ドラえもん のび太の博麗大結界くんと聖杯くん (Remindre)
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序章「聖杯」

ほの暗い図書館で、ロウソクの灯りだけを頼りに2人で1つの本を読む少女がいた。

自らの体には大きすぎる本を、1ページ1ページゆっくりと捲りながら、そっと呟く。

 

「膨大な魔力を以ってして、好きな願いが1つだけ手に入る聖杯・・・」

「その昔、聖杯に選ばれた者達が願いを求め戦った、聖杯戦争・・・」

「お互いを傷つけあってまで、叶えたかった願いは何なのかしらね」

 

本を捲る少女はパチュリー・ノーレッジ、悪魔の住む館「紅魔館」の頭脳ともいえる魔法使いだ。

その傍らでパチュリーの言葉を聞き、儚げな表情を浮かべながら、もう一人の少女が口を開けた。

 

「何でも願いが叶う・・・・そんなことが本当にあるの?」

「じゃあ・・・聖杯を手に入れれば、私の願いも・・・」

 

二人しか居ない図書館で、灯りの蝋がジリジリと溶けてゆく音だけが、静かに響いていた・・・。

 

 

 

 

 

「の~び~太~! いい加減、俺は我慢の限界だ!」

「今日の試合もお前のエラー、三振、その他もろもろのせいで5対65の惨敗だ!!!」

 

剛田武、通称ジャイアン。

今日も彼の怒号が、河川敷の野球場に大きくこだました。

 

「そうだぞ!のび太一人のせいで大惨敗だ!」

 

ジャイアンの太鼓持ち、スネ夫がジャイアンの怒りに同調して叱責する。

この叱責の対象になっているのはもちろん・・・・。

 

「そ、そんなぁ・・・・」

 

力無い声を出した、野比のび太。 彼だった。

 

「そんなにのび太さんばっかり攻めないでも・・・・」

 

草野球の応援に駆けつけた、紅一点の源しずかがジャイアンとスネ夫をなだめる。

だが、ジャイアンの怒りは止まらない。

 

「しずちゃんは黙っていてくれ!これは男同士の問題なんだ!」

 

足で地面をドンドンと叩きながら、鼻息を荒くする。

ジャイアンは、鋭い目線をのび太から、隣にいる男へと向けた。

 

「スネ夫!お前も三振してたよな?!」

 

「そ・・・それは、でっ、でも、プロ野球だって打率3割いけばいい方じゃないか・・・」

 

「つべこべ言うんじゃねぇ!俺のチームは打席ではとにかく打つ!」

 

「俺が言うんだ! そうだろ?!」 

 

ジャイアンの怒りが、彼の体をより大きく見せる。

逆に、彼の怒りを目の当たりにした、のび太とスネ夫の体はみるみるうちに縮んでいくようにみえた。

 

「・・・ていうか、なんだそのネックレス!」

 

今のジャイアンはどんな些細な事でも、怒りの対象となる。

そんな状態の彼にとって、スネ夫の首元にぶら下がっているそれは、目障り以外の何物でもなかった。

 

 

「あ、これかい?これは僕のおじさんがハワイに行ってきた時に買ってきたもので綺麗な勾玉がなんともいえず・・・・」

 

「うるさい!そんなもんつけてるから打てないんだ!」

 

一向に収まる気配のないジャイアンの怒号に、ますますスネ夫が肩を震わせ、体を小さくする。

ふーーーーっ、と長い溜息を付いたジャイアン。少し落ち着いたような素振りを見せつつ、

 

「このチームの状況をみて、俺は心に決めたことがある!」

 

そう宣言した。

 

「な・・・なんだい?」

 

やっと落ち着いたように見えるジャイアンの機嫌を損なわないよう、恐る恐るのび太が聞いた。

 

「のび太、お前を徹底的に練習で痛めつけて、立派な野球少年に俺が育てあげる!」

「それじゃぁ、いつもと同じで、ひたすらメッタうちにされるだけじゃないかぁ・・・」

「ちがう!痛めつけるのは今のお前じゃない!」

 

なにやらとんでもないことになりそうだ。不安げな表情を浮かべるのび太をよそに、ジャイアンの力説が続く。

 

「今ここにいるのび太には何をやってもだめだ!」 

「のび太はもうポンコツとして完成されている!これからの成長は見込めない!」

「そこで、だ! タイムマシンを使って過去に行くぞ!」

 

えぇ?! と思わずのび太が口を大きく開けた。

なにを言っているんだ、そんな表情をしていたのはスネ夫だけではなく、しずかもだった。

 

「過去に行って、まだ野球をはじめたての、のび太にみっちり教え込むんだ!」

「そして、このポンコツが完成する前に、野球少年としてのレールを敷きなおす!」

 

あまりにも突拍子が無いジャイアンの提案に、諦めも交えながら

 

「めちゃくちゃだよ・・・・結局、いためつけられるんじゃないか・・・」

 

肩を深く落とし、のび太が言った。

 

「つべこべいうな!そうと決まったら、のび太の家にいくぞ!!!」

 

バットを空に掲げ、ジャイアンが歩き出す。

止めても無駄、のび太はこれまでのジャイアンとの付き合いで分かっていた。

これ以上の反論はせず、のび太は3人を連れて帰路につくことにした・・・。

 

 

「・・・というわけなんだ」

 

「相変わらずジャイアンは無茶を言うなぁ!!」

 

のび太は、自分の部屋で彼の相棒であるドラえもんに事のいきさつを説明した。ドラえもんもやれやれ・・・といった表情を浮かべる。

 

「ねぇ、ドラえもん、お願いだよぉ、何かひみつ道具で・・・」

 

いつもの泣きつきだ。さすがに同情を覚えたドラえもんは、ポケットに手を入れようとしたが・・・・

 

「それはダメ!」

 

と、手を元の位置に戻し、のび太に諭し始めた。

 

「ひとりの男として、道具に頼らず運動ぐらい軽くこなしてみせろ!」

 

「そ、そんなぁ・・・・」

 

そこで、突然のび太の部屋のふすまが勢い良く開く。

 

「話はまとまったか?」

 

開いたふすまの先には、のび太に外で待たされていたはずのジャイアンら3人がいた。

どうせ、ひみつ道具を出して助けてもらおうとゴネている。そんなことはジャイアンも、のび太との長い付き合いでお見通しだった。

 

「さっさとタイムマシンで過去にいくぞ!」

 

ジャイアンがのび太の学習机の引き出しに手をかけた。

 

「あっ!勝手にタイムマシンを触るな!」

「・・・もう引っ込みがつかない感じだね」

「のび太くん、諦めよう・・・」

 

勝手に引き出しを開けられたドラえもんも、諦めモード。

こうなったジャイアンは引かないからだ。

 

「うぅ、過去の僕がイビられるのをただ見ていなきゃいけないのか・・・」

 

虚しすぎる言葉を最後に、のび太達は、引き出しの中への入っていった。

乗り込んだ先で、ぐねぐねと歪んだオーロラのような周りを見たスネ夫は、何回みても不思議だなぁと口をポカーンと開けていた。

そんなスネ夫をよそに、ドラえもんは着々と発射準備を行う。

 

「のび太くんが野球を始めたのは・・・このぐらいかな」

 

ポチポチとボタンで行先を設定した後、赤い大きなボタンを勢いよく押す。

 

「しゅっぱ~~つ!」

 

「ドンドン行けーーー!!!」

 

ジャイアンの号令をよそに、のび太は相変わらず陰鬱な気分だった。

しばらく進むと、しずかの目にあるものが移りこんだ。

 

「・・・・・・・・・あら? スネ夫さんの胸元が・・・」

 

先ほど、ジャイアンからいらぬ反感を買ったネックレスだ。

しずかの言葉を聞いたのび太が、スネ夫を見て驚きながら、

 

「あっ!!! スネ夫の勾玉のネックレスが光ってる!!!」

 

と叫んだ。

 

「そんなもん捨てちまえ!!」

 

ジャイアンの反感は未だに収まっていない。

でも、これは僕のおじさんがハワイで買ったものだ・・・とジャイアンに小さく反論したところで、のび太とは違う叫びが聞こえた。

 

「あーーーっ!!!」

「なんてことだ!タイムマシンの動きがおかしい!!!!」 

「設定したよりもどんどん過去に向かっている!!」

 

ドラえもんだった。向かっている時空を示すメーター針が、高速でどんどん回っている。ドラえもんの様子や、メーターの挙動から明らかに何か緊急事態だと悟った一同は、慌てはじめる。

すると、それに反応したように、スネ夫のネックレスもまた新しい表情を見せた。

 

「わぁーっっ!ネックレスが点滅しはじめた!!!!!」

 

「きゃっ!タイムマシンの揺れが強くなってきたわ!!」

 

「おい!ドラえもんどうなってるんだ!どうにかしろ!!!」

 

「むちゃ言うな!!」

 

ネックレスの点灯を皮切りに、どんどんと混乱が深まる。

 

「あーっ!どんどん時代が・・・平安・・・奈良・・・縄文・・・古代まで!」

 

「うわーーーーーーーーん!ママーーーー!!!」

 

「とりあえずそのネックレスうっとおしいから捨てろ!!!」

 

「光がどんどん強く・・・・・・・!!!うっ、うわーーーーーー!!!!!」

 

のび太の叫びと共に、スネ夫のネックレスの光に包まれたタイムマシンはどこかへと消えていった・・・。



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完成、そして戦争へ。

紅魔館から少し離れた場所にある森の中にパチュリーとあの少女がいた。

 

「私の魔力を最大限につかって、限りなく完璧に仕上げた・・」

「・・・これこそ、聖杯」

 

森の中、何重にも重なった魔法陣に囲まれ、宙に浮くその器は、神々しい雰囲気を醸し出していた。

少女は、金色に輝くそれをしばらく見つめる。

 

「じゃあ、これを使って、私は・・・願いを・・・・」

 

決意にも似た少女の言葉のあと、パチュリーがそっと彼女の肩に手を置いた。

 

「うまくいくよう、願っているわ」

「さて・・・と、私は皆を焚き付けるとしましょうか。」

 

森から飛び立ち、パチュリーは紅魔館へと戻っていった。

パチュリーが去ったあとも、じっと聖杯を見つめ続けた少女の胸中を知る者は、パチュリー以外にはいない。

 

 

 

 

 

「・・・・その話は本当なの? パチェ」

 

体の大きさに不釣り合いな玉座に深く腰をかけ、片ひじをついて頬を支えながら、パチュリーに問う。

彼女こそ、紅魔館の主、レミリア・スカーレット。

レミリアは、パチュリーから「聖杯」について話を聞いたところだった。

 

「過去の文献に基づいて、私なりに再現した聖杯を完成させたわ」

「・・・聖杯は魔法使いとしての私の集大成」

「だけど、願いごとが叶うなんて、そんなことには興味ないわ」

「私はただ、自分で作ったこの聖杯が本当に機能するかを見てみたい」

 

「ふふっ・・・・では私がその聖杯を手にし、願いを叶えてもよいということかしら?」

 

レミリアの不敵な笑みを浮かべながら言う。

この時、きっと彼女は頭の中で「どんな願いを叶えてやろうか」、そう思っていたに違いない。

しかし、次にパチュリーが放った言葉は、レミリアの期待には応えられない。

 

「いくらレミィとはいえ、私は私の自信作を容易く使ってほしくないわ」

 

驚きと、少しイラつきが混じった表情でレミリアがパチュリーを見ながら真意を聞きだそうとする。

 

「と・・・いうと?」

 

「・・・・聖杯戦争」

「文献には、聖杯を求めて、数々の戦いが行われたとも書いてあったわ」

「どうせなら、そこまでこだわってみたいわ」

「聖杯戦争に、勝った者に私は聖杯の効果を使ってほしい」

 

パチュリーの想いを聞き終えたレミリアが、組んでいた足をほどいた。

鮮やかな蒼色の髪を左手で耳に掛けながら口を開く。

 

「・・・・・とんでもない願いを持つ奴が優勝したら?」

 

「そうならないために、レミィが優勝すればよいでしょう?」

 

意表を突かれ、キョトンとした表情を浮かべたレミリア。

ただ、彼女の表情が笑みになるまで、そう時間はかからない。

 

「ククク・・・・・」 

 

「咲夜!!!」

 

レミリアは玉座の傍らで立っていた彼女の召使、十六夜咲夜に言いつけた。

 

「聖杯戦争について至急セッティングを行いなさい!」

「パチュリーと相談の上、詳しいルールなどを詰めるのよ。」

「もちろん、私とあなたも出るわよ!!!」

 

「承知しました」

 

その時だった、大広間の入り口の方から、コツ・・・コツ・・・とヒールが地面と当たる音がしたのは。

等間隔で近づいてくるその足音の先には、金髪の少女がいた。

 

 

「・・・面白そうなこと話してるね。 お姉さま」

 

「フランドール・・・・・。」

「あなた、地下から出てきたの?」

 

怪訝そうな顔で実の妹を見つめるレミリア。

フランはついこの間まで、レミリアによって紅魔館の地下へと幽閉されていた。

今でこそ、ある程度の外出は許しているが、それはパチュリーや咲夜の進言があったから許したまでで、レミリア自身は快く思っていなかった。

周りが見る以上に、レミリアのフランドールに対する感情の溝は深いものだった。

 

「そう邪険にしないでよ」

「話はぜーんぶ聞こえてたよ。聖杯戦争・・・・面白そう。 私も出る」

 

一瞬の沈黙のあと

 

「・・・・好きになさい」

 

レミリアが冷たく言い放った。

1分にも満たない姉妹の会話はここで終わり、フランは大広間から出ていった。

その背中をレミリアは座したまま見つめ、この空間からフランが去ったことを確認すると。咲夜にもうひとつ、言いつけを放った。

 

「聖杯戦争のルール決めの際は私にも報告しなさい」

 

「・・・承知しました」



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小さな出会い

「う・・・・・うぅ」

 

のび太は痛む体をゆっくりと起こし、額のあたりにずれていたメガネを目まで戻す。

周りの見慣れない風景に呆然としながら朦朧としていた意識をはっきりとさせていった。

そこは、湖が近くにある林の中だった。

何が起こったのか・・・・ゆっくりと頭の中を整理して考える。

タイムマシンに乗っていたら、スネ夫のネックレスが光って、設定していた行先よりもはるかに古代に・・・・そこまで考え、のび太はハッとし、もう一度周りを見渡した。

さっきは遠くをぼんやりと見つめたが、今度は自分の足元、自分の近くを。

周りには、のび太以外の4人がまだ意識を戻さずに倒れていた。

そして、傍らにはもう使えそうにないタイムマシンもあった。

 

「みんな!起きて!!」

 

のび太の声に、4人が徐々に目を覚ます。

最初に体を起こしたジャイアンが、のび太と同じように、首を左右におもむろに回しながら、周囲を確認した。

 

「ここは・・・どこかの湖・・・?」

 

続けて体を起こした、スネ夫を周りを見る。

 

「見た事ない草がいっぱい生えてる・・・・」

「いったいここはどこで・・・いまは何年なんだよぉ・・・」

 

次の瞬間、ひどく弱った声をスネ夫の声をかき消すように、幼い声が響いた。

 

「人間だ!!!!」

 

のび太が声のした方に急いで体を向け、声を上げる。

 

「だれ?!」

 

視線の先にいたのは、二人の小さな女の子。

年にすると大体5歳~6歳ぐらいであろうか。

声をあげた少女は、青色の大きなリボンを頭につけて、青色のワンピースを着ていて、瞳や髪の毛まで青い少女だった。

背後から見知らぬ者に、いきなり大声を上げることからも分かるが、表情や腕・足の細かい動きが、落ち着きの無い活発な女の子であることを表現していた。

だと思えば、もう一方の女の子はというと、青い女の子の背に体を隠しながらのび太達を伺っており、少し怯えている様子だった。

緑色の髪の毛に、黄色のリボンをしており、こちらもまた非常に幼い少女のように見える。

 

「あたいは氷の妖精、そしてこの湖でさいきょーのチルノ様だ!!」

 

両腕を腰にあて、鼻を高くしながら自己紹介をするチルノ。

色々と聞きたいことが、のび太一行はあったと思うが、最初に口を開いたのはジャイアンだった。

 

「氷の・・・妖精?なんだそりゃ?」

「でも、言われてみれば・・・急に少し寒くなった気が・・・」

 

おどおどした緑髪の少女がチルノの耳元で囁く

「チ、チルノちゃん・・・あんまり人間を刺激しちゃ・・・」

 

「大丈夫だよ!大ちゃんは後ろに下がっていて」

 

怯えている「大ちゃん」と呼ばれる女の子を見て、少し強気になったスネ夫が食ってかかった。

 

「ば~かばかしい!妖精なんて本当にいるかよ!」

 

「あっ!バカにしたな! これでもくらえ!」

 

チルノが右手を前に出し、掌から氷柱のような氷の塊を射出した。

その塊は何故か、スネ夫ではなく、その後ろにいたドラえもんへ一直線に向かっていた。

 

「いたーい!!!」

 

カンっという、高い音が響いてドラえもんがその場に転がった。

ゴロゴロと痛い痛いといいながらドラえもんがのび太達の足元を移動する。

 

「氷の弾幕を撃ったのに凍らない?!こいつ、つよい!」

 

「あわわわわ、チルノちゃん、いきなり撃っちゃだめだよぉ!」

 

大ちゃんの声を聞き、のび太が慌てて釈明をはじめた

 

「そ、そうだよ!まってくれよ!」

「僕たちは君たちに何もしない!」 

 

「・・・・ほんと?」

「でも、なんでこんなところにいるんだ!あやしい!」

 

さっきまで強気だったスネ夫も、ドラえもんが撃たれたのを見て、やはり弱気になっていた。

 

「ぼくたちもいきなりここに飛ばされたんだよぉ!」

 

その言葉を聞き、緑髪の少女は、のび太達の様子をじっと見つめはじめる。

 

「・・・ぜんぜん見た事ないお洋服・・・」

「もしかして、外界から・・・」

 

