THE WHEEL OF FATE IS TURNING (まどるちぇ)
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REBEL0 虚数の怪物
他シリーズを待って下さってる皆さんには申し訳ありませんが、今しばらくお待ちを。
僕は……ええと。ああ、そうだ。
確かハザマ、とか呼ばれていたような。
一人称は『わたくし』……だったような。
確か誰かと結託して何かをしてたんですよねえ。
あー……まあ、どうでもいいですか。どうやら失敗したようですし。
この虚脱感と満足感にも似た虚無感。果てしなく空っぽになった、そんな飢え尽くした、乾き尽くした心。
心……こころ?心とはなんでしょうね?
まあいいでしょう。とにかく、何か躍起になっていたことに失敗した気分ですし、多分そうなんでしょう。
……少し思い出してきましたよ。
ラグナ=ザ=ブラッドエッジ。黒き獣。滅日。蒼の魔道書。冥王イザナミ。……ノエル・ヴァーミリオン。
断片的な単語同士が繋がって、頭の中で一つの記憶に変わっていく。
そう。そうだ。そうでした。
僕はハザマ。ユウキ=テルミの『器』だった男。そして、碧の魔道書。死の間際に『痛み』を知り、一つの個として存在することを果たした者。
身長は183cm。体重は61kg。血液型はAB型好きなものはゆで卵。嫌いなものは猫。ええ。確かに覚えていますね。
そして、窯に落ち、境界に落とされた。
いや、自分から落ちた、が正しいですかね?いずれにせよ、この世界での私の役目は終わったようです。
「ねえ?テルミさん?」
返事がない。少し安心しました。つまりテルミさんは
空いた器は流しにポイ。理に適ってますね。そのまま割れてしまいそうですが。
まあ、いいでしょう。それで終わりなら。終われるならば。
なんだかだんだん眠気のようなものが襲ってきましたね。間もなく僕は活動停止するでしょう。
願わくば……願わくば。
なんでしょう?最後に未練があったでしょうかね?生前の願望だった痛みを知るということは理解できましたが。
う〜〜ん。そうですねえ。じゃあこうしましょう。
「願わくば、私以外の全ての生物が
言ってみると、その願いが叶うことに喜びを感じます。いいですね。この上も下も前も後ろも右も左も東も西も北も南も分からない空間にこの世の全ての生物が。そして永遠の虚無に絶望した人々は……。
「ククク……フクククク……」
押し殺そうと噛み締めた口から笑みが零れる。
是非、叶えて欲しいですね。
「ねえ、テルミさん?」
その一言を最期として、私ハザマは全ての活動を停止し…………。
……
…………
…………………
「まだ、終わりじゃねえぞ」
忌々しい声が頭に響く。
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REBEL1 異物混入
「……ここは?」
クソ忌々しい声が脳裏に響いたかと思うと、気が付けば異様な空間にいた。
異様、というと少し語弊がありますね。
なんというべきか……普通。そう、普通なんですよね。
6畳一間のワンルーム。真ん中には丸い卓袱台に座布団が2枚。カグツチによくある建物や家具。そしてそこに座る私。
「あ〜〜……はい?」
認識はできる。置いてあるものがなんなのかも分かる。けれど、それらが何故自分の周りに……いや、自分が何故ここにいるのかが分からない。
コツン
姿勢を変えようと手を床につこうとすると、何かに当たった。分厚い書類だった。
「諜報部からの資料ですかね?どれどれ……『IS学園募集要項』『IS基礎教本』『IS学園校則』……?」
このIS学園というのが次の潜入先か何かなのですかね?とりあえず本部に連絡しませんと。
コンコンコン
立ち上がるが早いか、ドアをノックする音。
諜報部の方でしょうか?それとも、大家さん?
「はい?どなたです?」
ドアを開けると、スーツ姿の女性が立っていました。凛として気の強そうに吊り上がった目尻。どうやら冗談や無駄口を嫌いそうなタイプの方ですね。諜報部では見ない顔ですので、大家さんでしょうか?
