ドロホフ君とゆかいな仲間たち (ピューリタン)
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一年目 ゆかいな仲間たち
ホグワーツ特急


モリーおばさんって強すぎる


 九と四分の三番線。9月1日のキングスクロス駅のプラットホームはホグワーツへ向かう生徒達とその見送りの家族でごった返していた。

 夏休みの間会えなかった友人との再会を喜ぶ声、家族との一年間の別れを惜しむ声、たくさんの声がマントやローブと一緒に行き交っている。

 そんな中、一人の少年はホグワーツ特急へ乗り込んだものの、コンパートメントに入ることもなく、人のいないコンパートメントを探して列車の奥へ、奥へと進んでいた。

 やっと最後尾に人が座っていない場所を見つけて、トランクと腰を下ろした。

 傍にあった窓からプラットホームを見れば、少年が人がいない場所を探している間に発車の時間が迫ったのか人がまばらになり始めていた。

 汽笛が鳴り、ホグワーツ特急の発車の時間が迫るが窓からはまだ別れを惜しむ家族の声が聞える。

 

 赤毛の女性と黒髪の女の子の声だ。恐らく、女の子は少年と同じホグワーツの新入生なのだろう。赤毛の女性がホグワーツで何を注意するべきか口やかましく述べている。

 

「エスト……、お行儀よくするんですよ、授業中に寝たり、目上の人や先生を呼び捨てでよんだりしてはダメよ」

「ん~眠かったら寝ちゃうかも」

「バカなことを言わないで、もし、何か困ったことがあったら隠れ穴にふくろう便を送るか、ビルに相談すればいいわ」

「おばさん、大丈夫だって思うな。教科書の呪文とかもビルよりうまく使えるようになったし」

「いい? いくら呪文がうまくできても、規則を破ったり先生に逆らったりしてはダメなのよ?」

 

 もう一度、ホグワーツ特急の汽笛がプラットホームに響く。

 

「ほら急いで! クリスマスには隠れ穴にいらっしゃいな」

「ん~、分かった。じゃあね~ モリーおばさん!」

 

 ホグワーツの特急が発車する。

 モリーと呼ばれた赤毛の女性はホグワーツ特急に向かって手を振っている。

 その様子を汽車がカーブを曲がって見えなくなるまで、少年は窓から見ていた。

 

 

 コンパートメントには少年以外誰もいない。

 ホグワーツ特急が発車したことから、これ以上コンパートメントに誰かが入ってくることもないと思い、少年は少し息をついた。

 これでホグワーツに着くまでは一人でいられると思ったのだ。

 家々の屋根が窓の外を飛ぶように過ぎていった。少年が窓の外に目を移している間にコンパートメントの戸が開いた。

 

「ね? ここあいてるよね?」

 

 女の子がトランクを引きずりながら入ってきて少年の向こう側の座席を指した。

 

「他のコンパートメントはもういっぱいなの」

 

 その少女がさっき最後まで家族と言葉を交わしていた少女だと少年は気づいた。

 黒い髪と赤い目が特徴的な女の子だった。

 女の子は少年が頷くのを見るとトランクをなんとか引きずり込み、椅子の上に寝転がった。

 

「新入生だよね? エストも新入生なんだよ?」

「ああ、確かに俺は新入生だけど」

 

 エストと自分を呼んだ女の子は少年の方を見て顎を傾ける。

 少年の顔を見て何かを思い出すような仕草だ、そして何か期待しているようにも少年には思えた。

 

「ね? 君の名前を当ててもいい?」

 

 少年の方を見てニコッと笑った女の子に少年は思わず身構えた。

 少年は自分の名前が持つ意味を知っているからだ。

 

「ドロホフの家の人でしょ?」

 

 やっぱり当てられた。しかし少年はドロホフの家の人間だと予想したのに、少女の態度が柔らかいことが違和感だった。

 ドロホフなんて名前は今の魔法界では殺人鬼とか虐殺者とか闇の魔法使いとかそういったものとすぐに結びつけることができる名前だからだ。

 

「確かに俺の苗字はドロホフだけどなんでわかるんだ?」

 

 少年の声は意識していないのに少しだけ低くなっていた。

 確かに少年の父親の顔写真は例のあの人が倒れる前も、倒れた後も良く日刊預言者新聞に載っていた。

 しかし、だからと言って少年の顔だけ見てもドロホフの家の者だと簡単に看破できるものだろうか?

 

「だって君のお父さん? おじさん? の写真は新聞とかでよく見るし、エストは顔を見たこともあるもん」

 

 少年は息を呑んだ。

 確かに少年の父、アントニン・ドロホフの名前と写真はこの数年間、日刊預言者新聞をにぎわしていた。

 例のあの人が倒れるまでは悲惨で残虐な事件の首謀者や実行犯として、倒れた後は裁判の内容や、やった事柄の詳細について顔写真付きで載っていたのだ。

 ベラトリックス・レストレンジや魔法省の重鎮の息子、バーティ・クラウチ・ジュニアなんかと一緒くらいの掲載率だっただろう。

 しかし、アントニン・ドロホフと顔を合わせたことがあるというのは、死喰い人の子供かそれとも、敵対組織の子供でもないとおかしいと思ったのだ。

 

「それで? なんなんだ? 俺の苗字がドロホフだったらお前に不都合でもあるのか?」

 

 そう、少年が誰もいないコンパートメントを選んだのはこういった話をしたくなかったからだ。

 そもそも少年には悪名高い死喰い人の子供とホグワーツへの道程を一緒にいたいなんてやつがいるとは思えなかった。

 

「別に? 似てたから聞いただけだよ? 新入生だよね? 名前も教えてくれる?」

 

 変な女の子だと少年は思った。ドロホフという苗字を聞いた後も名前を聞いてくるなんて。

 傍にいるだけで他の奴らから嫌われそうな名前なのにだ。

 

「そうだ、俺はアントニン・ドロホフの息子、オスカー・ドロホフだ」

 

 オスカーはじっと目の前の女の子を見つめた。女の子はオスカーの顔をじっとみるだけで特に名乗りに対して反応していなかった。

 オスカーがアントニン・ドロホフの縁戚どころか実の息子だと聞いてもだ。

 

「じゃあ、新入生同士これからよろしくね?」

「俺は名乗ったのにお前は名乗らないのか?」

 

 アントニン・ドロホフの息子だと聞いても女の子がリアクションをおこさないのにはびっくりしていた。

 しかし、それ以上にオスカーとしては割と勇気を出して名前を名乗ったのに、女の子の方が名乗らないのが気に入らなかった。

 

「ん~、エストが名乗ってもオスカーは態度を変えたりしない?」

 

 オスカーにはドロホフの息子より名乗りにくい名前があるとは考えられなかった。

 例のあの人の娘とか、グリンデルバルドの娘とかなら話は変わってくるとは思った。

 

「俺の名前より悪名高い苗字なんてそうそうないだろ? ましてやお前の苗字がそうとは思えないんだが」

 

 女の子はちょっと目を瞑って決意を固めているような神妙な表情をした。

 

「じゃあ、名乗るね? エストは、エストレヤ・プルウェット。ギデオン・プルウェットの娘で、フェービアン・プルウェットの姪だよ? あと、お前じゃなくてちゃんとエストって呼んでね?」

 

 正直、オスカーは目の前が真っ暗になった。

 多分、オスカーが一番会いにくい人物こそ、目の前のエストレヤ・プルウェットだった。

 父のアントニン・ドロホフが行った凶行の内、最も悪名高い事件の一つ。

 純潔の旧家で聖28族かなんかにも選ばれているプルウェット家。いわゆる血を裏切るものであるウィーズリー家と婚姻し、例のあの人に表立って逆らっていた家の一つ。

 そのプルウェット兄弟、エストレヤ・プルウェットの父であるギデオン。叔父であるフェービアンを大量の死喰い人を連れて襲撃し、殺害した人物。

 それこそがオスカーの父、アントニン・ドロホフである。

 文字通り、エストにとってオスカーは身内の仇の息子である。

 

 しかし、少しの空白の後、エストは話を切り出した。

 

「ね? オスカーはどの寮に選ばれると思う?」

 

 オスカーはまた驚いた。

 エストは目の前の少年が親の仇である人物の息子だと分かっても、話を続けようというのだ。

 しかも名前で呼んでくるのだ。

 

「そんなもん、決まってるだろ。ドラゴンの子はドラゴン。吸魂鬼の子も吸魂鬼。俺はスリザリンだろ」

 

 寮なんてものはほとんど血統で決まる。オスカーは自分がスリザリンに選ばれるであろうことを一ミリも疑っていなかった。

 

「そうなの? エストの家系はスリザリンもグリフィンドールも色々だったって聞いたんだけどな」

 

 エストは机に首をのせながら、首を傾ける。

 オスカーは自分達の出自を聞いた後に、自分の血統について語らせる目の前の少女の神経がわからなかった。

 

「あっ‼ でも、モリーおばさんが結婚したウィーズリー家はグリフィンドールばっかりって聞いたかも」

 

 得心したと言わんばかりの顔になるエスト。

 

「そりゃあウィーズリー家って言ったら、うちの家とは真逆の感じだからな」

 

 ウィーズリー家と言えばダンブルドア傘下の地下組織に表立って加わっていた家でもあり、グリフィンドールばかりなのは当たり前だとオスカーは思う。

 

「え~、でもオスカーはチャーリーとかビルと仲良くなれそうだと思うんだけど」

 

 そもそも、チャーリーやらビルとかいうのはだれなのか。

 話の流れからしてウィーズリー家なのは確かなのだから、どうせ赤毛なんだろうなとオスカーは思い浮かべた。

 ウィーズリー家は赤毛と相場が決まっている。

 

「他のコンパートメントに行った方がいいんじゃないのか?」

「えっ? なんで?」

 

 オスカーが聞くと、エストは本当に何を言っているのか分からないという顔をした。

 

「だって、俺の親父はお前の家族を殺しているんだぞ? 普通に考えて一緒に喋るのはおかしくないのか」

 

 エストは少し悲しそうな顔をした。

 

「オスカーはオスカーのお父さんじゃないでしょ? エストもお父さんじゃないし、叔父さんでもないよ?」

 

 オスカーには目の前のエストが本当にそう考えているように見えた。

 

「お前はそうかもしれないけど、周りはそう見ないだろう? だいたい仇の息子じゃなくても、殺人鬼の息子と喋りたいやつなんていないだろう?」

 

 そうオスカーが言うとエストは笑う。

 

「オスカーは優しいんだね、だってエストのこと心配してくれてるんでしょ? あと『お前』じゃなくて、エストだから」

 

 オスカーにはやっぱりエストのことが理解できなかった。

 

「それになんか運命みたいじゃない?」

「運命?」

 

 運命? これから殺し合う運命くらいしかオスカーには想像できなかった。

 

「だって、二人共同い年だし、偶然同じコンパートメントになったし、親にも因縁があるんだよ? こんなに偶然が重なるのかな?」

 

 確かに、まるで仕組まれたような出会いだとは思う。図ったように同い年で、図ったように同じコンパートメントに乗ることになった。

 確かに、目の前のエストとは何か変な繋がりがあるのかもしれないとオスカーは思った。

 

「車内販売よ? 見つめ合っている仲の良いお二人には申し訳ないけれど、何か要りませんか?」

 

 二人は慌てて目をそらした。

 

「エストもうおなかペコペコなの、大鍋ケーキとカエルチョコと百味ビーンズください!!」

「はい、ありがとうね。そっちの男の子はなにか要りますか?」

「いや、サンドイッチがあるので」

「そう、じゃあこれで失礼します」

 

 車内販売のおばさんは二人に大きなウインクをして去っていた。

 

「オスカーのサンドイッチは誰かに作ってもらったの?」

「ああ、うちには誰もいないけど屋敷しもべはいるからな」

「へー、おいしそうだねサンドイッチ、ちょっともらっていい?」

「ああ勝手に食べてもいいぞ」

 

 オスカーはそう言えば、屋敷しもべ妖精や見張りの闇払い以外の人物とごはんを食べるのは久しぶりだと思った。

 

「モリーおばさんのサンドイッチよりおいしいかも、屋敷しもべ妖精って料理上手いんだね」

 

 サンドイッチを食べたエストは、なぜか他のものを放って百味ビーンズを取り出した。

 

「百味ビーンズっておもしろいよね? いくら食べても全然飽きないもん」

 

 そう言って、なにやらやばそうな色のビーンズを取り出し始めた。

 紫、ショッキングピンク、茶色、黒…… オスカーは嫌な予感しかしなかった。

 

「この肌色っぽいやつから行こうかな? オスカーも食べる?」

 

 オスカーは無言で首を振った。

 

「うえええ、これ、多分シュールストレミング味なの…… 口の中の匂いがとれない……」

 

 オスカーはエストの口にスコージファイを唱えた。

 




※ゲラート・グリンデルバルド
20世紀初頭において最も有名な闇の魔法使い。アルバス・ダンブルドアとの伝説的な決闘で知られる。

※アントニン・ドロホフ
最古参の死喰い人の一人、元作中ではプルウェット一家、リーマス・ルーピンを殺害している。

※ギデオン・プルウェット、フェービアン・プルウェット
不死鳥の騎士団創立メンバー、モリー・ウィーズリーの兄弟。アントニン・ドロホフら五人の死喰い人に殺害される。ハリーはフェービアン・プルウェットの時計を成人の祝いとして貰っている。



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死喰い人と騎士団と闇祓い

ムーディ先生(クラウチJr)って先生の中でも屈指の有能だったと思う。


 二人で百味ビーンズをつつきながら、授業はどれが面白いのだろうかとか、アルバス・ダンブルドアはなぜ結婚しなかったのかだとか、闇の魔術に対する防衛術の授業は毎年教師が変わるだとかを話していた。

 するとコンパートメントがノックされ、ピカピカのローブを着た女の子が入ってきた。 

 身の丈はありそうな巨大な杖を持ち歩いているせいか、元々小さい背丈がさらに小さく見える。

 ダークグレーの髪に黒い目をしているが、なぜかその黒い目はオスカーを凝視している。

 

「今年アントニン・ドロホフの息子がホグワーツに入学するって聞いたんですけど、貴方がそうなんですか?」

「そうだったらどうなんだ?」

 

 オスカーが喧嘩腰にそう答えると女の子はニヤリと笑った。

 まるで獲物を見つけた肉食動物のようだとオスカーは思った。

 

「へえ、名前を聞いてもいいですか?」

「オスカーだ。オスカー・ドロホフ」

 

 エストは何も言わずに二人を見守っている。オスカーにはその顔が何か、面白がっているように見えた。

 

「ふん、ではオスカー・ドロホフ。私の眼が黒いうちはホグワーツでやりたい放題できないと思うことですね」

「私の名前はクラーナ・ムーディ‼‼ ムーディ家の一員として闇の魔術師は許しません‼‼」

 

 クラーナはマントを翻し、自身満々に杖を高く上げた。

 

 

「オスカーってもう闇の魔術師だったの? 腕に闇の印とかあるの? グリンデルバルドの三角のやつ?」

 

 エストは机の上に顔を乗り出してオスカーの腕をみようとしてきた。

このクラーナとかいう女の子もヤバイやつだが、エストの方がもっとヤバイやつなんじゃないかとオスカーは思った。

 

「ホグワーツに入ってもいないガキがどうやって闇の魔法を覚えるんだよ」

 

 そしてクラーナは今初めてエストの存在に気付いたような反応をした。

 

「おやおや、アントニン・ドロホフの息子と一緒にコンパートメントにいるなんて、貴方も死喰い人の娘とかなんですか?」

 

 またもクラーナはニヤリと笑った。どうもこの女の子は自分の獲物が増えるのが嬉しいみたいだとオスカーは思った。

 

「うーん、エストの親は死喰い人じゃないよ? というか、ムーディって、あのマッドアイのムーディ?」

 

 そうエストが聞くとクラーナは誇らしげに返す。

 

「そうです、ムーディ家は闇祓いの名門ですけど、叔父のマッドアイこと、アラスター・ムーディは一番有名です」

 

 なるほどとオスカーは思う。マッドアイと言ったらアズカバンの半分を埋めたなんて言われてる凄腕の闇祓いだ。

 ただ目の前の女の子は頭もマッドなんじゃないかとオスカーは思った。

 

「あ、やっぱりそうなんだ。あとエストの名前はエストレヤ・プルウェットだよ、よろしくねクラーナ」

 

 クラーナはその名前を聞いたとたん、はあ? という顔をして杖をとり落としかけた。

 

「ど、どういうことですか? ドロホフとプルウェットなんて、今すぐにでも死の呪いをかけ合ってもおかしくない関係じゃないですか‼‼」

 

 クラーナはオスカーとエストの顔を交互に見て叫ぶ。

 やっぱり、エストの方がヤバイやつで、自分の感性は間違っていなかったとオスカーは思った。

 

「あなたたちが仲良くするなんて、スリザリンとグリフィンドールとか吸魂鬼とレシフォールドが仲良くするようなものでしょう?」

 

 吸魂鬼とレシフォールドなんて、実質同じものなんじゃないのかとオスカーは思ったが、どうもクラーナは結構混乱しているらしい。

 

「ん~ レシフォールドと吸魂鬼って住んでる場所の違いだと思ってたけど、まあオスカーとエストも同じ人間だし、そのくらいの違いなのかも……」

 

 やっぱりエストの考え方はどこかおかしいとオスカーとクラーナは顔を見合わせる。

 

「あっそうだ。クラーナはどこの寮に選ばれると思う?」

 

 エストはそんなに寮の組み分けが気になるのだろうか?

 エストは他人からの評価や見解を気にするような性格には思えなかったから、少しオスカーは疑問を抱いた。

 

「ふん、当然グリフィンドールでしょう。勇猛果敢で、せこくて汚いスリザリンとは違うんです」

 

 クラーナは当然です。みたいな顔をした後、オスカーを睨んできた。

 

「まあ、ドロホフはスリザリンでしょう? どっちかいうとアズカバンの方がお似合いだとは思いますが」

「アズカバンは寮じゃないだろ」

「アズカバンが寮だったら、やっぱり動物は吸魂鬼なのかな?」

「吸魂鬼が象徴の寮とか少なくとも人間は入らないだろ」

 

 クラーナは茶化されたと思ったようだ。

 

「まあ、仇の息子を見張るとはいい神経をしてると思いますよ、エストレヤ・プルウェット」

 

 また、感心しましたみたいな顔をするクラーナ。

 この女の子は凄く顔に感情が出やすいとオスカーは思う。

 

「見張りなんかしてないよ? オスカーとはもう友達だもん。クラーナもよろしくね?」

 

 それを聞いたクラーナがあっけにとられる。やはり、エストの考え方にはなかなかついていけないようだ。

 

「まあ、プルウェットがそういうスタンスならいいですけど、周りがどう見るかは考えた方がいいと思いますよ」

「クラーナも優しいんだね? オスカーと一緒のこと言ってるもん」

 

 そう言ってエストはクラーナを見てからオスカーを見て笑顔になる。

 オスカーとクラーナは顔を見合わせた後、二人共微妙な顔になった。

 

「二人共、ローブにってすでにドロホフは着替えてますね、プルウェットは着替えた方がいいと思いますよ、そろそろつくらしいですから」

「プルウェット、廊下に出とくからその間に着替えろ」

「うん。ありがとうね」

 

 オスカーはコンパートメントの外に出る。するとクラーナもオスカーについて外に出てきた。

 

「ドロホフの息子って聞いていたので、もっとヤバイやつだと思ってましたよ」

「お前やプルウェットの方がよっぽどヤバイやつだと思うね」

 

 そう言い返すとクラーナはまた獲物を見るような目でオスカーを見てきた。

 

「まあ何にせよ、私のような印象を持って見てくる人が沢山いることを忘れないことですよ、オスカー・ドロホフ。それに皆がプルウェットのような人間だとは思わない方がいいですよ、じゃあまたホグワーツで会いましょう」

 

 クラーナはまたマントを翻して違う車両へと消えていった。

 彼女の巨大な杖がカンカンと床を打ち付ける音だけがしばらく聞こえていた。

 

「オスカー、着替え終わったよ? あれ? クラーナは戻っちゃったの?」

「ああ、杖を打ち鳴らして帰って行ったよ、ホグワーツでよろしくだそうだ」

「そうなんだ。クラーナってなんかオスカーに似てたね、考え方とか優しいとことか」

「止めてくれ」

 

 オスカーはあんな風にマントを翻して自己紹介するなんていくつになってもできそうにない気がした。

 そもそも、死喰い人の子供と闇祓いの一家の子の考え方が似ているなんてオスカーには思えなかった。

 

「あと五分程度でホグワーツに到着いたします。荷物につきましては別途学校に届きますので、車内へ置いていってください」

 

 そう車内放送が流れると間もなく駅に着いた。オスカーはエストと一緒に人で溢れかえる車内を出て、プラットホームで待つことにした。どうも上級生と一年生の道は違うようだ。

 少し待っていると向こうの方からランプが近づいてくる。

 

「イッチ年生! イッチ年生はこっち! クラーナ、元気か?」

 

 凄まじい図体をしたひげ面が、一年生ばかりが残るプラットホームの上から笑いかけた。

 

「さあ、ついてこいよ、イッチ年生はもういないか? 足元をしっかり見ろ! いいか! イッチ年生はついてこい!」

 

 暗い藪道を滑りそうになりながら、一年生の一団は巨漢について行った。

 

「ね、あの人ハーフかな?」

「ハーフ?」

 

 エストが話しかけてきた。

 確かにあの巨漢は人外じみた巨体ではあるとオスカーも思う。

 

「そう、巨人の血が入ってないとあんなに大きくならないと思うな」

「巨人なんて闇の生き物だろ? そんなのの血が入ったのをダンブルドアが許すのか?」

 

 巨人の多くは闇の魔法使いと結託して度々反乱を起こしているのだから、とてもあのダンブルドアが許すとはオスカーには思えなかった。

 

「む、確かに? でも半分なら大丈夫なんじゃないかな?」

「まあ半分じゃなくても爺さんがそうだったとかかもな」

「クオーターとかでもおっきくなりそうだもんね、あとクラーナの名前呼んでたね」

「まあ知り合いなんだろう」

 

 

そうこう言っている間に一年生は大きな黒い湖の前についた。

 向こう側に壮大な城が見えている。

 

「四人ずつボートに乗って!」

 

 巨漢が叫んで、ほとりにいくつかある小舟を指さす。

 オスカーとエストが乗ると、なにやら巨漢と話していたクラーナと赤毛の男の子が乗り込んできた。

 

「おやまた会いましたね、ドロホフとプルウェット」

 

 クラーナが話しかけてくる。

 エストはなにやら船にかけられた魔法に夢中だ。

 

「ああ、俺はあんまり会いたくなかったけどな」

 

 赤毛の方が話しかけてくる。

 

「あんたたち、エストと知り合いなのか?」

「まあ知り合いって言ってもさっきコンパートメントで一緒になっただけだけどな」

 

 エストが船から顔を離してこちらを見てくる。

 

「チャーリーなの? さっきぶりだね」

 

 四人で自己紹介をし合う。案の定、ドロホフの名前にチャーリーは驚いたが、エストが平然としているのでそれ以上突っ込んでこない。

 またクラーナはマントを翻して自己紹介した。

 

「ねえ? クラーナはあのおっきい人と知り合いなの?」

「ええ、彼はハグリッドと言って、ホグワーツの禁じられた森の番人ですよ」

「えっ、じゃあ禁じられた森の動物とかも詳しいのかな?」

 

 チャーリー・ウィーズリーが尋ねる。

 

「彼は動物に関してはアラスターおじさんより詳しいらしいです。下手をすればダンブルドア校長より詳しいでしょう」

「ほんとなのかそれ? じゃあハグリッドに僕を紹介してくれないか?」

「別に構わないですけど」

 

 どうもチャーリーは動物に興味があるのだろうか?

 

「チャーリーだけはずるいと思うな、エストとオスカーにも紹介してくれない?」

「まあハグリッドなら誰でも歓迎してくれるんじゃないですかね」

 

 オスカーは勝手に数に入れられていることに閉口した。

 その間にも船は進み、ホグワーツの城から続いている崖の下まで来た。蔦のカーテンをくぐれば地下の船着き場に到着した。

 ハグリッドのランプによる先導に従ってごつごつした岩の道を上る。

 

「こういう道だとその杖が便利そうだな」

「ふん、そんな老年のマグルが使う棒きれとこの杖を一緒にしないで貰いたいですね、ドロホフの息子」

「やっぱり、二人共仲いいでしょ?」

 

 オスカーとクラーナはエストの前では喋らない方がいい気がしてきたのだった。

 岩の道を登れば、立派な石段と巨大な樫の扉が見える。

 

「みんないるか? 今からホグワーツに入るぞ!」

 

 そう言ってハグリッドは扉をその大きなこぶしで三回叩いた。

 

 

 

 




※レシフォールド
リビング・シュラウド(生ける経帷子)とも呼ばれる希少な魔法動物。
熱帯地域に生息する。眠っている人間に覆いかぶさり、そのまま人間を消化する。
撃退法として知られているのは守護霊の呪文のみ。




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ハットストール

組み分け帽子って開心術なんだろうか


 扉が開き、中から背の高い魔女が出てくる。顔からして厳しいんだろうなとオスカーは感じる。

 

「マクゴナガル先生、イッチ年生を連れてきました」

 

 巨漢が言う。

 

「ご苦労様です。ハグリッド。ここからは私が案内しましょう」

 

 マクゴナガル先生の先導に従って巨大な玄関ホールを通り過ぎ、暖かなたいまつの火に照らされた大理石の階段を上る。

恐らく、全校生徒が集まっているホールについたが、一年生はその隅にある小さな部屋に案内された。

 

「ホグワーツ入学おめでとうございます」

 

 マクゴナガル先生がこちらを見て挨拶する。

 

「新入生の宴が始まる前にあなた方の寮を決めないといけません。寮の組み分けはホグワーツでは大事な儀式なのです。ホグワーツにいる間は寮生こそが家族のようなものになります。教室で学ぶのも、宿舎で寝るのも、談話室で遊ぶのも全て寮が基準となるのですから」

 

「ホグワーツには四つの寮があります。グリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー、スリザリン。それぞれ偉大な歴史と偉大な卒業生がいます。ホグワーツでの皆さんの行動は寮への評価として与えられます。どの寮でもその寮に入っているという自覚をもって行動してください。そうすれば学年末に名誉ある寮杯が所属する寮に与えられるでしょう」

 

「これから全校列席の前で組み分けの儀式が行われます。待っている間、身なりと精神を整えておいてください」

 

 そういった後、マクゴナガル先生はオスカーの隣で目をつぶって、ふねをこぎ始めているエストをちらりと見た。

 

「学校側の準備が終わり次第、戻ってきます」

 

 そういってマクゴナガル先生はどこかへ行ってしまった。

 オスカーは取りあえず、隣のエストを起こすことにした。

 

「あれ? もう組み分けは始まるの?」

「マクゴナガル先生が戻ってきたら始まるだろうな」

 

 オスカーは全校の前での組み分けが苦痛だったが、隣で気の抜けた顔をしているエストを見ると馬鹿らしくなってきた。

 

「プルウェット、お前緊張しないのか?」

「緊張? なんで? 組み分けって絶対面白い魔法だよ? あとプルウェットじゃなくてエストだから」

 

 チッチ、みたいな感じで指を振ってエストはオスカーをバカにした。

 

「生徒の性質を見分けて寮を分けるなんて、きっとすごい儀式だと思うな」

 

 確かに、どうやって性質を見分けるのだろうか? 魔法で身体の性質とか精神の性質を見分ける方法でもあるのかとオスカーも思った。

 

「さあ行きますよ、ミス・プルウェット、私語はそれくらいにしてください」

 

 厳しい声がエストを注意した。

 

「組み分け儀式が始まります。一列になってついてきて下さい」

 

 一年生は玄関ホールをでて、大広間に入った。何百という瞳が彼らを見つめている。

 オスカーは視線が嫌だった。視線はオスカーという個人ではなく、ドロホフという苗字や、アントニン・ドロホフの息子という自分を見ているような気がしたからだ。

 

 キラキラと輝く皿やゴブレットが飛び交う光景や、外の星空がそのまま見え美しい天井を見てもオスカーの心は重いままだった。

 唯一心が晴れるとすれば気の抜けた声で、凄い、凄いと騒いでいる隣のエストくらいだろうか。

 

 そうこうしている間に、マクゴナガル先生は一年生の前に椅子と、ボロボロのとんがり帽子を置いた。

 一瞬の静寂の後、帽子が動き、歌い出した。

 

『私の姿はみすぼらしい

 けれども人は見かけによらぬもの

 果たして私は誰なのか?

 私は思う、私は誰?

 それは皆が知らぬこと

 

 ならば私は伝えよう

 君の頭にあるものを

 

 組み分け帽子はお見通し

 かぶれば君は知るだろう

 君の頭にあるものを

 

 四天王のそれぞれは

 四つの寮を作り出し

 自らの持つ徳目を

 それぞれ寮で教え込む

 

 グリフィンドールが持ちよるは

 何にもくじけぬ勇猛さ

 

 ハッフルパフが持ちよるは

 何にも負けぬ勤勉さ

 

 レイブンクローが持ちよるは

 何をも知る賢明さ

 

 スリザリンが持ちよるは

 何をも阻まぬ狡猾さ

 

 四天王の亡き後に

 誰が選ばんその素質?

 

 グリフィンドールその人が

 ボロボロにしたその帽子

 四天王のそれぞれが

 自分の徳を吹き込んだ

 帽子が素質を見分けるよう

 

 被ってごらん。恐れずに

 君の知らない君の頭

 私が見よう。知らぬ頭

 そして知るのさ、寮の名を!』

 

 帽子が歌い終わると、広間の全員が拍手喝采をする。

 帽子はそれそれのテーブルにお辞儀をして静かになった。

 

 隣のエストはさっきとは打って変わって静かになり、じっと帽子を見つめている。

 マクゴナガル先生が前に出て、長い羊皮紙の巻物を持っている。

 

「ABC順に名前を呼ばれたら、帽子をかぶって椅子に座り、組み分けを受けてください」

 

 A、B、Cの苗字を持つ生徒が呼ばれ、それぞれ組み分けを受けた後、それぞれのテーブルへ座っていった。

 組み分けはかなりのスピードで行われていた。

 ほとんどの生徒は帽子をかぶって一分もたたない間に寮の名が告げられる。

 そしてオスカーの番がやってきた。

 隣のエストがなにやらこっちにガッツポーズをしている。

 

「ドロホフ・オスカー!」

 

 オスカーが前に進み出ると、広間に少し静寂が起こる。

 

「ドロホフ? アントニン・ドロホフの息子か?」

「あの殺人鬼に息子がいたのか?」

 

 オスカーが帽子をかぶるまで、オスカーの視点には明らかに友好的でない視線が向けられていた。

 それも帽子をかぶると中の闇しか見えなくなった。

 オスカーは少し待った。

 

「ほう、これは面白い」

 

 なにやら低い声が耳の中で聞こえた。

 

『君の血と魔法は間違いなくスリザリンに向いている。その力を求める思考も抜け目のない頭も、目的の為に規則を無視するであろう傾向もだ』

 

 オスカーは黙って聞いていた。

 

『だけれども君は勇気も持ち合わせている。君が頭を巡らすのも、力を求めるのもそれぞれを求めているわけではない。君には勇気と怒りが満ち溢れている。これはグリフィンドールに向いている』

 

 勇気? そんなものはない。オスカーはそう思った。

 現にドロホフの息子だと思われるのが嫌でコンパートメントは人がいない場所を選んだし、今も視線にあてられるのが辛いのだ。

 

『それは違う、君に勇気がないのなら君はそれらを気にしないだろう。君は自分や自分の周りあるものに危害を加えるものと正面から戦う勇気があるのだ。ふむ……。難しい。グリフィンドールならば君はその勇気を、スリザリンならば君は守るべきものを得るだろう』

 

 自分がもつ勇気? 自分が守るべきもの? それぞれ自分には値しないものだとオスカーは思った。

 

『ふむ、やはり、君は守るべきものを持つべきだろう。よろしい、君がスリザリンで真に守るべきものを見つけられるならば、グリフィンドールよりも偉大になれることだろう。スリザリン‼‼』

 

 最後の一言は頭の中でなく、帽子が外へと叫んだものだとオスカーには分かった。

 オスカーはスリザリンのテーブルへと向かった。

 

「やっぱり、スリザリンか」

「カエルの子はカエルだな、絶対闇の魔法使いになるに違いない」

「なんであんな奴の入学を認めたんだ?」

 

 スリザリンのテーブルに向かう最中もほとんど拍手は起きなかった。

 聞こえてくるのはやはり闇の魔法使いがどうとか父親の話ばかりだ。

 だが、オスカーの内心では先ほどの組み分け帽子の話が反芻されていた。

 

 オスカーはスリザリンのテーブルに座ったが、隣にはだれも話しに来なかったし、スリザリンの上級生でさえ、オスカーを腫物として見ているようだった。

 その間にも組み分けは続いた。

 

 Mの苗字が呼ばれる順番まできた。

 

「ムーディ・クラーナ!」

 

 さっきホグワーツ特急であったクラーナが呼ばれていた。

 クラーナは自信満々にでかい杖を引きずりながら組み分け帽子をかぶると、触れるやいなや帽子が「グリフィンドール!!」と叫んだ。

 

 クラーナは拍手喝采でグリフィンドールに迎えられた。

 どんどん、順番が過ぎていき、そろそろエストの順番が回ってくることになった。

 

「プルウェット・エストレヤ!」

 

 エストは自信満々に組み分け帽子を被った。

 しかし、なにやら様子がおかしい。

 これまでの組み分けは少なくとも1分以下かそれくらいで寮の名が叫ばれたのに、組み分け帽子が10分ほどたっても微動だにしないのである。

 それに隣のゴーストの様子がおかしい。

 隣のゴーストは人がいないのを良いことにオスカーの隣にいた血みどろのゴーストなのだが、エストの姿を見てから全く動かない。

 

 それからさらに十分くらいだろうか、時間が流れ、大広間のざわめきが大きくなってきたころに組み分け帽子が叫んだ。

 

「スリザリン‼‼」

 

 エストはスリザリンのテーブルに向かってくる。

 エストは拍手喝采で迎えられた。

 オスカーは対応の違いに笑わざるを得なかった。

 

 上級生たちに話しかけられているにも関わらず、エストはオスカーの隣に座った。

 

「オスカー、同じ寮だね、これからよろしくね?」

「いや、周りをみたほうがいいぞ、俺がスリザリンでさえ避けられてるのがわかるだろ」

「ん~ そうなの?」

 

 エストは周りを見回す。エストとオスカー周りには誰もいなかった。少なくとも人間は。

 すると隣のゴーストが喋りかけてきた。

 

「少年、この姫は君を気遣って話しかけてきてくれたのだ。そのような態度は失礼だろう?」

 

 血みどろの髭が言うと何か変な迫力があった。

 

「おじさん? 別にエストは気遣ってオスカーの隣に座ったんじゃないよ? オスカーとはコンパートメントで喋ったからもう友達だもん、あとおじさんだれ?」

 

 エストがそう言うと、血みどろのゴーストは感極まったみたいな顔をした。

 

「おおそうでしたか、姫がそういうならそうなのでしょう。あと私のことは血みどろ男爵とでもお呼び下さい」

 

 男爵はエストとオスカーに会釈して消えていった。

 

「うーん? なんで血みどろ男爵はエストのこと姫って呼んだんだろう?」

「さあ? 昔あった姫様に似てたとかじゃないのか?」

 

 またエストは何やら悩んでいる。

 組み分けはそのあと順調に進み、見るたびに髪の毛の色が変わっており、ちょっと気になっていた女の子はハッフルパフに組み分けられた。

 さっき、船で一緒になったウィーズリー家の男の子は当然のようにグリフィンドールに選ばれた。

 

「あのテーブルに座ってるのが先生かな?」

 

 エストが指すテーブルには幾人も先生らしき人が座っている。さっき名前を読み上げていたマクゴナガル先生。小さすぎて頭しか見えない先生。鉤鼻の脂っこい髪の毛をした先生。優しそうな恰幅のいい先生。麦わら色の髪の毛をした人……。

 

「あれ? スタージスが座ってる」

「スタージス?」

「ほらあの麦わら色の髪の毛の人、知り合いなの」

 

 そういってエストが麦わら色の髪の毛をした人に手を振ると向こうも満面の笑みで振り返してきた。

 その横に座っていた。白い髭を蓄えた魔法使い。ダンブルドア校長もこちらを見る。一瞬、オスカーにはダンブルドアがエストとオスカーの方を見て虚を突かれたような顔をした気がした。

 ダンブルドアが立ち上がって挨拶をする。

 

「おめでとう! ホグワーツの新入生、おめでとう! 歓迎会を始める前に、二言、三言、言わせていただきたい。眠れるドラゴンを起こさぬように学業に励むこと、以上!」

 

 ダンブルドアの短い挨拶が終わると拍手が鳴り響き、何もなかったテーブルの上にごちそうが現れた。

 

「ダンブルドアってへんな人だね? 二言三言って言ってたのに」

「偉大な魔法使いはだいたい変な人なんだろう」

「確かにカエルチョコの人もみんな変な顔してるかも」

 

 変な人という意味だとエストも変な人のようにオスカーには思えたので、いつか偉大な魔法使いになるんだろうかと思い、カエルチョコのカードに乗っているエストを思い浮かべ吹き出しそうになった。

 

「オスカーなんか変なこと考えたでしょ?」

「いや、全然」

 

 オスカーはこんなに明るく楽しい夕飯を食べたのはいつ以来だろうかと思った。

 




※ハットストール
組み分け帽子が悩むこと、作中ではハリー・ポッターやネビル・ロングボトム等の組み分けで帽子が悩んでいた。
なお、帽子が五分以上組み分けに時間がかかる場合、組み分け困難者と呼ばれる。

※スタージス・ポドモア
不死鳥の騎士団創立メンバーの一人。ハリーの先遣護衛隊の一人でもある。
作中では服従の呪文をかけられて、神秘部に侵入させられ、アズカバン送りとなった。


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ルーンスプール

ファンタジービーストだとめっちゃでかかった


「見たか?」

「あれだよあれ」

「黒髪の女の子の隣」

「いかれた顔してるぜ」

「日刊預言者新聞にでてた親父の顔にそっくりだ」

「なんでホグワーツに入学できたのかしら」

 

 翌日オスカーが寮をでてから毎日のようにささやき声がついて回った。

 ほとんどは遠くから見る視線やひそひそという噂声だけだったが、中にはほとんど殺意のような視線を向けてくるものもいる。

 

 オスカーが幸運だったのはオスカーが一人でいると言っても無理やりついてくるエストが、ホグワーツの複雑な階段や仕掛け扉を数日で理解したことだろう。

 ゴーストや肖像画達もなぜかエストには好意的だったし、特に血みどろ男爵がエストにピーブズが近づいた途端にフルボッコにしていたので、二人はピーブズに出くわすことはなかった。

 

 天文学、薬草学、魔法薬学、妖精の魔法、魔法史、変身術、闇の魔術に対する防衛術等色々な授業があったが、そのどの授業でもエストの優秀さをオスカーは思い知らされた。

 変身術ではあっという間にマッチ棒を針に変えてしまったし、闇の魔術に対する防衛術の先生である、スタージス・ポドモアという先生はエストがお気に入りだった。

 先生の出身はグリフィンドールらしいのだが、エストが何か質問やら回答するたびに彼はスリザリンに得点を与えた。

 レイブンクローの学生たちは何故エストがレイブンクローでないのか疑問でしかたないようだった。

 

 エストが嫌でも目立つために、オスカーは授業の間は生徒たちの話題に上らずにはすんだ。

 しかし、段々とオスカー…… ではなく、親のアントニン・ドロホフに怨みを持つ生徒たちの行動は直接的になってきた。

 オスカーが何もせず大人しくしていたのもあったかもしれない。

 大抵、エストがいないときを見計らって、ゾンコの悪戯専門店で売っているような道具での悪戯や、最悪の場合、直接呪いをかけてきたのだ。

 まだ呪いをかけてくる生徒は低学年であったから大した呪いではなかったが、オスカーは何度かマダム・ポンフリーの世話になった。

 

 オスカーは呪いをかけてくる生徒に会わないように早めに朝食を取りにいくのだが、エストもそれに合わせて早起きするようになっていた。

 ほとんど学生がいない大広間で朝食を食べていると、グリフィンドールの生徒がスリザリンのテーブルにやってきた。

 先生方がいる大広間で何かするとは思えないが、オスカーは思わず身構えた。

 

 やってきたのは赤毛の男の子、たしかチャーリー・ウィーズリーだったはずだ。

 

「おはようエスト、今日の午後ハグリッドに会いに行かないか?」

「チャーリー、おはよう。ハグリッドってあのでっかい人?」

 

 チャーリーはエストを誘いに来たらしい。二人はいとこ同士らしいので不思議なことではないとオスカーは思った。

 

「そうだよ、あの人は凄く魔法生物の扱いがうまいんだ。なんかすごく面白い生物を見つけたらしいから、エストも一緒に見にこないかなと思って」

 

 なるほど、確かにあの図体ならドラゴンやキメラなんかでも互角に戦えるかもしれないとオスカーは思う。

 

「うーんエストはいいけど、オスカーも一緒でもいい?」

「ああ、別に問題ないよ、こっちもクラーナが付いてくる予定だしね」

 

 どうもエストの中ではオスカーが一緒にくることは前提であるらしい。

 クラーナ・ムーディがいると聞いて少しオスカーの気分が下がった。彼女は直接的に呪いをかけてきたりしないが、コンパートメントでの態度からオスカーに好意的でないのは明確だからだ。

 

「じゃあまた午後にね」

「じゃあねー」

 

 チャーリーはそのままグリフィンドールのテーブルに戻っていく。

 

「ね? ハグリッドの珍しい生物ってなんだろう? ドラゴン? バジリスク? ヌンドゥ? それともアクロマンチュラとかかな?」

「そんなもんホグワーツにおいておけるわけないだろう。闇祓いから木っ端役人まで引き連れないと討伐できないだろ」

 

 やっぱり、エストの発想はどこかぶっ飛んでいる。ホグワーツにヌンドゥが現れた日には日刊預言者新聞の一面は間違いない。

 

 

 今日の授業は午前までだったので、昼食が終わり次第エストとオスカーはハグリッドの小屋に向かった。

 ハグリッドの小屋は禁じられた森のはずれにあるので校庭を横切ってたどり着く。

 小屋の戸をエストはノックした。

 

「こんにちは~」

 

 小屋の中でガタガタと音がする。

 

「大丈夫だよハグリッド、多分エストとオスカーだから」

「プルウェットはともかく、ドロホフの息子が信頼できるかは怪しいですけどね」

 

 扉が開いて小屋の中に案内される。

 

「プルウェットの娘っちゅうのはあんたか?」

 

 ハグリッドはエストに聞く。彼の黄金色の瞳はなにやら懐かしいものを見る感情が溢れている。

 

「そうだよ? エストはエストレヤ・プルウェットだよ? ハグリッドさん?」

 

「おお、あの兄弟によく似とる。よくきてくれた。あと俺のことはハグリッドでいいぞ」

 

 オスカーはハグリッドとエストのやり取りを聞いて居づらくなってきた。

 

「そっちのはプルウェットの仇の息子ですよ、ハグリッド」

 

 クラーナがニヤリと笑って、オスカーを指で指す。

 ハグリッドの黄金色の瞳がオスカーを覗く。そしてニコリと笑った。

 

「確かにお前さんも親父さんによく似とる。けどな、ファングも吠えなかったしエストとも仲がいいんだろう? 心配することはねぇ。あとクラーナ、人を指で差しちゃいけねえぞ」

「ハグリッドはいい人だね?」

 

 確かにこのハグリッドという人物は人を偏見で見る人物ではないようだ。

 それにハグリッドに注意されてむくれるクラーナが面白くてオスカーは仕方なかった。

 

「ハグリッド。もう孵りそうだよ」

 

 待ちきれないといった感じのチャーリーの声。

 

「なんの卵なの?」

「孵ればわかるよ」

 

 パリっ、パリっという音がして卵が孵る。

 中からでてきたのは頭が三つある蛇だった。長さは人間の腕位だろうか?

 

「すごい、ルーンスプールでしょ! これ」

「おお、よく知っとるな。こいつは卵が魔法薬の材料になるからっちゅうて数が少ないんだ」

 

 確かに幻の動物とその生息地で見たことがある。

 けど、確かこの生き物の卵は販売が制限されていたはずだが。

 

「こいつらなんか頭同士で喧嘩してますよ、ハグリッド」

 

 クラーナの言う通り蛇はその三つある頭がお互いに威嚇し合っていた。

 

「クラーナ、ルーンスプールは頭が互いに攻撃するせいで短命なんだ」

 

 チャーリーが解説してくれる。

 

「ドロホフ。あなたパーセルタングだったりしないんですか? 闇の魔術師の特徴の一つじゃないですか」

「あほか、パーセルタングなんてほとんど絶滅してるだろ、ルーンスプールより珍しいだろうよ」

 

 近年でパーセルタングなんて例のあの人くらいだろう。

 だいたい、パーセルタングだってわかっても自分で言うやつなんていないだろうとオスカーは思う。

 

「なんだ使えないですね、パーセルタングならこいつらを説得できるかと思ったんですけど」

 

 そうこうしているうちにルーンスプールはお互いの首にかみつき合おうとしていた。

 するとエストが噛まれるのも構わずルーンスプールを取り上げた。

 

「あっ。ちょっと痛いかも」

 

 ルーンスプールはしばらくエストの指に噛みついていたが、しばらくすると疲れたのか噛みつくのをやめた。

 

「おい、プルウェット大丈夫なのか?」

「オスカー、プルウェットじゃなくてエストだから。あと別にあんまり痛くはないかな」

 

 エストがもとの場所にルーンスプールを戻す。

 チャーリーとハグリッドはやれ、ウロコの赤みがかった色が美しいだの、こいつはメスなのかオスなのかみたいな議論をし始めている。

 

「あの二人は魔法生物に関わるとあほになるんです」

 

 クラーナがやれやれみたいな顔をしている。

 

「エスト、マントを取って腕を見せて見ろ」

 

 ハグリッドが先ほどルーンスプールに噛まれたエストの腕を見ている。

 見てから、なにやら小屋の奥でガサガサと探し物をして、なにやら銀色の軟膏を取り出した。

 

「これで大丈夫だ。あんまり無茶をするもんじゃねえ」

「うん、ありがとう」

 

 そのあと何やら、ハグリッドとチャーリーの議論が白熱したり、クラーナがひたすらオスカーを煽ってきたり、エストがルーンスプールをしつけていたりした。

 しかし、そろそろ夕食の時間が近づいてきたので学校に戻ることとした。

 

「じゃあ先に戻るね、ハグリッド、チャーリー、クラーナばいばーい」

 

 エストとオスカーはグリフィンドール組よりも先に戻ることにした。

 しかし、エストがさっき軟膏を塗ってもらうときにマントを取り、そのまま忘れたことに気づいた。

 

「ちょっと取ってくるから待ってて」

 

 

 

 

 

 ハグリッドの小屋と城の中間くらいでオスカーはエストを待っていた。

 それが悪かった。ちょうどオスカーが暗い校庭で一人でいることが外からよく見える状況になっていたのだ。

 

 城から数人の生徒が出てくる。

 見た目からしてグリフィンドールの生徒で、明らかに敵意のある視線をむき出しにして、杖を取り出していた。

 数えると6人はいるようで、恐らく学年は一~三年生だろうか?

 オスカーはこれは不味いと思った。いつも襲われるのは城の中なので隠れる場所があるが、ここにはなにもない。

 しかもあの大人数で上級生がいるのではこちらに勝ち目がないのは明白だった。

 

「オスカー・ドロホフ。いい度胸だな。お前みたいなやつがホグワーツを堂々と歩くなんて反吐がでるぜ」

 

 オスカーよりも大柄な上級生であろうグリフィンドールの生徒が言った。

 

「そうだ、お前みたいな死喰い人の子供がなんでホグワーツにいるんだ?」

「よく、プルウェットの隣を歩けるよな? 死にたくならないのか?」

「こいつがプルウェットに錯乱呪文か服従の呪文でもかけてるに違いない」

「俺の家族はドロホフに殺されたんだ。なのになんでお前はぬくぬくホグワーツで暮らしてやがる!!」

 

 生徒達が次々とオスカーを呪う言葉を吐く。

 

「なんとか答えたらどうなんだ? おい!!」

 

 何も答えないオスカーに生徒達はいら立ち始めた。

 

「お前、ホグワーツにいないときは闇祓いの監視がついてるんだろ? 魔法省でパパが聞いたぞ」

「いつもやり返してこないのは暴力事件を起こしたら退学になるからなんだろ?」

「ほら、いつもみたいに逃げてみろよ。ここには隠れる物もお前を守ってくれるエストちゃんもいないぜ」

 

 そういって、生徒たちはついに呪いを打ち始めた。

 

「おらおら逃げてみろよ、ペトリフィカストタルス! 石になれ!」

「インペディメンタ‼ 妨害せよ! おら逃げてんじゃねえ!」

「インカーセラス‼‼ 縛れ‼‼ この野郎 ボコボコにしてやる!」

 

 オスカーはプロテゴを唱えながら、呪文をよけ、なんとか活路を探ろうとした。

 しかし、ハグリッドの小屋にはまだエスト達がいるし、生徒たちは城の方向に陣取っているので逃げることができない。

 

「インセンディオ! 燃えろ!」

「エクペリアームス! 武器よ去れ」

「クソっ ちょろちょろ逃げやがって! おとなしくボコられろよ!!」

 

 オスカーはしばらく無傷で逃げ続けていたが、それがさらに生徒達の怒りを誘った。

 

「なんなんだよてめぇはよお! 襲われてるんだからもっと怖がれよ!! そのなんでも分かってますみたいな顔がむかつくんだよ!!」

 

 大柄な上級生が激高する。

 

「レダクト!! 粉々!!」

 

 上級生の放った呪文がオスカーの下の地面を粉砕した。

 オスカーは衝撃で吹っ飛ばされ、砂煙で何も見えない。ただ後ろから誰かが走ってくる音が聞こえた。

 

「これでよけられねえだろ!! おら!! ディフェンド 裂けよ!!」

 

 吹っ飛ばされ、倒れているオスカーに呪文が飛んでくるがその呪文がオスカーに届くことはなかった。

 オスカーの前でエストが立ってかばったからだ。

 エストの顔が上級生の放った呪文で裂けて、血が出ていた。

 

「ちっ! 親が殺したやつの娘に守られていい気分だろうなあ!! オスカー・ドロホフ!!」

 

 上級生が叫ぶ。だが、上級生以外の生徒はエストがけがをしたことで及び腰になっていた。

 

「エクスパルソ!! 爆破せよ!!」

 

 後ろから呪文が飛んできて、生徒達の足元を爆破した。

 

「抵抗できない相手に複数人で挑むとはなんて卑怯な!! グリフィンドールの風上にもおけません!!」

 

 クラーナとチャーリーが来たらしい。二人はエストと一緒に倒れているオスカーの前に立った。

 

「クソっ!! グリフィンドールの癖にドロホフをかばいやがって!!」

 

 そう上級生がいうと生徒たちは城へと引き上げていった。

 

「オスカー大丈夫か?」

 

 そう言ったチャーリーの手を借りてオスカーは立ち上がる。

 

「俺より、プルウェットは大丈夫なのか?」

 

 オスカーは自分より、自分をかばって呪文を受けたエストの方が心配だった。

 

「プルウェットじゃなくて、エストだから。オスカー」

 

 そう言って笑ったエストの頬からは血が流れていた。

 

「情けないことです。プルウェットに守られるドロホフもですが、抵抗しないドロホフを集団で襲うグリフィンドールの生徒はもっと度し難い」

 

 クラーナの言う通りだった。こうなることは随分前からオスカーには分かっていたはずだった。

 なのに、オスカーは自分に甘えて、エストの傍にいてしまったのだ。

 オスカーは自分の情けなさを呪った。

 

 




※ルーンスプール
三頭の頭を持つ蛇、口から卵を産むことで知られる。
その卵は頭を良くする魔法薬の原料となることで知られている。

※ヌンドゥ
非常に危険な魔法生物。口からあらゆる疫病を振りまくと言われる。
魔法使い百人レベルでやっと討伐が可能。


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必要の部屋

お辞儀をするのだ


 次の日からオスカーはエストと行動することを辞めた。

 朝食の時間もエストと違う時間にすることにしたし、いろんな授業でエストの隣に座ることもしなくなった。

 あえて違うドアや階段、廊下を使って移動をした。

 それでも、秘密の通路や動く階段の動きを熟知しているエストの追跡を振り切るのは容易ではなかった。

 前回の騒動がばれるのを恐れているのかグリフィンドールの生徒達が襲ってこなくなったのはオスカーにとっては不幸中の幸いだった。

 

 しかし、そう長くエストから逃げることは難しかった。何せエストとオスカーは同じ寮で寝泊まりしているし、一年生の授業は皆同じ授業だからだ。

 

「オスカー! なんで逃げるの!?」

 

 ついにオスカーはエストにつかまってしまった。

 恐らくゴーストか肖像画がオスカーの場所を教えたのだろう。

 

「プルウェット、俺と一緒に行動するのは辞めろ。どうあっても俺は人殺しの息子なのは間違いない」

「なんで? そんなことホグワーツ特急であった時から分かってたことでしょ?」

 

 エストは泣いていた。

 オスカーは自分のことがさらに情けなくなった。父親は彼女の身内を皆殺しにし、その息子は泣かしているのだ。

 

「もともとドロホフの家の奴がプルウェットの娘と一緒にいるのがおかしかったんだ」

 

 そう言ってオスカーはエストの手を払った。

 

「エストはそんなに弱くないよ、オスカーと一緒にいて襲われても前みたいにけがなんかしないよ?」

 

 エストが何か言っていてもオスカーは聞くのを辞めた。

 オスカーには自分自身がエストを傷つけている原因のように思えてたまらなく憎くなった。

 

「オスカー!!」

 

 エストの声が聞えなくなるまでオスカーは歩き続けた。

 

 

 

 

 それからエストはオスカーに関わってこなくなった。

 その代わり毎日図書館から大量の本を借りてきて夜遅くまで読んでいるようだった。

 一週間、二週間と過ぎていくうちにエストの眼の隈はひどくなっているようだったがオスカーにはなにもできなかった。

 

 しかし、オスカーはエストばかりに気を使ってはいられなくなった。

 少しの間止んでいたグリフィンドールの生徒の襲撃が再開されるようになったからだ。

 グリフィンドールの生徒の数は増えていて、オスカーは段々逃げきるのが難しくなってきた。

 

「ステューピファイ!! 麻痺せよ!!」

 

 しかも、前よりも唱えてくる呪いが過激になってきた。今もグリフィンドール生八人ほどに追われて空き教室に逃げ込んだのだった。

 

「おや、ドロホフ。なにやらピンチみたいですね?」

「ムーディか」

 

 空き教室には待ってましたみたいな顔をしたクラーナが座っていた。

 

「今なら由緒正しき闇祓いの家の娘。クラーナ・ムーディが助勢してあげましょう」

「結構だ」

 

 そう言ってオスカーは教室から出ようとしたがクラーナに止められた。

 

「呪文を相手に撃てないあなたがどうやって八人から逃げ切るんですか? 闇の魔法使いの考えはわかりませんね」

「放っておけ」

 

 オスカーはクラーナが何を考えているのかわからなかったがろくなことにならない気がしたのだ。

 

「別にタダでしてあげようってわけじゃないですよ? 助ける代わりにあなたにはしてもらうことがありますから」

 

 クラーナはそれだけ言うと教室の外へ出ていった。

 

「ルーモス・マキシマ!! コンフリンゴ!! 爆破せよ!!」

 

 目くらましに呪文を使った後、クラーナはなんの容赦もなく校舎を破壊した。

 轟音とともに廊下が天井から破壊され、空が見えている。

 

「ほら、何してるんですか? 逃げますよ、フィルチが二、三秒でやってくるでしょう」

「やっぱりお前マッド(頭おかしい)だろ?」

 

 オスカーはこの女は敵に回したくないと思った。

 

「はあ? せっかく助けてあげたのになんていいようなんですか? これだから死喰い人の息子は」

 

 とりあえずクラーナについて逃げる。管理人のフィルチに捕まればグリフィンドール生に捕まるよるも厄介なことになるかもしれないからだ。

 いくつか階段の上り、廊下や通路を通りすぎた。

 

「うーんと、この辺のはずなんですけど」

「おい、どこに連れていこうって言うんだ? この辺には何にもないはずだろ?」

 

 そうここには大きな壁があるだけのはずで、それ以外になにもない場所のはずだった。

 エストと一緒に大まかではあるが城の構造はだいたい理解していたが何もない場所のはずだった。

 

「ええ、私もプルウェットに聞くまでは半信半疑でしたけどね」

 

 そうクラーナが言うと目の前の壁に巨大な扉が現れた。

 

「あったり、なかったり部屋、必要の部屋、色んな呼ばれ方をしていますが、少なくとも必要な時に現れる部屋って意味では共通しているそうですよ?」

 

 クラーナはオスカーを見てニヤリと笑った。

 

「少なくともホグワーツは貴方にこの部屋が必要だと思っているみたいですね」

 

 巨大な扉を開くと中はまるで闘技場? のような構成になっていた。

 少なくともオスカーはこんな場所を見たことはなかった。

 

「おや、これは立派な決闘場ですね、保護呪文までかけられているじゃないですか」

 

 何やら青い泡のようなものが闘技場のステージ部分にかかっている。

 

「プルウェット、貴方がご所望のドロホフを連れてきましたよ」

「クラーナ、ありがとうね」

 

 そしてそのステージの上にエストが立っていた。

 オスカーは困惑しながらもステージの上に足を運んだ。

 

 エストは杖をこちらに向けて一礼した。

 

「私、エストレヤ・プルウェットはオスカー・ドロホフに決闘を挑みます」

「私、クラーナ・ムーディが立会人を務めましょう」

 

 そう言ってエストはこちらを真っ直ぐに見つめた。

 

「それで? まさか正式な決闘を断るなんてことしませんよね? 臆病者のドロホフ君?」

 

 クラーナがオスカーを見てあざ笑う。

 オスカーはここで全部終わらせるべきだと思った。

 オスカーがエストに決闘で勝てば、エストもオスカーと一緒にいることを諦めるだろうと思ったのだ。

 

「分かった。俺、オスカー・ドロホフはエストレヤ・プルウェットからの決闘を受ける」

 

 オスカーはエストを真っすぐに見てお辞儀をした。

 

 

 クラーナがステージから下がって、決闘が始まった。

 エストの顔には深い隈が刻まれていて、この為に色んな準備をしていたのだろうことがわかった。

 しかし、オスカーはエストを気遣う余裕などない気がしていた。エストは恐らく同学年で最も魔法に優れた魔女だということは一年生ならば誰でも周知の事実だったからだ。

 

「グラディウスソーティア 剣よ出でよ」

 

 エストが唱えると五本の剣が空中に浮かぶ。

 

「エンゴージオ 肥大せよ」

 

 五本の剣がそれぞれエストの体と同じくらいの大きさになった。

 

「オパグノ!! 襲え!!」

 

 文字通り、巨大な剣がオスカー目掛けて飛んでくる。

 

「プルウェットは貴方を本気で殺す気で決闘を挑んでいますよ、ドロホフ」

 

 そんなことはクラーナに言われなくても体と目でオスカーは理解した。

 

「レデュシオ!! 縮め!!」

「ディセンド!! 降下せよ!!」

 

 剣を縮めて地に落とそうとしたが三本ほどしか通用しない。

 残りの二本がオスカーを串刺しにしようと迫ってくる。

 

「プロテゴ!! 護れ!!」

 

 剣を盾の呪文で吹き飛ばす。しかし、オスカーは決闘が始まってから全く攻勢にでることができない。

 

「グラディウスソーティア!! 剣よ出でよ!! ルーペスソーティア!! 岩よ出でよ!!」

「エンゴージオ!! 肥大せよ!!」

 

 エストは今度は浮遊する剣と岩を出現させ巨大化させた。

 

「ルーモス マキシマ!!」

 

 時間を作るため、オスカーは目くらましを行う。

「っ!!」

 

「ボンバーダ マキシマ!!」

 

 その間に今エストが出現させたものを爆破呪文で吹き飛ばし、距離を詰める。

 遠距離でエストに勝てるわけがないとオスカーは感じたのだ。

 

「ノラードイグリタス!! 割れよ!!」

 

 しかし、近づく前に地面がエストの呪文でぱっくりと割れてしまった。

 はっきり言ってエストは戦慄するほどの呪文使いだった。恐らく五年生くらいまでの上級生ではエストには勝ち目がないのではないだろうか?

 ステージの外で見届けているクラーナも唖然としている。

 

「ドロホフ、降参したほうがいいんじゃないですか? いくらなんでもここまでプルウェットが強いと思ってませんでした。このままだとほんとにひき肉にされますよ!?」

「クラーナは黙ってて!! 私はオスカーと決闘しているの!!」

 

「グラディウスソーティア!! 剣よ出でよ!! スクートゥムソーティア!! 盾よ出でよ!!

「エンゴージオ!! 肥大せよ!!」

「オパグノ 襲え!! ロコモーター‼‼ 周回せよ!!」

 

 今度は剣と盾が現れ、剣はオスカーを細切れにしようと、盾はエストを守るように周回している。

 さらにエストまでの地面はぱっくりと開いており、歩いてはとても越えれそうにない。

 

 だが、オスカーはやはり突っ込んでいくことにした。

 

「プロテゴ マキシマ!!」

 

 剣の攻撃を強引に盾の呪文で突破する。

 

「コンフリンゴ!! 爆破せよ!!」

 

 しかし、エストが剣が盾の呪文に接触する瞬間に爆破呪文で剣ごと爆破しようとしてくる。

 前転で爆破を避け、強引にエストが作り出した割れ目まで到達する。

 

「レビコーパス!! 身体浮上!!」

 

 体を呪文で浮かせ、慣性で割れ目を突破する。

 

「ディセンド!! 降下せよ!!」

「ルーマス・ソレム!! 太陽の光よ!!」

 

 降下呪文で強引に盾を打ち崩し、エストが現れた瞬間に光で目つぶしをする。

 

「ペトリフィカストタルス!! 石になれ!!」

 

 しかし、光を打ち込んだのと同じ瞬間にエストが全身金縛り呪文をオスカーにぶち当てた。

 

「なんで最後攻撃するような呪いを打たなかったの?」

「ねえ? オスカー? なんで?」

 

 エストがこちらに歩いてくる。その顔はオスカーがこれまで見たことがないほど激高している。

 

「エストレヤ・プルウェット!! 決闘は終わりました! 杖を下げなさい!」

 

クラーナがエストを止めようとステージの上に上がろうとしている。

 

「クラーナ!! うるさい!! エクスパルソ!! 爆破せよ!!」

 

 エストは金縛りで動けないオスカーの傍の床を吹き飛ばした。

 

「保護呪文がかかっているって言っても、金縛りしたあと爆破したら死んじゃうんだよ?」

 

 エストは動けないオスカーの胸に杖を当てる。

 

「どれくらいエストが強いかわかった? オスカー? 今すぐにでもエストはオスカーをバラバラにできるんだよ?」

 

 杖をオスカーの胸に当て、オスカーの眼を真っすぐに見て、エストは泣いていた。

 

「なんで最後に攻撃呪文を撃たなかったの!? なんで一緒にいちゃダメって言ったのにエストを攻撃するのを戸惑うの? 最後に攻撃してれば勝てたかもしれないんだよ? ねえ? なんで? どうして?」

 

 オスカーは自分の行動が結局のところ、エストを傷つけるだけだったことを恥じた。彼女と関わって以来、オスカーは自分の行動を恥じてばかりだった。

 

「なんでそんなに優しいのに近づくななんて言うの?」

 

 クラーナがステージの二人にたどり着いた時、エストは杖を下げ、オスカーの胸に顔をうずめて泣いていた。

 

「ごめん。プルウェット」

「決闘に勝ったんだから、これからはエストだから」

 

 オスカーはエストをプルウェットと呼ぶのを止めた。

 

 

 

 

 



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みぞの鏡

みぞの鏡とかマネ妖怪とかこの辺の設定は本当にうまいと思う


 これまでの日常が戻ってきた。

 違う場所があるとすれば、オスカーがエストをプルウェットと呼ばなくなったことだろうか?

 他にはグリフィンドール生の襲撃が止まったこともあるだろう。

 グリフィンドール生が襲ってきた際にエストがコンフリンゴとボンバーダを乱射し、廊下が大惨事になった後は襲撃がピタッと止んでしまった。

 フィルチは続発する校舎への破壊行為に血眼になっている。

 遂にはダンブルドア校長が夕飯の席で校舎内での爆破行為は辞めるように告知まで行ってしまった。

 その際に明らかにオスカーとエストのいるスリザリンのテーブルを見て言ったのだから、恐らく犯人だとばれているとオスカーは思った。

 

「ねえ? オスカーはクリスマスはどうするの?」

 

談話室で寝転がりながらエストが聞いてくる。

 

「家に戻っても誰もいないし、監視の闇祓いに迷惑かけるだけだからホグワーツにいるけど」

 

 そう、ドロホフの家に戻っても誰もいないし、監視のためにわざわざ魔法省から闇祓いがこないといけないのだ。

 

「じゃあ、ハグリッドの小屋にクリスマスはいかない? チャーリーは隠れ穴に帰っちゃうみたいだけど、クラーナは戻らないらしいから」

 

 数年ぶりに闇祓いと屋敷しもべ妖精以外の連中と一緒にクリスマスを過ごせるかもしれないとオスカーは思い、気持ちが少し明るくなった。

 

 

 クリスマス休暇がやってきた。恐らく数年ぶりにオスカーは同世代の気の張らないでいい仲間とクリスマスを過ごすことができた。

 スリザリンの寮にはエストとオスカー以外ほとんど人がおらず、いつも気にしている他人の視点からも解放された。

 クリスマス・イブの夜。オスカーはエストと談話室に放置されていたゴブストーンセットで遅くまで遊んだ後、悩みもなく眠りについた。

 朝起きると、やっぱりここ数年は期待なんてしてなかったプレゼントが置かれていた。

 中身は屋敷しもべ妖精からのオスカーお坊ちゃま様へと書かれた包みに入った羽ペン。

 オスカー・ドロホフ様へと達筆な字で書かれた包みの中身は万眼鏡だった。後ろにあった署名からして、見張りの闇祓いかららしい。

 あとはエストから届いた大量の百味ビーンズ。自分もエストに百味ビーンズを送っていたから完全に同じ発想をしてしまったとオスカーはショックを受けた。

 あとはO.Dと書かれた、銀色に緑色の蛇が刺繍されたセーターが入っている。包みにはオスカー・ドロホフ様へとしか書いていない。

 いったい誰からのものなのか?

 オスカーは頭をひねりながら談話室へと降りていく。

 

 すでに談話室ではエストが寝転がりながら百味ビーンズをかじっている。

 

「オスカー、メリークリスマス、百味ビーンズありがとうね」

「ああメリークリスマス、お前もな」

 

 オスカーが持っている緑色のセーターを見てエストはハッとなる。

 

「オスカーにも届いたんだね? それは多分モリーおばさんからだよ」

 

 モリーおばさん? 確かよくエストやチャーリーの話題に出てくる人物……、プルウェット家からウィーズリー家に嫁いだチャーリーの母親のはずだ。

 つまり、父親のアントニン・ドロホフが殺したプルウェット兄弟の姉妹にあたる人物のはずだった。

 

「俺にクリスマスプレゼント?」

 

 オスカーは自分にこのセーターを着る資格があるとは思えなかった。

 一体どんな気分で兄弟の仇の息子に服を編めるというのだろう。

 

「モリーおばさんは優しいからね、ほらオスカー」

 

 エストはオスカーからセーターをひったくって無理やり着せてしまった。

 セーターは何か不思議な温かさがあるとオスカーは思った。

 

「これでおそろいだね」

 

 確かにエストも同じ蛇のデザインが入った。銀と赤色のセーターを着ていた。

 

 

 

 朝食を取りに行くと大広間はいつもと違う装いだった。

 クリスマスなのでクリスマスツリーやその他の飾りつけがされているのもそうなのだが、残っている生徒がほとんどいないのか、寮も教員も区別なく同じテーブルだった。

 

「あれ? クラーナがいないけどどうしたんだろうね?」

 

 確かにホグワーツに残っているはずのクラーナの姿が見えない。

 

「死喰い人でも探しにいったんじゃないのか?」

「まあ寝坊してるだけかもしれないね、クリスマスプレゼントが楽しみで寝れなかったとか」

 

 あの女の子がそんな玉だとはオスカーには思えなかった。

 とりあえず、教員四寮合同の騒がしい朝食は終わったが、少なくとも朝食の間、クラーナの姿は見えなかった。

 

「うーん、クラーナはグリフィンドールだから寮まで見に行けないもんね」

「スリザリンの生徒がグリフィンドール寮に入り込んだら大騒ぎだろうな」

 

 ハグリッドは先ほどの朝食でワインをひっかけていたので、今日は小屋にいっても駄目だろうと思い、二人はスリザリン寮に向かっていた。

 

「そういや昨日ハグリッドの小屋でも見なかったな」

 

 クリスマス休暇に入ってから毎日のようにエスト、オスカー、クラーナの三人はルーンスプールの世話をしにいっているのだが、なぜか昨日はクラーナの姿がなかったのだ。

 

「うーん? ゴブストーンにでもはまっちゃったのかなあ?」

 

 クラーナにはゴブストーンよりもあのバカでかい杖を振り回して魔法使いを吹き飛ばしている方が似合っているとオスカーは思った。

 

 

 

 スリザリン寮に帰る途中でオスカーはトイレに行きたくなり、先にエストに帰ってもらった。

 凍り付くような寒さの中、トイレを終えてスリザリン寮に戻る途中、特徴的な杖を持った女の子の後ろ姿が見えた。

 オスカーは疑問に思った。朝食も食べずにこんなところをウロウロしている? そもそもクラーナの所属するグリフィンドール寮はスリザリン寮とは反対の場所にあるはずだ。

 オスカーはちょっとした好奇心に囚われ、クラーナの後をつけることにした。

 

 クラーナはなにやらフラフラとしていた。何かおかしい。そもそもいつものクラーナならばオスカーの尾行くらいには気付きそうなものなのだ。

 すぐにでも後ろ向いてこちらに杖を向けて、「油断大敵!!」「なんだドロホフですか?」とか言ってきそうな気がオスカーにはしていた。

 明らかにクラーナ・ムーディの様子はおかしかった。

 

 しばらく尾行を続けるとクラーナは古い教室のような部屋に入っていった。

 壁のように椅子と机が積み上げられ、ごみ箱や黒板まで逆さにして置いてある。

 なんとなくすべてが上下反転して見えそうな教室だった。

 その教室のはしに部屋にはそぐわない、天まで届くような、金色の見事な鏡が置かれている。

 クラーナはその鏡の前に座り込み、なにやら必死で鏡に見入っている。

 オスカーがクラーナの真後ろまで来ても後ろのオスカーには気づかなかった。

 鏡には上の方に字が彫ってある。

 

『すつうを みぞの のろここ のたなあ くなはで おか のたなあ はしたわ』

 

 とりあえず、クラーナに声をかけてみることにした。

 

「ムーディ、朝食や小屋にも来ずになにやってるんだ?」

 

 クラーナはこれまで見たこともないような反応。オスカーの声にビクッと反応し、よろよろとこっちを向いた。

 いつも自身満々のクラーナの顔はどこかやつれており、目には隈が縁どられている。

 

「なんだ、ドロホフですか、驚かさないでください」

 

 いよいよおかしい。いつものクラーナのならば何かここでオスカーを煽るような言動をするはずなのだ。

 自分がびっくりしているところを見られるのは恥だと思うはずだ。

 それをごまかすような言動をとるはずだとオスカーは思った。

 

「私の様子がおかしいと思ってるみたいですね、ドロホフ。あなたもこの鏡を見れば分かりますよ」

 

 そう言ってクラーナは鏡の前からどいた。

 

 そこに写っているのは自分の姿だった。ただし、ある事件が起こる前の、例のあの人がハリー・ポッターに倒される前の、今よりももっと幼い自分の姿が映っている。

 それも一人ではない。オスカーと同じ髪色をした優しそうな女性と自分の同世代くらいの女の子が一緒に写っている。

 オスカーの眼は鏡に釘付けになった。おかしい、あり得ない。彼女達はもういなくなったはずだ。

 物理的にも、精神的にも、もう何も残っていないはずなのだ。

 あり得ない。あり得ない。オスカーは思わず手を鏡に伸ばした。

 鏡の冷たい感触が伝わってくる。鏡の中の二人は悲しそうな顔をした。

 

「この鏡はなんなんだ」

 

 鏡の中の幼い自分が自分と同じ言葉を言っているのが分かる。鏡の中の二人が一層悲しそうな顔をする。

 

「上に刻まれた文字を見れば分かりますよ、鏡文字になっているだけですから」

 

 もう一度、鏡の上にかかれた文字を見る。その間もオスカーは鏡の中の二人から目を離すことができなかった。

 

『すつうを みぞの のろここ のたなあ くなはで おか のたなあ はしたわ』

 

「私は貴方の顔ではなく、貴方の心の望みを写す」

 

 俺は年をとっても、エストとホグワーツで出会って、生活をしてもあの二人を忘れられないっていうのか?

 オスカーの心の中で自分に対する怒りが湧いてきた。

 

「ドロホフ、貴方が何を見たのかは知らないですけど、この鏡に魅入られるのはきっと必然なんだと思います」

 

 クラーナもまた、鏡から目を離すことができないようだった。恐らく彼女は昨日からずっとここにいるのではないだろうか? 目の隈と寒さに震える彼女の姿が目に止まる。

 クラーナの姿を見た後、自分の体に視線をずらすとさっきエストに着せられたセーターが見えた。

 不思議なあったかさを持つセーターは親の仇の息子に充てられたセーターだ。

 このセーターを編んだ人は、今、鏡を見ている自分よりももっと多くの困難を乗り越えてセーターを編んだ気がした。

 あったかさは怒りに変わりつつあった。この鏡はなんて嫌らしいものなのか、望みが純粋であればあるほどきっとこの鏡に魅入られてしまうに決まっている。

 クラーナも、普段あんなに精神的な強さを発揮している彼女さえこんな風に魅入られてしまうのだ。

 きっと彼女が見ている誰かも鏡の中で悲しい顔をしているんじゃないだろうか?

 オスカーはそう思い、さらに怒りが湧いてきた。

 

「クラーナ・ムーディ。お前はこの鏡の中に何を見ているんだ?」

 

 オスカーは鏡からクラーナの意識を離そうと考えた。

 

「何を?ですか?」

 

 クラーナはやつれた顔でこちらを見る。

 

「簡単ですよ、いつも偉大な闇祓いがどうとか言ってますけど、ここに見えているのは、私の後ろにいるのは五体満足で微笑んでいる私の家族ですよ」

 

 クラーナの顔は鏡の中の二人と同じくらい悲しそうな顔になった。

 

「父も母も姉も、おじいさんもおばあさんも、偉大なアラスターおじさんも、みんな生きていて、五体満足で頭もおかしくならずに笑っている姿ですよ」

 

 あのクラーナ・ムーディの瞳から涙が流れていた。いつもどんな時も強気の彼女の眼から。

 

「なのに、笑っているのに、みんな悲しそうなんです。私の望みのはずなのに……」

 

 なおさらオスカーの心は怒りに溢れた。こんな鏡は、人の心を弄ぶ鏡はここで壊すべきだ。そう思った。

 

「それはクラーナが強いからだろう。偉大な人間になることじゃなくて、家族を望む人間の方が強いに決まっている」

 

 そう言ってオスカーは杖を抜いた。

 

「ドロホフ……? 何を言って……⁉」

 

「ボンバ…⁉」

 

 くそったれな鏡を粉々に爆破しようとした瞬間、オスカーの手に凄まじくしわの入った細長い手が置かれる。

 

「クラーナ、得難い友人を得たようじゃの」

 

 アルバス・ダンブルドア。ホグワーツの校長にして、恐らく今世紀最強の魔法使いがオスカーの呪文を止めていた。

 恐らく目くらまし呪文か何かで隠れていたのだろうが、今の今まで気づくことすらできなかったことにオスカーは戦慄した。

 

「オスカー、それくらいにしてくれんかの? この鏡は意地の悪い代物かもしれんが、色々と使い道があるのでのう」

 

 そう言われてもオスカーの怒りは止まらなかった。そもそも、ダンブルドアならばクラーナが鏡に魅入られる前に防ぐこともできたはずだとオスカーは思った。

 

「本当に得難い友人を得たようじゃの、クラーナ。彼がいればもうこんな鏡などに惑わされることはないじゃろう」

 

 ダンブルドアがすべてを見通すような目でオスカーを見た。

 オスカーは直感的に自分の心が見られているのではないかと思った。

 

「このみぞの鏡は今日、よそに移す。二人のクリスマスを台無しにして申し訳ない」

 

 少なくともダンブルドアは本当に申し訳ないと思っているようにオスカーには思えた。

 そして、ダンブルドアがみぞの鏡を一瞬だけ見た、その瞬間の表情がさっきのクラーナや鏡の中の二人と同じもののように思えたのだ。

 

「さあ、オスカー、クラーナ、そろそろ戻ってはどうかね? 今日はクリスマスじゃからな、楽しまないといけない」

 

 ダンブルドアは二人に退出を促した。

 オスカーは寒さと空腹で震えるクラーナに肩を貸して歩き出そうとした。

 しかし、オスカーに疑問が湧いてきた。

 

「ダンブルドア先生。質問を一ついいですか?」

「うむ、君には迷惑をかけたからのう。一つだけ許そう」

 

 ダンブルドアはこちらを見て微笑んだ。

 

「先生が見たものは僕たちと同じだったんでしょうか?」

 

 ダンブルドアはまた一瞬だけ悲しそうな顔をして微笑んだ。

 

「そうじゃの、今は君たちと同じものを見たかもしれん。じゃが君たちと同じ年のころにはみえなかったじゃろうな」

 

 オスカーにはその言葉の意味が少しだけ分かった気がした。

 

「じゃあの、メリークリスマスじゃ、オスカー、クラーナ」

 

 

 

 

 

 

 それからしばらくオスカーはクラーナに肩を貸して歩いた。

 

「もう、このへんでいいですよ」

 

 グリフィンドールの寮が近づいてきたころ、クラーナは自分で歩こうとした。しかし、彼女は一晩中あの教室にいたせいか寒さで震えていた。

 オスカーはさっきエストに無理やり着せられたセーターを脱いで、クラーナに無理やり着せた。

 

「ちょっと!? なにするんですか!」

 

 オスカーはこのセーターの不思議なあったかさが今のクラーナには必要な気がしたのだ。

 

「一晩もくっそ寒いとこにいるのが悪いだろう」

「だからってこんな趣味の悪いセーターを着せる必要はないでしょう!?」

 

 そう言いながらもさっきより、クラーナの顔色は良くなっている気がした。

 

「クリスマスプレゼントだ。大事にしろよ」

「銀に緑とかもろにスリザリンじゃないですか、しかもOとかどう考えてもオスカーのOでしょう?」

 

 いつもの調子が戻ってきたのでオスカーはもう大丈夫だと思い、スリザリン寮に帰ることにした。

 

「ドロホフ。私からもクリスマスプレゼントをあげましょう」

 

 何か後ろから声が聞こえる。少なくともクラーナが何か持っていたとは思えないのだが。

 

「私のファーストネームで呼ぶことを許しますよ、さっきは勝手によんでたみたいですけどね。オスカー、メリークリスマス」

 

 そう言って、クラーナはグリフィンドール寮へ戻っていった。

 

 

 

 



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三人兄弟

よくよく読むと、バジリスク作るの簡単すぎる


 クリスマス休暇が終わって、生徒達が学校に戻ってきた。

 オスカー、エスト、クラーナ、チャーリーの四人は相変わらずルーンスプールの面倒を見るため、授業の空き時間には森のはずれのハグリッドの小屋まで向かっているのだ。

 

「どうして、オスカーのセーターをクラーナが着てるの?」

「クリスマスプレゼントにオスカーから貰いました。貴方やチャーリーとお揃いとは知りませんでしたけど」

「そういうことじゃないの! というかこれだとオスカーだけ仲間外れみたいになっちゃうの」

 

 エストはプンプンして怒っていて、クラーナとオスカーを交互に見ている。

 

「オスカーからこれを貰わなかったら私が仲間外れになっていたわけですか、なるほど」

「あああ、もうそうじゃなくて…… って!? なんでクラーナがオスカーを名前で呼んでるの?」

「クリスマスプレゼントです」

「意味わかんないの!」

 

 どうも、モリー・ウィーズリーからもらったセーターをクラーナに渡したのは良くなかったらしい。

 いつもクラーナを困惑させているエストが今回はクラーナの手玉に取られている。

 というかクラーナのクリスマスプレゼントはクラーナの名前をオスカーが呼ぶことだった気がするとオスカーは思った。

 

「エストが困らされているのは珍しいね」

「確かに、大抵こっちが困惑するからな」

「まあ来年はママにクラーナの分も送ってもらうように頼んどくよ」

「そうしてもらった方がよさそうかもな」

 

 男子二人が話している間も女子二人は姦しい。この二人が騒がしいのは珍しいと男子二人は思う。

 

「けどいつの間にクラーナと仲良くなったんだ? オスカー?」

「ダンブルドア校長にクリスマスプレゼントを貰ったんだよ、俺とクラーナは」

「なにそれ! というかオスカーもクラーナのことクラーナって呼んでる! エストのことはずっとプルウェットって言ってたのに!!」

「まあクリスマスプレゼントだし」

「ええ、クリスマスプレゼントなので」

「絶対おかしいの」

 

 こんなにハグリッドの小屋への道中が騒がしいのも初めてだった。オスカーはあのクラーナにあげてしまったセーターのあったかさがなぜか今も感じられる気がした。

 

「じゃあ僕のこともチャーリーでよろしく、オスカー」

「ああ、クリスマスプレゼントだ。チャーリー」

「もうクリスマスプレゼントってなんなの! 絶対ずるいもん」

 

 相変わらずエストがギャーギャー騒ぎながらもハグリッドの小屋についた。

 チャーリーが小屋のドアをノックする。

 

「ハグリッド。僕らだよ」

「おお、はいってええぞ」

 

 ハグリッドの小屋に入ると相変わらずファングがこちらに向かってくる。なぜかファングはオスカーによくなついていた。

 

「オスカーみたいな闇の魔法使いの卵が犬に好かれるとは面白いですね」

「何に好かれれば面白くないんだよ、それ」

「やっぱり蛇でしょう。そこにいるルーンスプールとかバジリスクとかその辺ですよ」

「その辺に好かれたら『やっぱり闇の魔法使いでしたね、私の眼に狂いはありませんでした』って言ってくるだろお前」

「当たり前でしょう」

 

 クラーナは相変わらずオスカーを煽ってくる。名前で呼ぶようになってもそれは変わらないようだ。

 

「なんだ。クラーナはオスカーと仲良くなったんか」

「そうなのハグリッド、なんかいきなり仲良くなって怪しいの」

「まあ僕もちょっと怪しいとは思うね」

 

 何か二人には疑われているようだが、オスカーはあの部屋の鏡の話を他の人にするつもりはなかったし、どうもクラーナも同じ考えの様だった。

 

「クリスマスプレゼントです」

「クリスマスプレゼントだ」

 

二人が鉄壁のクリスマスプレゼントでプロテゴを張ると、エストは頬を膨らました。

 

「ほら! ハグリッドもおかしいと思うでしょ?」

「わっはっは、あんなもんだろう。もともと相性も良さそうだったしな」

「それはそうかもしれないけど、絶対怪しいの」

「すまんが、エスト、ちょっとアン・カド・イグをなだめてくれるか?」

「うん」

 

 ファングがなぜかオスカーになついたように、ルーンスプール。ハグリッドとエストはアン・カド・イグと呼んでいる蛇は四人の中では一番エストになついていた。

 ハグリッドとチャーリーは悔しそうだったが、動物の考えることなので仕方がない。

 そもそも名前自体もエストが童話から蛇の頭それぞれにつけて呼び始めたので、それが大きいのではないかとオスカーは思っていた。

 右側からアンチオク。真ん中がカドマス。左側がイグノタスらしい。ルーンスプールは右側の頭が毒を持つので、童話の中で一番危険な人物を右側に当てたらしい。

 

「こいつは口から卵を産むらしいですよ」

「ほんとか?」

「ほんとだよオスカー。ルーンスプールは魔法生物の中で唯一口から卵を産む動物なんだ。これは凄く興味深いことなんだよ」

 

 チャーリーが目を輝かしながら説明してくる。こうなるとチャーリーは止まらなくなる。

 オスカーは隣のクラーナに目配せする。

 

「ハグリッド。なにか手伝うことはあるのか?」

「おお、じゃあ二人位でちょっと外の薪を取ってきてくれるか? アン・カド・イグは寒さによえぇんだ」

「じゃあオスカーと私で行ってきますよ」

「ほら! やっぱりオスカーとクラーナは怪しいの!」

 

 チャーリーとエストの追撃を二人は薪でかわした。

 チャーリーの魔法生物談義に関わると日が暮れてしまうことを二人は知っていたし、さらにそれをハグリッドの小屋でやるとハグリッドも加わって、出歩くのが禁止されている時間ギリギリまで拘束されそうになることも知っていた。

 

「あの二人の魔法生物バカもほどほどにしといて欲しいモノです」

「それには同意する」

 

 すでに切られた薪を取りに小屋の裏手の森まで向かう。

 まだホグワーツは雪の深い季節だったが、薪置き場の周辺は魔法がかかっているのか雪が常に溶けている状態だった。

 

「貴方の趣味の悪いセーターにエストがあんなに反応するとは思いませんでしたよ」

「俺もあんなにこだわるとは思ってなかった」

「というかだいたい貴方が人に貰ったプレゼントを他人に渡すのも悪いんですよ」

 

 咎めるように目を細めてクラーナはオスカーを睨む。だがそもそもオスカーは流石に緑に蛇が刺繍されているセーターを、普通にグリフィンドール生のクラーナが着てくるとは思っていなかった。

 

「クラーナが一晩中鏡を見つめてるからだろ」

「それはそうかもしれないですけど……」

 

 ムムム…… とクラーナは顔をしかめる。オスカーは前から思っていたのだが、クラーナは随分と表情に感情がでやすいと思った。

 

「まあ、いいです。じゃあなんか私からもクリスマスプレゼントをあげますよ」

「はあ? クラーナの名前がどうのこうのじゃなかったのか?」

「あれはあの時はそれしか思い浮かばなかったんです。そもそもあなたの事を私も名前で呼んでますからノーカンですよ」

 

 クラーナは腕を組んでなんでもコイ、という表情で見てくる。

 

「じゃあ決闘の練習に付き合ってくれ」

「は? 決闘ですか?」

 

 こんどはなんだそれ? という顔をする。本当に分かりやすいとオスカーは思う。

 

「前に俺はエストと決闘して負けただろ。さすがに女の子に負けたままだとアレだしな、でもエストに頼むわけにはいかないだろ」

 

 今度は得心した!! という顔になるクラーナ。

 

「ふっふっふ。分かりました。任せておいてください。このアラスターおじさん仕込みの私にかかればあなたを立派な闇祓いにしてあげましょう」

「いや別に闇祓いになりたくて決闘の練習がしたいんじゃないんだが」

 

 これはダメだとオスカーは思った。チャーリーは魔法生物。エストは複雑な魔法や魔法のかかった物品。そしてクラーナは闇祓いとかそういう類のモノ。三人ともそれらのスイッチが入ってしまうと止まらなくなるのだ。

 

「エストは一年生としては異常なレベルの杖使いですから中々対策には骨が折れそうですけど、私が教えるからには大丈夫ですよ」

「いや、教えるんじゃなくて、決闘の練習をしたいんだけど」

「油断大敵!! ですよオスカー。最初は決闘の立ち回りや呪文の有効範囲なんかを基礎として覚えないといけないんです」

 

 油断大敵!! と言うときのクラーナはなぜかオスカーには芝居がかっているように見えた。

 

「確かにまあそんなのは授業でも習ってないし知らないけど」

「でしょう? 大丈夫です。ムーディ家には闇祓いの戦闘に必要な教科書やノウハウが一杯ありますからね、それに最悪アラスターおじさんにふくろうを飛ばせば教えてくれるでしょう」

「いや、マッドアイ・ムーディとかドロホフって苗字だけでアズカバンに送られそうで嫌なんだが」

 

