ラブライブ!サンシャイン!!息抜きカップリングss集! (がんもどきもどき)
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act.ようちか:「チッカイロだよ!」



王道のようちか。




in部室

 

 

千歌「ねぇ、よーちゃん」

 

曜「なぁに?千歌ちゃん」

 

千歌「今日寒くない?」

 

曜「うーん、確かにちょっと肌寒いね。外雨降ってるし……」

 

千歌「あっためてあげよっか!」

 

曜「へ?」

 

千歌「チカが、よーちゃんをあっためるカイロになってあげる!名付けて───」

 

 

千歌「チッカイロだよ!」ババァ-ンッ!!

 

曜「……」

 

 

 

 

曜「昨日思い付いたの?」

 

千歌「うん!」

 

曜「そっか、だから『薄着で来てね!』って昨日ラインが来たんだ……」

 

千歌「そうだよ!ふふふ〜、どうする曜ちゃん。チッカイロ使わないと風邪引いちゃうよー?」ニヤニヤ

 

曜「……うーん、今はいいかな?」

 

千歌「えぇっ! な、なんでぇ!?」

 

曜「別にそこまで寒くないし、少し涼しいかなーってくらいだから」

 

千歌「そ、そんなぁ……」

 

曜「……っていうか千歌ちゃん、抱きつきたいだけだよね?」

 

千歌「ギクッ」

 

曜「もう、それならそうと言ってくれればいいのに……」

 

千歌「言えるわけないじゃん! 『よーちゃん、抱きしめてもいい?』 なんて、なんかこう……えっちな感じするじゃん!」

 

曜「え、えっちって……/// でも、確かに言うのは恥ずかしいね……」

 

千歌「だから! よーちゃんが寒がってる ところを千歌が抱きしめてあっためるっていう自然な流れを作ったのにー! もー!」ベシベシッ

 

曜「イタタ! ごめんごめん! でも全然自然じゃなかったからさ!」

 

千歌「まったく……まったくだよ、よーちゃんは……」ブツブツ

 

曜「……ねぇ、千歌ちゃん」

 

千歌「なぁに?」ムッス-

 

曜「寒くなって来ちゃった。チッカイロ一つくださいな」

 

千歌「……も、もぉ〜! しょーがないなー曜ちゃんはぁ!///」

 

曜(ちょろ可愛い)

 

千歌「はーい! 貼るチッカイロ、一つになりまーす♪」ギュ-ッ

 

曜「わっと……」

 

曜(あぁ、確かにあったかい。まるで、陽だまりが体を包んでくれているような……)

 

 

千歌「よーちゃん、ありがとね」

 

曜「へっ? なにが……?」

 

千歌「スクールアイドル、一緒にやってくれて。あの日、曜ちゃんが最初に入ってくれなきゃ、きっと私、諦めてただろうなって、思うんだ」

 

曜「っ……」

 

 

 

 

 

きっと、

そんな事はなかっただろう。

千歌ちゃんは、私がいなくたってきっと、梨子ちゃんを引き入れて、花丸ちゃんとルビィちゃんを誘って、善子ちゃんを説得して、鞠莉ちゃん、果南ちゃん、ダイヤさんに怒って……

 

Aqoursを、集めていたと思う。

 

「ど、どうしたの、突然……」

 

「んーなんとなく!今伝えたくなったのっ♪」

 

にぱっと笑う千歌ちゃんの笑顔は眩しくて、本当に太陽のようで……

 

 

『そんな事ないよ。千歌ちゃんが頑張ったからだよ』

 

そう言おうとしたけれど、言葉が出なかった。

 

 

だって、

 

 

「曜ちゃんが『一緒』に頑張ってくれたから」

 

 

だってそれは

 

 

「曜ちゃんと『一緒』なら頑張れたから」

 

 

私が、欲しくてやまない言葉だったから

 

 

「だから、ありがとう。曜ちゃん―――」

 

 

 

 

 

「千歌と幼馴染でいてくれて、ありがとう!」

 

 

 

 

ずるい、と心の底から思う。

自分の思っている事を、なんの前触れもなく、心の準備も整わない内に、恥ずかしげもなく言うことができるんだから。

 

だから、今度は私の番

今までの感謝とか、これからとよろしく、とか伝えたい事は山程ある。

 

でも、今はそれ以上に―――

 

「千歌ちゃん」

 

『今の気持ち』を、告げなければならないと、思った。

 

 

「曜、ちゃん……?」

 

肩を掴んで体を離した私を、驚いた様に見つめている。宝石の様な赤い瞳のせいで、そこに映る私の顔まで真っ赤に染まっている様に見えた。

 

大丈夫。私は冷静だ。

 

だから、この感情はけっして勢いに任せたものじゃない。

ずっとずぅっと、心の中に閉まっていた想いを

伝えるのは『今』だと

 

そう、思ったから―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………わ、私、千歌ちゃんのことがす「シャイニィィイッ!」ヨーソロォォオ!!?」ガタ--ンッ!!