「迎えに上がった。行くぞ」
「はい?迎えって……」
「まだ準備を終えてなかったのか?伝えた時間通りに来たと思うが?」
何やら睨まれてしまいました。会話から察するに、この時間にこの女性と待ち合わせしていたみたいですね。全く身に覚えがありませんが。
「すみません。すぐに準備しますのでもう少々お待ち下さい」
とりあえずこの場を丸く収め、状況を理解する時間を作りませんと。
「1分だけ待ってやろう。早くしろよ、ハザマ=クヴァル」
スーツ姿の女性はそれだけ言うとドアを閉めました。足音が聞こえないところからドアの前で待つつもりなのでしょうか。とりあえず荷物を集めてるっぽい物音を立てつつ状況を整理してみますか。
•自分は境界に落とされた。
•気が付いたらここにいた。
•IS学園というものに関係する資料が手元にあった。
•スーツ姿の女性と会う約束をしていた。
•自分は何故かハザマ=クヴァルと呼ばれている。
……なるほど。つまりはこういうことですか。
IS学園に入学して何かしらを調査してくるという世界に飛ばされた。事象干渉か、レリウス大佐の世界間転移装置のようなもので。
あの女性はIS学園の職員なのでしょう。諜報部と繋がりがあるかは怪しいですが、とりあえず彼女に連れて行って貰うとしましょうか。
「1分だ」
「お待たせしました」
分厚い資料を小脇に抱え、玄関を出る。
「……貴様、鞄は無いのか?」
「ええ。私手荷物はあまり持たない主義ですので」
「まあいい。後で学園指定のサブバッグをくれてやる。以降はそれを使え」
「かしこまりました。ええと……すみません。お名前をお伺いしても?」
送迎の車に乗りながら、名前を訊いてみる。信じられないものを見るような顔をしているところから、既に自己紹介は終えていたのでしょうね。顔が怖いですねえ。
「……次はない。織斑 千冬だ。二度と忘れないことを薦めておくぞ」
「オリムラ・チフユ……ええ。覚えました。よろしくお願いしますね、チフユさん」
色々と情報を得ながら当たり障りのない会話を交わす。ぽつぽつと話す内に目的地に到着した。
「ここがIS学園だ。今日から約3年間、ここが学び舎であり生活の場だ。私は寮長と風紀委員会の顧問を務めている。あまり騒ぎを起こさないように。と言っても、難しいだろうがな」
「え?それはどういう…………」
チュドーン
凄まじい爆発音と共に空気が震える。事件ですかね?
「はぁ。あの莫迦共が」
チフユさんがため息を吐いてこめかみに指を当てる。どうやらこれが日常のようです。
「後は一人で大丈夫ですので、チフユさんは解決に行っては?」
「そうだな。いや、ちょうどいい。着いてこいクヴァル」
その名で呼ばれるのは初めてなので慣れませんね。そして事件現場に連行される。面倒事は避けたいのですが……。
「死ねー!一夏ー!」
「お待ちなさい一夏さーん!」
鳴り響く轟音に混じり、少女の甲高い声が耳に入る。誰かを追いかけているようです。あの少年ですかね?
「
ドライブを発動させ、ウロボロスを少年目掛けて放つ。しかしウロボロスは手から離れた瞬間にボロボロと崩れ落ちた。
「…………」
「アレが貴様と同じ世界で唯一の男性のIS操縦者だった織斑一夏だ」
幸い、チフユさんには見られませんでしたか。この世界には魔素が足りてないのでしょうか?
