楽しい余生の過ごし方 (Theiater)
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序章 Oldest Rookie
別れは出会いと共に


初二次創作です。原作キャラ成分は薄め……というかほとんど出て来ませんので悪しからず


□■2043年7月15日 埼玉県 S医科大学病院 ???

 

S医科大学病院の一室、イヤホンを付けなければ音の出ないテレビモニターとカーテン、ベッドしかない部屋。そのベッドに1人の老人が横たわっていた。

 

小さな音がして、部屋のドアが開けられる。そこには男がいた。老人程ではないものの、その顔には深い皺が刻まれ、すでに高齢者特有の雰囲気を醸し出していた。しかしその印象とは裏腹に、背が高く、スーツの上からも分かるほど筋肉が発達しており、袖から覗く無骨な手はまるで鋼のようだった。

 

「……」

 

「……よく来たな、翔」

 

「幸重さん……」

 

体格のいい男――翔は老人の名前を発した。

 

「休みに呼んで済まないな……来てくれて嬉しい」

 

翔は苦い顔をした。

 

「……もうすぐ死ぬって、本当ですか」

 

「そんなに悲しい顔するんじゃねぇよ、嫁も子供も居ねぇんだ。俺を待ってる奴なんてお前くらいだよ」

 

「そんなことは……! …大体、林業はどうするんです!あの木と山、それに顧客は――」

 

「心配いらねぇよ、顧客なんてもうロクに居ねぇし、どうせ今更木を刈ってもろくに枝も切られてねぇクソみてぇな木ばかりだ、売り物になるようなものじゃねぇ……お前にもわかるだろ?」

 

「……そんな」

 

そんな言い方をしなくてもいいでしょう、という言葉は喉から出て行かなかった。

 

「いいんだよ、お前は57。仕事を辞めて余生を謳歌するにはちょうどいい時期じゃねぇか……いや、少し早いか?まあ年金が降りるまでやっていけるだけの貯蓄はあるだろう、何なら俺の遺産だって少しは――」

 

「……」

 

「……」

 

重い空気が流れた。

 

「……寂しいか」

 

「それは……勿論」

 

「……いいか」

 

西日が老人の顔に照りつける。

 

「お前がガキの時、お前の学校に伐採体験の指導に行った時も」

 

「その終わりに、林業をやりたい人は手を上げろと促され渋々手を上げた時も」

 

「お前がT大を卒業して、わざわざ律義に約束を守りに田舎の山に戻ってきた時も」

 

「木工製品のブームの波に乗り過去の栄光だったうちのブランド、北海材を現代に蘇らせた時も」

 

「そのブームも薄くなり、新素材の台頭や植物保護団体のお陰で伐採する度に買取手がいなくなって安くなり、ついには木を刈るだけで赤字になってしまった時も」

 

「こうして今、お前が、見舞いに来てくれている事も」

 

 

「全て、俺の魂、思い出の一ページに刻まれてる」

 

「……」

 

「まあ最初の逸話に関してはお前から聞いて思い出した話だから覚えていたってわけではないが」

 

「……」

 

「俺は最高に幸せな人生を歩めた、悔いはない。こんな感情は死んでも忘れねぇからさ」

 

「……」

 

「礼だけ言わせてくれ。……ありがとよ」

 

「……」

 

「――」

 

「あなたが死んだら……林業が終わったら……俺は……一体」

 

「――」

 

「……幸重さん?」

 

「――」

 

「……もう、か。さっきまで話してたんだよな……」

 

「……」

 

「……医師、呼ばないと」

 

その男は、部屋を後にした。射し込んだ西日はカレンダーをゆっくりと照らし始めていた。

 

 

 

 

 

 

部屋には静寂と、横たわる男だけが取り残されて――

 

 

 

「やったぜダム!」

 

「喋りすぎだ!死にそうな人間があんなにペラペラと喋るか!」

 

――……いるわけでもなかった。

 

横たわっていた老人が必要以上に大きな動作で身体を起こす。改めて見れば、彼自身もかなり良い体格をしている事が理解出来た。どこをどう見ても死というイメージからは遠かった。

 

同時にベッドの下からダムと呼ばれた背の高い老人が出て来る。

 

「……っと、わざわざ私をこんな埃っぽい場所に押し込めたのだから、失敗は許されんぞ?」

 

「ったりめぇよ!……というか、てめぇが俺を勝手に心配してそこに入ってたんだろうが」

 

「何の話をしているのか理解しかねるな」

 

「こいつ……」

 

幸重はニヤニヤしながらダムを見る。

 

少し間が空いて、思い出した様に体格のいい老人は言った。

 

「つーわけでだ、ちゃんとゴルフクラブは用意してくれたか?それが無ければ俺のこの演技も全て台無しになっちまうんだが」

 

「……幸重、お前のやりたい事は『林業にしか興味の無い翔に余生を謳歌できる趣味を教えて、充実した人生を歩んでもらう』……だな?」

 

「はぁ……?そうだが」

 

「ゴルフクラブが無かった」

 

「はぁ!?てめぇ!それがねえんじゃこの三文芝居は一体何のために……」

 

「まあ落ち着け、代替品は用意した」

 

「あ、あぁ。でも3万しか渡してなかったよな?そんなんで今後20年遊べるような娯楽なんて」

 

「これだ!」

 

ダムはIDと書かれたヘッドギアを幸重の目の前に出した。

 

「なんだこりゃ?ボクシングでもさせんのか?」

 

「ゲームだ」

 

「はぁ!?てめぇ他人が渡した金でゲーム買って来やがったのか!?」

 

「そうだ」

 

ダムは大きく頷いた。

 

「……はぁ、まあゲームを買ってきたことに関しては……いいわ」

 

「お?意外だな。お前ならもう少し反発すると思ったのだが」

 

「違う……、何でそのヘッドギアを三つ持ってるのかって事だ!返答次第では3万は返してもらう!」

 

「お前と私の分だよ、悪くないだろう?」

 

「悪いに決まってんだろ!一つ1万のゲームなんて遊べていいとこ半年だろうがよ」

 

「……と、思っていた時期が私にもあったな」

 

「……んん?」

 

「まあ詳しくは家に行って話そうか」

 

「おう……まあお前がそこまで言うなら余程面白いゲームなんだろ。信用してるからな?」

 

「……いや、そんな睨みながら言われてもね」

 

老人達は立ち上がり、病院の一室から出て行く。カレンダーに射す光はいつの間にか天井に向かい駆け上っていた。

 




「……で、買ったゲームは全部ここにあるみたいだが……いいのかよ?俺の机に置いておいて、翔の興味をそれとなく引くようにするって手筈だったろ?」

「……あっ」

「おい!急ぐぞ!家まで先回りだ!」


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アクシデント、スタート

□ 某県 北海材グループ事務所前

 