 オスカーの脳裏にはマッドアイ・ムーディとクラーナが二人そろって、吸魂鬼を引き連れオスカーを追い回す地獄絵図が浮かんだ。

 

「まあとりあえず心配しなくても大丈夫ですよ、あとは場所と時間くらいですけど、場所は必要の部屋でいいですし、時間も大丈夫でしょう? ハグリッドの小屋にいる時に決めればいいですし」

「確かに、まあよろしく頼む」

「ふっ、破れぬ誓いでもしときますか?」

「断る。俺はまだ死にたくない」

 

 一年生から破れぬ誓いをしないといけないとかどんな学校なのか、オスカーはホグワーツを疑わないといけないと思った。

 

「そろそろ薪を持って帰りますか、チャーリーも鎮まったでしょう」

「ああ、ロコモーター 薪を運べ!!」

 

 オスカーは薪を魔法で小屋へと持って行った。

 

「あっ! やっと帰ってきたの、ほらやっぱり魔法で運んでるし、絶対一人でも大丈夫だったでしょ」

「いや、寒かったし」

「そうですね寒かったです」

「寒いの関係ないでしょ!! それ!」

 

 エストはまだオスカーとクラーナを疑っているらしい。

 

「ハグリッド、どこに薪を置けばいい?」

「ああ、オスカーそこに置いといてくれ」

 

 魔法で運んできた薪をドサッとルーンスプールがいる場所に近い暖炉の横に置く。

 ルーンスプールの一番右の頭がジロっとオスカーをにらんだ。

 

「ほら、アンもオスカーとクラーナが怪しいって睨んでるの」

「いや、どっちかというとエストと仲良くしてるのが気に入らないんじゃないのか?」

「エストと? なんで?」

「エストに一番なついてるからな、取られるのが嫌なんだろう」

「なるほどね、アンは頭がいいんだね」

 

 エストが近づくと、一番右の頭が頭を差し出し、それをエストが撫でる。

 それを見たほかの頭も我先にと頭を差し出す。そして喧嘩を始めようとするが、エストの顔を見て静かになった。

 

「ルーンスプールを懐かせるのはかなり難しいんだけど、エストは凄いね」

「まあ確かにな、それにしてもほんとにあの頭同士は仲良くないんだな」

「うん、僕も本には書いてあるのは見たけど、ほんとに仲が悪くなるんだね」

 

 あのルーンスプールはどうもエストが見なくなると喧嘩を始めるらしい。そしてエストが見ると怒られたくないのか喧嘩を止めるのだ。

 

「あいつらとバジリスクを掛け合わしたら、三倍目で殺せるようになるんですかね」

「お前の発想の方が俺よりよっぽど闇の魔法使いのそれじゃないのか」

「失礼な、私は闇祓いの卵として最悪の想像を常にしてるだけですよ」

「確かに、バジリスクは鶏の卵から生まれるけど、ルーンスプールの卵をヒキガエルの下で孵化させたらどうなるんだろう」

 

 チャーリーがクラーナのあほな心配を本気で考え始める。

 

「あいつら仲悪いんだから、三頭ともバジリスクになったらお互いににらみ合って終わりだろ」

「二匹が相打ちになるんだから頭は一つのこるんじゃないですか?」

「それじゃ結局ただのバジリスクじゃないか」

 

 その後もチャーリーが何か考察をし続けていたが、オスカーはそんなもの創り出したら、それこそアズカバン行は逃れられないと思った。

 

「それで結局こいつらはどうするんですかハグリッド? いつまでもここにはおけないでしょう?」

「それはそうなんだけんど、せめてあったかくなるまではここに置いといてやりてえんだ」

「確かに、アン・カド・イグは寒いの苦手だもんね」

「僕もそれがいいと思うよ、ハグリッド。冬の間にルーンスプールを保護してもらえる場所を探しておこうよ」

「おう、四人ともありがとうな」

 

 ハグリッドは四人に感謝しているが、そもそも保護してもらうときにどうやって手に入れたと言い張るつもりなのか、オスカーには分からなかった。

 

 

 

 




※アンチオク、カドマス、イグノタス・ペベレル
死の秘宝を創り上げたと言われる魔法使い。

※破れぬ誓い
魔法使い同士の契約。破ると死ぬ。
原作中ではセブルス・スネイプとナルシッサ・マルフォイが使用。


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水の妖精

七変化って本編では大して役立ってない気がする


 青い泡の様な膜で覆われた部屋の一角でクラーナとオスカーは杖を振っている。

「インペディメンタは妨害呪文です。相手の動きを止めたり、魔力を多く込めれば吹き飛ばして呪文を中断することができます」

 クラーナが青い膜の中を飛んでいる小鳥に呪文を唱えると、小鳥はポトリと地面に落ち動かなくなる。しかし、しばらくたつとまた立ち上がって飛び始めた。

「オスカーは盾の呪文は使えるみたいですから、攻撃呪文としてまず妨害呪文を覚えてはどうでしょうか」

「確かに、この呪文なら相手を傷つけずに止めることができるのか」

「そうです、相手の動きを止めるなら、失神呪文か全身金縛り呪文、そしてこの妨害呪文が有効です」

 そういって今度は別の呪文を飛び交う小鳥に打ち始める。

「ステューピファイ 麻痺せよ!! ペトリフィカストタルス!! 石となれ!!」

 今度の呪文が当たった小鳥は完全に動かなくなった。

「しかし、失神呪文は当たり所が悪いと最悪、あの世行きになる可能性もあるそうですから、最初は妨害呪文と全身金縛り呪文を覚えるべきでしょうね」

「武装解除呪文はどうなんだ?」

「アラスターおじさん曰く、相手が杖を二本持ってたらどうするんだ? えぇ? だそうです」

「なるほどな」

 

 オスカーとクラーナは約束通り、決闘の練習を必要の部屋でし始めていた。

クラーナのマッドアイ仕込みの戦闘術をマスターするために、オスカーはまず、基本的な呪文を覚えることから始めていた。

 しばらくは呼び出した小鳥や、小動物を目標として呪文の練習を行う予定だった。

 

「しかし、前にエストにけがをさせたグリフィンドールの生徒が言ってましたけど、オスカーが問題を起こしたら退学になるっていうのは本当なんですか?」

 

 妨害呪文で小鳥とアナグマを停止させていたオスカーが、クラーナの方を振り向かずに答える。

 

「本当なんじゃないか? そもそも俺のホグワーツ入学はダンブルドア校長と見張りの闇祓いが推薦しなかったらこんなに簡単にいかなかっただろうしな」

 

 また動き出したアナグマを今度は全身金縛り呪文で動けなくする。

 

「そうですか、忠告ですけどこの前のあの連中、懲りずにまたやってくると思いますよ」

 

 オスカーの脳裏には以前の襲撃で傷ついたエストが浮かぶ。思わず呪文に力が入り、妨害呪文を食らった小鳥が防護呪文の青い泡まで吹っ飛んでいった。

 

「なるほどな、しばらくはこの練習を口実にしてエストと一緒にハグリッドの小屋に行かない方がいいみたいだな」

 

 オスカーがまた妨害呪文を唱えるが、アナグマも小鳥と同様に青い泡まで吹き飛んでいった。

 クラーナが冷めた目で小動物が吹き飛ぶ様子を見た。

 

「はぁ。とりあえずアホのファッジに気を付けた方がいいですよ、あんななりと脳みそでも五年生で魔法省の大物の甥ですから」

「ファッジ?」

 

 オスカーは練習にならないとばかりに頭を掻きむしってクラーナの方を振り向いた。

 

「あなたを襲ってた大柄な上級生ですよ、ルーファス・ファッジ。魔法事故惨事部の長、コーネリウス・ファッジの甥に当たりますね」

 

 オスカーの頭の中にグリフィンドールの生徒を引き連れて歩いていた大柄な上級生が思い浮かぶ。

 前回、エストに直接的にけがを負わした相手だと思いだした。

 

「そいつを聖マンゴ送りにしたら退学は間違いなさそうだな」

「あなたはアズカバン送りかもしれませんね」

 

 クラーナはなにやら楽しそうに笑ったがオスカーは面倒な相手だと思った。下手をすれば下らない呪いでさえファッジに当てただけで、オスカーの進退が怪しくなるからだ。

 

「まあ今は呪文を覚えて戦闘方法を学ぶことですね、備えあれば憂いなし、油断大敵!! ですよオスカー」

 

 青い泡の傍で気を失っている小動物の気を杖で戻しながらクラーナがそう言った。

 

 

 

 

「オスカー、それじゃあそろそろお暇しますか」

「ああ、チャーリー、エストがルーンスプールに乗って城に行かないように見張っといてくれ」

「わかったよ」

 

 ハグリッドの小屋でのルーンスプールを世話の最中、オスカーとクラーナは呪文の練習の為、早めに抜けようとしていた。

 

「オスカーとクラーナは絶対怪しいもん!!」

「だからこの闇の魔法使いの卵は貴方に負けたのが悔しくて、決闘の練習をしているって言ってるじゃないですか」

「決闘の練習ならエストでも教えれるし」

「それじゃあ何時までたってもオスカーは貴方に勝てないじゃないですか」

「うぅ…… 勝てなくてもいいでしょ?」

「エスト、それはオスカーの男としてのプライドがあるんだと思うけど」

「むぅ、オスカーはクリスマスからいきなりクラーナと仲良くなりすぎなの」

 

 エストが意気消沈したせいでルーンスプールがオスカーを睨んでくる。どうもこの蛇は完全に自分を敵として認識したようだとオスカーは思った。

 

「じゃあハグリッド、また明日も来ますね」

「おお、クラーナ、オスカー、また来いよ」

 

 ルーンスプールがプシャアプシャアと鳴いてエストの気を引こうとしているのを聞きながらオスカーとクラーナは必要の部屋へと向かった。

 校庭を越え、城の中を進んでもグリフィンドールの生徒が襲撃をしてくる様子はなかったので、オスカーは少し息をついた。

 最近、クラーナの忠告通り、グリフィンドールの生徒がまたちょっかいをかけてくるようになっていたのだ。

 しかし、必要の部屋がある階にたどり着き、現れた部屋のドアを開けようとした瞬間、ドタドタドターンと何かが転がり落ちるような音がした。

 

「何者ですか!!」

 

 クラーナが音の方向へ杖を向ける。

 

「いったぁ…… あっ!? ヤバ…… バレちゃった」

 

 階段の下でオスカーと同じくらいの年の女の子がうずくまっている。ケバケバしいピンク色の髪には見覚えがなかったが、その顔や声には覚えがあった。

 

「あなた、ハッフルパフのニンファドーラ・トンクスでしょう? なぜ私たちをつけていたんですか?」

「えっ? いや、その、なんといいますか……」

 

 顔がはっきりと見え、クラーナが名前を呼んだことで誰なのかオスカーにもはっきりと分かった。

 組み分け前に髪の毛の色を十分ごとに変えたりして、目立っていた女の子だ。確か何度か授業でも一緒になっていたはずだ。

 

「あなたの身内がこの闇の魔法使いの卵の親に殺されたなんて話は聞きませんけど、何用ですか?」

「や~ その何と言いますか」

「はっきりしたらどうですか!!」

「うっ…… だってみんながムーディとドロホフは怪しいっていうから、尾行してはっきりさせようと思ったんだけど」

 

 クラーナが眉を吊り上げてトンクスを詰問する。しかし、オスカーにはこのトンクスが何か悪意を持って二人をつけていたようには思えなかった。

 

「なんですか怪しいって?」

「だって、ドロホフとプルウェットはクリスマス前に喧嘩してて、クリスマスが過ぎたらなんかムーディとドロホフが一緒にいるようになったから、みんなムーディがドロホフをプルウェットから奪ったんじゃないかって言うんだもん」

「な…… なんですかそれは!? 私がこのアズカバンに送られそうな顔をしている男とどうにかなるとでも?」

 

 クラーナが顔を赤くして青筋を立てている。オスカーはクラーナがオスカーを表現するときに闇の魔法使いとか、アズカバンとかつけるのはそろそろやめてくれないかなと思った。

 

「だって今も人気がない場所に一緒に向かってたし、そのセーターもスリザリンのデザインにオスカー・ドロホフのイニシャルが入ってるでしょ?」

「う…… それはまあ色々あるんですよ!! とにかく。私とオスカーがどうにかなってるとか、エストからオスカーを奪い取ったとかそんな事実はありません!!」

「じゃあいったいこんな場所で何してたの?」

 

 最近エストをおちょくれるようになっていたクラーナが珍しく劣勢に立たされているなとオスカーは思った。

 

「オスカー!! 貴方からこのアホのトンクスに説明してください!!」

「いや、アホってな…… 部屋の中を見せればわかるんじゃないのか?」

「部屋の中? って言うか、そこってなんもない壁じゃなかったっけ?」

 

 トンクスはようやく必要の部屋の扉に気づいたのか目を丸くしている。

 

「仕方ないですね、トンクス、貴方も必要の部屋に入れば分かりますよ」

「必要の部屋?」

 

 クラーナが扉を開けるといつも練習に使っている必要の部屋が現れる。

青い泡の保護呪文のかかったスペース。呪文学、変身術、闇の魔術に対する防衛術に関する本が入った本棚。かくれん防止器や敵鏡、うそ検知器といった防犯用の魔法具。

いつ見ても魔法による戦闘を学ぶためにはこれ以上無いと言えそうな部屋だった。

 

「ワァーッ! なにこれ? こんな部屋がホグワーツにあったの?」

「あった、というのは語弊があるでしょうね、現れると言った方がいいでしょう」

「現れる?」

「この部屋は本当にやりたいことがある人に沿った部屋になるらしい」

「本当に? すごい!!」

 

 トンクスは部屋に入るなり色々なものに手を伸ばし始め、かくれん防止器やスニースコープをひっくり返していた。

 クラーナがそれを白い目で見ている。

 

「で? 二人はこの部屋で何をしてたの?」

「何って、女の子にも勝てないオスカーを鍛えてるんですよ」

 

 トンクスが何をいっているのか分からないという顔でオスカーを見る。

 

「この男はグリフィンドールのアホどもに襲撃されてたわけですけど、それをかんがみて自分の傍にいるとエストを傷つけるからと言って彼女を遠ざけてたわけです」

「クリスマス前の喧嘩っていうのがそれなのね」

「それでエストレヤ・プルウェットはこの根性なしのオスカーに決闘を挑んでボコボコに打ちのめし、私の方が強いから傍にいろって言ったわけです」

「わあああ、プルウェットってカッコイイわね」

 

 オスカーは二人の話を聞いて段々顔が赤くなってきた。

 

「で、女の子にボコボコにされたオスカーは強くなろうと思って私に泣きついてきたわけです」

「プルウェットを守る為ってことでしょ? ドロホフもカッコイイ」

 

 オスカーは自分の顔がさらに赤くなったと思った。

 そもそも決闘の練習を頼んだのはクラーナがクリスマスプレゼントを要求しろと言ったのが始まりじゃないのかとオスカーは思う。

 

「ねえ? 私も二人の練習に参加していい? こんな面白そうなことやってみたいと思うに決まってるじゃない」

「ええ…… 練習にトンクスがですか?」

「あれ? やっぱりドロホフと二人きりがいいってこと?」

「なんでそうなるんですか!! 貴方は授業でも色々ドジをやるじゃないですか!! 決闘の練習でそれがでないか心配なんですよ!」

「ちょっとそれはひどくない? いくら私がドジをやるからって、ムーディやドロホフを決闘にかこつけて細切れにしたりはしないと思うんだけど」

「まあ俺はなんでもいいけど」

「さっすがドロホフ、カッコイイよ」

「なに調子いいことを言ってるんですかこの女」

 

 クラーナとトンクスはワーワーギャーギャーと言い合っているので、オスカーは動物を呼び出し呪文の練習を始めた。

 ここまでの練習はうまくいっており、人間大の動物でも妨害呪文、失神呪文、全身金縛り呪文の効果を出すことに成功していた。

 

「ねえ、ドロホフちょっと待ってよ」

「なんだ? トンクス」

「なんだって、私たちまだ自己紹介してないでしょ?」

「そうですよ、この女自分から入れてくれとか言っといて自己紹介もしてないです」

 

 確かにトンクスは目立つので知ってはいたが、お互いに自己紹介をした記憶はないとオスカーも思った。

 

「私はニンファドーラ・トンクス、ハッフルパフの一年生よ。ニンファドーラなんてばかげた名前じゃなくてトンクスって呼んでね」

 

 トンクスがこちらにウィンクしながら名乗る。

 

「オスカー・ドロホフだ。オスカーでもドロホフでも好きに呼んでくれ」

「クラーナ・ムーディです。私も好きに呼んでもらっていいですよ、ニンファドーラ」

 

 クラーナがにやりと笑ってニンファドーラとトンクスを呼ぶと、トンクスの顔に青筋がたつ。

 

「へえ、やっぱりクラーナはオスカーとの二人の時間が邪魔されるのが嫌だと思ってるのね」

「なんですかそれは!! しつこいですね」

 

 やっぱりこの二人は相性が悪いのだろうか? エストとクラーナの組み合わせでもここまでうるさくはないとオスカーは思う。

 

「なんでってこんな顔してるわよ、クラーナ」

 

 そう言ってトンクスは目をぎゅっとつぶって鼻をつまんだ。

 するとクラーナそっくりの顔と髪の色になった。

 

「あなたやっぱり七変化なんですね、というか人の顔になるのはやめてください」

「七変化?」

 

 オスカーは聞きなれない言葉だった。

 するとクラーナそっくりの顔でトンクスがオスカーに答える。

 

「つまり、外見を好きなように変えられるのよ」

 

 能力には感心したが、クラーナの顔でトンクスの声が聞こえてくるのは何か気持ち悪いとオスカーは思った。

 

「七変化はパーセルタングとかと一緒で遺伝性の能力です、非常に珍しい能力ですけど自分の顔に変わられるのはむかつきますね」

 

 オスカーは羨ましい能力だと思った。常に違う顔をしていればグリフィンドールの生徒達をまくことだって容易だと思えたからだ。

 

「便利な能力だな、誰かのふりをすれば逃げるのは簡単そうだし」

「まあ確かに能力は凄い便利ね、こんな風にクラーナをおちょくれるし」

 

 そういってトンクスはクラーナの顔のまま必要の部屋を再度物色しだす。

 

「くっそむかつきますねあの女、でもトンクスに協力して貰えばグリフィンドールのあほどもをなんとかできるかもしれません」

 

 本物のクラーナはもう一人のクラーナを見て、何かを思いついたという顔をした。

 

 

 




※ルーファス・ファッジ
コーネリウス・ファッジの甥。
原作中ではマグルの地下鉄を消失させ、魔法省の尋問に会う。


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無言呪文

アバダは無言呪文できるんだろうか?


 雪が解け始め、春が近づいてきた。ハグリッドの小屋にいるルーンスプールはもう小屋の中には入り切りそうにないほどの成長をしていた。

 またルーンスプールの世話をするメンバーにトンクスが仲間入りしてからもう二ヶ月以上がたっていた。

 

「スタージスがね、魔法生物規制管理部のOBに知り合いがいるんだって、その人はスキャマンダーさんの同僚だったらしいんだよ」

「スキャマンダーって、ニュート・スキャマンダー? 幻の動物とその生息地の?」

「うん、その人ならルーンスプールがいっぱいいるブルキナファソにも顔がきくらしいの」

「まあその人にまかせるのが一番いいでしょうね、こいつらもう一月たったらこの小屋ごと丸呑みにしそうですから」

 

 ルーンスプールは今はプシュー、プシューといって大量のネズミや何かわからない肉を食べているが、狭い小屋に閉じ込められているストレスなのか、エストがいないときはお互いの首を攻撃し合っているらしい。

 それを止めているせいなのか、ハグリッドの顔や腕には最近生傷が絶えないようだ。

 

「その人っていつ来るの? 二か月後とかだったらクラーナの言う通りにこの部屋ごと私たち食べられちゃうんじゃない?」

 

 トンクスがルーンスプールを見上げながら言う。

 

「スタージスがふくろう便を送ったら、二週間後に準備して来てくれるって、返ってきたって言ってたの」

「アン、カド、イグ、ごめんなあ、俺が面倒を見切れないばっかりに……」

 

 ハグリッドはルーンスプールの方を見て涙目になっているが、ルーンスプールの方はプシュー、プシューと言って威嚇しているようだ。

 そもそもこの蛇はエスト以外に全く懐くそぶりがなかったとオスカーは思う。

 

「ハグリッド、仕方ないよ、ルーンスプールにとってはイギリスは寒すぎるし、なんか書物よりも凄い速さでおっきくなっているからね」

 

 チャーリーがハグリッドを励まそうとしている。確かにチャーリーの言う通り、幻の動物とその生息地に乗っていた大きさよりもはるかにルーンスプールは大きくなりつつあった。

 

「チャーリーたちもありがとうな、こいつも多分、みんなのことを親だとおもっちょる」

 

 エスト以外の四人はそれはないなと顔を見合した。現に今も威嚇されている。ハグリッドはヒックヒックと涙目のまま、小屋の外にルーンスプールのエサを取りにいった。

 

「まあルーンスプールはどうにかなりそうですね、そろそろ私たちは練習に向かいますか」

「ボス、了解です!!」

 

 トンクスはそう言った途端、オスカーの顔を見ながら自分鼻をつまんで顔を変えた。

 するとそこにはオスカーそっくりの顔になったトンクスの姿があった。

 

「いつ見てもオスカーが二人いるのにはなれないの」

「当事者の俺はもっとなんか気持ち悪いな」

「トンクスの七変化はいつ見ても凄いな」

 

 みんながその姿に口々に意見を言う。

 トンクスがオスカーの顔でクスクス笑う。

 

「じゃあ先に出てクラーナとデートしてくるわ」

 

 トンクスがクラーナの肩に腕を回す。

 するとその腕をクラーナが振り払って叫ぶ。

 

「その顔でデートとか言うの止めてください!! さぶいぼが立ちますよ!!」

「じゃあオスカーはしばらくたってから来てね?」

「ちょっと、その腕を回すの止めてください!! しつこいですよ!!」

 

 二人がまたギャアギャア言いながら外へ出ていった。

 

「やっぱり三人はずるいの、なんか三人とも楽しそうだし」

「仕方ないんじゃない? グリフィンドールの談話室じゃ、ファッジがオスカーを捕まえてやるとかなんとかずっと言ってるからね」

「まあルーンスプールをなだめれるのはエストだけだしな」

「それはそうだけど、なんか仲間外れな感じなの」

 

 そう、ファッジが旗頭になってオスカーを捕まえようと最近、グリフィンドールの生徒は躍起になっている。

 それを回避するためにトンクスが七変化でオスカーに化けて囮となっているのだった。

 オスカーは内心、トンクスとクラーナの事が心配ではあったが、当の二人はファッジを困らせることが楽しくて仕方ないようだった。

 

「まあそろそろ行ってくる。ルーンスプールの方はよろしく」

 

 そういってオスカーはハグリッドの小屋を出た。必要の部屋までの道中にはいくつか遠回りして行くことでグリフィンドールの生徒と出会うことはなかった。

 途中、フィルチの飼っている猫、ミセスノリスにつけられて面倒ではあったが特にオスカーが規則破りをしているわけではないはずなので無視した。

 必要の部屋に入るとまた二人がギャアギャアと言い合っている。

 

「だから、その顔でベタベタするの止めろって言ってるじゃないですか!! だいたいオスカーの顔になるのは途中まででいいという話だったでしょう!!」

「でもそれじゃあ面白くないでしょ? あの仕掛け階段に挟まったファッジの顔は傑作だったわね」

「ファッジの顔は最高でしたけど、貴方がオスカーの顔でファッジを仕掛け階段にはめたせいで多分、フィルチがオスカーをマークしてますよ」

「なんで? 校則を破ったわけじゃないでしょ?」

「あの後、切れたファッジが無茶苦茶に呪文を撃って肖像画が焼けてましたから、フィルチが飛んできてたんですよ」

「あ~、それでファッジが捕まって、フィルチにオスカーの名前がでるって言うことね」

 

 オスカーは自分の顔が悪用されるということが恐ろしいことだと認識した。さっきのミセスノリスのマークは二人が話していることが原因だったのだろう。

 

「それでさっきミセスノリスに追っかけられたのか」

「あ、やっと来ましたね、ほらオスカーも来たんですからその顔止めてください」

「あちゃあ、完全にマークされてるみたいね、ごめんねオスカー」

 

 そういってトンクスは鼻をつまんで今度はクラーナの顔になった。

 しかめっ面のクラーナとニコニコ笑っているクラーナが並んでいるのは何とも言えない奇妙な感じだった。

 

「こいつほんとに懲りませんね、まあとりあえずこいつは放っておいて、無言呪文についてこれからはやりましょう」

「無言呪文? それってすごい難しいやつじゃない?」

「当然です、無言呪文は本来ホグワーツではふくろう、O. W. L.試験、つまり五年生の試験を突破した学生だけが履修する内容ですから」

 

 クラーナの顔はいつもにもまして真剣だった。

 

「つまり、イモリ、N.E.W.T試験レベルだということです」

「そうとう習得するのは難しいってことなのか?」

「ええ、まあこれまで私たちが練習してきた呪文のいくつかはすでにO. W. L.試験を受ける五年生が習得する内容も含まれていましたから、それほど一気にレベルアップというわけじゃないですけどね」

 

 しかし、クラーナの顔はなにやら難しそうである。

 

「問題は、これまでは二人に教えるなんてことを言ってましたけど、私もこの無言呪文はつかいこなせるわけじゃないんです」

 

 クラーナは無言で杖を振ると、棚に置かれていた、かくれん防止器が浮かぶ。

 

「こういうふうに簡単な浮遊呪文なら、使えるんですけど、これまで練習してきた失神呪文とか炎や水を出現させるような呪文は難しいですね」

 

 確かに、これまでは呪文とその言葉によって明確なイメージがあり、効果を生み出していたのだから、相当に無言呪文というものの習得が難しいことは予想できた。

 

「でもこの無言呪文って戦闘だと凄い有利になるってことよね?」

「ええ、トンクスにしてはまともな意見ですけど、無言呪文はとんでもないアドバンテージを得ることができます。なぜなら相手にはなんの呪文なのかわからないからです」

「呪文を防ごうにも、解除しようにも何の呪文かわからないとどうにもならないってことか」

「そうです、失神呪文にしろ、全身金縛り呪文にしろ、反対呪文がありますけどなんの呪文か分からないと対処のしようがないですから」

 

 三人は無言呪文について学ぶ為、先に教科書の内容を読むことにした。これまでの呪文の練習とは違い、無言呪文が何でどうやって使えるようなるのか理解しないと使えない気がしたからだ。

 三人でしばらく六年生の教科書とにらめっこしていると、トンクスが飽きたのかクラーナの顔でおしゃべりを始める。

 

「というか無言呪文まで覚えないとエストには勝てないの? 結構この二か月くらいで色んな呪文を覚えたし、正直私たちのレベルって一年生じゃあ抜けてると思わない?」

「なぜ私の顔でいる必要性があるのかはわかりませんが、確かに私たちのレベルは一年生にしては抜けていると言えるでしょう」

 

 トンクスはクラーナの顔でほらやっぱりと言わんばかりの顔をする。

 

「じゃあやっぱり、エストといないところでオスカーと練習したいだけじゃない?」

「またそれですか!! 違うって言ってるじゃないですか!! エストは確かに一年生ですけどとんでもない杖使いです。変身術や呪文学でのあの子の実力は貴方もよく知っているでしょう?」

 

 オスカーとトンクスの脳裏に授業中のエストの様子が浮かぶ。確かにマクゴナガル先生やフリットウィック先生がエストに点数を与えない授業というのは珍しいと言っていいだろう。

 それほど彼女の魔法に対する才能はずば抜けていた。

 

「普通、一年生どころかN.E.W.Tレベルになるまで、出現呪文を使って決闘をするなんてことは難しいんです。大多数の死喰い人でさえ変身術や出現呪文を使って戦闘する人間はいないと聞きました。なぜか分かりますか?」

「戦闘中に集中しないといけないからか?」

「そうですよオスカー、戦闘中には呪文に集中せず、相手の動きに集中してできるだけ最低限の呪文で相手をやっつけることが理想なんです。そのためのタイムラグがない無言呪文です」

 

 前回、必要の部屋で決闘をした際にエストがいくつもの剣を呼び出して操っていたことを思いだす。

そもそも一年生の変身術では多くの人間はマッチ棒を針に変えるのがやっとであるし、出現させるというのは非常に難しい芸当であることが予想できた。

 

「エストはその変身術を使った決闘ができるの?」

「ええ、前回の決闘では複数の剣を呼び出して、肥大呪文で巨大化させてからそれを操って、オスカーをみじん切りにしようとしてましたから」

 

 トンクスがヒューと口笛を鳴らす。

 

「あほのトンクスは放っておいて話を続けますけど、エストは多分それらを決闘中に苦も無くできる実力の持ち主です。確実に勝つためには無言呪文で速攻畳みかけることが重要でしょう」

「それか俺が変身術を覚えるってことか?」

「それも手ではありますけど、私もトンクスも貴方もマッチ棒を針に変えるのがやっとじゃないですか?」

「確かにな」

 

 オスカーはエストに教えて貰ってマッチ棒を針に変えるのがやっとだった。あの巨大な剣や盾を柔らかいスポンジに変えるなんて芸当はできそうにない。

 クラーナのマッドアイ仕込みの戦闘術を覚える方がよっぽどエストに勝つためには近道だと思えたのだ。

 

「でも、エストってその変身術を使った決闘の仕方って誰に教えてもらったんだろ?」

「確かに、エストは図書館に籠ってたし、それ以外の時も寮にも帰らずにどこかで練習してたみたいだったな」

「それは私も疑問でした。一人ではあんな短時間で戦闘方法を確立できるとは思えないです、私がエストに頼まれたのはオスカーとの決闘のお膳立てだけでしたから」

 

 三人でしばらく考えていると、トンクスが思いついたという顔をクラーナの顔でする。

 

「スタージス・ポドモア先生じゃない?」

 

 本物のクラーナがなるほどという顔をする。

 

「確かにあの口を開けばエストに点数を与える先生ならあり得ますね」

 

 闇の魔術に対する防衛術ではそれこそ、本当にエストが口を開くたびにポドモア先生は点数をあたえていた。

 

「マクゴナガル先生やフリットウィック先生が決闘の仕方を教えるとは思えないしな」

 

 厳格なマクゴナガル先生が決闘の仕方を教えるとはとてもじゃないがオスカーには想像できない。

 

「なら私たちもポドモア先生に無言呪文を教えて貰えばいいんじゃない?」

「ポドモア先生にですか? けどどうやって説得するつもりなんですか?」

 

 またあほなことを言い出したとばかりにクラーナはトンクスを見る。

 

「だって、変身術を使った決闘法を一年生の生徒に教えるなんて、他の先生に伝えたら困ったことになるんじゃない?」

「なるほど、闇の魔術に対する防衛術の先生を脅すということですか」

「そういうこと」

 

 トンクスとクラーナは同じ顔をして、ニヤリと笑った。

 オスカーは二人の方が自分よりよほど闇の魔法使いに近いなと思った。

 

 

 

 




※ニュート・スキャマンダー
幻の動物とその生息地の著者。
ファンタスティック・ビーストの主人公。



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七変化

ダームストラングの船ってポートキーみたいなものなんだろうか


 スタージス・ポドモアは豊かな麦色の髪をした魔法使いだ。

 陽気そうな顔に違わず、授業や話す内容も陽気で明るく、授業自体にも人気があった。

 エストやクラーナの話では、かつて死喰い人と戦っていたダンブルドア傘下の組織の一員でもあったらしい。

 しかし、陽気で気がいいのも考え物だとオスカーは思った。

 

「やあやあ、エスト君にオスカー君、クラーナ君いらっしゃいな、君たちならいつでも歓迎だよ」

「スタージス、前に決闘のこと教えてくれてありがとうね、ちゃんとオスカーに勝てたよ!」

「おや…… それはまあ、オスカー君にはご愁傷様としか言いようがないね」

 

 スタージス・ポドモアは陽気に笑う。やはり、エストに決闘術を教えたのはポドモア先生に間違いないようだ。

 

「けど、教えてくれて良かったの? もしかして教えてくれたことをマクゴナガル先生とかに言ったらちょっと不味いことになる?」

「いやあ、まあ一年生の決闘の手伝いを校長の許可なしにやったとなるとちょっと問題になるかもしれないね、でもオスカー君もエスト君もケガはなかったんだろう?」

 

 少しだけ、ポドモア先生が目線をそらしたのをオスカーは見逃さなかった。

 

「やっぱりね、そんな危険な魔法を一年生に教えるのは問題になるみたい」

「そりゃ当然でしょう」

 

 そういってエストの顔をしたトンクスは鼻をつまんで、いつものトンクスの顔に戻る。

 

「君はハッフルパフのニンファドーラ君……?」

「ニンファドーラじゃなくて、トンクスと呼んでください。ということで、今度は私たちに無言呪文を教えて貰えますか? エストには内緒で」

「それはまた一体どういう……」

「簡単なことです、ポドモア先生。マクゴナガル先生達にはエストに決闘術を教えたことは言わないので、我々に無言呪文を教えてほしいということです」

「いやあ、それは、なんというか、さらに問題を増やしているだけというか……」

 

 ポドモア先生はオスカーに助けてくれと視線を投げてきたが、それを無視せざるを得なかった。笑っている二人の顔が怖かったのだ。

 

 

「いやあ、ポドモア先生を巻き込んだのは正解でしたね」

「本当ね、ポドモア先生が着いてきてくれるおかげで、ファッジをからかえなくなったのは残念だけど」

「まあ無言呪文のイメージが分かる人に教えて貰うっていうのは正解だったな」

 

 そう、それから三人はポドモア先生に無言呪文の個人教授をして貰っていたが、移動の際にもポドモア先生が随行してくれるので、ファッジを筆頭としたグリフィンドール生の襲撃を躱すことができていた。

 

「そう言って貰えるのは嬉しいけれども、君たちは本当に優秀だよ、この年で無言呪文のいくつかをマスターするとは」

 

 ポドモア先生は本当に感心しているようだった。ただ、オスカー達だけに教えるのがエストに悪いと思っているのか、授業ではさらに激しく点数を与えていた。

 

「僕も、ホグワーツの六年生の時には無言呪文にてこずったものだからね」

 

 オスカーが無言で放った赤い光線がアナグマを打ち抜くとアナグマはピクリとも動かなくなった。隣ではクラーナやトンクスが同様に光線を無言で出している。

 

「エスト君も含めて今年の一年生は本当に豊作だね」

 

 そういってうんうんと頷いている。

 

「ポドモア先生、そろそろルーンスプールを迎えにいく時間じゃないですか?」

「おっとそうだったね、あのサイズのルーンスプールを運ぶとなると並大抵のことじゃないからね」

「うーんと、じゃあオスカー君、僕と一緒にルーンスプールを輸送する人達を迎えに来てくれるかな? クラーナ君とトンクス君にはルーンスプールの方を船着き場へ向かわせるようにハグリッド達に言いに行ってくれるかな?」

「わかりました」

 

 クラーナとトンクスはそれを聞いてハグリッドの小屋へと向かった。

 ポドモア先生とオスカーは輸送のための魔法使いたちを迎えに正面玄関に向かう。

 

「知ってるかい? 今回はダンブルドア先生もルーンスプールを見に来るみたいだよ」

「ダンブルドア校長先生がですか?」

「ああ、今回のルーンスプールはホグワーツに紛れ込んだものをハグリッドが育てたことになってるからね、それにあのサイズのルーンスプールなんてイギリスではそうそうお目にかかれないよ」

 

 ダンブルドア校長からすれば全てお見通しということなのかとオスカーは考える。自分達のやっていること、必要の部屋で魔法の練習をしていることや、ポドモア先生に無言呪文を習っていることもダンブルドア校長からすれば全て見通していることなのかもしれない。

 オスカーはクラーナとみぞの鏡の前で出会ったダンブルドアの全て見通すような目が忘れられなかった。

 

「ああ、あの一団だろうね、なんとはるばるアフリカはブルキナファソからやってきた人までいるらしい」

 

 確かに玄関ホールにはホグワーツやイギリスの魔法族が集まるダイアゴン横丁等では見ないような恰好をした集団がいた。

 なんというか、部族? とでも言った方がいいのか、羽根飾りが沢山ついた服装に顔にはいくつものタトゥーがあった。

 

「おおこれはオスカーとスタージスじゃな、ご苦労様じゃ、今、ルーンスプールを輸送する方たちには話をしたところじゃ」

 

 オスカーとポドモア先生の背後から声がする。さっきオスカーが思い浮かべた通りの眼をしたアルバス・ダンブルドアが立っていた。

 

「では船着き場の方にいこうかの、ミスター・ラブグッド」

 

 そう言うと、輸送団の代表者らしき人がダンブルドアに向けて一礼した。ダンブルドアが歩き出した為、そこにいた全員は付き従って歩き始めた。

 

「オスカーとはクリスマス以来じゃな」

「夕食や昼食を含めなければそうなりますね」

 

 ダンブルドアは何が面白いのか微笑んだ。

 

「そうじゃの、しかし、あの時はクラーナと友人になったようじゃが、なんとも君の周りには面白い人の輪があるようじゃ」

「人の輪? ですか」

 

 ダンブルドアの声は何か羨ましそうな声色だった。

 

「そうじゃ、ホグワーツでは寮ごとの結束は固いが、寮を越えた結束となると数えるほどしかないものなのじゃ」

 

 オスカーはハグリッドの小屋からルーンスプールを移動させているであろう、エスト、クラーナ、チャーリー、トンクスの四人の顔を思い浮かべた。

 

「お互いの頭を攻撃し合うルーンスプールの世話が、三つの寮の五人を引き合わせるとはなんとも不思議なものじゃ」

 

 やっぱり、ダンブルドアにはルーンスプールの世話をしていることも最初から筒抜けだったのではとオスカーは思う。

 そうこう話している間に、一団は城を抜けて、船着き場が見える校庭を歩いていた。

 しかし、シャー!! という何かものものしい叫び声が聞こえ、魔法の光線が行きかっているのが見えた。

 

「アン、カド、イグ、ダメ‼‼」

「いかん!! アン、カド、イグ!! どぅどぅ!!」

 

 エストとハグリッドのなだめる声が聞こえるが、二人が収めようとしていたルーンスプールはわき目も降らずにグリフィンドール生徒と思わしき一団に向かって行った。

 

「ひぃいいいい!! なんでルーンスプールが俺らに向かってくるんだ。こっちにくるな、ステューピファイ!!」

「ダメだ!! 逃げろ!!」

「おい、お前ら俺を置いて逃げるんじゃねえ!!」

 

 グリフィンドールの生徒は散発的に失神呪文をルーンスプールに向かって撃っているが、当たってもルーンスプールは気にすることもなく突っ込んでいく。

 

「ダンブルドア!!」

「スタージス、これは少しやっかいごとのようじゃの」

 

 そう言って、ダンブルドアが杖を振るとルーンスプールの巨体は文字通りに浮かびあがった。

 ルーンスプールは浮かびあがりながらも、グリフィンドールの生徒に噛みつこうと牙を向けていた。

 オスカーとダンブルドアの一団がルーンスプールの傍へと近づくと、グリフィンドールの生徒はちりじりに逃げ、腰を抜かした大柄な上級生、ルーファス・ファッジが残されていて、さらにルーンスプールをなだめるエストとハグリッド、チャーリー、そして何か唖然とした顔をしているクラーナとトンクスがいた。

 ルーンスプールは三人になだめられながらも怒りが収まらないのか、ファッジに向かって首を向けようとしている。

 

「いったいなにをしでかしてここまでルーンスプールを怒らしたのかの」

「ダ、ダンブルドア校長!? ああ、あのルーンスプールが俺に襲い掛かってきたんです!!」

 

 ファッジが腰を抜かしながらも弁明を始める。

 

「ルーンスプールは蛇の一種だからもともとは臆病で、よほどのことをしなければあのように我を忘れて襲いかかるようなことはない」

 

 ルーンスプールを輸送するためにやってきた一団の代表者らしき人、ミスター・ラブグッドが言った。杖を抜きながらも冷静にルーンスプールを眺めている。

 

「多分、ファッジ先輩の呪文がエストに当たりかけたので、それが引き金になったんだと思います」

 

 チャーリーが説明する。確かにルーンスプールのエストへの懐き方は格別だったので、もしエストに危害を加えるようなモノがあるのなら、ルーンスプールがあんなに怒り狂うのも無理はないとオスカーは思う。

 

「エストというのはあのルーンスプールを傍でなだめている女の子のことかな?」

 

 ミスター・ラブグッドがチャーリーに聞く。

 

「はい、ルーンスプールは彼女に一番なついていたので……」

「ほう、あそこまでルーンスプールの信頼を勝ち得るとは、類まれな魔法生物の才があると言わざるを得ないな」

 

 ルーンスプールはファッジへの興味がなくなったのか、空中に浮いている自分の体に戸惑いながらも、エストとハグリッドが与えるネズミを食らっていた。

 

「ダンブルドア先生!! アン・カド・イグは何も悪くないんで、もし何か罰をうけるんならアン・カド・イグじゃなくて、俺を罰して下せえ!! 止めれなかった俺が悪いんだ!!」

 

 ハグリッドが涙目になってダンブルドア言った。

 

「ハグリッド、ここにいる皆は誰もそこの主人を守ろうとしたルーンスプールに罰を下そうなどとは考えておらぬよ」

 

 ダンブルドアが優しく言った。

 

「さて、そもそもルーンスプールを怒らす原因になった、ミス・プルウェットに呪文が飛んできたことがなぜ起きたのかを理解する必要があると思うのじゃが」

 

 ダンブルドアのその青い瞳がキラキラと輝き、黙っているクラーナとトンクスの方を見た。

 

「わしは、ミス・ムーディとミス・トンクスがその理由を知っていると思うのじゃがどうかの?」

 

 クラーナとトンクスがお互いの顔を見合わせ、ファッジ先輩、ダンブルドア先生、そしてオスカーの顔を順番に見た。

 

「私がオスカーの顔を真似ていたのが悪いんだと思います」

 

 トンクスがおずおずと言った。

 

「いえ、トンクスがオスカーの顔を真似ていたのは本当ですが、オスカーを真似ていたトンクスにちょっかいをかけてきたファッジ先輩を私が小馬鹿にしたのが悪かったです」

 

 オスカーは二人の言動を聞くだけで、オスカーの顔に変化したトンクスとクラーナがいつものようにファッジ先輩をやり込めようとしたであろうことが想像できた。

 その後に運悪く、ルーンスプールを船着き場に運ぼうとしていたエストの傍に呪文が飛んで行ったのだろう。

 

「なるほどのう、ミスター・ファッジがミスター・ドロホフといささか大規模な鬼ごっこをしておることは知っておったが、そこに類まれなるミス・トンクスの七変化の才能が加わった結果ということかの」

 

 ダンブルドアの眼がキラリとファッジ先輩を見つめる。ファッジ先輩は見られただけで肩をすくめた。

 

「ミスター・ファッジ、これは君の親御さんや親愛なるコーネリウスに連絡をしなければならない案件かもしれんのう。ヴォルデモートの配下の者ならともかく、その子供やましてや学友に危害を加えることがあったとなれば、ミリセントの退任の件で忙しくしておるコーネリウスは深く悲しむじゃろうな」

 

 ダンブルドアが具体的に何を言っているのかは分からなかったが、ファッジ先輩の顔色はまるでマンティコアの尻尾の針で刺されたような色になっていた。

 

「ミス・トンクスやミス・ムーディも上級生で遊ぶのはほどほどにするように」

 

 クラーナとトンクスが壊れたかくれん防止器のように顎を激しく上下させた。ダンブルドアはまた子供のように微笑んだ。

 

「さて、では皆、船着き場に向かおうかとしようかの」

 

 ダンブルドアの指示に従って一団は動き出した。ルーンスプールはすでに地面に下げられており、傍にエストとハグリッドがついている。さらになぜか腰を抜かしていたファッジ先輩もついて来ていた。ファッジ先輩は何か吸魂鬼にキスをされた後のような、魂の抜けた顔をしていた。

 船着き場はオスカーの記憶では、小舟がいくつか入れるくらいの場所だったと思ったのだが、なぜか巨大な帆船が鎮座していた。

 

「これならルーンスプールも無理なくブルキナファソまで旅行できそうじゃの」

 

 確かにハグリッドの小屋が百個は入りそうな船だった。

 

「では申し訳ないが、ルーンスプールにお別れをしてくれるかの?」

 

 ダンブルドアがエストとハグリッドを見て言った。

 

「長旅だから、エサのネズミもたくさんミスター・ラブグッドに渡したし、ブランデーも渡しといたからな」

 

 ハグリッドの声は涙と鼻水でぐもっていた。

 

「俺は絶対、アン・カド・イグのことを忘れないからな」

 

 ハグリッドは本当に悲しそうだった。

 

「エストもアン・カド・イグのこと忘れないから、アン・カド・イグもエストのこと忘れないでね?」

 

 エストがルーンスプールの頭それぞれにキスをした。

 

「ではミスター・ラブグッドお願いできるかの?」

「ええ、ダンブルドア」

 

 ルーンスプールは帆船に乗せられていった。船に乗せられる間、ルーンスプールの視線は三本の頭全てがエストの方を向いていた。

 帆船が回転して渦の中に消えていく間、さっきの怒りに狂ったうなり声とは違う、悲しい声が響いていた。オスカーには渦が完全に消えた後も悲しげなシューシューという声が聞こえる気がした。

 

 

 



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武装解除

この呪文目立ちすぎだと思う


 もう今学期に入って何度目になるのか分からない必要の部屋。その内部はオスカー、エスト、クラーナの三人ならば一度は見たことのある仕様になっていた。

 

「すっごい豪華な決闘場ね!!」

 

 トンクスが周りを見回して興奮気味に叫ぶ。確かに、これまで三人で呪文を練習していた実用的な部屋の内装とは違い、色々と意匠がこらされた内装になっていた。

 

「僕は初めてこの部屋に入るけど、やっぱりホグワーツって本当に凄い」

「いやあ、こんなに豪華な場所で一年生から決闘とはね、エスト君とオスカー君が決闘チャンピオンになるのは時間の問題だろうね」

 

 必要の部屋に入るのが初見になるチャーリーとポドモア先生の二人もそれぞれに感嘆の声をあげていた。

 

「いいですかオスカー、貴方が負けるということは貴方に教えた私が負けるのと同じことなんです。腰抜けのオスカーと言われて一生エストのケツに敷かれたくなかったら今日ここで勝つべきなんですよ」

 

 オスカーはクラーナ以外に腰抜けのオスカーという渾名で呼ばれたことはなかったが彼女なりの激励なんだと思うことにした。

 なんだかんだ三ヵ月以上も彼女はオスカーの練習に付き合ってくれたのだ。

 

「ああ、ありがとうな、クラーナ」

「礼はエストに勝ってからにしてください 油断大敵!! ですよ」

 

 そう言ってクラーナはオスカーにウィンクをして、トンクスたちのいる観客席の方へと下がっていった。

 

「何々、クラーナ。今から死にゆくオスカーへの末期のキスはできたの?」

 

 トンクスがまたクラーナの顔に変化してクラーナを煽っている。

 

「あほなこと言っているとインセンディオでそのあほ変化ができないように、顔を焼いてやりますよ」

「オスカーがエストにみじん切りにされないか心配なんですって言えばいいのに」

「こいつ、全然ルーンスプールの件から懲りてませんね!!」

 

 観客席ではもう一件決闘がおきそうな様相だった。

 オスカーはステージの上に立つ。

 前を見れば、エストはすでにステージの上で伸びをしている。以前同じようにここに立った時と違い、彼女の眼には隈がないし、なによりその顔と目は楽しそうに輝いていた。

 オスカーは自然と少し緊張でこわばっていた体が柔らかくなった気がした。

 

「ねえ、エストが勝ったらクリスマスにクラーナと何があったのか教えてくれる?」

「分かった。じゃあ俺が勝ったらクリスマスプレゼントの百味ビーンズを一気食いしてくれ」

「なんかそれ、全然難易度が違う気がするの」

 

 エストはそう言って笑う。観客席からは「オスカー! 負けたら殺しますよ!」とか、「え? 何々、やっぱりクリスマスになんかあったんだ」、「あほが食いついたじゃないですか!! エストも決闘が終わったら覚えておくことですよ!!」みたいな騒々しい声が聞える。

 

「じゃあ二人共準備はいいかな?」

 

 ポドモア先生の麦わら色の髪がゆれる。

 

「危なくなったらすぐに僕が止めさせて貰うからね? じゃあ二人共お辞儀からだ」

 

 二人はステージに立って真っ正面に向かい合い、お互いにお辞儀をした。

 

「俺、オスカー・ドロホフはエストレヤ・プルウェットに決闘を挑みます」

「では、私、スタージス・ポドモアが立会人を務めよう」

「私、エストレヤ・プルウェットはオスカー・ドロホフからの決闘を受けます」

 

 ポドモア先生がステージ脇に下がった。

 オスカーはエストの眼をはっきりと見た。先に呪文を唱えようとしたのは前回と同じくエストだった。

 

「グラディウスソーティア!! 剣よ出でよ!!」

 

 エストが呪文を唱えて前回と同じく、剣を複数召喚する。さらにエストは肥大呪文を剣にかけようとしたが、オスカーは無言で杖を振って剣を粉々に破壊した。

 エストの顔色が変わる。

 

「無言呪文とか反則だと思うな」

「一年生で召喚呪文を使いこなすやつに言われたくない」

 

 そう言ってオスカーは妨害呪文を唱えながらエストへの距離を詰めようとした。

 しかし、エストは妨害呪文をひらりと避けながらまた召喚呪文を唱える。

 

「ルーペスソーティア!! 岩よ出でよ!!」

 

 そう呪文を唱え終わると今度は巨大な岩が召喚され、呪文をあてることができなくなる。

 

「フラグランテ!! 熱せよ!!」

「レダクト!! 粉々!!」

 

 オスカーは呪文に力をこめる為、粉々呪文を発音して唱える。

 エストが熱した岩が粉々になって吹き飛ぶが盾の呪文でオスカーは回避した。

 

「アグアメンティ!! 水よ!!」

 

 エストが熱した岩のかけらに大量の水をかけると、ステージの上は水蒸気で見えなくなった。

 蒸気で隠れられれば、いかに無言呪文といえどもエストを視認していない以上、当てることができない。

 しかし、見えないのは相手も同じだとオスカーは思ったが、召喚呪文を使いこなすエストに時間を与えるというのは致命的だと思い直す。

 

「プロテゴ!! マキシマ!!」

 

 オスカーは盾の呪文を最大に展開して、先ほどエストが見えた場所に走り出した。蒸気の中にエストの赤い目と黒い髪が見える。

 

「グラディウスソーティア!! 剣よ出でよ!! スクートゥムソーティア!! 盾よ出でよ!!」

「エンゴージオ!! 肥大せよ!!」

「オバグノ 襲え!! ロコモーター‼‼ 周回せよ!!」

 

 オスカーがエストに与えてしまった時間で、エストは剣と盾を召喚し終わる。オスカーは無言の粉々呪文と最大展開した盾の呪文で強引に突っ切ろうと試みた。

 エストに時間と距離を与えてはならない、前回の決闘の教訓であり、クラーナと延々に対エストの戦術を練った結論だった。

 エストの傍にある盾に粉々呪文を唱えるのをオスカーは躊躇わない。その躊躇いは決闘の練習に付き合ってくれた二人とポドモア先生、そして目の前に立っているエストへの侮辱に当たるとオスカーは気づいたからだ。

 

「プロテゴ!!」

 

 もう一度盾の呪文を唱えて、浮かんでいる盾と襲い掛かってくる剣をはじき飛ばした。

 オスカーとエストの間にはもう何もなかった。

 次の呪文で勝負が決まる。オスカーはそう思った。

 

「エクスペ……!?」

 

 エストが呪文を唱えようとした瞬間、オスカーの杖から紅色の光線が出て、エストの胸に突き刺さった。

 エストの杖はゆっくりと、半円を描いてオスカーの左手に収まった。

 あたりに立ち込めていた蒸気が収まったのも同時だった。武装解除の光線と同じくらい紅いエストの眼がオスカーを見つめていた。

 エストははっきりと笑った。

 

「オスカーはやっぱり優しいね」

「お前ほどじゃない」

「だから、お前じゃなくてエストなんだってば」

 

 そう言うエストにオスカーは杖を渡す。

 

「ええっと、勝ったのはオスカー君でいいのかな?」

 

 ポドモア先生がいつの間にか二人の傍に立っていた。何か二人の顔を交互に見て、罰の悪そうな顔をしている。

 

「そうだよ、ごめんねスタージス。エスト負けちゃった」

 

 エストがポドモア先生に謝る。そう言えば、エストに決闘術を教えたのはポドモア先生だったのだった。

 

「エスト君の召喚呪文も見事だったよ、ただオスカー君の無言呪文はもっと見事だったということだけさ」

 

 ポドモア先生はにっこり笑ってオスカーとエストを褒める。

 どうも、ポドモア先生はオスカー達に無言呪文を教えたことをエストにバレたくないようだ。

 

「いやあ、ポドモア先生に無言呪文を教えて貰った甲斐はありましたね、オスカー」

「ほんとね、ポドモア先生の教え方が上手かったおかげね」

 

 わざとらしく、クラーナとトンクスがポドモア先生にお礼を言う。この二人はだれかをからかうときには息がぴったりなのだ。

 

「へえ、じゃあオスカーもエストもポドモア先生に決闘術を習ってたのか、僕も習おうかな」

 

 チャーリーがまるで凄い人を見るようにポドモア先生を見る。

 

「なにそれ!! スタージスどういうことなの?」

「いやあ、エスト君だけに教えるのはなんというか不公平というかね?」

「うぅ…… でもやっぱりずるいの」

 

 召喚呪文を自分だけ教えて貰った手前、エストは大きくでれないようだが、その顔が明らかに納得できないと語っていた。

 

「なんでオスカーは勝っちゃうのよ、エストに百味ビーンズ食べさせるより、オスカーとクラーナのクリスマスの方が気になるんだけど」

「ほんとに貴方はどっちの味方なんですか?」

 

 クラーナがあきれた顔でトンクスを見る。

 

「面白くなる方の味方よ」

「やっぱりあほはあほですね」

「じゃあ、クラーナ、オスカーとクラーナのクリスマスロマンスの謎をかけて、私と決闘しない?」

「なんでそんなあほな理由で私が決闘しないといけないんですか? だいたい私が得る物が何もないじゃないですか!!」

「面白いじゃない?」

「私は面白くないですよ!!」

 

 また二人は騒ぎ始める。本当にこの二人は騒いでいないとだめらしい。彼女達一人一人ならまだうるささはましなはずなのだが、乗算でうるさくなるんだろうなとオスカーは思う。

 

「いやあ、これ以上私の胃腸を痛めないように、決闘はちょっと遠慮してくれると嬉しいんだけどね?」

 

 そう言って、ポドモア先生は困った顔をして笑った。

 

 

 

 オスカーとエストの決闘が終わって、ルーンスプールの世話も終わってしまったので、オスカー、エスト、クラーナ、チャーリー、トンクスの五人は中々集まることも少なくなった。

 ただ、そもそも集まる余裕がない時期に突入しようとしていた。学年末のテストである。

 うだるような暑さの中、筆記試験や実技試験が行われた。正直いって、オスカーは呪文学や闇の魔術に対する防衛術、変身術の実技は完璧だったと思った。

 呪文学や魔術に対する防衛術で使用するような呪文は、クラーナとトンクスと一緒に練習した数々の呪いに比べればなんてことはなかったからだ。

 変身術は身近にエストという心強い味方がいた。エストは最早呪文も必要とせず、動物をゴブレットや嗅ぎタバコ入れに変えることができたので、オスカーに付きっきりで変身させるイメージを教えてくれた。オスカーは代わりに無言呪文のイメージを教えることを約束させられた。

 唯一、てこずったのは魔法史だったが、これもなんとか大教室のうだるような暑さに耐えて、乗り切った。オスカーは試験中に十回くらいエストに頼んでアグアメンティを唱えて涼しくして貰おうかと思ってしまった。

 

 そんなこんなで、オスカーのホグワーツでの一年は終わった。

 寮対抗杯ではスリザリンが何年連続かの優勝をしていたが、これはポドモア先生がエストに点数を与えすぎたせいじゃないのかと、グリフィンドール生どころか、四寮全体の一致した意見だった。

 ただ、残念ながらポドモア先生は今年で闇の魔術に対する防衛術を辞めてしまうらしい。

 ポドモア先生曰く

 

「ちょっとホグワーツは寒すぎたので、南の海でバカンスに行ってくる」

 

 らしいが、グリフィンドール出身なのにスリザリンに点数を与えすぎたので、ホグワーツに居づらくなったのじゃないかと専らの噂だった。

 

 試験の結果も出たが、予想通りにオスカーはほとんどの教科を難なくパスすることができた。特に実技がある教科はほとんど最高の評価を貰えていたし、薬草学や魔法薬学も隣に座っているエストのおかげか最高から一つ下だが、十分な結果だった。

 隣のエストの結果を見ると、大方の予想通りに全ての科目で最高の評価を貰っていて、学年トップの成績なのは間違いがなかった。

 

 ハグリッドが操る湖を渡る船に乗って、一年生は全員ホグワーツに特急が止まる駅へとたどりついた。オスカー、エスト、クラーナ、チャーリー、トンクスの五人はハグリッドにさよならを言った。チャーリーは何か、来年も面白い動物を飼いたいとハグリッドと話していたので、オスカーは少し嫌な予感がした。

 あの二人のカワイイは他のみんなと違う概念だということをこの一年で思い知ったからだ。

 

 五人はコンパートメントでエストに決闘の約束通りにバーティ・ボッツの百味ビーンズを一気食いさせたり、今年一年の思い出、ルーンスプールのことなんかを語りあった。

 オスカーはエストやクラーナと出会ったホグワーツ特急に乗ったのが遠い昔のように思えた。

 楽しい時間はあっという間に通り過ぎて、キングズ・クロス駅の九と四分の三番線にホグワーツ特急はついてしまった。

 学生で込み合っていたのでプラットホームに出るには少し時間がかかった。

 

「ね? 夏休みはみんなで隠れ穴にいかない?」

「何ですか? 隠れ穴って?」

「僕の家のことだよ、ちょっとしたらみんなに招待のふくろう便を送るよ」

「いいわね、面白そう」

「オスカーも来るよね?」

「ああ、まあ闇祓いから許可がでたらだけど」

 

そうこう話ながら五人は改札の外にでた。

 

「いい一年だった?」

 

 チャーリーを思わす赤毛を持った女の人の、エストとどこか似ているような優しい声が聞えた。

 

「うん、友達も一杯できたし、いい一年だったと思うな、モリーおばさん」

 

 とエストが答えたので、オスカーには目の前の人物が誰なのか分かった。

 

「でも、モリーおばさんのセーターをオスカーはクラーナにあげちゃったんだよ?」

 

 エストが咎めるようにオスカーとクラーナを見る。

 

「ちょっとエスト! その話は止めてくださいよ!!」

「あらあら、本当に貴方達仲がいいのね、セーターがみんなが仲良くなる理由になったんなら素晴らしいことだわ」

 

 そう言って、モリー・ウィーズリーはオスカーにウィンクした。いつか見たエストのウィンクとそっくりだとオスカーは思った。

 

「セーターありがとうございました。少ししか着れませんでしたけど、凄くあったかかったです」

「まあ、どういたしまして」

 

 モリー・ウィーズリーはそう言って笑ったが、その顔からどうしてエストがあんな性格になったのか少しだけ分かった気がした。

 

「オスカー、準備はできたかな?」

 

 オスカーの背後から、深みのある、人を安心させるような声が聞えた。

 背が高く、肩幅の大きな黒人にも関わらず、威圧感を与えないその人物はオスカーを見張るために魔法省から派遣された闇払いだった。

 

「はい、いつでも大丈夫です」

 

 そう言ってキングズリー・シャックルボルトにオスカーが返すと、クラーナがオスカーを引っ張った。

 

「ちょっとオスカー、あなたの見張りの闇祓いってキングズリー・シャックルボルトなんですか?」

「ああ、ずっとそうなってる」

「結構な有望株だって、アラスターおじさんが言ってましたよ、スクリームジョールの次はあいつが中心になるだろうとかなんとか」

 

 確かにキングズリー・シャックルボルトは見張られているオスカーからしても、そつがなく実に有能な人物だった。

 死喰い人の子供であるオスカー本人にも正面から向かい合ってくれる人物であるし、魔法省が大っ嫌いなドロホフ家の屋敷しもべ妖精もキングズリーのことは認めているくらいだ。

 伝説の闇祓いであるアラスター・ムーディから評価されてもおかしくないとオスカーも思う。

 

「オスカーのご家族ですか?」

 

 モリー・ウィーズリーがキングズリーに尋ねる。

 

「難しいところですが、保護者という面では間違っていないでしょう」

「では、オスカーを夏休みにウチの家に招く許可を頂けますか? 恥ずかしながら、姪がどうしてもと言ってきかないので」

「魔法省に一度、許可を貰わねばなりませんが、アーサー・ウィーズリー氏のお宅なら間違いなく許可がでることでしょう」

 

 二人の後ろでエストとチャーリーがガッツポーズをした。

 オスカーも心の中でガッツポーズをした。

 

 

 

 



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二年目 失われた髪飾り
屋敷しもべ


こいつら強すぎ


「オスカー坊ちゃま。お友達はお昼前にいらっしゃるのでしたね?」

 

 ドロホフ邸はいつもに増してピカピカに磨けあげられていた。オスカーの目の前にいる屋敷しもべ妖精のペンスはエスト達がオスカーを迎えに来ると聞いて、気炎を上げておもてなしをしようとしていたのだった。

 

「ああ、チャーリーのお父さんの時間に合わせてお昼前に暖炉飛行でくるって言ってた」

「いらっしゃるのは五人で間違いありませんね?」

「多分そうだ、エスト達四人とチャーリーのお父さんで五人だってふくろう便が来たから」

 

 こうやってペンスが来客の人数をオスカーに確認するのは今日で八度目だった。ドロホフ邸の応接間にはすでにキングズリーとオスカーの分を合わして七人分の椅子と、皿やゴブレットが並んでいる。

 

「ああ、オスカーお坊ちゃまのお友達をおもてなしできるとは、このペンス、喜びに心が打ち震えています」

 

 そうってペンスはオスカーの前で震えている。

 オスカーはため息をついた。ペンスは小さいころからオスカーの面倒を見てくれているが、オスカーの為に何かするたびにこうして一生分の感謝とか言って、震えだすのだ。

 

「そろそろ、アーサー・ウィーズリーが言っていた時間になる」

 

 キングズリーが暖炉を見ながらそう言った瞬間、応接間の暖炉がエメラルド色の炎に変わり、グルグルと高速で回転する人影が現れ始めた。

 最初に部屋の中に姿を現したのは少し禿げ上がった赤毛の魔法使い、チャーリーの父親であるアーサー・ウィーズリーだ。

 

「ああ、オスカー君始めまして、チャーリーの父親のアーサー・ウィーズリーだ。キングズリーは久しぶりかな?」

 

 そう言って、アーサー・ウィーズリーはオスカーとキングズリーに挨拶をしたが、すでに暖炉は後続の訪問者を吐き出し始めていた。

 

「やっぱり死喰い人の家って豪華なんですね」

「なにこれ? 凄い広い家じゃない? オスカーこんなとこに住んでるの?」

「隠れ穴の何倍もありそうなの」

「間違いなく数倍はあるんじゃないかな、というかこの部屋だけで僕の家より広いかも」

 

 エスト達の話声を聞いてウィーズリー氏は少し顔を赤くした。

 

「なかなかいい家だね、オスカー君」

「いえ、ドロホフの家にはもう僕と屋敷しもべ妖精だけですから、使わない部屋しかないですよ」

 

 オスカーにとってはこの家にはいい思い出なんてなかったので、本当にただ広いだけの家だった。

 

「お客様は皆さまお揃いでしょうか? ささやかながら、昼食を用意いたしましたので、召し上がっていただくことはできますでしょうか?」

 

 そう言って、ペンスはウィーズリー氏たちに完璧なお辞儀をした。

 

「オスカーがクリスマスプレゼントを貰ってた屋敷しもべ妖精ってこの子?」

「ああ、ペンスって言うんだ。まあおもてなししないとペンスは死にかねないから、食べていって貰えると助かる」

 

 そう言って、オスカーは席についた。なんだかんだオスカーはペンスが楽しみにしていたおもてなしくらいはさせてやりたかった。

 ホグワーツにいる間はこの家にはペンス以外に誰もいないのだから、少しくらいペンスに楽しみを与えてあげてもいいと思ったのだ。

 

「じゃあエストも食べてくの、ペンスさん? よろしくね?」

「このペンス、オスカーお坊ちゃまのご学友であらせられるエストお嬢様からそのようなお言葉を頂けるとは、感極まる思いです」

 

 そう言ってペンスは床に着くか付かないくらいの深いお辞儀をした。

 

「流石、死喰い人の家の屋敷しもべですね、私が見たことのある屋敷しもべ妖精の中で一番奴隷根性が染みついてるみたいです」

「とか言ってクラーナは一番最初に席に座ってるじゃない」

「ふん、あほのトンクスに教えてあげましょう。屋敷しもべはこういうのをやりたくて仕方ない生き物なんですから、とっとと私たちは座って食べるのが屋敷しもべの為になるんですよ」

「ぜったい食い意地がはってるだけでしょ」

 

 この二人は相も変わらず喧嘩を始めようとしている。

 

「ほんっとにオスカーの家って広いね、ちょっとこの家の後だと隠れ穴に招待するのが恥ずかしくなりそうだな」

「人がいない家より、人がたくさんいる家の方がいいだろ」

 

 オスカーはいつも寂しいドロホフ家よりも、ウィーズリー家の兄弟が沢山いて、両親がいるにぎやかな家のほうがよっぽど楽しいだろうと思った。

 

「ではささやかながらですが、昼食をお楽しみください」

 

 ペンスがそう言って、指をパチッと鳴らすとホグワーツの大広間のように、空の皿の上に突然食事が現れた。

 明らかにいつもの昼食ではでないようなメニューと量だったので、オスカーとキングズリーにはペンスが本当に力を入れて料理を作ったことが分かった。

 

「屋敷しもべ妖精って凄いんだね、一人? 一匹? いればモリーおばさんの仕事がなくなっちゃいそうなの」

「屋敷しもべ妖精は人の世話をするために生きるらしいからね、ママは家事の為に生きてるわけじゃないからやっぱり敵わないんじゃないかな」

 

 オスカーの眼から見てもペンスは生き生きと動いていた。テーブルの向こう側では、クラーナとトンクスがどっちがたくさん食べるかの勝負をしているのをその大きな目で見ながら、皿が開いた瞬間に新しい食事を指をパチッと鳴らして召喚していた。

 クラーナとトンクスはいくら食べても次の食事が出てくることに戦慄し、どっちが先に根をあげるのかチキンレースをしているようだ。

 

 キングズリーとウィーズリー氏はなにやら話し込んでいた。

 

「アーサー、以前問題になったマグル製品への不正魔法使用の…… マンダンガス・フレッチャーが沢山持っていたあれはなんだったかな?」

「ああ、補聴器のことだろう。本来は耳が聞こえにくいマグルの為のものらしいのだが、呪文がかけられていて、文字通りに本物の耳が沢山体中に生えてくるという代物だった」

「ああ、そのせいで先週のロンドンのとある通りが耳を体中から生やした人間だらけになってたのか」

「あれのせいで四日も魔法省に缶詰めになってしまった。マンダンガス・フレッチャーめ」

 

 しかし、『魔法省』という言葉がウィーズリー氏から発された瞬間。キングズリーとオスカーはしまったという顔でお互いを見合わした。

 

「魔法省!! 人の皮を被った獣がまたオスカーお坊ちゃまに何をしようというのですか!!」

 

 パチッという音がして、ペンスが先ほどの礼儀と気品のある優し気な表情ではなく、眼を見開いて憤怒を露わにしながらキングズリーとウィーズリー氏の間の机の上に立ち、ウィーズリー氏を睨みつけていた。

 

「これ以上オスカーお坊ちゃまになにをしようというのですか!! 闇祓いに加えて、あんなおぞましいモノを玄関に置かせておいて何が足りないと言うのですか!!」

 

 ペンスは自分が朝早くから準備した食事を踏みつけるのも構わず、ウィーズリーの眼の前に迫っていた。ペンスの眼は怒りで見開かれていたが、少しだけ涙が浮かんでいた。

 

「お前たちがオスカーお坊ちゃまに何をしたのか知らないとは言わせません!! 心優しいオスカーお坊ちゃまの心と記憶を踏みにじった!! その上、学校にも行かせずに犯罪者と同じ見張りをつけて幽閉しようとした!! 小さく心優しいオスカーお坊ちゃまが武器を持つお前たちに何ができると言うのですか!! 恥を知れ!!」

 

 そう言って、ペンスは指をウィーズリー氏に突きつける。

 

「ペンス‼ やめろ‼ テーブルから降りるんだ‼」

 

 オスカーは慌てて、ウィーズリー氏の方へ向かいながら命令した。ペンスは傍にあった皿で自分を叩いて罰しながらも、ウィーズリー氏に向かって行こうとしていた。

 

「恥を知れ!! この家から出ていけ‼ お坊ちゃまには指一本触れさせないぞ‼‼」

「アーサー‼ 他のみんなを連れて暖炉飛行で戻るんだ‼」

 

 キングズリーが素手でペンスを取り押さえようとしているが、ペンスは無茶苦茶に自分を叩きながらウィーズリー氏の方へ向かっている。

 

「お前たちと闇の帝王と何が違うというのか‼ お前たちがやったことを忘れないぞ‼」

「ペンス! 黙れ‼」

 

 ウィーズリー氏が暖炉に煙突飛行粉を慌てて投げて、炎がエメラルド色に変わる。ウィーズリー氏は子供達を先に行かせようとして暖炉の前で待っているが、喋ることを禁止されたペンスは眼だけでも十分に分かる怒りを発しながら、そのウィーズリー氏の方へ向かって行こうとしていた。

 

「アーサー、君が先に行くんだ!」

「すまない、キングズリー。隠れ穴‼‼」

 

 エメラルド色の炎の中へウィーズリー氏が回転しながら消えていく。

 

「君たちも早く!」

 

 キングズリーが他の四人を急かす。四人は心配そうにペンスを押さえつけるキングズリーとオスカーに視線を送りながら暖炉の中へと消えていった。

 ペンスは全員がいなくなって随分たっても怒りに体を震わしていた。

 

「オスカー、すまない、せっかくの昼食を台無しにしてしまったようだ」

「いえ、ウィーズリー氏に先に忠告しておくべきでした」

 

 キングズリーはオスカーにすまなさそうな顔をした後、ペンスの方を見てさらに憐れむような顔をした。

 

「ペンス、喋っていいぞ」

「申し訳ございません、お坊ちゃまの学友の皆さまとそのご家族にご迷惑をかけ、昼食を台無しにしてしまいました」

 

 ペンスはそう言って傍にあった燭台で自分を突き刺そうとした。

 

「ペンス、自分の体を傷つけるのを禁じる」

 

 ペンスはそう命令されると、ぷるぷると体を震わせながらカーペットに崩れ落ちた。

 

「お坊ちゃまのご学友との時間を台無しにして、お坊ちゃまの命令を守れなかったペンスめにドロホフ家のしもべの資格はありません。どうか洋服をお与え下さい」

 

 ペンスは涙を流しながらオスカーに解雇しろと願った。

 

「ダメだ。お前がいなくなったら誰がこの家を守るんだ? だいたいお前がいなくなったら俺は本当に一人になってしまう」

 

 そうオスカーは言った瞬間、ペンスはこれ以上無いくらい大声で泣き始めた。

 

「申し訳ありません。申し訳ありません。ペンスめは心優しいオスカー坊ちゃまにふさわしい屋敷しもべではありません。」

 

 そう言って、泣き崩れペンスが落ち着くまでオスカーとキングズリーは待っていた。

 

「申し訳ありませんでした。オスカーお坊ちゃま。今すぐにでも出発なさいますか? すぐにトランクを用意いたしますが」

 

 ペンスは泣きはらした赤い目をしていたが、完璧なお辞儀をオスカーにして見せた。

 

「キングズリー、いつでてもいいんですか?」

「ああ、アーサーがついてからいつ出発しても大丈夫なような許可を貰ってある」

「ペンス、トランクを頼む」

「承知いたしました」

 

 パチッと音がするとホグワーツ指定のトランクがオスカーの前に現れる。

 

「オスカーお坊ちゃま、クリスマスはどうなさいますか?」

「うーん、まあエスト達と話して考えておく」

「承知しました。もし何かございましたらいつでもご連絡ください」

 

 ペンスはいつもの礼儀と品性を取り戻していた。オスカーはこのペンスが苦手だったが、同時に好きでもあった。

 

「じゃあ行ってくるよ、ペンス」

「行ってらっしゃいませ、オスカーお坊ちゃま」

 

 そう言ってお辞儀をするペンスを後に、オスカーはエメラルド色の炎の中に入っていった。

 

 

 

 オスカーとキングズリーがエメラルド色の炎の中を回転して出た先は、静かで寂しいドロホフ邸とは全く違う、モノが溢れて、狭くて、人が一杯いる空間だった。

 

「オスカー、大丈夫だったのかな? 申し訳ない、私のせいで屋敷しもべ妖精の逆鱗に触れてしまったようだ」

「いや、アーサー、事前に注意しなかった私の注意不足だった」

 

 ウィーズリー氏は本当に申し訳なさそうだった。

 

「ペンスは大丈夫だったの?」

「ああ、まあ魔法省の人がくるとあんな感じなんだよ、チャーリーのパパには申し訳ない」

「まあパパなら大丈夫だよ、ママも怒ったらあのくらい怖いしね」

「確かにモリーおばさんは怖いの」

 

 オスカーには優しそうなチャーリーの母親があんな怒りを見せることがあるとは信じがたかった。

 

「随分と屋敷しもべに愛されてるみたいでしたね、オスカーお坊ちゃま?」

「クラーナはペンスにビビってたんだけどね」

「トンクスだってビビって糖蜜パイを顔面にぶちまけてたじゃないですか」

「お前ら食べ物で遊ぶのはやめろよ」

「やっぱりオスカーお坊ちゃまは私たちの競争に気付いてたんですね」

「オスカーお坊ちゃま、分かってたんなら止めてくれればよかったのに、私たち食べすぎで爆発しそうだったのよ」

「分かった。分かった。もうオスカーお坊ちゃまでいいよ」

 

 いじられるネタがあるときにこの二人に近づくのは賢明ではないとオスカーは思った。

 

「そうです、おとなしくオスカーお坊ちゃまは私たちにいじられていればいいんですよ」

「クラーナはさっきの席でオスカーの隣に座れなかったから拗ねてるのよ、オスカーお坊ちゃま」

「こいつあほ変化がなくてもむかつきますね、そう思いませんか? オスカーお坊ちゃま」

 

 だがオスカーにはペンスの豹変なんかに突っ込んでこない四人の心使いがありがたかった。この二人もオスカーを元気付けようとこんなお坊ちゃま、お坊ちゃま言ってるんだと思うとまだ耐えられる気がした。

 

「じゃあチャーリーの部屋にトランクを運んじゃおうよ、オスカーお坊ちゃま?」

「ああ、エスト、僕がオスカーお坊ちゃまのトランクを持つよ」

 

 オスカーはこの夏休み中、お坊ちゃま呼ばわりされるのは耐えられないと思った。

 



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隠れ穴

なんで隠れ穴って名前なんだろう?