「オリムラ……ということはチフユさんの?」
チフユさんが重々しく頷く。どうやら弟さんのようですね。そしてチフユさんの言葉を聞く限り、私が世界で2人目の男性IS操縦者。つまり他は女性ということになりますか。あの騒がしいのが何人も……想像しただけでも平和が恋しくなります。
「愚弟が世話をかけるかも知れん。教師として指導するが、目の届かぬところは姉としてよろしく頼む」
「致し方ありませんね。しかし、何故あんなに追われているのです?彼、何か悪いことでもしたんですか?」
「気にするな。その内慣れる」
答えになっていないような。しかし慣れるしか選択肢はなさそうですね。
「分かりました」
「それと、学校では織斑先生と呼べ。特別扱いするつもりはない」
「ええ。かしこまりました。織斑先生」
その後、騒いでいる3人を織斑先生が頭部を素手で掴み、騒動は終了した。
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REBEL2 浸透
「えー、という訳で。今日から皆さんと一緒に学ばせていただきます。諜報部の……じゃなくて、ただのハザマ=クヴァルと申します。以後、お見知り置きを」
なんやかんやあって転入手続きを済ませた後、1年2組に入れられる。
さっきの一夏さんとやらは1組なんだとか。どうせなら一緒のクラスが良いのですが、1つのクラスに例外を2つ抱えさせるのも酷だとか。特に反論もないですし、いいのですけど。
「キャー!イケメーン!」
「何々!?男がISに乗る条件はイケメンなのー!?」
「背高ーい!線細ーい!」
「一夏君と違ってミステリアスでクールな魅力ムンムンだわ!」
突然の高周波に耳を塞ぐ。この年頃の女性というのはこんなのばっかりなんでしょうか。そんな生き物がウジャウジャいる空間で生活……ため息を止める薬を作ってもらいたいくらいですね。ココノエ博士はいないでしょうが。
「み、皆さん静かに……お静かに」
担任の……
気弱そうで自身のない感じ。あまり教師には向いてなさそうですが。
三國先生は涙目になりながら生徒達を鎮めようと試みる。
しかし生徒達は一向に鎮まらない。
「すみません。僕のせいで」
申し訳ないので申し訳なさそうに謝っておきましょう。
こうして乱痴気騒ぎのホームルームは終わり、三國先生もげっそりとした様子で教室を出て行った。
ちなみに私の席は一番後ろ。この身長なら仕方ありませんか。席に着くと餌に群がる豚のように女生徒が集まってくる。
「クヴァル君ってどこの国の人?血液型は?その髪って地毛?」
「彼女とかいるの?寮の番号教えて!」
「ちょっと!抜け駆けはご法度よ!」
「一夏君との絡みの為に取材をば……」
「いや、その……」
あ〜〜……消し去りたい。イザナミさん、もう一度蒼を貰ってもいいですか?
鬱陶しさもここまで極まると清々しいですね。
敬意すら湧いてきます。全く、お仕事が終わったら特別手当をいただきませんと。
そう言えば、諜報部からのコンタクトがありませんね。てっきり私と同じく生徒か、教師に紛れ込んでいるものと思っていましたが。
いや。これだけ注目を浴びる中では流石に無理ですか。教室に入る前に接触……も、織斑先生に連れられて不可能。来るなら私が1人になった時、ですか。
1人になれると良いのですが……。
☆☆☆
「……」
色めき立つ女子の中で、凰鈴音は静かにその男を見据えていた。
ハザマ=クヴァル
確かにスラリとしていて背も高く、顔も美形。客観的に見れば一夏より女受けしそうなタイプかも知れない。
しかし、鈴音の胸中にはそうした色気のある感情は消え失せていた。
(隙がない……)
ハザマは突っ立っているだけ。それだけなのに、自分が見ている前面は勿論、もし裏に回り込んで最速の一撃を打ち込もうとシミュレートしても、碌に命中するイメージが見えてこない。
鈴音にはハザマが、一瞬実体を持たぬ幻影のように映る。鈴音の額から人知れず汗が伝い落ちた。
☆☆☆
はい。無理ですね。まるで珍獣扱いじゃないですか。廊下を歩けば大名行列。授業中は視線の雨霰。プライベートという概念が存在しない世界なんですかね?