「……帰ってきてしまった」

 

俺は半ば放心状態のまま、帰路についてしまっていた。長い時間を共に過ごした父のような存在が、いなくなってしまった。その事実は俺の思考に大きな穴を作っていた。

 

「…幸い、あそこは病院だ。数分もしない内に誰かが来る事だろうし……」

 

言い訳のような独り言を呟きながら事務所のドアを開け、遺品整理の為に幸重の部屋に、重い足を引きずりながら入っていった。

 

「……ん?」

 

散らかった部屋の、その奥の机の上に見慣れないヘッドギアとメモ書きがあった。

 

『非常に綺麗な木が生え揃う レジェンダリア 参考 退院後に忘れずに確認すること』

 

「なんだこれ……?」

 

翔はヘッドギアを手に取った。

それはどうやら少し前に流行った形式であるフルダイブ型のVRゲームらしいと理解する。確かあのタイプは健康被害が出て……って、良く考えたらフルダイブ型のVRゲームなんて10年単位で見てないな?

 

「……こんなのが林業の参考になるのか?」

 

恐る恐るそれを装着すると、冷たい金具部分が頬に触れる。

 

「!」

 

その匂いに少し驚き、それを外そうと機器に手を掛け、スイッチに手が触れ――

 

 

 

――瞬間、お世辞にも綺麗とはいえなかった部屋は洋風の小奇麗な書斎になっていた。

 

「はーい、ようこそいらっしゃいま……」

 

【頭部強打】

【出血】

 

「……あれー?リアルの方でダメージ入っちゃってるみたいだけど」

 

……猫。

安楽椅子のようなものに座っている猫が話している……。非常に不可思議であったが、童話のワンシーンのように絵になる構図だった。

 

「ここは何処でしょうか?」

 

「え、えー……?ここは<Infinite Dendrogram>の入口だけど……専用ハード買ったよねー?もしかして不具合?」

 

インフィニット……あぁ、そういえば俺は幸重さんの部屋でゲーム機を……

 

「……いや、そうですね。申し訳ない、あまりのグラフィックの完成度に混乱していたところです」

 

少し困らせてしまったようなので、適当に世辞を述べておく。

 

「ふふ、褒めてくれてありがとねー」

 

にこっと笑うもののそこまで嬉しそうではない。分かり易過ぎたか。

猫は首を傾げて言った。

 

「ところで、リアルの方に戻らなくても平気なのー?」

 

「……あぁ、そういえば何かアラートが出てますね」

 

どうやら向こうの俺が怪我をしてしまったようなので、一度ログアウトをして様子を見に行くことにした。

 

ーーー

 

瞬間、視界が暗転して元の世界に戻ってくる。

 

「つっ!痛ってぇ……」

 

どうやらスイッチを入れた瞬間、力が抜けて机に頭をぶつけてしまっていたようだ。

 

「……本物なのか」

 

それと同時にログイン中、このズキズキした痛みをほとんど感じなかった事に驚愕した。

俺は軽く頭を拭った後座布団を敷いて、そこで仰向けになり、再び電脳世界へ意識を向けた。

 

ーーー

 

……わずかに残っていた痛みが引いている事を確認した。

とてつもない技術力だと感心するしかない。

そんな心境の変化とは裏腹に猫は先ほどと変わらず安楽椅子に座っていた。

分からないことが多すぎる。質問をしよう。

 

「……で、このインフィニット……デンドログラム?というのはどういうゲームなんでしょうか」

 

「ふむ?<Infinite Dendrogram>はバーチャルリアリティマッシブリーマルチプレイヤーオンライン。所謂VRMMOだねー。」

 

「なるほど」

 

中々に大仰しい名前だが略すと馴染み深い響きになるな。

 

「まあ詳しい話はやって行けば分かるから、取り敢えずキャラクタークリエイトに取り掛かってもいいかなー?」

 

キャラクタークリエイトか、ふむ、面倒ではあるけど素顔プレイってのもなぁ。

 

「ほいっと、じゃあ設定してねー。」

 

……そこからは特に迷うことなくサクサクと進めていった。

親から貰った顔をいじるのは抵抗があったので、俺が30歳だった時の顔(計算で顔の老化具合を算出しているそうだが、それにしても若い頃の俺に近かった)をベースに肌の色を浅黒くして、毛先は緑。描画は現実視でキャラネームは実名の翔、それとキャラのパッと見でイメージした樹木を合わせて「杜人ソラ」とした。

 

「完成かなー、じゃあ支給アイテムと支援金ねー。」

 

何も無い所から突然鞄が落ちてきた。

 

「おっと」

 

「これは収納用の鞄ー。所持金もここに入れておいたからー。初心者用だけど教室一つ分くらいの体積は入るようになってるし、1tくらいは入るしで暫くは困らないと思うよー」

 

「はー、こんな便利そうなものを初心者に渡しても大丈夫なんですか?」

 

「そうだねー。しばらく使ってると耐久値が減ってきて壊れちゃうから、長く使うならメンテナンスは定期的にねー」

 

「なるほど、了解しました」

 

メンテナンス……ゲーム的に考えるなら鍛冶屋にでも頼むのだろうか?

 

「初期装備はどうするー?」

 

「んー、まあ適当に良さそうなのを頼みます。」

 

「了解ー。武器は?」

 

武器……か。使い慣れてるチェーンソーなんかは維持費かかりそうだしな……。

 

「……ノコギリはありますか?」

 

「……?あるけど、木でも切るのー?モンスターと戦うなら剣なんかの方が取り回しいいと思うけどー」

 

「剣は持ったことがないので……」

 

「ノコギリは使い慣れてるのねー。そういうことならー。そりゃー」

 

気の抜けた掛け声と共に、動きやすそうな革の鎧と見慣れた得物が俺に装備されていた。

 

「おぉ」

 

「さて、いよいよエンブリオ移植の時間だよー」

 

エンブリオ?