 隠れ穴での生活はドロホフ邸とはまるで違っていた。ドロホフ邸ではオスカーとペンス以外は時々やってくるキングズリー以外は誰もいなかったし、一人でいることがほとんどだった。

 しかし、隠れ穴では寝ているときには隣にチャーリーがいたし、起きる時から寝るときまで常にだれかと一緒だった。

 オスカーが不思議だったのはウィーズリー家の誰もがオスカーと話したがっていることだった。アーサー・ウィーズリーとモリー・ウィーズリーはまずオスカーが着いたときに自分たちのことをおじさん、おばさんと呼んでほしいと言ってきたし、チャーリーの兄のビルもオスカーには好意的だった。

 とにかく、ウィーズリー家の誰もがエストと仲良くなったオスカーのことを知りたがっているらしかったのだ。

 

「つまり、オスカーはエストに決闘でボコボコにされたってことかい?」

 

 昼食の時間にウィーズリーおじさんとビルとオスカー、クラーナはエストとオスカーの決闘の話をしていた。ラジオからはセレスティナ・ワーベックの歌が流れている。

 

「そうです、あの時のエストはなんの容赦もなかったですね、あとちょっとでオスカーはそこのハンバーグみたいになっていたと思います」

「まああんまり否定はしないけどさ……」

「うむ…… なんというか、エストはモリーに似たみたいだね……」

 

 ウィーズリーおじさんはなにやら神妙な顔もちだ。

 

「父さんも母さんとそういう経験があるってこと?」

「いやあまあ、その、モリーとのデートをメリィソート先生の罰則を食らって受けられなかったときは恐ろしいことになったね」

 

 ウィーズリーおじさんは無意識のうちに何か肩をさすっている。

 

「あの時の呪いで父さんの肩は未だに変な動きをするというか、なんというか」

 

 オスカーはクラーナと目を合わせ、これからはできるだけエストを怒らせないようにしようと思った。

 

「クラーナ!! オスカー!! 外に遊びにいこうぜ!!」

「いこうぜ!!」

 

 話していると後ろから瓜二つな声がかけられる。チャーリーの弟のフレッドとジョージだ。二人はまだホグワーツに入れる年齢ではなかったが、すでに手が付けられないほどのやんちゃ坊主だった。

 

「トンクスが庭小人の面白い遊び方を教えてくれたんだ」

「一緒にやろう!!」

 

 さらになお悪いのは、クラーナとトンクスが二人にさらに悪知恵を教え始めたということだ。チャーリーとオスカーはすでに何回も、クラーナ、トンクス、フレッド、ジョージの悪戯に巻き込まれていた。この四人を抑えることができるのはウィーズリーおばさんと怒った時のエストだけだった。

 

「ふっ…… あほのトンクスの浅知恵がどれほどのモノか確かめてあげましょう。オスカー行きますよ」

「ああ、じゃあちょっと失礼します」

 

 と言って二人が席を立とうとした瞬間、何羽ものふくろうが部屋に入ってきた。ウィーズリーおじさんが手紙を受け取って、ビル、オスカー、クラーナに手渡す。

 

「学校からの手紙だね、ダンブルドアは君たちがここにいることもお見通しというわけだ」

 

 手紙は黄色い羊皮紙にオスカーとクラーナの名前がそれぞれ書かれている。

 

「フレッド、ジョージ。チャーリー、エスト、トンクスを呼んできてくれるか?」

「合点承知!!」

「パパ、了解!!」

 

 そう言って双子は別々の方向に飛び出してった。

 少しの間、居間は手紙を読んでるため静かになった。そうこうしているうちに大量の洗濯モノを持ったウィーズリーおばさんとフレッドとジョージに呼ばれたみんながやってきた。

 エストはなにやらチャーリーのもう一人の弟、パーシーに教科書の内容を教えているようだったし、トンクスとチャーリーは何か泥だらけだった。

 

「あら学校からお手紙が届いたのね、アーサー、みんなを連れてダイアゴン横丁に行ったらどうかしら?」

「ああモリー、そう言おうと思っていたところだ。ロンとジニーの面倒を頼めるかい?」

「大丈夫よ、アーサー」

 

 ということで、ウィーズリー家と愉快な仲間たちは煙突飛行粉でダイアゴン横丁へと買い物をする予定になった。

 

「さあ、お客様からだね、オスカー お先にどうぞ」

 

 そう言って、オスカーはウィーズリーおじさんから煙突飛行粉の鉢を突き出された。少しだけ、オスカーの後ろでなにやら話し込んでいるトンクスとフレッド、ジョージが気になった。

 

「じゃあお先に失礼します。ダイアゴンよこ……!?」

「ちょっと押さないでくださいよ‼? うわっ」

 

 オスカーが煙突飛行粉を投げて、エメラルド色の炎にダイアゴン横丁と言おうとした瞬間、フレッドとジョージがクラーナごとオスカーを暖炉の中に押し込んだ。

 エメラルド色の炎の中に二人は回転しながら飲み込まれていった。後ろにクラーナの感触があったが、そもそもダイアゴン横丁と最後まで発音できなかったのではとオスカーは思った。

 回転が長い間続き、いくつも暖炉を通り過ぎたように感じた。気づくと二人は埃と煤だらけの暖炉に放りだされていた。

 

「ほんとにあのあほのトンクスはろくなことをしませんね」

 

 オスカーは石畳みに放り出された衝撃で思いっきり額を打っていたが、少なくとも自分の体自体は五体満足だと確認できた。

 目の前のクラーナは肩を打ったのか、痛そうに片方の手を当てている。だがそれ以外は大丈夫そうだった。

 

「オスカー大丈夫ですか? 普通に額から血がでてますよ?」

「そうなのか? まあそれよりとりあえずここから出た方がよさそうだ」

 

 オスカーはローブの袖で額の血を拭った。周りを見回すと少なくとも、ホグワーツの一年生では使うことはないような怪しげな物品が並んでいた。

 緑色のネックレス、しなびた白い手、あやしげな棚…… オスカーは魔法の道具に詳しくなかったが、これらの物品が生易しいモノではないことくらいは分かった。

 

「クラーナ、とっとと通りに出よう」

「そうですね、私たちが教科書を買えるような店ではないみたいです」

 

 店の外にでてもここがどこなのかはよくわからなかった。怪しげな物品を販売する店がいくつも並んでおり、通り過ぎる人もどこか脛に傷がありそうな人ばかりだった。

 木の看板にはノクターン横丁と書かれている。

 

「クラーナ、ノクターン横丁って知ってるか?」

「ええ、ダイアゴン横丁に隣接する、闇市場みたいな場所のはずです」

「つまり、その辺を歩いてても戻れるかもしれないってことなのか?」

「まあ戻れるんじゃないですかね、帰ったらトンクスを灰まみれにしてやりますよ」

 

 そう言って二人で歩いていくが、明らかに低学年の二人組は浮いていて、ノクターン横丁を歩く人々はオスカーとクラーナを指して、なにかぶつぶつ言っているようだった。

 

「陰気な場所ですね、死喰い人のドロホフに文句があるならかかって来いって言いますか?」

「ムーディの名前の方が効果的だと思うけどな」

「クラーナ!! オスカー!! おまえさんたち、こんなとこで何しちょるんか?」

 

 オスカーとクラーナはその大声に飛び上がった。後ろを見ると見間違うはずのない大男、ホグワーツの森番のハグリッドが近づいてきていた。

 ハグリッドはオスカーとクラーナをひょっと持ち上げてそのまま運び始めた。まもなく、日の光とフォーテスキューのアイスクリームの看板、グリンゴッツ銀行が見えてくる。

 

「お前たち一体ノクターン横丁なんぞで何をしとった? 特にオスカーはあんなとこにいると不味いことになるかもしれん」

「私たち、あほのトンクスに暖炉飛行を妨害されて、出る暖炉を間違えたんですよ、ハグリッド」

 

 クラーナがハグリッドに説明する。確かに、キングズリーの見張りが無い状態であんな場所で捕まったりすれば不味いことになっていたかもしれないとオスカーは思った。

 

「まあなんでもええが、誰かと一緒だったんか?」

「チャーリーの父親と一緒にダイアゴン横丁を回るはずだったんだけど」

「アーサーか? まあそれならアーサーがくるまで俺と一緒におった方がええ」

「そのほうがいいでしょうね、なによりハグリッドと一緒なら目立ちますから」

 

 そう言って二人はハグリッドについて歩き出した。

 

「ハグリッドはなんでノクターン横丁にいたんだ?」

「俺はあれだ、その、卵とか色々…… まあほんとはレアの付き添いで来てたんだが、マルキンの店で時間がかかるっちゅうから……」

「卵?」

「大丈夫、何も買っちゃいねえ、ほれ、マルキンの店でレアが待っちょる」

 

 オスカーは去年のルーンスプールもノクターン横丁でハグリッドが卵を購入したのではないのかと思った。

 

「レアって誰ですか?」

「今年、ホグワーツに入学するイッチ年生で、家族がいないから俺がついてきとる。去年のクラーナと一緒だ」

 

 オスカーは去年のことを思い出した。去年はキングズリーに付き添われて、教科書や大鍋何かを購入したのだ。キングズリーが見張りでなければ、オスカーもハグリッドに付き添われていただろう。いやそもそも入学できていたのかも怪しいものだとオスカーは思った。

 

「ふーん、男ですかそれとも女?」

「女の子だ」

 

 マダム・マルキンの店についた。ハグリッドのことを待っている女の子は店の前にはいないことから、まだ採寸中なのだろうかとオスカーは思う。

 するとドアが開いて、目の覚めるような金髪だが、男の子と見間違うような短髪をした女の子がでてきた。

 

「おお、レア終わったか?」

「ああ、待たせてごめんねハグリッド」

「全然待っとらん、それにこの二人共に会えたしな、ほれレア挨拶するんだ。ホグワーツの先輩だぞ」

 

 そうハグリッドが言うと、女の子がオスカーとクラーナの方を見た。笑顔で挨拶をしてくる。

 

「ああどうも、ボク、レア・マッキノンです。今年からホグワーツなんで、よろしく、先輩?」

 

 マッキノンと言う名前を聞いて、オスカーは思い出した。マッキノン。プルウェットと同じく、死喰い人の襲撃にあって一家がほぼ皆殺しにされた純血の一族だ。

 クラーナも同じく反応していて、オスカーとエストに初めて会ったときのような、獲物を見るような、値踏みするような目をしていた。

 

「ええ、よろしくお願いしますよ、私はクラーナ・ムーディです、こっちの男と一緒でホグワーツの二年生になります」

 

 そう言うとクラーナはもっと面白いことが起こるぞ、という目でオスカーの方を見てくる。間違いなく、ドロホフと名乗った時に目の前のレアがどういう反応をするのか楽しみなのだろう。

 

「オスカー・ドロホフだ。ホグワーツの二年生で寮はスリザリン。こっちのクラーナはグリフィンドールだけどな」

 

 効果は劇的だった。オスカーの口からドロホフと出た時点で、レアの顔色は真っ赤に変わり、眼を剥いてオスカーを凝視している。手はぷるぷると震えて、さっきマルキンの店で買ったであろう制服のローブを取り落としそうだ。

 さらに彼女が杖を持っていないにも関わらず、通りの木の葉やごみが舞い上がり、四人を取り巻く渦のようになっている。幼少期に見られるような魔力の暴発に近い現象が起こっていた。

 つまり、彼女は魔力が暴走しそうなほどの激情に駆られていることが外から見ても分かった。

 

「おやおや、これは一番の反応なんじゃないですか? オスカー、好かれてますね」

「なんで闇祓いの家の娘と死喰い人の息子が一緒にいるんだ‼ だいたいグリフィンドールとスリザリンは憎みあってるんじゃなかったのか‼?」

「私が誰と一緒にいるかは私が決めることです。家だとか寮だとかどうでもいいことですね」

「家がどうでもいいだと‼? ふざけるんじゃない‼‼」

「なんですかボクちゃん? 私が自分の家やオスカーの家のことをどう思っていようと貴方には関係のないことですよ」

「クラーナ、やめろ」

 

 クラーナに任せておくと、このままレアは爆発しかねない状態だった。割と人通りのあるダイアゴン横丁を行き交う人々が四人をじろじろと通り過ぎる振りをして見ている。

 ハグリッドはこんな展開になることを予想できなかったのか、後ろでオロオロしている。

 

「あっ、アーサーおじさん、あれハグリッドとオスカー達なの」

「おおっ本当だ。良かった。見つからなかったら私がモリーに消失させられてしまうところだった」

 

 後ろから、エストとウィーズリーおじさんがやってきていた。オスカーはなんとかなりそうだと思った。

 

「やあハグリッド久しぶりだね、おや? 君はもしかして、マッキノン家の……?」

「やあアーサー、今レアを二人に紹介しようとしたところだったんだが、なんか相性が悪かったみたいでな……」

 

 ハグリッドとウィーズリーおじさんがレアのことを話に出してもレアはクラーナの方を睨みつけている。

 

「ねえ? 二人共、その娘はだれ?」

 

 エストがなんの空気も読まずにクラーナとオスカーに尋ねる。クラーナはさらに面白いことになったとばかりの表情になった。オスカーは嫌な予感がした。

 

「おやエスト、そうですね紹介しましょう。こちら、ホグワーツの新入生、レア・マッキノンだそうですよ」

 

 そう言ってエストの目線がレアを捉える。レアの方は未だにクラーナを睨んでいる。

 

「新入生なの? エストはエストレヤ・プルウェットだよ? スリザリンの二年生になるからよろしくね?」

 

 今度の反応はもっと劇的だった。エストの名前を聞いた瞬間にまるで電球が切れたようにレアの顔色は真っ青になり、その両目は目の前のものが信じられないとばかりにエストとオスカーの間をゆらゆらしている。ぶつぶつと小声で何か言っており、「プルウェット」とか「ドロホフ」とかあり得ないとかが聞えてくる。

 オスカーはレアが本当に不味い状態にあると思った。

 

「ハグリッド、マッキノンは次の買い物があるんじゃないのか?」

「おおそうだったな、ほれ、レア、オリバンダーの店に行くぞ」

 

 ハグリッドはレアを片手でひょいっと持ち上げて連れて行ったが、その間もレアの顔色は変わらず、ぶつぶつと何かを言っているようだった。

 

「あれ? いっちゃった。エストなんかしたかな?」

「クラーナが悪い」

「なんですかそれ、だいたいの原因はオスカーの名前ですし、私はオスカーの為を思ってマッキノンに忠告したというのに」

「どう見ても面白がっている顔をしてただろ」

「なんなの、またオスカーとクラーナがわかんない話してるの」

 

 エストまで怒りだしてしまった。オスカーにはお手上げだった。

 

「まあ、ハグリッド達は行ってしまったみたいだし、みんなと合流して買い物を始めようか?」

 

 そう言ったウィーズリーおじさんについてオスカー達は買い物を始めた。オスカーはその日間中、レアの顔や表情が忘れられなかった。

 

 

 




※マッキノン家
原作中ではヴォルデモート没落直前に全滅したと言われる家。
原作中で判明している人物はマーリン・マッキノン。

※マーリン・マッキノン
不死鳥の騎士団創立メンバー。
原作中ではトラバースら、死喰い人に襲われ殺害される。
リリーのシリウスに宛てた手紙では訃報を聞いて一晩泣いたとある。


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失われたダイアデム

割と簡単に手に入る分霊箱


 楽しい夏休みは凄い速度で過ぎてしまった。オスカーはエストやみんなと過ごすホグワーツが楽しみで仕方なかったが、『隠れ穴』での一か月はそれに匹敵するくらいの時間だった。

 ウィーズリー兄弟と他の四人は良く、家の傍の畑で箒で遊んでいたがウィーズリー兄弟とエストはみんな箒で飛ぶのが上手かったし、トンクスもそれと同じくらい飛ぶのが上手かったので、オスカーとクラーナが同じチームになってしまうといつもボコボコに負けていた。

 最後の夜には豪華な夕食だったが、ウィーズリー兄弟のまだホグワーツに入学していない子供達はホグワーツ組が行ってしまうのを寂しがった。

 翌朝、ウィーズリー家の眼の前には魔法省からレンタルした車が二台止まっていた。キングズリーとウィーズリーおじさんが借りてきてくれたらしい。

 

「魔法省から君への監視という口実で借りてきたんだ」

 

 キングズリーがオスカーに耳打ちする。

 

「オスカーの死喰い人設定も役に立つときがありますね」

 

 確かにクラーナの言う通り、今回に関してはオスカーという名目が役に立っている気がオスカーはした。なにせ、ホグワーツ組六人をトランクごと一気にキングズ・クロス駅に運ぶのは容易ではないからだ。

 駅への道中は快適だった。魔法省から貸し出された車は見た目以上の容量を持っていて、六人分のトランクは悠々入ったし、他のウィーズリー家のみんなが乗っても車の中は不思議と一杯にならなかった。その上、信号待ちの度に一番前までワープした。

 しかし、初めに乗った時刻が遅かったのか、九と四分の三番線に着いた頃にはすでにホグワーツ特急の発車まで二十分を切っていたので、みんなダッシュで特急に乗り込んだ。

 

「じゃあみんな、規則を破らずに元気で過ごすんですよ」

 

 ウィーズリー家のみんながオスカー達に手を振っていた。オスカー達は開いているコンパートメントを見つけて、ホグワーツ特急が曲がって見えなくなるまで窓から手を振っていた。

 コンパートメントは去年よりも騒がしかった。トンクスは夏休み中は禁止されていた七変化を使ってみんなをからかい始めたし、エストは相変わらず百味ビーンズを馬鹿みたいに試しまくっている。オスカーはエストがへんな味とかいうたびに口にスコージファイをかけた。

 

「そう言えばみんなはクィディッチの選抜試験を受けるの?」

「エストは受けようと思ってるよ?」

「私も!!」

 

 トンクスがエストの顔で同意した。確かにこの三人は夏休みの遊びでも飛ぶのが上手かったので、寮の選抜メンバーに選ばれてもおかしくはないとオスカーは思った。

 

「私はパスですね、チャーリーやエストはおろか、フレッドとジョージにも勝てる気がしませんでしたからね」

「俺もパスだな、箒とか夏休みと一年生の飛行訓練の時しか乗ったこともないからな」

「あれー? もしかして二人でクィディッチの時間にまたなんかやる気なんじゃないの?」

「なんかって何ですか? もうエストと決闘するわけじゃないですし、これ以上決闘が上手くなっても相手がいないでしょう?」

 

 去年までのクラーナとの戦闘訓練はエストとの決闘が目的だったし、そもそもあれはクラーナからのクリスマスプレゼントという扱いだった。今年は他の寮のみんなとは遊ぶことも少なくなるのだろうかとオスカーは思い、すこし寂しくなった。

 

「じゃあ宝探ししない?」

「エスト、宝探しってなんだい?」

「ホグワーツにはお宝とか秘密の部屋みたいなのが隠されてるらしいの」

「スリザリンの秘密の部屋のことを言ってるんですか? 歴代の校長やダンブルドアが探しても見つからないものが見つかるとも思えないですけど」

 

 ダンブルドアのすべてを見通すような目や、杖の一振りでルーンスプールを封じてしまうような技量を見せられていたオスカーは、ダンブルドアが見つけられないものをとても見つけられるとは思えなかった。

 

「うーん秘密の部屋が難しいなら、レイブンクローの失われた髪飾りっていう方かな?」

「それって頭が良くなるっていう、レイブンクローが持ってたっていうやつだよね? ママが言ってたかもしれない」

「これ以上エストの成績が上がったら、先生方は点数の上限を突破させないといけなくなるな」

「もう……、別に成績の為じゃないもん。なんかニックが言ってたんだけどね、ホグワーツを作った人たちのお宝の中でも。その髪飾りとグリフィンドールの剣はホグワーツにあるかもしれないんだって」

「ニックって首なしニック?」

「そうだよ?」

「なんでグリフィンドールの寮霊と仲良くしてるんですか……」

 

 だが、オスカーはもう何百年もホグワーツにいるであろうゴーストの話なら割と信憑性があるのではないかと思った。

 ゴーストたちは人生? 霊生? に退屈しているためにホグワーツに流れる噂には敏感なのだ。

 

「だから、それを探してみようかなって思ってるんだけどどうかな?」

「まあいいんじゃないですか? 見つからないと思いますけど」

「私も賛成。太った修道士にも聞いてみようかな?」

「僕も面白そうだと思うよ」

「オスカーは?」

「ああ、面白そうだし探してみるかな」

「やった!! じゃあ今学期の空いてる時間で探してみようね」

 

 そうエストが言い終わるとそろそろホグワーツに着くというアナウンスが流れた。チャーリーとオスカーは女子陣が着替えるために一時的にコンパートメントから出た。出た際に隣の列車につながるドアに消えていく金髪がオスカーには見えた気がした。

 ホグワーツ特急は間もなくホグズミードの駅に着いた。駅は雨こそ降っていなかったが、黒い雲に覆われていた。去年はハグリッドに引率されて湖をボートで渡ったが今年は馬車で行くらしい。

 駅の外には百台ほどの馬車が奇妙な黒い、骨がむき出しに見える動物に曳かれて待ち受けていた。オスカーにはその生き物が馬というよりはドラゴンやトカゲといった爬虫類に近い生き物に見えた。翼も生えているが、鳥の翼というよりもコウモリなんかに近く見えるのだ。

 

「なんかすごい生き物だなこれ」

 

 オスカーは他の四人に話しかけたが、エスト以外は何を言っているのかという目でオスカーを見た。

 

「ほんとだね? 翼が生えてるからペガサスなのかな?」

 

 エストが物怖じせずにその生き物のうなじを触ると、生き物は気持ちよさそうな顔をした。

 

「二人共なんのことを言ってるんですか?」

「えっ、もしかしてそこになんかいるの?」

 

 クラーナとトンクスは訳が分からないという顔だったが、チャーリーはまさかという顔をして、エストが手を当てている場所を触りに行った。

 

「凄い!! これって凄く珍しい生き物だよ!!」

「ほんとにそこになんかいるんですか?」

「ああ、何か馬とドラゴンを組み合わせたみたいなのがいる」

「オスカーとエスト以外には見えないってことなの?」

 

 チャーリーとエストが触っている間、その生き物は嬉しそうにしていたのでオスカーは少なくとも、ルーンスプールよりは友好的な生き物だと思うことにした。

 

「これは多分、セストラルだよ、死を見た人にしか見えないペガサスの一種なんだ!!」

 

 チャーリーがそう言った瞬間、奇妙な沈黙が流れた気がした。つまり、オスカーとエストが誰かの死を見たことがあるということに他ならなかったからだ。

 チャーリーは興奮していたが、いつもこういう雰囲気の際に気にしないエストでさえ、今回は沈黙していた。

 

「そろそろ乗りませんか? 組み分けとごはんを見逃すわけにはいかないでしょう?」

「そうね、クラーナがおなかをすかせてオスカーが食べられちゃう前に乗りましょうよ」

「どうやって私がオスカーを食べるって言うんですか? 変身術でケーキにでも変えると?」

「それはまあ食べるって言っても色々あるしね」

 

 二人が気を利かせて乗り込むように促した。チャーリーはまだ興奮しているようだったが、オスカーとエストは馬車に乗っている間、しばらく無言だった。

 

「今年の闇の魔術に対する防衛術の先生は誰なんでしょうね?」

「確かに、ポドモア先生いなくなっちゃたしね」

「闇の魔術に対する防衛術は毎年、先生が辞めちゃうらしいよ」

 

 去年のポドモア先生にはオスカーは世話になったので、他の先生になってしまうというのは少し寂しかった。一番かわいがられていたエストも同様だろうとオスカーは思った。

 

「なんで一年で辞めちゃうのかな? 呪いがかかっているとかなのかな?」

「職種に対する呪いとかかけれるのか? かけれたとしてもダンブルドアが解けない呪いがあるとあんまり思えないけどな」

「そうですね、偶然が続いているのか、相当ヤバイ呪いがかかっているのかどっちかでしょうか?」

「私は単に偶然だと思うけどな~」

 

 そんな談義をしている間に二人の沈黙は破られ、馬車もホグワーツの正面玄関前にたどり着いていた。

 玄関ホームを抜けて、両開きの大扉を抜ければ新学期の宴が行われる大広間が見えてくる。空を模した天井は空の通りに真っ黒だったが、かえって燭台の炎やゴーストの真珠色の輝きが映えて見えた。

 四つの寮があるテーブルに座りに行こうとみんなが分かれようとした瞬間、トンクスが立ち止まった。

 

「ちょっとトンクス。そんなとこで立ち止まらないでくださいよ、邪魔です」

「ママがいる」

「は? 何言っているんですか?」

「あそこにママが座ってるんだけど」

 

 そう言ってトンクスは教員が座る席を指で差した。そこには見知っているスネイプ先生、スプラウト先生、マクゴナガル先生といった先生方に交じって、柔らかそうな栗色の髪をした女の人が座っていた。その人はオスカー達の方を見ると一瞬、ウィンクした。

 

「なるほど、新しい闇の魔術に対する防衛術の先生っていうことですか」

「ええ~‼‼ 私何にも聞かしてもらってなかったんだけど‼‼ パパもなんも言わなかったし」

「トンクスの両親らしいですね」

「クラーナどういう意味よ、それ‼」

「そのままの意味ですけど」

 

 確かに、その女の人を見るとトンクスの面影がある気がした。少しトンクスよりも高慢というか気高くしたというかそういう印象が先に出るような顔だったが、眼は優しそうだった。

 

「面白くなりそうだね? オスカー?」

「まあトンクスの母親っていうくらいだからな」

「だからどういう意味よ、それ‼」

 

 しかし、あんまり各テーブルへの導線の上で立ち止まっているわけにはいかないので、オスカー達はそれぞれのテーブルに分かれた。

 スリザリンのテーブルではエストは挨拶されていたが、相変わらずオスカーのことは無視された。

 

「あっ、男爵が座ってるあそこに座らない?」

「なんでもいいけど」

 

 エストは血まみれ男爵が鎮座している席を示した。スリザリンでも血まみれ男爵にひるまないのはエストくらいなものだとオスカー思った。

 

「男爵、久しぶりなの」

「おお、これは姫、ご機嫌麗しく」

 

 男爵はそう言って血まみれな服をはためかして一礼した。オスカーは少しだけペンスを思い出した。しかし、この男爵のエストに対する特別扱いはなんなのだろう? オスカーは去年度の組み分けが終わって以来から疑問だった。

 

「ねえ、男爵は失われた髪飾りって知ってる?」

 

 その瞬間、オスカーには男爵のただでさえ血の気の無い(ゴーストに血があるのかはわからないが)顔がさらに真っ青になったと思った。そうとうな衝撃を受けているようにオスカーには思えた。

 

「ほんとはロウェナ・レイブンクローの持ち物らしいんだけど、ニックがホグワーツにあるかもしれないんだって言ってたの? 何かしらない?」

「姫はそれを探すべきではない、断じて」

 

 そう言って、男爵は消えてしまった。オスカーは明らかに何かおかしいと思った。いつもの男爵ならエストとだけは長い間笑顔で喋るし、エストが城の中を移動するときにピーブズが何かしようものなら、ボコボコにピーブズを打ちのめすくらいに好かれているのだ。その男爵が消えてしまった。

 オスカーは少しだけ、失われた髪飾りについて胸騒ぎがした。

 

「変な男爵なの、なんでエストは探しちゃダメなんだろう? ね、オスカーもおかしいと思うよね?」

「なんか、いつもの男爵じゃなかったな」

「うーんなんだろう? あっ、組み分け始まるみたいだね」

 

 大広間の中央に組み分け帽子が置かれて、今まさに組み分けが始まろうとしていた。

 組み分け帽子が去年とは違う歌を歌って、組み分けが始まった。マクゴナガル先生が新入生を順番に呼び始める。

 段々と一年生の列は少なくなってきた。オスカーは一年生の列の中に見覚えのある金髪を見つけた。マクゴナガル先生が名前を読みあげる……

 

「マッキノン・レア」

 

 間違いなく、ダイアゴン横丁でハグリッドに連れられていた女の子だった。

 

「オスカー、あの子なの」

「マッキノンだな」

 

 レアはびくびくした足取りで前へでて、組み分け帽子を被った。少しの沈黙の中、帽子のつば近くの裂け目が動き、叫んだ。

 

「レイブンクロー!」

 

 レアはまだびくびくした足取りで拍手で迎えられながらレイブンクローのテーブルへ座った。

 

「あの子、レイブンクローなんだね? クラーナと喧嘩してたからグリフィンドールかと思ったの」

「なんでクラーナと喧嘩するとグリフィンドールなんだ?」

「だって、なんだかんだいって去年クラーナはグリフィンドールの生徒ばっかりと喧嘩してたの」

「確かにそう言われればそうかもしれない」

 

 オスカーはファッジ先輩の魂を抜かれた顔を思い浮かべた。確かにクラーナは他の寮ではなく自分の寮の先輩をおちょくっていた。

 組み分けはつつがなく終わり、去年のエストのように何十分も待たされるような生徒はいなかった。

 夕食が始まり、オスカーとエストはおなかを満たしたが、その間に男爵が戻ってくることはなかった。

 

「さて、すばらしいディナーを、みながそのお腹に収めているところで、学年度始めのいつものお知らせを始めよう」

 

 ダンブルドアが話を始めた。ざわざわしていたテーブルは一瞬で静かになった。禁じられた森への立ち入り禁止やフィルチのバカバカしい規則が伝えられる。

 

「さて、今年は一人の先生を迎え入れることになった。なんとも闇の魔術に対する防衛術の先生を探すのは毎年難しくなっておるので、非常にありがたいことじゃ。では、アンドロメダ・トンクス先生、闇の魔術に対する防衛術の新しい先生じゃ」

 

 そう言って、トンクス先生が立ち上がって一礼すると大広間は拍手で満たされた。みんな美人の先生がくるのは嬉しいらしい。

 ハッフルパフのテーブルを見るとトンクスが質問攻めにあっている。

 その後、ダンブルドアがホグワーツの校歌を指揮して、学生は寮へ向かうように促した。

 

「今年もよろしくね? オスカー」

「ああ」

 

 オスカーはエストの顔を見て、今年も楽しい一年だといいなと思った。

 

 

 

 

 




※失われた髪飾り
失われたダイアデム、レイブンクロー髪飾りとして知られる。
ホグワーツ創始者の一人、ロウェナ・レイブンクローの持ち物。
かぶっている人間の知恵を増幅する効果があると言われている。

※アンドロメダ・トンクス
旧名、アンドロメダ・ブラック。ニンファドーラ・トンクスの母親。
テッド・トンクスの妻、ナルシッサ・マルフォイ、ベラトリックス・レストレンジの姉妹。
シリウス・ブラックのいとこにあたる。


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悪霊の火

炎じゃなくて火なの


 ホグワーツでの生活が再び始まった。

 去年のようにグリフィンドールの生徒に襲撃されるようなことこそなかったが、やはりドロホフの名前が効いているのか、いつもの四人以外にオスカーと付き合おうというものはいない。

 先生方はそのような態度を示す先生こそいなかったのがオスカーにとっては救いではあったものの、そもそも授業ではエストが嫌でも目立つので、オスカーが触れられるようなことはほとんどなかった。

 去年から先生が変わったのは闇の魔術に対する防衛術だけだった。去年の先生はグリフィンドール出身にも関わらず、エストをえこひいきした疑惑があったので、今年の先生はスリザリン出身だったから、さらにえこひいきして点数を与えるのではないかとの噂が広まり始めていた。

 しかし、そんな噂は闇の魔術に対する防衛術の授業が実際に始まると霧散していった。

 

「とりあえず、自己紹介しておくわね、私はアンドロメダ・トンクス。今年一年の間、闇の魔術に対する防衛術の先生をすることになったわ、あとまだ座らなくていいわ、後ろに整列しててくれる?」

 

 トンクスに似た魔女が自己紹介をする。やっぱり、どこかトンクスよりもきつそうな印象を受けるとオスカーは思った。オスカー達スリザリンの生徒はトンクス先生の言う通り、席から立って後ろに並んだ。

 

「魔法省の指導要領では、三年生では比較的大人しい闇の生物に関して実践的に学び、四年生では反対呪文、逆呪いについて学ぶことになっているの」

 

 トンクス先生が杖を振ると、レッドキャップや河童と言った怪物たちの絵や、呪文をかけようとしている魔法使いに対して、これまた呪文をかけている魔女の絵が出てきた。

 

「だから二年生では闇の生物がどんな存在なのかとか、反対呪文はどうやって開発されたのか、そういう知識を蓄えることになっているわ」

 

 また先生が杖を振ると絵は消えて、さっきオスカー達が座っていた椅子は綺麗に整頓され、教室の端に積み上げられた。

 

「けど、最初に闇の呪いがどういうものなのか見てみたいと思うわよね? 知識を学ぶにしても、見たことがあるものを学ぶのとそうでないのでは大きな違いになるわ」

 

 また先生が杖を振る。今度は必要の部屋で見たような青い泡がオスカー達を優しく包んだ。

 

「本当はね、六年生にならないとそう言った呪いは見せちゃいけないことになってるの、だから今からやることは内緒よ」

 

 そう言ってトンクス先生はオスカー達にウィンクした後、今度は真剣な顔で杖を振った。

 その瞬間、とんでもない熱量がオスカー達を襲った。赤と紫に近い色の炎が教室の中に現れたのだ。青い泡の保護呪文に守られているはずの生徒達にその熱が伝わってくる。

 炎は様々な姿を取りながら、教室の中を荒れ狂った。巨大な蛇、山羊、悪魔、髑髏、おおよそ人が醜悪や邪悪だとおもうようなモノの姿を取り、暴れまわったのだ。

 オスカーはその炎に魅入られた。

 しばらく、炎が荒れ狂いやがて落ち着くと無事な姿のトンクス先生が現れた。

 生徒たちは拍手喝采でトンクス先生を迎えた。

 

「オスカー? ねえ、オスカー? 大丈夫? しっかりして」

 

 その炎を憑りつかれたように見つめていたオスカーはエストの声で自分を取り戻した。

 

「ああ、大丈夫、大丈夫だ」

「ほんとに大丈夫? 顔色がドクシーに刺されたみたいだよ?」

 

 オスカーはドクシー妖精に刺されたことがなかったのでその顔色がどの程度悪いのかわからなかったが、相当悪いことは伝わった。

 

「大丈夫だ。ちょっと暑かっただけだ」

「ほんとに?」

「ああ」

 

 エストはまだ心配そうにオスカーの顔をのぞき込んでいた。

 トンクス先生が杖を振って、机と椅子を元に戻し、オスカー達に座るよう促した。

 

「さて、拍手をありがとう。じゃあそこのドロホフ君、今の術はなんなのか分かる?」

 

 オスカーはエストと話していたのが目立っていたのか、当てられてしまった。

 

「ぁく霊の火…… 悪霊の火です」

 

 奇しくも、オスカーはさっき見た炎のことを知っていた。闇の魔術の中でも最も破壊的な魔術の一つ、悪霊の火だ。

 

「正解よ、スリザリンに五点あげるわ。そう、さっき見せた炎こそが、闇の魔術の中でも最も破壊的で破滅的な魔術の一つ。悪霊の火よ」

 

 またトンクス先生が杖を振ると巨大な蛇の姿を取った炎がマグルや魔法使いと思わしき人々やゴブリン、巨人、オオカミ人間といった生物を追い回している絵が浮かび上がった。

 

「あの炎は基本的にあらゆる魔法的な法則を破壊して、魔法使いやその他の生き物、闇の生き物、魔法具等を破壊するのよ、多くの魔法使いはあの炎を操ることができずにその代償を自らの体で支払ったわ」

 

 絵が動いて、炎の蛇の後ろに立って笑っていた魔法使いを飲み込んだ。

 

「じゃあ、これから学んでいくものについても分かったことだし、教科書を出して、ちゃんとした授業に戻りましょう。貴方たちもあの炎に呑まれたくはないでしょう?」

 

 そう言って笑ったアンドロメダ・トンクスはニンファドーラ・トンクスが悪戯をした時の笑い顔と本当にそっくりだったとオスカーは思った。

 その後の授業は普通に進んだ。先生がとんでもない闇の魔法を使うこともなかったし、反対呪文の開発法だとか、闇の魔法生物の分類の歴史だとかを学んでいった。

 だが、その授業の間中、オスカーは自分の顔色が戻ってないことを自覚していた。エストは授業の間ずっとオスカーの方を心配そうにのぞき込んだ。

 

「じゃあ、今日の授業はここまでね、来週までに攻撃呪文の系統について羊皮紙一枚にまとめてくること、解散‼‼」

 

 授業が終わるとエストはすぐにオスカーを医務室に連れて行こうとした。

 

「マダム・ポンフリーに見て貰った方がいいの」

「大丈夫だって、エストはクィディッチの選抜があるだろ? 早く行った方がいい」

 

 そう言って、オスカーはエストをクィディッチの競技場へ連れて行こうとした。しかし、エストは頑として動かない。

 

「マダム・ポンフリーのとこに行くって言うまでクィディッチの選抜にはいかないの」

 

 そう言って仁王立ちになるエストにオスカーは困り果ててしまった。

 

「おやおや、また決闘でもするんですか? お二人さん」

 

 後ろからクラーナが現れた、出てきた教室から見て妖精の魔法の授業が終わったところなのだろう。チャーリーも教室からでてきた。

 

「二人共こんなとこで何してるんだい? 今日はスリザリンのクィディッチの選抜じゃなかったの?」

「なんでグリフィンドールのチャーリーが日程を知ってるのか分かんないけど、オスカーが顔色が悪いのに医務室に行かないって言うの」

「だからちょっと暑かっただけだって」

「暑かっただけじゃあんな顔色にならないの、アズカバンから出てきた後みたいな顔色だったもん」

 

 クラーナとチャーリーに説明すると、エストは腕を組んでオスカーを睨みつけ、クラーナとチャーリーはオスカーの顔をのぞき込んだ。

 

「確かにまだ百味ビーンズの外れを引いたみたいな顔をしてるよ、オスカー」

「分かりました。このあほのオスカーは私たちがマダム・ポンフリーに引き渡しますから、エストはクィディッチの選抜に行ったらどうですか?」

「むぅ…… 絶対にオスカーを医務室に連れてってね?」

 

 クラーナとエストがやり取りして、やっとエストはオスカーを開放してクィディッチの選抜に向かった。

 

「で? 何があってそのヌルメンガードに幽閉された顔になったんですか? 叫びの屋敷の幽霊にでも取り憑かれました?」

「別に授業中に気分が悪くなっただけだ。だいたい叫びの屋敷の幽霊とかもういなくなって久しいんだろ?」

「それがそうでもないらしいよ、最近なんかまた音が聞こえるらしいって噂らしいんだ」

「ゴーストもよく引越しをするんだな」

 

 そうやり取りするとクラーナは大きくため息をついた。

 

「なるほど、エストにも私にもマダム・ポンフリーにも喋りたくないってことですね」

「だから暑くなっただけだって」

「それじゃすまない顔をしてたから、エストも私もチャーリーも貴方を捕まえてるんですけど」

「そうだよオスカー、普通に医務室に行った方がいいと思うけどな、マダム・ポンフリーはああ見えて口が堅いからね」

 

 オスカーの脳裏にマダム・ポンフリーが浮かぶ。去年度にグリフィンドールの生徒に追い回されてけがをした際に何度も世話になったが、確かにマダム・ポンフリーはいちいちその理由を聞いたりはしなかった。

 しかし、マダム・ポンフリーは生徒達のそういった事情をダンブルドア先生にだけは伝えているのではないかとオスカーは思った。

 

「あら? 貴方達、ニンファドーラのお友達よね?」

 

 先ほどオスカー達が授業をしていた教室からトンクス先生が出てきた。オスカーの顔を強引にのぞき込んでくる。

 

「ドロホフ君よくみたらなんか顔色が悪いわよ? 三人ともちょっといらっしゃい」

 

 そういってトンクス先生は三人を強引に先生の居室へと連れて行った。

 トンクス先生の居室はキッチリと整理整頓されていて、まさに品と由緒のある魔法使いの部屋という感じだった。

 オスカーはこういうところはトンクスには遺伝しなかったのだなと思った。

 

「ほら、これを食べなさい」

 

 そういってトンクス先生はオスカー達にチョコレートを手渡した。

 

「そのチョコレートを食べればだいたいの場合は顔色は良くなるわ」

 

 チョコレートを食べると何やら体の中が熱くなった気がした。

 

「ほんとは吸魂鬼とかレシフォールド用なんだけどね、ほら少しはましになったわ」

 

 オスカーの顔をのぞき込んでトンクス先生はそう言った。

 

「ここなら他の生徒もいないし、好きに喋れるわ。オスカー君、クラーナちゃん、チャーリー君よね? ニンファドーラが去年はよくふくろう便で貴方達の話をしてくれてたわ」

 

 トンクス先生が杖を振ると今度はティーカップが先生と三人の眼の前に現れる。中には熱い紅茶が並々と注がれている。

 先生は落ち着きある動作でそれを飲んだ。オスカー達も先生に習って紅茶を飲もうとした。

 

「それで? オスカー君はエストちゃんとクラーナちゃんのどっち派なの? ニンファドーラからのふくろう便は四分の三くらいその内容なのだけれど」

 

 クラーナが紅茶をむせ込んだ。チャーリーは隣でそれを見て笑っている。

 

「授業中はエストちゃんとべったりなのに、授業が終わったとたんにクラーナちゃんと一緒にいるとはやるわね、そもそもスリザリンのオスカー君がグリフィンドールの生徒と仲良くしてるのも凄いわ」

 

 トンクス先生は本当に感心しているという感じだった。

 

「やっぱり、トンクスはそればっかりなんですね、そんな事実はないですから‼‼」

「あらそうなの? グリフィンドールとスリザリンのカップルってロマンチックで先生はいいと思うんだけどね、私もマグル生まれの主人と駆け落ちした口だから応援するわよ」

 

 そういって顔を赤くしたクラーナを笑うトンクス先生は本当にトンクスにそっくりだとオスカーは思う。さっき紅茶を飲んでいた人とは別人のようだ。

 

「オスカー、髪飾りのことを先生に聞いてみたらいいんじゃないかな?」

「確かにそうだな」

「あら? 髪飾り?」

「そうです、レイブンクローの失われた髪飾りをいま私たちは探してるんです」

 

 クラーナは話題を変えたいのか、早口でまくし立てた。

 

「あれはおとぎ話よ? 貴方達も知っているでしょう?」

「でも、おとぎ話っていうのは大概なにかの事実に基づいてできるものじゃないんですか?」

 

 クラーナがまた早口でそう言うと、トンクス先生はまた笑う。

 

「いいこと? クラーナちゃん。失われた髪飾りっていうのは失われたという部分が重要なのよ」

「失われた…… ですか?」

「そう遥か昔、四人の創始者がまだいたころにね」

「つまり、どこにあるのか知っている人はいないってことですか?」

 

 そうオスカーが言うとトンクス先生は、チッチっと指を振った。

 

「そうね、今生きている人に聞いても千年前のことなんて分かるわけないでしょう? だって髪飾りが失われた時の記憶を持つ人はいないのだから」

 

 そのトンクス先生の言葉を聞いて三人はハッとなった。最初に、髪飾りの話をエストは誰から聞いたと言っていたのか? トンクスはあの時だれに聞いてみようと言っていたのか?

 

「ゴーストに聞けばいいっておっしゃっているんですか?」

「少なくとも数十年しか生きていない私に聞いても仕方ないし、ゴーストたちの方が私たちよりも生きた記憶を持ってるんじゃないかしら?」

 

 三人はそれを聞いて顔を見合わした。ゴーストならば千年前の記憶を持つ人すらいるかもしれないのだ。ゴーストの記憶が生きているかどうかは別として、失われた時の記憶が分かれば髪飾りがホグワーツにあるかどうかも分かるかもしれない。

 

「それにいいことを教えてあげるわ、ゴーストにはね、その人が死んだ日、絶命日を祝うっていう習慣があるのよ」

「絶命日? ですか?」

「そうよね、死んだ日を祝うなんて私たちにはなじみがないことだけどね、ホグワーツのゴーストの絶命日なら、それは多くのゴーストが集まるでしょうね」

 

 

 話を聞くゴーストが多ければ多いほど髪飾りのことを聞けるかもしれないし、もしかしたら千年前からいるゴーストすらいるかもしれないとオスカーは思った。

 

 

 

 

 

 

 




※悪霊の火
闇の魔術の一つ。あらゆる物体を焼き尽くす火。
作中ではゴイルが必要の部屋で使用。
映画版ではヴォルデモートが魔法省の戦いで使用。


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絶命日パーティ

ホグワーツのゴーストの数からしてとんでもない数のパーティをしてるんじゃないのか


「後で絶対どんなのだったか教えてよ?」

「ああ、まあ生きてる奴が行って楽しいものなのかは分かんないけどな」

「絶命日パーティ自体もそうだけど、髪飾りの方もだよ」

「まあ寮に帰ったら私が談話室で話しますよ」

 

 クラーナがやれやれという顔をしてチャーリーに言った。

 

「絶対だよ? クラーナ」

「チャーリーが練習から帰ってくる時間に眠くなってなかったらいますよ」

「クラーナそれ絶対寝る気満々でしょ?」

「失敬な、あほのトンクスと違ってほんとに眠くなかったらいますよ」

「絶対寝る気なの」

 

 そういって、チャーリーをクィディッチの練習に四人は送り出した。ちなみにチャーリー、エスト、トンクスの三人は無事クィディッチの選抜に合格した。

 チャーリーとエストはシーカー、トンクスはチェイサーになるらしい。オスカーはそれを聞いて、クィディッチの試合の際にどのチームを応援するかが難しくなると思った。

 

「で、太った修道士の絶命日パーティっていうのはどこでやるんですか?」

「地下牢だって、こういうのは地下牢みたいな雰囲気のある場所でやるのがゴーストの常識らしいよ」

 

 トンクスが答える。トンクス先生に聞いた後、トンクスが太った修道士に聞いたところ、直近で太った修道士の何百年目かの絶命日パーティを行うことが分かったのだった。

 

「魔法薬の授業といい、スリザリンの寮といい、地下牢にはそういうのを集めるなんかがあるんですかね?」

「もう、なんかってなんなの? そもそもなんでクラーナはスリザリンの寮の場所を知ってるの?」

「油断大敵です」

 

 地下牢に向けて歩きながらクラーナが答える。

 

「答えになってないだろ」

「敵の本拠地は知っておかなければならないんですよ」

「こんなこと言ってごまかしてるけどほんとはオスカーの寝室を襲撃するためでしょ」

「意味わかんないこと言わないでください」

 

 こんどはクラーナがやれやれとトンクスの方を見た。

 

「そもそも合言葉がわかんないと入れないの」

「どうせ純血とか聖二十八の一族とか穢れた血とかその辺でしょう?」

「ええ!? なんで知ってるの?」

「オスカーと秘密で会うためにお互いに教え合ってるとか?」

「しばきますよ、適当に言っただけですよ」

 

 なぜかそのあとオスカーが二人に問い詰められたが、そもそも多分クラーナは本当に適当に言っただけなので、オスカーには答えようがなかった。

 絶命日パーティに出席するため、四人は地下牢へ進んでいたが、地下牢へと続く道はいつもと違いなにやら黒い蝋燭に青い炎を灯して飾り付けられていた。

 

「やっぱり、レイブンクロー寮に関連するゴーストに聞くのがいいのかな?」

「まあ普通に考えるとそうだよな」

「レイブンクローの寮霊は灰色のレディだったっけ?」

「そうですけど、一概には言えないんじゃないですか? むしろ千年前からホグワーツ城にいるゴーストとかに絞ったほうがいいんじゃないですかね」

 

 オスカーは確かにもし、創始者たちと同じころからいるゴーストがいるのなら、簡単に髪飾りの場所がわかるのではないかと思った。

 

「そんな昔からゴーストがいるのかな? ニックも太った修道士もそんなに前の人じゃないよね?」

「そうですね、ニックは十四世紀だか十五世紀だかに死んだとか言ってた気がします」

「太った修道士も何百回目とか言ってたから、そんなに前じゃないわね」

 

 地下牢へと足をさらに進めると四人は凄い勢いで温度が下がってきているのを感じた。オスカーは寒さを防ぐためにローブから体がでないようにした。

 地下牢の方から、非常に耳障りなガラスを金属でこするような、黒板を爪でひっかくような音が聞こえてくる。

 

「めっちゃ行く気なくなってきたんだけど」

 

 トンクスは身震いして、やる気のない顔をした。

 

「貴方が取り付けてきたんでしょう。主賓なんだからしっかりしてください」

「私まだ生きてるから招待に値しないんじゃないかな」

「四人共生きてるの」

「太った修道士がこっちに手を振ってるな」

 

 地下牢の中は文字通りに現実の世界とは思えない光景だった。

 何百もの真珠色のゴーストが浮かび、ダンスやら談笑なんかをそれぞれがしている。地下牢は道中にあった青い蝋燭と真珠色のゴーストで全体が青白く光っているのだ。

 ステージの上にはノコギリで耳障りな音楽を演奏している一団がおり、その横で太った修道士がオスカー達に向けて手を振っていた。

 

「凄いわね、デットテッドマンションみたい」

「なんですか? デットテッドマンションって?」

「マグルの映画よ、こんな風にゴーストが一杯でてくるお話があるのよ」

「へえ、映画ってのはなんなのかよくわからないですけど、マグルにはゴーストなんて見えないのに不思議ですね」

「そんなの私にだって分からないわよ、てかめっちゃ寒いわ」

「それには同意するの」

「早く話を聞いて帰らないと俺らもゴーストの仲間入りしそうだな」

 

 四人はブルブルと震えながら、話を聞くゴーストを探そうとしたがそもそもゴーストが多すぎて誰に話かければよいのか皆目見当がつかなかった。

 しばらくあてもなく歩いてみたが、ゴースト達は生きている四人に驚いたり、自分の首でポロを始めたり、足と手を交換した状態で歩いていたりとどんどん四人の精神力を奪って行った。

 すると、明らかに他のゴーストとは毛色の違う、けばけばしいオレンジ色のパーティ用の帽子を被ったゴーストが現れた。

 

「あれ、ピーブズじゃないんですか?」

 

 クラーナがそう言うとピーブズはこちらを振り向いた。最初は意地の悪いニヤニヤ笑いをクラーナに向けていたが、その横のオスカーを見ると微妙な顔になり、エストの顔を見るとめったに見せない緊張した顔になった。

 

「姫様はなぜこんなところに? 男爵様はいらっしゃいませんが?」

 

 ピーブズは直立不動の敬礼をエストに見せながら訪ねた。相変わらずエストには逆らえないらしい。

 

「エスト達はね、失われた髪飾りっていうのを探してるの、それでゴーストさんに聞こうと思ってきたんだよ」

「失われた髪飾りですか? ピーブズめは存じあげません」

 

 そういってピーブズは後退して、消えようとしたがエストが引き留める。

 

「ピーブズ待つの。千年くらい前からいるゴーストって誰がいるのかな?」

「ピーブズめが存じ上げているのは男爵様とレイブンクローの姫様です」

「男爵様って血みどろ男爵ですよね? レイブンクローの姫様って誰なんですか?」

 

 クラーナがそう聞くとピーブズはさらに怯えているというか、恐れ多いというか、おおよそピーブズに似つかない顔をした。オスカーがピーブズのそんな顔を見たのは、入学時にエストにちょっかいを出した瞬間に血みどろ男爵が激高したときだけだった。

 

「ピーブズめの口からは恐れ多いですが、レイブンクローの姫様とは灰色のレディと呼ばれている方のことです」

「なんで姫様なの?」

「それは灰色のレディがホグワーツ城主のお嬢様だからです」

 

 一瞬の沈黙があった。今ピーブズは重要な事実を言ったのは間違いがなかった。オスカー達が探していたのは失われた髪飾り、ホグワーツ創始者の一人、ロウェナ・レイブンクローの持ち物だった。

 

「それって、灰色のレディがロウェナ・レイブンクローの子供ってことなの?」

「そうピーブズめはうかがっております」

「灰色のレディは今日ここに来てるの?」

「レイブンクローの姫様がこのような場所に来られるとは思いません。生者である姫様がこのような場所に来られていることにもピーブズめは驚いております」

 

 四人は顔を見合わした。衝撃の事実だった。間違いなく、灰色のレディならば失われた髪飾りがどうなったのか知っているはずだと考える。なにせ所有者の子供なのだから。

 ピーブズは四人が事実を受け止めている間に消えていった。男爵にエストと話しているのを見られれば、とんでもないことになるかもしれないと思っているのだろう。

 

「とりあえずここから出ない? 寒すぎてとてもじゃないけど何も考えれないんだけど」

「俺もそう思う」

 

 トンクスとオスカーが震えながらそう言って、オスカー達は絶命日パーティを後にした。

 

 

 

 地下牢から離れると体の芯から震えるような寒さはなくなり、四人はホッと一息をついた。

 

「で? 灰色のレディがレイブンクローの娘だってことが分かったわけですけど、とりあえずレディを探せばいいんですかね?」

「そうよね、そりゃあ持ち主の娘ならどこにあるか知ってるんじゃないの?」

「でも、灰色のレディはレイブンクローの寮霊だよね? エストがレイブンクローの生徒なら絶対最初に聞くと思うな」

「聞いたところで教えてくれるとは限らないってことか」

 

 そう言いながら、あてもなく歩いていた四人はいつの間にか玄関ホールについていた。

 ちょうどレア・マッキノンが校庭から玄関ホールを通って中に入ってきた。

 

「おや? マッキノンじゃないですか、ダイアゴン横丁ではお世話になりましたね」

 

 クラーナがそうレアに声をかけると、レアは可哀想になるくらいにビクッと反応した。

 

「クラーナが喧嘩売るから怯えてるじゃないの」

「ダイアゴン横丁では向こうから喧嘩売ってきたんだから問題ないでしょう」

「問題しかないだろ」

 

 しかし、オスカー達がそうやりとりしている間もレアはびくびくしており、ダイアゴン横丁で見られたような威勢の良さや自信のようなものが見られないとオスカーは思った。

 

「ねえ? レアはレイブンクローだよね? 灰色のレディがどこにいるかって知ってる?」

「灰色のレディ? ですか? 時々、天文台の塔じゃない方の塔で話を聞いてもらっているので、今日もそこにいると思いますけど……」

「レアってもしかして、灰色のレディと知り合いなの?」

「ボクはレイブンクローにしては…… その…… あんまり魔法ができないから、そしたら灰色のレディが話しかけてくれたんです」

 

 エストが尋ねると、おずおずとレアは灰色のレディとのいきさつを話してくれた。

 確かに、知識や成績偏重のレイブンクローでは魔法に対する実績がないと追い詰められてしまうのだろうとオスカーは思った。

 

「マッキノンと言えば、ちょっと前までは魔法界でも指折りの名家だったはずだと思ってましたけどね」

 

 クラーナがそう言って、またレアに視線を向けるとレアはまたビクッと体を震わせた。唇は嚙みしめられていて、こぶしはぷるぷると震えている。

 

「クラーナうるさいの、ねえ今エスト達は灰色のレディに会いたいと思ってるんだけど、紹介してくれる?」

「そうね、灰色のレディに会わせてくれない? クラーナはなしでいいから」

「いいですけど……」

 

 そう二人がクラーナをぞんざいに扱うとやっとレアは少しだけ笑った。それでもクラーナとオスカーの方を見ようとはしなかったが。

 

「いいじゃないですか、私たちが探しているのは失われた髪飾りですからね、マッキノンの成績もあがるんじゃないですか?」

「失われた髪飾り?」

「レイブンクローがつけてた髪飾りのことなの、なんかつけると頭が良くなるらしいの」

「先輩たちは成績をあげたいんですか?」

「エストの成績をこれ以上上げようとするんなら、まず成績の上限を上げないとだめだろうな」

「それには同意するわ」

「面白そうだから見つけようとしてるだけなの」

 

 五人はレアの先導に従って天文台ではない方の塔へ向かっていた。確か三年生では占い学か何かをやるための塔のはずだった。

 今日は太った修道士の絶命日パーティのせいか、ホグワーツのゴーストはほとんどいなかったが、肖像画は別だった。

 

「小さな少女よ! 今宵もまた知恵ある姫に迷いを打ち明けるのか?」

「ついてこないでください‼‼」

「少女よ、その刃を抜き放ち、世間にその勇気を示すのだ! さすれば迷いはなくなり、道は開けるであろう!!」

「だからついてこないでってば‼‼」

 

 カドガン卿と書かれた肖像画からずっと肖像画を渡り歩いてついてくるその人物は、なにやらレアに向けて叫び続けている。

 

「めっちゃうるさいんだけど、どうにかならならないのこれ?」

「そうですよ、マッキノン、どうにかしてください」

「そんなこと言われても、カドガン卿はどうにもならないよ、ボクがここにくるといつもこうなんだ」

 

 レアは困り果てている顔だった。このカドガン卿とかいう肖像画は隣の肖像画が迷惑しているのも無視してレアを追いかけてくるのだ。終いには馬や鎧を落としても追いかけてきた。

 

「友に心を打ち明けることこそ、戦場に出向くことに匹敵する本当の勇気の一つである!! さあ、紳士、淑女諸君!! 進め、進むのだ!!」

 

 塔の階段を上り、肖像画がない場所になってやっと、オスカー達はカドガン卿を振り切った。最上階と思わしき場所に出ると、天文台やグリフィンドールの寮があるであろう塔。黒い湖や禁じられた森といったホグワーツをあらゆる場所が見渡せる場所だった。

 

「いい場所ですね」

「そうだな、ホグワーツの全部が見える」

 

 そろそろ日が沈み始めようとしており、ホグワーツは茜色に包まれようとしていた。

 

「レディ? レディ? いますか? ボクです。レア・マッキノンです」

 

 レアが四方に向かって声をかけて、灰色のレディを呼ぼうとしている。オスカー達もどこからでてくるのかと思い、それぞれに別の方向を見回した。

 

「レア、今日はお友達が沢山いるのね」

 

 声が聞えた。どこから聞こえたのかオスカーにはすぐに分かった。灰色のレディと思わしきゴーストは塔の床下から現れた。

 オスカーはそのゴーストは幾回か廊下で通り過ぎたのを見たことがあったが、ちゃんと顔を見たことはなかった。

 そのゴーストは長身で長い髪と床まで続く長いマントを着た、確かに美しいゴーストだった。

 

 そして顔をみると、なぜ血みどろ男爵やピーブズがエストのことを姫と言っていたのか分かった気がした。

 

 

 




※カドガン卿
間抜けで恐れを知らない騎士の肖像画。
原作中ではシリウス・ブラックに襲撃された太った婦人のかわりを務めた。


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創設者の娘

実は超重要人物


「貴方が灰色のレディなの?」

「そのとおり」

 

 エストと灰色のレディは正面から向き合っていた。

 似ている。オスカーはただそう思った。エスト以外の他のみんなもそう思っているだろう。もちろん、身長だとか年齢・髪質だとか、そういったことは違っていたが灰色のレディとエストは確かに似ていた。

 印象として、灰色のレディの方が尊大で誇り高そうに見え、エストの方が優し気な雰囲気があるようには感じられたが、それ以上に似ていると万人は考えるだろうとオスカーは思った。

 

「やっぱり、思ってたけど、二人はそっくりなんだ……」

 

 レアが二人の顔を交互に見て、そうつぶやいた。

 

「それは違うわね、彼女は私よりも私の母に似ている」

 

 灰色のレディはエストを真っ直ぐに見つめてそう言った。

 

「貴方のお母さんって、ロウェナ・レイブンクローのことなの?」

 

 灰色のレディは静かに夕暮れに染まる塔の中で静かに佇みながら頷いた。

 

「ええ、貴方はとても母に似ている。貴方が成長したなら、レイブンクローの寮生ならだれもがそれに気づいたでしょう。千年時が経っても、レイブンクロー寮にある像は変わらぬまま今も置かれているのだから」

 

 妙な気分だった。半透明なゴーストと実体のある生徒は夕日の中、そっくりな顔で問答を続けていた。二人の他に誰も喋ろうとは思えなかった。

 

「男爵がエストのことを姫って呼ぶのは、エストが貴方やロウェナに似てるからなの?」

 

 男爵という言葉を聞くと灰色のレディは少し、悲しそうな、苦々しいようなそんな顔をした。

 

「そうでしょうね、あの男爵は貴方のことをそう呼ぶでしょうし、貴方に初めてあった時にはさぞ驚いたでしょう」

 

 オスカーはホグワーツに初めて足を踏み入れたあの日、組み分けを終えてエストが自分の隣に座った時、隣にいた血みどろ男爵がした顔を覚えていた。彼はこれでもかというくらいにエストを目を見開いて見ていたのだ。

 

「聞いていいのかわからないけど、貴方は男爵とどういう関係なの? ピーブズは二人が千年前からここにいるゴーストだって言ってたの」

 

 そのことについて聞かれると灰色のレディの顔色が変わったようにオスカーには思えた。もちろんゴーストに血は通っていないのだから、真珠色の濃淡が変わったとしか言いようがないが、まるで彼女は恥じ入って、顔を赤くしているようにオスカーには思えたのだ。

 

「貴方達は母の髪飾りを探していたのでしょう? 男爵と私はあの髪飾りを巡って、このように現世を彷徨うことになったんです」

 

 オスカーはあまりいい予感はしなかった。あの血まみれ男爵が血まみれになった理由こそがその髪飾りに関わっている気がしたのだ。

 

「それは…… 聞いてもいいことなの?」

 

 エストは不安そうな顔になり、一瞬だけオスカーに目線を移してから灰色のレディにそう聞いた。

 

「スリザリン寮の優しい少女、貴方はとても城の者に好かれている。ゴーストも、肖像画も、鎧や彫像達も、母が作った階段や秘密の通路も、貴方が信頼に足る人間だといっている」

 

 そう言った灰色のレディはエスト以外の四人を見回した。

 

「ここに四寮の学生が集まっているのもそう。私が城に生きていたころから、四寮はいがみ合い、それが原因の一つとなって私の母は体調を崩したのだから、それがどんなに素晴らしいことなのか私は知ってる」

 

 またなにか悲しそうな顔で灰色のレディは塔から見えるホグワーツを見渡した。

 

「貴方なら、おろかだった私よりもよっぽどあの髪飾りにふさわしいかもしれません」

 

 今度は間違いなく、灰色のレディがそのことを悔いていて、自分自身に腹を立てていることがオスカーにはわかった。オスカーは去年度に何度もその顔を自分がしていたことを覚えている。

 

「私は最初に恐ろしい裏切りをしました。母よりも、あの時代最も賢く偉大だといわれた魔女よりも、私は重要で賢く、偉大な人物になりたかった。だから、私はあの髪飾りを盗み出したのです」

 

 隣にいるレアの顔が悲嘆に暮れていた。まるで灰色のレディの胸の痛みをそのまま受けているような顔だった。

 

「母は、私が髪飾りを持って逃げたことを絶対に認めなかった。同じ創始者の三人にさえそれを言わなかった。でもそのあと、母は病気になってしまった」

 

 その場にいた生あるものはその話に夢中になっていた。千年前のおとぎ話、その生きた記憶が目の前で話されていたのだから。

 

「母は私が許されざる裏切りをしたにも関わらず、私を許して、私に会おうとした。死ぬまでになんとしても会いたいと、だから絶対に私を見つけ出すであろう男にそれを頼んだの」

 

 オスカーにも、他の四人にもそれが誰なのかはもうわかっていた。

 

「血みどろ男爵、今はそう呼ばれている男は私のことを愛していたわ。だから長い間、彼は私を探し求めて、はるか遠くアルバニアの森まで探しに来たのよ。でも私は彼を受け入れず、帰るのを断ったの」

 

 灰色のレディは大きく深呼吸して、はっきりとより大きな声で喋り続けた。

 

「彼は生前は短気で知られていたの、彼は私が断ると激高して、私を刺したわ。そしてそのあと、自分のしでかしたことに絶望して、私を刺した武器を使って自決した。それからずっと、何百年、千年近い時が経っても、彼は鎖を体に巻き付けて自分のしでかしたことを悔い続けているというわけよ」

 

 もう日は沈みかけ、塔には夜のとばりがおりかけていたが誰も何もしゃべらなかった。

 

「だから、失われた髪飾りは失われたまま、ホグワーツに戻ることはなかったわ、母もその後、髪飾りを取り戻すことなく亡くなったのだから」

 

 そう灰色のレディは締めくくった。レアの瞳には涙が浮かんでいたし、他の四人の表情も晴れないものだった。

 

「今の話は私たちにしたのが最初なのですか? 千年近い時間の中で?」

 

 これまで喋らなかったクラーナが理路整然と質問した。確かに、千年近い時の中で他の人に灰色のレディが喋ったことはあるかもしれない。そうなると失われた髪飾りも二人の最後の場所にあるとは限らないのではないのかとオスカーは考えた。

 しばらく、灰色のレディは沈黙していた。

 そしてその後、灰色のレディが一瞬した表情はさっきの髪飾りを盗んだと告白したときの表情と同じくらい自分を恥じる表情だったとオスカーは思った。

 

「いえ、貴方達で二回目になります。その時話したのも貴方やその少年と同じスリザリンの寮の生徒でした。しかし、髪飾りがホグワーツにないことは間違いないでしょう。彼が死ぬまでにホグワーツに戻ったという話は聞きませんでしたから」

 

 つまり、オスカー達以外にこの話を聞いた人物はホグワーツにその髪飾りを戻すこともなく、死んだ。だから、失われた髪飾りは今もアルバニアにあるかもしれないし、その人物の家で眠っているのかもしれない、どちらにしろオスカーはその髪飾りをホグワーツで見つけることはできないのだと思った。

 

「灰色のレディ、ありがとうなの」

 

 そうエストが灰色のレディに礼を言うと、灰色のレディはその言葉と自分の言ったことを嚙みしめるような表情したあと、校舎の方へ消えていこうとした。

 

「待ってくれ、貴方はどう思っているんだ? 貴方は髪飾りは失われたままでいいと思っているのか?」

 

 オスカーの口から言葉が飛び出た。髪飾りが原因で親子の不和が起き、その体と家族を失うことになったのなら、髪飾りをどうしたいのかは重要なことなのではないのか? 少なくとも、オスカーは自分がそうなったのなら、ホグワーツへ、本当の持ち主がいた場所へ戻したいと考えるだろうと思ったのだ。

 呼びかけられ、こちらを振り向いた灰色のレディの顔はどこか泣いているようにも、衝撃を受けているようにも思えた。

 

「貴方は心優しいのね、でも心配は無用よ、あの髪飾りは誰にも使われずに、争いの元にならずに、失われた髪飾りであることが重要なの」

 

 灰色のレディは優しく言うと、静かに暗いホグワーツへと消えていった。

 オスカーには自分の罪の象徴が見つからないままでいたほうがいいと納得できるまで一体どれほどの時が必要だったのか、見当もつかなかった。

 

 

 

五人は静かに塔の階段を下りていた。上るときは騒がしかったカドガン卿も今回は何故か騒いでいなかった。

 

「私たちよりも先に灰色のレディから話を聞いた人ってだれだったんでしょうか?」

「スリザリン寮の人って言ってたわ、それに彼って」

「マーリンとかなのかな? スリザリンで一番有名な魔法使いだし」

「誰にしろ、失われた髪飾りは失われたままか」

 

 レアは四人の会話には混ざらずに黙ってついてきていた。

 

「エストが見つけたら、ホグワーツに戻しにくると思うの、レディの話を聞いた人ならみんなそうすると思うんだけどな」

「そうね、だって頭が良くなるだけのはずでしょ? 賢者の石みたいにずっと生きられるわけじゃないから、ずっとその人が持ってても意味ないと思うわね」

「まあ実はノクターン横丁とかで埃を被ってるだけかもしれませんね」

「魔法省が文化財として保護するレベルのものだと思うけどな」

 

 確かに、クラーナの言う通りにノクターン横丁のような怪しい場所で取引されているのかもしれないし、誰かの家で保存されているのかもしれない。

 しかし、オスカーは灰色のレディがああいったのだからそれでよいのかもしれないと思った。

 

「ホグワーツに戻しに来たんならレディに挨拶するはずだもんね…… やっぱり、お宝ってないのかな」

「グリフィンドールの剣はどうなんですか?」

「真のグリフィンドール生なら取り出せるってやつ?」

「いったい何から取り出せるんだ?」

 

 グリフィンドール由来の壺やロッカーでもホグワーツにあるのだろうか? オスカーは一瞬、赤と金に装飾された壺を想像した。

 

「そもそも真のグリフィンドール生ってなんなんですか? 死喰い人を百人くらい捕まえたら認めて貰えるんですかね?」

「それだとクラーナのおじさんくらいしか認められないの」

 

 もう一つのお宝をこれから見つけるのは容易ではないとオスカーは思った。そもそもこれ以上ゴーストと関わるのは勘弁して欲しかったのだ。ゴーストに近づくと物理的に寒さを感じるのだ、オスカーはクラーナに取られてしまったウィーズリーおばさんのセーターが恋しかった。

 

「ねえ、みんなはクリスマスどうするの?」

「クリスマスですか? 私はどうせホグワーツにいますけど」

「私はパパのとこに帰ろうかな、ママと私がいなくて寂しいだろうし」

「俺もホグワーツだな」

 

 恐らくエストはレアも含めた全員に聞いたのだろうが、レアは何かを考えているのか何も反応を示さず、上の空だった。

 

「実はエストに考えがあるの、ちょっと前にふくろう便を内緒で送ったんだけどね」

 

 エストはオスカーの方を悪戯っぽく見ながら羊皮紙を取り出した。羊皮紙はオスカーがどこかで見たことのある筆跡で文章が書かれていた。

 

「じゃん‼ オスカーのおうちでクリスマスを過ごす許可をキングズリーとアーサーおじさんに貰ってきたの」

「は?」

 

 オスカーがエストから羊皮紙を取り上げると、確かにキングズリーの字でクリスマス休暇中にオスカーを含めた誰かを家に入れる場合は警備を引き受けると書かれていた。

 

「いつの間に……」

「だからね? みんなでオスカーのうちにいかない? 前行った時はせっかくペンスさんに用意して貰ったのに、中途半端に帰っちゃったでしょ?」

「まああの屋敷しもべ妖精は喜ぶでしょうね」

「クラーナそんなこと言って、ほんとは行きたくて仕方ないんでしょ?」

「うるさいですね、貴方こそ顔面が糖蜜パイとキスしたくて仕方ない顔をしてますよ」

「どんな顔よそれ」

「私の目の前にいる女みたいな顔です」

 

 オスカーはしばらく羊皮紙を無言で見つめていた。ちょっとだけ羊皮紙が暖かく、さっき塔で灰色のレディと話していた時の寒さが和らいだ気がした。クリスマスにみんなで戻ればペンスは喜ぶだろうことが容易に想像できた。

 

「俺はキングズリーが問題ないならいいけどな」

「やった! じゃあ決まりなの」

「凄い騒がしいクリスマスになりそうですね」

「頬がにやけてるわよ、クラーナ、私も今年はパパに犠牲になってもらおうかな」

 

 そう言えばレアの声が聞こえないと思い、オスカーは周りを見回すとすでにレアの姿はなかった。オスカー達がクリスマスの話で騒いでいる間にどこかに行ってしまったのだろうか?

 

「レアがいないの」

「ほんとですね、髪飾りでも探しにいきましたかね?」

「いや、さっきホグワーツにはないって聞いたことでしょ」

「大広間に飯でも食べにいったのか?」

「むぅ、レアも誘おうと思ってたのにな」

 

 オスカーはクリスマスのことでほとんど頭がいっぱいになっていたが、灰色のレディの話を聞いていた時のレアの顔を少しだけ思い出した。

 

 



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ドロホフ邸のクリスマス

エストちゃんの考え方


 失われた髪飾りやグリフィンドールの剣を探す目途が立たなくなり、その後のホグワーツでの生活は滞りなく進んでいった。ハグリッドが危険な卵を貰ってくることもなかったし、決闘の準備をする必要もなかったからだ。

 ただ、エスト、チャーリー、トンクスの三人が順番でクィディッチの練習に行かなくてはならなかったので、みんなで集まることができるのはほとんどなかったのだ。

 そうしている間に、ハロウィンは通り過ぎ、クリスマス休暇がやってきた。

 エストが宣言したとおりに五人はドロホフ邸でクリスマス休暇を過ごすことになった。ウィーズリー家の皆もやってくることになっていた。ペンスにはしつこく魔法省関連のことで問題を起こさないように言いくるめたので大丈夫だろうとオスカーは思った。

 

「いったい何部屋あるのこの家?」

「三十何部屋ってペンスが言ってたけどな」

「三十!? オスカーいったいどれだけ子供作るつもりなのよ」

「なんで部屋の数だけ子供を持たないといけないんだよ」

 

 ウィーズリー家に先んじて、五人はキングズリーと一緒にドロホフ邸にやってきていた。

 

「それはあれでしょ? スリザリンの生徒が良く言ってる、純血主義の実現ってやつよ」

「トンクス、それだと二、三世代後には魔法族はみんなオスカーの子孫になっちゃうの」

「ドラゴンとか、ペガサスならそういうこともあるらしいけど、人間だと難しいんじゃないかな?」

 

 チャーリーはすぐに動物に例えたがるが、確かに自分は動物の様に沢山子供を作るのは難しいだろうとオスカーは思った。

 

「そうですね、三十の半分男だったとして、十五人が三回ですから、三千人以上の子孫が三代後にはいることになりますね」

「うええ、スリザリン寮はパンパンね」

「なんで全員スリザリンに入るの前提なんだ」

 

 五人はウィーズリー家がやってくる前に応接間の模様替えをする予定だった。クリスマス休暇をドロホフ邸で過ごすとペンスに伝えたのが少し遅かったため、今、ペンスは客室の大掃除で大忙しなのだった。

 なので、五人は先に応接間の飾り付けを行っていた。暖炉飛行でハグリッドが禁じられた森からツリー用の木を持ってきてくれていたので、応接間には巨大なモミの木がすでに鎮座している。

 しかし、学校外では魔法を使うことができない為、五人はヤドリギやヒイラギの花飾りを手作業で飾りつけなければならなかったのだ。

 

「こんなおっきなツリーなんて、僕のうちには入らないからね、ロンは喜ぶだろうな」

「ロンは何歳なんだっけ?」

「僕と七年ずれてるから、五歳だよ」

「ちょうど私たちとホグワーツでは一緒にならない年齢なんですね」

 

 フレッド・ジョージはギリギリ一緒にホグワーツに通うことになるが、ロンやジニーはオスカー達と一緒に行くことはできないだろう。オスカーはフレッド・ジョージが入学することで今以上に騒がしくなったホグワーツを想像した。

 

「クラーナにいびられないから最高の年齢ね、ウィーズリーならグリフィンドールだろうし」

「なんですかそれは、私はグリフィンドール生をいじめたことはありませんよ」

「ファッジ先輩を爆破してたの」

「それは色々理由があったでしょう!」

 

 ツリーに上って飾りつけをしていたクラーナが憤慨していたが、みんなの雰囲気は良かった。なによりも、屋敷しもべのペンスがずっと上機嫌でせせこましく働いていることが大きいだろう。ペンスは五人がクリスマスに来ると聞いてからずっと上機嫌だった。パチっという音がしてペンスが現れた。

 

「オスカーお坊ちゃま、ご学友の皆様、何か足らないものがございましたらペンスにお申し付けください」

 

 こうやってペンスは一時間に三回は五人のもとに来て仕事を欲しがった。客室の掃除をしながらこれなのだから、やっぱり相当に器用だとオスカーは改めて思った。

 

「じゃあ糖蜜パイを夕飯にお願いするわ」

「こいつ絶対デブになりますよ、ホグワーツを卒業するころにはハグリッドもびっくりの大きさになってるでしょうね」

「大丈夫よ、その時は変身術で戻すわ」

「全然根本的な解決になってませんね、魔法が解けたら戻るだけじゃないですか」

「承知いたしました。ではご夕飯に用意しておきます」

 

 トンクスとクラーナが言い争っている間にペンスはお辞儀をして消えていった。

 

「ウィーズリー家の人たちはいつくるんだったっけ?」

「ああ、ミュリエルおばさんにジニーやロンの顔を見せてからくるらしいけど、夕食までにはくるんじゃないかな?」

「ミュリエルおばさんはエストにもくるように凄い数のふくろう便を送ってきたの」

「ミュリエルおばさんは僕たちの孫世代の中だとエストがイチ押しだからね、しかたないよ」

「でも、あの家に捕まったら絶対クリスマスが終わるまでは帰れないの」

 

 五人で騒ぎ合い、魔法でしかどうしようもない場所はキングズリーやペンスに手伝って貰って、なんとか応接間の飾りつけを完了した。

 応接間は巨大なツリーと足元には魔法の雪、壁やツリーにはたくさんの飾りつけがされていて、オスカーはこんなにちゃんとクリスマスを祝える状態の応接間を見たことは生まれてから一度もなかった。

 少し埃っぽくなったオスカー達はいったんシャワーを浴びてから、応接間に戻ってきた。すると、応接間にはもうウィーズリー家が到着していた。

 

「やあどうも、トンクスさん。アーサー・ウィーズリーです。こっちは妻のモリー」

「ええ、ウィーズリーさん。奥さん。テッド・トンクスです。夏休みは娘がお世話になりました」

 

 さらにトンクスの両親までいつの間にかやってきたようだ。これはペンスが少し忙しくなるだろうなとオスカーは思った。ただ、予定にない来客とは言え、ペンスのことだから料理は多めに作っていると思うのであんまり心配はしていなかった。

 

「ちょっとなんでママとパパがいるの?」

「いやあ、娘がお泊りするっていうから、いてもたってもいられなくなったんだよ、ドーラ」

 

 オスカーはトンクスのお父さんの少し膨れたお腹をみて、さっきのクラーナの心配は割と的を得ているのではないかと思ってしまった。

 

「オスカー君ごめんなさいね、突然お邪魔しちゃって」

「トンクス先生、大丈夫です。うちの屋敷しもべは人が多いほど喜ぶと思いますので」

「あら、屋敷しもべがいるのね、実家を思い出すわ」

 

 そう言ってトンクス先生はなにやら屋敷のタペストリーやら彫像やらを見に行ってしまった。続々と訪問者がオスカーに襲来した。

 

「オスカー、準備は大丈夫だったのかしら? こんな大人数で押しかけて本当にごめんなさいね」

「ウィーズリーおばさん。大丈夫です。ほとんど屋敷しもべがやってくれますから」

「ママ、おっきいツリーがあるよ」

「本当にありがとうね、屋敷しもべは羨ましいわね、じゃあロン、ジニーを連れてあのツリーを見に行こうかしら」

 

 ウィーズリーおばさんはジニーを抱きながら、なにやらテディベアを抱いているロンを連れてツリーの方へいった。ツリーの下ではフレッド、ジョージとクラーナ、チャーリーが何やら魔法の雪を持って投げ合っている。トンクスがそこに乱入していく様子も見えた。

 

「君がオスカー君だよね? テッド・トンクスだ。いきなり押しかけて申し訳ないな」

「大丈夫です。トンクスさん。いつもは寂しい屋敷ですから、人が多い方がよっぽどいいです」

「ありがとう、それといつもドーラが送ってくる手紙の内容は本当なのかな?」

「手紙……? ですか?」

 

 オスカーは嫌な予感がした。テッドの顔はいつもクラーナをからかうトンクスと同じ顔だったからだ。

 

「ああ、去年も今年も、君がスリザリンとグリフィンドールの綺麗どころを選り好みしているって内容だったね」

「いつものトンクスですね、トンクス…… 娘さんはそのことで特にクラーナをからかうのが大好きみたいなんです」

「なるほど、ドーラはドロメダによく似たようだ」

 

 オスカーは大きなおなかを揺らして笑うテッド・トンクスにもトンクスは良く似ていると思った。特に笑った時の顔や笑いのタイミングなんかがそっくりなのだ。

 テッドはそのままトンクス先生の方へと行ってしまった。テーブルの向こう側ではエストがパーシー、ビルとなにやら話し込んでいた。

 

「別に予習とかしなくても大丈夫だと思うな」

「それはエストの頭がいいからだって、ミュリエルおばさんが言ってたよ、あの子は絶対主席になる。私が見た中でもダンブルドアと同じくらい賢い子供だって」

「パース、ミュリエルおばさんがエストのことをおかしいくらい好きなことは知ってるだろう? あの調子だと、あの屋敷は全部エストに継がせる勢いだったろ?」

「そうなの、別に勉強しなくてもどうにかなるの、エストも夏休みにちょっとやっただけだもん」

「うう…… でも」

 

 みんななにやら色々なことをしているようだったが、オスカーはそろそろお腹が空いていた。するとペンスが隣に現れた。この屋敷しもべはオスカーの腹時計を完全に熟知していたのだ。

 

「オスカーお坊ちゃま、そろそろ夕飯を始めさせていただいてよろしいでしょうか?」

「ああ、頼む」

 

 そうオスカーがペンスに言うと、ペンスは夕飯を始める旨をみんなに伝えて、みんなが席についた。指を鳴らせば、クリスマス用の七面鳥から、巨大な糖蜜ケーキ、クリスマスプディング、ホグワーツで食べたクリスマスの夕食に勝るとも劣らないような内容だった。オスカーはみんなと談笑しながら腹いっぱいにそれらを詰め込んだ。

 

「ねえ、アーサーおじさんは叫びの屋敷って知ってる?」

「叫びの屋敷? ああ、ホグズミードにあるという幽霊屋敷のことかい?」

「そうなの、最近幽霊が戻ってきたらしいの、ね? クラーナ」

「ええ、グリフィンドールの三年生がホッグズ・ヘッドで地元の人がそう言ってたのを聞いたって噂してましたね」

「そうなのか…… 残念ながらあの屋敷ができたのも、噂が広まったのも、私やモリーが卒業したあとだからね、そうだ、トンクス夫妻ならなにかご存知なんじゃないかな?」

 

 ウィーズリーおばさんは、クラーナのホッグズ・ヘッドという言葉に嫌そうな顔をしていたのをオスカーは見た。ウィーズリーおじさんがそう言うと、テーブルの皆の視線がトンクス夫妻に集まった。

 

「パパとママはなんか知ってるの?」

「叫びの屋敷のこと? うーん、確かにあの屋敷が噂になったのは僕らがホグワーツにいたころだったけどね」

「そうね、イギリス一恐ろしい幽霊がひと月に一回とんでもない悲鳴を上げるって話だったわね、あの暴れ柳が植えられたのと同じくらいだったかしら?」

「ホグズミードへの外出の時に、あの屋敷にどれだけ近づけるかって遊びが流行ってたね」

「ええ、テッドはあの屋敷を一周するって言って、一周する途中で腰を抜かしてたわね」

 

 そうトンクス先生が言うとみんなが笑って、テッドは少し顔が赤くなった。

 

「ああ、確かファイア・ウィスキーをひっかけた後に行ったんだけれど、扉という扉から窓という窓に板が打ち付けられていて、ネズミ一匹入れない状態だったのにゾッとしたのを覚えてるよ」

「その後、この人を私が浮遊呪文で三本の箒まで運んで行ったら、もう大盛り上がりだったわ」

 

 テッド・トンクスの顔はファイア・ウィスキーのように赤くなっていたが、楽しそうだった。

 

「え? じゃあ叫びの屋敷って入れないの?」

「そうよ、少なくとも、見える場所には入り口はなかったわね、まあ魔法がかかってるんだったらどこかから入れるのかもしれないけど」

「じゃあやっぱり、ゴーストなのかな?」

「まあ、来年になったらわかるんじゃないか? ホグズミードに行けるんだし」

「確かにそうだよね、三年生のホグズミードは楽しみだな」

 

 みんなはお腹に入ったご馳走と楽しい会話で居心地の良い時間を過ごした。オスカーは自分の家でこんなにたくさんの人と夜を過ごしたのは本当に初めてのことだった。

 やがて眠くなってきたのか、ぐずり始めたジニーとロンをウィーズリーおばさんが寝かしつけに行き、それにフレッド・ジョージが続き、酒が入り始めた大人たちを残して、子供は寝室へと向かった。去年に引き続いてこんなにぐっすり眠れるクリスマス休暇になったことがオスカーは嬉しかったし、誰かにお休みを自分の家で言うことや言われることがこんなに心休まるものだとは思わなかった。

 

 

 

 

 クリスマスの朝、オスカーは誰かに揺すられて目を覚ました。オスカーはペンスが起こしに来たのだろうと思った。

 

「ペンス…… クリスマスなんだからもう少し寝かせてくれ……」

「起きてください、オスカー」

 

 ペンスの声ではなかったのでオスカーが目を開けると、クラーナが暗い部屋の中で何かを持って、オスカーを揺り起こしていた。クラーナとオスカーの足元には恐らくオスカー宛てであろうプレゼントが少しだけ山になっていた。

 

「クラーナ? どうしたんだ? クリスマスの朝に?」

「セーターです、セーターを見せてください」

「セーター?」

 

 オスカーには去年クラーナに渡したウィーズリーおばさんからのセーターが思い浮かんだ。今年もセーターをよこせと言うのだろうか?

 

「ほら、その包みでしょう、多分ウィーズリーおばさんからのプレゼントです。私のも同じ包みに入ってましたから分かります」

 

 確かにクラーナはオスカーの足元にあるのと同じ包みに入ったセーターを持っていた。

 オスカーが足元にある包みを開けると、去年と同じように緑色にスリザリンのシンボルである蛇が銀色で描かれているセーターが出てきた。

 

「セーターがどうしたんだ? またクラーナにあげればいいのか? 今年は別に送ったはずなんだけど……」

「違いますよ‼ ええ、実践的防衛術の本はありがとうございます。そうじゃなくてですね、イニシャルですよ、イニシャル」

「イニシャル?」

 

 クラーナは赤に金色で獅子が描かれたセーターの胸部分に金の刺繍で描かれた英文字を指で指した。どう見てもO.Dと書かれている。クラーナのイニシャルはQ.Mのはずだ。

 オスカーはハッとなって自分のセーターの同じ部分を見た。Q.Mと銀の刺繍で描かれている。

 

「やっぱり、絶対トンクスとフレッド・ジョージの仕業ですよこれ」

「まあそうだろうな、どうやってやったのか分かんないけど、交換してもサイズが違うしな」

 

 セーターを交換してお互いの体に当ててみたが、体格の小さいクラーナ用のセーターはオスカーには着れそうになかった。しばらく二人で黄昏ていると、部屋のドアが開かれた。

 

「オスカー‼ メリークリスマスなの、箒磨きセットありがとうね、エストのプレゼントも開けてくれた?」

 

 エストは凄い勢いで入ってきたが、ベットの上で黄昏ていた二人を見ると目を丸くした。

 

「ええっ!? 朝からクラーナとなにしてたの? もしかして、ほんとにトンクスが言ってるような感じなの!?」

「ちょっと! 違いますよ! 私たちのセーターがですね……」

「セーター? ああっ! また二人はセーターを交換してるの」

「交換はしていないですよ、ああっ‼‼ もう‼ トンクスの悪戯に決まってます‼‼」

 

 オスカーのクリスマスは朝から大騒ぎだった。こんなにうるさいクリスマスを経験したのは生まれて初めてだった。

 

「ちょっと、朝から凄い元気ねって、何? どうしたの? 修羅場?」

 

 トンクスがぼさぼさのピンク髪の毛のままあくびをして入ってきた。大騒ぎしている二人を見て目をギョッとさせた。

 

「ちょっと、トンクスどうせ貴方でしょう! セーターですよセーター‼‼」

「また、オスカーとクラーナがセーターを交換してるの」

「ええ、ちょっとなんなの、いくら三十部屋埋めないといけないって言っても十二歳から始めないでもよくない?」

「やかましいですよ‼ 今度という今度は怒りましたよ‼ 必要の部屋の決闘場でオスカーみたいに細切れにしてやりますよ‼‼」

「細切れにはしてないの…… 必要の部屋……?」

 

 トンクスが加わってさらにオスカーの部屋はうるさくなった。このままだとドロホフ邸に泊まっていた人たちは全員起きてしまうのではないだろうか? オスカーは確実にそうなると思った。

 

「これですよ‼ これ‼」

 

 そう言って、二枚のセーターのイニシャルをクラーナは指した。

 

「えっ、もうばれたの、二人が着てきた所を写真に収めようと思ってたのに」

「こいつ、やっぱり貴方がフレッド・ジョージに指示を出したんでしょう‼」

 

「必要の部屋‼ 必要の部屋なの‼‼」

 

 大騒ぎする二人よりも大きな声でエストが叫んだ。

 

「へっ? なんですか?」

「えっ何? 必要の部屋?」

 

 エストの顔はなにか、ずっと考えていた難問が解けたような顔だった。

 

「レディは秘密の通路やホグワーツの階段をお母さんが作ったって言ってたの‼」

「レディ? 灰色のレディか?」

「そう、エストずっと考えてたの、もし髪飾りを手に入れたらどこに戻すのか」

「戻す?」

 

 起きたばかりということもあってオスカーの脳みそはエストほど高速で回っていなかった。

 

「そう、ロウェナ・レイブンクローがホグワーツの仕掛けを作ったんなら、絶対に必要の部屋もロウェナが作ったに決まってるの」

「まあ、あんな部屋を作れる魔法使いなんてレイブンクローくらいでしょうけど」

「だからもし、エストが髪飾りを見つけたら、レディに報告した後にあの部屋に置きに行くの」

「エストはまだ髪飾りを探してたの?」

 

 そうトンクスがオスカーの方を見て聞いたが、そんなことをエストがしてるところをオスカーは見ていなかったので、首を振った。

 

「違うの、レディは髪飾りを求めてはいなかったの、もう失われたままでいいって言ってたよね?」

「そうですね、失われたということが重要だって言ってました」

「だから、必要の部屋なの、必要の部屋なら本当に髪飾りが必要な人だけに見つけさせることができるの」

「よくわからないんだが?」

 

 珍しくエストは興奮していた。こんなエストを見るのはオスカーがコンパートメントであった以来かもしれない。

 

「その人がアルバニアで見つけたのかは分からないけど、もし見つけたなら、自分の次に必要な人の手に渡るように必要の部屋に置くんじゃないかって思うの」

「他の人の手に渡るように?」

「そう、だってあのレディが自分のことを喋りたいような人なんだよ? きっと、エスト達以上にホグワーツに憧れて、色んなことを知ってた人だと思うの、だからそんな人なら必要の部屋のことも知ってたと思うし、次の人に見つけさすように必要の部屋に髪飾りを置くと思うの」

 

 エストの眼はキラキラと輝いていた。自分と同じような考えを持つ人を見つけたような、どこか、一緒に規則を破る共犯者を見つけたような、そんな顔だった。

 オスカーにはなぜ、エストがスリザリンに配属されたのか少しだけ分かった気がした。

 だけれども、レディが前に話した人物について語った時のあの表情が胸のどこかで引っかかった。

 

 

 



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忍びの地図

これ扱い難しい


 オスカー、エスト、クラーナ、チャーリー、トンクスは目の前の光景に圧倒された。五人はホグワーツでここまで巨大な空間に出会ったことはなかった。

 そびえ立つ壁のような何かが積み上げられ、遥か高くにある天井そばの高窓から日差しが優し気に差し込んでいる。よく見ると、その積み上げられたものが雑多な物品だと分かる。

 もし、これがエストの言うように、ホグワーツの住人が隠したいものを隠す場所ならば、あの物品は千年にもわたって隠され、積み上げられたものであり、この部屋はまさにホグワーツの歴史そのものだとオスカーは思った。

 

「凄いの、こんなにみんな隠したいものがあったんだね」

「ほんとね、私もなんかやらかしたらここに来ることにするわ」

「流石に必要の部屋もトンクスは吐き出すでしょう」

「人間隠してどうするんだ」

「うわ‼ これ、もしかしてキメラの骨じゃないのかな……」

 

 何千、何万冊もの本、そのどれもが何やら血痕やどす黒い染みがついていたり、そもそもカバーが明らかにヤバイ革を使って作られていたりと禁書か盗品の類と思われるものばかりが置かれている。

 折れた箒が空を飛んでいたり、何か魔法薬がまだくすぶっている大鍋、半分だけ透明なマント、今まさに首を切り飛ばした後のような血がついた斧、ありとあらゆる禁じられた物品があるような場所だった。

 

「もし、失われた髪飾りがあるとしても、この中から探すのは難しいんじゃないのか?」

「うーん、こんなに一杯色々あるとは思わなかったの、アクシオ‼‼ 髪飾りよ来い‼‼ うーん、ダメみたい……」

 

 エストが呼び寄せ呪文を唱えたが、エストの声だけが巨大な空間に木霊して何かが動く様子はオスカーには感じ取れなかった。

 

「そういう重要な物品や、武器、透明マントなんかには呼び寄せ呪文は効かないでしょうね」

「じゃあ、この山の中を探さないといけないってこと?」

「ざっと見て千年分はありそうだよね」

「多分ほんとに千年分あるぞ」

 

 オスカー達は千年分の山を見て途方にくれたが、何もしないわけにもいかないのでとりあえず探し始めることにした。

 

「失われた髪飾りってどんな特徴があるんだっけ?」

「銀色で、計り知れぬ英知こそ、われらが最大の宝なり! って書いてあるんじゃないんですか?」

「そうなの、それで青い宝石が真ん中についてるってレイブンクローの寮で見てきたの」

 

 オスカーはレイブンクロー寮へ一緒に連れてかれたことを思い出した。だがあの方式だとちょっと賢い人なら誰でも談話室に入れてしまうのではないだろうか? オスカーは合言葉の方が安全な気がした。

 

「へ? どうやってエスト、レイブンクローの寮に入ったのよ」

「レイブンクローの寮の合言葉はなぞなぞだったから、簡単に入れたの」

「へえ、レイブンクローは合言葉じゃないんだね」

「いやいやおかしいでしょう、私はスリザリンの合言葉を当てただけで、なんかからかわれたのに……」

 

 五人の騒ぐ声が巨大な空間に響いていたが、そもそも部屋が大きすぎて全然見つかる気はしなかった。

 

「そう言えば、なんで髪飾りって銀色なんだろうね?」

「銀色がどうかしたのか?」

「だって、レイブンクローの寮の色は青と銅なの、銀はスリザリンの色じゃない?」

「確かにレイブンクローの色ではありませんね、まあただ単にゴブリンの銀を使っただけな気もしますけど」

「てか見つかる気がしないんだけど、これ見つけ出すのは不可能じゃない?」

「うん、これは一日どころか一年は探さないと見つからないと思うよ」

 

 正直、五人は途方にくれていた。主にこの部屋が巨大すぎることと、部屋の中の物品が危険すぎることが髪飾りの捜索を邪魔する大きな原因だった。

 かみつきフリスビーのようなものがヘロヘロになりながらぶつかってきたり、牙のついた本がトンクスの手に噛みついたり、終いにはオスカーとエストがベッドに押しつぶされかけた。

 五人は夜になるまで探したがそれらしきものを見つけることはできなかったし、必要の部屋から出るころには五人とも傷だらけになっていた。

 

「わかったの、多分髪飾りは必要の部屋にはないの」

 

 髪についた動く新聞紙のようなものを杖で吹っ飛ばして、疲れた声でエストが言った。

 

「なんでそんなことがわかるの?」

「必要の部屋はその人が必要な形になるはずなの、見つからないってことは、部屋はここにはないよって言ってるんだと思うの」

「まあ私たちには必要ないって思われたんじゃないですか? もうちょっとエストの成績が悪かったら見つかったかもしれませんね」

 

 クラーナが悪戯っぽく笑いながらエストをおちょくった。

 

「もう、エストはレディに見せにいこうと思ってただけなの‼」

「クラーナはエストとオスカーがベッドインしたからご機嫌ななめなのよ」

「どっちかと言うと、二人共医務室のベッド行きだったけどね」

 

 五人は話ながらも足早になっていた。必要の部屋で時間を使い過ぎていて、もしかすると外出禁止の時間になろうかとしていたからだ。

 

「じゃあ私たちにはここで失礼しますよ」

「じゃあね、またなんか探すんだったら言ってよ?」

 

 クラーナとチャーリーがグリフィンドールの寮がある方へ消えていった。三人は足早に寮へと急いだ。城に人が全然いないあたり、どうも外出禁止時間になっている気がしたのだ。

秘密の通路や動く階段を足早に三人は走り抜けた。

 前方に真珠色の影が見えた。オスカーにはそれがグリフィンドールの寮霊、ほとんど首なしニックだと分かった。

 

「あ、ニックなの、もしかしてもう外出禁止の時間なのかな?」

「おお、エスト嬢、そうですな少し生徒が出歩くのは不味い時間です。近くにフィルチもいましたから早く帰ったほうがいいですよ」

「ニック、ありがとうなの」

 

 ニックの忠言を聞いて、オスカーはちょっと不味いなと思った。フィルチに捕まると面倒なことになると思ったのだ。三人はタペストリーの裏の秘密の通路を使って、近道し、仕掛け階段を上った。

 

 

「ああっ‼ 痛っ、クソっ このっ」

 

 トンクスが何段目かが絶対に消える仕掛け階段に足を挟まれていた。向こうの廊下にミセス・ノリスの姿が見えた。オスカーは少しだけ、ため息をついた。

 

「エスト、先に寮に戻っててくれ」

「えっ? でも……」

「トンクスを助けてすぐ追いつくから、早く、フィルチが来る」

「わかったの、ちゃんと寮に戻ってきてよ、オスカー」

 

 オスカーは階段から足を抜こうとして、うんうん唸っているトンクスに駆け寄って、からだごと引っこ抜いた。

 

「ああ、ごめんね、私いっつもこれに引っかかるのよ」

 

 オスカーはそのまま、トンクスをタペストリーの後ろの通路に隠した。

 

「トンクス、そこでちょっと黙ってろ」

 

 ミセス・ノリスがオスカーの隣でにゃあと鳴き、オスカーが息もつかない間に勝ち誇った顔のフィルチがその後ろからやってきた。鼻息が荒く、獲物を見つけたどでかい野良猫と言った感じだ。

 

「捕まえたぞ、この時間にうろついてなにをやってたんだ? ええ? どうせ廊下を壊したり、クソ爆弾を爆発させたりしようとしてたんだろう?」

「ちょっと、先生に呼ばれたあとに忘れ物をして、教室にとりにいこうと思ってたところなんだけど」

 

 オスカーはできるだけ、タペストリーに目線を移さないようにしながら、そこから離れようとした。

 

「ダメだ、この時間は外出禁止だ! ドロホフ、ついてこい!」

 

 オスカーはため息をついてフィルチの後に従った。オスカーはなんだかんだ言って、一度も校則を破っていなかったが、今度はダメそうだと思った。

 当たり前だがオスカーはフィルチの事務室に入るのは初めてだった。鎖と手錠が天井からぶら下がっているし、何やら魚のような生臭い匂いが漂っていた。

 壁には大量のファイルが並べられていて、それぞれ生徒の名前らしきものが書かれている。擦り切れてよく読めなかったが、ジェーム……なんとかと、……ウスなんとかという生徒は恐るべき量のファイルで棚を占領していた。

 

「オスカー・ドロホフ…… 罪状……」

 

 フィルチが汚らしい羊皮紙にオスカーの名前を書いていた。どうも罰則に関する書類のようだ。

 

「夜間外出禁止を破った…… 反抗的…… 以前にも廊下の爆破で疑いあり……」

 

 嫌な単語が沢山聞こえてくる。オスカーは自分が廊下を爆破したことはないのにとばっちりだと思った。

 ずるずると鼻をすすりながら、フィルチはあることないことオスカーの書類に書き連ねていた。

 するとドンドンとフィルチの事務室の扉が叩かれた。

 

「フィルチ、いますか? マクゴナガルです」

 

 フィルチは虫食いだらけの椅子から飛び上がってドアを開けに行った。マクゴナガル先生が立っていて、オスカーの顔を見ると部屋の中に入ってきた。どこか足を引きずっているようにオスカーには思えた。

 

「マクゴナガル先生? なにか御用でしょうか?」

「ああ、ドロホフ、やっぱりここだったのですね、フィルチ、ドロホフは変身術の居残りから抜け出したのです、よく捕まえてくれました」

 

 オスカーは去年からエストに付きっきりで教えて貰っているので変身術で居残りを食らうような、低い成績を取ったことはない。むしろ変身術でオスカーより上の成績を取っているのはエストくらいしかいないのだ。

 

「そうだったんですか、ドロホフは禁止時間に歩いていたので今つかまえたところなんです」

「ええ、フィルチ、ありがとうございます。じゃあドロホフは私が預かります。それと、また八階のトイレが水浸しになっていましたよ」

 

 マクゴナガル先生のその話を聞くとフィルチは顔を真っ赤にした。

 

「またピーブズの仕業だ‼‼ 今度こそとっ捕まえてやる‼」

 

 そう言って、ミセス・ノリスと一緒に箒を持ち出して、間抜けな恰好で飛び出していった。

 マクゴナガル先生がさっきまでフィルチが座っていた虫食いだらけの椅子に座ってオスカーに向き合った。

 

「ドロホフ、プルウェットにうつつを抜かして、変身術の成績が下がったのでは目も当てられませんよ」

「トンクス、お前が仕掛け階段にはまるからだろ、いい加減ドジを直せよ、それと声があんまり似てないぞ」

 

 そうオスカーが言うと、マクゴナガル先生は鼻をつまんでショッキングピンクの髪をした、トンクスの顔になった。

 

「あれ? どこでばれたの?」

「足を引きずってたからな」

「オスカーよく見てるのね、フィルチからかばってくれてありがとうね」

「ああ別にいいよ、俺の罰則もこれでチャラだ」

 

 そう言うとオスカーはさっきまでフィルチが書いていた書類を手に取って、インセンディオで燃やした。

 