 

果南「鞠莉、なにもそんな大声で入らなくても……あれ、曜に千歌、先に来てたんだ」

 

鞠莉「……って、曜はなんでハンズアップして立ってるの?」

 

曜「へっ!? こ、これは、その……ば、万歳を次の曲の振り付けにしようかなって話してたんだよ! ねっ、千歌ちゃん!!」

 

千歌「う、うん……」

 

鞠莉「……ほっほ〜ぅ……もしかしてぇ、二人の邪魔しちゃった感じデースカー?」

 

曜「な、ななななんのこと!?」

 

鞠莉「惚けなくてもいいのよ〜♪ 誰もいない事をいいことに、あんな事やこんな事、二人だけのwhole new worldへGo to heaven!」

 

果南「いや意味わかんないから」ズビシッ

 

鞠莉「アウチッ!」

 

曜「あ、あはははは」

 

千歌「………」

 

 

 

 

 

 

 

カイロは、長時間当て続けると、火傷を起こしてしまうらしい。

それでも私は、彼女から離れることは出来ない。離れたくない。

彼女の優しいぬくもりに焼かれるなら。

それでもいいと、思えるから。

 

 

いや、もしかしたら―――

 

(私はとっくに、千歌ちゃんの熱にやられているのかも……)

 

 

 

そんな事を思いながら、チラリと視線を横に移すと、右手でパタパタと顔を扇いでる千歌ちゃんの後ろ姿が、目に入った。

 

 

 

 

おわり

 



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act.ようりこ:曜「車輪の唄」



至高のようりこ
BUMP OF CHICKEN「車輪の唄」より





 

 

 

 錆びついた車輪、悲鳴を上げ、僕らの体を運んで行く。明け方の駅へと―――

 

 いつだったか、そんな歌を聴いたような―――。

 

 

 

 

 

 ―――ギコギコ、ギコギコ

 

  ペダルを漕ぐ度に、悲鳴のように錆びついた鉄同士が擦れ合う音が鳴る。二人乗りしながらこんな坂道を登っているのだ。使い続けて5年間手入れも何もしてない自転車からしたらたまったもんじゃ無いだろう。

 

 ごめんね。帰ったらちゃんと整備してあげるから、もうちょっとだけ頑張って。

 

 心の中で愛車にエールを送る。それは軽い現実逃避。後ろに乗る彼女自身は決して重くはない。けれど、その膝に抱える一昨日一緒に買いに行った鞄にはそこそこの荷物が入っているようで、自転車よりも私の太ももの方が悲鳴を上げそう……。毎日果南ちゃんと走っててよかったと、この時ほど思ったことはなかった。

 

「ほら、曜ちゃん頑張って!あと少しだよ!」

 

「よーしっ!ぜんそくぜんしーんっ!」

 

 楽しそうな梨子ちゃんの声にこっちも自然と笑顔になる。まだ早朝と呼ぶには少し早すぎる時間に、二人とも深夜テンションみたいにハイになっている。

 いや、もしかしたら本当は、数十分後に来てしまう別れの時のことを考えたくなくって、テンションで誤魔化していたのかもしれない。

 

「……なんだか、世界中に二人だけみたいだね」

 

 ポツリ、と。梨子ちゃんが小さくこぼす。車輪の音と私たちの声しか聞こえないこの時間は、本当に世界に私たちしかいないかのように静かで、静かすぎて。そう思ったら、背中から伝わる梨子ちゃんの温もりが、より一層あたたかく感じた。

 

 あぁ、神様。永遠なんて贅沢は言いません。せめてこの時間が、少しでも長く、あと、ほんのちょっとだけ―――。

 

 けれど、どれだけ願っても、どれだけ祈っても、時間は冷酷に当たり前のように過ぎていく。気づけば坂も登り終わり、私たちは駅に到着した。到着して、しまった。

 なんとなく、二人で駅の入り口で立ち尽くす。電車の来る時間までまだ少し時間があるけど、二人の間で会話は無い。

 

(なにか、何か言わなきゃいけないのに……!)

