露わにして唸る。やり返そうとはしない。
敵意を持つとはいえ、二人はヴァンガードから見れば大切な情報源だ。それに、電脳世界において高い破壊力を誇るクラッキング・ドラゴンの攻撃は手加減が難しい。下手したらこの謎の場所を破壊するほどの衝撃を与えてしまう。自分たちの行動がきっかけで帰り道が潰れました――それは避けたかった。
「……んーと、何故私を攻撃してきたのかな?」
「今更しらばっくれる気か? サイバースを抹殺するためにここに来たんじゃないのか、ハノイの騎士」
会話には応じてくれそうだが長くは続きそうにない。落ち着いて二人を観察する。
エルシャドール・ミドラーシュが潜む影を持つ男性アバターと、サイバース族だろう女性型モンスター。ハノイの騎士の目的がサイバースの抹殺というのは知っている。ならもう少し情報を探ってみるか、とヴァンガードは口を開く。
「ハノイの騎士を知ってるなら私の名前もわかるんじゃない? ラッセ君、だっけ。出来ることなら組織名じゃなくて個人名で呼んでほしいんですけど」
『何言ってるんですか! これまで姿を見せなかった幹部の名前なんて知れるはずないじゃないですか!』
「うん? まさかヴァンガードの名前もハノイの塔の件もご存知でない?」
「ハノイの塔? あれはもう終わっ………………ヴァンガード?」
時間軸としてはハノイの塔が崩れてから。なのに私の事を知らない。
つまり、もしかしてもしかすると、ここは別の世界?
「ラッセ君、ちょっと確認したいことが――」
『まったくもううっさいわねアンタ達! なんで私が責められなきゃいけないのよ! 今回は原因じゃないわよ!』
デュエルディスクのスピーカーを通して聞こえるその声は、互いに知る存在から発せられた声。
「その声はリース!? まさかお前はリースの手先か!」
「いや私がデッキに入れてるのリースじゃなくてイドリースなんだけど。あと「今回『は』」ってどういう意味なのか後で聞かせてねイドリース」
「くっ、まだガラテアを狙ってるのか……ならば全力でお兄ちゃんを遂行する!」
『お兄ちゃん……だと……? お前はお兄ちゃんではない! 俺が!! お兄ちゃんだ!!!!』
「誤解が解けないどころか悪化してる。てか急にどしたのロンギルス」
『イヴの兄は俺シリーズだけなんだが?』
「ディンギルスもおかしくなっちゃった……」
『退! 俺兄上也!』
「何でデミウルギアが乗っかってるの?」
それもこれも多分リースのせい。
「デミウルギアまで持っているだと!」
「アッしまったあのだから話を、んああもうやるしかないのか!」
こちらが何かアクションを起こすたびにヒートアップするラッセに対し、もはや話し合いで解決することは不可能。デュエルディスクを構える。
「俺の先攻! 終末の騎士を召喚し、効果でデッキから闇属性のオルフェゴール・ディヴェルを墓地へ送る。墓地のディヴェルを除外し効果発動、デッキからオルフェゴール・トロイメアを特殊召喚」
《終末の騎士》
星4/攻1400
《オルフェゴール・トロイメア》
星7/守2000
「なるほど、オルフェゴールデッキか」
彼女は相手の初動を見て何のデッキを使用しているか即座に理解した。オルフェゴールはヴァンガード自身も使用しているカード達であるため、どう動くのかは知っている。
自分がこれからどう展開するのかをヴァンガードに見透かされたようで、ラッセは顔を嫌悪で歪めつつもデュエルを続行する。
「現れろ、想いを繋げるサーキット! 召喚条件は『オルフェゴール』モンスターを含む効果モンスター2体! 俺は終末の騎士とオルフェゴール・トロイメアをリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク2、オルフェゴール・ガラテア!」
《オルフェゴール・ガラテア》
Link2/攻1800
【リンクマーカー:右上/左下】
リンク召喚されたのは鎌を携えた愛らしい機械人形。オルフェゴールの要となるモンスターであり、星遺物の物語において重要な役割を背負った存在。
ラッセが使うガラテアのカードからも精霊の気配を感じる。が……残り香、残滓、そんなレベルだ。
「墓地のオルフェゴール・トロイメアを除外しガラテアを対象に効果発動、デッキの星遺物-『星杖』を墓地に送り、ガラテアの攻撃力を星杖のレベル×100アップする。墓地の『星杖』を除外して効果発動、除外されているオルフェゴール・ディヴェルを特殊召喚!」
《オルフェゴール・ガラテア》
攻1800→2600
《オルフェゴール・ディヴェル》
星4/攻1700
「除外されている『星杖』を対象にガラテアの効果発動、『星杖』をデッキに戻してデッキからオルフェゴール魔法をセットする。俺はデッキからフィールド魔法オルフェゴール・バベルをセットし――そして発動!」
発動されたフィールド魔法が電脳世界に反映される。オルフェゴールが生まれた地。天を貫く機械仕掛けの塔。
「オルフェゴール・ガラテア1体でオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚! ランク8、
《
ランク8/攻2600
四つ脚で大地を踏み締め、機械の騎士がフィールドに立つ。その槍の穂先はヴァンガードへと向けられ、お兄ちゃんとして敵を滅ぼす責務を果たそうとしているように見えなくもない。
「特殊召喚に成功したディンギルスは二つのうち一つの効果を選択して発動できる。俺は除外されている機械族モンスターをエクシーズ素材にする効果を選択!」
もう一つの効果は対象をとらない墓地送りと優秀な効果だが、今はまだ先攻1ターン目。その効果を使う機会はない。ディンギルスは除外されていたオルフェゴール・トロイメアを回収する。
「再び現れろ、想いを繋げるサーキット! 召喚条件はリンクモンスター以外のモンスター2体! 俺はディンギルスとディヴェルをリンクマーカーにセット! サイバース世界を自由気ままに駆け巡る、彼女が運ぶはこの世の全て! リンク召喚! リンク2、I:Pマスカレーナ!」
《I:Pマスカレーナ》
Link2/攻800
【リンクマーカー:左下/右下】
「…………うん?」
2体のオルフェゴールが消え、現れたのはラッセと共にいたサイバース。
『もうハノイの騎士に好き放題させませんよー! やっちゃって下さい! ラッセさん!』
しゅしゅしゅ、とシャドーボクシングの真似もしてやる気満々マスカレーナ。
「俺はこれでターンエンドだ」
セットカード無し。つまりオルフェゴール・クリマスクを警戒する必要がなくなって良かった、のだろうか。でもどこか罠くさい。
オルフェゴールのエースモンスターであるディンギルスをリンク素材に召喚されたI:Pマスカレーナだが、ヴァンガードはその効果を知らない。彼女がサイバース族の中で効果を知っているのはプレイメーカーらが使用しているものと前世でOCG知識として知っているもの、あとは星遺物世界に関わりがあるものだけ。
「私のターン、ドロー」