「オスカーもワルなのね、てかフィルチの事務室とか初めて入るわ」

「俺も初めてだ」

 

 二人は主とペットのいなくなった部屋を見回した。石油ランプが天井からすこし寂しい光で部屋を照らしている。

 オスカーとトンクスは一つの棚に目が行った。どうも生徒からの没収品が入れられている棚らしい、クソ爆弾、噛みつきフリスビーのようなゾンコで売っている商品や惚れ薬なんて名前の引き出しもある。

 しかし二人はもっと気になる引き出しを見つけた。『没収品・特に危険』と書かれているのだ。それに引き出しは長い間使われていないのか埃が溜まっているように見える。

 オスカーとトンクスは目配せした。トンクスが引き出しを引いて、オスカーが中のものをつかんだ。なにやらペラペラした質感だった。

 

「羊皮紙? これが特に危険なの?」

 

 オスカーが棚から取り出したものはどう見てもただの羊皮紙だった。確かに随分と年季がはいった色をしているが、見た感じはただの羊皮紙だ。何も書かれていない。

 

「アパレシウム‼‼ 現れよ‼‼」

 

 オスカーが呪文を羊皮紙にかけたが何も変化がない。白紙のままだ。

 

「透明インクじゃないってこと? うーんこういう魔法具にはあいさつよ、ママのヘアアイロンも挨拶しないとパーマが上手くかけれないしね、私はニンファドーラ・トンクスです、よろしく?」

 

 トンクスがそう言って杖を向けると今度は羊皮紙に変化が現れた。

 

「私、ミスター・パッドフットがミス・トンクスにお礼申し上げる。埃っぽい引き出しから助け出していただいたことに感謝申し上げる」

 

 なんと羊皮紙が挨拶をしてきた。オスカーとトンクスはまた顔を見合した。

 

「私、ミスター・プロングズはミスター・パッドフットに同意し、お礼申し上げる。また、間抜けのアーガス・フィルチからどうやって我々を救出したのか教えていただきたい次第」

 

 オスカーは羊皮紙に杖を向けて喋った。

 

「マクゴナガル先生に七変化でトンクスが化けて、フィルチを追い出したんだ。それで、フィルチの部屋の中を探ったらこれが、あんたらがでてきた」

 

 また羊皮紙が文字を吐き出した。

 

「私、ミスター・ムーニーは諸君らの度胸と悪戯心に感服申し上げる。可能であれば、我々の能力を最大限に使っていただきたいとここに記すものである」

 

 能力? 最大限? 文字で会話する以外に機能があるということだろうか? オスカーは首を捻った。

 

「貴方達の力を使うにはどうしたらいいの? なんか呪文を唱えるとか?」

 

 文字がつづられ始めるがどこか要領を得ないというか、まるで答えが言えないように制限されているような内容だった。

 

「私、ミスター・ワームテールはその質問が正しいと申し上げる。貴方がたは正しい言葉を見つけなければならない」

 

 羊皮紙を机の上に置いて、二人は少し考えた。つまり、この羊皮紙を使うための言葉を見つけなければならず、この羊皮紙の中の人物たちはオスカーとトンクスにその言葉を言えないらしい。

 

「こういう時は総当たりでいいんじゃないか?」

「総当たり? どういうこと?」

 

 オスカーは羊皮紙に杖を充てて、アルファベットをAから順番に喋った。

 すると最初に『わ』と『れ』に反応して羊皮紙が光り出した。

 

「ワオ、オスカーやるじゃない、最初の言葉はわれなのね」

 

 さらにトンクスと交代で続けることで、『われ、ここに誓う、われ』までが判明した。

 

「だいぶいいとこまで来たんじゃないか? あと少しって感じだ」

「そうね、というかよっぽどの悪戯人が作ったんでしょうねこれ」

 

 地図に文字がまた吐き出された。

 

「私、ミスター・プロングズは諸君らの智謀に感服する。われら魔法いたずら仕掛人を継ぐ者に諸君らはなれるだろう」

「魔法いたずら仕掛人? ちょっとだけ、よからぬ人たちって感じね」

 

 トンクスの言葉に反応して、地図がまたさらに光り出した。

 

「さっきのが正解なのか? よからぬ人?」

 

 地図はまた光った。どうもよからぬは正解の言葉のようだ。

 そしてまた地図が文字を綴る。

 

「私、ミスター・パッドフットは諸君らのような、悪戯や冗談を考える人々に敬服の意を示すものである」

「これもヒントじゃない? この人たち、使われたくて仕方ないのよ」

「悪戯や冗談を考える? いや、たくらむか?」

 

 地図がさらに輝いた。

 

「続けていってみたらいいんじゃないかしら?」

「えーと、われ、ここに誓う、われ、よからぬことをたくらむものなり?」

 

 地図はこれまでにないくらいに輝いたが何も起きない。

 

「オスカー! 杖よ、杖を羊皮紙に当てないとだめなんじゃない?」

 

 オスカーが杖を羊皮紙にあてると驚くべきことが起こった。オスカーの杖からインクがまるで生きているかのように出てきて、羊皮紙の隅まで、何度も何度も交差しながら伸びていった。

 そして羊皮紙の最上部に文字が現れる。

 

 ムーニー、ワームテール、パッドフット、ブロングズ

 われら「魔法いたずら仕掛人」のご用達商人がお届けする自慢の品

 忍びの地図

 

「これは地図か?」

「凄い、これ凄いわ、ホグワーツの地図よこれ!」

 

 それは本当にとんでもない代物だった。これはホグワーツ全体の詳細な地図で、一年のころにエストにつき合わされて城の色んな場所にいったオスカーでさえ知らないような場所が大量に示されていた。

 

「この動いている文字って、もしかして人なのかな?」

「ああ多分そうだな」

 

 トンクスの言うようにたくさんの文字が地図の上を動いている。フィルチの部屋にはトンクスとオスカーの名前があるし、地図の端にはダンブルドア校長と思わしき名前があり、歩き回っている。地下牢にあるスリザリンの談話室ではエストがまだオスカーを待っているようだ。さらになんとポルターガイストやゴーストまで表示されている。オスカーはこの地図が失われた髪飾りにも匹敵するような素晴らしいものなんじゃないかと思った。

 

「特に危険なのは納得ね、オスカーこれどうする?」

「エストは髪飾りがなくて意気消沈してたからな、これ渡したらそれも忘れるだろ」

「エストの点数ばっかり稼ぐのは良くないと思うけどね」

 

 オスカーがもう一度地図を見ると、八階からフィルチが戻ってくるのが見える。オスカーとトンクスは興奮のあまり、ここがフィルチの事務室だということを忘れていた。

 

「ヤバイ、フィルチが戻ってくる」

「え? ほんとじゃない、戻りましょう」

 

 もう一度、マクゴナガル先生に変身したトンクスとオスカーは地図のおかげで今度は誰にも会うことなくそれぞれの寮へ戻った。オスカーは合言葉で壁をすり抜けながら、談話室でオスカーを待ち、プンプンしているであろうエストに地図を見せるのが楽しみだった。

 

 

 

 



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叫びの屋敷

原作だとスネイプ最後の場所


 翌日はレイブンクロー寮のクィディッチ練習日だったので、全員が集まることができた。五人は空き教室で地図を広げて盛り上がっていた。

 

「昨日からずっと見てたんだけど、この地図は凄いの、これは多分、変幻自在呪文とホムンクルスの術なの」

「ホムンクルスの術? 変幻自在呪文? エストなんなのよその術は?」

「凄い高度な呪文で、少なくとも、イモリ、NEWT(ニュート)レベル以上の呪文なの」

「この悪戯仕掛人とかいう、ふざけた名前の奴らがそんな高度な呪文をですか?」

「うん、変幻自在呪文で多分一番有名なのは、死喰い人の腕の印で、ホムンクルスの術で有名なのは肖像画のはずなの」

 

 オスカーとクラーナは死喰い人の腕にある闇の印と同じ術ではないか? というエストの言動を受けて、少しだけ地図を見る目が胡乱になった。

 

「変幻自在呪文はロウェナ・レイブンクローが作った呪文だから、危ない呪文じゃないんだよ? でもこれはほんとに凄いの、魔法のレベルもそうだけど、いったいどうやってホグワーツの細部まで調べることができたんだろう?」

「そうだよね? 少なくとも、僕たちみたいな生徒だとこんな地図を作るような時間はないと思うんだよね」

 

 確かに生徒は夜歩き回ることはできないし、オスカーは放課後の自由時間だけでこの地図が作れるほどの時間が得られるとは思えなかった。

 

「透明になってたとか、トンクスみたいに先生に化けて校舎を夜に歩き回るくらいのことはしないとだめだろうな」

「トンクスみたいなのが四人もいたとは思いたくないですから、目くらまし呪文か透明マントですかね?」

「ちょっとなによそれ、それよりこの地図には一杯ホグワーツの外につながる道があるじゃない?」

 

 トンクスは地図の端の方にある、地図の道が途中で途切れている道を示した。確かにいくつかそういう道が示されており、いつも三年生以上がホグズミード村に行く道とは明らかに別の道である。

 

「これを使えば学校の外に出れるんですかね?」

「フィルチや先生方がどれくらい知ってるかだろうな、繋がってたとしてもバレたら終わりだしな」

「エスト、昨日の夜から今日の授業中までずっと地図を見てたんだけど、この四つの道はフィルチとミセス・ノリスが時々見に来てたの」

 

 エストが四つの道を示した。確かに今日の妖精の呪文の授業の間、エストは上の空で地図をずっと眺めていた。そのせいで、なぜかオスカーがエストの代わりにフリットウィック先生の前で魔法を実演することになってしまっていたのだった。オスカーはうまくできたと言うことでフリットウィック先生からヌルヌルヌガーを貰った。

 

「じゃあこの四つの道は使えないんだ。でも、他の道を使えばいつでもホグズミードに遊びに行けるってことだよね?」

「いいわね、それ」

「そんな頻繫にいっても仕方ないと思いますけどね、毎日、ホッグズヘッドでファイアウィスキーでも飲むんですか?」

 

 クラーナがあまり興味なさそうに言うと、トンクスが誰かをからかうときのいつもの顔をした。

 

「クラーナはオスカーとマダム・パディフットのお店に行くんでしょ?」

「なんですか? そのパディなんとかとかいう店は?」

「ええ!? クラーナ知らないの?」

 

 その後、トンクスの言っていた店が上級生のカップルのたまり場になっている店だと分かって、クラーナがトンクスに殴りかかったが、みんなが騒いでいる間もエストは地図のある部分をじっと見ていた。

 

「そこがどうかしたのか?」

「うーんとね、この道だけおかしいの、だってここには城が無いし、建物もないの」

 

 確かに忍びの地図が示している、残り三本の学外につながる道の一つは校庭の一か所を示していて、そこには何か建造物があるということも書かれていない。

 

「そこって暴れ柳がある場所じゃない?」

「暴れ柳ってあの、近づいたら殴りかかってくる木のことか?」

 

 オスカーは黒々として、近づくものすべてを攻撃するその木を一年の時に見たことがあった。たしか生徒が面白がって投げていた石を綺麗に打ち返しており、投げた生徒達はめでたく医務室行きになっていた記憶がある。

 

「そうだよ、とっても珍しい木なんだって、スプラウト先生が言ってたよ」

「じゃあその暴れ柳を燃やしでもしないとその道に行くことすらできないのか」

「スプラウト先生が珍しい植物っていうような植物を燃やしたら、下手したら退学じゃないですか?」

「じゃあこの道を使えないってことか……」

 

 つまり、実質的に使える道は二本で、その道もフィルチや先生方が知っている可能性も捨てきれないのだと、オスカーは思った。

 

「何か、何か方法があると思うの」

「方法?」

「そう、だってクリスマスの時の話覚えてる? トンクスのママが暴れ柳は私たちの時代に植えられたって言ってたの」

「叫びの屋敷のことを話してた時だっけ?」

 

 確かにオスカーもドロホフ邸でトンクス先生がそんなことをいっていたのを覚えていた。

 

「言ってましたね、じゃあその時に危険なんで、その道を使わないように暴れ柳を植えたんですかね?」

「だったら道を壊したり、埋めちゃえばいいと思うな、エスト達は魔法使いだし、ダンブルドア校長ができないとは思えないの」

 

 エストの言う通り、この道を使えないようにするだけなら道を壊してしまえばいいことだ。つまり、暴れ柳を植えたということは、何らかの方法で道を使うことができ、そのための暴れ柳だということなのか? オスカーはそんなにして使わせたくない道の先に何があるのか好奇心が湧いた。

 

「じゃあ、暴れ柳を傷つけずに止める方法があるってこと?」

「そうですね、そういう方法があるんならこの道を使うことができますし、この道の先に行ければ、なんで植えたのか理由も分かりますね」

「こういう時は図書館なの」

 

 

 五人は図書館に行って、暴れ柳について調べることにした。マダム・ピンスは大人数で押しかけたオスカー達を白い目で見ていた。オスカーはちょっとでも騒いだら追い出されるだろうなと思った。

 北大西洋の危険な植物、人食い植物、新世界の魔法植物、船を食べる植物、色んな植物図鑑を見ると、世の中にはおぞましい植物がいくらでもあることが分かった。人間を消化したり、操り人形にしたりと、オスカーはルーンプスールは大して魔法界では危険な生き物じゃないんじゃないかと思い始めていた。

 

「あったよ、暴れ柳だ」

 

 チャーリーが一つの本を掲げて、オスカー達を呼んだ。そこには確かに暴れ柳の生息地や生態が書かれていた。オスカーは絶対に将来何があっても、この暴れ柳の生息地に入ることはしないようにしようと思った。

 

「体の一部分に何かが触れると硬直する。ですか?」

「つまり、暴れ柳のどこかを触れば止めることができるってことなのか」

「一部分って、なんか全然具体的じゃないわね」

「まあ、僕たち魔法使いだしどうにかなるんじゃないかな?」

「とにかくどこかに何かを当てればいいんだよね? 簡単なの」

 

 

 

 五人は図書館を後にして、足早に暴れ柳に向かった。五人とも暴れ柳の向こうには何があるのか気になっていた。五人がついても暴れ柳はいつも通りにただ佇んでいた。

 

「サーペンラームス‼‼ 枝よ出でよ‼‼」

 

 エストが杖を振って、たくさんの枝を呼び出した。二百本くらいはあるだろうか?

 

「オバグノ‼‼ 襲え‼‼」

 

 その枝が、暴れ柳の上から順番に突き刺さっていった。暴れ柳は荒れ狂ってその枝を打ち落とそうとしたが、数が多いのでどんどん幹に突き刺さっていく。

 

「サーペンラームス ‼‼ 枝よ出でよ‼‼」

「オバグノ‼‼ 襲え‼‼」

 

 さらに枝を呼び出して、暴れ柳に突き刺していき、もう暴れ柳はハリネズミのような有様になりつつあった。

 

「ちょっと、暴れ柳が可哀想になってきたわ」

「ほんとですね、エストと決闘するときはハリネズミにされるのを覚悟しないとダメみたいですね」

「あんなに刺されたたら、マダム・ポンフリーでも直せないんじゃないかな?」

「もう…… 後で消すから平気なの」

 

 そうこう言っている間に、暴れ柳の根っこに近い部分まで、枝が突き刺さり始め、オスカー達の身長でも手で触れるようなこぶの部分に枝が突き刺さると暴れ柳は抵抗をやめた。

 

「止まった。あのこぶがその部分なのかな?」

「死んだふりだと怖いですね、あのぶっとい枝にやられたら一撃ですよ」

「もっかい動き出すまでどれくらいあるのか見とくか」

 

 そして、十分ほどたつと暴れ柳はまた暴れ狂い始めた。枝が刺さっているのが嫌なのだろうか? エストがピンポイントでこぶに枝を当てるとまた動かなくなった。

 五人は大理石のように葉っぱ一つ揺らさない暴れ柳に近づいた。暴れ柳の根本には地下に続いているであろう穴があった。

 

「エバネスコ 消えよ」

 

 エストが唱えると突き刺った枝は消えていった。少しだけ枝が刺さった後が縞模様のように残っていた。オスカー達は滑り落ちるように、傾斜のあるトンネルの中に入っていった。

 

「「ルーモス」」

 

 五人はそれぞれ杖灯りと灯して、トンネルを進んでいった。トンネルは下向きに傾斜しているようにオスカーには思えた。

 

「どこにつながっているんですかね?」

 

 隣にいたクラーナが目を輝かせながら訪ねた。冒険するのが楽しいらしい。

 

「ホッグズ・ヘッドとかか? ウィーズリーおばさんが話をするのが嫌なくらい、変な奴らが集まってるんだろ?」

「確かにそうですけど、違法なもののやりとりをダンブルドアが許すとは思えませんね」

「じゃあなにか隠してるのかしら? ほら、髪飾りとか、グリフィンドールの剣とか」

 

 オスカーも何かを隠しているのは確かだと思ったが、それが果たしてモノかどうかは怪しいと思った。

 

「うーん、でもそれならなんで行き来できるようにするのかな? 封印しちゃって、ドラゴンにでも守らせればいいんじゃないかな、グリンゴッツみたいに」

「というか、もし宝があるのなら、ダンブルドア先生の部屋だと思うの、だってダンブルドア先生は一番凄い魔法使いなんだし」

 

 確かに、こんな二年生の生徒達で入れるような場所に貴重な宝を隠すとはオスカーには思えなかった。世界一強いかもしれないアルバス・ダンブルドアの手元に置くのが一番安全だろう。

 さらに進むと今度はトンネルは大きく蛇行して、上向きに傾斜し始めた。

 

「そう言えば、もうそろそろ地図の外側にでてるのか?」

「あっそうなの、えーと、われ、よからぬことをたくらむものなり!」

 

 五人がエストの手元にある地図を見ると、すでに五人の名前はホグワーツのどこにもなかった。つまり、ここはホグワーツの外側だということなのだろう。

 

「悪戯仕掛人たちもここまでしか案内してくれないってことですか」

「いよいよ秘密が見られるわけね」

 

 五人はさらに捻じ曲がる道を期待を込めた足取りで進んだ。一瞬前の道が見えなくなるほどゆがんだ道だったが、五人は埃っぽい部屋にたどりついた。

 

「部屋? なの?」

「部屋ですね、やけに埃っぽいですけど」

 

 窓という窓全てに板が打ち付けられており、外は全く見えないし、外からの光も全く入ってこない部屋だった。何部屋かあるようだったが、家具という家具は全て打ち壊され、扉は壊れてぶら下がっていた。壁紙などはほとんどはがれきっている。その破壊痕はなにか、鋭い爪や牙で行ったような跡がついている気がした。

 

「ここってもしかして、叫びの屋敷の中なんじゃない?」

 

 トンクスは打ち付けられて開かないドアを見てそう言った。確かに、トンクスの父親のテッドは叫びの屋敷の周りをまわって、ドアが全て打ち付けられて入れないのにゾッとしたと言っていた。

 

「ホグズミードに繋がってるなら、叫びの屋敷でもおかしくないな、というかこの家のなかからしてそうなんだろうな」

「じゃあ、イギリス一荒々しいゴーストが部屋の中をこんなにめちゃめちゃにしたの?」

 

 しかし、オスカーにはその荒々しいゴーストの仕業のようには思えなかった。オスカーの知っているゴーストは、ポルターガイストのピーブズを除いて物理的にはほとんど何もできないはずなのだ。それに、爪や牙があるゴーストなんてオスカーは聞いたことがなかった。

 

「あれ、二階がありますね、この家」

 

 クラーナが階段を見つけていた。オスカーはその階段に厚い埃が溜まっていることが見るだけで分かったが、クラーナや自分達が進んでいない場所にも埃が溜まっていない場所があるようにオスカーには見えた。

 

「クラーナ、だれか俺たち以外にも埃の上を歩いてたみたいだな、それも最近」

「うわ、ほんとですね、誰か来てますね」

 

 明らかに二人分の足跡のように思えた。一つの足跡は大人の男のように思える大きさで、もう一つは女性か子供だろうか? ずいぶんと大きさが違うとオスカーは思った。

 

「なんか二階のほうが、ゴーストの仕業っぽいですね」

「そうなの、なんか一階はガオーって吠えそうなやつが暴れたみたいな感じだったけど、二階は……」

 

 そう、二階は破壊の毛色が違うようにオスカーには思えた。一回の破壊跡が物理的に引っかいたり、噛みついたり、蹴り飛ばしたりしたように見えるのに対して、いや二階にもそういった後は見えるのだが、その後からなにかもっと別な力で、削られたり、吹き飛ばされたり、消されたりしたように思えたのだ。

 

「どんな怪物が暴れたらこんなことになるんだろう? 僕、結構色んな動物を知ってるつもりだけど、こんな跡を残せる動物なんて、想像もつかないな」

「少なくとも、幻の動物とその生息地には載ってそうにないわね」

 

 魔法生物飼学のケトルバーン先生やハグリッドは怪物の扱いが得意だとはオスカーは聞いたこともあるし、実際に世話をしているのも去年見たが、オスカーはこんな跡を残せる動物を制御できるとはちょっと思えなかった。

 

「あれ? これバタービールの瓶じゃないですか? 前に談話室の宴会で見ましたよ」

「ほんとだね、誰かここで飲んだのかな?」

 

 そこには上部分だけが削り取られたバタービールの瓶が転がっていた。この部分だけ消失させた様に見える。オスカーは少なくともこの部屋をこのようにした何かと会うのは得策ではないと頭のどこかが告げている気がした。

 



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決闘クラブ

そろそろシリアス・ブラック


 暴れ柳の下を通って叫びの屋敷の中に入ってから二週間ほどたった。忍びの地図に書かれていた地図の残り二つの抜け道、大鏡の後ろの道と魔女のこぶから入れる道はどうもフィルチも知っていない道のようで、オスカー達は今度みんなで行く計画を立てていた。

 エストとオスカーが玄関ホールを歩いていると、興奮した顔で、クラーナとチャーリーが張り紙の前で二人を手招きしていた。

 

「決闘クラブが始まるらしいよ」

「決闘クラブ? 去年必要の部屋でやったようなのと同じってことなの?」

「ええ、誰か先生が主催してやってくれるみたいですね、これでやっと合法的にトンクスをボコボコにして、遺灰をマッチ箱に入れてトンクス先生に渡すことができます」

「アズカバン行きだろそれ」

「トンクスの日頃の行いを考えれば、ウィゼンガモット大法廷も私を無罪にするでしょう」

 

 クラーナは日頃のトンクスへのうっぷんを晴らしたくて仕方ないようだ。掲示されている羊皮紙には、今晩から決闘クラブを行うことが、ダンブルドアの許可サイン付きで示されている。

 

「オスカーは行くの?」

「まあ面白そうだし、クラーナが暴走して、決闘クラブに来てる人たち全員、セストラルが見えるようになっても困るだろ」

「僕はセストラル見てみたいけどね」

「なんですか、それだと私がヌンドゥかドラゴンみたいじゃないですか」

「じゃあエストも行こうかな」

 

 決闘クラブにはみな乗り気のようだ。去年の必要の部屋の練習やエストの実力を考えれば、決闘クラブでもオスカー達は上位の実力を示せるだろうとオスカーは思った。

 

「そう言えば、叫びの屋敷ですけど、最近はゴーストの噂がなくなったらしいですよ」

「なくなった?」

「ええ、夏休みが終わってから噂があったのに、クリスマスの後くらいから、ぴったり止んだらしいですけど」

「僕たちが行く前だし、関係はないのかな?」

「まあ、あの部屋の惨状を考えると、そのゴーストがいないほうがいいだろうな」

 

 オスカー達は、叫びの屋敷と髪飾りの探索が終わってから、特に目新しいやることもなかったので、乗り気で決闘クラブが開催される大広間に集まった。

 大広間は夕食時と打って変わって、壁に沿って金色のビロードに覆われたステージが出現していた。天井は黒色の布で覆われ、いつもの空は見えない。蝋燭で照らされたステージがまさに決闘を行う場所として、煌々と光っていた。

 オスカーは必要の部屋のステージほどではないが、十分に決闘の場所としてふさわしいステージだと思った。

 四寮の生徒ほとんどが来ているようで、大広間は人で一杯だった。

 

「誰がおしえるのかな?」

 

 トンクスが楽しみそうに言った。

 

「フリットウィック先生かもしれないの、スタージスがあの先生は実は決闘チャンピオンだったって言ってたの」

「ええっ!? あのサイズで?」

「トンクス、決闘の身長は関係ないですよ、むしろ小さい方が呪文が当たりにくくて有利です」

「そりゃあクラーナは小さいけど、フリットウィック先生のイメージと合わないというか……」

 

 確かにトンクスの言う通り、クラーナに呪文を当てるより、ハグリッドに呪文を当てる方がオスカーには簡単に思えた。

 

「なんですか、小さいって! 今日という今日はトンクスをボコボコにしてやりますよ」

「じゃあ、私が勝ったら、去年のクリスマスにオスカーと何があったか教えてね」

「教えないですよ、私に得るものが全くないですから」

「あれ? クラーナびびってるの?」

「こいつ!! いいでしょう、なんでも賭けてやりますよ‼‼ 私が勝ったら、そのクソ変化を一か月禁止です」

 

 二人は売り言葉に買い言葉でオスカーには一言も言わずに、なにやらクリスマスのことを賭けようとしていた。

 

「二人は楽しそうだね、けどほんとに誰がおしえるのかな?」

「まあフリットウィック先生やマクゴナガル先生は結構な年だし、スネイプ先生とかなんじゃないのか?」

 

 五人が人込みと同じように騒ぎ合っているとステージの上に二人の人影が現れた。柔らかそうな栗色の髪と見慣れている寮監のシャンプーをつけているのかも怪しいドロドロの髪の毛が見えた。トンクス先生とスネイプ先生だ。

「ソノーラス‼‼ 響け‼‼」

 

 トンクス先生が自分ののどに杖を当てて呪文を唱えた。

 

「あれ、ママじゃん」

「よかったですね、ママに末期の姿を見て貰えますよ」

「私が勝ったら、絶対教えてよクラーナ」

「私に二言はありません」

 

 さっきの呪文は声を拡大する呪文だったのか、トンクス先生の声は大広間中に響き渡った。

 

「みんな静かにしてね、声は聞こえるでしょう? 私のいたころは決闘クラブを毎週やってたんだけど、今はあんまりやってないみたいだから校長先生に頼んだのは正解だったみたいね、ああ、このクラブではセブルスと私が一応監督するから、あと先生が二人とも、スリザリンだからってひいきとかはしないから大丈夫よ」

 

 トンクス先生がそう言うと広間に笑いの波が起こった。スネイプ先生は普通にスリザリンをひいきするが、トンクス先生の前では不可能だろう。闇の魔術に対する防衛術の授業を受けた生徒達は言われなくてもそれを十分に理解していた。後ろのスネイプ先生は何か諦めたような表情をしている。トンクス先生に無理やり引っ張り出されたのだろうとオスカーは思った。

 

「じゃあ今から、私とセブルスで見本を見せるわね、一年生は決闘を見たこともないって子もいるだろうからね」

 

 そう言うと、トンクス先生が杖を振って青い泡でステージを包んだ後、トンクス先生とスネイプ先生はステージの両端に立ってお互いにお辞儀した。二人は杖を相手に向けて正眼に構えた。

 

「この後、三つ数えたら決闘の開始よ」

 

 大広間に集まった何百という視線は二人に集まった。

 

「一…… 二…… 三……」

 

 スネイプ先生が先に叫んだ。

 

「エクスペリアームス‼‼ 武器よ去れ‼‼」

 

 紅の閃光がトンクス先生に突き刺さるかと思ったが、トンクス先生は半身ずらしただけでそれを躱して叫ぶ。

 

「インペディメンタ‼‼ 妨害せよ‼‼」

 

 今度はトンクス先生の杖から閃光が迸り、スネイプ先生を襲う。

 

「プロテゴ‼‼ 護れ‼‼」

 

 しかし、スネイプ先生の盾の呪文ではじかれ、青色の保護呪文の泡に当たって消えた。

 生徒達から歓声が上がった。二人は杖を下ろして、ステージからこちら側を見た。

 

「まあこんな感じね、先生同士で殺しあってもしかたないでしょう? セブルスありがとう」

 

 トンクス先生そう言うとスネイプ先生はステージの上から降りた。

 

「じゃあ今度は生徒でモデルになってもらおうかしら? 低学年がいいわね、みんなが分かる呪文でやってもらった方が、決闘がどんな形で行われるか分かりやすいでしょう?」

 

 しかし、誰も低学年の生徒は手を上げなかった。そのため、トンクス先生はステージの上から見回した。すると先生はこっちの方に目をつけた気がした。

 

「ミス・プルウェット、お願いできるかしら?」

 

 トンクス先生がエストを指名した。周りにいる生徒がエストの方を見て、ステージまでの道を開けた。エストは困ったような顔でオスカーの方を見た後、ステージへと進んでいった。

 

「ありがとう、ミス・プルウェット、えーとじゃあ、二年生か一年生でミス・プルウェットと決闘したい子はいるかしら? 美人さんよ?」

 

 しかし、手は上がりそうになかった。オスカーは最もだと思った。美人かどうかは置いておいても、魔法の腕でエストに挑もうなんて生徒が二年生にはいると思えなかったからだ。またトンクス先生が困った顔をして、オスカー達の方を見た。

 

「じゃあ、ミス・ムー……?」

 

 恐らく、トンクス先生がクラーナを呼び出そうとしていたところで、誰かがステージに上がった。短い金髪が蝋燭の火を浴びて光った、オスカーはその人物を知っていた。

 

「あら、ミス・マッキノンが引き受けてくれるみたいね、ありがたいわ」

 

 ステージに上がったのはレア・マッキノンだった。オスカーは違和感を覚えた。少なくとも前に会った際にレアは自信を失い、おどおどしていたし、あの状態の人物が誰も出ようとしない決闘のステージに出るとは思えなかったからだ。

 オスカーの眼にはレアが自信満々に見えた。全校生徒の視線が集まっているにもかかわらず動じていない、その顔には何か笑みすら見えるようだ。

 ステージの上にスネイプ先生が上がり、なにやらトンクス先生と話している。スネイプ先生は時々、レアの方を向いて、何か困惑した顔をしながら話している。

 

「マッキノンのハンバーグができあがりそうですね、私がエストと二年生最強を賭けて戦ってもよかったんですけど」

 

 いつの間にかトンクスと話していたはずのクラーナが横に来ていた。

 

「流石にそんな本気でやらないだろ、マッキノンは一年生だしな」

「まあそうでしょうけど、マッキノンとは意外ですよね」

「俺もそう思ってた」

 

 トンクス先生とスネイプ先生の話は終わったようだ。スネイプ先生はどこか心配そうにレアを見ているが、レアの方はスネイプ先生に見向きもせず、エストの方を見つめていた。

 

「じゃあ、ミス・プルウェットとミス・マッキノンにやってもらうわ、さっき見たと思うけど、呪文がどこかに飛んでも大丈夫よ、保護呪文があるからみんなのとこには飛んでいかないわ、危なくなったら、私かセブルスが止めに入るからね、二人ともお辞儀して」

 

 トンクス先生の言葉を受けて、二人はさっきの先生二人と同じようにステージの両端に立ってお辞儀をした。

 

「行くわよ、一…… 二…… 三……‼」

 

 三とトンクス先生が言い終わった瞬間、レアの杖から赤色の閃光がエストに放たれた。速攻の無言呪文だったが、エストは無言で盾の呪文を展開して弾いた。

 

「無言呪文ですか!? マッキノンの成績が悪いとかいうのはなんの冗談だったんですかね?」

 

 オスカーも驚愕していた。少なくともオスカー達は先生をつけてやっと無言呪文を覚えることができたし、無言呪文を使えるようになった際にはポドモア先生は本当に驚いていたからだ。一年生で無言呪文を使えるというのは驚愕すべきことに違いなかった。

 今度はエストが無言で呪文を幾本も唱えた。青や赤色の閃光がレアを襲うがそのすべてを杖も振らずに避けて見せた。

 ステージ後ろのトンクス先生は感心している顔をしていたが、スネイプ先生の方はレアの方をみて、驚愕したような顔をしていた。オスカーは何かがおかしいと思った。

 

「短期間で成績が悪いやつが無言呪文を使えるようになるのか?」

 

 ステージ上では二人が無言で呪文を撃ちあっていた。色とりどりの光線が二人の間を行き交っていたがオスカーにはエストの方が押されているように見えた。エストは盾の呪文で弾いているがレアの方は体を動かすだけで避けていた。

 エストに幾回か呪文は当たりかけていて、オスカーは自分の杖を握っている手が湿ってきたのを感じた。

 危ないところを何回かエストが切り抜けたところで、オスカーは杖腕が誰かの手で押さえられているのを感じた。クラーナがいつのまにか杖を上げようとしていたオスカーの腕をつかんでいた。こっちを見て首を横に振っている。

 オスカーはどうやらエストが押されている決闘を見て、杖を無意識に使おうとしていたらしい。

 

「ああ、ごめん……」

 

 正面からだと分が悪いと感じたのか、エストはついに岩や盾を召喚し始めた。呪文の射線上に岩が置かれ、視線を遮った。レアが呪文で岩を粉々に砕こうとしたが、先に岩陰から呪文が飛んできて、当たりかけたがそれをレアは恐らく盾の呪文で防いだ。

 今度は攻勢が逆転した。さっきまで盾の呪文も使わずに呪文を避けていたレアはエストが見えなくなった途端に呪文を避けれなくなった。

 エストは無言で召喚物を展開し、さらに岩陰から呪文を雨あられと浴びせ始めた。ついにレアはステージ上に倒れ、そこにエストの赤い失神光線が命中するかと思った。

 スネイプ先生が出てきて、エストの失神光線を無言で弾いた。トンクス先生もステージ上にでていた。なにやら二人を褒めているようだ。

 

「今の…… エストが見えているときは呪文を避けていた……? まさか一年生が? いくらなんでもおかしい……」

 

 オスカーの手を捕まえていたクラーナは隣でなにかを呟いていた。良く聞こえなかったが何かがおかしいと言っていた。オスカーも先ほどの決闘には何か違和感があった。

 

「はい、素晴らしい決闘でした。一年生と二年生が無言呪文を使うとはね、先生ちょっと授業のレベルを考え直さないといけないかもしれないわ、ミス・プルウェット、ミス・マッキノンに拍手を‼」

 

 トンクス先生がそう言うと大広間は拍手に包まれた。ステージ上にはまだ二人がいたが、レアは何か、魔法の道具を見つけた時のエストのような、魔法生物を見つけた時のチャーリーのようなそんな表情でエストの方を見つめていた。

 

「ええ‼‼ ちょっとなんでオスカーとクラーナは手を繋いでるの? エストがステージに上がった間にやるとは、凄いわね」

「二人とも仲いいね」

 

 オスカーとクラーナがさっと手を離した。

 

「これは、オスカーがエストが心配で杖を上げようとしてたんです。だから手を掴んでただけです」

「その通りだ」

 

 トンクスはニヤニヤが止まらないようだった。後ろの方からエストがこっちに戻ってくるのが見えた。見た感じはケガがなさそうなのでオスカーは一息ついた。

 

「エスト、お疲れ様。凄かったよ」

「チャーリー、ありがとうなの、レアは凄かったの全然呪文が当たらなかったの」

「エスト、オスカーとクラーナが手を繋いで貴方を応援してたわよ」

 

 ニヤニヤしながらトンクスはそう言った。これは本当に面倒くさいことになったとオスカーは思った。決闘でトンクスをマッチ箱に入れるくらい小さくするのも名案かもしれないと思ったほどだった。

 

「ええっ!? やっぱり二人はクリスマスみたいな感じなの‼?」

「だから、オスカーがエストを心配して杖を上げようとしてたのを止めただけって言ってるじゃないですか‼‼ やっぱりトンクスはここで終わらせます‼‼」

「ちょっと事実を言っただけじゃないの、何よ終わらすって」

「その減らず口を叩けないように、口を永久粘着呪文でくっつけてやります‼‼」

 

 その後、トンクス先生は二人ペアになって練習するように言い、クラーナがトンクスにこれでもかというくらいに呪文をかけ始めて、二人は大広間全体を使って鬼ごっこを始めてしまい、オスカー達はそれを止めないといけなかった。

 そのせいで、寮に帰るころには五人共、疲労困憊の状態であったし、その中でもエストはなおさら疲れていたので、オスカーは決闘を見た時の違和感をエストに尋ねることができなかった。

 

 

 

 

 決闘クラブの翌日、授業がなく、グリフィンドールとハッフルパフの試合が行われる日、オスカーとエストが朝食を大広間で食べているとふくろうが二人の前に降り立った。二人にふくろうが来るのは、大抵ウィーズリー家のエロールかドロホフ邸で飼っているローガンというふくろうくらいだったので、二人は見慣れないふくろうが来たと思った。

 ふくろうが渡した便せんにはエストレヤ・プルウェット様宛だった。エストがその便せんを開くと見慣れない字でこう書かれていた。

 

 

 エストレヤ・プルウェット様。もし、失われた髪飾りについて知りたいのならば早急に叫びの屋敷まで来られたし。もしも先生方にこの内容を伝えたのならば、髪飾りは永遠に失われたままだと理解されたい。

 

 

 差出人には創設者の後継者と書かれている。オスカーはエストと顔を見合わせた。オスカーの頭の中ではエストが呪文に当たりそうになっていた時よりも、遥かに大きな嫌な予感が発せられていた。

 

 



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後継者

もしかしてザカリアスってハッフルパフの血縁?


「オスカー…… これ……」

「少なくとも、俺たちが髪飾りを探してることを知ってる人だろうな」

 

 手紙には失われた髪飾りについて知りたいなら先生を抜きで叫びの屋敷に来いと書かれている。少なくとも、オスカー達が髪飾りを探していて、さらに叫びの屋敷への行き方についても知っていることを向こう側は把握しているということだ。オスカーの頭の中に浮かんだのはいつもの五人となんでも知ってそうなダンブルドア校長を除けば二人だけだった。

 

「トンクス先生かマッキノンが怪しいけど、普通に考えるとトンクス先生が怪しい気がする」

「トンクス先生?」

「ああ、俺たちにゴーストに聞けばいいってヒントを与えたのも、暴れ柳について話したのもトンクス先生だろ?」

 

 そう、今年に入って色んなヒントをオスカーはトンクス先生から貰っていると思った。少し怖いほどだ。

 

「確かにそうなの、でも創設者の後継者ってなんなんだろう?」

「さあな、トンクス先生がレイブンクローの子孫でずっと髪飾りを持ってたとかか?」

「うーん、取りあえず、先生には言っちゃダメって書いてあるからクラーナを呼びに行ってみる?」

「他の二人は試合だしな」

 

 二人は忍びの地図を取り出してクラーナの居場所を探した。クラーナは朝食をすでに終えて、グリフィンドール寮にいったん戻ってから、競技場に向かっているようだった。オスカーはクラーナに会いに行く道中、トンクス先生とレアの居場所を探したが二人の名前は見つからなかった。昨日の決闘クラブといい、どうもこの二人が怪しいとオスカーはさらに思った。

 

「あっクラーナ‼ ちょっと来てほしいの」

「なんですか? どうせクィディッチの試合を見に行くんじゃないですか?」

「ちょっとおかしな感じなんだ」

 

 二人はクラーナに手紙を見せ、トンクス先生とレアが怪しいのではないかと話した。

 

「確かに、状況としてはその二人が怪しいと思いますね、髪飾りと叫びの屋敷両方に当てはまるのはトンクス先生ですし」

「髪飾りが必要そうだったのはマッキノンの気はするけどな」

「決闘クラブだとレアはレディの時とは違って、凄い自信満々だったの」

 

 エストの言う通り、あの時のレアの様子は明らかにおかしかった。ただオスカーはダイアゴン横丁でのレアを覚えていたので、彼女が決闘を望むような性格でもおかしくはないとは思った。

 

「まあ両方怪しいですね、確かトンクス先生の実家は純血で有名なブラック家だってトンクスが言ってましたし、マッキノンもそれと同じくらい古い一族のはずです」

「創設者の後継者を名乗ることくらいはできるってことなの?」

「まあその言葉が何を指しているのかはわからないですけどね」

 

 三人はチャーリーとトンクスに悪いと思いながらも、叫びの屋敷に向かうため、暴れ柳までやってきた。二回目なので、暴れ柳をスマートに切り抜け、三人は地下のトンネルへと潜っていった。

 

「何が目的なんでしょうね?」

「あの手紙か?」

「ええ、私たちそれもエストをピンポイントで呼び出した理由ですよ」

「トンクス先生が昨日の決闘クラブでエストに感心したから、髪飾りを見せる気になったとかか?」

「うーん、見せるだけなら叫びの屋敷にする意味がわからないの」

 

 三人は傾斜の激しいトンネルを進みながらも、一体だれが何の目的で呼び出したのかを話し合っていたが、一向に答えは出そうになかった。

 

「学校の中で見せると何か不味いんですかね?」

「ホグワーツの中だとなんか制限があるとか?」

「確かに姿現しとかはできないけど、魔法の道具にまで制限をかけれるのかな?」

「髪飾りの力は伝承の通りならちょっと頭が良くなるだけのはずですけど」

 

 トンネルは上向きの傾斜を持ち始めていた、あとは何回か蛇行すれば叫びの屋敷に着くはずだ。

 

「じゃあレアなのかな? 髪飾りを見つけたから見せたいとか?」

「確かにあの塔であった時とは別人のような自信でしたね、無言呪文を唱える一年生の成績が悪かったら、今年の五年生は誰もふくろう試験で単位をとれませんよ」

 

 オスカーの周りには無言呪文を使える人間が沢山いるが、本来あれはイモリレベルの学生が持つ技能なのだ。一年生でそれが使えるのは明らかにおかしかった。

 

「それも髪飾りの力なのか?」

「だったら凄い力なの、みんなで貸し合いすればみんな無言呪文を使えるようになっちゃうよ?」

「まあ会えばわかるでしょう」

 

 クラーナがそう言うともう前に、埃っぽい屋敷の内部が見えていた。オスカーは以前来た時よりも何か屋敷の中が張り詰めているような、そんな感じがした。

 何かが大暴れして、めちゃめちゃに壊されている一階には誰もいなかった。オスカー達は杖灯りを頼りにしながら、二階へと上がった。

 推定できない力で壊された跡がある二階の足が一本ないテーブルの上でバタービールを飲みながら、彼女は座っていた。

 

「先輩達、来てくれたんですね」

 

 そう、オスカー達に話かけてきたのは、レア・マッキノンだった。男と見まがうような短い金髪に加えて、杖灯りとどこからか漏れてくる日の光にあてられて、レアの両目は赤く、煌々と光っていた。

 

「ボク、レディに聞いた後のクリスマスに八階を歩いていたら見覚えのない扉を見つけたんです」

 

 レアは机の上から降りて、バタービールを置くとこちらに歩きながら、ローブの中から何かを取り出した。

 

「その中は大広間よりも大きな場所だったんです。でもあてもなく歩いていたら、これを見つけたんです」

 

 レアが取り出したのは黒色にくすんだ銀色の髪飾りだった。髪飾りには計り知れぬ英知こそ、われらが最大の宝なりと彫られている。オスカー達は息を呑んだ。

 

「多分あそこは色んな人達が色んなものを隠す場所だったと思うんです。ああ先輩達ならもう知ってるのかもしれないですね、この屋敷にも迷わずこれたみたいですし」

 

 レアの口調はオスカー達全員に向けられていたが、その視線はオスカーとクラーナの方には一切向いておらず、ただエストの方に向けられていた。

 

「確かにこの髪飾りを持った時から、ボクの力がコントロールできるようになったんです、髪飾りの力は本物でした。それでも、プルウェット先輩には負けちゃいましたけどね」

 

 レアはそう言って笑ったが、オスカーにはその眼が全く笑っていないように見えた。まるで獲物を捕まえる寸前の蛇のようだった。オスカーはそんな視線をどこかでみたことがある気がした。

 

「だから、一度プルウェット先輩に見て貰おうと思ったんです。レディが話してくれたのはプルウェット先輩のおかげですし、レディも先輩なら髪飾りがふさわしいって言ってましたから」

 

 なぜ叫びの屋敷でそれをやる必要性があるのかは分からなかったが、レアの話していることには矛盾はなく、筋が通っているように思えた。実際にエストが気づいたように必要の部屋にそれは置かれていて、それが必要だったレアの手に渡ったのだろう。オスカーにはその流れるような説明がなぜか空恐ろしかった。

 

「ほら、手に取って見てください。多分、本物だと思います」

 

 そう言って、レアは髪飾りをエストに手渡そうとした。オスカーはいつか経験した最悪の記憶と同じくらい、その行為に不安を覚えた。

 

 バタっ。

 

 髪飾りをエストに渡した瞬間、レアは床に倒れ伏して、ピクピクと痙攣し始めた。さっきまで自信にあふれていた顔は恐怖そのものに変わり、ぶつぶつと何かに謝っている。

 

「それを離せ‼‼」

 

 オスカーは直観的にエストから髪飾りを取り上げようとした。しかし、目もくらむような銀色の光線がエストの杖から現れて、オスカー、クラーナ、レアの三人は部屋の端まで吹き飛ばされた。

 オスカーは壁に叩きつけられ、もうろうとする意識の中で、いつも聞いているエストの声そのものにも関わらず、絶対に別人だと思われる声を聞いた。

 

「素晴らしい‼ 同じ純血とは言え、魔力をコントロールできないまがいものとはモノが違う…… 魔法力も、杖への力の流れ方も、下手をすれば私の体以上か?」

 

 エストは、オスカーがいつもそばで見ているエストと寸分も違わないその存在は、自分の手を開いて握って、自分の体を眺めていた。

 

「カップとロケットを持っていたあのおいぼれも創設者の後継者をかたっていたが、この体と流れる血は本当に本物かもしれない……」

 

 エストの赤い目が、オスカーの知らない光り方をしていた。いつもの優し気な光ではない、狂気が奥にあるような、見るだけで恐怖を覚えるようなそんな赤に見えるのだ。

 エストが杖を振ると、驚くべきことにみるも無残に壊されていた部屋が、あるべき場所にあるべきものが戻るように修復されていった。破られたカーテンとカーペットが新品同様になり、椅子と机はあるべき足を取り戻した。

 

「オスカー…… あれはどうみてもヤバイです」

 

 クラーナが体を痛そうに引きずりながらも近くまで歩いてきていた。オスカーはクラーナの肩を借りて、立ち上がった。レアは傍で倒れ伏し、まだ恐怖に震えていた。

 

「分かってる。髪飾りだ、髪飾りを取り上げよう」

 

 オスカーはエストが杖腕でない方で持っている髪飾りを見つめた。明らかにエストの豹変は髪飾りが原因のように思えた。

 

「おや、アントニンの息子と偉大なオーラーの姪よ、もう立てるのか?」

 

 そう言って、エストは髪飾りを自分の頭の上に乗せた。髪飾りはさっきの黒ずんだ色とは打って変わり、エストの黒色の髪の上で銀色に輝いていた。まさに髪飾りは完全にあるべき場所に戻ったのだとオスカーは思った。

 エストの狂気を孕んだ眼はいつかみぞの鏡の前でダンブルドアと出会った時のようにオスカーのすべてを見通しているように見えた。

 オスカーはエストに恐怖していることを感じた。魔法使いの前に立って恐怖すること、この経験をしたのは二度目だった。

 

「素晴らしい、この体もそうだがお前たちもだ。ホグワーツの最も深い秘密の一つ、必要の部屋を見つけ出し、この髪飾りのありかまで見つけ出すとは…… 私が学生のころにお前たちのようなものに出会いたかったものだ……」

 

 その時、エストの顔に浮かんだ表情は、あのクリスマスで必要の部屋に髪飾りがあるかもしれないと語ったその時の顔をただただ邪悪にしたように思えた。

 

「オスカー、エストの…… やつの眼をみてはいけません」

「目を?」

 

 そう言うクラーナを見て、エストはさらに感心したという顔をする。

 

「その年で、無言呪文を使える上に閉心術にも心得があるとは、本当に素晴らしいな、流石に闇払いの血統か」

 

 エストがそう言うと、クラーナは懸念事項が真実になったとばかりに深刻な顔をした。

 

「お前はどう見ても、エストではない、一体だれなんですか?」

 

 クラーナにそう尋ねられて、エストはゾッとするような大声で笑った。

 

「分からないのか? この私が? この体も、お前たち三人も、他の者よりもはるかに私の名を知っているはずだ。嫌と言うくらいにな」

 

 そう、エストらしきものが言った瞬間にオスカーは最悪の想像が現実だったことを理解した。オスカーには最初から分かっていた。エストの前に立って恐怖した瞬間から、オスカーの父親をアントニンと言った際にもだ。今の魔法界に目の前にいる魔法使いを知らないものなどいない……

 

「レイブンクローの失われた髪飾りを礎に、レイブンクローの血族であろう体と魂を使って、私が復活する。このサラザール・スリザリン最後の後継者が」

 

 倒れているレアも、隣でなんとか立っているクラーナも、実際に彼自身にあったことのあるオスカーもその名前を恐れていた。

 

「私こそが、ヴォルデモート卿だ。死を超越した魔法使いだ」

 

 オスカーのよく知る唇で、オスカーの良く知る声でヴォルデモートはそう言った。

 

「お前たちは本当に優秀だ。だから私の配下にならないか? オスカー、お前ならアントニンと比べるべくもない魔法使いになれるだろう」

 

 ヴォルデモートは優し気なエストの声でそう言った。

 

「エストはどうなるんだ。お前が体を侵しているエストはどうなる」

 

 オスカーはなんとか口から言葉をひねりだした。まるで唇が凍り付いているようだった。その声は自分でも信じられないくらいに震えていた。またヴォルデモートは高笑いをした。

 

「大丈夫だ。くれてやるとも、私が完全に復活し、体も魂もぼろきれのようになったものをな」

 

 オスカーは気が付くとヴォルデモートに呪文を放っていた。赤い失神光線がエストの体に当たろうかというところで、ヴォルデモートは身をずらすだけで交わした。

 

「この私に恐怖しないとは、そんなにこの体が大事なのか? アントニンの息子よ」

「オスカー‼‼ 奴は心を読むんです、真正面から呪文を撃っても絶対に当たりません‼‼」

 

 クラーナが叫んでいる声も聞こえず、オスカーは無茶苦茶に呪文を撃ちこんだが、一つとしてエストの体には届かなった。

 

「アントニンは息子に礼儀を教えるのを忘れたらしい」

 

 ヴォルデモートはオスカーに杖ともう片方の手を向けた。するとオスカーの体がまるで金縛りにあったように動かなくなった。

 

「お辞儀をするのだ。オスカー、昨日先生に決闘の方法を教えてもらっただろう? それとも昔お前がやられたように服従の呪文がいいのか?」

 

 オスカーの体がまるで巨大な手で曲げられるように曲がった。エストに向けてお辞儀をするように。

 

「よろしい、では杖を構えるのだ。礼儀に則り、勝者と敗者を決めようではないか? また何もできずに何もかも失いたくはないだろう?」

 

 ヴォルデモートの眼が真っすぐにオスカーを見通した。クラーナの言っていたことが理解できた、決闘クラブでエストがレアに苦戦した理由もだ。ヴォルデモートはオスカーの心の中に入り込んでいる。怒りに溢れていたオスカーの心に恐怖が生まれた。勝てない、手の出しようがない、オスカーは負け、エストを永遠に失うことになる、オスカーはそう思った。

 オスカーは中々杖をあげることができなかった。杖を上げ、決闘を始めることはエストが失われることを意味していた。

 

「私を忘れて貰っては困ります」

 

 クラーナがその小さい体でオスカーとヴォルデモートの射線上に立っていた。クラーナの体は震えていた。またヴォルデモートは邪悪な笑い声を上げた。

 

「オスカー? それでいいのか? 小さい女に護られ、自分で戦うこともできずに後ろで震えているのか?」

 

 ヴォルデモートに嘲られてもオスカーの体は動かなかった。目の前で震えながら立っているクラーナがいるのに。

 

「いいだろう。オスカー、見せてやろう、私に立ち向かうものがどうなるのか、破滅とはどのようなものなのか」

 

 ヴォルデモートが杖を振った。クラーナが同時に盾の呪文を発動したが、そもそもヴォルデモートは呪文の光線を出さなかった。さきほどヴォルデモートが修復したカーペットの一部が蛇のようにうねり、クラーナの足を絡めとった。

 

「これがあがなうことのできない力だ。よく見るといい」

 

 バランスを崩し、倒れたクラーナに向けてヴォルデモートが呪文を唱えようとしていた。オスカーの体がやっと動き出した。クラーナの前に立ってとっさに武装解除呪文を杖から発した。

 

「アバダケダブラ‼‼」

 

 エストの口を借りて唱えられた、死を意味する緑の閃光と紅の閃光が叫びの屋敷を照らしながらぶつかった。

 オスカーの予想に反して二つの光線は拮抗していた。緑と紅が倒れ伏すレアとクラーナを何が起きているのか理解できないオスカーを、そしてエストに取り付いたヴォルデモートの顔を、驚愕からとんでもない喜色にまみれたその顔を照らした。

 ヴォルデモートが振り切るように杖を振ると二つの光線は消えた。

 

「素晴らしい因縁だ。兄弟杖とは…… お前たちはまさに強い力で結ばれているわけだ…… 特別だ……」

 

 オスカーはカーペットを杖で切断し、クラーナを助け起こした。ヴォルデモートが楽しさと邪悪さが共存した顔でオスカーを眺めた。

 

「場所を変えよう、オスカー、今晩もう一度だけ、必要の部屋でお前からの挑戦を受けようではないか? レイブンクローの因縁深い場所で、この娘の運命を決めるわけだ、もちろん何人にも言ってはならんぞ? そうしなければ永遠に娘を失うことになるだろう」

 

 ヴォルデモートはそう言うと一階の闇の中へ消えていこうとした。

 

「エスト‼‼」

 

 オスカーはエストがヴォルデモートに完全に乗っ取られていると分かっているにも関わらず、エストに呼び掛けた。

 

「オスカー、必要の部屋で待ってるよ」

 

 ヴォルデモートはエストそのものの声と表情でそう言った。

 

 

 



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開心術

割と残酷描写注意です。長いです


 

 クラーナを抱き起こしたオスカーの心臓はこれまでにないくらい早鐘を打っていた。どうしたらいいのか、何をしたらエストを取り戻すことができるのか、暗い部屋の中でオスカーの頭の中はそれだけで一杯になっていた。

 

「ダンブルドアです、ダンブルドアに言うしかありません」

「ダメだ‼ 誰かに言ったら本当にエストが……」

 

 オスカーの口から考える前に言葉が出ていた。クラーナの考えは正しいとオスカーも思ったが、誰かに言った時点でエストが失われる。その恐怖がオスカーの頭の中を駆け巡っていた。

 

「例のあの人はダンブルドア以外には止められない、アラスターおじさんもそう言ってました…… 本当にあれが例の…… ヴォルデモート卿ならですけど……」

「あいつは髪飾りを取り上げようとしたら俺たちを吹っ飛ばした。髪飾りさえどうにかできればなんとかならないのか?」

「確かに、エストの体を壊すわけにはいかないですから、髪飾りを狙うのがいいでしょうけど……」

 

 オスカーはいつの間にか座り込んでいたレアに視線を移した。さっきまで髪飾りを持っていたのはレアなのだ、オスカーはエストを取り戻すヒントがなんとしても欲しかった。

 レアはオスカーの視線を受けただけで体をビクッと震わした。

 

「マッキノン、話はできるのか?」

「ヒッ…… ごめんなさい、ごめんなさい、ボクが髪飾りを見つけてしまったから……」

「マッキノン‼ 話はできるかって聞いてるんだ‼」

「ヒっ…… できます、できます」

 

 レアは心底怯えた青い顔でオスカーを見ていたが、オスカーにはレアを気遣う余裕が全く残されていなかった。エストを取り戻すためには今日の夜までに方法を考えないといけない、オスカーにはほとんど時間が残されていなかった。

 

「オスカー! 貴方が冷静にならないといけません。奴が貴方の心に入り込んだように恐怖は貴方の眼を曇らせているんです。落ち着いてください」

 

 クラーナがオスカーのローブを掴んで引き寄せ、オスカーの真正面から言い放った。オスカーはクラーナの埃にまみれた顔を見て、クラーナの瞳の中に写る己の情けない姿を見て、少しだけ自分の心の中が落ち着くのを感じた。

 

「すまん、マッキノン。なんでもいい、なんでもいいからあいつについて教えてくれ」

「は…… はい…… あの髪飾りはなにをしても壊れなかったんです…… ボクあの髪飾りを手に入れてから、成績は良くなったんですけど…… 時々記憶がなくなることがあって…… それで怖くなって、あの髪飾りをどこかに置いたりしたんですけど、その度にいつの間にか手元に戻ってきて…… それで叩いたり、暖炉の中に入れたりしたのに、壊れなかったんです……」

 

 火の中にいれても壊れない? 一瞬またオスカーの心は恐怖に支配されそうになったが、オスカーはいつの間にか手元に戻ってきたりする時点でやはり、エストに乗り移ったヴォルデモートと自称する何かの本体はやはりあの髪飾りなのだと冷静に考えた。

 

「何か強力な闇の魔法で守られているということでしょうか? まあ触れただけで人間を支配するような代物ですから、推して知るべきですね」

「ただ、触れないと支配できないってことだろ? エストから引き離せばなんとかなるかもしれない……」

「そうですね、エストから髪飾りを取り上げて、ダンブルドア校長や先生方に渡すことができればなんとかなるのかもしれません」

 

 しかし、それはとんでもなく難しいとオスカーは思った。いくら同年代のエストの体に乗り移ったとはいえ、奴の言動が本物ならばオスカーは今世紀最悪の魔法使いを出し抜かなければならないのだ。数々の力ある成人の魔法使い、闇払いを葬り、ダンブルドア以外には止められないと言われた最強の魔法使いをたかだか無言呪文が使えるくらいの二年生にどうこうできるのか? オスカーは絶望的だと思った。

 それに奴はオスカーの心を読むのだ。もし何かオスカーに考えがあるとしても、オスカーが奴の眼の前に立った時点ですべては筒抜けになってしまう。

 そこで、オスカーはなぜクラーナが奴の眼の前に立てたのか疑問に思った。いくらクラーナが勇敢とは言え、奴と目線を合わしてしまえば心を読まれてしまうのではないのか?

 奴はさっきなにについてクラーナを褒めていたのか?

 

「クラーナ、さっきあいつが言っていた閉心術ってなんなんだ?」

「その名前の通り、心を閉じることです。開心術の使い手と戦うには目をつぶるか閉心術を修めるしかありません」

「あいつの心を読む術に対抗することができるってことなのか?」

 

 オスカーにはそれが願ってもない武器に思えた。違う、オスカーは最低限戦うのに必要なものだと考えなおした。あいつの目の前に立つにはそれが必要だ、強くそう思った。

 

「そうです、卓越した魔法使いは対面しただけで相手の心を読めます。だからたとえ無言呪文であっても、相手に次に何をするのか筒抜けになってしまうんです」

 

 そうだ。エストがレアと決闘した際も、さっきオスカーがあいつに向けて呪文を撃った際もあいつは最低限の動きだけで呪文を避けていた。それは決闘をするには致命的な弱点になってしまう…… オスカーはそれを痛いほど理解していた。

 

「それを防ぐのが閉心術です。自分の心を無にするか、それか相手に理解できない何かで心を満たすんです。そうすれば読もうとする相手の心をはねのけることができる……」

「それはどうやって使うことができるんだ? 何か練習をすればいいのか?」

 

 オスカーはそれこそ、今まさに必要としているものだと思い、期待を込めてクラーナを見たがクラーナの顔は全くもって希望的とは言えなかった。

 

「開心術には呪文があります…… 開心術になれないものでもその呪文を使えば相手の心を開くことができます。だからその呪文に対抗できれば閉心術をマスターしたといえるでしょう、しかし……」

「しかしなんなんだ?」

 

 オスカーはその術を覚えることができるのならなんでもするつもりだった。

 

「閉心術は一朝一夕で覚えられるものではありません…… もちろん術者の素質によりますが、私もアラスターおじさんに付きっきりで二か月もかかりました」

 

 二か月…… オスカーに残されているのはあと六時間かそこらだろう。だがオスカーにはそれがどうしても必要だった。

 

「それを教えてくれ、今から練習を始めて欲しい」

「オスカー、貴方は分かっていない、開心術とは人の心の中を覗き見るのですよ? 貴方は精神的に今追い詰められている。そんな状態で心をのぞき見られて平常でいられるわけがない……」

 

 クラーナがオスカーを真剣な目つきで見た。オスカーは開心術を使えなかったが、クラーナがオスカーの為を思って言っていることは見ただけで分かった。

 

「やってくれ、そうしないと俺はあいつの目の前じゃただの人形になってしまう」

「しかし……」

「クラーナ、頼む」

 

 オスカーはクラーナを真正面から見て頼み込んだ。しばらく見つめ合って、クラーナは大きなため息をついた。

 

「わかりました。しかし、覚悟してください、今からやるのは人の心、恐らく魔法使いが踏み込む一番深い場所なんですから」

 

 オスカーは一番深い所だろうがどこだろうが、踏み込むつもりだった。

 

 

 オスカーとクラーナは叫びの屋敷で向かい合った。レアはさきほど修復された椅子に座っておどおどと二人を見ている。

 

「いいですか? 私が呪文を唱えます、そうしたら私は貴方の心に入り込もうとしますから抵抗してください」

「抵抗? どうすればいいんだ?」

 

 オスカーには心で抵抗しろと言われてもよくわからなかった。

 

「己の心をコントロールするんです。自分の感情に支配されず、己自身で己を満たさないといけません」

 

 クラーナにそう言われても、オスカーにはそれがイメージできなかった。己をコントロールする? いったいその言葉が何を示しているのか。

 

「いきますよ、オスカー‼ レジリメンス‼‼」

 

 クラーナが杖を向け、そう叫んだ瞬間、世界が回りだし、叫びの屋敷が目の前から消えた。音が遠くなり、現実の世界と違う何かが切れぎれに現れては消えていった。

 

 今より、ホグワーツ特急でエストやクラーナと出会った時よりも小さいオスカーが歩いている。ここは確か、ドロホフ邸の近くの森の中の小道だ。オスカーの記憶にそれは間違いなくあった。

 オスカーは鼻歌を歌いながら笑顔で歩いている。ドロホフ邸では決して聞かして貰えないマグルのラジオから流れてくる歌だ……

 オスカーは小道を抜けて、森の中の開けた場所に出た。オスカーは鼻歌を辞めて歩き出した。オスカーの顔は鼻歌を歌っている最中よりも笑顔になっている……

 同い年くらいの女の子とオスカーが遊んでいる。オスカーが手をかざすと木から木の葉が散った。女の子がそれを見て笑っている…… オスカーはそれを見てさらに笑顔になった……

 オスカーはあの時の森の中に溢れていたリンゴのような花の匂いを思い出した。

 

 また場面が変わった。オスカーと同じ髪色の女性がオスカーと女の子が遊んでいるのを眺めている…… オスカーと女の子が杖を使わずに魔法を使って遊んでいる…… トンボが魔法の力に囚われたのか、オスカーと女の子の周りを回っている…… 女性に気付いたオスカーが女性の方にトンボを操って、トンボがブローチのように女性の胸元に止まった。

 女性は困った顔をしながら笑った…… オスカーと女の子も笑顔になった……

 

オスカーの頭の中で声が響いた。あり得ない、二人にはもう会えない、ここは自分の記憶の中だ…… エストの為に戻らないといけない…… 自分が幸せな記憶に浸ることは許されない。戻らないといけない……

 

オスカーが気づくと、叫びの屋敷の埃っぽい床が目の前にあった。片膝をついて、荒い呼吸でオスカーは床を見つめていた。いったいどれくらいの間、開心術にかかっていたのか。

 クラーナが心配そうな顔でオスカーを見つめている。

 

「いいですよ、オスカー、貴方は自分で戻ってこれました。私をはねのけて自分を取り戻したんです」

 

 しかし、オスカーは焦っていた。エストが危ないのに自分は自分すら支配できない…… 自分の記憶に浸り、ただただ床を見つめて、時間を浪費している。オスカーは自分に腹が立った。

 

「ちょっと休んでからまた始めましょう。心を整えるには時間がいるんです」

「ダメだ、すぐにやってくれ」

「オスカー、自分で戻ってこれただけでも十分です。人に心をのぞかれるというのはとんでもない負担なんです」

「クラーナ、時間がないんだ」

 

 そういうとまたクラーナは心配そうな顔でため息をついた。

 

「わかりました。やりますから、まずは深呼吸してください。体を心を平常に保つんです」

 

 オスカーは二度三度深く息を吸って吐いた。少しだけ、早鐘を打っていた心臓と首元の脈が落ち着いた気がした。オスカーはできるだけ平常でいるように心がけようとした。

 クラーナがオスカーの目の前に立ってもう一度杖を構えた。

 

「さあ、もう一度いきますよ、レジリメンス‼‼」

 

 またオスカーの目線からクラーナと叫びの屋敷が消えた。

 

 冷たい石畳の上に巨大なテーブルが置かれていて、そのテーブルの周りに沢山の黒いローブを被った人間が集まっている。だれもが鋭い眼光と不気味な雰囲気を漂わしていた。どうみても普通の人間たちではない。

 しかし、その人間たちもテーブルの真ん中に王様のごとく座っている人物に比べれば、ただの人間と言わざるを得なかった。

 鼻が裂け、怪しく光る赤い瞳は縦に切れており、まるでその顔は蛇のようだった。テーブルの周りの人間がその人物を恐れているのは誰が見てもよく分かった。

 

「皆、よく集まってくれた。今日は他でもない、我らが親愛なるアントニンのその息子に来てもらった」

 

 その声を聞いて、聴衆がまるで嘲るように笑った。

 真ん中に座っている男の傍に、髪の色は違うがオスカーと顔のパーツがよく似た色白の男が茫然とした顔で座っていた。

 

「純血の素晴らしい息子だな? アントニン?」

 

 そして、蛇のような男の傍に恐怖で色塗られた幼いオスカーが立っていた。瞳からは涙が流れ、ただテーブルの上を見つめている。

 

「そしてこのオスカーには非常に仲の良い友人がいるのだ。マグル生まれの、可愛らしい女の子だ」

 

 男が杖を振ると、先ほど森の中でオスカーと遊んでいた女の子が金切声を上げて机の上で暴れているのが見えるようになった。

 女の子からも周りが見えるようになったのか、オスカーの方を見て叫んだ。

 

「オスカー、助けて…… オスカー 怖い、怖い……」

 

 もう一度男が杖を振ると女の子はまるで言葉が失われたように喋れなくなった。

 

「なあアントニン? お前は息子に雑種を作らせたいのか? このヴォルデモート卿の腹心であるお前の息子とそこの穢れた血とでだ……」

「我が君…… そのようなことは決して…… 我が君…… お許しを……」

 

 アントニンと呼ばれた男は必死にヴォルデモートに許しを請い、その隣に座っているオスカーによく似た髪色の女性はショックで何も言えないようだった。

 ヴォルデモートが高笑いをした。

 

「ならば簡単だ。血が腐る前に切り捨てねばならない、当然、オスカー自身にやってもらおうではないか?」

 

 ヴォルデモートはそう言うとオスカーに向けて杖を振った。

 

「インペリオ 服従せよ」

 

 オスカーの表情が先ほどまでの恐怖に彩られた表情ではなく、何も考えていないような気の抜けた顔になった。

 

「アントニン、お前の杖を貸せ」

 

 ヴォルデモートはアントニンと呼ばれた男から杖を受け取ると、オスカーの手にその杖を添えた。

 

「オスカー、こうするのだ…… 私がアントニンに教えたのと同じ術だ…… 全てを焼く炎をコントロールするのだ……」

 

 ヴォルデモートがオスカーに渡した杖から、赤とも紫とも言える炎が鞭のように噴き出た。

 

「アントニン…… お前の息子は素晴らしいな? お前があれだけ苦労した術をいとも簡単にやってのけたぞ?」

 

 オスカーの何の感情も見られない表情が炎に揺られて映し出されていた。テーブルの上では女の子が声にならない声で叫び続けている。

 

「さあオスカー、穢れた血を自分の手で焼きつくすのだ」

 

 オスカーが炎の吹き出す杖を持ってテーブルへと進んだ。

 ヴォルデモートがもう一度杖を振るとまた女の子の声が聞こえるようになった。

 

「オスカー、やめて、やめて、やめて、お願い、オスカー、オスカー‼‼」

 

 女の子が恐怖の表情でオスカーに向けて泣き叫ぶ。オスカーはまったく動じずにテーブルへの距離を詰めた。女の子の声がどんどん大きくなる……

 女の子に炎があたる直前でオスカーの足が止まった。オスカーの顔はもう一度、さっきよりも大きな恐怖で色塗られた。オスカーは女の子の前で立ち尽くした。

 

「オスカー、お願い、お願い、助けて、怖いよ……」

「ほう、服従の呪文を撃ち破るとは…… アントニン、お前の息子は優秀なオーラーになれそうだな?」

 

 しかし、オスカーはまるで石になったように体を動かすことができない様だった。女の子の前で炎の鞭を持ち、彫像のように固まっていた。

 

「アントニン? 私は息子ができないときは父がその手を動かしてやるべきだと思うが?」

 

 そう言われると、アントニンと呼ばれた男がオスカーの後ろに立ち、オスカーによく似た手でオスカーの手を動かそうとした。

 オスカーは無茶苦茶な言葉を吐いて、手を動かして抵抗しようとしていた。

 しかし、自分の何周りもある大人に手を動かされ、ヴォルデモートの魔法で固められた体を動かすことはできず、炎の鞭は確実に女の子に近づいていた。

 

「オスカー、やめて、やめて、熱い、熱いよ……」

 

 炎の鞭が女の子の胸を焼いた。女の子の末期の叫びがオスカーの脳裏を駆け巡った。服が、人が焼ける匂いがした。押し付けられた杖から人の感触がした。必死にあがらい生きようとする最後の力が伝わってきた。

 やがて声も、感触も、匂いも消えた。ヴォルデモートの高笑いが聞える。オスカーは自分の心が壊れていくのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…スカー‼‼ オスカー‼‼ 起きてください、しっかりしてください‼‼」

 

 誰かが自分を呼ぶ声がオスカーには聞こえた。オスカーの心臓は恐怖で鳴り響いていて、その手には先の記憶の感触が残っている気がした。全身で冷たい汗をかいていて凍えるように寒かった。それなのにオスカーにはまるで自分の体が自分のものでないようにも感じられた。

 

「やっぱり、こんな状態で閉心術の練習なんてするべきじゃなかったんです。起きてくださいオスカー‼‼」

 

 眼を開けるとクラーナが泣きながらオスカーを揺さぶって、呼びかけていた。クラーナが泣いているのをみるのは二回目だとオスカーは思った。

 

「良かった…… 開心術なんて…… 誰かが人の心に入るなんて耐えられなくて当然なんです…… ひどい経験があればあるほど、心をコントロールするのは難しいんです」

 

 オスカーがクラーナを泣かせてしまったのだとオスカーはやっと気づいた。オスカーをかばってあのヴォルデモートの前に震えながらも立てるような女の子を泣かせてしまった。

 ヴォルデモートと父の力にあらがうこともできず彼女を殺してしまったオスカーを、今もエストがヴォルデモートの手にかかろうとしているのに、過去の恐怖におびえ自分を制御することもできないオスカーの為に泣いてくれているのだ。

 オスカーは記憶の中の恐怖に怯え、冷たくなった自分の体が少しだけ、それでも確実に暖かくなった気がした。

 

「もうやめましょう、こんなことをしても体力と時間を消耗するだけです……」

 

 クラーナがそう言うのを聞いて、オスカーは自分のことが生まれてから一番恥ずかしくなった。殺してやりたくなった。自分を制御できないことがこんなに情けないことだと知った。まるでクラーナの優しさがオスカーの心に火をつけた様だった。

 

「できるまでやってくれ」

 

 オスカーは自分でもびっくりするほどはっきりした声でそう言った。クラーナは本当に驚いた顔でオスカーを見た。オスカーはこれまでないほど自分の意識がはっきりしているのを感じた。

 

「時間がないんだクラーナ、俺が記憶に怯えている間にもエストの魂は削られている」

 

 オスカーはそう言うと、少しふら付きながらもクラーナの手を取って立ち上がった。

 

「オスカー‼ あんな記憶を見て、心を保てるわけがありません‼‼ 少なくとも、一度休むべきです」

 

 クラーナが泣きそうな顔でそう言ったがオスカーは首を振った。オスカーはエストの為にも、目の前のクラーナの為にも閉心術を覚えなければならないとはっきり自覚した。オスカーのあの記憶をクラーナも見ているのだ。

 

「大丈夫だ。生まれてから一番集中できてると思う」

 

 しっかりと真正面から見つめるオスカーをクラーナは見た。

 

「オスカー…… わかりました。ですが次に完全に制御を失ったら、もうやめますよ、いいですね?」

「大丈夫だ」

 

 オスカーは何故か次は大丈夫だという奇妙な自信があった。

 レアが怯えた表情で見つめる中で、またクラーナがオスカーに杖を上げた。

 

「いきます‼‼ レジリメンス‼‼」

 

 また世界が変わろうとしたが、オスカーは抵抗した。

自分を保たないといけない…… 自分は一人ではない…… 誰かに想われている。誰かが自分を認識している。そして誰かを想っている自分がいる…… オスカーは自分を想う誰かを通してはっきりと自分という存在を自覚しつつあった。

 

 まるで周波数の合わないラジオのように、遠くで声が聞こえる……

 

 

 

「オスカーお坊ちゃまに何をするのですか‼‼」

 

 騒ぐペンスを黒衣をまとった魔法使いが杖で吹き飛ばした。埃一つないドロホフ邸が荒らされ、家具や壁紙が散乱している……

 しかし、オスカーには同時に呪文を唱えているクラーナの姿も重なって見えた。

 

「真実薬を飲ませろ、このガキも何か知っているかもしれん」

 

 無色透明の薬を魔法使いの集団がオスカーに飲ませようとしているのが見えた。しかし、オスカーはこれが記憶だとはっきりと分かった。

 現実の叫びの屋敷に強く心を集中した。自分は自分だ。過去の記憶ではない、ここにいるのだ。囚われているエストと目の前のクラーナのことを深く考え、オスカーは遠くに記憶を締め出した。

 

 

 

 オスカーは現実の世界に戻ってきた。膝をついてもいないし、ましてや倒れ伏してもいなかった。

 オスカーは自分の意思で開心術を突破した。クラーナが信じられないという顔でオスカーを見ていた。

 

「大丈夫だったろ?」

「ダメです、そう言うのがダメなんです。油断大敵です」

 

 クラーナが瞳に涙をためてそう言った。

 

 オスカーはクラーナをもう泣かせるわけにはいかないと思った。そして、閉心術はオスカーの周りのすべてを客観的に見る視点をオスカーに与えていた。

 オスカーはエストを救うために、もう一度、自分の周りにある全てを、人を記憶を魔法を全てを思い出し始めた。

 

 



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計り知れぬ英知こそ

 学校の中は静まり返っていた。オスカー達三人は八階の必要の部屋に向けて歩き出していた。途中でゴーストや肖像画達が動いているのが見える。その誰もがエストがどのような状態になっているかなど知らず、ましてやホグワーツの他の生徒達は各々の寮の談話室で語り合い、柔らかいベッドで眠ろうとしているのだ。

 オスカーにはそれがどこか信じられなかった。はたして、彼らが日常を送っているホグワーツとオスカーが今歩いているホグワーツは同じ世界なのか? これから世界で最も邪悪な魔法使いと再び対面すると言うのに、その事実がどこか信じられないのだった。

 オスカーの頭の中には緑色のランプで照らされたスリザリンの談話室が浮かんだ。時折、湖の中を水中人や大イカが通り過ぎるのが見える場所だ。地下牢の冷たい石壁に包まれているのにオスカーはその場所がとても暖かい場所だと感じていた。

 それが何故なのか? その理由はオスカーには分かり切っていた。エストと一緒にいたからだ。窓の傍の二人のお気に入りの場所で、ゴブストーンをしたり、教科書や図書館から借りてきた本を読んだり、他の三人のことを話して笑ったり、オスカーにはそれがとても遠い昔のことのように思えた。オスカーはクラーナの開心術を破った時のように自分の記憶と意思で自分を満たしていることを感じた。

 

 オスカーの目の前にはこれまで見たこともないような扉があった。必要の部屋に入るとき、いつも扉の形は変わっていたがこんな形ではなかった。

 扉には銅の色をした大鷲が銀色の蛇に絡めとられている彫刻が彫られている。大鷲は苦悶の表情を見せ、蛇はその赤い目を光らせながら舌なめずりをしている。

 明確に部屋の中の人物の心を表わしているのだろう。オスカーは隣の二人の顔を見た。クラーナの顔はいつも見ている強気な表情で、レアは恐怖の色が残っているがどこか決意を決めたような顔だった。

 三人は顔を見合わせ、頷くと部屋の中へと入った。

 

 部屋の中は緑色の光に満たされ、銀色と青色に壁は塗られていた。蛇が絡み合う彫刻が施された柱が沢山立ち並んでいて、天井は遥か高く見えなかった。

 レアを扉の傍に残して二人は進んだ。部屋の奥、巨大な蛇の像にもたれかかるようにエストが立っている。エストの赤い目と黒色の髪、そして頭につけられた銀色の髪飾りが妖しく光っている。

 

「お前たちは勇敢だ…… 力の差が分かる程に賢いのに逃げなかった……」

 

 エストの口を借りてヴォルデモートが喋る。いつもの声のトーンと高さなのに、それはどこか身震いするような邪悪さに満ちていた。

 ヴォルデモートは真っすぐにオスカーを見つめて近づいてきた。

 

「なんと! この短時間で閉心術をマスターしたのか? 素晴らしいぞオスカー」

 

 ヴォルデモートはオスカーを舐め回すような視線で見つめたが、何も読めない様だった。ヴォルデモートはさらに笑顔になった。

 

「本当に特別だ…… 魔法と強い意志が運命を結び付けている…… 魔法族の全てがお前たちの様な者たちならばどれだけ素晴らしいのか……」

 

 そう言うとヴォルデモートは突然杖を振った。オスカーはとっさに盾の呪文を唱えたが、紅い光線はオスカーとクラーナではなく、後方のレアに命中した。

 ヴォルデモートの手にレアの杖が収まった。武装解除呪文だ。

 

「それがどうだ? 魔法族には純血だと言うのに自分の力すら操れない愚か者がいるのだ…… あのようなものに杖は必要なかろう?」

 

 ヴォルデモートは高笑いをあげながらレアの杖を弄ぶと、ローブのポケットにしまった。レアは呪文で吹き飛ばされたのか床に跪いている。

 

「どうだ? 若く賢い二人よ…… 私についてはこないか? 私はこの学校にいるおいぼれとは違う…… お前たちにより深い魔法の知識を与えることができる……」

 

 オスカーは心を閉じているはずなのにヴォルデモートの声が自分を甘く誘惑しているのが分かった。エストの口から紡がれる言葉は酷く魅力的でいて、身の毛のよだつ邪悪さを併せ持っていた。

 

「お前たちにとっては学校の教えなど酷く遅れているだろう? なぜ遅れたものに合わせる必要があるのだ? すでに六年生よりも進んだ魔法を使えるお前たちが? おかしいと思わないのか?」

 

 ヴォルデモートはエストの記憶に沿って、エストの声でオスカーを誘惑した。オスカーはそれがたまらなく腹立たしく、穢わらしいと感じた。

 

「さあ最後の勧誘だ…… 私は優秀なものには寛容なのだ…… 私と一緒に魔法の裾野を広げ、より深い魔法の真髄を見に行こうではないか……」

 

 オスカーはこれまでにないくらいはっきりとした声で言った。

 

「地獄の釜の火が凍ったらまた誘ってくれ」

 

 オスカーはヴォルデモートに向けて杖を向けた。隣のクラーナも同様に杖を向けるのが見えた。

 ヴォルデモートはまた邪悪に満ちた笑い声をあげた。

 

「この闇の帝王に勝負を挑むか? 絶対的な死ですらとらえることができない存在に……」

 

 オスカーとクラーナは問答無用で呪文を撃ちこんだ。失神光線を雨あられと打ち込むが、ヴォルデモートは杖を一振りするだけでそれらを防いだ。だが、杖を振らねば避けられないということはヴォルデモートが二人の心を読めないことを意味していた。

 

「さあ死そのものと踊って見せろ‼」

 

 ヴォルデモートは緑色の光線を打ち始めた。間違いなく死の呪文だ。通常の魔法では防ぐことのできない絶対的な呪文…… しかし、オスカーは盾の呪文でそれを弾いてみせた。

 ヴォルデモートの顔に困惑が浮かんだ。クラーナが爆破呪文と失神光線を撃ちこんだがヴォルデモートは柱を蛇に変えてそれを受け止めた。ヴォルデモートはオスカーを見つめている。

 

「トム・リドル、お前の呪文は俺に通用しない」

 

 オスカーがそうヴォルデモートを呼んで、髪飾りのある頭を狙って、粉々呪文や粉砕呪文といった吹き飛ばす効能のある光線を浴びせるがヴォルデモートは銀色の光線でそれらを弾いた。ヴォルデモートの顔は困惑から驚愕に変わった。

 クラーナとオスカーがヴォルデモートの髪飾りを狙って猛攻を仕掛けるがヴォルデモートはその度に変身術や盾の呪文でそれらを防いだ。オスカーは魔法使いとしての差が二人がかりでも存在することを感じた。

 

「俺がお前の名前を知っていることがそんなに意外なのか? トム?」

 

 オスカーはできるだけヴォルデモートの興味をオスカーに集中させる必要があった。ヴォルデモートを正面から打倒することは不可能だ…… 出し抜かねばならない。オスカーはそれを明確に理解していた。

 

「貴様…… その名前をいったいどこで……」

 

 ヴォルデモートはオスカーの顔を一心に見つめ、名前を知った記憶を探ろうとしていたがそれを読むことはできない様だった。

 ヴォルデモートがオスカーに集中している間に髪飾りを狙って、ひたすらに攻撃をしかけるが、攻撃が頭に集中しているということは相手にとっても守る場所が決まっているということだった。ヴォルデモートは銀色の盾のようなものを頭の近くに展開して、呪文を防ぎ始めた。

 

「ヴォルデモートとか闇の帝王とか、トムって名前がそんなに嫌だったのか? なあトム?」

 

 ヴォルデモートが激高した。緑色の光線がクラーナを狙ったがオスカーはまたそれを弾き飛ばした。しかしその直後に銀色の閃光がクラーナを弾き飛ばし、ヴォルデモートは飛ばされたクラーナの顔をまじまじと見つめた。そして、疑問が解けたという顔で舌なめずりした。

 

「分かった。分かったぞ、灰色のレディだろう? お前たちはあの死に敗北した残りカスに教えを請うたのだろう? 確かに、あの愚かな女なら私の名前を知っている……」

「オスカー、ごめんなさい、少し読まれたみたいです……」

「大丈夫だ」

 

 少し、足を引きずってクラーナが立ち上がった。ヴォルデモートは不安要素が無くなったとばかりに笑ったが、まだオスカーは諦めてはいなかった。ヴォルデモートに隙ができるその一瞬を狙い定め、心を集中していた。

 

「いいぞ、オスカー、確かに私は何人にも言ってはならないとは言ったが、あのような残りカスどもなど人の範疇には入らないわけだ。本当に賢いぞオスカー」

 

 ヴォルデモートは明らかにこの決闘を楽しんでいた。オスカー達が抵抗するのが本当に楽しいのだろう。アリの巣に水を入れて楽しんでいる子供のような、無邪気な邪悪さがエストの顔で見事に表現されていた。

 

「髪飾りを持った私に、髪飾りを失った愚か者の知恵を借りて戦う…… 素晴らしい、千年にも及ぶ因縁が巡り廻っているわけだ……」

 

 二人はその間も呪文を撃ちこみ続けるが、銀色の盾はオスカー達の呪文全てを封殺していた。オスカーはヴォルデモートの注意を惹き、銀色の盾を打ち破り、髪飾りをヴォルデモートの頭から奪わねばならなかった。

 

「俺にトムの呪文が効かない理由を教えてほしいか? なあトム?」

 

 オスカーはできるだけ侮蔑の感情を込めてトムと呼んだ。

 

「オスカー、私をあまり怒らせない方がいいぞ? ホグワーツの格言をしらないのか? 眠れるドラゴンをくすぐるべからずだ……」

 

 そうヴォルデモートが言って杖を振ると足元の地面そのものが変化しだした。オスカーはとっさに爆破呪文で床を吹き飛ばした。

 

「そうか? たかが二年生風情にご自慢の魔法が通用してないぞ? スリザリンの後継者とか言ってたが、本当のところはどうなんだトム? ほんとは純血ですらないんじゃないのか? リドルなんて苗字は聞いたこともないぞ」

 

 オスカーがヴォルデモートに真正面からそう言った。

 ヴォルデモートの怒りが爆発した。ヴォルデモートはめちゃめちゃに死の呪文を乱射したが、オスカーはそれら全てを弾き飛ばした。死の呪文が部屋のあちこちに当たって彫像や壁が破壊された。

 しかし、オスカーとクラーナは生きていた。ヴォルデモートは怒りで上気した顔で二人を見つめていた。オスカーはここにきて初めてヴォルデモートの余裕を取り払うことができたと思った。

 

「オスカー、私は寛大だが、私に血を語るとは…… このサラザール・スリザリン最後の後継者に……」

 

 ヴォルデモートはそう言って銀色の閃光でオスカー達を攻撃した。銀色の閃光をオスカーは防ぐことができたがクラーナは完全に防ぐことができず、吹き飛ばされた。ヴォルデモートは連続で銀色の閃光を放ちながら、うねるように杖を振った。

 クラーナの足元が変化して、まる蛇のような植物のつるになりクラーナを吊り上げた。ヴォルデモートはオスカーに呪文を浴びせながら、クラーナに向かって呪文を叫んだ。

 

「クルーシオ!! 苦しめ!!」

 

 クラーナの顔が苦悶に歪んだ。クラーナは必死に耐え、ヴォルデモートと目を合わせないようにしようとしたが、つるがそれを許さなかった。

 ヴォルデモートは今度こそ勝ったとばかりに高笑いをあげた。ヴォルデモートが余裕の表情でオスカーを見た。

 

「なるほど、杖の所有権とは…… オスカー、本当に賢いな…… 私ですら知らない魔法の知識を使って私に対抗したわけだ。素晴らしい」

 

 ヴォルデモートはクラーナに興味を失ったのか、磔の呪文を解き、オスカーだけを見つめた。本当に愉快だとその顔が言っていた。

 

「だが杖を変えればどうなるかな? 魔法力も制御できない愚か者を連れてきたのは失敗だったなオスカー、もしかしたら私相手に勝機があったかもしれぬと言うのに……」

 

 そう言って、ヴォルデモートはレアの杖を取り出そうとした。オスカーはヴォルデモートに向けて爆破呪文を唱えながら後ろに向けて叫んだ。

 

「レア‼‼ やれ‼‼」

 

 何か黒いもやをまとった不可視の力がオスカーの隣を通ってヴォルデモートに向かって行った。爆破呪文を防ごうとしていたヴォルデモートにそれは命中した。

 オスカー達が何をしても効果が無かった銀色の盾がゴングのような低い音を、不思議に背筋が寒くなる音を立てて吹き飛ばされ、盾の中にいたヴォルデモートがエストの体から大きく吹き飛ばされた。

 銀色の髪飾りがエストの頭から離れて吹き飛ばされ、オスカーとヴォルデモートのちょうど中間に落ちた。

 オスカーは走り出した。ヴォルデモートも髪飾りに向かって来ようとしている。ヴォルデモートは杖を取り出そうとローブを触りながら叫んだ。

 

「出来損ないがよくも…… よくも……‼‼ だがお前たちの魔法程度でそれが壊せるものか‼‼」

 

 しかし、オスカーは間違いなくそれを壊せると確信していた。闇の魔術に対する防衛術でトンクス先生が言っていたことがオスカーの脳裏に浮かんだ。

 

『あの炎は基本的にあらゆる魔法的な法則を破壊して、魔法使いやその他の生き物、闇の生き物、魔法具等を破壊するのよ、多くの魔法使いはあの炎を操ることができずにその代償を自らの体で支払ったわ』

 

 オスカーはその炎を知っていた。他ならないヴォルデモート自身に教えて貰ったのだから。オスカーはその炎を出す魔法を覚えていた。忘れるはずがない、この先何十年生きてもその感触をその炎を忘れるはずがなかった。

 オスカーの杖から赤とも紫ともつかない炎が鞭のように噴き出た。炎は髪飾りの中心部分を明確に打ち抜いた。レイブンクローの象徴である青い宝石が炎に溶けていく、銀色が黒くくすんでいく。何か邪悪なものが泣き叫んでいるのが聞こえる。何か救えないものが離れたくないと泣き叫んでいる。髪飾りが真っ二つに割れて、何かが天へと消えていった。

 

 

 

 




ちょっと炎の鞭=悪霊の火は独自設定


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われらが最大の宝なり!