そんな少女をよそに、ドラえもんがやっと落ち着いたようで、立ち上がって氷の塊が当たった頭をさすり始めた。

 

「氷の塊いたかった・・・・」

「ガーゼ、ガーゼ・・・」

 

ガーゼを探すため、四次元ポケットに手を突っ込み、ゴソゴソとお目当ての物を探す。だが、やはりすぐにカーゼは出てこない。

スモールライト、どこでもドア、もしもボックス・・・・ありとあらゆるひみつ道具をどんどんその辺りへ散らしてゆく。

その様子を見たチルノは、やはり

 

「なんだそれ!!!!!」

 

といった反応である。

そして、スネ夫はなぜか我が物顔で解説を始めた

「ドラえもんは、ポケットからありとあらゆるものが出せるんだぞ!!!・・・・って、どこでもドアを使えばいいんじゃないか!」

 

スネ夫は、希望に満ちた表情で、地面に転がっていたどこでもドアを起こし、自宅を頭に浮かべながらドアを開いた・・・しかし・・・

 

「・・・。」

 

ドアを開けた先は、そのまま湖の風景だった。

うわーーーと!どこでもドアを勢い良く閉めるスネ夫。

ドラえもんはそんなことは知らないといった風に、頭をまださすっていた。

 

「うう・・・ガーゼが探せない・・・・そうだ!痛みが忘れる為にどら焼きでも食べよう!」

 

なぜかドラ焼きはすぐに出てくるドラえもん。

のび太やジャイアンは、ドラ焼きを頬張る彼を見て、あぁ・・またかといった具合に若干呆れていた。

当然、ドラ焼きにもチルノは

 

「なんだそれ!!!!!」

 

という具合だった。

 

「あげないよ!これは僕のものだ!」

 

大好物のドラ焼きは譲らない。これもいつも通りのドラえもんだ。

一方のチルノは目をキラキラと輝かせており、これを見ていたのび太がひらめいた。

 

「なぁ、ドラえもん、ドラ焼きをちょっとあげなよ!」 

 

「くれるのか?!」

 

「うん! その代わり、ここのことを教えて!」

 

「えー・・・僕のドラ焼き・・・」

 

話がうまくまとまりそうな所で水を差す、ドラえもんに、ジャイアンの制裁が下る。

 

「つべこべ言わずによこせ!」

 

鋭い拳骨が、ドラえもんを襲った。

 

「いたい! 氷があたったところをまた殴らないで!」

 

「わかったよ・・・ちょっとだけだぞ!」

 

ドラえもんが食べていたドラ焼きをちぎり、チルノへと差し出した。

チルノはそれを更に半分にし、大ちゃんへと渡した。

 

「これ気に入った!これなんていう?」

 

明るい表情を見せたチルノを見て、のび太の頬も上がる。

「どら焼きだよ!」

 

「前に人里で人間が食べてるのを見たことあったかも・・・!」

 

優位になったと思ったとたん、この男はまた高圧的になる。

そう、スネ夫だ。

 

「さぁ!どら焼きを食べたんだ!ここのことを教えてくれよ!!!」

 

若干口に残っていたドラ焼きを急いで飲み込み、緑髪の少女がのび太達を見ながら、話を始めた。

 

「そ、そうですね・・・」

 

「まず・・私は大妖精と言います。そして・・・ここは、幻想郷という場所です」

 

聞きなれない地名に、しずかが「幻想郷?」とオウム返しをしてしまう。

 

「・・・確証はありませんが、多分皆さんは幻想郷とは別の世界からこっちに紛れこんでしまったのかな・・・と思います。」

 

「この世界には人間も、ちょっとだけ暮らしてます。」 

 

「でも、その人達は、この幻想郷で生まれ、幻想郷で育った人たちだから、あなた達とはちょっと違います。」

 

「その人たちのほかに、幻想郷の外からこうやって、ときどき人間が入ってくることもあって・・・それを私たちは幻想入り、と呼んでいます。」

 

「もとの世界に戻る方法は・・・?」

 

ツバを飲み込みつつ、ジャイアンが恐る恐る聞くと

 

「ごめんなさい・・・そこまでは」

 

「うわーーーん!!ママーーー!」

 

「・・・・・・あっ!!!」

 

うろたえるスネ夫を余所に、大妖精が思い出したことを続ける。

 

「ちょうど、これから’聖杯戦争’というものが始まるんです・・・」

 

「聖杯戦争?ぶっそうな名前だなあ」

 

戦争という単語に腰が引けるのび太に、大妖精が続けて説明をした。

 

「戦争といっても、ちゃんとルール決めをしたうえで競うらしいですよ」

「どんな内容で、なにを行うかはわからないんですが・・・・」

「ただ一つ決まっているのが、優勝したときの景品です」

「景品は聖杯と言われる大きな器だそうです」

「そしてこれは、魔法の力でどんな願いでも一つだけ叶えると言われています。」

「もし・・・その聖杯を手に入れることができれば・・・」

 

「もとの世界に帰れるってことか!!!」

 

「待ってよジャイアン、妖精とかに交じって、その戦争とやらで僕たちが優勝できるわけないだろ!」

 

「景品の内容と日時ぐらいしか、大会の運営は教えてくれませんでした・・・」

「幻想郷全土に大々的に周知しているイベントなので、死人が出るようなことはないと思いますが・・・」

 

「だとよ!どのみち、ここにいてもどうしようもねぇんだ!参加してみようぜ!」

 

大妖精の話を聞き、すっかり乗り気となったジャイアンとは対照的にのび太・スネ夫だった。

 

「会場はあっち、あたいらもこれから行くんだ! 一緒に行こう!」

 

チルノが宙に浮き、会場と指さした方角へ飛んでいく。

 

「あっ、チルノちゃん!人間は空は飛べないんだよ!」

 

「ドラちゃん、タケコプター」

 

ポケットをゴソゴソと漁り、人数分を手に取って、いつもの口調でドラえもんが言う。

 

「タケコプター」

 

受け取ったスネ夫がすぐに頭につけ、またも得意げに解説を始める。

「へへっ!どうだい?これで僕たち空を飛べるんだぞ!」

 

「なんだそれ!!!!」

 

「さぁ、早く会場へ行こうぜ!」

 

はしゃぐチルノをあしらうように誘導するようジャイアンは促す。

 

「そうだ!!レッツゴー!!」

 

もちろん彼女は促されたらすぐにノった。

猛スピードで飛び立ち、ジャイアン達がそれに続く。

当然、のび太はそんな急に反応は出来ず・・・

 

「あっ、待ってよ!みんな!」

「うわっ!ぬかるみが!」

「うぅ・・・・みんな行っちゃった・・・」

 

ぬかるみに足を滑らせ転倒。

皆行ってしまった・・・と軽く落ち込んでいると、

 

「大丈夫ですか?起きれますか?」

「手を貸します、掴んで起きてください」

 

大妖精が待っていてくれた。

差し出された手を握り、のび太はお礼を言った。

 

「ありがとう! んっ・・・?」

 

手を握った際、のび太は大妖精の小指に光り輝く指輪を見つけた。

 

「きれいな指輪だね、こっちの世界のものみたいだよ!」

 

「これは最近、外界からしょっちゅう入ってくるんですよ。」

「たしか・・・ピンキーリングっていったかな?」

「チルノちゃんもつけていて、これはひみ「おおーーーぃ!」」

 

大妖精の声をかき消す、叫びが上空からこだました。

その声の主はジャイアンだ。

 

「なにやってんだ! 早くいくぞーー!!!」

 

「わわっ! わかったよー!!!」

 

のび太と大妖精も宙に浮き、聖杯戦争会場へと飛び立ったのだった・・・。



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戦略的ぼっちと独りぼっち

チルノ達と出会った場所から飛ぶこと約10分。

紅い大きな館を超えた先の大平原が、聖杯戦争の会場となっていた。

人が密集し、特設のステージが広い原っぱの中にポツりと建っているのは異様に目立っていた。

のび太達は、ステージ付近に着地し周りの様子を伺う。

酒を飲み頬を紅くするもの、人混みの中でスヤスヤと仮眠を取るもの、ひたすら団子を食べているもの。

十人十色とはよく言ったもので、それぞれが強烈な個性をひしめかせていた。

 

「よく集まってくれたわね。」

 

特設ステージに設置されたスピーカーから、落ち着いたトーンの声が鳴った。

さっきまで声を出してガヤガヤとしていた者達がステージに目線を動かす。

その先には、紫のストライプが入った洋服と気だるそうな顔が印象的な少女が立っていた。

 

「私の名前はパチュリー・ノーレッジ。今回の聖杯戦争を取り仕切らせてもらうわ」

「細かいルール説明はあとからするとして・・・まずはこの戦いに参加するうえの最低条件を話すわ」

 

パチュリーの言葉に会場がざわつく。

条件なんて聞いてないぞ、という狼狽えの声や、次にパチュリーが言うであろう言葉にじっと耳を傾ける者、反応は様々だった。

 

「この戦いでは2人1組で戦ってもらうわ」

「・・・ただし、聖杯を手にしても叶う願いは1つ」

「それを頭に入れたうえでチーム作りをしなさい」

「チーム作りの制限時間は10分。10分後、競技の説明を行うわ」

 

ざわつきも気にせず、淡々と自分の言いたい事を続けた彼女は、分厚いを本を開き、ページに手をかざしブツブツと口を動かすと、パチュリーの横に彼女の背ほどある大きな砂時計が現れた。

砂時計はゆっくりと上から下へ砂塵を散らし、参加者の命運をかけた10分が刻み始めた。

ジャイアンが呆気に取られ、

 

「ずいぶんとあっけらかんとした説明だぜ」 

 

と言った。一方のスネ夫としずかは冷静で、チーム作りのことに頭を悩ませていた。

 

「僕たちは全員で5人・・・・」

 

「2人1組で組んだとすれば1人が余っちゃうわ」

 

2人の現状整理を聞いたジャイアンがまた口を開く。

 

「と・・・なると、のび太・・・お前見学な」

 

「えぇ?!」

 

突然の戦力外通告に驚きを隠せないのび太。

だが、すかさずスネ夫が意見を出した

 

「でもジャイアン、今回はどんなことが待ち受けているかわからないんだよ?」

「女の子のしずちゃんを下げた方が・・・」

 

「わかっちゃいねぇ!」

「運動能力でも学力でも・・・・」

「ありとあらゆる面でしずちゃんはのび太を上回ってる!」

「確かに、なにが起こるか分からない大会でしずちゃんを入れるのは心苦しいが」

「俺たちは何としても、この大会で勝たなきゃいけないんだ!」

 

ジャイアンの反論にたじろくスネ夫。

手を顎に当てながら、首を傾げ・・・うーん・・・といい、言葉を漏らし始めた。

 

「たしかに・・・いくらなんでも、拳銃使っての撃ち合いなんてやりそうにないし・・」

「のび太の唯一の利点も活かせないなら・・・」

 

ジャイアンの説明に満場一致で納得の雰囲気が出た。

4人の視線がのび太に集まったところで、ジャイアンがのび太の肩に優しく手を置く。

 

「わかってくれるな?のび太」

 

「・・・確かに、僕は何もできない・・・・・・・」

「・・・・・・・頼んだよ、みんな」

 

そう言っていたのび太の手は、力強く握られていた。

下唇を少し噛んでうつむく彼を見たドラえもんは、彼に何か言葉をかけてあげたかったが、何と声をかければ良いのか思いつかず、

 

「のび太くん・・・・」

 

と、言う事しか出来なかった。

 

「・・・よし、じゃぁ俺とドラえもんチーム、スネ夫としずちゃんチームでどうだ?」

 

「えぇ・・・わかったわ・・・」

 

ジャイアンの提案に頷くしずか。自分抜きでのこれからの話が順調に進んでいく様子を見て、のび太はここから居なくなってしまいたい、そう思った。

 

「・・・・・・僕はちょっと周りのようすを見てみるよ」

 

「・・・・おう」

 

皆に背を向け、人混みの中をひたすら進むのび太の足取りは重かった。

しばらく歩き続け、人混みが落ち着いてきた所で彼は足を止めた。

そして、再び強く拳を握り、目を瞑りながら空を見上げた。

 

「・・・僕はほんとにダメだ、こんな時に何の役にも立てないんだ」

 

「「はぁ・・・・」」

 

二人分のため息が重なった。

重なった声を確かめるべく、のび太が目を開ける。

そこには、自分よりやや背の低い金髪の少女がいた。

彼女は、真っ赤な洋服、そして赤いリボンのついた真っ白な帽子をかぶっていた。

一番特徴的だったのが彼女の背の羽のようなものだ。それは歪な形をしていて、木の枝のようなものが生えており、そこからひし型の宝石のようなものがぶら下がっていた。

宝石はそれぞれ左右に7色あって、不気味な雰囲気の中で綺麗な輝きを放っていた。

 

「あら、あなたも一人?」

 

「君も・・・?」

 

「参加条件なんて、聞いてないわよね。そのせいで私は今すごーく困っているの」

 

その少女ものび太と一緒で、チームを組む相手がいないようだった。

続けて少女は、本当に小さな声で

 

「・・・・お姉さまはそこまでして私に参加してほしくないのね」

 

と呟いた。

聞き取れなかったのび太が、「え?」と聞きなおすが彼女はそれを軽くいなした。

 

「なんでもないわ・・・ねぇ、ここで会ったのも何かの縁じゃない?」

「どう・・・私と一緒に組んでみない?」

 

「えぇ?!」

 

突然の提案にのび太が目を丸くする。

 

「僕は君のことを何も知らないし・・・・ちょっとこわいよ」

 

「ふふ、それは私も一緒でしょ?」

「私もあなたのことを何も知らないわ」

 

自分よりも幼く見える少女の余裕が、余計にのび太を不安にさせた。

何か断る理由は・・・と必死に模索していたところで彼はやっと言葉を見つけた。

 

「ま、万が一、優勝したら願いはどうするんだい?」

「さっき言ってたよ!叶えられる願いは1つだけだって!」

 

「願い? あぁー・・・・」

「まぁその時は、じゃんけんか何かで決めればいいんじゃない?」

 

精一杯捻り出した断り文句があっけなく崩れた。

しかし、のび太は先ほどまで自分が握っていた拳の感触を思い出した。

そこから、彼女の提案をのび太はもう一度、深く考え始める。

 

「(考えてみれば、こんなに参加者がいっぱいいる中で・・・ぼくと、小さな女の子で優勝できるなんてあるわけないか・・・)」

「(そうさ!僕だけじっとしてられないよ・・・!!)」

 

そして、のび太は軽く息を整え、言った。

 

「・・・わかった、いいよ。一緒にチームを組もう」

 

「ほんと?!うれしい!!!」 

 

少女がピョン、と軽く飛び跳ねながら笑顔を見せる。

 

「私は、フランドール。フランって呼んで」

 

「わかったよフラン」

 

「僕はのび太」

 

「よろしくね、のび太」

 

こうして、のび太の聖杯戦争がはじまりを告げた。



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片鱗

のび太とフランがチームを組み終えた頃、スピーカーから声が響く。

ステージ上のパチュリーはマイクに口を当てており、隣の砂時計は既に止まっていた。

 

「そろそろチームはまとまったかしら? 時間よ」

「今回の戦いは、予選と決勝トーナメントの2段階に分けるわ」

「そして多数のチームの中から決勝トーナメントに進めるのは、予選上位の8チームのみよ」

 

周りをざっと見たところ、100チームは超えている中で、8チームという狭き門は、のび太の悩みのタネには十分すぎた。

当然、そんなことはお構いなしにパチュリーは続ける。

 

「予選は、的当て」

 

観客の真後ろに指さしたパチュリーに誘導され、皆が後ろを向く。

その先には、陸上競技のトラックに似た白いラインが引かれ、その先にダーツの的のようなものが置かれていた。

 

「ライン、25m先の的に、自らの弾を1発だけ打ち込みなさい」

「的の中央にいかに近く当てるかで得点を加算するわ」

「1人1発ずつ、チームの合計点上位8チームを決勝トーナメントへと進めるわ」

 

「・・・弾って、ピストルは?」

 

パチュリーの口ぶりにのび太は疑問を覚えた。

自分の弾と言われても、そんなものは持っていないし、何を使って打ち込むのかも説明されていない。困惑している様子の、のび太を見たフランは、大妖精と同じことを言う。

 

「あなた、もしかして外界の人間?」

 

「自分じゃよくわからないんだけど、たぶんそう」

 

「困ったわね・・・・弾幕が打てないとなると・・・」

 

その時だった。

 

「のび太くん! 探したよ!」

 

「ドラえもん!」

 

のび太は自分がチームを組めたことでドラえもん達の存在をすっかりと忘れたいた。

一方、ドラえもんはのび太を長い時間探していたらしく、肩で息をしていた。

ふぅ、と一息呼吸を整えてのび太を見ると、その傍らにいるフランに目をやった。

 

「そっちの子は・・・・?」

 

のび太はこれまでの経緯をすべて説明した。

偶然、のび太と同じく一人だったフランと会ったこと。

フランからチームの結成を持ちかけられたこと。

そしてのび太がそれを承諾し、聖杯戦争へと出場すること。

チームを結成できた、そこが話のピークではあったが、ふっと我に返ったのび太は低いトーンで話を続けた。

 

「せっかくチームは組めたけど・・・予選でもうダメみたいだね・・・弾を打てなんて・・・・」

 

のび太が落胆しているのをよそに、ドラえもんはふふふんと鼻で笑いながら、自らの4次元ポケットを漁った。

そして、お馴染みのトーンを声を上げながら、ポケットから手を出した。

 

「ダンマクダセルンダー」

 

「それは・・・ひみつ道具?!」

 

ドラえもんが手に持っていたのは黄色のリストバンドだった。

よく見ると、ドラえもんは既に右腕にそれを付けていた。

 

「このリストバンドを手首にはめたら、体のエネルギーを放出できるんだ」

「あとはイメージしたら・・・」

 