 

 そんなこと、わかっているのに。今喋り出したら、私はきっと―――。

 

 フワッと。

 

 それまで冷たかった空気が、後ろから急に暖かみを帯びた気がした。それは気のせいではなくって、振り返ってみると、水平線の向こうからとても眩しくて暖かい光が、私たちを街ごと飲み込んだ。

 

「わぁ……」

 

 思わず、感嘆の声が漏れてしまう。

 思えば初日の出の時以外に見る機会なんてなかったように思う。高いところから見えるそれはあまりにも綺麗過ぎて―――。

 

 後ろにいる梨子ちゃんは、笑っているんだろうなって思う。朝焼けに照らされる彼女の顔はきっと凄く綺麗で、その姿を目に焼き付けたかったけれど、私は振り返ることは出来なかった。

 

 きっとこの日この瞬間のこの景色は、世界一、いや宇宙一、人を感動させるほど綺麗な景色に違いない。

 

 だって、そうじゃなかったら。

 

 私が今泣いている理由に説明がつかないから―――

 

 

 ――――――

 

 券売機で梨子ちゃんは切符を買う。この駅で買える、1番高い切符。対して私が買ったのは1番安い入場券。値段の差が、そのまま距離に反映されているようで、いや実際そうなんだけど、それを考えるとまた寂しさが込み上げてくる。梨子ちゃんが切符を買っている間、私はすぐに使う入場券を、宝物をしまうように、ポケットにしまった。

 

 電車が来るまであと二、三分。未だ私たちの間に会話は無い。梨子ちゃんの鞄が改札に引っかけて通れなかった時も、私は目も合わせずに引っかかる紐を外しただけ。駅のホームに並んで立つ二人の間に吹く風が、やけに寒々しく感じる。

 

 さっきまで永遠に続いて欲しいと願った時間。どんなに息苦しい沈黙が続くだけでも、その思いは変わってなくて。そんな私の心を嘲笑うかのように、終わりの時間を伝える音が、最後を告げるベルが、ホームに響き渡った。

 

 ガタンゴトン。重い音で空気を揺らしながら、電車が近づいてきて、丁度私たちの前に扉を置くように止まる。

 

 コツンッ

 

 電車のモーターの音で騒がしいはずなのに、梨子ちゃんが一歩踏み出した音はやけに響いて聞こえてきた。たった一歩分の距離。けれど、それは何万歩よりも距離がある気がして。電車の中と外では、まるで別の世界の様。

 

 お互い無言のまま見つめ合う。もう後数秒も時間が無い。言いたい事、伝えたい事は山ほどあるのに、私は馬鹿みたいに口を開いては閉じてを繰り返すだけ。「要領が良い」なんて、飛んだお笑い種だ。どんなに何かを出来たところで、いざって時に、大切な人に伝えるべき言葉を見つける事ができない。

 

「曜ちゃん」

 

 そんな私の心中を察してか、梨子ちゃんが口を開いた。いつも聞いてきた、美しく透き通った海の様な声。でも今はその声を聞くのが辛い。あるいは触れれば壊れてしまいそうな彼女の表情が、そう思わせるのかもしれない。

 

「また会おうね。いつの日か、必ず……約束、だよ―――」

 

 

 ――――――

 

 

「梨子ちゃんの声、震えてたな……」

 

 ぼーっと電車を見送りながら、私の口から間抜けな声が漏れる。きっと梨子ちゃんも、精一杯我慢していたんだろう。それなのに、私は、返事をすることなく、俯いて手を振るだけ。何処までも自分のことばっかり、最後の最後で、彼女を悲しませてしまった……。

 

「最後……?」

 

 彼女は私にまた会おうと伝えてくれた。約束だよと、言ってくれた。けど、彼女の本気に、本当の言葉に応えられなかった私に、彼女に会いに行く資格があるとでも言うのだろうか?

 

「あるわけ、無いじゃんっ……!」

 

 想いを口に出すと、それは体の中で一気に広がって。気付いたら私は走り出していた。

 

 今ならまだ間に合う。

 伝えなきゃ、いけない。

 

 バカで、弱虫で、ヘタレで、ダメダメな私だけど。きっと今ここで諦めたら、私は私を許せない。見せてくれた梨子ちゃんの「本気」に、私も「本気」をぶつけなきゃ。未来を走る権利なんて、得られやしない!

 

 自転車に飛び乗って、線路沿いの下り坂を全力で降りる。ブレーキなんて最初から付いてないかのように、ハンドルだけ握ってペダルを漕ぐ、漕ぐ。もっと、もっと早く、早く。ただひたすら前に、前に。追いつくように―――

 

 でも、すでに発車している電車に、自転車で追いつくなんて不可能だ。だから私はハンドルを右に切って、整備されてない砂利だらけの道を下る。この電車は大きく弧を描くように曲がっているから、直線で斜めに行けば近道になる。

 

 なんとか転けないようにバランスをとりながら、物凄い速度で下る。なんとかまた平地の道路に出て、線路目指してペダルを回す。

 

 

 

 ―――ギシギシ、ギシギシ

 

 ペダルを漕ぐ度に、悲鳴のように軋んだ音が鳴る。

 

 ごめんね、帰ったらピッカピカに磨いてあげるから、もうちょっとだけ力を貸して!