 髪飾りを破壊した瞬間、ヴォルデモートはエストの体はその場に倒れ伏した。つるに捕まっていたクラーナも魔法が解け、床へ叩きつけられた。

 オスカーはクラーナを助け起こし、ピクリとも動かないエストへと近づいた。エストの体には傷一つなかったが、意識を取り戻す気配がなかった。

 オスカーは最悪の想像に駆られて近寄った。しかし、近寄れば確かにエストの鼓動を聞き取ることができたし、エストの体に少しづつ温かさが戻ってきていることが分かった。

 後ろで扉が開く音をオスカーは聞きとった。クラーナが何か言っていたがオスカーにはあまり聞き取ることができなかった。オスカーはエストが無事に目の前にいることで頭と心が一杯だった。

 しかし、オスカーは何か先ほどの戦いでヴォルデモートから漂ってきたような、強烈なエネルギーが発せられているのを感じた。ヴォルデモートから感じたエネルギーは何か邪悪なものを感じ取ったが、そのエネルギーは純粋な怒りのように感じ取れた。

 オスカーがやっと背後を見ると、アルバス・ダンブルドアがこちらに走ってくるのが見えた。オスカーは何故、クラーナや他の大人たちが口々にダンブルドアならばヴォルデモートに対抗できると言っていたのか理解した。

 オスカーの見たことのあるアルバス・ダンブルドアの慈悲深く、全てを見通すような表情と視線はどこにもなく、その青い目からは冷たい怒りがエネルギーとなって発せられているように感じられた。

 ダンブルドアの後ろにはマクゴナガル先生とスネイプ先生がそれぞれ信じられないという表情で付いてきていた。スネイプ先生が倒れているレアを介抱している…… 灰色のレディはオスカー達が最期に頼んだ要件、しばらくたったら先生方に伝えるという頼みを聞き入れてくれたようだった。

 

「これは…… なんと…… 信じられん……」

 

 オスカーもクラーナも、すでに閉心術を続けるような体力は残されていなかったので、ダンブルドアは二人の眼を見ただけで何かを理解した様だった。

 ダンブルドアの表情がいつもの柔和なものに戻った。だがその表情は何か本当に信じられないものを見ているようでもあった。

 

「セブルス、ミス・プルウェットを医務室へ連れて行ってくれるかの? わしの考えじゃと体力を少し消耗しているだけじゃが、君の眼やポピーからも診断をして欲しい」

 

 ダンブルドアがそう言うと、レアの傍からスネイプ先生がこちらに走ってきて、エストを抱き上げた。

 

「先生…… エストは大丈夫なんでしょうか?」

 

 オスカーはさきほどエストが確かに生きていることを確認したが、このまま永遠に起きないのではないかという不安を消すことができずにいた。

 

「オスカー、大丈夫じゃ、セブルスは闇の魔法に魔法界でも最も詳しい男じゃ、ポピーも聖マンゴの最高峰の癒者と同じ腕を持っておる。二人に任せておけば大丈夫じゃ」

 

 ダンブルドアから言葉を貰ってやっと、オスカーは体の力が抜けた気がした。エストは戻ってくる…… 喋って、笑って、一緒にいることができる…… 叫びの屋敷で髪飾りをエストが触れた時から止まらなかった恐怖がさざなみのように遠くへと消えていく気がした。

 隣でクラーナの表情が同じ様に柔らかくなるのが見えた。

 

「しかし、三人には申し訳ないが今晩ここでなにがあったのか教えてもらわねばならぬ、事態そのものが終わったのは分かっておるが、まだ何かあるのか分からぬのじゃ」

「アルバス、この子たちにはどう見ても休息が必要です。それも、魔法睡眠薬による本物の休息が……」

「ミネルバ、もっともな意見じゃが、彼らは何がどうなったのか理解せずに休むことはできないじゃろう」

 

 オスカーの体は休息を求めていたが、心はダンブルドアに同意していた。オスカーはこの出来事にけりをつけ、そのついたという保証をダンブルドアという強大な存在にしてもらいたかった。

 

「申し訳ないが、ここでは安心して話すことはできないじゃろう。わしの部屋へ来てもらおう」

 

 ダンブルドアがそう言って杖を振ると、三人の体と壊れた髪飾りが浮き上がった。オスカー達はそのまま、優しい力で浮かんだままダンブルドアの校長室へと運ばれた。

 三人とマクゴナガル先生を連れてダンブルドアは進み、ガーゴイル像にスイートポテトと言って道を開けさせ、螺旋階段を上った。

 オスカーはダンブルドアの部屋に初めて入ったが、何やら沢山飾ってある肖像画達が興味深そうにオスカー達を眺めていた。オスカー達は優しくソファーの上に下ろされた。

 ダンブルドアは注意深く慎重に壊れた髪飾りを銀の道具が沢山置いてあるテーブルの上に乗せた。マクゴナガル先生は心配そうにオスカー達三人の方を見ていた。

 

「三人とも心体ともに疲れ切っておるのは分かっておる。じゃが、今回の出来事について、できるだけ丁寧に喋ってはくれぬか?」

 

 ダンブルドアはキラキラした瞳でオスカー達の方を向いてそう言った。

 オスカーが口火を切った。

 

「僕たち…… 俺たちはその髪飾りを探していました」

 

 オスカーが壊れた髪飾りを示した。レアがウッと息を呑んだのが分かった。

 

「そうじゃの、この髪飾りがすべての原因なのじゃろう。だがどのようにそれを見つけ、どのようなことがあったのかゆっくりと教えて欲しい」

 

 それから、オスカーはゆっくりと髪飾りをどのように探したのかをダンブルドアに喋った。

 エストが首なしニックから髪飾りと剣の話を聞いたこと…… 五人で探そうと決めたこと…… トンクス先生からゴーストに聞けばいいのではないかとヒントを貰ったこと……

 絶命日パーティでピーブズから灰色のレディがヘレナ・レイブンクローその人であると聞いたこと…… レアと一緒に髪飾りはアルバニアにあると聞いたこと…… そしてオスカー達以外の誰かにそれを言ったことがあると聞いたこと……

 そこまで聞くとダンブルドアは感心したという顔でオスカー達にこう言った。

 

「君たちは千年間にも及ぶ歴史の中で、たった二組しかしることのできなかった秘宝のありかを知ったわけじゃな」

 

 またレアがヒッっと声を震わしたのが聞こえた。オスカーはまた話をつづけた。

 エストがクリスマスにレディが教えた誰かならば必要の部屋にそれを置くのではないかと考えたこと…… 必要の部屋を探しても見つからなかったこと…… 暴れ柳の特性に気付いて叫びの屋敷に行ったこと…… そして叫びの屋敷にくるように手紙が届いたこと……

 そこまで話してオスカーはレアの方を見た、レアは恐らく自分の責任に怯えていた。しかし、髪飾りを最初に見つけたのはレアだったから、オスカーはそのことを話さなければならなかった。

 

 レアが叫びの屋敷にいたこと…… 髪飾りを触ったエストがヴォルデモートだと名乗ったこと…… 死の呪文とオスカーの武装解除呪文が対抗したこと…… ヴォルデモートが兄弟杖だと言って、必要の部屋で待つと言ったこと…… レアが必要の部屋で髪飾りを見つけたと喋ったこと…… レアが操られていたこと…… またダンブルドアは優しい顔でこう言った。

 

「ミス・プルウェットは確かに、トム・リドル以来の秀才と言っていいじゃろう。恐らくあやつとは違う考えとは言え、同じ結論に至り、それは真実だったのじゃから、それに兄弟杖とは、オスカーはミス・プルウェットと並々ならぬ絆で結ばれているようじゃ」

 

 オスカーは話し続けた。ヴォルデモートがオスカーの心を読んだこと…… ヴォルデモートに対抗するために閉心術が必要だと考えたこと…… クラーナと閉心術の練習をしたこと…… なんとか心を閉じる術を見つけたこと…… そこまで話してオスカーはここからは自分の考えが主になり始めると思った。

 

「去年のクリスマスにみぞの鏡の前で見た二人が互いに想う心は本物だったわけじゃ、お互いに真の信頼を示したことでオスカーは心を操る術を身につけた。なんと素晴らしいことか……」

 

 ダンブルドアは感慨にふけるように目を閉じた。

 

「俺は…… やつに…… ヴォルデモートに対抗するためにはあいつを出し抜かないといけないと思いました。正面から勝てるはずがないと思ったので、あいつが気にも留めないことを考えないといけないと思いました」

 

 オスカーがヴォルデモートと言い放ったことで、マクゴナガル先生とレアがビクッと震えた。

 

「ドロホフ、貴方は先生方に言おうとは思わなかったのですか?」

 

 ここにきてマクゴナガル先生が初めて発言した。マクゴナガル先生の声はどこか震えているようだった。

 

「あいつは誰かに言えばエストは戻らないと言いました。俺にはそれが怖かった…… それにあいつは必要の部屋で待つと言いました…… エストは必要の部屋のことを理解していました…… あいつもエストと同じくらい理解していたはずです…… エストは必要の部屋は必要なモノが分かっていないと入れないと言っていました。だから、恐らくあいつが部屋の中にいる間は俺たちが入らないと他の人には入れないと思ったんです。だからレディに俺たちが入ってから先生を呼ぶように言いました」

 

 マクゴナガル先生はオスカーの言葉の意味をなんとかかみ砕いて理解しようとしているようだった。

 

「ですが、灰色のレディには相談をしたのでしょう?」

「はい、俺はあいつのヴォルデモートを理解しないといけないと思いました。あいつはエストのことや俺の杖のことを特別だと言っていました。自分はスリザリンの後継者だとも…… だけどあいつはそれ以外のことには興味を持たないと思ったんです。それは多分、ここにいるレアのことや、あいつが囚われないといった死に敗れたゴーストであると思いました。つまり、あいつにとって特別じゃないものを使わないとあいつを出し抜けないと思ったんです。だからゴーストはあいつの人の範疇には入らないし、利用するべきだと思いました」

 

 マクゴナガル先生はオスカーのその言葉を聞いて衝撃を受けたような顔になったが、ダンブルドア先生は微笑みながらオスカーを見ていた。

 

「それは正しくトム・リドルを理解できておるじゃろう。トムは自分と同じ様に髪飾りのありかを知った君たちを特別じゃと思った上、その中でもレイブンクローの血脈を強く感じさせるミス・プルウェットに強く惹かれたのじゃろう。自分と同じ様な創設者の血脈となればあやつが惹かれぬわけもない…… そしてあやつの死に対する恐怖をオスカーは正しく理解できたわけじゃ」

 

 オスカーはダンブルドアが同意を示してくれているのでなんとか喋ることができていた。今考えると一体どれだけ危険と恐怖に溢れた行動をしていたのか、今になってその考え方の無謀さが理解でき始めていた。

 

「レディはあいつがヴォルデモート本人、トム・リドルであろうこと、兄弟杖で何が起こるのかということ、エストの杖の所有権が俺に移っているのではないかということ、そのためにあいつの呪文が俺に対しては有効でない可能性があること、そしてあの髪飾りを破壊しなければならず、髪飾りは尋常な手段では壊すことができないことを教えてくれました」

「君はまさに正しい人間を頼ったわけじゃ、計り知れぬ英知そのものを持つ人間を頼り、ヴォルデモートを打ち破るための知識を手に入れたわけじゃ」

 

 ダンブルドアは真っ二つに破壊された髪飾りの半分、『計り知れぬ英知こそ』と刻まれた部分を指でなぞった。

 オスカーは少しだけクラーナとレアに視線を送ってから、喋り始めた。

 

「俺はその尋常でない手段を自分が持っていることに気付いていました。クラーナの開心術が、かつてヴォルデモート自身が俺に使わせた術なら、髪飾りを壊せるであろうことを思い出させていました…… そして、レアの…… コントロール不能の力なら、あいつが気にも留めない力なら、ヴォルデモートを出し抜けるであろうと考えたんです」

 

 ダンブルドアはオスカーのそこまでの話を聞いて、今度は感激した表情をしていた。オスカーはこれほどの人でもこのような表情をするのかと思った。

 

「君は、まさにスリザリンが誇りに思った特性を持つ生徒と言えるじゃろう。機知に富む才智…… 断固たる決意…… やや規則を無視する傾向…… そして周りを守る心を…… さらにそれらに加えて、素晴らしい勇気を持っておる。わしがグリフィンドールの出身だからかもしれんが、わしには君のその部分が眩しく見えてしまう」

「ダンブルドア、私の寮の学生に他の寮の方がふさわしいというのはやめて貰おう」

 

 後ろの肖像画の一人がダンブルドアとオスカーの方を見て言った。肖像画はオスカーの方を誇らしげに見ていた。

 

「おお、フェニアス申し訳ない、思わず羨ましくなってしまったのじゃ」

 

 オスカーはその肖像画の下にある組み分け帽子に目がいった。オスカーは去年組み分け帽子に言われたことを覚えていた。

 

「組み分け帽子はスリザリンとグリフィンドールで俺をどちらに入れるか悩んでいました…… 組み分け帽子は俺が真に守るべきものを見つけられるならグリフィンドールよりもスリザリンの方が偉大になれると、そう言いました」

 

 オスカーがそう言うと、今度はマクゴナガル先生とクラーナがショックを受けた顔をしていた。クラーナの方は特にそれが分かりやすかった。なにせ口を開けてオスカーの方を茫然とみているのだから。確かにオスカーはこの話を誰にも話したことはなかった。

 

「なるほど、君は間違いなくそれを見つけたわけじゃ、そして君は類まれなる勇気と信頼をも手に入れた。かつてスリザリンとグリフィンドールが断琴の交わりを結んだ様に」

 

 ダンブルドアはそう言って、オスカーとクラーナを交互に見た。オスカーとクラーナの顔は少しだけ赤くなった。

 

「三人とも『ホグワーツ特別功労賞』が授与される。それに、一人づつ各寮に二百点づつ与えよう」

 

 ダンブルドアがそう言ったのを聞いて、オスカーはトンクスが悔しがるだろうなと思った。これではハッフルパフが一人負けになってしまうからだ。

 

「ダメです! ボクは何もしていないです。ボクが髪飾りを見つけたせいでこんなことになってしまったのに…… ボクが髪飾りなんかに頼ったせいで……」

 

 レアは泣きながらダンブルドアに訴えていた。彼女はこの部屋に入って、髪飾りという言葉が出るたびに、机の上に置かれた髪飾りを見るたびに罪悪感を感じていたのだろう。

 

「レア、君よりも遥かに優秀で精神的にも肉体的にも大人な魔法使いたちがヴォルデモート卿にたぶらかされてきたのじゃ、それに二人は君のことを何もしなかったとは考えてはおらぬじゃろう?」

 

 ダンブルドアが悪戯っぽいキラキラした目でオスカーとクラーナを見た。

 

「ええ、レアがいなければ俺たちの誰も生きて帰れなかったと思います」

「私もそう思います」

 

 二人がそう言うと、レアはまた泣き出した。

 

「レア、ホグワーツを創り出し、その当時最も賢いと言われた魔法使いでさえ、最後にはその英知よりも必要なものがあると思っておったことを君は知っているじゃろう?」

 

 ダンブルドアは二つに破壊された髪飾りの残り半分、今度は、『我らが最大の宝なり!』 と刻まれた部分を指でなぞった。

 

「まさに君はこの最大の宝が何かわかったのではないかね? 必要の部屋は君にまさしく必要なモノを渡したわけじゃ、ホグワーツでは助けを求める者には、必ずそれが与えられる。そしてそれは正しく、皆を救い、史上最も邪悪な魔法使いを打ち倒したのじゃ」

 

 ダンブルドアが誇らしげな目で三人を見て言った。

 

「わしは君たちのような生徒を持てたことを心から誇りに思う。こんなにもホグワーツの校長であって良かったと思ったことはない。さあ、三人とも今日は休むのじゃ、これからもホグワーツでの日々は続くのじゃから」

 

 

 

 



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姉弟杖

 オスカーは医務室で目を覚ました。魔法睡眠薬で一日眠ることになるとマダム・ポンフリーからオスカーは聞いていた。まだ早朝のようで、医務室には薄い朝の陽ざしが差し込んでいて、まだ誰も起きていないのか、物音は聞こえなかった。

 オスカーは医務室から出て、顔を洗いに行くことにした。確か今日はハッフルパフがあの日に圧勝していなければ、グリフィンドールとスリザリンがクィディッチの優勝杯を賭けて戦う日のはずだと思った。

 オスカーはそういう日常のことを考えることができるのがことさらに嬉しかった。

 マダム・ポンフリーに言わずに抜け出していたのがばれると厄介なことになるとオスカーは思い、医務室へと戻ろうとした、その道中でこの前日に良く見るようになった金髪が空き教室の方へと歩いていくのが見えた、彼女も起きたところなのだろうか? オスカーはなんとなく彼女の後についていった。

 

 彼女は空き教室で魔法を試しているようだった。妖精の呪文で一番最初に習う呪文、浮遊呪文を何度も唱えて、自分の羽ペンを浮かせようとしているようだが、あの決闘クラブで無言呪文を使用した彼女と同じとは思えないほど、羽ペンは動かなかった。

 時折、杖からは火花が噴き出たり、なにか不可視の魔法の力が机や椅子を揺すっていた。

 

「発音は間違ってないのにな」

 

 オスカーがそう言うと、レアはやっと気付いたのかオスカーの方を振り向いた。レアは練習をしているところを見られたのが恥ずかしいのか頬を赤く染めた。

 

「ドロホフ先輩…… ボク、髪飾りが無くなったら魔法が使えなくなると思って…… それで……」

 

 オスカーはレアの杖をヒョイと取り上げ呪文を唱えた。

 

「ウィンガーディアム・レヴィオーサ 浮遊せよ」

 

 羽ペンは高く上がってそこで止まった。オスカーが杖を下ろすと羽ペンはゆっくりと机の上に降りてきた。

 

「杖の問題じゃないみたいだな」

「やっぱり、髪飾りがないと…… オブスキュリアルのボクじゃ……」

 

レアは下を向いてぶつぶつ言っていたが、オスカーは構わず、レアの手に杖を戻し、その状態で呪文を唱えた。

 

「ウィンガーディアム・レヴィオーサ 浮遊せよ」

「え? ちょっと先輩?」

 

 もう一度、羽ペンは高く上がった。そしてオスカーがレアの杖から手を離しても羽ペンは落ちては来なかった。

 

「え? え? なんで? 浮いてる……」

 

 そして杖を下ろすと、それに従って羽ペンは戻ってきた。

 

「もう一回唱えてくれ、さっき浮いてたのと同じ杖への感覚で」

「はい…… ウィンガーディアム・レヴィオーサ 浮遊せよ」

 

 今度は高く飛びこそしなかったが少しだけ浮き、ユラユラと空気の抵抗を受けながら羽ペンは落ちていった。

 

「浮いた? どうして……」

 

 オスカーはまたレアの杖を上から握った。

 

「今度は一緒に唱えてくれ」

「ええっ!? はい…… 「「ウィンガーディアム・レヴィオーサ 浮遊せよ」」

 

 また羽ペンは高く上がって、オスカーが手を離してもコントロールできていた。

 

「浮いてる……」

 

 レアは浮いている羽ペンを信じられないという顔で見ている。

 

「マッキノンは自分の杖と力が怖いのか?」

 

 オスカーはそうレアに聞いた。オスカーにも自分の魔法の力が恐ろしく、その力を使いたくないと思った時、全く力をコントロールできなかった記憶があった。

 

「あの日言いましたけど…… ボクはオブスキュリアルだから…… 魔力をコントロールできないんです…… だから時々力が暴れて…… みんなや家を壊してしまう……」

「杖と魔法力は信じないと使えないんだ。灰色のレディが言ってただろ?」

 

 そう、灰色のレディに杖について聞いた際にそのようなことを言っていた。杖は魔法使いに信じられないと力を発揮しないのだ。そして杖自身が魔法使いを信じないとやはり力を発揮しない。オスカーは無言呪文を覚えた際に無言で呪文を発動できると信じることが必要だった為、それが真実だと思っていた。

 

「聞きましたけど…… 自分の力なんて……」

「少なくとも、あの部屋で俺とクラーナはレアの力を信じてたけどな、それで助かったわけだし」

 

 レアはオスカーのその言葉を聞いて、ショックを受けたような、すぐにでも泣きそうな顔をした。

 

「あの時は必死だったんです‼ 髪飾りを見つけたのは私だし、二人とエスト先輩を助けないとって、そればっかりで頭が一杯になって……」

「じゃあその時のレアを信じたらいいんじゃないか? 俺たちはあの時レアを信じてたし、レアも自分を信じてたんだろ? だからあいつをぶっ飛ばすことができたわけだ」

「あのときの自分を信じる……?」

 

 オスカーは閉心術を覚えた際に、いつかどこかの自分を信じること、誰かが信じる自分を信じることが大事だと経験していた。そしてそれは初めて魔法を使った後に誰かがそれを見て笑顔になったのを見た後、さらに上手く使えるようになったのと同じことだと思っていた。

 

「じゃあもっかい唱えてくれるか? レアがすぐ使えるのを信じないと、俺はマダム・ポンフリーに黙って出てきたからそろそろ不味いんだ」

「ええっ!? わ、分かりました。 ウィンガーディアム・レヴィオーサ 浮遊せよ」

 

 今度は羽ペンはオスカーが唱えた時と同じくらい高く上がった。すぐに落ちてくることもなく、羽ペンは上がったままだ。

 

「できました‼‼ オスカー先輩見ましたか!? できました‼‼ あっ、ボク、その……」

「まあなんでもいいけど、俺は医務室に戻る」

「あの…… ありがとうございました」

 

 オスカーはそれを聞いた後、空き教室を後にして、医務室へと向かった。

 医務室に帰る途中で誰かに背中を叩かれた。

 

「ちょっとオスカー、貴方が医務室から消えるから、マダム・ポンフリーとクラーナ、エストが怒ってたわよ」

「マダム・ポンフリーはまだしも、なんで二人が怒るんだ? どうせ嘘だろ?」

「そりゃあれよ、恐ろしい目に会って怖かった二人を、起きた真っ先に慰めにいかなかったからよ」

 

 オスカーはあの二人が恐怖で震えるような相手なら、オスカーもそもそも五体満足では帰ってこれないだろうと思った。

 

「マダム・ポンフリーが怒ってたのはほんとだけどね」

 

 トンクスとチャーリーは早朝だというのに三人を見舞いに来てくれたらしい、チャーリーに至っては今日も試合のはずなのに。

 

「試合なのにこんなとこにきていいのか?」

「大丈夫だよ、スリザリンにはエストがいないからね、エストがクィディッチに出たら、マダム・ポンフリーがスリザリンのチームを殺しちゃうよ」

「校医が殺してどうするんだ」

 

 オスカーにはその様子が容易に想像できた。マダム・ポンフリーに逆らってはいけないのだ。

 

「まあ、あれよ、私たちの見舞いに感謝して、二人の顔を早急に見に行くべきね」

「早朝からうるさいと思ったら、トンクスですか? クィディッチでも負け、特別功労賞を取り逃したので、騒いでるんですか?」

 

 オスカー達の後ろからクラーナの声が聞えた。彼女も起きたのだろう。

 

「ちょっと余計なお世話よ、せっかくオスカーとの感動的な目覚めを提供してあげようと思ってたのに」

「それこそ要らぬお世話でしょう、あほが来る前に起きて正解でした」

 

 二人の言い合いやときどき茶々を入れるチャーリーの姿を見て、オスカーは本当に日常が戻ってきたことを実感した。

 オスカーにはそれがたまらなく嬉しかった。

 

「あれ? なにオスカーはニヤニヤしてるのよ、アレね、多大なる試練を乗り越え、クラーナと特別な絆ができて、私たちが知らないからニヤニヤしてるわけね」

「なにあほなこと言ってるんですか、こいつはほんとに必要の部屋に捨てとくべきでしたね」

 

 そう言えば、クラーナは閉心術を修めているはずなのに、みんなの中でも一番表情が分かりやすいなとオスカーは思った。そして、閉心術の練習に付き合ってくれた礼を言うのを忘れていたことを思い出した。

 オスカーはみぞの鏡のクリスマスの一件から、クラーナに助けて貰ってばかりだと思ったし、クラーナとはできるだけ対等で正直にいたいと思っていた。

 

「クラーナ」

「なんですかオスカー? 忘れない間に例のあの人の戦い方でも研究しますか?」

 

 オスカーはいつもと同じ挑戦的な口調と表情でそう言ったクラーナを見て、自分をかばって立ってくれたこと、閉心術の練習で泣いていたことを思い出した。オスカーの心の中にたまらない感謝の感情が湧き出てきた。

 そして、閉心術を習得しているクラーナの表情をちょっとだけ崩してやりたいと思った。

 

「クラーナ、ありがとう」

「えっ? ちょっとオスカー……?」

 

 オスカーはトンクスとチャーリーの目の前でクラーナに抱き着いて感謝を述べた。

 

「えええ!! オスカー、ちょっとほんとにどうしたの!!」

「ほんとに仲良くなったんだね」

「あいつからかばって立ってくれてありがとう。クラーナがいなかったらあそこで終わってたと思う」

「お、オスカー? どうしちゃったんですか……」

 

 クラーナはしばらく体をばたばたさせていたが、しばらくすると静かになった。少しだけペパーミントの様な香りがクラーナの髪の毛からした。オスカーはウィーズリーおばさんのセーターを着たのと同じくらい、あの記憶から帰ってきた時と同じくらい、体が暖かくなっていくのを感じた。

 

「閉心術の練習の時、相手がクラーナで良かった。記憶から帰ってきた時にクラーナが居てくれてなかったら、あそこで終わってた…… ありがとう」

「そ…… それは…… 闇の魔法使いの心を理解するのは…… 闇祓いの基本ですから……」

「あいつと戦ってる間も、クラーナがいたからなんとか心がもったと思う。ありがとう」

「え…… それは私も……」

 

 オスカーがクラーナを離すと、クラーナはオスカーが見たことが無いくらい真っ赤になっていた。いつもはすぐにからかってくるトンクスも何故か赤くなっていた。

 

「オスカーは結構積極的なんだね、ビルより凄いかもしれない」

「これは…… 私が茶々いれなくても全然よさそうじゃない……」

 

 オスカーは三人が静まり返っている間に医務室へと向かうことにした。この静けさが嵐の前の静けさのように感じていたからだ。事実、医務室に入った後で何か大声で喋っているクラーナとトンクスの声が聞こえてきた。

 

「ちょっと二人の仲がそんなに進んでたら言ってくれてもいいじゃないの」

「な…… なんですか!? 進んでいるって」

「だって二人でなんか二人にしかわからないこと言って抱き合ってたじゃないの、一体何の話してたのよ」

「そ…… それは開心術の内容だから言うわけには……」

「あら、やっぱり言えないような内容なのね」

「なんですかそれ!! く、口が裂けても言いませんよ!!」

「へ~、そんなに大事な二人の秘密なんだ、ますます気になるわ」

「もう~!! なんなんですか二人の秘密って!! オスカーもおかしいし、トンクスはいつもより数倍うざったいし……」

 

 マダム・ポンフリーは二人の大声を聞いて注意しようと向かって行ったので、オスカーはその間に医務室の中を歩き、エストのベッドへと向かった。

 エストはいつも通りの表情でオスカーに挨拶した。

 

「オスカー、おはようなの」

「ああおはよう」

 

 二人はしばらく無言だった。オスカーはエストが目の前で普通に喋って、座っているという事実を嚙みしめていた。オスカーは日常というものがどれだけ大事で失い難いものなのか理解し始めていた。

 ホグワーツでみんなと会って、食事して、授業を受けて、クィディッチを見て、テストを受けて、遊んで…… またそれが帰ってくるのを感じた。

 

「何も覚えてないのか?」

「そうだよ、叫びの屋敷でレアに髪飾りを渡して貰ってからは覚えてないの」

「髪飾りはエストが考えたところにあった」

「そうなの? じゃあレアは必要の部屋で見つけたんだね? じゃあやっぱり、髪飾りを見つけた人はホグワーツのことが大好きだったんだね」

 

 オスカーはそうやって笑うエストを見て、嫌でもヴォルデモートを思い出さずにはいられなかった。事実、オスカーはヴォルデモートがどう行動して、どう考えるのかを考えた時に、できるだけエストならどう考えるかを考えていた。

 オスカーはエストとヴォルデモートは似ていると考えていた。しかし、二人は絶対的に違うとも思っていた。

 

「まあある意味ではそうだろうな、それと俺とエストの杖なんだけど……」

 

 オスカーが杖について喋ろうとするとエストは何か、隠し事がばれたような表情をしていた。オスカーはやっぱりと思った。恐らくヴォルデモートはエストの記憶から姉弟杖のことを知ったのだろう。

 

「オスカーの杖…… ナナカマドにセストラルの尻尾の毛でしょ?」

 

 オスカーはエストに自分の杖について喋った記憶はなかった。確かに今言った内容は間違いなく、オリバンダーがオスカーに言った杖の内容と同じだった。

 

「そうだけど…… いったいどうやって……」

「エストがオリバンダーさんのお店に行った時に教えて貰ったの……」

 

 そう言ってエストは自分の杖を取り出した。

 

「エストの杖はね? オリバンダーさんが作ったんじゃないんだって、グレゴロビッチさんっていう遠い国の人が強い杖を真似してつくろうとした杖なんだって」

 

 確かにエストの杖の材質をオスカーは見たことが無かったし、オスカーが杖を買った時もオリバンダーは通常使わない珍しい材料を芯にしていると言っていた。

 

「でね? エストの杖…… ニワトコにセストラルの尻尾の毛が入ってるんだけど、オスカーも聞いたことあるよね? ニワトコの杖、永久に不幸…… ニワトコの杖をもった人は不幸になっちゃうの」

 

 確かにオスカーはそれを聞いたことがあった。魔法界では自分達のような子供でも知っているおとぎ話だ。ヒイラギの杖の人はカシの杖を持つ女の人と結婚しちゃいけないとか、トネリコの杖を持つ人は頑固者だとか、そういう杖にまつわる話の一つだ。

 

「オリバンダーさんはその話はうそだって言ってたんだけどね、ニワトコの杖はナナカマドの杖と対になるらしいの、だからグレゴロビッチさんって人は同じセストラルの尻尾の毛を使って、ナナカマドで杖を作れないかってオリバンダーさんに頼んだらしいの、オリバンダーさんの方がナナカマドの杖の作り方はうまかったらしいから、それでどっちがいい杖かわかるし、どっちの方が杖を作るのが上手いか分かるって言われたらしいの」

 

 なるほど? どうもこの二本の杖は杖作りの腕を競うために作られた杖らしい、オスカーがオリバンダーの店に行った時は、なんと珍しいとかなんとかしか言って無かった上に、死喰い人の息子がナナカマドの杖とは…… とか失礼なことを言われた記憶があった。

 

「でも、悪い魔法使いが大陸で暴れたせいでオリバンダーさんの店に二本とも残っちゃったんだって、で、先にオスカーがナナカマドの杖を買って行ったの、そのあとエストがニワトコの杖に選ばれて、オリバンダーさんは不思議じゃ不思議じゃって言い始めたの」

 

 オスカーはオリバンダーがそう言うのが容易に想像できた。あの人物もチャーリーやエストと同じく、一定範囲の物事に対して滅茶苦茶に集中するタイプだと思えたからだ。

 

「エストと因縁のある家の男の子が、さっきこの杖と姉弟の杖を買って行ったって言ってたの、姉弟の杖を持っている二人は不思議な絆で結ばれるって言ったの、それがニワトコとナナカマドなら最も強くなるだろうって言ったの、それがどこの家なのかなんてオリバンダーさんは言わなかったけど、エストにはすぐに分かったよ?」

 

 オスカーは自分の杖を見て、エストの杖を見て、最後にエストの顔を見た。

 エストは笑顔で言った。

 

「だからね、ホグワーツ特急で初めてオスカーに会った時、ドロホフの家の人? って聞いたよね? もう、絶対そうだと思ってたの、ギリギリに乗ってね、偶然空いてたコンパートメントだったけどね、絶対絶対そうだと思ったよ? それで、ほんとにそうだったの」

 

 エストはオスカーと初めて会った日、運命じゃないかと言っていた。確かに杖にそんなつながりがあったのなら、そう言いたくもなる気持ちが分かる。

 

「しかも、寮まで同じになって…… それにねナナカマドの杖はね? 闇の魔法には使われないし、防御の魔法を使う時に強くなるんだって、オスカーはエストを最初絶対攻撃しようとしなかったよね? オリバンダーさんの言う通りだったの、盾の呪文ばっかりだったもんね、だから絶対絶対この二本の杖は特別なの」

 

 エストは愛おしそうに杖を両手で包んだ。オスカーはどこかなにか大きな力が二人を包んでいたように感じた。ヴォルデモートからエストを取り戻せたのは偶然ではなかったと感じた。

 きっとこの二本の杖でなければヴォルデモートの死の呪文を防ぐことはできなかったのだろう。今こうして話すこともできなかったのだろう……

 

「エストは覚えてないけど、意識が無い間もこの二本の杖がオスカーと繋げてくれたのかな? オスカーごめんね、このことを話したらなんか、繋がりが切れちゃったり、特別じゃなくなる気がしたの」

「大丈夫だ。誰に話してもこれは特別だ。それに今回も杖がエストに会わせてくれたんだと思う」

「そうなの? でもこれは二人の秘密にしてね? その方が特別なの」

 

 エストは満面の笑みでそう言った。

 オスカーは特別な杖が無くても、特別な繋がりが無くても、エストの傍にいられるようになろうと思った。

 



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九と四分の三番線

 髪飾りに関連した大騒動が終わって、オスカー達はホグワーツの日常に戻った。

 クィディッチはグリフィンドールの優勝で終わり、後の日々はただ気温が上がっていき、オスカー達の流す汗の量と一緒に期末試験へのストレスだけが増えていった。

 少しだけ変わったことと言えば、オスカーがホグワーツ特別功労賞を貰ったことで、スリザリンに二百点入ったおかげで、少しだけスリザリン生のオスカーに対するあたりが弱くなったことだろうか?

 前のように寝室のルームメイトに無視されることもなく、授業中の教室や朝食の大広間でオスカーの周りを避けて座るといったことはされなくなった。

 それはレアも同じ様で、オスカーとエストと廊下ですれ違う時は、いつもレイブンクローの同級生と笑い合っていて、最後に二人に会釈をしてくるのだった。

 レイブンクロー生にとってはスリザリンとグリフィンドールの生徒だけで髪飾りを見つけたのではなく、レアも一緒に見つけたということでなんとか体面が保たれたらしい。

 オスカーはいつも通りかそれ以上のホグワーツの日々が戻ってきてこれ以上なく嬉しかった。

 

 

 

「ねえ? 髪飾りがあったんだから、秘密の部屋もやっぱりあるのかな?」

 

 学期末の試験の午前の部が終わって、五人は黒い湖のほとりにあるブナの木陰で話をしていた。この場所は湖の涼しさと木陰の恩恵を得られる場所で、オスカーとエストのお気に入りの場所だった。

 

「秘密の部屋とか、髪飾りより例のあの人が出てきそうな案件じゃないですか」

「いいわね、今度はハッフルパフが功労賞を貰えば、ハッフルパフが二位まで上がるわ」

 

 オスカーは期末試験の問題用紙をもう一度読みながら三人の会話に嘆息した。正直、これ以上例のあの人に今学期は会いたくはなかった。可能ならば一生自分の周りには近づいて欲しくないと思った。

 

「秘密の部屋って怪物が封印されてるんだよね? どんな怪物なのか気になるね」

「スリザリンだし、闇の魔法生物じゃないのか? コカトリスとかバジリスクとかアクロマンチュラとか? 少なくとも、例のあの人と同じくらいに会いたくないな」

「スリザリンはパーセルマウスだと言いますし、バジリスクじゃないんですかね? その中だと」

 

 オスカーは去年クラーナが言っていた首が三つあるバジリスクを思い出した。

 

「うええ、ちょっとそれはごめんね、トイレしてたらパイプを通ってきたバジリスクに丸呑みにされそうじゃないの」

「トンクス、バジリスクは眼で殺すから多分いきなり丸呑みにはしないの」

「トイレの配管を通るスリザリンの怪物とか、威厳が全くありませんね」

「うーん、ケトルバーン先生ならなんか知ってるのかな」

 

 オスカーはトイレの中を通る怪物ならまだなんとかなりそうだと思ったが、そもそもこれ以上危険なモノ探しはしたくなかった。クラーナの言う通りに、例のあの人は絶対に秘密の部屋を探したであろうことがオスカーには容易に想像できた。

 

「それより、午後も闇の魔術に対する防衛術の試験があるだろ? なんかテストしてくれよ」

 

 オスカーはそう言って闇の魔術に対する防衛術の本を四人に差し出した。

 

「ちょっと、オスカーに闇の魔術に対する防衛術の試験が必要なの? 普通にもう教える側なんじゃない? ママが今回の事を聞いて、クラーナちゃんとオスカー君には私の授業は必要ないかもって言ってたわよ」

「確かに二人は試験を免除でも良かったかもね」

「油断大敵‼‼ ですよ、二人とも、基礎を固めないといざという時にどうにもなりませんからね、そこの茂みからいきなり死喰い人が一ダース現れたらどうするんですか?」

 

 クラーナが傍にあるつつじの茂みを指でさしながら言った。

 

「ダンブルドア先生を呼ぶの」

「そうね、クラーナとオスカーを盾にして、校長先生かマクゴナガル先生あたりを呼びにいくわ」

「なんで俺が盾にされてるんだ」

 

 そう言って、また四人はギャーギャーと騒ぎ始めた為、オスカーはもう一度本に目を落とそうとしたが、先ほどクラーナが指した茂みが少し揺れているのに気付いた。誰かいたのだろうか?

 

「あの…… 先輩方、ちょっといいですか?」

 

 茂みから遠慮がちに現れたのはレア・マッキノンだった。オスカーは彼女とは空き教室で会ったあと顔は何度も会わせているものの、会話は交わしていなかった。

 

「あれレアじゃない、久しぶりね、功労賞の自慢をしに来たの?」

「こいつは未だに功労賞のせいでハッフルパフが最下位になったのを根に持ってるので、気にしなくていいですよ」

「なんか、レアに対する態度が、トンクスとクラーナで前の時と逆になってるの」

「まあ二人はほっといていいから、どうしたんだ?」

「うん、二人に構ってると次の試験時間になっちゃうからね」

 

 オスカーはあの出来事があって、少しはレアにも自信がついたのかと思っていたが、レアは今もどこか不安げだった。

 

「あの…… 来年、時々私に魔法を教えて貰えませんか?」

「魔法……? 浮遊呪文みたいな感じってことか?」

 

 魔法を教えて欲しいと聞いて、オスカーの頭に思い浮かぶのは去年のクラーナとトンクスとの特訓と、あの朝にちょっとだけレアの浮遊呪文を手伝ったことだった。

 

「そうなんです、あの朝にオスカー先輩に浮遊呪文を教えて貰って、それから色々他の呪文もできるようになったんです、それで……」

「ちょっと、オスカー、いつの間にレアにまで手を出してたのよ」

「手を出したって、ちょっとレアが困ってたから浮遊呪文を手伝っただけだぞ」

「貴方に純血キラーの称号をあげるわ、私もパパがマグル生まれじゃなきゃ危ないとこだったわ」

 

 トンクスが自分の肩を両手で触って震えている振りをしながら、新しい言葉を創り出していた。

 

「なんだよ純血キラーって」

「というか、いつの間にか二人は名前で呼び合ってるの、エストの時はあんなに長い間苗字で呼んでたのに」

「確かにオスカーは最初ずっとみんなのこと苗字で呼んでたね」

 

 エストはオスカーが誰かを名前で呼ぶことに厳しいようにオスカーには思えた。去年クリスマスプレゼントを連呼したのが不味かったのだろうか?

 

「別にいいんじゃないですか? 上級生が五人いれば色んな呪文を教えられるでしょう」

「あら、流石に抱き合ってたクラーナは余裕ね、ライバルとしてすら見てないってことね」

「しばきますよ、人にモノを教えるっていうのは教える側にも自分を見直すっていうメリットがあるんですよ」

「抱き合ってたってなんなの?」

「まあOKってことみたいだぞ」

「それはね、あの出来事の朝……「オッケーですよ‼‼ レアは心配しなくても先輩に任せておけば万事問題ありません‼‼」」

「来年も面白くなりそうだね」

 

 そう言って、さっきよりも大きな声で騒ぎ始めた五人を見て、レアは恥ずかしそうに礼をして、後ろの方でオスカー達を見ていたレイブンクローであろう集団に戻っていった。

 オスカーはチャーリーの言う通り、来年も騒がしくなりそうだと、姦しい三人を見て思った。

 

 

 

 結局、闇の魔術に対する防衛術はトンクスの言うようにオスカーにとっては問題ではなかった。正直なところ、実技が関連する授業、闇の魔術に対する防衛術、変身術、呪文学などはもはや、オスカーにとって問題になることはないのではないかと思い初めたのだった。

 隣にはエストという優秀な教師がいたし、他の生徒達は自分の生死がかかるほど必死に呪文を覚える必要性がないのだから上達は当たり前だとオスカーは思った。

 ただ、結局試験の結果でエストにオスカーが少しだけ勝てたのは闇の魔術に対する防衛術だけで、それも一点差でしかなかった。ダンブルドアがエストのことをトム・リドル以来の秀才だと呼ぶのも無理はないことだとオスカーは感じた。

 

 寮対抗杯は今年は久しぶりのグリフィンドールの優勝だった。エストが優勝決定戦に出場できずにスリザリンがぼろ負けしたのが大きかったが、そもそも、それで失った点数を補って余るほど、エストはスリザリンに点数を日頃から与えていたので、スリザリンの生徒がそれに関して責めることはなかったし、むしろグリフィンドールの連中が何かエストに危害を加えたのではないのかという論調だった。

 

 他にはやっぱり今年も闇の魔術に対する防衛術の先生は一年で辞めてしまうようだった。トンクス先生は寮の違いなく評判だったので、生徒達は皆残念がった。

 トンクス先生曰く、

 

「私が一年いない間に、家がまるでヌンドゥが現れた後のような有様になっていたので、やっぱり家に帰ります」

 

 らしい、トンクスが言うには、トンクスの父親、テッド・トンクスは全く片付けができないらしい。それで、一年放っておいたら家がとんでもないことになっていたらしいのだ。

 なんと叫びの屋敷に行くときにトンクス先生が忍びの地図にいなかったのも、グリフィンドール対ハッフルパフの試合にテッドを連れてこようとしたところ、家の惨状に気付き、それどころではなくなったかららしい。

 オスカーはそのテッドの性質は間違いなく、トンクスに遺伝している気がしたが、それは言わないことにした。

 

 

 

 一年の時と違い、五人はセストラルが曳く馬車に乗ってホグズミードの駅まで行くのだった。オスカーは以前乗った時に、セストラルが死んだ人にしか見えないと聞いて、静まり返ったことを思い出したが、オスカーとエストの杖の中身はセストラルの尻尾の毛で、それが二人を会わせてくれたことを考えると、そんなに不吉な生き物ではないように感じた。

 

 

 オスカー、エスト、クラーナ、チャーリー、トンクスの五人はコンパートメントの一室を占領して、今年の思い出を話し合ったり、来年のことを語ったり、爆発ゲームをしたりした。

 

「あのね、今年も夏休みに隠れ穴にいこうと思うんだけどね、今年はWADA、魔法演劇アカデミーのチケットがあるの‼」

「えっ! エストそれほんとなの? WADAのチケットって中々とれないんじゃないの?」

「魔法演劇アカデミー?」

 

 オスカーはWADAが何なのかさっぱり見当がつかなかった。ホグワーツでは確か長い間演劇が中止されているとか、ホグワーツの歴史とかいう本を髪飾りを探すために読んだ際に書いてあった気がするし、家でも演劇の話など聞いたことがなかったからだ。

 

「あんなでかい家に住んでるくせに知らないんですか? WADAと言えば魔法界では知らない人がいないような演劇の名門ですよ。オスカーお坊ちゃま」

「そうよ、チケットだって何ガリオンするか分からないわよ、まあオスカーお坊ちゃまにかかればホイっと出せるのかもしれないけどね」

 

 WADAが何か知らないがオスカーはまたお坊ちゃまと連呼されるのは嫌だった。

 

「それってやっぱり、ミュリエルおばさんが送ってきたの?」

「そうなの、エストがクリスマスに行かなかったから、意地でも来てほしいみたいなの、それでみんなの分のチケットもあるから、ミュリエルおばさんの家にみんなでちょっとだけ来ないかってことなの」

「絶対ちょっとじゃ終わらないし、エストとビルが目当てだと思うけどね」

 

 確かミュリエルおばさんというのは、ウィーズリーおばさんやエストの父親のおばに当たる人で、エストを猫可愛がりしているみたいな話をオスカーは聞いていた。

 

「まあなんでもいいんじゃないか? どうせ隠れ穴にいくんなら一緒だろうし」

「オスカーお坊ちゃまにはこれが凄いラッキーなことなのが分かってないわね、行くに決まってるわよ」

「どうせ僕もおばさんの家には連れていかれるからね」

「うーん、申し訳ないですけど、もしかするといけないかもしれないです」

「えっ? クラーナは何か用事があるの?」

 

 確かにクラーナがこういった誘いに対してはっきりしないのは珍しいとオスカーは思った。夏休みもクリスマスもクラーナは真っ先に同意してくるからだ。それはオスカーと同じ様に家族がいないからであろうことも、薄々察しはついていた。

 

「ちょっと、アラスターおじさんといくとこがあるかもしれないので、いつ隠れ穴に行けるかは分からないんです」

「そうなの? じゃあ行けるようになったらすぐ来てね? モリーおばさんも待ってると思うの」

「ええ、用事が終わったらすぐに行きますよ」

 

 クラーナはそう言って笑ったが、その裏にどんな感情があるのかはオスカーには読み取れなかった。

 閉心術の練習の際も、マッド・アイと練習をして学んだと言っていたし、何か闇払い的なことを練習でもするのだろうか? オスカーは少しだけ考えをめぐらしたが、人の家族のことを詮索してもしかたがないので考えるのを止めた。

 

 キングス・クロス駅が近づいてくるのがホグワーツ特急の速度が下がっていることから分かった。

 オスカーは去年こうしてホグワーツ特急に乗って、駅に着こうとしているときよりも、自分の気持ちが明るいと思った。

 夏休みに隠れ穴でどんな楽しい生活が待っているのか知っているし、去年より、ペンスやキングズリーと過ごす少しだけの間のドロホフ邸も楽しみだった。それはクリスマスに楽しい時間をドロホフ邸で過ごしたことで、あの家に対する印象が変わったせいでもあるだろうと思った。

 オスカーは初めて九と四分の三番線の柵を通り過ぎた時より、柵を通り過ぎるたび、ホグワーツへ行って帰ってくるたびに、自分の心が明るくなっていくと感じた。

 



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三年目 豊かな幸運の泉
プルウェット邸


 オスカー・ドロホフは最近幸運だった。

 去年までは嫌だったドロホフ邸での日々もどこか楽しく感じていたし、今日にでもエストたちが迎えに来て、エストやチャーリーの大叔母である、ミュリエルの家に遊びに行く予定だったからだ。

 

 それに魔法省からの監視も最近になって弱まってきた。キングズリー曰く、魔法大臣がミリセント・バグーノルドからコーネリウス・ファッジに変わったため、闇払い局と魔法惨事部の力関係が変わりつつあるのが理由らしい。

 なんでも、次の魔法大臣筆頭と思われていたバーティ・クラウチが左遷され、これまでの対処が重すぎたのではないかと反動がきているらしいのだが、オスカーにはその辺の力関係は良くわからなかった。

 少なくとも、家の玄関から吸魂鬼が消えたことや、キングズリーの許可や監視が無くても好きなところへ行けることはオスカーにとって望ましかった。

 闇払いが云云かんぬんとか、魔法省の力関係がどうのこうのはクラーナの領分であって、自分の領分ではないとオスカーは思っていた。

 

「オスカーお坊ちゃま、忘れ物はありませんか?」

「ああ、大丈夫なはずだ、教科書類は全部詰まってるし、新しい必要品は向こうで買いに行く予定だから」

 

 ペンスが忘れ物がないかを聞くのはもう七回目だったので、完全に大丈夫なはずだった。

 オスカーはすでに夏休みの宿題をやってしまって、教科書や大鍋なんかもトランクに詰め込み終わっていた。

 

「今年もクリスマスはパーティを開かれるのですか?」

「それは分かんないな、できればいいと思ってるけど」

「ペンスめは万全の準備をしてお待ちしております」

 

 ペンスは明らかな期待を込めてオスカーを見た。

 オスカーは毎年クリスマスパーティーを開かないといけなくなったと思った。魔法史の宿題レポートで火あぶりされる魔女や魔法使いの考察について書いたが、もしオスカーについてレポートを書くのなら、クリスマスパーティーを毎年自宅で開くようになった理由は屋敷しもべ妖精だと書かねばならないだろう。

 暖炉の赤とオレンジの炎がエメラルド色に染まり始めた。暖炉の中から人影がコマのように回転しながら現れる。

 チャーリーと同じ赤毛のウィーズリーおじさん、エスト、チャーリー、トンクスが暖炉から吐き出されてきた。

 ウィーズリーおじさんはオスカーの顔を見てにっこりした後、隣のペンスを見て少し申し訳なさそうな顔をした。

 

「やあオスカー、元気そうだね、ペンスも元気かな?」

「ええ、ウィーズリーおじさん、迎えにきていただいてありがとうございます」

「とんでもない無礼を働いたペンスめにお言葉を頂けるとは、恐悦至極であります」

 

 クリスマスの時も大丈夫だったのでオスカーは余り心配していなかったが、今回も問題はなさそうだった。

 

「オスカーお坊ちゃまの家は相変わらず広いわね」

 

 トンクスがドロホフ邸の応接間を見回してそう言った。相変わらず、この家にいるときはオスカーのことをお坊ちゃま呼ばわりしないといけないらしい。

 

「ミュリエルおばさんの家もオスカーの家と同じくらい広いし、やっぱり旧家の家は広いんだろうね」

「確かにミュリエルおばさんの家は広すぎて、昔迷子になったことがあるの」

「やったじゃないオスカーお坊ちゃま、子供はいくらいても大丈夫じゃない?」

「なんでトンクスの発想は家の広さと子供の数が直結してるんだ?」

 

 どうもトンクスはクラーナがいないからか、オスカーにやたらと絡んできそうだとオスカーは思った。

 

「オスカー準備はいいかな? とりあえず直接おばのミュリエルの家に向かうことになる」

「いつでも大丈夫です」

「じゃあチャーリー、先に煙突飛行でどこに行くのか例として見せてくれるか?」

「オッケー、パパ」

 

 チャーリーはそう言うと暖炉の傍にあった煙突飛行粉を手に取り、炎をエメラルド色に変え、「プルウェット邸‼‼」と叫んで消えていった。

 

「じゃあオスカーから行ってくれるかな? またノクターン横丁とかに行ってしまうと今度こそ私はモリーに消失させられてしまうからね」

「分かりました、トンクス押すなよ?」

「押さないわよ」

 

 オスカーはトンクスの方をちらっと見ながらそう言った。前回煙突飛行を行った時はトンクスとフレッド・ジョージのせいでとんでもない所に飛ばされたことは、オスカーの記憶に新しかったからだ。

 

「じゃあペンス、あとはよろしくな」

「はい、オスカーお坊ちゃま、お元気で」

 

 オスカーは煙突飛行粉を投げ入れ、エメラルド色の炎の中へと消えていった。

 回転しつつ沢山の暖炉が見える中、オスカーは目標の暖炉へとたどりついた。少なくとも、前回のようにヘンテコな闇の物品は見当たらなかったし、ウィーズリー家の人たちとダンブルドアと同じくらい年がいっているであろうおばあさんがオスカーの方を見ていた。

 おばあさんは鉤鼻で羽の着いたピンク色の帽子を被っていたがオスカーには彼女がミュリエルおばさんなのであろうことが分かった。眼がエストにそっくりなのだ。縁がどこか赤く見えるその眼はオスカーが良く見るエストの眼によく似ていた。

 暖炉からはどんどん後続が吐き出されていた。エストとトンクス、最後にウィーズリーおじさんが出てきた。なぜかトンクスは糖蜜パイを持っていた。恐らくペンスにねだったのだろうとオスカーは思った。

 

「ああミュリエル、ご機嫌よろしく……」

 

 ウィーズリーおじさんがそう言ってミュリエルおばさんに挨拶しようとしたが、ミュリエルおばさんは完全に無視してエストの方へと歩いてきた。

 

「エストレヤ、やっと来てくれたね、去年のクリスマスも来なかったじゃないか」

「だってオスカーのうちに遊びに行ってたもん、去年も夏休みの最初は行ったでしょ?」

「オスカー? ああドロホフの家の子かい?」

 

 そう言ってミュリエルおばさんはオスカーの方を見てきた。ウィーズリー家の兄弟はみんな赤毛だったのでオスカーの存在はわかりやすかった。

 ミュリエルおばさんは胡乱気な値踏みするような目でオスカーを見た。

 

「確かにドロホフの家の子だね、顔の作りがそっくりだよ」

 

 ミュリエルおばさんはそう言って次にトンクスの方に視線を移した。

 

「あんたはブラックの家の子かい? あんたも顔の作りが似てるよ」

「ブラック? 確かにママの実家はブラックらしいけど」

「まあ、赤毛以外だとわかりやすくていいね、ウィーズリーの子はみんな赤毛で見分けが付かないよ」

 

 ミュリエルおばさんはもうオスカーとトンクスに興味をなくしたのかエストの方へと視線を戻した。

 

「オスカー、トンクス、先にトランクを運んじゃおう、ミュリエルおばさんは当分エストに付きっきりだと思うからね」

 

 チャーリーがやれやれと言う顔をしてオスカーとトンクスに言った。

 確かにウィーズリー家の人たちが口々に言うミュリエルおばさんはエストがお気に入りというのは事実のようだ。

 それに物事に対する興味のあるなしが大きいというのはどこかエストにつながるものをオスカーは感じた。

 

 

 

 チャーリーの言う通りプルウェット邸は広かった。少なくとも、ウィーズリー家のみんなとオスカー、トンクス達全員分の部屋があったからだ。

 ただオスカーは隠れ穴のみんなが嫌でも近くにいないといけない狭さが少し懐かしくもあった。

 ミュリエルおばさんとエストとの協議の結果、オスカー達はWADA(魔法演劇アカデミー)の公演が終わるまではプルウェット邸に滞在するらしい。

 

「チャーリー、エスト、トンクスの三人がクィディッチのチームに入ってんの?」

「オスカーの兄貴とクラーナの姉貴だけクィディッチをやってないの?」

 

 オスカー、チャーリー、トンクスの三人はフレッド・ジョージの話相手になっていた。

 確かにオスカーの周りには双子の言う通り、各寮のクィディッチチームに入っている人間が多いのは確かだった。これはクィディッチチームが全寮合わしても二十八人しかいないことを考えると恐るべきことだった。

 

「そりゃ二人は私たちのいない間は秘密の通路を使ってホグズミードのお店でデートしてるから、クィディッチなんてやってる暇はないのよ」

「三人共ホグワーツでは有数の飛び手だからな、フレッドとジョージも入学したら十分チームに選ばれるくらい上手いと思うぞ」

 

 オスカーはトンクスの戯言を無視してフレッド・ジョージを褒めることにした。ウィーズリー家はクィディッチに熱くなる人が多いのでどうにかなるだろう。

 オスカーが過去にエストにクィディッチの話を振った時は、半日の間、チャドリーキャノンズとかいう万年最下位のチームの話をされて困ったことがある。

 

「秘密の通路? ホグワーツにはそういうのがあるの? かっけえ」

「入学したら教えてよ? ホグズミードには三年生からしかいけないんでしょ? 二年生から破ってデートとか流石オスカー兄貴だ」

 

 オスカーは頭が痛くなった。オスカーはトンクスほど双子を操れそうになかった。オスカーが秘密の通路を知っているのは確かだが、クラーナとデートに行った記憶などない。

 

「そうよ、オスカーは死喰い人の息子だけあって、管理人のフィルチの書類を燃やしたり、没収品・危険!! って書いてある棚からヤバイものを取り出したり、やりたい放題なのよ」

「まあ確かにトンクスの言ってることは大体はあってるよね、危険動物を飼ったり、一年生から決闘したりだもんね」

 

 チャーリーまで敵側に回ったことにオスカーは驚愕した。これだとまるで自分が超危険人物ではないかとオスカーは思った。そもそもそのほとんどがオスカーは巻き込まれただけのはずであるのにだ。

 

「ヒュー!! それなのに先生につかまったりしてないんでしょ?」

「これが本物のワルか…… 俺たちも見習わないと……」

 

 フレッド・ジョージがオスカーを見習ってホグワーツを抜け出したり、廊下やトイレを爆発して捕まったなんて話がウィーズリーおばさんに伝われば、オスカーの信用が、ドジをしないトンクスなんて存在くらい信じられなくなる気がした。

 

「けど五人は色んな寮なのに、レイブンクローだけなんでいないの?」

「レイブンクローってやっぱりがり勉なの?」

 

 確かにオスカーの周りにはレイブンクローだけ同級生はいなかった。がり勉、確かにあの寮の連中にはそういうところがあるかもしれない。

 

「まあ、普通はあんまり他の寮の連中とは付き合わないからな」

「フレッド・ジョージ、安心しなさい、すでにレイブンクローの下級生をオスカーが攻略済みよ」

「レアのことだね」

 

 チャーリーが完全に敵側に回ってしまい、オスカーには手の打ちようがなかった。

 

「レア・マッキノン、オスカー犠牲者三号の純血の魔女よ」

「いい加減しばくぞ」

「流石オスカー兄貴だ!!」

「全寮制覇だ!!」

 

 オスカーはさらに頭が痛くなってきた。トンクスとフレッド・ジョージは年々手が付けられなくなっている。

 去年はロンのティディベアをフレッド・ジョージがタランチュラに変えてしまって大騒動だったらしい、とにかく、成績以外ではポンコツなトンクスがただでさえうるさいフレッド・ジョージに加わると大事故が起こりかねない。

 それにいつもならからかわれるクラーナがいないせいでオスカーは自分が防波堤状態になっていると思った。

 

「トンクスはそんなにクラーナがいなくて退屈してるのか? 俺をサンドバッグにしてもなんも出ないぞ」

「え? 確かにクラーナいないと張り合いがないけど、オスカーと話してても私は楽しいわよ?」

「僕も楽しいけどね」

 

 そう言って普通に二人が笑うとオスカーは何も言えなくなってしまった。

 

「そう言えばなんでクラーナの姉貴はいないの?」

「去年は最初に来たのにな」

 

 フレッド・ジョージが顔を見合わせてから、オスカーに聞いてきた。確かにこの双子は悪戯こそするが、なんだかんだクラーナと一緒にいることが多かった気がオスカーはした。

 

「そりゃオスカーとエストのいないとこでデートしてたからでしょ」

「少なくとも夏休み始まってからは会ってないけどな」

「マッドアイと用事があるって言ってたよね」

 

 ホグワーツ特急では行けるようになったら来ると言っていたので、用事が終わったら来るのだろう。オスカーはそれまでトンクスを封印する術を考えなければならないと思った。しかし、杖が使えない今、永久粘着呪文をトンクスの口にかけることは難しかった。

 

「「マッドアイってアラスター・ムーディ?」」

 

 フレッド・ジョージが何かを思い出すような顔をして言った。

 

「そうよ、クラーナのおじさんね」

「まえパパのとこに行った時にいた人だよな?」

「うん、魔法の眼がグルグル回ってて面白かったな」

「確かにクラーナに似てたね、フレッド・ジョージに油断大敵!! って言ってたし」

 

 なるほど、あのクラーナの口癖はマッド・アイ・ムーディから移ったものなのかとオスカーは思った。結構な回数、クラーナとの節目節目でそれを聞いた気がするからだ。

 

「そろそろ夕飯なんじゃない? この家にも屋敷しもべはいるのかしら?」

「テッドさんみたいなお腹になってもしらないぞ、さっきも糖蜜パイをペンスから貰ってただろ」

「オスカー良く見てるわね、あとパパと一緒にはならないから大丈夫よ」

 

 トンクスはそう言ったが、外見以外はテッドの方にトンクスは似ているとオスカーは思っていた。オスカーの予想ではこのままいけば外見もそっくりになるだろう。

 オスカー達は夕飯を求めて大広間の方へ向かって行った。

 

 

 夕飯が終わって、オスカーはお腹が少しもたれていたのでプルウェット邸の中を一人で歩いていた。オスカーは人が沢山いて賑やかなウィーズリー家の団欒が好きだったが、慣れてはいなかった。

 一人で歩くとこの家の大きさが良くわかった。少なくとも、ドロホフ邸と同じかそれ以上の大きさはあったし、古さはこの家の方が上だろう。

 部屋には時々名前が書いてあった。たしか客間として提供されていた部屋には書いていなかったので、家族用の空間に入り込んでしまったのだろうか? オスカーは他の家族の部屋を盗み見るようで少し気が咎めたので、戻ろうとした。

 しかし、オスカーの目線は良く知っている名前を捉えた。

 明らかにモリーの部屋と書かれている。そしてその隣にはギデオンの部屋、フェービアンの部屋と書かれていて、一番端にはエストレヤの部屋とある。

 オスカーは明らかに自分が踏み入れてはいけない場所に足を運んでしまったと思った。

 少なくとも、オスカーは自分がこの空間にいていい資格があると思えなかったのだ。だというのに、オスカーはギデオンとフェービアンという名前をしばらく眺めていた。

 

「死喰い人の息子だと言うから、もっと臆病なやつだと思ってたけどね、中々肝が据わってるじゃないかぇ」

 

 その声を聞いてオスカーがハッと振り向くと、ミュリエルおばさんがエストとよく似た眼でオスカーを見ていた。

 

「ええ? 自分の親父が殺した人間の部屋を眺めるなんてね、普通の人間にできるようなことじゃないよ」

 

 その眼はヴォルデモートやダンブルドアのような心を見通すような目ではなかった。だというのにオスカーは自分の心が丸裸にされているような気がした。

 

「すいません、勝手に屋敷の中を歩いて……」

 

 オスカーはなんとか口から言葉をひねり出した。

 

「別に私はあんたが屋敷のどこを歩いたって気にしないけどね、むしろ安心してるくらいだよ」

 

 ミュリエルはニヤリと笑ったが、オスカーはその笑いを見ても全く安心できなかった。モリーおばさんやエストの笑っている顔とどこか似ているというのに、彼女の笑い顔はどこか人の悪意が見えているように思えたからだ。

 

「私はね、エストレヤと同じくらい賢い魔法使いを一人だけ見たことがある、誰だか分かるかぇ?」

 

 ミュリエルおばさんのその言葉を聞いてオスカーには二人の魔法使いの顔が浮かんだ。最初にヴォルデモートが、次にダンブルドアだった。

 

「あんたも知ってるアルバス・ダンブルドアだよ、アルバスの学生時代を知ってるのはもう魔法界にも数えるくらいしかいないだろうけどねぇ」

 

 ダンブルドア? オスカーにはダンブルドアの学生時代と言われても全く想像ができなかった。あの絶対的な魔法力と慈悲深い性格を持つダンブルドアがオスカーやエストと同じ様にホグワーツに通っている姿を想像することができなかったからだ。

 

「アルバスの周りには色んな奴らが集まってたし、魔法界の偉大な方々とも文通をしてたけどね、アルバスの友達なんて呼べるのはドジのエルファイアスくらいだったろうねぇ」

 

 またミュリエルおばさんが笑った。やっぱりオスカーにはその笑い顔が何か悪意を含んでいるように感じた。憎しみとかそういうドス黒いものではなく、ただ単純に人を傷つけるとげとか針のような悪意だった。

 

「でもねぇ、少なくとも私はアルバスが自分と同格だとか、自分が理解されたいなんて相手をホグワーツで見つけられたとは思えなかったねぇ」

 

 ダンブルドアを理解する? あの今世紀で一番偉大な魔法使いを? オスカーにはミュリエルおばさんの言っている意味がいまいちよくわからなかったが、何か嫌な予感がした。

 

「色んな賞や栄光を得てアルバスが満たされたと思うかい? 私はね、その頭が良ければよいほど、魔法が上手ければ上手いほど、どうしようもなくなっていくと思ってるよ」

 

 このミュリエルという女性は何が言いたいのか? オスカーにはそれがもう分かっている気がした。だけどオスカーはそれを理解するのが嫌だった。

 

「アルバスは今世紀で一番の魔法使いなんて言われてるけどねぇ、少なくとも結婚もしていないし、親はアズカバン送りで、母親とスクイブの妹は事故で死んで、弟とは喧嘩別れだ、私はあんまり幸せとは言えないと思うねぇ」

 

 これもオスカーは想像などしたことがなかった。アルバス・ダンブルドアの家族がどうかなんて考えたこともなかったからだ。あんな優しい人の父親がアズカバン? 弟とも喧嘩別れ? 母と妹は事故で死んだ?

 

「ああ、あんたの父親もアズカバンだからアルバスとは境遇が似てるかもねぇ…… もう何が言いたいかくらいは分かるんじゃないかぇ?」

 

 つまりこのミュリエルはエストがダンブルドアのようになるのではないかと言っているのだ。オスカーはさっきエストと聞いて連想した二人の魔法使いの片方がどうなったのかを知っていた。そしてもう一人の魔法使いがどうであったのかも聞かされた。

 オスカーは不安になったが、一方で目の前のミュリエルに対する怒りがこみあがってきた。あの杖について話した時から、オスカーはエストの傍にいようと思った。ヴォルデモートの末路やミュリエルの言うようなダンブルドアのような状態には絶対にさせないと思っていた。

オスカーはエストに似ているその眼を真っ直ぐに見た。

 

「エストがそうなるんじゃないかって言うんですか?」

「別にわたしは何も言って無いけどねぇ…… いい目になったじゃないかぇ」

 

 ミュリエルおばさんはそう言って笑った。オスカーは自分の眼が変になったのかと思った。さっきまでの悪意のある笑いではなく、オスカーが良く知っているエストやモリーおばさんの笑い顔にそっくりだったからだ。

 オスカーはやり場のない怒りと、からかわれたという事実を持て余した。

 そしてミュリエルおばさんの後ろからエストの声が聞こえた。

 

「ええ? オスカーはミュリエルおばさんと何やってるの?」

「ああエストレヤ、お前のオスカーには私の話に付き合って貰ってたのさ」

 

 ミュリエルおばさんがそう言うと、オスカーは自分の顔が赤くなっていくのを感じた。完全にこのおばあさんにしてやられたと思ったからだ。

 

「エストの部屋の前で? ミュリエルおばさんが座りもしないで? 絶対ウソなの」

 

 そう言うとエストはオスカーの方に視線を移した。オスカーは自分の顔がもっと赤くなっていくのを感じた。

 

「なんでオスカーはそんなに真っ赤なの? もう!! ミュリエルおばさんいったいオスカーになにしたの!!」

「勝手に赤くなってるだけだよ、私の同級生の話をしていただけさ」

「ミュリエルおばさんの同級生なんてほとんど土の下に決まってるの!!」

 

 その後もギャアギャア口論する二人をよそにオスカーは、やっぱり隠れ穴かホグワーツに早く行きたいと思った。

 



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豊かな幸運の泉

 オスカー達プルウェット邸へ滞在していた一団はミュリエルおばさんとWADA(魔法演劇アカデミー)へと向かった。

 トンクス曰く、WADAはマグル世界のRADA(王立演劇アカデミー)と呼ばれる超一流の演劇学校に相当するものらしいのだが、オスカーはそもそもマグル世界のことを知らないし、演劇の世界のことも知らなかった。

 とにかく凄い劇を見られるくらいの印象しかオスカーは持っていなかった。

 

「あのね、WADAの先生は昔ホグワーツで教えてた先生なんだって」

 

 WADAはロンドンの中心部に位置しているらしく、オスカー達は魔法使いらしくない移動手段、地下鉄を使って移動していた。

 エストとウィーズリーおじさんは地下鉄に興味しんしんだったが、モリーおばさんが咎めるような目で見てくるので二人は余り目立った行動をできていなかった。

 

「ホグワーツの先生? どの教科なんだ?」

 

 ウィーズリーおじさんは始め、ウィーズリー家に置いてあるフォードアングリアという車種での移動を提案したのだが、全員乗れないのでミュリエルおばさんに却下された。

 その後、ミュリエルおばさんは姿現しでの移動と決まったのだが、何せ子供の数が多く、オスカー達をロンドンに運ぶには相当な回数行わねばならず、近くに暖炉もないので地下鉄での移動に決まった。

 

「ヘルベルト・ビーリーって名前で、スプラウト先生の前の薬草学の先生なんだって」

「そうなの? じゃあハッフルパフの先生なのかしら?」

「確かに薬草学の先生はハッフルパフのイメージがあるよね」

 

 地下鉄で話しながら移動している間もオスカー達は周りのマグルから奇異の視線を受けていた。トンクス曰く、オスカー達の恰好はマグルの中では浮いている恰好らしい。

 

「ビーリー先生と言えば、昔クリスマスに演劇をしてたらしい先生だったね、モリー?」

「そうね、私たちが入学するころには大講堂がケトルバーン先生のせいで燃えてしまってもうやってなかったわね」

 

 なにやら物騒な話がウィーズリー夫妻の方から聞こえてきた。なぜ演劇の話で大講堂が燃えるのだろうか?

 

「大講堂が燃えたってなんなの? アーサーおじさん?」

「ああ、どうも劇の見世物の一つとしてアッシュワインダーに肥らせ呪文を使って巨大化させたって聞いたね」

「アッシュワインダーに肥らせ呪文? それを大講堂でやったの? パパ?」

「私がやったわけじゃないけどね」

 

 オスカーにはいまいちアッシュワインダーが何なのか理解できなかったが、なにか物騒なモノをケトルバーン先生が大講堂に持ち込んだことは分かった。

 

「ちょっと、チャーリー、アッシュワインダーってなんなのよ」

「アッシュワインダーは魔法の火から生まれる蛇で、生まれてすぐに凄い高熱の卵を産むことで知られているんだ」

 

 確かにそんな記述をオスカーは幻の動物とその生息地で読んだ記憶があった。

 

「愛の妙薬の材料だよね? アッシュワインダーの卵って?」

「そうだよ、でも凄く危険なんだ、普通の木造の家でやったら間違いなく火事になるくらいにはね」

「大講堂って木造だよな?」

 

 オスカーにはケトルバーン先生の行動が正気の沙汰とは思えなかった。

 

「つまり、木造の大講堂に肥らせ呪文で大きくなったアッシュワインダーの卵を持ち込んだってこと?」

 

 流石のトンクスもやばいだろそれ、みたいな顔をしていた。

 

「それで私やアーサーのいたころにはホグワーツでは演劇は禁止されてしまったのよ、なんでも大講堂はまる焼け、医務室は負傷者でいっぱいのクリスマスだったらしいわ」

 

 オスカーは医務室が一杯になるような状況になったら、マダム・ポンフリーが事件の首謀者を消失させてしまう気がした。そうこう話している間に地下鉄のスピードが下がるのをオスカーは感じた。

 

「ああ、そろそろ着くみたいだね」

 

 ウィーズリーおじさんがうずうすしながら、電動の扉の前に立った。確かに地下鉄はWADAの最寄り駅についたようだ。

 

「トンクス、この扉もあー、機電の力で動いているんだったね?」

「そうです、ウィーズリーおじさん、機電じゃなくて電気ですけど」

「ああ、マグルの技術は素晴らしい、ホグワーツ特急だって自動では扉は開かないよ」

 

 いつも人の話を聞かないトンクスの話がウィーズリーおじさんに無視されているのはオスカーにとって新鮮だった。それにチャーリーやエストの性格は幾分かウィーズリーおじさんから来ている気がした。

 その後も、切符を自動で吸い込む機械や電気の力で光る掲示板を見てはウィーズリーおじさんは大騒ぎし、ウィーズリーおばさんが引っ張っていくまでそれは続いた。

 

「凄い立派な建物だな」

 

 オスカーはWADAというものについていまいち理解できていなかったが、その巨大な演劇場を見て、トンクスやクラーナが色々言っていた意味が少し分かった。

 少なくともオスカーはこんな巨大で立派な魔法関係の建造物をホグワーツ以外では見たことがなかった。

 聖マンゴ魔法疾患傷害病院は巧みに隠されているし、魔法省は水洗トイレか公衆電話から入らねばならず、外見は見えないからだ。

 オスカーはこんなに堂々とロンドンの街中に鎮座しているとは思っていなかった。少しだけこれなかったクラーナが可哀想だと思った。

 

「なんか昔マグルの人たちが頑張って作った劇場を強引に魔法で見えなくしたらしいの」

「ええ、WADAってそんな過去があったの?」

「まあ聖マンゴもマグルの建物を貰ってるしね」

 

 魔法で隠されている敷地内に魔法使いや魔女たちが次々に姿現ししてくる。オスカー達のようなホグワーツに通っている子供は少なく、年配の人が多いように感じた。

 

「今日は演出のヘルベルト・ビーリー先生の最後の公演らしいわよ」

「あらそうなの? じゃあ演目はなんなのかしらね、長いことやってらっしゃったから色々考えられるけど……」

 

 年配の魔女二人がオスカー達の横を通りながら喋っていた。どうもさっき地下鉄で話題になっていた先生の最後の公演らしい。

 

「エストレヤ、こっちだよ」

 

 その声を聞いてオスカー達が上を見ると、明らかにランクの高そうな席へと向かう階段の傍でミュリエルおばさんが手招きしていた。

 オスカーは先日の問答でちょっとミュリエルおばさんが苦手になっていたので、できるだけミュリエルおばさんから離れて座ろうと思った。

 オスカー達が階段を上がって席のあるフロアに着くと、思った通り明らかに貴賓席と思われる席だった。どこか周りの人たちも旧家の魔法族と思われる人たちばかりだった。

 

「オスカーこっちに座りなさいよ」

 

 トンクスがフレッド・ジョージと一緒に座っている席でオスカーを手招きした。ミュリエルおばさんはトンクス達の反対側で、お気に入りのエストとビルを両脇に配置していた。オスカーは二人の尊い犠牲に感謝して、トンクス達の方へ向かった。

 

「あれ? やっぱりエストの傍に座りたかったの?」

「いやミュリエルおばさんの横にならなくて安心してたことだ」

「オスカーもミュリエルは苦手なの?」

「純血キラーのオスカー兄貴が?」

 

 オスカーの両サイドでフレッド・ジョージの声がやまびこのようにこだました。オスカーはこの席もこの席で災難な席な気がした。

 

「そもそも純血キラーってなんなんだ」

「そりゃオスカーが純血を次々に落としていくからでしょ」

「百発百中!!」

「魔法族は二世代後にはオスカーの子供で一杯になるって聞いたけど」

 

 オスカーは頭が痛くなってきた。騒いでいるオスカー達の方を貴賓席にいる人たちが少し迷惑そうに見ていた。

 その中でブロンドの髪を持った女性がトンクスの方を凝視していた。オスカーはその女性が少し気になり、そっちに目線をやると女性は目線をハッとそらした。

 オスカーはその女性をどこかでみたような気がした。

 

「これは、これは、これは…… アーサー・ウィーズリー」

 

 オスカー達の後ろで聞き覚えのない声がウィーズリーおじさんを呼んだ。

 だが、オスカーはその男を知っていた。声こそ聞いたことがなかったが、そのプラチナブロンドの髪を持った男を知っていた。

 

「ルシウス」

 

 ウィーズリーおじさんはほんの少しだけ会釈したように見えた。オスカーはウィーズリーおじさんが他の大人にそんなそっけない挨拶をしたのを見たことがなかった。

 

「ああ、マグルなんとか局は繁盛していますかな? 近頃はコーネリウス大臣に変わって、無駄な仕事の仕分けが進んでいるようですが…… この席を買うのに家でもお売りになりましたかな?」

 

 ウィーズリーおじさんは一瞬で耳から首もとまで真っ赤になった。

 

「マルフォイ、君のような人間が大手を振って歩けるような時代になったことを感謝したほうがいいと思うが? 闇払い局は今暇をしてるらしいから喜んで仕事を引き受けるだろう」

 

 ウィーズリーおじさんがそう言うとルシウス・マルフォイの顔にも赤みがさした。

 

「アーサー、辞めて、劇の前だし、子供達やオスカー達もいるのよ」

 

 ウィーズリーおばさんがウィーズリーおじさんを引っ張ったが、ウィーズリーおじさんは真っ正面からマルフォイ氏を睨みつけていた。

 ルシウス・マルフォイはウィーズリーおじさんを一瞥して、オスカー達子供が座っている席に視線を移し、オスカーとトンクスがいる場所で一瞬、目を見開いた。

 その後、さっきトンクスの方を見ていたブロンドの髪の女性の傍に座った。ブロンドの女性の傍にはロンと同じくらいの少年が座っているのが見えた。

 

「今の人ってルシウス・マルフォイ?」

「ああ、そうだと思う。俺も見たことがあるからな」

「パパのライバルなんだ」

「金をばらまいて死喰い人の疑惑をごまかした悪いやつだって言ってた」

 

 フレッド・ジョージが口々に悪口を言って、マルフォイ氏が座っている方を睨みつけたが、トンクスは珍しい表情をしていた。

 なにか悩んでいるような表情で、オスカーはそれがトンクスに似つかわしくないと思った。

 

「ルシウス・マルフォイがどうかしたのか?」

「うーんとね、ママの妹さんの夫なのよ、マルフォイさんって」

「ええ!! トンクスってマルフォイと親戚だったの?」

「全然似てないじゃん」

 

 確かにトンクスの母親のアンドロメダはブラック家の出身だったと聞いたことがあった。それなら純血の一族はだいたい親戚だろう。

 ブラックと聞いてもオスカーにはかの有名な死喰い人、シリウス・ブラックくらいしか思いつかなかったが。

 

「まあパパと結婚したせいで全然会わないらしいけどね、もう一人の姉妹はオスカーのパパと同じ場所にいるらしいしね」

「まあいいんじゃないか、マルフォイ家って言ったら純血主義の急先鋒だしな」

「そうだよ、純血はオスカーに任せておけば大丈夫ってトンクス言ってたでしょ?」

「純血キラー!!」

 

 純血だからといって誰とでも仲良くできるとはオスカーには思えなかったが、双子はトンクスを元気付けようとしているようだった。

 

「まあ別に大丈夫よ、二人ともそろそろ静かにしないとダメよ」

 

 オスカーはトンクスが双子を注意したので、明日は流星群が降るのではないかと思った。

 そうこうしている間に、劇場の照明が消え、あたりは静かになった。

 舞台に一人の老人が上がって、魔法のスポットライトを浴びているのが見えた。老人が一礼すると劇場中から拍手が沸いた。

 

「皆さま、この度はWADAの定期公演に起こしくださってありがとうございます」

 

 老人が拡声呪文を使っているのかはわからなかったが、すさまじく良く通る声だった。

 

「このWADAの定期公演も数えるのが馬鹿らしくなるくらいの回数、私は演出を指導してまいりました」

 

 なるほど、オスカーはこの老人が誰なのかがわかった。さっき魔女が噂をしていた、ヘルベルト・ビーリー先生なのだろう。

 

「しかし、この不肖ヘルベルト・ビーリーも引退ということで、今回の劇はこれまで絶対にやってこなかった演目を皆様にごらん頂こうと思っております」

 

 絶対にやってこなかった劇? オスカーはWADAの常連ではなかったから、それが何を指しているのかわからなかったが、周りの大人達が息を呑んでいるのが分かった。

 

「それでは、どうぞご覧ください、豊かな幸運の泉」

 

 スポットライトが消え、ビーリー先生の姿が見えなくなり、観客の拍手とともに舞台の幕が上がった。

 それと同時にルシウス・マルフォイが憤った顔で席から立ち、子供とブロンドの女性を連れて退席していくのが見えた。

 子供は何故退席するのか分からないという顔で両親らしき二人を見ていたが、マルフォイ氏の顔は怒りに染まっていて、ブロンドの女性も同様だった。

 

 舞台上で演劇が始まった。オスカーは魔法の演劇を見るのは初めてだったが、なるほど、トンクスやクラーナが騒いでいた理由が良くわかった。それに恐らくマルフォイ氏が退席した理由もだ。

 

豊かな幸運の泉はオスカーでも知っている童話だ。

 一年に一人だけ、不幸な人間が幸福を得ることのできる豊かな幸せの泉にたどり着くことができる。

 その幸運の泉へ、三人の魔女とマグルの騎士が向かうのだ。

 

 最初の魔女はアシャ。重い病にかかっていて、泉がその病気を癒し、自分を救ってくれることを望んでいる。

 

 二番目の魔女はアルシーダ。悪い魔法使いに家も杖も奪われて、泉が不運な自分を救ってくれることを望んでいる。

 

 最後の魔女はアマータ。恋人に捨てられ、その心の傷を泉が救ってくれることを望んでいる。

 

 三人はお互いを憐れみ、協力して泉にたどり着こうと誓い合う。泉にたどり着くのがたった一人だけだとしてもだ。

 なのに、間違えてアマータはマグルの冴えない騎士を泉への道へ連れてきてしまう。

 そこで、アマータ以外の二人はアマータを責める。泉にたどり着ける確率が下がってしまうからだ。

 

 マグルの騎士はラックレス卿と言った。このヘタレの騎士は、アマータが責められているのを聞いて、自分が魔女に勝てるはずがないから、泉は諦めると言う。

 これにアマータは怒った。

 

「意気地なし」

 

そう言って、騎士を叱りつけ、泉への道中、魔女たちを守るように言うのだ。

 

 三人の魔女と騎士は泉へと向かった。

 しかし、その道中に怪物が現れる。怪物は言う。

 

『苦しみの証を支払って行け』

 

 四人が何をしても、怪物は動かなかった。しかし、アシャが絶望して泣き出すと怪物はその涙をなめとって消えた。

 

 四人はさらに進んだ。今度は急な坂道で、地面にこう書かれていた。

 

『努力の証を支払って行け』

 

 四人が坂道を登っても登っても、その坂道に終わりはなかった。みんながくじけかけたころ、アルシーダが汗水を垂らしながら、みんなを応援した。

 すると垂れた汗を地面が受けると今度は進めるようになった。

 

 四人がさらに進むと、今度は川が行く手を阻む。

 川底にはこう書かれていた。

 

『過去の宝を支払って行け』

 

 四人が何をしてもその川を渡ることはできなかった。

 そこでアマータは恋人との幸せだった記憶を川へ流した。

 すると、川の中に飛び石が現れて、川を渡れるようになった。

 

 四人はついに幸運の泉の目の前までたどり着く。

 しかし、体の弱いアシャが倒れてしまう。三人はアシャを泉に連れて行こうとするがアシャはもうだめだから放っておいてくれと言う。

 

 ここで、アルシーダが傍にあった薬草を摘んで、アシャに薬として飲ませた。

 アシャは瞬く間に元気になり、自分には泉は必要ないと言った。

 そして、自分を助けてくれたアルシーダが浴びるべきだと言った。

 

 しかし、アルシーダはこの薬草があれば自分はお金を稼ぐことができるからもう泉は必要ないと言う。

 

 このやり取りを見て、騎士はアマータに浴びるように言う。

 しかし、アマータはもう恋人との記憶を振り切ることができたから、私は幸福だ。だから騎士に浴びる様に言うのだ。

 

 そして、騎士はその泉を浴び、アマータに結婚を申し込む。

 騎士は自分を奮い立ててくれた優しいアマータが素晴らしい女性だと分かったからだ。

 アマータも自分が手を取るにふさわしい騎士の手を取った。

 

 そして四人は手を取り合い、ずっと幸福に暮らす。

 本当は泉には幸運の力などないのに、それを知ることもなく。

 

 これが豊かな幸運の泉だ。オスカーは変身術や拡声魔法、色んな魔法動物を使った劇を存分に楽しんだ。

 幼いころに聞かされた童話が目の前で実際に繰り広げられるのは素晴らしいものだった。

 ルシウス・マルフォイが帰ったのはこの童話のマグルの騎士と魔女の下りが気に入らないからだろう。

 オスカーはこの童話を父や純血を誇る者たちが忌み嫌っているのを知っていたが、オスカーはこの童話が好きだった。

 彼女たちは泉の力を借りずに幸せを掴み取るのだ。お互いの信頼の結果として。それは色んな魔法よりも素晴らしいことだと思った。

 劇の幕が下りてしばらく経っても拍手は鳴り響いていた。オスカーも拍手を続けていた。

 

「私、この話をママがバカみたいにしてくるもんだから、あんまり好きじゃなかったんだけど、いい話ねこれ」

 

 トンクスが拍手をしながらオスカーに言ってきた。確かにこの劇はマグルの男と魔女の話だから、テッドとアンドロメダにはぴったりの話かもしれない。

 トンクス先生は確か駆け落ちしたと言っていたし、トンクスに読み聞かせたがるのも無理はないだろう。

 

「それにあのアマータって凄いクラーナに似てない? あの意気地なしとかヘタレとか、騎士に言うところが、初めて会ったころのクラーナとオスカーみたいだったわ」

 

 確かにオスカーはクラーナにヘタレだの、アズカバンにいそうな顔だの、腰抜けだのと言われた記憶があった。よく考えなくてもクラーナの方がアマータよりボロクソに言っている気がした。

 

「クラーナがいたらからかえるのに残念ね」

 

 オスカーはせっかく良い余韻に浸っているのに、二人の騒ぎに巻き込まれるのは嫌だと思ったが、確かにクラーナもここにいた方が良かったと思った。

 



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オーラー

 WADAでの公演が終わって、オスカー達は隠れ穴へと移動した。案の定、ミュリエルおばさんがエストを留めおきたがったが、エストはなにやら交換条件を結んで脱出した。

 もう余り夏休みは残されていなかったが、オスカーは去年と同じ様にウィーズリー兄弟と箒で遊んだり、パーシーの予習につき合わされたり、トンクスがジニーにへんなことを教えるのを止めたりした。

 隠れ穴に滞在してしばらくたつとホグワーツからのふくろう便がやってきて、オスカー達に必要な教科書や物品が書かれた手紙が届いた。

 ただ、今年は他にも重要なニュースが届けられた。ビルが監督生に選ばれたのだ。

 ウィーズリーおばさんの喜びようは見ているオスカー達でさえちょっと幸せになるくらいだった。

 

「今夜はパーティーにしないとね」

 

 そう言って、ウィーズリーおばさんは隠れ穴をパーティー仕様に変えようとし、オスカー達もそれを手伝った。

 フレッド・ジョージがケーキの中にクソ爆弾を隠そうとしているのをオスカーとチャーリーが発見して止めたり、ビルの監督生のバッチが無くなったと思ったら、パーシーが磨いていただけだったり、ロンがグールお化けを発見したりと色々騒がしかった。

 ただ、その日の夕食はオスカーがドロホフ邸でペンスに作ってもらった夕飯に負けないくらい素晴らしいものだった。

 

「ねえエスト、ミュリエルおばさんになんて言って解放してもらったの?」

 

 チャーリーがチキンをほおばりながらエストに聞いた。確かにその条件はオスカーも気になっていた。

 

「簡単なの、オスカーのお家でやるクリスマスパーティーにミュリエルおばさんも呼ぶって言ったの」

 

 オスカーはバタービールをむせ込んだ。隣のロンがオスカーの背中を叩いてくれた。

 

「やったじゃないオスカー、ミュリエルおばさんも攻略完了よ」

 

 オスカーは涙目になりながらトンクスを睨んだ。そしていつの間にかクリスマスはドロホフ邸で過ごすことが前提になっている事実に気付いた。

 

「色々突っ込みどころしかないんだけど」

「ごめんねオスカー、でもクリスマスにミュリエルおばさんを連れてこないとふくろうの嵐に会っちゃうの」

 

 エストは手を合わしてオスカーに謝ってきたが、確かに去年のクリスマス前にエストは大量の手紙を受け取っていたのを覚えていた。オスカーはため息をついた。

 

「まあペンスが全部やってくれるから、俺はトンクスが糖蜜パイでデブにならないか心配するだけだけどな」

「だからデブにならないって言ってるでしょ、クラーナがいないからって、オスカーが言わなくても良いのよ」

 

 トンクスの言動を受けて、結局クラーナは夏休みが終わりかけているのに来ることはなかったなと思った。

 

「ねえ、みんなは今年どの教科をとるの?」

「僕は魔法生物飼育学は絶対とるよ、あとは占い学とかルーン文字とか?」

 

 そう言えば、ふくろう便には新しくどの教科を履修するのか決めろとのことが書かれていた。新しく増えたのは、魔法生物飼育学、数占い、古代ルーン文字、占い学、マグル学だったはずだ。

 

「俺はなんも決めてないな、チャーリーと同じでもいいかな」

「私も決めてないわね、ママが占い学はやめときなさいって言ってたけど」

「そうなの? 全部取れば良いのかな? ビルも全部取ってるみたいだし」

 

 オスカーは全部履修するというのはよくわからなかった。そもそもこの量の授業を今やっている授業に加えてやると言うのは、一日では時間が足らなくなると思ったからだ。

 

「ちょっと、エストと同じ教科を取ったら絶対トップになれないのに、そのエストが全教科取ったら地獄絵図よ」

「そんなこと無いもん、去年の学期末はオスカーが闇の魔術に対する防衛術ではトップだよ?」

「一点だけだけどな」

 

 そうエストとオスカーが言うと、トンクスは意外そうな顔をした。

 

「え? そうなの? てっきり全教科エストがトップだと思ってたわ」

「確かに僕もそうだと思ってたよ、グリフィンドールはクラーナが実技と魔法薬学とかは寮トップだったけど、エストに負けました!! とか言ってたからね」

 

 確かにクラーナは闇払いになるための教科は集中して勉強しているのに、エストに勝てないと嘆いていた気がした。わざわざスリザリンのテーブルまで来て成績を比べに来ていたのだ。

 

「いいことね、これなら我が家に来ている子供たちはみんな監督生や首席になれそうだわ」

 

 ウィーズリーおばさんがオスカー達の話を聞いていたのか上機嫌でしゃべりながら、ケーキを切り分けていた。

 オスカーは、廊下を爆破したり、ルーンプスールを勝手に飼ったり、フィルチの部屋から地図を盗んだりというオスカー達の行動をウィーズリーおばさんは知らないのでそう言っているのだと分かっていたが、ダンブルドア先生はそれらのいくつかを知っているので、果たしてオスカー達を監督生に選ぶのか疑問だった。

 

「ママ、かんとくせーにえらばれるのはそんなにいいことなの?」

 

 オスカーの隣で口をクリームまみれにしながらロンがウィーズリーおばさんに尋ねた。

 

「そうよロン、監督生や首席に選ばれればアーサーの様に魔法省に勤めやすくなるのよ」

「パパと同じ場所で働くの? ビルやエストも?」

「それはまだわからないのよ、ロン」

「でも、ケーキが食べられるんならぼくも監督生になろうかな」

 

 ウィーズリーおばさんは笑いながらロンの口を拭った。オスカーはその後ろでパーシーがこちらに聞き耳を立てているのが分かった。監督生云々や成績の話が気になるらしい。

 

「明日はダイアゴン横丁に買い物にいかないといけないから、チャーリーたちもどの教科を取るのか決めないとダメよ」

 

 ウィーズリーおばさんはそう言って違うテーブルにケーキを運びに行った。

 

「オスカーはエストと同じ寮だからエストと一緒にじゅぎょうをうけるの?」

 

 ロンがまた口をクリームまみれにしながらオスカーに聞いた。

 

「まあ寮が同じだとそうだな、魔法薬学とかはグリフィンドールと一緒だから、チャーリーやクラーナも一緒だけどな」

「いいな、ぼくも早くホグワーツに行きたい」

「残念ながら、ロンが入るころには私たちは卒業しちゃってるわね」

 

 ロンはトンクスがそう言うのを聞くと少し涙目になった。

 

「でもロンの同い年には凄い有名人がホグワーツに入ってくるんだよ?」

 

 エストがウィーズリーおばさんと同じ様にロンのクリームを拭いながら言った。

 

「有名人?」

 

 ロンは何を言っているのか分からないという顔でエストの方を見た。

 

「ロンも知ってるでしょ? ハリー・ポッターなの、多分計算するとロンはハリー・ポッターと同級生なの」

 

 ハリー・ポッター、恐らく魔法界で最も有名な名前の一つだろう。オスカーは自分より年下の、ロンと同い年の男の子がダンブルドア先生やヴォルデモートと同じくらい有名だということが何か不思議だった。

 いったいどんな生活をしているのだろうか?