ドラえもんがそう言いながら、手を上に上げる。

次の瞬間、ドラえもんの手から光の玉のような塊が、空高くまで放出された。

 

「ほら!」

 

それを見たフランは感心したように、放たれた弾を見つめていた

 

「のび太くん、この幻想郷の人々の多くは自分の体内エネルギーを外に放出できるみたいなんだ。 でも大丈夫、僕たちもこれを付けていれば、皆と同じように弾が撃てるんだよ!」

 

「助かったよ!ドラえもん!」

 

のび太が貰ったリストバンドを腕にはめる。

その様子を見て、ドラえもんが優しい微笑みをうかべた。

 

「いいってことさ!お互いがんばろう!」

「そろそろ予選が始まりそうだね・・・ぼくはジャイアン達の方に戻るよ!」

 

ドラえもんがその場を跡にした所で、パチュリーの声が会場に鳴った。

聖杯戦争が、始まった。

予選会場を遠目で見つめ、自分たちの番を待つ、のび太達。

人々が、白いラインの前に立ち、遠くの的を狙う。

軽々と当てる者もいれば、そもそも全然違う方角に弾が飛んでいく者もいた。

数十チームの予選を見ていたところ、とうとうのび太達の名前がパチュリーにコールされた。

白いラインの前で、二人が並び、25m先の的をじっと見つめる。

 

「さて、と。私から行くよ」

 

フランが先陣をきり、手を上げた

 

「えいっ」

 

彼女の手から放たれた弾幕は、赤い光を放ちながら、一つの歪みもなく的へと直撃。

 

「す・・・・すごい!玉が見えなかった」

 

「速度はあるけど精度がちょっとね・・・・74点」

 

のび太の感嘆とは対照的にパチュリーが冷静に採点をする。

74点という点数が一体、他と比べてどれほどの点数なのか、のび太達は知る由もない。

 

「さ、次はのび太がやってみて!」

 

「う、うん」

 

のび太は先ほどのフランの様子を思い出していた。

弾の打ち方、フランは手を広げ、手のひらから弾を放出していた。

そこでのび太は考えた、あれは、あくまでフランの撃ち方だと。

弾を的に当てる。そういうことであれば、自分は、自分の撃ち方で。

 

「・・・」

 

パチュリーが黙視する。人差し指を前に出し、そうまるでピストルでも撃つかのようなのび太の構えを、見守っていた。

次の瞬間、のび太の腕がやや上に揺れた。指先から放たれた光、発射の衝撃を肘で吸収し、肩をやや震わせるのび太。彼は、的をじっと見つめていた。

彼の弾丸は、見事に的の真ん中を射抜いていた。

 

「(スピードこそないものの・・・この精度は・・・)」

 

パチュリーは表情を変えない。だが、額にはそっと汗が流れていた。

 

「は・・はは・・・ちゃんと出せた・・・」

 

「・・・95点よ。 このチームは合計点169点ね」

 

「他のチームの予選が終わるまで、待っていなさい」

 

結果を聞き終え、予選ステージから離れていくのび太達。

歩きながら、フランはのび太に声をかけた。

 

「のび太、弾幕は本当にうったことないのよね?」 

 

「う、うん・・・」

 

「それで・・・あの精度・・・?」

 

のび太は自分の特技を説明した。外界にあるピストルという道具、そして自分がそれの扱いに長けているということを。

 

「なるほど・・・大体わかったわ」

「のび太、弾幕を撃ったことがないのなら、スペルカードももっていないわね?」

 

「ないよ。スペルカードってなに?」

 

「・・・幻想郷での戦い方を教えてあげる」

「スペルカードルールというものが幻想郷ではあるのよ。」

「それぞれ、得意な弾幕技をこのカードに書いておくの。」

「基本は、対戦するうち、どちらかがその技を発動する。」

「もう一方は避けきるか、自分の弾幕を使って相手の体力を削れば勝ち。」

「このスペルカードは何枚でもあってもいいわ。」

「大体4~5枚が普通かしら。」

「ちなみに、私は7~8枚ぐらい持ってた気がするけど・・・」

 

フランの説明を聞き終えた頃、のび太の頭の中は当然混乱していた。

 

「得意技かあ・・・・・まだわからないや・・・」

 

話し終えたとき、特設ステージのモニターに文字が写し出された。

そして、パチュリーがモニターに映されたものを説明する。

 

「予選が終了したわ。モニターを見て頂戴。」

 

~聖杯戦争~ 決勝トーナメント出場者

レミリア・十六夜咲夜   195点

上白沢慧音・藤原妹紅   189点

博麗霊夢・霧雨魔理沙   180点

八意永琳・優曇華院    175点

剛田武・ドラえもん    172点

古明地さとり・霊烏路空  170点

野比のび太・フランドール 169点

チルノ・大妖精      165点

 

「や、やった!予選突破だ!」

 

喜ぶのび太の横で、フランが笑顔を見せず、真剣な表情でじっとモニターを見つめていた。

 

「・・・・やっぱり決勝トーナメントまであがってきたか」

 

「・・・どうしたの?フラン」

 

「ううん、決勝トーナメントもがんばりましょう」



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サイコロと雑談と友と

特設ステージのモニターに自らの名前が載っているのを見て、喜びよりも驚きが勝っており、唖然としているのび太。

一方のフランは対照的に、表情は変えずにモニターを真剣な眼差しで見ているだけだった。

 

「早速、決勝トーナメントをはじめていくわよ」

 

パチュリーが引き続き壇上で、次の舞台の説明を行う。

 

「決勝トーナメントの組み合わせはくじ引きで決めるわ」

「そして、戦う種目は・・・これで決めるわ」

 

パチュリーが、これといった後、モニターの画像が変わる。

そこに映し出されていたのはサイコロだった。

 

「サイコロの目には、〚知〛あるいは〚武〛と書かれているわ。」

「詳しい内容は・・・その時のお楽しみ。ただ、どちらもその言葉のイメージ通りの競技となっているわ」

「ただし決勝戦の競技はあらかじめ、決めさせてもらったわ」

「やはり、幻想郷と言えば・・ということで決勝戦の競技はスペルカードによる弾幕対決よ。」

 

決勝戦はスペルカード対決。そう聞いたのび太は困ったなぁ。といった表情で頭をかいた。彼はまだスペルカードを持っていないからだ。だが、彼の悪い部分が出てしまい、楽観的に今回の悩みを解決した。どうせ決勝戦には進めないから関係ない・・・と。

 

「早速、トーナメントの組み合わせを、くじ引きで行うわよ」

「1戦目は・・・・」

「野比のび太・フランチーム 対 剛田武・ドラえもんチームよ!」

 

「ええええええ!!!」

 

決勝に上がるつもりは無い。というか上がれる気はしていなかったのび太だったが、流石にこの抽選には開いた口が塞がらなかった。

 

「どうしたの?」

 

「ま、まずいよ。相手は僕の友達なんだ!!!」

「優勝して、聖杯の力で元の世界の戻ろうとしていたのに・・・・」

「1戦目でつぶし合いだなんて・・・まあ、でもさくっと負けてあとはジャイアン達に託せば・・・」

 

「勝ちに行くわよ」

 

のび太の弱気な発言をシャットアウトするように、フランは言い放った。真顔で、のび太をじっと見つめて続ける。

 

「わざと負けるなんてもってのほかよ。私だって叶えたい願いがあるんだし」

「それに・・・どのみち優勝は1チーム。つぶし合いなんて言うけど、当たるのが遅いか早いかの違いでしょ」

 

「うう・・・・・」

 

さ、行くわよ。トーナメントにむけて意気込みの方向性がまったく異なる二人がゆっくりと特設ステージへの歩みを進める。

壇上に上がった後、のび太は観客の方を向く。ものすごい数の人・・・というより妖怪たちが自分を注目している。それだけで震えが止まらなかった。

 

「まさか予選を突破するとは・・・なんて思っていたら、1戦目で当たるとはな」

 

送れて特設ステージの上がってきたジャイアン達が上がってきた。

パチュリーが両チームが揃ったことを確認すると、

 

「両チーム揃ったわね」

「サイコロを振るわ。出目は・・・・知!!」

「競技は、稗田阿求の出題によるクイズよ!!!」

 

競技を聞き、あっけらんとしてしまうのび太達。

決勝戦はスペルカードルールという前置きがあったからこそ、余計にこの平穏そうな種目に驚きを隠せなかった。

パチュリーがステージの脇のバックヤードに目配せをすると、そこから着物を来た少女が出てきた。

 

「今回は、両チームに外界からの人間がいるようね」

 

出てきた少女は両チームのメンバーの顔を確認し、ふむふむ・・・と思慮に耽る。

少女の腕の傍らには、随分と年季の入った背を紐で綴られた本があり、それを1ページ捲りながら話を続けた。

 

「今回のクイズは早押し、先に2問正解したチームが勝ちよ」

「出すジャンルは・・・」

 

少女が本を捲るスピードを上げる。パラパラと捲り、これだ・・・と決めた表情で一つのページで手を止めた。

のび太はその時、彼女が持っていた本の裏表紙に注視していた。

そこに「稗田」という文字が書かれているのを見つけ、この子が出題者の「稗田阿求」だと気づいた。

 

「幻想郷でも外界の人間でも均等に答えられる配分で出すわ」

「ただし、このクイズでは1人1問までしか正解は許されないわ。」

「つまり、チームメンバーがどちらも正解しないと勝てない仕組みよ」

 

阿求の説明を聞いたジャイアンが薄ら笑いを浮かべ、のび太を見る。

 

「のび太・・悪いな、この勝負はいただきだ」

 

割ってフランが口撃をする。

 

「あら・・・心外ねぇ。負ける気はさらさらないんだけど」

 

ジャイアンとフランの目での合戦が始まっていた。

フランの後ろで二人の様子をのび太は狼狽えながら、その様子を見ていた。

そして、パチュリー達は着々とクイズの準備をしており、気が付けば一人一つ、クイズ台が出来上がっており、ご立派なボタンまで押してあった。

 

「・・・早速行くわよ!!」

「第1問!」

「外界から流れてきた道具を販売しており、魔法の森を背に店舗がある店と言えば・・・」

 

勢い良くボタンが叩く音が響く。

押したのはフランだった。

 

「香霖堂」

 

「正解!!!続けて第2問!!」

 

「のび太、頼んだわよ!」

 

「あわわわわわ」

「(無理だ無理だ無理だ・・・・)」

「(ドラえもんはもちろんのこと、僕じゃぁジャイアンにすら・・・)」

「(知識で勝てる気がしない!!!!)」

 

「主に大麦を発芽させた麦芽をアルコール発酵させて作られるもので、缶、地域によってはペットボトルなどに入れ、高い殺傷力を誇る瓶に入れることもある飲料と言えば・・・」

 

また、のび太の知らぬところでボタンを押す所が響いた

 

「ビール」

 

答えたのはドラえもんだった。

 

「正解!」

「さぁ3問目、大一番よ!」

 

「「・・・」」

 

のび太とジャイアンが互いに沈黙し、早押しボタンに手をかける。

この問題で勝負が決まる。その緊張感がいつの間にか、のび太の口内に多量の唾液を分泌させていた。それを軽く飲み込み、じっと阿求の言葉に耳を傾ける。

 

「幻想郷・外界間で近年多く流通し、(チャンス)や(秘密)の象徴として用いられる、アクセサリーといえば・・・・」

 

「「・・・・・・・。」」

 

問題を聞き終わって2秒。2人は微動だにしない。

 

「(まったく分からねぇ。アクセサリーなんてつけたこと・・・んっ?)」

「(待てよ・・・俺たちが幻想郷に入ったのはスネ夫のネックレスが光って・・・)」

「(ということは、あのネックレスはもしかして、幻想郷と外界を行き来するような・・・・そうか!そういうことか!!!!!)」

 

「勾玉のネックレス」

 

「・・・・・残念!」

 

「なにっ?!」

 

ジャイアンがボタンを押した時、半分諦めかけたのび太だったが、首の皮が一枚繋がったとはこのことだろうか、ふぅ、と息を吐き、呼吸を整える。

そして、もう一度ゆっくりとのび太は問題を考え直した。

 

「(それにしてもアクセサリーなんて分からないよ・・・・)」

「(・・・そういえばあの時)」

「(僕がこの会場に来る前・・・大妖精たちと出会ってこの会場に向かう前・・・)

「(僕が転んで、ぬかるみに足を取られたとき・・・!!)」

 

 

 

─「あっ、待ってよ!みんな!」─

─「うわっ!ぬかるみが!」─

─「うぅ・・・・みんな行っちゃった・・・」─

 

─「大丈夫ですか?起きれますか?」─

─「手を貸します、掴んで起きてください」─

 

 

─「ありがとう! んっ・・・?」─

─「きれいな指輪だね、こっちの世界のものみたいだよ!」─

 

─「これは最近、外界からしょっちゅう入ってくるんですよ。」─

─「たしか・・・・・―――――――っていったかな?」─

─「チルノちゃんもつけていて、これはひみ「おおーーーぃ!」」─

 

 

「(・・・大妖精が言いかけてた)」

「(「チルノちゃんもつけていて、これはひみ・・・」という言葉)」

「(「これは秘密という意味がある」・・・って言おうとしていた?!)」

 

のび太は、ゆっくりとボタンを押す。

そして口を開いた、そっと彼が思う答えを放った。

 

「・・・・・ピ、ピンキーリング」

 

「・・・・・!」

「正解!」

 

 

「なにぃ?!」

 

「決まったわね。のび太・フランチーム 準決勝出場!!!」

 

パチュリーがのび太の右腕をつかみ、天へと掲げる。

のび太は少し恥ずかしそうに、はは・・・と笑った。

両チームは、次の試合がはじまるから、とパチュリーに促されて降壇した。

ステージから降りると、スネ夫としずかがジャイアン達にすぐさま駆け寄る。

 

「ジャイアン!!!」

 

「ク~~~~~ッ!!」 

「・・・悔しいが」

「のび太、お前の勝ちだ」

「・・・頼んだぞ」

 

素直に負けを認めたジャイアンが、何故か少し不気味だったのび太はう、うん・・・と気の無い返事をする。

いや、不気味だったジャイアンのせいではなく、これからまた大舞台に立たなければいけないという不安から、彼の返事を小さくさせたのかもしれない。

そんな様子を見て、ドラえもんを皮切りに皆でのび太に声をかけた。

 

「僕ら、みんなで応援しているからね!!!」

 

「のび太さん・・・がんばって!」

 

「決勝はお前の得意な弾の撃ち合いだ!得意だろ?!」

 

ドラえもん、しずか、スネ夫・・・それぞれの激がのび太の心を高ぶらせた。そして拳をぎゅっと握り、一人一人の目を見渡し、のび太は頷いた。

 

「うん!僕・・・やるよ!!!」

 

「・・・・・・ふふっ」

 

その傍らでのび太と皆のやり取りを見ていたフランが笑った。

そして、そっとその場を離れる様に歩き出す。

のび太がそれを見つけ、「あっ・・・」と声を漏らしながら、慌てて追いかけた。

フランは、一人でそそくさと歩き、観客も、誰もいない少し離れた場所へ

歩いていった。必死にその後と追い、フランが歩みを止めた所でやっとのび太が追いついた。

 

「・・・フラン?どうしたの?」

 

「・・・・ちょっとうらやましかったの」

 

「ああやって、いっぱいお友達がいるのが」

 

「・・・フラン?」

 

「私、お友達を・・・・・・・お友達、いないの」

 

フランが足で地面を軽くいじりながら、俯き加減で言う。

 

「・・・じゃぁ僕とお友達になろう!」

 

「え・・・?」

 

「僕たちは一緒に、これから優勝を目指す仲間だよ!」

「そして、お友達でもあるんだ!」

 

「・・・・うん!」

 

のび太とフランドールチーム。準決勝進出決定。聖杯まで―――あと2勝



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フランの弾幕

自分達の戦いが終わったあと、のび太ら一行は観客席にて他のチームの試合を見ていた。サイコロで知の目が出ると、のび太らと同じようにクイズでの戦いを行ったり、外界の「知恵の輪」をいかに早く解くかといった戦いも行われていた。一方、サイコロの武の目が出ると、お互いの弾幕で一度に放出できる弾の個数を競ったり、一発の弾でパチュリーお手製の魔法結界をどこまで破壊できるか、といった種目が用意されていた。

それらの戦いを眺めていると1回戦がすべて終了し、準決勝出場チームが確定した。

次のステージへ進出したのは、のび太チーム、霊夢チーム、レミリアチーム、古明地チームだった。

パチュリーが壇上へ上がり、傍らには大きな正方形の箱を抱えている。

 

「準決勝もくじ引きで対戦相手を決めるわ」

 

箱の中に手を突っ込み、中にあったボールを、取るとそのボールに書いてあった文字を読み上げる。もう一つ、ボールを手探りで引き当て、再び読み上げる。

くじ引きの結果、準決勝の第1試合はレミリアチーム対古明地チームとなった。

 

「1回戦と同じくサイコロを振って競技を決めるわよ、出目は・・・・武!スペルカード対決!」

 

対戦カードが決まったところで、互いのチームメンバーがステージへと挙がった。その様子をじっと見つめるフラン。のび太はその様子を見て、フランが心なしか、一人だけをじっと注視しているように感じた。

その先の人物を見て、のび太もふと思ったことがあり、フランへと問いかける。

 

「ねぇ、ずっと思ってたんだけど・・・」

「あのレミリアって子、どことなく雰囲気がフランに・・・」

 

「・・・レミリアは私のお姉さまなの」

「でも、私とお姉さまは・・・・」

 

「・・・・なに?」

 

「ううん・・・・なんでもない」

 

言葉を濁すフラン。自分の姉だというレミリアの戦いをじっとと見つめ続けていた。

この試合の勝者はレミリアチームとなり、決勝戦の1枠が埋まった。

次の試合でのび太達が勝てば、彼女らと対戦することになる。

 