 

「エンブリオはそれぞれのパーソナルによって進化していく、所謂オンリーワンの相棒みたいなものだねー」

 

「なるほど、移植することで体に害はないんでしょうか?」

 

「ないよー、それに比較的すぐに孵化するから、体に引っ付いてるのも僅かな期間だけだし、大切に見ておいた方がいいかもー」

 

そんなものなのか。

 

「はい、移植完了だよー」

 

「おおっ!?」

 

俺の左手には、いつの間にか白く輝く宝石が埋め込まれていた。

 

「さて、これで最後になるね。所属国家を決めるよー」

 

猫は光の柱と映像の浮かぶ不思議な地図を見せてくれた。しばらく様々な土地を眺めていたが、いつの間にか見覚えのある名前の土地を見つけた。

 

「レジェンダリア……」

 

ヘッドギアと共に置いてあったメモにあった名だ。目を向けてみれば、そこはメモにあった通り、大きく、太い木が生い茂っていた。人の手が加わっていない森である為か、翔も知らない植生が目の前に溢れており、その神秘性に思わず釘付けになった。

 

「レジェンダリアねー、把握したよ」

 

「……これで設定は完了ですか?」

 

「うん、終わりー」

 

なるほど、少しわくわくしてきた。

 

「……やること、決めました。俺、この世界で良い木を育てて、その木を切って、世界中の人に届けます。」

 

「うんうん、いいねー。目的が決まったなら僕から言う事は何もないよー。自由に生きるのが目的だからねー。」

「えー、こほん。」

 

猫が咳払いをした。

 

「<Infinite Dendrogram>へようこそ。“僕ら”は君の来訪を歓迎する」

 

直後、俺は空に投げ出された。

 

「……は?」

 

先程地図で見た地形が目に入る。……あの地図って確か縮尺……

 

「ああああああああああ!!!」

 

ああここ……、

 

『上空』なんだ……

 

レジェンダリアへと吸い込まれていく最中、叫びながらも冷静に思考をするという、半ば矛盾した状況に陥った。

 

 

 

……地上の様子が見えるようになった頃俺が見たのは、

 

バチバチと火花が弾けるような円型の激しい閃光と、

 

そこから逃げ惑う人々、

 

そして、

 

「おおーい!てめぇ翔だな!よく来た!」

「ふむ、私に掛かれば落下点の予測などお手の物です」

 

自らの名を叫ぶ黒髪の美女と、シルクハットを被り得意気な顔をする赤い髪の幼女だったが――

 

俺は落下した先にあった閃光に包まれ、その場から姿を消したのであった。



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若い肉体にテンションが上がって遭難する57歳

サブタイ詐欺です


「……何なんだ一体」

 

顔を上げ、体を起こしてすぐ目に飛び込んで来たのは落ちている最中に見たレジェンダリアの景色とは、全く持って毛色が違う景色だった。

いや、レジェンダリア上空で見たのも森で、今この場も森であるので、全く以って違うという訳でも無いが、そこに生える種が先程まで見ていた植物とは違うという事が理解出来た。

 

「……そこまで離れているわけではないだろうが」

 

俺は見事な景色が自分の手の届かないところに行ってしまったことにショックを受け、膝を折り、再び手を地面に付いてしまった。

 

「……ん?」

 

自らが倒れた時、違和感を覚えた。

一度立ち上がり、もう一度膝を折って手をつく。

第三者がいれば奇行にしか見えない行動だろうが、違和感は確信になった。現実の動きとは明らかなキレの差がある。

 

「……そういえば、ここはゲームだったな」

付いた掌を自分の方に向けて拳を握り、開く。

それだけでもかつてあり、年と共に失った活力がそこに漲っているのが分かった。

 

「そこまで衰えてはいない、と思っていたんだが……直接比較できてしまうと体力の劣化を認めざるを得ないな」

 

チラチラと周りを確認する。

 

「……走っても、いいよな?」

 

誰もいない場所で走り回るなど、凡そ定年近い老人がする事でもないだろうが……まあ、いいよな?

 

 

 

ーーー

 

 

 

真上にあった太陽は、今や夕暮れと言えるレベルまで落ちていた。

 

「迷った、というより広すぎる……」

 

方向がわからないと言うよりは、森のあまりの広さに抜け出せないでいる、と言った方が正しい。

 

元々分かっていたことだが、夜の森は危険だ。しかし、遠くに行くのも難しい。先程から動物を見かける回数も増えてきた。……どうする?

 

「……!」

 

物音が聞こえる。硬いものを地面に擦るような音だ。咄嗟に身を屈め、茂みに隠れて物音のする方向を見る。

 

(奴か)

 

それは2m程の大きさの無骨な木の人形だった。こんなものがなぜ動いているのか、と混乱に陥りそうになる。しかし、人形の頭の上に存在する名前の表示に気付き、これはゲームだったな、と平静さを取り戻した。

 

(……まずい、近付いてくる)

 

こちらに気づいている様子はないが、このまま行けば俺のすぐ近くを通るだろう。そうなれば見付かるのも自明だ。今からでは逃亡、というか移動するのも困難だろう。ゲーム内のモンスターであれば9割方話が通じる生物ではないはず。詰んだか?……いや。

 

(攻撃、だな)

 

生憎ここは現実ではない。猫の言葉を思い出し、ノコギリを鞄から取り出して待ち伏せる。

俺に横っ腹を向けた瞬間、首の後ろに刃を当てて一気に引く。遭遇した相手が木の人形であった事は不幸中の幸いだろう。

 

(……来る)

 

のっぺりとした横顔がはっきりと見えた時、意を決して飛び出す。

彼我の距離は1.5m程で、そこまで遠いという訳では無い。首に刃を掛けると人形はこちらに気付き、反対側に退こうとするが、俺相手にそれは悪手だ。

人形の肩に手を当て、丁寧に、かつ、力を込めて鋸を引く。

 

『ギィ……!』

 

木人形は苦悶の声を上げる様に軋み、尚も俺から離れようと動く。……効いてるな。押し切れるか?

 

「……この!」

 

木の人形の足を掛け、掴んだ肩をこちら側に引っ張って倒れさせながら、ノコギリを押し込んでいく。

 

『ギギ……!!』

 

どうにか首の3分の1程度まで押し込んだところで人形の動きが鈍くなり、止まった。

 

ノコギリを引き抜くと、人形は消え去って光となり、その場には茶色のブローチと少しの金銭があった。

 

「……おぉ、ファンタジーだな」

 

消える際のエフェクトといい、モンスターの動きの自然さといい、全くこのゲームには驚かされ放題だ

 

「あぁ、全くだ」

 

ブローチが何なのか、手に取って確認する。

 

『黄昏人形のブローチ

 

夕暮れ時に現れるツリーマリオネットの亜種であるサンセットマリオネットからドロップしたブローチ。ほんのりとした暖かさとシンプルで洗練されたデザインから、ティアンの女性に秋のアクセサリーとして好まれるだけでなく、冬場手が悴まないよう狩人が狩りに連れていくこともある。STR+10% DEX+10%』

 

装備品か、夜になって若干冷えてきていたから暖かくなるのは有難いな。

 

「そうだな」

 

……さっきからちょくちょく若者のような声の合いの手が入ってるんだが、俺の幻聴か?