 

 祈る様に自転車にお願いしながら、一心不乱に足を動かす。やがて線路沿いの道に出ると、少し後ろから電車が走ってきた。間に合った。けれど、スピードは落とさない。むしろグングンと上げて行くけれど、案の定電車は並走する私を簡単に追い抜いて行く。乳酸が溜まって固まりそうな足を必死に動かしながら、私は目を凝らして電車の窓を凝視して、梨子ちゃんを探す。

 

 一車両目、いない。

 二車両目、いない。

 

 そもそも、私のいる側に座ってる確率はどのくらいなのだろう?

 

 三車両目、いない。

 四車両目、いない。

 

 単純に二分の一?電車の中はガラガラだし、立っていることはないと思う。こんなことなら、数学の授業もっとちゃんと聞いとけばよかった!

 

 五車両目、いない。

 六車両目、、、、

 

 

 

 いた。

 

 

 

 その後ろ姿を、私が見間違えるはずがない。赤みがかった長い髪。普段から華奢な体だけど、心なしかその背中はいつもより小さくて寂しさが伝わってくる。

 

 その背中を見て、確信した。やっぱり間違いじゃなかった。

 

 ドアが閉まる寸前、あの時、梨子ちゃんは―――

 

 

 

 ――――――

 

 

 ―――泣いて、しまった。

 

 絶対我慢するって決めていたのに、溢れる本当の想いは偽物の覚悟なんて簡単に打ち砕いて、気づけば私の口から言葉が次々と止まらなくて。それでも、本当に伝えたい事に限って、喉の奥に止まって出てきてはくれなかった。情けないけど、悲しいことに、あれが私の精一杯。

 

 それでも、曜ちゃんは応えてはくれなかった。

 

 彼女が肝心なことでヘタレてしまうのはいつもの事。それでも最後くらい、笑顔が見たかった。あんな顔、して欲しくなかったのに。

 

 胸の中の何かが、急激に冷めて行く様な感覚がした。わかってる、曜ちゃんは何も悪くない。ただ、私が勝手に期待して、勝手に失望してしまっているだけ。ほんと、自分勝手にも程がある。そうわかっていても、私はもう、曜ちゃんの隣にいる未来が想像できない。

 

 そのくせ、耳には曜ちゃんの声が聞こえてくる様で、ほんと、未練がましいったら―――

 

 

 

 

「――――――梨子ちゃーーーーーーーーん!!!!」

 

 

 ―――その声を、私が聞き間違えるはずがなかった。

 弾ける様に立ち上がって、窓の外を見る。そこには曜ちゃんがいた。額に汗を浮かべて、必死に私の名前を叫んでいる。

 

「よう、ちゃん……!曜ちゃん!!」

 

 その事が嬉しくて、嬉しくて。

 さっきまで冷めていたものが、急激に熱を持って、爆発したかの様だった。電車の中ということも忘れて、私は彼女の名を叫ぶ。幸い電車の中に人はいない。だから良いというわけではないけど、それでも私は溢れる感情を止めることができない。

 

 あぁ、やっぱり私、曜ちゃんの事が―――

 

 

――――――

 

 

 届いた。振り向いてくれた。

 電車の中の梨子ちゃんはとても驚いた顔をしている。梨子ちゃんが何かを言っている。けれど、あっちは室内という事と、電車の音で全然聞こえない。

 

 でもいいんだ。梨子ちゃんはさっき私に伝えてくれたから。

 だから今度は私の番。

 

 伊達にスクールアイドルと水泳部を掛け持ちしていない。肺活量にはそれなりに自身があったけど、それでもあんまり長くは喋れそうにない。だから、伝えたい事だけ。要領を得ない、ただのありのままの私の気持ちを電車にぶつけるように叫ぶ。

 

「梨子ちゃん!!私!会いに行くから!!いつの日かじゃなくって、必ず!!絶対!絶対会いに行くから!!約束っ、だからねーー―――っ!!」

 

 一息で、ありったけ。肺が破裂しそうなくらいたくさん吸った空気を全部つぎ込んで、喉が弾け飛びそうなぐらい思いっきり叫ぶ。

 

 梨子ちゃんはまた驚いたような顔をして、俯く。それは、私が見たい彼女の姿ではなかった。きっと駅のホームで、梨子ちゃんも同じ気持ちだったんだろう。

 