どうしようかなー、とりあえずドローしてからなんとかするか、と思考しながらドローする。
「スタンバイフェイズ、墓地のオルフェゴール・ディヴェルを除外して効果発動。デッキからオルフェゴール・スケルツォンを特殊召喚!」
《オルフェゴール・スケルツォン》
星3/守1500
オルフェゴール・バベルによってオルフェゴールモンスターの効果は相手ターンでも発動できる効果に変わる。ラッセはこのことについて説明しなかったが、相手がオルフェゴールを分かっている反応をしたから説明を省いたのだろう。
これでラッセのフィールドにはI:Pマスカレーナとオルフェゴール・スケルツォン、2体のモンスター。
「――なるほど、そういう感じか。じゃあ魔法カード冥王結界波発動。相手フィールドの全ての表側表示モンスターの効果を無効にするかわり、こちらは相手にダメージを与えられなくなる。そしてこの発動に対して相手はモンスター効果をチェーンすることはできない」
「何っ!?」
『きゃあー!?』
フィールドを力の波動が襲う。自身の一番の強みである効果を封じられたからか、マスカレーナはどこかしょぼんとしている。
「マスカレーナの効果は知られていないはず、なのにどうして……!」
何故、と問いたくなるのも当然だ。ラッセは自身以外の人間が観戦できるような場所でマスカレーナを使用したことがない。
「墓地にディンギルスがいる状態。なのにオルフェゴール・トロイメアの効果で墓地に直接スケルツォンを送らず、ディヴェルの効果でフィールドに特殊召喚。しかもあのタイミングで用意したのは何故か、って考えたらマスカレーナは任意のタイミングで墓地に送れる……多分リンク召喚ができる効果じゃあないかって考えない?」
ヴァンガードが導き出した答えは大正解。ラッセは歯噛みする。
「エクストラモンスターゾーンにモンスターがいるので手札の
《
星9/攻2750
《星遺物の守護竜メロダーク》
星9/守3000
《
星9/守2100
「――!」
ラッセは知っている。星遺物の胎導で特殊召喚されたモンスター、その成り立ちを。
ヴァンガードのフィールドにはレベル9のモンスターが3体。うち2体は星遺物の胎導で特殊召喚したことで攻撃できず、エンドフェイズに破壊される運命だが――。
「先駆けとなれ、我が未来回路! アローヘッド確認! 召喚条件はレベル5以上のモンスター3体! 私は
――リンク素材にしてしまえば、何の問題もない。
「リンク召喚! リンク3――
《
Link3/攻3500
【リンクマーカー:左/右/下】
大いなる闇、その体現者。リースが手に入れようとした神の力。
それが今、ハノイの騎士によって呼び出された。
「種族と属性が異なるモンスター3体を素材としてデミウルギアがリンク召喚されている場合、自分メインフェイズにデミウルギア以外のフィールドのカードを全て破壊する効果を発動できる! 全てを破壊しろ、デミウルギア!」
デミウルギアの本質はプログラム、それ以上でもそれ以下でもない。故に指示された通りその力を使う。破壊の力が放出されようとしている。
このままではフィールドの全てが失われてしまう。手札から発動できる効果を使用し、少しでも自分に有利なカードを引き込めるように、とラッセは動いた。
「相手がフィールドのモンスターの効果を発動した時、手札のティアラメンツ・ハゥフニスの効果発動! ハゥフニスを特殊召喚し、デッキの上からカードを3枚墓地へ送る!」
《ティアラメンツ・ハゥフニス》
星3/守1000
フィールドに現れたのは人魚のような可憐な衣服を纏った少女。二本の短剣を目の前で交差し、防御の体勢をとる。
デッキからの墓地送り、ギャンブル性を孕んだ一手。
墓地へ送られたのは――
死者蘇生が墓地に送られたのは少々痛いが、シャドールモンスターを墓地に用意できたのは上々。ラッセの口の端が思わず緩む。
「ん、シャドール? 混合デッキなのそれ?」
「デュエル中にわざわざ教える必要はないだろ」
緩んだ口元はそう時間を経たず不機嫌なものへ変わった。
「それはまあ確かに」
ぶっきらぼうではあるがどこもおかしくない発言なので納得するヴァンガード。
墓地に送られたエリアルの効果で互いの墓地のカードを3枚ずつ除外できる。が、ヴァンガードの墓地から除外したいカードは少ないし、自分の墓地からカードを減らしたくない。
今無理にエリアルの効果を使う必要はない、と判断しラッセは効果発動を見送る。
「墓地を肥やしたところで特殊召喚したそのモンスターに効果破壊耐性が無ければ一緒に破壊されるだけ。それじゃあ改めて――デミウルギア、その力を解放しろ! テウルギア・ゴエーテイア!」
デミウルギアの中心に位置する光球が鋭く光る。瞬間、世界が揺れたかと見まごうほどの衝撃がラッセ達を襲った。
オルフェゴール・バベルとオルフェゴール・スケルツォンが崩壊する音に混じり聞こえるマスカレーナとハゥフニスの悲鳴。精霊の声が聞こえるはずのヴァンガードはその光景に対し、特に何も思ってないような視線を投げかけていた。
……すまない、と心の中で詫びる。だが、これでハゥフニスは
「効果で墓地に送られたティアラメンツ・ハゥフニスの効果発動! 融合モンスターカードによって決められた、墓地のこのカードを含む融合素材モンスターを自分の手札・フィールド・墓地から好きな順番で持ち主のデッキの下に戻し、その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する!」
「うわその発動条件で除外して融合じゃないのか強い」
「俺は墓地のティアラメンツ・ハゥフニスと墓地の
ハゥフニスはエリアルの手を引き、深く、深く……底へと潜る。海に発生する大渦のような融合召喚のエフェクト。
――ラッセの影がデュエルフィールドまで伸び、その中からモンスターは姿を現した。
《エルシャドール・ミドラーシュ》
星5/攻2200
彼の影の中にいた精霊、エルシャドール・ミドラーシュは特殊召喚を制限する効果を持つ。1ターンに1度だけ……つまり、1度なら特殊召喚は許される。
「相手がエクストデッキからモンスターを特殊召喚したことでデミウルギアの効果発動! デッキから『星遺物』モンスター1体を特殊召喚する。私はデッキから星遺物-『星櫃』を特殊召喚!」
《星遺物-『星櫃』》
星7/守500
「ここで『星櫃』!? まさか!」
大型モンスターを展開してきたことで忘れそうになっていたが、まだヴァンガードは通常召喚をしていない。
「モンスターをアドバンス召喚する場合、『星櫃』は2体分のリリースにできる。『星櫃』をリリースし――クラッキング・ドラゴンをアドバンス召喚!」
《クラッキング・ドラゴン》
星8/攻3000
『グルオォオオオォーーーーッ!』
電脳世界の空を一部破壊し咆哮、と派手な登場を見せつけるのはサイバースを消し去るためにハノイの騎士が扱う漆黒の機械竜。マスカレーナがきゅっと体を縮こませる。
「それじゃどうしよう、か、な……」
墓地に送られたカードの中に
仕方がないか、と妥協してヴァンガードは宣言する。