「第2試合、のび太チームvs博麗霊夢チーム!」

 

パチュリーの次試合のコールを受け、席から立ちあがるのび太とフラン。

ステージへと移動を行っている間、再びパチュリーの声が聞こえた。

 

「サイコロは・・・・武の目ね、またもスペルカード対決よ!」

 

「す、スペルカード対決・・・」

 

のび太が狼狽える。さっきの試合を見ていたからだ。

レミリアと古明地さとりの弾幕は想像を絶するものだった。

それは、とても自分と同じ位に見える女の子が放つものではない。

この戦いでのスペルカードルールは次のとおりだ。

・3本勝負中2本先取制。

・1回の勝負で各チーム1人ずつ出場。

・スペルカードを発動する攻撃側、それをひたすら避ける守備側に別れる。

・守備側の弾幕使用・ボム使用は認められない。

・攻撃側は被弾させれば勝ち、守備側はスペルを避けきれば勝ち。

・攻守は、前の勝負で勝ったチームが決められる。(1本目の勝負はジャンケンで決める)

・チームメンバー2人は、どちらも必ず1勝負は出ること。

(ただし2戦先取で1戦残した場合は除く)

 

壇上に上がった両チーム。

紅白の服に身を包んだ黒髪の少女と、黒い服に白のエプロンをつけ、大きな黒い三角帽子が特徴的な少女。

それぞれ、博麗霊夢、霧雨魔理沙、どちらも弾幕勝負では腕の立つ名人だ。

 

「霊夢、じゃんけんは私がいくぜ」

 

「好きになさい」

 

「のび太・・・じゃんけんは私が行ってくるね」

 

「う、うん、お願いするよ。」

 

「お手柔らかに頼むぜ、フラン。」

「ところでそいつは誰だ?見かけない顔だが」

 

「さぁね。外界から来たらしいわよ」

 

「・・・紫の仕業か?なんで、こんな大会に・・・・まぁいいや。」

「よっ、ジャンケン」

 

「ポン」

 

フランがチョキを出したのに対し、魔理沙はパーを出していた。

後頭部に両手をあてて口を尖らせながら、魔理沙は霊夢の方へと踵を返した。

 

「ちぇっ、負けだぜ・・・」

 

ジャンケンに勝ったことにより、のび太チームは攻守の選択権を得た。

フランは、「攻め」を選択することをパチュリーに告げ、のび太のほうへと戻る。

 

「のび太・・・相手はスペルカードルールだと非常に手ごわい相手だよ」

「1戦目、2戦目は私が出て、どちらも勝って、のび太の出番無く終わらせるわ」

 

「う、うん・・・・」

 

フランの力強い言葉に少しのび太はほっとした。

体を目いっぱい伸ばし、全身をほぐすフラン。

よし、と軽く呟いてステージの中央へと歩を進めた。

魔理沙もそれに合わせて、出てくる。どうやら、1試合目はジャンケンを行った者同士がそのまま試合をする形になるようだ。

互いが1メートルほどの感覚を開けて見合った形になったとき、パチュリーが声を上げた。

 

「それでは! 第1勝負 フラン(攻)vs魔理沙(守) 開始!!」

 

「スペル発動!フォービゥンフルーツ!!!」

 

試合開始と同時に、フランが弾幕を展開させた。

その弾幕は、フランを中心に円状にならぶ弾幕、そして、四方からそれぞれまた同じような弾幕が魔理沙を囲むように放たれた。

 

「うわぁおっ!」

「それは・・・避けるだけのこのルールでは禁じ手だぜっ・・・!」

 

「まだまだしゃべってる余裕あるね?もっと行くよ!!」

 

赤と青の弾幕が次々と、魔理沙を襲う。

初めて見るフランの弾幕にのび太は空いた口が塞がっていなかった。

 

「・・・・これがフランの弾幕、すごいなぁ。」

 

「本当にね」

 

「わっ!司会の人?!」

 

いつの間にか、離れた場所で様子を見ていた、のび太のそばにパチュリーがいた。

 

「・・・あなたは外界の人間でしょう?」

「スペルカードについては、彼女らと比べるとちょっとフェアじゃないわね」

 

そう言うと、パチュリーは自らの洋服の中から短冊のような形をした白紙を数枚のび太へと手渡した。

 

「これは・・・・?」

 

「私の魔力が入ったスペルカードよ」

「本来、スペルカードは撃つものの技を記録しておく紙でしかないの。つまり、その人の能力以上のものは記録できないし、技として出せない」

「けど、これは、あなたの能力とは関係なしに思い描いたものが撃つ事ができるようにいじってあるわ。そして、他の技をこの中に入れることもできる。」

 

「そんないいものを・・・どうして、ぼくなんかに「うわぁあああ!!!」」

 

のび太の疑問に重なって、悲鳴が木霊した。

悲鳴は魔理沙のものだった。

 

「そこまで!!!勝者、フランドール!!!」

 

「霊夢ぅ・・・ごめーん・・・」

 

「はぁ・・・まったく・・・・」

 

「ふふっ、第2勝負、次も私の攻めで行くよ!」

 

「よっしゃリベンジに・・・・「ダメよ」」

 

「私が行くわ、魔理沙はお休み」

 

「ちぇー」

 

第2戦は、フランと霊夢の戦いとなった。

お互いがまた、1メートルほどの感覚を開けて対峙したところで、パチュリーが試合開始を告げる。

 

「第2戦 フラン(攻)vs霊夢(守) はじめ!!!」

 

「スペル発動!そして誰もいなくなるか?」

 

フランが姿を消し、弾幕が放たれる。

この勝負に勝てば、のび太が戦うことなく、決勝戦へと進める。

どうか番が回ってきませんように、そう願いながら、のび太は二人の戦いを見つめていた・・・。



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見込み違い

フランがその場から消え、青く輝く大玉がひとつその場に現れた。

その大玉は、霊夢に向かってゆっくりと動きだす。

大玉の軌跡に沿って、同じ色で3分の1ぐらいの大きさの弾が四方に飛散し始めた。

 

「ちっ、この弾幕は厄介だぜ。時間が経てば経つほど、追尾の大玉とその軌跡に生まれる小玉が逃げ場を潰す。」

「そして四方から、相手を包むように極小の弾幕が襲ってくるんだ・・。」

 

魔理沙は頭に手を当て、被っていた黒い帽子を深くかぶり直しながら呟く。

のび太は口をポカンと大きく開け、弾幕を避ける上空の霊夢を見上げていた。

霊夢は、自らを追尾してくる大玉をうまく誘導し退路を断たれぬように上空を飛び回る。

 

「このスペル、私からはなーんにも撃てないから退屈なのよね」

 

淡々と避け続ける霊夢。大玉の跡に打ち出される小玉が会場上空を覆い尽くしたころ、今度は霊夢を包むように赤、青、緑、黄色の順で小玉が射出され始めた。

 

「あの人・・・ほんとうに楽そうに避けるなぁ・・・」

 

唖然とするのび太を余所に、軽く欠伸を交えながら霊夢は飛行を続けた。

気が付けば、最初に彼女を襲った青色の弾は消えており、4色の包囲弾が短い感覚で射出する。

激化する包囲弾は、このスペルの終わりが近いことも示していた。

のび太が拳を軽く握り、自らの手ににじむ汗を感じた。

 

「・・・・・・・・・・あら? おしまいかしら?」

 

弾がすべて消え、フランが霊夢の真正面に姿を現した

パチュリーがマイクを握り、この一戦の結末を告げた。

 

「勝者! 博麗 霊夢!!」

「現在、のび太チーム、霊夢チーム 共に1勝」

「勝負は3戦目に続くわ」 

 

フラン・霊夢ともに降下し、ステージ上で両チームのメンバーが顔を見合わせた。

魔理沙は人差し指で帽子を少し上げ、微笑みながらのび太を見つめる。

 

「フランはこの勝負で、もう2回出ている・・・・」

「出番だぜ、大将!」

 

帽子に当てていた指をまっすぐとのび太へ向ける魔理沙。

その微笑みは勝利を確信したものだった。

のび太は、再び強く拳を握り、喉を鳴らしながらツバを飲んだ。

 

「ごめんね・・・のび太。あとはお願い!」

 

のび太の腰のあたりをポン、と軽くたたくフラン。

う、うん・・・と力弱く返事をするのび太、彼の表情は見るに耐えないほど怯えていた。

 

「よし!!!次こそ私が・・・「ダメ」」

 

のび太の方へ一歩踏み出そうとした魔理沙を片手で抑える霊夢。

 

「あの子も私がやるわ」

 

ムスっと顔をしかめる魔理沙を余所に、のび太の前へと霊夢は歩み寄った。

よろしくね。一言発した顔に笑顔は無い。

 

「(・・・・予選を見ていたけど、彼の玉の命中率はひどく良いわ。)」

「(スピードはなくても、あれだけ正確に狙われると苦しいわね・・・)」

「(そしてなにより、パチュリーが渡していたスペルカード・・・)」

「(ちゃーんと私も見てたわよ・・・。あれは何があるか分からない・・・だから・・・・)」

「パチュリー、私の攻めでいくわ」

 

思慮を終え、霊夢はパチュリーに自らの攻めを宣言する。

小さく頷いたパチュリーは口元にマイクを持っていく。

 

「・・・準決勝、第3試合 のび太(守)vs霊夢(攻) はじめ!」

 

対峙するお互いがそのまま空へと上昇し、宙で向かい合う。

一枚の札を手に取り、霊夢が表情を変えて臨戦態勢へと移る。

 

 

「スペル発動!封魔陣」

 

無数の赤い札がのび太を襲う。

霊夢の周りから真っすぐに射出された札は、それぞれ、弧を描くように動きを変え、のび太へと向かってくる。

射出される札のあと、霊夢を中心に円を描くように小玉が射出される。ただし、それは2~3秒のあいだ円を描いたまま静止していた。

第一波として射出される札は規則正しいルートを通り、のび太へと向かってきていた。のび太はその流れを読みつつ、何とか必死に避ける。

 

「さすがにこんなに分かりやすい札には被弾しないわよね。だけど・・・」

 

霊夢の周りに静止していた小玉が若干発光し、様子が変わる。

次の瞬間、鋭い棘のような弾へと小玉が変貌し、ゆっくりとのび太へと向かっていった。

 

「どう?規則正しい札と、ゆっくりと後からくる第2波は?」

「あなたは空を飛ぶのも、その変な機械に任せっきりで慣れてな・・・・・」

 

霊夢が何かを言いかけた所で口を止めた。

のび太の様子を見て、目をいつもよりすこし大きく開いた霊夢。

その表情は驚きそのものだった。

霊夢のアテは、外れた。変則的な弾が襲えば、満足に飛ぶことも出来ないのび太はすぐに被弾するだろうと思っていた。

しかし、のび太は空の上で弾に恐怖しながらも、しっかりと飛行をコントロールし、弾幕を避け続けていた。

そのころ、観客席では様子を見ていたドラえもん達がのび太の飛行を見ながら各々、応援に励んでいた。

 

「のび太さん、すごい・・・」

 

「考えてみれば、僕らの中で、一番タケコプター使ってるの、のび太だもんな・・・」

 

「いけーーー!のび太―!!!!」

 

一方、話題の本人はというと、霊夢が驚愕している様子など見る余裕もなく、ただ必死に目の前の弾幕を認識し、避け続けていた。

 

「のび太!弾幕の量に惑わされないで!」

「高速でやってくる札は規則正しい軌道を描いている。それを見極めつつ、第2派の低速弾の間を通るの!」

 

「うっ!うん!わかったよ!!!」

 

「こんな手こずるとは・・・」

「(次試合を見据えて、スペルを出し惜しみしたのが裏目に出たわね・・・!!!)」

 

「おいおいおいおい! 霊夢ぅー!!!」

 

「うわわわわ!!!」

 

「あいつ・・・テンパってるくせにヒョイヒョイ避けやがるぜ・・・」

 

危なっかしい避け方ではあるが、被弾はせずに避け続けるのび太。

霊夢の表情も次第に歪みだす。

そして・・・一息。

 

「・・・っ・・・はぁ・・・」

 

「はぁ・・・・はぁ・・・・」

 

落胆のため息、極度の緊張から荒くなる呼吸。対照的な二人の吐息は勝負の終わりを告げた。

 

「のび太、被弾なし!」

「合計2-1でのび太チーム勝利!決勝進出よ!!!!」

 

博麗の巫女が油断をしていたとはいえ、負けた。

その事実だけで、会場が沸くには十分すぎた。

 

「うおおおおおおお!!!心の友よおおおおお!!!!」

 

ジャイアンの叫びを筆頭に、歓声が止まらない。

観客の視線の先は、幻想郷で名の知れた人間でも、妖怪でもない。

ただ、この世界にたまたま迷い込んだ人間。野比のび太には有り余るほどの拍手が送られた。

歓声と拍手が鳴りやまぬまま、両チームはステージから降壇した。

のび太達は、ドラえもんたちの元へと戻っていくやいなや友人たちは沸き立っていた。

 

「すごいじゃないか!のび太くん!!!」

 

ドラえもんらの喜びを余所に、フランの表情が固まった。

フランの視線の先にいたのは、彼女の姉レミリア、そしてその従者咲夜だった。

 

「ククク・・・外界人と苦し紛れにチームを組んだと思ったら・・・」

「まさか決勝まで上がってくるとはね」

 

「お姉さま、次の試合はよろしくね」

 

「白々しいわよ、フラン」

「聖杯を手にして、あなたは何を願うの?」

「今まで、ありとあらゆるものを壊すことしかできなかった、あなたの願いって?」

 

その言葉が引っかかり、思わずのび太が呟いた。

 

「破壊・・・?」

 

「お姉さま・・・私はね・・・・」

 

何かを言いかけようとしたフランを遮るようにレミリアが言う。

 

「・・・・ふん、まぁいいわ。」 

「あなたの願いは次の試合で潰えるんだから・・・」

 

それだけを言い残し、レミリアと咲夜は去っていった。

さっきまでの勝利への喜びムードは消え失せ、次の決勝であたる相手の雰囲気に一同は飲み込まれてなっていた。

 

「おい・・・なんだよあいつ。ムカつくぜ・・・。」

 

「・・・のび太くん。 あと1勝で帰れるんだ!絶対に負けちゃだめだよ!」

 

「うん!」

 

フランは黙ったまま、のび太の腕を掴んだ。

 

「のび太、ちょっとこっちに来て」

 

皆から離れた場所で歩みを止め、フランがのび太を見る。

 

「いよいよ決勝だね。次の競技はあらかじめ決められてるって・・・」

 

「うん。司会の人が言っていたね、またスペルカード戦でしょ?」

 

「そう、そして次はきっと、のび太の弾幕も必要・・・避けるだけじゃどうにもならないと思う。」

「・・・さっきパチュリーから渡されたスペルカード」

「そこに、私のスペルを真似てコピーすることも可能だと思うの」

「だから、私のスペルを2枚を授けるね」

「スペル発動!!!」

 

―――――――――

 

 

フランのスペルカードを目の前で見せられたのび太の目は点になっていた。

これを扱う・・・、そう考えていた時、うれしさよりも困惑の方が勝っていたからだ。

 

「これに、のび太なりのアイデアを組み合わせて、使ってみて」

「のび太・・・・ここまでこれたのはのび太のおかげ」

「次の試合、私は絶対負けたくない。だから、もう1戦だけ力を貸して。」

 

「・・・・うん。」



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のび太の思惑

フランのスペルカードを参考に、パチュリーの魔力入りスペルカードへ、自分なりのスペルを思い描く。

ふぅ、というため息。しかし、のび太の顔は満ち足りるような満足げな表情を浮かべていた。

それを見守っていたフランも、優しく微笑み、のび太の右腕を掴んだ。

 

「そろそろ、決勝だよ。ステージへ戻ろ!」

 

フランに引っ張られ、のび太は足をもたつかせながらも飛行体制へと移った。

そして、最後の戦いとなる舞台へ再び上がる。

 

「聖杯戦争もいよいよ決勝戦よ。」 

「決勝だっていうのに、身内ばっかりで少し心ぐるしいわね・・・」

 

二言目はマイクを通さずに、パチュリーが小さく呟いた。

 

「決勝戦のレギュレーションはこんな感じよ」

 

パチュリーが手で視線をモニターへと誘導させると、そこには決勝戦のルールが記載されていた。

 

【スペルカードルール対戦 5本勝負(3本先取)】

・1本勝負毎に互いのチームから1名ずつ戦う者を選出。

・1人が出場できるのは3本まで。

・敵チームの両メンバーと戦うようメンバー選出すること。

(3試合で3本先取した場合はこの限りではない。)

・1本の勝負で、どちらか一方が攻め、もう一方が守りとする。

・攻めは、スペルカードを1枚発動する。

・守りは、弾幕による迎撃・弾幕無力化などを禁じ、避けることに専念すること。

・敗北条件は攻めはスペルカードの時間切れ。守りは被弾とする。

・1本目はコイントスで攻守を決める。

・2本目以降は、前の勝負で勝利したチームが攻守を選択できる。

・5本目のみ、攻守の制限を無くし互いに弾幕の展開・スペルカードの発動を可とする。

・5本目の敗北条件は、どちらかのスペルカード時間切れあるいは被弾とする。

 

のび太はモニターを凝視し、ルールを頭に叩き込む。

準決勝とほぼ変わらない内容。ただ、5本目のみ、この幻想郷で行われているスペルカードルールに忠実に基づいた内容だという補足を聞き、緊張が走った。

互いに撃ち合いを行う・・・できれば5本目はフランに任せたい。のび太は心の中でそう思っていた。

 

「咲夜、まずはあなたが行きなさい」

 

「承知しました」

 

レミリアの指示に忠実に従う咲夜が一本目の勝負に出ることとなった。

対して、のび太チームはフランが歩を1つ前に進めた。

 

「のび太、今回も最初は私がいくわ」

 

「フランお嬢様、どうかお手柔らかに。」

 

「・・・お互いにね。」

 