「よお。君が転校生?」
放課後。廊下を出るとすぐに話しかけられる。
声の主は……一夏さんですか。男の声がこんなに嬉しい日が来るなんて。
「織斑一夏さんですね。私ハザマ=クヴァルと申します。以後、お見知り置きを」
とりあえず一礼。多分かなり歳下なんでしょうが、ここでは同い年ですし。
というか、私この集団で浮いてないのが不思議ですね。いや浮いてますが。レリウス大佐には感謝しておきませんと。
「あ、これはどうもご丁寧に」
つられて一夏も礼を返す。
「これからよろしくお願いします」
「おう!俺のことは一夏でいいぜ。だから俺もハザマって呼んでいいか?2人しかいない男同士、仲良くしようぜ」
いきなり距離を近付けてくる一夏さん。とても爽やかな笑顔ですね。本能的に踏みつけたくなっちゃいます。
「ええ。ですが、一夏さんと呼ばせてください。こっちの方がしっくりくるので」
「そっか。俺もなんとなくそんな気がするしいいぜ。これから皆とトレーニングに行くんだけど、ハザマもどうだ?」
トレーニング?ああ、ISとやらのですか。
暇潰しに教本を読んでおいたのでISというものがどういうものか凡そは把握できました。ユニットや礼装のようなものなのでしょう。それを使いこなす為の訓練、というわけですか。
皆というのは一夏さんの後ろにいる方々ですかね。当然ですが、全員女性。ムツキ大佐が見たら血涙を流しそうな光景ですね。
「そうですね。手続き自体は終わったのですが、私まだ疲れが残っているようなので今日は見学させていただけませんか?」
「そっか。悪い気付かなくて。じゃあアリーナの観客席で待っててくれよ」
「うぉっほん!一夏、そろそろ自己紹介くらいさせてくれないか?」
一夏さんの一番近くにいた黒髪の女生徒が咳払いをして会話に割り込む。
侍、という感じですかね?愚直で誠実で、からかい甲斐がありそうです。
「あ、ああ悪い。ハザマ、俺のクラスメイト達だ」
「篠ノ之箒。一夏の幼馴染だ」
黒髪の少女、箒さんはそれだけ言ってぺこりと頭を下げる。無口な方ですね。
「私はイギリスの代表候補生セシリア・オルコットですわ!当然ご存知なのでしょう?」
続いて金髪碧眼の女生徒が踏ん反り返るように胸を張って自己紹介をする。
この2人、中々対比的で面白いですね。
「ええ。ご存知ですよ。ええと、シチリアさん?」
「セ・シ・リ・ア・で・す・わ!」
「嫌だなぁ軽い冗談じゃないですか。そんなに怒らないでくださいよ」
「全く……」
「あの〜、僕らもいいかな?」
セシリアさんとそんな漫才を繰り広げていると、別の金髪の方がおずおずと手を挙げました。威風堂々としたセシリアさんとは逆に控えめな雰囲気を感じます。
「シャルロット・デュノアです。よろしくね」
「……ラウラ・ボーデヴィッヒ」
セミロングの金髪、シャルロットさんと気付いたら側にいた銀髪の少女が名乗った。
眼帯。銀髪。なんだか第十三素体を彷彿とさせなくもない風貌ですね。
「よろしくお願いします。いやはや一夏さん大人気ですねえ。こんな絶世の美少女に囲まれるなんて。まるで物語の主人公みたいです」
「ああ!みんないい奴だから一緒に仲良くしてくれよな!そう言えば2組には俺の幼馴染もいるんだ」
「ようやく私の出番?全く、幼馴染なら最初に紹介しなさいよね馬鹿一夏!」
今度は私の背後から小柄な少女が。腕組みをして私と一夏さんの間に立つ。
「凰鈴音よ!中国の代表候補生で一夏の幼馴染!同じクラスのよしみで仲良くしたげるわ!」
「ああ。私に熱烈な視線を送ってくださっていた方ですね。どうも」
「んなっ!?」
「へぇ〜、鈴ってハザマみたいなのがタイプなのか?」
「応援しているぞ鈴」
「鈴さん、末永くお幸せに」
「鈴、一夏のことは僕たちに任せてね」
「む。鈴よ。嫁の嫁候補の分際で浮気とは感心せんな」