「バトルだ! クラッキング・ドラゴンでエルシャドール・ミドラーシュに攻撃! トラフィック・ブラスト!」
機械竜の口腔から放たれた攻撃がミドラーシュを破壊する。攻撃力はクラッキング・ドラゴンの方が上だが、このターンの最初に使用した冥王結界波によりラッセへダメージを与えることはできない。
「すまない、ミドラーシュ……破壊されたミドラーシュの効果で墓地の
エクストラデッキから召喚したモンスターがヴァンガードのフィールドにいるため、
融合召喚主体の戦法へ切り替えようとする相手に圧を掛ける盤面を作り上げた後、ヴァンガードは残る2枚の手札のうち1枚を手に取る。
「カードを1枚セットしてターンエンド」
「俺のターン、ドロー!」
「フィールド魔法、
「墓地のバベルを回収しないで違うフィールド魔法を使う、か。……にしてもティアラメンツ?」
こてり、と首を傾げる。先ほども使用されたティアラメンツはヴァンガードが知らないカード。
蒼い空に複数の円盤状の海。機械文明を象徴するオルフェゴールとは真逆の自然溢れる世
「ティアラメンツ・メイルゥを通常召喚! 召喚に成功したメイルゥの効果を発動、デッキの上からカードを3枚墓地へ送る!」
《ティアラメンツ・メイルゥ》
星2/攻800→1300
ペルレイノの効果を受けたティアラメンツと融合モンスターは攻撃力が500上がる。ささやかではあるが心強い強化だ。
「相手がモンスター1体のみを召喚した時クラッキング・ドラゴンの効果発動。そのモンスターの攻撃力をターン終了時までレベル×200ダウンし、ダウンした数値分のダメージを相手に与える。クラックフォール!」
通常召喚されたレベルを持つモンスターである以上、クラッキング・ドラゴンの効果から逃れることはできない。メイルゥのレベルは2。よって400の弱体化とダメージが発生する。
《ティアラメンツ・メイルゥ》
攻1300→900
ラッセ
LP 4000→3600
同時に発動した効果が処理され、メイルゥの効果でカードが墓地に送られていく。――シャドール・ファルコン、
「効果で墓地に送られたシャドール・ファルコンの効果発動、自身を裏側守備表示で特殊召喚。さらに
《シャドール・ファルコン》
星2/守1400
《シャドール・ヘッジホッグ》
星3/守200
『ぎゃう!?』
効果による墓地送り、という予想外のところから効果を止められる。効果を存分に使って融合召喚の邪魔をしてやろうと張り切っていたクラッキング・ドラゴンはしょぼくれていた。そして墓地から観戦するマスカレーナがいいぞいいぞやっちゃえーとラッセを応援。
「現れろ、想いを繋げるサーキット! 召喚条件はカード名が異なるモンスター2体! 俺はシャドール・ファルコンとティアラメンツ・メイルゥをリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク2、クロシープ!」
《クロシープ》
Link2/攻700
【リンクマーカー:左下/右下】
「相手がエクストデッキからモンスターを特殊召喚したことでデミウルギアの効果発動。デッキから星遺物-『星鎧』を特殊召喚する。特殊召喚に成功した『星鎧』の効果でデッキから『星遺物』カード、星遺物-『星槍』を手札に加える」
《星遺物-『星鎧』》
星7/守2500
「『星槍』か……」
ヴァンガードが手札に加えた星遺物-『星槍』にはリンクモンスターを含むモンスター同士が戦闘する時、手札の星遺物-『星槍』を捨てることで相手モンスターの攻撃力を3000下げるという効果がある。
ラッセがデミウルギアを突破するには戦闘破壊を狙うだろう、と見越した上での『星槍』。嫌らしいにも程がある。
「
《エルシャドール・ネフィリム》
星8/攻2800→3300
シャドールのエースカードである天使の降臨。それはシャドールデッキの展開のさらなる加速を意味する。
墓地へ送られるシャドール。クロシープのリンクマーカーの先へと融合召喚されたネフィリム。それぞれの効果が同時に発動する。
「ネフィリムの効果でデッキからシャドール・ドラゴンを墓地に送る。融合素材として墓地に送られたケイウスの効果発動。手札のシャドール・ビーストを墓地に送り、このターン自分フィールドのモンスターの攻撃力・守備力は500上昇する。そしてクロシープの効果で墓地からレベル4以下のモンスター、ティアラメンツ・メイルゥを特殊召喚!」
《エルシャドール・ネフィリム》
攻3300→3800
《クロシープ》
攻700→1200
《ティアラメンツ・メイルゥ》
星2/攻800→1800
「超電磁タートルとケイウスか。戦闘に挑むのか一時凌ぎをしたいのかどっちか分からないね?」
「勝手に言ってろ。墓地に送られたシャドール・ビーストの効果で1枚ドロー。そしてシャドール・ドラゴンの効果でお前のセットカードを破壊する!」
ヴァンガードの煽りをスルーし、ラッセが展開をする最中に発動の気配が微塵も見えなかった不気味なセットカードを狙う。シャドールを構成する闇がセットカードを覆い尽くし……破壊した。
「よし、これで!」
「それはどうかな?」
破壊には成功した。セットカードという不確定要素の排除はできた、の、だが――キラキラと、ヴァンガードのフィールドで大きなものがきらめいている。
「破壊されたやぶ蛇の効果発動! エクストラデッキからクリスタルウィング・シンクロ・ドラゴンを特殊召喚!」
《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》
星8/攻3000
輝きの正体はシンクロモンスター。それも、かなり強力な効果を持つもの。
「なっ……やぶ蛇……!? 嘘だろ!?」
「嘘じゃないんだなーこれが」
一旦、ヴァンガードのフィールドにいるモンスターについて整理しよう。
クラッキング・ドラゴン――攻撃力3000。レベル8以下のモンスターとの戦闘では破壊されない。
クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン――攻撃力3000。モンスターが発動した効果を無効にして破壊できる、破壊した場合はその攻撃力分攻撃力をアップできる。また、レベル5以上のモンスターとの戦闘の時にも攻撃力が上がる。
星遺物-『星鎧』――守備力2500。
様々な手段で大型モンスターを取り揃えた盤面。ペルレイノとケイウスで攻撃力を上げようと、クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴンは突破できない。クラッキング・ドラゴンを戦闘破壊できない。
何か手はないか考える。……そういえば、やぶ蛇に気を取られすぎてシャドール・ビーストの効果でドローしたカードを確認していなかった。視線を移動させ……瞬間、ラッセの目には突破のルートが見えた。それは活路を開く光、強力な力を持つ速攻魔法。残る手札と墓地を見る。相手のフィールドを見る。
――これなら、いける!