1本目の選手が互いに出たところで、パチュリーがその間に入り、コインを手でいじりながら、互いの選手へ目配せをする。

フランはその目配せを感じ、表と一言呟くと、咲夜はそれを了承する意味を込めて小さく頷いた。

パチュリーがコインを親指で宙へと弾く。綺麗な放物線を描いたそれは、重力に従って徐々に降下してゆく。地面に落ちたコインの面のうち、天を仰いだのは、表だった。

 

「私の攻めでいくわ」

 

「決勝戦、1回戦 フラン(攻)vs咲夜(守) はじめっ!!!」

 

パチュリーの宣言と同時にフランが動く。

 

「スペル発動!フォーオブアカインド!!!」

 

のび太にとって、信じられない光景がそこに広がる。

フランがスペル発動の次の瞬間、4人に増えていたのだ。

外見はそれぞれフランそのもので、同じ服を着た誰かが化けて出ている、という訳でない。

 

「1人のフランお嬢様ですら手を焼くのに、いきなりこのスペルですか・・・!」

 

「ほら!もっともっと遊ぼうよ!!!」

 

互いに宙へと浮き、4人のフランはそれぞれ弾幕を展開させる。

20メートルほどの距離を取り、咲夜は弾幕を見極め、避けてゆく。

顔を上げて、その様子をじっと見つめるのび太。その傍らに歩みを進める者が一人いた。

 

「ねぇ・・・」

 

「レ、レミリア・・・!」

 

「ふふっ、そんなにオドオドしなくてもいいわ。殺さないわよ。」

 

いたずらに口角を上げる表情は、彼女の外見には似合わないほど、どこか妖しさを秘めていた。

その表情のまま、レミリアはのび太の横で一緒に戦いを見上げながら語り始めた。

 

「あなたは、あの子をどこまで知っているの・・・?」

 

「どこまで・・・・?」

 

何も知らない、といったのび太の表情を見て、レミリアは一層笑みを強めた。それは、楽しいとか嬉しいとか、そういった感情ではもちろんなく、無知なのび太を嘲笑う表情だ。

 

「あの子の恐ろしい力・・・よ」

「ありとあらゆるものを破壊する能力、それがフランドールの力。」

「この会場の人間を5分もしないで皆殺しにするぐらい、造作もないわ。」

「そして、一番恐ろしいのは・・・あの子がその力を完全にコントロールできないこと」

「だから、大切なものも壊れてしまうの」

「そう・・・・・・・私の大切なものも・・・」

 

さっきまでの妖しい笑いが曇り、悲しげな目となるレミリア。

話の内容と、その表情を見たのび太は思わず、「えっ?」とまた呆けてしまう。

すると、レミリアはまた妖しい笑いへと表情を戻した。

 

「・・・・やっぱり咲夜には荷が重すぎたかしら?」

 

「そこまで!!!」

 

レミリアの語りかけに夢中になっていた間に、勝負は決していた。

どうやら、4人のフランが咲夜に弾幕を当てることを成功させたようだ。

被弾した箇所の右肩を抑えながら、咲夜が宙より降下してくる。

そしてレミリアの元へ、俯きながら歩いてきた。

 

「お嬢様・・・申し訳ありません」

 

「いいわ、次は私が出るわ」

 

咲夜の後を追って降下してきたフランが、次に出ると言ったレミリアを見つめ、張り詰め表情へ変わる。

 

「お姉さま・・・・」

 

その表情を見たのび太が、咄嗟に口を開いた。

 

「フラン・・・ここは僕に行かせてほしい」

 

「・・・えっ?」

 

何故、そんなことを口走ったのか、それはのび太自身も分からない。

レミリアとのさっきの会話、フランを陥れるような発言がのび太の何かを動かしたのかも知れない。

のび太は、言ってしまったという表情を出しかけたが、慌てて、自分がなぜそう思ったのかを説明し始めた。

 

「ひ、ひどく疲れているように見えるよ!」

「君のお姉さんだ・・・勝てそうにはないけど・・・」

「フランが勝ってくれたおかげで、攻守の選択権は僕にある」

「攻めを選択し、僕が長く攻めて、次の試合に向けて、君を休ませることぐらいなら僕にも・・・・」

 

もちろん、フランはあの程度で疲れてはいない。

取って付けたような理由で、それはフランも分かっていた。

が、攻守の選択権があるということ、そして被弾する恐れの無い、安全な攻めという選択ができることからフランはのび太が行くことを了承した。

 

「・・・わかった。お願いするね」

 

「任せて!」

 

のび太とフランが軽くハイタッチを交わし、ステージの中央へのび太が進む。

 

「・・・・・あら?」

 

「あなたが出てくるとはね。・・・ククク、まぁいいわ」

 

「・・・僕の攻めで行くよ」

 

対峙し合った二人。のび太の言葉を聞いたパチュリーが戦いの開始を告げると同時にのび太が上空へ飛び立った。

そして、頭の中で状況を見つめ、次に自分が取るべき行動を整理する。

 

「(フランを休ませるために・・・さっきコピーしたスペルとは別の・・・よりスペルの時間が長い、僕オリジナルのでいく!)」

「スペル発動!のび太スターー!!!!」

 

そう宣言し、発動したのび太の弾幕は、3列ほどの弾幕。

いや、幕という表現で正しいのか分からないくらい間が空いたものだった。

それを見たレミリアが、呆れながらのび太へ叫ぶ。

 

「湖の雑魚妖精の方がまだ良い弾をうつわよ!」

 

二人の戦いを見つめていた観客席のジャイアンは額に手を当てて、大きなため息を吐いた。

 

「のび太・・・・お前・・・・」

 

もちろん、ジャイアンだけではない。ドラえもん、スネ夫、しずか・・・全員の表情は曇りだ。

 

「スターって・・・はぁ」

 

「大丈夫かしら・・・」

 

単純に左右に体を傾けるだけで避けれる弾幕。

これでもかというほど、退屈な表情、それに欠伸をしながらレミリアは言い放つ。

 

「退屈な弾幕ね。パチェーーーー?!私から撃っちゃだめーー?」

 

「絶対にダメ」

 

「(いいんだ、これで・・・少しでも!! 少しでも長く!)」

 

観客含め、すべての嘲笑を余所に、のび太は自分の思惑通りに事を進める。

そして、この戦いでの彼の役目は完結した。

 

「・・・・はぁっ、はぁっ」

 

「そこまで!!! 勝者、レミリア!」

 

「ククク、アップにもならなかったわね」

 

~決勝戦 途中経過~

第1試合 ○フラン(攻) vs ×咲夜(守)

第2試合 ×のび太(攻) vs ○レミリア(守)



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カゴメカゴメ

のび太の敗戦を受け、フランは考える。

 

「(次・・・私が出たとしたら、きっとお姉さまが出る)」

「(慎重に、考えなきゃ)」

「(・・・・)」

 

目を瞑って思慮に耽っていたフランがゆっくりと目を開け、のび太の肩に手を置く。

 

「・・・のび太、ごめん、もうちょっとだけ休みほしいかな」

 

「えぇ?!でも次はあっちに攻守の選択権が・・・」

「もしレミリアに攻められたら・・・休めるほど長く避けれるかわからないよ?!」

 

のび太は当然困惑した。

自分でやれるだけ、フランの休息時間を稼ぎ、もう役目は終わったと思っていたからだ。

慌ただしい様相の、のび太チームを見つめ、レミリアが笑った。

 

「ククク・・・情けない妹ねぇ」

「咲夜、次はあなたが行きなさい。」

「そして、守りでいいわ。」

「無駄に弾幕で体力を使わないで、あのしょっぱい攻撃を避ける方が楽よ」

 

「はっ・・・」

 

フランが、次は咲夜が来る。と分かった時、のび太の背後で、のび太にだけ聞こえる様に小声で語り始めた。

 

―――のび太、今度は私のスペルを使って

―――あとちょっと、あとちょっとだけ時間がほしいの

 

―――えっ?・・・わ、わかったよ

 

場の様子を見つめていたパチュリーが、次の戦いに向けた両チームの意向を確認をする。

 

「さ、内容は固まったかしら?」

 

「・・・僕が出るよ」

 

「私が・・・守りで出ます」

 

「わかったわ・・・第3試合、のび太(攻)vs咲夜(守)はじめっ!」

 

戦いが始まり、のび太と咲夜が宙に浮く。

空で互いに対峙し、のび太は胸の前で1枚のスペルカードを軽く握りしめ、目を瞑った。

 

「(フラン、君のスペルを・・・借りるよ!)」 

「スペル発動!カゴメカゴメ!」

 

のび太のスペルカードが展開されると、会場の一部がざわつく。

霊夢と一緒に戦いを見ていた魔理沙はその一部だ。

 

「おっ、おい!あれは・・・・フランドールのスペル!」

 

驚きを隠せないのは、のび太陣営もだった。

スネ夫が口を「あ」の字に開いたまま、弾幕を見つめていた。

先ほどのレミリアとの戦いでのスペルカードを見ていた分、余計に圧巻される。

 

「の、のび太のやつ、いつの間にあんな打ち方を・・・」

 

続けてジャイアンも

 

「あの、のび太が信じられねぇ・・・」

 

のび太が展開したスペルカード「カゴメカゴメ」はフランドールのスペルカード。発動と同時に、咲夜の周囲を緑色の弾で囲む。

包囲するその弾幕のラインは、綺麗な立方体になっており、多少の隙間は出来ているものの、とても人が通れる大きさではない。

緑色の弾幕は、動くことなく静止していた。 咲夜は弾幕の立方体に閉じ込められた形になる。

弾の密度・展開精度、どれを取っても先ほどののび太から発動しているものとは思えないぐらい、高度な代物だ。

未だに驚愕の表情を浮かべている魔理沙へ霊夢が話しかけ始める。

 

「・・・のび太には、パチュリーの魔法入りのスペルカードが渡されてるのよ」

「たぶん、パチュリーの魔力が入っていて、それを使用して弾幕を展開させている。だから、のび太でもあの量の弾幕を展開できる」

「そして、きっとフランドールが自らのスペルカードをのび太にコピーさせたのね・・・」

 

戦いをステージ上で見つめるレミリアも多少の驚きはあっただろうが、それを表面に出すことはなかった。

 

「・・・・ふぅん。あの子が、他の人に自分の力を預けるとはね。」

「だから、どうした?」

 

対した問題ではない、自らの中で問題を完結させたレミリアは咲夜へ声を飛ばす。

 

「咲夜!よく見なさい!!」

「何回も見た、フランのスペルでしょう?!」

「むしろ、その子の力じゃ、そのスペルを100%使いきれないわ!」

 

「わかっています!」

 

レミリアと咲夜を聞いたフランは、どんな表情をしていただろうか。

図星だ、と額に汗を垂らすか。

それとも、のび太を蔑む姉に憤慨するか。

どれも違った。フランは、小さく微笑む。

 

「何を笑っているの・・・フラン?」

 

「私と同じスペル・・・それをただ渡すと思う?」

「咲夜を、お姉さまを、私の真似事スペルで倒せるなんて・・・そんな風に思っていないよ」

「あのスペルは・・・もう、のび太のスペルカードだよ!」

 

この時、のび太は緑色の弾幕で咲夜を囲んだ、次の弾幕を発射する準備に取り掛かっていた。そして、その頭の中には決勝戦に臨む前の風景が写し出されていた。

そう、フランから決勝戦に向けてスペルが必要だと言われ、目の前で彼女の技を見せてもらった時のことを。

 

 

――――――――――

 

 

 

「スペル発動!カゴメカゴメ!」

 

「す・・・すごい・・・・」

 

緑色の弾幕で敵を囲み、動きを制限した状態で大玉を射出。

わずかにしか避けるスペースが無い状態で大玉を避けるのは至難の業だ。

そして、避け切った後には、包囲していた緑の弾がランダムに動き出し、囲まれていた者は大玉と併せて、避けることに集中しなければならない。

大玉、動き出す緑色の弾を避けたかと思えば、その時にはまた、新しい弾に囲まれている。避けきるのには、なかなか神経を研ぎ澄ます必要があるスペルカードだ。

 

「これに、のび太なりのアイデアを組み合わせて、使ってみて」

「のび太・・・・ここまでこれたのはのび太のおかげ」

「次の試合、私は絶対負けたくない。だから、もう1戦だけ力を貸して。」

 

「・・・・うん。」

「・・・カゴメカゴメの、緑の弾幕は、網みたいになって配置されてるんだね」

 

「そうよ、これで敵の動きを制限したところを、大玉で直接狙うの」

 

「この網状の弾幕・・・僕のすきな遊びを応用してもっと難しくできないかなぁ」

 

「好きな遊び・・・?」

 

「うん・・・あやとりっていうんだけど・・・・」

 

 

――――――――――

 

緑の弾幕で立方体を作り、咲夜を囲んだのび太は大玉を射出した。

そして緑の弾幕がランダムに動きだす。と、同時に次に咲夜を囲む緑の弾幕が徐々に展開されていった。

咲夜は大玉を避けつつ、次に自らを囲むであろう緑弾の展開の様子を見つめていた。

そして、咲夜は気が付いた。

 

「(やはり・・・フランお嬢様でなければ、このスペルは使いこなせない!)」

「(1回目はフランお嬢様と同じように立方体で場を区切った・・・これだと、どこに避けても、制限されるスペースはほぼ一緒)」

「(だけど、2回目のこの緑色の弾の配置は・・・雑ね。まるで蜘蛛の巣のように網目を張っているだけ。その証拠にほら・・・!)」

 

咲夜が移動したのは、先ほどまで咲夜が閉じ込められていた位置と、のび太までの距離のちょうど中間地点あたりだった。

そして、そこは他に比べて弾の感覚が広い。ちょうど移動し終わった頃、咲夜の上下左右に緑色の弾幕が展開されるが、先ほどに比べるとあまりにも広かった。

 

「・・・・・わかってた。抜けるとすれば、そこだってこと!」

 

のび太が呟いた瞬間、両腕を胸の前に出して、それをゆっくりと左右に広げていった。

そう、まるであやとりの最後に技を解く時のように。

その瞬間、緑の弾幕が動き出す。動き出した弾幕を見つめ、咲夜が回避の体制を取ろうとするが、固まってしまった。

 

「避ける・・・隙間がない・・・・?」

 

ゆっくりと動く緑色の弾は徐々に弾同士の間隔を詰めながら咲夜がいる、弾幕の中心へと集まってきた。

 

「2度目の囲みは・・・大玉の射出をなくす代わりに、ある程度緑色の弾を自由に動かせるように力を使ったよ」

 

「そして、この緑球は・・・あやとりだ!」

 

のび太は、網状の緑球をあやとりに見立てた。

わざと、中心にわかりやすい大きな逃げ場を与える。

だが、緑色の弾幕をのび太の意思で動かし始めた時、すべての網が中心に集まるように弾幕を配置をしていた。

あやとりをほどく時、一度中心に紐が集まって最後には一つの輪になって戻るときのように。

ゆっくり、ゆっくりと弾幕が近づいてくるのを見て、咲夜はそっと呟いた。

 

「申し訳ありません。お嬢様」

 

次の瞬間、四方から迫りくる弾幕に被弾し、パチュリーが声を上げる。

 

「勝負あり!!!!」

 

またも、ただの人間の所業で会場が沸いた。

もちろん、その中にはジャイアン達の声も混ざっている。

 

「お・・・・おおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」

 

「あの緑の弾幕の形、まるでのび太さんのあやとりみたいな形だったわ・・・」

 

「そうか!のび太くんが得意なあやとり・・・彼なら、どこに、どういうふうに隙間ができて、どこに人が逃げれるか・・・」

「あやとりで考えるとそこまでわかるんだ!」

「最後は、あやとりみたいに、弾幕の端を引っ張って、逃げ込んだスペースを潰したんだ・・・・」

 

スネ夫が呟く。

 

「ほんとはのび太って頭いいんじゃ・・・」

 

~決勝戦 途中経過~

第1試合 ○フラン(攻) vs ×咲夜(守)

第2試合 ×のび太(攻) vs ○レミリア(守)

第3試合 ○のび太(攻) vs ×咲夜(守)

 

メイド服のいたる所が敗れた咲夜が、主の下へと戻る。

 

「申し訳ありません・・・・」

 

「・・・・まだ2敗よ」

「ここから2戦、私が勝ち続ければ良いのよ」

 

レミリアの表情は先ほどまでの嘲るようなものとは対照的だった。

そして、その声は低く重い。

逆に、のび太がフランの下へ戻ると、満面の笑みでのび太をフランが迎えた。

 

「のび太!ばっちりだったよ!」

 

「うん!フランのおかげだよ!ありがとう!!」

 

「ううん、のび太のアイデアだよ!もうそれはのび太の立派なスペルカードだね!」

「・・・おかげで、私はもうばっちり休めたよ」

 

フランが目線をのび太から動かす。

その先に移るのは、真っ白なドレスに身を包んだ彼女。

 

「・・・・さて久々の姉妹喧嘩とでも行こうかしら?」

 

次の戦いは、フランとレミリアとなりそうだ。

のび太はそう感じ、同時に妙な胸騒ぎがした。

何かが起こってしまう・・・・・と。



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軋轢と過去

吸血鬼姉妹の視線が壇上で交錯する。

次の試合をフランが制すれば、優勝。

この一試合は、優勝をかけた重要な試合。

だが、のび太はフランの表情を見て、それ以上に何か想う所があるように見えていた。

また、レミリアのフランに対する嫌悪感。それも今日の会話の中からひしひしと感じ取っていた。

フランはパチュリーを間に挟み、レミリアを対峙し次試合の展望を想像する。

 

「(色々考えた・・けど、きっと私のスペルは見切られる)」

「(・・・なら)」

「この試合、守りでいくわ」

 

「・・・ふん」

 

フランの選択に対し、レミリアは驚いた表情を垣間見せたが、すぐに毅然とした態度へと戻り、鼻で嗤った。

パチュリーはフランの意思を確認したところで口元へマイクを持っていく。

 