一夏さんの腰巾着達が口々に私と鳳さんをくっつけてこようとします。なるほど。恋のライバルは少ない方がいいということですか。この年頃でも女性というのは怖いですね。
「ッ〜〜〜〜!アンタ達後で覚えておきなさいよ!それからハザマ!私、アンタみたいなの全ッ然タイプじゃないから!」
「それは良かった。私も生憎と子供っぽい方はどちらかと言うと好みではないので」
「ムッキー!どいつもこいつもー!」
「はっはっは!元気だなぁ鈴は」
「アンタのせいでしょがっ!」
凰さんは綺麗な飛び蹴りを一夏さんの鳩尾へクリーンヒットさせました。おお痛そう。
「立ち話もこれくらいにして、皆さん訓練へ行かれた方が良いのでは?」
約1名立っていられない者も出てきたことですし。
「あ、ああ……そうだな。また後でなハザマ」
「アンタ達も今日は覚悟してなさいよ。今宵の甲龍は血に飢えているわ」
「面白い。望むところだ」
こうして口々にコントを繰り広げながら一夏御一行はアリーナへと向かっていった。
やれやれ。私もトシですかねえ?あのテンションについていけないとは。
気を取り直してアリーナの観客席へ向かうことにしますか。場所分かりませんが。
二組なのでみくに先生です
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REBEL3 牙蛇
道行く生徒にアリーナの場所を尋ね、なんとか到着。『偶然にも』行き先が同じだったのが幸いですね。
観客席に座るとアリーナでは一夏さん達がISを装備して集まっていました。こちらに気付くと手を振っていたので振り返す。
☆☆☆
「お、ハザマだ」
一夏は皆とアリーナに入場し、観客席を見渡す。ハザマの姿を見かけると手を振って呼びかけた。
「ハザマ=クヴァル……一体何者だ?」
鋭い視線でハザマを見上げながらラウラが呟く。
「え?何者って……そういやどこ出身とか聞かなかったな」
「そうではない。あの身のこなしに不敵な笑み。勘だが、恐らく相当な修羅場を潜り抜けている。油断するなよ一夏」
ラウラはピリピリした様子で一夏に忠告する。あまりのものものしい雰囲気に一夏も真面目に頷き返す。
「ま、このまま話していても仕方ないよ。まずは僕からでいいかな?」
そんな会話を断ち切るようにシャルロットが間に入り、一夏と向き合う。
「な!?シャルロット、それはズルいぞ!今の流れから戦闘に持っていくつもりだったのに!」
『ハザマ君のことしっかり見ててね』
「!」
ラウラは突如送られてきたシャルロットの
『分かった』
ラウラも納得し、表情に出さずに返答する。
「一夏。シャルロットの次は私と」
「箒さん?昨日は貴女が一番多く闘っていましたわよね?連日のご無理はお体に障りましてよ。ここは私が」
「私なら平気だ。その程度でへばるような鍛え方はしていない」
「はいはい。あ、一夏。次私だかんね」
「鈴さん!?何をドサクサに紛れて抜け駆けしてますの!?」
「お、おいおい!どうせ全員とやるんだから順番なんてどうでもいいじゃないか」
「一夏は黙っていろ!」
「一夏さんは黙っていてください!」
「一夏は黙ってなさいよ!」
乙女のジェットストリームアタックの前に一夏は閉口せざるを得なかった。シャルロットが模擬戦を行なっている間に決めるということでその場は一旦落ち着き、一夏はシャルロットと戦闘を開始した。
☆☆☆
「ほう。これが……」
ISでの戦闘を初めて見てみましたが、案の定と言うべきか、素体同士の戦闘を見ているような感覚でしたね。私に同じ真似ができるか……いやはや不安になってきましたね。
『不安になってんじゃねえ。キチッと【俺様】を使いこなしてくれねえとお話にならねえんだよ、ハザマちゃん』
それはもちろん分かっていますが……おや?
「テルミさん?」
聞き慣れた声に当然の如く応えてしまいましたが、テルミさんはこちらには来ていないはず…………はて?