「墓地のスケルツォンを除外し墓地のディンギルスを対象に効果発動、特殊召喚する!」
「ここでディンギルスか」
ヴァンガードは考える。クリスタルウィングの無効効果をディンギルスの特殊召喚成功時の効果に使ったら、除去はされない。だがバトルする時になればネフィリムの効果で破壊されてしまう。
使わなければ? 無抵抗なクリスタルウィングはそのままディンギルスの効果で除去される。
つまり、この時点でクリスタルウィングが処理されるのが確定した。ならここで無効にしておくか、とヴァンガードは動く。
「チェーンしてクリスタルウィング・シンクロ・ドラゴンの効果を使用。スケルツォンの効果の発動を無効にする」
水晶の翼が煌めき、主人に対し邪悪たるモンスターの力を清め、無効化する。
「手札を1枚捨て速攻魔法、超融合を発動! お前のフィールドの
「超融ご……っ!? なんでそのカードを使っ――いや、今気にするのはそこじゃない!」
《エルシャドール・ミドラーシュ》
星5/攻2200→3200
デミウルギアは魔法カードに対して耐性はない。融合素材として墓地に送られていく。ヴァンガードの操るモンスターが消えていく。
「効果で墓地に送られたシャドール・ヘッジホッグの効果でデッキからシャドール・ドラゴンを手札に加える」
ラッセの手札は2枚。ミドラーシュがいるため可能な特殊召喚はあと1回。
「現れろ、想いを繋げるサーキット! 召喚条件はカード名が異なるモンスター2体以上! 俺はリンクマーカーにリンク2のクロシープとティアラメンツ・メイルゥをセット! リンク召喚! リンク3、トロイメア・ユニコーン!」
《トロイメア・ユニコーン》
Link3/攻2200→2700
【リンクマーカー:左/右/下】
「トロイメア・ユニコーン……!」
そうか、ラッセが最初のターンでリンク3を出せるようにしていた時点で気付いておくべきだったか、とヴァンガードが反省しても遅い。
「リンク召喚に成功したトロイメア・ユニコーンの効果! 手札を1枚捨て、フィールドのカードを持ち主のデッキに戻す! 消えろ、クラッキング・ドラゴン!」
『ぎゃうー!?』
デッキへと戻されるクラッキング・ドラゴン。墓地から観戦するマスカレーナ、ザマーミロこの世に悪は栄えないんですよーとアッカンベー。
「これでお前のフィールドから厄介なモンスターは消えた! バトルだ! エルシャドール・ネフィリムでクリスタルウィング・シンクロ・ドラゴンに攻撃! ダメージステップ開始時にネフィリムの効果を発動、クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴンを破壊する!」
すでに無効効果を使用しているため、ネフィリムの破壊効果に対し抵抗できない。影の糸に絡め取られ、なす術なくクリスタルウィングは破壊される。
「エルシャドール・ミドラーシュで『星鎧』に攻撃!」
ミドラーシュの攻撃力は3200、対する『星鎧』の守備力は2500。影の糸が機械を捻り切る。
「トロイメア・ユニコーンでダイレクトアタック!」
ヴァンガードへ迫る攻撃。妨害は何も無い。
「ぐうううっ……!」
ヴァンガード
LP 4000→1300
ユニコーンはその前足でヴァンガードを蹴り飛ばす。避けられない衝撃。彼女の身体にジジジ、とノイズが走る。
「これでターンエンドだ」
ターンが終わり、ケイウスの効果による強化は終了するが、ペルレイノにより融合モンスターたちへの強化は継続している。
《エルシャドール・ネフィリム》
攻3800→3300
《エルシャドール・ミドラーシュ》
攻3200→2700
《トロイメア・ユニコーン》
攻2700→2200
ラッセの手札は1枚。セットカードは無し。だがフィールドにいるモンスターはどれも厄介なものばかり。
対するヴァンガードの手札は2枚。うち1枚は星遺物-『星槍』だと知られている。次のターンでドローして手札は3枚になる。なる、が……。
「うん。これはちょっと、ピンチかな……?」
ヴァンガードを――自分のことを知らない精霊持ちの決闘者、ラッセ。ここがもし自分が存在しない世界だとする仮説が合っていたのならば、ここまでガッツリ戦わなくても良かったんじゃないか。
……本当にどうしてこうなってるんだろうか。取り敢えずややこしくした原因の一つであるイドリースは精霊達に裁いてもらおうと心に決めたヴァンガードであった。
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【コラボ】科学技術全盛時代の転生決闘者達【後編】
なお、デュエル構成の作成・執筆中にリミットレギュレーションが発表されたためOCGと異なるリミットレギュレーションのデュエルとなっています。
あらかじめご了承ください。
そうはならんやろ、なドローカード連打は架空デュエルの華。
ラッセ LP 3600 手札1
モンスター
トロイメア・ユニコーン Link3 ATK2200
エルシャドール・ネフィリム レベル8 ATK2800→3300
エルシャドール・ミドラーシュ レベル5 ATK2200→2700
フィールド魔法
ヴァンガード LP 1300 手札2→3
ヴァンガードのフィールドにモンスターはいない。手札のうち1枚は星遺物-『星槍』とバレている。エルシャドール・ミドラーシュにより特殊召喚は一度しか行えない……。
ふぅ、と軽く息を吐き身体の力を抜く。
「私のターン、ドロー」
絶体絶命の状況であっても逆転はできる。1枚で全てがひっくり返ることがあるのがデュエルだ。
「まずデスペラード・リボルバー・ドラゴンを捨てトレード・インを発動。デッキから2枚ドロー。墓地に送られたデスペラード・リボルバー・ドラゴンの効果でデッキからリボルバー・ドラゴンを手札に。次に闇の誘惑を発動。デッキから2枚ドローして手札の闇属性モンスター、リボルバー・ドラゴンを除外。更に手札のオルフェゴール・ディヴェルを墓地に送りオルフェゴール・プライムを発動。デッキから2枚ドロー」
「は、え……はぁっ!?」
ラッセは突然始まったドロー効果連発に目を白黒させる。あまりにも都合が良すぎる引き、積み込みを疑うような手札交換。
最初にトレード・インのコストとして使用されたデスペラード・リボルバー・ドラゴンは機械族・闇属性のモンスターが破壊された場合に特殊召喚ができる。先のターン、ミドラーシュの攻撃で星遺物-『星鎧』が破壊された時に特殊召喚が出来たのにしなかった。
……となると、このターンの始まりにドローしたカード、ということになる。
「どういう組み方してるんだそのデッキ……!」
「それ多分ブーメラン」
ドローカード連打により中身が何なのか予想もつかない未知の手札3枚が現れた上に、墓地へ送られたカードとしてオルフェゴールが見えた。ラッセは警戒を強める。
「手札抹殺を発動! 互いに手札を全て捨て、捨てた分だけドローする! 私は3枚捨てて3枚ドロー」
「……1枚捨てて1枚ドローする」
……いかに心を決めようとどうしようもできない効果はある。1枚の手札を悔しげに見つめるラッセ、3枚の手札を満足げに手に持つヴァンガード。
ヴァンガードのフィールドにカードは無い。故に、手札抹殺によってラッセが捨てたシャドール・ドラゴンの効果――フィールドの魔法・罠を破壊する――を十全に発揮できない。
「速攻魔法、墓穴の指名者を発動。ラッセ君の墓地のエルシャドール・ミドラーシュを除外し、除外したモンスター及び同じカード名のモンスター効果を次のターン終了時まで無効にする。これでこのターン、私は自由に特殊召喚が出来る」
「……!」
オルフェゴール、シャドール、ティアラメンツ。墓地を多用し、デッキに採用するモンスターが闇属性に偏るため複数枚採用しているエルシャドール・ミドラーシュ、その弱点を突かれた。
「自分の墓地にモンスターが5体以上存在し、またそれらのモンスターのカード名が全て異なるため影星軌道兵器ハイドランダーを手札から特殊召喚!」
《影星軌道兵器ハイドランダー》
星8/攻3000