「決勝戦第4戦、フラン(守)vsレミリア(攻) はじめ!」

 

開戦と同時に二人は宙へと舞う。

そしてある程度の高度で互いが止まった所ですかさずレミリアがスペルカードを発動した。

 

「獄符『千本の針の山』」

 

レミリアを中心に、細長い針のような弾幕が真っすぐと射出されると同時に、弧を描きながら鋭いナイフが後を追ってフランを襲う。

この弾幕の密度は、のび太から今日の大会で見た中で間違いなく一番の密度だった。

霊夢と魔理沙は観客席で息を飲みながら、その弾幕を見つめていた。

 

「霊夢・・・・あのスペル・・・」

 

「えぇ・・・そうね。いくら聖杯というどでかい餌がぶら下がっているからといって、こんな大会で使うようなものじゃないわ」

 

レミリアと今まで対峙したことがある二人は、感じていた。

弾幕の中に秘めたる、レミリアの激情・・・フランに対する憎悪を。

そして、それはのび太も感じていた。

当然、弾幕を目の当たりにしたフランも同じだ。

自分のスペルカードは避けられてしまう、ならば私が同じようにレミリアのスペルカードを避け切って勝つ。その思惑は、レミリアの鋭利な感情で揺らぎつつあった。

 

「フラン、あなたは力も禄に扱えない未熟な存在」

「そして、あなたの実力に見合わない強大な能力は危険そのもの」

「何故、此処へ出てきた? 何故、あなたは・・・・!!!!」

「全て・・・・あなたが壊してしまった!」

 

声を張り、目を吊り上げ、血管を額へ浮かばせ、弾幕を加速させる。

レミリアのフランに対する怒号は、彼女を怯ませるのに十分すぎた。

この時、のび太の視界にふっ、と嫌なビジョンが浮かんだ。

フランが、負ける。それも、圧倒的な差で・・・。

のび太は渇ききった口内に残ったわずかな唾液を、喉を鳴らしながら飲み込む。

すると意識の外から、突然、のび太を呼ぶ声がした。

 

「のび太様・・・お話ししたいことが」

 

そこに居たのは、対戦相手のもう一人のメンバーである十六夜咲夜だった。

突然の接近にのび太が思わず狼狽えた返事をするが、咲夜はそのまま続けた。

 

「妹様・・・・フランお嬢様は、知ってのとおりレミリアお嬢様の妹君です」

 

「聞いたよ・・・でも、なんでレミリアはあんなにフランのことを・・・」

 

「そう、レミリアお嬢様はフランお嬢様をひどく嫌っている・・・」

「でも、昔は、本当に仲睦まじい姉妹だったと・・・私は聞いています」

 

咲夜の表情は、先ほどまでの瀟洒なものではなく、どこか悲しみを帯びたものに変わっていた。

 

「昔は・・・?」

 

「えぇ・・・・」

「全てはあることが原因と・・・聞いています」

「それは今から500年ほど前のお話・・・・・・」

 

 

―――――――――

 

大きな湖のほとり、二人の少女は日傘を差しながら、そこから見える風景をゆっくりと見渡していた。

片方の少女は、白いドレスに同色のナイトキャップのような帽子を被っており、帽子から僅かにはみ出る、鮮やかな青髪はやや内巻きのクセが付いていた。瞳は紅く、肌は透き通るような白さだった。

もう片方の少女は、赤いドレスに白色のナイトキャップ、髪は金髪、瞳は紅く、肌も一方の少女と同じぐらい白かった。

そこに佇む少女達は、レミリア・スカーレットとフランドール・スカーレットだった。

 

「ここが・・・幻想郷」

 

湖からの風に髪を揺らしながら、レミリアは遠くを見つめていた。

 

「お姉さま・・・ここなら安全なの・・・?」

 

フランは憔悴しきった声でレミリアの袖を小さく摘まむ。

レミリアはフランを安心させようと、頬笑みながら、袖を摘まむ手を握った。

 

「えぇ、きっとね。あそこにいたような・・・。」

「私たちを苦しめた忌々しい連中はきっとここにはいないわ」

「ここで、2人で生きていきましょう」

 

「うん・・・」

 

2人の吸血鬼はこの後、湖に浮かぶ島に居住を始めた。

これが、彼女達の幻想郷入りであった。

 

 

 

彼女達が幻想郷に紅魔館という自らの居所を作ってからしばらく経った後のこと。

レミリアは大広間の自ら専用の玉座に座り、頬杖を突きながら、小さなため息を吐いた。

 

「この屋敷ができてからというもの・・・なかなか退屈ねぇ」

 

すると、そんな声を聞いていたかのように大広間の入り口が勢いよく開く。

その先にはフランが居て、猛烈な速度で入り口から玉座まで駆け抜けた。

 

「お姉さま!お姉さま!」

 

「どうしたの?そんなに騒がしくして・・・・って?」

「誰? その子」

 

レミリアは、フランの背にもたれていた人間を見つけた。

その人間の見た目は、見た目だけだとレミリアたちといくつも変わらない幼さの少女だった。

 

「知らない!けど、庭に倒れていたの!!」

 

「ふぅ~ん・・・。食べてもいいけど・・・」

 

「だめ!」

 

「はいはい・・・わかったわよ。」

 

この時、レミリアは少女を大切そうに扱うフランを見て、わずかに微笑んだ。

微笑んだのは、フランの優しさに触れたからだった。

 

「(この子は・・・・本当に吸血鬼なのか、と時々思っちゃうわね)」

「(人間を見ても食べようとしないし、血も欲さない)」

 

「さて・・・じゃあ、別の部屋にでも寝かせて安静にさせましょうか」

 

「うん!」

 

レミリアとフランは、少女を空いている部屋へ運び、ベッドで寝かせた。

少女に目立った外傷は無く、呼吸もしっかりとしていた。

フランは少女のベッドの傍でずっと少女の様子を見つめており、レミリアはそっと部屋から出て大広間へと戻った。

しばらくし、フランも睡魔に襲われ、ベッドの傍らの椅子に腰かけた状態で上半身だけをベッドに倒れこまれせ、眠りについた。

そして、そこから次の夜だった。

 

「ん・・・・」

 

「!!! あっ、起きた!」

 

少女が上半身を起こした際、フランもその動きに反応し目を覚ました。

意識を取り戻した少女が見慣れない光景に目を丸くしていたところ、フランは優しく声をかけた。

 

「大丈夫?どこも痛くない?」

 

「う・・・うん・・・」

 

「私はフランドール・スカーレット。フランって呼んでね!ここは、紅魔館で、私たちのお屋敷なの!あ!私たちっていうのはね、私のお姉さまもここに住んでいて、お姉さまの名前はレミリアって言ってこのお屋敷の主で―――」

 

 

 

 

「そう・・・目を覚ましたの。」

 

目を覚ました少女を連れて、フランは大広間のレミリアへと報告に来ていた。

少女は一つ一つが見慣れないことであること、状況の整理もままならない状態で連れてこられたことから、おどおどとしてフランの陰に隠れていた。

 

「・・・ねぇ?陰に隠れていないで、顔をこちらに見せて頂戴。」

「大丈夫、何もしないから。」

 

「うん・・・」

 

少女はフランの後ろから横に移動する。

レミリアは少女を見つめ、萎縮させないよう、優しく微笑みながらいくつかの質問をした。

 

「あなたの名前は?」

 

「・・・わからない」

 

「・・・そう。じゃあ、あなたはここの外で倒れていたの?」

 

「・・・それも」

 

「わからない、か。」

「・・・自分の住んでいたところは?」

 

少女は首を横に振る。

わからない。自分で自分のことがわからないといったことに不安を覚えたのか、少女の表情に陰りが見え始める。

フランはそれを感じ、レミリアの問いに割って入った。

 

「あのね、この子、一切の記憶が無いみたいなの」

「でも、ぜったいに悪い子じゃないと思う!」

「だから・・・その・・・」

 

フランの言いたいことは、十二分にレミリアに伝わっていた。

だから、レミリアはフランが言う前に口を開いた。

 

「いいわよ。ここに住んでも。ただし、その子が住みたい、っていうならね」

 

次の瞬間、フランが数回飛び上がり、満面の笑みを見せた。

そして、少女の方に顔を向け、両手を掴んだ。

 

「ね?お姉さまはああ言ってる!どうする?」

 

「・・・ほんとにいいの?」

 

「えぇ。気にすることは無いわ」

 

「じゃあ・・・ここにいる・・・!」

 

「わーい!よろしくね!!!お姉さま!だいすき!」

 

少女の両手を上下に揺らしたかと思えば、玉座に座るレミリアへと飛びかかるフラン。

レミリアはそれを受け止め、微笑み、頭を撫でながらフランを抱きしめた。

こうして、彼女達に新たな家族が増えた。

この、微笑ましい生活はいつまでも続くと、この時レミリアは信じて疑っていなかった。

 

 

 

そう、この時は。



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開花と決別

少女が紅魔館に住みつき始めてから半年ほどが経った頃、大広間で遊ぶフランと少女を見つめながらレミリアは物思いに耽っていた。

本当に、ここで彼女の一生を過ごさせて良いのか、ということである。

もちろん、レミリアとフランは彼女が嫌いだとかそういう感情は一切無いい。

ただ、彼女にも記憶が無いだけで、どこかに故郷というものがあり、そして彼女の帰りを待つ者がきっといる。

だから、彼女には自分の故郷を知り、帰るか、それとも紅魔館に残るかどうかという選択肢ぐらいはあってもいいだろう。

レミリアはそう考えていた。

 

「(あの子は、間違いなく人間。)」

「(人里の行方知らずの子供たちの掲示の中にはあの子らしき子はいなかった)」

「(と、なると私たちと同じく外界から来た人間か?)」

「(・・・もう一度、人里に紛れて情報を集めてみるか)」

 

「フラン、私はちょっと出るわ。おとなしく館にいるのよ」

 

「はーい」

 

「あなたもね」

 

「はーい」

 

二人は返事をした後、また遊び始める。

その光景を見て、レミリアは二人目の妹が出来たようだ。と小さく微笑みを浮かべながら大広間を後にした。

紅魔館から飛び立ち、人里へと向かったレミリアは、その後しばらく、独自のルートで情報収集を行った・・・が。

 

「(今回も特に収穫なし・・・か)」

 

今日はもうここまでにしよう。とレミリアが人里から出ていこうとした時、3人ほどの女が井戸端会議をしているのを見かけた。

こういう所に案外、有益な情報が転がっていることもある。そう考えたレミリアは少し聞き耳を立ててみることにした。

 

「最近、妖怪狩りをしている命知らずがいるらしいわよ」

 

「なにそれぇ・・・。大体、妖怪なんて狩ったって何の得にも・・・」

 

「だよねぇ・・・」

 

レミリアはこの会話を切り捨て、その場から歩を進めることにした。

 

「(妖怪狩り・・・か。」

 

レミリアの表情が少し強張る。

右腕を少し摩りながら、彼女はその場で目を瞑り幻想郷に来る前のことを少し思い返した。

だが、すぐ我に返り目を開けた。

 

「(・・・館へ帰ろう)」

 

その場から飛び立ち、二人の妹が待っている館へと向かう。

しばらく飛び立ち、紅魔館が視界に入ったきた辺りでレミリアは違和感を覚えた。

様子がおかしい。それは、紅魔館へ近づけば近づくほど、より確信へと変わってゆく。

そして門の前に降り立った時、彼女は愕然とした。

 

「・・・これは、一体!!!」

 

視界に広がっていたのは、窓が割れ、壁のいたる所が傷ついた紅魔館だった。

そして、その場は妙に静まり返っていた。

 

「フランと・・・あの子は無事なの・・・?!」

 

レミリアは両足に力を込めて、全速力で館の中へと入る。

この館を出てくる前、二人が遊んでいた大広間へ最短の道のりで進み、その部屋の扉を強く開いた

 

「フラン!!!」

 

扉を開くと同時に、突き刺すような視線がいくつもレミリアを向けられた。

その場には、男が10人程。そしてその奥には、衣服がボロボロになり、ひどく傷ついたフランが居た。

 

「お姉・・・さま」

 

フランは背に少女をかばい、男達と少女の間に居た。

男達は誰一人傷ついていない。レミリアは知っていた、フランは吸血鬼でありながら、並大抵の妖怪や人間より強大を力を秘めていながら、それを使えないことを。否・・・使わないことを。

 

「貴様ら・・・・一体、何の真似だ!!!」

 

レミリアの怒号が大広間に響き渡る。

すると、男の一人が歩みを進めてレミリアに顔を向けた。

 

「・・・俺の顔を覚えていないか?」

 

そう言った男の顔をレミリアが見つめる。

男の顔をはっきりと、レミリアが認識した瞬間、無意識にレミリアは右腕をさすった。

 

「貴様は・・・・!」

 

その男は、レミリアとフランにとって、二度と相まみえたくなかった存在。

レミリアとフランが幻想郷入りする前、彼女達を狩ろうとしていた存在・・・吸血鬼狩り一派の長だった。

彼女達姉妹は、幻想郷入りする前、外界でその一派に追われ、ひどく傷つけられた。その時、レミリアは右腕を銀の剣で切り裂かれていた。あの時の痛みが、レミリアの右手に蘇る。

銀は、彼女達吸血鬼の弱点。銀に触れるだけで焼けるような激痛が、それによって負った傷は通常のものと比べてひどく治りが遅い。

吸血鬼狩り一派は、彼女達の弱点を知り尽くしていた。

そして、レミリア達はこの頃若かった。殺しのプロフェッショナルの経験は人間と吸血鬼の身体能力の差を十二分に埋めていた。

 

「私を狩るために・・・わざわざこんな世界まで来たのか」

 

先ほどまでの叫びとは打って変わり、落ち着いた声でレミリアは問う。

すると、男は眉間に皺をよせ、口を開いた。

 

「こんなところまでお前なんかを追う気はなかったさ・・・」

「あの子を・・・お前らの下にいると知るまではな!」

 

あの子と呼び、指さしたのは、フランの背にいた少女だった。

少女は目を大きく開き、驚きの表情を浮かべていた。

 

「まさか・・・私の娘に手を出すとは」

「傷一つ無く、再会できたのは不幸中の幸いか・・・」

「ともかく・・・今回は、容赦せんぞ。お前を俺は殺す。」

 

無論、レミリア達はその少女を攫ってなどは居ない。

そして、吸血鬼一派に繋がりがある事も、知らなかった。

何の因果か、少女は幻想入りし、そのショックで記憶をすべて失い、レミリア達の下へとたどり着いてしまった。

ひどく縺れ合った運命に、レミリアは心をひどく震わせた。

 

「・・・さぁ、返してもらおうか」

 

男はレミリアに背を向け、フランと少女の方へとゆっくり近づく。

手には、あの時の剣を構えて。

 

「其処をどけ!忌まわしき吸血鬼め!」

 

「ひっ・・・」

 

「フラン!」

 

怯えて動けないフランを察して、振りかぶった剣よりも先にレミリアが動いた。

男とフランの間に体を入れ、フランを抱くようし、男に背を向けた。

一閃、レミリアの背、右肩から左脇腹に至り激痛が走る。

 

「・・・・・・・う・・・・・う」

 

「お姉・・・・・さ・・・ま」

 

既に満身創痍のフランが弱弱しい声で、前を見つめる。

フランを見つめ、大丈夫、大丈夫と小さく呟く。

 

「いい気味だ。」

「さぁ、終いだ」

 

次の瞬間、レミリアの激痛が胸へ。

先ほどの一撃が、まるで無くなったかのように、その痛みは全てをかき消した。

揺れる視界、朦朧とする意識。レミリアはその中で必死に言葉を紡ぐ。

 

「ウア・・・・ン・・・・いげ・・な・・・さ」

 

「・・・お姉様? ・・・・・おねえ・・・さま?」

 

貫かれた胸から噴き出す飛沫を顔に受けたフランの視界は紅い。

紅く染まった姉が、目の前で膝から崩れ落ちた。

 

「・・・・・・・」

 

そして、レミリアは沈黙する。

 

「お姉様が・・・お姉様が・・・・」

「あ・・・・あ・・・・・・・・・・」

「おねえさまおねえさまおねえさまおねえさまおねえさまおねえさまおねえさま」

「あ、あ、あ、あ、ああ、あああ、ああ、ああ、あ、あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 

 

 

 

 

酷く痛む体の節々。右腕、左腕、右脚、左脚・・・全てが動くことを確認。

四肢はまだくっ付いている、そんなことを思ったレミリアは、状況を全て思い出し、急いで上半身を起こした。

 

「私・・・生きてる・・・?」

 

無理やり起こしたせいで、胸が痛む。

貫かれた箇所は、何とか心臓の端っこの方だったようだ、と自分が生き永らえた理由を把握した。

そして左右に首をゆっくりと振り、静寂と血の匂いに包まれた大広間を見渡す。

 

「あいつら・・・は・・・・」

 

レミリアが後ろを向くと、そこには痛ましい光景が広がっていた。

 

「死んで・・る」

 

腕が無い者、頭が爆散しているもの。

その視界が頭の中に記憶されるだけで吐き気を催すような死体が其処ら中に広がっていた。

 

「フラン・・・フランとあの子は・・・どこ・・・ゲホッ!ゴホッ・・・フラ・・ン」

 

血反吐をまき散らし、視界が揺れるレミリアは首を左右に揺らし、何とか意識を保とうとする。

そして、玉座の方を見つめると床に座りこむ人影がぼんやりと見えた。

レミリアに背を向ける様に座り込むその背には見慣れた異形の羽が付いていた。

 

「あそこにいるのは・・・フラン! 生きて・・・いたのね!」

「いま・・・そっちに・・・いくわ」

 

足を引きずりながら、ゆっくりと玉座へ近づくレミリア。

近づいていくと、フランがすすり泣いているような、それとも何かを囁いているような声がする。

怖かったのだろう、姉が死んだと思ったのだろう。一刻も早く、寄り添ってやりたいが、言う事を聞かない体にレミリアはもどかしさを覚えた。

 