 

「友達になれるかな?」

「ハリーのお父さんとお母さんは両方グリフィンドールだったって聞いたの、だからきっとロンとハリーは同じ寮の同級生だし、きっとお友達になれるの」

 

 確かに例のあの人を倒した男の子で、両親ともグリフィンドールなら、グリフィンドールに入る可能性が高いのだろう。

 オスカーはいつかその男の子に会ってみたいと思った。いったい家族を失って、自分だけが生き残り、その結果魔法界一有名になるというのがどういう心境なのか知りたかったのだ。

 

「確かに羨ましいわね、友達になったらサインを貰って日刊預言者新聞で売り出すとかできそうね」

「トンクス、あの良くわからない本を書いてるロックハートさんでもサインは売らないんじゃないかな」

 

 チャーリーがトンクスに突っ込んでいた。オスカーも流石にサインを売るハリー・ポッターは見たくないし、会いたくもなかった。

 

 

 

 隠れ穴での日々は矢のように過ぎ、キングスクロス駅からホグワーツ特急に乗る日が来た。去年は魔法省から車を借りたのだが、今年はオスカーの監視も消えたためどうなるのかと思っていると、キングズリーが一台車を借りて、もう一台はウィーズリーおじさんのフォードアングリアで行くらしい。

 なんでも、ファッジ大臣に変わってからちょっと車を借りるのが難しかったが、闇払いの任務で使う捜査用という口実で借りてきたらしいのだ。

 オスカー達はキングズクロス駅の九と四分の三番線について、一台のコンパートメントをまるまる占領してから、ウィーズリー家やキングズリーのいる場所に戻った。

 

「オスカー、君にこれを渡しておく」

 

 キングズリーがポケットからなにやら羊皮紙を取り出して渡してきた。

 羊皮紙にはキングズリー・シャックルボルトはオスカー・ドロホフの法定後見人として、週末のホグズミード行きの許可を与えるものである。と書かれていた。

 オスカーはすっかり忘れていたが、ホグズミードに行くのは許可がいるのだった。

 

「ありがとうございます。キングズリー」

「君が行けなくなると、多分君の周りの子たちが悲しむだろうからね」

 

 キングズリーが深い人を安心させるような声で言った。確かにオスカーが行けないことでオスカーよりも、周りのみんなが悲しむかもしれない。忍び地図があればこっそり行くことも可能かもしれないが。

 

「キングズリー・シャックルボルトか? こんなとこで何をしてる?」

 

 オスカーとキングズリーの後ろからコツコツという音と一緒に、唸るような声が聞こえた。

 

「これはアラスター、今後見人を務めている少年の見送りの最中でして」

「後見人? じゃあこの坊主がドロホフのせがれか?」

「確かに僕はオスカー・ドロホフですけど……」

 

 その老人はオスカーを普通の眼とグルグル回る青い目の両方で見た。

オスカーもその老人を観察した。鼻は削がれ、顔は余すところなく傷だらけだ。さっきのコツコツという音の正体もわかった。この老人の片足は恐らく義足なのだ。

 しかし、オスカーはその老人にいくつか見覚えを感じた。WADAでルシウス・マルフォイの妻らしき人物を見た時と同じだ。

 恐らくダークグレイだったと思わしき白髪だらけの髪や、グルグル回る魔法の眼ではない方の眼、その黒い眼をオスカーは知っていた。

 

「ああ、オスカー久しぶりですね、この人が私のおじさんのアラスター・ムーディです」

 

 老人の後ろからクラーナがでてきた。オスカーは少しだけ、クラーナが前に見た時よりも目の下にクマができているように思えた。

 そして老人の正体もわかった。伝説の闇払い、マッドアイ・ムーディこと、アラスター・ムーディだ。

 

「ふん、確かに憎らしくなるほどアントニン・ドロホフに似ている」

 

 ムーディは魔法の眼でオスカーの体を舐め回すように見ながら、唸った。

 オスカーはダンブルドア先生やミュリエルおばさんと言った老人の眼を見てきたが、この人物の眼は油断も隙も無いように思えた。感情ではなくただ油断なく見定めているという感じだった。

 

「だが、髪の色が違うな、あいつの写真は眼に焼き付くほど見てきたからわかるぞ」

 

 オスカーは色んな人に会ってきたが髪色のことを言われたのは初めてだった。確かにオスカーの髪色は母のものだった。近い人よりも、恐らく長年父の敵だった人物からそれを指摘されるのは不思議な感覚だった。

 

「ちょっとクラーナじゃない、いつの間にオスカーと一緒にいるのよ」

 

 トンクスがこっちに走ってきた。ウィーズリー家やトンクスの家族もこっちに歩いてくるのが見える。

 

「なんですか一緒って、おじさんがキングズリーを見つけたから喋りかけてただけですよ」

「おじさん? この人がマッドアイ・ムーディ?」

 

 オスカーはこのマッドアイの風貌を見ながら、マッドアイと初見で呼び捨てるトンクスの精神は大したものだと思った。グリフィンドールの方が向いているのではないだろうか?

 

「なんだ、肝の据わった娘っ子だな、顔からして、ブラックの家の子か?」

「それを言われるのは夏休みで二回目よ、クラーナのおじさん、私はニンファドーラ・トンクスです」

 

 オスカーはクラーナとトンクスがなんだかんだ一緒にいるのと同じで、このマッドアイとトンクスも案外相性がいいのではないかと思った。

 

「アラスター、お久しぶりです」

「アーサー・ウィーズリーか、その子はギデオンの子か?」

 

 今度はウィーズリーおじさんがマッドアイに挨拶をしており、マッドアイの眼はエストの方を向いていた。

 

「そうだよ? エストはエストレヤ・プルウェットだよ、貴方はクラーナのおじさん?」

「なるほど、死喰い人の子供より周りの娘っ子の方が肝が据わっているようだ」

 

 そう言ってまたムーディの眼が一瞬オスカーの方を向いた気がした。

 しかし、マッドアイの言動を完全に無視して、ウィーズリーおばさんが今度はみんなにサンドイッチを配り始めた。

 

「さあ、オスカーたちの分もありますからね、大丈夫よ、クラーナちゃんの分も作ってきたわ」

 

 そう言って、ウィーズリー兄弟やオスカー達にサンドイッチを配った後にみんなを一回ずつ抱きしめた。オスカーはセーターと同じくらい体が温かくなった気がした。

 ウィーズリーおばさんがこうしてサンドイッチを配っているということは出発の時間が近いのだろうと思い、オスカーが時計を見ると出発まであと五分しかなかった。

 

「クラーナはトランクをまだ載せてないんじゃないのか? そろそろ出発だぞ」

「そうですね、じゃあアラスターおじさん、多分クリスマスにお願いします」

「ああ、クラーナ、気を付けてな」

 

 オスカー達は列車に乗り込んで、コンパートメントの窓から見えなくなるまで手を振った。

 オスカーはコンパートメントに自分以外のいつもの四人がいるのを見て、これからホグワーツにいくのだという気分が自分の中で高まっているのを感じた。

 

「クラーナのおじさんはやっぱり雰囲気のある人だったよね?」

 

 チャーリーがクラーナの方を見ながらそう言った。チャーリーの言う通り、オスカーもあれほど雰囲気のある人物にはそう会ったこともなかった。ダンブルドア先生くらいだろうか?

 

「確かにアズカバンの半分を埋めたって感じの雰囲気はあったわよね、あのグルグル回る眼のせいもあるかもしれないけど」

「それにオスカーへの態度が最初の頃のクラーナそっくりだったの」

 

 確かに最初の頃のクラーナはもっとオスカーに辛らつで、口を開けば闇の魔法使いとか、アズカバンだのヌルメンガードだの言われた記憶がオスカーにはあった。

 

「まあおじさんだし似てるのはしょうがないんじゃないのか?」

「つまりちょっと一緒にいれば、オスカーは伝説の闇払いであるマッドアイも攻略できるってことね」

「相変わらず、トンクスは意味の分からないことを言いますね」

 

 トンクスは夏休みから引き続き、オスカーのことを純血キラーだと言い張りたいらしい。オスカーはよっぽどトンクスの方がマッドアイとの相性が良さそうに見えた。

 

「クラーナがいない夏休みの間にオスカーは着々と純血を攻略してたのよ、ドアの外にいるレアみたいにね」

 

 トンクスが喋りながらコンパートメントのドアを指すと、ドアの向こう側に短い金髪が見えた。

 

「レアと夏休みには会ってないだろ」

 

 オスカーはそう言いながらコンパートメントのドアを開けた。レアは突然ドアが開いたのにびっくりしたのか、眼を丸くしてオスカー達の方を見ていた。オスカーは少しだけ、去年見たよりもレアの髪の毛が伸びている気がした。

 

「あっ、あの…… 先輩方……」

「魔法の練習が云々じゃないのか? 入ればいいだろ」

「あ…… 失礼します……」

 

 レアはおどおどとオスカーの向かい側、トンクスの隣に座った。オスカーはトンクスがニヤニヤ笑っているのを見て、先手を取って黙らせ呪文を唱えた方がいい気がした。

 

「魔法の練習は必要の部屋でやるの?」

 

 エストが期待を込めてオスカーとクラーナの顔を交互にみた。そう言えば一年生の頃の魔法の練習にはエストは参加しておらず、いつも羨ましそうな顔をしていたのをオスカーは思い出した。しかし、オスカーは去年の記憶から余り必要の部屋を使いたくなかった。

 必要の部屋という言葉が出ると、レアは少しビクッと反応し、クラーナは何か考え込んでいるようだった。

 

「なんの魔法を練習するのかによるけど空き教室で十分なんじゃないか?」

「まあ確かに毎回八階に集まるのも面倒ですし、四寮から一番近い位置の空き教室とか、スペースでいいんじゃないですか?」

 

 オスカーとクラーナが揃ってそう言うと、エストはちょっと期待が外れたという顔をした。トンクスはさらにニヤニヤしているようだった。

 

「レアにはオスカーやクラーナ達が一年生の時に練習してた魔法とかを教えるの? できれば僕も無言呪文を勉強したいんだけど」

 

 確かにエストはオスカーに変身術を教える代わりにとオスカーから無言呪文をマスターしていたし、三年生のメンバーではチャーリーが唯一無言呪文をマスターしていないのをオスカーは思い出した。

 

「そんな感じでいいんじゃないか? 少なくとも五年生までの覚える呪文と六年生の技術のはずだしな、ほんとは」

 

 正直、去年度色々あってオスカーの感覚は少しおかしくなっていたが、本来なら三年生でも持て余すような呪文と技術のはずなのだ。

 

「でもそれだけじゃ面白くないの、もっと面白い呪文を勉強しない?」

 

 エストが時折見せる、悪戯っぽい顔をしてそう言った。

 

「なんなのエスト? 面白い呪文って?」

 

 トンクスがさっきからしていたニヤニヤ顔を中断してエストに尋ねた。

 

「守護霊の呪文なの、すっごく古くて難しい魔法なんだけどね、色んな使い道があるし、すごく面白い魔法なの」

 

 守護霊の呪文? オスカーはその呪文を聞いたことがあった。確か一年生の時にお世話になった幻の動物とその生息地に書かれていたはずだ。

 

「守護霊の呪文なんて本気ですか? 昔はそれを使えるってだけでウィゼンガモットに選ばれたなんて言われてる呪文ですよ?」 

「そ…… そんなに凄い呪文なんですか?」

 

 クラーナがそう言うと言うことはそれほど高度な呪文なのだろう、少なくとも魔法界の最高法規を決めるウィゼンガモットに使えるだけで選ばれるというのは、尋常ではないとオスカーも思った。

 

「すごい呪文なの、吸魂鬼を唯一追い払える呪文だし、それに呪文を唱えるのに必要なモノがすごく面白いの」

「必要なモノ? エスト、呪文を唱えるのに必要なモノがあるの? 大抵杖を振るだけだと思うんだけど?」

 

 チャーリーがピンとこないという顔でエストに尋ねた。オスカーもいまいち想像ができなかった。

 

「幸せな記憶ですよ、有体の守護霊、つまりちゃんとした形を持っている守護霊を創り出すには魔法使いの持つ一番幸福な記憶が必要なんです」

 

 クラーナが真剣な顔でそう言った。幸せな記憶? オスカーはそれを聞いてもあまり頭の中にパッとはでてこなかった。

 

「クラーナの言う通りなの、すごく面白いよね? つまり守護霊は魔法使いの持っている幸せの記憶そのものなの」

「幸せの記憶…… いいわね…… それ…… すごく面白いわ⁉」

 

 クラーナとエストの話を聞いて、トンクスはさっきまでのニヤニヤ笑いではなく、何かを思いついた時のような顔をしているとオスカーは思った。

 

「幸せの記憶ですか? あんまりボクには想像できない呪文ですね……」

「トンクス、舞い上がっているところ悪いですけど、恐らく尋常な呪文ではないですよ、人の心や記憶を介在する魔法は他の魔法と比較にならないほど複雑で困難な魔法になるんです」

 

 レアはなにやら俯いて必死に何かを思い出すようにしながらそう言い、クラーナはいつもにまして真剣な表情でそう言った。

 オスカーはクラーナが同様のことを言っていたのを覚えていた。閉心術の練習前に、オスカーにクラーナが説明した時と一緒の表情と声のトーンなのだ。

 

「あら? クラーナは簡単に守護霊の呪文を使えそうだと思ったんだけど違うの?」

「はあ? どういう意味ですか? 人によって簡単に使えるなら高度な呪文なんて言われませんよ」

 

 オスカーはまた嫌な予感がした。トンクスの顔が夏休みで散々みたオスカーをからかうときの顔になっていたからだ。

 

「だって、幸せの記憶は簡単でしょ? オスカーに抱きつかれ……」

「いいでしょう!! 久しぶりに会ったから我慢してましたけど、二度とその口を開けなくしてやります!!」

 

 いつものようにトンクスとクラーナは取っ組み合いを始めてしまった。しかしオスカーはそれを見て、ホグワーツの日常が帰ってきつつあることを感じた。

 



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逆転時計

 オスカー達はレイブンクロー生のコンパートメントに戻ったレアと別れ、セストラルの馬車で城へと向かった。

五人の話題は今年の闇の魔術に対する防衛術の先生は果たして見つかったのか否かということだった。

 

「スネイプ先生は闇の魔術に対する防衛術をやりたがってるんじゃなかったか?」

「そうですね、自分の寮に露骨な依怙贔屓をして、シャンプーをする術を知らない先生は、あの授業をやりたいらしいって聞きますね」

 

 クラーナのスネイプ先生に対する評価は辛らつだった。確かにスネイプ先生はスリザリンを依怙贔屓するし、シャンプーの仕方を知っているかは怪しかった。

 

「もう…… そんなにスネイプ先生は悪い人じゃないはずなの」

「エストやオスカー達には優しいけどね、クィディッチ場の予約とかでも中々凄い手を使ってくるから、僕も擁護できないかな」

 

 グリフィンドールからの評価は最低の様だった。スネイプ先生はまさにスリザリンの教授という感じではあるとオスカーは思った。

 

「まあ私はママがいなくなってほっとしてるけどね、去年は授業中ずっと怒られっぱなしだったわ」

「それは貴方がドジをしまくるからでしょう、グリンデローを教室から逃がして大騒動になってたじゃないですか」

 

 オスカーはトンクスと一緒に闇の魔術に対する防衛術や魔法薬学の授業を受けたくないなと思った。体がいくつあっても足りなさそうだからだ。

 

「ダンブルドア先生は一杯魔法使いの知り合いがいるだろうし、大丈夫なんじゃないかな? エストもなれるんだったら、ホグワーツの先生になってみたいの」

「エストが先生だと変身術が似合いそうね」

 

 確かにエストのイメージは変身術の授業での活躍が大きい気がオスカーもした。マクゴナガル先生は授業での依怙贔屓など絶対にしないだろう先生だが、授業でエストを褒めない日などないからだ。

 

「うーん、変身術はマクゴナガル先生のイメージがあるからね、なんかエストだと厳格なイメージがないからちょっとイメージできないかも」

「確かにあの授業はマクゴナガル先生の前はダンブルドア先生が教えてたらしいですから、グリフィンドールのイメージがありますね」

 

 グリフィンドールの二人はあの授業はグリフィンドールの授業というイメージがあるようだ。オスカーもあんまりエストとマクゴナガル先生を重ねてみるのは難しかった。

 

「変身術はグリフィンドールで、魔法薬学はスリザリン? スネイプ先生の前の先生もスリザリンの寮監だったって聞いたことがあるの」

 

 寮監のイメージがその授業と寮を結び付けている気はオスカーもしていた。変身術はグリフィンドール、魔法薬学はスリザリン、薬草学はハッフルパフ、呪文学はレイブンクローという感じだ。

 

「そう言えば闇の魔術に対する防衛術の先生はスリザリンでその前はグリフィンドールね、じゃあ今年はその二つの寮以外か、またグリフィンドールなのかしら?」

「まず見つけることが重要だと思うけどな」

 

 オスカー達は闇の魔術に対する防衛術の先生が見つかったことを祈りながら、大広間へと向かった。

 

 

 

 大広間にオスカー達が入ろうとすると、マクゴナガル先生が待ち受けていたかのようにオスカー達の前に現れた。

 

「プルウェット、少し来てもらえますか? 少し授業の時間割のことでお話があります」

「マクゴナガル先生? えーっと、わかりました、オスカーちゃんとエストの分の料理をとって置いてなの」

 

 そう言ってエストとマクゴナガル先生は恐らくマクゴナガル先生の部屋の方へと消えていった。

 

「授業の時間割? エストは全部とるとか言ってたけどそのせいなのかしらね?」

「まあそうじゃないか? だって普通に時間割を組むと絶対全部受けられないからな」

 

 四人はそれぞれのテーブルへと向かって行った。

 スリザリンのテーブルについて、オスカーは一応同級生や寮の同室のメンバーに挨拶をされたが、オスカーが血みどろ男爵の傍に座ると誰も寄ってはこなかった。

 

「少年、姫はどうしたのだ? 一緒ではないのか?」

 

 血みどろ男爵が相変わらず銀色の血まみれの青白い顔でオスカーに聞いた。血みどろ男爵は髪飾りの騒動の後、エストとオスカーに優しくなったとオスカーは思っていた。エストには元から優しかった気がしたが。

 

「エストはなんか授業の時間割のことでマクゴナガル先生に呼ばれていったんだけど」

「ああ、なるほど、姫は優秀であるからな、少年、できるだけ姫と同じ時間を過ごすのだぞ」

 

 血みどろ男爵は勝手に納得して、オスカーに忠告した。オスカーは千年の間、ヘレナ・レイブンクローにしでかしたことを悔い続けている血みどろ男爵が時間と言うと、なにやら重く聞こえた気がした。

 そうこうしている間に大広間の中心に組み分け帽子が置かれ、組み分けが始まろうとしていた。

 いつもマクゴナガル先生が組み分けをする一年生を呼んでいたと思ったのだが、今年はフリットウィック先生だった。

 幾人かの新入生がフリットウィック先生のキーキー声で呼ばれて、組み分けされていった。

 今年の新入生は去年度と同じく、オスカーの年のエストのような長いこと組み分けがされない新入生はいなかった。

 

「ああ!! 組み分けに間に合わなかったの、ちょっと男爵詰めて欲しいの」

 

 後ろからエストの声が聞えた。エストはなにやら走ってきたようで、男爵を押しのけて(ゴーストを押しのけることができるかどうかは難しいが)オスカーの隣に座った。

 組み分けが終わり、ダンブルドア先生がたち上がって、話を始めた。

 相変わらずダンブルドア先生の顔は慈悲深い笑顔で覆われていたが、オスカーは去年度感じたダンブルドア先生のあのとんでもないエネルギーをどこか感じる気がした。

 ダンブルドア先生を見ることでオスカーはホグワーツに帰ってきたことを実感した。

 

「おめでとう! 新学期おめでとう! 新入生の皆はようこそホグワーツへ! そして在校生の皆はおかえりじゃ、今年もホグワーツでの一年が始まる」

 

 オスカーはダンブルドア先生の隣に見たことがない人物がいることに気付いた。ダンブルドア先生やミュリエルおばさんと同じくらい年を取っている人物に見える。

 エストもその人物に気付いたようだった。

 

「また今学期、新しい先生を迎えることになった。闇の魔術に対する防衛術の先生を見つけることは年々難しくなっておるから、ありがたいことじゃ」

 

 そうダンブルドア先生が言うと、その人物が立ち上がった。長身のダンブルドア先生よりも背が低く、白髪が頭の周りを取り囲んでおり、まるでタンポポの綿毛のようだった。

 

「わしの旧友でもある。エルファイアス・ドージ先生じゃ」

 

 オスカーはその名前に憶えがあった。ミュリエルおばさんがダンブルドア先生にとって、唯一ともだちと呼べるだろうと言っていた人物だ。

 

「ミュリエルおばさんの話によくでてくる人なの、おばさんはクラーナがトンクスにドジとかアホとか言うのと同じくらい、あの人のことをドジのドージって呼んでたの」

 

 やはりオスカーの記憶には間違いがないようだ。オスカーはちょっとだけトンクスが闇の魔術に対する防衛術の先生をやっているのを想像し、人狼を檻から逃がすトンクスの姿が頭の中に浮かんだので、考えるのを辞めた。

 

「ああ、この度は私のような人物を迎えていただきありがとう。どうか一年間よろしく」

 

 ドージ先生は、ゼイゼイとした高い声でダンブルドア先生からの紹介に答えた。

 グリフィンドールからひと際大きな拍手が上がったようだ。

 

「さあ、これでお話は終わりじゃ、宴の始まりじゃ」

 

 ダンブルドア先生がそう言うと、金の皿とゴブレットに食べ物と飲み物が一杯になった。

 オスカーはお腹が減っていたことに気付いた。

 

「エスト、マクゴナガル先生との話は大丈夫だったのか?」

「うん、大丈夫だよ、授業を全部取るにはちょっとだけ魔法が必要なんだけどね、成績は大丈夫だろうけど、クィディッチチームをやりながらやるのは大丈夫? ってマクゴナガル先生が心配してたの」

「結構きついんじゃないのか?」

 

 確かにエストはスリザリンクィディッチチームのシーカーなので、ただでさえ負担が多いのだ。

 

「多分大丈夫なの、マクゴナガル先生に特別措置っていうのを貰ったし、それに昔スリザリン生でクィディッチチームをやりながら、イモリ試験で全部の最高成績を取った人がいたんだって」

「特別措置?」

 

 そんな超人がスリザリンにいたのなら、魔法省の高官か闇払いにでもなっているのだろうか? それにオスカーはエストの言う特別措置が少し気になった。エストは首から下げてあり、制服の胸のところに隠れて見えない何かを触った。

 

「うーんとね、オスカーにも秘密なの、マクゴナガル先生に言っちゃダメって言われたから」

「まあマクゴナガル先生が言うんなら言わない方がいいんだろうな」

 

 マクゴナガル先生は少なくとも生徒にウソを言う先生ではないし、生徒達のことを考えてくれる先生だ。オスカーは去年の経験からそう思っていた。

 

「新しい授業もあるし、みんなで魔法の練習をするっていうのはけっこう難しいかもな」

「確かに難しいの、クィディッチの練習も授業も寮が違うと時間も違うの、うーん皆が特別措置をして貰えれば簡単に合わせれるのに……」

 

 エストはまた胸元の何かを掴んで考え込んでいるという顔だ。

 

「それに時間を決めるのもみんなで集まらないといけないから難しいね、何か方法を考えようかな?」

「方法?」

 

 オスカーも毎回練習の時間を決めるために集まったり、一回目以降は練習の後に時間を決めたとしても、誰かが何かの理由でこれなくなった場合にそれを確認するのは難儀なことだと思っていた。

 

「うん、忍び地図の時に変幻自在呪文のことを話してたよね?」

「死喰い人の闇の印がどうのこうのとか、ロウェナ・レイブンクローが創ったとかなんとかだったか?」

「そうなの、あの呪文をかけた何かと忍び地図があれば簡単に集まれると思うの」

 

 確かにあの闇の印は人を集める方法としては非常に優秀な様に思えた。少なくとも持ち物の検査をしたりしても分からないし、誰かが見てもどこに集まるかだとか、いつ集まるのかが分からないからだ。

 しかし、オスカー達は別に非合法な活動や、校則に反することをやろうとしているわけではないので、そこまで高度な方法で集める時刻や場所を伝えるものが必要なのかとオスカーは思った。

 

「よくわからないけど、そんなに大層なものが必要なのか?」

「もう…… オスカーはわかってないの、エストはああいう魔法の道具とかを作ってみたいの、あと忍び地図も卒業までにちょっといじってみたいと思ってたの」

 

 確かにエストが色んな魔法をかけられている道具が好きなことは嫌なほどオスカーは知っていた。去年度はそれがこうじてとんでもないことになったのだから。

 

「だからね、何か時間を表わせるものに変幻自在呪文をかければいいと思うの、そしたらだれかの時間に合わせてみんなの時間が変化するの」

 

 オスカーはエストがそう言うのを聞いて、さっき血みどろ男爵が言っていたことを思い出した。エストとできるだけ同じ時間を過ごせと男爵は言っていたのだった。

 エストはできるだけみんなの時間を取りたいのだろう。オスカーはそう思うと何かアイデアを出したくなった。

 

「呪文をかけるんなら、生徒が持っててもおかしくないものがいいだろうな、大鍋、教科書、羽ペン、お金、杖……」

 

 オスカーはホグワーツ入学時のふくろう便に書かれていた物品を思い出した。これらのどれかなら闇の印と同じく検査されても問題ないだろうからだ。

 

「ガリオン金貨なら時間は数字で表示できるけど、場所が難しいの……」

 

 オスカーにはガリオン金貨が良い案に思えたのだが、確かに場所の表示は難しいだろう。

 

「じゃあやっぱり忍び地図みたいに普段は羊皮紙とかの方が良いんだろうな、文字でいくらでも伝えられるわけだし」

 

 忍び地図の隠匿性はオスカーからみても完璧に思えた。正直、どうやってフィルチが悪戯仕掛人たちからこれを取り上げたのか想像がつかなかったからだ。

 

「確かに羊皮紙…… あっ!! 教科書の一ページを忍び地図の写しに変えればいいの!!」

「忍び地図の写し? そんなことができるのか?」

 

 そんなことができればすごく便利だとオスカーは思った。忍び地図があれば先生やフィルチを避けることができ、夜中まで外にでていても捕まる心配がないし、だれかに会いにいくときも凄く便利だからだ。これも去年、オスカーは身に染みるほど味わっていた。

 

「できるはずなの、変幻自在呪文を使えば元の何かに合わせて他の何かを変化させれるはずなの」

「それなら遅くまで練習してもフィルチに捕まらなくてすむな、トンクスがドジをやらかしても大丈夫だ」

 

 オスカーはフィルチの部屋に入るのはもう御免だった。

 

「守護霊の呪文も面白そうだし、今年も色々楽しそうなの」

 

 オスカーはそう言って夕食を頬張るエストを見ながら、去年度のような大騒動にならないことを祈った。

 

 



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動物もどき

お久しぶりです。三章が大幅に改稿されています。パースとジェマは来年送りになりました。


 ホグワーツでの日々が始まった。スリザリンの最初の授業は占い学だったので、オスカーとエストは去年灰色のレディに会った塔を登っていた。

 

「トレローニー先生は本物の予見者なのかな?」

「なんか有名な人のひ孫なんだろ? あれひひ孫だったか?」

 

 確かオスカー達が指定された教科書の一つの著者がトレローニー先生と同じ苗字だったはずなのだ。しかし、オスカーはエストと一緒に教科書を読んでみたが、さっぱり意味が分からなかった。

 エストでさえ理解できないようで、二人で読み合ってもオスカーは先週死んでいることになっていたり、ホグワーツに地下鉄が来週激突するなんて占いしか二人にはできなかった。

 

「予見者は予見するときはほとんど何も覚えてなかったりするって聞いたけど、そんなのを教えられるのかな?」

「百個くらい占っとけば一つくらい当たるんだろ」

 

 正直オスカーはあんまり占い学に期待していなかった。これから来る未来が分かっていればなんとかできるかもしれないが、もし決まっていて、変えることができないのなら知る意味などない気がしたからだ。

 

「うーん…… 特別措置も神秘部だし…… 予見も神秘部って書いてあったし…… やっぱりほんとの予見もあるのかな……」

 

 エストはなにやらぶつぶつ言って考え事モードだった。オスカーはこうなると人の話をエストが聞かなくなるのを知っていたので、取りあえず塔を登ることにした。

 前回あったガドガン卿が前のスリザリン生に絡んでいたので、オスカーはエストをつれて横を通り抜けていくことにした。ガドガン卿の相手をするのは双子とトンクスの相手をすることの二倍くらい体力がいることだと知っていたからだ。

 オスカーとエストが踊り場まで着くとスリザリンの生徒達がそこに集まっていた。踊り場の天井には跳ね扉があるようだった。あそこが占い学の教室なのだろうか? オスカーは他の教室と違い、なにやら雰囲気にこだわっている気がした。

 

「あの扉が教室なの? シビル・トレローニー先生って書いてあるね」

 

 エストがそう言うやいなや、銀色のはしごがオスカーとエストの前に降りてきた。オスカーはしょうがないのでみんなに率先して登ることにした。

 部屋の中に入って最初に感じたのはとにかく暑苦しいことだった。オスカーが部屋の中を見回すと暖炉の上に巨大なやかんが乗っていて、何か気分が悪くなるくらいの匂い、紅茶を無理やり濃くしたような匂いと蒸気が立ち上っていた。

 それに部屋の中は何故か深紅の薄明りで満たされていて、窓は全てカーテンで閉め切られていた。オスカーは部屋の中の息苦しさからカーテンを開けて深呼吸したい衝動に駆られそうになっていた。

 

「この部屋暑いの、それにトレローニー先生はどこなの?」

 

 エストがローブをパタパタしながら部屋の中を見回した。後ろのスリザリン生たちも二人の周りに集まって先生を探した。

 

「占い学へようこそ…… おかけなさい…… 子供たちよさあ」

 

 教室の奥の暗い場所から消え失せてしまいそうな声がした。オスカーは最初にあったころのクラーナが油断大敵!! と言うときの、芝居がかっているようなそんな印象を声から受けた。 

 トレローニー先生はひょろひょろした痩身の女性だった。大きな眼鏡のせいで先生の眼が何倍も大きく見え、オスカーは昆虫のようだと思った。オスカーたちは小さな丸テーブルの周りに置いてあるクッション付きの丸椅子に座った。

 

「皆さまがお選びになった占い学は魔法の学問の中でも最も難しい学問です…… 初めにお断りしますと、内なる目の備わっていない人はこの学問を学んでも無駄だということです……」

 

 相変わらずトレローニー先生が神秘がかった声、オスカーが座って冷静に聞くとやっぱり芝居がかって聞こえる声で授業の説明を始めた。

 

「書物はこの学問のある一定の場所までしか教えません…… 限られたものに与えられる天分が無ければ、どんなに優秀な魔法使い、魔女でも未来という神秘のベールを払うことはできないのです……」

 

 正直なところオスカーはあんまりこの先生のことや占い学を本気にしていなかった。占い学が発達していれば、クィディッチでの賭けは一切成立しないだろうからだ。クィディッチの勝敗が占えるのならもっと多くの生徒が占い学を選択するだろうとオスカーは思った。

 それに、目の前のエストの眼がいつもの授業中の楽しそうな眼ではなく、何か疑っているような眼になっていて、オスカーはあんまりいい予感はしなかった。

 その後、トレローニー先生は数人の生徒になにか不穏な予言、ペットは大丈夫かだとか、おじいさんは元気なのかとか聞いていた。オスカーはやっぱりこの先生は怪しいと思った。そもそも不穏な予言が当たるのなら、もっと慎重に喋ると思ったからだ。

 

「さあ皆さん、未来の霧を晴らすの五ページ、六ページを開いてお茶の模様を見てみましょう…… わたしも皆さんにまじって未来の霧を晴らすお手つだいをして回りましょう……」

 

 オスカーとエストは教科書、未来の霧を晴らすの指定されたページをめくって、書いてある通りに紅茶を飲んだり回したりして、その後のお茶っぱを見てみた。

 残念ながらオスカーの未来の霧は一向に晴れそうになかった。

 

「オスカー、エストのお茶になんか見える?」

「エストの顔が見える」

「それは写ってるだけなの」

 

 オスカーは暑苦しい教室の空気と紅茶の甘ったるい匂いで頭がぼうっとなりながら、紅茶に写るエストの眼が、やっぱりミュリエルおばさんに似ているなと思っていた。

 

「じゃあ今度はオスカーのお茶を見てみるの」

 

 エストがじっとオスカーの前に置いてある紅茶を見つめた。エストのローブの間から鎖につながれたガラス細工のようなものが一瞬、教室の紅い光を反射した。

 

「うーん…… 黒い服に山高帽みたいに見えるの…… あと杖みたいなのも見える気がすするの……」

 

 オスカーも紅茶を見てみたが、せいぜいおっきいどんぐりとでかい棒のようにしか見えなかった。オスカーが見ている間にお茶っぱは動き、今度はどこかブラッジャーに落とされて主を無くした箒のように見えた。

 

「うーん、クラーナになんか起こるのかな?」

「黒い服と杖からしか連想してないだろそれ」

 

 するといつの間にかトレローニー先生が二人の傍にきて、紅茶をのぞき込んでいた。オスカーには紅茶に写ったトレローニー先生の眼鏡とお茶っぱが合わさって、黒いコガネムシの様に見えた。

 

「斧…… 攻撃…… 余り幸せなカップではないようね……」

 

 トレローニー先生がさっきよりもさらに芝居がかった、霞むような声でそう言った。オスカーは最近幸せとか幸福なんて単語をよく聞く気がした。

 オスカーはトレローニー先生が何を言うかよりも、疑いというよりかはちょっと攻撃的にすら見えるエストの眼の方が心配だった。

 

「別にそんな物騒なモノには見えないの、トレローニー先生の眼鏡が映ってるだけなの」

「おやこれは羽? おお…… 不幸な現実から逃げられる可能性があるかもしれない……」

 

 エストの言動を完全に無視してトレローニー先生は予言を続けた。オスカーはちょっとだけ希望を持たすのは一気に絶望へ叩き落とす前振りのような気がした。

 トレローニー先生は紅茶のカップを二回回してもう一度お茶っぱを見て、目をつむり、息を呑んだ後に悲鳴を上げた。

 

「ああ、なんてこと…… 可哀想な子ね…… 聞かないほうがよろしいわ……」

 

 トレローニー先生が心底気の毒そうにオスカーの方を見た。クラス中の視線がオスカーに集まっているのがオスカー自身にもわかった。エストの眼がますます冷めて攻撃的になっている気がした。

 

「もったいぶらないで言えばいいの」

 

 エストが冷たく言い放っている間に他のスリザリン生がオスカーの紅茶をのぞき込んで、なにやら何か見えるとか談義し始めた。残念ながらオスカーにはせいぜい翼がないトンボくらいにしか見えなかった。トンボの眼の部分はトレローニー先生の眼鏡だ。

 

「あなた、これはセストラルですよ…… セストラル…… 死の象徴です……」

 

 なるほど、オスカーは納得した。さっきの羽はやっぱりあげて落とすためのふりだったようなのだ。トレローニー先生は今にも死にそうな病人を見るような眼でオスカーを見つめていたが、オスカーは隣のエストの方が怖かった。クラスの皆はオスカーを気の毒そうな眼で見ていた。

 

「セストラルなんかホグワーツに一杯いるの」

「これは死の予告ですよ…… 気をつけることね……」

 

 トレローニー先生はオスカーとエスト以外のスリザリン生の反応に満足したようだった。しかし、エストは納得が行かない様だった。

 

「どう見たってセストラルには見えないの」

 

 今度はトレローニー先生の目の前に立ってそう言い放った。オスカーはしばらく忘れていたが、エストはやる時はクラーナより過激な行動にでるのだ。

 トレローニー先生はエストを眼鏡で大きく見える目でじろっと見た。先生はせっかく作った神秘的な雰囲気を壊されて機嫌を損ねたように見えた。

 

「こんなことを言ってごめんあそばせ。あなたにはほとんど特別な天分と言うものを感じませんのよ」

 

 オスカーは久しぶりにエストが怒っているのを見た気がした。それまでは冷めていた眼がギラギラと紅く光っている気がしたのだ。

 

「特別な天分を持ってるなら、本当に予見できるなら人が死ぬのなんて簡単にいうべきじゃないと思うの」

 

 エストはトレローニー先生との距離を一歩詰めて、息の届きそうな距離でそう言い放った。トレローニー先生は嫌そうな顔をして、エストから目を逸らした。

 

「今日の授業はここまでにしましょう。皆さん、カップをここに返してくださるかしら」

 

 トレローニー先生はエストをいないものとして扱って、クラスのみんなにさっき配った紅茶のカップを回収し始めた。オスカー達スリザリン生はみんな先生にカップを返して、教科書をカバンにしまったが、エストはその間もずっと、トレローニー先生を睨みつけていた。

 

「また会う時まで…… あなた方が幸運でありますように……」

 

 オスカーはエストが動こうとしないので、無理やり引っ張ってはしごを降りることになった。オスカーにはエストが相当おかんむりなことが分かっていた。

 次の授業はエストお得意の変身術だったので、オスカーはそれで機嫌が直らないかなと淡い期待を抱きながら、塔の階段を下りて行った。途中でガドガン卿がこっちに構おうとしてきたが、エストが睨むとガドガン卿のポニーが怯えて逃げてしまい、乗っていたガドガン卿もそのままどこかの肖像画へ消えていった。

 

「あの先生はクソなの」

 

 オスカーはエストの口からそんな言葉が出るのは初めて聞いた。ほとんどの人間に対してエストが厳しいことや罵ることを言うのをオスカーは聞いたことがなかった。

 まして、ホグワーツの先生に対してはどの先生に対してもエストが敬意を持っていることは言葉の節々からオスカーは感じていたので、オスカーにとって結構な驚きだった。

 

「まああれだろ、占い学は雰囲気を楽しむものなんだろ」

「オスカーは死なないし、多分あの先生はペテン野郎なの」

 

 そりゃ自分もいつかは死ぬだろうと思ったし、そもそもトレローニー先生は野郎ではないとオスカーは思ったが、口を挟まないことにした。一通り吐き出してもらった方がいい気がしたのだ。

 

「自分が特別だって思ってるんならあんなふうに適当なことをいって……」

「痴話げんかですか? 廊下の端までエストの声が聞こえてますよ」

「エストが怒ってるのは珍しいね」

 

 廊下の角から顔を出したのはクラーナとチャーリーだった。その後ろにはグリフィンドール生の姿が見えるので、今授業が終わったところなのだろう。

 

「もう…… 占い学の授業がひどかっただけなの」

「僕たちも今から占い学を受けに行くところなんだけど、そんなにひどいの?」

「取りあえず俺には死の予兆が見えてるらしいから、龍痘にかかった人と同じくらい思いやってくれ」

 

 オスカーがそう言うと、三人は笑った。

 

「グリフィンドールはなんの授業だったんだ?」

「変身術だよ、マクゴナガル先生がすごいのを見せてくれたよ」

 

 といってチャーリーが横目でクラーナの方を見ながら言った。オスカーはその目配せの意味は分からなかった。

 

「エスト達も今から変身術なの、すごいのってなんなの?」

「そうですね、見たらわかると思いますよ、ええ」

 

 クラーナももったいつけて、それがなんなのか教えてはくれなかった。それにオスカーはクラーナの元気がいつもよりない気がした。エストが怒っていたのと対比してみているからなのか、それともチャーリーの目配せがあったからなのかはわからないが、そんな気がしたのだ。

 

「そうなの? じゃあ楽しみにしとくの」

「まあ二人とも死の宣告をされないように気を付けてくれ」

 

 オスカーはエストの機嫌が変身術の授業で直ることを期待して、教室へと向かった。

 変身術の教室に入ると、すでに座っていたスリザリン生達がオスカーとエストの方に視線を集めた。しかし、エストがもう怒っていないのを見て、スリザリン生の視線はオスカーに対する可哀想な目に変わったようだった。

 はたしてその視線の意味が、死の予兆をトレローニー先生に予言されたことなのか、それとも怒れるエストの相手をさせられたことなのかはオスカーにはわからなかった。

 マクゴナガル先生が入ってきて、授業が始まった。少なくとも、マクゴナガル先生はオスカーに死の予兆が見えると言って、宿題を免除してくれたりしなさそうなことはその顔をみただけでも分かった。

 

「今日の授業は人の動物への変身を扱います、もちろん、あなた方が今日変身するわけではありません。変身術の一例として、それを知識に入れてもらいます」

 

 マクゴナガル先生が板書を書きながら、どのような手段で人から動物への変身が可能なのかについて説明していった。そしてその中の一つが動物もどき、つまりアニメーガスだった。

 

「誰か動物もどきについて説明できる人はいますか?」

 

 マクゴナガル先生が厳格そうな顔で教室を見回した。いつも通り隣のエストの手が挙げられる。

 

「ではミス・プルウェット、お願いします」

「はい、動物もどきは魔法使いや魔女が動物に変身する能力です。その特徴は変身術や魔法薬を使用した変身は杖や薬が必要なことに対して、動物もどきはそれらの必要性がないことです。それと動物もどきが変身できる動物はその人の内的要因で決定されていて、特定の動物にしか変身できないことです。そして非常に困難で珍しい能力として知られています。現に今世紀イギリス魔法省に登録された動物もどきは八人しかいません」

 

 いつものエストの気の抜けた喋り方とは違う、理路整然とした説明が聞えた。オスカーはいつものエストの説明よりさらに力が入っている気がした。それは何かを期待しているようでもあった。

 

「ミス・プルウェット、完璧な説明です。スリザリンに五点与えます」

 

 マクゴナガル先生が杖を振って教室の前の方の机や椅子をどけ、スペースをつくった。

 

「動物もどきは杖を使わない非常に希少な能力の一つです。非常に複雑な方法の変身なので、まかり間違えば使用者は非常に残酷で不可逆な状態に陥ります。そして、動物の能力を魔法使いの思考を保ったまま使用できる強力な能力です」

 

 マクゴナガル先生が杖を教卓に置いてみんなの方を向いた。クラスの皆の視線がマクゴナガル先生に集まり、ポンという音がしたと思うと、教卓の上に先生の眼鏡と同じ模様が目の周りにあるトラ猫が教卓に鎮座していた。

 トラ猫は前足で顔を洗う様な仕草をしたり、教卓の上を歩き回ったがその動作の一つ一つにどこかマクゴナガル先生の面影が感じられたし、その眼からはマクゴナガル先生の厳格な雰囲気がでていた。

 またポンという音をしてトラ猫の姿が消え、マクゴナガル先生が現れた。スリザリン生たちもこれには拍手をしたし、オスカーも拍手した。

 

「みんな拍手をありがとう。これが魔法省が動物もどきを厳しく規制する理由です。私は猫ですが、最初の動物もどきはハヤブサに変身することができましたし、逃亡や潜入といったことにも悪用することが可能なのです」

 

 確かに杖なしで動物に変身するというのは逃げるのに非常に役立ちそうだとオスカーも思った。それこそハヤブサに変身した魔法使いなんて捕まえるのはほぼ不可能だろう。

 

「凄いの、動物もどきはほんとに数えるくらいしかいないはずなの」

 

 オスカーはエストが占い学のことをすっかり忘れているようだったので、少し安心した。

 

「では他手段での人から動物への変身へ戻りましょう。動物もどきにならなくても体の一部分を変身させるだけでも十分な効果を発揮する場合が……」

 

 マクゴナガル先生の真面目な授業はその後も続いた。オスカーは多少厳しい授業でも、トレローニー先生のあの暑苦しい授業より何倍もマシだと思った。

 変身術の授業が終わって、オスカー達は魔法の練習の予定を立てるため、空き教室へと向かっていた。朝食の時にみんなに声をかけていたのだ。

 

「動物もどきになる方法ってマクゴナガル先生に聞いたら教えてくれるのかな?」

「間違ったら大変なことになるんだろ? 高学年にならないとダメじゃないのか?」

「うーん…… 確かに…… クラーナに聞いてみようなかな……」

 

 クラーナはエストほど変身術に精通していなかったはずなので、あんまり聞いても無駄な気がオスカーはした。よくわからない反対呪文とか、闇の生物の殺し方とか、死喰い人の特徴とかなら聞かなくても教えてくれそうなものなのだが。

 

「忍び地図と教科書がどうのこうのはどうなったんだ?」

「あっそれはもうできてるの」

「じゃあ今日みんなに言うのか?」

「うん、これでみんなすぐに集まれるようになるはずなの」

 

 今年の組み分け時に話をしていた忍びの地図を写して表示するとかなんとかは、もうどうにかなってしまったらしい。忍びの地図が増えるとフィルチの仕事量が大変なことになりそうだとオスカーは思った。

 

「クラーナがもう来てるといいんだけど……」

 

 エストがそう言うのを聞いて、オスカーは少し元気がなさそうだったクラーナの顔を思い浮かべた。

 



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守護霊の呪文

うーん幻の動物を狩りにいきたい


 

 オスカーとエストが空き教室につくと、すでにクラーナ、チャーリー、レアの三人が部屋にいて、あとはトンクスだけのようだった。

 

「占い学はクソですね」

 

 クラーナが出し抜けにそういった。どうやらクラーナもトレローニー先生に絡まれたようだ。

 

「クラーナにはグリムが取り付いているらしいよ」

「グリムってビリウスおじさんが見たって言ってた犬のこと?」

「そうだよ、まあほんとにいるかは怪しいらしいけどね」

 

 エストとチャーリーがグリムについて話している。グリム…… オスカーもその名前は知っている。確か墓場に現れる犬のことで、見たら死んでしまうとかそんな感じだったはずだ。

 

「よかったな、俺のセストラルより強そうだ」

「なんで取り憑かれている悪霊みたいなので勝負しないといけないんですか?」

「悪霊を戦わせれば片方は生き残るんじゃないか?」

「それだと私が死んじゃうじゃないですか」

 

 確かに、実際に見たことのあるセストラルよりも、グリムの方が強そうではあるとオスカーも思った。

 

「エスト、さっき言ってた地図がどうのこうのをした方がいいんじゃないか?」

「あっ! そうなの、まだトンクスが来てないけど先に配っておくね」

 

 エストはカバンから数枚の羊皮紙を取り出した。何も書かれていない真っ白な羊皮紙だ。それをみんなに配って歩いた。

 

「これは…… なんですか? 羊皮紙?」

 

 レアが頭をひねりながら羊皮紙をひっくり返したり、日の光に透けさしたりしている。

 

「この状態だとただの羊皮紙なの、クラーナ、なんか呪文で秘密を暴けないかためしてくれる?」

「いいんですか? スペシアリス・レベリオ! 化けの皮剥がれよ! アパレシウム! 現れよ!」

 

 クラーナが羊皮紙に呪文を唱えたが、羊皮紙はただの羊皮紙のままだった。

 

「うん、この状態なら何も反応しないはずなの」

「それで、この羊皮紙はなんなのエスト? 忍び地図のコピー?」

 

 チャーリーが手で羊皮紙を弄びながらエストに尋ねた。

 

「うーんとね、教科書を出してくれる?」

 

 みんながそれぞれ違う教科書を取り出して、机の上に置く。変身術入門、魔法史、未来の霧を晴らす、幻の動物とその生息地…… 全部違う教科書だった。

 

「で、好きなページを選んでこの羊皮紙を差し込むの」

 エストが魔法史の教科書に羊皮紙を差し込むと、羊皮紙は最初から教科書の一部だったようにページをコピーして、教科書の一ページの振りをしている。横からでも悪人ラブロックだかボドロックだかの血生臭い歴史を途切れることなく読むことができている。

 

「教科書の一ページのふりをするってことですか?」

「まだあるの、オスカー、忍びの地図を開いてくれる?」

 

 オスカーはポケットから忍び地図を取り出した。そう言えば、オスカーはレアの前で忍びの地図を使ったことはあるが、ちゃんと説明したことは無い気がした。

 

「我、よからぬことをたくらむものなり」

 

 羊皮紙を縦横無尽にインクが駆け巡り、ホグワーツ全体の地図が表示される。すると、忍びの地図の動きに合わせてオスカー達の教科書にも地図が表示された。

 

「すごい…… これって教科書が地図になっちゃったんですか?」

 

 レアが自分の変身術入門を閉じたり、地図上で自分の名前を見つけたりしながら感心した風に言った。

 

「うーん、それは違うの、あくまで忍びの地図に合わせて教科書を変幻自在呪文で変えてるだけなの」

「忍びの地図本体が動いてないと写しは動かないってことですか?」

「そうなの、ホムンクルスの術をかけた羊皮紙を短期間に六枚も用意できそうになかったから、取りあえずこうしてみたの」

 

 オスカーも自分の未来の霧を晴らすに表示されている地図を手に取って見てみたが、忍びの地図と寸分違わぬもののようだった。

 

「これで、遅くなってもフィルチに会わずに寮に帰れるわけだ」

「一番必要なトンクスがいませんけどね」

「忍びの地図にもちょっとだけ仕掛けを加えたの」

 

 エストはそう言うと、羽ペンをローブのポケットから取り出して、忍びの地図に何かを書き足した。するとオスカーの持っていた教科書が少し熱くなり、地図の上にエストが書き足したであろう日時が表示されている。

 

「わっ…… ちょっと熱くなるんですね、これ」

「ほんとだね、何か書き足したらわかるわけだね」

 

 教科書を同じように持っていた二人にも熱は確認できたようだった。

 

「そうなの、で、消したいときは杖を向ければそれで終わりなの」

 

 エストが杖を振ると忍びの地図に書き足された内容はスッと消え、それに合わせてみんなの教科書の表示も消えた。

 

「でね、忍びの地図をオスカーかクラーナが持っていればいいと思うの、二人はクィディッチチームがないから、一番来やすいと思うし」

「普通にオスカーが持っていればいいんじゃないですか? 一番使いなれてそうですし、まあフィルチにマークされてるのはいただけませんけど」

「マークされているのは俺のせいじゃないと思うんだけどな」

 

 オスカーは明らかにフィルチにマークされていた。どうも書類を燃やして証拠を隠滅したことがばれているらしい。

 

「いかがわしい計画もそこまでよ、神妙にするのね」

 

 トンクスが教室のドアを音を立てて開けながら言った。しかし、あんまり勢いよく開けたのでドアは跳ね返って閉まってしまった。オスカーは年々トンクスのドジがひどくなっている気がした。

 

「なんなんですか騒がしいですね」

 

 クラーナがドアを杖で勢いよく開けると、風船ガムのようなピンク色の髪をしたトンクスと新入生の挨拶で見た、闇の魔術に対する防衛術の先生、エルファイアス・ドージ先生がニコニコしながら立っていた。オスカーは反射的に忍びの地図をローブに閉まった。

 

「ふっふっふ…… 守護霊の呪文はすっごっく難しいって、エストもクラーナも言ってたでしょ? だから、おじいちゃん先生を連れてきたわけよ」

 

 オスカーは最近、トンクスの髪の色が彼女の感情を大まかに表していることに気付いた。風船ガムのようなショッキングピンクはオスカーの推理ではそうとうなご機嫌状態だった。

 どうもトンクスは一年の時のポドモア先生の先例にならって、ドージ先生を連れてきたらしい。オスカーはエストの言っていた通りに、ドージ先生がほんとにドジなら、ドジが二乗でとんでもないことになるなと思った。

 

「やあやあ、私はエルファイアス・ドージだ。トンクス君以外の授業はまだだろうから、自己紹介をさせて貰おう」

 

 ドージ先生が高いぜえぜえと聞こえる声でそう言った。

 

「君たちのことはトンクス君やアルバスから聞いている。ウィーズリー君、ムーディ君、マッキノン君、プルウェット君、ドロホフ君だね? トンクス君からは守護霊の呪文を教えて欲しいということと、もう一つお願いを受けている」

 

 ドージ先生は先生から見て左側から、オスカー達を見回した。そして、どうもトンクスがまだ何か企んでいるようだとオスカーにも分かった。ショッキングピンクの髪にニヤニヤした顔をしている時は、注意した方がいいとオスカーには分かっていた。

 

「守護霊の呪文を使うには幸せな記憶がいるんでしょ? それに今日の授業でケトルバーン先生に会ってピンときたのよ」

 

 トンクスがみんなの前にでてそう言った。髪の色がピンクからどこか赤くなりつつあった。

 

「ケトルバーン先生が守護霊の呪文と何か関係があるんですか? あの先生は魔法生物飼学の先生でしょう?」

 

 クラーナはピンとこないようだったが、オスカー達、WADA(魔法演劇アカデミー)に行ったメンバーはトンクスが何がいいたいのかだいたい分かっていた。

 トンクスはクラーナに向けて分かっていないとばかりに指を振った。

 

「クラーナが見損ねたWADAの演目はなんだったと思う?」

「はあ? 劇の演目ですか? バビティ兎ちゃんとか汚れたヤギのブツブツ君ですか?」

「センスがないわねクラーナ、私たちが見たのは豊かな幸運の泉よ」

 

 一瞬、空き教室には沈黙が流れた。

 

「はっきり言って全く話の流れが読めないですよ、トンクス」

 

 クラーナは分からないとばかりに首を振った。オスカーにはトンクスがなにをいいたくて、なにがしたいのかだいたい分かっていた。

 

「だから簡単な話よ、豊かな幸運の泉で最後の試練を破るのは幸せな記憶でしょ? 守護霊の呪文に必要なのも幸せの記憶じゃないの、つまりそういうことよ」

「劇に守護霊の呪文を使うってことですか? あんまり努力するべき場所じゃないと思いますけど……」

「違うわよ、守護霊の呪文を覚えて、劇も私達でやって、最後にカッコよく守護霊の呪文を決めるわけよ」

 

 クラーナは完全にこいつはバカだという冷めた目でトンクスを見ていた。トンクスの髪の毛はあんまりにもクラーナの反応が悪いせいか、ショッキングピンクから紫色に染まりつつあった。

 

「あの…… トンクス先輩、ホグワーツでは劇は禁止じゃないんですか? ボク、去年読んだ、改訂ホグワーツの歴史でそう書いてあったのを覚えてるんですけど……」

「さすがレイブンクロー、本を読み漁っている寮なだけなことはあるわね、レア、でも禁止したのはディペット校長で、今の校長はダンブルドア先生よ」

 

 なぜかレイブンクローを小馬鹿にしながら、トンクスが言った。オスカーは未だにハッフルパフだけ、特別功労賞をもらい損ねたことをトンクスが根に持っているのではないかと思った。トンクスの髪色はショッキングピンクに戻り始めていた。

 

「そして、このおじいちゃん先生こと、ドージ先生はダンブルドア先生の親友でもあり、ウィゼンガモットの一員でもあるすごい人よ、つまりこの先生に言ってもらえばケトルバーン先生が大講堂を全焼させたこともチャラってことよ」

 

 みんなの注目がドージ先生の方に集まった。なるほど、確かにダンブルドア先生の親友で偉い立場の人から説得してもらえれば、ホグワーツで劇をすることも可能なのかもしれない。そういう点でオスカーからみても、ドージ先生はおあつらえ向きの存在の様に思えた。

 

「トンクス、劇をするのはおもしろそうだと思うけど、エスト達だけでやるの? 豊かな幸運の泉はそんなに登場人物は多くないけど、演出とか大道具とかエスト達だけじゃできないと思うんだけど?」

「大丈夫よ、エスト、大道具とか動物とかはすでにケトルバーン先生とハグリッドにお願いしてきたし、演出も時々、WADAで教えていたチョーリー先生からふくろう便を貰えるようにおじいちゃん先生に掛け合ってもらってるわ」

 

 まだ今学期の授業は始まったばかりのはずなのだが、トンクスはどうやって短時間でこれほど手を回したのだろうか? オスカーは色々不思議だった。

 

「いいね、それ、大講堂でやらなければ肥らせ呪文を使った、アッシュワインダーだって使えそうだし…… 三年生じゃ触らして貰えない魔法生物もケトルバーン先生やハグリッドと一緒なら……」

 

 チャーリーは劇ではなく、魔法生物の方にしか興味がなさそうだった。

 

「実は昼に私からアルバスに話をしたんだが、彼もこの話には乗り気なようだから、君たちがやりたいのなら話を進めて貰いたい。私やアルバスの学生の頃は演劇は盛んだったからね、ホグワーツで学生の活動が活発になるのは喜ばしいことだ」

 

 なるほど、ダンブルドア先生が後ろにいるのだろう。オスカーはトンクスの思い付きがなぜこんなに具体性を持っているのかだいたい理解できた気がした。

 

「ということよ、クラーナ、どう? やる気になった?」

「なんで私に聞くんですか? そんなにやりたいならやればいいと思いますけど……」

 

 トンクスの髪色がまたショッキングピンクから赤になりつつあった。ちょっと興奮しているということだとオスカーは判定を下した。多分トンクスはクラーナになにか言いたいことをこれから言うのだろう。

 

「そりゃ重要なのは劇の配役でしょ? 私はクラーナがアマータ役をやればいいと思うのよ」

「は? はあああ!? な、なんで私がアマータなんですか? 別にここにいるメンバーでやりたいんなら、あなたでもエストでもレアでもいいでしょう?」

 

 クラーナはみんなに同意を求めるように周りを見回した。オスカーは豊かな幸運の泉をWADAで見終わった時から、トンクスはこのことをずっと考えていたのだろうなと思った。

 

「ぷっ…… 確かにこのメンバーでアマータをやるんならクラーナかもしれないね」

「確かにイメージはあってると思うの」

「ボ…… ボクもこのメンバーで選ぶのならクラーナ先輩かなあと思います……」

 

 チャーリーが半笑いで同意を示し、エストとレアも同意しているようだった。クラーナが助けを求める様にオスカーの方を見てきたが、オスカーは黙秘することにした。

 

「な…… なんなんですか!? もう…… 絶対おかしいでしょう!」

「はい、というわけでヘタレ騎士、ラックレス卿はオスカーがよろしくね」

「なんでだよ」

「そうですよ、死喰い人の息子がマグルの騎士とか絶対におかしいでしょう!」

 

 案の定、オスカーは自分にも火の粉が降りかかってきたと思った。クラーナの言う通り、オスカーは自分ほどマグルの騎士に似つかわしい存在はないだろうと思った。

 

「じゃあ、オスカーとチャーリーでどっちの方が運が無さそうだだと思うのよ?」

 

 オスカーはそれこそなんだそれはと思った。確かにラックレス卿は不幸の騎士とか言われているが、運が無さそうだから選ばれるというのは意味が分からなかった。

 

「うーん、なるほど……」

「確かにそういう選び方をするならオスカーかもしれないの」

「な…… なるほど……」

 

 オスカーはメンバー全員から運が無さそうだと思われていることにちょっとショックを受けた。魔法薬の教科書に書いてあった幸運薬とかいう、胡散臭そうな薬が頭の中に浮かび始めた。

 

「まあほんとはオスカーとクラーナはクィディッチチームに入ってないしね、メインの配役は二人の方がいいと思うのよ」

「最初からそう言えばいいじゃないですか!」

 

 なぜ、運がないと全員から思われていることを気づかされなければならなかったのか、オスカーはやっぱり、トンクスの口を永久粘着呪文でくっつけた方がいいと思い始めていた。

 

「ほかの役はどうするの? トンクス?」

「そうね、私としてはアシャをレアが、アルシーダがエストかなと思ってたんだけど、どうかしら?」

「なんで言い始めたあなたがなんの役もやらないんですか?」

 

 クラーナは配役を押し付けられて、ちょっと顔を赤くしながらトンクスに聞いた。オスカーも言い始めたトンクスが何もやらないというのはあまり納得できなかった。

 

「うーんとね、私は七変化だから誰の代役でもできると思うのよ、だから私以外の人に役を振り分けておいて、その人が練習にこれなくなったら私が代役を務めようと思ってたんだけど、だめかしら?」

 

 オスカーはトンクスらしからぬ、知的な発言だと思った。それにこの劇に関してトンクスはそうとう考えていたように思えた。トンクスとドージ先生のドジ×ドジで知的になってしまったのだろうか? オスカーはちょっと二人に失礼なことが頭の中に浮かんだ。

 

「エストはそれでいいと思うの、それなら無理なく練習できそうだし」

「ボクも理にかなっていると思います」

「二人がいいんならそれで決まりなんじゃない? 僕は大道具とイモムシの準備をしようかな?」

 

 オスカーはクラーナと顔を見合わせた。二人とも互いが微妙な顔をしているのに気付いた。トンクスの手のひらで踊らされたような気分だったからだ。

 

「おや、決まったのかな? できれば慎重に配役を決めた方がいいと私は思う。前回、大講堂が炎上した理由はアッシュワインダーだけではなく、三人の魔女役の生徒達がラックレス卿を巡って、劇の最中に決闘を始めたことだったからね」

 

 オスカーはあんまりエストとクラーナが決闘しているのは想像したくなかった。少なくとも同学年で止められる人がいない気がしたからだ。オスカーが止めに入っても五体満足で帰ってこれる気がしなかった。

 

「やったわ、これで決まりね、練習する場所はおじいちゃん先生かケトルバーン先生に取って貰えるし、あとはダンブルドア先生が理事会に掛け合ってOKを貰えれば完璧よ」

「分かりました。やればいんでしょう。でも、いったいいつ上演するのを目標にするんですか?」

 

 クラーナが諦めたという顔でトンクスに聞いた。確かに、守護霊の呪文を覚えるのは相当難しそうだし、それに並行して劇の練習をするというのはかなり時間がかかるのではないだろうか? それに配役のあるエストはただでさえクィディッチチームに入っていて、授業を全部とっているのだ。

 

「期末テストの勉強が始まる前の春くらいを目標にすればいいと思うんだけど、どうかしら? あの時期ならクィディッチの試合もないし、外でやっても寒くないと思うのよ」

「まあいいんじゃないか? どれくらい守護霊の呪文を覚えるのが難しいかわからないしな」

 

 オスカーもそれなら、みんなに対する負担が軽くなるのではないかと思った。

 

「あっレアはごめんね? ほんとは魔法の練習をするだけだったはずよね?」

「大丈夫です。劇をするのは面白そうですし、ボクはクィディッチをやっていませんから、魔法の練習をする時間はあると思います」

「ありがとうねレア」

 

 トンクスとレア、エストは期待を込めた楽しそうな顔、チャーリーはぶつぶつなんの魔法生物をだせるのか教科書をめくって楽しそうな顔、クラーナはどこかしてやられたという顔だった。オスカーはみんなでやることがあるのというのは楽しみだったが、トンクスの発案だったので、最後に変なオチがついてしまわないか、ちょっとだけ心配だった。

 

 

 



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ファイア・ウィスキー

お酒は成人になってから



 トンクスがオスカー達に何も言わずに色々勝手に決定してから、数週間が経った。

 オスカー達は当初の予定通りにレアに一年生の時練習した呪文を教えたり、チャーリーの無言呪文の練習に付き合いながら、劇の準備を進めたり、守護霊の呪文についてドージ先生に聞いたりした。

 

「もっと苦労するのかと思ってましたけど、普通に全部マスターできたじゃないですか」

 

 エストが変身術で出現させた、フェレットやアナグマといった小動物をレアが見事に失神させるのを見ながら、クラーナが言った。

 

「そうですね…… 最近何か調子がいいんです。杖が言うことを聞いてくれるっていうのか……」

 

 レアが自分の杖を少し不思議そうに見ながらそう言った。オスカーは灰色のレディが杖について言っていたことを思い出した。

 杖を信じないと魔法を使うことができないという話だ。

 

「レアの杖の素材ってなんなの?」

「素材ですか? ボクの杖の素材は黒クルミだったはずです」

 

 エストはレアからの返答を聞くと、何かを思い出すような顔をして、その後目を見開いて笑顔になった。オスカーはその顔が何か考えたことが現実であった時にする顔だと知っていた。

 

「黒クルミの杖はね、心に迷いがあるとあんまり力を発揮しないって、オリバンダーさんが言ってたから、レアの心の迷いが無くなったから、魔法を使えるようになったんじゃないかな?」

「心の迷い? ですか……」

 

 レアは少し目をつぶり、何か考え込むような顔をした。オスカーにはレアが自分自身に迷いがないか考え直しているように見えた。

 

「そうなの、最悪の場合は杖の持ち主を変えないと使えなくなっちゃうって言ってたけど、レアは杖に認められたんじゃないかな」

「杖の持ち主…… 認められた……」

 

 レアはもう一度自分の杖を見つめ直し、強く握りしめた。

 オスカーはエストとレアのやり取りを見て、もしかするとレアにかかった武装解除呪文と自信を少しレアが取り戻したことが、黒クルミの杖に影響しているのではないかと思った。

 

「というか、なんでエストはそんなに杖の素材に詳しいんですか? オリバンダーさんは私が杖を買った時も喋りたがりでしたけど、他の人の杖の話なんてしないんじゃないですか?」

「うーんとね、エストが杖を買った時は半日くらいかかったの、それであんまり時間がかかるから、試す杖の素材について色々教えて貰ってたの」

 

 オスカーは組み分けの時といい、エストの何かを判断するときは何にでも時間がかかってしまうのだろうかとちょっとだけ考えた。

 

「半日って、あほみたいな時間ですね……」

 

 オスカーもあの不気味なオリバンダー老人と半日一緒に過ごすのはちょっとごめんこうむりたかった。

 

「色々教えてもらったし、ちゃんと杖も見つかったから楽しかったの、そうだ、クラーナの杖がなんの素材なのかも聞いていい?」

 

 エストは少しオスカーに視線を送りながらクラーナに聞いた。オスカーもクラーナの杖の素材は気になった。オスカーはエスト、自分、レアの杖の素材しか知らなかったが、オリバンダー老人の言う杖と持ち主の関連性の方が占い学よりも信頼できそうだと思ったからだ。

 

「私の杖ですか? 私の杖はイトスギですよ」

 

 クラーナは自信満々に人よりも明らかに大きな杖を突き出してそう言った。

 それを聞いたエストの顔はさっきのレアの杖について聞いた時よりも笑顔で、正に考えていたことが当たったという顔だった。

 

「イトスギの杖は英雄になる人が持つ杖って言ってたの! すごく勇気があって、自分やほかの人の心に向き合える人、人のために自分を捨てられるような人が持つ杖なんだって」

 

 オスカーもそれを聞いて、クラーナにピッタリの杖だと思った。去年の叫びの屋敷や必要の部屋での出来事が頭の中に浮かんだからだ。

 

「自分の心に向き合うですか……」

 

 しかし、クラーナの顔色は映えなかった。クラーナの目線はさっきのエストと同じように一瞬だけオスカーの方を向いた後、話相手のエストではなく、どこかなにか違うものを見つめているようだった。

 オスカーは考えていたクラーナの反応と違ったと思った。クラーナなら、自信満々の顔で未来の闇払いに相応しい杖ですねとか言いそうだと思ったのだ。

 

「イチャイチャしてるとこ悪いけど、おじいちゃん先生から理事会の話を聞いてきたわよ」

「エストと話してただけですよ」

 

 トンクスがドアを開けるなり、クラーナをからかっていた。

 

「へえ? だれと話してたら『だけ』じゃなくなるのかしら?」

「いいから理事会の話がどうなったか言えばいいでしょう」

「チャーリー、どうだったんだ?」

 

 オスカーは話が進みそうにないので、トンクスの後ろにいたチャーリーに聞いた。ダンブルドア先生がホグワーツの理事会にかけあった内容の判断が今日伝えられるはずだったのだ。トンクスとチャーリーはドージ先生にその結果がどうであったかを聞きに行っていたのだ。

 

「オッケーらしいよ、理事会は反対は一票だけで他はみんな賛成なんだって」

「これで大手を振って練習できるってことよ、さあクライマックスは情熱的なラブシーンにしないとね」

「あたまわいてるんですか? 教養的な内容にしないと、せっかく許可されたのにまた禁止されてしまうでしょう」

 

 トンクスの髪色がピンク色だったので、正直なところ理事会の結果がどうであったのかチャーリーに聞かなくてもオスカーは分かっていた気がした。

 

「じゃあこれから劇の練習をし始めるんですか?」

「そうよ、レア、頭の固いクラーナとオスカーにちゃんとダメ出しするのよ?」

「顔の形がすぐ変わるトンクスの脳みそはポリジュース薬よりやわらかいですけどね」

 

 レアもトンクスとクラーナが騒ぎ始めると話が終わらないことに最近気づいたのか、話題を振ってくれているようだった。

 

「台本とかは昔のがあるんだよね?」

「そうよ、ビーリー先生がホグワーツでやってたころの台本がでてきたのよ」

「あの台本なんか焦げてましたけどね」

 

 ホグワーツの歴史ある台本がどこからともなく見つかったらしい。オスカーもその台本を読んだが、確かにところどころ焦げ跡があって、焦げ臭い匂いすらするようだった。

 

「台本には大道具の演出はダンブルドア先生がやったって書いてあったの、きっとすごい演出だったはずなの」

「すごい演出過ぎて大講堂が大炎上でしたけどね」

 

 どうもクラーナはよっぽど劇をやりたくないらしい。オスカーはいちいちクラーナが辛らつだと思った。

 

「ちょっとクラーナはメインヒロインなんだからもっと乗り気になりなさいよ」

「はあ? ラブシーンがどうとかあほなことばっかり言うからでしょう」

「豊かな幸運の泉でアマータをやりたい女の子なんて魔法界にどんだけいると思ってるのよ」

「そ…… それはそうかもしれませんけど、トンクスからは悪意がひしひしと感じられるんですよ」

 

 確かにトンクスがいつもにましてクラーナにからみ続けているのは、他の人から見ても一目瞭然だった。

 

「オスカーはやる気満々なのに、可哀想よ?」

「なんですかそれ! オスカーも黙ってないでなんか言ってくださいよ!」

 

 それに最近みんなが止めようとしても止まらなくなっていて、最後に流れ弾が飛んでくるとオスカーは思っていた。

 

「トンクスにいちいち反応するのは、まね妖怪と正面から戦うようなものだろ」

「いいねオスカーそれ、相手がトンクスだとそれっぽく聞こえるよ」

 

 なぜかチャーリーにはバカうけした。オスカーはチャーリーのつっこみが一番鋭いのではないかという考えを最近するようになっていた。

 

「ほらオスカーは否定してないじゃない?」

「相手にされてないだけなの」

「まね妖怪、トンクス先輩…… なるほど……」

「あほですねトンクス」

 

 トンクスが集中砲火を浴びていたので、オスカーはなんとか鎮火させることができた気がした。最近のオスカーの対トンクス・クラーナの戦績を考えると上々の結果だった。

 

「ホグズミード休暇はどこいくんだ? もうハロウィーンだろ?」

「先輩方はホグズミードに行けるんですね、いいなあ」

「そりゃマダム・パディフェットの店……」

「ホッグズ・ヘッドの方がまだましでしょう」

 

 オスカー達の話題は劇から直近に迫っているホグズミードへいける休暇へと変わっていった。忍びの地図でいくつも学校の外にいける道を知ってはいたが、オスカー達は結局去年色々あって秘密の通路を使うことはなかったし、純粋に学校の外へいくことはみんな楽しみにしていた。

 

 

 

 ハロウィーンの朝、オスカーとエストはほかの三人と玄関ホールで待ち合わせして、ホグズミードへと向かった。オスカーはフィルチがやっている許可証の検査で、他の人の三倍も時間を取られた。フィルチはなんとかして、オスカーに罰則を与えたいようだった。

 

「ええ? こんど夜中に城を出歩いたり、廊下や肖像画を爆破してみろ、先生方が来られる前にお前を鎖で宙づりにしてやるぞ」

 

 オスカーは肩をすくめるしかなかった。その中でやったのは夜中に出歩いたことくらいだったからだ。フィルチの中でオスカーは狡猾に罰則をすり抜けている生徒に見えているらしい。

 

「未来の死喰い人は検査も厳重みたいですね」

「みんなの悪事が全部俺のせいになってる気がするんだけどな」

「気のせいよオスカー、さあどこから回るの?」

 

 ホグズミードにはいくつか生徒に人気の場所があった。英国一荒々しいゴーストが住む叫びの館、ハニーデュークスのお菓子のお店、ゾンコの悪戯専門店、バタービールが飲める三本の箒といったところだ。

 

「ねえ先に叫びの館を見に行かない? 多分あの屋敷を中から見たことがある生徒はエスト達だけなの」

「確かに、ゴーストの正体を知っている僕たちが見に行くのも面白いかもね」

 

 オスカー達はエストの先導にしたがって、叫びの屋敷に向かった。叫びの屋敷は村外れの小高い丘の上に建っていて、すべての窓やドアは打ち付けられてふさがれており、ぼうぼうに生える草と湿っぽい地面が合わさって確かに不気味ではあった。叫びの屋敷の傍にはオスカー達と同じような三年生たちが遠目から叫びの屋敷を眺めていた。

 

「丘の上だからトンネルでいけたんですね」

「あのトンネルが途中からずっと上りだったのはそういうことだったのか」

 

 オスカー達は不気味そうにして一定の距離から近づかない生徒達に一べつもくべずに叫びの屋敷のすぐそばまで近寄った。確かにあけようとしても打ち付けられた木材はびくともしなかったし、それ以上に入れないように何か魔法がかかっているようだった。

 

「パパはこの屋敷を回っただけで腰を抜かしたらしいけど、ゴーストの正体がレアだと思うとちょっと悲しくなってくるわね」

「テッドさんの時は違うものだと思うけどね、明らかに爪や牙の跡があったから」

「そうですよトンクス、腰を抜かさないように気をつけたほうがいいですよ」

 

 オスカーはテッドさんのころに話題になったものの正体も、少なくともゴーストではない気がした。学生なのか先生なのかは分からないが、何か生徒達にみせられないような状態になった誰かをここに閉じ込めていたような気がしたのだ。正直、人が変身して牙や爪を持つような存在などオスカーは一つくらいしか思いつかなかったので、想像するのをやめた。

 

「牙や爪があって、人がなっちゃう? うーん人狼がホグワーツに入れるとは思えないし…… 変身術で戻れなくなっちゃったとか?」

「もういないみたいですから、あんまり考えてもしかたないと思いますけどね」

「そうよ、正直ママとパパの時代とかどうでもいいわ、私たちは腰を抜かすこともないしね」

 

 オスカーはこういう時にエストの思考が止まらなくなるのを知っていたし、それを止めてくれる二人がいるのはありがたかった。暗い話をし続けてもしかたないと思ったのだ。

 

「テッドさんはファイア・ウィスキーを飲んでから行ったって言ってたよな、あれってそんなにうまいのか?」

「僕もファイア・ウィスキーは気になるよ、パパとママはあれをよっぽどのことがあった時だけ飲むようにしてるからね」

 

 ドロホフ邸にも何本かオグデンのファイア・ウィスキーがあることをオスカーは知っていた。ペンスも重要な客が来る時だけそれをお出ししますと言っていたはずだ。オスカーは魔法界の大人たちが口々に言うファイア・ウィスキーなるものがどのようなものなのか気になっていた。

 

「ファイア・ウィスキーは成人になるまで飲めないってミュリエルおばさんが言ってたの、お子様には分からないとかなんとか」

「そうですね、大人たちはあれを信仰してますよね」

「ファイア・ウィスキーを飲めば大人の階段を駆け上がれるってことね」

 

 トンクスはそう言うと鼻をつまんで、トンクス先生を優し気にしたような魔女に変身した。ローブのサイズが合っていなくてちぐはぐに見えるが、大人の魔女の様に見えた。

 

「エスト、ローブをどうにかしてくれない?」

「いいけど、大人に変身してどうするの?」

 

 エストが杖を一振りすると変身したトンクスの体に合わせてローブのサイズが変わった。今のトンクスとトンクス先生を比べればみんな姉妹だと思うだろう。

 

「三本の箒でファイア・ウィスキーを注文する気ですか? それだとトンクスしか飲めない気がしますけど……」

「ホグズミードにはもう一つバーがあるでしょ?」

 

 トンクスは悪戯っぽく笑った。オスカーはいつも知っているトンクスの顔と違うのにトンクスの笑い顔だとわかるのは不思議だと思った。

 

「ホッグズ・ヘッドのことだよね? たしかに、ハグリッドもあそこで昔キメラの卵を買ったって言ってたし、あそこなら僕らがファイア・ウィスキーを飲んでても大丈夫かもしれない」

 

 オスカーはキメラの卵が売られているような場所に入るのは果たして大丈夫なのかと思った。ノクターン横丁の怪しい店並みや脛に傷のありそうな人たちが頭の中に浮かんだのだ。

 

「念のために大人が買ったことにすれば大丈夫だと思うのよ」

「今のトンクスなら、生徒を引率してる先生みたいに見えるから大丈夫かもしれないの」

「ホッグズ・ヘッドに生徒を連れてく先生はだいぶヤバイですけどね」

 

 オスカーはホグズミードに来たのはこれが最初なのに、そんなに冒険して大丈夫かと思ったが、ファイア・ウィスキーには興味があった。

 

「トンクス、先に金を集めといた方がいいと思うぞ、あれけっこうな値段するだろうからな」

「オスカーお坊ちゃまにそういわせるなんてよっぽどね」

「そうじゃなきゃ、うちで家宝みたいな扱いになってないよ」

 

 オスカー達はトンクスを先頭にして、ホッグズ・ヘッドへと向かった。ホッグズ・ヘッドは大通りから離れた横道、その突き当りに建っていた。

 ドアの上にボロボロの看板がかかっている。イノシシの首が切られて、その首の血で白い布が赤く染まっている絵だ。オスカーはホッグズ・ヘッドがバーというよりは宿に見えた。

 

「じゃ、いくわよ」

 

 トンクスが楽しそうな声で言い、先頭に立って入っていった。オスカーはトンクスの髪の一ふさが赤くなっていることに気付いた。

 ホッグズ・ヘッドのバーは非常にみすぼらしく、汚く、不衛生に見えた。ペンスはオスカーがここに行ったことを知ったらすぐにでも風呂に入れと言うだろう。それに何か家畜のような臭い、ヤギのような臭いがした。

 窓はほこりと煙か何かで黒く染まっていて、外の光をほとんど取り込んでいなかったし、床は土だと一瞬思ったが、実際には石畳の上にありえないほどのほこりが積もっているようだった。

 オスカーはあたりを見回したが、あやしい人物ばかりだった。ほとんどの人間がマスクかフードのようなもので顔を隠していたし、血にしか見えない怪しい液体をグラスに入れて飲んでいる人、生肉にしか見えないものをむさぼっている人、人間にはありえない勢いで羽ペンを動かしている人などとにかく話しかけるのをためらわざるを得ない人物ばかりなのだ。オスカーはクラーナのおじさんでさえここでは目立たないのではと思った。

 オスカー達はテーブルを確保したあと、バーテンに注文をしに行った。

 

「ファイア・ウィスキーをグラスで五本よ」

「二ガリオン、三シックルだ」

 

 トンクスがさっきみんなからかき集めたお金をテーブルにだそうとして、そのままぶちまけたのでバーテンは非常に嫌そうな顔をした。

 バーテンは長い白髪にあごひげを伸ばした人物だった。オスカーはその人物を見た瞬間にいつかと同じ感覚を覚えた。ミュリエルおばさん、マルフォイ氏の妻らしき人、クラーナのおじさん…… オスカーはその人が誰か知っている人に似ていると思ったのだ。

 バーテンがファイア・ウィスキーを五本のグラスになみなみと注ぐ間、オスカーは誰と似ているのか考えていたが、結局誰なのか思い出すことができなかった。

 五人はそれぞれグラスを持って、テーブルに戻ることにした。オスカー達はトンクスに運ばせるとファイア・ウィスキーが全て床に飲まれてしまう気がしたのだ。バーテンは明らかに子供なオスカー達がグラスを持っていくのに嫌そうな顔をしたが、何も言わなかった。

 オスカー達は埃っぽい椅子に座って、それぞれグラスを持った。

 

「えーと、じゃあ、豊かな幸運の泉の成功を祈って、乾杯よ」

 

 トンクスがそう言ったのに合わして、オスカー達は互いに乾杯した。

 オスカーはファイア・ウィスキーを初めて飲んだが、確かに大人たちが重要に思う飲み物なのは間違いないと思った。飲んだ瞬間はのどが焼けるようだったが、のどを通り過ぎ、胃のあたりまで入ると、何か体に火が付くような感覚があった。

 

「すごいね、これ、なんか体が燃えているみたい」

「そうなの、ファイア・ウィスキーって名前の通りなの」

「ワオ! って感じだわ、大人はずるいわね」

「確かにこれなら言われるだけのことはあるな」

 

 四人は口々にファイア・ウィスキーの感想を言い合ったが、クラーナは黙ったままだったので、オスカーがクラーナの方を見ると、グラスのファイア・ウィスキーは四分の一も減っていないのに、クラーナの顔はすでに真っ赤になっていた。

 

「クラーナ、大丈夫なのか?」

「だいじょうぶってなにがだいじょうぶなんですか? おすかー?」

 

 オスカーは全く大丈夫ではないことがそれだけでわかった。

 

「これパパが外で脱ぎだして、ママにボコボコにされた時と同じくらい出来上がってる気がするわ」

「クラーナ、大丈夫なの?」

「なにができあがっているんですか? えすともなにがだいじょうぶなんですか?」

「ダメだねこれ」

 

 チャーリーが両手を挙げて首を振った。オスカーもダメだなと思った。

 

「今なら、クラーナに劇で言わせられないような恥ずかしいセリフもやってもらえそうね」

「げきですか? そうだ! なんでわたしがあまーたなんですか? とんくす?」

「なんでって一番似合いそうだったからよ、オスカーを励ましたり、一番芯が強そうでしょ? 意気地なしって一番いいそうじゃない」

「そんなことわないです、わたしより、あしゃやくのれあや、あるしーだやくのえすとのほうがあまーたにふさわしいです」

 

 クラーナはそう言うと、ファイア・ウィスキーを半分ほど飲み干した。オスカーが周りを見るとバーにいる人間がオスカーたちの方に聞き耳を立てている気がした。血のグラスを飲んでいる人も、生肉をほおばる人も、羽ペンの人もみんな動きをやめているようだったからだ。バーテンも汚いぞうきんのようなものでグラスを拭くのをやめているようだった。

 

「エストもクラーナはアマータにあってると思うの」

「あってないです! れあはまじめにじぶんとむきあってますし、えすともいろいろあるのにあかるくてゆうしゅうです、ふたりともまっきのんやぷるうぇっとのなにふさわしいです」

 

 クラーナの顔はさっきより赤くなっているようだった。オスカーはこれ以上クラーナに飲ませないほうがいい気がした。

 

「僕はクラーナも十分に優秀だと思うけどね、そうじゃないとグリフィンドールはみんな劣等生になっちゃうよ」

「俺もそう思うし、ちょっと飲むのやめたほうがいいんじゃないか? クラーナ?」

「だめです! わたしはだめです! いくじがないんです! おすかーみたいにはなれないし、むーでぃのなまえにもあまーたにもふさわしくありません!」

 

 クラーナはオスカーが止めたにも関わらず、また四分の一ほどファイア・ウィスキーを飲んだ。クラーナの眼はぼやっとしていて、完全に泥酔しているように見えた。

 

「ここはアレね、オスカー、キスでクラーナの酔いをさますのよ」

「あほか、とっととグラスをとりあげたほうがいいだろ」

「なんですか? とんくす、きすしてほしいんですか?」

 

 クラーナはなぜかトンクスの方に近づいていって、ほっぺたにキスしようとした。

 

「ちょっと方向がちがうわよ! ほら、オスカーの方にいきなさいよ! ちょ、ちょっと!」

 

 クラーナはトンクスのほっぺたにキスを慣行した。し終わったクラーナがオスカーの方を見たので、オスカーは嫌な予感がした。

 クラーナはグラスに残っていたファイア・ウィスキーを全て飲み干した。クラーナの顔色は赤ではなくもはや青くなっている気がした。

 

「おすかー? なんであのときだきついたんですか? なんでですか?」

「あのとき? ああ、あれはちょっとクラーナをちょっとびっくりさせようと思って……」

 

 クラーナがオスカーの方に距離を詰めてきたので、オスカーは後ずさったが残念ながらホッグズ・ヘッドは狭かった。

 

「ふぁいあ・うぃすきーをのんだのとおなじくらいあったかくなりました。でもすごくびっくりしました。だからおかえしです」

「おい、クラーナ?」

 