蛇の首に似せた武装を先端に取り付けたコードを複数うねらせソラに浮かぶのは、同名カードを1枚ずつしか投入しないハイランダーをもじった名前のモンスター、ハイドランダー。
「自分のデッキの上からカードを3枚墓地へ送ってハイドランダーの効果を発動! 自分の墓地のモンスターのカード名が全て異なる場合、フィールドのカード1枚を選んで破壊する!」
3枚のカードを糧にチャージを開始する。墓地に送られたカードは――亡龍の戦慄-デストルドー、ボルト・ヘッジホッグ、幻獣機オライオン。どれも墓地へ送られることによってその効果を発揮できるモンスター達だ。
「墓地のモンスターに被りはなし! よって相手のフィールドの
ハイドランダーの武装全てから光線が発射される。天からの砲撃が海を涸らし、大地を焼き尽くし、
ペルレイノが破壊されたことによりペルレイノの恩恵を受けていたラッセの融合モンスターの攻撃力が元に戻る。
《エルシャドール・ネフィリム》
攻3300→2800
《エルシャドール・ミドラーシュ》
攻2700→2200
「ハイドランダーの効果で墓地に送られた幻獣機オライオンの効果、フィールドに幻獣機トークンを特殊召喚」
《幻獣機トークン》
星3/守0
ハイドランダーの横に現れるライオンを模した宇宙船のデコイ。
「墓地に闇属性モンスターが7体以上いるため魔法カード終わりの始まりを発動! 墓地の闇属性モンスターを5体除外してデッキから3枚ドロー!」
「まだドローするのかよ!」
これでドロー効果を持つ魔法を発動するのは5回目だ。ラッセがうんざりするのも無理はない。
ヴァンガードの墓地からデミウルギアと星遺物3体、デスペラード・リボルバー・ドラゴンが除外される。
「ライフを半分払い、幻獣機トークンを対象に墓地の亡龍の戦慄-デストルドーの効果発動。自身を特殊召喚し、レベルを対象のモンスターのレベル分下げる」
《亡龍の戦慄-デストルドー》
星7→4/守3000
ヴァンガード
LP 1300→650
使い手の命を対価に骸の竜が墓地より這い上がる。
「フィールドにチューナーがいるため墓地からボルト・ヘッジホッグを特殊召喚」
《ボルト・ヘッジホッグ》
星2/守800
次に墓地から出てきたのはちゅうと可愛らしい鳴き声を上げるハリネズミ。これで合計のレベルは9。
「レベル3の幻獣機トークン、レベル2のボルト・ヘッジホッグに、レベル4となったデストルドーをチューニング!」
シンクロ素材となるのはチューナーにチューナー以外のモンスター2体。
「氷嵐呼ぶ魔槍よ! 古の戒め解き放ち、その威を示せ! シンクロ召喚! 来たれ、レベル9! 氷結界の龍 トリシューラ!」
《氷結界の龍 トリシューラ》
星9/攻2700
雪が散り、氷が降り、吹雪が舞う。三つ首の龍はただそこに在るだけで命に恐れを抱かせる。
「ここでトリシューラ……!」
当然、ラッセはその効果を知っている。
「シンクロ召喚に成功したトリシューラの効果! 相手の手札・フィールド・墓地のカードをそれぞれ1枚まで選んで除外できる! 手札1枚、フィールドのエルシャドール・ネフィリム、墓地の超電磁タートルを除外する!」
トリシューラの三つの首が同時にブレスを放ち対象を即座に氷結。ラッセの手も凍結に巻き込まれそうになったが、手札を宙へと手放してギリギリ回避に成功。
フィールドのネフィリムと墓地の超電磁タートルを除外した――間違いなくこのターンでヴァンガードは攻撃を仕掛けてくる。
「墓地のオルフェゴール・ディヴェルを除外し、デッキからオルフェゴール・トロイメアを特殊召喚」
《オルフェゴール・トロイメア》
星7/守2000
「先駆けとなれ、我が未来回路! 召喚条件は『オルフェゴール』モンスターを含む効果モンスター2体! オルフェゴール・トロイメアと氷結界の龍 トリシューラをリンクマーカーにセット! リンク召喚! 来たれ! リンク2、オルフェゴール・ガラテア!」
《オルフェゴール・ガラテア》
Link2/攻1800
【リンクマーカー:右上/左下】
「ガラテアッ! お兄ちゃんだぞ! 今助けてやるからな!」
初対面の相手に突然お兄ちゃんと呼ばれたヴァンガードの操るガラテア、えっなにあの人怖い……とドン引き。安心感を求めるためヴァンガードに寄る。ラッセはそれを見て更にお兄ちゃんパワーと闘志を燃やす。
これは……無限ループ!! と人形戦中のマリクみたいな感じになりかけるもガッタガッタガガガガガと振動を超えて騒音を撒き散らすエクストラデッキの音で正気に戻る。
「うわあ主張が強い……ちゃんと出すから待っててよホント。墓地のオルフェゴール・トロイメアを除外しガラテアを対象に効果発動! デッキの星遺物-『星杖』を墓地に送り、ガラテアの攻撃力を800アップする。そして墓地の『星杖』を除外して効果発動、除外されているオルフェゴール・ディヴェルを特殊召喚!」
《オルフェゴール・ガラテア》
攻1800→2600
《オルフェゴール・ディヴェル》
星4/攻1700
「除外されている『星杖』を対象にガラテアの効果発動、『星杖』をデッキに戻しデッキからオルフェゴール・バベルをセット。そして発動」
それはラッセが先攻1ターン目で行った展開とほとんど同じ流れ。違うのはまだ通常召喚をしていない、という点。
「ジャック・ワイバーンを通常召喚」
《ジャック・ワイバーン》
星4/攻1800
「…………?」
召喚されたのはハノイの騎士の下っ端達がよく使用する下級モンスター。1枚から複数枚のアドバンテージを生む効果ではないためどこか引っかかる。フィールドにはリンク2のガラテアとディヴェルがいる。狙いはリンク4の召喚か?
次の一手がどうなるかを思考するラッセを嘲笑うかのように、ヴァンガードは空へと手を掲げ――銀河のような渦のエフェクトが出現し、2体のモンスターは光球へと変化する。
「レベル4のオルフェゴール・ディヴェルとジャック・ワイバーンでオーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚! 重なる思いが闇の中より竜を呼ぶ。それは哀を切り裂く牙! 来たれ、ランク4! ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン!」
《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》
ランク4/攻2500
呼び出されたのはエクシーズのカード枠と同じく全身が漆黒のドラゴン。顎から伸びる牙が鈍く光る。
「オルフェゴール・ガラテア1体でオーバーレイネットワークを構築! クロスアップ・エクシーズ・チェンジ! 来たれ、ランク8!
《
ランク8/攻2600
『ウオオオ俺が!!!! お兄ちゃんだ!!!!』
気合いMAXのディンギルスがフィールドに着地。同じ闇属性エクシーズモンスターであるダーク・リベリオン、テンションの差でちょっと引く。
「特殊召喚に成功したことでディンギルスの効果を発動! 相手フィールドのカード1枚を選んで墓地へ送る! それじゃあ消えてもらおうか、エルシャドール・ミドラーシュ!」
「くっ……」
ディンギルスの槍に射抜かれミドラーシュは倒れる。
本来ならば墓地に送られた際の効果が発動するのだが、今は墓穴の指名者でミドラーシュの効果を無効化されているので墓地のシャドール魔法・罠を回収することができない。
ラッセのフィールドにいるモンスターはトロイメア・ユニコーンのみ。
「オーバーレイユニットを2つ使いダーク・リベリオンの効果発動! トロイメア・ユニコーンの攻撃力を半分にし、その数値分自身の攻撃力をアップする! トリーズン・ディスチャージ!」
《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》
攻2500→3600
《トロイメア・ユニコーン》
攻2200→1100
雷に似た束縛が相手から反抗の力を奪う。
これでたった攻撃力1100のモンスターが棒立ちの状態が出来上がった。ヴァンガードは一斉攻撃を開始する。
「バトル!