「・・・・い・・・・・さい・・・・・・・ご・・・・・・・さい」

 

近づく度にはっきりと聞こえる、フランは何かを囁いている。

そして背中越しでも震えている事が分かる。はやく、はやく抱きしめてやりたい、そう思ったレミリアはようやく、フランの背から片腕の距離に辿り着いた。

優しく、肩に手を置こう。そう思ったレミリアだったが、何かに気が付き、動きを止めた。

フランの囁きが、この距離ならはっきりと聞こえる。

 

「・・・なさい・・・ごめんなさい・・ごめんなさいごめんなさい」

 

「・・・フラン?」

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

「フラン?!」

 

レミリアは両腕をフランの両肩に乗せ、体をこちらへと向かせる。

振り返ったフランが、何を思っていたのか。

 

レミリアは何も感じ取れなかった。

 

無・・・フランはただ、虚空を見つめ、ひたすらに涙を流していた。

 

そして、彼女は抱きかかえていた。

 

もう一人の妹の頭部を。

 

それは、それだけだった。

 

そう、それだけ。

 

その頭には何も付いていない。

 

もう一人の妹は、苦悶の表情を浮かべ、涙が頬を伝った跡が残った状態で、フランに抱きかかえられていた。

 

 

 

―――――――――

 

 

全てを聞いたのび太は、思わず口を片手で覆う。

そして、恐る恐るその先を聞いてしまう。

 

「それ・・・って」

 

「そう、フランお嬢様が殺してしまったのです。」

「フランお嬢様は、レミリアお嬢様が目の前で殺されたと思ったのをきっかけに」

「ご自身の体に秘めたる力を解放しました」

「その結果、自分で力を抑えこむことができず・・・」

「吸血鬼狩りの男に連れられていた少女は巻き添えに・・・・」

「それ以降、お嬢様は紅魔館の地下にフランお嬢様を495年もの間、幽閉しました」

 

「そんな・・・・フランはわざとやったわけじゃ・・・」

 

「お嬢様も、分かっています。」

「ただ、辛かったのでしょう」

「自分のもう一人の妹を殺した、実の妹を見るのが・・・」

「のび太様・・・・私からのお願いです。」

「どうか、フランお嬢様のお気持ちを察してあげてください。」

「実の姉に、495年もの間幽閉され、忌み嫌われていた絶望を、」

「自らの手で、自らの妹を殺めてしまった絶望を・・・」

 

 

 

 

 

上空で放ち続けていたレミリアのスペルカードは、終わりを迎えようとしていた。

 

「フラン!貴女はその力でもう何も壊さないで…永遠に地下で眠って居なさい!」

 

スペルカードの時間切れ間際、レミリアの弾幕は更に激化する。

鋭いナイフが、フランを襲う。

 

「お姉さま・・・私はずっと地下で・・・あの子のこと忘れたことないよ・・・」

「なのに、どうして・・・」

 

目頭が熱くなり、フランの視界が霞んでゆく。

次の瞬間、彼女の身体は無数の刃によって裂かれた。

 

「勝負あり……」

 

パチュリーの乾いた声で戦いは終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

~決勝戦 途中経過~

第1試合 ○フラン(攻) vs ×咲夜(守)

第2試合 ×のび太(攻) vs ○レミリア(守)

第3試合 ○のび太(攻) vs ×咲夜(守)

第4試合 ×フラン(守) vs ○レミリア(攻)



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ふたりのちから

服や髪のいたる所が破れ、皮膚が露出していた顔や腕に無数の切り傷を負ったフランが疲弊しきった顔で、地面に着地する。

着地と同時に膝から力が抜けていくのを見て取れたのび太は慌てて彼女の前に駆け寄り、肩を支えた。

 

「・・・・・ごめん」

 

まさに満身創痍。力ない声が、のび太の心を強く揺さぶった。

先ほど、咲夜から聞いた彼女の過去のせいか、彼の言葉はいつもより力強い。

 

「最後の試合・・・僕は負けたくない」

 

明らかに声色や、様子が先ほどまでと異なるのび太にフランが目を丸くする。

 

「・・・えっ?」

 

「君のお姉さんに負けたくない、そう思ったんだ」

「だから・・・僕に行かせてくれ。」

 

「そ、そんな!無茶だよ、のび太じゃお姉さまを」

 

「フラン!君は今の戦いでボロボロだろう?!」

 

フランの困惑を、怒号にも似た声でのび太が制した。

のび太はフランを支えながら、強い眼差しでレミリアを見つめていた。

レミリアはバツが悪そうにフン、と小さく鼻で嗤った

一連の様子を静観していたパチュリーが、のび太の決心を見届けた後でレミリアに声をかけた。

 

「次も・・・レミィがいくのよね?」

 

「当然よ」

 

「そう・・・わかったわ」

 

「聖杯戦争 決勝戦・・・・第5試合、のび太vsレミリア」

「あらかじめ、決勝戦前に説明したとおり」

「第5試合では、攻め・守りの区別を無くし、敗北条件はどちらかのスペルカード時間切れあるいは被弾とするわ。」

「いいわね?」

 

パチュリーの目配せに、最後の戦いに臨む二人が小さく頷いた。

小さく息を吸い込み、パチュリーがそれを一気に吐き出す。

 

「はじめ!!!!」

 

互いに飛翔し、上空で視線を交じり合わせる。

昂るのび太の熱い眼差しを、あしらうが如く冷めた表情でレミリアは視線をぶつけた。

 

「正直、もう私の勝ちは決まっているようなもの。大人しくフランに任せておけばよかったものを・・・」

 

「これ以上、フランが傷つく所を見たくなかった」

 

「・・・吸血鬼の身体はあんたが思ってるよりも頑丈よ。あんな傷、すぐに治るわ」

 

「違う・・・違うんだよ」

 

のび太が拳を震わせながら強く握った。

そして、より滾った視線をレミリアへ飛ばす。

 

「フランが傷ついてるのは・・・心だ」

 

「体なんかじゃない、もっともっと大きな傷をフランは抱えているんだ!!」

 

「・・・私の出来の悪い妹に、ずいぶん入れ込んでくれているようね」

 

「出来の・・・悪い?」

 

「どうして・・・どうして、そんなひどいことを言えるんだ!!!」

「たった一人の!実の妹だろう!」

 

「力もまともに使えない、壊すことしか知らない悲しい子よ」

「そんなことはない!・・・君はずっとフランを地下に閉じ込めて・・・」

「それだけの力があるなら、フランを真正面から受け止めることだってできただろ?!」

 

いつもより饒舌で、そして力強く、のび太の言葉が、感情がレミリアへ向けられる。これには流石のレミリアも多少なりに面食らった部分があるようで、少し言葉を詰まらせた。

 

「・・・・貴女はなぜ、フランドールのためにそこまで怒れるの?」

「なんで・・・・って・・・フランは・・・・」

 

 

―「・・・ねぇ、ここで会ったのも何かの縁じゃない?どう・・・私と一緒に組んでみない?」―

―「私は、フランドール。フランって呼んで」―

―「よろしくね、のび太」―

 

フランとの会話が、のび太の脳裏に走った。

 

 

「フランドールは・・・僕の・・・」

 

 

―「・・・・ちょっとうらやましかったの、ああやって、いっぱいお友達がいるのが」―

─「私、お友達を・・・・・・・お友達、いないの」─

 

―「・・・じゃあ僕と・・・」―

 

 

「友達だからだ・・・」

 

のび太の言葉に、レミリアの片眉がやや反応し、ピクっと動いた。

 

「友達・・・」

「(・・・何故、あの時のこと、あの子のことを私は思いだしているのかしら・・・?)」

 

レミリアは目を瞑り、頭を左右に揺らし、蘇った忌まわしい過去を振り払った。

 

「・・・戯言はもういいわ!いくわよ!!!!」

 

言葉と同時に、レミリアが弾幕を展開させた。

中心が真っ赤に染まった大玉をムチのように撓らせながら射出。

大玉の合間には大玉の半分より少し小さい青い弾、さらにその弾の半分ほどの大きさ小玉があり、のび太を3重の弾幕がそれぞれ別々のスピードで襲った。

 

「のび太・・・」

 

姉の鋭い弾幕を受けているのび太を心配そうな瞳でフランが見つめる。

だが、次の瞬間に虚ろに開いていたその眼は、感嘆により大きく開いた。

のび太が、ぎこちないながらも弾幕を射出し小粒の弾を相殺。

そして、空いたスペースを器用に飛び回り大玉を避けていた。

 

「ふぅん・・・迎撃ぐらいはできるのね」

 

のび太の対応に特にこれといった感情の起伏はなく、レミリアは次の弾幕を展開させた。

レミリアは体を蝙蝠へと変身させて、米粒状の弾幕を乱射する。

彼女の変化に、驚きながらも猛スピードで襲う弾幕をしっかり見つめ、のび太は正面から飛んでくる弾幕は自身の弾で要領よく消し、斜め前方や左右から襲ってくるものは左右上下の飛行で避ける。

 

「くっ!」

 

のび太は左太もものあたりに違和感を覚えた。

弾幕を避けながらも、視線を一瞬だけそちらにやると、着ていた衣服が切られたように破れていた。だが、痛みは無いし、皮膚も傷ついていないようだ。パチュリーの静止もないことから、これは被弾とはカウントされない、とやや胸を撫で下ろしていると、レミリアが元の姿に戻っているのを確認した。

 

「くらえ!」

 

今まで、迎撃のための弾しか出していなかったのび太が、「人に当てるため」の弾をレミリア目がけて射出した。

だが、レミリアの目の前にのび太の弾が迫る、あと数センチで被弾という所でレミリアがまた姿を変えた。

 

「くそ~!」

 

悔しがるの束の間、姿を変えたレミリアは再び弾幕を撃ちこんでくる。

一番最初に展開させていた大玉を、先ほどよりも速くのび太を襲った。

だが、ただ早いだけではのび太は被弾しない。今日一日で「弾幕」というものに慣れてきた彼は、持ち前の飛行技術で弾幕を避けるスキルを非常に伸ばしていた。

レミリアの2種目の弾幕は、あまりに綺麗な規則性があり、のび太は用意にそれを避けていた。

 

「(・・・発射のタイミングは蝙蝠に変身している。今打っても当たらない・・・今は、とにかく避けるんだ!)」

 

そして規則正しく大玉が発射された瞬間、レミリアが元の姿に戻った。

その時をのび太は見逃さない。

右の人差し指で拳銃を模し、その先端からのび太が出せる最大速の弾丸を飛ばした。

 

「っ・・・!」

 

ライフルの弾丸のように、先端が鋭く尖った弾はレミリアの帽子を浅く裂いた。間一髪、レミリアは首を右に傾けて弾丸を避けた。

レミリアの頬を、一筋の冷や汗が走る。

そして、また彼女は蝙蝠へ姿を変えた。

今度は、のび太がいた位置に向かって、らせん状に炎を発射してきた。

だが、これはのび太にはあまりにも簡単すぎる弾幕だった。

自らがいた位置に発射されるのであれば、無駄に動かずに直前で少しずつ左右に動けば、弾幕はあまり広い範囲に拡散されず、楽に避けれられる。

のび太は、それを知っていた。

一進一退の戦い、決勝戦に相応しい緊張感に、観客席の魔理沙が息を飲む。

 

「・・・にしても、いつにも増して、とち狂ったようにぶっ放してるやがるんだぜ」

「・・・スペルカードルールに慣れていない人間ごときに」「何がそんなに熱くさせたんだぜ?」

 

さぁね、と適当な相槌を打つ霊夢を、流し目で見ながら、再び視線を上空へ向ける魔理沙。 頭の帽子に手をあて、視界が開けるようにやや上へ傾けた。

 

「・・・ま、この試合はレミリアの勝ちだな」

「レミリアのやつ、聖杯なんか手に入れたって、どーせロクな願いなんてもってないぜ、きっと。」

「まーた、幻想郷中紅くされたらたまったもんじゃないぜ・・・」

 

先ほど、軽い相槌だけ返した霊夢が戦況をじっと見つめ、魔理沙の言葉のあと、数秒間押し黙って後に口を開いた。

 

「・・・ちょっとだけ気になってることがあるのよね」

 

「・・・え?」

 

「今回の大会で、フランのお気に入りのスペルカードを見てないわ」

「もしかしたら、そのスペル・・・」

「ま、だとしても・・・ないか。」

 

魔理沙に困惑だけを与え、意味深な発言を終えた霊夢。

霊夢の中では整理がつき、もう語る事はない。魔理沙がなんだよ、と深く追うが口は閉じられたままだ。

そんな会話をしているうちに、戦況は大きな局面を迎えようとしていた。

 

「・・・これも避けるとはね」

 

蝙蝠になりながら、火の玉を放ち終わったレミリアが、元の姿に戻って一言ポツりと呟いた。

のび太はレミリアが実体化した隙を逃さず、的確に弾を放っていた。

だがもちろん、レミリアは呟きながらも体を捩じり、しっかりとのび太の弾を避けていた。

一方、のび太はその時、一つの確信を得ていた。

 

「(レミリア・・・君の一つだけの隙、見つけたよ)」

「(でも・・・僕がやろうとしていること、本当に僕にできるのか)」

「(いや・・・やるしか・・・やるしかないんだ)」

 

のび太の思慮していることなど気にもせず、レミリアはふぅ、とため息を吐いた。

そして、口角を吊り上げ、そっと呟いた。

 

「もう、終わりにしましょう。」

 

レミリアが目を閉じ、両手を下まで伸ばして肩幅程度に腕を広げた。

 

「『紅色の幻想郷』」

 

レミリアのスペルカードが発動した。

これは紛れもなく、レミリアの持つスペルカードの中でも最上級のカード。

赤い大玉が、レミリアを中心として円を描くように放出され、その軌跡上にはほとんどの隙間がなく小さな弾が浮かび上がる。

赤い大玉が円を描き終わると、第二波が発射され、第一派で残された小玉が動きだし、のび太の動きを制限した。

 

「おいおいおい・・・こんなの、私らだって避け切れないぜ。それこそ私のマスタースパークで弾幕を吹き飛ばすとかしないとな」

 

魔理沙が、レミリアのスペルカードを見た率直な感想を浮かべる。

と、同時に自らのスペルがあれば楽勝だけどな、という自慢を浮かべながらの感想だった。

その時、霊夢は、「そう、そうなのよ」と呟いてから続けた。

 

「これだけ密集した弾幕があれば、いっそのこと弾幕そのものを消してしまえば良い」

「そして、それが出来る、フランのスペルカードを、今日はまだ見てない」

「彼女の十八番ともいえる、あのスペルカード・・・」

「もし、あれが・・・のび太の手にわたって居れば・・・」

「いや・・・でも・・・」

 

「なにぶつぶつ呟いてるんだぜ?っておっ・・・と、もうそろそろ本当にやばそうだな」

 

上空で、かなり密集された弾幕をのび太が間一髪の連続で避け切っている。誰の目から見ても、被弾は間もないか、といった状況。

しかし、そんな中、のび太は耐えていた。

ただ、必死に避けているのではない、「耐えていた」のである。

 

「(まだ・・・まだだ・・・もう少し・・・もう少し)」

 

「負けるものか・・・・負けちゃいけないんだ・・・・負けない・・・!」

 

「今だっ!」

 

第3波目、紅色の弾丸が隙間なくのび太を包囲し、被弾させる本当の直前に、のび太が声を上げた

 

「禁忌『レーヴァテイン』」

 

のび太の手に真っ赤に燃えた大剣が宿る。

それを目いっぱいのび太は振り回した。

大剣に当たるレミリアの弾幕は、レーヴァテインに当たると弾けて消え、そこに煙だけを残した。

 

「やっぱり・・・のび太がコピーしていたのね」

 

「霊夢、お前、これのことをずっとブツブツ言ってたのか」

 

「そう、この弾幕を消せるスペル、フランのレーヴァテイン。」

「だけど・・・これは所詮弾幕を消すだけで、しかものび太の体力じゃせいぜい扱えても30秒ぐらいかしらね?実際に振るうとなると、パチュリーの魔力とは関係なく、術者の体力がモノを言うから・・・」

 

「で?博麗の巫女様はこの戦いをどう見るんだ?」

 

「・・・分からない。弾幕を消したところで、レミリアのスペルのほうがきっとのび太のレーヴァテインより長いわ」

 

「勝つためには、紅色の幻想郷にもうちょっと耐えて、レーヴァテインがあるうちに時間切れ・・・って方法かと思ったんだけど、やっぱりそんなにあのスペルは耐えきれないわよね」

 

霊夢と魔理沙が上空に引き続き視線を送り、戦いの行く末を見守る。

弾幕は、次々のレーヴァテインによって弾けて消える。

のび太が3振りもした頃だ、弾幕が弾けた時の煙が二人の間に立ちこんできた。互いの姿を若干認識できる程度だった。

 

「まだ・・・まだ・・・もう一振り・・・」

 

のび太は肩で息をしながら、慣れもしない大剣を握る。

まだ足りない、そう呟いて、額に汗を流しながら、レミリアの弾幕を避け続け、大剣を振るって悲鳴を上げている心肺を震わせる。

 

「この試合だけは・・・!負けないんだ・・・!」

「フランから貰った・・・この力で・・・勝つんだ!」

「いっけええええええええええ!」

 

振り絞った力を込めた一振りで弾幕を更に消し飛ばす。

そしてレーヴァテインの特徴でもある振り終わり後の小粒弾がレミリアを襲った。

小粒弾が、レーヴァテインと紅色の幻想郷が相殺されて舞い上がった煙のなか、進んでゆくのがうっすら見える。

のび太はその軌道を見て、レミリアの元に届きそうになった時、あの姿をもう一度目にした。

小粒弾は、レミリアに当たらない。蝙蝠に変身していて、レミリアは弾をすべて受け付けなくなっていた。

それがボンヤリと確認できた頃には、のび太の渾身の一振りで生じた煙が二人の包み込み、互いの姿を認識することは出来なくなっていた。

 