 

「やっと気づいたか……俺の声が」

 

あー、なんか話しかけられてるな。

 

「んん!どちら様でしょうか?周りを見ても誰も居ない……というかそもそもここまでの話を俺が口に出した覚えもないんですが……」

 

「はは、聞いて驚くなよ?」

 

顔は見えないが、ヘラヘラと笑っている様子が容易に想像出来る調子で宣言した。

 

「俺はお前のエンブリオであり未来の相棒、【翠鳴蒼哮 グリーンマン】だ!よろしく頼むぜ、ジジイ」

 

開始早々、俺はエンブリオというシステムに、「てめぇの深層心理はチャラくて浅はかだ」と申告されたのだった。




「違うだろ!?」


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頭の軽そうなエンブリオ

「……はぁ?」

 

こいつが?俺の【エンブリオ】?

 

「そうだよ。お前の深層心理はどんなに強い武器より、どんなに役に立つ結界より、どんなに堅固な要塞よりもペラペラと話す相棒を望んだんだよ」

 

「……」

 

……落ち着いて考えてみれば、俺がこのゲームを始めたのは故人の机にあったギアが発端だ。出来るだけ考えないようにしていたが、目を逸らしきれなかった心の中の寂しさをエンブリオは見抜いていたのかもしれない。

 

「…あぁ?なんだジジイ?陰気臭いとこっちの世界の顔まで老けるぞ」

 

よく観察してみれば、この自称エンブリオは幸重さんに近い口調を持っているようにも感じる。

……ゲームの中に逃げ場を作ろうとしたなんて認めたくはないが、こいつが俺のエンブリオであったとしてもおかしくはない。というよりも、直感的にこれは俺の精神から生まれたものなんだろうなという納得があった。

 

「……なんだ、ここに来るまでに……父親でも死んだのか?」

 

「……そうですね、似たようなものです」

 

「…なんか、俺が生まれたことで悪い事を思い出させちまったみたいだな」

 

「いや……貴方のせいではないですよ」

 

「……」

 

「……」

 

夕暮れの中、沈黙がその場を支配する。今日は静寂の多い日だ。

 

「……、まあとりあえず、だ。この森から抜け出して集落を見つけなきゃ話にならないからな、俺がどこにいるか、それと俺のエンブリオとしての能力を見せる。」

 

「あ、あぁ」

 

そうだった、感傷に浸っている場合ではない。過去の事を悔やんでうじうじするのは何より幸重さんが嫌ってたことじゃないか。

 

「俺の位置はここだ」

 

俺の後ろの木がぼうっと淡く緑に光った。振り向いて確認するものの、緑の光はいつの間にか消えている。からかっているのか?

 

「要するにどこなんです?」

 

「お前の背だよ、そこで緑に光ってる」

 

「……はぁ、なるほど」

 

背中に手を回してみると、確かに凹凸のある石のような手触りの物体があった。叩いてみた感触も石のようだが、重さはほとんど感じない。いざとなればこいつを使って自らの体を庇うことも出来るだろう。

 

「おい、俺に聞こえてるの分かって言ってるよな?」

 

「で、能力は何なんです?」

 

「無視かよ……。ん、まあいい。今の所俺がエンブリオとして使えるスキルは一つだ。……そうだな、一度そこの若木に触ってみろ」

 

「ふむ、……こうか?」

 

近くにあった高さ2m程の若い木に触れる

 

「……おお?」

 

そこにあった木がじわじわと……しかし、植物としては異常な早さで育っていく。

 

「なるほど、これが能力ですか。戦闘に使えるようには思えないですが」

 

「当たり前だ、全てのエンブリオが戦闘に特化してるとでも思ったのか?」

 

「なるほど、それもそうですね」

 

戦闘だけでなく生産も出来るということか。オーソドックスなMMOの形ではあるが、林業にまで手が伸びているとは。運営はなかなか分かっているようだ。

 

「まあ、運営が林業に興味があるというよりは用意されたとてつもなく広い選択肢の中の一つに林業があった、という方が正しいだろうけどな」

 

「分かってますからわざわざ言わなくていいですよ」

 

人が気にしてる所抉りやがって、気休めくらいさせてくれ。

……しかし、植物触ってるとすごく疲れるな。

 

「あぁ、言い忘れてたが今のスキルはMPを消費するからな」

 

「それならそうと先に言って下さいよ。ON/OFFの切り替えはどうやってするんです?」

 

「スキル切りたいのか?」

 

「そうですね、このままでは迂闊に植物に触ることすら出来ませんし」

 

「了解。解除……と」

 

「……、俺のスキルなのに俺の意志で切れないんですか?」

 

「そうみたいだな、まあ心の中で思うだけで俺は意思を読み取れるから実質ノータイムではあるけどな……てか、何でわざわざ俺との会話を口に出してんだよ」

 

「もしかしたら上級プレイヤーが道楽で俺を楽しませてるのかもしれないですし、もしそうならわざわざ邪魔するのも興醒めかなって」

 

「えぇ……?俺の事もう少し信用してくれてもいいんじゃない?」

 

面倒だなこいつ。

 

「聞こえてるっつってんだろ!」

 

「……暗くなってきましたね、野営でもしますか。上級者さんテントとか持ってないですか?」

 

「そんな奴はいねぇよ!居もしねぇ人間にテント集るとかさては相当図々しいなお前」

 

「冗談ですよ、でも実際居るなら出てきて欲しいですね。森で剥き出しで寝るなんて下手すりゃ死んじゃいますし」

 

「……はぁ、なんだ、お前本心と軽口のギャップが凄いな」

 

……まあ自覚はある。

 

「…仕方ない」

 

俺は手近な木に登り、周りを見回してさっと降りる。

 

「今、木の上で遠方を確認したんですが、向こうに見える山の麓に光が見えました。先程のようなアクシデントが何回かあっても今から行けば明日の昼には到着するでしょうし、早歩きで踏破してしまいましょう」

 

「……アグレッシブなジジイだ」

 

「何か言いました?」

 

「いーや、何も」



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人里で逮捕?

日曜も投稿しようと思ったのですが、TRPGやってたんで時間が取れませんでした!全くcocは楽しいぜ!