『お兄ちゃんアタック!』
「ぐああっ!」
ラッセ
LP 3600→1900
勝手な攻撃名を叫びながら突き出されたディンギルスの槍がユニコーンの体を貫き破壊する。
「影星軌道兵器ハイドランダーでダイレクトアタック!」
「墓地のネクロ・ガードナーを除外し相手モンスターの攻撃を1度だけ無効にする!」
突如現れた半透明の戦士がハイドランダーの攻撃を受け止め、そして消える。
「!? いつネクロ・ガードナーが墓地に……? ああ、超融合とトロイメア・ユニコーンのコストのどっちかか」
『おのれ、兄を名乗る不審者め……』
憎々しげな声がディンギルスから漏れる。
「だとしてもこれでトドメ! ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンでダイレクトアタック!」
迫る攻撃。ラッセは――。
「直接攻撃宣言時、墓地のクリアクリボーを除外して効果発動! デッキから1枚ドローし、そのカードがモンスターカードなら特殊召喚可能でき、攻撃対象をそちらに移動させる」
ヴァンガードが思い至ったようにラッセが効果発動のコストとして墓地へ落としたカードは2枚。
1枚はネクロ・ガードナー、もう1枚はクリアクリボー。
『クリクリ〜ッ!』
確実に攻撃を一度防げるネクロ・ガードナーと違い、クリアクリボーは運が絡んだ効果を持つ。つまり……魔法カードか罠カードをドローした場合、ラッセの敗北が確定する。
目を閉じ、呼吸を整え、デッキへと手を伸ばす。
その手にあるのは運命の1枚。
クリアクリボーがマトリョーシカのようにぱかんと割れ、その中には――。
「ドローしたのは絶海のマーレ! モンスターのため特殊召喚する!」
《絶海のマーレ》
星4/守1600
「特殊召喚に成功した絶海のマーレの効果を発動し、デッキからティアラメンツ・シェイレーンを墓地に送る。さらに墓地に送られたシェイレーンの効果! 自身と墓地のティアラメンツ・メイルゥをデッキに戻して融合召喚を行う! 心優しき水底の姫、仲間の危機に今立ち上がれ! 融合召喚! 現れろ、ティアラメンツ・キトカロス!」
《ティアラメンツ・キトカロス》
星5/守1200
短剣を握りヴァンガードを見据えるのはティアラメンツを統べる美しき姫。
「特殊召喚に成功したキトカロスの効果でデッキから『ティアラメンツ』カード、
「っ……ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンで絶海のマーレに攻撃する。反逆のライトニング・ディスオベイ!」
壁となるモンスターが増え、ラッセへのダイレクトアタックはもはや不可能。
「だからといってフィールドにモンスターを残したままターンは渡さない! 速攻魔法、瞬間融合を発動! フィールドの闇属性モンスター、ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンと
《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》
星8/攻2800
毒々しい紫、時折落ちる酸性のヨダレ。速攻魔法によりバトルフェイズに融合召喚された飢えた竜は攻撃が可能な状態にある。
「スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンでティアラメンツ・キトカロスに攻撃! 貪食のクランチ・スワロイング!」
スターヴ・ヴェノムは触手を伸ばしてキトカロスの逃げ場を奪ったのち、口から放つブレスで相手を仕留める。
……これでモンスターはいなくなった。だが、ヴァンガードが操るモンスターの中に攻撃可能なものはもういない。
「カードを1枚セットしてターンエンド。エンドフェイズ、瞬間融合で特殊召喚されたスターヴ・ヴェノムは破壊される」
何もかも満ち足りぬまま竜はその姿を消す。
「俺のターン、ドロー! 魔法カード、
フィールドにモンスターは0体。必要なのは効果で墓地に送られたという事実。
「効果で墓地に送られたキトカロスの効果発動! デッキトップから5枚のカードを墓地に送る!」
「5ま……っ!?」
あまりにもあっさりと、あっさりで流してはいけない枚数のカードが墓地へ送られていく。
ティアラメンツ・シェイレーン、シャドール・ドラゴン、
「効果で墓地に送られたティアラメンツ・シェイレーンの効果、
「バベルを狙ってくるか……その効果発動にチェーンして墓地のディヴェルの効果発動。自身を除外してデッキのオルフェゴール・スケルツォンを特殊召喚する」
《オルフェゴール・スケルツォン》
星3/守1500
オルフェゴール・バベルがある今、ヴァンガードのオルフェゴールは相手ターンでも効果を発動できる。相手の墓地がまた肥えた以上、守備表示で壁を用意しなければ押し負けてしまう。
「
がらがらと音を立てて崩れ落ちる塔。そこに意識を割く暇はない。
「効果で墓地に送られたティアラメンツ・シェイレーンの効果! 墓地の自身とティアラメンツ・キトカロスをデッキに戻し融合召喚する! ――虐げられし水底の姫は戦う決意を胸に世壊の力を受け継ぐ女王となる。現れ出でよ! ティアラメンツ・ルルカロス!」
《ティアラメンツ・ルルカロス》
星8/攻3000
それはキトカロスが力を得た姿。その手に握る武器を短剣から長剣に変え、支配者の証である冠を頭に乗せた女王。
その攻撃力はヴァンガードのフィールドに未だ残る影星軌道兵器ハイドランダーと同じ3000。攻撃力を上げる手段がなければ相打ちに終わってしまう。
「サンダー・ボルト発動! 相手フィールドのモンスターを全て破壊する!」
だが、キトカロスは一人で戦っているわけではない。ラッセはキトカロスの邪魔をするモンスターを排除するために魔法カードを使う。
「サンダー・ボルト発動にチェーンして自分のデッキの上からカードを3枚墓地へ送りハイドランダーの効果発動! 自分の墓地のモンスターのカード名が全て異なる場合、フィールドのカード1枚を選んで破壊する!」
ハイドランダーの効果は相手ターンでも使用可能。サンダー・ボルトによる避けられぬ破壊が迫る中、最後まで役目を果たそうと兵器は動く。
墓地に送られたのはアイアンコール、メタバース、ネジマキシキガミ。
「墓地のモンスターに被りはなし! よって相手のフィールドのティアラメンツ・ルルカロスを破壊する! これで……!」
ハイドランダーの効果で破壊され、墓地に送られたルルカロス。ラッセが使用したサンダー・ボルトで破壊されたハイドランダー。
両者痛み分けで終わって――。
「融合召喚したルルカロスが効果で墓地に送られた場合、自身を特殊召喚する」
――いない。
ルルカロスは受け継いだ力の持ち主と同じ効果を、擬似的な不死の力を得たモンスター。
モンスターがいなくなり、ヴァンガードに残されたのはセットカードのみ。
「まだだ! 罠カード、
手札抹殺で墓地に送られた未知のカードは2枚。そのうち1枚の正体はオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン。故に、かの覇王龍の融合召喚を可能とする。
「ルルカロスの効果! モンスターを特殊召喚する効果を含む効果を相手が発動した時、その発動を無効にし、破壊する!」
――女王は裁定を下す。それが現れるのは許されないことである、と。
「その後、手札の『ティアラメンツ』を墓地に送る。効果で墓地に送られたティアラメンツ・ハゥフニスの効果。墓地のシャドール・ドラゴンとティアラメンツ・ハゥフニスをデッキに戻し融合召喚――最後まで共に! エルシャドール・ミドラーシュ!」
《エルシャドール・ミドラーシュ》
星5/攻2200
「バトルだ! エルシャドール・ミドラーシュでダイレクトアタック!」
「墓地のネクロ・ガードナーを除外してその攻撃を無効にする!」
手札抹殺で墓地に送られた未知のカード、最後の1枚。ネクロ・ガードナー。奇しくもラッセと同じカードを使うが、もうヴァンガードに攻撃を防ぐ手段は残っていない。