「(レーヴァテインもコピーしていた・・・とはね)」

「(弾幕が消されたとしても、彼の弾幕が私に届かなければ意味はない)」

「(それに・・・この煙の中、恰好の餌食じゃないの)」

 

レミリアは何波目とも分からぬ弾幕を射出しようと、姿を元に戻した。

そして、互いに見えぬ煙の中、勝利を確信した笑みを浮かべる

 

「楽しかったよ、人間。」

 

一方、のび太はその時、すべて狙い通りに事が進んだと思っていた。

この煙で、お互いの姿は認識できない。だから、レミリアにとって自分は何よりも狙いやすいこと。

この煙の中にレミリアのスペルを展開されればとても避けれたものではないぐらい分かっていた。

レミリアは、狙わなくてもいい。ただ、弾を展開させれば勝手に当たる、といった具合だ。

仮に、レーヴァテインで弾幕を相殺したとしても、それを振り回すのび太の体力が、レミリアのスペルカードより先に尽きると分かっていた。

詰み、一見はそう見える。

 

「(君はこの煙の中でまた弾幕を撃ってくる前に蝙蝠から元の姿に戻る)」

 

「(だけど・・・見つけた、君が攻撃の時にあまり動かないというクセを)」

「(これは大きな賭けでもあるけど・・・やるしかない)」

「(来たっ!!!!)」

 

煙の中、レミリアの大玉がこちらへ迫ってくる。

その瞬間。のび太はレーヴァテインを持つ手とは逆で一発の弾丸を放った。

 

「くらえ!」

 

のび太の叫びと共に、弾が走る。

次の瞬間、レミリアの右肩の付け根のあたりに激痛が走った。

 

「?! ・・・・っ何?!」

 

恐る恐る激痛の場所を見る、そこにはポッカリと半径5mmもない穴が開いていた。まるで、何かに撃ち抜かれたように。

 

「ま・・・・まさか・・・この煙の中・・・」

 

「くっ・・・!」

 

次の瞬間、煙が一気に晴れた。

のび太がレーヴァテインを空振りさせ、煙を風で吹き飛ばしていた。

そして、レミリアに指を指し、のび太が声を上げる。

 

「パチュリー!レミリアを見て!」

 

 

「こ、これは・・・レミィが被弾・・・してる?」

 

「しょ、勝負あり!」

 

状況も掴めぬまま、試合終了の宣言がパチュリーから下される。

痛む箇所を抑えながらレミリアが地上で戻る。

そして、のび太もフラフラになりながら地上へ降り立った。

会場は、静寂に包まれていた。

何が起こったのか、レミリアは負けたのか、結果すら把握できていなかった。

 

「何・・したのよ、あんた・・・」

 

レミリアが肩を抑えながら言う。

 

「あえて煙を出して、お互いが見えない状況にした」

「そして、君が撃ってくるのを待っていた」

「あの弾幕は、君を中心に弧を描くように大玉が来る」

「そして、君は、あのスペルカードの時、一つの波を打ち終えるまでは動かなかった」

「君は・・・攻撃の途中だったり後にはあまり動かないクセがあるのを、スペルカードを使う前から見ていた。」

 

「だ、だからって・・・あの煙の中、正確に私の位置を・・・」

 

「・・・・得意だから。」

「射的は、僕の得意分野だから」

「・・・それにね、今回は何より「見えない」ってことが重要だった」

「見えてたら、君は蝙蝠になって避けちゃうから・・・」

「それを、見えなくさせてくれたのは・・・フランのレーヴァテインのおかげ」

「これが、フランの力。僕に教えてくれた、フランの力なんだ」

「僕の射的が得意という長所最大源活かすために・・・フランの力が必要だった」

「フラン・・・! 勝ったよ!!」

 

フランの方を向き、のび太が優しく微笑む。

その時、両手で口を多いながらフランは若干涙ぐんでいた。

パチュリーが、マイクを手に取り改めて結果を告げる。

 

「・・・勝者、のび太。聖杯戦争、優勝はのび太チームよ!」

 

~決勝戦 結果~

第1試合 ○フラン(攻) vs ×咲夜(守)

第2試合 ×のび太(攻) vs ○レミリア(守)

第3試合 ○のび太(攻) vs ×咲夜(守)

第4試合 ×フラン(守) vs ○レミリア(攻)

第5試合 ○のび太    vs ×レミリア

優勝:のび太・フランチーム

 

この大会で一番の歓声が彼らを包み、祝福した。

長い長い一日が、終わろうとしていた。



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真実と幻想と

人間の快進撃に沸いた会場は中々静まること無く、のび太は壇上を降りた途端に観客に囲まれ、矢継ぎ早に質問攻めを受けた。

どこから来たのか、弾幕を撃つのは本当に初めてだったのか、フランからどうやってスペルカードを継承したのか。

気が付けば、終了から一時間弱も経っていたところでジャイアンらと合流が出来た。

 

「おーーーい!!!!のび太ぁああああああああ!!!」

「こーこーろの友よおお!!! お前ならやってくれると信じていたぞ!!」

 

ジャイアンはのび太を見つけた途端、全速力で駆け寄り熱い抱擁を交わした。彼の目には大粒の涙が浮かんでいた。

鳩が豆鉄砲を撃たれた顔でのび太もジャイアンの背に手を回し、ハグをし返す。

ジャイアンに遅れて、のび太の下へドラえもん、しずか、スネ夫へ駆け寄る。ジャイアンの感嘆を聞いたスネ夫は囁く。

 

「うそばっかり・・・最初のび太をチームから外したくせに・・・」

 

「なにか言ったか?!」

 

「うっ!なんでもないよ・・・!」

 

ジャイアンの野性味溢れる眼光に思わず怯んだスネ夫は、口を慌てて閉じる。

全員が祝福ムードとなったところで、パチュリーが現れた。

 

「ふぅ・・・やっと落ち着いて話せるわね。」

「のび太、フランドール。優勝賞品の聖杯をあなた方へ贈呈します」

「と、言っても・・・聖杯には、私の魔力をつぎ込んである、だから、保管場所もちょっと特殊でね・・・この会場から少し飛んだ場所にあるわ・・・」

「さ、案内するから付いてきて」

 

パチュリーが宙を駆け抜け、それにのび太らが続く。

数分ほど飛行した所で、パチュリーが下降し始めた。

そこは、森だった。木々の間を面々が器用にすり抜けてゆくと、円状に開けた土地が姿を現し、その真ん中には六芒星のような紋章に包まれた華美な杯が浮いていた。

 

「おぉ・・・すっげぇー」

 

ジャイアンが呆気に取られている横で、パチュリーが手を魔法陣へ伸ばす。

 

「今、周りの魔法陣を解くわ」

 

次の瞬間、辺りがまばゆい光に包まれ、反射的に皆が目を閉じた。

そして、眩んだ瞳をゆっくりと開けると、パチュリーの手には聖杯があった。

 

「はい、どうぞ」

 

それを、のび太へと手渡される。

思いの外、それは重く、のび太はその場で少しよろめいてしまった。

 

「これで願いが叶えられる!」

「・・・そういえば」

「フラン、これは僕たち二人で取ったものだよ」

「フランの願いと僕の願い・・どっちを叶えるか・・・」

 

「そうだね・・・」

 

「フラン・・・聞いてなかったね、君の願いは・・・」

 

のび太の問いかけに対して、フランがゆっくりと目を瞑り、そう・・ね、と息を小さく吸い込んだ。

吸い込んだ息を吐きだすと同時に、言葉を発そうとした瞬間、パチュリーが遮った。

 

「ちょっと待って、実は・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「ええっーーーーー?!」」」」」

 

パチュリーの告白に一同が目を丸くし、声を上げる。

 

 

「聖杯で願いが叶うなんてウソっぱちなのか?!」

 

ジャイアンが肩を震わせながらパチュリーを詰め寄る。

 

「僕たちは帰れないのーーー?!」

 

続けてスネ夫が目を滲ませる。

 

「まぁまぁ、慌てないで。」

「あなたたちが帰る方法はあるわ。博麗の巫女に頼めばすぐよ」

「彼女の神社が、この世界とあなたたちのいた世界の境界なの。」

「元の世界に戻す方法もきっと知ってるわ」

 

胸を撫で下ろし、のび太がその場に座りこむ。

 

「・・・よかったあ」

「・・・でも、なんで嘘までついてこんな大会を開いたんだい?」

 

「ごめんなさい、これは私の大切な人に頼まれたことなの」

 

それを聞いたしずかが疑問をぶつけた。

 

「私たちの願いは、まだ叶えられる範疇だったからよかったけど・・・」

「他の人が優勝してたどうするつもりだったの?」

 

「まぁ、結果優勝したのはあなた達でしょ?」

「起こってもいない、もしものことなんて知らないわ」

 

「な、なんてめちゃくちゃなんだ・・・・」

 

ドラえもんが顔に汗を流しながら引き笑いをする。

パチュリーが悪戯に笑うと、皆を誘導し始めた。

 

「さ、博麗の巫女のところへ行きましょう」

 

その後、一同はパチュリーに続き、博麗神社へと到着した。

すべて事情を霊夢に説明し、どうにかしてほしいとのび太が懇願する。

 

 

「・・・・・そういう事情で幻想入りしたのねぇ」

「にしても、幻想入りした原因っぽい、その勾玉はいったい・・・」

 

「あら、それ私のだわ」

 

「わー!!!びっくりしたぁ!宙に人が・・・・生えてる?!」

 

スネ夫の傍らに、宙を裂くような切れ目から上半身を出した金髪の女性が突然現れた。

 

「はぁ・・・またあんたの仕業?」

 

このあんた、とは八雲紫。幻想郷内でも屈指の力を持つ妖怪のことだ。

 

「そ。私の力をちょっとだけ入れた勾玉なんだけど・・・」

「どっかに落としたと思ったらそっちの世界にいっていたのね・・・。」

「どれどれ・・・・」

 

そう言うと、スネ夫の方へ手をかざした。

 

「ふぅ・・・今、力は吸いとったから、もうその勾玉で悲劇が起こることはないわよ」

 

やれやれ、といった呆れた表情で霊夢は紫を見つめる。

そして、そのままの表情で霊夢が口を開いた。

 

「あんたが起こした面倒なんだから、この子たち、元の世界に戻してちょうだい」

 

「はーい」

 

このペースだと、すぐさま元の世界へ戻されそうだ。

そう悟ったのび太が二人の会話に割って入った。

 

「ちょ、ちょっとまって!」

「フランとちょっと話がしたい!」

「大会でずっと一緒だったから・・・お礼を言いたくて!」

 

「・・・それは私のセリフかな、優勝できたし、楽しかったし」

 

「・・・フラン、僕・・・昔・・・色々とひどいことがあったの・・・聞いて・・・」

「だけど、そんなのは関係ないんだ・・・フランは僕の友達だよ!」

 

「・・・・心の友の友達っていうなら・・・・俺たちの友達でもあるな!」

「なっ!スネ夫!」

 

「うっ、うん!」

 

「フランちゃん、今度はこっちの世界にきて、一緒に遊びましょう!」

 

「みんな・・・」

 

「・・・今日、僕を助けてくれたフランはとても優しいし・・・きっとあと少しでお姉さんとの仲もよくなるよ!」 

「またいつか、今度は戦いなんかじゃなくて、一緒に遊ぼう!」

 

「うん!!!!」

 

「ふふっ、私が定期的にこっちに連れてきてあげるわ」

「じゃ・・・そろそろ・・・」

 

紫がそういうと、のび太達の足元が急に割れ始めた。

 

「うわぁ!地面が裂けた?!」

「・・・フラン!!またね!ばいばーい!」

 

「ばいばーーーい!」

 

元の世界へと彼らは帰り、騒々しい彼らの一日が終わった。

その後、パチュリーは紅魔館へと帰り、大広間でレミリアと対峙していた。

 

「・・・今回は疲れたわ」

「レミィ、どう? ただの人間に敗れた感想は」

 

「・・・最悪ね」

 

「でも、のび太だけなら間違い無く、あなたに勝てなかったでしょうね」

 

「・・・・なにが言いたいのかしら」

 

「フランよ。」

 

「フランが、ただの人間と、力を合わせて、あなたを倒したの。」

「私には、フランがもう暴れるだなんて、見えないけど」

 

「・・・ふん・・・同じようなことを、あの人間に言われたわ。」

 

レミリアが玉座で頬杖をつき、ふて腐れていると、扉が開く音がした。

ゆっくりと入り口から玉座まで歩いてきた者はフランだ。

 

「・・・お姉さま」

 

「・・・フラン」

 

「勝手に・・・外界人を巻き込んで・・・お姉さまの願いまで邪魔して・・・」

「ごめんなさい・・・」

 

フランの言葉を聞いたレミリアは数秒、沈黙した後、玉座から立ちあがった。

 

「・・・久しぶりに」

 

「・・・え?」

 

「昔のように今日の朝は・・・」

「一緒に寝ましょうか」

 

「・・・うんっ!」

 

二人を見つめるパチュリーは、優しく微笑んだ。

 

 

場所は変わり、現代。

のび太の部屋の宙に出来た裂け目から一同が放りだされ、それぞれが尻もちをついた。

 

「いててて、戻し方が雑・・・って」

「のび太の家・・・・のび太の部屋だぁあああああ!」

 

「・・・帰ってこれたのね」

 

「久々にミーちゃんにあえるぅーん!」

 

「・・・本当に夢のような1日だったなぁ・・・」

「ん・・・?ポケットになにか・・・」

「あっ、レーヴァテインとカゴメカゴメのカード・・・」

「・・・疲れたし、怖かったし、二度とあんな思いはしたくないよ・・・。」

「でも・・・・新しい友達ができた・・・いい1日だったかな?」

 

 

 

 

 

 

紅魔館のとある一室にて

「こんな大がかりなことして・・・・あなたの願いは叶ったの?」

 

「どうだろうね?」

 

「ふふ、そのうれしそうな顔を見れば、分かったわ」

 

「にしても、願いが叶う力なんてない、偽物の聖杯を作らせて、聖杯戦争をして・・・」

「戦いを重ね、あなたは、昔のあなたとは違うところを見せつけた。」

「そして・・・元通りになろうとした。」

「幻想郷中を巻き込んだ、仲直り・・・か。ふふっ、正気の沙汰ではないわね、あなたも、わたしも」

 

「ほんと、パチェを巻き込んでごめんね。」

 

「いいのよ。事情を知る一部を除いて、のび太の〚外界に戻りたい〛って願いが聖杯によって叶った・・・っていう風に他所からは見えるし・・・」

「結果、この大会は良い落としどころにまとまったわね」

「・・・・それで? 久々に共に夜を迎えた感想はどうだった?」

 

「別に・・・やっぱりいつもどおりって感じかな」

「でも・・・・前よりも優しい・・・・・・・・・・・・・・・・・・・かも。」

「きっとのび太の言葉が、変えてくれたんだとおもう。」

「・・・そう」

「・・・のび太」

 

 

「ありがとう。」



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終章「元通り」

紅魔館の大図書館で、紅茶を注ぐ咲夜がパチュリーを労う。

 

「・・・パチュリー様。今回は本当にお疲れ様でした」

「私、人前であんまりしゃべるタイプじゃないし」

「何よりも、野外にあんなにいて・・・・」

「正直、いますっごく体調悪いんだけど・・・・」

「あらあら・・」

 

紅茶を注ぎ終えた咲夜は微笑み、そっとパチュリーへ差し出す。

ありがと、と呟いて、そっと紅茶を一口運んだ。

熱っ・・・とつぶやき、カップをそこへ置いた。

すると、咲夜が真剣な表情でパチュリーへと声をかけ始めた。

 

「・・・パチュリー様」

「レミリアお嬢様は・・・変われたのでしょうか」

 

「変われた・・・って?」

 

「レミリアお嬢様は・・・・ひどくフランお嬢様を憎んでおられました」

「495年間も幽閉を・・・」

 

「・・・・それは違うと思うわ」

 

「え?」

 

「レミィも辛かったと私は思うわ」

「咲夜のいうとおり、フランに対しての憎しみはあったでしょうね。」

「レミィにとって、フランが殺してしまった少女は本当に大切だったようだし」

「ただ・・・その辛さを知っているからこそ・・・フランを幽閉したんじゃないかしら」

 

「・・・」

 

咲夜がパチュリーの言葉に黙って耳を傾けるが、表情は困惑しており、どういう意味を持ってそう言っているのかは分かっていなかった。

そう悟ったパチュリーが続ける。

 

「たぶん、あのままフランを野放しにしていたら、また、同じようなことが起こると思っていたのよ」

「大切な人を、自分の力で壊してしまう。そんな辛いこと・・・もう二度とフランに味わせたくなかった」

「だから、幽閉した」

「それに、フランが暴走した時、レミィも止めることができる自信がなかったんでしょうね」

「・・・本当にバカなんだから・・・・」

 

「・・・なるほど」

 

「なに、つまらない話をしているのかしら?」

 

「あら?いつからいたの?」

 

「そうね、パチェが紅茶の熱さに怯んでいるところからかしらね。」

「・・・パチェ、あなたには本当に今回迷惑をかけたわね」

「・・・ありがと」

 

「・・・きもちわる」

 

「なっ!なによぅ!」

 

大図書館の入り口の方から騒がしい足音がし、猛スピードでパチュリー達の方へと駆け寄ってくるのが分かった。

そして、それが誰かは一同全員が分かっていた。

 

「ねぇねぇ!!おねーさま!!!!のび太が神社に今来てるって!!!」

 

「行きたい行きたい行きたいーー!!!」

 

「はいはい・・・・じゃ、そういうことでちょっと出てくるわね」

 

「はやくはやくーーーー!!!」

 

「はいはい・・・」

 

「・・・レミリアお嬢様もフランお嬢様のわがままに手を焼いてますね」

 

「ふふ・・・・でも・・・・」

「まんざらでも、なさそうじゃない?」



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