「あ〜。ゔぁるるんだ〜」
「は、はい?」
突然の奇天烈な呼びかけに声が裏返りつつも振り返ると、見慣れない女生徒が。
「私のことでしょうか?」
「そだよ〜。私1組の布仏 本音で〜す!よろしくねゔぁるるん!」
ゔぁるるん…………
「えっと、布仏さん?私に何か用ですか?」
「いんや?見かけたから声かけただけだよ〜」
「…………」
あまり深く関わらない方が良さそうですね。
という私の思惑を台無しにするように布仏さんは私の隣にすとんと座る。手遅れでしたか。
「あの……何故、私の隣に?」
「え〜?なんとなくかな?迷惑?」
「いえ、そういう訳では」
「じゃあいいよね〜」
布仏さんは中々に強かな性格の方のようですね。今後はしっかり警戒しておきませんと。
それはともかく、このISという武装兵器、中々に面白い技術を秘めているようですね。前提として女性しか操縦できないという謎仕様なのも開発者の偏屈っぷりが伺えますね。そして人間を人智を超えた存在にまで押し上げるこの強化礼装の数々。察するに、女性の社会的地位を優位なものにしたかったか、はたまた男性に強い恨みを持っているのか……。
なんにせよ、これを使いこなせないとこの世界では自由に動けないでしょう。どの道専用機も持っていない私は今しばらく大人しくしておくしか……。
『何寝ボケてんだハザマちゃん?専用機ならちゃあんとここにいんだろうが』
チャリ
またしても聞き慣れたあの声。気が付くと、左手首に一本のシルバーチェーンが巻かれていました。先端は尾を喰らう蛇、ウロボロスをモチーフにした紋章が。
「それがゔぁるるんの専用機〜?なんかカッコいいね〜」
布仏さんが興味深そうに覗き込む。しかし、こんなもの巻いてましたっけ?まあこの世界の私が巻いていた可能性もありますが。
「ええ。これが私の専用機。名前は……」
『
「そうそう。牙蛇でしたっけね」
名前を呼ぶと、脳内に大量の情報が流れ込んでくる。機体性能、機体特性、武装、単一仕様…………。ほう、これは面白い。
「すぐにでも試さなくては」
そう呟き、立ち上がる。
「ゔぁるるん?」
「失礼。少し体を動かしたくなったので、私はこれで」
布仏さんに適当にあいさつを済ませ、観客席を後にする。
さあて、
「『楽しくなってきやがったぜ』」
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REBEL4 VS CHARLOTTE.DUNOIS
と思いながら書きました
「お、ハザマ。来たのか」
控室に行くと一夏さんが休憩していました。3連戦もしていれば疲れて当然ですね。
「ええ。皆様の闘いぶりを見ていたらウズウズして居ても立っても居られなくなってしまいましてね」
「へえ。そういうタイプには見えなかったけど、ハザマも案外好戦的なんだな。今は箒とラウラがやってるから、終わったら混ぜて貰えよ」
控室のモニターでは2人が激しくぶつかり合っている様が伺えます。どちらも生半可な実力ではないようですね。よく分かりませんが。
「どちらも素晴らしい腕前ですね」
「だよな。流石はドイツの代表候補生と剣道全国大会優勝者だぜ」
代表候補生……確か各国代表のIS操縦者が集まる大会、モンド・グロッソの出場選手の候補でしたっけ?なるほどお強い訳だ。それに。
「ラウラさん、でしたっけ?彼女、軍人では?」
「ああ。よく分かったな。ラウラは現役のドイツ軍だ。確か少佐だったっけな?」
ほう。私より階級が上ではありませんか。今度から上官として接するべきですかね。
「あれ程の鋭い動きは相当に過酷な訓練を積んでいる人にしかできませんから。それに、真面目そうだ」
「まあな。ちふ…織斑先生が元上官だったから先生の言うことは絶対!って感じだ」
なんだか想像に難くない光景ですね。真面目な人程からかい甲斐があるというものです。