「これで終わりだ! ティアラメンツ・ルルカロスでダイレクトアタック!」
ルルカロスは長剣を強く握り、足で宙を蹴り泳ぐように敵との距離を詰める。その勢いを殺さぬまま、長剣を構えて袈裟斬りを放つ。
ヴァンガード
LP 650→0
「うぐあああぁぁ――っ!」
ノイズを引き起こす赤く裂かれた傷跡。デュエル終了のブザー。切られた箇所を押さえるも、痛みは軽減できず片膝をつく。
ラッセはゆっくりとこちらに近付き問いかける。
「リースは今どこにいる。答えろ」
「いやあの私が持ってるのイドリース、というか本当に帰り道探してただけナンダケドナー。早く旧リンクヴレインズに戻らないとまた殺意もりもりなスペクター様にどやされるの確定なので」
「たとえカードが違おうがリースはリースで…………旧リンクヴレインズ?」
ハノイの塔の被害を受けたリンクヴレインズはSOLにより遺棄された。残骸まみれの場所になぜ向かおうとしているのか、とどうやら違和感に気付いた模様。ここは畳み掛けるしかない。傷も塞がり痛みも落ち着いたので立ち上がる。
「私はバイトでハノイの騎士をしていた元ハノイの騎士、現プレイメーカー達の協力者ヴァンガード。AIデュエリスト殲滅の指揮取ったりリンクヴレインズにG型プログラム散布したりとかなり有名なはずなんだけど、知らないってことは私としてはラッセ君がモグリの疑いが出てきてるんだよね」
「…………はぁ!?」
言葉はしっかり聞き取れるが意味が何一つとして理解できない。アニメに存在しない出来事を並べ立てるが、彼女が嘘を言っているようには見えない。
「というかイヴリースはサイバース族でしょ、なんでサイバース殲滅を掲げるハノイの騎士が手を貸していると思い込んだのかこっちが聞きたくなる。何があったの?」
「え、あ、ああ……ハノイの塔にイヴリースが手を加えて」
「わあこっちでもやらかしてるのかあいつ」
『ラッセさん? あのーラッセさーん、相手のペースに飲まれてます飲まれてます』
『ぎゃう、いつの間にか立場が逆転してる……これが場数の差』
デュエルが始まる前のピリついた空気はどこへやら。
「こっちでも……?」
「鴻上博士に星遺物の伝説とか歴史とか吹き込んだのイヴリースでしょ、こっちの世界がどうなのかは知らないけど」
「えっ」
「えっ?」
「…………………………もしかして異世界!!!!」
「そこは並行世界とか別次元とかの呼び方の方が遊戯王的にはよろしいと思うよ」
……あれ、今遊戯王って言わなかったか? もしかして、とラッセは遊戯王プレイヤーならかなりの人間が知っているあの次回予告を暗唱する。
「やめて! ラーの翼神竜の特殊能力で、ギルフォード・ザ・ライトニングを焼き払われたら、闇のゲームでモンスターと繋がってる城之内の精神まで燃え尽きちゃう! お願い、死なないで城之内! あんたが今ここで倒れたら、舞さんや遊戯との約束はどうなっちゃうの? ライフはまだ残ってる。ここを耐えれば、マリクに勝てるんだから!」
「「次回、城之内死す。デュエルスタンバイ!」」
セリフが見事に重なる。無言のハイタッチ。
『ラ……ラッセさんが急におかしくなっちゃいましたー!?』
ましたー、ましたー、ましたー……。マスカレーナの声がEden Cityに響くのだった。
「――いやあ、精霊が見える転生者っているところにはいるもんなんだなあ」
「だねえ」
互いの話をすり合わせた結果、ヴァンガードとラッセはそれぞれ別の世界の決闘者であると確定。しかも転生者。2期から先のVRAINSの知識いる? とラッセに親切心から提案されるもののヴァンガードは遠慮する。
帰り道どこだろう、と転生者トークに軽く花を咲かせつつ二人は精霊を従えた状態でEden Cityを練り歩く。
『別の世界に落っこちる、なんて流石の私でも聞いたことありませんよ』
『ぎゃうー……ぎゃうっ! 今気付いちゃったんだけど、むこうの精霊界と繋がってるデュエルディスクを経由して元いた世界に帰ればいいんじゃないの?』
「あっその手があったか!」
ぽん、と手を叩く。デュエルディスクに手をかざし、念じ、精霊達に呼びかけ力を補う。彼女の目の前に歪みが生まれ始める。
「なんとかなりそ……あっ維持するのちょっとツライ、クラッキング・ドラゴン早くこっちこっち」
『ぎゃーう。この度は迷惑かけてまことにごめんなさい』
ゲートを維持するのに精一杯な主人の代理として精霊が謝り、歪みをくぐる。ヴァンガードも頭を下げた後にゲートへと足を進め……先程まで確かにいた彼女達はこの世界から消えた。
二人の姿が消える間際、何かが彼女を呼ぶ声が聞こえたような気がしたが……。きっと大丈夫だろう、そんな気がする。
「俺たちも帰るか」
『そうですね。はぁー、終わったらどっと疲れちゃいましたよ……こんな時は美味しいもの欲しくなっちゃうなー、ドリュアトランティエの果実とか。ちらっ』
影に潜むエルシャドール・ミドラーシュも賛成とばかりに手を挙げる。
「無茶言うな!」
そうして、彼らもいつも通りの日常へ戻っていくのだった。
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番外編 『三期 EX編』予告
なお、予告ですので実際の展開は変更する可能性が十分にあることをご承知おきください。……罪宝ストーリー、どうなるんだろうか。
とおくとおくのあるところに、ずっと雪がふりつづける白い森がありました。
そこにはまほうつかいたちがすんでいました。
ささやかに、そしてへいわに。そんな生活がずっとつづく……そのはずでした。
「リゼット……どこ……!」
ひとりの女の子がひっしに走っています。泣きながら。だいじな友達を探しながら。
だいじな友達からのへんじはありません。安全なところへ逃げられたと信じるしかありません。
『逃げるのか? 薄情だな』
女の子の後ろからつめたい声がきこえてきます。
雪よりもまっしろな肌、緑と紫のまがまがしい魔力を操るもの。人に似た姿をしていますが、ばけものだと示すように腕は黒い枝でできています。目玉のような紋様が描かれた黒枝腕をこちらに向けて伸ばしてきます。
おそろしいわざわい――妖魔ディアベルが白き森から出てきたのです。
だれもわるいことをしていないのに、だれも森の奥にはいったりしてないのに、わざわいはとつぜんおそってきました。
「にんげんかい……そこならきっと誰かたすけてくれるんだよね……!」
シルヴィとルシア。おんなのこ――アステーリャを逃がすため、足止めに残ったふたりから言われたことだけがおんなのこをささえていました。
ディアベルから何を言われようと、ふたりの言葉を信じて前に進みます。戻っておいで、とシルヴィとルシアの声が聞こえてもニセモノだと信じて進みます。
後ろを向くことはありませんでした。それはきっと良いことだったのでしょう。
――なぜなら、
男は眼下に広がる光景が信じられなかった。
じりじりと、世壊の端がこぼれ落ちる。
じわじわと、空に穴が開いていく。
ゆっくりと、
男は配下からとある報告を受けてやって来た、この世壊の支配者。クシャトリラ・ライズハート。
「
何者かによる攻撃は突然に始まった。
正体不明。手段不明。理由不明。
「ヴェーダ、ではないな……ヤツがこんな悠長にことを進めるはずがない」
男の知識の中にある、原因となりうる存在の名を上げたが即座に否定する。
許し難い暴挙。怒りを募らせる。
「如何いたしましょうか、我らの力を使えば可能性はあるやもしれません」
「ならん」
フェンリル、ユニコーン、オーガ、スケアクロー、ティアラメンツ。男の従えるクシャトリラ達からの言葉を一蹴する。
……無策に突入してもきっと、あの分解に巻き込まれるだけだ。クシャトリラに耐性は存在しない。
かといってこのままぼけっと突っ立って、世壊を失うわけにはいかない。
「
「それは!」
この分解の力にアライズハートが耐えられるかは分からない。万が一が起きた場合、哀の分身を吸収する前の、かつての己に戻ることになる。
――失う道しか選べないのか?