 クラーナはオスカーに抱き着いてきた。オスカーはペパーミントのような香りとファイア・ウィスキーの酒の匂いをかいだ。しかし、クラーナはなぜか風邪でもひいたようにブルブル震えているようだった。

 

「なんかきもちわるくなってきました。やばいです。ああ……」

「おい、クラーナ、ちょっと! やめろ!」

 

 二つの匂いとは違う匂いがしたのがオスカーにはわかった。オスカーは二度とファイア・ウィスキーをクラーナに飲ませないことを心に決めた。

 

 



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一人目の魔女

 ホッグズ・ヘッドでの一件から数日経ったが、オスカーはクラーナにどう接したらいいのか分からなかった。そもそも話題にだすと二人とも不幸になる気がしたのだ。誰かに相談しようにも、ファイア・ウィスキーを飲んだことを大人に言うことはできなかったし、そもそも女の人にアレをかけられた経験がある人がどれくらいいると言うのだろうか? オスカーはちょっと悩んだあと考えるのをやめた。

 

「オスカーくらいになると女の子の汚いところでも受け止めてくれるってことよ」

 

 オスカーとクラーナは無言で黙らせ呪文をトンクスに唱えた。トンクスはしばらくウーウー言っていたが、そのうち静かになった。

 オスカーはレアとチャーリーの無言呪文のいい手本になったと思った。

 レアはすでにオスカーたちが一年生で覚えた魔法をすべてマスターして、無言呪文の練習を始めていた。チャーリーの方はクィディッチの練習もあり、無言呪文には結構苦労しているようだったので、二人の上達度はオスカーの見た目では同じくらいに見えた。

 レアとチャーリーはクラーナの張った青い保護呪文の泡の中で向かい合っていた。お互いに無言で武装解除を唱える練習をしているところだった。

 レアが集中した顔もちで杖を振ると紅色の光線がチャーリーの胸にあたり、チャーリーの杖が弧を描いてレアの方へ飛んで行った。しかしレアはできたことが信じられないのか飛んできた杖に反応することができず、顔に当たってしまった。

 

「やったの!チャーリーは追い抜かれちゃったね」

 

 エストが呼び寄せ呪文で杖を回収しながら二人に声をかけた。チャーリーはちょっとだけ悔しそうな顔で、レアは杖が当たった額を抑えながらも嬉しそうだった。トンクスはまだウーウー言っていた。オスカーはちょっと可哀そうになったので呪文を解くことにした。

 

「夏休み前は浮遊呪文くらいしかできなかったのに…… 先輩方のおかげです!」

 

 レアの額はちょっと赤かったが満面の笑みだった。オスカーはあの朝、浮遊呪文を一緒に練習したときのレアの顔や声と比べて、自信が感じられると思った。

 

「これでレイブンクローの連中がレアに何か言うようなことはないでしょう」

「レアは俺よりよっぽど自分の寮の人間と仲がいいだろ」

 オスカーが廊下でレアと会う時は、常に誰かレイブンクローの学生と一緒だったし、スリザリンの寮生とはちょっと喋るくらいでほとんど一緒にいないオスカーと比べれば、よっぽど受け入れられているとオスカーは思っていた。

 

「うーん抜かされちゃったなあ…… 粉々呪文とかは上手いことできるんだけど……」

「まあ他の呪文ができるんなら、だいたいコツはつかめてるだろ、俺らの時もどれかできるようになったら、他の呪文もできるようになったしな」

「そうね、これならクリスマス前に劇の練習と守護霊の呪文にとりかかれそうね」

 

 オスカー達はチャーリーとレアの進み具合に合わせて、守護霊の呪文を練習してはおらず、先に劇に必要な物品だとか、セリフの書き起こしだとかの準備をしていた。

 

「やっぱり難しいのかな? ドージ先生もあれがつかえるんなら、ふくろう試験で特別点が貰えるって言ってたし」

「そりゃそうでしょう、そもそもホグワーツの指導要領に乗ってるか怪しいレベルの呪文ですから」

「守護霊の呪文を無言で使えるようになったら、寮のみんなに自慢できるかな……」

 

 守護霊の呪文には幸せな記憶が必要だと聞いていたので、今のいい雰囲気なら意外と簡単に覚えることができるのではないかとオスカーは考えた。

 

「ねえ、いっかいハグリッドのところに行かない? 劇で使えそうな魔法生物を見せてくれるって言ってたんだ」

 

 チャーリーは少し上気した顔でそう言った。オスカーはチャーリーが武装解除されたのは、魔法生物が気になって集中しなかったせいではないかと思った。

 

「たしかに最近、ハグリッドの小屋に行ってないな」

「ボクも今年はあんまりハグリッドに会いに行けてないです」

「そうですね、そろそろ違法な生き物を飼ってないか見に行かないとドラゴンやキメラが禁じられた森に出現しかねないです」

 

 そう言えば、レアはクラーナと同じようにハグリッドに引率されて、ダイアゴン横丁に買い物に行っていたことをオスカーは思い出した。オスカーはみんなで顔を出した方がハグリッドは喜ぶだろうと思った。

 オスカー達は空き教室を片付けて、六人で校庭の外れにあるハグリッドの小屋へと向かった。

 

 

「ハグリッドいる? 僕たちだけど」

「おお、はいっちょくれ! ちょっと散らかっとるがな」

 

 チャーリーがドアを叩くと小屋の中から、ハグリッドの野太い声とファングがうれし気に吠えるのが聞えた。

 オスカーはいつもとハグリッドの小屋の様子が変わっている気がした。ハグリッドの小屋の暖炉はあんな形をしていただろうか? ファングに飛び掛かられながらそう思った。

 

「一緒にいるのはレアか? 久しぶりだが大丈夫だったんか? ダンブルドア先生が色々あったちゅうてたが」

「うん、ボクは大丈夫だよ、ハグリッド」

 

 エストは何やら暖炉の方へと歩いて行った。オスカーはファングに顔をなめられ続けていてそれどころではなかった。

 

「ハグリッド…… これ…… もしかして? すごい! 誰が作ったの? フリットウィック先生? それとも、もしかしてダンブルドア先生なの‼?」

 

 エストはなにやら暖炉の火を見て大興奮しているようだった。オスカー以外の四人も暖炉の方へ近づいていった。オスカーは中々ファングを引き離せなかった。どうもファングは久しぶりにオスカーに会ってうれしいようだった。

 

「おお、これはダンブルドア先生が創ったんだ。しかし、よーく分かったな、これがちょいっと特別な火だって」

「特別な火ですか? 悪霊の火みたいな魔法がかかった火なんですか?」

 

 オスカーはクラーナが言った火の名前にいい思い出はなかったが、暖炉の中で燃え続けている火は、オスカーの知っている悪霊の火とは比べ物にならないほど、暖かでどこか神々しさまで感じられる気がした。

 

「なんの火なんですか? エスト先輩?」

「そうよ、ハグリッドもエストももったいぶらないで教えてくれればいいのに」

「ほんとにこれがダンブルドア先生が作ったんなら、多分、グブレイシアンの火なの」

 

 オスカーはその火の名前を聞いたことはなかった。しかし、レアは何かピンと来たようだった。

 

「グブレイシアンの火って、グブレイシアンの火の枝のことですか? 絶対に消えない?」

「そうなの、創れる魔法使いなんてもうほとんどいないはずなの」

 

 今度はチャーリーがそれを聞いて、何かに気付いたようだった。オスカーは魔法生物関連なのは間違いないだろうと思った。

 

「もしかして、これでアッシュワインダーを呼び出す気なの、ハグリッド?」

「おお、さすがに良く分かっとるな、アッシュワインダーは魔法の火をほうっておくとうまれてくるわけだから、この火があればいくらでも捕まえることができるっちゅうわけだ」

「じゃあ、劇に使えそうな生き物ってアッシュワインダーなんだね」

 

 オスカーの脳裏にところどころ焦げた昔の台本が浮かんだ。前回ホグワーツの劇が禁止になった原因はアッシュワインダーが主だったはずだが、結局アッシュワインダーを使うのだろうか? しかし、オスカーはダンブルドア先生が一枚嚙んでいるのなら、そんなに心配しなくてもいい気がした。

 

「結局アッシュワインダーを使うの? ハグリッド? 私たちの劇は外でやる予定だから、大講堂みたいに燃えないとは思うけど大丈夫なの?」

 

 さすがのトンクスも大炎上は不味いと思っているようでオスカーは安心した。

 

「ダンブルドア先生がじきじきに凍結呪文をとなえてくれるっちゅうことだから、心配せんでもええ、この小屋にもおんなじ呪文をかけてもらっちょるから大丈夫だ」

「なら大丈夫なんじゃないですか? まあ前回の劇もダンブルドア先生がいたのに燃えちゃったらしいですけど」

 

 クラーナがちょっとだけ幸先の悪そうなことを言った。しかし、それは事実だった。

 

「ちょっとクラーナ、そんな不吉なことばっかり言ってると口から汚いも……」

「ぶっ殺しますよ」

 

 トンクスはこりずにホッグズ・ヘッドでの一件でクラーナをいじりたいようだった。オスカーはファングにローブをよだれまみれにされていて、その一件をちょうど思い出していたところだったのでやめて欲しかった。

 

「ねえ、そう言えばあの時なんでクラーナはオスカーに抱き着いたの?」

 

 エストが首を傾けてそういった。オスカーはさらにファングのよだれまみれになることを選んだ。これ以上、あの出来事の話に関わりたくなかったからだ。チャーリーがオスカーの方を気の毒そうに見ていた。

 

「ええ! そ…… そんなの覚えてないですよ! トンクスがオスカーについてなんか言ったのでそれでオスカーの方に行っただけです」

「そりゃあ、エストが寝てた朝に二人は熱烈な……」

「グブレイシアンの火で永遠にその口を焼き続けてやりますよ!」

「ちょっと、全然わかんないの」

 

 三人が大騒ぎを始めてしまい、ハグリッドがそれを楽しそうに見ていた。

 

「そうだ、誰か薪を取ってきてくれないか? おまえさんたちのお茶やケーキを出すにはちょっと火がたりねえ」

「僕がいくよ」

「あっ、ボクも行きます」

 

 オスカーはファングと戯れていた結果、小屋から出る切符を逃してしまった。チャーリーとレアの二人が薪をとりに行っても、三人は相変わらず騒ぎ続けていた。

 

「しかし、おまえさんたちとレアが仲良くなって、俺は安心したぞ」

 

 ハグリッドがオスカーの横でロックケーキを取り出しながら言った。オスカーはあまりロックケーキが得意ではなかった。火であぶらないと歯の方がやられてしまうからだ。

 

「安心したって、ハグリッド、何が?」

 

 オスカーはこの短時間でファングの腹をなでることでよだれまみれにならない術を身に着けていた。

 

「レアは去年しょっちゅうここに来とったからな、寮にもなじめんと言っとった」

「ああ、でも今は寮の友達もいるみたいだし大丈夫だと思うけど」

 

 オスカーはレアがここによくきていた理由はなんとなくわかった気がした。ハグリッドは動物にも人間にもやさしいからだ。

 

「ダンブルドア先生もレアのことは心配しとったし、ダイアゴン横丁でおまえさんたちと会った時も、おまえさんたちならレアと仲良くなれるかと思っとったんだ」

 

 トンクスがオスカーの顔に化けながら他の二人をからかっているのを横目で見ながら、オスカーはダイアゴン横丁で初めて出会った時のレアを思い出した。思えばあの時から、レアが魔力をあまりコントロールできず、木の葉やごみを浮かべていた気がした。

 それに、レアの出自を考えれば、エストやクラーナとなら仲良くなれそうだとハグリッドが考えるのは無理のないことだと思った。

 

「あの時はなんかタイミングが悪かったと言うか…… 俺の名前がなければあんなことにならなかったと思うけど」

「おまえさんのことを責めてるわけじゃねえぞ、オスカー、おまえさんたちはよくやっとる。少なくとも俺が見てきた同じ年の魔法使いや、魔女の中でもおまえさんたちは一番だし、ダンブルドア先生だって、おまえさんや、おまえさんたちのことはこれでもかっちゅうくらい褒めてるんだ」

 

 やっぱりオスカーはレアがハグリッドの小屋に来ていたのは間違っていないし、正解だったと思った。この小屋はグブレイシアンの火がなくても暖かいのだ。

 

「だから俺はおまえさんたちと今日、レアが一緒にいるとこを見て、安心したっちゅうわけだ。笑っとったし、去年みたいにびくびくもしてねえ、いまのあの娘を見て、誰が他の生徒を傷つけると思うんだ?」

「レアが他人を傷つけられるとは思えないけど……」

「ほんとにな、あの娘自身がそれを一番怖がってるっちゅうのに、理事会の一部の連中は……」

 

 オスカーはハグリッドのコガネムシのようなまんまるい瞳がどこか濡れているような気がした。ハグリッドは巨大なキッチンペーパーのようなもので鼻をかんだ。

 トンクスが黙らせ呪文を受けて、またウーウー言っているのが見えた。なんと言葉がだせないのにクラーナの前で吐く真似をしているようだった。オスカーは本当に永久粘着呪文でトンクスの口をふさいだ方がいい気がしてきた。

 

「ハグリッド、戻ったよ、薪はどこに置いたらいいの?」

 

 チャーリーが戻ってきて、ハグリッドに聞いた。薪はレアが浮かべて持ってきたらしい。

 

「おお、ありがとうな、じゃあ暖炉の傍に置いといてくれ」

「ほらハグリッド、ボクもこうやって魔法で薪を運ぶくらいできるようになったんだよ?」

 

 レアは薪を杖で操って暖炉の横に置こうとしたが、迫真の演技をしているトンクスが低空を飛行していた薪にけつまずいた。トンクスは黙らせ呪文を受けているせいで、痛いとさえ言えないようだった。

 オスカーは杖を一振りして薪を暖炉の横に集めた。

 

「まあ今のはトンクスのあほが悪いからノーカンだろ」

 

 トンクスはなにかオスカーに向けて悪態をついているようだったが、口をパクパクさせているようにしか見えなかった。

 オスカー達は笑った。薪を入れなくても、ハグリッドの小屋はやっぱり暖かいようだった。

 その日は外出時間ギリギリまでオスカー達はハグリッドの小屋で話したり、ロックケーキに自分の歯で戦いを挑んだりした。

 

 

 

 

 

 翌日、オスカーとエストはドージ先生がとってくれているはずの空き教室に向かった。今日から守護霊の呪文の練習をしようと話していたので、オスカーは楽しみだった。

 二人が空き教室につくとまだ誰もいなかった。オスカーはレアが先に来ていないのが意外だった。レアは授業が終わると真っすぐに練習しに来ていたし、この曜日はレアの授業が六人の中で一番最初に終わるはずだったからだ。

 

「レアが遅いね? グリフィンドールとハッフルパフは午後も薬草学があるはずだし、これだと人があつまんないの」

 

 オスカーはレアが連絡もなしに休むとは思えなかった。昨日はハグリッドの小屋で楽しそうにしていたし、突然風邪でもひいたのかと考えた。すると、教室のドアが叩かれた。

 

「はーい?」

 

 エストが気の抜けた返事をすると、ドアが開かれた。そこにいたのはオスカー達の寮監、スネイプ先生だった。

 スネイプ先生は相変わらずドロドロの髪の毛に暗い表情だったが、オスカーにはスネイプ先生が少し困っているように見えた。

 

「ミス・プルウェット、ミスター・ドロホフ、今日、ミス・マッキノンを見たかね?」

「見ていないです、スネイプ先生、レアに何かあったんですか?」

 

 オスカーは少し不安になった。レアは叫びの屋敷でレアの発作を見てくれていたのはスネイプ先生だと、オスカーとクラーナに話していた。レアの寮監ではないスネイプ先生が探しているということは、その関係で何かあったのではないかと思ったのだ。スネイプ先生の目がオスカーの眼をとらえたが、スネイプ先生の顔色に変化はなかった。

 

「いや、今朝の朝食の後からミス・マッキノンの姿が見えないとのことだ。もし何か分かったら、我輩や他の先生方に伝えるように」

 

 スネイプ先生はそのまま扉を閉めて去っていった。オスカーはポケットにあった忍びの地図を取り出そうとした。またドアが叩かれた。

 

「はーいなの」

 

 またエストが返事をすると今度はスネイプ先生ではなく、オスカー達より年下に見える女の子たちが数人入ってきた。オスカーはその女の子たちがレアと一緒に行動をしていた一団だとわかった。

 

「あの…… プルウェット先輩とドロホフ先輩ですよね? レアを見ませんでしたか?」

 

 先頭に立っていた女の子がオスカー達に聞いた。どうも彼女たちもスネイプ先生と同じくレアを探しているようだった。

 

「さっきもスネイプ先生が来て同じことを聞いたけど、エスト達は昨日ハグリッドの小屋で別れてから、レアを見ていないの」

「そう…… ですか……」

 

 一団は落胆しているようだった。オスカーはなぜレアがいなくなったのか気になった。忍びの地図を開けばレアがいる場所はすぐにわかるだろうと思ったが、理由があって隠れているのなら、先生方に伝えるのを待った方がいいと思ったからだ。

 

「スネイプ先生は朝食の後にレアがいなくなったって言ってたけど、何があったんだ?」

 

 オスカーが聞くと一団はすこしびくっとした。しかし、恐る恐るといった感じで紙の切れ端をオスカーの方に差し出した。

 

「なにこれ? 日刊預言者新聞?」

 

 切れ端は真新しい日刊預言者新聞のようだった。切れ端の中にある写真の人物がオスカーの方にウィンクした。オスカーはホッグズ・ヘッドのバーテンに会った時と同じ感覚にとらわれた。誰に似ているのかはすぐにわかった。白黒だが、髪の質も瞳もレアにそっくりだ。写真の右下にはマーリン・マッキノンと書かれている。

 

「私達、新聞でレアと同じ苗字でそっくりの人がいたからレアに知らせてあげようと思って……」

 

 オスカーは日刊預言者新聞の記事を走り読みした。ホグワーツで演劇が再開されることについて書かれているようだ。ダンブルドア校長のインタビューは得られなかったので、数人の理事のコメントを得たと書かれている。

 

「それでレアに新聞を渡したら、すっごく青い顔になって、その時テーブルに置いてあるグラスとか皿が揺れたり割れたりして、それを見たレアがもっと青くなって、そのまま走り出して行っちゃったんです」

 

 オスカーは何が起こったのかだいたい察しがついた気がした。この新聞の内容が悪いのだろう。一団の一番後ろにいた女の子が涙目で、鼻をヒックヒックさせながら喋った。

 

「私達あんまり新聞の内容は読んでない状態で渡しちゃったんですけど、よく読んだら、なんか、レアが病気じゃないかみたいなこととか、他の生徒にとって危険なんじゃないかって書かれてたんです……」

 

 オスカーは日刊預言者新聞の切れ端を下の方まで読んだ。なんと、劇の配役としてレアがアシャ役をやることが書かれている。オスカーはどうやってその情報をこの記事を書いた人間が知ったのかわからなかった。

 その後に書いてあることをオスカーはあまり読みたくなかった。昨日、ハグリッドと喋った心配ごとが本当になる気がしたからだ。

 日刊預言者新聞にはレアが国際魔法使い機密保持法に引っかかる存在、オブスキュリアルではないのかということがご丁寧に聖マンゴの癒者のコメント付きで載っていた。それによるとレアは非常に危険で、とても少年や少女が魔法を学ぶホグワーツに置くことはできないだろうと書かれている。しかも、レアの殺された家族の写真まで載せて、先の戦いで心が壊れてしまったのだろうと煽り文句まで載せられているのだ。

 オスカーは思わず強く切れ端を握ってしまい、ちょっとやぶいてしまった。切れ端の最後には記者、リータ・スキーターとあった。

 

「それで? レアを見つけてどうしたいんだ?」

 

 オスカーは自分の声が少し低くなっていることに気付いたが、そのままレイブンクローの一団に聞いた。後ろではエストが心配そうにやりとりを眺めていた。

 一団はさらに怯えているようだったが、一番後ろの鼻声の女の子がこういった。

 

「レアに戻ってきて欲しいんです。だって、レアは私たちに魔法を撃ったりなんてとてもすると思えないし…… 最近はすごい楽しそうだったのに、走っていくときすごい真っ青だったし……」

 

 すると一団の女の子達は勢いづいたのか、口々にオスカーに尋ねた。

 

「そうです、だから先輩方、レアがいきそうな場所を知りませんか?」

「私達、レアと仲良くなったのは夏休み前からだから、あんまりどこに行ったのか分からなくて……」

「レイブンクロー塔の中にはいなかったんです。灰色のレディにも探してもらってるんですけど、まだ見つかってないみたいだし……」

 

 オスカーはレアがいくのなら、灰色のレディがいた占い学の塔か、ハグリッドの小屋ではないかと頭の中に浮かんだのだが、スネイプ先生や灰色のレディがわからないとなると、別の場所のようだった。

 

「わかった。何かわかったらすぐに伝える。さっきスネイプ先生にもそういわれたところだったしな」

「「おねがいします」」

 

 レイブンクローの一団はオスカーにちょっと礼をして、そのまま去っていった。オスカーは間髪を容れずに忍びの地図を開いた。

 

「レアはどこにいっちゃったんだと思う?」

 

 エストがオスカーの横から地図をのぞき込んでそういった。

 

「忍びの地図を見ればわかるはずだ、城の中にいるならな、我、よからぬことをたくらむものなり」

 

 羊皮紙に地図が完全に表示され、オスカーはエストと手分けして、地下から順番に丁寧にレア・マッキノンの名前を探した。しかし、オスカーとエストは五回、それを繰り返してもレアの名前を見つけることはできなかった。

 

「ホグワーツにいないってことなの?」

 

 忍びの地図はうそはつかない、なにせゴーストや猫すら表示してしまうのだ。しかし、オスカーは忍びの地図が完全ではないことを知っていた。そして、レアが追い詰められた時に行きそうな場所、レディのところでも、ハグリッドのところでもなく、助けが必要な時に行きそうな場所、地図に見えない場所がどこなのかわかった気がした。

 オスカーは地図をポケットにそのまましまって走りだした。

 

「ちょっとオスカーどこにいくの!?」

「八階だ」

 

 オスカーは仕掛け扉や秘密の通路を使って、最短の順路でそこへ向かっていた。オスカーは一年生の時にグリフィンドール生に会わないように、いろんな道を使ってそこに行っていたので、最短の道も覚えていたのだ。

 

「八階? もしかして、必要の部屋なの!?」

「そうだ。ホグワーツの外にでていないんなら、あそこしかありえないはずだ」

 

 次の階段を登れば、必要の部屋が現れる壁のはずだった。オスカーとエストは数段飛ばしで階段を上った。そして、やはり壁には扉があった。その扉はオスカーが必要の部屋に入るときにみたどの扉よりも小さな扉だった。

 オスカーは扉を見てそっと一息ついた。扉が現れるということは、レアが少なくともオスカーとエストに会う気があると思ったからだ。

 オスカーは大きく息を吸って、エストと目線を合わせた後、ゆっくりと扉を開いた。

 

 



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ホッグズ・ヘッド

 

 

 オスカーは必要の部屋に入って拍子抜けした。てっきりあの大講堂や大広間よりも広い、ホグワーツの隠し事すべてが収められている場所に繋がっていると思っていたのだ。

 しかし、オスカーとエストが入ったのは小さな部屋だった。椅子も机も窓もない。石造りの床と壁があるだけの部屋だ。燭台におかれた五本のろうそくが寂しげに部屋を照らしていた。

 

「レアがいないの、でも必要の部屋の中に入れたしなんかおかしいね?」

 

 そう、エストの言う通り、必要の部屋に入れたということはレアがそこにいないとおかしいはずなのだ。もし、必要の部屋の中にレアがいなかったり、レアが誰とも会う気がないのなら、入れないはずだとオスカーは考えていた。

 二人が狭い部屋のなかほどまでくると、壁が動き出し、オスカーの身長だと少しかがんで入らないといけないくらいの高さがある扉が現れた。オスカーの目測だと、レアやエストの身長くらいなら無理なく入れるように思えた。

 

「必要の部屋からどこかにつながってるってことなのか?」

「八階以外にも必要の部屋とつながってる場所があるってこと? 位置検知不可能呪文? 変幻自在呪文? ぜんぜんわからないけど、とんでもない魔法なの」

 

 扉をあけると中は結構な高さのあるトンネルだった。トンネルは真鍮製のランプがいくつも取り付けられていて、ゆっくりとした傾斜の階段を照らしていた。

 二人は恐る恐る、トンネルの中を進んでいった。しばらく石造りの階段だったが、階段が終わって、角を曲がると踏み固められた土の地面に変わった。

 

「オスカー、やっぱりこのトンネルって忍びの地図には写ってないの?」

 

 エストにそう言われて、オスカーはポケットにある地図をとりだしてみてみたが、一見した感じではオスカーとエストの名前はホグワーツの中にはなかった。

 

「ないな、必要の部屋には忍びの地図がきかないのか、悪戯仕事人たちがこのトンネルのことを知らなかったのかはわからないけど、写ってないみたいだ」

「叫びの屋敷へのトンネルは地図にのってたのに、ここはのってないんだね、さっきの階段は八階から地面か地下まで降りてきた感じだったし、このまま学校の外までいくのかな?」

 

 たしかに石造りから土に地面が変わったのは八階から降りてきて地面の下の秘密の通路を通っているのかもしれない、オスカーもエストと同意見だった。それに叫びの屋敷への通路は途中で登ったり、下がったりしたがこの通路はずっと平坦なようだった。

 

「叫びの屋敷は丘の上にあったから途中から登りだったけど、この道の行先はそんなに高い場所じゃないのか?」

「うん、必要の部屋の中で方角がちゃんとあってるのかわからないけど、多分ホグズミードの方に向かってる気がするの」

 

 つまり、このトンネルはホグズミードに向かう八番目の道だということだろうか? オスカーはいったい誰がこの通路を作ったのか気になった。それとも誰かが作ったのではなく、必要の部屋が作り出したのかとも思った。

 

「レアはホグワーツの外に行きたかったのかな?」

「ホグワーツの外に?」

 

 オスカーは自分がレアのことをちゃんとわかっているのか分からなかったが、確かに他の誰かと会いたくないのなら、どこか誰とも会わない遠くに行きたいと思うのかもしれないと考えた。灰色のレディやハグリッドにすら会いに行かなかったのはそういうことなのかもしれない。そして、オスカーは頭の中で果たしてレアに会っても何を話せばいいのか、それをやっと考え始めた。

 

「うーん、そうじゃないならレアが必要な何かがこのトンネルの先にあるのかな?」

「必要な何か? 必要の部屋でも用意できないものってことか?」

 

 オスカーの頭の中に必要の部屋が用意できそうにないものが浮かんだ。最初に浮かんだのは食べ物だった。確か変身術の授業で出現や変身させることができないものの一つとしてあげられていたはずだった。

 

「そう、必要の部屋で用意できないものをどうにかして用意するためなら、必要の部屋がその場所まで連れて行ってくれるんじゃないかって思うの」

 

 オスカーはエストの話を聞いて、学期末のダンブルドア先生の話を思い出した。必要の部屋はレアに必要なモノを渡した。そしてホグワーツでは助けを必要としている者には必ずそれが与えられるという話だった。

 オスカーはもう一度忍びの地図を開いた。真鍮のランプに照らされて、ホグワーツの中を動く人の名前が見える。ハグリッドの小屋のそばにはスネイプ先生の名前が、占い学の塔の近くではさっきレアを探しにきたレイブンクローの一団らしき名前があった。

 レアがどう考えているのかオスカーにはわからなかったが、少なくともオスカーはレアがホグワーツに必要とされていると思った。

 しばらく真っすぐな土の地面が続いていたが、二人の目の前にまた石造りの階段が現れた。階段を上ると入り口の扉と同じような扉があった。オスカーはゆっくりとその扉を開けた。

 扉を開けるとオスカーは最近かいだことのある臭いを感じた。強烈な家畜のような臭い、ヤギのような臭いだ。扉の先には擦り切れた絨毯が見え、泣きそうな顔のレアと不機嫌そうな顔をしたホッグズ・ヘッドのバーテンがオスカーとエストの方を見ていた。

 オスカーは二人を見下ろすような位置にいることがすぐわかった。下の方からぱちぱちと暖かい音が聞こえる。どうもこの扉は暖炉の上にあるらしい。

 二人は扉を閉めて降りようとしたが、その途中でオスカー達が扉だと思っていたものが肖像画だということに気付いた。肖像画の中で金髪のオスカー達と同年代くらいの女の子が虚ろに微笑んでいた。オスカーはその女の子にもバーテンやアラスター・ムーディに感じた様な既視感を感じたのだった。

 

「今日はずいぶんと来客が多い様だな」

 

 バーテンが不機嫌な声で二人の方に声をかけ、その青い眼でオスカーの眼をとらえた。青い眼はまるでオスカーの全てを見通しているようだった。オスカーは今度こそこのバーテンが誰に似ているのかがわかった。むしろなぜ気づかなかったのかと考えた。

 

「ダンブルドア先生?」

「えっ?」

 

 バーテンはオスカーがそう言うのを聞いて、さっきよりもよっぽど不機嫌な顔になった。しかし、その顔もひょろりと長い体もアルバス・ダンブルドアにそっくりだった。

 

「俺はお前たちの先生になったことは一度もないがな」

「ミュリエルおばさんが言ってたの、ダンブルドア先生には弟さんがいるって、名前はアバーフォースさん」

 

 アバーフォースはミュリエルおばさんの名前がでるとダンブルドア先生の名前が出たのと同じくらい嫌な顔をした。しかし、否定はしなかった。

 

「性悪のミュリエルか、どうせあることないことお前たちに吹き込んだんだろう」

「妹さんの葬儀の席でダンブルドア先生を殴り飛ばしたって言ってたの」

 

 アバーフォースはさっきまでの顔と違うが、嫌悪感のある顔をした。オスカーはその顔をよく知っていた。オスカーが自分自身を嫌だと思ってるときにする顔と同じだったからだ。そして、エストの話を聞いてさっきの肖像画の女の子がだれなのかわかった気がした。

 

「ふん、俺が誰かはどうでもいいことだろう。お前たちはこの娘に用があるんじゃないのか?」

 

 アバーフォースは視線をオスカー達からレアの方へ移した。レアは自分が話題になったとたん、ビクっと震えた。レアのまぶたは赤くなっていて、オスカーから見ても泣きはらしていたであろうことがわかった。

 

「どうでもいいことはないけど、エスト達はレアを探しに来たの」

「ああ、いろんな人がレアを探してるぞ」

 

 レアの瞳に涙が浮かんだ。レアは机の上に置いてあったバタービールをがぶ飲みした。

 

「もう、ボクはホグワーツには戻れないんですよ、日刊預言者新聞にあんな記事が載ってしまったし、記事の通りに聖マンゴに入院した方がいいんです」

「そんなことないの、だってこの三か月くらいレアと一緒にいたけど、別に入院しないといけないことなんてしてないの」

 

 エストはレアが何を言っているのかまるで理解できないという声のトーンだった。

 

「あの記事をみんなが持ってきて、すごく怖くなったんです。みんなが私のことまるで化け物を見ているような気がして、それに自分……」

「あの娘達はそんなこと考えてないはずなの、だってさっきもレアを探しに来てたし」

「そうじゃないんです! ボクは、自分が自分が怖いんです!」

 

 レアが勢いよくバタービールをテーブルにたたきつけた。しかし、明かにその振動では揺れないような場所の椅子が部屋の端まで吹き飛ばされた。レアはそれを見て真っ青になった。それを見ていたアバーフォースの顔がオスカーが見たことがないほど痛々しい顔に変わった。

 

「ほら、今のを見ましたか? 朝だって、ボクはテーブルの上のモノを壊してしまったんです、今も一緒です。皿やグラスや椅子ならいいですけど、これがヒトだったらどう思いますか?」

 

 レアはバタービールを離して、自分の手を握ったり開いたりしながら見つめた。レアの眼は明確な恐怖に彩られているようだった。

 

「でもスネイプ先生と一緒に訓練をしてるんだろ?」

「してます。最近は発作が全然起きなくなってたんです。でも今のを見ましたか? ボクはちょっとあんな新聞記事を読んだだけでも、いつ誰を傷つけるか分からないんですよ? スネイプ先生だって、オスカー先輩たちだって、寮のみんなだって、ボクがそばにいたらどうなるかわからないんです!」

 

 オスカーはレアに何を言えばいいのか分からなかった。オスカーはレアと同じどころか明確に誰かを自分の力でもとに絶対に戻らないように傷つけたことがあるのに、レアになんと言えばいいのか分からなかった。レアの気持ちがきっとこの中で一番わかるはずなのに、オスカーはいくら考えても、レアを慰めるような言葉が浮かんでこなかった。

 

「魔法の力はレアが信じていればきっと答えてくれるはずなの、レアの杖もそうだったでしょ? 魔法は自分を信じて、杖を信じて、誰かを信じないと使えない特別なものなの、だって魔法は自分やみんなを幸せにするためのものでしょ?」

 

 エストはレアの眼をはっきりと見ながら、ゆっくりと力強くそういった。しかし、それを聞いたレアの顔は信じられないくらい憤った顔だった。オスカーにはその怒りが他の誰でもなく、レア自身に向けられていることがわかった。

 

「ボクの…… ボクの魔法の力は誰かを幸せになんかしない! 誰もボクを信じないほうがいいんだ! 魔法の力だって、何も何一つコントロールできないボクを信じない方がいいに決まってる!」

 

 今度はバタービールのビンが吹き飛ばされて、肖像画の傍の壁にあたり、大きな音をたてて割れた。肖像画の女の子が悲しそうな目でオスカー達を見ていた。

 

「あのとき…… あのとき…… ボクが魔法の力をちゃんとコントロールできていたら、パパに外で見せようなんて思わなかったら、パパもママも誰も死なずにすんだんだ! 二人がボクだけ助けて死ぬ必要なんてなかった!」

 

 レアの瞳から大粒の涙が滝のように流れて、擦り切れたカーペットを濡らした。オスカーはエストの手が震えているのが見えた。それでもエストはその紅い目でレアのことを真っすぐに見つめていた。

 

「だからボクは魔法なんて使えない方がいいに決まってるんです…… 自分も魔法も何一つコントロールできないボクなんて、ずっと閉じ込めてられているほうが何倍もいいんだ」

「そんなの絶対絶対おかしいもん! だってレアのお父さんやお母さんはレアを助けたんでしょ! 命が無くなってもレアが大事だったんでしょ! なんでそんなこと言うの!」

 

 エストは手はおろか肩まで震えていて、その眼はレアの方を見据えていたが今にも泣きだしそうだった。オスカーは二人に何も言うことができなかった。アバーフォースは二人のやりとりを見て、青い眼を大きく見開いていた。そして、さっきのレアと同じくらい自分自身に対して憤りを感じているように見えた。

 

「だって、ボクが魔法を使えなければ、使わなければ、ボクがいなければ二人とも助かったんだ!」

「絶対絶対間違ってる! レアは魔法が使えても、コントロールできなくても全部レアでしょ? 二人はどんなレアでも、二人にとって特別でしょ! なんで、どうしてそんなこと言うの!」

 

 二人はお互いに立ち上がって、涙を流しながらにらみ合っていた。オスカーには二人が何も悪いことをしていないはずなのに、どうして、こんなに傷つけあわないといけないのか分からなかった。それに二人に何も言うことができない自分自身が情けなかった。

 するとアバーフォースが立ち上がって、二人がにらみ合っているテーブルの上に大きな音をたてて、バタービールのびんを三本置いた。二人はハッとなって椅子に座り直した。

 

「愚かで間抜けで救いようのない魔法使いの兄弟の話を聞け」

 

 アバーフォースが唐突に不機嫌な声で話を始めた。アバーフォースが杖を振るとどこからかコップがやって来て、オスカー達三人にバタービールを飲むようにつつき始めた。

 

「あるところに父と母、長男、次男、そして末っ子の娘の家族があった。五人は魔法使いだった」

 

 オスカーはアバーフォースの顔がさっきの二人と同じくらい、苦痛にまみれているように見えた。

 

「娘が六歳の時、マグルの子供たちが娘に乱暴をした。娘が魔法を使うのを見て、怖がったのだろう。説明のできない不思議な力を見て、それを娘が説明することができないのを見て、恐ろしくなったのか、彼らは娘に乱暴した」

 

 アバーフォースは果たしてこの話をオスカー達以外にしたことがあるのだろうか? オスカーはアバーフォースの顔を見て、彼がよほどの怒りに耐えながら喋っていることがわかっていた。

 

「娘は様子がおかしくなった。魔法を使うことができなくなった。しかし、魔法の力は消えたりしない。その力は外ではなく内へと、娘の体と心に向かった。娘は心と頭がときどきおかしくなった。決して誰かを傷つけるような娘ではなかった。それでもときおりおかしくなった心と力を止めることができなくなった。まるで爆発するようにその力は荒れ狂った」

 

 レアの眼が恐怖で丸くなったように見えた。オスカーはその娘がどんな状態だったのか、どうしてアバーフォースがレアの話を聞くたびにあれほど苦痛にまみれた顔をするのかようやくわかり始めた。

 

「父はマグルのやつらに復讐した。復讐はできたが父はマグルを襲った罪でアズカバンに収監された。父はなぜマグルを襲ったのか絶対に言わなかった。言えば娘が一生聖マンゴに閉じ込められるかもしれないことを分かっていたからだ。父は娘に会うことなくアズカバンで死んだ。娘のことを分かる人間が一人いなくなった」

 

 アバーフォースは立ち上がって喋り始めた。座って話すのは、じっとして話すのは耐えられないようだった。

 

「家族は違う場所に引っ越した。娘を隠す必要があったからだ。娘は病気だという噂を流し、できるだけ外に出さないようにして、母親がつきっきりで娘の面倒をみた。弟は娘と仲が良かったから、母親が娘の面倒をみることや、発作を止めることをよく手伝った。そうしている間に上の兄弟はホグワーツにいく年になっていた」

 

 暖炉の炎に照らされてアバーフォースの深いしわのある顔が照らされた。オスカーは年をとっても彼の怒りと失望と悔しさがその時のまま刻まれているようだと思った。

 

「兄弟の兄は非常に優秀で有能な魔法使いだった。後の世にその世紀で一番偉大な魔法使いと呼ばれるほどの魔法使いだった。彼にとってはホグワーツですらその能力と野心をとどめることができなかった。同格のような相手もいなかった。もちろん、娘の面倒をみることや家に縛られることは彼にとっては才能の浪費だと思えただろうし、わずらわしかったに違いない」

 

 オスカーはミュリエルおばさんがプルウェット邸でエストやダンブルドア先生について言っていたことを思い出した。

 

「兄の卒業とほとんど同時に、娘が十四歳の時、事故が起こった。弟がいれば発作を止めることがきたかもしれない、しかし二人の兄弟はホグワーツだったし、母は老いていた。娘を止めることができないほどに。母は死んだ。娘のことがわかる人間が一人いなくなった」

 

 レアとエストの眼が大きく見開かれた。オスカーはこの話をあまり聞きたくないと思った。アバーフォースの顔はこれまでのどれよりも怒りに満たされているように見えた。

 

「兄はホグワーツを卒業した。ホグワーツで得られるほとんどの栄誉に加えて、いろんな雑誌や有名人にも称賛されて。だが娘の面倒を見る人間が必要だった。娘のことがわかる人間は世界に二人だけだった。弟は娘の面倒を見ると言った。兄が娘のことをわずらわしいと思っていることがわかっていたし、自分なら娘をなだめられると思っていたから。しかし、兄は弟のことを思ったのか、それとも兄としての責任感からか弟をホグワーツに通わせ、自分が面倒を見るといった」

 

 三人にはその兄弟が誰なのか、優秀な兄が誰なのか分かっていた。その弟がいったい自分自身と誰に怒りを抱いているのもだ。

 

「兄は優秀な魔法使いだったから、数週間の間。娘が家や色々なモノを壊すのを発作を止めることができていた。しかし、兄は飽きていたし、自分の境遇に失望していただろう。兄の偉大な能力が使われるのは頭のおかしい娘を止めるためだけ、正に才能の浪費だ。そして兄は自分と同格の相手に初めて出会った。運命的だっただろう」

 

 もはやアバーフォースは怒りを全く抑えられないように見えた。凄まじい怒りがその青い目を通して伝わってくるようだった。

 

「ひと世代前はその世紀で一番危険な魔法使いと言われていた魔法使いだった。しかし、まだ彼は若く才能ある魔法使いだった。その魔法使いとその世紀で一番偉大な魔法使いが出会った。彼らが意気投合するのは早かった。唯一同格で相手のことがわかる友人ができたからだ。兄が娘のことをないがしろにするのは時間の問題だった。世界で二人しか娘のことがわかる人間はおらず、その一人は娘から遠い場所にいるのにだ」

 

 オスカーは本当にこの話を聞きたくなかった。誰も悪いことをしようとしていないのに、父は娘の仇をとっただけなのに、母は娘の面倒をみただけなのに、兄はやっと自分の理解者を手に入れることができたのに、弟は家族のことを思っていただけなのに、娘はなにも悪いことをしていのに、全てが不幸な方へ向かっていたからだ。

 

「兄と危険な魔法使いはある計画を立てていた。自分たちの力と頭を使って、魔法族たちを日の元にだして、娘を隠せなくてもいい世界を作る計画だ。そのために娘をつれて世界を旅して、演説をして、仲間を増やす計画だ。そして弟も休暇で家に帰ってきていた。弟は娘がないがしろにされていること、そしてそんな計画についていくようなことは、娘がそんなことに耐えれないことは見ただけでわかった」

 

 エストは手が白くなるほど強く自分の杖を握っていた。まるで杖を持っていないとアバーフォースの話を聞くのが耐えられないようだった。レアは大きく眼を見開いて、青い顔で震えていた。

 

「弟はそれを兄と魔法使いに言った。魔法使いは怒り狂った。彼にとって兄との計画を有象無象に止められることは許せなかった。彼は弟に磔の呪文をかけた。兄が弟をかばって杖を抜いた。弟と兄とその親友とみつどもえの決闘になった。娘は決闘の音にも自分の兄たちが争う姿にも耐えられなかった」

 

 アバーフォースの顔が真っ青になった。彼の顔には先ほどまでの怒りよりも、自分のしたことに対する恐れと後悔がありありと表現されていた。

 

「多分、娘は兄たちを助けたかったのだろう。世界で二人だけ自分のことを分かる人間が争うのを止めたかったのだろう。娘の力と三人の呪文が交錯した。三人が気付いた時には娘は死んでいた」

 

 オスカーは肖像画の女の子を見た。女の子は痛々しい顔でアバーフォースを見ていた。オスカーはクラーナとクリスマスにみぞの鏡を見たあの日、ダンブルドア先生が何を言っていたのか、ダンブルドア先生が何を見たのかやっとわかった気がした。

 

「誰がやったのかはわからない。だが娘はいってしまった。永遠に」

 

 アバーフォースは踏ん張る様な、自分にかつを入れるような顔をして、レアの方を真っすぐにみた。

 

「これで分かったか? どうなるか分かったか? 娘がどうして死んだと思う? 二人しか彼女のことを分かる人間がいなかったからだ! 愚かでまぬけで救いようのない二人しかだ!」

 

 レアはうつむきながら、ヒックヒックと泣いていた。

 

「自分から閉じこまってどうなると思う? 今世紀で一番偉大な魔法使いさえ理解者がいないとどうなったと思う? 救いようのない弟が誰にも言わずにあほうな行動をした結果どうなったと思う? アリアナはどうやったら助かったと思う?」

 

 オスカーはアバーフォースの眼からはオスカーがダンブルドア先生から一度だけ感じたことのあるとんでもないエネルギーが発せられているように思えた。それは誰かを助けるために悪意に向けられている純粋な怒りのようだった。

 

「娘、お前が一人なら、閉じこもるのもいいだろう。だがお前を分かってくれる人がいるなら、それはお前自身だけではなく、周りを不幸にするだろう」

 

 オスカーはどうして必要の部屋とホッグズ・ヘッドがつながったのか、どうして必要の部屋はレアをここへ連れてきたのか、ようやくわかった。

 

「ここにお前を追ってきた二人が、さっきの兄弟のような愚かで間抜けで救いようのない人間に見えるのか? お前のために泣くような人間がそう見えるのか?」

 

 もはやアバーフォースの声はまるでレアにすがっているようにも聞こえた。エストは泣きながらもアバーフォースの話を聞いていた。オスカーはどうしたら彼のように自分を見つめ直し、まるで自分の罪の象徴のようなレアを助けて、励ますようなことを言えるようになるのだろうと思った。

 

「この二人の他にもお前を探している人間がいるんだろう? なら自分の場所へ戻れ、ホグワーツへだ!」

 

 アバーフォースの声が小さな部屋に響いた。明らかな怒りが込められているにもかかわらず、オスカーはその声がどこか暖かなものだと感じた。

 

「ねえ、レア、帰ろう? エストもレアと守護霊の呪文の練習をしたいし、レイブンクローの娘たちも、スネイプ先生もレアのことを探してるよ」

 

 エストがレアを肩を叩いてそう言った。

 

「ボク…… うう…… でも、やっぱりみんな記事を見たら怖がるに決まってるし、オスカー先輩たちやスネイプ先生は強いから……」

 

 オスカーはレアのカバンから変身術入門を取り出した。レアの変身術入門はオスカーやエストのものよりも新しいにも関わらず、何度も読み込まれたあとやたくさんの書き込みがあり、レアがどれほど魔法を練習しているのか示しているようだった。

 オスカーは目的のページを見つけた。そのページは何度も開かれているのがページの具合からわかった。オスカーはレアがオスカー達との練習を楽しみにしてくれていたことが伝わってくるようで、胸が温まる気がした。

 そのページはエストが呪文をかけた羊皮紙で、忍びの地図の写しが表示される場所だった。

 

「ほら、これを見ればわかるだろ、レアの友達はまだレアを探してる。それにあの娘たちは根拠もなくレアを怖がったりしないだろ、レイブンクローなんだろ?」

 

 レアはオスカーの差し出した地図を見た。地図の上ではオスカーがさっき見た時に占い学の塔にあった名前がホグワーツの色んな場所に表示されていた。レアはそれを見てもっと大きな声で泣いた。大粒の涙が地図の上の名前をにじませて、いろんな名前と重なって見えた。

 オスカーはオスカー達のやり取りを見て、肖像画の女の子が、アリアナ・ダンブルドアが少しだけ微笑んだのを見た。

 



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まね妖怪

なんか説教臭くなってる気がする


 

 

 ホッグズ・ヘッドからレアを連れ帰ってから数日たった。オスカーは日刊預言者新聞がなぜレアのことや劇の配役について知ることができたのかが気になっていた。

 リータ・スキータなる人物がどういう人物なのかオスカーは知らなかったが、エストやトンクスいわく、日刊預言者新聞の飛ばし記事やスキャンダルなどをよく拾ってくる記者だとウィーズリーおばさんやトンクス先生が言っていたとのことだった。

 オスカーは自分について書かれるのは正直どうでも良かったが、他のメンバーがレアのようにやり玉に挙げられるのではないかと心配していたのだ。

 しかし、守護霊の呪文や劇の練習が始まり、みんな忙しくなっていたし、11月が終わりクィディッチの年内最後の試合が近づいてくるとクィディッチチームに入っているメンバーはそれどころではなくなってしまうほど忙しそうだった。

 そしてその中でも特にエストの過密スケジュールっぷりはオスカーから見ても心配だった。オスカーはエストの言っていた特別措置が何なのかだいたい予想はついていた。エストはオスカーと同じ授業にはいつも一緒の机で受けており、それと同じ時間の授業にも休まず出席しているようだったので、エストが首からさげているものが何であれ、どういう効果を持つものなのかはだいたい分かりつつあったのだ。

 しかし、その道具が何であってもエストの疲れを癒すような効果はなさそうだとオスカーはエストに元気が出る呪文を唱えながら思った。呪文を唱えると確かにエストは元気そうな顔になったが、目の下のクマは消えていなかったし、オスカーは隣のペアが呪文をかけすぎて笑いが止まらなくなっているのを見ると、この呪文に頼りきるのは良くない気がした。

 

「はい、そこまで、クィディッチの試合も近いようだから今日の宿題は無し、以上!」

 

 フリットウィック先生がキーキー声でそう言って呪文学の授業が終わった。今日は呪文学の後に闇の魔術に対する防衛術の授業がある予定だった。

 

「ドージ先生は次の授業は実地授業だって言ってたよね?」

「ああ、グリンデローとレッドキャップはやったからそれ以外なんだろうけどな」

 二人は次の教室に向かいながらいったい何の魔法生物が出てくるのか話していた。闇の魔術に対する防衛術の三年生の授業では比較的身近にいるような魔法生物の実地授業がメインだった。ドージ先生はフリットウィック先生と同じくらい優しい先生だったので、授業はすぐに評判になっていた。

 オスカーが教室に入るとすでにスリザリン生が何人か並んでいた。中心にある洋服ダンスのようなものを囲んで並んでいる。オスカーたちもその洋服ダンスを囲む列に加わった。

 

「ああ、みんな揃ったかな?」

 

 ドージ先生が洋服ダンスの隣に立って、いつものぜえぜえとした苦しそうな声で話すと、洋服ダンスが突然ぶるぶる震えだし、バーンという大きな音を立てて、少しだけ床から飛びあがった。

 洋服ダンスの近くにいた生徒が何人か飛び上がった。

 

「心配しなくていい、これはボガート、まね妖怪だ」

 

 ドージ先生がそう言うと今度は洋服ダンスの蝶番の部分がガタガタいいはじめた。

 

「さて、ボガート、まね妖怪がどんな生き物なのかわかる人はいるかな?」

 

 オスカーの隣で手が真っすぐに上がった。

 

「ミス・プルウェットお願いできるかな」

「はい、ボガートは暗くて狭い場所を好みます、そしてその姿を見た人は誰もいません。一番の特徴は人の前に出るとその人が一番恐ろしいと思っている何かに変身することです」

「うん、素晴らしい説明だ。スリザリンに五点」

 

 まね妖怪、たしかにオスカーもその存在を二年生の授業で聞いたことがあった。魔法使いの家にいつの間にか住み着いている生き物だったはずだ。

 

「さて、今ボガートは非常に怖がっている。他でもない私たちにだ。なぜかわかるかね?」

 

 スリザリン生にドージ先生がそう尋ねるともっと大きな音をたてて洋服ダンスが震え始めた。近くにいる生徒達は不安そうな目でそれを見ていた。またオスカーの横でエストの手が挙がった。

 

「おお、じゃあもう一度ミス・プルウェットにお願いしよう」

「たくさん人がいるとボガートが何に変身したらいいのか分からないからです。なので誰の恐ろしいものに変身するのか混乱すると考えられます。そして、誰かにとって恐ろしいものが他の人にとって恐ろしいものだとは限りません」

 

 ドージ先生はエストの返答を聞いてやさしい顔で笑った。

 

「本当に素晴らしい回答だ。スリザリンにもう五点。彼女の言う通り、我々がボガートに対抗する最も簡単な手段は複数人でいることだ。一人では耐えられない恐怖でも二人なら、三人ならもっとたくさんなら簡単に耐えることができる。そして、ボガートが一番嫌うものが笑いだ。ボガートは人が愉快だと思う感情を嫌う。なので呪文は簡単だ。リディクラス! ばかばかしい!」

 

 いつものぜいぜい声ではあるがよく響く声でドージ先生が唱えると洋服ダンスがまたガタガタ震えた。

 

「さて、呪文は簡単だがボガートを退治するにはもう一工夫必要だ。それは君たちが一番怖いものをばかばかしくすることだ。バジリスクが怖いならかば焼きにしてしまえばいいし、バンシー妖怪が怖いなら声をだせなくしてやればいい。リディクラスの呪文とともに君たちの恐怖の存在をばかばかしいものに変えてしまうんだ」

 

 恐怖の存在をばかばかしいものに変えてしまう。たしかにその方法ならば簡単に自分の恐怖と向き合うことができるのだろう。オスカーはそう思ったが、そもそも変えることができないほどの恐怖と出会ったことがあるのならそれは通用するのだろうか? オスカーは自分の中で嫌な予感がせりあがってくるのを感じた。

 

「さて、では君たちに順番にボガートと対峙してもらう。みんな自分の一番怖いものを思い浮かべてくれるかな? そしてその姿をばかばかしいものにどうやって変えることができるのか想像してみよう」

 

 スリザリン生たちはみな目をつぶってぶつぶつ言ったり、うんうん言ったりしていた。

 オスカーも嫌な予感がしていたが考えた。

 この世で一番恐ろしいものは何なのか?

 最初にヴォルデモート卿が頭に浮かんだ。ハリー・ポッターに打ち倒される前の完全なヴォルデモート卿。切れ込んだ赤い目を持ち、高笑いをする恐るべき魔法使い。オスカーがヴォルデモート卿を何かに変えることを考え始めたとき、ヴォルデモート卿の姿が銀の髪飾りをつけたエストの姿に変わった。

 そして銀の髪飾りから、オスカーは炎を連想した。ヴォルデモート卿の高笑い…… 倒れている誰かの姿…… 自分の杖から吹き出ている炎…… オスカーは自分の動悸が早くなっていることが分かった。

 オスカーはこの世で一番恐ろしいものが何なのか理解した。自分が一番耐えられないものが一体何なのかすぐにわかった。

 そして、オスカーはそれを彼女をばかばかしいものに変えることなど自分にはできはしないことを理解した。オスカーは自分の背中に嫌な汗が流れていることがわかった。

 オスカーは周りを見回した。周りの生徒たちはほとんどが目をつぶって自分の一番恐ろしいものが何なのか考えているようだった。しかし、オスカーのように動悸が早くなったり、嫌な汗をかいていそうな生徒はいなかった。

 オスカーは隣のエストを見た。オスカーはエストを見た時に自分が考えたことが嫌だった。エストなら自分と同じくらい恐ろしいものを想像したのではないかと思ってしまったのだ。

 しかし、エストは真っすぐに洋服ダンスを見つめていた。オスカーがほとんど見たことがないほど真剣な顔だった。オスカーはますます自分のことが恥ずかしくなった。

 

「さてみんな準備はできたかな? じゃあ前の人から順番にいこう」

 

 みんなが頷いて杖を取り出す中、オスカーは焦っていた。オスカーは自分の一番恐ろしいものを何かに変えることなどできはしないと理解していた。おかしなものにばかばかしいものに変えることなどできはしないのだ。そんなことは許されない。オスカーには分かっていた。

 ドージ先生が洋服ダンスを開けて、まね妖怪が飛び出してきた。

 パチン! 最初にまね妖怪は三本の頭がある蛇に変わった。ルーンプスールだ。

 

「リディクラス!」

 

 生徒が唱えると三本の頭がリボン結びになった。教室に笑い声が響く。次の生徒が前にでた。パチン! 今度は巨大なナメクジだった。

 

「リディクラス!」

 

 叫ぶように生徒が唱えるとナメクジの上から大量の塩が振ってきたように見え、どんどんその体が小さくなった。

 その後も生徒たちが前にでるとボガートは色々な姿に変わり、生徒たちの笑い声に困惑した。巨大なゴキブリ、ミイラ男、しゃべるゾンビ、中にはなぜかマクゴナガル先生の姿もあった。そして段々とボガートは混乱しているようだった。今やボガートの姿は安定せず、マクゴナガル先生の杖がミイラ男の足になっていたり、バンシー妖怪がミイラの包帯を巻いていたりした。

 一番後ろの方にいたオスカーとエストまで順番が回ってくるところで、ドージ先生が生徒たちの前に出ようとした。

 しかし、ドージ先生が前にでるよりも早く、エストがまね妖怪の前に立っていた。

 パチン! まね妖怪の姿が変わった。オスカーはその姿に見覚えがあった。スリザリン生全員が見覚えがあった。

 誰がどう見てもまね妖怪が変身したのはエストレヤ・プルウェットその人だった。

 黒い髪、紅い眼、オスカーより少し低い身長。どれを見てもエストにしか見えない。服装と持ち物だけが違う。まね妖怪が変身したエストはプルウェット邸でエストが来ていた服を着ていて、いつも肌身離さず持っているニワトコの杖を持っていなかった。

 それにどこかその目や表情が何かを諦めているような、やる気のない顔をしているようだった。

 

「リディクラス!」

 

 エストがはっきりとそう唱えるとまね妖怪のエストの姿が変わった。なぜかまね妖怪のエストの服装がゴシック風のひらひらした黒いドレスのようなものになって、頭の上には銀色のティアラが乗っていた。黒い髪と合わさってまるで人形のようだった。まね妖怪のエストが顔を赤くして、それを見た本物のエストも顔を赤くした。スリザリン生が本物と偽物のやり取りを見て笑うと、まね妖怪は破裂して、幾千もの煙の筋になって消えていった。

 

「みんなよくできた!」

 

 ドージ先生が今度こそ前に出てきてそう言った。ドージ先生の目線はエストに向かっていて、本当に感心している顔だった。

 

「まね妖怪と対決したスリザリン生一人につき五点をあげよう」

 

 オスカーは内心、自分の順番が回ってこなかったことに安堵していた。さっきのエストのやり取りを見ても、スリザリン生がみんな笑っているのを聞いても、自分の順番が回ってくるのが不安で仕方なかったからだ。

 

「さて、授業はこれで終わりだ。みんな次の授業までに二年生で習ったボガートについての記述をまとめて、今日見た本物と比べてどうだったか考察してレポートにまとめること」

 

 スリザリン生はみんな興奮しながら、まね妖怪との対決を口々に喋りながら教室を出た。

 そしてオスカーは授業を思い返し、自分がまね妖怪と対峙しなかったのは偶然ではないのではないかと思った。さっきドージ先生が前に出ようとしたのはエストや自分にまね妖怪と対峙させたくなかったからではないのか?

 

「なあエスト、さっきドージ先生がエストの順番の時にボガートの方へいこうとしてたのって……」

「うん、エストとオスカーの順番が来る前に退治しちゃおうとしてたんだと思うの」

 

 エストは少し疲れた顔でオスカーの方を見て頷いた。

 

「だから今から聞きに行かない? ドージ先生なら教えてくれると思うの」

 

 オスカーは先日のホッグズ・ヘッドの一件といい、今日のまね妖怪といい、自分よりエストの心がはるかに強いことを感じていて、自分がさらに情けなく感じられた。

 そしてそれゆえにエストのことが少し心配だった。いくらエストが優れているとしても授業を全て受けて、魔法や劇そしてクィディッチの練習を同時にやっても大丈夫なのだろうか?

 なぜエストはそんなに全部を頑張れるのだろうか? オスカーはさっきみたまね妖怪のエストの様に、もう少しやる気のない顔する時があってもいいのではないかと思った。

 二人がドージ先生の居室を訪ねるとまだドージ先生は帰ってきておらず、中にはなぜかクラーナがいて、空いている窓から外を眺めているようだった。

 

「あれ? クラーナどうしたの?」

「いや、それはこっちのセリフでもあるんですけど…… 二人こそどうしたんですか?」

「俺たちはさっき闇の魔術に対する防衛術だったんだけど、それでちょっとドージ先生に質問があったから来たんだけど……」

 

 オスカーにはエストの元気が少しないのと対比でそう見えるのか、クラーナがちょっといつもより強気に見えた。

 

「もしかして、スリザリンもまね妖怪の授業だったんですか? グリフィンドールは午前中にやったんですけど」

「そうなの、そのことでドージ先生に質問しようと思ってきたの」

 

 クラーナはオスカー達がまね妖怪の授業を受けたところだと聞いて、ちょっとまゆをあげてニヤッと笑った。

 

「へえ、ちなみになにに変わったんですか? まあオスカーのはどうでもいいですけど、エストのは気になりますね」

 

 オスカーはクラーナがニヤニヤしながらそう言うのを聞いて、クラーナにはオスカーのまね妖怪が何に変わるのかばれている気がした。

 

「なんなのそれ、オスカー言っちゃだめだからね?」

「エストのまね妖怪はエストに変身したけど」

「ちょっと!? オスカー!」

 

 オスカーはスリザリン生がさっき興奮気味にまね妖怪について喋っていたので、エストのまね妖怪がエストになることはすぐに噂になると思っていた。

 なので、クラーナに話したのだがどうもエストの不興をかってしまったようだった。

 

「は? エストですか? 自分自身? 自分が一番怖いってことですか?」

「もう…… そうだよ? なんかダメなの?」

「いやダメってことは無いですけど……」

 

 クラーナは本当に驚いているようだった。オスカーも自分自身が一番怖いというのはなんだか不思議な話だと思った。

 

「ちなみにそのエストは本物とどこか違ったんですか?」

「ああ、なんかミュリエルおばさんのとこで着てた服を着てて、やる気なさそうな顔で…… あとは杖を持ってなかったかな」

「なんでオスカーはそんなに色々覚えてるの!?」

 

 さっき見たからとしかオスカーには言いようがなかったが、今日は珍しいエストが顔を赤くする日なのだと思った。

 

「杖ですか? ああオスカーとの特別な杖ですもんね」

「えっ? なんでクラーナが杖のことを知ってるの?」

 

 ニヤニヤしながら言ったクラーナだったが、エストが一転して真顔でそう言ったのを聞いて、今度は地雷を踏んづけた感じの顔になって、オスカーの方を見た。

 エストも困惑した顔でオスカーの方を見た。

 オスカーはそういえば、杖のことをクラーナ、レア、そして灰色のレディと話あって知ったことをエストに話していなかったことを思い出した。

 

「えっと、あの朝は言わなかったけど、姉弟杖だって気付いたのがクラーナとレアと一緒に灰色のレディに聞きにいったからなんだ」

「そうだったんだ……」

 

 エストはそれを聞くとうつむいて何かをかみしめているような顔をしていた。オスカーにはエストが杖を強く握りしめているのが見えた。

 クラーナがオスカーの方に近づいてきて耳元でささやいた。

 

「ちょっと、すごいショック受けてるじゃないですか、どうにかしてくださいよ、エストの担当はオスカーでしょう、すごい気まずいです」

 

 エストの担当というのはオスカーには良くわからなかったが、クラーナの言う通りにエストがショックを受けているのは本当のようだった。オスカーはエストが杖に対して何度も特別だと言っていたことを思い出していた。しかし、ここは話題を変えた方が良さそうだった。

 

「リディクラスで変わった服装ってなんだったんだ?」

「えっ? 服装?」

 

 オスカーが苦し紛れにそう聞くと、エストは一瞬ぽかんという顔をして、その後顔をさっきよりも赤くした。

 

「ちょっとオスカーなに聞いたんですか? 怒らせたんじゃないですよね」

「いや、エストがエストの偽物にリディクラスを唱えたら、なんか黒い…… なんて言うんだ? ゴシック? なんかひらひらしたやつがついた服に変わったからなんなのかなって思ったんだけど、あと頭の上にティアラが乗ってたな、レイブンクローのやつとは違う感じのやつ」

「だからなんでオスカーはそんなに覚えてるの!」

 

 エストは顔を真っ赤にしてオスカーにつめよってきた。

 

「へえ、まあエストの家は旧家ですしそういう服装をすることもあるんじゃないですか? 私にはよく分からない趣味ですけど」

「エストの趣味じゃないの、あれはエストが小さいころにミュリエルおばさんが無理やり着せてた服なの、あのティアラもうちの家に昔からあるティアラらしいの、モリーおばさんの結婚式にも貸し出したらしいの、だからあの服のことはもういいの」

 

 エストはオスカーが聞いたことがないくらい早口でまくしたてた。

 

「プルウェットの家に伝わるくらいだからゴブリン銀なんですかね? どんな感じだったんですか? オスカー?」

「ええ? 人形みたいで綺麗だと思ったけど、ああティアラは多分銀色だったな」

 オスカーがそう言うと、エストはさらに顔を赤くして何も言わなくなった。すると扉が開いてドージ先生が帰ってきた。

 

「おや、何か用かな? 相変わらず仲がいいみたいでいいことだが」

 

 ドージ先生は相変わらずぜいぜいと苦しそうな声だったが三人をみてニッコリしながらそう言った。

 

「なんで私をまね妖怪と対峙させなかったんですか?」

 クラーナが相変わらずの勝気な声でそう言った。オスカーとエストはクラーナの用が二人と同じだったので顔を見合わせた。

「なるほど、二人も同じことを聞きに来たのかな?」

 

 ドージ先生が二人の方を向いたので、オスカーとエストは頷いた。クラーナはそれを見て驚いた顔をした。ドージ先生は優し気な声でこう言った。

 

「君たちをまね妖怪と対峙させたら、教室が混乱するようなものが、三年生の生徒達では耐えられないようなものに変身するのではないかと思ったのだよ」

 

 正直な返答だった。確かに去年の出来事といい、オスカーは自分や他の二人、クラーナの家族のことは分からなかったが、三人のまね妖怪がヴォルデモート卿やそれに匹敵するようなものに変身すれば教室が混乱することは間違いないと思った。

 

「まね妖怪や吸魂鬼と対峙するとき、ひどい心の傷を持っているほど、恐れるものが強くおぞましいほど、対峙するのは困難になる。君たち自身がどう思っているのかは別にして、前の戦争の産物が教室に現れるのは、三年生の生徒達の前に現れるのは早すぎると思ったのだ」

 

 オスカーがクラーナの方を見るとエストがさっき杖を握りしめていたよりも強く、手が白くなるほど握りしめられているのが見えた。

 

「もちろん君たちの勇気を評価していないわけではない、それにエスト君のあのまね妖怪には本当に感心させられた」

 オスカーは開心術をマスターしてはいなかったがドージ先生がウソを言っていないことや、オスカー達生徒のことを考えていることは分かった。

 

「正直なところ、最も恐ろしいものが明確な怪物になる場合のほうがよっぽど与しやすい。人が恐れるものはもっと複雑で戦いようのないものだったりもする。エスト君の自分自身というのはまさに典型かもしれない」

 

 オスカーは自分が一番恐ろしいものを思い浮かべた。いったいどうやって戦えばいいと言うのだろうか? 今、ドージ先生から直接話を聞いている時でさえ、オスカーは戦いようがないと思っていた。

 

「しかし、君たちなら大丈夫だろう。まね妖怪と戦う時、なにをすれば有利になると言ったのか覚えているかな? 一人で立ち向かえないのなら、二人で立ち向かえばいい。恐怖そのものと一人で向かい合う必要はないのだ、ああ説教のようになってしまった。年を取るといかんなあ」

 

 ドージ先生はそう言って笑った。エストは食いしばるような顔をして、クラーナの手は固く握りしめられていた。オスカーはドージ先生が言ったことをなんとか飲み込もうとしていた。しかし、オスカーは恐怖そのものと複数人で戦うには恐怖と戦うのと同じくらい困難で勇気が必要だと思った。

 

 

 



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クィディッチ

このスポーツ…… 何も言うまい


 

 クィディッチ年内最後の試合が間近まで迫っていた。今年はグリフィンドール対レイブンクローの試合が長引いたせいで、雪の降り始める十二月まで試合がずれ込んでいたのだ。

 試合を見に行っていた生徒達や先生達もスニッチが二日経っても見つからないとは思っていなかった。

オスカーもいい加減この競技のスニッチと言う要素は少し欠陥があるんじゃないのかと思っていたが、シーカーであるチャーリーとエストの手前、そんなことは言えなかった。

試合自体はマクゴナガル先生の熱願により、一週間後に再開され、チャーリーが四日目にスニッチをやっと取って終わった。

なので残る試合はスリザリン対ハッフルパフだけだった。

 

「試合は明日だしそろそろ終わった方がいいんじゃないのか?」

 

 ホグワーツには連日吹雪が吹き荒れていて、スリザリンもハッフルパフも体力温存のために前日は練習をしないことにしたらしく、エストとトンクスの二人も守護霊の呪文と劇の練習に来ていた。

 オスカーは緊張を紛らわすために二人がいつもと同じことをしたいのだろうと思っていた。

 

「うーん、守護霊の呪文ができたらなんか試合も上手くいく気がしたんだけど……」

「じゃあなおさらエストに成功してもらうわけにはいかないな」

 

 オスカーの顔に変身してクラーナとセリフの読み合わせをしていたトンクスがオスカーの顔でオスカーの口調を真似ながら言った。

 

「もう! オスカーの顔で言うとややこしいの!」

「まあ本物のオスカーの言う通りにそろそろ切上げた方がいいかもね、僕の試合みたいに四日もスニッチが見つからなかったら体力が大事になるから」

 

 チャーリーが少し疲れた声で言った。オスカーもまたスニッチが四日も見つからなかったらクリスマスが先に来てしまう気がした。

 

「まあ焦らなくてもいいんじゃないですか? 実際、私たち誰も有体の守護霊を創り出せていないわけですし」

 

 クラーナの言う通り、オスカー達は誰も守護霊を創り出すことはできていなかった。オスカーはエストができないような呪文があるということが意外だった。

 もう一つ意外なことがあるとすればレアが一番進んでいるように見えることだろうか、オスカー達が白いモヤのようなものしか出せないのに対して、レアの白いモヤは時々何かの形をとる時があったのだ。

 

「そうね、レアも明日はお仕事があるしね」

 

 トンクスがいつもの自分の顔とショッキングピンクの髪に戻りながらレアに言った。

 

「ホントにボクが明日やるんですか? 台本と紹介文はマクゴナガル先生から貰いましたけど……」

「大丈夫よ、逆にもっと有名になっちゃえばいいのよ、レアは特別功労賞を貰ってるせいでちょっと有名だし大丈夫、大丈夫」

 

 トンクスは何かをレアのために取り付けてきたようだったのだが、もったいぶってオスカー達には言ってはくれなかった。

 他の四人は多分トンクスなりにレアを励ましているのだろうということで何も言わなかった。ただオスカーはまたホッグズ・ヘッドでファイア・ウィスキーを飲んだ時のようにオチがつかないか心配だった。

 

「エクスペクト・パトローナム! 守護霊よ来たれ!」

 

 エストが懸命な顔で、何かを必死で思い出すような顔で守護霊の呪文を再び唱えたが銀色のモヤのようなものが辺りを漂っただけで形をとることはなかった。

 それを見たエストの顔は酷く疲れているようにも何かに失望しているようにも見えた。オスカーはエストが守護霊の呪文を失敗するたびにこの顔をすると知っていた。

 

「まあほんとにそろそろ帰るか、夕食の時間もあるし」

 

 オスカーは杖を振って、空き教室の机と椅子を元の位置に直し始めた。強制的にでも練習をお終いした方がいいと思ったのだ。

 オスカーも守護霊の呪文を練習したときに思ったのだが、この呪文は酷く体力や精神力を消費するように思えた。

 自分の一番幸福な記憶を思い出して呪文を唱えているはずなのに、呪文ができないと言うのはその記憶がまるで一番幸福なのではないと言われている気分になったからだ。

 オスカーはクラーナがこの呪文は生半可なものではないと言っていた意味がわかり始めている気がした。まね妖怪と同じく、自分と向き合うというのは酷く難しく疲れるものなのだ。

 実際に疲れるのが分かってからはクィディッチチームのメンバーはエスト以外、劇の練習の方を主軸にするようになっていた。

 オスカーは呪文の練習に妥協しないエストのくまが最近ますます濃くなっていることを知っていた。

 

「私も手伝うわよ」

 

 トンクスがそう言って杖を振ったが、机は上下逆さまになってもとの位置に戻った。

 

「まあ…… まあまあの出来ね」

「どう見ても全くできてないでしょう。どうやってこの机で勉強するんですか?」

 

オスカーはため息をついてトンクスがひっくり返した机を元に戻した。

 

 

 その後、エストは夕食の時も食べ終わって談話室にいる時も、オスカーに何か言うことはなかった。

 試合前になるとエストは毎回、オスカーにクィディッチのあれこれについて語ってきていたので、オスカーは今回もそうだろうと思っていた。

 しかし、クィディッチ試合前の緊張を吹き飛ばそうとする生徒達の騒ぎの中、エストはただ椅子に座って湖が見える窓を眺めている。

 黒い湖を写す窓に談話室の緑の光とエストの紅い眼が写っていた。オスカーはいつもの場所にエストといるだけなのに沈黙が嫌だった。

 オスカーは毎回のごとく聞かされる、万年最下位のチャドリー・キャノンズがどうのだとか、ウロンスキー・フェイント、ホークスヘッド攻撃フォーメーションなどと言ういつの間にか覚えてしまったクィディッチの技を喋っていたかった。

 

「緊張してるのか?」

 

 やっとエストにオスカーが言えたのはそれが精一杯だった。エストは窓から目を離してオスカーの方を見た。

 オスカーにはいつもの何倍もエストの顔が疲れているように見えた。

 

「うーんと、多分緊張はしてないと思うの」

 

 エストは首を傾けて笑った。オスカーにもエストは緊張してないように見えた。ならばどうしてそんなに疲れた顔になるのか不思議だった。

 

「緊張してるのか、試合するのが負けるのが怖いのか分かんないの、オスカーは自分のことって、自分がどうして何を考えてるのかって分かる?」

 

 オスカーはエストの言っていることが何なのかは分からなかった。何を言って欲しいのかも分からなかった。

 

「分からないと思うけど、とりあえず疲れてるんなら寝ればいいんじゃないか? エストが疲れてて喜ぶのはトンクスだけだろ」

「それはそうかもしれないの」

 

 エストは笑いながら何か違うことを考えているようだった。無意識のうちにエストの指が胸元の金色の鎖を触っていた。

 

「選手! 就寝だ!」

 

 そうこうしているうちにスリザリンチームキャプテンの声が談話室に響いた。オスカーはその声がありがたかった。とりあえずエストをベッドに向かわせた方がいい気がしていたからだ。

 

「うーん、じゃあオスカーまた明日ね」

「ああ」

 

 エストはそう言って女子の寝室の方へ消えていった。オスカーも寝室に戻ろうとするとスリザリンクィディッチチームの面々に取り囲まれた。

 

「それでオスカー君、うちのシーカーの調子はどうなんだ?」

 

 一番ガタイの大きいキャプテンとキーパーを務める六年生が言った。オスカーも身長は大分伸びてきたがキャプテンの顔はオスカーより顔一つ分上だった。

 

「どうとは?」

「それはウチの姫様の調子が良ければ俺たちが負けることはないからだ」

 

 ビーターを務めるキャプテンと同じくらいガタイのいい五年生が真面目な顔でそう言った。

 

「その通り、去年僕たちが唯一負けたのもエストレヤ嬢が医務室で出れなかったときだけなんだ」

「つまり、姫様が調子良く試合にのぞめればバカ勝ちできる」

「ということでオスカー後輩がウチのシーカーの機嫌を取れるかでスリザリンの勝ち具合が決まってくるんだよ」

 

 もう片方のビーターと二人のチェイサーが口々にそう言った。後ろで残りのメンバーもうんうんと頷いている。みんなオスカーよりもガタイが良かった。オスカーはエストとこのメンバーがホグワーツでどう呼ばれているのか知っていた。それに男爵とピーブズの姫様呼びがいつの間にか広まっているようだった。

 

「調子は…… 多分色々あって疲れてるんだと思いますけど…… 機嫌はそんなに悪くないと思います。さっきも笑ってましたし」

 

 オスカーはまね妖怪やホッグズ・ヘッドでの一件、守護霊の呪文、胸元の特別措置を思い出しながらそう答えた。

 

「疲れている…… 練習しすぎたか……」

「僕らの基準で練習しすぎましたかね……」

「姫様が飛べなくなったら終わりだぞ……」

「これはキャプテンの責任では」

 

 オスカーの予想以上にスリザリンクィディッチチームはショックを受けているようだった。キャプテンなど目頭を掴んで悩んでいる。

 

「試合前にオスカー君を使おう」

「まあ幸運薬みたいなもんですね」

「幸運薬を使ったら失格処分だけどまあオスカー後輩ならいいだろう」

 

 なぜかオスカーが魔法薬のような扱われ方になっていたが、クィディッチチームの面々はオスカーの肩を順番に叩いて寝室へと消えていった。

 

「じゃあオスカー君、明日はよろしくな」

 

 最後にキャプテンがなぜかオスカーにバタービールを手渡して消えていった。とりあえずオスカーも寝ることにした。

 

 

 翌日、オスカーはいつものようにエストと一緒に大広間へと向かった。エストが大広間に入るとスリザリンのテーブルから拍手が起こり、ハッフルパフのテーブルからはやじが飛んだ。談話室で待ち受けていて、二人を護衛するように歩いていたクィディッチチームの面々がハッフルパフのテーブルに凄んだ。

 ハッフルパフのテーブルではトンクスが冗談を言ってハッフルパフのクィディッチチームを笑わせているようだったが、オスカーはトンクスの髪色からトンクスの気分があまり良くないことが分かった。

 オスカーが大広間の天井を見ると外は猛吹雪のようで、全く空はおろか雲さえ見えなかった。

 スリザリンのクィディッチチームはみんな余り食欲がないようで、エストもいつもの半分くらいしか食べていなかった。

 その後キャプテンがグラウンドと雪の具合を確認すると言って選手を急かした。エストが立ち上がる前にキャプテンはオスカーの肩を叩いてから出ていった。

 

「吹雪みたいだけど大丈夫か?」

「クィディッチのローブは防水呪文がかかってるから大丈夫だと思うけど、視界はどうにもならないかもしれないの」

 

 オスカーにはエストの声はいつも通りに聞こえた。

 

「じゃあ頑張ってくれ、隣のチャーリーの解説を聞きながら見てるよ」

「グリフィンドールのシーカーの解説を聞きながらってなんかおかしいの、じゃ、行ってくるねオスカー」

 

 エストが大広間から出ていくとまた拍手が起こった。オスカーも猛吹雪の中、クィディッチ競技場へと向かった。

 

 

 

 オスカー達はいつも座る場所があった。普通、ホグワーツの寮生たちはそれぞれの寮の場所に座って、それぞれのローブを着て、応援旗を振り回すのだが、オスカー達は二年生になってからは解説席の傍に陣取っていた。

 

「くっそ寒いですね、トンクスとエストには試合後に解凍呪文をかけないといけないんじゃないですか?」

 

 クラーナが震えながらそう言ったがオスカーも同感だった。正直この中で箒で飛ぶのは正気の沙汰ではないように思えるのだ。

 

「うん、この雪で四日もスニッチが見つからなかったら死人がでるとおもうね」

 

 チャーリーが自分の試合を思い出したのか遠い目をしながら言った。

 

「あれ? 先輩たちってここで見てるんですか?」

 

 三人が後ろを見るとマクゴナガル先生に連れられたレアの姿が見えた。

 

「レア? マクゴナガル先生?」

「おや、ドロホフにウィーズリー、ミス・ムーディ、そう言えば貴方達はいつもここにいますね」

 

 マクゴナガル先生が鼻についた雪を取り払いながらそう言った。マクゴナガル先生が連れているということは…… オスカーはトンクスが取り付けてきたことが何なのか理解した。

 

「マクゴナガル先生、もしかして、新しいクィディッチの解説ってレアなんですか?」

 

 チャーリーがマクゴナガル先生に尋ねると、マクゴナガル先生は神妙な顔で頷いた。

 

「そうです。ミス・トンクスがあんまり薦めるものですからやってもらうことにしました。まあミス・トンクスよりも暴走しない解説になることでしょう」

「ボクはあんまり自信なかったんですけど、トンクス先輩がとりあえずやってみろって」

 

 レアは少し恥ずかしそうだった。

 

「大丈夫ですよ、あほのトンクスよりましな解説になるでしょう」

「まあそうだろ」

 

 オスカーもクラーナに同意だった。トンクスが解説したのではハッフルパフ偏向の解説になることは間違いなかったからだ。

 

「ではミス・マッキノン、行きますよ、拡声魔法のチェックをしないといけません」

「あっ…… わかりました」

 

 レアが解説席へと消えていって、すぐにフィールドに選手たちの姿が現れた。吹雪であまり良く見えないが、緑のローブを着ている一番小さい人影がエストのはずだった。

 

「えーと、聞こえていますでしょうか? あー、あー、本日は晴天なり」

 

 レアの声がクィディッチ競技場に響き渡った。オスカーはいくらなんでも今日は晴天じゃないと思った。他の観客もそう思ったのか吹雪の音に負けないくらいの笑い声が起こった。

 

「本日の解説はボク、レア・マッキノンが担当します。よろしくお願いします」

 

 緊張したレアの声が響く。フィールドの真ん中ではハッフルパフの黄色とスリザリンの緑が相対するように並んで、真ん中でそれぞれのキャプテンとフーチ先生が立っていた。

 

「ええ、ちょっと台本通りですけれどもそれぞれのチームの紹介をします」

 

 先にスニッチが離されて吹雪の中へ消えていった。

 

「スリザリンチームは最早周知の事実としてこう呼ばれています。プルウェット親衛隊です。紅一点のエスト先輩…… プルウェット選手の周りを守る男たちのチームです」

 

 観客たちから大きな笑い声が起こり、スリザリンのスタンドからは大きな拍手が起こった。最早この名前はスリザリン寮すら受け入れているようだった。

 

「ハッフルパフチームはええっと、トンクス先輩…… ええっと失礼しました…… ニンファドーラとゆかいな仲間たちと呼んで欲しいと書かれています」

 

 今度はスリザリンスタンドからの大きなやじが巻き起こった。オスカーは一年生のクリスマスに貰った万眼鏡でトンクスの方を見た。トンクスはどうもハッフルパフのチームに仕組まれてレアにニンファドーラと呼ばれたようだった。

 髪色がピンクやら赤やらに点滅しているのがその証拠だった。

 

「なお、ニンファドーラ選手が相手チームのチェイサーに変身して、ゴールを決めるのは禁止だとフーチ先生から通達するように言われています」

 

 観客、特にハッフルパフの観客は大爆笑のようだった。確かにオスカーもあれはせこいと思っていた。クィディッチの反則は七百以上あるらしいが七変化を使った反則は多分珍しいだろう。

 

「オスカー、良く見えないんですけどもう始まりますか?」

「ああ、いまフーチ先生がキャプテン同士に握手するように言ったところだと思う」

 

 オスカーはハッフルパフのひょろっとしたキャプテンが握手したあとに顔を苦痛にしかめながら箒に乗るのを見た。スリザリンのキャプテンが指をへし折る勢いで握ったのだろう。

 フーチ先生のホイッスルと大歓声とともに十四本の箒が飛び上がった。

 

「さあ、試合が始まりました。クアッフルはスリザリンのチェイサー、ギャンボル選手が持っています……」

 

 レアはクアッフルのありかを解説していたが、観客の視線は全く別の場所を向いていた。

 

「パーキン挟みだ!」

 

 隣のチャーリーが興奮して叫んだ。オスカーは過去のエストの語録の中からその単語を引っ張ってきた。確か、二人のチェイサーが相手のチェイサーを挟みこんで、最後に真っ正面から三人目のチェイサーが突進する技だったはずだと思い出した。

 オスカーがあわてて観客の視線の先を追うと、なんとエストがハッフルパフの二人のチェイサーに挟まれるようにして飛んでいた。そしてその真正面からハッフルパフのビーター二人がやってきて、ブラッジャーを打ち込もうとしていた。

 

「序盤から凄い展開になりました! ハッフルパフは攻撃と防御を放棄して、スリザリンのシーカーを潰しにかかりました!」

 

 オスカーは万眼鏡の倍率をあわてて合わしてエストの顔が映るようにした。エストは口を真一文字にして飛んでいる。オスカーはその顔を何度か見たことがあった。何かをやると決めた時の顔だ。

 ブラッジャーが撃ち込まれる寸前でエストは一度両手を箒から離して、箒を支点に一回転して逆さまにぶら下がった。オスカーもこの技を知っていた。

 

「なんとプルウェット選手、ここでなまけもの型グリップ・ロールです!」

 

 エストはそのまま下が見えない状態で地面へと急降下した。エストを挟んでいた二人のチェイサーはその勢いのまま衝突し、そこに二つのブラッジャーが撃ち込まれ、もんどりうって失速した。

 エストは急降下しつつ綺麗な円を描いて何事もなかったかのように飛び始めた。

 観客から吹雪にも負けないような大歓声が上がった。スリザリンのスタンドでは緑色の絨毯がゆれながら大きな拍手をエストに送っていた。

 

「レアは普通にクィディッチの解説できてるじゃないですか」

 

 オスカーは一息つきながらクラーナの言う通りだと思った。少なくともオスカーは技の名前がパッとはでてこなかったからだ。

 

「ハッフルパフは試合開始から思い切った手に出ましたが代償は高くつきました。スリザリンが三十点のリードです」

「でもこれでスリザリンのビーターは当分エストにかかり切りになるだろうね」

 

 チャーリーの言う通り、スリザリンのビーター二人はまるでエストを護衛するように周りを周回していた。

 エストは何かを二人に言っているようだったが、二人は盛んに首を振っている。エストは説得を諦めたようで、スニッチを探すためかさらに上空へ飛行した。

 その間にスリザリンがもう一度得点した。これでハッフルパフとスリザリンは四十点差だった。

 

「クアッフルがやっとハッフルパフに戻りました! ハッフルパフの三人のチェイサー、ブラッグ選手、ラフキン選手、ニンファドーラ選手が矢じりのような陣形でスリザリンのスコア・エリアへと向かっています!」

 

 オスカーにもこの陣形が何なのかはわかった。ホークスヘッド攻撃フォーメーションだ。スリザリンのチェイサーがクアッフルを奪おうとして突っ込んだが、三人が絶妙なタイミングでお互いにパスをしてクアッフルを渡さない。

 

「さあ、スコア・エリアまであと少しです。スリザリンのビーター二人はまだシーカーの傍…… 上空からスリザリンのシーカーとビーターが突っ込んできました!」

 

 レアの言う通り、上空から加速をつけてエストとビーターの二人がハッフルパフの三人目掛けて急降下してくる。しかもブラッジャーがその軌道上を飛んでいる。

 スリザリンのビーター二人が、同時にブラッジャーを打ち込んだ。さっきブラッジャーをくらったチェイサーのラフキンの背中に命中し、ラフキンはジグザグに落ちていき、なんとか地面ギリギリで箒の制御を取り戻した。

 

「ドップルビーター防衛です! この試合は次々に伝統的なクィディッチの戦術が飛び出します! ブラッグ選手もプルウェット選手を避けようとして失速しました。しかし、ニンファドーラ選手がスコア・エリアに突入します!」

 

 髪の毛を真っ赤にしたトンクスがスリザリンのキャプテンであるキーパーが守る三本の輪っかに向かって飛んでいく。トンクスがクアッフルをシュートしたが、キャプテンは箒の柄でそれを弾き飛ばした。

 

「シュートは失敗です! 再度スリザリンの攻撃になります!」

 

 スリザリンのスタンドから大歓声が上がる。エストと二人のビーター、そしてキャプテンを称える歌のようなものをスリザリン生が口ずさんでいるのが吹雪を通しても聞こえた。スリザリン生の先頭ではスネイプ先生が陰気そうな顔で笑っているのが見える。

 

「ハッフルパフが最初にエストを潰そうとしたのは正しい気がしますね」

「そうだね、スリザリンはエストが活躍するだけで目に見えて士気が上がるからね」

 

 オスカーも二人と同じ考えだった。実際にエストの突撃で防衛に成功したスリザリンはさらに二十点加点して、六十点のリードだった。

 しかし、それよりも大きな問題があった。吹雪がどんどん強くなっているのである。もはや観客たちからも途切れ途切れにしか選手たちの影は見えなかった。それに吹雪の轟音でレアの解説の声もかき消されつつあった。

 オスカーは万眼鏡でエストの姿を探したが、時々映るのはスリザリンの緑のローブとハッフルパフの黄色いローブが切れ切れに見えるだけだった。

 

「スリザリンが八十点のリー…… 攻撃は…… フルパフに移りました!」

 

 レアの声から、さらにスリザリンがリードを広げたことが分かった。吹雪が少し休まり、スリザリンのゴールポストにトンクスがまたシュートしているのが見えた。

 今度は完全にキャプテンがシュートをキャッチした。トンクスの髪色がほとんど黒のような青色になっていた。オスカーはトンクスの髪色がこんな色になるのを見たことがなかった。

 

「ハッフルパフの攻撃はまた失敗しました! スリザリンの勢いが止まりません!」

 

 吹雪で見えなくてもエストが作りだしたスリザリンの流れは止まっていないようだった。

 

「これはスリザリンが止まらないね、うーんあんまりスリザリンの勝ち点が増えるのは良くないんだけどなあ」

 

 チャーリーがこれは困ったという顔でそう言った。

 

「とりあえずエストでもハッフルパフのシーカーでもいいですから、スニッチを取って終わらしてくれませんかね、こんなのがチャーリーのときみたいに四日も続いたらホグワーツの人間は半減しますよ」

 