などと雑談を繰り広げていると、どうやらひと段落ついたようですね。2人が距離を取って会話をしている。
「さて、では行ってきますね」
一夏さんに手を振って別れ、アリーナ入場口へ向かう。
コツコツと靴底を鳴らし揚々と入場口へ入ると、シャルロット・デュノアさんが待ち構えていました。巧妙に隠された警戒心を含んだ眼差しでこちらを見る。
「あ、ハザマだ。今日は見学だったんじゃないの?」
「そうするつもりだったのですがねえ。皆さんの訓練を見ているとこう……身体が疼きまして」
「へえ。そういう風には見えないけどね」
なんだかさっきも同じようなリアクションを聞いたような。
「どなたか私と対戦していただけますか?あ、肩慣らし程度なのでそこまで激しい動きはしませんのでご心配なく」
「じゃあ僕とやろっか。ちょうど次やる予定だったから。ちょっと待っててね」
シャルロットさんはそう言うと箒さん達に連絡を取って了承を得てくれたようです。
「じゃあお願いね、ラウラ」
強い警戒を乗せた言葉を最後に通信を終え、こちらに振り返る。
「それじゃあ入ろっか。ISの展開くらいは……できるよね?馬鹿にし過ぎ?」
「ええっと……はい。なんとか」
手首のチェーンに意識を向けて展開を念じると、チェーンが光る粒子になって私の身体を覆い、やがてその
「これは……何というか、ゴツゴツしていて動きにくそうですね」
「そう?むしろ他の機体に比べるとシャープで機動力特化な印象だけど……」
牙蛇は両腕と両脚にプロテクターが付いており、胴体は……ウロボロスの鎖帷子?というか、3本だけ巻き付けられている。これは、防御に期待できるようなできないような……。
腰には2本のナイフ。とても落ち着きますね。
「蛇……がモチーフなのかな?毒々しくは無いけどちょっと怖いね」
「牙蛇という名ですし、仕方ないでしょう。さ、お待たせしました。行きましょうか」
シャルロットさんを促し、アリーナへ。
☆☆☆
「それじゃあ、行くよ!」
開始の合図と共にシャルロットさんがマシンガンを取り出し、引き金を引いた。
雨霰の弾丸が一斉に襲いかかる。
『
胴に繋がっていたウロボロスを取り出し、鎖を重ねて目の前に盾を作る。キンキンと金属音を上げて銃弾は全て弾かれる。
「やるね!これはどう?」
シャルロットさんはマシンガンをライフルに持ち替え、撃つ。牙盾は強力な一撃にその形を崩し穴を空ける。
『次が来る。避けろ』
スラスターを吹かして円週のように横に回り込む。シャルロットさんがライフルの次弾装填の為に一瞬隙を見せる。
「そこです!」
ウロボロスを飛ばし、ライフルの銃身に噛み付かせる。
「!?鎖の先端に蛇が!」
「蓬閃・壱!」
ウロボロスを引き戻し、その勢いを利用して高速で接近する。
「速っ!」
「それっ!」
ウロボロスの顎を離し、引き戻し際にナイフを引き抜いて思い切り斬りつける。
「くぅ!やるね!」
「それ!ザックリ!」
ウロボロスを引き戻した手でもう片方のナイフを取り出し、斬る。
「おっと!」
しかし二の太刀は躱され、再び距離を取られた。
「すごい戦闘スタイルだね。まさか武器を狙われるなんて」
「変わっていますか?まあ、私がいた所でもこんな戦い方をする方はいらっしゃいませんでしたが」
「遠距離は今の手持ちだとちょっと不利かもね。それじゃあこれはどう?」
シャルロットさんは片手剣とミドルシールドに換装する。しかし次々と武器が出て来ますね。手持ち、ということは他にいくつか持っていると見ていい。さて、面倒ですね。さっさと終わらせてしまいましょうか。
「それっ!」
ウロボロスを飛ばすが、今度は躱される。
「今度はそっちが隙ありだ!」
シャルロットさんが盾を構えて直線的に接近する。
かかりましたね。
「蛇刹……」
ウロボロスを捨てるように手放し、四肢のプロテクターにエネルギーを溜める。