否。
「人間界へ行くぞ。
機械に妙に好かれる女、その力があればたとえアライズハートを失ったとて再生できるはずだ。機械の力を使い分身同士での合体という不可能を可能としたライズハートだからこそ、機械の力を信じている。
もし駄目ならば? そんなつまらないことを考える必要はない。
「
ライズハートと重なるようにして現れたアライズハート。赤と黒の機械具足に光が宿る。
機械翼を広げ、飛び立つ。
パライゾス上空、彼らの技術で作り上げた建造物が消えゆくのを目に映す中、宇宙の光を宿す左腕をゆっくりと伸ばす。
「――この俺の手で世壊を閉ざすことになるとはな。決して許さんぞ、下手人め」
怒りを込めて、男は力を使った。
「アルバスくん、あーん」
「あーん」
リンクヴレインズ内にあるカフェ。そこで二人のカップルがいちゃついていた。……まあ、さきほどのあーんな二人はカップルというより美味しいものを共有したい、なので恋愛感情は含まれていないが。
傍目から見ていちゃついてるのでカップルです。末長くばくはつしろ。
デラックスランセアパフェ、なる氷結界ドラゴンスイーツ全部盛りなお高いものをぱくついている二人。
一人は白髪の男、片方の目に焼けたような傷跡。
一人は金髪の女、額に何か印があったような跡。
カップルの正体はアルバスとエクレシア。カードの精霊な二人は人間界を満喫していた。
「にしても、本当に気付かれませんね」
「もぐ……だな」
二人はカードの精霊。服装もイラストそのままなのだが、リンクヴレインズにいる他のアバターと同じようにコスプレと思われているのだろう。
精霊のことを何も知らない一般利用者から話しかけられたことがあったが、要約すると「すごいそのまんまですね!」だった。
突然話しかけられて反応に困ったが、その会話は長く続かなかった。ぴちぴちマイクロビキニドラゴン、というインパクトの強い変態が「どう思う?」と一般利用者に衝突事故を起こしたことでなんか流れていった。
……まあ、その変な人は連れだろう巨大植木鉢フラワーにすぐ回収されていったが。リンクヴレインズ、クセが強い。
「なあなあ聞いたか、あのリンク5のウワサ」
「ああ、ホールの先に、だっけ? 使ってる人いないしガセなんじゃないか?」
ふと聞こえてきた話。スプーンを持つ手が止まる。
「――ホール、だと?」
彼らの旅路に深く関わりのある単語。異界に繋がる赤の光を宿す菱形。
いや、ホールという単語のみはよく使われることがある。勘違いの可能性は高い。
「なんだっけあの、デスピア? それがホールの先限定で入手可能なテーマだったよな。融合テーマじゃリンク5は無いだろー」
デスピア。
がちゃん! と大きな音を立ててしまう。
「エクレシア、これって」
「……マズイかもしれませんね」
二人の知るリンク5はたったひとつ。
それが……彼がホールの向こうにいる? そんな筈はないが、確かめなければならない。もしかしたら、とてつもないことが起きようとしているのかも――。
「食べ歩きはおしまいだな、急ぐぞ」
「待ってください!」
「何かあったのか!?」
「パフェがもったいないので食べ終わってから行きます!」
「に、にいさ……兄さん! ライトニングが変になっちゃった!!」
「お゛の゛れ゛A゛i゛ーーーーッ!!」
草薙仁が両手で持ってこちらに見せて来たデュエルディスク。そこからほぼ全身を出しているライトニング。
インターネットへの逃走防止措置として足をデュエルディスクに縛り付けられている彼が、なんというかこう……びったんびったんしている。
こういう音楽に合わせて動くおもちゃあったよなあ、と現実逃避したくなるのも無理はない。生き物ならば確実に目眩を起こすようなハイスピードで暴れている。
「勝手に! イグニスの品位を!! 下げるような真似を!!!!」
「イグニス?」
「なんかよくわからないんだけど、これを見てああなっちゃって……」
パソコンに表示されている画面は、草薙翔一が初めて見るものだった。
『Live☆Twinチャンネル』
カラフルで動きもある。カードの説明も単調ではなくモンスターにしゃべらせるような、少し凝った作りの新テーマ紹介ページ。
「へえ、動画配信者モチーフのカードか?」
「新しく出るサイバース。面白そうだなーって見てたら、こう」
「A゛i゛ッッッッ!!!!」
画面を見たことで更に暴れ始めたライトニング。
イグニスとSOLテクノロジーの仲はあの一件で完全に修復……とまではいかないが、財前晃なら信用して良い。までには回復した。
財前晃が早くSOLのトップになれますように、というイグニスからのデータマテリアル提供が盛んになり。結果としてSOLテクノロジーでサイバース族が作れるようになったのだ。
初期にプレイメーカーが使っていたカードをたくさん流通させ、遊作がサイバースデッキを気兼ねなく回せるように、というAiの思いもある。
問題のサイバース族だが、闇属性と……光属性。
闇はまあいい、Aiはこういうことする。
光。ライトニングは絶対に嫌がる。でもカードとして存在している。
「…………遊作、今連絡して大丈夫だろうか」
この状態のライトニングを放置するわけにはいかない。取り敢えずAiに責任をとってもらうため、翔一はアドレス帳を開き藤木遊作へと電話をかけるのだった。
え!!バイトハノイ3期は烙印世壊罪宝を混合したストーリーを!?
で……でき……で……
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