……ところで、誰かデンドロのTRPG作ってくれませんかね?(チラッ)


「……やっと着いたか」

 

夜通し歩き詰めでなんとか光の元である場所へたどり着いた。幸いただの発光ファンタジー生物の群れという訳ではなく、小さな集落のようだった。

 

「……大丈夫か?少し足取りが頼りなくなってるぞ」

 

エンブリオのグリーンマンに声を掛けられる。移動中のこいつの無駄話は精神的な疲労を和らげるのに想像以上に役立った。後で礼くらいはしておくか。……こいつの言う通り、俺は長時間の歩行と徹夜でかなり消耗していた。

都合24時間歩き続けたわけだから当然ではあるか。

 

「……少しきついかもしれません」

 

今でこそなんとか堪えているが、無事に人里につけた安心感で今にも倒れそうだ。

そんな事を考えながら最後の数十mの距離を詰めていた時、20代前半程に見える西洋風のカップルが確認できた。どちらもそれなりに顔の造形が整っており、丸太作られた簡素なベンチで話をしている様子は非常に様になっていた。

声を掛ければこちらに気づいてくれるだろう。

 

「すみませーん!こちらに……」

 

そう声を上げたところで俺は力尽きて倒れた。

こちらを向き、駆け寄ってくる男女の姿を最後に俺の視界は閉ざされた。

 

 

 

「えぇ!どうしたのさこの人!」

 

「……事情はよく分からないけど、この人かなり汗をかいてるし、体力が削れてる……一旦うちに運びましょう。」

 

「おう!ありがとよ!心遣い感謝するぜ!」

 

「はぁ!?こいつ背中にしゃべる石の顔が付いてるぜ!」

 

「うっ、言いたくはないけどちょっと気味が悪いわね」

 

「うるせぇな!俺だって好きでこんな体してねぇよ!」

 

「わっ!運ぼうとしてるんだから突然叫ばな――」

 

……こいつめ、人が寝てる間に好き勝手しやがって

 

しかし、いつまでも意識を維持出来る訳もなく、俺の感覚はそこで途切れた。

 

 

♢

 

「大丈夫ですか!」

 

ベッドの上で顔の両側を叩かれ目が覚める。ふう、なんとか生き残れた。先程からバシバシとしてくる彼は…バシバシと……

 

……痛い痛い痛い!

 

「起きました!起きましたからもう叩かなくて結構です!」

 

「あ!起きましたね。……良かった、これ、水なんで食事までの繋ぎに飲んでおいて下さい。」

 

食事……?確かに助けてくれるという打算はあったがこの人達は食事まで提供してくれるってのか。

 

「……申し訳ない、ありがとうございます」

 

「はは、お兄さん丁寧だね。もっと肩の力抜いてフランクに接してくれていいんだよ?」

 

「あー、これは性分ですので。お気になさらず」

 

「そう?なら僕も敬語使った方がいいかな?」

 

「いやいや、慣れない喋り方をする事を強いれる立場でもないですし、気楽に話して下さい」

 

「んー、ありがとう。ではお言葉に甘えて。じゃあ食事の準備してくるからそこで待っててね」

 

……とんでもない程気のいい人間だな、顔もいい上こんな性格ならあれだけ綺麗な奥さんが居るのも頷けるというものだ。

用意された水を飲む為に起き上がろうとした時、背中から曇った声がしてきた。

 

「おい!俺を下敷きにして寝るとはどういう了見だ!」

 

「……すみません、素で忘れてました」

 

「おい」

 

♢

 

そのまましばらくして、俺は俺を見つけてくれた2人の男女と共に食事を頂くことになった。どの料理も非常に箸が進んだが、特に進んだのは見たことのない山菜の天ぷらだった。

 

「……おいしい」

 

「おお、君冴えてるね!妻は【料理人】のジョブを持ってて、数年前までは店やってたくらいなんだよ!材料にした葉はレジェンダリアの方では有名な山菜らしいね!ここはレジェンダリアにかなり近い場所なので、レジェンダリアの方から風で運ばれてこの地に定着したんじゃないかなって思うんだけど」

 

優男がすごい勢いで説明をし始める。食事はいいのだろうか。

しかし気になる言い回しも幾つかあった。

 

「ん?ここはレジェンダリアじゃないんですか?」

 

「そうですね、この森は一応アイセンの管轄ですから」

 

そう美女が言う。……ふむ。

 

「アイセン……とは何処でしょうか」

 

「えぇ!?君何処から来たのさ」

 

「……レジェンダリア?」

 

「そんなアホな、レジェンダリアは近いとはいえ、歩きで渡るにはここからでもまず数日は掛かりますよ?」

 

なるほど、となると1番最初に見た、地面に火花が散っていた現象が関わっていそうだ。……話してみるか。

 

俺が辿ってきた道のりを軽く話してみると、女は納得したように首を振った。

 

「それは……多分アクシデントサークルという現象じゃないでしょうか?」

 

「アクシデントサークル?」

 

「レジェンダリアの各地で不定期に発生する……空気中に散らばるMPの暴発、と言われる現象だと知識にはあります、おぼろ気ですが。それに遭遇すると、突然火が吹き出したり、状態異常に掛かったりするそうです。転移した、という事例もあるようですからそれが原因かと」

 

「……なるほど」

 

そんな現象に開始早々巻き込まれてしまったのか。不運にも程がある。

 

「となると、入国の際の審査とかしてなさそうですね」

 

「……あぁ、それはまずそう」

 

何やら夫婦が不穏な事を話している。流石に犯罪者になってしまうのは避けたいところだ。

 

「……何をすればいいのでしょうか?」

 

「「そうだね……」」

 

 

 

♢

 

 

――という話の後、二人に連れられて村長の家という建物の前まで来ていた。ここで待っていてくれ、と2人は先に入っていった……これはもしかすると捕まってしまうかもしれないな。

 

 

 

しばらくするとかなりの体格を持つ、具体的に言うと現実の俺を一回り大きくしたような男が出てきた。

 

……あぁ……これは警察機関か……普通には逃げられそうにないし……、いざとなればログアウトして逃げるしか無さそうだ。

 

 

 

「――ようこそ来訪者よ、遠路はるばるよくいらっしゃいました。私はこのハイン開拓地区開拓責任者、兼村長のエザーと申します。」



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開発責任者の心境&序章・キャラ紹介

区切りの関係で本文が少し短くなってます。登場人物紹介も一緒に更新しましたのでご容赦をー

※11/20 現実パート加筆しました。


「やぁようこそ、遠路はるばるよくいらっしゃいました。私はこのハイン開拓地区開拓責任者、兼村長のエザーと申します。」

 

……見た目に驚いていたが、どうやら彼はこの地区の長らしい。どうやら即座にお縄、という事態は避けられたようだ。

 

「ご丁寧にありがとうございます、私は杜人ソラという者です」

 

軽く挨拶を交わし、握手を交わす。

 

「して、どうしてこのような所に?左手の紋章を見る限りマスターでいらっしゃるご様子。私が言うのもなんでしょうが、ここはかなり辺鄙で何も無い場所ですし、マスターの方々が好んで来られるような場所ではないと認識しているのですが」