 クラーナはガタガタ震えながらフィールドの方を見ていた。オスカーは自分達でさえこんなに寒いのだからエストやトンクスはその比ではないだろうと思い、クラーナ同様早く終わって欲しかった。

 

「ここでギャンボル選手にブラッジャーが命中しました! 取り落としたクアッフルはニンファドーラ選手にパスされました! スコア・エリアに向かいっています。しかし、ゴールポスト付近ではすでにスリザリンのビーターが……!!」

 

 ここでレアの解説が止まった。そして観客が猛吹雪にも負けないくらい歓声を上げ始めた。

 

「スリザリンとハッフルパフのシーカー、プルウェット選手とスタンプ選手がスリザリンのゴールポストへ向かっています!! スニッチが見つかったのでしょうか!! しかし、プルウェット選手の方が速い!!」

 

 オスカーも万眼鏡をスリザリンのゴールポストへ向けた。トンクスの黒と黄色、エストの黒と緑色が凄い勢いでゴールポストへと向かって行くのが見えた。その後ろでハッフルパフのシーカーがなんとか追いつこうとしている。

 

「ブラッジャーもスリザリンですし、終わりですかね」

 

 クラーナがそう言った瞬間、ひと際大きな吹雪がフィールドを真っ白に染め上げた。オスカーはひどく嫌な予感がした。そしてブラッジャーが何かに当たる音が響いた気がした。

 白色の視界の中で黒と緑色の何かが雪で真っ白のグラウンドに向けて真っ逆さまに落ちていくのがとぎれとぎれに見えた。

 

 

 



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二人目の魔女

 

 オスカーはそのままグラウンドへ突っ込もうとしたが両脇のチャーリーとクラーナに止められた。二人が少しオスカーを落ち着かして、グラウンドへ降りる階段からエストが落ちたと思われる場所へ向かった。

 

「ブラッジャーの…… ご… 誤打により、プ… プルウェット選手が墜落しましたが、スニッチはハッフルパフのシーカー、スタンプ選手が取得しました。試合終了です」

 

 オスカーが雪をかき分けて進んでいる上空でレアの声が響いていた。魔法も使わずに進もうとするオスカーを見かねてか、クラーナが通り道にある雪を溶かして道をつくった。

 

「最後にニンファドーラ選手…… トンクス選手がゴールしたので、試合結果は百六十対八十でハッフルパフの勝利です」

 

 三人がエストの元につくと、フーチ先生が魔法で造った担架の上にエストをのせて医務室へと運ぶところだった。

 エストが落ちたと思わしき場所は雪が少し赤くなっていた。オスカーが何も言えないでいるとクラーナが切り出した。

 

「フーチ先生、エストは大丈夫なんですか?」

「うーん、私は癒者じゃないからなんとも言えないけどね、息はしているから大丈夫だと思うよ」

 

 エストの周りに青い顔をしたスリザリンのクィディッチチームが降りてきた。その後ろからハッフルパフのチームも降りてくる。

 

「ただ、頭を打ってるかもしれないから早くポピーに見て貰わないとね、この娘ときたら杖を握りしめているのに何も魔法を使わなかったみたいだからね」

 

 担架の上のエストは右手で杖を握りしめていて、額からは血が流れていた。

 何も言わずに突っ立っているオスカーの隣にトンクスがやってきた。トンクスの顔色はスリザリンチームの面々よりも青く、オスカーが見たことのあるテッドの黒い髪とほとんど同じ髪色だった。

 

「ほら、あとの見舞いは医務室でするんだね、ここだとけが人もあんた達も凍えてしまうだろう」

 

 フーチ先生が杖を振るとエストの担架が動き出した。クラーナが担架の進む方向へ道をつくった。

 ハッフルパフチームのメンバーはトンクスの肩を叩いて、励ましの言葉をかけてハッフルパフのスタンドの方へ向かった。

 オスカー達とスリザリンチームは無言のまま担架と一緒に医務室へと向かった。

 

「こんな猛吹雪の中クィディッチなんて! ほんとに狂気の沙汰だわ!」

 

 マダム・ポンフリーはエストの姿を見るやいなや大声でそう言い、ベッドの上にエストを優しくおろした。その後杖を何度か振って、うんうんと頷いた。

 

「多分、この娘は今日は起きないでしょう。それに少なくとも今晩は安静にしてないといけません。可能ならば今週一杯はここにいるべきでしょう。さあ貴方達も談話室に戻りなさい。体を温めないと貴方達も体を壊しますよ」

 

 そう言ってカーテンをシャーっと閉めて、オスカー達を追い出しにかかった。

 

「マダム・ポンフリー、エストは大丈夫なんですか? フーチ先生は多分大丈夫だって言ってたんですけど」

 

 また全員が喋らなくなったのでクラーナが質問した。

 

「ええ、大丈夫ですとも、幸いどこかに血がたまっていることもなさそうですし、落ちた時のショックと疲労で寝込んでいるだけでしょう。しかし、特別措置の学生にクィディッチをさせるなんて…… こんなことはミスター・クラウ…… 以来だわ…… この子は女の子なのに……」

 

 マダム・ポンフリーは最初のうちは答えてくれたが、あとは誰かのへの愚痴へ変わっていった。

 オスカー達は医務室の外へでた。オスカーとトンクス、エストにブラッジャーを打ち込んでしまったビーターの一人は扉の前から動こうとしなかったが、クラーナとキャプテンがため息をついて三人を無理やり引っ張った。

 

「こんなとこで一晩中待つつもりですか? マダム・ポンフリーは大丈夫だって言ったでしょう? だいたいトンクスのローブは雪でびしょびしょでしょう! さっさと着替えないとほんとに風邪をひきますよ」

 

 他のスリザリンチームとチャーリーが無理やり三人を連れていった。オスカーの脳裏にはベッドに運ばれた後もずっとエストの手に握りしめられていた杖が焼き付いていた。

 

 

 オスカーはどうやってスリザリン寮に戻って、寝室で寝たのかあまり思い出せなかった。少なくともほとんど眠れていなかった気がした。

 朝日か昇るか昇らないくらいの時間に起きてオスカーは医務室へ向かった。窓から見える外の天気は昨日の猛吹雪がウソのような晴れ模様だった。医務室の扉には鍵がかかっていないようだった。

 医務室の中は朝焼けの色で赤く染まっていた。マダム・ポンフリーはどこかに行っていて、少なくとも姿は見えなかった。昨日、エストが寝かされたベッドへとオスカーは向かった。

 

「エスト、起きてるか?」

「オスカー? うん、起きてるよ」

 

 カーテンを開くと、パジャマ姿のエストがベッドの上に座っていた。いつもローブに隠れて見えない首から下げられているものがあらわになっていた。

 金の鎖でエストの首に下げられているそれは、複雑な金細工の中にはめ込まれた、ガラス細工の砂時計だった。

 

「オスカー、心配しなくても、体は別に大丈夫みたいだってマダム・ポンフリーは言ってたの、それより試合はどうなったの?」

 

 オスカーは少し言い返したい気分になったが、試合の結果をそのまま伝えることにした。

 

「試合は最後にトンクスが得点して、スタンプがスニッチをとったから、八十点差でハッフルパフの勝ちだ」

 

 それを聞くとエストはまだ右手に持っていた杖を握りしめた。

 

「そうなんだ。初めて負けちゃった」

 

 エストはクィディッチの試合前の夜よりも疲れた顔でオスカーにそう言った。オスカーはそれを見て、エストに色々言いたい気分が抑えられなくなっていた。

 

「なあ、クィディッチ、魔法、劇の練習、取ってる授業、どれでもいいけどちょっと休んだ方がいいんじゃないのか」

「え? でもクィディッチはエストがいないと練習にならないし、守護霊の呪文もまだできてないし、劇もまだ練習しはじめたばっかりだし、授業はせっかくマクゴナガル先生が魔法省に頼んで特別措置を取り付けて貰ったし……」

 

 オスカーは自分が怒っていることにやっと気付いた。オスカーはエストが特別措置だと呼んでいる砂時計を窓から投げ捨てたい気分だった。

 

「特別措置があってもエストの体が二つになったりしないだろ? どうみても色々やりすぎだろ」

「体が二つには…… でも、昔はスリザリンのクラウチさんって人がクィディッチチームをやりながら、特別措置を取り付けてもらってイモリ試験で十二科目パスしたって先生方が言ってたもん」

 

 オスカーが少し強い口調でエストにそう言うと、エストは少し困惑した顔になったが、即座に言い返してきた。オスカーはエストの目線が段々鋭くなってきていると思った。

 

「エストはそのクラウチさんって人じゃないし、その人は他に守護霊の呪文や劇の練習なんてやってなかったんじゃないのか」

「そうかもしれないけど、疲れてクィディッチで負けたわけじゃないし、昨日だって吹雪じゃなかったら勝ってたはずだもん」

 

 二人はここが医務室なのを忘れて、大声で言い合っていた。オスカーはクィディッチの試合とエストが言ったことで、フーチ先生が落ちる自分の体に呪文をかけもせずに杖を握りしめていたと言っていたことを思いだした。

 

「そういうことじゃなくて…… もっと自分のことを考えろって言ってるんだ! エストは魔法やクィディッチができるかもしれないけど、特別に体が丈夫だとか、特別疲れないってわけじゃないだろ!」

 

 オスカーがそう言い放つとエストは唇をかみしめて泣きそうな顔になった。オスカーは自分が言い過ぎたことに気付いた。

 

「エストは…… エストは…… ずっと自分のこと考えてるのに…… なんでそんなこと言うの! オスカーはわかってくれてると思ってたのに!」

 

 エストは涙を流しながら医務室からパジャマ姿で出ていってしまった。オスカーはどうすればいいのか分からずにその場に立ちつくしていた。

 医務室の扉がもう一度開かれたがそこにいたのはエストではなく、トンクスだった。

 

「オスカー? エストが泣きながら飛び出していったんだけど…… ちょっとオスカーも大丈夫なの?」

 

 オスカーは今自分がどんな顔をしているのかわからなかった。どうして、倒れたエストを責めることを言って、泣かしてしまったのか分からなかった。

 

「なぜ早朝の医務室で大声で騒いでいるんですか! 安静が必要だと言ったでしょう!」

 

 マダム・ポンフリーがオスカーたちの大声を聞きつけてやってきたようだった。オスカーは自分が情けなく、トンクスにも、マダム・ポンフリーにもエストが飛び出していってしまった理由を話せる気がしなかった。

 

 

 

 その日からオスカーとエストは冷戦状態だった。お互い一緒に行動こそしていたが、必要な時しか喋らなかった。

 オスカーはエストにどうやって謝ったらいいのか分からなかった。それにエストはクィディッチの練習こそ年内はなかったが、未だに全部の授業に出席しているようだったし、守護霊の呪文の練習も劇の練習も最後までやっていた。オスカーはそれを見るたびに怒りが湧いてくるのだった。

 

「ねえレアもオスカーのうちに呼ぶのよね?」

 

 トンクスがオスカーとエストの放っている空気に耐えられないとばかりにそう言った。レアはさきほどほとんど守護霊を形にしていて、得意げになっているところだった。

 

「え? ああ…… そう言えば何も言って無いな」

 

 オスカーはエストのことで頭が一杯で、クリスマスが直前に迫っていることにトンクスがそう言ったことで初めて気づいた。

 

「やっぱり言って無いのね、レア、クリスマスにオスカーのうちに行くわよね? 他のメンツは強制参加だから」

「オスカー先輩のお家ですか?」

 

 トンクスはエストが落ちてからいつもに増してハイテンションになっている気がオスカーはした。

 

「うん、去年もやったんだけど、オスカーの家でクリスマスパーティーをしないかって思ってるんだ。去年はハグリッドが大きなクリスマスツリーを持ってきてくれたしね」

 

 チャーリーがすかさず説明にはいった。オスカーとエストは黙ったままだった。

 

「そうですね、レイブンクローの友達はみんな家族のところに帰るらしくて、ボクはホグワーツに残ろうと思ってたんですけど、行ってもいいなら行きたいです」

「じゃあ決まりね、オスカー、ちゃんとペンスに言っておいてよ、あと糖蜜パイも」

 

 いつもはうるさいトンクスの声も今のオスカーにはありがたかった。

 

「トンクスがデブへの道をひた走るのはどうでもいいですけど、私はクリスマス直前までいけないと思いますよ」

「はあ? なによそれ、オスカーとセーターの交換しないの?」

 

 トンクスはまるで意味が分からないという口調でクラーナに言った。

 

「そもそもなんでセーターを交換するのが前提になっているんですか! アラスターおじさんとちょっと用事があるんで、クリスマス休暇の最初の方はいけないってだけですよ」

「なんてこと…… クリスマスの楽しみがまた一つ減ったわ」

 

 トンクスがショックを受けたような顔をした。オスカーはそろそろあの冗談を止めて欲しかった。今年も去年ウィーズリーおばさんから貰ったセーターを着ているが、イニシャルがクラーナのものになったままだった。

 

「ということで明日のホグズミードはクリスマスプレゼントを買いにいくわよ、レアも秘密の通路から来る?」

「それはちょっと遠慮しておきます……」

 

 レアが引き気味にそう答えた。オスカーはよくよく考えるとホッグズ・ヘッドはホグズミードにあるので、レアはホグズミードにすでに行っているようなものだと思った。それにあの通路なら絶対にフィルチにばれない気がした。

 

 

 ホグズミードに行ってもやっぱりエストとオスカーはお互いに何も喋らなかった。前回はホッグズ・ヘッドと叫びの屋敷で時間を全部使ってしまったので、今回は三本の箒やゾンコの悪戯専門店、ハニーデュークスといった普通の場所を周ることにしていた。

 いつもなら楽しめるはずのハニーデュークスの甘い匂いや色とりどりのお菓子も、臭い玉やクソ爆弾といったフレッド・ジョージが喜びそうな悪戯グッズもオスカーは楽しむことができなかった。

 オスカーはエストへどう謝ったらいいのか相変わらず分からなかったし、エストへのクリスマスプレゼントも思い浮かばなかった。

 オスカーはそれが自分がエストのことをわかっていないと思い知らされているようでたまらなく嫌だった。

 オスカーとエストが一緒にいると微妙な空気が他の三人にも伝染しているようだった。このままでは三本の箒でバタービールを飲んでも余り楽しくないだろうなとオスカーは思った。

 

「うーん…… もう、わかったわ、ちょっとオスカーを借りてくから、みんなは三本の箒でバタービールを飲んどいて」

 

 トンクスが唐突にそう言った。三本の箒はもう目の前にあるのにだ。

 

「はあ? どこ行くんですか?」

「クラーナが絶対に行きもしない場所よ、ほらオスカー行くわよ」

 

 トンクスはオスカーの腕をとってそのまま脇道に連れ込んだ。脇道には洒落た小さな喫茶店があった。看板にはマダム・パディフィットの店とある。

 

「ほら、ここよ」

 

 トンクスに連れられて入ると、店内はフリルとリボンで飾り立てられていた。オスカーはフリルで一杯の服を着たまね妖怪のエストを思い出した。

 

「あそこに座りましょうよ」

 

 トンクスは一番端のテーブルを指して、二人でそのテーブルに座った。隣のテーブルでは先日にスニッチをとったハッフルパフのシーカー、スタンプが栗色の髪の女の子と一緒に座っていた。スタンプはトンクスとオスカーを見ると驚いた顔をして、トンクスの方に手を振った。

 

「うちのシーカーはスニッチは中々取れないのに女の子を捕まえるのは上手いのよね」

 

 トンクスがオスカーの耳元でそう言った。オスカーが店内を見回すとカップルだらけで、みんなキスをしたり、手と手を絡み合うように、俗に恋人つなぎと言われるようなつなぎ方でつないでいた。

 

「お二人さん、注文は何にするのかしら?」

 

 艶やかな黒髪の、ハグリッドを二回り位小さくしたような体を持つ女性が話しかけてきた。オスカーはこの人物がマダム・パディフィットなのだろうと思った。

 

「じゃあ、コーヒーを二つお願いするわ」

 

 トンクスが注文した。オスカーは隣のテーブルの二人がキスをし始めたので気まずい気分になった。

 

「で? せっかく女の子とカップル御用達のお店に来たのに、頭の中はエストのことで一杯のオスカーおぼっちゃまは結局どうして喧嘩してるのかしら?」

 

 オスカーはトンクスの顔と髪色を見た。トンクスの眼は真剣で髪色は紫と言ったところだった。オスカーはトンクスが面白半分で聞いているわけではないことがわかった。

 多分、エストが落ちたことに責任を感じているのだとオスカーは思った。

 オスカーは正直なところ、もうエストにどうしたらいいのか分からなかったので、ありのままトンクスに医務室で何があったのか喋ってみることにした。

 

「ああ…… なるほどね、エスト第一主義のオスカーがエストと喧嘩するなんてって思ってたけどそういうことなのね」

 

 オスカーが話し終わるとトンクスは額を抑えてウンウン唸っていた。

 

「もう、お前のことが心配だ! 俺のために休めええええええって言えばいいんじゃないかしら」

 

 オスカーはトンクスが真顔でそんなことを言ったので、コーヒーをむせ込んだ。

 トンクスは心底失礼なやつとでも言いたげな視線でオスカーを見た。

 

「今のが冗談だとしても、ちょうどクリスマスだし、俺がプレゼントだあああああってやれば喧嘩は終わると思うんだけど」

 

 オスカーにはさっきとの違いがさっぱりわからなかった。

 

「分かってないって顔ね、つまり、オスカーが何考えて言ったのかエストに言えばいいって言ってるのよ、私にはオスカーがエストを理解できないとかしようとしてないようには見えないって言ってるのよ、わかる?」

 

 トンクスの言葉をオスカーはなんとかかみ砕こうとした。しかし、トンクスの言う通りにするのは凄く難しいことのように思えた。

 ただ、トンクスに話したことで、話す前よりもエストの問題が少しだけ解決可能なものに近づいているような気がした。

 それに、オスカーは自分も辛い所があるはずなのに、レアやエスト、そしてオスカーのために動いてくれているトンクスが少し心配だった。

 

「ああ、ちょっと考えてみる…… トンクスは大丈夫なのか?」

「へ? 私?」

 

 オスカーの発言にトンクスは目を丸くした。

 

「いや別に大丈夫ならいいんだけど、レアのことがあった時とか、エストが落ちた時からトンクスのテンションもおかしいから」

 

 オスカーがそう言うと、トンクスは髪色をショッキングピンクにして笑い出した。

 

「オスカー、あなたあほでしょ、今はエストのことを考えとけばいいのよ」

 

 トンクスは本当に愉快そうだった。オスカーはいつものトンクスに戻ったようで、自分の気分も少し明るくなった気がした。

 

「そんなに他の女の子のこと考えたいなら、誰かの顔に変身してキスしてあげてもいいわよ、ここでキスすれば一週間で噂がホグワーツ中に広まるはずだから」

 

 そう言ってトンクスはなぜかクラーナの顔に変身して、オスカーの手を取ろうとしてきた。オスカーは椅子に座って逃げられる範囲で必死に避けた。

 二人がテーブルをはさんで奇妙な攻防を繰り広げていると隣のスタンプが何かをこっちに差し出していた。

 

「ほら、これ君らとスリザリンのシーカーのことが載ってるよ」

 

 スタンプはそう言ってオスカーに日刊預言者新聞を渡し、女の子と恋人つなぎのまま店から出て行った。

 トンクスがオスカーの手からひったくって新聞を読んだ。

 

「なによこれ…… このリータ・スキータとかいう記者、本当に糞野郎ね」

 

 トンクスの髪色が真っ赤になっていた。オスカーは嫌な予感がした。

 

「ほら、オスカーも読んじゃった方がいいと思うわ、どうせ新聞に載ったらあっという間に広まるんだし」

 

 オスカーは新聞の写真に写っている人物が誰なのかすぐに分かった。ギデオンとフェービアン・プルウェットだ。オスカーは父が報道されるのと同時に二人の顔写真が掲載されるので、その顔を良く知っていた。知らなくても、エストやモリーおばさんの顔からすぐに気づいただろう。

 記事の内容はまたしても劇のことで、何年も前に危険だという理由で廃止されたのに復活させるのは校長の横暴だと数人の理事が訴えているという記事だ。

 その中で今度はアルシーダ役をエストがやるということが書かれている。

 そして驚くべきことにエストの出生についてとエストの杖とオスカーの杖の関係が書かれているようだった。なんでも、エストの出生記録から考えるとエストの母親の命日や病気の進行具合と整合性が取れない、エストは本当にプルウェット家の人間なのか怪しいという記事で、またしても匿名の聖マンゴの癒者の証言とのことだった。

 さらにアントニン・ドロホフと死喰いたちがギデオン・フェービアン両名を殺害し、家も完膚なきまでに破壊したことや、エストの持っている杖がアントニン・ドロホフの息子の杖と兄弟杖であると書かれている。

記事は最後に上記のことからエストは悪い魔法使いに家を破壊され、杖すら悪い魔法使いと関係があり、まさにアルシーダにふさわしい魔女だと書かれているのだ。

 オスカーは沸々と怒りが湧きあがってくるのが分かった。そもそもどうやってエストと自分の杖のことを知ったのか? あの杖のことを知っているのは、オスカー、エスト、クラーナ、レア、そしてダンブルドア先生、マクゴナガル先生、オリバンダー老人だけのはずだった。

 オスカーにはその誰もがリータ・スキータなる人物に口を滑らせるとは思えなかった。

 

「ちょっとオスカー大丈夫なの? すごい怖い顔してるわよ」

 

 オスカーが前を見るとトンクスの髪色は話始めたときと同じ、紫色に戻っていた。

 オスカーはこんな記事を書かれているのにエストに謝ることすらできない自分が、トンクスに心配されている自分が嫌だった。

 



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賢者の贈り物

 オスカーは自分の家に帰った後も、みんなでクリスマスの飾りつけをしても、ウィーズリー家の人たちやトンクスの両親がやってきても、エストにどうやって謝ればいいのかを考えて続けていた。

 そして、その事と間近に迫っていたクリスマスでいったい何をエストに渡すのかという問題がオスカーの頭の中でほどくことができないほど有機的に結びついていた。

 クリスマスプレゼントに何を渡したらいいのか分からないという事実が、エストがオスカーに言ったように、オスカー自身が彼女のことを分かっていないという事実に他ならないとオスカーは思い続けていた。

 

「エストは多分、オスカーから貰えるものだったらなんでも喜ぶと思うけどね」

 

 結局オスカーは一人で考え続けていても答えが出ないと考え、ちょうどいつもご飯を食べるドロホフ邸の広間で座っていたチャーリーとレアにエストに何を渡したらいいのかを聞いてみた。

 しかし、チャーリーもレアも笑いながらなんでもよいのではないかと言うだけだった。

 

「ボクもそう思います。そんなに考えなくてもいいんじゃないでしょうか? それこそ新しい羽ペンだとか、変身術の本とかそういうのでいいんじゃないですか?」

「そうなのか? でも、それがエストが欲しいものなのか分からないしな……」

 

 オスカーがそう言うと、チャーリーとレアはお互いに顔を見合わせて笑った。オスカーには自分が今言ったことのどこがおかしいのかさっぱりわからなかった。

 

「何かおかしなこと言ったのか?」

「いや、最近同じようなこと聞いたからちょっとデジャヴだっただけだよ」

「ボクもそうです、プレゼントは本当に何でも大丈夫だと思います」

 

 オスカーは二人があんまりニコニコしながらそう言うので、すっかり困惑してしまった。休みに入ってからクラーナとは会っていないので分からなかったが、どうもオスカーが真剣に考えていることをチャーリー、トンクス、レアの三人はずっと楽観的に考えているようだった。

 オスカーは暖炉の傍に座って、これまでのクリスマスプレゼントとエストの好きなモノを考えていた。百味ビーンズ、箒磨きセット、魔法のかかった道具、クィディッチ、チャドリー・キャノンズ、変身術…… オスカーはどれもピンと来なかった。

 すると暖炉の火がエメラルド色になり始めた。誰かが暖炉飛行でやってくるようだ。

 

「クラーナ先輩ですか?」

「分からないな、あと来てないのはクラーナとキングズリーと……」

 

 暖炉の中から回転する人影が現れる。オスカーは中から現れる人影を見て、少し気後れした。ピンク色の帽子に鉤鼻、嫌でもエストの眼を思い出させるその眼、暖炉の中から現れたのはミュリエルおばさんだ。

 

「何だい、見たこと無い子がいるね、チャールズ、この子は誰だい?」

 

 ミュリエルおばさんはオスカーの隣の椅子をひっつかんで座り、レアの顔をじろじろ見始めた。チャーリーはちょっと嫌そうな顔で答えた。

 

「レア・マッキノンだよ、僕とエストより一学年下のレイブンクローだけど」

「ああ、あんたがマッキノンの家の子かい、日刊預言者新聞に載ってたから名前は知ってるよ」

 

 ミュリエルおばさんの返答を聞いてチャーリーはだから言いたくないんだという顔をした。レアの方は日刊預言者新聞を読んだと聞いて、ビクッと体を震わした。

 

「ええ? 別に取って食べやしないんだから、そんなにビクビクすることはないかぇ。私やアルバスが子供の頃ならまだしも、今は別にリータ・スキータが書いたようなことはないだろう? だいたい日刊預言者新聞で喋るような人間がアルバスより賢いと思うのかぇ?」

 

 オスカーも確かに、ダンブルドア先生より賢い人物があの怪しい記事を書く、リータ・スキータのインタビューに答えるとは思えなかった。

 

「この家は客人の荷物を運んでくれないのかい?」

「ペンス」

「はい、お荷物は客室の方へお運びさせていただきます」

 

 オスカーがペンスを呼び出すと、ミュリエルおばさんと一緒に暖炉から吐き出された巨大なトランクを持って消えた。

 

「だいたい劇をやるなんて、エストレヤは全く教えてくれなかったよ、ちょっと前の日刊預言者新聞でやっとあの娘が出るって知ったんだからね、劇に出るマッキノンの娘もここにいるんだから、あんた達も一枚かんでいるんだろう?」

 

 ミュリエルおばさんはエストによく似たその眼で、責めるようにオスカーとチャーリーを見た。オスカーはやっぱりこのおばあさんが苦手だった。

 

「お、オスカー先輩はラックレス卿役なんです……」

 

 レアがおどおどしながら答えた。オスカーは余計なことを言うなという視線をレアに送るのを必死に我慢した。

 

「あんたがかい? 確かに幸が薄そうなところは合ってるかもねぇ」

 

 ミュリエルおばさんは本当にゆかいそうに笑った。オスカーはミュリエルおばさんにまでついてなさそうだと思われていることに結構なショックを受けた。

 

「それより、あの記事は色々へんなこと書いてあったけど大丈夫だったの?」

 

 チャーリーがミュリエルおばさんにそう聞いたが、ミュリエルおばさんは全く意に介していないようだった。

 

「あの記事かい? リータ・スキータが色々と大げさに書くのはいつものことだろう? 私もいつも楽しんでるよ、それにエストレヤがうちの子なんてことは目を見れば分かることだろう?」

 

 オスカーはミュリエルおばさんのことをエストが距離を取りながらも、嫌っていないのがなぜかわかる気がした。

 

「有名になって良かったくらいだよ、あの娘はどうせアルバスと同じくらい賢くなるかもしれないんだ。むしろ、あの娘が有名になってどっしり構えないといけないのは私やあんた達の方じゃないかぇ? 特にあんたはしっかりするんだよ」

 

 ミュリエルおばさんは笑いながらオスカーの背中をバンバン叩いた。オスカーは衝撃で椅子から落ちそうになった。

 しかし、オスカーはミュリエルおばさんの言葉でミュリエルおばさんがエストやダンブルドア先生に言っていたことを思い出し、それに加えて、アバーフォースが言っていたことを思い出した。

 アバーフォースはダンブルドア先生のことをなんと言っていたのか、ミュリエルおばさんと同じことを言ってはいなかったか? 今世紀で一番偉大な魔法使いでさえ理解者がいなかったらどうなったと思うのか? そう言ってはいなかっただろうか。

 ミュリエルおばさんやアバーフォースがダンブルドア先生について言っていたこと、エストが泣きながら出て行った時に言っていたこと、オスカーはそれらが繋がっていくような気がした。そして、オスカーはやっぱり自分が情けなくなった。きっと一番一緒にいるはずなのに、色んな人がどうすればいいのか教えてくれている気がするのに、それをできないからだ。

 

「それで、エストレヤとウィリアムはどこにいるんだい? だいたいアーサーとモリーも挨拶にすらこないじゃないか」

 

 相変わらず、すぐに興味が移るのがミュリエルおばさんらしいとオスカーは思った。

 

 

 

 結局、オスカーはクリスマスプレゼントを考えつかなかった。クリスマスイブの朝になっても、昼食を食べ終わっても、夕食を食べてイブの夜になっても考えつかなかった。

 オスカーとエストがあんまり暗いのでフレッド・ジョージは無理やり明るくしようとして、ミュリエルおばさんの椅子の下でクソ爆弾を爆発させた。残念ながらミュリエルおばさんは遺言書から双子の名前を外すことになりそうだった。

 

 オスカーはみんなが明日のクリスマスを楽しみにして寝ている間もずっと寝れずに考え続けていた。

 どうやったらエストに謝ることができるのか、どうやったらエストの欲しいものが、エストのことが分かるのか考えていた。

 そして、どうして自分はエストに謝ることができないのか、どうしてエストのことが分からないのか考えていた。

 

 オスカーは考えた。どうしてアバーフォースはレアを励ますことができたのだろう。オスカーはあの時、自分が見たことのある大人の中で彼が一番辛そうに見えたと思った。

 どうして辛いのか、レアが妹に重なって見えたから、妹を死なせてしまった自分が許せなかったからだとオスカーは思った。

 だがオスカーはレアにホグワーツに帰れと言った時のアバーフォースを思い出した。あの時彼の声や表情は怒りでも悲しさでもなく、レアにすがっているようではなかったのか? あれはそう言うものではなくて、怖がっているようだったとオスカーは思った。

 どうして怖いのだろう、オスカーは何故か考えたく無くなってきた。考えれば考えるほど、自分のことが嫌になってくる気がした。考えるのが、それが分かるのが怖い気がした。

 なんで怖いのか、オスカーは簡単だと思った。アバーフォースはきっと、そうレアが壊れてしまいそうで怖かったのだ。いつか妹を救えなかったように、兄に言葉が届かなかったように、自分の言葉が届かなかったら、言葉が彼女を傷つけてしまったら、そう考えると怖かったと思ったのだ。

 

 オスカーはベットで仰向けになって目をつぶっていたが、ハッと目を開けた。

 怖かったのだ。オスカーはそう思った。自分はエストが落ちて傷つくのが怖かった。だからあんなに怒っていて、腹がたったのだ。そしてそれを言って泣かしてしまったのが、傷つけてしまったのが怖かったのだ。これ以上エストに嫌われてしまうのが、彼女が遠くに行ってしまうのが怖かったのだ。オスカーはそう思った。

 

 オスカーはまた自分が情けなくなった。あの時、もっときっと別の言い方があったはずなのだ。エストは誰よりも頑張っているのに、オスカーは自分が一番それを見ているのに、何も言わずにそれを否定してしまったと思った。またエストが落ちたり傷つくのが怖くて、自分がそれを見るのが怖いせいで何も考えずに彼女を傷つけてしまったと思った。オスカーは自分の頭が後悔で沸騰しそうだと感じた。

 

 オスカーはエストが医務室から出て行ったあの時、自分は自分のことをずっと考えていると言っていたのを思い出した。

オスカーは思い出した。エストのまね妖怪はいったい何に変身した? エストは守護霊の呪文を失敗するたびにどんな顔をしていた? オスカーは血が出そうなほど自分の手を握りしめた。

 

 最後にエストは何と言って医務室から出て行ったのか、オスカーはもう一度思い出した。エストは彼女はオスカーならわかってくれていると思ったのにと言ったのだ。

 オスカーは自分がエストに渡すクリスマスプレゼントが分からないのは当たり前だと思った。オスカーは自分の部屋から出た。

 オスカーは今すぐエストに謝りたかった。トンクスが言っていたことは全く持って正しかった。オスカーは今考えていることをエストに言って謝りたかった。

 オスカーは広間を抜けて、客室の方へ行こうとした。

 

「オスカー?」

「エスト?」

 

 暖炉もついていない広間でエストが一人、椅子に座っていた。

 

「オスカー、ごめんね、クリスマスプレゼント、何も思いつかなかったの」

 

 オスカーは謝りたいのは自分なのに、先に謝られてしまったと思った。エストの眼は一年生のいつかの時の様に、くまで縁どられていた。

 

「おかしいよね、オスカーにあんなこと言ったのに、オスカーが欲しいモノが分かんないの、オスカーのこと分かってないの」

 

 オスカーはいつもこうだと思った。会った時から、いつもエストは自分より強くて勇気があると思った。自分が勝手に離れていった時も、今も、そしてオスカー自身が何度繰り返しても何も変わっていないことを感じた。

 

「だからね、オスカーの言う通り、逆転時計は返して普通の授業に戻ろうと思うの、オスカーやみんなを心配させるなら、特別措置も意味ないの」

「それじゃダメだ……」

「え?」

 

 エストはローブから金の鎖でつながれた砂時計を取り出していた。オスカーはこれでは駄目だと思った。自分は謝っていないし、どうしてエストが魔法の道具を使ってでも、頑張っていたのかすらわかっていない。オスカーは一年生の勝手に離れた時にエストがあそこまでしてくれたのに、オスカーはどうしてエストがそうしたのかすらわかっていなかった。今回も同じことをしても何の意味もない、オスカーはそう思った。

 

「なんでエストはそんなに頑張るんだ? その時計も、守護霊の呪文も、劇の練習も、クィディッチもなんでやりたいんだ? なんでクィディッチで落ちても、守護霊の呪文を失敗して辛そうでも、人より一杯授業を受けて眠そうでも、どうしてやりたいんだ?」

「え? え? オスカー?」

 

 エストは完全に混乱した顔だった。

 

「俺はエストに渡すクリスマスプレゼントが分からないくらい、エストのことが分からないんだ。教えてくれ」

 

 オスカーが改めて、エストの眼を真っすぐ見ながらそう言うと、エストは一瞬、視線を下げた後、オスカーを見つめ直した。

 

「エストが色んなことをやる理由? それを言えばいいの? オスカー?」

「そう、教えてくれ」

 

 エストは胸に手をあてて息を吸った。

「エストはね、特別になりたいし、特別なの、特別じゃないといけないの」

「特別?」

 

 オスカーは特別という言葉に引っかかりを覚えた。エストは何度かこの言葉を使っていなかっただろうか? レアの時…… 占い学の時…… 杖の話の時…… オスカーはエストがひときわ感情を出す時にこの言葉を使っていたような気がした。

 

「そう、だって、エストが特別じゃないと、エストが生まれる時に死んじゃったお母さんの意味がないでしょ?」

 

 オスカーは自分がエストのことを何も理解せずに色んなことをこれまで言ってきたと思った。

 

「お父さんも叔父さんも、エストが特別じゃないと、エストが頑張らないと死んじゃった意味がないでしょ? それはエスト以外の誰も証明できないもん」

 

 二年間も一緒に過ごしていて、オスカーは本当に何もエストのことを分かっていなかった。オスカーはそう思った。さっき自分がどうして謝れないか気付いた時よりも、頭の中を心臓を血が駆け巡っている気がした。

「前にも言ったよね、オスカーと会ったのも二本の杖も特別だって。だってね、すごい大人の魔法使いだって、戦ったり、死んじゃったりしても止められなかったのに、最初からそんなことなかったみたいに繋げて、会わしてくれたんだよ、だからあの時すっごく嬉しかったの、きっとこれまでの全部よりずっとずっと特別なんだって」

 

 オスカーは杖腕、左腕に持っていた杖をきつく握りしめた。

 

「ニワトコの杖はね、不幸になっちゃうって言われてるけどウソなんだって、持ち主が特別な人じゃないと、すごい魔法使いじゃないということを聞かないからそう言われるんだって、だからね特別じゃないとダメなの、だってエストが特別ならみんな幸せだし、周りの人も杖も特別になるでしょ?」

 

 オスカーは違うと言いたかった。どうしてエストだけがそんなに頑張り続けないといけないのだろう? エストの家族はエストのために命を賭けたはずなのにどうしてそれがエストを縛り付けているように見えるのだろう? エストの杖は自分とエストを繋ぎとめてくれているのにどうしてそれがエストをがんじがらめに縛り付けているように感じるのだろう? オスカーはどうしようもないほど、それらをほどいて、かき分けたかった。

 

「でも、オスカーやみんなが心配するようなこ……」

「エストは、エストがレアに言ったこと覚えてるのか?」

「レアに…… 言ったこと?」

 

 オスカーは懸命に思いだした。オスカーはあの時のアバーフォースのような勇気が欲しかった。あの時のエストのような誰かを、自分の心を傷つけてでも誰かを助ける勇気が欲しかった。

 

「エストはこう言っただろ、どんなレアでも特別だって、レアの両親にとってどんなレアでも特別だって言っただろ」

 

 エストは目を丸くしてオスカーの顔を凝視した。オスカーにはエストが怖がっているように見えた。オスカーはエストがどんな顔をしても全部言い切ろうと思っていた。

 

「じゃあエストの家族だってそうなんじゃないのか? ケガするくらい頑張らなくたって、エストのことは特別なんじゃないのか?」

 

 エストは決して視線を外さなかったが、瞳には涙がたまっているように見えた。それでもオスカーはトンクスが言ったように、自分が今思っていることを全部、全部言い切ろうと思っていた。

 

「もし、そう思うんだったら、ちょっとでいいから、疲れたとかきついとかでいいから言ってくれよ、俺はクリスマスに何を渡したらいいのか分からないくらい、エストのことが分からないんだ」

 

 もうエストの瞳からは涙がこぼれ落ちていた。それでもオスカーは口から出てくる言葉が止まらなかった。

 

「それに、それに、俺にだって、俺にだって特別なんだ。別に杖がなくたって、どこの家だって、あの時会わなくたって、エストのことは特別だ!!」

 

 オスカーがそう言い切ると、エストはもう完全に号泣していて、泣きながらしゃっくりをあげていた。

 

「オスカー…… オスカー…… ごめんね、ごめんね、エスト……」

 

 それからしばらくエストは泣き止まなかった。しばらくたって、しゃっくりが落ち着き、目を真っ赤にしたエストは首から逆転時計を取り外して、オスカーの方へ近づいてきた。

 

「オスカー、ありがとうね、でも逆転時計はもう使わないことにするの」

 

 オスカーは少し不安になった。エストの言葉を借りて、なんとかエストに伝えたいことを伝えたと思っていた。それでも、また傷つけてしまったのではないかと思うと不安だった。

 エストはオスカーの傍まで寄って、すこしだけ背伸びをして、逆転時計の金の鎖をオスカーの首にかけた。

 

「だってね、オスカーとの時間の方が特別だもん」

 

 エストはそう言ってオスカーに抱き着いた。オスカーは時々匂う、オレンジのような柑橘系の匂いを感じた。自分より暖かい誰かの体温を感じた。自分とは違う誰かの鼓動を感じた。

 オスカーは体温が違っても、心臓の音のリズムが違っても、今、この時だけは、一緒の時間にいる。そう思った。

 

 

 




オー・ヘンリー
賢者の贈り物(The Gift of the Magi)


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煙突飛行

タイトル考えるの疲れた


「エスト、そろそろ離してくれないのか?」

 

 広間には時計がなかったので時間がオスカーには分からなかったが、随分な時間、エストに捕まっている気がした。

 オスカーがエストの頭越しに窓を見ると、クリスマスイブの夜は明けて、日が昇り始めているような明るさだった。

 すると、火がついていなかった暖炉にエメラルド色の炎が灯った。誰かがドロホフ邸の広間の暖炉へ煙突飛行してくる予兆だった。

 オスカーはその誰かが誰なのかは分かっていた。来ると言ってまだ来ていないのは一人だけ、クラーナだけだったからだ。

 

「エスト、クラーナが来るみたいだから離して……」

「嫌なの」

 

 オスカーは逃げられなかった。オスカーが体をひねったりしている間に暖炉の中に回転する人影が現れて、灰を髪から落としながらクラーナが現れた。

 オスカーにはクラーナがクリスマス前よりもやつれて見えた。夏休みの後にキングズクロス駅で会った時と同じように、目が疲れているように見えたのだ。

 クラーナは学校指定のトランクを引きずりながら歩こうとして、オスカーとエストを見つけ、目を点にした。

 

「な! なんですか!? 二人で抱き合って私を迎えてくれるとはずいぶんな歓迎ですね」

「ほら、クラーナが暖炉飛行で来たんだって」

「嫌なの、だって離したら、またクラーナとセーターの交換をし始めるに決まってるの」

「はあ!? なんでエストまでトンクスのあほの話を真に受けてるんですか?」

 

 クラーナはトランクを大きな音をたてて取り落とすくらい憤慨していたが、エストはクラーナの方を見もしないで、オスカーから離れなかった。

 

「だって、普通、グリフィンドール生が緑と銀でできた蛇の絵が描いてあるセーターなんて着ないもん」

「それは一年生のときだけでしょう!」

 

 なぜかお互いに顔を合わせもしないで言い争いを始めてしまったので、オスカーは途方に暮れた。

 

「ペンス! クラーナのトランクを……」

「結局一年生の時のクリスマスに何があったのか教えてくれないもん。だいたい今もお互いのイニシャルが入ったセーターを着てるの」

「なんなんですか! 喧嘩していたと思ったら抱き合ってるし、なんで抱き合った状態の人間に色々言われないといけないんですか! そもそもあのセーターはトンクスと双子の悪戯だって言ったじゃないですか!」

 

 ペンスはバチっという音とともに現れて、クラーナのトランクを消した後、広間の灯りと暖炉の炎を灯し、オスカーに視線を送った後、またバチっという音とともに消えた。オスカーは生まれて初めてペンスにお仕置きを許可した方がいい気がした。

 

「ほら、やっぱり一年生の時のクリスマスの事から話を逸らしたの」

「ほんとになんなんですか! 喧嘩売っているんですか? そもそも抱き合ってないで、私に話があるんならこっち見て話したらどうなんですか!」

「嫌なの」

「なんなんですか!!」

 

 クラーナは大きな足音を立てながらオスカーに向かって歩いてきた。オスカーは本当に途方にくれていた。そもそも、エストとクラーナが喧嘩したり言い争いするのをオスカーは見たことがなかった。だいたいそういうのはトンクスの領分だったからだ。

 クラーナの黒い眼はエストと同じ様にくまで縁どられていたが、最初に見た疲れではなく、怒りの方が色濃く見えているようだとオスカーは思った。

 

「クラーナ、朝飯は食べたの……」

「オスカーは黙っててください、私はエストに喧嘩を売られたんです」

 

 オスカーはエストにもクラーナにも自分の言葉が届かない様なのでお手上げ状態だった。

 

「抱き合ってるって言うんなら、クラーナだって、ファイア・ウィスキーの時に同じことをしてたの、それにやっぱりクリスマスの事を話そうとしないもん。どうせまたクリスマスプレゼントです! とか言ってごまかすに決まってるの」

「だから、顔を見て話せって言ってるじゃないですか!」

 

 クラーナは直接、エストをオスカーから引き離そうとしたが、エストは永久粘着呪文をかけられた様に離れなかった。オスカーは二人の力で体のあちこちが痛かった。

 

「ゲロを吐いてごまかしてたけど、あの時、お返しですとか言ってたの覚えてるもん」

「本気で喧嘩売ってるみたいですね、もう遠慮しません!」

 

 オスカーは二人がいつもの状態ではないと思った。もうオスカーのローブやセーターはめちゃめちゃになっていたし、クラーナはエストの髪の毛を引っ張ってでも引き離そうとしていたが、エストはそれでも離れなかった。

 すると広間の扉が開かれた。二人は大声で言い争っていたので誰か起きたのだろうとオスカーは思った。

 

「いくらクリスマスだからって、朝から騒ぎすぎじゃないの? いくら私でも起きちゃうわ…… ちょっとほんとに喧嘩してるじゃないの」

 

 トンクスだった。オスカーは最悪の人選だと思った。

 

「クラーナの姉貴の声が聞こえるけど、来てたの?」

「プレゼントに貰ったゾンコの商品のお礼を言わないと……」

 

 フレッド・ジョージだった。オスカーは絶望した。

 

「あらあら、朝から元気なのね」

 

 トンクス先生だった。オスカーはどんどん火に油が注がれている気がした。

 

「離れろって、言ってるじゃないですか!」

「嫌なの! 絶対離れないもん!」

 

 オスカーは絶対に体中があざや爪痕だらけになっているだろうと思った。二人がオスカーのいろんな場所を掴んだり、引っ張ったり、爪をたてたりするのをオスカーは黙って耐えていた。

 

「ちょっとオスカー、ほんとに修羅場ってどうするのよ」

「いやなんでもいいから二人を離してくれ、話が通じないんだ」

 

 オスカーはオスカーが思っていたよりもトンクスに話が通じそうなので助けを求めた。

 

「エストが喧嘩してるの初めて見たんだけど」

「俺も、怒ったら怖いけど絶対喧嘩しないと思ってた」

 

 フレッド・ジョージは何故か感慨深げに見るだけで、オスカーの助けになりそうになかった。

 

「あらあら、いいわね、一人の男を巡って、スリザリンとグリフィンドールが勝負するわけね」

 

 オスカーはトンクス先生が一番役に立たないと思った。

 

「ちょっと流石にやめなさいよ、みんな起きちゃうわよ」

「トンクスは黙ってて!!」

「トンクスは黙ってください!!」

 

 トンクスは信じられないという顔でオスカーの方を見たが、その顔をしたいのはオスカーの方だった。

 

「オスカー、ほんとに何をやったのよ……」

「だから早く、二人を引き離して……」

 

 するとついにクラーナはオスカーからエストを引き離した。しかし、二人はその勢いのままドロホフ邸の埃一つない石畳を転がっていった。

 

「やっと顔を見せましたね、さあなんで私に喧嘩を売ってきたんですか? オスカーとイチャイチャしてるのを邪魔されて嫌だったんですか?」

「クリスマスプレゼントなの」

「こいつ!」

 

 オスカーはトンクスの百倍くらいエストはクラーナを怒らせるのが上手いと思った。二人は押し合ったり、お互いの手足に関節技のようなものをかけ合い、何度もお互いにマウントを取り合いながら転がっていった。

 

「邪魔されたくなかったんなら、あんな暖炉の目の前じゃなくて、どっちかの部屋でイチャイチャしてれば良かったんですよ!!」

「だからクラーナへのクリスマスプレゼントなの」

「もうほんとに許しません!!」

 

 ついにお互いの手が出そうになったので、オスカーとトンクスは二人を引き離そうとしたが、先にトンクス先生が杖を振った。二人は空中に浮かばされて、強制的に引き離された。浮かび上がった時に、クラーナのローブのポケットから何か名札のようなものがこぼれ落ちた。

 

「だいたい喧嘩してたのはなんだったんですか! あれですか気を引くためですか!」

「クラーナはいっつもずるいの! いっつもいつの間にか仲良くなってるもん!」

「ほら、流石にやめないとダメでしょ? 二人とも可愛い顔が台無しになってるわよ」

 

 トンクス先生の呪文に捉えられても、二人は空中で言い争いを続けていた。ジョージがクラーナの落とし物を拾ってオスカーに渡してきた。

 

「ここはオスカーの兄貴がガツンと決めるべきところじゃないの?」

「確かに、こう俺のために争うんじゃない的な?」

 

 フレッド・ジョージは調子の良いことを言っていたが、オスカーの見たところ二人の喧嘩にビビっているようだった。オスカーも正直なところビビっていた。二人が杖を持っていたら、オスカーの体はマッチ箱に入れれるくらい小さくなっていたかもしれないとオスカーは思った。

 オスカーは名札のようなものに書かれた文字を呼んだ。名札には聖マンゴ魔法疾患病院・解除不可能性呪い・特別隔離病棟・入室許可証と書かれており、本人の欄にクラーナのサインが、保護者の欄にマッドアイのサイン、許可者、担当癒者の欄にもオスカーの知らないだれかのサインがあった。オスカーの読んだ面の裏には入室する場所にいる誰かの詳細が書いてあるようだった。しかし、誰かの見舞いにクラーナが使っているモノならば、オスカーは余り立ち入るべきではない気がしたので視線を外した。

 それから随分と二人は浮かびながら言い争っていたが、流石に疲れたのか段々静かになっていった。

 

「オスカー、ほんとに何があったのよ、正直、二人があんなになると思ってなかったんだけど、あの二人がぶちぎれるなんてそうそうないわよ」

「いや…… 俺もそう思うんだけど…… まあ二人共疲れてそうではあったけど……」

 

 トンクス先生は二人が静かになったのを見計らってゆっくりとおろした。

 

「エビスキー 癒えよ! ほら、二人とも魔女なら魔女らしく杖がある時に決闘するのよ? 決闘の仕方は教えたでしょう?」

 

 オスカーはトンクス先生の方が、トンクスよりやっかいな気がしていた。それに二人の傷を癒していたが、実際のところオスカーの方が重傷だった。

 

「ここでどっちを慰めに行くのかは重要だと思うね、我が弟、ジョージ」

「ああ我が兄、フレッド、これはガリオン金貨よりも重要だ」

 

 フレッド・ジョージが何やら言っていたがオスカーは無視して、とりあえずクラーナの落とし物を届けることにした。オスカーはまだ体中が痛かったがクラーナに近寄った。

 

「なんですか? オスカーはエストとイチャコラしてればいいんじゃないですか? せっかくのクリスマスなんですから」

「いや、これ落としただろ」

 

 オスカーが許可証をクラーナに差し出すと、クラーナはオスカーが見たことのない表情をした。オスカーはその表情がクラーナに全く似合っていないと思った。オスカーにはクラーナが酷く怖がっているように見えた。

 

「読んだんですか?」

「え? 聖マンゴのお見舞いにいるなんかじゃないのか?」

 

 クラーナはオスカーの眼をはっきりと見つめたが、オスカーはクラーナの視線がいつもの強気なモノではない気がした。

 

「わかりました…… じゃあ寝室を借りますね、昨日はあんまり寝れなかったですし、もう疲れました」

「去年使ってた部屋をペンスが用意してるはずだけど……」

「ありがとうございます。じゃあオスカー、メリークリスマスです」

「ああ、メリークリスマス、クラーナ」

 

 クラーナはそう言うなり、扉に向かって歩いていった。オスカーにはクラーナの後ろ姿がひどく疲れて見えた。よれよれになったローブの端から見える、クラーナのセーターに描かれているライオンが伸びてしまって、疲れているように見えたのもあるかもしれなかった。

 オスカーはエストの方へ目線を移して、エストがまだおかんむりなのに気付いた。エストはこっちの方を見て、口を膨らましているように見えた。オスカーはエストにつけて貰った時計を使いたい気分になった。

 

「オスカー、クラーナの機嫌は直ったみたいだけど、エストも相当あれなんだけど」

「フレッド、これは何点だと思う?」

「俺では点数を測れない…… ここからの展開が大事だと思うね」

「オスカー君が一番傷だらけじゃないの、羨ましいわね、傷だらけにしても欲しいと思われてるなんて」

 

 トンクス先生がオスカーの傷を癒してくれたが、オスカーはもう相当に疲れていた。そもそもオスカーは昨日からろくに寝れていなかった。それに外野がものすごくうるさかった。

 

「エスト、なんであんなクラーナを怒らせたんだ?」

「クリスマスプレゼントだもん」

 

 オスカーが尋ねてもエストはプイっと横を向いてそう言うだけだった。オスカーは流石にちょっと怒りたくなってきた。

 

「クラーナは疲れてたみたいだし、クリスマスだろ?」

「だって、クラーナは怒らせないと絶対本当のことを言わないもん」

 

 エストは少しバツが悪そうにオスカーに答えた。確かにクラーナは怒らせるといつも何か言葉を滑らせる気がオスカーもしていた。

 

「じゃあ、クラーナに何か聞きたいことがあってわざと怒らせたのか?」

「む…… そうじゃないけど…… クラーナは絶対本当のことを言わないんだもん。守護霊の呪文がなんでできないのか相談した時も…… 動物もどきのことを聞いた時も……」

 

 オスカーもエストがオスカーと喧嘩しているときに、何か守護霊の呪文のことでクラーナと話合っているのは知っていた。しかし、本当のことを言わないとは一体何なのかオスカーには良く分からなかった。

 

「良くわからないけど、流石に今回のはエストが悪いだろ、どう考えても怒らそうとしてたし、クラーナが起きたら謝れよ」

 

 オスカーがそう言うと、エストはオスカーから視線を外した。

 

「クリスマスプレゼントだろ」

「ううううううう…… 分かったの」

 

 エストはそれを聞いてしぶしぶ謝るのを約束した。オスカーも大分疲れていて、正直、寝室に戻って寝たかった。だいたい届いているはずのクリスマスプレゼントの確認すらしていなかった。

 

「見たかジョージ、怒れるエストを鎮圧したぞ」

「ああフレッド、純血キラーの二つ名は伊達じゃない」

 

 オスカーはフレッド・ジョージに構う元気はなかった。

 

「オスカー君は気を付けないと、いつの間にか朝食に愛の妙薬が入っているかもしれないわよ?」

 

 トンクス先生が悪戯っぽくそう言ったが、オスカーはそれを聞いてますます疲れた気がした。

 

「やるじゃないのオスカー、チャーリーやレアも呼んだ方がいいかしら?」

 

 オスカーはとにかく寝ることに決めた。

 

 

 オスカーは自分の部屋で目を覚ました。起きると首筋に痛みが走った気がした。部屋にあった鏡を見ると、トンクス先生が治しそこねたのか恐らくクラーナがエストを無理やり引き離したときにできた爪痕がまだ残っていた。それにエストに首にかけられた逆転時計がオスカーの胸元でゆっくりとガラス細工の中の砂を落としていた。

 オスカーは寝る前の、エストとのことや、エストとクラーナの喧嘩が現実だということを感じた。そして、足元に小高く積まれたプレゼントを見て、やっとクリスマスが来た気がした。

 ウィーズリーおばさんからきた包みをあけてオスカーは今年の分のセーターを取り出した。念入りにイニシャルも見たが、今度はちゃんとオスカーのイニシャルになっていた。

 オスカーはすっかり伸びてしまったセーターを脱いで、新しいセーターに着替えた。他の包みを開けてみると、なんとキングズリーからのプレゼントは日刊預言者新聞の一年分の定期購読権の権利書というものだった。一緒についていた手紙にはリータ・スキータには気を付けるようにと書かれていた。オスカーはちょっと伝えられるのが遅いと思った。

 他にも、ロンとジニーからお手製の蛇の形をしたお菓子が届いていたり、チャーリーからセストラルの動く人形が届いていたりした。クラーナからのプレゼントは金色のくねくねしたアンテナ、小型の秘密発見器だった。

 時計を見るとちょうどお昼過ぎだったので、オスカーはペンスが昼食を用意しているのを期待して、広間へと向かった。

 

「わかりました。エストがイチャイチャしてるのを妨害した私が悪かったですよ、ごめんなさい」

「わかったの、ほんとの事言わないクラーナをからかったのが悪かったの、ごめんなさい」

 

 オスカーが広間に入るとちょうどエストとクラーナがなにやらお互いに謝りあっているようだった。オスカーは二人が本当にお互いに申し訳ないと思っているのかは疑問だと思った。

 

「あらオスカー、家主がこんな時間まで寝てていいの?」

 

 トンクスがニヤニヤしながらオスカーにそう言った。なぜか後ろのフレッド・ジョージも笑っていた。

 

「オスカー、メリークリスマス、朝は大変だったみたいだね」

「チャーリー、メリークリスマス、セストラルありがとうな」

 

 なぜかチャーリーも笑っているようだった。オスカーはエストとクラーナのやり取りを面白がっているのだと思った。

 

「オスカー、先輩…… それ……」

「オスカーはクラーナとお揃いなの?」

「え? ジニー? お揃いって何が?」

 

 レアがおそるおそるといった感じで、ジニーは楽しそうな顔でオスカーのローブの間を指で指した。

 オスカーがハッとして、ローブを脱いでセーターを見ると、なぜかさっき見た緑と銀の蛇柄ではなく、緑と赤が半々で、銀の蛇と金の獅子がいるデザインに変わっていた。さらにイニシャルの部分までクラーナのモノに変わっていた。

 

「はあ!? さっき見た時は普通だったのに……」

 

 オスカーがトンクスとフレッド・ジョージを見ると腹を抱えて笑っていた。オスカーは昨日から溜まっていた疲れと怒りが寝たことで解消されたと思っていたが、一瞬で復活した気がした。

 

「ああああああああ! やっぱり! セーター! もう! 謝らなければ良かったの!」

「ちょっと、これ、なんですか!? 時間経過の変身呪文!? なんでこんな悪戯に高度なことを!!」

 

 そこからはオスカーはどっと疲れた気がして、もうみんなが騒ぐのを見つめるだけだった。いつの間にか傍にいたペンスに昼食を用意して貰って、食べながら大騒ぎを見つめていた。

 

「ペンス、なんであの時、一瞬で消えたんだ?」

「このペンス、ドロホフ家の屋敷しもべとして、オスカーおぼっちゃまが女性の方とご一緒の時にお邪魔になるようなことは致しません」

 

 そう言うとペンスは完璧なお辞儀をして消えた。オスカーはもっと疲れた気がした。クラーナがトンクスを追い回しているのが見えた。オスカーは良く大暴れしたあとなのにあんなに動ける元気があるなと思った。

 

「ねえオスカー、ホグワーツに戻ったら、忍びの地図を貸してくれる?」

「忍びの地図? いいけどどうしたんだ?」

「ちょっとね、キングズリーにいいことを聞いたの、もしかしたら、すごく珍しい動物を捕まえられるかもしれないの」

 

 オスカーがキングズリーの方を見ると、なぜかこっちに向かってウィンクをしてきた。いったい何をエストに吹き込んだのだろうか? オスカーは最近のエストのぶっ飛んだ行動を見ていると少し不安だった。

 

「珍しい動物? 確かに忍びの地図にミセス・ノリスはのってるけど、動物なんだったらチャーリーかハグリッドに協力して貰ったほうがいいんじゃないのか?」

「うーんとね、多分、それじゃだめなの、魔法生物飼学じゃでてこない感じの生き物なの」

 

 エストの眼はまだ少しクマで縁どられていたが、何か楽しいことを考えている眼だったのでオスカーは心配しないでも良さそうだと思った。

 オスカーは疲れてはいたが、大騒ぎしているみんなや楽しそうな顔をしているエストを見て、やっとクリスマスらしく幸せになりつつあると思った。

 



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コガネムシ

この人、ベラトリックスと同級生


 オスカーにとって、一年生と同じくらい色々なことがあったクリスマスが終わった。オスカーたちは相変わらず、守護霊の呪文と、劇の練習を行っていたが、練習をするにあたってドージ先生からプレゼントがあった。

 

「検知不可能拡大呪文なの」

「アラスターおじさんのトランクと一緒ですね」

 

 ドージ先生に渡されたトランクには、いくつもの部屋があり、それぞれ劇の進行に合わせた大道具が準備されていた。最後にでてくる幸運の泉であったり、渡れない川であったり、そのほとんどが驚くべき術で再現されていた。

 オスカーは、自分たちが習っているような変身術を習い続けたとしても、ここまでいろんなものを創り出すことが本当にできるのかと思った。

 それぐらい舞台のセットは素晴らしいものだった。

 

「ほんとに凄いね、流石はダンブルドア先生ってとこなのかな?」

「今世紀で一番偉大な魔法使いってやっぱり凄いのね」

 

 オスカーたちはトランクの中でセリフや演出であったりを練習したり、時々、巨大な鏡でWADAにいるはずのチョーリー先生からアドバイスを貰ったりしていた。

 

 先生方のプレゼントでオスカーたちの士気が上がったのは確かだった。しかし、誰も口に出すことはなかったが、劇を成功させるにあたって大きな問題があるのも確かだった。

 守護霊の呪文だった。この呪文が非常に難しい呪文だということはクラーナが最初に言っていたし、教えてくれているドージ先生の言葉からもオスカーは理解していた。

 しかし、これほど人によって難易度に差がでるとオスカーは思っていなかった。エストが中々成功させることができなかった時にオスカーは驚いたが、自分自身にとって、これほど難しい呪文があると思っていなかったのだ。

 今や、オスカーたちの中で有体の守護霊を創り出すことができないのは、オスカーとクラーナだけだった。

 

「ねえ、今日はもう切り上げない? 多分、この呪文はひたすらやり続けてもうまくいかないの」

「あと二、三回やったらやめる。先にトランクの中のみんなに言っといてくれ」

 

 オスカーがそう言うと、エストは頷いてトランクの中に消えていった。トランクの外で呪文を練習しているのはオスカーとクラーナだけだった。

 オスカーは守護霊の呪文を唱えるにあたって、色んな記憶を思い出した。エストに決闘で勝ったとき、自分の記憶から自分を取り戻して戻ってきたとき、必要の部屋からエストを取り戻した次の日の朝、少し前のクリスマス。色んな記憶を思い出して守護霊を創ろうとした。

 しかし、創ろうとするたびにオスカーはそれらが本当に一番幸福な記憶ではないのではないかという気持ちを抑えることができなかった。そう思う度に杖から出る銀色の何かは形を失っていった。

 オスカーは毎回、それを見るたびに森の中の風景が、りんごのような香りが、たくさん飛び交っているトンボの群れが、誰かの笑い声が聞こえる気がした。オスカーはその記憶を使えば守護霊の呪文を成功させることができるのではないかと思っていた。けれども、オスカーはそれをしたくなかった。

 それをするとオスカーは自分を許せなくなる気がしたのだ。そしてその記憶以外で守護霊の呪文を成功させないと、周りのみんなを裏切っているような気がして、どうしようもなく自分が嫌になる気がしたのだ。

 オスカーはまた杖の先から消えていった銀色の何かを見届け、まだ懸命に呪文を唱えているクラーナの方へ視線を移した。

 

「エクスペクトパトローナム! 守護霊よ来たれ!」

 

 クラーナは目をつぶって眉間にしわを寄せ、何かを思い出すように呪文を唱えたが、やはり銀色のもやはもやのまま、風に吹かれた煙の様に消えていった。

 オスカーは呪文を唱えている自分もあんな風に見えるのだろうかと思った。クラーナは呪文を唱え続けていた。

 

「エクスペクトパトローナム! 守護霊よ来たれ!」

 

 クラーナが呪文を続けて唱える度に、杖から出る銀色の何かはどんどん形を取ることはなくなり、よりもやは薄くなっているようだ。

 そして、それを見るたびにクラーナの顔は何かに失望しているような顔になっているようにオスカーには見えた。オスカーはそれを見るたびに、クリスマス前のエストを思い出してしまって不安になるのだった。

 

「おや、二人とも練習中かな? ちょっと悪いんだが、これをアルバスに届けてくれないかな?」

 

 二人の後ろから、ゼイゼイとした声が響いた。ドージ先生がいつの間にか二人の後ろに立っていて、ロウ付けされた封筒を二人に差し出していた。

 

「ちょっと私は四年生の子の補習があってね、私の足でふくろう小屋に行くのでは間に合わないからね、お願いできるかな?」

「大丈夫ですけど……」

 

 オスカーは練習を切り上げるにはちょうどいいタイミングだと思った。エストの言う通り、このままやっても守護霊が出てくる気は全くしなかったのだ。

 

「オスカー、校長室に行くのなら合言葉がいるんじゃないですか?」

 

 杖をしまい、いつもの強気な眼に戻ったクラーナがオスカーにそういった。オスカーも思い出した。ダンブルドア先生の部屋に入るには合言葉が必要なのだ。

 

「ああ、合言葉はポルボロンだね、よろしくお願いするよ」

 

 オスカーとクラーナは用事を頼まれた旨を羊皮紙に書置きして、校長室へと向かった。オスカーもクラーナもお互いに何か喋ることはなかった。オスカーはクラーナがこういう時に何か話を振ってこないのは珍しいと思った。

 二人は校長室の前にあるガーゴイル像にたどり着き、ポルボロンと唱えた。ガーゴイル像はうやうやしく飛びのいて、オスカーとクラーナの前に螺旋階段が現れた。

 二人が校長室のドアをノックすると、中からダンブルドア先生の声が聞こえた。

 

「お入り」

 

 ダンブルドア先生は二人の顔を見ると驚いた顔をした。オスカーはその青い目を見たことでアバーフォースを思い出した。オスカーはこうして改めてダンブルドア先生を見ると、アバーフォースが最初にダンブルドア先生の兄弟だとわからなかったのは不思議だと思った。

 

「なんと、オスカー、クラーナ、二人とは先学期ここで会った以来かな?」

 

 すぐにダンブルドア先生はいつもの優しい顔に戻った。オスカーはドージ先生から渡された封筒を差し出した。

 

「ドージ先生から渡すように言われました」

「なるほど、エルファイアスの届け物を渡しにきてくれたわけじゃな」

 

 ダンブルドア先生はオスカーから封筒を受け取ると、またニッコリとした。

 

「これから理事の一人と予定があってのう…… これが必要だったのじゃ」

 

 ロウ付けを外して、ダンブルドア先生は中の手紙を読み、ふんふんと頷くとまたオスカーとクラーナの方へ視線を移した。

 

「それで、劇の方は上手くいっておるかな? わしもあのセットを創るのに久しく使っていなかった腕を振るったので、少々期待しておるのじゃ」

「劇の練習は問題なく進んでいると思います」

 

 クラーナが間髪入れずにそういったが、オスカーはクラーナが少し目線をダンブルドア先生からずらした気がした。

 

「ダンブルドア先生、話を変えてしまって申し分けないんですが、守護霊の呪文のコツというのはあるんですか?」

 

 オスカーはダンブルドア先生に質問をしてみることにした。ダンブルドア先生は時々変身術を教える教室を開いているし、生徒が聞けば教えてくれる気がしたのだ。それにオスカーは自分一人では永遠にコツをつかめないのではないかと思っていた。

 クラーナの視線がまたダンブルドア先生の方に戻るのをオスカーは今度ははっきりと見た。

 

「なるほど、守護霊の呪文のコツとは…… そうじゃな、二人は自分が幸せな記憶を使っているのかね?」

「自分が? ですか?」

 

 ダンブルドア先生は優しく微笑みながらそういったが、オスカーはダンブルドア先生の言った意味があまりよくわからなかった。最も幸せな記憶を使っているのだから、自分が幸せなのは当たり前ではないのかと思ったのだ。

 

「そうじゃ、よく考えてみるといいかもしれないのう。君たちが、君たち自身が本当に幸福な記憶でないと真に強力な守護霊は作れぬ」

 

 オスカーはますます混乱した。つまり、オスカーが今まで使っていた、思い出していた記憶ではオスカー自身が幸福ではなかったというのだろうか? オスカーはそんなはずはないと思った。

 

「大切なのはどうして幸福なのかじゃよ、オスカー、クラーナ」

 

 ダンブルドア先生はいたずらっぽく笑って二人にウィンクしたが、オスカーにはさっぱり言葉の意味が分からなかった。どうして幸福なのか? オスカーはそんなことはわかりきっていると思っていた。みんなと一緒にいたり、遊んだり、そういうことが幸福なのに理由がいるのだろうか? オスカーはそれだけで十分幸福なはずだと思い、ダンブルドア先生の言っていることがさっぱり分からなかった。

 

「二人とおしゃべりしたいのは山々ではあるのじゃが、ああ歴代の校長たちも君たちと喋りたいようじゃが、さっきも言った通り、理事との約束があるのでのう」

 

 オスカーが後ろの肖像画を見ると、肖像画たちはなんとダンブルドア先生にブーイングしているようだった。

 

「あの理事と喋るのは時間の無駄ですぞダンブルドア!!」

「その通り、功労賞を貰った二人と話す方がよっぽど有意義だ」

「ダンブルドア、確かにあの十分に純血の尊さを理解している理事と話すのは有意義だが、二人と話す方がもっと有意義ではないかね?」

 

 口々に肖像画たちがダンブルドア先生に言葉を投げつけた。ダンブルドアはちょっとびっくりしている様だった。

 

「フィニアス、あなたと話が合う日がくるとはおもわなんだが、約束があるのでのう」

 

 ダンブルドアは肖像画にそう言った。オスカーは最後に喋りかけてきた肖像画が、去年、ダンブルドアの話に割り込んできた肖像画だと分かった。

 

「ああ、フィニアスはスリザリン出身の校長なので、オスカー、特に君のファンなのじゃ、去年もわしが、君の勇気をグリフィンドール向きじゃと言ったら割り込んできたじゃろう?」

 

 オスカーはダンブルドア先生の言葉を聞いて、去年、あの肖像画、フィニアスが言っていたことを思い出した。確か、私の寮の学生を他の寮の方が合っていると言うなというニュアンスのことを言っていたはずだった。

 

「その通りだダンブルドア。我らスリザリン生は選択の余地があれば常に自分自身を助けることを選ぶ。しかし、だからこそ彼の行いがより勇敢になるのだ。それをグリフィンドールの方が合っているなどと……」

「フィニアス、申し訳ないが理事と話さないと、校長たちが楽しみにしている劇に横やりがはいるかもしれないのでのう」

 

 ダンブルドア先生がそう言うと、フィニアスも含めて校長たちが静かになった。ダンブルドア先生はもう一度二人の方を見た。

 

「さて、では二人とも体や勉学に障らない程度に劇の方を頑張って貰いたい。それと、ホッグズ・ヘッドのバーテンに会ったら、わしがよろしく言っていたと伝えておくれ」

 

 オスカーとクラーナはダンブルドア先生の見送りを受けて校長室を後にした。

 オスカーとクラーナが校長室から出て、螺旋階段を下ると、珍しい人物に出会った。

 

「ムーディにドロホフか……」

 

 一年生の時にオスカーを追い回していた主犯、ファッジ先輩だった。

 

「お前たちがでてきたってことはまだ来られて無いってことか」

「どういう意味ですか? ファッジ先輩。ダンブルドア先生はこの後理事に会うって言ってましたけど」

 

 クラーナがファッジ先輩に聞くと、ファッジ先輩は嫌そうな顔をした。

 

「言っとくがお前らに用はないぞ、俺はおじさんに挨拶をしてこいって言われたからここにいるだけだからな」

「だから誰に用があるんですか?」

 

 控えめに見積もって、ファッジ先輩はクラーナの三倍くらいの体積があったが、クラーナはファッジ先輩に対して強気だった。

 

「お前らに関係はないけどな、マルフォイさんが来るから挨拶しにきただけだよ、あの人は魔法省はもちろん、魔法界のいろんなところに顔が利くからな」

「マルフォイ…… ルシウス・マルフォイですか……」

 

 クラーナはその名前を聞いて何か考えているようだった。オスカーはその名前を聞いてピンと来た。ダンブルドア先生がさっき校長たちに言っていたことの意味が分かったのだ。

 

「ああそうだ。あの人はまだお若いのにホグワーツの理事をしてらっしゃるんだよ、ほら聞いたんならあっちいけ」

 

 ファッジ先輩はしっしと追い払うしぐさをした。オスカーはとりあえずファッジ先輩に従って、空き教室に戻ることにした。

 

「劇に反対してる理事っていうのはルシウス・マルフォイなんだな」

「ええそうみたいですね、トンクスが提案した劇に反対してるのがトンクスのおじさんっていうのはなんかアレですね……」

 

 オスカーはクラーナに言われて初めてその事実に気付いた。確かに、それはずいぶんと皮肉な話だとオスカーは思った。

 オスカーがそのことをちょっと考えながら歩いていると、不意にクラーナが歩みを止めた。

 

「オスカー、なんで私たちが守護霊の呪文をつかえないんだと思いますか?」

 

 クラーナは真剣な声色でオスカーにそう聞いた。オスカーはクラーナに応えることができなかった。さっきのダンブルドア先生の話をオスカーはさっぱり分かっていなかったからだ。

 

「そうですね、控えめに言って、私たちは優秀なほうだと思います。なにせあの闇の帝王が褒めていたくらいですから、普通の呪文ならこんなに苦労しないと思います」

 

 オスカーはクラーナが本気で話をしているのが分かった。クラーナが自分自身のことを言うのに、ヴォルデモート卿や死喰い人の言葉を簡単に借りるとは思えなかったからだ。

 

「多分、私たちには共通点があると思います。なんだかわかりますか?」

 

 オスカーは考えた。クラーナとの間にあって、他のみんなとの間にない共通点…… オスカーはすぐに思い立った。自分が守護霊の呪文を失敗して、気を紛らわすために周りを見回して、クラーナの姿を見るたびに思い出していたことだったからだ。

 

「閉心術?」

「そうです、私はそこにヒントがあるんじゃないかと思っています」

 

 クラーナにそう言われてオスカーも守護霊の呪文と閉心術の関係を考えてみた。閉心術を使うことで自分の幸せな記憶が何かわからなくなっているとでも言うのだろうか? オスカーはそんなはずはないと思った。閉心術を使って、ヴォルデモート卿に対抗した時、考えたのは自分の意志で自分を満たすことだったからだ。それはむしろ守護霊の呪文と相性が良さそうに思えたのだ。

 

「良く分からないな、むしろ相性が良さそうに思えるんだけど……」

「そうですね、確かに自分を自分でコントロールできる閉心術士の方が相性が良さそうだと最初は思いました。でも、何か考え違いをしてるんじゃないかって思うんです」

 

 オスカーは最初に守護霊の呪文を成功したレアを思い浮かべた。確かに彼女は一番オスカーたちの中で感情を制御できないように思えた。つまり、感情をそのまま表せる方が守護霊の呪文と相性が良いのだろうか? オスカーはますます良く分からなくなってきた。

 

「まあ、考えても分からなかったからオスカーに聞いてみたんですけどね」

「俺もダンブルドア先生の話を聞いても分からなかったからな」

 

 オスカーはクラーナが守護霊の呪文のことを自分に相談してくれたことが少し嬉しかった。エストの様に自分だけで傷ついているわけではなさそうだったからだ。そして、オスカーはエストがクラーナについて言っていたことを思い出した。たしか、守護霊の呪文の相談と…… 動物もどきのことでほんとのことを言ってくれないと言っていたはずだった。オスカーは少し考えてみたが、そもそもエストが言っていたことの意味が分からなかったし、クラーナがそうそう嘘をつくとは思えなかった。

 

「とりあえず帰るか、みんなを待たせてもあれだしな」

「そうですね、またエストに喧嘩を売られるのは勘弁して欲しいです」

 

 オスカーはクラーナがそう言って笑ったので少し安心した。二人は練習をしていた空き教室に戻ろうと足を再び進め始めた。

 しかし、二人が空き教室に近付くと、どうも様子がおかしいことに気づいた。他の四人のずいぶんと興奮した声が聞こえるのだ。

 

「じゃあこのコガネムシがあのくそ野郎ってことなのね? エスト」

「トンクス、多分このクソ記者は女の人だから野郎じゃないの」

 

 トンクスの声も、エストの声もどこか勝ち誇ったような声だった。

 

「ええ!? ほ… ほんとですか? 確かに、なんか触角とか目のあたりとかがあの記者のメガネっぽいかもしれません……」

「レアはこいつに色々やられたんだから、仕返ししないとダメよ、ちょっとチャーリー、なんかコガネムシに良く効くお仕置きとかないの?」

「コガネムシにお仕置き? う~ん…… オスのコガネムシの群れの中に突っ込むとか?」

「ええ…… 私前から思ってたんだけど、チャーリーが一番えげつない考え方するわよね、ちょっと引いたわ……」

 

 みんな興奮して何かについて喋っているようだった。オスカーはクラーナと目線を合わしてから空き教室に入った。

 オスカーが教室に入ると、何やらガラス瓶のようなものをみんながのぞき込んでいるのが見えた。

 

「あら、手紙を届けに行ってただけにしては随分と長かったわね」

「ダンブルドア先生と歴代の校長に捕まってたんですよ、で? 何に騒いでいるんですか?」

 

 トンクスは相変わらずの口調だったが、オスカーは彼女の髪が真っ赤だったので相当興奮していることが分かった。

 

「ねえ、オスカー、クラーナ、これなんだと思う?」

 

 エストはニヤニヤしながら、オスカーとクラーナの前にガラス瓶を差し出した。ガラス瓶の中には太ったコガネムシが一匹、枝や葉っぱとともに入っていた。オスカーはこの冬の時期にこんなに太ったコガネムシがいるのかと思った。エストが変身術で出したのだろうか?

 

「なんですか? コガネムシ?」

 

 クラーナも分からないようで、頭をひねっていた。

 

「ここにね、忍びの地図があるの」

 

 エストは待ちきれないとばかりに忍びの地図をオスカーとクラーナに見せた。忍びの地図のエストが指し示す場所には空き教室があり、オスカーやクラーナ達の名前があった。

 

「リータ・スキータ……?」

 

 クラーナがそうつぶやいた。オスカーがもう一度、忍びの地図を見てみると確かにリータ・スキータの名前がオスカーたちと重なるように表示されていた。

 オスカーは周りを見回したが、どこにも人の姿はなかった。エストたちが興奮していることを考えると、答えは一つしかなさそうだった。

 

「このコガネムシがリータ・スキータ?」

「そうなの! 忍びの地図が嘘をついてないなら、このコガネムシはリータ・スキータなの! これでエストとオスカーの杖のことが新聞に載ったのがなんでなのか分かったの、クラーナとドージ先生の部屋で喋ったとき窓が開いてたでしょ?」

 

 確かに、オスカーとエスト、クラーナがドージ先生の部屋にいた時、窓が開いていたはずだった。

 

「多分ね、コイツは窓枠にでもとまってたんだと思うの、どうやってホグワーツに入ったのかは分からないけど、時々入ってきてはこの姿で飛び回ってたんだと思うの」

「でも、コガネムシに変身なんてできるのか? 虫に変身したら人間の考えなんてできなくなるんじゃ……」

 

 確かに、エストの言う通りなら杖の話が漏れた理由は説明できそうだった。しかし、オスカーはそれでもこのコガネムシが人間だとは信じがたかった。それにマクゴナガル先生の話では動物に変身した場合、通常は人の心を保てなくなるはずだった。

 

「動物もどきなの、虫に変身して人の考え……」

「ありえません!! 動物もどきは今世紀に入って八人しかいないはずです!! リータ・スキータの名前は魔法省の名簿にはありません!!」

 

 エストが話している途中でクラーナが遮った。オスカーにはさっきまで落ち着いていたはずのクラーナの顔色がどこか青く見えた。

 

「そうだよね、エストも名簿を見たし、クラーナに聞いたから知ってるの。名簿の一番新しい登録者はクラーナのお姉さんのはずなの、それから誰も新しい動物もどきは登録されてないの、もちろんリータ・スキータの名前はどこにもないの」

 

 エストはそう説明して笑った。オスカーは登録されていないという事実がリータ・スキータにとって悪く働くためだろうと思った。しかし、エストの顔色とは反対にクラーナの顔色は刻々と青くなっていった。

 

「私、マクゴナガル先生に動物もどきの授業の時に聞いたんだけど、未登録で動物もどきの能力を悪用するとアズカバン行きらしいわよ」

 

 トンクスもニヤニヤしながらガラス瓶をちょっと傾けたりして、コガネムシが必死に枝にしがみついているのを見ながら言った。クラーナの顔色はそれを見てさらに青くなった。ほかのみんなはコガネムシに注意がいっていて気が付かないようだったが、オスカーは明らかにクラーナの様子がおかしいと思った。

 

「うーん、僕もあんまり信じられないけど、確かにそれならリータ・スキータが色んなスキャンダルをすっぱ抜けるわけだよね」

「動物もどきって、他の人の魔法で元の姿に戻せるんですか? というか、この状態で人間に戻られたらガラス瓶くらい割れちゃうんじゃ……」

 

 レアが恐る恐るという感じで、ガラス瓶をつつくとコガネムシはその衝撃で底まで落ちて、足を上にしてもがいていた。クラーナは大きく目を見開いてそれを見ていた。オスカーはクリスマスの時に見た表情、クラーナに一番似つかない表情だと思った。クラーナは明らかに怖がっていた。

 

「大丈夫なの、このガラス瓶には割れない呪文がかけてあるから、もとに戻ったら大変なことになるの、それに動物もどきを人間に戻す呪文は七年生の教科書に書いてあるの」

「そうね、ちょっとこのデブチンのコガネムシには反省してもらわないとダメね、こっちの都合のいい時まで人間の姿には戻らないでいてもらいましょうよ」

 

 クラーナは本当に信じられないという顔でエストとトンクスの顔を見ていた。オスカーはクラーナにとって、エストとトンクスはおぞましいものに見えているようだと思った。オスカーは流石に見ていられなかった。

 

「クラーナ、大丈夫なのか?」

「私…… 私は……」

 

 みんなの視線がクラーナに集まった。クラーナは一瞬オスカーに視線を送った後、もう一度ガラス瓶の中のコガネムシに視線を移した。

 コガネムシはさっき落ちた時の衝撃で触角が少し折れていて、ガラス瓶がつるつるで足でつかむことができないからか、まだ体をひっくり返したままもがいていた。

 クラーナはそれを見て、また大きく目を見開いた。クラーナは杖を手が白くなるくらい握りしめていた。

 

「ちょっと、クラーナ、顔が真っ青だけど大丈夫なの?」

「クラーナ? どうしたの?」

 

 トンクスとエストがそう聞いたが、クラーナはまるで二人を怖がっているように目線を合わせようとしなかった。

 

「私は…… ごめんなさい。ごめんなさい…… き…… 気分が悪いので帰ります」

 

 クラーナはそう言うなり、耐えられないとばかりに飛び出していった。オスカーはこんなクラーナを見たことがなかった。みぞの鏡の前にいたクラーナでさえあんな表情をしてはいなかったと思った。彼女があんなに怖がっているのをオスカーは見たことがなかった。

 誰も喋らない空き教室の中、コガネムシが起き上がろうとして、足についた爪でガラス瓶をひっかく音が、カシャカシャという音が、オスカーにはひどく大きく聞こえた。

 

 

 




分割した方が良かった気がする
誤字報告感謝しております


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三人目の魔女

残酷描写あり、長いです


 クラーナが突然帰ってしまってから数日経った。オスカー達はそのことについて誰も触れなかった。クラーナもそのことについて触れなかった。

 ガラス瓶に捕らえられたリータ・スキータは未だ捕らえられたままだった。正直なところ、オスカー達はこの瓶詰めにされた記者をどうすればいいのか分かっていなかった。

 魔法省に突き出す。日刊預言者新聞に密告する。ダンブルドア先生に報告する。色んな案がオスカー達の間で浮かんだが、結局どれが一番いいのか分からず、ただ瓶詰めにされたままだった。

 それよりもオスカーは前のエストの様にクラーナがなってしまわないのか心配だった。守護霊の呪文の練習を前よりも懸命にやっているようだったし、ドージ先生に頼んで、何か別の練習もしているようだった。

 今日もクラーナはドージ先生の所に一人で向かった。クラーナはオスカー達に何をやっているのか話す気はないようだった。

 

「今日、朝ご飯食べてる時にハグリッドがアッシュワインダーが生まれすぎて大変だから、来てくれないかって言ってたんだけどどうする?」

 

 チャーリーが待ちきれないという顔でそう言った。

 

「凍結呪文が必要なら、エストを連れて行けばいいんじゃないの? ちょうどクラーナもいなくなったし、オスカーが取られる心配はないわよ?」

「なんなのそれ…… 別にクラーナがいたからってそんな心配はしてないの」

 

 エストをからかったトンクスの髪色がピンク色ではなかったので、オスカーはちょっと不思議だった。

 

「俺はここで呪文の練習をしとくから、みんなで行ってきてくれ」

 

 オスカーは最初からそのつもりだった。オスカーはクラーナがドージ先生の所から帰ってきた後も守護霊の呪文の練習をしていることを知っていた。オスカーは少なくともクラーナが戻ってくるまではここで練習をしているつもりだった。

 

「ボクは今日はトランクでセリフと動きの練習をしようかなって思います」

「じゃあ私もレアに付き合うわ、そしたら他の人の動きと合わせられるでしょうし」

 

 レアとトンクスの二人も今日はハグリッドの所へ行く気はないようだった。

 

「じゃあエストとチャーリーで行ってくるの、肥らせ呪文をかけなければ多分魔法で運べるの」

「多分、卵も貯まってるんだよね…… 僕たちは愛の妙薬を作るわけじゃないから使えないけど」

 

 オスカーはエストとチャーリーを見送って、一人で呪文の練習に戻ろうとした。

 

「それで? オスカーは何か言われてないの?」

「何か? どういう意味だ?」

 

 何故かトンクスはトランクの中に入らず、オスカーに質問してきた。トンクスの髪色は赤みがかった紫と言ったところだった。

 

「その様子なら、オスカーにも何も言って無いのね」

「クラーナ先輩のことですか?」

 

 レアがちょっと心配そうな顔でそう言った。

 

「そうよ、明らかにおかしかったでしょ? いつものクラーナならリータ・スキータを捕まえたら喜ぶと思わない?」

「確かに、そうかもしれません……」

「絶対そうよ、だってファッジ先輩ごと階段を爆破して喜ぶようなやつよ?」

 

 オスカーはそんなことをしていたのかとファッジ先輩が少し可哀想になった。そして、それをトンクスがオスカーの顔でやっていたことを思い出して、先日会ったファッジ先輩の反応に納得がいった。

 

「オスカーもおかしいと思ったからあの時そう言ったんじゃないの?」

「そうだけど…… 正直なんでクラーナがああなってたのかはわからないしな」

 

 オスカーはそういってローブのポケットからガラス瓶を取り出した。エストにオスカーが持っててと言われ、忍びの地図と一緒に渡されたのだった。

 ガラス瓶の中は大量の葉っぱが詰められていて、太ったコガネムシの姿は見えなかった。

 

「その人に聞けばわかるんでしょうか?」

 

 レアはガラス瓶を指で指した。オスカーも確かにこれを見てクラーナの様子がおかしくなったのだから、この人物、リータ・スキータに聞けば何か分かるのかもしれないと思った。

 

「けどそいつから話を聞くには、人間の姿に戻さないといけないわよ? 逃げられちゃうかもしれないし、ホグワーツの中で元の姿に戻られても、どうやって先生に説明するの?」

 

 オスカーは正直、ガラス瓶の中身がどうなろうと知ったことではないと思っていたが、確かに話を聞くのならホグワーツの外の方がいい気もした。戻られてもホグワーツの外に追い出す方法がない気がするのだ。劇が終わるまではガラス瓶の中身には瓶の中でじっとしてもらうか、ホグワーツの外にいて貰いたかった。

 

「先輩たちのホグズミード休暇はずいぶんと先ですよね……」

「そうね、それにホグズミードで元の姿に戻すにしても、逃げられないような場所でやらないとダメな気がするし、他の人に見られても言い訳するのが面倒ね」

 

 コガネムシが突然三本の箒でリータ・スキータに変身するのを想像して、オスカーはこれはないなと思った。つまり、ホグズミードで元に戻すにしろ、リータ・スキータが逃げられない状況で、コガネムシから元の姿に戻っても大丈夫な場所が必要だった。

 ホグズミードについて考えている時、オスカーは何か最近、ホグズミードに関連することを言われたことを思い出した。そして、同様に悩んでいるレアの顔を見て完全に思いだした。

 

「ホッグズ・ヘッドのバーテンなら大丈夫なんじゃないか? 何があっても黙っててくれそうだし、何なら今からでもいけるだろ?」

「アバーフォースさんですか? 確かにあそこなら誰にもばれずに行けますけど……」

 

 レアがちょっと気後れした顔で言った。オスカーはレアがアバーフォースに言われたことを思いだしているのだろうと思った。ただ、アバーフォースの方はレアが来ることを拒みはしない気がした。

 

「ホッグズ・ヘッド? ファイア・ウィスキーを飲んだとこよね? 忍びの地図の秘密の通路で行くってこと?」

「あんまりみんなには言って無かったんだけど、必要の部屋からあのバーにいけるんだよ」

「はあ? 何よそれ、レアをファイア・ウィスキーでいただこうとしてたってこと?」

 

 オスカーはやっぱりトンクスと喋っていると頭が痛くなってくる気がした。

 

「バ、バタービールしか飲んでないです……」

「あほだろ、あそこのバーテンはダンブルドア先生の弟なんだよ、だからもし何かあっても大丈夫だろうし、大抵のことをしても黙っててくれると思うんだよ」

「何よそれ! すごい重大な情報じゃないの! ダンブルドア先生に弟さんがいたなんて初耳だわ」

 

 トンクスの髪色はほとんどピンク色にもどりつつあった。オスカーは本当にトンクスは調子のいい人間だと思った。

 

「じゃあ今から行きましょうよ、クラーナもいないしちょうどいいわ」

「今