 それでも、梨子ちゃんは顔を上げて、最高の笑顔を見せてくれた。口元と手を震わせながら私に敬礼で返事をしてくれる。その事が嬉しくて嬉しくて、私も思わず敬礼を返した。

 その時タイミング悪く、車輪が大きめの石に乗っかっちゃって、私は思いっきりバランスを崩す。慌ててハンドルを操作してなんとか脇の草むらに倒れこむ。身体中に鈍い痛みが走るけど、今はそんなの気にしてられない。

 既に梨子ちゃんの顔は見えなくなってるけど、私は電車に向かって、大きく飛び跳ねながら手を振った。離れてく梨子ちゃんにも見えるように、電車が見えなくなるまで、何度も、何度も―――。

 

――――――

 

 色取り取りの音たちが活動を始め、今日も街は動き出す。賑わい、騒がしくなり始めた商店街の中を自転車を押しながら歩く。不思議だ、周りに人はたくさんいるのに、自転車の鯖同士が擦れ合う音がやけに大きく聞こえる。

 

「なんだか、世界に一人だけみたいだなぁ……」

 

 そんな言葉が小さく溢れた。きっと、私にとっての唯一無二の大切な人がここに、この街にもういないという事実が、そう思わせているんだろう。

 

 それでも、不思議と寂しくはない。

 

 会いに行くと言ったから。

 必ずまた会うと、約束したから。

 

「っ〜〜〜………さてっと!」

 

 商店街を抜けて、大きく伸びをする。まず家に帰ったら、今日一番頑張ってくれたこの相棒を、思いっきり磨いてやらないと!

 

 ……でも家までまだ遠いから、もうちょっとだけ乗せてってね。

 

 労う様にサドルを撫でてから、私は自転車に乗って、視界いっぱいに広がる青空に向かって指を差す。

 

「天候よしっ!風よしっ!進路よしっ!」

 

 空、海、道路と順に指差喚呼。私の進む未来に一点の曇りもない。

 

「全速前進!ヨーソローーー―――!」

 

  からの、敬礼!

 

 背中に残る微かな温もりに押されるように、私は自転車を漕ぎ出す。

 心なしか、ペダルはいつもよりも軽いように感じた―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 錆びついた車輪、悲鳴を上げ、残された僕を運んで行く、微かな温もり―――

 

 いつだったか、そんな唄を聴いたような―――。

 

 

 

 

 おわり

 

 

 






書けるかどうかは別として、イチャイチャよりも切ない系の方が性に合ってる気がする。
でも本当はイチャイチャが描きたい……





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act.ようりこ:梨子

あれ?またようりこだ。
ギャグ詰め込み
キャラ崩壊
反省はしてる
後悔はしてない




桜内梨子はレズである。

 

この一文を見て、「嗚呼、またか…」と諦めにも似た感情で嘆息する読者は少なく無いだろう。

顔がレズ。ご満悦レズスマイル。「大好きだよ」が「I love you」に変換されるファッキンレズビアン。メノ^ノ。^リ etc……

彼女がレズであるのをいいことに。言いたい放題言いやがる輩が後を絶たない。

 

しかし、待って欲しい。

確かに彼女はレズだ。しかし、女なら誰でもいいわけでは無い。彼女の恋愛対象が女の子であるだけで、それはとても純粋なもの。

桜内梨子はレズである。しかしクズでは無い。

そもそもレズだからなんだというのだ。

例え相手が異性だろうが同性だろうが、はたまた性別不詳だろうが、人を好きになる気持ちにおかしいことなんてない。誰も彼女の気持ちを笑ったり、貶したり、見下したりする権利なんて、持っていやしない。

 

もう一度言わせてもらう。

桜内梨子はレズである。しかし、クズでは無い。断じて、ないのだ。

 

だから―――

 

曜「―――zzZ」

 

梨子「……」

 

今現在、彼女が恋心を寄せている相手が自分のベッドで寝ているとしても、彼女が手を出すなんてことはありはしない。

絶対に、無いのだ。

 

梨子「……」ムラムラ

 

無い、と………信じたい…………。

 

 

 

 

「ふぅぅ―――!」

 

(落ち着け、落ち着くのよ桜内梨子。クールになるの。何事も冷静になることが大切。まずは状況の確認からよ)

 

流石は桜内梨子。前作より受け継がれたツリ目にピアノというクール属性特有の個性は伊達じゃ無い。胸に手を当て二、三回……七、八回深呼吸し、はやる気持ちを抑えつける。

そもそも何故、自分の想い人が自分のベッドで眠っているのか、改めて思い返してみる。

 