 

マスター……?NPCがプレイヤーの事を呼ぶ際の総称だったか……いや、だとするとこの方達はNPC?んなアホな。

正直AIとは思えない。……ただ、見るからに外国人顔なのに当然の如く言葉が通じている辺り、AIという線も十分に有り得る。よく観察してみれば、言葉に対して口の開き方も若干おかしい。うん、平凡な一キャラクターのモデリングにそこまで金を使ってられないのだと考えれば納得がいくような気がしてきた。

……ここまで来てやっとゲームらしい要素を見つけられたような気がする。

 

しかし、即座に逮捕とはならずともそこそこ警戒されているな。この分だと食事代を払って移動するのが最善か。

 

「マスター……、というのはこの紋章を持ち、何らかの変わった力を持つ人間でしょうか?」

 

「……?はい、大まかにはそのように伝え聞いております」

 

「なら、私は恐らくマスターという人種なのでしょう。申し訳ない、なにぶん少し前にこちらの世界に来たもので」

 

「あぁ、はい……」

 

エザーの表情が少し和らぐ。

 

「……一応、ここまでの経緯を詳しくお話頂けますか?」

 

……なるほど、それはそうだ。

 

俺は俺自身に何が起こったのか、向こうでの立場や職業について交えて話しつつ出来るだけ素直に説明していった。

 

 

 

□■ ハイン開拓地区・エザー

 

「ふむ……」

 

バスケス夫妻が突然家に押し掛けて来たので何かと思えば、レジェンダリア側の森の方向から歩いてマスターがやって来たと伝えてきました。……レジェンダリア方向には非常に広い森が広がっていて、歩いて渡るなど不可能に近いはずなのですが。などと思っていると、彼の話からどうやらアクシデントサークルに巻き込まれたらしい事が推測できたそうな。……うむ、あの現象なら転移が起こっても不思議ではないでしょう。

 

今話している彼の話からは大きな矛盾を感じられません。幸い今はいくら人手があっても困らない状況ですし、彼にその気があるならばこの場に残って開拓を頂きたいところです。入国の問題は……マスターですし殆ど問題はない筈です。

 

ふむ、話も一段落付いたようですし提案しますか。

 

「分かりやすい解説をありがとうございます。……ソラさん、一つ提案があるのですが」

 

「……はい」

 

ソラさんが唾を飲む音が聞こえた。緊張させてしまっていますね。

 

「あぁ、そんなに緊張しないで下さい。」

 

「……」

 

「ソラさん、貴方さえ良ければうちで開拓の手伝いをして頂けませんか?」

 

「……え?いいんですか?」

 

「無論、貴方さえ良ければなのですが」

 

「え、えぇ、この辺りの植生には興味がありますし、こちらから頼みたいとすら思ってました!是非お願いします」

 

「えぇ、では声を掛けてくれれば仕事を回しますので。活躍、期待しております」

 

「……、はい!」

 

キラキラとした良い目をしています、やはり若者は眩しい。見た目の年齢と話した感じの精神年齢に若干の齟齬を感じていましたが、気のせいだったかもしれないですねぇ。

 

 

 

□ 埼玉県 北海材グループ事務所前 南風 翔

 

「……ふぅ」

 

【尿意】と【空腹】のアナウンスが出たのて、一度ログアウトをする事にした。窓から射し込んでいるはずのひかりがなく、何かと思えば、このゲームを遊んでいるうちは現実の時間の進みが遅くなっているらしい。なんという……時代は擬似延命のような真似までできる段階に来てしまったのか。それとなく手に取って遊んでしまったが、かなり高いゲームだったのかもしれない。

 

「……」

 

鋼のような、しかしシミの目立つようになってきた自らの手を見てため息を吐く。……こちらの世界でも身体を維持できるように走り込みでもしてくるか。

と、そこで主張するように俺の腹が鳴った。……まずは飯。それとトイレだな。俺は30分程度の走り込みをして、ドリンク型の栄養食を多めに買いこんだ後、食事を早々と済ませて再びデンドロへとダイブした。




序章終了時点でのそれぞれのキャラクターの説明と近況です。

南風 翔【杜人ソラ】 (57/♂)
林業─自らの育てた木を売る仕事─を営んでいた本作の主人公。頑固なまでに約束を守る事と心内ではそうでもない癖に誰にでも丁寧な口調が特徴。T大卒。

町田 幸重【ユキ】(91/♂)
翔の運営する会社の先代。若い頃、林業でかなり稼いでいた事と、90まで仕事をしていたことが原因で、そこそこ以上にお金を持っている。ゲーム内では20ちょいの黒髪美女である。少し前にメイデンを発現した。

小池 雄大【ブライダル・ダム】(91/♂)
幸重の同級生。親友。年の割に柔軟な考え方と変わった感性をしており、20-30代の友達が多い。映画に出て来る英国紳士のような出で立ち。ゲーム内ではシルクハットを被った幼女である。ゲーム開始3時間でカップルを成立させてしまったことから、仲人系統超級職を目指し始めている。



ハイン開拓地区
開拓地区の名に違わず、現在開発中の土地である。森を切り開いて集落を大きくして人の住める土地の面積を広くしている最中なので、人を呼び込む前段階。今住んでいるのは隣の街から派遣された開拓団であった人々である。
そのような成り立ちである為住んでいるのは基本的に夫婦であり、主人公に春は来ない。

アルバロ・バスケス(22/♂)
ソラを拾ったティアンの一人。サラとは幼馴染であり、5年来の夫婦である。人一倍知識を蓄えている。美男。

サラ・バスケス(22/♀)
ソラを拾ったティアンの一人。アルバロとは幼馴染であり、5年来の夫婦である。料理が得意で、昔住んでいた街で3年程料理屋をやっていたほど料理が得意。美女。

アドリアン・ナバーロ(57/♂)
ハイン開拓地区開拓責任者。元開拓団長である。長身で大柄。ついでに赤い髪、仁王の如き厳しい顔であるが、物腰は丁寧で思慮深い人物である。


一緒にこれ単体で一話として更新しようとしたけど、文字数制限の下限に引っかかったので後書きとして投稿。


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一章 樵夫の日常
あっ俺無職だったわ


もし無職になったら漫画版四話に出て来たサブタイの一コマを沢山使うんだ……


□ ハイン開拓地区 杜人ソラ

 

大きな雲が浮かんでいる。いい青空だ……

 

開拓の手伝いを始めてからこちらの世界で1週間が経過した。

俺はデンドロというゲームに完全にのめり込んでいた。……というより、俺が開拓を進め、本物の人間のようなNPCからお礼の言葉をもらうことに喜びを感じていると言った方が正しいか。まだ人の増やす段階にない閉じたコミュニティである為、人付き合いが楽であったのものめり込んでしまった原因かもしれない。