「なっ!そんな簡単に!」
急ブレーキを掛け、こちらを警戒する。放ったウロボロスは粒子となって空気に溶けた。
「来ないのならこちらから行きますよ!」
身体を前に倒し、滑るようにシャルロットさんの懐に潜り込む。
「やあっ!」
間合いに入ったところで剣を振り下ろす。しかし遅い。何より剣筋が手練れのソレに比べれば余りにお粗末ですね。サブウエポンなのでしょう。
容易く躱し、片脚をスラスターの噴出と共に勢いよく蹴り上げた。
「牙衝脚!」
碧色のエネルギーを纏った蹴りが盾ごとシャルロットさんの身体を押し上げる。
「うわぁっ!」
「まだまだ!」
ウロボロスを上空に投げ、盾に噛み付かせる。
「蓬閃・弐!」
「くっ!そこ!」
盾を換装させて消す瞬間に片手剣で直突きを放つ。
しかし。
「こっちこっち!」
「!?読まれて……」
先刻の最短で引き戻すウロボロスと違い、大きく弧を描いて旋回する軌道で接近する。剣のタイミングを外し、隙だらけの状態になったところで接近。両手のナイフで容赦なく斬りつける。
「ザックリ!ヨイショ!ほらほら次はこれを」
『あんま調子乗んな。回避だ』
「やあっ!」
「!?おおっと!」
ナイフで斬られている間、シャルロットさんは防戦一方だった訳ではなかったようですね。
盾から換装したパイルバンカーを構え、連撃が止むと同時に撃ち出した。
咄嗟に体を捻って回避。間に合わず脇腹に強烈な衝撃が叩き込まれた。
「いつつ……痛い?」
痛い?痛覚がある?痛みを感じる?魔導書であるこの私が?
「もう一発!」
痛みに混乱している私にシャルロットさんはこれまた容赦なくパイルバンカーを連射する。
痛い。とても痛い。釘を重機で撃ち込まれているような鋭く重い痛み。
痛み……なんとも懐かしい気さえしますね。
実際、釜の中ではどれ程の時を過ごしたか……っと、そもそも彼処は時という概念が。
『ごちゃごちゃ考えてんじゃねえよ。ったく、相変わらず戦闘中だってのによく回る頭だ』
蜂の巣になる前に離脱し、距離を取って両手を挙げる。
「こ、降参!降参です!参りました〜!」
「あら……案外あっけないね」
「いやぁお強いお強い。途中までは手加減して下さっていたのですか?」
「むぅ……馬鹿にしてるでしょ?」
私が拍手するとシャルロットさんは頰を膨らませる。
「いやいや。こちらは手の内を全く明かさない状態で闘ったのですから、ある程度はリードして当然ですよ。最後は純粋にISでの戦闘経験の差が勝敗を分けたんでしょう」
「いけしゃあしゃあって感じだなぁ。話してると咎める気も起きないよ。まあいいや。んじゃ、取り敢えずこのくらいにしよっか」
日が傾いていたのもあり、戦闘を終了してアリーナを出た。
☆☆☆
食堂
「いやぁハザマ強かったな!初めてでシャルにあそこまで食い下がるなんて!」
一夏さんが席に着くなり切り出してきました。
「あまり装甲が無かったのでほぼいつも通り手足を動かせましたからね。私の戦法も教えていませんでしたし」
味玉ラーメンの玉子を眺めながら適当に返答する。褐色のゆで卵というのは中々珍しいですね。どのような味なのでしょう。
「ははっ!味玉見すぎだってハザマ。そんなに気になるのか?」
「ええ。ゆで卵は好物なのですが、色の付いたモノは初めて見るので」
「食ってみろよ!美味いぞ!半熟な感じだけど大丈夫か?」
「ゆで卵ならば硬くても緩くても好きですよ」
おお!これは美味しい。まろやかな黄身と淡泊な白身に塩味のよく効いた醤油の味付けがアクセントになって……これは、ハマる!
「よっぽど気に入ったんだな。口角めっちゃ上がってるぜ?」
「おや、すみません。本当に美味しかったものでつい」
今後は足繁く通うことになりそうですね。
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