 

 

今日はAqoursの二年生三人で新曲の打ち合わせをする予定だった。しかし千歌は家の旅館に大勢の客が来るとかで手伝いを余儀無くされ、二人で打ち合わせをすることになったのだ。

梨子の家で話し合いをしていると、気付けば夜も更け、外は強い雨が降っていた。

 

「まさかこんなに降るなんてねー。曜ちゃん天気予報も鈍ったかなー」

 

顔を顰めて窓の外を見つめる曜。しかし梨子はこれは神様が自分に与えてくれたチャンスだと思った。

 

「もっ、もしよかったら、今日ウチに泊まらない?今日は親もいないから」

 

「そうなの? んーでもなんの準備もしてないし……梨子ちゃんも迷惑じゃない?」

 

「全然!?ぜんっっっぜん迷惑じゃないよ!? ほ、ほら、寧ろ親居なくて不安だし、曜ちゃんが居てくれたら心強いかなーって!!明日もお休みだし!あっ、曜ちゃんさえ良ければだけど!」

 

平静を保ちながら(保ててない)、手をわちゃわちゃとさせる。そんな梨子の様子に少しだけ首を傾げるが、特に指摘することもなく思案顔になる曜。

 

判決を下される罪人のように、梨子は固唾を飲んで曜の返事を待つ。果てしなく長い数秒間の後、「それじゃあ、泊まらせてもらうであります!」と、曜は笑顔で敬礼する。

 

屋根を打つ雨の音が、自分を祝福するオーケストラのように思えた。

心の中で巻き起こる梨子ちゃんフィーバーを悟られぬようにするが、しかし思わず緩んでしまう頬を誤魔化す様に、梨子は敬礼で返した。

 

 

曜が先に風呂へと入っている間、押入れにある大量の同人誌を、万が一にも見つからない様屋根裏に隠す。

その他見られてはならない諸々の物を念の為に見つからない様隠し、一息着いたところでコンコンと扉をノックする音が聞こえた。

 

「渡辺曜、只今お風呂より帰還したであります!」

 

 

 

 

 

 

 

 

―――巨大な魔物の放つ、不可視の衝撃波。

戦士は腰を落とし、顔の前で両腕を交差してガードする。しかし衝撃波の威力は尋常ではない。一瞬たりとも気を抜いたら吹き飛ばされてしまう。

必死に地面を掴むように、足に力を入れる。勢い負けして地面に二本の轍を作るが、戦士はそれでも倒れない。

やがて衝撃波の威力は尽きる。戦士の鎧と体は既にボロボロだ。しかし、戦士は立っていた。

耐えたのだ。普通なら人一人簡単に殺してしまうような威力の攻撃に。鋼鉄の鎧はほとんど砕け落ち、素肌は擦り傷や切り傷だらけだが、それでも戦士はその屈強な二つの足で仁王立ちし、ニヤリと笑みを浮かべた―――

 

 

ここまで僅か二秒。梨子の脳内にそんなイメージを流させるほど、風呂上りの曜の威力は強烈だった。

 

シットリとした髪、赤くなった頬、うっすらと浮かぶ汗。

そして何よりそんな彼女が自分のパジャマを着ているということに言葉にできぬ感覚に包まれた。

 

(あ、危なかった……!)

 

それはまさにファウードの鍵を壊さんとするバオウ・ザケルガの如し。危うくレズ大魔王リリーを封印する扉(理性)が壊されるところだった。

早鐘を打つ鼓動を鎮めるように胸に手を置く。しかしそんな梨子の様子に気付くことなく、曜ははにかみながら着ている服の胸元に触れる。

 

「このパジャマ、梨子ちゃんの匂いがする」

 

2 combo!

えへへと笑いながら服の襟をキュッと握る曜。その予期せぬ攻撃は、アッパーカットを喰らった後のように梨子の脳天を揺らす。

もしも二次元の世界なら、その可愛さに梨子は間違いなく吐血ないし鼻血を吹き出していただろう。

あと女の子がパジャマって言うの可愛いと思う(私情)。

 

「も、も〜!恥ずかしいこと言わないでよー!」

 

「えーいいじゃーん!私、梨子ちゃんの匂い好きだなぁ。なんか安心するっていうか……」

 

3 combo!

冗談めかした口調で流そうと試みるが、見事にクロスカウンターを決められる。曜の無自覚攻撃に既に理性がノックアウト寸前。もうやめて!桜内のライフはとっくに0よ!