 

そろそろ太陽が真上に上る。さて、そろそろ村に戻るかな。

今日の昼ご飯は俺の好きな山菜だ。内心スキップしながら道を戻っているとグリーンマンが声を掛けてきた。

 

「……おい」

 

「んん?何です?」

 

こいつは最初の数日こそ喋っていたが、最近は不満げなのか黙りがちである。

 

「あのさ、せっかく第一陣としてこの世界に来たのにレベルも上げないで木を切るだけってどうなんだよ」

 

「……第一陣だったんですか?」

 

最近、リアルで情報を手に入れていない。幸重さんの葬式は……家族葬だから来なくていいと本人が言ってたな……ん?家族は既にこの世に居ないはずだが……。

 

「そうだよ!……ったく。ここは確かに居心地がいいが、そろそろ街を見に行ったりしてもいい頃合じゃないのか?」

 

「……それもそうですね」

 

「街には樵のジョブクリスタルもあるだろうし、早めに行った方がいいと思うぞ?」

 

「了解、帰ったら頼んでみますか」

 

と、話している間に村長宅に到着。いやっほー!山菜だ!

 

「お前本当に山菜好きだな……」

 

 

♢

 

 

「ソラさん!今日もお仕事お疲れ様ですー」

 

「はい、ジオ君も出迎えありがとうね。」

 

このジオっていうのは村長の甥っ子だ。10歳であるというが、発育が良く既に140cmはある。既に村長に似て大男になりそうな予感がする。

 

「で、今日も向こうの話聞かせてくれるの?」

 

「そうですね、では道路の話をしましょう」

 

「道路?」

 

「ええはい。この世界の自然と調和する道も大変素晴らしいものですが……」

 

「ご飯が出来たわよー」

 

お。流石奥さん、早いな。

 

「んん、とりあえず食事が冷める前に頂きましょうか」

 

「えー、ソラさんはご飯と僕のどっちが大事なのさー!」

 

「どちらも大事だからあなたにも食事を撮ってもらいたいんですよ」

 

「ぬ……」

 

言いくるめは年寄りとTRPGプレイヤーの特権だ。

 

 

♢

 

 

食事を取り、ジオ君に話をしてあげたところで本題に移る。

 

「ということでそろそろジョブを取りに街に行きたいんです」

 

そういうと村長は驚いた顔をする。

 

「ふむ、ソラはジョブを持っていなかったのですか?あんなに早く伐採をこなすものですからてっきり既に【樵夫】なのかと思っていました」

 

「はは、一応はそのつもりでいたんですけどね」

 

「すぐに帰ってきます?それとも送別会を開いた方がいいでしょうか?」

 

「何も無ければすぐに帰って手伝わせていただきますよ」

 

「おお、それは良かった。ローグの兄弟も貴方の事を慕っているようですし」

 

ローグの兄弟とは、俺が来るまで木を切り、居住できる地区を増やしていた若者の兄弟である。若者と言ってもこいつらは20代後半で、胸を張って若いと言えるかどうかは疑問である。まあ若いか。

ちなみに二人の彼女も姉妹であり、その姉妹は畑関係を担って……

って、俺は誰に説明してるんだ?

 

「へぇ、有難い話です」

 

「まあ、それはともかくです。三日前から毎日来てくれている熱心な行商人さんが居るのですが、その方が夕方頃に来ると思います。妙な乗り物に乗ってやって来るマスターですので、頼んで乗せてもらってはいかがでしょうか。お金が必要となれば負担しましょう」

 

「いやいや、そこまでして頂かなくても。お金は自分で払いますよ」

 

そもそもこの村にいるお陰で1回も使ってないしな。

 

「うん?年寄りの好意を受け取れないと?」

 

「……もし必要になれば頂きます」

 

そもそも俺も老人なんだが……まあ交通費が浮いて良かったと思おう。しかし、妙な乗り物に乗った行商プレイヤーか。楽しみにしておこう。

 

♢

 

それから数十分過ぎ、村の入口で待つ俺の前に現れたのは車体が黒く、闇そのものを纏ったような紫の靄に包まれた大型バイクをドリフトさせながら停車させる笑顔の眩しい、しかしそれを加味しても30過ぎに見える女性であった。



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闇商人(物理)

序章最後にリアルパート書き足したんで気になる方は確認よろですー


地面をタイヤで強く擦る音が耳に届く。

 

「ははは!流浪の闇商人である私が来たぞ!」

 

女性の行商人だと聞くから、どんな出で立ちなのだろうと村の前で待っていれば。

ヘルメットを着けずにモンスターバイクをドリフトで停車させるという荒業で、俺の口を開かせたまま閉じさせない破天荒な軽装鎧の闇商人(物理)女性だった。

……俺は素人だが、この長さのバイクをドリフトさせるのは一般的でないことくらいはわかる。

まあ何にせよ初対面であるので挨拶だけはしておこう。

 

「闇商人さんですね。こんな所まで毎日来て下さってるそうで、ありがとうございます」

 

「良いのだよ!地方のか弱き民に物流の力で必要なものを届けるのが私の使命なのだからな!しかし……」

 

女性の表情が曇った。

 

「今日の商品は海の幸だったのだが、この辺りだと思った以上に好評であってな……その、品切れになってしまったことを詫びに来たのだ」

 

「あぁ、そういう話なら村長に伝えておきますよ」

 

村長、割と行商人の物資楽しみにしてたからな……。多少悲しむだろうが、品切れなら仕方ない。

 

「すまない、ありがとう。……んん?あの雲は……」

 

感謝の気持ちを表し微笑んだかと思うと次は目を大きく開いて上空を見る。表情豊かな人だ。

 

(おい、こんな情緒不安定な奴に街まで連れてってもらうのか?)