これはヤバいと思い、綺麗に畳んでいた自分の寝間着をひっ掴み、「お風呂入ってくるね!」と部屋から避難する。

 

時間にして15分。内10分間は曜が入った後の風呂水との格闘があったがなんとか理性が勝利を収め、体を隅々まで洗い歯を入念に磨き、洗面台に映る自分の顔を見つめる。

その目はまるで既に負けが確定している戦に向かう戦士の目をしていた。

 

桜内梨子はレズである。しかしクズでは無い。

 

鏡の中の自分に言い聞かせる様に、頭の中で反芻する。今日、曜が自分の家に泊まるのは、梨子が曜のことを好きだと知らないからだ。もしこれが男の家だったら例え下心が無くても警戒はするだろうし、寧ろ同性から恋心を抱かれる方が軽蔑されるかもしれない。

 

つまりは、曜は梨子を『友達として』信用してくれているのだ。

それを自分の勝手な想いで裏切るわけには行かない。

 

(ましてやこんな気持ち、普通じゃ無いんだから……)

 

ギュッ―――

心の中に生まれた言いようのない苦しさを握りつぶす様に手に力を入れる。

 

普通じゃない。

 

人はそれを罪とする。

自分達と明らかに違う、理解できないものを不快に思い、理解する努力もしようとしないまま、異物は蔑視され、拒絶され、排他される。

 

それは―――

 

『ねぇねぇ、桜内さんって〇〇先輩のことすきらしいよー?』

『うっそー! それってレズってやつ? マジありえなーい!』

『気をつけたほうがいいよー。うっかり惚れられちゃったら襲われちゃうかもー』

 

 

―――身を以て知っていることだった。

 

だから、梨子は自分の気持ちに蓋をして、目を逸らす。

この気持ちは普通じゃないから。間違っているから。

拒絶されるのは、嫌だから―――。

 

 

 

 

「……」

 

冷静さを取り戻した梨子はベッドに腰掛け、寝顔を見つめる。安心しきったその寝顔に思わずクスッと笑いながらそっと頬に触れる。

 

「まったく、こっちの気も知らないで……」

 

クスリと笑いながらその健康的な肌を撫でると、擽ったそうに身をよじらせ、薄っすらと目を開けた。

 

「りこ、ちゃん……」

 

「あ、ごめん。起こしちゃった……?」

 

慌てて頬から手を離すと、曜は目をこすりながら体を起こす。胸元のボタンが何個か外れ、こぼれ出そうになる胸に一瞬目を奪われるがすぐに視線をそらした。

 

「んーん、私も寝ちゃってごめん…」

 

「し、仕方ないよ。曜ちゃん水泳部と掛け持ちで、疲れも溜まってるだろうし……今日はもう寝よっか」

 

「えーやだー、りこちゃんとおはなしするのでありますっ!」

 

寝惚けているからか、少し口調が幼くなった曜。しかしそれだけで無く、本当に子供になったように、ガバッと梨子に甘えるように抱きついた。

 

「へっ―――きゃあっ!?」

 

腰を上げようとした所に体重をかけられ、バランスを崩す。ベッドに引き寄せられるように倒れるが、なんとか両手を出し、曜にのしかかるのは阻止した。

 

「も、もう曜ちゃん。急に抱きついたらあぶな―――」

 

言葉が、止まる。

今、曜は驚いた顔でベッドに仰向けに倒れていて、そこに梨子が覆いかぶさるように曜の顔の横に両手をついている。

所謂床ドン。自分の持つ同人誌の中でも五本の指に入るほど好きなシチュエーションに、完全に梨子の思考は停止してしまった。

 

今なら、まだ引き返せる。

体を離して、ベッドから降りる。少し気まずい空気にはなるだろうけど、それだけで、まだ友達という関係を壊さずにいられるはずだ。

 

 

それなのに―――

 

「りこ、ちゃん……」

 

何故、彼女の声がこんなに艶っぽく聞こえるのか。

何故、彼女は頬を染め、潤んだ目で自分を見つめているのか。

何故、彼女は、震え ながらも、手を 自分のと かさね て―――

 

(あぁ、もう、ダメだ―――)

 

「曜ちゃんが、悪いんだからね―――」

 

 

 

 

 

 

その後の私は、ただの獣だった。

ただ、本能に任せて、ひたすらに、欲望のままに、彼女を求め、その体を貪り尽くし、快楽に溺れた。

 

 

「やめて」と懇願する曜ちゃんの泣き顔に

 

それでも辞められずに、言い訳のように何度も愛を囁く

 

最低最悪な自分自身を自覚しつつも

 

粉々になってしまった栓は、理性は、もう直らない

 

彼女への欲が尽きるまで、もう、止まらない

 

 

 

 

 

 

私は

 

桜内梨子は

 

レズで

 

クズで

 

本当にどうしようもない

 

こんな自分が

 

 

だいっきらいだ―――

 

 

 

―――

 

「―――り、梨子ちゃん!顔あげてよ!!」

 

 

 

 

 

「おはよう、梨子ちゃん♪」

 

目を開けると、天使がいた。

違った。曜ちゃんだった。

ボサボサの髪で、目の下にクマもあるけど、太陽みたいな笑顔を私に向けていた。

 

「よう、ちゃん……」

 

声を出すことで、自分が今とっても疲れていることが分かる。その倦怠感に、自分のしたことが夢ではなかったと教えられた。

 

心臓がドクンッと大きく脈打つ。体温が、急激に低下していくのに、全身から汗が噴き出した。

 

取り返しのつかない事をした―――。

 

うまく、呼吸ができない。

自業自得の癖に、涙が止まらない。

頭のなかはまっしろで、どうしていいのか、どう謝ればいいのか、わからなくて、

 

「梨子ちゃん! どうしたの? 大丈夫!?」

 

曜ちゃんの慌てた声が聞こえる。

私なんか、触れたくも無いはずなのに、話したくもないはずなのに。

それでも曜ちゃんは、私の事を心配してくれて……

 

 

(あぁ、私は―――)

 

こんな優しい友達に、一生消えない傷を作ってしまった、と……

 

 

罪の意識は増えるばかりで、でも、どんなに後悔しても、もう遅い。

泣く権利なんて、私には無いのに、涙も、嗚咽も、止まらなくって

 

 

「ごめんなさいっ……!」

 

子供のように、泣きながら謝る事しかできない私を、曜ちゃんはずっと抱きしめてくれた―――

 

 

 

 

「落ち着いた?」

 

「うん……」

 

数分か、あるいは数時間か。

起きた時に時間を確認してなかったから、どれくらい泣いていたのかわからないけれど、今現在時計の短針は10時を指していた。

今は二人、ベッドに並んで座っている。

 

「梨子ちゃん」

 

曜ちゃんに名前を呼ばれて、思わず肩が跳ねる。

あぁ、遂にこの時が来てしまった。

私はこれからどうなるのだろう?

いや、曜ちゃんには私をどうにでもする権利が、ある。

絶交されるか、若しくはAqoursをやめろと言われるかも、いや、この事実を学校に伝えれば、退学だってありえる。

それだけならまだしも、警察に突き出されたって文句は言えないんだ。

 

私は、これから下される自分の処分を、なんだって受け入れなければならない。それが、少しでも曜ちゃんへの罪滅ぼしになるのなら―――

 

 

私は、命だって―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい!」

 

 

ゴチンッ!

 

硬いものと硬いものがぶつかる音がした。

何が起きたのか、すぐには理解できなかった。ただ、目の前には床に正座して両手をついて頭を下げている曜ちゃんの姿があって、それが土下座だと気づくのに、五秒ほどかかってしまった。

 

「よ、曜ちゃん!!何してるの!?」

 

「私、梨子ちゃんの気を軽く考えてた……ほんと、バカ曜だっ……!」

 

「ち、ちょっと、落ち着いてよ!」

気づけば曜ちゃんの顔から雫が垂れて床に点々と落ちる。さっきとは立場が一気に逆転していた。

何故彼女がこんなことをしているのかまるでわからない。むしろ土下座したいのはこっちの方だというのに……

 

 

 

 

「本気で嫌だったら、梨子ちゃんのこと突き飛ばしてたよ。私意外と力強いの、知ってるでしょ?」

 

ムンッと力瘤を作るように腕を曲げる。正直全然意外じゃないけど……

 

「で、でも曜ちゃん、昨日泣きながらやめてって」

 

「そ、それは、その……き、休憩したかったっていうか……り、梨子ちゃん、全然休ませてくれないんだもん!もう本当に死んじゃうかと思ったの!///」

 

「………」ムラッ 

 

っとぉお!?あぶ、あぶなーい!!

さっきまでの罪の意識はどこ行ったの私!?ムラッじゃないわよムラッじゃ!

こんな昼間からレズっていいともしていいわけないでしょ!?お昼休みはいちゃいちゃエッチの時間じゃないのよ!タ○さんもびっくりの所業だわ!

 

 

 

 

 

レズである事に一番偏見を持っているのは、レズを、一番嫌悪しているのは、

 

他でもない、自分自身だった。

 

 

 

 

誰でもいいわけでは無い。

 

(誰でもいいわけが無い)

 

寝惚けていたから、だとか。

曜ちゃんが可愛すぎたから、とか。

 

 

 

―――やって、しまった。

後悔と自責の念が梨子の体にのしかかる。

 



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