 

(……気にするな、この人がどういう人間であろうと基本的にはそれしかないんだ)

 

グリーンマンが小声で話しかけてくる。もし本当に頭のおかしい人間であれば割と切実な問題だが、良識はあるようだし、そこまでひどいというわけではないだろう。

 

「あれは!大きくて厚い雲!しかも斑模様と来ている。街の方にあるし、一っ風来るかもしれんな!」

 

「一っ風とは?」

 

「トルネードの事だ」

 

「……え?本当ですか?」

 

「勿論、ここで嘘を吐いて何になると言うんだ?」

 

「いや、それらしい事を言って帰ってしまうのかと……」

 

「はは、まあ帰るというのは間違いじゃない。急いで帰らねば倉庫の商品が吹き飛ばされてしまうかもしれないからな。私は一度帰る。在庫切れの連絡は頼んだぞ。あぁ、あと丸太の買付けも今日は出来そうにない。覚えていたら伝えてくれ。うむ、今日は本当に何もしていないな……」

 

想像よりは真面目だな。ん、このままだと帰ってしまう……どうするか、恐らくこの機を逃すと明日までジョブを手に入れることが出来ないだろう。

 

「あ!ちょっと、すみません。俺も街に連れてってくれませんか?」

 

「…問題ないが、のんびり走る事は出来ぬからかなり激しい走行になるぞ?それでも良いのか?」

 

「そうですね、折角のゲームですし楽しみたいじゃないですか」

 

「…うむ、そういうことなら了解した。後ろに乗るがいい!」

 

「ありがとうございます」

 

想像以上にあっさり決まったな。俺はバイクに乗る闇商人(物理)に続き、紫の靄の湧く黒いバイクの後ろに跨る。鎧で分かりづらかったが、身体はしなやかな筋肉に包まれている。リアルをベースにキャラメイクをしたと仮定するなら、相当に体を動かしていることになる。

 

「よし、乗ったな?しっかり腰に掴まっておきたまえ!」

 

「はい。

――――!!」

 

……速い!悪路を走行しているせいでタイヤがそこそこに浮いていることもあり、かなりの恐怖を感じる。というよりこの浮遊感は……

 

「ああああああああああああ!!!!!」

 

ゲーム開始時に落ちた時を彷彿とさせる。うう、声が出てしまっているなぁ――

 

 

 

♢

 

 

 

落ち着いてきたところで質問をしてみる。

 

「……ところで、竜巻の知識はどこから?」

 

「あぁ、リアルでそういう関係の職に就いていてな」

 

……リアル?

 

「ん?貴女はプレイヤーなんですか?」

 

「……"プレイヤー"……?」

 

「あ、こっちではマスターと言うんでしたね。失念してました」

 

「……あっ、じ、じゃあまさか貴方は……向こうの人だろう……ですか?」

 

「そうです……あれ、他のマスターが苦手な感じで?」

 

「……いやぁ……あの……はは……そう……なことはな、ないですけど……ちょっと……あの……」

 

――闇を纏うバイクはその瞬間からよくわからない空気も追加で纏って、街へと進んでいった。



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都市の名は

卒業試験の関係で更新止まってました、申し訳ありません。
不定期更新って書いてあるからセーフですよね……?


件の都市になんとか辿り着き、活気のある商店街を走る頃には風が少しずつ強まっていた。どうやら竜巻が来るというのは本当らしい。

 

「……うむ、竜巻の中心自体はそこまで近くにないようだ。この辺りの建物は比較的頑丈な作りだし、耐えられるだろう」

 

『……は?こんなに風が吹いてても近くないっての?』

 

グリーンマンがそう呟く。……あー、まだこいつの説明してなかったな。不審な目で見られなきゃいいけど。

 

「そうだな、竜巻が直撃すればこんなものでは済まんよ。石造りの建物すら断たれ、馬車が降ってくるような地獄絵図になる」

 

『んなっ!?馬車だぜ?』

 

自然に左右される仕事をしているため分かっていたつもりでいたが、対抗手段のない未発達な文明にも猛威を振るう辺りやはり自然は恐ろしさは底知れない。

 

「――お、見えて来たな。降りる準備をするといい」

 

「了解しました」

 

 

♢

 

 

俺達が到着したのは大きめの車庫と言えるくらい大きさの建物だ。1階には大きなガレージがあり、丸太がこれでもかと並んでいた。奥には2階へと続く梯子があり、そこを登ると生活スペースが広がっていた。広さのイメージとしてはマンションの一室と言った感じだ。所々に長年使った家特有の傷が見られるが、隅に埃があるわけでもなく普段からよく掃除されているのがわかる。

ヘルメットと上着を掛けながら、闇商人は挨拶をしてきた。

 

「……そういえば名前を名乗っていなかったな。私はハンド。差し支えなければ其方のネームを聞いても?」

 

俺は南……あ、こっちはデンドロだったな。

 

「俺は杜人ソラです。よろしくお願いします」

 

「あぁ。よろしくソラ」

 

笑顔で軽くハンドと握手を交わした所で、ハンドの表情が疑問へと変わった。

 

「ところで、先程市街地に入ってからソラとは別の声がした気がするんだが、何か知っているかな?」

 

来たな、どこかでツッコミは来ると思ってたが。

 

「ん、俺のエンブリオです」

 

自分の背中に付いた石の顔……もとい俺のエンブリオを紹介する。

いつ見てもおかしなエンブリオだと思う。いや、背中側だから俺からは見えないんだが。

 

『よー、お姉さん。こいつのエンブリオのグリーンマンだ。よろしく』

 

「え……えぇ……背中に灰色の美少年の顔が……」

 

うん、まあいつも通りの反応だな。……ん?こいつ美少年だったのか。若い声だったから10代だろうとは想像していたが。

 

「変わったエンブリオでしょう?正直俺もこいつをどう使ったらいいのか分からなくて」

 

「…あ、あぁ。少しばかり驚いたがそこまで深く考える必要も無いさ。ソラ自身が最も望む力がそのままエンブリオになるのだ。もしソラが美少年に特別な感情を抱くようになったとしても私がソラを見る目は――」

 

『……そうなのか?』

 

「違いますしありえないです」

 

なんだその思考の飛躍は……別にその手の人間を批判するつもりは無いが、俺は男色というわけではない。

 

くだらない話をしている間に風がかなり強くなってきた。

 

「……この分だと仕事も出来ないな」

 

ん、夜も行商をするのか?それとも物理的な黒さ以外にも闇商人的な振る舞いをするのだろうか。

 

「うーむ。向こうの時間で4時間ログアウトすることにしよう、もし街の案内が必要ならもう1度3時間後にここへ来るといい。」

 

「案内までしてくれるんですか?」

 

「あぁ、もののついでだ。こっちの時間で朝の4時頃の早朝になるが」

 

「勿論です、是非お願いしたいです」

 

「では4時間後にここで会おう」

 

「ありがとうございます」

 

そういうとしばらく宙空に指を滑らせ、アバターが消えた。

 

ん、そういう事ならば飯を食い用を足して少し走り込んで来るか。

 

ずっと向こうにいると気づかないが、沢山の人とのご近所付き合いやハイレベルな娯楽、買い物などなかなか現実の人生も楽しいものだ。無論、ゲームの合間の、という枕詞が付くが。

 

……流石に一つのゲームに依存し過ぎているような気もするが考えないでおこう。もう、向こうの人間は俺を求めていないのだから。



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